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【SS】ひとなみに、しきなみに
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――『駆逐艦は、替えのきく消耗品にすぎない』
金剛「テイトクー!疲れたからティーブレイクにするネー!」
提督「あ"ー、わかった!わかったから揺さぶるのやめろこの書類終わったらお茶にするから」
榛名「紅茶を準備しますね」
バーン
提督「うおっ!?」
愛宕「ぱんぱかぱーん!提督、たまにはお邪魔してもいいかしら?」
高雄「ちょっと、もう、愛宕ったら…申し訳ありません提督」
提督「びっくりさせるんじゃないよ……ん、わかった。たまにはゆっくりしていけ」
高雄「あら、ありがとうございます!それではご馳走になりますね」
榛名「スコーン多めに準備すれば良かったですね」
愛宕「私たちもお土産持ってきました!ほら、間宮さんのショートケーキ」
金剛「Oh!これはレアアイテムデース!」
ワイワイ ガヤガヤ
敷波「……」ジーッ
あたしがこの言葉を初めて聞いたのはいつ、どこでだったか。覚えてないけど、その言葉がいっつも頭の中でぐるぐるしている。
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執務室の隅っこ、小さな文机に積まれたうず高い書類の山のスキマから、司令官たちの楽しそうな姿が見える。声が聞こえる。それをぶんぶんと振り払って、あたしは数字の羅列にもう一度向かい合う。
深雪からトイレ掃除当番3日分と交換で引き継いだ、駆逐艦寮の出納帳の清書作業は、話に聞いていたのと枚数が一桁違っていた。後でとっちめなきゃならない。
何年ぶりかわからないそろばんと一緒に四苦八苦してると、紅茶のいい匂いがぷんと漂ってきた。ここで声を上げれば、あたしも多分司令官たちとお茶飲み休憩とシャレこめるのだろうが、今はそれどころじゃない、集中、集中。
……それにしたって、一言声をかけてくれたっていいのに。
そんな拗ねた考えが頭をもたげる。いやいや、司令官にも、金剛さんたちにも悪気はないのだ。小さな駆逐艦娘が、部屋の隅っこで書類に埋もれているのだ。気付かなくたって無理もない。この場所を貸してもらったのはあたしだし、文句を言う筋合いもない。今はこの書類の山を片付けるのに集中だ。
――『駆逐艦は、替えのきく消耗品にすぎない』
騒がしいおしゃべりの間を縫って、むしろこうなったら意地でも気付かれまいと控えめにそろばんをパチパチ弾くその間、またこの言葉があたしの頭を回る。
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事実、だと思う。駆逐艦娘はここだけでも50隻以上居る。扱いはいつも駆逐隊の4隻一組、4隻揃ってやっと軍艦1隻分の戦力なのだ。
大したことができるわけでもない。体は小さいし、武装はもっと小さい。至近弾ひとつであっぷあっぷだし、魚雷なんて当たればあっという間に海の底だ。転籍・除籍もよくあることで……むしろ全員の名前を覚えてくれている司令官などはとても出来た人なのではと思う。
その中でも私は地味だ。綾波や夕立のようなずば抜けた能力も無く、睦月型の子たちのようなグイグイ行く個性も無い。そもそも私は飛び抜けることなんて望まない。きっと疲れてしまうだろうから。特別になんてならなくていい。私は駒、私はパーツ。人並みに、いや艦並みに、波にもまれて漂って、ただ黙々と司令官の望む仕事をすればよいのだ。それが駆逐艦娘なんだ。
……司令官にとっても、きっとそっちのほうが楽なのだから。
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司令官の『特別』は、綾波のような強い子や、金剛さんのようなお姉様がたがなってくれればそれでいい。あたしは地道にやるんだ。頑張れ敷波!負けるな敷波!
乱雑に並んだ数字の山を足したり引いたり、1つずつ、1つずつ。視界がぼやけそうになるたびに、そんなことを考えて脳に活を入れる。それと同時になんだか鬱々としてくる。まるでこの文机だけが太平洋の孤島のように世界から取り残されてしまった感じだ。
紅茶の香りと一緒に、お菓子の甘い匂いが鼻孔をつく。終わったら間宮に寄ろうかな。これが終わったら……。
終わったら………。
………。
提督「敷波、敷波ー!」
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もう始まってる!
