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( ^ω^)優しい衛兵と冷たい王女のようですζ(゚ー゚*ζ 第三部
1
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/10(金) 21:01:44 ID:U0jBOVFc0
第二部までのお話はBoon Roman様に収録されています。
http://boonmtmt.sakura.ne.jp/matome/sakuhin/tender/
(リンク先:boon Roman)
414
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/09(月) 00:37:27 ID:akbUVHvM0
おまけ 第二十一話設定資料②(あくまで執筆当初のもの)
【メティス国教会】
●役割
魔人出現前からあった宗教と魔人出現後の宗教が融合、そのうち魔人を神の使いと崇める宗派がメティス国内において主流となる。
信仰に生きていた人々の祈りの場。生活の支えであり、儀式の場所でもある。
保有地である教会領で農作物を栽培し、貧しい人々に頒布する。また、時には魔人を駆使して公共事業の手助けをしたり、人助けを行った。
魔人は神の使いであり、人間の正しい導き手ともされる。
魔人を従えて職業に従事することもあり、利益追求のための労働ではなく万民に資するための労働が善とされた。
余剰分のお金は教会への献金することで浄化され、より多くの献金を行った人の下にはより屈強な魔人との契約が可能となった。
正史ではカトリックの腐敗が禁欲主義のプロテスタントを生み、結果としての利潤追求に正当性を与えることで資本主義の発展を促した。
しかし衛兵王女の世界では結果としての利潤は全て魔人への恩赦として教会に手渡されることになる。
見返りとして送られてくる魔人は人間に絶対的に服従する神の使いなので不満も抱かない。
より屈強ならより生活は楽になる。そしてむやみに闘争心をかき立てなくても、良い魔人が手に入ればより良い生活が送れる。
逆に悪事を働けば魔人を没収されて常人よりも酷い生活が待っている。
よって、闘争心は沈静化されていった。
●教会の魔人
教会に管理されている魔人は基本的に無能力(出来損ない)である。
能力のある魔人は森に住んでいる。出来損ないの魔人が森から集められ、教会における奉公活動によって俗世への執着を払い、○○へと送られる。
それが魔人の究極の使命として伝えられていた。
415
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/09(月) 00:42:10 ID:akbUVHvM0
おまけ 第二十一話設定資料③(あくまで執筆当初のもの)
【ブーン】
●現状
309年12月21日、メガクリテに到着。メガクリテ市庁が募っていた義勇兵に参加する。
メティス国内でたびたび用心棒として活躍した実力がすでにメガクリテ市庁に伝わっていたため、簡易な面接だけで即採用となる。
●経緯
サナ雨林の村で三匹のカエルのマークを目撃しており、そのヒントが隣国テーベにあることを知った。
自分の記憶の手掛かりになるかもしれないと悟り、目的地をテーベに定め、メガクリテから出発する船への搭乗を目指していた。
エウリドメで猪の魔人が街を破壊する様を目撃し、魔人が崇拝されているメティス国内の混乱を予想。
旅の同伴者であるニュッの希望もあってメガクリテに移動し、魔人抑制に協力する。
●内情
依然として10歳以降の記憶は戻らないまま、自分の強さの理由も笑顔の理由もわからないまま、記憶を知るための旅を続けている。
エウリドメにて自立の意思を表明したニュッに期待を寄せる。もとより頼まれて一緒に旅していたが、ニュッを本心から応援しようと思ったのはこのときが初めてだった。
それゆえに、エウリドメの惨状を目の当たりにしたニュッが、今まで旅で通ってきた街を思い、心を痛めているさまを辛く思う。
しかし、ブーン自身は魔人を悪とは見做せないでいた。
魔人の錯乱の原因はサイレンであることは見て明らかであり、サイレンが予測不可能なうえ、暴れているときの魔人に意識がないことを鑑みても、魔人だけを責めるのは酷であるからだ。
付け加えていれば、彼のかつての経験が、魔人への悪感情を著しく削いでもいる。
【ニュッ】
●現状
ブーンとともにメガクリテに入り、義勇兵として参加する。
戦闘の実績はほとんどなく、また十四歳(現時点)という若さも考慮され、今は衛生兵として働いている。
●経歴
309年10月末、ニュッに社会経験を積んでもらおうという育ての親デミタスの希望もあって、旅人ブーンと一緒に首都を目指していた。
鴉の街ヘルセ、蛇の街パシテー、パシテー=アーケ間のサナ雨林に潜む虎の村、そして猪と栗鼠の街エウリドメを経験し、魔人と人々との様々な交流に触れる。
良くも悪くも、人の行動を制限する幾多のしがらみ(あがめられ不自由する蛇、過去の内乱に敗れ森に隠れた虎、壁に閉じ込められた猪等)を知ったニュッは、
自身がデミタスへの恩義によってヘルセの街に自分を縛りつけていたこと、そしてデミタスが自分をしがらみから脱する後押しをしてくれたことを悟る。
その発見をエウリドメでブーンに告白し、ブーンを離れての自立の意思を宣言する。
直後、サイレンを聞き、猪の襲撃で壊滅するエウリドメを目の当たりにする。
鎮火活動に協力したニュッは、その日の朝のニュースにて、メティス国内各地で同様の現象が起きていたことを知る。
自分が知り合ってきた人々の災禍を意識し、いてもたってもいられなくなり、首都での義勇兵募集の報を受け、ブーンに首都への移動を提案し、移動を開始する。
●内情
今まで魔人と人々との交流を平和的に受け止めていただけに、内心の混乱は大きい。
魔人が危険を及ぼす生き物であるという考えが、ほかのメティス国内のニュースからも耳に入る。
他のメガクリテ市民と同様に、魔人排除の発想が育ちつつある。
旅に出たことでニュッが抱いたのは社会への興味である(デミタスが希望したとおり)。
人々が交流する社会の一員になりたいという希望生まれたために、その社会を破壊する魔人への不信感はおのずと高まっていった。
416
:
同志名無しさん
:2017/01/09(月) 03:48:44 ID:K1hYFzes0
来てた!
417
:
同志名無しさん
:2017/01/09(月) 10:35:07 ID:RqB6p0.k0
レジスタンスのメンバーは今どうなってんのかな
418
:
同志名無しさん
:2017/01/16(月) 02:00:49 ID:RKRJTK5I0
最高に面白かった!
続きも期待!
