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【SS】彼岸島の大晦日
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絶海の孤島、彼岸島も師走を迎えた。
雪はしんしんと降り積もり、木々山々もすっかり雪化粧。
明たちが暮らす谷間の里のわら葺屋根も真っ白け。
冬は深まり、もうすぐ大晦日。
抵抗組織の隠れ里もなにやらせわしない様子。
年の瀬の掃除に精を出す明たち。
抵抗組織のメンバーも棚のほこりを掻きだすのに大忙し。
普段は吸血鬼に怯えて息をひそめる里人たちも今日は別人のように生き生きしていた。
そんな隠れ里も谷間に日が落ちると、いつものようにシーンと静まり返る。
いろりにあたりながら年越しの準備を整える里人たち。
その一方で、里の裏山では息遣い荒く、ザクザクと積雪を踏みしめながら山道を下る人影があった。
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ザッ ザッ
ザッ ザッ
ケンちゃん「ハァ…ハァ…」
ケンちゃん「チクショウ・・大晦日の夜に外回りの番をしないといけないなんて、ついてねェなあ・・」
ザッ ザッ
ザッ ザッ
ガッ
ドタッ
ケンちゃん「痛ェ!なんだよ、この枝!」
ケンちゃん「クソッ あんどんの灯が弱すぎて前がよく見えないからか」
ケンちゃん「よく見たら周りは木ィばっかりだ」
ケンちゃん「知らない間に道を外れちまったのか!?」
ケンちゃん「雪のせいで道が埋もれて分かんねぇんだよ」
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スッ
起き上がり、元の道に戻ろうと引き返すケンちゃん。
転んだ拍子に、わら靴に雪が入ったのか、足首が刺すように冷たい。
一刻も早く里に戻りたい。わら靴を顧みず、ただ歩を進めるケンちゃんは
先ほどぶつかった太い枝を尻目に、ふと、先刻の出来事を思い返していた。
ケンちゃん「思えば西山の頼みを安請け合いしなきゃよかったんだ。そうすればこんな目には…」
ケンちゃん「ハッ もともと俺には関係のない話だったのにな」
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〜四時間前 隠れ里にて〜
西山「なあ、加藤、頼みがあるんだ」
加藤「ん? なんだよ、急におまえは」
西山「重要な話だよ。年越しに関わる重要な話」
加藤「なんだよ、重要な話って?」
西山「今晩の外回りの役が俺に回ってきたことは知ってるだろ?」
加藤「そーだっけか? ま、どっちにしろ面倒くせぇよな。まさか吸血鬼も大晦日くらいは家でゆっくりしてるだろうによ」
西山「悪いんだけどさ。今日の外回りの番を俺の代わりにやってくれない?」
加藤「ハア?・・えー! やだぜ、俺は! このクソ寒いなか外回りなんかやりたくねえよ」
西山「そこを何とか頼むよ。加藤」ガシッ
加藤「よりにもよって今日は大晦日だぜ! 誰が好き好んで大晦日の晩にそんなこと!」
西山「お前に頼むより他にないんだよ。俺には年越しの準備があるんだから」
加藤「知ったこっちゃねえよ。お前の年越しの準備なんて!」
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西山「いいのかよ。加藤、年越しの豚汁が食えなくなるぞ」
加藤「え…?」
西山「ほら 今晩は一つ屋根の下にみんなで集まって年越しパーティするだろ」
加藤「(みんなで…か、紅葉ちゃんも来るかな……)」
西山「やっぱりさ、祝い事には豚汁は外せないだろ。それでさ、年末特製の最高の豚汁を作ってやろうと思ったんだよ」
加藤「ごくっ……」
西山「でもな、特製だけあって、仕込みに時間がかかるんだよ。だから俺は外回りに時間を取られるわけにはいかないんだ。頼む! 加藤! 俺と代わってくれ、みんなのためだ!」
加藤「んー…」
西山「代わってくれるの?!」
加藤「……いやいやいやいや! 無理だ。無理だ。やっぱり無理だ」
西山「えっ!」
加藤「俺にも外せねー、なんつーか…用事があんだよ。仕方ねーだろ!じゃあな!」ダッ
西山「そんなッ 加藤!」
ケンちゃん「オイオイ。どうしたんだよ、西山」ヌッ
西山「ケンちゃん!」
ケンちゃん「なんだ? 加藤のやつ、急に走り去って」
西山「じつは今、加藤とこんな話を……」
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がんばれ>>1ァ ふんばれェ
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<削除>
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ケンちゃん「なるほどな。よしっ、その役、俺が引き受けた」
西山「ほんとに?いいの!?」
ケンちゃん「なーに、パーティに西山の豚汁を欠くわけにはいかねからな」
西山「ありがとう。最高の豚汁を作って待ってるからね。早めに帰ってきてよ!」
ケンちゃん「オウ! 俺がパーティに間に合わなかったら元も子もねえからな」
ザッ ザッ
ザッ ザッ
(去ってゆくケンちゃん)
西山「(ケンちゃん…ホントはユキと一緒に居たかっただろうに……ごめんね)」
西山「さっ 豚汁、豚汁♪」
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〜現在のケンちゃん〜
ケンちゃん「雪道は辛えなぁ。一歩一歩が重いぜ」
ケンちゃん「フッ そういえば以前、修行を終えた明の変わりように驚いたこともあったけか。あれもこんな雪道だったよな」
ケンちゃん「ハッ。 明か……」
ケンちゃん「あいつも今頃は年越しパーティ、楽しんでるかな」
ケンちゃん「……明が西山の頼みを耳にしたら、あいつは絶対引き受けるに決まってるもんな。その前に俺がこうしねえと」
ケンちゃん「悔しいけど、俺たち普段からあいつに頼りっきりだからなぁ 大晦日くらいあいつをゆっくりさせてえし」
ケンちゃん「にしたって、これはねえよ。史上最低の外回りだ」
ケンちゃん「だいぶ時間経っちまったし、パーティには遅刻確定だな、こりゃ」
ケンちゃん「ん? 少し目の前が開けてきたか?」