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ハッ、と身を起こす。
視線を上げると司令官がそこにいた。
敷波「……あ、ぅあ、あたしってば寝てた……」
いつの間にか眠りこけていた。みんな帰ったのか、あれだけ騒がしかった執務室 は静まり返っている。壁時計はまもなく5時を指そうとしていた。
提督「すまんすまん、もっと早く気付いて起こしてやればよかったな……どうだ?終わりそうか?」
敷波「……」
眼をこすりながら書類の山を見る。せいぜい3分の2といったところか。
敷波「……ごめんなさい、もうちょっとかかるかも」
提督「それ締め切り明日でいいよ。主計に掛け合っておくから。今日はもう帰りな」
敷波「ありがとう、ございます……」
なんだかバツが悪い。
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提督「あっ、そうだ。これやるよ」
そう言って司令官が差し出したのは間宮の食券だった。
提督「休憩の時使おうと思ってたんだけどもうお腹いっぱいだからな、お前にやるよ。帰りに寄っていけ」
敷波「……!」
提督「敷波…?」
その時、色んな感情がいっぺんに頭までのぼってきて、言葉が出なくなった。
敷波「……ふんっ」
代わりに半ばひったくるように食券を受けとり、脇目もふらず一目散に執務室の外へ出た。
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敷波「……バカ」
バカだ、馬鹿だあたしは。
早歩きで廊下を歩きながら何度も呟く。
お礼を言いこそすれ、怒ることなんて何もない。何て無礼なことをしてしまったんだろう。こんなの普通の駆逐艦娘がすることじゃない。あるまじき振る舞いだ。
ずんずん歩く視界が、涙で霞んだ。
勝手で幼稚な自分に腹が立つ。その幼稚な私が今の今でもまだ心の真ん中で拗ねている。おんなじくらいの2つの気持ちで頭の中がぐちゃぐちゃだ。
そうやって行くが行くと、足は自然と間宮の方へと向いている。顔を袖で思い切り拭って、ふっと息を吐くと少し落ち着いた。甘いものでも食べて忘れよう。そして明日の朝すぐに司令官に謝って、それから出納帳を仕上げればいいんだ。そしていつも通り、艦隊の中のその他大勢として普通の日常を送ればよいのだ。
窓に映ったあたしは少し疲れてるけど、いつも通りの平凡なあたしだ。知り合いの駆逐艦娘に会っても見とがめられたりしないだろう……。しっかり確認して、あたしは甘味処・間宮の暖簾をくぐった。
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わっふるわっふる
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パン! パンパン!
くぐった、その瞬間。破裂音が鳴ったかと思うと、たくさんの紙吹雪やらテープやらが飛んできて、あたしの頭を直撃した。
「「「敷波ちゃん、進水日おめでとう!!」」」
飾り付けられた間宮の店内に集まった、鎮守府の艦娘みんながてんでばらばらにそんなことを言う。金剛さんも、愛宕さんたちもいる。そしてその人込みの中で悪戯っぽくニヤける深雪の姿を見つけて、あたしはようやく現状が理解できた。
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提督「よーお敷波、進水日おめでとう」
肩をポンと叩かれ振り返ると、司令官がこれまた腹立たしいほどニヤニヤして立っていた。
敷波「ちょっと……何これ」
提督「いつもありがとな敷波」
小声で何事か言うあたしを遮るように、司令官はそう言って頭をわしゃわしゃと撫でた。
そしてこれまた笑顔の間宮さんと伊良湖さんが2人がかりで持ってきたのは「おめでとう駆逐艦 敷波」と書かれたおっきなケーキだった。
提督「良かったな」
敷波「……ちょっとね」
また目の前が霞んできたから、拭こうとしたら綾波たちが抱きついてきてもみくちゃになった。
こういう特別は、たまにはいいかもしれない。
艦!
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乙
敷波ほんとすき艦娘の中で一番すき
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間違えた、22日です。明日です
敷波もっと流行れ
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民法143条より誕生日の前日に年をとるから多少はね?
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やさしいせかい
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優しい世界
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進水日オメシャス!
一日中撫で回したい
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ああ^〜いいっすね^〜
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お茶会に誘われなかったのは後で誕生日ケーキがあるからだったのか
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