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巴「プロデューサー! プロデューサー!」

1 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/09/28(水) 06:53:22 /RTdYesM
巴「チッ、おらんのかい。せっかく気ぃ利かせてコーヒーば持ってきてやったんに……」

P「……あー? 巴かぁ?」

巴「なんじゃ、いびせいのぅ。声だけしようやないけ」

P「ここだ、ここ……よいしょ」

巴「机の陰で寝とったんかい。じゃけぇいつも仮眠室で往生せえ言うとるじゃろ」

P「いやいや仮眠室で永眠とか勘弁」

巴「目の下腫れぼったくとして言う台詞か。ほれ、ちっとはシャキっとせんかい」

P「珈琲わざわざ入れてくれたのか。すまん」

巴「そこはすまんじゃないやろ」

P「ありがとう」ズズッ

巴「ふん……」

P「軋む骨身に染み渡るな……ん? おいおい、もう十時じゃないか」

巴「そうじゃ。お天道様はとっくに沈んどるぞ、とーすけ」

P「いやいやそうじゃなくて、なんでこんな時間まで残ってるんだお前」

巴「…………」

P「巴?」

巴「……帰るアテがのうなった」

P「えっ」

巴「わかたには帰れん」

P「なんで」

巴「…………」

P「……家の事情絡みか」

巴「ウチは下手打たん。ただ……親父と…………」

P「父親と?」

巴「……親父と喧嘩しただけじゃ」

P「あ、ああ……そういう……」


2 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/09/28(水) 07:13:04 /RTdYesM
巴「はぁー……チッ」

P「悪い。そんな時に気を遣わせてしまって」

巴「いや、ウチもすまん。別に今のはプロデューサーに対する当てつけじゃないけん」

P「そうか。ところでお前どうすんだ? 実家に戻る予定だったのに直後にキャンセルとなるとヤバイよな?」

巴「当たり前じゃ。女子寮は全員が帰省するタイミングで改装中で入れん。ウチはこっちに身内がおらんから借りる軒下も無い」

P「…………」

巴「…………」

P「まぁ……手詰まりではないな」

巴「千川んとこにはいかん。パッションのチーフプロデューサーがウチは好かん」

P「あぁ?」

巴「聞いてくれるな、プロデューサー。ウチにも苦手なもんくらいあるんじゃ」

P「……わかった。それで?」

巴「なんじゃ」

P「ならお前はどうするつもりなんだ?
 事務所にでも寝泊まりするのか? 幸いシャワーも布団も、冷蔵庫もマッサージ機もあるぞ」

巴「落ち着くかこんな場所」

P「だろうと思ったよ」

巴「…………ハァァァァァァ……」

P「なんだ、そんなデカイ溜息ついて」

巴「察しの悪い男じゃと呆れ返っとったんじゃダボ。プロデューサーの家があるじゃろうが」

P「常識的に考えて駄目だろ」

巴「いけんか?」

P「ったりまえだ。分かってるだろ、巴だって」

巴「それを承知の上で腹括っとるんじゃこっちは」

P「…………」

巴「…………」

P「はぁ……わかったわかった。ほれ」ポイッ

巴「っとと。かばちたれんで最初からそうすりゃええんじゃ」

P「やかましい。すぐ行くからエンジン回しといてくれ」

巴「はいはい」


3 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/09/28(水) 07:28:32 msumOOvg
パンツ脱いだ


4 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/09/28(水) 07:37:19 /RTdYesM
トッ トッ トッ ピ-ピ-! ガチャッ バタン!

キュキュキュキュ……ブォン!!

巴(…………ウチは……)

巴(………………………………)

巴(許せよ、プロデューサー。どっちに転んでも義は通らん……でも――)

P「待ったか?」

巴「待ちくたびれて眠うしとったわ。はよ往ぬるぞ」

P「へいへい仰せのままにっと」ブゥン!

