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【学園都市】電脳神話デビチル!Ⅳ【TRPG】

1お菓子の魔女 ◆HTcbo8CpC2:2014/09/30(火) 22:57:23
マザーコンピューター"ゼウス"に支配され、人々が心の自由を奪われた世界にて――

人類が生み出した最後の希望、その名は”デビルチルドレン”!

ジャンル:SF風未来ファンタジー
コンセプト:打倒ゼウス! 人々の心の自由を取り戻せ!
GM:無し
NPC:共有式
名無し参加:あり
決定リール:あり
レス順:無し
版権・越境:このスレの設定に合わせてコンバートをお願いします
敵役参加:あり
避難所の有無:あり
備考:コメディスレなので細かい事は気にせずに楽しみましょう!

詳しくはこちら
エデンの図書館 〜電脳神話デビチル! まとめwiki
ttp://www53.atwiki.jp/devilchildren/pages/1.html

2アイネ ◇ch6TRNt0B6:2014/09/30(火) 23:00:20
アルムの起こした騒動はひとまず決着が付き、私たちは取り合えず休憩室にいた。
騒動のお詫びにとシャルルが菓子折りを生成して差し出している。便利な能力だ。
それにしても、いくら美味しいからと言ってここの調理場は度を逸している。
遺伝子操作と強制培養で作られた食品だけを口にしていては、いつかは体を壊してしまうだろう。
彼らはそれで満足なのかも知れない。だが、私たちは彼らに当たり前に生きて欲しいのだ。

>「きっとこの街の人間は綺麗な自然から生まれた食べ物を食べることが無いんだわ。
 そこに勝機があるかもしれない」

「でも、そんじょそこらの自然食品で彼らが満足するか疑問だですよ。
 この街の周辺には自然が多く残っている様子だが、それも公害で汚染が進んでいるはずですよ」

懸念は尽きない。果たして私たちに勝機はあるのだろうか?
そんな折、ベルの音と共に作業を終えて一休みに来た作業員たちが休憩室にぞろぞろと入ってきた。
相当過酷な労働なのだろう、彼らに疲れの色が酷く見える。
そんな彼らに天使からシャルルの菓子折りが配られる。どうやら興味を示してくれたようだ。
しかし、菓子を口にした彼らの様子は一変する。
ぶつぶつと漏れる不満の声。どうやらシャルルの菓子は口に合わないらしい。
誤解のないように説明するが、別にシャルルの菓子は特別不味い訳ではない。
むしろ普通に美味しい。この私もお茶菓子をよく提供して貰っているのだから。
しかしそのシャルルの菓子を不味いと評価し残すのは、やはり舌が肥えているのだろう。

作業員たちは元の職場に戻り、後には私たち一行と天使だけが残る。
その天使が、私たちに向けて話しかけて来た。
話を聞くに、ここの食品は別に人体に害を与えるようなものではないらしい。
しかし、食品そのもののに害はなくとも、工場から発生している汚染された水や空気は問題だ。
美味しいのは実に結構。でも、自然を失ってしまえば人間は生きていけない。
この工場での生産ラインを見直さなければ、近い将来その日は確実に訪れるだろう。
話し合いも必要だが、その前にここを陥落させる方が早いだろうか?

3アイネ ◇ch6TRNt0B6:2014/09/30(火) 23:00:57
>「実際に食べて比べてもらえばいいんじゃない?」

唐突に話に割り込んできたのは、いつか見たフード姿の天使。
……ではないようだ。体格が違っている。と言うかフードが邪魔なのだ。
とか思っていたらフードを取って貰えた。なんと中身は貧相な水着姿だった。
天使のセンスは分からないな、と思う。まぁ私もへそとか太ももとか出しているけど。
その天使……リーユ・ズミギーカは、言葉遣いこそ尊大ながら少し不安げな様子でお菓子を差し出す。

>「ここの食材を使って私が作った菓子折り、その威力を受けてみなさい」

菓子はシャルルに差し出されたものなので、とりあえず私は後で貰おう。
そう思いつつ天使の背後の壁に目を向けた私は絶句する。
見たことも無いような大きな虫……いや、先ほどの水槽で見たのだが、それが這い回っている。
それを見た私は……迷うことなく背負っていた対物ライフルを構えた。
以前にも説明したが、私は虫が大嫌いである。特に足が多いのが気持ち悪い。
小さな昆虫程度なら新聞紙で叩くくらいで済むのだが、今回は規格が違った。

「死ぬがよい!」

そう声を上げつつ、私は対物ライフルをぶっ放す。
銃の反動は纏わせた水により緩和され、銃弾は正確に飛ぶ。リーユの方へ。
人体を真っ二つにする威力を持つ大口径の銃弾は、彼女の耳元をすり抜けて背後の壁に刺さった。

「ちっ、外したですよ」

そう呟きつつ次弾装填。迷うことなく2発目を放った。
先程と同じような軌道を描いて飛ぶ銃弾。あまりの事態に動けないリーユをかすめていく。
暫しの静寂。後に残ったのは、壁に空いた二つの弾痕と、バラバラになった虫の死骸。

「あはは、ちょっとした害虫駆除だったですよ。お気にせず続けるがいいですよ」

そう言いつつ、銃を肩にかけ直し何事もないように振舞う私。あースッキリした。
そこでふと思い出し、アルムから聞いた言葉の返事をした。

「審査員は普通の人間を選ぶべきですよ。でなきゃ勝負の意味がない、正々堂々ですよ。
 大切なのは、今の工場が深刻な自然破壊を誘発していると言う事を分からせることですよ」

自然由来の食品を食べて貰って自然の大切さを分かって貰えれば、彼らも意見を変えてくれる……と良いのだけど。

4シャルル ◆HTcbo8CpC2:2014/09/30(火) 23:33:39
>「お菓子の天使!リーユ・ズミギーカのお菓子をね」
>「ここの食材を使って私が作った菓子折り、その威力を受けてみなさい」

どうでもいいけどあからさまにライバルキャラっぽい二つ名だなおい。
それはそうと、アタシの衝動は美味しそうなものに目がないこと。
菓子折りを差し出されてしまったら食べないわけにはいかず……

「おいしいじゃない! むぐむぐ なんて言うと思った? むしゃむしゃ
でもなかなかやるわね! あむあむ」

止まらなくなってしまった。
先ほど美味しいだけではなく吸収率も良いと言っていたはずだ。
一見いい事づくめのようだが、何事も過ぎたるは及ばざるがごとし。
情報体であるデビチルはどうか知らないが、生身の人間が美味しすぎて吸収率も良い食べ物に囲まれて行きつく先は……そう、メタボである。
カロリー以外にも取りすぎると害になる栄養素も存在する。
やはりこの町の状況が続くことはそういう意味でも問題があるだろう。
しかし今回の料理対決は健康にいいかではなく美味しいかが判定基準だ。
これは困った。ぶっちゃけ勝てる見込みないんじゃ……

>「シャルル先生。これってもしものことなんですけど、もし先生が天使のお菓子を美味しいって認めちゃって勝てないって思っちゃったとしても
物事ってそこからが始まりって私は思います」

「そ、そんなこと思うわけないじゃない。みんなも食べる?」

>「となると審査員を選ぶ時に舌の肥えてない幼児とかを選ぶしかないかも?んー、ダメ?アイネ、あなたも何か良い考えがあったら教えて!」

アイネは虫相手に大立ち回りを演じた後、何事もなかったかのように作戦会議に戻る。

>「審査員は普通の人間を選ぶべきですよ。でなきゃ勝負の意味がない、正々堂々ですよ。
 大切なのは、今の工場が深刻な自然破壊を誘発していると言う事を分からせることですよ」

「料理が美味しく感じるかは精神的なものの影響も大きいと聞いたことがある。
今の生産体制がいかに自然破壊をしているかや栄養過多な生活が続くことによる健康被害を
インパクト絶大にプレゼンテーションをしてから料理を食べてもらえばいいのかも……。
とにかくこれ以上ここにいても埒が明かないのは確かね。
今の生産体制に反対する派閥を探しに行きましょう」

5 ◆GAazGNP2wQ:2014/10/01(水) 10:13:48
「あ……あんたら、おかしい、おかしいわ、絶対頭おかしいわ…」

突然対物ライフルを向けて撃ちまくられて、リーユは硬直し、かくかくと頭だけ動かして後ろで粉砕されている虫を確認する。
彼女的に、人類を救済する、などと言っているんだから、デビルチルドレンはもっとヒーロー的な連中だと思っていたらしい。
しかし、いざ会ってみればいきなり水槽に入るわ対物ライフル撃ってくるわ…。

「わた…わたしがお菓子だけだと思っちゃ駄目よ!こう見えて、2丁拳銃は…」

>「おいしいじゃない! むぐむぐ なんて言うと思った? むしゃむしゃ
でもなかなかやるわね! あむあむ」


恐ろしいデビルチルドレンに、リーユが精一杯強がろうとしたその時、リーユのお菓子を食べてくれた♪…もとい、食べた最年長と思われる赤い髪の女が、感想を言い始めた。
その評価に、リーユは肩を落とす。

「…それだけ?もしかして、たった……う…うぇーーん」

シャルルの評価を聞いたリーユはこらえきれなくなって泣き出し、近くの天使に抱き付いていった。
アイネの突然の暴走に、こちらもびびって固まっていたリーユより年上っぽいその女の天使は、頼りの特殊部隊の余りの情けなさに困惑し、成すがままに抱き付かれる。

「もっとこう、口からビーム吐いて巨大化する幻覚が見えたり、過去にタイムスリップする位おいしがると思ったのに…私じゃそこまでできないんだ…。
うわあああああん、ゼウス様ごめんなさああああい」

作戦会議するシャルル等の横で、天使の胸でわんわん無く対デビルチルドレン用天使。
抱かれている天使の方は、ただただ苦笑いを浮かべているだけだ。
しかし、シャルル等の話はしっかりと聞いていたのだろう、シャルルの言葉のある部分に反応し、会話に混じってきた。

「栄養の件は大丈夫ですよ、栄養の吸収量と使用量、人間はそのバランスが取れるように働かせてますので」

そう、ここは重労働でも有名な町。
工場も調理場も労働時間12時間越えが普通で、さらにローテーションで回ってくる調理場の仕事にはエアコン等は一切存在しない。
栄養はこの都市で働いている人間には取りすぎるという事は無いのである。

「じゃあ、私行くね…。……食べてくれてありがとう」

天使の胸の中で落ち着かせてもらったリーユは、とぼとぼと帰路についた。
彼女だって対デビルチルドレン天使、戦えば1000万パワーで猫バスロボと等身大で戦えるほど強いのだが、メンタル面までは強くないらしい。
それに、いざ戦うとなれば、3人の対デビチル天使の残りの二人の内、一人はチート能力を(その代りリーユよりさらにメンタルが弱いが)もう一人は文句の無い強さと料理の腕を(その代りコミュニケーション能力に大いに問題があるが)持っている。
リーユはお菓子だけ作れればそれでいいのだ。

「皆さん、ちょっとよろしいでしょうか?」

リーユと入れ替わりに、今度は休憩室にイトが入ってきた。
すれ違いざま、リーユが泣いてるのを見たイトが彼女を心配するが、リーユはなんでもない、対物ライフル向けられただけだから…と気丈に返し、去っていく。

「……まぁ、敵同士ですものね、私たち」

そう言って、去っていくリーユを見送り、シャルル等の方を向くイト。
しかし、その目は平和的に料理対決を挑んだはずのリーユを問答無用で気づつけようとしたシャルル等に対する、静かな怒りに燃えていた。

6 ◆GAazGNP2wQ:2014/10/01(水) 11:52:43
「あの…違うんです、蟲がですね…」

しかし、気を利かせた先ほどの天使が、シャルル等を庇ってくれた。
どうでもいいが、この町に来てから人間より天使の方がいい人たちである。

「そうでしたの、それは…仕方ありませんわね」

デビルチルドレンに性と言う弱点がある事を知っているイトは、天使の話に納得し、怒りを解くと、改めて話に移った。

「ちょっとここの調理風景で、皆さんに見ていただきたいものがございます。
……よろしいでしょうか?」

そう言って、イトはシャルル等を先導するイト。
調理区画を抜け、しばらく同じような工場の中を進んでいき、やがて、一同の前に「第42調理区画」と書かれた場所が現れた。
やはり通路に窓があり、下がのぞけるようになっており、そこは見渡す限りの畑と、果樹園になっていた。

…しかし、ただの畑と果樹園ではない。
畑の土と、果樹園の樹木、そこに、大勢の人間が取り込まれ、体から果物や野菜をはやしているのだ。

「ここは果物の収穫所ですわ、罪人や、労働能力の低い人間はここに送られます。
あの土と木と一体化して、生きて意識を持ったままゼウスの作った超野菜の養分となるのです。何も考えずにね。
肥料人間と言いますわ。」

言いつつ、イトは扉の前に立ち、シャルル達が下に移行する際通らなければならない場所に立ちふさがる。
説明するイトの横の窓の向こうでは、ロボットが現れて、果物や野菜を収穫していた。

「街の人間達はここに送られる事を恐れています。
ここに来てしまったら、二度とおいしい物が食べられない、と言ってね。

……U−ザンは食にのみ人間を偏らせ、縛りつけている」

言いながら、イトはメモを取り出し、シャルルに渡した。

「ここが犯行勢力の拠点ですわ。
彼らはある程度天使に対抗できる兵器を持っています。
故に、対デビルチルドレン天使のひとりが殲滅しようとしていると聞きます。
…どうかお気をつけて」

イトがそう言った瞬間、下の調理場で爆発が起き、ドリルがついた車と、武装兵士が室内になだれ込んできた。
兵士たちは畑の肥料にされている人間達の救助を開始する。
だが、畑や木からツタが伸び、兵士や装甲車に襲い掛かり、さらに警備の天使達も飛んできた。
それに対し、発砲する兵士たち。
弾丸が命中し……何と天使のひとりが消滅したではないか!
その後も、弾丸はしっかりと天使に効果を発揮し、一人、また一人と天使を撃墜していくが、いかんせん敵の数が多い。
兵士たちは触手にとらわれ、天使に羽交い絞めにされ、次々と無力化されていく。

「……」

いつの間にか、イトは下への道を開けていた。

7シャルル ◆HTcbo8CpC2:2014/10/07(火) 00:10:31
>「…それだけ?もしかして、たった……う…うぇーーん」

あら、何か傷つけるようなこと言ったかしら……。


>「もっとこう、口からビーム吐いて巨大化する幻覚が見えたり、過去にタイムスリップする位おいしがると思ったのに…私じゃそこまでできないんだ…。
うわあああああん、ゼウス様ごめんなさああああい」

「落ち着いて! あなた中華一番の見すぎよ!」

※ 中華一番……中華料理の料理アニメ。料理の美味しさを表現する演出がとにかくすごい。

どうやらこの天使、メンタルが目茶苦茶弱いらしい。
メンタルを崩して本領を発揮できなくさせる作戦も使えるかもしれない。
セコいが手段を選んでいる場合ではないのだ。
その後、イトが入ってきた。
立ちはだかったかと思えば自ら手引をしてくれたりと、相変わらず意図が読めない人である。

> 「ちょっとここの調理風景で、皆さんに見ていただきたいものがございます。
……よろしいでしょうか?」

案内された場所から下を覗く。一見果樹園のようだが……。
悍ましい光景に言葉を詰まらせる。

「に……人間じゃない……!!」

> 「ここは果物の収穫所ですわ、罪人や、労働能力の低い人間はここに送られます。
あの土と木と一体化して、生きて意識を持ったままゼウスの作った超野菜の養分となるのです。何も考えずにね。
肥料人間と言いますわ。」

意識を保ったままとは何と残酷な……。
何も考えずに済むのがせめてもの救いだろうか。
料理対決を受けた以上武力行使はどうのと悠長なことを言っている場合ではない。
せめてまだ助かる人だけでも救出せねば。

「イトさん、そこを通して。行かなきゃ」

すんなり通してはもらえないだろうと思いきや、イトさんの次の行動は意外なものだった。

>「街の人間達はここに送られる事を恐れています。
ここに来てしまったら、二度とおいしい物が食べられない、と言ってね。

……U−ザンは食にのみ人間を偏らせ、縛りつけている」

「イトさん……?」

天使側に身を置きながらも、現状には反対のような言葉。
まるで本当はアタシ達に勝ってほしいと思っているかのよう。

> 「ここが犯行勢力の拠点ですわ。
彼らはある程度天使に対抗できる兵器を持っています。
故に、対デビルチルドレン天使のひとりが殲滅しようとしていると聞きます。
…どうかお気をつけて」

「イトさん……! ありがとう」

彼女にどんな目論みがあろうとも、とにかく今は感謝だ。
間もなく、下で戦闘が始まった。
なんと、人間が撃った銃弾が天使に効いているではないか。
天使側に圧されてはいるものの、一方的な虐殺ではなく戦いになっているだけでも凄いことだ。
イトさんが行けと促すかのように道を開ける。

「アタシ達も加勢しましょう! 人間肥料なんて駄目よ、駄目駄目!
だってアタシの衝動が反応しないんだもの!」

ツタや触手の相手をするには大鎌が適任だと判断し魔人化を決行。

「植物の相手は任せろ! アイネとアルムは警護の天使を抑えて! 」

絶妙のコントロールで人間を植物から切り離し一喝する。

「突っ立ってないで早く逃げろ!」

解放された人間は一瞬呆然とした後、意識を取り戻したかのように仲間の元へ駆けていく。
こんな大立ち回りを演じてしまったらもはや料理対決はお流れだろうか。
まあいいか、その時はその時だ。

8アルム ◆u52CAVowCY:2014/10/08(水) 01:22:01
アルムの提案した審査員に幼児を選ぶという案はルール違反ではないのだけれど
アイネは正々堂々と戦いたいという。
かたやシャルルも、天使の料理は自然を破壊して作ってることを世間にふれまわって
悪い印象を与えたいのだそうだ。
でも本当の話、街の人々は、
肥料人間になって美味しいものを食べられなくなるのが嫌なだけなのだった。

「まあ、それもそうかもぉ……」
人間はゼウスが管理しないと普通に自然を破壊してるのだし
あんまりそこは問題でもなかったのかもしれない。
この街の人間たちは、本当に美味しいものを食べることだけに洗脳されている。
そういう解釈でよいのかもしれない。

そして、去ってゆく天使と入れ替わるように反対勢力が現れるのだった。

>「アタシ達も加勢しましょう! 人間肥料なんて駄目よ、駄目駄目!
だってアタシの衝動が反応しないんだもの!」

>「植物の相手は任せろ! アイネとアルムは警護の天使を抑えて! 」

「え…え〜!」
悲鳴をあげているアルムに警護の天使が迫る。

9アイネ ◆ch6TRNt0B6:2014/10/14(火) 20:14:55
休憩室での一騒動の末、私たちは現れたイトに先導され再び工場内を歩いていた。
案内されたのは、工場内の農園施設。しかし、その畑は普通のものではなかった。
眼下に広がる畑を見て、思わず息を呑む。畑には人間が「植えられ」、作物が実っていたのだ。

>「ここは果物の収穫所ですわ、罪人や、労働能力の低い人間はここに送られます。
 あの土と木と一体化して、生きて意識を持ったままゼウスの作った超野菜の養分となるのです。何も考えずにね。
 肥料人間と言いますわ。」

肥料により畑の土を作るよりも、分解吸収の出来る人間を直接肥料にするほうが早い、その理屈は分かる。
しかしそれはおよそ人の所業ではない。あまりに惨過ぎる、耐えられない光景だった。
思わず下に降りて助けようと体が動いたが、その道をイトが塞ぐ。

>「街の人間達はここに送られる事を恐れています。
 ここに来てしまったら、二度とおいしい物が食べられない、と言ってね。

 ……U−ザンは食にのみ人間を偏らせ、縛りつけている」

人々を見せしめのために肥料化し、唯一与えられる美味しい食事により思考を縛っている。
まさに独裁者の所業ではないか。彼らには一切自由と言うものが与えられてはいない。
私はそこで、本当に彼らを助けなければと思った。デビチルとしての務めではない、ひとりの「人間」として。
幸い私には天使と戦うための力がある。それを行使し、彼ら人間を解放しなければ。

>「ここが犯行勢力の拠点ですわ。
 彼らはある程度天使に対抗できる兵器を持っています。
 故に、対デビルチルドレン天使のひとりが殲滅しようとしていると聞きます。
 …どうかお気をつけて」

次の瞬間、下で爆音が轟いた。見ると、煙の中から武装した集団がなだれ込んでいる。
どうやらあれがこの街のレジスタンスなのだろう。肥料人間と化した人々を助けに来たに違いない。
よく見ると、彼らは見慣れない銃器を持っていた。先程の話に出ていた対天使兵器だろうか?
銃は確かに天使に対し有効に働いているらしい。しかし多勢に無勢、天使が多過ぎる。
防衛用と思われる植物の蔓により身動きが取れない者も多いようだ。このままでは殲滅されてしまう!
ふと気付くと、イトは先程まで塞いでいた下へ降りる通路への道を開けていた。
私たちは、すかさず彼らレジスタンスの応援へと飛び込んだ。

「このデビルチルドレンが助太刀に参上したですよ! 皆、諦めずに戦うですよ!」

>「植物の相手は任せろ! アイネとアルムは警護の天使を抑えて! 」

「応!」

10アイネ ◆ch6TRNt0B6:2014/10/14(火) 20:16:25


そう声を掛け、私は背負っていた対物ライフルを腰だめに構える。
それは大口径の対物ライフルを撃つときの構えではない。反動が大きい銃器には不向きな構えなのだ。
しかしこれには理由があった。私は水を自在に扱える。それを利用すれば、銃の反動を無効化出来る訳である。
その事に早くから気付いていた私は、本来狙撃用であるこの銃を通常の銃器と同じように取り扱えるよう訓練していた。
その腕前は百発百中とまでは行かないが、それなりに自信はある。
私は、攻撃を続ける天使に向けて迷うことなく対物ライフルをぶっ放した。

狙いは正確、眉間を打ち抜かれた天使はもんどりうって倒れる。
しかし、通常兵器の多くは天使たちには無効である。この銃とて同じ事だ。
だが、使った銃弾が普通のものでないとしたらどうであろう?
このとき撃った銃弾は、中に粘性の高い液体を圧縮、形成したものであった。
撃たれた相手は銃の威力により吹っ飛び、液体に絡み取られたのだ。
私の能力は、触れた液体を操るだけではない。液体に予め簡単な命令式を与える事も可能なのだ。

「ふっ、まだまだ弾はいくらでもあるですよ!」

大口径のこの銃を選んだのにはいくつかの理由がある。
ひとつ、銃弾が大きいため、より多くの液体を封入出来ること。
ひとつ、威力により相手を吹き飛ばし、拘束を容易にすること。である。
更に言うと銃弾に加工する液体にバリエーションを持たせることで、様々な戦局に対応する事も可能なのだ。
私の撃った銃弾は的確に敵を捉え、次々に無効化していく。
言わば瞬間接着剤を頭に叩き込まれるようなものだ。そう易々とは動けまい。

私たちが加勢したのが功を奏したのか、戦局はレジスタンスに有利に傾いた。
シャルルの援護の甲斐もあって、救助活動も概ね終了したようだ。
それを見計らったのか、隊長と思われるレジスタンスが合図を出した。
地下から掘り進めたのであろう穴から、皆が脱出していく。
最後に残ったレジスタンスが、穴の周りに爆弾を設置していた。退路を断つためだろう。
私は迷うことなく仲間たちに声をかけた。

「レジスタンスを追うですよ。彼らと合流するのが、きっと最善の策ですよ」

爆弾が爆発する寸前、私たちは穴に飛び込み彼らを追うこととなった。
彼らの用いる兵器にも興味があるし、いざ料理対決をするとなると地元民の意見は参考になるはずだ。
何よりも、これまでと同じようにレジスタンスは私たちの味方なのだ。会っておいて損はないだろう。

11 ◆GAazGNP2wQ:2014/10/19(日) 18:41:05
レジスタンスのドリル装甲車は救助した人々を乗せ、地底へと逃げていく。
が、中途、後ろから誰かが付いてきているのに気付いたのか、停車すると、後方のハッチが開いた。

「早く乗ってくれ!!」

そう言って、中から先ほどの武装兵士が手招きする。

――――――

彼の指示に従って車の中に入ると、そこには、10名ほどの武装兵士と、畑から救い出された何人かの肥料人間達がいた。
警備の攻撃が厳しく、畑からは数名しか救助する事が出来なかったのだ。

「あなた方がデビルチルドレンですよね?」

フルフェイスのヘルメットにボディアーマーと、今までのレジスタンスで一番まともな格好をしているレジスタンスのひとりが、アイネ達に聞いてきた。

「あ、失礼、申し遅れました、我々はコリットー・スナーロ解放戦線、通称悪魔の牙と申します。
このコリットー・スナーロ、いや、人類をゼウスの支配から取り戻すため、こうして日夜、地底に潜って天使達と戦っているのです」

周囲の兵士や、生気の無い目をした肥料人間達がアイネ等に注目する中、挨拶を始めるレジスタンスA。

「間もなく、本部へ到着しますので、そこで詳しい話を聞いてください…」

レジスタンスが挨拶を終えると、周囲のレジスタンス達がシャルル等の元に集まってきた。

「デ…デビルチルドレン様、ようこそおいでくださいました」
「ありがとうございます、ありがとうございます!」
「素晴らしい武器を与えてくださるばかりか、こうして直接赴いてくださるなんて」
「あの…ぶしつけなお願いですが、握手を…」
「おい!抜け駆けすんな!」

何か気になる事を言いつつも、レジスタンスは集まり、口々にシャルル等に感謝の言葉を述べたり、崇め奉ったりし始める。
やがてその場にいたレジスタンス全員とシャルル等の即席握手会が終わったころ、ようやく車はレジスタンス本部に到着した。
そこは、ただコンクリートで周囲を補強し、照明を並べているだけの薄暗い地底の空間で。
シャルル等が通ってきた穴以外にも大きな穴がいくつも空洞につながっており、レジスタンスが活発に活動している事を物語っている。
空洞内にはドリル装甲車が数両、停車しているほか、武器の詰まったコンテナや、小型戦闘ヘリのような物があり、その周囲では、レジスタンスの男女が、忙しく行き来し、道具を運んだり、肥料人間だったらしい人間達の手当などをしていた。
ただ生活スペースは別なのだろう、トイレや寝床の類は見られない。

