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巴「おっ? おもろいモン持っとるのぅ」

1 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/01(土) 00:09:34 .iJEeEN.
P「分かるか?」

巴「当たり前じゃ。ウチを誰やと思うとる」

P「コイツは俺のお気に入りでな。京都に旅行に行った時に買ったやつなんだ」

巴「ほぉ……鞘だけでわかる、間違いなく逸品じゃろ。見とれるような呂塗りに緋寒桜……惚れ惚れするのぅ」

P「ああ。俺も一目でただものじゃないと思って即刻購入したからな」

巴「真贋がわかりゃあせんともこれはな。プロデューサー、よかったらウチにようと見さしてくれんか」

P「いいぞ。その前に巴」

巴「なんじゃ?」

P「これ、なんだと思う?」

巴「あ? ドスじゃろ?」

P「そうかそうか、短刀か。ほれ」スッ

巴「? 含みのある言い方が気に食わんが……まぁ検めさせてもらうけぇ」カチャッ

巴「――! …………こりゃあ……」

P「驚いたか? そいつは短刀じゃなくて甲割なんだよなぁ」

巴「一本取られたわ。よくよく見りゃあドスの鞘にしちゃいびげな膨れ方しとるはずじゃ」

P「くくく……良いだろ。本当に綺麗な刃挽刀だよ、コイツ」

巴「ああ……中身も別格じゃ。プロデューサー、ウチに寄越せ」

P「やらん」

巴「かかっ、わかっとる」

P「もしなんかあってもそいつがあればお前を守れるからな」

巴「なっ……ば、バカタレが!」バシンッ

P「あ痛った! ちょ、ストップストップ! 喉は殴らんといて!!」

巴「いきなりそげなこと言うからじゃ……じゃのうて! おどれも男なら道具使わんと体一つで守ったらんかい!!」

P「あ、そういうこと!?」

巴「プロデューサーは鍛え方が足らん。ウチの若い衆にいっぺん揉まれりぃや」

P「鍛えるからマジ勘弁」

巴「ふん……ほじゃけど京都か……」

P「京都がどうかしたのか?」

巴「いんや。昔見た上七軒の桜が忘れられんで、な」

P「……だったら予定立てて旅行に行くか」

巴「ほんまか!?」

P「嘘は言わん」

巴「そうか……プロデューサーと連れおうて京都か……くっくっ」

P「そいじゃあこれからスケジュール調整頑張っていきますかねぇ。巴も多少のハードワークは我慢してくれな」

巴「言うまでもないわ。おどれこそ、おじゃんになったらどつき回したるからな?」ニカッ


2 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/01(土) 00:18:14 dgWphALo
旅行行って刀買って帰るってレベル高い中学二年生みたい


3 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/01(土) 00:21:10 80wsti6.
甲割って十手なんです?


4 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/01(土) 00:23:36 tHEJ6Wko
お嬢すき


5 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/01(土) 00:30:16 axbdgwFI
お嬢ほんとすこ


6 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/01(土) 01:14:51 .iJEeEN.
・お年頃


巴「なに見とるんじゃ」

P「おお、巴か。こないだのグラビア、撮影したやつが届いてな」

巴「ああ……えろぉじっくり見よらんかったか? ん?」

P「そら細かい部分まで見とかないと何かあってからじゃ遅いしな」

巴「最近の写真はやたらとハッキリ写るからのぅ……肌荒れなんかメイクじゃ誤魔化せんのかい」

P「場合による。それよりも心配なのは……いや」

巴「おどれの悪い癖、なんか言いかけたら黙りよる」

P「まぁお前の歳なら心配いらないかなと思って」

巴「そういう問題やのーてウチがモヤモヤするんじゃ」

P「うーん……今回は水着のグラビアだろ?」

巴「おう」

P「だから、あー……デリケートゾーンの処理を怠ってるとハミ出て写っちゃうのよ」

巴「………………」ボコッ

P「ぐへぇっ! 痛つつ……真面目な話だぞ?」

巴「わかっとるわんなもん! それにウチはな――ンン!」

P「なんだ?」

巴「なんでもないけん」

P「…………言いかけて黙るのは悪い癖――」

巴「なんでも無いって言いよろうがボケェ!!」


7 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/01(土) 01:35:21 .iJEeEN.
・奇妙な飯より安い飯



巴「かぁーっ! ぶち疲れたわ……」

P「お疲れさん。リハはこれで終わりだから、時間もちょうどいいし昼飯食いに行くか」

巴「そうやな。そいで今日はもう……チッ、まだ予定あるんやったわ……」

P「よく覚えてんな。内容は?」

巴「出演するドラマのスポンサーと顔合わせ」

P「その通り。上手くいけばCM一本貰えるかもしれん」

巴「ほじゃけど接待は好かん。なんでウチがなんもおかしゅうないのにニコニコしとかないけんのじゃ」

P「じゃあ止めとくか?」

巴「それこそ好かんわ。仕事はキチッとやり遂げる。プロデューサーに恥はかかせん」

P「それでこそ巴だ。今日乗り切れば明日と明後日はフリーだから、もうちょっとだけ頼むな」

巴「任せたらんか。ウチにかかればちょちょいのちょいじゃけん!」

P「気合い充分で何より」

巴「ん。そいで、昼はどこまで出向くんじゃ」

P「面白い店見つけてな。なんと、そこのハンバーグはチョコレートがかかってるらしいぞ」

巴「…………おどれはウチを珍味ハンターか何かと勘違いしとらんか」

P「そりゃ普通の飯で満足できんとはいえ、ありすのいちごパスタを美味しいって言うんだから……」


8 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/01(土) 02:13:33 .iJEeEN.
・ジェネレーションギャップ


巴「そげん長いこと座っとったらケツが痛とうならんか」

P「女の子が恥ずかしげもなくケツとか言うんじゃねぇっての。尻と言え尻と」カリカリ

巴「ケツはケツじゃ」

P「そりゃそうだけどさ……まぁいいや。椅子がいいから大丈夫、と言いたいんだが、それも長く続くとな」カチッ

巴「クッションの一つでも敷いてみたらええやないけ」

P「んー……考えてはいるんだが、いざ買いに行こうとした時には忘れてる」カリカリ

巴「ボケか?」

P「誰が年寄りだコラ」カチッ

巴「んなこと言うとらん」ケタケタ

P「言ってるも同然なんだよなぁ……あ、暇なら珈琲いれてくれないか?」カリカリ

巴「そりゃ構わんが……プロデューサー、それ癖か?」

P「あ?」カチッ

巴「それじゃ。さっきからカチカチカチカチと……うずろーしくて堪らん」

P「あっ、悪い。このロケットペンシルすぐに芯が無くなっちまうから……」

巴「ろけっとぺんしる? なんじゃそれ」

P「えっ!? 知らないの、ロケットペンシル!?」

巴「まったく」

P「そ、そう……知らないんだ、そうか……」

巴「?」


9 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/01(土) 02:38:24 6hMPDQoE
ロケット鉛筆なつかしい
台湾生まれとは知らなかった


10 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/01(土) 06:29:35 xHlmzMNE
粗暴だけど根は粋なお嬢Pすき
もっと色んな個性のプロデューサーのSS増えてもいいと思う


11 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/01(土) 13:25:12 axbdgwFI
・伊達


P「さて問題。今日は何の日でしょうか」

巴「あ? ウチがおどれを血祭りに上げる日じゃ」

P「こっっっわ!! 俺なんかしたっけ!?」

巴「冗談じゃ、冗談。……それとも、なんか身に覚えがあるんかいの? 」

P「ないないありません」

巴「清廉潔白なようで何よりじゃ。ウチもプロデューサーを手にかけとうないからな」

P「ひえっ……」

巴「そいで、今日が何の日じゃって?」

P「ああ、今日はメガネの日なんだ」

巴「眼鏡……ウチにもプロデューサーにも、あまり縁のある日じゃないやろ。そういうんは上条の姐さんに言いんさい」

P「そう言うなって。ほら」

巴「なんじゃい、この眼鏡の山は」

P「春菜に適当に見繕ってくれって言ったらこんなにくれた」

巴「ほんっと筋金入りじゃのう。そがーにしても、これをどうしろっちゅうんじゃ。ウチは目を悪うしとらんぞ」

P「くっくっく……世の中には伊達眼鏡というものがあってだな、度の入ってない眼鏡をお洒落で掛けたりするんだよ」

巴「聞いたことあるような無いような……あー、つまりウチに眼鏡掛けさす為に拵えたんかい」

P「イエス!」

巴「チッ、アホウが。そげん楽しそうにされたら掛けるしかのうなるやろが……」スッ

P「おっ」

巴「どうじゃ? 情熱の赤、熱意の赤! ウチが掛けるんならこれやろ」

P「ふむ……」

巴「ん? ピンと来とらんようやの」

P「その太いフレームのやつも似合ってるんだが……あったあった、こっち掛けてみてくれ」

巴「ん」スチャッ

P「……うん、俺はそれが似合うと思う」

巴「そか? フレームが細いわ一部が欠けとるわで、あんまり合うごと無い気がするわ」

P「それはアンダーリムっつってな。上半分のフレームがないから目元、眉とかが強調されんのよ」

巴「はあ」

P「お前はキリッとした目つきしてるし、そっちのが巴の魅力を殺さずに活かせるかなって」

巴「………………ナンボじゃ」

P「え?」

巴「この眼鏡が幾らかって聞いとるんじゃ」

P「ああ、一つならそのまま差し上げますーって言ってたぞ」

巴「ほーかい。そいじゃあこれはウチが貰うけん」

P「そうかそうか! もしかして、巴もこれから眼鏡生活か?」

巴「勘違いしーなや、プロデューサー。これを掛けるんは…………お、おどれの前でだけじゃ」

P「……くくく」

巴「興が乗った時だけやからな!! ええな!?」

P「はいはい」ニヤニヤ

巴「くぅぅぅぅ……っ!」ゲシッゲシッ

P「あ痛った! ちょっ、やめ、太股蹴らんといて!!」


12 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/01(土) 13:56:25 axbdgwFI
・距離感



巴「うぅん…………チッ………………はぁ…………」モゾモゾ

P「…………巴ぇ」

巴「あぁー?」

P「さっきからなに呻いてんだ。落ち着いて仕事できんのだが」

巴「眠とうて堪らんけんソファで横になったんやが、どうにも寝づらいんじゃ」

P「狭い?」

巴「いんや、そんなこたぁないわ。ほら、ウチは基本的に和室で過ごしとるから……」

P「なるほどな。っていやいや、仮眠室使えよ」

巴「棟方がおる」

P「あー……」

巴「悪い、邪魔しとるやろ。我慢するけん気にせんといてくれや」

P「……そんなにあれなら畳買うか」

巴「あ?」

P「いや、畳一畳買って置いときゃいつでもここで仮眠取れるんじゃないのかなって」

巴「そらありがたいが……いいんか? デスクはおどれだけのもんじゃないやろ」

P「少なくともこの部屋は俺だけのもんだから心配すんな」

巴「……ええんか?」

P「一畳でお前の快適な睡眠が約束されるなら安い買い物だわ。早めに用意しとく」

巴「ほうか…………その……ありがとの」

P「どういたしまして。ま、そういうことだから今日は我慢してくれ」

巴「……………………」スッ

P「どした?」

巴「プロデューサー、もうちょい股ば広げちゃらんか」

P「? こうか」

巴「ん」ストン

P「えぇ……えぇ?」

巴「黙っとれ。こっちのが寝やすいかもしれんやろ」

P「いやいやいや……」

巴「ほら、手が止まっとるぞ」

P「…………まぁ、巴がそれでいいならなんも言わんが」カリカリ

巴「……………………」

P「……………………」カリカリ

巴「プロデューサー」

P「んー?」カリカリ

巴「おどれも……一端の男なんじゃな。ウチが背中を預けられるくらいには……大きい、身体ば……しとる…………」

P「…………巴?」

巴「スー……スー……」

P「マジで寝やがった……ったく」ポンポン

巴「フンッ」ドスッ

P「ぐへぁっ!?」

巴「スー……スー……」

P「」チ-ン


13 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/01(土) 15:40:42 axbdgwFI
・誘導



P「とーもーえーちゃんっ♪」

巴「気色悪いんじゃおどれェ!! 蹴たぐりこかすぞ!!」

P「いやいや面白い仕事が入ったんだよ。今までに無いような、お前の新たな境地を開拓できるかもしれない仕事が!」

巴「おどれがそうやって気味の悪い猫なで声で来る時は、決まってロクでもないけんのう……」

P「そう言うなって。何事も挑戦から成長への第一歩に繋がるんだから。巴だってもっと上を目指したいだろ?」

巴「う……そりゃあそうじゃが……」

P「巴ほど度胸もあって肝も座ってるなら、どんな仕事でも完璧にこなしてくれると思ったんだがなぁー」

巴「チッ、わーったわーった! やったろやないけぇ!」

P「いいんだな?」

巴「女に二言は無い! ――と言いたいところじゃが」

P「お?」

巴「前も同じごとして嵌められたけんのぅ。まずは仕事の中身ば見せちゃらんかい」

P「用心深い……ほれ」

巴「んー、どれどれ…………ゴスロリぃ?」

P「そうそう。あの年末大掃除の時よりひらひらフリフリのやつ着んの」

巴「ウチには合わん」

P「えぇー? 巴逃げるの?」

巴「なにぃ……?」

P「だって自信無いから合わないっつってるんでしょ? もしプロなら服装に合わせていくくらいの度量はあると思うんだけどなー」

巴「おどれ……ウチが芋引いとると思っとんのかい。ええ度胸やないか! やったるわその仕事!!」

P「無理しなくてもいいんだぞー」

巴「ハッ。ウチが本気出したらつまらん仕事になるから遠慮しただけじゃ」

P「ホントにー?」

巴「ったり前じゃ。見とれよプロデューサー、度肝抜かせて今吐いた言葉後悔させちゃるけんな!」

P「そりゃ楽しみだ」

巴「それよか……よくも器量が小さいだのほざいてくれたのォ? ああ?」ギリギリ

P「あたたたた!! ギブギブ!! ごめんなさい!!」


14 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/02(日) 00:23:49 jWW8r6sQ
・例え話



P「仮に俺が急にプロデューサー辞めたらどうする?」

巴「世界の果てまで追っかけて首根っこ締めてから事務所まで引き摺り戻す」

P「もうちょいこう、優しさというか……」

巴「あ? おどれがアイドルに興味無い言うたウチを引き入れたんじゃろが」

巴「アイドルがどういうもんかは教えてもろうたが、一緒に世界獲る言うたんに天に向かって唾吐くっちゅうんはどういう了見じゃ」

P「本当にただの例え話だよ。もしどうしようもない理由で辞めざるを得なかったら、巴はどうすんのかと思って」

巴「……………………」

P「別にそんな真剣に考えなくてもいいんだぞ」

巴「真剣にもなるわ」

P「なんでよ」

巴「ウチはプロデューサーに仁義を通さないかん立場じゃ。おどれはウチにアイドルがどんなもんか知らしめてくれたけん」

巴「やけど事務所自体には義さえあれど仁はない。おどれが居らんでもアイドルはある程度続けるじゃろ……が、それまでじゃ」

P「要するに、しばらく続けるけどすぐ辞める、と」

巴「そうじゃ。おどれが居らんなら事務所でシノギば削る意味も無い。代わりにケジメはきちっと着ける」

P「ふーん……」

巴「逆におどれはウチがアイドル辞めるっちゅうたらどないするんじゃ」

P「そうだな………………」

巴「………………」

P「まぁ……そん時に考えるわ」

巴「なっ……人に言わせとってそりゃあないじゃろが!!」

P「いやぁさ、なんか急に巴がいなくなるってのが想像できなくて……」

巴「…………そりゃ信頼されとるっちゅうことか?」

P「そう……かな。お前のことは心の底から信頼してるつもりだけど……なんかわかんねぇ」

巴「せやったらな、プロデューサー」

P「うん?」

巴「信頼っちゅうんは仁義とよう似とる。そいつを思いやれる、そいつを信じとる心意気は変わらん」

巴「やけんそれは裏切ったらいけん。なんであれ……筋は通すべきじゃ」

P「…………悪いな、変な話して」

巴「ええ。ウチとプロデューサーの仲じゃろ」

P「ん。まぁ心配しなくても急に消えたりはせんよ。後が怖いしな」

巴「くくっ、土手っ腹に風穴空くけぇの」

P「おっかないおっかない……」

巴「…………おどれは」

P「あ?」

巴「ウチがなんも言わんごと居らんくなったら探してくれるんか?」

P「当たり前だろ。草の根分けてでも見つけてみせるわ」

巴「……ほうか。くくく」


15 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/02(日) 00:44:31 kU0xLADA
いいゾ〜このスレ