419
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:31:29 ID:nozhF/0E0
始めます。
420
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:33:23 ID:nozhF/0E0
(1)ジンユィ
ξ・⊿・)ξ「あたしはどこで生まれたの」
昔の思い出に浸るとき、ツンは決まってこの問いを思い出す。
質問をしているのはツン本人で、相手はいつも母だった。
「この村でよ」
そう言って、ツンの母は彼女の頭を撫でてくれた。
大きな掌の緩慢な動きに、ツンはいつも安らぎを感じとっていた。
何回も同じ答えを聞いているのに、ツンはその問いをやめなかった。
問いをするときは、いつも夜中だった。
急に目が覚めて、心臓が早鐘を打って、いたたまれなくなって母の寝床へと急いだ。
母の答えを聞く度に、村の景色を見て回って、いつもと変わらない世界が広がっているのを確認する。
それからようやく落ち着いて、眠りにつくことができた。
ツンは村のことが好きだった。
ジンユィ。
不思議な響きの名を持ったその国は、たった一人の人間の手によって拓かれた。
421
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:34:41 ID:nozhF/0E0
暮らしている人はみんな、大きな耳を持っていたり、角や尻尾が生えていたり、濃い体毛に覆われていたりする。
そのような人たちのことを魔人と呼び、普通の人間とは区別することを、ツンは幼い頃から聞かされていた。
自分達は人とは違う。だから気をつけなければいけない。
母もそう教えていた。
生きるうえで大切だから覚えておきなさい。
それが彼女の口癖だった。
ツンも素直に従って、話を聞く度に大きく頷いていた。
同意するだけなら簡単だった。笑って、それから話題を変えた。
今日は何を食べるのか、これからどこの家へ遊びに行くのか。
そんな身近な話題の方が楽しくて、ツンにとってははるかに重要だった。
422
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:35:44 ID:nozhF/0E0
コミューンは緑に溢れていた。
道沿いにはカシやブナの木が並び、足下には年中色とりどりの花が咲き乱れていた。
整備がされているわけではなく、自然のままの植物たちが思い思いに育っていた。
ツンが暮らしていた場所は小高い丘だった。
川沿いにはもう少し多く人が暮らしていて、山の谷間まで民家が並んでいた。
東西に長い村。といっても広さなんてたかが知れていて、
中央にある広場に集まれと言われたら、誰でも三十分以内には集まることができた。
お昼過ぎの時間になると、広場の大きなケヤキの下にて、人々は集まった。
真ん中にはいつも先生が分厚い本を片手に声を張った。
( ゚д゚ )「今日は福音書第六節から」
それはメティス、この国で聖書と呼ばれている本だった。
423
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:36:40 ID:nozhF/0E0
ほかの子どもたちに混じってツンもその朗読を聞いていた。
といっても話している内容は五歳の彼女には難しくてさっぱりわからなかった。
後で両親に質問をして、ようやく朧気ながら意味がつかめるくらいだった。
遠い昔のご先祖様が、この土地で斃れたとき、友が彼に手をさしのべてくれた。
あらゆるものを腐らせる死の灰の上で、草木を生やし、食べ物を与え、暮らす場所を与えてくれた。
ご先祖様は生き延びることができた。
だから私達はいかなるときも友への恩義を忘れるわけにはいかない。
( ゚д゚ )「この場合のご先祖様はメティス国民、友とは僕たち魔人のことだ」
会ったこともないメティス国民だったけれど、友と言われて悪い気はしない。
だからツンはそれなりに彼らに親しみを感じていた。
424
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:38:16 ID:nozhF/0E0
298年 ある春の昼下がり――
( )「だったらどうして私たちは」
ツンのすぐ隣から、その声は聞こえてきた。ツンのよく知っている、友達だ。
ちょうど先生の朗読が途切れたばかりで、しんと静まりかえっていたときに、その声はよく響いた。
村人のほとんど全員の視線が彼女に集中するのがわかった。
ξ・⊿・)ξ「どうしたの、急に」
心配になってツンは小声で呼びかけた。
友達はツンを一瞥して、すぐに逸らして先生を見据えた。
( )「どうして私たちは……隠れて暮らしているんですか」
広場の空気は張り詰めた。
中央では先生が悲しげな顔で俯いていた。
( ゚д゚ )「すまない」
ツンの友達はなかなか座らなかった。
銀色の髪飾りの下で、見開かれた目が赤くなり、涙ににじんでいた。
425
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:39:17 ID:nozhF/0E0
その場がどうおさまったのかはあまり覚えていない。
理由の無い痛みがツンの胸に残った。
ただその子のことを慰めてあげたいと思ったことは確かだった。
ツンはその日から、度々少女の家を尋ねるようになった。
一緒に遊びに誘ったり、スープや煮物のお裾分けをしたり。
何かにつけて理由をつくり、少女の家に押しかけた。
少女も最初は嫌がっていたけれど、やがてツンの勢いに負けた。
少女はツンと一緒に遊び、やがて気がつけば友達になっていた。
そのうちいらいらするよりも笑顔でいることの方が多くなった。
298年の夏。
ツンの五歳の誕生日のとき、その少女がツンの家を訪ねてきた。
426
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:40:18 ID:nozhF/0E0
( )「ほら、これ。みんなで作ったんだ」
胸もとに寄せた木箱の中に、厚紙でできた地球儀があった。
ξ・⊿・)ξ「これ……あたしに?」
( )「うん。地図とかいつも見ていたから、こういうの好きかなって。嫌いだった?」
ξ*・⊿・)ξ「そんなわけない」
ツンは目を滲ませて地球儀を受け取った。
少女を自室に誘って、ペンを取り出し文字を書いた。
覚えたばかりの人間の文字。意識的に書いたのは生まれて初めてで、形も歪んだ。
それでも知っている名前を必死にいくつも描き連ねた。
北にある山、南にある海。西にある町、東に広がる砂漠のその先。
あっという間に地球儀は文字で埋め尽くされた。
427
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:41:18 ID:nozhF/0E0
ξ*・⊿・)ξ「できた」
達成感は一入だった。
知っている土地は少なくて、範囲はずいぶんと狭かったけれど。
ツンは厚紙を愛おしく撫でた。
書かれている文字が回転し、模様のように広がる。
後日、友達の前でひたすら感謝を示した後、約束と称してツンは胸を張った。
ξ*・⊿・)ξ「あたし、決めた。この地球儀に書いた場所、いつか絶対行ってみせる」
ξ*・⊿・)ξ「それがあたしの夢」
絶対できると信じていた。
だから力強く言い切ることができた。
現実は、それから一週間もせずにやってきた。
428
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:42:15 ID:nozhF/0E0
「動くな」
奇妙な紫の衣服をまとった魔人たちがツンの集落を取り囲んだ。
各々の手には銃が構えられていて、これまた珍妙なことに銃弾はなく、先端から光りを飛ばして大人達を襲った。
くらった大人はあっという間に横になり、いびきをかいた。
「君らは包囲されている」
ツンにはわけがわからなかった。
武器を持っている人たちにも耳はあった。体毛も尻尾も生えていた。
話を聞くと、北西に広がるエウロパの森からやってきた人たちらしかった。
ξ・⊿・)ξ「どうして?」
質問に答えてくれる人は誰もいなかった。
母に聞こうとする前に、彼女は縄にかけられて、あっという間に外へと連れ出された。
ξ>⊿<)ξ「お母さ――」
言い切る前に口を塞がれた。
紫の男達が、赤い目をして睨んでくる。
黙れ、と大きな怒鳴り声がした。
耳が劈けるような思いがして、恐かったけど、ツンは何も言い出せなくなった。
429
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:43:18 ID:nozhF/0E0
無理に歩かされて、前方を歩く母の背中を眺めた。
ぼろぼろになった衣服をまとった母の背中がかなしくて、わけがわからなくて、もがこうとしたら口に布を詰められた。
何も言うことができなくなり、痛みと恐怖で涙が出てきた。
ほかの家からも煙があがり、人が出てきて、それこそ獣同然に縄に結ばれて歩かされていた。
混乱がまったく落ち着かない。
広場が見えてきた。
村人がみなそこに集まっている。
そのとき、煙が巻き起こった。
430
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:44:16 ID:nozhF/0E0
「煙幕だ」
と、紫の男達が叫んでいるのが聞こえる。
白む景色に怯えていながら、ツンは自分の縄が緩んだのを感じた。
背中を押される。
( ゚д゚ )「速くこっちへ!」
聞こえた声は先生のものだった。
☆ ☆ ☆
431
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:47:26 ID:nozhF/0E0
第二十二話
首都は冷たい雨に頽れ 後編(冬月逍遙編⑦)
.
432
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:48:21 ID:nozhF/0E0
(2)あなたとここで
( ´∀`)「……けほ」
扉を開いてすぐにモナーの息が詰まった。
鼻の頭から先がずっと煙で埋もれていたからだ。
煙の中に浮かぶ影が一人。
爪'ー`)y-~「お待ちしていました」
穏やかそうな顔に見える。
むしろ必要以上に砕けている。
口に咥えている煙草を徐に手に取っていた。
( ´∀`)「久しぶりモナ、フォックス司教。顔を合わせるのはいつぶりだったか」
爪'ー`)y-~「一年ぶりですよ。毎年ご挨拶を賜っていましたから」
魔人でありながら、聖職者でもあるモナー。
メティス国教において、彼は魔人と人とを繋ぐ要衝でもあった。
433
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:49:16 ID:nozhF/0E0
( ´∀`)「毎度毎度ご苦労様だモナ。毎年同じ事なのに」
ミ,,;゚Д゚彡「こらこら、何を言い出すんですか」
モナーの隣にいた男が彼を窘めた。
もじゃもじゃの体毛を見るにつけ、フォックスは一瞬顔を顰めた。
爪'ー`)y-~「お一人ではなかったんですね」
( ´∀`)「ボディーガードモナ。でも信頼できる男モナよ。口も堅いし、便利だし」
いろいろ言い足そうな顔をぐっとおさえて、男はフォックスに手を伸ばした。
ミ,,゚Д゚彡「フサギコと申します。今日はご協力ありがとうございます」
爪'ー`)「ああ、こちらこそ」
つ- ジ...
