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【アイマスSS】私の嫌いな彼女【百合】

1 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:15:11 p/93C4s.
「お茶どうぞ、プロデューサー」

「お、雪歩は気が利くな〜、ありがとーゆ・き・ほ!」

「うふふ」


はぁ・・・

また始まった

事務所内とはいえ人前でベタベタベタベタと

ほんと気持ち悪い

「千早ちゃんもお茶どうぞ」

「・・・いらないわ」

上げていた目線を手元に戻し、雑誌を読むフリをする


2 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:16:21 d4qQAWQ.
「あー美味しいなー、千早もほんとは飲みたいんだろ〜雪歩のお茶!」

「喉渇いていないので」

「全く可愛くないなー千早は〜」

イラッ

「私は元から可愛くないです」

プロデューサーと呼ばれるこの男

零細芸能プロダクションにてアイドルのプロデュース活動をしている

私はこの、いかにも軽薄な男が嫌いだ

「ほんと素直じゃないなー千早は〜」

「も〜千早ちゃんにそんなこと言ったらひどいですよプロデューサー」

イライライラ


3 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:16:41 BnMhs.zw
あらいいですわね


4 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:17:30 d4qQAWQ.
萩原雪歩

私はこの子が嫌いだ

いかにもアイドルらしい、儚い雰囲気の彼女

普段は男が苦手だなどと振舞っておきながら、裏ではこの男とイチャイチャイチャイチャ

あーいやだいやだ

私はこの子が大嫌いだった

そして私は

萩原雪歩を愛していたのだった


5 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:17:48 TH2fXraE
よろしくてよ


6 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:18:39 d4qQAWQ.
半年前

私の家の環境は最悪だった

不仲の両親、息の詰まるような食卓

そこに私の居場所はなかった

家から逃げ出したい一心で、私は歌の道へ進むことを決めた

元来歌うことが好きであった私は、歌に私の居場所を求めたのだった

しかし

どこで間違ったのか意図的なのか、この事務所は歌手ではなくアイドル専門事務所であった

それを知ったとき私は、自分の馬鹿さ加減と、私を選んだプロデューサーを怨むのだった


7 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:20:26 d4qQAWQ.
そして私は彼女と出会う

萩原雪歩

彼女は私と同期のアイドル候補生だった


タンッキュッタンッ

ドンッ!

「あっ・・・つっ・・・」

「いたぁー・・・あっ、ごめんなさい如月さん・・・」

私達アイドル候補生は日々レッスン漬けだ

基礎体力作り、ウォーキング、声楽

そしてある日のダンスレッスン中のこと

「萩原さん、いい加減にしてもらえるかしら」

「・・・ごめんなさい」


8 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:21:23 d4qQAWQ.
私は、何をやってもトロ臭い彼女が苦手だった

ちょっと見た目が良いかもしれないけど

体力もなく、ダンスも下手くそ、歌はまあまあだけど私ほどじゃない

きっと甘やかされて生きてきたんだろう

アイドルなんてやる気はないけど、こんな子に負けるつもりはない

私は元来負けず嫌いなのだ


9 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:22:28 d4qQAWQ.
などと言ってはみたもののレッスンはかなり厳しい

肩で息をする私

「お疲れ様」

休憩中の私に彼女は話しかけてきた

「・・・お疲れ様」

「さっきはごめんなさい」

「まあ・・・気をつけてくれればいいわ」

ニッコリ笑う彼女、何が楽しいんだろう

「こうやってちゃんと話するのは初めてだね」

「そうかしら」

馴れ合いは好きじゃない


10 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:23:53 d4qQAWQ.
「ねえ・・・如月さんはなんでアイドルになりたいの?」