「あ!救出チームが戻ってきたぞ!」
「本当にデビルチルドレンが一緒にいる!!」
「あっちの赤髪の女性が、シャルル・ロッテさんだな!」
「背の低い方…どっちがアイネさんだ?」
「バカ、水色の髪の方だよ」
「あの人は?」
「あのお方はいないのか?」

車から降りたシャルル等に、わっと、その場にいた男性レジスタンス達が集まってきた。
皆節度を守ってあまり近づかずにシャルル等を物珍しげに見ながらざわざわと騒いでいる。
そして皆、どこから情報がいったのか、シャルルとアイネの事を知っており、いるはずの「誰か」を探している様子だ…。

「あなた方がデビルチルドレンですね?」

やがて、そんな騒がしいレジスタンスの間を割って、一人の女性が現れた。

12ヒナメア ◆GAazGNP2wQ:2014/10/19(日) 18:59:41
レジスタンスの中から現れた女性、立ち振る舞いや、醸し出す優秀そうな雰囲気から、リーダーだろう、彼女の外見に、一同は見覚えがあった。
長い緑色のウェーブ髪に、少々垂れた目、そして上品な立ち振る舞い…。
そう、イト・ミシヅキである。

「私の名前はヒナメア・ミシヅキ…悪魔の牙のリーダーをしております」

言って、恭しく礼をするヒナメア。
どうやらイトとは別人らしい。
言われてみれば彼女の方が背が高く、顔も大人びて見える。

「私達はここでゼウスに対抗しうる勢力を築くため、レジスタンス活動をしています。
既に皆さまが解放したアキヴァやヴィエナとは連絡を取り合っており、アキヴァで皆様が開発された最新鋭の武器もこちらに行き届いておりますわ」

言って、ヒナメアは空洞の一か所を指さした。
そこには、「アキヴァ○3工房」と書かれた複数の武器コンテナが置かれている。

「トム・ジリノフスキーさまがわが身を削って作ったアンチエンジェル弾に報いるため、一同、今日も戦っておりますわ」
「そうだ、トム・ジリノフスキーさんはいないんですか?」
「アキヴァで下水道から奇襲攻撃して単身で敵の大将を撃破して…」
「ヴィエナで改造人間を蹴散らし、堂々と真正面から敵の本拠を叩いて」
「ゴールド・スミスと戦って必殺キックでやっつけて…」
「つい先日は裏切り者を倒して会心させたって言う最強のデビルチルドレンは!」

目をキラキラとさせながら、とんでもない事をシャルル等に聞いてくるレジスタンス達。

13シャルル ◆HTcbo8CpC2:2014/10/22(水) 21:44:08
「……終わったようね」

アイネの活躍もあって、レジスタンスの作戦は一通り終了した模様。
隊長の合図で撤退していくのを見て魔人化を解除する。

>「レジスタンスを追うですよ。彼らと合流するのが、きっと最善の策ですよ」

「ええ!」

途中、アタシ達に気づいたレジスタンスがハッチを開いて乗せてくれた。
歓迎されている、少なくとも敵意を持たれてはいないのは間違いないようだ。
中にいたのは武装兵士達と、何人かの元肥料人間。
思ったより救出出来た人数が少なったが……今は落ち込んでいる暇はない。

>「あなた方がデビルチルドレンですよね?」
>「あ、失礼、申し遅れました、我々はコリットー・スナーロ解放戦線、通称悪魔の牙と申します。
このコリットー・スナーロ、いや、人類をゼウスの支配から取り戻すため、こうして日夜、地底に潜って天使達と戦っているのです」

「悪魔の牙……」

今までの街のレジスタタンスは自分たちの趣味を貫くために戦う人々だったが
これは人類全体まで視野に入れた結構ガチなレジスタンス組織のようだ。

「お察しの通りアタシ達はデビルチルドレンの一部隊よ。
アタシはシャルル……」

自己紹介しようとすると、周囲のレジスタタンス達がわらわらと集まってきて即席の握手会と相成った。
どうやら予想以上に歓迎されているようだ。
それが収まった頃、車は本部に到着。
少なくない数のレジスタンス達が行き来しており、それなりの勢力であることが伺える。
案の定、興味津々といった感じでレジスタンス達が周囲に集まってくる。
何故かアタシ達の情報はすでに知っているようだ。となればあの方は……トム君か?
そんな中現れたレジスタンスのリーダーは、驚くべき外見をしていた。

14シャルル ◆HTcbo8CpC2:2014/10/22(水) 21:44:49
>「あなた方がデビルチルドレンですね?」

「イ…いえ、ごめんなさい。そう、アタシ達はデビルチルドレンの一部隊です」

すんでのところでイトという名前を言いそうになって飲み込む。
イトさんはゼウスの工作員、こんなところにいるはずはないし、さっき上で別れたばかりなのでここにいては物理的にもおかしい。
しかし、ならばこの人は誰なのか。

>「私の名前はヒナメア・ミシヅキ…悪魔の牙のリーダーをしております」

「よろしくお願いします、ヒナメアさん。
アタシは一応この隊のリーダーをしているシャルル・ロッテといいます」

よく見れば別人ということが伺える。イトさんとは姉妹か親戚だろうか……。

>「私達はここでゼウスに対抗しうる勢力を築くため、レジスタンス活動をしています。
既に皆さまが解放したアキヴァやヴィエナとは連絡を取り合っており、アキヴァで皆様が開発された最新鋭の武器もこちらに行き届いておりますわ」

見れば、アキヴァから持ってきたと思しき武器コンテナが並んでいる。

「すごいじゃない……!」

>「トム・ジリノフスキーさまがわが身を削って作ったアンチエンジェル弾に報いるため、一同、今日も戦っておりますわ」
>「そうだ、トム・ジリノフスキーさんはいないんですか?」
(中略)
>「つい先日は裏切り者を倒して会心させたって言う最強のデビルチルドレンは!」

盛りに盛られた大評判なトム君の行方を聞かれた。
一体なんでこんな話になっているのだろうか。

「えーと、トム君なら臨時でアキヴァの防衛の方に回ってるんだけど……」

レジスタンスはアキヴァと交流があるので、トム君が自ら大袈裟に語った事に尾ひれがついて伝わった可能性もある。
まあ勘違いさせておいたところで特に弊害はないので敢えて否定はしないでおくことにした。

「ヒナメアさん、イトさんという人はご存知ですか?
実は今天使側についているイトさんという人から料理対決を申し込まれていて……
美味しい食材とか今は忘れ去られた伝統料理とかご存じないですか?」

それとなくヒナメアさんにイトさんとの関係性について探りを入れつつ料理対決の相談を持ちかける。

15アルム ◆u52CAVowCY:2014/10/24(金) 00:08:22
すいません。
なにか失礼なことをしてしまっていたとしたらごめんなさい。
お話に絡めていただいていないようですので
やめさせていただきます。
ありがとうございました。

16ヒナメア ◆GAazGNP2wQ:2014/10/24(金) 21:58:19
>>15
すいません、展開がgdgdしてうまく話を進めれてないだけでアルムさんを故意に話に絡めてないわけではありません。
何っていうかこう…街の状況の説明パートが長くなりすぎてうまい事皆さんに活躍の場を提供できないのです。
不快な思いをさせて申し訳ありませんでした。

17シャルル ◆HTcbo8CpC2:2014/10/24(金) 22:22:45
>15
ご自身がやめるというのなら止める権利は無いですが
レジスタンス達の会話に名前が出てこないのは単に最近登場したキャラだからであって他の意図は全くないと思うのです
アタシも話をあまりふれてなくて申し訳ないのだけど
ST役対ご一行という構図になっているのでどうしても毎回各キャラピンポイントに話を振るのは難しくなります
そんな時は自分からトム君の操作するNPCに話しかけてみるといいのかも

>16
いえ、よくST役やってもらって感謝してます
こちらこそうまく繋ぎ役ができてなくてすみません

18アイネ ◆ch6TRNt0B6:2014/10/31(金) 22:20:54
レジスタンスを追いしばらく後、追いついた私たちは彼らと合流する事になった。
拒絶されるかとも思ったが、案外彼らは歓迎ムードである。名でも知られているのだろうか?

>「あなた方がデビルチルドレンですよね?」
>「あ、失礼、申し遅れました、我々はコリットー・スナーロ解放戦線、通称悪魔の牙と申します。
このコリットー・スナーロ、いや、人類をゼウスの支配から取り戻すため、こうして日夜、地底に潜って天使達と戦っているのです」

「悪魔の牙……なるほど、志を共にする者達なのかですよ。私はアイネ、よろしくですよ」

名乗りを上げただけで小さくざわめく。反応からして、どうやら本当に名が知られているようだ。
わらわらとレジスタンスたちが集まり、私たちを称え感謝の意を示してくれる。
いつの間にか場の空気が即席の握手会になった。はじめての経験なので少々戸惑う。
そんな場の空気も落ち着いた頃、私たちを乗せていたドリル車は本部に着いたようだった。

見渡すと、そこは簡易なコンクリートで形成された仄暗い空間だった。
彼らが掘り返したであろういくつもの洞窟と接続されていて、構造は複雑そうである。
どうやら居住区が明確に仕切られている様子もなく、彼らは普通に往来していた。
レジスタンスの兵士たちは車から降りるとねぎらいの言葉を投げかけられる。
肥料人間たちは担架でどこかへと運ばれ、これから治療を受けるのであろう。
そんな様子を眺めていたところ、群衆の中から一人の女性がこちらに近づいてきた。
その風貌を見て思わず身構える。背格好は違えど、それがイトにそっくりだったからだ。

>「あなた方がデビルチルドレンですね?」
>「私の名前はヒナメア・ミシヅキ…悪魔の牙のリーダーをしております」

その声を聞いて確信が強まる。やはり彼女はイトの”何か”なのだろう。
しかしそれは私にはどうでも良い事だ。人の出自など大して興味はない。
肝心なのはヒナメアが私たちの協力者であり、これからの戦いの鍵を握るであろう人物だと言う事である。
彼女の話によると、彼らは対天使の本格的なレジスタンスとして活動しているそうだ。
そのために既に開放されたアキヴァなどと連携し、武器の調達などを行っているらしい。
なるほど、彼らの武器が天使に有効なのにはそういう理由があったのだと納得する。

19アイネ ◆ch6TRNt0B6:2014/10/31(金) 22:21:31


ふと気づくと、私たちの周りに集まっていた群衆が何かを探すような目になっているのに気付いた。
そのざわめきから単語を拾ってみたところ、どうやら彼らはトムを探している様子だ。
彼らの中では既にトムは英雄として奉られているらしい。いや、彼は結構なヘタレなのだけど……。
まぁ雰囲気をぶち壊すのも悪い気がするし、ここは話を合わせておこうと思う。

>「えーと、トム君なら臨時でアキヴァの防衛の方に回ってるんだけど……」

シャルルの口調もなんだかおぼつかない。やはりトムの評価に物申したいことでもあるのだろう。
そのとき、私はふと思いついてほくそ笑んだ。どうせなら、彼の人気にあやかってしまえ。

「トムは私、このアイネ・リヴァイアスの忠実な部下ですよ。優秀な部下でとても使い勝手が良いですよ」

それを聞いた群集から、おおぉと溜め息のような歓声が沸き起こる。
私は語った、彼がいかに優秀に私の手足になってくれたか、そして私のありもしない武勇伝を。
この噂は人々の中で事実として語られ、より多くの人々に知られる事だろう。
まぁ要するにトムの武勇伝が語られる事が面白くなかっただけである。ちょっとした悪戯だ。
語ったついでにちょっとしたお願いをしてみる事にした。

「ここには対天使用の50口径弾はあるかですよ? ちょうど弾丸が足りず困っていたですよ」

お願いしてみると、すぐさま弾丸が届けられた。
銃の中でも最強と謳われる対物ライフルの弾丸は、身近なものに例えるとマジックペンと大体同じ大きさである。
しかも対天使用の特殊な加工が施された弾丸だ。その威力は計り知れない。
十分な量の弾丸を……と言っても重いので大した量ではないが……貰ってホクホクと戻ってみると、シャルルとヒナメアが語り合っていた。

>「ヒナメアさん、イトさんという人はご存知ですか?
 実は今天使側についているイトさんという人から料理対決を申し込まれていて……
 美味しい食材とか今は忘れ去られた伝統料理とかご存じないですか?」

なるほど、確かに重要な話であった。料理対決なんてまどろっこしいもの、半分忘れていたのである。
トライブ化を防ぐため今回は魔人化こそ自粛しているが、これでも根っからの戦闘家なのだ。
銃でもぶっ放して、早いところ街を制圧しちゃったほうが楽だとすら思っている。
兵士となるレジスタンスも今回は充実しているし、戦力は期待出来るのだから。
まぁ、余計な血は流したくないし、とりあえず料理対決はしておくべきだろう。
ただし、もし負けたらそのときは戦争だ。全力を持って天使を叩き潰す!

20ヒナメア ◆GAazGNP2wQ:2014/11/05(水) 12:58:56
>「ヒナメアさん、イトさんという人はご存知ですか?
実は今天使側についているイトさんという人から料理対決を申し込まれていて……
美味しい食材とか今は忘れ去られた伝統料理とかご存じないですか?」

シャルルの問いかけに、ヒナメアは少し考えた後、口を開いた。

「イト…私と外見の近い娘ですね?
デビルチルドレンを追っているゼウス側の人間が街に入ったと部下から聞いています。
彼女と私に親類関係はありません。
血縁関係はありますがね」

シャルルの問いかけの意味を察しているヒナメアは、イトと自分について淡々と語る。
その横では、兵隊が、アイネにアンチエンジェル弾を、なぜか怪訝な顔をしながら渡していた。

「私やイトは優秀な遺伝子を使って量産されているゼウスが作った人間…いわゆるコーディネーターなのです。
高度な教育と訓練を受け、人間の中に混じり、導く存在としてこの世に生を受けたのです。
まぁ、中には私のようにゼウスを裏切る側に回る者もいるので、その計画が失敗であることは明らかですけどね」

どこか他人事のようにヒナメアはいうと、さて、と話を変える。

「料理対決なら、必殺の食材を私たちは知っています。
ただ、凄まじい危険を伴う食材であり、天使たちですら手を出さない、美食の町ができるきっかけとなった料理が…」

ぐっと、言葉に力を入れてそこまで言ったヒナメアは、しかし、そこで言葉のトーンを落とす。

「しかし、私たちとしては、料理で支配されたこの街を、料理で開放してほしくはありません。
食に偏っているからこそ、この街の人々に、食以外の楽しみを知ってもらいたいのです。
そうすれば、自然とゼウスの…U−ザンの作った支配体制は崩壊する!」

そういって、ヒナメアはシャルルの手を取った。

「お願いします、この街を…「食」から解放してください!」

ヒナメアのいうことは、一理ある。
だが、彼女の申し出を受け、料理以外の方法でこの街の開放に挑むということは、あの強力な対デビルチルドレン天使相手にガチで戦いを挑むことになる。
リーユは兎も角、最初に現れたフードは間違いなく恐ろしく強い。
いかに人間の兵士が今回は戦力になるとはいえ、厳しい戦いになり、両者に多くの血が流れるのは間違いないだろう。

「ところで…アイネさん、なんでアンチエンジェル弾必要なんですか?」

アイネにアンチエンジェル弾を渡した兵士その1が、ずっと気にかかっていたという感じで、アイネに訪ねてくる。

「トムさんがアキヴァで普通の拳銃でマシンガンが効かない天使を殲滅できたって話だから、てっきりデビルチルドレンは普通の弾で天使を倒せるもんだと…」

そう、あんまり大昔のレスなのでシャルル先生位しか覚えていないかもしれないが、トムがかつてアキヴァに初めて侵入した際、天使にびびって研究所から持ってきた拳銃を発砲。
それで天使を数名射殺しているのである。

「え?お前知らないの、あれあとから調べたらあの銃の弾はヘル特製の奴だったってオチがあったんだぜ」

そんな兵士1に、横にいた兵士2がすかさずフォローを入れる。
そう、あの時トムが持ってきた拳銃は、ヘルからトムが持ち出していた銃、特別製だったのだ。

「アンチエンジェル弾は、トムさんが提供してくれた大量の血液を弾丸のもとになっている金属と混ぜ合わせて作られた物です。
今までの町でトムさんがこつこつとアキヴァに血液を送って作ってもらっていたんですよね!
弾丸にデビルチルドレンの血肉がついているから、天使に効果を及ぼすことができるんです」

ついでに唐突だが、説明口調で語る兵士2。

21シャルル ◆HTcbo8CpC2:2014/11/10(月) 22:48:21
驚くべきことにヒナメアさんやイトさんはゼウスによって作られた人間だとのこと。
イトさんも完全にゼウス側とは言い難いし、その計画は失敗というかむしろ逆効果のような気がする。

>「料理対決なら、必殺の食材を私たちは知っています。
ただ、凄まじい危険を伴う食材であり、天使たちですら手を出さない、美食の町ができるきっかけとなった料理が…」

「なんですって……!?」

グルメの衝動がざわめき、固唾を飲んで次の言葉を待つ。
しかし、ヒナメアさんの次の言葉は意外なものだった。

>「しかし、私たちとしては、料理で支配されたこの街を、料理で開放してほしくはありません。
食に偏っているからこそ、この街の人々に、食以外の楽しみを知ってもらいたいのです。
そうすれば、自然とゼウスの…U−ザンの作った支配体制は崩壊する!」

手を取られて力説される。

「食以外の楽しみ……芸術とか音楽とかオタク文化とか?」

>「ところで…アイネさん、なんでアンチエンジェル弾必要なんですか?」

アイネはアイネでガチ戦闘の準備を着々を進めているみたいだが……。
普通に戦って勝てる相手ならそれでいいのだが、あのフードは危険すぎる。
というのは建前で、本音は必殺の食材を知りたい。
デビチルたるもの、衝動にはあらがえないものなのだ。

「料理を披露する時に余計なことをしてはいけないという取り決めはなかったよね。
今までに解放した街から住人を援軍に呼んでディナーショーにしてしまいましょう!
料理対決を受けつつ食以外の楽しみでこちらに票を集めるのよ!」

「……それで駄目なら直接対決、でどうかしら?」

アンチエンジェル弾の調達をしているアイネに意見を求めてみる。

22アイネ ◆ch6TRNt0B6:2014/11/11(火) 21:15:31
コーディネーター……おそらくは遺伝子操作、洗脳教育などの過程を経て作られた人間なのだろう。
対人間用のインターフェイス、傀儡の指導者として使われるために生み出されたのだ。
いかにもゼウスが考えそうな事である。まぁ、ヒナメアやイトに同情はしないが。
私たちも人間に造られた存在であるのだから、その程度のことは気にも留めない。
今思えば、あの仮想の学園にいた頃が懐かしい。未だ変わらず存在しているのだろうか?
まぁ、戦闘漬けの毎日だったのは同じだったのだから、特に生活に変化はない。

>「料理対決なら、必殺の食材を私たちは知っています。
 ただ、凄まじい危険を伴う食材であり、天使たちですら手を出さない、美食の町ができるきっかけとなった料理が…」

ヒナメアの口から、望んでいた情報が飛び出る。勝つための唯一の条件だ。
それさえあれば、きっと天使たちと互角以上に戦う事が可能になるだろう。
だがしかし、続いて彼女の口から飛び出した言葉は、私たちを驚かせるものだった。

>「しかし、私たちとしては、料理で支配されたこの街を、料理で開放してほしくはありません。
 食に偏っているからこそ、この街の人々に、食以外の楽しみを知ってもらいたいのです。
 そうすれば、自然とゼウスの…U−ザンの作った支配体制は崩壊する!」

>「食以外の楽しみ……芸術とか音楽とかオタク文化とか?」

確かに、彼女の言葉には一理ある。食に囚われているこの街を真に救うには、それだけでは不足なのだ。
必要なのは変革だ。彼らに支配されない新しい娯楽を提供し、ゼウスの思惑を壊すのである。
しかし、そんなこと私たちに出来るのだろうか? なんだか不安になる。
そのとき、不意に私に問いを投げかけられた。

>「ところで…アイネさん、なんでアンチエンジェル弾必要なんですか?」

「私の液体操作は自身の体液すら操れるけれども、トムのように再生しないから多用出来ないですよ」

適当に返答を返す。まぁ間違ったことは一言も言っていないのだが。
それに液体弾は威力に欠けるのだ。どうしても相手を貫くに至らない。
まぁもともと後方支援ばかりしてきたから、真正面から天使に対抗したくはない。
先ほどの戦闘でも、天使を殺さずに無力化させていただけだったし。
どういう仕組みかは知らないが、魔人化した私なら操作する水だけで天使を死に至らしめられる。
まぁ、この辺は深く掘り下げないほうが良いだろう。あとで困りそうだ。

>「料理を披露する時に余計なことをしてはいけないという取り決めはなかったよね。
 今までに解放した街から住人を援軍に呼んでディナーショーにしてしまいましょう!
 料理対決を受けつつ食以外の楽しみでこちらに票を集めるのよ!」

>「……それで駄目なら直接対決、でどうかしら?」

「なるほど、悪くない作戦ですよ。この銃弾だってあまり使いたくはないですよ。
どうせなら、盛大なイベント……パーティーに仕立て上げ、大いに盛り上げようですよ」

天使たちが怯むほど盛大にして、騒ぎに乗じて奇襲も可能。悪くない作戦である。
本格的に戦いになった場合、彼らは少々邪魔になるが……まぁなんとかなるだろう。

「アキヴァの連中は即売会などでイベントのコツは心得ているだろうし、他の連中も大丈夫だろうですよ。
今から連絡を入れれば、明後日ぐらいには集まるのではですよ?」

そうと決まれば、我々に出来るのは食材調達だけだ。
天使すら危険だからと手を出さない幻の食材……一体どんなものなのだろう?
まぁ、どんな危険を冒してでも手に入れてみせる。多少の危険は覚悟の上だ。

「してヒナメア、その食材とはどんなものですよ? たとえ危険でも、私たちならきっと大丈夫ですよ」

23ヒナメア ◆GAazGNP2wQ:2014/11/13(木) 13:29:23
>「料理を披露する時に余計なことをしてはいけないという取り決めはなかったよね。
今までに解放した街から住人を援軍に呼んでディナーショーにしてしまいましょう!
料理対決を受けつつ食以外の楽しみでこちらに票を集めるのよ!」
>「なるほど、悪くない作戦ですよ。この銃弾だってあまり使いたくはないですよ。
どうせなら、盛大なイベント……パーティーに仕立て上げ、大いに盛り上げようですよ」

「素晴らしいアイディアですわ!!わたくし、目から鱗が落ちました!」

アイネとシャルルの言葉に、ヒナメアは目を輝かせ、手を合わせて顔の横にやり、きゃ、何て言って喜びをあらわにする。
他の兵士達も、おお!と二人のアイディアに感激の声を上げた。

「さっそく、4っつの街に連絡してください」
「了解」

ヒナメアの指示で、洞窟の壁にならんでいるテープがくるくる回ったり、何かチカチカ光っている大きな機械に向かっている男たちが、何やらかちゃかちゃ機械をいじりだす。

「通信回線は地上へ漏れる事の内容、厳重に暗号化し、発信源を特定できないよう処理しますので、各街に回線が開くまで、しばらくお待ちください。
それから私達ではどのような催しをするのかわからないので、各街に何を用意してきていただけばいいのかわかりません。
回線が開きましたら、各街への指示もお願いします」

通信士達の働きを確認したヒナメアは、そう言って、丁寧に頭を下げた。

>「してヒナメア、その食材とはどんなものですよ? たとえ危険でも、私たちならきっと大丈夫ですよ」

アイネにそう問われ、ヒナメアは、とうとう話さなければならないか…と言う調子で、重い口を開く。

「……天使に勝てるだろう、究極の料理…それは…怪獣料理です!!」

真っ剣な表情で、何か冗談のような事を言うヒナメア。
周囲も真面目な顔でヒナメアの話を聞いており、間違いなく冗談ではなさそうだ。

「地底深くに生息する巨大な怪獣を撃破し、その体組織を使って料理を作るのです!
怪獣とはかつて人間が全盛だったころ、食糧難を回避するため巨大化、改造させた生き物でしたが、あまりにも強靭、凶暴だったため、駆除されようとしました。
しかし、怪獣は一切の人類の兵器を受けきり、地底へと姿を消したのです!
そして、その時人類の猛攻撃で削げ落ちた怪獣の肉を使って料理を作ったところ、この世の物とは思えない凄まじい甘美な味わいで、当時世界各地で起きていた紛争が食を通じて集結するほどの物だったと言われています。
やがて、怪獣を研究、捕獲すべく、巨大怪獣が地底に消えたここに美食の街が出来上がり、発展していきました。
ゼウスが世界を支配するようになってからは、怪獣捕獲の動きも強くなったのですが、信じられない事に、怪獣は天使すら殺す力を持っているのです!
やがて怪獣捕獲の動きは鎮静化し、今は戦いで得られた怪獣のデータを基に新しい生き物が作られてそれを食べるようになっていますが…。オリジナルの怪獣は、上にいたどんな生き物よりも、手を加えずにおいしいと聞きます!
もしその肉を手に入れられれば、勝利は間違いなし!!」

最初の頃は淡々とした口調だったが、段々と熱く語りだすヒナメア、最後など、ぐっと拳を握っていた。

「そして、この地下施設は、かつて怪獣が地底に消えた際に怪獣が堀った穴に通じているのです!」

ビッ!と壁の穴の一つを指さすヒナメア。
その穴自体は人が立ってギリギリはいれる大きさだが、奥に巨大な洞窟が続いているのだろう。

「怪獣は対艦ミサイルにも衛星レーザーにも耐える強靭な体を持ち、高層ビルも尾の一撃で粉砕する力を持っています。
どうか、行くのならまずはここで装備とその他の準備を…」

「お前たちの野望はそこまでだ!悪魔共!」

ヒナメアがそう言って、アイネ達と今後の事を話し合おうとした、その時だった。
どこからともなく、やたら男前な声が響き渡り、通信装置が火花を上げて停止する!

