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美月(高1)「空太」 空太(高1)「……なに?」

1 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/03(水) 20:44:50 RbOQLksA
美月「わ、何か不機嫌そう?」

空太「いや……」

空太「その呼び方、やっぱ慣れないから」

美月「さ、さすがに高校でも『お兄ちゃん』呼びは……」

美月「ほら。私たち双子、だから」

空太「……」


2 : シェフの気まぐれ茸のロシアンルーレット風 :2015/06/03(水) 20:46:36 ???
男女の双子って思春期どうやって過ごしてるんですかね(ゲス顔)


3 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/03(水) 20:50:01 RbOQLksA
空太「何だか寂しい。もどして」

美月「あ。クレープ屋さん」

美月「……おごってくれたら戻してもいいよ?」

空太「……どうせ、嘘だろ」

美月「さすがお兄ちゃん。よく分かって――」

美月「あっ」

空太「……おごる必要なかったね」

美月「おに――空太のバカ」

空太「それはこっちのセリフ」


4 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/03(水) 21:25:54 RbOQLksA
空太「クッシーちゃん、家庭科のプリント持ってきました」

美月「カラスちゃん、英語の宿題集めてきました」

久世橋「あ、ああ……猪熊くん。ありがとうね」

烏丸「まぁ、ありがとう。猪熊さん」

空太「失礼しました、クッシーちゃん」

美月「失礼しました、カラスちゃん」

久世橋「……二人とも真面目な子なのに、どうして呼び方だけああなんでしょうか?」

烏丸「お姉さん似で可愛いですよね」


5 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/03(水) 21:55:51 RbOQLksA
陽子「ただいまー」

空太「おかえり」

美月「おかえり」

陽子「おう、二人とも!」

陽子「もう、社会人疲れたよー……」

空太「陽子お姉ちゃんなら、やっていけないこともあるかもしれないよ」

美月「おに……空太が言う通りじゃないかもしれないけどそうだよ」

陽子「……もう、嘘かそうじゃないのか分からないなぁ」

空太「美月。陽子お姉ちゃんは、そのままの呼び方でいいんだ?」

美月「陽子お姉ちゃんとは姉妹だけど、双子じゃないし」

空太「理由になってない気がする」

美月「もう。おに――空太はこだわりすぎ」

空太「それ、キツいなら止めたら?」

陽子「何だか……疲れてても二人を見てたら元気になるよ」

空太「良かったね、美月。陽子お姉ちゃんが喜んでる」

美月「それはいいけど、私は何か……」


6 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/03(水) 22:04:16 uyIqDP6c
ああ^〜癒される〜


7 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/03(水) 22:10:37 va7JIP3U
7歳差だっけ?だとすると先生方は30も半ば近いってことか


8 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/03(水) 22:20:49 RbOQLksA
空太(ケータイに着信? 相手は……)

空太「もしもし?」

綾「あ、空太くん……こ、こんばんは」

空太「こんばんは、綾お姉ちゃん」

綾「どう、高校生活は?」

空太「美月が、ぼくの呼び方を変えようとしてて困ってる」

綾「……ケンカでもしたの?」

空太「してない、と思いたいけど、もしかしたらしてたのかも」

綾「それも嘘?」

空太「もう、昔みたいに嘘ばっかりつけなくなっちゃったみたいなんだって……」

空太「そっちは?」

綾「え、えっと……まぁ、何とか社会人やってるわよ」

綾「毎日、色々とイヤになるけどね……」

空太「陽子お姉ちゃんも同じこと言ってる」

綾「陽子も? やっぱり……」

空太「最近、陽子お姉ちゃんに電話してないの?」

綾「な、何だかあの子相手だと照れくさくなっちゃって」

綾「何故かいつも、空太くんのケータイに。ね?」

空太「ね? って言われても……」


9 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/03(水) 22:39:12 RbOQLksA
綾「ところで、陽子は元気?」

空太「もしかして……ぼくを使って、陽子お姉ちゃんの様子を聞きたかったりする?」

綾「そ、そんなことは……」

綾「空太くんとは何だか昔から気が合ってたから……だ、だから」

空太「まさか、綾お姉ちゃんが大学卒業してからも、ぼくに電話してくるなんて全然思ってなかったけど」

空太「でも、それはそれで何か嬉しいかなって」

綾「……それって、嘘?」

空太「美月は知らないけど、ぼくはもうそんなに嘘つかないよ。アイツは知らないけど」

綾「やっぱり、美月ちゃんが好きなのね?」

空太「……すきじゃないよ。呼び方変えようとするし、嫌い」

綾「ほら。やっぱり空太くんは嘘つきね?」

空太「……綾お姉ちゃんに言われたくないかも」

綾「あら、怒っちゃった?」

空太「お、怒ってないから……」


10 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/03(水) 23:09:24 RbOQLksA
美月「空太。髪、切ってほしいんだけど……」

空太「髪? 別に、そんなに伸びてない気がするけど」

美月「わ、私と、やっぱりよく似てるって言われて困るから」

空太「じゃあ、美月が切れば?」

美月「私、女子。空太、男子。こういう時は、そっちが頑張るはず」

空太「……男女差別」

美月「空太は、お兄ちゃんなんだから、私に――」

美月「あ。え、えっと。空太は、おに……兄なんだから、妹には」

空太「もうそろそろ、その呼び方やめた方がいいと思う」

美月「は、恥ずかしいのっ」

空太「美月……」


11 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/03(水) 23:55:50 RbOQLksA


――昼休み

「……」

空太「……」

美月「……これ、食べる?」

空太「いいの?」

美月「そんなに食べたそうにされると、私も困るから」

空太「そっか、ありがと」

美月「取っていいから……ほら」

空太「そっか、わかった」

空太「うわ、これ美味しいな……」

美月「あ、あーん、みたいなこと言われちゃったら、私もちょっと……」

空太「え? なんか言った?」

美月「な、なんでもない!」


12 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 00:19:04 cGo48mrc
いいゾ〜これ


13 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 00:32:35 CAkIK1XY
美月「猪熊くんと双子なの? って」

美月「今日も、聞かれた」

空太「いや、双子だろ?」

美月「聞かれた時、その子たち何だか……笑ってた」

空太「いや、双子ってあんまりいないし……」

美月「おに、空太は気にしなさすぎるの!」

空太「……美月は呼び方を気にしたほうがいいと思う」


空太「でもさ、双子って言われただけじゃ気にしなくていいんじゃ?」

美月「……仲良しだね、って言われたの」

空太「え? 美月とぼくって仲良くないんだ?」

美月「そ、そういう意味じゃなくて!」

美月「おに……こ、空太のバカ!」

空太(ダメだ。最近、美月のことがわからなくなってきた……)


14 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 00:35:59 9NrnGx1c
いい…


15 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 00:50:31 CAkIK1XY
――その夜

綾「女の子が仲良し、って言われたらどう思うかは……」

綾「空太くんには、もしかしたら分からないかもしれないわね」

空太「……綾お姉ちゃんには分かるの?」

綾「ま、まぁ……何となく」

綾「私も陽子と仲良し、って言われたことあるから」

空太「……綾お姉ちゃんと陽子お姉ちゃんって女子同士じゃ?」

綾「そ、それはそれ、これはこれ。でしょう?」

綾「こ、空太くんと美月ちゃんは双子だし」

空太(うわ、絶対はぐらかされてる……)


空太「まあ、何にしても」

空太「その後で、美月がなかなか話してくれないんだ」

空太「どうしたらいいのか、わからなくなっちゃって」

綾「空太くん、美月ちゃんのこときらい?」

空太「きらいじゃないし好きだけど……あ」

綾「ほら」

綾「……嘘つく余裕もないくらいに好きじゃない?」

空太「……綾さんは意地悪だ」

綾「わ、私は、空太くんと美月ちゃんが好きなだけよ?」

空太(うわ、またはぐらかされた……)


16 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 01:11:21 CAkIK1XY
――朝ごはん中

空太「あのさ、美月? ぼく、美月がきらいじゃないし好き、だと思うから」

美月「……い、いきなり、なに?」

空太「嘘じゃないから。美月と違って、あんまり嘘つけなくなっちゃったんだよ?」

美月「お、お兄ちゃん、失礼すぎ……」

美月「――あっ。こ、空太はちょっと私に失礼すぎると思うよ?」

空太「いちいち直すなら、もうやめればいいのに……」

美月「は、恥ずかしすぎるの……」


陽子「おはよ……って」

陽子「うわ、高校生と一緒の時間に起きてるって……」

空太「大丈夫、お姉ちゃん。昨日、今日はちょっと遅くてもいいって言ってた気がしない、でもないから」

美月「もう、お兄ちゃん? さすがに社会人のお姉ちゃんに、嘘はダメだよ?」

陽子「ありがと、美月。あと、ダメだぞー、空太?」

空太「……美月がいいカッコしようとしてるだけだし」

美月「ほら。そんなお兄ちゃんこそ、私にヤキモチ焼いてるし」

陽子「……美月。呼び方、戻ってる?」

美月「……あっ」


17 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 01:12:06 CAkIK1XY
空太「ほら。陽子お姉ちゃんからも言ってやってよ」

空太「美月、ぼくの呼び方、変えたくて仕方ないみたいで……ちょっと困ってる」

美月「べ、別に……こ、空太が嫌い、ってわけじゃなくて」

空太「え? ぼく、好き嫌いのこと話してないよ」

美月「……もうっ!」


陽子(どうしよう)

陽子(寝起きで嫌な気分だったのに、この子たちを見てるとどんどん嬉しくなるんだけど……)


18 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 03:25:56 CAkIK1XY
ネタ希望、何かあったら色々と書いてみたいと思います
嘘つきブラザーズが可愛すぎる


19 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 05:06:39 e9ueRbZA
これはかわいいですね
正直、もっと読みたいけどここまで
魅力が引き出せそうなシチュが私には思いつきません


20 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 08:25:08 IZAl9WjA
昼飯だ、お昼の話をしよう


21 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 13:10:45 ufieoW9o
かわいい
ベタですけど
プールとか海とかどうですか空太が美月ちゃんを意識しちゃうとか逆もいい


22 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 14:04:57 CAkIK1XY
ネタ提供ありがとナス
ふと思いついたネタがあるので、まずはそれで

――教室

女子「ねえ、猪熊くん?」

空太「?」

女子「猪熊くんって……美月に怖がられてたりする?」

空太「……え?」

女子「美月、猪熊くんの話する時」

女子「『鬼こうた』って、いつも呼んでるから」

空太「おに……こうた……」

女子「美月に『鬼』なんて言われるって……一体、猪熊くんは何を」


美月「な、なに話してるのっ!?」

女子「あ。美月が、猪熊くんと話したいみたいだよ?」

美月「べ、別に……おに、空太と話したいってわけじゃ……」

女子「ほら、やっぱり鬼って……」

空太「……美月」

美月「あ……」


23 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 14:06:01 CAkIK1XY


――帰り道


空太「正直、ぼくも恥ずかしすぎるんだけど……」

美月「わ、私だって……恥ずかしいよ」

空太「ね? もう、『お兄ちゃん』呼びに戻そう?」

美月「……うう」

美月「こ、これからは、ちゃんと、おに……『空太』って呼ぶからっ」

空太「出だしから失敗してるし……」


24 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 14:16:51 HkMN3tto
ニヤニヤするんじゃ〜


25 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 15:15:30 CAkIK1XY
>>20
お弁当


――昼休み・中庭ベンチ

空太「お茶、買ってきたよ」

美月「ありがと。いくら?」

空太「160円」

美月「わかった。150円だね」

空太「……ちぇっ」

美月「おに……空太の嘘、すぐ分かるようになっちゃった」

美月「今なら、どんなこと言われても見破れちゃうんだから」

空太「……その、美月からぼくへの呼び方。結構からかわれてるよ」

美月「う、嘘っ!」

空太「今のはホント」

美月「……嘘だもん」

空太「はいはい」


26 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 15:16:26 CAkIK1XY
美月「この卵焼きおいしい……」

美月「ね。そっちのもちょうだい?」

空太「はいはい。あーん」

美月「あーん……って! そ、そういうのはダメ!」


空太「……ねえ、美月?」

美月「な、なに?」

空太「この中庭のベンチ、どういう人に使われるか知ってる?」

美月「と、友達同士とか、でしょ?」

空太「カップルだってさ」

美月「」

空太「冗談だよ。適当に考えただけ」

美月「……し、知ってたもん!」

空太「でも、本当かもよ?」

美月「お、お兄ちゃんのイジワルっ」

空太(「どんなこと言われても見破れちゃう」ってなんだったんだろう……)


27 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 17:23:17 CAkIK1XY
空太「美月。身長どうだった?」

美月「え、えっと……155、だった」

空太「そっか、150だったんだ」

美月「……ふんだ」

空太「いくらなんでも、5㎝はバレちゃうよ」

美月「そう言う、お兄ちゃ……ん、は?」

空太(噛み方のバリエーションが増えてる……)


空太「ぼくは170ピッタリだった」

美月「嘘。168とか169辺りでしょ?」

空太「……バレちゃったか」

美月「そういうスレスレの人って、ちょっとだけサバ読むから」


28 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 17:26:50 e9ueRbZA
また始まってる!
あぁ^〜心がきゅんきゅんするんじゃぁ^〜


29 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 17:27:05 CAkIK1XY
美月「……つくづく、陽子お姉ちゃんって」

空太「女子にしては高いよね」

美月「ああ。あと15センチほど伸びてくれないかなぁ……」

空太「無茶だよ、それ……」


美月「私、妹。そっち、お兄ちゃ……あ、兄」

美月「しかも、ふ、双子」

美月「8センチくらい分けて、私と同じくらいの身長になるべきじゃないかな、って」

空太「……美月って、たまに凄いこと言うよね」

美月「褒めてくれてもいいよ?」

空太「よしよし」ナデナデ

美月「そ、そういうのはダメ!」カァァ


30 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 18:48:41 CAkIK1XY
男子「空太ってさ」

空太「なに?」

男子「えっと……猪熊さんと双子、なんだよな?」

空太「そうだけど?」

男子「……いつも、中庭のベンチで二人で弁当食べてるよな?」

空太「たまに、屋上のベンチで食べたりしてる」

男子「……この前、帰り道で会った時はクレープ食べ合ってたっけ?」

空太「食べ合うっていうか……美月って、すぐほっぺたにクリーム付けちゃうから」

空太「それを取る役は、いつもぼくで……ホント、美月は困った妹なんだから」

男子「……俺は、猪熊さんの方がずっと困ってると思うけどなぁ」


31 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 18:50:56 CAkIK1XY
空太「え?」

男子「なんでもない」

男子(猪熊さんがいつも顔を赤くしてる理由が分かる気もする……)


空太「そうそう。美月、昔はペットボトルの飲み物とか一緒に飲ませてくれたのに」

空太「最近、それもなくなって……どんどんケチになっていくから」

空太「兄として、何か言ってあげた方がいいのかなぁ」

男子(……傍から見てどう思われるのか、コイツは全然気づいてないんだな)


32 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 19:50:27 CAkIK1XY
今更ですが、この掲示板でこんなに長くSS書いていていいんですかね……?


空太「美月、プール開きしてたよ」

空太「いこ?」

美月「そっか……え? プ、プールって」

美月「あっ。わ、私、友達と一緒に行く約束してて……」

空太「美月の嘘って、何だか高校に入ってから一気にバレバレになってるよね」

美月(……誰のせいだと思ってるのかな?)


美月「でも私、水着持ってないし……」

美月(それに何だか……お、お兄ちゃんの前で水着、っていうのも)

空太「学校用の水着でいいんじゃない?」

美月「あ、あれじゃ恥ずかしいよ」

空太「そう?」

空太「それなら、陽子お姉ちゃんに借りるとか?」

美月「!」

空太「ああ、でも……そっか」

空太「サイズが、少し……いや、もっとか」

美月「……前から言いたかったけど」

美月「お兄ちゃん……じゃなくて! こ、空太はデリカシーがなさすぎっ!」


33 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 19:51:56 CAkIK1XY
――空太の部屋・ケータイ越し


空太「――って。昼間、美月に怒られちゃったんだけど」

綾『……空太くん?』

空太「な、なに?」

綾『私も、ちょっと怒りたいわ……空太くんに』

空太「え、ええ……」

綾『美月ちゃんより身長が高い私でも、陽子の、み、水着、なんて……』

綾『い、いや。それは置いておきましょう』

空太(……綾お姉ちゃん、ちょっとだけハァハァ言ってる?)


綾『いい、空太くん?』

綾『美月ちゃんは、空太くんが好きなのよ?』

空太「そ、それは知ってる……」

綾『好きだけど……それがね、ちょっぴり恥ずかしくなってきてると思うの』

空太「??」

綾『わからない?』

空太「高校生になってから美月、急に照れ屋さんになっちゃったんだ」

綾『……ああ』

綾(何となく、昔から思ってはいたけど……)

空太「最近、頭を撫でたらすぐに顔赤くしちゃうし……」

空太「一緒にお弁当食べてても、いつも恥ずかしそうで」

綾(美月ちゃん、本当にフクザツなのね……)


34 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 19:52:35 CAkIK1XY
綾『空太くん』

空太「な、なに?」

綾『……えっと』

綾『そうね。やっぱり、もう一度プールに誘った方がいいかもね』

空太「……え?」

綾『何となく、だけど……』

綾『美月ちゃんとプールに行ったら、空太くんもちょっとだけ変わるかもって』

空太「……何が変わるの?」

綾『え、えっと……ほら』

綾『美月ちゃんの……み、水着姿、とか見たら』

空太「??」


35 : 邪龍アナンタ :2015/06/04(木) 19:59:16 ???
AILEくんがスレ消してないし大丈夫大丈夫、へーきへーき


36 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 20:04:00 cGo48mrc
書き込めるだけ、かっ、書き込もうぜ〜


37 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 20:40:27 CAkIK1XY
>>35
>>36
ありがとナス
今日は一日暇だったから、相当多く書いちゃってますね……
需要があると思いたいものですが


――当日・日曜日

空太「行ってきます」

美月「……い、行ってきます」

陽子「おー、プールデートか」

美月「ち、ちがっ!」

空太「陽子お姉ちゃんも来る?」

陽子「いや、今日はいいや」

陽子「ちょっと昨日、呑み過ぎちゃったかもだし……」

空太「そっか。お姉ちゃんも来るのなら……何デートって言うのかな?」

美月「だ、だから! デートじゃないよっ」

陽子「……そんじゃ、行ってらっしゃい」

空太「いこっ、美月?」

美月「……私、まだ怒ってるんだよ?」

空太「あの時は、ごめん……」

空太「一緒に水着買いに行ったし、許してくれない?」

美月「そ、そういう所が……!」

美月「余計、恥ずかしいよっ」

空太「??」


陽子「……」

陽子(なんやかんや言い合いながら、二人は出て行った)

陽子「……ケータイ」


陽子「もしもし? 今、二人とも出て行ったよ」

陽子「私も誘われちゃったけど……え? いや、もちろん断ったって」

陽子「まあ、次は付いて行きたいけどさ。今日だけは……」

陽子「……ホント、いつも空太が世話になってるね。『綾お姉ちゃん』?」

陽子「……い、いや。そこで照れるなって。私も恥ずかしくなるだろー?」


38 : 邪龍アナンタ :2015/06/04(木) 20:41:08 ???
需要はあるさ、ここにな!


39 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 20:42:40 CAkIK1XY


――プール・更衣室前

空太「それじゃ、出た所で待ってるから」

美月「……」

空太「美月?」

美月「ね、ねぇ? やっぱり帰らない?」

空太「え?」

美月「……だって」

美月「すっごく恥ずかしい」

空太「……」

空太「ぼく、美月の水着姿見てみたい」

美月「え!?」

空太(綾お姉ちゃんが、そうしたら何か変わるかも、なんて意味深なこと言ってたし)

美月(み、水着が見たいって……え、えぇ?)

美月(お兄ちゃん、やっぱり……男の子ってこと?)

空太(……ぼく、何かおかしなこと言ったのかな)


40 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 20:56:10 e9ueRbZA
キャラ崩壊もしてなくて、ほんとにすごいと思う
読んでて違和感なく脳内再生ができますよ。


41 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 21:07:29 CAkIK1XY
>>40
メインキャラたちはともかく嘘つきブラザーズ(高1)はどんな感じになってるんでしょうね
どこかにイメージ画像とかないものか


空太(……美月は、まだ来てないか)

空太(水着姿の美月……)

空太(一緒に買いに行った時、何度も試着してたっけ)

空太(結局、ぼくの好きな色を言ったら、それに決めてたけど……)


美月「……あ」

空太「あ」

美月「……えっと」

美月「ど、どう?」

空太(青色のビキニに、白い布……えっと。パレオだっけ?)

空太(目に見えて顔を赤くしてうつむき加減の美月が、えっと……)

空太「ああ、上目遣いか」

美月「し、してないもんっ」

空太「え、何で? 可愛いと思ったけど」

美月「……え?」

空太「……あ」

空太(あれ? おかしなこと言ってないのに、何だか……落ち着かない)

空太(可愛い……と思ったんだし、いいか。うん)

美月「……そ、そっか」

美月「可愛い、かぁ……」エヘヘ

空太「……美月」

美月「――あっ」

美月「も、もう! お兄、空太はやっぱりデリカシーないんだからっ」

空太「もはや、鬼ですらなくなってる……」

美月「し、知らないっ!」


42 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 21:08:12 CAkIK1XY
空太「やっぱり……陽子お姉ちゃんのとは結構違ったりする?」

美月「よ、陽子お姉ちゃんのはホルターネックって言って、その……」

美月「私のはチューブトップ、だから」

空太(ほるたー? ちゅーぶ?)

美月「……もう! どうせ私は、お姉ちゃんみたいにスタイル良くないもん」

空太(プイッと横を向く美月)

空太(太陽のオレンジ色と、美月の水着の青が混ざって……)

空太「何か綺麗、かも……」

美月「……な、何か言った?」

空太「いや、何でもない」

空太(あれ? 何で正直に答えないんだ、ぼく?)

美月(綺麗、って……あ、ああ。近くにスタイル抜群のお姉さんがいるし……)

美月(……そう、だよね?)


43 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 21:44:22 CAkIK1XY
http://i.imgur.com/oklmF5A.jpg
青色にパレオのイメージ
もっとも、これはチューブトップじゃなくてホルターネックだと思います
あと、このSSでの美月については、胸は……


――流れるプール

空太「そういえば、浮き輪持ってきてたよね」

美月「あ。流れるプールなら浮き輪が楽しいからね」

空太「……美月、凄く嬉しそう」

美月「だって、プールだよ? 楽しくないわけ……」

美月「う、ううん! ホントは凄く恥ずかしいんだよ?」

空太「そうだね。顔、真っ赤だし」

美月「こ、これは、太陽のせい! 今日、温度高いってお天気お姉さんも言ってたしっ」

空太「……恥ずかしいからか熱いからか、どっち?」

美月「……あ」

空太「引っかかった」

美月「……お」

美月「お兄ちゃんのイジワル……」

空太「あ。呼び方、戻してくれた」

美月「……何か」

美月「そ、そういう気分、だから……」

空太「ふーん……」


44 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 21:45:14 CAkIK1XY
空太「ま、いいや」

空太「美月、浮き輪に乗っていいよ」

美月「……お兄ちゃんは?」

空太「ぼくは一回、流れに乗って泳ぎたいから」

美月「そ、そっか……」

空太「それじゃ、また後で」

美月「って、もう行っちゃうんだ……」


美月「……」

美月(浮き輪と流れるプールって、ホント楽しいなぁ……)

美月(こうして仰向けになって、空を見る……ああ、楽しい)

美月(……楽しい、けど)

美月「何か、物足りない」

美月(……何が、なんだろう?)


空太「……ああ」

空太(流れに乗って泳ぐのって、凄く気分いい……)

空太(自分が誰よりも速く泳げてるような気もするし……ああ、気分いい)

空太(……でも)

空太「何だ、この感じ……?」

空太(何なんだろう、一体……)


45 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 21:45:47 CAkIK1XY
美月「……」

美月(引っかかったような感覚は、どんどん大きくなって)

美月(何故か……そう。本当に何故か)

美月(私と同じ髪の色で、どんどん私より背が高くなっちゃった人を探していた)


空太「……美月」

美月「……あ」

空太「一緒に、プールの中、歩かない?」

空太「まだ乗ってていいから……あ。途中で、ちょっとだけ交替してくれる?」

美月「……お兄ちゃん、何だか顔赤い?」

空太「……何だか」

空太「美月が近くにいないと落ち着かなくて」

美月「!」

美月「お、お兄ちゃん! ま、また、そういうこと……」

空太「美月は?」

美月「……う」


美月「わ、私も……お兄ちゃんが近くにいないのが引っかかってた、けど」

美月「で、でも。それじゃ私たち、ずっと一緒にいないとダメってことで」

美月(あれ?)

空太「……美月?」


美月「……そ、それじゃ」

美月「私の、この感覚が……ホントはそういうこと、じゃないって、どっかで分かってるのに」

美月「それがホント、に……なんて、思っちゃったら、私たち、もう」

美月(わ、私……何を言ってるの?)

美月(これじゃ、まるで……)


空太「……ぼく、美月が好きだよ」

美月「!」

空太「ずっと一緒にいたい、ってことは……ぼくだって思ってる」

美月「……お、お兄ちゃん?」

空太「美月、ホントに可愛いから」

美月「……え、ええ?」

空太「だから」

空太「美月がそんなにぼくと一緒にいたい、って言ってくれると……」

空太「あれ? 何だか照れちゃった……」

美月「……お兄ちゃん」


空太「ま、まあ、それは置いといて」

空太「ほら? せっかくプール来たんだし、まずは遊ぼう?」

美月「……そ、そうだね」

空太「うん」


美月(あ。今度は近くに、お兄ちゃんいてくれるんだ……)

空太(そっか。今度は美月と一緒に、プールを周るんだ……)

美月(きっと、私の抱えて悩んでる気持ちと、お兄ちゃんの感じてる気持ちは違う)

空太(何となくだけど、もしかしたら美月は……ぼくよりも大変なのかも)

空太(……ありがと、綾お姉ちゃん。こんなに美月のこと考えたのって、初めてかもしれないよ)

美月(……どうしよう、ってまだ思うけど)

美月「お兄ちゃんがいてくれるなら……安心かな」

空太「ぼくも美月が近くにいてくれたら、嬉しい」

美月「……やっぱり私たち、似た者同士、なのかな?」

空太「双子だし、ね」


46 : 邪龍アナンタ :2015/06/04(木) 22:18:15 ???
ああ^〜たまらねえぜ


47 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 22:26:54 e9NCHTc6
俺の心のなかの大松が「近親相姦は法律で禁止されているぞ」と言ってくる


48 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 22:39:15 VBx/QX.s
日本じゃ近親相姦は倫理的にタブー視されていますが、刑罰上取り締まる法律はありませんね。


49 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 22:41:57 e9NCHTc6
あっホンマ…


50 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 22:47:46 CZFaRf.o
アカンのは近親婚だからね


51 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 22:59:35 CAkIK1XY


――店前のベンチ

美月「お兄ちゃん。お弁当、買ってきたよ」

空太「……あ、ありがと」

美月「どうかした?」

空太「久しぶりに、美月が笑いながら『お兄ちゃん』って」

空太「何か嬉しい」

美月「え、えっと……」

美月「おに……こ、空太呼びの方がいいなら、戻すけど?」

空太「まともに呼べるならまだいいけど、まともに呼ばれたためしがないし……」


美月「……何だか」

美月「お兄ちゃん、って呼ぶのが恥ずかしいって気持ちと」

美月「どこかで、そう呼びたい気持ちが混ざってる、気がする……」

空太「……何だか、今日は色々と打ち明けてくれてる?」

美月「……さ、さっき、もっと恥ずかしいこと言っちゃったし」

美月「気持ち、整理したいの」

空太「……」


空太「ぼくは美月が好きで」

空太「美月も、ぼくが好きって言ってくれた」

空太「……それで終わり、じゃないんだ?」

美月「……高校に入ってから」

美月「お兄ちゃんと、ずっと一緒にいるのは楽しいのは……嘘、なんだけど」

空太「ずっと一緒にいるのは楽しかったんだ。いや、僕も楽しくなかったけど」

美月「……もうっ」

空太「嘘、だろ?」

美月「分かってるくせに……」


52 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 23:01:06 CAkIK1XY
美月でもね。急に、照れくさくなっちゃったの」

空太「……照れくさい?」

美月「だ、だって」

美月「私……お兄ちゃん以外の男子と、まともに話せた覚えがないんだよ?」

空太「……綾お姉ちゃんも美月と同じで、ぼく以外の男の人と話せてた覚えがないけど」

美月「……う」


空太「美月はさ、心配しすぎなんじゃないかな」

空太「好きならそれでいいって、思うけど……」

美月「……お兄ちゃんの考える『好き』と」

空太「美月の考えてる『好き』は違う、ってこと?」

美月「……」

空太「でも、ぼくはやっぱり」

空太「似たもの同士、だから……美月の『好き』は、ぼくのと同じだと思う」


美月「……お」

美月「お兄ちゃんは、ちょっと甘く見過ぎじゃないかな」

空太「……そうかも」

空太「でも……美月とずっと一緒にいたい、って。それはホントだよ」

美月「……そ、そういうところがっ」

空太「美月は違う?」

美月「……お、同じ、だけど」

空太「じゃあ、それでいいんじゃないかな」

空太「ね。しばらくは、ずっと一緒にいよう?」

美月「……そ、その先は?」

空太「うーん……わからないけど」

美月「……え、ええ」


53 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/04(木) 23:55:30 CAkIK1XY
空太「ただいまー」

美月「……た、ただいま」

陽子「おう、おかえりー」

陽子「あれ? 結構、早かったね?」

空太「いや、美月がぼくと一緒にいたいって話してから」

空太「離れられなくなっちゃったみたいで……また今度、落ち着いてから行こうって」

美月「お、お兄ちゃん!」

美月「お兄ちゃんだって、私とずっと一緒にいたい、なんて言ってきたし……」

美月「……は、恥ずかしくないの?」

空太「……美月は、今の自分の顔を鏡で見てきた方がいいと思う」


美月「……もう」

美月「そんなこと言うんだ。それじゃ……ずっと一緒にいてあげないよ?」

空太「……それって、美月も困るよね?」

美月「べ、別に! わ、私、我慢できるし!」

空太「お姉ちゃん。美月、流れるプールで、ぼくとちょっとだけ離れたら『寂しい』って」

陽子「うわ、空太……美月に好かれてるなぁ」

空太「でも、ぼくも美月が好きだよ?」

陽子「そっか。いいねぇ、空太お兄ちゃん」


美月「よ、陽子お姉ちゃん! お兄ちゃん、デリカシーなさすぎるんだよ?」

陽子「それじゃ、美月は空太と一緒にいたくないんだ?」

美月「い、いや。しばらくは、ずっと一緒に……」

美月「……い、いたくないよっ!」

陽子「そっかー」

陽子(何だか……私も、二人の嘘がすぐに分かるようになっちゃったなぁ)


54 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/05(金) 00:28:15 a9Y7YP3M
可愛いなぁ…可愛いなぁ…!


55 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/05(金) 00:42:56 OkPvEiDc


――空太の部屋


空太「――って感じだったんだけど綾お姉ちゃん、どう思う?」

綾『……』

綾(空太くんって、初めて会った時からそうだけど……)

綾(最初に覆ってる『嘘』を払っちゃうと、ホントに……素直に、色々なことを話してくれるいい子なのよね)

綾(だから……)

綾『べ、別に、陽子と美月ちゃんの水着の違いの話は……しなくてよかったのよ?』

空太「そ、そうかな?」

綾『……私が照れるし』

空太「?」

綾『な、なんでもないわ』


綾『……美月ちゃんも空太くんも、お互いに大好きなのね』

綾『でも……美月ちゃんの『好き』と、空太くんの『好き』は違うかも……ということでいい?』

空太「まあ……」

空太「ぼくは、ただ美月と一緒にいたい、ってだけで」

空太「でも、何となく……美月は、ぼくとは少し違う気持ちなのかも、って」

綾『……そっか』

空太「そうだ。綾お姉ちゃん、ありがと」

綾『……え?』

空太「美月の水着姿、高校になってから初めて見たら」

空太「何だか、その……可愛い、とか、綺麗だなって」

空太「そんなこと、思った」

綾『……それ、美月ちゃんに言った?』

空太「うん。でも……」

空太「それを言うときに、何だか……素直に言えなかった気がする」

空太「『好き』ってことは、何回だって言えるのに……」

綾『……』


56 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/05(金) 00:44:18 OkPvEiDc
綾(どうやら……私が思った以上に、二人でプールに行ったのには意味があったのかも)

綾(何となく……美月ちゃんの『好き』っていう気持ちは、ちょっと危なっかしくて)

綾(空太くんの方が、もっと安定してる感じかしら)

綾(……まったく。こういう時は、やっぱり『お兄ちゃん』なのね)


空太「……綾お姉ちゃん?」

綾『……空太くん。もしも、なんだけど』

綾『美月ちゃんが、えっと……ほ、他の誰かと付き合ったりしたら、どうする?』

空太「……」

空太「相手によるけど……応援するし、幸せになってほしい、って思う」

空太「ちょっとだけ……フクザツ、だけど」

綾『そうなのね……』


綾『まあ、私には他人と付き合うこともよくわからないんだけど……』

綾『きっと、美月ちゃんも空太くんに近いんじゃないかなって、思うの』

綾『でも……空太くんより、ずっと深く考えちゃってるかも』


空太「……よくわからないよ」

綾『女の子って男の子より、そういうのに敏感だと思うから……無理もないかも』

空太「……そっか」

綾(まあ、私は碌に男子と話した覚えもないんだけど……一般論ね、これは)


綾『大丈夫よ、空太くん』

綾『私に報告してくれるのは凄く嬉しいわ。仕事の不満とかも忘れられるし』

空太(……社会人って、ホントに大変なのかも)

綾『……何となく、で申し訳ないけど』

綾『空太くんは美月ちゃんと、これからもずっと仲良くしていけると思うから』

空太「……仲良し、って何なのかな?」

綾『それは、空太くんがよく知ってるんじゃない?』

空太「……」


57 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/05(金) 00:47:38 OkPvEiDc


――それから 猪熊家・食卓


空太「美月。これ、食べていいよ」

美月「わ、ありがとお兄ちゃん」

空太「あーん……」

美月「あーん……うん。美味しいね、これ」

美月「……あっ!」

空太「それじゃ次は、こっちの唐揚げを……」

美月「……さ、さすがに『あーん』は、もうムリっ!」

空太「そう?」

空太「ぼくは、美月にこうするのって好きだけど……」

美月「……もうっ!」

美月(……あれ? ちょ、ちょっと前まで、私こういうの断ってたのに)

空太(最近、美月と一緒にこんなことしてるのが楽しすぎる……)

美月(うわ、お兄ちゃん嬉しそう……何だかムカッとする)

空太(美月、何だかハムスターみたい……面白いなぁ)


陽子「……」

陽子(綾……前より、二人が色々な意味でグッと近づいたみたいなんだけど)

陽子(二人の姉としては嬉しいよ。でも……何だろ、このフクザツな気持ち?」


58 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/05(金) 01:35:19 OkPvEiDc
空太「美月、えっと……」

空太「もし、美月が誰かと付き合い始めたら応援するから」

美月「……」

美月「えいっ!」

空太「わっ……」


空太「ざ、雑誌を丸めて叩くとか、いけないと思う」

美月「も、もうっ」

美月「お兄ちゃんは、私とずっと一緒にいてくれるんじゃなかったの?」

空太「それはそうだけど……」

空太「もし、美月がそういうことになったら応援する、って……」

美月「……う」


美月「そ、それは」

美月「いつかは私も、誰かのお嫁さんになりたいとかは思う、かも……」

空太「そっか。ぼくも……もしかしたら、そういう風になっちゃうかもしれないし」

空太「その時は、美月を応援するから」

美月「……」


59 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/05(金) 01:39:02 OkPvEiDc
美月(お兄ちゃんの顔は、ホントに真っ直ぐだった)

美月(長い付き合いだし、よく分かる。お兄ちゃんは、本気で私のことを思ってくれてるって)

美月(……一緒にプールへ行って、お兄ちゃんと気持ちを整理出来たのは良かったけど)

美月(どうしよう? 最近、前よりもっと恥ずかしくなってしょうがない……)

空太(……綾お姉ちゃんと電話してから、何となくわかった)

空太(きっと……美月は、ぼくと離れることになるかもしれない、ってことが凄く怖いんだ)

空太(ぼくも同じような所はあるけど……)


空太「……ずっと、一緒にいたから、ムリもないかもね。美月」

美月「お、お兄ちゃん?」

空太「よしよし」ナデナデ

美月「……あ」

空太「美月。髪……少し柔らかくなった?」

美月「せ、整髪剤、変えたから」

空太「ぼく、オシャレは全然わからないからなぁ……」

空太「でも、どんな美月でも、ぼくは好きだよ?」

美月「……そ、そこは、いつもみたいに嘘ついてほしいかなって」

美月「な、撫でられながら、そんなこと言われる私のことも考えてくれたら……」

空太「ん、わかった」

美月「もう……」

空太(どうしよう。ホントに……可愛い)

美月(どうしよう。ホントに……恥ずかしい)


60 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/05(金) 02:10:08 OkPvEiDc
書いてて楽しすぎますが、色々とネタがなくなってきました……
個人的には近親ネタをイメージしてなかったのですが、書いてる内に色々と方向性が変わったような気がしてます
何かアドバイスあったらオナシャス!


――昼休み・中庭のベンチ


美月「ちょっと眠い……」

空太「寝る?」

美月「ベンチじゃ、ちょっと……硬いから」

空太「それじゃここ、いいよ?」

美月「……え?」

空太「膝」

空太「ここだったら、まだ柔らかいかなって……」

美月「……そ、それはっ」

空太「嫌ならいいけど」

美月「……うぅ」


空太(結局……)

美月「……」

空太(美月、寝ちゃった……)

空太(ホントに最近、美月が可愛くてしょうがない……)

空太(でも……どこかで何だか、切ない? 感じもして……)


烏丸「あら? 空太くん?」

空太「わっ。カ、カラスちゃん……」

烏丸「膝で寝てるのは……美月さん?」

空太「ま、まぁ……」

烏丸「本当に仲良しさんね」

空太「まあ……」

烏丸「ふふっ。羨ましいわ」

空太「……カラスちゃん」


61 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/05(金) 02:12:47 OkPvEiDc
空太「カラスちゃんって、兄弟いました?」

烏丸「そうねぇ……私にも、おにいちゃ……いえ。兄がいるわ」

空太(……カラスちゃん、美月と似てるのかな?)


烏丸「……うーん。特別に、空太くんになら、しっかりと話してもいいかもしれないわね」

空太「え?」

烏丸「私は、兄……いや。お兄ちゃんが好きよ」

空太「……あ」

烏丸「今はお互い、離れ離れになっちゃったけど」

烏丸「それでも……やっぱり私は、お兄ちゃんが好き、かな」

空太「……カラスちゃん」


烏丸「空太くんは、美月さんが好き?」

空太「……大好き、です」

烏丸「うん、よく分かるわ」

烏丸「ずっと一緒にいたい?」

空太「……そ、それはそうです」

空太「ただ、美月もぼくも……どこかで離れちゃうんだな、って思うと」

空太「何だか悲しくなる、ような……」

烏丸「……そうなのね」


烏丸「あ、ごめんね。そろそろ私、行かなくちゃ」

烏丸「お昼休みでね。ちょっとだけ、職員会議なの」

空太「そう、なんですか……」

烏丸「……一つだけ、いい?」

空太「?」

烏丸「今、美月ちゃんが眠たいのって」

烏丸「きっと、色々なこと抱え込んでるから、じゃないかなって何となく思うの」

空太「……!」

烏丸「きっと」

烏丸「空太くんしか美月ちゃんを助けられないって……私、思うから」

烏丸「膝枕……ふふっ。ホントに幸せそうに眠ってるわね」

空太「……カラスちゃん」

烏丸「なぁに?」

空太「その……あ、ありがとう、ございました」

烏丸「……こっちこそ]

烏丸「ちょっと、嬉しくなっちゃった]


62 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/05(金) 09:24:48 NktuOp.I
>>60
最終的に陽子も含めた「姉弟愛」の方向で締めるのもありでない?(小並発想)
というか、ここまでふくらませられるの凄い・・・


63 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/05(金) 16:54:01 OkPvEiDc
>>62
凄くいいと思います
これからまだ、しばらくは転がりそうですが……


64 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/05(金) 16:57:48 OkPvEiDc
空太「美月」

美月「なに?」

空太「……彼女と、つきあうことになった」

美月「……えっ」


65 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/05(金) 16:58:54 OkPvEiDc
NGワードで引っかかりまくったため、小出しになってました。


空太「学園祭で色々話してたら、仲良くなっちゃって……」

空太「今度、デートに行ってくる」

美月「……そ、そっか」


陽子「おおー、空太! 付き合うのかぁ……」

空太「陽子お姉ちゃん……」

陽子「嬉しいよ、弟が成長してくれて」

陽子「綾には、もう言ってある?」

空太「電話した」

陽子「そっか……『綾お姉ちゃん』は嬉しいし、寂しいだろうなぁ」

陽子「私からも連絡しよっと。いやー、嬉しい」

空太「ありがと、陽子お姉ちゃん」


美月「……」

美月(付き合う。空太が。他の誰かと)

美月(ううん。いつか、こうなることは分かってた、はず)

美月(そうだ。私、お兄ちゃんを応援する、って……そう、決めて……)

美月(でも……い、いくらなんでも、早……)


66 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/05(金) 17:00:54 OkPvEiDc
空太「美月」

美月「お、お兄ちゃん……」

空太「……大丈夫だよ」

空太「ぼくは美月と、これからもずっと一緒にいるから」ナデナデ

美月「……!」ピクッ

空太「それじゃ」

美月(私の頭から、お兄ちゃんの手が離れた)

美月(何故か、もう……こうやってなでられることはなくなっていくんじゃないかな、なんて思う)


美月「お、おに……」

美月(そこで、何故か言葉が途切れて)

美月(気づいたら、私は喋れなくなっていた)

美月(いつの間にか、辺り一面も真っ黒になって……)

美月(撫でられていたところの温かかった感触も、どんどん冷えて……)

美月(それと同じように、私の胸も寒くなって……)

美月(……応援しなくちゃ。ううん、私は、応援したかった、はず)

『ぼくは美月と、これからもずっと一緒にいるから』

美月(……イヤ)

美月(そうじゃない……お兄ちゃんとは違うのに)

美月(私は……今みたいな感じで、お兄ちゃんと一緒に、いたいんだよ)


67 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/05(金) 17:20:43 a9Y7YP3M
ヤ、ヤンデレルートですかね…?
それもまた良し


68 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/05(金) 17:59:57 OkPvEiDc
>>67
いやー、それはキツイっす(素)
一応、一区切りつくまで書きましたが、美月はともかく空太の気持ちの持って行き方に迷いますね


――美月の部屋


美月「……お、に」

美月「……」

美月(あ、れ……?)

美月(私の、部屋?)

美月「……服、ビッショリ」

美月(どうして、こんなに寝汗……?)

『今みたいな感じで、ずっと一緒に、いたいんだよ』

美月「!!」

美月(な、何だったの、あの夢っ)

美月(そもそも、まだ夏で……学園祭なんて、始まってもないよ!)

美月(ま、まさか……予知夢、とか?)

美月(し、信じないよ。い、いや、お兄ちゃんの幸せを思うなら、それも応援……)


美月「……着替えなきゃ」

美月(とにかく、このベタベタな服はキツすぎるし……)

美月「よいしょっと」

美月(寝間着の上の方のボタンをひとつずつ開けて、と……)プチプチ


空太「美月ー」コンコン

美月「!?」ビクッ

空太「ご飯、出来たって」

空太「……開けてもいい?」

美月「ダ、ダメッ! 今、着替え中……だから」

空太「あ、そっか。それじゃ、下行ってる」

美月「……あ」

美月「や、やっぱり、いい、よ?」

空太「……え?」

美月「ま、まだ、ちゃんとは着替えてないし」

美月「……入ってくれる?」

空太「……いいよ、わかった」ガチャッ


69 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/05(金) 18:00:31 OkPvEiDc
空太「……うわ。美月、ずぶ濡れだね」

美月「ちょ、ちょっと、寝汗が酷くって……」

空太「ああ。夏だし、しょうがないと思う」

美月「そ、そうじゃな……ううん。そうだよね、それしかないよね」

空太「……起き抜けの嘘って、ホントに厳しいよね。わかるよ」

美月「べ、別に、嘘じゃない……かも」

空太「うんうん」


空太「それで、どうかした?」

美月「……えっと、お兄ちゃん」

美月「ちょ、ちょっと、ここに座ってくれる」

空太(美月のベッド……?)

空太「いいよ」

美月「そのまま、わ、私の方を向いてくれる?」

空太「こう?」

美月「そ、そう」


美月「……うん、やっぱりお兄ちゃんだ」

空太「??」

美月「ちょっと、胸貸してくれる?」

空太「いいけど?」

空太(なんだろう……いつもの美月と同じようでいて、何か違う)

空太(いつもより……甘えたそう?)

空太(ああ、そっか。寝起きだし、汗でびしょびしょだから、少し変わって見えるのかも)


70 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/05(金) 18:01:10 OkPvEiDc
美月「……えいっ」

空太「……あ」

空太(美月が、ぼくの胸に顔を埋めてきた)

空太(うわ、美月……ホント、びっしょり)

空太「美月? 何かあったの?」

美月「……あのね」

空太「?」

美月「……すっごく恥ずかしくて、イヤな夢を見ちゃった」

空太(そう言いながら、美月は目を上げて、ぼくを見てきた)

空太(……あ。また、上目遣い)


美月「……ごめんね、お兄ちゃん」

空太「謝らなくていいって」

美月「ま、まだ何も……」

空太「いい? 似たもの同士、だよね?」

美月「……!」

空太「だから、美月がどんなこと考えてるのか」

空太「本当に何となくだけど、その感じは分かるから」

空太「ね?」

美月「……お、お兄ちゃんはズルい」

美月「どうして私の温度、上げちゃうの?」

空太「あ。解熱剤、持ってくる?」

美月「い、いらないっ」

美月「も、もう少しだけ、こうしてて?」

空太「そっか、わかった……あ、でも」

美月「?」

空太「お母さんに、一緒に怒られてくれる?」

美月「……あっ! 朝ごはんっ」

空太「大丈夫。美月のせいで、なんて言わないから」

空太「一緒に怒られよう?」

美月「……もぅ」

美月「お兄ちゃんの、バカ」

美月(そんなこと言われたら……)

美月(頭離さないとダメなのに、そうしたくなくなっちゃうよ)

空太(……ぼくも熱いけど)

空太(美月とこうしていると、凄く落ち着くなぁ)


71 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/05(金) 19:29:42 OkPvEiDc


――夜


陽子「ただいまー」

空太「おかえりー」

美月「……」

陽子「おお、空太。ありがと」

陽子「……美月?」

美月「……え、えっと」

美月「おかえり。お姉ちゃん」

陽子(美月……空太をチラチラ見てる?)

陽子(高校に入ってから特に、美月が空太にフクザツらしいっていうのは綾から聞いてるけど)


空太「お姉ちゃん。お風呂、できてる」

陽子「……おお、サンキュ」

陽子「二人は、まだ入ってないのか?」

空太「お姉ちゃん、社会人だから。一番風呂がいいんじゃないかな、って美月と一緒に考えた」

美月「……」

陽子「……おお」ジーン

陽子(何だ、このいい子すぎる二人は……!)

陽子(社会人だし、いずれ一人暮らしを……なんて考えてたのに、ムリかもなぁ)


美月「……ち、違う」

陽子「へ? なにが?」

美月「お兄ちゃん、嘘ついてる。ホントは……お兄ちゃんが考えて、そ、それで」

空太「ぼくの考えてることなんて大体、美月だって同じだし」

美月「さ、さっき、私……先に、お風呂に入ろうとしちゃったのに?」

空太「今朝、汗びっしょりだったこともあるし、しょうがないよ」

空太「別に、先に入っても良かった、って思う。美月、全然悪くない」

空太「むしろ、我慢して陽子お姉ちゃんのことを気遣えるのが凄い」ナデナデ

美月「……お、お兄ちゃん」カァァ

陽子「……」


陽子(何故かは分からない)

陽子(今まで、この子たちとずっと過ごしてきて)

陽子(「可愛い」とか「微笑ましい」とか……そんなこと、数えきれないくらいだった)

陽子(……でも、今は)


美月「……そ、そんなに撫でないで」

空太「美月。何だか、朝からずっと撫でてほしそうだったから」

美月「わ、私、そんなこと言ってない」

空太「似たもの同士。ちがう?」

美月「……う、うう」


陽子(……どうしてだろう)

陽子(美月や綾から借りて読んでた……少女マンガみたいだ、って感じちゃうのは)

陽子(そう、二人とも可愛すぎる。けど、それとは別に……)


72 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/05(金) 20:14:30 OkPvEiDc
空太が純粋すぎるって、はっきりわかんだね。

陽子「……あのさ、美月?」

美月「陽子お姉ちゃん?」

陽子「あのさ……良かったらで、いいんだけど」

陽子「一緒にお風呂、入らない?」

美月「……えっ」


空太「わっ、美月……良かったね」

陽子「さすがに空太は、もう一緒はダメだぞ?」

空太「うん、知ってる」

空太「ありがと、陽子お姉ちゃん。美月、何か色々と大変そうだから……」

美月「……!」

陽子「さすが、お兄ちゃんだね。空太は」

空太「美月のことなら、何でも知ってると思うから」

美月「……お兄ちゃん。もうっ」カァァ

陽子(……ドヤ顔でもなんでもない)

陽子(空太にとって、美月のことを知ってるのは、ホントに当たり前なんだ……)

陽子(「最近、美月のことがわからなくなってた」って、聞いたことはあるけど……)


空太「あ。でも、陽子お姉ちゃん」

空太「美月、陽子お姉ちゃんと……スタイル、気にしてるみたいだから」

空太「その辺、気をつけてあげてほしいかなって」

美月「……お、お兄ちゃん!」

美月「デリカシーって意味、知ってる?」

空太「……知らない。美月は知ってるの?」

美月「そ、それは……」

美月「よ、よくわからないけど……女の子に失礼なことを言っちゃダメなんだよ?」

空太「……スタイルのこととか、よくわからないから」

空太「ごめんね。美月が何を気にしてるのか、ぼくにも分からなくて……」

美月「……う」

陽子(空太……知らないフリとかじゃなくて、ホントにわからないんだなぁ)

陽子(だってさ。フリだったら、ちょっとでも落ち込んだりしないもんな……)


美月「……お兄ちゃん、ホントに私と同い年なんだよね?」

空太「そうだよ。誕生日も同じ」

美月「そ、それじゃ……」

美月「い、いやらしい、って言葉、わかる?」カァァ

空太「……」

空太「うーん……ぼくの言ったことが美月にとって『嫌らしい』ってことはわかるけど」

美月「……」

美月「お兄ちゃん。私、ちょっと心配かも」

空太「心配してくれてありがと、美月」ナデナデ

美月「……」カァァ

美月(何となく分かってたけど……これじゃ)

美月(『ずっと一緒にいる』って意味が違うことも、しょうがないのかな)

陽子(……今になって、嘘つきブラザーズに試練がやってきた)

陽子(ってことなのかな。綾?)


73 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/05(金) 21:39:47 OkPvEiDc


――浴室・浴槽


陽子「……気持ちいいねぇ、美月」

美月「うん……」

美月(陽子お姉ちゃんと一緒にお風呂、っていうのは久しぶりかも)

美月(相変わらず……私と違って、身長は高いし、胸だって……)チラッ

美月「……ねぇ、陽子お姉ちゃん?」

陽子「?」

美月「陽子お姉ちゃんの……えっと」

美月「身長とか、む、胸のサイズとか分けてくれたらいいな、って」

陽子「……美月って、たまに凄いこと言うからなぁ」

美月「あ。お兄ちゃんと同じこと言ってる」


陽子「大丈夫だよ、美月は」

陽子「そりゃ、私だって……色んな所、普通だし」

美月(……普通、ってなんだろう?)


陽子「それにさ。もし、美月なら。どんな大きさでも、空太は好きだって言うと思うから」

美月「……!」カァァ

陽子「違う?」

美月「……陽子お姉ちゃん、何か分かってる?」

陽子「美月、空太の呼び方、戻したんだね」

美月「……いつも呼び間違えちゃうから」

陽子「それだけ?」

美月「そ、それだけ、だよ……」

陽子「ホントは……お兄ちゃんって呼んでた方が美月も落ち着く、ってことはない?」

美月「……!」

陽子(まあ、これは綾の受け売りだけど……図星だったみたいだな)


74 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/05(金) 22:12:14 OkPvEiDc
美月「陽子お姉ちゃん……」

陽子「んー」

美月「私……お兄ちゃんが、ホントに好きなの」

美月「でも……言葉にし辛いんだけど」

陽子「それが、えっと……こ、恋人みたいな『好き』なのか、ってこと?」

美月「……よ、陽子お姉ちゃん。分かるの?」

陽子「まぁねー……」

陽子(実は全部、綾から聞いたことだったり……)

陽子(綾って、自分は経験ないはずのに……ホントに、何でここまで分かるんだろ?)


美月「でもね」

美月「私、お兄ちゃんと……そ、そういう風になりたいわけじゃないの」

美月「ずっと一緒にいたい、って思ってるのに……」

陽子「……美月」

美月「今朝、見た夢で……空太に恋人ができてて」

陽子「……空太に恋人、かぁ」

美月「私……凄く嬉しくて応援したかったのに」

美月「……お兄ちゃんがいなくなるのが怖くて、しょうがなかったの」

陽子「……」


75 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/05(金) 22:27:01 OkPvEiDc
☓空太に恋人が→○お兄ちゃんに恋人が


美月「……私ね、その後で」

美月「その、お兄ちゃんの胸に、顔を当てちゃったの」

陽子「……!」

美月「……陽子お姉ちゃん、どうしたらいいのかな」

美月「私……お兄ちゃんを『そういう意味』で好きだってわけじゃ、全然ないのに」

美月「それなのに……お兄ちゃんに甘えたくて、しょうがないのかも」

美月「自分でも、恥ずかしいけど……」

陽子「えっと、美月はさ」

陽子「だったら、空太と……どうなりたい?」

美月「……ずっと、一緒にいたい」

陽子「……」

美月「私たち、ずっと一緒だったから」

美月「生まれてからずっと……二人でいた、から」

美月「離れる、ってことが……全然、わからないの」

陽子「……」


陽子(そういうのに鈍いと分かってる私でも)

陽子(美月が空太に思ってる気持ちっていうのは、分かる気がする)

陽子「美月……もう。ホントに、可愛いなぁ」

美月「よ、陽子お姉ちゃん?」

陽子「可愛い可愛い」

美月「……は、恥ずかしい」

陽子「さっき、空太にも撫でられてたけど……それとは、違う?」

美月「……!」

陽子「同じ?」

美月「……ちょ、ちょっと、違うかも」

美月「お兄ちゃんに撫でられてるときって……恥ずかしい、んだけど」

美月「それより、もっと……これ以上は、怖いかも、って」

陽子「……そっか」

陽子「やっぱり美月、空太が……」

美月「……そ、そうじゃなくてっ」

美月「う、ううん……ホントは、そうなのかも」


76 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/05(金) 23:07:58 OkPvEiDc
とりあえず一応、ここまでかもしれません。まだ、もう少し書くかもしれませんが。
何か提案とかあったら是非、お願いします。


美月「陽子お姉ちゃん、私……お兄ちゃんと、どうしたらいいのかな?」

陽子「うーん……」

陽子(困った。今、ケータイはないから綾には聞けない)

陽子(目の前には、凄く心細そうな私の可愛い妹が……)

陽子(……仕方ない、のかな)


陽子「美月」

美月「!」

陽子「空太はね。美月のこと、大好きだよ」

美月「……そ、それはよく分かってる、けど」

陽子「でもね、えっと……恋人とか、ってことまで思ってないと思う」

美月「!」

陽子「美月は、どうなのかな?」

美月「わ、私も別に……」

美月「お兄ちゃんと、その……つ、付き合いたいってわけじゃ……」

美月「そ、そうっ。だから、お兄ちゃんが別の誰かと付き合ったって全然気にならないし」

美月(さっきのは、夢の話だったし)

陽子「ホントに?」

美月「……やっぱり陽子お姉ちゃん、嘘が分かるようになっちゃった?」

陽子「まあ、それなりに年取っちゃったし、ね」

陽子「結構、顔も変わっちゃったような気がするし」

美月「陽子お姉ちゃん、全然変わってないと思うけど」

陽子「それ、嘘だろー?」

美月「嘘じゃないよー」

陽子「……美月は可愛いなぁっ」ナデナデ

美月「よ、陽子お姉ちゃん!?」カァァ


77 : 狩りの時間よハサ次郎!お仕置きターイム!(うーわんわんわんわん) :2015/06/06(土) 06:22:47 ???
とてもよいです


78 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/06(土) 09:45:05 bpYew1Tg
すごいですねこれ。妄想が膨らんじゃうヤバイヤバイ
あとは、空太くんサイドからのけじめ的なシーンか総括か
次の日の朝の朝食風景を書けば、更に魅力に磨きがかかる気がします(ゆとり並みの我儘)
しかし、ここまで時がたつとあの5人組の関係がどうなってるのか気になりますね・・・(年齢25位?)


79 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/06(土) 15:30:06 b81Y5iQw
>>78
小4(9〜10歳)と高2(16〜17歳)らしいですし、結構経ってますね
一応、年齢差から、5人組は現在22〜23歳のイメージです
今日の更新で、このSSも一区切りとなるかもしれません


――洗い場


美月「陽子お姉ちゃんの背中、おっきい……」ゴシゴシ

陽子「そっかー?」

陽子「今じゃ、もう空太の方がおっきいんじゃないかな」

美月「……お兄ちゃんは、まだ色々、足りないから」

陽子「ま、まぁ……それはあるかもなぁ」

美月「私だけが空回りして」

美月「お兄ちゃんだけ余裕みたいで」

美月「……お兄ちゃんも少しは私の気持ちとかわかってほしい、かも」

陽子(よっぽど溜め込んでるなぁ、美月……)

陽子(うーん……何とかしてあげたいなぁ)

陽子(美月も空太も、本当に気持ちよく『ずっと一緒になれる』やり方……)

陽子(空太がもう少し「そういうこと」を意識するかもしれない方法……)

陽子(あ、思いついた……で、でも、これは……)

美月「陽子お姉ちゃん?」

陽子「美月、耳貸して?」

美月「??」

陽子「お風呂からあがったら、空太に……」ゴニョゴニョ

美月「」

陽子「どう?」

美月「……ほ、本気?」カァァ

陽子「空太に、ちょっとでも……そ、そういうこと意識してほしいんだろ?」

陽子「マンガとかでも、そういう状況になった後、変わってる気がするし」

美月「で、でも……さ、さすがに」

陽子「美月がイヤなら、それでもいいと思う」

陽子「言ってる私の方も、何だか……は、恥ずかしくなってきちゃったし」カァァ

美月「……うう」


80 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/06(土) 15:31:11 b81Y5iQw


――風呂あがり・リビング


陽子「おまたせ、空太。風呂、上がったよ」ガチャッ

空太「あ、わかった」

空太「それじゃ次、ぼく……」

美月「……」

空太「美月?」

空太「顔、真っ赤……お風呂、熱かった?」

美月「……み」

空太「み?」

美月「耳、貸して?」

陽子「!」

空太「こう?」

美月「……」ハァハァ

空太「ハァハァ?」

美月「そ、そうじゃなくて」


美月「……きょ、今日」

空太「うん」

美月「……」

美月「わ」


美月「私と一緒に……ね、寝ない?」

空太「……え?」


81 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/06(土) 15:33:14 b81Y5iQw
陽子(い、言った!?)

陽子(い、いや。私も結構、本気で言ったんだけど……いざ、やられちゃうと)

陽子(は、恥ずかしいぞ、これ……)カァァ


美月「……ど、どう?」

空太「うん、いいよ」

美月「え? ホ、ホントにいいの?」

空太「美月、好きだし。一緒にいられたら嬉しい」

美月「……ね? お兄ちゃんってこうなんだよ、陽子お姉ちゃん」

陽子「空太って、ホントに天然……いや、天然すぎるんだな」

陽子(これでも綾によれば「プールに行ってから少し変わった」らしいけど……)

陽子「……もう少し、変わってあげないとだな。『空太お兄ちゃん』」

空太「うん」

空太「美月を少しでも楽にしてあげられるなら、よくわからないけど変わりたいな」

美月「……お兄ちゃん」

陽子(ホントに妹思いのいいお兄ちゃん、なんだけどね……)

陽子(はぁ。私の時もそうだったけど、高校生って色んな感覚変わるからなぁ)


空太「どっちの部屋がいい?」

美月「え、えっと……」

空太「あ。美月の部屋、まだ濡れちゃってるんだっけ」

空太「それなら、ぼくの部屋の方がいっか」

美月「あ、あの……」

空太「それじゃ、ちょっと整理するから」

空太「終わったら呼ぶね」

美月「お、お兄ちゃ……」

空太「それじゃ」ガチャッ

美月「……」

陽子「……え、えっと」

陽子「提案した私が言うのもなんだけど……何か、ごめん」

美月「う、ううん。陽子お姉ちゃんは何も悪くないから」

美月「……ずっと、一緒にいたいし」カァァ

陽子(空太……美月のこと、よろしく頼むぞ?)


82 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/06(土) 16:26:03 b81Y5iQw


――空太の部屋


美月「……」コンコン

空太「入っていいよ」

美月「……お、お邪魔します」ガチャッ

空太……堅苦しい。兄妹だよ?」

美月「き、緊張してるの」

空太「緊張?」

美月「……一緒の部屋で寝てたのって、小学生までだったから」

空太「……あ」

空太「だ、大丈夫だって。ちょっと身長が高くなっただけだし」

美月「そういう意味じゃなくて!」

美月(……ああ、もう。ホントにお兄ちゃん、変わってるの?)

空太(……あれ? 何か別のこと言おうとしてたのに)

空太(ちょっと照れくさくて言い換えちゃった……どうして?)


空太「それじゃ、美月。どっち側がいい?」

美月「……え?」

空太「あ。こっち側は太陽の光が入ってくるから、気持ちいいよ」

空太「それじゃ、ぼくはあっち側で……」

美月「……ベッドに寝かせるの?」

空太「え? そうじゃないの?」

美月「……お、お布団とかじゃなくて?」

空太「一緒に寝たい、って言ってたし」

空太「……どうする?」

美月「……うう」

美月(どうしよう……恥ずかしいけど、お兄ちゃんがもっと変わってくれるなら)

空太(……あれ? そういえば、何で布団ってこと考えつかなかったんだろ?)

空太(まあ、一緒にベッドで寝たかったし。それでいっか)


――陽子の部屋・ケータイ越し


陽子「……ってわけで、二人が一緒に寝ることになったんだけど」

綾『あ、あなたね……』

綾『空太くんはいいけど、美月ちゃんが、その……ね、寝るって言葉、どう思うかわかる?』

陽子「……まあ、何となく」

綾『はぁ……相変わらずね』

陽子「今度、一緒に呑もうよ」

綾『私、お酒苦手だけど……まあ、それもいいわね』


綾『……単刀直入に聞くけど』

綾『ま、間違いとか、起きないと思う?』

陽子「起きないって、そんなの」

綾『……自信満々ね』

陽子「だってさー」

陽子「何だかんだ言っても、美月と空太って……仲良し兄妹だし」

陽子「ま。翌朝に期待、って感じかな」

陽子「……ってことでいいかな、『綾お姉ちゃん』?」

綾「……その呼び方、ダメよ」

陽子「へ?」

綾「ちょっと照れるし……それに」

綾「やっぱり、あの子たちのお姉ちゃんは……『陽子お姉ちゃん』しかいないと思うわよ」

陽子「あ、綾……照れるなー、もう」カァァ


83 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/06(土) 16:58:34 b81Y5iQw


――空太の部屋


空太「それじゃ、おやすみ」

美月「おやすみ……」

空太(わ、布団グルグル巻きにしてる……)

空太「……美月、イモムシみたい」

美月「は、恥ずかしいからっ」カァァ

空太「……変な美月」

空太(でも、何となく……ぼくも恥ずかしいかも)

空太(どうしてだろ? 美月と一緒にいつもいるのに、何だか違う感じ)


空太(どうしてか分からないし……)

空太「ねぇ、美月? 顔、向けてくれる?」

美月「!」

美月「そ、それは……ちょっと」

空太「そうしてくれたら、何か……変われる気が、して」

美月「……あ」


美月「そ、それだったら……特別に」

空太(美月は布団の中から出てきた)

空太(そして、ぼくも美月と視線を合わせる)

美月「……お兄ちゃん」

空太(ベッドに寝転がりながら、ぼくと美月は見つめ合った)

空太(「自分が自分を見つめている」ような感じがする)

空太(……でも)


美月「……お、お兄ちゃん」カァァ

空太(顔を真っ赤にしてる美月は)

空太(やっぱり何だか、ぼくと違って……それが凄く可愛くて)

空太(……あれ? なんだろ、これ?)

空太(普段、感じたことがない……ような)


空太「美月。抱きついていい?」

美月「え、まぁ……って! い、今、なんて?」

空太「何となく、そうしたくなって」

美月「ええ……」

空太「イヤならやめる」

美月「……い、いい、よ」

空太「ありがと」

美月「……わっ」


美月(……だ、抱きつかれちゃった)

美月(ホントに軽く、だけど……すっごく恥ずかしい)

空太「……うーん」

美月「な、なに?」

空太「いや」

空太「やっぱり、ぼくと美月って違うのかも、って」

美月「……お兄ちゃん」


空太(顔を赤らめながら、美月は下からぼくを見てきた)

空太(いつも美月を見てる時とはホントに違って)

空太(何だか凄く……ぼくの身体も熱くなって)

空太(美月、柔らかい。やっぱり、女の子、なんだ……)


『そうしたら空太くんも……変わるかもしれないわね』


空太(綾お姉ちゃんの言葉って)

空太(こ、こういうこと……なのかな?)


84 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/06(土) 16:59:54 b81Y5iQw
空太「……そ、そろそろ、離れよっか」

美月「……そ、そう?」

空太「うん」カァァ

美月(珍しい。お兄ちゃんがこんなに照れてるのって、久しぶりかも)

空太「そ、それじゃ、おやすみ」

美月「う、うん」

空太「……美月」

美月「え?」

空太「ありがと。あと、ごめん」

空太「……美月が照れる理由、わかった気がする」

美月「……」


美月(陽子お姉ちゃんって、やっぱりすごい)

美月(今、私の見てるお兄ちゃんの顔……いつもの私とよく似てるから)

美月(変わった、のかな。お兄ちゃんも)

美月「……ありがと、お兄ちゃん」

美月「大丈夫だよ、怒ってないし……ずっと一緒にいてね?」

空太「ずっと一緒にいるよ」

空太「……あ、でも。やっぱ何か照れくさい、かも……」カァァ

美月(あっ。お兄ちゃん、絶対に変わった……)

美月(私は何だか嬉しいような寂しいような……ううん。やっぱり、嬉しいんだ)


美月「大好きだよ、お兄ちゃん」ニコッ

美月(ほら。私も、こうして気分よく、こんなこと言えるようになったし)

空太「……ぼ、ぼくも。美月」

美月(ほら。お兄ちゃんは照れくさそうにしてるし……)


空太「ねえ、美月?」

美月「なに?」

空太「朝まで眠れないかも」

美月「……多分、大丈夫。明日もお休みだし」

美月「あ。朝ごはんに遅れたら、お兄ちゃんも謝ってね?」

美月「私も一緒に謝るから……」

空太「……」ナデナデ

美月「お、お兄ちゃん?」

空太「美月はホントに可愛いから」

空太「……撫でるのも照れちゃうけど、ホントにいい妹」カァァ

美月「……照れながら撫でるのって初めて?」

空太「う、うん……」


美月「お兄ちゃん? 綾お姉ちゃんに、ちゃんとお礼言うんだよ?」

空太「え?」

美月「『おかげで変われた』って。ね?」

空太「……うん。そうする」


85 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/06(土) 17:16:09 b81Y5iQw


――翌朝


空太「……おはよ」

美月「……おはよ」

陽子「おはよ。うわ、眠そうだなぁ……」

空太「全然、眠れなかったから……」

美月「お兄ちゃんが抱きついてくるから……」

空太「い、一回だけだったし」

陽子(……眠そうなのに、ホントに仲良さそうだなぁ)


美月「あれ? お母さんは?」

陽子「ああ。今、ちょっと買い物行ってるよ」

陽子「すぐ帰ってくると思うけど」

美月「そっか」

陽子「朝ごはんは用意してくれてるから」

空太「……あ、ホントだ」


空太「いただきます」

美月「いただきます」

空太「……これ、おいしい」

空太「美月、あげよっか?」

美月「あ。それ私も好き」

空太「それじゃ、あー……」

美月「?」

空太「……美月、取ってくれる?」カァァ

美月「……あ」

陽子「おお……」

陽子(こ、空太が……変わった)


86 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/06(土) 17:17:56 b81Y5iQw
美月「それじゃ、自分で取るね」

空太「……も、もう、『あーん』出来なくなっちゃったかも」

美月「そっか……」

美月(ちょっと寂しいけど……ううん、きっと、こっちのがいいんだよね)

空太「美月が可愛すぎるから」

美月「……え?」

空太「昨日、一緒に寝て……ホントに美月が可愛いって、分かっちゃって」

空太「だ、だから……『あーん』って、やりにくくなって」カァァ

美月「……」

陽子「……」


美月「よ、陽子お姉ちゃん……」

陽子「あー、まぁ……」

陽子「空太らしいというか、何というか……」


空太「……どうしよう」

空太「美月、大好きなのに……どうして」

陽子「空太」

空太「な、なに?」

美月「ご飯、食べ終わったら……」

陽子「うん。今日なら、あっちも休みだろうし」

空太「??」


陽子「……『綾お姉ちゃん』に電話するんだぞ?」

美月「お礼、言わないと……あと、い、色々と相談した方がいいと思う」

空太「……そう、だよね」


おしまい


87 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/06(土) 17:23:11 b81Y5iQw
空太が美月を本格的に意識し始めるというオチでした。
実際、思春期の異性の双子ってどんな感じなんでしょうね。

感想や提案のレスをしてくれた方に、感謝。
一応、これで一区切りです。
何か思い浮かんだら、また書くこともあるかもしれませんが……これ以上はキツいかもしれないので


88 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/06(土) 17:41:03 GNWKoqCw
オツシャス!