巴「プロデューサーの家はどの辺なんじゃ」

P「車でだいたい三十分かからないくらいだな。中橋の向こう」

巴「兎屋んとこ辺りか」

P「そうそう、その辺」

巴「………………」

P「………………」

巴「街はどこも変わらんのぅ」

P「人が集まればどこも同じだ」

巴「ウチの事務所もか?」

P「346のアイドルには個性がある」

巴「矛盾しとるやないか」ケタケタ

P「誰にでもある個性をすり潰してひらべったく延ばして見えてるのが街だ。うちとは違うさ」

巴「ふぅん……」

P「しかし、巴が親と喧嘩とはな」

巴「可笑しいか?」

P「歳相応……って言ったら怒るか?」

巴「…………ウチの反抗期は年中通してじゃ」

P「あ、開き直りやがったなコイツ」

巴「やかましい!」


5 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/09/28(水) 07:49:54 /RTdYesM
P「そうがなるな。過保護なお前んとこの親が連絡してこないってことはよっぽどなんだろうさ」

巴「ふん」

P「あ、巴メシは?」

巴「そういえば食うとらんのう。すっかり忘れとったわ」

P「そうか……んー」

巴「パパラッチじゃろ。気ぃ掻かんとプロデューサーの家で構わん」

P「なんかろくな飯作れないって決めつけられてないか」

巴「いちいち悩むくらいなら楽な方取れって言うとるんじゃ。天秤はおどれの図り方次第じゃろ」

P「じゃあ直帰しますかね。巴、なに食いたい?」

巴「ん? そうじゃのう……カツ丼」

P「んなもん作れん」

巴「じゃあなんで聞いたんじゃボケ。しばき倒すぞ」

P「アッハッハッハッハッ……痛い痛いごめんごめん!!」


6 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/09/28(水) 08:03:33 XpegGXks
いいぞ。


7 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/09/28(水) 08:13:53 /RTdYesM
カッ トッ カッ トッ カッ トッ ガチャガチャ……バタン

P「ふぅ、たーだいまっと」

巴「じゃまするけぇの」

P「ぶぶ漬け食べなはれや」

巴「いい加減にしとかんとマジでぼてくりこかすぞ」

P「おっほ怖っ……」

巴「それにしても案外手狭な場所に住んどるやないや。そんなに手入りが少ないんか」

P「俺には二部屋あってトイレと風呂さえあれば充分なんだよ」

巴「部屋も小綺麗で……」

P「予想外か? よく考えてみろ。お前にいつも仮眠室で寝ろと言われるくらいには事務所漬けなんだぞ」

巴「帰る暇がなけれゃ散らかしようもない、か」

P「ご名答。さ、適当に座っててくれ。メシ作るから」

巴「まぁちぃと待て。メシはウチに任せてみんか?」

P「俺の料理の腕が……ああ、ケジメか」

巴「一宿一飯の恩義に預かるんなら当然」

P「本音は?」

巴「プロデューサーよりウチの方が美味いもん作れる」

P「ぐっ、言い返せねぇ……しゃーない、俺は風呂洗って沸かすか」

巴「くくく。そう落ち込まんと期待しとけ、プロデューサー」

P「はいはい」フリフリ

…………

P「えっと、スポンジは……」

巴「なんじゃこりゃあ! ろくなモンがありゃせんやないかボケェ!!」

P「聞こえない聞こえない……」

…………

巴 ムスッ

P「…………なにこれ」

巴「おどれは冷蔵庫の中味を知っとってそがいなこと言っとるんかコラ」

P「さぁてなんのことやら」

巴「じゃあ直視せえ。あれじゃあウチでもこれが限界じゃ」

P「紫蘇を貼り付けたちくわでキュウリを巻いたやつと、大根の味噌汁に冷凍ハンバーグ……はは、よくやる」

巴「笑っとるんやないぞバカタレ……」


8 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/09/28(水) 08:33:30 /RTdYesM
P「せっかく巴が作ってくれたんだ。冷めないうちに頂きますかね」