16 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/02(日) 01:51:36 jWW8r6sQ
・服



巴「プロデューサーはスーツしか持っとらんのか?」

P「俺がそんなに貧乏人に見えんのかコラ」

巴「いや、ようと考えたらウチはおどれがスーツ着とるとしか見たことないけんが、ちぃと疑問に思ったんじゃ」

P「そういやそうだな。私服もあるにはあるんだが……」

巴「忙しゅうしとったら着る間もないか」

P「そうなるなぁ。巴こそ、そのスカジャンはともかくスカート持ってないのかよ」

巴「ああ? なんでスカートなんじゃ」

P「いやさ、やっぱ女の子だったらスカート履くでしょ。巴はああいうの嫌いなんだろうけど」

巴「分かっとるなら言うなや」

P「でもワンピースは持ってたじゃん」

巴「あ、あれは……! 舞い上がってつい買ってしもうたんじゃ。腐らすのもいかんけんが、着ただけで……」

P「白状しろよ。本当は持ってんだろ、スカート」

巴「………………持っとる」

P「やっぱり」

巴「じゃがあんなもん履かん。ウチの一張羅にあれは合わんけん」

P「衣装がスカートなら履くじゃん」

巴「仕事は別じゃ。公私混同はせん」

P「んん……そうか」

巴「言いたいことがあるならハッキリせえよ、プロデューサー」

P「たまにはスカート履いた姿も見たいと思っただけだ。他意は無い」

巴「したらおどれもスーツ以外を着ることやな」

P「ああ」

P「………………? あっ、え? 俺が私服見せたらスカート履いてくれるってことか?」

巴「知らん知らん! どう考えようがおどれの勝手じゃ! ニヤつくなわずろーしい!!」


17 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/02(日) 12:31:00 jWW8r6sQ
・自分



巴「のぅ、プロデューサー」

P「んー?」

巴「おどれは自分が何かわかっとるか?」

P「また抽象的な……なんだ、その曖昧な質問は」

巴「時々考える。ウチから家のことやらアイドルのことやら、色んなこと差っ引いて残るんはなんやろうなって」

P「ふーん……らしくないな」

巴「自分でもそう思うとるよ」

P「ま、そんなこと考えちまう気持ちもわかる。あるよな、そういう時」

巴「プロデューサーにもあるんか。ちゃらんぽらんしとる癖に」

P「余計なお世話だコラ。あったの! でも、結局自分は自分だしなぁ」

巴「自分は自分……」

P「そ。人間、周りの環境とかそれに連なる立場は簡単に変えらんないけど、そこで形成された自分はいわゆるもう一人の自分だ。そんなに変わらん」

巴「………………」

P「どうあれ自分が生み出したものに変わりないんだから、例えもう一人の自分がいなくなって素の自分が剥き出しになっても、そう変わらないんじゃないかな」

巴「………………」

P「悪い。ちょっと自分でもちゃんと言えてるかわからん」

巴「ごちゃごちゃしとるとはウチもわからん……が、最初の一言で充分伝わったわ」

P「あ?」

巴「自分は自分……なんぼ取り繕うても誤魔化しても、そこだけは変わらん。ウチはウチじゃけん、どげんなってもそうなんよ、きっと」

P「……そうか」

巴「つまらん話したな、プロデューサー」

P「いいさ。お前でもそういうこと考えんだなって、少し安心した」

巴「そりゃどういう意味じゃ」

P「巴は絶対弱音吐かないからな。俺ん中だとデタラメに強い神経してるって事になってんのよ」

巴「……今のは弱音のつもりじゃあなかったんやがのぅ。やっぱりらしくないこと言うもんやないか」

P「お前が弱音吐いたと言うつもりはない……けど、なんかあったんなら遠慮なく話してもらいたいな。俺はお前のプロデューサーなんだから」

巴「ふん。今でも充分に頼らせてもろうとるわ、ボケ」

P「そりゃよかった」


18 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/02(日) 12:32:04 jWW8r6sQ
巴「おどれもや、プロデューサー」

P「ん?」

巴「おどれはウチがアイドルやけん言わんのやろうが、なんかあったら真っ先にウチに言わんかい。ウチらは盃交わした仲、運命共同体じゃけん」

P「くく、そうだな。まぁ俺は――」

巴「『今でも充分信頼してる』か?」

P「その通り」

巴「人と同じことば言うなやバカタレ」ケタケタ


19 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/02(日) 18:55:37 E6/o5JLg
あくしろよ


20 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/02(日) 22:38:16 2u2prWXI
・孝行



P「ぐあああああぁぁぁぁぁぁ……」

巴「なんじゃ、いきなり情けない声ばあげよってからに」

P「すまん、身体中が重たくて伸びのついでに声まで出してしまった……」

巴「こないだテレビで言いよったが、座りっぱなしやと血行が悪うなって体に早うガタが来るらしいのぅ」

P「仕事柄、動かない時と動く時の差が激しいからな……長時間立ちっぱなしの時もあるし、極端なんだよ」

巴「プロデューサーも歌って踊るか?」

P「誰も得しねぇのになんでやんなきゃならんのよ。そんなことするぐらいなら寝るわ」

巴「そげんやって寝とるかじっとしとるかやけんいけんのじゃ」

P「分かっているんだが、こればっかりはな」

巴「チッ、しゃーないのぅ。ほれ、ちぃとこっち来てソファに座らんかい」ポンポン

P「あ? ああ……」ドサッ

巴「よし……」グッ

P「ぐぉ、ぉぉぉおおおお?」

巴「どう、じゃ! ん、ちったぁ、きく、じゃろ!」グッグッ

P「あ゛あ゛あ゛あ゛〜〜〜〜」

巴「はっ! よっぽど、ええ、らしい、の!」グッグッ

P「すごいすごい、あ〜〜効くわ〜〜」

…………

P「いやぁホント良かったわ。お陰で肩が軽い軽い」 グルングルン

巴「ウチが肩揉んだんじゃけん当然じゃろ。こいで気張りんさい」

P「おう! お返しに今度は俺が巴の肩揉んでやろう」

巴「いらん」

P「なんでよ」

巴「おどれにさしたら余計なことまでされそうじゃ」

P「まったく信用されてなくて驚くよねマジで」

巴「大袈裟な……いっぺん男が女の体に触るっちゅうことの意味ば考えりぃや」

P「…………ありがとな、巴」

巴「ふん、たまにゃあプロデューサーに孝行しちゃろうと思うただけじゃ」


21 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/02(日) 23:57:35 2u2prWXI
・ハメ技



P「りんご」

巴「ごりら」

P「ランプ」

巴「プール」

P「ループ」

巴「プリ……プリクラ」

P「ラップ」

巴「……プッカ」

P「カップ」

巴「………………プリンセス」

P「スープ」

巴「プリンス」

P「スクープ」

巴「…………………………! プエルトリコ!」

P「コーンチップ」

巴「プロデューサー」

P「なんだ?」

巴「いや、プロデューサー」

P「……ああ! 『さ』? 『あ』?」

巴「さ」

P「サランラップ」

巴「…………ラップと同じじゃろ」

P「散布」

巴「くっ……………………はぁ」

P「ギブか?」

巴「チッ、ウチの負けじゃ」

P「よっしゃあ!! ……巴?」

巴「………………」ツ-ン

P「あー……悪かった。俺が大人げなかった」

巴「知らん。もうおどれとは口きかん」プイッ

P「…………あーあ、せっかく和菓子買ってきたから一緒に食べようと思ってたのになー」

巴「!」

P「まぁ仕方ないか。一人で食べるかー」ガサガサ

巴「………………」

P「あったあった。この若草団子旨いんだよなぁ」

巴「………………」チラッ

巴「ぶっ!? なんっ、近いんじゃボケェ!!」

P「食べないのか?」

巴「……………………」

P「美味しいぞ?」

巴「………………もろうたるわ」

P「素直に言やいいのに」

巴「これっきりじゃ。二度目は無い」

P「俺も悪かったよ。詫びだ、全部いいぞ」

巴「バカタレ、一緒に食うつもりやったんじゃろ? 茶ば入れちゃるけん二人分出しとけや」

P「はいはいっと」

巴「一応釘刺しとくがの、次やったら本当に埋めるけんな?」

P「物騒過ぎんだろ報復の仕方ァ!!」


22 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/03(月) 01:04:36 ANoh5g6.
・一期一会




P「巴って学校の成績どうなの?」

巴「あ? なんじゃ急に……」

P「お前からは成績やばいとか勉強できないとか聞いたことないからさ。大丈夫なんだろうけど、実際どんなもんかと思って」

巴「ウチもまだ年齢的には子どもじゃ。子どもの、学生の本分は勉強じゃけん、それを怠ったりはせん」

P「さすが巴。学業と両立ってのはなかなか難しいからな。そこをきちっとしてるのは素晴らしいことだぞ」

巴「まぁな。少なくともプロデューサーに手間掛けさすことは無いわ。心配しなさんな」

P「おう。それで?」

巴「ん?」

P「どれくらいの成績なんだ?」

巴「そんなに心配け。苦手なんは化学と英語じゃが、どれも平均点以上はある」

P「古文得意そうだよな、巴って」

巴「おどれまで他の連中と同じこと言うんか……間違っちゃおらんが……」

P「やっぱり。総合的に上の下くらいか?」

巴「まぁそんなもんじゃな」

P「俺は馬鹿だったからなぁ……」

巴「見るからにあほ面やけんの」

P「誰があほ面だコラ。いや頭はアホかもしれんけど」

巴「自分で言うんか……」

P「事実だしな。ちゃんと勉強してりゃあ地元の普通な感じの企業に入ってたのかなー俺も」

巴「…………そっちの方がよかったんか?」

P「いいや? 断然こっち」

巴「なんでじゃ」

P「…………言わすなよ」

巴「くっくっく。言わな分からんわ」

P「はぁ…………お前とこうして会えたからだよ」

巴「ほー」ニヤニヤ

P「だああぁぁぁぁぁ!! 小っ恥ずかしいこと言わせやがって!!」

巴「そうかそうか、ウチに会うたからか……くっくっく」

P「あーはいやめやめ! この話やめ! 撤収!!」


23 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/03(月) 13:21:51 ANoh5g6.
・粋



P「巴は暇な時なにする?」

巴「暇はなるべく作らんようにしとるが……そうじゃのう、演歌の新着をチェックするとか……」

P「ふんふん」

巴「同じように暇しとるの捕まえて将棋ふっかけたりな」

P「ああ……そういや巴はスマホ持ってるよな」

巴「そうじゃが?」

P「なら将棋とか花札とかの対戦アプリ入れてみたらどうだ。誰か捕まえなくてもすぐに出来て暇も潰せる」

巴「んん……あれはあんまりのぅ……」

P「なんだ? スマホ使うの苦手とか?」

巴「いや、ウチはああいうのは対面で顔ば突き合わせてやるもんやと思うとるから身が入らんのよ」

P「ははぁ、なるほど」

巴「確かにいつでんどこでん全国の猛者とシノギを削れるんは魅力的やが、互いに向きおうとらんとやっぱり勝負やない」

P「兵藤さんも似たようなこと言ってたな……」

巴「姐さんは生粋の勝負師じゃからな。当然じゃ」

P「ポーカーフェイスが苦手な俺にはネットの方がありがてぇや」

巴「そうつれんこと言うなや、プロデューサー。さっそくどうじゃ」

P「演目」

巴「丁半」

P「張った。半で昼飯」

巴「くく……良い顔しとる。勝負事はこうやないといけんなぁ!」カランッ!!


24 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/03(月) 13:48:02 ahrP.XxA
お嬢いいっすね……


25 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/03(月) 15:05:59 ANoh5g6.
・Im Rruga e Qum���shtit



P「今日は随分とロスったな。もう九時だ」

巴「機材がトラブったりせんどきゃあなぁ。あればっかりはしゃーないわ」

P「だな。とはいえ、今からじゃお前を女子寮に送る頃には十時か……明日が土曜日で助かったな」

巴「それに明日はフリーやけん。多少遅うなっても気にならん」

P「そういやそうだったな。あ、でも飯食ってないだろ」

巴「忙しゅうてそれどころじゃなかったわ……思い出したら腹の虫が鳴りよる」

P「じゃあ早く帰らないとなぁ。道が空いてるのがせめてもの救いだよ」

巴「どうせなら外で済まさんか?」

P「この時間からだとロクな店がないぞ。この辺りから外したら、帰る時間もっと延びちまうし」

巴「…………」スッ

P「!」

巴「それでええわ。後はせっかくやからドライブと洒落こもうや」

P「…………」

巴「ちぃと空ば見てみい。今日はスカッとして星がネオンのようじゃ。気づいとったか、プロデューサー?」

P「…………ふっ、わーった。それじゃあちょくら遠回りしますかねぇ」

巴「ん」

P「……あと」

巴「?」

P「手握ってくれんのは嬉しいけど、シフトチェンジし辛いからもうちょっとソフトに頼む」

巴「あ、ああ。すまん、力加減ば間違うたわ」

P「大丈夫大丈夫」グッ

巴「っ」

P「たまには、な」

巴「ぅ……そ、そうじゃ。たまにはな、たまには……」プイッ


26 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/03(月) 15:10:10 ANoh5g6.
・タイトル訂正

『Im Rruga e Qumhshtit』


27 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/04(火) 00:02:05 sRDkKLPA
・胡蝶



P「巴……」

巴「いかん、こげな所で……」

P「大丈夫だ。この部屋には誰も来ない。来たとしても鍵かけてんだから」

巴「そういう問題やない! 真昼間から、こんな……」

P「嫌か?」

巴「………………」フルフル

P「素直だな。ほら、顔を少し上げて……」

巴「ぷろでゅーさぁ――――」










――バサッ‼

巴「…………………………」

チュンチュン ピピピピ…

巴「……………………?」

ブーン… ホロロゥホロロゥ!!