434
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:49:50 ID:nozhF/0E0
( ´∀`)「毎度毎度ご苦労様だモナ。毎年同じ事なのに」
ミ,,;゚Д゚彡「こらこら、何を言い出すんですか」
モナーの隣にいた男が彼を窘めた。
もじゃもじゃの体毛を見るにつけ、フォックスは一瞬顔を顰めた。
爪'ー`)y-~「お一人ではなかったんですね」
( ´∀`)「ボディーガードモナ。でも信頼できる男モナよ。口も堅いし、便利だし」
いろいろ言い足そうな顔をぐっとおさえて、男はフォックスに手を伸ばした。
ミ,,゚Д゚彡「フサギコと申します。今日はご協力ありがとうございます」
爪'ー`)「ああ、こちらこそ」
つ- ジ...
435
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:51:12 ID:nozhF/0E0
モナーはこの日、フォックスの手紙によって招集された。
急を要するとの題で始まり、魔人が避難している様が続く内容だった。
先日のサイレン以来、メガクリテの中では魔人に対する憤りが高まっている。
今日もまた、高らかに響いたサイレンに、多くの魔人が暴走し、町を破壊し始めていた。
もうじき、メティス国軍による魔人討伐が始まる。
情報は魔人の間にも広まっていた。
逃げるならば今しかない。
フォックスはモナーに、自分の身近にいる魔人を匿うよう依頼したのであった。
( ´∀`)「魔人は三人、モナか」
爪'ー`)「ああ。全員私の教会で雇っていた、謹慎中の奴らだ」
( ´∀`)「ほかの魔人は?」
爪'ー`)「難しい質問ですね」
436
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:52:12 ID:nozhF/0E0
メガクリテには未だに多くの魔人がいる。
その全てを把握しているのは、メティス国教会だろう。
だが教会の本部はすでに破壊されている。
野放図となった魔人が路頭に迷い、あちこちで争いごとの渦中となっていた。
( ´∀`)「外は酷い有様だったモナ」
旅をしながら見てきた景色を、モナーはついぞ思い起こしていた。
勇壮だったメガクリテの街並みが石つぶてへと変貌したこと。
人の気配も薄れた町で、血だらけで呻いていた魔人達。
( ´∀`)「安全に森まで辿り着けるか保証は無いけれど、それでも良ければ協力するモナ。
最低限の尽力はするつもりモナよ」
魔人の村の酋長として、モナーは来訪していた。ここに来るまでの間にも葛藤はあった。
当初の目的だった新年の挨拶はとうに果たせそうにない。
本来ならサイレンが鳴った時点で帰路につくこともできた。事実、付き人のフサギコはそう提案をした。
だがモナーは拒否し、メガクリテへの旅路を急いだ。
町の魔人をサイレンや、人々の手から保護するためだった。
437
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:53:16 ID:nozhF/0E0
メガクリテの中にはすでに魔人の隠れ家が数カ所発生していた。
彼らはメティス国軍や義勇軍によって捜索、逮捕されていたが、何件かはいまだ残っており、モナーと連絡を取り合っていた。
司教フォックスもそのうちのひとつで、今日は別の魔人の隠れ家も訪ねてからの来訪だった。
爪'ー`)「恩に着ます。今連れてきますので」
そう言って、フォックスは店内の奥へと進んでいった。
フュームがバーだという話はモナーもすでに伝え聞いていた。
そのシックな内装に、このときになってようやく意識を向けられた。
木製の丸テーブルや椅子、バーカウンターも設えてあり、棚には数点のワインボトルが淡い灯りに照らされている。
( ´∀`)「拠点に戻る前に一杯ひっかけたいモナね」
ミ,,゚Д゚彡「そんな余裕ありますかね」
( ´∀`)「ないモナ?」
ミ,,゚Д゚彡「さっきのサイレンで国軍も義勇軍もざわついています。
できることなら用が済んだらすぐに帰った方が、私は安心します」
438
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:54:15 ID:nozhF/0E0
( ´∀`)「ぐむむ、面倒モナね」
口惜しい、とでも言いたげな様子で、モナーはワインセラーを見つめていた。
戻ってきたのはフォックスと、もう二人いた。
(・く・ハリ「ハクリです」
短い白髪の小柄な男がまず頭を下げた。
ξ゚⊿゚)ξ「ツン」
その隣に並ぶ金髪の少女が短く名乗った。
( ´∀`)「二人とも、久しぶりだモナ」
モナーは一層の笑みを湛えた。
ハクリもツンも、更正という名目でモナー自身がフォックスの教会へ送った魔人だった。
439
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:55:16 ID:nozhF/0E0
( ´∀`)「こんなところで巡り会うだなんて、何かの縁モナね。元気モナ?」
(・く・ハリゞ「それなりです」
ハクリは少しだけ顔を綻ばせた。
一方のツンは何も応えない。
どちらかといえば、モナーのことを睨み付けていた。
( ´∀`)「……まだ恨んでいるモナ? 教会に送ったことを」
ξ゚⊿゚)ξ「別に」
( ´∀`)「それじゃ、何モナ?」
ξ゚⊿゚)ξ「何も」
ミ,,#゚Д゚彡「おい、おまえ」
見かねた様子で、フサギコが一歩前へ出た。
440
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:56:16 ID:nozhF/0E0
ミ,,#゚Д゚彡「無礼だぞ。まともに顔も合わせずに」
( ´∀`)「まあいいモナよ。フサギコ、落ち着けモナ」
ミ,,;゚Д゚彡「しかし」
( ´∀`)「いいモナ。ツンの性格は私もよくわかってるモナよ」
ξ゚⊿゚)ξ「……何言ってんのよ」
ツンは吐き捨てるように呟いた。
ミ,,#゚Д゚彡「お前」
( ´∀`)「やめろって」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
重苦しくなった空気を、モナーが「そういえば」と断ち切った。
441
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:57:17 ID:nozhF/0E0
( ´∀`)「確か人間を匿っているモナよね?」
爪'ー`)「ええ、ツンを助けてくれた人です」
( ´∀`)「どこにいるモナ?」
爪'ー`)「ツンには客間を案内させておきました。おい、ツン。呼んできてもらえるかな」
フォックスがツンに呼びかけると、ツンは見るからに嫌そうな顔をしてみせた。
それでも何も言い返さず、バーカウンターの奥へと下がった。
爪'ー`)ゞ「すみませんね、いつも苛ついていて」
( ´∀`)「いやいや、わかっていますモナ」
頭を下げるフォックスを前に、モナーが愛想笑いを浮かべたとき、唐突に怒声が聞こえてきた。
先ほどツンが入っていったのとは別の、店の奥へと通ずる鉄扉からだ。
爪'ー`)「ああ、まずい。ハクリ」
442
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:58:14 ID:nozhF/0E0
フォックスが焦り顔で言い、ハクリは「おう」と奥の扉へと駆けていった。
爪'ー`)「すみません、こっちで抑えていた魔人がいるんです」
( ´∀`)「三人のうちのもう一人か、サイレンの影響モナ?」
爪'ー`)「縛っておいたのですが、甘かったみたいですね」
言い終えるやいなや、扉の向こう側から大きな打撃音が響き、フュームの店内が揺れた。
明らかに何かが崩れる音が響き渡る。
爪;'ー`)「ちょっとしゃれにならないかもしれない」
フォックスは苦笑いをしてポケットに手を突っ込んだ。
抜き取ったその指先には煙草があり、流れるように口へと運んだ。
443
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:59:14 ID:nozhF/0E0
爪'ー`)y-「手伝ってもらえますか」
火をつけながら、フォックスは酋長に目を向けた。
モナーは鷹揚に頷いた。
( ´∀`)「フサギコ」
ミ,,゚Д゚彡「ええ」
言うが速いか、モナーの隣にいたフサギコが、消えた。
爪;'ー`)y-~「え?」
フォックスがきょとんと呟く、その瞬間には鉄扉が弾け飛んでいた。
444
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:00:40 ID:nozhF/0E0
( ´∀`)「大丈夫。もうあっちに言ったモナ」
モナーは笑みを湛えたまま言う。
相変わらずフォックスは呆然としながら、煙草を口に咥えた。
その煙草の火が消えていると気づいたとき、扉を失った店の奥から激しい打撃音が数回響いた。
獣の呻きは、そこで途絶えた。
☆ ☆ ☆
445
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:04:17 ID:nozhF/0E0
獣の声がフュームの店内に響き渡っているのと同じ頃。
簡易な客間にて、ツンはブーンと相対していた。
( ^ω^)「何の音?」
ξ゚⊿゚)ξ「グルーが暴れているのよ。さ、ちょっとついてきて」
と、ツンが手招きをする。
ブーンは少し首を捻った。