巴「おう。ほうやの」

P「いただきます」

巴「ん」

P「…………」モグモグ

巴「…………どうじゃ」

P「うん、美味い。これだけの食材でよくやるよホント」

巴「創意工夫は料理の基本やとありすが言うとった」

P「それ知識だけだからな。あと、お前にはわからんかもしれんがありすの料理は一般的には珍味扱いだぞ」

巴「あれの良さを分からんとは……プロデューサーは馬鹿舌じゃのう」

P「んだとコラ。貧乏舌と言え貧乏舌と」

巴「自分で言っとって悲しくならんのか……?」

P「悲しい……美味い……」グスグス

巴「大の男がみっともない……ほれ」カシュッ

P「あ、サンキュ」ゴクッ

P「――って酒やないかーい!!」

巴「明日は休みじゃろ? 一杯やるつもりで冷やしとったんかと思うたが」

P「未成年に酌させてんのが問題なの!! Do you understand?」

巴「メリケン語はわからん」

P「あ、そ……てか巴も食えよ」

巴「あ? ああ……いただきます」モグ

P「…………気になるのか、親父のこと」

巴「………………」

P「………………」

巴「ウチが悪いのはわかった上で言う。食事ん時にメシが不味くなる話はやめーや」

P「ん、すまん」

巴「いい。お互い様じゃ」

P「にしても味噌汁美味いな。この濃いのがいいんだよ濃いのが」

巴「この家の中でマトモなのは赤味噌だけやったな。プロデューサーはよく分かっとるのぅ」

P「まぁな!」

巴「くっくっく……褒めとらんわ、バカタレ」


9 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/09/28(水) 08:35:43 8TFBxt.o
これはフグ毒のパティーン?


10 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/09/28(水) 08:47:10 /RTdYesM
P「あ、巴ここ」

巴「?」

P「米粒」

巴「……チッ、取れん」

P「じっとしてろ……よし」

巴「すま――」

P パクッ

巴「」

P「うん、一粒でも美味い美味い……ん?」

巴「お、おどれはァ……」

P「え、待って待ってなになになに、なんで握り拳? マジで待って、ちゃぶ台返しするならメシ全部味あわせて」

巴「………………はぁ。んなことせんわ」

P「ほっ……」

巴(あほらし……結局プロデューサーにとってウチは……)

P「…………」

モグモグ カチャ ゴクッゴクッ トンッ モグ……

P「食った食った……ごちそうさま」

巴「お粗末さん。皿は?」

P「流しに置くだけでいいよ。俺が洗うから」

巴「ほーかい……いや」

P「?」

巴「先に汗流せ。臭くって敵わん」

P「えっ、マジ?」クンクン

巴「鼻をつくほどじゃないがの。あんなとこで寝泊まりしとったら当然じゃ」

P「三日目だったしな……お言葉に甘えて先に風呂貰うわ」

巴「風呂ん中でほが食わんごとの」

P「へいへーい」


11 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/09/28(水) 09:06:24 /RTdYesM
カポ-ン

P「ぐああああああ……気持ちいいわぁ……」

巴『プロデューサー! 着替えとバスタオル置いとくけぇな!』

P「どっから出した!?」

巴『タンスひっくり返したに決まっとるじゃろ』

P「えぇ……ありがとう!」

巴『ん』

P「…………巴」

………………

巴「いい湯やったわ」

P「そうか。悪いな、そんな寝間着しか用意してやれなくて」

巴「ゴワゴワしとるが……まぁジャージはこんなもんじゃろ」

P「部屋なんだがな、隣の部屋は使えないから同じ部屋で寝ることになる」

巴「知っとる」

P「…………見たのか?」

巴「許しは請わん。じゃが、ちらっと見ただけじゃ」

P「そうか。ドン引きしたろ」

巴「あ? ウチのこと馬鹿にしとるんか」

P「いやだって、なぁ?」

巴「ハ。あれくらいアイドル熱が無けりゃプロデューサーやらやっとられんじゃろ。むしろ納得したわ」

P「なにを?」

巴「おどれがなんで有能か、じゃ」

P「…………まさか」

巴「嘘は言わん」

P「…………」

巴「…………珍しい。顔赤こうするんわ初めてみるのぅ」

P「ばっ、お前これ風呂上がりだからだよ! 湯冷めしてねーの!」

巴「ウチが上がった頃には一時間も経っとるのにか?」

P「そ、そうだよ」

巴「かかっ。声が震えとるやないや」


12 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/09/28(水) 09:24:02 /RTdYesM
P「くそっ、まさか巴にしてやられるとは……悔しいっ!」