巴「――――ッッ!!!!」ドタンッ‼

…………

バタバタバタバタ‼

P「……? おっ、巴か。おはよう、こんな朝はや――」

巴「死にさらせェッ!!!!」ドゴォッ

P「ぶっはぁ!!? な、なん……!?」

巴「往生せぇや!! 今日がおどれの命日じゃ!!」ドゥッ

P「ちょっ!! 待て!! 落ち着け!! 話せばわかる!!」

巴「わっ、わかりとうないわバカタレェッ!!」ブンッ

P「あっぶな!! いやホント何があった!?」

巴「あんな、あんななぁ!!」ドンッ

P「ぐえっ!! ちょ、ホールドは不味いから息できなくなるからホントマジで……って、あれ?」

巴「………………」ギュウゥゥ…

P「………………」

巴「………………」ギュウゥゥ…

P「急に動かなくなるのもそれはそれで止めてほしいんだが……」

巴「うるさい」

P「……どうした。何か嫌な事でもあったのか?」

巴「…………好かんくはない」

P「………………」スッ

巴「腕ば背中に回すな」バシッ

P「えぇ……抱き着いてきといてお前……」

巴「こっちも見るな。なんも言わんと立っとれ」

P「はいはい。ったく、朝っぱらから驚かすなよな……」

巴「ぅぅぅ……」カオマッカ


28 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/04(火) 12:05:21 Qt0fWum.
奇妙な飯より安い飯

お嬢が組の抗争に巻き込まれたからPの家に転がり込んで飯作る話かと思った


29 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/04(火) 23:40:22 sRDkKLPA
・試金石



P「………………」モグモグ

巴「………………」モグモグ

P「ん……! ………………」モグモグ

巴「………………プロデューサー」

P「なんだ?」

巴「美味いんやったら美味いって言ったらええ」

P「ああ……そうだな」

巴「落ち着かんのはわかるわ。地元の料亭はともかく、ここは初めてじゃけん」

P「初めてとか初めてじゃないとか、そういうの抜きにして意味わかんねぇんだもん。見たか、値段」

巴「オムライス一つで五千円。珈琲一杯九百円……まぁボチボチじゃろ」

P「うっそだろ……今度から二度とザギンでシースーとか言わねぇ」

巴「ここぁ六本木じゃがな」

P「…………前にな」

巴「うん?」

P「前に仕事の関係でお偉いさんとえらく意気投合しちまって、その人の友人も加えて夕食をご馳走になったことがある」

巴「ふむ」

P「店がな、ジョエルだった」

巴「ああ……雑誌で見たのぅ。さすがにあのクラスはウチでも知らんわ。良い店に行く言うても、富豪でも議員でもないけんね、実家は」

P「それでも地元じゃ幅利かせて……すまん、顔が利くから粗方行き尽くしたらしいじゃないか」

巴「まぁ、な。それ自体についていまさらどうこうは言わんが、あんまし褒められたもんでもないじゃろ」

P「……チャカチャカはこりごりか?」

巴「…………ウチもこっちでアイドルやりだして長うなる。歳食えば、ちっとは考え方も変わるじゃろ」

P「………………」

巴「若い衆も親父も責めんが……実家が好かん訳じゃない。そうやのうて……」

P「巴」

巴「なんじゃ」

P「とりあえず食っちまおうぜ。な?」

巴「…………すまん。そうじゃの」


………………


P「美味かったと言えば美味かった。二度と食うこともないだろうがな」

巴「突然じゃったからな。ウチもどうして親父がこの店にウチとおどれを招いたかは聞いとらん」

P「しかしまぁ、高級料理店ってのはどこもあんな感じなのか?」

巴「造りか? 値か? 味か?」

P「食い終わった後だよ。まさか出口までの通路が別々で、男の方に会計があるとは思わなかったわ――――あっ」

巴「あ? ちぃと待てや。親父が呼んだんじゃけん、支払いは持っとるんやろうが」

P「あー、そうそう。だから会計があるってのに驚いたってだけだ」

巴「…………プロデューサー。ウチばだまくらかそうったってそうはいかんぞ」

P「はぁ…………ああ、支払いは俺がした」

巴「チッ、何考えとるんじゃ馬鹿親父は……」

P(何も考えてない訳ない。が、何を考えてるかまでは分からんな……)

店員『お支払いは村上様よりお伺いしております。どうされますか?』

P『は……と、言いますと?』

店員『失礼致しました。お連れ様がこの場でお支払いになられるか、領収書を切りまして、村上様に請求させて頂くかという事になっておりまして』

P(わざわざそんな選択肢を設けたのも謎。そもそも何故いきなりこの店へ招いたのかも謎)

P(娘が世話になってるお礼……でも不自然。手詰まり感満載だ、クソッタレ)

巴「おい、聞いとるんか?」

P「あ、ああ、悪い。じゃあ帰りに菜々さんにちょっかい出しに行くか」

巴「聞いとらんやないかボケコラ」

P「あだだだだだ! 運転中! 運転中だから今!! マジでギブ!!」


30 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/05(水) 00:10:05 2zwtfCeM
・紫煙



巴「プロデューサーは煙草吸わんな」

P「あ? なんだよ急に」

巴「ウチの若い衆もそうじゃが、男はとかく煙たくするじゃろ。おどれはそんな気配がないけん、ちぃと気になったんじゃ」

P「へぇ。まぁ煙草はやんないよ。昔ちょっと葉巻吸ったり水煙草試したりしたけど」

巴「肌に合わんかったか?」

P「行為の意味が分からなかった。味がどうこうとかじゃなくて、そんなことする意味が。根本的に合わないんだろうな」

巴「そか」

P「煙草臭いぐらいがダーティな雰囲気で最高にキマるんだがなぁ?」

巴「手前の顔ばようと見てから抜かせ」

P「ど真ん中ストレートどころか死球かよ。俺なんかしたか?」

巴「いいや、なんも」ケタケタ

P「巴は着流しに煙管咥えたら絵になりそう、いや、なるな。今度出すCDのジャケはそれにするか。帯刀もさせよう」

巴「あっさり重要な事が決まった気ぃするんじゃが」

P「馬鹿言え、俺はいつだって真剣に考えてるぞ」

巴「嘘こけ。そうやってこないだやらかして絞られとったんやないか」

P「ぐ、言い返せん……」

巴「パッションのチーフからもなんぞ急かされとるのがあったなぁ? 取材の件も返事したんか?」

P「………………煙草吸う人の気持ちがわかった気がする」

巴「代わりに珈琲いれちゃるけん気張りぃや、プロデューサー?」


31 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/05(水) 05:48:19 hZOrKFPw
お嬢スレ珍しいしイイゾ〜コレ
Pもいい性格してますねぇ!


32 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/05(水) 08:34:36 LecF4POk
アルバニア語であることを調べるのに時間を大幅に使った以外は素晴らしいとしか言いようがない +114514346364点


33 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/05(水) 19:27:57 2zwtfCeM
.








『血』







.


34 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/05(水) 19:28:26 2zwtfCeM
P「でかいな」

巴「ここら辺では一番でかい地主やけんな。広島は一帯がシマと変わらん」

P「大したもんだ」

巴「ま、組がそんだけ大きゅうなると余計なモンまで抱え込むようになるんじゃが……ウチも詳しくは知らんけぇ」

P「帰省以外でまともに実家に帰るのはこれが初めてになるか」

巴「そうやの。あれからなんも変わっとらん……門扉も綺麗に磨かれとる。ちぃと塀がボロになったかのう」

P「まさに武家屋敷……っていうか敷地がでか過ぎるわホント」

巴「ビビっとるんか?」

P「武者震い」

巴「どうだか」カチッ ビーッ

黒服『はい。どちらさんでっしゃろ?』

巴「ウチじゃ」

黒服『お嬢ですかい!? いますぐ開けますんで!』

巴「ん」

…………ギィィィィッ

黒服「お嬢!! お勤めご苦労様でした!!」ザッ

「「「「「ご苦労様でしたッ!!!!!」」」」」ザッ‼

P「壮観だな。いつもこんな出迎えなのか?」

巴「……今日はちと多い気ぃがするが、若いのが増えただけじゃろ」

「巴」

黒服「オヤジ!」

巴「変わらんな、親父。今帰った」

組長「お前は随分と大きゅうなったのう。あいつによう似てきた」

巴「別嬪じゃろ。プロデューサーのお陰じゃ」チラッ

P「お久しぶりです」

組長「巴共々、遥々よう来てくれた。ナンボでもうちの使こうてええけんゆっくりして行けや」

P「ありがとうございます。早速ですが、荷物を置かせていただいてよろしいですかね」

組長「おい」

黒服「へい。どうぞ、こちらへ」

巴「プロデューサー。ウチは自分の部屋に荷物ば置いてくっけん、案内された部屋で待っといてくれんか」

P「分かった」


35 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/05(水) 19:28:52 2zwtfCeM
黒服「この部屋ば自由に使ってつかぁさい。なんかあったら言ってもらえばよかですけん」

P「ありがとうございます」

黒服「ところで……お嬢はあっちでは上手くやっとらすんでしょうか」

P「ええ、それはもう。こうしてこちらに来たのも一区切りついたからですし」

黒服「そうですかい。いえ、なにせ自分が盃もろうてから日が浅いもんですけんが……」

P「業界の事は一目じゃわかりづらいですもんね。仲間内にも訊き辛いでしょう」

黒服「仰る通りで。では、あっしは失礼します」

P「ふぅ……」

P(改めて考えると、俺はここに喧嘩売りに来たようなもんなんだよな……)

P(ま、後はなるように成る)

巴「プロデューサー、ええか?」

P「おう」

巴「親父は今から会合で出るらしいけん、話は戻ってからじゃ」

P「そうか。それまでどうするかねぇ」

巴「おどれがええっちゅうならちぃと外に出らんか。懐かしの地元ばちょいと見て回りたい」

P「特にやることもねぇからな。そうしますかね、っと」

巴「叔父貴ー!!」

叔父貴「あー? 呼んだやー?」

巴「車庫の車のキー、どれか貸してくれんか。親父から許可は貰ろうとる」

叔父貴「街まで繰り出すんかい? したら俺も今から事務所まで行くつもりやったけん乗せてっちゃろうか」

巴「いんや、プロデューサーと二人で適当に見て回るつもりじゃけん」

叔父貴「おお、そげんや。したらシーマでよかか」ヒョイッ

P「どうも。ありがとうございます」

叔父貴「よかよか。どうせ俺んとじゃないし! ぶははははは!」

P「ちゃんとガソリン入れて返しますんで」

叔父貴「ああ」グイッ

P「!?」

叔父貴「――ハイオク、満タンでな」ニカッ

巴「なにしとらすんじゃ」グイッ

叔父貴「ああん、乱暴やなぁ。いい男なんやからちょこっとばっかしお近づきになってもよかろうもぉん?」

巴「気色悪いこと抜かさんといてくれや……ともかく、行ってくる。叔父貴も気ぃつけてな」

叔父貴「はははは!! 二人も気ぃつけてな。車ん中揺らし過ぎてサツの世話にならんごと!!」

巴「んなっ……!」

叔父貴「ぶははははは!! ほいじゃーのぅ!」


36 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/05(水) 19:29:21 2zwtfCeM
P「面白い人だなぁ」

巴「……慣れとるとはいえ肝が据わっとるの、プロデューサーは」

P「いや普通に怖かったわ。あのままヘッドロックされるかと思ったし。ああいや、顔パンかな?」

巴「そげん事を平然とほざける程度には毒されとるんじゃ」

P「さてどうだか。さ、車も借りたし行きましょうかね」


…………


巴「ここも変わらんなぁ」

P「古き良き商店街って感じだな。俺んとこにはこういうの無かったから新鮮だわ」

巴「なんじゃ、全部デパートとモールか? つまらんのぅ」

P「んなこたぁない。ま、みんな自分の中に『故郷』を持ってるからな。巴にはそれがここ、俺には地元の風景ってだけで」

巴「別にプロデューサーの地元ば悪う言ったわけやないけん」

P「わかってるよ。降りるか?」

巴「ん。そこの交差点を右に曲がったらパーキングがある」

P「はいはい……ん? なんだあれ」

巴「……先に降りる」ガチャッ

P「ちょっ、巴!」

男1「こっちが下手にでとったらつけあがりおうて舐めとらんかきさンこの!!」

男2「なんやとコラァ!!」

巴「おどれらなにしとんのじゃあ!!」

男1「アア!? ガキがなんば粋ごうて……あ?」

男2「……まさか」

巴「おどれらにはウチが誰か忘れたとは言わさんぞ。歯ァ食い縛れやァ!!」

男1「ごへっ!!」バキッ‼

男2「ごふぉっ!?」バキッ‼


37 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/05(水) 19:29:42 2zwtfCeM
P「馬鹿お前!! 一般人相手に!!」

巴「戻って来たか。心配せんでもええ、見知った顔じゃけん……なぁ?」

男1「お、お嬢、いつからこっちに……」

巴「ついさっきじゃ。にしてもまったく変わっとらんのうおどれら」

男2「いや、その……恥ずかしいばかりで」

P「? …………酒くせぇ!!」

巴「こいつらな、昔っから一緒に酒呑む癖にすぐ喧嘩しだして周りが往生こいとったんじゃ。そん度に誰かが止めたりして……」

男1「村上さんとこにはいつもご迷惑ば……」

巴「わかっとんならチャッっとせぇよ! いつまでもドラ息子じゃおられんじゃろうが!!」

男2「はいィ!!」

男1「あ、いや! 俺たち今工場に勤めとって……」

巴「したら余計にいけんじゃろが!!」

男1「スンマセン!!」バキィッ‼

P「と、巴その辺にしとけ。事情はわかったがやりすぎだ」

巴「あ、ああ。すまん、ウチもつい熱うなってしもうた」

男2「お嬢、俺たちいつもテレビ見てましたよ!!」

男1「そうそう! トップアイドルってアイドルのいっちゃん上でっしゃろ? 商店街連中もこぞって騒いどりましたよ!」

巴「なんや、そうけぇ。すまんのう、碌に顔も見せんで」

男2「しゃーないですやん。トップってのはどこも忙しいんですけん」

男1「社長や工場長と一緒でな!」

男1・2「「ガハハハハハハハハ!!」」


38 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/05(水) 19:30:06 2zwtfCeM
工場長「てめぇらァ!!」

男1「げっ、おやっさん!?」

工場長「昼休みはとっくに過ぎて……!! まァた酒呑んでやがったな!?」

男2「い、一杯だけですけん!!」

工場長「じゃかしいわドアホ!! 何が一杯だけじゃ!! 酒臭うてたまらんわ!!」

巴「精が出るのう」

工場長「!? と、巴の嬢さん!?」

巴「さっき帰って来たんじゃ。相変わらず元気で安心したわ」

工場長「へぇ、体力だけが昔から自慢なもんで。お嬢も元気そうで何よりです」

巴「込み入った話はまた改めてな。それよりええんか?」

工場長「はい?」

巴「あいつら、逃げよるぞ」

工場長「あっ! てめぇら待ちやがれェ!!」

男1「ひえぇぇぇぇ! 堪忍してつかぁさい!!」

男2「後生じゃあああぁぁぁぁぁ!!」

P「……まるで嵐だ」

巴「ずっとこうじゃ。いつでも騒がしゅうて、おちおち欠伸もできん」

P「嬉しそうだな?」

巴「ん? そうか?」

P「ああ。良い、笑顔だ」

巴「くくく……そうか、そうなんじゃろうな」


39 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/05(水) 19:30:30 2zwtfCeM
…………


P「でかい川だな」

巴「ここぁ春になると桜がすごくての。満開の桜が川の両岸を埋め尽くして咲き乱れるんじゃ」

P「残念だな。時季外れとは」

巴「別に二度と来れん訳じゃないんやけんが、また春に二人で来ればええじゃろ」

P「くっくっ、そうだな」

巴「ぶち凄いけぇ、きっとおどれも目ぇ丸くする」

P「昔は家族と?」

巴「そうじゃ。三人でっていうのは一回切りじゃがのう。若い衆がおったら風情もへったくれもないわ」

P「次に来る時が楽しみだ」ブーッ、ブーッ

巴「ん、ウチか…………ふん」

P「どした?」

巴「晩の支度をしとるけん飯は家で取れ、じゃと」

P「四時か、中途半端な時間だな。どうする?」

巴「早めに戻っとこうや。時間まで縁側で茶するか、庭を散歩すんのもええやろ」

P「はいよ。じゃあ戻りますかね」


…………


40 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/05(水) 19:30:56 2zwtfCeM
組長「飯はどうやった」

P「以前と同じく、とても美味しかったです」

巴「あのキュウリ漬けたのは誰じゃ」

組長「ワシじゃ」

巴「ヘタクソ」

組長「…………」チラッ

P「あれくらいの浸かり具合が個人的には好きですね」

組長「…………」フッ

巴「なに誇らしい顔しとるんじゃ。おべっかに決まっとるじゃろ」

P「いやマジですホントホント。巴さんの舌が子ども――痛い痛い!!」

巴「好き勝手言うとるのぅ? おォん?」ギリギリ

組長「仲睦まじいのう。三年も組めばそうなるか」

P「……こうして顔を合わせるのは五回目になりますね」

組長「契約の挨拶と、初年度の契約更新。後は二年目、三年目、と。毎度言うとるが書面だけ寄越せばええのになにを面突き合わせることがあるんじゃ」

P「大事な娘さんをお預かりしている訳ですから、親御さんには直接お話しませんと。それに、対面で言葉を交わすのは大切な事です」

組長「クク……その律儀さがあるけん安心して任せらるぅとやが、まあええやろ。今日に限ってはこうして顔突き合わすんが目的やしなぁ」

巴「…………」

P「…………」

組長「なに強張っとんのじゃ。いちぃきんごとしとらんかい」

巴「…………親父、あののー――」

P「率直に申し上げます。巴さんと、婚約を前提に付き合わせて頂きたい」

組長「…………まずかごまんと頭ば上げぇ」

P「…………」

組長「ワシはそっちの業界にある暗黙の了解について詳しくはない。が、おどれのぬかしとることが真っ当じゃないんはわかる」

巴「っ……」

組長「アイドルっちゅうんは不特定多数の相手に笑顔売るんが仕事じゃ。華々しく咲いとる花は一人の為やない。それはワシが言わんでもおどれらが十分わかっとるやろ」

P「はい」

組長「それを承知で聞かせてもらおか。どげんでん理由でうちの巴ば譲れっちゅうんじゃ」


41 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/05(水) 19:31:18 2zwtfCeM
P「……巴さんとは、三年前から一緒に仕事を始めた仲です。当初は衝突も多く、お互いにお互いの足を引っ張るように、四苦八苦しながら仕事してました」