89 : 邪龍アナンタ :2015/06/06(土) 17:58:29 ???
お疲れ様でした

思春期っていいですね


90 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/06(土) 18:01:11 EqhSb7y6
乙ん


91 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/06(土) 21:41:00 b81Y5iQw
おしまい、と書いたくせして、またネタが浮かんでしまいました
ごめんなさい
というか、このまま続けてもいいんですかね


――試験勉強


空太「……」

美月「……」

空太「美月。そこ、間違えてる」

美月「え……あっ。ホントだ」

空太「スペルミスと動詞変形ミス」

空太「油断しちゃダメだよ?」

美月「……お兄ちゃん、どうして私のミスがそんなに分かるの?」

空太「似たもの同士だし」

美月「あ。お兄ちゃんも、そこの数字、間違えてる」

空太「……み、美月がぼくに注意されるようなことするから」

美月「理由になってないし……」


美月「……疲れちゃった」

空太「お茶、持ってきたよ」

美月「……ありがと」

美月「お兄ちゃんって、ホントに気が利くよね」

空太「美月のためなら、何でもするし」

美月「……や、やっぱり、そういうこと言うのは変わらないんだね」

空太「え? そういうこと?」

美月「……ううん、なんでもない」


美月(ホントは……私、ちょっとこわいのかも)

空太「おいしい……あ。美月、氷ほしい?」

美月(ここまで気が利いて)

美月(あと……ずっと見てるから分かるけど、お兄ちゃんって、その……容姿も結構整ってる)

美月(……あの夢が、ホントになるかもって思うと)


空太「大丈夫だよ、美月」

美月「……えっ?」

空太「美月が、どんなに迷ってても」

空太「ぼくが、全部直してあげるから」

美月(お、お兄ちゃん……私の考え、読んでる?)

空太「だから……試験も平気だよ」

美月「……あ。そ、そっち、なんだね」

空太「え? そっち?」

美月「な、なんでもないからっ」

空太「そっか……」


92 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/06(土) 22:42:56 b81Y5iQw
空太「美月。このたこ焼き食べる?」

美月「わっ。ありがと、お兄ちゃん」

空太「はい」

美月「……おいしい」

空太「……あ」

美月「……あ」


美月「い、今……あーんってしてたっ」カァァ

空太「ごめん……」カァァ

空太「ほら。たこ焼きの串と普段のお箸って何だか違うから」

美月「……何か、言い返しにくい気がする」

空太「美月も食べちゃったし」

美月「わ、私だって、お兄ちゃんに出されたら食べちゃうよ」

空太「……たこ焼き、好き?」

美月「……す、好き」

美月「もう、お兄ちゃんったら」


93 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/06(土) 22:44:48 bpYew1Tg
うれしい追加エピソードだ。


94 : 明日はもっと楽しくなるよね、ハム太郎? :2015/06/06(土) 22:47:03 ???
いつまでも続けてくれてええんやで


95 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/06(土) 23:03:55 b81Y5iQw
女子「最近、猪熊くんのこと『鬼』って言わないね」

美月「……お兄ちゃんを鬼なんて、全然呼びたくないし」

美月「それに、お兄ちゃんって呼んでた方が落ち着くから」

美月その……双子だし」

女子(何だか、美月……少し、変わった?)


――帰り道


美月「クレープ、おいしい……」

空太「おいしいね。あっ、美月」

空太「また、ほっぺたにクリームついてる」

美月「……あ、ホントだ」

空太「じっとしてて? 取ってあげる」

美月「……」

空太「とれた」

美月「……ねぇ、お兄ちゃん?」

空太「なに?」

美月「ちょっと顔、赤くなってる?」

空太「……な、なってないからっ!」

美月(何だか、お兄ちゃん……やっぱり、変わった)

美月(優しいままだけど、すぐ照れちゃう)

空太(……ああいう時、こ、恋人は舌で取ってるって話を聞いて)

空太(ティッシュで取ってるなら大丈夫なんてこと……考えちゃって)

美月(今度は、お兄ちゃんのクレープが溶けそう……)


96 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/06(土) 23:45:56 b81Y5iQw
どんなに探しても嘘つきブラザーズの成長後の姿がなくて悲しいなぁ……
さすがに、今日はここまでだと思います
何か小ネタ等ありましたら、それも是非とも参考にしたいです
……「おしまい」とは何だったのか


空太「美月。ミシンは、こう使ったほうがいいと思う」

美月「わ、一気にサクサクって……」

空太「ぼくがミシン係するから、美月はマーカー引いてほしいかなって」

空太「美月、そっちは、ぼくよりずっと上手だから」

美月「わ、わかった」

空太「頼むよ」


男子「……俺たち、何しよっか」

女子「やっぱり、あの二人って……ホントに双子なのね」


久世橋「い、猪熊くんたち? ちゃんと作業を分担するように言ったでしょ?」

美月「あっ。ご、ごめんなさい、クッシーちゃん……」

空太「……美月に声かけてると、何だか他に手が回らなくなっちゃって」

空太「どうすればいいのかわからなくって」

久世橋「……そ、それは」


久世橋「こ、今回は特別に、私から他の二人に指示します」

空太「ごめんね、クッシーちゃん」

美月「……そっちの二人も、ごめんなさい」


久世橋(……教師生活も、あの子たちのお姉さんの時から数えても)

久世橋(結構、長くなって……どうにも、分からないことも)

久世橋(さすがに、仲良しの異性の双子の生徒は……)


空太「美月。頭に糸くずついちゃってる」

美月「そ、そう?」

空太「取ってあげるから」

美月「……わっ」

空太「えっと……」ナデナデ

空太「よかった、取れた」

美月「……あ、頭、撫でてた」

空太「……あ」

空太「ご、ごめん。そういうつもりじゃなかったんだけど……」

美月「……て、照れちゃうよ」カァァ

空太「ぼ、ぼくも……」カァァ


男子「甘いなぁ……」

女子「甘いねぇ……」

久世橋「あ、甘すぎます……」


97 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/07(日) 03:31:17 d3GQ9adA
甘ーい!


98 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/07(日) 19:15:45 WRhgj7YE
嘘つきブラザーズって勇と面識あったっけなぁ……


――美月の部屋

美月「……へぇ」

美月(ファッション雑誌の特集を読んでて、目を引く見出しが)

美月(最近、ツインテール女子が流行り、らしい……)

美月(「ギター+ツインテール」、「カフェ店員+ツインテール」……色々、あるんだ)


美月「ねえ、お兄ちゃん?」

空太「……なに?」

美月(お兄ちゃんが私の部屋にいることも、その逆も……近頃、当たり前になっちゃった)

美月(一緒に暇をつぶしてるだけで凄く楽しかったりするから、しょうがないよね)

空太「……美月。それ、面白いの?」

美月「うーん……まだ、お兄ちゃんには早いんじゃないかな?」

空太「……美月、ドヤ顔?」

美月「し、してないっ!」


99 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/07(日) 20:48:25 WRhgj7YE
空太「あ、でも」

空太「表紙の人、綺麗だなって」

美月「!」

空太「凄い美人」

空太「目も、おっきいし……」

空太「うわ、何か照れちゃうかも……美月?」

美月「……なに?」

空太「ほっぺた、膨らんでる?」

美月「ふ、膨らんでないっ」

空太「怒ってる?」

美月「お、怒ってないっ」

空太「……褒めてほしくない、とか?」

美月「ほ、褒めてほし……」

美月「あ」

空太「……何か、引っかからないでほしかったかも」カァァ

美月「お、お兄ちゃんのイジワルッ!」カァァ


100 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/07(日) 20:49:31 HbKcM9OQ
>>98
陽子と勇自体、お互いが小学校からの友人だから、
語られてないだけで、最近ではなくても幼児の時くらいは遊んだ事はありそう。
いさねぇって面倒見よさそうだから、普通にかわいがってそうだ。


101 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/07(日) 21:18:25 WRhgj7YE
>>100
ありがとナス
今、思い出したら、3話辺りで忍が「私も小さい頃にしか会ってません」とか言ってましたっけ
とりあえず、今回の小ネタでは出さないことに


空太「……美月は可愛いから、大丈夫だよ」

美月「……もう」

空太(……あれ? 何が大丈夫なんだろ?)

美月(お兄ちゃん、私を安心させようとしてくれてるんだよね)

美月(だから……自分の言葉の意味、よく分かってなさそう……)


空太「……ツインテール特集?」ペラッ

美月「あっ。か、勝手に読んだら……」

空太「……」

美月「お兄ちゃん……?」

空太「そっか。美月、イメチェンしたい?」

美月「……べ、別に、私がツインテールになりたいわけじゃっ!」

空太「……もう、嘘つくつもり、なくしてるよね」

美月「だって」

美月「ツインテールって……可愛いって思うし」

空太「うんうん」


空太「それじゃ、せっかくだし」

空太「ぼくが美月をツインテールにしてあげる」

美月「……えっ!?」

空太「やったことないけど、多分……いい感じに出来ると思うし」

美月「じ、自分で出来るよ」

空太「それ、嘘。美月なら普通に自分で出来るって、ぼくも思うけど」

空太「それをホントに、ぼくに見せたくないなら、ここまで話したりしないよね?」

美月「……」

美月(ホントに、お兄ちゃんは……)

美月(高校に入ってから、こうやって嘘を見抜かれてると)

美月(昔みたいに悔しかったりする気持ちよりも……何だか)

空太「それじゃ、美月。鏡の前、座って?」

美月(……すっごく、恥ずかしい)カァァ


102 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/07(日) 21:46:06 WRhgj7YE


――ドレッサー前


空太「えっと、まず髪をとかさないと、だよね」

空太「それで髪ゴムを、こうかけて……」

空太「回して、回して……っと」

美月(ちょっと心配だったけど、お兄ちゃんはビックリするくらい上手だった)

美月(後ろから髪を持ち上げられたりするから、ほんの少し痛いかもって思ったのに……)

美月(全然、痛くない。むしろ、気持ちいいくらいで……)


美月「……お兄ちゃん? オシャレに興味ないって、嘘でしょ?」

空太「……あっ。それ、嘘」

美月(やっぱり……)

空太「美月を可愛くする時だけ、ぼくもオシャレ好きになるから」

美月「……え?」

空太「美月。次、こっち側やるから……注意してて?」

美月「……ねえ、お兄ちゃん」

空太「なに?」

美月「……私の髪、触ってるけど、照れちゃわない?」

空太「……美月を可愛くするためなら、我慢する」

美月(ダ、ダメ……やっぱり私、お兄ちゃんに敵わないかも)カァァ

空太(美月、顔真っ赤……鏡のおかげで、よく分かっちゃう)


103 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/07(日) 21:47:36 WRhgj7YE
空太「出来たよ、美月」

美月「わっ……凄い。ちゃんとツインテールになってる」

空太「この雑誌の誰よりも可愛く出来た自信ある、かも」

美月「……お兄ちゃん、スタイリストさんになったら?」

空太「ダメ。美月以外じゃ、本気出せないと思うし」

空太「……あれ? この辺、どうやって結んだんだっけ?」

美月「……え、ええ?」


空太「美月がモデルさんになるとかなら、ぼくも考えるけど」

美月「な、ならないよ! 恥ずかしいし……」

空太「……まあ、ツインテールの美月ってレアだし。可愛いし」

空太「あまり人前に出られたら、ぼくも困るかも」

美月「……お兄ちゃん、ホントにありがとね」

空太「美月?」

美月「で、でもっ」

美月「……は、恥ずかしいこと言い過ぎるのは、ちょっとダメだと思う」カァァ

空太「……ごめんね、美月」

空太「やっぱり、美月が可愛すぎるから」

美月「そ、そういうのがダメなのっ!」


104 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/07(日) 21:51:08 HbKcM9OQ
もしも絵がかけたら、一枚書き上げたい気分。
SSも面白く書けない上に絵も描けないから、主みたいな人は真面目に尊敬する。


105 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/07(日) 22:29:03 WRhgj7YE
http://i.imgur.com/LbDI1gD.jpg
この時から、かなり身長差が広がって

http://i.imgur.com/Wn25KJC.jpg
空太はともかく、今の美月はいつも照れてるイメージ

>>104
ありがとナス
自分も絵はからっきしだから、もしも描きたいとしたら成長後の嘘つきブラザーズですね
あまりにも画像が見つからないから、もはや原先生に期待するしかないのかもしれません


――その後


空太「美月、ちょっとそのままでいてくれる?」

美月「お兄ちゃん?」

空太「一応、写真に残しておきたくて。ケータイ、持ってきてるから」

美月「……え?」

空太「それじゃ、撮っていい?」

美月「ね、ねぇ、お兄ちゃん」

美月「写真……何かに使うの?」

空太「……」


空太「撮るだけ」

美月「嘘」

空太「……同じツインテールの、綾お姉ちゃんに送ろうかなって」

美月「……う、嘘」

空太「……待ち受け画面にしたいかなって」

美月「……う、嘘、だよね?」

空太「あっ。陽子お姉ちゃんには送っていいよね、美月?」

美月「ご、ごまかさないで、お兄ちゃんっ」


106 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/07(日) 22:29:41 WRhgj7YE
空太「……どこまでが嘘だって思う?」

美月「……もう」

美月「最初だけ……でしょ?」

空太「……美月がイヤなら」

空太「他のを嘘にして、最初のだけホントにする」

空太「約束するから」

美月「……」


美月「べ、別に、綾お姉ちゃんに送ってもいいよ」

空太「……美月?」

美月「あ、あと! 待ち受けにするなら、絶対……」

美月「誰かに見えない所で、ケータイいじってくれるなら」

美月「し、してもいいよ?」

空太「……あ」

空太「そ、そっか……待ち受けって、そういう」

美月「わ、分からなかったの……?」

空太「ごめん。ツインテールの美月見てたら、色々吹っ飛んじゃってた」

空太「何か……いつもと、印象違っちゃって」

空太「ごめんね、美月」

美月「……お兄ちゃんったら」


美月「いいよ。写真、撮っても」

空太「……」

美月「お兄ちゃん?」

空太「……何だか」

空太「それだったら、ケータイより……もっといいカメラの方が、良かったりするかなって」

美月「……嘘、だよね?」

空太「ちょっと本気」

美月「……ケータイでなら、許してあげるから」

美月「別のカメラ取ってこようとしたら……髪ゴム、取っちゃうよ?」

空太「み、美月がそう言うなら……」

美月(さ、さすがに……カメラで、ちゃんと撮られたりなんてしたら、恥ずかしすぎるし)

美月(まるで、そこのモデルさん、みたいな……わ、私、なに考えてるんだろ)

空太「いい、美月?」

美月「だ、大丈夫!」

空太「……それじゃ」

美月「……あっ」


空太「撮れたよ」

美月「……」

空太「見る?」

美月「こ、心の準備、できてないっ」

空太「……可愛い」

美月「か、感想言うのもダメッ!」

空太「……待ち受けにしよっと」

美月「じ、実況しなくていいからっ!」カァァ


107 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/08(月) 00:13:14 peYx9deY
陽子「あれ? ポストに何か……」

陽子「エアメール……」

陽子(差出人は……やっぱ、そうだよね)


陽子「……ああ」

陽子(何だか……色々と、変わっちゃったんだなぁ)


――その日の夜


陽子「二人にちょっと聞きたいんだけど……明日って、空いてる?」

美月「……最近、お兄ちゃんが私を照れさせすぎて熱が出ちゃったから行けないかも」

空太「……最近、美月がぼくに冷たくて、それで悲しくなっちゃったから行けないかも」

陽子「……」

陽子「私は最近、二人の嘘がちょっと心配だよ……」


陽子「それじゃ、来れるってことでいいんだよね?」

空太「……美月が、そうするなら」

美月「……お兄ちゃんが、そうするなら」

陽子(おお、双子っぽい反応……)

陽子「それじゃ、二人とも大丈夫ってことで」

陽子「明日、空けといてな?」



――翌日・外出先


空太「……ところで、お姉ちゃん?」

陽子「ん?」

美月「お姉ちゃんとお兄ちゃんと私の三人だけ、ってわけじゃないんでしょ?」

陽子「……バレてた?」

空太「ううん、バレてないよ」

美月「大丈夫だよ、陽子お姉ちゃん」

陽子「……ふ、二人とも。気を遣わってくれなくていいんだぞ?」


陽子「……まあ、そりゃバレるよなぁ」

空太「陽子お姉ちゃんが、ぼくたちだけ連れて居酒屋に行くはずないし」

美月「ごめんね、陽子お姉ちゃん……あのお手紙、見えちゃった」

陽子「……あ」

空太「……だから」

美月「つい、会いたくなっちゃったんじゃないかな、って。ね? お兄ちゃん?」

空太「うん。ぼくは、美月が思ってたことを言ってるだけだけど……」

美月「お、お兄ちゃんが考えることなら、私と同じだよね?」

空太「……美月、ぼくのマネしようとしてる?」

美月「ち、違うもんっ!」カァァ


108 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/08(月) 00:15:14 peYx9deY
陽子「……まったく、もう」

陽子(この子たちと一緒にいると、ホントに和んじゃうんだよね……)

陽子(まあ、それはきっと……)


「……わっ。お、遅れちゃった?」


陽子(……あっちも同じだと思うけどさ)

空太「大丈夫だよ。まだ、時間まで5分あるから」

美月「大丈夫だよ。もう、時間を5分くらい過ぎちゃったけど」

「……ぜ、絶好調ね。二人とも」

「私の時計じゃ……良かった。待ち合わせ時間から6分前、ってところね」

空太「……時計使うのはズルい」

美月「昔と変わっちゃった」

「……年をとると、イヤでも変わらないといけなくなるのよ。二人とも」

陽子(何だか、重々しい言葉だ……いや、私だって、ちょっと思ってるけど)


空太「最近は電話越しばっかりだったけど……」

空太「久しぶり――綾お姉ちゃん」

美月「綾お姉ちゃん……」

綾「……久しぶりね、二人とも」

陽子「おお。綾お姉ちゃん、モテモテだなぁ」

綾「あ、あなたが呼んだんでしょっ!」

陽子「ごめんごめん」


陽子「綾のトコにも来たんじゃない? エアメール」

綾「……たしかに、私も懐かしくなったけど」

綾「まさか、その翌日に予定を作ることになるなんて思わなかったわ」

陽子「え? 嬉しくなかった?」

綾「……この子たちに会えたし、嬉しいわよ」

陽子「えー? 私はー?」

綾「う、嬉しいに決まってるから、言わなかっただけっ!」カァァ

陽子「そっかー……」


空太「……最後に会ったのって、いつだっけ?」

綾「うーん……大学の頃から、ちょくちょく会ってたけど」

綾「そうね。最後は、卒業祝いした辺りじゃないかしら?」

美月「晴れ着姿の綾お姉ちゃん、可愛かった」

綾「お、思い出させないで、美月ちゃん……」

綾「ちょっと恥ずかしいから」カァァ

空太「……今日はスーツ姿じゃないんだ」

綾「お、お休みだもの」

空太「……残念」

綾「……か、からかおうとしてた?」

空太「ううん。褒めたいって思ってた」

綾「年下から褒めたい、って言われるのも、色々とフクザツね……」


綾「それじゃ、お店に行きましょうか」

綾「あっ、私、あまり呑めないからね?」

陽子「知ってる知ってる。綾、私に注いでくれる?」

綾「……じ、自分で、注いで」

陽子「ケチー……」


109 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/08(月) 00:16:37 peYx9deY
空太「……綾お姉ちゃん、顔真っ赤だね」

美月「うん。あんなに顔真っ赤にしてると、身体悪くしちゃうよね?」

空太「うん。ぼくは美月も心配だけど……」

美月「うんうん、綾お姉ちゃんが心配……」

美月「え?」

空太「ほら、今みたいな顔にすぐなっちゃうから……」

美月「……お、お兄ちゃんのバカ」カァァ

空太「……ホントに心配なんだよ?」

美月「わ、私だって、お兄ちゃんの……そういう所が心配だもんっ」プイッ

空太「……」

空太(色々、変わって)

空太(「あーん」とか「髪を撫でたり」みたいなことは、出来なくなってきたっていうのは分かる)

空太(……でも)

空太「どうして、美月が顔を赤くする時はわからないんだろ……?」

美月「……お、お兄ちゃんが、まだ変わり足りないからじゃないかなって」

空太「……うーん」

美月「もう……」


綾「……あ、あの子たちは、相変わらずなのね」

陽子「まぁ、相変わらず仲良しのまま、って感じかな」

綾「そうね……見ていて、微笑ましいもの」

陽子「……綾も、『綾お姉ちゃん』になりたい?」

綾「……それは『陽子お姉ちゃん』だけ、でしょ?」


綾「……何だか」

綾「私も、このエアメール見たら……グッとくるものがあったわ」

陽子「……私たち、社会人だもんなぁ」

綾「見て? この子たち、凄く嬉しそう」

陽子「まあ昔から、ビッグベンの時計塔の前で写真撮りたいって言ってたし」

陽子「まさか、三人で撮っちゃうなんて思ってなかったけど……」

綾「ビックリしたわ、私も」


陽子「……両手に花、ってことなのかな?」

綾「ううん、これはきっと……」


綾「両手に金髪少女、ね」

陽子「……そのままなのに、何だかしっくりきちゃったよ」


110 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/08(月) 01:51:31 peYx9deY
居酒屋のシーンを書こうとしましたが、思うように書けませんでした
とりあえず、何かきっかけがあればと思うのですが……アイデア等あれば、是非お願いします
終わらせようと思っても、嘘つきブラザーズを書くのが楽しすぎて終われないもので


111 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/08(月) 14:14:48 VDwhjkiI
正直、主みたいな人にアドバイス出来るほど、面白いSSかけたことないけど、
語り合うなら、居酒屋にこだわる必要はないんじゃない?
高級ホテルのディナーでもバーでも喫茶でもいいわけだし。
アルコール入れさせたいなら、バーの方が入れさせやすい気もする。
大学時代、2人が始めて酒を飲み交わしたバーで回顧しつつ明日を見る・・・
こんな、シチュ最高じゃないですかね?(激寒妄想)
ちなみに個人的には陽子はバーボン(フォアローゼス)もしくはテネシーウィスキー(ジャックダニエル)
綾はイタリアンワイン(モスカート・ダスティ)のイメージです。(激寒自分語り)

正直、>>1さんには、無理をせずに思いついたときに好きなだけ書いて欲しい。
このSSには、そんな魅力を感じる。いつでも、楽しみにしてますので。


112 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/08(月) 16:25:03 peYx9deY
>>111
熱心なアドバイス、ホントに嬉しい……嬉しい……
でも、申し訳ない。寝る前とか何となく考えてたら、思いついちゃった感があるから
それでいこうと思います。すまんな。

http://i.imgur.com/iFAA7LZ.jpg
この二人、やっぱり可愛すぎる




――居酒屋


陽子「それじゃ、料理とか飲み物とか運ばれてきたし」

陽子「4人の繋がりを祝して、乾杯っ!」

綾「乾杯……つ、繋がりって。何だか、ちょっと照れるわね」

空太「乾杯」

美月「乾杯」

空太「繋がり、かぁ……」

空太(ぼくと美月が隣同士で、綾お姉ちゃんと陽子お姉ちゃんが隣同士)

空太(それで向かい合う、って感じだった)


美月「綾お姉ちゃんと初めて会ってから、もう6年くらいなんだね……」

綾「私、6年も一緒で嬉しいのよ。二人とも」

綾「……空太くんに身長抜かされた時はショックだったけど」

空太「中2くらいの時だったよね」

綾「今じゃもう、10センチくらい違うのね……」

美月「……お兄ちゃんだけズルい」

綾「大丈夫よ。美月ちゃん、可愛いから」

美月「そ、そうじゃなくて……」

美月「お兄ちゃんと双子なのに、どんどん離れていっちゃうんだよ?」

空太「大丈夫。ぼくと美月、ずっと一緒だから」

綾(色々、誤解されそうなセリフね……)


空太「……あ。陽子お姉ちゃん。焼き鳥、串から取るよ」

陽子「おっ、空太。気が利くなぁ」

空太「綾お姉ちゃん、そのピザ取ってくれる? 切り分けるから」

綾「あら。ありがとう、空太くん」

美月「わ、私も何か……」

空太「美月は、そこにいるのが仕事。だから、ちゃんと仕事してる」

美月「……ま、また、バカにしてるっ」プイッ

空太「美月の服に油とか飛んできちゃったりするのは、ぼくだってイヤだから」

美月「……!」

空太「だから……」

美月「……お兄ちゃん、嘘ついてるでしょ?」

空太「……うっ」

美月「もうっ。でも……」

美月「ありがとね」ニコッ


113 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/08(月) 16:25:39 peYx9deY
陽子「……綾お姉ちゃん、解説お願い」ヒソヒソ

綾「だ、だから、その呼び方……もうっ」ヒソヒソ

綾「その……美月ちゃんって、あまり器用な方じゃないでしょ?」

陽子「ま、まあ、そうかも」

綾「でも、『不器用だから』ってハッキリ言ったら、美月ちゃんが傷ついちゃうと思ったんじゃない?」

綾「だから……といっても、美月ちゃんも分かっちゃってるみたいだけど」

陽子「でも、嬉しそうなのは……」

陽子「空太の気遣いが分かって、それが嬉しかったってことか」

綾「ええ、そうでしょうね……」

綾「……ホントに、あの二人と一緒にいられる陽子お姉ちゃんが羨ましいわね」

陽子「綾お姉ちゃんも、うちに来る?」

綾「そ、それは……や、やっぱりやめておくわ」カァァ

陽子「そう?」


空太「……なに話してるの?」

美月「……内緒話?」

陽子「綾お姉ちゃん、二人が可愛くてしょうがないんだってさ」

綾「ちょっ、ちょっと、陽子っ」

美月「……照れてないもん」カァァ

空太「……ぼくも照れてないよ」カァァ

綾(この子たちが、これから大きくなっていっても……)

綾(初めて会った時と、同じような気持ちを味わい続けるのかもしれないわね)クスッ

陽子(綾、凄く優しい顔してる……)クスッ


114 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/08(月) 16:40:58 VDwhjkiI
>>112
ええんよ(ニッコリ) って、いうか おこがましくて申し訳ないです。
それより、追加エピソードがウレシイ…ウレシイ…


115 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/08(月) 21:16:42 peYx9deY


――しばらくして


陽子「あの三人、元気にしてるんだなぁ……」

綾「ええ。ホントにいい笑顔だわ」

綾「また、会いたいわね」

陽子「ホントだよ」

綾「……ありがとね、陽子。今日、誘ってくれて」

陽子「私も綾と会えて嬉しかったよ」

綾「わ、私もよ」

綾「……ただ、それだけじゃなくて」


空太「美月。これ、美味しいよ」

美月「ありがと、お兄ちゃん」

空太「あ、美月。そのサラダ、もっと皿に持ってきてほしい?」

美月「ありがと、お兄ちゃん……」

空太「ぼくの分のピザ、美月と半分こしよっか?」

美月「……あ、あのね、お兄ちゃん」

美月「私に気を遣ってくれるのは嬉しいんだけど……」

美月「お兄ちゃんも何か食べていいんだよ?」

空太「……美月の世話してるだけで、ぼくはお腹いっぱいだし」

美月「ま、また、そんなこと言って……!」カァァ

空太「それに、あんまりお腹減ってないんだよ」

美月「嘘。さっきからずっと、料理のお皿見てる」

空太「……嘘じゃないし」

美月「お兄ちゃん。何、食べたいの?」

空太「……」

空太「そ、その、お刺身とか」

美月「そっか。それじゃ、取ってあげるね」

空太「……何だか、恥ずかしい」カァァ

美月「たまには、お兄ちゃんも私の気持ち、知ってほしいかなって……」


綾「この二人を見てると……色々あったはずのグチとか全部どっか行っちゃうのね」

陽子「いいだろー? 私、いつもそんな感じなんだよ?」

綾「……羨ましい」


――それからさらにしばらくして


陽子「……大体、飲み物も食べ物も無くなったな」

綾「ふふっ。昔の話で盛り上がれて、楽しかったわ」

陽子「綾ー? 大学時代は、そんなに昔じゃないぞー?」

綾「こ、高校の頃も含めて、だからっ!」


空太「……何か、大人って感じ」

美月「うん……」

美月「ちょっと憧れちゃうかも」

空太「……ぼくも」


空太「……あれ? ぼくのコップって、これだっけ?」

美月「……私のコップ、どれだったっけ?」

空太「まぁ、いっか。多分、こっちだし」

美月「お兄ちゃんってば……まぁ、私も、多分これかな」


陽子「それでさー、その時……あれ?」

綾「もう、陽子ったら……あら?」

陽子「これ、私のじゃないよな?」

綾「こっちも、私のじゃ……」

綾「ま、まさかっ!」


空太「……美月」

美月「なぁに、お兄ちゃん?」

空太「ちょっと重い、かも……」

美月わっ、ひどい。お兄ちゃん、女の子に体重のこと、言うなんて……」

空太「……美月は、ズルい」

空太「いつも、そうやって……ぼくが、少しでも近づいたら離れたそうにするのに」

美月「……お兄ちゃんだって。ホントは私、いつも恥ずかしいのに」

美月「前より変わったって思うけど……それでも、ずっと照れてるんだよ?」

空太「へえ……それじゃなんで、今はそんなに強く抱きつくの?」

美月「だ、抱きついてなんてないっ! クラッとして、倒れただけっ!」

空太「……ほっぺた、ぼくに当たってる」

美月「べ、別に、そんなことしてないっ!」

美月「ホントは、早く離れたいのに……」

空太「じゃあ、離れればいいのに……」

美月「……お兄ちゃんだって」

空太「……ぼくも何だか、離れられない」

空太「きっと、ぼくが美月を……別に、好きじゃないから、かも」

美月「……ふ、ふんだ。私だって……別に、好きじゃないもん」

空太「……美月、撫でてもいい?」

美月「……と、特別っ」

空太「うん」

空太「……キレイな髪だよね、美月」ナデナデ

美月「……う、嘘つくなら、最後まで通してほしいかも」カァァ

空太「ごめん、ムリ」

美月「……もう」


116 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/08(月) 21:17:12 peYx9deY
綾「……ねぇ、陽子? これって」

陽子「そっか。私たちが頼んだものと、あの二人が頼んだもの……色とかが似てたから」

綾「そういうことじゃなくてっ!」

綾「どうするのっ!? あの二人、お酒呑んじゃったってことよね?」

陽子「まあ、いつもより……どう考えても、おかしいもんなぁ」

陽子「特に、美月のあの甘えようとか」

綾「空太くんも何だか、ちょっとだけ違う……そ、そうじゃなくてっ!」

綾「……店員さんにバレたら、まずいんじゃないの?」

陽子「……まずいな」

陽子「とりあえず、私……ちょっと、先にお勘定してくるから」

陽子「綾。ちょっと帰り道、付き合ってくれる?」

綾「……この子たちのためなら、全然構わないわよ」

陽子「さすが、綾お姉ちゃん」

綾「ほら、早くお勘定してきて? 陽子お姉ちゃん」


――帰り道


陽子「空太ー? 大丈夫かー?」

空太「……な、なんとか」

空太「足がフラフラするけど……」

陽子「私が肩組んであげるから、大丈夫だよ」

空太「……ありがと、陽子お姉ちゃん」

陽子「ん。呂律が回ってるのなら、大丈夫かな」

空太「……陽子お姉ちゃん」

陽子「ん? どうした?」

空太「……ぼくさ、美月と何かあった?」

陽子「……そ、それは」

陽子「ま、まぁ、なんにもなかったよ。うん」

空太「……そっか」

空太「そう言ってくれるなら……そうだよね、うん」

陽子(正直に話したら、さすがに……空太も、顔真っ赤になっちゃうだろうから)


綾「大丈夫? 美月ちゃん?」

美月「……綾お姉ちゃん、ありがと」

綾「いいのよ。肩を貸すくらい、いくらでも」

綾「あなたたちには、いつも……癒やされてるんだから」

美月「……ねぇ、綾お姉ちゃん?」

綾「なぁに?」

美月「……私、お兄ちゃんに何かしてた?」

綾「……」

美月「そこだけ頭がボーッとしてて……何も、分からなくて」

美月「で、でも……何だか、凄く顔が熱くて……」

綾「……ま、まあ」

綾「い、いつも通りだったから、大丈夫よ」

美月「……そう、なのかな」

綾(正直に話したら、美月ちゃん……どうかしちゃうかもしれないし)


ここまでです。


117 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/09(火) 01:07:07 ZRtpXB/M
次から次へと思いついては書きたくなってしまう。
とりあえず、居酒屋の話は、ここで区切りです。


――リビング


空太「……ん」

美月「……ぅ」

空太「……あれ?」

空太(いつもと違う? ここ、リビングの……ソファー?)

空太(向かい側のソファーに、美月も寝てて……今、起きたみたいだった)

美月「……お兄ちゃん」

空太「う、うん……」

空太「美月、昨日のこと覚えてる?」

美月「……陽子お姉ちゃんたちと、居酒屋に行って、色々お話しして」

美月「そ、それから……分からないの」

空太「……ぼくも」

美月「な、何だか……凄く恥ずかしかった、ような気はするんだけど」

空太「……実は、ぼくも同じかも」


陽子「おー、二人とも。おはよ」ガチャッ

空太「あっ、おはよう、陽子お姉ちゃん」

美月「……お、おはよ」

陽子「いやー、昨日は大変だったなぁ」

陽子「大丈夫? もう、クラクラしてない?」

空太「……クラクラ?」

綾「昨日、お酒呑んじゃったのよ。二人とも」

美月「そ、そっか……だから、クラクラ」


118 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/09(火) 01:07:49 ZRtpXB/M
空太「あ、綾お姉ちゃん!?」

美月「ど、どうして家に!?」

綾「え、えっとね……その」

綾「あなたたちを送り届けたら、もう終電なくなっちゃってて」

綾「タクシーを呼ぶお金もなかったから……そのまま」

陽子「二人とも? 綾お姉ちゃんは、二人が心配だからって泊まってくれたんだよ?」

綾「ちょっ!? よ、陽子!?」カァァ


空太「……そ、そっか」

美月「見間違いだって思っちゃった……」

空太「ありがと、綾お姉ちゃん」

美月「ありがと、綾お姉ちゃん」

綾「……別にいいのよ」

綾「私、二人のこと……大切に思ってるから」

陽子「……綾って、もし弟とか妹とかいたら、絶対いいお姉ちゃんになってたよね」

綾「べ、別に、私なんて……そんなことないわよ」

綾「ただ、二人が大事なだけ、だから」

陽子「……ホントに、綾お姉ちゃんになっちゃう?」

綾「そ、それはっ……もうっ」カァァ

綾「陽子お姉ちゃんがそんなこと言ってばかりじゃ、ダメでしょう?」

陽子「……ま、それもそっか」


119 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/09(火) 01:08:53 ZRtpXB/M
空太「ね、美月?」

美月「な、なに?」

空太「……もし、綾お姉ちゃんがホントにぼくたちのお姉ちゃんになったらどうする?」

美月「え、ええっ!?」

美月「そ、それはホントに嬉しいけど……でも、それって」

空太「?」

美月「……お兄ちゃんが好きな綾お姉ちゃんが、私たちの家にってことだし」

美月「ちょっと、大変かも」

空太「……ぼくは綾お姉ちゃん、嫌いじゃないけど? それがどうかした?」

美月「や、やっぱり、わかってないっ!」


綾「……ううん、陽子」

綾「この家にいたら、い、色々と大変そうだけど……」

綾「まず、あの子たちのやり取りに耐えられなくなっちゃうわ。色々な意味で」

陽子「……美月のヤキモチとか?」

綾「そ、そうだけどっ」

綾「い、いえ! そ、それだけじゃないけどっ!」

陽子「どっちなんだ……」

綾「どっちもっ!」


空太「……大丈夫だから、美月」

空太「綾お姉ちゃんも好きだけど、美月は可愛いって思ってるから。ね?」

美月「……う、嘘とホントを混ぜるのって卑怯だと思う」

空太「……あんまり、誰か『好き』とか『嫌い』とかで嘘ついちゃいけないんじゃないかって」

空太「ほら? 初めて綾お姉ちゃんに会った時のこと、覚えてるよね?」

美月「……あ」

空太「あんまりそういう嘘って、ダメなのかも、って……」

空太「久しぶりに、ちゃんと綾お姉ちゃんと会って、思っちゃった」

美月「……お、お兄ちゃん」

美月「そんなこと言われたら……私、ずっと照れたままじゃない?」カァァ

空太「え? どうして?」

美月「……し、知らないっ!」プイッ


綾「……」

陽子「ねえ、綾?」

綾「な、なに、陽子?」

陽子「……マジメに、二人の綾お姉ちゃんにならない?」

綾「い、今のままでいいからっ!」

陽子「そっか」

陽子「……絶対、いいお姉ちゃんになれるって思うけどなぁ」

綾「……そ、そうだと思いたいけど、ね」


120 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/09(火) 19:12:29 ZRtpXB/M


――それから・駅前


綾「それじゃ、またね」

陽子「おー。ホント、ありがとな」

綾「駅まで送ってくれなくてもよかったのに……」

陽子「それは出来ないって。綾は恩人だし」

綾「……そ、そういうこと軽々しく言っちゃダメだって、いつも」かぁぁ

美月「……綾お姉ちゃん、ごめんなさい」

空太「ぼくたち綾お姉ちゃん、困らせちゃった……」

綾「二人も一緒に、送ってくれてありがとね」


綾「大丈夫よ。困ってなんていないから」

空太「……嘘?」

綾「私、あなたたちみたいに嘘が上手くないから……」

美月「……何か、大人な感じ?」

綾「ふふっ。美月ちゃんは、これからどんどん可愛くなると思うわよ」

美月「そ、そんなこと……」

空太「うん。ぼくも、そう思う」

美月「お、お兄ちゃん!」

美月「そ、そこは、嘘、ついてほしいんだけど……」カァァ

空太「言える嘘と言えない嘘があるから」

美月「……も、もうっ」プイッ

陽子(美月……二人の前じゃ型なしだなぁ)

陽子(それはともかく……)


121 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/09(火) 19:12:57 ZRtpXB/M
陽子「なあ、綾?」

綾「なぁに、陽子?」

陽子「……なんかさ、この二人には」

陽子「途中で照れたり、噛んじゃったりしないよね?」

綾「よ、陽子……あなたの中の私は、どうなってるの?」

陽子「いや、ホント。純粋なギモンっていうか」

綾「……」

綾「――二人と初めて会った時」

綾「『あ、この子たち……私と似てる』って思ったのよ」

陽子「……あ」

綾「こ、このことは、話してるだけで照れちゃうんだけどね……」カァァ

綾「それでね。それから、私も少しくらいは素直になろうってガンバったつもりで……」

綾「まあ、この子たちの前くらいじゃ……『お姉ちゃん』でいたいっていうのもあるんだけどね」

陽子「……立派に務まってるよ、『綾お姉ちゃん』は」

綾「『陽子お姉ちゃん』には敵わないけど、ね」


綾「……それじゃあね、みんな」

綾「また、会いましょう。ああ、明日から、また仕事だけど……」

陽子「また、会おうな。ああ、私も明日から同じだよ……」

空太「……またね、綾お姉ちゃん」

美月「バ、バイバイ……」

綾「ええ。あなたたちも高校生活、楽しんでね?」

綾「ああ、今思うと……あの頃が一番、楽しかったかもね」

綾「空太くんと美月ちゃんなら、もっと楽しめちゃうかも」

空太「……そうかな」

美月「わ、私、楽しいっていうより……いつも熱いんだけど」

陽子(そりゃ、いつも顔真っ赤にしてるもんなぁ……)

空太「美月……熱、あるの?」

美月「だ、だから! そうじゃなくてっ」

陽子「……空太も、これからどんどん変わっていく、のかなぁ」

綾「いいのよ。ゆっくりゆっくり……二人で、ずっと仲良くしていってほしいわね」


空太「おでこ、合わせてみる?」

美月「……そ、そういうのはダメッ!」カァァ

空太「……あ、そっか。ごめん」カァァ

美月「い、いつも言われた後で赤くなるんだから……もうっ」プイッ


一旦、ここまで。


122 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/09(火) 20:41:41 ZRtpXB/M
美月「……お兄ちゃん? 体育の時間って、どうしてあるんだろ?」

空太「運動は大事だからじゃないかな」

美月「そ、そんなの、運動好きな人たちだけでいいのに」

空太「……美月、体育の時間に何かやっちゃった?」

美月「……!」


美月「そ、そんなことないよ。今日だって、バレーで相手のコートにアタック決めたし」

空太「そっか……アタックされた球、取れなかったんだ」

美月「……マ、マラソンだって、余裕のトップで」

空太「美月、最後まで走りきったんだ。偉い」

美月「……す、水泳だったら私、キレイなターンを」

空太「つまり、壁に手をつこうとして失敗しちゃったんだよね?」

美月「お、お兄ちゃん」


美月「……たまには、気付かないフリをしてもいいんだよ?」

空太「……何も言わなかったら美月、悲しそうな顔するだろうし」

美月「そ、そんなことないもんっ」プイッ


美月「はぁ……陽子お姉ちゃんの運動神経、ほんの少しでも分けてほしいかも」

美月「もう社会人だし、体育ないだろうし。だったら、分けてくれてもいいよね?」

空太「……ごめんね。ぼくから美月に、少しでも分けてあげられたらいいのに」

美月「そ、そうしたら、お兄ちゃんが体育、できなくなっちゃうし」

空太「美月って、ホントに優しいね……」

美月「……お兄ちゃんが私に、それを言うの?」

空太「え? 美月、優しくないの?」

美月(じ、自分が優しすぎるってことにも気づいてない顔……)


123 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/09(火) 21:04:58 ZRtpXB/M
女子「美月ー! 今日の放課後、空いてる?」

美月「放課後? うん、大丈夫だよ……」チラッ

空太「……?」

女子「そっか、良かった! それじゃさ今日、買い物付き合ってくれない?」

女子「ちょっと買いたいコスメが……」

美月「うん、わかった。それじゃ、一緒に行こっか」チラッ

空太「……?」

女子「……?」

美月「う、うん……大丈夫」

美月「わ、私、ちょっとお手洗いに……」

女子「……あ、わ、わかった」


女子「ねえ、猪熊くん? 美月に何かしたの?」

空太「いや、何もしてないけど」

女子「そっか。それじゃ、どうして猪熊くんの方をチラチラ見てたんだろ?」

空太「ああ。それなら、いつも一緒に帰ってるから」

空太「『今日は、そうしてもいい?』とか聞きたかったんじゃないかな」

女子「……美月も、ちゃんと聞けばいいのに」

空太「美月、まだ『お兄ちゃん』って呼ぶことが恥ずかしいみたいで……」

女子「……難しいね」

空太「……ちょっぴり、そうかも」


124 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/09(火) 21:39:08 ZRtpXB/M


――別の日の放課後


空太「美月、行きたい所とかある?」

美月「あ、そっか。クレープ屋さん、お休みだっけ」

空太「美月、クレープばっかり食べてるから……」

美月「べ、別に、太ってないもん!」

美月「秋になったら、焼き芋食べるし」

空太「……そっか」

美月「……笑いたいなら、笑ってもいいんだよ?」

空太「そんなことしたら、美月が怒るし」

美月「お、怒らないから!」

空太「嘘。今、怒ってる」

美月「もう……」


空太「それじゃ今日は、そこの喫茶店にでもする?」

空太「午前授業だったし、ここ、そんなに高くなさそうだし」

美月「……ホントは、買って食べるとかならともかく」

美月「お店に寄り道したらダメなんだよ?」

空太「美月がイヤならいいけど」

美月「お兄ちゃん、不良だね?」

空太「美月は良い子だから、おあいこってことで」

美月「……まったく、お兄ちゃんったら」

空太「開けるよ」


店員「いらっしゃいませー」

店員「二名様ご来店……あっ!」

空太「?」

美月「?」

店員「おめでとうございます、お客様っ」

店員「キャンペーン開始後、50組目のカップルですっ」

空太「……え?」

美月「……カ、カップル?」

店員「と、いうわけでっ。パフェをサービス致します!」

美月「ちょ、ちょっと……わ、私たち、別に!」

空太「パフェ……あ、これか。美味しそう」

美月「お、お兄ちゃん! 冷静にメニュー見てないでっ!」

空太「でも、もう……店員さん、中に入っていっちゃったし」

美月「……うわ、ホント」


美月「……カ、カップルって。そんな」カァァ

空太「よかったね、美月。パフェ、結構高いのに、タダだよ?」

美月「……ねえ、お兄ちゃん? カップルって意味、わかる?」

空太「さすがに分かるよ。恋人同士、だよね?」

美月「だ、だったら、なんで、そんな冷静なの?」

空太「美月と美味しいもの食べられるなら、それならいいし」

美月「……そ、そっか」

空太「美月は、ちょっと気にしすぎじゃないかなって」

美月「……お兄ちゃんは、ちょっとじゃないくらい気にしなさすぎじゃないかなって」


125 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/09(火) 21:39:46 ZRtpXB/M
店員「お待たせしましたっ、サービスのパフェになります!」

空太「あっ、どうも……あれ?」

美月「……こ、これって」

店員「特製になっていますので、お二人で、どうぞ!」

空太「……こ、これを分け合うんですか?」

店員「はいっ」

店員「こちら、特製のハート型のスプーンになっております!」

美月「」

空太「……ど、どうも」カァァ

美月(あ、あのお兄ちゃんが……凄くドギマギしてる!)

店員「それでは、ごゆっくりどうぞっ」


空太「……」

美月「……」

空太「お、お先に……」

美月「お、お兄ちゃん、こぼさないようにね?」

空太「大丈夫、だと思う……」

空太「……てっきり、一人ひとつだと思ってたのに」

美月「……私、何となく、こうなるって思ってた」

空太「何だか……さすがに、照れちゃうね」カァァ

美月「いつもなんだけど……照れるのが遅すぎっ」

空太「美月、こぼしてるこぼしてる」

美月「……あ」

空太「……照れちゃってたけど」

空太「美月を見てると、それよりずっと安心しちゃうかも」

美月「……うう」カァァ


126 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/09(火) 21:41:20 J5x8srSY
どうでもいいけど、ハート形のスプーンって、引っかかりそうで食いにそうですね…


127 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/09(火) 22:33:38 ZRtpXB/M
>>126
http://i.imgur.com/bmzLdLW.jpg
これじゃ、美月がこぼすのも無理はないかもしれませんね……


――昼休み・中庭


美月「……」

空太「美月。眠いなら、肩じゃなくて、膝貸すけど」

美月「……あ」

美月「べ、別に、眠くないもん」

空太「そっか。それなら、いいんだけど」

美月「……」

美月「は、恥ずかしいの、お兄ちゃん」

空太「別に、その……カップルじゃなくたって、膝枕くらいやると思うけど」

美月「さ、さすがに、それはないんじゃないかな……ふわぁ」

空太「……あくび?」

美月「ち、違う……そうじゃなくて」

美月「ちょ、ちょっと、花粉でクシャミが……」

空太「……もう、夏だよ?」

美月「イ、イジワル……」


美月「……」

空太「結局、膝で寝ちゃうんだから……」

美月「……」

空太「……」

空太(あ、やっぱり……)

空太(何となく撫でようかなって思っても、撫でられなくなっちゃってる……)

空太(これはこれで、いいんだよね? 多分)

空太(でも、何だか……ちょっと)


空太「……はぁ」

久世橋「あら、猪熊くん?」

空太「あっ、クッシーちゃん」

久世橋「こんにちは……あら? 猪熊さんは?」

久世橋「……あっ!」

空太「美月、すごく眠そうだったから……寝かせてあげてます」

久世橋「ひ、膝枕……」

空太「美月、恥ずかしがり屋だけど……眠気にだけは弱くて」

空太「それで、いつもこんな感じなんです」

久世橋「そ、そうなんですか……」


久世橋(ま、まあ……異性で双子の仲良し兄妹なら、有り得るのかも……そうよね?)

空太(クッシーちゃん、どうしたんだろ……何か、いつもの美月みたいな顔色だけど……)


久世橋「……猪熊くんは、猪熊さんがホントに大好きなんですね」

空太「……前に、カラスちゃんからも同じこと聞かれました」

久世橋「か、烏丸先生も……」

空太「……でも、ちょっと困ってます」

久世橋「な、なにが?」

空太「……」


空太「ちょっと前まで」

空太「美月の髪を撫でたりすることって、普通にできてたのに」

空太「最近、思うように出来なくなっちゃって……」

久世橋「」

久世橋(え? わ、私……かなり突っ込んだ話、聞いちゃってる?)

空太「美月のことは、ホントに好きなんです……双子だし」

空太「それなのに……何だか、フクザツになることが増えちゃって」

久世橋「……そ、そうだったんですか」

久世橋(ふ、双子って、こういうものなのかしら……?)

空太「クッシーちゃん、何か分かりませんか?」

久世橋「……えっ!?」


久世橋「わ、私。きょうだい、いませんから……」

空太「あっ、そう、だったんだ……」

久世橋「烏丸先生のようなアドバイスは、出来ないかもしれませんけど」

久世橋「……ただ」

空太「?」

久世橋「そ、その……今、猪熊くんの覚えてる『違和感』みたいなものは」

久世橋「きっと、これから……猪熊さんと幸せになっていくために必要な気持ち、なんじゃないかしら?」

空太「……!」

久世橋「だ、だから」

久世橋「少し、違和感があっても……あまり、こだわらないほうがいいと思います。私は」

久世橋「ほら? 猪熊さん、本当に安心して寝てますし……可愛いですね」


空太「……ありがとうございます、クッシーちゃん」

久世橋「う、ううん。いいんですよ」

久世橋「……あなたたちを見てると、私も勉強になりますし」

空太「え?」

久世橋「い、いや! なんでもないですっ」


128 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/09(火) 22:34:15 ZRtpXB/M
久世橋「それじゃ、また」

久世橋「……あっ。5時限目までには、猪熊さんも起こしてあげてくださいね?」

空太「……美月の眠さ次第かも」

久世橋「もう、ダメですよ? 授業は、ちゃんと受けるものですから」

空太「冗談です、クッシーちゃん」

久世橋「もう……」

空太「……クッシーちゃん」

久世橋「はい?」

空太「その……ありがとうございます」

空太「ちょっと、気分が楽になりました」

久世橋「……烏丸先生は、もちろんですけど」

久世橋「わ、私も、先生ですし……生徒の役にだったら、いくらでも立ちますから」

久世橋「それでは、また」


空太(言いながら、クッシーちゃんは歩いていった)

美月「……ん」

美月「あっ、お兄ちゃん……」

空太「あ、美月。起きた?」

美月「う、うん……」

美月「って、あれ? 私、寝ちゃってたの?」

空太「気づいてなかったんだ……」

空太「あ、そうそう」

美月「?」

空太「……クッシーちゃん、美月の寝顔、可愛いって」

美月「」


美月「そ、それって……!」カァァ

空太「それじゃ、そろそろ教室に戻ろっか」

美月「……ちゃ、ちゃんと教えてっ!」


空太(……ありがとう、クッシーちゃん)

空太(やっぱり、美月とは……頭、思うように撫でられなくなっても)

空太(ずっと一緒にいたいな、って思うから……)


129 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/09(火) 23:35:16 ZRtpXB/M


――空太の部屋


美月「……」ペラッ

美月「うーん……」

美月「今年の夏の流行りって、こんな感じなんだ……」

空太「美月、またファッション雑誌?」

美月「うん。やっぱり……ちょっとしたオシャレくらいは覚えておきたくて」

空太「そっか……また、ツインテールにしたりする?」

美月「そ、それ、この前の特集の時だからっ!」

空太「……美月は、オシャレ好きだよね」

美月「一応、女子高生だし……」

空太「……男子高校生は、どんな本を読めばいいんだろ?」

美月「そ、それは……ほら。男子に聞けばいいと思うよ?」

空太「そっか……あっ、美月」

美月「な、なに?」

空太「その表紙の人、この前のと同じだよね?」

美月「……そうだよ」

空太「……」


空太「やっぱりキレイ、かも」

美月「!」

空太「何だか……あんまり、こういうファッションとかに興味ないけど」

空太「何か、いいなって……どうかした? 美月?」

美月「……そ、そっか」

美月「お兄ちゃんって、こういう人がタイプ、なんだ……ふーん」

空太「タイプっていうか……何となく?」

美月「そ、それがタイプっていうんだよ?」

空太「……美月、怒ってる?」

美月「お、怒ってないっ」

美月「ちょっと……ううん。なんでもない」

空太「……それならいいんだけど」

空太「何かあったら、ぼくに言って。ね?」

美月「……!」

美月(お、お兄ちゃん……)

美月(ホントに、何も分かってない……!)

空太(……やっぱり美月、怒ってる)


空太「……とりあえず、お茶汲んでくるね」

美月「……お、お願い」

空太「身体熱かったりしたら、ベッドで寝ててもいいから」

美月「わ、わかった」

空太「うん。それじゃ、ちょっと待っててね」


美月「……」

美月(お兄ちゃんのタイプって、こういう人なんだ……)

美月(背も高くて、その……む、胸も、結構あって)

美月(目がおっきくて……)

美月(……なんでだろ、胸が少しだけチクッとしたような気がする)


美月(お、お兄ちゃんが好きになった人と一緒になるなら……本気で応援するって決めてるのに)

美月(それでもやっぱり、あの時の夢が……まだ)

美月(……あれ?)

美月(お兄ちゃんが誰かに、キレイだとか言ってることって……あったっけ?)

美月(あれ? 記憶にないような……ま、まさかっ!)

美月「お、お兄ちゃんが……!」

美月(そ、「そういう風」に、女の人を見るようになったってことなの……!?)

美月(あ、あんな風に見えるお兄ちゃんが……?)


美月「……」

美月(ベッドの下……)

美月(こういう場所に隠す、って聞いたことが……)

美月(で、でも! か、勝手に調べたら、ダメだよね?)

美月(……「ずっと、一緒にいる」)

美月(そう。私は、お兄ちゃんとそうするために……それを調べないといけないのかも)

美月(あ、あと。もしも、そういうことだったら……一応、陽子お姉ちゃんに伝えないとダメなのかも)

美月(……どうして、こんなに自分に言い聞かせないといけないのかな?)


美月「……ご、ごめんね、お兄ちゃん」

美月(呟きながら、私はベッドの下に潜り込む)

美月(暗がりの中をゴソゴソと……どうして私、こんなことしてるんだっけ?)

美月(とにかく、早めに調べないと……あっ!)

美月(この感触……何かの雑誌?)

美月(や、やっぱり……お兄ちゃん、そういう本を……!)

美月(震える手で雑誌を掴みながら、私は何だかやるせない気持ちになったりして……)

美月(お、お兄ちゃんの、バ――)


130 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/09(火) 23:35:44 ZRtpXB/M
空太「美月、ただいま。お茶、持ってきた、よ……?」ガチャッ

美月「」

空太「……どうかした?」

美月「……」

空太「寝るんだったら、ベッドの下じゃなくて上で寝たほうがいいと思うけど……」

美月「……」

空太「あっ、出てきた」


空太「美月、ベッドの下が気になったりしたの?」

美月「……き、気になるよ」

美月「だって、お兄ちゃん……いきなり、キレイとか言うんだもん」

空太「……美月?」

美月「お、お兄ちゃん! ベッドの下に、こんな本を……!」

美月(雑誌を見れないまま、私はお兄ちゃんにそれを突き出した)

空太「……あ」

美月「……?」

空太「美月、ありがと。それ、雑誌回収に出さないとダメだったから」

美月「……え?」

美月(恐る恐る見ると、それは――)


空太「ありがとね、美月。捨てたと思ってたのに、捨ててなかったんだ……それ」

美月「……」

空太「ジャンプって面白いから……油断すると、すぐ残しちゃって」

空太「そっか……ベッドの下だったんだ。美月、見つけてくれて、ありがと」

美月「……」

空太「……美月?」

空太(どうしたんだろ……さっきからずっと、そっぽ向いちゃってるけど)

美月「……私の顔、見ないでね?」

空太「?」

美月「今……風邪、ひいちゃいそうなくらい、熱くて赤いの……」カァァ

空太「……」


空太「美月? 一緒に、このジャンプ、読む?」

美月「す、少し、ほっといて!」


131 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/10(水) 16:30:18 yCztRqIE


――朝・リビング


空太「美月。せっかく夏休みだし、海行かない?」

美月「……海?」

空太「うん。海」

陽子「海、かぁ」

陽子「最後に行ったのって、いつだったっけなぁ……」

空太(お姉ちゃんが遠い目を……)

美月(何だか切なそう……)


美月「でも、海って……」

空太「もしかして行きたくない、とか?」

美月「そ、そういうわけじゃ……」

美月(海、ってことは、前に行ったプールの時と違って)

美月(家族連れ、よりも……カップルの方が多そうだし)

美月(それに……)チラッ


空太「美月、どうかした?」

美月(雑誌の表紙みたいな……美人さんも多そうだし)

美月(べ、別に、お兄ちゃんが、そういう人がタイプだっていうのはいいんだけど……)

美月(あれ? 私、なに考えてるんだろ?)チラッ

空太(美月、落ち着きなさそう……テレビのニュースが気になるのかな?)


陽子(美月のチラチラ目線に、隣の空太は気づいてなさそうだな……)

陽子(まあ、アレだ)

陽子(私も綾ほどじゃないかもだけど、何となく二人の「そういう気持ち」は分かる)

陽子(ホントに可愛いから、何とか少しでも……って思うんだけど)

陽子(あの頃と違って、そんなにヒマじゃないんだよなぁ……)


陽子「ああ、どうしてこのタイミングで社会人なんだろ」

空太「よ、陽子お姉ちゃん?」

美月「ど、どうしたの? お仕事、イヤになっちゃったの?」

陽子「い、いや、ごめん……声、漏れちゃってた」


陽子(心配なのは確かなんだけど、それより)

陽子(もっと二人と一緒にいたい、って私も思っちゃったりしてる)

陽子(……せっかくだし、ちょっと)

陽子「二人とも? 提案なんだけど……」

空太「?」

美月「どうかした、陽子お姉ちゃん?」

陽子「……えっと、さ」

陽子「ちょっと、海が混み合っちゃってるかもだけど……その」


陽子「海に行くの、土日とかに出来たりする?」


132 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/10(水) 16:31:15 yCztRqIE



――数日後・土曜日


陽子「あれ? この道、左だっけ?」

綾「ええ、合ってるわ。それで大丈夫よ」

陽子「サンキュ。いい助手だね、綾は」

綾「あ、ありがと……でも」

綾「ねえ、陽子? もう少し、速度下げてもいいんじゃない?」

陽子「そう? でも、標準速度ギリギリだと後ろとかに迷惑だし」

綾「そ、そういうものなのね……」

陽子「あれ? 聞いたことない?」

綾「わ、私、ペーパーだから」


空太「美月、酔い止めあるからね」

美月「あ、ありがと……でも、今日は大丈夫だから」

空太「……それ。ちょっと嘘、かも」

空太「昔、そう言いながら、結構あぶないことになったし」

美月「お、お兄ちゃん。そういうことばっかり覚えてるんだから」プイッ

空太「妹だし、心配するのは当たり前」

美月「……うう」カァァ


133 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/10(水) 16:33:12 yCztRqIE
綾「――後ろの二人は、いつも通りね」

陽子「仲良しだろ?」

綾「……改めて、誘ってくれてありがとね」

陽子「まあ、この前のプールは一緒に行けなかったし」

陽子「こういう機会があればって思ってたんだ」

綾「そうね、私も一緒に来れて嬉しいわ」

綾「……ただ」

陽子「?」

綾「今更だけど……」

綾「男の人と、こうして一緒に、ちょっと遠くに行くのって初めてかも……」カァァ

陽子「……空太は、たしかに男の子だけど。綾はお姉ちゃんみたいなものだろ?」

綾「ホ、ホントのお姉ちゃんと『みたいなもの』は違う、かもって」

陽子「そっか。綾も、ちょっぴりフクザツなんだなぁ……」

陽子「でも、一つだけいい?」

綾「?」

陽子「……えっと」チラッ

綾「後ろ……?」


美月「……」

空太「美月、眠い?」

美月「!」

美月「べ、別に、眠くなんて……」

空太「さすがに、車の中で膝枕したら、酔っちゃうかもだから」

空太「寝るなら肩、貸すよ?」

美月「……きょ、今日はいい、から」

美月「着くまで起きて……ふわぁ」

空太「いつでもいいから」

美月「……」

美月「そ、それじゃ、ちょっとだけ」

空太「うん」

美月「ホ、ホントに、ちょっとだけなんだからっ」

空太「また、嘘ついてる……」

美月「う、嘘じゃないもんっ」カァァ


綾「美月ちゃん……」

陽子「綾まで、そういう風になっちゃったら美月も困っちゃうからさ」

陽子「なるべく抑えてくれたらな、って」

綾「そ、そうね」

綾「これ以上、美月ちゃんの体温を上げちゃうわけには、いかないものね……」

陽子「頑張れ、『綾お姉ちゃん』」


134 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/10(水) 17:40:48 KDzzZlLg
>陽子「そう? でも、標準速度ギリギリだと後ろとかに迷惑だし」
陽子の役職は外回りの営業とみた。そういえば環七、環八ドライバー思考の女性って希少かもしれませんね。


135 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/10(水) 18:48:31 yCztRqIE
>>134
自分も、そんなイメージですね
何となく、陽子には車が似合うかなって

ここにきて、嘘つきブラザーズ(高1)のイメージがし辛くなってきました
我ながらTNPが悪くなったって、はっきりわかんだね


――到着後・砂浜

空太「……」

空太「やっぱりまだ来てない」

空太(美月の時も思ったけど、女子って着替えに時間かかるんだ……当たり前だけど)

空太「――疲れた」

空太(何とか陽子お姉ちゃんが駐車場を探し当てて、ギリギリ滑りこんで)

空太(そこから結構、歩いて……ちょっと、くたびれちゃったかも)


陽子「空太〜!」

空太「あ、陽子お姉ちゃん」

陽子「久々の海だなぁ……」

空太「今日は仕事のストレスとか発散できるといいね」

陽子「おお! 空太は優しいなぁ」ナデナデ

空太「……ど、どういたしまして」

陽子「……あれ?」

空太(そういえば、久々に誰かに撫でられたけど……)

空太(前に比べて、ちょっと照れくさい、かも)カァァ

空太(美月も、こんな感じなのかな)

陽子(空太、身長伸びたなぁ……ちょっと背伸びしないと撫でられなくなったんだ)

陽子(いや、そうじゃなくて。空太、撫でられた時、こんな顔してたっけ……?)


美月「……お、お兄ちゃんが撫でられてる」

綾「陽子、テンション上がりすぎよ……もう」

空太「あっ。二人とも」

綾「陽子ったら、途中から走って行っちゃうんだから……」

美月「陽子お姉ちゃん、さすがだよね……こんな暑いのに」

陽子「だってさ、綾? 久々の海だよ?」

綾「……ええ、海ね」

綾(周りの人、みんながスタイル良く見えるわ……目の前の子とか、特に)

美月「……海、だね」

美月(どうしよう、自信がホントになくなっちゃいそう……周りとか、陽子お姉ちゃんとか見てると)


136 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/10(水) 18:49:45 yCztRqIE
陽子「二人とも、どうかしたのかー?」

綾「う、ううん、何でも……」

美月「きっと、陽子お姉ちゃんには分からないのかも……」

綾「そうね。陽子にとっては、『普通』なんだものね……」

陽子「??」

空太「大丈夫、陽子お姉ちゃん。ぼくも分からないし」

美月「……お兄ちゃん」

空太「美月?」

美月「ちょ、ちょっとくらい、分かろうとしてほしいかもっ」プイッ

空太「……綾お姉ちゃん。美月、怒らせちゃった」

綾「そうね……」

綾「きっと、空太くんがちょっぴり悪いわね」

空太(……綾お姉ちゃん、何だか呆れちゃってる?)


空太「――それじゃ、とりあえずビーチパラソル立てるね」

空太「美月。ちょっと手伝ってくれる?」

美月「う、うん……」

陽子「私も手伝うよ」

綾「ええ、私も」

空太「大丈夫。二人は先に、海に行ってて?」

陽子「……え?」

綾「空太くん?」


空太「ぼくたちは夏休みだけど、二人は大切なお休みだし」

空太「面倒なことは、ぼくたちが引き受けるから。ね?」

美月「……!」

空太「ね、美月?」

美月「う、うん……」


陽子「……空太って、ホント」

綾「い、いい子ね……」

陽子「分かった。それじゃ、お言葉に甘えて」

陽子「綾? 先に行ってよっか」

綾「ええ、そうさせてもらいましょうか」

綾「それじゃ、また後でね。二人とも」

陽子「待ってるぞー」


空太「えっと……それじゃ美月、ここ支えてくれる?」

美月「……」

空太「?」

美月「う、ううん。なんでも」

空太「そう?」


137 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/10(水) 18:50:29 yCztRqIE
美月(……どうして私、こんなに落ち着かなくなっちゃってるの?)

美月(ううん、ホントは分かってる。だって……)

空太「今日は、みんなで一緒に楽しめるといいね。美月」

美月(妹の私から見ても……お兄ちゃんは、ホントに気が利いて)

美月(もしかしてすぐに、そ、そういう相手が……って)



――それから


空太「シートも敷いたし……こんな感じかな」

空太「それじゃ、ぼくたちも行こっか」

美月「……」

空太「美月?」

美月「え、えっとね、お兄ちゃん……」

美月「サンオイル、塗ってくれないかなって」

空太「……え?」

美月「ホ、ホントは! 陽子お姉ちゃんか綾お姉ちゃんに頼みたかったんだけど……」

美月「二人とも、先に行ってもらっちゃったから……だ、だから、お兄ちゃんに」カァァ

空太「……うん、わかった」

美月「あ、ありがと」


美月「そ、それじゃ、お願い」

空太(美月がシートの上にうつ伏せになった)

空太「うん。それじゃ、塗るね」

美月「やり方とか分かる?」

空太「何となく。美月相手なら、本気になれちゃうから」

美月「……も、もうっ」


空太「美月、気持ちいい?」

美月「うん……ホント上手だね」

空太「さっき言ったのって、嘘じゃないし」

美月「……知ってた」

空太「……」

空太「あ、でも」

美月「?」

空太「やっぱり……ちょ、ちょっと照れるかも、こういうの」カァァ

美月「ま、また、そうなっちゃうんだ……」

美月「もうっ。お兄ちゃん、どうして最初から気づかないの?」

空太「ごめん。つい、美月のことになると……」

美月「だ、だから、そういうのがっ!」カァァ


138 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/10(水) 18:50:57 yCztRqIE
空太「……ねえ、美月?」

美月「な、なに?」

空太「変なこと、聞いてもいい?」

美月「……い、いいよ」

空太「さっきの言葉、嘘だったんじゃないかなって」

美月「……」

空太「綾お姉ちゃんとか陽子お姉ちゃんじゃなくて」

空太「ホントは、最初から……ぼくに塗ってもらいたかった、とか」

美月「……」


美月「――もうっ」

美月「お兄ちゃんは、ホントに……デリカシーがないんだから」

空太「……どうしてかな」

空太「さっき美月が言った時、いつもだったら……すぐに嘘って言えちゃってたはずなのに」

美月「!」

空太「……あれ? どうしてだろ」カァァ

美月(顔が見えなくても分かる。お兄ちゃん、今……顔、赤くなってる)

美月(私も人のこと言えないんだけど……一つ、分かったことがある)


美月「……お兄ちゃん」

空太「?」

美月「結構、変わってるよ。前とは」

空太「……何かフクザツかも」

美月「私も、そうだけど……ちょっと嬉しいかなって」

空太「まあ、美月が嬉しいなら、それでもいいか」

美月「そうそう。そういうことで」

空太「……笑ってる?」

美月「笑ってないよ」

空太「美月、嘘つき」

美月「お兄ちゃんには敵わないけど……」


139 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/11(木) 00:56:59 .1mN/OMY


――それから・海


美月「……やっぱり、浮き輪で浮かぶのって楽しい」

綾「あら、美月ちゃん。気が合うわね」

綾「浮き輪って気持ちいいわ……」

美月「綾お姉ちゃんと私って気が合うよね」

綾「ええ。きっと、色んな意味で、ね」

美月「うん。多分、色んな意味で」

陽子(……どうして、重い視線を感じるんだろう?)