( ^ω^)「お店に戻るんじゃないのかい」
ξ゚⊿゚)ξ「今は戻らない方が良い。裏口から出て行って」
ツンはきっぱりと言ってのけた。
446
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:05:59 ID:nozhF/0E0
ξ゚⊿゚)ξ「今、魔人の村の酋長が来ているの」
( ^ω^)「それってフォックスさんが言っていた、僕に会いたがっている人だよね。だったら尚更言った方が」
ξ-⊿-)ξ「会わない方が良い」
ツンは前のめりになって言った。
ξ-⊿-)ξ「フォックスさんの手前、何も言わなかったけれど、酋長はとっても悪い人なの」
( ^ω^)「悪い?」
ξ-⊿-)ξ「そう。最悪。絶対関わり合いにならない方がいいから、今は逃げて。
それで今から私が言う人のところへ」
447
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:07:24 ID:nozhF/0E0
(;^ω^)「ちょ、ちょっと待って」
慌ててブーンはツンを制した。
(;^ω^)「いきなり言われても困るよ。悪いって、どういうこと? どうしてそんなに急がなきゃなんだ」
ξ#゚⊿゚)ξ「いいから! 言うことをきいて!」
ブーンが要領を得ないのをよそに、ツンが声を荒げた。
ξ#゚⊿゚)ξ「いい? 細かいことは気にしないで。
今ならまだ、あなたがいなくなっても、『グルーが暴れたのに驚いてどこかへ行ったみたい』って理由がつくの。
酋長達も反論できないの。ぐずぐずしてたらあなたが、酋長に捕まっちゃう」
捲し立てながら、ツンの声が震えを帯びていった。
顔つきが次第に赤らんで、今にも泣きそうになってくる。
448
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:08:54 ID:nozhF/0E0
(;^ω^)「……わかった、逃げてみるよ」
気圧されたようなものだが、ブーンは頷いた。
ツンは心底からホッとした様子で溜息をついた。
( ^ω^)「それで、会いに行く人っていうのは?」
ξ゚⊿゚)ξ「うん。まってね、地図を渡す」
そう言って、ツンはポケットから片手で持てる程度の地図を渡してくれた。
紙製で、真新しい。町の通りの名前といくつかの目印が手書きで記されていた。
ξ゚⊿゚)ξ「この店の裏手に広がる林を真っ直ぐ進めば大通りに出る。そこを右に折れて」
449
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:09:52 ID:nozhF/0E0
指でなぞりながらツンが説明をする。通りを三回ほど渡った先の、住宅街の一角を指し示した。
ξ゚⊿゚)ξ「ここに新しいお家があるはずよ。そこに住んでいる人に声をかけて。きっとすぐに事情がわかるはずだから」
( ^ω^)「だいたいわかった。けど、大丈夫かな。僕、初めて会うわけだけど」
ξ゚ー゚)ξ「……初めてじゃない」
ツンは久しぶりに、顔を綻ばせた。
ξ゚ー゚)ξ「あなたのことを知っている、良い人よ」
どんな人――と、問いが喉まで出かけた矢先に、一際大きな振動が起こった。
450
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:11:13 ID:nozhF/0E0
ξ゚⊿゚)ξ「……グルーがやられたみたい」
ツンが険しい顔つきになり、ブーンに向き直った。
ξ;゚⊿゚)ξ「急いで、裏口へ」
客間を出て廊下を渡り、鉄製の簡素な扉をツンが開いた。
店の裏手の林は薄暗く、雨にしとしとと濡れていた。
湿った地面の上をブーンは歩み進んだ。
ξ゚⊿゚)ξ「ありがとう」
先にツンが言った。
( ^ω^)「いやいや、いいよ。いろんな目にあったけど、賑やかで楽しかった」
451
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:12:05 ID:nozhF/0E0
ξ゚⊿゚)ξ「……うん」
しばらく黙ってから、ツンが頷いた。
言葉の間が気になって、ブーンはしばらくツンを見つめていた。
ξ ⊿ )ξ「行って」
追い払うようにツンは手を払った。
風が止んだ。
音も、気配も立ち消えた。
ツンは、揺れの止まった金の髪を掻いた。
顔が見える。
震えている。
幾度となく歯のかち合う音がブーンにまで届いている。
452
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:13:04 ID:nozhF/0E0
何故彼女が震えているのか、ブーンには皆目わからなかった。
今日出会ったばかりのツンのことをブーンは何も知らなかった。
それにもかかわらず、奇妙とも恐いとも感じなかった。
赤らんだ瞳を震える瞼でこじ開けて、ツンは声を張り上げた。
ξ;⊿;)ξ「あなたとここで、会えて良かった」
ブーンの背後で扉の閉まる音が、雨音に紛れながら微かに響いた。
大通りが目に見えたのは、それからさらに数分歩いてからのことだった。
☆ ☆ ☆
453
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:14:08 ID:nozhF/0E0
(3)order
何も見えない場所。皮膚の感触さえ薄く、生きているかもわからない。
ただ音だけが聞こえている。
許して。
ぼやけていた声色が次第に大きくはっきりと聞こえてくる。
音源は近い。暗がりの向こう側にいるのだろう。
ニュッ君は思い起こしていた。
自分の一番古い記憶。
暗がりの何も見えないところで、やはり女の声が響いていた。
許して。
それは彼の一等嫌いな言葉だ。
迷える人は許しを請う。
自らの罪を購うために、一心不乱に文言を唱える。
神様どうか見捨てないで。
その言葉の行く先に、もうすでに彼はいない。
454
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:15:05 ID:nozhF/0E0
真っ暗な教会の、聳え立つ扉の下でタオルを巻かれて放られている。
それで全てが終わったと、思っている女を睨んでいる。
彼は思った。自分は忘れ去られたのだと。
神に向けられた瞳はもう自分に注ぐことはないと。
許して。
まだ、音が聞こえる。
あの大嫌いな音が聞こえる。
まとわりつくようにして、自らを恃む音が聞こえる。
一体誰が言い続けているんだ。
黙ってほしい。
切実に彼は思う。
455
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:16:07 ID:nozhF/0E0
許して、許して、許して。
声はなお、一層大きく。
強く。
ヽiリ,,;ヮ;ノi「ニュッ君!」
温もりのある光が、瞼を赤く照らした。
456
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:17:06 ID:nozhF/0E0
(メ) ν )「……うぁ」
喉の奥からガラガラの声が出た。
自分の声じゃないみたいで、笑おうとして、咳き込んだ。
彼の口の中で鉄の味が広がった。
ヽiリ,,;ヮ;ノi「ニュッ君……生きてる?」
彼の視界はなおぼやけていた。瞼をこじ開けても、まだそこには赤い色が広がっていた。
鉄の匂いがする。その匂いが、彼の全身を包み込んでいる。
いや、逆か。
彼はようやく事態を把握した。
その匂いは自らから流れ出る血のものだった。
(メ) ν )「スパム……先生ェ」
相変わらずだみ声を発せば口の端に泡が立った。
身体の奥底が動くことを拒絶していた。
457
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:18:08 ID:nozhF/0E0
光に目が慣れてきた。
決して強い光ではない。室内ランプから漏れ出ているものだ。
ひび割れたそれが、天井から傾げながら辛うじて点滅を繰り返していた。
窓の外には未だに黒い雲が見えている。雨も降っているようだ。
スパムの顔はすぐ傍にあった。
雨に濡れそぼった頬には、黒々とした毛が並んでいる。
異形のそれの真ん中で、スパムはしかし泣いていた。
頬張り、角を頂き、骨格から変形していたとしても、その潤んだ瞳だけはスパムと変わらなかった。
(メ) ν )「どうしたんすか、そんな顔して」
ゼイゼイと言葉にノイズが入り込む。
言い切った途端、疲労感がニュッ君を襲った。
強張った腹の奥から血が這い上ってくる。
それを無理矢理飲み下して、歯を震わせながら、スパムを見つめていた。
ヽiリ,,;ヮ;ノi「許して、ニュッ君」
458
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:19:04 ID:nozhF/0E0
深遠から聞こえるような響きをスパムは発した。
それが今の彼女の声だった。
ヽiリ,,;ヮ;ノi「あの音を聞くと、どうにもならないの。普通でいようと思っても身体が勝手に、おかしくなって……」
声は尻すぼみになっていく。
目をそらしたスパムは、唇を尖らせた。
ヽiリ,,;ヮ;ノi「どうして逃げなかったの……」
痛む頭の中で、ニュッ君は記憶を掘り起こした。
暴れ出したスパムを見て、ニュッ君はそれに立ち向かった。
逃げようなどとは一切思いつかなかった。
(メ) ν )「止めたかったんすよ、あんたを」
459