24 ◆GAazGNP2wQ:2014/11/13(木) 14:25:27
「あそこだ!!」

兵士のひとりがそう叫び、指さす方を見れば、体育館の屋根ほどの大きさのあるアジトの天井、そこからぶら下がっている電灯の上に、ざっと仁王立ちしている黒フードがいるではないか!

「地球の平和を乱す、デビルチルドレン!そして悪魔の牙!!お前達の黒い野望は、料理対決などと言う生易しい方法では成敗できない!!
この俺の手で跡形も無く叩き潰してやる!!」

フードは天井から、シャルル等をビッと指さし、高らかに宣言した。
男の声なので、最初のフードとも、リーユとも別人であることは間違いないし、さらに言うなら二人よりも身長がずっと高い。

「何をしている!撃て!!」

ヒナメアの声に、われに帰った警備兵達がシャルルとアイネを守るように二人の前に集結し、一斉にマシンガンやショットガンをフードに向け、引き金を引いた。

「とう!」

男がそう叫んで電灯からとんだ!そう思った瞬間、警備兵達の撃った銃弾の雨が、男の体をぼろきれのようにハチの巣にした。

「やった!」

誰かがそう叫ぶ。

「違う!フードだけです!」

しかし、切羽詰まったヒナメアの声がそれを否定した。
見れば、確かに、兵隊の機銃掃射を受けてぼろぼろになっているのは、中身のないフードだけで、ゆらゆらとゆっくり地面に落ち来ている。
同時、ヒナメアの手に握られた拳銃が前方めがけて火を噴く。

「俺の名は…」

しかし、前方にいたそいつに、なぜか弾丸は命中しない。
ヒナメアが外したのか?
否、握られた男の手から、ヒナメアの撃ったアンチエンジェル弾がころころと転がり落ちた。
男が空中でキャッチしたのだ!

「天道天使!!」

兵隊が周囲を包囲しているのに、腕を大げさに振って、格好いいポーズを決める男。
外見は赤と銀のメタリックなボディで、頭にカブトムシのような角を3本生やし、右手に白い包丁を持っている。
まるで、トムが見てた特撮ヒーローの様である。

「カブトマン!!」

びしっと格好つけたポーズをとり、名乗りをあげるカブトマン。
それめがけ、警備兵達が一斉にマシンガンの十字砲火を浴びせた。

「悪しき力に、俺は負けん!」

が、カブトマンの右手が、掻き消え、彼の周囲で無数の火花が散り、その足元に弾丸がぼとぼとと落ちていく。

「カブト!ダッシュ!!」

次の瞬間、カブトマンそのものの姿が掻き消えたかと思うと、白いわっかと共にシャルル等の前に展開していた兵隊たちが一斉に吹きとばされた!
カブトマンが音速で体当たりしてきたのだ。

「安心しろ、貴様等の肉体の強度を考えてぶちかましている、死んではいない!」

言いながら、シャルル等に包丁片手に猛然と迫ってくるカブトマン。

25シャルル ◆HTcbo8CpC2:2014/11/17(月) 11:24:49
アイネやヒナメアさんもアタシの案に賛成し、トントン拍子で話は進む。
そしてついに、禁断の食材が明かされる時が来た。

>「してヒナメア、その食材とはどんなものですよ? たとえ危険でも、私たちならきっと大丈夫ですよ」

>「……天使に勝てるだろう、究極の料理…それは…怪獣料理です!!」

「海獣……?」

はて、この近くに海なんてあったかな、と思いきや、特撮映画に出てくる方の怪獣らしい。
一見素っ頓狂な話だが、今まで見てきたこの街の異様な実態を考えればむしろ辻褄が合う。
食用生物の奇怪さも、怪獣が元になっていると考えれば納得だ。

>「そして、この地下施設は、かつて怪獣が地底に消えた際に怪獣が堀った穴に通じているのです!」

「おおっ」

一体どれだけ美味しいのだろうか。興味は尽きない。
怪獣とは言っても、いわゆるモンスターみたいなものだろう。
まさかガチで特撮映画みたいに高層ビルを踏み潰していくような仕様ってことは……。

>「怪獣は対艦ミサイルにも衛星レーザーにも耐える強靭な体を持ち、高層ビルも尾の一撃で粉砕する力を持っています。
どうか、行くのならまずはここで装備とその他の準備を…」

「ガチで強さも特撮映画仕様なのね……!」

どうやら兵力を動員しての綿密な作戦が必要そうだ。
作戦会議を始めようとしたその時だった。

>「お前たちの野望はそこまでだ!悪魔共!」
>「地球の平和を乱す、デビルチルドレン!そして悪魔の牙!!お前達の黒い野望は、料理対決などと言う生易しい方法では成敗できない!!
この俺の手で跡形も無く叩き潰してやる!!」

いかにも正義の味方っぽい声が響き渡った!
うん、やっぱりあれだけ大立ち回りしたら料理対決どころじゃないよね、なんとなくそんな気はしてたんだけど……。

>「俺の名は…」
>「天道天使!!」
>「カブトマン!!」

フードから一瞬にして抜ける早業、そして兵隊たちを一斉に吹き飛ばす。
どうしよう、見た目はギャグみたいだけどマジで強い!

>「安心しろ、貴様等の肉体の強度を考えてぶちかましている、死んではいない!」

これが本当だとしたら実力差は更に絶望的。
しかし問答無用で殺さないところを見ると交渉の余地がある、ということか……。

「ストーップ、話し合いましょう!」

と叫びながらとりあえず襲い掛かってくるのは止めないといけないので床に超強力水あめトラップを展開する。

26アイネ ◆ch6TRNt0B6:2014/11/18(火) 21:42:39
私たちは突如、怪獣退治をする事になってしまった! 一体何故怪獣なのか、気にしてはいけない。
ミサイルやサテライトキャノンに耐えうる強度を持った怪獣相手に、私たちの実力で敵うだろうか?
特に私は現在魔人化出来ない。武装と言えば、せいぜい携行出来る対物ライフル程度だ。
戦略兵器を無効化する相手に、この程度の武装で敵うとも思えない。さて、どうしたものか。
そんな事を考えていると、突然異変が起こった。まさかの敵襲である。

>「俺の名は…」
>「天道天使!!」
>「カブトマン!!」

新手のギャグだろうか?
しかし相手は多数の兵士たちを難なく薙ぎ払い、銃弾すらものともせず迫ってくる。
まさか弾道を見切り手で受け止めているのか? せっかくのアンチエンジェル弾が通用しないとは。
効果は薄そうだが私も銃を構え、周囲に硫酸の泡を浮かべて攻撃に備える。
私の腰のボトルに入っているのは水だけではない。戦闘に使える化学薬品も備えているのだ。
さらに、泡状にし強力な回転を加えることで、頑丈な盾としても機能するのである。

しかしながら、向かってくる相手に問答無用で戦いを挑むと言うのも愚直過ぎるだろう。
まずは敵を見極め、可能なら穏便に済ませる努力をするべきである。
それを実践しようと言うのか、シャルルが敵カブトマンに対し声を掛けていた。
……よく見ると周囲の床に水あめを配置しているあたり、抜かりのない作戦だ。
襲ってくるのなら床の水あめを私の能力で操り拘束し、敵を無力化するのが無難である。
なんとなくそれでも諦めなさそうな気配であるのが、ちょっと怖いのだが。
私も、シャルルに続きカブトマンに声を掛ける事にする。

「私たちは挑戦を受けて料理対決で決着を付けることになっているですよ。
それを問答無用で襲うとは、貴様さては卑怯者なのかですよ?」

軽く挑発を練りこんで煽ってみる。相手の思考を縛る事も戦術のひとつなのだ。
見たところ彼は愚直そうに見えるので、この作戦は効果がありそうに思えた。
まぁ相手が反応せずにトラップが無駄になっても、次手はいくらでも用意出来る。
ここには両手に余るほどの武器もある。液体ボトルも満タンなのだから。
魔人化出来れば周囲の水脈から水を召集し、この洞窟を水浸しにする事も可能なのだが……まぁ一般人を巻き込むのでやめとくべきだろう。

「仮に目的が此処の人間たちにあるのなら、私たちは全力をもって迎え撃つですよ。
さぁ、目的を吐くが良いですよ。それとも、話し合いが出来ない程頭が弱いのかですよ」

相手の表情を推し量る事は出来ない。と言うか、あんな格好で恥ずかしくはないのだろうか?
本気で正義の味方を気取っているなら、相当に頭が弱いはずである。
私たちとて悪魔だ。人間たちの正義を貫いてはいるが、絶対的な正義を名乗るような真似はしない。
悪魔は所詮悪魔、あくまで天使を撃ち滅ぼすために造られた存在なのだから。

27 ◆GAazGNP2wQ:2014/11/21(金) 01:30:09
>「ストーップ、話し合いましょう!」

「ぬお!?」

超強力な水あめに足をとられ、よろめくカブトマン。
同時、シャルルの言葉に足を止める。

>「私たちは挑戦を受けて料理対決で決着を付けることになっているですよ。
それを問答無用で襲うとは、貴様さては卑怯者なのかですよ?」

「ぬ!?何ぃ!」

次いで、アイネに文句を言われ、カブトマンは明らかに動揺している。

>「仮に目的が此処の人間たちにあるのなら、私たちは全力をもって迎え撃つですよ。
さぁ、目的を吐くが良いですよ。それとも、話し合いが出来ない程頭が弱いのかですよ」

「…」

さらに続くアイネの言葉に、カブトマンはすーっと息を吸い、力を貯めた後…。

「わ…私は神たるゼウス様の代理人、だから!何やったっていいんだ!!」

馬鹿でかい声でそう叫んだ。
同時に足に絡みつく水あめを簡単に引きはがし、包丁を構える。

「お前たちの手口は知ってるぞ、デビルチルドレン!話しあいだなんだと言って、舌先三寸でこれまでの天使達を撃破してきたのだろう!
だが私はそうはいかん!べらべらしゃべる前にお前らをぶっ殺してやる!!」

言動は動揺しまくりながらも、一部の隙も無い構えで包丁を構えたまま体をかがめていくカブトマン。
再びあのカブトダッシュで突っ込んでくるつもりである!

「お前らは何を言っても改心しないし、何を喋ってもどーせろくな事は言わん!!だから殺す!すぐ殺す!!」
「…シャルル様達はあなた方がゼウスの指示で始める料理対決を、あなたが無視するのはどうなのか?と言っているのですよ」

そこに、横からヒナメアが冷静な突っ込みを入れた。
ピタっと動きが止まるカブトマン。

「……カ…カブト!ダッシュ!!」

しかし、次の瞬間、ちょっと声に泣きが入った叫びの後、カブトマンは手近なアイネめがけて真正面から突っ込んできた!
弾丸の如き速度で泡に突入したカブトマンの体を、回転が加わった無数の硫酸が襲う。
だが、カブトマンのメタリックボディは硫酸を全く寄せ付けず、高速の体当たりは硫酸の盾を軽く吹き飛ばしてしまった。

『解説しよう、カブトマンの体を覆うメタリックボディは、ヒーローカネ合金でできている。
これは6千度以上の高温、−199度の低温、1万tまでの衝撃に耐える凄まじく頑丈な上、プラスチックよりも硬い超金属なのだ!
ヒーローカネ合金でできたカブトマンは、感覚器官である三本の角に衝撃を与えられるか、SISCON730と言う薬品を浴びせられない限り、倒れる事は無いのである!
それゆけ!ゼウスのヒーロー!』

恐るべきは馬鹿の力とゼウスの科学。

…一瞬、全員の時間が止まって、解説まで聞こえてきた。

そして解説が終わった次の瞬間、アイネの頭めがけ、銃弾よりも高速で、カブトマンの腕の包丁が襲い掛かる。

28 ◆GAazGNP2wQ:2014/11/21(金) 01:33:40
これは6千度以上の高温、−199度の低温、1万tまでの衝撃に耐える凄まじく頑丈な上、プラスチックよりも硬い超金属なのだ!×
これは6千度以上の高温、−199度の低温、1万tまでの衝撃に耐える凄まじい頑丈さを持ち、プラスチックよりも軽い超金属なのだ!

29 ◆GAazGNP2wQ:2014/11/21(金) 02:15:07
「……妙な解説が入ったと思ったら、貴様!どういうつもりだ!」

気が付くと、そいつはそこにいた。

銃弾以上の速度でアイネに振りかざされたカブトマンの包丁。
それを、アイネの目の前に突然現れた細い腕が持つ、丸い盾が防いでいた。

「カブトマン、あなたこそどういうつもり?私達の任務は、料理対決でデビルチルドレンに勝つ事だったはずよ」

そう、あの最初に現れた黒フードだ。
この黒フードは、全員がアイネとカブトマンに注目していたにもかかわらず、いつの間にかアイネとカブトマンの間に立ち、さらに振りかざされた包丁を、アイネよりも細い手につけた盾で、防いでいる。
超スピードで動いていたカブトマンも、かろうじて、目で見る事はできていた。
しかし、この黒フードは全く何の気配も、移動の痕跡も見せずに、現れたのである。

「うるさい!こいつらはここで倒す!!倒すったら倒す!たおーーす!!」

包丁を止められたカブトマンが怒り狂い、今度は人差し指を立てた左手を上に向けた。

「テンドー!ビーーーム!」

カブトマンの左手の先が眩く光ったと思うと、次の瞬間、シャルルめがけて人差し指の先から殺人光線が発射される!
一瞬の事に、誰も反応ができず、光線が直撃した!

「…やめなさい、カブトマン」

…かに、思われた。
黒フードだ。
黒フードがまたしてもいつの間にか、シャルルの前に出現し、自らのフードを盾にして、熱線からシャルルを守ったのだ。

「それともあなたは、料理対決で勝つ自信が無いの?」
「いい加減にしろ!五月蠅いぞリリー!リリー・ホムホーム!!勝てばいいんだ!いや勝たねばならんのだ!確実な方法が一番いい!!」

黒フードを外した最後の対デビルチルドレン天使。
その容姿は、淡い空色の髪をしたショートカットの少女だった。
体にはミニスカートのメイド服に似た、濃い青色の服を着ている。

「そう、なら、この方法は確実ではないわ、いえ、カブトマン、あなたは確実に失敗する」
「何ぃ?それはどういうk…!?ぎゃああああああああああああああああああああああああああ」

少女、リリー・ホムホームの全身が明らかになり、彼女がそう言った次の瞬間、再び彼女が唐突に消え、次いで、カブトマンの悲鳴が響き渡った。
見ればいつの間にか、リリーがカブトマンのすぐ目の前に移動し、カブトマンの頭の角に、手にしたナイフを突き刺している。

「あがぁ…あああああああああああああああああああああああああああ!あああああああああああ」

謎の解説…恐らくリリーが言うのは、カブトマンの角は感覚器官、我々で言う目や耳に相当する。
そんな敏感なところを直接攻撃されたのだ。
生まれたばかりで痛みに体制の無いカブトマンは、初めての激痛にその場に転がり、悶え苦しむ。

「私が妨害するからよ」

そう言って、再びリリーが消えたと思った次の瞬間、少し離れた場所に、リリーがリーユをお姫様だっこして現れる。

「よーーし!ゼウス様に従わないカブトマンは…こうだ!!」

そう言ってリリーから降りたリーユは、頭の角を傾けて前に出し、よろよろと起き上がったカブトマンめがけて突っ込んでいく!

「アブラカタブラ・・・1000万パワーミキサー!!」

バンっという凄まじい音がして、リーユの角の体当たりを受けたカブトマンの体が…1万tの衝撃に耐えるヒーローカネ製の上半身が肉塊となって爆裂した。
確かにリーユは勢いよく走っていってカブトマンにぶつかった。
しかし、それはあくまで人間の域の速度であり、先ほどのカブトダッシュのようにマッハなど超えていなかったはずなのにである。

ボトリ、と、力なく崩れ落ちる残ったカブトマンの下半身。
カブトマンの血で真っ赤に染まったリーユはそれに手を伸ばすと、カブトマンの腰に巻いたベルトから、何かを引きちぎった。

「邪魔をしたわね、それじゃ、私達は行くわ」
「…私達はあなた達の挑戦を待っている、せいぜい、おいしい料理を作る事ね」

自分たちの仲間であるカブトマンを、全く容赦なく圧倒的な力でぶち倒した二人は、怯えて遠巻きに眺めている周囲の兵士達にそう告げると、穴の一つに向かって歩き去っていく。
先ほどのカブトマンの襲撃を受けて集結していた兵士達は、一応銃を構えているものの、ヒナメアも含め、その圧倒的な力に圧されて、何もできずに、ただ去る二人を見送るしかできない。

30シャルル ◆HTcbo8CpC2:2014/11/24(月) 21:08:12
あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
「いろんな意味でヤバい強敵が現れたと
思ったら もっとヤバい強敵にいつのまにか倒されていた」
な… 何を言っているのか わからねーと思うが 
アタシも 何をされたのか わからなかった…
頭がどうにかなりそうだった… 催眠術だとか超スピードだとか
そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
もっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ…

と思わずどこかで見たようなフレーズを思い出しながら、去っていく二人を呆然と見送る。
こちらとしては一応助けてもらった形にはなるのだが……なんか色んな意味でカブトマンが可哀そうになってくる。
かといってここで後先考えずに何て酷い事をするんだー!と突っかかる程の青春熱血ヒーローでもない。
立ち去る二人を見送りながらぽつりと呟く。

「試作品天使がプログラムミスか何かで暴走したのかしら…………ん?」

足元に飛び散ったカブトマンの表面装甲の欠片が落ちている。

「解説によると凄まじい頑丈さを持ち、プラスチックよりも軽い超金属……だったわね。
カブトマンさん、あなたの犠牲は無駄にはしない……多分!」

盾か何かに使えるかもしれないので拾っておくことにした。
何にせよまずは料理対決で勝つ事を最優先に考えるべきだろう。

「えーっと、何だっけ。……そうそう、怪獣捕獲よ!

古今東西の怪獣退治のエピソードを思い出してみる。

「こんなのはどうかしら。まず怪獣の前に巨大な特濃ブランデーチョコを転がす。
飢えた怪獣は当然食いつく……はず! そして酔っぱらった隙に倒す。名付けてスサノオ作戦!」

31アイネ ◆ch6TRNt0B6:2014/11/28(金) 21:30:24
予想以上にカブトマンの頭は弱かった。というか、弱過ぎて話し合いすら通じないのは誤算だったが。
こういう手合いにこそトムのような者がちょうど良かったのだ。つくづく惜しいと思う。
と、解説風に突っ込みを入れている場合ではなかった。カブトマンは私を標的に選んだのだ。
鋭い突進をいなすために硫酸の盾を展開させるが、まるで効果がない。
おそらくは全身を包むメタリックな防具のせいだろう。厄介なことだ。
予想外のスピードに回避が追いつかず、やむなく両腕を犠牲に防御姿勢を取る。
いよいよと思われたそのとき……何故か解説が入り、次の瞬間には見覚えのある黒フードが割って入っていた。

>「……妙な解説が入ったと思ったら、貴様!どういうつもりだ!」

「助け? いや、貴様はあのときの……。一体何のつもりですよ?」

期せずして問いが重なる。とは言え、あの攻撃を防いだ事に関しては感謝していた。
礼を言うべきか迷ったが、ここは口を噤むことにする。敵を称えたくはないのだ。

>「カブトマン、あなたこそどういうつもり?私達の任務は、料理対決でデビルチルドレンに勝つ事だったはずよ」

黒フードは正々堂々と決着を付けたいらしい。その意見には私も同感ではある。
まぁ、旗色が悪くなったら狙撃でも何でもして事態の収拾にあたるつもりであるが。
とりあえず状況を見るに、カブトマンと黒フードの間には意思の齟齬があるらしい。

>「うるさい!こいつらはここで倒す!!倒すったら倒す!たおーーす!!」

>「テンドー!ビーーーム!」

とか言っている間に再び暴走するカブトマン。ゼウスよ、部下の躾くらいちゃんとして欲しい。
さて、なにやら必殺技のようなものを繰り出したカブトマンだったが、その攻撃は再び黒フードによって防がれた。
……全く動きが見えなかった。催眠術? 超スピード? 否、その正体は不明である。
リリーと呼ばれた黒フードが、フードを脱いで姿を現す。
どこか親近感を覚える空色の髪に、ふんわりとした青いメイド服……だろうか。
お菓子の国が似合いそうな、愛らしい少女だ。天使にも色々いるのだろう、カブトマンとか。

そんな彼女だったが、続いて行った彼女の行動は容赦ない所業だった。
どこからか取り出したナイフを、容赦なくカブトマンの角に叩き込む。
悶え苦しむカブトマン。おそらくはその頑丈な鎧に包まれているからこそ、こうした痛みに弱いのだろう。
その様子を眺めていたリリーが突然消える。次の瞬間には再び現れ……何故かリーユを抱っこしていた。
あの自称お菓子の天使である。そういえば彼女には悪い事をしたのだっけ……。

32アイネ ◆ch6TRNt0B6:2014/11/28(金) 21:31:11


>「よーーし!ゼウス様に従わないカブトマンは…こうだ!!」

>「アブラカタブラ・・・1000万パワーミキサー!!」

カブトマンにごく普通に突進していくリーユ……それに当たったカブトマンの上半身は、なんと爆発四散した。
ぶちまけられる血肉。残され倒れるカブトマンの下半身。凄惨極まりない光景だった。
カブトマンは仮にも彼女たちの仲間のはずである。一体何故容赦なく殺したのだろう?
残忍な天使には他者を慮る心が存在しないとでも言うのだろうか? 恐ろしい話だ。

>「邪魔をしたわね、それじゃ、私達は行くわ」
>「…私達はあなた達の挑戦を待っている、せいぜい、おいしい料理を作る事ね」

そう捨て台詞を残し、彼女たちは去っていった。
その背中に声はかけない。否、呆れてかける言葉を忘れていた。
なんとなく遣り切れない気持ちのまま振り返ると、シャルルがカブトマンの装甲の破片を拾っていた。
血肉の池が出来ているその中から普通に拾い上げるなんて、度胸が据わっているというかなんというか。
私は歩み寄ると、その破片から血飛沫をつまみ上げ、綺麗にして渡す。
せめてもの気休めだ。血飛沫が付いたままだとあまり良い気持ちもしないだろう。

とりあえず騒ぎは落ち着き、悪魔の牙のメンバーたちは基地の復興に取り掛かっている。
幸い受けた被害は大きいものではない、すぐに片付きそうであった。
ここは頭を切り替えて、改めて今後の課題について思案するべきだろう。

>「えーっと、何だっけ。……そうそう、怪獣捕獲よ!」

ああ、そうであった。料理対決で勝つための秘策である。どう攻めるべきだろうか?
ここには人も大勢いるし人海戦術? 否、私たちの戦いに人間を巻き込みたくはない。

>「こんなのはどうかしら。まず怪獣の前に巨大な特濃ブランデーチョコを転がす。
 飢えた怪獣は当然食いつく……はず! そして酔っぱらった隙に倒す。名付けてスサノオ作戦!」

「悪くはない作戦ですよ。酒呑童子を倒すためにも使われた古典的ながら確実な戦法ですよ。
問題は、頑丈な怪獣にどうやってとどめを刺すか、ですよ」

何でも切り裂くシャルルの鎌でも、怪獣の肉体に効くとは限らない。もっと強力な何かを……。

「そうだ、アルコールを大量摂取したところに火を掛けるのはどうだろうですよ?
うまく行けば、盛大に燃えると思うですよ。」

33 ◆GAazGNP2wQ:2014/12/05(金) 00:27:38
カブトマンが去って、茫然としていた兵士達は、シャルルの声で各々我に返った。

>「こんなのはどうかしら。まず怪獣の前に巨大な特濃ブランデーチョコを転がす。
 飢えた怪獣は当然食いつく……はず! そして酔っぱらった隙に倒す。名付けてスサノオ作戦!」
>「そうだ、アルコールを大量摂取したところに火を掛けるのはどうだろうですよ?
うまく行けば、盛大に燃えると思うですよ。」

場を励まそうと、空元気ながら、アイディアを出す二人。
だが、圧倒的すぎるリリー・ホムホームと、リーユ・ズミギーガの力を見せられた兵士達の表情は曇っている。
大いに期待していたデビルチルドレンが、敵の天使の前になすすべがなかったのだ、彼らの落胆は、計り知れない…。
誰一人として、シャルル等の言葉に反応し、怪獣捕獲の準備を始めようとする者はいなかった。
皆うつむいて、黙ってしまっている。

「…皆さん、私達は今まで、一度でも天使に勝った事がありましたか?」

そんな中、ヒナメアが口を開いた。
彼女だけは凛とした表情を崩さず、目に光が宿っている。

「確かに、敵の天使はこれまでとは比べ物にならないほど強敵です!ですけれども、それで私達が何をなそうとするかが変わるほど、私達の決意は、誓いは、弱い物だったのですか?」

力強いヒナメアの言葉に応え、兵士達が一人、また一人と顔を上げ始めた。
彼らは、ある者は通信装置を修理し始め、ある者は装甲車へと駆けていく。
…慌ただしく動き回る彼らの中から、「まだ、俺達にはトム・ジリノフスキ―がいる」だとか「トムさんが来てくれる!きっと!必ず!」だとか、トム信者のつぶやきが漏れ聞こえた。

「シャルルさん!アイネさん!怪獣捕獲作戦!我々も協力します!怪獣捕獲の具体的な作戦はシャルルさんの作戦で行くとして、まずは怪獣のいる場所と、そこの状態を聞いてください!」

そう言って、一人の兵士がシャルルとアイネに近づいてきた。
おかっぱ頭で、身長がアイネより一回り小さい黒髪のかわいらしい女性だ。
童顔で、声も高いので、アイネより若い印象を受ける。

「これ、地下に続くトンネルの地図です。あんまり、深く潜ると怪獣が探知して攻撃してくるので、途中までですが…。
それから、怪獣の形状や能力ははっきりわかっていません、資料はU−ザンが全部回収してしまっているので、どんな姿をしているのかもよくわかってないんです。
…我々が怪獣を探査した時、ある程度の深さ…ここ、ここまで行くと、穴の奥、暗闇の向こうから、日本の金色の細い触手の群れが二束、襲ってきて…。
とりあえず、怪獣は侵入者を感知する能力を持っているのは確かです!」