P「でも、それは自分から巴さんのプロデュースをさせてほしい。彼女の専属にして欲しいと私が頼んだからです」

組長「惚れたか」

P「あるいは。オーディションの時点で巴さんには、既存のアイドルという枠を超えた唯一のモノを持ってました。それに気が付いた時、自分は巴さんをプロデュースするんだと誓ったんです」

巴「…………」

P「彼女は言いました。アイドルはチャラチャラした薄っぺらい存在だと。そこで私の中で火が点いたんです」

P「そこまで言うならお前は簡単にアイドルの頂点を取って見せるんだろうと。さぞ素晴らしいものを披露してくれるんだろうと。結果的にはそうなりました」

組長「トップアイドル……」

P「そうです。巴さんは一年とはいえ、トップアイドルの牙城たる765プロを突き崩して天海春香を頂点から引き摺り落として天辺に君臨した。これは紛れもない事実です」

P「それまでの道程で様々な苦難がありました。それでも巴さんは根を上げず、どころか私を叱咤してひたすら前に突き進んで周囲を蹴散らした」

P「二人三脚、一蓮托生。思えばアイドルに一番近いのですから、プロデューサーとして巴さんの魅力を成長させる傍ら、彼女に惚れてしまうのも当然だったかもしれません」

巴「勘違いすんなや、親父。あくまでウチらはアイドルとプロデューサーやった。ウチが惚れたんは、漢気と心意気の溢れる男だったからじゃ」

組長「誰もなんも言うとらんやろ。絆されて、絆されられるんが恋と愛のいろはじゃけん」

P「……ご存知のように、巴さんもまた自分に好意を持ってくれていました。ある時に偶然互いの心境を知ってしまったわけですが、お互いの事を考えればそこで気持ちに折れるわけにはいきません」

組長「と言うと?」

P「自分は巴さんを必ずトップアイドルまで導くと誓っていました。彼女もまた。この業界に足を踏み入れ、アイドル会が容易でない事を知りながらトップを目指すと宣言しました」

P「だから、天辺を獲るまでは互いの好意は胸に秘めておくと、そう決めたんです」

組長「なるほど。それで、トップアイドルに立ったからそれもおしまいじゃと」

巴「まだじゃ。一度頂点獲っただけじゃ終わらん。まだウチらは満足しとらん」

P「巴さんの仰る通り、確かに目標は達成しましたが、互いに満足はしていません。彼女ならまだ先に行けるはずです。再びトップを追い落とす事も、日本から飛び出して海外を征服する事も、もしかすると」

組長「そがーなら付き合いを認めろっちゅうんはどういう意味じゃ」

P「巴さんは一六になります。彼女と話し合った結果、一八までアイドルをやろうと」

巴「そん先はアイドルを引退して二人で事務所ば持とうと思っとる。演歌歌手としてバリバリやってくつもりじゃ」

組長「展望ありってことけぇ。そのやり方、どんだけ角が立つと思うとる」


42 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/05(水) 19:31:42 2zwtfCeM
巴「上等じゃ。誰にもかばち垂れさせん」

P「私も覚悟しています。下準備も入念に整えて万全の状態で挑むつもりですが……まぁ、珍しいことでもありませんしね」

組長「先がわかって準備があるんならそれはな。いつぞやの日高何某より穏便に済むじゃろうが」

P「ええ」

組長「…………」

巴「…………」

P「…………」

組長「おどれらがええんやったらワシからとやかく言うことはないわ。好きにしたらええ――ただし」ドスッ

巴「!!」

組長「人の娘ば掻っ攫おうっちゅんじゃけん、相応のモンは貰うとかんとなぁ?」

P「…………」

組長「怖気づいたんやなかろうなガキが。おどれがげに巴ば欲しいんならエンコの一つや二つ――」

P「失敬!!」ダンッ‼

巴「バカタレッ!!」グッ

P「…………手ぇどかせ、巴」

巴「嫌じゃ」

P「俺を困らせるな」

巴「おどれこそ勝手な真似してウチを困らせるな」

P「…………」

巴「こりゃどういう始末じゃ、親父」

組長「なんが」

巴「なんがじゃなかろうがボケェ!! こいつぁウチらと違って堅気じゃ!! ケジメつけるのにそがーなことして道理が通るわけなかろうが!!」

組長「おどれこそ何勘違いしとんねんボケ。その堅気が任侠の娘を娶るって言うとるんじゃ。どういう事かわからんわけなかろうが。ああ?」

巴「ッ、プロデューサーは――」

組長「関係ないとは言わさんぞダボッ!! くじってこうじく垂れても世間様は手前らの事情なんぞ気にせぇへんのじゃ!! おどれも村上の娘なら覚悟決めんかいッ!!」

巴「ぐ……!!」


43 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/05(水) 19:32:10 2zwtfCeM
P「だから言ったろ、巴」

巴「おどれまでそげん事を……」

P「別に小指一本ないくらいで生活に支障は無い。それに、義指作るなとも言われとらん」

巴「プロデューサー……!!」

P「俺がお前との関係を公表した時にどう扱われるかも覚悟してる。この場に関してはこれだけの辛抱だ。許せよ」

巴「…………」ギリッ

P「ありがとう」

組長「ええな?」

P「勿論。それじゃ、お見苦しくも失礼しまして――」グッ

巴「ッ――!!」ギュッ

叔父貴「はいそこまで〜」ヒョイッ

巴「!? お、叔父貴?」

叔父貴「すごかなぁ、アンタ。俺の地元でもそげん根性見せる奴おらんやったわ。何の迷いもないもんやけんこっちがゾッとしたばい」

P「これは……」

組長「すまんな、わざわざ」

叔父貴「よかよか。けど、あんなん見せられたら堪らんばい。堅気なんがもったいなか」

組長「ふっ、止めとけ。……巴、若いの、改めてええか」

P「なんでしょう」

組長「おどれらの交際は認める。結婚も好きにせぇ。覚悟の次第は見せて貰うた」

巴「……試したんか」

組長「さっきも言うたじゃろ。世間がおどれらをどう見るかわからんし、つっぺで互いの事ば考え切らんならこっちも認められん」

叔父貴「その心配も無用やったな。やけん言うたろうが、余計な心配せんでよかって」

組長「じゃかしいわボケ」

P「……ありがとうございます」

組長「ン」

巴「心臓に悪いわ、あんなん……どがーずして止めるかで頭がいっぱいじゃった」

組長「もちっと気ぃ張らんとな。女は黙って自分の信じた男に着いてけばええんじゃ」

巴「わかっとる」

組長「ならええけどな。さて、あとはこれじゃ」スッ

巴「なんじゃこの紙切れ。婚姻届けは十八まで――」


44 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/05(水) 19:32:55 2zwtfCeM
.














――《絶縁状》














.


45 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/05(水) 19:33:43 2zwtfCeM
.







間幕――了







.


46 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/05(水) 20:18:47 Vm7gA93o
こんな名作をホモブログ掲示板に投げるなんてコイツすげぇ変態だぜ?


47 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/05(水) 23:15:46 2zwtfCeM
・合理化の弊害



P「喜べ巴。お前には三つの仕事の内から一つ選択できる」

巴「なんじゃ、全部やればええやないか」

P「ところがそうはいかなくてな。残ったやつを早苗さんとのあちゃんが引き受けることになってる」

巴「のあ〝ちゃん〟?」

P「あれ、言ってなかったっけ? こないだロケで付いてった時にそう呼べって言われて……」

巴「あの人も何考えとるんかようわからんからのぅ……」

P「まぁ巴の前に担当してたからな。もしかすると、その名残みたいな。久しぶりに会ったし」

巴「ふぅん、そうかい」

P「で、どの仕事がいい?」

巴「なになに……『十品耐久! 激辛一品料理名店巡り』、『厳選全国ホラースポットガチ撮り』、『ミュージックフェア』」

巴「……また闇鍋じみた奇っ怪なもんばっかり……」

P「そうかぁ?」

巴「まぁここはホラースポットのやつじゃろ」

P「なんで?」

巴「あの二人に回しても怖がらんやろ。ウチもビビりゃあせんが、激辛料理店は片桐の姐さん、音楽番組は高峯の姐さんがぴったりハマる」

P「おお、そこまで考えて……」

巴「別にウチが他の取っても構わんが、激辛料理は胃もたれするけん御免こうむる。音楽番組は……選択肢の内じゃが」

P「ちょうどのあちゃんが新曲出すからなぁ。巴は一ヶ月前に出したばっかだし」

巴「そういうことじゃ。じゃけん、きこれがベストじゃろ」

P「さすが巴だ。じゃあホラーの局に回しとくよ」

巴「…………プロデューサー」

P「ん?」

巴「勿論、撮影の時には付いてくるんじゃろ?」

P「そらそうよ」

巴「ならええ」

P「…………怖いのか?」

巴「なにがじゃ」

P「幽霊」

巴「ウチが? まさか。寝言は寝て言えや、プロデューサー」

P「だよな。ちなみに巴、お前の後ろにうっすらぼんやり影みたいなのが――」

巴「ッ!!」バッ

P「嘘だけど」

巴「………………」

P「いやぁ凄い反応速度だったな。そんなに……っと待ってね巴それボールペン刺さると痛いからごめんごめん止めて絶対ヤバイからヤバイヤバイヤバイ!!」

巴「血で償えやァ!!」ブスッ

P「アッ――――――!!」


48 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/06(木) 01:27:16 F6HtGIlI
・どくばり



巴「プロデューサー!!」バンッ

P「なんだァ!? ガサ入れか!?」

巴「ふざけとる場合か!! 匿えや!!」バタンッ

P「どうしたんだよ、そんなに血相変えて。ってかその格好もなんだ」

巴「こいつは……ああ、ともかく静かにせぇ!」

P「お、おう」

……バタバタバタ トモエチャ-ン☆ バタバタバタ……

巴「………………ほっ」

P「今の声は諸星か? なにしたんだお前」

巴「何もしとらん。なんもかんも輿水が悪い」

P「状況説明プリーズ」

巴「ウチが川島の姐さんと二階のエントランスで話しとる時に輿水と安部の姐さんが通りがかってな」

P「うんうん」

巴「足元の出っ張りにつまづいて持っとったペットボトルのお茶ばぶちまけたんよ」

P「巴に向かって?」

巴「ウチに向かって」

P「合点がいった。それで服が濡れたから菜々さんのメイド服借りたわけだ。で、きらりが通りがかって捕まったら面倒だから逃げて来たと」

巴「理解が早うて助かる」

P「はー……しかし、純正メイド服も似合うなぁ」

巴「ウチも前に着た衣装よりは落ち着きがあってええと思う」

P「あのフリッフリのメイドエプロンだろ。あれちゃんと取ってあるから」

巴「それは聞きとうなかったわ……」

P「ま、服が戻って来るまではここに居ろよ。ついでに珈琲いれてもらうかな」

巴「恩義に報いてメイドらしく奉仕しちゃるわ」

巴「ンン! ――畏まりました、ご主人様♥」

P「」

巴「こんな感じでええか?」

P「」

巴「……おい、プロデューサー?」

P「」

巴「!! …………気絶しとる」


49 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/06(木) 01:44:49 F6HtGIlI
修正

・合理化の弊害
 巴「そういうことじゃ。じゃけん、きこれがベストじゃろ」
     ↓
 巴「そういうことじゃ。じゃけん、これがベストじゃろ」

・どくばり
 P「合点がいった。それで服が濡れたから菜々さんのメイド服借りたわけだ。で、きらりが通りがかって捕まったら面倒だから逃げて来たと」
     ↓
 P「合点がいった。それで服が濡れたから菜々さんのメイド服借りたわけだ。で、諸星が通りがかって捕まったら面倒だから逃げて来たと」


50 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/06(木) 02:15:09 zINJ38VM
巴SS文豪ホモすき
毎秒投稿して


51 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/06(木) 16:03:23 F6HtGIlI
・度胸



巴「度胸試しぃ?」

P「ああ。台本から大きく外れるんだが、ディレクターがそれでいくって言うもんだからな」

巴「ウチは別にええけど、キチッと話つけてきたんやろな?」

P「当たり前だろ、予定外な事されてんだから。ただ先方が内トラ使うくらい気合い入ってるから仕込みの可能性もある」

巴「ドッキリっちゅうことけぇ」

P「そういうことだ。まくらとギャラは上乗せだから安心してくれ」

巴「ま、おどれが受けたんならそれでええよ。ウチは自分の役をキッチリこなすだけじゃ」

P「頼もしいよ、まったく。とりあえず飯食いに行こう。良い店を抑えてある」

巴「なんの店じゃ」

P「ラーメン屋。せっかく地方ロケで福岡来てんだから、やっぱりラーメンだよなぁ?」

巴「ほぉ、そら楽しみやのう!」

P「近いからこのまま歩いていくぞ。グラサンとカツラは、えーっと……」

巴「ええやろ。こっちはなかなか来んけん見つこうたらファンサービスしちゃるつもりでおった」

P「ん、その方がいいか……わかった」

巴「そがーにしても、こっちは随分さぶいのぅ。冬に近いんはわかるんじゃが、風が刺すようで堪らん」

P「日本海側は結構冷えるって聞くからな。東京とかとは大違いだろうさ」

巴「ン」

P「………………」

巴「おい、プロデューサー?」

P「お前ねぇ、外だぞ?」

巴「…………あっ」

P「油断し過ぎだ。あっちに戻ったらいくらでも手ぇ繋いでやるから」

巴「ち、違うわ! ウチはただ道の段差に気をつけぇよって意味で……」

P「路面走行注意信号!? それ自転車乗ってる時な!?」

巴「バカタレ! おどれ女に恥かかせるんか!!」

P「いや――――ッ!? 巴ッ!!」ガバッ

巴「なん……!?」ドサッ

キィィィィィッ!!  ブゥゥゥゥゥゥ――ン……

P「巴、大丈夫か!?」

巴「あ、ああ。おどれこそ怪我ないか?」

P「俺ァ身体だけは頑丈なんだよ、誰かさんのお陰でな。にしても赤信号だぞクソ野郎が……」

巴「危うくぺちゃんこじゃ。プロデューサーが居らんやったら……」

P「まあお互いに無事だったんだ、良しとしよう。はー……怖かった」

巴「度胸試しにはもってこいじゃのう」

P「勘弁してくれ。二度とゴメンだ」

巴「ウチもじゃ」


52 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/06(木) 18:26:47 F6HtGIlI
・女の命



巴「ふむ……」

P「さっきからずっと鏡見たり髪弄ったりしてどうしたんだ?」

巴「いや、もちぃーっとばっかし髪伸ばそうかと思うてのぅ」

P「ほう」

巴「じゃがアイドルはイメージ商売。これまでこん髪型で来たのにビジュアル変えてしまうのもいけんかなと悩んどったんじゃ」

P「確かにイメージは大事だけど、髪染めたり髪型を大幅に改造するわけじゃないんだろ?」

巴「まぁそうじゃな」

P「だったら良いだろ。極端な話、顔の形さえ変えなけりゃ髪バッサリ切り落とそうが髪染めようが構わん」

巴「プロデューサーがそう言うんやったらちぃと伸ばすか……」

P「どれくらいまで伸ばしたいんだ?」

巴「とりあえずセミロングまで」

P「オッケー。しかしまた、どういう心境の変化よ」

巴「ウチはくせっ毛じゃけん髪伸ばしとうなかったんじゃ。とーからどげんするかは迷っとったんじゃがの」

P「あー、くせっ毛だとみんな伸ばしたがらないよなぁ。比奈センセもそうだったっけか……まぁ」スッ

巴「!?」

P「今の姿も良いけど、髪を伸ばした巴も良いかもしれんな」サワサワ

巴「い、いきなり何するんじゃボケ」

P「あっ悪かったごめん叩かんといて!!」バッ

巴「………………」

P「……あれ? 巴さん? 御機嫌いかが?」

巴「…………止めえともいけんとも、言うとらんじゃろ」

P「えっ……じゃあ遠慮無く」スッ

巴「んっ……」

P「うん、くせっ毛はくせっ毛だけど……やっぱり綺麗な髪だな」サワサワ

巴「……おどれは」

P「ん?」

巴「おどれは、髪が長いとが好みなんか。それとも短い方か」

P「んー……強いていうなら長い方だけど、その人に似合ってるのが一番かね」

巴「ウチはずっとこんままじゃったが、似合っとったちゅうことけぇ?」

P「そらそうよ。俺がプロデューサーとして、お前の魅力を引き出すには今のままが一番と思ってそうしてた訳だし」

巴「長くしたら魅力が減るってことやないか?」

P「なんでよ。むしろ新しい魅力の発見に繋がるかもしれん。それは試してみないとわからん」

巴「今のままが一番て言うたやないか」

P「これまではな。お前も成長してるんだから、これからは分からんだろうが」

巴「そ、か」

P「気に食わなかったか?」

巴「そげんことないわ。ただ……」

P「ただ?」

巴「ウチのこと、ウチ以上にちゃんと見とるんやなって……ちぃと嬉しかったんじゃ」クスクス


53 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/06(木) 22:19:16 F6HtGIlI
.