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:19:59 ID:nozhF/0E0
ヽiリ,,;ヮ;ノi「……できるわけないじゃない。ニュッ君はただの人間なのに」
(メ) ν )「ええ」
ヽiリ,,;ヮ;ノi「魔人とは全然違うのに」
(メ) ν )「はい」
ヽiリ,,;ヮ;ノi「逃げてくれれば……こんなことにならなかったのに」
(メ) ν )「そんなにひどいっすかね、俺」
ニュッ君の身体は瓦礫に埋もれていた。
新しく建てられたばかりの家が四方八方砕け散って、その破片が彼を生き埋めにしていた。
あっという間のことだった。
記憶を掘り起こしても、憶えていることはわずかしかない。
スパムの角が壁や天井を破壊していった。
まるで現実感もなく、紙細工みたいだ、と思っているうちに、強い衝撃が全身を打った。
そこから先の意識はない。
460
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:21:08 ID:nozhF/0E0
辛うじて頭は動いた。
他はまるで動かない。
動かせる気にもならなかった。
(メ) ν )「……すいません、先生を見ていたら、自分を止められませんでした」
生きた心地がしない。
だが、ニュッ君の口はまだ動いた。
瞳は、泣き崩れるスパムを見続けていた。
その涙を止めたいと、切に願った。
(メ) ν )「だから俺も、先生と大差ないっすよ」
(メ) ν )ニッ
ヽiリ,,;ヮ;ノi「……何言ってるのよ」
怒らせたか。
心の中でがっくりしながら、ニュッ君はなおも鼻を鳴らした。
461
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:22:05 ID:nozhF/0E0
(メ) ν )「先生は、何にも悪くないっすよ」
虚を突かれた顔のスパム目がけて、ニュッ君は話を続けた。
(メ) ν )「俺はあのヘルセの町で、先生に仲良くして貰った。真っ当な人として扱って貰えて、心底嬉しかった。
今日は運が悪かったんすよ。そこに、俺が勝手に突っ込んだだけ。自業自得です。
先生を祝いたかっただけなのに、粋がっちまった。情けねえ」
でも。
血を吐きそうになるのを堪えながら、ニュッ君は言葉を手繰り寄せた。
(メ) ν )「先生はちゃんと戻ってくれました。それだけで十分っす。
俺は先生のことを許します。当然、絶対」
462
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:24:16 ID:nozhF/0E0
言いながら、ニュッ君は自分に驚いていた。
頭の中は痛みが飛び交っている。とても思考できる状態ではない。
それにもかかわらず、次から次へと言葉が溢れてきた。
自分が話しているのではないような気分がした。
自分のどこに、人を許す余裕があるのか、不思議でならなかった。
あんなに嫌いだった、「許して」という言葉を聞き入れるなんて。
そもそも魔人自体に嫌悪を抱いていたはずなのに。
波打っていたものがぶつかりあい、混濁した。
ニュッ君の胸中は凪いでいた。
獣と化したスパムを見て、その全景を見据え、なおも乱れなかった。
血だまりに身を浸されていようとも、瓦礫に埋もれていようとも。
スパムの声が自分に向けられていることを、むしろ彼はひたすら嬉しく思った。
(メ) ν )「だから先生、幸せになってください」
463
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:25:03 ID:nozhF/0E0
ヽiリ,,;ヮ;ノi「……いや」
咄嗟、といった様子でスパムはニュッ君に叫んだ。
ヽiリ,,;ヮ;ノi「幸せになんてなれない。そんな資格、あたしにはない」
(メ) ν )、「あるっすよ」
ニュッ君も叫び声になった。
口の端に泡立つ血が弾け飛んでも気にならなかった。
(メ) ν )、「絶対。先生が生きていける場所が絶対どこかにあるはずなんです。だから今は逃げて、生き延びて」
ヽiリ,,;ヮ;ノi「無理よ!」
スパムは絶叫し、頽れた。
足が支えを果たさなくなり、ニュッ君を囲む瓦礫に撓垂れかかった。
464
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:26:02 ID:nozhF/0E0
両の手が彼女の顔を覆う。
獣の毛の内側で、本来の髪が掻き上げられた。
ヽiリ,,;ヮ;ノi「無理よ……もう、どうやって生きたら良いかわからない」
響き渡る慟哭とともにスパムの角が壁をまた削った。
半壊したそれがさらに崩れ、雨が入り込んでくる。
遠くで警報が鳴っている。サイレンが起きたあとによく町に響き渡る、義勇軍の警報だ。
どこかで魔人が暴れている。軍はすでに出動しているだろう。
この家の惨状も、見ればすぐにわかるだろう。
(メ) ν )「逃げてください」
ニュッ君の言葉に、スパムは首を横に振る。
顔を見合わせてくれなかった。
ヽiリ,,;ヮ;ノi「ここにいる」
465
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:27:01 ID:nozhF/0E0
(メ) ν )「先生」
ヽiリ,,;ヮ;ノi「いいよ。軍が来ても、あたしは逃げない」
スパムの震えが止まった。
顔が上がり、角がさらに壁を穿つ。
ヽiリ,,;ヮ;ノi「それがこの社会の秩序だもの。こんな風に暴れちゃうのも、その咎で捕まるのも。
もう抗うのは疲れたよ。もういいの。
何にも興味を抱かなければ、あたしはもっとずっと、平穏に――」
不意に声は途切れた。
(メ) ν )「スパム先生?」
問いかけたニュッ君の前で、スパムは固まっていた。
口を閉じ、目は見開いて、呼吸さえも止めているようだった。
466
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:28:05 ID:nozhF/0E0
(メ) ν )、「先生」
再度呼びかける。
それが引金となったのか、スパムの口が歪んだ。
笑ったのかと最初は見えた。
しかしすぐに笑みは消えた。口はただ、大きく広げられただけだった。
音が響いた。
辛うじて人の声が聞こえていた、先刻までとはまるで違う。
低く籠もった、トナカイの鳴き声だ。
(メ) ν )「まだ……戻ってなかったのかよ」
467
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:28:45 ID:nozhF/0E0
あるいは一時だけ、スパムの意志が獣の本能に打ち勝っていた。
そう思いついた途端、ニュッ君は吐息をついた。
自分にも不思議な、安堵からくる溜息だった。
続いて、諦念がせり上がってくる。
やるだけのことはやった。
これ以上できることはない。
(メ) ν )「……同じっすね、先生」
すでにスパムの瞳に正気は宿っていなかった。
超克した意志も丸め込まれたのだろう。
赤く血走り光る瞳はどこにも焦点を合わせないままで、毛むくじゃらの身体が揺れた。
足を鳴らせば床が弾け、角を震えば天井や壁がこぼれ落ちる。
足下に散らばっていた瓦礫を蹴散らして、スパムがニュッ君に注いだ。
知己の者へ向ける視線とは違う。
獲物を捉えた獣の目。
468
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:29:37 ID:nozhF/0E0
咆哮が聞こえた。
振動に、ニュッ君は目を開けていられなかった。
大きな力を前にして、視界は暗くなる。
もうこれでいい。
頭の中で同じ言葉を繰り返した。
悔やみも恨みもしない。
怒りも悲しみもどこか遠くへ逃げてしまった。
469
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:30:37 ID:nozhF/0E0
今まで、それなりに長い旅をしてきた。
メティス国内の北から南へ、寄り道をしながらも留まることなく歩んできた。
傍らには妙に武道に長けた男がいて、出会った人も多い。知ったことも、思い知らされたこともある。
経験したことは少なくない。
旅だったヘルセの町には自分の育ての親がいる。
申し訳ないといえば、その人のことだ。
せっかく俺のためを思って旅を見送ってくれたというのに、と不甲斐ない想いを噛みしめた。
次いで、頬を温かいものが伝った。
元よりニュッ君は孤児だった。
最初に育った教会を旅立つとき、自分は一切泣かなかった。
泣くべき対象を思いつくこともなかった。
470
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:31:40 ID:nozhF/0E0
やり残したことはいくつもあった。
遠くへ行きたいとも思ったし、働きたいとも思った。
破壊される街並みを前に、強い憤りを感じた。
そして一番の心残りは今すぐそばにいる。
できることなら自分の手で止めてあげたかった。
一時の正気だけでなく、これからずっと、先まで保証できるように。
顎から滴り落ちる涙が喉元を熱く湿らせた。
俺も変わったものだ。
最期になって、思い起こすものがたくさんあって、やり残したと思えるものがある。
まるで普通の人のようだ。
ああ、そうか。
それが俺の望みで、だから俺は安堵しているのか。
471
