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淡「ねえお兄ちゃんってば!」 京太郎「お兄ちゃんじゃねえ!」
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淡「ねーえー、お兄ちゃん。リモコンとってー」
京太郎「お兄ちゃんじゃねえし!大体お前の方が早く生まれてんじゃねえか」
淡「えー、でもお兄ちゃんの方がお兄ちゃんっぽいじゃん」
京太郎「あー、分かった。分かったから咲ん家帰れ。夜中まで俺ん家いるとあらん誤解を受けかねん」
全国が終わってから数ヶ月、咲と和解した照が長野へ引越し、
それを追うように淡が宮永家へ居候として住むことになった。
勿論、両親の許可を得てのことと言っているがその実はどうなのかは本人しか知る由もない。
しかして、それが問題では無かった。麻雀部にて必然的に京太郎と遭遇した淡はフィーリング的な何かを受け取ったらしい。
それ以来、妹のように彼に懐き、今に至っては家にまで入り浸るようになった。
同年代の、しかも発育が大変よろしい女子を部屋に迎え入れる違和感、緊張はおよそチェリーな彼に耐え切れるはずもなく
ポーカーフェイスを演じながら、まるで興味なさげにあしらうのが精一杯であった。
淡「ぶー!また明日部活終わったあと寄るから!いい!?」
京太郎「勘弁してくれよ、全く…」
そんな思春期特有の異性への過剰な意識を知るはずもなく、子供っぽく頬を膨らませて、後ろ髪引かれるように退室した。
しばらくして、居間の方から自室まで響く自分の母と淡の仲良さげな会話を微かに察知した。
京太郎「あれでウチの母さんと父さんと打ち解けてるのが余計困るよなぁ……」
真面目に麻雀が強くなって、和を振り向かせたい。ただそれだけが自分の目標だったはずなのに……。
だというのに、予想外の女子の躍進があり、麻雀の練習をせずに日々の雑用に身を投じつつある日常。
ただでさえ麻雀が弱い京太郎は強くなるためのプロセスを踏むこともできず、燻っているだけ。
それに積み重なるように優希に日頃からアプローチに加え、淡の忠犬っぷりに部活に出ることさえ辟易としてしまっていた。
京太郎「いいや、こんなんじゃダメだろ。……よし!明日こそは卓につくぞ!」
折角、全国トップの人材が揃っているんだ。精々そのテクニックを吸収し、自分の技術の向上に努めよう。
そう自身を鼓舞しながら翌日の支度をすませると、雑用の疲労に堪えた身体を休ませるために直ぐに床に就いた。
っていうあらすじのSSを誰か書いてください。オナシャス!!
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そこまでやったなら自分でかけやオラァン!?
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言い出しっぺの法則
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なぜそこまで書いて他人に放り投げるのか
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書いてるだろ!いい加減にしろ!
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CV福山と千和の姉弟…ホライゾンかな?
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書きなさい>>1君!
誰かの為じゃない!
あなた自身の願いの為に!
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そこまで面白くかけるなら最後までいけるだろ!
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ぼくが書くと大体長編になって文字数多くなっちゃうのでみんな飽きるかなぁと
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お兄ちゃんならできる
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いいよ!(長編)来いよ!
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じゃあプロットとかないですけどエロ書きたいのおさえつつゆっくり進めていきます
闘牌描写はないと思うので、期待してる方はすみません
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>>9
待っ照
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やったー!
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がんばれ がんばれ
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あわあわ12月生まれで京ちゃん2月生まれなのね
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こマ?
やったぜ。
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待ってます
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私待つわいつまでも待つわ
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とりあえず早ければ明日の昼ごろ書きます
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絶対書け落ちてたら新スレ建ててでも書け書かなきゃお前の目の前で糞遊びする
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糞、ためて待つぜ
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質問ですけど、ガッツリエロいれるのと匂わす程度なのとどっちがいいんですかね?
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お兄↑ちゃんだと?ふざけんじゃねえよ!お兄さんだろぉ
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>>23
書きやすいほうで
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エロ前提なのか(困惑)
書きやすいほうで
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どっちも興奮するから書きやすい方で
長編になっちゃうかも…ってのも長い方が書きやすいなら書きやすい方で
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はやく書かないとお前の母親の剥ぎコラ作るぞ
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はやくしておちんちんがいたい
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>>23
書きやすい方で大丈夫ですけどエロも欲しいです
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暗闇の中に一人、大星淡と呼ばれる彼女が膝を抱えて顔を埋め、隅で小さくなっていた。
悲しさ、寂しさ、或いはその他に湧き上がる悪感情を抑えるように小さく身体を震わせている。
淡「――・・・―――・・・・・・―――――・・・・・・―――」
何かを言った気がした。恐らくそれがどういう言葉であるか、というのは無意識に認識可能なものであると分かった。
だが、記銘されたその言葉が脳が認知を拒否して、結局何を語っているのか理解できない。
ただ分かっているのは、彼女が何らかのSOSを自分に対して発信しているということ。
自分……?自分とは一体………。
目を下に向けると、見慣れた人の手が見えた。手を動かして、グー、チョキ、パーを作る。
嗚呼、成る程。これは夢か。
自己の存在を確認した自我は覚醒を促していき、視界はどんどん白く霞み―――
ジリリリと、夢の世界から自分をサルベージする憎たらしいほどに煩い鈴の音が次第に意識を明瞭にしていく。
――朝だ。
疲労のせいもあってかすぐに眠りについた京太郎は、いつもより長い睡眠時間に気怠くなった身体を伸ばした。
京太郎「んんー!久しぶりによく寝たな」
窓帷をサーッと引いて、窓を開ける。
朝の陽光が差し込み、秋特有の清涼な風が流れ入り、淀んだ空気を循環させた。
清清しい一日の始まりに気が引き締まる気がした。
時計を見ると、いつもより20分ほど早い目覚めであった。
常日頃であれば、あと5分を数回繰り返してから起きる、怠惰な目覚めである筈。
京太郎「(あの夢の所為か?)」
目醒めてもはっきりと思い出せる奇妙な夢を頭の片隅で回想しつつ
着替えを済ませると居間へと向かった。
-
規則正しい目醒めに両親から目を丸くした。
いつもだらしない風に思われてんのな、などと他人事に思いながら
テレビのニュースに目を通しながら家族と談笑をして、朝食を摂り、
出発前の確認を済ますと早めの登校と相成った。
人も疎らな通学路は、早朝からの労働もご苦労なことに
年配の主婦と思われる女性が枯れ葉を道端へ竹箒で掃いている途中であった。
衣替えも済んだというのに息が白くなるほどでもないにせよ、
ダイレクトに感じる気温の寒さにもうそろそろ冬を迎える時期かと思わされる。
無言で通学路を往くといつもより早く高校へ着いた気がした。
昇降口へと向かい、教室へ入ると先着していたクラスメイトたちにやはり目を丸くしていた。
誠「よう、随分早いご到着で。ついに真面目君になったのか?金髪のくせに」
京太郎「……真面目かどうかは分からんが、これは地毛だ。それにお前も早いじゃねえか」
誠「まあ、俺はもう随分前から真面目になったからなァ」
京太郎「嘘つけ」
などと中学からの親友と軽口を交わしていると、そろそろHRが始まるかという直前に
涙目で息を切らした淡がズカズカと教室に入ってきてこちらへ一直線に向かって来る。
淡「ちょっと!お兄ちゃんっ!!」
喧騒で賑わった教室が一気にしんと静かになる大声が響いた。
とともに、こちらに視線が集中し、ざわざわと皆が皆珍獣を見るような面持ちで金髪兄妹の噂を話し始めた。
淡「私に黙って先に学校行かないでよっ、遅刻しそうになっちゃったじゃん!」
別の理由でまた喧騒が増した。
京太郎「あ、……ああ、悪かったって。後で謝るから、な?とりあえず、自分の教室帰れ、周り見てみろよ」
淡「周りって何っ…?――あ゛っ」
教室を見回してやっと冷静になったのか、見世物になっている立場を理解すると顔を赤くして足早に出入り口に向かう。
淡「後で覚えててよ」
凄みをきかしたつもりの震え声で教室を後にすると、気味の悪い笑顔が京太郎の席を囲むことは言うまでもなかった。
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も始!
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今日日漫画でも見ないような、○○ちゃんとはどういう関係なの?一緒に住んでるの?という
クラスメイト達とのベタな遣り取りに辟易しながら付き合いつつ、無難に回答し、何とか誤解を防ぐと机に突っ伏した。
誠「お前ンとこは賑やかで楽しそうでいいなァ、嫁さんや妹、片岡さんまでいて、まるで主人公じゃねえか」
京太郎「からかうなよ。お前だって自分が同じ状況になったら疲れるし、嫌だろ?」
誠「うんにゃ。第一お前さ、あんな子たちに囲まれて嬉しくないとか、それこそインポだろ、そうなんだろ?」
京太郎「違えよ!まあそりゃあ嬉しくないかっていうと嘘になる。そりゃあいつら可愛いし」
誠「ほらな?」
京太郎「ただなあ、もしお前がトンカツが大好物だったとする」
誠「おう」
京太郎「そうだったとして、私生活が全てトンカツまみれだったら萎えるだろ?」
誠「はぁ?……ぷっ、ははは!お前の例え笑えるくらいよく分からねえなあ」
京太郎「何おう!?」
誠「でもまあ、言わんとしてることは分からんでもない」
京太郎「そうだろ」
誠「けどお前それってチャンスじゃねえの?」
京太郎「チャンスゥ?」
誠「おうよ、それに麻雀部はお前のハーレムじゃねえか。毎日手取り足取り教えられてんだろ?」
京太郎「……そうだったら、良かったんだけどなぁ」
誠「だとしてもよ、咲ちゃんと片岡ちゃんとあの妹ちゃんがいるだろ」
京太郎「(幼馴染とご主人様と妹か)別にそんな良い関係でもねえよ」
誠「……そうかよ、まあいいや。じゃっ、先生来たから」
実際はそんなに甘くない。だが、あの輝かしい光景をテレビから見ていた者にとって、
外部からみたらそのようなバイアスがかかった見方になるのも当然なのだろう。
同じ部活にいるからといって彼女は依然として高嶺の花で手に取れるようなものではない。
せっせと働いても卓につけることは僅かで、部員が二人増えたことにより一層多忙になった。
帰ってネト麻に勤しもうにも、結局疲労ですぐに眠りについてしまう。
嘗ては想い人と対等になれるために始めた麻雀に触れることも出来ず、秘密の花園と化した麻雀部室には
無防備な誘惑が多く、それも助長したおかげかフラストレーションが募る日々。
昨日腐れていた自分の気持ちがぶり返し、それを誤魔化すように溜息をついて頭を掻いた。
京太郎「(いかんいかん、腐ったらいかんぞ腐ったら)」
-
悶々としたまま時間が過ぎて、昼休みになった。
京太郎「さて、ヤツが来る前にさっさと退散しますか」
淡が駆け足で教室に突入してくるのは想定の範囲内。
誰よりも早くドア開けて廊下へ駆け出そうとしたそのとき
京太郎「!?」
淡「ふっふーん!だと思った」
迂闊だった。何故こいつが授業の終わりまでお利口に教室にいると想定していたんだ。
そう後悔する間もなく、屈託のない笑顔を向けて淡は手を引いて京太郎を教室から連れ出した。
京太郎「あのさ、何で俺に執着するんだ?お前のお気に入りは照さんじゃなかったのか?」
淡「テルーとはお家でいっぱい話していっぱい遊んでるもん、ガッコではお兄ちゃんと一緒」
京太郎「お兄ちゃんじゃない。第一最近お前俺ん家にずっといるじゃねえかよ」
淡「そっ、それは……」
京太郎「はっはーん。なるほど」
淡「――――!!」
京太郎「こっちに越してきたはいいものの、あっちの家の居心地が悪かったり、ホームシックになったりしてんだろ」
淡「…?」
京太郎「図星で物も言えないか」
淡「……お兄ちゃんがバカでよかった」
京太郎「バカとはなんだバカとは!」
-
淡「それより、お昼いこ。立ち話で時間使ってちゃ勿体無いし」
京太郎「まあ、いいけど」
淡「サキから聞いたんだけど、お兄ちゃんレディースランチが食べたいんだっけ?」
京太郎「ああ、まあな」
淡「しょーがないから、とってきてあげる。お礼はポッキーでいいよ」
京太郎「言い寄ってきて恩着せがましいな」
淡「別にいいじゃん、いらないの?」
京太郎「お願いします持ってきてください」
淡「まいどありー♪」
程なくして食堂につくと案の定だった。
欠食児童染みた悲鳴を上げる生徒でごった返していて、空いている席を見つけるのもやっとのことだった。
どうやらここでは金髪の二人組が来ても気にする余裕さえない人ばかりで
その点についての心労がない分教室よりは幾らか過ごしやすいと感じた。
淡「学食ってやっぱどこも変わらないんだねー」
京太郎「ん?あっちではずっと学食で昼飯食ってたのか?」
淡「まあね、部活に馴染むまでだったけど」
京太郎「ふーん、意外だな」
淡「……………どうして?」
京太郎「ああ、いや。淡は可愛らしいお弁当袋を手に提げて友達と机くっつけるタイプかなぁって」
淡「……私はそういうんじゃないの!二人分取ってくるから待ってて」
京太郎「(今なんか反応がおかしかったような)」
-
一瞬淡の表情が凍って声色が低くなったような、背中を寒くさせる程の違和感を感じた。
ただの気のせいでは済まないそれのせいで、ずっと京太郎は淡から目を離せずにいた。
〜〜〜〜〜
先程の違和感は何処へやら。淡は危なっかしい足取りでこちらに二人分の食事を運んできている。
時々、小声で悲鳴を上げつつ、足元を見ないで歩いている。身体が傾くごとに冷や冷やする姿に京太郎は困惑していた。
淡「ふぅー!なんとか、なんとかなったね」
京太郎「なんかごめんな」
淡「えー?なにー?」
京太郎「あー、っと。持ってきてくれてありがとな」
淡「お安い御用!帰りにお礼をしてくれればそれでいーよ」
京太郎「それじゃ、俺達もいただくとするか」
淡「いただきまーす」
――――――――――――
―――――――
――
淡「ごちそうさまー」
京太郎「ふー……食った食った」
淡「ねえねえこの後――」
咲「あれ、京ちゃん?」
京太郎「咲、どうしたんだこんなとこで」
咲「私は学食でご飯だったんだけど…、京ちゃんは淡ちゃんと?」
淡「うん、そだよー」
京太郎「ああ、廊下で捕まって連行されたんだよ」
咲「あー、そっか。ふふっ、何とは言わないけど頑張ってっ」
京太郎「ははっ、何だよそれ」
淡「むーっ、ずるいよ。サキとばっか楽しそうに話して!」
咲「……あ、ご、ごめんね」
京太郎「ん?」
咲「じゃあ私先に行くから、じゃあね」
京太郎「お、おう……」
-
かを察したようにそそくさと退散する咲。淡が何かをしかけたのか、それとも裏で何かあるのか。
どうやら自分が関係あるらしいそれで申し訳なさそうにしていた後姿が引っかかった。
京太郎「なあ、なんか俺に隠し事ないか?」
淡「隠し事……はないかなぁ」
目を泳がせたり、長い髪を指で弄りながら平常を気取っている。
明らかに何かを隠していると確信に至った。
京太郎「本当か?」
淡「うんっ!…嘘ついてるように見える?んん?」
可愛らしく見上げるようにして此方を見つめてくる。
控えめに言っても美少女である淡の眩しさに目を逸らして、誤魔化すように咳払いをした。
淡「あはっ、目ぇ逸らしてんのー、かーわいい」
京太郎「うるせぇ」
とは言え彼女の攻撃を前に問い詰めることが出来る筈もなく、間もなくして昼休みが終わる予鈴が鳴り、
談笑に勤しんでいた他の生徒たちは蜘蛛の子を散らすように移動をし始めた。
それに倣うように食器を片付けると、軽い足取りで教室へと戻った。
やはり彼女は歩くときも京太郎の隣を誰にも譲ることは無かった。
京太郎「何で教室まで入って来るんだよ」
淡「えー、いいじゃん」
京太郎「よくない。お前が授業受けれないだろ。帰れ」
淡「けちんぼー!」
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ageた方がいいですかね?これ
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怒涛の更新イイゾ〜これ
-
イイっすね〜
このSSの1の人かな?って一瞬思った
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/lite/read.cgi/internet/20196/1446993268/l30
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あっ、そうです
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…まさか本当にそうだったとは…(驚愕)
どっちのSSも続きが気になる位引き込まれて読んでて楽しいです
╭( ・ㅂ・)و ̑̑
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ありがとナス!
そういうの割とモチベに繋がりやすいんでほんとありがたいです
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あぁ��あわあわかわええんじゃあ��
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どういうシチュエーションの話が読みたいとかいうのありますかね
大体プロットは出来たんですが一応聞いておきたいと思いまして
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そらもう優希もお兄ちゃんって呼んで取り合いよ
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君の書きたいように書けばよろし
ちなみに僕はピロートークが見たいです
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>>48に同じく。
個人的な要望は特にないですね。書きたいものを、どうぞ╭( ・ㅂ・)و ̑̑
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他人の意見を取り込みすぎないことが第一の希望ですね…
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いいゾ^〜
期待
-
淡のお陰で昼食を満足に摂れた京太郎は船を漕ぎながら
午後の授業を何とか耐え忍び、HRを終えると旧校舎へと駆け出した。
2学期が始まってから「今日こそは」という直向きに抱いた期待を以って
坂を上り、階段を駆け上がり、勢いよく部室の扉を開け放った。
京太郎「どうもーお疲れ様でーす」
既に部員はほぼ集まっており、来ていないのは淡だけであった。
和はこちらの姿を確認すると、挨拶をしながら会釈をするとすぐに視線を戻して本を読み始めた。
まこや久と照は、何かを話し合っていたのか、そのままの状態で返事をして
京太郎のもとへ駆け寄ってきたのは優希だけであった。
京太郎「(誠はああ言ってたけど、現実はこんなもんだよなぁ)」
優希「おう、京太郎。元気にしてたか!」
京太郎「おう、今日は焼き鳥になんかならねぇからな」
久「あっ……、須賀くん。そのことなんだけど」
久が会話に割って入るように声をかけてくる。
少しの期待と多分の諦めを持って反応をしてみる。
京太郎「なんです?」
久「春季に向けて、1年生の力をつけておきたいのだけれど」
京太郎「ほうほう、…不肖この須賀京太郎も1年ではございますが」
久「……ごめんね、男子部員が集まればそうすることも吝かではないのだけど」
京太郎「ははっ!やっぱり…そう、ですか……」
久「腐れるな、少年。いつか大舞台に立てるようになる!」
京太郎「部長、そんな他人みたいに……」
久「他人じゃないの」
京太郎「そうですけども」
-
照「…………」
明らかに落胆している京太郎を無表情にじーっと見つめてくる。
堪えきれずに喉元から声が漏れ出てしまい
京太郎「な、何用で?」
照「……ねえ、京ちゃん」
咲「ム……」
京太郎「何で照さんまでその呼び方なんすか……」
照「うわ、露骨に不機嫌」
京太郎「…………」
咲「お、お姉ちゃん、落ち込んでる人にいじめはよくないと思うな」
照「ごめん、からかっただけ。……あの、大丈夫?」
京太郎「大丈夫っていうと」
照「淡が京ちゃんに迷惑かけてるんじゃないかと思って」
京太郎「ああ……まあなんというか、いつものことですし」
照「やっぱり」
咲「あはは…、淡ちゃんって京ちゃんにものすごい懐いてるもんね」
京太郎「それなんだよなぁ。俺はあいつの兄貴になった覚えはないんだが…、何か理由があったりすんのかね」
照「…………」
咲「…………」
二人して顔を見合ってから怪訝そうな顔をして京太郎を見つめる。
照「幾らなんでも京ちゃんそれは」
咲「ニブいんじゃないかなぁ」
京太郎「……?」
-
部活が始まり、何とか技術を盗もうと部員達を観察していた京太郎であったが
そもそも本寸法な打ち方をする部員が少ない清澄麻雀部であるため、
必然的に和や優希につきっきりになるのが常であった。
2局目が照の自摸和で終了した頃、軽い足取りで階段をゆったりと登ってくる音が聞こえ
宛らホラー映画のようにドアが軋む音を立てる。和が少し怯えた表情で入り口を注視しているのが見て取れた。
淡「あー、もう開かない!開かないってばぁ!」
ドアノブがガチャガチャと乱暴に回り、ゆっくりと扉が開くと
お菓子の詰まったビニール袋を両腕に引っ提げて、背中で扉を押して部室へ入ってきた。
淡「はぁ……っ、はぁ…っ、ふぅぅ!テルー、お使い行ってきたよー!あ、皆々様お疲れ様でーす」
照「淡、ちょっと遅いよ。もう部活始まってる」
淡「えー、テルーがお菓子をリクエストしたんじゃん。大目に見てよー」
淡「ね、いいよね?ぶちょー」
久「まああまり感心はしないけど、お仕事で私も遅れるからおあいこね」
淡「ほらぁ」
久を味方につけてドヤ顔をする淡の表情の照は少しむっとするが
照「まあ、次回からはもう一人付き添いを連れて行けばいいだけだよね、京ちゃん」
京太郎「俺っすか?」
照「だって暇でしょ?」
京太郎「望んで暇なわけじゃないですけどね……仕方ない」
そんなこんなでいつも通り、諍いが起きない絶妙なバランスで部活は始まり、
新しい二人の部員が増えて賑やかになった部室は夕刻に近づき日に暮れていく。
そうして、街灯の明るさが目立つ頃に部活を切り上げると、皆帰路についた。
-
京太郎「で、お前は何で俺んちにいるわけ?」
淡「えー、いいじゃん。ママにも晩御飯食べてって言われてるし」
京太郎「……お前ホント人に好かれる甘え方上手いよなぁ」
淡「それほどでもー」
ニコニコと曇りのない笑顔を浮かべながらにじり寄り、身体を密着させようとしてくる。
ここで退いては男の恥だと何気なさそうに表情を取り繕い、それを受容する。
やがて少し背の低い肩が身体にくっつくと、やけに存在感を主張している彼女のそれが
脇腹に当たっていることに気づいた。
京太郎「…………」
淡「ん?どしたの?急に黙っちゃって」
意図しているのか否か、無自覚に頭上にクエスチョンマークを浮かべて首を傾げる。
これほど、自分が男性であることが憎らしいと思ったことはないと実感したことはなかった。
起立をして動きたくても動けない状態、立てば相手も察するだろうこの状況、つまり
――耐性無さ過ぎるだろ、おい……静まれ、静まれ!
己の顔の真下に彼女の頭上がある。炎天下とは言わずともまだ暑さを残す昼間の外を歩かされていたというのに
彼女からは一切の汗臭さなどもなく、逆に彼女特有の甘い匂いが鼻腔を擽った。
淡「ねーえ、お兄ちゃんってばあ」
京太郎「お兄ちゃんじゃねえよ」
淡「……?ほんとにどしたの?具合悪い?大丈夫?」
心配そうに顔を覗き込み、こちらの様子を聞いてくる。
――ああ、こいつ本当に無自覚でやってやがる
どうすればいいか分からない。戸惑い、視線を合わさぬよう部屋を見回しながら考えていた。
普段、『お兄ちゃん』と慕われていて、すっかり忘れていることがあった。
何処とは言わぬが、彼女は人並み以上に発育の良い女子であり、擬似的な兄という立場から
絶対的な好意を絶え間なく向けられているというその事実を。
京太郎「(何故俺がこいつを意識せにゃならんのだ…)」
淡「具合、悪そうだね。ごめん、ふざけすぎちゃった」
京太郎「えっ」
淡「今日は帰るね。明日は元気に学校でてこいよ!…なんちゃって」
もう一つ思い出したことがあった。彼女は言動や態度がたまに目に付く節があるが
あれは彼女にとって甘えや依存、じゃれ合い。つまりは仲良くしようという好意の表れであること。
決して悪意で以ってこちらに接するのではなく、みんなと仲良くするための方法であり、そもそもの暗黙の了解である。
自意識過剰でないのだとしたら、今までの自分に対する積極的な振る舞いはもしかすると――。
申し訳なさそうに部屋を後にする彼女の背中を見て、微妙に心が揺れ動いていた。
-
ファッキューヒッサ
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これはロッカー事案
-
気づくとそこは見覚えのある暗闇が広がる部屋だった。光が一筋さえ入る隙間もない真っ暗な空間だというのに
そこに淡がいて、膝を抱えて涙に顔を濡らしているというのが不思議に認識できていた。
「―――お願い―――お願いだから―――――■■■■■■――――」
最後の言葉が聞き取れなかった。ただ悲しそうに、切なそうに何かを誰かに懇願しているんだろうということは分かった。
相変わらず、認識まで及ばないその言葉をどうしても聞き取りたい、と思うのに、聞き取れないもどかしさで苛立ちを覚える。
不意に、自分の無意識下にある意思が淡の方へと勝手に手を伸ばす。
――どうしてだろう。あいつが泣いていると、どうも心がかき乱される。
これが苛立ち、焦燥、怒り?いや、そうじゃなくてこれは……
感情が明白になりかけたそのとき、あの時の同じように世界が白く霞み、全てが喪失する。
そろそろ起きる時間だ。
――――――
――――
―
けたたましい鈴を叩く目覚ましの音で目が覚める。
京太郎「うるせェ……」
叩きつけるように目覚まし時計に脳天直下のチョップをくらわすと
もそもそと温かいベッドを恋しがりながらゆっくりと瞬きをして、着替えを始めた。
あの晩の奇妙な空気は無かったかのように翌日からいつもと変わらない淡のアプローチを受け続けた。
大きく印象が変わってしまったその猛攻にどぎまぎすると彼女は面白そうにからかってくる。
玩具の弄り方の新しいパターンを確立したらしい。ともかくとして、彼女らの転入により数ヶ月前から変容して、
ようやく平穏へと軌道修正できた日常を、現在、あの無邪気な小悪魔が侵略せんとしていた。
-
――ある日の部活での出来事
淡「お兄ちゃん、そこではコレを切ればいいんだよ」
京太郎「あっ、なるほど!……って、おい。ひっつくなよ」
家族或いは恋人のように距離をつめて、肩に手を置きながら助言をしていた。
長い金髪の髪の毛が学ランに垂れ、見上げると視界を程々に邪魔をするそれが自己主張をしている。
淡「……どうして?」
この状況、普通ならば有り得ないことであるが、あまりにも京太郎が弱すぎるからという理由で
部長からの許可を貰って誰かに援護してもらうというモノであるのだが
例のごとく、淡が激しくそのポジションをねだった結果今に至る。
だが、それが面白くないと思う人も少なからずいるわけで
京太郎「どうしてじゃないだろ。皆がいる前だぞ。ちょっとは離れてくれ」
優希「…………」
淡「えー、いいじゃん!」
優希「な、なあ淡ちゃん。京太郎も困ってるし、離れてくれると助かる、けど」
淡「なーんで?優希ちゃんのモノじゃないから別に口出ししなくてもいいでしょ」
優希「なッ!……そ、そういうことじゃなくて、皆も困るじょ!そんなくっつかれたら!なあ咲ちゃん!」
咲「えっ、私!?私は、…うーん」
淡「サキは困ってないみたいだけど?」
優希「むむむむ…!言わせておけば!!」
淡「へえ、楯突くんだ。私に、……いいよ、卓について。10回、いや100回ボッコボコにしてあげる」
京太郎「はいはいどーどーどー。二人とも落ち着け。どうしたんだ、そんな喧嘩する必要なんか――」
優希・淡「「うるさい、黙ってろ!!」」
京太郎「ふえぇ……」
収集の着かなくなった二人の熾烈な戦いは、照と久のお説教によってようやく鎮火した。
-
騒動が一通り落ち着いた後、手持ち無沙汰になって、廊下で空を見上げて呆けていると
照が隣に来て、何かを話したそうにもじもじしていた。
京太郎「ん?どうかしました?」
照「京ちゃんってさ、お兄ちゃんだから淡が調子に乗ると思うんだよね」
京太郎「照さんまでお兄ちゃんって言うんすか」
照「そういうのじゃなくて、割とお人よしで、文句言いながらも付き合ってくれるし」
照「何だかんだ真摯に対応してくれるところが面倒見いい気がするんだよね」
京太郎「マジっすか!俺そんなヤツなのか。そう言われると良い奴みたいじゃん俺」
照「うん」
京太郎「俺を持ち上げてどうする気です」
照「思ったとおりのことを言っただけ」
京太郎「仮にそうだったとして、何が言いたいんですか」
照「淡をどうにかしたいんだったら気持ちをはっきりすればいいって話」
京太郎「んん?」
照「淡がどんな気持ちで京ちゃんをお兄ちゃん呼びしてるか、もう分かってるんでしょ」
京太郎「――!!」
照「このまま中途半端に関係続けてたら、絶対後で大変なことになるよ」
京太郎「で、でも、あれはあっちから一方的にやってきてるだけで」
照「どうであれ、もう同じ舞台に立たされてるんだよ。きっぱりと拒否するか、受け入れるか、ちゃんと考えないと」
京太郎「………………」
照「……キツいこと言ってごめんね。でも、言っておかないとダメだと思って」
京太郎「いえ、その……ご忠告ありがとうございます」
照「うん」
-
一人で悶々と浮かべていた朧気な答えが明確化され、頭の中で笑っている彼女の姿が形作られていく。
お世辞抜きに回りの視線を集めてしまうほどの端麗な容姿でいて、世間が注目するほどの実績を持っている。
高嶺の花であるはずの彼女が毎日あれほどの好意を押し付けてきて、意識をしないわけではなかった。
ただ一つ、疑問があった。だとしたら、何故そこまでして妹というポジションに甘んじていたのか。
それほどまでに自分に好意を向けているならば、真っ向から来るものではないのか、もしや今更恥じらいがあったのか。
ぐるぐると思考が巡った。そうしているうちによく分からなくなり、思考の糸がこんがらがりそうになったところで考えるのをやめた。
京太郎「やっぱ難しいこと考えるのは向いてねぇや」
あれから部活を終えて、一人で自宅へ戻ると、自室に篭ってそれについて考え込んでいた。
だが、いまいちピースが上手くはまらずに、淡の本心が分からずにいた。
頭を抱えて椅子に背中を預けてリクライニングすると、真上に淡の顔が見えた。
京太郎「うおォっ!」
淡「きゃあっ!!なになにどうしたの!?」
京太郎「お前勝手に入ってきてたのかよ」
淡「ちゃあんと許可貰ってお家に上がったし、部屋にはノックをして入ってきたけど」
京太郎「ああ、そっか……。あんまり集中しすぎて気づかなかったのか」
淡「勉強でもしてたの?真っ面目ぇー」
京太郎「そんなんじゃねえよ、……なあ」
淡「んー?なにー?」
京太郎「ちょっと、大事なことを伝えたいんだけど」
淡「えっ……」
京太郎「あのさ、淡――」
淡「やだやだ!聞きたくない!」
京太郎「お、おい。耳塞がないで聞いてくれよ」
淡「やーだー!帰るっ!!」
明かな拒絶。耳を塞ぎながら大急ぎで入り口へ向かうと
乱暴にドアしめて外へと駆け出していった。
京太郎「参ったな。これじゃあいつまで経っても話を聞いてもらえないんじゃなかろうか」
-
あっ今更だけど多少のキャラ崩壊とご都合展開で以って進めてます
あとあわあわはおもち有りとして考えています
多分R-18要素も含むのでご注意をば
-
予想通りの結果になったことは言うまでもなかった。
形勢がまるで逆転していた。それが喜ばしいことなのかというと是とは言えないが。
ex1.出会い頭――
京太郎「お、淡」
淡「お、お兄ちゃん……」
京太郎「ちょっといいか?」
淡「いやっ!バイバイ!!」
京太郎「あ、ちょっと待てよ!」
咲「あの、京ちゃん」
京太郎「何だよ!」
咲「ここ、女子トイレだけど……」
京太郎「あ、すみませんでした」
ex2.部活動――
京太郎「なあ、淡。援助頼めるか?」
淡「つーん」
京太郎「お、おい。頼むよ、お前が頼りなんだ」
淡「ふ、ふんっ!一人でやってれば!」
京太郎「なあおい頼むよー(照れてんじゃねえか)」
淡「知らない!どうせ何か話すつもりでしょ!」
優希「ふっふーん、犬が困ってるなら飼い主が救いの手を差し伸べるまで!」
淡「キッ!(威圧)」
優希「じぇっ!?」
-
優希「ちょっと、京太郎!」
京太郎「ん?どうした?」
優希「どうしたじゃないじょ!貴様、ヤツの兄貴なんだろ?」
京太郎「……まあ、そうかもな」
優希「最近も今までも変だったけど、今はもっとやりにくいじょ、早く元に戻してくれ」
京太郎「って言われてもなぁ、俺もよく分からんし、あいつの事」
優希「……?なぁに言ってるんだ?」
京太郎「ああ、そういう表面的な話じゃねえんだよ」
優希「んー?」
-
◆淡視点
京太郎「ちょっと、大事なことを伝えたいんだけど」
淡「えっ」
その次に続く言葉が連想され、自分にとって最悪の結末が頭を過った。
淡「(嫌、言わないで。絶対聞きたくない。聞いちゃったらこの関係が壊れちゃう)」
京太郎「あのさ、淡――」
淡「やだやだ!聞きたくない!」
焦りで、堆積した焦燥感と、絶望に感情のダムが決壊して、
気がつくと私は、お兄ちゃんの言葉を拒絶するために耳を塞いで大声を出していた。
京太郎「■、■■!■■■■■■■■■■■■」
何かを言っていた。恐らく自分を説得して、話を聞いてもらおうって魂胆だ。
そんなことをしてしまったら、言葉を受け入れてしまったら、終わってしまう。
そうやって、関係を終わらそうとするつもりなんだ。
淡「やーだー!帰るっ!!」
そうして、お兄ちゃんの元から逃げ出した。どっちみち終わりだと思った。
そのつもりで声をかけたんだろうし、もうこれで全てがおじゃんになったって話でしょ?
――だと思ってたのに、お兄ちゃんってば私に会うたびに話しかけてくる。
まるで気にかけるように、いつも通りに接してくる。
本当になんなの、訳分かんない。そこまでして話がしたいわけ?