「アイドルになんかなりたくないわ、ただ・・・歌が歌いたいだけ」

「ふーん・・・如月さん歌うまいもんね」

つまらなさそうに彼女は答える

興味ないこと聞くぐらいなら黙っていればいいのに

「で、私には聞いてくれないんだ」

・・・はぁ、めんどくさい

「萩原さんは、どうしてアイドルに?」

「友達が勝手に応募して、ってのは半分ウソ」

とても眩しい笑顔

思わず私はドキッとしてしまった


11 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:24:57 ehV9RgB.
いいねぇ・・・


12 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:25:38 d4qQAWQ.
「私は私が大嫌いなの」

彼女の突然の言葉に驚いてしまった

「・・・え?」

「でもそんな自分を変えたくって」

まあ、よくある話ね

「私、とっても泣き虫なんです、だから決めたんです」

「・・・・・・」

「アイドルになったら泣くのを止めようって」

嬉しそうに笑う彼女

「実際この事務所に入ってから一度も泣いてないんですよ」

と、自慢げに語る彼女を少し見直してしまった


13 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:26:33 d4qQAWQ.
私は逃げるために、逃げ場所を求めるためにこの道を選んだ

彼女は変わるために、いや、己に勝つために、この道を選んだのだ

私には彼女の笑顔が眩しすぎた

「じゃあ、お互い頑張ろうね、千早ちゃん」

千早ちゃん!?

笑顔の眩しい彼女は、私の心に土足で上がってきたのだった

やはり私は彼女が苦手だ


14 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:27:37 d4qQAWQ.
レッスンが終わり、シャワーを浴びてスタジオを後にしようとした

すると

タンタンッキュッキュッタッ

スタジオから音が聞こえる

そこには一人居残りレッスンをする彼女が

思わずスタジオを覗いてしまった

「ハァ・・・ハァ・・・千早ちゃん」

「・・・何してるの」

「何って、自主練だよ」

そう言うと彼女はいつものように笑うのだった


15 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:28:35 d4qQAWQ.
「私、何やっても下手でしょ・・・だから、みんなの倍頑張ってやろうって」

「なんでそんなに頑張るの」

なぜこんなことを聞いたのだろう

たぶん彼女の、私にはないひたむきさに興味を惹かれたのかも知れない

「だって、頑張るだけで、私のなりたい私になれるんだよ」

「え?」

「こんな素敵なことって、ないんじゃないかな」


16 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:29:02 priuaAdQ
期待してるから完走してくれよな〜頼むよ〜


17 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:29:38 d4qQAWQ.
・・・なんだこの子は?

なんて恥ずかしいことを堂々と

でも、眩しい

なんて眩しいんだろう

彼女の笑顔も、彼女の心も眩しすぎる

常に鬱々としていた私の心が照らされて行く


気がついたら私は彼女の虜になっていた

もっと彼女のことを知りたい

もっと彼女に癒されたい

ああ

これが恋というものなのか


18 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:31:07 d4qQAWQ.
結局彼女のレッスンに最後まで付き合ってしまった

疲労感はあるのに、それ以上の達成感を感じながら、私達は駅までの帰路を一緒に歩いた

「なんか、つきあってもらってごめんね」

「気にしないで、私もダンスは苦手だし」

「フフッ」

「何?」

「アイドルになりたくない、って言ってたけど、真面目なんだね」

つまらないこと覚えてるのね

「まあ・・・やるからには全力を出したいから」

「へぇ〜、やっぱり千早ちゃんはすごいな」

嘘のない言葉で彼女は関心するのだった


19 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:32:05 d4qQAWQ.
「私なんて何のとりえもないから」

「萩原さんだって、頑張ってるじゃない」

私が人を褒めるなんて珍しい

「あ、初めて褒められた」

私の心の中を読んだように彼女はそう言うと、また笑うのだった

何気ない会話がこんなにも嬉しいなんて


20 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:33:53 d4qQAWQ.
と、ここで彼女は、私が一番話したくない話題を振ってきた

