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【ガルパンSS】黒森峰とハンバーグ
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「赤星、少しいいだろうか?」
いつものように練習後の整備をしている最中、神妙な面持ちをした隊長が私に話しかけてきた。
「はい、なんでしょうか隊長」
「実はエリカのことで相談があってな」
「エリカさんですか?」
ちなみに今、話の話題に上がっている副隊長は隣の倉庫まで整備の指示を出しに行っているため近くにはいない。
それでも本人に聞かれないよう慎重を期してか、隊長と私はパンターの影に隠れて話を続ける。
「うむ、私が隊長として黒森峰を率いるのもそろそろ終わりだ。それで次の隊長はエリカにしようと思っている。
大学選抜との戦いも終わり、滞っていた引き継ぎを本格化させているのだが……なんだか最近疲れているように見えてな」
「あぁ、やっぱり隊長もそう感じていらっしゃったんですか」
「赤星も気づいていたのか」
「いつにも増して眉間にしわが寄っていましたから」
練習中やミーティングの時の顔を思い出して思わず苦笑いしてしまう。
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「それで話の続きなんだが、エリカに少し休むように言ったら断られた」
「エリカさんらしいですね……」
「しかしこのままにしておくわけにもいかない。何かしてやれることはないかと思ってな」
「なるほど、そういうことでしたらハンバーグなんてどうでしょう」
「ハンバーグ?」
「はい、エリカさん好物なんですよ。なので、励ますのでしたらハンバーグがいいと思いますよ」
「なるほど……」
隊長は手を顎に当て納得したような表情をしていた。
「ありがとう、赤星。整備の邪魔をして悪かったな」
「いえいえ、私に協力できることがあれば何でも言ってください」
「その時は頼む」
「はい!」
そう言って隊長は私のところから離れていく。ちょうどエリカさんも隣の倉庫から帰ってきたようだ。
サボっている様に見られ、怒られるかもしれないと思った私は手早く整備を再開した。
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赤星からエリカのことについて聞いたその日、まほは寮の自室に戻り今後のことについて考える。
「とりあえずハンバーグについて調理法など調べておくか……ん?なんだこれは」
パソコンの検索エンジンに「ハンバーグ」と入力するとハンバーグに関連するワードが出てきた。
その中でも一際異彩を放つワードにまほは興味を持った。
「ハンバーグ師匠?動画もあるな。美味しいハンバーグの作り方でも教えてくれるのだろうか……」
クリックして動画を再生する。
「これだ」
まほは一通り関連動画を見た後そうつぶやいた。
考えた結果協力者も必要だと感じたため、赤星と先日の大学選抜戦ではもう一両のパンターに乗っていた直下に連絡を入れ、今度は場所の確保に取り掛かる。
ミーティングやブリーフィングで使用している会議室であれば校舎とも離れているし、多少大声を出しても迷惑にはならないだろう。
そして計画を実行する日、整備の後にエリカは赤星に連れられ会議室に向かっていた。隊長に「大事な話がある」と言われたからである。
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なんか始まってる!
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「隊長の大事な話っていうのはなんなのかしら……しかも小梅と直下も呼ばれるなんて」
隊長が呼び出した理由の見当はついているが、今ここで言っては意味がないので黙っておく。
「ところで直下は?」
「直下さんは先に行っているそうですよ」
そんなことを話しつつ歩いて行くと会議室の前まで来ていた。
エリカさんは一度深呼吸をし、心を落ち着かせるようにしてから扉を開けた。
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「失礼します……って直下だけ?」
「やぁ、二人とも。隊長はもうすぐ来るから少しの間待ってて」
そう返事をした直下さんが少しお疲れ気味のようだったのが気になり、私は近づいて尋ねてみた。
もちろんエリカさんには聞こえないように。
(どうしたんですか?なんだか疲れているようだけど)
(あぁ、小梅。何、ちょっと色々あってね。……ところで、これから起こることに驚かないって約束してくれる?)
(どういうこと?)
