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( ^ω^)は自らのパラレルワールドに迷いこんだようです- 1 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 15:39:04 ID:3zkaOYpgO
- まったり投下したいです。
- 2 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 15:40:08 ID:3zkaOYpgO
- まとめ:文丸さん
ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/parallel_world/parallel_world.htm
- 3 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 15:40:40 ID:3zkaOYpgO
-
○登場人物と能力の説明
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
从'ー'从 【手のひら還し《イレギュラー・バウンド》】
→『因果』を『反転』させる《拒絶能力》。
.
- 4 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 15:41:22 ID:3zkaOYpgO
-
○前回までのアクション
( ^ω^)
从 ゚∀从
从'ー'从
→戦闘中
( <●><●>)
→戦闘不能
/ ,' 3
→療養完了
.
- 5 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 15:43:18 ID:3zkaOYpgO
-
第十話「vs【手のひら還し】Ⅱ」
比較的年齢層の浅い人々が多い街を歩いていると、
情報というものはいとも容易く手に入るものだ。
どこぞの裏社会が統べる後ろ暗い街ならば別だが、
広告塔やネオンサインや看板が並ぶような繁華街なら
少しそこに繰り出すだけで、世論というものを得られる。
しかし、彼がこの街にやっきたのはそのためではない。
そもそも、彼のような負の感情の集大成とも呼べる存在が
そう易々と表社会に顔を出すはずもないのだ。
がたいはよく、特に腕の筋肉がプロのボクサー並に膨らんでいる。
やや浅黒く、着ている白のティーシャツと青いデニムのパンツがよく映える男だ。
その割に表情はいたって涼しく、何事にも物怖じしていないように窺えた。
それは俗にいう「オトナの男性」ともとれるのだが、
しかし実際はそんな体面のよい肩書きではない。
ただ、〝何事も受け付けてないだけ〟なのだ。
.
- 6 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 15:44:58 ID:3zkaOYpgO
-
このように排気ガスがにおい、
空き缶や紙屑が転がって、
ポスターは当然のように破かれているか落書きをされている。
そんな、近代化に伴ってきた代償だらけの街でも
男は虚無とも呼べる心境のままでいられるのだ。
( ´ー`)「……」
今の心境も、無。
ただ、目的地に着くまでのこの道のりから
風情というものを見出そうとしているだけだった。
ポケットに手を突っ込み、やや上体を屈めるが
顔をあげるその姿は、往年の暴力団組員をも彷彿とさせる。
肝っ玉の小さい都会の人間たちは、彼のそんな姿を見て
畏怖を感じ、そそくさと何かの陰に隠れようとする。
だが、彼はそんなことは全く気にしていなかった。
いや、気にかけようとすらしていなかった。
向かいの男女がこそこそと逃げているのに気づいてすらいなかったとも言えた。
( ´ー`)「………」
暫く歩いていると、徐々に辺りは暗くなってきた。
裏通りに近づいてきつつある証拠だ。
裏表は表裏一体。
その言葉を体現しているかのように、
この街ではちょっと建物の陰に行こうとしただけで
すぐに裏通りに到達することになる。
男の目的は、言わば裏通りにある。
しかし彼は裏社会に精通する者ではない。
裏通りに近寄る目的も裏社会絡みではない。
この、一見矛盾しているように見える現状。
しかし、彼の目的は「裏社会になくて」「裏通りにある」。
.
- 7 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 15:45:53 ID:3zkaOYpgO
-
裏通りには、いくつかの特徴があるのだ。
ひとつは、裏社会に精通する者の存在が常に懸念されること。
暴力団が常駐しているようなところであり、交戦もしばしばある。
そのたびに飛び交うのは銃弾の嵐だ。
一般人が通りかかったら、まず命の保証はない。
では、他にはあるのか。
あるとしても、やはり裏社会に通ずるものがある。
情報量に長けたバーテンが開くバーや、
法で規制されている非合法の薬や銃、
若しくは「ヒト」を専門に取り扱う商店。
表社会で盗まれた絵画や宝石類なども
ここで競りにかけられることがしばしばだ。
「裏社会に用がない」なら、裏通りに来る必要はないのだ。
しかし、〝ハイエナならいた〟。
偶然裏通りに迷い込んできた、地方の人や
観光客の身包みを剥ぐことを生業とした、賊。
表社会の警察組織にとって、もっとも厄介な相手だ。
そして、この男の目的はそこにあった。
というのも、裏通りに身を潜める賊には――
.
- 8 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 15:47:28 ID:3zkaOYpgO
-
(;=゚ω゚)ノ「見逃してくれよぅ……」
( ゚∋゚)「ほう」
――巨躯を持つ男が、痩身の男に詰め寄っていた。
ここは裏通りでも相当奥に位置するところで、
決して良心を持った人は助けにこないだろう。
そんなところで、ひ弱そうな男が胸倉をつかまれていた。
必死にふりほどこうとするが、びくともしない。
巨躯の男は、威圧的にその男に金品を要求していた。
( ゚∋゚)「カネがなければその金歯をいただくぞ」
(;=゚ω゚)ノ「か、勘弁……」
( ゚∋゚)「覇ぁッ!!」
(;= ω )ノ「ぎゃっ!」
巨躯の男が胸倉をつかんだままその男を
持ち上げては、近くの壁に叩きつけた。
凄まじい轟音が響き、その壁には大きなクレーターができあがった。
つかまれている男は、苦悶の声すらあげられなかった。
( ゚∋゚)「まだ聞かないのか?」
(;= ω゚)ノ「くっ……」
(;= ω゚)ノ「うあああああっ!」
つかまれた腕から逃れるべく、
男は全力を籠めてその手を振り払おうとした。
顔や下半身の揺れ具合から、相当強い力が籠められていたのだろう。
しかし、びくともしなかった。
少しくらいはその腕がぶれてもよさそうなのに、
つかんでいる男は涼しい顔をしたままである。
少し暴れたのち、意味がないと察した痩身の男は
抗うのを諦め、俯いてぜえぜえと息を荒くさせた。
.
- 9 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 15:49:15 ID:3zkaOYpgO
-
( ゚∋゚)「たとえこの腕に何トンもの力がかかろうと決して揺らぐことはない」
(;=゚ω゚)ノ「ま……まさか……」
( ゚∋゚)「手前は『能力者』に抗うつもりなのか?」
(;=゚ω゚)ノ「……!」
訊いた男は「やはり」と思い、心臓の鼓動が速くなった。
そもそも『能力者』の存在は稀有なのだ。
《特殊能力》を保持しているだけで、進学や就職で有利になることもある。
そしてそれが抗いようのないほど強力なものであれば、
自然のうちに団体を統べる存在となり、地位が高まるのだ。
自らを『能力者』と名乗った男の口振りから、
向かいの男は彼の有する《特殊能力》が
凄まじいものではないのか、と危惧した。
そしてそれは当たっていた。
(;=゚ω゚)ノ「う……嘘だよぅ?!」
( ゚∋゚)「嘘だと思うなら」
男は空いている拳を構えた。
殴られると思った男は、咄嗟に目を瞑った。
だが、殴られたのは自分ではなく、隣の壁だった。
灰色の破片が飛び散り、煙が舞い上がっている。
そのあまりの轟音に男は少しの間聴力を失った。
恐怖と驚きで言葉を失っていると、
『能力者』はその殴った拳を男に見せた。
どこにも異常のない、平生のままの拳だった。
そして、〝異常がないことが異常〟だった。
( ゚∋゚)「壁を殴っても傷一つ付かないこの拳を見せればわかるか?」
(;=゚ω゚)ノ「あ……あ……」
.
- 10 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 15:49:56 ID:3zkaOYpgO
-
( ゚∋゚)「【逆転適応《アップダウンロード》】」
( ゚∋゚)「ここら一帯の賊を統べる者だ」
( ´ー`)「―――ほう。いい話を聞いた」
―――男が、裏通りに訪れる理由。
裏通りには『能力者』が集うからだ。
.
- 11 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 15:51:22 ID:3zkaOYpgO
-
周りから優遇される『能力者』の行く末は、
だいたいがこの裏通りに顔を出すことになる。
なにをしなくても、ただ『能力者』であるというだけで
厚遇を受け、表社会で普通に定職に就くよりも安定した地位を得られるのだ。
そして、この【逆転適応】と名乗った男の場合、
近辺の賊のリーダーであることがそれに当たる。
表社会よりメリトクラシーの表れが顕著になっている
裏社会の方が、『能力者』としては満たされるのだろう。
―――そして、この男は、『能力者』を倒すことで満たされる。
.
- 12 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 15:52:38 ID:3zkaOYpgO
-
( ゚∋゚)「誰だ」
( ´ー`)「名を聞くときは、自分からってガッコで教わんなかったか?」
( ゚∋゚)「………」
突如として現れた男は、『能力者』に食ってかかった。
一般人なら、相手が『能力者』とわかれば決まって逃げるか媚びを得るものだ。
だがこの男はそうしなかったので、『能力者』の男は少し戸惑った。
しかし、『能力者』が怯むことはなかった。
その男に負けじと、彼も睨みを利かせ声を低くさせた。
( ゚∋゚)「……いいだろう。俺の名はクックルとい――」
( ´ー`)「誰が個人名を訊いた。
能力についてに決まってんだろ」
( ゚∋゚)「あぁ?」
( ´ー`)「【逆転適応】。なんだその能力」
クックルは黙り込んだ。
男の思考が読めなかったのだ。
だから自然のうちに手に籠める力が抜けてしまい、
つかんでいた男に逃走を許すはめになってしまった。
が、クックルは全く気にしていなかった。
今は目の前のこの男のことしか考えてなかった。
( ゚∋゚)「相手取ればわかる」
( ´ー`)「お?」
.
- 13 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 15:54:17 ID:3zkaOYpgO
-
( ゚∋゚)「獲物を逃がしてしまった。
代わりに手前の身包みを剥がさせてもらうぞ」
( ´ー`)「へっ。知らねえな、おめえの事情はよ」
二人は――否、クックルだけは戦闘の体勢に入った。
男がクックルを見下した直後に、クックルが彼に襲いかかってきた。
巨躯の割に比較的速い動きで迫ってきた。
フットワークは軽やかそうである。
この手の戦闘には慣れていそうだった。
( ´ー`)「まずはお手並み拝け――」
男は余裕を見せながら、男の拳を受けようと構えた。
いや、左手をポケットに突っ込んだまま、右腕だけを
縦に構えて、クックルの左フックを受けようとした。
それに構えなどはない。
クックルを嘗めているに過ぎなかった。
( ゚∋゚)「覇ぁッ!!」
(;´ー`)「お……?」
――が。
クックルの拳が触れた途端、男は表情を曇らせた。
自分も筋肉には自信があるのだ。
単身でも、国軍の一介の兵くらいなら、まとめて相手取れるほどには。
しかし、クックルの拳はそれとは違った。
あまりにも規格外の腕力だったのだ。
咄嗟に腕をひかなければ、折られてしまいそうだったほどに。
( ゚∋゚)「悪羅ぁッ!!」
(;´ー`)「……チッ!」
続けて、クックルは右膝を畳んで土踏まずを見せ、
男の腹を凄まじい蹴りで見事捉えてみせた。
腹筋に力を籠めていたのに、〝腹筋の力よりも脚の力の方が勝っていた〟。
普段は決してあり得ないのに、男は背中から地面に倒れ込んだ。
それも、しっかり五メートル程飛ばされた上で。
.
- 14 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 15:54:40 ID:waielqc60
- 支援
- 15 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 15:56:37 ID:3zkaOYpgO
-
クックルは追撃してこない。
男はそんなクックルに恐れこそ抱かなかったが、
奇妙な心地のまま、のそりと地に足をつけ起きあがった。
白い服が汚れたのを手で払って、
冷や汗をつけた涼しい顔で再びクックルと対峙した。
クックルは相も変わらず無表情だった。
( ゚∋゚)「わかったか」
(;´ー`)「……わかんねえな」
( ゚∋゚)「【逆転適応】。単純な能力だ」
( ゚∋゚)「この世に存在する全ての力に『逆転(うわまわ)』り『適応(きょうか)』する能力
――と言われた記憶がある」
( ´ー`)「俺は生憎中卒でよ。意味がわかんねぇぜ」
( ゚∋゚)「なら俺を殴ってみろ。むろん本気だ」
( ´ー`)「………はぁ?」
( ゚∋゚)「どうした? 殴れと言われると殴れないのか?」
( ´ー`)「……いいけどよ、別に」
クックルの言いたいことこそわからなかったが、
男は言われた通りにするため、クックルに歩み寄った。
普通ここでは不意打ち、騙し討ちされる不安が生まれるものだが、
彼はそういったたぐいの攻撃は全く恐れていなかった。
そもそも。
彼は、本気のカケラすら出してないのだ。
.
- 16 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 15:58:18 ID:3zkaOYpgO
-
( ´ー`)「心臓殴るぞ」
( ゚∋゚)「ふん」
男は、躊躇うことなく拳を構えた。
クックルが動じないうちに、その拳を彼の心臓にめがけて繰り出した。
近くの壁に放てば、穴が空く程の威力だ。
人体に放てば、骨折は必至である。
(;´ー`)「……んん?」
( ゚∋゚)「どうした。全然痛くも痒くもないぞ」
しかし、クックルの肉体には傷一つ付いていなかった。
それどころか、殴った側の男の拳が傷ついていた。
まるで、一般人が岩を殴って骨を折ったかのようなダメージが、男を襲っていた。
腕力があることは腕が丈夫であることにも繋がるので、
男の腕は辛うじて折れたり負傷を来すことはなかった。
しかし、たかが人間一人の胸板を殴っただけで自身に反動が来る方がおかしい。
クックルの胸板が傷つくほうが普通であるはずなのだ。
だから、男は不思議に思った。
するとクックルは続けた。
( ゚∋゚)「『手前の腕力』を喰らう前に胸板が
それにあわせて『適応』されたのだ」
( ´ー`)「……へえ」
そう聞き、仕組みを理解できた男は、渋い顔をして肯いた。
それを見て、クックルは戦闘の再開を促した。
当然、男も促されるまでもなくそのつもりだった。
.
- 17 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 15:59:49 ID:3zkaOYpgO
-
( ゚∋゚)「さあ。身包みを剥がせてもらうぞ」
( ´ー`)「確かに強え。【逆転適応】か」
( ゚∋゚)「?」
( ´ー`)「理論上、おめぇに傷一つつけらんねぇもんな。強ぇよ、確かに」
( ゚∋゚)「どうした。怖じ気づいたか」
( ´ー`)「――でもな」
( ゚∋゚)「おい」
男は、にやりと笑んだ。
「こいつなら俺を満たしてくれる」と思ったが故の笑みだった。
そして、男も能力を発動した。
( ´ー`)「でも、相手が悪いわ、おめえ」
( ´ー`)「【逆転適応】?」
( ´ー`)「んなもん―――」
.
- 18 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 16:01:00 ID:3zkaOYpgO
-
―――知らねえよ。
直後、その場に鮮血が飛び散った。
.
- 19 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 16:01:48 ID:UJnzGQD.0
- きたか!
- 20 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 16:02:54 ID:3zkaOYpgO
-
◆
『因果(けっか)』を
『反転(てのひらがえし)』させる。
それは、極論で言うなれば、この世の全てを
受け入れない――拒絶する――ことに繋がる。
どんな肉体的疲労も、
どんな精神的苦痛も、
どんな無関係的因果も。
その全てが、〝彼女のもとにはやってこない〟のだ。
【手のひら還し《イレギュラー・バウンド》】。
《拒絶能力》は、皆共通していることがある。
どれも、最悪なまでにひねくれているのだ。
どんな《拒絶能力》を相手取ろうが、自分たちの持っている
『常識』だの『道理』だのは決して通じることはない。
「でも、作品として考えた以上弱点はあるのだろう」
――といった考えは、それこそ『絵空事』なのだ。
それはあくまで内藤の手がける作品の中でのみ通じる『常識』である。
ここにいる彼らは皆知っていることだが、
この『拒絶』という存在を、内藤は〝作品に出していない〟。
その理由は、論理的に考えれば、決して誰も勝てないからだ。
もっと詳述をするならば、パワーバランスが狂っている。
彼女、【手のひら還し】の場合、
『すべてを反転する』なら、当然そのすべてには自らの死も
入っている以上、実質上彼女は負けることはないのだ。
.
- 21 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 16:05:40 ID:3zkaOYpgO
-
从;゚∀从「生死を『反転』だぁ!?」
从'ー'从
到底信じられそうにないといった声で、ハインリッヒが復唱した。
ワタナベは動じず、ただそこに立っているだけだ。
とても、その『生きていること』は『嘘』とは思えない。
ほんとうに、生死の概念を『反転』したのだ。
(# ,*;゙><●>)「つまり、『死んでいること』が『生きていること』になるのか」
从'ー'从
ゼウスがそう現状把握に努めていても、ワタナベは動じない。
ただ、不敵に笑んでは髪をなびかせるだけだ。
とても、不意打ちのタイミングを測っているようにはみえない。
加え、彼女は不意打ちなんてする必要がない。
(;^ω^)「……ここに」
内藤が、静かに口を開いた。
ゼウスとハインリッヒは自然のうちにそちらに耳を傾けた。
(;^ω^)「ここに、二人。〝原作じゃあ最強〟の二人がいる」
内藤は言葉にしなかったが、ゼウスとハインリッヒを指した。
確かに〝原作では最強〟同然のキャラクターなのだ。
だが、続けて逆接が挟まれた。
(;^ω^)「……でも。覚えといてほしいお」
(;^ω^)「〝この世界じゃ〟あんたらは決して最強じゃない」
(;^ω^)「上を探せばほいほい高みが見える世界なんだお」
その「高み」の、ほんの一例が『拒絶』だった。
彼らは、二人とも『拒絶』の恐ろしさを知っている。
.
- 22 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 16:07:08 ID:3zkaOYpgO
-
ハインリッヒは拒まれた『現実』に。
ゼウスは拒まれた『因果』に。
既に、苦しめられているのだ。
それなのに、再三注意を促す内藤の思惑を、二人はわからなかった。
だが、わからないままでよかった。
内藤は、思い出したのだ。
〝考えられる限り最強最悪な『拒絶』の存在〟を。
それも、〝二人〟。
「最強」と「最凶」である。
从'ー'从「やーん。二人がかりじゃ怖いの〜」
(# ,*;゙><●>)「……いや。一人だ」
从'ー'从「わ〜……。
――え?」
直後。
ゼウスは、その場でくずおれ、無言のまま地面に倒れ込んだ。
手を前に出し地につけようとすらしない。
〝体力が尽きた〟かのような動きだった。
意味深長そうな言葉を残して急に倒れたので、
ハインリッヒは途端に不安に駆られた。
いくら宿敵といえど、『拒絶』の前では心強い味方だ。
そんなゼウスが戦線から離脱したため、急に心細くなった。
.
- 23 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 16:09:26 ID:3zkaOYpgO
-
从;゚∀从「――え?」
从'ー'从「あ〜思い出した!」
从'ー'从「そういや、自然治癒の効果が
『反転』させられてたんだよね、きみ〜!」
从;゚∀从「はァ!?」
(# ,*;゙>< >)
ワタナベはゼウスの心を読んだ。
しかし、意図的なそれではない、本当の無心が続いていた。
体力の回復の進行が『反転』され、時間経過に
つれて体力がなくなるようにされていたのだ。
そして、温存していた体力も今の不意打ちで使い果たし、
結果動くことすらできなくなった、というわけだ。
从'ー'从「よくやったよ!
あんだけフルボッコにされてさ、
徐々に体力も減ってきてたのに
ボクに不意打ちを決められたもん」
从'ー'从「拍手〜っ!」
そう言って、ワタナベは独りでにゼウスに労いの拍手を向けた。
だがその胸中では祝いの感情はおろかゼウスに対する関心すらまるでなかった。
さながら、その姿はおもちゃの電池がなくなって
それに興味を示せなくなった幼児のようだった。
ゼウスはびくともしない。
不用意に近づいたワタナベに、
不意打ちのひとつ、仕掛けることすらできなかった。
.
- 24 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 16:11:10 ID:3zkaOYpgO
-
从'ー'从「――で」
ワタナベの思考から、ゼウスが完全に飛んだ。
人をヒトとして見ないような眼になってから、
彼女はハインリッヒの方に躯を向け、じろっと彼女を見つめた。
その不気味な表情に、ハインリッヒは背筋が寒くなった。
無意識のうちに、じり、と後退りもしてしまったほど。
自身の唾が喉を通る音すら、そのときの彼女には鮮明に聞こえていた。
从'ー'从「どーすんのォ?」
从;゚∀从「……は?」
从'ー'从「『英雄の優先』? が使えない『英雄』に用はないんだけど」
从;゚∀从「……帰らせてくれんのかよ」
从'ー'从「どおしよっかな〜」
从'ー'从「あ、せんだみつおゲームしようよ〜」
从;゚∀从「てめ―――」
ワタナベがそうおどけてみせた直後、
ハインリッヒはぎろ、と彼女を睨んだ。
そして、一瞬後にはその背後にワタナベが立っていた。
从'ー'从「甘ぇ」
从 ゚∀从「っ!」
「いつの間に後ろに」。
ハインリッヒが、そう思考を巡らす猶予すらワタナベは与えなかった。
背後に回ったワタナベは、得意の掌底での攻撃でハインリッヒの背中を狙った。
ハインリッヒは躯を捻って応戦しようとするが、
『優先』のされていない『英雄』よりかは
ワタナベの方が身体能力が高かったようだ。
.
- 25 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 16:13:26 ID:3zkaOYpgO
-
振り返ってワタナベの掌底に迎え撃つ前に、
その掌底は既に背中に命中されていた。
瞬間、内臓が前方に吹き飛んでしまいそうな錯覚に目が眩んだ。
それは、内臓に深く残るダメージが与えられた証拠だった。
从'ー'从「シュークリームに大福混ぜるよりも甘ぇよ」
从; ∀从「……!」
十二指腸の辺りをさすっていると、ワタナベがそう言った。
あまりの痛みに、一瞬ハインリッヒは彼女の存在を忘れていた。
進化した【正義の執行】により常時適用させることもできる『英雄の優先』は、いまは解除しているため
『人体』が『劣後』されて躯に穴が空くことこそなかったが、ダメージは桁違いだった。
「負傷させるよりも負荷を追わせる攻撃」としては、
掌底を用いた突きに勝る他の攻撃方法はないのではないか、と思えたほど。
从'ー'从「いや、角砂糖を直接食ったよりもかな?
あれってあり得ないくらい甘いよね〜」
从; ∀从「……」
从'ー'从「相手が急に変なこととか言い出したら、すぐに
『不意打ちかも』って予測してあらかじめ構えなきゃ」
从'ー'从「いつ向こうが、手のひらを返して
襲いかかってくるのかわかんねーんだからよ」
.
- 26 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 16:15:38 ID:3zkaOYpgO
-
ワタナベの発言は的を射ていた。
話をしている最中にいきなり襲いかかることがあろうと、
それは決してファールでもタブーでもなく、いたって正当な行為だ。
むしろ相手の挙動、行動、言動、その全てが全て
真であると安易に受け取るほうが愚かなのである。
疑いに疑いぬいてこその、慎重な戦闘なのだ。
「相手の弱点を知る」には「相手の動きを押さえる」必要がある。
ハインリッヒは、それをすっかり怠っていた。
从'ー'从「そんなボクは、塩からより甘いぜ」
そう啖呵を切ってから、続けた。
从'ー'从「甘ったる〜い口調から厳格な性格まで、
なんでも自由になりきることが趣味なの」
从'ー'从「で、いまのボクはすごく辛辣だ!」
从'ー'从「ここでそこの男が死んだら、所詮その程度だった
――なんてキビシイ考えを持っているのだよ、ショクン」
.
- 27 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 16:18:40 ID:3zkaOYpgO
-
从;゚∀从「……不意打ちされてるくせによく言うぜ」
从'ー'从「だからあれはわ――」
从; ∀从「ッが……!…っ!」
ワタナベは、またしても不意打ちを試みた。
能書きを並べるふりをして隙を見計らう。
そして予想通り、ハインリッヒの隙を衝くことができた。
ハインリッヒは、心臓部への掌底による
凄まじいダメージを、与えられた。
从'ー'从「うわ、二度もひっかかった」
从; ∀从「がぁぁ……カッ……!」
心臓部の機能を停止させるかのようなダメージだったため、
ハインリッヒは一瞬無呼吸状態に陥った。
視界が暗転し、直立することすらできなくなった。
从'ー'从「ほんとにきみ『レジスタンス』のリーダーなの〜?」
从; ∀从「…かハッ……」
从'ー'从「弱ぇ。『英雄』のイメージとは手のひら返して、弱ぇ」
ワタナベは、続けざまに再度掌底を放った。
それも、先ほどと同じように心臓部へ。
その威力はやはり強大で、心臓が異常を来しかけた。
言わば強力な心臓マッサージを連続で受けたようなもの。
健全な肉体で心臓マッサージを受けようものなら、悪影響を与えかねない。
.
- 28 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 16:20:11 ID:3zkaOYpgO
-
从'ー'从「拒めよ、もっと拒めよ」
从; ∀从「―――ッ!」
今度は、ワタナベは掌底を人中に放った。
ハインリッヒがそれを避けられるはずもなく、
途端に脳がシェイクされたような嫌悪感に見舞われた。
軽い脳震盪を味わった上からやってくる、内部に残るようなダメージ。
そして感じたのは、閉じた瞼の上から触れられた指だった。
それにハインリッヒが気づくと、ワタナベはちいさく言った。
从'ー'从「目ェ潰そっか?」
从; ∀从
人中に掌底を放つメリットは、同時に目潰しも行えることにあった。
何らかのスポーツではそれは反則になるためデメリットと捉えられるのだが、
ここではそのようなルールはいっさい存在していない。
つまり、ワタナベはこう言いたかったわけだ。
「少しでも気を抜けば、すぐに殺すぞ」と。
从'ー'从「もっと跳ね返せ。強い力で、だ」
从'ー'从「そっちの方が『反転』のしがいがあるってもんだから、サ」
从'ー'从「返事は?」
从; ∀从
ハインリッヒは答えなかった。
否、答えることができなかった。
心臓部への、顔面への、大きなダメージ。
目眩、吐き気、脳震盪。
嫌悪、不快、絶望、拒絶。
そういったものに一斉に襲われているのに、
ワタナベの声を正確に聞き取った上で返事をできるはずもなかった。
.
- 29 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 16:21:56 ID:3zkaOYpgO
-
从'ー'从「返事ッ!」
从; ∀从「ッッ!」
ワタナベは、何度目になるかわからない、掌底を放った。
ハインリッヒの心臓部に、それもより一層強いものを。
ハインリッヒは、声にすらできない呻き声を発することしかできなかった。
从'ー'从「掌底だけがボクの攻撃手段って思ったら大違いだぜ」
从;゚∀从
次の瞬間、いつの間にか躯を捻っていたワタナベから、鋭い裏拳を見舞われてしまった。
鋼鉄のような拳で、ハインリッヒの頬骨は呆気なく砕けた。
この骨が砕けるという痛みには慣れてこそいるが、
裏拳そのものの威力が異常な程高かった。
殴られ、慣性に従ってハインリッヒは飛ばされた。
土を服と肌が擦り、僅かばかりの砂埃が宙に舞った。
从'ー'从「裏拳。慣性を力にできるそりゃすげ〜攻撃サ」
从'ー'从「ボクみたいにか弱い女の子にとっちゃ便利なのよね〜」
从; ∀从「……チッ……」
从'ー'从「もう一発イク? 今度は踵落としさね」
そう言っては、ワタナベは軽く跳ねた。
直後、躯を縦に一回転させ、空中での踵落としをする体勢に入った。
足技の得意なハインリッヒもよく使う攻撃で、それの破壊力はよく知っている。
だからこそ
.
- 30 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 16:23:02 ID:3zkaOYpgO
-
从; ∀从「(あ――俺、死んだ)」
ハインリッヒは、死を覚悟した。
慣性の補助を受けてない掌底で心臓を止めそうな程の威力を出し、
慣性の補助を受けただけの裏拳で骨を砕いてみせる程のダメージを
生ませるワタナベが、慣性と重力からの恩威を受けた踵落としを放てば、
『優先』のされていない自分の頭蓋骨くらい、簡単に砕かれると思ったからだ。
――そして。
踵がハインリッヒに触れる時、
ワタナベは悲しそうな顔をした。
从'ー'从「(………。)」
从'ー'从「(こいつも……大したことなかったな)」
鋭い空中踵落としが、ハインリッヒの頭蓋骨に炸裂した。
人間が発してはならないような音が、周囲に響き渡った。
.
- 31 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 16:25:04 ID:3zkaOYpgO
-
从;'ー'从「…………?」
从 ∀从
――ワタナベは、ハインリッヒに踵落としを当てた瞬間、
その足が尋常ない痛みと痺れに襲われていることに気が付いた。
なにが起こったのか、わかるはずもない。
ただ、足に異変が起こったことしか理解できなかった。
〝ハインリッヒへと向かうはずの威力が
あろうことか自身へ押し返されてきた〟のだ。
その『因果』に説明をつけられるはずがない。
ワタナベは少し狼狽し、不安に駆られた。
从;'ー'从「(なに、今の……!)」
从;'ー'从「(まさか無意識のうちにベクトルを『反転』させちゃった……?)」
从;'ー'从「(いや、そんなはずは――)」
その足には暫く力を入れることができず、片足でバランスを
とらざるを得なくなり、ワタナベは少しふらついた。
必死に、この『因果』がどのように引き起こったのかを考える。
ハインリッヒが『英雄の優先』を発動し、
『劣後』された自分がダメージを受けてしまったのか。
それとも、無意識のうちに【手のひら還し】を
適用させてしまい、ダメージが全部跳ね返ってきたのか。
だが、納得のいく答えは出てこなかった。
ただ、足の痛みが必死に『異常』を訴えていた。
从;'ー'从「てめえ、まさか――」
从 ∀从
ワタナベは、その『因果』がハインリッヒに
よってもたされたものかと思い、咄嗟にそう怒鳴った。
あの状況で不意打ちができるとは考えにくいが、そうしたのではないか、と。
.
- 32 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 16:26:18 ID:3zkaOYpgO
-
しかし、ハインリッヒは動かない。
目を閉じ、ただ横たわっているだけだった。
不思議に思ったワタナベは、ハインリッヒの心の声を『反転』させた。
すると、還ってきたのは静寂のみだった。
つまり、今のハインリッヒは何も考えていない。
从;'ー'从「(違う、こいつは気絶してる……)」
ハインリッヒは、自身の死を覚悟して、気を失っていた。
はたから見れば様態が様態なだけに死んでいると
思うかもしれないが、彼女はまだ生きている。
しかし、気を失っている彼女がワタナベに
一矢報いることができるはずもない。
从;'ー'从「じゃあ、なぜ……」
そう呟くと、背後から声がした。
知らぬ間に、ワタナベの背後に誰かが立っていたのだ。
.
- 33 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 16:27:40 ID:3zkaOYpgO
-
「なぜ、もないじゃろぅ。
〝そういう『因果』だった〟んじゃ」
从;'ー'从「ッ!」
ただいまの『異常』を考察するあまり、ワタナベは
背後から漂う殺気を感じ取ることができなかった。
周章し、がばっと背後に向いて、相手の顔を拝んだ。
ワタナベの背後には、灰色の毛と髭、
ひび割れたかのような皺が目立つ老人が立っていた。
太い眉の下から、覗きこむような目がぎろりと光っている。
左腕を持っていない老人が、不敵に笑っていた。
その圧倒的な威圧感に、ワタナベは文字通り圧倒された。
/ ,' 3「――なんての。
『因果』がどうのこうのっちゅーな話じゃないわ」
从;'ー'从「だ、誰だてめえ!」
/ ,' 3「名乗る時は自分から名乗りなさい、お嬢さん」
从'ー'从「………!」
ワタナベは、自分の首に手刀が向けられていることに気が付いた。
「いつの間に」といった感想すら浮かぶことはなかった。
ただ、どうしようもなく集中力を欠いているだけなのだ。
/ ,' 3「……ほう。弱いの」
从;'ー'从「……?」
手刀をひいて、国軍最強の戦士、アラマキが言った。
なぜ手刀をひいたのか、今の言葉の意味、と、
ワタナベは理解できないことが相次いで起こり、
近況を把握するだけで精一杯となっていた。
.
- 34 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 16:30:12 ID:3zkaOYpgO
-
/ ,' 3「恐ろしいもんよ、《拒絶能力》は、な。
【手のひら還し】だっけかの?」
/ ,' 3「じゃが、喧嘩は弱い。弱すぎる。
『拒絶』のイメージとは手のひら返して弱いの」
从;'ー'从「……」
ワタナベは、この時で既に大分状況を把握できてきた。
まず、自分がハインリッヒにとどめを刺そうとした時、
この老人――アラマキ――が、「なにか」をした。
それでハインリッヒに与えるはずのダメージが全部自分のところへ還ってきた。
次いで、突如として起こった『異常』のため慌てふためいた。
そうして集中力が散漫になった隙に彼が背後を取った。
振り返った直後に自分はアラマキの威圧感に怯んでしまい、
警戒心を疎かにしてしまっていた。
その時に瞬間的に手刀を喉へ突きつけたのだろう、と。
そして、反応しきれていない自分をみて、
アラマキは「弱い」と言ったのだ。
戦場において、威圧感や圧倒といったものを受けてはならない。
その一瞬一瞬が、生死を分ける要因となるからだ。
なのに、自分は怯んでしまった。
だから、アラマキは「喧嘩は弱い」と再度言ったのだ。
そう考え、ワタナベはアラマキがただ者でないと察した。
尤も、ゼウスもハインリッヒもただ者ではないのだが、
ワタナベにとってはその二人よりアラマキの方が恐ろしく見えた。
.
- 35 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 16:32:09 ID:3zkaOYpgO
-
/ ,' 3「よくまあこの二人を倒せたもんじゃ。それは褒めてやろう」
从'ー'从「……ここはおじいちゃんが来るような場所じゃないですよ〜。
ほら、おしめ換えてあげるからあっち行こうね〜」
/ ,' 3「ヒョヒョヒョ。挑発がなっとらんよ、おぬし」
从'ー'从「……っ」
挑発を試みると、アラマキは笑ってそう言った。
だが、その言葉の裏からやってくる確かな重みをワタナベは感じ取った。
ワタナベが苦手とする威圧感、だった。
アラマキは、意図して威圧的に接することができる。
それは、長年軍隊の頂点に君臨していた彼だからこそ、
身につけることのできた利得的な武器だった。
ゼウスの与えるような恐怖、
ハインリッヒの与えるような窮境とは違う、威圧。
前者二人とは違い、アラマキは出会い頭から
既に攻撃をはじめているようなものなのだ。
/ ,' 3「一応そいつらとは同盟を組んでおってな」
从'ー'从「……だったらなんだよタコ」
/ ,' 3「ちょっと仕置きをさせてもらうぞよ」
从'ー'从「ハン? かかってこいやタコ」
/ ,' 3「早速――」
从;'ー'从「(ばーか! ぜーんぶ『反転』して押し付けてやんよ!)」
威圧を拭いきれないワタナベは、敢えて攻撃を仕向けさせた。
いくら威圧感に襲われ攻撃できないとしても、
向こうから勝手に自爆するならそれでいいのだ。
そして、ワタナベの持つ《拒絶能力》とは
基本的にカウンターを主としたものなのである。
ゼウスとの試合でも、ほぼカウンターでけりをつけたようなものなのだ。
.
- 36 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 16:34:59 ID:3zkaOYpgO
-
/ ,' 3「(左腕をなくしても衰えちゃおらんよ)」
右腕を大きく振りかぶり、
ワタナベの左頬に向かって強く殴りかかった。
ワタナベは抵抗しない。
この拳によって生じるダメージを、全部
『反転』させてアラマキに与えるつもりだからだ。
だが、アラマキはそれを知ってか知らずか、
いきなり全力を出しきった打撃を見舞おうとした。
否、彼の本気のそれは「打撃」とは言えない。
「破壊」だ。
脚力はハインリッヒに劣ろうとも
頭脳・機動力・戦闘力・身体能力はゼウスに劣ろうとも
純粋な「破壊」力ならば、圧倒的に彼が勝っているのだ。
国軍が国民に重税を課した上で製造した強固な盾でも、
決してアラマキの攻撃を防げるものはなかった。
それは、彼の修業時代、あらゆる力を自身に追い返して
わざと多大なる負荷をかけていたことによる賜物のおかげだった。
実際、『英雄』となったハインリッヒにあれほど
ダメージを与えられるのはアラマキくらいしかいないものだ。
その力は、歳を重ねても衰えを見せず、
それどころか年々増しているようにさえ見える。
从;'ー'从「(右腕も吹き飛んじまえ!)」
/#,' 3「ちぇあッ!」
.
- 37 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 16:36:55 ID:3zkaOYpgO
-
アラマキが思い切り殴った直後、ワタナベは当惑した。
「破壊」による音も、ダメージも、感触も。
なにも、生じなかったのだから。
从'ー'从「……へ?」
/ ,' 3「ふん」
アラマキは拳をひいて、踵を返して歩いていった。
ざっざっ、と砂の擦れる音は聞こえたが、
打撃音に似たような音は全く聞こえないままだった。
从;'ー'从「(あ、あれ? なんでなにも起こらない……?)」
从;'ー'从「(確かにダメージは『反転』させたのに、なんで!)」
ワタナベはあたふたして、去りゆくアラマキを止めようともしなかった。
彼女なら止めずとも追うことなど容易いのだが、
今の彼女にはそれすらできなかった。
それほど焦っていたのだ。
そのとき。
アラマキは、ぼそっと呟いた。
/ ,' 3「『入力』」
。
从゚ー(;・'从
.
- 38 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 16:38:20 ID:3zkaOYpgO
-
ワタナベの顔面の左半分が、砕けた。
血は飛び散り、眼球がごろっと出てきた。
赤黒い肉が見えており、見る者が見ると発狂しかねない情景だった。
ワタナベはそのまま倒れ込んだ。
血が溢れ出てきており、死は免れなかった。
アラマキの「破壊」を受けて、顔の一部が砕けるだけ
というのはむしろ相手の防御力の高さを褒めるべきなのだ。
一般人なら首から先が一気にもがれてしまうことだろう。
それを賞してか、アラマキは意気揚々と声高らかに言い上げた。
/ ,' 3「戦場における掟ッ! 其の珀伍拾陸ッ!」
/ ,' 3「〝見る事、則ち勝つ事に値するなり〟ッ!」
.
- 39 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 16:45:19 ID:UJnzGQD.0
- やったのか?
- 40 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 16:48:16 ID:3zkaOYpgO
- 以上で第十話「vs【手のひら還し】Ⅱ」はおしまいです。来る来る詐欺をしてて申し訳ないです…
これ書いたの五、六ヶ月前だったりします
現在の書きための進行状況などは、下記にてご覧ください
http://twtr.jp/user/__itsuwari
- 41 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 16:52:11 ID:UJnzGQD.0
- 乙乙
- 42 :同志名無しさん:2012/12/10(月) 21:43:18 ID:aT3bXFPQ0
- おぉ!きてた!待っていたよ!乙!
- 43 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 00:40:45 ID:37tGu4O.0
- 乙!いいね
続き待ってる
- 44 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 15:15:14 ID:pHa6iGt.O
-
○登場人物と能力の説明
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
从'ー'从 【手のひら還し《イレギュラー・バウンド》】
→『因果』を『反転』させる《拒絶能力》。
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
.
- 45 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 15:15:45 ID:pHa6iGt.O
-
○前回までのアクション
/ ,' 3
从'ー'从
→対峙
从 ゚∀从
→気絶
( <●><●>)
→戦闘不能
( ´ー`)
( ゚∋゚)
→戦闘中
.
- 46 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 15:17:17 ID:pHa6iGt.O
-
第十一話「vs【手のひら還し】Ⅲ」
元々整備のされていない裏通りだが、この日は特別だった。
柱という柱は折れ、壁はクレーターのような穴がいくつもできている。
ガラスの破片が散らばっているのはいつものことだが、
今日はそのなかに床のコンクリートが混じっていた。
ここを裸足はもちろん、普通の靴を履いていようと
足の裏に切り傷ができることは必至だろうと思われる。
そして、ひたすら、声と打撃音とが響き渡っていた。
人気の少ない裏通りだ、それらの音は鮮明に聞こえていた。
というのも、裏通りでは、クックルが男にしがみついていた。
クックルの服装は見事に乱れ、所々が赤黒く滲んでいる。
埃で黒く汚れた部分よりもそれは多かった。
顔に関しては瘤だらけで、腫れすぎて元の顔がわからなくなっていた。
口や鼻からは一筋、二筋の血が流れている。
歯も欠けたり折れたり抜けたりと、それは悲惨だった。
だが、生きている。
幸か不幸か、クックルは生きている。
横たわりながらも、必死に上体だけでも、と起こし、
男の太い脚にしがみついて、何かを必死に訴えていた。
(`゙#)∋%)「待って……く、れ…ッ!」
( ´ー`)「しつけーな。離せよ」
.
- 47 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 15:18:22 ID:pHa6iGt.O
-
命が惜しい故命乞いしているのかと思いきや、
クックルは、帰ろうとする男を必死に引き止めていた。
脚にしがみついては、男が蹴り払おうとするのも耐えている。
依然涼しい顔をしている男は、いい加減煩わしく感じてきていた。
なぜ殺されかけた男にここまで固執するのかわからなかったのだ。
男は、クックルが大したことない『能力者』だと見切って、
殺すのでさえ気が引けてしまい、引き返そうとしていた。
弱い者を相手にしても、ただ疲れるだけなのだ。
それなのに。
クックルは、男を帰そうとしない。
(`゙#)∋%)「俺を……弟、子にしッ…てく……れ!」
( ´ー`)「ハァ?」
(`゙#)∋%)「俺…より、強、いや…つなん――て、はじめッて見たんだ……!」
クックルは言わば男に惚れたのだ。
それも、その有する規格外の強さに。
だが、これは男にとっては迷惑以外のなにものでもなかった。
強さを認められても、何とも思わないのだ。
.
- 48 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 15:19:45 ID:pHa6iGt.O
-
( ´ー`)「俺は弟子はとらねー主義でよ」
と男は返したが、これは心に思ってもみない言葉だ。
ただ、昔ドラマか何かで聞いた記憶のあった
フレーズを、適当に投げてみただけなのだ。
それほど、男にとってはどうでもよかった。
興味が催されない者と一緒にいても、何も満たされない。
男が認めた人間は、この世に十人もいるかすらわからない。
そして、そのうちおよそ半分は〝自分と同類〟なのだ。
(`゙#)∋%)「ぞこを、な んと。か……ッ」
クックルは依然諦める姿勢を見せない。
【逆転適用《アップダウンロード》】をはじめて破った
男であるだけに、意地でも関係を持っていたかったのだ。
いよいよ声も掠れてきた。
胃から噴き出てくる血のせいで、まともに話せないのだ。
時折吐血もしてみせる。
だが、クックルは腕の力を緩めない。
男がその気になれば振り払うことくらい容易いのだが、
男にはその気が起こる気配すらなかった。
( ´ー`)「面倒くせーなおめえ」
(`゙#)∋%)「だの゙ぶ………! ぼべにはばなだじがいね゙え……!」
( ´ー`)「何言ってんのかわかんねーよ」
(`゙#)∋%)「ぼば………ッ……―――!」
すると、クックルは赤黒い血を大量に吐き出した。
負荷に耐えきれなくなった身体が、ついに音をあげたのだ。
.
- 49 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 15:22:37 ID:pHa6iGt.O
-
クックルは男にしがみついていたため、その血は
男の穿いていたデニムのズボンにもべっとりと付いてしまった。
生地を通して伝わってくる感覚が、男にとっては堪らなく不快極まりなかった。
だから、そんな不快感や嫌悪感も
( ´ー`)「あーあ。汚れちまった」
( ´ー`)「ま、知らねーけどよ」
男の持つスキルで、全部『拒絶(うちけ)』した。
そしてクックルに対する感情も全部『拒絶』した。
すると、瞬く間にクックルのことはどうでもよくなった。
足下で痙攣しながらも尚手を離さないクックルを蹴り飛ばした。
〝脚に絡んでいるゴミを蹴り払うこと〟など、当然の行為だろう。
それが人だったなら多少は敬遠したが、所詮ゴミだ。
クックルは蹴飛ばされ、ついに物言わぬ身に成り果てた。
壁にもたれかかって俯く姿は、実に賞賛されるべき敗者と呼ぶに相応しかった。
( ´ー`)「血って結構重いんだな。クリーニングに出すか」
( ´ー`)「いや、モララーに頼んでこの汚れを『嘘』にしてもらうのもいいかもな」
独り言を漏らしながら、表通りに向かって男は歩いていった。
この姿で表通りに出れば、すぐさま悲鳴をあげられるか警察を呼ばれるだろう。
男にとってはその両方は別にどうでもいいのだが、
あまり人に構ってもらわない方が気が楽でいいのだ。
そうである以上、注目を浴びるというのは実に嫌だった。
.
- 50 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 15:23:51 ID:pHa6iGt.O
-
( ´ー`)「【逆転適用】程度でボスにのし上がれるようじゃ、
ここらの賊は高が知れてるな。やっぱ表通りに戻るしかねーか」
ポケットに手を突っ込んで、歩みを速めた。
血痕がぽつぽつと地面に残っていく。
そして、殺風景であるこのキャンパスに、不吉な斑点模様を残していった。
男は知らずのうちに次なる目的地を考えていた。
根城に戻るのもいいが、それでは惰性で暮らしてきた今までと変わらない。
それが嫌だから、こうして外出しているというのに。
だが、楽しみであることも少なからずあった。
それは、少し前に男が発見した望みだった。
( ´ー`)「あいつらはどーやってんのだろうな」
首をもたげて、より遠くの方を見た。
この先を曲がっていけば、表通りに着く。
( ´ー`)「モララーには死なれちゃ困るな。
この汚れも拭ってもらわなくちゃなんねーしよ」
( ´ー`)「たまにはバーボンハウスで呑むか?
トソンはまだ死んでねーよな?
俺ぁ酒の入れ方わかんねーよ」
.
- 51 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 15:25:09 ID:pHa6iGt.O
-
( ´ー`)「……ま、あんな能力があるんじゃ、死ぬに死ねねーだろうけどよ」
男の手にした望みとは、自分と同類の者たちを見つけたことだ。
なにもかもを拒絶するような連中に対してだけは、気を遣わずに済んだ。
打ち明けられるものこそないが、同じく拒絶する者同士、存外簡単に交友を築くことができたのだ。
――尤も、その程度で仲良くなれるのであれば
それは決して『拒絶』とは言わないだろう。
少なくとも、この男はそう思っていたが。
『拒絶』を体現する男。
ネーヨ=プロメテウス。
この世の全てを拒絶した、この男は。
.
- 52 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 15:26:29 ID:pHa6iGt.O
-
◆
アラマキは、数歩足を進めたところで立ち止まった。
風が頬を伝う冷や汗の存在を教えてくれたのだ。
背後から感じる気配に警戒を配り、じっと止まった。
アラマキも、わかっていた。
顔の一部を砕いた程度では、ワタナベは死なないことを。
アラマキは、体力が全快した後、
すぐに屋敷の入り口まで戻ってきた。
そして直ちに門から出ようとしたのだが、外で
ハインリッヒたちと『拒絶』が戦っているのを察した。
いまのこのこと顔を出せば、せっかくの回復も無駄になる。
情勢で言えば、ハインリッヒもゼウスも絶望的なのだ。
そこで自分がやられると、昨日の今日でもう『拒絶』に
全面的に敗北した――などという最悪な結果を招くことになる。
だから、その相手を、ワタナベを観察したのだ。
壁に指でちいさな穴を明け、そこから戦いの動きをチェックした。
アラマキが軍人だった頃、いくつもの掟があった。
戦いを有利に進めるための掟で、
それをアラマキは全部覚え実行していた。
そのなかの一つに、このようなものがあった。
其の珀伍拾陸、「見る事、則ち勝つ事に値するなり」。
相手を知ることが自身の勝利への一番の近道なのだ、ということだ。
.
- 53 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 15:27:58 ID:pHa6iGt.O
-
そのためワタナベを観察した。
すると、【手のひら還し《イレギュラー・バウンド》】などという
如何にも『拒絶』らしい、最悪な《拒絶能力》を使うことがわかった。
前後の流れから、その能力の詳細を推理する。
本人が『反転』と何度も言い、また実際にハインリッヒを
『優先』から『劣後』へと『反転』させていたことから、
アラマキもゼウス同様、自力で【手のひら還し】の全貌を理解できた。
対処のしようはあるのか。
そう考えたところ、割と早くにその答えはできた。
『打撃という行為』も
『打撃のベクトル』も
『被害者と加害者の事実関係』も
そのどれもをくぐり抜けることのできる攻撃を。
/ ,' 3「……」
アラマキは自分の拳を見た。
本当に今の作戦でうまく行ったのか、不安だった。
失敗したなら失敗したでいい。
早くこの懸念事項を振り払いたかった。
アラマキはちらっとワタナベの方を見た。
しかし反応はない。
止めど流れる夥しい量の血が、晒されているのみ。
風に吹かれてカーディガンや髪が靡くが、目は開かない。
本当に死んでいるのかは疑いたくなるが、
逆にこの惨状を見て生きているとも言い難い。
本来ならここでなにもなかったかのように去る男なのだ、アラマキは。
しかし、相手が『拒絶』、しかも【手のひら還し】のワタナベとなると話は違った。
彼女は、死んでいると見せかけて、手のひら返して起きあがりかねないのだ。
実際、ゼウスがワタナベの心臓を貫いた時も、何事もなかったかのように
起きあがっては、悠々とハインリッヒを打ちのめしたではないか。
.
- 54 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 15:29:42 ID:pHa6iGt.O
-
/ ,' 3「……」
――と、アラマキはえらく長らく考えたが、
これといった明確な答えは出てこなかった。
わからないものは、わからないのだ。
今、彼女の身にいったいなにが起こっているか、など。
心の中で五秒を数えてから、アラマキはよし、と肯いた。
いつまでもここにいては、ほかの『拒絶』に見つかりかねない。
アラマキは再び踵を返して、屋敷の方へと戻っていった。
/ ,' 3「(ミソも脳漿も飛び散った。死んだに違いない)」
ざっざっ、と地面を擦る音が鳴る。
心のなかのもやもやを振り払えないまま、アラマキは「戦場」をあとにした。
その油断が、よくなかったのだ。
アラマキがそれを振り払おうとする一瞬前に、アラマキは視界が暗転した。
背中を反り、それが飛び出しそうなほど眼を見開いた。
そして、背中の一点から来る痛烈な痛みを感じた。
背骨が折れかねないその威力を、アラマキは不意に喰らった。
/;,゚ 3「………カ……ッ…!?」
備えてすらいなかった攻撃を、もろに受けたアラマキは
為す術もないまま、屋敷の扉にまで飛ばされた。
その扉に、胸板から、思い切り叩きつけられた。
腹の中の空気を出し切ったような声が出た。
全身が痺れ、脳が異常を訴えている。
.
- 55 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 15:31:10 ID:pHa6iGt.O
-
アラマキが状況を理解し終える前に、背後から怒号に近い声が聞こえた。
女のような若々しい声は、先ほどまでと何ら変わる様子はなかった。
アラマキはその言葉を無意識のうちに聞き届けるよりほかになかった。
というのも、過去に自分が覚えた言葉が放たれたからだ。
そして、それはまるでアーミーレディとでも呼ぶに相応しい声ほどの清々しいだった。
「戦場における掟ッ! 其の捌拾弐ッ!」
「〝死してなお、語らざる者おらざりき〟ッ!!」
从゚ー(;・从「死んだと思っても、四肢をバラさねえ限り
安堵はできねえんじゃねえのおおおおおおおおっ!?」
/;,' 3「カ、ハ……――
(……やはりしくじったか!)」
.
- 56 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 15:33:26 ID:pHa6iGt.O
-
完全にゼウスのそれと同じくらいの精度を持ったワタナベの
不意打ちが、見事無防備だったアラマキに命中した。
右の掌底で、アラマキの背中の中心よりやや左寄りを衝いた。
アラマキは心臓がその衝動に襲われたため、
一瞬ポンプの動きが止められてしまった。
否、鍛え抜かれた肉体だからこそ、それだけの被害で収まったと言った方がいい。
走る際に自身にかかる抵抗を全て『反転』させることで、
通常の倍もの加速を味方につけることができる。
そんな状態で突き出されたワタナベの掌底だと、
象に踏まれる以上の威力を持っていると考えてもいいのだ。
一瞬血の循環が止まったせいで、アラマキは地に膝をつけてしまった。
ひどく躯が重く感じられ、視界はまだ安定していない。
しかし、このままではワタナベの追撃を受けることになる。
アラマキは、咄嗟に右に向かって躯を倒し、即座に転がった。
直後飛んできた、ワタナベの流星にも勝る跳び蹴りで
ゼウスの屋敷の強固な壁は簡単に砕かれてしまっていた。
爆音に近い音が轟いて、近くの森が鳴いたようにも聞こえた。
砂煙が舞う中、ぱらぱらと壁の破片が落ちる。
その爆音で目が覚めたアラマキは、首を振るって気付けをした。
ワタナベから十メートルほど離れているが、この調子だと
一瞬でも気を抜いた直後に肉片になってないとも言えない。
唾を呑むことすらできないアラマキだが、それでも
蹴りに使った足を壁から抜いたワタナベの顔をみることはできた。
一瞬見せた鬼のような形相は、忽ち消えていた。
だが、殺気だけは変わっていなかった。
从'ー(;・从「なんで――」
.
- 57 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 15:34:32 ID:pHa6iGt.O
-
最後の破片が音を立てて落ちた時。
ワタナベはアラマキを恫喝するように叫んだ。
从゚ー(;・从「どぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおして
『反転』できねえんだよおいぃぃぃぃぃぃぃぃッぃい!!」
/;,' 3「(仕留めるじゃった! たとえ『反転』されようとも!)」
その叫び声は、近隣の森を吠えさせるのに充分だった。
危険を察知した鳥は生存本能の赴くが儘に飛び立ち、
ひっそりと息を殺して生きていた小動物はより遠くへと逃げ始めた。
凶暴な肉食動物や猛禽類でさえも、決して同じ
場所に定住しようなどと思う者はいなかった。
世紀の大地震を察知した時よりも、
大袈裟すぎる規模で動物たちが逃げ始めたのだ。
逃げなかった動物は、アラマキただ一人だ。
今のワタナベの恫喝で、耳が痺れていた。
手から滲み出てくる汗は、拭うことができない。
ただ、この一瞬一瞬を、ひたすらワタナベを見るためだけに使っていた。
勝つためでも、負けるためでもない。
『拒絶』を拒絶するためである。
.
- 58 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 15:35:44 ID:pHa6iGt.O
-
从゚ー(;・从「オラアアアアアアアアアッッ!!」
ワタナベは吠えながら、人差し指を天に向けた。
何かするのかと思ったが、なにも変化は訪れない。
/;,' 3「……?」
アラマキも空を見たが、なにも変わらない。
ただのフェイクか、程度に思っていた。
だが、数秒後。
確かに〝それ〟はやってきた。
轟音と巨大な影を伴って、空から。
小惑星と呼ぶには大きな隕石が、この場所に向かって。
/;。゚ 3「なにィィィィィッィイ!?」
从゚ー(;・从「【手のひら還し】ッ!
墜ちるはずのなかった流星だって墜とせるのにッ!」
すると、後方、森の奥の方から妙な音が聞こえた。
風が風を斬るような、残虐な音が。
視認しようとするものなら、その隙を衝かれる。
聴覚だけで、アラマキはそれを判断しようとした。
なにかが、木の肌を斬っている。
なにかが、地面や岩石を削っている。
なにかが、舞った砂を空へ空へ、と押し運んでいる。
―――鎌鼬。
.
- 59 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 15:37:11 ID:pHa6iGt.O
-
从゚ー(;・从「この星に在る全ての風のベクトルも操れるのにッ!」
/;,' 3「(鎌鼬を意図的に引き起こせるじゃと!?)」
鎌鼬とは、旋風のようなもので発生する真空がなにかに当たることで
あたかもそれを斬るかのように引き裂いてしまう自然現象だ。
滅多に起こることのない自然現象なのに、
いま、起きそうにない場所で起きている。
そして、それもワタナベの〝技〟だった。
この星に存在する全ての風のベクトルを『反転』させ、
同時にそのやってくる風にかかる抵抗も『反転』させ、
凶器と化した風を一ヶ所に集め、風の集団をつくる。
同じ箇所で恒久的に風の向きの『反転』が繰り返され、そのたびに
風が加速することで、擬似的な鎌鼬が発生した――としか、説明ができなかった。
そして。
ワタナベはまたしても吠えた。
从゚ー(;・从「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
地に右の掌を付け、左手でその手首を押さえた。
アラマキがどうするのか、と思った直後。
嘗てのハインリッヒほどではないが、彼は〝地面に異変を感じた〟。
.