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気が付くと林を抜けていた。隠れ里の谷がケンちゃんの眼下に広がっている。谷はとても静かで、まるで人の気配を感じなかった。一仕事終えて、はやく鍋を囲んで温まりたいケンちゃん。だが里の静けさと暗さを前にして、ある不安が心の中に芽生えてきた。
ケンちゃん「確か、パーティは前田さん家でやるはずだったよな……テレビがあるのはあの人の家だけだから」
ケンちゃん「前田さん家はあのあたりにあるはずだが……あのあたりはどの家も明かりがついてねえぞ」
ケンちゃん「おいおい。まさかもうパーティはお開きになっちまったのか!?」
ケンちゃん「チクショウ!そりゃねえぜ。まだ一口も豚汁をつまんでねえっていうのに」
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慌てて斜面を駆け降りる。刀を自宅に置くのも忘れて、前田の家を目指して、ひた走る。田んぼを両脇に臨みながら、あぜ道を駆け抜けるケンちゃん。いくらか走ると前田の家が見えてきたが、やはり明かりはなく、とても在宅のようには見えなかった。それでもケンちゃんは玄関の引き戸に手をかける。
ガラガラガラ
引き戸を開けたケンちゃん。彼は待ち受けていた光景に言葉を失った。
ケンちゃん「なんだよ。チクショウ。嫌な予感が当たったてか……」
誰もいない居間一面に一升瓶とみかんの皮が散乱している。ついさっきまで鍋をくべていたようだ。囲炉裏にはまだ火がくすぶっている。どうやらついさっきまで人が大勢ここにいたようだ。
ケンちゃん「まさか俺が来る前にパーティが終わってるとはな」
崩れ落ちるケンちゃん。彼はあまりの寂しさに打ち震えていた。
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やっぱ>>1の作る話は面白れェな!
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ケンちゃん「なんで、こんなに早くお開きにしちまったんだよ、アイツら。クソっ!」
ケンちゃん「こんな時はとっとと帰ってユキに甘えるとするか……あいつはもう帰ってるかな……」
そう言いつつも、寒さの中雪道を歩き続けた疲れからか、体が思うように動かなかった。そこで少しの間、ここで暖を取ることにした。雪帽子をついた雪を払い落として、壁にかけ、自らは壁にもたれて座り込んだ。玲に貰った煙草に囲炉裏から取った火を点けて一服する。
そのままぼーっと壁を眺めていると、白い壁に揺れる火の影に在りし日の仲間とのプレハブ小屋での年越しの記憶を重ねていた。
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ケンちゃん「あの頃はよかったよ。狭い小屋だったけど、みんなでワーワーやってよ。西山のすき焼きの味付けは完璧だったな。俺たちがどんちゃん騒ぎしすぎたせいで、お隣が苦情を言いに来た時の加藤の慌てっぷりは見ものだった。またあの時みたいにユキを俺のギターで痺れさせてえな。特に酔っぱらった明が語った話はやばかった。あのうまい語りであんなエロい話をされたらたまったもんじゃねーよ。思えばあの時も俺は今みたいなことをやってたな。小屋で紅白を見るために俺がテレビを運ぶのを頼まれちまって、そのせいで俺だけ遅れちまった……ハッ 今と変わんねーよな。俺たちはよ」
ケンちゃん「……」
ケンちゃん「……ん?」
ケンちゃん「……テレビ?」
何かに気付いたケンちゃん。同時に自分がいるこの場所に違和感を感じ始める。
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ケンちゃん「テレビ……そういえばテレビはどこに行ったんだ? そもそも前田さん家には里で唯一テレビがあるから、パーティをここで開くことにしたのに。てゆーか、パーティが終わったんなら、前田さん当人はどこに行ったんだよ? なんで自分の家を散らかしたままどこかへ行っちまったんだ?」
ケンちゃん「……」
ケンちゃん「フッ そういうことか……」
察しがついたケンちゃんはスックと立ち上がって、裏口から外に出てあたりを見渡した。彼はこの近くで明かりのついている家がないか探していた。そして、あぜの先に目を凝らすとポウッと小さな明かりが見えた。
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ケンちゃん「テレビ……そういえばテレビはどこに行ったんだ? そもそも前田さん家には里で唯一テレビがあるから、パーティをここで開くことにしたのに。てゆーか、パーティが終わったんなら、前田さん当人はどこに行ったんだよ? なんで自分の家を散らかしたままどこかへ行っちまったんだ?」
ケンちゃん「……」
ケンちゃん「フッ そういうことか……」
察しがついたケンちゃんはスックと立ち上がって、裏口から外に出てあたりを見渡した。彼はこの近くで明かりのついている家がないか探していた。そして、あぜの先に目を凝らすとポウッと小さな明かりが見えた。
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ケンちゃん「あれはたしか加藤の家だったよな。俺の勘が正しいとすると、なんであいつら前田さん家からわざわざ加藤の家に……? まあいいさ。理由は向こうについたらたっぷり聞きゃあいい」
1分ほどあぜを歩いただろうか。加藤の家からワーワーと声が聞こえてくるように思えてきた。ケンちゃんは初めはそれを錯覚だと思ったが、近づくにつれてますます声が大きくなってきたのでケンちゃんは加藤の家でパーティがやっていることを確信することができた。一時は自分がパーティに出損ねたと考えていただけに、その喜びは一入だ。思わずケンちゃんの足取りも軽くなる。あぜを走る勢いをそのままにケンちゃんは加藤の家の戸口に飛び込んだ。
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ケンちゃん「お前らッ豚汁はまだ残ってんだろーなッ!」
突然入ってきたケンちゃんに驚いて静まる一同。しばしの沈黙の後、まず西山がケンちゃんに応える。
西山「ケンちゃん! こんなに遅くまで来ないから、心配したんだからね!?」
森田「そうですよ。あんまり遅いもんだから、俺たちケンさんが見回りの最中に吸血鬼にやられちまったんじゃないかってひやひやしてたんすよ!」
前田「心配しすぎて豚汁も喉をとおらねえから、たまったもんじゃねえ。あんま心配させるないでくださいよ」