淡「もー、お兄ちゃんの考えてること全然わかんないよー」
考えても分からないものは仕方ない。お菓子のパワーを借りよう。
そう考えてリビングまで来たはいいけれど、肝心のストックは空だった。
淡「部活で食べすぎちゃったんだ……他に何かないのかなぁ」
冷蔵庫を開けてみた。不幸中の幸い、そこには3つのプレミアムなパッケージのプリンがあった。
淡「人数分あんじゃん、ラッキー♪」
斜めになったご機嫌を少しまっすぐに戻して、気分をよくすると冷蔵庫から一つプリンを取り出した。
-
――――――――――――
―――――――――
―――
淡「んー、でもよく考えたら甘いもの食べても最初っから分かんないなら分かんない!」
プリンを食べ終わって、自分用に用意された仮住まいのベッドに仰向けになっていた。
そのままごろごろと転がろうが、丸まろうが、結局のところ答えがでるはずなんて無かった。
コンコン、と部屋のドアがノックされる音が聞こえた。
淡「いるよー」
返事をするとドアはすぐに開く。
入り口に突っ立っているのは仁王立ちをした照だった。
淡「あ、テルー!どしたのー?」
照「淡、もしかしてなんだけど」
淡「うん?」
照「冷蔵庫のプリン食べたのって淡かな」
淡「そだよー、美味しかったよ。テルーが買ってきてくれたの?ありがとー!」
照「…………………はぁ」
淡「えっ、どうしたの?」
-
ここまで書いておいて何ですけど需要ありますかね(クソザコメンタル)
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ありますあります!
-
あるに決まってるだルルォン!?
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ありますねぇ!
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いいから続きを掻き卵え
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ありますねぇ!
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ありがとうございます
これ以降多分濡れ場挟むのでちょっとグダグダになるかもしれません
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頑張ってくれ
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あくまで個人的な感想だけど、お金を払ってでも読みたいレベルだわ…
なんか雰囲気がかなり自分のツボに入ってる╭( ・ㅂ・)و ̑̑
-
◆京太郎視点
淡が来なくなって以来、夜な夜なは自由な時間を過ごしていた。
だというのに、何をするわけでもなく暇を持て余していた。
京太郎「(俺って、あいつが来る前はこの時間何してたんだっけ)」
などということを考えるほどには時間と心を淡に占領されている自分がいた。
京太郎「そっか、俺ネト麻してたんだったわ……」
それが阻害されて最初は少なからぬストレスを抱えていたことを思い出した。
そもそも、何でもいいから場数を踏んで強くなってみせるとか、そんな強い意志を持っていたはずなのに。
京太郎「何だかなぁ……」
目的を思い出したというのに体が動かず、ぼーっと電灯を見上げていた。
――ピンポーン
インターホンが鳴る音が聞こえた。だというのに家族が動く足音がしない。
そこで、漸く両親が親戚の法事へ行っている事を思い出した。
京太郎「面倒臭ぇ」
重く腰を上げると頭を掻きながら玄関へと向かった。
-
ドアを開けると、白い制服のまま、肩を震わせて立ち尽くしている淡の姿があった。
鼻頭と瞼を真っ赤にさせ、涙で顔を濡らしたまま俯いていて
京太郎「お、おい。どうしたんだ」
淡「テルーの家に居られなくなっちゃった……」
京太郎「は、はぁ!?なんだそりゃ」
淡「た゛す゛け゛て゛ぇ゛」
京太郎の姿を確認すると、安堵したのか大声で泣き声をあげてすがり付いてきた。
尋常とは言えぬ明かな異常事態に、少しの動揺を浮かべつつ、
彼女が泣き止むまで話を聞くことが先決だと判断した。
京太郎「わ、分かった分かった。とりあえず中に入れ、な?ここで泣かれると困る」
淡「うん、ありがと……」
涙で視界が覚束ない淡の手を引いて家へと迎え入れると、居間へと通し、
ソファに座らせて、熱いお茶を淹れて飲むように勧めた。
その通りに動いてくれるほど落ち着きは見て取れず、嗚咽を漏らしていた。
彼女が余程のショックを受けたのは明白であった。
普段は周りをからかうほどの余裕がある淡が、ここまで取り乱す理由とは一体…。
京太郎「(まさか、本当に追い出されたんじゃないだろうな)」
落ち着きがなく肩を震わせていたが、話相手をしていると次第に口数を減らして、居間に響く涙声は無くなった
静かになり、淡と二人きりのこの状況に今度は此方が落ち着かない状況になってしまった。
京太郎「そ、そうだ。晩飯は食ったか?風呂は?」
淡「どっちも、まだ……」
京太郎「そうか、ならまず風呂入ってこい。晩飯準備しといてやるから」
淡「……分かった」
京太郎「着替えとかは俺のが置いてあるを使ってくれ、下着は、その、よく分からんからすまん」
淡「うん」
顔を拭って立ち上がると辿々しい歩き方で浴場の方へと向かい、
ドアの向こうに隠れ、顔だけ此方にぴょこっと出して一言
淡「どこにもいかないでね」
と弱弱しい声でお願いして脱衣所へと消えた。
-
京太郎「さて、と。適当に温かいもの作るか」
冷蔵庫を見てみる。ある程度の食材は揃っているようだ。
パッと見で何を作るか決められるほど料理に慣れている自分がいた。
この時ほど雑用をこなしていて良かったと思うことは今後一生無いだろう。
京太郎「ふむ、それじゃあちゃっちゃと作りますか」
―――――――――
――――――
―――
鍋の中では適度に細かく切り刻んだ人参、大根、
ベーコンがぐつぐつと煮え立つスープに泳がされている。
透明の蓋から漏れ出るコンソメの匂いに食欲がそそられる。
京太郎「一品終わったか」
シンクの方へ向かうと、予めサラダ用に毟って、水に浸しておいた
サニーレタスと水菜を適度に切り分けてボウルに盛り付ける。
京太郎「自惚れだが良い出来だよな。……自分が嫁になる方が早いかも」
料理の上達の過程を回想すると情けなくなり、肩が落ちる。
だが、ここで落胆していては終わるものも終わらない。
今は自分の腕で彼女の気持ちを少しでも楽にしてあげないといけない。
責任ではなく意思で以って今その五体が突き動かされていた。
前日から特製のタレに漬けてあった鶏肉をタッパーから取り出すと、
大蒜と醤油のにおいが混ざった芳醇な香りに腹の虫が強請り声を上げる。
キッチンペーパーで汁をふき取ると、それを一口大に切り分けてボウルへ投げ込み
摩り下ろした生姜とごま油を投入し、既製品の唐揚げ粉を投入し、混ぜ合わせる。
手際良く料理工程を勧めていると、脱衣所のドアが開き、京太郎がどこにいるのか
キョロキョロと見回し、キッチンにいることを確認すると早歩きで歩き出した。
-
下着を着けているか否かは知る由もないが、Tシャツ一枚と短パンという薄着で近寄る淡を
まじまじと見てしまうのは、青年としての性なのは言うまでもない。
風呂上りの肌に引っ付いた髪の毛と、上気した頬、腕、太腿部。
膨らみを如実に表すかのように凹凸をはっきりとさせたTシャツの布地は引き伸ばされて柄を変えている。
京太郎「は、早かったな」
淡「それほどでもないですよ…」
京太郎「髪濡れてんじゃねえか、乾かして来い」
淡「……」
京太郎「どこにも行かねぇって。まだ料理も途中なんだ」
淡「分かった」
とぼとぼと再び脱衣所へ向かう淡を視て、溜息をついた。
絶好の機会、そして絶景哉……もとい、精神的平穏に確実なダメージを与えてくる
あの光景は自分にとって危険すぎる。
だが、こうして自宅へ招き入れる以外の最善手は他にあっただろうか、否。
反語を用いてまで自身を抑制させながら、心を鋼鉄にして揚げ物に取り掛かった。
今現在において変な気を起こすのは絶対の禁忌である。
悲しみと絶望に暮れて、頼ってきている女子に欲情するなど言語道断である。
何しろ紳士的ではない、などと自身の生理機能に説教をしつつ、油跳ねに警戒をした。
-
さてさて、盛り付けがおわり、配膳を終えると丁度良いタイミングで未だ仏頂面の淡が現れた。
果たしてその不機嫌そうな表情を一変させるかは、自分の料理の腕次第であるが――。
京太郎「出来たぞ、腹減ったろ。こっち来い」
腕を拱くと、向かい側ではなく隣に座った。
いつもは文句も出るところではあるが、彼女に神妙な表情に今は何も言わずそれを受け入れた。
淡「いただきます」
お行儀良く手を合わせてから、まず真っ先に唐揚げに手を伸ばし、口元へ運び、
小さな口に含むと揚げたての熱さを警戒しながら恐る恐る咀嚼をした。
京太郎「美味いか?」
淡「うん……」
やっと緊張の糸が解れたのか、遠慮なしに料理に手を出し、いつもの勢いで食事を始めた。
京太郎「(やれやれ)」
もう見守る必要がないと分かると、二人きりの食事が始まった。
――――――――――
――――――
――
淡「ごちそーさま」
京太郎「お粗末様でした、っと」
人数分より多少大目の料理を二人で全て平らげた後、食器を片付け、
腹ごなしに何かゲームでもするかと問うと淡は首を横に振った。
あれだけ食ってまだ本調子ではないらしい。
-
とりあえず突っ立っておくのもきまりが悪いので
ソファに腰を下ろすと、淡も距離を開けて隣に座ってくる。
そのまま、時計の秒針が刻一刻と時間を刻む音だけが過ぎ去り
意を決した顔で淡は此方へ話しかけてきた。
淡「ねえ、おn――京太郎」
その呼び方と、声色に何か遠慮をしているような無理を感じた。
明らかに一歩引いて、それでいてその距離を保とうとする弱気な口調。
だからこそ、今は粗暴な口調で応対するのも何だか似合わないように思えて
京太郎「どうした。まだ何かあるのか?」
彼女は何かを話したいという気持ちを抱えている。
察すると、とやかく聞くことをせず優しく返事をした。
淡「あのさ、どうして優しくしてくれるの?」
京太郎「んー、どうしてだろうな。それが普通だからかね」
淡「普通って、何」
京太郎「普通は普通だろ。お前が俺に絡んでくるのはもう普通になってんだ」
淡「なんで?どうして?」
京太郎「どうしてって何だよ」
淡「もう、兄妹関係に嫌気が差したんじゃないの?」
京太郎「はぁ?それこそどうしてそんな考えになるんだよ」
淡「………だって、あのとき大事な事話すって」
京太郎「ああー……あーあー、そういうことか」
淡「?」
-
京太郎「お前今まで俺を避けてたよな」
淡「う、うん。だって、聞きたくなかったもん」
京太郎「そうじゃねえんだよなあ。俺は一切この関係を嫌なんて思ったことないぜ?」
淡「うそつき」
京太郎「ぐっ………、まあ最初は嫌だったけど、その…もう俺の日常なんだよ、お前がいることが」
淡「そ、そうなんだ」
嬉しさで顔が少しニヤけていることに気づくことなく、
ご機嫌に身体を揺らしている。
そんな姿を見ていると、不思議と心が躍るような気がした。
少しは彼女を助けてあげられた実感に充実感と充足感さえ覚えていた。
淡と会話していても、どうして妹でいたいのかという気持ちは分からず仕舞いであったが
代わりに、しっくりとくる答えを見つけてしまっていた。
京太郎「あとさ、あんな顔されて助けてって言われたら放っておけないだろ」
淡「どうしてよ?」
京太郎「俺はお前のお兄ちゃんだからな」
淡「――!!」
言われた途端に淡はゆっくりと顔を赤くさせて自分の膝に顔を埋めた。
その反応を見て、自分も恥ずかしくなり、
京太郎「なんつって、少し気障すぎたか。俺のキャラには合わんわ」
と上ずりながら作った笑い声で誤魔化すようにしていた。
-
何とか数日間拗れていた関係を修復するにはしたが、その後に流れた微妙な空気で
また暫く無言の静寂に囚われて、居心地の悪さが急上昇していく。
堪らず何か話題を探そうとして、例の件に少し触れてみることにした。
京太郎「そ、そうだ。咲に連絡してあっちに連れて行こうか?」
淡「それは嫌!」
強く声を張って抵抗をされた。
どうやら、あっちでも何かしらの分厚い壁を作ってきたようだ。
京太郎「そうかい、……まあだったらそれは追々だな」
淡「……ごめん」
京太郎「今更謝んなよ。今は俺を兄貴だと思え。気にすんな」
京太郎「ところでお前、寝床はどうする?アテはあるのか?」
淡「あるわけないじゃん」
京太郎「ですよねー」
あの状態で計画的に家出してくるはずもない当然のことだが、
暫く此方に淡が泊まるとしたら、寝床の確保が最優先事項であった。
須賀家には、女子を泊めるというイベントは特に在らず、
友人を泊めるとしても雑魚寝が基本であり、布団が必要などという
デリケートな問題に直面したことはほぼ無いに等しかった。
京太郎「とりあえずは、親父たちの寝室に寝てもらうか」
淡「いやっ!」
京太郎「っつっても、他には俺の部屋くらいしか」
淡「そこでいい」
京太郎「………じゃあ俺はこのソファで寝るわ」
淡「なんでー!」
京太郎「ああもう面倒臭いなあお前!」
一部問題を除いて、淡は調子を取り戻してきている。
その事実にほっと胸を撫で下ろしつつ、説得を再開した。
-
見直したら割りと誤字ありますねこれ
推敲不足のガバガバ文章恥ずかしい…
とりあえず中途半端ですがまた夜ごろに更新します
-
やりますねぇ!
無理せず続けてくれよな��頼むよ��
-
はー(クソでかため息)こんな娘と知り合いたいけどなぁ俺もなぁ
-
他人は親の寝室で寝かそうとするのに自分は寝ないのか(困惑)
-
京太郎「で、結局一緒に寝たい、と」
淡「………うん」
京太郎「なるほど」
淡「いいのっ!?」
京太郎「駄目」
淡「なーんでー!!」
地団駄を踏んでいる。可愛い。が、やはりそれは年齢相応ではない。
というのも、その行為が齢十五にしては情けないというのもあるのだが、
地団駄を踏むたびに、ブラをつけていないであろう胸が躍動していて、どうも目のやり場に困る。
京太郎「っ……、お前さあ、普通に考えてみろよ。いい歳した男女が二人同じベッドに寝るってさあ」
淡「いいじゃん、兄妹なんでしょ?」
京太郎「あのなあ」
男女七歳にして席を同じゅうせず。自分達は親しい間柄ではあるが、それ以前の問題。
男と女であることの自覚が必要だ。だのに、駄々を捏ねられても困りものである。
それ以前の問題として、自身が何もせずに淡と同じ寝床を共にする自身がないというのも
この拒絶の一因ではあるが。
淡「分かった」
京太郎「ごめんな、こればっかりは」
淡「サキに言ってやる。お兄ちゃんに●●●されたって泣き付いてやる」
京太郎「……お前今あいつん家に連絡できるのか?」
淡「ぐっ……やるじゃん」
-
淡「ねえ、どうしたら一緒にいてくれるの?」
淡「……ねぇ、お願い」
急に声色が低く、無機質な感覚。
確か、あの夢の中で聞いたのと同じような――。
本来の淡とはそもそも根本的に異質な感覚に背筋が冷える。
京太郎「お、お前」
淡「知ってるよ。ずっと私の身体チラチラ見てたから」
眼つきが鋭くなる。この目に確か見覚えはあった。
雀卓でいつも淡が調子に乗るときはこういう顔をしている。
――気圧すつもりか、こいつ。
淡「なんでもしていいし、なんでもしてあげるから、傍にいてよ」
その豊満な柔らかさを小さい背丈ごと押し付けて、背中まで腕を絡めてくる。
脇腹に服越しの乳房が空気の抜けたボールのように拉げて、幸福的な温かさに包まれる。
京太郎「お、おい。冗談にしちゃ度が――」
淡「冗談じゃないよ。分かってるでしょ?」
京太郎「ああ……もう!!」
迸る性的欲望に堪えきれず、乱暴にソファへと淡を押し倒す。
淡「きゃっ!マジで!?」
重力に引っ張られる二人の身体が低反発のクッションへと押し付けられて、
ソファのスプリングが軋む音が響いた。
-
京太郎「もう容赦しないからな。妹とか関係ねえ」
鼓動が激しくなる。血縁的にも法的にも他人であるはずの淡を押さえつけている。
抑えつけていた感情をむき出しにして、妹分を「女」として今ハッキリと意識している。
了承は得ている。彼女は何をしたって構わないと言うのだ。遠慮する必要はない。
善悪という概念を取り入れてしまうならば、今まさに彼は自身が悪であることは分かっていた。
腹這いの悪魔に唆され、善悪の知識の果実を口にしてしまうエヴァそのものであった。
だが、皮肉にも追われる楽園も、与えられる神罰もない空間において、彼は最強であった。
……だのに、緊張で身体が動かなかった。
淡「どうしたの?……弱虫」
京太郎「うるせぇ」
抑えられた両腕のおかげで無防備にさらけ出された身体を見渡す。
女性の身体である為やはり華奢だが、和より一回り小さいくらいのそれが目に留まる。
重力に潰されようと大きさを維持する双丘の上には、うっすらと突起が浮き出ていた。
思わず生唾をのんでしまう。今まで画面越しにしか見ることの無かった女性が目の前にある。
未だ性の経験さえ匂わせていないような純粋無垢なそれに昂奮が助長される。
声もかけず、風情もなく、ただ好奇心と欲望に乳房に手を伸ばし
掌を押し付けて、恐る恐るゆっくりと押し出すように体温に触れた。
淡「んっ……」
きゅっと目を瞑り、それを受容しようとしている淡の身体はどうも強張っている。
緊張しているのは自分だけではないらしいと思うと、少し安堵に気が落ち着いた。
初めて触れる乳房の柔らかさを漫画や映像媒体の見様見真似で揉みしだく。
想像するより柔らかくはないが、触れるたびに面白いほど形を変えるそれに夢中になる。
-
淡「あ、…う、うぅ……」
弱気な悲鳴が密かに漏れたが、聞こえない振りをして、Tシャツを捲り上げる。
ゆっくり、ゆっくりと柔肌が露出していき、布地が乳頭に引っかかって止まってしまう。
淡「ひっ…んぅ、……」
顔に恐れが出ていた。少し哀れに思えたが、この性衝動を抑えられるはずもなく、
無理やりに布端を引っ張り上げると、ぷるんと震えて生の乳房と、綺麗な桃色をした乳頭が露になる。
肌理細かく白い肌が、不安気な吐息を漏らすたびに微細に動いている。
今まで見たことの無かった天然の少女の裸体に思わず、綺麗だ。という感想が漏れた。
淡「……ありがと」
顔を赤くして、上目遣いで甘えるようにお礼を言ってくる。
想い人の和の幻想を頭の中から消し去るほどに強烈な未確認の感情が頭を支配する。
その感情が、今にも彼女と繋がりたい衝動を思わず、荒くなる息を抑えながら、直にそれに触れてみる。
あまり、昂奮はしていないのだろうか、乳房から伝わる胸の鼓動は思ったほど脈打ってはいない。
それでは面白くないと思い、手を乳房に埋没させるように握り、鋭く突き出した乳房に口を近づける。
淡「やっぱり、みんな同じなんだ」
――今なんと言ったのだろう。
-
淡「皆、おっぱい好きだよね」
小馬鹿にしているのか、不安な表情から搾り出された
軽そうな声色に視界の色彩が反転したような衝撃を覚える。
京太郎「それって、どういう……」
淡「言葉通りよ」
気持ちが一気に萎えた。その言葉の意味がどういうものか、理解してしまった。
或いは曲解かもしれないが、一旦想像してしまうと、遣る瀬が無くなる。
最悪の妄想。淡が見知らぬ誰かと肌を重ねている、胸糞の悪い光景。
京太郎「はっ……、そういうことか」
途端に、淡から離れて乱れた服を元に戻した。
別に、恋人でもないのにどうしてここまで劣悪な感情を抱く必要も、
虫唾が走ることもないはずなのに。
淡「……お兄ちゃん?もういいの?」
京太郎「ああ」
そうか、これほどの容姿やスタイルを持っているんだ。
火遊びの一つやふたつは珍しくないことだよな、と
考えが悪い方向へと深みにはまっていき、身体の芯から自分が黒くなっていく気がした。
淡「一緒にいていい?」
京太郎「……勝手にしろ」
そうやって、冷たく言葉を吐いて、辛く当たってしまう。
彼女を責め立てる道理はないのに、激しく苛立ってしまい、
自分の精神的不安定さと身勝手さに心の中で舌打ちをした。
-
中途半端とは言っても、淡に手を出してしまったのは事実であった。
約束を違えると何をされるか分からない上に、それでは気持ちが悪い。
ここは彼女の望みどおりに行動する他選択肢はなかった。
背中に糸がくっついて、自分の後をずっとついて回るような嫌悪感に
進む足を早くさせながら、自分の部屋へと向かった。
後ろをついてくる淡は終始ご機嫌であった。
スイッチで切り替わったような奇妙と思えるほどの表情の変わり具合と
先程とは印象の変わった彼女の声を意識しながら、ドアを開いた。
京太郎「やっぱり、一緒に寝るのか?」
淡「うん……だめ?」
あどけない顔立ちと甘え声に、それでも妹なんだ。
という今更ながらの意識が再び芽生え、仕方なしと溜息をつくと、ベッドに彼女を迎え入れた。
どうも、そのまま寝かせるのも居心地が悪いので、枕をゆずってあげる。
淡「ありがと……、さっきからずっと静かだけどどうしたの?」
京太郎「んなこたねぇよ、寝てしまえ。明日は嫌でも来るんだぞ」
淡「……うん」
電灯の紐を引っ張るとカチッと音を立てて一気に視界は真っ暗になった。
-
辺りはほぼ黒一色で、音と言っても、布団の布が擦れる音と
彼女の吐息や満足そうに零れ出る幼い声だけが存在する静かな空間。
非日常的な現状に眠気が来るはずもなく、考えていることしか出来ない。
とりあえずは、明日、照と接触をして、起こっている実際を確認することが先決だと考えた。
ともあれ、彼女と顔を向かい合わせているとどうしようもなく、複雑な感情が込み上げてしまう。
そう考えて、反対側へ寝返りを打つと、じわじわと淡が近寄ってくる。
やがて、胸を押し付けるようにぎゅっと抱きついてくると、喉をゴロゴロと鳴らすようにしていた。
淡「んふー……」
京太郎「(まるで猫だな)」
猫にしても凶悪度は遥かに高い。萎えたはずの欲望が本能に奮い起こされてしまい、僅かな眠気さえ吹き飛ぶ。
こうなってしまっている現状や、先程のことを考えてもも、自暴自棄に彼女を襲わないところを考えると、
案外彼女に対する「妹」に対する庇護感はもう心の中では大きくなっているんだという自覚が出てきた。
――そう、妹でいいんだ。それ以上を考える必要はない。
自ら、密かに芽生え始めていた彼女への気持ちに蓋をした。
ひっついてきた淡は、すぐに安心をしたのか。早くも寝息を立てていた。
どんな状況でも反応してしまう男性本能と、淡の態度に憎らしさを覚えながら、夜は過ぎていった。
-
結局連絡入れてないのか(困惑)
-
色々な意味で切ない
-
最悪な妄想は苦しくなるからヤメロぉ
-
まあそう考えちゃうのは自然だなぁ
-
気づくと、また暗闇の部屋にいた。もちろん、隅には、居た。
いつもの見慣れた体勢で、しくしくと声を殺して泣いていた。
また同じ光景を見ないといけないのか。
いい加減、泣き続けている淡を眺めるが気の毒で心が締め付けられる思いがした。
ふと、気づいた。今までとは違い、傍眺するのではなく、身体の自由が利くようだ。
なんとかしてあげられるかもしれない。小さくなっている淡に近づくと何かを喋っていた。
「お願い…お願いだから……見捨てないでよぉ……」
やっと、彼女の言っている事が全て分かった。
けれどもその言葉が何を意味しているかは分からなかった。
ただ、何らかの因果があって寂しそうにしているのは十分理解できた。
とりあえず自分が傍にいるべきだと理解して、隣に座り込んだ。
「……グスッ…ぅ、えっ……?だ、誰?」
どうやらこの淡は自分のことを知らないらしい。
そういうことならば出来る限り寂しくないように接してみよう。
現実の淡は兄と慕ってくれているから、その通りにしてはどうだ。
割かし安直な考えだが、今はそれが妥当なラインではなかろうか。
京太郎「お兄ちゃんだ」
「お兄ちゃん?」
京太郎「そうだよ、知らなかったのか?」
「お兄ちゃんなんていたことないし……」
京太郎「そっか、じゃあ今からお兄ちゃんだ」
「なにそれ」
-
京太郎「なあ、ところでどうして泣いてるんだ?」
「分かんない。けど、なんか寂しいよ」
京太郎「ありゃりゃ。明確な理由があるわけじゃねえのか」
「うん、ただ…みんな私から離れて行く気がして……」
京太郎「みんなって?」
「知らない」
京太郎「なんだそりゃ、よく分からねぇなぁ」
「……ごめんなさい」
京太郎「別にいいよ。知らないならしゃあないわな」
「怒らないの?」
京太郎「知らないことを怒ったってなぁ」
「嘘ついてるかもよ?」
京太郎「嘘ついてんのか?」
「……ううん」
ポツリポツリと合間をおいてゆっくりと会話をしてみると
どうやら何も知らないのに寂しがって泣いていたらしい。
泣き腫らした不恰好な顔で、こちらの表情を伺いながら恐る恐る言葉を
絞り出しているみたいでまるで何かに怯えながら喋っているように見えた。
-
淡に対して形容し難い気まずさを感じていたはずが不思議と居心地が悪いと感じることもなく
黙ったまま、淡に寄り添っていつ終わるか分からない時間を過ごしていた。
安堵感、ずっと浸っていたくなる空気に包まれたここは、まるで微温湯にいるように錯覚させられた。
―――居場所。
ふと、そんな単語がふわっと水泡のように自己意識へ浮かび上がる。
そんなことを考えていると、何もないはずの壁からドア状の隙間が現れ、
眩しい光が差し込んで、部屋一面が照らされた。
見回すとコンクリートのような無機質な壁に硬いマットレスの敷かれたベッドだけがこの部屋にある。まるで監獄だ。
「…っ、いやっ、眩しい……っ!!」
淡が光に目を晦ませながら、異常に光を恐れるように腕で目を覆っている。
この部屋に光が無いだけで、目が慣れればさほどその光は眩しくはなく、自然光と変わりは無い。
京太郎「(あれは、出口か)」
直感で理解した。
この部屋からあちらへ跨げば夢から目覚める。あれはそのためのこの世界からの出口であると。
だが、淡を残して出て行くことは今の自分には到底出来ることではなかった。
京太郎「行くぞ、淡」
「も、もしかして外にいくの?」
京太郎「ああ、一緒に行こうぜ」
「いやっ、こわい……。行きたくない」
京太郎「まずはやってみないと分からん」
「で、でも、むりっ、やだっ。あっちいけっ」
京太郎「ははっ、そんな言うなって。嫌だったらすぐに戻ってくるといいさ。ほら、手ぇ繋いでやるから」
「…………分かった」
暫く逡巡していると、ゆっくりと頷きながら返答して
手を差し出すと、震える手を恐る恐る突き出して強くぎゅっと腕を捕まえてきた。
京太郎「よし、上等!ほんじゃ、行きますか」
淡の手を引き上げながら立ち上がると、歩幅を合わせてゆっくりと出口に向かい
外の世界へと一歩足を踏み出した瞬間、自分の意識がうっすらと消えていき――
-
京太郎「……朝か」
明晰夢という奴なのだろうか。肌の感触や人の体温、とどのつまり五感全てが働いていた気がする。
そもそも元より備わっている記憶を以って夢の世界が構築されるのであれば、あんな機械的というか
無機質というか、よく分からない空間にいた記憶が一度でもあるというのだろうか。
自問自答を繰り返しているはずなのにそれさえも禅問答染みている。
京太郎「難しい事考えるのは向いてねえっつってんだろ……」
人というのは案外どんな状況でも眠れるものらしい。
京太郎は、意識の覚醒と共に自分が淡の抱き枕にされていることに気づいた。
淡「んぅ…ふふー、お兄ちゃ……」
なるほど、抱き枕にされる方も案外寝心地がいいものだな、と寝ぼけ頭で考えながら
事の異常さに気づいて、淡を起こさないようにゆっくりと彼女の支配から逃れる。
寝相のせいか彼女の乱れた服から、桃色の突起が露出していてどうも精神衛生上よろしくない。
京太郎「(やっぱダメだわこれ。こいつ早く咲の家に帰さないと)」
ベッドから窓の方を見てみると、窓帷が白い光が当たって、部屋の中を薄明るくしている。
今の時間を確認するために自分の携帯を探しているとベッドの方からバイブレーションの音がした。
淡「ん゛ん、……んああ……触るなぁ……」
どうやら淡の下敷きになっているらしい。
寝返りを待っている間に遅刻をしては元も子もない。
少し、気が引けたが、淡を丸太のように転がしてやる。
淡「んぉおあっ……、んふっ……」
一々反応が面白い、が、構っているうちに目を覚ませばあらぬ誤解を受けかねない。
颯爽とお目当ての携帯を手に取ると、一歩退いて距離を開けた。
-
京太郎「さてさて」
携帯を視ると、驚愕した。時刻は6時40分。ただそれは全く問題は無い。
驚くべき要因は他にあった。
着信履歴とメールがそれぞれ数十件。送り主は全て「宮永 咲」となっている。
京太郎「おいおい……、いつからあいつはヤンデレになったんだ……」
冗談はさておいて、昨日淡が自宅を訪れてから
一回も携帯を確認していなかったことを思い出す。
京太郎「あっ……やっば」
慌ててSMSを開き、咲に丁寧語でメールを送る。
京太郎:今お時間よろしいでしょうか
送信してから数秒、すぐに電話がかかってきた。
画面上にはやはり「宮永 咲」。
小刻みな振動を片手に淡を一瞥した。
ここで電話をするのはあまりよろしくなさそうだ。
廊下へ場所を移してから、着信ボタンを押した。
咲『京ちゃん!!』
京太郎『ひゃ、ひゃい!』
咲『淡ちゃんそっちにいる?っていうか何で電話出なかったの!?』
京太郎『やっ、止むに止まれぬ事情がありまして……』
咲『嘘つき。どうせ忘れてたんでしょ……』
京太郎『……ごめんなさい。忘れてました』
-
咲『それで!淡ちゃんは「お兄ちゃん」の家にいるのかな!?』
京太郎『おう』
咲『よかったぁぁぁぁ……』
直後、ガサガサというノイズ音の後、咲の慌てるような声。
向こう側で、慌てて照が電話を奪い取ったような言い合いが聞こえたが
当然であるが、それほどまでに淡の家出は
宮永姉妹に甚だしい不安を与えるほどの出来事であった事が伺える。
照『もしもし、京ちゃん』
京太郎『あ、どうも』
照『まずは淡を預かってくれたみたいで、ありがとうございます』
京太郎『あ、いえ』
照『あと一つ』
京太郎『はい』
照『何で教えてくれなかったのかな』
モニター越しに殺意のようなオーラが溢れる。
思わず耳元から携帯を離して、恐怖に身体を震わせた。
京太郎『ご、ごめんなさい。あ、あまりに緊張しちゃって、つ、つい……』
照『緊張……?まあいい。とりあえず学校で話聞くから、淡も連れてきて』
京太郎『あ、……はい。連れてこれたら』
照『…?とにかく、よろしくね』
-
電話を終えて部屋に戻ると淡はまだ穏やかに寝息を立てていた。
時刻はもう7時を回りかけていた。起こさなければ遅刻は必死だろう。
京太郎「おい淡、起きろ!朝だぞ!」
肩を揺すってみる。
淡「んんー!……っさい……」
不機嫌そうにうなり声をあげて抵抗する。
仕方ない。頬を指で突っついてみよう。
淡「んぃ…んんー……んんゃああ……」
下世話にも、昨日感じた柔らかな弾力と負けず劣らずの柔らかさを感じる。
つい面白くなって、突っついていると寝返りを打った。
京太郎「起きねぇなぁ!こいつ!」
淡の眠りへの執着のあまりの頑固さに京太郎は腹を立たせる。
仕方ない、と呟くと最後の手段を敢行するために腕を捲り、
淡の脇腹に爪を立てるように手を置くと、指を自由自在に動かして少し強めにくすぐり始めた。
淡「んおお!…んあぁ、ん、くふっ…う、ふふふっ、や、やめてぇ…!起きるから!あ、んぅっ、は、…ぁっ!」
笑い声を上げて、身体をくねらせながら、刺激から逃れようとしている。
声の覇気から察するに、狸寝入りをしていたらしい。これは許されるはずもない、とくすぐりの刑を続行する。
淡「んっ、ぅん!た、たしゅ、たすけて!ゆ、許してぇ!寝たフリは謝るからぁっ…、んっ、ふぅ、は、ぁあんっ!」
淡「や、は…ぁんっ、あっ、んぁっ、だ、ダメ……ダメになっちゃうからぁ、も、本当に、ぅんっ、や、やめっ、んん……っ!!!」
笑っていた声が艶かしい声に変わっていき、ビクン、ビクンと脈打つように身体を跳ねる。
流石に異常だと察知した京太郎は、くすぐるのをやめると、糸が切れたように身体の動きが止まった。
京太郎「ご、ごめん。淡、大丈夫か?なあ、おい」
顔を覗くと顔が真っ赤に上気し、涙目になりながら唇からは甘い吐息が漏れていた。
恨めしそうに京太郎の方へと睨むと、息を整えて文句を言おうと眉間に皺を寄せた。
淡「ばかっ!えっち!変態!ごーかんま!」
京太郎「わ、悪い。ど、どうかしたのか?具合悪いなら見せてみろ」
淡「煩いばか!聞くな!やめろっていったときにやめてよ!……もう、ばか、あほ、デリカシー皆無男!!」
淡の平手打ちがクリーンヒットした。性格な軌道で頬を捉えた小気味のいい音を立てる。
視界が弾けて、吃驚したことから、そのまま冷たい床に尻餅をついた。
-
なんとか、正座をさせられて説教を5分ほど受けていると、僅かに機嫌が直った淡は
ようやく京太郎を解放して、一日が漸く始めることができた。
素早く着替えを済ませると、早々に自室からの立ち退きを要求された京太郎は
渋々居間へ移動すると、昨日のスープの残りを温めつつ、パンをトースターにセットした。
食事の準備が終わる頃には、白糸台の冬服に身を包んだ淡が恨めしそうな顔で登場した。
淡「……ご苦労」
固く冷たく声を発すると、席に座って此方を見上げてきた。
どうやら、一緒じゃないと食事はとらないらしい。
京太郎「(そこら辺は律儀なのね)」
席に座ると、いただきます。を言い、手早く食事を済ませた。
掛け時計を見上げる。時刻はもうそろそろ家を出ないと危ない時間であった。
戸締りを済ませると、少し外に出るのを嫌そうにする淡を目にした。
ふと、夢の最後を思い出した。あの時は確か…………
京太郎「ほら、行こうぜ。照さんとは話つけてやるから」
手を伸ばして、引っ込めている手を握ると、あの時と同じようにコクリと頷いた。
淡「……うん」
寝起きに失った信用はどうやら取り戻せたようだ。
ほっと安心感も束の間、ドアを開けると、玄関に一陣の風が舞い込んだ。
外を眺めると緑を彩っていた木々は寒そうに肌を露出させている。
雲が穏やかに流れる空も、今は寒そうに見えた。世間はもう冬を迎えようとしていた。
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とりあえず一区切り。書き溜めが出来れば随時続き乗せていきます。
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乙ゥ〜
MUR筆早いっすね…
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決めた筋書き通りに書きなぐって、ご指摘も潤滑油にさせていただいておりますので
なんとかこのペースでやれてます。
設定や情報に矛盾や齟齬がよく出ちゃったり、書き方が冗長になるので苦しいですが、何とか駆け抜けます。
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擽りとか俺の好みにどストライクでイイゾー
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待ちきれないよ、はやくだしてくれ!
