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【SS】くーねるぷりんつ
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ミ゛ーンミンミンミンミ゛ー!
もう何度目の夏でしょうか…。
梅雨が明けたばかりでベタつくような湿気と、ジリジリと照りつける太陽によってもたらされる酷暑。
そして外の木々からはミンミンゼミたちの大合唱が強烈な日光を引き立てる、これぞまさしく日本の夏。
「ううう…」
(ドイツはこんなに暑くないのになあ、日本の夏は何でこんなに暑いんだろう…)
私の生まれ育ったキールの港町はドイツでも北部に位置していて、7月でも20℃をやっと超えるくらい、時には10℃位になるので長袖も必要です。
日本ではそれは全く必要ないみたいですが…。
そうだ、ご紹介が遅れましたね!
私の名前はPrinz Eugen。
アドミラル・ヒッパー級3番艦です。
幸運艦とも呼ばれていますが、そんな幸運な私でもこの夏の暑さは…。
「はあ…」
私は古い家屋のベランダでそんなお昼時にうだっていました。
仰向けに寝転んでジッと目を閉じています。
(暑い、暑い…)
私の今の服装は『戦っていた頃の』長袖。キールでの通常のスタイル。それに帽子を顔の上に乗せて、日光が顔に当たらないように隠していました。
「んぅ……」
しかしジワジワ蒸し焼きのような暑さに汗が流れます。
…ああ、もうダメ…!
「Ich kann es nicht ertragen!(もう我慢できない!)」
私には無理でした、日本の夏の暑さに負けたよ!
寝転んだ体勢からピョンと飛び上がると、イソイソとじんわり汗の染みた服を脱ぎます。
「あー暑い、暑いけれどまだマシかなぁ…」
それからブラジャーとパンティの下着姿になった私は再び寝転びました。
真夏の太陽の光に直接肌を晒すことになってしまいますがやむを得ません。
(またこんがり真っ赤に焼けちゃうなあ…)
毎年毎年、日本の夏は痛いというのが私の思い出になっています。真っ赤にヒリヒリに焼けますから。
もちろん健康的です!
ドイツでは日焼けは魅力の象徴にもなります。夏になると南の海へ身体を焼きに出かける人も珍しくありません。
(でも焼くならカリブ海より日本が1番かもね…)
誰に力説するでなく、日本のおひさまのパワーに私は打ちのめされていたのでした。
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ブァーン…
(ああ、自動車? この音は配達のトラック?)
キュルキュル、クー。
「あっ」
しばらく横になって、遠くから珍しく自動車の走る音が聞こえた頃、私のお腹からもだらしない音が聞こえました。
(お腹すいたなあ…)
暑いからでしょうか、朝はきちんと食べたはずなのにお昼すぐに音がするなんて…。
戦艦や空母みたいに燃費が良くないな…。
(今月はピンチなのに……)
『あの頃』と比べて、収入が減り、特に厳しい最近は1日1食と決めていましたが、私のお腹はペコペコ。我慢してもどうにもなりません。
「仕方ないか…」
汗をたくさんかきながら、私は立ち上がって冷蔵庫へと向かいます。
室内なのに暑い…。
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ガチャ、ヴィーン…
「知ってたよ…」
唸る冷蔵庫、そのドアを開けた私は自分に言い聞かせるように呟きました。
冷蔵庫の中身はそこそこの量のもやしと豆腐。昨日安売りしていたので買ってきたもの。
日本に来て食べるようになった2つですが、安価で売られている素晴らしい食品です。
ただ、ただ…。
(この厳しい暑さを乗り切るには動物性タンパク質が欲しいっ!)
ソーセージ、ハンバーグ、ステーキ……そんなものはここにはありません。高いですからっ!
暑さから考えた僅かな期待は現実に打ちのめされて私はへたり込んでしまいます。
(大人しく冷奴を食べよう…)
諦めて冷蔵庫から豆腐を一丁取り出そうとした、その時…。
「プ、プリンツさーん、お届け物です」コンコンコン
幸せを告げるノックと声が外から聞こえてきました。
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ドタドタドタ…!