ケンちゃん「そういう割には、手前にお椀を重ねすぎですね。前田さん」
前田さん「えっ……? こっこれは……その」
森田「はっはっは! さすが明さんのご友人は抜け目ねえや!」
ケンちゃん「ぷっ……」
一同「ワーワー!」
どっと笑う一同。紅白は中盤を過ぎたところだろうか。何人かテレビの前に集まって声援を送っている。
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ケンちゃんのかじかんだ顔も会場の熱気に充てられてすっかりほころんでいた。彼のみならず、この年越しパーティに集うみんなの顔つきはいつになくリラックスしているようだった。普段は戦いに明け暮れ、年中顔をこわばらせている男たち、夫が戦いに出るたびに、その背中を目に刻み付けようとする女たちも今日ばかりはすべてを忘れて酒に酔っている。すでに幾人かはこたつで寝ころんだまま酔いつぶれて寝入っていた。あまりに多くの人が決して大きくはないこたつに入っているため、こたつはぎゅうぎゅう詰めになっている。西山はこたつに入りながら、上半身を回して後ろの鍋から豚汁をみんなによそっていた。
西山「ほらほら。なにしてんだよケンちゃん」
西谷「早いとこ上がってさ。これ食べてみなよ」
いろりにぶら下がった鍋のなかで豚汁がふつふつと沸き返っている。溶けた脂身の匂いが真っ白な湯気に乗ってケンちゃんの周りまで漂ってきた。
ケンちゃん「……言われなくても、食ってやるよ!」
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わら靴を脱ぎ捨てて、鍋に駆け寄る。西山に豚汁をよそってもらい、ほとんど体を入れる余地のないこたつに無理やり足をねじ込み、下半身を入れて、豚汁をほおばった。一口汁を飲むだけで、冷え切った体の隅々まで豚汁の熱気が染み渡る。
ケンちゃん「カー! うめえな。やっぱり西山の作る豚汁は最高だ」
西山「でしょ! おかわりもあるから、じゃんじゃん食べてね!」
無心に豚汁をほおばるケンちゃん。あっという間に一杯を完食して、西山におかわりをよそってもらった。二杯目に手を出そうとして時、紅葉が後ろから声をかけてきた。
紅葉「あら、健一さん。いらしてたんですか? ちょうどよかった。お酒でもいかが?」
ケンちゃん「おお、紅葉ちゃんか。いただくとするよ」
トク トク トク
ゴクッ ゴクッ
ケンちゃん「ぷはーっ! 染みるぜ」
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紅葉「フフっ……よかった。健一さんお酒強そうですし、裏からもう一本持ってきますね」
ケンちゃん「オウ。たのむよ」
森田「ハハハ。ケンさん。いくら紅葉さんが美人だからって、その調子じゃ朝まで持ちませんぜ」
前田「そうっすよ。紅葉さんにお酌されると、ついつい酒が進んじまう。家のかみさんにも見習ってもらいたいもんです」
紅葉「あらっ いけない。私ったらもしかして余計なことしてたかしら?」
前田「いえ、余計なことのはずがないですよ。村長の娘自ら酒を注いでもらえるなんてありがたいことで……」
森田「どうもすいません紅葉さん……」
慌てて訂正する森田と前田、すると……
??「うるさーーーーーい!」
突然こたつの中から大声が響いてきた。ケンちゃんが膝にかかる布団をめくって声の主を探すと、こたつのなかで加藤がうずくまっている。どうやらさっきのは加藤の叫び声だったようだ
ケンちゃん「なにやってんだよ。加藤、そんなところで?」
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加藤「うっ……うっ……グスッグスッ」
どうやら泣いているようだ。それに相当酔いが回っているのか、体が小刻みに震えている
ケンちゃん「おい、みんな。加藤の奴どうしちまったんだよ?」
紅葉「……わたし、お酒持ってきますね」スッ
紅葉がおもむろに立ち上がって場を離れた。西山がケンちゃんの耳元に顔を近づけてそっと話し始める。
西山「ケンちゃん。実はね。加藤は紅葉ちゃんと二人っきりになるチャンスを逃して、相当やけになってるみたいなんだ。それで、あんなに酒をあおっちゃって……」
ケンちゃん「はあ?どういうことだよ? それなら、二人きりになれる場所に行けばいいじゃねえか」
西山「いや、違うんだよ。加藤はもともとこの自分の家で紅葉ちゃんと二人っきりでこたつに入りながら大晦日を過ごしたかったらしいんだ」
ケンちゃん「ああ、そういえばここは加藤の家だったか」
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西山「でもね。そうしたら問題が起きたんだよ。俺たちもパーティにこたつが欲しかったんだけどさ、こたつは加藤の家にしかなかったんだよ。そこで、こたつを前川さんの家に運んで、一緒にパーティに加わるように頼んだんだけど、首を縦に振らなくて……」
ケンちゃん「……」
西山「一時は俺たちもこたつを諦めて前川さんの家でパーティを始めたんだけど、やっぱりこたつが恋しくなっちゃってさ。そこで、こたつを運んでこれないなら、俺たちが加藤の家に行けばいいってことになったわけ。テレビを運ぶのは結構疲れるよね」
ケンちゃん「(なるほど、そういうことだったのか」」
西山「ん?どうしたのケンちゃん」
ケンちゃん「こたつに拘るのもいいけどな、見回りに行っている俺のことを忘れてんじゃねーぞ」
西山「え……? ああああ! そうでしたぁぁ!ごめんケンちゃん。うっかりしてたんだ」
ケンちゃん「ったく……」
西山「お詫びと言っては何だけど、二杯目は大盛にしといたからね!」
ケンちゃん「フッ……」
再び豚汁をすするケンちゃんの箸が進む
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記帳な彼岸島SSいいゾ〜これ
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ケンちゃん「あれっ紅葉ちゃんはどこだ? 酒のおかわりが欲しいんだけど」キョロキョロ
西山「さっき裏手に行ったよ」
ケンちゃん「……ん?」
周りを見渡して、ようやくケンちゃんはユキと明が先ほどからこの場にいないことを意識した。
ケンちゃん「おい! ユキはどこにいるんだ?さっきから全然姿が見えねえじゃねえか! 明もだ!」