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結構グダグダしてアレですけど続きあるとこまであげた方がいいですかね?
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僕はそちらのほうがいいです
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門の外へ出てしまえばいつもの淡に戻っていた。気持ちを切り替えられたのだろうか。
他愛もない雑談を交えながら歩いていると、気づけば高校に辿り着いていた。
二人でいれば時間が経つのは早いもので、いつもより高校までの道程が短い気がした。
淡「意外と早く着いたねー」
京太郎「そうみたいだな」
という風に顔色を窺い話しかけてくるのはどこでも同じようだ。
昇降口までの道を歩いていると、淡のクラスメイトらしき女子が
此方を見つけて手を振っていた。
淡「あっ、じゃあまたね」
と、淡はすぐさま京太郎の傍から離れ、親しげに会話をしながら並んで歩き出す。
淡と違うクラスである京太郎は、束の間の別れを嫌がる事を懸念していたが
どうやらそれも杞憂に済む。案外、外面は聞き分けが良く、人に対しての言葉の使い分けも巧みであった。
だが、以前考えていた人の内側に入りやすい彼女の世渡り上手な性質は天然ものではなく、
彼女が自分で身につけたような「生きるための術」だと考えた。
淡の後姿を見ていると、心がもやもやしている自分に気づいた京太郎は
得体の知れない―と思い込んでおこう―溢れ出しそうになる自分の想いを必死に噛み殺していた。
ともあれ、心配は一つ消えた事には違いない。
京太郎は僅かに安堵を感じると、で自分の教室へと向かった。
-
午前中の休み時間、3年の教室が並ぶ階層へと足を運んでいた。
受験を控えてピリピリしている上級生ばかりで、殺伐とした雰囲気に
人並みの小心さを持つ京太郎はその空気に圧されそうになっていた。
照「京ちゃん?」
都合が良かった。教室を訪ねる前に遭遇できたようだ。
用事があるのはあちらも同じ出会った為、ツカツカと足音を立てて近寄ると
人気のない踊り場の方まで手招きをされて誘導させられた。
京太郎「丁度良かったです。教室に入るさえ無理だろって思ってたんで」
照「そう、そんなもんかな?ところで淡はどこ?」
京太郎「多分教室じゃないですかね。とりあえず学校には出てきてますよ」
照「なら良かった」
京太郎「あの、淡言ってましたよ。テルーの家にいられなくなった、って」
照「……、うん」
京太郎「何か、喧嘩したか、照さんが叱ったんじゃないかなって思うんですが」
照「あの子私のプリンを勝手に食べちゃって、私の、私の大事な……っ!!」
無表情な顔に不穏な昂ぶりが少し混じり、眉根を寄せている。
憤慨しながらも、怒り以外の複雑そうな表情を見せている。
お互いに何かあった事は確かだが、淡の事を考えると何故か
気持を逆撫でされて、京太郎は何か一言言わないと気が済まなかった。
-
京太郎「だからって、大泣きして家出するほど追い詰めるのはどうかと思いますよ」
照「ご、ごめん。お菓子のことになると、つい」
怒りの表情が一気に青ざめる。どうやら余程のことをやらかしたらしい。
京太郎は、この宮永照という女性がここまでオロオロとしている表情を初めて見た。
だからこそ、それほど照にとって淡が重要なのだろうという事と
自分に責任を感じている照の心情が十二分に伝わってきた。
京太郎「心当たり、あるんすね」
照「うん、その……ついカッとなって。今では悪いと思ってる。ごめんなさい」
京太郎「それはあいつに言ってやってください」
照「もちろんそうする。あの、私が聞く資格は無いかもしれないけど、淡はそっちでどうだった?」
京太郎「孤独を嫌がるっていうか、拠り所がないみたいに怯えるっていうか。とにかく子供みたいで酷いってもんじゃない」
照「そ、そんなに……」
淡は子供みたいなところはあるけど、そんな軟な子じゃないはずなのに、」
京太郎「だからこっちも驚いてるんですよ。兎に角、何をしてでも一人になりたくないみたいで」
照「何をしてでも?……何したの?」
京太郎「ま、まあそれはとにかく、一体何したんです。場合によっちゃ俺も怒りますよ」
照「それは―――」
-
〜〜回想〜〜
照「冷蔵庫のプリン食べたのって淡かな」
淡「そだよー、美味しかったー。テルーが買ってきてくれたの?ありがとー!」
照「…………………はぁ」
淡「えっ、どうしたの?」
照「何で、一言も私に聞かなかったのかなぁ」
淡「で、でも、三つあったし―――」
照「買い置きしてたんだよ」
淡「(嘘でしょ、や、やばい!●されちゃう…!)」
淡「あ、あははは……。で、でもいいじゃん。三つあるんだから、テルー、サキ、私で分ければ」
照「高かったよあれ。一つ800円はするし」
淡「は、はっぴゃく……」
照「まあ、事前に言ってくれれば淡にもあげたよ」
淡「ならいいじゃん。事後承諾、事後承諾!」
照「淡、……ちょっと長野に来てから浮つきすぎだよ」
淡「ごめんなさい」
照の怒りも尤もであった。淡はそれが分かっていたため
しゅんとして小さくなり、ぷち反省をしながら頬を膨らました。
冷静になって考えてみれば、部室でも優希と喧嘩をして雰囲気を悪くしていたし、
迷惑になるほど過度に馴れ馴れしくしていたかもしれない。
-
照「家でもそうだけど、京ちゃんにも迷惑かけてるよね、淡」
淡「そ、それは、きょうt―お兄ちゃんが」
照「お兄ちゃんって言ってた方が無難に近くに居れるし、離れずにも済むよね」
淡「!!!な、なにっ!?テルーは何が言いたいわけ……?」
図星であるのが丸分かりのように表情険しく狼狽する。
簡単に自分の本心を悟られるのが、踏みこまれるのがたまらなく嫌で心が掻き乱された。
わざと心を乱すために言ったとしても、それだけは軽く言われたくなかった。
自分のひた隠して、ずっと居心地のいい場所に居続けて、自分自身も誤魔化し続けた想いが
今無理やり引っ張り出されて表面化される感覚。一指纏わぬ素っ裸の状態。
何より、そんなことを照に言われたくないし、言われるとも思っていなかったから
余計に羞恥と、恐怖と、怒りが滲み出てしまっていた。
照「弱虫になってたらいつまで立っても変わらないし、浮き足立って周りを振り回すだけだよ」
淡「そ、そんな、人の気持なんだから私の勝手じゃん!テルーに言われたくないよ!」
照「あんまり周りに迷惑かけるなら、私もう淡とは口利かない。絶交するからね」
淡「なんでぇ…!何でそんなこと言うの?そこまで言う必要ないじゃん!」
照「プリンにしてもそう、白糸台のときは出来てたのに、京ちゃんと関わってダメになってたのかな、だったら――」
淡「やめて!いいよ、もう。テルなんか…「宮永先輩」なんか……!!だいっきらい!!!」
顔を真っ赤にして、肩を震わせている。瞼に溜まった大粒の涙が溢れ、涙の筋が一つ、二つ、線を描く。
大声で照への嫌悪を口にした後、ハッとした表情になった淡は口元を押さえて嗚咽を抑えながら、外へ全力で駆けていた。
淡の後姿を見て照は自分の血の気が引いていくのを感じた。
また、お菓子が原因で、人と仲を拗れさせてしまった。
けれども、これは仕方がない、淡に叱ってあげないといけなかったんだ。
そうやって自分を正当化しようとしても、張りぼての自己防衛は後悔が押しつぶしてしまう。
照「(や、やっちゃった!どうしよう!淡が出てっちゃった)」
その後、泣きながら路地を走る淡を目撃した咲から電話がかかってきた照は
こっぴどくお叱りを受けたため、顔には出ていないが、今に至るまでずっと気持を落ちこませていた。
〜〜回想終わり〜〜
-
照「ということがあって……」
京太郎「(この場面であいつの本当の気持ち聞きたくなかったよ……)」
京太郎「ゴホッ、ゴホン!なるほど。控えめに言っても言いすぎですよね」
照「や、やっぱり?」
京太郎「と言いたいところですが、喧嘩両成敗ですかね」
京太郎「お互い話し合って、謝って丸く収めましょうってことで」
照「許してくれるかな。すごい酷いこと言ったんだけど」
京太郎「はっきりとは言えないけど大丈夫だと思うけどね、あの様子だと」
照「……頑張ってみる」
暫く会話していると予鈴が鳴り、遠くに聞こえていた廊下の喧騒がぽつぽつと減っていく。
最後に何か言いたそうにしている照がもじもじとしている。
京太郎「ほんじゃま、昼休みに部室に居てください、あいつは連れてきますんで」
照「あの、京ちゃんごめんなさい。ありがとう」
京太郎「いいってことよ!それに二人が仲悪いと部活も滞るんで、部員として当然の事だろ」
照「なんか生意気だね、むかつく」
京太郎「えぇ…、理不尽。ま、とりあえず俺なりになんとかやってみますわ」
照「お願い」
京太郎は、お菓子が原因で仲違いしてたっていう咲と照の事を思い出していた。
どうやらあの人には並々ならぬお菓子への執着があり、今回の件もそれが原因で起きたわけで。
それは兎も角として、緊急時の淡の性格の変貌について今一度思い出していた。
孤独を嫌い関係を保持するためなら身体も惜しまない、まるで夜鷹であった。
男性をステレオタイプに一口で語ってしまう別人のような姿。
恐らくそれは経験があるから言っているのだという己の推量。
だというのに、今までずっと兄という言葉で
気持をごまかしつつ自分を慕い続けていた彼女の一面。
京太郎「(あいつは一体、何なんだ。どれも本当に本物なんだろうか)」
全てを「妹」という言葉で蓋をして思考停止するには心の容量が足りなすぎた。
抑え込もうとすればするほど、彼女の事を「妹」ではなく「女の子」として考えてしまう。
早くも兄失格であった。
-
あっ、とりあえず書き溜め終わりです。
今10分の4くらいなので、完結まで時間がかかりそうです、すみません。
-
ありがとナス!
-
ageるの忘れてました。
あと、金曜日まで進行ペース落ちると思います。
-
続きが気になる展開いいゾ〜
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>10分の4
マ?やったぜ。
-
早ければ明日の夜くらいから再開します
見直すと著しくキャラ崩壊してますね、これはひどい…
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SSなんてそんなもんだしへーきへーき
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age
-
今日中には続きなんやかんやします、遅れてセンセンシャル!
-
自分のペースで書いて、どうぞ
-
そうそう、自分のペースでどうぞ
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自分のペースでやろうとしたら怠けて何も進まないんだよなぁ…
-
淡のこと、そして、二人の仲直りの件がずっと頭から離れずににいた。
神妙な面で授業を受け続けていたおかげで知らずの内に各教師からの評価が上がっていたらしいであったが
授業内容なぞどこへやら。詰め込むものも一つとあらず、ずっと考えに耽っていた。
誠「―おい、おい!返事しろー。聞こえてますかー?」
頬杖をついていると、声が聞こえた。自分が呼ばれているのかと其方を見てみれば
友人である高久田誠がこちらを心配そうに見ている。
何のようだ、と声をかけると時計に指をさしている。
京太郎「あれっ、もう昼休みなのか」
教室は、あちこちで机をくっつけてランチョンマットを広げている生徒だらけであり
こうして何もしないでいるのは自分達二人だけであることに気づいた。
誠「やっと気づいたな。どうした、若いのに耄碌したか?」
京太郎「ちがわい」
誠「なら立てるだろ。さっさとしろ」
京太郎「あ、すまん。俺先約があるんだ」
誠「分かってるよ。あの妹ちゃんだろ」
京太郎「そうだけど、何で知ってるの?読心術でも持ってたっけ」
誠「いや、ずっと教室の入り口で待ってるからさ、お前に会いに来たんだろうよ」
言われて目線の先を見てみると、ニコニコと笑顔を浮かべながら手を振る淡の姿があった。
どうやらクラスメイトと天秤をかけられた結果、比重は此方に傾いていたらしい。
数分ほど待たせていたのに礼儀正しく待っていた様子を見る限り、かなり猫を被っているご様子。
それがかえって彼女の内心を顕しているようで苦笑いをして、手を振り返した。
京太郎「(文句の一つでも言われそうだな)」
京太郎「行って来るわ」
誠「おう」
-
予想通り、廊下を歩きながら、不満そうな面持ちで憎まれ口を二言三言言われた。
今回ばかりは自分に責任があるため、只管謝っているとすぐに淡の気持ちは落ち着いた。
本当の兄貴っていうのもこんな風に平謝りしているのだろうか。
いやそもそも実際はこんなにベッタリはしていないと思うが、あの話を思い出す限り
淡はそんな兄妹ごっこが居心地がいいのだから、それでいいのだろう。
しかし、所謂、「異性として」の好意抱かれているという事実を知ってしまった以上、
最早簡単に、今までやっていたような兄のような素振りも不自然になっていて、
接触されて初心な反応を見せる度に不思議そうな顔を淡はしていた。
これだけ自分はドギマギしてしまうのに、平然と表情を取り繕える淡をある意味恐ろしく思った。
以前は天然無自覚純粋無垢な小悪魔だと言っていたが、前言撤回。彼女は正真正銘の魔性であった。
こうやって、個人個人のナチュラルな距離感を意図的に認識して人に好かれるために仮面を被っている。
淡が人に好かれたり、すぐに距離を縮められるのもその絶妙なバランスを身を以って知っているからだ。
だからこそ、柳のような柔軟なスタンスの淡がすぐに激昂して幼子のような、形振り構わない状態になってしまう脆さが際立っていた。
孤独であっても、人はその実精神的な孤独ではない。というのに、何故そこまで必死に人間関係に執着して、実態的な孤独を恐れるのか。
その不安と恐怖を打ち消すために売女のような真似までしてしまうのか。
考えるたびに、淡には何か底知れぬ深い闇と、考えたくもない吐き気のするような過去がある気がした。
また、そんな下世話な妄想しか考えられない単細胞な自分を嫌悪してしまった。
淡「お兄ちゃん。顔コワイよ、柄にも無く!どったの?」
京太郎「あ、ああ。何でもないんだ」
淡「……ほんとかなぁ」
京太郎「ところで淡、聞きたいことがあるんだけど」
淡「なぁに?」
-
京太郎「照さんと仲直りしたくないか?喧嘩したって聞いたけど」
淡「ど、どうして知ってるの?えっ、何で……」
淡の足が止まり、訝しげな顔をしてこちらを見ている。
不味い、顔が幽かに嫌悪の色を示している。
だが、ここで退いたら絶対に尾を引いては碌なことにはならない。
なにより、淡の為にそうしてあげたいという気持ちが強く背中を押した。
京太郎「本人に聞いてきた。あっちもものすごい反省してるみたいだったよ」
淡「嘘。絶対嫌われたよ、私すごいイヤな事言っちゃったし、しちゃったから」
京太郎「大丈夫。ほら、て、手ぇ繋いでやるから。行こう」
淡は京太郎の顔を見上げた。目線を少し背けながら、顔をなんとか合わせて手を差出している。
手を差し出すそれに照れているけど、恥を捨ててでも自分を助けようとしてるのは分かった。
絶対に味方になってくれるその姿が頼もしくて、見た目より尚更魅力的にみえた。
この人なら、助けてくれるのかもしれない。
信用したい気持ちが気弱な手を伸ばして、自分より幾らも大きい手のひらの上に重ねさせた。
淡「(温かい)」
淡「(そうなんだ。やっぱり、私は……)」
都合の良い言葉で鍵をかけていた深奥の扉から飾気の無い気持ちが止め処なく流れ出した。
意識してしまうと、心臓の脈動音が速くなって、顔が熱くてフワフワするような、
走り出しそうな想いを大きく育んで淡い色が鮮やかに瞭然と色をつけていく。
寂寥感を一切感じない、陽だまりのような暖かさが淡の心の中を満たしていた。
-
続きはぼちぼち書いていきます
-
移動している最中は見知らぬ人とのお見合いよろしく二人とも妙に口数が少なくなり
勝手知ったるお互いの隣が今この世でもっとも心をざわつかせる場所になっていた。
意識しているのに見向きもせず、ただ妙に大きく聞こえる自分達の足音に耳を傾けるだけだった。
淡「ねえ、きょうt………お兄ちゃん」
淡「(ど、どうしよっ。今更名前で呼べないよ、どうすればいいのっ!?)」
相手が自分をどう想っているか、どう接すればいいかも今は手に取るように分かるのに
いざ今までとは違う呼び方をしようとしても、不安ではなく羞恥が言葉を喉で突っ返させた。
京太郎「ど、どうした?」
淡「………や、やっぱり全部終わってから言うね。今は言いたくない」
京太郎「そうか。じゃあ聞かないようにしとくわ、うん」
そのまま何も話さずにいると、一層際立ち気もそぞろになった空気を
大声で掻き消したくなるような衝動を覚えながら、平静を装いつつ、耐え忍び、部室前まで淡を先導した。
目的地が近づくにつれ照れ顔だった淡が恐れ戦き浮き足立つようになるのを見て、
浮かれてる場合ではない、彼女たちをどうにかするためにここに来たんだ、と気を引き締まった。
部室内に思いを馳せてしり込みをしている淡に声をかけた。
淡「…………」
京太郎「淡、大丈夫か」
淡「うん、思ったより平気みたい。お兄ちゃんの言ったとおり、仲直りしたいのは両方一緒かなって考えるとね」
京太郎「ははっそうか」
淡「なんて、素直ないい子ちゃんは私には似合わない?」
京太郎「んなこたねえよ。ほら、ちゃんと話つけてこい」
覚悟を決めた淡はやけに重苦しく感じる扉の前に立つとギィと音を立ててそれを開いた。
開けた時にすぅっと抜ける風を感じた。開けた窓の際に外を眺める照の姿があった。
淡「一人で大丈夫だから。お兄ちゃんは先に戻ってて」
京太郎「おう、分かった」
-
扉越しにくぐもって、言語として聞き取りにくいほどぼやけた会話が聞こえていた。
淡が心配でそこに立ち止まっていた京太郎は、嫌な汗が背中を冷たく伝うのを感じていた。
――直後のことであった。
淡『こ゛め゛ん゛ね゛ー゛テ゛ル゛ー゛!!』
涙目で顔を真っ赤にして声を張り上げる彼女の声がくっきりと脳裏に浮かんだ。
愁眉を開く思いと子供的な素直さに滑稽を感じて、笑い声を微妙に漏らしながら、京太郎は部室を後にした。
旧校舎の入り口まで出て行くと、咲と遭遇した。
咲「京ちゃん。どうしたの?嬉しそうな顔して」
京太郎「ああ、ちょっとな。咲、今から部室か?」
咲「えっ、うん。そうだけど……」
京太郎「今あそこは都合が悪ぃや。学食にでも行かないか?何か奢るからさ」
咲「いいの?幼馴染だからって遠慮しないよ?」
京太郎「……咲は多少の容赦はある優しい子だからなぁ」
咲「ふふっ、なにそれ。まあいいや、詳しい話はあっちに行ってからにしよっか」
京太郎「なんだお見通しかよ」
咲「そりゃあね」
-
ブランク中ですがプロットはあるので必ず完結させます。
待っててくれよなー頼むよー
-
待つことには慣れてます
-
京淡ほんとにスコ
-
ほんへでも是非何かしらで絡んでどうぞ
-
京太郎「――ってなわけだ」
昼休みも半ばだったということもあり軽食に手をつけながら
昨晩から今に至るまでの事情を淡に手を出したことを除いてその一切を話した。
咲「ふーん、そうだったんだ」
咲「経緯についてはなんとなく分かってたけど、……ふーん」
京太郎「な、なんだよ」
咲「聞く限りじゃあ、優しいお兄ちゃんみたいだなあって」
京太郎「本当にな。言葉にしてみると自分でもそう思うわ」
京太郎「けど、柄にもないことをすんのはやっぱ疲れるわ」
咲「そんな事ないと思うよ?京ちゃん何だかんだお人よしだから」
京太郎「そうか?」
咲「そうだってば」
心を見透かすような不自然に莞爾として笑顔を浮かべる。
思わずその得体の知れなさと威圧感に狼狽してしまう。
京太郎「!?ゲホッ!ゴホッ!な、何だよその顔は」
咲「うわっ汚い」
京太郎「お前が変な顔するからだろ…」
咲「ごめんごめん」
京太郎「まったく、本当にお前は咲か?」
咲「私以外の誰が私なるの?よく分かんないよ、京ちゃん」
京太郎「俺は今お前がよく分からないよ、咲……」
-
咲「京ちゃんさあ、淡ちゃんがお姉ちゃんと仲直りできて嬉しいんでしょ?」
京太郎「ええっ、何だお前エスパーか?」
咲「だってぜんぶ顔に出てるもん。分かりやすいよねぇ、京ちゃんって」
楽しそうにケタケタと笑う咲を見て、不安の余韻と喜びで荒く波立つ心が穏やかになっていく気がした。
幼馴染といる時間は斯くも落ち着くものらしい。一区切りして気持ちを切り替えるために溜息をつく。
京太郎「なーんか変わったなぁ、お前」
咲「そうかな?」
京太郎「そうだよ」
咲「うーん、だとしたら、お姉ちゃんと仲直りして淡ちゃんと暮らして」
咲「それで、京ちゃんみたいにちょっぴり『お兄ちゃん』…じゃなくて『お姉ちゃん』になったのかも」
京太郎「なんだそりゃ」
京太郎「まあ、咲が前向きに明るくなったんならいいんじゃねえ?」
咲「そうだね、ありがとうお兄ちゃん」
京太郎「お前もか。やめろ鬱陶しい!」
咲「ごめんごめん…あっ、そうそう、知ってた?淡ちゃんとお姉ちゃん、東京でもよくに喧嘩してたんだって」
京太郎「そう、……なのか。そりゃまた大変なこったな」
さぞやチーム虎姫の面子は胃を痛めただろうと苦笑を顕にする。
家出するほど厄介な喧嘩を複数人で二人を仲介して仲直りさせている情景が優に浮かんだ。
自分に『いつものこと』にただ巻きこまれていただけという軽い失望。
それと同時に再び反芻するように疑問が浮かぶ。『いつものこと』だったとして、だとしたら昨晩はどうして……。
またしても同じところで思考の溝嵌った。そして、余計に淡の正体が掴み辛くなった。
咲「んーん、それがね、いつもはどんなに言い合ってもすぐに二人仲直りしてたって」
京太郎「ん?えぇっ、マジで?」
咲「うん、本当。だからさ、今回は何でこんなになっちゃったのか、気になるよね」
京太郎「そうだな」
咲「ねえ、どうしてだと思う?」
京太郎「それは――」
言い留まる。少なくとも、ひとつ絶交という条件に精神的孤立の危機を感じて居場所を探すため。
それを提示するのは問題ない、心情的にもまったく障害さえもない。だが、それだけでは足りない。
『いつものこと』で終わってしまうんだと思う。
恐らく引鉄となった問題はもう一方。京太郎への想いを指摘されたこと。
包み隠していた好意を引きずり出されたからこその不安と怒りが家出を促した。
それ程のものであったとして、それを京太郎の口から言わせて淡の気持に気付かせるという魂胆なのだろう。
だからこそ、言葉が喉で詰まってしまう。すぐに切り返さないと、思惑通りになる。
『妹』からの好意を真っ向から意識しないといけなくなる。
不純な妄想が先行し、淡を女性として意識する度に胸糞が悪くなる京太郎はそれを好しとするはずもなく
京太郎「分かるわけないだろ。俺は喧嘩した、として聞いてないんだから」
結果、嘘をついた。
-
咲「ふふっ、それもそうだね。おかしなこと聞いてごめんね」
咲「ところでさ、京ちゃん、淡ちゃんと何かあった?」
京太郎「…………。どうしてそう思うんだよ」
咲はどうやら淡と京太郎をくっつけたがっているらしい。
思春期の女子というのはおしなべて恋愛になると本能をむき出しにしてくっつけさせようとするのか。
咲と対面してから稍あってそれを理解し、幼馴染との昼食タイムにも安息なぞなかったと実感した。
咲「だってさ、淡ちゃんのこと喋ってるときすごい優しい顔してたよ?」
京太郎「ああ、それはだなあ、ようやくあいつが妹らしく見えてきたんだ」
京太郎「可愛い妹が自ら進んで問題に立ち向かって、解決が出来たんだ。そりゃ嬉しいもんだろ」
咲「京ちゃんさあ」
京太郎「ん?今度はどうした」
咲「淡ちゃんのこと好きになっちゃったんでしょ?」
京太郎「――!!お、おいおい。何でまた、そんなこと」
内臓を手探りで掻き乱されるような不快感に動揺する素振りを一瞬で隠して愛想笑いを浮かべる。
『あるはずがない』という言葉が喉をつっかえてしまう。
肯定と否定。どちらの選択もしたくなかった。選択してしまえば決まってしまうから。
右往左往して微温湯に漬かる自分と夢の中の淡が重なってみえた。
自分は手を引いて、自分が助けたいという独善からもっともらしく道を示したが
だが、そうだとして自分はどうだ?
―こうして今を変えたくないから
―先に進みたくないから
―事実を見たくないから
平穏なる精神の防壁を削ぎ落としていく不安の素に成す術もなく、
いつものように何の気なしの軽口が発せられず、抗ストレス的な解離性の障害のように閉口したまま薄笑いをする。
誤魔化すための精一杯の笑みは、或いは情けない自分を嘲笑するために浮かべたものか、と思い当たるのは容易かった。
-
咲「らしくないね、京ちゃん。そんなに兄妹の関係を壊すのが怖い?」
京太郎「そんなんじゃねえって!」
咲「私も長い間お姉ちゃんと仲違いしてたけど、今は平気なんだ。……色々あったけどね」
思い出深い過去から今までを回想しながら優しげに語り、カップとにらめっこをしてスープをスプーンでゆるりと掻き混ぜ
最中に時折、京太郎に視線を送り、さりげに内心を窺おうとする。
そのお節介ぶりに味方される安心と内に踏み込まれる不快感にどう答えたらいいのか、葛藤が心中を重たくさせる。
それもあるかもしれない。けれど、踏みとどまっている理由は咲の想定している内容より少し拗れていた。
自分が彼女の最初から最後までの肉体的、精神的なもの全てを手に入れるべきで、そうでなければ絶望的なまでに心持が不味くなる
駄々っ子のような独占欲が、現在、京太郎の気持を踏み留まらせている大半を占めていた。
京太郎「悪ぃが関係が壊れるから怖いとか、そういうんじゃ、ねえよ?うん」
咲「本当に?」
京太郎「そうなの!」
咲「そうなんだ」
その大半を誤魔化すようにそれ以外の確かな感情をあからさまにチラつかせて
挙げ句に咲を突き放すように言葉をかけるが、にこやかに躱された。
――しょうがない、路線変更だ。
京太郎「そっそれにしても何かにつけて色恋話たぁ、咲も女の子なんだなァ」
咲「ム……、それってどういう意味?あとそのしみじみとした顔ムカつくよ」
京太郎「咲が人並みの女の子で安心したんだよ。卓中は物騒な雰囲気醸し出してるけど、やっぱり周りと変わらんなって」
咲「当たり前でしょ。京ちゃんは私を何だと思ってるの?」
京太郎「腐れ縁……もとい、良き幼馴染かな」
咲「言い直しても遅いんだけど、一応ありがとう」
-
咲「それで、京ちゃんは淡ちゃんのこと本当はどう思ってるの?」
京太郎「またかよっ!咲、だから言っただろ?俺は――」
咲「誤魔化さないで、本当のトコ、どう思ってるの?」
威圧的な催促。気持を腹の底から否応なく押し上げるほど重圧を感じる問い詰め。
京太郎「俺は、淡のこと……」
――咲は一体何故、俺からこうまでして淡への気持を確認したがるんだ。
だったら、そこまで追い詰めるのなら言ってしまえばいい。
喉元過ぎればなんとやら。幼い自己中心的な感情を全て咲にぶつけてしまえばいい――
京太郎「妹だと、思ってるよ。それ以上でもそれ以下でもない。面倒の見甲斐がある、手のかかる妹だ」
意気込んでも口に出来るはずがなく、頼りなく震える声で答えた。
決して目を泳がさず、前を見据えて、出来るだけ声を出すように、相手に悟られないように、
少なくとも主観的にはそういう風に努めていた。
咲「嘘」
京太郎「―――――」
咲「じゃないよね?」
京太郎「あ、ああ。当たり前だ」
咲「………………」
京太郎「………………」
咲「なんてね」
京太郎「…………は、はい?」
-
一応書けてるとこまで
あと一応の生存報告をば
元々エロSS書きなので今後そういう描写が増えます
苦手な方はご注意ください
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ありがとナス!