「ねぇ千早ちゃん、プロデューサーのことなんだけど」

なんで今その男の話を

少しムッとしたのを感づかれたかもしれない

「どう思う?」

意味がわからない

「どうって・・・別にどうも思わないわ」

正直あの男に興味はない

「あ、変なこと聞いてごめんね、プロデューサーが千早ちゃんのこと心配してて」

ますますもって意味がわからない


21 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:35:29 d4qQAWQ.
「なんで心配されるのかわからないのだけれど」

「千早ちゃんいつも事務所でもレッスンでも、思いつめた顔してるって、プロデューサーが」

「そう見えるだけよ、私は普通だわ」

「んん、私もそう見えるよ、何かあるんじゃない?」

心当たりがないわけじゃないけど

なんか面倒くさそうなことになってきた

「たぶん生真面目すぎるんだわ、そんなことより萩原さんこそなにかあるんじゃないかしら」

話の矛先をずらすために彼女に話を振ってしまった


22 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:36:30 d4qQAWQ.
「え、私?」

「ええ、最近すごく頑張っているから」

「うーん・・・笑わないでね?」

「さあ」

「もう、いじわるだなぁ」

と言うと彼女は一呼吸し

「私、プロデューサーが気になるの」

「・・・・・・え?」

聞きたくなかった


23 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:37:42 d4qQAWQ.
「気になる、ってのは?」

お願い

お願い、言わないで

心の中で何度も念じる私の願いもむなしく

「うん、プロデューサーが好きなの」

こんな話聞きたくなかった

「だから、自分だけじゃなくて、プロデューサーのためにも頑張りたいんだ」

いや、本当は私も気づいていたのかもしれない

事務所での彼女の楽しそうな顔

彼女の視線はいつもあの男に向けられていた

私はそれを認めたくなくて

無意識のうちに、彼女の本当の気持ちに気づかないふりをしていたのかもしれない


24 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:39:08 d4qQAWQ.
私の恋は所詮叶わぬ恋、女同士の禁忌の恋なのだ

恋という精神疾患に陥った自分を戒めるために、彼女への恋心をごまかすために

私は彼女に辛く当ってしまう


タンッキュッキュッタッタンッ

ドンッ!

「あっ・・・ごめんなさい千早ちゃん」

「ちょっと萩原さん!いいかげんにしてくれるかしら!」

彼女に辛く当たると、決まってあの男が出てくる

「おいおい千早、それぐらいにしとけよ〜」

「あ、プロデューサー、私は大丈夫ですから」

「大丈夫か雪歩〜怪我してないか」

「大丈夫ですよぅ、子供扱いしないでくださいっ」


25 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:40:06 d4qQAWQ.
イライライラ

何だろう

以前はただ気持ち悪い、としか思わなかったのに

それどころではない黒い感情が私の心を満たしていく

ああ

これが嫉妬か

彼女の笑顔で浄化された私の心は

彼女の笑顔で再び黒く濁っていく

そして私は、さらに彼女に辛く当ってしまうのだった

終わらない負の連鎖


26 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:41:27 d4qQAWQ.
「なあ千早、お前達のデビュー曲、作詞してみないか」

「え?」

ある日のこと、あの男の突然の言葉に私は驚いてしまった

お前『達』?

デビュー?

作詞?

予期せぬ言葉が三つも出てきた

要約すると

私と彼女がユニットでデビューするので、そのデビュー曲の作詞をしてみないか

ということらしい


27 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:42:49 d4qQAWQ.
「お前最近イライラしてるだろ」

誰のせいだ

「だから気分転換にやってみないか、歌が好きならきっと悪い経験にはならないだろうし」

「でも作詞なんてどうやれば・・・」

「なんかあるだろ〜、学校のこととか、友達のこととか、恋とか愛とか〜」


愛か・・・

私の愛はどんな愛?