空太「……やっぱり、海とプールじゃ」

空太「ちょっぴり、泳ぐ感覚が違うかも……」

陽子「おっ、空太? 泳ぎたかったりする?」

空太「……泳ぐの好きだし」

陽子「そっか、それじゃ」

陽子「久しぶりに、勝負する?」

空太「……」

空太「いいよ」

陽子「お、乗り気だな」

空太「……今回は勝ちたいかなって」

陽子「……その顔、結構本気だな?」


綾「……つくづく、気が合うわね。私たち」

綾「私、そもそも、ああいう勝負とかしたくないもの……」

美月「私とお兄ちゃん、ホントに似たもの同士なのかな……」

綾「美月ちゃん……」


陽子「それじゃ、綾と美月に見てもらって」

陽子「あそこまで行って、ここに帰ってくるまでの往復……それでいい?」

空太「いいよ、わかった」

陽子「……燃えてるのは、美月にいいカッコ見せたいから?」

空太「ううん、違うよ」

陽子「……それ、嘘だな?」

空太「……うん。ホントは、そうなのかも」

陽子「もう……手加減、しないぞ?」

空太「それ、こっちのセリフ」


綾「……それじゃ、位置について」

美月「えっと……よーい、どんっ!」

陽子「行くぞ、空太っ!」

空太「うん、陽子お姉ちゃん」


綾「……行っちゃった」

綾「陽子に比べて、空太くんはいまいち燃えてなかった気がするけど」

美月「ううん。お兄ちゃんって見えない所で燃えてるから」

美月「でも、私の知ってる限り……こういう勝負の時って」

綾「やっぱり、陽子が勝っちゃう?」

美月「う、うん……」

美月「お兄ちゃんもなかなかなんだけど、陽子お姉ちゃんって……」

綾「まあ、それ以上なのかもね……あっ、陽子が先にターンしたわ」

美月「……お兄ちゃん」

綾「……やっぱり、空太くんに勝ってほしい?」

美月「べ、別に、そういうわけじゃ……」

綾「いいのよ? 空太くんを応援しても、絶対に陽子は喜ぶと思うし」

美月「あ、綾お姉ちゃん……そうじゃなくてっ」カァァ



――数秒後


陽子「……マジか」

空太「……ぼくの勝ち、みたい」

陽子「うん。空太の方が、速かった」

綾「タッチの差、だったわね」

美月「……ホ、ホントに、お兄ちゃん勝っちゃった」

陽子「いやー、参ったなぁ……」

陽子「結構、本気だったのに……」

空太「うん。ぼくは、結構じゃないくらい本気だったかも」

陽子「そっかー……いやー。さすがに、美月たちに見られてると燃えるんだなぁ」

綾「よ、陽子っ」

美月「……私。別に、お兄ちゃん、応援してないし」プイッ

空太「そうだよ。別に、美月たちに見られてるからって本気出したわけじゃないし」

陽子「……昔は全然分からなかったけど、最近わかりやすいよね。二人の嘘」

綾「それはきっと、陽子が大人になっちゃったからじゃない?」

陽子「綾は、あの頃から大人だったもんなぁ……」

綾「そ、そんなことないわよ」カァァ


140 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/11(木) 00:58:20 .1mN/OMY
空太「……美月」

美月「……お、お兄ちゃん?」

空太「えっと、その……嘘じゃなくて」

空太「ありがと。美月が見てくれてたから、本気出せた」

美月「……!」カァァ

空太「初めて、陽子お姉ちゃんに勝てたかも……それって、きっと」

美月「そ、それ以上はダメ……」

美月「私、もう……さっきのこともあって、色々、限界だから」

空太「……サンオイル?」

美月「い、言わないでっ!」プイッ


陽子「……負けて良かったのかな」

綾「あら、陽子。納得してなさそうな顔で、そんなこと言われても説得力ないわよ」

陽子「そりゃまあ……嬉しいけど、悔しいっていうか」

綾「ふふっ。陽子はずっと、素直なままね」

陽子「……あの二人は、素直なんだかそうじゃないんだか分からなくなってくけどね」


空太「……まあ、見てくれてたのが嬉しくて」

空太「美月がぼくを応援してくれてなくても、結果は同じだったかも」

美月「……ふーん」

美月「そっか。私、それなりに応援してたつもりなんだけど」

空太「……やっぱり、さっきの嘘だったんだ」

美月「……あっ」

空太「美月は、ちょっと引っかかりすぎだと思う」

美月「お、お兄ちゃんは、ちょっと引っかけすぎだと思う」


141 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/11(木) 17:48:09 .1mN/OMY
海編が長引きすぎました
大人組のノスタルジー的な描写も混ざってきて、これもうわかんねぇな


空太「……泳いで疲れた後の浮き輪って」

陽子「いいよなぁ、こういうの……落ち着く」

空太「やっぱり、陽子お姉ちゃん」

空太「今でも凄いけど、前に比べたら……」

陽子「ん。落ちたよ、体力」

空太「そっか……」


陽子「いいんだって。空太も、高校の頃が一番体力あったってコト」

陽子「数年後には、実感するから」

空太「……そうかな」

空太「何かまだ、そういう実感なかったりするけど」

陽子「そりゃ、私だって空太の頃は実感なかったよ?」

空太「……あ、でも」

空太「数年後、か……」

陽子「どした?」

空太「いや」

空太「その時……ぼくと美月って、どうなってるんだろって」

陽子「空太……」


美月「お、お兄ちゃん? 数年後のこと考えるより……」

綾「い、今、私たちが大変だってことに気づいてほしいかなって」

美月「バタ足、疲れた……」

綾「私も……」

陽子「……」

空太「……」

陽子「空太? 綾たちと浮き輪、交替してあげよっか?」

空太「うん。そうする」


142 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/11(木) 17:48:56 .1mN/OMY


――しばらくして


陽子「お。ビーチバレーコート、空いてるっ」

空太「ホントだ……」

陽子「丁度4人だし。やってかない?」

綾「……さっき、休憩したばかりなのに」

美月「うん。それに私、バレー苦手……」

空太「あれ、美月? バレー得意ってドヤ顔してなかったっけ?」

美月「!」


空太「そっか……あれもやっぱり、嘘だったんだ」

空太「美月とバレーってしたことないから、ちょっと興味あったんだけど」

美月「……綾お姉ちゃん、私やることにしたよ」

綾「そ、そう? そうね……それじゃ、私もやりましょうか」

美月「うん」

美月「そんなこと言うお兄ちゃんを、ギャフンと言わせてあげちゃうから」

空太「ギャフン」

美月「バ、バカにしてっ!」カァァ

綾(時々、空太くんが怖くなるわ……)

綾(美月ちゃんに嫌われない程度にからかうのが上手すぎて……)

陽子(天然な所とそうじゃない所で、結構違うんだな……空太)


陽子「それじゃ、チーム決めよっか」

綾「……とりあえず、私は陽子か空太くんとじゃないと」

美月「あ。私、お兄ちゃんか陽子お姉ちゃんじゃないと」

空太「……ギャフン」

美月「そ、それ、もうやめてっ!」

空太「美月と勝負しないなら、言えないし……」

美月「ムリに言わなくていいんだよ……?」


陽子「まあ、たしかに……そうじゃないと釣り合いは取れないかもだし」

陽子「それじゃ、こうして――」


143 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/11(木) 17:50:44 .1mN/OMY



――チーム決め後


陽子「綾、よろしくな」

綾「なるべく、足を引っ張らないようにするわね……」


空太「美月、頑張ろ?」

美月「わ、私。この前、アタック決めたし、それに……」

空太「嘘」

美月「さ、最後まで言わせてほしいかなって……」カァァ


陽子「それじゃ、とりあえず5点先取ってことで」

陽子「いくぞー」

空太「しまっていこー」

美月「それ、野球じゃないかな……」

綾(ボールが来ませんように、来ませんように……)


陽子「それっ!」

美月「わ、きたっ! ……えいっ」

美月(ちゃ、ちゃんとレシーブできた……あれ?)

美月(どうして上じゃなくて、右にボールが飛んでくんだろ……?)

綾(空太くんの所から全くの反対側に……)

陽子(まずは1点、かな?)


空太「――よいしょ、っと」

陽子「!?」

綾「!?」

美月「……え?」

空太「よし、入ったみたい」

空太「美月、ありがと。おかげで1点取れたよ」

美月「え、ええ……?」

陽子「……マジか」

綾「こ、空太くん……どうして取れたの?」

空太「美月がせっかく繋げてくれたボール、取れないなんて嘘だし」

美月「……お兄ちゃん」

陽子(……空太って)

綾(美月ちゃん絡みになると、ホントに……天才的なのね)


144 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/11(木) 17:51:55 .1mN/OMY


――結局


陽子「……ま、また、返せなかった」

綾「……嘘でしょ?」

空太「5ー0だよ、美月」

美月「……か、完勝しちゃったの?」

空太「うん。美月のおかげ」

美月(結局、まともに返せなかったのに……)

美月(気づいたら、全部お兄ちゃんにフォローされちゃってた)

空太「美月、バレー得意ってホントだったんだね。嘘だって思ってたけど」

美月(お兄ちゃんが、そう言ってくれるのも……明らかに嘘だって分かるのに)

美月(何故か、その時の私は――)


美月「……か」

空太「?」

美月「カ、カッコ良かった……ような気がしないでもないような気がしたよ」プイッ

空太「……嘘かホントかよく分からないけど」

空太「ありがと、美月」ニコッ

美月「う、うん……」カァァ


陽子「……さすがに自信なくしそうだよ、綾」

綾「陽子? 空太くんたちは特別なのよ……だから、仕方ないわ」

綾「――それより」

陽子「?」


145 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/11(木) 17:52:29 .1mN/OMY
綾「ますます……それこそ、普通の」

綾「カ、カップル? みたいに見えてきてるのが……ちょっとだけ」カァァ

陽子「……それなんだけどさ、綾」

綾「な、なに、陽子?」


陽子「……私、思うんだ。高校生だし、そういう時期もあるんじゃないかなって」

陽子「さっき、空太と話して……何となく思っちゃった」

綾「そ、そういうものなのかしら?」

陽子「綾だって、あの頃に比べたら、随分と落ち着いちゃったし」

綾「……そ、そう見える?」

陽子「うん」ニコッ

綾「あ、ありがと……」カァァ

綾(根っこの所じゃ、変われた気はしないんだけど、ね……)



――それから・帰りの車内


美月「……ふわぁ」

空太「……ふわぁ」

美月「マ、マネしないで……」

空太「いや、そうじゃなくて」

空太「ぼくも疲れちゃって……」

美月「……」

美月「そ、それなら」

美月「わ、私の肩、貸そっか?」

空太「……え?」

美月「い、いつも、してもらってばかりだし」

美月「それに……今日は色んなこと、嬉しかった、から」カァァ

美月「特別」

空太「……ありがと、美月」

空太「それじゃ、お言葉に甘えて……」

美月「……あ」

美月(お、お兄ちゃんが肩に……)


146 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/11(木) 17:53:43 .1mN/OMY
空太「……」

美月「……寝ちゃった」

陽子「珍しいなぁ、空太がそこまで疲れちゃうって」

美月「……き、きっと、今日のバレーのせいじゃないかなって」

陽子「あ、そっか……」


綾「美月ちゃん、大丈夫? 眠いんでしょ?」

美月「綾お姉ちゃん……」

美月「そうだけど、でも」

美月「私も寝たら、お兄ちゃんが困っちゃうから……ちょっと頑張る」

綾「そう……」

綾「ホントに、いいコンビね」クスッ

美月「……綾お姉ちゃんと陽子お姉ちゃんも、ね」

綾「わ、私と陽子は、ちょっと違うからっ!」

陽子「えー? いいコンビじゃないの?」

綾「よ、陽子は運転に集中してっ!」カァァ

陽子「わかったわかった……」


陽子「……」

陽子(ちょっと、懐かしくなっちゃった)

陽子(この海岸で「高校生の頃は……」なんて話してたら、あの時のこと思い出しちゃって)

陽子(ああ、まったく……)

陽子(ここと向こうじゃ、電話するのもちょっと大変だもんなぁ。お金的な意味で)

綾「……あの子たちが懐かしくなっちゃった」

陽子「綾……」

綾「この海、だったものね」

陽子「ホント……ああ。年なんて取りたくないなぁ」

綾「あら? 私は、それなりに楽しみだけど」

陽子「……綾」

陽子「実は、私もそうだったり」


147 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/11(木) 17:54:38 .1mN/OMY
綾「だって、ね?」

陽子「うんうん」


空太「……美月、可愛い」

美月「お兄ちゃん、そういうのは……って」

空太「これ、美味しいよ……美月」

美月「ね、寝言……」

美月「これじゃ、怒れないよ……」

空太「美月……怒ってる……?」

美月「お、怒ってないもんっ! ……って、また寝言」


綾「――あの子たちの成長していく姿、見れるんだもの」クスッ

陽子「ホント、どれだけ助けられてるんだろうなぁ……あの二人に」クスッ


148 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/11(木) 19:05:21 .1mN/OMY
ここから少し、夏休みの話の予定です
何かネタ案等ありましたら、是非ともオナシャス


――朝食


空太「プールも海も行っちゃったね、美月」

美月「うん……まだ始まったばっかりなのに」

空太「もう、終わっちゃった感あるよね……」

陽子「おーい、二人ともー? 学生時代の夏休みは二度と戻ってこないんだぞー?」

空太「……ごめん、陽子お姉ちゃん」

美月「い、いつも、お疲れさま」


陽子「まあ、後悔しないように、ノンビリ楽しめばいいんだって」

陽子「……きっと、高校時代って」

陽子「二人にとっても、今までで一番大事なものになるかもだから」

空太「……陽子お姉ちゃん」

美月「そ、それって、どういう?」カァァ

陽子「美月、私が言わなくても分かってるだろ? その顔じゃ」

美月「……きょ、今日も、暑いから」

空太「……」ピッ(←TVのリモコンの音)


ニュース『今日は久々に涼しい一日となりそうです!』


美月「」

空太「大丈夫だよ、美月。嘘としてはギリギリ一塁セーフ」

陽子「でも、ホームベースにまでは戻ってこれないかもってレベルかな」

美月「そ、そういう批評いらないからっ!」カァァ


149 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/11(木) 21:28:25 .1mN/OMY
空太「……陽子お姉ちゃんが、ああ言ってたし」

空太「美月。外、行こう?」

美月「……い、家の中でも思い出は作れるよ」

空太「たとえば?」

美月「えっと……あっ、そうだ」

美月「昨日、録画した映画観るとか」

空太「あ、それいいかも」

美月「ね? そうしよっ」

空太「そうだね、そうしよっか」

美月「うんっ」


――2時間後


空太「……」

美月「……」

空太「た、楽しかった、ね」

美月「う、うん」

空太「オチの付け方、どうするんだろって思ったら……意外だったかも」

美月「うんうん。そういう意外さが名作の証なんだよ。きっと」

空太「美月……嘘だよね?」

美月「お兄ちゃんこそ……」

空太「……気晴らしに外、行かない?」

美月「そ、そうしたいかも」

空太(まあ……ずっと家に居たそうにしてた美月にキッカケをくれたのは、感謝かも)

美月(何となく、お兄ちゃんに乗せられてるような気がする……)


150 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/11(木) 21:35:05 .1mN/OMY


――玄関前


美月「でも……何かすることあるの?」

空太「……うーん」

空太「何も考えてないけど、何となく……ずっと家にいるのがイヤで」

美月「……そ、それは、そうかもだけど」

空太「美月もそうだよね。だから……あっ」

美月「?」


空太「自転車」

美月「……サイクリング?」

美月「でも、私の自転車……壊れちゃってる」

空太「……嘘?」

美月「こ、これはホント! 嘘だって思うなら確かめてっ」

空太「どれどれ……あっ、ホントだ」

空太「そっか……どうしよう」

美月「……振り出しに戻っちゃったね」


151 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/11(木) 21:43:41 .1mN/OMY


――数分後


空太「美月。しっかり掴まってて?」

美月「……」

空太「うわ。風、気持ちいい……それじゃ、そこの河原走ろっか」

美月「……」

空太「美月?」

美月「――な」


美月「なんで、当たり前のように二人乗りしてるのっ!?」カァァ

空太「……ノリツッコミ?」

美月「そ、そういうわけじゃ……」

空太「美月だって、結構乗り気だったと思うけど」

美月「……そ、そうだったかも」

空太「イヤだったら降りてもいいよ?」

美月「そうしたら、お兄ちゃんだけ自転車で、どっか行っちゃうでしょ?」

空太「え? 『ずっと一緒にいる』って約束したよね?」

美月「……このタイミングで、それは言いっこなしだと思う」カァァ

空太「だから……一緒に二人乗りってことで、いいんじゃないかな」

美月「……そ、それじゃ」

美月「掴まるから……飛ばしすぎないでね?」ギュッ

空太「うん。そうする」


152 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/11(木) 22:02:10 .1mN/OMY
このSSの美月がポンコツすぎるんですが、それは大丈夫なんですかね?


空太「……よいしょっと」

美月「……」

美月(あれ?)

美月(何か自然に抱きついてるけど……こ、これって)

美月「お、お兄ちゃん」

空太「ん? どうかした?」

美月「……え、えっと」

美月「な、なるべく飛ばしてくれたらな、って」カァァ

空太「……嘘?」

美月「ほ、本気」

空太「そっか」

空太「それじゃ、ちょっと……速度上げるね」

美月「う、うん……お願い」

美月(せめて――二人乗りしてる所が周りから見えなくなってほしいかも)

美月(……あれ? ど、どうして私、降りようとしないんだろ?)

空太(……お巡りさんに見つかりませんように、っと)


――河原


男子「……ああ、疲れた」

女子「私も……」

男子「部活の買い出しって、結構めんどくさいな」

女子「まあ、来年までのガマンかも……男子テニスも、こういうの1年の仕事なんでしょ?」

男子「そっちもか。うん、それじゃ……あと、半年ちょっとのガマンか」

女子「そう言われると、長いような短いような……あれ?」

男子「? どうかし――」


美月「ちょっ!? お、お兄ちゃん、さすがに速いかもっ」

空太「そ、そう……それじゃ、落とす?」

美月「う、ううん……」

美月(これくらいの速さなら、大丈夫。知り合いとかにもバレないはず……!)

空太(なんだか……美月と一緒にいると、自然にテンションが上がるせいで)

空太(どんどんペースが走りがちになっちゃうかも……)

美月「わっ、わっ!? お、お兄ちゃん、足下がガタガタって……!」

空太「ご、ごめん、美月……」


男子「……」

女子「……」

男子「あれってさ」

女子「美月と猪熊くん」

男子「空太と猪熊さんだよな」

男子「……姿は、よく見えなかったけど」

女子「間違いなく……美月の声だったし」

男子「相変わらず、仲良しだよな」

女子「ホントにね」


153 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/11(木) 22:54:42 .1mN/OMY
煮詰まってきたって、はっきりわかんだね
書いてて楽しいのはホントですが……何か、提案とかあったらオナシャス
どんなものでも、嬉しいので


空太「美月、アイス一緒に食べよう?」

美月「……」

空太「美月?」

美月「……あ」

美月「ご、ごめん。ボーっとしちゃってた」

空太「……夏バテ?」

美月「そう、かも……」

空太「そっか……それじゃ、アイス食べよ?」

美月「……あ。このアイスって」

空太「いつも一緒に食べてたよね、これ」

美月「……綾お姉ちゃんが陽子お姉ちゃんに抱きつかれてた所、思い出しちゃった」

空太「……美月、よく覚えてるね」

美月「知らないフリしてるけど、それ嘘でしょ?」

空太「……」プイッ

美月「あっ。目、逸らした」


空太「……それじゃ、ここをこうして割って」

空太「はい、美月?」

美月「あ、ありがと……」

空太「うん」

美月「……」

美月(そういえば、あの時は)

美月(綾お姉ちゃんに「仲良しね……」なんて言われながら、食べたんだっけ)

美月(……仲良し、ってなんだろう?)チラッ

空太「美月。ぼくの残り、あげよっか?」

美月「……え?」

空太「いや、ぼくの方見てたから……食べたいのかなって」

美月「……」

美月(仲良し、って……こんな感じ、なのかな)


美月「そ、それじゃ……ほしいかな」

空太「……え?」

美月「?」

空太「いや……」

空太「ほ、本気で、ほしいって言われるって思ってなかったから……ごめん」カァァ

美月「……あ」

美月(そ、そっか……もう、お兄ちゃんが口付けちゃってるんだよね、これ)

美月(――わ、私、どうして気づかなかったんだろ?)

空太(うわ、何か熱い……やっぱり、ダメか)カァァ

空太(こういう風にからかうの、ぼくは苦手かも……)

美月(な、慣れないことするから……もうっ!)カァァ


154 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/12(金) 01:57:00 .FB7En/c
漫画によくある横向きながら自転車の後ろに座るのやったことありますけど、あれ足がブラブラなって怖いんですよね…

なんだか、ここまでイチャイチャされると、そろそろ次のステージに進みそうですね(ニッコリ)


155 : 明日はもっと楽しくなるよね、ハム太郎? :2015/06/12(金) 02:30:14 ???
やっぱり忍は二人追っかけてイギリス行ったんですかね?
そこらへんと絡めてもイイ…スゴクイイ


156 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/12(金) 16:52:40 aiBKxFxU
>>154
あー、あたしもー!(エ)
まず足が痺れて身の危険を感じますね。
次のステージより前のステージで、いつも悶々としてるイメージです、この二人は

>>155
その三人と、その他の本編キャラは登場予定です。
それでも一応、主役の二人からなるべく離れないように申し訳程度の工夫をしたいですね……



――美月の部屋


空太「……」ペラッ

美月「あ、こういう色の合わせ方も……」フムフム

空太「美月。このマンガ、続きってないのかな?」

美月「ああ、それ? それなら、もうすぐ発売だと思うよ」

空太「そっか……少女マンガって、意外と面白いよね」

美月「……お兄ちゃん、いつ頃から読み始めたんだっけ?」

空太「えっと……大体、中二くらいの時に美月から借りて、って感じじゃなかったかな」

美月「……」


美月(おかしい)

美月(それなりに少女マンガを読んでるはずなのに……どうして、お兄ちゃんには)

空太「いいよね。この辺りで、主人公が自分の気持ちに気付くシーンとか……」

美月(……ここまで、自覚がないのかなって)


美月(そもそも、何だか当たり前になっちゃったけど……)

美月(普通、同い年の兄妹がお互いの部屋で、ずっと一緒にいるってこと自体……)

美月(ううん、やめとこう。そもそも「普通」なら――)


157 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/12(金) 16:54:02 aiBKxFxU
美月、自立を図らんとするの巻



空太「美月?」

美月「!?」

空太「どうかした? ずっと、ぼくの方見てるけど……」

美月「な、何でもないよ?」プイッ

空太「そっか……それならいいんだけど」

美月「……」

美月(こうして――少し近づくだけで、声が裏返ったり顔が赤くなったりはしないわけで)

美月(まあ、いずれお兄ちゃんに相手が出来るまでの「特別」だし)

美月(……そ、そうだよね? 私?)カァァ

空太(美月、また口元押さえて顔真っ赤にしてる……)

空太(可愛いんだけど……兄としては少し心配かも)



――夜・美月の部屋


美月(私と入れ替わるようにして、お兄ちゃんがお風呂に入っていった……)

美月(――ダメ。今日は何故か……どうでもいいことばかり意識しちゃってる)

美月(た、例えば……私の後で、お兄ちゃんがお風呂に入ることが妙に引っかかったり)

美月(で、でも。兄妹なら当たり前すぎることで……だ、だから)カァァ


美月「――このままじゃ、マズい」

美月(綾お姉ちゃんたちが言ってくれるように、「高校生の時期は〜」が合ってるとしても)

美月(お兄ちゃんを意識しすぎてる今は……私が全然落ち着けなくて困る)

美月「……ケータイ」

美月(そうだ。電話してみよう……)


158 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/12(金) 16:56:54 aiBKxFxU


――次の日


空太「おはよ」

美月「あ、おはよ」

美月「……あっ、そうそう。お兄ちゃん?」

空太「?」

美月「えっと……わ、私、今日は友達と遊びに行くから」

美月「お兄ちゃんとは一緒にいられないというか……その」


空太「あっ、そうだったんだ……」

美月(お兄ちゃん……やっぱり、残念かな?)

空太「それなら良かった」

美月「ご、ごめんね……って」

美月「よ、良かった?」

空太「うん。昨日、美月に言い忘れちゃってて」

空太「今日は、ぼくも友達と遊びに行くこと」

美月「」


美月「そ、そうなんだ……ふーん」

空太「……美月?」

美月(あれ? どうして私、こんなにモヤモヤしてるんだろ?)

美月(……ああ、そっか)

美月(あんなに頭の中グルグルさせて、私は何やってたんだろって思ってるんだ……)

美月(そうだ。友達って……)

美月(何故か、また「あの夢」を突然思い出して……)


美月「ね、ねえ、お兄ちゃん?」

空太「?」

美月「そ、その友達って……じょ、女子なのかな、って」

空太「……」

美月「べ、別に、女子でも……いや。お、お兄ちゃんが誰と遊びに行っても」

美月「それは、お兄ちゃんの自由だし……だ、だから」

空太「……美月」


159 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/12(金) 16:57:36 aiBKxFxU
空太「違うよ。相手は男子」

美月「……あ」

美月「そ、そっか……ごめん、変なこと、聞いちゃって」カァァ

空太「大丈夫。気にしてないよ」

美月「……うん。ありがと」

空太「……」


空太(からかって、「そうだよ」って言おうかと思った)

空太(いつもみたいに、そうやって……嘘ついて、美月に怒られて)

空太(それなのに……気づけば、ホントのことを言っちゃってた)

空太(何となく、理由は分かる気がする――)


美月「男子だったんだ……そっか、そっか」


空太(――目の前で、ホントに安心したって感じの美月を見てると)

空太(これから……「こういう意味」の嘘はつけなくなるかも、って思ったりした)


160 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/12(金) 17:28:20 aiBKxFxU
絵じゃないと表現し辛いシーンすぎる。



――玄関前


空太「それじゃ、行ってきます」

美月「行ってきます」

空太「……」

美月「……」

空太「ぼくは、こっちだから」

美月「私、あっち」

空太「そっか。それじゃ、またね」

美月「うん……」


美月「……」トコトコ

空太「……」テクテク

美月「……」チラッ

空太「……」チラッ

美月「……ど、どうかした?」

空太「美月も、どうかした?」

美月「ううん、何でも……」

空太「うん、ぼくも……」

美月「そっか。それじゃ、またね」

空太「うん」


美月「……」トコトコ

空太「……」テクテク

美月「……」チラッ

空太「……」チラッ

美月「……やっぱり、何かあるでしょ?」

空太「ううん、何にも……」

美月「うん、私も……」

空太「それじゃ、またね」

美月「うん」


161 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/12(金) 17:30:59 aiBKxFxU


――数十分後


空太「……ご、ごめん。ちょっと遅れちゃって」ズーン

男子「い、いや、それは大丈夫なんだけど……」

男子「やけに疲れてないか?」

空太「ちょ、ちょっと、美月と色々」

空太「あと、首振り過ぎちゃって、頭がクラクラする……」

男子「また、猪熊さんを困らせたのか……」

空太「い、いや、違う。困らせたというか、どっちも困っちゃったって感じで……」カァァ

男子「……猪熊さんも可哀想に」



――同時刻


美月「……」ズーン

女子「美月? アクエリ買ってきたから、飲んでいいよ」

美月「……あ、ありがと」

女子「大丈夫? 何か顔色悪いけど……ホントに疲れたんだね」

美月「……お、おに」

美月「あっ、いや。こ、空太と、ちょっと……」

女子「いや、もう『お兄ちゃん』呼びしてるの分かってるから……ムリしないで?」

美月「……わ、わかった」

美月「えっと……お、お兄ちゃんも私も、何回も首振っちゃって、そ、それで……」

女子「……猪熊くんも大変そうだね」

美月「お、お兄ちゃんだけじゃなくて、私だって……」カァァ

女子「美月、こぼしてるこぼしてる」


162 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/12(金) 20:25:08 aiBKxFxU


――服屋


女子「……あ。これとか美月に似合いそう」

美月「そ、そうかな?」

女子「今日のワンピも可愛いし」

美月「あ、ありがと……」

女子「そういうライトブルーもいいけど、ちょっとイエロー入ってるのもいいんじゃない?」

美月「……そうかもだけど」


美月「今、着てるのって……『似合う』って褒めてくれた色合いだから」

美月「なるべく、そんな感じの方で揃えたいかなって」

女子「そうなんだ……へえ」

女子「誰に褒められたの?」

美月「……そ、それは、家族だよ」

美月「えっと、お母さんとか、お姉ちゃんとか……」

女子「そっか。それだったら、頼もしいね」

美月「う、うん……」

女子「それじゃさ、こんな感じのヤツ?」

美月「あっ、それいいかも」

女子「うんうん。試着してみなよ」

美月「ありがと。それじゃ、そうしよっかな」

女子「待ってるからさ」ニコッ

美月「うんっ」ニコッ

美月(ああ、ホントにいい子だなぁ……)

美月(嬉しくなりながら私は、試着室へと向かおうとして――)


女子「……きっと」

女子「猪熊くん、また褒めてくれるよ」

美月「あ、私もそう思うん……だ……」ピタッ

女子「あ、図星」

美月「……ち、違うもん」

女子「嘘」

美月「……うう」カァァ

女子(猪熊くんじゃなくても、美月の嘘って分かりやすいんだよね……)


163 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/12(金) 20:41:26 aiBKxFxU
相手の男子はノンケです(予防線)


――クレープスタンド前


男子「……これ、美味いな」

空太「だよね、美味しいよね」

男子「普段、甘いものってあんまり食べないけど……」

空太「ぼくも美月の付き合いじゃなかったら、そんなに食べないかも」

男子「……猪熊さんの付き人か何か?」

空太「ううん。双子の兄ってだけ」

男子(「だけ」で済めばいいんだけどな……コイツはともかく、猪熊さんが)


空太「……あ」

男子「?」

空太「口元、クリーム付いちゃってる」

男子「おう、そっか……うわ、ティッシュとか持ってきてないな」

空太「持ってるよ、ティッシュ」

男子「おう、悪いな。貸してくれ――」

空太「取ってあげよっか?」

男子「」


空太「……どうかした?」

男子「ど、どうもこうもないっ」

男子「じ、自分でやるから」

空太「――あ、そっか」

空太「ご、ごめん……こういうのってダメだって、美月にも言われてたのに」カァァ

男子「た、頼むから、そこで照れないでくれ!」


男子「……取れたか?」

空太「うん。大丈夫」

男子「そっか、良かった……」

男子「ところで、空太?」

空太「?」

男子「……今のって、猪熊さんにもやってるんだよな?」

空太「……ちょっと前までは、そうしてたんだけど」

空太「最近は、どうも照れくさくなっちゃって……」カァァ

男子「きっと、それでいいんだよ……多分」

男子「……今みたいなのは、結構キツかったぞ?」

空太「ご、ごめん……反省する」

男子(……猪熊さん、今の俺よりずっと苦労してるんだろうな)


164 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/12(金) 21:07:52 aiBKxFxU
美月(よくわからないけど、なんだか……電波みたいなのを感じたような)

女子「美月? どうかした?」

美月「う、ううん、何でも……」

女子「そう? それじゃ、入ろっか」

美月「うん」

美月「レストラン、だよね」

女子「うん。うちのOGのお父さんのお店らしいんだ」

美月「テニス部の?」

女子「うん」

女子「この前、うちのコーチに来てくれたんだ」

美月「へえ……いい人なんだね」

女子「ホントいい人だよ」

女子「……でも今はOLさんらしいから、今日は会えないかも」

美月「あっ、そうなんだ……」

女子「まあ、とりあえず行ってみよっか」

美月「うん」


――店内


「いらっしゃいませー!」

女子「」

美月「……あれ?」

「何名様……って。あれ?」

女子「ど、どうも……」

「えっと……テニス部の子だよね? たしか」

女子「は、はい。この前は、どうもありがとうございました」

「う、ううん。とんでもないよ」


美月(……なんだか、見たことがあるような)

美月(たしか……陽子お姉ちゃんの)

「あれ? そっちはたしか……」

美月「あっ。い、猪熊美月です」

「猪熊……って、もしかして」

美月「陽子お姉ちゃ……い、猪熊陽子の妹です」

「やっぱり……陽子ちゃんの」

女子(……美月、知り合いなのかな?)


女子「……あの、ところで」

「なぁに?」

女子「その……お仕事、お辞めになったんですか」

女子「――松原先輩」

穂乃花「……や、辞めてないよ?」

女子「それじゃ、どうして……ウェイトレスに?」

穂乃花「きょ、今日は土曜で……仕事、休みだから」

女子「あ、そっか……」

美月「そういえば……」

穂乃花「……ああ、学生の頃に戻りたいな」

穂乃花「そうだよね? 夏休みだし、曜日感覚要らないもんね……」

美月(なんだろう……ちょっぴり、陽子お姉ちゃんと似た雰囲気を感じちゃう)


――それから・テーブル


穂乃花「お冷、お持ちしました」

女子「ありがとうございます」

美月「……あ、ありがとうございます」

穂乃花「……ああ」

穂乃花「ダメ……なんだか、後輩の前でこういうのって慣れないなぁ」

美月「そ、それだったら、もっと……砕けた感じでいいと思います」

女子「私も」

穂乃花「はぁ……他にお客さまもいらっしゃらないし、そうさせてもらっちゃおうかな」


165 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/12(金) 21:42:31 aiBKxFxU


――数分後


穂乃花「おまたせ。特製のスープだよ」

美月「わっ、美味しそう……」

女子「ありがとうございます……やっぱり、そっちの方が私たちも落ち着きますし」

穂乃花「ふふっ、ありがとね」


穂乃花「まあ、私が何でこうしてるのかっていうと……」

穂乃花「うちの父の手伝いなの」

美月「お父さんのお手伝い……」

女子「お休みの日に、お疲れ様です……」

穂乃花「ありがと。まあ……もしかしたら」

穂乃花「今の仕事で、経験とか資金とか持てたら」

穂乃花「いずれ、後を継いじゃうかもしれないから……こういう経験もアリなのかなって」

美月「……このお店を?」

穂乃花「うん。ここは、私にとっても色んな意味で思い出深いお店だから」

女子「……壁に色んな写真、飾ってありますね」

美月「たしかに、思い出がいっぱいありそう……」

穂乃花「うん。高校の頃から撮ってきた写真を、ね」

穂乃花「まあ……少し思い入れもあって、高校の頃のものが多めかな」

美月「へえ……あっ」


美月「えっと……ほ、穂乃花、さん」

穂乃花「なぁに? えっと……美月ちゃん?」

美月「あちらの写真って……もしかして」

穂乃花「あっ、美月ちゃん……あの子と知り合いだったっけ?」

美月「はい……穂乃花さんの隣にいる金髪の人なら」

穂乃花「そっか……わわ、一気に懐かしくなってきちゃった」

女子「どれどれ……わっ。可愛い人だね」

穂乃花「ふふっ、可愛いでしょ?」


穂乃花「……その子はね」

穂乃花「昔、この店で、ちょっとだけバイトしてくれたの」

穂乃花「ふふっ、思い出しちゃうなぁ……」

女子「……松原先輩、仲良しだったんですね」

穂乃花「ま、まあ、仲良し……だったのかな」

穂乃花「でもね。私にとって、あの子は……お、お姫様、みたいなイメージで」カァァ

穂乃花「仲良し、だったんだけど……どっちかって言うと、憧れてたのかも」

美月「……穂乃花さん」


穂乃花「――あの子はね、高校を卒業したら遠くに行っちゃって」

穂乃花「私は……やっぱり、寂しかったかな」

穂乃花「今では、あの時の気持ちごと、全部が大切だったんだって思うんだけど、ね」

女子「……松原先輩」


穂乃花「あっ! このままじゃ、スープが冷めちゃう」

穂乃花「ごめんね? 長話になっちゃったかも」

女子「……いえ、ありがとうございます」

美月「こちらこそ」

穂乃花「……ありがとね、二人とも」

穂乃花「そ、それじゃ……ごゆっくり!」

美月(そう言いながら、穂乃花さんはせかせかと厨房に向かっていった)


女子「……これ、美味しいね」

美月「うん。これ、穂乃花さんが作ったんだよね?」

女子「そうだと思う。この出来だったら……」

美月「このお店、継げると思う」

女子「……うん」

女子「あんなに嬉しそうに、このお店の思い出話をする先輩なら……継いだ方がいいんじゃないかって」

美月「私も、そう思うかな……」

美月(そっか、穂乃花さん……あの頃の思い出、そんなに大事にしてるんだ)


――二人にとっても、高校の頃って……特別になると思うから――


美月(――陽子お姉ちゃんの言ってたことって、正しいのかも)


166 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/12(金) 22:23:27 aiBKxFxU


――それから


美月「……ウェイトレスかぁ」

女子「え? 美月、着てみたい?」

美月「わ、私……そういうの苦手だから」

女子「そうかなぁ……美月だったら、何でもできちゃうって思うけど」

美月「……そう思う?」

女子「何となくだけど」

女子「きっと猪熊くんなら、絶対にそう言うと思うよ?」

美月「……そ、そこで、お兄ちゃんの話になっちゃうんだ」

女子「ううん。猪熊くんの話をするつもりはないけど……」

女子「美月のウェイトレス姿なら見たいんじゃないかなって」

美月「……お、お兄ちゃんにだけは見せたくないかも」

女子「そう?」


穂乃花「二人とも、おまたせ。特製ドリンクに……」

女子「松原先輩。美月が、ここでちょっとだけバイトしてみたいって……」

美月「……え!?」

穂乃花「バイト……?」

女子「はい。さっき、先輩のお話をお聞きしてから……」

美月「……!?」

穂乃花「……バイト、ね」

穂乃花(こういう、飛び入りのバイトって……あの子以来かも)


穂乃花「うん、それじゃ……いいよ」

美月「……え?」

女子「いいんですか、先輩?」

穂乃花「うん、なんだか……懐かしくなっちゃって」

穂乃花「それに、美月ちゃん……あの子と背格好が近いし」

美月「……そ、それ、理由になるんですか?」

穂乃花「ううん。何となく、そう思ったの」


穂乃花「それじゃ、美月ちゃん。更衣室、案内するね」

美月「……ほ、本気ですか?」

穂乃花「……懐かしくなったのは、ホントだよ」

美月(穂乃花さん……なんだか、凄く楽しそう)

美月(そ、それなら……仕方ない、かも)

女子「美月、頑張れー」

美月「……や、やってみる」

穂乃花「あっ。意外と乗り気?」

美月「……お、面白そうかもって。ちょっとだけ」

穂乃花「ふふっ。面白いよ、きっと……」


167 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/12(金) 22:23:58 aiBKxFxU


――その頃


男子「それじゃ、ここ行ってみるか」

空太「……レストラン?」

男子「うん。ファミレスより美味いかもって」

空太「そうだけど……結構、値段張りそうかも」

男子「……空太、普段から猪熊さんとクレープ食べてるだろ?」

空太「そ、それは、そうだけど……」

空太「あれは……美月が喜ぶならって感じだし」

空太「ぼくも楽しんでるけど、それよりも……美月が楽しいかって」

男子「わかった。それじゃ、とにかく入ろう」

空太「……そうしよっか」

男子(これ以上……ノロケ話みたいなのを聞かされるのは、ちょっとキツい)

男子「それじゃ、開けるぞ?」

空太「うん、いいよ」


美月「い、いらっしゃいませっ、お客様っ!」

男子「」

空太「」

美月「テ、テーブル席にご案内を……って」

美月「」

空太「……み、美月?」

美月「……ど」

美月「どうしてお兄ちゃんがっ!?」


――それから


男子「へぇ……猪熊さんが、ちょっとだけバイトを」

女子「そうそう。まあ、私と松原先輩が勧める感じだったんだけど」

男子「そっか。何となく引っかかってたんだけど……松原先輩の店だったか」

空太「……美月。ウェイトレス姿、似合ってた」

美月「……も、もう、二度とお兄ちゃんの前ではやらないからっ」

空太「え? ……ちょっと残念かも」

美月「ざ、残念より、恥ずかしいのっ!」

空太「そっか……写真、撮っとけば良かったかも」

美月「……も、もう着ないからっ!」

女子「……この二人は、相変わらずだね」

男子「何というか……きっと、しばらくはこんな感じだと思う」



――厨房


穂乃花「よいしょっと……こんな感じかな?」

穂乃花「うん。いい感じの出来……これなら、今来た子たちにも好評かも?」

穂乃花「……」


穂乃花(あの子たち、みんな知り合いだったんだ……)

穂乃花(なんだか青春って感じで、いいなぁ)

穂乃花(……遠くに行っちゃったあの子たちは、今、どうしてるんだろ?)

穂乃花(また帰ってくることがあったら――うちのレストラン、寄ってほしいな)

穂乃花(出来れば、私の暇な土日とかに、ね……)


美月「……お、お兄ちゃん? 新しい服、買ったんだけど」

空太「え? そうだったんだ」

美月「……お兄ちゃんには見せてあげないから」

空太「……」

美月「ど、どうせ、からかって……写真ばっかり撮るんでしょ?」

空太「……美月がイヤなら、やらないけど」

美月「……う、嘘ばっかり」

空太「嘘つきは美月。ホントにぼくに見せたくないなら、そもそもそんなこと自体、言わないし」

美月「……!」

空太「それじゃ、後で……楽しみにしてるね」

美月「……お、お兄ちゃんのバカ」


男子「……やっぱり仲良しだなあ」

女子「まあ……いつも通りだね。二人とも」

穂乃花「みんなー、お料理持ってきたよー」


二人と二人の友達の話は、ここまでです。


168 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/12(金) 23:32:26 aiBKxFxU
あっ、そうだ(唐突)
何かリクエスト等あったら、何でも書いていってほしいです
その場合、現時点でこのSSに出てないキャラ以外のものだったら、何でも出来ると思うので

以下は、ちょっとした付け加えです。


――それから


穂乃花「それじゃ、気をつけてね、みんな」

女子「はい。ありがとうございます、先輩」

男子「いつも、女子テニス部がお世話になってます」

女子「……同い年がそれ言っちゃうんだ?」

男子「ホントなんだから、しょうがないだろ?」


穂乃花「二人とも、ありがとね」

穂乃花「なんだか、同じ高校の子たちと会うと……ちょっと寂しいけど、凄く嬉しいから」

穂乃花「また、練習に付き合ってあげられると思うし。待っててね?」

女子「……その時は是非、日暮先輩も誘ってくれたら嬉しいです」

穂乃花「香奈ちゃんかぁ……うん。都合が合ったら、一緒に行ってあげたいかな」

女子「先輩方のご指導、凄く……参考になったので」

穂乃花「わ、私は玉乗りの方が得意だし……実際あの時だって、香奈ちゃんの方がよくしてくれてたと思うよ?」

女子「松原先輩も、とても評判いいですよ? 女子テニス部で」

穂乃花「……て、照れちゃうな」カァァ

穂乃花「あの頃、こんな風に……年の離れた後輩に好かれちゃうなんて思ってなかったから」


空太「えっと……穂乃花さん」

穂乃花「あっ……えっと、空太くん? だよね」

空太「はい。……うちの姉が、お世話になってました」

穂乃花「そ、そんなことないよ」

穂乃花「陽子ちゃんって、凄く……可愛くて、カッコ良かったから」

空太「……やっぱり、そうだったんですか」

美月「たしかに……カッコ良くて可愛いです」

空太「……美月って、陽子お姉ちゃんのことだと結構、素直だよね」

美月「お、お兄ちゃんにだって、それなりに素直だと思うけど?」

穂乃花「……ふふっ。二人は仲良しだね?」クスッ

空太「……結構、仲良しかもしれません」

美月「……それなりだと思います」

空太「それなりなんだ、美月?」

美月「……じゃ、じゃあ、何て言ったらいいの?」カァァ

空太「うーん……凄く?」

美月「お、お兄ちゃんだって、そう言ってないし」

空太「……凄く、仲良しかもしれません」

美月「こ、このタイミングで言い直しちゃうのっ!?」


穂乃花「……ホントに仲良しなんだね、二人は」

男子「ああ、まあ……双子ですし」

女子「そうだよね、双子だもんね」

穂乃花「……そっか。よく似てるもんね」ニコッ


ここまでです。


169 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/13(土) 20:09:02 .jUouJeo


――空太の部屋


空太「……」

美月「……」

空太「美月。そこの空欄、間違えてると思う」

美月「え……あっ、ホントだ」

美月「お兄ちゃんも。そこ、計算ミス」

空太「あっ、そっか……」

空太「ありがと、美月」

美月「こっちこそ、お兄ちゃん」


美月「……お兄ちゃん」

空太「なに?」

美月「普通、宿題って……こうやって進めるものじゃないって思うんだけど」

空太「でも、こっちの方がずっといいんじゃないかな?」

空太「おかげでお互い、ミスが凄く減ってると思うし」

美月「そ、それはそうだけど……」

美月(そもそも、私かお兄ちゃんの部屋でやることが習慣づいちゃって……)

美月(これじゃ……きょ、共同作業みたいな感じじゃ)カァァ

美月(ダ、ダメ! そういうのなし!)

美月(宿題なんだから。集中、集中……)ブンブン

空太(美月、また首振ってる……何かイヤなことでも考えてるのかな)


170 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/13(土) 20:09:19 .jUouJeo
空太「――でもさ」

美月「な、なに?」

空太「こうして、夏休みの宿題やってるだけでも」

空太「なんだか……夏のイベントって感じで楽しいかも」

美月「お、お兄ちゃん……それはプラス思考すぎるんじゃないかな」

空太「まあ美月と一緒じゃなかったら、つまらなかったと思うけど」

美月「そ、そういうのなし? ね?」


空太「……そう考えると、陽子お姉ちゃんも大変だったんだろうなぁ」

美月「わざわざ綾お姉ちゃんが心配して、家に上がってくるくらいだったもんね」

空太「ぼくは美月がいて良かった」

美月「……わ、私、お兄ちゃんがいなくても、ちゃんと楽しく出来たと思う、かな」

空太「嘘」

美月「い、いや。嘘ってわけじゃ……」

空太「そうだったとして、ぼくも出来たと思うけど」

空太「楽しい、なんて絶対に感じなかったと思うし」

美月「……も、もう、お兄ちゃんったら」カァァ


美月「普通、宿題なんて楽しくないものだよ?」

空太「美月。空欄の答え、ズレてる」

美月「……!」パキッ

美月「お、お兄ちゃんが集中させてくれないからっ!」パキッ

空太「美月。シャー芯、全部折れちゃう……」


171 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/13(土) 20:47:45 .jUouJeo
空太「……」

美月「……」

>〇〇高校ピッチャー、構えて……投げたっ!

空太「うわ、速い……」

美月「ホント――わっ! 打っちゃった」

空太「ヒットだね……ショート、抜けた」

美月「わわっ、二塁まで行っちゃった……凄い」

空太「このピッチャー、ドラフト候補って噂なんだけど……ダークホースってヤツかな」

美月「凄い、なんだか……野球マンガ見てる気分」


陽子母「二人とも、仲良しだねえ……」

空太「あ、お母さん」

美月「お母さんも観る? 今、ツーアウトツーストライクで、いい所だよ?」

陽子母「……美月は運動苦手なのに、野球は好きなんだよね」

美月「……お、お兄ちゃんに付き合ってる内に、何となく」カァァ

空太「美月が一緒に盛り上がってくれるから、ついつい……」

美月「……もう」プイッ

陽子母(……我が子ながら、最近、どうにもこうにも二人から甘い感じがするんだよね)


陽子母「……そんな二人にプレゼント」

陽子母「はい。冷やしソーメン」

空太「わっ。ありがと、お母さん」

美月「いかにも夏って感じ……」

陽子母「陽子から『二人の夏休みを応援してやってほしい』って言われちゃって……」

美月「陽子お姉ちゃん……」

空太「……ホント、いいお姉ちゃんだよね」

陽子母「陽子、羨ましがってたよ? 今日の試合、私も観たかったって……」

陽子母「まあ、イヤイヤ言いながら会社に行ったんだけど……二人も、満喫しないとダメだからね?」

美月「……うん」

空太「そうする――あっ、美月。CM終わったよ」

美月「あ、ホントだっ!」

陽子母(まあ……これくらい楽しんでたら、満喫してるのかもね)


172 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/13(土) 21:31:58 .jUouJeo
空太「応援してた高校の勝利祝いで」

空太「スイカ、買ってきたよ」

美月「……どっかに行っちゃったと思ったら、スーパー行ってたんだね」

空太「とりあえず、縁側で食べよう?」

美月「うちって縁側なんてあったかな……」

空太「あ、そっか。……それじゃ、仕方ない」

空太「この窓から庭に向かって、ってことで」

美月「……お兄ちゃん、夏のイベントをこなすのが頭のなかいっぱいで)

美月「ちょっと、ツメが甘くなっちゃってるよね」

空太「……そんなことない」カァァ

美月(わ、お兄ちゃんが照れてる……こういう照れ方って、ちょっと珍しいかも)

空太「美月と一緒にいるのが楽しすぎるから……」

美月(……ゆ、油断しちゃダメだね、私も)


空太「ここをこうして……っと」

美月「……お兄ちゃん、包丁使ったことあったっけ?」

空太「お母さんとかの手伝いで、少しだけ」

空太「美月、使ったことある?」

美月「……私もお兄ちゃんと同じだから」

空太「そっか。それじゃ、ぼくが切ってあげるね」

美月(……ホントの所、少し心配だった)

美月(包丁初心者が、スイカを切るのは素人からしたって難しいとしか思えなくて)

美月(――でも同時に、私はどこかで安心していた)

美月(何故かといえば、それは……)


空太「よいしょ、っと」ストン

空太「ふぅ……何とか、キッチリ切れた」

美月(こと、私絡みになると……とんでもなく上手になっちゃうことを知ってたから)

美月(ツインテールにしてくれた時も、バレーで私をフォローしてくれた時も……)

美月(あっ、ダメ。また、顔が……)カァァ

空太「美月? 塩、いるよね?」

美月「……お兄ちゃんは、ちょっと本気出しすぎだと思う」

空太「……美月が近くにいなかったら、ちょっとダメだったかも」

美月「うう……嬉しいけど、何だか」

空太「?」

美月(もしかして……私だけが意識しすぎなのかな?)

空太(昔に比べたら、何となく……どうして美月が照れちゃうのかが分かるような気がしてきたかも)

空太(とりあえず、後で綾お姉ちゃんに電話して聞いてみようかな)


空太「……美味しいね」シャリシャリ

美月「う、うん……」シャリシャリ

空太「このスイカ、やっぱりタネ多い」

美月「タネが多いのって、美味しいってしるしじゃなかったっけ?」

空太「そっか。一応、スーパーで色んなスイカ叩いたんだけど」

美月「いい音がしたの、買ってきてくれたんだ……」

空太「うん。こういうの初めてだったけど、結構いいね」

美月「……言ってくれたら、私も一緒に行ったのに」

空太「美月、さっきの応援で疲れちゃってたから。ぼく一人のがいいかなって」

美月「……お兄ちゃん」

美月(ちょっと気が効きすぎてるんだよね、こういう時……)


空太「――せっかくだし」

空太「夏のイベントとして、スイカの種とばし、っていうのやってみない?」

美月「……え?」

空太「いや。こういうのって、夏の思い出みたいだし」

美月「えっと……ちょ、ちょっと恥ずかしいかも」

空太「そう?」

美月(少し前なら出来たと思うけど……高校生になった今じゃ、ちょっと)

美月(むしろ、同い年のお兄ちゃんが……どうしてそんなに乗り気なの?)


173 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/13(土) 21:32:41 .jUouJeo
空太「――それじゃ、やってみようかな」

美月「!?」

空太「せーの……せっ」

空太「……結構、飛んだかな?」

美月「……や、やっちゃうんだ」

空太「田舎の高校生とか、普通にやってるみたいだよ?」

美月「そ、それは、そうかもだけど……」

空太「美月もやってみない?」

空太「ぼくの記録越せたら……何か、してあげようかなって」

美月「……お兄ちゃん、そんなに私にやらせたいの?」

空太「ううん。美月次第」

美月「嘘」

空太「嘘かもね」

美月(う……い、意識してないんだろうけど、この余裕の顔つき……)

美月(何だか、カチンと来ちゃったよ……)


美月「そ、それじゃ……」

空太「いっせーの」

美月「……せっ!」

美月(それなりにしっかりと飛ばせた。飛距離は、どうだろう?)

美月(……結局、私の記録は)


174 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/13(土) 21:33:26 .jUouJeo


――その後・美月の部屋


空太「美月? 今度は、この辺り揉む?」

美月「……う、うん」

空太「背中の中心辺り、ちょっと固くなってるね……」

美月「あ、あまり……運動してないからかも」

空太「そっか。それじゃ、明日からまた外に出よう?」

美月「……い、いいけど」


美月「――どうして私、マッサージされちゃってるのかな?」

空太「美月が、そう言ったから……」

空太「ぼくの飛ばした記録、超えられちゃったし。ご褒美ってことで……」

美月「……うう」カァァ

美月(す、凄く恥ずかしいけど……お兄ちゃんが上手すぎて)

美月「お兄ちゃんって、本気になるところが分かりやす過ぎるよ」

空太「美月が近くにいてくれたら、どんな仕事でもこなせちゃうかなぁって」

美月「も、もう!  ……あ、そこ。もう少し、上の方」

空太「ここ? ああ、たしかに凝ってるね……よいしょっと」

美月「わっ!?」

美月「……ちょ、ちょっと気持ちよすぎ」

空太「これくらいの力加減でいいんだ……よいしょっと」

美月「わ、わっ!?」


美月(――結局)

美月(お兄ちゃんに、背中のほとんどをマッサージされちゃって……)

美月(相変わらず、私相手だとプロ並になっちゃうお兄ちゃんだったから、色んな所が軽くなっていた)

空太「……ふぅ」

空太「美月、色んな所、凝っちゃってた……もう少し、運動した方がいいかもね」

美月「わ、私、お兄ちゃんと違って運動苦手だから」

空太「……そっか」

空太「それじゃ明日から、ぼくと一緒に外出よう?」

美月「……う」

空太「それなら、美月にペース合わせるから。ね?」

美月「……そ、そっか。それなら、しょうがないかな」

美月「マッサージ、気持ちよかったし……」

空太「……嘘じゃなくて?」

美月「お、お兄ちゃん……まさか、謙遜してる?」

空太「いや……美月に喜んでもらえたら良かったなって」

美月「……うぅ」カァァ


175 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/13(土) 23:15:35 nO4c/LKI
夏と言えばお祭りですわよ
お祭りと言えばナンパですわ!
というわけで空太きゅんがお姉様がたにナンパされてる奴オナシャスですわ!


176 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/14(日) 00:14:14 3kqhTL56
>>175
お祭り、いいゾーこれ
リクエスト、アリシャス!
空太がナンパ……妄想が膨らみますね


美月「お祭りやるって、お兄ちゃん」

空太「……あっ、そうだ」

空太「夏といえばお祭りだよね、美月っ」

美月「な、何かお兄ちゃん……一気にテンション上がったね」


陽子「なになにー? お祭りだって?」

美月「陽子お姉ちゃんも来る?」

陽子「どれどれ、日程は……おお! まさに、お盆休みっ!」

陽子「これなら、私も……もしかしたら綾も、一緒に行けるかも」

空太「いいね、それ」

陽子「おおっ、嬉しいなぁ」

陽子「このお祭りとか……高校時代を思い出しちゃうよ」

美月「陽子お姉ちゃん、凄く嬉しそう……」

空太「たまには、姉孝行してあげないとだもんね。美月」

美月「うん」

陽子「……わ、私、そんなに疲れたように見える?」

空太「うん」

美月「うん」

陽子「即答……まあ、しょうがないよなぁ」


多分、一旦ここまでだと思います。
何か他にリクエスト等ありましたら、是非お願いします。


177 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/14(日) 11:41:54 Tw3Q5KBs
いっそ、時間を少し戻して中3位の恋心とかそういうのに気付く前とかの
進路で悩む2人とか、お願いできますかね・・・?


178 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/14(日) 11:57:12 rw6LMCfM
今日も空太きゅんでシコるナリ


179 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/15(月) 04:21:15 ug3JquA.
ほんの少しだけ更新です。

>>177
ああ^〜いいっすねぇ
何故か過去の話は考えたことありませんでした。
でも少し考えたら妄想が膨らんできたんで、書いてみようかと

>>178
やっぱ好きなんすねぇ……
もう待ちきれないよ! 早く成長後の嘘つきブラザーズの画像を見せてくれ!


陽子「二人とお祭りかー……いいなぁ」

空太「そうだよね。ぼくも楽しみ」

美月「うん。私も楽しみ」

空太「うん……あっ、そうだ」


空太「せっかくだし、浴衣姿見てみたいかなって」

美月「……!?」

陽子「へ? 浴衣?」

空太「うん」

空太「陽子お姉ちゃんが着てる所、見なくなっちゃったし」

陽子「あれは……うん。高校卒業してから着なくなっちゃったな」

空太「美月も全然、着ないし」

美月「……ゆ、浴衣って、何だかスースーして、ちょっと苦手で」

空太「そう? それじゃ、ぼくが特別に卸して……」

美月「う、嘘だよね?」

空太「冗談だけど、美月相手なら……そうじゃなくなるかもね」

美月「そ、そういう意味深なのやめてっ!」


陽子(美月相手だとプロ並だからな……空太って)

陽子(私の弟ながら末恐ろしいというか……)

空太「ごめんね。陽子お姉ちゃんのためにも、本気出せるんだよ?」

陽子「ありがと、空太。でも、美月よりは……って感じだろ?」

空太「……そうじゃないって言いたいかな」

陽子「ムリしないでいいんだぞー?」

美月「ふ、二人とも……頼むから、そういうやり取りやめてほしいかなって」カァァ


空太「それじゃ、美月。今日は、浴衣でも買いに行く?」

美月「あ、当たり前のように浴衣着ることになってるんだ……私」

空太「だって美月、最初に浴衣って言ったとき何だか嬉しそうだったし」

美月「……う、嘘」

空太「まあまあ」

美月「そ、そうやってごまかそうとしたってムダだと思うよ?」

空太「何色がいい? ぼくは青い感じがいいと思うけど」

美月「それなら、やっぱりライトブルーかな……って!」

空太「おっけ。それじゃ、自転車で行こっか」

美月「お、お兄ちゃんっ! ……もうっ」

陽子(美月……最近、ノリツッコミ多くないか?)


180 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/15(月) 16:53:46 ug3JquA.
お祭り編です。



――玄関前


空太「それじゃ、行ってきます」

美月「い、行ってきます……」

陽子「おー、行ってらっしゃい」


空太「美月? しっかり掴まっててね」

美月「……どうして、当たり前のように二人乗りしてるんだっけ?」

空太「ぼくが自転車出したら、美月が後ろに乗ってきたから」

美月「……うう」カァァ

陽子「えっと、まぁ……車とお巡りさんに気をつけるんだぞー?」

空太「うん、大丈夫」

美月(……ホントに大丈夫なのかな。このままで)ギュッ



陽子「……行っちゃったか」

陽子(ホントは姉として止めるべきなんだろうけど……ごめんなさい、お巡りさん)


――リビング


陽子「さてと……」ピッピッ

陽子「――もしもし? 綾?」

綾『よ、陽子? どうしたの、急に?』

陽子「一緒にお祭り行かない?」

綾『……え?』

綾(まさか、二人でお祭りに、ってこと……?)

綾(そ、それって……まさか)カァァ

綾『ううん。もうあの頃とは違うのよ、私っ』

陽子「おーい、心の声漏れてるぞー?」

綾『……あ』


陽子「実は、空太と美月が行くっていうからさ」

陽子「お盆休みだし、それなら私もって感じで」

綾『そ、そういうことだったのね……納得したわ』

陽子「二人とも、綾が一緒に来たら凄く喜ぶからさ」

綾『……もう、あの子たちったら』クスッ

綾『私も、あの子たちと一緒なら凄く嬉しいわ』

陽子「ん。それじゃ、参加ってことで」

綾『楽しみにしてるわね』

陽子「うん、それじゃまた……おっと」

綾『?』


陽子「いや、出来れば浴衣で来て欲しいかなって」

綾『……はい?』

陽子「いや、お祭りだし」

綾『い、いや……もう私、学生じゃないし』

綾『さ、さすがに着るのがちょっと恥ずかしくなってきたというか……』モジモジ

陽子「そっかー、残念だなぁ……」

陽子「せっかく、美月が浴衣買いに行ったのに」

綾『……え?』

陽子「いやー、空太に『見たい』って言われちゃって……私もなんだけどさ」

陽子「困ったなぁ、私も恥ずかしいんだけどなぁ」

陽子「でも、あの二人が喜ぶならって感じでさー……」

綾『……』


綾『――わかったわ』

綾『待ってて。今ちょっと、浴衣持ってくるから』

陽子「さすが綾お姉ちゃん。頼りになるね」ニコッ


181 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/15(月) 16:54:27 ug3JquA.


――お祭り当日・神社前


陽子「綾ー!」

綾「あ、陽子。久しぶりね」

空太「綾お姉ちゃん、久しぶり」

美月「……綾お姉ちゃん、会いたかった」

綾「二人も久しぶり、ね……」

空太「どうかした?」

綾「い、いえ……」

綾「美月ちゃんが浴衣で来るとは聞いてたけど……まさか」

陽子「お、やっぱビックリしたか」

陽子「いやー、私の弟ながら似合ってるよなぁ……」


綾「まさか、空太くんまで着てくるとは思わなかったわね……」

空太「えっと……美月と浴衣を買いに行ったとき」

空太「『美月だけじゃ、ちょっとアレかな』って思って。それで……」

綾「空太くんも買ってきた、ってことね」

空太「おかげで、ぼくも美月も、ちょっとお財布がピンチかも……」

美月「……わ、わざわざ、私に付き合って買わなくてよかったのに」

空太「ぼくも着れば、美月もあまり恥ずかしがらないかなって」

美月「へ、変な所で気を遣うんだから……もう」プイッ


綾「ちょっとビックリしちゃったけど……よく似合ってるわ。二人とも」

美月「あ、ありがと。綾お姉ちゃん」

空太「綾お姉ちゃんも似合ってるね」

綾「……た、たまには嘘ついてくれてもいいのよ?」モジモジ

空太「昔ならとにかく、こういう嘘って何かイヤになっちゃって……」

美月「ふーん……それならいつも、私を困らせてる嘘ならいいの?」

空太「美月、可愛いから」

美月「答えになってないよ……」


182 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/15(月) 16:55:36 ug3JquA.
綾「……相変わらず、仲良しね」クスッ

陽子「まあ、しばらくはこんなコンビなんだろうな……」

綾「久しぶりに見たけど、陽子も浴衣似合ってるわね」

陽子「……い、いや。綾も似合ってるよ」アセアセ

綾「どうかした?」

陽子「なんていうか……」

陽子「やっぱり綾、素直になったなぁ、って」

綾「……あ」

綾「い、いや! つい、この二人に接する感じになっちゃっただけで、だから……」カァァ

陽子「ふーん……そっかそっか」

綾「わ、笑わないでよ。もうっ」

空太「……二人とも楽しそうだね」

美月「私は、ちょっと恥ずかしいままだけど……」


綾「そうそう。ところで」

綾「海の時も思ったけど、美月ちゃんはライトブルーが好きなのね」

美月「う、うん。まぁ」

空太「美月、浴衣もぼくが好きな色にしてくれたから嬉しい」

美月「お、お兄ちゃんっ!」

綾「あら? そういう意味だったのね……」

陽子「あっ、そういう意味だったんだ……」

美月「ど、どういう意味?」

空太「美月が可愛いって意味じゃないかな」

美月「お、お兄ちゃん……ちょっと静かにしててほしいかな」カァァ

陽子(美月、昔は色合いとかあまり拘ってなかった気がするけどなぁ……)

綾(女の子の成長は早いのね……)


183 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/15(月) 19:03:11 ug3JquA.


――射的屋


美月「……えいっ」パンッ

店主「残念、ハズレみたいだね」

美月「うう……結局、何も取れなかったよ」

陽子「ドンマイ、美月」

綾「この銃、少し重たいし……しょうがないわよ」

美月「二人とも、ありがと……」


空太「……ねえ、美月?」

美月「な、なに?」

空太「欲しいものって、あの中にあった?」

美月「え? ……ま、まぁ」

美月「あの、ウサギみたいなぬいぐるみ、可愛いなって」

陽子「……あれって、ウサギなのかな?」

綾「どうなのかしら……」

店主「ああ、あれかい? あれはアンゴラウサギっていうらしい」

店主「一応、実在するウサギだよ。絶滅危惧種らしいけどね」

陽子「ホントにウサギなんだ……」

綾「何だか面白そうね……といっても、位置が結構」

陽子「キツ目だな……」

店主「落とすのは結構、難しいんじゃないかな」

店主「最上段の隅っこだからね。ここから撃ち落とせたお客さんは見たことないな」

陽子「お宝だな……」

綾「そうね……」


空太「――あれが欲しいんだ?」

美月「ま、まぁ……」

美月「な、何となく可愛いって思っただけだけど。私の部屋にいたら可愛いかなって」

空太「そっか……えっと、位置は」

美月「……お兄ちゃん?」


空太「それじゃ次、ぼくやりたいです」

店主「お、いいね」

店主「……ガールフレンドのためかい?」

美月「!?」

空太「……まぁ」

美月「ま、まぁ、じゃなくてっ!」カァァ

空太「冗談だって、美月」

美月「……そういう冗談やめるって、さっき」

空太「……あれ自体、嘘だったとしたら?」

美月「そ、そういう意味深なの、ナシだからっ!」アセアセ

店主「いやぁ、仲良しだね……」

美月「な、仲良くなんてないですっ」

空太「……嘘だ」

美月「そ、そこで、ちょっとショックそうな顔しないでほしいかな……」

陽子「……いつも通りだな、うん」

綾「ええ。仲良しね」


184 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/15(月) 19:03:45 ug3JquA.
店主「それじゃ、チャンスは3発だから」

空太「分かりました」

美月「……お兄ちゃん」

空太「何とかガンバってみるね」

美月「う、うん」

店主「ガンバれ、お兄ちゃん」

空太「……分かってました?」

店主「あれだけ『お兄ちゃん』って呼ばれてたらなぁ……」

美月「……!」

空太「美月、『空太』呼びに戻す?」

美月「も、もう今さらムリかも……」カァァ

空太「……そっか」クスッ

美月「わっ、嬉しそう……」


空太「それじゃ、やってみるね」

美月「……あまり期待してないし、肩の力抜いていいからね?」

空太「嘘。それだったら、そんな顔しないし」

美月「も、もう……ホントに難しいと思うから、こう言ってるのに」

陽子「たしかに、あれは……さすがに難しいかもだな」

綾「そうね。私、10発あっても当てられる気がしないわ……」


空太「……大丈夫だよ、美月」

美月「……え?」

店主「うんうん。チャンスは3発あるし……」

空太「美月のためなら――」


パンッ!


美月「」

綾「えっ?」

陽子「……マジか」

空太「――本気になれちゃうみたいだから」

美月(私の目の前で、最上段の隅っこから白いぬいぐるみが落ちてきた……)


185 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/15(月) 19:04:08 ug3JquA.
店主「い、一発かぁ……凄いね、きみ」

空太「ありがとうございます。あっ、景品は美月に……」

店主「わかった。いやー、驚いた……はい、どうぞ」

美月「あっ。ど、どうも……」モジモジ


美月「……お兄ちゃん」

空太「ん?」

美月「……え、えっと」

美月「その……ありがと」

空太(ぬいぐるみで口元を隠しながら美月は、ぼくにそう言ってきた)

空太「……そんなに照れなくていいのに」

美月「て、照れるに決まってるよ。ホントに……どうして」

美月「……私が近くにいたら、そうなっちゃうんだろうって」カァァ

空太「……」

空太「し、仕方ないよ。ぼくだって分からないし……」カァァ

美月(わっ、お兄ちゃんも真っ赤に……)


綾「……相変わらず、美月ちゃんが絡むと凄いわね」

陽子「美月は空太の潜在能力みたいなのを引き出しちゃうんだろうなぁ……」


186 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/15(月) 22:11:12 ug3JquA.