- 60 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 15:38:33 ID:pHa6iGt.O
-
咄嗟にジャンプしてみると
先ほどまでアラマキが立っていた場所で
地面がぱっくり割れる程の地殻変動が起こっていた。
/;。゚ 3「はッ――ぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!?
な、なんじゃコリャ?!」
安全地帯に着地できるように、体重を移動させた。
その頃、ワタナベは掌を離してふらふらと立ち上がっていた。
不敵に笑って、アラマキを睨んでいた。
从゚ー(;・从「地殻の動きも『反転』させて地割れを起こせるのにッ!」
从゚ー(;・从「どぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉして!
てめえの攻撃だけは防げなかったんだよァァッ!!」
そのとき、流星がアラマキ目掛けて墜ちてきた。
あらゆる抵抗と軌道を『反転』され枠からはずれたそれが、
ちょうどアラマキの頭上にやってくるように。
またそのとき、後方にあった鎌鼬がアラマキの方へとやってきた。
近づいたものを無惨に切り裂く、切捨御免の悪魔が。
さらにそのとき、着地したその足場でも地割れが起きる寸前となっていた。
アラマキを呑み込むように、永遠の闇へといざなうように。
.
- 61 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 15:42:16 ID:pHa6iGt.O
-
イレギュラー・バウンド
从゚ー(;・从「【手のひら還し】ッッ!」
クルワセ
从゚ー(;・从「てめえの策略を『異常』てやらぁぁぁぁぁッぁあ!!」
完全に狂ったワタナベが、あらゆる自然現象を
『異常』てアラマキに間接的に襲いかかった。
どれも、まともに喰らえば死は免れないものばかりだ。
だから、同時に迫る三つの脅威から逃れなければならない。
アラマキは判断に迫られた。
生きていることを最前提に置いた、確かな方法を、一瞬で。
そして、その一瞬で唯一浮かんだのは
この『異常』られた『則』を『拒む』ことだった。
/;,' 3「(同時にやるしかないか――〝こいつ〟を!)」
もうジャンプしても間に合わない。
そうすれば、地面を踏む力のせいで地割れに呑み込まれるからだ。
転がっても無駄だ。流星はそこら一帯を一気に呑み込んでしまう。
後退してもだめだ。背後から実体を伴わない殺人鬼が迫ってきている。
.
- 62 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 15:42:55 ID:pHa6iGt.O
-
だから
「『解除』ッッ!」
【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】。
彼が降臨するよりほかに、仕方がなかった。
.
- 63 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 15:44:01 ID:pHa6iGt.O
-
从゚ー(;・从「ッ!!」
すると、不可思議なことが起こった。
地殻変動を起こしていた地面が、元通り正常なかたちへ戻ってゆく。
風は一瞬でその姿を消し、実体を伴わない殺人鬼は
実体のもととなる実体から存在しなくなってしまった。
流星は、ぴたっと止まっては、ただの落下物のように
アラマキの頭上に墜ちてきた。
こうなってはただの岩石だ。
アラマキならばいとも容易く破壊することができる。
やってきたそれを、拳に渾身の力を籠めて殴った。
凄まじい音と同時に大岩は芯から砕け、近くに散乱した。
ワタナベが壁を蹴り壊したように、ぱらぱら、と音が鳴る。
そして、このときに発生した砂煙が晴れる頃には、
アラマキは構えをして、ワタナベをじっと睨んでいた。
眼を見る限りでは、明らかな殺気と闘争心しか窺えない。
完全に、彼は戦闘モードから「戦争モード」に入っていた。
じっと敵を睨み、決して視界の中央からずらさない。
獲物を狩る時の虎のように、その眼はぎろりと鈍く光っていた。
先ほどまでの焦燥など微塵にも感じさせないで、
ただ一秒先で起こる戦闘のことだけを考えていた。
.
- 64 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 15:45:04 ID:pHa6iGt.O
-
从゚ー(;・从
一方のワタナベは、今のアラマキの能力に面食らっていた。
信じられない、といった様子で、ただ唖然としていた。
流星の動きを大胆にも止めてから破壊し、
開かれた地殻を元のように押し返してしまった上で、
殺傷能力を兼ねる鎌鼬の風の軌道を根刮ぎ止めてしまったのだ。
アラマキのことをなにも知らないワタナベにとっては、
まさに奇々怪々たる出来事以外のなにものでもない。
また、起こっては堪らない出来事でもあった。
自分の『拒絶』が拒絶されたのだ。
なにかを『解除』されたことによって。
その気になればアラマキの生死の概念を『反転』させ
抗うことを許さないまま心臓を貫いた上で再度それを『反転』させる。
そうすれば問答無用で「勝利」することはできるのだ。
しかし、それは『拒絶』の名の下では「敗北」同然なのだ。
自分――拒絶――を相手に受け入れさせなければ、
真の意味での「勝利」は掴み取ることなどできない。
だから、なんとしてでも相手の、アラマキの能力を
『拒絶』した上で勝利しなければならなかった。
.
- 65 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 15:48:12 ID:pHa6iGt.O
-
从゚ー(;・从
从'ー(;・从
从'ー(;・从「……」
鬼のお面がとれて、元のワタナベ=アダラプターの顔へと戻った。
きょとんとして、『拒絶』と思わせない童顔でアラマキを見つめる。
相手の警戒心を緩めかねない表情だったが、
アラマキはその程度では注意を欠くことはない。
だが、ワタナベはそんなつもりでそんな表情をしたのではない。
純粋に、物珍しさ故に生じる好奇の眼差しだった。
体内に緊張を張り巡らせているアラマキが、それを知ることはなかったが。
从'ー(;・从「……ねえ」
/ ,' 3「なんじゃい」
アラマキが低く返した。
明らかに殺気の色で塗りたくられている。
ワタナベがそれに怖じ気づくことはないが、
それでも、気分は決していいものではなかった。
从'ー(;・从「どうして」
从'ー(;・从「どうして、跳ね返せないの、この負傷」
ワタナベは、砕けた顔の左半分を指して言った。
嫌みを言うようでも言いがかりをつけるようでもない。
ただ、純粋に知りたがっているようなものの言い方だった。
一般人が見れば、失禁さえするレベル。
決して人の目に晒してはいけないような顔だ。
頭蓋骨から頬骨の下部に至るまで、すっかり原型をとどめていない。
.
- 66 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 15:52:41 ID:pHa6iGt.O
-
/ ,' 3「……」
从'ー(;・从「事実関係も『反転』できねぇんだよ」
まず、殴るという行為には必ず力の動きが存在する。
それを『反転』させることでその腕の向かう方向が逆になり、自分のもとに拳がやってくることはない。
自分が意識していなかったり、敢えて技を喰らう場合には
『反転』は適用せず、通常の『因果』に従ってやってきた拳を受けるが。
それでも、殴られた瞬間に発生する負傷を拳に押し返したりもできるはずなのだ。
この用法で『反転』させたならば、アラマキの腕は吹っ飛んでいるはずである。
しかし、隻腕とは言え彼の腕はぴんぴん動いている。
そして、自分のこの負荷は残ったままだ。
それでもまだ、被害者と加害者という事実関係も『反転』できる。
実際にアラマキに殴られて傷を負った以上、その事実関係を
『反転』させればアラマキの顔の左半分が吹っ飛ぶはずなのである。
そして、ワタナベにとってはこの『反転』ができないのが一番の謎だった。
完了してしまった攻撃である以上、前者二つはさて置くとしても、
〝完了してから適用される〟三つ目の『反転』が
できないというのは、明らかに『異常』が起こっている。
少なくとも、この疑問を解決させない限りは
ワタナベは一生満たされないままで過ごすことになるだろう。
自分の《拒絶能力》に欠陥があったのだ。
すなわち、それは自分の『拒絶』がその程度だった、と言っているのにすぎない。
言い換えれば、『拒絶』を受け入れさせることが最大の快楽となる
ワタナベにとって、それは決して認めることのできない欠陥だったのだ。
.
- 67 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 15:55:56 ID:pHa6iGt.O
-
/ ,' 3「……教えてやろうか」
/ ,' 3「おぬしが『因果』を『拒絶』する以前に――」
ジェネラル キャンセル
/ ,' 3「儂が『 則 』を『拒絶』したからじゃ」
――アラマキの有する【則を拒む者】は、同盟を結んだ
三人のなかでもっとも《拒絶能力》に近いものだった。
だからこそ、不謹慎な親近感が湧いたし、相手より先に物事を
『拒絶』することで間接的に相手の『拒絶』を拒絶することもできた。
もし、今屋敷の陰で震えている内藤がアラマキを
『拒絶』のように紹介するなら、こう言うことだろう。
(;^ω^)『やつが「拒絶」したのは「法則(ジェネラル)」ッ!』
(;^ω^)『あらゆる「法則」を「解除」することが、
やつの司る「拒絶」となるんだお!』
(;^ω^)「………そう、【則を拒む者】ッ!」
.
- 68 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 15:57:31 ID:pHa6iGt.O
-
――その当人は、脳内で必死に物語の行く末を追っていた。
そして、いま起こってしまった『異常』を解析していた。
その答えは朧気には浮かんでくるのだが、ただ拡大解釈を
しているだけかもしれないと思うと、断言はできないでいた。
アラマキは、その『異常』の原因を既に知っていた。
ワタナベはそれを心を読むことで知ることもできるのだが、それはしなかった。
アラマキの口から、言わせたかったのだ。
/ ,' 3「儂は、おぬしを殴った時に、その力〝そのもの〟を『解除』した」
从'ー(;・从
アラマキが語り出すと、ワタナベは黙った。
じっとアラマキの目を見て、不意打ちを
試みようともせず、真剣に話を聞いていた。
/ ,' 3「そして、『入力』した。それだけじゃ」
从'ー(;・从
そして、始まったアラマキの解説は、十五秒で終わった。
その時間は、アラマキにとっては長かったが、
ワタナベにとってはあまりにも短すぎた。
釈然としない。
自分が求めていた答えからかけ離れていたのだ。
理屈も論拠も裏付けも、まるでない。
なにがどう作用したからそうなったのか、にアラマキは触れていなかった。
実際に起こり得た以上はアラマキの解説が正しいことに
なるのだが、ワタナベがそれで納得するはずもない。
从'ー(;・从「――で?」
/ ,' 3「で、って、しまいじゃよ。ほんとにそれだけじゃ」
.
- 69 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 15:59:25 ID:pHa6iGt.O
-
アラマキはちいさく言った。
とても嘘を吐いているようには見えなかった。
だが、そう至極当然の如く語られても、ワタナベは理解できなかった。
再びワタナベが黙ると、見かねたアラマキが続けて言葉を発した。
/ ,' 3「……じゃあ」
アラマキが、構えを解いてワタナベから目を逸らした。
この状況では、ワタナベは不意打ちをしないだろうと考えた上での行動だった。
少しアラマキがきょろきょろすると、「お」と言って一点を見定めた。
その先は、屋敷の陰。
尻だけを見せて隠れている、内藤の姿が見えた。
地に伏して未だに震えているようで、アラマキに見られても彼は全く気づかないでいた。
/ ,' 3「ブーン君や」
( ; ω )「(【手のひら還し】ってあんなにやばい能力だったのかお!?
いやいやいや、でもいくらなんでも強すぎるっていうかむちゃくちゃだお!)」
/ ,' 3「……」
内藤は、改めて《拒絶能力》の恐ろしさを実感していた。
自分で創ったはずなのに、それが信じられなかった。
内藤の出す小説はおろか、おそらく世間で
お披露目することさえ叶わないであろう理不尽な能力。
バトル小説を手がけるものとして、
【手のひら還し】は恐怖以外のなにものでもなかった。
そして、その恐ろしさも熟知しているため、
内藤の心の底に積もる恐怖は倍増していた。
.
- 70 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 16:01:01 ID:pHa6iGt.O
-
アラマキはそんな内藤の心中を察してか、
再び、今度は森が鳴くほどの大声を出した。
/ ,' 3「ブーン君ッ!!」
( ;゚ω゚)「あひゃい!!」
呼ばれて初めて内藤は反射的にびしっと立ち上がった。
兵隊のように、アラマキの方へ向きを正した。
それを見て、アラマキは
/ ,' 3「今の話聞いておったじゃろ?」
(;^ω^)「へ、あ、え?」
/ ,' 3「〝なぜ【手のひら還し】が効かないのか〟。
そこのお嬢さんに言ってやっとくれ」
そう言って、ワタナベを指差した。
相変わらずきょとんとして、今度は内藤の方を見た。
状況を理解し「またか」と思った内藤は、心の中で嘆いた。
(;^ω^)「(どーして毎度毎度解説しなくちゃだめなんだお!
ちったーこっちの気持ちも考えろ!)」
が、実際はそう心の中でぼやいても、誰も聞かない。
内藤は気怠そうな顔をして、頬を掻いて答えた。
(;^ω^)「えっと……たぶん、で言うなら……」
(;^ω^)「ひとつだけ、心当たりがあるお」
.
- 71 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 16:02:51 ID:pHa6iGt.O
-
二人は肯きはしなかったが、目で肯いていた。
( ^ω^)「じーさんの拳がワタナベに触れたときに、
あんたが『反転』させたのはベクトル――だお?」
从'ー(;・从
( ^ω^)「ベクトル反射は、言うまでもないけど
そこに『力』が発生してないとできないお。
で、じーさんはその『力』を『解除』した。
……つまり」
( ^ω^)「〝発生していない力は『反転』できない〟。
そして〝じーさんの攻撃でワタナベは傷つかなかった〟。
……だから、ベクトル反射はできなかったんだお」
从'ー(;・从「――ハ?」
( ^ω^)「…っ」
ワタナベは、瞼を動かさずぎろっと内藤を睨んだ。
その圧倒される視線に、内藤は少したじろいだ。
从'ー(;・从「殴られた事実をも『反転』してんだぜこっちは。
こいつがおれを殴った以上は――」
( ^ω^)「じーさんの攻撃で、ワタナベは傷つかなかった。
ワタナベは被害者でこそあれ〝じーさんは加害者じゃない〟んだお」
从'ー(;・从「っ!」
.
- 72 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 16:04:36 ID:pHa6iGt.O
-
ワタナベは、漸く理解した。
事実関係を『反転』させるには、
加害者と被害者の両者が揃わなければ成立しないのだ。
アラマキが殴った際、ワタナベにダメージは訪れなかった。
そうである以上、アラマキは加害者ではない。
そして、『入力』したのはワタナベへのダメージではなく
この世に存在する物理法則のうちの一つだ。
アラマキは物理法則をめちゃめちゃにしただけで、
決してワタナベに訪れた『因果』には干渉していないのだ。
だから、『反転』できなかった、と。
/ ,' 3「……というわけで」
アラマキが言う。
/ ,' 3「納得したかの? 儂、早くおまえさんを殺したいんじゃがなあ」
余裕綽々といった態度で、ワタナベの方を見た。
ワタナベはぽかんとしているだけだった。
決して、殺されることに動揺しているわけではなさそうだった。
从'ー(;・从
/ ,' 3「……」
ワタナベは答えず、少しばかりの静寂が流れた。
内藤は汗を拭うこともなく、そそくさと元いた屋敷の陰に逃げ込んだ。
風が数度吹き、ワタナベの紫の髪をなびかせた。
もし胸に穴が空いておらず、顔の左半分が砕けていなければ
さながら少女漫画に出てくる主人公を思わせる構図となっていただろう。
アラマキが、もういいだろう、と考えたときだ。
ワタナベはちいさく呟いた。
.
- 73 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 16:05:23 ID:pHa6iGt.O
-
从'ー(;・从「……やっとだ」
/ ,' 3「?」
ワタナベが、砕けた顔の左半分に手を触れようとしたとき。
それを見ていたアラマキは、仰天した。
ワタナベの砕けたはずの左半分が、〝元に戻った〟のだ。
从'ー'从「片目しか使えないのって、結構不便なのよね〜」
/;,゚ 3「―――ハァッ!? お、おぬ―――」
从'ー'从「遅ぇ」
/ ,' 3「っ!」
一瞬呆気にとられたが、アラマキは自分の
足下にワタナベがいたことを即座に察知した。
反射的に後退し、迎え撃てるように構えた。
四の五の考えるのはまだ先だ。
今は迫り来る脅威を払わなければならない。
そのことだけ考え、ワタナベと対峙した。
.
- 74 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 16:06:54 ID:pHa6iGt.O
-
ワタナベは畳んだ足を地につけた。
そこから地を蹴り出し、瞬間的に加速してアラマキに肉薄した。
そして、狂気を感じさせる笑みを浮かべ、アラマキの顔面に掌底を打った。
あまりにも速すぎる動きに、アラマキは瞬きほどの差だけ出遅れた。
だが、電光石火の攻撃をも去なすアラマキ元帥が
この程度の攻撃をかわせないはずもなかった。
重心を後ろに預けて膝の力を抜いた。
自分の残像の鼻っ柱を突き抜ける掌底が見えた。
その掌底の元、ワタナベの胴体の右胸に拳を繰り出した。
先ほどと同様に、一度その力を『解除』して
時間差でワタナベにダメージを与えるように。
だが
从'ー'从「へッ!」
/;,' 3「――ッ!?」
まるでビデオの巻き戻しを体現するかのようにアラマキの
攻撃という行為は、見事に巻き戻されてしまった。
三段階における『反転』の、その一。
とある動作における『反転』による、可逆。
.
- 75 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 16:08:20 ID:pHa6iGt.O
-
从'ー'从「鼻ッ!」
/;,' 3「『解除』ッ!」
从'ー'从「お?」
アラマキの一瞬動きが止まったのを、見逃すはずがない。
もう一度、顔面に鈍く重くのし掛かる掌底を放とうとした。
その点から点を結ぶ時間はコンマ一秒も掛からないのだが、
アラマキにとってはその程度の速さなら充分能力を適応させることができる。
掌底を放つのに籠められていたワタナベの力を『解除』し、動きを止めてみせた。
嘗てハインリッヒやゼウスには使わなかった類の用途だった。
腕の力が消え、勢いだけが残っているワタナベの躯を迎え撃つように
再びアラマキは右の鉄拳でワタナベの肺を貫こうとした。
だが、これも『反転』させられる。
触れたかどうかというタイミングで、腕の動きが巻き戻された。
このままでは埒が明かないと思ったアラマキは、
ワタナベの動きを、『解除』によって止めて咄嗟に後退し、間合いを空けた。
十メートルにも満たない距離では間合いを空けたとは言えないのだが、
とにかく零距離での攻防だけは避けたかったのだ。
零距離では、反射神経の良さだけが、攻防に露骨に表れるからだ。
破壊力は衰えてなくとも、反射神経に関してはわからなかった。
もし一瞬でも出遅れてしまえば、その瞬間に終わるのだ。
アラマキとしては、気休め程度にでも間合いがほしかった。
.
- 76 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 16:09:43 ID:pHa6iGt.O
-
从'ー'从「ひゅ〜ッ。なかなか面白いワザ使うね!」
/;,' 3「………」
ワタナベは嘲るかのように言って、拍手した。
当然だが、アラマキは祝礼された気は全くしなかった。
死の宣告をされているような心地がした。
だが、ワタナベは止まった。
殴打の嵐を浴びせられては体力負けするところだったが、
ワタナベはにやにやしてこちらを見ているだけである。
アラマキはこのチャンスをものにしようと思った。
少しでも時間を稼いで、逆転の一手を考えようとした。
/ ,' 3「………のぅ」
从'ー'从「なぁに〜」
ワタナベには感づかれていない。
心の声を『反転』させていないのか。
とにかく、アラマキはしめた、と思った。
/ ,' 3「どうして……顔の傷が治ったんじゃ?」
从'ー'从「ほえ〜」
ワタナベはくねくね躯を曲げ、おどけてみせた。
気の抜ける声を発して、ふざけているとしか思えなかった。
/ ,' 3「儂かて『なんで負荷を反転できなかったのか』を答えた。
次はおぬしの番じゃぞい」
从'ー'从「ふえ〜」
やはり、くねくねさせている。
時々可愛く振る舞ってみせたりと、緊張感を欠かせる動きだった。
.
- 77 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 16:10:58 ID:pHa6iGt.O
-
アラマキはそれを意に介せず、じっとワタナベを睨んだ。
最初は無視しようと思っていたワタナベだが、
仕舞いにはその視線が煩わしく思えたので、渋々答えた。
気の抜けた声は、このときで既に発さなくなっていた。
从'ー'从「ま、いいけどサ」
ワタナベは軽く咳払いをして、真顔に戻った。
やはり、彼女が真顔に戻ると、彼女が『拒絶』であることを思い起こさせた。
从'ー'从「一度しか言わねぇからめんたまかっぽじってよく聞きやがれ」
从'ー'从「ボクは、〝ボクの体内での時間の流れ〟を『反転』しました」
/;,' 3「ッ!?」
从'ー'从「〝顔を殴られる前の時間まで巻き戻した〟
結果、傷は〝初めからなかったもの〟になりました」
从'ー'从「これでオケイ?」
/;,' 3「(な――なんじゃと!?
じゃあ……いっくらダメージを与えても、無駄じゃないかッ!)」
从'ー'从「うん、ムダ」
/ ,' 3「っ!」
心の声を読まれて、アラマキははッとした。
ワタナベは表情を変えずに続ける。
.
- 78 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 16:12:36 ID:pHa6iGt.O
-
从'ー'从「そして、時間を稼ごうとして無粋な質問をするのも、ムダ」
从'ー'从「どんな奇策を思いついても、全部わかるんだから」
/ ,' 3「…………(そうか、心を読むのか)」
从'ー'从「戦場における掟、だっけ?」
从'ー'从「それも、さっききみの心の中を覗いて、其の壱から
最後まで、ぜーんぶ丸暗記しちゃったもんね」
/ ,' 3
それは何気なく放った言葉だった。
だが、その何気ない一言がアラマキの怒りを買ったことは
今のワタナベは全く予想もしていなかった。
/ ,' 3「おぬし」
从'ー'从「あ?」
アラマキが一歩、詰め寄った。
/ ,' 3「戦場の恐ろしさを知らぬ者が、なにをほざくか」
从'ー'从「……?」
このとき、ワタナベは。
漸く、アラマキの瞳に宿った黒色が、目に入った。
じりじりと、しかし一歩一歩を強く踏みしめ、
アラマキは確かにワタナベのもとに歩んでいった。
.
- 79 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 16:13:46 ID:pHa6iGt.O
-
「『生死の概念』を『反転』した?」
「死を恐れたが故に、死を『拒絶』したのか」
「青い……実に青いぞ、小童ァ!」
「戦場における掟、其の弐拾ッ!」
「〝死を怖るる者、死よりも猶耐え難し〟ッ!」
/ ,' 3「畏まれいッッ!!」
.
- 80 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 16:17:50 ID:pHa6iGt.O
- 十一話「vs【手のひら還し】Ⅲ」は以上です
罪滅ぼしもかねて、ワタナベパートが終わるまでは更新頻度をあげていくつもりなので、なにとぞよろしくお願いします
ちなみに、作中でワタナベが【ご都合主義】<【手のひら還し】だーとか言ってましたが
実際は【ご都合主義】の方がふつうに強い設定です。ごめんなさい
- 81 :同志名無しさん:2012/12/11(火) 19:41:47 ID:IhZo5PNw0
- 勝つ姿が思い浮かばないww乙です!
- 82 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 16:49:48 ID:aqO0ZAYsO
-
○登場人物と能力の説明
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
从'ー'从 【手のひら還し《イレギュラー・バウンド》】
→『因果』を『反転』させる《拒絶能力》。
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
.
- 83 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 16:50:18 ID:aqO0ZAYsO
-
○前回までのアクション
/ ,' 3
从'ー'从
→戦闘中
从 ゚∀从
→気絶
( <●><●>)
→戦闘不能
( ´ー`)
→散策中
.
- 84 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 16:51:47 ID:aqO0ZAYsO
-
第十二話「vs【手のひら還し】Ⅳ」
怒号と同時にアラマキは飛び出した。
同時にワタナベは後方へ十メートルほど跳んだ。
その着地と同時に、アラマキは既にワタナベに肉薄していた。
ワタナベはアラマキの動きを『反転』させ、アラマキは動きを巻き戻された。
だがアラマキも退かず、後ろへ向かおうとしているその慣性を『解除』した。
それにより何の力による干渉のない状態に戻ったアラマキは、
地についていた右足をバネのように伸ばして飛びかかった。
右拳の射程圏に、ワタナベの前身が入った。
彼女は、アラマキのその動きも『反転』させたが、それと同時に
『反転』による動きが『解除』され、結果アラマキが一瞬止まっただけになった。
拳が右頬を掠めるように飛んできたので、ワタナベは背中を反らせてそれをかわした。
拳の軌道が真空を生み、ちいさな爆発音のような音がワタナベの耳元で鳴った。
アラマキは右腕しか残しておらず、それを左方向へ使い分けてしまった。
結果彼の右半身は無防備となり、またワタナベに
そちらに回り込まれては、相手に背を向けるのと同義になる。
攻められてばかりのワタナベではない。
むろん手は抜いているつもりだったのだが、
気がつけば〝回避に関しては〟既に本気を出していた。
それが屈辱的だったため、無防備となったアラマキの
右半身を見てワタナベもすぐさま攻撃に転じた。
アラマキの死角、右側に回り込み、少し腰を落とした。
アラマキの裏拳がやってくるまで、コンマひとつ跳んで三秒である。
それまでの瞬間に、ワタナベは掌底をアラマキに向けた。
向けたといっても、ただ機械的に右脇腹に打ち込むのではない。
.
- 85 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 16:53:10 ID:aqO0ZAYsO
-
〝両手を個別に使って〟掌底を放った。
右の掌はアラマキの躯よりやや右寄りに。
左の掌で、アラマキの肋骨を真横から狙った。
その掌底の軌道のちょうど中間くらいで、アラマキの裏拳がやってきた。
が、それはワタナベの頭部を捉えることはなかった。
凄まじい爆音と同時に、アラマキの裏拳と
ワタナベの右の掌が打ち合わさったのだ。
爆音の結果、〝両者の拳に異常はなかった〟。
同時に、アラマキの右脇腹をワタナベの左の掌が捉えたのだが、
これも爆音を残しただけでどちらにも支障は来されなかった。
攻撃と同時に、アラマキはそれによって生じる力を『解除』した。
しかし、その『解除』と『入力』を、ワタナベが『反転』させた。
そのため、力は従来通りに両者に均等に向かうはずだった。
だが、自身にやってくる力のベクトルをワタナベは『反転』させ
擬似的にアラマキに負荷を全部押し返した。
拳の感覚から、自身の『解除』が『反転』されたのを察したアラマキは
咄嗟に、自身にやってくる力を『解除』した。
結果、最初の打ち合った時に生じた音だけを残して
今回の一瞬における攻防は終わったのだった。
この少し前に、アラマキは右足を上げていた。
踵を外側に向け、地面と平行になるように。
それを、裏拳より一瞬後に横に凪ぎ払った。
水平蹴りとも呼べようその蹴りが、掌底で裏拳を
受けたワタナベの脇より少し下辺りを襲った。
ワタナベは、この攻撃は予測していなかった。
アラマキはこの蹴りによる力を一時的に『解除』した。
そして数瞬後に『入力』し、力の因果関係を断ち切った上でダメージを与えた。
だが、ワタナベは少し苦悶の表情を見せただけだった。
今の彼は、特に踏み込んだわけでもなく、支えるものが左足だけだ。
まして右腕は攻撃に用いたためバランスをとれておらず、
結果この水平蹴りは日頃のアラマキの「破壊」に比べれば大した威力ではなかったのだ。
.
- 86 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 16:54:59 ID:aqO0ZAYsO
-
せめてその部位が砕けはしないかかと思ったが、いくらアラマキらに劣るとは言え
常人を逸している肉体を持つ『拒絶』にはそんな甘い考えは通じなかった。
肋骨を一本、折っただけにすぎなかった。
ワタナベは右の腿を外側にずらしてから、一瞬のうちにそれを持ち上げた。
自身の右肘に打ち付けるような動きで、アラマキの右足をそれで挟んだ。
挟むといっても、彼女の場合はそれはギロチン級の鋭さとなる。
それを、足の爪先の動きで瞬間的に察知したアラマキは
そのギロチンで上下から伝わってくる力の向きを全部『解除』してワタナベに押し返した。
ワタナベは仰天した表情を見せて、カウンターされたダメージを被った。
挟んだ右肘と右膝をひき、ワタナベは後方に跳んだ。
負荷における因果関係を『反転』できないと確認したからだ。
今のダメージは、アラマキが与えたものではない。
力の発生源は自分である以上、自分で自分に負荷を与えたようなものなのだ。
言い換えれば、被害者は自分で、同時に加害者も自分である。
それを『反転』させても、結局はなにも変わらないのだ。
アラマキの『解除』を用いたカウンター技には、自分の
【手のひら還し《イレギュラー・バウンド》】が効かない
ということがわかった以上、迂闊に攻め寄れない。
そのため、一旦距離を空けておきたかった。
从'ー'从「結構イイねえソレェ!」
だが、一旦空けた距離もすぐに詰め寄られた。
ワタナベは少し驚いたが、アラマキにとってはそれが最善の行動だった。
フェイントを交えて攻めればいつかはダメージを与えられる。
ならば、とにかく殴打の嵐を浴びせればいいのだ。
そう考え、ノーガードで、ひたすら攻めようと考えていた。
.
- 87 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 16:57:21 ID:aqO0ZAYsO
-
从'ー'从「けど甘ェ!」
アラマキが拳を放った直後、彼は違和感を覚えた。
急に自分を縛っていた紐から解き放たれたような感覚に見舞われたのだ。
その正体は、上空に向けて飛ばされる自分の躯を見てわかった。
重力の『反転』だ。
いつしか、何度か。
自分も行ったことのある、〝宇宙を武器にする〟即死級の大技だ。
それの危険性は知っていて、且つそれの有効性も知っている。
だから本来は慌てふためくはずなのだが、アラマキは落ち着いていた。
/ ,' 3「『解除』ッッ!」
从'ー'从「ッ!」
重力は、対象物を自身へ引きつける万有引力と、遠心力との合力だ。
それを『反転』させるというということは、重力を「対象物を
自分から突き放すように恒久的に発生する力」にしたということになる。
だが、結局は『力』なのだ。
『力』を操るアラマキが、それを拒めないはずがない。
咄嗟に、自身にかかる「重力」を『解除』して「重力」を重力に戻した。
この曲芸じみた行動には、ワタナベも驚かされた。
かなり拡大解釈された『反転』をするワタナベが言えることではないが、
この『解除』の適応範囲が、非常識にも広いのだから。
重力をも『反転』させたワタナベだが、それで
アラマキがピンチに陥ったわけではなかった。
むしろ、アラマキにとっては好都合だった。
自分の大好きな「慣性」と「重力」の両方を、味方にできるのだから。
.
- 88 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 16:59:02 ID:aqO0ZAYsO
-
躯にかかる加速を拳に移し、対応しきれないでいるワタナベの脳天に放った。
ワタナベは頭を防ぐより先に、再び「重力」を『反転』させ、元の重力に戻した。
アラマキは今、重力を『解除』しているのだ。
重力が元に戻った今、アラマキは再び宙に飛ばされた。
否、〝飛ばされかけた〟。
そう来るであろうことを、アラマキは予め察していた。
だから、躯にかかる力に違和感を感じたと同時に、重力を『入力』した。
結果、アラマキは宙で一瞬停止した。
ワタナベが次の行動にでる前に、右足を思い切り前方に向けて蹴り出した。
半月を描くように放たれたその蹴りは、ワタナベの顎を捉えた。
『反転』させた直後の、光のような速さの蹴りだったため
ワタナベはそれを『反転』させ防ぐことはできなかった。
何度も言うように、これは零距離では言わば反射神経を用いた戦いなのだ。
反応しきれなかったワタナベが競り負けるのは、今回では当然だった。
/ ,' 3「『入力』ッ!」
从'ー'从「ブッ」
蹴りの力の『入力』と同時に、ワタナベの顔は上向きになった。
顎が壊されそうな威力で、予想していなかった声を発した。
咄嗟に後退し、追撃を受けないように立ち回った。
その直後、ワタナベの残像の頭部をアラマキの踵が砕いているのが見えた気がした。
从'ー'从「ジジイ速ぇ〜」
/ ,' 3「ッ…。はずしたか」
从'ー'从「それはおあいにくさ―――」
.
- 89 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 17:00:15 ID:aqO0ZAYsO
-
从'ー'从「まッ!」
ワタナベは両膝を少し畳んで腰を下ろした。
同時に突きだした手は、アラマキの真下にある
直径二十センチほどの石に向けられていた。
直後、その石及びそれを取り囲む石の全てが、真上に飛び上がった。
ワタナベは、そこら一帯にある石や砂にかかる重力を『反転』させたのだ。
ただ『反転』させただけではない。
空気抵抗をも『反転』させ、通常の倍近い速度を生み出させていた。
/ ,゚ 3「うぉッ――」
アラマキが『解除』できるのは、基本的には一度の使用につきひとつのみだ。
一瞬一瞬のたびに能力を発動することで、擬似的には
同時に複数個もの対象物の力を『解除』できるのだが、
さすがに一個や二個では済まされない量の小石が飛んできては、
たとえアラマキと言えども抗うことはできなかった。
槍と化した石や小石が、次々アラマキの皮膚にめり込んでいった。
じょうろのようになった肌から血が吹き出してくる。
二十センチほどの石からは力を『解除』させたものの、
これではダメージを負ったことには何ら変わりがない。
全身の筋肉を強ばらせ、膨張させた。
傷をそれで圧迫させて、血をせき止めた。
同時に、圧迫され力の行き場がなくなった小石は、
外に押し返されるように、弾き飛ばされた。
それを見てか、ワタナベは重力が『解除』された石の
重力を再度『解除』させ、アラマキのもとに向かわせた。
そのときには既にアラマキは行動ができる体勢になっていた。
.
- 90 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 17:02:16 ID:aqO0ZAYsO
-
飛んできた石を、「破壊」を体現する拳で打ち砕いた。
そして飛び散る力を『解除』させ、ぽろぽろと地に落とした。
ワタナベはそれを見て半ば感心したが、同時に嘲笑もした。
今の、石を殴る瞬間、そのベクトルの向きを『反転』させて
アラマキ自身の拳を砕くことさえできたのだ。
それを警戒しないで行動する辺り、まだ自分には勝機がある。
ワタナベは、そう思うと、ふッと顔の筋肉がほぐれた。
从'ー'从「すごいよジジイ〜!
今の攻撃、名付けてストーンエッジを
防げるのはせいぜいきみくらいだよ〜!」
/ ,' 3「戯け」
从'ー'从「本気の五十三万分の一しか使ってないボクに対して
もうそんな様子じゃ、せいぜい保って五分だよきみ〜」
実際、彼女はまだ本気を出していなかった。
彼女が本気を出すということは、能力を惜しみなく使うことである。
アラマキの『生死の概念』を『反転』させるだけで、言わば即死なのだ。
そう考えると、アラマキがどう足掻こうと彼の敗北は決まっているようなものだ。
だが、ワタナベがそうすることは、自分が負けそうにないうちは、ない。
なぜなら、そうしてしまうと自分が満たされなくなるからだ。
.
- 91 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 17:03:57 ID:aqO0ZAYsO
-
せっかく、こうも自分と――対等かは置いておき――闘いあえる人材が見つかったのだ。
それまでは、ただ遣える能力を持っているだけの弱者か、
自己陶酔しか能のない雑魚くらいとしか彼女が出会うことはなかった。
そんななか、彼女はゼウスと出会った。
互いに名乗ることもない、まさに抜き打ちの試合。
ゼウスは身体能力も戦闘力も抜きん出ていた。
まして、不意打ちや騙し討ちの精度は世界一だ。
だから、ワタナベは少しは楽しめていた。
次なる攻撃はなにか、を読むだけで満たされていた。
だが、足りなかった。
彼の場合、有する《特殊能力》は、自身の攻撃の成功が前提となるもの。
攻撃そのものが成立しないため、能力を発動することもなくワタナベに敗北した。
ワタナベの視点で言えば、彼は一度も能力を使わずに倒れてしまった。
だから、ワタナベは、物足りなく感じていた。
ワタナベは、ハインリッヒとの〝じゃれ合い〟も少しは楽しく思えた。
全てのものから『優先』されるその能力は、いくらワタナベといえど脅威に値した。
だから優先的にそれを『反転』させ、封じた。
するとどうだ。
ハインリッヒは瞬く間に敗北したではないか。
所詮能力に頼っているだけの二流だ、ワタナベはそう思った。
所詮、『英雄』はこの程度か、とも見切っていた。
.
- 92 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 17:05:35 ID:aqO0ZAYsO
-
しかし、アラマキは違った。
風格もあり、経験もあり、実力もあり、能力も遣える。
はじめて自分に「受け入れざるを得ない」負荷を与えたのだ。
ワタナベにとって、これ以上のない充足感だった。
たとえ自分のほうが有する能力面では圧勝していても、
もう少しこの戦いを続けて、もっと満たされたかった。
从'ー'从「だからさ」
/ ,' 3「――ッ」
肉薄して、顔を一センチの距離になるまで近づけた。
不意の動きに、アラマキは対処ができなかった。
が、ワタナベは攻撃しようとはしなかった。
狂気に満ちた笑みをみせ、耳元でちいさく呟くだけだった。
从'ー'从「もっと足掻け。『自分が負ける』という『因果』を拒絶しろ。
ボクをもっと悦ばせろ。イキそうなほど、失禁しそうなほどの快楽を与えろ」
/ ,' 3「……ッ」
アラマキは、ひそかに冷や汗を垂らした。
.
- 93 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 17:07:03 ID:aqO0ZAYsO
-
◆
内藤は、屋敷の陰で震えていた。
震えていた理由は、二つあった。
ひとつは、言うまでもなくワタナベが原因だ。
彼女の恐ろしさに、未だに慣れていないのだ。
彼女と対峙して彼女に睨まれては、失禁しかねない。
それなのに、ああして戦闘できているアラマキが凄いとしか思えなかった。
黙っていれば美少女なのに、有する《拒絶能力》が恐ろしい。
【ご都合主義】とは違い、【手のひら還し】は
『現実』を最悪なかたちにねじ曲げるようなことこそしないが、
与えられた『現実』を好き勝手に崩壊させているようなものなのだ。
それでは、やっていることはショボンとなんら変わらない。
むしろ、『生死の概念』を『反転』させることで実質不死となっている以上
純粋な恐ろしさでいえば、ワタナベの方が圧倒的に勝っていた。
それが、一つ目である。
二つ目は、ワタナベもショボンもアラマキも関係なかった。
ただ、脳内で、ある人物の声が文字となって現れていたのだ。
.
- 94 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 17:08:46 ID:aqO0ZAYsO
-
『知らねえよ。』
『おめえの攻撃も、頭脳も、能力も、』
『んなもん、ぜんぶ知らねえよ。』
――『拒絶』を体現する男。
有する《拒絶能力》は、内藤が知る限り――つまりこの世界において――
右に並ぶものはおろか、足下に及ぶ者すらいないであろう程の理不尽さを持つ。
〝なにもかもが効かない〟のだ。
そして〝なにもかもを打ち消す〟のだ。
ショボンやワタナベのように、世界の規律を乱すような大袈裟な曲芸はしない。
だが、だから弱いという話は、いっさい通じない。
内藤は、「どうしてこんな能力を編み出してしまった」と後悔していた。
「勝つ道理が存在しない」能力なのだ、これは。
ワタナベなんかより何十倍も、恐ろしさは勝っていた。
『拒絶』が存在する以上、「奴」は絶対に存在している。
「奴」は好戦的な性格ではないだけまだましなのだが、
それでも戦う時は戦う。
そして少しでも怒らせ《拒絶能力》を発動させれば、最期。
決して誰も抗えない。
ワタナベでも『反転』できないし
ショボンでも『絵空事』にできない。
そんな男なのだ。
内藤が怯えるには、充分すぎる内容だった。
.
- 95 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 17:10:25 ID:aqO0ZAYsO
-
( ; ω )「(あいつは……あいつだけは、絶対に相手にしちゃだめだお)」
( ; ω )「(その前に逃げて、一生を隠れて過ごすのが一番だお)」
たとえ銃弾を撃っても
零距離で大砲をぶっ放しても
頸動脈を噛みちぎっても
寿命が急に零にさせられても
内藤が危惧する男は、死なない。
死ぬはずがない。
『死』なんか、既に『拒絶』しているだろうからだ。
勝つ方法が、冗談抜きでひとつも浮かばなかった。
『作者』であり、この世の全てを知り尽くしていても
おかしくないこの男、内藤でさえ、わからなかった。
今のうちから対抗策を練る必要性もなかった。
――否、「今のうちから」など関係なく、対抗策を
練る必要性などなかった、といった方が正しい。
対抗策など存在しないのだ。
『ダンプカーに突っ込まれても死なない鋼の肉体だって?』
『そりゃーすげえ。で?』
『鋼だろうがダイヤモンドだろうが、〝壊れるもんは壊れる〟んだよ。』
『甘受しな。』
.
- 96 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 17:12:26 ID:aqO0ZAYsO
-
未だに、声の存在しない声が聞こえてくる。
内藤はそのたびにかぶりを振っては、その声を遠ざけようとした。
だが、思うようにいかない。
意識すればするほど、「奴」の存在がより鮮明に浮かび上がってくる。
しかし、幸か不幸か、顔はわからなかった。
設定する必要がないし、イメージしたこともないからだ。
だが、顔がわからなかろうが、「奴」が誰なのか
〝会って空気を味わえばすぐにわかる〟。
肌が急に悲鳴をあげ、避難するよう警笛を鳴らすのだ。
動物的に、それは顕著に、表れる。
決して受け入れてはならない『拒絶』が、そこにあるのだから。
( ; ω )「どうしたもんか……」
漸く落ち着けてきたと思うと、内藤はやっとこさ震えがおさまった。
「奴」に関する思考に、免疫ができた。
通常の恐怖よりも、それは何倍も時間がかかった。
立ち上がって、服に付いた砂埃を払う。
乾いた砂が、近くをふわりと舞った。
それを見届けることなく、さっと後ろを見た。
後ろ、すなわち「戦場」である。
打撃による負荷を、『解除』してから『入力』するという
タイムラグを用いた攻撃法をその場で編み出したアラマキのことだ、
内藤が震え考察していた間でも、ある程度は押してダメージを与えているだろう。
――その考えは、白昼夢にすぎなかった。
夢見がちと言われても反論できない、『絵空事』だった。
実際は、アラマキが圧倒的に押されていたのだから。
.
- 97 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 17:13:50 ID:aqO0ZAYsO
-
( ;゚ω゚)「―――ッ!?」
ワタナベの動きは、視認不可だった。
目で捉えることができない速さで立ち回っていた。
得意の、掌底を用いた打撃が頻繁に行われている。
踏み込んでから放たれる、骨を砕きかねない掌底。
飛んでくる攻撃を、躯を捻ってかわした直後に繰り出す、回し蹴り。
跳躍した際に狙うことの多い、空中踵落とし。
〝非力な美少女〟でも殺傷力を持つことのできる攻撃を
中心に、一連の攻撃パターンの流れが組まれていた。
そのためか、無駄がなく、着々とダメージを与えることができている。
だが、内藤が、その程度のことで仰天するはずがない。
問題は、その向かいにいるアラマキだった。
血らしき赤黒い色で全身が滲んでいて、
既に肩で息をするほど、追い込まれている。
攻撃も、内藤が視認できるほど遅くなっていた。
プロ野球のピッチャーが投げるボールでさえ視認できない
内藤でさえ、アラマキのその攻撃は充分視認することができた。
これは『異常』なのだ。
対象物を「破壊」するには、少なからずや速度が必要とされる。
そして、「破壊」の化身である以上、当然その速さも身につけている。
そんなアラマキの打撃が、それもスローモーションのように一手一手が頗る遅いのだ。
.
- 98 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 17:15:05 ID:aqO0ZAYsO
-
これでは、見ている限りではどう考えてもアラマキの劣勢としかいえなかった。
認めたくない『因果』だが、これは認めざるを得なかった。
皮肉にも、『拒絶』を甘受するしかなかった。
なおも戦闘という名の一方的な攻撃は続いている。
アラマキなら、ワタナベの放つ掌底を最低限の動きで
去なせるはずが、今ではかわすことすらできず頬を掠めたりしていた。
/;,' 3「―――ッ」
从'ー'从「ほらァ!」
アラマキが避けれるようにわざと加減させた掌底を、ワタナベが放つ。
間一髪で避けるアラマキを見て、彼女は芯から快感で震えるのだ。
この、焦燥に満ちた顔。
この、絶望のなか必死でもがき苦しむ姿。
この、拒絶しようにできない『拒絶』。
そのどれもが、彼女を満たす。
あの、自分に多大なる負荷を与えたアラマキが、
こうも一瞬で手のひら返され、追い詰められてしまうのだ。
生に、勝利に固執するアラマキは、実に滑稽なものだった。
そんな姿に、ワタナベが惹かれるのもおかしくはない。
滑稽でありながら、その姿は実に美しかったのだから。
醜く、愚かで、汚らわしい、だからこそ美しい。
.
- 99 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 17:16:38 ID:aqO0ZAYsO
-
从'ー'从「もっとォォ!」
/;,゙ 3「――」
徐々に、掌底の速度を速めていく。
体力の消耗で動きが衰えてくるのに反比例して、
やがて回避ができなくなるであろう速度で攻撃する。
そうすると、相手の動きは更に滑稽になるのだ。
的外れな行動に出ては、裏目に出て負荷を負う。
その負荷が連鎖して、やがては『拒絶』に辿り着く。
从'ー'从「らららぁぁッ!」
/; ゙ 3「――――」
アラマキの動きは、やはり衰えてきた。
体力の消耗だけでなく、精神的な疲労、
また負わされたダメージもが関連していた。
ワタナベは、そんな彼を見て、彼が堕ちるのもそう遠くはないな、とほくそ笑んだ。
徐々に『拒絶』に呑み込まれてゆくのが、見てとれる。
呑み込まれた終着点が、自分がもっとも欲する快楽なのだ。
ワタナベは徐々に興奮してきて、躯が熱くなってきた。
从'ー'从「あれれ〜?」
/;。゙ 3「が――」
隙を衝いて、アラマキの腹に掌底をねじ込んだ。
疲労の溜まったアラマキが、即座に反応して
その攻撃に対し能力を発動させることはできなかった。
从'ー'从「動きが遅くなってるよ〜?」
/;。゙ 3「カ……ハ…………ッ」
内臓に確かな負荷を与えて、アラマキを突き飛ばした。
地面に背を打ち、数回バウンドして、横たわる。
うずくまっては、まともに呼吸もできなさそうな様態になった。
.
- 100 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 17:18:06 ID:aqO0ZAYsO
-
从'ー'从「さっきまでの威勢はどーしたのさ!」
/; ' 3「………ぬ……」
アラマキは、上体を起こしてなんとか立ち上がった。
もう足も覚束なく、相当な負荷がかかっていることが
一目見ただけですぐにわかった。
ワタナベは、そんな彼の様子がおかしかったようで、
急に攻撃をやめ、おかしな振る舞いをとった。
从'ー'从「やってみなくちゃわかんねえだろ!
諦めるな! おコメ食べろ!」
从'ー'从「なーんて」
/; ゚ 3「………カ…ッ」
狂ったかのような演技をして、直後に不意打ちにでた。
両手を横に広げておどけてみせた直後だったため、
アラマキもその攻撃を防ぐことはできなかった。
右足で地を蹴り、様々な要素を『反転』させて
コンマ一秒足らずでアラマキのもとへ突進し、
突き出した左肘でアラマキの腹を捉えた。
アラマキは腹から空気を吐いて、よろめいた。
掌底による負荷が、思いのほか重くのしかかっていた。
ニーバットの負荷に耐えようとする足腰が悲鳴をあげる。
アラマキ自身も、思わず苦悶の声を漏らした。
それを聞いてワタナベは躯が更に熱くなった。
もっと聞きたい。
もっと痛がってほしい。
もっと満たして。
そんな願望が、彼女の脳裏を駆けめぐっていた。
先ほどまでよりも、更に顕著に表れていた。
.
- 101 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 17:18:58 ID:aqO0ZAYsO
-
从'ー'从「手のひら返して不意打ちは常套手段だぜぇ〜? 理不尽だろぅ〜?」
/; ' 3「ふ、はハ……」
从'ー'从「? なにがおかしいんだぜぇ〜?」
口調や声色を変えたワタナベに、アラマキはそう笑った。
相当な負荷を与えられた上で笑ったのだから、ワタナベも不思議に思った。
引き続きおどけた様子で、アラマキの様子を窺う。
よろめいたままのアラマキは、虚勢を張らんがばかりの笑顔で満ちていた。
/; ' 3「そん程度で不意打ちを語るか……」
从'ー'从「?」
/; ' 3「儂の宿敵にの、おぬしなんかの数百倍は不意打ちのうまいきゃつがいてのぅ」
/;,' 3「そのフリがフェイクであること自体、むしろお約束なんじゃよ」
从'ー'从「……」
从'ー'从「………」
.
- 102 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 17:20:04 ID:aqO0ZAYsO
-
ワタナベは押し黙った。
いや、思考に耽った。
なぜ急に、ここにきてこいつは無駄話をするようになったのか。
なぜ、反撃に出たりしないのだろうか。
そんなことを疑問に思ったのだ。
不意打ちの可能性も考慮した。
だが、アラマキの胸中からそれをにおわせる言葉は届いてこない。
不意打ち、騙し討ちをする場合、どうしても強く意識してしまうため、
その心のどよめきを隠すことは不可能に近いのだ。
心の声を『反転』させて探って、その声が聞こえてこない以上は、不意打ちの可能性はない。
ならば、いきなり見せたこいつの余裕な態度はなんだ。
今度は、彼女はそう思った。
先ほど心を読んだ際、奇妙なことがわかった。
心の底から、余裕で満たされているのだ。
それも、虚勢や上辺のそれではない。
「こいつには勝てる」や「勝ったも同然だ」。
そんなニュアンスの感情が、彼の胸中を取り巻いていたのだ。
だが、そこから更に詳しいことは探れない。
アラマキはうまいこと、その感情より先の心情を
押し殺して、悟らせないようにしているのだ。
様々な面においてキャリアが桁違いである以上、心の声に
鍵をかけることは、不完全ながらもできるのだろう。
彼の放つ威圧といい、年季が彼に与えた功は、
ワタナベにとって厄介以外のなにものでもなかった。
.
- 103 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 17:20:57 ID:aqO0ZAYsO
-
从'ー'从「歯ァ食いしばれ」
/ ,' 3「また手のひら返したの。
最近の若いのは落ち着きを知らんて」
ワタナベのなかの厄介が不安に変わり、
それが更に懸念、はたまた危惧にまで変貌を遂げた。
だから、早急にこいつとの戦闘を終わらせようと思った。
自分が満たされる至高の結末。
「抗いようのない立場からの、一方的ななぶり殺し」を経て。
一方のアラマキは、ワタナベに悟られない領域で心の声を囁いていた。
それを思うたびに、冷や汗が頬を伝うのだ。
不安、疑心、懸念、そしてそのどれよりも大きな、期待の入り混じった。
/ ,' 3「(もっと〝時間を稼がねば〟ならんかのぅ……)」
今のところ、その言葉の意味を知っているのはアラマキしかいない。
内藤でも、ワタナベの倒し方はわからないのだから。
.
- 104 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 17:22:07 ID:aqO0ZAYsO
-
◆
路地裏では、カラスがごみ箱を漁っては食えそうなものを選んで貪っている。
仲間であろう二、三匹とともに、だが相手のことは考えず
自己の利益のみを求めて我先にと餌を食っていく。
むせるような臭いと、吐き気を催す光景。
肉片が散らばり、嘔吐や精液が飛び散っているのは
路地裏ではむしろ当然の有り様であると言えるのだ。
この王国の治安が悪い理由は、幾つかある。
一つが、王国は治安よりも裏社会との対決に全力を注いでおり、
治安に回す余力などこれっぽっちも残ってないからだ。
結果はぐれ者やアウトローが蔓延し、裏通りに集っては
治安隊などが近づけそうにもなくなるほどの悪事を働く。
ほかの理由だが、どういうことかこの王国には『能力者』が多いのだ。
多いといっても、個体数が、ではない。
ほかの国と比べて、の話だ。
本来ならば千人に一人いるかいないかの割合でしか生まれないのに、
この国では明らかにそれを凌駕するほどの人数がいる。
そんな国に、海外から遙々やってくる『能力者』もあとが絶たない。
そんな『能力者』に、決して善人がいないとは言わない。
だが、出逢う大方の人数が悪人なのだ。
自分の《特殊能力》に酔いしれ、高みを目指す。
王様になったような心地で、悪事という名の正義を果たし、成り上がっていく。
結果、国が廃れそうなほど、治安が悪化してきたのだ。
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- 105 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 17:23:20 ID:aqO0ZAYsO
-
このカラスは、ある意味で言えば善人だろう。
ただ生きるためだけに、惰性的に食事をとるだけなのだから。
周りに人間がいないのを本能で確認して、ひたすら貪っていく。
腹が満たされなければ、生きている心地がしないのだ。
それは、動物としては致し方のない、当然の行動である。
すると、誰もいなかった路地裏に
( ・∀・)
一人の男が、いきなり現れた。
気配や跫音など一切発さずに現れたため、
カラスは驚いてくわえていたリンゴも吐き捨て、
無我夢中で大空へと飛び立ち、逃げていった。
男はきょろきょろして、溜息を吐く。
存在が『嘘』のような男、モララー=ラビッシュが。
( ・∀・)
右肩に左手をあて、首を左右に揺らす。
関節の鳴る音が二、三回断続的に聞こえた。
そして両手を脇腹に当て、再度溜息を吐いた。
辺りを見渡しながら、ゆっくりと歩き始めた。
独り言など漏らすことはない。
ただ、路地裏の酷い有り様を、他人事のように眺めては歩くだけだ。
『拒絶』という、「我」と《拒絶能力》以外なにもない存在にとって、
「生きる」ということは「満たされること」に尽きる。
満たされない時は、ただ惰性で世界を漂っているのみだ。
.
- 106 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 17:24:26 ID:aqO0ZAYsO
-
破れたポスターに壁の落書き、遠くから聞こえるカラスの不調和な合唱。
どれもどうでもよくて、どれも無価値な存在だ。
それが『拒絶』のような気がするから、モララーは路地裏が好きなのだ。
低俗な自分と同類の存在を見ると、「自分だけではない」という
共同体を持つことができ、責任を分け与えることができる気になれる。
責任の対象が自分だけなら、惰性で暮らしていこうとすら思えないだろう。
( ・∀・)
そんなことを考えながら、奥の方へと進んでいく。
いよいよ思考すべきこともなくなっていく。
空を見上げると、トタンの屋根が視界を遮った。
「これでいい」と思って、視線を前に戻した。
するとどうだ。
急に、背後から銃声が鳴り響いた。
( ・∀・)「ん?」
カラスたちが奏でる静寂を引き裂いて
この黒いキャンパスに飛び込んできた銃声は、モララーの真横を掠めた。
静かだった路地裏に、破裂音が反響する。
銃如きに屈するモララーではないため驚きはしなかったが、
なにもなかったところで人為的な音を聞いたため、
モララーでも気になるといえば気になるものだ。
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- 107 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 17:26:00 ID:aqO0ZAYsO
-
モララーはさっと振り向いた。
すると、一人の男が、銃を持って立っていた。
手にしているデザート・イーグルからは、硝煙があがっている。
( ・∀・)「おまえか?」
( ^Д^)「……は?」
金髪で、収束させた毛先を尖らさせている男は不満そうに言った。
銃を手放さないところから、モララーに敵意を持っているように窺える。
だから、モララーもそれに応えるように、威圧的に訊いた。
( ・∀・)「この俺に銃弾をぶっ放したのは、おまえか?」
( ^Д^)「……」
男は銃を向けたまま、下ろそうとはしなかった。
モララーの僅かばかりの譲歩にも答えず。
だから、モララーは『嘘』を複数個『混ぜ』た。
黙っていれば気づかれることのない『嘘』。
彼がほかの『拒絶』から煙たがられる原因は、
いつ『嘘』を『混ぜ』ているのかわからず、面倒だからだ。
モララーがあとどれくらい『嘘』を『混ぜ』ようか悩んでいると、金髪の男が先に口を開いた。
相変わらず銃は手にしたままだ。
( ^Д^)「カネと着てる服を寄越しな」
( ・∀・)「なんで?」
( ^Д^)「寄越さないとだめだからだ」
( ・∀・)「へえ」
モララーは、最初はこの男が『能力者』か疑った。
路地裏でこのような行動に出るのは、だいたい『能力者』だからだ。
『能力者』以外がこのような真似をしては、即座に何らかの組織に存在を消されてしまう。
.
