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【SS】呪術師ゆかり「様々な人に呪いをかけてきましたが……」
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ゆかり(私の呪いを解くことができる人間はごく一部……)
ゆかり(かえって依頼が今では少なく……ああ、参りました……)
ゆかり「……そろそろ呪いをかけないと……そうですね、今日はどなたに」
ゆかり「あら……? どちら様でしょうか」
有香「見つけました……ユカリ・フェアへイレン!」
ゆかり「私のことを知っているんですか?」
有香「はい。なんでもタチの悪い呪いを相手にかけて回る呪術師だとか……!」
ゆかり「……うーん、喜んでもらえることも多いのですけど」
有香「問答無用! 気絶してもらいます! ちぇいさーっ!」
ゆかり「きゃっ! す、すごい拳圧……」
有香「高度な呪文も、唱えるより速く! 拳をあててしまえばいいんです! あたしは武闘家ですから!」
ゆかり「まさかそんな理屈で拮抗してくる人がいるとは思いませんでした……」
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有香「まだです! やぁーっ!」
ゆかり「わ、わ、わ……仕方ありません……えいっ!」
有香「なっ、詠唱破棄!? そんなっ、きゃあああーっ!」
ゆかり「……本当は……説明してからかけないといけないんですが。効果は私にもわかりません」
有香「な、なにを……」
ゆかり「余裕がなかったので、つい……あなたがどうなるかは私にもわかりません」
有香「くっ、だったらあなたを倒して呪い、をっ……うっ……」
ゆかり「……すみません。ですが、あなたほど強いのでしたら大丈夫ですよね。私はこれで……」
有香「ま、まちなさいっ! ぐっ、か、身体が渇く……!?」
ゆかり(……私を止められる人など、もういないのでしょうか)
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昨日途中で落とされてて残念だったけどもう始まってる!
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有香(なんだろう、身体が……乾く。お腹が空いているような、喉が渇いているような)
有香(何か、何かが足りないんだ……あたしの身体から何かが抜き取られた……)
有香(この渇きを、埋めたい……)
有香(こんな強烈な衝動、初めて……あたし、どうにかしちゃったのか、な……)
ガサッ
??「あれ……誰か倒れてる!? ねぇねぇ、大丈夫!?」
有香「う、うぅ……」
??「しっかりしてっ! えーっと、何かないかな、えーっと、えっと」
ドクンッ
有香(か、身体がッ……熱いッ……! だ、ダメッ、『食べたい』って、思ってッ……)
有香(ダメ、ダメッ……このままじゃ、この人に、あたしはっ……!)
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なんで途中で落とされたんですかね…
落とさないでくれよー
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??「あった! ……っきゃぁ!」
有香「うぅ、うぅぅぅっ!」
有香(ダメ、おいしそう……おさえられないっ……!)
有香「ぱくっ……モグモグモグモグ……」
法子「あーびっくりした……そんなにドーナツ食べたかったの?」
有香「モグ……ド、ドーナツ……」
法子「うん! 美味しい? あたしのドーナツ! お母さん直伝なんだよっ♪」
有香「ごくんっ……お、美味しかったです……」
法子「よかった〜♪ あっ、でものどに詰まっちゃうから一気に食べちゃダメだよ」
有香「は、はい……」
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法子「それで、どうしてこんなところにいたの?」
有香「かくかくしかじか……こういうわけで……」
法子「そっか、悪い魔法使いを追いかけて……それでお腹が空いてたの?」
有香「いえ、たぶん……その、呪いのせいで……」
法子「呪い!? 大丈夫!?」
有香(身体は不思議と落ち着いてるし……この子が持っているクッキーやパンを見てもさっきみたいな衝動はわかない……)
法子「ねえねえ……」
有香「お、押忍っ!」
法子「お酢?」
有香「あ、いや……そのぅ……もう大丈夫です! ありがとうございました!」
法子「そう? えーっと、じゃあお土産にこのドーナツを……」
(有香が素早い動きで法子の手からドーナツを取る音葉)
有香「モグモグモグモグ……ハッ!?」
-
有香(こ、この呪い……まさか……!)
