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【艦これSS】「大湊の冬」
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朝六時。いつもの様に目を覚ました叢雲はベッドからはい出る。
今日は土曜日である。つまり、休日なのでまだ寝ていても良いのだが、体に染みついた習慣を変えるのは難しい。
「さっむ……」
そんな言葉が思わず出てしまう。冬の大湊は寒さも厳しい。土地の言葉で言うなら「しばれる」というやつである。
カーテンを開けて外の様子を見ようとしたが、部屋の窓は室温と冷気により結露していた。
その露を手ではらい、外を見る。街灯によって映し出された白銀の世界が、叢雲のことを憂鬱な気持ちにさせた。
(またずいぶん積もったわね……)
そして、「風邪を引かないようにしなければ」と叢雲は思った。
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午前七時過ぎ。この時間にもなると他の艦娘もだいたい起きてくる。
叢雲は寮の中にある談話室で本を読みながら時間をつぶしていた。
たまに机に置いたコーヒーを飲みながら本を読み進めていく。
すると一人の少女が声をかけてきた。
「叢雲ちゃん、おはよー」
叢雲は顔を上げ、あいさつを返す。
「おはよう吹雪。今日も冷えるわね」
吹雪と呼ばれたその少女は、黒髪のセミショートで素朴な出で立ちをしていた。
彼女は大湊警備府にある第十一駆逐隊の旗艦であり、叢雲も同じ隊に所属している。
そのため話す機会が多く、叢雲にとっては大切な友人の一人であった。
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「外は見た?また積もってたわよ」
「昨日も時々吹雪いてたからねー」
「あら、それは自分の名前にかけたダジャレ?」
「違うよ!?」
「冗談よ、安心して」
「……叢雲ちゃんって結構お茶目だよね」
「そうかしら?」
「うん」
叢雲はきょとんとした顔をする。
自分にそんな可愛げなんてないと思っていたからである。
とはいえ別に悪い気はしない。素直に受け止めることにした。
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「まあ、吹雪がそう言うんならそうなんでしょ。ところで今日は外出するの?」
「そうだよ、今日は白雪ちゃんたちと一緒に買い物なの!」
吹雪はニコニコと楽しそうな顔をする。
「それは良かったわね。ただ、今日も冷えるから風邪を引かないように気をつけなさいよ」
「大丈夫!ところで一緒にご飯食べに行かない?」
「確かにお腹がすいてきたわね……いいわ、行きましょう」
コーヒーと本を片づけ、その後二人で食堂に向かった。
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午前十時前。吹雪たちが出かけるのを見送った。
叢雲は、今日は残留の日なので警備府の外に出ることが出来ない。
しかし、警備府内であれば出歩いても大丈夫なので、とりあえず寮から出ることにした。
庁舎の前を歩いていると雪かきをしている青年たちがいる。
おそらく自分と同じ残留組で、なおかつ雑用をやらされているのだろう。
若干気の毒に思いながらも、それを尻目に叢雲は庁舎の中に入っていく。
そして、目的の部屋にたどり着いた叢雲は扉をノックした。
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「失礼します」
部屋の中には白髪が混じった初老の男性が一人。
叢雲が入ってくると呆れ顔を向ける。
「叢雲、今日は休みだろう?」
「そっくりそのまま返すわ。司令官こそ休みでしょ?」
「なに、ちょっと雑務がな」
「また?」
「そうだ」
叢雲も昔は止めようとした。
しかし、止めても聞かないことが分かったため今ではあきらめている。
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初老提督と叢雲のSSの人かな?
嬉しいなあ…
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「はぁ……なんか淹れてくるわ」
「すまんな」
「コーヒーでいい?」
「頼む」
「りょーかい」
少しぶっきらぼうな返事をして給湯室に向かう。すると途中、顔見知りの士官に出会った。
そこで庁舎にいる理由を尋ねられたので、「司令の手伝い」と答えると、その士官にも呆れ顔をされた。
おそらく、二人に対して呆れていたのだろう。
その後「頑張ってね」とささやかなエールをもらい、士官と別れた。
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給湯室で自分の分と男性の分のコーヒーを淹れ、執務室へ戻る。
ちなみに昔は、嫌いな士官のコーヒーにママレモンという洗剤を入れて憂さを晴らしていたらしい。
そんな、どうでもいいことを考えながら歩いていると部屋の前に着いた。
「今日は何時頃に終わるだろうか?」そう思いながら叢雲は扉をノックして、部屋の中に入っていった。
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「意外と早く終わったわね……」
時計の針はちょうど十一時半を指している。
一時間程度で済んで良かったと叢雲は思った。
「お前さんが手伝ってくれたからなあ……とにかく助かった。ありがとうな叢雲」
「そう思うんならなんか奢りなさいよ。残業代が出ないんだから、司令官から貰わないと割に合わないわ」
「ちなみに何がいいんだ?」
「とりあえずご飯」
「……それだけか?」
「貯めてんのよ。まさか、今までの私の時間がそんな安く済むと思ってたの?」
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すると男性はわざとらしく返す。
「おお、なんてやつだ。お前は悪魔か!?」
叢雲も言い返す。
「ふふっ、今更気付いても遅いわ。……しんにょうに、あっ、神妙に待っていなさい!」
少しの沈黙。
突然男性が吹き出し、腹を抱えて笑い出した。
対照的に叢雲は顔を真っ赤にして黙っている。
しばらくの間、部屋の中には男性の笑い声だけが響いていた。
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「なんであそこで間違えるのよ私……」
「いやいや、なかなか面白いものを見させてもらった」
二人は並んで庁舎の前を歩いている。
どうやら朝からやっていた雪かきは終わったらしく、道端には雪が積まれていた。
「さっきのことは忘れてよ!」
「断る。墓場まで持って行ってやるから覚悟しておけ」
「あんたねえ……」
叢雲は恨めしそうな顔をするが、男性は意にも介していないようだ。
「そんなことより飯だ。食べたかったんだろう?」
男性はけらけらと笑いながら進んでいく。
「この人にはかなわない」そう思い、ため息をついてしまう。
そんな叢雲の白い息は、大湊の空へと消えていってしまった。
〜おわり〜
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以上で終わりです。ちなみにこれは、以前書いたSSの前日談のようなものになります
おそらくどちらから読んでも大丈夫だと思います
【艦これ】「First partner」【SS】
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/20196/1424008993/
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乙シャス!
むらくもかわいい
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