そう言って、地図の一点、白紙になっている部分と、道が書かれている部分の間を指さす女性兵士。
そこは、そこまで深度の深い場所では無い。

「とりあえずそこまで行って見ましょう!さあ!GOです!」

シャルル等を先導して、女性兵士は穴に向かう。

34シャルル ◆HTcbo8CpC2:2014/12/10(水) 22:33:05
>「そうだ、アルコールを大量摂取したところに火を掛けるのはどうだろうですよ?
うまく行けば、盛大に燃えると思うですよ。」

「おおっ、ナイスアイディア! ……あれ」

周囲がすっかり沈んだ感じになっている。
アタシ達に対する期待値が高すぎたのだろう、なんだか申し訳ない気分になってしまう。
しかし、落ちかけた兵士達の士気をヒナメアさんが気丈に鼓舞する。
トム君信者の勘違いもそのおかげで彼らが前向きになれるなら悪くない。
そして一人の女性兵士が怪獣捕獲に協力を申し出る。

>「これ、地下に続くトンネルの地図です。あんまり、深く潜ると怪獣が探知して攻撃してくるので、途中までですが…。
それから、怪獣の形状や能力ははっきりわかっていません、資料はU−ザンが全部回収してしまっているので、どんな姿をしているのかもよくわかってないんです。
…我々が怪獣を探査した時、ある程度の深さ…ここ、ここまで行くと、穴の奥、暗闇の向こうから、日本の金色の細い触手の群れが二束、襲ってきて…。
とりあえず、怪獣は侵入者を感知する能力を持っているのは確かです!」

「なるほど、怪獣は触手付きなのね……」

怪獣といってもシンプルなゴ○ラのようなデザインではなく
クトゥ○フ神話の邪神ような宇宙的恐怖なデザインの可能性も十分にあるようだ。

>「とりあえずそこまで行って見ましょう!さあ!GOです!」

物怖じせずに穴に先導して入っていく女性兵士。
その勢いに引っ張られるように付いていくアタシ達。
とりあえず付いて行ってはみるもののこのままいったら普通に触手に襲われる流れだよね……
地図が白紙になっている直前のあたりまでいったところで前を行く女性兵士に声をかける。

「待って。餌を撒いて様子を見てみましょう。侵入者を察知する……ってことは体温かしら」

人肌ぐらいのパンケーキを前方にいくつか投げてみる。

35アイネ ◆ch6TRNt0B6:2014/12/16(火) 20:32:39
私たちの言葉にもろくに反応せず意気消沈していた悪魔の牙の構成員達だったが、ヒナメアの言葉により希望が蘇る。
彼女は優秀な指揮官なのだろう。私たちにはあんな真似、きっと無理なのだから。
デビルチルドレンとして組織された私たちには、基本的に指揮官は存在しない。
少数の個人が遊撃的に働き、各個撃破するが基本的なスタンスなのだろう。
私としてもガチガチの指揮系統に組み込まれるのはあまり好まないので、現状はとても気楽だったりする。
そういえば先程の無線で、もしかしたら私たちに新たな仲間が合流すると連絡があったが……本当に来るのだろうか?
まぁ戦力の増加は望ましい限りだ。私たち二人だけで怪獣に挑むのは少々心許なかったのだから。

さて、その怪獣捕獲作戦だが、一人の兵士の協力の下いざ洞窟に乗り込む事となった。
怪獣を必要以上に刺激しないよう、私たちは徒歩で慎重に洞窟を下ってゆく。

>「これ、地下に続くトンネルの地図です。あんまり、深く潜ると怪獣が探知して攻撃してくるので、途中までですが…。
それから、怪獣の形状や能力ははっきりわかっていません、資料はU−ザンが全部回収してしまっているので、どんな姿をしているのかもよくわかってないんです。
…我々が怪獣を探査した時、ある程度の深さ…ここ、ここまで行くと、穴の奥、暗闇の向こうから、日本の金色の細い触手の群れが二束、襲ってきて…。
とりあえず、怪獣は侵入者を感知する能力を持っているのは確かです!」

触手……正直相手にしたくないと思う。相手は軟体動物か昆虫系の怪獣なのだろうか?
金色の触手と聞いて真っ先に思い出すのはナ○シカである。王蟲とか出てきたらちょっと困るのだが。
仮に軟体系の怪獣だったら私の能力で勝機があるのだが……いや、それでも勝率は低いだろう。
天使ですら相手にする事を恐れる謎の怪獣……まぁ相手が何であれ、私たちは死力を尽くすのみだ。

洞窟を下るうちに、周辺の地面が徐々に水分を含んできている事に気づく。
おそらく地下水脈に当たったのだろう。これだけ水気が多いと、魔人化せずとも水分を集められそうだ。
洞窟で使うのは少々勇気が必要だが、いざとなれば水分を分解し水素を発生させる事も出来る。
大した威力にはならないけれど、ちょっとした爆弾並みの水素を発生させることは可能だ。
まぁこれは奥の手なので、使う機会はないと信じたい。それに水の電気分解は消耗するのだ。

洞窟はぐんぐん下っていく。おそらくは間もなく棲息区画なのだろう。
とりあえずは見つからないように怪獣の姿を確認し、必要に応じて攻撃……と言ったところか。
私は全身の毛を逆立てるかのようなイメージで気配を探る。
探っているのは水分の動きである。どんな怪獣でも温度が、血流が、吐息に混じる水分の動きがあるのだから。

「おっと……この先50メートルに大きな気配があるですよ」

そう静止の声を上げる。おそらくこれ以上近づくのは危険だろう。
気配から察するにかなり大きな生物のようだ。怪獣と呼ばれるのも納得する。
洞窟の先は暗く、ここからでは先を伺うことは出来ない。それに明かりを探知される恐れもある。
私は闇の中でも多少行動可能だが、シャルルや連れてきた兵士はそうも行かない。

>「待って。餌を撒いて様子を見てみましょう。侵入者を察知する……ってことは体温かしら」

そう言って、シャルルは温かいパンケーキを生成し投擲する。
フリスビーのように鮮やかに飛んだそれは、明かりの届くぎりぎりに着地した。
温度か、あるいは食べ物の匂いに反応するならば、怪獣は動きを見せるはずである。

「動いた……何かが近づいているですよ。隠れて」

そう言って、私たちは傍らの岩の陰に身を隠す。空気中の水分の揺らぎが近づく気配を教えてくれていた。
正面からやりたくない相手と戦う際は、徹底して身を隠すことが求められる。
温度で気配を察知されないよう、水で大きな泡を作り全員を包み込んだ。

36ロヴン ◆Oel2lApkiM:2014/12/19(金) 01:58:39
「悪い夢だな」

思わず俺は呟いた。何故此処に居るのか、何が自らの身に起こったのか、研究所での出来事を脳内でリフレインする。

今まで現実と思っていたことが夢で、気が付いたこの世界が現実だと。分かりやすく噛み砕くとそう言う事。
さらに魔王退治、あぁ魔王じゃないっけ、ともかくそれを何とかして人類を解放してくれみたいな変な任務まで言い渡された。
まったくこっちの世界の方がよっぽど夢じゃないか。

「つーか何で俺なん?」

適正者は山ほど居た筈だ、無気力不良教師なんて呼び出したって何の得もない。誰得だよ。
ていうか、俺よりも生徒達が優先されるべきだと思う。割とマジで。
セルフクーリングオフとかそういうシステム無いんですかねぇ。無いんでしょうねぇ。

「はあ、で此処どこ?」

今知りたいのは大まかな場所でなく、明確な現在位置だ。研究所内の情報で大まかな事は把握している。
料理勝負に使う食材を捕獲しに来ている最中。だからその道中の洞窟の中というのは分かる。
で、俺は既に目覚めている連中の下にダイレクトで転送される、って設定の筈だけど……少し座標でもズレたかな?

それにしても料理勝負、料理勝負ねぇ……なんにしても、ダルい。まあ先に目覚めたお仲間に任せればいいか。
数都市か既に開放してるみたいだし、あまり新戦力は期待もされないだろう。リンネの時みたいに変に責任を負わされる事も無いだろう。
思えば教師なんて責任ばかりの最悪の職業だった、そもそもなんで教職についたんだっけ?

そんなことを考えながら足場の悪い洞窟を下り続けると30m程前方に仲間らしき影が見えた。

「……?」

声をかけようと思ったのも束の間、何か様子がおかしい事に気付く。
遠目じゃ良くわからないがパンケーキ(らしきもの)の不法投棄に、岩に隠れたと思えば透明な水(らしきもの)の膜を張っていたり?

「……?…………あぁなるほど」

小さい声で呟く。いるのだ、この先に、食材が。理解したと同時に背中から2本の触手がにゅるりと生える。
俺は魔人化すると背中から触手が生える、が、これは完全に魔人化したわけではない。
言うなら半魔人化と言えばいいのだろうか、本来の魔人化であれば触手は4本生えるし、身体能力も上がるし、魔人化特有の力も使える。
だが今の状態では触手は2本、身体能力は毛の生えた程度上がるだけ、魔人化特有の能力は使えない。
だが、トライブ化のリスクは格段に下がる。
それに、そもそも日常生活中でも触手で楽したい、という不純な考えから生まれた物だ。戦闘能力下がろうとさして問題ない。

さて、じゃあとりあえず様子でも見よう。一件落着したら挨拶しよう、駄目そうなら……。

触手を後方の岩に巻き付け固定する。この状態で触手を引っ張れば瞬時にこの場から退避出来る。

……俺だけでも逃げよう。

37 ◆GAazGNP2wQ:2014/12/21(日) 22:30:05
投げられたパンケーキは、とさり、と音をさせて地面に落下した。
あたりはしんと静まり返り、静寂だけが場を包む。

「…まだ先なのかm」

その様子に、女性兵士がぼそりと何事か呟きかけた、その時だった。

洞窟の奥、暗がりがきらり、と一瞬光ったかと思うと、突然、巨大な何かが凄まじい速度で飛んできて、パンケーキを粉砕した。
凄まじく重い威力のその一撃は、洞窟の土を吹き飛ばし、周囲に土嚢をまき散らす。

「あ…あれです!」

その土嚢の中を、女性兵士が指さした。
彼女の指の先では、3mほどの太さで束になっている、極細の金色の糸の群れが2束、ずずず…っと動いて、パンケーキをすりつぶしているところだった。
女性兵士の言っていた、謎の触手である。
驚くべきことに、二束の糸の群れを構成する一本一本の糸は、ぬめっても、汚れてもおらず、むしろキラキラと美しく、艶やかにに輝いていた。
その様子は、触手と言うよりも、むしろ…。

パンケーキをすりつぶした触手は、ゆっくりと、人の歩く程度の速さで、闇の中へと戻っていく。

38シャルル ◆HTcbo8CpC2:2014/12/27(土) 02:14:51
気が付くとパンケーキは粉砕されてすり潰されて食われていた。
パンケーキだからいいようなものの怪獣にとってはパンケーキも人間も悪魔も同じかもしれない。
もしもあのまま進んでいたらと考えるとぞっとする。
それにしてもあの触手……まさか青い衣を纏って歌いながら黄金の野を駆けないといけないなんてことは……
しかしこれは無益な殺生ではなく食すという立派な大自然の掟に従った目的がある。
きっと彼らも許してくれるだろう。(なんのこっちゃ)

「さて、どこかに蟲笛でも落ちてるといいんだけど」

今の情報を踏まえて作戦の最終調整をしようといったん少し後ろに下がる。
と――

「こっちにも触手ですと……!?」

背中から触手を生やした男性を発見した。どうやら今回は触手回のようだ。
そういえば新たな仲間が合流すると聞いていたが、背中から生えるのが翼でなく触手とはデビチル界も随分多様化してきた模様である。

39アイネ ◆ch6TRNt0B6:2014/12/29(月) 22:30:13
「まるで、髪みたいな触手ですよ。しかし、侮れない強さであることは確実ですよ」

目の前で粉砕されたパンケーキと岩を見て、そう呟く。
あまり大きな声は出せない。膜で包んで気配を殺していると言っても、触手と言うものは本来感覚器官なのだから。
しかし眺めているうちに、触手は闇の中へ帰っていく。気配は気取られなかったようだ。
十分な時間が経過した後、私は大きくため息を吐いて水の膜を解除した。

「とりあえず、怪獣がいることは分かったのだから、ここは一旦退こうですよ」

そう言ってもと来た道へ振り返る……と、そこには。

>「こっちにも触手ですと……!?」

背中から触手を生やした男が立っていた。
どちらかと言うと彼の触手のほうが怪獣の触手のイメージ像に近い。
この男は何者だろう……そのとき、先程受けた通信を思い出した。
近く、新しいデビチルの仲間が合流する、と。
確かに気配はデビチルのものに違いはなかった。人間や天使とも思えない。
この男が、そうなのであろう。新しい仲間だ。
私は警戒を解くと、その男に向けて声を掛けた。

「私はアイネ、こっちのはシャルル。共にデビチルの仲間ですよ。お前、名前は?」

よく見ると、彼は学生ではなさそうに見える。
シャルルと同じく教師のデビチルなのだろうか? 珍しいものである。
リンネの世界に住むデビチルの大半は学生で占められている。教師など微々たるものだ。
しかしながら、学園を卒業後本校の教師となる者は多い。学園都市は、生徒と教師のための街なのだ。
そのため教職の門は狭く、非常に優秀な人材が揃うことになる。
シャルルがそうであるように彼も教師なら、相応の能力を身に付けていることだろう。

ところで、相手が教師であるなら相応の態度を取るべきなのだろうか?
まぁ私は相手が教師だろうと、同じ口調でフランクに接していたのだが。
シャルルにも同様の態度を取ってきたのだし、今更変える必要はないだろう。
問題はこの触手男とうまくやれるかである。相性の問題のほうが重要なのだ。
見るからにこの男にはやる気と言うものが感じられなかった。触手も後方に伸ばしているし、逃げる気だったのか。
まぁ状況判断が正確なのはよろしい事だ。大抵のデビチルは、転送後どうしたら良いのか分からないのだから。

40ロヴン ◆Oel2lApkiM:2015/01/06(火) 00:00:32
不法投棄されたパンケーキは見るも無残に潰され食材のご飯になりました。
てか人じゃなくてよかった。ケチャップ多目のミートソースなんて見たくない

さて思いのほか面倒くさそうだ。いっそもう地上で待機していようか。
なんて考えてたら桃色の髪の女性が声を上げる。

>「こっちにも触手ですと……!?」

ああ見つかった。どうしようか?面倒ごとが終わってから挨拶と思ったが。
ていうか後ろの触手どうしよう。怪しまれる前に、逃げようとしてごめんなさい、と謝るか?
……まあいいや。わざわざ藪を自ら突っつく事もない。突っ込まれたら答えよう。

>「私はアイネ、こっちのはシャルル。共にデビチルの仲間ですよ。お前、名前は?」

アイネと名乗る水色の髪の少女がこちらに尋ねる。というか初対面の人間にお前って。
まあいいや、人に敬われるような人間でもない。それに下手に敬語使われるよかいいか。

「昨日産まれたデビチル、ロヴン・ヴァレンタイン只今を持って、貴女達の隊に加わる」

俺はそう言うとリンネの世界での敬礼の姿勢を取る。もちろん、ふざけ半分だ。3秒も持たなかった。
そもそも張り詰めた真面目な空気は好きではない。基本ゆるくだるくのんびりと、が俺のモットーだ。

「……あぁ、ダルい。挨拶はこんなもんでいいか?まったく何で俺なんかが呼び出されたんだか。もっと良いのがいただろうに。
 なぁ、そう思うだろ?えーと、ロッテ先生にリヴァイアス。優秀で未来のある生徒が消え、俺なんかが残った、ああ理不尽ああ残酷」

あえてシャルルとアイネの事をファミリーネームで呼ぶ。教職に就いていた時の癖だ。
そもそも2人に問いかけているようでまるで答えなど期待していない。
俺のこれは単なる独白であり面倒臭い事に巻き込みやがって、という愚痴に近い物だ。

「……あぁ、悪いね。相手の答えを待たずに勝手に話し勝手に完結するのは俺の悪い癖だ。
 2人のことは此処に来る前にヘルで資料に目を通させてもらった。いやとても優秀だ。
 何も能力のことだけじゃない行動力・機転・人柄・知識・運動能力、それら全てがとても優秀。それに比べ……」

そう言いながら地面に落ちている石を拾い上げ、掌に収め、そして放す。
掌から開放された石は重力に従い再び地面に落ちる、筈だった。
地面に落ちる筈であった石は、未だに俺の掌にピッタリと引っ付いている。まるで出来の悪い手品のように。

「対する俺の能力はこれだ。自分の掌に触れたモノを掌に完全に引っ付ける能力。それと……」

一端能力を解除し、石を天井に投げる。天井に当たった石はそのまま地面に落ちては、こない。
天井に張り付いたままピクリとも動かない。

「触れたモノに対して吸着、いや、接着?力を与える能力。まあ、瞬間接着剤みたいなものとでも思ってくれればいい」

接着力は接着剤の比ではないけどな。
能力を解除すると天井に引っ付いていた石が重力に従い地面に落ちる。

「君らに比べるとショボくて地味な能力だ。教職に就いていたが特に誇れる優秀さも無いし、そして見て判るとおり、やる気も無い。
 大して役に立たないだろうし役に立つ気もない。期待はしないでくれ。いいかこれは謙遜じゃない。
いいか?恨むんなら俺じゃなくこんな役立たずを孵化させたヘルの孵卵器を恨んでくれ」

そこまで言い終えると、俺は一息吐く。よし自己紹介終わり。

「で、これから何をするんだ?」

41 ◆GAazGNP2wQ:2015/01/06(火) 15:34:11
「蟲……笛?」

シャルルの発した聞きなれない単語に、女性兵士が首を傾げる。
ここは娯楽が食しかない街、コリットー・スナーロ。
如何に国民的なアニメといえども、あらゆるアニメジョークは通じないのである。

(蟲笛というアイテムがあれば、怪獣を大人しくさせられるのかしら?ヒナメアさんに相談してみよう…)

故に、彼女はマジで蟲笛なるアイテムを心の中でアテにしはじめた。

――――――

>「で、これから何をするんだ?」

「え…ええっとですね、シャルルさん達は今、天使と料理対決して勝つための食材、怪獣の肉を手に入れるため、さっき現れた怪獣の本体を目指しています」

相手が味方だとわかったため、腰にアンチエンジェル弾の入った拳銃を戻しながら、女性兵士が語る。
その後、ふと、自分が何者か語っていなかったのを思いだし、私は抵抗組織悪魔の牙の構成員ですと名乗った

「とりあえず、一度本部に戻りましょう、ヒナメアさんなら、何かいいアイディアを思い付くかもしれません」

―――――――――――

「おい、シャルルさん達と一緒にいる奴、誰だ?」
「あれが…トム・ジリノフスキー?」
「いや、あんな年取ってないだろ」
「馬鹿、老けて見えるだけだよ」

女性兵の提案で悪魔の牙アジトに戻ってきた一同。
その中で、行にいなかったロヴンは周囲の視線を集めていた。
アジトの復興をしている兵士達が、口々にロヴンについてこそこそと話している。
その間を通って、机に座って被害状況と、作戦指示書の作成を行っていたヒナメアの元に、一同は到着した。

「ご苦労様です、デビルチルドレンの皆さま、…そちらの方が、新しくリンネから来た?」

書類から顔を上げて立ち上がると、ヒナメアはロヴンを指して、アイネに尋ねた。

――――――

「やはり、皆さんの能力でも突破できる物でもなかったですか…」

カブトマンに全く歯が立たなかったシャルル達から、力押しでは無理だと彼女も予想していたのだろう。
彼女はしばらく何事か考えていたが、やがて、顔を上げる。

「シャルル様の作戦、お酒で怪獣を酔わせる方法をとったらいかがでしょうか?
高濃度でおいしいお酒の入ったチョコを触手に吸わせれば、怪獣が触手についたチョコを食べて、やがて酔っ払うかもしれません」
「その作戦!ちょっと待ってもらおうか」

ヒナメアの出した案に、凄まじい速さで待ったが入る。
まだ案に対して、まだ誰も何も言ってないのに、だ。

「何ですかヤマオカ、今会議中ですよ」
「ヒナメアさん、怪獣は美食家だ、俺は知っている、そんな怪獣が、生半可なチョコを食べるとは思えない」

そう言ってヒナメアたちに近づいてくるのは、黒いスーツを着たタバコ臭い男である。

「まず、俺に、あんたのチョコを喰わせてくれ」

そう言って、ヤマオカは偉そうにシャルルに手を出した。

42 ◆GAazGNP2wQ:2015/01/06(火) 15:49:28
コリットー・スナーロ総督府

コリットー・スナーロを管理する天使、U・ザンは数名の武装ロボットを引き連れ、悪魔の牙討伐へと乗りだそうとしていた。

「ふふふ、小賢しい反乱分子どもめ、即座にこのU・ザンが片付けてくれる」

大きな声で独り言を言いながら、悪魔の牙アジトへつながる地下道へ向かうU・ザン

「待ちなさい」

その背に、声がかかった。
U・ザンが振り向けば、そこには、冷淡な瞳でU・ザンを見つめる、リリー・ホムホームが立っている。
しかし、U・ザンは動じない。

「どういうつもり?デビルチルドレンには手を出さないように言ったはずだけれども」
「これはこれは…私は別にデビルチルドレンと戦うつもりはございませんよ。行政官として、街を的確に運用すべく、人間の不穏分子を捕え、肥料人間にしに行くのです」

涼しい顔で、リリーに応じるU・ザンに、リリーの顔に憤怒が浮かぶ。

「抵抗勢力ごと叩き潰す事で、全ての抵抗勢力を精神的に追いつめる事ができる、これがゼウス様の意思よ、あなたはそれに対して逆らった事を…」
「生まれて1年も満たない小娘が、このU・ザンを前にゼウス様の意思を語るな!!」
「ひっ」

食い下がるリリーに、U・ザンがどなると、リリーは思わず、一歩下がってしまう。
自分が有利と見たU・ザンは、口を開き、一気にリリーを畳みかけに走る。

「貴様等は既に失態を犯した、もう、貴様等はゼウス様の意思でもなんでもない。
そして、コリットー・スナーロの統治者はこのわし、故に、わしは貴様等が手に入れた悪魔の牙の位置を叩き潰す義務がある」
「そんな…」

生まれて間もないリリーには、U・ザンを論破する事はできなかった。
U・ザンはリリーを言いくるめると、ロボットたちに振り返り、進軍を促す。

その背中に向かって、リリーは何もいう事ができなかった。

43シャルル ◆HTcbo8CpC2:2015/01/13(火) 21:04:47
ロヴンと名乗った男性が、見るからにやる気の無さそうな自己紹介を繰り広げる。
やる気暴走系のトム君とは対照的な脱力系。

>「君らに比べるとショボくて地味な能力だ。教職に就いていたが特に誇れる優秀さも無いし、そして見て判るとおり、やる気も無い。
 大して役に立たないだろうし役に立つ気もない。期待はしないでくれ。いいかこれは謙遜じゃない。
いいか?恨むんなら俺じゃなくこんな役立たずを孵化させたヘルの孵卵器を恨んでくれ」

「デビチルの選別基準をリリスさんから聞かなかったようね。
デビチルに重要なのは必ずしも能力値の高さではなく意外性や予測不能性。
あなたのような人こそ向いてるみたいよ。慰めじゃなくて割とマジで。
その証拠に仲間のトム君なんてやる気が明後日の方向に突っ走る暴走トラブルメーカーよ。
今ちょっとここにはいないけどね」

そんなこんなで一度本部に戻ることになった。
ロヴンさんをトム君と勘違いしている人がいるようだが、全くタイプが違う。

>「ご苦労様です、デビルチルドレンの皆さま、…そちらの方が、新しくリンネから来た?」

「ええ、ロヴンさんよ。能力は一言で言うとくっついちゃったー!ってやつね」

>「シャルル様の作戦、お酒で怪獣を酔わせる方法をとったらいかがでしょうか?
高濃度でおいしいお酒の入ったチョコを触手に吸わせれば、怪獣が触手についたチョコを食べて、やがて酔っ払うかもしれません」
>「その作戦!ちょっと待ってもらおうか」
>「何ですかヤマオカ、今会議中ですよ」
>「ヒナメアさん、怪獣は美食家だ、俺は知っている、そんな怪獣が、生半可なチョコを食べるとは思えない」

どことなく尊大な態度の男がしゃしゃり出てきた!

「ええっ!? 怪獣まで美食家なんて聞いてないわよ!?」

>「まず、俺に、あんたのチョコを喰わせてくれ」

とりあえずチョコを生成してヤマオカと呼ばれた男性に渡すが、この雰囲気だとOKが出るとは思えない。
どうやら作戦を考え直す必要がありそうだ……。

44アイネ ◆ch6TRNt0B6:2015/01/14(水) 21:49:55
ロヴンと名乗る男……新しいデビチルだ……と、とりあえず挨拶を交わす。
見るからに脱力系、やる気のなさそうな態度が目立つが、その個性ゆえに選ばれたのだろう。
戦闘は出来てもコミュニケーション能力に問題のある私だって呼ばれたのだから。
とりあえず下見は済んだ。怪獣がいまだいると言う事を確認したのだから基地へ戻ろう。

戻ってみると、早速ロヴンが好奇の視線に晒されていた。残念、彼はトムではない。
すっかり英雄視されているトムに、若干の嫉妬を覚える。別に評価はどうでもいいが。
それよりものどが渇いた。近場の兵士に声を掛け、水を持ってきてもらう。
なんでもこの地方の天然水は、至高の料理に相応しい美味しい水なのである。
さすが美食の都、水まで美味しいとは気が利いているではないか。
満足げな顔でもらった水を飲み干すと、私は大きな声で「おかわり!」と呼ばわった。

さて、私たちは怪獣退治の作戦を練っているのだった。水に気をとられている場合ではない。
やはり妥当なのは、酒入りチョコレートで酔わせてから仕留める方法だろうか?
そう結論が出そうな雰囲気になったとき、一人の男がこちらに問いかけてきた。

>「その作戦!ちょっと待ってもらおうか」
>「何ですかヤマオカ、今会議中ですよ」
>「ヒナメアさん、怪獣は美食家だ、俺は知っている、そんな怪獣が、生半可なチョコを食べるとは思えない」

なんということだろう。面倒な事になったものだ。

>「ええっ!? 怪獣まで美食家なんて聞いてないわよ!?」
>「まず、俺に、あんたのチョコを喰わせてくれ」

誤解のないように伝えておくと、シャルルの生成する菓子は普通に美味しい。
一般的に売られているものと遜色のないお菓子なのだ。
だが、ひどく舌の肥えた者からしたらどうであろう? 普通に美味しい、では満足させられないのである。
おそらくシャルルの能力は「お菓子を作る手順を省略して生成する」のだと思われる。
つまり、彼女の製菓スキルがお菓子の味に出ていると考えるべきだ。
そこまで考えて、私は閃いた。

「シャルルの菓子の味に問題があるのなら、彼女に教育を施してはどうだですよ?」

付け焼刃でも良い、彼女がここで製菓の腕を磨けたのなら、生成する菓子も美味しくなるはずだ。

「そうだな、この出来では届くまい。シャルル様に俺の秘伝のレシピを伝授しよう」

そして、シャルルの料理教室が始まった。
菓子を作るという手間は、彼女の能力で省略出来る。一度実演すれば何とかなる、のか?

