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空想のコキュートス【設定投下用スレッド】

29名無しさん:2014/12/29(月) 17:45:45
 身を切るような寒風の中、総勢五百にもなろう集団が宇佐浜の領内、白雁村に辿り着く。
 その中には若い男もいれば、老女や子供の姿もある。
 いずれも襤褸の衣服を雪で濡らし、頬や首筋は痩せこけ、薄汚れた顔には悲嘆が刻まれていた。
 彼らは東西の大名が血で血を洗う戦を行った際に流民となり、今は賊にまで零落したものたちだ。
 各々の手には赤鰯の悪刀、農具、竹槍に棍棒、弓、武器などが握られている。

「ようやく村だな……近くの林に潜み、日が沈んだらあそこを襲うぞ」

 賊の頭目たる男が、皆に向かって飢えを満たす算段を述べた。
 手段は白雁村を襲撃して、彼らの蓄えを残らず掠奪すること。
 数百もの大集団が飢えているから助けてくれと頼んでも、受け入れられる訳がないからだ。
 内乱から波及した戦乱や、常軌を逸した荒天を考えれば、相手にだって余裕は無いだろう。
 生きる為には、殺してでも奪い取るしかないのだ。

「夜まで待てだって!? 俺は一昨日から雪しか口にしてねえんだぞ!
こんな刺されるような寒さの中じゃ、もう一刻だって我慢できねえ!
ほら、見てみろ、俺らの中には息も絶え絶えの赤ん坊だっているんだ。
今すぐ行こう! 数で脅せば村の奴らだって食い物くらいは出すはずだ!」

 雪中での待機を命じられ、集団の中から不満が上がる。
 だが、頭目は悲鳴のような彼らの声を聞いても、冷たい視線を向けるのみだった。

「相手に時間を与えて、備えられたらどうする?
寝静まってから村に近づき、備えの無い相手を襲うのが確実だ」

「だが、夜までの間に何人も倒れちまう!
なんなら、俺と何人かだけで先に行っても良い! 行かせてくれ!」

 目と鼻の先の村には暖を取れる家々が有り、空腹を満たす食料もある。
 すぐにでも飛びつきたい集団へ言う事を聞かせるには、恐怖で抑えるしかない。
 そう結論付けると行動は早かった。

「俺に従えないなら、死んでもらう」

 流民の頭目は異論を述べる男の喉に刀を突きつけ、そのまま刺し貫く。
 恐ろしくあっさりと。
 雪上には鮮血が飛び散り、呻きながら倒れる体が続いた。
 人が鬼に変ずる民話は少なくないが、ここにもまた一人の鬼が。
 頭目は人間で、外見も農民らしい姿ではあったが、荒廃した心は紛れも無く鬼のものであった。
 いや、すでに人の姿の方こそ、彼にとっては虚飾の装いなのかもしれない。

「他に異論のある奴はいるか」

 疲れ切り、恐れをなした流民たちが異論を述べようはずも無い。
 声を発するものは誰も無く、聞こえるのは風が耳朶を打つ音のみ。
 手に手に武器を握り締める彼らは、やるせない気持ちで林に潜み、夜を待った。

 小久保常久が白雁村に数百の賊が押し入ったと聞くのは、翌日の事となる。
 生き残った村人が雪中を転ぶようにして駆けて、宇佐浜城へ辿り付き、白雁村の惨事を告げたのだ。


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