- 108 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 17:27:13 ID:aqO0ZAYsO
-
だが、ここで何もしない『能力者』などいるのだろうか。
モララーはふとそう思った。
能力があれば、それを使ってすぐに身包みを剥げばいいものを、と。
本来なら、モララーの仮想敵は『能力者』だ。
『拒絶』に共通して言える相手で、それこそが彼らが生きる意義である。
だが。
『能力者』でないにしても、この自分に銃を向ける男だ。
満たされるかどうかは置いておき、とりあえずこの男を始末しよう、と考えた。
( ^Д^)「出さねえか」
( ・∀・)「断る、といったら?」
直後、モララーの脳天ぎりぎりを銃弾が掠めた。
髪が数本、はらはらと地面に落ちた。
一瞬の出来事であったため、モララーは反応が遅れた。
男のそれは、モララーの返答がそうであるとわかっていたかのような動きだった。
予め、トリガーをぎりぎりまで引いて、モララーの返答と同時に撃ったのだろう。
モララーは動揺こそせずとも、少し不愉快に感じた。
にやにやと笑みを浮かべる男は、モララーの
顔つきが豹変(かわ)ったのを見て、口を開いた。
( ^Д^)「次は額を狙う、ってとこだな」
( ・∀・)「随分といいチャカ持ってんじゃねーか」
( ^Д^)「もう一度訊く。カネ、出すか?」
( ・∀・)「断る」
.
- 109 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 17:29:06 ID:aqO0ZAYsO
-
デザート・イーグルの銃口が光った。
即座にモララーは、『嘘』を『混ぜ』た。
『この銃弾に額を撃ち抜かれる』という『嘘』を。
そんなことも知らず、銃弾は予告通り額を貫いた。
血が、脳漿が飛び散って、空いた穴から向こう側が見えた。
モララーは力なくその場に倒れてしまった。
銃創から、路地裏によく似合う液体がこぽこぽと溢れ出してきた。
それを見て、五秒待った男は銃を持った右手を垂らして、
地面に伏せるモララーのもとに歩んでいった。
モララーに手荷物はない。
だが、ポケットのなかに財布くらいはあるだろう。
もしくは、キャッシュカードでもいい。
そう考えつつ、男はモララーの横で屈み込んだ。
顔から笑みが消えない。
今日の最初の収穫はどうかと思い、
期待で胸を膨らませて手を伸ばした。
直後。
( ・∀・)「騙されてやんの」
( ^Д^)「!」
男の背後に、なんの前触れもなくモララーは現れた。
男の目の前にいたはずのモララーは、既にいなかった。
流れ出たはずの液体もなくなっており、男は当惑した。
男は地面を転がって、モララーと距離を離した。
不気味な男だ、という印象を持ったとともに。
モララーは、男が『能力者』かどうかを見極めてから
殺したいと思い、そこで男を始末するのはよした。
モララーなら、『本当は男は距離を離していない』という『嘘』を吐いて
男と零距離になり即座に心臓を貫くことはできるのだが、そうはしなかった。
.
- 110 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 17:30:40 ID:aqO0ZAYsO
-
( ^Д^)「てめえ……『能力者』か?」
( ・∀・)「違うよ」
これに関しては、『嘘』は吐いていない。
モララーは『能力者』ではないのだ。
尤も、この男がそれを知る由はないのだが。
( ^Д^)「『嘘』だろ。じゃあどうして生き返った」
( ・∀・)「生き返ってない。
〝そもそも死んですらない〟んだから」
( ^Д^)「……ほう」
男はにやりと笑った。
そして銃を構えた。
狙いは、モララーの心臓。
命を貫く弾丸の、発射準備はできた。
男は既に、落ち着きを取り戻していた。
( ^Д^)「『能力者』じゃねえなら――」
( ^Д^)「〝こいつ〟は避けれねえよな?」
( ・∀・)「ん?」
含みがありそうな言葉を残して、
モララーから聞き返される前に男はトリガーを引いた。
モララーの心臓めがけて弾丸が飛び出し、瞬きよりも速い速度で心臓を貫いた。
モララーは「かはっ」と弱い声を漏らして、後方に倒れた。
心臓から血がどくどくと溢れ出てくる。
肋骨をすり抜けてうまく心臓に命中させるのは、この男にとっては朝飯前だった。
モララーは一瞬にして死体になった。
男は「今度こそ」と思い、モララーに歩み寄った。
だが、先ほどと違った点は、
男は含み笑いをしていたということだ。
.
- 111 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 17:32:17 ID:aqO0ZAYsO
-
( ^Д^)「……よし」
( ・∀・)「なにが『よし』なん―――」
男が屈もうとした直後。
『この銃弾に心臓を撃ち抜かれる』という『嘘』を
『混ぜ』ていたモララーが、男の背後に現れ手刀を繰り出した。
その手刀は男の首筋を抉り、骨を折って
神経という神経をずたずたに引き裂かんとするものだった。
だが、〝これ〟に関しては、モララーはなにも予想ができていなかった。
〝真上から鋭利な刃物が落ちてきて、モララーの首筋を貫いた〟のだ。
( ∀・)
( ^Д^)「………」
首が胴体から切断され、モララーの胴体はその場で倒れて、
頭は男の上を弧を描いて飛んでいった。
数メートル先に飛んでいっては、切断面から液体が流れ出る。
胴体のほうからも、それは同じだった。
モララーはなにも予想していなかった。
『落ちてくる刃物に首を切り落とされる』という『嘘』は吐いていない。
これは紛れもない『現実』なのだ。
だから、この攻撃に対しモララーはなにもできなかった。
それを見届けた男は、五秒待った。
また生き返ってくるのかと思ったからだ。
だが、五秒どころか十五秒経っても変化は訪れない。
男は漸く安堵の息を吐くことができた。
余裕を再び取り戻し、元のように笑みが浮かんだ。
.
- 112 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 17:33:15 ID:aqO0ZAYsO
-
( ^Д^)「『突然刃物が落ちてきて首が切られる』っつーな『事故』」
( ^Д^)「……避けれなかったっつーことは、大した『能力者』じゃなかったんだな」
男はそう呟いては、モララーのポケットに手を突っ込んだ。
財布はなかったが、紙幣が数枚入っていた。
マネークリップで止められており、男はなんの迷いもなくそれを取り上げた。
その額は、決して多くはない。
居酒屋やバーで呑めば、すぐになくなる程度の額だ。
だが、これを生業としている男は、その額に文句を言うことはない。
その紙幣を挟んでいたマネークリップを血だまりのなかに捨て、
踵を返して、男は再び路地裏の闇の中へ消えようとした。
路地裏に、隠れ家と呼ばれているバーがあると聞いたのだ。
その名は「バーボンハウス」。
静かな、ひっそりとした雰囲気が人気らしい。
どんな酒を呑もうか考えると、唾液が染み出してきた。
あと数人から金を奪い取って、今夜はそこで呑もうと思っていた。
.
- 113 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 17:34:08 ID:aqO0ZAYsO
-
( ^Д^)「最近稼ぎ悪ぃわ、ったくよ……」
「じゃあサラリーマンにでもなれば?」
( ^Д^)
男は、一瞬固まった。
背後から、中身のない上辺だけのような声が聞こえたからだ。
言うなれば「虚構」。
『嘘』のような存在が、背後にいる。
そして、その『嘘』のような声は、
先ほどまで聞いていた声と全く同じだった。
(;^Д^)「(ば……ばかな! なんで……なんでなんだよ!)」
(;^Д^)「(『嘘』だ! なんで生きてんだ、こいつは!)」
先ほどまでは全く焦らなかった男だが、
急に焦燥に駆られるようになった。
予想だにしなかった展開で、且つ声に籠められていた
殺気が尋常なく凄まじかったので、思わずたじろいだのだ。
背後にいる男は、続ける。
.
- 114 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 17:34:58 ID:aqO0ZAYsO
-
「あれ? まさか、『ずっとしゃべってた男は俺だ』って思ってた?」
「ギャッハハハハハ!! んな『嘘』に騙されてんじゃねーよ!」
「『真実』はいつだって外見と中身が違うんだよ! ギャッハハハ!」
( ; Д )「………ッ」
男は、その聞くだけで身の毛もよだつ気分にさせられた。
沸き上がってくる恐怖――拒絶――を、全身で感じた。
すぐさま、がばっと背後に振り返る。
生きていることそのものが『嘘』のような男、
( ・∀・)
モララーが、男をじっと見つめていた。
.
- 115 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 17:35:59 ID:aqO0ZAYsO
-
(;^Д^)「わ、ああああああああッ!」
( ・∀・)「まあ待てよ」
(;^Д^)「(違う! さっきまでとオーラが全然違うぞ!)」
男が逃げ出そうとすると、モララーは男の肩を掴んだ。
軽く触れただけなのに、『嘘』のような剛力で、
少し力を籠めれば簡単に肩の骨が砕けそうだった。
男は、モララーの秘めたる殺気にすっかり怯えた。
手にあったはずの紙幣が『嘘』だったかのように消えたことにも気づかないで。
( ・∀・)「結構痛かったぜ、さっきの」
( ・∀・)「おまえ、なんつー『能力者』なんだ?」
(;^Д^)「……」
男は押し黙った。
すると、モララーの肩を握る力は強まった。
みしみし、と音がするので、男は言わざるを得なかった。
(;^Д^)「あ………んと」
( ・∀・)「ん?」
.
- 116 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 17:37:10 ID:aqO0ZAYsO
-
(;^Д^)「【無私の報せ《アクシデント》】……つってんだろ」
( ・∀・)「アクシデントぉ?」
(;^Д^)「『本来起きなかった事故を引き起こす』能力……だ」
( ・∀・)「よく言えましたー。で、どういう意味?」
(;^Д^)「だから…………」
( ^Д^)「こういう能力なんだよッ!!」
( ・∀・)「!」
モララーが問うと、男は跳躍して後退した。
直後、男は銃を持ってないはずなのに、銃弾がモララーの額と右腕を襲った。
それに銃声は伴わなかったし、近くに男とモララー以外の人はいない。
どこから飛んできたのかが、わからなかった。
すると、モララーの足下でなにかが爆発した。
地面から吹き出す爆風、すなわち「地雷」。
「殺すこと」を目的とせず、「負荷を負わせること」を目的とされた軍事兵器。
その爆音が鳴り止まないうちに、モララーの右隣の壁からダンプカーが顔を出した。
『本来は起きてなかった』衝突事故が『引き起こされた』のだろう。
そして、『本来爆発しなかったはずのダンプカーが、爆発した』。
爆風はモララーを丸ごと呑み込み、一瞬で黒こげにした。
一方で、『本来は守られなかったはずの男が、守られていた』。
.
- 117 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 17:38:30 ID:aqO0ZAYsO
-
結果、モララーは下半身が地雷で削ぎ落とされてしまい、
額からは脳漿が、右腕からは血液が溢れ出てきて、
ダンプカーの衝突事故によって全身複雑骨折を負い、
挙げ句引き起こされた爆発事故で全身が黒こげになってしまい、
それによって、モララーのあらゆる神経や細胞が悉く潰されてしまった。
それを見ていた男は、若干不安は残るも、得意げな声で言った。
(;^Д^)「……は、はは」
( ^Д^)「……出会い頭に撃って外した弾丸が、『実は当たってしまっていた』という『事故』」
( ^Д^)「かつてここら辺であった戦争時に置かれ、『爆発することなく
コンクリートに埋まった地雷が爆発した』という『事故』」
( ^Д^)「数年前、通りからやってきた居眠り運転が、危機一髪で
衝突事故を避けた、その事故が『実は起こっていた』という『事故』」
( ^Д^)「そして『燃料タンクに生じるはずのなかった
異変が生じ、爆発した』という『事故』」
( ^Д^)「俺が引き起こすのは【無私の報せ】だ」
( ^Д^)「いざ体験したらわかっただろ? 感謝しな」
( ^Д^)「……」
.
- 118 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 17:39:53 ID:aqO0ZAYsO
-
モララーの、惨状を絵にしたような屍を前に、男はそう言い終えた。
そして、心の中にもやもやが残るも、そのまま今度こそ去ろうとした。
もう、モララーから金を奪おうとは思わなかった。
むしろ、何かの間違いで再び彼が蘇らないうちに、逃げようと思っていた。
だが、そううまく行かせないからこその『拒絶』なのだ。
男が踵を返した直後、そこにあったモララーの屍は消え、
健全体のモララーが、物音を立てずに男の背後に立った。
いや、〝立っていた〟。
耳元で、ちいさく呟く。
( ・∀・)「すまんな」
(;^Д^)「―――ッッ!?」
( ・∀・)「『俺がここにいる』ってのも」
( ・∀・)「『俺は死んだ』ってのも」
( ・∀・)「『俺はおまえを攻撃してない』ってのも」
( ・∀・)「ぜーんぶ、『嘘』なんだ」
.
- 119 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 17:41:21 ID:aqO0ZAYsO
-
( ; Д )「!!」
モララーがそう言うと、男の腹には大きな穴が空いた。
いや、これも〝空いていた〟というべきなのだ。
すぐに男はくずおれ、腹に手を当てる。
指の間と背中から、溢れんばかりの血が流れてくる。
口からも、まるで嘔吐でもしたかのように血が溢れてきた。
モララーは最初の段階で男の腹を手刀で貫いたのだが、
『手刀でこいつの腹を貫いてない』という『嘘』を『混ぜ』た。
その『嘘』を暴いて、『嘘』を『真実』にした。
結果、男はこのような致命傷を負っていたことになったのだ。
どれも、『常識』を介さぬ『異常』な技。
男は、絶命する寸前に、こう言った。
( ; Д )「こ、の……ッ……」
( ; Д )「…常……識…破…………り……めガ………ッ」
男がそうとだけ言い残して倒れると、
モララーはにんまりと笑った。
このとき、既に『俺はここにいる』という『嘘』も、暴いていた。
.
- 120 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 17:43:17 ID:aqO0ZAYsO
-
( ・∀・)「ああ、そうだな。そうだよ」
( ・∀・)「おまえの言うとおり、俺は――」
フェイク・シェイク
( ・∀・)「【 常識破り 】だ」
.
- 121 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 17:49:08 ID:aqO0ZAYsO
- 以上で十二話「vs【手のひら還し】Ⅳ」はおしまいです
わかる人ならもうわかっていると思いますが、この作品は某大嘘憑きさんに影響され発案したものです
いや、元はといえば某○○○ーの渡辺に影響されたわけだけど。あの人にチート能力の魅力を教えられた、というべきか
- 122 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 18:34:55 ID:29hQkpNM0
- 乙
雰囲気いいね
- 123 :同志名無しさん:2012/12/12(水) 19:21:54 ID:q4aY3YCE0
- クックルとプギャー死んじまったか…?
- 124 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 06:23:55 ID:lNfSx1ncO
- 偽りのほうも頼むよ
- 125 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 13:37:13 ID:4Ozh1CRYO
-
○登場人物と能力の説明
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
从'ー'从 【手のひら還し《イレギュラー・バウンド》】
→『因果』を『反転』させる《拒絶能力》。
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
.
- 126 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 13:37:43 ID:4Ozh1CRYO
-
○前回までのアクション
/ ,' 3
从'ー'从
→戦闘中
从 ゚∀从
→気絶
( <●><●>)
→戦闘不能
( ´ー`)
→散策中
( ・∀・)
( ^Д^)
→戦闘終了
.
- 127 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 13:38:59 ID:4Ozh1CRYO
-
第十三話「vs【手のひら還し】Ⅴ」
必死の抵抗だった。
ワタナベから、マシンガンのように飛んでくるありと
あらゆる攻撃をアラマキが避けられる術も本来はあったのだ。
右から、上から、下から、左から、不可思議な方面から。
奥から、手前から、斜めから、観測不可能な方面から。
飛んでくる攻撃は、その一撃が即死に値する。
そんななか、アラマキの方針は「とにかく時間を稼ぐ」なのだ。
だから、多少は手加減をしてでも、防御や回避に
徹するに越したことはなかったはずだった。
だが、相手が『拒絶』のワタナベであった場合、
アラマキとて本気で撃ち合わなければ、
その方針を徹することはまず不可能となるのだ。
相手の命を、一瞬後には奪ってやるという心構え。
それがなければ、文字通りあっという間にアラマキの心臓はもぎ取られてしまう。
ワタナベは、もうとっととこの戦いを終わらせようとしているからだ。
ここで、仕上げとしてアラマキを完膚なきまでに打ちのめす。
あらゆる『因果』を悉く『反転』させて、アラマキに『拒絶』を植え付ける。
そうすることではじめて、ワタナベは目的を達したことになるのだ。
その目的には、少なからず必要なものがある。
「相手の必死の抵抗」と「相手の生への執着心」、この二つだ。
アラマキは、その両方を持て余すほどに持っている。
だから、ワタナベは他の二人とは違って
このように真っ向から戦いを挑んでいるのだろう。
アラマキに言わせてみれば、それはとんだ迷惑な話だった。
.
- 128 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 13:40:25 ID:4Ozh1CRYO
-
(;^ω^)「よせ、アラマキッ!」
屋敷の陰に身を寄せながら、内藤は叫ぶ。
たとえその言葉に意味がないものだ、とはじめから
わかっていたとしても、内藤は叫ばざるを得なかった。
勝つ『因果』は、存在しないのだ。
全てが全て、『反転』させられるから。
【手のひら還し】という『拒絶』が、それを拒むから。
ワタナベが、『拒絶』だから。
なおも戦闘は続く。
内藤の必死の声は、その戦闘で発せられる
様々な音によって、きれいにかき消されていた。
(;^ω^)「そいつ、ワタナベに――」
ワタナベが、回転しながら裏拳を三連続で水平に放った。
さながら駒のような動きで、残像が消える前に新たな残像を
重ねていたので、比喩ではなく本当に駒のような動きだと言えた。
アラマキがその回転にかかる慣性を『解除』しようとすると、
ワタナベはそれを『反転』させ『入力』された状態に戻す。
アラマキも内藤がなにか言っているのには気がついていたのだが、
とてもその声を認識しようという気にはなれなかった。
(;^ω^)「通じる『因果』なんて、なにもないんだおッ!」
駒の一回転半の終わりに、ワタナベは回し蹴りを放った。
拳の攻撃から急に足が入ったが、アラマキは動じることはない。
.
- 129 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 13:41:39 ID:4Ozh1CRYO
-
ワタナベの動きから力を『解除』させ、一瞬動きを止める。
『解除』が『入力』に『反転』されるその一瞬の隙を衝いて、
右腕に全体重を載せてアラマキは殴りかかった。
だが、ワタナベが能力を発動させるのにかかる時間と
アラマキが全力で「破壊」をぶつけるのにかかる時間とで
圧倒的に前者が速かったというのは、言うまでもない。
アラマキの拳の軌道が『反転』させられ、
拳はワタナベから遠ざかるように弾き返された。
アラマキはその軌道を利用した。
躯を拳より速く右に捻っては、時計回りに一回転した。
慣性と速度の恩威を充分に受けた裏拳は、『拒絶』とは
言えど、「当たれば」即死に値する破壊力を生み出す。
瞬きをしていたうちに反対方向から飛んできた裏拳。
ワタナベは「のわっ」と呟いてはその軌道も『反転』させた。
それすらをも読んでいたようで、アラマキは
今度は躯を左に捻って、正拳突きの構えを一瞬でとった。
慣性という名の力は『反転』させられたことで
既についているため、拳に力を籠める必要はない。
溜めなしから、突如として放たれる正拳の軌道を、
ワタナベが『反転』させることはできなかった。
能力とは、基本的に発動速度は思考相当なのだ。
己の思考がついてこなければ、どんな力もうまく使いこなせない。
そして、アラマキのこの攻撃は、
その能力そのものにおける弱点を衝いたものだった。
.
- 130 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 13:43:12 ID:4Ozh1CRYO
-
(;^ω^)「――おっ!?」
これには思わず内藤も声をあげた。
アラマキの拳が、ワタナベの顔に触れたのだ。
だが、打撃音はしない。
これはなにを表すのか。
アラマキの打撃による負荷を一時的に『解除』したのだ。
そうすることで、〝アラマキの拳ではワタナベに負荷は
かからなかった〟というひとつの『因果』が生まれる。
のちにこの発生していた力を『入力』すれば、
嘗ての因果関係はそのままで、突如として現れた
発生源不明の負荷がワタナベを襲うのだ。
ワタナベの顔の左半分を奪った攻撃は、これを用いていた。
因果関係をリセットすることで、『因果』の『反転』を受け付けないように。
/ ,' 3
アラマキは、声にこそしなかったものの、確かな手応えを感じたようだった。
ここで『入力』すれば、ワタナベの顔にかかった負荷を
首が支えきれず、胴体から引きちぎれることになる。
そうなることを祈って、アラマキは胸中で『入力』を念じようとした。
从'ー'从「ばーか」
/ ,' 3「……?」
だが。
ワタナベは、にやにやとしていた。
どこか不審に思ったアラマキは、力を『入力』するのをとめた。
妙な胸騒ぎがしたのだ。
.
- 131 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 13:45:26 ID:4Ozh1CRYO
-
从'ー'从「おんなじ手が二度通じる、って思ってた?
ばっかじゃねーの?」
/ ,' 3「どうした、怖じ気づいたか」
アラマキは口ではこう言っていたが、内心では不安を感じていた。
ワタナベのこれが、不意打ちを狙うための戯言や虚勢ではないことを察していたのだ。
それは、つまり何かの『因果』を『反転』させたことにつながる。
ワタナベは鼻でアラマキを笑った。
見下すような視線で、アラマキを見つめた。
从'ー'从「因果関係は、何も負荷に関するものだけにあるんじゃねえんだよ」
/ ,' 3「……?」
从'ー'从「拳が肌に触れた瞬間、その接触に関する因果関係を『反転』させました」
从'ー'从「いま『入力』すると、おめーの顔が吹き飛ぶんだよっ」
从'ー'从「拳が触れられたのは、おめーなんだからな!」
/ ,' 3「……なに……?」
アラマキは、少し考えてから、小さく声を発した。
てっきり、隙を衝いて殴りさえすれば勝てる、と思っていたのだ。
だが、接触という観点から『因果』を『反転』させることが
できるなら、それこそ勝つことができなくなってしまう。
そして、同時に別のことも思い出した。
いや、ずっと心に留めていたことではあったが、
自然と強く意識させられてしまうようになった。
ワタナベは、自身の時間の進行をも『反転』させることができるのだ。
そして、実際にそれで吹き飛んだはずの左目が元に戻っていた。
.
- 132 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 13:46:10 ID:4Ozh1CRYO
-
もしワタナベが接触における因果関係を『反転』させなくても、
時間の進行を『反転』させればすぐに元のワタナベに戻ってしまう。
それも、殴られる前のワタナベであるため、再度
『解除』された力を『入力』して――などということもできなくなるのだ。
アラマキは、更に時間を稼ごうと思った。
語調も選ぶ言葉も、やけに辿々しくなってきていた。
/ ,' 3「のぅ」
从'ー'从「死ねえええええっ!」
从'ー'从「なぁに〜?」
/ ,' 3「……、……」
.
- 133 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 13:47:03 ID:4Ozh1CRYO
-
/ ,' 3「是非聞かせてほしいことなんじゃが、
おぬしは、どうして『拒絶』になったんじゃ?」
从'ー'从「なにコイツ、少しでも長生きしたいってハラ?」
/ ,' 3「うぬ……冥土のみやげに、のぅ」
从'ー'从「ふーん」
/ ,' 3「……少しでいいんじゃ、聞いても良いかの」
从'ー'从「ヤ」
/ ,' 3「良くなかったか」
从'ー'从「なに急に。命が惜しいの?」
/ ,' 3「うむ。
逝く前に、な」
从'ー'从「へぇ〜。で?」
/ ,' 3「死ぬんなら、せめて穏やかに死にたいんじゃ」
/ ,' 3「ろくでもない死に様ほど、軍人にとって情けない最期はなかろうて」
从'ー'从「そうなんだ〜。ボク軍人じゃないけど、わかるよ〜。嘘だけど」
.
- 134 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 13:48:10 ID:4Ozh1CRYO
-
/ ,' 3「……、……」
从'ー'从「ん〜?」
意味がありそうでなかった会話は、アラマキのいきなりの沈黙で終わった。
状況が掴めず、ワタナベは少し妙な心地になった。
笑顔のまま、首を傾げてはいるものの、アラマキの考えが読めなかったのだ。
アラマキは、心の中で「気づけ」と言っていたのだから。
/ ,' 3「……ふむ」
从'ー'从「なによさっきから〜。
『気づけ』なんて言っちゃってさ〜」
从'ー'从「はッ! まさかボクのこと好きなの!?
や〜ん、戦渦の告白〜!」
ワタナベの推理が追いつく前に、アラマキは少し後退した。
結局アラマキの考えは読めなかったが、それを悟らせないように
ワタナベも得意の戯言と不気味な動きでアラマキを牽制した。
アラマキは聞く耳こそ持たないが、少なくとも
〝ワタナベが大して賢くなかったことには感謝していた〟。
胸の高鳴りを抑え、真意を悟られないよう最大限の注意を払って、アラマキは言った。
.
- 135 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 13:49:30 ID:4Ozh1CRYO
-
/ ,' 3「おぬしの最大の過ちは、トドメを刺さなかったことと、思いこみが過ぎたところじゃ」
从'ー'从「ハ? ボクが言うのも何だけど、
きみ様子がコロコロ変わってなくね?」
/ ,' 3「儂は確かに言ったぞ」
/ ,' 3「『儂の宿敵にの、おぬしなんかの数百倍は不意打ちのうまいきゃつがいてのぅ』
『そのフリがフェイクであること自体、むしろお約束なんじゃよ』……とな」
从'ー'从「?」
/ ,' 3「……こっからは、連携が物を言う」
/ ,' 3「委せたぞ」
从'ー'从「だから、ナ――」
――いよいよ、ワタナベもわけがわからなくなってきた頃。
少し離れたところから、〝聞こえるはずのなかった声が聞こえた〟。
その声は、凛々しく、太く、大きく
そして、誰よりも
「恐怖」を植え付けるものだった。
.
- 136 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 13:51:09 ID:4Ozh1CRYO
-
「『爆撃』ッ!!」
从'ー゚从「――ッッ!?」
その怒号に近い声が聞こえた瞬間、ワタナベの
足下から地雷の何倍も強い威力の爆発が起こった。
その轟音、熱風、破壊力はどれも凄まじく、
予想だにしていなかったものだったため、
ワタナベはわけもわからず爆発に呑まれる他なかった。
服が焦げ、皮や肉が溶け、どうしようもない痛みが緊急信号を送る。
だが、これだけでは終わらなかった。
その爆発を――いや、あの声を聞いたと同時に。
アラマキもまた、怒号に近い声を発していたのだ。
/ ,' 3「『入力』ッ!!」
.
- 137 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 13:52:19 ID:4Ozh1CRYO
-
瞬間。
从'ー゚从
ワタナベの胴体が、粉々になった。
.
- 138 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 13:53:16 ID:4Ozh1CRYO
-
◆
『拒絶』でも、人間らしい一面を持っていることはある。
そもそも、『拒絶』しているのは特定のあることに関してのみであり、
内藤は「すべてを拒絶した」と言っているが、意外と受け入れるものは多いのだ。
日頃は、一般人である。
が、誰も、その無表情の裏に《拒絶能力》が潜んでいることを知らない。
【常識破り】然り。
【ご都合主義】然り。
【手のひら還し】然り。
社会の歯車となって、のうのうと生きている人のなかに、
『拒絶』が紛れ込んでいるとしれば、一般人はどうなるだろうか。
逃げ惑い、命が惜しいばかりに泣きわめくだろうか。
男なら土下座、女なら裸になって『拒絶』にすがりつくだろうか。
正解は、「なにもしない」だ。
実際にそのようなことが判明したところで、
『拒絶』は一般人に手を出すことはないのだから。
『拒絶』のオーラも抑えることができるようで、
『能力者』や敵と対峙する時以外は、
その『拒絶』のオーラは鳴りをひそめられているのだ。
.
- 139 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 13:54:48 ID:4Ozh1CRYO
-
朝、十時を過ぎるとスーパーは開店し、瞬く間に人また人で埋め尽くされる。
目玉商品は飛ぶように売れ、今日もにぎわいを見せるのだ。
そのスーパーは、川沿いに建っている。
その川は公園から流れてきており、自然に溢れている。
緑の向こうには、内藤武運が住人だった家が建っているが、それを知るものは今はいない。
そして、トソンと呼ばれる少女は、そこを歩いていた。
公園を川沿いに進んでは、木の上から降り注ぐ朝の日射しを身体全体で受け止める。
俗にいう木漏れ日にこうも風流を感じるとは、トソンは思ってもみなかっただろう。
風もどことなく心地よく思える。
髪を風に預けては、さらっと右の髪を耳の後ろにかけた。
どこか肌寒くも思えるなかで、ぼうっとしながらスーパーへの道のりを歩む。
(゚、゚トソン
その容貌だけを見れば、決して彼女を『拒絶』とは思えないだろう。
ワタナベ以上に美しい少女で、顔立ちが整っているのだ。
淑やかな性格も相俟って、『拒絶』になるまでは彼女を好く思う男性は多かったとされる。
舞う木の葉を見て、またも風流を感じた。
この世界が、この朝の公園のように爽やかなものだったら『拒絶』の精神など生まれなかったろうに。
ふと、トソンはそんなことを思った。
すると、隣の茂みから音が鳴った気がした。
その音が、トソンの歩みを止めさせた。
トソンが何だと思うと、また茂みが揺れた。
風の音ではない、人為的なもののように思えた。
.
- 140 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 13:56:12 ID:4Ozh1CRYO
-
だから、トソンは無意識のうちに《拒絶能力》を発動させた。
途端に、トソンの聴覚は通常の何十倍にも発達した。
いや、発達したのはトソンの聴覚ではない。
茂み一帯の音が、何十倍にも大きくなったのだ。
トソンはじっとそこを見つめ、音にも集中する。
草や枝がこすれあう音、何かが地を踏みしめる音。
トソンは、必ずそこに誰かがいるという確信を持った。
だから、トソンは足音を《拒絶能力》で消して、歩み寄った。
(゚、゚トソン「……」
茂みまで、あと一メートル。
トソンは、茂みを取り払おうとした。
強化された掌で茂みを払えば、一瞬でそこら一帯を野原にすることができるのだ。
だが。
それより先に、向こうが動いた。
向こうは、茂みから飛び出した。
▼・ェ・▼「あんっ!」
(゚、゚トソン「!」
予想だにしなかった展開だったため、トソンは思わず顔を腕で覆った。
だが、飛び出したそれはトソンの想定していたものではなかった。
あっけらかんとした顔でそれを見つめると、それは再び鳴いた。
▼・ェ・▼「あんっ!」
(゚、゚トソン「……い、いぬ?」
.
- 141 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 13:57:48 ID:4Ozh1CRYO
-
発動していた《拒絶能力》は自然のうちに消えていた。
唖然としたトソンは、構えも解いて、その犬をじっと見つめた。
ビーグルか、若しくはその雑種だろうか。
垂れた大きな耳と茶褐色の毛皮が、愛らしい。
ビーグルはちぎれそうなほど尻尾を振って、舌を出しては声を発していた。
トソンに好感を抱いているようで、透き通った瞳でトソンを見つめる。
トソンは、知らずのうちにしゃがみ込んで、両手を差し出していた。
その動作の意味を理解したビーグルは、トソンの胸に飛び込んだ。
トソンの頬を何度も舐め、尻尾を振り続けた。
(゚、゚トソン「く、くすぐった……」
▼・ェ・▼「ハッハッ……」
(゚、゚トソン「……」
ビーグルの抱き心地はよかった。
全身ふさふさで、温もりも感じる。
確かな体重も感じ、そのビーグルが確かに生きていることを知った。
自然のうちにビーグルの頭や背中を撫でた。
それに反応してか、ビーグルもトソンの頬や鼻を舐める。
得たことのない感触をくすぐったく感じ、思わず頬がゆるむ。
(゚、゚トソン「……首輪がない」
撫でていると、ふとそのことに気がついた。
野良犬か、捨て犬だろうか。
飼い主がいないことに気づいて、トソンは撫でるのをやめた。
ビーグルはもっと撫でてくれと言わんばかりに鳴く。
そんなビーグルも、トソンと同じで孤独な存在なのだ
とわかり、トソンには親近感に近い感情がわいてきた。
.
- 142 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 13:59:13 ID:4Ozh1CRYO
-
(゚、゚トソン「捨てられるなんて……」
▼・ェ・▼「クーんっ」
(゚、゚トソン「わかったからねだらないの」
ビーグルが催促するので、再びトソンは撫でた。
するとやはりビーグルは尻尾を振る。
実に人懐っこい犬らしく、もうすっかりトソンに懐いていた。
思わず、トソンからも笑みがこぼれた。
柄でもない声も発し、ビーグルとじゃれる。
平生ではクールなトソンも、このビーグルに対しては形無しだったのだ。
(゚、゚トソン「ちょ……」
▼・ェ・▼「ハッハッハッ……あんっ!」
(゚ー゚トソン「………ふふっ」
( ・∀・)「ずぅ〜いぶんと楽しそうじゃねーか。俺も混ぜてくれ」
(゚、゚トソン「っ!」
――トソンがビーグルのことを愛らしく思っていると、
急に背後から音もなくモララーが現れた。
現れると同時にそう声を発したので、トソンは咄嗟にビーグルを抱きながら立ち上がった。
モララーはけらけら笑って、トソンを見る。
一方のトソンは、訝しげな顔をしてモララーを睨んだ。
モララーはその鋭い視線に耐えかね、両手をちいさく挙げた。
( ・∀・)「おお怖い怖い。なんだよ」
(゚、゚トソン「背後に急に現れる癖、なおした方がいいですよ」
( ・∀・)「そうかいそうかい。冗談の通じねえ女だな」
(゚、゚トソン「それほどでも」
( ・∀・)「へっ」
.
- 143 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 14:00:54 ID:4Ozh1CRYO
-
モララーは、【無私の報せ《アクシデント》】と呼ばれる男と戦ったばかりだった。
疲れや負傷など全く見られないが、どこか興奮しているのがわかった。
だから、トソンが警戒するのも致し方なかった。
モララーは手を下ろすと、にやにやと笑った。
トソンは嫌な気分になって、少し後退りした。
(゚、゚トソン「なんなんですか」
( ・∀・)「え? いやぁ」
( ・∀・)「いぬっころ、ずっと抱いてんだなってよ」
(゚、゚トソン「いぬ?」
(゚、゚トソン
▼・ェ・▼「クぅん……」
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン「わわっ!」
言われてトソンが視線を下ろすと、未だに胸に抱かれているビーグルと目があった。
はッとして、トソンは半ば投げ捨てるようにビーグルを下ろした。
向こうの茂みに隠れるように、ハンドサインを送って。
だが、ビーグルは帰ろうとしない。
尻尾を振って、トソンをじっと見上げる。
愛らしい顔で見つめてくるため、トソンは困った。
その様子を見て、モララーはまた笑った。
( ・∀・)「好かれてんだな。よかったじゃねーか」
(゚、゚トソン「別にそういうわけじゃ……
ほら、帰りなさいって」
▼・ェ・▼「ハッハッ……」
(゚、゚トソン「もう……」
それを見て、またモララーは笑った。
トソンは、仕方がなかったためビーグルを追い返すのをやめた。
溜息を吐いて、トソンは再び歩き出した。
ビーグルがそれに必死について行く。
モララーも、彼女にあわせて歩き始めた。
.
- 144 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 14:02:56 ID:4Ozh1CRYO
-
( ・∀・)「今からどこに行くんだ?」
(゚、゚トソン「スーパーに、食材を」
( ・∀・)「へえ、意外だな」
口角を少し吊り上げて、モララーが返した。
その意味ありげな笑みに、トソンは少しムキになった。
(゚、゚トソン「どういう意味ですか」
( ・∀・)「意外に人間らしくてよ」
(゚、゚トソン「意味が分からない」
( ・∀・)「別にいいけどな」
(゚、゚トソン「もう……」
そう言って、モララーはフードをかぶった。
少し風が冷たかったからだ。
しかし、トソンが「似合ってない」というと、
モララーは渋々フードを脱いだ。
どこか、不満げな顔をしていた。
( ・∀・)「………ところでよ」
(゚、゚トソン「なに」
モララーの顔が、急に真剣なものになったので、トソンも畏まった。
ポケットに手を突っ込んだまま、モララーは前だけを見て、トソンに言う。
( ・∀・)「実際、どうなんだ。満たされてっか?」
(゚、゚トソン「……そんなこと」
トソンの視線が若干下がった。
.
- 145 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 14:05:17 ID:4Ozh1CRYO
-
(゚、゚トソン「私はショボンさんやワタナベさんほど、飢えてるわけじゃないので」
( ・∀・)「へえ、そうか。まあそうだわな」
ノウリョク
(゚、゚トソン「この『拒絶』がある限り、進んで満たされようとは別に思いませんね」
( ・∀・)「おまえらしいわ、ったくよ」
(゚、゚トソン「……ムぅ」
トソンは足下に視線を遣った。
ビーグルは短い足で懸命にトソンに遅れないように動いている。
トソンの歩幅は少し狭くなった。
(゚、゚トソン「あなたはどうなのですか」
( ・∀・)「ん? 俺?」
唐突に訊かれたので、モララーは少し驚いた。
トソンが肯いたので、モララーは小さく唸った。
考えてなかった質問なので、答えを用意するのに時間がかかった。
漸く出た答えを、それとなくで答えた。
( ・∀・)「さっきも一人潰してきたけど、大して気持ちよくねえや」
(゚、゚トソン「弱かったから?」
( ・∀・)「いや、弱かなかったけどな。
なんでも、『事故』を操るんだってよ。それも因果律からだ」
(゚、゚トソン「因果律……」
.
- 146 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 14:08:27 ID:4Ozh1CRYO
-
( ・∀・)「俺らの間でさえ、おまえやワタナベや〝アイツ〟は操れねえんだ。
普通の『能力者』とヤれば、たぶんイイ線いくぜ。
ただ、相手が悪かっただけだ」
モララーがあっけらかんとした様子で言うと、
トソンは自分が低く見られたのをよく思わなかったのか、ムキになって言い返した。
(゚、゚トソン「尤も、ただの『事故』じゃあその三人にすら効きませんがね」
( ・∀・)「そう言うと思ったぜ、意地っ張りさん」
(゚、゚トソン「……む」
トソンが少し、眉間にしわを寄せた。
それを見て気まずく思ったモララーは、語調をほんの少しだけ速めて
( ・∀・)「――まあ、確かにそうだわな」
(゚、゚トソン「?」
( ・∀・)「いくら衝突事故が起こってもだ。
おまえならその威力が最低レベルまで落ちる。
ワタナベなら、トラックが潰れるか跳ね返されるか、
とりあえずなんかが『異常(くるわせ)』られちまう」
( ・∀・)「で、〝アイツ〟なら、そもそも『事故』の対象そのものがおかしくなるな。
それか、『事故』が更に事故って、当人が死ぬか」
(゚、゚トソン「……」
( ・∀・)「俺も『拒絶』だけどよ、さすがにああはなりたかないぜ。
狂ってるなんてレベルじゃないしな。
人間らしさなんか『絶望的(ゼロ)』だ」
(゚、゚トソン「私、彼のことはそれほど存じてないのですが――」
.
- 147 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 14:09:59 ID:4Ozh1CRYO
-
そこまで言うと、モララーは肯いた。
それを踏まえた上で、モララーは続けた。
( ・∀・)「能力名なんざ知らねーが、とにかくアイツの近くに居ちゃやばいことが起こるんだ。
〝運が憑(つ)きる〟し、
〝運が凶(わる)くなる〟し、
〝運が亡(な)くなる〟んだぜ」
(゚、゚トソン「……」
( ・∀・)「トソンはまだ遭(あ)ってないだろうが、むしろ遭うなよ。
ネーヨの旦那じゃなきゃ、あんなのの相手なんか到底できん」
(゚、゚トソン「……会わない方がよさそうですね」
( ・∀・)「ああ、遭わない方がいい」
そう言うと、トソンは少し頬を膨らませた。
自分と住む次元の違う男が同じ『拒絶』に
いると知って、つまらなく思えてきたのだ。
モララーも嫌な話題を出したせいか、少し気怠そうに見えた。
モララーは『拒絶』のオーラこそ凄まじいが、人間的な一面は持っているのだ。
だから、『拒絶』の精神と関係なく、苦手なものは苦手で嫌いなものは嫌いである。
まして、〝アイツ〟のことを考えたせいで、吐き気が催されもしたのだ。
決して、いい気分ではないだろう。
気分を晴らそうと、モララーは話題をかえた。
今交戦しているであろう、ショボンのことだ。
.
- 148 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 14:12:19 ID:4Ozh1CRYO
-
( ・∀・)「ショボン、どうなってると思う?」
(゚、゚トソン「彼……ですか?」
トソンも、急に話題がかわったせいで少しどきっとした。
後味の悪い話から、急に普通の話になったからである。
内容がショボンだったため、トソンは少しは落ち着けそうだった。
モララーもワタナベもショボンも、皆性格はかなりひねくれているのだが、
ショボンに関してはまだ他よりも交流はあるのだ。
( ・∀・)「いきなりゼウスん家に突っ込んでよ。今頃圧勝してるんじゃねえか?」
(゚、゚トソン「でも、話を聞いている感じでは『能力者』の中でも
相当な遣い手の三人が相手なんでしょ? いくら彼でも……」
( ・∀・)「いやいや。【ご都合主義】だっけか、アレは正直言ってやべぇよ。
マジで闘り合えば、この俺でも負けるかもしれんからな」
(゚、゚トソン「と言うと?」
( ・∀・)「出会い頭で、いきなり『俺なんか存在していなかった』
っつーな『現実』にされちまうと、もう即死さ。
俺がその時『俺はここに存在している』っつー『嘘』を
吐いてなきゃ、抗いようなく消えちまうんだからよ。
……ま、実際はそうはなんねーけど」
(゚、゚トソン「確かに、そんな用途もある、と自慢されました」
( ・∀・)「ただ、だ。懸念事項があるとすれば」
(゚、゚トソン「なんですか?」
.
- 149 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 14:14:32 ID:4Ozh1CRYO
-
モララーが少し勿体ぶったので、すかさずトソンは訊いた。
モララーも別に隠すつもりはなかったので、素直に答えた。
彼がゼウスたちに宣戦布告しに行った際、彼は
『俺はここにいない』という『嘘』を吐いて、存在を消して偵察をしていたのだ。
アラマキやゼウス、ハインリッヒ。
更に言えばヒートの戦いも見ていた。
だからこそ感じた、懸念事項があった。
( ・∀・)「ジジイの能力は大したことねえんだけど、あいつは面倒臭そうだったな」
(゚、゚トソン「どなたですか?」
( ・∀・)「『英雄』だよ」
( )「…」
モララーが『英雄』という単語を言ったとき。
どこか近いところで、その人は反応をした。
モララーがそのことに気づくはずもなく、
『英雄』について感じたことを告げていく。
( ・∀・)「話によれば、なにもかもから『優先』されるんだってな。
ショボンが本気を出してなかったら、ひょっとすると
『現実』に『優先』されて負けるんじゃねえかな、って」
(゚、゚トソン「ゆうせん……」
( ・∀・)「『英雄だから許される』とか言って、物理法則とか概念論まで無視し出すんだぜ。
やってることはネーヨの旦那と全然変わってねえよ」
( )「…」
(゚、゚トソン「それは面倒そうですね」
( ・∀・)「まあ、仮定だけど――」
.
- 150 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 14:16:04 ID:4Ozh1CRYO
-
(゚、゚トソン「!」
( ・∀・)「!」
モララーとトソンは、その異変に気がついた。
いま、一瞬で、〝風景が変わった〟のだ。
いや、変わっただけなら彼らは違った反応を見せただろう。
実際は、変わったわけではない。
( ・∀・)「……おい」
(゚、゚トソン「なに」
( ・∀・)「あの看板、さっき通り過ぎたよな……?」
モララーは、右手にあるドラッグストアを指さして言った。
それは数十秒前、モララーとトソンが会話をしている最中に通り過ぎた店だった。
その店が、いま右手の方に建っている。
とてもチェーン店だとは思えない。
ドラッグストア以外にも、コンビニや駐車場など、建物や風景が悉く一緒なのだ。
つまり、これは〝変わった〟というよりは
〝戻った〟という方が語弊は生まれないだろう。
自分たちの立っている場所が、
少し前の位置に〝戻されている〟。
明らかな『能力者』の匂いを感じ取ったモララーは、
即座に『俺はここにいる』という『嘘』を吐いた。
トソンも、やはり目つきが『拒絶』のものになった。
途端に静かになった。
事情を知らないビーグルの愛らしい鳴き声くらいしか、聞こえるものはなかった。
少し経っただろうか。
モララーのでもトソンのでもない声が、した。
.
- 151 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 14:17:02 ID:4Ozh1CRYO
-
「『英雄』は、どこ」
( ・∀・)「!」
(゚、゚トソン「…ッ」
( ・∀・)「『隠れんな、もう見つかってるぜ!』」
モララーは、そう吠えた。
『嘘』を『混ぜ』て、その声の主を見つけだすために。
すると、モララーの言った通り、その姿は〝見えていた〟。
二人と十数メートルほどの距離を空け、立っている。
その少女は、無垢な瞳でモララーを見つめていた。
(#゚;;-゚)「『英雄』は、どこ」
.
- 152 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 14:18:12 ID:4Ozh1CRYO
-
( ・∀・)「……」
(゚、゚トソン「なんですか、いきなり」
ぼろぼろのセーターはサイズは大きいのか、少女の胴や腕をすっかり包み込んでいた。
ショートパンツが少ししか見えず、そこからすらっと伸びる白い脚にも絆創膏や傷跡があった。
右の足首の方は、包帯までもが巻かれている。
栗色と黒の入り交じったショートヘアーがその白い肌と相俟ってよく栄えているが、
顔には傷や絆創膏が多く残っており、二人に不気味な印象を持たせた。
小さく枯れそうな声も、トソンが《拒絶能力》を
発動していなければ、彼らに聞こえることはなかっただろう。
それほど、ひ弱そうな少女だった。
トソンの言葉を無視して、少女は続ける。
(#゚;;-゚)「わたしの『英雄』、どこ?」
(゚、゚トソン「……」
(#゚;;-゚)「ねえ」
( ・∀・)「答えてやるよ」
トソンが押し黙ると、少女をじっと見つめていたモララーが口を開いた。
少女は動じることなく、右拳を顎にちょこんと当て、再度訊いた。
モララーの顔つきは、【無私の報せ】を倒した時と同じようなものになっていた。
.
- 153 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 14:20:31 ID:4Ozh1CRYO
-
(#゚;;-゚)「おしえて」
( ・∀・)「じゃあ、説明をしろ」
(#゚;;-゚)「へ?」
( ・∀・)「おまえ、今『時を巻き戻した』だろ」
(゚、゚トソン「……え?」
少女ではなく、トソンが聞き返した。
少女は、ぽかんとした表情のまま、首を傾げていた。
モララーはなおも強い語調で続ける。
( ・∀・)「おまえ、『能力者』だな?
その全貌を教えてくれたら、こっちも教えてやるよ」
(#゚;;-゚)「ぜんぼう?」
( ・∀・)「答えろ」
小学生のようにも見える少女は、また首を傾げた。
モララーはその姿を見て、舌打ちをした。
少し少女の様子を見つめてから、モララーはきッと言った。
( ・∀・)「……ったく」
(#゚;;-゚)「おしえてくれる?」
( ・∀・)「しゃーねえから――」
( ・∀・)「死ね」
(# ;;- )「っ……!」
.
- 154 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 14:23:05 ID:4Ozh1CRYO
-
モララーは少女の後ろに〝立っていた〟。
【常識破り】を使ったのだが、少女は初めてそれを見るのだ。
いきなり背後から現れたモララーに、少女は怯えた。
だが、決して手加減はしないモララーだった。
現れたと同時に、手刀を少女の腹に突き刺した。
鮮血が噴き出し、地面のキャンバスに赤い色を塗った。
( ・∀・)「……ふん」
大したことはなかった、そう思ってモララーは唾を吐き捨てた。
地面にくずおれる少女に向けて、だ。
不気味な少女ではあったが、やはり『拒絶』にとっては取るに足りない存在だ、と。
だが。
少女は、口を開いた。
カ ッ ト
(# ;;- )「『撮りなおし』」
( ・∀・)「?」
(゚、゚;トソン「……モララー」
( ・∀・)「なんだ?」
.
- 155 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 14:24:38 ID:4Ozh1CRYO
-
(;・∀・)「――って……ッ!?」
少女が呟いた瞬間、トソンは驚愕した。
少女の後ろにいたモララーは元いたようにトソンの隣にいて、
鮮血を噴き出したはずの少女の腹には何も異変がない。
そして、同じ『拒絶』だからなんとなく分かる。
――いまのモララーは、『俺はここにいる』という『嘘』を吐いてない。
モララーもそのことに気づき、当惑した。
滅多に取り乱さない二人だが、このときは動揺してしまった。
すぐさまモララーは『嘘』を吐く。
だが、胸の高鳴りはやまない。
何が起こっているのか、把握できなかったのだ。
少女は、モララーを見て、再び言った。
(#゚;;-゚)「『英雄』のばしょ、おしえて?」
( ・∀・)「……なんだコイツぁ……」
(#゚;;-゚)「わたし? わたしは、でぃだよ」
(゚、゚トソン「ディー?」
少女は肯かず、自らの主張だけを続けた。
(#゚;;-゚)「わたしは、なのったよ。
だから、『英雄』が、どこにいるか、おしえて?」
.
- 156 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 14:25:47 ID:4Ozh1CRYO
-
気味が悪くなってきたトソンは、モララーに代わって前に出た。
『英雄』の場所を教えるためではない。
《拒絶能力》を使って、彼女を殺すためである。
(゚、゚トソン「『一秒が、一btcmになります』」
( ・∀・)「! お、おい――」
モララーが止めようとした直後、
少女はトソンの拳によって心臓を貫かれた。
文字通り、「一瞬」。
一瞬のうちに、トソンは少女の前に移動した。、
そして、非力そうなトソンが軽く少女の胸を
つついただけで、その心臓の部分は吹き飛ばされた。
あえなく倒れた少女を見て、トソンは呟いた。
(゚、゚トソン「『一グラムも、一アルファになりました』」
(゚、゚トソン「尤も、もう解除していますが」
( ・∀・)「急に本気出すなよ、びっくりすらぁ……」
.
- 157 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 14:26:45 ID:4Ozh1CRYO
-
( ・∀・)
(゚、゚トソン
モララーは、自分の手を見た。
すると、またしても自分の『嘘』が打ち消されていることに気がついた。
いや、打ち消されたのではない。
これも、やはり〝戻っていた〟と言うべきなのだ。
その根拠も、ある。
なぜなら
(#゚;;-゚)「おねーちゃんも、ひどい」
(#゚;;-゚)「わたし、かえるね」
(゚、゚;トソン「―――ッ!?」
少女は、何事もなかったかのように立っていたからだ。
そして、モララーの『嘘』が解けたのを見ると、ある一つの仮定が浮かぶ。
〝モララーが『嘘』を『混ぜる』前の時間に戻された〟と。
.
- 158 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 14:27:49 ID:4Ozh1CRYO
-
少女が帰ろうとしたので、モララーは当然それを制する。
能力を使って踵を返した少女の正面に立ち、胸倉を掴みあげた。
泣きそうな顔をする少女を揺すって、訊いた。
( ・∀・)「おまえの、能力は、なんだ?」
(#゚;;-゚)「……ひ…」
( ・∀・)「答えろ――」
(#゚;;-゚)「『撮りなおし』……っ」
( ・∀・)「ちょ……――」
(;・∀・)「――ナァァ!?」
(#゚;;-゚)「おにぃちゃんも、こわい……ばいばい……っ」
(゚、゚トソン「待て――」
(;・∀・)「追うなっ!」
(゚、゚トソン「え?」
トソンが再び少女に向かおうとすると、モララーが制した。
予想外の一言だったので、トソンは驚いて足を止めた。
不思議そうな顔をしてモララーを見つめると、
モララーは少し深呼吸をしてから、口を開いた。
.
- 159 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 14:28:49 ID:4Ozh1CRYO
-
( ・∀・)「……『作者』っつーやつが言ってたんだけど」
(゚、゚トソン「はい」
( ・∀・)「まず『英雄』には、【大団円《フィナーレ》】っつーな
言ったらショボンみたいなバックがいるんだよ」
(゚、゚トソン「【ご都合主義】みたいな……?」
( ・∀・)「それだけで面倒なんだが、『作者』曰く、
更にバックがいるらしいんだよ。
それが、俺が『英雄』を懸念する理由のひとつだ」
( ・∀・)「……どういう意味かっつーとだな……」
(゚、゚トソン「……?」
モララーは、最後に一度、深呼吸をした。
そして眼を見開いて、言った。
.
- 160 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 14:30:59 ID:4Ozh1CRYO
-
( ・∀・)「アイツ……ひょっとすると、カゲキの娘かもしれないぞ」
(゚、゚;トソン「か――カゲキ!?」
( ・∀・)「おい、買い物は終了だ。
ネーヨの旦那に会いにいくぞ。
……作戦会議だ」
(゚、゚;トソン「っ! ちょっと、まだ何も買ってな――」
( ・∀・)「喚くな!
『俺らはバーボンハウスにいるんだ!』」
(゚、゚;トソン「あああ! モララーのばか!」
エンドレス
『夢幻』に繰り返された公園における時の流れは、
いま、平穏を以て漸くいつも通りに戻ることができた。
だが、モララーの胸中では、『嘘』のような不安が渦を巻いていた。
『拒絶』すべき対象が、増えたのだ。
.
- 161 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 14:33:34 ID:4Ozh1CRYO
- 以上で十三話「vs【手のひら還し】Ⅴ」は終了です
今はこちらの投下を優先しているので、偽りの書きためはできていなかったり
- 162 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 16:33:20 ID:I7HPeSZs0
- やっと三姉妹出てきたか。乙です!
- 163 :同志名無しさん:2012/12/13(木) 20:12:13 ID:52dL0ys20
- btcm、アルファ・・・いったいどういうことなんだ
乙
- 164 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 18:21:12 ID:haDOIi2UO
- 若干退屈なパートが続きますが、ストーリーに必要なパートなので投下します
- 165 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 18:21:42 ID:haDOIi2UO
-
○登場人物と能力の説明
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
(#゚;;-゚) 【???】
→『英雄』を探している少女。時を何度か巻き戻した。
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
从'ー'从 【手のひら還し《イレギュラー・バウンド》】
→『因果』を『反転』させる《拒絶能力》。
(゚、゚トソン 【???】
→時や力を『操作』した『拒絶』の少女。
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
.
- 166 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 18:22:18 ID:haDOIi2UO
-
○前回までのアクション
/ ,' 3
从'ー'从
→戦闘中
从 ゚∀从
→気絶
( ´ー`)
→散策中
( ・∀・)
(゚、゚トソン
(#゚;;-゚)
→戦闘終了
.
- 167 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 18:23:50 ID:haDOIi2UO
-
十四話「vs【手のひら還し】Ⅵ」
コインを持って、一日中眺めることがあった。
裏にはイタリック体のような数字。
表には人の顔を象ったような模様。
裏からは決して表を見ることはできず、
表からは決して裏を知ることはできない。
それをどこか魅惑的に感じることがあった。
「表裏」という様々な哲学の源である概念、
そしてその概念の代表的存在、コインに。
表では、コインの肖像のように気取った姿を見せているのだ。
コインではなく、俗世間における人々が。
人はその姿を見て美しいという。
男はその姿を見て色気を感じる。
女はその姿を見て勇敢を感じる。
表側を見て相手の内面を知ろうとし、付き合う。
表側を見て内面を知った気になって、突き合う。
表側を見て全てを見透かしたと思って、憑き合う。
だが、コインの表側からでは裏側の数字は窺えないのだ。
透明なコインは存在しない。
半透明で向こう側が透けて見える時代が来たとしても、見えるのは
真逆になった姿で、見ようとしている人が見たいそれの正反対の姿を映し出すだろう。
.