――型抜き


陽子「うわ……また線からそれちゃった」

美月「難しいよね、これ……」

空太「こういうの結構、面白いかも……」

陽子「って、空太凄いな……」

美月「ど、どうして、そんなに早くチクチク出来るの?」

空太「……何となくかな」

空太「それに、ぼくだけじゃなくて……」


綾「うん、こんな感じかしら」

陽子「うわっ。綾、もう完成させてる……」

美月「凄くキレイ……」

綾「ありがとね、でも」

綾「時々パッチワークとかやってると、慣れちゃうものだし」

美月「……綾お姉ちゃん、大人だ」

陽子「女子力高いなぁ……」

綾「そ、そう言わないで……」カァァ


空太「何とかここまでは出来たかな」

綾「……空太くんって、裁縫とかやったことないのよね?」

空太「え? うん、ないよ」

空太「綾お姉ちゃんみたいに、料理や裁縫みたいなことって、あんまり記憶にないし……」

綾「……それなのに、凄く上手ね」

空太「そう、かな?」

美月「……もしかしたら」

美月「いつの間にか、私にしてくれてたことが」

美月「お兄ちゃんの経験になっちゃったりしてるのかな……」

陽子「有り得るな、それ」

空太「そんなことないような気もするけど……」

美月「この間とか初心者なのに、あっさり包丁でスイカ切っちゃったし」

綾「……え?」

陽子「だよなぁ。そういうあれこれが、空太の中で生きてるってことか」

空太「……あれは、美月と一緒にスイカの種を飛ばしたかったからだし」


綾「空太くん……包丁で、スイカ切っちゃったのね」

美月「うん、凄くキレイだった」

空太「美月に見られてるって思ったら、何だか……」

美月「も、もう。お兄ちゃんのせいで、また枠からズレちゃった」

綾「……スイカを包丁でキレイに切るのが、どれだけ難しいか」

陽子「空太って、美月が絡むとホント凄いんだよね」


空太「でも実際、ぼくがそんなに上手くなったとも思えないかな」

空太「だって、これとか……結構、大変だし」

綾「まあ、美月ちゃんのためとか、そういうわけでもないし」

陽子「肩の力抜いて、ノンビリやっていいんだぞー?」

美月「そ、そうだよ……悔しいけど、お兄ちゃん上手いし」

空太「そうかな。それじゃ、もう少しゆっくり……」


店主「店内の皆さん! 今から、スペシャルイベントを行います!」

店主「こちらが提示する特別課題を一番速く終えた方に、こちらのアクセサリーをプレゼントします!」

店主「挑戦したい方、是非とも受付へお越しくださいっ!」


陽子「うわ、いきなりイベント?」

綾「へぇ、結構いい感じのアクセサリーね……ただ」

陽子「なんだ、あの課題……」

綾「孔雀、かしら。相当、フクザツで難しそうね……」

陽子「綾、挑戦してみたら?」

綾「遠慮するわ。私も、もしかしたら……ムリかもしれないし」


美月「あ、あのアクセサリーって……」

空太「ここをこうしてっと……美月? どうかした?」

美月「え、えっと……あれ、前に友達と買おうとしたら人気すぎて売り切れちゃってたの」

美月「再入荷もしてなくて……ここで見るなんて思ってなかったから」

空太「……そっか」

空太「それじゃ、ちょっと行ってくるね」

美月「……え?」


187 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/15(月) 22:13:30 ug3JquA.
次回は、リクエスト通りナンパの予定ですが、少しシリアス入ってもいいんですかね……?
色々と引っかかってるので、もっと軽い感じのノリがいいのか思案してます。
ご意見ありましたら、是非お願いします。


――数分後


空太「出来ました」

店主「え……え?」

店主「た、たしかに、できてる……」

空太「多分、ミスもないかなって……」

店主「全然、ミスしてない……」

店主「いや、こんなに速く仕上げた人、初めて見たかもしれない……」

空太「そ、そんな、ですか?」

店主「と、とにかくっ。試合終了です!」

店主「しょ、賞品をどうぞっ!」

空太「あ、ありがとうございます」


美月「……ホ、ホントに勝っちゃった」

陽子「見てる私からすると、どうしてあんなに速かったのか不思議すぎたけど……」

綾「私も、よく分からなかったわ……時間をかけたら出来るかもしれないけど、あのスピードって」

空太「……ぼくも、よく覚えてないけど」

空太「はい、美月。賞品」

美月「……あ、ありがと」

空太「良かったね、それ取れて」ニコッ

美月「……」


美月(――どうして)

美月(お兄ちゃんは、私のためになると……ここまで出来ちゃうのかな)

美月(う、嬉しいけど……何だか)

美月(こうやって笑った顔を見せるのって……ホントに私だけなのかなって)


美月「ねえ、お兄ちゃん?」

空太「なに?」

美月「……その」

美月「ほ、本気を出してくれるのって、私だけなの?」

空太「……え?」

美月「……あ」

美月「う、ううん。なんでもない」カァァ

空太「そ、そっか……」


188 : 明日はもっと楽しくなるよね、ハム太郎? :2015/06/15(月) 22:58:05 ???
ティッピー何やってるんだ!ごちうさに戻ろう!


189 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/16(火) 22:43:37 72fp3hFg
>>188
そいつにそっくりなぬいぐるみなのでセーフ。
綾にミリオタな誰かさんが乗り移る展開も考えましたが
あまりにも収拾つかなくなったので断念しました……

思いつくまま書いてたら、かなり長くなってしまいました
許してください、なんでも――



空太「よかったね、美月」

美月「あ、ありがと……」

空太「今度、着けてみてくれる? 写真撮りたいし」

美月「そ、それは……ちょっと」

空太「ダメ?」

美月「……うう」カァァ

美月「きょ、今日は色々と助けられすぎちゃったし……まあ」

空太「ありがと」

美月「もう……」


陽子「いいお兄ちゃんだな、ホント……」

綾「そうね。ちょっと美月ちゃんが羨ましいわ……」

陽子「美月、ああ見えて凄く嬉しそうだもんね」

綾「ええ」


190 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/16(火) 22:44:26 72fp3hFg
陽子「そういえば今日、結構混んでないか?」

綾「そう言われてみれば……あっ」

綾「今年は、近くの花火大会と同日だから……」

陽子「あっ。それならお祭りも行こっかな、みたいなノリか」

綾「そうね、そういえば結構、人多いものね……」

陽子「おーい、二人ともー? そんな感じらしいから、あまり離れすぎちゃ――」


美月「……あっ、お兄ちゃんがっ!」

綾「……人波にさらわれていったわね」

陽子「あ、あれか。花火の場所取りの人たちか……」

美月「お、お兄ちゃん……」アセアセ

綾「落ち着いて、美月ちゃん。とりあえず、電話を――」ピッピッ

陽子「さすが綾……どう?」

綾「……ダメね、電波が通じにくくなっちゃってるみたい」

陽子「そっか。人、結構多いもんなぁ……」

美月「……お兄ちゃん」


――その頃


空太「……あれ?」

空太「ここ、どこだろ?」

空太(まずかったかな……それなりに遠くまで巻き込まれちゃったみたいだし)

空太(人が多いせいか、電波も通じにくいみたいだし……)

空太「どうしよっかな……」


191 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/16(火) 22:45:19 72fp3hFg


女性「わっ!?」


空太「……!?」

女性「い、たた……」

空太(目の前で、女の人が転んじゃってる……)

女性「どうして……って、鼻緒がっ」

女性「はぁ、どうしよう……」

空太「……」

空太「あ、あの」

女性「……え?」

空太「え、えっと……サンダルの鼻緒、切れちゃったんですか?」

女性「……は、はい。そう、ですけど」

空太「……それなら、ちょっと貸してくれませんか?」

女性「……え?」


空太「少し、待ってくれますか?」

女性「は、はい……」

空太「あっ、ぼくはまだ高校生なので……敬語じゃなくても」

女性「……そんなに年上に見える?」

空太「い、いや。やっぱり、同い年とかより年上っぽく見えますし」

空太「それに、身長も高いですし……」

女性「そっか……はぁ。大学生って、やっぱり高校生より年取っちゃってるよね」

空太「そ、そんなに、気にしないでください……」


192 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/16(火) 22:46:02 72fp3hFg
空太「……はい、どうぞ」

女性「わっ、な、直ってる?」

空太「一応、こういうこともあるかもって、修繕の用意してたので……」

女性「す、凄い……」

空太「そんなこと、ないです。直って良かったですね」

女性「うん。ありがとね」

空太「はい。ホントに良かったです」


空太「それじゃ、ぼくはこれで……」

女性「……」

女性「え、えっと」

空太「?」

女性「お、お礼したいんだけど……いいかな?」

空太「……え?」


――その頃・美月たち


陽子「空太が連れられていっちゃったのって、こっちだよね?」

美月「う、うん……さっきの人混みにまぎれて」

綾「別のエリアね……さっきとは違った感じのお店が並んでるし」

陽子「あ、そっか。さっきの所、食べ物屋さんとかなかったし……」

美月「……お兄ちゃん、大丈夫かな」


――同じ頃・空太


女性「はい、どうぞ」

空太「あ、ありがとうございます……」

女性「わたあめで良かったんだよね?」

空太「はい。これ、好物ですし……」

女性「ふふっ。優しいんだね」

空太「……え?」

女性「だって、わたあめって……他のに比べたら割安だし」

女性「そういう所まで考えてくれたんじゃない?」

空太「……え、えっと」

女性「ごめんね? ちょっとイジワルなこと聞いちゃったかも……」

空太「べ、別に、そんなことないです」

女性「……やっぱり優しいでしょ?」クスッ

空太「そ、そんなこともないです」

女性「それは嘘。違う?」

空太「……」


193 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/16(火) 22:46:42 72fp3hFg
女性「ねぇ、きみ……って」

女性「そっか。まだ、名前教えてもらってなかったっけ」

空太「……い、猪熊空太っていいます」

女性「そっか、こうたくんか……」

空太「空に太いって書いて、こうたって……」

女性「……空太くん、気が利くでしょ?」

空太「……そんなことないです」

女性「ふふっ、空太くんって嘘つきって言われたりしない?」

空太「……」カァァ

女性「図星みたいだね」


空太「……え、えっと」

空太「今日は、一緒に来た人とかいないんですか?」

女性「え? ……うーん」

女性「実はね、今日は……彼氏と来る予定だったの」

空太「……え?」

女性「でも、私たち……ひと月前に色々あって、別れちゃって」

女性「約束、なくなっちゃったのに、どうしてか来ちゃったんだよね……」

空太「……ご、ごめんなさい。変なこと聞いちゃって」

女性「ううん、大丈夫だよ。空太くん」

女性「もう、別れちゃって。未練も、ほら、見たとおり全然ないから……」

空太「……」


――その頃・美月たち


陽子「……どこ行っちゃったんだ、空太」

綾「ダメね……まだ電波も通じてないみたい」

陽子「そっか。空太が見つからなかったら、一緒に花火も見れないなぁ……」

綾「そ、それ、残念すぎるわね……」

美月「……わ、私、ちょっと向こう行ってみるね」

陽子「み、美月……ああ、頼むよ」

綾「人多いし、気をつけてね?」

美月「うん……」


194 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/16(火) 22:47:24 72fp3hFg
美月(――勘、だった)

美月(綾お姉ちゃんも、姉の陽子お姉ちゃんも分からない……もしかしたら)

美月(私にだけしか分からない、お兄ちゃんの感覚だった)

美月(そして小さい頃から、こういう勘だけは外した覚えがないって言えちゃうくらいの――)


美月(――だから)


女性「……ねえ、空太くん?」

空太「あ、あの……」


美月(「それ」を見たとき……こういう勘を持ってることを、凄く後悔した)

美月(お兄ちゃんが知らない誰かに顔を近づけられている所を、見ちゃって……)

美月「――!」


美月(気づけば私は……いつの間にか、走りだしちゃってた)

美月(お兄ちゃんの方でも陽子お姉ちゃんたちがいる方でもなく……どこか、別の場所に)

美月(普段、運動しないから、息が上がってることは分かってた。汗も酷かったし、呼吸も酷かった)

美月(それなのに、足だけが動いて……それを抑えられなくて)

美月(頭のなかに浮かぶ、さっきのお兄ちゃんの後ろ姿と、顔を寄せる誰かの姿……)

美月(相手の人は思い返せば、まるで……お兄ちゃんが見とれていたように、背の高くて目の大きい人に見えて)

美月(――そんなあれこれを考えて、私の頭はパンクしそうだった)

美月(それなのに、足は止まらなくて……)


美月――わっ!?」ガクッ


美月(いつの間にか、私は前のめりになっていた)

美月(考えがあれこれ暴走しちゃってるうちに、私の目の前は地面で――)

美月(……お、お兄ちゃん)


195 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/16(火) 22:48:00 72fp3hFg


「美月っ!」


美月「……あれ?」

空太「……」

空太「気をつけないとダメだよ?」

美月「……お、お兄ちゃん?」

美月(気付けば、私はお兄ちゃんに……後ろから抱きしめられちゃっていた)



――それから・空太と美月


空太「あ、やっぱり……美月も鼻緒切れちゃってる」

美月「そ、そうだったんだ……」

空太「うん。ちょっと待ってて」

空太「ここをこうして、っと……」

美月「……美月『も』、なんだ」

空太「……うん」

空太「さっきの人も鼻緒切れちゃってから……」

美月「……嘘、つかないんだね?」

空太「……つけないのかも」

美月「そっか……」


美月「ありがとね、お兄ちゃん」

美月「転びそうになっちゃったのに、助けてくれて……嬉しかった」

空太「……」

美月「いこ? 陽子お姉ちゃんも綾お姉ちゃんも心配してるし……」

空太「美月」

美月「……」


空太「嘘、つかないでほしいかも」

美月「……べ、別に、嘘なんてついてないし」

空太「嘘なのは言葉じゃなくて、声」

美月「!」

空太「そんなに震えちゃってる声で、そう言われても……安心できないし」

空太「全部、吐き出しちゃってほしいかな」

美月「――お」


196 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/16(火) 22:51:36 72fp3hFg
とりあえず、一旦ここまでかもしれません。
もしかしたら少しシリアスになってしまったかもしれませんが……すみません。



美月「お兄ちゃんのバカッ……!」


空太「わっ……」

空太(美月が抱きついて……)

美月「ず、ずっと一緒にいるなんて言ってたのにっ」

美月「しばらくは私と一緒なんて話してたのにっ」

美月「……ちょっと目を離したら、美人さんと仲良くなっちゃってて」

空太「……美月、やっぱり見てたんだ」

美月「見てたっ! お兄ちゃんが相手の人と近づいてる所、見ちゃった!」

空太「……えっと、美月」

美月「な、なに?」

空太「……泣かないでほしいかなって」

美月「……な、泣いてないもん」

空太「目、赤くしないでほしいかな」

美月「あ、赤くなんてなってないもん」


空太「……美月」

空太「ムリしないで。ね?」

美月「……う」

美月「うう……」グスッ

空太「ぼくの浴衣なら、いくら濡らしてもいいよ。これ、嘘じゃないから」

美月「……お兄ちゃんのバカ」

空太「うん」

美月「約束破り」

空太「うん」

美月「……お兄ちゃんなんて、嫌い」

空太「ん。ぼくも美月が好きだよ」

美月「……イジワル」


197 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/17(水) 23:47:20 8OkdL/1Q
http://i.imgur.com/e75kaRK.jpg
ああ^〜原先生最高なんじゃあ^〜


綾『……あ、良かったわ。つながったみたい』

空太「綾お姉ちゃん、久しぶり」

綾『久しぶり、空太くん』

綾『ところで、美月ちゃんとは合流できた?』

空太「うん、まぁ……ちょっと会場から離れちゃったみたいだけど」

綾『……何かあったの?』

空太「……詳しいこと、後で話したいかなって」

綾『そっか。わかったわ』

綾『それじゃ――って、ちょっと、陽子?』


陽子『空太ー』

空太「あ、陽子お姉ちゃん……代わったんだ」

陽子『うん。美月と合流できたんだよね?』

空太「うん……ちょっと、時間かかっちゃいそうだけど」

陽子『あー、そっか。わかった』

陽子『それじゃ、後で私たちとも合流するってことで』

空太「うん」


陽子『……一つだけ、いい?』

空太「なに?」

陽子『もしかして――美月、ちょっと泣いちゃったりしてる?』

空太「……どうして?」

陽子『あ、やっぱりか。あのね、空太?』

陽子『空太は美月のこと、全部分かっちゃってるのはホントだと思うけど……』

陽子『二人がまだちっこい頃から、ずっと見てきてる私だって……それなり以上には分かっちゃうんだよ?』

空太「……陽子お姉ちゃんには絶対敵わないよ」

陽子『いやいや、それはともかく……』


陽子『いいか? 普段から優しいけど、いつも以上に気を遣ってあげるんだぞ?』

空太「……うん、そうする」

陽子『よしっ。それじゃ、また――』

空太「……陽子お姉ちゃん」

陽子『え? な、なに……このケータイ、綾のだから。そろそろ電話料金が――』


空太「陽子お姉ちゃん、ぼくも美月も大好きだから」


陽子『……お、おい、空太』

空太「それじゃ」ピッ


空太「――って、言いたかったんじゃない? 美月も」

美月「……心まで読めちゃうようになったの?」

空太「ううん、これはずっと前からだよ」

空太「美月だって、そうじゃないかなって」

美月「……お兄ちゃんの気持ち、分かっちゃうのが照れくさくなって」

空太「……そっか」


198 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/17(水) 23:48:08 8OkdL/1Q


――それから


空太「痛くない?」

美月「だ、大丈夫……」

空太「良かった」

空太「あ。背中、濡らしちゃっても平気だから」

美月「……も、もう泣いてないもん」


美月(鼻緒が切れちゃった私は、お兄ちゃんにおんぶされちゃっていた)

美月(転ぶときにひねっちゃったせいか、軽い捻挫みたいになってるのかも……と、お兄ちゃんが言って)

美月(……そんなこんなで、私はお兄ちゃんの背中に抱きつく形になっていた)

美月「――お、お兄ちゃん」

空太「なに?」

美月「重くない? 大丈夫?」

空太「……美月は、ちょっと軽すぎ」

空太「いや。美月だけじゃなくて」

空太「陽子お姉ちゃんとか綾お姉ちゃんも、スタイリストさんみたいに細いし……」

美月「……あの二人、キレイだから」

空太「それはホントだと思う」

空太「でも……美月だって、可愛いから」

美月「……お兄ちゃん」

空太「今の美月の感じだと、何だか……自信みたいなのを無くしちゃってる気がして」

美月「べ、別に、そんなことは」

空太「それならいいけど。嘘じゃないなら」

美月「……うう」


美月「――だって」

美月「さっきの相手の人……お兄ちゃんが、その」

美月「ま、前に、タイプかもって言ってた人で……だから」

空太「……ねえ、美月?」

美月「な、なに?」

空太「……さっきの人とは、そういうのじゃないよ」

美月「……嘘?」

空太「嘘だと思う?」

美月「ううん。今のお兄ちゃん、嘘ついてる感じじゃないし」

空太「ほら。やっぱり美月も、ぼくの心、読んじゃってる」

美月「……それじゃ、どういうことだったの?」

空太「――あれってさ、結局」


199 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/18(木) 01:12:02 xKRWx1ws


――遡って


女性「空太くんって、好きな子とかいる?」

空太「……」

女性「もしかして、答えにくかったりする?」

空太「……はい」

女性「そっか」

女性「……顔、離した方がいい?」

空太「……そ、そうかもしれないです」

女性「そっか。ごめんね」


女性「――うわっ」カァァ

女性「ご、ごめん……今更、何だか照れてきちゃった」

空太「……そ、それは仕方ないんじゃないかなって」

空太「好きな人と、その、別れちゃって……それでも、約束してたお祭りに来るってことは」

空太「――ホントは、まだ忘れられてないんじゃ」

女性「……空太くん、そう思う?」

空太「ぼくは、そういう経験とかないですけど……」

女性「ふふっ、当たり」

空太「……あ」

女性「これも冗談、って言ったらどうする?」

空太「……ちょっと、困ります」

女性「そっかそっか」


200 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/18(木) 01:14:14 xKRWx1ws
一旦、ここまでです。
次回か次々回辺りで、お祭り編もおしまいの予定です。
モブ女性との絡みが多すぎてすみません。


女性「――ありがと、空太くん」

女性「ホントに何となくだけど……どうしたらいいか、わかった気がする」

空太「……ぼくは、何も言ってませんけど」

女性「ううん。鼻緒直してくれて、一緒にいて、話も聞いてくれた」

女性「それだけでいいんだよ?」

空太「……ど、どういたしまして」カァァ

女性「ありがと」


女性「さて、と……」

女性「何はともあれ、ほんのちょっと前に、走って行っちゃった子を追った方がいいかもね」

空太「……え?」

女性「あ、気付かなかった?」

空太「さすがに……ちょっと、大変だったので」

女性「そうだったんだ……てっきり、気づいてるって思ってた」

女性「空太くんの後ろの方で、こっちを見てる子がいたの」

空太「……!」

女性「可愛い子だったね。空太くんより20センチくらい低いのかな?」

空太(美月だ、絶対……でも)

空太(どうして、ぼくは……気づけなかったのかな)

空太(――ダメだ、美月に申し訳なさすぎるっ!)


空太「……妹です、それ」

女性「そっか。ほら、私、背が高くて……ちょっと、コンプレックスだったから」

女性「羨ましかったなぁ……」

空太「……」

空太(美月も色々と大変そうで、この人だって大変で)

空太(だから……ひょっとしたら、放っておけなかったのかもって)

空太(何となく、思ったりした)


空太「……そ、それじゃ、すみません」

空太「ぼく……ちょっと急がないといけないので」

女性「そっか、やっぱり……」

空太「大事な妹、です」

女性「ガンバってね、空太お兄ちゃん?」クスッ

空太「……は、はい」

空太「それじゃ――っと」クルッ

女性「?」

空太「……えっと」


空太「それくらいの身長だって、ホントにキレイだと思います」


女性「……あ」

空太「そ、それじゃっ!」

女性「……」

女性「もう」


女性「それは嘘?  それとも、ホント?」

女性「……どっちでもいいか、うんっ」

女性「――さてと、アイツに電話しよっかな」


201 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/18(木) 21:19:35 o22v3YkM
正直、ヨルムンガンドのヨナくんの殺気を抜いたような感じが成長後の空太くんの雰囲気にかなりちかいと思う
ttp://livedoor.4.blogimg.jp/otanews/imgs/6/4/64a8e53a.jpg
美月ちゃんは境界の彼方の桜が思い浮かんだ
ttp://blog-imgs-62.fc2.com/g/a/r/garethbale/43G2hbc6ncPb.jpg


202 : 狩りの時間よハサ次郎!お仕置きターイム!(うーわんわんわんわん) :2015/06/18(木) 23:40:00 ???
美月ちゃんはあっちこっちのつみきみたいなの想像してました


203 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/19(金) 01:28:05 EGmip2wQ
>>201
ああ^〜いいっすねぇ!
参考画像まで上げてくれてありがとナス!
二人ともイメージが膨らんで凄く嬉しいです
空太も美月も成長後のイメージは結構似通ってます

>>202
あっちこっちなら
http://i.imgur.com/2Jr8z6x.jpg
このSSでは、空太を前にした美月のイメージがこれで、

http://i.imgur.com/esRnDvz.jpg
こっちは身長差的な意味でのイメージって感じです


204 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/19(金) 23:16:58 EGmip2wQ
空太「……って感じだったんだ」

美月「そ、それじゃ、結局……」

空太「うん。相手の人、ただ寂しかったってだけで」

空太「だからきっと、話を聞いてほしかったんじゃないかなって」

美月「……」


空太「あとさ」

空太「相手の人って、その……付き合ってた人の悪口、言わなかった」

空太「不満とか吐き出したいのかなって思ってたんだけど」

空太「そういうこと、全然しなくて……ちょっと、感動? しちゃった」

美月「……」

空太「納得、してくれた?」

美月「――お兄ちゃん」


美月「その話、最後まで嘘じゃないって思う」

空太「……美月」

美月「お兄ちゃんが、こういう嘘はつけないっていうのもホントによく分かっちゃう」

美月「そしてホントに、相手の人は寂しかったんだろうなってこともよく分かるよ」

空太「……それでも、何か言いたいんだよね」

美月「……さ、先読みしちゃうんだから」


美月「ねえ、お兄ちゃん?」

美月「なに?」

美月「相手の人が寂しかっただけだとして」

美月「でも、それだけだとして……」

美月「お兄ちゃんに声かけた理由って、どうしてだと思う?」

空太「……相手の人の、サンダルの鼻緒を直してあげたから」

美月「嘘」

空太「……美月?」

美月「それだけで……あんな感じに顔を近づけられちゃったりしないよ」

美月「そろそろ、お兄ちゃんも自覚した方がいいんじゃないかな」

空太「……自覚?」

美月「あのね」


205 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/19(金) 23:18:25 EGmip2wQ
美月「陽子お姉ちゃんが、かっこよくて可愛いみたいに」

美月「お兄ちゃんは……か、かっこいいから」カァァ

空太「……」

美月「わ、私。お兄ちゃんを見てても、何だか悔しいくらいに」

美月「お兄ちゃんって、モテちゃうんじゃないかなって」

美月「だから……ま、前に、お兄ちゃんと一緒に寝ちゃったりして」カァァ

空太「美月」

美月「な、なに?」

空太「美月は何だか、ぼくだけかっこいいから、って感じだけど」

空太「……美月こそ、自覚した方がいいと思う」

美月「……え?」


空太「美月、さっき陽子お姉ちゃんがかっこよくて可愛いって言ったよね」

空太「それは、ぼくも凄く思う。陽子お姉ちゃんってホントに、そんな感じで」

空太「……えっと。もし、ぼくが『かっこいい』んだとしたら」

空太「美月は……ホントに『可愛い』んだよ」

美月「……そ、そんなこと」アセアセ

空太「それは嘘。美月がどう思っていても、兄として見たら、それは嘘」


美月「わ、私」

美月「陽子お姉ちゃんとか綾お姉ちゃんみたいに、身長高くないし」

空太「あの二人は、かなり高いし」

美月「……そ、そうだとしても」

美月「あと……ろくに男子と話せたことないし」

空太「美月は、綾お姉ちゃんが可愛くないって思ったことある?」

美月「……な、ないけど」

空太「ほら。それじゃ、綾お姉ちゃんだって美月と同じだったと思うよ?」

美月「……う」


206 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/19(金) 23:19:43 EGmip2wQ
美月「だ、だとしても!」アセアセ

美月「陽子お姉ちゃんみたいに、元気でもないし」

空太「陽子お姉ちゃんと比べたら、ぼくだって元気に見えないと思うよ」

空太「そうだね……陽子お姉ちゃんが高校生だった頃だと」

空太「『あの人』くらいしか、陽子お姉ちゃんと同じくらい元気だった人って分からないかも」

美月「……」

空太「美月と同じくらいの身長の」


美月「……そ、それじゃ」

空太「いい、美月? 美月って可愛いんだから」

空太「兄としては少し、心配だったりするんだよ?」

美月「……わ、私だって」

美月「その……お、お兄ちゃん、かっこいいから」カァァ

美月「心配なんだよ?」

空太「なんだ。美月も、ぼくと同じなんだね」

美月「……わ、私の心配は、お兄ちゃんの心配より」

美月「もっと大変で……私だって困ってるくらいなのに」

空太「大丈夫だよ、美月」


空太「ね? 美月、林の奥の方に行っちゃってたから、かなり歩いちゃったけど」

美月「……ご、ごめんね」

空太「大丈夫、気にしてないから。……これ、嘘じゃないからね?」

空太「こうしてさ。美月をおんぶして長い間、歩いてると」

空太「何だか……凄く、美月が大事だって思うんだ」

美月「……お、お兄ちゃん?」


空太「ね、美月」

空太「ぼくは、美月が『好き』だよ」

美月「……!」

空太「大事だし、ずっと一緒にいたいし……実際、ずっと一緒にいるつもりだけど」

空太「……美月は違う?」

美月「……ううん」

美月「わ、私も……お兄ちゃんが、えっと」

美月「す、『好き』だし……『大好き』って、くらいで」

空太「……さすがに、ちょっと照れちゃうかも」カァァ

美月「い、言ってる私の方が恥ずかしいよ……」カァァ


207 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/19(金) 23:22:38 EGmip2wQ
とりあえず、ここまでかもしれません。
好きと「好き」は違うという、どこかありがちな話ですね……。
次回か次々回辺りで、お祭り編もおしまいかと。


美月「――ね、お兄ちゃん」

空太「なに?」

美月「……私、そろそろ足の痛み、ひいてきたよ?」

空太「……」

美月「だから……せっかく、お兄ちゃんが直してくれたサンダル、履きたいかも」

空太「……嘘」

美月「う、嘘じゃなくて。ホントだよ?」

空太「こうやって、おんぶしてる間……ずっと足、ブラブラさせてた」

美月「……」

空太「痛くないんだったら、こういう時だって普通に固定されてるはず」

空太「そうじゃないから、まだ歩かせられないかな」

美月「――ねえ、お兄ちゃん?」

空太「?」

美月「ど、どうして……私のこと、そんなに分かっちゃうの?」

空太「……美月だって同じだろうから、言わなくてもいい?」

美月「……もうっ!」ギュッ

空太「み、美月……抱きついちゃってる?」

美月「い、言わないでっ!」


美月「ホントに……離れたくなくなっちゃうよ」

空太「……嘘じゃなくて?」

美月「……私も、こういうのに嘘つけなくなっちゃったのかも」

空太「……やっぱり、似たもの同士だね。ぼくたちって」

美月「……私は高校生になってから、お兄ちゃんに振り回されっぱなしだけどね」

空太「……振り回してないし」

美月「嘘つき」


208 : 狩りの時間よハサ次郎!お仕置きターイム!(うーわんわんわんわん) :2015/06/20(土) 07:15:59 ???
同じ言葉での微妙な噛み合わなさいいっすね��これ


209 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/22(月) 01:20:05 PUhbxPJQ
陽子「結構、遅いな」

綾「ええ、心配ね……」ギュッ

陽子「綾? そのぬいぐるみ、気に入ったのか?」

綾「ちゃ、ちゃんと美月ちゃんには返すからっ」アセアセ

陽子「いや、抱きしめちゃってるし……」

綾「……何というか」

綾「初めてって感じがしないのよ、このぬいぐるみ」

陽子「えっと、アンゴラウサギだっけ? そんな動物と、どこで触れ合ったんだろうな……」

綾「し、知らないけど……ああ、落ち着くわ」


空太「あ、いたいた」

陽子「おお、空太! 良かった良かった」

綾「お帰りなさい……って、美月ちゃんっ」

陽子「空太におぶられてる……」

美月「……うう」

綾「ど、どうかしたの?」

美月「足、くじいちゃったみたいで……だから」

陽子「まだ痛むか?」

美月「い、今は、それほどでも」

陽子「そっか、良かった……」

綾「ホッとしたわ」


美月「……結局、降ろしてくれなかったね」

空太「まだ、足が心配。やっぱりもう少し、ちゃんと診ないとだし」

美月「ホント半分、嘘半分。違う?」

空太「……美月をおんぶしてられるのが嬉しくて」

美月「ほ、ほら。こういう時に、そういうこと言っちゃうんだからっ」カァァ

空太「こういう時は、美月より身長高くて良かったって思う」

美月「……どうせ私は、お兄ちゃんよりずっと低いよ」

空太「確かに、そうかもだけど」


210 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/22(月) 01:20:33 PUhbxPJQ
空太「ほら。昔、ぼくたちがまだそんなに身長変わらなかった時に」

空太「美月、ケガしちゃって……でも、その時、ぼくは美月を支えてあげられなくて……」

美月「……お兄ちゃん」

空太「だから、こうして……美月を助けてあげられることが凄く嬉しくて」

美月「もうっ」

美月「そんなこと、しんみり言われちゃったら……私、どう返せばいいか分からなくなっちゃうよ」

空太「大丈夫。おんぶしてるから、美月が赤くなってるかは分からないよ」

美月「ど、どうせ分かってるくせにっ!」カァァ


陽子「……私さ」

綾「なに、陽子?」

陽子「いや、さっきの電話のことといい……」

陽子「空太が私の弟で、美月の兄ってことがさ。何だか凄く、ジンワリくるっていうか」

陽子「あれだ。メチャクチャ嬉しい」

綾「あら、奇遇ね。私も空太くんが、えっと……し、知り合いで良かったと思ってるわ」

陽子「『知り合い』? ホントは?」

綾「ホ、ホントは……って」

綾「……お、弟分、みたいな?」カァァ

陽子「それでいいんだよ、綾お姉ちゃん?」

綾「もう……私は、陽子お姉ちゃんには敵わないって言ってるでしょ?」


――そして

陽子「えっと、とりあえずさ」

陽子「美月の足の具合も診たいし……家に帰ろっか」

空太「うん、それがいいかも」

美月「わ、私。足の調子、もう大丈夫だよ?」

綾「うーん……『あの』美月ちゃんが大丈夫って言ってもねぇ」クスッ

美月「わっ、綾お姉ちゃんが……ちょっと悪そうな顔にっ」

空太「……」

綾「ど、どうかした?」

空太「ううん」

空太「『あの』綾お姉ちゃんが、そんな風に……誰かをからかえるようになったんだなぁって」

綾「べ、別に昔からだし……」

陽子「アレだよな。今の感じって……まるで『アイツ』みたいだった」

綾「……『あの子』は、ちょっとレベルが違うでしょ?」

陽子「それもそっか。ああ……まだ、あのパーカー着てるのかな」


空太「とりあえず、帰ろっか」

美月「……このまま?」

空太「え、当たり前じゃない?」

美月「お兄ちゃん、もうずっとおんぶしてるよね……」

空太「美月。それは決して、ぼくが嬉しいからってわけじゃなくて」

美月「……今度は全部、嘘」

空太「バレちゃった」

美月「し、白々しすぎるよっ」プイッ


綾「それじゃ、えっと……今日は、お開きってことになるのかしら?」

陽子「え? まだ早いだろ?」

綾「……はい?」

空太「そうだよ。ぼくたち、まだ綾お姉ちゃんと一緒にいたい」

美月「わ、私もっ」

綾「え、ええ……?」


211 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/22(月) 01:20:58 PUhbxPJQ


――結局


陽子「ただいまー!」

空太「ただいま」

美月「……ただいま」

綾「……え、えっと」

綾「お、お邪魔します」

陽子母「あらあら……大所帯ね」

綾「……私、本当に上がらせて頂いてもいいんですか?」

陽子母「え? ふふっ……」

陽子母「もう、『綾お姉ちゃん』は家族みたいなものって……」

綾「……あ、あなたたち?」

空太「ぼくが言ったわけじゃないよ?」

美月「わ、私が言ったわけでも……」

陽子「あ、ごめんごめんっ。それ多分、私だ」

綾「ふ、二人とも嘘ついちゃダメでしょっ」

綾「あと、陽子! あ、あなたは素直すぎっ!」カァァ

陽子「……どっちならいいんだ、それ?」


陽子「それじゃ、空太。美月を連れてリビングに……」

空太「うん、わかった」

美月「……さ、最後までおぶられちゃってた」

空太「特別サービス」

美月「サービスなんて思ってないくせに……」


212 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/22(月) 01:23:36 PUhbxPJQ
一旦、ここまでかもしれません。
このSSでの綾は、猪熊家と関わることが多いという設定です。

あと、ホントに今更ですが、空太の一人称って「おれ」みたいですね……
このSSでは、「ぼく」ってことでお願いします。



綾「あ……」

綾「そ、それでは改めて、お邪魔しますっ」

陽子母「そうかしこまらないで」

陽子母「……あのね」

綾「?」

陽子母「今も、あの子たちがあんなに仲良しなのって……」

陽子母「綾ちゃんがずっと一緒にいてくれたから、ってことも関係してると思うよ?」

綾「……わ、私なんて、別に」

陽子母「あの子たちと知り合ってから、ずっと気にかけてあげてたでしょ?」

綾「……空太くんと美月ちゃんは」

綾「私と、どこかで似ている気がして……だから」

陽子母「気づけば、この家にも何度も上がってきてるよね?」

綾「……」

陽子母「一緒に夕ご飯食べたり、たまに泊まっていったり……」

陽子母「綾ちゃんも社会人になっちゃったから、そういうことも、めっきり少なくなっちゃったけど……」

綾「……あ、あの」カァァ

陽子母「そう照れないで」

陽子母「ほら、リビングに行ってあげて……『綾お姉ちゃん』」

綾「……は、はいっ」


213 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/22(月) 21:39:05 igz/acXE
SSの内容とは直接関係が無くて申し訳ないのだけども
そういえば綾のママンは漫画で少し登場してたけど、陽子のママンって登場してましたっけ。


214 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/23(火) 21:54:59 hPYKVG5Y
>>213
見た覚えがないので、想像上の陽子たちのお母さんという感じですね。
もしかしたら出てるんでしょうか……?

思いつくまま書いていたら、かなり長くなってしまいました。
今回で、お祭り編はおしまいです。
お祭り編は、シリアス成分が多めになってしまった感もありますね……
もう少し、ギャグとの両立を図りたいものです。



――リビング


美月「……痛っ!」

陽子「ん。やっぱ、軽くつまんでもダメか」

空太「……美月」

陽子「大丈夫だよ、空太。軽い捻挫だと思うし」

美月「そ、そうだよ。大丈夫だよ、お兄ちゃん」

空太「涙目になりながら言われても……」

美月「う、嘘つけない時だってあるのっ」


綾「……とはいえ、心配ね」

綾「お盆休みだし、病院もやってないでしょうし」

空太「綾お姉ちゃん、その辺は大丈夫」

空太「ぼくが美月の『足』になるから」

美月「え……?」

空太「特別に、ぼくがずっとおぶってあげるから」

美月「……特別に?」

空太「嘘じゃない」

美月「嘘つき」


陽子「まあ、空太に任せるとして」

美月「よ、陽子お姉ちゃんからも何か言ってあげてほしいかも」

陽子「え? ……まあ」

陽子「空太? ケガしてるんだから、普段よりもっと優しくして――」

美月「も、もういいや……」


綾「そうね。一緒にいるのは空太くんだし」

美月「……綾お姉ちゃん、それ気に入ったの?」

綾「あっ……」

陽子「また、抱きついてる……」

空太「……綾お姉ちゃん」

綾「な、なに?」

空太「いくら綾お姉ちゃんだからって……さすがに、それはあげられないかな」

綾「ちゃ、ちゃんと返すから……」

美月「……でも、そうだね」

美月「何だか、私も……その子、好きかも」

綾「美月ちゃんも?」

美月「う、うん……」

綾「そっか。やっぱり、私たちって」

美月「似たもの同士、かもね」

陽子「……可愛いとは思うけど」

空太「何だか、さすがにぼくも、あの二人と同じ感覚じゃないかも……」

陽子「珍しいな。美月と空太で感じ方が変わるって」

空太「……超えられない壁、みたいなものを感じる」

陽子「そ、そういうものなのか?」


陽子「――ところで、空太?」

空太「なに?」

陽子「結局……さっき、何があったんだ?」

空太「……そういえば、まだ」

綾「そうね。話してもらってないわね」

空太「ご、ごめん。帰り道で話そうと思ってたんだけど……」

美月「や、やっぱり、私が重かった?」

空太「……そんなことないよ」

美月「う、嘘」

空太「強いて言うなら、美月の汗とか涙とかで浴衣が重く……」

美月「ス、ストップストップ!」


空太「――まあ、結局」

空太「その……ちょっと、ナンパ? みたいなこと、されちゃって」

陽子「……こ、空太が?」

綾「ナ、ナンパ……?」

空太「ま、まぁ……だよね、美月?」

美月「そ、そこで私に振っちゃうんだ……」

美月「そうだよ。お兄ちゃん、ナンパされちゃってて」

陽子「……マジか」

綾「ま、まさか、空太くんが……」


陽子「そ、それで?」

空太「それで、って?」

綾「えっと……こ、空太くん、付き合ったりすることになったの?」

空太「……いや」

空太「実は、その相手の人、少し前に彼氏さんと別れてたみたいで」

空太「で。まだ、思い残しとかあるんじゃないですか? って言ったら……」

陽子「……納得したんだ」

空太「うん」

綾「ず、随分あっさりなのね……」


215 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/23(火) 21:56:31 hPYKVG5Y
空太「――何となく」

空太「相手の人、ただ寂しくて、誰かに話を聞いてもらいたかっただけなのかもって」

空太「だから……良かったって思う」

陽子「そ、そうだったのか……へぇぇ」

美月「……」

綾「美月ちゃん? どうかした?」

美月「う、ううん。何でもないよ……」

美月「……」

綾(美月ちゃん……ずっと空太くん、見てるわね)

陽子(まあ、双子の兄がナンパなんてされちゃったら、なぁ……)


ドーン!


陽子「あっ」

綾「この音って……」

空太「花火だ」

美月「そ、そういえば花火だったよね……」


陽子「――なぁ、綾? 今日、どれくらいまで大丈夫?」

綾「えっ、そ、そうね……えっと」

陽子「まあ、遅くなったら泊まっていけばいっか」

綾「え、ええ……?」

陽子「高校時代から、そんな感じだし」

綾「……もう」

綾「まあ、泊まっていくのは、お盆休みだからいいけど」

陽子「二人とも喜ぶよ、綾?」

綾「……そ、そういうことなら、しょうがないわね」


空太「綾お姉ちゃん、照れちゃってる」

美月「きっと、陽子お姉ちゃんと一緒にいられて楽しいのかも……」

綾「……あ、あなたたち」カァァ

綾「まあ、否定はしないわ。陽子といるのは楽しいし」

陽子「……ホント、素直になったな、綾って」

綾「……この子たちの前で、素直でいなかったら」

綾「きょ、教育に悪いでしょ?」

陽子「……さすが綾お姉ちゃん」

綾「し、静かに、陽子お姉ちゃん」


陽子「……それじゃ、そうだな」

陽子「花火が見れる部屋……方角的に、私の部屋かな」

綾「それじゃ、行きましょうか」

空太「美月、ほら」

美月「……ま、また、おんぶ?」

空太「病院に行くまでは」

美月「……しょ、しょうがないかな」


――陽子の部屋


陽子「おお! 見える見えるっ」

綾「わ……結構、ちゃんと見えるのね」

空太「ホントだ……」

美月「お、お兄ちゃん? そ、そろそろ降ろしてくれても……」

空太「……ぼくの背中から見れるなら、それでもいいんだけど」

美月「お、おんぶするの、そんなに楽しい?」

空太「……別に違うけど」

美月「嘘ばっかり……」


216 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/23(火) 21:57:39 hPYKVG5Y
陽子「いやー、キレイだなぁ……」

綾「ホントね。いい思い出になりそう」

陽子「花火っていえばさ。高1の頃、公園で……」

綾「あったわね……懐かしい」

空太「……二人とも、高校の頃の話する時」

美月「凄く、楽しそう……」

陽子「そうかー? まあ、実際……一番、楽しかったかもなぁ」

綾「毎日、新鮮だったわね。留学生の子たちも一緒にいて面白かったし」

空太「……ぼくも美月と一緒にいると楽しいし面白いけど」

美月「は、張り合わなくていいからっ」カァァ

陽子「それじゃ、新鮮さは?」

空太「……」

美月「も、もっと威勢よくいこうよっ」


綾(……美月ちゃん)

綾(何だか、いつも通りに見えるけど……どこか違う感じが)

陽子「……綾?」

綾「よ、陽子?」

陽子「せっかくだし……お酒、買ってこない?」

綾「……え?」

陽子「いやー、花火見ながらビール、呑みたかったんだよね……」

綾「……そうね。それじゃ私も」

陽子「ほろ酔いか?」

綾「いつも通りってことで」

陽子「それじゃ二人とも。私たち、ちょっと買い物行ってくるから」

綾「また後でね」

空太「え? そ、それだったら、ぼくも――」

空太「あ、そっか。美月が出られないんだ……」

陽子「そうそう。まあ、兄妹水入らずってことで」

美月「よ、陽子お姉ちゃんっ!」

綾「それじゃ、また……」

陽子「……綾。そのぬいぐるみ、持っていくつもりなのか?」

綾「……ま、まあ、一応」

陽子「やれやれ……」


空太(そう言いながら、二人は出て行った)

空太(ぼくと美月の二人だけ……)

空太「水入らずだね、美月?」

美月「い、言ってて恥ずかしくならない?」

空太「恥ずかしさより面白さの方が……」

美月「……やっぱり」

美月「お兄ちゃん、あんまり変わってないね」

空太「……美月」


美月「ね、お兄ちゃん?」

空太「なに?」

美月「そ、その……」

美月「もし、今日お兄ちゃんの、えっと……あ、相手の人が」

美月「だ、誰とも付き合ってなくて、は、初めてが……お兄ちゃんって感じだったら」

美月「……お兄ちゃん、どうしてたのかなって」

空太「……美月」


217 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/23(火) 21:59:34 hPYKVG5Y


――外


陽子「いやー、何にしよっかなぁ……」

綾「もう……」

綾「さすがね、陽子お姉ちゃん?」

陽子「何が?」

綾「とぼけてるでしょ?」

陽子「……まあ」

陽子「美月も空太に色々聞きたいだろうし……まあ」

綾「兄妹水入らず、ね」

陽子「そうだな……やっぱりさ」

陽子「あの二人の仲は、私も安心してるんだ」

陽子「ただ……空太はともかく美月は」

綾「美月ちゃん、空太くんより……そういう意味で、ずっと進んじゃったからね」

陽子「そうなんだよね。あんまり悩まなくていいと思うんだけどなぁ……」

綾「……それはもう、あの時期が終わったから言えることだと思うわよ」

綾「個人的には、美月ちゃんの悩みとか、そういうのに親近感が湧いちゃうけどね」

陽子「え? 綾も、ああいう感じだったのか?」

綾「あ、あなたね……いえ、なんでもないわ」

陽子「そう? まあ、いいや」

陽子「ゆっくり行ってあげたいところだけど……花火も、見たいし」

綾「そうね。少し、急ぎましょうか」

陽子「よしっ! 行くぞ、綾!」

綾「ちょ、ちょっと!? は、速すぎるわよ……」



――陽子の部屋


空太「――膝枕、する?」

美月「……え!?」

空太「いや、何となく」

美月「ど、どうして……このタイミングで?」

空太「美月、何だか凄く寂しそうで」

空太「でも、膝枕とかしてると……美月、凄く安心してる気がするから」

美月「そ、そんなことっ……!」

空太「イヤなら、大丈夫だよ?」

美月「……」

美月「しょ、しょうがないから……」


美月「……」

美月(――結局)

美月(あ、当たり前のように膝枕されてる……!)カァァ

空太「ああ……やっぱり、何か落ち着くね」

美月「お、お兄ちゃんが落ち着いちゃうのっ!?」

空太「髪、撫でていいかな?」

美月「……も、もう好きにして」

空太「それじゃ」

美月「……はぁ」


空太「……ねえ、美月?」

美月「な、なに?」

空太「おかしいよね」

美月「……え?」

空太「こうして、美月を膝枕したりおんぶしたりするのって……凄く安心するし」

空太「後、何だか少しワクワクしたりもするんだけど」

美月「……ワクワク?」

空太「上手く言えなかったから……えっとね、そう。凄く楽しいんだと思う」


空太「でもね。さっきのお姉さんの鼻緒直したり、話を聞いたりしてる時……」

美月「……お兄ちゃん」

空太「ずっと緊張して、冷や汗みたいなのも出てきちゃって……それで」

空太「あのお姉さんがキライってわけじゃないんだけど、何だか……あんまり楽しくなかったかなって」

美月「……あ」

空太「だから――今は」

空太「こうして美月と一緒にいる時間が一番大事だって」

空太「何だか自然に、そう思っちゃうんだ」

美月「……お兄ちゃん」


218 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/23(火) 22:00:51 hPYKVG5Y
空太「美月がいて」

空太「その周りに大好きな二人の『お姉ちゃん』がいて」

空太「……ぼくは、それが今、一番楽しいって思うから」

空太「だから――しばらくは、『そういうこと』にはならないかなって」

美月「……」

空太「美月?」

美月「――ね、ねぇ、お兄ちゃん?」

空太「?」

美月「そ、その……」


美月「ギュッてしても、いい?」

空太「……え?」


美月「……」

空太「……」

空太(身体を起こして美月は、ぼくに正面から抱きついてきた)

空太(ぼくの身体に、美月の細い腕が回されて……ぼくも同じようにする)

美月「――どうしてだろ?」

空太「……美月」

美月「私ね、今……凄く恥ずかしいの」カァァ

美月「い、いつも、お兄ちゃんが……こんな感じのことするのイヤがってたのに」

美月「どうして私から、こんなこと……」

空太「……安心しちゃったから?」

美月「そ、そうなのかも……」

美月「さっきの話、聞いてるうちに……」

美月「お兄ちゃん、こういうことでは絶対に嘘つけないんだなって思っちゃうくらい慌ててたし」

空太「……美月が同じ立場でも、絶対に嘘つけないよね」

美月「そ、それは……うん。そうだね」


美月「――お兄ちゃん?」

空太「なに?」

美月「ごめんね」

空太「……え?」

美月「わ、私、どうして安心しちゃってるんだろ?」

美月「前にも話したけど……私、お兄ちゃんが他の誰かと付き合ったりすることになったら」

美月「応援するって決めてたのに……それなのに」

空太「……美月」


美月「私、お兄ちゃんが、えっと……『大好き』」

美月「ずっと一緒にいたいって思ってる」

空太「……それ、ぼくも同じ」

美月「……嘘」

空太「嘘じゃないよ、絶対」

美月「そうだね、本気なんだと思う」

美月「でも……きっと、お兄ちゃんの」

美月「『ずっと一緒にいる』っていう言葉の意味と、私のそれは違うのかもって」

空太「……美月」


219 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/23(火) 22:02:27 hPYKVG5Y
空太「美月が言ってる通り」

空太「ぼくは、もしかしたら……美月の全部を分かってあげられなくなってるのかも」

美月「……」

空太「でも」

空太「ぼくは美月が『大好き』で、ずっと一緒にいたいって」

空太「そう思ってるのはホント。美月とは違う意味だとしても、ね」

美月「……もう」

美月「お兄ちゃんは、ちょっと優しすぎるよ」

空太「陽子お姉ちゃんに、もっと優しくしてあげて、って言われちゃったし」

美月「そ、それを抜きにしてもっ」


美月「こうして膝枕されちゃって髪まで撫でられて……」

美月「ホントは恥ずかしくてやめてほしいのに、どっかで……止めてほしくないって思っちゃってるの」

空太「……」

美月「お、お兄ちゃんには、こういう気持ちって分かる?」

空太「多分、分からないと思う」

美月「そ、即答……いや、しょうがないけど」

空太「ただ」

空太「ぼくは美月が可愛くて大事だし、ずっと一緒にいたいって、いつも思ってる」

空太「それだけ、だから」

美月「……ああ」


美月「そうだよね。そんなお兄ちゃんだから、私は……ずっと一緒にいられたのかもね」

空太「美月」

美月「お兄ちゃん?」

空太「……ずっと一緒、だから」

美月「……ずっと一緒、って言葉の意味が、もしかしたら」

空太「ぼくと美月で違うのかもしれないけど」

空太「それでも……ぼくは、美月とプールで約束したし」

空太「それ以上に、ぼくがずっと一緒にいたい、って思ってる」

空太「……ごめん。今は、これくらいしか言えないけど」

美月「ううん、いいよ」

美月「お兄ちゃんが、そうやって、いつも私のこと心配してくれるから」

美月「私は、お兄ちゃんが『大好き』なんだし……」

空太「……兄が妹のこと心配するのって当たり前だと思うけど」

美月「ほら。そういうこと、普通に言えちゃう」


美月「――ねえ、お兄ちゃん?」

空太「なに?」

美月「ずっと抱きついちゃってるけど……熱くない?」カァァ

空太「熱いけど、美月のためだし」

美月「ほら、そうやって……いつも私のことばっかり――」

空太「それに、ぼくも美月の熱さが気持ちいいし」

美月「……!」

空太「それだけだよ?」

美月「――もうっ」

美月「お、お兄ちゃん……そ、そういうこと言うのって私だけ、なんだよね?」

空太「うん」

美月「……お兄ちゃん?」

空太「?」

美月「そ、そろそろ、お姉ちゃんたちが帰ってきちゃうから、最後に。ね?」


空太(そう言いながら美月は上を向いて、ぼくと視線を合わせた)

空太(赤く染まったほっぺたと、キレイな目……下から見上げてくる美月を見て、思った)

空太(これって――上目遣いってヤツじゃないか、って)


220 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/23(火) 22:03:27 hPYKVG5Y
美月「私、お兄ちゃんが『大好き』」

美月「ずっと一緒にいたい」

美月「プールとか海とかお祭りとか行ったり……そんな時間が大好き」

美月「しばらくは……ずっと、こうしていたいかなって」

美月「これからもよろしくね、お兄ちゃん?」


空太(――さすがに、ぼくも)

空太(そんな風に、上目遣いの美月に言われることは……大変で)カァァ

空太(でも……それが何だか、ホントに嬉しくて。だから)


空太「ぼ、ぼくも、美月が――」


陽子「ただいまー!」

綾「ただいま」

空太「……」

美月「……」

陽子「ど、どうしたんだ、二人とも?」

綾「二人、背中合わせになっちゃって……どうかした?」

空太「な、何でもない……」

美月「な、何でもない……」

陽子「おおっ。息ぴったり……」

綾「……そうね。何でもなかったのね」

美月「……あ、綾お姉ちゃん? 何か言いたいこととかある?」

綾「私? そうね……」

綾「こういう状況のとき、『何でもない』わけがないってことかしら」クスッ

空太「……さすが、綾お姉ちゃん」

陽子「さすがー、綾お姉ちゃん」

綾「こ、空太くんはともかく、陽子は静かにっ!」カァァ


221 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/23(火) 22:04:29 hPYKVG5Y
綾「……まあ、詳しくは言わないけど」

綾「何というか、あまり花火を見ていられない感じだったのかなって」

空太「……う」

美月「さ、さすが、少女マンガ大好きな綾お姉ちゃん……」カァァ

綾「そ、それは美月ちゃんも同じでしょ?」


陽子「そっか……」

陽子「美月?」

美月「よ、陽子お姉ちゃん?」

陽子「少しはスッキリした?」

美月「……ま、まあ」

空太「うん。ぼくもスッキリした」

美月「お、お兄ちゃん……」

陽子「ん。良かった良かった」

陽子「二人の幸せが、私の一番の願いなんだから」

空太「……陽子お姉ちゃん」

美月「私も、お兄ちゃんも……陽子お姉ちゃんの幸せが一番だから」

陽子「……て、照れるな、さすがに」カァァ

綾「ほら、しっかり? 陽子お姉ちゃん」クスッ


綾「良かったわ。まだ花火は続いてるみたいね」

陽子「まだ結構、続くみたいだな」

綾「……良かったわね、二人とも?」

空太「あ、綾お姉ちゃん……」カァァ

美月「て、照れちゃうね……」カァァ


222 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/23(火) 22:15:04 hPYKVG5Y
ここまでです。
尻切れトンボな感じになってしまいましたが、お祭り編はおしまいです。
大好きと「大好き」も、また違うと思います(二回目)



陽子「それじゃ、乾杯って感じか?」

綾「ううん、陽子。私はともかく……」

陽子「あ、そっか……」

陽子母「二人とも? 麦茶、持ってきたよ?」

空太「あ。ありがと、お母さん」

美月「ありがと」

陽子「……い、いつの間に?」

陽子母「うーん……いつかな?」クスッ


陽子母「まあ、何にしても」

陽子母「みんな? 仕事とか学校生活とか、その他諸々、色々と思うことあるだろうけど」

陽子母「『乾杯』って言って、スッキリしちゃいましょう?」

陽子「……そうしよっか」

綾「そうね。あっ、今のキレイな花火……」

空太「うわ、キレイ……」

美月「ホント……」

空太「青い花火っていうのも良かったね。美月に似合ってる感じで」

美月「……お、お兄ちゃん」


陽子「……まあ」

綾「この子たちを見てると、本当に癒やされちゃうし」

陽子「そうだな、綾……」

陽子「――それじゃ、乾杯するかっ」

綾「ええ、そうね」

空太「そうだね、陽子お姉ちゃん」

美月「……うん」


陽子「それじゃ、えっと……」

陽子「みんなっ! 今日という日を祝して……乾杯っ!」

綾「乾杯」

空太「乾杯」

美月「か、乾杯……」

陽子母「乾杯っ!」


223 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/23(火) 22:34:19 R0Wa9LC2
ええぞ!ええぞ!2期最終回の双子のやりとりや様子を見てから、
このSSを1から読み直すとなかなか感慨深いものがありますね


224 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/26(金) 00:04:33 kZBIALm2
とりあえず、今回で夏休み編もおしまいかもしれません。
リクエストの中学時代の二人の話です。もっとも回想形式ですが……。



――数日後・病院


空太「……」

美月「お兄ちゃん」

空太「あ、美月。終わった?」

美月「うん」

美月「とりあえず、大きなケガとかじゃなくて……ちょっと捻っただけだって」

空太「良かった……」

美月「一応、塗り薬もらったから。時々、塗るように、って」

空太「そっか。それじゃ、ぼくがやってあげる?」

美月「……さ、さすがに一人で出来るから」

空太「冗談だって」

美月「最近、どの辺りがお兄ちゃんにとっての『冗談』なのか分からなくなってきたよ……」


――帰り道


空太「それじゃ、美月。しっかり掴まっててね?」

美月「う、うん……」ギュッ

空太「速さはどれくらいがいい?」

美月「ふ、普通かな……」

空太「わかった」


美月「――ねえ、お兄ちゃん?」

空太「ん?」

美月「私、もう自転車の漕ぎ方忘れちゃったかも……」

空太「大丈夫だよ。美月の運動神経なら」

美月「……そ、そういう嘘はやめてほしいかな」

空太「まあ、運動神経は置いといても」

美月「そ、そこが問題だったんだよ!?」


空太「まあ、ぼくは美月と二人乗りしてるのが楽しいから」

空太「これからずっと、二人乗りでもいいけど……」

美月「……そ、それは私が困るかな」

空太「美月は楽しくない?」

美月「……た、楽しくないもん」カァァ

空太「それ、嘘って言っちゃっていい?」

美月「……お兄ちゃんのイジワル」プイッ


空太「大丈夫だよ、美月」

空太「ずっと一緒にいる、っていう約束だから」

美月「……そ、それは」

美月「も、もし……お兄ちゃんとか私に、その」

美月「あ、相手が出来ちゃったりしたら……離れちゃうし」

空太「え? もし、そこで困ったら『自転車役お願い』って、ぼくに頼めば……」

美月「ま、まだ自転車の話だったの!?」


空太「あ、ところで美月」

美月「と、ところで……う、ううん。なに?」

空太「この辺り、ぼくたちの通ってた中学だよね」

美月「え? ま、まぁ、そうだけど……」

空太「……ちょっと寄ってみない?」

美月「……え?」


――中学校


空太「……あ、部活中みたいだね」

美月「校門、開いてるね……」

空太「――せっかくだし、行ってみよっか」

美月「ほ、本気……?」

空太「嘘じゃないし」

美月「……もう」

空太「とりあえず、自転車はこの辺に停めておけばいいかな」

美月「それじゃ、私も降りるね」


空太「美月、足とか痛くない?」

美月「う、うん……でも」

美月「さ、さすがに、ここなら私も自分で歩きたいかな……」

空太「そう? それなら……」

美月「あ、ありがと――痛っ!」ガクッ

空太「……」

美月「……」

美月「お、お願い」カァァ

空太「分かった」


225 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/26(金) 00:05:20 kZBIALm2


――中庭


空太「ここ、懐かしいね」テクテク

美月「……あ」

空太「給食の後、ここでよく寝てたよね?」

美月「お、思い出させないで……」カァァ


空太『美月、ここいいよ?』

美月『え、お兄ちゃん? いいの?』

空太『うん。ここ、特等席だから』

美月『……あ、ありがと』

美月『それじゃお兄ちゃん? 5時間目の10分前になったら起こしてね?』

空太『美月の昼寝次第かな』

美月『もう、お兄ちゃんったら……』

美月『暖かいね、お兄ちゃんのここ――』ニコニコ


空太「……懐かしいなぁ」

美月「そ、そんな遠い目とかしないでほしいかな……」

空太「あの頃の美月、今より素直で……」

美月「お兄ちゃん、あの頃の私の方が、その……す、好き?」

空太「ううん。ぼくは美月なら、どんな美月でも好きだよ」

美月「……こ、こういう所で嘘をつけたままでいてほしかったかも」


空太「美月。陽子お姉ちゃんのこと『好きじゃない』って言った時のこと、覚えてる?」

美月「……綾お姉ちゃんと初めて会った時のことだよね」

空太「うん。その時、陽子お姉ちゃんがショック受けちゃったの見て」

空太「もう、こういう嘘をつくのは止めようって……特に、家族に対しては」

美月「……」

空太「だから、ぼくは美月が好きだってことに嘘はつけないかも」

美月「……色々と話してくれたけど」

美月「け、結局――私が、す、好きだって言いたかっただけ?」

空太「……どうして、美月には分かっちゃうんだろ?」

美月「お、お兄ちゃん……」


空太「――そういえば」

空太「この中庭って……たしか」

空太「進路相談の時も使ったよね?」

美月「あ、そういえば……」

空太「たしか、あの時は――」


空太『美月。高校、どうする?』

美月『うーん、どうしよっか?』

空太『ぼくは陽子お姉ちゃんの通ってた所がいいんじゃないかなって』

美月『あ、それなら私も……』

空太『……美月も同じでいいの?』

美月『うん。お兄ちゃんと同じ高校で、女子高生ライフを、って……』

空太『それもそっか。それじゃ、そうしよう?』

美月『うんっ!』


美月『お兄ちゃん、肩枕してくれる?』

空太『……また寝ちゃう?』

美月『きょ、今日は寝ないからっ!』

空太『別に、寝ても起きてても美月は可愛いし……いいけど』

美月『ありがと、お兄ちゃんっ』


226 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/26(金) 00:05:50 kZBIALm2
美月『――でもね?』

空太『?』

美月『――私、このままだと』

美月『高校も大学も、その先も……ずっと、お兄ちゃんと一緒じゃないとダメになっちゃうかもって』

美月『なんだかね、それが少し怖いの……』

空太『……美月』

美月『お、お兄ちゃんと一緒にいて……こうやって二人で時間を過ごせるのは嬉しいし、楽しいけど』

美月『このままでいいのかなって』

空太『あのね、美月? もしもぼくは、高校が美月と別になったとしても』

空太『それだからって、美月と離れちゃうわけじゃないと思うよ』

美月『……お兄ちゃん』

空太『家に帰ったら会えるし』

空太『一緒にゲームも出来るし、部屋に行ってマンガとかも読めるし……』

空太『――あ、でも』

空太『やっぱり……学校生活一緒じゃないっていうのは辛いかも』

美月『……時間的に学校生活の方が長いもんね』

空太『ごめん、美月。やっぱり、ぼくと同じ高校に行こう?』

美月『……け、結局、不安な所は残ったままだね』


空太『大丈夫だよ、美月』

空太『どっかで……ぼくも美月も、大人になっちゃうと思うし』

美月『……陽子お姉ちゃんみたいに?』

空太『そうだよ。あんな風に、大学生になって就活して……』

空太『ぼくも美月も変わっていくし、きっと変わっていけちゃうんだよ』

美月『……そ、そうなのかな』

空太『うん』

空太『美月。一緒に大人になっていこう?』

美月『……そ、その言い方だと、何だかアレだけど』

美月『うん、そうだね……お兄ちゃん』

空太『ありがと、美月』


空太「――なんてこと、話してたっけ」

美月「……」

空太「美月?」

美月「……『一緒に大人になれたら』かぁ」

美月「昔は、お兄ちゃんが私に、そんなこと言ってたんだよね……」

空太「ぼくだって大人になったし」

美月「い、妹からしたらそれは嘘、かも……」


美月(――私だけが意識するようになっちゃって)

美月(でも、当のお兄ちゃんは中3の頃……私に、そんな「お兄ちゃん」らしいこと言ってくれてて)

美月(……私、あのまま)

美月(お兄ちゃんに――あ、甘えられてた頃の方が良かったのかな?)アセアセ


空太「高校になってから今度は、ぼくが美月に色んなこと教えられちゃってるよね」

美月「……え?」

空太「美月のおかげで、ぼくも少しずつ……綾お姉ちゃんたちも言ってくれるけど」

空太「変わってこれたのかなって」

美月「!」

空太「綾お姉ちゃん、前に言ってた。『美月ちゃんは大人になっていってるのね』って」

空太「だから……ぼくも美月より遅れちゃってるかもだけど」

空太「一緒に、大人になっていけるといいなって」

空太「いつも、ありがとね。美月」


227 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/26(金) 00:06:17 kZBIALm2
美月「……も、もしかして」

美月「そういうことを言いたいから、今日ここに来たの?」

空太「ううん。これは何となく」

空太「――中学の頃の美月を思い出したくて」

美月「あ、あの頃は、もう恥ずかしいからっ!」

空太「可愛かったよ、美月……あっ。それはもちろん、今もだけど」

美月「お、お兄ちゃん……」


美月「――そ、それじゃ、そろそろ帰ろ?」

空太「うん、そうしよっか」

美月「……結局」

美月「私、ずっとおぶったままだけど……大丈夫?」

空太「……今日の気温って、30℃超えるんだっけ?」

美月「もう超えてるかもね……」

空太「そっか」

空太「それじゃ、この汗は太陽とかのせいだね」

美月「そ、そうなっちゃうの!?」


空太「だって」

空太「美月のせいで、ぼくが気分悪くなることなんて……万に一つもあり得ないから」

美月「……お兄ちゃんは、いつもそうだよね」

美月「私が何か気にしたことも……全部、『違う』って言ってきちゃう」

空太「……ホントのことだし」

美月「それ、ちょっと嘘でしょ?」


空太「――そ、それじゃ、そろそろ帰ろっか」

美月「そ、そうだね……」

空太「美月? 二人乗りは遠慮しないで、ギュッてしてきていいからね?」

美月「……そ、そういうこと言わないでほしいかなって」

空太「それじゃ、抱きついてきていいから……」

美月「か、変わってないよっ!」カァァ


228 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/26(金) 00:10:26 kZBIALm2
ここまでになります。こいつらいつも二人乗りしてんな。
高校に上がるまでの美月は、かなり甘えていたという話でした。描写不足かもしれませんが……
次回から2学期……だと思います。ネタ等のご希望がありましたら、是非ともお願いします。



――帰り道・二人乗り中


美月「……ねえ、お兄ちゃん?」ギュッ

空太「どうかした?」

美月「……あ、あの頃の私って」

美月「今と、結構違っちゃってた、かな?」

空太「えっと……今より、よく甘えてたかな」

美月「や、やっぱり……」

空太「ああ。でも、今も」

空太「甘えないで何とかしようとして……結局、ぼくに――」

美月「ス、ストップストップ!」アセアセ


空太「――でもね」

空太「美月は、ぼくより……ずっと早く大人になっちゃうかもね」

美月「……お兄ちゃん」

空太「って。高校に入ってから、思うようになったかな」

美月「……」


美月(大人になる、って……)

美月(ホントにいいことなのかな……)

美月(今日、中学に来て……あの頃のことを思い出して)

美月(もしかしたら……あんな風に、お兄ちゃんと一緒にいることを目一杯楽しめてた時のほうがって)


空太「今、凄く楽しいんだ。美月」

美月「……え?」

空太「色々変わるけど……それでも」

空太「美月と一緒にいられるだけで、ぼくは楽しい」

空太「それだけ」

美月「……お兄ちゃん、もしかして」

美月「私の思ってること、分かっちゃったりしたの?」

空太「ちょっとだけ、ぼくに掴まってる腕の力が弱ってた」

美月「――!」

空太「ちょっと元気なくしちゃってるのかな、って。それだけ」

美月「……ホント、怖いね。お兄ちゃんは」

空太「美月だって、そうだよね?」


美月(――まあ、いっか)

美月(こうして二人で一緒にいる時間……)

美月(それは、少なくとも……まだ、もうしばらくは続くんだろうから)

美月(――だから)


空太「美月。新学期も頑張ろうね」

美月「……うんっ」


美月(お兄ちゃんと一緒にいられる今の時間を……もっと楽しみたいかな)


229 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/26(金) 00:17:52 kZBIALm2
>>223
そう言ってもらえるとホントに嬉しいですね。
改めて、こんな魅力的なキャラたちを出してくれた原先生に感謝です。


230 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/26(金) 21:45:33 jYcdbBwQ
まだ、続いててたのか(歓喜)
このSSのおかげで最終回の喪失感が紛れたゾ
無理せずにイメージできるのであればでいいから
2学期は王道だとしても体育祭か文化祭ネタをやって欲しい。
まぁ、どっちを2学期でやってたかは覚えてないんですが。
しかし、このSS読んでると他のアニメの最終回の寂しさを
自分でSS書いて紛らわしたくなって来るんだよなぁ…


231 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/26(金) 23:12:46 kZBIALm2
>>230
これからも、もう少し続く予定です。
寂しさが紛れるのなら嬉しいですね……これは嬉しい。
まさかここまで続くとは自分でも思ってませんでしたが、書いてて楽しいので、消されないことにホントに感謝してます。

一応、2学期ネタで文化祭は確定で、体育祭は構想案だけは何となく浮かんでいる状態です。
どこかのタイミングで、まだ登場していない本編キャラも出る予定です。


232 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/27(土) 17:23:26 rj6nXSUc
ここからしばらく文化祭編です。
ノスタルジー的な描写が多くなるかもしれません。


――通学路


空太「……蝉の声、聞こえなくなっちゃったね」

美月「そうだね。もう、夏も終わっちゃったね……」

空太「何だか寂しいけど……まぁ」

空太「それなりに夏らしいイベントは出来たから、いっか」

空太「プール、海、お祭り、花火、宿題、甲子園観戦――」

美月「何だか、定番って感じのことをしてた感じだよね」

空太「膝枕、肩枕、おんぶ、二人乗り――」

美月「そ、それ全部、定番から外れてるよっ!」アセアセ



美月「……思い返すと」

美月「わ、私には恥ずかしい思い出の方が多いかな」

空太「そう? ぼくは美月と長く一緒にいられて、楽しかったけど」

美月「……お兄ちゃんも、もう少し」

美月「か、顔が赤くなっちゃうあの感覚を知ってもいいのかなって」

空太「大丈夫だよ、美月」

空太「それなら今だって、ぼくの顔って赤いと思うし……」

美月「そ、それは日焼けでしょっ!」


空太「美月も、ちょっぴり赤いね」

美月「……ずっと、お兄ちゃんに連れ出されちゃってたから」

空太「ちょっと二人乗りしすぎちゃったよね」

美月「晴れてる日にアレやってると、すぐ日焼けしちゃってたよね……」

空太「ぼくは美月さえよければ、学校までも二人乗りを――」

美月「し、しないから! 恥ずかしいよっ」カァァ

久世橋「ダメです」

美月「そうだよ、ダメだよ……あれ?」

空太「……クッシーちゃん、いつの間に?」


233 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/27(土) 17:23:52 rj6nXSUc
久世橋「あなたたちの後ろ姿を見かけたので」

久世橋「それで近づいたら……『二人乗り』なんて言葉が聞こえたもので」

久世橋「……校則以前に法律違反じゃないですか」

空太「……クッシーちゃん、全部作り話なんです」

美月「そ、そうなんです!」

美月「私が、お兄ちゃんの背中に抱きついて二人乗りなんて……恥ずかしすぎます」カァァ

久世橋「……随分、具体的な作り話ですね」

空太「美月。もしボロが出たら、今のは美月のせいじゃないかなって」

美月「……そ、そもそも!」

美月「お、お兄ちゃんが二人乗りしようなんて言い出すから……!」

久世橋「そうですか。やっぱり事実だったんですね」

空太「クッシーちゃん、分かっててからかってますよね……」

久世橋「わ、私は生徒にそんなことは……」アセアセ


久世橋「お二人とも、マジメな生徒ですが」

久世橋「……根の所は、やっぱりお姉さんと似てますね」

空太「え? ぼくたち、クッシーちゃんに敬語ですよね」

美月「そうです、クッシーちゃん。お姉ちゃんは誰にでもタメ口だったと思います」

久世橋「……その『クッシーちゃん』って所を言ったつもりなんですが」


234 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/27(土) 17:24:34 rj6nXSUc
久世橋「まあ、二人乗りの所は聞かなかったことにして」

空太「……やっぱり、からかってたんですね」

美月「クッシーちゃん、イジワル……」

久世橋「と、ところでっ」

久世橋「B組は文化祭の出し物は決まりましたか?」

空太「あ、それなら」

美月「今日、決める予定です」

久世橋「そうですか」

久世橋「……1年B組、猪熊くんと猪熊さん、烏丸先生」

空太「……クッシーちゃん?」

美月「ど、どうかしましたか?」

久世橋「いえ、何でも」

久世橋「ただ……改めて、偶然の力というのも侮りがたいものですね」

空太「?」

美月「?」

久世橋「いえ、いいんですよ」

久世橋「……教師生活の醍醐味みたいなものを感じただけですから」クスッ


235 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/27(土) 17:25:05 rj6nXSUc


――帰りのHR・1年B組


男子「――それじゃ、決を採った結果」

女子「出し物は『甘味処とメイド喫茶』ということに決定しました!」


パチパチパチパチ


空太「決まったね」

美月「……うん」

空太「美月、どうかした?」

美月「い、いや……その」

美月「私、その……コ、コスプレって恥ずかしくて」

空太「……凄い。一気にいかがわしいお店みたいになった」

男子「感心してないで、ツッコんであげた方がいいんじゃないか……」

女子「コスプレ、か……ふーん」ニヤニヤ

美月「そ、そういう顔やめてぇ……」カァァ


烏丸「……皆さん、お疲れ様でしたっ!」

烏丸「私は見ているだけでしたが……『メイド喫茶と甘味処』ですか」

烏丸「……」チラッ

空太「?」

美月「カラスちゃん……?」

烏丸「それでは、皆さん。準備、頑張っていきましょうね?」


烏丸「……」

空太「あ、あの、カラスちゃん?」

烏丸「あら、空太くん?」

美月「な、何か……私たちに用事とか?」

烏丸「美月ちゃんも……ああ、さっきの視線のことですか?」

烏丸「いえ、そういうわけじゃなくて……ちょっと、ね」


236 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/27(土) 17:25:33 rj6nXSUc
空太「……6年前も同じことを?」

烏丸「ええ。当時も私は、1年B組の担任で――」

烏丸「あなたたちのお姉さんも一緒でした」

美月「……そういえば、陽子お姉ちゃんたちって」

烏丸「ああ、懐かしいですね……」

空太(カラスちゃん……さっきのクッシーちゃんみたいな顔してる)

美月(教師生活の醍醐味、かぁ……)

烏丸「そうそう。思い出話もあるんですよ?」

烏丸「私が味見しようとしたお団子に、何故か辛子とかが詰まっていて」

烏丸「凄く辛くて、水をいっぱい飲んで……」

烏丸「ふふっ。今となっては、いい思い出ですね」ニコッ

空太「うわ、酷いことする人……」

美月「カラスちゃんに酷いことするとか……ちょっとイヤかも」

烏丸「い、いえいえ。ホントに、今となっては良い思い出なんですよ?」


烏丸「――何にせよ」

烏丸「まさか6年後、卒業生のきょうだいが同じ出し物を、同じクラスで……なんて」

烏丸「もう『運命』かもしれませんね」クスッ

空太「……運命」

美月「な、何だか照れちゃう言葉だよね」カァァ

空太「え?」

烏丸「ふふっ、美月さんは可愛いですね」

空太「美月、可愛いってさ」」

美月「……も、もうっ!」プイッ


237 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/27(土) 17:25:59 rj6nXSUc


――その日の夜・電話越し


空太「――って感じで、出し物決まったよ」

綾『……』

空太「綾お姉ちゃん?」

綾『い、いえ』

綾『ちょっとビックリして……何だかジンワリしちゃったわ』

空太「……カラスちゃんもクッシーちゃんも、みんな同じ感じなのかな」

綾『空太くんたちに実感が湧きにくいのはムリもないわよ』

綾『ただ、たしかに……『運命』っていうのは凄いわね』

空太「あ、それ今度、美月に言ってあげてほしいかな」

空太「多分、凄く喜ぶから。主にぼくが」ニコッ

綾『こ、空太くん……美月ちゃんをイジメちゃダメよ?』

空太「……綾お姉ちゃん、ホントに『お姉ちゃん』っぽくなってきたよね」

綾『……そ、そういうこと言うのもダメ』アセアセ


綾『まあ、何にせよ』

綾『高校生活、楽しんでるみたいで何よりね……』

空太「……ぼくは美月と、もっと二人乗りしてたかったんだけど」

綾『こ、高校生活より二人乗りの方が大事なの?』

空太「うん」

綾『即答!?』

空太「冗談だよ、綾お姉ちゃん」

綾『……もう』


238 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/27(土) 17:27:38 rj6nXSUc
一旦、ここまでです。
次辺りから本番スタートかも


綾『文化祭、ね……』

綾『日程とか決まったの?』

空太「あ、それはまだだと思う」

綾『そうなのね。日程次第だけど……』

綾『私も行きたいわ』

空太「陽子お姉ちゃんと一緒に?」

綾『ど、どうしてすぐに陽子の名前が出てくるの?』

空太「何となく」

綾『……まあ、陽子とあなたたちを見守ってるのは嬉しいし、楽しいけど」

空太「……な、何だか、こっちが照れちゃうよ」カァァ

綾『さっきまでの仕返し、かしら?』

空太「……イジワル」

綾『空太くんほどじゃないわよ』クスッ


綾『それじゃ私、ちょっと持って帰ってきた仕事しないといけないから』

空太「あ、そうなんだ」

空太「ごめんね。ぼくが電話しちゃってジャマしちゃったかな」

綾『ううん。謝らないで』

綾『むしろ私が感謝したいくらいよ……ああ、疲れた心が癒やされる』

空太「……世知辛いね、社会って」

綾『こ、空太くんがそういうこと言うのは、まだ早すぎると思うけど……』


綾『――そういえば、もう陽子には話したの?』

空太「まだ」

綾『……ホントの『お姉ちゃん』は、陽子なんだから』

綾『私より先に話した方が良かったんじゃない?』

空太「今日は残業で、まだ帰ってこれないみたい」

空太「だからさっき、メールしておいたよ」

綾『……世知辛いわね、社会って』

空太「わっ、凄く感情こもってる……」


239 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/27(土) 20:30:31 rj6nXSUc
今日は恐らくここまでになります。
思った以上に、ずっと長くなってしまいました。
読みにくいかもしれません。

今回から色んな事が動き出す、んでしょうかね……。


――翌日・学校


男子「……なぁ、空太?」

空太「なに?」

男子「いや、出し物がアレってことは……」

男子「俺たち男子は、裏方ってことでいいのか?」

空太「……うちのお姉ちゃんとかの話だと、6年前はそうだったみたい」

男子「そっか……まあ裏方でも楽しいだろうし、いっか」

空太「なに? メイドさんやりたかったとか?」

男子「どうしてそうなるんだ……」


女子「裏方、おめでとっ」

男子「……挑発か?」

女子「まあ、あんたはともかく……」チラッ

空太「?」

女子「猪熊くんは惜しい……かも」

空太「……ぼくも、さすがにメイドさんはキツいかな」

男子「空太はメイドから離れてくれ……」


空太「メイドといえば、やっぱり――」チラッ

美月「……!?」ビクッ

女子「だよねっ」

男子「前に、松原先輩の店で見た感じ……いけるかもな」

女子「それじゃ私、美月をメイドに推薦しよっかな」

美月「か、勝手に決めちゃダメッ」アセアセ


男子「あ、それじゃ……俺、甘味処班にお前を推薦するから」

女子「え? 私、メイドやりたいんだけど……」

男子「向いてないって思うから」

女子「うわ、バッサリ……」

空太「うーん……どうかな。向いてるかも」

女子「もう。たまには、猪熊くんみたいに少し考えてほしいよ」


男子「……」

女子(あれ? 考えてる……?)