私の愛はどす黒い

どす黒い地獄の炎

地上の全てを焼き尽くす地獄の業火



『inferno』


28 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:44:41 d4qQAWQ.
『inferno』

冷めたアスファルト 人波掻いて
モノクロのビル 空を隠した
勝手な信号 標識の群れ
せめてこの手で 貴方を描く

「ミライハオワリノミチ」
嘆くセイジャが説けば
すぐ抱きしめてくれた だけどどうして泣くの…?

全て 燃える愛になれ 
赤裸に今焦がして 
私が守ってあげる
全て 燃えて灰になれ
それがこの世の自由か
貴方が微笑むなら 愛じゃなくても
愛してる

響くクラクション 震える草木
俯くニュース 街を廻った
生まれた感情 病まれた現状
そっと寄り添い 歩きたいだけ

「ユメハカナウデキゴト」
切にラジオが謡う
綺麗事はいらない ただ貴方だけいれば…

絶対 忘れないから
いつかそう燃え尽きても
ヒトリじゃもう行けない
絶対 ねえ忘れないで
もっと熱くなれる
この愛邪魔するもの 例え貴方でも
許さない


時は流れるもの
時代は変わるもの
人は愛するものとして
どんな気持ちをどんな言葉で
どんな表情から伝えれば幸せと呼べるのだろう
本当はわかってる
でも、できない
自己矛盾と首尾一貫が
めぐりゆく世界を歩いてゆく

瞳 貴方を見つめるためにある
耳 貴方を聴くためにある
唇 貴方を感じるためにある
この手 貴方に触れるためにある
足 貴方に近付くためにある
心 私であるためにある


枯れた花は 種に変わって
いつかまた彩るだろう
星は堕ちても 流星になる
あの日の様に抱きしめてよ だけどどうして泣くの…?

全て 燃える愛になれ 
赤裸に今焦がして 
私が守ってあげる
全て 燃えて灰になれ
それがこの世の自由か
貴方が微笑むなら 愛じゃなくても
愛してる

http://www.nicovideo.jp/watch/sm23479036#!sm3808453?t=1401536832263


29 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:45:41 d4qQAWQ.
「は〜、すっごいな千早」

「千早ちゃんすごいです!」

こんな歌詞が出てくるとはどれだけ病んでいるのか・・・

我ながら心配だ

しかし私達のデビュー曲『inferno』は高い評価を受けることとなる

気分が良い

作詞の才能がある、とまでは思い上がらないけど

歌以外でここまで人に認められるとは


30 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:46:35 d4qQAWQ.
「あー千早、ちょっといいか」

事務所を後にしようとしている私にあの男が話しかけてきた

「何ですか、プロデューサー」

「まあそんな顔するなよ」

どうやら顔に出ていたらしい

「面談だよ面談、一応これでも俺はお前らの保護者みたいなもんだからな」

何を考えているのか全くわからない

「萩原さんはいいのですか」

「ああ、今日は千早と二人で話がしたくってさ」

気持ち悪い


31 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:47:37 d4qQAWQ.
他愛もない世間話をする

最近実家には帰ってるのか、とか

学校は楽しいか、とか

しびれを切らし私は尋ねる

「何か、話があるんじゃないのですか」

「あ?ああ、そうだったな、すまんすまん」

一口コーヒーを飲むと

「最近お前調子いいな」

「・・・え?」

「あ、いや、俺はすごく安心してるんだ」


32 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:48:51 d4qQAWQ.
確かに最近の私は少し変わったかもしれない

彼女への恋を確信してから

そして、私の恋は叶わないものだとわかってから

私の思いを『inferno』で吐き出してから

少し吹っ切れて気持ちが楽になったのかもしれない


33 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:50:20 d4qQAWQ.
「前はいつも難しい顔してさー、俺も空気和らげようと必死だったんだぞ」

「それは、すいません」

「やっぱり作詞してみてよかったよな、新しい境地が見えたから気分も変わったんだろ」

一理ある

そこは感謝すべきなんだろう、少しだけなら

「ええ、ありがとうございます」

「で、最近何かあったんじゃないか」

なんで私の周りにいる人は勘がいいのだろう


34 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:50:27 xUy5ov2I
今更だがPをあの男呼ばわりで草生える