ケンちゃんのこの一言でみんなが急に押し黙った。水を打ったような静けさ。しばしの沈黙の後、ようやく前田が口を開いた。
前田「明さんは……もとからこのパーティには来ていません。修行にいったんです。今頃は村長と二人で特訓をしてるでしょう」
ケンちゃん「ハア? 明の野郎、大晦日まで修行かよ……なんなんだよアイツ! ユキはどうしたんだ!?」
西山「ユキは明を連れ帰って来るって言って出て行ったよ」
ケンちゃん「クソッ」ガタッ
突然立ち上がったケンちゃんはお椀を放り出して外に飛び出していった。
西山「ちょっとケンちゃん、どこに行くの?」
ケンちゃん「決まってんだろ、ユキと明を引っ張って来るんだよ! あの二人を欠いてパーティなんてできるかよ!」
ケンちゃん「(チクショウ、明の奴、ユキや俺たちの気も知らねえで)」
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〜裏山へ通じる林道にて〜
ユキ「明― どこにいるのー みんな待ってるよー!」
明を探しに林道を歩いていたユキ。だが、明を探すのに夢中なあまり、元来た道を見失っていることに気づかなかった。山深くの森に1人迷い込んでしまったのだ。
ユキ「あれっ さっきまでの道がなくなってる……もしかして迷っちゃった?」
ユキ「もー。何やってんだろ。私、こんなことで遭難なんてバカみたい」
途方にくれるユキ。明を連れ戻すつもりが、とんでもないことになってしまった。
ユキ「はー これからどうしよう? あんまり動かないで、誰か来るのを待ってたほうがいいかな」
ユキ「みんな、私が帰って来ないことに気づいてくれるよね?」
切り株に腰を下ろすユキ、しばらくそうして座っていると、遠くから馴染み深い声が響いて来た。
ケンちゃん「……おーい、どこだー!」
ユキ「ケンちゃん! やっぱり私を助けに来てくれたんだ!」
ユキ「ケンちゃーん! 私ここにいるよー! こっに来てー!」
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〜同時刻 裏山の林にて〜
師匠「大晦日まで修行とは良い心構えだ、明よ」
明「これくらい当然ですよ。俺は雅を殺すまで、日々強くなると決めている」
師匠「うむ。その意気じゃ。かかって来るがよい」
明「うおおおおおおおおおおお!」
ダ ダ ダ ダ ダ
ブンッ
一瞬で間合いを詰める明。疾風の如き一振りが師匠の肩をかすめた
師匠「フンッ!」サッ
明「ハアッ!」
続けざまに第二の太刀が繰り出される。続けて三の太刀、素早く繰り出される斬撃の連打が師匠を襲う。さすがの師匠といえどもこの猛攻を前にして、反撃の糸口をつかめずにいた。だが、師匠は、その巨体からはとても想像できないほどの軽い身のこなしで明の刀をいなし続ける。
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明「クッ……はあああああ!」ブゥン
これまでは守勢に回っていたが、攻めあぐねて一瞬大振りになった明の隙を見逃す師匠ではなかった。
師匠「ムンッ!」
丸太が猛烈なスピードで振り上げられる。幅広でリーチの長い師匠の丸太をかわすことは不可能だ。敵の攻撃を受け流しつつ、機を見て必殺の一撃を叩き込む。常人にはとても扱えない巨大丸太をあたかも自分の体の一部のように扱う師匠の巨体あっての戦法だった。
師匠「(わしの勝ちじゃ)」
丸太の切り口が明の喉元に迫ったその瞬間……
ザンッ
明の刀が丸太の端をとらえた。あまりにも疾い剣撃。丸太の先端が宙を舞って初めて、師匠はさっきの手ごたえが明の刀によるものだと知った。
師匠「(なんという奴じゃ……あの体勢から斬撃の軌道を変え、あまつさえわしの丸太を切り飛ばすとは……)」
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明「 ハア ハア ハア ハア 」スッ
半歩下がり、居合いの構えをとる明。前髪に隠れてその表情は読み取れないが、師匠には今の明がどういう眼をしているかは容易に想像がついた。
師匠「(明め。切られて短くなったわしの丸太相手なら、居合でも勝負になると踏んだか)」
居合いの構より飛び出す刀身は圧倒的なスピードを有するが、もし、相手を打ち損じれば、刀を振り放った後の体勢の無防備さゆえに、相手の反撃を受け、必ず敗北する。そう、居合いの構えとは言わば背水の陣。一刀にすべてをかけた神速の太刀。だが、丸太と比べて手数に勝るが一撃の威力に欠ける刀で、丸太を相手に居合いを仕掛けるのは全くの愚策でしかないように思われた。
師匠「(わしをなめおって、ねじ伏せてくれる。三が日を丸々寝正月にしてくれようぞ)」
師匠は丸太を脇腹に抱え込み、前傾姿勢をとる。丸太のリーチを最も活かした構えだ。この構えから繰り出される丸太の突きをまともに食らえば明といえども内臓破裂は免れない。
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明「 ハア ハア ハア ハア 」
完全に静止し、全身全霊を一撃に込める。ただ、二人の呼吸音だけが木々の間を満たす。
師匠「ぬああああああああ!」
明「うおおおおおおおお!」
二人の体がすれ違い、互いの獲物が交差する、そして……
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師匠「腕を上げたな、明よ」
明「……」
そう言う師匠の足元には中央で真っ二つに切られた丸太が転がっていた。もはや武器としての用を果たしそうにない。だが師匠自身は切り傷ひとつ負ってはいなかった
師匠「わしの話をきいとるのか」
明「……聞こえてますよ……ッゴフッゴフ」
明はというと、木の幹に背中からめり込んでいる。木は明のぶつかったところからぽっきり折れていた。口からは血を吐き、かなりの重傷を負っていた
師匠「いつまでそんなところでくつろいでいる? さっさと立たんか」
明「ハッ たかが師匠のパンチ一発でへばってるわけがないでしょう」スッ
言うが早いが、明は地に足をつけた。体は血まみれだが、その足取りは確だった。
師匠「うむ。して、明よ。やはり貴様はまだまだだな。己の剣速を過信し、わしの奥の手を見誤った」
明「仰る通りです。まさか、片手持ちの丸太で刀を受けて、軌道をそらし、その隙に正拳突きを仕掛けるとは、完全に予想外でした」
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バキッ!