男子「今日の昼飯って、何がいいと思う?」

女子「……そうだよね。昔からそんな感じだよね」

美月(そっか……そういえば、この2人って)

空太「やっぱり分からないけど……美月はメイド向きだと思う」

美月「ど、どうしてそこで私なの!?」カァァ


240 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/27(土) 20:30:57 rj6nXSUc
――しばらく経って・文化祭当日・校門前


陽子「綾ー!」

綾「陽子。久しぶり……いや」

綾「何だか、最近はよく会うようになったわね……」

陽子「そっか。それじゃ……」

陽子「……いつもあの二人がお世話になってます?」

綾「そ、それはちょっとどころかかなり違うわね……」


陽子「いや、実はさー」

陽子「昨日ちょっと思いついて、クローゼットの中にあった制服見てたんだ」

陽子「なんかさ、凄く懐かしくて……」

綾「……着てくるつもりだった?」

陽子「い、いや。さすがにもう、それはキツいな……」

綾「そうね。私は二重の意味で『キツい』かも……」

陽子「あ、綾、大丈夫だから! 太ってないからっ」アセアセ


陽子「……そういえば、最後にここに来たのって」

綾「私と陽子が大学を卒業した時、かしら」

陽子「ああ、そうだったな。二人きりで、カラスちゃんとかに挨拶を……」

綾「……そうね。二人きりだったわね」

陽子「……ツッコミ、期待してたんだけどなー」カァァ

綾「じ、自分で言って自分で照れないでよ……」カァァ


241 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/27(土) 20:31:21 rj6nXSUc
陽子「……二人きり、か」

綾「そうね。私たちだけ、だったわね」

陽子「……うわ。何か急にシンミリしてきたぞ?」

綾「もう、陽子? 楽しまないと損、でしょ?」

陽子「そ、そうなんだけど……」

綾「そういえば、連絡とかしてみた?」

陽子「……いや」

陽子「みんな忙しいのかもな、って」

綾「……すっかり社会人になっちゃったわね、陽子も」

陽子「綾も、ね」



――昇降口


陽子「……そういえば」

綾「?」

陽子「綾、空太たちが何することになったのか聞いてる?」

綾「い、いや……ホントのお姉ちゃんは陽子でしょ?」

陽子「綾だって、えっと……心の繋がり? って意味ではホントのお姉ちゃんじゃ……」

綾「や、ややこしくなるから……」


陽子「そっか。綾も聞いてないんだ」

綾「ええ……まぁ」

陽子「あの二人の隠し事なんて、今に始まったことでもないよなぁ……」

綾「きっと裏で、二人でニヤニヤしちゃってるのかもね」

綾「……特に、空太くんの方とか」

陽子「ああ。空太は昔から美月をリードして……」

綾「美月ちゃんは、それに引かれる形で……」

陽子「そして『嘘つきブラザーズ』が誕生したのであった――」

綾「な、何だか壮大な感じになっちゃってない?」


242 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/27(土) 20:31:50 rj6nXSUc


――1年B組前


陽子「……着いたな」

綾「ええ……わっ。飾り付けとかも、そっくり」

陽子「ああ。6年前に戻ってきた気がするな……」

綾「……ええ」

陽子「まだ、人は……来てないみたいだな」

綾「始まったばかりだし、これからでしょうね」


女子「いらっしゃいませ!」

美月「い、いらっしゃいませ……あっ」

陽子「おっす、美月」

綾「こんにちは、美月ちゃん」

美月「……ちょ、ちょっと私、隠れて」

女子「ダメー」ニコッ

美月「……イ、イジワル」カァァ


陽子「――ああ」

陽子「そっか、美月の友達の……」

女子「あっ、美月のお姉さんですか?」

陽子「うん。美月から話は聞いてるよ」

女子「……美月、私のこと話してくれてたんだ」

陽子「イジワルだけど、ホントにいい子なんだよって」

女子「……な、なかなか手厳しいね、美月」

美月「陽子お姉ちゃん、そこの『いい子』っていうの嘘だったの」

女子「追い打ち!?」


綾「もう、美月ちゃん? そこは『イジワル』っていうのが嘘ってことにしないと……」

女子「……もう一人のお姉さん、お優しいですね」

綾「い、いえっ。私、美月ちゃんの姉ってわけじゃ……」アセアセ

陽子「えっ? 綾お姉ちゃん、家族じゃなかったんだ……」

綾「よ、陽子お姉ちゃん……紛らわしくなるから。ね?」

女子「……美月のお姉さんたち、仲良しだね」クスッ

美月「……ま、まぁ」

女子「あ。嘘つきたかったけど、出来なかった感じ?」

美月「……見抜かれちゃった」


243 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/27(土) 20:32:08 rj6nXSUc
美月「お、お冷、お持ちしました」コトッ

女子「こちらのメニューをご覧の上、ご注文をお願いします」

陽子「お。ありがと」

女子「ごゆっくりどうぞ!」ペコリ

美月「ご、ごゆっくり、どうぞ」ペコリ

綾「……美月ちゃん、昔の私みたいね」

美月「や、やっぱり似たもの同士なのかもね……」


陽子「そっか……美月はメイドだったのか」

綾「あと、お友達も」

美月「……や、やっぱり恥ずかしすぎるよ」

女子「それじゃ、甘味処の方が良かった?」

美月「ど、どうだろ……」

陽子「甘味処、か。懐かしいなぁ」

綾「メイド喫茶……な、懐かしいし、やっぱり恥ずかしいわね」カァァ


女子「まあ、約1名は不満だったみたいですけど」

男子「ああ。猪熊さんは、やっぱり似合ってるな」

女子「ほら。こうやって聞こえよがしに……」

女子「って、あれ? 買い出し行ってたんじゃ……」

男子「今、帰ってきた。ほら、足りなかった器具とか材料とか……」

女子「……やっぱり裏方、合ってるね」

男子「……どう取ればいいんだ、それ」


陽子「息合ってるなぁ……」

美月「同じテニス部だし」

綾「テニス部……」

陽子「これも懐かしい感じがするなぁ……」

美月「あと、幼なじみだし」

女子「あっ。また美月が嘘ついてる」

男子「そうだな。俺たち腐れ縁だしな」

陽子「……息ピッタリだなぁ」クスッ

綾「ホントね……」クスッ


244 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/27(土) 20:32:30 rj6nXSUc
男子「――あ、そうそう」

男子「廊下の奥の方で隠れてサボってるヤツがいたから、連れてきた」

美月「……あ」

女子「よ、容赦ないね……」

男子「……実は、ちょっとだけ同情してる」

綾「ねえ、陽子? そういえば、空太くんって……」

陽子「ああ、それなら……やっぱり私たちの時と同じで」

陽子「裏方で、買い出しとかに出かけて――」


「……や、やっぱり、帰っていい?」モジモジ


陽子「」

綾「」

男子「残念だけどダメ」

空太「……さ、さすがに、厳しい」カァァ

美月「わ、お兄ちゃんが真っ赤に……」

女子「……やっぱり、私が思った通り」

美月「似合ってるよ、お兄ちゃん」

空太「……嘘」

美月「こ、これはホント!」アセアセ


陽子「……ああ、なるほど」

陽子「そっか。だから、言いたくなかったんだな」

綾「え、ええ……というか、ホントに空太くんよね?」

空太「か、甘味処担当。猪熊空太、です……」

陽子「……ど、どうして、男の空太が」

綾「接客を……?」

女子「いや、途中までは猪熊くんも裏方予定だったんですけど……」

男子「なんだっけ? 一部の女子が空太を呼んで」

女子「着てもらったら……こうなったんだよね」

美月「……と、止めてあげれば良かったのかな?」

空太「ううん、美月。大丈夫」

空太「……そうだ。これも美月のためだと思えば、恥ずかしくなんて」

美月「い、今は私のためとか関係ないよね?」


陽子「いや、似合ってるよ。空太」

空太「……よ、陽子お姉ちゃん」

綾「ええ……というか」

陽子「似合いすぎてて違和感がないのが、また……」

男子(空太、元々……どっかで女子っぽい顔立ちだからなぁ)

美月「わ、私……お兄ちゃんが心配だよ」

女子「それじゃ美月、今から甘味処班に移動する?」

美月「……そ、それは」

空太「心配ないよ、美月」

空太「もし離れちゃってても、ずっと一緒だから……」

美月「こ、ここでそういうこと言っちゃダメッ!」カァァ


245 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/27(土) 20:32:55 rj6nXSUc


――数分後


陽子「……結構、お客さん入ってきたな」

綾「ええ。メニューとかまで私たちの頃と殆ど変わってない……」

陽子「きっと、担任のカラスちゃん辺りが手を加えたんじゃないかな」

綾「そうね。烏丸先生なら、そうしそう……」

陽子「うん。……ところで、綾?」


女子「美月! あちらのお客様にお冷!」

美月「う、うん……わっ!?」ガクッ

空太「美月っ!」ガシッ

美月「……お、お兄ちゃん」

空太「気をつけないと。転んだらケガしちゃうよ?」

美月「う、うん……」

女子(……あれ? さっきまで猪熊くん、もっと向こうの方にいなかった?)


美月「ここを、こうして――」

女子「そう、そんな感じ」

美月「……ありがと」

女子「美月、やれば出来る子だから」

美月「そ、そんなことは……」

空太「あ、でも。ここをこうした方が、見栄えよくなるかも」

美月「あ、そっか。お兄ちゃん、ありが……」

女子「い、いやいや。猪熊くん、甘味処班でしょ?」

空太「あっちの仕事、今のところ無くなっちゃったから」

女子「……猪熊くんが無くしたの間違いじゃ」

空太「……美月のためだし」

美月「わ、私、一人でも大丈夫だからっ!」カァァ


陽子「――空太って凄いな」

綾「ええ。色んな意味で、ね……」

陽子「そうだな……ああ」

陽子「ダメだ。やっぱり……思い浮かんじゃうな」

綾「……あの子たちのこと?」

陽子「うん。今、どうしてるんだろうなぁ……」


女子「――あ、美月。猪熊くん」

美月「どうかした?」

空太「ぼくも?」

女子「うん。今、男子のほとんどが買い出し行っちゃってるから」

女子「男手が必要かもって」

空太「……重いんだ」

女子「うん。だから、二人でお願いできる?」

美月「わ、わかった」

空太「美月。転ばないようにね?」

美月「も、もう大丈夫だよ!」


246 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/27(土) 20:33:27 rj6nXSUc


――その頃・廊下


空太「あっ、クッシーちゃん、カラスちゃん」

美月「あっ……」

久世橋「……え、えっと」

久世橋「い、猪熊くん……ホントに甘味処班に」

烏丸「ふふっ、よく似あってますよね」クスッ

久世橋「……風紀的に、こういうのを許していいものなんでしょうか」

烏丸「まぁまぁ。カタい話は抜きにしましょう?」

久世橋「そうですね。ビックリするほど似合ってますし……不問ということで」クスッ

空太「……」カァァ

美月「そ、それじゃ、クッシーちゃん、カラスちゃん。失礼します……」

美月「ほら、いこ?」

空太「わ、わかった……」

美月(このままじゃ……お兄ちゃんが茹でダコみたいになっちゃう!)


久世橋「……行っちゃいましたね」

烏丸「ええ。ホントに息のあった子たちです」

久世橋「私も、まだまだ……接し方で迷います」

烏丸「あら? 生徒たちから笑顔が評判の久世橋先生が?」

久世橋「そ、そんな評判じゃありませんって……」


247 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/27(土) 20:33:52 rj6nXSUc
烏丸「――あの頃を思い出すと」

烏丸「久世橋先生も……ビックリするくらい柔らかくなったと思いますよ?」

久世橋「……生徒たちに教えられることも多いですから」

烏丸「そうですね。ふふっ、『メイド喫茶と甘味処』……」

烏丸「今日はよく、あの子たちを思い出します」

久世橋「奇遇ですね。私もです」

烏丸「久世橋先生、よく怒ってましたっけ……」

久世橋「そうですね……まったく」

久世橋「いつも私の手を掛けさせて、困った子でした」



「まったくデス。いつも怒られて私は大変デシタ」



久世橋「ええ、ホントにそうです……って」

烏丸「あ、あら……?」

「デモ……何だか今は、久世橋先生も柔らかくなっちゃいマシタ」

「あの頃の『トラ』みたいな久世橋先生は、もういないんデスね……」

久世橋「……幻覚でしょうか? それとも、幻聴?」

烏丸「いえ。きっと本物ですね」

烏丸「この特徴的なパーカーを、私は幻とは思いませんし」

久世橋「……そうですか」


久世橋「――えっと」

久世橋「お、お久しぶりです。九条さん」

烏丸「久しぶりね、カレンさんっ」

カレン「お久しぶりデスッ!」ニコッ


248 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/27(土) 20:34:16 rj6nXSUc
久世橋「い、いつ帰ってきたんですか?」

カレン「今日のミッドナイトデス」

烏丸「あらあら……随分と急な旅ね」

カレン「ハイ! ここに来れて良かったデス」

カレン「『甘味処とメイド喫茶』デスカ……懐かしいデス」

烏丸「ふふっ、そうでしょう?」

久世橋「……九条さんだけ、ですか?」

カレン「ハイ。実は帰ってきたら、二人ともくたびれちゃって、私だけが――」



「カ、カレンッ! ちょっと速すぎるよぉ……」



カレン「――速く着いちゃいマシタ」

久世橋「ま、紛らわしいですね……」

烏丸「ウサギよりネコの方が速い、のでしょうか?」

久世橋「わ、私も分かりませんが……」

「だ、だからっ! 私、ウサギじゃないよっ」


カレン「いいんデスよ――アリス」

カレン「カメみたいにゆっくりでも私たちは待ってマス」

アリス「も、もう、すぐそばにいるよねっ!?」

烏丸「アリスさんもお久しぶりですっ」

久世橋「お、お久しぶりです、カータレットさん……」

アリス「烏丸先生、久世橋先生……えっと」


アリス「た、ただいまっ!」ニコッ


249 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/27(土) 20:34:43 rj6nXSUc


――1年B組


陽子「……なぁ、綾? 何か聞こえないか」

綾「奇遇ね、陽子……」

陽子「……どうして、ほっぺたつねってるんだ?」

綾「同じこと、そっくりそのまま陽子に返すわね」


女子「いらっしゃいませ! 2名様ですか?」

カレン「ハイ!」

女子「申し訳ございません。ただいま、満席となっておりまして……」

女子(――あれ? このお客様って、どこかで……?)

アリス「えっと……相席って、あそこに座ってる二人と?」

女子「……あ」

女子「は、はいっ。そうなってしまうのですが、いかがなさいましょうか?」

カレン「願ったりかなったりデスね、アリス?」

アリス「な、何だか『運命』みたいなもの感じちゃうね……」

女子(――そうだ。このお客様たち、松原先輩のお店で……!)


カレン「……久しぶりデスね」

アリス「うん……ホントに」

陽子「――やっぱりさ、綾」

綾「なに、陽子?」

陽子「何度つねっても、痛いんだ」

綾「私もなのよ、陽子」

陽子「……そういうことなんだな」

綾「ええ……」


250 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/27(土) 20:35:13 rj6nXSUc
カレン「? 二人トモ、何してるデス?」

アリス「ヨーコ? アヤ?」

陽子「……」ガタッ

カレン「ワッ!?」

アリス「ヨ、ヨーコが……た、立ち上がってる!?」

カレン「ま、回りこまれちゃいマシタッ」


陽子「……カレン、アリス」

カレン「ハ、ハイ……?」

アリス「ヨ、ヨーコ? もしかして……お、怒ってる?」

陽子「そんなわけ――」


ギュッ


陽子「――ないだろ。もう」

カレン「う、後ろから……抱きしめられちゃってマス?」

アリス「ヨ、ヨーコ……ちょっと恥ずかしいよぉ」

綾「ふふっ、陽子……ホントに嬉しそうね」

陽子「綾も、だろ?」

綾「ええ。……私も抱きついちゃいましょうか?」

カレン「ワッ!? ア、アヤヤが……」

アリス「じょ、冗談でも、そんなこと言わなかったのに……」

綾「あ、あなたたちね……」


251 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/27(土) 20:35:32 rj6nXSUc
陽子「……ところで、二人とも?」

カレン「ハイ?」

陽子「えっと――『もう一人』は?」

アリス「あっ。それなら……たしか、1階の自販機に」

綾「え? ど、どうして、また?」

カレン「いつもそこで買ってた飲み物、買いたいっていってマシタ……」

陽子「あ、相変わらず、面白いヤツだなー……」

アリス「後でこっちに来るようにって約束したの」

綾「そうだったのね……」


カレン「……ね、アリス?」

アリス「うん、カレン」

陽子「な、何かあるのか?」

カレン「ハイ! きっと、デスが……」

アリス「二人とも、ビックリしちゃうかもね」クスッ

陽子「?」

綾「?」

カレン「お楽しみは後で、デスッ!」ニコッ


252 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/27(土) 20:35:57 rj6nXSUc


――その頃・1階


空太「えっと、この辺り……だよね?」

美月「う、うん……えっと」

空太「結構、人来てて分かりにくい……」

美月「わ、私も……」

空太「まあ、ゆっくりいこっか」

美月「う、うん……」


女性「Sorry…May I presume to ask?
(すみません、ちょっといいかしら?)」


空太「……!」

美月「わ、わっ?」

女性「Hnn…I was muddled about the route.
(えっと……道が分からなくなっちゃって)」

空太「……英語、だよね?」

美月「う、うん……だと、思う」

女性「……?」

女性「Ah…Do you speak English?
(うーん……あなたたち英語は話せない?)」

空太「あ、今のわかった。『イングリッシュ』って言ってたし」

美月「い、いや、お兄ちゃん」

美月「そこに気づいても、もう……何を話してるのか分からなくなっちゃってるよね」

女性「Oh,I am in trouble…
(うーん、困っちゃったわねえ……)」

空太「……困っちゃってるね」

美月「うん。仕草とかで、だけどね……」


美月「――ど、どうしよう?」

空太「こういう時、カラスちゃんが近くにいてくれたら……」

美月「でも、カラスちゃん……さっき、上の廊下にいたよね」

空太「……仕方ない」

空太「美月のために、ここはぼくがガンバってみるね」

美月「ま、また私のためって……」

空太「こう言ってると、何だか……ホントに、それっぽい気分になるから」

美月「それっぽい気分ってなに!?」


253 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/27(土) 20:36:24 rj6nXSUc
空太「……」

空太(カラスちゃんの授業を思い出して……そうだ)

空太(そういえば、最初に英語で話しかける時は――)

空太(よし、行ってみよう……!)

空太「――え、えっと」


空太「め、めいあいへるぷ――」


「How may I help you?
(どうかなさいましたか?)」


空太「……あ」

美月「……え?」


女性「Oh! Do you speak English,Lady?
(あっ! あなた、英語話せるの?)」

「Yes! But…I am a beginning English speaker.
(はいっ! でも……まだまだ初心者ですが)」

女性「No,no! Your pronunciation is very beatiful!
(ううん、そんなことないわ! あなたの発音、凄く綺麗よ!)」

「Really?  Oh…I'm happy you told me that!
(ホントですか? わわっ……そう言って頂けて嬉しいです!)


空太「……ねえ、美月?」

美月「な、なに、お兄ちゃん?」

空太「――夢でも見てるのかなって」

美月「……ほっぺた、つねってみる?」

空太「……いや、いいや」


254 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/27(土) 20:37:00 rj6nXSUc
「Hnn…You got lost,OK?
(ふむ……道に迷ったということでよろしいですか?)」

女性「Yes…I'm in trouble.
(そうなのよ。困ったわ……)」

「Well…Would you please let me look at Your pamphlet?
(そうですね……よろしければパンフレットを見せて頂けますか?)」

女性「OK,Lady.
(分かったわ)」

「…I see.
(なるほど……)」

女性「Oh,Do you understand?
(え、わかったの?)」

「Maybe…You are here.So,go straight and turn light…
(おそらくですが……今、ここにいるんです。ですから、ここをまっすぐ進んで、それから右に曲がって……)」



空太(――それから、よく覚えていない)

空太(ずっと呆然としてたような気がする……)

空太(気づいたら、目の前の外国人は、笑顔で歩いて行って)

空太(隣にいる美月も、目を見開いちゃってて……ぼくも同じだった)


「――ふぅ」

「き、緊張しました……」

「これで……あの日、私を助けてくれたお姉さんに少しは近づけたんでしょうか?」


空太「……え、えっと」

「Long time no see…あっ、こっちじゃなくて」

「お久しぶりです、お二人とも」ニコッ

美月「ひ、久しぶり……」

「空太くんも美月ちゃんも……ホントに、大きくなりましたね」

空太「――ビックリしちゃった」

美月「う、うん……私も」

「いえ、ムリもありません」

「……一番ビックリしちゃってるのは、もしかしたら私なんですから」


255 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/27(土) 20:38:48 rj6nXSUc
ここまでです。
ずっと書きたくてたまらなかったシーンの詰め合わせでした。
しかし、英文がガバガバで申し訳ないですね……



空太「……えっと、それじゃ」

美月「わ、私たちのクラス……行く?」

「……はいっ、喜んで!」

空太「え、えっと……」

美月「えっと……」

「?」


空太「お、お帰り――忍お姉ちゃん」

美月「お、お帰りなさい――忍お姉ちゃん」


忍「……はいっ!」

忍「ただいま、です。空太くん、美月ちゃんっ」ニコッ


256 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/27(土) 21:51:14 rj6nXSUc
すみません
陽子たちが高1の時は、現時点から7年前でしたね……6年前、陽子たちは高2のわけで
今後、訂正していきたいと思います


257 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/27(土) 22:00:29 jdc4dM82
カレン、アリス、忍までそろってめっちゃ胸熱やで〜


258 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/27(土) 22:13:27 rj6nXSUc
訂正です。

>>249
>女子「申し訳ございません。ただいま、満席となっておりまして……」
>女子(――あれ? このお客様って、どこかで……?)

この二文の間に
「あちらのテーブル席の方と相席ということになってしまうのですが、それでも――」
という文章を挟み忘れてました。

>>252
☓Do you speak〜→○Don't you speak〜

>>254
☓light→○right

慣れないことはするものじゃありませんね……
英文は何ともガバガバなので、詳しい方のご指摘等があれば待ちたいと思います


259 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/30(火) 00:16:36 UqL6ORZI
今回は嘘つきブラザーズが未登場になってしまいました……
とりあえず、本編のメインキャラ5人のトーク回ってことでオナシャス


――1年B組


忍「Long time no see! youko-chan,aya-chan!
(お久しぶりです! 陽子ちゃんに綾ちゃん!)」

忍「It was tough before I got used to the Britain life…
(イギリスでの生活に慣れるのがタイヘンで……)」

忍「I'm sorry about not having contacted with you.
(なかなか連絡できませんでした。ごめんなさい)」

忍「Today,I'm really happy to see you!
(今日は、お二人にお会いできてホントに嬉しいですっ!)」


アリス「――って、言ってるんだよ。シノは」

綾「つ、通訳ありがとね。アリス」

陽子「……マジかー」

陽子「凄いな、しの」

カレン「ハイッ! シノ、向こうでガンバってマス!」

アリス「うんっ。でも、やっぱりまだちょっと言い方とかカタかったりするけどね……」

綾「い、いや。少なくとも私には違いとか分からないわ」

陽子「私にも。ただ、しのが喋っているのは英語だってことは分かる」

綾「……『Long time no see』くらいは知っておいてもいい気がするけど」


忍「いえ、いいんです。お二人とも」

忍「向こうで、アリス先生とカレン先生に鍛えられてますし」

アリス「わ、私たち練習に付き合ったりしてるだけで……」

カレン「そうデス。実際は、シノが自分から他の人と会話してるデス」

綾「さ、さすがの行動力……」

陽子「ああ。『ハロー!』しか言えないのにホームステイに行ってたくらいだしな……」

アリス「まぁ、あの時って私も『コニチハ』くらいしか分からなかったし……」

綾「い、いや。そっちには日本語の授業はなかった、わよね?」

カレン「義務ってワケじゃなかったデスね」

陽子「それじゃ、しのはあの頃アリスより危なかったんだなぁ」

忍「あっ、陽子ちゃん酷いですっ」


260 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/30(火) 00:17:27 UqL6ORZI
陽子「冗談だよ、冗談」

陽子「……私の言った通りだったろ?」

忍「……はい」

綾「『しのは良い通訳者になれるよ。保証する』だったかしら?」

陽子「あ、改めて言われると照れるな……」カァァ

忍「――向こうで暮らしている間も」

忍「ずっと、お二人のことを想ってました」

綾「し、しの……私も照れるわ」カァァ


忍「お二人は、どうでしたか?」

陽子「……え、えっと」

綾「……社会というものの世知辛さがキツくて、なかなか」

陽子「私も……」

忍「ああ、ごめんなさいっ!」


アリス「ああ、ヨーコとアヤの顔が……」

陽子「まぁ、三人も社会人になれば分かるよ。きっと」

カレン「わ、分かるのが怖いデスね……」

綾「――そういえば」

綾「今は、みんな現地の大学院に通ってるのよね?」

忍「はい!」

カレン「まだ学生デスッ!」

陽子「う、羨ましい……!」

アリス「そうだね。後、1年くらいは院生? になるのかな」

忍「1年……そうですね」

カレン「1年でシノの英語もパーフェクトになるといいデスッ!」

忍「ええ。今のままじゃ、まだまだ通訳者にはなれませんから……」


261 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/30(火) 00:18:22 UqL6ORZI
陽子「大丈夫だよ、しの。ちゃんと向こうに行っても努力できてるんだから」

綾「あの時は、ビックリしたわね。3年から交換留学に行くって話をされた時は」

忍「……すみません」

忍「お二人と一緒に卒業したい、って気持ちは凄くあったのに……」

綾「いいのよ。それは残念ではあるけど……」

陽子「夢に向かってガンバってる親友を応援しないワケないだろー?」

忍「……お二人とも、何だか大きくなった気がします」

綾「……そう思う?」

忍「はい。カッコイイです」ニコッ

陽子「しのも、な」ニコッ

綾「同感ね」ニコッ


アリス「……やっぱり、帰ってこれて良かったね」

カレン「ハイ。そういえば、最後に会ったノハ――」

綾「卒業して、あなたたちがイギリスの大学に通うようになってから……」

陽子「そういえば、1年に1回くらいは会えてたよね?」

アリス「うん。私たちも、ヨーコとアヤには会いたかったし……でも」

カレン「それから、しばらく会えなくなっちゃっててゴメンナサイ……」


262 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/30(火) 00:19:09 UqL6ORZI
忍「い、いえっ。悪いのは私なんです」

忍「……思った以上に長い間、外国で暮らすのはタイヘンで」

アリス「ムリもないよ、シノ」

カレン「そうデス。私たちが日本にいた時と違って」

アリス「シノ、最初に来た時……全然、喋れなかったもんね」

忍「お二人のフォローが無かったら私、まだまだ慣れませんでした」

陽子「そっかー、苦労してたんだなぁ……」

綾「だから、この3年近く帰ってこれなかったのね……」

忍「せめてエアメールだけは欠かさないように、と思ってたんです」

陽子「ありがとな。大切に保管してあるよ」

綾「ええ。その気持ちだけでホントに嬉しいのよ?」

忍「……あ」

忍「ありがとう、ございます」

陽子「泣きたいなら泣いてもいいぞー?」

綾「もう、陽子ったら……」

忍「ふふっ、泣きませんよ?」

忍「今日は……せっかく、大好きなお二人に会えたんですから」クスッ


アリス「――やっぱり」

カレン「ハイ。この3人は無敵デスね」

陽子「いや、私たちと……あと2人いないと、だよね?」

綾「ええ、そうね」

アリス「……ちょ、ちょっと照れちゃうね」

カレン「ハイ。さすがヨーコは天然ジゴロデス」

陽子「ジ、ジゴロって……あ、あのなぁ、カレン?」

綾「……敢えて否定はしないでおこうかしら」

陽子「綾もカレン側!?」


263 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/30(火) 00:20:05 UqL6ORZI
忍「――あ、そういえば」

忍「空太くんと美月ちゃんとお会いしました」

陽子「え? どこで?」

忍「先ほど、1階で偶然会えたもので……」

綾「……ビックリしたでしょ?」

忍「はい」

忍「最後に会ったのが、大学2年生の終わり頃でしたから……」

陽子「ああ。あの2人が中2とかの頃だな」

綾「そうね。あの辺りで、空太くんに身長抜かれちゃったのよね……」

カレン「そういえば、アヤヤは2人と凄く仲良しデシタね」

アリス「うん。高校の頃から2人とアヤがいる所、よく見かけるようになってたっけ」

綾「い、いえ……別に私、あの2人のお姉さんってわけじゃ」アセアセ

陽子「綾ー? 誰も姉とか言ってないぞー?」

綾「……あ」カァァ


アリス「身長、かぁ……」

アリス「そうそうっ! 私も、実は――」

カレン「……アリス。言わない方がいいと思いマス」

アリス「い、言わせてよぉ……」

忍「いいじゃないですか、カレン。可愛いですし」

カレン「……シノ、またナチュラルにアリスを弄ってマス?」

忍「いえいえ」ニコニコ

アリス「も、もう2人なんて知らないっ」プイッ


264 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/30(火) 00:21:04 UqL6ORZI
陽子「え、なになに?」

綾「私も気になるわ……」

アリス「ふふっ、実はね?」

アリス「私の身長も、ついに――!」

陽子「ま、まさか……!?」

綾「140cm台に……!?」

アリス「アヤ、その通りだよっ!」

アリス「ついに、私も大きくなれて――」

カレン「四捨五入したらギリギリ、って意味デス」

アリス「……カ、カレン」

忍「この前、きちんと測ってみたら139.6cmでしたね」

アリス「シ、シノまでっ!」

陽子「……そ、そっか」

綾「よ、良かったわね、アリス……」

アリス「露骨に苦笑されてるっ!?」ガーン


陽子「いやー、まぁ……伸びたなら良かったんじゃないか?」←164cm

綾「そうね。喜んでいいことよね……」←160cm

忍「そうです。アリスもやれば出来る子ですし」←156cm

カレン「……シノ。それ多分、今は使えないと思いマス」←151cm

アリス「……もしかして、シノとカレンだけじゃなくて」

アリス「みんな1cmくらい伸びちゃってる?」←139.6cm

陽子「……」

綾「……」

アリス「目そらさないでよぉ……」ウルッ


265 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/30(火) 00:23:39 UqL6ORZI
とりあえず、ここまでです。
いつも嘘つきブラザーズメインだったので今回は新鮮でした。
……少し、掛け合いがこれでいいのか等の不安はありますが。
次回から、またメインは戻る予定です。



陽子「まぁまぁ。アリスも大きくなったよ」

アリス「……なぐさめてる?」

綾「いえ。そうじゃないわ」

陽子「あっちでカレンと一緒にしのを支えてくれてるし」

綾「ええ。絶対、しのも2人を凄く頼りにしてるはずよ」

アリス「わ、私なんて、そんな……」

カレン「そうデスッ! 私たち、シノに頼られちゃってマス!」

アリス「カ、カレンは自信満々だね……」

忍「そうですよ、アリス。その可愛らしい金髪に、何度も癒やされて――」

アリス「き、金髪なら、あっちには沢山いるよね!?」

忍「『アリスの』金髪だから、ですよ?」

アリス「……も、もう。シノったら」カァァ


陽子「……アレだな、綾」

綾「ええ。あの頃と何も変わってないわね」

カレン「アリス、あっちでもいつも顔赤くしてるんデスよ?」

陽子「まぁ、そうだろうな」

綾「ええ……そうね」

アリス「な、納得しないでよぉ……」

忍「照れてる顔も可愛いですよ、アリス?」

アリス「シ、シノはフォローの仕方、間違ってるよっ」


266 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/30(火) 12:23:35 gzUf6HD2
やっと追いついた。怒涛のキャラ大集合に思わず目頭が熱くなる展開ですね
それにしても、一か月で4万字近く書くだなんて、ハァ〜(恍惚)・・・これって・・・勲章ですよぉ。
これからも、宜しくお願いしナス!


267 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/30(火) 13:25:00 gzUf6HD2
>>266
訂正:4万字→7万字
酔いがさめて読み返したら、少しおこがましい文章になっていました。
スレ汚し、すみませんでした。(激寒)


268 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/30(火) 16:37:53 UqL6ORZI
>>267
いや、ありがとうございます。
やっぱりレスが付くとモチベーションが上がるので嬉しいです。
それに、別におかしなこと書いてありませんし。
というか、これ7万字いってたんですね……いつの間に


269 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/30(火) 23:36:07 UqL6ORZI
女子「……」

男子「買い出し、終わったぞ……って」

男子「どうした?」

女子「……あ。お疲れ」

男子「どうした? いつも以上にボーッとしてるけど」

女子「いや、まぁ――」

男子「……あそこの人たちか?」

女子「うん。何かいいな、って……」

男子「――何となく分かるかもな」


女子「お疲れ。さてと……」

女子「あ、そうそう。少し、ここにいてくれる?」

男子「……?」

女子「私、ちょっとやらないといけないことがあって」

男子「え?」

女子「それじゃっ」

男子「……え?」


空太「ただいま……ああ、疲れた」

美月「わ、私も……」

空太「美月。ぼくを支える役、ありがと」

美月「……ごめんね。荷物、持てなくて」

空太「大丈夫、気にしないで――あれ?」

モブ「いい? ここをこうして……」

男子「こ、こうか?」

モブ「うん、そんな感じ」

男子「そ、そっか……」

空太「……」

美月「……」

男子「――あ」


270 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/30(火) 23:36:39 UqL6ORZI
空太「そっか」

空太「やっぱり……メイドさん、やりたかったんだ」

男子「そ、そうじゃないっ!」

美月「え、えっと……ごめん、なさい」

男子「どうして猪熊さんが謝るんだ……」

空太「ああ。それならきっと、『私がメイドじゃなければ、そっちがメイドを出来たのに』ってことじゃないかな」

美月「あ、ありがと、お兄ちゃん……」

空太「いいよ、美月」

男子「……もう、好きにしてくれ」


男子「――あー、それは分かったから」

男子「とりあえず二人は、あの人たちの所に行ってきなって」

空太「……あ」

美月「凄い、5人とも一緒……」

男子「ここは特別に、任されたから」

空太「……メイド服、着た方がいいんじゃないかな?」

男子「……さすがの空太もメイド服はムリだろ?」

空太「ま、まぁ」

男子「だろ? ほら、早く行って来いって」

空太「……ありがと」

美月「それじゃ、お兄ちゃん。甘味処班の人たちに言ってこないとね」

空太「うん、そうしよっか」

美月「……え、えっと。あ、ありがと」

男子「ん」



――その頃・廊下奥


女子「――もしもし?」

女子「あ、松原先輩。こんにちは」

女子「お久しぶりです。ところで今、どちらに――」

女子「え? うちの文化祭に向かってるんですか?」

女子「日暮先輩も一緒……凄いですね、偶然って」

女子「い、いえ。こっちの話です。……もし、よろしければ」

女子「早めに1年B組にいらっしゃってください。いいことあると思うので」

女子「いいことって、ですか? いえ、それは――」

女子「いらっしゃってからのお楽しみ、ということで」クスッ


271 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/30(火) 23:37:17 UqL6ORZI


――1年B組


空太「……ひ、久しぶり」

カレン「久しぶりデス、コータッ」

アリス「久しぶり、コータくんっ」

空太「……」

アリス「ど、どうかした?」

空太「いや――」

空太「そういえば初めて会った時って……ぼくってまだ」

美月「私たち、まだアリスちゃんより小さかったんだよね」

アリス「え? それって、高校生と小学生の違いじゃない?」

カレン「アリス? この二人のことデス。きっと違うこと言いたいんデス」

忍「まぁ、カレン。それでは二人が……まるで悪い子みたいじゃないですか」

カレン「シノ、やっぱり分かっててアリスをからかってマスね……」

アリス「……な、何だかイヤな予感がするよ」


アリス「あ、分かった!」

アリス「し、身長のことでしょ?」

空太「……凄い」

美月「アリスちゃん、昔より賢くなっちゃってる」

アリス「と、年下に感心されちゃってるっ!?」


アリス「……それじゃ、二人はどれくらいなの?」

空太「ぼくは170――」

美月「嘘。お兄ちゃんは168とかその辺で」

空太「……美月」

美月「それで、私は151――」

空太「嘘。美月は150ピッタリか、ほんの少しだけ下」

美月「……お兄ちゃん」

カレン「さすが、息ぴったりデス……」

忍「ええ。ホントに仲良しなんですから……」クスッ


272 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/30(火) 23:38:02 UqL6ORZI
アリス「……う、嘘」
カレン「アリス? 嘘と現実を認めないことは違いマス」

アリス「わ、分かってるよぉ……」

美月「そういえばアリスちゃんは……えっと」

空太「最初に会った時って……137とかだった、よね?」

アリス「そ、その頃から139あったよっ」

空太「あ、そうだったっけ」

美月「それじゃ、今は?」

アリス「……ひゃ」

アリス「140、かな」


美月「……」

空太「……忍お姉ちゃん、カレンお姉ちゃん」

忍「はい?」

カレン「どうかしたデス?」

空太「――ぼくからアリスちゃんに聞くのは辛いから」

美月「そ、そうだね。二人から聞かせてもらった方が……」

アリス「ホ、ホントに140なんだよぉ……」

空太「それ、嘘」

美月「嘘、だよね」

アリス「息ピッタリすぎだよ、二人とも……」


陽子「こらこら、二人とも」

綾「そうよ。あまりアリスをいじめたらダメよ?」

アリス「……私、年下にいじめられちゃってたんだ」

空太「ううん、いじめてたとかじゃなくて……アリスちゃん、会えてホントに嬉しい」

美月「私も。凄く嬉しい」

アリス「……もう」

アリス「そんな顔されちゃうと……『嘘だ』なんて言えないよ」クスッ

カレン「アリスはそういう所で優しいから、二人にいじられちゃうんデスね……」

アリス「も、もっと厳しくしないとダメなのかな?」

カレン「アリスが出来るならしてもいいかもデスが……」

カレン「デモ、それがアリスのいい所なんだと思いマス」

アリス「……カレン」

忍「そうです。だからアリスは可愛くて、好かれてるんですよ?」

アリス「……シノ」


273 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/30(火) 23:38:46 UqL6ORZI
アリス「そっか」

アリス「それなら……私も、しっかり2人の『お姉ちゃん』してあげないと、だよねっ」エヘン

空太「……お姉ちゃん?」

美月「お、お姉ちゃん?」

アリス「……ど、どうして慌てちゃうの?」

空太「『アリスお姉ちゃん』かぁ……」

美月「……結構、タイヘンかもね」

アリス「な、何がタイヘンなのっ!?」


陽子「……仲良しで何よりだなぁ」

綾「ええ……初めて会った時から何も変わってないのね」

陽子「あれから6年経ったのになぁ……」

忍「6年経っても同じ、というのは凄いと思います」

綾「……しの」

忍「6年って長い時間のハズなのに」

忍「――それでも私たちがずっと一緒というのは」

忍「凄いことだと思います」

陽子「……そう、だな」

綾「ええ。しのの言う通りね」

カレン「ハイッ! みんな、ずっと一緒デスッ!」

アリス「うんっ!」


274 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/06/30(火) 23:44:00 UqL6ORZI
とりあえず、ここまでということで
文化祭編が予想以上に長引いてしまいそうで、これからが怖いですね……


美月「……」

美月(ずっと一緒……)

美月(いつも私とお兄ちゃんが、合言葉みたいにしてる言葉)

美月(陽子お姉ちゃんたちの「ずっと一緒」と、私とお兄ちゃんの「ずっと一緒」)

美月(……同じなのかな? 違うのかな?)

空太「ぼくたちもずっと一緒、だよ。美月」

美月「……お、お兄ちゃん」

空太「今は、それだけでいいんじゃないかなって」

美月「……わ、わかっちゃったの?」アセアセ

空太「何となく、だけど」

美月「エ、エスパーさんだね……」

空太「美月限定、だけどね」

美月「だ、だから、そういうことはっ!」カァァ


カレン「……ヨーコ、アヤヤ?」

陽子「ん?」

綾「どうかした?」

カレン「イエ……」

カレン「2人とも……ちょっぴり変わりマシタ?」

陽子「えっと……カレンとアリスが最後に会ったのは」

綾「しのが向こうに行くときの送別会、だったかしら」

陽子「そうだね。あの2人が大体、中2くらいの時か」

カレン「あの頃に比べると、何となくデスが」

カレン「ミツキが照れちゃってる気がしマス」

陽子「そ、それは……まぁ」

綾「カレン? 美月ちゃんも変わっていってるのよ」

カレン「……変わる、デスカ」

忍「ふふっ。お二人とも、ますます可愛くなっていきますね」ニコッ

アリス「うんっ」ニコッ


275 : それが世界の選択か… :2015/06/30(火) 23:44:44 ???
段々このスレ怖くなってきた・・・


276 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/01(水) 02:00:09 azjeKSXY
男子「……」

女子「あっ、ボーッとしてる」

男子「お、帰ってきたか」

男子「さっきから……視線を感じるんだけど」

女子「そりゃまぁ、メイド喫茶に男子がいたら誰だって」

男子「あ、あっさり言っちゃうんだな……」


美月「ご、ごめんね。二人とも」

女子「あっ、美月。おかえり」

男子「……話せたか?」

美月「う、うん」

空太「ありがと。ぼくも、色々話せて嬉しかった」


女子「……へぇ」

男子「?」

女子「意外と気が利くんだ、って」

男子「……『意外と』が余計だ」

空太「うん。『意外と』優しくてビックリ」

男子「こ、空太も乗ってくるのか……」

女子「――まぁ、おかげで」


穂乃花「あっ……!」

香奈「わっ……ホントに?」

カレン「あっ、ホノカたちデスッ!」

アリス「久しぶりっ!」

忍「お久しぶりですっ」

綾「「わわ……何というか、まるで」

陽子「オールスター、って感じだなぁ……」


女子「ほら? 美月とか猪熊くんの『お姉さん』たちが喜んでるよ?」

男子「……俺、何もしてないし」

女子「ツンデレ?」

男子「誰が得するんだ、それ……」

空太「……みんな、凄く楽しそう」

美月「うん……良かったね」

女子「――まぁ、雑談はこれくらいにして」

女子「それじゃ、当番終わりまで頑張ろっか」

男子「……俺、そろそろ裏方に戻っていいか?」

女子「え? もっと、メイド喫茶やりたくない?」

男子「……」ジトッ

女子「冗談、冗談」


美月「……」

空太「美月?」

美月「う、ううん。何でもないよ」アセアセ

空太「……?」



――数十分後


空太(……とりあえず、ぼくたちの当番は終わって)

空太(それまでの間に、陽子お姉ちゃんたちは移動していった)

空太(みんな凄く楽しそうだったから、何だかぼくまで嬉しくなったりして――)


女子「美月! 一緒に回らない?」

美月「あっ、それいいかも。……だけど」

空太「……?」

美月「お、お兄ちゃん……いい?」

空太「大丈夫だよ、美月」

美月「そ、そっか。うん、わかった」

女子「……美月」


男子「ちょっと、いいか?」

女子「わっ!? な、なに?」

男子「えっと……テニス部で打ち合わせしたいから」

男子「参加できる部員は来てくれ、だって」

女子「……あ」

女子「そうなんだ。それだったら――」

美月(……あっ)

女子「しょうがないよね」

女子「猪熊くん。美月、お願い」

空太「……わかった」

美月「お、お願いって……」


空太「それじゃ二人とも、また後で」

美月「ま、またね」

女子「うんうん。それじゃ、またね」ニコッ

男子「……」


277 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/01(水) 02:00:43 azjeKSXY
女子「――で?」

男子「ああ。打ち合わせなんてないからな」

女子「うん、知ってる」

女子「……なに? 私と回りたかったの?」

男子「いや、そういうわけじゃなくて」

女子「……へぇ」

男子「あの二人は、色んな意味でタイヘンそうだから」

男子「それだったら……答え、見つかるまで待った方がいいのかなって」

女子「――相変わらずさ」

女子「気の遣い方、間違えてるよね」

男子「……不器用で悪かったな」

女子「ううん。それでいいよ」

女子「……まぁ、いいや。あんたの言うことにもギリギリ一理ある気がするし」

男子「回る場所は、そっちに任せる」

女子「そっか。それじゃ――」

女子「さっき美月たちが進んだのとは別方向から……行く?」

男子「……そうするか」


――その頃


美月「……な、何だか」

美月「悪いこと、しちゃったかな」

空太「……きっとだけど」

空太「テニス部の集まりとかなかったんじゃないかって」

美月「……お、お兄ちゃんも、そう思うの?」

空太「うん」

空太「普段、美月と嘘つき合ってると……嘘を付く時って何となく分かるから」

美月「……だよね」


美月「――ね、お兄ちゃんは」

空太「?」

美月「え、えっと……さっきの二人を見て、どう思った?」モジモジ

空太「……えっと」

空太「幼なじみって感じ、かな」

美月「……うん」

空太「息ぴったりだし。ぼくと美月より、ちょっぴり下かもだけど」

美月「は、張り合わなくていいからっ」


美月「――あのね」

空太「ん?」

美月「あの二人……幼なじみだし」

美月「いつも、掛け合いとか自然だって思うの」

空太「……うん」

美月「もしかしたら――」

美月「あ、あんな風にしてる人たちが……こ、恋人とかになっていくのかなって」カァァ

空太「……!」

美月「な、何となく、思っちゃった」

空太「……美月は、あの二人が」

美月「う、ううん。これって『そういう感じ』ってだけで」

美月「……私とお兄ちゃんとは、やっぱりちょっと違うのかなって」

空太「……美月」


278 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/01(水) 02:01:27 azjeKSXY
美月「――あ」

美月「ご、ごめんね……暗くしちゃって」

空太「ううん。そんなことないよ」

空太「ぼくが美月と一緒にいて、イヤになったことなんてないんだから」

美月「……ね、お兄ちゃん?」

空太「なに?」


美月「そ、その……手、繋ぐのとか、ナシだからね?」カァァ

空太「……別に、そんなこと」

美月「嘘っ。さっきから手、ブラブラさせてるっ」

空太「え? それってむしろ、美月の方じゃ……」

美月「う、嘘っ! わ、私、そんなことしてないし……」アセアセ

空太「……まぁ、お互い様?」

美月「……そ、そうなのかな」


空太「――美月」

美月「な、なに?」

空太「えっと……」

空太「美月が良かったらだけど……人が少ない所とかなら」

空太「手、繋ぐ?」

美月「……な、なんでっ!?」

空太「い、いや……えっと」

空太「ほら。お祭りの時とか、はぐれちゃったし」

美月「……半分嘘で、半分ホント。違う?」

空太「ううん。7割嘘で、3割ホント」

美月「ひ、開き直っちゃうの!?」


空太「――まぁ」

空太「その……ぼくも美月が心配で」

空太「美月もぼくが心配なのかもって……だ、だから」

美月「……お兄ちゃん」


279 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/01(水) 02:03:52 azjeKSXY
ここまでです。
文化祭編もギャグ要素少な目かもしれませんね……
これが終わったら、小ネタパートを作ろうかなと思っています



空太「美月が恥ずかしいなら、絶対やらないけど」

美月「……もうっ」


ギュッ


空太「――あっ」

美月「こ、ここなら……人、少ないからっ」

美月「つ、繋いでも……大丈夫、だと思う……」カァァ

空太「……大丈夫?」

美月「……」


美月「――『ずっと一緒にいる』、って約束しちゃったし」

空太「……あ」

美月「は、恥ずかしがってばかりじゃダメなのかなって」

美月「そう、思ったの……」

空太「陽子お姉ちゃんたちや、さっきの二人とか見たから?」

美月「う、うん。それもある、かな」


空太「……美月」

美月「な、なに?」

空太「ごめんね……さ、さすがに今は、頭を撫でるのはキツくて」

美月「べ、別に、撫でてほしいとか言ってないからっ」

空太「そっか。それじゃ、せめて……手はしっかり繋いでおこっか」ギュッ

美月「……う、うん」ギュッ


280 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/01(水) 23:56:19 azjeKSXY



――屋台前


空太「……たこ焼きと焼きそば、どっちがいい?」

美月「あっ、それならたこ焼き――」

美月「や、やっぱり焼きそばでっ」アセアセ

空太「……そっか」

空太「それじゃ、買ってくるね」

美月「う、うん……」

美月(たこ焼きだと、前にお兄ちゃんに……「あーん」ってされたこと、思い出しちゃいそうだし)




――空きベンチ



美月「……」

空太「お待たせ。はい、焼きそば」

美月「あ、ありがと、お兄ちゃん……あっ」

空太「ぼくは、たこ焼き」

美月「た、たこ焼きっ!?」


空太「……美月」

美月「な、なに?」

空太「大丈夫。ぼくはもう、『あーん』とかしないから」

美月「……信じられると思う?」

空太「……ごめん。ちょっと自信ない」

美月「や、やっぱり嘘なんだね……」

空太「いや。努力したいから嘘ってわけじゃ――」

美月「や、ややこしい……」


空太「……美月?」

美月「……ほ、ほしいの?」

空太「うん」

空太「ぼくもたこ焼き、一個あげるから」

美月「……も、もう、串に口つけちゃってるよね」

空太「うん」

美月「……うーん」

美月「そ、それじゃ……私、箸でお兄ちゃんのたこ焼き、もらうから」

美月「お兄ちゃんはその串で焼きそばを――あっ」

空太「……串だと、なかなか取りにくいかも」

美月「……まさか、ここまで予想してた?」

空太「ううん、全然」

美月「わっ、その顔……絶対、嘘じゃなさそう」


美月「……しょ、しょうがないよね」

美月「仕方ないから――お、お兄ちゃん。その串、貸してくれる?」

空太「うん。いいよ」

空太「それじゃ美月は箸、貸してくれる?」

美月「……お兄ちゃんは、ちょっとあっさりし過ぎだと思う」

空太「美月だって、ほんの1年前までは……ペットボトル交換とかして――」

美月「そ、その先はダメッ!」カァァ


281 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/01(水) 23:58:31 azjeKSXY
ほんの少しですが、ここまでです。
文化祭で二人の関係に変化が来るという予定ですが、そこまで行けるかどうか……
もう少し、煮詰めてみたいと思います。


美月「も、もう……お兄ちゃんったら」

空太(美月、手が震えてる……)

美月「お兄ちゃんのせいで、私までちょっとおかしくなっちゃいそうだよ……」

空太(あっ。串からたこ焼きが――!)

美月「……あっ!」

空太「よいしょ、っと」

美月「お、お兄ちゃん」

空太「良かった……何とかキャッチできた」

美月「形まで崩れてない……」

空太「まぁ……美月のため、だったし」

美月「……あ、ありがと」

空太「良かった」


空太「えっと……それじゃ」

空太「このたこ焼き、どうしよっか?」

美月「……え、えっと」

美月「お、お兄ちゃんが食べた方が……」

空太「……実は」

空太「今、ここから、ぼくの所まで動かすのって難しいかも……」

美月「!」

空太「だ、だから、えっと」

空太「落ちちゃう前に……美月?」

美月「……も、もう」

美月「しょうがない、よね……?」


美月「……お、美味しい」

空太「うん。美味しいよね、それ」

美月(け、結局、あーんってされちゃった……)

美月「……や、やっぱり」

美月「恥ずかしい……」カァァ

空太「……ぼくも」カァァ


282 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/02(木) 17:54:57 EhL2/c7.
とりあえず、一気に文化祭編を進めようと思います。


――その後


空太「……こうして見ると」

美月「カ、カップルの人たち多いね……」

空太「手繋いでる人って、みんなカップルなのかな」

美月「そうとも限らないかもだけど……多分、そうだよね」

空太「そっか。そうなるんだ」

美月「……ねぇ、お兄ちゃん?」

空太「ん?」


美月「い、いつの間に、手繋いじゃってたんだっけ?」アセアセ

空太「……あ」

空太「ご、ごめん」パッ(←手を離した)

美月「わ、私も気付かなかったし……おあいこ、かな?」パッ

空太「美月がはぐれたらって思ったら、つい」

美月「私も、お祭りの時みたいにはぐれちゃったらイヤで、つい」

空太「……似たもの同士?」カァァ

美月「や、やっぱり?」カァァ

カレン「二人とも、やっぱり仲良しデスッ」

空太「まぁ、仲良しだけど……あれ?」」

美月「カ、カレンお姉ちゃん?」

カレン「ハイ!」


カレン「コータとミツキに会いたくて飛んできちゃいマシタ」

空太「……嘘?」

カレン「う、嘘じゃないデス」

美月「……ちょっぴり嘘だね」

カレン「……さ、さすがに鋭いデスね」

アリス「もう、カレン? この二人の前で隠し事とか出来ないって分かってるでしょ?」

空太「……アリスちゃんもいたんだ」

穂乃花「こ、こんにちは。二人とも」

美月「ほ、穂乃花さんも?」


香奈「あ……」

香奈「えっと、初めまして、かな?」

空太「あっ、もしかして……」

美月「日暮、さん?」

香奈「わっ、知ってたの?」

空太「いえ。ぼくたちの友達が話してたので……」

美月「優しくて元気な先輩だって……」

香奈「……ちょ、ちょっと照れるなぁ」

香奈「えっと、それ……あの子たちだよね」

穂乃花「今度、飲み物でもおごってあげちゃう?」クスッ

香奈「そうしよっか」クスッ


283 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/02(木) 17:55:22 EhL2/c7.
空太「……あれ? 四人だけ?」

美月「陽子お姉ちゃんたちは?」

アリス「あっ、ヨーコたちはね―……」

カレン「幼なじみだけで水入らずデス!」

空太「……気、遣ってあげたりした?」

アリス「……べ、別に、そういうわけじゃ」アセアセ

美月「アリスちゃん、分かりやすいね」

アリス「ミ、ミツキちゃんっ!」カァァ


カレン「あと、ホノカたちと回りたかったデス!」ニコッ

穂乃花「カ、カレンちゃん……」ニコッ

香奈「あっ。穂乃花、嬉しそう」

アリス「ホントに久しぶりだもんね……」

カレン「向こうでホノカを思い出さない日なんてありませんデシタ」

穂乃花「わ、わわっ……」カァァ

空太「……なんていうかさ」

美月「カレンお姉ちゃんも……陽子お姉ちゃんと、どっかで似てるよね」


カレン「デモ、二人にも会いたかったのはホントデスよ?」

空太「うん。ぼくたちも久しぶりで嬉しい」

美月「うん」

カレン「……昔より、ずっと素直になっちゃいマシタね」

美月「変わっていっちゃうんじゃないかな……人って」

アリス「わっ。ミツキちゃんが大人なセリフを……」

空太「……アリスちゃんは変わってない、かな?」

アリス「ど、どうして疑問形なの!?」ガーン

美月「可愛いよ、アリスちゃん」

アリス「……も、もうっ」プイッ


284 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/02(木) 17:56:18 EhL2/c7.
カレン「嘘、つけなくなっちゃったデス?」

空太「……そういうわけじゃないけど」

美月「昔より、つけなくなっちゃった嘘も増えちゃったみたい……」

穂乃花「え? 二人とも、そんなに嘘つきなの?」

カレン「ホノカ。この二人は、その昔『嘘つきブラザーズ』と呼ばれてマシタ」

カレン「目薬で泣いてるフリをしたり、ホントは好きなのに好きじゃないと言い張ったり
    アリスを撫でてからかったり……」

アリス「さ、最後のって、嘘、関係ないよね?」

香奈「へぇ……そうは見えないけどね」

空太「……美月。何か嘘、つこう?」アセアセ

美月「な、何か思いつく?」アセアセ

カレン「……多分、嘘ってそうやってつくものじゃないと思いマス」


カレン「ところで、デス」

カレン「……二人とも、ちょっと耳貸してくれマス?」

空太「……?」

美月「い、いいけど?」

カレン「……さっき、手繋いでマシタ?」

空太「」

美月「」


空太「そ、そんなことしてないよ」

美月「そ、そうだよ。恥ずかしくて出来っこないし……」カァァ

カレン「……そういえば初めて会った時も、そうしてマシタ」

空太「……ま、まだ小学生だったし」

美月「そ、そうだよ。今は恥ずかしくて出来っこないし……」カァァ

カレン「……ミツキ、同じこと繰り返しちゃってマスね」


285 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/02(木) 17:57:00 EhL2/c7.
アリス「あっ、三人で内緒話しちゃってる……」

香奈「わっ、二人とも顔真っ赤」

穂乃花「さすが双子って感じだね……」

香奈「あ、双子なんだ……よく似てるなぁって思ってたけど」

アリス「ふふっ、昔から凄く仲良しだったんだよ」

アリス「コータくんとミツキちゃん、昔からずっと一緒で――」


空太(……アリスちゃん)

美月(「ずっと一緒」……)

カレン「どうかしたデス?」

美月「な、何でもないよ。うん」

空太「ぼ、ぼくも」

カレン「……二人トモ」

美月「な、なに?」

空太「?」

カレン「……『仲良き事は美しき哉』デス」

空太「……え?」

カレン「私が勉強した日本語デス」

カレン「二人が仲良しなら、何も心配することないと思いマス」ニコッ

美月「……カレンお姉ちゃん」

カレン「内緒話はここまでデスッ」

空太「あっ……」

カレン「アリス〜!」


空太「……えっと」

美月「は、励まされちゃった、のかな?」

空太「ああ見えて……カレンお姉ちゃん、よく気が利くしね」

カレン「……『ああ見えて』、デスか?」

空太「ほら。気が利くから、すぐ気づいちゃう」

美月「そ、それ、気が利くのとは別なんじゃないかな……」


286 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/02(木) 17:57:25 EhL2/c7.
香奈「……い、息ぴったりだね」

穂乃花「うん。さすが双子」

香奈「息ぴったりといえば……」

穂乃花「あ。さっきの二人組?」

空太「さっきの……って」

穂乃花「うん。テニス部の子たち」

香奈「さっき偶然屋台巡りしてたら会ったんだけど……何というか、凄く気が合ってるなぁって」

アリス「あっ。あの子たちなら、分かるかも……」

カレン「掛け合いとか面白かったデス」

美月「……あの二人、幼なじみですから」


穂乃花「えっ? そ、そうだったの?」

空太「あれ? 知らなかったんですか?」

香奈「初耳……」

アリス「しのたちと似たような感じ、なのかな」

カレン「私とアリスみたいなものかもデスッ!」ダキッ

アリス「カ、カレン……もうっ」


香奈「幼なじみ……そっかぁ」

穂乃花「あっ。香奈ちゃんが悪い顔してる……」

香奈「い、いや。そんな悪どくないから……」

穂乃花「まぁ……私も、あの二人にはずっと仲良しでいてほしいけど」

香奈「……穂乃花のが自然に凄いこと言っちゃってる気がするよ」


アリス「幼なじみかぁ……仲良さそうだったよね」

カレン「私とアリスみたいにデス?」ギュッ

アリス「……カ、カレン。そろそろ恥ずかしいかな」カァァ

カレン「後、もう5秒……いや10秒デス」

アリス「な、長いよっ!」

美月「……」

美月「幼なじみ、かぁ」

空太「……美月?」


287 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/02(木) 17:57:55 EhL2/c7.
カレン「それじゃ、二人ともっ。私たち、そろそろ行きマス!」

アリス「ミツキちゃんとコータくんも楽しんでね」

美月「……あ、ありがと」

穂乃花「それじゃ、私たちも行くね」

香奈「……妹さん、ガンバってリードしてあげるんだよ?」

穂乃花「も、もう、香奈ちゃん……」

空太「……な、何とかします」カァァ

アリス「――それじゃ、またねっ!」

カレン「バイバイ、デスッ!」


空太「……行っちゃった」

美月「うん……」

空太「どうかした?」

美月「い、いや……お兄ちゃんも顔赤いよ?」

空太「そ、それは……すぐ消えちゃうから」

空太「それじゃ、ぼくたちも行く?」

美月「……そ、そうだね」

空太「そっか。それじゃ――」

美月「……」


美月(「幼なじみ」って聞いた時)

美月(みんな何だか……微笑ましいっていうのかな。そんな感じだった気がする)

美月(幼なじみが「ずっと一緒にいる」のと……)

空太「次、どこ回ろっか」

美月(私たちが「ずっと一緒にいる」のって……やっぱり、違うのかな)


288 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/02(木) 17:58:55 EhL2/c7.
美月(……どうして、こんなことが気になっちゃうんだろ?)