『矜持』







.


54 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/06(木) 22:20:11 F6HtGIlI
巴「なんじゃ、これは」

組長「字も読めんごとなったか」

巴「冗談はもう腹一杯っちゅうことじゃ」

組長「伊達や酔狂でこんなことすると思うとるんか?」

巴「あ……ったり前じゃろが!! そんなにウチとプロデューサーばくっつけとうないんか!?」

組長「同じこと何遍も言わすなや。それはええって言うたじゃろ」

巴「じゃあ――!!」

P「巴」

巴「じゃかしいわ!! おどれは黙っとれ!!」

P「巴!!」

巴「ッ」

P「……気持ちは十二分にわかる。けどまずは理由を聞かんと始まらんだろ」

巴「………………すまん」

P「いい。それで、これはどういうことなんですか?」

組長「見たまんまじゃ」

P「つまり、巴とは縁を切ると」

組長「ああ」

P「…………理由を、お聞かせ頂いても?」

組長「……………………」

P「……………………」

組長「……………………」

P「……………………」

シィン…


55 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/06(木) 22:20:50 F6HtGIlI
巴「なんでじゃ……」

組長「……………………」

巴「なんで何も言うてくれんのじゃ、親父……」

組長「……………………」

巴「ウチの事、嫌いになってしもうたんか……?」

組長「お前の事を、生まれてこの方嫌ったことは一度もない」

巴「……………………」

組長「ウチは耄碌したボケ爺の代からずっと村上家としてこのシマば守って来た。そりゃあ戦争後の話じゃ」

組長「気が付けば市を守っとる内に、流れを世話したり悪そうするんとを蹴散らしよったら極道に名を連ねっとったっちゅうつまらん話じゃ」

組長「昔はどうか知らんが、今では世間様にゃ白い眼ぇで見られてしもうて、極道や任侠集団やなくただの荒くれモンの集まり、『暴力団』って言われとる」

巴「……………………」

組長「暴力団と関われば事あるごとに疑われ、勝手に犯罪者扱いされてもうたり怯えられたり、碌なこたぁない」

組長「おどれだって覚えはあるやろ。アイドル初めてから早速週刊誌に暴力団の娘がアイドルにっちゅうゴシップば引っこ抜かれて」

組長「今でこそおどれの実力で有無を言わせとらんが、もしうちが日頃からサツに目ぇつけられる程抗争浸りやったり派手なことし腐りおったら、事務所の力があろうがおどれの力があろうが世間様は許してくれんやったろうな」

組長「それほど危ういバランスでおどれは立っとったんじゃ、巴」

巴「……なんでウチをアイドル事務所に送り込んだんじゃ。そこまで言うなら予想しとったんろうに……」

組長「こん男がおったけぇ」

P「………………」

巴「プロデューサーが?」

組長「ワシがおどれをアイドルにしたかったんは事実じゃ。親馬鹿は自覚しとる、おどれの事が目に入れても痛とうなかったけんが」

組長「その一発目で当たりを引いたんじゃ。うちの若いのが着いとってこいつは恐れるどころかおどれを迎え入れた」

組長「そん後に契約の挨拶に来た時もそうじゃ。ちぃと睨み利かしたらええと思っとったらそげんことなかったわ」

組長「ワシは巴を任せるなら間違いなくこいつしかおらんと思うたんじゃ」


56 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/06(木) 22:21:24 F6HtGIlI
巴「……それとこの絶縁状がどう繋がるんじゃ」

組長「言うたろ、親馬鹿やって」

巴「それじゃ分らんって言いよるじゃろ!!」ダンッ

P「巴!」

巴「くっ……」

組長「ワシとしちゃあな、巴。自分のカワイイ娘と自分の認めた男が番いになるんは大歓迎じゃ。そもそも思ってもみぃひんかった」

組長「しかしのう、不思議なことにこうなるとおどれらは幸せになれん。なんでやと思う?」

巴「…………?」

P「はぁ……なるほど」

巴「なんじゃ、どげん……!!」

巴「まさか……うちが、村上組が極道やから、か?」

組長「然り。締まりが悪かろうが。親のせいでいつまででん後ろ指指されるとは」

巴「今更それがなんじゃ!! ウチだってそうして生まれてきたんやろうが!!」

組長「状況が違うじゃろうが。ようと考えてみぃ。トップアイドルの女っちゅうことは名前が後世まで引き継がれるっちゅうことじゃ」

組長「おどれがくたばってからも。おどれの子どもが大人になってからも」

巴「!!」

組長「分かったか、巴? おどれだけやのうて、おどれの子どもまで『暴力団の子ども』『アウトローの血統』って言われるんじゃ。ずぅーっとな」

巴「それで……それで、早いうちに縁切ってウチら家族の関係を無くす、ちゅうんけぇ」

組長「そうじゃ。村上巴は確かに暴力団の娘やった……が、ここで禍根を絶てば子どもは関係のうなる。上手くいきゃあおどれだっちゃ極道の娘とは呼ばれんくなるかもしれん」

巴「世間はそげん甘うないぞ、親父。例え絶縁しても過去に事実だったことはいくらでも掘り返さるる」

組長「じゃけん、その建前がいるんじゃ。事実、絶縁しとって物理的な繋がりも無くなれば後ろめたいことはなんもない。でっち上げの証拠はすぐ破らるぅしな」


57 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/06(木) 22:22:04 F6HtGIlI
巴「……親父がウチとプロデューサーんことばようと考えてくれたのは分かった」

組長「せやったら――」

巴「けどなぁ親父。いきなしそげん事言われて頷けると思うや? ずっと家ば離れとって……これから孝行って時に大事な親を失くせると思うか?」

巴「その理屈ならいますぐじゃなくてもよかろうが。孫の顔も見せられんのか、ウチは。なぁ」

組長「……………………」

巴「わかった、わかった。したら結婚までの期間を伸ばしたらええやろ、な? 二五とか三〇とかで――」

組長「巴、お前それでいいんか」

巴「……なんがじゃ」

組長「想い人と早う契りたいのに我慢し切るんか」

巴「……できる」

組長「計画も立てとったんじゃろ。十八でアイドル辞めて二十で式挙げて、落ち着いたら子どもば設けてって」

巴「そんなもん幾らでも変えらるぅわ」

組長「まぁそれでもええわ。でもな、そうなってもワシゃあ式には出んし孫の顔も見らん。敷居を跨いだが最後、一切顔を合わせん」

巴「なんでじゃ!! なんでそうまでして……親父は……っ!!」

組長「二つに一つも無いとぞ。おどれが首を立てに振ろうが横に振ろうが、ここまでじゃ」

巴「ッ!!」ガタッ

バンッ‼ バタバタバタバタ…

組長「……行かんのか」

P「今は一人にさせてた方がいいでしょう。頭を整理する時間が必要です。巴さん……巴はすぐ沸騰しますが、自分で冷静になれる女ですから」

組長「ふっ」

叔父貴「俺が行ってるけん、気にせんとき」スッ

P「お願いします」


58 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/06(木) 22:22:31 F6HtGIlI
組長「そいで、おどれもなんか言いたいことがあるんか?」

P「これは村上家、ひいては娘と父親の問題です。これから家族になるとはいえ、そこに今私が口を挟むことはできません」

組長「殊勝なことじゃ」

P「巴には言ってませんでしたが、細かく理由を挙げればまだ色々とあったんでしょうしね」

組長「まぁな。シマ荒らしシバいたら抗争直前、血気盛んな下の組の連中は頭の座を狙ろうとる。挙句ワシも長くないときた」

P「ご病気で?」

組長「昔ほど体力がのうなっただけじゃ」

P「そうですか」

組長「しかしまぁ、げに出来た男じゃのう。キチンと場を弁えとる。正直、熱くなっておどれも文句の一つや二つ垂れると思うとったわ」

P「ありますよ」

組長「ああ?」

P「ありますよ、文句。それ言う為に残ったんですから」

組長「かかっ、そりゃ結構。そいで、どげん唾吐くつもりじゃ」




P「自分の後悔を娘に押し付けてんじゃねぇよボケ」




組長「……なんやとコラ」

P「まさか俺よりポーカーフェイスが苦手な馬鹿がおるとか思ってなかったわ。なぁにが『わかったか、巴?』だよ。言葉の端々から俺は悪くないって感じが滲み出てんだよボケ」

組長「ええ度胸やないかボケコラ。よっぽど歯ァガタガタ言わされたいようやなぁ? ああ!?」ガタッ

P「やれるもんならやってみろ腰抜け。話すときの顔に全部出てんだよ。『俺も極道なんか御免だった』ってなァ!!」

組長「調子に乗んなや童ァッ!!」バキィッ!

P「ッつ……!! 組長っつてもこんなもんか!!」ドスッ!

組長「ぐっ!?」

P「自分の娘の拳より貧弱なんだよ手前自身が情けねぇから!! どうした来いよ!! ただのパンピーに一発ケーオーか三下ヤクザァ!!」

組長「口でどんだけほざいてもブルっとるんが見え透いとるんじゃボケェッ!!」ボゴォッ‼

P「ゴハッ――!!?」

組長「極道には極道の、村上には村上の〝道〟があるんじゃ!! おどれみてぇなぬるま湯に浸かってきたボンボンにわかるかいッ!!」ゴッ! ガッ!

P「ぐ、づぁ……そうやって区別してる時点でなァ、図星だったのが丸見えなんだよクソ親父ィィィィッ!!」ドガッ‼


59 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/06(木) 22:23:11 F6HtGIlI
組長「カ、ハッ――!!」

P「ボンボンだからなんだァ!? それで飯の食い方が分かんのか!! 上等じゃねぇか随分とハッピーな世界だなクソッタレ!!」ガッ! ドゴッ!

組長「ぐぅ……!!」

P「手前の妄念を手前の娘に押し付けるのは愛情じゃなくて呪いだ!! 一生痕が残る忌み疵だ!! 娘の欲しい親の愛をほっぽりだして何してんだよてめェはさァ!!!!」ガスッ‼

組長「ッ――じゃかしいわおんどれェェェェェェェッ!!!!」ドゴォッ‼

P「ガッ――!?」

組長「ワシが家には抗えんやった!? そうじゃ、それが事実!! そりゃあいいわ、ワシは男じゃ!! 男は自分を退いたらいかん!!」ドスッ‼ ガンッ‼

P「ッ!! ッ!!」

組長「やけど、あいつは女なんじゃ!!」

P「!!」

組長「女が極道で幸せを掴むには余りにも差が有り過ぎる!! 生きとる世界が同じやのに、生むのと生ますのとじゃ立てる場所が違うんじゃ!!」

P「……それが本音か」

組長「もしワシが居らんごとなったらあいつは独り。兄弟も、若い衆も、居った所で行きつく先は抗争じゃ」

組長「跡目を指名しても世代が代われば流れが代わる。その流れにあいつは流されるか取り残されるか、どちらにせその先に光はない!!」

組長「したら、したらなぁ!! 巴の認めて、ワシも認めらるぅ男が居るんなら、そいつに任せるしかないじゃろうが!!」

P「……だったら」

組長「なんじゃおんどりゃァ!!」

P「だったらそう言やいいだろうがァ!! 家の事に巴を巻き込みたくないんなら!! 巴に人並の幸せを掴んでほしいっていうんならよォ!!」ドガァッ‼

組長「――ッ!!」

P「もし最初っからそう思ってんなら子どもなんざ捨てちまえばよかっただろうが!! 産まなきゃよかっただろうが!! 誰かに預けちまえばよかっただろうがァッ!!」ブンッ‼

組長「できるかんなことッ!!」ガッ‼

P「そうだろうよ!! てめェは間違いなく娘のこと愛してんだからなァ!!」グアッ‼

組長「それを手前が言うことかァァァァァァッ!!」グオッ‼

ズガァッ‼‼


――――…………


60 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/06(木) 22:23:42 F6HtGIlI
…………――――


P「ここに居たのか」

巴「……! おどれ、その顔は……」

P「お前の親父は強すぎる。身体が鉄でできてんのかと思った」

巴「……親父は?」

P「叔父貴さんが連れてったよ。風呂でも入んじゃねぇの」

巴「そうか……」

P「……………………」

巴「……………………」

P「……………………」

巴「なぁ、プロデューサー」

P「ん?」

巴「ウチはどうしたらええんじゃろうか」

P「知らん」

巴「っ…………」

P「これは巴の気持ちと、巴の家の問題だ。俺にも首突っ込む権利はあるかもしれんが、もう決着は着いてる」

巴「……親父がもう決めとるからか」

P「そうだ。決着も何も強制不戦敗みたいなもんだがな。後はお前の決断と、気持ちにどう折り合いをつけるのかだ」

巴「存外冷たいんじゃな、プロデューサーは」

P「甘えんな」

巴「!!」

P「……巴、俺は間違いなく今後もお前を支える。一緒に生きて、一生を添い遂げるつもりだ」

巴「…………うん」

P「それはおんぶにだっこじゃない。一方的に抱えても、抱えられてもいけないんだよ」

巴「…………うん」

P「ここでもし俺が『娘さんとの婚約は取り下げます』って言ったらどうだ?」

巴「……嫌」

P「じゃあ『親の事は忘れろ』って言ったら?」

巴「……そげんと、プロデューサーじゃない」

P「だろ?」

巴 コクッ

P「だからな、巴。ここから先はお前一人で考えて、納得しなきゃならないんだ。答えはもう一つしかない。決意が、いるんだ」

巴 コクッ

P「俺だってこんな形は……いや、とやかく言ってもしょうがない。もう遅い、そろそろ床に就いた方がいいな」


61 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/06(木) 22:24:11 F6HtGIlI
巴「プロデューサー」

P「なんだ、巴」

巴「一緒に……寝てくれんか」

P「ああ。いいぞ」

巴「……ありがと、の」

P「ん」


……………………


P「………………」

巴「………………」

P「………………」

巴「………………プロデューサーは」

P「………………」

巴「げに、大きゅう身体ばしとる。身体だけやない。心も、器も……」

P「………………」

巴「それに……あたたか、っ……」

P「………………」ギュッ

巴「あたたかい、あたたかく、て……ぅぅぅ……!」

P「巴」

巴「っ……うっ……なん、じゃ……」

P「覚えてるか、初めて同衾した時の事。あん時に俺が言ったこと」

巴「覚えとる……! 一言一句、逃さず……!」

P「一蓮托生。何があっても俺はお前の傍を離れん。絶対に、絶対に」

巴「プロデューサぁ……!」ギュウッ

P「ここでは、泣いてもいいんだ。俺以外、誰も見てないんだから」

巴「ッ……!! ううぅぅぅぅぅぅぅ……! ぁぁぁぁぁぁあああああああ……っ!! ウチは……ウチ、は……っ!!」

P「………………」ポンポン


62 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/06(木) 22:24:40 F6HtGIlI
――――…………


巴「それじゃあ」

叔父貴「…………」

若い衆「…………」

P「……行くか」ザッ

組長「待たんか」

叔父貴「兄弟……」

黒服「オヤジ……」

巴「ふん、最後まで面見せんかと思うたわ」

組長「馬鹿言うな。娘の門出くらい見送るわ」

巴「その口が言いよるんじゃ」

組長「……………………」

巴「……………………」

組長「これを」スッ

巴「……なんじゃ、これ」

組長「餞別じゃ」

巴「そか」

組長「……………………」

巴「……………………」

P「……………………」

巴「ほいじゃあ、もう行くけん」クルッ

組長「――巴」

巴「……なんじゃ、わずろーしぃ」

組長「お前は――ステージのお前は最高に輝くスーパースターじゃった。世界中の女が見劣りするくらいのな」

巴「当然じゃ――」














巴「ウチは村上の娘じゃけん!!」














.