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もう待ちきれないよ
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京太郎「ど、どういうことだよ」
咲「ごめんね京ちゃん、最近特に淡ちゃんと仲が良いからからかいたくなっちゃって」
京太郎「は、ははは……なんだそういうことか」
京太郎「本当だろうな?」
咲「え?当たり前でしょ。怖い顔してどしたの」
京太郎「う、うん。いやそっか、それならいいんだが」
咲「それにしても、京ちゃんも中々演技派だね、おどおどしたり、言葉詰まらせる演技したり」
京太郎「ま、まあな。最初はびっくりしたけど……それにしても、嫉妬か?」
咲「そんなわけないよ。京ちゃんはお友達としては好きだけど、タイプじゃないし」
京太郎「…………」
何もなかったことに京太郎は一先ず安心した。
咲の人並みの人情がお節介を暴発させて、京太郎を淡へと嗾けるような感じでも
嫉妬から何とかして関心を自分に向かせようという謀略でもなく、ただの悪戯だったから。
作為的に関係を揺れ動かすのは今の京太郎にとって非常に胸糞が悪いものだから。
そもそも、妹として見ることでの妥協から身を潜めて動けないほど臆病になっていたから。
咲「どうしたの、京ちゃん。黙り込んじゃって」
京太郎「ああうん、そうバッサリ言われると傷つくよな」
咲「えっ……嘘。京ちゃん私のこと好きだったの?ごめんなさい!」
京太郎「やかましい!分かってて言ってるだろ!」
咲「うわっ、怒った」
-
京太郎「はぁ……俺にらしくないって言ったけどさ、俺からしたらお前がらしくないように見えるよ」
咲「どうして?」
京太郎「あんな風に問い詰めたり、かと思えばそれがただの悪戯だったり、お前本当に咲か?」
咲「むむ…、私以外の誰が私なの?」
京太郎「それか、何かしら目的があってわざとこんなことしたんじゃ」
咲「ナイナイ!あれが本当だったら淡ちゃんと京ちゃんの関係を嫉妬してるみたいじゃん、気持ち悪い!」
京太郎「……抉るね、お前は。まあでもそんなもんか」
京太郎「今後はこんなのやめてくれよ。今は色々あって心臓に悪すぎる」
咲「………?色々って?あの子と何かあったの?」
京太郎「っ!な、なんでもない」
咲「喧嘩したなら仲直りしときなよ」
京太郎「あー……まあ、そうだな」
元々が空虚な悪戯だったらしい腹の探り合いもどきは終結し、周りを確認すると大分視線が此方に集まっていた。
喧騒に耳を傾けると下火だった淡との噂も燃料となっているらしく、
やれ痴話喧嘩だの、やれいつものがはじまっただの、と自分勝手な空想が彼方此方を賑やかにしている。
視線を向ける学生たちは、まるでワイドショーで扱われる大見出しの話題に面白半分で野次を飛ばす聴衆そのものであった。
咲「ご、ごめんね。変なことになってるみたい」
京太郎「こっちも悪ぃ、ちょっと盛り上がりすぎたみたいで」
咲「早くどっか行こ。そっちにも悪いし、それに恥かしいよ」
京太郎「…ま、今後は悪戯も控えるこったな」
兎も角、大至急ここから逃げ出したかった。さっと同時に立ち上がると
流し台の方へ早歩きで向かい、食器をきびきびと洗い流し、何がしか洗剤の水溶液へ放り込むと
無意識に歩幅や踏み出す足も同時に学生食堂を後にした。
傍から見ると、顔も赤くなってるだろうし、動きも揃って機械的で滑稽に写っただろう、などと思った。
-
その後は、問題もひと段落したお陰かスムーズに一日が流れるように感じた。
いつもどおり授業は気怠く、いつもどおり部活は端で見ているだけが多く。
変わったことといえば、昨晩から昼ごろまでやけに萎らしかった淡が、思い出したように
京太郎を避けだしたことだった。これには他の面々も困り顔を続けていた。
接触を図っても適当な言葉を宛がって何処とも無しに逃げられ、部活中には咲や早速仲直りをした照を盾に使われて避けられた。
もう想いを伝える必要が無いのに決まって淡に逃げられる京太郎の胸中はどんどん惨めになっていった。
時間はそんな事を知るはずもなく刻一刻と進み
久「それじゃ、ここまでね。最近暗くなってるから、一人で帰らないようにねっ、特に1年女子」
京太郎「あの……」
久「須賀くんは大丈夫でしょ?」
京太郎「悲しい哉。そりゃそうですとも!」
部長の号令によって、皆が一様に帰り支度を始めて防寒用コートを羽織りだす。
夕刻になったばかりの空はもう暗く、冬らしく寂しくなった並木が一陣の寒風に煽られていた。
それだけで外が寒いというのが確認できて皆が皆帰るのが億劫になっているような気がした。
京太郎は部活は終えると、いの一番に淡に声を掛けた。
気持にとりあえずの終止符を打つ為に、これ以上自分が惨めにならないために
京太郎「淡。ちょっとだけでいい、悪いことは言わない。時間をくれ。頼む!」
部活のフルメンバーがいるのを気にせず、照を連れて退散しようとする淡を制止する。
必然的に注意が集まる。表情が暗くなる優希、優希の変化にいち早く気付いて首を傾げる和。
呆気にとられるまこと部長。黙って二人を見比べる咲。無表情で二人をじっと見つめる照。
周りをみてオロオロしだした淡が観念したように溜息をついた。
淡「……分かった」
京太郎「あっ、あのすまん皆。淡はちょっと借りてくんで。先に帰ってて大丈夫っす。すみません」
まこ「2回も謝らんでも…」
優希「す、好きにすればいいじぇ。私には関係ないからなっ」
和「……優希?どうしました」
優希「な、なんでもない」
和「……………………?」
-
もまばらになって、咲と照と淡と京太郎だけが残っていた。
やはりギャラリーがいると京太郎も淡も落ち着かない。
京太郎「あの……二人も帰ってくれたほうが、その…俺的には楽なんだけど」
照「……ちゃんと返してね」
咲「京ちゃん、……その、が、頑張ってっ」
京太郎「何の勘違いか分からないけどそういうんじゃねえから」
お節介を叩き落とすように返すと、咲はすっと近づいて神妙な顔をして
他の二人には聞こえないように呟いた。
咲「今本当の気持伝えないと、絶対後悔するからね」
京太郎「咲、お前やっぱり――」
冷たい、無機質。そんな形容が最適であるような
秘めた気持を悟られないよう感情を拭い取って伝えた忠告。
京太郎「何でお前はそんなことを」
『絶対後悔する』
背中をゾクっとさせる意味深な言葉に咲の方を向くと
神妙な顔が無かったかのように純朴な顔でとぼけていた。
咲「何が?独り言言うなんて、疲れてるんじゃない?」
気遣うような愛想笑いをしているが目は笑っていなかった。
咲は何でそこまでして二人のお節介をするんだろう。
京太郎を押さえつけるような問い詰めをしてまでするその意図とは。
――そうだったとしても、もう遅いんだ。
どんなウラがあるかは知らないが、それでも京太郎の意思は固かった。
淡に異性的な魅力を抱けば抱くほど湧き上がる胸糞の悪い感情。
だけど、それでも淡への好意を捨てきれない自身の我侭さとの折衷案。
淡との兄妹関係を続けること。それを告白する意志は変わらなかった。
-
二人が部室を去って、ようやく部室には二人きり。
チクタクと時間を刻む時計。暗い外を覗ける窓がガタガタと音を立てる。
一切会話の無い空間は怪談ちっくな雰囲気を醸し出して、お互いの鬼胎を増長させた。
案ずるはなんとやら、喉元過ぎればなんとやら。
先人が作った便利な言葉をつらつらと挙げても気持は落ち着くはずがなく、二人でただ見つめ合っていた。
真剣に淡を見つめていると彼女の顔が段々と紅潮してきているのに気付いた。
京太郎「(何で、口から言葉が出ないんだ!!)」
そうして何分も時間を徒に消費すればするほど、望むムードからはかけ離れていく。
ああ絶対に勘違いしているだろうそうに違いないどうやってこの場を乗り切る。
意気地なしの自分にやきもきしていて、時計を見た。
まだ数分。
だからとて、早めの決着をつけないと、自分以上に淡がそのギャップに苦痛を追うことになる。
考えてからようやく踏ん切りがついた。
言おう。
京太郎「知っての通り、この前の続きなんだ。その、大事な話ってやつ」
淡「……うん」
京太郎「俺もさ、だんだん淡が可愛く思えて、放って置けなくて、見ているだけで気持が落ち着かないんだ」
淡「――!」
京太郎「多分、これはずっと一緒にいないと直らない病気みたいなもんなんだと俺はおもう」
淡「……」
顔を真っ赤にさせて静かに頷いた。嗚呼、勘違い。
自分の発言はきっと彼女を傷つける。けど、これが子供な自分と、思っていたより大人の世界にいた淡。
混じりあえない二人が一緒にいるために必要な過程なんだ、と言い聞かす。
京太郎「だから、これからずっと」
目を潤ませて、気持を受け止める為に真摯に目線を向ける。
言葉が詰まる。
――いえ、謂え、言え!!
京太郎「俺の妹でいてくれ!」
淡「………………………………………………」
淡「………………………………………………………はぁ?」
言った。言ってしまった。間違いなく淡を傷つけた。自分への無垢な気持に刃を立ててしまった!
明かな後悔がぎゅうっと胸を痛いほどに締め付けて苦しい顔を隠しきれずに露呈する。
-
淡「なん、で……………」
怒りか、悲しみか。肩を震わせて、心の中で滾らせている理不尽に対する不満が
今にも爆発しそうになっているんだろう。その仕草だけで罪悪感が山のように募っていく。
ごめん、悪い、許してくれ。
贖罪の言葉をかけようと思っても無理だった。より一層どちらとも惨めになるし
一応の彼女からの感情を留めておきたい、女々しさがその表出を押しとどめた。
京太郎「淡、……その」
淡「なぁーんだ!そんなことだったんだ!もぉ、なんだと思ったよ」
京太郎「!?」
淡「そんなことのために私はずっと『お兄ちゃん』を避けてたんだ!バッカみたい」
京太郎「あ、ああ……?」
拍子抜けした。その後に多少の落胆があった。
これで、ほぼ淡と進展するための進路を絶った。ある種の終わりだった。
笑顔で妹宣言を受け止めた淡の対応のお陰でそれを実感した。
元々居場所を得るためだけの演技で、好意自体が無かったのか。
それとも、自分のこの優しい拒絶を受け入れてくれたのか。
いやもう何を喚こうが終わりだ。考える必要もないであろう。
だというのに、淡の気持を裏切る以上に込み上げる得体の知れない
心を引っ掻き回すこの魔物は、いっこうに収まりがつかなかった。
――自分で近づくのが嫌だと決めたのに。拒絶したのに、悲劇の主役気取りか?
自嘲と自傷が自分を屑だと戒め、責め立てる。気障ったらしくも心が厭世観に満ちている気がした。
だけど、こうしないと二人とも悲しい末路を辿るんだ、と
先程も今からも同じ言い訳を繰り返して辛うじての自己肯定が自分を助けた。
-
それから、妹としての淡の日常が始まり、暫くが経っていた。
あれ以来淡はしつこく付きまとうことなく、弁えを覚えて、我侭に接してくることも少なくなった。
今まで異性としてのアピールのために迫っていた、と今更ながらに気付きまた心が痛み鈍感な自分が嫌になる。
心を蝕むような自戒と厭世観はまるで魂を削る呪いのように京太郎自身を苛めた。
それと同時に、次第に兄妹としての領分を覚えた淡と京太郎は一緒の時間が次第に減り、
空いた時間をやはり呆けながら過ごして、お互いの存在の大きさを思い知っていた。
――ある日の昼休み
誠「よう、今日も一人だろ?一緒に飯行こうぜ」
京太郎「そうだな」
誠「……にしても京太郎、大人しくなったね」
京太郎「なんだよ藪から棒に」
誠「妹ちゃんが来なくなってから覇気ないぞ」
京太郎「そんなことはないだろ」
誠「いやぁ、ずっとしょんぼりしてるように見えるけどなあ」
京太郎「気のせいだ」
誠「喧嘩してるんなら、さっさと仲直りした方が良いよ。雌の恨みは尾を引くからな」
京太郎「メスってあんた」
誠「まあ兎にも角にも昼飯だ、行くぞ」
京太郎「挙動がいちいち忙しいなぁ」
誠「今のお前よりはバイタリティ溢れてるからな!」
京太郎「あっそ」
-
---――淡視点
照「淡、おべんと一緒に食べよ」
咲「お邪魔しまーす」
そう行って教室まで迎えに来たのは照だった。ここ最近私は照や咲と一緒に部室でお昼ごはんを食べている。
っていうのも、我が家のシェフが弁当を一まとめにして作ってるから一緒におべんと囲わないとお昼ご飯に
ありつけないってのが実のところなんだけどね。けど、照と咲はそれをダシにして私と一緒にいたいみたい。
今までお兄ちゃんに構ってた分、構ってって言ってるけど、私はみんなの本当の気持ちを知ってる。
淡「いただきまーす」
―――――――
―――――
――
淡「ごちそうさまー」
咲「あれっ、もういいの?淡ちゃんそんなに小食だったっけ?」
淡「もー、女子が小食って言ったらアレだよアレ。ダ・イ・エッ・ト!」
照「淡そんなに太ってたっけ」
淡「そりゃもう……テルーたちと違って肉付きがいいから私」
フンスと仁王立ちしてみる。まあホントのところはダイエットなんてどうでもいいけど。
ここんとこ、どうも、お兄ちゃんのあの苦しい顔が気になってる。あと、不当にフられた気がしてムカつくってのもある。
そのせいでお菓子もご飯さえもあんまり喉を通らないみたい。お腹は減るのにね。
ともかく、したくもないダイエットをしちゃってるこの状態は不服だけど、他の人に自分の気持ちを誤魔化すのには最適ってわけ。
だと思うのに、どうもこの姉妹には何か隠してるってトコまでお見通しみたいで。
照「…………(怒)」
淡「あててて!や、やめてよ。つまむな!こらっ!」
咲「流石に私もイラってするかな」
淡「あ、あひゃははっ!や、やめなさい!このっ!ばかっ!」
それでもそ知らぬ振りして付き合ってくれるのが本当にありがたい。
居場所を作ってくれてるって、守ってくれてるっていうのが伝わってくる。
だから、申し訳なくなって苦しくなって、どうすればいいのか分かんなくて。
このテの気持ちっていうのは初めてだから、結構辛くてついつい俯いてしまって。
淡「………………うへへっ」
誤魔化すようになるたけ今とは真逆の嬉しさを前面にだして笑い声をあげて。
――もちろん、二人といることが嫌っていうわけじゃない。とても楽しいけど。
多分、こういう安心できる場所だからこそ、弱気になっちゃうんだろうし、泣きたくなるんだ。
だけど我慢、我慢。居候して面倒見てもらってるからこれ以上迷惑はかけたくないもんね。
照「淡?」
淡「な、なんでもないよっ」
咲「困ってることがあったら言ってね?悲しい顔は似合わないよ」
淡「も、もう!そんなんじゃないったら!」
-
とりあえずここまでです、出来るだけペースあげていきます
-
咲さんこわい!
-
やったぜ。
-
エロSS書きたかったのに普通にお話続けてこれもうわかんねえな
とりあえず今日中に続き書けるように頑張ります
-
ゆっくりでいいゾ〜
-
照「言いたくなったら言うんだよ、淡。私たちは味方だから」
淡「…………うん」
咲「それじゃ、お弁当食べよ。残したら麻雀を楽しむことになるからね」
淡「ちょっ、何それぇ!いくら私でももうサキなんかには負けないんだから!」
咲「言ってくれちゃって。今からやってもいいんだよ?」
淡「な、なにおー!!」
ああやっぱり私はこの居場所が好きで、居心地がいいんだ。
もう『あんな場所』に二度と戻りたくないってくらい。
でも、それだけじゃ満足できないくらい我侭に心がときめいてる。
お兄ちゃんの傍にもっと近くで、もっと甘えたり、甘やかしたり、笑ったり、いろんなことがしたい。
でも、お兄ちゃんは私のことを妹って言って、突っ放した。
もう、訳分かんないよ。絶対、アレは私のことが好きだって流れだったのに。
駄目駄目、これ以上深く考えたらまた気がズーンて沈んじゃう。
妹か。それで妥協するしかないのかな。今までどおり
近くにいて、悪戯みたいに距離を縮めて。そうしたら、少しは近くに居れるのかな。
学校が始まって一緒の時間に登校し、別々のところで昼休みを過ごし、部活が終わり、
家に帰って、いつも通り淡が京太郎の家で晩御飯を食べて、少しじゃれ付いて程よい時間になったら「帰れ」の言葉でぶー垂れて帰る。
そんな兄妹ごっこが端から見たら違和感のないように続いていた。
あたかも何も問題が無いように、何事も無かったようにお互いがお互いを気にしながら
以前のサイクルとは少し違って、だが同じような日常が思考を停止するように巡り廻っていた。
-
今度こそは、なんて意気込んでも突っぱねられる。これじゃ優希と同じ扱い。とっても不服。
そして今日も今日とて私はお兄ちゃんの家に転がり込んで、ダラダラしてるわけで。
お兄ちゃんは集中してパソコンと向き合って、只管ネト麻に励んでる。
私はというと、アドバイスしようとしてもそれとなくかわされて、私はベッドで寝転がっていた。
時々、ウーンと唸る声を聞くに、毎回苦戦してるんだあってなるから声を掛けてるのに「後でな」で終わる。
『後』っていつなのよ。その『後』が来ないから話しかけてるんじゃない!ムカつくっ!
淡「ねーぇ、お兄ちゃんってばぁ!」
京太郎「なんだ?」
淡「だっこしてー」
京太郎「バーカ。兄妹でそんなことしようもんなら世間体が危ういわ」
冗談を言っても、手をひらひらとさせて冗談が一つ済んだようにしながらまたパソコンと睨めっこ。
ごっこだとしても私は妹なのにこの扱い。世間の妹様方はみんな同じようにこんな待遇なの?
淡「……それもそうだね」
「そもそも兄妹じゃないじゃない」とか正論言ったり、もっと突っ込んで話したりすれば少しは無理やりにでも内側に入り込めるかもしれない。
以前はそうしてた、気がする。自分のこと妹だって思ってたから、ううん、思い込ませてたから出来た。
――だけど今は。
丈夫そうで、でもこれ以上動いたら崩れそうな脆い関係を壊しそうで怖くて、もどかしくて
ずっと誰よりもずっと近くにいるのに、咲や照、ぶちょーやまこ先輩、あの優希よりもお兄ちゃんから距離が遠い。
これが私の妥協した道なんだ。あそこで我侭言って困らせたくなかったから、傷ついてないフリして、妹でいようって。
でも、嫌だ。嫌だ。嫌だよ。
淡「嫌だよう、ねえどうすればいいのよぉ」
京太郎「ん?何がどうした。何かあったか?」
淡「や、やばっ…口に出ちゃってた?」
京太郎「うん、それで、どうしたんだよ」
淡「ちゅーしよー」
京太郎「ばーーーーか」
-
淡「むきー!お兄ちゃんの方がバカじゃん!さっきからいいとこで捲くられてばっか!カモだって気付いてないの!?」
京太郎「う、うるせぇよ!お前言っていいことと悪いことが――」
やばい。越えちゃいけないラインってやつだったのかも。
怒らせちゃった。どうしよう。そんなつもりじゃないのに、どうしてこう口が軽いんだろう。
その怒った表情と怒声に少し怯えてしまった私は後退り、体が突如とした浮遊感に襲われる。
淡「あ、あれっ」
宙を腕が掠める。顔を上に向けることなく視線が天井へと向かう。
急速に背中を包み込む浮遊感と重力に頭から引き下ろされる感覚。
何かに蹴躓いた私は、そのまま木目で敷き詰められたこげ茶色の冷たいフローリングに体を投げ出そうとしていた。
からかった罰が当たっちゃったみたい。最近こういうの多いなぁ……。
痛みを覚悟して、私はきゅっと目を瞑った。
京太郎「危ねぇっ!」
ぐるっと体が回転して顔から落ちていき、ドンと床を打つ衝撃音。。体の芯ごと揺らすような衝撃。なのに痛みはなくって。
そして、じわじわと暗闇で視界がはっきりするような、あんな感じで自分の状況がくっきりなってくるのが分かった。
淡「あっ……」
京太郎「う、…ぐぅっ」
お兄ちゃんにのしかかるような形で私はお兄ちゃんに抱きとめられていた。
顔が近くて、少し呻き声を浮かべながら、痛みをこらえる表情を浮かべ、目を瞑っている。
庇ってくれたんだ、私の為に。
この前手をつないだときに感じた温かい気持ちがじわりと溢れた。
と同時に、ドクンと胸が高鳴り、抑えられない気持ちが私を唆すんだ。
このまま続けていいよ。これは不可抗力だから、仕方ないんだよ?なんて。
私もそ知らぬ顔で目を瞑って、お兄ちゃんの顔に顔を近づけて、あくまでも無意識を装って、唇と唇とが触れ合った。
淡「んっ……ぅ、ぅうん……」
より一層その高鳴りは激しさをまして止まらなくなった。
離れたくない、ずっとこのままがいい、ありのままで傍にいたい。そんな気持ちが溢れ出してくる。
気持ちの濁流がどうしようもなく私の心を翻弄して、息があれて、鼻から吐息が漏れる。
初めて麻雀で勝ったときや地区大会で優勝したとき、相手をトバしたときも味わえなかった充足感で胸が一杯になる。
好き、大好き。あなたのことが好きなの。
言いたくても言い表せない大きな想いが体中を駆け巡って、顔がぼおっと熱くなって、幸福感が私を包み込んだ。
-
京太郎「―――!!!…な、何してるんだ!」
そんな時間も長くは続かなかった。私は突き飛ばされるような形で
体から引っぺがされて糸が切れた人形のようにベッドの上にちょこんと座らされた。
淡「お兄ちゃん、ごめんねっ。今のは倒れちゃって、仕方なく……」
京太郎「淡、俺とお前は兄妹なんだ」
淡「…………でっ、でもさぁ!」
京太郎「兄妹なんだ」
淡「……うん」
お兄ちゃんから謝ってるようなそんな表情があからさまに見て取れた。
そんなんだったら、最初っから突っぱねないでよ。どうして、どうして私を拒絶するの?
淡「お兄ちゃんは私のこと」
――好きなんじゃないの?
そんな冗談が口からこぼれそうになる。確かめるのが怖い、拒絶されたら嫌。
それ以上に、仮に合ってたとしても、どうにもならないって、無意味だってわかってたから。
淡「ううん、なんでもない」
私は顔を伏せて立ち上がった。近くにいても、傍にいられない。どれだけ近づいても、拒絶される。
分かっていたけど、実のところそれがはっきり理解していたわけじゃなくて。でも、今それが実感できた。
目頭が熱くなるような感覚がした。ああ本当に、これダメだ。これじゃみっともない泣き顔を見せちゃう。
淡「……帰る」
京太郎「淡!」
淡「……」
京太郎「その、気をつけてな」
淡「…っ!じゃあね!!」
顔をみせないように立ち上がり背を向けて確信から逃げるようにドアを叩きつけるように締めて
ご両親に挨拶をするまえに家から飛び出した。
淡「引き止めてくれなかったなぁ」
濡れた瞼を袖でなぞってから、とぼとぼと家路を辿った。
-
いつもより早い帰宅。ドアを音を立てないように開いて玄関を跨ぐと暖かい空気が体を包み込んだ。
嗅ぎなれた家の匂いと温い空気の安心感に溜息をついてから、居間の明かりを確認するときりっと明るい表情を変えた。
あくまで何もなかったようにしよう。平常心、平常心。暗い顔なんて皆が知ってる私のキャラじゃないから。
淡「たっだいまー」
ドアを開けると照と咲がソファで寛ぎながらテレビを見てた。
相変わらずくっついてて仲のよろしいことで。
喧嘩してたのが嘘ってくらいベッタリだよね。付け入る隙がないくらいイチャイチャしちゃって。
だけど普段の私はあんまりそういう雰囲気に流されないっていうか気にしないのでありまして。
照「あ、おかえり」
咲「おかえり淡ちゃん」
間に入ってソファにもたれるように深く座り込む。無論遠慮はしない。
お家ではここが私のベストポジションだし、二人もそうだと理解してるから。
照と咲の腕をぎゅっと抱くと、不思議そうにこちらの顔を覗き込んでから、二人とも微笑んだ。
照「どしたの、何かあった?」
淡「んーん、なんでも。甘えたかっただけー」
咲「私たちはお姉ちゃんなんだ」
淡「そんなとこだね」
咲「甘えるのもいいけど、お風呂入ってきたほうがいいよ。お湯冷めちゃうから」
淡「わかったー」
よし、大丈夫大丈夫。二人の顔を見ただけで少し落ち着いた気がする。
兎にも角にもお風呂だ。準備をするとそそくさとお風呂に向かい
私は湯船で冷えた体を温めながらお湯に顔をつけて少し泣いた。
ぼうっとしながらいい方向に考えるようになるたけ努めた。
そうだ。他の人よりずっと近くにいる権利が私にはある。それだけで――言いわけがない。
暗澹とした気持ちは当然晴れることはなかった。
結局解決するわけもなく、悶々とした気持ちを抱えたまま何も変わらなかった。
けど、少しはスッキリしたと思う、思いたい。
-
淡「お風呂上がったよー」
私を待ってたのか二人はまだソファに座ったままだった。
迷わずマイスペースへ座り込むと、照にぎゅっと抱きついた。
そしたらほら、やっぱり照は私の頭を撫でてくれる。気持ちよくて居心地がいい。
淡「んん〜♪」
勝手知ったる、またはツーカーの仲っていうんだっけ。
まあそんな気安くて暖かい存在に今日はいつもより甘えてしまう。
照「今日は甘えんぼだね」
淡「いーでしょ別に」
咲「本当に妹みたい」
なんて言いながら私の頭を咲もナデナデしてくる。私はどうやら愛玩動物らしい。
だけど、二人に包まれていると、温かくて、どうしようもなく。
――ああ、だめだ。このままじゃ。
気付いたら、瞼まで涙が込み上げてきて、じわじわと視界が滲んでいく。
ポタポタと落ちる雫が照の白色のパジャマを濡らしているのが分かった。
咲「あ、淡ちゃん。どうしたの?」
淡「なんでもない」
照「なんでもなくないでしょ」
淡「うん……でも、なんでもない」
ああ、ダメだ。平常心で、明るく振舞いたいのに涙が止まらないよ。
咲「ねえ、淡ちゃん。何があったの?言いたくない?」
首を縦に振った。
咲「そっか。私たちに遠慮してるのかな」
首を動かせなかった。本当はそうなんだけど、察してほしくなかった。
けど、今の私の気持ちを二人は手に取るように分かるらしい。
照「遠慮しないでいいよ。辛いことあったら全部言って」
淡「てる・・・?」
咲「うん、そうだよ。私は淡ちゃんの助けになりたいんだ」
淡「さき・・・?」
咲「淡ちゃん、私のお願い聞いてくれるかな?」
淡「あの、その……うぅ、ぐすっ、実は、実はね……」
〜〜斯く斯く然々〜〜
-
半泣きで、声を震わせて、覚束ない声で説明した。
照も咲も優しく私の言葉に頷いて、私を話を聞いてくれた。
途中二人から頭を撫でられたり、手を触れられたりして、
末っ子っていうかペットみたいに扱われてちょっと不服だったのは秘密だけど。
ともかく、一部始終を話してみたら、棘が取れたようにスッキリしている自分がいた。
照「なるほど」
咲「(やっぱり)」
咲「そんなことされたら悲しくなるのは当たり前だよね」
淡「だよね、思い出したらほんとムカつく!……ムカつく」
照「でも、まだ好きなんだ」
淡「うん……」
咲「思ったんだけど」
淡「なに?」
咲「私も京ちゃんと話したから分かるんだけど、京ちゃんは明らかに淡ちゃんの事好きなんだよ」
淡「そ、そうなんだ」
改めていわれると顔が赤くなる。
いやもうたくさん泣いたからまっかっかなんだけど。
咲「でも、何かの事情でヘタレて素直になれないんだよ。多分」
咲「だから京ちゃんが淡ちゃんに気持ちを伝えないといけない状況を作ればいいと思うの」
照「どうやって?」
咲「お姉ちゃんと淡ちゃんが白糸台に戻っちゃえばいいんだよ」
淡「えっ……」
―――――――
―――――
――
-
展開遅かったので急いでプロットのまんまお話し進めてガバガバだけどゆるして
ようやく折り返しくらいまで来たので完結まで付き合ってくれよなー頼むよー
-
やったぜ。
-
咲さんから所々闇を感じる
-
大胆な提案は女の子の特権
-
――
―――――
―――――――
淡「むきー!お兄ちゃんの方がバカじゃん!さっきからいいとこで捲くられてばっか!カモだって気付いてないの!?」
癪に障るほど紛れもない事実。自分の和了だけ気にして両面待ちでテンパって、相手への警戒を忘れてロンされて
その他諸々、彼本人の察しの悪さ、或いは鈍感でまっすぐ目の前しか見えてない余裕の無さが打牌に表れていた。
淡は何も悪くない。ただ自分を守る為に素っ気無い態度を取っているからこうなってしまうのに。
分かっているのに居心地の悪さと惰弱さで短期になった京太郎は激昂して純粋な怒りの感情を淡に向けた。
京太郎「う、うるせぇよ!お前言っていいことと悪いことが――」
ハッと気付いたときには遅かった。喉下から滾々と溢れ発せられた怒りは直に届き、淡はこちらに対する恐怖で身体を硬直させていた。
八つ当たりな怒気に圧された後退りした淡が、踵にあった鞄に足をひっかけて、バランスを崩してしまう。
重力に引かれ、脳天から硬い木製の床に叩きつけられそうになった瞬間、今の状況を初めて察した淡が悲しそうに諦めた顔をしていた。
今ここで何もしなかったら、本当に何もかもが駄目になってしまう。
直感した京太郎は衝動的に椅子から立ち上がった。
京太郎「危ねぇっ!」
飛びつくように淡の背中に手を回して抱きとめる。
安堵も束の間、慣性が背中を押すようにバランスを崩して押し倒す形で前に倒れそうになる。
怯えて目を瞑り、落下の運命を享受するような淡の表情が目に入る。――痛い目に合わせるのは絶対に嫌だ。
独善がそれを嫌がった。倒れながらつま先と踵に力を入れて身体をぐるんと素早く回転させながら激しい音を立てて
京太郎の身体はゴトンと粗大な家具が落ちるような激しい音を立てて床に叩きつけられた。
京太郎「う、…ぐぅっ」
抱きとめて倒れた衝撃の後に痛みが爆発のように広がった。
視界が混濁し、耳が遠くなり、触覚だけが脳を刺激して腹部と背部をどうにかしろ、と指令を出している。
二人分の重みを抱え、床に与えられた圧力と淡の体重のサンドイッチになった痛みに瞼の裏がチカチカして
さっき食べた晩御飯が押しつぶされて逆流しているのか、吐き気も伴ってそのまま動けずに、涙を堪えて目を瞑っていた。
痛みも次第にひいてきた。以前残る痛みに涙を見せまいと目を瞑ったまま、聴覚だけがはっきりしていた。
服が擦れるような音、サラサラとした彼女の長髪が顔を撫でる感触、彼女の重みが増し、胸部が胸板に押し付けられる感覚。
淡「んっ……ぅ、ぅうん……」
色香を微少に帯びた幼さの残る鼻息が抜ける声。どくん、どくんと確かに響く彼女の心音。
口付けの仕方を知らない、唇と唇だけをくっつける子供染みた、可愛らしいその行為に背徳と充足感と、思い出したように現われる嫌悪が背中を掻き毟った。
好意が留まることを知らないほどに流れ込んでくる。無造作に、だが感触がはっきりと残る想いは告白する事と何ら変わりは無い。
京太郎の我侭が焦燥を掻き立てる。――駄目なんだ。こんなことをしたら居心地のいい関係が壊れてしまう。
すぐさま目を見開こうとすると、それを察したのか唇が離れて、淡の身体がビクっとした震えが伝わってきた。
-
瞼を開くと、切なそうに顔を赤く染めている淡の顔が間近になっていた。
後悔か、不安か、それとも想いを伝えられた充実感か。
だがそんなことを察する心の余裕は今の京太郎には欠片一つさえなかった。
京太郎「―――!!!…な、何してるんだ!」
禁忌を犯した絶望感が淡と自分との壁を瞬時に作って、彼女を突き放すように身体から引っぺがした。
申し分けなさそうに眉を八の字にしながらオロオロと何か言い訳を考えるように目を泳がせている。
淡「お兄ちゃん、ごめんねっ。今のは倒れちゃって、仕方なく……」
わざとだ。わざとだと分かっているんだ。
だけど彼女は想いを果たしたくて、仕方なかったんだ。
八つ当たりの後悔と、彼女の胸中を考えてなるべく口調を穏やかにしようとする。
京太郎「淡、俺とお前は兄妹なんだ」
淡「…………でっ、でもさぁ!」
言葉を遮る。
関係を変えてはいけない。そんなことは望んでないんだよ。
言葉をつきつけるように心についた嘘を発するように食い気味に淡を制止した。
京太郎「兄妹なんだ」
淡「……うん。分かった」
諦めて何もいわずに堪える淡に何度も心の中で、ごめん。と謝った。
淡の手を引いて立ち上がってから、乱れた服を整えて
お互いの顔を見ないようにしながらじっと立ち尽くしていた。
淡「お兄ちゃんは私のこと」
ふと、何かを言いたそうに口を開いた。
淡「ううん、なんでもない」
気まずそうに自分の出掛かった言葉に封をして肩を震わせながら俯いた。
言いたいことはなんとなく分かっていた。その言葉を本当は聞きたかった。はっきりとぶつけてほしかった。
だけど、それを聞きたくないともう一方の自己が自己を責めて、淡に追求をしきれなかった。
淡「……帰る」
嫌だ、帰ってほしくない。妹でもいっから傍にいてほしい。
なんとかして引き止めないといけない。なんとか、なんとかしないと。
京太郎「淡!」
歩みがピタリと止まる。向こうも同じ気持ちなら、何かを言えば、言えばいいんだ。
ずっと一緒にいよう、いや違う。好きだ、俺と付き合ってくれ!…最も不適当。
チャンスは得たんだ。どうにか、どうにか淡と離れないようにしたい。二人でいたい。
淡「……」
京太郎「その、気をつけてな」
だが、意気地なしに成り下がってしまっている男が何も言えるはずもなく
引き止める理由を女々しく幾つも幾つも浮かべても意味は無かった。
淡「じゃあね!!」
声を張り上げると、力任せの足音がどんどんと響いていつもの両親への明るい挨拶も無しに
玄関が強い力で開け放たれる音が聞こえた。
何もできなかった。
-
淡が出て行ってから間もなく、母親が京太郎の部屋を訪れてきた。
やれ音を立てるな。やれあんないい子と喧嘩するなんて、早く仲直りしろ。だの
まるでこちらの感情をお構いなしのように話していた気がするが、どうでもよかった。
やがて話しを終えてまた一人になった京太郎は一人になった部屋で淡の感触を思い出していた。
背中に手を回すと折れてしまいそうな背中、快活な性格とは裏腹に華奢な肩。
胸を擽る芳香のする滑らかな肌。胸板にたっぷりと押し付けられた豊満な乳房。
邪な感覚が満ちてきて、下垂体から分泌されたホルモンに後に引くような興奮が押し寄せる。
京太郎「ッ!!」
壁に向かって思い切り額をぶつけて痛みで煩悩を追い出そうとする。
じわりと集中する額の熱い痛みが増すごとに頭が冷静になっていく。
空白から玉が転がり落ちるように一場面が再生された。
淡の言おうとしていた言葉がぽかんと浮かぶ。
――お兄ちゃんは私のこと、●●●●●●●●●?
ああその通りだとも。俺は淡のことを……。
遅かれ早かれこうなっていたのかもしれない。お互い想いを抑えて妥協して、触れないようにしていた。
我慢比べの末にこうして爆発して、お互い居た堪れなくなって距離を置いてしまう。
否、きわめて自己中心的な理由を押し付けて、淡を困らせ悲しませている。
こんなことには終止符を打たないと、二人のためにも、部活や周囲にも迷惑がかかる。
そんなことは言い訳だ。もうそろそろこのバカみたいなジレンマにもうんざりだ。
心が曇る一方で暗い心持になりがちだ。自分はバカかもしれないがそんなキャラじゃない。
バカはバカでも明るいキャラだったはずだ。少なくとも人を困らすバカじゃない。
右往左往して、一歩進んで二歩下がって、後ろへ後ろへ歩いて逃げ道が無くなって、気持ちが変わり始めた。
――皆こういうの好きだよね
――言葉通りよ
思えばまだアレの真相はまだハッキリしていない。良いも悪いも分からない。どういう意図かも分からない。
だから、勇気を少しだして得体の知れないもやもやとした胸糞悪さに立ち向かうべきなのかもしれない。
優柔不断で場を掻き乱して、淡を泣かせた果てにようやく自分の気持ちと前向きに向き合うようになろうとしていた。
とりあえずは明日。立ち向かえるかは分からない。だけど、にかく、淡ともう一度話をしてみよう。
などと決意を固めた。
-
――
――――
――――――――
気付けば、また暗闇だった。もう見ないと思っていたよく分からないまるで現実のような世界の夢。
ただ今回は誰もこの部屋にはいない。いるのは自分だけ。どうやら手足は動かせるようだ。
手でグーとパーを作ったり、足を上げ下げして体の自由を確かめる。
それにしても、これが明晰夢というやつなのだろうか。夢の中にいるという実感と、空気を吸う感覚
漂う無機質な空気、無味乾燥なほど殺風景な雰囲気がまるで現実であるかのようにリアルに感じる。
よく見るとここはまっすぐに伸びる長い通路のようになっているらしい。足元が暗いが、歩く先が出口だと何故か理解していた。
歩くたびに縦の長方形になっている光が大きくなっていく。上が楕円になっている扉状の出入り口、ここがどこに繋がっているというのか。
ここで突っ立っているよりはマシだ。歩いて暗闇とまばゆい光の境界を跨ぐとセピア色に染まった住宅街、だろうか。
町並みに少し見覚えがある。確か、全国にいったときに通った東京のどこかの町と実際瓜二つなのは分かった。
だがどうも奇妙で人がいる気配が一切ない。元からいないのか、もしかしたらそういう世界なのか。
しばらくすると瞬間に場面が切り替わり、今たっている場所と同じなのにさっきまでいなかった場所に人が現れていた。
京太郎「ど、どうなってんだ?」
困惑しながら突如雰囲気の変わった世界を見回すと、見覚えのある顔が一つ、二つ見えた。
その顔もこちらを確認すると駆け寄ってきて息を切らしながら声をかけてきた。
咲「京ちゃん、淡ちゃん見なかった!?」
京太郎「い、いきなりどうした。ああいや、見てないけど」
照「一緒にいたんだけど、いきなりいなくなっちゃって。どうしよう」
京太郎「とりあえず探そう。俺も手伝うよ」
照「ありがとう。それじゃあ京ちゃんは」
言い終わる前に場面がバッと切り替わった。背の高いビルが立ち並ぶ、その間の裏路地のようだ。
ふと背後で悲鳴をあげながら抵抗している声が聞こえてきた。
-
淡「や、やめてっ!離しなさいよっ!バカ!離せっ!」
顔が真っ黒な靄に覆われた体躯の大きい、男らしき影複数に淡が囲まれていた。
もしかして、もしかしなくても、これは自分の想像したくなかった現実が目の前に広がっていた。
痕が残るほど強く二人に手を抑えられて、もう一人の男が顎を突き出させるように持ち上げていた。
*「離せっていうのも乱暴だなァ。だが、言うことを聞いてくれたら考えないでもないよ」
目線は見えない。けど、下卑た劣情を前面に押し出して今から無理やりにでも抱いてやろうと
品定めをするように足、太腿、胸、顔をジロジロと繰り返し見ながらニタニタしながら舌なめずりをしているのが分かった。
――厭だ。厭だ厭だ!やめろ、やめろ!!