美月(「ずっと一緒にいる」なんて、拘っちゃうようなことでも何でもないはずなのに)

美月(気づくと、それだけで頭がグルグルしちゃってる)

美月(――もっと言えば、もし)

美月(あの二人がお互いに……す、「好き」って感じだとして)

美月(その「好き」も、私たちとは違うわけで……ダメ、疲れてきちゃった)

空太「あっ、このクラスの出し物とか……美月?」


美月(……そっか)

美月(もし、私とお兄ちゃんが……お、幼なじみみたいな感じで出会ってたら)

美月(こんなフクザツな気持ちになることもなくて……)

美月(「好き」ってことについて、こんなに考える必要なんてなかったのかな)

美月(……ホントに?)


空太「――美月と、ずっと一緒にいられて良かった」

美月「……え?」

空太「小さい頃から、美月と一緒にいられたことが凄く嬉しいし」

空太「これからも、ずっと一緒にいられると思うと……毎日、ホントに楽しい」

空太「プールとか海行ったり、花火見たり……二人乗り、したり」

空太「――美月は、どう?」


美月「……わ、わかっちゃってたの?」

空太「何となく」

空太「さっきの話とかした後だし……そんなこと考えちゃってるのかなって」

美月「……ホントにエスパーなんじゃない?」

空太「ダメだよ。美月相手じゃないと、100%当てられる自信なんてないし」

空太「ああ、でも。陽子お姉ちゃんと綾お姉ちゃんならガンバれば――美月?」


289 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/02(木) 18:03:06 EhL2/c7.
とりあえず、ここまでです。
文化祭編では、二人(というか美月?)が気持ちの整理を進めていくのが一つの目的です
長引きすぎないように注意したいですね……



美月「……は、はぐれちゃわないように」

美月「お兄ちゃんのシャツに掴まってても、いい?」キュッ

空太「いいけど、それじゃシャツが伸びちゃうかも」

美月「ご、ごめん……でも」

美月「や、やっぱり、手繋いだりとかって……恥ずかしくて」

空太「そっか。それじゃ、おんぶとか……」

美月「じょ、冗談でしょっ!?」アセアセ

空太「うん」

美月「……そ、そうやってからかうんだから」プイッ

空太「良かった。ちょっと元気出た」ニコッ

美月「……あっ」カァァ



――結局


空太「……」

美月「……え、えっと」

美月「こ、これしかない、のかな?」

空太「うん……予想よりずっと、人が多いし」

美月「そ、そっか。それなら人に見られちゃわないよね」

美月「それだったら――と、特別に、手繋いでても大丈夫だよね。ね?」

空太「大丈夫だと思う……」

空太「わっ、ちょっと恥ずかしくなってきた……」カァァ

美月「お、お兄ちゃん……頼むから、そう言わないで」カァァ


290 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/03(金) 00:13:28 XenuPkQM



――その頃・廊下


久世橋「……す、凄い」

烏丸「はい……ホントに」

忍「ありがとうございます」

烏丸「……まさか、ここまで英語を話せるようになるとは思いませんでした」

久世橋「私もです……あの大宮さんが」

忍「そう仰って頂けて嬉しいです。烏丸先生、久世橋先生」ニコッ


陽子「……何度聞いても、ビックリするな」

綾「ええ……」

忍「ふふっ。陽子ちゃんと綾ちゃんが、こっちでガンバっていますし」

忍「私もガンバらないとって、ずっと思ってました」

陽子「……し、しの」

綾「何だか……今日は、じんわりしちゃうことが多いわね」

忍「綾ちゃん。それはきっと、私もです……」


烏丸「……久世橋先生。良い子たちですね」

久世橋「ええ。何だか羨ましくなってしまうくらいです」ニコッ

陽子「わっ。クッシーちゃんが……」

綾「凄くいい顔……」

久世橋「――はい?」

忍「素敵な笑顔です! 久世橋先生」

久世橋「……わ、私、別に」カァァ

烏丸「そうそう。そういえば」

烏丸「久世橋先生、今……子どもたちから、とても好かれてるんですよ」

久世橋「か、烏丸先生!?」


291 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/03(金) 00:13:49 XenuPkQM
烏丸「私が、クラスの子から聞くと」

烏丸「『時々、厳しいけど……いつも凄く優しくて、話しやすいです』」

烏丸「……と、言ってました」

久世橋「……そ、そんな、変わりました?」

陽子「変わったよ」

忍「変わりました」

綾「か、変わったと思います」

久世橋「……そ、そうなんでしょうか」


久世橋「それなりに長いこと、教師生活をしていると」

久世橋「私が生徒たちに教える以上に、生徒たちから教わることって多いんだなって……」

久世橋「つくづく、実感しますね……」

烏丸「久世橋先生も、もう一人前の教師ですね」

久世橋「わ、私は……いつまでも烏丸先生が憧れですし」

烏丸「わっ。ありがとうございます、久世橋先生」ニコッ


烏丸「――そうそう。そういえば、猪熊さん?」

陽子「カラスちゃん、どうかした?」

烏丸「知っているかもしれませんけど……私、猪熊さんの妹さんたちのクラス担任なんです」

陽子「あっ。それなら知ってるよ」

綾「陽子、いつも空太くんたちから話してもらってるものね……」

陽子「えー? それは、綾も同じだろ?」

綾「そ、それは……そうかもしれないけど」アセアセ

忍「ふふっ。綾ちゃん、ホントに空太くんたちと仲良しなんですね」クスッ

綾「し、しのまで……」


292 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/03(金) 00:14:13 XenuPkQM
烏丸「ええ。それで」

烏丸「……猪熊さんのことが大好きなんだなぁって」

陽子「……え?」

烏丸「あの子たち、私がすれ違ったりする時」

烏丸「大体いつも、『陽子お姉ちゃん』『綾お姉ちゃん』って言ってますから」

綾「わ、私もっ!?」

久世橋「あっ。それなら私も、家庭科の授業で聞きますね」

綾「え、ええ……」

忍「わっ。綾ちゃん、羨ましいです」

綾「ちょ、ちょっと恥ずかしすぎるわね……」

陽子「ほ、ほら、綾お姉ちゃん? しっかりしないとダメだろ?」

綾「……陽子お姉ちゃんも、ちょっと照れてるみたいだけど?」

忍「ふふっ。お二人とも、立派な『お姉ちゃん』ですね」


忍「――でも」

忍「たしかに私も、綾ちゃんは立派な『お姉ちゃん』なんだと思います」

綾「……え?」

忍「さっき、B組にいた時」

忍「空太くんと美月ちゃん、『綾お姉ちゃん』って呼んでましたし」

綾「い、いや……それは、しのたちだって同じでしょ?」

陽子(アリスは例外だけどな……)


293 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/03(金) 00:15:56 XenuPkQM
とりあえず、ここまでです。
幼なじみ3人組と先生たちの話でした。
時が経った後のネタだと、こういうのを書くのが凄く楽しいですね。
次回か次々回で、文化祭編もおしまいだと思います。



忍「そうですけど、綾ちゃんを呼ぶ時は違いました」

忍「凄く安心した様子で『綾お姉ちゃん』って呼んでるのを見て……何だか、温かくなりましたし」

忍「きっと、こう思ったのは私だけじゃないと思います」

綾「……て、照れるわね」

陽子「いやー、まぁ……もう、綾お姉ちゃんになっちゃった感あるしなぁ」

綾「よ、陽子っ!」

陽子「考えてみたら……綾が家に来るようになったばかりの時」

陽子「あの二人……まだまだ、緊張してたもんなぁ」

綾「……そ、それ以上はやめて。照れて、どうしようもなくなっちゃうから」カァァ

陽子「でさー、しの?」

忍「陽子ちゃん?」

陽子「あのね。綾があの二人と一緒にいるようになってから、綾がどんどん素直に――」

綾「よ、陽子! ストップ!」


久世橋「……烏丸先生」

烏丸「はい?」

久世橋「教師生活の醍醐味、って」

久世橋「やっぱり先生も、同じことを思っておられるのでしょうか?」

烏丸「――ええ」

烏丸「私も、こうして……卒業した子と会う度に」クスッ

久世橋「ホントに……温かい気持ちになりますね」クスッ


294 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/03(金) 14:37:05 XenuPkQM
休みになってしまったので書いてました。
これで文化祭編は終了です。



――しばらく経って


空太「……け、結構疲れた」

美月「わ、私も……」

空太「ちょっと、はしゃぎすぎたかな」

美月「お兄ちゃんが、また……」

美月「わ、私のためなら、とか言い出して、景品アリの出し物ばかり回るから」

空太「おかげで飴とかお菓子、美月にたくさんあげられたし……」

美月「……あ、後で一緒に食べよ?」

空太「うん」


空太「これで、とりあえず……今日の文化祭は、おしまいだね」

美月「そうだね」

空太「もう一回、輪投げとかしたかったな……」

美月「……わ、私、もう少し展示とかゆっくり見てたかったかな」

空太「……」

美月「……」

空太「こういう所は、似たもの同士ってわけじゃないんだよね」

美月「ぜ、全部が同じじゃなくてもいいと思う……」


空太「だよね。全部が似てたら……えっと」

空太「美月だけが悩んじゃうことなんて、きっとないと思うし」

美月「……お兄ちゃんは、ガンバってくれてるよ」

空太「ぼくは美月を心配して、支えてあげることくらいしか出来ないから」

美月「く、『くらい』って……もう」

美月「お兄ちゃんは、やっぱり優しい……というか、優しすぎるよね」


295 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/03(金) 14:38:13 XenuPkQM
空太「……前みたいに嘘ついた方がいい?」

美月「ううん。もう、こういう話になっちゃうと」

美月「お兄ちゃんも、そうだと思うけど……すぐに、嘘だって分かっちゃうし」

空太「さすが、よく分かってる……」

美月「――だって」

美月「わ、私、お兄ちゃんの……双子の妹、だから」モジモジ

空太「……美月」


女子「あっ、美月が『双子』って言ってる。可愛い……」

男子「……静かにしておいてあげろって」

美月「」

空太「あっ、二人とも」

女子「久しぶり」

男子「……楽しめたか?」

空太「うん。ぼくも美月も、楽しかった」

美月「……は、恥ずかしくなっちゃった」カァァ

女子「わっ、猪熊くん。また美月を照れさせちゃってる……」

男子「そういうの、責任転嫁って言うんだろうな……」


美月「え、えっと……ふ、二人は、どうだった?」

女子「え? ……何だかんだ言いながら、最後まで一緒に回っちゃったけど」

女子「途中で、テニス部の子たちに『一緒に来ない?』とか誘われたのに……」

女子「何というか、無言の圧力? みたいなのを感じて」

男子「かけてない」

男子「俺だって、途中で誘ってきたテニス部のヤツと一緒に回りたかった」

女子「それじゃ、回れば良かったのに」

男子「お前だって、そうしなかったし」

男子「タイミング失ったら……そりゃ、しょうがないけど最後まで一緒にいるしかなかったし」

女子「……まぁ、退屈しなかったから良かったよ。うん」

男子「……そうだな、まだ良かったな」


296 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/03(金) 14:38:38 XenuPkQM
美月(や、やっぱり……)

美月(この二人、息ぴったり)

美月(そっか、カレンお姉ちゃんたちも……この二人と会って、話したら)

美月(――『好き』って、何なんだろ?)


空太「……そろそろ、初日もおしまいだね」

女子「そうだね」

男子「空太は、明日も甘味処班だったか……」

空太「……そ、そういえば」

女子「意外とノリノリだったし、いけるんじゃない?」

空太「は、恥ずかしくてしょうがなかった……」


美月「お兄ちゃん、凄く似合っちゃってたから……私、フクザツだったよ」

空太「――それじゃ美月、ぼくと交換する?」

美月「お、お兄ちゃん……メイド、やるの?」

空太「いっそ、そっちの方が……開き直れちゃうのかなって」

美月「お、お兄ちゃんが壊れちゃった!?」



『ただいまを持ちまして、本日の文化祭を終了しますっ!』



空太「……終わったね」

美月「うん……」

女子「それじゃ、教室戻ろっか」

男子「掃除か……はぁ」

女子「ずっとボール拾ってるよりはマシでしょ、一年生?」

男子「い、言われてみれば」


297 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/03(金) 14:39:09 XenuPkQM
陽子「みんな、お疲れっ!」

綾「楽しかったわ」

空太「あっ、陽子お姉ちゃんたち」

カレン「コータの衣装、可愛かったデス……」

空太「カ、カレンお姉ちゃん……」カァァ


美月「忍お姉ちゃんもアリスちゃんも、来てくれてありがと……」

忍「いえいえ。それはむしろ……」

アリス「私たちのセリフ、だよ」ニコッ

美月「……ど、どういたしまして?」

アリス「You're welcome! だね」

美月「わっ、さすが本場の英語……」

忍「アリスは私の先生の一人ですから……」

美月「……アリスちゃん、やっぱり凄いんだ」

アリス「あっ、ミツキちゃんが褒めてくれてるっ」

アリス「もしかして私、『お姉ちゃん』になれちゃうのかな?」

忍「ふふっ、そうですねぇ……」

美月「……アリスちゃん、可愛い」ナデナデ

アリス「……な、撫でられちゃってる!?」ガーン

忍「ふふっ、可愛いですよ。アリス」ニコニコ


穂乃花「二人とも、お疲れ様」

香奈「ちょっと嬉しいことあったし、私たちからの奢りで……」

穂乃花「はい、ポカリ二本」

女子「わっ、い、いいんですか……?」

男子「……お前、意外と人望あったんだな」

穂乃花「ううん。二人とも、だよ」

香奈「まぁ、後……いいコンビってことを祝して」

穂乃花「か、香奈ちゃん!」

女子「……まぁ」

男子「腐れ縁って意味じゃコンビ、なのか……?」

女子「ど、どうだろ……」

香奈「……穂乃花。また、男女合同練習の時にお邪魔しない?」

穂乃花「もう……やっぱり、香奈ちゃんてイジワルだよね」


298 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/03(金) 14:40:00 XenuPkQM
陽子「空太、美月」

綾「今日は、楽しかったわ。改めて、ありがとね」

空太「……陽子お姉ちゃんたちのためだけ、ってわけじゃ」

綾「ふふっ。やっぱり、嘘つき辛くなっちゃってる?」

美月「う、嘘ならつけるよ……ただ、お兄ちゃんの腕がなまっちゃって」

空太「……美月も、ぼくのこと言えないよね?」

美月「そ、それ嘘だからっ」

陽子「……二人にかかると、兄妹ゲンカみたいなのも可愛くなっちゃうんだよなぁ」

綾「ホントにね」


陽子「……あっ、そういえば」

陽子「しの?」

忍「何ですか、陽子ちゃん?」

陽子「え、えっと……ここには、どれくらいいる予定なのかなって」

綾「……そ、そうね。気になるわね」

忍「そうですね……えっと」

カレン「来週くらいまで、デスッ」

綾「な、七日間……」

陽子「思ったより、長いようで短い感じだな……」


アリス「寂しいなら、ヨーコもアヤもイギリスに来る?」

陽子「……」

綾「……」

アリス「――あっ」

アリス「ご、ごめんねっ! こういうジョークはナシだよねっ」

陽子「い、いや、いいんだ……アリス」

綾「ええ……少しだけ、昔に戻りたくなっちゃっただけだから」


299 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/03(金) 14:40:40 XenuPkQM
カレン「……もう、あの頃には戻れないんデスね」

アリス「うう、何だか寂しくなっちゃったよ……」

忍「そうですね。でも……」

忍「こうして、まだ一緒にいられるのは……『あの頃に戻る』よりも価値のあることだと思います」

カレン「……そうデスね、シノ」

アリス「……シノがどんどん大人になっちゃって、私はフクザツかも」

カレン「イエイエ。アリスは、ずっと可愛いままデスよ?」

アリス「カ、カレン……それ、フォローになってないよね?」


陽子「それじゃな、みんなっ!」

綾「またね」

美月(――そう言いながら、陽子お姉ちゃんたちは帰っていった)

美月(穂乃花さんたちを含めて七人……随分、大所帯だなって思ったりした)

美月(……何となく思う)

美月(遠くに離れたり、進む道が別々になっても……あの人たちは)


美月(「ずっと一緒にいる」ことが出来てるんだって)


空太「……何か、いいよね」

美月「……お兄ちゃん」

空太「あの人たちとか見てると――」

空太「美月も何となく、安心できるんじゃないかな」

美月「……う、うん」


300 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/03(金) 14:43:03 XenuPkQM
ここまでです。文化祭編でした。
次回以降は小ネタで、その後で2学期にあるイベントの話とかになりそうです。


女子「――さてと」

男子「そろそろ、戻るか」

空太「ん。そうだね」

美月「……う、うん」


美月「その……お、お兄ちゃん」

空太「なに?」

美月「え、えっと……」モジモジ

美月「きょ、今日『も』……色々ありがとね」

空太「……これからも、ずっと一緒だから。ね?」

美月「う、うん……って」

美月「だ、だから、そういうのをここで言っちゃ――」


女子「……『ずっと一緒』だって」クスッ

男子「いられるといいな。ホント」


空太「……あ」

空太「ご、ごめん、美月……」カァァ

美月「……もうっ」プイッ


301 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/03(金) 22:15:03 XenuPkQM
今回の参考画像です

http://i.imgur.com/i2MGfqU.jpg(←ぬいぐるみ)
http://i.imgur.com/7ft0Jxp.jpg(←ぬいぐるみを頭に載せる女の子)




――数日後・リビング


空太「ああ……いいお湯だった」

美月「あ、お兄ちゃん。お帰り」

空太「……」

美月「どうかした?」

空太「いや……それ、頭に載せるようになってから結構経つなぁ、って」

美月「……な、何だか」モジモジ

美月「こうしてると、凄く落ち着くから……」

空太「……頭にぬいぐるみ載せてるのって何か面白いし、アリだと思う」

美月「そ、その言葉じゃ『アリ』って思えないよ!?」


空太「まぁ、家の中ならいいけど」

空太「外で、それやられちゃったら……ちょっと困るかな」

美月「……そう、だよね」

美月(この姿を外の人に見られるのって、やっぱりお兄ちゃんも恥ずかしいよね……)

空太「二人乗りとかしてて落ちたら、ぬいぐるみにダメージが――」

美月「そ、そっち!?」

空太「ああ。あと、美月が転んでケガしちゃうかも……」

美月「ふ、二人乗りから離れようよ……というか、それじゃお兄ちゃんも転んじゃうでしょ?」

空太「大丈夫。その時は、ぼくが美月を助けるから」

美月「……え、えっと。何の話してたんだっけ?」


302 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/03(金) 22:15:26 XenuPkQM
空太「えっと……美月、そのぬいぐるみ、凄く可愛がってるみたいだから」

空太「そのぬいぐるみに名前付けよっか、って……」

美月「……私、いつの間にタイムスリップしちゃったのかな?」

空太「大丈夫。ぼくが時を動かしただけだから」

美月「それ、大丈夫じゃないよね……」

空太「ここまで全部、嘘だけど」

美月「わかってるよ!」


空太「冗談は、ここまでにして……」

美月「これからも続きそうだけどね……」

空太「美月、名前付けたいって思う?」

美月「……うーん」

美月「そうだね。付けたいかも」

空太「うん。……何か、ぼくも美月がいつも頭に載せたり」

空太「それ抱いたままベッドで寝ちゃってるの見てたら、愛着湧いてきたかも」


美月「……わ、私がこの子を抱いたまま寝てるって、何で知ってるの?」

空太「いや。時々、ぼくか美月の部屋で、美月が昼寝とかしてる時」

空太「いつも、それ抱えて寝てるから」

美月「……私、そんなにこの子とベッタリなんだ」

空太「うん。ちょっと妬けちゃうかな……」

美月「ぬ、ぬいぐるみにヤキモチ焼かないでいいからっ」アセアセ


303 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/03(金) 22:16:03 XenuPkQM
空太「そっか。美月がいいなら……」

空太「名前、考えてあげよっか」

美月「そう、だね……」

空太「何がいいかな――えっと」

空太「『シーザー』とか、どう?」

美月「ず、随分、強そうなのが来たね……」

空太「うん。世界史の授業で習ったから」

美月「て、適当過ぎない……?」

空太「かっこいいし」

美月「……この子、かっこいいっていうより可愛いよね?」


空太「それじゃ次、美月の番。ぼくのターンおしまい」

美月「タ、ターン制なんだ……えっと」

美月「可愛い感じの名前……うーん」

美月「『アリス』とか、どうかな?」

空太「……ぼくたちの近くに、ホントにいなかったらアリだったかもだけど」

美月「そ、そうだよね」

空太「美月とアリスちゃんがいつも一緒に寝てるのは、兄としてちょっと……」

美月「そ、そういう問題なの!?」



――ターンは移り続けて


空太「『タマ』!」

美月「そ、それじゃ猫みたいだよ。えっと……」

美月「『アンジェリーナ』!」

空太「……可愛いっていうか美人な感じになったね」


304 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/03(金) 22:16:57 XenuPkQM


――数分後


空太「……け、結局」

美月「何も出てこなかったね……」

空太「名前を付けるのって、こんなにタイヘンだったんだね」

美月「うん……難しくてビックリしちゃった」

空太「それじゃ、このままだと――」

空太「ぼくは『それ』って呼んじゃうし、美月は『この子』って呼ぶことに」

美月「お、お兄ちゃんの呼び方だと、何だか冷たい感じあるよね……」

空太「まぁ……ヤキモチ相手だし。ね?」

美月「『ね?』じゃないよね……相手、ぬいぐるみだよ?」

空太「……可愛いって思ってるよ、ソイツも」

美月「わっ、一気に敵みたいな呼び方に……」


美月「――そうだね」

美月「たしかに……お兄ちゃんに、そんな風に呼ばれるのは可哀想だもんね」

空太「そうだね、可哀想……」

美月「お、お兄ちゃんが呼んでるんでしょ!」

空太「それじゃ、もう一回やってみる? ターン制で」

美月「ターン制にこだわりすぎだと思う……」

空太「じゃあ今度は、アクションで――」

美月「な、何をどうアクションするのっ!?」


陽子「ただいまー」

空太「あっ、お帰り」

美月「お帰りなさい」

陽子「おお、二人とも……あっ」

陽子「美月、また頭にそれ載っけてるんだ。可愛いね」クスッ

美月「そ、そうかな……」モジモジ

陽子「うん。何だか面白くて、アリだと思う」

美月「……さ、さすが、お兄ちゃんのお姉ちゃん」

陽子「い、いや、美月の姉ちゃんでもあるからな?」


305 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/03(金) 22:17:47 XenuPkQM
陽子「――なるほど」

陽子「このぬいぐるみに名前、ってことか」

美月「うん」

空太「さっき、ターン制が失敗したから今度はアクションってことに――」

美月「だ、大事なのはそこじゃないよっ」

陽子「そっかそっか……うーん」

陽子「よしっ。ここは姉ちゃんが手本になってあげよう」

美月「……さ、さすが陽子お姉ちゃん」

空太「……さ、さすが社会人」

陽子「い、いや、社会人関係ないからな?」


陽子「そう、だな……」

陽子「えっと……アンゴラウサギ? だったっけ」

美月「た、たしか……」

空太「そんな名前だったと思う」

陽子「そっか……ふむ」

美月(よ、陽子お姉ちゃんが真面目に考えてる……!)

空太(あ、あんなに授業中は不真面目だったらしいのに……!)(←烏丸先生たちから聞いた)

美月(そ、そっか……アンゴラウサギって名前に注目するのは)

空太(ぼくたちも考えつかなかった……もしかしたら)

美月(いい名前が付けられる、かも――!)


306 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/03(金) 22:18:48 XenuPkQM
陽子「――よしっ!」

美月「お、思いついたの?」

陽子「うん」

空太「そ、それで……?」

陽子「ああ。それはね――」


陽子「名前がアンゴラウサギなら」

陽子「そのままっていうのも芸がないから――『アンゴラ』っていうのはどうかなって」

美月「」

空太「」

陽子「アンゴラ……あれ? 即興で思いついた割には、なかなかいけないか?」

美月「……」

空太「……」

陽子「アンゴラ、よしよし……あれ?」

陽子「ふ、二人とも……どうしたのかなー?」

美月「――陽子お姉ちゃん、お仕事で疲れちゃってたんだね」

空太「ぼくたち、もうお風呂入ったから……陽子お姉ちゃんも、どうぞ」

陽子「ふ、二人とも、目が怖いぞー……?」

美月「ううん。怖くないよ……ただ」

空太「……陽子お姉ちゃんが心配になっちゃって。疲れちゃってたんだね」

陽子「わ、わかった! 今度は、もっと真面目に考えるからっ!」アセアセ


307 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/03(金) 22:19:21 XenuPkQM


――数分後


陽子「……ダ、ダメだ」

空太「何も思いつかないね……」

美月「……もう、終わりだね」グッタリ

陽子「み、美月! 『終わり』とかないからっ!」

空太「ああ、美月の体力が切れて壊れちゃった……」

美月「こ、壊れてないからっ」

空太「あ、戻った」


空太「うーん……『三人寄れば文殊の知恵』とは聞いたことがあるけど」

美月「い、いや……名前付けるのに、そのことわざはちょっとおかしくないかな」

陽子「そうだな――こうなったら」

陽子「『困ったときの神頼み』ならぬ……」

美月「……あっ」

空太「――そうだね」


陽子「『困ったときの綾頼み』ってことで」



――そして


綾「……あら?」

綾(ケータイにメール……陽子から?)カチカチ

綾(えっと……「これを見てくれ!」って、写真?)カチカチ

綾(……あっ、これって)

綾(あっ、電話……これは、陽子の家の番号ね)


綾「もしもし?」

陽子『あっ、もしもし。写真、見てくれた?』

綾「ええ、見たわよ……見たけど」

綾「何かあったの? 『これ可愛くない?』ってことなら、凄く可愛いし、出来れば私も欲しいって――」

陽子『そ、相当入れ込んでるなぁ……』


308 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/03(金) 22:20:22 XenuPkQM
陽子『えっと……あれ、空太?』

空太『もしもし。電話、代わったよ』

綾「あっ、空太くん。こんばんは」

空太『……大丈夫? お仕事の後で疲れてない?』

綾「……空太くんは、ホントに気が利くのね」

空太『……さっきも陽子お姉ちゃんが疲れて、変なこと言っちゃってたし』


>へ、変なこと言ってたわけじゃないから!

>落ち着いて、陽子お姉ちゃん……この電話終わったら、お風呂行こ?

>み、美月まで……うう


綾「……え、えっと」

綾「あまり陽子お姉ちゃんをイジめちゃダメよ?」

空太『ううん。純粋に心配してるだけ』

綾「……う、嘘じゃなさそうね」


空太『――それで、用事は』

空太『ソイツに名前を付けてほしいんだけど……』

綾「ソ、ソイツって……この子、怒っちゃうわよ?」

空太『……え? ぬいぐるみなのに?』

綾「……あ」

綾「ご、ごめんなさい。私も少し疲れちゃってるのかもしれないわね……」アセアセ

空太『……綾お姉ちゃんも心配』

綾「い、いいのよ。陽子お姉ちゃんを心配してあげて?」


309 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/03(金) 22:21:43 XenuPkQM
綾「――名前、ね」

綾「……私に電話してきたってことは、空太くんたちじゃ決まらなかったのね?」

空太『うん……』

綾「そうね。まぁ、空太くんや美月ちゃんのネーミングセンスは分からないけど」

綾「陽子はきっと、アンゴラウサギだから『アンゴラ』とか言ってたんじゃない?」

空太『……凄いね、綾お姉ちゃん』

綾「まぁ……陽子とは長い付き合いだし」


>あ、綾が私をバカにしてる……

>よ、陽子お姉ちゃん、しっかり! ほら、麦茶。

>あ、ありがと美月……ああ、美味しい

>良かった。笑ってる……


綾「――いいお姉ちゃんでしょ?」クスッ

空太『もちろん』


綾「さてと……そろそろ本題ね」

綾「この子の名前、名前……そうね」

空太『綾お姉ちゃん……』

綾(――お、思いつきそうで思いつかないわね)アセアセ

綾(『エリザベス』とかいいかと思ったけど……どうも、そういう名前じゃ)

綾(うーん……でも、電話の向こうで期待してる空太くんたちを思うと)

綾(し、しっかりしないと……で、でも)


310 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/03(金) 22:25:26 XenuPkQM


ピリッ


綾「……!?」

空太『?』

綾「い、今の……なに?」

空太『え? どうかした?』

綾「ご、ごめんなさい……なんでもないわ」

空太『……綾お姉ちゃん?』

綾「……そうね。今、思いついたわ」

空太『ホ、ホント?』

綾「ええ……今から、言うわね」

空太『う、うん。お願い』

綾「その子の名前なんだけど……」



――通話終了



綾「……」ピッ

綾(さ、さっきの感覚は……何だったの?)

綾(何だか電波を受信した、みたいな……そんな感覚が)

綾(「その子の名前は決まってるんだ」みたいな感じまでしちゃって……)

綾(気づいたら――「その名前」を話してた)


綾「……え、えっと」

綾「私、もしかして、いわゆる」

綾「で、電波系女子? とかになっちゃったの……!?」カァァ


311 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/03(金) 22:28:28 XenuPkQM
ここまでです。
ギャグを書きたかったので、ぬいぐるみの話でした。
次回以降、終盤に向かって動くかもしれません。



――数分後


美月「ふふっ、いいなぁ――」ニコニコ

美月「『ティッピー』って……」ナデナデ

美月「可愛い、可愛い……」エヘヘ

陽子「ティッピーかぁ……何だか」

空太「凄くいい名前だよね……」

陽子「おっ、空太? 初めて綾に負けて、悔しかったりする?」

空太「……く、悔しいとかじゃなくて」

空太「綾お姉ちゃんのセンスにビックリしちゃっただけ……」

陽子「そっかそっか、うんうん」

空太「……陽子お姉ちゃん、からかってる?」


陽子「ううん」

陽子「ホントに空太は……いつも美月のために一生懸命なんだなぁ、って思ったから」

空太「……陽子お姉ちゃんにも一生懸命だけど」

陽子「私には『姉ちゃん』として。美月には『妹として』、だろ?」

陽子「それって、やっぱり違ってくると思うし」

空太「……そ、そう言われると」

陽子「ほら。空太もティッピー、可愛がってあげようよ」

空太「……それじゃ、陽子お姉ちゃんも」

陽子「もちろんっ」ニコッ


――それから・電話越し


陽子「いやー、綾。助かったよ」

綾『……』

陽子「まさかティッピーなんていい名前……全然、思いつかなかったし」

陽子「綾ってネーミングセンスいいんだな……ビックリした」

綾『……ね、ねぇ、陽子?』

陽子「……綾?」

綾『そ、そのこと……嬉しいけど、凄く恥ずかしいの』カァァ

綾『ああ、もうっ。私、電波系とかじゃないのに……!』

綾『この年にもなって、電波受信とか……そんなのないわっ!』

陽子「……」


陽子「あ、綾はいつまで経っても乙女だよ。うん」

綾『フォ、フォローになってないわよ……!』カァァ


312 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/03(金) 22:44:23 yvPZZIbA
あぁ^〜心がぴょんぴょんするんじゃぁ^〜


313 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/03(金) 23:49:47 XenuPkQM
一応、ここから終盤の予定です。
おしまいのタイミングは考えてますが、どこまで踏み込んでいいものか……


――数日後・夕食時


美月「……あっ、始まったね」

空太「美月が好きなクイズ番組だっけ」

美月「うん……時々、芸能人とかがゲストに来てて」

美月「オシャレの参考になるのかなって……」

空太「……美月、今のままでも十分可愛いと思うけど」

美月「そ、それはお兄ちゃんだから言えるのっ」


司会『それではっ! 皆さん、お待ちかねの――』

司会『今日のゲストの方がいらっしゃいます!』


美月「……来るよ、お兄ちゃん」

空太「うーん……ぼくは、モデルさんあまりよく知らないけど」

美月「大丈夫だよ、お兄ちゃん。誰が来ても美人だから」

空太「正直、ぼくは美月が一番……」

美月「ほ、ほら! 始まったよ、お兄ちゃん!」アセアセ


司会『それでは本日のゲストは――』


「皆さん、よろしくお願いします」ニコッ


司会『トップモデルの大宮勇さんですっ!』



美月「……あっ!」

空太「この人って……」


司会『いやー、大宮さん。本日は初めての出演だそうですが、いかがですか?』

勇「はい。緊張しちゃって……昨日は、普段のように家族をからかえませんでした」

司会『……いつもはからかってるんですか?』

勇「まぁ、出来る範囲で……」


314 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/03(金) 23:50:17 XenuPkQM
美月「……ゴールデンタイムで出てるの、初めて見たかも」

空太「え? いつもは違うんだっけ?」

美月「うん。深夜とかの番組に、ちょくちょく出てたんだけど……」

空太「……出世したんだね」

美月「出世っていうのかは分からないけど……うん。そうなのかもね」


陽子「ただいま――って!」ガチャッ

陽子「うわ、い、勇姉がテレビに……!?」

美月「あっ、やっぱり……勇さんなんだ」

陽子「凄いな……ホントに、勇姉が」

空太「――陽子お姉ちゃん、凄い反応」

陽子「そりゃ、そうなるよっ。私の大切な友達の姉ちゃんなんだし……」

陽子「わっ! やっぱり、凄くカメラ映りいいなぁ……」


空太「……え、えっと」

美月「陽子お姉ちゃん……その」

美月「私たちが……大宮勇さんと幼なじみっていうのはホントなのかなって」

陽子「……えっと」

陽子「二人が勇姉と会ったのは、そうだな……私が小4で勇姉が小6とかの時だったと思うから」

陽子「覚えてないのもムリないかも……しのと二人も、最初に会ってからしばらくは会ったことなかったし」

空太「そう、なんだ……へぇ」

美月「……それじゃ私たちには、まだ『お姉ちゃん』がいたんだね」

陽子「い、いや。お姉ちゃんが増えすぎるのも、ちょっと……」

空太「大丈夫だよ、陽子お姉ちゃん」

美月「うん。私たちの大切なお姉ちゃんなんだから」

陽子「ふ、二人とも……ちょっと照れるって」カァァ


315 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/03(金) 23:51:02 XenuPkQM


――翌日・朝


空太「……ん?」

空太「電話? 相手は……誰?」

空太「――もしもし」


『おはようごじゃいマース!』


空太「……え?」


『コータデスね?』


空太「は、はい……?」

『あっ。まだ寝ぼけてマス?』

『私たちより若いんデスから……早寝早起きしないとダメなんデスよ?』

空太「……え、えっと」

空太「カレンお姉ちゃんでいい、よね?」

カレン『ハイッ! 九条カレン改めカレンお姉ちゃんと申すデスッ!』

空太「い、いや……そこは改めなくてもいいんじゃないかな」


空太「……そういえば、ケータイの番号って」

カレン『ヨーコから聞きマシタッ! 一昨日辺りに、会った時二』

空太「あ、そうだったんだ……」

カレン『これで私もお姉ちゃんデスッ!』

空太「い、いや……前からカレンお姉ちゃんはカレンお姉ちゃんだし」

カレン『……それ、ちょっぴり嘘デスね?』

空太「……うん」


カレン『まぁ、それはいいデス』

カレン『ヨーコとアヤヤは、二人にとってホントに大事な『お姉ちゃん』だって理解してマスし……』

カレン『ところで、今日なんデスが……シノの家に来れマセン?』

空太「忍お姉ちゃんの家に……?」

カレン『ハイッ! あっ、夕方じゃなくてお昼頃デスが……』

空太「行けると思う。今から美月を起こしてきて、ちゃんと起きてくれれば……だけど」

カレン『……そこは、コータお兄ちゃんに期待デスねっ』

空太「何とかしてみる。……というか、どうして昼?」

カレン『それは、来てからのお楽しみデス!』

カレン『それじゃ、またデスッ!』

空太「あっ。……切れちゃった」

空太「もう、カレンお姉ちゃんは……ホントにマイペースなんだから」

空太「……」


316 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/03(金) 23:52:14 XenuPkQM
一旦、ここまでです。
おしまいまで、もう少しかかるかもしれません。お願いします。



――廊下


空太「美月ー?」コンコン

空太「……ダメか」

空太「開けるよ?」ガチャッ

美月「……」スースー

空太(うわ、すっかり寝込んじゃってる……)

空太(ティッピーが潰れちゃうくらいの勢いで抱きついてるし……)

空太「……」


美月「……うう、ん」パチッ

美月「あれ? もう、朝?」

空太「うん、朝だよ」

美月「……お、お兄ちゃん?」

空太「起きないからカーテン開けちゃった。ごめんね」

美月「……は、恥ずかしいよ」カァァ

空太「……着替えとかじゃないし、大丈夫じゃない?」

美月「そ、そういうのとは別っ!」


空太「ごめんね、美月。でも……」

空太「早目に着替えて……忍お姉ちゃんの家に行こ?」

美月「……え? ど、どうして?」アセアセ

空太「えっとね――」


空太「カレンお姉ちゃんたちが、ぼくたちに会いたいんだって」


317 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/04(土) 00:50:57 rw2S7m5o


――少し経って


空太「美月。しっかり掴まっててね?」

美月「う、うん……」ギュッ

空太「ここから、坂道だから」

美月「……さすがに私、自転車の漕ぎ方忘れちゃったかも」

空太「大丈夫。その時は、ぼくと二人乗りすればいいし」

美月「そ、そこはお兄ちゃんが教えてくれるとかじゃないの!?」


空太「……えっと、この辺りかな」

美月「お兄ちゃん……忍お姉ちゃんのお家、覚えてるの?」

空太「まぁ、何となくだけど……あと、美月のためだと思ったら、勘が凄く働いて――」

美月「そ、そういうこと言っちゃダメ!」カァァ

空太「そういうわけだけじゃないけど、着いたよ」

美月「……ホ、ホントだね」



――大宮家・玄関前



空太「うん、『大宮』……ここだね」

美月「……インターホンは、これかな?」

空太「そうだね。それじゃ――」ピンポーン


『はーい?』


空太「……え?」

美月「こ、この声……!」


『どちら様――あっ』

『そっか、あなたたちが……へぇ』

『鍵、開けるわね。入って入って』


空太「……いこっか」

美月「う、うん……」

空太「よいしょっと……」


318 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/04(土) 00:51:43 rw2S7m5o


――大宮家・玄関


空太「……え、えっと」

美月「は、初めまして? こ、こんにちは?」

「いいのいいの。そんなに緊張しないで?」

「あなたたちはともかく、私はあなたたちを覚えてるから……でも、ホントに久しぶりね」

空太「――昔は、お世話になりました」

美月「え、えっと……勇、お姉ちゃん?」


勇「あら? まだ、その名前で呼んでくれるのね」

空太「……昨日テレビで観て、思い出しちゃって」

勇「あっ、そうだったんだ。ちょっと恥ずかしいわね……」クスッ

美月「勇お姉ちゃん、凄くキレイ……」

勇「もう、美月ちゃん? 美月ちゃんも、凄く可愛いわよ?」

美月「……わ、私なんて、別に」

空太「あっ。やっぱり勇お姉ちゃんも、そう思う?」

美月「お、お兄ちゃん!」カァァ

勇「ふふっ……仲良し兄妹ね」



――リビング


勇「はい、どうぞ。お菓子よ」

美月「あ、ありがとうござ……あ、ありがと」

勇「うんうん。敬語じゃなくていいわよ」

空太「ありがと、勇お姉ちゃん」

勇「……空太くんは、全然緊張してないわね」

空太「……美月の兄だし」

美月「こ、答えになってないよね……」


勇「――変わらないわね、二人とも」

勇「随分、前に会った時も……そんな風に、空太くんが美月ちゃんをリードしてたし」

空太「……覚えてる?」

勇「ええ。私、もう……小6だったし、ね」

勇「身長が伸びたりしても、昔みたいに仲良し兄妹だなぁって……そう思うわよ」

美月「……そ、そんなに昔から私、お兄ちゃんにいじられちゃってたんだ」アセアセ

空太「それ、嘘。いじった覚えとかないし……むしろ、いつも可愛くて――」

美月「そ、そういうこと、人の前で言うからダメなのっ!」カァァ

勇「……ホントに、昔のままね」クスッ


319 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/04(土) 00:52:16 rw2S7m5o
空太「――そういえば、勇お姉ちゃん」

勇「なに?」

空太「えっと……忍お姉ちゃんたちは、どうしてるのかなって」

勇「ああ。アリスとカレンちゃんなら、この家にプチホームステイしてるわ」

美月「そ、そうなんだ……」

勇「今回は時間が短いから、あまり二人をからかえないんだけど……」

美月「い、いや。からかうのが目的ってわけじゃないよね?」

勇「冗談よ、美月ちゃん」

美月「……ホント?」

勇「ええ」

空太「……昨日の番組で、こう言いながら嘘ついてたっけ」

勇「……ば、番組と現実は違うわ」プイッ

空太(わっ、ごまかしてる……)


勇「――まぁ、もう少しで」

勇「忍たちも帰ってきて……最後の一日が、ちゃんと始まるのね」

空太「……あ。そうだったね」

美月「忍お姉ちゃんたち……明日には」

勇「ええ。帰っちゃうから……」

美月「……そうだったね」

空太「うん……」


勇「もう? 弟分や妹分の、あなたたちまでしんみりしちゃってどうするの?」

勇「明日は、明るくあの子たちを見送ってあげましょう?」

空太「……さすが、勇お姉ちゃん」

美月「何だか……凄く安心しちゃう」

勇「ありがと。でも、二人もガンバって」

勇「陽子ちゃんや綾ちゃんを、安心させてあげないとダメよ?」

空太「……うん」

美月「そうなりたいな……」

勇「なれるわよ、絶対」ニコッ


320 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/04(土) 00:52:48 rw2S7m5o
勇「――あっ。そろそろ、帰ってきたみたいね」

勇「二人も玄関に来ない?」

空太「あっ。それなら行きたい」

美月「私も……」

勇「ええ。……あの子たちには嬉しいサプライズかもね」


カレン「ただいまデース! ……アレ?」

アリス「コ、コータくんたちがもう来てる……?」

忍「わっ、ホントです……」

忍母「あらあら……こんにちは」クスッ


空太「……こんにちは」

美月「こ、こんにちは」

勇「やっぱり礼儀正しいわね、二人とも……」

空太「……あのさ、勇お姉ちゃん」

勇「なぁに?」

美月「え、えっと……」

美月「忍お姉ちゃんって、勇お姉ちゃん以外にもお姉ちゃんがいたのかなって」

勇「……え?」

美月「え、えっと……忍お姉ちゃんの隣にいる人、とか」



忍母「まぁまぁ……」

忍母「私、そう見えちゃうの? 嬉しいわ……」ニコニコ

勇「……そう、見える?」

空太「うん」

美月「うん」

勇「――よ、良かったね。『お母さん』」

空太「……え?」

美月「お、お母さん……?」

忍母「ええ。嬉しいわ……」


321 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/04(土) 00:54:41 rw2S7m5o
今のところは、ここまでです


空太「……嘘?」

美月「……嘘?」

忍母「ふふっ。『嘘つきブラザーズ』も、やっぱり嘘を疑うのね?」

美月「……え、えっと」

空太「お久しぶりです、おばさん」

美月「お、お久しぶりです、おばさん」

忍母「……ま、まぁ」

忍母「『おばさん』というのも間違ってはいないけど、ね……」

勇(わっ、お母さん……傷ついちゃってる)


カレン「コータ、ミツキ! 来てくれてありがとごじゃいマース!」

空太「カレンお姉ちゃん……」

美月「えっと……むしろ、誘ってくれてありがと」

アリス「……ミツキちゃん?」

美月「だ、だって――明日で帰っちゃうんでしょ?」

忍「……あっ」

空太「そうだよ。だから……今日、誘ってくれて嬉しかった」

カレン「う、嬉しいこと言ってくれマスね、二人トモ……」

アリス「さすが、ヨーコのきょうだいだね」

忍「ええ。みんな、優しい子たちですからね」


空太「……べ、別に、そのために来たわけじゃ」

美月「そ、そうだよ。私、お兄ちゃんに起こされちゃったから来ただけだし……」

カレン「……ツンデレ力は、あの頃のアヤヤには届きマセンね」クスッ

空太「うん。美月も、ぼくに対して最近ツンデレ気味で――」

美月「な、流れるように私を裏切ってる!?」アセアセ

アリス「……ミツキちゃんはツッコミ慣れしてるね」

忍「ふふっ。ホントに、仲良し兄妹です」ニコッ


322 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/04(土) 11:27:22 hjzT7Jts
結末がどうなるか楽しみにしています


323 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/05(日) 22:35:41 2URrH6ug



――リビング


忍「改めて二人とも。今日は来てくれてありがとうございます」

空太「ど、どういたしまして?」

カレン「You're Welcome! デスッ」

美月「わっ、やっぱりカレンお姉ちゃんの英語も本格的……」

アリス「ありがとね、二人ともっ」

美月「……アリスちゃん」

空太「大丈夫だよ、アリスちゃん。寂しがらないでね……」

アリス「と、年下に心配されちゃってる!?」


空太「――ところで、カレンお姉ちゃん」

カレン「ハイ?」

空太「えっと……どうして、ぼくたちだけ呼んだのか気になっちゃって」

美月「そ、そうだよ。今日、土曜日なんだし……陽子お姉ちゃんたちもお休みなのに」

カレン「それは、デスね」

アリス「ヨーコやアヤたちとは、夜のお楽しみだから……」

空太「……夜の」

美月「お、お楽しみ……」

アリス「ど、どうしてそんな意味深に言うのっ!?」アセアセ

忍「はいっ、夜のお楽しみですね。アリスや私たちにとって」

アリス「シ、シノ……助けてくれてるんだよね?」


324 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/05(日) 22:36:23 2URrH6ug
カレン「まぁ、アリスの言ってることも嘘ではないデス」

カレン「……やっぱり、オトナたちだけのフクザツな話っていうのもありマスし」

忍「はい。ですから……お二人と会えるタイミングが」

アリス「今くらいしかなかったんだよ」

空太「そうだったんだ……」

美月「えっと、送別会は……お姉ちゃんたちだけでやるんだね」

空太「うん。でも、どうして――あっ」

美月「お、お兄ちゃん?」

空太「……ううん。何でもないよ、美月」


カレン「――コータは気づいちゃいマシタ?」

空太「多分。でも……言わない方がいいと思うから」

アリス「……コータくんったら」

忍「さすが、美月ちゃんのお兄ちゃんですね」

空太「べ、別に、それだからってわけじゃ……」

美月「……ふーん。お兄ちゃん?」

空太「美月?」

美月「えっと……そ、その『気づいた』っていうの嘘じゃないかな?」

空太「……」

美月「ホントは気づいてないのに、ついって感じで……」アセアセ

空太「大丈夫。美月が気づいてないなら、後で教えてあげるから」

美月「……う、嘘でしょ?」

空太「『嘘でいてほしい?』って感じじゃないかな、美月からしたら」

美月「……し、知らないっ」プイッ


325 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/05(日) 22:37:03 2URrH6ug
アリス「……コータくんの前だと、ミツキちゃんも形無しだね」

カレン「仲良しデス」

忍「ええ、ホントに……」

美月「ち、違うから! 別に仲良しとかじゃなくて……」カァァ

空太「……」

空太「美月が教えてもらわなくていいなら、それでいいけど」

美月「脅されちゃってる!?」


勇「……あなたたち、仲良しね」

忍「あっ、お姉ちゃん」

アリス「イサミッ……って、あれ?」

カレン「何か持ってるデス?」

勇「ええ。せっかく空太くんと美月ちゃんも来てくれたし」

勇「人生ゲームでもやって、思い出作りしない?」

忍「人生ゲーム……わぁ、いいですねっ」」

カレン「楽しそうデスッ!」

アリス「いいねっ。……コータくんとミツキちゃんも、それでいいかな?」

空太「うん。ぼくもやりたいかな」

美月「……そ、それじゃ、私も」


勇「……美月ちゃん、空太くんがやらないって言ったら、どうしてた?」

美月「そ、それだったら、やらなかったかも……って!」

美月「う、ううん。別に、お兄ちゃんがやらなくても、私だけでもやってたし……」

空太「ぼくは美月がやらないって言ったら、少し考えちゃうかもなぁ」

美月「お、お兄ちゃん……」カァァ


勇「……美月ちゃん、空太くんに敵わないのね」

忍「仲良し兄妹ですから」

カレン「仲良しデスし」

アリス「……私のことイジメるし」

空太「あっ、美月。アリスちゃんがいじけちゃってる」

美月「あ、ホントだ。アリスちゃん、大丈夫?」

アリス「……イ、イジメた後で優しくされちゃうから困るんだよ。もう」

カレン「アリスもすっかり、二人のペースに巻き込まれちゃってマスね……」


326 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/05(日) 23:48:20 2URrH6ug
勇「――それじゃ、始めましょうか」

アリス「うんっ! ……って、シノマムは?」

忍母「私は夜に備えて料理とか準備しておくから」

忍母「『若者』たちで楽しんでていいわよ」

空太(……何となく、どっかが強調されてるような気がする)


忍「お母さん、ありがとうございますっ」

忍「それでは、えっと……ルーレット回しましょうか」

勇「――あっ。10マスね」

アリス「凄い、シノ。一気に進んじゃった……」

カレン「幸先いいデス」

忍「ふふっ、嬉しいです……あれ?」


『罰金を払わなければならない。2万ドル没収』


忍「」

美月「うわ……」

空太「人生ゲームにありがちなトラップ……」

勇「忍? 銀行係の私に、2万ドルくれる?」

忍「……は、はい。わかりました」

アリス「シノ……落ち込んじゃってる?」

カレン「イエ、アリス――きっと、違いマス」

アリス「……あっ。も、もしかして」


忍「この悔しさをバネにして――」

忍「『英語の通訳として世界中を回る』というマスに止まってみせます……!」

勇「忍? 残念だけど、そういうマスはないわね」

忍「……書き足してもいいですか?」

勇「ダメよ?」


327 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/05(日) 23:49:34 2URrH6ug
アリス「えいっ……あっ!」

アリス「ラッキーデー、1万ドルもらう、だって!」

勇「わっ、アリス……なかなかね」

勇「それじゃ、はい。1万ドル」

アリス「ありがとっ!


カレン「……」

忍「……」

アリス「ふ、二人とも、どうかした?」

忍「いえ、何でもありません」

カレン「ハイ。ただ、『どうしてアリスだけそんなに得してるのに、私とシノだけ
    損ばかりしてるんデショウ?』なんて思っただけデス」

アリス「そ、それ絶対、『だけ』じゃないよね!?」

忍「はい。私はアリスが可愛いって思った『だけ』なのでセーフですよね?」

アリス「ア、アウトだよっ!」


空太「……よし。大学受験、成功っと」

美月「……そ、それじゃ私も、受験ルートで」

空太「え? 美月、ビジネスコース行くつもりだった?」

美月「……だ、だって」

美月「ここまで、殆ど全部お兄ちゃんと同じ感じで来ちゃったし……だから」

空太「美月、ぼくと一緒に大学行きたくない……?」

美月「こ、これゲームだからね?」

空太「……知ってるけど、『大学』とか『受験』とか『就活』とか聞くと、妙にキツくて――」

美月「そ、それは陽子お姉ちゃんたちの影響でしょっ」


328 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/05(日) 23:51:13 2URrH6ug


――しばらく経って


美月(――「ゲームだからね」なんて)

美月(さっき私は、そんなことを言った気がする……)

美月(……なのに)


空太「あっ、結婚イベント……」

カレン「ワッ!? コ、コータ、一番乗りで結婚デスッ」

アリス「は、速いね……」

忍「はい。私たちより、ずっと速いです」

美月(結婚、イベント……)

美月(――結婚)


勇「――えっと」

勇「結婚した場合、5万ドルのお祝いってことになるみたいね」

カレン「コータ、おめでとごじゃいマース!」

アリス「コータくん、おめでとっ」

忍「はい。おめでとうございますっ」

勇「――おめでと」

空太「……えっと」

空太「あ、ありがと」


329 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/05(日) 23:52:33 2URrH6ug
美月「……」

空太「美月?」

美月「――あ」

空太「どうかした?」

美月「え、えっと……」

カレン「ミツキもコータに5万ドル渡さないといけマセン」

美月「……あっ。そ、そうだったよね。うん」

アリス「……ミツキちゃん?」

忍「どうかしましたか?」

美月「――な、なんでもない、んだけど」

美月「え、えっと。5万、5万……」

空太「……」

空太「忍お姉ちゃん。トイレ、借りてもいい?」

忍「あっ、大丈夫ですよ。廊下に出て右です」

空太「ありがと。それじゃ……」


美月「……い、行っちゃった」

勇「気を遣ったんでしょうね、空太くん」

美月「……え?」

カレン「ヤッパリ……今日、二人を呼んで良かったデスね」

アリス「うん。ちょっと、心配だったし」

忍「ええ。そうですね」

美月「え、え?」アセアセ


330 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/05(日) 23:54:04 2URrH6ug
カレン「――ミツキ?」

美月「な、なに? カレンお姉ちゃん」

カレン「実は……一昨日、ヨーコとアヤヤと会った時二」

カレン「――コータとミツキがフクザツってこと、聞いちゃいマシタ」

美月「……!」

アリス「ご、ごめんね、ミツキちゃん?」

忍「どうしても気になっちゃって……そうしていたら」

カレン「ヨーコとアヤヤが、二人のこと話してくれたんデス」

美月「そ、そうだったんだ……」


美月「それで……ど、どんなこと聞いたのかな?」

アリス「詳しいことは教えてもらわなかったけど……」

忍「美月ちゃんと空太くんが、高校生になってから……凄く仲良しなのにタイヘンそうで」

カレン「色々、悩んじゃってるって聞きマシタ」

美月「……そ、そっか」

美月(陽子お姉ちゃんと綾お姉ちゃん……色んなこと、言わないでいてくれたんだ)

美月(さ、さすがに教えるのは恥ずかしすぎちゃうし。良かった……)


勇「――ね、美月ちゃん?」

美月「い、勇お姉ちゃん?」

勇「きっと……しばらく、空太くんは帰ってこないと思うわ」

美月「……あ」

勇「美月ちゃんなら、分かるんじゃない?」

美月「う、うん……分かるかも」

勇「ね? だから……」


331 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/05(日) 23:55:41 2URrH6ug
カレン「私たちに相談したいこと、ありマセンか?」

カレン「何でも聞きマスよ? 今なら無料サービスデスッ」

アリス「何でも聞くよ?」

アリス「……ふ、二人からは、からかわれちゃうこと多いけど……大切な友達の、きょうだいなんだから」

アリス「私だって心配なんだよ?」

忍「美月ちゃん? 空太くんがここに来ない間に……」

忍「話したいこと、話していいと思います」

忍「きっと……空太くんは、そういうことも期待してたと思いますし」

美月「……お、お姉ちゃんたち」


美月「で、でも……こういうのって、さすがに恥ずかしいというか、その」

勇「あら? それなら私、少し廊下にいるわね」

美月「勇お姉ちゃん……?」

勇「そこで、空太くんが帰ってこないかどうか見張ってるわ」

美月「……わ、わかった」


カレン「……イサミ、出て行っちゃいマシタ」

アリス「イサミ、気が利くからね」

忍「ええ、ホントに。……美月ちゃん? 何かありませんか?」

美月「……え、えっと」モジモジ

美月「い、色んな所に話とか飛んじゃうし……あと」

美月「――話せなくなっちゃうかもしれないけど。いい、かな?」

カレン「ハイッ」

アリス「うん」

忍「ええ」

美月「……そ、それじゃ」


美月「は、話せる範囲で、話すね……」


332 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/06(月) 00:01:01 s.oSsi0s
ここまでです。
終盤に入ったとはいえ、書く必要のあるイベントも多いので、もう少しかかるかもしれません。
何かご意見等ありましたら、是非ともよろしくお願いします。



――その頃・廊下


空太「……」

空太(美月……やっぱり、まだ)

空太(夏祭りの時のこととか、引きずっちゃったりしてるのかな……)

空太(ぼくだって、かなりそういうのが分からないとは思ってて)

空太(美月が先に行っちゃったことが――何だか、心配で)

空太(……しばらく戻らない方がいい、かな)


勇「空太くん」


空太「あっ……い、勇お姉ちゃん」

勇「やっぱり、美月ちゃんに気を遣って嘘ついてたのね?」

空太「……トイレに行ったのはホントだよ?」

勇「嘘。だってトイレは、そっちの方向じゃないもの」

空太「……あ」

勇「やっぱり……美月ちゃんのことが絡んじゃうと、色々タイヘンなのね?」

空太「……うん。そうかも」


勇「――空太くん」

空太「なに?」

勇「今、美月ちゃん……忍たちに色んなこと話してると思うの」

空太「――!」

勇「……空太くんも何か話したいこととかあるんじゃない?」

勇「もしもあったら……私、聞くわよ?」

空太「……どう、して?」

勇「もう? 私とあなたたちは会ったことがあって」

勇「その時、あなたたちは凄くいい子で……それに、陽子ちゃんのきょうだいで」

勇「助けになりたいって、思わない理由なんてないんだから」

空太「……勇お姉ちゃん」


空太「そ、それじゃ」

空太「……話せる範囲で話したい、かな」

勇「きっと、リビングで美月ちゃんも似たようなこと言ってるかもね」

空太「……双子だし、ね」

勇「ええ。ホントに、そうよね」


333 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/08(水) 02:44:26 B/WaiKj2


――リビング


美月「――っていう感じ、かな」

忍「……そうだったんですね」

アリス「ミツキちゃん、ホントに……」

カレン「ハイ。コータと仲良しデス」

美月「そ、それは……」

美月(二人乗りのこととか一緒に学校に行ってる、ってことは話したけど)

美月(さすがに……抱きついちゃったり、膝枕されちゃったりってことは話せなかった)

美月(それでも話してたら顔が赤くなりそうだったんだから、怖いかも……)


カレン「そうだったんデスね……ミツキはコータが大好きデス」

アリス「ずっと一緒にいたいんだよね」

美月「アリスちゃん……それ、言われちゃうと恥ずかしい」

忍「でも、ずっと一緒にいたいっていうのは大事な気持ちだと思います」

美月「……忍お姉ちゃん?」

忍「そんな風に思われる空太くんも、立派なお兄さんなんですね」

美月「り、立派……なのかな」

カレン「それは、ミツキが一番よく知ってるんじゃないデスカ?」

美月「……ま、まぁ、いいお兄ちゃんだとは思うけど」カァァ

アリス「ミツキちゃん、顔真っ赤だね」

美月「……べ、別に、そんなこと」


カレン「――結局」

カレン「ミツキはコータが好き過ぎるんデスね」

美月「す、好き過ぎるって……」

アリス「さっき、コータくんが結婚するってだけで、慌てちゃってなかった?」

美月「そ、それは……まぁ」

美月「で、でも! 別に、お兄ちゃんに相手が出来ても私は応援したいって思うし」

忍「美月ちゃん、今は素直になっても大丈夫だと思います」

美月「……忍お姉ちゃん?」


334 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/08(水) 02:44:51 B/WaiKj2
忍「――少し、私の話をしてもいいですか?」

美月「……?」

忍「私、2年ちょっと前にイギリスへの留学を決めて」

忍「そこで英語の勉強をした、ということは美月ちゃんもご存知だと思います」

美月「う、うん。忍お姉ちゃん、凄く英語上手になってた」

忍「ふふっ、ありがとうございます」ニコッ


忍「でも……ホントは、凄く迷いました」

美月「……!」

忍「たしかに、アリスやカレンたちの所に行く、というのは魅力的でした」

忍「でも……私は、その時はまだ全然英語が話せませんでしたし」

忍「陽子ちゃんや綾ちゃんと別れることになることも、凄く心残りでした」

美月「……忍お姉ちゃん」


忍「結局、決意してイギリスに行って」

忍「アリスやカレンに教わりながら、何とか英語を使えるようにはなりましたけど」

忍「……そこまで、とてもタイヘンでした」

忍「日本にいる陽子ちゃんや綾ちゃんのことを思わない日はありませんでしたし」

忍「何より、英語を使えなくて自信を無くしそうになる時が凄く怖かったです」

美月「……苦労、したんだね」

忍「はい。たしかに、それなりにキツかったです」


忍「でも……何となく、わかったこともあります」

美月「わかったこと……?」

忍「はい」

忍「――変わるということは凄くタイヘンで」

忍「でも、それが何とか出来たら……何だか、世界が輝いて見えました」

美月「!」

忍「美月ちゃんも……もしかしたら少しずつ、変わっていく時なのかもしれませんね」

美月「……分かっちゃってたんだ」

忍「はい。私とは違うのかもしれませんけど」

忍「……もし、美月ちゃんも空太くんとのことで『変わりたい』と思ったりするなら」

忍「ちょっとだけ、タイヘンになるのかもしれませんね」

美月「……」


335 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/08(水) 02:45:25 B/WaiKj2
アリス「シ、シノ……ちょっと厳しくないかな?」

忍「いえ、アリス。大丈夫です」

忍「色々、言っちゃいましたけど……美月ちゃんと空太くんは無敵ですし」クスッ

カレン「たしかに……初めて会った時から、凄く仲良しデシタ」

美月「な、仲良しって……そうかもしれないけど」

カレン「あと、素直になっちゃいマシタ」

美月「べ、別に、お兄ちゃんが好きってわけじゃ……ないわけじゃないけど」

アリス「……ミツキちゃん、可愛いね」クスッ

美月「……アリスちゃんの方が可愛いよ」ナデナデ

アリス「い、いつの間に撫でられちゃってる!?」


美月「――忍お姉ちゃん」

忍「はい」

美月「……ありがと。ちょっと元気出た」

忍「いえいえ」

忍「陽子ちゃんのきょうだいですし……いや、それだけじゃなくて」

忍「私も、やっぱり……お二人が大事なんです」

美月「……忍お姉ちゃん、何だか大人になっちゃった?」

忍「ふふっ。ありがとうございます」

カレン「シノ、一気に大人になっちゃいマシタ」

カレン「そのおかげで、アリスが寂しそう二……」

アリス「カ、カレンもじゃないの!?」


336 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/08(水) 02:46:13 B/WaiKj2


――その頃・廊下


勇「――そうだったのね」

空太「まぁ……大体、こんな感じかな」

勇「そっか」

空太(――「あーん」してたとか、膝枕のこととか、抱きつかれちゃったりしたこととか)

空太(そういうこと、全部言えなかった。やっぱりぼくも恥ずかしいし、美月も凄く恥ずかしいだろうから)

空太(でも……そういうの抜きにしても、何だか勇お姉ちゃんには色んなことを話せちゃって)

空太(――何でだろ?)