45ロヴン ◆Oel2lApkiM:2015/02/10(火) 01:43:54
>「デビチルの選別基準をリリスさんから聞かなかったようね。
  デビチルに重要なのは必ずしも能力値の高さではなく意外性や予測不能性。
  あなたのような人こそ向いてるみたいよ。慰めじゃなくて割とマジで。
  その証拠に仲間のトム君なんてやる気が明後日の方向に突っ走る暴走トラブルメーカーよ。
  今ちょっとここにはいないけどね」

 今いないトム君がどうだか知らないが俺が言いたいのはそう言う事ではないのだが……まあいっか。
 現状に悲観してる訳じゃなく、ただ面倒だから期待するな、と言う意味合いなんだけど……。訂正するのも面倒だな。

 そんなこんなで本部とやらに案内された。

>「おい、シャルルさん達と一緒にいる奴、誰だ?」
>「あれが…トム・ジリノフスキー?」
>「いや、あんな年取ってないだろ」
>「馬鹿、老けて見えるだけだよ」

 オイ誰だ人を老け顔って言って奴、失礼だな後で絞める、触手でキュッと絞める、絶対絞める。
 本部の連中の無神経な言葉に僅かに傷付きながら憮然とした表情で適当な壁に寄り掛かる。

>「ご苦労様です、デビルチルドレンの皆さま、…そちらの方が、新しくリンネから来た?」
>「ええ、ロヴンさんよ。能力は一言で言うとくっついちゃったー!ってやつね」

「……ども恐縮ですぅロヴンですぅやる気無いけどよろしくですぅくっついちゃいますぅ」

 軽く片手を上げヒラヒラ揺らしながら、やや早口で自己紹介をする。我ながら愛想がないがダルイのだからしょうがない。
 
>「その作戦!ちょっと待ってもらおうか」
>「何ですかヤマオカ、今会議中ですよ」
>「ヒナメアさん、怪獣は美食家だ、俺は知っている、そんな怪獣が、生半可なチョコを食べるとは思えない」
>「ええっ!? 怪獣まで美食家なんて聞いてないわよ!?」
>「まず、俺に、あんたのチョコを喰わせてくれ」
>「シャルルの菓子の味に問題があるのなら、彼女に教育を施してはどうだですよ?」
>「そうだな、この出来では届くまい。シャルル様に俺の秘伝のレシピを伝授しよう」

 あぁ、これは面倒くさいことになる流れだ。間違いない滅多に働かない第6感がそう告げている。
 というかこのヤマオカという男、些細なことで「この料理は出来損ないだ食べられないよ」とかいって場の雰囲気ぶち壊すタイプだよ。
 一番一緒に食事取りたくないタイプだわ。

 はぁ、と聞かれないように溜め息を付くと先ほどアイネが好評していた水を貰う。
 口の中を湿らせる程度に含み、舌で味わいながら嚥下する。

「お、美味い」

 思わず声が漏れた。いや水使いのアイネが美味しいと言った以上美味しいとは思ったがこれは想像以上だ。
 酒も美味しいんだろうなぁ。水が美味い所は酒も美味いに決まってる。
 
 むこうではチョコレート作りに精を出しているが食べる専門の俺が役に立つはずもない。
 チョコが出来たら味見役として参加しますよーっと。

 そんなことを考えながらしれっと魔人化する。触手以外大して目立たない魔人化だ気にする者もいないだろう。

「美味しくなぁれ」

 水に指を突っ込みながら、ぼそりと呟く。コップの中の水は少し泡立った程度でたいした変化は見られない。
 だけど……。

 再び水を口に含む。思わず口がにやける。
 触ったモノを操れば、モノの本来持ってる旨味を最大限に引き出すことも可能だ。

「……うん、イイね」

 水自体の旨味が増し、清涼感も上がっている。
 もともと限界値近いくらいに美味い水なのだから上げ幅はそんなに高くない、が限界は試してみたい。
 
 まあ、自分の為だけに使うに限るけど。

 チョコ作りに奮戦している同僚二人を肴にさらに美味くなった水をチビチビ飲んだ。

46シャルル ◆HTcbo8CpC2:2015/02/15(日) 22:55:53
>「そうだな、この出来では届くまい。シャルル様に俺の秘伝のレシピを伝授しよう」

「よろしくお願いします、師匠!」

秘伝のレシピか――なんかワクワクする響きだぞ!
そして気づけば――アタシは魔女もしくは給食のおばちゃんがかき混ぜてそうな大窯の前に立っていた。
かき混ぜているのは大量の溶けたチョコレート。
今の時点ではまだ普通のチョコレートだが……。

「それではいよいよ最大の重要ポイント――隠し味だ。
乾燥マンドレイクの粉小さじ一杯、サラマンダーの鱗2枚、竜の爪の垢少々、それから……云々カンヌン」

ヤバそうな物のオンパレードが大鍋の中に次々と投入されていく!

「うおおおおおおおおおおい! 大丈夫なの!?」

「大丈夫だ問題ない」

ドヤ顔で言い放つヤマオカシェフ。

「そしてこの地方の天然水を大匙一杯ほど投入だ。そうだな、水使いの君に頼もう」

水は水屋、ということだろうか、天然水の投入がアイネに振られた。

47シャルル ◆HTcbo8CpC2:2015/03/02(月) 19:18:21
【コリット・スナーロ編はここで保留とします】

「やれやれ、今回も凄まじい戦いだったわね……」

「そうですね……」

時間軸は少しばかり進み、かくかくしかじか云々かんぬんの経緯でコリットスナーロを攻略したアタシ達は
猫バス内で次の行先の選定に入っていた。
コリットスナーロでの戦いはまたいつか機会があれば語ることにしよう。
最近このパターン多くないかって? それは大人の事情もとい気のせいである。

「して次はどこに行きますか?」

シュガーちゃんが、モニターに映された、光る点が点在する世界地図を指し示す。

48 ◆Oel2lApkiM:2015/03/05(木) 19:37:02
 コンコン、と猫バスの窓をノックする音がバス内部に響き渡る。
 次いで内部の返事を待たずしてノックされていた窓が無遠慮に開かれた。

「窓から失礼致します」

 窓からずるりと入ってきたのは執事服の男、背中に翼が生えていることから天使と推測される。
 艶やかな黒髪に金色の瞳、整った顔にはモノクルを装着している。
 執事服の男はバスの中を一瞥すると、恭しく一礼をし、語り始めた。

「私はミザール・インドレンス、スロウスファームの副領主にして領主ウェヌス様の執事でございます。
 本日はウェヌス様のメッセンジャーとしてデビチルの皆様にご伝言をお届けに参りました」

 周りの反応をなんら気にすることなく、懐からタブレットを取り出し設置する。

「ウェヌス様は現在ご多忙なので、映像だけで失礼します。ご質問があれば映像の後にお受けしますので」

 そう言うとミザールはタブレットを操作する。すると画面に少女が映し出された。
 ダブダブの白衣に身を包み、黒縁のメガネを掛けた小動物のような少女だ。
 明るい紫色の瞳、瞳の色と同じショートカットのその髪はぼさぼさで所々ピンと跳ねている。
 映像の背景には高級そうなデスクにかなりの数の本棚が並んでおり、執務室か書斎で撮られた映像のようだ。

『……え、あれ? ミザール、これもう映ってるの?』

『はい、もう録画は始まっております』

『あ、そぉ? こほんこほん、えー、あー、デビチルの皆さん初めましてスロウスファーム領主のウェヌス・リコリコです。
 えーと、この度はデビチルの皆さんにちょっとお願いがあって映像を送らせていただいてます。
 あー、お願いと言うのはですね、ちょっと助けていただきたいなーなんて……。
 と言うのもですね。このスロウスファームは今現在ちょっとピンチな感じでして、どうピンチなのかは具体的に言えないんですけど。
 助けてくれたら嬉しいかなって、あー、もちろんタダじゃないです。助けてくれたら即スロウスファームを開放します。
 私とミザール、残った天使たちは今後一切この街には干渉しないですし、街から出て行くことを約束します。
 えーと、こんなところかな? えー、質問があったらミザールに聞いてください。よいお返事を期待してます。
 …………終わった? 映像切れた? え、まだ続』

 そこで映像はプツンと切れた。
 ミザールは流れるような動きでタブレットを再び懐に仕舞い一礼をする。

「ウェヌス様のご伝言は以上です。では、何か質問があればお受けいたします」

49アイネ ◆ch6TRNt0B6:2015/03/09(月) 22:20:57
コリットスナーロを苦戦の末に攻略した私たちは、次なる目的地の検討に移っていた。
この地はその昔、旅人が集う流通の中心であったそうで、街道は様々な方向に伸びている。
どの道を辿っても最終的に学園都市には至るのだが、ここで道を決めることは今後の攻略に大きく影響する事だろう。
そうした経緯もあってか、私たちはああでもないこうでもないと議論を交わしていたのだが、突然窓をノックする音に遮られた。
換気用に薄く開いていた窓が、大きく開かれる。その隙間をこじ開けるようにして、一人の男が入ってきた。
余談だが、猫バスの窓は本家と同じようにぐにゃぐにゃ動く。一見通れない小さな窓に見えても、押し入れば案外入れるのだ。

>「窓から失礼致します」

背中には天使特有の白い翼、悪目立ちすると思われる仰々しい執事服。天使の使いであることは一目で分かった。
天使にはこんな古典的ななりを喜ぶ輩もいるのかと思う。きっと貴族趣味なのだろう。
一部の天使は征服した土地を領地と呼び、まさに古典的な領主として管理する。
どこから来たのか知らないが、そんな「領地」から来た天使には違いあるまい。
突然の侵入者に……いや、闖入者か……とっさに身構えた私たちだったが、男は大仰に頭を下げて敵意のないことを示す。
そもそも私たち全員が集う猫バスの中に、自爆用爆弾すら持たずに飛び込んでくる天使がいるものだろうか。

>「私はミザール・インドレンス、スロウスファームの副領主にして領主ウェヌス様の執事でございます。
> 本日はウェヌス様のメッセンジャーとしてデビチルの皆様にご伝言をお届けに参りました」
>「ウェヌス様は現在ご多忙なので、映像だけで失礼します。ご質問があれば映像の後にお受けしますので」

スロウファームと言えば、私たちが議論していた次の行き先のひとつである。
ここからはそう遠くないので、猫バスを一日も走らせれば着くことだろう。
執事服の男は懐からタブレットを取り出し、映像の再生を始めた。
映ったのは書斎を思わせる背景と、ダブダブの白衣を纏った一人のまだ幼げな少女の姿。
他に誰かが映る気配もないので、彼女が領主である可能性が高そうだ。
天使は人工的な生物、歳相応の精神を持たない場合もある。この彼女もきっと……。

しかし、話し始めた彼女の口調は幼く舌っ足らずで、とても領主を勤め上げているとは思えなかった。
少女……リコリコと言うらしい……の話によると、スロウファームは今何らかのトラブルに見舞われているらしい。
領地を明け渡す代わりに、そのトラブルを解決して欲しいと言うのが依頼内容のようだ。
街の危機? まさかまた怪獣でも出た訳ではあるまいし、一体どういったトラブルなのだろう?
詳しい話をここでは出来ないと言うことは、実際に赴いて話を聞く他あるまい。
私たちの目的は天使の討滅、及び住民の安全の確保である。もし住民に何らかの危機が迫っているなら、助けに行かなければならない。

映像は途切れ、タブレットを懐へと戻した男は一礼し、質問はないかと尋ねた。
質問ならいくらでもある。彼らの真意、起こったトラブルの内容……しかしそれ以上に確認したいことがあった。
そこで手を挙げ、彼に問う。

「街を明け渡すと言う条件、確かなのかですよ? 私たちだって出来れば犠牲を出さずに解決したいですよ。
天使が解決出来ないトラブルが何かは知らないが、本当に私たちの利益になるのか、それを確認したいですよ」

これまでの経験によると、天使たちはゼウスの制御から離れるととても「使える」人材となる。
いち早く街の復興をするためには、彼らとて出来るだけ傷付けずに確保したいのだ。
とりあえず私の質問は以上だ。あとは行ってみてこの目で確認するほかあるまい。

50シャルル ◆HTcbo8CpC2:2015/03/14(土) 01:05:36
>「窓から失礼致します」

突然窓から入ってきた闖入者を「お、おう」という感じで迎えるアタシ達。
丁度どこに行こうか迷っている時にタイミング良くあっちからコンタクトしてきてくれるのは
最近よくあることなので今さら大して驚かない。
さてさて、今回のホストと側近のコンビは、YOUJO領主と美形執事のようだ。
今までありそうでなかったある意味王道の組み合わせである。
ホストらしき幼女領主は見るからに頭のゆるそう、もとい幼女らしく無害そうだが油断は禁物だ。
いつぞやのロンディニウムのように見るからにおっとり無害天然系のホストが実は腹黒黒幕だったという前例もあるのだから。

>「ウェヌス様のご伝言は以上です。では、何か質問があればお受けいたします」

「一つ確認していいかしら。あなたたち堕天……しているわけじゃないわよね?」

※堕天……天使がゼウスの制御下から解放されること

というのも、ゼウスの制御下にあるはずの天使としてはなんとも不可解な提案だ。
ゼウスの制御下を離れ独自に領主を治める天使達が街のピンチで最近話題のデビチルに助けを求めた――
というのなら話は簡単だが、そんな都合のいい話はないだろう。
質問、といわれても何のピンチかは言えないらしいしなあ。
ゼウスの目的が人間の抹殺ではなく支配ということを考えれば
天使の手に負えない敵によって人間達が危険にさらされている、というところだろうか。

>「街を明け渡すと言う条件、確かなのかですよ? 私たちだって出来れば犠牲を出さずに解決したいですよ。
天使が解決出来ないトラブルが何かは知らないが、本当に私たちの利益になるのか、それを確認したいですよ」

アイネはそう質問を投げかけるものの、彼女ももう腹は決まっているのだろう。
言った途端に取り囲まれる可能性も無きにしもあらずだが、それは今やどこに行っても同じ事。
本当ならもうけもん、罠でもほぼ普段通りなら行くっきゃあるまい。

51ミザール ◆Oel2lApkiM:2015/03/18(水) 22:59:23
>「一つ確認していいかしら。あなたたち堕天……しているわけじゃないわよね?」

 顔に笑みを湛え、悪魔の質問を待つミザールにシャルルが質問を投げかける。

>「街を明け渡すと言う条件、確かなのかですよ? 私たちだって出来れば犠牲を出さずに解決したいですよ。
  天使が解決出来ないトラブルが何かは知らないが、本当に私たちの利益になるのか、それを確認したいですよ」

 次いでアイネが手を上げて質問する。ミザールは笑みを崩さず、悠々と話し出す。

「はい、そうですね。御二人の疑問もごもっともでございます。順に答えてまいりましょう。
 まずシャルル様。私とウェヌス様が堕天されているのではないか、と。残念ながらありません、私達はまだゼウス様の支配下にあります」

 言いながら懐にしまったタブレットを再び取り出す。

「ウェヌス様も私も、とっとと堕天させてくれれば良いのに、とヤキモキしながらゼウス様を毎夜毎夜それはもう口汚く罵っているのですが未だ効果はございません。
 これがその光景を収めた証拠の映像でございます」

 タブレットを見えやすいように再び置き、映像を再生させる。
 場所は先ほどと同じ書斎のようだが今度はウェヌスだけでなくミザールも移されている。
 二人は向かい合いミザールの言った言葉をウェヌスがきゃんきゃんと子犬が鳴くように繰り返していた。

『ゼウス様、マジファック。はいウェヌス様』

『ゼウスさま、まじふぁっく!』

『ゼウス様、このクソ×××野郎。はいウェヌス様』

『ゼウスさま、このくそ×××やろう!』

『ゼウス様、Kiss my ass。はいウェヌス様』

『ゼウスさま、きすまいあす!』

『はい、一時間に及ぶ罵詈雑言お疲れ様でしたウェヌス様。しかし、ふむ残念ながら今日も堕天の兆候は見られませんね』

『……ねー、ミザール。これで本当に堕天できるの?』

『はい、ゼウス様が罵詈雑言で喜ぶドMのクソ豚野郎でない限り、可能性は高いかと』

『んー、そっか、分かったよ。明日も頑張ろうねミザール!』

『はい、本日もお疲れ様でした。ウェヌス様』

 そこで映像は途切れた。ミザールは心なしか満足そうな顔をしている。

「見ていただいて分かりますように、私達はゼウス様には嫌悪、いえ敵意といっても差支えない程の感情を抱いております。
 ですが、これだけ罵っているにも関わらず堕天どころか何の罰も下らない所を見るに、私達が支配下から離れるのはゼウス様には相当の痛手ということでしょう。
 まあ優秀なこの私とさらに優秀なウェヌス様ですからそれも仕方なし、というところですね」

 鼻高々というように若干うざいドヤ顔を満面にたたえ、ミザールは胸を張る。

「ああ、失礼いたしました。話が少し逸れてしまいましたね。
 さて次にアイネ様、街を明け渡すと言う条件が確かなのか、ということですね」

 一拍間を置き、ミザールは答えた。

「……本当でございます。今回の一件が解決された暁には私達は都市を手放すことをお約束します。
 ですが、このような口約束していないと言ってしまえばそれまで。簡単に反故することも出来てしまいましょう」

 ミザールは胸ポケットから綺麗に折りたたまれた一枚の用紙を取り出し、見やすいように広げる。
 それは古く色褪せた契約書のようなものだった。契約書には既にミザールとウェヌスの名前が刻まれている。

「ですので、私今回このようなものを用意致しました。これは所謂呪物、マジックアイテム。
 約束の反故には反故した者の命で償ってもらう、その命の取立てを強制的に行なうのがその契約書でございます」

 契約書には、今回の問題を解決した際にはウェヌスとミザールは都市を手放し今後干渉しない、と言った内容が書かれている。
 
「私達が約束を反故した場合、私達は命を取り立てられ死にます。ですが私もウェヌス様も命は惜しい。ですから約束は守ります。
 これを証拠に私達に騙す意思、敵意がないことを信用して頂きたい。
 都市で起こった問題の内容は、貴女方が契約書に署名をして頂いた時にお話いたします」
 
 そう言って一端言葉を切るミザールだが、少し思い出したように言葉を付け加えた。

「ひとつ言い忘れておりました。その契約書ですが署名をして頂いた瞬間貴女方の命も契約内容に含まれます。
 問題を解決できずに都市から去ろうとした時、貴女方の命も契約書に取り立てられますので、どうか考えてご記入下さい」

52アイネ ◆ch6TRNt0B6:2015/03/22(日) 21:00:24
シャルルの「堕天しているのか?」という質問に対し、ミザールは証拠映像付きでそれを否定してみせた。
その証拠映像とやらだが、なんかもうアレである。幼女に罵詈雑言を言わせているとか犯罪臭ぷんぷんだ。
この執事、実は主である幼女にそのような言葉を言わせて、実は興奮しているのではあるまいか?
まぁ他人の性癖についてはとやかく言うまい。
かつてのあの学園にも、衝動として変な性癖を持ってしまった者は多かったのだから。
それにしても、ひとつのシステムであるゼウスが罵詈雑言ごときで解任するのだろうか? 疑問である。

「そこまで堕天したいなら方法はあるから任せろですよ。な、シャルル?」

正直例の方法による堕天は安全性とか色々と疑問なので、あえて相方に振る。
提案したけど私には責任はない、と言い張りたいのだ。まぁ死ななかったし大丈夫なはず。
しかし自身から堕天を求めるとは、やはりゼウスの制御は完璧ではないのだろう。
天使たちは勝手気ままに都市を管理している。あくまで結果が出ていれば、過程は問わないのか。
まぁ多くの場合天使による人間の管理は極めて非人道的であるから、こちらの方針も変わらないのだが。

>「ああ、失礼いたしました。話が少し逸れてしまいましたね。
  さて次にアイネ様、街を明け渡すと言う条件が確かなのか、ということですね」

うっかり忘れるところだった、私も質問をしていたのだ。
本当に街を明け渡してくれるのか、こればかりは相手の真意を見極める他ない。
……と思っていたのだが、彼は思わぬ方法で明け渡しの約束を証明してみせた。
取り出されたのは一枚の契約書。内容は街の明け渡しについて、彼らの署名も施されている。
差し出されたその契約書を受け取った瞬間、微かに妙な気配を感じ思わず身を硬くする。

>「私達が約束を反故した場合、私達は命を取り立てられ死にます。ですが私もウェヌス様も命は惜しい。ですから約束は守ります。
  これを証拠に私達に騙す意思、敵意がないことを信用して頂きたい。
  都市で起こった問題の内容は、貴女方が契約書に署名をして頂いた時にお話いたします」

契約書を媒介にした一種の魔法のようなもの、と考えれば納得がいく話だ。
自らの魂を担保に契約を成立させる、さしずめ死神の契約書と言ったところか。
しかし、契約とは双方が同じだけの対価を差し出す事で成立する。だとすればおそらく……。

>「ひとつ言い忘れておりました。その契約書ですが署名をして頂いた瞬間貴女方の命も契約内容に含まれます。
  問題を解決できずに都市から去ろうとした時、貴女方の命も契約書に取り立てられますので、どうか考えてご記入下さい」

53アイネ ◆ch6TRNt0B6:2015/03/22(日) 21:00:59


思った通りだった。この契約書は、双方の命をもって契約と成すのだ。
天使もエグいものを作ったものだ。契約に魂を対価とするなんて、はっきり言って滅茶苦茶である。
魂の価値なんてものは、全く計りようのないものなのだ。否、価値を求めてはいけない、が正しいであろう。
人の人生にも、魂の在り方にも、価値など存在しない。それは尊く、また一切の価値を否定するものだからだ。

「ここに私とシャルルの名を書けば、契約が成立する訳なのかですよ。ふむ、面白いですよ」

そう言いながら手にしたペンを弄ぶ。ちなみに私はペン回しは結構器用なほうだ。
ペンをくるくると回しながら、ためつすがめつ契約書を眺める。

「でも、これでは不十分ですよ」

そう言って、私は迷うことなく契約書を引き裂いた。ついでにたっぷり千切って窓からはらはらと捨ててみせる。
そして、ペンをミザールに突きつけながら宣言するように言い放った。

「単身でここまで赴いた事、そしてあんたの主への忠誠心を見て信用に足る人物であると認定したですよ。
 それに、あんた達天使には街の復興を手助けして貰わなきゃ困るから、この契約書は認められないですよ。
 命のやり取りがしたいならもう一度契約書を作り直すことですよ。次はサインしても構わないですよ」

もしスロウスファームの街の住人が困っているなら、私たちは迷うことなく助けに行く。命を投げ打ってでもだ。
だから端から契約書など無意味なのだ。街を見捨てる? そんなことするはずもない!