63 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/06(木) 22:25:00 F6HtGIlI
.







間幕――了







.


64 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/07(金) 13:22:36 TdVioyB6
・癖



巴「ちぃと疲れたのう……一休みしたら今日はもう女子寮に戻るか」

巴(……ん? 給湯室から音が……)

P「ふんふん、ふふんふーん」

巴(なんじゃプロデューサーか。えらくご機嫌な……まぁたカップ麺食うとる)

P「ンッンー♪ んっふふ〜♪」

巴(……冷静に見ると大の男がノリノリで歌っとるんは、あれじゃの。まぁええか、挨拶ついでに脅かして――)

P「やっせぇぇぇぇぇぇぇぇがぁぁぁぁぁぁまぁんばぁかぁりでぇ! もう! 半年すぅぎたがぁぁ〜〜〜〜!」

巴「」

P「何が! 変わったぁのか誰を! 愛したぁかぁぁぁ〜〜〜〜!」

巴「」

P「頭のぉぉ〜〜〜〜…………ん?」

巴「あっ」

P「あっ」

巴「……………………」

P「……………………」

巴「あーっと……」

P「見たのか」

巴「ハ、ハハ! おどれ意外と歌が上手やのう!」

P「……見られてたのか」ズゥーン

巴「そげん落ち込まんでも……ほれ、なかなかコブシも効いとってよかったわ、うん」

P「一人で盛大に歌ってるの見られるとか死にたい」

巴「す、すまん……でもこげん場所で歌っとったおどれも悪い」

P「いやもういい。一生歌わないし口ずさまない」

巴「なんか今日に限ってえらいメンドクサイのぅ!?」

P「貝になりたい……」

巴「シャキッとせんかいっ!!」バシッ


65 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/07(金) 15:59:45 TdVioyB6
・キャンバス



P「クリムゾンレーキ、チェリーレッド、紅緋、葡萄、茜……」カチャカチャ

巴「なんじゃあその赤々しい瓶の山は」

P「おう、巴。なんか取り引き先から大量に送られてきたもんらしい。さっき専務からせしめてきた」


66 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/07(金) 16:00:29 TdVioyB6
巴「こんなにか? ……ああ、マニ キュアけぇ」

P「メチャクチャ積んであったからな。赤系統の色だけ拝借した訳よ」

巴「それでこげん真っ赤なんか。ようと見たら結構違うもんやの」

P「だろ? このエナメルマゼンタとダークワインレッドも、似てはいるが前者の方が色が明るい」

巴「ほぉ……ん? こりゃあ綺麗じゃのう」

P「ええっと……トランスペアレントオキサイドガーバンディ、って名前なげぇな」

巴「使うてええのんか?」

P「いいぞ。その為に持ってきたんだし。ほら、近々宣材を新調する予定だったろ? それに使えないかなって」

巴「そういやそうやったのぅ」

P「ベースコートどこやったかな……あったあった。ほれ、手ぇ出せ」

巴「ん」

P「うっし」ヌリヌリ

巴「……プロデューサーは器用じゃな」

P「んー? メイクの真似事できた方が何かと便利だからなぁ。あ、自分で塗りたかったか?」ヌリヌリ

巴「いんや」

P「そうかい…………よし、できた」

巴「……ええなぁ、この色」

P「俺も鮮やかで巴に良く似合ってると思う」

巴「ふぅむ……」

P「ま、まだまだあるから気に入った奴だけ抜き出して試していこうぜ」

巴「そうじゃの。じゃあ……次はこいつじゃ」

P「紅緋か。よし」ヌリッ

巴「………………くく」

P「どした?」

巴「いや、なんも」

P「…………? 変なやつだな」

巴(プロデューサーがウチの身嗜みば整えとるんは、まるでお姫様みたいに扱われとるようじゃ……とは言えんの)クスクス


67 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/07(金) 16:31:44 Jmhns.CY
お姫様扱いに悪い気分のしないお嬢可愛い


68 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/07(金) 16:37:02 TdVioyB6
・素



演出家「カァーット!! だからそんなんじゃダメやって言ってんの!!」

役者「ご、ごめんなさい……」

監督「今のダメ? かなり凄みあったと思うよ僕」

演出家「ダメダメダメ! てんでダメ! キミやる気あんの!?」

役者「うぅ……」

P(……こりゃ長丁場だな。同じシーンだけで二十カットも)チラッ

巴「…………」

P(ふぅ、冷静みたいで何よりだ。とはいえ、あんまり撮り直しが多いとさっきから指摘されてる役者や演出家に当たるかもしれんな)スッ

巴「!」

P スッ、スッ

巴 フリフリ

P「!?」

巴(余計な世話じゃ。心配してケアするんはたいがたいが……)

演出家「いい!? 俺の言ってる意味わかるなら決めてみなさいよ!?」

役者「は、はい……」

監督「五分だけ間空けよっか。助監クン、四三のシーンだけ確認してもらっていい?」

助監督「はい」

役者「…………はぁ」

巴「隣、ええか」

役者「っ! は、はいっ!!」

巴「そんなビビらんでもええよ。ミスは誰でもするし、おどれが全力でやっとるのもウチにはわかる」

役者「あ、ありがとうございます。でも、全力でやって怒られるようじゃ、私は実力不足なのかもしれません……」

巴「実力が不足しとったら最初っからおどれにこの仕事は回されんやろ」

役者「で、でも……」

巴「起きたも転んだもあるかいッ!!」

役者「!?」

巴「泣きべそかいてもあンのいけ好かんダサ眼鏡の演出家は満足せん!!」

演出家(えっ)

P「」

巴「おどれは役者じゃろ!! やったらこの場の人間も納得せんような演技やったらテレビで見るファンも満足せんってわかるはずじゃ!!」

役者「そ、それは……」

巴「あんたに足らんのは気迫じゃ!! こいつぶっ殺してシバキ上げたるっちゅう迫真の心意気!!」

役者「気迫……」

巴「いっぺん台詞ば読み直して心ん底から考えてみぃ! 自分が演じる役の人間と同じ気持ちになれとるんか!!」

役者「………………」

監督「えっと……五分越えたから始めたいんだけども……」

巴「失礼しました、お願いします! ……やれる、おどれなら」ボソッ

役者「!!」

助監督「じゃあ四四行きまーす! ……ハイッ!」カンッ!!

巴「羨ましい。美人だと男は自由だもんね。家にお金もあるから不自由なんてなかったんでしょ?」

役者(役の気持ちに……気迫……本気……!!)キッ

巴「!」

役者「不自由なく? ふん……アンタに何がわかんのよッッ!!」ビリビリ!!

P(おお……)

役者「アンタみたいにそうやって人を見下してる方がさぞ楽でしょうね!! 自分より下の人間見て笑ってるだけでいいんだからさ!! 偉そうなこと言ったって性根ひねくれてるから誰からも陰口叩かれるのよ!!」

助監督(……そんな台詞あったか!?)

演出家「カットー!!」

役者「はぁ……はぁ……」

演出家「……オッケー」

役者「!」

演出家「それだよそれ! すっごい気持ちが乗っかってた! できるやん!!」

役者「ありがとうございます!!」

巴「ほれ、できたろう」

役者「村上さん……ありがとうございました」

巴「ウチは何もしとらん。あんたの実力じゃ」

P(……アイツも立派になったもんだ。俺はもうお役御免かなぁ)

巴「プロデューサー」

P「おっ? どうした?」

巴「見とってくれたや、ウチの演技!」

P「ったり前よ。さすが巴、いつも以上に冴えてた」

巴「くっくっ……そうじゃろ! なんせウチはプロデューサーのアイドルやからな!」

P(いや……巴が俺を必要としてくれてるのは変わらない、か)

P「つくづく良い女だな、お前」

巴「なっ、なに言うとんじゃいきなり!」ベシッ

P「いてぇ!!」


69 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/07(金) 20:35:56 TdVioyB6
・一撃必殺



巴「プロデューサー、居るかー?」ガチャッ

P「よーしよし……お、巴か」

巴「なんじゃあデスクに屈んでみょうちくりんな……」ニャ-ン

巴「ああ?」ヒョイッ

猫「にゃぁ」

巴「お、おお!」キラキラ

P「可愛いだろ、この猫」

巴「つれんのぅプロデューサー。猫飼っとったんなら早う言うてくれ!」

P「俺のじゃないんだよなぁ、それが。さっき部屋に戻る前に廊下歩いてるの見掛けてな。専務がすげぇ顔して見てたからつい連れてきちまった」

巴「すごい顔ぉ?」

P「なんかこう、ガッと眼ぇ見開いて今にも飛びつきそうな獣みたいな……」

巴「ホントけぇ? ……首輪はしとらんか。野良かのぅ」

P「分からんなぁ。どっかから迷い込んだ可能性が高いのは確かだが、事務所中の人間に聞いてみないことにはなんとも」

巴「回覧板……やなかった。社内メールみたいなもんがあるじゃろ」

P「ああ。たったさっき他のプロデューサー達に向けて送った」

巴「アイドルにも社用携帯持たせとるんじゃから、そっちにも送りゃええじゃろ」

P「んなことしたら暇な奴らが殺到しかねん。それに、どんな猫だの写真くれだの連れてこいだの言われるに決まってる」

巴「そこまでがっつかんと思うんじゃが……」

P「目を輝かせてた奴が言うことかね」

巴「うっ……」

P「ともかく、まずはプロデューサー達にそれぞれ確認してもらう。担当なら自分のアイドルの扱い方くらい心得てるだろうしな」

巴「ははァ、よー考えとるのぅ」

猫「にゃう」スリスリ

巴「おっ、そげん足の間ば動き回ったらくすぐっとうて堪らんわ」ナデナデ

猫「にゃ」ペロッ

巴「くすぐったいって言いよろうに」ケタケタ

P「……てっきり巴は犬派だと思ってたよ」

巴「犬は犬で懐っこくてええが、猫は猫で愛嬌があるじゃろ」

P「つまりどっちも好きってことね」

巴「そう、そうじゃ」ナデナデ

猫「うみゃう……」ゴロゴロ

巴「んんー? ここか、ここがええのかー?」ナデナデ

P(くっそ可愛い絵面で鼻血出るわこんなん)パシャッ

巴「コラおどれ、なにさり気なく写真撮っとるんじゃ」

P「いやつい……あっ」

巴「?」

P「アレあるんだよ、アレ。えっと……衣装箱じゃないや、小道具箱は……あ、これこれ!」ジャンッ

巴「…………なんじゃあこりゃ」

P「猫耳と尻尾」

巴「わかっとるわ」

P「はい」

巴「…………………………」

P「…………………………」ワクワク

巴「今日だけじゃけん」スッ

P「!!」

巴「ど、どうじゃ……?」モジモジ


70 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/07(金) 20:37:16 TdVioyB6
P「かわいい」

巴「はっ?」

P「かわいい」パシャッパシャッ

巴「ちょっ!? 何撮っとるんじゃって言いよるやろうが!!」

P「絶対永久に保存する」ダッ

巴「待たんかァァァァァァァァァ!!」ダッ

猫「にゃあ……」


71 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/07(金) 22:19:46 TdVioyB6
・Bet OFF



巴「プロデューサー」

P「んー?」

巴「ちぃと賭けばせんか」

P「アイドルとプロデューサーで、しかも未成年なんだけど」

巴「今更そげなこと言うなや。これまで何遍賭けたと思うとる」

P「一応建前が要るからしょうがない。それで、何やんの」

巴「ポーカー」

P「……かぶれたな、巴」

巴「誰が西洋かぶれじゃバカタレ。兵藤の姐さんが教えてくれたんじゃ」

P「バカラとかブラックジャックとか?」

巴「そう。それでおどれと対面張るのにポーカーがええと思うてのう」

P「いいけど、何賭けんのよ」

巴「そこで使うんがこの箱じゃ」

P「ははぁん、読めたぞ。この箱の中に何を賭けるかの内容が書いてあるわけだ」

巴「ようわかっとる。まずはウチから引かせてもらうけぇ」ゴソゴソ…スッ

P「ちなみにそれは兵藤さんが?」

巴「そうじゃ。普段から使こうとるらしくて貸してくれた――ああ!?」

P「どしたのいきなり」

巴「………………次はおどれの番じゃ」

P「お、おう……」ゴソゴソ…スッ

『バニー姿で一日過ごす』

P「うわきっつ!! 想像以上にきついわこの内容!! これ中身全部女の子向けじゃないの!? っていうか賭けじゃなくて罰ゲームだろこれェ!!」

巴「ウチよりマシじゃろ……」

P「そうだ、お前のなんだったんだよ」

巴「……………………」スッ

『熱々おでんを十分以内に食べきる』

P「えぇ……」

巴「…………絶対ロクなことにならん」

P「…………ふ、普通に賭け無しでやるか」

巴「そうじゃな……」


72 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/08(土) 00:11:26 cmt9uRls
・風情



巴「チッ、長ごう雨が降ると辛気臭ぅていかん」

P「この時期はしょうがないさ。俺は涼しげで静かで、結構好きなんだが」

巴「スカッと晴れとる方が身ぃも入るっちゅう話じゃ。こげん降られたらしょぼくれるわ」

P「てるてる坊主でもぶら下げて願掛けするか?」

巴「……今日は何時頃ここに来た?」

P「あ? 九時だったかな」

巴「そっから外に出とらんやろ」

P「まぁ……」

巴「エントランスホールの窓んとこにてるてる坊主が吊るされとったわ」

P「誰か作ってんのかよ。ちょっとした冗談のつもりだったんだが……」

巴「ご丁寧に『こずえ』って名前が書いてあったけん、全部こずえんとやろ」

P「年相応でカワイイじゃん。後で見てみよ」

巴「どれほど効くか知らんが、なんとなしに効くんやないかなって思うてしもうた」

P「こう……そういう雰囲気みたいなのはあるよな」

巴「やろ? それよか、どげんして往ぬろうかのぅ……」

P「傘は?」

巴「無い」

P「うーん……女子寮まではそう遠くないし、送るぞ」

巴「まだ仕事残っとるじゃろうが」

P「大した距離じゃないから気にすんな。本当は車で送りたいけど持ってきてないし、社用車も他が使ってるし」

巴「車乗って来とらんのは珍しいな?」

P「そういう日もある」

巴「やったら言葉に甘えるわ」

P「んじゃ、行きますかねぇ」

ウィ-ン ザァァァ-

P「多過ぎず少な過ぎず、良い雨だ」バサッ

巴「ウチにはわからん」

P「もうちょっと寄らないと肩濡れるぞ」

巴「ん」

スタスタスタ…

P「この辺を徒歩でってのは久しぶりだな」

巴「事務所周りはともかく、女子寮周辺はのう。基本的にプロデューサーは車やけぇ」

P「ああ。お、そこ水溜りだな」

巴「っとと」グッ

P「大丈夫か? すまん、寄るのが遅れた」

巴「踏んどらんよ。ウチの方も押してしもうたわ、すまんの」

P「…………よし、着いたな」

巴「ん、助かったわ。ありがとの」

P「これくらい当然当然。俺は巴のプロデューサーだからな。じゃ、俺は戻るわ」

巴「…………プロデューサー」

P「あ? どした?」

巴「別に嘘吐かんでも、素直に相合傘したいんやったらそう言うたらええ」

P「…………バレてた?」

巴「おどれが理由も無しに車使わんで事務所まで来るわけないけぇな。しかも雨の日に」

P「あー……こりゃ恥ずかしい」ポリポリ

巴「やけん素直に言ったらええって言うたんじゃ。蹴りゃあせんのじゃけぇ」

P「うっせ、こっちが恥ずかしいんだよばーか」

巴「バカはどっちじゃ」ケタケタ

P「あーうるさいうるさい! 俺もう戻っから! さいならさんさん!」

巴「気ぃつけぇよー! …………くくく」


73 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/08(土) 01:17:32 cmt9uRls
・緋色牡丹雪時雨



『――さむーい冬がですね、続くと思います。特に明日は雨ですから、みなさんお出掛けの際には暖かい格好で傘をお忘れなく――』ピッ

『――これにより加来組は事実上解散という形になり、九州を制した暴力団の崩壊という決着に――』ピッ

『――そんなことありませんよぉ。ここだけの話なんですけど、実は六のつく日だけは珈琲メニューを無料でお客様に提供しておりまして――』ピッ

P「……………………」ドサッ

P(クリスマス、か)カチカチッ

P(アイドル連中はオンスケで事務所使ってクリスマスパーティ。それを実現する為に調整に追われてたプロデューサー達は、それに加わるか仲間と呑むか……)