だけど、身体は動かない。最初から地面と自分の足が一体であったかのように重く進まない。
手を動かそうとしても大きく離れた距離から必死になっても虚しく空を切ってしまうだけ。
淡「いちおー聞いとくけど、どうすればいいの」
*「そりゃあもちろん、言わなくても分かってるだろう?」
淡「……っ!いや、やっぱ離して、おうち帰る!!」
*「君みたいな可愛い子をすぐに帰すわけがないじゃないかぁ。なあ?」
回りを見回して同意を促してからさらに淡へ詰め寄る。何をするかは明白だった。だけど足が足が動かない。
想いはもうあそこまで全力で走る気でいるのに身体が自分の意思から切り分けられているように一切の言うことを聞かない。
――お前は、彼女を理解することを諦めたんだろう?
京太郎「今までそうだったよ。目を背けてた。だけど今は違う!」
――もう駄目だよ。時間切れだってさ。君は淡を助けられない。
――ああやって傷物になっていくのを夢から覚めることも叶わず見ることしかできないんだ。
京太郎「厭だ。やめろ。やめてくれよ。どうしてこんなことを」
言葉すらもあちらに届いていないらしい。自分の制止してほしい声が世界に存在しないように
乱暴で欲望塗れの腕が不可侵の彼女の肌へと到達して――
-
淡「やっ!触んないで!やめて!このぉっ!やめてってばぁ!!」
どれだけもがいても身体が動くはずもなく、絶望で顔が真っ青になっていく。
ああもう自分はこの男たちに●●されるしかないんだ、と。
意思を一切考慮しない腕が乳房に到達して押すようにすると形を柔軟に変える。
持ち上げるようにしながら手をすぼませると手から乳房が零れ落ちる。
淡「んっ、…や、やめろ!や、やめてよぉ……ぐすっ、なんで、……こんな」
京太郎「どうしてこんなものを見せるんだ!やめろっつってんだろ!!馬鹿野郎!!!」
バチン、と何かが切れる音がした。
ぐつぐつと煮える自分への、男たちへの怒りが、広がって凝縮して具現した。
具現した何かが男たちへ飛翔し、悲鳴を上げる間もなく痕も残らずに消え失せた。
だが、淡の心に大きな傷が残ってしまったことに変わりは無かった。
それがどうしようもなく悲しくて悔しかった。
へたりこんで膝を抱えてさめざめと泣いている淡を見て拳をぐっと握り締めると、
夢特有の不可思議なご都合主義がまるで最初から何事も無かったかのように世界を書き換えた。
そこには『最初から淡しかいなかった』状態に変化して時間が巻き戻っているのが分かった。
呆気なかった。今時漫画やアニメでもないような超越的な力が働いているのが分かった。
ただ最終的に目の前の淡を救うことは出来たようだ。心から良かった、と思えた。
――そりゃあお前の夢だから何でもできて当たり前だろう
京太郎「ど、どういうこったよ」
――どうやらちゃんと向き合うつもりらしいね
京太郎「ああ!?」
――あれはちょっとお前の妄想を借りただけだよ
京太郎「んな悪趣味なことを…」
-
京太郎「もう二度と余計なことすんなよ」
――っていっても、これやらせてるのも結局はお前だから、こういう夢を見るなとしか言えんのだが。
京太郎「……ああつまり俺=お前みたいなアレか?ますます痛い設定だな」
もう返答はなかった。自由に動いていいということなのだろう。
ゆっくりと淡の方へと歩み寄った。
淡「――!誰!?」
京太郎「よう」
淡「あ、お兄ちゃん」
京太郎「照さんと咲が探してたぞ。さっさと帰るぞ」
淡「うん……あの、さ」
京太郎「何だ?」
淡「手、繋いで帰ってもいい?よく分からないけど心細くって」
京太郎「ああ、ほら」
夢だというのに、彼女の温かさを直に感じた。
手を繋ぐと満足そうに笑顔を浮かべて身体を寄せてきた。
淡「ありがとー」
手の温かさが全身に集まるように溢れて、夢から覚めると直感した。
夢の中の淡に別れを告げると視界が真っ白になっていくのを感じた。
――
――――
――――――――
目を開くと、自分の部屋だった。だったらやっぱりさっきのは夢だったのか。
どうも判然としない意識を頬を叩いて現実へと引き戻す。
京太郎「よし、夢だった。セーフセーフ」
夢のせいか昨日の晩より、一層淡のことが気になっていた。
早く高校に行かないといけない、と自分に鞭を打ってまだ痛む背中を伸ばすと、ベッドから飛び起きた。
-
超展開です。ゆるして
書きやすいところまで行ったらペース速められると思うのでなるべく頑張ります
-
まーたageるのを忘れてたのか
やっぱ勢いで書くと方向ガバりますね
辛うじて筋道通りに進めてますが
何かしら要望があればお願いします
-
続けるべきですかね、これ
需要が無いならどうするべきか悩んでるんですが
-
需要ありますあります(食い気味)
まあでも止める理由探すぐらいなら適当に完結させていいとも思います
-
あるのか…(安堵)
でしたら早いうちに再開します。
プロットをちょっと削ぎ落として、構想通りに進めます
-
ありますあります
-
これ以上回り道がない事だけを祈ってます
-
あく
-
ホームルームが終わるのと同時に教室を出て、一目散に旧校舎へと向かった。
坂を駆け上がり、階段を一つ飛ばしに踏みしめて息を切らしながら部室への扉を開く。
京太郎「おつかれーっす」
当然誰もいない。
吐息を誤魔化すように落ち着けながら荷物をどこそこへ放ると
雀卓に向かうように座椅子に座り、淡が来るのを息を潜めて待った。
人の気配一つしないシンと静まり返った空間。聞き耳を立てても物音一つしない旧校舎。
まるで最初から自分は一人であったのではないかと錯覚させるような不安がこみ上げる。
京太郎「少し来るのが早すぎたか?」
それを打ち消すように声をあげてから、雀卓の布をさっと引くと
並べられている牌を手慰みに磨くことにした。
そうして誰も訪れないまま徒に時間が過ぎていった。
もうかれこれ何分経ったのか、部屋に掛けられている時計を見上げた。
数時間経っていた。あれからなし崩しにしばらくの間雀卓を掃除していたのだ。
そんなに時間が経っていてもおかしくはないか、と妙に納得をした。
-
いや、納得をしている場合じゃないだろう。
誰一人来ないんだ。これはおかしい。何かの異常事態なのだろうか。
麻雀部に、いや清澄高校に何かあったのか。
知らないうちにこの世界からみんないなくなって自分だけ取り残されて
などとありもしないくだらない妄想をしながら窓を見た。
斜陽だった。
もうそろそろ冬至を迎えようという時期でいくら日が傾きやすいと言えど
日没に差し掛かるのは部活も終わりをそろそろ迎えようかという頃だというのに
それなのになぜ、誰一人部室に足を運ばないのだろう。
京太郎「あー、こりゃあもしかしてハブられたパターンか?」
最近の自分の問題を京太郎は振り返ってみた。淡絡みで目立つことはあったが
自分から何らかのアクションを起こしてここで注目を浴びるようなことは無かった。
つまり、こういうことではないだろうか。ついぞ存在感が0に限りなく近づいた京太郎は
連絡を回されることなく、それに気づかないまま麻雀部の他の連中はどこかで何かをしているのでは。
―――成る程ありえないことはないぞ。
兎も角、こうして待っていても誰一人来る気配はない。
窓から見える黄昏と、差し込む夕陽の光が感傷的な雰囲気を醸し出していた。
ムードは万全、されど待ち人来らず。それどころか理不尽な孤独であった。
京太郎「しゃあない。また明日来れば誰かしらいるでしょーよ」
溜息を吐いて座椅子に凭れた姿勢をピンと伸ばして背伸びをすると勢いをつけて立ち上がった。
そうして荷物を回収して部室を出ようとしたその時、ドアが開け放たれた。
淡か?
京太郎「遅かったじゃねーか、おい」
嬉々として扉へ近づいた。
やっと踏ん切りをつけることができる。
そしてなにより、自分の孤独を否定してくれる存在が現れるのが嬉しかった。
久「あら?須賀くん、どうして部室にいるの?」
期待とは裏腹に予想は外れた。
-
京太郎「なんだァ…部長かぁ」
あからさまに残念そうな顔をして肩を落とす。
すると、当たり前だが不満気な顔で睨むようにこちらを久は見上げてくる。
久「なんだとは失礼ね、誰かを待ってたの?」
京太郎「誰かってそりゃあ、部活があるから待つも何も――」
久「部活って、あなたねぇ。連絡はちゃんと回したはずよ?」
彼女は何を言っているのだろう。
訝しげな顔で、まるで自分がおかしなことをしているかのように。
久「けーたい、見てみなさいよ。咲から回ってきてるはずよ」
京太郎「はぁ」
朝起きたときから待っている今の今までの間、咲から連絡なんて来ただろうか。
学生服のズボンからスマートフォンを取り出し、連絡が来ていないかの一切を
全てのメーラや着信履歴を隈なく目を通して調べてみた。
京太郎「やっぱりないです」
久「あ、あれっ。おかしいわね。私のせいかしら、……あれ、でもなぁ」
久は京太郎に自分の携帯を突きつける。乱暴にこちらに突き出したのか
可愛らしいマスコットのキーホルダーが揺られていた。
どれどれ、見てみれば確かに連絡はしているようだ。
というか部員が少ないのだからメーリングリストでも作って連絡網を回せばいいのに。
とは言っても忙しい彼女のことだから面倒の一言で切り捨てられるのだろうが。
閑話休題。
京太郎「本当だ。そんじゃあ咲から止まってるってことっすかね」
久「そうみたいね。ごめんね。大本の責任は私だわ。無駄な時間使わせて本当にごめんなさい!」
頭を下げて本当に申し訳なさそうにしている。
腹のひとつでも立ててやろうかと思っていたが、逆に恐縮をしてしまう。
彼女も彼女で大変で、部活に実績としての功績を残さない自分に対してもこの姿勢なんだから。
節々で本当に立派だと思わされる姿勢が見え隠れする彼女を怒る必要すら感じなかった。
-
京太郎「はぁ……、いいっすよ。部長も大変でしょうし、俺一人が待たされたくらい……」
久「ほんとごめんね。最近須賀くんが麻雀に対して必死なのも知ってるのに私ったら」
京太郎「だから、いいですって。俺だってやる時間はいくらでもありますよ、家とか、家とか」
文句はあるが、ここで部長にぶつけるのは何か違うと思った。
麻雀が強くなるために場数を踏みたい。確かにその意志は未だあるが
今はそれよりも別の目的の方が気持ちを先行していた。
結局今日は、淡とは会えず仕舞いだった。
いつもなら、結構な頻度で本校舎でもエンカウントするはずだが
今日に至っては一度も顔を見ることがなかった。
まるで意図的に遭遇しないように意識されているかのように。
―――いやいや、それは流石に自意識過剰だろう。
京太郎「それはそうと部長、今帰りですか?」
久「ええ、まあ」
京太郎「一人じゃ危険っつってたし、一緒に帰りましょうよ」
久「あら?もしかして待ち人といい、私が目的だったんじゃ…」
京太郎「はいはい、帰りましょうねー。っと、その前に」
久「?」
面と向かって久に顔を向けると、何が起きるやら首をかしげていた。
一応何が理由でみんなが来なかったのか。待たされた自分には聞く権利がある、そう思った。
-
案外彼女はその要求をすんなりと頭を縦に一回振って受け入れてくれた。
プライバシーに関わるものは伏せるから情報があまり少ないことに断りを入れてられたが、まあそれは仕方ないだろう。
戸締りをして昇降口へ向かい、靴を履き替えて高校の敷地から出ると、久がようやく話を始めた。
まず、久は例の如く学生議会の雑務やら、新学生議会長の引継ぎのための書類やデータのまとめをしていたらしい。
何でも、今年の学生議会は少数精鋭で動いていたため、次期会長がちゃんと引継ぎできるように状況を整えているらしい。
次にまこ。ルーフトップ――まこの実家で経営している麻雀卓がある喫茶店――が忙しいらしく急遽ヘルプで呼ばれたとのこと。
そして宮永家の三人。何やら詳しく話せはしないが、所用があるらしく三人とも部活に顔を出せそうにないらしい。
5人(部長を含む)が部活に来れないとなると最早部活をするどころではないと判断した久の考えで今日は部活を休みにしたらしい。
京太郎「でも、それだったら俺と優希と和の三人いるからサンマで打ちっぱなしとかしとけば」
そうだ。絶好の練習の機会かもしれなかった。そこに本命の淡がいなくともそれはそれで魅力的だった。
どうしてそれだけで部活を休みにしなければいけなかったのか。憤りはなかったが、疑問だった。
それに、事情を話しているときの久の表情にどこか胡散臭さが滲み出ているような気がした。
久「あー、それはそのー……話せないってことじゃあ、ダメ、かしら?」
納得はいかないけど、それで納得をしなければならないらしい。
京太郎「わかりましたよ。それでいいです、何かあるのがわかっただけで」
久「ご、ごめんねぇ、ほんと」
京太郎「謝ってばっかじゃないですか……どうしたんです?部長ってば」
久「えーだってこういうの性に合わないっていうか、須賀くんに申し訳ないっていうか……。うーん…なんだろ」
京太郎「……何の話です?」
久「あー、たんまたんま!今のナシ!何も聞かなかったことにしてっ!」
京太郎「?…はぁ」
-
京太郎「そうだ、話が変わりますけど、咲のやつ何で俺に連絡回さなかったんでしょう?」
久「それは私も知らないなぁ。 普通にド忘れしてたってのが結構いい線だと思うけど」
京太郎「それが確かに一番有り得るんですよね。よくあいつドジするし、迷子だし」
久「迷子は関係ないでしょ」
京太郎「うわああなんか腹立ってきたぞ!今度あったらあいつに何をしてやろう」
久「アハハ……、手加減してあげなさいよ。咲は女の子なんだから」
京太郎「俺だって繊細なガラスの十代なんすよー!」
久「そうね、そうだったわ。でも手加減はなさい、いいわね?」
その後は、部長とただ話をしながら帰り道を軽い足取りで歩んでいた。
それほど日常的に接点があるわけではない久との会話は新鮮だった。
学生議会のこと、麻雀のこと、部活のこと。取り留めのない話に盛り上がって
時間を忘れて二人で話していればと区切りのいいところで分かれ道になった。
京太郎「じゃあ、そろそろここで失礼します」
久「おー、明日はちゃんと部活あるからがっこー出てこいよー」
なんて冗談っぽく笑いながら手を振ってこちらを見送っていた。
少し、彼女のことが分かって距離感とかそういうのが縮まった気がした。
京太郎「さて、本格的に帰りますか」
話している間忘れていた肌に染みる寒風の痛みを思い出し
ますます冷え込む冬の寒さから逃げるように足を速めた。
-
頑張って仕上げてくれよなー頼むよー
-
やっぱり雰囲気がかなり出てますね…
-
もう待ちきれないよ!早く出してくれ!
-
私用は立て込んでおりますが
明日か明後日に本格的に再開できたら、と思っています。
再三言うようですがあくまでエロ書きたい一心で書いてるようなものなので何かが爆発するかもしれません
そのときはご容赦をば
-
レスをたくさん貰ってるので何とか目処をつけて、負担にならない程度に進めます。
ありがとうございます
-
◆◇翌日
-朝-
常日頃より少し早い時間に目覚ましが鳴り響く。恨み言を言いながら体を起こし
諸々の準備を済ますと足早に家から飛び出した。何も居心地が悪いわけではない。
淡が登校するであろう時間を彼なりに分析した結果が早起き早出のスケジュールとなった。
ともかくとして、今日も今日とて外出する気の失せる寒い通学路を猫背でポケットに手を突っ込みながら歩いていた。
この時間帯なら淡に会えるはずだ、と目論見、期待をしながら。
通学、通勤時の交通機関の時間帯とあまり時間帯が被らない人が疎らな道、シンと静かになっているわけでもなく
喧騒に塗れているわけでもなく、ちらほらと同じ制服を見かける程度の歩道に駆けてくる足音が響いた。
――やっぱりこの時間帯で間違いなかったな
息を荒くしてアスファルトを乱雑に蹴り上げる危なっかしい足取りが次第に近づいてきて。
誠「おはよう。なんだ随分早ぇじゃんかよ」
京太郎「おはよう、って……なんだお前かよ。ふざけんなよこの野郎!」
誠「おおう!?どうした」
万全のタイミングで待ち人が来たと思えば場違いの野郎だった。
これで憤らずにいられるだろうか、いやない。なので仕方のないことであろう。
舌打ちをしながら不貞腐れたように尚更腰を曲げてから並んで歩き出した。
京太郎「ったく、まあいいけどさあ」
誠「……?なーんでお前はそんなに機嫌悪いの?」
京太郎「なんでもねえよ」
誠「そっか、件の大星ちゃんと喧嘩でもしちゃったか」
京太郎「そんなんじゃ……うーん、傍から見りゃあそうなるのか?」
誠「よう分からんけど、早めに仲直りしろよ。お前に八つ当たりされちゃ適わん」
京太郎「……了解」
そのずっと後ろででじっと京太郎の背中を見つめる影があった。
淡「……お兄ちゃん」
自分に気づいてほしい。けど気づいてほしくない。複雑で意味有りげな視線は当然届くはずもなく
できるだけ彼方から此方が見えないように物影から様子を窺っていた。
当人たちには気づかれず、周囲の道行く生徒に悪目立ちするその様は
適わぬ恋に焦がれる少女、またはストーカーそのもの、恐らく大半の人間に後者だと思われたのは言うまでもない。
-
-昼-
放課後が待ち遠しい、否、授業が眠たい。
授業は滞りなくいつも通り有難い説法のようにテンポよく進んでいる。
内容に興味がないと言えば嘘になるが、如何せん理解の範疇に及ばない文字の羅列は
催眠作用のある呪文と何ら変わらないわけで…、いつも通り、視界が、塞がっていき――
…………
………
……
…
誠「おい、昼飯行こうぜ」
京太郎「んあ?」
重い背中を持ち上げて、深く深呼吸。
目を擦りながら、声をかけられた方へ頭を上げると見下ろす誠の姿を捉えた。
淡が来ない今、こうやって昼休みが始まると誠が呼びにくるのが日常になっていた。
京太郎「ああ、おう」
誠「……本当にどうした?学食じゃなくて保健室行くか?」
京太郎「いや、いいよ。学食行こうぜ」
いつも通りの賑わいを見せる学食。咲との言い合いや淡との痴話喧嘩など
傍から見れば噂の渦中である京太郎だが、見向きもされずにいた。
人の噂もなんとやら。流れの激しい現代日本の若者の意識の流れに人知れず感謝していた。
誠「まーた何か呆けてんなこいつ」
京太郎「ああ悪ぃ、そんなわけで調子悪いから席とっとくわ。俺の分まで頼むな、ラーメンでいいから」
誠「こいつ……」
―――
悪態をつきながら、券売機に並ぶ列に入る。
この授業終了直後のこの時間帯はやっぱり皆同じに腹を空かせている訳で。
いよいよ暇と空腹で落ち着きがなく目の前が進むのを確認しながら回りを見回していると
誠「下手なこと言わねえ方がいいな……ん?あの子は」
淡「〜〜♪」
誠「あっ、ど、ども……」
淡「えっ?あっ…!や、やばっ!」
後ろに並んできた淡と目が合う
……と同時に一目散に逃げ出した。
その忙しないご様子に誠は頭に?を浮かべていた。
-
席を取ってからしばらくして、居場所を見つけた高久田誠は
盆を二つ、絶妙なバランスで運んできて、しれっとした顔でご丁寧に京太郎の目の前に配膳をした。
誠「ご注文のラーメンでございます」
京太郎「……?カツ丼なんだけどこれ!!」
誠「まあいいじゃねえか。さっさとおあがり」
京太郎「何一つよくないけどね、なんなのよお前は!」
誠「はははっ、これでおあいこだ。――あっそうだ、なあおい」
京太郎「どうしたよ」
誠「さっきさ、大星ちゃんを見たんだが、俺の顔を見るなり走って逃げ出したんだよ」
京太郎「顔が怖かったんじゃないの?お前背ぇ高いし、顔がアレじゃん」
誠「そっかぁ、整形しようかなぁ」
京太郎「ナイーブだなぁ……」
誠「……」
京太郎「……」
誠「まあそんな冗談はともかく、仲直りしとけよ。俺の顔みただけで察して逃げるってよっぽどだぞ」
京太郎「お、おう……」
京太郎「(まあ、あんな言い方したら逃げられるのは当たり前か……)」
京太郎「(いや、だけど……)」
だとしたらなぜ今日からまた避けられるようになったのか。何故このタイミングで?
確かにあの時はもう終わったと思ったけど、それでも部活でも自宅でも仲良くやってたはずだ。
もしかして、変わり映えのないこの関係に嫌気が差したとか、まあそれなら仕方ないが――仕方がないわけではないが――
それとは別の嫌な予感というか、虫の知らせというか、とにかく、耐えがたい何かが泡沫となってポツポツと思考の中に侵入してくる。。
何か、よくわからないけれど何かあるんじゃないか。水面下で蠢いている何かがどうしようもなく気になって
得体の知れない陰りが微妙に行き先を薄暗くしていっているのを感じていた。
誠「…おい」
京太郎「あっはい」
誠「冷めるぞ」
京太郎「お、おう。悪ぃ」
その後深く考えれば考えるほど気が滅入るのであまり深く考えないようにして
空元気におどけながら、昼休みは過ぎていった。
-
あくしろよ
-
あくしろよ
-
しえん
-
その後何事もなく滞りもなく時間は過ぎてあっという間に放課後になる。
友人たちとの別れの挨拶を済ませると一枚羽織り、脇に学生かばんを挟みそそくさと外へ。
人も散漫になった校門を駆け足で飛び出てから歩調を緩めると
なだらかな坂を猫背になりながらのぼり、定刻より少し遅れて部室の扉を開く。
優希「遅いじょ京太郎!どこほっつき歩いてたんだ!んん??」
京太郎「悪ぃ悪ぃ、ホームルームが長引いたんだ」
などとさりげなく嘘をつきながら彼女の姿を目配せして探す。
一見したところ、まだ二人ほど来ていない。
お菓子が原因で喧嘩したり、割と不真面目な点も散見する淡だが
夏の決勝で敗北を喫した淡はこと部活においては以前より真摯になっていたはずだ。
照に関しては言うまでもなく、咲と同じように
始まる前から部室に到着して静かに本を読んでいるはず。
しかし、いない。何故だろう。
ズル休み、病気、或いは、或いは……。
――そういえば、誠が昼休み顔を見られただけで淡が逃げ出したと言っていたな。
あれが何か関わっているんだとしたら、俺に会いたくないってことだもんな。
もしかして、嫌われたか?
まこ「京太郎、早う入りんさい」
京太郎「…………いやそんなはずは」
久「須賀くん?」
若しくは、会いたくない事情があったとか。ベタなところでいえば――
-
優希「おい、京太郎」
一際甲高い声で目の前に意識が戻ってくる。
考えないで目の前がお留守になっていたのか
皆が気味悪そうな顔でこちらを見ていた。
京太郎「ん?おお、俺か。アハハ、参ったねどうも」
優希「ブツブツ言って突っ立ってないで早く入れ、ドア開けっぱだと寒いだろぉ」
京太郎「そうだな。すまんすまん」
咲「どしたの?」
京太郎「いやなんでもないよ。なんでもなくはないけどさ」
咲「?」
お前にどうしたのって聞きたいんだよ!という言葉を飲み込む。
部屋に入ると皆が取り留めのない話を再開し始めた。
だが、二人いないのにそれでもこれで全てピースは埋まったとでも言うように
いつもどおりの喧騒を繰り広げている部室に京太郎は、安心感より違和感を感じていた。
兎も角、難しい顔をしている暇はない。
準備して彼女、もとい彼女たちを待っていなければ。
コートを脱いでハンガーに掛けると荷物をロッカーに仕舞って雀卓へ近寄る。
すると同時に部長が手拍子を鳴らし、そちらへ一斉に注目を集めた。
久「それじゃあ、皆揃ったところで」
京太郎「えっ!?ちょっと待ってくださいよ!」
久「どうしたの?急に大きい声でお話に水を差しちゃって」
京太郎「いや、全員って……まだ二人来てないっすよ?」
久「あら?……あちゃー、須賀くんには伝えてなかったっけ?」
ああやっぱり―――
久「照と淡は白糸台へ戻ったのよ?」
そういうことなのか
-
京太郎「そ、そんな……。でも、なんでそんないきなり」
久「えっ、結構前から言ってたけど、ねえ咲」
淡々と、感情を抑えているのか、それとも何も思うところがないからか。
原稿を読み上げるように転校の理由を咲はあっさりと述べた。
咲「はい、1ヶ月くらい前から言ってました。多分。淡ちゃん家の事情で戻るって」
咲「お姉ちゃんも今後の活動を考えるならあっちに移動してた方が都合がいいからって」
嘘だ。誠がちゃんと昼ごろ、それも昼休み時間に券売機に並ぶところをみかけている。
転校というならば、今日こんなにのんびりと昼を過ごすことなど有り得ないはずだ。
ただ、急いで走って逃げ出したこと、それだけは認めたくない不安材料となっているが。
京太郎「俺のダチが昼休み、食堂で淡を見かけたって言ってましたけど」
久「ああっと、そ、それは……」
咲「淡ちゃんね、今日は清澄で過ごす最後だから、普通にいつも通りみんなと過ごしたいって言って」
まこ「事前に準備を済ましちょって、放課後まで過ごしてから東京の方へ向かったんじゃと」
優希「京太郎と会うと帰れなくなるから、会いたくなかったって。だから、京太郎の相棒を見て慌てて逃げたんじゃないか?」
京太郎「…………」
なんで、こんなことまで俺には通達されていないんだ。部の連絡網ガバガバじゃないか!
という理不尽さを嘆くよりも、悪い予感が的中したその胸糞悪さと、思ったより大きい喪失感で胸が一杯だった。
そうか、いなくなったか。
なら何で彼女たちはそんなに冷静なのだろう。
一つも悲しいというか寂しそうというかそんな素振りを見せないのだろう。
知らされたその日から今日までの間に心の準備をして、気持ちに踏ん切りをつけたのだろうか。
折角仲良くなって、距離のあった二人を受け入れて、上級生二人が卒業目前でようやく一つになれたと思った直後だったというのに。
迸る感情の奔流を抑えるようにすると陽炎のようにぼやけた目の前がクリアになる。
気がつくと、皆が京太郎の顔を伺うようにしてじっと黙っている。
まるで自分が被告人で、これから罪状を言い渡されそうな気分だ。
京太郎「なあ、咲」
咲「……なぁに?」
京太郎「お前は、姉ちゃんや妹分とまた離れ離れになって寂しくないのか?」
咲「しょうがないよ。やりたいことがある、やらないといけないことがある。それを邪魔するのは」
咲「大事な人がそれを邪魔しちゃうのは、一番やっちゃいけないことでしょ?」
-
京太郎「……………」
黙って咲を見つめていると、彼女の堪えている表情が段々崩れていった。
咲「毎日ね、夢にみていた家族団らんをね、してたんだ」
咲「今までの埋め合わせとはいかないけど、それでもやっと分かり合えて、あの時みたいに」
咲「帰ってきたら当たり前みたいに皆がいて、そのうち待ってたらお父さんもお母さんも帰ってきて」
咲「皆でテレビ見てたり、会話したり、同じ食卓を囲んでさ。ほんと、夢が叶ったんだよ」
咲「仲直りできて、幸せなんだ。私」
京太郎「………ぁ」
いたたまれなくなり、何もいえず目を逸らし、
僅かに喉元から抜けてくる空気が情けない小声を漏らさせる。
みんなが沈黙を守り二人を見つめている。誰がどうだと善悪の評価をつけるわけでもなく、ただ見守るようにじっと。
その空気が居心地が悪くて、胃がキリキリとなっている気がした。
――図太い気がしたんだが、最近はどうも弱ってる。ダメだな俺……。
自嘲で鞭打ち、咲を見つめなおす。
咲「…………」
咲「寂しいよ。でも、どうすればいいの?私はどうすればよかったの?我侭言えばよかったの?ねえ、京ちゃん…」
声を震わせて、雨に濡れた小鳥のようにみすぼらしい縮こまり、目に涙の膜を張り、
今こうやって立ってか細い声を出すのがやっとだというのを身体全体で主張している。
京太郎「え、あ、……お、お、俺は」
-
助けを求めるように周りを見回すと
久、まこ、優希、和。皆が一様に
不満、寂しさ、悲しさを押し込んだような神妙な顔をしていた。
全員が全員、覚悟も出来ないままこうなってしまったこと。
理由は定かではないが、それほど急を要してまで転校をしてしまったこの現実。
未成熟で脆い彼女らの心に確かに傷跡となって
それぞれの中にくっきりと形を遺していることが。
たった今はじめて理解出来た気がした。
京太郎「ごめん、分からない」
咲「…こっちこそ、ごめんね。いきなり気持ちをぶつけちゃって」
京太郎「いや、いいんだ。…それに、咲は何も悪くないよ。誰も悪くないだろ。しょうがないよな…そうなんだよ……」
肩をぽんぽんと叩きながら、頭を撫でてやる。
正解がどうなのかは知らないが、自分が思いつく範囲内での最適解はこれなのだと思った。
宥められた子どものように少しずつ震える肩が微弱になり、
それでもずっと心の震えを残したようにおさまらないまま。
京太郎は自分に言い聞かせるように、ぽつぽつと言葉を放って、その度に自分が情けなくなっていた。
そうか、もう傍にいることもなくなったんだな。
自分以外の部員全員の中で彼女たちは大きな存在となりつつあった。
喜ばしいはずのそれは、皮肉としか言いようのない形で表れてしまっていた。
ガラガラとあったはずの現実が崩れ去るという表現よりも、すうっと消えてあったはずの色彩が意味を失い
少しモノクロに近づいて、もう二度と戻しようもない劣化をしてしまったような、そんな表現が的を射ていると思った。
京太郎「とりあえず、……その、すみません。俺が茶々入れちゃったばっかりに」
久「ほんとよ。どうしてくれるのかしら?須賀くん」
優希「可愛い咲ちゃんを泣かしたからには、今日は生きて返さないからな!覚悟しておけ!」
嫌な沈黙をすぐに変えたくて発した言葉を皮切りに、無理やり路線変更された部室の空気は
未だ淀んだまま仮初の賑やかさで以って部活は進行し、
珍しく京太郎はずっと卓に参加できたものの、精も魂も尽き果てるまで点棒を何度も毟り取られた。
日の入りが早まるほど世間は忙しく静まることのない、文字通りの師走を彷彿とさせ、冬至を目前とする
高校一年の十二月半ばはどうやら苦い思い出となりそうだった。
-
もう更新ないのかと思ってたから続きが来てくれてとても嬉しい。
-
読んでて淡が可愛くなってしまった… 続きを是非に!オナシャス!
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今週か来週中に前半終わらせて
お砂糖吐くようなお話書くので
今は暗い話だけどゆるして
-
オナシャス!