35 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:51:24 d4qQAWQ.
「え、そんなの関係ないじゃないですか」

「いや、なんか心配でな」

さっきは安心したとか言いながら、早速反対のことを言い出す

「すごく脆く見えるんだよお前、気分が上がったり下がったり」

黙って聞く私

「もうすぐお前達初めてのオーディションだしな」


36 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:52:37 d4qQAWQ.
そうなのだ

私達はもうすぐ新曲を携えてオーディションに挑む大切な時期なのである

「お前には雪歩をしっかりフォローしてほしいんだよ」

「萩原さんならしっかりやってると思うのですけど」

「一緒にやってて気づかないか、あいつすげー無理してるぞ」

そんな気はしていた

元から体力に難のある彼女

強い思いだけで動いているのだろう

「俺が言うのもなんだけど、なんであんな頑張ってるんだろな」

この男は、何も知らずに・・・

ちょっとイライラしてきた私にイタズラ心が芽生えた


37 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:53:57 d4qQAWQ.
「萩原さんはプロデューサーのことが好きなんです」

「お、そっか!俺は雪歩も千早も愛してるぞ!」

「男性として」

「・・・なんだ千早も冗談言うんだな!でもその冗談は面白くないぞ〜」

「冗談だと思いますか」

しばしの沈黙

「それは・・・雪歩から聞いたのか?」

なんであんなこと言ってしまったんだろう

少し後悔した

「はい」


38 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:55:04 d4qQAWQ.
「そうか・・・まあそんな気はしてたけど、俺の思い上がりじゃなかったってことか」

「知ってたんですか」

「俺はこう見えてもお前らのことならなんでも知ってるぞ」

なんでも、か

「雪歩のこととか、お前が俺のこと嫌ってることとか」

私の、彼女への思いは知らないようですね

「まあ・・・さっきのことは聞かなかったことにしよう」

「なんで!」

つい大声をあげてしまった

一体私は誰の味方なんだろう


39 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:57:20 d4qQAWQ.
「直接雪歩から聞いたわけじゃないし、なにより俺はお前らのプロデューサーだ」

私の目を真っすぐ見ながら

「お前らが成功するなら、俺はお前らに嫌われたって構わない」

いつものふざけた口調は全く感じられなかった

「でも、雪歩の気持ちに応えてやるわけにはいかないよ・・・」

この人も、いろいろ考えているのですね

なんだか少しかわいそうに思えてきた

「そうだ、お前が雪歩と付き合えばいいんじゃないか〜」

いつもの調子に戻ったのだろうか

「は!?」

「『inferno』ってそういう歌なんだろ?」

「ま、まあ、否定はしませんけど」

「それに最近は、なんだっけ、百合ってのが流行ってんだろ?そういう営業もいいんじゃないか」

「そんな簡単に言わないでください」

突然の提案に驚いてしまった、どこまで本気なのか・・・


40 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:58:43 d4qQAWQ.
「ま、冗談だよ冗談」

「・・・フッフフッ」

「・・・ハッハハッ、ハハハ」

「プロデューサー・・・笑い方が馬鹿みたいですよ」

「そんなこと言うなよ千早〜」

なんだか気持ちが楽になった

プロデューサーも大変なんだな、なんて考えてしまう

そうだ、これからはプロデューサーにも少し心を開いて

少し優しくしてあげよう

そういえば、頑張ればなりたい自分になれる

そんなことを彼女が言っていたことを思い出す

頑張れば、前向きになれば

私も、自分を変えることができるのかしら


41 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 22:59:32 d4qQAWQ.
今まで後ろ向きだったけど、アイドルとして精一杯頑張ってみよう

そうすれば、もしかしたら私の恋にも道が開けるかもしれない

なんて甘すぎだろうか

どちらにせよ

この日の面談は私にとって、とても有意義なものとなったのだ


42 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 23:00:53 d4qQAWQ.
それからの私はとても充実した毎日を送っていた