勇「……なるほどね」

勇「空太くん、美月ちゃんが大好きなのね?」

空太「……うん」

空太「でも、夏辺りから美月が……何をイヤがってるのかとか分かるようになって」

空太「それで少しずつ、ぼくも変わっていこうって思ったんだけど……やっぱり、何だか足りないみたいで」

勇「ううん。変わろうとしてるってことだけで立派だと思うわよ」

勇「ちゃんと、『お兄ちゃん』でいようとしてるのね……」

空太「……ぼくは、美月の兄だから」

勇「ふふっ、そうね」


勇「――空太くんたちは覚えてるか分からないけど」

空太「?」

勇「昔……美月ちゃんが転んじゃって、泣いちゃうことがあって」

空太「あっ、それ知ってるかも」

空太「それで、ぼくが肩組んで家まで……」

勇「ええ。そういうこともあったけど」

勇「私、美月ちゃんをおんぶして、陽子ちゃんの家まで連れて行ったことあるの」

空太「……勇お姉ちゃんが?」

勇「うん」


337 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/08(水) 02:47:25 B/WaiKj2
勇「その時ね、そんな私たちの隣を歩きながら」

勇「空太くんが凄く残念そうな顔で、私のことをチラチラ見てたこととか」

勇「よく覚えてるわ」

空太「……ざ、残念そう?」

勇「ええ。きっと、だけど」

勇「『自分がそうしてあげたいのに……』って感じだったんじゃないかしら?」

空太「……そっか。その頃、ぼくと美月って身長ほとんど変わらなくて、おぶれなくて」

勇「何だか、ちょっぴりヤキモチみたいな感じがしたわね」

空太「べ、別に、ヤキモチとかじゃなくて……」

勇「それくらい……昔から美月ちゃんのこと、大事だったのよね」

空太「……それは、そうだけど」


勇「――ね? 空太くん」

空太「?」

勇「まだ私に話してないこととか、あったりするでしょ?」

空太「……別に、そんなこと」

勇「嘘。違う?」

空太「分かっちゃうんだ……」

勇「一応、ね」

勇「まぁ、空太くんが話してくれたことだけでも」

勇「何というか、凄く……仲良しなんだな、ってことが分かったから、いいんだけど」


勇「――空太くん」

空太「な、なに?」

勇「……もしかしたら」


勇「苦労して困っちゃうこととかが、あるかもしれないかも」


空太「……」

勇「まぁ、勘だけどね」

空太「苦労して困るのって……むしろ、美月の方じゃないかなって」

勇「うん。もしかしたら、そうなのかもね」

勇「でも……ひょっとしたら、空太くんも、ちょっとタイヘンになっちゃう時が来るかもって」

勇「そう思うの」


338 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/08(水) 02:48:06 B/WaiKj2
空太「……勇お姉ちゃん、おどかしてる?」

勇「ふふっ、そう思うのも無理ないわね」

勇「でも……何となくだけど、ちょっぴり本気かも」

空太「……そっか」

勇「あっ、でも……」

勇「今日、久しぶりに会って……それでも、あの頃の二人と変わってなくて」

勇「……だから、タイヘンでも乗り越えられちゃうって思うの」

空太「……勇お姉ちゃん」


空太「ありがと、勇お姉ちゃん」

空太「話、聞いてくれて」

勇「そうね。そろそろ、戻る?」

空太「うん。きっと、美月たちの話も済んだと思うし」

勇「やっぱり、分かるの?」

空太「何となく」

勇「……さすが双子ね」

空太「そうかも……それじゃ」

空太「いこ? 勇お姉ちゃん」

勇「――ええ、そうしましょうか」ニコッ


339 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/09(木) 01:04:41 JMy3xFYg


――しばらくして


空太「それじゃ、忍お姉ちゃんたち。またね」

忍「はいっ。今日は楽しかったです」

カレン「結局、人生ゲームはコータの勝ちデシタね」

空太「……1位になったら、それ以外の人をフォロー出来るって知って」

空太「良かったね、美月。結局、2位だったし」

美月「……う、嬉しいけど、ちょっと恥ずかしいよ」カァァ

アリス「コータくん、ミツキちゃん助けすぎだったよ……」

空太「……アリスちゃん、美月にヤキモチ?」

アリス「そ、そんなことないもん」


空太「――えっと」

空太「明日、帰るんだよね?」

忍「……はい」

空太「……ぼくと美月も行っていい?」

アリス「あっ、それなら」

カレン「大歓迎デスッ! 是非、来てくだサイ」

アリス「ご、ごめんね……今夜の送別会、呼べなくて」

空太「ううん、大丈夫」

空太「……理由とか分かってるつもりだし」

忍「空太くん……」

美月「……私、まだ分かってないけど」

アリス「ふふっ、ミツキちゃんは可愛いね」ニコッ

美月「……アリスちゃん」ナデナデ

アリス「も、もう撫でられちゃってる!?」

カレン「アリス……ホントに好かれてマス」

アリス「こ、こういう好かれ方は……嬉しいけど、フクザツかも」


勇「それじゃ二人とも、気をつけて帰るのよ?」

空太「うん。ありがと、勇お姉ちゃん」

美月「……また、会おうね」

勇「そうね。私は忍たちと違って、ずっとここにいるだろうし」

勇「何かあったら、いつでも来てね」ニコッ

空太「ありがと」

勇「――まぁ」

勇「二人にとっては、陽子ちゃんや綾ちゃんの方が頼りがいがあると思うけどね」

美月「そ、それは……えっと」

空太「……ごめん。そうなのかも」

勇「……『嘘つきブラザーズ』って聞いたけど、今は昔とか?」クスッ

空太「そ、そういうわけじゃ……美月。何か思いつかない?」アセアセ

美月「え、えっと……」アセアセ

カレン「……やっぱり嘘って、そうやってつくものじゃないと思いマス」


空太「……えっと」

空太「それじゃ、また明日」

美月「ま、またね」

忍「はいっ。楽しみにしてますね」

アリス「また明日だねっ」

カレン「ハイッ! 嬉しいデスッ」



――帰り道


空太「美月、帰り道も気をつけてね」

美月「……気をつけるのは、お兄ちゃんじゃないの?」

空太「うん。そうなんだけど」

空太「美月がしっかり掴まってくれなかったら……危なくなっちゃうかもだし」

美月「そ、そうだよね……」

空太「まぁ、美月が油断しちゃっても、ぼくは何とかしちゃえると思うけど」

美月「お、お兄ちゃん……恥ずかしいから、やめてほしいかも」


美月「――ねぇ、お兄ちゃん?」

空太「?」

美月「結局……私たちが送別会に出られない理由って分かっちゃったの?」

空太「……えっと」

空太「みんな大人だし。だから、お酒とか飲んじゃうんだったら……ぼくたちみたいな未成年はキツいんじゃないかなって」

美月「嘘」

空太「……分かっちゃうんだ」

美月「お兄ちゃんの顔が見えなくても、嘘だって分かっちゃうよ」

美月「それなら、陽子お姉ちゃんと綾お姉ちゃんと一緒に居酒屋に行くなんてことないはずだもん」

空太「……美月って、頭いいよね」

美月「だ、だから、そういう問題じゃなくてっ」


340 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/09(木) 01:05:29 JMy3xFYg
空太「――いや、まぁ」

空太「美月の頭の良さを信じて、聞いてみたいんだけど」

美月「だ、だから、そういうわけじゃなくて……」

空太「美月は、そうだね……ぼくや陽子お姉ちゃん、綾お姉ちゃんたちと離れることになったら、どう思う?」

美月「……え?」

美月「そ、そんなの寂しいに決まってるよ」

空太「そうだよね。でも、もしぼくが……何か、夢を叶えるとかの理由で」

空太「美月と離れ離れになっちゃう、とかだったら?」

美月「……そ、それは、応援したいけど」

美月「でも、やっぱり凄く寂しいって思っちゃうかも」

空太「うん。ありがと、美月。ちょっと嬉しい」

美月「……お兄ちゃん、私を照れさせたかっただけ?」

空太「いや、そういうわけじゃなくて」


空太「――送別会って」

空太「きっと……色んな気持ちとか、そういうのが、何ていうか」

空太「……爆発、しちゃうかもって。そう思うから」

美月「……あっ」

空太「美月も分かった?」

美月「そっか……だから、大人だけで」

空太「ぼくたちが入ったら……少し、水を差しちゃったりするのかもって」

美月「うん、そうだよね……」

空太「――そういえば、陽子お姉ちゃん。今夜、出かけるって言ってたっけ」

美月「あっ、そういえば……何日か前に言ってたような」

空太「……ね、美月」

美月「多分だけど……お兄ちゃんが言いたいこと、分かる気がする」

空太「……やっぱり?」

美月「似たもの同士、でしょ?」

空太「良かった、いつもの美月だ」

美月「い、いつものって……そうなのかな?」


――その夜


陽子「それじゃ私、そろそろ行ってくるね」

空太「あっ。行ってらっしゃい、陽子お姉ちゃん」

美月「うん。行ってらっしゃい」

陽子「ん。行ってくる」

陽子「あーあ……また、離れ離れかぁ。寂しいなぁ」

空太「……ねえ、陽子お姉ちゃん」

陽子「ん? どうかしたかー?」


341 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/09(木) 01:07:10 JMy3xFYg
美月「えっと……」

美月「お風呂、沸かしておいたから」

陽子「おー、ありがとっ! 今日は、きっとここに帰ってくると思うし……」

空太「あと……ティッシュ箱も用意しておいたから」

陽子「……え? ティッシュ箱?」


空太「――陽子お姉ちゃん」

陽子「こ、空太? 何だかシリアスな感じ?」

空太「……多分、なんだけど」

空太「きっと……陽子お姉ちゃん、その」

美月「――泣き疲れちゃうかもって、私とお兄ちゃんは思ってるから」

陽子「……!」

空太「だから、ぼくたちは送別会には行けない……というか、行かないし」

美月「帰ってきたら、明日の見送りのためにも……ゆっくり、休んでほしいなって」

陽子「……」

空太「陽子お姉ちゃん?」

美月「ど、どうかした?」

陽子「――ふ、二人とも」


ダキッ


陽子「ちょっと……いや、ちょっとどころじゃないよ」

陽子「気が利きすぎなんだから。もう……」

空太「よ、陽子お姉ちゃん……」

美月「は、恥ずかしいよ……いきなり抱きつかれちゃって」

陽子「わ、私が一番恥ずかしいし……それに」

陽子「――もし、今泣いちゃったら二人のせいだぞ?」ギュッ

空太「……泣いてもいいよ?」

美月「そうだよ。私とお兄ちゃん、陽子お姉ちゃんが大好きで……これ、全然嘘じゃないんだから」

陽子「あ、あのなぁ……」

陽子「今、泣いちゃったら、後で泣けなくなっちゃうだろー?」

空太「あ、そっか……それじゃ」

美月「陽子お姉ちゃん。帰ってきたら、全然泣いちゃって大丈夫だから……いってらっしゃい」

陽子「……うん。わかった」


陽子「それじゃ――お風呂とティッシュ、期待して行ってくるよ」

空太「……遅くなっても大丈夫だから」

美月「私とお兄ちゃん、もし明日になっちゃっても待ってるから」

空太「うん。美月が寝ちゃっても、ぼくは起きてて後で起こすから」

美月「ね、寝ないもん!」

陽子「――うん、わかった」

陽子「ありがとな……ホント、最高のきょうだいだよ。二人とも」ニコッ


342 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/09(木) 20:55:27 JMy3xFYg


――翌日・空港


忍「それでは……さよならっ!」

アリス「またね、みんなっ」

カレン「See youデスッ!」


美月(――そんな風に言いながら笑顔のまま)

美月(三人は飛行機の所に歩いて行った)

美月(そして、今……)


空太「うわ、飛んでちゃった……」

綾「あっ、もう小さくなっちゃったわ」

陽子「……あっという間だなぁ、ホント」

陽子「まぁ、何にせよ……これでしばらく、離れ離れだなぁ」

綾「ええ、そうね……寂しくなるわね」

空太「陽子お姉ちゃんたち、一応まだ使ってないハンカチ持ってきたから」

美月「私も。だから……何かあったら、使ってね」

陽子「――ふ、二人とも、ホントに気が利くなぁ」

綾「陽子お姉ちゃんの教育がいいからじゃないかしら?」

陽子「……綾お姉ちゃんの影響もおっきいと思うけどね」

綾「わ、私なんて……そんな」


綾「――結局、ここに来られたのは私たちだけだったわね」

陽子「穂乃花も香奈も、絶対外せない仕事とかだったっけ」

綾「あと、烏丸先生と久世橋先生は、教師会議だったかしら」

陽子「勇姉も収録だし……ホント、これだけでも」

綾「ええ。もう、学生時代とは変わっちゃったのね……」

空太「……美月。もしかしたら」

美月「うん。陽子お姉ちゃんたちが泣きたい、ホントの理由って――」

陽子「い、いや! 別に社会人がイヤとかじゃなくて! ……ごめん、ちょっぴりそうだけど」

綾「よ、陽子! あなたお姉ちゃんでしょっ。……実は、私も少し」

空太「……社会って怖いね」

美月「う、うん……」

綾「ああ……このままじゃ、空太くんたちが反社会的になっちゃうわ」

陽子「……綾、何だか『お姉ちゃん』から『お母さん』になってないか?」

綾「そ、そんなことはっ!」


陽子「そういえば、空太、美月」

空太「なに?」

美月「どうかした?」

陽子「……さっき、二人がトイレに行ってる間、しのたちと話してたんだけど」

綾「しのたちにも感謝しないと、ね」

陽子「うんうん。三人とも、二人のこと凄く思ってたから」

空太「……それ、知ってるつもり」

美月「うん。みんな、良いお姉ちゃんだよね」

綾「ええ。たしかに、それはホントにそうなんだけど……」

陽子「……何か、心配かけるようなことしたのかなって」

空太「……心配?」


綾「何だか……昨日、しののお家に二人が行ったのは聞いてるけど」

陽子「細かいことは、今まで……ま、まぁ、色々取り込んでて聞けなかったしな」

美月「……ま、まさか、それって」

空太「え? 美月、分かるの?」

美月「お兄ちゃんだって分かるでしょ?」

空太「……ああ。ぼくが結婚するって言った時に、美月が」

美月「」


陽子「そっかそうだったんだ……って、結婚!?」

綾「ど、どういうこと空太くん!?」

陽子「わ、私や母さんに何も言わないで……空太、ど、どうして?」

美月「……お兄ちゃん、さすがにその嘘はどうかと思う」

空太「えっと……嘘じゃないよね? これ」

美月「そ、そうだけどっ」

綾「ど、どういうこと?」

陽子「ち、違うのか?」

美月「……二人とも、私たちのことになると一気に冷静じゃなくなっちゃうよね」


343 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/09(木) 20:55:50 JMy3xFYg
空太「えっと、ごめん……人生ゲームの話だから」

陽子「……あ」

綾「……そ、そうよね」

綾「わ、私、最初からそうじゃないかなって思ってたわ」

陽子「そ、そうだよね。私も」

美月(……嘘っぽいけど、何も言わないでいた方がいいのかな?)

空太「二人とも、嘘じゃないかなって……」

美月「お、お兄ちゃんっ」


空太「――まぁ、それはともかく」

美月「『ともかく』で流しちゃうんだ……」

空太「結婚って言っただけで、美月が慌てちゃって」

空太「それで、ちょっと……って感じ。で、いいんだよね? 美月」

美月「……す、凄く照れくさくてイヤだけど、まぁ、そんな感じだったよね」カァァ

陽子「……なるほど」

綾「えっと、まぁ……陽子と私は、同じ意見で」

綾「美月ちゃんたちが、そ、そういう感じで調子崩しちゃっても……大丈夫だって思ってるけど」

美月「あ、ありがと……でも」

美月「忍お姉ちゃんに、ちょっと――」

陽子「……そっか、そういえば」

綾「ええ、さっきしのは……」

空太「……何か話してたの?」

綾「まぁ、そうだけど……多分」

陽子「空太も美月も聞いたことだと思うよ?」

空太「……そっか」


344 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/09(木) 20:56:37 JMy3xFYg
美月「……な、何だかちょっぴり不安かも」

空太「美月、大丈夫」

美月「お兄ちゃん……」

空太「困ったことがあっても」

空太「ほら、カレンお姉ちゃんたちが言ってくれたし。『ぼくたちは無敵だ』って」

美月「……!」

空太「それに、困った時は助け合ってきたし」

美月「……しょ、正直、お兄ちゃんに助けられてきてばかりだと思うけど」

空太「それ、嘘。だって、ぼくは美月がいるだけで助かってるんだし」

美月「……も、もうっ」


陽子「――綾。どう思う?」

綾「まぁ……そんなに気にする必要ないとは思うけどね」

陽子「うん。私も、そう思うんだけど……」

綾「ええ。ある意味、私たちの中で一番変わったしのが言うことなら――」

陽子「……少しだけでも気にしておいていい、かもな」


空太「……陽子お姉ちゃんたち、シリアスだね」

美月「う、うん。やっぱり不安かも」

空太「大丈夫。帰ったら、ぼくの部屋でゆっくりしてれば……」

美月「そ、それで大丈夫なのかな……?」

空太「あ、それなら二人乗りでもする?」

美月「お、同じようなことでしょっ」


345 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/09(木) 22:12:52 JMy3xFYg
美月(――それから、あっという間に時間が過ぎていった)

美月(体育祭があったり、お兄ちゃんと焼き芋を食べたり、定期試験を受けたり……)

美月(……こういうイベントの時はもちろん、そうじゃない時も散々、顔を赤くさせられちゃったなぁ)

美月(でも、まぁ――)


烏丸「……それでは、みなさん」

烏丸「充実した冬休みを過ごして下さいねっ」


美月「……二学期、終わっちゃったね」

空太「うん。そうだね」

空太「……何だか、あっという間だった気がする」

美月「私も……」

空太「きっと、美月と一緒にいて楽しかったからかも」

美月「うん、私も――って!」

空太「あ、やっぱりそうだった?」

美月「……ひ、引っ掛けた?」カァァ

空太「……ちょっとだけ」

美月「イ、イジワル……」プイッ

空太「あれ? ホントは違ったりした?」

美月「……そ、そうやって聞いてくるからイジワルなんだよ?」


女子「……二学期も、美月たちは仲良しだったね」

美月「そ、それは……そうじゃないけど、そうなのかも」

男子「……空太。猪熊さんのフォロー」

空太「あ、そっか……えっと。つまり、『そうじゃないけど』をなかったことにしたら、分かりやすく――」

美月「……お兄ちゃんなんて、キライ」

空太「嘘」

美月「う、嘘じゃないもん……」


女子「――冬休みかぁ」

女子「あんたは、どうなの?」

男子「……どうせ、24日とかのことだろ?」

女子「そう、それ」

男子「……24日は、予定がない男子テニス部のメンバーで」

男子「あそこの公園のテニスコートでテニスしてくるから」

女子「へぇ……意外と楽しそうだね」

男子「……って、予定だったんだけど」

女子「?」

男子「俺以外のメンバー、全員がドタキャンで」

男子「相手がいなくなった……」

女子「……うわ、かわいそー」

男子「嘘つけ、ニヤついてるぞ」

男子「……お前、24日とか予定ないか?」

女子「え、私? まぁ、ないけど……」

男子「それじゃ、テニスやらないか?」

女子「……あー、そう来ちゃうんだ」

女子「いいよ。それじゃ、行ってあげる」

男子「……良かった」

女子「あっ。その後、適当にご飯食べて帰る感じでいい?」

男子「それじゃ、そうするか」


346 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/09(木) 22:13:24 JMy3xFYg
美月「……」

美月(――嘘だ)

美月(嘘をついてることも指摘しないで……その嘘に乗っかちゃってる)

美月(でも、二人とも……凄く楽しそう)

美月(――そっか。こういう関係も)


女子「……美月、どうかした? ニヤけちゃってるけど」

美月「べ、別にニヤけてなんてないよ?」

空太「そうだよね。美月、ニヤけてるよね」

美月「そ、そうだよ。お兄ちゃんの言う通り……あれ?」

空太「……やっぱりニヤけてたんだ」

美月「お、お兄ちゃん……また引っ掛けちゃった?」

空太「美月。素直になった方がいい時もあると思う」

美月「う、嘘つきのお兄ちゃんが言えるの!?」

女子「……美月、猪熊くんにやられっぱなしだね」

美月「た、たまには……私だって」


空太「へぇ、二人はテニスするんだ」

女子「猪熊くんたちは予定とかないの?」

空太「え? そっか……クリスマスなんだよね」

男子「……空太も予定なさそうだな、その感じだと」

女子「今までクリスマスとか、どんな風に過ごしてたの?」

空太「――えっと」



――遡って・中学時代


美月『……やっぱり炬燵は温かいね』

空太『そうだね……あっ、今のギャグ面白い』

美月『あっ、この人たちのネタって結構、いいよね……』

空太『うん……あっ、CM入っちゃった』

美月『それじゃ、みかん食べよっか』

空太『うん、そうしよっか』


美月『美味しいね……』

空太『うん……』

空太『――美月』

美月『?』

空太『はい、あーん……』

美月『あっ……』

美月『あーん……うん、美味しい』ニコッ

空太『良かった。嬉しそう』ニコッ


美月『はい、お兄ちゃん。あーん』

空太『……あーん。うん、美味しいね』

美月『ああ、炬燵とみかんの組み合わせって最高だよね……』

空太『……ちょっとだけ、ぼくは外に出たかったりするけど』

美月『……お、お兄ちゃん。一人で外行っちゃうの?』

空太『でも、美月が一緒じゃないとつまらないから……やっぱりいいや』

美月『そ、そっか……良かった』

空太『――クリスマスって楽しいね』

美月『うんっ! あっ、またみかん食べよっか……』


347 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/09(木) 22:14:39 JMy3xFYg
一旦、ここまでかもしれません。
色々とすっ飛ばして、クリスマス編です。
残りのイベントも少なくなってきましたね……


空太「……」カァァ

美月「……」カァァ

女子「ど、どうしたの二人とも?」

男子「顔、真っ赤だな……」

美月「う、ううん! 何でもないの」

美月「……ず、ずっと家で過ごしちゃってたなって、そ、それが恥ずかしいだけで」

空太「そ、そうだよ。別に、恥ずかしいことなんてしてないし……」

美月「お、お兄ちゃんっ! みかんの話はダメッ!」

女子「……みかん?」

男子「え?」

美月「――あっ」

空太「美月。今のは、美月がダメだと思う」

美月「……うう」


女子「――まぁ、そういうのは置いとくとして」

女子「せっかくだし、二人でどっか出かけたりとかしたら?」

空太「……正直、ぼくはどっか行きたいんだけど」

空太「美月が家がいいって言って……それに合わせる感じだったから」

美月「だ、だって!」

美月「こんな寒い時に、わざわざ外を出歩くなんて……キツいよ」

男子「……完璧なインドア派なんだな」

空太「いや、昔はこうじゃなかったんだけど……なんだろ」

空太「そっか。中学に上がったら体育が苦手なのが恥ずかしくなって、だから」

美月「わ、私、体育得意だもんっ!」

空太「……バ、バレーは得意だよね。前に、ぼくと組んだ時、ガンバってくれたし」

女子「猪熊くんもフォローとかタイヘンだよね……」

美月「……み、みんなキライッ!」プイッ

男子「猪熊さんがグレたな……」


女子「……まぁ、美月」

美月「な、なに?」

女子「ほら。今までずっと、猪熊くんに合わせてもらってきたんだし」

女子「たまには……えっと、兄孝行って感じで、猪熊くんに合わせてあげるのもいいんじゃないかな」

美月「兄、孝行……」

女子「うん」

美月「そ、そうなのかな……」

空太「別に、ぼくは美月を助けてきたってわけじゃないけど」

美月「……う、嘘」

空太「……まぁ、美月がそう言うならいいけど」


美月「――そ、それじゃ、お兄ちゃん」

空太「うん」

美月「……こ、今年は」

美月「二人で、どっか行こっか?」モジモジ

空太「……うん。それ、凄くいいと思う」ニコッ

美月(あっ、何だか嬉しそう……)


348 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/09(木) 23:47:15 JMy3xFYg


――帰り道


空太「美月、外に出るってことでいい?」

美月「……い、いつも、お兄ちゃんに助けてきてもらっちゃったのはホントだし」

美月「だから……うん。お礼、みたいな感じで」

空太「……兄思いの妹で、嬉しい」

美月「べ、別に、お兄ちゃんを思ってるわけじゃなくて……」

空太「うん、大丈夫。分かってるから」

美月「……何か、引っかかるかも」


空太「まぁ、行くにしても……」

空太「どういう場所がいいのか、とか」

空太「そういうのって、きっとぼくも美月も分からないと思う」

美月「……それは、そう思う」

空太「うん。だから――」



――書店


空太「ここで、調べてみない?」

美月「……本屋さん?」

空太「うん。ここなら、何かあるんじゃないかな」

美月「……そ、そうなのかな」

空太「とりあえず、入ってみよっか」

美月「うん……」


美月「……」

美月(あれ? ちょっと整理、整理……っと)

美月(結局、私とお兄ちゃんで……24日に出かけることになった、んだよね)

美月(で、今は……どこに行くのかを考えるって感じ、でいいんだよね)

美月(24日、クリスマスイブ……あ、あれ? それって、まさか――)


空太「美月。良さそうな本、見つけたよ」

美月「……お、お兄ちゃん」

空太「えっと……『クリスマス 気になる相手の気持ちを――』」

美月「ス、ストップストップ!」アセアセ


349 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/09(木) 23:47:48 JMy3xFYg
美月「――そ、それって」

美月「やっぱり……デ、デート特集だよね」

空太「……あ」

空太「そっか……デートか」

美月「わ、私たち……そ、そういう関係なワケじゃないし」カァァ

空太「……ご、ごめん、美月。ちょっと照れくさくなっちゃったから、少し待ってくれる?」カァァ

美月「……私、いつもお兄ちゃんにそんな感じにさせられちゃってるんだけどね」


空太「――で、でも」

空太「こういう本以外に……どこに行けばいいのか、みたいなこと教えてくれるのってなかったから」

美月「……そ、それは」

美月「『きょうだいのお出かけガイドブック』みたいな本、なかった?」

空太「……美月。それって今、考えたよね?」

美月「そ、そうだけどっ」

美月「で、でも……さすがにデート雑誌は」

空太「……ぼくも照れくさいけど」

空太「買うだけ買ってみない?」

美月「……う」

空太「お金は僕持ちでいいから」

美月「……ま、まぁ、いいけど」

美月「そ、それならっ! 私も半分出すから……」

空太「――美月って、ホントいい妹だよね」ニコッ

美月「……お、お兄ちゃん。ここ本屋さんの中だよ? 変なこと言ったら――」カァァ

空太「何だか、今更のような気もするけどね」

美月「そ、それは……!」


350 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/10(金) 00:25:30 83SbY7Qg


――空太の部屋


空太「……どこがいいと思う?」

美月「え、えっと……オススメの星マークが多い所がいいんじゃないかな」

空太「あ、そっか。便利だね、これ」

美月「……お、お兄ちゃん」

空太「?」

美月「ホントに、それ使って決めちゃうの?」

空太「……正直に言うと」

空太「美月が楽しめるような所なら、ぼくはどこでもいいかなって」

美月「……!」

空太「だから、いつも通りここで過ごすっていうのも、アリだって思ってる」

美月「で、でも……それじゃ」

美月「お兄ちゃん、楽しめないよね?」

空太「……美月と一緒なら、楽しくなるし」

美月「……半分嘘で、半分ホントでしょ?」

空太「やっぱりバレちゃった」


美月「しょ、しょうがないね……」

美月「私も半分払っちゃったし……この本で調べよっか」

空太「それがいいよね、やっぱり」

美月「――『相手との思い出づくりにバッチリ! ここで相手のハートをゲット』……」

空太「……あ」

美月「お、お兄ちゃん……読んでるだけで恥ずかしいんだけど」カァァ

空太「大丈夫、美月。音読しなければセーフだと思うから」

美月「な、何がセーフなのっ!?」


美月「――あっ、でも」

美月「ここ、結構……好きかも」

空太「え? ……ああ、自然スポット?」

美月「って、書いてあるね……うん」

美月「こうやってのんびり、ゆっくりしながら景色観るのとか好きだから……」

空太「……美月らしいと思うし、いいんじゃないかな」

空太「それだったら、そこに行く?」

美月「……お兄ちゃん、ホントにそれでいいの?」

空太「……うん。美月がいいなら、全然」

美月「嘘。私がいいって言わなかったら、お兄ちゃん行きたがらなかったでしょ?」

空太「……美月って、頭いいよね」

美月「だ、だから……そういう問題じゃなくてっ」

美月「ずっと、妹だったのに……分からないって思う?」

空太「……そうだよね」

美月「え、えっと……ここはいいよ」

美月「ちょっと遠いし……もっと近い所で探す方がいいと思うから」


351 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/10(金) 00:30:03 83SbY7Qg
空太「――美月」

美月「な、なに?」

空太「そこなんだけど……」

空太「いつか二人で、一緒に行こう?」

美月「……え?」

空太「美月が行きたい場所だったら、ぼくだって楽しめる所だと思うし」

空太「だから……」

美月「――も、もう、お兄ちゃんは」

美月「そんなに私に合わせちゃって……ストレス、溜まったりしない?」

空太「ううん、全然」

美月「そ、そうなんだ……」

空太「むしろ、美月が悲しんだりしてる時は凄いストレスが――」

美月「さ、さぁ、お兄ちゃん! 早く探そっ?」


美月「――ま、まぁ、今回は初めてクリスマスに外出るわけだし」

美月「だから、お兄ちゃんがどんどん希望を言っていってほしいかなって」

美月「……あ、兄孝行しないとって、思ってはいたし」

空太「……ぼくって、美月をそんなに助けてた?」

美月「じ、自覚ないんだね……」

美月「普段の授業の時も、お祭りの時も、文化祭の時も……それ以外の時も」

美月「いつも、助けられてきちゃったのに……」

空太「……そういえば」

空太「あ、そっか。美月と一緒に、ベッドで寝たこともあったっけ……」

美月「い、一番恥ずかしいのを持ち出すのやめてっ!」カァァ


美月「――だ、だから」

美月「今年は、お兄ちゃんに全部合わせるから……」

美月「そうするのが、私も幸せだし。いい?」

空太「……ありがと、美月」

美月「そ、そんなこと言わなくてもいいよ。私だって、それで楽しいから」


352 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/10(金) 00:31:34 83SbY7Qg
空太「――それじゃ」

空太「こことか、どう?」

美月「えっと……て、展望台?」

空太「うん」

空太「そういえば……一度も行ったことなかったなって」

美月「……す、凄く、人多そうだね」

空太「うん。でも、ここから景色見るのって凄く楽しそうだなって」

美月「……そ、それは、そうかも」

空太「美月、人混みイヤなら別の所にしよっか?」

美月「え、えっと……たしかに、あまり好きじゃないけど」

美月「お兄ちゃんのためなら……少しはガマンできるし」

美月「大丈夫だと思う、かな」

空太「……美月が素直でいい妹すぎて、最近ぼくは困ってる」

美月「い、いつも通りだよね!?」


空太「――それじゃ、ここってことでいいかな?」

美月「う、うん……大丈夫だよ」

空太「あっ……」

空太「ここって、クリスマスのイルミネーションもあるんだって」

美月「そ、そうなんだ……まぁ、都会みたいな所だもんね」

空太「展望台回るついでに、ここも行けるかも……」

美月「えっと……あっ。この写真、キレイ……」


空太「美月も行きたい?」

美月「……お、お兄ちゃんが行きたいなら」

空太「嘘。ホントは、美月も行きたいんじゃないかな」

美月「そ、それは……そうだけど」

空太「それじゃ、行かない手はないよね」

美月「……も、もう、好きにして」

美月「お兄ちゃんの行きたい所、全部付き合うから……嘘じゃなくて」

空太「……24日が楽しみでしょうがないかも」

美月「わ、私……楽しみだけど、恥ずかしいよ」カァァ


353 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/10(金) 01:10:46 83SbY7Qg


――24日・玄関


空太「……それじゃ、いこっか」

美月「う、うん……」

美月「わっ……やっぱり恥ずかしいかも」カァァ

空太「大丈夫だよ。ここまでなら、まだ学校行ってた時と変わらないし」

美月「そ、それ……どこも大丈夫じゃないよね?」


陽子「おー、二人ともデートだっけ?」

空太「……デ、デートとかじゃないけど」

美月「そ、そうっ! ただのお出かけ、だから……」

陽子「そっかそっか、うんうん」

美月「……陽子お姉ちゃん、からかってる?」

陽子「そ、そういうわけじゃないけど……」

陽子「――美月たちが仲良くやってほしいな、って凄く思ってるからさ」

空太「大丈夫。ぼくと美月は、ずっと一緒だから」

美月「お、お兄ちゃんっ!」


陽子「まぁ、昨日二人から聞いて」

陽子「デートってわけじゃないのは知ってるけどさ」

美月「……陽子お姉ちゃん、やっぱりイジワルになっちゃった?」

陽子「そ、そういうわけじゃないからっ! 二人が大事なだけで……」

空太「陽子お姉ちゃん、大丈夫。美月はともかく、ぼくは――」

美月「お、お兄ちゃん?」

空太「……ほ、ほんのちょっぴり気にしてるだけだから」カァァ

美月(あれ? 結構、照れちゃってる……?)

陽子「……ご、ごめん、二人とも。からかいすぎちゃったみたいだな」


陽子「まぁ……初めて、二人がクリスマスに外出するわけだし」

陽子「気をつけて、楽しんでくるんだぞー?」

空太「うん、ありがと。陽子お姉ちゃん」

美月「陽子お姉ちゃんも、ゆっくり休んでね?」

陽子「……ありがと」

陽子「いやー、今年はついてて……祝日の23日から」

陽子「24、25日も土日だから……3連休なんだ」

空太「わっ、運いいね……」

陽子「うん。だから、ゆっくり休むよ」

美月「うん、そうした方がいいと思う」


空太「それじゃ、行ってきます」

美月「い、行ってきます」

陽子「うん。楽しんでおいで」


陽子「――行っちゃったか」

陽子「さて、と……」ピッピッ


354 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/10(金) 01:13:56 83SbY7Qg
今回の更新はここまでかもしれません。
次回から、クリスマス編が本格的に始まり
その後で、いくつかのイベントを終えてから、最終段階に入る予定です。
長引いてしまいましたが、完結まで持っていくつもりです。



陽子「……もしもし? 綾?」

綾『あっ、よ、陽子?』

陽子「……何か慌ててる?」

綾『い、いえ……』

綾『今、電話をかけようとしてたら、陽子が出てきたから』

陽子「……偶然だなぁ」


綾『陽子は、どうかしたの?』

陽子「いや、えっと……」

陽子「空太と美月が、二人で出かけちゃったから……」

綾『あっ。それならこの前、空太くんから電話があったから知ってるわよ』

陽子「……綾お姉ちゃん、頼りにされてるね」

綾『そ、それは……まぁ、ありがたいけど、そうなのかもね』


陽子「ところで、今日とかどう?」

綾『ど、どうって……陽子の家にってこと?』

陽子「うん、そういうこと」

陽子「いや、実は……美味しそうな赤ワイン、もらっちゃって」

綾『……え?』

陽子「うん。だから……ほら、あの二人、まだ未成年だから」

陽子「綾と一緒に呑みたいなって……どうかした?」

綾『い、いや……実は』

綾『私も、関係先から……白ワインもらっちゃって』

陽子「……え?」

綾『だ、だから、さっき陽子に電話しようとしてたら……そっちからかかってきちゃったから、ビックリしたのよ』

陽子「……綾」

綾『……陽子』


陽子「――それじゃ」

陽子「今夜は、それで乾杯ってことでいい?」

綾『あ、あなた……ボトル、2つ開けるつもり?』

陽子「赤半分、白半分ってことで、ちょうどいいんじゃないか?」

綾『……ま、まぁ』

綾『呑み過ぎと思ったら、私が止めるし、ね……』

陽子「さすが綾お姉ちゃん、頼りになるね」

綾『わ、私は、陽子のお姉ちゃんになった覚えはないわよ?』


355 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/10(金) 07:04:26 JjzO9PGo
綾と陽子の掛けあいを見てると心が洗われる。


356 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/10(金) 16:47:50 83SbY7Qg
>>355
空太と美月の掛け合いも書いてて楽しいですが、お姉ちゃん組も凄く楽しいですね
書いてて癒やされるって、はっきりわかんだね。



――駅


空太「それじゃ、切符買わないとだね」

美月「そうだね……えっと」

美月「下り方面でいいのかな?」

空太「うん。大丈夫だと思う」

美月「さすがに、方面間違えたら笑えないし……」

空太「ぼくは美月と一緒に間違えたら笑えちゃうかも」

美月「そ、そういうプラス思考はどこから出てくるの……?」


空太「それじゃ、こっちで……あっ」

美月「どうかした?」

空太「いや……美月が行きたがってた所の駅、見つけて」

美月「えっと……あっ、ホントだ」

美月「今日、行く所とは逆方向なんだね」

空太「……結構、遠いね」

美月「そうだね……」

空太「自転車だとムリ、かな?」

美月「ふ、二人乗りから離れた方がいいと思う……」


――駅・ホーム


空太「えっと……次に急行、その次に各停が来るって」

美月「そっか。急行、来るんだ……」

空太「クリスマス・イブだし、やっぱり人多いね」

美月「う、うん……」

空太「美月、どっちがいい? 急行と各停」

美月「……え?」


357 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/10(金) 16:48:43 83SbY7Qg
美月「そ、それなら、早く来る急行の方がいいんじゃないかな」

美月「お兄ちゃん、早く行きたそうだし……」

空太「えっと……美月。嘘ついてくれるのはありがたいけど」

美月「う、嘘ってわけじゃ……」

空太「ホントは各停がいいのに、急行がいいって言ってる。違う?」

美月「……だ、だって」アセアセ

美月「今日くらいは、お兄ちゃんに全部合わせるって決めてたし」

美月「だから……」

空太「……美月は、ホントに優しいよね」

美月「お、お兄ちゃんが、それ言っちゃうの?」


空太「でも……やっぱり美月の希望だって、ぼくには大事だから」

空太「だから、各停でゆっくり座っていこう?」

美月「……う、うん」

美月「それじゃ、そうさせてもらっちゃおうかな……」

空太「ん、わかった」

空太「あっ、肩枕してもいいよ? 少しかかると思うし……」

美月「ま、まだ眠くないからっ」カァァ


358 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/10(金) 17:15:05 83SbY7Qg


――数分後


空太「着いたね……」

美月「うん……」

空太「うわ。色んな所、光ってる」

空太「やっぱり、クリスマスなんだ……」

美月「そ、そうだね……」


空太「……美月? さっきからチラチラ見てるけど、どうかした?」

美月「な、何でもないよ?」

美月「ただ、えっと……や、やっぱり、カップル? が多いなって」

空太「……まぁ、クリスマスってそういうモノらしいし」

美月「ら、『らしい』じゃなくて、実際そうなんだけどね……」

空太「でも、もしかしたら、ぼくたちみたいにお出かけで来てる人もいるかも」

美月「そ、それ、結構レアだよね!?」


空太「――それじゃ、とりあえず歩いてみよっか」

空太「展望台まで距離あるし……お店とか回ってみてもいいし」

美月「そうだね……」

空太「美月。人多いし、はぐれちゃわないようにね?」


359 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/10(金) 17:15:25 83SbY7Qg
美月「わ、分かってる……ひゃっ!?」ガクッ

空太「美月っ!」


ギュッ


空太「……だ、大丈夫?」

美月「ご、ごめんね……ちょっと、ボーッとしちゃって」

空太「もう。転んだら痛いし、キズついちゃうよ?」

美月「あ、ありがと、お兄ちゃん……え、えっと」モジモジ

空太「?」

美月「――や、やっぱり、手繋いじゃうの?」

空太「……あっ、そっか」

空太「美月がイヤなら離すけど……でも今日は、結構危ないかもだね」


美月「……何だか、前にもこんなことあったよね」アセアセ

空太「文化祭の時だっけ」

空太「どうする?」

美月「……そ、それじゃ」

美月「きょ、今日はクリスマスだし。お兄ちゃんに合わせるってことで……」

美月「と、特別っ! だから……」

空太「……そ、そういうことなら、そうしよっか」カァァ

美月「そ、そこで照れないでほしいかな……」カァァ


360 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/10(金) 17:39:12 83SbY7Qg


――雑貨屋


空太「……何か気に入ったのとかある?」

美月「え、えっと、これとかいいかなって」

空太「あっ、ブレスレット? いいね、似合いそう」

美月「……ま、前に、お兄ちゃんが取ってくれたアクセサリーと合わせたら」モジモジ

美月「意外とアリ、なのかな?」

空太「アリ、っていうか……兄としては嬉しいけどフクザツかも」

美月「ど、どうして?」


空太「いや、美月がオシャレになりすぎたら」

空太「他の男子とかの目が……い、いや。今のナシで」カァァ

美月「――わ、私も、そういう所あるとは思うけど」

美月「お兄ちゃんも大概だよね……」カァァ


空太「え、えっと……まぁ」

空太「クリスマスプレゼントだし。美月、買ってあげよっか?」

美月「え? プ、プレゼント?」

空太「うん。クリスマスだし」

美月「……お兄ちゃんがサンタさんになっちゃうの?」

空太「うん。昔は、お母さんとかお姉ちゃんたちがサンタさん役だったけどね」

美月「そ、それじゃ、私もサンタさんになるよ」

美月「お兄ちゃん、何か欲しい物とかない?」アセアセ

空太「え、えっと……美月がいれば、基本的に何も」

美月「そ、そういうのナシでっ!」カァァ


361 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/10(金) 17:39:30 83SbY7Qg
空太「あっ、それじゃ……お揃いってことで」

空太「ぼくも、そのブレスレット欲しいかな」

美月「……そ、それって、まさか」

美月(ペ、ペアルック……!?)

空太「美月、どうかした?」

美月「え、えっと……これでもいいんだけど」アセアセ

美月「こっちの方が似合ってるんじゃないかなって……」

空太「……ぼくは美月と一緒のヤツが一番欲しいけど」

美月「……う」

空太「一緒に付けてれば、きっと楽しいし」

美月「……お、お兄ちゃん」

美月「こ、こういうのはね……え、えっと」モジモジ

美月「ペアルック、っていうの。そ、それは……つまり」

空太「ペアルック……何だか楽しそうだね」

美月「……」

空太「美月?」

美月「――何だか、ペアルックもいいかなって思っちゃった」

空太「な、何だか遠い目してる……?」

美月「し、してないよっ」カァァ


362 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/10(金) 21:26:03 83SbY7Qg
空太「良い物、買えたね」

美月「そ、そうだね……」

空太「うん。嬉しい」ニコッ

美月(お兄ちゃん……凄く楽しそう)

美月(わ、私だけ恥ずかしがってちゃ失礼、ってことだよね?)

美月(――兄孝行、兄孝行)

空太「美月、どうかした? ジッと見てるけど……」

美月「……な、なんでもないよ」

美月「べ、別に、兄孝行しようとか考えてるわけじゃないからね?」

空太「……最近の美月って、自爆すること多いよね」

美月「そ、それくらいタイヘンなのっ」カァァ


空太「――何て話してる内に」

美月「あっ、イルミネーション……おっきい」

空太「クリスマスツリーって、こんな本格的に作れたんだね」

美月「キレイ……」

空太「あっ、美月。凄くいい顔してる」

美月「そ、そんなことはっ」


空太「ホントにキレイだね……」

美月「う、うん」

空太「あっ、写真撮ってる」

美月「ホントだ……」

空太「……美月? 写真、撮ってあげよっか?」

美月「……え?」

美月「い、いや……一人じゃ、やっぱり恥ずかしい、かな」モジモジ

空太「えっ、そう? それじゃ――」



――数分後


OL「それじゃ、いい?」

空太「はい。お願いします」

美月「……け、結局撮っちゃうんだ」

空太「一人じゃなくて二人ならセーフかなって」

美月「ま、まぁ、それなら……」


363 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/10(金) 21:26:38 83SbY7Qg
OL「はいっ、チーズ!」

空太「あっ、撮るよ」

美月「そ、そうだね……あっ!」


パシャッ


美月「」

OL「撮ったよー」

空太「ありがとうございました」

OL「うんうん。……いやー、仲良しだね」

空太「そ、そうですか。まぁ、たしかに――」

美月「あ、あのっ!」

OL「ど、どうかした?」

美月「そ、そのケータイ……見せて頂けませんか?」

OL「あっ、これ? はい、どうぞ」

美月「……や、やっぱり」

空太「美月、どうかした?」

美月「ど、どうかしちゃってるよ!」アセアセ

空太「美月、落ち着いて。日本語がおかしくなっちゃってる」


美月「――こ、これっ」

空太「あっ……手、繋いじゃってるね」

美月「ど、どうして気が付かなかったんだろ……」カァァ

OL「初々しいね、二人とも……」

OL「そんなに照れなくてもいいのに」

美月「……あ、あの」

美月「ごめんなさい。もう一枚、お願いできませんか?」

OL「え? うん、大丈夫だけど」

美月「お、お兄ちゃん。やり直しっ」

空太「……美月、何だか乗り気になってない?」

美月「そ、そんなことないもんっ」

空太(……結構、人見知りする美月が、初対面の人とちゃんと話せてるし)

空太(テンション高くなってるのかな)


364 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/10(金) 21:27:13 83SbY7Qg


――数分後


OL「はいっ、撮れたよ」

美月「あ、ありがとうございます」

空太「……今度は大丈夫だったかな」

美月「う、うん……大丈夫、みたい」

OL「仲良しなんだし、さっきので良かったって思うけど?」

空太「ま、まぁ……それもそうかもしれませんけど」

美月(……やっぱり、そういう風に見られちゃってるのかな?)

美月(私たちの周りで撮ってもらってるのも、やっぱりカップルなんだろうし)

美月(……な、何だか、落ち着かなくなってきちゃった)モジモジ


OL「あっ、知ってたよ」

美月「……え?」

OL「いや、さっき『お兄ちゃん』って呼んでたし」

空太「あっ、そういえば……」

OL「うん。それに……」

OL「二人とも、やっぱり似てるし。カップルって思う人、少ないんじゃないかな?」

美月「……あ」

OL「まぁ、そう思われたいんだったら別だけど」

空太「そ、そう思われたいわけじゃない、です」

OL「お兄ちゃんの方はそうなんだ。……で、妹さんの方は」

美月「わ、私も違いますっ」

OL「そっかそっか」

OL「それじゃ私、そろそろ行くね」

空太「ありがとうございました」

美月「あ、ありがとうございました……」

OL「それじゃ、クリスマス楽しんでね」


365 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/10(金) 21:27:42 83SbY7Qg
空太「……いい人だったね」

美月「う、うん。ちょっぴり、からかわれちゃったのかもだけど……」

空太「でも、いい写真撮れたし。良かった」

空太「ね、美月?」

美月「なに?」

空太「この写真……陽子お姉ちゃんたちに送ってもいい?」

美月「……え?」

空太「『ちゃんと楽しんでる』って報告したいし」

美月「そ、それなら……別に、いいよ」

美月(――カップルと思われて、撮られた写真じゃないし、ね)

空太「そっか。それじゃ……送ったよ」カチカチ

美月「わ、分かった。……あれ? 着信?」

空太「あっ、美月のケータイにも送っておいたから」

美月「あ、そうなんだ……えっと」カチカチ

美月「」

空太「どうかした?」

美月「……お」

美月「お兄ちゃんっ!」



――その頃・猪熊家


陽子「……いやー」

陽子「やっぱり、ワインのつまみって言ったらチーズが定番だよね」

綾「そ、そうね……あまり食べ過ぎると太っちゃいそうだけど」

陽子「もう、綾? 年末なんだし、ノーカンだろ?」

綾「よ、陽子は一度も気にしたことないから、そう言えるのよっ」

陽子「え、えっと……何か、ごめん」


陽子「うわ、綾の持ってきてくれたワイン美味しい……」

綾「陽子のもらってきたワインも美味しいわね」

陽子「綾、ビールとか日本酒は好きじゃないのに、ワインとか好きだよね」

綾「ま、まぁ……口当たりがいいし、ね」

陽子「……ビールだって口当たりいいと思うけどなぁ」

綾「そ、それは、人によるんじゃないかしら?」


366 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/10(金) 21:28:14 83SbY7Qg
陽子「――まぁ」

陽子「やっぱいいね。綾とこうやって、お酒呑むのって」

綾「そ、そう? まぁ、私も楽しいけど」

陽子「……何だか」

陽子「これからもずっと、綾とは一緒かもね」

綾「……そうね。最近、そう思うことが増えたわ」

陽子「……素直になったなぁ、ホント」クスッ

綾「い、いちいち照れちゃってたら先に進めないでしょ?」アセアセ


綾「それに……あの子たちとも一緒だと思ってるし」

陽子「ああ、そうだね……」

綾「だ、だから。しっかりしてないとダメだって、そう思うのよ」

陽子「……二人とも、綾と一緒にいると凄く喜んでるしなぁ」

綾「う、うん。初めて会った時に比べたら、ずっと懐いて――」


陽子「……あれ? 着信」

綾「私も。……あっ、メールね」

陽子「あっ、空太から……」

綾「空太くん? 何かあったのかしら……」


367 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/10(金) 21:29:05 83SbY7Qg
もしかしたら、今日は一旦ここまでかもしれません。
次回か次々回辺りで、クリスマス編もおしまいの予定です。


陽子「えっと、『写真撮った』だって」カチカチ

綾「なになに……わっ、キレイなクリスマスツリー」カチカチ

陽子「あっ、二人で写真撮ったんだ……あれ?」

綾「こ、これって」

陽子「手、繋いじゃってるな……」

綾「……な、仲良しでいいわね」

陽子「まぁ、ね……」



――その頃


美月「ど、どうして1枚目の方を送っちゃったの!?」

空太「ご、ごめん……うっかりしちゃってた」

空太「そうだ。今から訂正しよっか。えっと、『ごめん、さっきの嘘』……」カチカチ

美月「も、もう遅いよっ! というか、何が『嘘』なのっ」

空太「……うわ、ちょっと照れてきちゃった」カァァ

美月「……もう」カァァ

美月「きょ、今日は兄孝行ってことでなかったことにしちゃうけど……」

美月「――これからは気をつけてね?」

空太「うん。ごめんね、美月」

美月「だ、大丈夫。あんまり気にしてないから。あんまり、ね」アセアセ

空太(……明らかに嘘っぽいけど、言うのは止めておこうかな)


368 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 01:50:54 .A4YFyHQ


――展望台前


空太「それじゃ、いこっか」

美月「う、うん……」

美月「周り、カップルばっかりだね……」

空太「……えっと」

空太「あまりそういうの、気にしなくていいんじゃないかな」

美月「……お兄ちゃん?」

空太「だって、ぼくたちお出かけしてるだけなんだし」

美月「……あ」

空太「それに、さっきのお姉さんも……きょうだい、って言ってたし」

美月「そ、それは……そうなんだけど」

美月「ク、クリスマスっていうのは特別な日、なんだし」

空太「……その特別な日に、ぼくたちはいつも家にいたんだよね」

美月「お、お兄ちゃん……イジワルしてる?」


空太「ううん、違うよ」

空太「美月と一緒にいたら、いつだって特別なのかなって」

空太「そんなこと思っただけで……美月?」

美月「……お、お兄ちゃんは」

美月「やっぱり少し変わったけど……色々、変わり足りないよね」カァァ

空太「……こういうので、嘘つけなくなっちゃったみたいだし」

美月「う、嘘とかの問題じゃなくてっ!」



――展望台内


空太「……わっ」

美月「凄くキレイ……」

空太「こんな景色だったんだ……凄いね」

美月「う、うん」

空太「あっ。あれって……さっきのイルミネーションじゃないかな」

空太「わっ、こっから見たらこんな風なんだ。さっきと違う感じ……」


美月(……お兄ちゃん、凄く楽しそう)

美月(色々カップルとか多くてタイヘンだったけど)

空太「美月も、見てみない? キレイだよ」

美月(……お兄ちゃんの笑ってる所とか見てたら)

美月(もしかして――兄孝行、みたいなことは出来たのかなって)

空太「……美月?」

美月「あっ……う、うん。今、そっち行くね」

空太「……ありがと」

美月「い、いきなり何?」

空太「いや、美月が一緒に来てくれたおかげで」

空太「今、ぼくは凄く楽しいから」

美月「……あ」

空太「だから……美月はいい妹だなって」

空太「思っちゃった」


美月「……え、えっと」モジモジ

美月「よあウェルカム、だっけ?」カァァ

空太「……どういたしまして?」

美月「う、うん、それ」

美月「……お兄ちゃんが喜んでくれて、私も嬉しい」ニコッ

空太「……ぼくも凄く嬉しい」ニコッ


369 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 01:52:44 .A4YFyHQ
ここまでクリスマス編でした。
まだイベントは残っていますが、これからラストに向けて進んでいく予定です。



――それから・各停電車内


美月「……」

空太(美月、寝ちゃった……結局、肩枕)

空太(駅までまだ時間あるから、大丈夫かな)

空太(……疲れちゃってたんだ)

美月「……お兄、ちゃん」

空太「美月?」

美月「……どう、いたしまし、て」

空太(あっ、寝言か)


空太「……」ナデナデ

美月「……ん」

空太「――あ」

空太(わっ……あ、当たり前のように撫でちゃってた)

空太(うわ……け、結構照れるかも)カァァ

美月「……お兄、ちゃん」

空太「!?」

美月「……す」

美月「……」

空太(す、で止まっちゃったけど……)

空太(きっと、その後に続くのって――あれ、かな)


空太「……ぼくも好き、だから」

美月「……お兄、ちゃん」

美月「……」

空太(わっ、完璧に寝入っちゃった……)

空太(そっか……美月、疲れちゃってたんだ)

空太(しっかり寝ないと――って!?)


空太「み、美月!」

美月「……ふぇ?」

空太「降りないとっ。ここ、ぼくたちの駅っ」

美月「えー……もう、家じゃ」

美月「って、わっ!? も、もう駅?」

空太「す、すみません! 降りますっ」



美月「……ご、ごめんね」モジモジ

空太「ううん、大丈夫」

空太「美月、疲れちゃってたみたいだし……休めて良かった」

美月「わ、私は別に」

美月「きょ、今日は、えっと……照れくさいけど、兄孝行の日だったから」

美月「だから、気にしなくても大丈夫なんだよ?」

空太「……それじゃ今度は、ぼくが妹孝行しないとだね」

美月「だ、だからっ! 別に私、お兄ちゃんにしてあげたことなんて……」

空太「美月だって、自覚ないと思う」

美月「……お兄ちゃん?」

空太「美月がいるおかげで」

空太「ぼくは色々、ガンバれてるんだし……だから」

美月「……もう」

美月「別に私、何もしてないけど……お兄ちゃんが、そこまで言ってくれちゃうなら」

美月「期待しちゃおっかな」クス

空太「うん、楽しみにしててほしいかな……」クスッ


370 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 04:27:26 .A4YFyHQ


――元旦・神社


綾「……」

綾「そろそろかしら?」

陽子「おっす、綾っ」

綾「あっ、陽子……あけましておめでとう」

陽子「ん。あけましておめでとっ」

空太「あけましておめでと、綾お姉ちゃん」

美月「……あ、あけましておめでと」

綾「空太くん、美月ちゃん。あけましておめでとう」ニコッ


綾「……というか」

綾「みんな晴れ着なのね」

陽子「いやー……私は正直、遠慮しようかなって思ったんだけど」

空太「美月が『みんな着なきゃイヤだ』って言ったから」

美月「さ、さりげなく捏造するのはダメッ!」アセアセ

美月「ホントは、お兄ちゃんが『みんな着なきゃ、袴着たくない』って言ったんでしょっ」

空太「……別に、言ってないし」

美月「嘘。新年初」

空太「あっ、何か記念っぽい……」


空太「い、いや……袴って、何だか落ち着かないし」

陽子「空太、その気持ち分かるよ」

陽子「私も高校の頃は、ずっと私服だったからなぁ」

綾「……私、あの頃からずっと晴れ着だったけどね」

陽子「ほら。やっぱり綾はオシャレなんだよ」

綾「そ、そういうわけじゃ……ないと思うけど」

美月「綾お姉ちゃん、今度ファッション教えてくれる?」

綾「……こ、高校生にファッションを教える社会人って」

陽子「いいじゃん、何か面白そうだし」

空太「美月、綾お姉ちゃん大好きだし」

美月「そ、それは、お兄ちゃんも同じだよね!?」


371 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 04:27:48 .A4YFyHQ
陽子「それじゃ、お参りしにいこっか」

綾「ええ。そうね」

綾「えっと、今更だけど私……来て良かったのかしら?」

陽子「え、どうして?」

綾「い、いや……きょうだい水入らず、って感じじゃないのかなって」

陽子「……二人に聞いてみたら?」

綾「空太くんたちに?」

空太「だって、綾お姉ちゃんは『お姉ちゃん』だし」

美月「そ、そうだよ。もう『お姉ちゃん』だよね?」

綾「……!」

陽子「いやー、ホントに懐かれちゃってるなぁ」

綾「……だ、だからっ」

綾「わ、私は、ホントの『お姉ちゃん』じゃなくて……」モジモジ

陽子「……どーして、そこだけは素直になれないんだろうな」

綾「そ、それは素直とかの問題じゃないでしょっ」」カァァ

空太「……綾お姉ちゃん」

美月「……ツンデレ?」

綾「み、美月ちゃん? ツンデレっていうのは違うのよ?」アセアセ

陽子「そうだよ、二人とも。綾お姉ちゃん、私にはともかく……」

陽子「二人に対してはデレデレだし――」

綾「よ、陽子っ!」


美月(――お兄ちゃんとのお出かけが終わってから)

美月(一週間が過ぎて、年明けを迎えていた)

美月(……除夜の鐘の時、起きてられなかったのが心残りだけど)

美月(綾お姉ちゃんと陽子お姉ちゃん、そして私とお兄ちゃん――)

美月(今年も、大好きな人たちとの一年が始まったんだなって……)


空太「……美月、まだ眠い?」

美月「……!」

空太「大丈夫?」

美月「べ、別に好きとかってわけじゃなくて……!」

空太「……え?」

美月「……あ」

美月「い、今のナシッ! ノーカウントッ」アセアセ

空太「……ストライク、三振?」

美月「は、判定しちゃダメッ」カァァ

陽子「……今年も相変わらず、なのかな」クスッ

綾「ええ。そうなのかもね」クスッ


372 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 04:28:12 .A4YFyHQ


――数分後


陽子「よしっ、私たちの番も近いな」

綾「そうね……」

美月「願い事……」

空太「願い事、かぁ……」

陽子「二人とも、考えないとダメだぞー?」

綾「そうね……私と陽子の願い事は決まってるものね」

空太「……社会人、辞めたい?」

美月「……ずっと、お家にいたい?」

陽子「い、いや……それは、えっと」

綾「ね、願っちゃいけないと思うけど……本音としては」

空太「――美月。高校卒業したら、どっか行く?」

美月「お、お兄ちゃん……それもいいかな」

綾「ああ……日に日に、空太くんたちが社会から離れていくわ」

陽子「教育方針、見直さないとだね……綾お姉ちゃん?」

綾「ガンバりましょう、陽子お姉ちゃん」



空太「――ぼくたちの番だね」

陽子「よしっ、願掛けしないとだな」

綾「……陽子。もしかしてホントに?」

陽子「あ、綾……さすがに、その願い事じゃ勿体ないだろ?」

綾「ええ。陽子なら、そう言うと思ってたわ」

綾「何と言っても……あの子たちが大好きなお姉ちゃんなんだから」

陽子「……綾も同じだと思うけどなぁ」

綾「そ、それは……えっと」カァァ

美月「……綾お姉ちゃん、顔真っ赤」


空太「そっか。それじゃ、ぼく……」

空太「綾お姉ちゃんの顔の赤みが取れますように、ってお願いしよっかな」

美月「あっ、それ私も……」

綾「あ、あなたたち……せっかくの願い事が、それじゃ勿体ないでしょ?」

空太「……綾お姉ちゃんのためなら」

美月「勿体なくないかな、って……」

綾「……じょ、冗談よね」

空太「うん、冗談」

美月「さ、さすがにね」


373 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 04:28:40 .A4YFyHQ
綾「……良かった」

陽子「え? 綾、残念じゃないの?」

綾「う、ううん……それより」

綾「この子たちが、きちんとしたお願いを出来ない方が……イヤだし、ね」

陽子「……もう、立派なお姉ちゃんだよね」クスッ

綾「だ、だから……それは」アセアセ



――願掛け


陽子「――よし、おわりっ」

綾「私も。陽子は、どんなお願いしたの?」

陽子「えー……いや、ちょっと恥ずかしいなぁ」

綾「……私は、世界平和をお願いしたわ」

陽子「……小学校の頃のしの並に、突拍子ないね」

綾「わ、私、小学生レベルだったの!?」

陽子「まぁまぁ。綾は嘘つくのに向いてないんだよ」

空太「あっ。それ、ぼくも思う」

美月「私も」

綾「い、いつの間に、二人まで加わってる!?」ガーン


陽子「……いや、まぁ。話しちゃうと」

陽子「『この先も、ずっとみんなで一緒にいられますように』って感じだったよ」

綾「……」

陽子「綾?」

綾「い、いえ。一言一句、同じだったからビックリしちゃって」

陽子「……あと『この子たちが、ずっと仲良く楽しくいられますように』って」

綾「……一言一句、同じね」

陽子「……」

綾「……」

空太「――やっぱり綾お姉ちゃんって」

美月「う、うん……もう『お姉ちゃん』なのかもね」

綾「ふ、二人とも……頼むから、私の顔を赤くしないで?」カァァ

陽子「いやー……何かこれ、結構照れるね」カァァ

綾「も、元はといえば陽子がっ」

陽子「綾、落ち着いて。聞いてきたのは綾だったんだぞ?」


374 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 04:30:16 .A4YFyHQ
眠れなかったので書いてました。
初詣編は、次回辺りで終了です。



綾「……え、えっと」

綾「それじゃ二人は、何てお願いしたの?」

空太「……えっと」

空太「『陽子お姉ちゃんと綾お姉ちゃんのストレスが無くなってくれますように』って」

美月「あっ、私も同じ」

空太「あと、『みんなで一緒に楽しく過ごせますように』って」

美月「わ、私も同じ」

空太「……それと」

空太「『美月とずっと一緒にいられますように』って」

美月「……わ、私も同じ」


陽子「……綾」

綾「なに?」

陽子「いや……今年も、この二人と綾と一緒にいられると思うと」

陽子「仕事の悩みとか、どうでもよくなっちゃうんだなって……」

綾「……それもまた一言一句、同じね」

綾「まぁ、それは――」


美月「……『ずっと一緒に』って、やっぱり恥ずかしいかも」カァァ

空太「あっ。……う、うん、そうだね。恥ずかしいよね」

美月「……お兄ちゃん、今思いついたでしょ?」

空太「……今年は、少しは美月に近づきたいかなって」

美月「そ、そうやって近づくものじゃないよっ」アセアセ


綾「――この子たちも同じようなものなのかもね」

陽子「ああ。今年も、帰ったら癒されるんだろうなぁ……」

綾「……割とマジメに羨ましいわ」

陽子「綾? 私たちは、いつでも綾お姉ちゃんを歓迎してるんだぞ?」

綾「だ、だからって、一緒に住むのはムリでしょっ」アセアセ


375 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 17:07:20 .A4YFyHQ
陽子「――それじゃ次、どうしよっか?」

綾「そうね……初詣といえば、何があるかしら」

陽子「うーん。やっぱり、おみくじかな?」

空太「おみくじ……」

美月「お、おみくじ……」

陽子「あれ? 二人とも、あまり乗り気じゃない?」

空太「いや、ぼくはちょっと興味あるけど……美月は?」

美月「え、えっと……」


美月(……もし、悪いくじが出ちゃったら)

美月(たとえば……ち、近い人と疎遠になるかも、みたいな?)

美月(た、ただでさえ、ゲームのイベントでも慌てちゃったのに……)

美月(私、割り切れるのかな……)


空太「――えっと、陽子お姉ちゃんたち」

空太「何だか美月は引くのがイヤそうだから……ぼくも引かないでおく」

美月「い、いや! 私はともかく、お兄ちゃんは引いたら?」アセアセ

空太「……美月がイヤなことって、やっぱりぼくもイヤだし」

美月「お、お兄ちゃん……ムリして私に合わせなくてもいいんだよ?」

空太「ムリなんてしてないし。嘘に見える?」

美月「……そ、そう言われてみたら、嘘っぽくないような」


陽子「そっか、それじゃ……やめとこっか?」

綾「ええ、そうね……考えてみたら」

綾「おみくじで、私たちの『これから』って決まらないような気もするし……」

陽子「……まぁ、そうかもな」

綾「何より、空太くんはともかく……私たちの結果次第でも、美月ちゃんは悩んじゃうんじゃないかなって」

陽子「……悩み多き年頃、だしなぁ」

綾「ふふっ。陽子がそういうこと言うのって、何かおかしいわね」クスッ

陽子「あ、綾にバカにされた……」


376 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 17:07:45 .A4YFyHQ


――結局


陽子「それじゃ、絵馬でも書こっか」

綾「絵馬……いいわね」

空太「あっ、それなら美月もいい?」

美月「え、えっと……願い事とか書くんだよね?」

空太「うん。何でも書いていいんだよ」

美月「……」


美月(――何だか)

美月(忍お姉ちゃんのお家で人生ゲームをやって)

美月(その後、クリスマスにお兄ちゃんとお出かけしてから……何だか、フクザツになることが増えちゃったような気がする)

美月(前からフクザツだったかもだけど……最近、それが特に強くなってきちゃった、ような)

美月(おみくじも引けなかったし……どうして?)


空太「どうかした?」

美月「……『今年は、もう少し落ち着いて過ごせますように』って書こうかな」

空太「な、何だか高校生っていうより、社会人とかが書きそうだよね。それ」

陽子「こ、空太? どうしてわかったんだ?」

綾「うう……ホントに落ち着いて日々を過ごしたいわね」

美月「……ちょ、ちょっと変えよっかな」

空太「うん、それがいいかもね」


陽子「――まぁ、ちょっと冗談なんだけど」

綾「ええ……たしかに空太くんが言うのも凄く思ってるわ。でも」

陽子「『ずっとみんなと一緒に楽しく過ごせますように』、って」

綾「あ、相変わらず一言一句、同じね。ちょっと怖いわ……」

陽子「ああ。後、『綾が二人のお姉ちゃんに――』」

綾「だ、だからっ! ホントのお姉ちゃんは陽子だけでしょ?」


377 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 17:08:05 .A4YFyHQ
空太「そっか。それじゃ、ぼくは……」

空太「『ずっと一緒にいられますように』って書こうかな」

美月「……ずっと、一緒に」

空太「美月は、どうする?」

美月「え、えっと……」モジモジ

美月「それじゃ私も、そうしよっかな……うん」

空太「……何だか落ち着いてなかったりする?」

美月「だ、大丈夫だから……ありがと」

空太「?」



――数分後


陽子「よしっ、書き終わった!」

綾「私も」

陽子「……綾、相変わらず字キレイだなぁ」

綾「ふふっ。陽子も昔に比べたら、ずっと上手くなったわね」

陽子「い、いや……家でこの子たちの手本にならないとって思ってさ」

綾「でも、料理は?」

陽子「い、言わないでくれー……油断してたら空太に抜かされそうになっちゃったし」

綾「……暇な時に、教えてあげましょうか?」

陽子「綾先生、お願いっ」

空太「綾お姉ちゃん先生、お願いします」

美月「あ、綾お姉ちゃん先生……頼りにしてます」

綾「あ、あなたたちも来るのね……ええ。わかったわ」

綾「あと、その呼び方はさすがにキツいかも……」カァァ


378 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 17:08:55 .A4YFyHQ
空太「それじゃ、掛けにいこっか」

美月「う、うん……」

陽子「あっ、ここ空いてる」

綾「ええ……でも、二つが限度じゃないかしら」

陽子「あ、そっか……それじゃ、空太と美月が」

空太「ううん。陽子お姉ちゃんたち、そこ使って?」

美月「そ、そうだよ。せっかくのお休みなんだから、楽にしていいんだよ?」

陽子「……うう、二人とも。ありがと」

綾「ありがとね、二人とも」

綾「そうよね……一週間経たないうちに、また」

陽子「あ、綾っ。言わないでくれー……」


空太「――えっと、それじゃ」

空太「あっ、美月。ここ、空いてるよ」

美月「ホントだ。それじゃ、ここ、に――」


『〇〇とずっと一緒にいられますように!』

『☓☓とはこれからもずっと一緒!』


美月「……!」

空太「それじゃ、掛けよっか。……美月?」

美月「え、えっと……隣の絵馬が、ちょっと」アセアセ

空太「あっ、ぼくたちと同じようなこと書いてるね」

美月「う、うん……でも、この人たち、きっと」

空太「……カップル、かもね」

美月「『かも』っていうより……多分、間違いないよね」


美月(――そうだよね)

美月(今まで、何だか当たり前みたいに使ってきちゃったけど……考えてみたら)

美月(私たちみたいな兄妹が「ずっと一緒にいる」って……ちょっとおかしかったのかな?)

美月(で、でも。色々、恥ずかしくなっちゃっても……これだけは何だか、譲れない気も)


――二人とも、やっぱり似てるし。

――カップルって思う人、少ないんじゃないかな?


美月(……私、何かヘンになっちゃってる)

美月(私たちは双子の兄妹。それだけ、なのに……)

美月(隣の絵馬とかこの前の女の人の言ってたこととか……どうして、気になっちゃってるの?)


379 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 17:09:52 .A4YFyHQ
初詣編は、ここまでです。


空太「大丈夫だよ、美月」

美月「……お、お兄ちゃん?」

空太「『ずっと一緒にいる』って約束は、ずっと続くから」

美月「!」

空太「心配しないで平気なんだよ?」

美月「……もう」

美月「お兄ちゃんの心配は嬉しいけど……ちょっぴり違うんだよ?」

空太「え? そうだった?」

美月「うん。……でも」

美月「ありがと。少し楽になれた気がするし」

空太「……新年もよろしくね、美月」

美月「え、えっと……よろしくね、お兄ちゃん」モジモジ


陽子「――綾」

綾「なに?」

陽子「しのの心配してたようなことって……起きると思う?」

綾「……今日の美月ちゃんの様子とか見てると」

綾「ほんの少しだけど、私も心配になっちゃってきたかも」

陽子「……もしも、そういうことになっちゃったら」

陽子「一緒に支えてあげような、綾お姉ちゃん」

綾「もちろんよ、陽子お姉ちゃん」


380 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 17:19:13 G/.dmm6A
きんいろモザイク2.5期の原作はこちらですか?(難民並感)


381 : エターナル次元断 :2015/07/11(土) 17:27:03 ???
う、んこ板においで!


382 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 18:48:52 .A4YFyHQ
美月(――結局)

美月(新年を迎えてからも、何だか落ち着けないままだった)

美月(私がちょっとでも悩んでるように見えたら、すぐにお兄ちゃんが励ましてくれて、それは凄く嬉しいんだけど……)

美月(自分でも何に悩んでるのか分からないまま――)



――2月


美月「……もう、2月だね」

空太「うん。正月から、あっという間だったね」

美月「そうだったよね……」

空太「……美月」

美月「な、なに?」

空太「えっと……」

空太「帰り、クレープ奢ってあげよっか?」

美月「……え?」


空太「いや……何というか」

空太「好きな物、たくさん食べたら元気も出るんじゃないかなって」

空太「だから……」

美月「……ありがと、お兄ちゃん」

美月「でも……ついこの前、奢ってくれちゃったばかりでしょ?」

空太「……うん」

美月「だから大丈夫だよ。なるべく心配かけないようにするね?」

空太「……わかった」

空太「何かあったら、いつでも言ってほしい」

美月「ん。わかった」ニコッ


美月(――また、やっちゃった)

美月(普段は、去年みたいに……照れながらも、お兄ちゃんと楽しく一緒にいられるのに)

美月(こういう時、ついつい沈んじゃって見えるみたいで……何だか悲しかった)



――教室


女子「おはよー」

美月「あっ、おはよ」

空太「おはよ」

女子「いやー、そろそろだね」

美月「え? そろそろって?」

女子「もう、美月ったら……とぼけちゃってる?」

美月「え、えっと……あれ?」

女子「……大丈夫? やっぱり最近、調子悪くしちゃってない?」

美月「そ、そんなことないよ……」アセアセ

空太「……美月?」

美月「な、なんでもない」


383 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 18:50:50 .A4YFyHQ
>>380
嘘つきブラザーズメインのアニメ化とか歓喜不可避ですね
ただ、このSSも終盤に入った模様……悲しいなぁ



女子「ふーん……まぁ、そんなに沈んじゃってるわけじゃなさそうだし」

女子「ほら。もうすぐ、14日でしょ?」

美月「14日……あっ」

美月「そ、そっか……もう、そんな時期なんだね」

空太「14日……バレンタイン」

女子「そう、それっ」

女子「美月、チョコとかあげたこととかある?」

美月「えっ。……そ、そういえば、えっと」

空太「……小中の頃とかは、チョコボールとかポッキーとかくれたよね」

美月「お、お兄ちゃんっ」カァァ

女子「……作ったりとか、しないの?」

美月「わ、私だってやればできる、はず、だもん」

女子「うん。美月って、きっとそうだよね」

美月「あ、あはは……」

空太「……」



――帰り道


美月「……お、お兄ちゃん」

空太「なに?」

美月「え、えっと……チョコ、欲しいかなって」

空太「……美月の手作りチョコ、ってこと?」

美月「そ、そう言われると照れちゃうけど……そういうこと」

空太「うん。勿論、欲しいし……もらえたら、凄く嬉しい」

美月「そっか……」

空太「ただ……ムリしてほしくないかなって」

空太「ほら。最近、あんまり調子良くない時、多いし」


384 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 18:51:21 .A4YFyHQ
美月「だ、大丈夫だよ」

美月「今年に入って、まだ一ヶ月しか経ってないのに……何度も助けられちゃってるし」

美月「私、お兄ちゃんへのお返し、足りなすぎだもん」

空太「……お返しのために助けてるわけじゃないよ?」

美月「そ、それは分かってるよ」アセアセ

美月「でも……私が落ち着かないの」

美月「ずっと一緒にいるんだったら、私からも何かしてあげられないとダメかもって思うし」

空太「……うん、わかった」

空太「それじゃ、楽しみにしてるね。手作りチョコ」

美月「……あっ。で、でも、あまり期待はしないでね?」

美月「上手に作れないかもだし……」

空太「大丈夫。美月が作ったのなら」

空太「砂糖と塩を間違って作られたクッキーでも美味しく食べられるし」

美月「さ、さすがに、そこまでのミスはしないよ!?」



――その夜・美月の部屋


美月「……あっ、もしもし?」

綾『美月ちゃん? どうかした?』

美月「え、えっと……綾お姉ちゃん。チョコとか作れる?」

綾『……え?』

綾『あっ、そういえば……もう、14日になるのね』

綾『時間の感覚が鈍っちゃってたみたい……』

美月「お、お疲れ様」


綾『――14日までに、教えてほしいってことかしら?』

美月「う、うん……出来たらでいいんだけど」

綾『ちょっと待ってて。……あっ』

美月「?」

綾『み、美月ちゃん、ごめんなさい……』

綾『14日って土曜よね? それまで休みが取れそうになくて……』

綾『有給とか打診してみたら……少し、待っててくれる?』

美月「い、いや! そこまでしなくても大丈夫だよ」アセアセ

美月「綾お姉ちゃんのお仕事に差し支えたりしちゃったら……私も、イヤだし」

綾『美月ちゃん……そっか。ありがとね』

美月「うーん、それだと……陽子お姉ちゃんとか分かるかな?」

綾『え? まだ、陽子に聞いてないの?』

美月「う、うん……何か、また残業と飲み会とかで、電話しにくくて」

綾『……陽子にお疲れ様って、伝えておいてくれる?』

美月「……社会って怖いね」

綾『い、いえ……怖いだけじゃないのよ?』アセアセ


385 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 18:51:46 .A4YFyHQ
綾『そうね。ただ……やっぱり、陽子も望み薄かもしれないわね』

綾『あの子、昔からチョコは沢山もらうんだけど……作ってたことって、あったかしら?』

美月「……陽子お姉ちゃん、モテてたよね」

綾『ええ。年下の女の子とかから、ね……』

綾『――あっ、そういえばっ』

美月「綾お姉ちゃん?」

綾『ううん。昔のこと、思い出して……』

綾『ね、美月ちゃん?』

美月「な、なに?」

綾『えっと……明日、学校に行ったら、なんだけど――』



――翌日・廊下


美月「ク、クッシーちゃん!」

久世橋「わっ!? い、猪熊さん?」

美月「……チョ、チョコの作り方、教えてくれませんか!?」

久世橋「チョ、チョコ……あっ」

久世橋「そうでしたね。もう、そんな時期ですか……」

美月「……綾お姉ちゃんに聞きました」

美月「昔、クッシーちゃんが、綾お姉ちゃんたちにチョコ作り教えてくれたって」

久世橋「綾お姉ちゃんって……ああ、小路さんのことですね」

久世橋「何だか懐かしいですね」クスッ

美月「……クッシーちゃん、嬉しそう」

久世橋「ふふっ。こういう懐かしさというのは、楽しいものなんですよ?」


久世橋「――そういうことでしたら、分かりました」

久世橋「そうですね……翌日の放課後、家庭科室に来られますか?」

美月「は、はいっ。お願いします」

久世橋「いいんですよ。私も、先生方にお作りしてるわけですし……」

久世橋「生徒と一緒の方が何かと楽しいですし、ね」

美月「……クッシーちゃん、いい先生」

久世橋「わ、私なんて烏丸先生に比べたら、まだまだですし……」アセアセ


386 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 18:52:25 kEdhJbOk


――翌日・放課後


久世橋「……それでは、始めましょうか」

烏丸「わぁ、楽しそうですねぇ……」

空太「うん。楽しみ」

美月「……」

空太「美月、どうかした?」

美月「い、いや……どうしてお兄ちゃんも来てるんだっけ、って」

空太「……美月のお手伝いもあるし、ぼくもチョコ作りしたいし」

美月「お、お兄ちゃん……」

空太「美月だけ先に進んじゃったら、ちょっと寂しい」

美月「……お兄ちゃんが、それ言っちゃうんだ」

空太「ホントだよ?」

美月「そ、そうだよね……お兄ちゃんは、そう言っちゃうよね」


美月「――カラスちゃんも来てたんですね」

烏丸「はい。毎年、久世橋先生が先生方に配られているのを見て」

烏丸「私も、自分でお菓子を作れるようになりたいと……」

久世橋「……さすが、烏丸先生です。向上心がおありで」

烏丸「ありがとうございます、久世橋先生」

美月「……カラスちゃん、自分で作れるようになったら」

空太「うん。きっと、もっとお菓子食べ過ぎちゃうんじゃないかな……」

烏丸「……だ、大丈夫です。多分」アセアセ

久世橋「烏丸先生……」



――数分後


久世橋「……いいですか? ここを、こうして――」

美月「わっ、クッシーちゃん……包丁使い、上手」

久世橋「そ、そうでしょうか? 慣れれば、猪熊さんにも出来ますよ?」

美月「……私、そんな器用じゃないもん」

空太「大丈夫だよ。美月は、やれば出来るし……」

烏丸「わっ、空太くん……速いですね」

空太「そ、そうですか?」

美月「……お兄ちゃんは、いつもそうやって、どんどん先に行っちゃうんだよね」

空太「……美月だって、ぼくより先に行っちゃってるし」

美月「わ、私が?」

空太「えっと……ぼくより早く、大人に――」

美月「ス、ストップストップ!」カァァ

久世橋(お、大人に……ど、どういう意味なのかしら?)