- 168 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 18:25:22 ID:haDOIi2UO
-
では、裏はどうだろうか。
ただ、価値だけが印されているのだ。
それもある区間内における、共通の価値観を持って。
人はその値を見て真実を知る。
男はその値を見て期待はずれだと言う。
女はその値を見て自分が求めているものではないと言う。
裏側を見て相手の全てを知り、付き合うのをやめる。
裏側を見て相手の限度を計り、器の違いを知る。
裏側を見て相手の全てを得、相手はお払い箱となる。
真逆なのだ。
建前と価値も、男と女も、表と裏も。
コインは、そのありふれたなかから一枚を無造作に選ぶだけで、
相手にこのような複雑な論理を一瞬にして解き明かさせてしまう。
実に哲学的だ。
実に不思議だ。
実に素晴らしい。
コインに限らず、表裏でなにかががらっと変わるものが、好きだった。
それを飽きず一日中眺めたりもしたし、
それを憑かれたかのように闇雲に返し続けていたこともあった。
そんな少女が、ワタナベ=アダラプターだった。
从'ー'从
一般的な家庭に生まれ、一般的な生活を過ごしてきた。
そんななか、母のお遣いを買ってでると、駄賃に銀貨を一枚与えてくれた。
普通の子どもなら、その銀貨を菓子という自己の欲求を
満たす具体的なものと取り替えようとするだろう。
コインという抽象的な価値の具現だけを持っていても、
満足という具体的な価値を得ることは本来できないからだ。
.
- 169 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 18:26:50 ID:haDOIi2UO
-
だが、抽象的なコインがワタナベに与えたものは、抽象的な魅力だった。
当時のワタナベが、銀貨から表裏という今の論理を汲み取ったわけではない。
ただなんとなく、その論理の元導かれる表裏の魅力に憑かれただけだった。
不思議なものだ。
元は表裏の概念すらなかったひとつの金属のはずだったのに。
平たく、円く実体を形成されても、表裏の違いはなかったのに。
「コイン」という価値を持った瞬間、表裏が顕著に現れたのだから。
コインを摘んで転がすだけで、イタリック体の数字は細かく彫られた肖像に変わる。
それを面白がって、ワタナベは暇さえあればコインと戯れていた。
親はそれを気味悪がるどころか
( )『「自分のお金」というのがよっぽど嬉しかったのね』
( )『ああ。自分のお金を大事にするのは素晴らしいことだ』
と、ワタナベの行動の表側だけを見て判断し、決して
それをひっくり返して裏側まで覗こうとはしなかった。
今思えば、ここで彼女に表裏の概念を与えなければ、
彼女は一生、あの狂った能力を手にすることはなかったのかもしれない。
《拒絶能力》を得るきっかけが
表裏の概念を知っていたから、だったためだ。
.
- 170 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 18:28:02 ID:haDOIi2UO
-
ある日。
ワタナベはいつものように、小学校から帰ってきた。
父親は仕事に出ており、母親は家で家事を終えたところだった。
親や友人に恵まれ、恋人という具体的な関係ではなかったが
ボーイフレンドもいたワタナベは、毎日が楽しかった。
陽気に歌を歌いながら、ワタナベは帰ってきた。
ランドセルをぶるんぶるん振り回しながら、玄関をくぐった。
陽気な抑揚でただいまと言い、自分の部屋まで駆け上がった。
ランドセルを放り投げ、すぐ一階の母のもとへ向かう。
今日一日の出来事を、母に話すのだ。
母も、可愛い娘が楽しそうに学校の話をするのを聞くのが、毎日の楽しみだった。
从'ー'从『今日ね、先生に褒められたの!』
( )『まあ。どうしたの?』
从'ー'从『宿題するの忘れてたんだけど、当てられて
その場で解いたら、「かしこい」って!』
( )『あら。賢いけど、宿題しなきゃ』
从'ー'从『え〜ヤだ〜!』
紫の髪を左右に振る。
当時は、今のように尖ったショートヘアーではなく、
櫛を通せばすっと通るような、綺麗なロングヘアーだった。
駄々をこねんとするワタナベを、母は笑いながら叱る。
ワタナベは、そんな母が好きだった。
.
- 171 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 18:29:29 ID:haDOIi2UO
-
( )『だめよ、しなさい』
从'ー'从『は〜い』
母にそう促され、口を尖らせるも、ワタナベは立ち上がった。
手を横に広げ、無邪気に駆けては自分の部屋へと向かった。
学校で出された宿題をこなすためだ。
部屋で放り投げたランドセルから宿題を取り出し、早速取りかかった。
学校で教えられたことを思い出しながら、復習を兼ねて宿題を解く。
学校が苦でなかったワタナベは、宿題も苦ではなかったのだ。
結果、宿題は三十分で終えた。
解いてみれば、実に少なく思える量だった。
明日は先生に叱られない、と思って、ふんと鼻を鳴らした。
宿題が終わったので、再びワタナベは一階に戻る。
母はリビングではなく、キッチンにいた。
エプロンをつけた母が握っていたのは、フライパンとフライ返しだった。
同時に、香ばしい匂いが漂ってくる。
そして、ワタナベの好きな甘い匂いも。
リビングに着くやいなや、すぐに母がなにをしているのかわかった。
ぱたぱたと手を広げ駆けて、ダイニングへと向かった。
カウンターを挟んだ向こうでは、母が調理をしていた。
ワタナベはいよいよ期待が抑えられなくなった。
从'ー'从『ホットケーキ!』
( )『鼻だけはいいんだから』
从'ー'从『ホットケーキ! ホットケーキ!』
( )『はいはい、今出すから』
从'ー'从『わああ!』
ワタナベは満面の笑みを浮かべ、飛びかかるように椅子の上に座った。
陽気に鼻歌を歌って、リズムにあわせて胴体を跳ねさせる。
出されたナイフとフォークを握って、母をじっと見つめていた。
.
- 172 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 18:30:31 ID:haDOIi2UO
-
ワタナベの無垢な眼差しを受けて、母も自然と顔が綻んだ。
更にホットケーキを載せて、ワタナベの前に置いた。
載せたばかりのバターが早速溶け、湯気とともにまろやかな香りを届ける。
ワタナベは食べてもないのに頬がとろけたような顔をした。
不器用にナイフとフォークを使い、ホットケーキにがっついた。
口を通して鼻までやってくる香りに、楽園を魅せられそうだった。
舌が甘みを感じ取ると、そこは楽園ではなく天国となった。
ワタナベはきゃっきゃっとはしゃぎだした。
( )『じっと食べなさい』
从'ー'从『〜〜っ!』
母は宥めようとするが、ワタナベには効かない。
身をふるわせ今の感動を伝え、再びホットケーキにがっついた。
母は困った子だ、と思いつつも笑いながらワタナベを見ていた。
ワタナベがホットケーキを完食するのは速かった。
満足そうな笑みを浮かべ、ワタナベは目を閉じた。
母は食べられたあとのきれいな食器を片づける。
ワタナベに眠気が訪れたところで、母はワタナベに寝るよう促す。
ワタナベの家では、間食のあとはだいたい昼寝を挟むのだ。
それが、至高のリラックスだと思われていたからだ。
敷かれた毛布にワタナベは飛びかかり、寝転がりながらそれを抱きしめた。
母がそれを制して、毛布を広げる。
.
- 173 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 18:31:09 ID:haDOIi2UO
-
そもそもの体温が高い子どもだ。
まして、食後で体温は高まっている。
午後の太陽に照らされ、暖かく心地よい。
幸せで満ちているワタナベが眠りに就くのに、そう長くはかからなかった。
从-ー-从『〜〜……』
無防備な体勢で口をちいさく開いて寝る姿は、無垢な少女そのものだった。
よく歌う陽気な歌も寝ている最中までは聞けない。
だが、そんな静かなワタナベでも、天使のように愛らしかった。
母は、こんな娘を持って、幸せだった。
この幸せが長く続くことを、祈っていた。
たとえ、その頃夫が居眠り運転のトラックに襲われていたとしても。
そして頭から血を流して倒れてしまったとしても。
母は、そんなことはつゆ知らず、娘の幸せを願っていた。
.
- 174 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 18:32:40 ID:haDOIi2UO
-
◆
ワタナベの睡眠が妨げられたのは、怒号に近い母の悲鳴のせいだった。
何事だと思ってワタナベは起きあがった。
寝ぼけ眼を手でこすり、母の方を見る。
母は電話の前でくずおれていた。
頭を下に向け、受話器を両手で押さえている。
垂れた髪が、母の顔を覆うように隠していた。
ワタナベから見ると、母が何をしているのかわからなかった。
だがいつもと様子が違うことだけはわかった。
四つん這いになって母の方に寄ると、母の声が聞こえるようになってきた。
母の声は、平生のそれよりもかなり乱れていた。
抑揚が安定しておらず、嗚咽のような息をしている。
( )『じゃ、じゃあ……ッ、夫は……!』
( )『………ッ!』
向こうからの声を聞いて、母は反応をした。
痙攣したかのような動きだった。
ワタナベはわけがわからなかったが、
母が泣いていることだけはわかっていた。
長い通話が続いたかと思うと、母は受話器を手放した。
その受話器は、バネに引っ張られて宙を踊る。
母の右隣をゆらゆらと動くが、母がそれに構う暇はなかった。
通話が終わったのに気づいたワタナベは、母のもとに寄った。
从'ー'从『おか……ぁさん?』
( )『……!』
从'ー'从『わわ!』
.
- 175 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 18:33:35 ID:haDOIi2UO
-
母も、後ろにいたワタナベの存在に気がついた。
泣き顔が見られることも気にしないで、母はワタナベを抱きしめた。
今までに感じたことのなかった母の抱擁に、ワタナベは少し戸惑った。
同時に、この異常が『異常』であることにも薄らと気がついた。
母は何も言わず、嗚咽を漏らすのみだ。
ワタナベはなぜあの母がここまで取り乱すのか、わからなかった。
从'ー'从『おかーさん……?』
しかし母は応えない。
ワタナベは仕方なく思い、そのまま抱きしめられることにした。
母は、平和の崩壊を覚悟していた。
.
- 176 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 18:35:08 ID:haDOIi2UO
-
◆
母はもう四十になりつつある。
中学生になったワタナベは、事の重大さを理解できる歳になっていた。
父が亡くなった分、家族は貧しくなった。
母は、この歳で今更働き口があるのか不安だったのだが、
地元のスーパーでパートとして働けるようになった。
そのスーパーだが、表社会では名を連ねる大手スーパーで、
パートに就くこと自体が難しいとされるところだったようだ。
母が就くことに成功した理由は、そのスーパーの店長が
ワタナベの父の良き友人であり、事情を聞いて同情したからだ。
捨てる神あれば拾う神あり、とはよく言ったものだ、とワタナベは思った。
だが、労働が未経験の母にとって、スーパーのパートといえどなかなか堪えるものがあった。
朝起きた時の体力がそれで全部費やされてしまうのが普通だった。
主婦の友人ができ、励まされもしたが、それとこれとは別問題だった。
母がパートタイムを終え帰宅すると、
いつもは部活で家にいないはずのワタナベが帰宅していた。
ワタナベはテーブルの上で勉強をしていた。
母は不思議に思い、どうしたのか訊いた。
母は小テストのたぐいでもあるのかと思ったが、全く違った。
从'ー'从『ただの気分……』
ワタナベは、そう答えた。
母は、少しどきりとした。
最近、ワタナベの行動や言動に天気屋な部分が見えるようになってきたのだ。
幼少時のワタナベにはなかった傾向だったので、母は戸惑っていた。
だが、これも思春期に見られる傾向か、と割り切った。
思春期に性格が変わるのは、よくある話だ、と。
.
- 177 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 18:37:28 ID:haDOIi2UO
-
貧しくなり、性格も変わってきたワタナベだが、友人に恵まれないことはなかった。
おとなしく、しかし気分屋なワタナベではあるが、容姿は可憐だったのだ。
髪は短く切り、肩にかかるかどうかの長さに。
表情は幼少時ほど変わらなくはなったが、
相対的に色気などは徐々に表れてきた。
小顔に大きな瞳、整った顔。
すらっとしていて、しかし背はやや低い。
この時期の女性は肉がつき丸くなる人が多いにも関わらず、
ワタナベは美少女という言葉に相応しい女性の身体になりつつあった。
化粧をせずとも愛らしいそのマスクは、異性を魅了するのに充分だった。
幼少時のボーイフレンドとは進学の違いで離ればなれになったが、
代わりに中学校でもワタナベにコンタクトをとろうとする新規の男子生徒も多かった。
消極的なワタナベに、心惹かれる人も多かったのかもしれない。
しかし、そういった人にワタナベは関心を抱かなかった。
話しかけられても、微笑を浮かべ軽く流す程度だ。
それでも、ほほえみかけられたことに興奮する者もいたのだが、
愛情を省きワタナベと友好的に接する者はなかなか現れなかったという。
そんな彼女だが、意中の男性が現れなかったわけでもない。
それは運動会のリハーサルのときだ。
全学年の全クラスの生徒が集合するので、
見知らぬ顔の人とたくさん出会うことになる。
白いハチマキを巻いて定刻より早めに運動場に繰り出すと、
とある男子のグループが、和気藹々と会話をしていることに気がついた。
いや、運動場にいる人そのものが少なかったため、最初から目には留まっていた。
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- 178 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 18:38:47 ID:haDOIi2UO
-
他の友人はまだ着替えたり更衣室で話したりしているので、
手持ち無沙汰であるワタナベは、何の気なしにその男子グループを見ていた。
皆が同じ白いハチマキをしているので、同じチームなのだとわかった。
从'ー'从『……』
近くの階段の一段目に腰を下ろし、眺めていた。
自分とは対照的に明るい面々が、よしなし事を言って騒いでいる。
普通の男子だ、と思い見つめていた。
そのとき、今までワタナベに背を向けていた男子が、
気配に気づいたのか、ワタナベの方を向いた。
(`・ω・´)
从'ー'从『!』
確かに目が合った。
他の男子より体つきがよく、この歳にしてもう筋肉がついている。
ワタナベは、まさか見られるとは思ってもみなかったので、どきっとした。
その男はすぐに視線を友人の方へ戻した。
そのときになって、ワタナベは胸の鼓動に気がついた。
意識してその男子を見ていると、あることがわかった。
他の男子は「騒ぐ」と形容するに相応しい動きをしていたのに、
その男子は騒ぎなどせず、腕組みをして大人びたオーラを発しているではないか。
話を振られた時は返すし、逆に話を振られている男子を弄るような発言もして笑いを生んでいる。
ただ大人びただけの、普通の男子だ。
だが、その大人びた様子に、ワタナベはいつの間にか目を奪われていた。
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- 179 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 18:39:43 ID:haDOIi2UO
-
また、当然声も聞こえてくるのだが、
その男子の声は変声期を終えたのか、すごく低かった。
その体格、その様子に見合う声色で、男性的な魅力を持っていた。
ワタナベはこのとき、生まれて初めて恋という恋をしてしまった、と思った。
背中のゼッケンに書かれた名前とクラスを目に焼き付けた。
いつかまた、彼にコンタクトをとるためである。
階が違うクラスの、シャギィという男子だった。
( )『お待たせー』
从'ー'从『あ、遅い〜』
( )『ナベちゃんが早いだけ』
从'ー'从『もう〜』
友人二人の登場で、ワタナベはシャギィを見るのをやめた。
ほぼ同時に、リハーサル開始の予鈴が鳴った。
それを契機に、校舎からぞろぞろと生徒が出てくる。
ワタナベは胸の静かな昂揚を、引き出しのなかに大切に閉まった。
それでも、人混みのなかからシャギィを探していたが。
その日は、シャギィを見ることはなかった。
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- 180 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 18:40:56 ID:haDOIi2UO
-
◆
クラスと名前がわかっていれば、いつでも会える。
確かにその通りで、会うための条件としては揃っている。
ワタナベもそう考えていたのだが、あれから
一週間が経っても、未だに会うことはできていなかった。
運動会本番でも見かけることはなかった。
別にその日に会わなければならないことはなかったのだが。
クラスと名前がわかっていて会えない理由は、ただ一つ。
ワタナベに、それを行動に移す勇気がなかったのだ。
何の脈絡もなしにいきなり会うような勇気など、ワタナベにはなかった。
消極的な性格が、初めて悪い方向に傾いたのだ。
友人に相談する勇気もなかった。
そして、結局会えないがために募る会いたいという気持ちは、徐々に増えつつあった。
時々、枕に顔をうずめてじたばたと暴れる日もあった。
鏡を前に、自分を可愛く見せようと試みる日も増えつつあった。
それでもワタナベは、勇気だけはわいてこなかった。
ワタナベは自分を女性として意識するようになってきたため、
女性としての色気は更に増してきつつあった。
そんな姿のワタナベを見て、若しくは少し言葉を交わして、
彼女に惚れる者は以前にも増して増えるようになっていた。
.
- 181 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 18:42:08 ID:haDOIi2UO
-
そして、実際に愛の告白を受けたこともあった。
相手は、運動会でワタナベと同じ男女混合リレーにエントリーし、
それをキッカケに少し会話を重ねるようになった男子だった。
( )『好きです。よかったら、俺と付き合ってください!』
从;'ー'从『へ?』
それは唐突だった。
放課後、ワタナベが、彼女が所属する
バドミントン部の練習に向かおうとする途中だった。
偶然その男子に会い、ワタナベは挨拶をした。
軽くほほえんで首を横に傾け、手を振って。
いつもなら相手も応じるのだが、今日はどこか畏まっていたように見えた。
ワタナベが少し不思議がると、男子は「あっ」と声を漏らしては、
きょろきょろとして周囲の人気のなさを確認した。
ここは校内でも端っこに位置する廊下で、掃除も終わっている。
運動場からも死角になっているため、誰にも見られる心配はなかった。
そして、ワタナベを引きとめたのだ。
ワタナベは、この告白の予期などしてもいなかった。
その男子と仲がいいという自覚はあったが、
恋愛感情を持たれているとは思いもしなかったのだ。
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- 182 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 18:44:28 ID:haDOIi2UO
-
彼女は消極的で、だからこそ鈍感なのだ。
全てを「そんなわけがない」と自分を卑下し、
本当はそうであるのにそうでないと思いこむ。
冗談か何かと思ったが、その男子の態度からして、それは本気だったようだ。
ワタナベは平生を失い、少し落ち着きがなくなった。
初めて本物の愛の告白を受けたため、どう返せばいいかわからなかったのだ。
落ち着こうと、ワタナベは少し声を出して笑った。
从'ー'从『えっと……本気?』
( )『……本気』
男子の目は、それをにおわせるものだった。
本気で告白をされたため、ワタナベは本気で返事をしなければならない。
時間稼ぎも一瞬で終わり、ワタナベは返答を迫られた。
从'ー'从『すごい急……だね』
( )『急じゃない。運動会で一緒になる前から、ずっと好きだった』
从;'ー'从『……へ?』
( )『ずっとナベちゃんのことばっか見てた。気づいてなかった?』
从;'ー'从『ぜんぜん……』
それは本音だった。
仮にその視線に気づいていたとしても、
「まさか自分が」という考えが真っ先に浮かぶだろう。
ワタナベが、彼の好意に気がつくはずもなかった。
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- 183 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 18:45:43 ID:haDOIi2UO
-
( )『……あ、別にだめならだめでも……』
从'ー'从『うーん……』
ワタナベが戸惑っているのをフォローしようと、男子が言った。
そう言われて少し落ち着けたのか、ワタナベは冷静に思考に耽ることができた。
運動場や体育館からは部活に勤しむ生徒たちの声が聞こえる。
バットがボールを捉える音、バスケットボールがゴールにぶつかる音。
学校の放課後を思わせる、自然な音だ。
今、自分が青春を感じていることを、無意識のうちに理解していた。
十秒経った頃だろうか。
ワタナベは、口を開いた。
从'ー'从『今……答えた方がいいよね?』
( )『……で、できれば』
そう言われ、ワタナベは決心した。
緊張を、息にして吐き出した。
ぐっと顔を上げ、彼と目を合わせた。
そして
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- 184 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 18:46:56 ID:haDOIi2UO
-
从;>ー<从『ごめんなさいっ!』
ワタナベは、そう言うと同時に頭をばッと下げた。
返事は、はじめから決まっていたのだ。
もしここで返事を延ばしたり遁辞を弄すれば、それこそ相手への無礼に値する。
ワタナベは、ぶきっちょながらも正直な答えを、彼に示した。
その一声から、三秒間の静寂が生まれた。
その三秒間は、ワタナベにとっても、男子にとっても長すぎる時間だった。
だからこそ、男子はその三秒間で思考を整えることができた。
( )『そ…、そっか……』
从;'ー'从『でも、別に嫌いとかじゃなくって……』
( )『?』
ワタナベはせめてフォローをしようと、
顔をあげては両手を前に突きだしてぶるぶると振るった。
男子は少しきょとんとしていた。
从'ー'从『その……私も、好きな人がいるんだ』
( )『あ……そ、そうだったんだ。聞くの忘れてた……』
从'ー'从『こっちこそごめんね……』
( )『ナベちゃんが謝ることじゃないよ』
从^ー^从『………えへへ』
( )『……は、はは』
二人は顔を見合わせて、笑った。
ワタナベは彼の話しやすい性格が好きだし、
これからもずっと友人のままでいたいと思っている。
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- 185 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 18:47:45 ID:haDOIi2UO
-
それは、彼にとっても同じことだ。
だから、こうやって笑いあえる方がいい、と思えた。
笑いあってから、数秒が経過した。
ワタナベは、笑顔から元の微笑を浮かべていた顔へと戻った。
从'ー'从『……ありがと』
( )『え?』
从'ー'从『勇気を貰えた。私も、ちょっと告白してみようかなって思う』
( )『まじで!? 超応援する。応援団組んでこよっか?』
从;'ー'从『そ、そこまではいいよ……』
( )『成功しても失敗しても複雑な気分だ……』
从'ー'从『なによそれ〜』
( )『だって……』
从'ー'从『……』
( )『……』
そこで、二人は再び笑いあった。
ワタナベが、幸せと勇気、明るい未来を感じていた一瞬であった。
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- 186 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 18:48:59 ID:haDOIi2UO
-
◆
日数が少し経った。
運動会の余韻もいよいよ収まり、皆平生通りの生活を取り戻そうとしつつある。
運動会の所為で日焼けをしていた者も徐々に減ってきていた。
が、もともと肌が白いワタナベが気にすることではなかった。
そして、放課後になった。
六限目が体育だったこともあってか、鼓動がはやい。
汗は吹き出し、頬は紅潮している。
ワタナベは今、薄い紫のタオルを首にかけていた。
右手で額や髪の生え際、首筋を念入りに拭う。
深呼吸も数回して、漸く落ち着くことができた。
だが、その落ち着きは所詮建て前に過ぎなかった。
その扉の向こうでは、やはり心が不審な動きを続けているのだ。
それを、ワタナベはわかっていた。
わかっているのに抑えられない自分を、弱いと思った。
日頃から飽き性な自分がこのような一途な想いを抱くのが、不思議で仕方がなかった。
それが、この鼓動の正体なのかもしれない。
しかし、実際の鼓動の原因は他にあるのだ。
それも、知っていた。
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- 187 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 18:50:07 ID:haDOIi2UO
-
待機していたのは、ショートホームルームを終えてないクラスの教室の、後方の扉の向かいだった。
壁に背中を預け、顔を隠すようにタオルで顔を拭い続ける。
教室からざわめきが大きくなったのを聞いて、それの終わりを察した。
鼓動は、更にはやくなった。
椅子の脚が擦れる音がする。
ぞろぞろと足音が聞こえるようになって、ワタナベははッとした。
背筋をぴんと伸ばし、精一杯背伸びもする。
手をサンバイザーのようにかざし、きょろきょろと彼を探した。
どれも見たことのないような顔ばかりで、部活で一緒の友人すらいなかった。
心細さのようなものも感じつつ、粘り強くそれを続けた。
そして見つけた瞬間、ワタナベの鼓動はよりはやくなった。
思えば、その人混みのなかから巨漢を見つけるのにそれほど時間がかかる方がおかしかったのだ。
そして、それは彼女が敢えてそうしていた、というわけである。
ワタナベはそれすら気づくことはなかった。
濁流のような人混みの流れに合わせて、ワタナベもそれに潜った。
潜って、その濁流が飛沫となって散乱する時。
ワタナベは前方に見える巨漢の影を追っていた。
巨漢、すなわちシャギィの。
从;'ー'从『あ、あのッ!』
(`・ω・´)『?』
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- 188 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 18:51:20 ID:haDOIi2UO
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ワタナベのその一言は速かった。
シャギィは、勤しむべき部活動がない。
補習もなく、生徒会活動もない。
詰まるところ、授業が終わればまっすぐ帰るのだ。
それを察したワタナベは、今引き留めるしかないと思った。
羞恥や昂揚など二の次で、ただ本能がワタナベにその行動をさせた。
結果、自転車に跨ごうとするシャギィを制止するのに成功した。
自転車通学を許されるのは、家が遠いか込み入った事情がある家庭の生徒のみだ。
そう思うと、シャギィも何らかの特別な生徒かもしれない。
そんな予備知識を自然のうちに覚えてから、ワタナベは話をきりだした。
从;'ー'从『ワタナベですけど、しゃ、シャギィくん……ですよね?』
(`・ω・´)『……ああ』
ワタナベはちいさく「よかった」と呟いた。
それがシャギィに聞こえたかどうかはわからない。
なんせ、まだ周囲には人がいるのだ。
ワタナベは顔をあげた。
シャギィの力強い視線が、ワタナベに喋ることを躊躇させる。
だが、ワタナベは負けなかった。
从'ー'从『その……ちょっと来てもらっていい……?』
(`・ω・´)『? 構わないが』
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- 189 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 18:52:23 ID:haDOIi2UO
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シャギィが私的に自分と話してくれることが、ワタナベにとっては嬉しかった。
これが恋心であることを知りながら、今はそれを押し隠して
シャギィを人目のつかないところまで引き連れていった。
嘗て自分もそれをさせた、人気の少ない廊下へ、である。
その廊下は、やはり今日も人気がなかった。
なんの名目のもとつくられたのかわからない教室の前だ。
シャギィはわけもわからないまま、ワタナベを見つめる。
ワタナベはその視線に気がついて、覚悟を決めた。
从*'ー'从『しゃ、シャギィくん!』
自然と早口になる。
舌が普段の倍ほど速く動く。
これほど、自分は饒舌だったのだろうか。
そう思えたが、実際は時の流れが平生と違っていただけなのだ。
嘗ての躊躇、不安などどこへ行ったのか、
ワタナベの言葉は着々と「想い」を形成していった。
从*'ー'从『はじめて見たときから、好きでした』
从*'ー'从『もしよかったら、付き合ってください』
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- 190 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 18:53:57 ID:haDOIi2UO
-
そう言いきってから、ワタナベは事の重大さを察した。
告白し終えてから、その告白がどれほどとんでもないものなのか、わかったのだ。
シャギィは、ワタナベが思っていたよりは当惑しなかった。
首を傾げ、ただ死体でも見るかのような冷めた目でワタナベを見ていただけだった。
シャギィはシャギィで思うところがあったのだろうか、少し黙る。
気持ち俯き、手を前で交差させるワタナベは、じっと待つ。
たとえこの告白が、非常識でも。
ワタナベは勇気をもってして、この現場に臨んだ。
シャギィは言葉を選んでいたのか、ワタナベのそれから第一声を発するのに時間がかかった。
少し首を傾げているのは、ワタナベには視認できないだろうか。
不思議な気持ちのシャギィは、ワタナベに顔をあげるよう言った。
(`・ω・´)『……』
从'ー'从『……』
それからは、再び静寂が辺りを包み込んだ。
といっても、ほんの二、三秒である。
それを長く感じたワタナベの煩わしさは、計り知れない。
静寂に耐えかねて、ワタナベは右拳を下唇に当てた。
困ったような表情をして、首を傾げて聞いた。
从'ー'从『……やっぱり、だめ……ですか?』
(`・ω・´)『……なにぶん、状況を把握できないのでな』
从'ー'从『私のこと、知らないもんね…』
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- 191 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 18:55:28 ID:haDOIi2UO
-
ワタナベの悟った「非常識」とは、それだった。
いわば一目惚れ、なのだ。彼女の恋とは。
シャギィがそれを知る由もなく、いきなり知らない他人から愛の告白をされた、ということになる。
しかし、シャギィの返答はワタナベの予想とは違った。
(`・ω・´)『……いや、存じてはいる』
ワタナベが反応を見せる。
シャギィは腕を組んで明後日の方に視線を遣り、続けた。
(`・ω・´)『これでも俺は、周囲の人間をよく見る方でな』
从'ー'从『周囲……?』
(`・ω・´)『運動会の時、ちらっと見た記憶はある』
从'ー'从『!』
それは、ワタナベもシャギィを初めて見たとき。
シャギィがその一瞬でワタナベのことを認識し得たとは
思いづらかったが、シャギィは認識していたのだ。
それを知って、ワタナベは嬉しくなった。
自分を意に介していてくれたことに。
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- 192 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 18:56:27 ID:haDOIi2UO
-
从*'ー'从『じ、実はそのときに好きになっちゃって……』
(`・ω・´)『……意外だな』
从'ー'从『?』
(`・ω・´)『まさか、その一瞬で惚れられるとは』
从'ー'从『……』
(`・ω・´)『長所の見当たらない俺を好いてくれたのは嬉しいのだが……』
ワタナベのなかのなにかが、
急に冷めていくような実感がしていた。
(`・ω・´)『こんなことを言うのもなんだが、俺につきまとうとろくでもないことが起こる』
(`・ω・´)『すまないが、付き合う、のは無理だ』
(`・ω・´)『……悪いな』
シャギィの低い声が、ワタナベの胸の鐘を強く叩き鳴らした。
だが、それはショックを、悲哀を告げる鐘の音ではない。
なにかが、終わりを告げたなにかの音だった。
興醒め――が、今のワタナベの心情を
一言で表すのにちょうどいい言葉だった。
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- 193 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 18:58:39 ID:haDOIi2UO
-
从'ー'从『……そ、そう』
辛うじてひねり出せた言葉が、それだった。
しゅんとして、頬の紅潮はすっかりなくなっている。
シャギィも紡ぐ言葉の糸がなくなったのか、黙りとした。
部活動に勤しむ生徒たちの声が大きくなってきた。
いつまでもここにいると埒が明かず、ましてそろそろ誰かに見つかってしまうおそれがある。
シャギィは折り合いを見つけて、帰ろうとした。
ワタナベに、その旨を告げて。
ワタナベの、呆気ない、白紙の一ページだった。
从'ー'从『あ、あの、その前に』
(`・ω・´)『なんだ?』
从'ー'从『どうして……周囲の人を逐一確認なんかしてるんですか?』
(`・ω・´)『? ああ、それか』
シャギィは、半ば面倒臭そうに応えた。
ワタナベとしては、それが唯一気になることだったのだ。
一ページの呆気なさにせめてスパイスでも振ろうと、
苦心の末放った話題がそれくらいしかなかった。
(`・ω・´)『簡単だ』
(`・ω・´)『俺が、「劣後」に満ちた「負け犬」だからだ』
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- 194 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 18:59:14 ID:haDOIi2UO
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从'ー'从『……れつご?』
(`・ω・´)『「負け犬」に深くかかわらない方がいい。……じゃあ』
从'ー'从『あっ……』
シャギィはそう言い残すと、逃げるようにその場を去った。
ワタナベのなかで、もやもやが更に広がった気がした。
もう胸の高鳴りも昂揚も感じない。
嘗て感じていた躊躇や不安の原因が、わからなくなった。
なんとも後味の悪い、ワタナベの告白の一部始終だった。
.
- 195 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 19:00:41 ID:haDOIi2UO
-
◆
ワタナベは、その後は部活動を休んで帰路に就いた。
やりきれない気分では、部活動にも力が入らないのだ。
しょぼんと顔を俯けて、とぼとぼと歩んでいく。
ふられた事に、劣等感は感じなかった。
むしろ、ふられて正解だった、とすら思えた。
どこか、いざ話してみると興醒めを感じてしまったのだ。
また、自分が「負け犬」になったような気もした。
シャギィはそれらしい意味深長な言葉を発していたが、今のワタナベには理解ができない。
ただ、払うことのできない霧だけが立ちこめていた。
歩いていくと、途中で道を間違えたのか、スーパーに辿り着いた。
無意識のうちに曲がる角を間違えたようだ。
ワタナベは軽く自嘲し、「せっかくだし」と思ってスーパーに入店した。
――ワタナベは、自分では恋が成就しなかったことに不満を抱いていないと思っているが、
やはり「自分を認めてもらえなかった」ことに対して、確かな劣等感を感じはするはずなのだ。
それが間接的なストレスとなり、彼女の思考を険悪にさせるものとなる。
そうとは知らず、ワタナベはただ募りゆくフラストレーションに悩まされた。
彩り豊かな店内の配置。
飛び交う安値の商品。
賑わいを感じる様々な声。
確かに、そこはスーパーだった。
形容の仕方がおかしい気もしたが、スーパーだった。
人が多いのは、そもそもそういうスーパーなのだろう、と割り切った。
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- 196 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 19:01:56 ID:haDOIi2UO
-
滅多にスーパーには来ないので、どこか新鮮に感じる。
ふられた事によるショックも、紛らわしてくれそうだった。
そして歩いていくと、自然のうちに菓子コーナーに来ていた。
ワタナベも、昔から菓子は好きだった。
本能的にそれを求める自分を、軽く笑った。
引き返す必要もなく――というよりもともと何の用もないので――
せっかくだしと思い菓子コーナーを見て回ることにした。
新発売のガムから、定番のスナック菓子まで。
どれも、子ども心をくすぐる巧みなパッケージがされていた。
ワタナベは、なにかひとつ欲しいと思った。
微妙に腹も空いているのだ。
鞄から、財布を取り出す。
マジックテープを剥がし、小銭の枚数を数えた。
銅貨が、数枚―――
从;'ー'从『(あら……なにも買えない)』
そこで、手を止めた。
明らかに、額がどの菓子にも届かないのがわかったのだ。
恥じらうように財布を鞄に仕舞った。
溜息を吐いて、その場をあとにしようとした。
.
- 197 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 19:03:54 ID:haDOIi2UO
-
―――しようと、した。
そこで、ワタナベの「悪い癖」が出てしまったのだ。
飽き性で、天気屋で、すぐ手のひらを返す。
物事を楽観視し、明日は明日の風が吹く、をモットーにしている、という。
从'ー'从『……』
また、ふられた事で思考がどうにかしていた。
払えない霧を無理やり払う手段も、模索していたのだ。
そんななか、ふと「それ」が霧を払うのにふさわしいのではないか、と思えてしまった。
ワタナベは周囲の視線を確かめる。
時間帯が時間帯だからか、子連れの母はいない。
こちらに目を向けていない客が、菓子コーナーの向こうを横切る程度である。
次に、目の前の商品を見た。
新発売のガムである。
味の違うガムが層になっていて、甘そうだ。
そして、このくらいの大きさなら
さッと取っては気づかれないようにポケットに収まる。
.
- 198 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 19:04:24 ID:haDOIi2UO
-
―――この時の、偶然。
ひとつ、この日は偶然「万引きを逮捕するドキュメンタリー番組の撮影が行われていた」こと。
もうひとつ、このスーパーは「母が働いているスーパーである」ということ。
.
- 199 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 19:05:36 ID:haDOIi2UO
-
◆
ワタナベは、そのガムを何気ない仕草で持ったかと思うと、すぐにポケットに押し込んだ。
何食わぬ顔して、呑気に鼻歌をもうたって、散策する。
ばれるかもしれないというスリルと、味わったことのない背徳感の心地よさが彼女をぞくぞくとさせた。
それは、恋なんかの数十倍、いや下手すれば生きてきたなかで一番の快感を与えた。
「誠実」を絵に描いたような存在のワタナベが、罪に走ったのだ。
確かに、「今までにない感情」は生まれるだろう。
問題は、それが「快感」であったことだ。
この時点で既に、彼女が恐ろしい死神の道を歩む素質はあったと言えよう。
だが、『因果(けっか)』を拒むようになったのは、この時からではない。
从'ー'从『〜〜♪』
ばれてないと思って、歩みを進める。
十分前後の散策も終わって、さあ帰ろうとした。
出口に向かって歩いていく。
ワタナベは、この瞬間を、一番スリルの味わえる瞬間だと思った。
そして、そのスリルは、無事をもって終えた。
自動ドアを抜けた瞬間、ワタナベは皮膚上を虫が這ったかのようなほどの快感を得た。
ぞくぞくと、快感が躯を走る、突き抜ける。
ワタナベは同時に成功を感じ、笑みをこぼしながら歩みだそうとした。
.
- 200 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 19:06:40 ID:haDOIi2UO
-
だが。
万引きが万引きをして検挙されるのは、
自動ドアをくぐりぬけて「から」であることを、
当時の幼いワタナベが理解するすべはなかった。
( )『ちょっと』
从;'ー'从『ッ!』
快感の絶頂だったところ、背後から急に肩に手をかけられ、ワタナベは心臓が止まりそうになった。
振り返ってみると、店内で品だしをしている店員のようには見えない、
明らかにバックスペースに滞在してそうな容姿の男だった。
――まさか、ばれているはずがない!
そんな的外れな考えが渦を巻くも、男の言葉はワタナベに絶望を与えるのに充分だった。
( )『君、〝それ〟の代金払った?』
从;'ー'从『え、えっと……』
( )『……ちょっと裏に来てもらおうか』
.
- 201 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 19:07:51 ID:haDOIi2UO
-
◆
妖しげな雰囲気を醸し出す店内では、カウンター席に腰掛ける男以外、誰もいなかった。
カウンターの向こうでは、カラフル且つ高価そうな酒の瓶が羅列されている。
書かれている言語も読めないが、ただ雰囲気からしてどれも美味だと思えた。
この薄暗さが、何となく好きだ。
ネーヨは、ふとそう思った。
頬杖をついて、空のグラスを傾けたりしていた。
タバコを吸おうとしたが、以前そうしようとしたときに
タバコを文字通り煙たがられたのを思い出して、やめた。
愛煙家として、マナーを守るのは当然であり義務だ、と男は思うのだ。
( ´ー`)「……暇だな」
溜息を吐いたり姿勢を変えたりして、時間が無駄にながれていくのを肌で感じる。
ロックアイスをグラスに積んで、何か勝手に注ごうか、そう思った時だ。
背後に、慌ただしい気配が現れた。
( ・∀・)
( ´ー`)「モララーか」
今までなかった気配が現れたと同時に、ネーヨは冷静にそう言った。
もう、彼に「――にいる」と云った『嘘』を吐かれるのは慣れているのだ。
急に気配が現れたなら、それの主はせいぜいモララーかショボンくらいだ。
.
- 202 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 19:09:15 ID:haDOIi2UO
-
(゚、゚;トソン「あああ…ッ! 買い物…」
( ´ー`)「酒を呑む場で騒ぐんじゃねえよ」
(゚、゚トソン「! いらしていたのですか」
トソンも遅れて、ネーヨの存在に気がついた。
誰もが抗えない『拒絶』を持つ、ネーヨ=プロメテウス。
同じ『拒絶』でさえ、彼の放つオーラには屈してしまう。
ネーヨは空のグラスをトソンに向けた。
トソンはなにを言おうとしているのかわかった。
(゚、゚トソン「……まだ開店時間ではありません」
( ´ー`)「知らねえよ。俺は酒を呑みたい時に呑むんだ」
( ・∀・)「らしいっちゃ、らしいな。旦那らしいぜ」
( ´ー`)「中身の感じられん言葉をありがとよ」
ネーヨは皮肉を籠めて言った。
モララーの放つ言葉は全て、『嘘』のように聞こえるのだ。
文字通り、虚構であるかのように。
( ´ー`)「それよか……」
中身が空のグラスを、卓上に置いた。
椅子を回転させて、トソンとモララーの方に躯を向ける。
.
- 203 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 19:10:35 ID:haDOIi2UO
-
( ´ー`)「『嘘』を『混ぜ』てまでここに来るたぁ……何かあったのか?」
( ・∀・)「……そのことだよ、旦那」
( ´ー`)「んあ?」
日頃はニタニタしているモララーだが、この時ばかりは決してそうはしていなかった。
『嘘』のような真剣さ、しかし『嘘』とは思えない真剣さがにじみ出ている。
ネーヨも、その異変を察知した。
( ・∀・)「カゲキんとこの娘、知ってるか?」
( ´ー`)「『英雄』だろ?」
( ・∀・)「それの、妹だ。あいつに妹っているのか?」
( ´ー`)「……妹ぉ?」
ネーヨは、癖でタバコの入ったポケットを無意識のうちにいじっていた。
もう片方の手で、頭を掻く。
予想外の質問に、少し戸惑ったのだ。
( ´ー`)「カゲキの娘はハインリッヒだけのはずだけどなあ」
( ・∀・)「……そうか? そうなのか?」
モララーがしつこく詮索する。
だが、そうでもしないとこの新たな『拒絶』を拭えなかった。
.
- 204 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 19:11:38 ID:haDOIi2UO
-
(゚、゚トソン「ほら。ただの『能力者』だったのですよ」
( ・∀・)「だったらいいが……」
トソンが補足し、モララーが訝しげな顔をするも肯いた。
トソンは微笑を浮かべ、渋々カウンターの向こうへと行った。
その仕草や動きはバーテンそのもののように思えるが、生憎着ているのは私服だ。
とても酒を振る舞う一流のバーテンとは思えなかった。
トソンがそちらへ向かったのを見て、モララーも席に就いた。
ネーヨと一つ空席を空けた、席に。
――その移動の間、ネーヨは固まったかのように思考に耽っていた。
首を少し俯かせ、判らない程度に苦笑を浮かべる。
その様子は、この男に関しては滅多に見られないものだった。
(゚、゚トソン「……せっかくだし、奢りますよ。なにがいいですか?」
( ・∀・)「俺はなんでもいいや」
(゚、゚トソン「なんでも……ネーヨさんは?」
トソンは、未だ固まっているネーヨに話しかけた。
だが、ネーヨはやはり動かず思考に耽ったままだった。
.
- 205 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 19:13:41 ID:haDOIi2UO
-
(゚、゚トソン「……ネーヨさん?」
( ・∀・)「ビールでいいんじゃない?」
(゚、゚トソン「そうですかね」
ネーヨは、ビールが好きだ。
こじゃれたワインなんかも呑むが、ビールを呷る方が好きなのだ。
それを二人は理解していたので、そんな会話を進めた。
だが、ネーヨはそんな会話など既に『拒絶(むし)』していた。
なにかに夢中になると、自然とそのスキルが適用されてしまうのが彼の悪い癖だった。
そんななか、我に返ったネーヨは
二人の会話を遮るかのように言葉を放った。
( ´ー`)「……なあ、モララー」
( ・∀・)「?」
( ´ー`)「その『能力者』……なにを操った?」
( ・∀・)「??
なにって?」
( ´ー`)「『時間軸』か?」
( ・∀・)「???
……あ、ああ。『時間軸』、『時間軸』だ。その表現が正しいだろうよ。
カット? とか言ってたしな」
( ´ー`)「!」
途端、ネーヨは反応を見せた。
日頃そういったものに無関係だと思われていたネーヨが
見せた行動だったので、向かいにいたモララーは驚いた。
.
- 206 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 19:14:24 ID:haDOIi2UO
-
( ・∀・)「旦那? やっぱ心当たりある?」
( ´ー`)「……心当たり、か」
気遣いの言葉に、ネーヨはそう呟くだけだった。
モララーは少し黙ったきり、姿勢を元に戻した。
ネーヨと会話をしていたのが急にネーヨの思考で中止されるのは、よくあることなのだ。
いつものことだ、とモララーは思って前を向いた。
〝確かに、いつものことだ〟。
だが、考えていることは〝いつもとは違っていた〟。
( ´ー`)「(………余計な手回ししやがって……)」
( ´ー`)「(……………パンドラ………)」
.
- 207 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 19:15:30 ID:haDOIi2UO
-
(゚、゚トソン「モララーさんには牛乳水割りを。
ネーヨさん、はい。いつものです」
( ・∀・)
( ´ー`)「あ、ああ……悪いな」
( ・∀・)
( ・∀・)「え? なあ、ちょっとおい」
(゚、゚トソン「なんですか?」
(゚、゚トソン「言っとくけど、お買い物を邪魔したこと、まだ許してないから」
( ・∀・)
( ・∀・)「クソッタレええええええええええええええええええええ」
.
- 208 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 19:16:35 ID:haDOIi2UO
-
( ´ー`)「……」
騒がしい日常をよそに、ネーヨはビールを呷った。
メーカーどころか原産国すら知らないビールだが、やはりそれはうまかった。
それを一旦卓上に置いて、ネーヨは頬杖をついた。
( ´ー`)「……まあ」
( ´ー`)「んなこと気にせんで、今は呑んどきゃあいいかな」
モララーはトソンに勝てない口論を申し込んでいた。
それをトソンは軽く去なして、モララーをいじめていた。
それも、確かに〝いつものこと〟なのだ。
その、〝いつものこと〟が、いつまで続くのか。
ネーヨは考え始めて、すぐにやめた。
.
- 209 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 19:19:10 ID:haDOIi2UO
- 第十四話「vs【手のひら還し】Ⅵ」は以上です
連日投下は明日か明後日で一旦止める予定だけど、いろいろ検討中。というのも、あと書きため十話分も残っているので…
- 210 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 19:25:25 ID:haDOIi2UO
- ここまでのもくじ
第十話 「vs【手のひら還し】Ⅱ」 >>3-39
第十一話 「vs【手のひら還し】Ⅲ」 >>44-79
第十二話 「vs【手のひら還し】Ⅳ」 >>82-120
第十三話 「vs【手のひら還し】Ⅴ」 >>125-160
第十四話 「vs【手のひら還し】Ⅵ」 >>165-208
- 211 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 19:25:57 ID:zRCMYLT60
- 拒絶の日常もほのぼのしてるのな、
意外。乙や!
- 212 :同志名無しさん:2012/12/14(金) 23:31:08 ID:haDOIi2UO
- 今更ながら、とんでもない誤植を発見しました
第三話「vs【大団円】」の>>145、これは【無限の被写体】ではなくて【夢幻の被写体】です
まだ正式に登場してないのでそこまで実害は生まれませんが、伏線と勘違いされるかもなので訂正…
- 213 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 09:54:57 ID:poV0/hgUO
-
○登場人物と能力の説明
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
(#゚;;-゚) 【???】
→『英雄』を探している少女。時を何度か巻き戻した。
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
从'ー'从 【手のひら還し《イレギュラー・バウンド》】
→『因果』を『反転』させる《拒絶能力》。
(゚、゚トソン 【???】
→時や力を『操作』した『拒絶』の少女。
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
.
- 214 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 09:55:37 ID:poV0/hgUO
-
○前回までのアクション
/ ,' 3
从'ー'从
→戦闘中
从 ゚∀从
→気絶
( ´ー`)
( ・∀・)
(゚、゚トソン
→バーボンハウスで合流
.
- 215 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 09:57:05 ID:poV0/hgUO
-
第十五話「vs【手のひら還し】Ⅶ」
不幸は、そのとき――その十分ほど前からはじまっていた。
偶然張り込んでいた万引き逮捕のベテランが、ワタナベに目をつけていたのだ。
そして、ガムをポケットに突っ込んだ瞬間を、隠しカメラはしっかりと捉えていた。
また、このワタナベの母も勤めるスーパー。
偶然この日この時間帯、母は勤めていなかったが、雇われている
というだけでもうワタナベ一家の命運は決まっていたようなものなのだ。
万引きを聞いて、母がすぐにやってくる。
ワタナベは目の前が真っ白になって、思考機能が停止していた。
仄かに暗い部屋で、ワタナベと向かいに男が座る。
責任者なのか、持つ威厳は他の店員と比べものにならない。
手から汗がにじみ出てきて、もうなにも考えたくなかった。
母が、慣れた手つきで扉を抜けた。
そしてその男と顔を合わせた途端、男はふぬけた顔をした。
母は、この時間帯シフトが入っていない。
ならばなぜ来たのか――と考えるまでもなく、答えはわかった。
( )『なッ……』
男は言葉を失う。
それもそうだろう。
( )『て――店長っ』
この男は、店長だ。
そして、目の前にいる万引き犯の保護者が、なんと自分の店で雇っている人なのだ。
雇った人の娘が、自分の店で万引きした。
その背景に、何らかのからくりがあるかはわからないが、
少なくとも雇い主にとって、これほど面白くないものはないだろう。
.
- 216 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 09:58:41 ID:poV0/hgUO
-
もしかすると、「あの店は盗みやすい」と、パートを通して得た情報を元に、万引きを働いたのかもしれない。
更に言うと、最初からその目的で彼女がパートを申し出たのかもしれない。
ひょっとすると、パートをして信頼を募らせることで万引きも許させようと考えたのかもしれない。
店長の脳裏では、咄嗟にそんなありもしない被害妄想が浮かんできた。
そして、拳をわなわなと震わせては、ワタナベの母をきッと睨みつけた。
ワタナベも母も萎縮し、母はとにかく頭を下げるだけだった。
( )『〜〜〜ッ!』
( )『〜〜……。』
从 ー 从『……』
母と店長が、話し合っている。
いや、店長が虚構の怒りを母に一方的にぶつけていた。
テレビ番組の収録もある今日に限って、万引きした保護者が雇い主なのだ。
これが俗世間に広まっては、今後の雇用において支障が来されるどころか、
全国チェーンの店の名前に泥を塗るはめにすらなってしまう。
店長の被害妄想と同じことを考える視聴者もいるだろう。
別のチェーン店舗の店長もだ。
ほかのパートで働いている人もだろう。
それほど、ワタナベの仕出かした行動は「偶然」にしては出来過ぎるほど、「ま」が悪かったのだ。
( )『とにかく、クビだッ! クビぃぃッ!!』
( )『はい…申し訳ございません…はい……』
( )『警察には突き出さないでおいてやるがな、覚悟しろよ!』
( )『覚悟……?』
( )『二度と、ここらで就職ができないように手回ししてやる!』
( )『うちのグループを敵に回したことを、後悔するんだな!』
( )『……!』
( )『わかったら帰れ、いいから帰れッッ!!』
.
- 217 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 10:00:22 ID:poV0/hgUO
-
沸騰したやかんのように顔を真っ赤にさせ、店長は怒鳴った。
母は座っているワタナベを立たせ、何度も頭を下げて後ろ歩きで退出していった。
母は、どこか泣いているようにも思える。
いや、それはワタナベが見ようとしなかっただけで、実際は泣いていた。
ワタナベは、とにかく現実逃避したい一心でしかなかった。
聴覚も機能しておらず、辛うじて視覚が動いていただけだった。
店を出るとき、心なしか周囲の視線を集めていた気がした。
ただの自意識過剰なだけか、被害妄想癖がついたのか。
だが、少なくとも良い目で見られているわけではなかった。
それを母はなんとなくでだが知っていた。
自動ドアを抜けた直後の虚無感は、ワタナベが万引きが
成功したと勘違いしていた時に得ていた快感とは真逆のものだった。
ただ空っぽの頭で、転ばないことだけに意識を集中させ惰性で歩いている。
ワタナベの母も、暫くはなにも言わず、ワタナベの手を引くだけだった。
( )『……ねえ』
从 ー 从『……』
从'ー'从『……』
( )『お母さんね、怒ってないから。
そりゃ、お金がなくってつい手を伸ばしちゃうことくらい、あるわよ』
从'ー'从『………』
母は、せめてワタナベにのしかかる罪悪感を拭おうと、そう慰めた。
本来なら怒るべきであるはずなのだが、そうしなかった。
それほど、我が娘が万引きに走るなど、信じられなかったからだろうか。
とにかく、叱ろうという気にはなれなかった。
だが、それは無意味だった。
ワタナベは、罪悪感などこれっぽっちも感じていなかったからだ。
二人は、帰路をとぼとぼと辿る。
その帰り道は、どこか哀愁に満ちていた。
.
- 218 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 10:01:44 ID:poV0/hgUO
-
◆
ワタナベの万引きによって、母が無職になった。
それから一週間経った今も、母がなにかに就くことはできなかった。
年齢的にも、普通にコンビニや工場などで働けそうなものを。
それもそうだろう。
嘗て母が勤めていたスーパーには、ある特徴があった。
裏社会に顔が利いているのだ。
といっても、そのスーパーが、ではない。
そのスーパーの、親会社だ。
その親会社は非常に大きなグループとなっていて、
スーパー以外にも多岐に渡って何らかの商業を営んでいる。
そして繋がる、裏社会との関係。
店長が嘗て言っていた言葉は、これのことだった。
裏社会からのアプローチか、そもそも親会社と繋がっているのか、
近辺でワタナベの母が働けそうなところ全店舗に、釘を刺していたのだ。
裏社会――表社会にもあるかもしれないが――には、ブラックリストがある。
それに似たような形で、ワタナベ及びその母は裏で広がる蜘蛛の巣に広められていた。
母が面接に向かっても、ひどい場合は電話で名乗った段階で、断られる。
母はそれらのことに薄々気づいていたが、決して口にはしなかった。
一番傷ついているのは娘なのだ――と思って。
.
- 219 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 10:03:22 ID:poV0/hgUO
-
解雇された当初のうちは問題なかったが、ただでさえ
母子家庭、解雇された生活が続くと自然と生活困難に陥ってゆく。
普段はハンバーグやオムライスなど食べていたのが、気がつけば
納豆やめざしなど、安値で食べられるものしか食さなくなっていた。
ひどい時には、米と海苔だけで済ませる日も出てきた。
母としては成長期のワタナベにそんな食事はさせたくないのだが、
やはり職先が見つからないのでは、どうしようもなかった。
一方のワタナベは、なにも考えず貪るように箸を進めていた。
そして困難はそれだけにとどまらなかった。
金がなくて困るのは、食費だけではないのだ。
まず、水道代。電気代。ガス代。
生活するのに必要不可欠なそれらを払う金を、果たして残しておけるのか。
また、ワタナベは高校にも入学しなければならない。
現在も部費がかかるし、ボロボロになった服や靴を新調しなければならない。
生活雑貨も買い足していかなければならないのだ。
そう考えると、母子家庭で母が無職になったというのは、とんでもない事態だったと言える。
十日経った。職先は見つからない。
二週間。やはり職先は見つからない。
だいぶ過ぎた。ずっと職先は見つからない。
.
- 220 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 10:04:59 ID:poV0/hgUO
-
母は焦燥に駆られた。
もう金がないのだ。
生活補助を申請しようとしたが、いったい役所は何を
手回しされたのか、条件は揃っているはずなのに受理してくれない。
頼るべき親戚もおらず、貯金なんて既に底をついている。
母も必死に探して、隣の更に隣町まで足を運んだが、やはり無理だった。
この頃は、裏社会の勢力がかなり強かった時世だ。
回されたであろうブラックリストには、かなりの効力があったのだろう。
母はその現実を無視して、ただがむしゃらに抗おうとしていた。
――もし「あの男」なら、この時点で既に「あの能力」を得たのだろうか。
というのも、『現実』を『拒絶』するには充分すぎる条件である。
家は売り払い、アパート生活。
調度品は所々欠け、粗大ゴミ置き場から拝借したものもある。
食事は近所の野草を煮て食べ、藁をかぶって睡眠をとる。
銀行は金を貸してくれない。
当然だ。
家具もぼったくり価格でしか売れなかった。
妥当だ。
やはり職先は見つからない。
不思議でない。
.
- 221 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 10:07:07 ID:poV0/hgUO
-
学校に行く服も洗えなくなってきた。
洗うくらいならその水を飲料水にする。
葉を煮る汁も貴重な飲料水だ。
田圃の水を飲んだこともある。
ダンボールをかじってみたこともあった。
苦いし満腹感も満たされない。
鳩を焼いて食おうかと思ったが、そもそも捕まえられない。
アパートの家賃がたまってきた。
ガスも水道も止められた。
学年費が納められない。
だから学校にも行けない。
風呂に入れない。
だから異臭まみれになってきた。
大家が法に物を言わせて強制的に追い出そうとする。
母は闇金融業者から金を借りることを決意した。
その金融業者でさえ、数軒は貸すことを渋られた。
それほど裏社会は怖かったのだ。
だが、一軒だけ、貸してくれる金融業者がいた。
そこは、裏社会に恐れを抱かない――むしろ反発している、そんな向こう見ずな会社だった。
実際は、のちに現れる『レジスタンス』のような反政府反裏社会組織の傘下だったに過ぎないのだが。
母は喜んで金を借りた。
担保もなし、連帯保証人もいらないと言われたからだ。
裏がある、と疑わず、安請け合いで金を借りた。
その金で滞納していた家賃も払い、生活費を払ってガスや水道を再び使えるようにした。
久々に服を洗い、身体も洗い、美味しい――とは言えないにしても並の食事を得られた。
久々の人間らしい生活に、充足感を覚えることができた一瞬であった。
そう、「一瞬」である。
.