萩原さんのフォローも、自分のレッスンもとても満足のいくものだった

心を入れ替えるだけでこんなにもうまく行くものなのか

なんだか胡散臭い自己啓発のような、宗教のような話だけど事実だから仕方ない


「今のお前達なら負けるわけがない、よし!行って来い!」

以前なら嫌っていたプロデューサーの軽口も今ではとても心強く感じられる

体が軽い

私と萩原さんは今までで最高のパフォーマンスを魅せ、みごとオーディションに合格を果たすのだった


43 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 23:01:50 d4qQAWQ.
「やった、やったよ千早ちゃん!」

「えぇ、萩原さん」

私達は抱きしめあい、喜びを分かち合った

彼女の最高の笑顔で私の心が癒されていく

ああ、頑張って本当に良かった・・・

私はこれで変わることができるのだろうか


44 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 23:02:57 d4qQAWQ.
「やったな!雪歩!千早!」

駆け寄ってくるプロデューサー

「プロデューサー・・・私・・・わたし・・・」

プロデューサーの顔を見て感極まったのだろうか

彼女はプロデューサーが来るや否や、泣き崩れてしまった

「雪歩も、千早も、良くやったな!」

涙を流す彼女と、貰い泣きするプロデューサー


45 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 23:04:02 d4qQAWQ.
あれ?

彼女が泣いている

彼女が泣いている姿を見るのは初めてだった

もう二度と泣かないと誓っていたはずなのに・・・


ああそうか


私はわかってしまった

彼女の心の中に私はいないのだ

私がどんなに努力をしても

彼女の心の中に私の居場所なんてなかったのだ

彼女の心の中には私ではない誰かがいる

なんだかもう何もかもが面倒くさくなってきた


46 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 23:05:24 d4qQAWQ.
「千早〜どうしたんだ、最近たるんでないか〜」

最近の私は明らかに無気力だった

そしてついに今日、私は初めてレッスンをさぼった

「・・・すいません」

「オーディション合格した達成感で気が抜けたんだろ、まあわからなくもないけどこれがゴールじゃないんだぞ」

「・・・はい」

「なんか悩みでもあるのか」

「い、いえ、そんなことは」

「そっか・・・まだ俺は信用されてないんだな〜」

なんと答えていいのかわからない


47 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 23:06:30 d4qQAWQ.
「千早、infernoだけど」

「え?」

「あれ、曲もかっこいいけど、それ以上に歌詞がすごいよな」

何が言いたいのかわからない

「『全て燃える愛になれ』とか『私が守ってあげる』とか『貴方が微笑むなら〜』とか」

「はぁ」

「女の情念っていうのか、燃えるような愛っていうのか、あんな感情丸出しの歌詞書いちゃうんだもんな」

私の心の中に燻ぶる思いが言葉となったのだ

「もしかしてあの歌、お前のことを歌っているのか」


48 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 23:08:19 d4qQAWQ.
本当に勘が良い

勘が良いくせして、勘が悪いから平気で人を傷つける

「なあ、もしかしてそんな恋をしているってことなのか」

私は答えない

「いやあ意外だな、千早がな〜」

「・・・ヤメテ・・・」

「でもちょっと安心したぞ、お前もやっぱり女の子なんだな〜」

「・・・ヤメテクダサイ・・・」

「俺は応援するぞ」

もう限界だ


49 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 23:09:19 d4qQAWQ.
「やめてっ!!!」

「・・・千早?」

大声を出したせいか頭がクラクラする

「私はっ・・・やっぱりあなたのことが・・・嫌いです」

「千早・・・」

「でも、萩原さんのことは、もっと嫌い」
 
涙が溢れてくる

「いくら尽くしても、努力しても・・・あの子の中に私はいなかった」

声が震える

「私は、あの子のことが、好きです」


50 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 23:10:18 d4qQAWQ.
「あの子の中には、萩原さんの中にはいつも・・・あなたしかいなかった、プロデューサー」

