新人警官として地元の派出所に勤めることになったこの俺……名を板倉というのだが、ある日女子高生が訪ねてきたのだ。
「ウチを逮捕して欲しいんよ」「は？（威圧）」
いきなりの不意を打った発言に俺はつい威圧的な対応をしてしまった。
「あ、ああ申し訳ない。えっと、自首をしたいということかな？まずはそこに座って、どうぞ」
「ええと、ウチの話を聞いてそれから逮捕して欲しいんです」
「えっ何それは…まあとりあえず話を聞きましょう。アイスティーしか無かったけどいいかな？」
冷蔵庫にあったアイスティーをコップに入れて差し出す。田所先輩のだったかもしれないけどまあいいや。
「ありがとうございます…。それで…まずはどこから話をすればええかな…」
「そんなにかしこまらなくていいですよ。年齢も近いようですし、なんならタメ口でもいいから」
「堪忍な。それでな、私…殺してしまったんよ。」
「警察だ！（神速のインパルス）」
思わず訳の分からないことを言ってしまった。とはいえ殺人の自首とは荷が重すぎる。
後で田所先輩に全部任せるとして、詳しい事情を聞かなければ。
「だ、誰を殺してしまったんですか？」
「…豚です。自分で飼ってた豚を殺して食べてしまったんよ。」
「豚ァ！……豚ァ！！？…えっ何それは…そんなんじゃ逮捕なんか出来ねえんだよ（棒読み）」
懺悔なら教会でやって…もらえませんかね、案内はしますんで（棒読み）」
「そうやなくて…とにかくウチを逮捕して欲しいんよ。…まずウチの話を聞いて貰ったほうがええかもしれんね…」
ーーーそう言うと、彼女はゆっくりと語り始めた。
そんな彼女は何やら食べることが好きで、美味しいものを食べては幸せを感じるらしいのだが……
どうやら夏の頃は暑さが原因なのか食欲があまり湧かないのだそうだ。
「子供の頃からそうなんやけど、どうにも食欲が湧かなくて…かといって何も食べないでいると元気も無くなってくるし
どないしようかなと思ってたんや。」
「だけど夏のある日、冷蔵庫の中に桃が一個あってな。子供の頃やったから皮を剥くのも苦労したんやけど
頑張って皮を全部剥いてかじりついたんや。そしたらその桃の美味いこと美味いこと。」
「あっという間に一個丸々食べてしまったんやけど、それ以来食欲不振がすっかり無くなってな。
その夏は美味しいものいっぱい食べて元気に過ごせたんや。」
「それで次の年の夏になった時用意してた桃を食べたんやけど、どうにも食欲は湧かないまま。」
「あれは偶然やったんやろうかと思いながら、ふと外に自分で育てたトマトがあったんよ。」
それで今度はそのトマトを収穫して食べたら食欲がまた湧いてきたんよ。」
ーーーどうやら自分で育てたり、調理したものを食べると食欲が元に戻るらしい。ーーー
食べるものは年々大きく、多くなってきたらしいが何年も続けているうちにだんだん慣れてきたらしく
農園を借りて野菜を育てたり、水槽で魚を飼ったり鶏を育てたりと本格的な栽培や飼育までおこなって毎年の夏に備えたそうだ。
生き物となってくると愛着も湧いてきて食べる気には中々ならなかったそうだが、夏の食欲不振に耐え切れず結局食べてしまったらしい。
「それで今年は豚を飼ったんや。名前もリネットってつけてな、本当に可愛い子やったんやけど…」
「…食べてしまったんよ。だからウチを逮捕して欲しいんや。」
「いや、でも自分で用意して育てた豚でしょ？誰にも迷惑をかけてないみたいだし、それが食欲改善になるなら
仕方ないんじゃないかな？どうしても何か不安があるなら病院に行って相談したほうがいいかもしれないけど…
これじゃ警察の出る幕は無いよ。何もしてない人を逮捕することは出来ない」
「そうですか…仕方ないんかな。お時間取らせて済みませんでした。帰ります。」
「食欲不振の原因や解消方法について色々調べてみればいいかもね。」
「ありがとうございました」
そして派出所から立ち去ろうとする東條希に、板倉は何気なく話しかけた。
「そういえば君は…友達とか…いらっしゃらないんですか？」
「最近スクールアイドルを始めたんよ。μ'sって言うんやけど、私含めて9人のグループで皆仲良しで…」
ヒエッ...
カニバルノッゾレの前日談かあ・・・
その発想はなかったな。さすがに上手いわ
だんだん大きくって話、ドラキュラに出てくるレンフィールド思い出した
アリ潰しあたりから始まるんだったかな
まだ食うために殺してるぶんまだマシですね…
星新一のショートショートやで
確か「ボッコちゃん」に収録されてると思う
やっぱ知ってる人もおるんか
サンクス