「今、行きまーす!」
普段なら『どうしよう、服を着なきゃ!』や『はしたない!』なんて気持ちが先に回りますが、空腹と酷暑だったからでしょう。
「おあ! 私がプリンツ! プリンツ・オイゲンです!」
「は、はい?!」
下着姿のまま勢い良く扉を開けて、配達員さんをびっくりさせてしまいました。
配達員さん、ダンボールを抱えて持っていたのに、こんな受け答えをしてしまってごめんなさい!
「プ、プリンツさんですねお荷物がきていたので…!」
「いただきます!」
配達員さんもビックリしたのでしょう。顔を真っ赤にして帽子を目深にかぶり直しています。
荷物を抱えているのに器用だなあ。
抱えるような大きなダーンボールを受け取るとヒンヤリして冷たい!これはクール便ね!
「えーっと送り主はビスマークさん?」
「ビスマルク姉さまから!?」
「あー、ビスマルクさん…?」
そんな喜びを一層高めてくれたのが、この贈り物がまさかのビスマルク姉さまからのものだということ!
確かに包装紙は懐かしいドイツの言葉が書いてあった。
やったあ!
「そ、それじゃあサインしてもらえますか?」
おっといけないいけない。
目があっちを見たりこっちを見たりと落ち着きがない配達員さんを放置したまま喜んでちゃいけないよね。
私はペンを借りてサインをスラスラと書きました。
宛名は日本語なのに送り主の名前はドイツ語。
ビスマルク姉さまの日本語は長門さんの固そうな字では無くて柔らかい丸い字だから大好きです。
「ありがとうございましたっ!」
私のサインを貰うと礼儀よく一礼して配達員さんは去っていった。すごい、あれがヤーパンニンジャ…!
どうして股間を抑えていたのか分からないけれど、お仕事頑張って!
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カチカチカチ! ガサガサガサッ!
さてさて、再び1人になった私の部屋。
残されたのは私と大きなダンボール。ダンボールの側部には『Matjes』と書かれている。
「わーい! Matjesだぁっ!」
うん、嘘は無し!
ダンボール箱をカッターで開けてみると、Matjesのパックがギッシリ詰められてました!
http://i.imgur.com/v0o3zpu.jpg
http://i.imgur.com/e9TqDVk.jpg
※画像はオランダのMatjesです。
「Matjesを贈ってくれるなんて、ビスマルク姉さまありがとうございますっ!」
あっと、Matjesといきなり言われても、分かりませんね。
Matjes(マトイェス)とは新物の若いニシンの塩漬けのことです!
ドイツではちょうど6月頃、つまり初夏にニシン漁が解禁されます。
そこで獲れたニシンを2枚に開き塩漬けにして膵臓から出る酵素で発酵させた食品をMatjes(マトイェス)と呼んでいるんですよー!
お店ではパックや缶詰で売られていますが、私はパックで売られている方が好きかな。中身の様子がしっかり見えるので!
一時期はニシン漁も行われなくなりましたが、こうしてMatjesが作られるほど、海に平和が訪れるようになったのは嬉しいことです。
「ふっふっふーん♪」
…もっとも平和な祖国の海よりも私の胃袋にお魚さんが訪れる事の方が今の私にとっては一大事ですが。
「よーし料理しちゃおう!」オー!
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かわいい
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ポンポンポン……。
さて、パックで贈られて来たこのMatjesですかどう料理しようかな…。
とりあえず包丁で切ってみて……。
シャリシャリ…
パックから出してみると水が少し溶けてシャーベットみたい…。
普段ならちゃんと解凍するけれど、今日は暑いし…。
「よし、決めた!」
まずはもやしをさっと茹でることにします。
鍋に水を貼ってコンロをカチリと強火に…。
もやしは茹ですぎるとシナシナ、生だと泥臭いような青臭いようなとなかなか難しいお野菜です。
(私は少しシナっとしてるのが好きだから…)
鍋の水が沸騰したのを確認したらもやしを投入。
時計を確認して20秒!
もやしの入った鍋をザルにめがけて、流しへ!
ザルの上には茹でられたもやしが残りました。
「味見!味見!」
もやしを1本口へと運ぶと、シャキッと軽やかな音が。
よーし!シナっとしなかったけど、泥臭くなかった!これは成功!
皿へもやしを乗せて、その上へ半分凍ったMatjesをそのまま乗せて。
最後にゴマ油を少し垂らしたら、完成っ!