P(仕事してんのはパッションのチーフとシンデレラプロジェクト担当の……あれはもう終わったんだったか)

P(なんにせよ、一人寂しくデスクで来年の仕事の為に働いてるのが俺一人じゃないってだけで救われた気分だな)

P(…………あと一年)

トントン

P「どうぞ」

ガチャッ

巴「おう。こんな時までご苦労じゃのぅ」

P「なんだ、冷やかしに来たのか?」

巴「いんや、クリスマスで周りが浮かれとる中ピシッと仕事しとって感心やと思うて」

P「お前なぁ……」

巴「くくく、すまんすまん。ほれ、腹ば空かせとろうと思って」

P「おっ、いい匂いがすると思ったら……いやー巴はさすがだなー!」

巴「まったく、食いもんだしたらこれか。現金過ぎるじゃろ」

P「事実、腹が減ってたからな。さぁてどんなもんかな……スペアリブにシーザーサラダに……飲み物は?」

巴「プロデューサーの冷蔵庫に入っとるじゃろ」

P「酒欲しかったなぁ」

巴「おどれは仕事中じゃろが!」

P「もうそんな気分じゃなくなりましたー。誰かが飯持って来たからー」

巴「ふん、人のせいにするなっちゅうんじゃ。ま、休憩も必要じゃろうけんなんも言わん」

P「あら優しい」

巴「こういう日くらいはの」

P「…………来年は大手振って二人で過ごせるから」

巴「…………わかっとる」

P「………………」

巴「………………」

P「ふぅ……今渡しちまうか」ガラッ

巴「?」

P「クリスマスプレゼントだよ」ガサッ

巴「え……ウチにか?」

P「なに驚いてんだ。去年、一昨年もやっただろ」

巴「いや……今年は特に忙しゅうしとったし……てっきり用意したんはウチだけやと」

P「さらっと暴露してんじゃねぇよ。とりあえず、ほら」

巴「ぅ……あ、ありがとぅ」ガサッ


74 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/08(土) 01:43:13 cmt9uRls
巴「……空けてもええか?」

P「お前のだ、自由にしろ」

ガサガサ…

巴「……!! こりゃあ、新しいスカジャンけぇ……!」

P「おう。お前が下にどんな服着ても余裕があるように設計してある」

巴「宵に望月紅桜……しかも閉めるとこは裏地に金糸の和柄……」

巴「――くく、くっくっく、はっはっはっ!!」

巴「よう……おどれはようわかっとる! 最高じゃ、この一張羅は! ウチが今まで見た中でこれに勝るもんはない!!」

P「そこまで気に入って貰えたんならオーダーメイドした甲斐があったわ」

巴「通りで……くく、ああ、ウチのツボば抑えとるはずじゃ」

P「まぁ使ってやってくれ」

巴「今から着る」バサッ シュッ

P「……うん、良い」

巴「おどれが選んだもんをウチが着とるんじゃけぇ当然やろうな」

P「くくく」

巴「プロデューサー。ウチからもプレゼントじゃ」ゴソッ ガサッ

P「おー、なんでっしゃろ。開けるぞ」ガサガサ

P「…………? スパッツ??」

巴「腹巻」

P「えぇ……意外すぎる選択だわ」

巴「最新の腹巻やけぇ。素材は詳しくは知らんが、フリーサイズでフィットして周囲の温度に影響されんで一定の温度ば保ってくれるんやって」

P「ほうほう。それでこんな腹巻らしからぬ素材なわけか」

巴「耐久性も柔軟性も抜群。洗濯もネットに入れんでええ。吸水性もある、高機能な品じゃ」

P「腹巻と侮ったな……こりゃいいや。常に巻きたい。よく見たらデザインもスポーツウェアみたいでイカしてるな」

巴「じゃろ? ……まぁ、実はそっちは本命じゃないんじゃが」

P「えっ、二つもあんの?」

巴「というかこっちだけのつもりだったんじゃがのう。それは次いでっちゅうか……」

P「おお……なんだよ焦らすなよ」

巴「出すけん少し屈まんかい」

P「ん」スッ


75 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/08(土) 01:55:48 cmt9uRls
シュルッ

巴「…………」スッ グッ

P「………………」

巴「よし、これでええ」

P「……このネクタイ、お前みたいだな」

巴「ああ?」

P「ド派手で、見たヤツが目を話せなくなる様な情熱的な赤色だ」

巴「じゃろ? こいつで毎日ビシッと決めたら格好がつく。プロデューサーはいつもスーツじゃけん、それに合うたもんが良かろうと、の」

P「ありがとう、巴。大切に、大事に使わせてもらうわ」

巴「ん。…………チッ、ウチとしたことが」

P「え?」

巴「ネクタイが少し歪んどるけぇしゃがんじゃらんや」

P「そうか、これ――」グッ

チュッ…

P「――――」

巴「――――」

スッ

P「………………お前」

巴「クリスマスは想い人どうしがこうせんと締まらんのやろ?」クスクス

P「巴に一本取られちまったな」

巴「何本勝負じゃ」

P「三本勝負」

巴「勝ったら?」

P「俺を自由にしていいぞ」

巴「負けたら?」

P「お前を好きにする」

巴「乗った……ちゅうても」

P「これは勝負にならねぇな」

巴「くくく」

P「ははは」

巴「……メリークリスマス、――」

P「メリークリスマス、巴」


76 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/08(土) 18:35:03 cmt9uRls
.








『仁義なき』







.


77 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/08(土) 18:35:38 cmt9uRls

早苗「こうしてプロデューサー君と一緒に仕事するのも、最後だと思うと感慨深いわねー」

P「そうでもないですよ。確かに346からは抜けますが、芸能界自体から身を引くわけではありませんし、現場で顔を合わせることも多くなるでしょう」

早苗「そりゃあわかってるわよ? でも同じ所属じゃなくなるんだからそういうのとは別」

P「まぁ言いたい事はわかります」

早苗「私もいい加減アイドルとしては限界だしなー。どうせなら女優として使ってくれる事務所に移りたいんだけど」チラッ

P「……考えておきます」

早苗「ご飯誘った時に予定が空いた日に、って言ってる子みたいね」

P「本当にちゃんと考えておきますって。いきなり連れてったら反乱だなんだとゴシップの良い的でしょ」

早苗「専務にも何言われるかわかんないしねー」

P「そこまでわかってて敢えて言ってくるとか性質悪すぎるこのアラサー……」

早苗「え、なに聞こえない」ギリギリ

P「いだだだだだだ!! コメカミはあきまへんて!!」

のあ「……感傷的」

早苗「あ、のあちゃん」パッ

P「地獄万力……」

早苗「なぁにか聞こえたような気がするなー?」パキッポキッ

のあ「異なる領域が交われば、必ず摩擦が生じる。どんな関係だって……そういうもの。その摩擦が私たちにどんな変化をもたらすか……興味深いわ……」

P「…………前にも同じ事言ってたな」

早苗「どういう意味?」

のあ「そのまま。万物に起り得る変化は……起きた時点で中庸や停滞を崩す。今はその瀬戸際……正念場」

P「心配してくれてるのは嬉しいが、後は成るように成るさ」

のあ「貴方は……やはり不思議だと思う」

P「?」

のあ「何でもないわ。早苗の言ってた事……私の分も、一考に入れておいて」

P「わかった……っと」ピリリピリリ

早苗「迎え?」

P「ええ」

早苗「同じ局での収録なんて滅多にないから会えてよかったわ。それじゃあね、プロデューサー君」

のあ「さようなら。再び……星が交わる時まで」


78 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/08(土) 18:36:06 cmt9uRls
……………………


巴「実質的にこれが346のアイドルとしては最後の仕事けぇ」

P「そうなる。引退じゃないからライブにしなかったが、どうかな、ライブの方がよかったかも」

巴「……珍しいの」

P「え?」

巴「自分で仕事を作った時にはそんなこと言わんやったのに」

P「……俺もこれからの事に緊張してるのかもしれん。覚悟は出来てても、怖いもんは怖いしな」

巴「安心せえ」ギュッ

P「!」

巴「ウチと――の二人なら千人力じゃけぇ。なんがあっても乗り越えらるぅよ」

P「…………ふっ、そうだな。よし! 気合い入れていくか!!」

巴「それでこそウチの男じゃ」ニカッ

P「最初の収録は外だ。前半ってほどは無いけど向こうのオーケーが出ないと長引くと思う」

巴「予定時間」

P「二時間。予定通りならその後に昼休憩挟んでスタジオで収録再開。こっちは四時間」

巴「ん。したら行こうや!」

P「おう!」


……………………


79 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/08(土) 18:36:31 cmt9uRls
P(収録自体は予定通りなのに少し押してるな……)

巴「――――。――」

P(……うん、輝いてる)

ブーッ ブーッ

P(? ……チッ、こんな時に社長からか)スッ

巴「!」コクッ

P「はい、――です。……はい、はい」

カットォー

AD「次スタジオです! ちょっとズレましたんで、再開時間もズラします! 箱入りは半でお願いしまーす!!」アーイッ‼

巴「ふぅ……これで一休み、と」チラッ

巴(まだ電話しとるな……)

スタッフ「村上さん」

巴「なんじゃ?」

スタッフ「スタジオまで車で送るようにと、プロデューサーさんが」

巴「そりゃすまんのぅ。よろしゅう頼む」

スタッフ「はい。では、どうぞ」ガラッ

巴「ん」

バタンッ ブロロロロ…

巴(………………)

スタッフ「村上さん、喉乾いてませんか」

巴「ん、ああ」

スタッフ「これ、よかったらどうぞ。ただの水ですけど」

巴「ん」

ゴクッ ゴクッ

巴「…………」

巴「………………」

巴「……………………?」フラッ

ドサッ

スタッフ「…………」ニヤリ


80 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/08(土) 18:36:54 cmt9uRls
P(随分と手間取ってしまった……休憩も終わってる時間だな)ガチャッ

AD「あっ、居ました居ました!」

P「? どうしたんです?」

AD「村上さんのプロデューサーさんですよね? それが、もう収録開始予定時刻なのに村上さんの姿が見えなくて……」

P「控室にも?」

AD「はい。女性スタッフがトイレも確認に行ってくれたんですが……」

P「それは失礼。本人の携帯に電話かけますんで」

AD「お願いします」

P(何やってんだアイツは)ピッピッピッ

プルルルルル プルルルルル

   プルルルルル プルルルルル

P(おいおい……嘘だろ?)

プルルルルル プルルルルル

   プルルルルル プルルルルル

P「………………」

AD「で、出ませんか」

P「外の収録終わった後に巴を見た人は誰かいませんか?」

CA「カメラ撤収してる時にスタッフの車に乗ってたと思うんですが」

P「スタッフの車?」

CA「ええ。現場の人間……ですよね?」

AD「だったら何で誰も知らねえんだよ。見間違いじゃないの?」

CA「あのスカジャンは村上さんですよ」

P「…………ADさん、巴が本来居るはずの部分だけフレームアウトさせて撮る事ってできますよね?」

AD「そりゃあできますが……三台撮りなんでハケさせたままは無理ですよ」

P「それで構いません。すぐに連れてきますんで、お願いします!」

AD「……わかりました。他の出演者とディレクターへの言い訳は任せて下さい」

P「ありがとうございます……!!」ダッ


81 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/08(土) 18:37:15 cmt9uRls
P(こんな訳の分からないタイミングで巴がバックレるとは思えない)

P(スタッフが間違えて別のスタジオに誘導? それもまず無い)

P(今日のこの局の収録は全部で四本。こっちに巴、一つに早苗さん、もう一つにのあ……ちゃん。最後のは料理番組だから完全に関係ない)

P(すると、そのスタッフの車とやらは偽物か、あるいは……)

早苗「あらっ、プロデューサー君? もう収録終わったの?」

P「早苗さん……のあちゃんも」

のあ「……違うわね」

早苗「へ?」

のあ「終わったなら巴を連れているはず。収録が終わったとしたなら慌てすぎている。目を逸らした」

P「ッ」

のあ「以上の三点から……ただ事ではない何か。私たちに対しても、口を噤むような、何か」

P「………………」

早苗「……プロデューサー君、何かあったの?」

P「…………巴が、いなくなりました」

早苗「!!」

のあ「…………」

P「午前の収録中に自分が電話で目を離した隙に。スタッフの話だと、同じスタッフらしき人物の車に乗せられていたとか」

早苗「……警察に――」

プルルルルル プルルルルル

P「!」

のあ「…………」

早苗「相手、は……」

『村上 巴』

P「………………」ピッ


82 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/08(土) 18:37:41 cmt9uRls
『よォォ〜〜組長さんよォ……』

P「………………」

『けけけっ。声だけじゃ誰かわからんか? うん?』

P「………………」

『人のシマ荒らしてぇ……人の顔焼いとってぇ……人の兄弟ば奪っとってぇ……』

P「………………」

『そこまでした相手の声も覚えとらんかッ!! あ゛あ゛!?』

P「誰だ、お前」

『あ? ……その声……てめぇ村上じゃねぇな?』

P「てめェこそ巴じゃねぇよなぁどう考えても。うちの巴はどうした」

『はぁ〜〜ん……てめぇがプロデューサーってやつかぁ……そうだろう? うん? この期に及んで別の奴に掛けるたぁ、親父に似てふてぇ根性してん――なッ!!』ドゥッ

『ゴホッ!? ぅ……』

P「!! てンめェこの野郎!! 今何しやがった!!」

『そんなことてめぇに言う義理はねぇよなぁ〜〜? こいつが大人しく言う通りにしねぇから悪ぃんだよぉ』

『言うたやろ……ウチはもう、絶縁しとる……どんだけ親父に掛けたところで……』

『そんなことァこっちにゃ関係ねェんだよクソアマ!!』ドスッ

『ぐっ、ぁ……!!』

『けけけっ……まぁよかたい。きさンがその気ならこっちにも考えがあるけん』ブッ

ツー ツー

P「――――!!」ダッ

早苗「プロデューサー君待ちなさい!!」ダッ

のあ「……嫌な風ね」ダッ


83 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/08(土) 18:38:01 cmt9uRls
ピーッ ガチャンッ バタンッ キュキュキュキュ ブォォォンッ‼

早苗「落ち着きなさい!! 誘拐なんでしょう!? だったらまずは警察に一報入れるべきよ!!」バタンッ

P「じゃあやって下さい!! 一刻を争うんだよ!!」

早苗「ああもう……!!」ピッピッ

のあ「貴方の携帯を寄越しなさい」

P「ナビ頼む」

のあ「分かっているわ。その為に来たんだもの。早苗」

早苗(車用携帯のGPS! それがあったわね……!)

早苗「あ、もしもし結衣ちゃん? ごめんね久しぶりだけどお話してる暇ないのよ事件だから。場所は……東区港湾倉庫! 大至急緊急車両回して。救急車も! よろしく!」

ブォォンッ!! キィィィィィ!! ブォォォォォォ――!!

早苗「ちょっちょっちょっ! 飛ばし過ぎだって!! スピード違反どころか事故るわよ!?」

P「俺が……俺があいつから目を離さななければ……!!」

早苗「ぷ、プロデューサー君……」

のあ「…………」

P「………………」ギリッ

ブォォォォォォッ……‼


84 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/08(土) 18:38:22 cmt9uRls
ヤクザ「ったく、クソガキが……何もしねぇとタカ括ってっからそうなる……うん?」

巴「けほっ……ぐ、ぅ……」ペッ

ヤクザ「ッ……まぁだわかんねのか、てめェの立場がァ!!」ドゴッ

巴「う゛え゛っ……!! …………!!」キッ

ヤクザ「おお怖い怖い。商売道具の顔は綺麗なまんまなんやけん感謝して欲しいくらいやぜ? まぁどうせ死ぬんやけど」

巴(……金や体じゃない。ウチば殺すつもりやったんか……親父の前で)

ヤクザ「まぁ〜〜てめぇの親父の前で顔の形変わるくらい殴ってもいいけどなぁ〜〜」グイッ

巴「ッ」

ヤクザ「けけけっ。てめェも、てめェの親父も地獄行きたい。目の前で娘ば嬲られた時のあいつの顔が見物やなぁ? うん?」

巴(…………ウチは……ここで終わるんじゃろか)

巴(……アイドルになって……頂点ば獲って……――と盃ば交わして……それで、最期)

巴(……否)

巴(こんなつまらん場所で終わって堪るかッ……!! ウチは決めたんじゃ……新しい道を、二人で……!!)