法子「そ、そんなにドーナツが好きなの……?」
有香「あ、あたし……ドーナツなしでは生きられない身体に……され……?」
法子「えぇっ!?」
有香「あ……えっと……」
法子「そっか、そっかぁ……悪い魔法使いは、ひどいね! でも大丈夫、ドーナツ無しでダメならあたしが作ってあげる!」
有香「そんな、初めて会ったのになぜそこまで!?」
法子「だって、ドーナツ好きに悪い人はいないからね! きっと悪い魔法使いさんもドーナツを食べれば仲良しになれるよ!」
有香「それは……どうかなぁ……」
法子「えへへっ、じゃあ有香ちゃんもドーナツ作りの練習ーっ! あたし、他の人が作ったドーナツ食べるのも好きなんだー♪」
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――――
――
有香(ドーナツ……作っている間は不思議と衝動は湧いてこない……)
有香(出来立てをすぐに食べたい! って気持ちは湧いてくるけど……でも……)
法子「えっ、くれるの? やったー!」
有香「初めて作ったので……あんまりおいしくないかも……」
法子「ん〜♪ 美味しい! すっごく美味しいよ。ほら、食べてみて、あーん♪」
有香「むぐっ……」
法子「ねっ! よぉし、あたしも負けないぞ!」
有香(……美味しい……さっきまでの渇きが嘘みたい……)
法子「ふんふんふー♪ おいしくなーれっ、おいしくなーれ〜」
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ゆかり(先ほどの呪いの結果……気になって見に来ましたが……)
ゆかり(……特定の食物への高依存症……ですか……カロリーの異常要求、でもないんですね)
ゆかり(ずいぶんと珍しい症状が……)
法子「よぉし、完成っ! はい、どうぞ」
有香「いただきます……もぐ……やっぱり、美味しいです……」
法子「えへへ……喜んでもらえるって嬉しいなぁ。ドーナツは人と人とを繋げる輪なんだよ♪」
有香「人と人とを……繋げる……」
法子「そう。だからドーナツはわっかなの。いっしょに食べた人が手をつなぐみたいに、ねっ」
有香「……ふふっ。そうですね、あたしは法子ちゃんに会えて助かりました。ドーナツのおかげです」
ゆかり(……おいし、そう……)
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ゆかり(……ダメ。私はユカリ・フェアへイレン……呪術師として、私は……)クゥゥ…
法子「……ん?」
ゆかり「あっ」
有香「……あっ!」
ゆかり「し、しまった……お、思わず身を乗り出しすぎました……!」
有香「まさか法子さんまで狙う気ですか! させませんっ、ハァァッ……」
法子「ストップ! ストーップ!!」
有香「のっ、法子さん!? なんで!」
法子「だって、有香さん……見て」
ゆかり「うぅ……おいしそう……たべたい……」
法子「この人もお腹が空いてるんだよ! ドーナツが食べたい人は友達だよ!」
有香「そんな理屈が……!」
有香「……いや、ありますね。あたし、それで助けてもらったんですから……」
法子「うんっ!」
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ゆかり「……もぐ……」
法子「どう、美味しい?」
ゆかり「……おいしい、です……」
法子「よかった〜! 紅茶もどうぞ、美味しいよ♪」
ゆかり「……おい、しい……おいしい……ぐすっ……」
法子「わわっ……ど、どうしたの? どこか痛いの? おなか?」
ゆかり「……私は……呪術師です。望まれればいつでも、誰にでも、どんな呪いもかけます」
有香「……それは知ってます。相手の目の前に現れ、突然理不尽な内容をいい、呪いをかける、と……」
ゆかり「……私の呪いは上位魔族にすら匹敵するものです。呪い続けることこそが私の呪力の源……」
ゆかり「人が人を呪う気持ち、というのは……キリがないですからね。だから私は、この年齢でフェアへイレンを継げたんです」
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法子「そんなにすごいんだぁ……」
ゆかり「はい。そして呪術師としての私は、毎日依頼を受け、呪い続けました」
ゆかり「……それが日常ですし、欠かせば呪力が弱まりますし、ね」
有香「だから許せと? あなたがかけた呪いは……!」
ゆかり「いいえ。許しは請いません……ですが、名が売れた呪術師に対して何が起こるかをお伝えします」
有香「いったいなに……を……」
ゆかり「私は呪術師。呪いを返されることもありました……そして、返された呪いは私を強く蝕む」
ゆかり「呪った相手の遺族が、別の高名な呪術師に依頼して私を呪ったこともありました。複数の強烈な呪術は痛かったです」
ゆかり「だから私の身体は今も複数の呪術で縛られているんです。あまり、ローブは脱ぎませんが……これが理由ですね」
法子「……ひどい……痛そう……」
ゆかり「うふふ……でも、お仕事はやめられませんから。だから私は私を呪っているんですよ」
ゆかり「『人を呪わずにいられない呪い』で」
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有香「なっ……何故そんな!?」
ゆかり「私の呪いが誰の呪いよりも強いからです。そうすれば『人を呪えなくなる呪い』は私に利かなくなります」
ゆかり「……代々受け継ぐ『フェアへイレン』の名を絶やすわけにもいきませんし……」