「・・・千早・・・」

「プロデューサー、私はどんなに頑張ってもあなたには勝てない」

机の上のハサミに目が行った

「私はあなたが憎い、あの子の心を独り占めにする、あなたが憎くてたまらない」

「お、おい、千早!」

「あ な た が に く い っ !!!」


51 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 23:11:54 d4qQAWQ.
「千早ちゃん?・・・プ、プロデューサー!」

事務所に入ってきた彼女の、悲鳴に似た声で我に返る

左手のひらから血を流し、机に突っ伏すプロデューサー

血の滴るハサミを手から落とし、茫然とする私

「あ、雪歩・・・俺は大丈夫だから」

「プロデューサー!プロデューサー!プロデューサー!!!」

彼女はプロデューサーを介抱する、涙を流しながら

やっぱり

あなたの心の中には

プロデューサーしかいないのですね

私は事務所を飛び出し、屋上へ向かうのだった


52 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 23:14:04 d4qQAWQ.
「千早ちゃん・・・ねえ千早ちゃん」

彼女は私を追って屋上にやって来た

「萩原さん、ごめんなさい」

「ねぇ・・・どうしてこんなことしたの?」

「萩原さん、あなたは本当は弱いのに、いつも強がって」

「・・・うん」

「私の気持ちを乱して、土足で踏みにじって、そんなあなたが大嫌いだった」

「千早ちゃん・・・」


53 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 23:15:19 d4qQAWQ.
「でも、私が今まで頑張ってこれたのは、萩原さんのおかげだったのよ」

彼女の目を真っ直ぐ見据えて、私は続けた

「私の瞳は、あなたを見つめるためにある

 私の耳は、あなたの声を聴くためにある

 私の唇は、あなたを感じるためにある

 私の手は、あなたに触れるためにある

 私の足は、あなたに近付くためにある

 そして私の心は・・・あなたを思うためにあるのよ」


54 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 23:16:41 d4qQAWQ.
「萩原さんを応援したいから、萩原さんの笑顔が見たいから、ここまで頑張れた」

彼女は黙って聞いていた

「いつのまにか、私はあなたに恋をしていた、でも」

苦しい、声がなかなか出てこない

「でも、あなたの心の中にはいつもプロデューサーがいて、私が入ることはできなかった」

「・・・・・・」

「自分でも、納得しようって努力したわ、でも、ダメだった」

「・・・・・・」

「自分の気持ちをごまかすなんて、私には無理」

「千早ちゃん・・・」

「私は、萩原さんのことが好きなの」


55 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 23:18:05 d4qQAWQ.
しばしの沈黙、そして、彼女は重い口を開くのだった

「ごめんなさい・・・千早ちゃんの気持ちに応えてあげることはできないの」

彼女は本当に申し訳なさそうに、そう言うのだった


56 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 23:19:06 d4qQAWQ.
ああ、そうか

「・・・?千早ちゃん?どうしたの?顔が怖いよ・・・」

やっとわかった

『この愛邪魔するもの』

私の愛を邪魔するのは

『例え貴方でも』

あなた自身だったのですね

『許 さ な い』

萩原さん


57 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 23:21:04 d4qQAWQ.
「!・・・・・・萩原さん?」

「ごめんね!千早ちゃん!ごめんね!」

彼女に強く抱きしめられ、私は我に返る

彼女は、ごめんね、と詫び続けるのだった

「ごめんね!こんな私で!ごめんね!

 ごめんね!千早ちゃんの気持ちに気づいてあげられなくて!ごめんね!

 ごめんね!千早ちゃんに辛い思いさせて!ごめんね!

 ごめんね!いつも本当にありがとう!ごめんね!