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:32:35 ID:nozhF/0E0
(メ) ν )ニッ
自分に向って、ニュッ君は笑んだ。
そして、不思議に思った。
どうしてこんなに思考を続けられるのか。
スパムは、今にも自分を襲おうとしていたのではなかったのか。
472
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:33:22 ID:nozhF/0E0
ニュッ君は恐る恐る薄目を開いた。
スパムは目の前に立っていた。
血走っていた瞳が、元の色合いに戻っている。
それどころか、見ている間にも体毛が散っていった。
(メ) ν )「先生?」
驚愕に、ニュッ君は目を見開いた。
瞬いても、目の前の自体が理解できなかった。
( )「魔人には、魔人の秩序がある」
スパムの背後からその声はした。
深く落ち着いた、人間の男の声だ。
473
:
同志名無しさん
:2017/05/20(土) 22:33:31 ID:2Kcgz2560
久々だなしえしえ
474
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:34:17 ID:nozhF/0E0
スパムの肩に手を触れて、その男は脇に立った。
( )「君たちは縛られている。ずっと、僕が生まれるよりも遥かに昔から」
男はスパムの身体を手繰り寄せた。
放心した様子のスパムが膝立ちになり、男に凭れた。
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「あなた……」
それは人の声だった。
475
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:35:33 ID:nozhF/0E0
( )「もう大丈夫」
抱擁する二人を前に、ニュッ君は悟った。
この男がスパムのパートナーなのだ。
( д )「もう大丈夫。元通りになる。たとえまたサイレンが鳴っても、いくらでも元に戻す」
スパムの肩に手を回しながら、男は唇を噛んだ。
微かな怒りがその顔に見て取れた。
( д )「いくつもの事態が君らに降りかかろうとしても」
オルドル
( ゚д゚ )「僕に君らの"秩序"は効かない」
476
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:36:25 ID:nozhF/0E0
男は、壊れた天井を見据えた。
精悍な横顔がニュッ君からよく見えた。
大柄で、優しそうな男。
いつかスパムがそう表していた。
そのとおりだと彼は思った。
☆ ☆ ☆
477
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:42:36 ID:nozhF/0E0
(4)優しさ
メガクリテ南方に聳える正門が開き、武装した軍勢が侵攻を始めた。
何の連絡も受けていなかった、町の市民は驚き迷い、どこへともしれず逃げ出す者もいた。
混乱を余所に、見知らぬ軍勢は街道を闊歩し、一斉に市街地へと踏み行った。
彼らの赴いた先は全て、義勇軍により、魔人の出没する危険地帯と見做された地域だった。
これにより、市民はようやく彼らが敵でないと知る。
軍の中には、金の螺旋が描かれた赤い旗が靡いている。
隣国、テーベの軍だった。
招き入れたのは義勇軍だ。
町の惨状を見かね、国軍が鈍重なことに苛立ち、遠方まで使者を飛ばした。
478
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:43:28 ID:nozhF/0E0
隣国の首都の窮状を救ってほしい。
通常ならば到底受け容れられぬ願いだろう。
国軍はその国を守るために組織されているものだ。
人材にも武装にも配備には費用が掛かる。
遠征ともなれば食糧補給や医術、道中の工程をも詳らかに計画しなければならない。
義勇軍とてそのことはわかっていた。
それでも使者を送ったのは、窮状に憤る者の声が高く、強く響いたからだ。
幸か不幸か、テーベ国軍は快諾した。
479
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:44:28 ID:nozhF/0E0
メガクリテ市内に蔓延る魔人、総数約千名。
一方テーベが派遣した軍人は総勢一万を超えていた。
しかもその全てが、テーベの開発した量産型の新武装を兼ね備えていた。
鋼よりも固く、それでいて衣服と変わりない重量の鎧、
さらに銃剣と車、果ては空飛ぶ機械までもが投入された。
噂に伝え聞いていたテーベの飛行機。
その雄姿をこのとき初めて目にしたという市民も少なくなかった。
鉄の胴に鉄の翼。爆音を張り上げて空を行く鉄の鳥。
市民の見守るその先で、底部の蓋が開き、銃を覗かせた。
狙いは危険地帯。元々の飛行音に発破の轟音が重なり、現場は耳を聾さんばかりだったという。
しかし後の記録によれば、このときの飛行機の成果は芳しくなかった。
被弾した魔人はゼロ。戦闘能力よりも、市街地をむやみに破壊した罪に却って問われることとなる。
豪放磊落な軍幹部が前向きでなければ、運用までの道筋はまだまだ遠かったことだろう。
480
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:45:27 ID:nozhF/0E0
テーベの国軍は意欲的だった。
一方メティス、メガクリテの市民は判然としないままことの次第を見守っていた。
倒されていく魔人を見て快哉を叫んだ者もいる。
他国の軍隊が首都に攻め入っている。
魔人討伐という名目があろうとも、そのことの異常性に気づく者は現場にはいなかった。
時は戻って。
テーベ侵攻の始まらんとしたとき。
ξ-⊿-)ξ「いなくなったわ」
フュームの中でツンは肩を落としていた。
481
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:46:28 ID:nozhF/0E0
ξ-⊿-)ξ「逃げちゃったみたい。グルーが暴れたから、恐くなったんでしょ」
_,、
(・く・ハリ「本当か」
即座にハクリが鋭い視線をツンにぶつけていた。
ξ゚⊿゚)ξ「疑うの?」
_,、
(・く・ハリ「ツンを責めるつもりはないが、あいつがそれくらいのことで逃げるなんて思えなくてな」
椅子に腰掛けたハクリは肩を押さえていた。
ブーンが訪ねてきたときに一打見舞われた場所だ。
それに加え、暴れるグルーを抑えているうちに痛みは再発していた。
(グー゙ル「そうだったーとしかいえねーよん、兄貴」
グルーが飄々と口を挟んだ。
もっとも全身を縄で縛られ横たわったままにしては異様に軽やかだった。
(グー゙ル「とにかくもうこの店のどこにもいねーんさ、気にしたってしかたねーんよ」
_,、
(・く・ハリ「……それはそうだが」
482
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:47:31 ID:nozhF/0E0
( ´∀`)「納得いかないモナ?」
ハクリの歯切れの悪さを見て、テーブル席に腰掛けていたモナーは首を傾げた。
_,、
(・く・ハリ「強かったんだ」
ハクリは静かに受け答えた。
_,、
(・く・ハリ「俺に勝った男だ。いくら凶暴になったと言ったって、グルーに臆するとは思えない」
( ´∀`)「ほうほう、それは気になるモナ。いったい実際のところどんな人で」
ξ゚⊿゚)ξ「ダラダラ話している時間はないんじゃないの」
話の途中で、ツンが言葉を突き刺した。
ξ゚⊿゚)ξ「街の方が騒がしい。義勇軍に動きがあったみたい。
ここもそろそろ危ないわ。酋長、連れて行くならはやくした方がいいわよ」
483
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:48:33 ID:nozhF/0E0
爪;'ー`)y-~「ツン、お前……」
驚き顔のフォックスを、ツンは一瞥した。
ξ゚⊿゚)ξ「何ですか」
爪;'ー`)y-~「いや……お前が言うこととは思えなくてな」
ξ゚⊿゚)ξ「気が変わったんです。森も案外、いいところかもしれないでしょ」
爪;'ー`)y-~「……へえ」
物言いたげだったフォックスは結局目を伏せ、煙草を吸った。
爪'ー`)y-~「酋長さん、意見は」
( ´∀`)「急ぐのは賛成、ただ表の道はかなり厳しいモナ。やっぱり裏の林を抜けるのが一番モナね」
484
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:49:30 ID:nozhF/0E0
グルー、ハクリ、ツンはモナーとフサギコの後に続いて裏口に回った。
雨を受けて霧がかかっており、視界は頗る悪かった。
( ´∀`)「林の先に仲間を配置したモナ。まっすぐ行けば出会えるモナ。
そこから先は森を伝ってエウロパまで行けるモナよ」
(グー゙ル「そんな楽にいくかなー」
(・く・ハリ「楽なわけがない。いつでも身を守れるようにしておけ」
(グー゙ル「おー、でも僕簀巻きー」
(・く・ハリ「……」
ミ,,゚Д゚彡「解いたらだめだからな。サイレンはぶり返す例もあるんだから」
(グー゙ル「おー」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
485
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:50:32 ID:nozhF/0E0