唐突に師匠の拳が飛んだ。跳ね上がった明の体が地面に弾む。
明「グワッー……いっ痛てぇ。いきなりなにするんですか!」
師匠「明よ、この島において予想外などという言葉は何の意味も持たないと何度言えば分かる。お前は今わしが殴ることすら察知できなかったのだぞ」
明「はい……」
師匠「敵の戦略を大まかに把握しようなどと考てはならぬ。邪気どものなかに一匹でもお前の常識が通じるものがいたか? すべきことはひとつ、ただ無心に相手の動きを感じとり、相手の間合いを自分の間合いへと変えること、それだけじゃ」
明「……」
師匠「わかったな?」
明「ハイ! ご指導ありがとうございました!」
師匠「よろしい。ときに明よ。なぜいまだに刀を抜いている。今日の特訓は終わったのだぞ」
明「師匠との特訓は終わりました。でも俺の修行は終わっていません」
明は林に分け入っていこうとする。明は自分を囲む木々を吸血鬼に見立てて瞬時に切り倒す修行を始めようとしていた。
明「もっと強くならなければ……雅にまた逢う日までに、もっと……」
師匠「明よ……」
明「はい?」
バキィッ!
振り返った明の顔に師匠の肘突きが命中した。大きくのけぞった明の体が地面に叩きつけられる。
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明「ガハッ!……っこ今度はなんですかッ 師匠!」
師匠「明よ。わしは知っているのだぞ。里で年忘れパーティが開かれていることをな。何故お前は参加しないのだ?」
明「それは……! 俺がまだまだ力不足だからです! 体力が少しでもあるなら修行に打ち込めと師匠も仰っていたではありませんか。みんなもそのことは分かってくれてます」
師匠「確かに以前お前にそう言った」
明「なら何故?」
師匠「もはやあの時とは状況が違うのだ。あの頃のお前はただ強くありさえすればよかった。だが、今は違う。篤も村田も死んだ。わしもこのごろは発作が頻発するようになった、もう長くはないだろう。わかるな、明よ。お前しかわしの後に人間軍を率いる者はいないのだ」
明「師匠が死ぬなんてそんな……」
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師匠「よく聞け、明よ。指導者たるものは強いだけでは勤まらん。頼りがいがあり、人を安心させる力なくてはならんのだ。笑って人を地獄に送り出せるほどのな」
明「……」
師匠「理屈はともかくとして、おまえが大晦日も修行に明け暮れるのは余裕のなさの表れだと思われるかもしれん、指導者の余裕のなさじゃ。それが士気に関わることぐらいはお前にもわかるだろう」
明「……」
師匠「わかったか?」
明「はい! ご指導ありがとうございました!」
師匠「うむ」
明「……」
師匠「……何をしている? はやく皆の元へいかぬか」
明「師匠はパーティには来ないのですか?」
師匠「わしにはこれからやることがある。それがすんだらいくとしよう」
明「あまり遅くならないでくださいよ」ダッ
皆の元に向かう明の背中を見届けると、師匠は林のさらに奥へと消えていった。
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〜林道にて〜
ケンちゃん「いやーまさかユキが迷子とはな。ほんと、俺が来てよかったよ」
ユキ「遅いよ、もうっ! 怖かったんだからね」
ケンちゃん「……そうか、明とは会ってないんだな」
ユキ「うん、いつもの修行場にもいなくてかったの。それで、あちこち探してたら道が分からなくなっちゃって」
ケンちゃん「手間がかかる男だな。ほんと」
ユキ「あっ!」
並んで木々の中を歩く二人の前に林道が姿を現した。
ケンちゃん「ここまでくれば、あとは一人で帰れるだろ。ユキ」
ユキ「……えっ! なんで? せっかく出会えたんだし、私も一緒に明を探すよ!」
ケンちゃん「人探しは一人で十分さ。それに、またユキに迷子になられたらたまったもんじゃないからな」
ユキ「もーそんなこと言って。分かった……でも、すぐに帰って来てよ」
ケンちゃん「オウ」
ユキ「……」
しばし二人で向かい合う。
ユキがジーっとこちらを見ているようだったが、すぐにケンちゃんはユキの目線が自分の背後に注がれていることに気づいた。
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ケンちゃん「どうした? ユキ」
ユキ「ねぇ あれ明じゃない?」
ケンちゃん「えっ! 明が!」
ユキ「ね、そっちから来るのって明でしょー?」
ユキによると誰かがこちらへ走って来ているらしい。ケンちゃんには何も人影は見えなかったかったが、目を凝らしていると、向こうから返事が帰ってきた。
明「ユキー!」
確かに明の声だ。手を振りながら明がこちらへ走ってくる。
ユキ「ねっ やっぱり明だっでしょ。ケンちゃん」
ケンちゃん「ああ」
明「ケンちゃんもいたのか。二人ともこんなとこにいたら、寒いだろ。早いとこ豚汁食いに行こう」
ユキ「(なっ! 散々心配させといて、第一声がそれっ!? 信じらんない!)」
ケンちゃん「……」
ユキ「(ケンちゃん、なんか言ってやってよ!)」
ケンちゃん「ハッ……ははははは!」
ユキ「何笑ってるの!?」
ケンちゃん「はははは! そうだな、そうだよ、明。お前の言う通りだ。早いとこパーティに戻らないと豚汁が冷めちまうもんな」
明「そのぶんだと、今回の豚汁は相当うまいみたいだな」
ケンちゃん「ああ、最高の出来だった。あれを食わずに年を越すなんてありえねえよ」
明「まだ残ってるといいんだけどな」
ケンちゃん「どれくらい残ってたかな……フッ」
ダッ!