ゆかり「誰からの依頼も受けていない時は、そちらの有香さんがおっしゃったように辻斬り的に呪いをかけていました」
ゆかり「呪いをかけずにはいられない呪い……でも喜んでもらえる呪いがかけられればいいと……」
ゆかり「……そう、願ってはいるんですが。あまりうまくいきませんね」
ゆかり「どうやら意図しない効果があったり……勇者様や魔導士様ですら抵抗できないようですし……」
ゆかり「個人的な愉悦でもって、ひどいことをすることもありますから。私はもう、まっとうな人間ではないのでしょう」
有香「……」
ゆかり「ドーナツ、ありがとうございました。私のお話はここまでにしましょう」
法子「……っまって!」
ゆかり「あら……なんでしょうか。あぁ、ドーナツのお代でしたら……えぇと、確か金貨がここに……」
法子「違うっ、ちがうよ! ダメだよ、そんなのダメっ!」
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ゆかり「……ダメ、とは?」
法子「だって……そんなの、つらいよ。呪わなきゃダメなんて、呪われっぱなしなんて、きっと……」
ゆかり「そういわれましても……私は、そうやって生きてきたんです。そちらの……有香さん、でしたか。ご存知ですよね」
有香「……はい。ひどい呪いを受けた、といくつも……死んでしまった人もいる、と」
ゆかり「ほら。ですから、私はこれからも様々な人を呪い、呪われ……いつか、どこかで死ぬのでしょう」
有香「……」
法子「でも、ダメだよ! 生きてきた『これまで』がどんなのでも、『これから』もそうしなくてもいいんだよ!」
ゆかり「……有香さんへの呪いは解きます。ですから、放っておいてください。あなたは今の私には……眩しくて……」
有香「……ユカリ・フェアへイレン……いえ、ゆかりさん。あなたは本当は……」
ゆかり「さぁ、のろ……い……を……?」
有香「……なんですか……?」
ゆかり「こ、これは……どうして……? 有香さんにかかっている呪いは……私の呪いとは、違う……」
有香「えっ!?」
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有香「ど、どういうことですか! まさか誤魔化して何か……」
ゆかり「私は呪術師です。契約、約束事に関してたがえることはありません……ですが、おかしい、この呪いは……」
有香「……なん、ですか? 『ドーナツを食べたくなる』呪いでしょう?」
ゆかり「私がかけた呪いです。読み間違えるはずがありません」
有香「だ、だったらどんな呪いなんですか?」
ゆかり「……これは『人の血を啜らずにはいられなくなる』呪いです」
有香「えっ……!?」
ゆかり「本来は、というべきでしょうか……? 変質してしまっていて……」
有香「吸血衝動なんてもの、少なくとも今はありませんよ……だったら、今はどうなんですか?」
ゆかり「そうですね……結果的に、『ドーナツを食べると幸せになってしまう』呪いに……」
有香「……はい?」
ゆかり「やはり、そうなりますよね……私もそうです……」
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昨日落ちてたから待ってたゾ
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ゆかり「こんな変質の仕方、初めて見ました……呪いを解くでもなく、衝動を抑えるでもなく、まったく別の……」
有香「ま、まさかこのドーナツが……法子さん! あなたはいったい!?」
法子「そっか……これ、ドーナツのおかげだよ!」
有香「えぇっ!?」
ゆかり「そ、そんなはずは……何か魔法でも……」
法子「ううん。だってあたし、魔法使えないもん」
有香「では……なぜ……?」
法子「きっと、ドーナツが美味しいのはまるで魔法みたいっていっつも思ってるから……食べたら幸せになっちゃうんだよ!」
ゆかり「物質媒体型の高度呪術……? でも上書きではなく変容なんて聞いたことも見たことも……」
法子「難しいことはいいから、はいあーんっ!」
ゆかり「あむっ……もぐもぐ……美味しいです……」
法子「ねっ、だからゆかりちゃんも呪ったり呪われたりなんて怖いこと……やめよ……?」
ゆかり(……私にかかっている呪いも、同じように変質してしまったのでしょうか……? この、気持ちは……いったい……)
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ゆかり「……わかり、ました」
法子「やったぁ!」
ゆかり「ですが、私はこれまでたくさんの人を呪ってきたんです。呪うことをやめたからって恨みの輪は……」
有香「……あなたの呪いに関してですが、最終的に『死』をもたらされたのは相当に評判の悪い……恨まれる人、だったようですね」
ゆかり「さぁ……わかりません。結果的にそうなっただけかもしれませんよ」
法子「ゆかりちゃん。ゆかりちゃんは、どう思ってるの?」
ゆかり「……私は、フェアへイレンとして呪いを止めることは」
法子「フェアへイレンさんじゃなくって、ゆかりちゃん! ドーナツが美味しいって言ったゆかりちゃん!」
ゆかり「……呪いを、止めることは、できません。自分でだって、無理です。呪いをかけ続けることでしか、私は」
有香「……本当に、そうですか?」
ゆかり「えっ?」
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有香「あなたはたった今、私にかかっていた呪いが全く別のものに変質していた、と言いました」