下っ端「兄貴」

ヤクザ「なぁんや」

下っ端「この携帯ん中、どこば見ても奴の番号がなかです。消されとるんやないですか」

ヤクザ「はぁ〜〜面倒な事ばしとるなぁ〜〜ホント。ほれ」カシャッンッ

巴「…………」

ヤクザ「何で自分の親父んとを消しとるか知らんが、番号くらい覚えとるやろ。はよ掛けぇ」

巴「――――」ボソッ

ヤクザ「ああ?」

巴「田舎に帰ってお袋の乳でも飲んどけ、三下」ペッ

ヤクザ「はぁ…………もういいわ、お前」チャキッ

巴(チャカ……!!)

「てめェがくたばるんだよクソ野郎!!」


85 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/08(土) 18:38:59 cmt9uRls
ヤクザ「なん――!?」

ヒュンッ バシィッ‼ ガシャァァッ

のあ「これは頂くわ」チャッ

下っ端「なんだてめェら――」

P「らァッ!!」ブンッ ボギャッ‼

下っ端「ぐあああぁぁっ!?」

早苗「せいっ!!」グッ ブオンッ

下っ端「ごっは……!!」ドシャッ

巴「――!」

P「遅れてすまん、巴」

巴「げに……遅いんじゃ。バカタレ……」

ヤクザ「け、けけけっ! 甲割にパチンコだァ? 珍道中でもやってんのかてめェらは!!」

のあ「スリングショットよ」

早苗「観念しなさい!!」

ヤクザ「だァらんかこンボケクソ共が」スラッ

P(ドス……!!)

ヤクザ「ただの反抗かと思ったら仲間呼ぶつもりやったとはなぁ〜〜? ようやってくれるわ忌々しい」グッ

巴「ッ……」ツゥッ

P「早く巴離せよ三下。往生際が悪いと化けて出るぞ」

ヤクザ「ほぉん?」スゥー

巴「ぐ……ッ!」

P「この……!!」

ヤクザ「ああ! おどれが何か言うもんやからつい腕が滑って傷つけてしまったわ! ああ〜〜可哀想に。商売道具の身体ば、腕の切り傷とはいえなぁ〜〜?」

P「……何が目的だ、お前」

ヤクザ「ケジメたい」

P「ケジメ?」


86 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/08(土) 18:39:20 cmt9uRls
ヤクザ「どっかのボケがウチの組にシマば譲らんもんやけんなァ? 挙句乗り込んで来たと思うたらサツとグルんなってシマ荒らすだけ荒らして退散しよって……極道のやり方じゃあないわなぁ〜〜? うん?」

P(巴の親父か……!!)

ヤクザ「俺の兄弟もいつの間にかそいつに着いとる。お陰で組は弱小化して崩壊。なんじゃこりゃあ、新喜劇け!! かはははははははははははははは!!」

巴「……ハッ、つくづく三下やのう」

ヤクザ「……あ?」

早苗「ばかっ! そんな挑発したら……!」

巴「極道っちゅうんは仁義懸けた男の銀幕。そこにコスい手ぇで女ば巻き込むんは下の下、三流っちゅうんじゃ」

ヤクザ「…………」

巴「まさか村上組の総本山ば知らんわけなかろうが。カチコミ入れる度胸が無いけん娘で釣ってタイマン張ろうっちゅうんはな、情けないぞ」

ヤクザ「………………ッ!!」

巴「ま、従ごうちゃる。親父に掛けたらええんじゃな?」ピッピッ

ヤクザ「なに……」

早苗(そこまで煽っといて何考えてるのよ巴ちゃん……!?)

プルルルルル プルルルルル ガチャッ

組長『おう、誰や』

巴「………………」

P「………………」

ヤクザ「………………村上やな?」

組長『おどれはワシんこと知っとってもワシはおどれんことば知らん』

ヤクザ「加来の名前ば忘れたとは言わせんぞコラ」

組長『……ああ、兄弟の。喧嘩吹っかけてきたところけぇ。落ち武者がなんのようじゃ』

ヤクザ「そんな口利いてよかとや? 掛かってきた携帯の番号ばよく見てみい。おどれの娘がどうなっとるかわからんわけないやろ?」

組長『娘ぇ? なんの話じゃ』

ヤクザ「あ?」

組長『ワシに娘はおらん。なんせ絶縁したけんのぅ』


87 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/08(土) 18:42:18 cmt9uRls
ヤクザ「なん……絶縁したっちゃ実の娘やないとか!? おどれ自分の血ぃの繋がった女がどないされてもええっちゅうんか!?」

組長『縁の無い堅気の人間がどうなろうとワシは知らん。むしろおどれこそ腹括らんのといかんのやないか?』

ヤクザ「なんやとぉ……?」


88 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/08(土) 18:43:00 cmt9uRls
組長『解散した組の残党が堅気の人間に手ぇ出したとなったら親分と構成員含めて処罰はもっと重くなるじゃろなぁ?』

ヤクザ「くっ……」

組長『極道ん中でも爪弾き者。裏の世界じゃ笑わるぅて生きていけん。かといって世間様からは前より白い目ぇで見られてお天道様の下は歩けんごとなる。どないするんじゃ、おどれ』

ヤクザ「どげんもこげんもあるかいッ!! 元から裏家業に足突っ込んだ時点で俺ら極道は修羅の道!! 墓の連中にビビッてなんが筋者かッ!!」

組長『せやったら鉄砲玉でもなんでもおどれで寄越さんかい。おどれ、言うとる事とやっとることがてんであっとらん。ただの白痴じゃ』

ヤクザ「…………けけけっ! やったら後悔すりゃええたい。どうせおどれにはなんもできん! 自分の娘がバラバラんなって届くんを待っとったらよか!!」

組長『馬鹿が』

ヤクザ「ああ?」

組長『巴にそんなことさせん男が、そこに居るんやないか?』

ヤクザ(男? ――――!!)バッ

P「気ぃ取られ過ぎだ、チンピラが」ザッ

ヤクザ(こいついつの間に……!?)


ドガッ!!!!


…ドシャッ‼


89 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/08(土) 18:43:21 cmt9uRls
P「巴!!」

巴「……すまんの……ウチが、油断しとった」

P「いや! 俺がお前から目離したから……!!」

巴「そこまで世話かけさせたくないやろ……ぅぐ……」

P「動かなくていい! もうじき救急車が来る!」

巴「血もほんのちょっとやし意識もハッキリしとるけん大丈夫じゃ」

早苗「腕だけ止血しておくからね。ここ、縛るわよ」

巴「ありがとの、片桐の姐さん……」

のあ「……貴女は強いわね」

巴「?」

のあ「自分を曲げない。自分を折らない。……信じている人がいるからでしょう?」

巴「まぁ……そうじゃの」

P「巴……」

巴「くく、ウチのことば絶対助けてくれると思うとった。おどれはウチの――」

ジャリッ

P「!! どけッ――!!」ドンッ

巴「は――」

ドスッ……!

巴「――――え」

ヤクザ「チッ、こン腐れは……!!」

P「腐れはてめェだこの蛆虫野郎……ッ!!」グッ

早苗「プロデューサー君!!」

のあ「ッ!!」

ヤクザ「きさン刺されとるのに……!?」

P「くたばれクソッタレ……ッ」ブンッ‼ ゴガッ‼

ヤクザ「カッ――」

ドサッ  カランッ


90 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/08(土) 18:44:16 cmt9uRls
P「ッつつ……」ボトボトッ

巴「あ、ああぁぁぁ……!!」

P「なんて顔してんだお前……」

巴「だって……――の腹に……腹から血ぃが……!」

早苗「ハンカチで患部を抑えて出血を減らすわ!! プロデューサー君、服は弁償するからね!!」ビリッ

P「いてて……早苗さん優しく優しく……」

早苗(深く刺さってるのに血が少ない……ラッキーね。けど刺突のショックに加えて刃が内臓を傷つけてたら……!)

巴「しっかりせぇ!! 傷は浅いはずじゃ!!」

P「……ああ」ギュッ

巴「――? な、なに、を……」

P「手…………握っててもいいか」

巴「握ってから言うんやないバカタレ……! いくらでも握っとっちゃるけん……!!」グッ

ピーポーピーポー ゥゥゥゥゥゥゥゥ!

のあ「来たわね……誘導してくるわ」

早苗「お願い!!」

P「ともえ……」

巴「なんじゃ!」

P「………これ、を……ああ、血で汚れてやがる……締まらねぇ……な」ゴソッ

巴「この箱が、なんじゃ……!」

P「お前に……渡そうと思ってた…………ゆび、わ……」

巴「い、いま渡さんでもいいじゃろ!? おどれが万全の状態で……!! こんな風に渡されるんはまるで……!!」

P「いい、から……」グッ

巴「ッ……」

P「…………どうだ……良い、だろ。真っ赤な……ルビーは……お前によく似合う、んだ……。ま、真っ赤なのは、俺も……だけどな、はは」

巴「もうええ! 喋んなや!! もうッ……!」

P「ともえ……」

巴「なんじゃあっ…………!」

P「…………これから……」

巴「…………――?」

P「…………………………」

巴「おい、――? ……なんか、言わんか、――。おい!」

早苗(ウソ、でしょ? こんなことって……)

P「…………………………」

巴「ウチば……ウチば一人で置いてくんか……!! 約束したやないか……!! 京都に旅行に、広島に桜ば見に……これから一緒にって!! ――!!」

P「…………………………」

巴「……返事せぇよ……――。なぁ……――!!」

P「…………………………」

巴「…………………ぅぁ」ボロボロ
























巴「うああああああああああああああああああああああああああああァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」












.


91 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/08(土) 18:48:54 cmt9uRls
――――

ヤクザ「う……ここぁ……」

「ようやっと目が覚めたかい」

ヤクザ「……!! おどれッ!! どの面下げて俺の前に出てきたんやゴラァ!!」

「起き抜けにイきるなや。そげん吠えんだっちゃ聞こえとるったい」

ヤクザ「あンのボケ共がッ!! サツ呼ばんときさンば呼びやがったんやろ!?」

「いいや? お前の身柄はそのサツから受けっとったんよ」

ヤクザ「ああ……?」

「もう忘れたか? 俺らのオヤジ騙くらかしてサツに売ったんは俺だろ?」

ヤクザ「…………落ちるとこまで落ちたな、兄弟。村上のせいでお前は変わってしもうた。親父が手打ちにお前を使わんどけば……」

「よせよ。俺はもうお前とは兄弟じゃない。それに、落ちたんとはお前んことば言うとぜ?」

ヤクザ「なんやと……」

「関係の無い女と堅気の男ば巻き込んで、オヤジと仲間の事も考えんと一人で暴走。そやけんお前みたいな脳筋とは手ば切ったったい」

ヤクザ「俺はよかったい!! きさンオヤジば売っとってからなんば白々しいことば……!!」

「当たり前やろ。今はもう斬って斬られて、血みどろん中でシマば争ってシノギを削る時代やなか」

「それなのにオヤジは九州の地盤も固めんまま関東にまで足伸ばそうとしたったい」

「勢力の大きさが問題やない。やり方の問題じゃ」

「今は何処もサツが睨みば利かせとるけん、指一本動かすぅにも神経使う。賭博場も港湾もあいつらの手の内」

「そげん中で喧嘩ば吹っかけられたら、これ幸いとばかりにまとめて豚箱行きは決まる」

「わかったか? そんな中で空気も読まんでイケイケで突っ込んでったら……自分以外の全部の組が敵になる!」

ヤクザ「!!」

「手打ちもそうや。オヤジは最初っから仲人も立てんと、兄弟……村上のオヤジば殺すつもりやった」

ヤクザ「まさか……鉄砲玉やったんか!?」

「遅いんよ、気付くのが。若頭補佐まで上り詰めて組の為に奉仕したんにこの有様。オヤジははなっから外様の俺に何も任す気はなかったっちゅことよ」

ヤクザ「そげんことあるか!! そげなこと……」

「まぁ、どちらんせよもう終わったことじゃ」チャキッ

ヤクザ「待て兄弟!! 事情はようとわかった!! まだ……まだやりようはある!! 組は潰れてしもうたけど、そういうことなら――」

「なぁ……なんで俺がお前に鉄砲玉のこと言わんやったと思うや」

ヤクザ「あ……?」

「馴染みやけんって盃交わしたんを後悔するくらいにはな、おどれが信頼できんバカやったけんたい」

ヤクザ「なっ……!!」

「実際そうやろ。極道として道を外れて任侠としての矜持も無くして……まさに世間の言う『暴力団』そのもの」

ヤクザ「いや待てや! 兄弟の言う事はようわかっとる! 目ぇは覚めたけん!! やけんが――」


92 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/08(土) 18:49:58 cmt9uRls
「いつまでも女子の腐ったん事ゴタゴタ抜かすな」グッ

ヤクザ「あ、ああぁぁぁ……!!」

「堪忍して――往生せえ」


ガァン! ガァン!       ガァンッ‼


93 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/08(土) 18:50:20 cmt9uRls
――四月 某霊園

「……あんだけしぶとかった癖して呆気なくくたばるとはのぅ」

「墓ばっかり立派で……葬式ん時なんか棺桶までピカピカに磨き上げられとって笑ったわ」

「これ、なんかわかるけ? 酒じゃ」

「好いとったもんな、日本酒。他にも饅頭と金太郎飴と……」

「くく、これじゃあお供え物じゃなくてまるでお土産じゃな」

「まぁわざわざ買うて来たとやけん、文句言わんと受け取ってくれや」

「…………改めてこう顔合わすと、話すこともでてこんもんやの」

「ああ、そうじゃ。今度な、ウチの歌が出るんよ。演歌歌手としては初めてのCDじゃ」

「熱い心と秘めた想い……強烈な歌じゃけん、気に入ると思う」

「ま、それは今度持ってくるわ。楽しみにしとってな」

「……………………」

「したら、往ぬるわ。また来るけん」

「……ほいじゃあの」


94 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/08(土) 18:51:09 cmt9uRls
スタッ スタッ スタッ カチャッ バタンッ

「もう良いのか?」

「ん。すまんの、気ぃ使ってもろうて」

「……二人で話したいこともあっただろうしな。ちゃんと話したか?」

「ウチはそこまで腰抜けやないわ。適当に世間話してきた」

「そうか。じゃ、帰りますかねぇ」ブォォォン

「……………………」スッ

「どした、急に寄りかかって」

「いや……」

「……………………」

「……………………」

「心配すんな」

「!!」

「俺はしぶといからな。運も良い」

「くく……どの口が言いよるんじゃ」

「本当のことだろー? あの腹巻の伸縮性のお陰で刺されたのに適度に締め付けられて出血が抑えられてた結果、無事に助かった訳だし」

「そらウチのお陰じゃな」

「しかも内臓も傷ついてなかった」

「偶然じゃろ」

「それを運が良いって言うんだよバカタレ――あっ」

「くくく」

「口癖移っちまったじゃねぇか……くっくっく」

「………………なぁ、――」

「ん?」

「約束じゃ。絶対に、ウチば独りにすんなや」

「ああ、約束する。お前を絶対に独りにはしない」

「ん」

「………………」

「――」

「なんだ?」

「ウチなぁ――――今、幸せじゃけん」ニコッ



〈終劇〉


95 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/08(土) 18:51:48 cmt9uRls
自分の不手際でこんな感じになったけど、この二つから見てもらった方がいいと思う(今更)

巴「プロデューサー! プロデューサー!」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/20196/1475013202/

巴「ちーとウチの相手しちゃらんか」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/20196/1475167713/


終わり! 閉廷! みんな解散!


96 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/08(土) 18:59:05 TRYFm8E6
こいつは>>1 担当は巴 見ての通り文豪だ
オツシャス!


97 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/10/09(日) 23:01:24 DJb.o.pw
今読んだ、言葉の回しも構成も上手くて、本当に良かった。


98 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/12/21(水) 23:33:13 p75DW0P.
今更ながらこのスレ知って読んだ
お嬢の可能性を感じさせられたSSでした
お疲れ様!


99 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/12/22(木) 05:29:52 XKzDga1Y
いいゾ〜これ


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