巴「身体をくねらせるな気持ちが悪い」

P「はい」

巴「…………」

P「…………」

巴「なんか……ないんか?」

P「ご覧の通りうちにあるのはテレビとビデオデッキにブルーレイディスクプレイヤーと、プレステ3に……あー、映画見るか?」

巴「邦画は」

P「釣りバカ日誌、座頭市、アウトレイジ、高速参勤交代と……小ぎつねヘレンくらいか。あ、着信アリとバトロワもあるぞ」

巴「なんじゃ貧相やのぅ。どれも見たわ」

P「言われると思ってたよ。ていうかな、巴」

巴「なんじゃい」

P「もう零時回ってんだぜ?」

巴「……あ」

P「事務所出たのが十時半。家に着いたのが十一時。メシ食って風呂上がったのが零時で今だ」

巴「いかんな。つい時間を忘れて……」

P「まぁ巴が眠たくないなら付き合うけど、どうするよ?」

巴「……プロデューサー、眠いじゃろ」

P「正直な。仮眠ばかりでしっかり寝てなかったから」

巴「じゃあ寝る。プロデューサーの安眠の邪魔はできん」

P「わかった。布団はそっち使ってくれ」

巴「ん」

P「電気落とすぞ」

巴「ん」

カチカチッ ゴソゴソ シン……

P「………………」

巴「………………」


13 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/09/28(水) 11:16:37 /RTdYesM
P「………………」

巴「…………プロデューサー」

P「ん?」

巴「プロデューサーは…………ウチに命懸けれるか?」

P「ああ――アイドル村上巴の為ならな」

巴「…………………………そうか」

P「………………今さら俺への漢気試しか?」

巴「まぁ……そうじゃの」

P「お前を担当して一年……いや、もう二年になる。まだまだ心からの信頼には遠いな」

巴「勘違いすんなや。プロデューサーは信頼しとる。プロデューサーは」

P「なら、嬉しいけどな」

巴「…………」

P「…………」

巴「………………」

P「………………」

巴「……………………」

P「……………………」

巴「…………………………」

P「…………………………」

巴「プロデューサー」

P「…………………………」

巴「……プロデューサー」

P「…………………………」

巴「寝たんか、プロデューサー」

P「…………………………」


14 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/09/28(水) 11:31:24 /RTdYesM
巴「…………」

巴「……………………」

巴「………………………………」

ゴソ……ゴソ……

巴(恨んでくれ、プロデューサー。ウチを怨め――)ソッ

ガシッ

P「――――なにしてるんだ?」

巴「ッ……お、脅かすなや。起きとったんなら返事せぇ。意地の悪い……」

P「なにをしてるか聞いてんだ」

巴「別に。プロデューサーが寝たか確かめようと……」

P「嘘つけ」

巴「嘘なもんかい」

P「じゃあなんでそんなに震えてんだ」

巴「え――」バッ

巴(…………!!)フルフル

P「それに、何も無いんならお前はそんな悲痛な顔しねぇだろ」

巴「見るな」

P「…………」

巴「ウチを見らんでくれ、プロデューサー」

P「…………」グッ

巴「ッ、おどれ――」

P「担当アイドルが泣いてるのに見過ごすプロデューサーがいるか? あ?」

巴「……泣いとらんわい」

P「巴、怒るなら後で頼む」ギュッ

巴「あ、な…………なにしとるんじゃ、色呆け、が……」

P「…………」ポンポン

巴「ウチ、は……ウチは、子どもじゃない……とぞ……」

P「巴」

巴「っ」

P「今は誰も見てない。腕の中でくらい強がりはやめとけ」

巴「――――――!!」

巴「ぐ、ぅ……く………………ぅぅぅぅぅぅ……!」

巴「プロデューサー……! ウチは、ウチはっ……最低の女じゃ……っ!」グズッ

巴「ぅぅぅぅぅぅ……!」

P「………………」


15 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/09/28(水) 11:32:24 8TFBxt.o
あくしろよ