 ごめんね!プロデューサーのことが好きで・・・ごめんね・・・」


58 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 23:22:10 d4qQAWQ.
彼女は震えていた

私を強く抱きしめていた腕を下ろすと彼女は

俯いていた顔を上げて言うのだった

大粒の涙を流しながら

「ごめんね・・・千早ちゃんの・・・気持ちに応えてあげられなくて」


59 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 23:22:56 d4qQAWQ.
ああ

私なんかのために泣いてくれるんだ

でも

あなたの涙は私なんかにはもったいない

それに、やっぱりあなたには笑顔でいてほしいな

私は膝から崩れ落ち、嗚咽を漏らすのだった


60 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 23:23:59 d4qQAWQ.
幸いプロデューサーの傷は浅く、大事には至らなかった

あの流血事件は、医者にも事務所にも、プロデューサーの不注意による事故ということで片が付いた

事の真相は私達三人共有の秘密となったのだ

あのあと彼女もプロデューサーも、私のことを非難することもなく受け入れてくれた

彼女もプロデューサーも、私がここまで追い詰められたことに対して負い目を感じてしまったらしい

いっそ責めて、詰ってもらえたほうがどれだけ楽だったろうか


61 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 23:25:20 d4qQAWQ.
なんて始めは思っていたけど、もうやめた

私を受け入れてくれた二人に感謝して生きて行きたい、と心から思っている

私達の奇妙な三角関係はこれからも続いていくけど

こんな幸せなことはないだろう


62 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 23:26:28 d4qQAWQ.
「よし!お前達の力を存分に魅せてやれ!」

「はい!行こう、千早ちゃん」


私の大好きな彼女の笑顔を

彼女の傍で守ることが出来るのだから


「えぇ、萩原さん」


                  fin


63 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 23:27:27 nNaogOyQ
おつかれナスですわ!


64 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 23:29:07 ???
型月兄貴以来の熱の入ったSS


65 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 23:29:33 xUy5ov2I
面白くてつい最後まで読んじゃったゾ
でも何でこんな真面目なSSをここでやろうとしたんですかね……?


66 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 23:32:11 priuaAdQ
おつかれナス!
>>56でまさかinfernoの伏線回収してくるとは思わなかった
というかinfernoがクレイジーサイコレズの歌って考え自体なかった


67 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 23:38:52 WZBliR1A
いいゾ〜これ


68 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 23:39:27 qWPWduUE
なかなか読ませますねぇ〜ありがとうSSニキ


69 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 23:45:44 ???
ヤンデレっぽい歌詞だよなとは話したこともあるが歌詞からここまで話を作るとは
すごくおもしろかったゾ
また書いてくれよな〜頼むよ〜


70 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/05/31(土) 23:52:00 XYYKlIm.
いや〜素晴らしかった
はっきり言って無言でSS投稿する兄貴達の力量は異常だ


71 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/06/01(日) 00:21:28 n3UMswGU
いや〜すごいっす(感動)


72 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/06/01(日) 00:36:18 BvmXJugg
面白かったねー☆


73 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/06/01(日) 00:38:44 VzvINNEg
なんか現実的ですっげぇリアル・・・上手いぞSS

お疲れナス!


74 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/06/01(日) 01:11:13 NpGjzY6M
はぇ〜すっごい感心…

素敵なSSありがとナス!
ゆきちはは初めて読んだから新鮮だったけど萌えた
ゆきちはいいゾ〜コレ


75 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/06/01(日) 08:19:03 7yJfg1P6
何気にinfernoのラスト『貴方が微笑むなら愛じゃなくても愛してる』を意識したエンドになってますね…たまげたなあ
本来女の子同士の恋なんてそうそう叶わないよね…悲しいなあ…


76 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/06/01(日) 09:42:11 lpaZfZzc
やりますねぇ!
千早の心情描写がすっげえリアルで引き込まれたゾ


77 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2014/06/02(月) 11:30:44 GNDSjtI2
うまいぞSS(賞賛)


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