「シュガー、行き先はスロウスファームですよ。ミザールも乗って行くといいですよ」

猫バスが、文字通り唸りを上げて発進する。道はでこぼこだが、そもそも車輪ではないので走行は静かなものだ。
テーブルに置いてあった水のボトルを取り、一口。コリット・スナーロの水は次はいつ飲めるだろうか。
スロウスファームの水も美味しければ良いな、などと思いつつ、私は再びミザールに問う。

「せっかくだしお茶を出すですよ。シャルルの菓子はますます美味しくなったし、食べていくと良いですよ
 それで、到着にはまだ少々時間がかかるですよ。ここで事情を話してくれると、早くて助かるですよ」

54シャルル ◆HTcbo8CpC2:2015/03/26(木) 21:34:05
「あれれ、それってもう堕天してるんじゃ……。え、違うの?」

カルレアさん達の事例を見て天使がゼウスへの反抗心を持った時点で堕天となる、と思っていたが
支配下から外すかどうかは飽くまでもゼウスが決めるらしい。
この違いは彼らの言うとおり、彼らが例え反抗心を持っても手放したくないほどに優秀なのか
あるいは反抗心を持つ天使が増えてきたためにゼウスの仕様が変わったのか。

>「そこまで堕天したいなら方法はあるから任せろですよ。な、シャルル?」

「偉大なるヲタが開発した天使を堕天させる秘密兵器ピュグマリオンの弓矢――
確かにあれはゼウスに忠誠を誓う天使との戦いを想定して作ってあるものだから自ら堕天を希望する天使への使用は前例がないわ。
今までで死亡例はないので大丈夫だとは思うけど……堕天志望の天使にどう作用するか保障はできない。
まあご希望があれば考えてみてね」

>「ああ、失礼いたしました。話が少し逸れてしまいましたね。
  さて次にアイネ様、街を明け渡すと言う条件が確かなのか、ということですね」

すっかり堕天ネタに逸れかけた話題は街を明け渡すか否かの本題に無事に戻り……。

>「ですので、私今回このようなものを用意致しました。これは所謂呪物、マジックアイテム。
(中略)
 問題を解決できずに都市から去ろうとした時、貴女方の命も契約書に取り立てられますので、どうか考えてご記入下さい」

なんか物騒なものを出してきたなおい!
しかも明け渡して丸投げされても困る。今まで統治してきた実績を活かして街の復興を手伝ってほしいところだ。
と思ったらアイネも同じような事を考えていたようだ。
なんと彼女は部下の辞表を破り捨てる上司よろしく漢らしく契約書を引きちぎった!
格好いいけど高価なマジックアイテムだったりしたらどうしよう。

55シャルル ◆HTcbo8CpC2:2015/03/26(木) 21:35:04
>「せっかくだしお茶を出すですよ。シャルルの菓子はますます美味しくなったし、食べていくと良いですよ
 それで、到着にはまだ少々時間がかかるですよ。ここで事情を話してくれると、早くて助かるですよ」

「そうね、お茶会にしましょう」

アタシは無地のデコレーションケーキを出してアタシとアイネの名前をチョコレートで書き、デコレーション用のチョコレートをミザールに手渡す。

「相方が契約書破っちゃってごめんなさいね。新しいのを用意したからここに名前を書いて。
それで同じ釜の飯ならぬ同じ皿のケーキを食ったら契約成立よ」

これぞ業界初、食ってしまうためにブツが残らない契約書! 人類には新しすぎて全く流行る予感がしない!
それでも、ここは元々魔法が存在しその存在が公には隠蔽されている世界。
御呪い的なものとして世間に流布しているものは、極々弱い魔法の一種なのだ。

56ミザール ◆Oel2lApkiM:2015/04/03(金) 01:45:36
>「ここに私とシャルルの名を書けば、契約が成立する訳なのかですよ。ふむ、面白いですよ」

 ペンを器用にくるくると回しながらアイネが問う。

「はい。ですが先ほども申したとお――」

 ミザールが再び契約書への署名についての危険度を忠告しようとする最中。

>「でも、これでは不十分ですよ」

 アイネの言葉と共に契約書は破られた。しかも念入りに千切られ、窓から放られはらはらと後方の景色へと散っていく。
 あまりに突然の出来事にミザールは表情こそ崩さない物の呆気に取られる。
 断られる可能性を予想はしていてもまさか契約書を破り捨てられるとは思っても見なかった、と言ったところだろうか。

>「単身でここまで赴いた事、そしてあんたの主への忠誠心を見て信用に足る人物であると認定したですよ。
  それに、あんた達天使には街の復興を手助けして貰わなきゃ困るから、この契約書は認められないですよ。
  命のやり取りがならもう一度契約書を作り直すことですよ。次はサインしても構わないですよ」

 いつも冷静沈着を自負しているミザールだが、自分の予想にないことをされると少々固まる節がある。
 動揺していませんよ、と冷静ぶった顔をしていても頭の中では、全情報のシャットアウト、つまり真っ白になっていると言っていい。
 なので上記の言葉はミザールの耳にほぼ届いていない。ミザールが本当の意味で冷静に戻ったのはアイネの次の言葉を聞いてからだ。

>「シュガー、行き先はスロウスファームですよ。ミザールも乗って行くといいですよ」

「……ぉ?おぉ!感謝の極み、ありがとうございます!」

 少々頭に空白期間があったものの、アイネの了承の言葉に笑顔を湛え一礼する。
 
>「せっかくだしお茶を出すですよ。シャルルの菓子はますます美味しくなったし、食べていくと良いですよ
 それで、到着にはまだ少々時間がかかるですよ。ここで事情を話してくれると、早くて助かるですよ」

>「そうね、お茶会にしましょう」

>「相方が契約書破っちゃってごめんなさいね。新しいのを用意したからここに名前を書いて。
それで同じ釜の飯ならぬ同じ皿のケーキを食ったら契約成立よ」

 笑顔を浮かべたまま渡されたチョコレートでさらさらと名前を書き、一口食べる。

57ミザール ◆Oel2lApkiM:2015/04/03(金) 01:46:23
「ご好意ありがたく頂戴いたします。うん、適度に甘いケーキにチョコレートのほのかな苦味、大変おいしゅうございます」

 一口食べたケーキのお皿を置き、ナフキンで口を軽く拭く。

「それでは、お約束通り都市で起きた問題についてのお話いたします。
 私達の都市は四方が80mの城壁で囲まれた所謂城塞都市でございます。
 都市は中世ヨーロッパをイメージして造られていますが、それは外見だけ中身は近代都市となっております。
 そんなスロウスファームで絶賛大量発生中なのが」

 ミザールは一端言葉を切る、そして一拍溜めて言った。

「ゾンビでございます」

 なんとも微妙な空気が車内に流れる。が、そんな空気を気にも留めずミザールは再び口を開く。

「まあ、ゾンビと申しましてもクラシックな映画に出てくるような人肉を貪る野蛮なゾンビではございません。
 ただ、噛み付いてこない代わりに凄い甘噛みしてきます。それはもう憎らしいほどの絶妙な力加減で。
 そうして甘噛みされた人は数分のうちにゾンビ化、1が2に、2が4に、4が8に、と言った具合に倍々に増殖中でございます。
 そんな具合で現在主要天使以外は外出禁止、都市内部は地獄の釜の底、まさにファンタジーオブザデッドといった状態が続いている、という状態なのです。
 さて、今まで説明に何か質問はございますでしょうか?」

 あるに決まってるでしょう、と内心突っ込みを入れながらミザールは言葉を紡いだ。

58アイネ ◆ch6TRNt0B6:2015/04/07(火) 21:12:39
私たちとミザールの署名入りケーキを食べて、一旦一息つく。
うん、本当に美味しい。もはや一流プロ並みと言って良いのではないだろうか。
ちなみにケーキと共に提供されているのは私特製のジャスミン茶だ。
お茶に合うよう能力で調整された水を使い、完璧な温度管理で淹れられたお茶である。
私の能力は自在に液体の性質変換を行う事が出来るので、こんな事も可能なのだ。
戦闘の場面では使うタイミングの難しい能力であるが、日常的には便利であったりする。
お茶の味は半分は水で決まるのだ。やはり能力をフル活用してでも美味しいお茶は飲みたい。

さて、一息ついたところでミザールはスロウスファームで起こった事件について語り始めた。
スロウスファームは彼の言うとおり、立派な城塞都市である。
外敵の侵入を拒むように作られた城壁はとても頑丈で、乗り越えることは非常に難しい。
ゼウスによる支配を受けた現在では、正面切って相手するのはおそらく出来なかっただろう。
そういう意味合いでは今回の依頼は渡りに船である。戦わずして落とせるのだから。
しかし、その依頼こそが思わぬ障壁であった。何故なら

「ゾンビでございます」

そう、よりによってゾンビである。まさかこの世にゾンビが実在していたとは驚きだ。
しかも、人肉を貪る訳でもなく甘噛みによって繁殖するゾンビと来た。正直意味が分からない。
ゾンビと称するなら、相手は知性もなく犠牲者を求め彷徨う異形の存在なのだろう。
天使が私たちに泣き付くほど増えているとしたら、最早数の暴力で押し切られる寸前だと言う事だ。
幸いにも出入りが難しい城塞都市であるから、外部に影響が出ているとは考えにくい。
そもそもゼウスの統治が始まってから、都市間の交流も絶えて久しいのだから。

>「(前略)さて、今まで説明に何か質問はございますでしょうか?」

「ふたつ、質問があるですよ。天使の外出まで制限すると言う事は、天使もまた感染すると言うことなのかですよ?
 そして、感染の原因のウイルスなり何なりは、まだ発見されていないと言うことなのかですよ?」

仮に天使もまた感染するならば、ひとつの仮定が浮かんでくる。
科学文明に特化したゼウスとは、全く技術体系の違う現象によるものだと。

「ゾンビは架空の存在とされていたが、彼らもまたひとつの「生き物」なのだですよ。
 食事をし、時に休息を取らねば活動を維持することは出来ないと仮定出来るですよ。
 しかし、今回のゾンビは食事を必要としないですよ。人肉を貪ることが、本来なら活動の維持になっているはずだからですよ。
 原因不明のウイルス、活動限界の存在しないゾンビ……これらから導かれる可能性は」

一息ついてお茶を一口。正直この仮説にはまだ確証がない。

「何らかの魔法的な力によって引き起こされている可能性があるですよ」

そう、魔法を認めてしまえば辻褄が合うのだ。
そもそも、何らかの未知のウイルスがゾンビ化を引き起こすように自己進化した可能性は極めて低い。
そんな絵空事のような偶然よりは、誰かが映画なりの文献を元に作り上げた可能性の方がずっと高いのだ。
そして、そのウイルスは科学文明の極致であるゼウスの科学力で解決出来ない。
極めつけはゾンビが無制限に活動出来ることだ。科学的にどう考えてもあり得ない。
仮にゾンビ達が感染によって魔術的な操作を受けているのだったら、この問題は解決出来る。
それに、古来より魔法は血や唾液といったものを媒介にすることが多いのだ。
今回の例と照らし合わせると、その可能性が高いことが考えられる。
まぁ、これらは全て仮説である。ゼウスを超える科学技術により生み出されたのなら、可能性はひっくり返るのだ。

59シャルル ◆HTcbo8CpC2:2015/04/11(土) 03:06:35
契約書を破り捨てたときはどうなるかと思ったが案外トントン拍子で話は進んだ。
というかアイネが漢前すぎて「お、おう」という感じでこちらのペースに巻き込まれてしまったのかもしれない。

>「ご好意ありがたく頂戴いたします。うん、適度に甘いケーキにチョコレートのほのかな苦味、大変おいしゅうございます」

「ありがとう、前の街で色々あって大分パワーアップしたのよ〜」

コリットスナーロでの顛末については機会があれば(以下略
それはさておき、本題である。

>「それでは、お約束通り都市で起きた問題についてのお話いたします。
 私達の都市は四方が80mの城壁で囲まれた所謂城塞都市でございます。
 都市は中世ヨーロッパをイメージして造られていますが、それは外見だけ中身は近代都市となっております。
 そんなスロウスファームで絶賛大量発生中なのが」

中世ヨーロッパ風の近代都市――
それも中世の面影を残したまま近代化しました〜ではなく敢えてそういうコンセプトで作ってある。
創作物においては稀によくあるが、現実ではなかなか珍しいものである。

>「ゾンビでございます」

一般的な創作物においても、一口にゾンビといっても全く異質な二つのタイプがある。
バ○オハザードで跳梁跋扈するようなウィルス感染した人間のなれの果て。
もう一つは中世ファンタジーの定番のモンスター、死んでるけど魔法的な力によって動き回ってる輩達のことである。

>「何らかの魔法的な力によって引き起こされている可能性があるですよ」

アイネの説は一理ある。
街のコンセプトが中世ヨーロッパ風の近代都市ならゾンビの正体はその逆。
近代SFゾンビ風の中世ファンタジーゾンビだったりして。
というのは冗談としても、ゼウスの手におえない以上、ゼウスとは別の方向性の技術によって引き起こされていることは間違いないだろう。

「魔法を現代に伝えているといえばロンディニウム……
だけどスロウスファームは外部から隔離された城塞都市。侵入経路は存在するのか……」

スロウスファームについてのデータを検索したシュガーちゃんが助言する。

「内部犯の可能性もありそうです。
スロウスファームは中世ヨーロッパ風のデザインだけあってその昔は宗教都市として栄えたとか栄えなかったとか。
ゼウスに支配されてからはすべて一掃されてしまったそうですが」

宗教的な勢力というのは往々にして魔法使いとは別の魔法体系を持っているものである。
平たく言うと某国民的RPGでいうところの僧侶魔法や白魔法というやつだ。
そして宗教的な勢力の中でも厨二心くすぐるダークな奴らはアンデッド系の魔法がお家芸なのだ。

「なるほど……外部犯内部犯共に視野に入れて捜査を開始する必要がありそうね。
どちらにせよまずとっかかりは反抗勢力かしら。
ミザールさん、地下に潜ってる反抗勢力なんかあったりしない?」

60ミザール ◆Oel2lApkiM:2015/04/21(火) 01:58:46
>「ふたつ、質問があるですよ。天使の外出まで制限すると言う事は、天使もまた感染すると言うことなのかですよ?
  そして、感染の原因のウイルスなり何なりは、まだ発見されていないと言うことなのかですよ?〜中略〜何らかの魔法的な力によって引き起こされている可能性があるですよ」

>「内部犯の可能性もありそうです。
  スロウスファームは中世ヨーロッパ風のデザインだけあってその昔は宗教都市として栄えたとか栄えなかったとか。
  ゼウスに支配されてからはすべて一掃されてしまったそうですが」

>「なるほど……外部犯内部犯共に視野に入れて捜査を開始する必要がありそうね。
  どちらにせよまずとっかかりは反抗勢力かしら。
  ミザールさん、地下に潜ってる反抗勢力なんかあったりしない?」

 ミザールは驚きに目を開き、思わず手を叩く。ぱんぱんと乾いた拍手が猫バスの中に響き渡った。
 全員の視線がミザールに集まり、ミザールは慌てたように我に返る。

「……いや、これは失礼しました。アイネ様、シャルル様、そしてシュガー様」

 コホンと一つ咳払いをし、取り繕うようにミザールは言う。

「皆様の類稀なる考察力推理力、実にお見事。このミザールここまですいすいと話が進むとは思っておりませんでした。
 あまりにとんとん拍子でことが進むので思わず拍手を、無作法お許しを。久しくこのようなスムーズな会話をしておりませんでしたので。
 ではアイネ様の1つ目の質問に答えましょうか。天使も感染するのか? Exactly、その通りでございます」

 ミザールは簡潔にあっさりと天使も感染するという事をアイネに伝える。
 さらに既に数百の天使がゾンビと化していること、そしてそのせいで現在、空からの侵入は極めて難しいを通り越して不可能となっている事を伝えた。

「そして2つ目の質問です。原因は既に判明しております、と言うより……」

 ミザールは少し口篭る。眉間に皺がより、言ってよいものかと少し考えた後、心底気まずそうに口を開いた。
 
「……ウェヌス様の能力でございます。魔法的な力と言うのなら大正解でございますね。はははははは」

 乾いた笑いに車内の空気が若干凍りつく、「は?」と怒りに満ちた疑問の言葉が上がっていてもおかしくない。
 というよりも、上がらない方がおかしい事なのだが。悪魔の性格がよいのか、呆気に取られているのか。
 「お前らのせいじゃん」と言う突っ込みで場が荒れないうちにミザールはフォローの言葉を口にする。

「ですが、よろしいですか? ですが、今回の一件は間違いなくウェヌス様のせいではございません。
 確かに、ウェヌス様の能力は死体をゾンビ化させ、従わせ、自由に操る能力ではございます。
 しかし、あくまで『死体をゾンビ化させ、操る』だけの能力でございます」

 他者に感染することもないし、ましてや自分から増える事など出来ないとミザールは言う。
 ウェヌスのゾンビはがブードゥー教の『生ける死体』だとすれば、現在、都市で闊歩しているゾンビは『リビングデッド』だと言う。

61ミザール ◆Oel2lApkiM:2015/04/21(火) 02:01:08
「さて、シャルル様の質問ですが、反抗勢力……ふむ、これはアイネ様の2つ目の質問と少々被りますが纏めて話したほうが良いでしょう。
 その前に身の上話でございますが、少し昔話をしましょうか。このスロウスファームについてでございます」

 その昔、スロウスファームは別名『鳥籠の街』『監獄都市』と呼ばれていた。
 人間は高い壁に囚われ、管理され、朝から晩まで労働を強制される。
 仕事は幾らでも有るが、娯楽は殆どない。行動は逐一制限させられ、自由もない。 
 一部の上の人間が甘い汁を啜ることを除けば、現在のゼウス支配下のプロトタイプのような都市だった。

 だがそこで生まれた人間にとってはそれが当たり前で、殆どの人間がそれに順じ労働に体を捧げていた。
 先ほどシュガーが宗教都市と言ったがそれもあながち間違いではない。信仰の対象が神か労働か、それだけの違いだ。
 だが、そんな日々に突如終わりが訪れた。ウェヌスとミザールの襲来である。

 ウェヌスが能力を使えば効果範囲にいる全ての死体が支配下に置かれる。
 効果範囲は都市の大きさを軽く凌駕し、その範囲にある死体の全てがウェヌスに付き従った。
 万を超える不死者の軍を前にし、堅牢な壁を持つスロウスファームは半日と持たなかった。
 なぜならウェヌスの能力は壁の内側、都市全体にも効果を発していたのだ。
 内と外の不死者をどうすることも出来ず挟撃され、スロウスファームは墜ちた。

 ゾンビによって都市を掌握したウェヌスは、都市の人々に宣言した。

『えー、貴方達から労働を奪います。どうぞこれからは好きに生きてください。
 あぇー、あと、どうしても働きたいって人は特区で雇います。週休4日残業無しで。
 あーと、詳しい話はミザールから、あ、ミザールって言うのは―――』

 その日のうちに都市全体の改装が始まった。内側は最新式に外側は癒しを与える中世ヨーロッパ風に。
 改装は1年掛からなかった、それもゾンビと言う無限の労働力のお陰であった。
 人間の仕事は僅かな専門職を残し、全てがゾンビで代替可能だった。
 そして専門職の人間は特別区画、通称『特区』にて超高待遇で働くこととなった。
 特区では労働しない人たちに比べ、より良いものを優先的に与えられる権利が得られる。
 それでも労働しない人の待遇が悪いわけではない。普通に生活する分には何の不満もないのだから。
 最初は急な自由に戸惑った都市の人間も、次第に趣味に恋愛、全てが得られる怠惰な生活に没頭していった。

62ミザール ◆Oel2lApkiM:2015/04/21(火) 02:02:32
 だが、一部の人間、というより今まで甘い汁を吸っていた人間にとっては面白い話ではない。
 彼らは地下に潜り、度々ウェヌス達に嫌がらせを行った。
 が、行った事が本当に小さい嫌がらせであったり、もともと少数だったこともありうぇぬす達は気にもしていなかった。
 そうして長い間、ウェヌス達天使は怠惰により都市を管理してきたのだ。

 そこで一端、ミザールは言葉を止める。

「……ですが、ある日、ゾンビに異変が起きました」

 そう甘噛み感染型ゾンビの出現である。
 最初に異変が起こったのは電力発電所近くだった事は判明しているがそこから止める間もなく都市に広がっていった。
 それからのウェヌスの行動は早かった、既に自分達の手には負えないと判断し、ゼウスに助けを求めたのだ。
 しかし、一向に助けはこない。待ってる間に被害は増す。そして遂にウェヌスとミザールはゼウスに見切りをつけデビチルに助けを求めた。

「以上が簡単ではございますが、都市の成り立ちと今まで出来事でございます。
 シャルル様の仰った反抗勢力には既に特区への参加・運営その他諸々を条件に味方へ引き込んであります。
 発電所に行くにも外へ出るにも地下通路は欠かせないものですからね」

 苦しい条件ではございましたが、とミザールは付け加える。
 
「そして今回の一件の犯人でございます。内部か外部か検討はつきませんが恐らく発電所にいると思われます。
 根拠として発電所の堅牢に守られた最深部に、ウェヌス様の能力を制限・管理する『ジャッジ』と呼ばれるコンピュータがあります。
 都市部でのウェヌス様が能力使用される際、発動した能力は必ずジャッジを経由いたします。
 そこでジャッジが現在の都市に必要か不要かを瞬時に判別し、許可、修正、不許可の判断を行い能力が使用されます。
 おそらく今回の件の犯人はそこに何らかの手段で入り込み、ジャッジにアクセスし色々と手を加えたと思われます」

 今回の事件、都市への被害を考えなければミザールとウェヌスで解決できた事件である。
 つまりゾンビ化した人間・天使を見捨てれば、いつでも事件の収束は可能と言うことだ。
 だが、都市に愛着がないわけじゃない。人間達も自分の部下の天使も嫌いではない。出来るなら助けたい。
 だから今回、最終手段を使う前にデビチルに救援を試みたのだ。

63アイネ ◆ch6TRNt0B6:2015/04/22(水) 19:52:15
私の発した第一の質問「天使もゾンビ化するのか」は、ものの見事に正解だった。
これは最悪の可能性である。空飛ぶゾンビなんてB級映画でも見たことがないのだから。
最近では走り飛び回るゾンビもいるとは聞くが、飛行能力を持つゾンビなんて厄介過ぎる。
空飛ぶゾンビなんてバイ●ハザードのカラスだけで十分なのだから。
これは街に入るだけでも一苦労しそうである。ミザールもきっと苦労したのだろう。

>「そして2つ目の質問です。原因は既に判明しております、と言うより……」
>「……ウェヌス様の能力でございます。魔法的な力と言うのなら大正解でございますね。はははははは」

意外な回答に少し驚く。
今の天使はそんなことまで可能なのか。まぁ私たちの能力も一種の魔法なので、驚く事もないかも知れない。
ゾンビを作り操る能力。実際に戦ったりしたら厄介な事この上ない相手だっただろう。
私の能力はあまり戦闘向けではないし、体術は習得しているがあくまで生きた相手のみに効果を持つものだ。
対ゾンビ戦闘については、今のうちに考えておいたほうが良いかも知れない。
相手が死体なら手加減は必要ないが、今街に溢れているのはあくまで生きた人間である。
しかもその数はとんでもない物量だろう。正面切って戦うのは明らかに不利だ。

ミザールの話は続く。彼らはゾンビ化の能力を用いこの街を陥落させたらしい。
もっともこの街では過酷な強制労働が一般化していたため、正直実権が天使の手に渡って良かったとも言えるが。
ゾンビを労働に用い人々に怠惰を与える。街の管理をするにはうってつけだっただろう。
理想的なディストピア。反乱分子を生まない完璧な征服と言えるのかも知れない。

>「……ですが、ある日、ゾンビに異変が起きました」

そう、人間のゾンビ化が始まったのだ。
原因は街の発電所に備えられた『ジャッジ』と呼ばれる装置にあるらしい。
ゾンビたちを統括し管理する機械。確かに天使一人の能力で街全体のゾンビを操り続けるのは難しいのだろう。
この街に潜伏するごく少数の反乱分子。彼らの手によりジャッジは改竄され暴走したのだ。

話を聞いた限りでは、人々や街に被害を出さず事件を解決するのは非常に難しいだろう。
事実被害を省みなければ、ミザールたちの手で事件を解決する事も可能なのだから。
街に溢れる膨大な数のゾンビ。それをかいくぐり発電所に潜入し、ジャッジを停止させる……私たちに出来るだろうか?
いや、出来る出来ないの話ではない。それ以外に事件を解決する手段はないのだ。

「なるほど、話は理解したですよ。ところで発電所が目的地なら、安全に向かえるかも知れないですよ」

発電所には水力火力原子力と様々な種類があるが、共通して言える事は水が不可欠であることだ。
水力は言うに及ばず、火力原子力共に、熱エネルギーを蒸気に変換してタービンを回しているのである。
発電の仕組みは昔から大して変わっているわけではない。案外単純なのである。
そこで注目されるのは水の存在だ。膨大な量の水を使うため、必ず排水管が設置されているはずなのだ。
私の能力をフル活用すれば、配水管を逆流して安全に発電所までたどり着けるはずである。

「……という訳ですよ。ゾンビとの戦闘を避けるとしたら、この作戦を用いると良いですよ」

まぁ、順当に考えて発電所内部にもゾンビを配置すると思うので、ゾンビとの戦闘を百パーセント避けるのは不可能だろう。

「ところで、その機械は壊したら良いのかですよ? 操作して停止させるならウェヌスを送り込む必要があるですよ」

天使との共闘は今までしたことがない。うまく行くかは不明だがやるしかないだろう。
さて、必要なのは武器だ。ゾンビとの遭遇戦を考慮するなら、何らかの武器が必要だろう。
幸い猫バスには不思議空間に大量の武器が保管されている。敵を傷付けず無力化するゴム弾や電撃などもあるかも知れない。
果たしてゾンビにそれらが効果的なのかは不明だが、元が人間や天使なら何とかなる……と思う。
天使も感染した以上、私たちデビチルにも効果がある可能性は高い。十分な注意が必要だ。

「とりあえず電磁警棒と……テーザーは扱い辛いですよ、ゴム弾装備の拳銃にするですよ」

そんな感じに武器を選び装備する。ついでに常に持ち歩いている液体ビンの中身も詰め替えた。
効果は期待出来ないが、ないよりははるかにマシだ。用意しておくに越したことはない。
まもなく目的地、スロウスファームに到着する。私はコップの水を大きく呷り、気合を入れなおした。

64シャルル ◆HTcbo8CpC2:2015/04/26(日) 11:30:11
働いたら負けだと思う――という古くからの慣用句がありますが
スロウスファームは働かなくても勝ち、働いたらもっと勝ちを体現した
全国の過重労働に苦しむ社畜達が発狂して羨ましがりそうなこの世の楽園でありました。
しかしその平和な楽園に大事件が起きます。
何者かの仕業によってジャッジに細工がなされ人々や天使がゾンビ化してしまったのです!
いやあ、もう原因から解決方法まで分かっているとは推理パートが省けて楽ちん楽ちん。
……などと言っている場合ではない。

>「なるほど、話は理解したですよ。ところで発電所が目的地なら、安全に向かえるかも知れないですよ」
>「……という訳ですよ。ゾンビとの戦闘を避けるとしたら、この作戦を用いると良いですよ」

確かにゾンビには遭遇せずに済むが一歩間違えると沸騰させられちゃうのでは……。
それ”安全に”って言っていいのか!?
かといって普通に潜入しても甘噛みゾンビに取り囲まれて終了だし仕方がない。
その方法で発電所の深部までは潜入できたとしよう。問題はその次だ。
少なくともジャッジの周囲には護衛のゾンビを配置しているだろうからゾンビとの戦闘は避けられまい。

>「ところで、その機械は壊したら良いのかですよ? 操作して停止させるならウェヌスを送り込む必要があるですよ」

アイネが機械を壊すか停止させるか、ミザールさんに問う。
えっ、そこは直すんじゃないの!?とのツッコミも入りそうだがまあ当然のことだ
プログラムを元に戻すのは犯人でもない限り不可能だろう。
ウェヌスちゃんを連れて行かないといけないとすれば、幼女一人を守りながらのより厳しい戦いになるだろう。
(彼女が見た目通りならの話だが)