16 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/09/28(水) 11:54:43 /RTdYesM
巴「ウチはやっぱりウチじゃった……! 他のようには……ようには……!!」

巴「ぅぅぅ……っく、ふ……ぅぅ……!」

P「…………巴」

巴「っ……なんじゃ……」スンッ

P「落ち着いて、最初から話をしようか。まずは体調が悪かったりはしないな?」

巴「ああ……」

P「ん。気分は?」

巴「生まれて初めて味わうほどクソみたいじゃ……」

P「そうか。じゃあ聞こう。巴、俺の方に来て何をしようとしてたんだ?」

巴「………………ウチの」

P「………………」

巴「ウチの身体を使うて、プロデューサーに既成事実を作らせるつもりやったんじゃ……」

P「どうして?」

巴「…………ウチはそもそもアイドルに興味は無かった。が、親父はまかり間違うてウチをアイドル事務所に押し込んだ」

巴「そこで対面したんはお前じゃ、プロデューサー」

P「……そうだったな。そしてお前はアイドルになりに来たやつらに喧嘩売ったんだ。『アイドルっちゅーもんはヒラヒラの服にチャラチャラした歌の薄っぺらいヤツなんじゃろ』ってな 」

P「しかも俺にまで『うちの見方が間違っとるなら、それを変えてみいや。プロデューサー?』って宣戦布告しやがった」

巴「ウチはな、あんだけ啖呵切ればみんなビビると思っとったんじゃ」

巴「ところがどっこい。おどれは笑顔で『お前にはその台詞を言ったことを後悔させてやる』と言い放ちおった」

P「あそこまで言われちゃあな。だからあの後、今西部長に直訴してお前専門のプロデュース権をもぎ取ってやったんだ」

P「今でも思い出す。俺のシゴキに平気で食らいついてくるお前を」

巴「ウチもじゃ。こんな狂犬の認識を改めさせたプロデューサーは忘れられん」

巴「少なくとも最初の一週間でアイドルがチャラついてる認識はぶっ飛んだわ」

P「お前はツンツンしてたが……仕事に関して不平を垂れることは決してなかった。与えられたものには全力で最後まで応えてくれた」

巴「ウチは言ったからな。見方が間違っとるなら変えて見せえ、って。実際に変えられてしもうたら、そら逆らえんわ」

P「仁義に反するから?」

巴「それもそうじゃが、ウチはアイドルを舐めてた。その分、真摯に向き合うつもりやったんじゃ」


17 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/09/28(水) 12:07:36 /RTdYesM
P「だからかな……お前の成長速度は抜きん出てた。根性があるからレッスンは数倍こなせる。取り組みには一意専心であっという間に吸収し尽くす」

P「これが十三だって言うんだから、俺はとんだもん掘り当てたなと内心ひっくり返ってたんだよ。予想通り、お前はぐんぐんアイドルとしての格を上げていった」

巴「ウチはな、プロデューサー。おどれと一緒なら誰にでも勝てると思うてたんじゃ。向かうところ敵無し、アイドル街道単騎駆け……」

巴「これまでは本当にそん通りじゃった。並みいる困難も障害も、プロデューサーと二人三脚で粉砕してきた」

P「これからもそうだ」

巴「いや――ウチはここまでじゃ」

P「……どうしてだ?」

巴「ウチはアイドルになりきれんかったっちゅうことじゃ、プロデューサー」

P「…………それが、これか?」

巴「ああ。なぁ、ウチはさっき訊いたな? 『ウチに命懸けれるか』と」

P「…………」

巴「それにおどれは、『アイドル村上巴になら』と答えた」

P「そうだ」

巴「じゃあプロデューサー。もしウチがアイドルとしてじゃなく、一人の女としての村上巴なら、プロデューサーはウチの為に命張ってくれるんか……?」

巴「ウチがもし、アイドルから離れても」

巴「お互いにアイドルとプロデューサーっちゅう関係じゃなくなっても」

巴「プロデューサーは……ウチを、村上巴を命張って助けてくれるんか?」


18 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/09/28(水) 12:23:38 /RTdYesM
P「………………」