突然走り出したケンちゃん。
ユキ「ケンちゃん! どうしたの?」
ケンちゃん「俺もまだ二杯しか食えてねえんだ。お前もありつきたきゃ急ぐことだな。モタモタしてると、お前が着く頃には、豚汁は俺が全部たいらげた後だ」
明「ハッ そういうことか。 受けてたってやるよ」
あっという間に走り去る二人。一人道端に残されたユキの叫びが森にこだまする。
ユキ「わけわかんない! なんなのよ二人とも!」
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〜山頂の廃寺にて〜
ギシッ ギシッ ギシッ
廃寺の廊下を歩く師匠。その先は鐘楼へと続いている。板張りが師匠の巨体に耐えかねて悲鳴をあげている。廊下を抜けて、鐘楼の石段を登る。普通の人間は台に乗らなければ手が届かない撞木も、師匠は手を伸ばさずとも握りしめることができた。
師匠「明よ…………」
吸血鬼の脳天に丸太を叩き込むのと同じ要領で撞木に力を込める。そして……
師匠「むんっ!」
ゴ〜〜〜〜〜ン
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正統派彼岸島SSは何気に珍しいですね…
非常に読み易くて非常に味わい深い
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まさかこんなところで真面目な彼岸島SSを拝めるとはな
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これは・・・いいSSだな
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>>39確かに
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ハア ハア
ハア ハア
「(頼む。あっちへ行ってくれ! こっちに気付かないでくれ! 頼む)」
「クソ! どこ行きやがった! あのクソ人間!」
「(来るな こっちをのぞき込むんじゃない)」
肩の矢傷を抑えながら、必死に息を抑える男。芦の繁みに身を沈め、吸血鬼の追っ手の気配をうかがう。川原の霧は深い。
「(来るな〜〜〜〜〜)」
「もう向こうへ行っちまったか。チクショウ!」
「あっちだ! あっちを探せ!」
ハア ハア
ハア ハア
「……行ったか。はあー、助かった……」
「……」
「クソッ! クソッ! みんな殺されちまった――!」
「くそう……美紀ィ あいつは……うわ―――――ッッ!」
「なんで、なんでこんなことにっ!」
-
男の村は吸血鬼の奇襲に合ったのだ。邪鬼の咆哮を鬨の声にして、一斉に侵入してきた吸血鬼の軍勢に村はなすすべもなく蹂躙された。かろうじて村落を脱した男の眼には血を吸われ、崩れ落ちていく妻子のすがたが今でもはっきりと刻まれていた。
「みんなどこへ行っちまったんだ。俺は……これからどうすれば」
「痛てェ 痛てェよお」
矢傷からとめどなく湧く血が男の腕をつたう。出血と困憊のなかで薄れていく男の意識。
「ああ あァ アァ……」
「美紀ィ ほのか〜 どこに行ったんだよ〜」
-
濃い朝霧の中に伸ばした手が宙を切る。男の前には在りし日の妻子の姿があった。刺すような日差しをものともせず、トウモロコシ畑ではしゃぎまわる娘。あまり遠くに行かないよう、娘を注意する妻、二人のまぶしい姿が脳裏に浮かぶ。そうだ、二人を襲った悪夢はただの夢だ。二人は今もそこにいる。ほら、娘が私を呼んでいるじゃないか……
「ほのか……」
思わず娘の名前を呟く。すると……
「パパー パパ― どこなのー」
男は驚愕した。娘の名を唱えたら、遠から聞き覚えのある声がしたのだ。確かに娘の声だ。夢じゃない本当に娘の声が……。まるで呪文のように。
「パパー どこー? 暗いよー 寒いよ」
ほのかだ。確かに娘が近くにいる。
「ほのかーッ! 待ってろ! 今行くからなーッ!」
-
男は岸辺を駆け上がり、葦原に飛び出した。深い霧が娘のすがたを隠しているのだろうか。娘の姿は見えなかった。
「ほのかーッ! どこだー どこにいるー!」
「こっちよー パパー こっちー」
「ほのかっ!」
声のしたほうに駆け寄る。だが、そこにも娘の姿はない。
「ほのかーッ! もう一度声を上げてくれー 父さんにお前の声を聞かせてくれー」
「……」
なぜか娘の返事がない。いったいどうして……
「ほのかーッ! どうしたー 返事をしてくれー」
やはり返事はかえってこない。たまらず、男は声を張り上げながら、娘を探し回る。
「ほのかーッ! どこだー どこにいるんだーッ!」
何度呼びかけてもほのかの声はかえってこない
「ほのk…」
「ここだよっ パパッ!」
足元から娘の声がした。
-
〜とある吸血鬼の集落〜
ワーワー
ワーワー
集落のあちこちから火の手が上がっている。
この集落は抵抗組織の強襲を受けていた。
数に勝る抵抗組織は兵を分け、三方から集落に攻め寄せる。
各地で衝突が起きていたが、大通りの通う南口では特に激しい戦いが繰り広げられていた。
南口一帯は吸血鬼の住居が集中していることもあり、吸血鬼の戦力が集中し、抵抗組織は苦戦を強いられている。
守勢に立った南口の人間軍は、個々の力の不足を補うため、盾を連ねた防壁で吸血鬼の反攻を封じていた。
-
西谷「そこっ 列が乱れるよ! 突出しないで!」
忍者「はっ はいッ!」
吸血鬼「チィッ! 人間どもめ。こざかしいマネをしやがる」
西山「耐えろみんな! あと少しここを抑え込めば、その間に明たちが本丸を落としてくれる!」
伝令「西山さん! 三班が北門の突破に成功したそうです!」
西山「やった! 陽動は成功だ!」
加藤「おい西山ぁ!気を抜いてんじゃねーぞ 」
西山と加藤たちは防壁の後ろから、ひたすら槍で吸血鬼を突き刺し続ける。
-
吸血鬼「グァァァァ! 痛エ! よくもやりやがったなッ!」
ダダッ
トッ…
バッ!