>「とりあえず電磁警棒と……テーザーは扱い辛いですよ、ゴム弾装備の拳銃にするですよ」

アイネはすっかりその気になって武器を漁り始めた。
アタシの能力は一見戦闘向きではないように見えて、相手を傷つけずに無力化する戦闘になら案外向いている。
パイ生地で目つぶし、ハードグミを射出してゴム弾攻撃、超強力水あめで足止めなどなど。
あとは組付かれた時のためにスタンガンでも……

「ん……ちょっと待てよ」

はたと手を止める。

「ウェヌスちゃんの能力はジャッジによって制御されてたのよね?
それじゃあ甘噛みゾンビ事件は解決してもその後どのような影響が出るかわかったもんじゃないのでは……?」

それに単純に反抗勢力の犯行と考えていいのだろうか。
こんな事をしては自分も甘噛みゾンビになる危険性もあるのだ。
もっとスケールのでかい奴の犯行だとしたら、今後他の街でも悪さをする可能性もある。
根本的な解決策は犯人を突き止めて降参させたうえでプログラムを修正させるしかない。
ただし、それをしようと思ったらただでさえ難易度の高い依頼が更にとんでもなくハードモードになる。
犯人がまだ街にとどまっている保証もないのだ。

「ミザールさん、ジャッジが停止しても能力が暴走したりはないのかしら……」

とりあえずそこが大丈夫なのなら、犯人については甘噛みゾンビ事件を解決した後で考えるという手もあるだろう。

65ミザール ◆Oel2lApkiM:2015/05/08(金) 01:40:50
>「なるほど、話は理解したですよ。ところで発電所が目的地なら、安全に向かえるかも知れないですよ」

「詳しくお聞かせ願えますか、アイネ様」

 ミザールの言葉に頷き、アイネが説明する。

>「……という訳ですよ。ゾンビとの戦闘を避けるとしたら、この作戦を用いると良いですよ」

「ふむ、なるほど。しかし、そんな事まで出来るのですか……便利な物ですねぇ」

 半ば感心したかのようにミザールは言いながら頭の中で考える。

 実際、アイネとシャルルの能力は敵に回した、天使側にとっては場合十分厄介な能力と言えよう。
 アイネの操る水という液体はこの世界から切っても切り離せない物、それを操る能力なのだから厄介に決まっている。
 シャルルの能力にしても無から有を産み出す、ある意味アイネ以上に危険な能力となる。
 1から2にするのはそう難しいことではない。だが0から1を産み出すのは至難の業だ。
 たとえ産み出す物がお菓子に限定されるとはいえ、そこはシャルルの能力を侮る理由にはならない。
 そしてアイネもシャルルも恐ろしく機転が利き、この能力を存分に使いこなしている。それでいて能力を過信していない。
 自分の能力を過信しない人物ほど恐ろしい者はいないのだから。

 だが、それもあくまで敵に回した場合だ。協力を取り付けた今、頼もしさはあっても恐れることはない。

 ミザールはうっすらと笑顔を浮かべる。

>「ところで、その機械は壊したら良いのかですよ? 操作して停止させるならウェヌスを送り込む必要があるですよ」

「そうですね、操作するのにはウェヌス様と私の認証が必要です、のでウェヌス様を最深部までお連れする必要があります。
 それと、『ジャッジ』を壊すのはどうかお辞めください」

 そんな会話をしながらデビチル達とミザールは装備を整え始めた。
 シャルルとアイネは非殺傷の護身武器を中心に装備を組み立て、ミザールは特に武器に手を出さずちょっとした屈伸運動を始める。
 先ほどから遠目にも威圧的に見えていた城塞がもう間近に迫っていた。いよいよ目的地、スロウスファームが近くなる。

>「ん……ちょっと待てよ」

 シャルルがはたと手を止めて呟いた。

「いかがなさいました? シャルル様」

>「ウェヌスちゃんの能力はジャッジによって制御されてたのよね?
  それじゃあ甘噛みゾンビ事件は解決してもその後どのような影響が出るかわかったもんじゃないのでは……?
  ミザールさん、ジャッジが停止しても能力が暴走したりはないのかしら……」

 質問が終わると同時に、バスが止まる。スロウスファームに着いたようだ。
 ミザールはシャルルの質問に手で顎を触りながら答えた。

「そうですね、先ほどのアイネ様の質問では大まかに『壊さないで欲しい』と答えましたが、詳しく説明しましょうか。
 そもそもウェヌス様への能力の制限は広すぎる効果範囲を都市内部に留める事、次いで必要以上のゾンビを造らない事です。
 なので、ジャッジが停止してもウェヌス様の能力が暴走することはありません。
 むしろ事件の最中にジャッジが壊されることの方が問題です。この場合、今現在甘噛みゾンビと化している住人の治療の可能性が潰えることを意味します」

66ミザール ◆Oel2lApkiM:2015/05/08(金) 01:42:23

 ミザールはバスを降りながら説明を続ける。
 巨大な壁門前には見張りは居らず、壁の中からは呻き声が溢れていた。

「皆様に助けを請う前に我々は様々な治療法を試しました。
 しかし、分かったことは唯一つ。一度甘噛みゾンビと化してしまった者はウェヌス様を以ってしても治せません。
 ジャッジの制限を一時的に遠隔で解除し、甘噛みゾンビに直接ウェヌス様の能力を使いましたが駄目でした。
 恐らく甘噛みゾンビのウィルスに感染した者はジャッジ以外の干渉をカットされてしまっているのでしょう」

 話しながらミザールは地面に付いていた取っ手をおもむろに掴み、引き上げる。
 迷彩により隠されていた地下への入り口がゆっくりと開いていく。

「ちなみに遠隔で出来る操作にも限りがあり、大元の細かい設定はやはり直接ジャッジに行き操作するしかありません。
 なのでジャッジを壊されるわけにはいかないのですよ。ジャッジは事件解決の要の1つと思っていて下さい」

 シャルルとアイネの安全を確保する為、地下へ降りようとした二人を手で静止し、ミザールは地下への入り口の梯子に手を掛ける。

「この地下通路は都市の中心部、特別区画へと繋がっています。
 今からこの通路を使い、特区へと行き、ウェヌス様と合流します。
 地下通路は地上に比べ安全なのですが、本当に少しですがゾンビが紛れていることも、おっ、と―――」

 短い驚きの声を残してミザールの声が途絶える。
 不穏に思い地下を覗いたシャルルとアイネが見た物は、ゾンビに後ろから組み付かれているミザールの姿だった。

「はぁ、まったく、よもや説明してる最中に攻撃されるとは思いもよりませんでしたよ」

 ミザールはギョロリと視線だけでゾンビを見る。米神には青筋が浮かんでいた
 だがそんな事を気にも留めずゾンビはミザールの首筋をしっかりと甘噛み……してはいなかった。
 否、確かに首筋に噛み付いているのだが、皮膚に歯が少しもくい込んでいない。
 
 ミザールの首をよく見ればその部分だけ肌がメタリックな鈍色に変色している。

「空気が読めないにも程があります、少しは空気を読みなッ、さい!」

 言いながら首に噛み付いたゾンビを背負い上げるとそのまま勢いよく地面に叩き着けた。
 ずどん、と大きな音が響き、地面がビリビリと痺れるように振動する。

 ミザールは即座に体勢を立て直すと純白の手袋を脱ぎ捨てた。
 手袋という鞘から抜かれ現れたその拳は文字通り『鉄拳』。その拳を仰向けで倒れたゾンビの顔面に無造作に撃ちつける。
 ベニヤ板が割れるような音と水袋が弾けるような音が同時に響き渡った。

 ミザールは手に付いた血をハンカチで拭うとシャルル達を見上げ、微笑んだ。

「……今のように暗がりから急に襲いかかってくる場合もありますので、気をつけてくださいね」

67アイネ ◆ch6TRNt0B6:2015/05/12(火) 20:41:24
『ジャッジ』を停止させるにはミザールとウェヌス、二人の認証が必要らしい。もちろん壊すのも禁止だ。
ミザールは一見したところそれなりに戦えるように見えるが、ウェヌスはどうだろうか。
先ほどの映像を見た限りでは幼子のように見えるし、実戦投入は危ぶまれるだろう。
偏った能力を持つがゆえに、一般人レベルの戦闘力すら持たない事例は私も見ていた。
今回のミッションは潜入に加え護衛の任もあるということだ。油断は出来ない。

ミザールの説明を受けているうちに、猫バスはスロウスファームに到着する。
堅牢な城壁の向こうからは、かすかにゾンビたちの呻き声。その数は計り知れない。
ミザールが隠されていた取っ手を引き上げると、そこには地下へ続く入り口があった。
そのまま流暢に説明を続けるミザールは、地下への梯子に手を掛ける。

>「この地下通路は都市の中心部、特別区画へと繋がっています。
 今からこの通路を使い、特区へと行き、ウェヌス様と合流します。
 地下通路は地上に比べ安全なのですが、本当に少しですがゾンビが紛れていることも、おっ、と―――」

不意に途切れるミザールの声。何事かと思い地下への入り口を覗き込むと、ミザールがゾンビに組み付かれていた。
ゾンビはミザールの首筋をしっかりと甘噛みしている。まさか、感染した!?

>「はぁ、まったく、よもや説明してる最中に攻撃されるとは思いもよりませんでしたよ」

否、ゾンビの牙はミザールに届いてはいなかった。よく見ると、ミザールの首筋が金属色に変化している。

>「空気が読めないにも程があります、少しは空気を読みなッ、さい!」

そのまま大きく背負い投げ。組み付いていたゾンビが体から離れ、地面に強く叩き付けられる。
とどめとばかりにミザールは手袋を脱ぎ捨てると、やはり金属のように変化した拳で顔面を打ち抜いた。
どうやらミザールの能力は「肉体の任意の部分を金属に変換する」ことのようだ。
肉体そのものが完璧な防具であり武器になる訳である。ゾンビに遅れを取ることはないだろう。

>「……今のように暗がりから急に襲いかかってくる場合もありますので、気をつけてくださいね」

いくら少数だろうとは言え、暗がりからのゾンビの不意打ちは危険だろう。
得てしてゾンビは鼻が利くという。あちらにとっては暗がりは問題ではないのだ。

「明かりが必要ですよ。ちょっと待って」

そう言いながら、懐から違う種類の二本のアンプルを取り出す。
そこからぬるりと液体を取り出すと、二つの液体を混合して宙に浮かべてみせた。
ふわりと浮かび上がった液体の玉は、やがて淡い光を放ち始める。

「シュウ酸ジフェニルと過酸化水素、要するにケミカルライトですよ」

ケミカルライトは長時間の発光に加え、発熱や引火性もなく、酸素の消耗もない。
別に一般に売られているケミカルライトでも良いのだが、私には液体として取り出せるように持ち運ぶほうが便利なのだ。
こうして自由に操作できる上、粘性を持たせて壁に塗ったり敵にぶつけたり。まぁ色々と使い勝手が良くなる。
ちなみに独自で成分を調合しているので、その輝きは普通のケミカルライトより明るい。
そんな明かりを先行させつつ、ミザールを先頭に暗い地下道を降りてゆく。
すると、かすかに聞こえるゾンビの呻き声。声からして数体ほどいるようだ。

「ホント、どこにでも湧いてうっとうしいゾンビ共ですよ」

そう言いつつ、明かりを分裂させて索敵を行う。見つけた敵は二体、すぐそこまで迫っていた。
私は腰に差した電磁警棒を引き抜くと、そのうち一体の懐へ飛び込む。
その勢いのままバットを振る要領で、下から顎を打ち抜いた。
闇の中で一瞬、電磁警棒の青白い閃光がバチバチと音を立てて瞬く。
100万ボルトの電流はゾンビの体を駆け巡り、その神経網を過度に刺激する。
ゾンビといえど元は人間だ。神経が体を制御している以上、効果は十分に発揮される。
筋肉が強制的に収縮され、身動きの取れなくなったゾンビはその場に崩れ落ちた。

「やれやれ、地上にはこんなのがわんさかいると思うとうんざりするですよ」

68シャルル ◆HTcbo8CpC2:2015/05/16(土) 02:23:48
そんなこんなでスロウスファームに到着したアタシ達。
なんか街に入る前からいかにもな呻き声が聞こえてくるんですけど……。

>「この地下通路は都市の中心部、特別区画へと繋がっています。
 今からこの通路を使い、特区へと行き、ウェヌス様と合流します。
 地下通路は地上に比べ安全なのですが、本当に少しですがゾンビが紛れていることも、おっ、と―――」

「いやいやいや、本当に少しかよ!?」

金属化能力でゾンビ化を回避したミザールさんは、ゾンビ相手に華麗な大立ち回りを演じる。

>「……今のように暗がりから急に襲いかかってくる場合もありますので、気をつけてくださいね」

「え、ええ……。身を持った解説をありがとう」

金属化できるミザールさんとは違い、アタシ達は組付かれたら一巻の終わりだ。
さてどうしよう、と思っていたらアイネが明かりを点けてくれた。
液体を操る能力でこんなことまで出来るとは侮れない。
彼女は現れたゾンビを鮮やかな電磁警棒捌きで気絶させた。

>「やれやれ、地上にはこんなのがわんさかいると思うとうんざりするですよ」

気絶したゾンビに起き上がる気配はない。
ゾンビ化しているとはいえ、丈夫さ等は元の人間仕様のようだ。
それなら……感覚器等も人間仕様だろうか。

「えいっ」

もう一体のゾンビにパイ生地を飛ばして顔に張り付けた上で、足元に豆菓子をばらまく。
突然視界を奪われパニクったゾンビは期待通りに足を滑らせてすっころんだ。
この調子なら、不意打ちで組付かれさえしないように気を付ければどうにかなるかもしれない。

「ところで……特区にはゾンビは入ってないのよね?」

ミザールさんがここにいるということはウェヌスちゃんは今側近無しで留守番してるわけで……。
迎えにいったもののウェヌスちゃんがゾンビ化してましたではシャレにならない。

69ミザール ◆Oel2lApkiM:2015/05/25(月) 23:58:22
>「シュウ酸ジフェニルと過酸化水素、要するにケミカルライトですよ」

 淡い光が地下に満ちる。アイネがその能力で液体を調合し作りだしたのだ。

「ほう、これはお見事」

 液体を操る能力だけではこのような芸当は出来はしない。
 アイネ自身にも相当量の知識、そして経験が必要とされる。

 さらに流れるような動きでゾンビを仕留めていく悪魔の2人にミザールは感嘆の声を上げる。

「重ね重ね、お見事です。貴女達を敵に回さなくて本当に良かった」

 言いつつミザールもゾンビを次々に戦闘不能にしていく。
 掌で、足先で、ゾンビの目元を打ち姿勢を崩し、足を払い転倒させ、手刀、足刀で首をへし折っていく。
 先ほどのような荒々しい動きではなく流水のような最小限の動きで。

「時に言い忘れていましたが、地下にいるゾンビは殆どがウェヌス様製のゾンビ……、つまり死体です。
 最悪壊してしまっても問題ありませんので、手加減などなさらぬよう。手加減して感染など笑い話のもなりませんので」

 他愛のない会話をしながら一行は地下通路を進んでいく。
 たまに現れるゾンビを軽く捌きながらちょうど中間地点に着いた時、アイネがぼやいた。

>「やれやれ、地上にはこんなのがわんさかいると思うとうんざりするですよ」

「同感です。しかし、ウェヌス様と合流を果たすには地上に必ず出なければならない、難儀な物です」

>「ところで……特区にはゾンビは入ってないのよね?」

 アイネのぼやきに反応を返すとシャルルが疑問を口にした。

「いえ、残念ながら特区にもゾンビは溢れています。ですがウェヌス様が居る場所は私達天使の居住兼執務場のイリス城です。
 確かに100%安全とはいい難いですが、少なくともゾンビどもにおいそれと破られる城ではございません」

 それに、とミザールは言葉を付け加える。

「ウェヌス様には私の他にも戦闘型ゾンビの親衛隊に守られております。無論、甘噛みされておりませんので無害です。
 仮に城の門が破られたとしても甘噛みゾンビや人間相手ならば1ヶ月は持ち堪えることが出来るでしょう」

 地下通路は到着地点へと近づきつつある。
 ミザールは一端歩みを止め、シャルルとアイネを振り返る。

「そろそろ到着地点です。この上は城前広場、イリス城へ行くにはまっすぐ走って約10分といった所です。
 さて、先程も言いましたが此処から先へは地上に出ないと進めません、しかし、地上にはゾンビが腐るほどいます。
 ので、私が先に出て囮となりましょう。幸い私の能力はゾンビに対してほぼ無敵です、私が多数のゾンビを引き付けてる間に城まで走ってください。
 いいですか、全速力で、です。あとは前にいるゾンビを倒すことだけに集中してください。
 4,5分走ればイリス城からの支援があります。そこまで行けば危険は格段に下がる筈です」

 ミザールは梯子に手を掛ける。

「さて、準備がよろしければ行きますが、大丈夫ですか?」

70ミザール ◆Oel2lApkiM:2015/05/26(火) 00:00:23
―――一発電所地下最深部――――

 ジャッジに繋がれた複数のモニターが淡い光を放つ。
 地下に隔離された発電所の最深部の広い部屋に存在する光はそれしかなかった。

 そんな暗闇の世界にソイツは居た。
 簡単に言うならば『今回の事件の犯人』だ。

 ぐちぐち、がりがり、と肉を咀嚼する音と骨を噛み砕く音が地下に響き渡る。
 ソイツは無数の肉塊を椅子とし鎮座する。片手に腐肉を、片手に巨大な剣を。
 その剣はソレの背丈を上回り、剣というよりも巨大な鉄塊と言っていい。

「肉肉にくにくにくにく、ああ、腐った肉はああきたきたにくにくあぁお肉食べたい」

 ぼそぼそと呟きながらも腐肉を齧るのを止めはしない。

「にくにくにくにくあたらしい肉、おにくにくににく……あ、あ、あ、悪魔の肉」

 ソイツは淡い光に照らされ、悪魔を待つ。

71アイネ ◆ch6TRNt0B6:2015/05/29(金) 21:29:33
>「時に言い忘れていましたが、地下にいるゾンビは殆どがウェヌス様製のゾンビ……、つまり死体です。
 最悪壊してしまっても問題ありませんので、手加減などなさらぬよう。手加減して感染など笑い話のもなりませんので」

「なら手加減はいらなかったですよ。なるほど、確かに腐臭がするですよ」

そう言いつつ、襲い来るゾンビに対し今度は手加減抜きで電磁警棒を振る。
もったいないので電源は切ってある。しかしそのスイングは、今までとは桁違いに強暴だった。
首筋に一撃、それだけでゾンビは動かなくなる。首の骨を的確に破壊したのだ。
アイネは能力こそ戦闘向きではないが、本人そのものの戦闘能力は極めて高い。
あらゆる武器や体術を使いこなし、一騎当千の実力を持つ優秀な兵士なのだ。

ミザールの話によると、この先地上に出た地点には大量の甘噛みゾンビがいるらしい。
しかし難攻不落の要塞である城にまでは、ゾンビの手は及んでいないとのこと。
数で攻めるゾンビたちを相手取るより、城まで何とか走り抜けたほうが安全だろう。
いくら戦闘能力が高くても無敵ではない。ミザールのように防御に優れている訳でもないのだから。

>「そろそろ到着地点です。この上は城前広場、イリス城へ行くにはまっすぐ走って約10分といった所です。
 さて、先程も言いましたが此処から先へは地上に出ないと進めません、しかし、地上にはゾンビが腐るほどいます。
 ので、私が先に出て囮となりましょう。幸い私の能力はゾンビに対してほぼ無敵です、私が多数のゾンビを引き付けてる間に城まで走ってください。
 いいですか、全速力で、です。あとは前にいるゾンビを倒すことだけに集中してください。
 4,5分走ればイリス城からの支援があります。そこまで行けば危険は格段に下がる筈です」

「了解ですよ。シャルル、私は先陣を切るので横からの攻撃の防御をお願いするですよ」

そう言って電磁警棒を改めて握りなおす。更に、粘性のある濃い色の、色とりどりの液体を宙に浮かべた。

>「さて、準備がよろしければ行きますが、大丈夫ですか?」

「もちろんですよ、いつでも行けるですよ!」

ミザールを先頭に梯子を上り、地上へと飛び出す。
先陣を切ったミザールにゾンビの注意が向いたため、アイネとシャルルは安全に地上へと出ることが出来た。
そのままミザールが示したほうへ全力疾走する。ゆっくりしていると囲まれてしまうため、とにかく足を動かした。
進路上にいたゾンビには、液体を目に向けて飛ばし、視力を奪う。
液体は何のこともない、ただの絵の具である。一応無害な代物だ。
だが視力を奪ったゾンビは適当に転ばせるだけで無力化出来る。シャルルを見習った攻撃なのだ。
邪魔なゾンビは電磁警棒でかっ飛ばし、とにかく道を切り開く。
前方だけを意識した少々無茶な突貫だが、シャルルの援護のためそれに集中する事が出来た。

72シャルル ◆HTcbo8CpC2:2015/06/01(月) 20:45:56
>「そろそろ到着地点です。この上は城前広場、イリス城へ行くにはまっすぐ走って約10分といった所です。
 さて、先程も言いましたが此処から先へは地上に出ないと進めません、しかし、地上にはゾンビが腐るほどいます。
 ので、私が先に出て囮となりましょう。幸い私の能力はゾンビに対してほぼ無敵です、私が多数のゾンビを引き付けてる間に城まで走ってください。
 いいですか、全速力で、です。あとは前にいるゾンビを倒すことだけに集中してください。
 4,5分走ればイリス城からの支援があります。そこまで行けば危険は格段に下がる筈です」

“ゾンビ”が”腐る”ほどいます、とはなかなか秀逸なギャグであるが、今はそれどころではない。
しかも地上のゾンビはまだ腐ってない人間なので、非殺傷が大前提となる。
走って10分って全速力で走って10分て意味なのか?
あれ? それってちょっとした持久走を全速力で走る計算になるぞ?
しかも「ここは俺に任せて行け!」って不吉なフラグなのでは!?
いや、漫画じゃあるまいしそこはミザールさんの能力から言って普通に大丈夫だとは思うけど……。

>「了解ですよ。シャルル、私は先陣を切るので横からの攻撃の防御をお願いするですよ」

……ああ、今猫バスがあったらなあ。

>「さて、準備がよろしければ行きますが、大丈夫ですか?」

……あいつ図体でかいから地下は通れないんだよなあ。

>「もちろんですよ、いつでも行けるですよ!」

……もはや行くしかない状況に追い込まれているのであった。

「ミザールさんオタッシャデー!!
ひええええええ! わらわら寄ってくるんじゃなあい! ハードグミ弾幕射撃――!!」

ミザールさんへ暫しの別れを告げ、走り出す。
前方を切り開く時の一点集中とは違って、横からの茶々を防ぐには広範囲を適当に……
もとい威力よりも攻撃範囲を優先するのがセオリーとなる。
ハードグミをシューティングゲームのように放射状にばらまく。
当たってもかなり痛いというだけなので一時足が止まるだけだが、今の目的は倒す事ではないのでそれで十分だ。

73ミザール ◆Oel2lApkiM:2015/06/09(火) 02:09:57
>「もちろんですよ、いつでも行けるですよ!」

 アイネの言葉に頷くと、ミザールは扉に手を掛ける。
 一瞬、扉が抵抗を見せるがゆっくりと持ち上げられていく。
 ミザールは梯子を一気に駆け上がり、目の前にいるゾンビを殴り飛ばす。

 突然の強襲にまわりのゾンビの意識は釘付けとなった。
 自らの存在を誇示するように鉄と化した両拳を打ち鳴らし、ミザールはゾンビの群に突撃する。

>「ミザールさんオタッシャデー!!
  ひええええええ! わらわら寄ってくるんじゃなあい! ハードグミ弾幕射撃――!!」
 
「はい、皆様もご武運を。イリス城で会いましょう!」

 恐らく聞こえてはいないと、理解しつつミザールはシャルルに言葉を返す。
 言葉が終わるのと、ゾンビの群に殴り掛かるのはほぼ同時だった。

 ゾンビの真の恐怖とは何だろうか、耐久性? 感染力? 確かにそれらも恐ろしい。
 だが、本当の恐ろしさは感情が無い事、そして集団で行動するということだ。
 いくら何千のゾンビを倒したところで感情の無いゾンビは怯まない。士気の低下もしない。
 ゾンビはゾンビを踏み越え、ただひたすらに獲物に集団で襲い掛かる。
 何千何万のゾンビの群、死を恐れることなく、目の前の脅威に怯むことなく、シャルルとアイネに襲い掛かり続ける。
 しかも、アイネとシャルルには『殺してはいけない』という制限がついてる。

 土台無理な話だったのかもしれない。
 10分間、全力疾走で、数万のゾンビの群を、殺さずに、突破することなど。
 四方八方からのゾンビを避け続けることなど出来やしない、そもそも物量的に無理な話だ。
 相手は数万、悪魔は2人、最初から分かりきっていたことなのだ。

 アイネとシャルルは既に前に進めていない、ゾンビという名の厚い壁に囲まれている。
 まだ甘噛みされていないのが奇跡と言う状況だ。だがもう後10秒もすればアイネとシャルルもゾンビの仲間になるのは目に見えていた。
 だが、褒めるべきなのだろう、『数分間』、前に進めたこの事実を。そう、土台無理な話だったのだ。

 だが、それはあくまで10分間、というの時間だった場合の話だ。

74ミザール ◆Oel2lApkiM:2015/06/09(火) 02:11:41
「筒先揃え! 狙ってぇ……撃ってぇーーーーーー!」

 怒号のような命令の後、雷鳴のような轟音が鳴り響いた。
 その瞬間、シャルルとアイネを囲んでいたゾンビがバタバタと倒れていく。
 ある者は身体をくの字に折り、吹っ飛び。ある者は殴り飛ばされたかのように、宙を舞う。
 シャルル達の足元には握りこぶし程度の非致死性のゴム弾が転がっている。

「第二射! 狙ってぇ……ってぇーーーーーー!」

 再び轟音が鳴り響き、シャルル達を閉じ込めていた囲いが完全に崩壊した。
 ゾンビの囲いから開放され、既にイリス城を細かに視認出来るまでの距離にいたシャルルとアイネはその光景を見る。
 イリス城のテラスの至る所に大きな狙撃銃を構えた人間(?)がひしめいており、そして中央のテラスには拡声器を持ったウェヌスがいた。

「弾込め用意! 同時に開門! 完全装甲ゾンビちゃん! 行っちゃってー!」

 開いた門から我先にと溢れ出して来るのは全身鎧のゾンビの群。
 喧しい程の金属音を鳴り響かせ、鎧のゾンビは甘噛みゾンビに襲い掛かる。
 殴り、蹴り、絞める、おおよそ死なない程度の暴力を甘噛みゾンビ達に振るい続けた。

 シャルルとアイネの前にはモーゼの奇跡よろしく綺麗に真っ二つに割れたゾンビの群、その先には開いた門。

「あ、悪魔さんたちー! 急いで急いで! はやくはやくはーやーくー! 危ないからはーやーくー!」

 ウェヌスがテラスから拡声器でシャルルとアイネを急かす。
 その反応からするに今の状況が長くは続かないことを意味していた。

75アイネ ◆ch6TRNt0B6:2015/06/12(金) 20:46:18
数の暴力とはまさにこのことだろう。身を守ることは辛うじて出来ているものの、次第に前に進む事が困難になってきた。
足を止めてはいけない。そうは分かっていても、目の前のゾンビたちを相手にするのが限界であった。
手加減をして攻撃している事がそれに拍車をかけていた。相手は治療すれば元に戻る人間なのだから。
視界をつぶしても、気配だけで追いすがろうとしてくる。電撃だって一時しのぎでしかない。
やがて足は止まり、このままでは数に押されてしまう……そう観念しかけたそのときだった。

>「筒先揃え! 狙ってぇ……撃ってぇーーーーーー!」

怒声、そして轟音が響き渡る。
それと同時に、私たちを囲んでいたゾンビたちが吹き飛ばされたのが確認出来た。
ふと地面を見ると、大粒のゴム弾が転がっている。ゾンビたちはこれにやられたのだろうか?