爪'ー`)y-~「不安かい」
「司教、気にしなくていいですよ」
爪'ー`)y-~「お前それ否定できてないぞ。お前にしては珍しいな」
ξ゚⊿゚)ξ「まあ、エウロパの森は今までずっと逃げていたところですから」
爪'ー`)y-~「……」
くすぶる煙草の香りが広がる。
雨に降られていようとも、煙は執念深く漂っていた。
フォックスが大きめに息を吐いた。
爪'ー`)y-~「いつかお前が本心を見せてくれると信じていたんだがな」
独り言のようにも聞こえた。
聞流すこともできただろう。
486
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:51:34 ID:nozhF/0E0
ツンは息をのんだ。
微かに、フォックスにしか聞こえない音で。
ξ ⊿ )ξ「……苦手なの、そういうのは」
そう言って、ツンはフォックスから目を背けた。
爪'ー`)y-~「……知ってるよ」
目を細めながら、フォックスは呟いた。
煙のようなその声は雨音に消えた。
( ´∀`)ノシ「さあさ、私が先に歩くモナ。ついてきて」
諸手を挙げてモナーが歩き始める。
487
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:52:37 ID:nozhF/0E0
グルーとハクリが続き、ツンも歩き始めようとした。
( ´∀`)「おっと、待つモナ。君はフサギコと行けモナ」
ξ;゚⊿゚)ξ「えっ」
( ´∀`)「一緒くたに歩くと危険モナ」
ミ,,゚Д゚彡「というわけだ」
いつの間にやら、フサギコはツンの傍らにいた。
ξ;゚⊿゚)ξ「フサ……」
ミ,,゚Д゚彡「大丈夫、置いてったりしねえから」
ツンの視線が揺らぐ。
フサギコからずれ、あてもなくさまよった。
爪'ー`)y-~「ツン」
488
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:53:32 ID:nozhF/0E0
フォックスの声に、ようやく瞳の動きは止まった。
爪'ー`)ψ~「元気で」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚ー゚)ξ「……はい」
フサギコが歩き始めた。
モナーとは斜めにずれていく。
ξ゚ー゚)ξ「行って来ます」
それきりツンは振り返らなかった。
暗がりへと進んでいくフサギコの背中をただ一心に睨み付けていた。
☆ ☆ ☆
489
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:54:34 ID:nozhF/0E0
ミ,,゚Д゚彡「なあ、ツン」
ふと、フサギコが足を止めた。
つられてツンも立ち止まる。
まだ目的地ではないだろう。
四方八方林の中。仲間の影などどこにもない。
ミ,,゚Д゚彡「俺をお前につかせたの、ありゃ酋長なりの優しさだぜ」
ξ゚⊿゚)ξ「はあ? 何それ」
ミ,,゚Д゚彡「俺は多少なりともお前を知っている。俺はお前を無闇に見捨てる気もない」
フサギコは振り返った。
長髪の内側で、真っ直ぐな視線がツンを捉えている。
ミ,,゚Д゚彡「だからさ、正直に言ってくれよ。ブーンを逃がしたろ、お前」
490
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:55:33 ID:nozhF/0E0
ξ゚⊿゚)ξ「……」
ξ゚⊿゚)ξ「わかる?」
ミ,,゚Д゚彡「バレバレだって。お前とブーンの関係は酋長だって知っているんだし」
ξ-⊿-)ξ「まあ、疑われてもある程度は仕方ないわね」
ξ゚⊿゚)ξ「でも……それも約束を守るためよ」
ミ,,゚Д゚彡「……」
ξ゚⊿゚)ξ「ちゃんと約束通り、ブーンには何も言わなかった。私達は他人のままでいる。
二度と関わり合いにならないことが酋長の提案した条件だったはずよ」
薄闇になりつつある中で、フサギコは渋い顔をしていた。
_,、
ミ,,゚Д゚彡「そうかもしれないが」
491
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:56:32 ID:nozhF/0E0
ξ゚⊿゚)ξ「ね? だから何も問題ないでしょ」
_,
ミ,,゚Д゚彡「いや、違うんだ」
顔をゆがめたまま、フサギコは言葉を続けた。
_,
ミ,,゚Д゚彡「酋長はブーンと会いたがっている」
ξ゚⊿゚)ξ「……フォックス司教との手紙の話? あれ、本当なの?」
_,
ミ,,゚Д゚彡「ああ」
_,
ξ゚⊿゚)ξ「……なんでよ」
言うやいなや、ツンの顔に赤みが差した。
492
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:57:30 ID:nozhF/0E0
_,
ξ゚⊿゚)ξ「酋長こそ関係ないじゃない。ブーンは一般人よ」
_,
ミ,,゚Д゚彡「俺は知らねえよ。酋長はあんまり自分の考えを言わないから」
ξ#゚⊿゚)ξ「だったら聞き出してよ!」
ツンはフサギコに迫り、睨めつけた。
ξ#゚⊿゚)ξ「それともあたしをバカにしているの? 何のために約束したと思っているの。
森で見たことや聞いたことを思い出せなければいいって言ったのは酋長じゃない!」
ミ,,;-Д-彡「……すまない」
フサギコは目を閉じ、重々しく頭を下げた。
ツンは涙目を腫らしながらしばらく口を動かしていたが、言葉にはならなかった。
ξ#゚⊿゚)ξ「フサが言っても意味ない」
苦々しい様子でツンは唇を噛んだ。
493
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:58:32 ID:nozhF/0E0
ξ#゚⊿゚)ξ「酋長を問いただしてやる。森に着いたら」
ミ,,゚Д゚彡「森には行かない」
唐突にフサギコが口を挟んだ。
ξ;゚⊿゚)ξ「……え」
ミ,,゚Д゚彡「ごめんな、伝えるのが遅くなった」
ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっとそれどういうことよ」
ミ,,゚Д゚彡「サイレンは“出来損ない”にも影響するんだ」
494
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:59:33 ID:nozhF/0E0
フサギコは一転、勢いづいて話し始めた。
ミ,,゚Д゚彡「森の中でも、凶暴化は確認されている。居住区で大きな被害があった。
オルを通じての制御も受容器のない“出来損ない”には効かない。
森は“出来損ない”への処遇を変えた。猶予はない。確認されている全員を“遠つ祖の地”へ運ぶ予定だ」
ξ;゚⊿゚)ξ「西方域外の……死の灰の地へ?」
ミ,,゚Д゚彡「それは300年前の話だよ」
フサギコは改まって、ツンと向かい合った。
凜々しく澄ませた顔は矜持を湛えていた。
ミ,,゚Д゚彡「この星へ来てからずっと、俺たち魔人は土地の浄化を進めてきた。
今は暮らしている人間さえもいると聞く。昔のような、毒ガスまみれのところじゃない」
フサギコの口調は終始毅然としていた。
495
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 23:00:32 ID:nozhF/0E0
ξ;゚⊿゚)ξ「でも」
ツンの表情からは焦りが消えていなかった。
ξ;゚⊿゚)ξ「そんなところへ行って何をするの」
( ´∀`)「何もしなくていいんだモナ」
草の葉を踏み分けて、暗がりから朗らかな顔が現われた。
496
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 23:01:30 ID:nozhF/0E0
ミ,,;゚Д゚彡「酋長!」
フサギコは目を見開いた。
ミ,,;゚Д゚彡「い、いつからそこに」
「あの二人を仲間に引き渡してからすぐ、五分くらい前からモナよ。
君らが話に熱中しすぎていたんだモナ」
ミ,,;゚Д゚彡「……何か聞かれました?」
( ´∀`)「ぬふふ、何も記憶にないモナ」
ザッザッザッ
( ´∀`)「モナ?」
497
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 23:02:29 ID:nozhF/0E0
「だらっしゃああああああ!」
Σ==========ξ#゚⊿゚)ξつ);´∀`)「ぐえー」
ミ,,;゚Д゚彡「あー!!」
ξ#゚⊿゚)ξ 「ふんっ」
つ=つ シュッシュッ
綺麗な弧を描いてモナーは地面に倒れ伏した。
握り拳を振りぬいて、ツンは仁王立ちになった。
重たく吐息を吐いたまま、視線はなおもモナーにむいていた。
498
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 23:04:24 ID:nozhF/0E0
ビシィッ
ξ#゚⊿゚)ξσ「次は頭よ、モナ公」
ミ,,;゚Д゚彡「いやそこ今クリーンヒットしたろ。ていうかお前何してんだよこのバカ!」
ξ#゚⊿゚)ξ「問いただすって言ったでしょ」
ミ,,;゚Д゚彡「その言葉にぶん殴るって意味はねえよ」
( ´〜`)「モニャモニャ」
( ´∀`)「……ナ、モナ。よし、顎が嵌まったモナ」
499
:
同志名無しさん
:2017/05/20(土) 23:04:40 ID:2Kcgz2560
魔人て宇宙人なの?