- 222 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 10:08:57 ID:poV0/hgUO
-
◆
『出てこいやァ!!』
『隠れてるのはわかってんだぞ!』
从'ー'从『……』
( )『静かに…ね…』
当然、こうなるであろうことはわかりきっていた。
期日を過ぎた頃から、毎日やってくる取り立ての者。
扉を殴る蹴る、簡単に破けてしまいそうな扉だから、母もどきどきしていた。
払うあてなど、なかった。
おそらく、母にとっては死ぬ前の幸せな一時を味わいたかっただけなのだろう。
だから金を借りる際、書類の文字をちっとも見ることはなかった。
取り立て人が扉や壁を殴るたびに、アパート全体が揺れている気がする。
ほかの住人が迷惑を被るのだが、決して出てきて助けてくれやしない。
むしろ、彼らが引き返してから、ワタナベたちを責めるのだ。
母は、そろそろ帰るだろう、と思った。
いつもはそろそろ帰る頃合いなのだ。
そうなってから、野草摘みに回ろうとするのである。
予想通り、音がしなくなった。
いつものように捨てぜりふを吐いて、階段を下りる音が聞こえる。
母は十分間息を潜め、そして静かに覗き穴から外の様子を確認した。
いない、と確信して、ゆっくり扉を開いた。
.
- 223 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 10:10:38 ID:poV0/hgUO
-
瞬間、何者かに脚を掴まれた。
母は引きずられるように表に放り出された。
思わず柵から転落しそうになる。
また、その何者かの正体も、すぐにわかった。
黒いスーツに、上から白いコートを羽織っている。
厳つい出で立ちに借り上げられた髪、ぎらぎらと
まぶしい指輪の数々やネックレス、腕時計、ブレスレット。
母は途端目から涙が出てきた。
全身が震えに震える。
悲鳴をあげて、なんとか男の手を振り払おうとする。
だが、母の細い手では、到底逃れるなど不可能だったのだ。
男が母の顎を鷲掴みし、顔を寄せる。
男はいやらしい顔をして、母の耳に口を当てた。
母はいますぐ死にたい、と思った。
( )『探しましたよォ〜、なァーんだおうちにいたんじゃないんですかァ〜』
( )『は……なしてッ! やぁッ!!』
( )『それはできないですなァ。もう期日はとォーっくに過ぎてんですから』
一息挟んで、男は続ける。
( )『元金利息あわせておよそ六百万。払ォてもらいましょか』
( )『すみま、すみません、まだお金ができてなく――』
( )『そうですかァ、じゃあ「担保」いただきましょかァ』
( )『!? 担保!?』
.
- 224 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 10:11:55 ID:poV0/hgUO
-
母は驚いた。
話では、「担保はない」と聞いていたのだから。
聞き間違いであることを信じて、復唱した。
すると、男はにんまりと笑った。
( )『担保っちゅーな言い方じゃ悪いなァ』
母を柵に押しつけるようにして、言った。
( )『娘さん、いただきますわ』
( )『ッ!!』
( )『まあうちで働いてもらえば、ほーんの数ヶ月で返せますわなァ。
娘さん、なかにいるんでしょ?』
( )『嘘つきッ! そんな話聞いてない!』
( )『やかましいわアアッ!』
途端、男は怒鳴りつつ母の脚を払って転ばした。
自分もしゃがみ込んで、母の顎をがッと掴む。
母の顔は、この世の恐怖を知り尽くしたような顔だった。
( )『書類にね、書いてましたよォ?
あんたはそれを見ずサインしたんですがねェ』
( )『え……そんな……ッ』
母の顔が、どんどん青ざめていく。
男は見切りをつけたようで、母から手をひいた。
そして、開きっぱなしのドアから、ずかずかと奥に入っていった。
当然靴など脱がないし、家が汚れるなど気に留めてすらいない。
.
- 225 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 10:13:53 ID:poV0/hgUO
-
母は「娘だけは!」と懇願した。
だが、それを聞き入れるはずもない。
男は奥で体育座りしているワタナベを見て、にんまりと笑った。
ワタナベは見て見ぬふり、聞かないふりをしていた。
男が、ワタナベの細い手首をがッと掴みあげる。
( )『じゃ、そーゆーことだから、来てもらうよォ?』
从'ー'从『……』
ワタナベは抵抗しない。
糸の切れたマリオネットのように、男にされるがまま連れて行かされる。
扉から出た時の、ワタナベが見た母の顔は、もう母の顔ではなかった。
ワタナベにしがみつき、「それだけは」と懇願する。
しかし、ワタナベは反応しない。
男も、首を縦に振るつもりなどあるはずもない。
( )『お゙願いじます…娘は…ッ』
( )『めんどくさいなァ、もう!』
男は、母を煩わしく思い、思い切り母の胴を蹴った。
さすがに殺人は許されないので、あくまで母を突き放すようにだが。
母は手をワタナベから離してしまう。
蹴られた箇所をさすり、嗚咽をあげて泣いていた。
男は抵抗しないワタナベを連れて、停めてあった車に乗せる。
抵抗しないので、男としては楽だった。
中で待機していたもう一人が、ワタナベに睡眠薬を嗅がせ、眠らせる。
「楽な仕事だった」とほくそ笑み、車を走らせた。
闇に包まれた、黒い社会、暗い未来へと。
ワタナベは、薄れゆく意識の中、自我を保とうとはしなかった。
ただ、心の中を自我に代わる何かが支配していることを辛うじて認識していただけだった。
ワタナベが、『拒絶』を抱きはじめる第一歩である。
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- 226 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 10:15:28 ID:poV0/hgUO
-
◆
母に金を貸した金融業者は、これが狙いだった。
当然彼らのもとにだって、ブラックリストは届いていたのだ。
裏社会を統括するものから届いたので、あくまで「裏」に籍を置く彼らも従わざるを得ない。
当初は、そのつもりだった。
だが、ある者は考えた。
あえてワタナベの母に金を貸さないか、と。
いつか、彼女は必ず自分たちのところにも来る。
そこで甘い顔をして貸してやれば、いいのではないか、と。
見返りはどうする、とは聞かれなかった。
「担保」がなにか、言わずとも皆わかっていたのだ。
ブラックリストには、当然娘のワタナベも載っている。
それも、可愛らしい中学生、としてだ。
闇金融業者を営む傍らでは、その反政府反裏社会グループのもと風俗店に〝近い〟店を構えていた。
当然非合法。通うのも裏社会の人間である。
扱うのは性機能が発達する「中学生」以上。
表社会からはもちろん、裏社会からも弾圧される商売だった。
というのも、裏社会が勢力を持つ反面、裏社会も裏社会で
統率を守らせようとする動きが見えてきているのだ。
それらを統括する男が、現れたことによる動きだった。
その男の真名は不明だが、存在だけは既に知れ渡っている。
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- 227 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 10:16:41 ID:poV0/hgUO
-
当然彼らは賛成した。
そして、思った通りワタナベの母がやってきた。
裸眼でも見えづらいほどの小さな文字でその旨を記し、サインさせる。
母は内容を見ようともしなかったので、好都合だった。
――そして現在に至る。
風俗店と言っても、ただ小汚い部屋にちいさなベッドが一つあるだけの質素な部屋だ。
そこに、裸の「商品」が常に待機している。
それを買った人が、限られた時間内に限り「商品」を好き勝手にしていい、というシステムだ。
ワタナベが当初その部屋に放り投げられた時、逃げようとはした。
だが、窓は勿論、空調機も、隠し扉もない。
それを知った途端、ああ、もうだめだ、甘受しよう、となった。
非合法のなかの非合法の商売なのに、顧客は次々やってくる。
一日に十数人という人数の男に抱かれる。
当然ワタナベの意見など無視される。
普通に情欲を果たそうとする者ならまだよかった。
ストレス発散に、と暴力をふるい、血を吐かせる者もあった。
ワタナベは、初日にしてもう廃人と貸した。
「客」が来たら「商品」らしくおとなしく股を開く。
「人」としてではなく「物」としての生活に、ワタナベはすぐ慣れてしまった。
食事は、スタイルが維持されるような、しかし味はないもの。
容姿に関する「メンテナンス」は入念にさせられた。
そうでないと、「客」が萎えてしまうからだ。
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- 228 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 10:19:52 ID:poV0/hgUO
-
ワタナベの「人形」としての生活は、長く続いた。
いつの頃からか、上に乗られても痛覚もなにも感じなくなっていた。
いや、全神経が機能しなくなっていた、と言うべきか。
とにかく、ワタナベが機能させていたのは視覚だけだった。
妊娠中絶をさせられた時も。
髪を引っ張られ、性器を喉元にまで押しつけられた時も。
痣ができるまで殴りつけられ、いきなり性器を挿入された時も。
ワタナベは、なにも、感じなかった。
一昨日は八人。
昨日は十人。
今日は十三人。
「ワタナベ」という商品は、徐々に人気を博していった。
抵抗もせず、従順な「商品」だ、ということで。
「商品」として、「客」の性欲をかきたてるような声は発する。
「商品」として、「客」の希望に添った体勢をする。
「商品」として、「客」の要望はなんでも聞く。
ワタナベの自我が、完全に『拒絶』に呑まれそうになった頃だ。
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- 229 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 10:22:31 ID:poV0/hgUO
-
◆
尖兵を放っておいてよかった、と痩身の男は思った。
彼の情報によると、裏社会でも規制しているはずの商売をしている集団がいる、とのことだ。
その情報を聞いて、自分はまだ甘かった、と思った。
彼が――否、
「彼らが」裏社会を統率しようとしたのは、いつの頃からか。
まだ成人していないリーダー、この痩身の男。
リーダーには劣るも圧倒的な知能を持つ童顔の女。
ドクターとして彼らを支えている精悍な面魂の男。
腕っ節と精神の強さが買われた、屈強な男。
表向きには国軍として国に忠実な、裏切りの元帥。
彼らの圧倒的な知能指数、戦闘力、そして《特殊能力》を前に、ひれ伏すアウトローや暴力団は多かった。
たとえ裏社会を統率している親玉の暴力団が総力を挙げて彼らの
リーダーに立ち向かっても、傷ひとつ付けられず皆死んでゆくのだ。
弱肉強食の世界で、彼らに従おうとするのは当然の行為だ。
そんな彼らが出した規制に従うのも、常識の行為だ。
そんな「常識」すら弁えていない集団がいるとなれば、潰す。
それも、やはり当然であり常識だった。
リーダーは、お供を二人引き連れて現場に臨んだ。
屈強な男と、知的な女の、合わせて三人である。
現場に着くと、不穏な空気が彼らを包んだ。
だが、それを涼しい顔で無視した男が、ずかずかと歩いていく。
女はどこか別の場所に向かい、リーダーはぴょんと跳ねて電線の上に飛び乗った。
正面玄関から突入する男は、この屈強な者だけなのだ。
そして、裏社会における「落とし前」をつけさせる時がきた。
ちょうど、ワタナベが七人目の男に犯されていた時である。
.
- 230 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 10:24:17 ID:poV0/hgUO
-
◆
『オラァァァァァッッ!!』
『ちょ――アアアアアアアアアッッ?!』
从'ー'从『ッ』
確かに聞こえた。
下の階――受付――から聞こえる、怒号に近い雄叫びと受付員の悲鳴、そして凄まじい破壊音。
あまりに唐突の音だったため、私は思わず躯をびくつかせてしまった。
上でいやらしい笑みを浮かべていた、脂ぎった男も一瞬動きが止まった。
というのも、音だけではとどまらず、建物全体が揺れたのだ。
それも、地震か、と思わせるほどの。
「人形」である私は、「人形」らしく悲鳴をあげる。
男も、「ひぃ」と情けない声をあげた。
続けて、もう一撃。
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- 231 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 10:25:15 ID:poV0/hgUO
-
『誰にィィ!』
悲鳴が大きくなる。
怒号も耳鳴りがしそうなほどうるさかった。
『断りをォォ!』
受付員を殴ってるのだろうか。
人体が発してはならないような音がする。
そして、もう一撃。
『入れてんだァァ!』
――その声と同時に、建物が傾いたような気がした。
柱が折れたのか、轟音を伴って、建物が崩れゆくように感じる。
情欲を晴らすのに集中していた男は、慌てて裸のまま外に出ようとした。
だが、建物全体が歪んだせいか、扉が開かない。
情けない鳴き声をあげて、命を乞う。
その間も、やはり破壊音は断続的にだが聞こえていた。
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- 232 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 10:26:12 ID:poV0/hgUO
-
( )『助け、たすッ…てぇぇぇぇ!!』
从'ー'从『……』
男はがんがんと扉を殴る。
私は腹部の裏側に感じる異物を、憎らしく思っていた。
「人形」であるはずの私が「自我」を持つなど、どうかしているのか。
すると、前方で音がした。
何者かが扉を突き破ったのだ。
あの男が突き破れるはずがない。
すると誰だ、と思って顔をあげた。
( )
煙が上がっていたせいか、顔は見えない。
だが、黒いスーツに、痩身で長身を彷彿とさせるすらっとした脚。
まさか、この人が。
私は不思議な心地でぼうっと見ていた。
裸の男は、その男にすがりつく。
ああ、惨めだ。
私に対してさんざん威張っていたのがまるで『嘘』のよう。
.
- 233 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 10:27:14 ID:poV0/hgUO
-
すると、痩身の男は言った。
( )『私に刃向かう店を利用した貴様も、同罪だ』
( )『……へ?』
煙がひどく、よく顔が見えない。
久々に視覚を真面目に使おうとしているためか。
だが、どこか。
この声の持つ素性だろうか。
この、相手に『恐怖』を与えるオーラからだろうか。
どこか、この男が、
( )『だから、』
――かっこいいな、って思った。
( <●><●>)『殺す』
( )『バ――ッ!!』
.
- 234 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 10:28:27 ID:poV0/hgUO
-
痩身の男が手刀を見せると、一瞬後には豚の首が胴からはずれていた。
醜い鮮血が吹き出し、質素な部屋に赤い色を塗っていく。
先ほどまで元気に振っていた腰は、既に粉砕されていた。
私は、わけもわからず笑顔を見せていた。
それも、久々に見せるような、晴れやかな。
痩身の男の顔は、まだ見えづらい。
だが、美形であることは、なんとなくだが察した。
それを知ると、なぜか、胸の鼓動がはやくなったのを感じた。
痩身の男は、次に私に一瞥を下した。
私はどきっとして、毛布で身体を覆う。
そんなことも気にせず、男は歩み寄ってきた。
ああ、私も殺されるんだ――
そう思って、この胸のうちのどきどきを大切にしていると、
男は無表情のままで、手をさしのべてきた。
( <●><●>)『立てるか?』
从 ー 从『……?』
なぜ、彼は私を気遣う。
殺すのではないのか。
この人生を、終わらせてくれるのではないのか。
そう怪訝な顔をしていると、彼は言った。
( <●><●>)『辛かったのだろう?』
从 ー 从『……へ?』
続けて、もう一言。
( <●><●>)『泣いているぞ』
.
- 235 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 10:30:07 ID:poV0/hgUO
-
言われて、私は毛布を押さえる手も離して、顔に遣った。
確かに、泣いていた。
从;ー;从
从;ー;从『あ……れ……?』
手で目を覆うと、手が濡れた。
ごしごしと拭っても、溢れてくる。
すると、なぜか嗚咽も漏れてきた。
ばかな、もう私が泣くことなんて――
そう思っても、やはり涙は止まらなかった。
そう私が涙を拭っていると、痩身の男はいつの間にか私の後ろにいた。
直後、背後から轟音が聞こえた。
彼が壁を殴って、穴を開けたのだ。
ぱらぱらと瓦礫が飛び、煙が舞う。
常人とは思えない身体能力に、驚く暇すらなかった。
私は驚いて振り返り、煙が晴れるのを待った。
すると、やはり顔はよく見えないが、
例の男は、穴の向こうに指をさして言った。
( <●><●>)『ここから飛び降りろ。私の仲間が、抱擁でもしてくれるだろう』
从;ー;从『飛び……降りればいいの?』
( <●><●>)『ああ。大丈夫だ、控えているのは「マザー」だからな』
从;ー;从『まざぁ……?』
私が訊くと、入り口――崩壊した扉――の方から、跫音が聞こえてきた。
なんだと思うと、その跫音の主が発する声は、聞き覚えがあるものだった。
この店の、ボスだ。
なにかを、必死に叫んでいる。
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- 236 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 10:31:19 ID:poV0/hgUO
-
( <●><●>)『……言葉が過ぎたな。行け、撃たれても助けはせんぞ』
( )『手前ッ! そこを動くな!』
( <●><●>)『ほう、私に動くな、と?』
( )『手前だけじゃない、貴様もだ、女ァ!』
从;ー;从『ッ』
銃を構えたボスにそう言われ、私はびくっとした。
裸のまま穴の向こうに飛び降りようとしたのが、止まってしまった。
ボスは「そうだ、そうだ」と言って、じわじわと歩み寄ってくる。
( )『よッくもうちの店を……! 覚悟はできてんだろうなァ!?』
( <●><●>)『……』
痩身の男が、動こうとした。
しかし、瞬間。
( )『動くなッ! 動くと女を殺すぞ!』
从 ー 从『……ッ』
そう言われたからか、痩身の男は動くのをやめた。
ボスがまた一歩、近寄ってくる。
そして、彼に要求をひとつ、した。
.
- 237 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 10:33:03 ID:poV0/hgUO
-
( )『下の男を止めろ』
( <●><●>)『ほう?』
( )『ほう、じゃねェ! ぶち殺されてェのか!』
( <●><●>)『私が銃如きで絶命するとでも?』
( )『なめんなよ手前ェ!
こいつァ改造しててな、象三頭でも一気に貫くことができんだぞ!』
男が、銃を誇示する。
確かに、どこか威厳を持ってそうな銃だった。
だが、痩身の方は動じない。
それどころか、落ち着きを保っていた。
( <●><●>)『……そんなもの』
今がチャンスだと思い、一気に穴から飛び降りる。
同時に、背後から、ボスの胴が貫かれるような音と、遅れて声が聞こえた。
飛び降りざまに、顔というか、姿だけは見ることができた。
筋肉隆々で、ジーパンに白いシャツとラフな男だった。
その涼しい表情だけは、強く印象に残った。
貫いた腕を引っ込め、血を払って、男は
( ´ー`)『知らねえよ』
( )『カ――ハ―――ッ?!』
( <●><●>)『助かっ――』
( ´ー`)『よく言―――』
――そこで、彼らのやり取りを聞くことは、できなくなった。
.
- 238 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 10:34:36 ID:poV0/hgUO
-
◆
从>ー<从『きゃッ!』
( )『おー、ナイスだよ君ぃ!』
从>ー<从
从'ー'从『……ふぇ?』
一か八かで飛び降りた。
というより、死んで元々、のつもりで、だ。
飛び降りた過程で、走馬燈が眼前を通り抜けていった。
ああ、死ぬんだな、と思いながら、それをぼうっと眺めていた。
それには、私が今まで踏んできた『因果』、それに相当する『結果』が、映し出されていた。
母に申し訳なく思い、そっと目を閉じた時だ。
爪゚ー゚)『ばぁ!』
栗色の髪で、幼い顔つきの女性が私を抱きかかえてくれた。
重力や加速などを無視したようで、ふわっ、と。
私は状況が呑み込めないまま、ただ唖然としていた。
女性は、私の怪訝な顔を見て、けらけら笑った。
明るい人だな、と思った。
爪゚ー゚)『可哀想だねー……可愛らしい子なのに』
从'ー'从『わ……私がですか?』
爪゚ー゚)『今度から、ピーナッツを向けられたら噛みちぎってやんなさい!』
从'ー'从『ぷっ……ははは!』
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- 239 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 10:35:44 ID:poV0/hgUO
-
私は、思わず吹き出した。
この女性の気の良さと、全てから解放されたという、解放感。
その安堵から、つい笑ってしまったのだろう。
笑うなんて、もう何年も味わってない感情だ。
裸の私を見かねたのか、女性は持っていた服を私に着せてくれた。
白い服に、紫のカーディガン。
下着まで用意してくれていたようだ。
サイズも、ぴったりと私に合っている。
「スタイルいいね」など、他愛もない話をされ、着替えはすぐに終わった。
私は久々の服、久々の新しい服、久々のおしゃれな服に、気分が高揚した。
うきうきした気分でいると、女性は言った。
爪゚ー゚)『はやく、お母さんに逢いにいきなさい』
从'ー'从『……!』
爪゚ー゚)『ここはお姉ちゃんらに任せて。ほら、追っ手が来るよ!』
从'ー'从『わわ……』
ジェスチャーをして、私にそう急かす女性。
私は着慣れない服をなんとか着こなして、脚を進めた。
歩くなんていつぶりかわからないのに、なぜか足取りは軽かった。
すると、私の背後の女性の、更に背後。
銃声が飛ぶ音が、聞こえてきた。
私ははッとして振り返るが
.
- 240 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 10:37:13 ID:poV0/hgUO
-
爪゚ー゚)『効かない効かない』
( )『な……あああああ!?』
無事そうだったので、無視して私は走り出した。
思えば、この頃から私は『異常』だったのかもしれない。
もっと疑うべきだったのに。
どうして、助けてくれたのか。
どうして、あんな規格外の腕力を持っているのか。
どうして、服のサイズを完璧に知っていたのか。
どうして、私の母のことを存じているのか。
だが、その時は、ただ駆けていた。
ずっと愛していた、自分のために身を粉にして
働いてくれた、自分を愛し続けてくれた、母に逢うために。
「どこにいるのだろう」とは思わなかった。
なんとなく、今までと同じ家に住んでるんだろう、と思っていた。
いや、予想は外れなかったんだけど―――
.
- 241 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 10:38:37 ID:poV0/hgUO
-
◆
从;'ー'从『お母さん!!』
扉を半ば突き破るように、抜ける。
私が「人形」になる前まで住んでいた家は、やはり自宅のままだった。
様々な感情を押し殺して、とりあえず母に会うことを優先させた。
職先を見つけて、働いているかもしれない。
買い物に行ってるかもしれない。
野草を摘みにいっているかもしれない。
とりあえず、家の中を探してみた。
从;'ー'从『お母さん!? いないの?』
トイレ、風呂、台所、と探す。
しかしいない。
ならば、やはり居間か。
そう思って、居間に目をやった瞬間。
从'ー'从
( )
――確かに、母は、いた。
周囲に蝿が集っており、名前も知らないような虫がそこらを這っている。
その時はじめて漂う異臭に気がついた。
母は、人間としての形を保っていない。
腐ったのか、皮膚は色が変わって、肉が所々はみ出している。
飛びだした眼球、開きっぱなしの口、ぼさぼさの髪。
しかし、確かにわかる。
彼女は、母だ。
私が愛してやまなかった、母だ。
餓死でもしたのだろうか、動かないが、母だ。
.
- 242 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 10:42:12 ID:poV0/hgUO
-
从;ー;从『ああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアア
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああアアアアアアアアアアアアアアあああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああッっ!!?』
( )
从;Д;从『―――ああああああああああああああああああアアアアアアアアアアあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙
あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙
あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙』
( )
从 Д 从『あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙
あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙
あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙
あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙』
.
- 243 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 10:44:38 ID:poV0/hgUO
-
◆
ワタナベは、家を飛び出した。
行き先も考えず、ただ脚が保つ限り走った。
涙も気にせず、鼻水も拭わないで走った。
奇声を発しながらむちゃくちゃに走った。
とにかく、走った。
从 从『あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙
あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙
あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙
あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙』
そして、その間では。
ワタナベの脳裏で、ある映像が断続的に映っていた。
『私が抵抗せずに店に入った』ことによる『因果』。
『私が万引きをしてしまった』ことによる『因果』。
『私が道を間違えてスーパーに行った』ことによる『因果』。
『私が部活にいかないで帰路に就いた』ことによる『因果』。
『私が勇気なんか振り絞って告白した』ことによる『因果』。
『私があのとき告白を受けてなかった』ことによる『因果』。
『私が女であった』ことによる『因果』。
『私が生まれてきた』ことによる『因果』。
―――全て、『因果応報』。
.
- 244 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 10:46:16 ID:poV0/hgUO
-
『あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙
あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙
あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙
あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙
あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙
あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙
あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙
あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙』
―――『拒絶』、ワタナベ=アダラプター
誕生。
.
- 245 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 10:49:15 ID:poV0/hgUO
- 続けて、ワタナベパート最終話を投下します
- 246 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 10:49:45 ID:poV0/hgUO
-
○登場人物と能力の説明
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
(#゚;;-゚) 【???】
→『英雄』を探している少女。時を何度か巻き戻した。
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
从'ー'从 【手のひら還し《イレギュラー・バウンド》】
→『因果』を『反転』させる《拒絶能力》。
(゚、゚トソン 【???】
→時や力を『操作』した『拒絶』の少女。
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
.
- 247 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 10:50:22 ID:poV0/hgUO
-
○前回までのアクション
/ ,' 3
从'ー'从
→戦闘中
从 ゚∀从
→気絶
( ´ー`)
( ・∀・)
(゚、゚トソン
→バーボンハウスで合流
.
- 248 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 10:51:22 ID:poV0/hgUO
-
第十六話「vs【手のひら還し】Ⅷ」
その爆音を聞いて、内藤は屋敷の陰から飛び出した。
目を凝らして、砂煙が晴れるのを待つ。
そこに見えるワタナベの姿を見て、内藤は仰天した。
( ;゚ω゚)「なァァ?!」
ワタナベが。
あのワタナベが。
『拒絶』のワタナベが。
【手のひら還し】が、とんでもない負荷を負っていたからだ。
.
- 249 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 10:55:36 ID:poV0/hgUO
-
胴体が、「粉々」と称するのが相応しいほどに、形をなくしていた。
肉と呼べる肉は飛び散り、血は嘗てない程の量を流し
大腸や胃、そして何より肺までもが粉砕されそこら中に散乱していた。
下半身は胴体からちぎれ、また爆撃のせいで焦げ、溶け、そしてなくなっている。
また、ワタナベの絶叫に近い悲鳴が、聞こえる。
内藤は、その信じられなさに、半ばワタナベに同情するような心地になっていた。
( ;゚ω゚)「(ばかな! どーしてワタナベはこの『因果』を『反転』させなかったんだお!?)」
苦しそうに、ワタナベはもがき苦しむ。
満身創痍のゼウス、及びアラマキは、そんな彼女をじっと見下ろしていた。
内藤はいてもたってもいられなくなり、彼らのもとへ駆け寄った。
『拒絶』、『恐怖』、『威圧』の入り交じった空気に、内藤が入ることができた。
最初に気づいたアラマキが、内藤に応じた。
苦笑混じりで、内藤に近況を言う。
/ ,' 3「……見てのとうりじゃ」
(;^ω^)「ッ!」
从;Д;从「――カァァッ―――ああああっあッ!! ―――〜〜!!」
ワタナベは、それほど痛みを感じているのか、声にならない声を発していた。
じたばたとのたうち回り、四肢をぐるぐると動かす。
とても、一般人には見せられない光景だった。
.
- 250 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 11:06:57 ID:poV0/hgUO
-
そして、なぜワタナベがこれほどまでに苦しむのか。
その理由は、内藤もアラマキもわかっていた。
恐る恐る、内藤はそれを口にする。
(;^ω^)「……! 『反転』不可の〝即死〟技かお!」
/ ,' 3「ふつーに殺りあったら、これほどの負荷は食らう前に『反転』させるか、
食らってから事実関係を『反転』させる……
それも無理なら、時間を『反転』させて、回復を狙うじゃろぅ」
――そして、儂の拳は全ての『反転』をすり抜けた。
アラマキが、ちいさく、誇らしげに言った。
ワタナベが苦しむのも、いや、苦しみと云う概念が残っているのが普通だったのだ。
『生死の概念の反転』と言っても、『反転』させられたのは『生死の概念』のみであって、
苦痛、負荷を『反転』させて快楽を得られると云うわけではない。
それなのに先ほどまで反撃できなかったのは、
そもそも「苦痛、負荷を与えることができなかった」からだ。
ワタナベ、と云う本命の前に、【手のひら還し】と云う壁が立ちはだかるためである。
また、もうひとつ、彼女が苦しむ理由。
アラマキの放ったそれが、問答無用の〝即死〟技だからである。
いくらゼウスでも、胸部から下の躯を失い、致死量を充分に超える失血を経て
〝呼吸器官の欠乏〟による〝常時窒息状態〟まで与えられてしまえば、間違いなく死ぬだろう。
そうでなくとも、苦痛を感じて、ショック死するに違いない。
人間の身体は、そのようにできているからだ。
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- 251 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 11:17:20 ID:poV0/hgUO
-
むろん、心臓をとばされた時点で、即死は即死なのだ。
だが、苦痛の点が、段違いだった。
心臓の件でも、今回の件でも、共通点がある。
普通ならば即死となる負荷を負ってなお、彼女は〝生きている〟ことだ。
そして、〝生きている〟以上、脳は動く。
脳は痛みを知らされると、それを痛みとして身体に警告を促す。
『拒絶』は、身体能力、精神力ともに常人よりは抜きん出ている。
身体にちいさな穴を空けられる、頭を少し砕かれる。
〝その程度なら〟耐えることができた。
しかし――
/ ,' 3「こやつは、永遠にこの苦痛を背負って〝生きる〟ことになるんじゃ」
/ ,' 3「気絶しても、無駄。目が覚めても、また苦痛が待っておる」
/ ,' 3「〝死〟と云う終着点がない――否、今の惨劇がこやつにとっての〝終着点〟なんじゃの」
そう言って、アラマキは目を閉じた。
ワタナベの惨劇を目の当たりにするのが堪えるのであろうか。
そっと、静かに、閉じた。
内藤も、お気の毒に思う。
鼓膜を突き破りかねない悲鳴が、少しの間耳の中に入ってこなかった。
否、少しの間、脳が思考をしなかったのだ。
――とここで、内藤ははッとした。
どのような傷も、『自身における時間の流れ』を『反転』させれば
〝この負荷を受ける前までの自分に戻れる〟、その事を思い出したからだ。
そこで、〝まだワタナベの意識が保たれているうちに〟内藤はアラマキに問うた。
.
- 252 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 11:19:13 ID:poV0/hgUO
-
(;^ω^)「じーさん、この『負荷』を与えたのは、『いつ』だお!?」
すると、内藤の考えをすぐに察したのか、
アラマキはにやりとして答えた。
/ ,' 3「案ずるな若僧。『反転』による『時間軸の可逆』の対策など、既に講じておるわ」
/ ,' 3「……そう、ゼウスたちが倒れた、直後」
/ ,' 3「きゃつめと儂が対峙する――〝前〟じゃ」
(;^ω^)「!!」
――それは、ワタナベとアラマキが対峙する前。
ワタナベが、倒れた二人を見てぼうっとしていた時だった。
ワタナベは直後、背後のアラマキの存在に気づいて、対峙した。
そして、『解除』からの『入力』で、『反転』のしようがない攻撃を見舞われた――
その頃には既に、この「負荷」は〝できあがっていた〟のだ。
.
- 253 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 11:21:54 ID:poV0/hgUO
-
内藤は、〝やはりと思って〟ワタナベの方へ駆け寄った。
意識が朦朧としているのか、動きが弱くなってきている。
そこで、内藤はワタナベも意識できるよう、大きな声で呼びかけた。
ワタナベの躯を揺すりながら、意識を保たせるようにして。
(;^ω^)「ワタナベッ!」
从;Д;从
ワタナベは、嘗てハインリッヒがショボンに
しとめられそうになった時のような様子だった。
もがき苦しみ、〝死〟を望む。しかし、死にたくはない。
その姿が、あのハインリッヒと重なって見えた。
内藤は、声を大にして続ける。
(;^ω^)「いいかお、『時間軸の可逆』はするな!!」
/ ,' 3「!」
从;Д;从
(;^ω^)「可逆ってのは、辿ってきた道を同じ速度で戻るようなもんだお!
で、その負荷を追ったのはうんと前!
……ワタナベ、あんたは――」
(;^ω^)「『自分の負荷ができる』時間軸まで『可逆』し終える頃には、
苦痛のあまり、気を失ってるお!」
なんとか、身振り手振りで状況をワタナベに知らせようとする。
だが、かなりややこしい状況であったため、うまく伝わらない。
内藤は、言葉を詰まらせた。
(;^ω^)「ええと、つまり……」
そして、思いつく限り簡単な言葉で、言った。
(;^ω^)「『可逆』をしたら、ワタナベは『死ぬ』ッ!!」
从;Д;从「……!」
.
- 254 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 11:26:34 ID:poV0/hgUO
-
実際にそうしようとしていたのか、ワタナベは完全に動揺した。
「なんで」と聞こえるような絶叫で、内藤に訊く。
内藤は訊かれずとも続けるつもりだったので続けた。
(;^ω^)「まず、その穴ができる時間軸に戻る前に、確実に気を失うんだお。
そして、わかっていてほしいのが、【手のひら還し】は思考で発動する能力。
だから、発動するあんた自身が気を失ったら、その可逆を止められない。
……すると、その穴が治った次は……」
( ^ω^)「〝生死の概念を『反転』させた〟時間軸にまで、遡る」
从;Д;从「ッ!」
( ^ω^)「『生死の概念』が『反転』されたのは、心臓に穴を開けられた直後」
( ^ω^)「心臓に穴が開いている状態で、その『反転』がなかった時間軸にまで戻れば、どうなるお?
その『反転』が戻った直後、心臓の穴が消える。でも――」
( ^ω^)「『反転』が消えた瞬間、そのときは心臓がないわけだから、通常の概念に従って、死ぬ。
ワタナベは、意識を失ったまま、最期を迎えるしかなくなるんだお」
从;Д;从「!!」
.
- 255 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 11:28:29 ID:poV0/hgUO
-
从;Д;从「―――じ…゙あ゙ッ!! ド゙ゔ――ッズれ゙っ……゙ッ!!」
言葉として理解できない言葉を、ワタナベは並べた。
意識が朦朧としているなかで、なんとか内藤の言いたいことがわかったのだ。
そもそも、ワタナベが『生死の概念』を『反転』させた理由は、単純なのだ。
なにかの間違いで自分が負荷を負った場合、その負荷を負った時間軸にまで『可逆』をする。
そして、完治する。
すると、相手にとっては、いくら負荷を与えても通用しない、まさに不死身となるのだ。
この『可逆』のサイクルを止める方法は、ない。
ただでさえ三段階の『反転』や概念操作もできるのに、加えて時間軸まで
操るような彼女に負荷を与えること自体、理論上は不可能なのだ。
だから、【手のひら還し】の戦術としては、対策のしようのない、まさに「壊れた」ものだった。
しかし。
そこに、『異常』が現れた。
【則を拒む者】、アラマキ。
彼の、『常識』を逸した攻撃により、ワタナベは負荷を得てしまった。
それだけなら、『可逆』でなんとかなるのだ。
なるのだが――
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- 256 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 11:30:02 ID:poV0/hgUO
-
(;^ω^)「じーさんに『時間を稼がれた』時点で、あんたの敗北は決まってたんだお!」
アラマキは、この『可逆』をすり抜けて且つワタナベを確実に葬る戦術を生み出した。
それのキーとなったのが、『時間を稼ぐ』ことだ。
まず、この『可逆』を打ち破るポイントは、三つある。
ひとつ、ワタナベの【手のひら還し】をすり抜け、負荷を与えること。――条件。
ひとつ、ワタナベが『可逆』の最中で気を失うほどの負荷であること。――程度。
ひとつ、ワタナベが『可逆』の途中で気を失わさせるほどの時間を稼ぐこと。――時間。
この条件、程度、時間を持って、アラマキはそれらを解除――否、『解放』させた。
その『因果』として、ワタナベは〝敗北が決まった〟。
時間を稼がせた時点で、それは決まっていたのだ。
从;Д;从「―――ッッ――っ!」
(;^ω^)「で、このまま『可逆』させないでいると、やはり意識を失うお。
そこを狙われて、ほら、やっぱりワタナベの負けだお」
/ ,' 3「……よさんか」
(;^ω^)「……アラ、マキ」
内藤の言うことに呆れたのか、アラマキは内藤の肩に手をかけた。
とても訝しげな顔をして、内藤を見ている。
.
- 257 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 11:31:25 ID:poV0/hgUO
-
/ ,' 3「なぜにわざわざ敵を救うようなことを言うんじゃ」
(;^ω^)「……」
/ ,' 3「こやつは負けた。戦争において、負けは『死』じゃ」
/ ,' 3「こやつは、戦争における掟を嘗めておった」
/ ,' 3「儂が何十年とかけて経験してきたそれを、軽んじた。
知った気になっておった」
/ ,' 3「軽々しく、死の重さを扱った」
/ ,' 3「戦場における掟、其の弐拾、
〝死を怖るる者、死よりも猶耐え難し〟」
/ ,' 3「こやつは、死を拒んだ。死よりも猶恐ろしいものを知らずに、の」
/ ,' 3「だから、こやつは苦しむ。死よりも猶、耐えられない苦痛を味わうんじゃ」
从;Д;从「 」
/ ,' 3「……さて」
アラマキが、ワタナベに一歩、歩み寄る。
/ ,' 3「【手のひら還し】よ。……死以上の苦痛、味わってもらうぞ」
アラマキが、手を上にあげた。
今のワタナベに、それを『反転』させるほどの余力はない。
ワタナベは、そっと目を瞑った。
.
- 258 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 11:32:47 ID:poV0/hgUO
-
その直後。
(# ,*;゙><●>)「愚か者が」
/;,' 3「ッ! なにをする、ゼウスッ!」
从;Д;从「―――ッ――」
アラマキの挙げ、振り下ろした右腕を、ゼウスが押さえていた。
あと寸分のところで、ワタナベの首が胴体からはずれるところだったのに。
アラマキは、なぜゼウスが彼女を庇うのか、わからなかった。
また、その時のゼウスの声を聞いて
ワタナベは、なぜか昔を思い出した。
.
- 259 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 11:33:24 ID:poV0/hgUO
-
(# ,*;゙><●>)「『作者』さんがなぜ、わざわざ彼女を助けようとするのか。わからないのか」
/;,' 3「……?」
(;^ω^)「………」
(# ,*;゙><●>)「……我々は、まだ勝っていない」
(# ,*;゙><●>)「むしろ、逆転される立場にあるのだ」
(# ,*;゙><●>)「それも、文字通り『手のひら返し』されて、な」
.
- 260 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 11:34:45 ID:poV0/hgUO
-
/;,' 3「な――馬鹿なッ! そんなはずなかろう!」
アラマキは、思わず後退した。
たいそう焦燥したような面で、ゼウスをみる。
内藤は、静かに肯いていた。
内藤が口を開きそうになかったので、ゼウスが付け加えた。
(# ,*;゙><●>)「考えてみろ」
(# ,*;゙><●>)「ハインリッヒの『優先』を『反転』させるのだぞ、彼女は」
(# ,*;゙><●>)「私の自然治癒でさえだ」
/;,' 3「は……はァ?」
それは、アラマキも知っていた。
壁にちいさな穴を開けて、見ていたのだから。
ゼウスは続ける。
(# ,*;゙><●>)「彼女の能力の適応範囲。それは自身に関する『因果』だけではない」
(# ,*;゙><●>)「この世に存在する、すべてのものを『反転』させるのだ」
/;,' 3「どういうこと……じゃ……?」
( ^ω^)「わからないのかお、じーさん」
/ ,' 3「!」
ゼウスの真意を、内藤は察した。
だが、それは口にはしなかった。
前にでて、ゼウスに代わり内藤が言う。
.
- 261 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 11:35:50 ID:poV0/hgUO
-
( ^ω^)「ワタナベがその気になりゃ……」
( ω )「……僕ら全員の『生死の概念』が、『反転』させられるんだお」
/ ,' 3「ッ!」
.
- 262 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 11:37:09 ID:poV0/hgUO
-
(# ,*;゙><●>)「……だから。交渉的発想で、彼女を助けるように出向かれたのだ」
(# ,*;゙><●>)「……といっても、もう気を失ったみたいだが」
/ ,' 3「――ッ」
アラマキは、はッとしてワタナベの方をみる。
ワタナベは動くことはなく、ただ静かに横たわっていた。
从 ー 从
――ワタナベは、先ほどまでの苦悶とは違い、
安らかな顔をして、目を瞑っていた。
流した涙の跡が残り、躯の傷を見なければ、天使が安らいでいるような光景に見える。
まるで、死ぬ直前に大切な人に逢って、
安心して冥界へ旅立ったかのように。
まだ、彼女は死んでいない。
だが、苦痛は感じていなさそうだった。
/ ,' 3「…。」
(# ,*;゙><●>)「……」
/ ,' 3「……どうした、ゼウスよ」
ゼウスはそのワタナベの姿を少し見つめたのち、
彼女を担いで、屋敷の方へと戻っていった。
予想外の行動に、アラマキはそう問いかけた。
ゼウスは黙って、屋敷のなかに入る。
静かに、彼女を運んでいった。
アラマキと内藤は、それを見送ってから、言葉を交わした。
.
- 263 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 11:38:53 ID:poV0/hgUO
-
/ ,' 3「……わからんの」
( ^ω^)「たぶん……ゼウスは、彼女を治癒させるつもりだお」
/ ,' 3「……なんじゃと?
『拒絶』じゃよ?
なんの意味がある」
( ^ω^)「意味?
当然あるお」
( ^ω^)「なあ、ハインリッヒ?」
/ ,' 3「!」
内藤がおもむろにそう声をかけると、
遠くの方で倒れたままだった彼女が、のそっと起きあがった。
アラマキは内藤が急にそう声をかけたこと、また彼女が動いたことの両方に驚いた。
嘗ての『英雄』は、地上で胡座をかいて、頭をぽりぽりと掻いた。
どこか、寂しさが感じられるというか、覇気が感じられなかった。
从 -∀从「……気づいてたのかよ」
( ^ω^)「ハインリッヒは、作中では十五分前後で目を覚ましてたからな。
といっても、相手は三下の『能力者』だけど」
从 ゚∀从「……はは」
/ ,' 3「……して、意味とはなんじゃ」
从 ゚∀从「わかんねぇのかよクソジジィ。『反転』だ」
/ ,' 3「……てのひらがえしぃ?」
.
- 264 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 11:40:19 ID:poV0/hgUO
-
言われて、アラマキははッと気づいた。
それを、ハインリッヒが説明する。
从 ゚∀从「私の『優先』といい、ゼウスの自然治癒能力といい。
一度『反転』されたもんを、元に戻させねぇとよ」
/ ,' 3「ああ……そうか」
从 ゚∀从「それにしても、ゼウスはなんでまだ動けたんだ?」
/ ,' 3「それは儂も気になったの」
二人は、内藤の方をみる。
本人のいない今、答えられるのは内藤だけだからだ。
内藤は困った顔をして、しかし正確に彼らの欲する答えを言った。
( ^ω^)「……簡単だお」
( ^ω^)「自然治癒が『反転』させられようと、
元の体力が尋常じゃないゼウスは、
向こう一週間以上はぴんぴん動けるんだお」
.
- 265 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 11:42:20 ID:poV0/hgUO
-
从;゚∀从「っ!」
/;,' 3「そ……それほどのッ!」
ゼウス
( ^ω^)「……それが、『全能』。
今後、あいつを敵に回すなら、そこを考慮しておけお」
内藤はそう吐き捨てて、彼も屋敷の方へと向かった。
ゼウスは今頃救護室だろうか。
メイドを呼んで、ゼウスの部屋にでも案内してもらえればいい。
そう思い、内藤は歩いていった。
ハインリッヒとアラマキも、遅れながらも内藤についていった。
ゼウスに対する『恐怖』が深まったところで、今は同盟関係にあるのだ。
そんなことを憂慮するくらいなら、新たな『拒絶』――モララーのような――を
憂慮して対策を練る方が、ずっといい。
各々が別の考えを抱いたまま、屋敷へと戻った。
.
- 266 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 11:44:33 ID:poV0/hgUO
-
( ^ω^)「……」
( ^ω^)「(ゼウスが彼女を治癒するわけ……本当にそれだけかお?)」
( ^ω^)「……」
( ^ω^)「ま、別になんでもいいお」
/ ,' 3「? なんか言ったか?」
( ^ω^)「なんでもないお。
たのもー! メイドいるかお?」
爪゚ー゚)「お呼びになりましたか?」
(;^ω^)「うわ、いたッ!」
从 ゚∀从「ゼウスの部屋に案内してくれ」
爪゚ー゚)「わかりました」
メイドに連れられ、ハインリッヒが先頭に、続いて、アラマキ。
虚を衝かれた内藤は、少し転びそうになりながらも、彼らのあとを追いかけていった。
こうして、互いに手のひらを返しまくった戦闘は、幕を閉じた。
.
- 267 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 11:45:42 ID:poV0/hgUO
-
◆
『拒絶』は、初めは《拒絶能力》なんてものは持っていなかった。
というのも、ただ拒絶の精神を持っただけで、実質は『拒絶』に成れるのだ。
では、どうして《拒絶能力》が生まれるのか。
その積もった拒絶の精神が、実体を成すからである。
今まで混沌とした拒絶の精神。
どこからが拒絶でどこからがそうでないのか。
それが曖昧だったのが、「あること」を経由して
徐々に形成され、スキルとなるわけだ。
むろん、例外はある。
拒絶の精神が類を見ないほどの大きさに膨れ上がり、
自分で粘土をこねるかのようにして、出来上がるのだ。
だが、ほとんどの『拒絶』は皆、〝トリガー〟を要するのである。
その〝トリガー〟がなければ、『拒絶』は生まれなかったのだ。
.
- 268 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 11:46:40 ID:poV0/hgUO
-
(´・ω・`)「……ん?」
ショボン=ルートリッヒ。
苦しい『現実』を拒絶した男。
まだ、当時は【ご都合主義】は持っていない。
ただ、漠然とした拒絶のオーラが漂うばかりである。
だが、近づくだけで吐き気をも催しそうなオーラを持っている。
それは、今と何ら違いはない。
一人の白衣をまとった男が、歩み寄る。
ショボンは、自分に自発的に近寄ってくる人などいたのか、と驚いたような顔をして彼を見つめる。
白衣の男は、ショボンのオーラに屈する様子を見せない。
ショボンはますます彼に興味を持った。
白衣の男はそんな視線など意に介さず、手帳を見ていた。
そしてぼそぼそと、何かを呟いている。
ショボンは、ニタニタと笑みを浮かべて言葉を発した。
(´・ω・`)「どうしたんだいきみ」
( )「……」
(´・ω・`)「僕になにか、用でも?」
両手を横に、まるで男を抱擁しようとするかのように広げる。
一般人なら、たとえ何かに夢中でショボンに気づかなかったとしても、
そこですぐに彼の『拒絶』に気がついて踵を返し、逃げるのだ。
.
- 269 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 11:47:37 ID:poV0/hgUO
-
だが、男の行動は〝逆〟だった。
むしろ、負けないくらいニタニタと笑みを浮かべ、ショボンの方を見た。
ある意味における狂気をも感じさせる、笑みだった。
( )「……いい、いいぞ」
(´・ω・`)「………は?」
男は、そう言った。
ショボンは姿勢を崩して、虚を衝かれたような顔をした。
きょとんとして、男の顔を見つめる。
( )「拒絶のオーラを、痛いほど感じるぜ」
(´・ω・`)「……なんなんだきみは」
ショボンは途端に警戒心を見せた。
【ご都合主義】がないという意味では、
拳で戦わざるを得ない一般人に過ぎないのだが。
男はそんな脅しも効かない。
手帳を片手でぱたんと閉じ、ズボンのポケットに入れる。
ショボンと、じっとにらみ合っている。
さすがのショボンも、気味が悪く思えてきた。
.
- 270 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 11:48:42 ID:poV0/hgUO
-
( )「今の『拒絶』が苦しいか?」
(´・ω・`)「……は?」
( )「『拒絶』として、世界に受け入れさせたいか?
『拒絶』を、お前自身を」
(´・ω・`)「…ッ」
男は突然そんなことを語り出した。
ショボンは当初、何を言っているのだと思った。
が、言っている内容はまさに自分が求めているものだった。
『拒絶』を、受け入れさせる。
この自分を、受け入れさせる。
まさしく、今まで自分が求めてきたことではないか。
ショボンはいつの間にか、その話に聞き入っていた。
(´・ω・`)「ど、どういうことだ」
( )「簡単だ」
( )「〝『パンドラの箱』を開ければいい〟んだ」
男は、そう言うと掌を前に突き出した。
そして、目を細め、口角を吊り上げる。
その表情の変化には気づかず、ショボンは一歩前に踏み出そうとした。
(´・ω・`)「? 詳しく聞かせ――」
.
- 271 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 11:50:00 ID:poV0/hgUO
-
だが。
(´・ω・`)「―――?」
前に踏み出そうとすると、〝見えない壁のようなもの〟にぶつかった。
光の屈折もない。
そこに壁があるかなど、視認できない。
しかし、確かに〝壁はあった〟。
ショボンは状況が理解できず、後退しようと思った。
だが、それも無理だった。
〝後ろにも、その壁はあった〟のだから。
(;´・ω・`)「な、なんだこれは!」
思わずショボンは叫ぶ。
慌てて右手を伸ばしたが、それもやはり〝壁〟によって遮られた。
こつん、という音が聞こえてもよさそうなのだが、音はしない。
左手はどうか。
やはりだめだ、〝壁〟がある。
上下左右がだめなら、上だ。
そう思って上に手を伸ばしたが、上にも壁――天井はあった。
否、天井というよりは〝蓋〟と呼んだほうがいい。
何度もがつがつと殴ったが、何も変化はない。
というのも、本来なら物理法則に従って痛むはずの拳に、何も変化が訪れないのだ。
はッとして、足下を見た。
地面は土であって、コンクリートではない。
時間はかかるだろうが、穴を掘ってはどうだ。
そう思って、爪先と踵を使って穴を掘ろうとした。
しかし、そんな実感はしなかった。
つるつるの壁――床、それも〝摩擦のしない〟それを、靴で滑らせている感じしかしなかった。
文字通り、六面全てに壁を張られたのだ。
ショボンはわけがわからなくなった。
どんどん、と音はしないが壁を殴って、訴えかけた。
.
- 272 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 11:51:02 ID:poV0/hgUO
-
(;´゚ω゚`)「おい、なんだこれは! 早く出せ、出してくれ!」
その男は、ショボンの向かいで立って、ショボンを観察している。
どうやら、ショボンは脱出口を探そうと足掻いていたみたいだ。
それは六面の〝壁〟でなくて〝箱〟なんだけどなぁ、と男は思っていた。
( )「んー?」
〝ショボンが何か言っている気がした〟ので、首を傾げた。
だが〝声は聞こえてこない〟。
ただ、口を動かす姿が見えるだけだ。
ショボンは「ここから出せ」と、何度も叫んでいる。
しかし、今その声が聞けるのは、世界でも〝ショボンだけ〟なのだ。
男は首を傾げるしかなかった。
( )「何か言ってんのか?」
( )「――なーんて、な。誰も聞こえちゃしてねーよ」
(;´゚ω゚`)「 」
( )「なんかサイレント映画でも見てるみたいだぜ」
(;´゚ω゚`)「 」
( )「これはこれで傑作だけどな」
.
- 273 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 11:52:16 ID:poV0/hgUO
-
そう言って、男は白衣を翻す。
風に白衣の裾を預け、ポケットに手を突っ込んで歩き始めた。
やや俯き気味なのは、何かを考察してのことか。
背後にいるショボンは、置き去りにされる。
俯いたまま、誰に言うまでもない言葉を、呟く。
( )「……もし『拒絶』の資格があるなら。
『パンドラの箱』を開ける時まで、死なないはずだぜ」
( )「それまでの間、せいぜい拒絶の精神を磨いて、いつかは俺を驚かしてくれ」
( )「〝隔離された空間〟だから、誰からの干渉も受けないしな」
( )「迫り来る餓死、窒息死、孤独死、寿命死。
食欲、名声欲、性欲、財欲、支配欲の渇水。
自分のこの不幸な現実、因果、真実、運命。
それら全てを、『拒絶』しろ」
( )「そして、スキル――」
( )「《拒絶能力》を手にし、且つ気絶した暁には」
( )「この俺の計画のために、犠牲になってくれ」
( )「……楽しみだなあ!」
.
- 274 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 11:53:34 ID:poV0/hgUO
-
男は、そこで顔をあげた。
ニタニタと貼り付いた笑顔が、やはり狂っているとしか思えなかった。
世界にいる『拒絶』に向けて発する言葉なのか、その声は大きかった。
_
( ゚∀゚)「俺の計画は……誰にも止めさせねえぜ」
ジョルジュ=パンドラ。
このマッド・サイエンティストの計画は、
ショボンの「拒絶化」を皮切りに、始まってしまったのだ。
.
- 275 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 11:59:01 ID:poV0/hgUO
- 以上で第十六話「vs【手のひら還し】Ⅷ」、以てワタナベパート及び連日投下は終了です
そして、次回より拒絶編メインパートとなります。つまりここからが本番です
わかる人には【手のひら還し】の能力描写から矛盾を見つけられると思いますが、【手のひら還し】という能力をつくった時点で
そうなることは半ば必至と自分で考えていたので、目を瞑っていただけると幸いです…
その他誤字等ございましたら報告お願いします
次回投下は、一週間くらいは開けようかなと
連日投下にお付き合いいただき、ありがとうございました!
- 276 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 12:02:20 ID:poV0/hgUO
- ここまでのもくじ
第十話 「vs【手のひら還し】Ⅱ」 >>3-39
第十一話 「vs【手のひら還し】Ⅲ」 >>44-79
第十二話 「vs【手のひら還し】Ⅳ」 >>82-120
第十三話 「vs【手のひら還し】Ⅴ」 >>125-160
第十四話 「vs【手のひら還し】Ⅵ」 >>165-208
第十五話 「vs【手のひら還し】Ⅶ」 >>213-244
第十六話 「vs【手のひら還し】Ⅷ」 >>246-274
- 277 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 12:09:58 ID:MgIgqoqA0
- ワタナベは元に戻してくれるんやろか…乙。
- 278 :同志名無しさん:2012/12/15(土) 16:56:47 ID:TJsBpSFE0
- 小説の主人公は出てくるのだろうか
- 279 :同志名無しさん:2012/12/16(日) 20:53:59 ID:A1hwOms60
- こいつらにヒートが……
- 280 :同志名無しさん:2012/12/18(火) 19:08:02 ID:N7/GAtIY0
- おつー
- 281 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 13:55:44 ID:b3SRmyjoO
-
○登場人物と能力の説明
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
(゚、゚トソン 【???】
→時や力を『操作』した『拒絶』の少女。
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
_
( ゚∀゚) 【???】
→『拒絶』に関わりを持つ科学者。
.
- 282 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 13:57:03 ID:b3SRmyjoO
-
○前回までのアクション
/ ,' 3
( <●><●>)
从'ー'从
→戦闘終了
从 ゚∀从
( ^ω^)
→ワタナベ戦の外野
( ´ー`)
( ・∀・)
(゚、゚トソン
→バーボンハウスで合流
.
- 283 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:00:11 ID:b3SRmyjoO
-
第十七話「vs【常識破り】Ⅰ」
午前中から営んでいるバーは、そう多くない。
やはり、客層のほぼ九割以上が午前中に訪れるのをよしとしていないのが、その理由に挙がる。
また、昼間から飲酒するのを快く思わない風潮もあるのだ。
昼間にこなすべき仕事と云う名の社会貢献をこなし、それで溜まった鬱憤を
晴らすべく午後に酒を求めにやってくる客の方が圧倒的に多い。
あとは眠るだけ。
そう云った事実が気兼ねなさと云うものを与える。
そんな時に呑む酒は、昼間の労働の疲れも相俟って一層うまくなるものだ。
しかし、ネーヨのように、呑みたい時に呑むという者も少なくはない。
酒とはあまり気分でない時に呑むものではない。
呑みたい、と思ったときに呑んではじめて、呑んだと云う充足感に満たされるものだ。
その衝動がたまたま昼間に訪れた。
ただ、それだけのことに過ぎなかった。
ネーヨが酒を呷って、喉を鳴らす。
食道を伝い、胃のなかにぼしゃんと酒が落ちる実感がする。
酒豪である故アルコールが回るのはまだまだ先だが、前述の通り
酒を呑んだと云う充足感だけで気分的に酔うことも可能であった。
バーボンハウス店内が静かでも、雰囲気を醸し出す照明にブルーのバックライト、幾何学模様をしたインテリア、そして物静かなバーテン。
そのバーテンが女性と云うのがしっくりこないが、淑やかで黙々とグラスを磨く姿はなかなか様になる。
目を瞑り、後頭部で縛った髪を揺らさず、さながら瞑想のようにグラスを磨く。
見る人が見れば、それだけで充分酒の肴になり得た。
.