「ちょっと、二人で何ヒソヒソ話してるのよ?」
「ひゃあ!」
突然声をかけられ、変な声が出てしまう。そんな私にエリカさんは呆れ気味に言った。
「そんなに驚かなくてもいいでしょ。で、私に何か隠しごとでもあるの?」
「いや、ちょっと……」
このままではマズイ、と思ったが突如廊下のほうから足音が聞こえてきた。
そして扉の前で足音はピタリと止み、代わりに扉がノックされる。
「入るぞ」と外から隊長の声が聞こえてきた。
私とエリカさんは慌てて椅子に座り隊長の入室を待つ。
直下さんだけなぜか脇のほうにいたが、そんな疑問をかき消すように扉を開ける音が響いた。
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えっなのこの流れは…
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そして、会議室内に謎のBGMと共に隊長が入ってきた……が、その服装は普段見慣れている制服でもパンツァージャケットでもなく、チェックのシャツにジーパン、そしてテンガロンハットとまるで西部劇の映画に出てきそうな出で立ちだった。
隊長の凛々しい顔つきにこのような恰好であればなかなか見栄えも良く思える。
明らかにファッションアイテムではない、大きいナイフとフォークが腰にぶら下がっていなければの話だが。
「どうしたエリカ?付け合せのミックスベジタブルを見るような目で私を見て?」
「忘れてしまったのか?私だ私!」
「ハンバーグだよ!!」
「……」
「……」
「……」
エリカさんは「これはどういうこと?」という視線を私に向けてくるが気付かないふりをしておいた。だって私もよく分からないのだから。
「励ますのでしたらハンバーグがいいと思いますよ」とはたしかに言ったが、さすがにこれは予想していなかった。
そして、呆気にとられている私たちをよそにテンガロンハットをかぶった隊長……改めハンバーグ師匠は話を続ける。
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「それではさっそく鉄板ジョーク、まずは100グラムから」
「この前ハンバーグの友達が彼氏に振られてしまってな、目も当てられないくらい落ち込んでた、かける言葉もなかった」
「かけてやりなよ、デミグラス」
デ〜ン!
まほ「ハンバーーーーーグ!!!!!」
隊長の大声が室内に響き渡り、電灯がチカチカと点滅する。
ちらりと脇を見ると効果音を担当しているのであろう直下さんは苦笑いをしていた。
効果音のタイミングが完璧なことから、おそらく何回も合わせたのだと思うとかける言葉もデミグラスもなかった。
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「あの、隊長……?」
「どうした?戸惑っているのか?」
隊長、この状況で戸惑わない人はいないと思います。
「大事な話があると言われて来たのですが……」
「それはこのジョークが終わってから話す、ゆっくりしていてくれ」
「わ、わかりました」
「よし、それでは続いて熱々の鉄板ジョーク200グラムだ」
隊長はエリカさんの疑問を遮りハンバーグジョークを続ける。
というかなぜわざわざそのネタを選んだんですか。
エリカさんを励ますだけなら普通にハンバーグを作ってあげるとか、お店に連れて行ってあげるとかでは駄目だったんですか。
時々隊長はズレていると感じるが、ここまでのズレは初めてだった。
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「ハンバーグこの前、父親から整備士にならないか? と言われたんだ」
「トンカツは持っていないが私は持っているだろ、そう、ツナギをな」
デ〜ン!
「ハンバーーーーーーーーーグ!!!!!!」
再びハンバーグの声が響き、電灯がチカチカと点滅する。
隊長の声に反応しているようだがどういう仕組みで点滅しているんだろうか。
「クスッ……」
「フフッ……」
「ンッ……」
ついに電灯の点滅や勢いに負けて私たちは吹き出した。
そしていよいよネタもクライマックスに突入する。
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「元気ですか!?ご唱和ください、いくぞ!7!8!9!」
「ジュ〜!」
「……以上だ」
少しの間の後、素に戻った。
私たちは拍手をし、それを聞いて少し満足げな顔をする隊長はエリカさんに声をかける。
「どうだったエリカ?」
「えっと、面白かったです」
「そうか、それは良かった。最近疲れているように見えたから少しでも励ましてやりたいと思ってな」
「そういうことだったんですか……」
「それでだ、この後家に来るか?」
「え、はい!」
「これはあくまで余興のようなものだ。私の家でハンバーグを作ったから食べよう。口に合えば良いのだが」
「あ、ありがとうございます!それに隊長がお作りになったものが美味しくないわけありません!ぜひ食べさせてください!」
ああ、良かった……このままハンバーグジョークで終わったらどうしようかと不安になっていました。
エリカさんも嬉しそうだし、決して無駄ではなかったと思っておこう。
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「それと赤星と直下、良かったらお前たちも来なさい。色々手伝ってくれたお礼をしたい。エリカもそれでいいな?」
「はい!」
「え、いいんですか!」
「行かせていただきます」
「よし、では行くか」
私たちは会議室を後にして隊長の部屋までお邪魔した。
隊長が作ったデミグラスハンバーグはとても美味しく、エリカさんはおかわりしていた。
それにしても本当にハンバーグが好きなんだなぁ、あんなに幸せそうな顔は初めて見たかもしれない。
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隊長の部屋でご馳走になった後、寮に帰るため夜の街を歩いて行く。
その帰り道、エリカさんが今日のことについて話を切り出してきた。
「今日はその……ありがとう。心配かけたわね」
「いえいえ」
「いや〜、最初隊長から頼まれた時にはびっくりしちゃったよ。でも、『エリカのためだ、頼む』って言われちゃ断れないしね〜、ただ……」
「ただ?」
「まさか隊長とネタ合わせをすることになるとは思わなかったなぁ」
「完璧になるまで何回も練習したんですね」
「そりゃあもう、今日のために仕上げてきましたから」
「ハンバーグだけに?」
「プフッ……ちょっと、小梅!笑わせないでよ!」
「いやだって、隊長が『ハンバーグ!』って言ったら電灯がチカチカするんですもん」
「ちなみにあれリハーサルの時から点滅してたからね」
「嘘でしょ!?」
「ホントホント、ちなみに私が試してみたけど全然ダメだったよ。なんなら今度みんなでやってみる?」