-
あくしろよ
-
色々あって続き書くペース遅れてます
富樫化は逃れたいので自分のペースで進めていきます
待ってる人いるかわからないけど一応報告です
-
>>216
やったぜ。
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あっ下げるの忘れてたゾ(池沼)
-
あっ、そっかぁ…
-
それから、部活が終わった後の会議で何か大事なことを済ませたらすぐ解散となったが、細かいことは記憶しておらず
久がまこにバトンタッチよろしく部長の座を引き継ぐための諸々をしていたことは覚えている。
兎も角、京太郎は
突きつけられた現実に強烈過ぎる感情を抱き、受け取る全てを漠然とさせていた。
そして、気づけばもう自分の部屋にいた。
やるせない気持ちを表すように荷物を投げ出し、無造作に服を脱ぎ散らかすと身を投げ出すようにベッドに身を投じ
眠くなるまでじっと目を瞑って、いじけた子どものように不貞寝をした。
◆次の日
京太郎「お疲れーっす」
周りを目配せして少し寂しくなった部室を見回して、いるわけがない人を探す。
久「……須賀くん」
哀れなものを見るような目を向けて部長、もとい竹井先輩が優しく声をかけてくる。
他のみんなも同じような面持ちをこちらに向けている。
居た堪れなくて、なーんてな、と誤魔化しに声を張り上げる。
今日も半荘数回打てるほど卓に長時間座ることができた。
惨めな気持ちになった。
-
◆その次の日
一応、クラスメイトや友人に淡を見ていないか聞いてみた。
黄色っぽいブロンドの長髪に男女問わず目を引くようなふくよかな体型。
校内で歩いているなら目の端に捉えたとしても分かる特徴だ。
----予想通り、目撃情報はたった一つもなかった。
淡がいなくなった事実がいよいよ頭の中で現実味を帯びてきた。
京太郎「…どーも」
とりあえず部活に参加する。表情が落ち込むのはもう仕方がない。
しばらくはこの気持ちも抜けきらないだろう。
だからといって、部活を休んでまで皆を心配させるのは駄目だ。
その上そんな形での意思表示は情けないことこの上ない。
今日も皆と卓を囲むことが出来た。
打っている度、ずっと傍で支持していた淡のアドバイスが
牌を切ろうとしたり、他の人の顔を見るたびに彼女の顔ごと思い浮かんでくる。
やれ表情がどうの、河に持っていく牌がどうの、基礎的なものや
どうしてそこでダブリーしないの?などという理不尽な要求もあった気がする。
そのせいだろうか。ずっとやりたかった当たり前の部活をしていても
楽しいから続けていたはず――半ば下心混じりではあったが――の部活が、全然面白くなくなっていた。
-
次の日、また次の日。そうやって無気力な1日を繰り返し、もうそろそろ1週間が過ぎようとしていた。
◆ある日の晩、自室にて。
とうにすり替わっていた部活にいく理由が無い今、今後をどうするかを考えていた。とりあえず惰性で続けるか
今続けても来年度はどうなる。一躍有名になってしまった麻雀部に少なからず新入部員は入るだろう。
半ばマネージャーと化している自分のポジションは無くなり、本当にあそこにいる必要が無くなる。
皆はそんなことない、と止めてくれるだろう。だけど、それも気休めだ。
もっと淡と一緒に打てていたら、来年度には少しは強くなって大会でも成績が残せていただろうか。
京太郎「(そうだ、そもそもあいつは何の事情があって東京に帰らないといけなかったんだ?)」
知る権利があるかどうかは分からない。兄妹といっても形ばかりのごっこ遊びだった。
だけど、知っておきたかった。自分ならどうにかできるかもしれないという驕りと
すべてを知って心のもやをスッキリさせたいという独りよがり。
結末はどうせ徒花であったと踏ん切りをつけるための儀式なようなものだ。
もちろん、それで落ち着くと言えば嘘にはなるが。
-
京太郎「それにしても」
京太郎「どうして俺には何も言わないで行っちまったんだよ!」
京太郎「何も言わないでいたほうが楽かもしれんが、俺はそうでもねえよ」
京太郎「畜生、最初から最後まで勝手なことばっかやりやがって」
鬱憤を晴らすように滾々と恨み言が溢れ出て静かな部屋の四方に響く。
せめて、メアドとかそういう類の連絡手段は欲しかった。
思えば今まであんなにベタベタしていたのに、そこのところは一切知らなかった。
勇気がなかったというのもあるし、毎日誰かしらの側にいたから必要なかった。
それに、彼女に明白として女性を意識をしたのは兄妹ごっこが始まってからしばらく後だったせいで
なかなか露骨に聞くことが出来なかったことが最もな要因だろう。
京太郎「まあ、今更だろう」
携帯を取り出し
京太郎「ええい、ままよ!」
勝手知ったる幼馴染の携帯に電話をかける。
TLLL....
TLLL....
京太郎「あれ、咲のやつどうしたんだ?」
コールを数回繰り返しても出る気配がない。
しばらくまっていると、ブザー音が鳴り、機会音声が不在を通知した。
京太郎「……風呂かな?」
気が抜けたように携帯を手放すとベッドに寝転がって天井を見つめた。
-
京太郎「そういえばこのくらいの時間だったっけ……」
いつもならこの時間に淡を何かしらの理由をつけて追い返していた。
今思い返せばそれほど悪い気はしなかったし、淡もそうだったんだろう。
京太郎「…っと」
また深みに嵌って徒に自虐的な回想をしてしまうところだった。
とにかく、今は余計なことを頭から追い出したいんだ。
寝たままの状態で携帯に手を伸ばして麻雀のアプリを起動する。
眠くなる時間が来るまでの時間つぶし。勉強の予習復習なぞ以ての外だ。
―――
――
―
京太郎「なんだ、俺って結構やる方じゃん」
ドベに甘んじることなく、結果は3位、良くて2位をキープしていた。
なるほど彼女の指導はちゃんと身になっているようだ。
京太郎「よくよく考えれば、あいつらが強すぎるんだよ、全国優勝するレベルだから当たり前だけどさ」
京太郎「でも、俺も少しは強くなってるんだよな。……よし!」
やる気に火がついた丁度その時だった。
携帯のバイブレーション機能が着信を知らせる。
京太郎「おいおい、今頃かよ」
表示されている名前は宮永咲。
京太郎「ま、いいか。どうせ暇つぶしだったし」
通話ボタンを押すと耳元に携帯をあてがった。
-
京太郎「もしもしぃ?」
咲『どうしたの京ちゃん、変な声だよ?』
京太郎「丁度いいタイミングで誰かさんから電話が来てな」
咲『なぁにそれ、京ちゃんが先に電話したじゃない』
京太郎「ああ、悪ぃ悪ぃ。風呂だったか?」
咲『……。そうだよ』
京太郎「やっぱりかっ」
咲『何その嬉しそうな声。あっひょっとして――』
京太郎「違ぇよ。てか冗談だし」
咲『…ムカツク』
京太郎「ふふっ、ああ、そんで本題なんだけど」
咲『うん』
京太郎「咲って淡のメアド若しくは電話番号知ってるよな」
咲『知ってるけど?』
京太郎「教えてくれない?」
-
咲『どうして?』
京太郎「色々聞きたいってのと、……いや、うん。色々聞きたいんだよ。あっちに戻った理由とか」
咲『ふーん』
京太郎「ダメか?」
咲『ま、いいけど。私にも詳しくは教えてくれなかったからさ。帰った理由』
京太郎「えっ」
咲『ま、京ちゃん次第かな』
京太郎「……そうなのか」
咲『うん、京ちゃんになら教えてくれるかもしれないし』
京太郎「買いかぶりすぎじゃないのか?」
咲『ふふっ、私はそうは思ってないけどね。それじゃあ、後でメールで番号とアドレス送るから』
京太郎「おう、ありがとな。今度何か奢るよ」
咲『あっ、いいの?』
京太郎「おう」
咲『忘れないからね、その言葉。それじゃっ』
通話を終えて暫くしてから咲からメールが届いた。
言ったとおり、電話番号とメールアドレスのみが書かれた無機質な文字の羅列。
記載されている内容をアドレス帳に保存しながら、ふと思っていた。
咲にも話さなかった転校の理由。それも照をも一緒に帰ってしまうほどの。
咲は自分なら聞きだせると言っていたが、もしかしたら踏み込んだらいけないところまで
自分は踏み込んで、真意を聞こうとしているのではないだろうか。
泥濘に足首まで漬かり尚も足が勝手に進んでいるようなような嫌な感覚に気が退けた。
ここまで来て何もアクションを起こさないわけにもいかない。
京太郎は動悸を確かに耳に感じながら『須賀京太郎です。今から電話よろしいでしょうか?』
とただ一文のメールを恐らく淡の携帯に届くであろうアドレス宛に送信した。
-
あくしろよ
-
待ってる
-
まだかかりますかね?
-
チョットマッテ
-
やっと時間ができたのでなったので再開しますね(4度目数ヵ月ぶり)
-
やっと時間ができたのでなったので ×
やっと時間ができたので ○
誤字すみません
-
やったぜ。
-
送信完了と表示される。
京太郎「ん〜〜!!あ〜〜、どうしよ〜〜!!」
送ってしまった。
後には踏みとどまれない、梯子を外されたような心細さと
何を聞こう、どうやって話そうという緊張で
乙女のような裏声を出しながらベッドを転がっていた。
しばらくそうしていると訝しげな顔をした母親が顔を覗かせてきたので
赤面しながら誤魔化す文句を一つ二つ並べてからベッドにどっしりと座って、返信をまった。
さあ、いつでも来いと意気込む。
程なくして、メールではなく、着信の音楽が流れた。
表示名を確認してから携帯を耳元へ寄せた。
京太郎「も、もしもし」
返答がこない。
京太郎「もしもしー、淡?」
淡『〜〜〜〜!!』
電話越しに聞こえる悶えるような声の後、
ゴトンと落ちた音がして、あ痛っ!という悲鳴が響く。
淡『いてて…ごめんごめん、久々聞く声でなんか悶えてた』
嬉しそうな声に自然と頬が緩んでニタニタとした顔になる。
おかげで緊張は緩み、いつもの調子で会話が出来そうだ。
京太郎「おう。そっか」
淡『というわけで、はろはろー、お久しぶりっ!…ってほどでもないか』
京太郎「こちとら数日その声聞かないだけで久しぶりに感じてんだ。ちょっと話に付き合え」
淡『うん。それで、お電話よろしいでしょうかーって』
京太郎「ああ、淡に聞きたいことがあったんだよ」
京太郎「だけど間抜けだよな。俺お前の電話番号すら知らなくって」
淡『あー…そっか、そうだね。私が教えなかったってのもあるんだけど』
-
京太郎「ずっと傍にいるもんだと思ってたから必要ないと思ったんだよ」
淡『あら残念。私はもうとっくにサキん家にはいないワケですが』
京太郎「それな。油断してたんだね、俺。多分。余裕があったんだよ」
淡『そりゃあいつもこんな可愛い子を隣に侍らせてたら余裕もでるでしょーよ』
京太郎「自己評価たけーな」
淡『どういたしまして!』
京太郎「……そんでさ、どうしてお前突然いなくなったんだよ」
淡『突然じゃないよ、前々から言ってたもん』
京太郎「この際それでもいい。じゃあなんて理由を伏せて転校したんだ?」
淡『んーぅ?てん…ん?ん、あー……ちょい待ちっ、お花摘みっ!』
困惑した声のあと、音を立てて駆ける音がした。
『転校』という単語に見当違いなものを感じていたような…。
淡『ちょっとー……―――だけどっ―………――いいの?』
淡『――ん……、……うん―――で、―……――のね?――』
もしかして、これは……。
疑う要素はいくつもあった。まるで作られたようなお通夜のような雰囲気。
自分だけに連絡されてない転校の話。話してもいないのに誠と淡が会ったのを知っていた優希。
普通、あれほど仲良くしていた仲間が転校して様子も変えず、自分が尋ねるまで平常運転で部活を出来るだろうか。
都合よく口裏を合わせて自分だけをハメているような、だが、今の京太郎にはその理由が分からなかった。
疑心が強まる。確定とは言えない限りなく黒に近いグレーのような状況。
人の感情まで考察できない詰めの甘さと鈍さがそれを黒と断定させないでいた。
-
淡『あーはいはい。もしもしー』
京太郎「おう」
淡『転校の理由。ちょっとね、詳しくはいえないけどお家の事情よ。戻んないとヤバい系のやつ』
京太郎「……親父さんが危篤とかか?」
淡『詳しくは言いたくないのっ、詮索しない!』
京太郎「まあいいや、お前さ。転校した日のこと覚えてるか?」
淡『も、もちろん!』
京太郎「あのときお前、朝にもう出たんだろ?」
淡『そうだけど』
京太郎「朝にもう出て?そのまま電車に乗って?」
淡『そうだってば』
京太郎「へーーーえ、ほーーーーお、なるほどなるほど?」
淡『えっ、な、なに?間違えた!?』
京太郎「間違えたって何をだよ。お前転校したんだろ?」
淡『あー、今のナシ!今のナシ〜〜〜!!」
京太郎「……はぁ、あのさぁ、そこまでしてどうして嘘つくんだよ」
淡『「京太郎」には関係ないじゃん!』
京太郎「――――」
-
京太郎「そうだな。お兄ちゃんじゃないもんな」
淡『あ、う、ど、どうして』
京太郎「だから、一緒にいる義理はないし、面倒見る必要ないし、登下校も必要ない。麻雀だって教えてもらう義理はない」
淡『なに、何がいいたいのよ』
京太郎「だけど、俺はお前がいないこの数日間。結構寂しかったよ」
淡『――ッ』
京太郎「だから、こうして数日ぶりに電話越しでも声聞けて嬉しかった」
京太郎「あえて名前で呼んで、距離を作られたのが分かってちっとばかし傷ついた」
淡『……うん』
京太郎「割とさ、お前といる生活が普通になってて、だから今は物足りないんだわ」
淡『……それで?』
京太郎「何か分からんが、すまん!俺が悪かった!もう降参だ!戻ってきてくれ、淡!」
淡『ふ、ふーん。何かは分からないけど、反省はしてるんだ』
京太郎「ああ」
淡『どーしよっかなー。何が悪いか分かってないんだもんなー』
京太郎「…………」
淡『いいよ。戻ってきてあげる』
京太郎「ほ、本当か!?」
淡『うん、何か必死に私に戻ってきてって言われてスカっと…もとい、スッキリしたからもういいかなーって』
久『淡ー、もうお話おわ――あら失礼』
京太郎「ん?」
-
京太郎「部長?そこにいるんですか?」
久『やっば……』
淡『大丈夫ですよー、もう全部話しちゃったんで』
久『えっ、本当!?困るわー、計画が崩れちゃうじゃない』
淡『うんー、でも、もういいかなって。追い詰めすぎたら可哀想ですし』
久『あら、見かけによらず優しいのね』
京太郎「……ってことはやっぱり部長もグルだったんですね?」
久『あら、ご存知だったかしら』
京太郎「ええ、よくよく考えたら結構ガバガバに話が進んでたんで」
久『あはは……、思いつめてたからそこまで考える余裕ないかなーなんて思ってたけど』
京太郎「恐らくですけど、咲や照さんもグルでしたね?」
久『あなた以外の部員全員はグルよ』
京太郎「…………」
久『えっ、なになに?びっくりしすぎた?』
京太郎「ええ、ちょっと人間不信になりかけました」
久『ご、ごめんなさいね。あ、でもこれ一応……』
京太郎「……なんです?この際ですから全部言ってくださいよ」
久『いえ、これは私たちの中で留めておきましょう』
京太郎「すっきりしませんが…わかりました」
淡『というわけで明日からまたよろしくね「お兄ちゃん」』
京太郎「ああ、こちらこそ」
・
・
・
京太郎「よッし!!」
深夜一人の部屋で静かに力強く声をあげ大きくガッツポーズ。
会話は長丁場になったが、思わぬ早さで事は解決した。
深いところの真相は分からず仕舞だが、それより今は戻ってきてくれることが嬉しかった。
そして、契機は訪れた。何がしかの理由で自分の前から去り、そして戻ってくるという絶好のチャンスオブチャンス。
もう、今回と同じ轍を踏むわけにはいかない。明日だ。明日中に「大事なこと」を伝えることにした。
-
翌日、部室へ顔を覗かせると、淡と照は戻ってきていた。話を聞いてみると、
宮永家から竹井家へ一時的にお引越しをして家に篭っていた事実が発覚した。
宮永家へ行くという選択肢は無かったがそれを見越してのことであったらしい。
用事があるとのことで淡を引き止めてから、皆には先に帰ってもらった。
大半が察しているようで面白そうな顔をして、咲に至ってはしたり顔で退室した。
なるほどお前が主犯か、そのとき初めて理解した。
京太郎はここ最近の咲の自分に対する自分の行動すべてを振り返り
彼女に対しての苦手意識や不信感が生まれたと後に語る。
閑話休題。
もう既に暗がりとなっている外を見て気持ちを落ち着かせていた。
彼女はというと余裕綽綽とした表情でこちらの言葉をニコニコしながら待っていた。
なるほど、そこまで織り込み済みということか。
ますます咲への恐怖心が強くなりそうだ、などと心の中でぼやきつつ
淡は出会ったときもこんな不敵な態度だったことを思い出す。
―――あんたの名前なんてーの?
―――そう、京太郎って言うんだ、ふーん
―――あは、大層な名前と随分な態度のクセに麻雀クソ弱いじゃん
最初はものすごく生意気というか、突っかかるヤツだったことを思い出して微笑を浮かべた。
-
淡「なぁに?ついに緊張しすぎて精神ぶっ壊れちゃった?ニヤニヤしちゃって気持ち悪いよ」
痺れを切らしたのか、表情は変えずに煽る様に口を開く。
自分に依存しきった弱い彼女との日常や会えなかった期間が長引いた所為か
久しぶりに「大星淡」という少女に出会った気がした。
京太郎「そんなんじゃねえよ、ただ最初お前すっげぇ生意気だったよなって思ってさ」
淡「だって、最初はマネジだと思ったヤツがさ、唯一のヤローの部員で、初対面の私をお前呼ばわりだよ?」
京太郎「すまんすまん、高校百年生のスーパーノヴァ大星淡ちゃんだっけか?」
淡「バカにしてっ!!」
言葉とは裏腹に優しく小突いて懐に潜り込むように近づき
上目遣いで続きを催促するように見てくる。
あどけなさを感じる少女的な整った顔立ちが、子犬のような可愛らしい声色で
「?」という意味を発するような音を投げかけてくる。
線と線で視線が繋がる感覚と、期待をしているその顔に耐え切れず顔を横へ背ける。
淡「むっ」
しかしまわりこまれた!
視線の先へと移動し、見つめてくる。逃げ場はない。
――否、逃げるつもりなど毛頭ないのだが。
一度目を瞑ってすうっと深呼吸をすると淡にピントを合わせた。
京太郎「ちょっと、話いいか?」
淡「……うん」
それまで緩やかに対応していた淡がシリアスな雰囲気で身構えた。
-
京太郎「最初は兄妹ごっこだったな」
淡「うん、正直ライバル多いからそれが一番の策かなぁって」
京太郎「いやまぁ、正直嬉しかったし恥かしかったよ、バカにされるの嫌だから避けてたっていうか」
淡「正直でよろしい、腹立つけど……一発殴っていい?」
京太郎「まあちょっと待ってくれよ」
はいどうどうと固めた拳を両手で握って抑えた。
不服そうな顔ではなく、手を握られていることに対して嬉しそうにしている顔を見て
落ち着かせようとしていた胸の鼓動がより一層激しくなるのが分かった。
京太郎「その後、兄妹公認してからしばらくして急に避けだすようになったろ?」
淡「あれはだって」
淡「もうあれで終わりにされるのかなって」
京太郎「そういやそうだったな、あの時は悪かった」
淡「だけどその後、そっちの家に行ったときに割と本気でがっついてきたよね」
淡「迎え入れた精神的に弱った女の子をさ、こうヤっちゃう感じじゃん、今言うけど怖かったからね」
京太郎「………正直スマンカッタ」
犯した失敗と、例の言葉を思い出した。
今までずっと心の内を悩ませてきた呪いのようなその言葉を。
―――やっぱり皆同じなんだ。
心の中で反芻させるたびに、胸糞が悪くなっていたその言葉を。
それに意識してしまい、黙りこくっている自分がいることに京太郎はふと気づいた。
だが、どうだろう。そこまで深く落ち込んではいなかった。
目の前からいなくなる悲しみよりはそっちの方がいいと判断したのだろうか。
思ったよりも打算的な自分自身の無意識に困惑していた。
-
淡も同様に黙りこくっていた。
どうしたのだろう、意図した答えじゃなかったのか。
それとも――
視線が彼女の手元を捉えた。僅かだが震えていた。
そうか、この前もこんな感じで事実、淡を振っていた。
怖がるのも無理はない。寧ろここで不敵でいられる方がおかしい。
相手の年相応らしい、自分と同じような弱さが見えて。
ようやく前へ進む気持ちになれた。
京太郎「俺もさ、同じだったんだよ」
淡「?」
京太郎「ずっとぬるま湯に浸かって、ずっと兄妹ごっこしてればお前と一緒にいられるって思ってたんだろうなぁ」
淡「うん……」
京太郎「 で、いざ消えたら俺自分でもびっくりするくらい落ち込んでさ。なんというか終わったって感じで」
淡「あははっ!そーなんだ」
京太郎「笑うな」
丁度いい位置にある淡の頭をポンポンと撫でるように叩いた。
淡「ごめんて」
-
京太郎「そんで、ずっとっていうのは無いんだってのが分かった」
京太郎「あと、お前さ。その、…俺ががっついたときに言ったよな」
淡「なにがよ」
京太郎「やっぱり皆同じなんだ、ってさ」
淡「ああー」
京太郎「それまでは兄妹って関係だったからお前にその気を出すの躊躇ってたってのがあったんだけどさ」
淡「そうだったんだ。兄妹作戦失敗じゃん…」
京太郎「お前がその、言っちゃあ悪いが、経験がかなりあるんだなぁ…なんて」
淡「んんん?」
京太郎「だが、この際俺はそんなことどうだっていい!」
淡「ねえちょっと――」
京太郎「お前がどんな過去を引き摺って、どんなものを抱えてようが受け入れる!」
淡「ねえってば!」
京太郎「だからさ、兄妹とかそういうのナシに一緒にいてくれないか?」
淡「おい」
京太郎「ああ、分かりにくいか。つまりだ、俺と付きあ―――」
淡「話きけよ!!」
シュッと空を切った淡の拳が京太郎の鳩尾に綺麗に入り
熱が入れて語っていた咽喉からは嘔吐するような苦しそうな呻きを漏らし
その場に膝と手をついた。
-
京太郎「お、おお゛…おぅぉおぇ……っ!」
淡「ご、ごめん。やりすぎたね。よしよし……ごめんねー」
寄り添うように身体をくっつけると背中を宥めるように撫でてくれる。
お陰で少しずつ空気が気管へ通る感覚を覚え始め、呼吸が安定してきた。
淡「中々熱くなって話聞いてくれないんだもん」
京太郎「なんだよ……、お断りってか」
淡「違うよ。何?ずっとあの言葉を勘違いしてたの?」
京太郎「あの言葉って、やっぱり皆云々って…?」
淡「そうよ!」
京太郎「ああ、でもあれって……」
淡「男ってさ、すーぐジロジロみてくるじゃない?電車とか、教室とか、とにかく色んなとこで」
淡「だから私は、そういうつもりで言ったわけであって、そんな……何?遊んでる風に見えるの?私」
京太郎「……割と」
淡「どこがぁ!」
京太郎「金髪だし」
淡「私も京太郎も地毛!」
京太郎「でかいし」
淡「それよ、その視線!」
淡「それにおっぱい大きいのと遊んでるの因果関係は何?でかい奴はおしなべて遊んでなきゃって矜持があるわけ!?」
京太郎「コミュ力割とありそう」
淡「感想!」
淡「しかもアレだよ?京太郎の方がやばいじゃん。女子ばっかの部活に男一人とか。そっちのがコミュ力ありそうじゃん!」
-
京太郎「つまりなんだ。結論から言うと、俺の誤解だと」
淡「うん!」
京太郎「大星淡ちゃんは言いたいわけだな?」
淡「正解!」
京太郎「…………」
淡「…………」
京太郎「うっわやっべ恥かしい。ちょっとまって」
顔が沸騰するように熱く。真冬だというのに体中から汗が出て
『穴があれば入りたい』とはこのことだと、嫌というほど理解した。
淡は不満そうな顔をしている。それもそのはずだ。
ずっと、今の今まで待たされた理由が一方の勘違いで
それを勝手に思い込んでずっと引き摺ってただけだという。
これが憤慨せずにはいられるか。今そんな気持ちなのだろう。
これまでで初めて相手の気持ちが理解できているはずだと実感していた。
淡「第一そういうことならこっちのが心配だったわよ。同学年には咲も優希も和もいるし……」
京太郎「お前から見たらそう見えるのか……」
淡「ずっとずっと待たされてさ。泣いてサキたちに相談するほど切なくて…」
淡「それが、はぁぁぁぁぁぁぁ……こんな理由で立ち止まってたなんてほんとのほんとにばっっっっかみたい!!」
京太郎「何も言えねえよ…ほんと。ごめん、ごめんな」
淡「あーあ……ほんと、どうでもいいことでお互い悩んでたんだね」
-
あまりの情けなさに京太郎は再び沈黙していた。
これまで何回こうやって淡を前にしてドギマギして黙っていただろう。
そうまでして慎重になるほど彼女との仲がおじゃんになるのが怖かったのだろう。
だからこそ、兄妹ごっこだったり、疎遠だったり、即席芝居を打ってみたり、と。
互いを気にして、想いに自信がなかったからこそ同じように二人で独り相撲をとっていたのだろう。
少し馬鹿らしくなる。もう、こういうのはこれっきりに、終止符を打たないと。
意を決して淡の華奢な柔らかい肩を掴み、神妙な顔をして
京太郎「じゃあ」
淡「待って、仕切りなおしは私にさせてよ」
目を合わせると既に顔は紅潮していた。
意を決しているのは淡も一緒だった。
緊張している。だけど、言わせてほしい。
気持ちを受け取り、潤いを増した瞳を見つめる。
淡はこくり、と頷いた。
触れられただけで面白いくらいに身体が硬直していた。
淡「兄妹ごっことかそういうので誤魔化してきたけど、もういいよね」
京太郎「…………」
-
淡「理由とかよくわかんないけど、お兄ちゃんみたいな感じでそんなとこも良かったり、そんなで初めて好きになって」
淡「それで誰にも取られたくなくて、でも離れるのも嫌で、だからこんな泥沼になったりして、仲直りして」
淡「だけど、それだけじゃここの奥にある気持ちは全然止まらない。もっと、ずっと、近くで心も身体も繋がってたい」
淡「お兄ちゃんじゃもう嫌だよ。一人ぼっちになるのも嫌」
淡「好き。あなたの事が好きです。兄弟じゃなくて、男の子としてあなたが好きです。私と付き合ってくださいっ!」
一生懸命に気持ちを伝え切り、尚も紅潮し続けリンゴになった彼女は
はぁ…っと息をついて熱を冷ますことなく、じっとこちらを求めるように見る。
ずっと、こうなりたいと思っていた。その光景が広がっていた。
耳元に伝わる鼓動が激しく、だけど喉元に言葉が詰まる。
彼女に言わせたんだ。言わないでどうする。
言え。言ってしまえ。
京太郎「俺で、よければ」
ややあって
淡「…………うわああああああん!」
泣きつくように近づいてきて
淡「やったー!」
言葉を放つと同時に胸元へと飛び込んだ淡は愛しそうに嬉しそうに顔をこすり付けてきた。
答えるように背に腕を回して彼女の柔らかさと暖かさを確かめる。
小動物のように甘える彼女に緊張の糸は解れ、告白が現実味を帯びてきた。
落ち着くはずなのに二人の熱は収まることなく、次第にそれが気恥ずかしさや嬉しさ
その他諸々様々な感情があふれ出させて。
次第に向き合った顔と顔が引き寄せられ―――。
などとロマンチックな展開を恥かしがるように。
淡「帰ろっか。また遅いと京太郎のママとかサキに怒られちゃう」
京太郎「そ、そうだな」
小躍りしたくなるような気持ちを抑えつつ、帰宅の準備を始めた。
そろそろ何処彼処で冬休み、或いはクリスマスなどというプレミアムな雰囲気が漂う十二月末だった。
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くぅ〜疲w
お待たせしてすみません。
一部完みたいな形で駆け足ですが一応の区切りをば。
続き希望があれば構想はありますので書きます。
といってもエロSSもどきになると思いますがそれでもよろしければ。
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ずっとageるの忘れてました(池沼)
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エロくして(小声)
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ちょっと待って!エロが入ってないやん!
エロを書きたいって見たから待ってたの!(続きが見たいです)
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ああいいっすねー
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続きはまだかかりますかね…?