- 284 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:01:42 ID:b3SRmyjoO
-
ネーヨの隣には、空席を一つ挟んでモララーが座っている。
いくら敵ではないと言っても、有する拒絶の精神が強すぎるため、モララーだろうと至近距離には居たくないのだ。
無礼などそっちのけで、本能を優先させた上で空席を設けた。
ネーヨがその程度の事を気にするような人でないことも知っている。
知っているからこそ、自我を優先させた。
おかげで心地が拒絶に浸食されることはない。
あとはうまい酒と何らかの上質な肴を以ていれば良いのだ。
だが、モララーはとてもそんな気分にはなれなかった。
手に握られることもない、白い液体が入ったグラスを見れば明らかだ。
それが汗を掻いているのを見れば、尚更である。
バーに酒を呑みに来て、牛乳を出されて満足そうな顔を浮かべる人がどこにいるだろうか。
まして、それに水が注がれていれば尚のことである。
学業を研鑽させてこなかった者ならば暴動に出て、
知識をふんだんに得ている者ならば告訴さえし得るだろう。
それほど、モララーにとってはその事実が悲しかった。
しかし今となってはもう騒ぎ立てるつもりはない。
罵声、暴言、中傷、悪口を闇雲に並べていっても、元凶であるトソンの前ではただの戯言、妄言のようになってしまう。
それをつい先ほど身をもって知ったモララーは、静かに、意味深長な視線を牛乳に与えるだけだったのだ。
一口飲んでみたが、一言で、且つ明確な言葉で表現するなら、「薄い」。
水で割って飲むものでないことは百も承知である。
まして、こんなところで飲むものでないことも自明の理だ。
その『常識』と牛乳が、モララーにこの上ない敗北感と虚無感を与えているのだろう。
トソンは、ただカウンターの向こうでほくそ笑んでいただけだった。
.
- 285 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:04:02 ID:b3SRmyjoO
-
モララーは新しい酒を頼もうにも目の前に牛乳が残っている限り、その注文ははねのけられるだろうと考えた。
実際、牛乳を無視して注文しても、同じようにトソンに無視されるだけだったのだから。
そのため、汗で濡れたグラスを掴み、意を決して一気に呷った。
ただでさえ水割りで薄い牛乳が、溶けた氷によって更に薄められている。
モララーは軽い嘔吐感と惨めさを得た。
ネーヨがニタニタと笑みながら「お」と冷やかすように声を漏らすと
モララーはグラスを、音を大げさに立ててカウンターに叩きつけた。
水溜まりに打ち付けたため、水飛沫がちいさく踊る。
それが跳ねてモララーの右手についたが、モララーは拭おうとはしない。
トソンに目で次なる注文を訴えてから、隣で嫌な笑みを浮かべているネーヨの方を向いた。
( ´ー`)「牛乳好きなんだな。今度奢ってやるよ」
( ・∀・)「そーじゃなくて」
無表情だったトソンが、つい噴き出した。
手を滑らせグラスを落としそうになったのを、咄嗟にスキルを使って阻止する。
今のスキルの適用で〝自分だけ周りより五秒長い時を過ごした〟。
それにモララーもネーヨも気づかない。
もはや気に留める光景ですらないので、気づくこともできないのだ。
( ・∀・)「堂々と宣戦布告してから一夜……あいつらはどーなったと思う?」
( ´ー`)「ん?」
回転椅子を廻してネーヨと向かい合う。
ネーヨも頬杖をついてモララーの話を聞く体勢に入った。
トソンも耳がモララーの方に向いている。
.
- 286 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:05:35 ID:b3SRmyjoO
-
( ・∀・)「あいつら。ショボンとワタナベだよ」
( ´ー`)「そういや帰ってきてねえな」
( ・∀・)「死ぬ筈はないにしても、もう何時間も経ってるぜ。さすがに合流はしてるだろうしな」
(゚、゚トソン「あなたが憂慮することでもないでしょう。はい、抹茶のハイボール」
( ・∀・)
モララーが気になっていたことを述べると、それにトソンが口を挟んだ。
客同士の会話に首を突っ込んだのは、自分もその会話をしている一員であると云う事実があるためと、
単純にモララーにグラスを渡すためである。
緑色をした液体が、どこか炭酸を帯びたのか泡を浮かべているように見える。
少なくとも、モララーの眼にはそうはっきりと映っていた。
目を閉じても焼き付き、開いてもそう映り、『俺の目は正常だ』と、
『嘘』――にならない嘘を吐いたが、光景は変わらなかった。
モララーは先ほどの牛乳の水割りの悪夢をもう忘れることができた。
口内に残っていたそれの風味もまるで『嘘』のように消え、
代わりに新たに植えられるであろう様々なマイナスの心地にモララーはげんなりとした。
ハイボールとは、酒を炭酸飲料水で割った、若者に人気の新しい酒である。
口当たりの良さと、いくらでも呑めるような爽やかさが売りだそうだ。
少なくとも、モララーの目の前のそれに、爽やかさなど感じられないが。
.
- 287 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:07:02 ID:b3SRmyjoO
-
(゚、゚トソン「大方、ショボンさんが手を抜いているところにワタナベさんが合流した。その逆も然り」
(゚、゚トソン「で、意地の悪い両者が揃ったものだから、たぶん相手をからかいにからかい抜いている最中だと思いますね」
( ´ー`)「そんなひでえ奴らだっけか、あの二人」
( ・∀・)「ぜってー今のおまえよりは素直だ」
(゚、゚トソン「? ナンノコトデショウ?」
( ・∀・)「……」
モララーはそのグラスがまた汗を掻く前にと、すぐに手に取った。
それでわかったのだが、このグラスはつい十秒前までは牛乳が入っていたグラスだ。
抹茶の苦みに炭酸飲料水、そして薄い牛乳がうっすらと混じった何か。
モララーはさすがに飲み倦ねていた。
ネーヨはその姿に一瞥を与えることはなかった。
モララーがその飲み物に悪戦苦闘する間、トソンの方を向くことにしたようだ。
ネーヨとしても、その飲み物をあまり好く思わなかったのだろうか。
それとも、男が悶え苦しむ様など、見たくないのだろうか。
とにかく、モララーの方は見ないことに決めた。
.
- 288 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:08:27 ID:b3SRmyjoO
-
( ´ー`)「もしだがよ、あの二人が負けてたらどうする?」
(゚、゚トソン「【ご都合主義】と【手のひら還し】が、ですか? まさか」
( ´ー`)「まさかたー言うが、実際二人に勝たれたら、宣戦布告はもう終いだぞ。それでもいいのかよ」
(゚、゚トソン「あの二人が負けるような人に、私が通じるとも思えないですし」
トソンは、自分を皮肉るように言った。
ある程度の自分の地位は自覚しているのだ。
自分がショボンやワタナベと張り合って、倒せると云う自信など全く沸いてこない。
( ´ー`)「それを言っちゃあおしまいよ」
( ・∀・)「トソンはともかく、俺や旦那ならわからないぜ。ってか、旦那が負けるはずもない」
(゚、゚トソン「どうでした? 抹茶のハイボール」
( ・∀・)「ゲロまずかった」
モララーは空の――内側に緑色が霞んで見える――グラスをトソンに押し返した。
「次はまともなもので」と釘を刺してから、無言で次なる注文をした。
モララーの口臭に些か違和感を感じる。
それをトソンが指摘すると、モララーは筋肉を強張らせた。
.
- 289 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:09:43 ID:b3SRmyjoO
-
(゚、゚トソン「……ネーヨさんがねえ……」
トソンはシェイカーに何かを数種類注いで、蓋をしてはおもむろに振り始めた。
その姿を見ると、まさにバーのカウンターの向こうに立つ資格があると言える。
時々パフォーマンスも見せながら、トソンはそう呟いた。
ネーヨはいつも通りの表情を保つだけだった。
( ´ー`)「俺の戦いに勝つも負けるもねえよ」
( ・∀・)「どーだか」
(゚、゚トソン「……何人か倒してきたのですか?」
トソンがそう聞く頃に、シェイカーの音は止んだ。
グラスにパフォーマンスをしながら注ぐ。
する必要のないパフォーマンスを無意識のうちにしてしまうのは、もはやバーテンとしての悲しい性だろう。
きれいな色のカクテルを受け取ったモララーは、ひとまず匂いを嗅いだ。
そして『俺は腹を壊さない』と情けない『嘘』を吐き、四方八方から注がれた液体を眺める。
モララーがグラスを手に取り喉に液体を通したのは、それから三十秒ほど経ってからのことだ。
その間、ネーヨはトソンの素朴な疑問に答えていた。
やはり、何も――拒絶以外――感じさせない表情である。
.
- 290 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:12:33 ID:b3SRmyjoO
-
( ´ー`)「なんだっけな。あれから一匹はヤったけどよ」
(゚、゚トソン「ぴき…」
トソンは苦笑を浮かべる。
ネーヨは同じ顔で続けた。
( ´ー`)「ああ、そうだ。【逆転適応】とか云う、な」
( ´ー`)「全ての力から『逆転』る、とか言ってたわ。完全にトソンの天敵だな」
(゚、゚トソン「ム……」
そう言われ、トソンはムスッとした。
自分の力が他の『拒絶』に及ばないことは、自覚している。
また、その理由もきちんと把握している。
だが、いざその自分の未熟さを指摘されると、やはり面白くないと思ってしまう。
ネーヨは気まずく感じたのかはたまたただの気分か、トソンにも似たような質問をふっかけた。
モララーはやっとグラスに口をつけた。
( ´ー`)「そういうおめえはどうなんだ」
(゚、゚トソン「?」
( ´ー`)「何人かヤったのか?」
(゚、゚トソン「誤解を招くような言い方はよしてください」
( ・∀・)「うめえ」
(゚、゚トソン「……まあ、一人。ゲスをぺしゃんこにしましたね」
( ´ー`)「ぺしゃんこ……パスカルを『操作』したな?」
( ・∀・)「パイナポー!」
トソンはテレパシーのようなもので肯いた。
無言の肯定を受け取ったネーヨはそうか、と少し笑った。
トソンのような淑やかな女性が、あろうことかプレス機で相手を殺したからである。
.
- 291 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:14:46 ID:b3SRmyjoO
-
( ´ー`)「やっぱトソンも満たされてえ気持ちはあんだな」
(゚、゚トソン「だから語弊が生じますって」
( ・∀・)「レモーン!」
(゚、゚トソン「モララー」
( ・∀・)「ごめん」
トソンがモララーを制すると、ネーヨは漸くモララーの方を見た。
その胸中では、こいつはなにをやっていたんだ、と呆れるような言葉を呟いていたことだろう。
モララーが陽気なのは知っているが、陽気と幼げなのは紙一重だ。
モララーが騒いでいたのを、近所の少年が呆けていたのと同じものであるかのようにネーヨは感じ取っていた。
モララーは名も知らないカクテルを口に含んだ。
何が入っているのかもわからないが、その色と味、酸味から、柑橘系の果物が入っているのだろうと思った。
内容を知ろうと思えば訊けたのだが、別に謎に包まれたままの方が趣深い。
また、なかにいかがわしいものを入れられているかもしれない、とも懸念していた。
モララーとしてはこちらの方が大きかっただろうか。
モララーの、中身が半分ほど残っているグラスが置かれたのを見て、ネーヨは口を開いた。
( ´ー`)「おめえはどうだったよ」
( ・∀・)「んん?」
( ´ー`)「誰かヤったか?」
( ・∀・)「俺?」
ネーヨの質問に、淡泊な言葉でしか返さない。
あまり興味のない話題なのだろうか。
若しくは、勿体ぶって話をより大きくしたいのだろうか。
どちらであろうと好ましく思えなかったトソンが、先に口を開いた。
.
- 292 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:17:50 ID:b3SRmyjoO
-
(゚、゚トソン「一人、去なしたようです」
( ´ー`)「へえ」
( ・∀・)「あらま意外!……みたいな顔すんなよ」
指摘すると、ネーヨは笑った。
まさに図星で、ワタナベのように心を読んだのか、と。
( ´ー`)「だってよ、ある意味じゃワタナベよりも好戦的じゃねえか、おめえは。
だから、逆に少ねえことが意外だったんだよ」
( ・∀・)「そう?」
モララーは、宣戦布告役を自ら買って出たのを見ればわかるように、実に好戦的だ。
有するスキルも戦闘においては強力だし、モララー自身戦闘力は高い。
素手でもパワーアップしたハインリッヒ相手になら勝つ自信がある。
ゼウスには劣るが、それもスキルを使えば楽だ、と。
そんなモララーが、『能力者』を狩ることもなく
こんなところで油を売っているのがネーヨにとっては意外だったのだ。
モララーにとってはそうでもなかった。
といっても、ただの気まぐれにすぎなかったのだが。
(゚、゚トソン「我先にと飛び出しそうな感じでしたのに」
( ・∀・)「そう?」
トソンはちいさく肯く。
ネーヨも合わせて「ああ」と声を漏らした。
モララーは少し照れ臭くなり、困ったような顔をして頭を掻いた。
.
- 293 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:18:51 ID:b3SRmyjoO
-
ここまでならただの和やかな――内容はさて置いて――談話にすぎなかった。
だが、何を面白がったのか、トソンは
(゚、゚トソン「あ。もしかして」
( ・∀・)「んん?」
わざとらしくそれだけ言って、モララーの興味をあおる。
注意を引きつけて、モララーがこちらの話を聞こうとしたのを確認して、左の口角を吊り上げる。
(゚、゚トソン「実は『能力者』が怖いんですか?」
( ・∀・)
そして、露骨にモララーを挑発した。
( ・∀・)
( ・∀・)「ハア?」
( ・∀・)「いやいや、ちょ」
トソンに弱いモララーは、首を俯けて横に振り、右手を前に突き出して同じく左右に振る。
いい反論するための言葉が浮かばないのか、少しそこで言い倦ねていた。
少しして、呆れたような顔をしてトソンを見上げる。
トソンは意地の悪い嫌な笑みを浮かべ、モララーを見下すように見ていた。
.
- 294 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:20:29 ID:b3SRmyjoO
-
(゚、゚トソン「図星なのね」
( ・∀・)「おいおい、そりゃーないぜ」
( ・∀・)「俺だぜ? 一応スキルかて持ってんだ」
モララーが言っているスキルとは、言うまでもなく【常識破り】。
『拒絶』との全面戦争を宣戦布告に行った際に披露してみせたもので、
ゼウスたちは未知の力に腰を抜かしたことだろう、それほどのものだ。
『嘘』を『混ぜる』。
下手に使えばショボンの【ご都合主義】以上の凶悪さ、残虐さをも生み出してしまう。
そんなスキルを持っているのに、なぜ挑発されるのかがわからなかった。
さすがに、同胞相手に本気で殺しにかかる――
なんてことはなかったが、だとしても少し気分が悪かった。
自尊心を愚弄されるような心地になった。
それを、顔を見て察せないのか、トソンはそれを続けた。
(゚、゚トソン「ああ……確かに強いですね、〝そのスキルは〟」
( ・∀・)
(゚、゚トソン「でも、結局それ頼みなんでしょ?」
( ・∀・)
( ・∀・)
.
- 295 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:22:21 ID:b3SRmyjoO
-
そこで、モララーは気づいた。
「ああ、まだコイツ怒ってるな」と。
そこで、モララーはなぜこれほど彼女が機嫌を損ねているのか考えてみた。
買い物の邪魔をしたからか、いやトソン自身のスキルを使えば一瞬で買い物を終えられる。
その旨を自分に告げてくれれば、『嘘』を暴いてやらないこともない。
ネーヨは例のセーターの少女にはあれ以上言及しない以上、ここにいてもすることはないのだから。
ならば、そのセーターの少女のせいか。
どのようなスキル――能力かはわからないが、とにかくネーヨが
不自然な仕草を見せるほどには強力であることはわかっている。
モララーが本気を出さなければ――『相手が死んでいる』と云う『嘘』でも吐けば――到底相手にできないものだ。
そんな強力な、『拒絶』でもない『能力者』と出会してしまったことに対して
己の未熟さを知り、不機嫌になっているのだろうか。
だが、そうだとも、思わなかった。
なんにせよ、謎は謎として霧は残るかもしれないが、根に持つほどではない筈である。
それはモララーの感性にすぎないのだが、トソンもその程度で取り乱すほど気が短いとは思えない。
――と、そこまで考えて、原因がわかった気がした。
モララーは「あ」と言って、手を叩いた。
( ・∀・)「犬」
(゚、゚トソン「!」
.
- 296 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:24:13 ID:b3SRmyjoO
-
( ・∀・)「イヌコロ置いて無理やりここに連れてこらされたのがそんなに嫌だったのか?」
(゚、゚トソン「え、いやそういうわけでは……」
トソンが少し動揺し、語尾を揺らす。
モララーはそうに違いないと確信した。
( ・∀・)「じゃあ許してくれよ」
( ・∀・)「『イヌコロは本当はここにいるんだから』」
(゚、゚トソン「っ!」
【常識破り】。
空間を歪めて、例のビーグルを呼び寄せた。
▼・ェ・▼「あんっ!」
(゚、゚*トソン「!」
トソンはいつの間にかカウンターの上に載っているビーグルを見て、思わず頬を綻ばせた。
ネーヨがトソンの豹変りように思わず微笑をこぼしていると、
トソンは我を忘れて両手を前に伸ばし、ビーグルに自分の胸に飛び込むように促した。
言われるまでもなく、と言わんばかりにビーグルは飛びつき、トソンの胸に抱かれた。
モララーは始終にやにやしていた。
トソンが柄にもなくでれっとした表情でビーグルを撫でているのだ。
日頃冷たい仮面をかぶり、モララーに罵声を浴びせるトソンとは
別人のようで、日頃の悔しさも助長してモララーはかなり笑った。
その笑い声に気づいたのはそれから五秒後のことで、
ネーヨも顎に手を当てトソンをじっくり観察していたときだ。
トソンは顔から耳まですっかり真っ赤にさせて、少し俯いた。
そしてビーグルを胸に抱いたまま、元のように冷たい――けど半透明な――仮面をかぶった。
.
- 297 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:26:04 ID:b3SRmyjoO
-
(゚、゚トソン「飲食店に店主の許可なく動物を連れ込むなど、言語道断です」
( ;∀;)「ぎゃっはは……」
( ・∀・)「……え?」
(゚、゚*トソン「この子――いや犬は、あとで私の方から餌――処分しておきますから、
あなたは罰として店から出ていってください」
( ・∀・)
説得力など、皆無。
しかし、この場における権力者はトソンだ。
いくらビーグルを愛でているとはいえ、モララーを苛めるのが好きなトソンだ。
モララーは呆気にとられた。
( ´ー`)「ちょうどいいや、いっそゼウスん家行ってこいよ。
アニジャはいねえからこの際暴れてもいいぞ」
( ・∀・)「え、いや俺まだ酒呑んでな」
(゚、゚*トソン「マスター命令です、いってらっしゃ……くすぐったい!」
( ・∀・)
そう言いきる前に、ビーグルがトソンの頬を舐めた。
そこでトソンは再びビーグルとのじゃれ合いを始めた。
こうなるとこちらの声など届かないのだろう、モララーはそう思って溜息を吐いた。
いくらマスターといえど強制力はない。
モララーは気に留めずここに居座っていてもいいのだ。
だが、そうしなかったのにはわけがある。
ネーヨの提案に、少しピンときたのだ。
そうだ、と一理は思ったのだろう。
だが、仮に行くとしても酒を呑んでからだ。
そうしようとしたら
( ・∀・)「とりあえず呑――む?」
.
- 298 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:27:43 ID:b3SRmyjoO
-
手を伸ばした瞬間、そこのグラスは消えた。
モララーがはッとして前を見ると、ビーグルを片腕で抱いて、右手にグラスを持ち口に向けて傾けるトソンがいた。
その色は、まさしく数秒前までモララーの目の前にあったカクテルと一致する。
「しまった!」とモララーは落胆した。
( ´ー`)「飲みさしでいいのか」
(゚、゚トソン「残飯処理で食費を浮かすのです」
( ・∀・)「あああああああ俺の酒がああああああ」
トソンは次は時間を『操作』し、モララーが瞬きをしている間に悠長にカウンターを回って
客席側から――つまりモララーの後ろから――モララーのグラスをとって
またカウンターの向こうに引き返して、と云う一連の行動をしていた。
モララーのスキル以上に日常生活に役に立つそれは、なかなかトソンの私生活に貢献していた。
『拒絶の精神』がそのようなものに利用されていいのか――
ネーヨは、そんなことを考えたりもしてみた。
自分は無駄なことでは、いやそもそも滅多なことではスキルを使用しないのだ。
(゚、゚トソン「さあ、行くのですモララー」
( ´ー`)「あいつら呑気にしてたら戻ってくるよう言っといてくれよ」
( ・∀・)「あいつらって……まさかショボンとワタナベ?」
( ´ー`)「まさかゼウスを連れてこい、と?」
( ・∀・)「いや……いやわかってたけどさ……。やだよ俺、あいつらと酒呑むの……」
.
- 299 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:29:36 ID:b3SRmyjoO
-
モララーが煙たがられるのはその《拒絶能力》のせいだが、
ショボンとワタナベは、その面倒臭い性格が煙たがられる原因となっているのだ。
ショボンの場合は面倒な言い回し、嫌な笑い。
ワタナベの場合は文字通り手のひらを返す様。
酒を呑む場において、これほど席を隣にしたくない人はいないだろう。
まして、二人ともアルコールが回ると一層性格が面倒なものになるのだ。
そう云ったニュアンスで言うと、二人は微笑を浮かべた。
( ´ー`)「俺だって嫌だ」
(゚、゚トソン「私だって嫌です」
( ・∀・)
モララーは、少なくともトソンをからかうのはやめよう、と決心した。
( ´ー`)「じゃ、行っ」
( ・∀・)「わーったよ行ってくるよ!」
( ・∀・)「『俺はゼウスん家の近くの森にいるんだからな!』」
そう言うと、モララーは先ほどまでそこにいたのが『嘘』のように、跡形もなく消えてしまった。
半ばやけくそだったようで、似合わない捨て台詞を吐いて。
( ´ー`)「あ、行っちまった」
.
- 300 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:31:49 ID:b3SRmyjoO
-
(゚、゚トソン「今頃どうしてますかね、彼ら」
( ´ー`)「ショボンとワタナベのタッグは嫌なもんがあるな。……性格的な意味でよ」
ネーヨが言うと、トソンはふと彼らの会話が容易に推測された。
倒れている向こう側の人の頭でも踏みつけたりして、会話してそうだ。
ワタナベは、くるくる回りながら言っているのだろう。
ショボンはやはり両掌を肩の高さにあげ、やれやれとでも言っているのだろう。
(´・ω・`)『僕は肺を破裂させたいんだけど。それか、脳の体積を十倍に』
从'ー'从『うわ、趣味ワッル〜。毛細血管を枝の分かれ目からちぎるほうがよくない〜?』
(´・ω・`)『きみこそ酷い趣味だね、反吐が出る。それなら肺の大きさを十分の一に……』
从'ー'从『とりあえず達磨にしね?』
(´・ω・`)『同意だ』
――考えると、トソンは思わず噴き出した。
こんな内容で笑えるトソンを見ると、やはり彼女も拒絶の精神を持っているのだなとわかる。
ネーヨも同じようなことを考えていたのか、若しくはほかのことか。
とりあえずトソンに合わせて微笑を浮かべ、それを隠すようにビールを呷った。
( ´ー`)「まあモララーは普段は冷静だから、二人をまとめれるだろうよ。いい『拒絶』持ってるし」
(゚、゚トソン「……それも、そうですね……」
( ´ー`)「…?」
.
- 301 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:33:01 ID:b3SRmyjoO
-
ネーヨは、急にトソンの顔から覇気が見られなくなったことに気がついた。
なぜか、しょんぼりとして、眉も下がっているように見える。
心なしか、ビーグルの耳も垂れたように見えた。
なにか彼女の気に障ったことでも言っただろうか。
そう思って話を聞こうとすると、先にトソンが口を開いた。
(゚、゚トソン「……ネーヨさん」
( ´ー`)「おう」
トソンは少し俯いた。
顔に影ができて、目元が暗くなる。
( 、 トソン「やはり……」
( 、 トソン「私が『拒絶』になるのは、向いてなかったのでしょうか……」
( ´ー`)「……」
突然の言葉に、ネーヨは黙りとした。
頬杖をついて、ビールを呷る。
トソンは尚も続けた。
ネーヨのこれは、言わば話を聞こうではないかと云う一つの合図なのだ。
.
- 302 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:34:41 ID:b3SRmyjoO
-
( 、 トソン「ショボンさんは【ご都合主義】」
( 、 トソン「ワタナベさんは【手のひら還し】」
( 、 トソン「モララーは【常識破り】」
(゚、゚トソン「……皆、『拒絶』らしいスキルですね。
有する『拒絶の精神』もすばらしいものだし」
( ´ー`)「そら……〝純粋な『拒絶』〟だからな」
(゚、゚トソン「そう……。つまり私は濁ってる」
(゚、゚トソン「だからスキルも見劣りするものだし、メンタル面もかなり劣ってる。
自我を保つ面でも、拒絶の面でも」
( ´ー`)「……」
ネーヨは少し黙った。
それでもトソンは言葉を紡ぎ続ける。
(゚、゚トソン「私、怖いのです」
(゚、゚トソン「周りを『拒絶』しないと自我を保てない自分が」
(゚、゚トソン「なのに、濁った『拒絶』で、スキルも微妙で」
( 、 トソン「……なんのために、『拒絶』になったのか」
( ´ー`)「……」
ネーヨは、なぜトソンがこんなことを急に言い出したのか、わかったような気がした。
黙って聞き流すように耳を傾けていたが、ネーヨは開くつもりのなかった口を開くことにした。
.
- 303 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:36:06 ID:b3SRmyjoO
-
( ´ー`)「トソン。少なくとも、おめえは今となっては立派な『拒絶』だ」
(゚、゚トソン「でも」
( ´ー`)「『拒絶』に囲まれても平気なツラできる一般人なんて、いやしねえよ」
( ´ー`)「それに、おめえのスキル……、…………だっけか?」
記憶が曖昧なのか、声はちいさくなる。
トソンは自分のスキルと言われただけで、名前を言われずともなにを言いたいのかを察した。
( ´ー`)「あれは《拒絶能力》でなくて、でも同時に《拒絶能力》なんだからよ」
(゚、゚トソン「……」
( ´ー`)「……」
静かになり、ビーグルの揺れる尻尾の音しか聞こえない。
トソンがなにも言う気を起こさなくなったので、ネーヨは閑話休題、とした。
あまり湿っぽい話は好きではないのだ。
せっかくの酒も、内容が内容だと一気にアルコールが飛んだような味になってしまう。
ただでさえ冷めてしまいそうな状態なのに、それでは二重の意味でまずい。
残り少ないビールを、最後まで味わいたいと思っていた。
.
- 304 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:37:13 ID:b3SRmyjoO
-
( ´ー`)「……ま、深く考えんな。俺は昔話は嫌えなんだ」
(゚、゚トソン「すみません」
( ´ー`)「俺も詳しくは事情は聞かねえ。だからなんとも言えねえが……」
(゚、゚トソン「いいんですそれで。ありがとうございます」
そう言うとすっかり吹っ切れたのか、元のように目を閉じてグラスを磨き始めた。
ネーヨが言おうとしたことを、聞くまでもなく理解する。
その、話を聞いて真剣な答えを返してくれた、と云うだけでトソンはある意味満足なのだ。
ネーヨも女性の感性や話の分からない男ではない。
黙って、元の体勢に戻る。
そして、ネーヨの好きな静かな空気になる。
余ったビールを片手に、頬杖をついたままネーヨはあることを考えていた。
トソンに初めて出会った日のことを、思い浮かべて。
( ´ー`)「(……〝封印の解かれた神話〟なんて、漫画の世界だけだと思ってたんだがなあ)」
( ´ー`)「(〝ワルキューレ〟なんて、よ)」
.
- 305 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:38:59 ID:b3SRmyjoO
-
◆
時は少し前に遡る。
あらゆる『因果』を『反転』させてきたワタナベは、生死は不明にせよ、とにかく〝倒した〟。
つまり、それは『拒絶』を受け入れず拒絶した――と云うこと。
ショボンに続いてワタナベ、と二連戦であり、三人とも大きな傷をそれぞれ負ったが、とにかく存命だ。
それがどれだけ大きなことで、どれだけ彼らや内藤に希望をもたらすものか。
少なくとも「絶対に勝てない」と云うわけではないことだけは、彼らもわかったことだろう。
それは自信につながり、希望につながり、未来につながる。
自分たちが生きていて、『拒絶』を全てはねのける、という将来につながる。
だから、内藤も当初ほどは焦ってはいなかった。
【ご都合主義】によってハインリッヒが悲惨な目に遭わされた時は
どうしたものかと常に死を覚悟していたのが、今ではこうだ。
すっかり、戦争後は平和ボケすると云うジンクスに踊らされているわけだ。
内藤は屋敷で嫌な汗がべっとりついた躯を洗った。
服は多種多様なものが揃っているようで、内藤はとりあえず白のティーシャツとジーパンを失敬した。
コートは着なくてもいいだろうと思い、濡れてもいるわけだからメイドに洗濯を委せる。
この薄いティーシャツからだと自分の情けない肉つきが露わになってしまうが、致し方ない。
そう割り切って、今日一日はこの服装でいようと思った。
ややサイズが大きかったことに関してはもはやなにも言うまい、と。
.
- 306 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:40:10 ID:b3SRmyjoO
-
从 ゚∀从「どこに行くんだ?」
( ^ω^)「お……」
メイドに案内してもらって、屋敷から出ようとした。
そこを、やはり風呂上がりのハインリッヒに呼び止められた。
髪がやや湿っているのが色っぽいが、まだ子供のような容姿のハインリッヒに惹かれることもない。
首から提げたタオルが、彼女に子供らしさを更に与える。
純粋な疑問だけを持った瞳で、内藤はハインリッヒを見た。
( ^ω^)「この世界だけど、やっぱり僕が元いた世界と似通った部分ばっかだお。
探索もかねて、ちょっと羽を伸ばしてくるつもりだお」
从 ゚∀从「羽って……まだ『拒絶』は全滅してねえぞ」
( ^ω^)「それもそうだけど……」
内藤はハインリッヒの疲労を知らない。
純粋に、格闘や技の被弾で得た肉体的疲労。
ショボンやワタナベに植え付けられた拒絶、精神的疲労。
まして、【正義の執行】における『英雄の優先』を封じられたことによる気疲れも生じる。
.
- 307 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:41:29 ID:b3SRmyjoO
-
そんなハインリッヒの疲労は確かに知らない、のだが、
内藤は内藤で、精神的疲労はひどいものだったのだ。
迷いこんでしまったパラレルワールド。
絶え間なく襲いかかってくる規格外な強さしか持たない敵、敵、また敵。
死がそこらの石ころのようにすら思える、狂ったとしか思えない『能力者』や『拒絶』の戦闘。
アンバランスな能力同士の衝突によって要求される、理不尽な解説。
『作者』にとって言わせれば、登場人物なんかの数倍は気疲れを背負っている、と言いたかった。
言わば、現場監督なのだ。店長なのだ。リーダーなのだ。
全ての責任を背負った、重大な立場なのだ。
ハインリッヒたちの疲労の何割かは肩代わりしている、そんな気さえしていた。
だから、ハインリッヒは無事でも内藤は少し安息が欲しかった。
ゼウスの屋敷であったりと変わった部分はあれど、ベースは内藤が元いた世界の筈だ。
すると、飲食店も元のままだろう、そう思うと少しそちらの方へ寄ってみたくなった。
金は、もし通貨が同じならばポケットに入っていた額で何とかなるだろう。
足りなくても、ゼウスに何とか言えばあわよくば工面してくれるかもしれない。
あのゼウスがそんな粋な計らいを――とは思うが。
.
- 308 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:42:44 ID:b3SRmyjoO
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ゼウスは、ワタナベを担いで救護室に向かったまま、帰ってきていない。
まだ救護室にいるのかもしれないし、どこか別の部屋にいるのかもしれない。
ゼウスの部屋に勝手に居座っていても、勝手に物を触らない限りは
咎められないだろうと思った上で、内藤たちはそこにいた。
ほかに使うべき部屋は浮かばないのだ。
初日に寝た部屋などがあるが、メイドはその部屋は今日はない、と言っていた。
内藤はそのとき、訳が分からなかった。
( ^ω^)「なんならじーさんも来るかお? いい酒教えるお」
/ ,' 3「酒かの? おぬしの数百倍は博識じゃぞ」
(*^ω^)「そうかお? じゃあ――」
/ ,' 3「昼に酒を呑もうなんておぬしよりは、の」
( ^ω^)「行ってきますお」
.
- 309 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:44:16 ID:b3SRmyjoO
-
内藤はメイドに先導を委せ、部屋から出ていった。
内藤にいくあてがあるのかと言われては、どう答えるかに悩まされる。
と云うのも、「現実世界では」酒屋だった店なのだ。
もしそこがパラレルワールドの所為で他の店に変わっていれば、すぐさま流浪の旅に変わる。
深くは考えず、あくまでも羽を伸ばす気構えだった。
メイドが次々と道なき道を進んでいく。
やはり、毎日屋敷の構造は変わっているようだ。
変わってないのは各部屋の内装だけで、通路などは日替わりとなっている。
当初からずっと抱いていたその疑問だが、以降この屋敷に
住まわせてもらうためにも、その疑問だけは晴らしておきたかった。
からくりがわからなければ、おちおち外出するのでさえ難しくなる。
その旨を告げると、メイドは気むずかしい――実際は蝋で固められたような――顔をした。
爪゚ー゚)「ゼウス様よりお尋ねください」
( ^ω^)「お……どうしてもだめかお?」
爪゚ー゚)「承りかねます」
そう言って、メイドは閉口した。
どうやら本当に話すつもりがないらしい。
メイドだけあって、雇い主のゼウスの言いつけは絶対なのだろう。
それも仕方ない、と思った。
.
- 310 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:45:41 ID:b3SRmyjoO
-
( ^ω^)「……」
歩いていって、蝋燭が並ぶ廊下になった。
この三本目の火を消して台を引っ張ることが、次の通路へと向かうための方法となる。
メイドが迷いもせずそうすると、隠し扉のようなものが下から上に上がるように開かれた。
潜るように二人は進む。
内藤は終始無言になっていた。
メイドと話をしていると、あることが気になったのだ。
しかし〝なぜか記憶が曖昧なのだ〟。
( ^ω^)「(顔も声も一緒……。やっぱり、初日のメイドと同一人物だおね?)」
( ^ω^)「(でも……なにかがひっかかるお)」
次の通路の、入ってから二つ目にある花瓶を台から取り、四つ目の台に載せる。
そうすると、先ほどまで花瓶が載っていた台から音が鳴った。
そこから奥に進むような構造なのだろう。
( ^ω^)「(……そもそも)」
( ^ω^)「(この屋敷には、このメイド一人しかいないのかお?)」
内藤が、疑問の核心に迫りそうになった時に、メイドに呼ばれ、なかに入るよう促された。
それまで進めていた推理が一瞬のうちにあぶくになった。
内藤は〝なにを考えていたのかすら忘れ〟て、言われるがまま進んでいった。
外の世界とこことを繋ぐ大きな扉が前方に見えた。
あと少しなのだ。
そう思うと、先ほどまでの疑問は芽はおろか根から消えてしまった。
.
- 311 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:47:13 ID:b3SRmyjoO
-
( ^ω^)「ありがとうだお」
爪゚ー゚)「礼には及びません」
メイドが軽く会釈をする。
内藤は帰ろうとするメイドを慌てて制した。
まさか呼ばれるとは思っていなかったのか、メイドがワンテンポ遅れて振り返る。
しかし表情はいっさい変わっていない。
( ^ω^)「毎度毎度こうやって案内してもらうのもなんだか悪いお。
ゼウスに何とか言って、僕たちだけで外に出られるようにしてほしいお」
爪゚ー゚)「問題ありません」
( ^ω^)「お?」
内藤が、無理だろうと半ば諦めていた提案をすると、
メイドがどうってことはないと言いたげな口振りでそう返したため、内藤は虚を衝かれたような顔をした。
爪゚ー゚)「ご自身の感性に従って進んでいただければ、迷うことはありません」
( ^ω^)「は?」
勘でからくりを解いて進んでいけば罠にも引っかからず、安全に進める、とメイドは言った。
内藤がそれにまさかと思うのも全く不自然ではなかった。
こんなに入り組んだ屋敷を、初見の者がどう迷わずに進めるというのだ。
内藤がそんな目をすると、メイドは補足をいれた。
爪゚ー゚)「私が先導せずとも『マザー』が導いてくださいます」
(;^ω^)「ま……?」
爪゚ー゚)「では私はこれで」
(;^ω^)「あ、ちょ……」
内藤がもう少し話を聞きたいと思い呼び止めようとするが、今度はメイドは振り向かなかった。
なにか裏があるのだろうか。
それとも、それもゼウスから箝口令でも敷かれているのだろうか。
.
- 312 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:49:20 ID:b3SRmyjoO
-
――ここでゼウスと云う単語を出すと、内藤は「あ」と呟いた。
( ^ω^)「……そういや、アイツも『マザー』なんて言ってたお」
◆
救護室の碧色の液体に浸かれば、〝ゼウスならば〟一瞬で治癒が終わる。
それも、本人の性質ではなく、この液体の性質で、だ。
ゼウスは自分の完治を実感したのち、寝かしておいたぼろぼろの女性を担ぐ。
躯、特に下半身のあった部分を半壊させた、ワタナベを。
これが、あのワタナベなのか。
【ご都合主義】をも圧倒すると云う【手のひら還し】なのか。
にわかには信じられないが、傷ついてない顔を見ると彼女がワタナベだ、とわかる。
その顔には、涙が流れた跡がくっきりと残っている。
どう考えても苦しい筈なのに、どこか安らいだ顔をしている。
ゼウスは彼女を見て少し思い詰めてから、浴槽にかけられた
梯子を上り、紐でワタナベの手足を繋いで液体に浸からせた。
静かに音を立てて沈んでいく姿は、ホルマリンに漬けられる死体を彷彿とさせる。
その姿を浴槽の正面から見上げて、ゼウスは思考に耽った。
.
- 313 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:50:38 ID:b3SRmyjoO
-
( <●><●>)「……」
最初はわからなかった。
全てが全て豹変っていて、しかも初見の時に対面したのはほんの数十秒ほど。
だが、彼女の泣き顔を見れば、すぐに記憶が発掘された。
ゼウスは何度もその記憶を推敲し、真偽を問うたが、間違いはなかった。
そう思い、内藤の言葉を利用してうまく言いくるめ、彼女を治癒させる理由をつけた。
これが正義なのか悪なのか、ゼウス本人にはわからない。
だから、訊くのであった。
( <●><●>)「……これは、これで正しかったのだろうか」
静寂に投げかけた言葉に、返事はない。
ただ、ワタナベの呼吸によって生じる気泡のみが、音を鳴らす。
だが、この言葉は「その人」に届いている、と信じて、言葉を続ける。
( <●><●>)「これは、私がとうの昔に捨てた筈の、良心なのだろうか。慈悲なのだろうか」
( <●><●>)「自分のなかでは、彼女に恩を売ることでいつか【手のひら還し】を利用する――
と云う言い訳めいた動機に基づくものなのだ、と言い聞かせている」
( <●><●>)「だが……実のところは誰にもわからないだろうな」
( <●><●>)「………お前以外は……」
そう言って、ゼウスは救護室を去った。
.
- 314 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:51:56 ID:b3SRmyjoO
-
◆
森の中は、見たこともないような小動物から繁った植物、
弱肉強食の世界で朽ちていった者、と様々な物が広がってできていた。
ワタナベの暴走により一時は避難した彼らも、危険が去ったのを
動物的本能によって知り得たようで、徐々に戻ってきつつあった。
そこで漂っている空気は、束の間の平和、平穏、穏便。
無力な動物たちが住むのに心地よい空間となっていた。
ゼウスの屋敷からは危険な香りはなぜか漂ってこない。
だから、こうやってゼウスが発する『恐怖』に怯えることなくうのうと暮らすことができるのだ。
そこには、危険な要素は存在していない。
していないから、小動物は急に逃げたりなどしないのだ。
だが。
小動物は、急に再びその場から逃げ出した。
理屈や論拠なんて必要のない、本能が鳴らした警笛によってで、だ。
ミミズから鷲まで、その種類は実にさまざま。
なぜ彼らが逃げ出したのだろうか。
答えは、すぐそこにあった。
.
- 315 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:53:08 ID:b3SRmyjoO
-
( ・∀・)
音も気配も発さずに、モララーが現れたのだ。
うん、と背伸びをして、首筋の関節を鳴らす。
周囲の景色を一通り目に焼き付けてから、ここがどこかを把握した。
北の方向に、屋敷のようなものが見える。
つまり、ここはゼウスの屋敷の南に位置する森だ。
そうとわかれば、森から抜け出して玄関に向かえばいい。
モララーはやけに辺りが静かなのを感じて、少し不思議に思った。
ショボンやワタナベが暴れていれば、嫌でも音は轟くのに。
尤も、もしかすると入れ違ったのだろうか、不思議なものだ、程度にしか思わなかったようだが。
とにかく、モララーは森から抜けた。
( ・∀・)「……そうでもなかった」
抜け、玄関前の広場のようになっている空間を見て、モララーはそう呟いた。
地が割れ、血痕があちこちに残り、大きな穴も空いていて、白骨のようなものもある。
巨大な岩が砕けたようなものもあり、一帯が――今は乾いているが――濡れていたような形跡もある。
とても自然的に発生したとは思えないものがそこら中に
転がっていたため、一戦交えたあとだな、としか思えなかった。
とすると、彼らは存分に暴れ回った後なのだろう。
モララーはちいさく溜息を吐いた。
.
- 316 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:54:07 ID:b3SRmyjoO
-
( ・∀・)「派手にやってくれてよ。これじゃあ俺の楽しみがないじゃねーか」
玄関に向かう際、傍らにあった白骨を蹴り飛ばして、ぼやく。
我先にと飛び出さなかったのが悪かっただけなのだが、これでは呆気ない。
ショボンにはなにを奢ってもらおう、そんな楽観的なことを考えつつも、モララーは屋敷の扉に手をかけた。
扉を開こうとするが、なぜか異様に固く、開こうとしなかった。
モララーは「ん?」と、疑問符を浮かべてみせた。
鍵がかかっているだけなのならばいいのだが。
そう思って、モララーは『実は鍵が開いている』という『嘘』を吐いた。
しかし。
(;・∀・)「んん?」
門は開かなかった。
馬鹿な、確かに『嘘』を『混ぜ』たのに。
モララーは、そう思うと、少し焦りを見せた。
.
- 317 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:54:57 ID:b3SRmyjoO
-
( ・∀・)「はぁー。こんな事もあるんだな」
が、焦りを見せたのはほんの一瞬だ。
世の中には、ネーヨのような理不尽なスキルまで出回っている。
自分のスキルが通じない日くらいあるのだろう、そう割り切ったのだ。
そして、「押してだめなら引いてみな」の理論を思い出して、モララーはにんまりと笑んだ。
向こうが出迎えてくれないならば、こちらが出迎えればいいのだ。
ショボンたちがもうハインリッヒたちを葬っていれば、吐いてもなにも変わらない『嘘』。
それを、まるで毎日の朝にコーヒーを呑むかのように吐いてみせた。
( ・∀・)「しゃーねーな」
( ・∀・)「『オラ、出てこいよ三人。隠れてたって無駄だ、俺はもう見破った!』」
.
- 318 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:55:59 ID:b3SRmyjoO
-
――モララーがそのようにスキルを発動した途端、モララーは驚愕した。
それそのものが『嘘』ではないのか、と自身を疑ったほどだった。
それがなぜかは、言うまでもないだろう。
从 ゚∀从
/ ,' 3
( <●><●>)
(;・∀・)「!?」
.
- 319 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:57:01 ID:b3SRmyjoO
-
ショボンとワタナベに襲われた筈なのに、〝三人とも存命だったから〟だ。
アラマキ、ハインリッヒ、ゼウス。
彼らは、一体自分たちの身になにが起こったのか理解できず、一瞬たじろいだ。
素っ頓狂な声を発し、互いに互いの顔を見合わせる。
一方のモララーは、驚きはしたが、すぐに平生を取り戻した。
いくら『現実』が信じられないものだからといって、それを否定するほど、モララーは自分に甘くはないのだ。
だから、この『現実』を甘んじて受け入れた上で、腰に手を当て不敵に笑むことにした。
戸惑う彼らに、鶴の一声を浴びせる。
三人がモララーの方を向いたとき、モララーは、やはり『拒絶』らしい笑みを浮かべていた。
見ているだけで全てを拒否したくなるような、嫌な笑みを。
( ・∀・)「よぉ〜〜う、おまえたち。一日ぶりだな」
从;゚∀从「てッてめえは――ッ!!」
( ・∀・)「おっ、覚えといてくれてた? 嬉しいぜ」
指を震わせながら突きつけるハインリッヒに一瞥を与え、モララーは更に口角を吊り上げた。
そして三人を視野に収め、口を開く。
.
- 320 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:57:57 ID:b3SRmyjoO
-
( ・∀・)「そうさ、俺は『拒絶』イチのイキでクールなナイスガイ。人呼んで、モララー=ラビッシュ」
( ・∀・)「歴史に刻まれる名だ。よぉ〜〜く覚えといてくれよな」
モララー、三人の互いが予期しなかった再会。
それは、焦燥でも不安でも昂揚でもなく
ただ、はちきれんばかりの拒絶だけが、支配していた。
.
- 321 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 14:58:51 ID:b3SRmyjoO
- 第十七話「vs【常識破り】Ⅰ」でした
- 322 :同志名無しさん:2012/12/27(木) 20:53:16 ID:FmZzFsCI0
- 常識破りって聞くとどうしても常識に囚われないを思い出す
乙!
- 323 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 00:29:30 ID:ynFExQ.M0
- 二人は実は勝っているとか言うかな?言わないか
- 324 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 20:16:01 ID:sp8t79x2O
- 寒いのでどこまで投下できるかわからないけど、十八話投下します
- 325 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 20:19:25 ID:sp8t79x2O
-
○登場人物と能力の説明
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
(゚、゚トソン 【???】
→時や力を『操作』した『拒絶』の少女。
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
_
( ゚∀゚) 【???】
→『拒絶』に関わりを持つ科学者。
.
- 326 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 20:20:14 ID:sp8t79x2O
-
○前回までのアクション
( ^ω^)
→外出
( ・∀・)
/ ,' 3
( <●><●>)
从 ゚∀从
→対面
从'ー'从
→療養中
( ´ー`)
(゚、゚トソン
→バーボンハウス
.
- 327 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 20:22:18 ID:sp8t79x2O
-
第十八話「vs【常識破り】Ⅱ」
モララーの登場を、少なからず歓迎する者はいなかった。
彼のことをどう思うかはそれぞれであろうが、決してプラスの評価などは持っていない。
特に危害を加えられたわけでもないのにこれほどまで
嫌悪を抱かれるのは、モララーの言わば特技でもあるのだろう。
だが、それはモララーにとどまらない特技だった。
『拒絶』である以上――『拒絶の精神』を持つ以上――必ず発するオーラは不快なものなのだ。
その量を調整することこそできるだろうが、今のモララーは抑制に意識を割いてない。
つまり、体臭のようにモララーの持つオーラがにじみ出てくるわけであった。
/ ,' 3「はて、昨日の今日でもう襲うと申すのか?」
( ・∀・)「そうされてーか?」
目を瞑っても耳を塞いでも鼻を摘んでも感じる、拒絶。
五感を全て塞いだ上で隔離空間のなかにでも潜まないと、
目と鼻の先にいる彼の持つ拒絶感など遮ることができない。
肌がぴりぴりと痛むのだ。
細胞が警笛を鳴らし、平生を求める。
从 ゚∀从「いっぺんに三人も相手する気かよ」
( ・∀・)「アリが三匹揃ったところで的が大きくなるだけなんだぜ、知ってっか?」
なかでも、その最たる要因は、モララーの「強さ」だろう。
話を聞いたところで釈然としないだろうが、
こうして面と向かうことでわかることは必ずあるのだ。
モララーは、強い。
それも、ショボンやワタナベ以上に。
.
- 328 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 20:24:17 ID:sp8t79x2O
-
( <●><●>)「戯け。どんな大きな靴だろうと、三匹が離れていれば一度に踏むことはできない」
/ ,' 3「その踏み損ねた蟻に靴の上を登られるのはどんな気分かの?」
( ・∀・)「登らせね――いや、そもそも踏む必要がねーよ」
ゼウスやアラマキの段階で既に「規格外」でこそあるのだが、
モララーに至っては、もはや「規格」と云う言葉で括ること自体が無礼に値する。
そのような気さえ、彼らは感じているだろう。
ハインリッヒがゼウスに全く攻撃が通じなかった時に感じた焦燥に、それは似ていただろう。
この原因は、果たして有する《拒絶能力》のせいか、それとも――
从 ゚∀从「蟻如きに畏れをなして、踏めねぇってか? それとも慈悲か?」
( ・∀・)「そうじゃなくてさ――」
ハインリッヒが嘲笑を交えて言う。
適うはずがない、となんとなくでわかるのにそう言った理由は、
彼女がショボンに強気を見せていたのと同じものである。
そのためか、三人とも自分が蟻であることに反応を見せない。
むしろ、蟻と認めた上で倒してやろう、という姿勢すら窺えるのだ。
モララーはそこで語尾を濁すと同時に右腕を地面と平行に挙げた。
下を向いた掌はそのままで、モララーはニヤリと笑った。
( ・∀・)「『おまえは、もう死んでいる』」
.
- 329 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 20:28:54 ID:sp8t79x2O
-
/ ,' 3「ハ?」
( <●><●>)「―――ッ」
アラマキが首を傾げたところで、先に反応を見せたのは、ゼウスだった。
ゼウスにつられて、アラマキもゼウスの視線を辿る。
すると、アラマキも反応を見せた。
モララーの指先の先では
从 ∀从
/ ,' 3「ッ!」
ハインリッヒが急にその場でくずおれたのだ。
力なく地面に伏して、それっきり動かなくなった。
アラマキとゼウスが固まっていると、モララーは腕を元のように垂らした。
左手を脇腹に当て、姿勢を崩しては
( ;∀;)「ギャーッハッハッハッ!!
『踏まないで殺す』んじゃねえ、『踏むまでもなく殺す』んだよバーカ!」
/;,' 3「ッ! 『嘘』を『混ぜ』たのかッ!!」
――モララーの『拒絶』は、【常識破り】。
『嘘(フェイク)』を『混ぜる(シェイク)』する、と云う、まさにその通りなスキル。
それを用いられて、ハインリッヒが――
( ・∀・)「そのッとおぉぉぉ〜〜〜りッッ!
俺の『嘘』は、す〜〜べて『真実』に早変わり!!
――ってのが『嘘』なんだけどな」
モララーは、再び大声で笑い始めた。
『真実』を拒絶した『因果』、それは【常識破り】を使わせることにつながった。
それをまざまざと見せつけられ、アラマキの胸中にも「拒絶」が生じた。
スキルと直結するそれではない、単なる拒絶感が。
.
- 330 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 20:30:44 ID:sp8t79x2O
-
( ・∀・)「………まあ、さ」
/;,' 3「?」
モララーは含み笑いをやめた。
何だと思うと、倒れたはずのハインリッヒが起きあがった。
後頭部をさすりながら立つ姿は、まるで何事もなかったかのように思わせられる。
ハインリッヒは少しきょろきょろして、困った顔をした。
从 ゚∀从「……あれ?」
/;,' 3「ハインリッヒ!」
( ・∀・)「『さっきの嘘』は『嘘』。だからハインリッヒは立ち上がれたんだよ」
( <●><●>)「『嘘』だの『真実』だの、全てが嘘のように聞こえるな」
( ・∀・)「中身がないってか? よく言われるぜ、それもワタナベによぉ。
アイツの方がよっぽど中身がないと思うんだがな」
「中身がない」とは、モララーの場合は日頃から『嘘』を吐きまくるから、
ワタナベは言ったこともすぐに『反転』するから、なのだろう。
的を射た言葉ではあるが、モララーの言葉が信じられないことに代わりはない。
ハインリッヒは会話の内容と一瞬飛んでいた記憶から
いま、自分の身になにが起こったのかを理解したようだった。
そして「バケモノめ……」と小さく呟いた。
.
- 331 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 20:31:34 ID:sp8t79x2O
-
モララーはその小声を聞き逃すことはなかった。
不思議な顔をして、ハインリッヒの方を向いた。
( ・∀・)「バケモノはおまえたちだろ」
从;゚∀从「……は?」
モララーは、かねてからの疑問を、ついに言った。
( ・∀・)「ショボンと、ワタナベ」
( ・∀・)「アイツらに、何した?」
.
- 332 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 20:35:43 ID:sp8t79x2O
-
中身がないとは思えない、明らかに重みを持った言葉だった。
威圧感とはまた違う圧倒される何かを感じ、ハインリッヒはたじろぐ。
一方のモララーは真剣な顔のまま、睨むようにハインリッヒ含む三人を見ていた。
彼らに、表情の変化はない。
それが何を意味するのか、モララーはわかった。
わかった上で、訊いた。
( ・∀・)「まさか、いくら俺より弱い『拒絶』だからといって、おまえたちが殺せた、っつーのか?」
/ ,' 3「………当然じゃ」
( ・∀・)「……」
途端、モララーは険しい顔をした。
やはり、殺されても仕方のない戦闘だからといって、同胞が殺されるのは面白くないようだ。
また、圧倒的に能力面では勝っている筈の二人が負けたという以上、
自分も万が一の確率でやられるかもしれないのだ。
そう考えると、モララーが気を損ねたことにも合点がゆく。
――否、万が一ではない。
そもそも、ショボンやワタナベが負けると云うこと自体、既に万が一なのだ。
万が一が二度連続で起こると云う確率など、天文学的数字であることが考えるまでもなく、わかる。
つまり、能力面で勝っていることが勝敗につながるわけでは
ないと云うことを、あの二人は示した上でこの世を去ったのだ。
――まさか、この俺も奴らの二の舞にならねーよな?
モララーは、少し不安を感じた。
持っているスキルは〝中身がない〟と云う特性である以上、脆いのだ。
自身を〝この世でもっとも脆い男〟と、誰かに称されたこともあった。
――尤も、『嘘』を見抜かれても
その『嘘』を解除しない限りは『嘘』は『真実』のままで在るのだが。
それが『真実』を『拒絶』すること、なのだ。
.
- 333 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 20:37:21 ID:sp8t79x2O
-
( ・∀・)「ショボンも、ワタナベも、理屈じゃおまえらみたいなアリには負けねーんだぜ」
/ ,' 3「じゃが、負けた」
( ・∀・)「つまり、油断してたってこった」
モララーはポケットに手を突っ込んだ。
そして、続ける。
( ・∀・)「恐竜が負ける道理を知りてーが……
あ、耳に入られたら死ぬんかもな。耳栓でもし」
直後、モララーは血を吐いて倒れた。
言葉が途中で途切れ、不自然に――ある意味においては自然に――倒れる。
地面に伏して、続けて血を吐いて、赤い水溜まりを作る。
後頭部にフードが載って、表情はいよいよ見えなくなった。
そこからワンクッション挟んで、アラマキとハインリッヒは漸く仰天した。
一瞬前まで健全そのものだったモララーが、このような様態になったのだから。
だが、ゼウスが右の手刀に付いた血をハンカチで拭う後ろ姿を見て、「もしや」と思った。
/;,' 3「ぜ、ゼウス!」
从 ゚∀从「………不意……打ち?」
( <●><●>)「彼女といい、自己主張が旺盛な輩だ」
.
- 334 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 20:39:01 ID:sp8t79x2O
-
( ・∀・)「確かにな。以後気をつけるぜ」
从;゚∀从「!?」
/;,゚ 3「ッ!!」
( <●><○>)「―――ッ」
ゼウスが、ああ言って振り返った瞬間。
モララーは、手刀を腹に突かれる前と同じように
ポケットに手を突っ込んだままの姿勢で、しかしハインリッヒとアラマキの背後に現れた。
ゼウスの不意打ちと同じよう――否、それ以上に前触れを感じさせない出現で、二人は驚いた。
また、その出現と同時にゼウスの腹に穴が開いた。
それも、ゼウスがモララーに与えたような負傷だった。
ゼウスといえど、腹に穴が開いて立っていられる筈もない。
くずおれそうになるのを、辛うじて右膝で踏みとどめ、片膝をつく。
モララーはその砂を踏みしめる音を聞いて、振り返った。
振り返ったというよりは、上半身を捻っただけだ。
ポケットから手を出そうとすらしない。
ゼウスを、所詮その程度の存在だ、と見做しているかのようだった。
.