烏丸(美月さんも、お年頃なんですね……)


387 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 18:53:28 .A4YFyHQ
バレンタイン編の前編でした。
次回の更新で後半が終わり、最終章に入る予定です。



――それから


美月「……で、出来たね」

空太「うん。ぼくも出来た」

美月「……お兄ちゃんの、全然型崩れしてないね」

空太「美月のだって、ハートマークが可愛いよ」

美月「そ、そっちだってハートマークでしょ!?」


久世橋「ハートマークですか……小路さんも、ハートが好きでしたね」

烏丸「ええ。小路さんらしい、可愛らしいマークでした」

美月「……やっぱり、私って綾お姉ちゃんと似たもの同士なのかな」

空太「うん。美月も、綾お姉ちゃんと趣味似てるよね」

美月「お、お兄ちゃんとも、似たもの同士のはずなんだけどね?」

空太「……何だか寂しいね」

美月「だ、大丈夫だからっ! ちゃんと、似たもの同士だからっ」アセアセ

久世橋「……仲良しですね、二人とも」

烏丸「ええ。……あっ、今日作ったチョコですが」

烏丸「14日に、改めてお渡ししますね? 久世橋先生」

久世橋「あ、ありがとうございます……嬉しいです」

久世橋「私も、14日にお渡しします……型崩れ、してませんよね? これ」

烏丸「ふふっ、久世橋先生のチョコが美味しくなかったことなんて、ありませんでしたし……」ニコッ

久世橋「……か、烏丸先生のチョコも、絶対に美味しいと思います」カァァ


388 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 19:37:01 .A4YFyHQ


――2月14日・通学路


空太「あっ、二人とも……おはよ」

美月「お、おはよ……」

男子「ん? あっ、空太たちか。おはよ」

女子「おはよーっ」

美月「……え、えっと」

男子「?」

女子「美月? どうかした?」

美月「ふ、二人とも……はっぴーばれんたいん?」モジモジ

空太「発音が凄いことになってる……」


男子「あっ、チョコ……ありがとな」

女子「美月、友チョコくれるんだ……嬉しい」

美月「あ、あんまり自信ないけど……」

女子「いいっていいって。美月が作ってくれたチョコとか、絶対美味しいし」ニコッ

男子「同感」

美月「……ふ、二人とも」

空太「美月、やっぱり好かれてるよね……」

美月「お、お兄ちゃんっ」カァァ


空太「あっ、そうそう」

空太「はい。ハッピーバレンタイン」

男子「おお、ありがと……」

女子「わっ、チョコだ。うれし――」

男子「え?」

女子「え?」

空太「……どうかした?」


男子「い、いや……空太が作ってくるとは思わなかったというか」

女子「そもそも……男子って2月にチョコ持ってくるんだっけ?」

空太「美月と一緒に作り続けてたら、楽しくなっちゃって」

美月「お兄ちゃん、私よりずっと上手いから……自信無くしちゃいそうだったけどね」

空太「大丈夫。美月も、砂糖と塩間違えたりしてないし」

美月「あ、当たり前でしょっ!」アセアセ


389 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 19:37:37 .A4YFyHQ
男子「まぁ、嬉しいよ。ありがとな、二人とも」

女子「あー、そっか……二人とも今、渡しちゃったんだよね」チラッ

男子「?」

女子「えっと……はい、美月と猪熊くんに」

美月「わっ、ありがと……」

空太「作ってくれたんだ」

女子「うん。まぁ、部活がない時とか暇だったし……」

美月「ラッピング、キレイ……」

女子「ふふっ、ちょっとガンバってみたんだ」

女子「……美月が誘ってくれた時、久世橋先生に習いに行こうかと思ったけど」

美月「部活、入っちゃってたもんね……残念だった」

女子「そうだよね。……さて」


女子「はい。あんたにも」

男子「おっ、サンキュ」

美月(……あれ?)

男子「今年は、買ってきた物とかじゃないんだな。意外だった」

女子「まぁ、高校生になったし……あっ、でも」

女子「あんまり期待しないでよ? もしかしたら、あんたのにだけ隠し味とか入れちゃってるかも」

男子「……わさびとか辛子じゃなかったら、別にいいよ」

女子「……バレちゃった」

男子「どうせ嘘だしな」

女子「ホントかもよ?」


美月(……気のせい、かな)

美月(ラッピングとか大きさとか……私たちのと、ちょっと違ってたような)

美月(で、でも。二人とも、いつも通りだし……気のせい?)

空太「……あの二人も、何だか」

空太「相変わらず、曖昧で面白い感じだよね」

美月「……曖昧?」

空太「うん。曖昧」

美月「や、やっぱり、そうなのかな……」

空太「……美月の方が、こういうのって分かるんじゃないかなって」

美月「そ、それは……まぁ」モジモジ

美月「そっか、曖昧でも楽しいんだよね……」

空太「……美月?」

美月「う、ううん。何でもない」


390 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 19:37:58 .A4YFyHQ
女子「あれ? 二人で内緒話?」

美月「ち、ちがっ……えっと、その」

女子「?」

美月「な、何だか……ありがとね?」

男子「……ありがと?」

美月「ご、ごめん。変なこと、言っちゃって……」

女子「……美月は可愛いなぁっ!」

美月「わっ!? だ、抱きつかないでぇ……」

男子「――空太。何かあったのか?」

空太「ううん。みんな、いつも通り楽しそうで良かったなって」

男子「……まぁ、それはそうかもな」



――その後・猪熊家


空太「はい、陽子お姉ちゃんと綾お姉ちゃん」

美月「……ハ、ハッピーバレンタイン」

空太「あっ、今度はちゃんと言えたね」

美月「も、もう大丈夫だし……」

陽子「おお、チョコだ……!」

綾「ありがとね、二人とも。嬉しいわ」

空太「……何か、土日に綾お姉ちゃんが家にいるのって」

美月「う、うん……珍しくなくなったよね」

陽子「もう半分、猪熊家の一員みたいなもんだし、な?」

綾「『な?』じゃないわよ……考えてみたら、土日になるとお邪魔することが増えたわね」

陽子「社会人になったら来れなくなる、って何だったんだろうね?」

綾「ホントに、ね……」

空太「ぼくたちは嬉しいけどね」

美月「うん……何だか、この4人でお家にいると落ち着くよね」

陽子「――らしいよ? 綾お姉ちゃん」


391 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 19:39:39 .A4YFyHQ
すみません、一旦ここまでです。
いつの間にか、綾お母さんになっていた……?


綾「……そ、そういえばっ!」アセアセ

綾「今日、陽子のお母さんいらっしゃらないのよね?」

陽子「あっ、そういえば……何か、昔の友達の家に泊まってくるとか何とか」

空太「明日の夕方くらいまで帰ってこないんだよね」

綾「それじゃ……私が料理作らないとダメな日ってことよね?」

美月「あ、綾お姉ちゃん……私も手伝っていいかな?」

綾「美月ちゃんも? ええ、いいわよ……」

綾「それだったら……ちょっと簡単な料理にしないと、よね」


空太「ぼくも手伝おっか?」

綾「えっと……空太くんには、いつも作る時は手伝ってもらっちゃってるし」

綾「美月ちゃんにも経験を積んでもらいましょう?」

美月「そ、そうだよ、お兄ちゃん。陽子お姉ちゃんと一緒に待ってて?」

空太「……そっか。わかった」

空太「美月の料理、楽しみにしてるね」

美月「わ、私だけじゃなくて、綾お姉ちゃんも……!」アセアセ

綾「あっ、それだったら、美月ちゃんにはおひたしとか作ってもらいましょうか」ニコッ

空太「うん、楽しみ」ニコッ

美月「……うう」カァァ


陽子「――綾お母さん?」

綾「だ、だから……そういうのは、やめて?」

陽子「いや……こっちから三人を見てると、そうとしか」

綾「……作るの止めようかしら?」

陽子「いや。私はともかく、二人が可哀想だし……」

綾「う……い、痛い所、突いてくるわね」

陽子「二人にはデレデレだし、ね?」クスッ

綾「はぁ……否定はしないわ、もう」


392 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 21:37:34 .A4YFyHQ


――それから・空太の部屋


空太「……ああ、いいお湯だった」

美月「あっ、お兄ちゃん」

空太「美月、ごめんね。待たせちゃって」

美月「う、ううん……私も、今来た所だから」

美月「さっきまで綾お姉ちゃんと一緒に、後片付けしてたの」

空太「そっか。お疲れ様」

空太「……どんどん、美月も先に進んでっちゃうね」

美月「……その言葉、そのままお兄ちゃんに返したいけどね」


空太「それじゃ……いただきます、かな」

美月「う、うん……いただきます」

空太「美月のチョコ、やっぱり美味しそうだよね」

美月「お、お兄ちゃんの方が出来いいと思うけど……」

空太「そんなことないって。美月みたいに、独特さが足りないし」

美月「べ、別に、個性付けたかったわけじゃないよ!?」


空太「――美味しい」

美月「わ、私も……あっ、牛乳注ごっか?」

空太「うん。ありがと」

美月「……私は、ともかく」

美月「お兄ちゃんは、ちょっとタイヘンかもね」

空太「……義理チョコのこと?」

美月「お兄ちゃん、結構もらっちゃってたし」

空太「え、えっと……まぁ」

空太「甘味処班で一緒だった女子とか、ね」

美月「……やっぱり、お兄ちゃん」

空太「?」

美月「う、ううん。何でもない……」アセアセ


393 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 21:38:10 .A4YFyHQ
空太「でも、美月だって……ぼくだけの分じゃないし」

美月「う、うん。朝もらった分と、さっき陽子お姉ちゃんと綾お姉ちゃんにもらった分があるし」

空太「……綾お姉ちゃんはともかく、まさか陽子お姉ちゃんが」

美月「ビックリしたよね。そういえば最近、夜遅くにキッチンに灯りが点いてたし」

空太「ホント、良いお姉ちゃんだよね」

美月「うん」


空太「……そういえば」

空太「さっき、ちょっと夕飯食べ過ぎちゃったんだっけ……」

美月「お兄ちゃん、ちょっと張り切り過ぎだったよ……」

空太「だって、美月が作ってくれた夕飯だし」

空太「凄く美味しかった」

美月「あ、あれは、ほとんど綾お姉ちゃんが作ったような感じだし……わ、私は、別に」

空太「ううん。やっぱり、綾お姉ちゃんとぼくが作った時とは違ったし」

美月「……も、もう」カァァ


空太「――だから」

空太「今日は、他の女子からもらったのは食べられないかもだけど……」

空太「美月の分だけは、絶対に残さず食べるから」

美月「……よ、陽子お姉ちゃんたちからのは?」

空太「うん。それも凄く大事だけど……」

空太「やっぱり、美月のチョコだけは外せないかなって」

美月「……」

空太「美月?」

美月「う、ううん……何でもない、よ」

美月「わ、私も、お兄ちゃんからもらったのだけは絶対に今日食べるから……」

空太「……顔、熱い?」

美月「べ、別に、そんなことないもん」カァァ


394 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 21:38:44 .A4YFyHQ
空太「――ふわぁ」

美月「お、お兄ちゃん……眠いの?」

空太「あっ。……い、いや、そんなことないよ」

空太「ちょっと今日は……色々、あって」

美月「……他の子からチョコもらったり?」

空太「そ、それは……少し、あるけど」

美月「……そ、そっか」

空太「あと、美月たちの夕飯が美味しくて……食べ過ぎちゃった、のかも」

美月「ム、ムリして話さなくていいよ?」

美月「ほら。ベッド、行く?」

空太「う、ううん……大丈夫」

空太「まだ、もう少し、美月と話して、たい、し……」


美月(――それから、少しして)

空太「……」

美月(お兄ちゃんは、テーブルの上で寝入っちゃった)

美月(そういえば、お風呂上がりの時から、いつもより眠そうだったっけ……)

美月(――考えてみたら、このテーブル。もう、当たり前のように出されてるんだよね)

美月(私の部屋も、同じような感じだけど……)


空太「……ん」

美月(お兄ちゃん、ホントに疲れちゃってたんだ……)

美月(多分、チョコとかご飯とかだけじゃなくて……きっと)

美月(いつも私のこと気遣っちゃってて……だから、こういう時もあるのかな)

美月(……お兄ちゃんの近くにある紙袋)

美月(あそこに、お兄ちゃんのもらってきたチョコが入ってるんだっけ……)


395 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 21:39:10 .A4YFyHQ


チクッ


美月(――あ、あれ?)

美月(い、今の……なに?)

美月(べ、別に、お兄ちゃんがチョコもらったって……全然、構わないよね?)

美月(そ、そうだよ。そもそも、その……ほ、本命とかじゃないなら、なおさら)



――二人とも、やっぱり似てるし。

――カップルって思う人、少ないんじゃないかな?


美月(そ、そうだよ……うん)

美月(私たち、ただ双子の兄妹ってだけで……それだけ、で)


――私、お兄ちゃんが『大好き』

――ずっと一緒にいたい


美月(……ど、どうして)

美月(こんなことばっかり、思い出すの……?)


――『ずっと一緒にいる』って約束は、ずっと続くから

――心配しないで平気なんだよ?


美月(……お兄ちゃん)

美月(どうして、いつも……そんなに優しくて)

美月(私が困っちゃってる時、いつも助けてくれちゃうの……?)


空太「……みつ、き」

美月「!」

空太「……ん、ぅ」

美月(ね、寝言……)

美月(す、凄く気持ちよさそうに寝てる……)

美月(そうだよね。お兄ちゃん、寝てる時だって……いつも、こんなこと寝言で)

美月「……」

美月「お兄、ちゃん……」


美月(――それから、よく分からなくなった)

美月(気がついたら私は、お兄ちゃんに顔を近づけて)

美月(寝顔を見つめて、しばらくため息をついた後で――)


空太「……ん」

美月「……!」


美月(気づけば私は――お兄ちゃんのおでこに)


美月(口を……)


396 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 21:39:36 .A4YFyHQ
美月(――!?)

美月(い、今、私……何、してたの?)

美月(ど、どういうこと……あ、あれ?)アセアセ

美月(……お、お兄ちゃん。まだ、寝てる、よね?)

美月(え、えっと……えっと。そ、そうだ。部屋に、帰らなきゃ……)

美月(……わ、私、今、何してた、んだろ?)フラフラ


バタンッ


空太「……」

空太(――美月?)

空太(どうしちゃったんだろ……?)

空太(ぼくに顔を近づけて、おでこに……あれって?)

空太(何だか目が覚めたこと言いにくいまま、美月、帰っちゃったけど……)

空太「……美月」

空太(あれ? 足が、フラついてる……?)

空太(そういえば、さっきの美月もフラフラしてたけど……)

空太(――どうしよう?)


空太「……疲れちゃった、とか?」

空太(美月も、今日一日タイヘンだったし)

空太(そっとして、休んでもらった方がいいのかな?)

空太「……また、明日聞いてみようかな」

空太(美月のチョコは食べ終えたし……うん、美月もぼくのチョコ、食べてくれたみたい)

空太(ちょっと早いけど……今日は、寝ようかな)

空太「美月……また、明日」



――美月の部屋


美月「……」

美月(わ、私……何、しちゃったの?)アセアセ

美月(ど、どうして、あんなこと……どう、して?)

美月(そ、そういうのだけはダメなはず、だったよね?)

美月(どうしようどうしよう、どうしよう……?)


――『ずっと一緒にいる』って約束は、ずっと続くから

――心配しないで平気なんだよ?


美月(……そうだ)

美月(私……お兄ちゃんとの約束を)

美月「破っちゃった、んじゃ……?」

美月(頭は熱いのに、胸の辺りだけ冷え切っちゃって)

美月(もう、何がなんだか……何も分からなくて。でも、ただひとつだけ――)


美月(……わ、私、やっぱり)

美月(お兄ちゃんのことが、そ、そういう意味で――)


美月「好き、に……なっちゃってたの?」


397 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 21:40:27 .A4YFyHQ
一旦、ここまでです。
ここから最後の話になる予定です。



――翌朝・空太の部屋


空太「……朝」

空太「起きよっと……」

空太(結局、あの後、美月とは会えなかったけど……)

空太(今は多分、まだ起きてないと思うし……もう少し、待ってから)

空太「――あれ?」

空太(ケータイが光ってる……メール?)

空太(……え?)



空太「み、美月……!?」ガタッ



――廊下・美月の部屋前



空太「美月っ?」コンコン

空太「入るよっ」ガチャッ

空太「……!」

空太「い、いない……」


空太「……え、えっと」

空太「そ、そっか。電話してみたらいいんだ」

空太「そうしたら、どこにいるかとかも――」


〜♪


空太「……え?」

空太(ど、どうして……美月のケータイの着信音が?)

空太(あれ? 机の上……ま、まさか)


空太「み、美月……ケータイ、忘れていっちゃった?」


空太(……身体が熱くなったり冷えたり、凄く気持ち悪かった)

空太(震える手で、ぼくはケータイのメールを見返して――)



『お兄ちゃん、ホントにごめんなさい。
 

 ……バイバイ』


398 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 23:54:52 .A4YFyHQ
空太「……いない」

空太(1階にも、やっぱり美月はいなくて……)

空太(お母さんは、夕方くらいにならないと帰ってこないから……今、ここには誰もいなかった)

空太(陽子お姉ちゃんと綾お姉ちゃんは、まだ寝てるだろうし……)


空太「――と、とにかくっ」

空太(とにかく、美月が家にいないなら……)

空太(外にしかいるわけないし)

空太「……行かなきゃ」

空太(外に出て、家の鍵を閉めて)

空太(自転車を出して、一気に漕いで――)


空太「……あれ?」

空太(いつもと、感覚が違う……)

空太(いつもよりペダルの重さとか軽いし、スピードもよく出るし)

空太(別に、後ろにも気を遣わなくていい。だから、ホントはこっちのがいいはず――)

空太(でも……)


空太「……何だか、落ち着かない」

空太(後ろに、誰も載ってないサイクリングって……全然、楽しくない)



――その頃・電車内


美月「……」

美月(ボーッとし過ぎてて、気付かなかった)

美月(そういえば、ケータイ……部屋に忘れてきちゃったんだなって)

美月(気付いたのに……何だか、頭だけボンヤリしてて)


美月「――あ」

美月(駅、着いちゃった……)

美月(そっか、ここが――)


美月「……」

美月(私は、改札口に切符を通して……)

美月(駅の出口から、景色を眺めた――)


美月「……キレイ」


美月(――って、呟いたはずなのに)

美月(何故か、あまり実感はなくて……何だかそれが、悲しかった)



――その頃・高校前


空太「……」

空太(ここでもない……)

空太(それじゃ、次は……)



――中学校前


空太(……こ、ここでもない)

空太(そ、それじゃ、次……)



――神社・境内


空太「……」

空太(ここでもない……)

空太(思ったより、早く見つけられると思ったのに……全然、違ってて)

空太(……気持ちだけ焦って、何だか色々とキツかった)


399 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 23:55:11 kEdhJbOk
空太「……着信?」

空太「――あっ」ピッ

空太「もしもし」

陽子『こ、空太? 今、どこいる?』

空太「陽子お姉ちゃん……えっと、美月を探してて」

陽子『や、やっぱり……』

空太「やっぱり?」

陽子『いや……私と綾にも、美月からメール届いてたから』

空太「……あっ。そ、そうだったんだ」

陽子『うん。えっと……『陽子お姉ちゃん、ごめんなさい』って』

空太「……え? それだけ?」

陽子『う、うん。これだけだよ』

空太「そ、そうなんだ……」


陽子『……あのさ、空太』

空太「陽子お姉ちゃん?」

陽子『いや……きっと美月、ちょっと遠出しちゃったと思うんだ』

陽子『家の中、いくら探してもいないし……』

空太「……だよね。ぼくもそう思ってる」

陽子『空太って今、自転車に乗って探してるんだよね?』

空太「……うん」

陽子『えっと……それだったら』

陽子『私が車を運転して、空太と合流するって感じで……どうかなって』

空太「……あっ」

陽子『それだったら結構、早く探せるんじゃないかって思うんだけど……』

空太「……そう、かも」


空太「でも、陽子お姉ちゃん」

陽子『……空太?』

空太「何となく、なんだけど……」

空太「この自転車じゃないと、美月に会えないし……一緒に帰っても来れない気がする」

陽子『……え?』

空太「ごめん、上手く説明出来ないんだけど……ホントに、何となく」

空太「だから……もう少し、探させてくれないかな?」

陽子『……そ、そう言われてもなぁ』

陽子『いや、私も綾も凄く心配してて……だから』

空太「ごめんなさい、陽子お姉ちゃん」

空太「……ぼくに任せてくれたら嬉しい」

陽子『……そっか』

陽子『それだったら、空太。ちょっと待ってて?』

空太「……陽子お姉ちゃん?」


陽子『――えっと、うん。大丈夫みたいだな』

陽子『今、天気予報とかケータイで見たんだけど、ちょっと遠くても晴れマークだったから』

陽子『大丈夫、空太。いいよ、行ってきて』

空太「……あ」

陽子『いやー、さすがに雨が降るとかだったら……さすがに車、出しちゃうんだけど』

陽子『いいよ。空太を信じるから』

空太「……あ、ありがと。陽子お姉ちゃん」

陽子『でも』

陽子『いいか? 絶対、美月を連れて……元気に帰ってくるんだぞ?』

陽子『これだけ、約束だからな?』

空太「……うん。わかった」

空太「絶対、連れて帰るから」

陽子『ん、わかった……それじゃ、綾』


400 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 23:55:34 .A4YFyHQ
空太「……綾お姉ちゃん」

綾『こ、空太くん……美月ちゃん、心配ね』

空太「……うん。凄く」

綾『私も、ホントに心配で……えっと、そうね』

綾『陽子との話は一応ついたみたいだけど……』

綾『空太くん? 美月ちゃんの場所のアテとか、ある?』

空太「……実は、今」

空太「高校とか中学、あと夏祭りで行った神社を回ったんだけど」

空太「全然、分からない……近くにまで行ったら、すぐに分かるはずなのに」

綾『……そうなのね』

空太「陽子お姉ちゃんには、あんな風に言っちゃったし」

空太「ホントに、自転車じゃないと美月に会えないって思ってるけど……何だか、焦っちゃって」

空太「自信、なくしちゃって……どうしようって」


綾『空太くん、落ち着いて』

空太「……綾お姉ちゃん?」

綾『いい? 今まで、私が見てきた空太くんなら』

綾『どんな時だって、美月ちゃんのためなら絶対に力を出せてきたはず』

空太「……あ」

綾『そうね……今まで周ってない場所で』

綾『空太くん? どこか心当たりのある場所とかない?』

空太「え、えっと……」

空太(綾お姉ちゃんたちと行った海とか? でも、何か違う気がする)

空太(前に行った展望台? これも何か……何となくだけど、違う気がして)

綾『――きっと、なんだけど』

綾『冷静になった時の空太くんの直感は、ほとんど間違いなく当たると思ってるから』

綾『今まで見てきてると、何となく分かるのよ?』

空太「……綾お姉ちゃん」

空太(……この二つ以外で、心当たりのある場所)

空太(えっと、ぼくと美月が一緒に――)


――あっ、でも」

――ここ、結構……好きかも


空太「……あっ」



――え? ……ああ、自然スポット?

――って、書いてあるね……うん

――こうやってのんびり、ゆっくりしながら景色観るのとか好きだから……


空太(もしかして……)


――いつか二人で、一緒に行こう?

――……え?

――美月が行きたい場所だったら、ぼくだって楽しめる所だと思うし


空太(……あっ)

空太(そっか、ここなら……)


401 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 23:55:55 .A4YFyHQ
綾『空太くん? 何か、思い当たった?』

空太「……うん」

空太「多分、ここじゃないかなって。ありがと、綾お姉ちゃん」

綾『べ、別に……私は、一般論みたいなことしか言ってないし』

空太「ううん。もう、お姉ちゃんみたいなこと言ってくれた」

綾『……も、もう』

綾『それじゃ、何かあったら電話するのよ? 陽子と私、どっちかに』

綾『あっ、でも……やっぱり陽子に電話した方がいいのかもね。ホントのお姉ちゃんなんだし』

空太「――綾お姉ちゃん」

綾『……なに?』

空太「……えっと」


空太「ぼくも美月も、綾お姉ちゃんは陽子お姉ちゃんと同じくらい好きだし」

空太「ホントのお姉ちゃんみたいだって、思ってるから……」

綾『こ、空太く――』

空太「それじゃ、また後で」ピッ


空太「……」

空太「……絶対見つけなきゃ、だよね」



――その頃


美月(……改札から出てから、色んな所を歩き回ってた)

美月(ガイドブックに書かれてた通り、たしかに自然がキレイな場所で)

美月(一つ一つ映る風景が、凄く印象的で……ずっと見ていたくなったりした)

美月(気が付くと、もう数時間ほど、ずっとブラブラしてたと思う)

美月(いつもなら疲れちゃってたくらいなのに……全然、疲れなくて)

美月(――それが、少し怖くて)

美月(そのせいか、気になっちゃうこともあって……)


美月「どう、して……」

美月(あんまり楽しいって思えないんだろ……)



――その頃


空太「……あ。ここをこう行くんですね」

警官「うん、そうなるね……ただ」

警官「かなり遠いし、自転車だとキツいかも……」

空太「……分かりました」

空太「ありがとうございます。それじゃっ」

警官「……じ、自転車で行っちゃうのか」


空太(……意外と時間かかったけど、まだお昼時)

空太(これからも色々、道に迷っちゃうかもだけど……それでも)

空太「……美月を、連れて帰らなきゃ」



――しばらくして


美月(……結局)

美月(疲れて、ベンチに座っていた)

美月(目の前の川では、キレイに透き通った水が流れていっていて……)

美月(ホントなら落ち着くはずなのに……何故か、凄く疲れちゃってた)

美月(……いつもならいるはずの、隣に誰もいないから?)

美月(だから、ベンチに座ってても……こんなに疲れちゃってるのかな?)


美月「……お兄ちゃん」

美月(呟いてみても、悲しくなるだけだった)

美月(だって……私は、昨日)

美月(「ずっと一緒にいる」って約束を破っちゃった、んだから……)


402 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 23:56:17 .A4YFyHQ
美月「……あれ?」

美月(いきなり目が熱くなった)

美月(それを自覚した時は、もう遅くて……次から次に)

美月(目の前の地面が濡れていっちゃって……それなのに、止まらなくて)

美月(隣に誰もいないのが寂しくて。でも、それを認めちゃいけない気がして……)

美月(お兄ちゃん、お兄ちゃん……)


美月「――お兄、ちゃん」グスッ



空太「美月っ!」



美月「……え?」

空太「……や、やっと、見つけた」

空太「や、やっぱり、ここ……だったんだ」

美月「……お、お兄ちゃん? なんで?」

空太「な、なんでって……そんなの決まってるし」


空太「――迎えに来たよ、美月」




――それから


空太「……あっ、陽子お姉ちゃん」

陽子『おっ、空太! 心配したんだよ?』

陽子『あれから、何時間か連絡来なかったんだから……もう』

空太「ごめんね。えっと……」

空太「美月、見つけたから」

陽子『……マジ?』

空太「マジ」

陽子『……さすが空太お兄ちゃんだね』

空太「結構、距離はあったけど……」

空太「見つけられないわけないって思ったから……」

陽子『そうだよなぁ……空太と美月、だもんな』


陽子『――えっと、それじゃ』

陽子『綾も話したいって言ってるし……美月と代わってくれる?』

空太「あっ。……いや、実は」

空太「今、美月はぼくのために飲み物買いに行ってくれてて……だから」

空太「もうしばらく、戻ってこれないんじゃないかなって」

陽子『そっか……わかった』

陽子『それじゃ、気をつけてな。あっ、二人ともケガとかしてないか?』

空太「大丈夫。ぼくも美月も無事だから」

陽子『ん、わかった』

陽子『それじゃ気をつけて……慌てないで帰るんだぞ』

空太「ん、わかった。綾お姉ちゃんにも、よろしくね」

陽子『……綾も二人に凄く会いたがってるから』

陽子『油断しないように。それじゃっ』


403 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 23:56:39 .A4YFyHQ
空太「――ふぅ」

空太「ああ……美月が買ってきてくれたポカリ、美味しい」

美月「……う、嘘ついちゃったね」

空太「まぁ……美月、まだちゃんと話せないと思うし」

美月「そ、それは……うん」

空太「でも、良かった……ホントに、心配したんだよ?」

美月「……お兄ちゃん」


美月「ご、ごめんなさい」

空太「……美月」

美月「い、いきなり、こんなことしちゃって……」

美月「お兄ちゃんに心配かけて……それに、そんなに疲れさせちゃって」

美月「ホントに、ごめんなさい……」

空太「美月、泣かないで。ね?」


空太「……やっぱり、ここにいたんだね」

美月「……お兄ちゃんと一緒に来るって、約束したのに」

空太「ううん、気にしないでいいって」

空太「美月が下見に来てくれたんだと思えば……それなら嬉しいし」

美月「……お、お兄ちゃんの、そういう所」

美月「ちょ、ちょっと行き過ぎじゃないかな?」

空太「……そう思う?」

美月「……ごめんね。今、私がそんなこと言える立場じゃないよね」


美月「――でもね」

美月「私、お兄ちゃんに……言えないようなこと、しちゃったんだよ?」

空太「……美月」

美月「そ、それはね……もう、お兄ちゃんとした約束、破っちゃうみたいなことで」

美月「だから……ホントに辛くて」

空太「――だから」

空太「ぼくのメールにだけ『バイバイ』って送ったんだ」

空太「陽子お姉ちゃんと綾お姉ちゃんには『ごめんなさい』しか送ってなかったみたいだけど……」

美月「……そ、そう、なの」


美月「……お兄ちゃんは、ただお兄ちゃんだから好きってだけで」

美月「べ、別の意味で好きってわけじゃなかったのに……」

美月「昨日は……ごめんね。もう、これ以上、話せないの……」

空太「……」

美月「で、でも……しちゃいけないこと、しちゃったのはホントで」

美月「だ、だから……もう、ホントはこうしてお兄ちゃんと隣り合わせでいたって」

美月「いけないんじゃないかなって……」グスッ

空太「――美月」


404 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 23:57:04 .A4YFyHQ
空太「……えっと」

美月「お、お兄ちゃん?」

美月「い、いきなり立ち上がっちゃったけど……?」

空太「……美月」

美月「な、なに?」

空太「……目、つぶってくれる?」

美月「……え?」

空太「したくないなら、いいけど」

美月「……そ、それは」

美月「――う、うん。今日、お兄ちゃんに迷惑かけっ放しだったし」

美月「い、いいよ……」

空太「ありがと」


美月(――な、なにされちゃうんだろ?)

美月(や、やっぱり、お兄ちゃん……怒ってるんじゃないかな)

見月(もしかして……ビ、ビンタとかされちゃう、のかな?)アセアセ

美月(う、ううん。それなら、それで……しょうがない、よね)

美月(だって、悪いのは私、なんだから――)


スッ・・・


美月「……え?」

美月(お、おでこに……何か?)

美月(あ、あれ? 目の前から、お兄ちゃんの顔が――ま、まさかっ!)


美月「お、お兄ちゃん……?」

空太「……わっ」

空太「や、やっぱり……これ、結構恥ずかしい、かも」カァァ

美月「な、何しちゃったの!?」

空太「……昨日、美月がぼくにしたんじゃないかなってこと」

美月「……お、起きてたの?」

空太「最後の方だけ、目が覚めちゃってて……」

美月「ど、どうして、何も言ってくれなかったの!?」

空太「……美月、フラフラしちゃってて。しんどそうだったから」

空太「それに、ぼくも疲れちゃってたし……だから」


美月「……そ、それじゃ、お兄ちゃん」

美月「私が何したのか分かってて、ここに来たの?」

空太「当たり前だよね、それ。大事な妹なんだよ?」

美月「……!」

空太「えっと……たしかに今、美月がぼくにやったのと同じことをしたけど」

空太「……たしかに恥ずかしいけど、そんなに重く考えることじゃないかなって思った」

美月「そ、それは……お兄ちゃんが、まだまだ」

空太「ううん。ぼくが考えてない以上に、美月が考え過ぎなだけだと思う」


405 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 23:57:27 .A4YFyHQ
美月「……お、お兄ちゃん」

美月「で、でも! 普通の兄妹は、こんなことしないよっ」

空太「……他の兄妹のことは、よくわからないけど」

空太「今まで、ぼくと美月は……二人なりに仲良くしてきたんだし」

空太「だから、大丈夫なんじゃないかなって」

空太「他の兄妹がどんな感じだって……ぼくたちには関係ないし、大丈夫だって思う」


美月「……そ、そうだとしても」

美月「あ、あのね、お兄ちゃん。私の『好き』ってもう……お兄ちゃんの『好き』とは違うかもしれないんだよ?」

空太「ぼくの『好き』と、美月の『好き』は同じだよ」

美月「……ど、どうしてそう言えるの?」

空太「双子だから」

美月「……え?」


空太「美月がどんなにぼくより先に行っちゃっても」

空太「間違いなく、ぼくと美月って根っこの所で同じで……だから、そう思うだけ」

美月「……そ、そんなのでいいの?」

空太「美月? テニス部の二人って曖昧だと思うって、前に言ったの覚えてる?」

美月「そ、それは……そう、だけど」

空太「あんな風に、色んな事がよく分かってなさそうでも……」

空太「あの二人、凄く楽しそうだったし」

美月「――!」

空太「あんまり考えてなくていいんじゃないかなって……そう思うから」


美月(……なんでだろ?)

美月(お兄ちゃんの言ってることって、色々メチャクチャだって思っちゃうのに)

美月(それなのに……何だか)

美月(――もしかして、それでいいんじゃないかなって思っちゃうのは)


406 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 23:57:56 .A4YFyHQ
空太「……美月、ちょっと言っていい?」

美月「……な、なに?」

空太「美月は、考え過ぎ」

美月「……!」

空太「あんまり考えないでいいことを、凄く一生懸命考えちゃって」

空太「結局、いっぱいいっぱいになっちゃってる。それ、ちょっとタイヘンだと思う」

美月「……お、お兄ちゃん?」


空太「それに、慌てすぎ」

空太「悩みすぎちゃって結局、こんな風に遠くに来ちゃったりするし」

空太「……心配だったんだよ?」

美月「……」

空太「あと――」


ギュッ


空太「……み、美月?」

空太(隣から、抱きつかれちゃった……?)

美月「――い、言わせてたら」

美月「言いたい放題、言ってくれちゃうんだから……!」ギュッ

空太「……え?」


美月「だ、大体っ!」

美月「お兄ちゃんは、考えなさすぎっ」

美月「い、いつも私が悩んでるのに……全然、気にしてないんだもん」

空太「……美月」

美月「そ、それに、慌てなさすぎっ!」

美月「私が、遠くに行っちゃったって分かってたのに……どうして、自転車でここまで来ちゃうの?」

空太「……これじゃないと、美月に会えないような気がしたから」

美月「そ、そういうところが慌てなさすぎなのっ」


407 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/11(土) 23:58:16 .A4YFyHQ
美月「――そ、それに」


美月「……優しすぎ」


空太「……」

美月「わ、私……みんなに心配かけちゃって」

美月「怒られちゃうんじゃないかって、ずっと思ってたのに……」

美月「兄ちゃん、いつも通りすぎるくらい優しくて……ど、どうしたらいいか、わからなくなっちゃって」

美月「それなのに、お兄ちゃん……な、何も怒ってないって言うし。そ、それって嘘じゃなさそうだし」

空太「……美月」


美月「……お兄ちゃん、ごめんなさい」

美月「せっかく、ここまで来てくれたのに……生意気言っちゃって、ごめんなさい」グスッ

空太「……うん」

美月「――きょ、今日」

美月「ヘンなメール送って、心配かけちゃって、ごめんなさい……!」

空太「うん、わかった……」

空太「……心配したんだよ、ホントに」

美月「……うぅ」グスッ

空太「いいよ。しばらく、ここで泣いたら――」

空太「家に、帰ろう?」

美月「……うん」


408 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/12(日) 00:45:34 Http6igs


――その頃・猪熊家


陽子「……いやー」

陽子「思ったより、時間掛かっちゃったなぁ……」

綾「そうね……もうっ」

綾「空太くんも美月ちゃんも、帰ったらちょっと怒っちゃうかも……」

陽子「……綾、結構怒ってる?」

綾「当たり前っ」

綾「……いきなり、二人ともどこ行ったのか分からなくなるなんて」

綾「心配に決まってるわよ」

陽子「……そうだよな、ホント」


陽子「――綾ってさ」

綾「な、なに?」

陽子「昔の私みたいだなって」

綾「……え?」

陽子「あの二人、ちっこい頃から」

陽子「まぁ大体、空太が美月を連れて……どっか行っちゃってたんだよ」

綾「……!」

陽子「まぁ、その度に私とか……そうだな。勇姉も来てくれたこと、あったっけ」

陽子「いや、凄く心配でさ……ホントに遅くなっちゃった時とか、割と本気で怒っちゃったりしたっけ」

陽子「もちろん、今だって心配なんだけど……綾を見てると、思い出しちゃうかな」

綾「……な、何か言いたいこととかある?」モジモジ

陽子「ん? それはもう――」

陽子「綾お姉ちゃんが一番よく分かってるんじゃない?」

綾「……」



――その頃


空太「美月、しっかり掴まってて?」

美月「……わ、私、ホントに電車で帰るとかじゃなくていいの?」

空太「……後ろに乗ってないと落ち着かない」

空太「今日、凄くよく分かったから」

美月「……そ、それじゃ」

美月「これから、私……ずっと、お兄ちゃんと二人乗りなの?」

空太「……」

美月「そ、そこで静まらないでほしいかな……」


空太「美月が一人で自転車に乗るのは、別に大丈夫だと思うんだけど」

空太「……ぼくが一人だと、それはもうつまらなくなっちゃったのかなって」

美月「お兄ちゃん……」

空太「でも、やっぱり、いつまでも二人乗りっていうのもダメなのかな」

空太「今日みたいなこと考えると、美月もフクザツみたいだし……だから」


409 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/12(日) 00:45:57 Http6igs


ギュッ


空太「……美月?」

美月「……な、何も言わないで?」

美月「何だか……ギュッてしたくなっちゃっただけ、だから」カァァ

空太「……分かった」

空太「それじゃ、ゆっくり帰ろうか? 陽子お姉ちゃんも許してくれたみたいだし」

美月「……私、綾お姉ちゃんに怒られちゃうんじゃないかって思うけど」

空太「……実は、ぼくも」


美月(……そっか)

美月(何だか、よく分からないままだけど……こんな感じで、いいのかな)

美月(あの二人みたいに、曖昧な感じでも楽しいなら……)

空太「……美月、笑ってる?」

美月「べ、別に、笑ってないよ?」

空太「嘘。『ふふっ』って聞こえてきたし」

美月「さ、再現しなくていいからっ!」アセアセ

空太「あっ、やっぱり笑ってたんだ」

美月「……もう」プイッ


美月(帰り道のお兄ちゃんは、いつもみたいにちょっとイジワルで)

美月(でも、やっぱり……優しすぎちゃうくらいで)

美月(……このままでいいのかな、って思っちゃって)

美月(――だから)


美月「……ねぇ、お兄ちゃん」

空太「……なに?」


美月「『大好き』だから」


空太「……うん」

空太「ぼくも『大好き』だから。美月」ニコッ

美月「……うんっ」ニコッ


美月(いつもだったら、言ったら照れちゃったりしてた言葉とか)

美月(……何だか今は、笑いながら言えちゃって。それが凄く嬉しくて)


美月「……これからもよろしくね、お兄ちゃん」

空太「うん。ずっと一緒、だから」


美月(しばらくは――このままでもいいんじゃないかなって、思ったりして……)


410 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/12(日) 00:46:21 Http6igs


――それから


陽子「――あっ、あれ」

綾「え? ……あっ!」

空太「……た、ただいま」

美月「た、ただいま……ごめんなさい」

陽子「おお、二人とも……良かった」

陽子「もっと遅くなるかもって思ってたけど……うん。上出来だね、空太」ニコッ

空太「……美月が後ろでしっかり掴まっててくれたからだし」

美月「お、お兄ちゃん……」


陽子「うんうん。お帰り、二人とも……えっと」

陽子「私は、ともかく……」

綾「……」

空太「あ、綾お姉ちゃん……」

美月「ごめんなさい、ホントにごめんなさい……」

綾「――もうっ」

綾「二人ともっ。どこに行ったのか分からないまま、こんな時間までいなかったら」

綾「心配するでしょっ」

空太「そ、そうだよね。行き先、伝え忘れちゃってたよね……」

美月「ご、ごめんなさい、綾お姉ちゃん。私が電話に出てれば教えられたのに――」

綾「……もうっ」


ギュッ


空太「……あ、綾お姉ちゃん?」

美月「……ギュってされちゃってる?」

綾「――あ、あなたたちは」


綾「ホントに大事な……弟と妹なんだから」


411 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/12(日) 00:46:43 Http6igs
空太「……あ」

美月「……あ」

綾「これからは、こんなに心配かけないようにっ! わかった?」

空太「う、うん……ごめんなさい」

美月「ホントに、ごめんなさい……お兄ちゃんより私の方が、ずっと悪いから」

綾「二人とも、連帯責任。美月ちゃんは勿論、空太くんにだって反省する所とかあるんじゃない?」

空太「……そ、そう言われると、そうかも」


綾「――二人が素直だったし」

綾「もう、いいわよ。でも、これからは、ちゃんと相談すること。いい?」

美月「う、うん……そうする」

空太「ぼくも……」

綾「ええ。それじゃ、汗びっしょりだし」

綾「どっちか先に、お風呂に入ってきたら?」

空太「あ、沸かしてくれたんだ……えっと、美月。いいよ?」

美月「そ、それは、さすがに……お兄ちゃんが先じゃない?」

空太「元々、昨日、ぼくが美月と、ちゃんと話してれば何もなかったかもだし」

美月「そ、それは……そうかもしれないけど」


空太「それじゃ、ここは……公平にジャンケンで、どう?」

美月「う、うん……それでいいかな」

二人「じゃーんけーん――」


412 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/12(日) 00:48:09 Http6igs
ここまでで、最後の話はおしまいです。
後は、ちょっとした後日談と、エピローグのようなものでこのSSもおしまいだと思います。



綾「……まったく、心配かけても相変わらずなんだから」

陽子「うんうん、そうだね」

綾「よ、陽子……何か言いたいことでも?」

陽子「え? それは一番、綾がよく分かってるんじゃない?」

綾「……さ、さっきのは不可抗力というか、その」

陽子「綾が、『弟と妹』って言った時の二人の顔、見た?」

綾「い、いえ……その、だ、抱きついちゃったせいで、見れなかったわ」

陽子「凄かったよ? ビックリした後で、ホントに嬉しそうに笑ってたんだから」

陽子「いやー……あれは写真に撮っておきたかったかもなぁ」

綾「……」カァァ

陽子「……猪熊家は、いつでも綾お姉ちゃんを歓迎してるんだぞー?」


綾「い、一緒に暮らすのはムリでもっ」

綾「す、少し……ホントの『お姉ちゃん』の話は考えてみてもいい、かも」

陽子「いやー、二人とも喜ぶよ? もちろん、私も」

綾「あ、あなたね……」

陽子「それじゃ、綾? もう少しで母さんも帰ってくるだろうし」

陽子「夕飯、食べてから帰らない?」

綾「あっ……それだったら、私も手伝うわ」

綾「あの子たちも疲れてるだろうから、それに合った料理とかも提案したいし……」

陽子「……お姉ちゃんでもありお母さんでもある、って感じ?」

綾「だ、だからっ! ……もう」プイッ


413 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/12(日) 01:42:21 Http6igs


――しばらくして・イギリス


『Dear My Friends!
 しの、アリス、カレン? そっちでは元気にしてますか?
 文化祭の時に会えたけど、それからしばらく会えてないから寂しいです……。

 もうすぐ4月に入って日本では新年度ですし機会があれば是非、また会いたいです。
 その時は――これは陽子が言っていたのですが――お酒でも呑みながら、近況報告でもしたいですね。

 夢に向かってガンバるあなたたちを、心から応援しています。
 いつか、私と陽子もイギリスに行きたいと思ってるし、その時は案内を是非ともお願いします。
 それでは、またっ。


 P.S.1 写真は、私と猪熊家の三人きょうだいのものです。
     以前、撮ったものですが、写真映りとかがちょっと不安です……。


 P.S.2 投函直前になって陽子がこの写真を指して、「綾が家のお姉ちゃんになることが決まったよ!」
     なんて書いていたことが分かりました。
     たしかに、二人の「お姉ちゃん」のようなものではありますがホントの「お姉ちゃん」は
     陽子だけだと思います。
     ……でも、これからも、空太くんと美月ちゃんとは仲良くしたいですね。


『みんな元気かー?
 いやー、こっちも色々タイヘンだけど……まぁ、綾も含めて仲良くやってるよ。
 仕事のグチとかもあるけど……まぁ、それは書いてると悲しくなるからやめとくとして。

 イギリスでの生活はどう? しのも慣れた?
 まぁ、アリスやカレンって「先生」がいれば、大丈夫だと思うけど。

 そうそう。色々タイヘンって書いたけど、楽しかったし、ちょっと心配だったこともあって……。
 空太と美月が……まぁ、これはまた、今度会った時に話そうかな。
 その時に綾が……これ以上書いたら綾に怒られそうだから、これもまた今度ってことで。

 今年中に、また会えたらいいなっ。
 あっ、もちろんムリはしないで。こっちにみんな来れるとき、私と綾も調整するから。

 それじゃ、またねっ!


 P.S.1 写真は、私たちと綾の4人で撮ったんだ。
    綾が写真映りが不安とか言ってたけど、まぁ……それは絶対にないよね。

 P.S.2 そうそう。綾がうちの、ちゃんとした「お姉ちゃん」になったんだよ!
    空太と美月も凄く喜んでて、今度、歓迎パーティーしようかなって思ってるんだ。

 P.S.3 もう一つ。実は、「もう投函しちゃった」って、綾に嘘ついちゃったんだ。
    綾には、まだ言わないでおいてね? 綾、「空太と美月のお姉ちゃんなんて務まらない」って言ってるし。
    でもね、空太と美月に聞いたら……「綾お姉ちゃんは、もう立派なお姉ちゃんだよ」だって言うから。
    後は綾次第って感じ、かな。



カレン「……ヨーコもイジワルデスね」クスッ

アリス「ま、まぁ……それくらいアヤと仲良しって感じなのかもね」

忍「……文面から、何か空太くんたちがタイヘンだったみたいですね」

カレン「乗り越えられたみたいデスッ!」

アリス「良かった……ホントに嬉しい」ニコッ


忍「ええ。……ふふっ。この写真、凄く仲良さそうです」ニコッ

カレン「あっ、私も思いマシタッ」

アリス「うん……凄く、いいよね。この写真」

忍「陽子ちゃんが空太くんたちの肩に手を置いて」

カレン「アヤヤがほんのちょっと後ろから、ホントに優しそうに見てマス」

アリス「……何だか羨ましいかも」

カレン「え、アリス? それじゃ今度、私たちもやりマスカ?」

忍「ええ、そうですね……この四人ほど上手く出来るかは分かりませんけど」

アリス「ふふっ。ちょっと、ガンバってみちゃう?」

カレン「……向こうで、コータとミツキにネタにされて笑われちゃうかもデスが」

アリス「カ、カレンッ! もう……」プイッ

忍「ふふっ。きっと、みなさん喜んでくれますよ――」クスッ


414 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/12(日) 01:42:41 Http6igs


――その頃


陽子「うわ、このスープ……美味しいな」

綾「ええ、ホントに……」

穂乃花「そ、そう? 二人とも、ありがとね」

香奈「さすが、穂乃花っ。後を継ぐ日も近いねっ」

陽子「……香奈って、ここのバイトだったんだっけ?」

香奈「い、いや! 私、OLだからっ」

穂乃花「ふふっ。香奈ちゃんも私と同じで……休日は手伝いに来てくれるんだよ?」

綾「へぇ……いいわね。そういうの」

香奈「あれ? ウェイトレス、やりたい?」

綾「い、いや……それはもう、高1の頃に、十分」

陽子「あの頃、声が裏返りまくっちゃってたっけなぁ」

綾「よ、陽子!」カァァ


穂乃花「――そういえば、美月ちゃんたちは元気?」

陽子「ん、ああ。元気だよ、二人とも」

香奈「そういえば時々、四人でここに来たりするんだよね」

綾「……四人?」

穂乃花「うん。ほら、私たちの後輩と、ね」

陽子「あっ。あの二人か……」


香奈「いやー、まぁ……結局、後輩たちはどうなってるか分からないままなんだけどね」

綾「……どうなってるか?」

穂乃花「もう、香奈ちゃんったら……えっと、ね」

穂乃花「クリスマス出かけたとか、一緒に初詣行ったとか……色んな噂みたいなものは聞こえるんだけど」

香奈「何というか、証拠っていうのかな? その二人を見た人とか、今のところ見つからないし」

穂乃花「ムリして見つけるくらいなら……まぁ、二人とも楽しそうだしってことで」

香奈「時々、OGとして行った時、からかうくらいにとどめてるって感じで」

穂乃花「……ね? 香奈ちゃんって、イジワルでしょ?」

香奈「ほ、穂乃花だって結構ノリ気だったでしょ?」


陽子「そっか……曖昧な感じ、ってヤツなのかな」

綾「ええ。……でも、そういうのが一番楽しいのかもね」

陽子「そうかもなぁ……」

綾「――そういえば」

陽子「ん?」

綾「高校の頃の私も……そんな感じだったのかしら」

陽子「……ツンなのかデレなのか分からないって意味で?」

綾「そ、それはっ。……いや、もうそれでもいいわ」

陽子「大丈夫だって。空太と美月の前じゃ、デレデレなんだし」

綾「……もう、陽子ったら」


415 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/12(日) 01:43:09 Http6igs


――同じ頃


空太「……それじゃ美月? そろそろ買い物終わりでいい?」

美月「う、うん……買いたいもの、全部買えちゃったし」

空太「……マンガ、多めだったよね」

美月「そ、それはっ! 欲しいものが一気に発売したからで」

美月「だ、だから……」

空太「うん。今度、読ませてくれる?」

美月「……あ」

美月「う、うんっ。勿論だよ」


空太「えっと、それじゃ――」

「あら? 空太くんに美月ちゃん?」

美月「……え?」

「奇遇ね、こんなところで会うなんて……」

空太(サ、サングラスに帽子……?)

美月(だ、誰だっけ……?)


空太「え、えっと……どちらさま――あれ?」

美月「も、もしかして……その声」

「ええ。そうよ」

美月(そう言いながら、サングラスをちょっとズラして――)


勇「やっほー、二人とも。元気だった?」

空太「い、勇お姉ちゃん……」

美月「す、凄い変装だね……」

勇「いやー……昔、読者モデルだった頃は、ここまでしなくても良かったんだけど)

勇(テレビに出るのって、結構タイヘンなのね……)

空太(よ、陽子お姉ちゃんとは、また違った苦労なのかな……)


勇「――そういえば」

勇「あれから、大丈夫だった? 二人とも」

美月「……あっ、う、うん」

空太「ごめん、勇お姉ちゃん……報告し忘れちゃってて」

勇「ふふっ、いいのよ?」

勇「ちゃんと、陽子ちゃんと……もちろん、綾ちゃんにも報告してるのなら、ね」

美月「……綾お姉ちゃんに怒られちゃった」

勇「美月ちゃん? それは、ホントに……綾ちゃんがあなたたちのことを想ってるってことなのよ?」

空太「あっ。それなら凄く分かるかも……」

勇「ええ。だから、私への報告を忘れちゃってたとしても、気にしないで?」


空太「……もしかして、嘘?」

勇「……え?」

美月「もしかして、勇お姉ちゃんも頼ってほしかった、とか?」

勇「ど、どうして、そう思うの?」

空太「勇お姉ちゃん、番組とかで嘘つくとき――」

美月「ちょっぴり、左上向いちゃうから……」

勇「……わっ」

勇「そ、それに気づかれちゃったら……芸能生活、終わっちゃうわよ?」

空太「大丈夫。きっと、みんな気付いてて何も言わないんだと思うし」

美月「そうだよ。私たち、素人なんだし……」

勇「な、何だかダメージを受けてるような気がするわね……」


勇「――それじゃ、認めないとね」

勇「ええ、そうね……出来れば、伝えてほしかったかな」

勇「私も、もちろん心配だけど……私の大事な妹の忍に――」

勇「その親友のアリスやカレンちゃんも気にしてたから。ね」

空太「……忍お姉ちゃんたちに伝えるのは、距離もあってタイヘンかもだから」

美月「これからは、勇お姉ちゃんにも伝えるね?」

勇「ええ。……ありがとね、二人とも」ニコッ


416 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/12(日) 01:43:44 Http6igs
後日談は、ここまでです。
次で最終回です。



勇「――さて、と」

勇「二人とも? 今から、ヒマ?」

空太「え? まぁ、何の予定もないけど……」

勇「そうなのね。それだったら」

勇「最近、オープンしたカフェがあるんだけど、結構美味しいの」

勇「せっかくだし……一緒に、行かない?」

美月「……え、えっと。私たち、ちょっとお財布が」

勇「もう、美月ちゃん? 私、これでも社会人なのよ?」

勇「いつも、陽子ちゃんや綾ちゃんに奢ってもらってるんじゃない?」

空太「……うん。そうしてもらっちゃってる」

勇「それなら……あの子たちからしても、一応『お姉さん』の私が」

勇「奢ってあげなかったら、格好がつかないじゃない」

美月「……勇お姉ちゃん」


勇「――あっ、そうそう」

勇「奢ってあげるのはホントだけど……それはね?」

美月「?」

勇「美月ちゃんが、凄くいい顔で笑うようになったから、でもあるの」

美月「え!?」

空太「あっ、やっぱり……勇お姉ちゃんも、そう思う?」

勇「ええ。前に来てくれた時も、可愛い感じに笑ってたけど」

勇「今は……凄く楽しそうに笑ってるから」

美月「……い、勇お姉ちゃん」カァァ

空太「大丈夫だよ、美月。実際、ホントに……楽しそうで、ぼくは嬉しいし」

美月「お、お兄ちゃんっ」

勇「……ホントに、これからも」

勇「ずっと仲良しでいるのよ? 二人とも」

空太「……もちろん」

美月「……で、できるだけ、ガンバりたい、かな」モジモジ


417 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/12(日) 02:26:42 Http6igs
美月(――あれから)

美月(ホワイトデーに、お兄ちゃんが私にチョコをくれた)

美月(あっ、その時は……お兄ちゃんの友達も、お返ししてくれて)

美月(――まぁ、色々照れちゃった)

美月(もちろん、二人からもらった分は、ありがたく食べたけど……)


美月(――それから、春休み)

美月(相変わらず、お兄ちゃんと私は一緒にいることが多くて……)

美月(でも何だか、前よりそれが恥ずかしいっていうより楽しくて……)

美月(きっと、前なら恥ずかしかった時に笑えるようになったっていうのも大きいのかもって思う)


美月(――そして)

美月(桜が咲き始めて、気温もどんどん温かくなっていって……4月がやって来た)



――通学路


空太「……もう、高2だね」

美月「そうだね……」

空太「何だか、このままじゃ……」

空太「高校生活、あっという間に終わっちゃいそう」

美月「う、うん……それ、寂しいよね」

美月「で、でもっ。ほら、陽子お姉ちゃんたちが海に行ったのは、高2の頃のわけだし」

美月「私たち、陽子お姉ちゃんたちの思い出を、1年で過ごしちゃったんじゃないかなって」

空太「……陽子お姉ちゃんたち、山に行って魚釣りとかしてたんだよね」

美月「……お、お兄ちゃん」

空太「美月。今年の夏は、山に行かない?」

美月「や、山……疲れちゃいそう」

空太「大丈夫。2月に美月が一人で行った距離に比べたら、もしかして――」

美月「ス、ストップストップ!」アセアセ


男子「……相変わらずだな、二人とも」

女子「うん。元気そうだよね」

美月「あっ、お、おはよ」

空太「おはよ」

男子「おう」

女子「おはよっ。……あぁ、クラス替えかぁ」

男子「……そうか。お前と離れるのかもしれないのか」

女子「え? もしかして、ちょっと嬉しそう?」

男子「いや――そうしたら、ノートとかせがまれることもないのかって思うと」

男子「少し、安心して……」

女子「……そう言うと思ってた」

男子「あと、えっと……ほんの少しだけ、残念かもって思った」

女子「……え?」

男子「それだけだから」

女子「えっと……後の方、何て言ってたのかな?」

男子「……もう、絶対言わないし」

女子「そっか。それだったら、いいや」

女子「――まぁ、同じクラスになったら、ちょっぴり嬉しいし。また、よろしくね?」クスッ

男子「……もし、そうなったらな」


418 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/12(日) 02:27:02 Http6igs
美月(――曖昧な関係、かぁ)

美月(そっか……今みたいな二人って、そんな感じなのかな)

美月(……そうだよね。きっと、私たちも)

美月(こんな感じで……だから、クラスが別になっても、気にしないで――)


空太「……美月と同じクラスになれなかったら、登校拒否になるかも」

美月「ちょ、ちょっと!?」

空太「さすがに嘘だよ?」

美月「……タ、タイミング悪すぎっ」

空太「……タイミング?」

美月「な、何でもないっ」プイッ


女子「……いや。私たちはともかく」

男子「そうだな。空太たちは同じクラスじゃないと、何だか心配だよな……」

美月「お、お兄ちゃん! いつの間にか、心配されちゃってるよっ」

空太「……今のは、美月が悪いんじゃないかなって」

美月「も、もうっ」


女子「――まぁ、たしかに。それもそうだけど」

女子「出きたら……やっぱり、みんな同じクラスが落ち着くのかもね」

男子「……だよな、やっぱり」

空太「みんな同じクラス、かぁ……」

美月「陽子お姉ちゃんたちも、高2で分かれちゃったし……どうなんだろ?」


烏丸「あら、みなさん。おはようございます」

久世橋「あっ、おはようございます」

空太「あっ、カラスちゃん、クッシーちゃん。おはようございます」

美月「お、おはようございます」

烏丸「新学期、ですね……」

久世橋「みなさんは、高2になるんですね……」

空太「……1年のままでいたかったかもしれないです」

美月「お、お兄ちゃんっ! それだと何か誤解されそうだよっ」

烏丸「いえ。……気持ちは分かりますよ、空太くん?」

久世橋「そうですね……長い間、生徒を見てると」

久世橋「クラス替えの影響って大きいですし、ね……」


女子「――烏丸先生たち、何か知ってるんじゃないですか?」

男子「あっ、そっか。先生なら、もう……俺たちのクラスとか分かってるんだ」

久世橋「あ、あなたたち……さすがにそれは、掲示板に載ってありますし、私たちは教えられません」

女子「……普段、優しい久世橋先生が」

男子「うん。さすがに、先生なんだよな……」

久世橋「も、もうっ。私は、厳しいんですっ」アセアセ

烏丸「……数年前ならともかく、今は」

久世橋「か、烏丸先生っ!」


烏丸「――そうですね」

烏丸「……ここだけの話ですが」

久世橋「か、烏丸先生?」

烏丸「実は……あなたたちのうちの誰かと誰かの二人組と」

烏丸「誰かと誰かの二人組は、同じクラスなんですよ?」

美月「……そ、そうなんだ」

空太「へぇ……それじゃ、みんな同じクラスってことなんですか?」

烏丸「ええ、そういうこと……あら?」

女子「……猪熊くん、ナイス」

男子「先生を引っ掛けてる……」

久世橋「で、ですからっ! そういう引掛けは止めておいた方がって……」

烏丸「ご、ごめんなさい、久世橋先生……でも」

烏丸「あと、もう少しで学校に着きますし……ノーカンってことで?」

久世橋「三者凡退だと思いますけど……」


419 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/12(日) 02:27:31 Http6igs
久世橋「――あれ?」

久世橋「か、烏丸先生……今、何時でしたっけ?」

烏丸「はい? 今は……あっ!」

烏丸「そ、そうでした! 新年度の職員会議が……!」

久世橋「う、迂闊でした……い、急ぎましょうっ!」

烏丸「そ、そうですね……それでは、皆さんっ!」

烏丸「今年度は、久世橋先生に失礼のないように――」

久世橋「か、烏丸先生っ! そ、それでは、また後でっ!」


女子「……行っちゃったね」

男子「そっか。俺たちはみんな同じクラスで――」

空太「担任はクッシーちゃん、ってことかな」

美月「……クッシーちゃん、担任なんだ。嬉しい」

女子「だよね。久世橋先生、凄く優しいもんね」

空太「……何だか、陽子お姉ちゃんたちの頃に聞いてた話とは違うけど」

男子「そういえば、昔は怖かったんだっけ……想像つかないけどな」


女子「――さて、と」

女子「クラスも分かって安心したし……そろそろ、行こっ?」

男子「え? いや、どこに?」

女子「実は、さっき先生たちを見てて……」

女子「私たちもミーティングが近かったって思いだしちゃって」

男子「……あっ!」

男子「わ、悪い、二人とも。先に行くっ」

女子「また、教室でね! 二人とも!」

男子「また、後でっ!」


420 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/12(日) 02:28:04 Http6igs
空太「――相変わらず、息ぴったりだね」

美月「……結局、あの二人って、どんな感じなんだろ?」

空太「ん? 何だか、よく分からないままって感じみたいだよね」

美月「うん……でも、凄く楽しそう」

空太「きっと、そういう感じで、いいんじゃないかな」

美月「……だよね」


美月(――きっと、私たちも)

美月(こんな感じで、いいのかもって……そんなことを思った)

美月(隣にお兄ちゃんがいて、ペースを合わせて二人で歩いていく……しばらくは、そんな感じでいいんじゃないかなって)


美月(――それに今は、前とはちょっと違うし)

美月(こうして、お兄ちゃんと歩いてても、あんまり照れくさくならないし……それに)


美月「――わっ!?」

空太「美月っ」


ギュッ


美月(――か、考え事してたら、転びそうに……)

美月(でも……手、繋いじゃってても、今は)

空太「……大丈夫?」

美月「うん……ありがとね、お兄ちゃん」

美月(――笑えるように、なっちゃったし)


空太「そっか、良かった」


美月(お兄ちゃんも、笑い返してくれるようになって……)


421 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/12(日) 02:28:46 Http6igs
美月(やっぱり私とお兄ちゃんは、他の兄妹とは違うのかも)

美月(だから、これからも、そういうことで不安になるのかもしれないけど……でも)


空太「……ずっと一緒にいようね、美月」ニコッ

美月「……うん。ずっと一緒にいようね、お兄ちゃん」ニコッ


美月(お兄ちゃんが笑って、私も笑う)

美月(しばらくは、そんな毎日を過ごし続けることが――)


空太「それじゃ、いこっか。美月」

美月「うん……」


美月(――ずっと一緒にいる、ってことになっていくんじゃないかなって)

美月(そんなことを思いながら……私は)


美月「……1年間、よろしくね。お兄ちゃん」ギュッ

空太「こっちこそ、美月」ギュッ



美月(――お兄ちゃんと一緒に、坂道をゆっくりと登っていく)


おしまい


422 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/12(日) 02:34:30 Http6igs
これでおしまいです。
最初に考えていた時より、随分と長引いてしまいました。ごめんなさい。

これで、書きたい場面は全部書けたと思います。
曖昧なまま、空太と美月は一緒に過ごしていくというオチでした。

本編から数年後という設定は、書いていてとても楽しかったです。
綾と嘘つきブラザーズの馴れ初め(?)の話も少しだけ考えましたが、長すぎになるのでカットしました。

ここまで読んで頂けたのならば、本当に嬉しく思います。
ありがとうございました。


423 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/12(日) 07:46:06 BkGyed.U
長すぎィ!あとクオリティ高すぎィ!
SSなのに、ほぼ1年やってちゃんとまとめ切ったうえに
10万字位はありそうってこれもうわかんねぇな。

始まりから一ヶ月。お疲れさまでした。すっげー楽しかったゾ
ただ、思ってたより結構喪失感がありますね…

またいつか新作投稿してどうぞ。


424 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/12(日) 21:51:25 orI9TJfY
完結お疲れ様です 堪能しました


425 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/13(月) 08:44:06 cB61IJUo
1か月間できんモザの6年後の世界の1年間を新しい視点で描くSS。ってすごいですねこれ
完結お疲れ様でした。約1か月間楽しませていただきました。
人生ゲームのあたりのくだりくるおしいほどすき


426 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/14(火) 01:12:21 s13C6LVg
書き終えた後も喪失感が消えませんね、これ……
これ以上、続きを書くのはオチが台無しになるかもしれませんし
書けなかった過去のあれこれみたいな話が思い浮かんできてしまいます

このスレで書くとなると中途半端になるかもしれませんが


427 : 明日はもっと楽しくなるよね、ハム太郎? :2015/07/14(火) 01:23:37 ???
>>426
番外編でどっかに別スレ作って建ててもいいんじゃないでしょうか?


428 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/07/14(火) 02:23:31 s13C6LVg
>>427
そうしようと思います
ありがとうございます


429 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2015/08/09(日) 23:54:31 usORqJDY
このスレ長かったんだな
ここでこんな長いSSが書かれるとは思わなかった
どれだけこの双子が好きだったんだ


430 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/01/01(金) 00:39:24 Bf/oXZl6
ウン


431 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/03/11(金) 19:50:11 .Sn4Q/4U
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432 : 我が心 明鏡止水〜されどこの掌はひでの如く〜 :2016/10/21(金) 18:11:37 ???
もう落として差し上げろ


433 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2016/11/18(金) 08:08:52 u8XwDiM6
ペロゥリ


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