茹でもやしのMatjes乗せ!
茹でたもやしにMatjesを乗せただけの簡単な料理ですけどね。
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パンッ!
手と手を合わせた軽い音が部屋に広がりました。
テーブルの上にはお昼ご飯、その前には目を光らせている私。
「いただきます」
昂りそうな声を落ち着けて静かに言いました。
そして合わせた両手の指と指の間に箸をはさみ、もやしとMatjesを口へ。
そうそう、日本での生活が長いので私は箸の使い方も完璧ですよ、えへん!
「んー!!」
シャキッという口の中の音がすると同時にブルっとブルっとしました!
「Das schmeckt sehr gut!(とっても美味しいー!)」
Matjesは塩漬けした発酵食品ですから、かなりしょっぱくて、そして酸味が後から来るのですが美味しい!
もやしのシンプルな味とMatjesの強い味がバッチリ!
(ごま油も2つの味を引き立てる香ばしさ…。 ちょっと冒険だったけどかけてよかった!)
もやしの余熱で半生の氷のような感じも無くなったしこれは解凍しなくて正解!
久しぶりの動物性タンパク質、久しぶりの故郷の味、私の口とお腹と頭は幸せいっぱいです!
脂がよく乗ってますし、小骨も無いからおいしく食べれます。
ピンポーン!
幸せを噛みしめるように食べている時に現実に戻すチャイムの音。
またお客さんなんて、いったい誰かしら?
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バタンッ!
「す、すみません! ペンを忘れてしまいました、返していただけますか!」
鍵を開けたら、戸が勢い良く開きました。
その外に立っていたのは、さっきの配達員さん。
酷暑の中走ってきたみたいで、汗がダクダク、お腹と肩が大きく揺れていました。
「あ!」
ダンボールの脇には確かにさっきしたペンが。
私としたことが、うっかりで…。
これはお詫びをしないといけませんね。
「ごめんなさいっ! これですね」
「ありがとうございます、助かりました!」
ペンを渡すと速やかに後にしようとした配達員さん、そうはいきません!
「すみません、忘れ物ですよ?」
「えっ?」
「これもどうぞ!」
「あぐっ!?」
即座に箸で挟んだMatjesを私は配達員さんのお口へ入れました。
モグモグと口を動かし飲み込んだ配達員さんの顔は満更でもないようで…。
「…美味しい」
飲み込んで喜んでくれました!やった!
「ですよねっ!」
「この魚、あれですね。 ショウガ醤油とかネギとかで食べても良いかも…」
「ショウガ! それは素敵ですねー!」
「ビールにも合うんじゃないかな…」
「bier!! 最高ですっ! そうだ、レントラー踊りましょうレントラー!」
「ええっ、配達が!?」
「ほらほらほらー!」
そして暫く私は配達員さんとレントラーを踊りましたとさ。
配達員さんごめんなさい!
こんな日本での生活、少し貧しいかもしれないけど私は今をとても楽しんでますっ!
【終わり?】
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控えめに言って結婚したい
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Matjesはサワークリームとジャーマンポテトに添えて食べたり、パンに挟んで食べたり、オニオンと食べることが多い食品です。
オランダではmaatjesharing(ハーリング)と呼ばれています。
ニシンを塩漬けしているという事で、世界一臭いスウェーデンのシュールストレミングの仲間と言えるかもしれません。
レントラーはチロルやバイエルンで13世紀頃から踊られている、南ドイツの民族舞踊です。北ドイツのプリンツさんにはもしかしたら縁がないかもですが。
ここまで読んでいただきましてありがとうございました。
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まずそう
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退役年金さんとかいらっしゃらないんですか?
>>7-8
さっき夕食済ませたのにまたお腹減ってきたヤバイヤバイ(大食空母並感)
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こういうほのぼのしたのすき
ビス子はドイツに戻ったんですかね
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ラーメン屋に自家製ソーセージ持ち込みそう(小並感)
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プリンツが自分の家でソーセージ(挽き肉の腸詰め)作るとか興奮する
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ロッゲンシュロートブロートと一緒に食べてみたい
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提督はどこ……ここ…?
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http://i.imgur.com/biWsuIw.png
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下着姿のプリンツと踊ったのか…(ピュル)
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