- 335 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 20:41:55 ID:sp8t79x2O
-
( ・∀・)「ワタナベは『生死の概念を反転させる』っつーように
受動的じゃねーと対策できねーそうだけどよ、俺は違うぜ」
ゼウスにそう吐き捨て、続けてモララーは言う。
( ・∀・)「あ、それと、今後のために言っといてやるがよ」
从 ゚∀从「……な、なにを」
ハインリッヒの声が震えているのを聞いて、モララーは微笑を浮かべた。
( ・∀・)「俺がいま『混ぜ』てる『嘘』の数だよ」
/;,' 3「……ハ?」
( <●><●>)「……そ…いうことか」
( ・∀・)「お、ゼウスはとりま意味だけはわかったみてーだな」
( ・∀・)「まーゼウスだしぃ? おッつむ良いしぃ?」
( ・∀・)「でもまあ、残り二匹のために、言ってやるけどよ」
モララーは漸く躯全体をこちらに向けた。
( ・∀・)「俺は、今の段階で一億八千二百三十六万五千八百七十二個の『嘘』を吐いている」
.
- 336 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 20:44:08 ID:sp8t79x2O
-
◆
(;^ω^)「あり……?」
内藤は、当惑を声にして発した。
それも、行き先だった店に向かう途中で、である。
物的ななにかが変わっていたわけでは、ない。
そこにある建物が別のものに変わっていたり
見たこともないような道が伸びていたり
そう云った、可視される違いではないのだ。
では、何が彼に当惑のタネを撒いたのか。
それは、その街並みが持つ雰囲気そのものである。
無機物である筈のそれらが、無言の圧力と云う物を内藤に与えているのだ。
うねりをあげ、混沌が渦を巻いているように、その一帯には何とも言えぬ暗い、黒い空気が漂っていた。
まるで、巨大な肉食生物が、口を広げ獲物が入ってくるのを待っているかのように。
そこに一歩踏み入れることに対して、細胞が警笛を鳴らす。
その原因が掴めず、内藤はただたじっているだけだった。
勢いよく飛び出した矢先で、そんなはっきりしない理由で
引き返してこれば、笑われる元であろう。
せめて原因がわかれば帰ってもいいところなのだが、
それができれば既にここで立ち往生する理由もない。
内藤は歩き倦ね、どうしたものか、と首を傾げていた。
この先に、確かにバーがあった筈である。
一度、作品にバーの描写をする際、参考にしようと取材半分で向かったことがあるのだ。
名前は忘れたが、その雰囲気には言葉にし難いムードが漂っていた。
また、内藤はそのムードを楽しみたいがためだけに訪れようとしているわけではない。
バーと言えば、情報交換の場として相場が決まっているわけだ。
.
- 337 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 20:46:27 ID:sp8t79x2O
-
内藤は、能力や戦闘においては無力そのものだが、
その有する情報に関しては決して彼らに引けを取らない、むしろ重宝されるべき存在である。
それを自覚しているため、せめて正確な情報を彼らに与えられやしないか。
――と、内藤は内藤で考えるところがあったのだ。
バーで得た情報を元に、残りの『拒絶』の内容を思い出すことができれば。
それは、自分たちにとって、絶大なアドバンテージを得ることに成り得る。
内藤がそのアドバンテージを得ようとした矢先での壁が、その目に見えない「拒絶」だった。
内藤は少しその場にとどまってみた。
表通りを歩いていた時はそうでもなかったのに、その店に向かおうと
人気の少ないであろう道を進んでいると、徐々に感じてくる「拒絶」。
コンクリートが剥き出しとなっており、罅が入っていたり、
またスプレーで落書きがされていたりしている。
内容がとてもお粗末な文字列だったのを見ると、描いたのは恐らくはぐれ者だ。
内藤は力なく笑って、自身で自身に決断を迫った。
とても気味が悪いところだ。
いつまでもここにとどまるくらいなら、博打のつもりででも進むか引くかする方がいい。
頭を掻いて、内藤は一歩、また一歩と前に進んだ。
引く、と云う決断を捨てたわけではない。
ただ勝手に、足が動いてしまうのだ。
まるで、その雰囲気に呼び寄せられているかのように。
.
- 338 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 20:47:26 ID:sp8t79x2O
-
(;^ω^)「あの店……こんなところにあったかお……?」
当時の状況を思い出す。
店は、そこらにあるようなそれらの中の一つに過ぎない、いわゆる普通の店だった筈だ。
少なくとも、足を運び入れるだけで戸惑いを感じさせるような立地ではなかった。
ごく自然と入れる位置の、
ごく自然な店構えで、
ごく自然な看板だ。
それがなぜ、肌でわかる程空気が違うのだろうか。
建物が一緒とすると、考え得る別の答えは「世界観」である。
パラレルワールドに迷いこむ際、建物は一緒でも、世界観はがらっと変わった筈なのだ。
政治が機能しておらず、軍事力に比重をかける残念な政府。
そんな政府を攻め落とそうとする、裏組織の連中。
漁夫の利を得ようとする、第三勢力、チンピラの集団。
そう云った要素が反映されるならば、自然と空気や雰囲気と云ったものも変わる筈である。
それが原因でこの空気を作り出しているとするのなら――
――ここは、裏通り。裏社会への第一歩。
.
- 339 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 20:48:22 ID:sp8t79x2O
-
( ;゚ω゚)「っ!」
それがわかった瞬間、内藤は背筋が冷たくなった。
目は見開かれ、全身の筋肉が硬直する。
――どうして気づかなかったんだお!
心中で、何度も叫ぶ内藤。
その理由は、自分は裏社会の恐ろしさを誰よりも知っているから、だろう。
また
「ちょっと、そこのお兄さぁぁ〜ん」
――右肩に感じる、手の重み。
耳の内側をくすぐるような、嫌な声。
そして、背骨の芯をなぞるような、オーラ。
背後には、誰かがいる。
.
- 340 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 20:49:46 ID:sp8t79x2O
-
( ;゚ω゚)「あッひゃあああああああ!!」
咄嗟に、前に転ぶように飛び込んだ。
だが、肩に残ったこの嫌な感触はすぐには消えない。
しかし、そんなことよりも今は、後ろにいる人を認識することが最優先だ。
内藤は抜けた腰に鞭を打って、何とか振り返った。
群青色の服を着た不気味な男が、怪しげな笑みを浮かべていた。
(’e’)「うひ…ふひひヒヒひ………」
( ;゚ω゚)「(み、見るからに怪しい……ッ)」
(’e’)「ねェお兄さぁぁん……」
(’e’)「ちょっとイイ事しない〜?」
( ;゚ω゚)「けけッけ結構でふ……す!」
この男の放つオーラが、『拒絶』のそれとは違うベクトルを持つ
気味の悪いものであったため、内藤は恐れ戦く他なかった。
尻餅をついたまま後退りし、距離を空けようとする。
だが、内藤の後方は即ち、裏社会へ着々と進んでいる、と云うことになる。
.
- 341 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 20:51:29 ID:sp8t79x2O
-
鼻につけたリング、手首に残る多くの傷、声に合わない巨漢、
怪物にでもなりたかったのか、こめかみに埋められたボルトと、男の容姿は明らかに異常だった。
更に恐怖心をくすぐる猫撫で声が、それらに拍車をかけていた。
内藤にとっては、アラマキたちがいないため
頼りどころがないことこそが最大の恐怖ではあったが。
とにかく、内藤に逃げ以外の選択肢はない。
なにか、些細なものでもいいから《特殊能力》を持っていれば応戦できるのだが、ない。
素手で戦うなど、相手が子供でもない限り勝つ見込みなどあるはずもない。
逃げないのは愚か者のすることだ。
内藤は、すぐさま逃げよう、と試みた。
(’e’)「頼むわよぉぉ〜逃げないでよぉぉ〜」
(;^ω^)「ちょッ僕急いでいるので――」
(’e’)「やだぁぁ〜ん! 逃げるつもりなら、手加減は――」
(’e’#)「しねぇぞゴルァァァァァァァッァア!!」
( ;゚ω゚)「ぎえああああああああッ!!」
男の顔が、声が、躯が、豹変った。
.
- 342 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 20:53:49 ID:sp8t79x2O
-
このままではまずい。
内藤は本能的にそう察して、急いで立ち上がろうとした。
その途中で咄嗟に男に背を向け、駆け出す。
不格好と笑われようが、負け犬だと罵られようが、逃走できればそれで勝ちなのだ。
根性論を信じる愚者に愚弄されようと、内藤は痛くもかゆくもない。
足の速さには自信があるので、なんとか男を撒けたら――そう思うと
(’e’#)「逃がさんぞッ!」
(;^ω^)「ッ!?」
男は、急にびしっと人差し指と中指を突き出すように内藤の足の方を指した。
すると、内藤は足に――否、地面に違和感を感じた。
がしっ、がしっ、と質感のあった地面から、質感が〝消えた〟のだ。
若干溶けかかっている氷の上で滑り止めのない靴を履いて走ったかのような感じがする。
そしてやはり、その氷の上で走るものならば転ぶように、内藤もその場で転んで、つーっと滑っていった。
その先の壁にぶつかって、内藤はわけがわからないものの咄嗟に近くの電柱にしがみついた。
滑ることはなくなったが、違和感は残ったままである。
内藤はその場ですぐに、相手の能力の考察に入った。
どんなキャラクターのものであろうと、能力ならば――例外があったが――自分が知らないものはないのだ。
それさえ把握できれば、あわよくば逃げ出せるかもしれない。
内藤は現状把握に努めた。
(’e’#)「う、うふふ、フフフふ……もう逃げらんないわよぉぉ〜?」
(;^ω^)「(この、行動を制限するかのような能力……
身に覚えがないわけでも、ない。……でも)」
(;^ω^)「(地面を氷にする能力なんか、あったかお……?)」
.
- 343 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 20:55:10 ID:sp8t79x2O
-
現段階でわかっていることは、以下の四点だ。
ひとつ、自分が走った地面が、まるで氷のようになって踏みとどまれなくなった点。
ひとつ、転んで地面に激突したのにも関わらず、滑っていって
このように電柱にしがみつかないと滑り続けていたであろう点。
ひとつ、それは一定の区間を自在に男の任意で操れる点。
ひとつ、男はこの状況下でも平生のまま歩ける点。
真っ先に思い浮かんだのが、対象物の属性、性質、特性を変化させるものだ。
風を石にして攻撃する、木の葉を硫酸にする、光に殺傷力を持たせる、など。
そうだとすると、内藤が滑り続けた理由がわかる。
地面を氷にすれば、いくらでも滑るのだ。
だが、そうだとすると男が歩けることに疑問点が残る。
一定区間の属性を変化させることはできるが、それは不可視のものである。
しかし男はずかずかと歩み寄ってくる。
目に見えない変化が起こっているのに、それに物怖じせず歩んでくる事など、果たしてできるだろうか。
自分が誤って氷の上に足を踏み入れるのかもしれないのに。
また、根本的な点で内藤は不審がっていた。
そのような能力、つくった記憶がなかったのだ。
あったとしても、もっと別の能力にするだろう。
ならば、他にはないのか。
考えていると、先に男が動いた。
.
- 344 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 20:56:17 ID:sp8t79x2O
-
(’e’)「電柱にしがみついてちゃ……」
(’e’#)「やぁぁ〜よッ!!」
(;^ω^)「ぬおっ!」
またも男が指を突きつけると、電柱に回していた内藤の手が
つるっと滑り、勢い余って電柱から手を離してしまった。
馬鹿な、しっかりとしがみついていた筈なのに――
そう内藤は思うが、そんなことに憂えている暇はない。
男が更に歩み寄ってくるのだ。
二人の距離は、七メートルを切った。
――そこで、内藤はひとつの可能性を掴んだ。
いま、指紋を貼り付けていた筈の電柱の肌が、
つるっと滑ったことによって生まれた可能性だ。
内藤は、そこである感想を抱いた。
――摩擦が、効かなくなっている?
.
- 345 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 20:57:59 ID:sp8t79x2O
-
(;^ω^)「――ッ! そうか、『摩擦』だおッ!」
(’e’)「!」
そこからの行動は速かった。
内藤は思ったままの言葉を口にした。
そのキーワードは、ずばり『摩擦』。
対象物の属性を変化させる能力は創った記憶がないが、
〝『摩擦』を『手付かず(フリー)』にする能力〟はあった、と。
電柱にはしがみつけないので、壁に手をつける。
まだここはつるつるしていないため、手をつければ滑ることは抑制できるのだ。
そこで内藤はしがみつきながら、威勢だけ立派にさせては大声で言い放った。
(;^ω^)「ネタはあがってるお!
【不協和音《フリー・フリクション》】ッ!!」
(’e’;)「――ッ!?」
男が、動揺した。
.
- 346 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 20:59:51 ID:sp8t79x2O
-
内藤が――躯を固定できず緊張した筋肉のせいで――
ぶるぶる震えながら、左手の指を突きつけて続けた。
(;^ω^)「対象物の『摩擦』を『手付かず』にして、相手に思う通りにさせない《特殊能力》ッ!」
(;^ω^)「僕の踏み込みやしがみつきによって生じる『摩擦』を、あんたは『手付かず』にしたんだお?!」
(’e’;)「〜〜〜ッ!?」
全てが図星だったようで、男は狼狽を隠しきれなかった。
歩ませていた足は自然と止まって、背を反って驚愕を露わにしている。
見た目一般人の中年に、たった数度の能力の適用で鼻を明かされるとは思いもしなかったのだ。
内藤は「いい感じだ」と思った。
少なくとも、相手にとって能力を明かされることは、さぞかし嫌な気分を生まされることになるだろう。
そこで相手に必要以上に不安を押しつけることができれば、
地面の摩擦が消えようと内藤にも逃げのチャンスは生じる。
特に、こう云った知性の低そうな男だと、尚更だ。
内藤はここで相手の本名や趣味などもばらして、更なる負担を押しつけようと考えた。
躯の向きを変えて、逃げる準備もする。
そして
(;^ω^)「ばればれなんだお、【不協和音】の―――」
(’e’;)「………!」
(;^ω^)「―――………」
(’e’;)「……」
.
- 347 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 21:01:08 ID:sp8t79x2O
-
(’e’)「……?」
( ^ω^)「………」
(;^ω^)「……あれ、名前なんだっけ」
(’e’)「………」
(’e’)「……は?」
(;^ω^)「(しまった! いちいちモブキャラの名前なんざ覚えてねーおォォォォォ!!)」
内藤は、そこで頭を抱えた。
せっかく相手に与えた精神的不安も、今の内藤の失態を見て一気に取り払われたようだ。
現に男は、虚を衝かれたような顔だったのが、一転呆気にとられたような顔をしている。
名前を思い出せないなら趣味や特徴、住所などでも良いと思い再度思いだそうとしたのだが、
名前すら思い出せないキャラクターの、より詳細な情報など覚えている筈もない。
内藤がうんうん唸っているうちに、男は痺れを切らして、歩み寄ってきた。
内藤がそれに気づいたのは、距離が四メートルにまで詰め寄られた時だ。
.
- 348 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 21:02:58 ID:sp8t79x2O
-
(’e’)「……一瞬びびっちゃったけどぉ……」
(;^ω^)「!」
内藤がふと顔をあげると、目の前に男がいた。
狂気にうち震えた顔でも、憤怒に歪ませた顔でもない、無表情だった。
その無表情に、裏通りならではの皺による影が映っていたので、不気味さが増していた。
ただでさえ不気味なのに、これでは内藤の顔が歪む理由にも肯ける。
(’e’)「相手の能力を見抜く能力?
タマの奪い合いじゃ、役立たずなのねぇぇ〜?」
(;^ω^)「(完全に開き直った! もうこの作戦は無理か……!)」
(’e’)「それにぃぃ〜…」
(;^ω^)「おわっ!」
内藤の頭部のすぐ上を掠めるように、男が右フックを放った。
いや、フックかと思えたが、直後に擦るように壁を下から上に突き上げた。
直後、内藤の頭の上で爆発が起こったかのような音が響いた。
ぱらぱらとコンクリートの破片が飛び散る。
内藤の頭にもそれが載るので、内藤は恐怖を実感できてしまった。
.
- 349 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 21:05:03 ID:sp8t79x2O
-
(’e’)「『手付かず』ってことはつまり、強化もできるのねん?
だからワタクシのカミソリパンチは世界一〜ってねェん」
(;^ω^)「さ……さいですか……」
(’e’)「だから……」
(’e’*)「食べさせてもらうわよん?」
( ^ω^)
内藤は、男の股間部がズボン越しで
膨れ上がっているのに、気が付いた。
( ^ω^)
( ;゚ω゚)「ええええええええええッ!? 賊じゃなくってゲイ!?」
(’e’)「賊とか身包み剥ぐのとかって、卑怯じゃなァい?
ワタクシはね、欲求を満たせたらあとは何でもいいのぉぉ〜ん」
( ;゚ω゚)「お金出すから見逃してええッ!!」
(’e’)「だめ」
直後、男のカミソリパンチがまたも内藤の頭上を通り過ぎていった。
地面と平行に刻まれた傷は、人間がつくったとは思えないものだった。
コンクリートの壁が抉れて、しかし男の拳には傷ひとつないのだから。
(’e’)「ワタクシはね、セント=ジョーンズ。
逃げようとしたら、穴と云う穴を抉りまくるわよん?」
( ;゚ω゚)「(どーしてこんなキャラを創ったんだお僕の馬鹿………!)」
セントの手が、内藤に伸びる。
命の保証はできたとしても、内藤としては死にたい気分だった。
.
- 350 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 21:07:25 ID:sp8t79x2O
-
. ロック
「『封印』」
――その一瞬に放たれた言葉を、内藤は聞くことができた。
だが、あまりに急な言葉であったため、その意図を理解することはできなかった。
.
- 351 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 21:08:46 ID:sp8t79x2O
-
(’e’)
( ; ω )
( ^ω^)「………お?」
しかし、ひとつ違和感があったとするなら。
セントの動きが、固まってしまったことだ。
手は、内藤の鼻先数センチのところまで伸びている。
どういうことだ――と内藤が不審に思った時。
(’e’;)「……!? 手足が動かねェ…ッ!!」
(;^ω^)「だッ誰だお!?」
セントが苦悶の表情を浮かべて、言った。
その瞬間、いきなりセントの動きが止まったのは第三者の影響だ、とわかった。
そのため、内藤はそう声を発した。
どこにいるのか、わからない。
気配すら感じない。
だが、確かにその人はそこにいる。
だから、セントに『異常』が来されたのだ。
内藤が声を発しない理由はなかった。
.
- 352 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 21:10:44 ID:sp8t79x2O
-
すると、「声」は答えた。
「おっと……。邪魔しないほうがよかったか?」
(;^ω^)「そんなことないです、ありがとう! でも誰だお!」
(’e’#)「だッ……誰だあああああああああああッ!!
オレの邪魔をするやっつぁあああああああああああああ!!」
セントも冷静さを失って、「声」に恫喝を浴びせる。
しかし「声」が動じることはない。
落ち着き払った声で、「声」は返した。
「私は男、特に男同士、と云うものが嫌いでね。つい手を出してしまったよ」
「なんて汚らわしい」
セントは、そのぼそッと放たれた一言に反応した。
(’e’#)「てッ……て、てめ…えええええええええええッ!!」
(’e’#)「空気抵抗が…肌に与える『摩擦』を……『手付かず』に!!」
(;^ω^)「ッ! おい、危な―――」
.
- 353 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 21:13:48 ID:sp8t79x2O
-
セントの能力の適用に、内藤はその「声」に危険を知らせた。
万有物と万有物とが接触するのに、必ず摩擦は生じる。
セントは、空気と肌が擦れ合うのを『手付かず』――
つまり摩擦を増幅させて、全身の肌をずたずたにさせようとでもしたのだろう。
内藤が危惧しない筈がなかった。
ここで「声」が死ねば、自分を助けてくれる人はいなくなるのだから。
しかしその危惧は杞憂に過ぎなかった。
なぜなら、〝なにも起こらなかった〟のだから。
「大馬鹿者が。貴様の能力など、既に『封印』している」
(’e’)「!」
( e ;)「が……ガアアアアアあああああああああああッ!!」
(;^ω^)「!? な、なにが――」
いや、なにも起こらなかったどころか、セントは急にもがき苦しみだした。
内藤は状況を把握するのが間に合わず、混乱状態に陥っていた。
そんな内藤を見たためか、「声」は言った。
.
- 354 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 21:19:58 ID:sp8t79x2O
-
「お返しに、貴様の、体内での空気の流れを『封印』した」
( e ;#)「!!?」
「ついでに心臓の動きも『封印』。肺の運動も『封印』。筋肉の膨張も『封印』。
関節部の動きも『封印』。血液循環も『封印』。
痛覚以外の機能も『封印』。体内の時の流れも『封印』。死も『封印』。」
( e )
( ;゚ω゚)
内藤は、絶句した。
先ほどまで生き生きとしていたセントが
急に謎の死を遂げたかのように固まってしまったのだから。
目は白眼を剥き、開きっぱなしの顎からは生気が感じられない。
これが先ほどまで動いていた生物なのか、と疑ってしまう程。
.
- 355 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 21:21:38 ID:sp8t79x2O
-
また、絶句した理由は他にもあった。
『封印』と云う言葉を聞いて、少しなにかが引っかかったのだ。
( ;゚ω゚)「『封印』……ッ」
「……?」
( ;゚ω゚)「(いた! 〝なにもかもを『封印』する〟とんでもないボツキャラッ!)」
「どうした。貴様には何もしてないのだが」
(;^ω^)「(はッ!)
なな、なんでもないですお! ありがとうございますお!」
「私の性分でやったまでだ」
――昔、これも『拒絶』と同じように〝構想だけした〟設定があった。
それらをボツにした理由は複数あるのだが、それの最たるものは『拒絶』と一緒。
ただ、強すぎるから。
どんな名前だったか、どんな人がいたか、どんな能力があったか。
そのほとんどを忘れているのだが、そのなかの一人が「彼女」だと云う確信だけはあった。
名前も能力名もわからないのだが、不思議とそう云う自信はあったのだ。
そこで、その霧を払おうとしない理由はない。
もしかすると、『拒絶』以外のなにかも動いているのかもしれないのだ。
それを知っていてみすみす見逃すほど、内藤はこの世界に冷たいわけではない。
地面に摩擦の概念が復活しているのを確認して、内藤は立ち上がった。
地に足はついているのに、足が震え、壁に手をかけないと満足に立てない。
内藤は根気だけで直立しては、目の前の空間に声を投げかけた。
なにもない、空間。
そこに話しかける光景を一般人が見れば、内藤を異常者だと思いこむだろう。
しかし、そんな通行人などいない上に、内藤が今更奇行に躊躇することなどないのだ。
.
- 356 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 21:23:20 ID:sp8t79x2O
-
(;^ω^)「……姿を現せお」
「?」
(;^ω^)「あんたが『自分の可視される姿』と『気配』を
『封印』していることくらい、とっくに見抜いてるお」
「……」
(;^ω^)「……」
その場に、漸く静寂が生まれた。
誰もいないであろう裏通りであるため、本来はこうでなくてはいけないのだ。
裏通りの雰囲気を考慮したわけではないのだが、自然と静寂は生まれていた。
少しして、彼女は答えた。
「……貴様は、何者だ」
(;^ω^)「ただの小説家で、能力なんてものはないお」
「………そうか」
(;^ω^)「今度はこっちが訊くお」
「なんだ?」
(;^ω^)「名前と……ここに来た、目的」
「………ふぅむ」
.
- 357 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 21:26:19 ID:sp8t79x2O
-
女は声で考える素振りを見せる。
内藤は、女の姿が見られない。
だが、その声だけでなんとなく姿を見ている気にはなれた。
少しして、溜息と同時に女が姿を現した。
そして、内藤の質問に答えるのであった。
( )「名乗るほどの者ではないとして……目的、か」
(;^ω^)「(……鍵のブレスレット……?)」
女の容姿は、端的に言うと「美しい」だった。
街灯に照らされた艶やかな黒髪が、より美しさを引き立てている。
しかし、逆光ゆえ女の顔が見えなかったのが、難点だった。
すると、女は踵を返しながら口を開いた。
その一瞬だけ、顔を見ることができた。
川 ゚ -゚)「人捜し、かな」
.
- 358 :同志名無しさん:2012/12/28(金) 21:28:44 ID:sp8t79x2O
- 十八話「vs【常識破り】Ⅱ」は以上です
ちなみに、今回の話は、私が自分で気に入ってる回でもあります
画面の見すぎで頭が痛くなった…
お付き合いありがとうございました!
- 359 :同志名無しさん:2012/12/31(月) 12:28:37 ID:U7a86CoI0
- 乙!
ここでクー登場か
- 360 :同志名無しさん:2013/01/01(火) 04:16:08 ID:/FILvOgM0
- おつー!
ペースが早くて嬉しい
- 361 :同志名無しさん:2013/01/01(火) 11:53:18 ID:Mu5swc82O
- 書きためが七話分まだ残ってるんですが、
一気に更新するか1-2/週で投下するかで悩んでます
あ、あけましておめでとうございます
完結までにあと年を二、三回は越すかと思うけどこれからもよろしくです
- 362 :同志名無しさん:2013/01/01(火) 14:43:31 ID:jn3v/mwA0
- もしや超大作か…!
- 363 :同志名無しさん:2013/01/01(火) 17:36:44 ID:Mu5swc82O
- 今後の展開次第だけど、このまま行ったら百話前後は行きそうです
全てで六部か七部まで行く予定なので
- 364 :同志名無しさん:2013/01/01(火) 22:38:37 ID:mMYoLLrc0
- ファッ!?
ま、まぁともかくプロットがあるってことはいいことだ
できれば一気に投下してほしいな
- 365 :同志名無しさん:2013/01/01(火) 23:11:20 ID:Mu5swc82O
- 残念ながら能力案とオチと伏線が脳内にあるだけで、たいそうなプロットなぞは……
ちなみに、拒絶編は35話くらいまで続くかなって感じです
第三部以降はともかく(拒絶編は一応おおまかな流れは考えてあるため)逃亡するにしても拒絶編だけは書くつもりですのでよろしくお願いします。そうすると伏線めっちゃ残ることになるけど
一気……
じゃあ(さすがに文丸さんにかかる負担がえぐくなりそうなので)文丸さんの今までの分のまとめ作業が終わり次第25話まで一気に投下します
- 366 :同志名無しさん:2013/01/02(水) 03:46:02 ID:I5l7AQQc0
- 文丸さんが生きてるか不安だけど、楽しみに待ってる
- 367 :同志名無しさん:2013/01/07(月) 10:16:12 ID:6..vWCj6O
- おーい、偽りシリーズ書き続けてくれよ
正直、そっちのほうが好きなんだよ
できればごちそうさまも最後まで読みたいよ
- 368 :同志名無しさん:2013/01/08(火) 00:03:36 ID:Bz2vymdw0
- この誰も彼もがある意味最強ってのがわくわくするね
前提とかキッカケとか拒絶するやつもいるのかね?
- 369 :同志名無しさん:2013/01/08(火) 21:22:53 ID:PKrKWSwwO
- どうやら文丸さんが多忙のようなのですが、まとめを待たず投下すべきか否か悩んでます。どうしよう
書きためは二十六話まで進んでます
>>367
レスにあったように趣味(自己満足)で書きはしてるんですが、
「面白さ」だの地の文の読みやすさだの考え出したら自信がなくなって…申し訳ないです
ごちそうさまは、スレのよからぬ雰囲気を察知して投下を見送りました
短いので、書きため全部終わればVIPで改めて投下しようかなって考えはしてます
>>368
そう感じてくれるのが、書いてる上での一番の幸せです
公開に先立ったネタバレはできないので答えにくいけど、
少なくとも後者は「『因果』を拒絶する」ってことでワタナベがいますね
- 370 :同志名無しさん:2013/01/09(水) 02:07:24 ID:uKg6oSsQ0
- 読者としては投下は早い方が嬉しい
- 371 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 14:57:26 ID:yFbeLTKIO
-
○登場人物と能力の説明
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
(゚、゚トソン 【???】
→時や力を『操作』した『拒絶』の少女。
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
_
( ゚∀゚) 【???】
→『拒絶』に関わりを持つ科学者。
.
- 372 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 14:58:58 ID:yFbeLTKIO
-
○前回までのアクション
( ^ω^)
川 ゚ -゚)
(’e’)
→対面
( ・∀・)
/ ,' 3
( <●><●>)
从 ゚∀从
→対面
( ´ー`)
(゚、゚トソン
→バーボンハウス
.
- 373 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:00:01 ID:yFbeLTKIO
-
第十九話「vs【常識破り】Ⅲ」
モララーが今『混ぜ』ている『嘘』の数を聞いて、アラマキとハインリッヒは圧倒された。
というより、あまりにも非現実的な数字であったため、実感ができすらしない。
とても嘘を吐いているような雰囲気には見えなかったが、ハインリッヒとしてはそれそのものが『嘘』であると疑わざるを得なかった。
从;゚∀从「――ハ!?」
低い身長、そして左目の方にかかる程長く白い髪の向こうから、見上げるようにモララーを見つめる。
呆気にとられ、圧巻され、圧倒され。
ただ言葉にできない感情を、ハインリッヒは目で訴えた。
その感情を、モララーは読みとれたのだろうか。
少なくとも、その表情や眼光を受け取って、決して強気でいるとは察しないだろう。
敵意を削ぐことができたようで、そのためモララーは別段なにかをしようとは思わなかった。
.
- 374 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:01:31 ID:yFbeLTKIO
-
/ ,' 3「――ってのが『嘘』じゃな?」
一方、冷静なままでいられるアラマキが慎重に答えた。
太い眉の下から覗く鷲のような眼光が、モララーのなよなよとした躯を捉える。
『威圧』的なその視線を受け取って、一般人なら平伏すか逃げ出すかするであろう筈が、
モララーはアラマキを細めた横目で一瞥を与えてから、鼻で笑う程度だった。
アラマキは「なにがおかしい」と静かな――しかしずっしりと重い――声で訊いた。
ハインリッヒが動揺しているからこそとれた、沈着な態度だった。
若い女性が動揺している隣にいる老いた紳士とは、得てしてそのようなものなのだ。
( ・∀・)「んな『嘘』吐いたって何のトクにもなんねーよ。俺は利得的な嘘しか吐かねーんだ」
おどけるような態度もとらず真面目にそう言い放ったため、一見すると『嘘』とは思えない言葉だ。
尤も、平気な顔してとんでもない『嘘』――それこそ、ハインリッヒの前例のように
誰かを殺すと云った――を吐くモララーの言葉だから、信用に値するわけではないのだが。
その前例と比べると、真偽を悩ませる程度の信憑性はあったと言えるのだろう。
.
- 375 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:02:50 ID:yFbeLTKIO
-
从 ゚∀从「おかしいぜ。それが本当だとすっと、なんでそんな一億レベルの数字の一の位までぴたりと言えたんだ?
まさか、今までずっと数えてきたとか言わんよな?」
その点に気づき、ハインリッヒが強気に出る。
モララーの放った『嘘』の数、それは本人曰く一億を超えていた。
しかし、概数ではなくきちんと一個単位で答えてみせた。
そこにこの拒絶の突破口があるのではないか、と思ったのだ。
まあ、言うまでもなくモララーはその程度のことで口車にのせられるような男ではない。
むしろハインリッヒの言葉を待ってましたと言わんばかりに反応を見せた。
( ・∀・)「ああ。数えちゃいねー」
从 ゚∀从「ハン! 認めやがったな、ほら吹き――」
( ・∀・)「『俺は今までに吐いてきた嘘の数を把握している』っつー『嘘』を吐いたんだからな」
从;゚∀从「――!?」
瞬間、ハインリッヒは恐怖と云う名の拒絶を感じて、姿勢を低くさせた。
意識してとった行動ではない。
まさに、本能が告げた防衛反応だった。
モララーはのっぺりとした顔のまま続けた。
.
- 376 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:04:22 ID:yFbeLTKIO
-
( ・∀・)「その『嘘』も含めた数が、さっき言った通りだ」
( ・∀・)「物理的なモンだけじゃねえ。
概念、因果律、時間軸、精神、次元。
俺の『嘘』は、それこそ多岐に渡ってんだぜ。
むしろ、一億個程度で済んだのか――ってことに驚いたな、俺は」
( <●><●>)「……時間軸?」
そこで、黙っていたゼウスが口を開いた。
腹の穴の痛みこそするが、それを顔に出す男ではない。
その苦痛を意識して声にするなど、以ての外の話である。
( ・∀・)「トソン――つっても知らんよな。俺の連れのその女にゃ負けるが、俺も歳とってんだぜ」
从;゚∀从「………どういう意味だよ」
( ・∀・)「俺、何歳に見える?」
唐突に、モララーがハインリッヒにそう訊いた。
顔をぐッと近づけ、指を自身の鼻先に向けて。
拒絶の精神を発している男に瞬間的に詰め寄られて、ハインリッヒは少し腰が引けた。
それを声にしなかっただけで、よく耐えた、と自分で褒めもしたほどだった。
.
- 377 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:05:48 ID:yFbeLTKIO
-
ぱッと一般人がモララーを見たところ、二十台には見えるだろう。
美形なだけで本当は三十路に入っているかもしれないが、それ以上だとは思えない。
若々しい体つきに、若々しい声と、若々しい要素が揃っているのだから。
自身も若いハインリッヒは、嫌な予感がしつつも思ったままのことを言った。
从 ゚∀从「……私と同じくれぇじゃねーのかよ」
すると、モララーは大笑いした。
左手で腹を、右手の人差し指でハインリッヒを指して。
( ;∀;)「ギャッハハハハ!! お、おまえ、実は婆さんかよ! ロリ系のくせに!」
从;゚∀从「は―――ハ?」
声が耳に障る。
耳鳴り以上の不快な音がすぐそこから発せられる。
苦い顔をしてハインリッヒが一歩後退りしたところで、モララーは笑い声を発するのをやめた。
ぜえ、ぜえ、と呼吸を整え、涙を拭っている間も、ハインリッヒからはその不快な心地は拭えない。
( ・∀・)「俺、二百歳ちょっと」
从 ゚∀从
.
- 378 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:07:01 ID:yFbeLTKIO
-
从;゚∀从「ハァァァァァァッ!? てめえふざけんのも――」
( ・∀・)「『この時の流れ』は、全部『嘘』。そう言って何度もやり直したからな」
从 ゚∀从「――ッ!」
そこで、ハインリッヒははッとした。
一瞬はさすがに冗談だ、と思ったが、考えてみれば理屈が通るのだ。
モララーが時間相手でさえ『嘘』を適用させられるのであれば、それを利用しない筈がない。
モララーの『嘘』が適用されない範囲は、考え得る限りでは無いのだ。
もしかすると、その規格外なスキルに自然のうちに圧倒され、「モララーは強い」と思ってしまったのかもしれない。
理屈なんて通らない論外で、
定見など持つ筈もない不条理で。
文字通り―――常識破り。
.
- 379 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:08:41 ID:yFbeLTKIO
-
ハインリッヒは、「こいつに勝てるのだろうか」と、幾度となく抱いてきた不安を、抱いた。
その規模は過去最大級の物であることにも、薄々気づいていた。
モララーは、本当に、強い。
いや、「強い」のではなく、次元が違う。
「勝つ道理が存在しない」、モンスターだ、と。
( <●><●>)「………用件は…私たちに恐怖を植え付けにきただけ、か?」
( ;∀;)「ギャーッハッハッハッ!! お、おまえが言うとシュールだな!
『恐怖』の代名詞、ゼウスさんよォ!!」
( <●><●>)「……」
( ;∀;)「ハハ………」
( ・∀・)「…ふぅ」
( ・∀・)「用件、ねぇ」
そこで、モララーの顔は真面目なそれに戻った。
『拒絶』は皆表情豊かなのであろうか、とゼウスは考える。
ただワタナベとモララーがそうであるだけなのであろうが、感情の起伏が激しいと云うことには違いないだろう。
感情が引き起こした最悪の感情が、拒絶。
その拒絶に呑み込まれたのが、彼らなのだから。
.
- 380 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:09:48 ID:yFbeLTKIO
-
モララーは腰に両手を当て、肩幅ほどに足を開いた。
首を数度左に傾け、視線は三人の間を往復させる。
モララーが口を開いたのは、それから数秒経った頃のことだった。
( ・∀・)「ワタナベとショボンを、呼び戻しにきたんだよ」
/ ,' 3「……っ」
――アラマキも、ハインリッヒも、ゼウスも。
その言葉を放った時のモララーの表情だけは、見逃すことはなかった。
拒絶でも、憤怒でも、狂喜でもない。
寂寥が、彼の顔面を覆ったからだ。
まさか、『拒絶』がそのような哀しい表情をするなど、思いもしないだろう。
だから、彼のその表情と声色は、意外の一言で済む話ではなかった。
.
- 381 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:12:46 ID:yFbeLTKIO
-
( ・∀・)「なんでだろうな。ワタナベもショボンも、命だけじゃなくて
存在そのものがこの次元から消えてる気がすんだ」
ショボンは、「底のない落とし穴」に落とされてしまい、内藤の見解によると
「次元として存在しない次元」で永遠に落ち続ける『現実』を目の当たりにしているようだ。
既存の無限次多元のどれにも属さない、言わばショボン専用の新たな次元であるため、
そこに存在ごと落ちたショボンは、この世から存在そのものが抹消されたと言ってもいい。
ワタナベは――と考えると、アラマキは不思議に思った。
ゼウスが救護室に運んだのではなかったのか、と。
今はそれを口にすることはなかったが。
( ・∀・)「まさか、【ご都合主義】と【手のひら還し】が死ぬなんてよ。
死ぬわけねーって楽観視してただけに、ショックはでかいな」
/ ,' 3「……」
( ・∀・)「どうしたんだよジジィ」
.
- 382 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:13:42 ID:yFbeLTKIO
-
アラマキが何か言いたげな顔をして、モララーをじっと見つめた。
その視線に気づいて、モララーは半ば挑発するように問いかける。
アラマキがそこから更に言葉を返すのに、時間がかかった。
/ ,' 3「……それをも『嘘』にして、あやつらを生き返らせたりはせんのじゃのう、ての」
( ・∀・)「ジジィ、嘗めてんのか」
/ ,' 3「!」
瞬間、モララーの拳がアラマキの顎にぴたりとつけられていたことに気が付いた。
ノーモーションからの、まさに一瞬。
どのような『嘘』を吐いたのかは言うまでもなく想像できる。
アラマキは、その行動に驚きを隠せなかった。
それ以上に、いきなり剥き出しにされたモララーの殺気にアラマキは圧倒された。
先ほどまではおどけた様子だったモララーが、なぜかいきなり殺気を奮い立たせたのだ。
強者のモララーがそうしただけに、びりびりと肌で感じるそれにアラマキはただたじろぐだけだった。
.
- 383 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:15:22 ID:yFbeLTKIO
-
コ レ
( ・∀・)「俺の【常識破り】はあくまで『嘘』、虚構なんだぜ」
( ・∀・)「虚構のショボンやワタナベを生み出して、俺が喜ぶとでも思ってんのか?」
/;,' 3「………」
( ・∀・)「それに、『もう一度あいつらのスキルを使ってもらったらいい』とかほざいたら、顎かち割るぞ」
( ・∀・)「そんな、虚構の勝利なんざ渡されても――」
( ・∀・)「……俺は、ちっとも満たされねーんだからよ」
.
- 384 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:16:39 ID:yFbeLTKIO
-
/ ,' 3「…っ」
モララーがそう言うと、顎につけていた拳を離して、モララーは踵を返した。
両手は力なくポケットに突っ込まれ、顔を俯かせたモララーは彼ら三人のもとから遠ざかるように歩いていく。
ざっ、ざっ、と地面の砂を削る音が、この彼らを取り巻いている静寂に程良くマッチする。
それに相俟って、モララーの背中には哀愁が感じられるようにもなっていた。
アラマキは、暫くの間、そのまま立ち尽くしていた。
何も言葉を発さずに、ぼうっと。
.
- 385 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:17:54 ID:yFbeLTKIO
-
◆
(-、-トソン
トソンは、淡々とグラスを磨き続ける。
汚れがひどいとか、それに血痕が残っていたとか云う理由ではない。
ただ、惰性的にそうすることがバーテンらしさを醸し出すからしているだけだ。
実際にこうして磨いている間に考えていることは、付いている汚れをとることなどではなかった。
今晩の献立はどうしようか、とか。
モララーのせいで買い物が邪魔された、とか。
あとでどんな酒を呑もうか、とか。
隣でごろごろしているビーグルのこと、とか。
――ビーグルの今後、とか。
取り立てて言うまでもないことばかりで、心中に留めるのが相応しいものばかりだ。
その心情は穏やかでも、緊張でも、虚無でもない。
至って平生の、「トソン」と云う心情である。
(-、-トソン
カウンターを挟んで向かいにいるネーヨのことを意に介さない。
自分の世界に入り込み、トソンと云う思考を巡らせる。
それに飽きたのか、ネーヨは空のグラスを左右に傾けるのもやめ、カウンターにそれを置いた。
その音でトソンが気づくかと思ったのだが、依然トソンは目を瞑りグラスを磨き続けている。
ネーヨはやれやれと思ってから、仕方なく口を開くことにした。
.
- 386 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:18:52 ID:yFbeLTKIO
-
( ´ー`)「トソン」
(-、-トソン
だが、返事はない。
静かな呼吸音しか聞こえない。
( ´ー`)「トソーン」
(-、-トソン
ネーヨが再度呼びかける。
やはり、返事はない。
無視をしているのかそれが平生なのか。
ネーヨは判断に困ったが、ネーヨが頬杖を付くと、トソンの足下にいたビーグルが、今度は腹を見せて左右に揺れ始めた。
その小動物特有の理解し難い行動を知ってか、トソンの頬が僅かにだが歪んだ気がした。
それをネーヨが見落とすわけがない。
( ´ー`)「おめえ、実は起きてんだろ」
(゚、゚トソン「まあ」
( ´ー`)「なんつーやつだ」
▼・ェ・▼「くーん…」
(゚、゚トソン「あ、もう……。餌は後でモララーに買いに行かせるから、待ってて?」
▼・ェ・▼「くぅ……」
( ´ー`)「……なんつーやつだ」
.
- 387 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:19:57 ID:yFbeLTKIO
-
ネーヨは何度目になるかわからない溜息を吐いた。
溜息を吐くたび、幸運が逃げる。
そのような言葉を幾度となく聞いてきてはいるけれど、吐かざるを得ない時は自然と唇の隙間から零れ出るのだ。
トソンが透き通った瞳を通してネーヨの顔色を写真のレンズで写すかのように見る。
シャッターを切るように瞬きもしてみる。
真面目すぎる、と叱られもするトソンではあるが、『拒絶』たるネーヨと馴れ合うつもりなど到底ないのだ。
寡黙、が似合うその姿にもネーヨは飽き飽きしていた。
だから、そんなトソンの所以など考えもしなかった。
( ´ー`)「客、来ねえのな」
(゚、゚トソン「……?」
ネーヨがそれほど興味なさそうに訊いてみると、トソンは首を可愛らしく傾げるだけだった。
その質問の真意はおろか表面の色すら読みとろうとはしないのだから、ネーヨもこれは重症だ、と苦笑した。
トソンと云う女性は、得てしてその真面目さが性分なのだ。
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- 388 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:21:04 ID:yFbeLTKIO
-
( ´ー`)「一応、店じゃねーかココ。俺らに奢ってばっかだわ他の客は来ねえわで、大丈夫なのかよ」
(゚、゚トソン「運営なら問題ないです。お金は適当に掻っ払えばいいだけですから」
悪びれた様子をその片鱗すら見せずにしれっと言ってのけたため、ネーヨは若干引いた。
ネーヨは倫理や道理、などと云ったものを意識することはないのだが、トソンの考えには同意できなかったのだ。
そして、バーを運営する背景にそのような事情があるとわかると、酒の味が濁る気がしたのだ。
裏通りに赴けば、嘗てネーヨが直面したクックルと云う賊に見られたように、
掻っ払いと云う行為は日常茶飯事であるとわかる。
しかし、賊は低俗、とネーヨは考えている。
低俗な輩と同じ事をする人が目の前で自分に酒を注いでいる、と考えるだけで酒の味も変わるのだ。
酒とは実に面白い、とネーヨは思った。
――と彼が無関心な顔色を浮かべていると、トソンが言葉を続けた。
彼女の口はまだ止まるつもりはなかったそうなのだ。
(゚、゚トソン「それに、元マスターに叱られます」
( ´ー`)「……元マスター?」
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- 389 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:22:26 ID:yFbeLTKIO
-
(゚、゚トソン「ショボンさんですよ」
( ´ー`)「そうだったんだ」
ネーヨは口先だけで応える。
(゚、゚トソン「驚かないのですね」
( ´ー`)「興味ねえしな」
(゚、゚トソン「……はあ」
トソンは、褒められると思って期待で胸を膨らませていたところ
その予想とは裏腹に褒められなかった、そんな小学生の気持ちになった。
酒の肴にでもなるだろうから、ネーヨは食いつくと思っていたのに。
そう思うと、若干興醒めに近い心情になった。
トソンは幸せを逃がして溜息を吐いた。
(゚、゚トソン「……ショボンさん、モララーの宣戦布告の前日に、急に私にバーを委せてきたのですよ」
( ´ー`)「それより前もおめえがバーテンじゃなかったっけか?」
(゚、゚トソン「それはお手伝い、言うところの見習いです」
( ´ー`)「確かに動きは覚束なかったけど、よ」
トソンは差し出されたグラスを取り、酒を注ぐ。
淡い赤色がライトの反射で栄えるそれを、ネーヨに返した。
上戸のネーヨはいくら呑んでも簡単に酔うことはない。
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- 390 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:23:48 ID:yFbeLTKIO
-
(゚、゚トソン「そんなこのバーを、客足が遠退くくらいで閉店しちゃっては、何をされるか堪ったものじゃありません」
( ´ー`)「だからって、酒がまずくなるようなことは言うなよ」
(゚、゚トソン「私は正直ですから」
やはり悪びれる様子もなく答える。
店内に犬を連れ込んでいる――正確に言えばモララーのせいではあるが――
時点で、掻っ払いが悪いも何もないのだろうが。
ネーヨが酒を口に運ぶのも、ネーヨのように無関心な心構えで見るだけであった。
グラスの半分ほどを一気にのみ干して、ネーヨはグラスを置いた。
トソンを見ると、彼女はいつの間にかグラスを磨く作業に戻っている。
目を閉じ、淡々とするその姿は人間によく似せたロボットのように見えなくもない。
これでは何も面白くないので、ネーヨは仕方なくトソンの話にのることにした。
何よりも大事なのは、酒だ。
――今は。
.
- 391 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:24:49 ID:yFbeLTKIO
-
( ´ー`)「けどよ、いくらショボンだからってなんでおめえに店譲ったんだ」
語尾を吊り上げ、わざとらしく問いかけた。
漸く〝褒めて〟もらえたトソンは、内心で喜んで、話に応じる。
(゚、゚トソン「わかりません」
( ´ー`)「……おい」
(゚、゚トソン「ただ……」
( ´ー`)「ただ?」
(゚、゚トソン「こう云う『現実』になるのだ――って、わかってたのかもしれません」
(゚、゚トソン「それか……〝そう云う『現実』にした〟か……」
( ´ー`)「……どう云うことだ?」
(゚、゚トソン「恐らく――考えたくはないですが」
トソンは、知らぬ間に速くなっていた呼吸を、整えた。
何かに夢中になると生命活動すら疎かになる、面白い体質なのだ。
(゚、゚トソン「ショボンさんは、今頃……」
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- 392 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:27:30 ID:yFbeLTKIO
-
( 、 トソン「……」
( ´ー`)「……」
そこで、トソンは次の言葉を発さず、少し俯いた。
照明の角度の影響で、トソンの顔色は壁となった影のせいで見ることができない。
しかし、トソンが、それとなくマイナスな言葉を紡ごうとしていたのだろう、とだけわかることはできた。
( ´ー`)「どうでもいいけどよ」
(゚、゚トソン「!」
ネーヨが予想外の言葉を発して、トソンがそれに食いつかないわけがなかった。
どうでもいいわけがない、ショボンは仲間――いや、同志だぞ。
喉まででかかったその言葉を、無理矢理押し込める。
結果、肺が一瞬大きく膨れ上がっただけとなった。
その動きは、カウンター越しではわからなかっただろう。
( ´ー`)「生きている以上、死ななくちゃならねえんだよ。
それが『現実』で、ショボンはその『現実』の名の下に生きる以上、それには抗えねえんだ」
( ´ー`)「モララーだってそうだ。『嘘』で塗り固めた蝋燭みてえな男だが、
『それは嘘の塊である』っつー『真実』には抗えん」
( ´ー`)「みんな、案外そう云うもんなんだよ。『拒絶』だろうとな」
(゚、゚トソン「……」
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- 393 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:28:25 ID:yFbeLTKIO
-
トソンは、黙り込んだ。
『拒絶』の代名詞が言おうと説得力は皆無な言葉ではあるが、トソンの心を数ミリでも揺さぶるには充分なものだった。
その言葉でトソンの何かが変わる、と云うわけではないのだが。
ネーヨは姿勢を正して、トソンに指を突きつけた。
掌を上に、トソンに挑発するように突きつけた人差し指の関節をかくかくと動かせる。
( ´ー`)「俺が『拒絶』の在り方っつーもんを見せてやるよ」
(゚、゚トソン「?」
( ´ー`)「俺の心臓を、拳で貫いてみろ」
.
- 394 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:29:41 ID:yFbeLTKIO
-
(゚、゚トソン「!」
( ´ー`)「おめえのスキルなら、ダイヤモンドだろうと、指ぱっちんで破壊できんだろ?」
それは知っている。
トソンの能力ならば、この世界に存在してはならないべきである筈の数値を叩き出す事ができるのだ。
兆の兆乗、も。
無限の更に上の数値、も。
わからないのはそこではない。
なぜ急にこの男は。
ただ、それだけだった。
ネーヨは尚も続ける。
( ´ー`)「たった一人の男を、ばらせねえっつーのか?」
(゚、゚トソン「……どうして、見え透いた挑発を?」
( ´ー`)「挑発じゃねえよ、講座だ」
(゚、゚トソン
( ´ー`)「教師が身を賭して生徒に教えんだよ、『拒絶』を」
( ´ー`)「ショボンやモララーがするような虚構の『拒絶』じゃねえ―――」
.
- 395 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:31:12 ID:yFbeLTKIO
-
( ´ー`)「ホンモノの『拒絶』を、なあ」
( 、 トソン「……」
不敵な笑みを浮かべるネーヨに、トソンは口を子供のように尖らせるだけだった。
自分が文字通り子供のようにされている気がして、嫌な気分になった。
それがネーヨの目論見――挑戦の効果に過ぎないものとは知らず。
ネーヨが、そんなトソンに一瞥を与えてグラスに手を伸ばした時
トソンは、ネーヨの真後ろに、右拳を構えて現れていた。
.
- 396 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:34:48 ID:yFbeLTKIO
-
◆
( ^ω^)「人……捜し…?」
このような場所で放たれるには些か不釣り合いな言葉を聞いて、内藤はきょとんとした。
頬をなぞる風が実体を伴っているようで気味が悪く、一歩道を逸らせば
腹を空かせたハイエナ――『能力者』――が飛びかかってくるような、裏通りで。
内藤は、知らずのうちに唾を音を立てて呑み込んでいた。
同時に、少女が内藤への光を遮るように背を向け歩き始めたため、見えづらかった容姿を見ることができた。
背中、エス字の窪みの部分にまで伸びた髪は、とても艶やかだ。
その色に合うようにセレクトしたのか、羽織った薄手のコートも藍色だ。
黒いストールを、胸の谷間の部分をシャツ越しに隠すように巻き、その尾ひれを背中に垂らしている。
彼女が歩くたびに、そのストールは風に乗って、ひらひらとなびく。
寒色、それも暗い色が好きなのか、下もデニムのショートパンツを選んでいた。
太股の半分も覆わないそれは、彼女自身のボディラインが美しいからこそ、実に体格に映えていると言える。
皮のロングブーツが、そんな長くすらっとした脚を一層際だたせているのだろう。
内藤の目には、悩殺されかねない程の魅力を以て映されていた。
.
- 397 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:37:03 ID:yFbeLTKIO
-
だが、そんな容姿よりもある一点を内藤は凝視していた。
右手にはめられた銀のブレスレットから垂らされている、鍵を象ったアクセサリーだ。
名乗らなくてもいいから、そのブレスレットについて話を聞いてみたい、と内藤は思った。
それほど、それが――鍵が、重要な気がしたのだ。
内藤に背を向け、少女は足を進めていく。
裏通りに散らばるコンクリートの破片、血液や精液の跡、儚くも散った命などを踏みしめ、止める様子を見せない。
冷静な『能力者』ならば、ここで足を止める筈もないのだろう。
内藤は、言ってから気が付いた。
しかし、少女は踵を返さないものの、口を利いてくれはした。
川 ゚ -゚)「幼い頃に生き別れた、妹だ」
それを聞いて、内藤はしめた、と思った。
これを利用すれば、この少女とコンタクトをとれるかもしれない、と思ったのだ。
『拒絶』に負けず劣らない存在である可能性の高い、少女と。
『拒絶』の一件と違い、前以て事を止められるならば、とるべきコンタクトがない筈がない。
.
- 398 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:38:44 ID:yFbeLTKIO
-
実を言うと――実を言うまでもなく、内藤は一刻も早くこのパラレルワールドから帰還したいのだ。
規格外の力が横行する、世界。
治安や平和などからかけ離れた、世界。
そして、自分が生み出したのだと云う、世界、から。
生きた心地がしない。
常に黒い霧が内藤の心臓を鷲掴みにし、握りしめることで血圧を上げているのだ。
一寸先は闇、塞翁が馬の意味を、身を以て知りたいとは思う筈もない。
常に何事も躯が資本で、命が先立って人生があるのだ。
このままでは、生きると云う誇りを持って生きているのではなく、不安と共生し合っている、虚構の命ではないか。
そう思うと、ますます暗黒のスパイラルに陥ってしまう。
では、そう易々と帰られるのか。
方法が無いと云う、物理的な意味で言うなれば帰れないだろう。言うまでもない。
しかし、そこでもしその方法があったとすれば――?
.
- 399 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:40:20 ID:yFbeLTKIO
-
嘗て、ドクオと会った段階でその方法が在ったならば、内藤はなんの迷いもなく帰還していたことだろう。
物理的には可能で、それを止める要素が何一つないからだ。
しかし、「今」はどうだろう。
『拒絶』が『能力者』たちを狙い、惨殺や虐殺、抹殺を謀っている、「今」は。
嘗て、このような空想を抱いたことがあった。
内藤がそのときに出した答えは、ノーだ。
目の前に在る脅威が自身の人生、命を脅かしていると云うのに、なぜ帰ることができようか。
言い換えれば、方法があろうと、内藤に「帰る」と云う選択肢はなくなる。
そして、それは脅威が存在する限り、適用されるのだ。
――目の前に、新たな脅威がいるんだお。
静かに息を整えながら、内藤は思った。
たとえ、『拒絶』を根絶やしにしようと。
続けざまになにか脅威が現れれば、やはり帰れなくなるではないか、と。
その脅威が、目の前にいる。
その脅威を排除できるならば、内藤としてとるべき選択は、〝それ〟だったのだ。
.
- 400 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:42:19 ID:yFbeLTKIO
-
少女は、そこでぴたりと足を止めた。
止める筈もなかろう、と思っていた足を、少女は止めたのだ。
内藤は思わず目を細めた。
そして、少女は月によく似た街灯を、見上げた。
( ^ω^)「じゃあ、僕も捜すの手伝――」
しかし
川 ゚ -゚)「『自分で汗を掻かず、他人に汗を掻かせたことで逢うことができました』」
川 ゚ -゚)「そんな『終焉』を、果たして妹は笑って受け入れてくれるのだろうか」
( ^ω^)「……っ」
少女は、内藤の申し出を全部聞き届けるまでもなく、嫌みったらしく言った。
同時に、内藤は口を無理矢理閉じさせられたような、そんな錯覚に陥った。
内藤の位置からでは彼女の表情は窺えないのだが、声色からするに、
発言内容とは裏腹に少女の顔は無一色であろう、と思われた。
そして、内藤がたじろいだのにはもう一つ理由がある。
言っている内容に文句の一つもつけられず、そして少女の心情を端的に顕しているように思えたからだ。
幾年もの歳月をおいて出逢えた肉親において、他人の協力が緩衝材となっていたならば、その感動は薄れるに違いない。
それどころか、当の肉親への愛情が空虚なもののように思われるのではないだろうか。
そう考えると、内藤の申し出を受け入れる必要性はどこにもない。
してやられた、と内藤は思ったわけだ。
少女は続ける。
.
- 401 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:43:35 ID:yFbeLTKIO
-
川 ゚ -゚)「近々……ほかの妹にも捜索を手伝わせるよ」
(;^ω^)「お?」
内藤の耳に届いた言葉に、不吉なものが混じっていたような気がした。
だから、内藤は少し顔をしかめた。
ぎゅっと拳を握りしめているのに気が付いたのは、このときだ。
それゆえ、内藤が話をより細密に訊こうとしたとき。
少女は少し俯いた。
川 ゚ -゚)「こんな能力も〝与えられた〟のに……その妹を、見つけられないんだ」
川 - )「時間を『封印』することだって、できるのに」
(;^ω^)「ちょ、あん―――」
( ^ω^)
( ;゚ω゚)「!?」
.