ゆかり「……なんらかの奇跡が起きたのでしょう」
有香「呪術師らしからぬセリフです。理を曲げ、現を変える。そのために、何よりも理論を重視するのが呪術師のはず」
有香「だったらあなたはここで起きたことを解明しなければいけないのでは?」
ゆかり「……そんな機会を与えていいんですか?」
有香「……これまで呪ってきた人に対しての贖罪は当然してもらいます」
有香「……ですが、今のあなたは……あたしが考えていた邪悪な呪術師とは……あまりに……」
ゆかり「……私の、負けですね。私が『呪い』の衝動でかけてきた呪いに関しては、解呪のためにかけた人たちに会う必要がありますが」
ゆかり「そして私自身への呪いは……報いとしてうけ……いれ……」
有香「……どうしました?」
ゆかり「あれ……? 私の呪いも『ドーナツを食べると幸せな気分になれる呪い』になってる……?」
有香「えっ!?」
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ゆかゆかのりこすこ
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ゆかり「驚きました……まさか、とっさに放った呪術だけではなく何重にも重ねた禁呪の域の呪いまであっさりと……」
有香「つまり……あなたは……」
ゆかり「……私はもう、誰も呪わなくとも身体は痛みません。呪力自体は……ドーナツを食べることで補充できそうですね」
有香「そ、そんなでたらめな」
ゆかり「私もそう思います。法子さん……あなたはいったい……?」
法子「えーっと……あたしは美味しいドーナツが好きなだけだよ……?」
ゆかり「まぁ……なんて興味深い……」
有香「の、法子さんには手出しさせませんよ!」
ゆかり「しませんよ。ドーナツを食べるだけで呪力を増せるなんて……」
ゆかり……しかも、誰も呪わなくていいなんて。こんな奇跡、手放したくない……」
法子「ゆかりちゃん……有香ちゃんも、はいっ!」
有香「むぐっ、もぐもぐ……ド、ドーナツ……?」
ゆかり「もぐ……美味しいです……」
法子「よくわからないけど、2人ともこれで友達になったんだよねっ?」
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有香「と、友達……?」
ゆかり「まぁ……私、友達ができるのは初めてです。喜びの呪いをひとつ……」
有香「わぁーっ! 何をするんですかっ!」
ゆかり「あら……でも、呪術師はこうやってお互いに自分の存在を刻みあって友情を……」
有香「そんなご家庭だったんですか!? ……もうっ、あなたのご家族にもお話をする必要がありますね!」
法子「ドーナツの差し入れもいるかな……?」
有香「そういう意味では……っ、いや……確かにそのドーナツを食べたら和解できるかもしれないですけれど……」
法子「わぁ! じゃあたっくさん作らなきゃ! 有香ちゃん、ゆかりちゃんっ、いっしょに作ろーっ!」
ゆかり「ドーナツを作るのも初めてです……私、にわかにやる気がわいてきました……!」
法子「おぉーっ、燃えてるっ! ほらほら、有香ちゃんも! ゆかゆかーっ、ふぁいとーっ!」
有香「ゆかゆかっ!? ……ええいっ! 負けませんよっ、ゆかりさん!」
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もっとゆかりを取り上げて、ホラホラ
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ゆかり(ああ、なんて充実した気分……これは、変質した呪いの影響……?)
ゆかり(それとも……)
法子「どうしたの? ……わかった、いっしょにつまみ食いしちゃおーっ」
ゆかり「もぐ……」
法子「もぐもぐ! えへへっ、おいしいね」
有香「つ、作った傍から食べていたらゆかりさんのかけた呪いを解きにもいけないじゃないですかーっ!もーっ!」
法子「あっ、失敗失敗……ごめんね、はいあーん」
有香「もぐっ、美味しい……じゃーなーくーてーっ!」
法子「えへへ……」
ゆかり(……ああ、私が欲しかったものは……私が人を呪ってまで与えたかった『幸せ』というのは……こんな気持ち、なんですね)
おわり
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ああ^〜
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【安価SS】水本ゆかり「微妙な呪いをかけてあげましょう……」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/20196/1480597519/
このスレがあとちょっとってタイミングで落ちて一日モヤモヤがはれなくって
思わず完結部分だけ微妙に書き足したり書き足さなかったりしながら作っちゃいました。AILEくんと読者のみんな許して
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最後まで読めなくてモヤモヤがはれなかったのはこっちも同じだしヘーキヘーキ
後日談も書いたり書かなかったりしろ
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やっぱりゆかゆかのりこを...最高やな
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