500
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 23:05:06 ID:nozhF/0E0
ミ,,;゚Д゚彡「ご無事ですか酋長」
( ´∀`)∩「元気モナ。ツンも血気盛んモナね」
ξ#゚⊿゚)ξ「……殴られた意味はわかりますか」
( ´∀`)「素直に聞き入れてくれないだろうとは思っていたモナ」
ξ#゚⊿゚)ξ「当然です。納得できません。どうしてブーンを追うんですか」
( ´∀`)「業務上必要になったモナ」
ξ#゚⊿゚)ξ「彼は私達と無関係な、一般人です」
( ´∀`)「うん。だが、あに図らんや、彼はある意味では渦中にいるのかもしれないモナよ」
501
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 23:06:44 ID:nozhF/0E0
ξ#゚⊿゚)ξ「……?」
( ´∀`)「彼の記憶が必要なんだモナ。これは君らを返したときにはわからなかったことモナ。
不義理にも見えるだろうけど、その点は本当に申し訳ないモナ」
モナーは深々と頭を下げた。
雨は霧雨へと変わった。空の雲間には夕暮れも覗いている。
まもなく日が沈む。暗がりは一層暗くなる。
顔を顰めていたツンは、静かに口を開いた。
ξ゚⊿゚)ξ「もう一つ聞きたいことがあります」
ξ゚⊿゚)ξ「あたしは森に戻らないと聞いたんですが、本当ですか」
502
:
同志名無しさん
:2017/05/20(土) 23:06:50 ID:2Kcgz2560
あに図らんや?
503
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 23:07:21 ID:nozhF/0E0
( ´∀`)「……」
( ´∀`)「フサギコ」
ミ,,゚Д゚彡「は」
モナーの脇にフサギコが跪いた。
( ´∀`)「これもまだ説得できてなかったモナ?」
ミ,,;゚Д゚彡「……すみません」
ξ゚⊿゚)ξ「納得なんてしないわよ」
ツンは憤りを露骨に示した。
504
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 23:08:14 ID:nozhF/0E0
ξ#゚⊿゚)ξ「勝手に出来損ないを死の灰の地に送り込むなんて、誰が納得できるというの。
何よ偉そうに。そんなの、テーベのけったくそ悪い奴らとわらないじゃない」
( ´∀`)「フサギコ」
ミ,,゚Д゚彡「は」
と、聞こえたときには、すでにフサギコの姿は消えていた。
ほぼ同時にツンの手が後ろに回される。
ξ゚⊿゚)ξ「フサ」
ミ,,゚Д゚彡「悪く思うな」
505
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 23:09:15 ID:nozhF/0E0
後ろ手を取られ、ツンの身体が引き寄せられる。
( ´∀`)「悪いけど、こっちも急いでいるモナ」
酋長の顔に翳りが差し、ツンへと近づいていった。
☆ ☆ ☆
506
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 23:10:17 ID:nozhF/0E0
(5)鐘の鳴る街
街中に広がる騒音は、雨音とともに小さくなった。
魔人からの抵抗はほとんどなかった。
瞬く間に鎮圧は進行し、瓦礫と硝煙が街道を埋め尽くした。
叫びや喚きの声が響く。
正気を取り戻したばかりの魔人が縄に囚われ曳かれていった。
メガクリテの塀の外、テーベが用意した収容車の中へ次々と送られていく。
彼らはこれからテーベの北西へと目指す。
目指しているのはエウロパの森。捉えた魔人は全てそこへ送ることが取り決められていた。
どういう意図なのか、一般兵には知らされていない。
上層部の命令に素直に従い、齷齪しながら魔人を運んでいく。
彼らはそのために集められた軍隊だった。
テーベ国軍内での立場は決して高くない者たちが、功績を求めて遠征をした結果だった。
507
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 23:11:13 ID:nozhF/0E0
何も知らないメガクリテの市民は感謝し、褒め称えた。
全ては自国の政府が黙っている隙に行われている。
予測はできても止められはしない。
街は今のところ、つかの間の平和を取り戻そうとしていた。
( ^ω^)「ここか」
メモ用紙と目の前の景色を見比べて、ブーンはぽつりと呟いた。
小綺麗な街道の名残があちこちに広がっている。
そのひと区画に、半壊した建物はあった。
ツンは新居だと言っていた。
だが今のそれは、紛れもなく廃墟だった。
508
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 23:12:12 ID:nozhF/0E0
人の気配はある。
だがそれは建物内を捜索する軍隊のものだ。
赤い紗の入った軍服を来たテーベの兵士が銃剣を携えながら屯していた。
( ^ω^)「何があったんですか」
(・、・兵) チッ
兵士に聞いても碌な答えは返ってこなかった。
それどころか露骨に嫌な顔をされた。
一般市民と話している暇などない。
口には出さずとも、態度が主張していた。
509
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 23:13:16 ID:nozhF/0E0
( ^ω^)「……手がかりなし、か」
何も得られないとわかり、ブーンはその場を離れていった。
すでに日が暮れている。
降り続いていた雨も弱くなった。
か細い陽光の中で、霧に包まれた街がおぼろげに浮かび上がっている。
肌寒さに身震いし、庇の下で壁に寄りかかった。
宿はある。が、帰る気分でもない。
510
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 23:14:13 ID:nozhF/0E0
歩くのは億劫だった。
見えにくい視界と相まって、ブーンは自分の存在を不定に感じた。
どこへ行けば良いだろうか。
そればかりを考えていた。
自分の記憶を取り戻す。
もちろんそれが一番の目標だ。
揺るがせるわけにもいかない。
だが、それ以前にもするべきことがあるんじゃないだろうか。
疑問を抱く胸の底には、先刻別れたツンの顔があった。
511
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 23:15:10 ID:nozhF/0E0
詳しい事情は知らない。
が、悟ることはブーンにもできた。
彼女は自分を知っている。
おそらくは記憶がなくなる前の自分についてだ。
そして彼女は、何も言わなかった。
言わないという選択をした。
その裏側には何かが隠れている。
ブーンの知ってはいけない何か。
酋長が来る。
フュームのマスター、フォックスはそう告げていた。
512
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 23:16:15 ID:nozhF/0E0
奥の部屋にいたときに玄関の呼び鈴が鳴った。
あのとき来たのがモナーなのだろう。
そしてツンは、自分を逃がした。
このことから、モナーが自分の過去に関わっていると推測は成り立つ。
魔人の酋長というからには、モナーは魔人の上層に関わる者なのだろう。
普通の人間は魔人の実態を知らない。
魔人たちも関わろうとはしてこない。
人と魔人はまるで別の社会を築いている。
お互いの秩序の中で生き、触れ合うことで奇妙な主従関係を築く。
513
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 23:17:15 ID:nozhF/0E0
自分はモナー知らない。
なのにモナーは自分と会いたがっている。
記憶のないうちに主従関係でも結んだのだろうか。
あるいはそこまでいかないにしても、どこかで出会い、やりとりを交わしたのか。
考えてみると、自分が目覚めたのはエウロパの森の南だ。
森の中で何かが起こり、記憶を失い、外へ出た。
ブーンの頭に閃きが走った。
同時に身体が戦慄した。
寒さとはまた別の、怖ろしい想像ゆえだ。
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