巴「ウチは無理やと思うとる。本当はな、質問するまでもなくおどれの部屋を見て確信しとったんじゃ」

巴「『ああ、この男は本当にアイドルが好きなんだ』ってな」

巴「愛に溢れた部屋……アイドルのグッズだけやなくて、ライブの舞台の配置の下書きやら衣装についてのメモ書きやら……そら事務所に缶詰にもなる」

巴「なおさらウチはプロデューサーと一緒なら、このままあと少しで頂点に立てる。二人でアイドル会制覇できると思ったんじゃ」

P「じゃあなんで、お前はここまでだなんて言うんだ」

巴「………………」

P「………………」

巴「ウチが…………」

P「………………」

巴「ウチが、アイドルの前に一人の雌じゃった……ちゅうことじゃ」

P「巴……」

巴「おどれはウチになんかあっても、それがなんであれアイドルの為に文字通り命懸けて死力を尽くしてくれるじゃろ」

巴「じゃが……アイドルじゃなかったら? ウチがアイドルじゃなかったら、プロデューサーがウチに命懸ける理由がどこにあるんじゃ?」

巴「きっと、プロデューサーはウチがアイドル止めても冷たくはせんかろうが、ウチの言葉は受け取らんかったはずじゃ」

巴「『おどれが好きじゃ』って言うても」

P「……だから、アイドルの村上巴は立場を利用して既成事実を作り、それを理由にアイドル引退、ついでに責任を取らせる形で俺と一緒になれると思ったのか」

巴「……そういう、ことじゃ」

P「………………」

巴「失望、したじゃろ。ウチは卑しい女じゃ。こんな方法でしかプロデューサーをものにできんと躍起になって、アイドルのことなんかすっかり忘れて……」

P「随分と……舐められたもんだな」

巴「ッ……」


19 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/09/28(水) 12:38:24 g4AezlCI
救いはないんですか!?


20 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/09/28(水) 12:43:36 /RTdYesM
P「らしくないんだよ、お前……巴!!」

巴「な、なにを……」

P「さっきも言っただろ。俺はお前と初めて会った時から今までずっとお前をプロデュースしてきた」

P「それは好きなアイドルを馬鹿にされたような気がしたのもあるし、こんな素晴らしいものがアイドルなんだと知って欲しかったからだ」

P「そしてお前はアイドルを理解してくれた。その上で一緒にやっていこう、てっぺん目指そうって盃を交わした」

P「だったら四の五の言う前にアイドルの頂点に登り詰めるのが"筋"ってもんだろ!!」

P「それから言ってやればいいんだよ! 『頂点を取った自分を手に入れられるのがどれだけ幸せか』、『プロデューサーは頂点を取ったアイドルのワガママを聞けないほど器の小さい男なのか』ってなァ!!」

巴「お、おどれ、は……」

P「あーその台詞は俺に痛く効くだろうよ。なんせ大好きなアイドルを頂点まで押し上げた上で本人からそんなこと言われるんだからな」

巴「結局は、プロデューサーはアイドルとしてのウチだからそうやって言えるんじゃろ!? 筋通せっちゅうんは最もじゃが、その先は――」

P「馬鹿野郎が勝手に勘違いしやがって」

巴「ああ!?」

P「俺はアイドル村上巴も、ただの村上巴も、どっちも大好きなんだよ!!」

巴「……!!」

P「だからこそ俺はお前にこんなところでアイドルを辞めてほしくない!! こんなところで燻ってほしくない!!」


21 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/09/28(水) 12:47:29 U1oKUpUg
巴「う、嘘やないんじゃろうな。なんぼハッタリかましたってウチはウチ、ずっとおどれに色ボケかます女のままや ぞ!?」