一匹の吸血鬼が激昂して仲間を踏み台にして防壁を飛び越えた
吸血鬼「死にやがれッ クソ人間が」
斧が西山の顔面に目がけて振り下ろされる…
加藤「西山ァ!」
西山「ひいいいいいいいいいッ!」
その刹那、西山の背後から飛来した矢が吸血鬼の脳天に立った。
吸血鬼「ガハッ……」バタンッ
西山「えっ?」
額を割られてばったりと倒れた吸血鬼。
思わず振り返った西山は大木の枝の上にさっきの矢を放った命の恩人を見つける。
弓を構えながらも、どこか安堵した表情を浮かべるユキだった
西山「助かったよ。ユキ……」
-
加藤「敵の勢いが弱まったぞー! 押し返せーッ!」
さしもの吸血鬼たちも槍で盾越しにつかれ続けられて、疲弊したのか、緒戦の勢いを失っていた。傷だらけになっての突撃も、防壁を破ることはできず、無為に防壁の前に吸血鬼の死体を積み上げるだけだった。
吸血鬼A「ぐぎぎぎぎ 人間どもめ……」
吸血鬼B「チクショウッ! 何度やっても破れねえ!」
吸血鬼C「態勢を立て直そう! いったん退くんだ!」
吸血鬼の隊長「なに馬鹿言ってやがる! 人間どもに舐められたままでいら…」
ザシュッ!
突然、盾と盾の間から飛び出した槍が隊長の脳天を貫いた。
-
吸血鬼の隊長「グッ…ガ…」
吸血鬼A「うわーッ! なんてこった! 隊長が、隊長がやられちまった!」
吸血鬼C「俺たちはいったいどうすればいいんだよッ クソ!」
ワーワー
ワーワー
加藤「おいッ! 西山!」
西山「ああ わかってるよ!」
吸血鬼の陣営の動揺を西山は見逃さなかった。
西山「いまだッー! 盾を上げろ 突撃だ―!」
人間軍「「うおおおおおおおお!」」
-
吸血鬼たち「「ひいいいいいいいいい!」」
西山「敵は逃げ腰だぞーッ! やっちまえー」
吸血鬼「助けてくれーッ!」
ドタドタ
加藤「たあッ!」
ドスッ
吸血鬼「グハッ……」ドタッ
次々と吸血鬼が打ち取られていく
西山「一人も打ち漏らすなーッ!」
-
人間軍「「オーッ!」」
加藤「おいッ! 西山 おい!」
血気に逸る西山に、突然、加藤が詰め寄ってきた
西山「なんだよ、加藤、どうしたの?」
加藤「あそこを見上げてみろ、ほら早く!」
加藤が指した、左前方に生えた松。
その枝の上で歩哨をしている紅葉がこちらへしきりに合図を送っている。
なにやら必死の表情ではるか前方を指さしていた。
-
西山「……」
加藤「あれって、なんか重要なことを伝えたいんじゃ……」
西山「まずい! みんな集まれーッ! 陣を組みなおすんだ!」
人間軍「「 ! ! 」」
加藤「えッ!? 何言ってんだよ。西山は?」
西山は散らばった人間軍に召集をかけた。
前方に散らばる忍者たちも加藤と同じようにこの指示を疑問に思う。
彼らは深手を負って地面に倒れ伏した吸血鬼たちにとどめをさすのに夢中だった。
忍者A「なに言ってんだ? 西山さんは。あとはその辺に転がってる奴を殺すだけっだていうのに」
忍者B「まったくだぜ。ったく何考えてるんだか……」
忍者C「おいッ! てめーら何ぼさっとしてんだ! 前見ろ、前!」
忍者A&B「「えっ?」」
-
吸血鬼たち「「ゥォォオオ!」」
新手の吸血鬼たちが曲がり角からなだれ込んできた。
吸血鬼「いたぞぉー! 人間どもだ。叩き殺せーッ!」
忍者A&B&C「「「ひいいいいいいい!」」」
西山「みんなー 早く戻るんだ! 防壁を組み直すぞ」
加藤「オラオラー! モタモタすんな、盾を持てー」
-
慌てて盾を拾い上げる忍者たちが、西山のもとに集う。
盾と盾が噛み合わさる気味の良い音が鳴る。
急ごしらえの感は否めないが、ともかく、通りに防壁を貼ることができた。
すでに新手の吸血鬼たちは目と鼻の先まで迫っている。
吸血鬼a「なんだこりゃあ! 東区の奴らはもうやられちまったのか!」
吸血鬼b「信じられねえぜ。たったあれだけの人間にやられるなんてよ」
吸血鬼c「おい! なんだあの盾の壁は!」
吸血鬼b「あれか! あの壁に東区の奴らはやられたのか!」
吸血鬼a「くそ! あれを破るのは骨だぜ、チクショウ!」
吸血鬼の隊長「うろたえるんじゃねえッ! てめぇら、俺たちは雅様に人間どものあの戦術を破る術を授かったのを忘れたのかっ!」
吸血鬼たち「「(そうだ……雅様は俺たちのことを気にかけてくださった)」」
吸血鬼の隊長「忘れるなっ! 防壁に取りついたら、各々、例の「アレ」を使え!」
-
ワーワー
ワーワー
加藤「みんな、敵が突っ込んでくるぞ! 衝撃に備えろ、踏ん張れ!」
西山「手の空いている人は盾持ちしてる人を後ろから支えて!」
吸血鬼の隊長「雅様に奴らの血を捧げるのだーッ!」
吸血鬼たち「「 ウオオオオオオオオ! 」」
西山「来たぞーッ!」
ガガガガガガガガ!