>「第二射! 狙ってぇ……ってぇーーーーーー!」

今度こそ、分厚いゾンビの壁が決壊する。
イリス城までの視界が確保され、そこで銃を構えた者たちと堂々とした立ち振る舞いのウェヌスが見えた。
ぎりぎりではあったが、どうやら私たちは援軍に救われたようだ。

>「弾込め用意! 同時に開門! 完全装甲ゾンビちゃん! 行っちゃってー!」

堅牢な門が開かれ、中から鎧を纏ったゾンビがあふれ出す。
鎧ゾンビは甘噛みゾンビを押し分け、見る間に城への道が切り開かれていく。
それにしてもゾンビに鎧を装備させるとは、恐ろしい戦術である。
タフで量産の利くゾンビに装甲を与える事で、無敵の軍勢となることだろう。

>「あ、悪魔さんたちー! 急いで急いで! はやくはやくはーやーくー! 危ないからはーやーくー!」

とにかく道は切り開かれた。再び道が埋まる前に、ここを潜り抜けなければ。

「シャルル、それにミザールも陽動は十分だから走るですよ!」

走りながら、時々道に出っ張ってくるゾンビを警棒でかっ飛ばして行く。
通常の相手なら脳を揺らされ意識が混濁する一撃だが、それでもゾンビ相手だと効果は薄い。
打撃の衝撃でダメージを狙うのではなく、相手を一歩でも退かせる一撃を狙う。
少しコツが分かると、道を切り開くのが多少は楽になった。

走りに走って、ようやく城にたどり着いた瞬間、背後で扉が閉じる。
ゾンビに甘噛みされる事もなく、二人とも無事に到着することは出来たようだ。
私はバルコニーから援護射撃をしてくれたウェヌスに声を掛ける。

「はじめまして、デビチルのアイネですよ。まずは援護を感謝ですよ」

相手は天使であるが共闘を誓った仲である。こちらに敵意がないことを示すため、とりあえず握手を求めた。

76シャルル ◆HTcbo8CpC2:2015/06/15(月) 21:47:20
ゾンビの壁に取り囲まれ、アタシは究極の決断を迫られていた。
いくら集団とはいえ身体能力自体は人間と同程度なら、魔人化すればこの場を切り抜けるのは不可能ではない――
どころか容易いといえるだろう。
しかし、魔人化時の能力はは普段の能力とは対照的に相手を屠る事に特化している。
魔人化した以上相手を殺さずに戦うのは不可能だろう。
デビチルが救うべき人間を屠るなどあっていいはずがない、しかしここでアタシ達が甘噛みゾンビ化したらこの街の人間は全員助からないのだ。
正解の存在しない難問は――アタシが苦し紛れの回答を出す前に、思わぬ手助けによって解かれたのだった。

>「筒先揃え! 狙ってぇ……撃ってぇーーーーーー!」
>「第二射! 狙ってぇ……ってぇーーーーーー!」

力強い、だけど幼い少女の声が響き渡り、非致死性の砲撃でゾンビが吹き飛ばされていく。
続いて鎧を纏ったわらわらとゾンビが出撃してきた。

「やれやれ、間一髪……ってところね」

>「あ、悪魔さんたちー! 急いで急いで! はやくはやくはーやーくー! 危ないからはーやーくー!」
>「シャルル、それにミザールも陽動は十分だから走るですよ!」

「安心するのは少し早いようね、もうひと頑張りといきましょうか」

相変わらずハードグミでゾンビ避けをしながらなんとか城に到着する。

>「はじめまして、デビチルのアイネですよ。まずは援護を感謝ですよ」

「同じくデビチルのシャルルよ、大体のことはミザールさんから聞いているわ。
アタシ達があなたをジャッジの元へお連れします。
……ってかミザールさんいる……?」

いなかったらどーしよう、と恐る恐る辺りを見回す。
自分たちの事に手いっぱいで気にする暇がなかったが、果たして彼は無事に辿り着いているのだろうか!?

77ミザール ◆Oel2lApkiM:2015/06/26(金) 01:51:42
 無事に修羅場を潜り抜けた先には七色の花が大きな庭園が広がっていた。
 庭園の手入れ専門のゾンビ達が黙々と花の管理や水遣り、剪定を行っている。
 城の外とはまるで別世界のような光景だった。

 庭園にバルコニーから指示を出していたウェヌスがふわふわと舞い降りる。

>「はじめまして、デビチルのアイネですよ。まずは援護を感謝ですよ」

>「同じくデビチルのシャルルよ、大体のことはミザールさんから聞いているわ。
  アタシ達があなたをジャッジの元へお連れします」

 降りてきたウェヌスにアイネが手を差し出す。それに次いでシャルルも言葉を紡ぐ。

「…………じー……」

 だが、ウェヌスはその手を握り返すことも言葉に応えることもせず、アイネとシャルルの差し出した手と顔を交互に見る。
 次第に顔と手だけではなく、彼女達を観察しながらそのまわりをくるくると回り始める。
 まるで珍しいものを見る子どものように。

「……おー? おー、おー! わー! 凄いホンモノだ! 本物の悪魔さんだ!」

 そして途端に興奮気味に、はしゃぎ出した。

「わーわー、本当だ! 本当に来てくれたんだぁ! わぁ! 嬉しいな嬉しいな!」

 くるくるとその場で踊るように回りながら、全身で喜びを表現する。
 先程の援護射撃の時とは大違いのその様子にアイネとシャルルに若干の動揺が走ったように見えた。

>「……ってかミザールさんいる……?」

「ミザール! ホントありがとうねぇ! グットジョブだよ! いい仕事だよ!」

 動揺から抜け出したシャルルの言葉とウェヌスがミザールに対し賞賛の言葉を浴びせたのは殆ど同時だった。

「お褒めに与り、私、ミザール、感激の極み、恐悦至極でございます」

 果たしてミザールは当然のようにそこに居た。
 所々執事服が破れているものの、その他は一切の無傷であった。

「しかしウェヌス様、お行儀がよろしくありません。感激するのも結構ですが、まずは挨拶です。練習したでしょう?」

 ミザールがそう言うと、そうだった、と、ウェヌスは慌ててアイネとシャルルに向き直る。
 アイネの差し出された手を両手で掴み、満面の笑顔で上下に激しく振る。

「えー、私はウェヌスといいます! このスロウスファームの領主をしています!
 今回はご協力、本当に感謝です! ありがとうございます! あー、えー……あ、あとなんだっけ?」

 アイネの手を握ったままミザールに助けを求めるウェヌス。
 それをにっこりと笑顔でミザールはバトンを受け取り言葉を繋ぐ。

「はい、とりあえずシャルル様、アイネ様、お疲れでしょう。
 詳しい話は城内で、ゆっくりとお食事でも取りながらいかがですか?」

 そう言って先頭に立ち、城へと促し歩き出すミザール。
 笑顔でシャルルとアイネの手を引っ張り連れて行こうとするウェヌス。
 半ば引き摺られる様に2人に案内されるシャルルとアイネ。

 大きな庭園を抜けた先に大広間へと繋がる大扉あった。

78ミザール ◆Oel2lApkiM:2015/06/26(金) 01:54:30

「あけてー! 悪魔さん達が来たよー! 扉あけてー!」

 ウェヌスが明るくそう言うと、扉前の武装したゾンビ達が大扉を開く。
 扉が完全に開いた瞬間、割れんばかりの拍手と歓声がアイネとシャルルに送られた。

 それは大広間にいる大勢の人間から送られたものだった。おそらくこの事態に城に逃げてきた避難民であろう。
 普段はこのイリス城の部屋が与えられているのでそこで過ごしているが、悪魔が来たとの騒ぎを聞いて大広間に集まってきたのだ。

「おー、凄いね悪魔さん! 皆悪魔さん達のこと大歓迎だって!」

 ウェヌスが嬉しそうに顔をほころばせて言う。

「ふむ、私達は貴女達が来るとは知らせていなかったのですが、大したものですねぇ」

 ミザールは悪魔のネームバリューに感心したかのように呟く。
 万雷の拍手と喝采を受けながら、大広間を抜けようとしたとき、拍手と喝采に混じって僅かに声が聞こえた。

『都市が開放されたら私達の自由は無くなるの?』
『またあの悪夢のような時代に戻るのか』
『このままでいい、この幸せな都市を壊して欲しくない』
『またあの頃に戻るのなら、ゾンビどもに囲まれてた方がマシだ』
『余計なことはしないでくれ、この都市を開放しないで』
『帰れ悪魔、帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ』

 その僅かな声にミザールが顔を曇らせ、ウェヌスが頬を膨らませ怒ろうとした瞬間。

「五月蝿いんじゃあ己等! なんじゃあやるっちゅうんか!? ワシ等とやるっちゅうんかい! おお!?」

 突如、大広間に怒声が響いた。
 ショットガンを肩に担ぎ、数多の舎弟を背に、素肌に黒のロングコートを着用した男がウェヌス達の正面、大広間の階段から降りてくる。
 左目には黒の眼帯、見る者を威圧するガチガチのリーゼント、いかにもなヤクザ的口調、個性は揃いに揃っている。

「そもそも己等何もしとらんだろうが! この城の防衛しとるんは、ワシ等、キジンファミリーとウェヌスの姉御とミザールの兄貴だけだろが!
 己等は食って、だらけて寝て、己の都合の悪い事になったら文句垂れる。楽な仕事じゃのぉ、えぇ?
 それだけならまだしもなぁ、助けに来てくれた悪魔の姐さん方に文句抜かすとはなにごとじゃあコラ!」

 大広間は彼らの登場に気まずそうに一斉に静まり返った。

「あー、キジンさん、対空防衛ありがとうございました! お疲れ様です! お陰で悪魔さん達をお迎えできました!」

 しかし、その気まずそうに静まった空気を読まずにウェヌスはキジンと呼ばれた男に声を掛ける。

「いえいえ、いいんですよって。ワシ等の仕事ですから。ウェヌスの姉御、ミザールの兄貴、お疲れ様です。
 そして悪魔の姐さん方、お疲れ様です。よくおいで下さいました」

 言いながらキジンは膝に手を当て、頭を下げる。

「手前、キジン・タツノと申します。イリス城の防衛に当たらせてもらってやす。
 以後お見知りおきを。ささ、食事の準備が出来ていますのでどうぞこちらへ」
 
 キジンに先導され、通された食堂では豪華絢爛な料理が用意されていた。
 緊急時に贅沢しすぎなのでは、という当然の疑問にミザールは、なんら問題ない、毎日パーティーを開いても1年は持つ、とのこと。

「当城の料理人達が精魂込めて用意しました、どうぞご賞味下さい。
 そして何かご質問や疑問があればどうぞ、ウェヌス様に直接お聞きしたいことでもかまいません」

「うぇー、難しい話は許して欲しいなぁ」

そうして宴が始まった。

79アイネ ◆ch6TRNt0B6:2015/06/30(火) 19:12:56
たどり着いた城内には、煌びやかな庭園が広がっていた。どうやらここもゾンビによる自動管理らしい。
思わずその光景に目を奪われたが、とりあえず降りてきたウェヌスと挨拶を交わす。
しかしウェヌスは差し出した手も取らず、何故かこちらを観察している様子だ。

>「……おー? おー、おー! わー! 凄いホンモノだ! 本物の悪魔さんだ!」

>「わーわー、本当だ! 本当に来てくれたんだぁ! わぁ! 嬉しいな嬉しいな!」

まるで見たままの子供のようにはしゃぐウェヌスを、私たちは呆れたように見つめる。
これはどういう反応を返せば良いのだろう? 思わぬ行動に暫し固まっていると

>「……ってかミザールさんいる……?」

>「ミザール! ホントありがとうねぇ! グットジョブだよ! いい仕事だよ!」

>「お褒めに与り、私、ミザール、感激の極み、恐悦至極でございます」

ミザールは何事もなかったかのように戻っていた。服は少々破れているが、外傷はないようだ。
あれだけの修羅場を潜り抜けてその様子とは大したものだ。敵に回さなくて本当に良かったと思う。

>「しかしウェヌス様、お行儀がよろしくありません。感激するのも結構ですが、まずは挨拶です。練習したでしょう?」

そう窘められると、ウェヌスは私たちを振り返り、差し出したままだった手を取った。

>「えー、私はウェヌスといいます! このスロウスファームの領主をしています!
> 今回はご協力、本当に感謝です! ありがとうございます! あー、えー……あ、あとなんだっけ?」

>「はい、とりあえずシャルル様、アイネ様、お疲れでしょう。
> 詳しい話は城内で、ゆっくりとお食事でも取りながらいかがですか?」

「それはありがたいですよ。出来れば水だけでも頂ければ感謝ですよ」

そう返すと、先頭を歩くミザールと、私とシャルルの手を取り引っ張るウェヌス。
彼らに導かれ庭園を抜けると、そこには巨大な扉があった。

>「あけてー! 悪魔さん達が来たよー! 扉あけてー!」

その声に従い、門番と思われるゾンビが重そうな扉を開く。
待ち受けていたのは、驚くほどの拍手と歓声による出迎えだった。

「これは……皆避難民なのかですよ?」

巨大な城だとは思ったが、ここまでの人間を収容出来るとは素直に驚いた。
余程の生活空間と食糧の貯蔵がなければ、これほどの避難民の収容など出来るはずもない。
この都市のほとんどの住人がゾンビ化してしまったとはいえ、これほどの人数が助かっている事に安堵を覚えた。
しかし、拍手喝采の中に紛れ込む悪魔に対する不信、不満は見て取れた。
機会があれば彼らに私たちの活動の理念を話すべきであろう。誤解があったままではいけない。
不満の声が飽和し、それが弾けそうになった瞬間、突如として怒声がそれを遮った。

80アイネ ◆ch6TRNt0B6:2015/06/30(火) 19:14:29

>「五月蝿いんじゃあ己等! なんじゃあやるっちゅうんか!? ワシ等とやるっちゅうんかい! おお!?」

黒のロングコートに眼帯、リーゼントで他者を圧倒するような気配を纏った男の声だ。
どうやら先ほどの援護射撃を手伝ってくれていたのは彼ららしい。彼の配下と思われる者たちも付き従っている。
その怒声は広間の人間たちを咎め、威圧する事で不満をかき消していた。
残ったのは漫然とした不満の残滓だけ、大広間は驚くほど静まり返っていた。

>「あー、キジンさん、対空防衛ありがとうございました! お疲れ様です! お陰で悪魔さん達をお迎えできました!」

微妙になった空気をひっくり返したのはウェヌスの声。キジンと言うのはリーゼントの彼の事だろう。
本当に彼には世話になったと思う。あの援護射撃は非常に正確で、よく訓練されたものだと感じた。
ウェヌスのねぎらいの言葉を受けたキジンは、私たちに対し恭しく頭を下げる。

>「手前、キジン・タツノと申します。イリス城の防衛に当たらせてもらってやす。
> 以後お見知りおきを。ささ、食事の準備が出来ていますのでどうぞこちらへ」

「その前に、言っておかなければならないことがあるですよ」

私は案内するキジンの言葉を遮ると、大広間に集った人々に向き直った。
そして、あらん限りの大声で宣言するように言い放つ。

「皆様、私はデビルチルドレンのアイネと申すですよ。皆様にはひとつ誤解があるようなので言っておくですよ。
 私たちは確かにこの都市の開放が目的ですよ。しかしそれは現在の体制を覆すものではなく、あくまでゼウスの管理から救う事ですよ。
 解放後も出来る限りウェヌスたちの統治はそのままに、これからは他の開放した都市との交流が出来るよう計らうですよ」

言い終えた私は周囲の反応を窺いつつ一息つく。これで誤解は解けただろうか?
都市の開放は出来る限り幸せなものでなければならない。良いものはそのままに、新しい風を吹き込むのだ。
そのためには、他の都市との交流、団結が必要になると私は思っている。
ゼウスの統治はまちまちだが、共通点として人間たちの勢力が大きくならないよう、都市間の交流を禁じている。
人間の強さとは他者との団結による群隊としての強さである。人が集まれば、それだけ強くなるのだ。
都市を開放するばかりではなく、その都市間に交流をもたらす事が出来れば、人間たちは強さを発揮するだろう。
現に、例えばアキヴァなどの街で開発された技術は他の都市にも流通しているらしいのだから。

81アイネ ◆ch6TRNt0B6:2015/06/30(火) 19:15:03



避難民の人間たちに宣言をした私は、身を翻し振り返ることなく食堂へと移動した。
たどり着いた広い食堂には、豪華な食事が並んでいる。篭城中にしては豪華過ぎないだろうか?
その疑問に、ミザールはここの備蓄食糧がどれほどのものか語ってみせる。
まぁこの調子で一年も持つなら、多少の贅沢も許されるだろう。
とりあえず席に着くと、私は飲み物は酒類やジュースではなく、とりあえず水が欲しいと要求する。

>「当城の料理人達が精魂込めて用意しました、どうぞご賞味下さい。
> そして何かご質問や疑問があればどうぞ、ウェヌス様に直接お聞きしたいことでもかまいません」

>「うぇー、難しい話は許して欲しいなぁ」

「ありがとう、いただくですよ」

そうしてまず、給仕に持って来させた水を一口呷る。うむ、美味しい。
新しい土地に来たらまず水の味を確認するのが恒例であるが、ここの水は酒の原料に向いていると思われる。
この土地のエールはどんな味がするだろうと思いつつ、食事に手をつける。ちなみに年齢のことは気にしてはならない。
食事の手を休めぬまま、私はウェヌスに尋ねた。

「あなたはその、幼く見えるが……戦闘能力は多少なりともあるのかですよ?
 それによって私たちの護衛の仕方も変わってくる故、確認したいですよ」

ある程度自衛が出来るなら護衛に専念するのはミザールだけで十分であろう。
しかしこの幼女、能力がゾンビの作成と言うこともあり、とても戦闘向けには見えない。
この先の潜入、突貫を考えると、とてもゾンビたちは連れて行けないだろう。

「作戦としては、ゾンビによる陽動で発電所入り口に戦力を集中させ、その隙に潜入するのが得策と思われるですよ。
 必要なのはウェヌスの陽動と、あとは詳細な見取り図……出来れば設計図の青写真が欲しいところですよ。
 その辺の作戦をどう考えているのか、ぜひ聞かせて頂きたいところですよ」

やることは単純明快だ。潜入し、ジャッジを復旧させる、そして親玉をぶっ飛ばすのだ。
言ってしまえば簡単だが、おそらくジャッジ本体の周辺には警備が厚く張られている事だろう。
それをこの少人数で突破し確保するのだから、乱戦になることを覚悟する必要がある。
ついでに装備を見直すことも検討しなければならないかも知れない。殺さずに無力化させるのは骨が折れるのだ。

82シャルル ◆HTcbo8CpC2:2015/07/04(土) 22:00:12
>「わーわー、本当だ! 本当に来てくれたんだぁ! わぁ! 嬉しいな嬉しいな!」

見た目は幼女!中身も幼女!その名はスロウスファーム領主ウェヌス!
しかも幼女は幼女でも大きいお友達が狂喜乱舞しそうなかなり理想的なフォルムの萌え幼女である。

>「ミザール! ホントありがとうねぇ! グットジョブだよ! いい仕事だよ!」
>「お褒めに与り、私、ミザール、感激の極み、恐悦至極でございます」

「うを、いつの間にっ!?」

とりあえず死亡フラグは当然のごとくへし折られたようで何よりである。

>「はい、とりあえずシャルル様、アイネ様、お疲れでしょう。
 詳しい話は城内で、ゆっくりとお食事でも取りながらいかがですか?」

「ではお言葉に甘えて頂こうかしら」

あれよあれよという間に大広間に案内されるアタシ達。
道中でなついてくるウェヌスちゃんにチョコやキャラメル等を出して見せて喜ばせる。
大広間に辿り着くと、大勢の人間が拍手喝采でアタシ達を出迎えた。
しかしその中にはウェヌス達による理想的な統治体制が変わってしまう事への懸念も混ざる。

「……ちが」

>「五月蝿いんじゃあ己等! なんじゃあやるっちゅうんか!? ワシ等とやるっちゅうんかい! おお!?」

思わず弁明しようとしたとき、大学病院の院長回診よろしく大勢の手下を引き連れて怒号を飛ばしながら登場したのは――
見るからに極道さんです色んな意味で本当にありがとうございました。

83シャルル ◆HTcbo8CpC2:2015/07/04(土) 22:00:57
>「あー、キジンさん、対空防衛ありがとうございました! お疲れ様です! お陰で悪魔さん達をお迎えできました!」
>「手前、キジン・タツノと申します。イリス城の防衛に当たらせてもらってやす。
> 以後お見知りおきを。ささ、食事の準備が出来ていますのでどうぞこちらへ」

「先ほど力を貸してくれたのね。アタシからもお礼を言うわ」

もう重ね重ね本当にありがとうございましたという感じである。
そしてアイネは場が静まり返ったこのチャンスを逃さなかった。

>「その前に、言っておかなければならないことがあるですよ」
>「皆様、私はデビルチルドレンのアイネと申すですよ。皆様にはひとつ誤解があるようなので言っておくですよ。
 私たちは確かにこの都市の開放が目的ですよ。しかしそれは現在の体制を覆すものではなく、あくまでゼウスの管理から救う事ですよ。
 解放後も出来る限りウェヌスたちの統治はそのままに、これからは他の開放した都市との交流が出来るよう計らうですよ」

「ちなみに今までに解放した街はサブカルに音楽に美術に美食文化!
彼らとの交流でこの街の生活も更に素晴らしいものになることをお約束します。
更にゼウスの管理から世界が解放された暁には――楽しそう過ぎてご想像にお任せします!」

ここは働かなくても生きていける街なのだから余暇は猶更重要である。多分きっと。

84シャルル ◆HTcbo8CpC2:2015/07/04(土) 23:16:34
そして食堂へ移動し、絢爛豪華な宴と相成った。料理はどれも美味しく、手の込んだものだ。

「備蓄食料でこれだけのものができるなんて……きっと保存技術も凄いのね」

>「あなたはその、幼く見えるが……戦闘能力は多少なりともあるのかですよ?
 それによって私たちの護衛の仕方も変わってくる故、確認したいですよ」
>「作戦としては、ゾンビによる陽動で発電所入り口に戦力を集中させ、その隙に潜入するのが得策と思われるですよ。
 必要なのはウェヌスの陽動と、あとは詳細な見取り図……出来れば設計図の青写真が欲しいところですよ。
 その辺の作戦をどう考えているのか、ぜひ聞かせて頂きたいところですよ」

エールを嗜みながら作戦会議を始めるアイネ(外見年齢10代半ば)。
年齢の事を言い出したらアイネどころかアタシも含め厳密には生後間もない存在なので気にしたら負けである。

「ところで発電所内にいるゾンビは人間なの? それとも死体ゾンビ?」

地下は死体ゾンビで外をうろうろしているのは人間ということらしいが、発電所はどちらなのだろうか。
この答えによって戦い方がかなり変わってくる。

85シャルル ◆HTcbo8CpC2:2015/10/01(木) 22:37:51
>「あなたはその、幼く見えるが……戦闘能力は多少なりともあるのかですよ?
 それによって私たちの護衛の仕方も変わってくる故、確認したいですよ」

「えーとね、えーとね、昔3か月ほどけんどーをやったよ!」

「ですよねー!」

ウェヌスちゃんがアイネの質問に答える。
見た目に反して……という設定はなく、見た目通りであった。
続いて、ミザールさんがアタシの質問に答える。

「ご安心ください、発電所の職員も幹部である一部の人間を除きゾンビで代用されていました。
ほとんどが死体ゾンビだと思って間違いないでしょう」

「なるほどね」

依然として厳しい状況だが全部人間じゃないだけ不幸中の幸い。
が、勢い余ってその一部の人間を殺してしまわないように気を付けなければならない。

「ただし……」

「ただし?」

「発電所はこの街の要故元々通常より素体の戦闘力が高いゾンビが配置されております。
ゆめゆめ油断なさらぬよう」

要はマッチョのゾンビが多いという事か。それなんて罰ゲーム。
そんなこんなで宴の夜は更けていく……。


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