P「それで構わねぇからまずてっぺん取るっつってんだよ!! 取ったらトップアイドル賞の授与式直後だろうが取材中だろうがどこへだって連れ出してやるわ!!」

P「速攻で引退会見開いてやるし、何も言いたくない、顔も出したくないってんなら全部引き受ける。全部の責任を俺が取って処理する。お前が望むんなら腹ァ括って鉄火場にだってカチコミいれてやらァ!!」

P「だから!!」

P「だからこそ、お前には俺に見せてくれてるトップアイドルへの夢を叶えてほしいんだ、巴」


22 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/09/28(水) 12:53:42 l9fM/7qg
アツゥイ!


23 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/09/28(水) 13:07:22 U1oKUpUg
巴「……プロデューサー」

P「なんだ」

巴「その言葉、信じてええんじゃな?」

P「俺が今までお前に嘘ついたことがあったかよ」

巴「な、ない……」

P「だったら今回も信じてろ。疑わしいんなら何度だって口にしろ」

巴「プロデューサー……!!」ギュウッ

P「巴……!!」ギュッ

巴「ウチはいま、心の底から本当に思う。おどれに会えてよかったと。おどれのような漢と契を交わせて、こんなに嬉しいことはない」

P「ああ、俺も思うよ。お前のような女に出会えて。お前をアイドルとしてプロデュースできて。これほど幸せことはない」

巴「プロデューサー、後生じゃ。一度でいい! 以降はウチが頂点取ってからで構わんから、ここでプロデューサーにウチの純潔を捧げたい!」

P「……それはだめだ」

巴「くっ……後生じゃ! ワガママは言わん!」

P「………………」

巴「………………」

P「………………」

巴「………………頑固じゃのぅ。いい、わかっとった」

P「今ここで肉体関係を持つのはダメだ。だが――」スッ

チュ……

巴「――――!?」

P「これくらいはしても、罰もあたらんだろ」

巴「ッ!! ッ!!」バタバタ

P「アッごめん嫌だった!? 俺の勘違い!?」

巴「ば、バカタレ!! ふ、ファーストキスなのに雰囲気もなんもないっちゅうんはいけんじゃろが!!」

P「あ、そういう……いたたたたごめんごめんわかった!! わかったから!!」

巴「や、やり直しじゃ。感触も、よくわからんかったしの……」

P「はいはい、まったく――巴」

巴「なっ、なんじゃ!」

P「目瞑れ」

巴「っ…………ん」

P「…………」チュッ

巴「…………」チュ……

P「………………」

巴「………………」ポ-

P「…………巴?」

巴「…………プロデューサー」

P「ど、どうした?」

巴「もう一回」

P「ああ!? だめだめ! これ以上はアウトー!!」


24 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/09/28(水) 13:08:23 U1oKUpUg
巴「一回も二回も一緒じゃ!! 据え膳食わぬは男の恥っちゅうんじゃ腑抜け!!」

P「うるさいうるさい!! ダメったらダメだー!!」

巴「プロデューサァァァァァァァ!!」

P「うおわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」




〈了〉


25 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/09/28(水) 13:16:28 eW5UsuwY
クッソアツゥイ! 展開から幸せないちゃあまオチ誇らしくないの?(賞賛)


26 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/09/28(水) 13:19:47 6iNUFVjY
いいSSだぁ……(恍惚)
自身の恋慕に嘘をつけない巴ちゃんとそんな巴ちゃんに真っ直ぐ目を向けるPという構図が良いゾ
イチャイチャしてる描写が微笑ましい、可愛いっ!


27 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/09/28(水) 13:28:10 l9fM/7qg
あ^〜いいっすね〜


28 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/09/28(水) 13:29:27 12S2bOsg
こういうのでいいんだよこういうので


29 : カフェオレ :2016/09/28(水) 13:48:22 ???
NaNじぇいでお嬢は珍しいっすね…


30 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/09/28(水) 14:21:39 6pgwmfsM
やりますねぇ!(賞賛)


31 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/09/28(水) 14:37:35 lUlV2qH2
いいゾ〜、これ


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