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今週中に再開するのを目標にしてます
待たせ過ぎてすまんな
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>>254
サンキュー
お待ちしています
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続きあくしろ
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ちょいと書き方変えますのでご了承をば
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ホモはせっかちだってはっきりわかんだね
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淡と正式に付き合うようになってから数日後。
二人の関係が深まることに何の関心も寄せないように
はたまた反比例するように十二月末の空気はより一層の冷え込みを見せていた。
外出さえ億劫に感じる寒さに世間様は気にすることなくてんでんばらばらと動き
一方の生徒たちは到来する冬休みに甘んじて家の中に篭りきりになっていた。
ともすれば、清澄高校麻雀部もまた……とはいかず、いつものメンバーが揃って
部室のストーブや、部長…もとい、前部長がどこからか調達した暖房機能のあるソファに固まっていた。
とりあえず集まってはいるものの、いつも通りに卓につくことは少なく、とりとめのない話をしたり
それぞれが持ち寄ったボードゲームやトランプなどで卓上遊戯に勤しむことがメインになっていた。
それが京太郎にとっての好機だった。特に雑用を任されるわけでもない。
昼食や間食以外の買出しをする必要もない。誰も卓につくような状況じゃない。
そういうタイミングで淡に付き合ってもらうと、マンツーマンで指導をしてもらっていた。
とはいっても今までみたいに距離を詰めるのではなく、後ろに立ってあれこれ言っている。
牌の切り方、鳴き方その他諸々の戦略の方針と添削をしてもらうつもりなのだが…。
「あのさぁ、おにい……京太郎さぁ」
「いい難いんだったら今までどおりでいいよ」
「コホンっ…京太郎さぁ」
「あ、そう呼ぶのか」
「うるさいっ!まず配牌が悪いよね」
「そこは仕方ないんじゃないかなぁ……」
-
「毎回だよ?毎回。ウーシャンテンよりいいときないじゃん!」
「そうだなぁ」
「ツモも悪いよね。テンパることなくいつも流れてるし。そりゃハコテンになるときはなるでしょ。やる気あんの?」
「なにをぉ!?」
「もー全てがお粗末!これだったらいつも隣が私にいてこうしたらいいよ、ああしたらいいよって言ってあげたほうがましよ!」
「言わせておけばっ!俺はいつだってやる気全開だよ!?」
「でも京ちゃん最近まで淡ちゃんいなくて気怠げだったじゃない」
「う、うるさいぞ咲!外野から余計な横槍はだなぁ!…とにかく黙ってなさい!」
ふと淡の顔を見てみると。嬉しそうな、得意げな顔をして
ふーん、へー、なんて調子の良い声色を出してこっちを見つめていた。
「なるほどー。もしかしてさぁ、京太郎さぁ」
座席に近づいて、露骨に寄りかかるようにして
身体の体重を若干預けながら顔を近づけ、耳元で囁いた。
「私に構って欲しくて、逆にイカサマしてんだ」
「う……」
耳元を撫でる子供じみた声に混じる妖艶な雰囲気に
思わずたじろいでしまう。
-
だが、京太郎は最早知っていた。
彼女はどうやらこういうアプローチを無理してやっていることを。
思ったよりも初心で、実は全く耐性が無いことを。
だから、こちらから予想外は反応をしてしまえば――
「そうだよ」
「へっ?」
そういって淡の肩に腕を回して京太郎は自分の方へと寄せた。
「………っ」
自分の身体を守るように胸の上に手でクロスを作りきゅっと手を握り
ポスンと、何の抵抗もなく倒れそうになりながら胸板に顔を突っ込んでくる。
声は聞こえないし、顔はよく見えないが、じわじわと耳が赤くなっているのが分かった。
-
圧し掛かる淡の体重が心地よく重さで全てが柔らかかった。
否、特に柔らかい箇所が幾つかあるがわざわざそれらを上げ連ねるのも野暮だろう。
背中を撫でるとビクッと身体を跳ねさせてから、また動けなくなり
それからしばらくすると、顔をこすりつけるようにしながらムクリと顔を起こして
羞恥と多幸感と敗北から来るような悔しそうな複雑そうな顔ででこちらを睨んでいる。
「そんな怒った顔見せられてもなぁ」
「怒ってないから……」
「悪いな、こうしたくなったんだよ」
と言いながら今度は背中からシフトチェンジして頭を撫でると
見上げるようにしながら
「やめてよ、セクハラだっての!」
と文句を言いながら京太郎の鳩尾に的確に拳を入れてきた。
「お゛っ……」
雀卓に伏しながら鳩尾の辺りを抑えて倒れると
淡は逃げ出すようにしてその場を離れた。
「べーっだ!今日はもう教えてやんないからね」
「ま、まて……」
「咲ー!照ー!あいつにイジめられたー」
ボードゲームの駒をどう動かすか思案している二人の間に割り込みながら
文句を言うと、苦笑いする咲と相変わらずの無表情の照がこちらをじっと見ていた。
照がこちらに対して軽く頭を下げている気がした。
-
「なぁに?今度は雀卓とイチャイチャするわけ?」
ボードゲームをしながら一部始終を見ていた
……らしい久が茶化すように言った。
「(視られてたのか。いや、当たり前なんだけど…)」
場所を選ばず淡を口説いていた非常識さに恥かしさを覚え
顔を伏していてよかった、と心から思った。
「男のその反応はちょっと気持ち悪いわね」
「余計なお世話ですよ」
「須賀君にはうちの可愛い一年のピュアハートを傷つけたペナルティとして」
「ナチュラルな部外者発言!?」
「おやつの買出しに行ってもらうわ」
「あ、はい。それくらいなら」
「言っとくけど、冬休み中だから校内の売店は閉まってるからね?」
「……分かってますよ」
窓から外を見ると外は明るく晴れていたが風に木々が強く揺れていた。
外に出るのが嫌になってきた。久の顔をチラっと見る。
「行くのよ?」
「ですよね」
-
サイフを持って立ち上がり、それぞれの注文を聞く。
「私は暖かいミルクティーとお好きなものを一つ」
「私も和ちゃんと一緒のやつでいいよ」
「ポテチとタコスと午後ティー買ってこい!」
「……チョコクッキーとドーナツと緑茶」
「おんしのチョイスにまかせる」
「私のも適当に甘いものをお任せするわ」
ただ一人、もじもじとしながら顔を合わせたときだけぶすっとした
仏頂面を取り繕うヤツがいた。
演技で失敗した挙句、自業自得を他人のせいにした手前
申し訳ないというのと、引っ込みがつかない状況で何も言えなくなっていた。
「淡はどうする?」
照がやさしく声をかける。
「……電池」
「え?」
「電池!」
「……それでいいの?」
「いいの!」
意地っ張りは続いているようで。
だが、それが可愛らしく思えて。
少し笑ってしまうとぷんすこ怒りながら短絡な罵倒が飛んできた。
とりあえずは好きそうなものを見繕ってやろう。
そう思いながらコートを羽織ると部室の外に出た。
室内外の体感温度のギャップに身体を震わせながら最寄のコンビニに急いだ。
-
//続きがまとまんないのでとりあえず確定して出せる部分だけのせときました
-
やったぜ。
-
結局、会話もないまま日が暮れた。
「それじゃあ、明日からは部活もないから間違って学校に出てくるんじゃないわよ」
「……あのぉ、竹井先輩、それ染谷部長の台詞なんじゃ」
「ああっ、ごめんなさい。すっかり部長のつもりでいて…出すぎたマネだったわね」
「まだみんな部長呼びだからいいんじゃないか?」
「そうだよねー、ヒサじゃないと部長って気もしないし」
「淡ちゃんは部長呼びじゃないじゃない」
「そういうわけにもいかないでしょう形式的にも」
「……うん」
皆が一様の反応を見せる様子をまこがくすくすと笑いながら眺め
ひとしきりそれが終わると、久を挑発するように見つめた。
「ふふ、まあよかろう。今年までは部長風を吹かせばええ」
「まこっ!」
その後、部室の笑い声が収まってから今年の清澄高校麻雀部の活動は終わった。
-
「で……、だ」
「なによ?」
「何でお前は俺の部屋にいるの?」
日の入りの時間は過ぎて、時計はもう6時30分を刻んでいた。
一般の家庭ならばもうすぐ、若しくは晩御飯の真っ最中であろう。
須賀家の同様に晩御飯の真っ最中で、二人と京太郎の両親がいる居間は
玉葱や人参のよく煮えたブレンドされた出汁の芳しいにおいがする味噌汁と
肉の焼ける音、煙たくなる視界、そして食欲をそそる焼肉の匂いで満たされていた。
「そりゃあ、アンタのお母さんに晩御飯をご招待されたからよ、文句あるわけ?」
「俺の取り分が減るんだよ!それに招待されたのは俺の家に黙ってついてきたからだろうが」
「しょうがないじゃん、私はそのつもりじゃなかったよ?だけどね、足が勝手に」
「某歌劇団のモギリみたいなこと言うんじゃねえ!」
「うるさいっ、私はアンタじゃなくてご両親に招待してもらったの!どうこう言われる筋合いないの」
「「ぐぬぬ……!!」」
向かい合って睨みあっていると、京太郎は須賀父に宥めるように言われた。
「まあまあ、落ち着け。聞いてのとおり父さんと母さんが誘ったんだ。いいだろう?」
「父さん……」
「それに、自宅で彼女をもてなせないくらい狭量な人間じゃないだろう?」
「(……な、何も言えねぇ)」
「ふふっ。それはともかく、兄妹らしくていいわね。母さん娘が欲しかったから食卓が華やいでいいわぁ」
「母さん……」
いつものノリで言い合いをしていたため、完全に淡と二人きりのつもりだった。
両親の横槍(?)が入ったおかげで我に帰った京太郎は恥かしくて黙々と箸を進める。
しかし、それは淡も同じだったようで、加勢されたからと調子に乗るということはなく、
急に文字通りの借りてきた猫のように顔を少し赤くさせていた。
ただそれも表情だけで、二人は競争するように肉を奪い合っていた。
-
腹が満たるほど肉を堪能した後、京太郎はいつものように部屋でベッドに座って本を読んだりゲームをしたり、寛いでいた。
何故か淡も帰らないまま、一緒に部屋までついてきていて京太郎の隣に座り、適当に見繕った漫画本を読んでいた。
ページをめくる音と時計の音、二人の息遣い、そして沈黙。
普通だったら仲良さげに何か一緒のことをしたりするこの場で、別々のことをして時間を共有していた。
二人の心境的にそれも悪くはなかったのだが、昼間のことが緒を引いて、意地を張り合って黙っている。
言わば根競べ。どちらかが折れて話しかけるまであえて意識をしないつもりでいた。
部屋に二人きりでくっついている時点でその光景も微笑ましく見えるものだが
本人たちは一切そのような気はなく、本気の意地の張り合いをしている。
「……」
「……」
「「…………」」
「「…………!」」
時々、互いに視線を向けて偵察をしながら、目が合ったらおかしいくらいにそっぽを向いて
飽くまであなたに対して何も思っていませんと言わんばかりに今やっていることに夢中なフリをする。
自分のやっていることに集中できるわけではなく、気の紛らわしにもならなかった。
何より、お互い隣に本当は好きな相手がいるわけだから、そもそも落ち着くことはできなかった。
昼間のことを引きずってはいるが、もう本当に怒っているわけではなく、だけど言い辛くて
結果、相手が折れるまで待つという選択をした末にこのシュールな光景が出来上がっていた。
-
「はぁぁぁぁ……」
京太郎は深い溜息をついた。
淡は首を傾げるようにしてから京太郎を見上げる。
「(折れるか)」
淡といつも通りふれあいたいという願望を天秤にかけて
諦めたように肩を下ろすと淡を見下ろした。
目が合った。
だが、今度は二人とも目を逸らさずに見つめあった。
「あのさ、淡」
「なに?」
「昼間はごめんな」
「うん」
「今度は急に抱きしめてこないでよ。わ、私だってそーゆーの耐性ないから、びっくりするじゃん?」
「いや、ごめんな。淡はそういうの慣れてるかなあと思って」
「はぁ?」
「淡がああいう挑発をしてくるからさ」
「あぁ……そっか」
「私も少しは悪かったかもね、ごめん」
そこからはお互い流暢になり、感情を表に出して話を始めた。
-
「私も場を弁えた上で言ってくれればいいよ?恥かしいけど」
もじもじと指先をあわせて口を尖らせるようにする。
あざとい仕草と分かっていても、可愛いと思わざるを得ない。
むらむらと妙な気持ちが湧き上がってくる。
「わかったよ、じゃあ……」
淡の両肩を掴んで向き合うようにして、真剣な目で見つめる。
シリアスな表情に淡はえっ、えっ、挙動不審に取り乱すようにして顔を赤くする。
「ちょ、た、タンマ!なし!今はナシ!!」
「昼間みたいに抱きしめてもいいか?」
「――!」
淡は凍りついたように固まって、耳まで赤くして口を結び
目線をなるたけ下に向けて顔をみないようにしている。
「は、はい。どうぞ…」
消え入るような声でやっと出た声は丁寧語の外行きのような声だった。
「こう言えばいいわけだな?」
「…………ん?」
「えっ?」
「そのつもりじゃなかったの?」
「何が?」
淡はへなへなと力を抜かせて
少しいらっとして
「この…この…」
淡は肩をわなわなとさせて
「あんぽんたーん!!」
ふざけ様にちょっと怒った。
-
怒った淡はベッドの上でマウントポジションを取り
ひ弱な腕でぽこぽこと京太郎の胸板を叩く。
「ご、ごめん淡!ゆ、許してくれ!」
「うるさいっ、言い訳するな!この、このっ!」
急襲だ。
笑うように声をあげながら猫のようにじゃれついてくる。
その上、背中に手を回して倒れこむように抱きつく攻撃を繰り出してきた。
ばたばたと甘えるように暴れる。
柔らかい部分がマッサージをされるようにして気持ちがいい。
が、どうも健全としているメンタルには悪いものがある。
「(早くどかさないと……まずい)」
「ぎゅってするならしろよぉ、ばかぁ!」
「わかったわかった」
宥めるように撫でやすい位置にあるブロンドの頭を撫でる。
そうすると落ち着いたように動きは止まり、ぎゅっと抱きつく力が強まった。
顔を埋めながらグリグリと胸板に顔を押し付ける。
どうやら淡はこの動作が好きなようだ。
「ご、ごめん……淡」
「分かったら次からもっと優しくしてよねっ」
抱きついたまま顔もうかさず返事をする。
生暖かい吐息を胸部に感じて変な心持がする。
「い、いきなり来られるのも、やばいな……」
「わかったか!」
「あ、ああ……だから、早くどいてくれ。心の準備が必要なやつだこれ…」
その弱気な声が彼女の加虐的な悪戯心を刺激したようだ。
ふふーん、という声が聞こえてくる気がした。
言ってはいけないことを言ったと気づくために時間はいらなかった。
-
「いーや♪」
「た、頼むよ」
「いやよ」
淡にはなぜ京太郎が弱気になっているか理由はある程度分かっていた。
しかし、生理的にどうなるであろう、そういうことは分かっておらず、
ただ、こうやって身体を、主に乳房を押し付けているのが京太郎の弱点であることは理解できていた。
それが京太郎が大きい乳房が好きだという単純な理由で弱点としている
などという短絡な理由で弱気になっているという誤解がより一層、淡を強気にして
「(確かに恥かしいは恥かしいけど……これはこれでアリかも♪)」
プレスするように上半身を動かして豊満なそれを大胆に何度も押し付けた。
抱きしめられながら、淡の柔らかく程よい重さの脚、腹部、乳房、頭部が上下する。
繰り返されるその度に心地よく温かい悦びを感じる。
そして、段々と生殖的な本能が呼び起こされていく。
「えへへっ、手も足も出ないって、こういうことなのね」
「や、やめろって。お願いだからさ」
「いーや」
-
力が抜けたように一切の力を出せない京太郎が面白おかしくてそれを何度も繰り返した。
調子を狂わせるような淡の匂いが押し付けられるごとに濃くなる。
この鼻腔をくすぐり、落ち着くような匂いは淡のつけたコロンなのだろうか。
淡は恥かしそうに何かを気にして顔を少し赤くしている彼を見て可愛ささえ覚えた。
もっと続けてやる、もっと……もっと……。その心は加虐というより、奉仕の念さえ覚えつつあった。
本能的に思うのだ。どうやらこれによって相手が喜んでいるのだ、と。
だからこそ、やってやるというよりやってあげたい、という二つの二律背反的な+-な感情で以って
京太郎をいじめようという気持ちに変貌していた。
「顔赤くしちゃってさ、嬉しいんでしょ?こーゆーの」
「あ、あのなぁ」
「京太郎は私のお胸が大好きだもんねー」
「い、いい加減に」
「なによ、手も足もでないくせにぃ」
「いい加減にしろよ!」
「!?」
-
きゃあっ、という黄色い声が出ると共に体勢を逆転するために
京太郎は淡を抱きしめるとそのままの状態で転がった。
元より体格や身体の作り方、筋力にも大きく差があった。
逆転するにはそれほどの力を必要としていなかった。
「やる気になれば、出来るんじゃない」
四つんばいになり、驚いた表情の淡を手足で取り囲むようにして見下ろした。
淡は胸部に手をクロスさせて乱れた髪のまま京太郎を見上げていた。
そして、顔を僅かに紅潮させながら、不敵な表情で微笑している。
「それで、この後、京太郎はどうしたいの?」
優しげに誘導するように声をかけてくる。
これは余裕からくる挑発なのだろうか。
「お前が、挑発するのが、悪いんだからな」
最早、同意を取るのも馬鹿らしい。
そういうのなら、望みどおりにしてやろう。
-
//寸止めみたいですけど一応一区切りです
-
エロはどっちにシフトしましょうか
簡単に終わらすか、詳細に書くか
どういうのがいいでしょう
-
詳細にオナシャス!
-
今回とは別にしっかりとそういう展開になるなら簡単
エロ書けって言われたからとりあえず書いたので続きはないなら詳細で
-
よし、じゃあ中濃でいきますね
-
ただいまエロの書き方を復習中なのでしばらくお待ちください
-
ただいまがっつり執筆中です
リハビリ的に書いてるのでご期待なさらぬよう
-
あくしろよ
-
にぃに・・・にぃに・・・
-
>>284
やめろぉ!(建前)やめろぉ!(本音)
-
みゃあ
-
ほんとマジで勘弁して
やりたいなら別のところでやって…
-
お、大丈夫か?大丈夫か?
-
えーっと…つまり、続き書いていいんですかね?
もうそろそろ一段落なんですが
-
速やかに投下したまえ
でなければこのままだいじっこの方に舵を切らせてもらう(脅迫)
-
な、なるたけ急ぎます
-
淡を抱きかかえてベッドの壁際の方にちょこんと座らせて
向かい合うようにベッドに座る。
淡は期待するようにジッとこちらを見つめていた。
「じゃあ、本当に、いいんだな?」
「……うん」
とはいえ、何をすればいいんだ。
やはり最初に目に付くのは大きく自己主張する双丘であった。
強張らせた手をその豊満にゆっくりと、慎重に伸ばし―――
そして躊躇う。
触れてみたい。彼女と繋がってみたいという願望はあった。
だが、勢いでこうなってしまった故、踏ん切りがつかなかった。
今更関係が崩れるとかそういう理由で尻込みしているわけではなく、
単純に上手くやれるのかという不安といつかの日にデジャブを感じていて
一歩先へと踏み出せずにいた。
「ここまで来たんだからヘタレないでよ……彼女に言わせる気?」
ジト目で要求して、顔をより赤くして背ける。
「嫌だったら今更あなたの部屋まで来ないってば……」
弱弱しく消え入りそうな心の叫び。
繋がりを求めているのは何も自分自身だけではない。
催促されて初めてそれを理解した。
自分だけじゃない。恥をかかせるわけにもいかない。
もうここまで来たんだ、自分で望んで。後に退けないし、退きたくない。
だから
「あの……お願いがあるのですが、淡、………さん」
「ん…なに」
緊張が、内なる精神の激励が、鼓動となって耳まで響いてくるのが分かった。
-
しゅるしゅると脱衣の布が擦れる音が聞こえる。
今同じ空間でしかも距離を間近にして淡がそこで現在進行形で脱衣中である。
これは現実なんだ。
緊張と興奮と嬉しさがつい自分の脱衣に手を止めてしまい、淡に疑心を抱かせてしまう。
「見てないよね?」
「ないですっ!」
「見てたら次の卓で100回トバすから」
「見てないから!」
事を致そうと言うのに、恥じらいは手を覚束なくさせるほどあるみたいで
カチャカチャと金具が擦れ合う音と「ああっもう」と慌てる淡の声が
スカートか何かのフックが外れず少し苛立っている様子を想像させる。
それはこちらも同じのようで妙に身体が暑くてたまらない。
とくに顔は日に照らされているように暑く汗が額から垂れてきていた。
暑さから逃れるよう、重ね着していた服を乱雑に脱ぎ捨てていち早くTシャツ一枚になる。
だというのに寒さはさほど感じない。恐らく、興奮がそうさせているのだろう。
「……」
着替え終わったことを察知した淡が対抗するように手を早めた。
慌て調子がずっと続いて、その度ベッドが弾むのを身体で感じる。
そして
「終わったよ」
「…おう」
「こっちみないでまだ目ぇ瞑ってて!」
まだ許可が下りない。
彼女の深呼吸の吐息が前から感じられた。
「よ、よしっ」
「俺は犬か」
-
目をあけると、Tシャツとハーフパンツの季節に似つかわしくないラフな格好に着替えた淡がいた。
顔を赤くして腰を手に回すように腕を組み、ぺたんこ座りでこちらじっと見つめている。
腕に引っ張られた布地のおかげで浮き彫りになるほど強調されたバストや腰のラインに
男心をどうしようもなく刺激され、生唾を飲んでしまう。
穴が開くような視線にすぐに気づいた淡はまゆを寄せて頬を膨らました。
「変態っ」
「すまん」
「ど、どーしてこんな格好に着替えさせたのよ」
「いや、制服汚れるとまずいだろ?」
「たしかに…一理あるかも」
目を合わせづらくて視界を横へずらすと脱ぎたての制服やブラやニーソが畳んである。
自分の部屋にあるはずのないそれらが、非現実的なものに思えて。
頬を引っ張ってみる。
痛い。夢じゃない。
「よし」
淡をまっすぐ見ると恥ずかしそうにしていた。
視線に気づくと小さく肩を跳ねさせて「どうしたの?」と聞くように顔をのぞき返してくる。
「なんだどうしたさっきの余裕はどうした?」
「う、うっさい。そっちだってキョロキョロびくびくしてんじゃん」
「ああ、すっげえ緊張してるし、どうすりゃいいか分かんないからな」
開き直る態度に「そっか」しか返せず、俯いて膝の上でこぶしを握る。
こちらも次の言葉が一つも出せずに口を閉じる。
-
そして数秒、沈黙が続いて
「…いくぞ」
こくんと頷く。
身体を凍らせたように固くしている淡に近づいて華奢な背中に片腕を回し
もう片方の腕で後頭部を抱くようにしながら、サラサラの長い黄色っぽいブロンドを撫でた。
身体をくっつけるようにして抱きしめながら、優しく撫でていると
安心した淡が背中に手を回して肩に顎を乗せてきた。
ふわっと髪の毛が揺れる。
項からバニラの香りを薄くしたような甘い匂いがした。
心が落ち着く優しい匂いに緊張は少しずつ解れる。
だが、早くなりつつある胸の鼓動は治まりそうにない。
「好きだ」
本心を挨拶をするように頃場にする。
そう言いながら今度は背中を撫でる。
すると、返事をするように淡は腕の力を強める。
更に二人の密着が強まり、自分のとは違う早まった胸の鼓動がはっきり感ぜられる。
向うは緊張しているのだろうか?
そんなことはまったく分からないし、分かるほど落ち着いた状況ではない。
だから、緊張しているのだとしたら。
気遣うように優しく抱きしめながらベッドに押し倒す。
抱きしめ状態を解除してからもう一度淡の顔を見て、見つめ合う。
彼女は穏やかに嬉しそうな表情になっていた。
そろそろ頃合だろう。
-
おもむろに胸に手を伸ばすと両手で彼女の乳房に触れて
撫でるようにゆっくりとその感触を楽しみ始める。
「んっ…」
触れられた悦びに淡は声を漏らす。
目を見ようとすると目線が慌ててあちらこちらを向いていた。
円を描くようにゆっくりと胸を揉む。
一枚の布を隔てているはずのそれは柔らかく形を変えて、指が沈みこむ。
そう、それは憧れと言ってもいい。ずっと追い続けていたこの感触だ。
いつか触れてみたいと願い続けていた。
きっとそれは夢で、願望で終わるはずだと、諦めかけていた。
それが今、手のひらで成すがままになっていた。
感嘆の声が出るほど柔らかい感触に夢中になり、胸を揉み続ける。
「っ…、ねっ、ねえ」
そんな子どものように夢中になる姿を見て淡は何かが満たされてく気がした。
きっとそれが、純粋に、目の前のその人に尽くしたい、という気持ちの芽生え。
その芽生えと同時に緊張はもう無くなった。
今はただ、目の前の想い人のしたいことをしてあげたいと思った。
「直に触ってみたくない?」
僅かに口角をあげて優しげに微笑み、精一杯誘惑するような表情。
その精一杯に可愛さ、否、愛しさといってもいい感情を覚えていた。
-
淡のTシャツの裾を握るとゆっくり、ゆっくり前進させる。
色白の肌からへそが露になる。それがとても性的に見えて、気が高ぶってくる。
「ん、いーよ。上手、上手」
背中が痛まないよう、慎重に捲り上げていくとあばらまで来て引っかかる。
どうすればいいんだ、と考えていると
淡は子どもに教えるような優しく穏やかに誘導する。
「そのまま、もっと力を入れて上げてみて。大丈夫だから」
言われるがまま、押し上げるようにTシャツを捲し上げる。
力が少しずつ調整するように篭められ、頂点に達したその時。
ぷるん、とカップから皿に落ちたプリンのように大きく揺れて乳房がさらけだされた。
華奢な身体にそのままそれが乗っけられているかのような大きな乳房だった。
重力に引かれても尚、なだらかに弧を描くようにして盛り上がる乳肉。
双つの丘の頂点にアクセントのようにある薄桃色の乳頭は興奮からかピンと立っている。
再び目にした圧倒的ボリュームを持つ魅力的な膨らみに思わず息を呑んだ。
「ホント言うとすっごい恥かしいんだから」
「だけどね、今はあなたに何でもさせてあげたい」
「だから、……いいよ」
意を決したように顔を赤くしながら、けれど視線は放さず
瞳を潤ませて一生懸命に今の気持ちを淡は伝えた。
ここまで想われているんだという幸福に既に充足感を感じていた。
だがまだ足りない。全然足りるわけがない。
思春期の渇望はそれで尽きるほど無欲なはずが無かった。
「じゃあ、触るぞ」
「…うん」
-
抑えていた欲望が、駆り立てる衝動を唆す。
衝動に動かされた腕がゆっくりと淡の乳房へと手を伸ばす。
帰巣本能によって必ずその場所へと向かう獣が如く、それへと近づく。
乳頭を手のひらに感じながら、両手いっぱいに乳肉の柔らかさを感じながら揉みしだく。
今までずっとおあずけをくらっていた分、噛み締めるようにその柔らかさを、温もりを味わう。
一揉みするたびに指が乳肉に沈み、指の隙間から溢れるように形を変える。
夢中になって何度もそれを続けた。今彼女の乳房を自分のものにしている。
独占欲が心地よくくすぐられ、ついつい腕に力が入ってしまう。
「ふふっ、興奮しすぎじゃない?慌てなくてもおっぱいは逃げないよ」
落ち着かせる為の言葉、それが逆に肉欲の憤りを煽るものとなり、
がっしと乳房を握るようにして乱暴に柔い乳房を揉みほぐしてしまう。
むにゅむにゅっと手の中で確かに柔らかく、そして弾力を感じさせる乳肉。
横から押し上げてに二つの膨らみを一つにするように上へ、上へと揉む。
すると、乳頭は先程よりもつんっと立って、自己主張をしていた。
「んっ……ぁっ、…っ、も、もぉっ、がっつきすぎだってば」
独り善がりになってはダメだ。
我に返ると、なるべく淡が感じるように揉む方向へとシフトチェンジする。
生地を押し広げるように手のひらで乳房をつぶすようにして円を描く。
捏ねるようにして適当な強さで手のひらを押し付けて回してやる。
「んん…っ、あ、んっ……」
お次はぎゅっと乳房の上のほうを掴むと、それぞれ別の方向に引っ張るように揉みあげる。
手から収まりきらない大きさを引っ張り上げると適度の重みを感じる。
「んんっ……!あ、も、…そ、それダメだってぇ……おっぱいは、…粘土じゃ、ありませんっ!」
「分かってるって」
胸を弄るたびに淡は身体をビクっ、ビクっと微細に揺らして、控えめに喘ぎ声を漏らす。
身体をくねらせて、時々力んで、それでも声を漏らすまいと一生懸命抑えている。
「だったら、やめるか?」
「ばかぁ……」
その姿が健気で、可愛くて、悪戯心がその度に増長させられる。
-
薄桃色の乳頭をきゅっと軽く摘んで、コリコリと指の腹で転がしてみる。
「……っ!……んんぅ、……っ、ぁあっ、…そ、それ、それぇ……」
軽く数回身体をほんの小さく跳ねさせて、短い呼吸を繰り返しながら肩を丸める。
どうやら弱点を発見したようだ。
「ここが、気持ちいいんだな?」
「も、お……言わないでよ、そんなこと……」
淡が徐々に感度をあげていると、柔肌が汗ばんでくる。
サラサラと撫で上げるように揉んでいた乳肉は手に吸い付くように性質が変わっている。
「(おっぱい揉まれてるだけなのに、何でこんなに気持ちいいの…?)」
同性同士の戯れに揉んだり揉まれたり、ということはあった。
だけれども、そのときはこんなに抑えのきかない声をあげたり、身体を跳ねさせることはなかった
「(好きだから、感じるのかな)」
触られることを望んでいるようなその乳肉を押しつぶして握り締めるように
何度も、何度も、強く捏ねるように揉む。
「んっ、…ふぅ……ぅんっ、……ぁっ、は、ぁんっ…!…んんっ!」
少し乱暴にしてしまっても淡はそれに嫌がる素振りもなくその行為を受け入れてくれていた。
顔を合わすとじっと見つめているが、唇をきゅっと結んで瞳に涙の膜を張っている。
「(恥かしいのに…変な声漏れちゃう。体も…こんな、…なに、これっ)」
揉まれ続けていると、また身体が跳ねて声が漏れて。
今までない感覚に幸福感とちょっぴりの不安を抱える。
-
「ねえ、……んっ、お、お願い…ちゅうしよ?」
淡の言葉に了解する。
身体を抱きかかえるようにして膝の上に乗せる。
心地よい重さが身体全体に倒れこんでくる。
未知の快感が小休止に入り安心すると、淡は身体を上げて顔を近づける。
こちらも合わせるように身体を少し曲げて淡に顔を近づける。
「んぅっ……んむっ、ふぅ、んんっ♥……はむぅ、…あむ…」
唇を合わせるだけような形だけのキスではなく
自然に彼女の舌に吸い付いて、絡みつくように互いを求める。
離れないように背中を優しく抱きとめて
惹かれあうように舌を絡めあう。
悪戯とばかりに強く乳房を揉むとピクンと反応する。
身体をよじらせて、対抗するように舌を絡ませてくる。
「〜〜〜!!んむぅっ、ふっ、ぅううううんん〜……♥」
頭を優しく撫でながら、舌に吸い上げる。
さっき同じものを食べていたはずの淡の口内は甘い味がした。
今度は乳頭を引っ張るようにしこしこと揉み上げてみる。
「んん〜〜〜!んぱぁっ、は、あんっ♥ぁあんっ!あああっ!!んむうう〜〜♥」
すると、身体が何度も跳ねて、顔を揺らし離れそうになる。
逃すまいと抑えて唇を貪ると、弓のように背を曲げて大きく跳ねた。
「んじゅっ、ちゅぱっ、ちゅぅっ、…ぷはぁ、あむっ、……ちゅっ、んふっ…♥」
濃厚なやり取りから開放すると唾液同士が糸を引いて二人を繋いでいた。
淡は惚けた顔をしながら、小刻みに震えていた。
その上気した顔がとても淫靡で、いつもよりも可愛く見えた。
「ねーえ、揉んだり、キスするだけでいいの?」
そのままの表情で、猛る欲望に火をつけるように挑発をしてきた。
-
淡をまた押し倒すと、魅力的な膨らみを見つめる。
さっきよりも大きく上を向いている乳頭に気がつく。
淡も相当興奮している。その事実にいてもたってもいられず
顔を近づけると舌でピンと弾いてみる。
「ふふっ……ぅ、…んっ、ど、どーぞ?」
小さく囁く蟲惑な声。
幼さと生意気を残しているはずの声は妖しく
操られるかのようにそれに口を近づける。
――れろれろぉぉっ、ちゅるっ、ちゅううううっ、ちゅぱっ。
片方の乳房を思うように揉みしだきながら
ええい儘よと勢い任せに、無我夢中に、淡の乳頭に吸い付く。
当然、母乳は出るはずもない。
だが、乳頭に伝う汗と、仄かな甘さに、授乳行為のようなこれに、気持ちが満ち足りていく。
と同時に、今まで妹扱いしていた女性へ母性を求めているような行為に多少の気恥ずかしさを感じた。
「ひゃあああっ、んんっ……あんっ……、ふふっ、よしよし……」
気の済むまで付き合ってあげるよ、という母性というか姉性というか…。
とにかく、上からの立場で優しく接してくれているような気がした。
そんな余裕もないくらいに感じさせてやりたい。
乳肉に顔を埋めて押し付けるようにする。
早まった淡の呼吸のリズムに同期するように乳房に吸い付きながら
乳頭を舌先でコリコリと転がすように舐めまわす。
――ちゅるっ、ちゅううっ、ちゅぱっ、じゅるっ
淡の体温を、母性を、膨らみを感じていると、簡単にその術中にはまってくれた。
-
「んんっ、おっぱいぃ…そんな舐められたら、おかしくっ、なっちゃうってぇ……!」
その言葉は決して拒絶ではなく、甘美の声を上げて、おねだりをしているようで。
どくんどくんと早く打つ淡の鼓動もそれを肯定しているように思えた。
乳頭から唇を離し、もう片方の方にも刻銘するように舐めまわして唾液をつけてから
両手を使って乳頭を指の腹でコリコリと摘むように揉み扱く。
「ひぃ…んっ…♥あ、んんんん〜〜〜〜〜!!!」
弓なりに背中を浮かせて身体を跳ねさせる。
ものすごく感じている。だというのにそれを認めまいと
手をあててまでして必死に声を押さえいる。
「大丈夫か?」
「な、なにが…?平気に決まってるじゃん。……平気なの!」
意地っ張りに認めさせるためにまだ攻撃を続けることにした。
乳房を押さえるように握り、乳頭に思い切り吸い付く。
淫靡な汗の塩味を舐めとりながら、固くなった乳首を舐めまわす。
「(すごい…気持ちよくて、身体ふわふわして)」
限界まで引っ張り上げ、口先から離れてぷるんぷるんと手の中で乳肉が震える。
それを繰り返すたびに喘ぎ声が漏れ出して、淡の身体が微細に跳ねる。
「意地なんかはるなよ」
「な、何の話よ、…っ」
もう限界が近い、顔は蕩けて、抵抗する声も弱弱しく
肩の力は抜けて口を押さえる手はしおらしくなっていた。
トドメとばかりに吸い上げることにした。
―れろぉぉっ、んじゅううるるる!じゅぞぞっ!ちゅうううっ!