「いいですね!」
「いや、いいですねじゃないわよ!」
最初はどうなるかと思ったけれど、エリカさんが元気になってくれて良かった。
それになんだか楽しそうで、思わず頬が緩んでしまう。
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余談ではあるがあの日以来、会議室にハンバーグの妖精が現れるという噂が流れた。
私たちはその妖精のことを知っている。
とても美味しいハンバーグを振る舞ってくれて、私たちのことをいつも考えてくれている、素敵な妖精だ。
〜おわり〜
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ほのぼのした
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いい話風に終わって草
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乙ぅ〜
やっぱハンバーグ師匠ってすごいねって、また一つ確信させていただきました
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すごくすごいです!
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やっぱりハンバーグ師匠って神だわ
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ハンバーグ師匠は神
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ツナギは普通に上手いと思ってしまった
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無理矢理笑わせていくスタイル
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ハンバーグ師匠になると電灯をチカチカできる特殊能力が身に付くんですね
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こういう方向性もあると勉強させていただきました
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ちなみに直下さんとはこの方です
http://i.imgur.com/0h1JduO.png
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>>26
履帯修繕姉貴のことだったのか。
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まほさんとエリカさんとでハンバーグカレー食べに行きたい
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僕もハンバーグが食べたくなりました(小並感)
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まほお姉ちゃんとかいう無愛想だけど妹想いで部下想いの女の子
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まほさんが真顔であの格好でネタやってると思うだけで微笑ましい
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海外進出狙ったら向こうにはハンバーグって単語が無い為に芸名がマスターミートローフになった話好き
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こういうNaNじぇいならではのSSほんとすき
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ミートローフ!!!!
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糞バーグが出て来るのを警戒しながら読んでましたが、出なくて良かったです
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ちなみに西住まほさんの好物はカレーライスです
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黒森峰は流行りの歌とか流行にかなり疎いみたいなんで
こういう設定が不自然じゃないのが素晴らしい
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タイトルだけ見て料理するのかと思ったら全然違った
ハンバーグ師匠ってテレビで見たことないけどSSは面白かったです
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ハンバーグ師匠の電灯コントロールまでしっかり書いてあるのは高評価
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前スレで告知してた時から頭からハンバーグ師匠がチラついて離れなかったんですけど
本当に本編に絡めてくるとは恐れ入りました。びっくりドンキー行ってきます。
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動画を見るだけでおいしいハンバーグを作れるようになる師匠ってやっぱ神だわ
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>>40
>前スレで告知してた時から
えっ何それは(興味)
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>かける言葉もデミグラスもなかった。
これほんとすき。ホモは文豪。
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小梅視点なのも良かった
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ハンバーーーーーグ!!!!
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http://i.imgur.com/8lbcpkJ.jpg
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ブログまとめおめでとナス!
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