吸血鬼たちは、突進の勢いをそのままに、一斉に防壁に体当たりをした。
防壁のいたるところで肉体と盾のぶつかる鈍い音が響く。
-
ズザザザザザザ
忍者A「チクショウ。なんて馬鹿力だ!」
吸血鬼「ヌガーッ!」
忍者B「うわあーっ!!」ドタッ
何人かの盾持ちの忍者がたまらず倒れた。
吸血鬼「あそこだ! あそこから壁に入れるぞ!」
周りの吸血鬼がそこに殺到する。
西山「控えの盾持ちの人—! 穴の前に壁を作って!」
忍者a「おい! あそこに人を回せ!」
忍者b「斬りかかれーッ! 一人も陣に入れるなーッ!
人間軍もすかさず穴を塞ぎにかかる
奥に控えていた腕利き達が突入した吸血鬼たちに襲いかかった。
-
吸血鬼「死ねー! 人間!」ブンッ
忍者 「させるかーっ!」
ガギン!
ギギギギギギ
鬼気迫る鍔迫り合い。
歯をくいしばる忍者。
だが、吸血鬼のパワーが次第に忍者の体を押しこんでいく。
吸血鬼「へっへっへっ、血ィ吸ってやる」
忍者「…………フッ」
吸血鬼「あァ?」
忍者「今だ! やれ!」
ザンッ
吸血鬼「ぐぁあああ!」
-
背後から袈裟に切られて、背中から血を吹き出す。
絶叫を上げ、うつ伏せに倒れた吸血鬼の後ろには刀を振り下ろした姿の加藤がいた。
加藤「大丈夫か?」
忍者「助かりました。加藤さん……」
西山「今だッ! 盾持ち隊— 吸血鬼どもを押し込めー!」
防壁の内部に突入した吸血鬼たちも、気づけば周りを盾に取り囲まれていた。
盾の包囲は次第に狭まっていく。
ついに吸血鬼たちは残らず防壁のうちから駆逐されていた。
-
吸血鬼a「くそッ! 失敗だ! 防壁の突破は失敗だ!」
吸血鬼b「なんなんだよ! この盾は! 槍が通らねえ!」
吸血鬼c「まずいぞ! このままじゃ俺たちも……」
吸血鬼の隊長「慌てるんじゃねえ! てめぇら、槍を捨てろ、今こそあの武器を使う時だ!」
吸血鬼たち「 「 ! ! 」 」
-
ワーワー
ワーワー
盾持ちa「はっ 吸血鬼どもめ、やっと勢いも落ち着いてきやがった」
盾持ちb「このまま支えきるぞー! ふんばれー!」
バキッ!
盾持ちc「グガッ……」ドサッ
突如、盾持ちの一人が倒れた。
盾持ちa「なっ! なんだ! なんでいきなり倒れたんだ!」
盾を槍が貫通したわけでも、吸血鬼が盾を飛び越えたわけでもない。
倒れた盾持ちは、鈍器で頭を打たれたのか、頭が陥没し、血を流している。
ただ、なぜか、通常なら武器が当たるはずのない後頭部が陥没していた。
-
あくしろよ
-
最終話 希望を胸に、すべてを終わらせる時…!
「彼岸島」第1巻は発売未定です。
松本光司
明「ちくしょう!くらえあしなが婆さん!新必殺音速丸太斬!」
あしなが婆さん「さあ来い明ァ!ワシは実は一回刺されただけで死ぬぞォ!」
(ザンッ)
あしなが婆さん「グアアア!む、村一番の美人と呼ばれたあしなが婆さんが…
こんな小僧に…バ…バカなァ!」
(ドドドドド)
あしなが婆さん「グアアアア」
満腹爺「あしなが婆さんがやられたようじゃな…」
チワワ様「ククク…奴は邪鬼の中でも最弱…」
牛乳女「人間ごときに負けるとは吸血鬼の面汚しよ…」
明「くらえェ!」
(ズサ)
3匹「グアアアアアアア」
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明「やった…ついに邪鬼達を倒したぞ。これで雅のいる城の扉が開かれる!!」
雅「よく来たな宮本明…待っていたぞ」
(ギイイイイイイ)
ヤマト「こ…ここが雅の城だったのか…!感じる…雅の殺気を」
雅「明よ…戦う前に一つ言っておくことがある。お前は私を倒すのに『501ワクチン』が必要だと思っているようだが
別になくても倒せる」
明「な 何だって!?」
ベルゼバブ「そしてお前の仲間達は痩せてきたので最寄りの島へ解放しておいた
あとは私を倒すだけだなクックック…」
(ゴゴゴゴ)
明「フ…上等だ…オレも一つ言っておくことがある。この俺に生き別れた兄貴がいるような気がしていたが、別にそんなことはなかったぜ!」
雅「そうか」
明「ウオオオいくぞォ!」
雅「さあ来い明!」
明の勇気が彼岸島を救うと信じて…!ご愛読ありがとうございました!
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第一部完と言う事で。すまぬ…すまぬ…
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オツシャス!
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唐突なソードマスターヤマト落ちで草
>>1は夢野カケラだった?
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ホントに続きはないんでしょうか?
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https://imgur.com/a/lGTmX
スタンド使い先生ェ
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