したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

空想のコキュートス【設定投下用スレッド】

31刑部 咲姫:2015/03/09(月) 04:07:47
 幕府の下級士族、刑部咲姫(ぎょうぶさき)。
 長い黒髪を総髪にした齢二十二の女で、種族は水陸に適応したヒト属である海人。
 出で立ちは青い羽織と黒袴、腰に一刀を佩く。
 刑部咲姫が北部の森に現れた密輸商たちを捕らえ、上役の総地頭の元へ連行しようとした時の事である。
 何処からともなく濃い霧が湧き始め、南国の趣を持つ細葉榕(ガジュマル)の木々を包んだ。
 真っ白な霧で濁り、輪郭も朧になった森の中、気味の悪い声が響く。

「世界を侵す……罪びとだな」
「世界を侵す……罪びとだな」

 咲姫の三丈先で霧の帳が割れ、粗末な麻の着物を纏う二人組の男が現れた。
 彼らも咲姫と同じく、黒髪黒目の東洋人らしい風貌なのだが、体躯は異様そのものだ。
 片方は異常に手が長く、もう一方は異常に足が長い。
 手長の男は一丈(約3m)程の背丈に二丈の腕を持ち、足長の男は脚だけでも三丈。
 全身から肌を刺すような妖気を漂わせており、明らかに普通の存在ではない。妖(あやかし)だ。
 咲姫は目線を二人の妖から外さぬまま、縄で数珠のように一繋ぎとした背後の異国人を顎で指し示す。

「その妖気は化生の類か……。
世界を侵す罪人と言ったようだが、探し人は此方の密輸商たちのことか」

 世界を侵す罪びととは大仰な物言いだが、密輸商の一団ならば該当しないでもない。
 咲姫が連行している密輸商たちは、東大陸の央漢国から来たと述べていたからだ。
 鎖国政策を取るリューキューに密入国したのだから、少なくとも彼らが国法を侵したのは間違いない。
 リューキュー王国と央漢国、二国間の法を破ることが、世界を侵す罪なのか。
 そう考える咲姫だが、相手は違う考えのようだった。

「いいや、うぬだ」
「いいや、うぬだ」

 手長足長は刑部咲姫を見つめ、またも声を揃えて言う。
 咲姫の方も己の心得違いを悟った。
 世界を侵すとは、彼ら妖の領域を人が侵したとの意味ではないか、と認識を訂正する。
 妖怪変化の類は人と異なる尺度を持つかも知れないと考え、心中で警戒の度合いも増した。
 一息で抜刀出来るよう、腰に佩く刀の柄に指を掛けつつ、咲姫は鋭い声で二人の妖へ話しかける。

「私はリューキューの士族で、この森へは密輸商の一団を捕らえに踏み入ったまで。
貴下ら、妖の世界に干渉するつもりは無い。
人の界と妖の界、互いに不可侵が良いと心得る」

 その言葉を聞くと、異形の二妖は揃って怒声を放つ。

「惚けるか、尾籠(びろう)! おれがうぬの隠す禍津灯(まがつび)を見て取れぬとでも思うたか!」
「惚けるか、尾籠(びろう)! おれがうぬの隠す禍津灯(まがつび)を見て取れぬとでも思うたか!」

 次の瞬間、手長の男は長大な怪腕を蛇のように伸ばし、足長の男は咲姫に向かって駆けた。

「昨今、村々に妖が現れ、訳の分からぬ事を言っては人を襲うと聞くが……どうやら、お前たちのようだな」

 言うや否や、咲姫は大きく前方に跳躍しつつ抜刀。
 刑部咲姫は琉球剣術〝瞬天流〟を修めて免許奥伝の身。
 リューキュー侍は精強との噂に違わず、剣術の冴えも比倫を絶するものだった。

「瞬天――弧月斬」

 目にも留まらぬ速さで玲瓏な刃を振るい、中空から三撃の気の刃を放つ。
 一撃目は手長の右腕、二撃目は左腕を狙い、三撃目は目前の足長の胴を横薙ぎに。
 藤色の光を帯びる気刃は寸分過たず、咲姫の狙い所を斬り裂く。
 手応えを感じて薄い莞爾を浮かべる咲姫だったが、眼前の妖が霧散していくのを見て、すぐさま表情を変転。
 刹那、左方の霧の奥から伸びた長腕が咲姫の首を掴み、右方からの長脚が咲姫の腹を蹴り上げて吹き飛ばす。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板