「んんぅううっ!?んんっ、あ、あふっ…んっ、んん〜〜ッ!!」
口を固く結んで声を必死に抑えて、ベッドシーツを強く握り、白い布地に大きく皺を作る。
目をぎゅっとつむり、無意識に溢れる涙が細く筋を作る。
淡の身体はくねりながら大きく数回跳ねて
火照った滴を散らしながら、絶頂の声が抑えきれず漏れ出した。
-
その後、しばらくの間は波が引いてまた戻ってくるように身体の痙攣を繰り返し
呼吸と身体の痙攣が落ち着いた後、乳首から口を離すと淡の様子を見てみた。
「ふぅ…ふぅ…んっ、…はぁ。は、…んんっ、ぁっ、ふうぅ……はぁぁ……」
熱で火照ってほんのり赤らんだ身体で息も絶え絶えに
余韻を愉しむような艶をしのばせた小動物のような可愛らしい息遣い。
額に汗が浮かんで、乱れた髪が張り付くようにしっとりとしている。
ぐったりと脱力して顔を横にし、最早無防備になっている。
行為中の熱気がじわじわとひいてきて、辺りはひんやりとした空気に包まれていた。
その静けさとは裏腹に直情的な、肉欲を欲する熱は未だ冷めず。
無防備にベッドに身を投げる淡は我に返ったように乳房を腕で隠す。
敵愾心を露ほども感じない紅潮気味のジトっとした鋭い目が刺さる。
「こうなるなんて思ってなかったのに…」
一つ屋根の下で、かつての妹の乳房を存分に弄び、
しまいには赤子のように吸い付き蕩けるような深いキスをした。
絶頂させてしまったのだ。二人は既に交わってしまった。
「本当に…これが初めてだよね?」
「当たり前だろ」
「……相手が初めてかどうかで不安になるなんて、…気持ち分かったかもしんない」
-
前戯が終わったばかりなのに空気は完全に事後となっていた。
終わった最初は気恥ずかしさがあったものの、すぐにそんな気持ちも無くなり、
ベッドに腰掛けて寄り添いながらふわふわとした甘い雰囲気に二人は呑まれている。
淡はまるで虜になったように上目遣いに熱い視線を向けながら腕に抱きついていた。
まるでその気もないというのは分かっているが
彼女のブロンドから漂うフェロモンと密着する柔肌に否応なく欲望は湧き上がる。
そんな気も知らずに彼女は暢気に鼻歌でも歌いそうなほど上機嫌に会話を続けていた。
「それにしても赤ちゃんみたいだったね」
「…うるせぇ」
真っ最中の時には初めに覚えた羞恥は何処へやら、すぐに吹き飛んでしまったが思い返せば恥かしい。
顔が熱くなり、変な汗が出てきた。
その表情があまりにも分かりやすかったのだろう。
淡はニコニコしながら背伸びをするように背筋を伸ばし
手を頭の上へやると、子どもを褒めるように撫でる。
「よしよし、初めてにしては上手に出来ました〜」
「やめろォ!」
「素直に認めなさい、あなたは赤ん坊なのよ」
「ちがわい!」
「ったく、お前だって初めてだろうに」
「でもアレは、ねぇ?」
「しょうがねえよこんなん…」
言いながら腰から回した腕で淡の乳房を揉む。
「んっ、もー、こらぁ…今はやめてよ。あなたのパパかママに見つかるかもしんないし」
脇腹をくすぐられるように身をよじらせ顔を赤くする。
言葉を無視して続けると、再び甘い声が漏れる。
「やめろっつってんでしょ」
手をペシペシと叩きながら威嚇する顔で見上げて
揉むな!と怒られた。
どうやら再三言われるとおりそういう雰囲気じゃないとダメらしい。
-
「もー、しょうがないなぁ京ちゃんは♥」
「お前まで真似をするのか…」
そういう雰囲気じゃないからだめ、と言う割にはその表情は満更ではなかった。
寄り添う体勢は変わらないまま、淡の手は大腿部を滑るようにして陰部の上へと辿り着く。
加減が分からないのか、恐る恐る服の上から撫でるようにきわめて微弱な刺激を加える。
どう?と、こちらを伺う視線を見上げるように向けてくるが当然、気持ちいいはずがない。
人の為にどうかするというイメージの淡が気を向けて頑張ってくれているという気持ちは分かるが
こればかりはどうしようもない。
苦笑いを返すと不服そうにしている。
「何で反応しないの?」
「なんでって言われても…なぁ?」
「『なぁ?』じゃないわよ。気持ちよくなってよ」
陰部というよりは布地をナデナデとしているような謎の好意を続けながら理不尽に文句を言う。
女子に、しかも好意を抱いている相手にそこを撫でられてここまで興奮しないものだと自分に感心する。
ムキになった淡が顎に頭がぶつかるほど体重を預けてきて、集中するようになでなでを続ける。
違う、そうじゃない。
「むむむっ、おかしい」
「はぁ…」
「あのさぁ、私じゃなくておっぱいが好きなんじゃないの?」
「そんなわけないだろ、馬鹿なこと言うなよ」
-
「触り方がおかしいのかなぁ……」
「うん」
そう言うと京太郎の腰に手をかけてベルトをカチャカチャと外し、
しゅるしゅるっと音を立てて抜き取った。
フックを外してファスナーを下げると下着が露出する。
「ちょっと生で見せてもらうけどいいよね」
「いいの?」
「いいの」
白くて肌理細かい手が掻き分けるようにして愚息を掴み、露にする。
興奮しているのか分からない気分が、愚息の頭を垂れさせていた。
「ちっちゃい!おちんちんちっちゃい!本で見たのはこんなんじゃ…」
「本?」
「あ、…な、何でもないよ?」
「まあ、これ全力じゃないし、うん」
「あー、変身を後何回か残してる、みたいな」
キラキラとした目つきで頬を赤らめさせながら
愚息をまじまじと観察したり、つついたりして遊んでいる。
「かわいい…キモい…うーん、キモかわいいのかな、これ」
「可愛いかぁ?」
よく分からないミニチュアにも可愛いという子は割りといるが。
そう考えると、淡もまたそこらの女子と変わらない普通の子なんだと再認識する。
「ほら、ネッシーみたいなさ」
「俺のナニはUMAか…」
ぐにぐにと愚息を揉んだり、指先で亀頭を円を描くようになぞられながら
ナチュラルに会話を繰り広げている様子に段々と興奮を覚る。
陰茎の動脈が緩み膨張し、海綿体が充血していく。
「えっ、なんだって?戦いの中で成長している…だと…」
「その路線もういいから…」
-
肩に頭にのせて、粘土を捏ねるように愚息を揉みほぐす。
こそばゆさやわずかな快感が背中をくすぐる。
下半身に少しずつ熱が集まってくるのを感じる。
ぴく、ぴくと反応して愚息は膨張を始める。
「反応するじゃん、ねえ?」
「そんな嬉しそうに言われても…」
ふふん、という鼻から息を漏らす嬉しそうな声が耳元で囁くように聞こえる。
得意になりながら肉竿部分や、亀頭をくすぐったいくらいの塩梅で撫で擦る。
すると、完全に充血しきった愚息は肉棒へと変化し、頭を持ち上げて元気になった。
「わわっ、すっごい。もうこれ可愛くないじゃん。キモいし」
根元を片手で押さえて再び観察するように肉棒を見つめる。
何度もキモいと言われて気持ちへこむ割にそこは萎えていなかった。
「血管が浮かび上がって、割れそうなくらいパンパンで…痛くないのこれ?」
「そりゃあ、毎度のことだし」
「ふーん、本で見るのと全然違うね、すっごい大きいし、ちょっと怖いかも」
「さっきから本って何だよ」
「んー?……えっと、サキから覚えとけーって言われて見た本で。あれは男同士だったけど…」
「あっ…」
白状するように知りたくなかった新事実を暴露した。
追及すると闇を見る気がして、何も言えなくなった。
-
勃起したそれを撫で擦りながら反応を窺っている。
急に黙りこくったから不安になっているのだろうか。
頭を撫でてやると、嬉しそうに微笑しながら頭を首筋に擦り付けてきた。
彼女に見つめられながら甘えられて、肉棒を手で擦られる状況。
憧れていた光景ではあったが、いざ立ち会うと嬉しさや精神的快楽だけでなく
羞恥という感情もそれなりに沸いてくるわけで。
「ちょっとは緊張してるみたいだね」
表情は相変わらず簡単に読まれてしまう。
「いや…その…」
「隠さなくていいよ。今は私に任せて。サキのおかげで詳しいんだから!」
「(本では確かこういう風にしてたよね)」
献身的な態度が、奉仕を大胆にさせる。
撫で擦るのをやめて、肉棒を揉むようにしながら上下にゆっくりと扱き始める。
「う、ぁ…」
無意識に声が漏れた。思った以上に彼女は性技について知っているようだ。
さっきよりかけ離れた段違いの刺激。くすぐったいではないよく分からない感覚。
まだ快感と断定できない謎の感触。しかし、確かにその感覚は視覚や聴覚を鈍くさせるほどに圧倒していた。
攻めるとダイレクトに反応が返ってくる。そのやり取りが恋慕や愛しさとは別の欲望を呼び起こさせる。
嗜虐心。それにより興奮や快感を促された淡の生温い吐息が耳にかかった。
「あははっ…ビクビクいってるよ?こうやってしこしこするといいんだよね?」
それは決して不快感もなく、胸の動悸を激しくさせるような甘い囁きに興奮は助長される。
だが、彼女の奉仕はそれだけには留まらない。
亀頭を手のひらで掴むようにして揉みほぐし、雁首を指先で擦るように手をくるっと回す。
ピリピリとした痺れるような感覚がどんどん肉棒の熱を高めていく。
単調な二つの手の動きが合わさって、じわじわと快感を明確に感じつつあった。
「先っぽをくりゅくりゅすると気持ちいいんだね。顔に書いてあるよ?」
悪戯心にも火がついたらしく、堪えている様子を楽しそうに見つめてくる。
端整な顔に鋭さを残す柔和そうな少女らしい表情を咎めることが出来ず、
情けなく喘ぎを零しながら体裁を保つよう頭を優しく撫でてやった。
-
淡は肉棒と顔を適度なタイミングで目配せしながら
その都度手の動きを変えて、最高の快楽を与えようと一生懸命になっている。
亀頭の雁首部分近くを擦るようにして薬指でぎゅっぎゅと擦り上げながら
もう片方の手は肉竿を摩擦で擦るように根元から雁首付近まで扱いている。
――しゅっ…しゅっ…しこしこっ、しゅ…
飽くまで手馴れているように振舞う淡だが、手つきはたどたどしく
十分に快感を与えるまでには至っていない。
不安もあるだろう。それさえもひた隠しにして、奉仕している様がいじらしく
気づけば片腕で淡の細い腰を抱きしめていた。
「ちょっ、どーしたの?あ、もしかして気持ちよくて我慢できなくなった?」
「ははっ、そうかもなぁ」
「ま、いいけど。ぴったりくっついてるこの感じ私は嫌いじゃないし」
ほどよく心地よい感覚を与え続けているとやがて淡は異変に気づく。
分泌された尿道球腺液(所謂カウパー、我慢汁)が鈴口より分泌され
手のひらをぬるぬるとした液体で汚している。
「へ、変なのでてきた」
手のひらの粘性のあるそれを人差し指で掬い取るように伸び縮みさせる。
まだまだよく分からない淡はそれを舐めると嫌そうな表情をする。
「にがじょっぱいっ」
「舐めるなよ…」
「このぬるぬるたくさん出てくるけど、もう出そうなの?」
「うんにゃ」
「…………麻雀のときもこれくらいじっと待ってられればねぇ」
「余計なお世話だ」
-
妙に対抗意識を燃やす淡は肉茎を握る強さを強めて、早めに上下に扱き始める。
――くりゅっ、くちっ、しゅこ…しこっ、くちゅっ…しゅっ、しこしこっ
肉茎を揉み扱く手にカウパーが潤滑油となり、速度が増していく。
手の昇降運動を繰り返す度にいやらしい水音が鳴り、変な心持になる。
そしてどうやら昂ぶっているのは彼女も同じらしい。先程よりも一層握る力は強まり
淡の精一杯(とはいっても感覚としては丁度いいくらい)を感じる。
「んっ、ふっ、んっ、んっ!…どう?」
「あぁ、気持ちいいよ」
と言いながら頭を撫でると腹を立てたように頬を膨らます。
あからさま過ぎたのか、気を使われているのを察しているようだ。
さっきよりも真剣に様子を窺いながら、出来るだけ気持ちよくさせようとしてくる。
音を立てながら亀頭を手のひらで揉みつぶすようにしながら、しゅっしゅ、と高速に竿を扱く。
客観的には献身的に奉仕をされているように見えるのだろう。
ふとそれを想像して、自分の陰部を愛しい彼女が弄っている事実に興奮する。
「ねえ…」
「ん?」
「びくびくしたり固くなるばっかでちっとも出る気配ないけど…どうすればいいの?」
「えーっと、な、舐める、とか?」
「おちんちんを?嘘でしょ〜……」
神妙な顔で考え込むと、扱く強度が緩まってきて、物足りなくなってくる。
これが切ない、という感覚なのだろうか。
「わかった。いいよ」
「へっ?」
だが、淡はそれを受け入れてくれた。
意を決すると向かい合うように正面に回りこみ
陰茎に吐息が当たる距離まで顔を近づけてじっと上目遣いをする。
両手で陰茎を支え直してポジションを定めて、息を整える。
-
「れろっ…んむっ……おいしくない……れろっ、ちゅっ」
不安と苦味の我慢で眉を少し寄せてぺろぺろと控えめに亀頭を舐める。
餌を与えられる野生動物のように恐々とした舌遣い。
だが、小さな口から伸びる舌のざらざらとした感覚が陰部を刺激する度に
こそばゆさと快感が下半身全体に響いた。
「れろれろ…ちゅるっ、んむぐっ……んろぉ…、じゅるっ、んはぁ……苦いよきょーちゃん」
髪がかからないように手で抑えながら亀頭全体を工夫なしに舐めてみたり
キスするように吸い付いたりして、息をつくたびに下腹部に生暖かい吐息が掠める。
陰茎を舐め吸いしていると垂れる髪がさらさらと揺れて太腿をくすぐる。
一つ一つ目に入る光景、触れる感覚、与えられる快感。
全てを感じ取って今、淡が肉棒を口で咥えている事実にどうしようもなく興奮してしまう。
「はむっ…んちゅうっ、えろ、れろぉ……んはぁっ。ふふっ、きもちい?」
上目遣いににこっと微笑みながら唾液に濡れる肉棒をしこしこと擦る。
「私もすっごいドキドキしてるけど、おちんちんもすごいどくどくしてるよ」
そう言って咥えなおした淡は、亀頭をすっぽりと口で覆い
舌先をちろちろを動かしながら、鈴口を掻き分けるように押し付けた。
-
表情を一々確認しながら、どうしたら気持ちいいか考えて研究している。
興奮と、一線を越えて振り切った大胆さが、後退を許さず追い詰めるような快感を与えてくる。
気持ちいいを感じてもらおう、ただそれだけを一心に愚息を舐める淡は
この瞬間瞬間の中で技を吸収し、経験値がみるみるうちに溜まっていった。
「(触れられてないのに、気持ちいい。ああそっか…私、嬉しいんだ。心が気持ちいいんだ)」
舌をべったりと亀頭にくっつけると、舐め回しながら口で輪を作って雁首を刺激する。
口で亀頭を刺激すると同時に唾液を潤滑油にして肉茎を力強くしゅっしゅと扱く。
誠心誠意と口淫が気持ちよく、熱がより下半身に集中していく。
短時間で瞬く間に成長する淡の健気さに頭を撫でたくなる衝動に駆られる。
ふわりと、彼女の後ろ髪ごと頭を撫でると、お返しとばかりに強く亀頭に吸い付いてきた。
「はふぅ…んむ、れるっ、れろぉぉ…、ちゅっ、じゅるぅううっ」
口から亀頭を解放すると、次は根元から丹念に舐め上げると
裏筋の一番上辺りを舌でコリコリと弾くように舐めてから吸い上げる。
「おちんちん舐めてると…んれるぅっ、変にふわふわしちゃって私も切なくなっちゃう……」
火照ったまま変なことを口走ったことに気づいて、恥かしそうにする。
それを誤魔化すように肉竿の上部分まで口に含むと、亀頭を飴を舐めるようにコロコロと転がした。
「ちゅるぅ、…れろれろ、はぁむ……じゅるるるっ、んっ…、京太郎のちんぽ、びくんびくんしてる…」
名称をちんぽ、と多少お下劣に言って見ると、淡の思い通りに胸はどくんと高鳴り
連動するように肉棒も一層の快感と微痙攣によって反応をした。
-
ねっとりとナメクジのように亀頭に張り付き動いていた淡の舌がちろちろと鈴口を突いたり
亀頭を舐め回すように舌を這わしたり、雁首の傘になっている部分を掬うように舐めたり
それぞれを高速に交互に繰り返す亀頭舌攻めのフルコース。
それぞれをこなしながら微細に顔を上下上下させて竿部分を口腔内の頬部分に擦り付けたり
口で肉棒を扱きながら淫靡な水音を立てて、射精を促していく。
――にちゅっ、にちゃっ…くちゅっ、ぬちゅっ…くちゅくちゅっ、しゅこっしゅこっ
ぬるぬるになって抵抗がなくなり、摩擦が少なくなった肉茎をしこしこと早めに揉み扱き
亀頭付近のみに専念した初めてとは思えないフェラチオをしながら、カウパーを舐めとり吸収される。
亀頭フェラと手コキの合わせ技に如何ともし難いバチバチと弾けるような快感が陰部を中心に駆け巡る。
「はぁむ…んっ…んんっ!れろれるぅ…んふぅ…んっ…ぢゅっ、んちゅるっ、ぢゅるるっ…うん!
ぅうんっ、れろぉぉ…んふむぅっ、ふぅぅ、んンっ、はぁ、はむぅ……ちゅうっ、じゅううううるるるっ!」
「ぐ、ぁ…ふ、や、やばい……淡、そろそろ……」
「…?うん、ちゅうっ、ぶじゅるっ、…んむぅーん、はん、はむっ…れろれろぉ…はむぅ…れろぉぉぉ♥♥」
返事を返さず、肉棒を奉仕することに対し夢中になる。
亀頭に音を立ててしゃぶりつきながら舌をめまぐるしく舐め回し
肉茎を握る手を更に力を込めて唾液とカウパーの混ざり合ったぬめりを
にちゃにちゃと伸ばすように上下させながらそのスピードを高めていく。
「あ、淡…どいて、くれ……」
「ちゅぱっ……いーや♥」
天邪鬼な淡はその意味を知る由もなく、亀頭をしゃぶり、肉棒をあの手この手で奉仕する。
射精が近い、汚したくない。
離れてほしい気持ちとは裏腹に、どんなに言っても、陰茎の虜となっている。
首を曲げるほど見下ろす位置で一生懸命自分の陰部を口に咥えて、
射精させようとロングヘアを揺らし、快感に持て成す奉仕に支配欲は満たされていく。
-
「れろぉ…えろぉぉぉぉぉ…、ちゅるっ!んっ、んっ、んんっ!!んふぅぅ、んふぅぅうっ、ちゅうっ、れろぉ、じゅうううっ!」
「で、出る……っっ!」
引き剥がそうと淡の頭を抑えようと手を伸ばした。理性はそうしようとした。
だが、それを上回り反抗した本能が根元まで咥えさせるように淡の後頭部を押さえつけた。
亀頭喉壁に擦りつけられながら奥まで進み、びく、びくと予兆を顕れる。
衝撃に驚いた淡は目をつむりながらえづきを漏らし、目には涙を浮かべている。
だが、そんなこともお構い無しに溜まりに溜まった複雑な欲望の奔流が解放された。
――ぶびゅるるっ、どくっ、ドクンっ!びゅっ、びゅるるっ、びゅーーーーっ
「ふぅっ!?んむぅうっ!あんんっ、んっ!んっ!んんんンンン〜〜〜っっっ!!」
切っ先から溢れ出る白濁とした欲望はすぐに止まることなくどくどくと溢れ出る。
勢いが止まらない精液は淡の口腔内を白く染め上げるように満たしていく。
高まった緊張がぷつんと切れて、目の前が明滅するほどの快感が迸る。
今まで一度も経験したことのない、腰から下全部が痙攣するような甘く染みる感覚。
いつも憎まれ口を叩いているこの小さな唇を、口を、白く穢す精神的快楽。
その全てが数十秒、数分、数時間続くようなふわふわとした幸福感に包まれる。
「んーー!んむぅ、……んくっ、んっ、んむぅうっ、んっ、んっ、んぅく」
口に溜まった精液を淡はもごもごとしながら苦しそうな表情をしている。
少し不快そうな顔をしながら、それでも進んで自分から飲み込んでいた。
そうやって少しずつ、少しずつ、粘性のあるソレを口の中から減らしていく。
「んくっ、んんっ、……こくっ、こくっ、れろれろぉっ、ちゅるっ、ちゅううっ」
尿道の中に残っている精液も全て吸い取ろうと根元から咥えて吸い上げる。
絶頂したばかりの快感を長引かせるようなその行為に腰が引けてしまう。
「ちゅぽんっ……はぁ…はぁ、……うぅっ…」
「お、おい…飲んじゃって大丈夫か?」
終いには飲み干してしまった。だが、明らかにその表情は良いものではなく
ぐずりそうな雰囲気を醸し出しながら、まだ愚息を触ったままでいた。
■ ■ ■
-
「ごちそうさま…なんちて」
見上げると誤魔化すつもりか、気持ちに負けじと不敵な態度をする。
だがもう遅い。吐精のときに慌てていた素振りは取り消せない。
「ごめん、それと…ありがとうな」
頭を撫でながら身体を抱きしめてやると、力の抜けた身体が体重を預けてきた。
精の放出のおかげか、興奮や劣情を催すことなく、穏やかに彼女を感じられた。
しっとりと首筋に髪を張り付かせる汗の匂い、彼女特有の甘くくすぐるような芳香。
力を込めたらすぐに折れそうな腰、腕を回せば簡単に抱き寄せられる肩、
しっかりと胸にその重さを感じさせる頭。
止められぬ衝動とはいえ、ひどいことをしてしまった。
謝るようにしばらく梳くように優しく撫で続けた。
だが、そんなこととは別に淡はどこか満足そうにしていた。
恐らくだが、ちゃんと射精まで自力で導けたということを自慢げにしているのだろう。
その後、淡は少し汚れた顔でこちらを窺うようにして真顔でじーっと見つめてから
やれやれと肩を竦めるような表情をしてから、顔を紅潮させて言葉を紡いだ。
「勘違いしないでね。好きだから、何だってしていいって私は思ってるのよ」
「悪いことしたなんて思っちゃだめ。そんなの、なんか…なんか気持ち悪いもん」
「それに私もあなたの気持ちよさそうな顔の顔みてついつい苛めちゃったし、おあいこってことで、ね?」
宥めるように言うと、また背伸びからの頭撫で撫でをした。
その真心は本心なのだろうな、と思った。
そしてもっと目の前の彼女が愛しくなってぎゅうっと抱き上げると
「わわっ、ちょっと強く抱きしめすぎっ。それはだめ、だめだよ!めっ!」
と窘められた。
……………
………
…
「ちょっと汚れちゃったね」
「そうだな」
乳繰り合った後、身体をくっつけ合い、まったりと静かな時間を過ごして
少し冷静さを取り戻した二人は、口や陰部に付着した精液をティッシュで拭いたり
水でうがいするなどして処理をして、一旦一息おくことした。
-
その後、また変な雰囲気になる前にお風呂を提案した京太郎は
猛抗議を押し切り別々に入浴を済ませて自室へと戻ってきていた。
ベッドで寝転がりながら漫画を読んだり、携帯を弄っていると
淡が脇腹を背もたれにするようにしてリラックスしていたり、
学校の授業やお互い芳しくない成績のこと、勉強のことや先生の文句
麻雀についてのお説教など、何気ない会話で遅くまで時間を潰していた。
「もう遅いけど帰らなくていいのか?」
「んー、借り物だけどもうパジャマになっちゃったしいいかな」
「咲たち心配するぞ?」
「あーっ、そうやって彼女追い返すつもりなんだ」
「いや、そういうんじゃねえけどさ」
「大丈夫、ちゃんと連絡してあるから」
「い、いつの間に……」
馬鹿に付き合ったり付き合わせたり、休み時間に適当に話したり
放課後は家でゲームやらダラダラ過ごしたりとか。
友情の延長線上の当たり障りのない触れあいから一線を越えて
お互いを触れ合って、淡という少女を生まれて初めて知ったようだった。
もしや、こうなることも全て織り込み済みだったのだろうか。
淡の思わぬ行動力、積極性、計算高さに畏敬さえ抱いていた。
全て覚悟の上で今日は家までついてきていたこと。
その身を晒し、情を交わしてくれたこと。
いよいよもって兄妹ごっこから恋人へと変わった気がした。
-
「ねえ、だから今日はお泊りするわけで…」
気づくと四つんばいで誘うような目をした淡が顔を近づけてきていた。
その可愛らしい表情はどこか妖しくて、男心をくすぐってくる。
サイズ違いに垂れ下がるTシャツの首の隙間から谷間がチラリと目に入る。
「ゴクリ」と音を立て生唾を飲み込む。
酷使され眠りについてしまっているはず猛獣が再び起きようとしていた。
「折角だから最後まで、しちゃおっか…?」
「え、あ……ま、まじ?」
「まじまじ♪」
もう触り方を十分に理解した淡の小さな手が服の上から愚息を揉んでいる。
生命の本来の目的、生殖行動。必要に迫られればいついかなる時も反応する原初的なはたらき。
いくら疲弊しようが、日夜その魔力に取り付かれた生命は抗うことなく生きた証明の如く種を宿そうとする。
今からそれを行おうと淡は誘惑している。所謂、子作り。所謂、セックスである。
あろうことか、男性からのアプローチではなく、女性がそれをしようと不敵に身体を寄せるのだ。
まるで人に原罪を背負わせるために神の目を盗み人間を陥れた悪魔のように。
「本当は、ここまでしたかったんでしょ…?」
「淡、…お前はどうしてそこまで」
「繋がりたい、一緒になりたい、寄り添いたい…ずっと一緒にいたいの。離さないでずっと傍で」
「身体で繋がれば、きっと心も一つになれるよ」
「それにさっきとは比べ物にならないくらい、気持ちよくしたげる」
「そ、それは…だけどほら、も寝てるし、バレるかも…」
「今更でしょー?何言ってんの?」
-
魅惑に唆す。腰に抱きついて、横っ腹に乳房を意図的に押し付けている。
そうしながら股間の逸物を優しく揉んで、意識を傾けようとしてくる。
「淡、俺は……」
「えっちしよーよ。京太郎」
何かが崩れ落ちた気がした。先程も一度壊れかけた何かが。
ずっと、壊さないように大事に彼女を扱おうとしていたそれが。
今まで身を任せるとロクなことにならなかったその本能が。
理性を完璧に拭き飛ばしむき出しに、露骨になろうとしていた。
出来ればそうしたかった。だけど、関係が壊れるかもしれないから怖くて。
折角手に入れた幸せだからゆっくり進めばいいと思ってて。
だけど、それが必要ないと知れば自ずとどうすればいいかは分かるわけで。
気づけば淡の両手を押さえる形で押し倒していた。
何かがおかしい。そんなこと分かっていた。
このまま進むときっと出てこれない深みに嵌るような。
青春を殺してしまう死臭の漂う絶望の沼地へとずるずると引きこまれていく。
でも、それは抗うことができない。それほどに身を縛る本能を強烈で。
体験したことのない、そのまぐわいを求める身体はもう既に調子を戻しかけていた。
「やめろって言っても、やめないからな…」
「上等だっての」
そう言いながら淡の履いているハーフパンツに腕を潜り込ませたときだった。
コンコン、と部屋のドアがノックされる音が部屋の中に響いた。
「「!?」」
二人とも同時に身体をビクっとひくつかせると、手を引っ込めてお互いの距離をとった。
「入ってもいいかしら、京ちゃん」
予定調和の、親の来襲だった。
-
拒否するわけがない。そうすればかえって怪しまれる。
「ど、どうぞ」
少し言葉を噛みながら慌てて声を上ずるように返事をした。
直後、ガチャリとドアを開いて、柔和に笑みを浮かべた母親が部屋に入ってくる。
「あら、淡ちゃんもいたのね」
「あ、はい。遅くまですみません」
「いいのよ。…それで、あなたは京太郎と一緒の部屋で寝るつもり?」
「あ、えっそのぉ」
「…うふふっ」
何も言えず「助けてよ」と目配せをしてくる。
だがここでヘタな事を言えば触れ合いながら睦言に興じていたことがバレてしまう。
首を振ると恨めしそうな顔で睨んでから母親の言葉にウェアキャットに対応する。
「まあ、その年でお付き合いしてるから分別はつくと思うし、いいけれど」
なんとか納得というか誤魔化すように成功したようだ。
ふんすといった鼻息と同時に尻をぎゅっとつままれた。
痛みで唐突に背筋をピンとする姿に母親も首をかしげている。
「あ、そうそう。明日から母さんの実家の方に帰るけど……」
「残ります」
「あら即答」
「今は忙しくて長野から離れられないんだ」
「そう……そうだと思った」
「家のことはなんとかする。だから安心して母さんは実家でゆっくりしててくれよ」
「わかった。お父さんにも伝えとくわ。もう、明日の朝には家を出るから、よろしくね」
「あいよ」
「淡ちゃん」
「はい、なんでしょう?」
「京ちゃんをよろしくね」
「もちろん!安心してください」
「うふふふふっ」
それだけ伝えると邪魔者は足早に、と退散しようとして
廊下の方へと跨ぐ直前に意味ありげな視線を京太郎に飛ばして母は部屋を出て行った。
-
「あ〜あ、なんだかなんか一気に覚めちゃったね」
「ああ」
「帰らないでよかったの?」
「だって、……一緒にいたいんだろ?」
満更でもなさそうに受け止めた淡はもじもじとし始めた。
少女らしく可愛らしいアプローチにほっと胸を撫で下ろす。
少し残念だが、一難が去った気がした。
その後、宣言したとおりに一緒のベッドで寝たのだが
身体を密着させられて幸か不幸か抱き枕代わりにされた京太郎は
寝つきが悪く、というか寝れずに一晩過ごしたことは言うまでもない。
―――― 一方その頃
宮永家では姉妹が二人居間で静かに寄り添って過ごしていた。
今まで一緒に入れなかった分埋め合わせるように、仲睦まじく。
冷えた空気に立ち上るココアのぼうっとした垂直に伸びる湯気が
穏やかな空気を表しているようだった。
「私ね、淡ちゃんにはすごいお世話になってるんだ」
「うん……多分それは私たち家族みんなが思ってると思う」
「私がすごいお世話になってるの!」
「……そこ張り合うかなぁ、咲」
「だってだよ?淡ちゃんが教えてくれなきゃ私はスマホなんて持てなかったし」
「えっ引く」
「茶々入れないでよおねえちゃん」
「いひゃいひゃい」
照の頬を面白半分に両手に引っ張り、それに言葉を返す。
そんな何気ない生活の一部がとても充実してそうで
咲も照も何一つ曇りのなさそうな表情で気恥ずかしそうに嬉しがっていた。
-
「でもね、最初淡と会ったとき私はびっくりしたよ」
「うん、私もそうだった」
「倒すべき相手だって思って、何とか勝って。最初はすごい対抗意識燃やされてたけど」
「あの時はカンカンになった淡を宥めるので大変だったよ」
「だけどその時はまだお姉ちゃんと私は仲直りしてなくて」
「咲が私たちのところに来た時だっけ」
―『仲良くすればいいのに、意地張り合って、バッカみたい』
―『ここまでサキが来たんだからさ、ちゃんと向き合って話してあげなよ』
「その後淡がなんとか私たちを仲直りさせようと頑張ってくれて」
―『家なんて難しいこと考える前にまずは照たちが仲直りしないとパパママも仲違いしたまんまだよ』
「最終的にどうにかなっちゃったんだよね」
「本当に嘘みたいにとんとん拍子に進んだよね」
「淡……ううん、あの子が言ってくれたらお父さんもお母さんも仲直りしたんだよ。涙を流しながらさ」
「そうだね。一度めちゃめちゃに崩れてしまったものをまたあの子が戻してくれたんだよ」
「私たちと、他人になっても、やっぱり妹でいてくれるんだなって」
「………うん」
「今度は私たちが淡を幸せにしてあげないといけないんだ」
「うん。だから、京ちゃんには頑張ってもらわないと」
「精一杯の…」
「恩返しをしないとね」
淡と呼ばれる少女の名をまるで憧憬を感じるかのように呼んで
心に固く、彼女の幸せを誓う。
幸せではあっても、もう戻らない思い出を懐かしむように。
それでもせめて出来ることだけを。
最善のハッピーエンドの最適解を彼女たちは影でゆっくりとなぞりはじめ
そうして今日も夜が更けていく。
-
//今日はこれまで。続きは近いうちに載せます。
-
短時間で連投しすぎたので読みにくいかもしれませんすみません
今回更新分は>>292からです
-
乙ぅ
待ちきれないよ!はやく出してくれ!
-
もっと評価されるべき
-
続きはまだかね
-
チョトマッテネ
-
体全体にかかる締め付けられるような圧迫感。寝苦しいほどに蒸し暑い、けど寒いというか。
耳元にかかる温もりを持った吐息。いつの間にか蹴飛ばされている掛け布団。
「そうか、あの後寝たのか」
一応、入浴だのそういう身だしなみは済ませての就寝ではあったがだからといってぐっすり眠れたわけではなかった。
じんわりと覚醒した今でも重い瞼を擦りながら何度もあくびを繰り返す。
抱きつかれてどぎまぎとしていた京太郎だった。だが若い身体はそれを許さなかった。
分泌されたノルアドレナリンによって刺激された交感神経系は興奮を持続させていた。
つまり、抱きつかれてからしばらくして心は落ち着いていたが、身体はずっと臨戦態勢だったわけで。
満足いく行為が出来なかった上に生殺しを食らい続け眠れるはずがなかった。
束の間の睡眠から覚醒した京太郎は、漬物石が乗っかったような身体の重さを感じていた。
「眠ぃ…」
……………
………
…
その後しばらくして、目を覚ました淡と朝の支度を済ませ
朝食を取った後帰郷する両親を見送った。
何か面白そうな目で京太郎を覗いていたのは気のせいだろうと心に嘯く。
血を分けた肉親がそのような非情な思想の持ち主と疑いたくはなかった。
ともかくこれで向こう1週間の一人暮らし生活が始まった。
玄関に並んで立ちながら期待するような目線を送りつける淡を尻目に
睡魔に囚われて視界が倒れて、しまい……。
―――――
-
揺り籠がたゆたうような安らかな感覚と、聞こえてくるのはトントントンとまな板を叩くような包丁の音だろう。
平穏に身をおきながらも平穏に憧憬するようなそんな夢を見ているのだろう。隣の芝はなんとやら、とでもいうのか。
いや、これは――
目を開ける。オレンジ色の光が遮光カーテンを貫き瞼を差している。
眩しさで手をかざした。
背の適度なふかふかとした羽毛のクッション感覚。板に接触するような適度な柔らかさ。
「夕方……?」
どうやら居間のソファで朝から今の今まで眠りこけていたようだ。
折角の第一日目を無駄に過ごしたと溜息をついていると、台所の方から声が聞こえてきた。
「あ、目が覚めたんだ」
「咲?えっあれ?ここは俺の家だよな?」
「うん」
「じゃあ、なんで」
「淡ちゃんから聞いたんだけど、今日から一人なんでしょ?」
「ああ、まあ」
「最近物騒でしょ?だから」
「あんまそういう事件ここらで聞かないけど?」
「もー!つ、つまり用心が必要なの。だから、お姉ちゃんと私がこっちに越してきたから」
「はぁ!?」
「一人になったらすぐ京ちゃんがこれじゃあ説得力ないよ」
「ぐ、…それは(説明し辛い……)」
「どのみち二人きりにはしておけないからね」
「なんだぁ、そりゃあ!」
会話の後、咲は台所へ戻った。恐らく夕食の準備だろう。
一応の心得はあるので、手伝おうとすると
「京ちゃんは邪魔だからあっちいってて」
の一点張りで彼女の戦場に一歩たりとも踏み入ることはできなかった。
余計なお世話というかなんというか。
邪な考えもあって、一人になることを望んだらこうなってしまった。
「お天道さまは何処かで見てる、ってか」
いつかの東京の寄席で聞いた台詞を思い出した。
-
それからすぐに陽が沈むと外套を羽織った照と淡が居間に入ってきた。
「ただいま」
「ただいまー、外寒かったねー」
各々、ビニール袋一杯のお菓子を手に提げてご入場。
覚醒したばかりのぼんやりとした意識で、ああやっぱり冗談じゃないんだなと確認できた。
そして、もう一度心の中で溜息をついた。
「お、起きてんじゃん。どおですかー、その後の経過はぁ」
「お前のせいだろうがよ」
「???」
不思議そうな顔で首を傾げた。どうやらまったく自覚をしていないようだ。
誘惑の仕方や男がどうこうの分別はつくのに、こういうところで理解が乏しいのは
天然で蟲惑的というか、小悪魔というか。先行きが少し心配になる。
「体調崩して倒れたみたいだから。まあ、一人だけ働いてたから仕方ないけど」
事情を知らぬ照が声をかけてきた。
「あんま淡を心配させないでね。慌てて私に電話かかってきたときはびっくりした」
「て、照ー!それは言わないお約束ー!!」
「あっ、ごめん」
ともかくこれで四人となった。元通り四人になった。
気兼ねない三人だから良かったが、予定は台無しになったのであった。
二人きりになるというのは案外難しかった。
-
やりますねぇ!
-
続きはどこ……? ここ?
-
チョトマッテネ
-
楽しみにしてるからね
-
どうも冗長というか、くどい文章になってきたので一回勉強し直してきます
常日頃から滞ってますが、これ以上クオリティを下げて進行するのもどうかと思うので
待っている人には本当に申し訳ないですが、よろしくお願いします
-
あっそうかぁ
-
できるだけ早めの復帰を目処にします
-
オナシャス!
-
あくしろよ
-
モウチョイマッテ
-
何回読んでもやっぱいいゾ〜これ
-
もう待てないよ!はやく出してくれ!
-
<��><��> 見てるぞ
-
もう10回くらいは読んだ気がする
気長に待ってるゾ〜
-
あくしろよ
-
チョットマテネ
-
>>346
お疲れナス!
待ってるからゆっくりやってくれよなー頼むよー
-
あくしろよ
-
あくしろよ
-
他の奴を終わらしてから書きます
今は説明出来ませんが絶対に必要なシナリオなので必ず完結させます
-
頼んだぞ!!!
-
追いついた
待ってるで
-
あわたん記念に久々に見たけどやっぱいいゾ〜これ
-
今日一気に読ませてもらった
いいゾ〜
-
なんだかあわあわが最近人気なので他と平行しつつ再開することを検討中です
-
待ってます
-
あくしろよ
-
お待ちになって
-
お待ちになってますわゾ〜
-
ええスレやこれは…
-
続き来たのかとちょっと期待してしまったゾ
確かにこのスレはいいぞ
-
あ、続き来るまであげちゃダメなやつだったんすね…
センセンシャル!
-
>>362
いや全然そんなことはないと思うゾ
ただ単に上がってたから続ききたのかな?って思った以上の意味は全くないから(責める気持ちは)ないです
でもそれはそれとして続きあくしろ〜?
-
すごくいい(小並感)
この人の他の作品があれば読んでみたいゾ〜
-
>>364
雅枝さんに隠れてるけど原村和さんもかなりドスケベ
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/20196/1445011013/
【SS?】咲さんが病んだらドスケベになるという風潮【咲京】
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/20196/1446993268/
たぶんこれ
-
>>365
ありがとう…ありがとう……
-
続きあくしろよ
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あくかけ
-
今でもゆっくり待ってるゾ〜
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貼ろうとしたスレが落ちてたのでこっちに貼って去る
http://imgur.com/cFLS4uF.jpg
http://imgur.com/puoGsQz.jpg
http://imgur.com/bRpWJNy.jpg
http://imgur.com/E0jX4qK.jpg
-
>>370
いいっすねぇ
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戻ってきてくれよ>>1!!
頼むから俺に京淡をくれよォ!!
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とりあえずアドレスを貼るのみで、当スレからは立ち去りますが、
もし興味ある方は読まれて下さい。
いずれ誰もが直面する「死の絶望」の唯一の緩和・解決方法として。
(万人にとってプラスになる知識)
《神・転生の存在の科学的証明》
http://message21.web.fc2.com/index.htm
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どれくらい待てば良いんですかねぇ…
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誕生日おめでとう!
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かわいい
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