- 402 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:45:21 ID:yFbeLTKIO
-
内藤は、一瞬目を疑った。
瞬きすらせず少女を凝視していたのが、一瞬にしてその少女が消えてしまったからだ。
いくら『能力者』と言えど、信じられなかった。
先ほどまで持っていた不安や緊張なども相俟って、衝撃は一層強かった。
同時に、内藤は「しまった」とも思った。
――脅威が、逃げてしまった。
( ;゚ω゚)「おおおおおおおおおおッ!」
内藤は思わず、奇声をあげて走り出した。
自分や少女を照らしていた街灯に向かって、様々なものを踏み散らかして。
何も考えられず、気が付けば半ば本能的に走り出していた。
――ふざけるなお、『拒絶』どもを倒したらすぐに帰るんだお!
内藤はそう思って、無意識のうちに走り出していたのだろう。
なんとかして『拒絶』を根絶やしにすることができた上で「方法」が見つかれば、それでゲームは終わるのだ。
逆に言えば、『拒絶』と云う目の前の脅威を払えば、帰られる可能性が僅かだろうと出てくるのだ。
だが、そこであの少女たちと云う脅威が新たに加われば、どうだろう。
現段階でそれが脅威と決まったわけではないが、内藤の原作者としての本能は、それを脅威と確信している。
そんな彼女が――いや彼女の言い分からして、「たち」。
彼女たちが脅威と姿を変えて内藤たちの前に現れては、内藤としては手遅れだ。
今度は、その脅威を払わなければならない。
.
- 403 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:47:43 ID:yFbeLTKIO
-
『拒絶』と云う第一ステージでさえ、あれほどあの三人は負担を負っている。
なのに連続で脅威が迫ろうものなら、いつかは倒れてしまうだろう。
どんな耐震性の強い家屋でも、何度も連続で揺らされては耐震材からぽきりと折れてしまうのだ。
帰りたい、と願う内藤にとって
ここで少女を逃がしたことは、延命ならぬ〝延死〟に繋がる。
〝生きているか死んでいるかわからない状態〟が、長引いてしまうのだ。
( ;゚ω゚)「(そりゃー、僕も小説で次のステップへとあがるために伏線を敷いたりはするお。
でも、なにもそんなことまでこの世界に反映されなくてもいいのにお! お節介だお!)」
奇声は止んだが、足は止まらなかった。
僅かな角度の変化により、先ほどまで見えていた街灯が建物に隠れて
見えなくなってしまったが、それでもその方角に向かって内藤は走り続けた。
砂利やコンクリートの破片を蹴っ飛ばす。
たまに、腐敗臭の絶えないゴミ箱の中身をとばしたりもした。
暗いこの周辺で、街灯も遠ざかっていき、いよいよ本格的な闇が内藤を包み始めていった。
そんな頃、ついに内藤は走るのをやめざるを得なくなった。
フェードアウトしていくように駆け足を止め、そして静止する。
内藤の息は、嘗てない程に荒れまくっていた。
.
- 404 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:49:04 ID:yFbeLTKIO
-
中腰になり、膝の上辺りをがしっと掴む。
気づいていなかった汗が洪水のように溢れ出してきて、服を、ズボンを、髪を濡らす。
喉が渇ききって、息を吐き出すたびに痛みを感じる。
いきなり走り始めたため、若干目眩も襲ってきたようだ。
だが、今はそんなことが気にならない程、内藤は焦っていた。
なぜあそこまで焦ったのだろうか。
おそらく、内藤の、原作者としての単なる勘、だろう。
〝自分ならあの少女を伏線に次なるステージへと物語を進ませる〟。
そんな小説家らしい発想が本能的に浮かんできてしまったので、こうなった。
根拠はなくとも、これが内藤自身でも考え得る限り最適な推測だった。
( ; ω )「………」
着々と、息が元に戻ってくる。
それを実感して、内藤は漸く姿勢を元に戻した。
シャツなどがびっしょりと濡れたことで、裏通りの暗い風が冷たく感じる。
頭も一緒に冷やされたのか、内藤はやっとこさ落ち着くことができた。
.
- 405 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:50:17 ID:yFbeLTKIO
-
( ^ω^)「……時の流れを『封印』して、僕の動きを間接的に止めた隙に逃げたのか、お。そら追いつかんわ」
( ω )「………説得は、無理だった……か」
自嘲するように、額の汗を右腕の肘辺りでぬぐい取る。
近くの壁にもたれ掛かるように、内藤はふらふらと傾きだした。
ぎい、と音を立てるように内藤は体重をかける。
すると、足が重くなっていることに気が付いた。
気を抜くと、ここで倒れてしまいそうだ。
内藤は気をしっかりと保って、ぐッと堪えた。
新たなる脅威が生まれる筋書きであろうと、「今」にはなんの支障も来さない。
それよりも、「今」に支障を来している脅威、『拒絶』を意識しなければならないのだ。
そう自分に言い聞かせて、内藤は首を振るった。
.
- 406 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:51:42 ID:yFbeLTKIO
-
( ^ω^)「だいぶ走ってきたけど……」
そして、ここがどこかを把握しようと、壁にもたれ掛かるのをやめた。
その壁から少し距離をとって、辺りを見渡そうとする。
だが、その前に、内藤はそのもたれていた壁に目がいった。
理由は、単純だった。
〝それは壁ではなく、扉だった〟のだ。
木製でできているのであろうが、相当磨かれたようで、艶やかな光沢を放っている扉だった。
その扉の斜め前に、蛍光灯が内蔵された置くタイプの看板が目に入った。
黒地にオレンジの、洒落た字体で店名らしき文字列が記されてあった。
日本語ではない。異国語だが、なんとなくで読めるものだった。
内藤は独り言が漏れているのも忘れて、その名前を読み上げる。
( ^ω^)「〝バーボンハウス〟……?」
.
- 407 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:52:46 ID:yFbeLTKIO
-
◆
(゚、゚トソン「……」
( ´ー`)「どーした? 面食らった顔してよ」
バーボンハウス店内、バーテンのトソンはネーヨを前に硬直していた。
そんなトソンを宥める傍ら嘲るかのように、ネーヨが諭す。
だが、ネーヨがそのように振る舞うから、一層トソンは硬直することになるのだ。
〝自分の心臓が貫かれ、大量に出血している〟のにも関わらず、ネーヨは平生のまま酒を呷っていた。
トソン自身が『拒絶』で『異常』と言えども、流石にそれを見てふつうだ、とは言えなかった。
生死の概念を『反転』させたワタナベでさえ、心臓を貫かれたその瞬間をも真顔でいられる筈がないのに。
この男は、至って真顔で、それどころか含み笑いを交えて、呑気なことを言っているではないか。
自身の腕力における数値をでたらめなそれに改竄し、それで貫いたのに。
心臓は跡形もなく吹き飛び、血もそれに伴ってごっそりなくなっている筈なのに。
ネーヨは、生きていた。
.
- 408 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:54:06 ID:yFbeLTKIO
-
ネーヨの胴体から、トソンは腕を引き抜いた。
赤色ではなく、寧ろ茶色に近い血液が、べっとりと腕にへばりついている。
粘着性があるのか、軽くどろっと血液が腕にまとわりついてくるのを見て、トソンは吐き気すら覚えた。
――否、吐き気を覚えていられる余裕すらなかった。
引き抜いた腕をじっと見つめて、トソンは黙り込んだ。
空っぽな脳で、必死に現状把握に努めようとする。
それから五秒した頃であろうか。
ネーヨがにやりと笑むと、にわかには信じられない光景がトソンの瞳を攻撃した。
(゚、゚トソン「……!」
腕に付いていた、吐き気をも催す程の量の血はおろか、ネーヨの胴体の穴、
カウンターに付着したおぞましい量の血、その全てが何事もなかったかのように消えてしまったのだ。
ネーヨを殴った感触も消えたし、覚えていた筈の吐き気すら消えている。
それを見て、トソンが驚かない筈もないだろう。
そんなトソンの状態を背中で感じ取ったのか、ネーヨは軽く笑った。
背後のトソンに向けて、まるで父親が息子に何かを教えるかのように、語り始めた。
.
- 409 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:55:02 ID:yFbeLTKIO
-
( ´ー`)「俺は、全てを『拒絶』し、全てを『拒絶』すんだぜ」
( ´ー`)「心臓に穴が空いた? 出血がひどい?」
( ´ー`)「んなもん、」
―――知らねえよ。
トソンは、その言葉を聞いた途端、震え上がった。
違う、人間の発すべき言葉ではない。
言葉だけではない、その言葉に籠もったオーラも、だ。
こんなもの、人間が出すことを許されたものではない。
.
- 410 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:56:24 ID:yFbeLTKIO
-
声帯でさえ畏縮したのだろうか、トソンは何かを言おうにも口をぱくぱくさせるだけだ。
それでさえ背中で悟ったネーヨは、続けた。
( ´ー`)「『現実』に準拠した『拒絶』じゃねえし、『真実』や『因果』に準拠した『拒絶』でもねえ」
( ´ー`)「俺に――つまり、『拒絶』に準拠した、『拒絶』だ。何事にも絶対的な、『拒絶』だぜ」
( ´ー`)「そう云う意味で、あいつら――ショボンたちは不完全だ、つったんだよ」
(゚、゚トソン「 …… 。」
ネーヨはそう言ったきり、再び酒を呷り始めた。
もう何杯目にはいるだろうか、だと言うのにまだのみっぷりは変わっちゃいなかった。
トソンはなんとも言えない、形容しがたい気分になって、ただ呆然とするだけだった。
すると、ネーヨがグラスをいい音を立ててカウンターにたたきつけた。
それは、それまで意識の世界に居たトソンを、現実の世界に呼び戻した音だ。
はッと我を取り戻して、トソンは所定の位置に戻る。
ネーヨはやはり不敵な笑みを浮かべたまま、右手で頬杖をついた。
トソンが手際よく酒を注ぐのも見ずに、ただぼうっと明後日の方向を眺めていた。
その方角に、求めているものがあるのだろうか、と。
どうでもいいようなことを、考えながら。
.
- 411 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:57:13 ID:yFbeLTKIO
-
( ´ー`)「……本当に、誰も来ねえな」
少しして、ふと出た言葉がそれだった。
酒を待つまでの間に、繋ぎとして放ったものだ。
トソンは手をなめらかに動かしながら、応える。
(゚、゚トソン「そりゃそうでしょ、まだ閉店時間です」
他に客が、来るはずもないでしょ。
そう言った時、ネーヨは少し意外そうな顔をした。
トソンは、一瞬それが自分に向けられているような気がして、どうしたのだ、と思った。
だが、それが自分に向けられていないとわかったのは、
すぐに表情を取り戻したネーヨが放った、言葉を聞いた時だった。
ネーヨは頬杖にしている右手に力をいれ、頬にしわをつくる。
そしてふてぶてしいまでに不敵な笑みを浮かべては、言うのだった。
.
- 412 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 15:57:52 ID:yFbeLTKIO
-
( ´ー`)「……来たぜ。おもてなししな」
(゚、゚トソン「は? なんの―――」
直後、入り口の扉が鈍い音を立てる音が聞こえた。
はッとして、加えてまさか、と思って、トソンはそちらの方向に目を遣った。
すると
(;^ω^)「やってますかー…?」
( ´ー`)「……」
(゚、゚トソン「――…っ!」
.
- 413 :同志名無しさん:2013/01/14(月) 16:06:07 ID:yFbeLTKIO
- 堅苦しい文面でごめんなさい。「新たな脅威」たる第三部の伏線を大々的に張ったせいでこうなっちゃいました
以上でモララーパートは少しおやすみで、次回から三話分だけ、別のパートに移ります
あと、【不協和音】や【無私の報せ】みたいな噛ませちゃんと「最凶」さんが登場したり
- 414 :同志名無しさん:2013/01/17(木) 21:29:58 ID:pqHOr0mA0
- モララーも長引くのかなぁ
- 415 :同志名無しさん:2013/01/19(土) 11:49:18 ID:h2tw4c.s0
- おつ
- 416 : ◆wKPOjBgqL6:2013/01/19(土) 19:08:07 ID:P92iExVI0
- http://itsuwari777.blog.fc2.com/
パソコンを手に入れたので、ツイッター代わりにブログを用意しました
ツイッターと違っていろいろ書きますが、生存確認などにご利用いただければな、と
- 417 : ◆e42zvQFV62:2013/01/19(土) 19:09:15 ID:P92iExVI0
- トリップ間違ってた
- 418 :同志名無しさん:2013/01/19(土) 19:09:50 ID:P92iExVI0
- あれ トリップミスは気にしないでください
- 419 :同志名無しさん:2013/01/19(土) 19:15:23 ID:kV2Wju4o0
- うぃ、りょーかいですたい。
- 420 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:13:15 ID:ZhkTU.Uk0
-
第二十話「vs【771】Ⅰ」
アニジャ=フーンは、こめかみの汗を拭って、襟を整えた。
ネーヨ=プロメテウスが足早に小屋を飛び出していったのが最後、
気が付けばネーヨのその足取りを追うことはできなくなっていた。
性格からして、たとえ目の前に世界一旨い料理があったとしても決して走って取りにはいかない筈の彼なのに。
なぜか、アニジャが彼を追うことはできなかった。
アニジャも足は速い方である。
ただ長身ゆえに脚が長い、と云うだけだが、常人よりは少なくとも速い。
ネーヨを常人と云う一括りに入れるわけにはいかないのだが、
そうだとしても徒歩のネーヨに撒かれるまではいかないだろう。
ネーヨだって人間だ。
本気で走ればそうとは限らないが、少なくとも無意識下による徒歩に関しては常人と同等の速度であるだろう。
街中――それも方角を考えると裏通り――に向かった、と云うことまではわかったが、それ以上の収穫はない。
寂れた繁華街の通りの真ん中を、ポケットに手を突っ込み顔を俯けながらアニジャは歩く。
寂れた、とは閑古鳥が鳴いている、と云うわけではない。
文字通り、「寂れている」のだ。
どこぞの廃病院とも知れない不気味さを醸し出しており、ひびの入ったコンクリートの壁や砕け散った窓ガラスなどが見える。
ここは治安の悪いこの王国でも上位に入るほどの治安の悪い街であり、方角やネーヨの考えそうな目的からして
ネーヨはこの近辺に来たのではないか、とアニジャは予想したのだが、はずれだったようだ。
人為的な物音がしない。
得体の知れない虫が這っていたり、カラスや凶暴な野良犬がゴミを漁ったりこそしているが、
人間が活動しているような音は、全く聞こえてこなかった。
こう云うところならば強姦や強奪などするのに適していそうな気もするが、当のアウトローたちもこの不気味さまでは好まないのだろうか。
地盤が見えている通りを見ながら、アニジャはふとそう思った。
( ´_ゝ`)「…臭いな」
意識を繁華街に向けると、「風」が気にかかった。
生温く、湿気が高く含まれている不快な風。
その湿気も助長しているのか、なにかの腐敗臭がアニジャの鼻を突く。
とても、鼻をつまんだ程度じゃ解消されそうにない臭いだ。
.
- 421 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:14:02 ID:ZhkTU.Uk0
-
血の匂いは幾度となく嗅いできたが、腐敗臭は未だに慣れない。
王国の裏通りで嗅ぐことは頻繁にあるのだが、血の匂いと違い、こちらはひとえに「腐敗臭」と言っても、その臭いはまさに千差万別の世界なのである。
慣れたは慣れたでまた問題があるが、この王国で暮らす者として未だに腐敗臭に嫌悪感がさすのは些か大きなハンデとも言えた。
そう云った環境面にてマイナスな影響を受けると云うのは、地味ながらも厳しいものなのだから。
( ´_ゝ`)「帰ったらオニオンスープでも食うか」
嫌な臭いを嗅いだのを気分的にだけでも解消しようとすると、真っ先にオニオンスープが浮かんできた。
イメージの世界から、湯気に香ばしい玉葱の匂いを乗せてアニジャの嗅覚を刺激してくる。
オニオンスープ自体好物であるアニジャにとって、そのイメージはアニジャに空腹をもたらすものともなった。
湧いてくる唾液が、その証拠である。
ネーヨもいないことは既にわかっていたし、オニオンスープを呑むと云う使命も課されたので、アニジャは踵を返した。
先ほどまで見てきた看板や壁の光景が、再びアニジャの前方に立ちはだかる。
空は心なしか薄暗く、黄砂でも吹いてきそうなほど不穏な空気が漂っている。
少し口を閉じたままその光景を舐めるように見て、そして歩き始めた。
なぜ、ここまで荒廃した地域が出てくるのだろうか。
アウトローや『能力者』が暴れる地域が出てくるまでは理解できるにしても、
さすがにその人たちでさえ寄りつかない地域ができるとは、理解しがたいものがある。
政治家も政治家で、治安の悪化に乗じてのし上がってくるくらいなら、
こう云った治安を晴天へと誘(いざな)うような公約をしてくれれば投票するのに、
とアニジャは思ってから、その馬鹿馬鹿しさに少し笑ってみせた。
.
- 422 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:15:18 ID:ZhkTU.Uk0
-
( ´_ゝ`)「そんな政治家がいるならこんな地域はでてこないよな」
なにをわかりきっていたことを、とアニジャは自嘲する。
別に正義に目覚めているわけでもなければ、昨今の政治に不満を抱いているわけでもない。
ただ「自分の理解できないもの」を「悪」と決めつけると云うような心理状況に近いそれである。
疲れているな、とアニジャは思い、頭をぽりぽりと掻いて先を急ぐことにした。
未だに、この鼻を突く腐敗臭はするのだ。
( ´_ゝ`)「……あ」
数歩進んだところで、アニジャはぴたりと止まった。
口を少し開いて、糸目は上向きとなる。
( ´_ゝ`)「……そうだ、これは『不運』だったんだ」
( ´_ゝ`)「なんで撒かれたのかと思えば……」
ふと、心当たりが浮かんだのだ。
なぜ、徒歩のネーヨに撒かれたのか、について。
普通なら、速度でも勝っていて、視力的にも問題がないのに見失うことなど、ない。
だが、そこで『異常』――『不運』が起こったとしたら。
アニジャは、そう考えると納得した。
他に濃厚な線を見つけだすことが不可能であると思われるほど。
.
- 423 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:16:02 ID:ZhkTU.Uk0
-
アニジャは文字通り【771《アンラッキー》】なだけあって、日常生活においてもこのような『不運』はよく起こるのだ。
無意識のうちに、それも対象すらわからぬうちに引き起こされる『不運』であるため、対処のしようがない。
なにもこんなところで発動されなくてもいいのに――
アニジャは自分を情けなく思い、鼻で軽く笑った。
( ´_ゝ`)「………帰ろ」
もう他に『不運』が起きないように、と祈って、アニジャはこの不気味な繁華街から抜けることにした。
ぼうっとしていると、そのうち野犬などに襲われそうだ。
家では、湯気をたてているオニオンスープが待っている。
「待っていろ」と心の中で呟いて、アニジャはまた一歩を踏み出した。
――そこで、声がかけられるとは思いもしなかった。
アニジャは、背後から男に声をかけられた。
無人だと思っていたため、アニジャは最初それが人間の声とは気づかなかった。
やや高いが、男の声だ。
アニジャに制止を呼びかけている。
敵意を感じることはなかったが、どうも友好的には感じ取れなかった。
こんなところで友好的に接してくる男など、いる筈もなかろうに。
そう思うも、アニジャは聞こえていないふりをして足を進めた。
すると、もう一度声が聞こえた。
「ちょっと君、止まりなさい」
聞き違いや気のせいではない。
確かに、それは制止を呼びかける声だ。はっきり聞こえた。
ここまで来ると応じないわけにはいかない。
アニジャは足を止め、振り返った。
.
- 424 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:16:43 ID:ZhkTU.Uk0
-
(・∀ ・)「ちょっといいかね?」
紫色のシャツの上から黒いロングコートを羽織った、男だった。
黒いテンガロンハットの、広い鍔から覗き込んでくるように見える眼は、アニジャをじっと見つめていた。
帽子のせいで顔つきを見ることはできないが、声色からしておそらく二十歳余りだろう。
身長は、その年齢にしては平均かやや高めの、目測一七〇後半。
体格はよく、痩身のアニジャと比べると力もありそうだった。
その口振りから、アニジャは最初警察官かそう云った類の人かと思ったが、容姿からはとてもそのようには見えない。
少し警戒心を抱いて、アニジャは体躯をその男の方に向けた。
気が付けば腐敗臭も感じなくなっていた。
意識が、目の前の男に完全に注がれていたからだ。
警察官のような手振りを交えながら、男は歩み寄ってきた。
手をぷらぷらさせたり、首を上下に揺らしたりと、やや自尊心が強そうに見える。
なんとなく、アニジャはこの男を好きになれない、そんな気がした。
そんなこととはつゆ知らず、男は話しかけてきた。
(・∀ ・)「こんなところで、どうしたんだ? ここは一般人が来るところじゃないぞ?」
やはり、口調だけは警察官のようである。
この黒いロングコートが藍色だったなら、警察官と見間違えていたかもしれない。
だが、囮捜査などと云った事情であるだけなのかもしれないと思い、アニジャはあくまで低姿勢で接することにした。
アニジャと云う人間そのものに後ろ暗いことはないのだが、裏の繋がりが多岐に渡っているのだ。
その繋がりを模索されては、面倒なことに巻き込まれかねない。
ここは偶然道に迷った観光客のふりをして、帰るのが一番だ。
.
- 425 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:17:50 ID:ZhkTU.Uk0
-
( ´_ゝ`)「観光にきたのですが……案内人とはぐれてしまって……」
元からアニジャの声はこのようにか細いものなのだが、この状況下では心細さの顕れのように聞き取れるため、説得力はあるだろう。
言葉を発してから、アニジャはふと思った。
痩身だし、この声の細さ。疑われはしないだろう。
実際、相手もそのことに関してはさほど疑おうとはしてこなかった。
だが、吐いた嘘の内容がやや問題だった。
(・∀ ・)「どう迷ったらここに着くのかがわからないが……」
( ´_ゝ`)「…あ」
アニジャはすかさず口を閉ざす。
――しまった、勘ぐられたか。
アニジャにしては珍しく墓穴を掘ってしまったのだが、相手はあまり警戒心を抱いていないようだった。
「不思議だな」と思っただけで、必要以上に追究してくることはなかったのだ。
裏通り――廃墟に現れる者として、この警戒心の無さは問題ではあるのだが、今回はそれが幸いした。
むしろ、その幸いが転じて自身の死に繋がるのだが、アニジャはこの男には何もしようとはしなかった。
そもそも、廃墟に現れる以上、ただの凡人と云う可能性は低いだろうからだ。
一般人なら、この廃墟の不気味さを嫌うし、そうでなくてもいつかは能力を持つ賊に狩られる。
ただのラッキーボーイであるだけなのかもしれないが、アニジャは「運」なんてものは信じていない。
もしそうだとして、なんらかの真実味のある要素が彼を護ったのだろう、としか考えなかった。
.
- 426 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:19:00 ID:ZhkTU.Uk0
-
『能力者』なら、無理に触発して厄介事を作る必要もない。
触らぬ神に祟りなし。
アニジャは適当にあしらって、帰ろうとした。
( ´_ゝ`)「とりあえず自分は帰ります」
(・∀ ・)「……」
踵を返して、手をぷらぷら振りながらアニジャは歩み出した。
振った手は少ししてからポケットに収め、また俯いて猫背になって歩く。
痩身で長身なため、未来に希望がない大学生のような風格を持っている。
あとは余計なことはせず、黙って帰ればいいのだ。
(・∀ ・)「ちょっと待ちなさい」
――アニジャは、戦闘の心構えをした。
男の、やけに低くなった声がしたのだ。
あわせて、アニジャは足を止める。
背後から伝わる気配を察知して、いつでも戦闘に入る準備をする。
アニジャの能力は能動的には発動できないので戦闘向きとは言えないのだが、肉弾戦ならある程度の心得はあった。
といっても、剛ではなく、柔である。
力のないアニジャは、相手の力を利用して骨や関節を折ったりするのだ。
それがアニジャにとって一番利得的なスタイルであり、また疲れないからだ。
(・∀ ・)「きみ」
声が続いた。
(・∀ ・)「『拒絶』について、なにか知ってるかい?」
.
- 427 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:20:26 ID:ZhkTU.Uk0
-
◆
从 ゚∀从「モララー……」
モララーが消えてから、ハインリッヒはぼそっと呟いた。
モララーは、嵐によく似ている。
目の前にやってきている時は凄まじいものなのに、過ぎ去るとそれまでの被害が『嘘』のようになくなるからだ。
目の前で【常識破り】を披露していた時はハインリッヒは絶望しか感じなかったのに、
消えた今となってはそのようなマイナスの感情はすっかり取り払われていた。
それがどことなく嵐のような気がして、ハインリッヒは複雑な気持ちになった。
同様に、アラマキも複雑な気持ちになっていた。
だが、同じ心情でもその内容はハインリッヒのようなものではない。
/ ,' 3「意外に人間味のあるやつじゃの」
嫌味を籠めて言ったのか、感心するように言ったのか、その声色と表情からはわからない。
しかし、憤怒を見せているわけでないことは確かだ。
『拒絶』はすべてを拒絶する――
そう聞いていたのだが、実はそうではない、と。
護るべきものはあるのだ、とわかって、少し『拒絶』の意味をわかった気になることができた。
あくまで気、なので、全貌を知ったわけではない。
( <●><●>)「殺すべき対象であることに変わりはない」
二人の呟きを聞いて、吐き捨てるようにゼウスは踵を返した。
屋敷に戻ろうと、無駄の一切ない動きで扉へと向かう。
二人は彼についていこうと、半ば慌てて歩き出す。
そのときのゼウスは、不安や絶望など感じていそうではなかった。
いつも通りの沈着な態度で、取り乱すことは一切ない。
気がつけば、モララーにつけられた傷の『嘘』はなくなっていた。
帰る際に、『嘘』を暴いたのだろう。
別に傷を負わされたままでも、救護室に向かえばすぐに全快するのだが。
【常識破り】の脅威を知ってなお、ゼウスは狼狽することはなかった。
それはゼウスの元々の性格のせいでもあるのだが、以前にゼウスは身を以て【常識破り】を見せられていた。
同じ手品を二度見ても驚かないのと同じなのであろう。
.
- 428 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:21:34 ID:ZhkTU.Uk0
-
从 ゚∀从「じゃあどーやって殺るんだよボケ」
( <●><●>)「……ふん」
鼻を鳴らすだけで返し、ゼウスは扉をくぐった。
やはり、広大すぎるこの屋敷は、心強さを与えるとともに、心細さも与えるものとなっていた。
エントランスへと続くモノトーンを、三人が歩く。
甲冑がその目で彼らの適性審査をしているようにも見えた。
その間、三人の間に会話などと呼べるものは存在しなかった。
もとより馴れ合いの集団ではなく、加えて徒に会話を交わすほど心を許しているわけでもないからだ。
社会的関係よりトライアングルを結ぶように敵対しあっている三人。
ハインリッヒは妹をゼウスに殺され、アラマキはゼウスに二度の敗北を許している。
だがゼウスのサポートのおかげで、壊滅的なダメージを受けていたにもかかわらず今のように動くことができる。
ゼウスもゼウスで裏切りや寝首をかかれる可能性は高く、一人では【手のひら還し】に掠らせることすらできなかった。
【ご都合主義】にいいように操られもしたし、【正義の幕開け】や【則を拒む者】のようなトリッキーな能力ではないため、
一人では『拒絶』を拒絶することはほぼ不可能に近いと言えるだろう。
そんな、複雑な同盟関係が、今のぎすぎすとした関係を作っているのだろう。
そうでなければ、情など持ち合わせていないゼウスは彼らを「即殺」している。
『全能』のゼウスは、自分にメリットがなければ同盟など組む必要がないのだ。
.
- 429 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:22:32 ID:ZhkTU.Uk0
-
ゼウスの部屋について、漸く言葉と云うものが発せられた。
ハインリッヒでもゼウスでもなく、年長者のアラマキの、だ。
ハインリッヒはハンモックの上に、ゼウスは自分の椅子に腰を下ろし、アラマキはベッドの上に前に屈むように座った。
元々薄暗い部屋のため、顔に影ができて、太い眉や髭も相俟って『威圧』の度合いが濃くなっている。
その『威圧』から発せられる声は、すごく重いものとなっていた。
/ ,' 3「ふん、じゃなかろうに。
【ご都合主義】は……ひーろーずわーるど?とやらで倒し、
【手のひら還し】は概念の齟齬とタイムロゴで無理矢理倒すことはできたが……」
/ ,' 3「正直言っての、両方とも倒せたのは奇跡以外のナニモノでもないじゃろうて」
ゼウスを鋭い眼で睨みつけ、現状が絶望的であることを再認識させようとした。
持っている『拒絶』のオーラも、持っている《拒絶能力》も、確実に最初の二人を上回っているに違いない。
今のような心構えでは、ラッキーは続かない、と言いたかったのだ。
.
- 430 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:23:28 ID:ZhkTU.Uk0
-
( <●><●>)「その脳は飾りか」
/ ,' 3「……ぬ?」
噛みつくように、ゼウスが言い返した。
( <●><●>)「『拒絶』の共通点を挙げてみろ」
/ ,' 3「……はあ?」
急に何を問うか、とアラマキは思った。
だが、ゼウスは決して冗談を言う男ではない。
一瞬呆気にとられたが、気にせず思いつく限りを挙げていった。
/ ,' 3「……まず、直視できないほど、場の空気を最悪にする、言うなれば『拒絶のオーラ』。
で、特定のものに関する憎しみの度合いが『拒絶の精神』ってとこかの。
また、その精神が強いほど強うなる《拒絶能力》。
あと、トチ狂った思考。こんなもんかの」
そして、挙げ終えたアラマキが最初に聞いたのは、ゼウスの溜息のような息だった。
ゼウスは露骨に感情を吐露することも顕すこともないので、その僅かな変化で心情を見抜く必要がある。
今の場合、若干強めに吐かれた息が失望や嘲りを顕している、ように。
彼は求められていた答えが挙げられなかったのを嘆いたようなので、アラマキは少し不思議に思った。
――他に共通点など、あるのかの?
と、少し思考に耽ってみたが、それらしきものは出てこない。
あとは、精々「『能力者』を殺して満たされる」ことくらいだが――
/ ,' 3「! 〝手加減〟か!」
( <●><●>)「単細胞が漸く進化したか。その通りだ」
アラマキははッとして声を発した。
それにゼウスもあわせてきた。
肯いて、アラマキを見る眼をより鋭いものへと変えた。
.
- 431 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:24:49 ID:ZhkTU.Uk0
-
( <●><●>)「一言に『満たされる』と言っても、その内容は多岐に渡る。
圧倒的実力差を見せつけることによる優越か、嗜虐的行為にて絶望を見せつけることによる快感か。
前者ならば能力差の段階で勝敗――生死は決まるのだが、後者の場合は違う。
徐々に相手を虐げる必要があるため、ある程度は手加減しなければならないからな」
/ ,' 3「で、きゃつらは『拒絶を受け入れさせる』ことが何よりの快楽――!」
ゼウスは肯いた。
アラマキも、ゼウスの言いたいことが全てわかった。
答え合わせも兼ねて、出題者のゼウスは話を続ける。
( <●><●>)「拒絶を受け入れさせるには、その《拒絶能力》や狂気、絶望を存分に与えなければならない。
そうでなければ、『拒絶』がわざわざ手加減して戦う理由がないからな。
【ご都合主義】だの、【手のひら還し】を前にして瞬殺されないのを見るだけで明らかだ」
从 ゚∀从「……そっか」
ハンモックの上から、上体を起こしたハインリッヒは言った。
寝ているものかと思ったが、耳を貸していたようだ。
二人は驚くこともなく、ハインリッヒに意識を向ける。
从 ゚∀从「ショボンにさ、言われたんだよ。なんか、こう――」
(´・ω・`)『とんでもない!
. 拒絶したくなる「現実」を受け入れてくれなきゃ、
. 僕がはるばるここまでやってきた意味もないよ』
(´・ω・`)『確かにそんな「現実」にすることもできるけど、さ。
. 「拒絶」を味わわないうちに死なれちゃ、全く満たされないからね』
.
- 432 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:25:40 ID:ZhkTU.Uk0
-
ハインリッヒは、あのときのショボンを思い出した。
実にいきいきとしていて、だからこそ見ているだけで吐き気をも催す『拒絶』のオーラ。
言い換えれば、心の底からショボンはそうなることを願っていた、と云うことだ。
実際にその場にいて、味わって、戦ったハインリッヒだからこそ、その言葉には説得力があった。
裏付けができたとわかって、アラマキは安堵したいような、危惧を感じるべきであるような、複雑な気持ちになった。
ベッドを軋ませ、渋い顔をする。
/ ,' 3「ゼウスよ、おぬしの言いたいことはわかる。
大方、きゃつらが手加減することで生じる隙に付け入るっちゅーなハラじゃろ?
じゃがな、向こうさんかて呆けたおらん」
/ ,' 3「ショボンを倒せたのはハインリッヒの覚醒、それもブーン君の手助けあって、じゃ。
まあ、おぬしは知る由もなかろうが……
で、ワタナベかて、きゃつが油断しすぎたから、ああなったんじゃよ」
/ ,' 3「残党……少なくとも、モララー。きゃつは利口じゃぞ?
常に『嘘』を吐き続けとる以上、常にその存在を把握し記憶しておかねばならん。
それをこなしとるモララーから、はたして隙を見いだせるもんかの?」
.
- 433 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:26:40 ID:ZhkTU.Uk0
-
( <●><●>)「見出すより他に法はない。もとより勝算に望みが見られない戦いなのだ」
ゼウスは頑なに言い返した。
隙を見出す、の一点張りだった。
頭脳も優れ、不意打ちの得手であるゼウスなら、針の穴ほどの隙であろうと付け入ることはできるかもしれない。
だが、ハインリッヒとアラマキの場合そうもいかないのだ。
ただでさえ一対一では勝利できていない現状なのに、他のサポートなしでゼウス側が勝利できるとは到底思えない。
また、相手はショボンやワタナベよりも格が上と思われる。
アラマキも、頑なに否定するより他になかった。
/ ,' 3「かぁ〜〜ッ。モララーが『手負い』を『嘘』にできる限り、おぬしの能力は適用されんのじゃぞ。
儂も、コレを受動的に使おうにも『解除されない』っちゅー『嘘』吐かれたら終いじゃ。
ハインリッヒが『劣後』される存在となっとる限り、三人じゃ勝算はないと思うがの」
( <●><●>)「……」
両者の主張が共に正しい以上、真偽を決するのは確実性だ。
確実性で考えると、ゼウスの主張が非現実的であるのがわかる。
すると、ゼウスの脳を以てしても、反論する余地はなかった。
ハインリッヒの覚醒した能力ならばあわよくば可能性はあったかもしれないが、現実の話にたらればは存在しない。
ゼウスは黙りとするしかなかった。
从 ゚∀从「ワタナベはいつ回復すんだよー」
静まった室内で、ハインリッヒはそう訊いた。
己の無力さに罪悪感を感じたし、実際自分の能力なら可能性はあるかもしれない、と思ったからだ。
だが、その答えが最初から用意されていたかのように、ゼウスは即答した。
( <●><●>)「少なくとも一日二日では全快は無理だ。
胴体、特に下半身を失っており、意識も半壊している。
細胞の動きを活発にさせ再生を早めさせても、時間がかかる」
从 ゚∀从「……チッ」
ハインリッヒはうなだれるように舌打ちした。
自分が無力であるのが、悔しいのだ。
【大団円】がいれば話は変わってくるのだが、彼女は目の前の男に殺された。
その男と共闘しなければならないことに皮肉を感じ、ストレスが溜まった。
.
- 434 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:27:58 ID:ZhkTU.Uk0
-
( <●><●>)「応援を呼ぶことは考えられるが――」
ゼウスが向きを戻して言うと、背後から即座に声が返ってきた。
若々しくも刺々しい、ハインリッヒの声だ。
从 ゚∀从「ハン! ヒートがいれば、【常識破り】だろうとチョロかったのにな。
どっかの誰かに殺されたせいでよお!!」
( <●><●>)「結果論から何が導き出せるのだ?」
从#゚∀从「……てめぇ、肉塊にされてぇか?」
( <●><●>)「『優先』のされない『英雄』など、即殺以外の結末がわからないな」
ハインリッヒの額に浮かんだ血管が、今にも弾けそうな気がした。
ハインリッヒは拳を震わせ、ハンモックの上に立ち上がった。
揺れるハンモックの上で、ハインリッヒも揺れる。
そのハインリッヒが、怒りで更に揺れる。
そして
从#゚∀从「……ッ。『イッツ・ショータ――」
/ ,' 3「じゃかあしいッ!」
从; ∀从「ギャッ!」
( <●><●>)「ッ…!」
.
- 435 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:28:45 ID:ZhkTU.Uk0
-
ハインリッヒが【正義の執行】を始めようとすると、アラマキが一喝した。
同時に、ハインリッヒもゼウスもがくんと体躯を落とした。
急に、力を入れていた足や首から力が抜けたのだ。
言うまでもない。
アラマキが、自分を支えている力を『解除』した。
途端に背骨が消えたかのように、地に伏すことになる。
そうすることで、動きだそうとする両者を止めたのだ。
不安定なハンモックの上でいきなりそうされたので、ハインリッヒはハンモックの上から転げ落ちた。
趣のある絨毯に、額からぶつかる。
材質は従来のものと変えてあるのか、絨毯のおかげで衝撃は和らいだものの、床の硬さにハインリッヒは思わず一瞬喘いだ。
从 ゚∀从「つッ……」
( <●><●>)「……貴様」
/ ,' 3「ここで仲間割れたァおぬしらカルシウムが足りとらんの。
『拒絶を拒絶する』目的は一緒なんじゃから、もうちっと仲良うせんか」
从 ゚∀从「……胸クソわりぃな」
( <●><●>)「全くだ」
/ ,' 3「……で、応援じゃが」
从 ゚∀从「アテあんのか?」
ハインリッヒは噛みつくように言ってきた。
アラマキはかぶりを振った。
.
- 436 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:31:09 ID:ZhkTU.Uk0
-
/ ,' 3「アテ、ちゅーても確実性があるわけじゃあない」
从 ゚∀从「まどろっこしいな」
/ ,' 3「ブーン君じゃよ」
从 ゚∀从「んあ?」
ハインリッヒは虚を衝かれたような顔をした。
予想だにしなかった返答だった。
内藤に、何ができるのだろうか。
既に【常識破り】の実体は知っているため、これ以上彼にできる役割はない筈だが。
そう思っていたのが顔に出たらしく、アラマキは「ちゃうわい」と言った。
/ ,' 3「あくまでこの世界はブーン君の規則に則っとる。
じゃから、〝可能性を創れる〟もんがおらぬか、訊くんじゃよ。
そやつをこっちに引き入れて、対処するんじゃ。
向こうさんの全貌は明かせておるからの、後出しじゃんけんっちゅーわけじゃ」
从 ゚∀从「ああ……そっか、アイツ『作者』とやらだったんだっけな」
( <●><●>)「半信半疑ではあるが」
从 ゚∀从「私もだ」
/ ,' 3「儂もじゃよ。
……じゃが、信憑性はある。異議はなかろう?」
アラマキが二人を交互に見ると、二人とも小さく肯いた。
「なんでも見抜くことができる能力」なんてものが存在し得るこの世界で、内藤の主張を裏付けることは不可能だ。
だが、実際に幾度となく対象の全貌を明かしているため、彼が『能力者』だろうと『作者』だろうと、関係はない。
信頼に足る情報、と云うことには違いないのだ。
.
- 437 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:32:25 ID:ZhkTU.Uk0
-
( <●><●>)「だが、必至がかかっている状態からでは、どのような手を指しても詰みは免れないぞ」
从 ゚∀从「必至? 詰み?」
( <●><●>)「将棋と云う遊びを知らなかったか。無知を考慮せずにすまない」
从#゚∀从「そういう意味じゃねーよボケ! つまり何が言いてぇんだっつー話!」
ハインリッヒがハンモックに上りながら吠える。
ゼウスは若干の優越感に浸りながらも、続けた。
( <●><●>)「全てを『嘘』にされる現状がある限り、如何なる対策を練ろうがどの道負ける、と云う意味だ」
( <●><●>)「必至のかかった状態なら、王を逃がそうが詰めろをかけようが敗北が確定するのと同様に、な」
从 ゚∀从「…あ……」
( <●><●>)「グーでもチョキでもパーでも勝てない手を出されては、後出ししようにも後出しできる最善手がない」
/ ,' 3「つまり、何もできず一方的にやられるっちゅーなわけか」
( <●><●>)「それ以外の方法として、相手が油断した隙にひびを入れて、ダムを壊すより他に仕方がないのだ」
从 ゚∀从「てめぇ、まどろっこしい言い方が気に入ってんのか? はっきり言えよ」
( <●><●>)「……」
/ ,' 3「今のはさすがに解るべきじゃよ、お嬢さん」
从 ゚∀从「え、え? なんだよ……」
ハインリッヒは少しあたふたとした。
そこに、少女らしい愛らしさが垣間見えた。
普段は男勝りなため、貴重な光景のように見えた。
尤も、アラマキもゼウスも興味のない話だが。
.
- 438 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:33:09 ID:ZhkTU.Uk0
-
/ ,' 3「……とにかく」
/ ,' 3「ゼウスよ、おぬしにアテはないんかの?」
アラマキは気軽に訊いてみたのだが、対照的にゼウスは急に重苦しい表情――眉が若干降りただけだが――になった。
――地雷を踏んだか?
と一瞬不安に思ったが、それは杞憂で済んだ。
ゼウスは取り乱すこともなく、落ち着いて言い放った。
( <●><●>)「そのような仲間など、私には必要ない」
.
- 439 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:33:58 ID:ZhkTU.Uk0
-
◆
( ´_ゝ`)「『拒絶』……?」
アニジャは、言葉を失った。
(・∀ ・)「知らないか?」
その態度を、この男は異なった意味で受け取った。
( ´_ゝ`)「……」
アニジャは「知っている」。
いや、知っている以上の関係だ。
だからこそ、アニジャは言葉を失った。
理由は単純だった。
『拒絶』とは、そう易々と知られていい言葉ではないし、知られる筈もない言葉である。
よほどの情報通や組織のボスでない限り、知る由もない。
なのに、『拒絶』と云う言葉が、無関係者から放たれたからだ。
一方の男は、このアニジャの動揺を、知らないからこそ顕れたものだと受け取った。
本人としても元々望み薄で訊いた質問だったため、そう受け取るのが普通だったのだ。
そして、アニジャはその解釈を受け取ることもできた。
首を傾げて、アニジャは答えた。
( ´_ゝ`)「知らないが……」
(・∀ ・)「そうか。じゃ――」
( ´_ゝ`)「待て」
.
- 440 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:34:51 ID:ZhkTU.Uk0
-
アニジャは、ここでそのままお開きにさせるつもりはなかった。
いわば「知っている」事自体がタブーである言葉なのである、『拒絶』とは。
なぜそれを知っているのか。
なぜそれを質問したのか。
なぜこのような裏通りにいるのか。
アニジャは、最低でもこれらを聞き出さないわけにはいかなかった。
なにを詮索されるかわからず、その不確定要素はいわば脅威だからだ。
また、アニジャには『拒絶』を知られるわけにはいかない私的な理由があった。
それが、彼にこのような行動をとらせる要因にもなった。
制止されぴたッと躯を固めた男は、アニジャの方を見た。
若干、醸し出す雰囲気が厳しいものとなる。
( ´_ゝ`)「『拒絶』って、なんだ?」
(・∀ ・)「きみには関係ない話さ」
アニジャがさり気なく訊くと、男はやや頑なにそう言った。
まるで、答えるつもりはない、と言いたげに。
ここでアニジャは考えた。
もし『拒絶』について無知ならば、ここまで重々しい空気は作り出さないだろう。
言い換えれば、「知っている」からこそ、このような態度をとれるのだ。
つまり、この男は
( ´_ゝ`)「(……なにか、知っているな)」
.
- 441 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:36:06 ID:ZhkTU.Uk0
-
そう思ってからのアニジャの行動は速かった。
( ´_ゝ`)「観光がてらに、ここらの事を知りたいんだ。土産を遣ると思って、聞かせてくれないか?」
(・∀ ・)「これは極秘事項であり、一般人が触れてはいけない事なのだ」
( ´_ゝ`)「大丈夫だ。明日になればここを発つ身。厄介事には巻き込まれんさ」
(・∀ ・)「そう云う話ではない」
( ´_ゝ`)「ギャングか何かか? 俺はそう云うのは好きなん―――」
そこまで言うと、男が懐に手を忍ばせた。
アニジャが流暢に話すのを一旦止めると、男は若干厳つい顔をした。
アニジャは耳がいい。
耳をすませると、なにかの音が聞こえた。
ちいさな金属音が、鳴った音。
男が〝それ〟を見せるまでもなく、アニジャはその音、そして〝それ〟の正体を見抜いていた。
決して一般人が持つべきではない―――
( ´_ゝ`)「おいおい、なんのつもりだ?」
(・∀ ・)「……」
黒く、鈍く光る、大型拳銃。
口径からして、その銃口から放たれる弾丸はアニジャを骨ごと貫けそうだ。
アニジャはあくまで飄々とした観光客を演じている。
両手を挙げて、冗談混じりの笑みを見せた。
だが、男の顔はより一層厳しくなるだけだ。
.
- 442 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:37:27 ID:ZhkTU.Uk0
-
(・∀ ・)「無駄な詮索はやめていただこう」
( ´_ゝ`)「そうか。じゃあ俺は失礼――」
その男の眼が冗談ではないことを知り、アニジャはそう言って背を向けようとした。
すると、直後に銃声がした。
廃れた繁華街に、それがこだまする。
銃弾は、アニジャの鼻の先を掠めるように飛んでいった。
瞬間、アニジャは口を閉じた。
途端に気分が冷たいものになった。
ぎろッと、男の方を向く。
やはり、銃口はアニジャに向けたまま。
その標的は、アニジャの額に向けられていた。
(・∀ ・)「悪いな。帰国後に無駄に詮索されると厄介だから――」
( ´_ゝ`)「ッ!」
直後、アニジャは無意識のうちに重心を左に預けていた。
右腕の袖を、銃弾は無慈悲にも貫いてゆく。
アニジャの背筋を、冷たいものが走っていった。
(・∀ ・)「ここで死んでもらう」
( ´_ゝ`)「(……『不運』だ………)」
男の持つそれは、デザートイーグルと呼ばれるもの。
銃に慣れた者でも肩を外しかねない威力を持ち、とても一般人が持ちそうにはないものだ。
それを持ち、また涼しい顔で撃つ以上は、一般人ではない、と云うことだろう。
少なくとも、アニジャとしてはここで処理しておかなければならない道端の小石だろう。
たとえ小石であろうと、生かしておけばもしかすると転ける――失敗する――かもしれないからだ。
『拒絶』化計画が。
また、自分の持つ計画が。
.
- 443 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:38:07 ID:ZhkTU.Uk0
-
( ´_ゝ`)「交換条件だ」
(・∀ ・)「ハ?」
視界の端に逃げ道を確認して、アニジャは言った。
なにを交換するのかと、男は呆気にとられる。
( ´_ゝ`)「あんたは、なぜ『拒絶』の情報を求めるのか。代わりに――」
(・∀ ・)「だから、きみには関係――」
( ´_ゝ`)「こちらは、『拒絶』の情報をやろう」
(;・∀ ・)「ッ!」
瞬間、男は虚を衝かれたようで、眼は見開き、銃を握った両手は重力に従って少し垂れた。
重心を前にかけていたのか、前方に倒れそうだったので、咄嗟に右足を前に出す。
完全に、動揺したようだ。
アニジャはその隙を衝いて、確認しておいた逃げ道へと走り出す。
動揺した男がそれに反応できたのは、二秒後だった。
はッとして、アニジャの腿に銃を向け、すぐさま撃った。
だが、ろくに狙いも定めず当てずっぽうに放った、しかも反動が強いがゆえに手がぶれたので、文字通り的外れな場所へと着弾した。
その間にアニジャは路地裏に逃げ込む。
男は、銃では無理だと判断してすぐさまそれを懐に戻し、自分も駆け出すことにした。
(;・∀ ・)「チッ……!」
路地裏は、やはり廃墟だけに無惨な光景となっていた。
腐った死体や崩壊した壁、飛び散った瓦礫、腐敗臭。
アニジャは、それらを避けたり、時には利用したりして上手く男との距離を離していく。
一方男はこう云った地で走るのには慣れていないのか、徐々に距離を離されていくのを実感していた。
少し走ると、二手に分かれる分岐点に着いた。
既に体力はなく、息を急き切ってしまう。
男は「逃がしたか」と思った。
.
- 444 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:39:04 ID:ZhkTU.Uk0
-
瞬間。
( ´_ゝ`)「呑むか?」
(;・∀ ・)「っ!」
アニジャは、分岐点の〝上〟にいた。
分岐点となる壁の上の方が一部砕けており、どう移ったのか、アニジャはそこから男を見下ろしていた。
男は有無を言わず先に手が動いていた。
再び取り出した銃で、アニジャのいる穴にめがけて撃った。
だが、着弾したのはその穴よりやや上の部分だ。
アニジャが顔を出していれば貫けていたのだが、男が懐に手を突っ込んだと同時に顔を引っ込めていた。
男は「くそッ」と吐き捨てた。
そして、少し考える。
(・∀ ・)「……」
( ´_ゝ`)「……」
少し考えた上で出した答えは、
(・∀ ・)「……呑もう」
( ´_ゝ`)「お」
(・∀ ・)「聞かせてくれ。まず――」
男が顔を上に向けてそう言った。
アニジャは「フーン」と言いたげな顔をする。
( ´_ゝ`)「まず、その物騒な物を仕舞おうぜ、旦那」
(・∀ ・)「……わかった」
言われて、男は素直に仕舞う。
懐から手が引かれたのを見てから、アニジャは右の口角を少しあげた。
「いいぞ」と上から声が聞こえたので、男は
(・∀ ・)「まず――」
.
- 445 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:40:18 ID:ZhkTU.Uk0
-
(・∀ ・)「〝なんで手前が『拒絶』を知っているか〟だ」
( ´_ゝ`)「!?」
男がそう言って右目を細めると、アニジャは異変を感じた。
まるで、アラマキに重力を『解除』されたかのような、浮遊感。
だが、実際には浮いていない。
〝男の足下に引き寄せられるように〟地面に叩きつけられたのだ。
アニジャは一瞬なにが起こっているのかわからなかった。
地面に叩きつけられ唯一わかったのは、
( ´_ゝ`)「……あんた、『能力者』か」
(・∀ ・)「ほう……。随分とこっちの話が通じるじゃないの」
そう言って、男は足を地面に横たわるアニジャの頭に載せた。
男の声は、対面した当初のものとは全く違っていた。
アニジャは『不運』を感じ、不意を衝いて逃げだそうと僅かに四肢に力を入れた。
それを微かな頭の動きで感知したのか、男は釘を刺した。
(・∀ ・)「逃げ出したら、瓦礫で手前を雁字搦めにするぞ」
( ´_ゝ`)「……!」
(・∀ ・)「ここらにはいっぱい〝素材〟があるからな。逃げようものなら――」
男は、そう言うと右手を何もない空間へと向けた。
いや、何も――ではない。
中央に、ぽつんと烏の死骸があった。
直後
(・∀ ・)「『瓦礫』ッ!」
( ´_ゝ`)「ッ……」
.
- 446 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:40:54 ID:ZhkTU.Uk0
-
その烏を囲むように、そこらに散らばっている瓦礫が集まりだした。
といっても、凄まじい速度で、だ。
瓦礫と瓦礫とがぶつかり合い轟音を奏でた。
その音と砂煙に、アニジャは一瞬目を閉じた。
( ´_ゝ`)「……?」
目を開くと、死骸があったところには〝岩の塊があった〟。
よく見ると、それは幾つもの瓦礫で出来上がった塊だった。
アニジャが言葉を失ったのを見て、男は笑った。
(・∀ ・)「予言してやろう」
(・∀ ・)「手前は情報だけを残して、死ぬ」
( ´_ゝ`)「……いまの、能力は……」
(・∀ ・)「【集中包裹《ザ・クラッシュ》】」
(・∀ ・)「今から、手前を抱擁する者の名だ」
.
- 447 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:41:37 ID:ZhkTU.Uk0
- いま気づいた
テンプレ貼り忘れてた
投下後に貼りますが、ご了承ください
- 448 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:42:29 ID:ZhkTU.Uk0
-
( ´_ゝ`)「なに……?」
(・∀ ・)「まあ、こちらの質問に答えれば、すぐに殺すのはやめてやる」
( ´_ゝ`)「……」
「選択肢はないのか」と心中で軽くうなだれて、肯く素振りを見せた。
それを足の感触で察知した男は、ニヤリと笑んだ。
(・∀ ・)「答えろ。手前はなぜ『拒絶』を知っている?」
( ´_ゝ`)「……」
アニジャは溜息を吐き、「いきなりか」と思った。
てっきり殺す前に――と思っていたのが、だ。
アニジャが黙っていると、男は声を低くした。
(・∀ ・)「答えろ」
( ´_ゝ`)「……くそ」
アニジャは、こうなった今でも逃げ延びる術を探している。
――否、術は既に見つかっている。
問題は、いつそれを行うか、なのだが。
このままではそれを実行する前に殺されてしまう。
それを、後頭部から伝わる圧力で察していた。
だから、アニジャは答えるほかなかった。
.
- 449 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:43:13 ID:ZhkTU.Uk0
-
(・∀ ・)「しっかし……手前もアレだな」
( ´_ゝ`)「…?」
アニジャが答えようとすると、男はなぜかそれを止めるかのように言った。
アニジャがまだまだ粘るものかと思ったがゆえの、説得か何かだろうか。
(・∀ ・)「妙な交換条件とやらを出してなければ俺に目をつけられることもなかったのにな」
( ´_ゝ`)「……」
アニジャは開こうとした口を閉ざす。
この男がどうでるか読めなかったからだ。
すると、男は溜息を吐いた。
そして、吐き捨てるように言った。
(・∀ ・)「………『不運』だったな、手前」
( ´_ゝ`)「!!」
.
- 450 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:43:52 ID:ZhkTU.Uk0
-
瞬間、アニジャは眼を見開いた。
同時に、アニジャは籠めていた力を放って上半身を捻り、後頭部に載せられていた頭を払いのけた。
男は不意を衝かれ、同時にバランスを崩す。
なんだ、と思っていたうちに、アニジャは逃げ出していた。
隙を見せた自分に非があるとはいえ、これは男にとってはプライドを傷つけられたのと一緒だった。
予想だにしていなかった、この場面での逃走。
能力も見せたから抵抗はしないと思っていただけに、この不意打ちは大きかった。
( ´_ゝ`)「残念だったな!」
アニジャの言葉を、自分の失態に塩を塗るためのものだと
勘違いした男は、怒りに我を忘れ、アニジャを目で追う。
そして、開いた右手をばッと伸ばした。
周囲に瓦礫があるのを確認することもせず、大声で言い放った。
( ´_ゝ`)「本当は、俺じゃなくて―――」
(#・∀ ・)「『瓦礫』ッ!!」
そして、男は突き出した右手を拳に変える。
これと同時に、選択した素材とやらが対象に『抱擁』するのだろう。
その素材たちが自分の身に飛んでくる前に、アニジャは言い返すように大声で言った。
( ´_ゝ`)「―――あんただよ、『不運』なのは」
(#・∀ ・)「ハ――」
.
- 451 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:44:24 ID:ZhkTU.Uk0
-
(;・∀ ・)「―――ッナアアアアアアアア!?」
――男が気づいた時、〝それ〟は確かに自分の方に向かってきていた。
前から、右手から、左手から。
背後から、頭上から、明後日の方角から。
―――大量の、瓦礫が。
.
- 452 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:45:02 ID:ZhkTU.Uk0
-
(;・∀ ・)「(ッ! まさか……)」
視界全体を、代償問わない瓦礫が埋め尽くしていく。
(;・∀ ・)「(対象を、あいつじゃなくて……)」
瓦礫と瓦礫が打ち合う音が聞こえてくる。
(; ∀ )「(間違えて、俺に―――)」
.
- 453 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:45:43 ID:ZhkTU.Uk0
-
◆
( ´_ゝ`)「……」
凄まじい轟音が響いたかと思うと、そこには〝瓦礫の塊〟ができていた。
瓦礫の隙間から、突き出されたままの男の右手だけが伸びていた。
それはびくともせず、手首から先が地面に向いていた。
アニジャはそれを少し見つめてから、無言でそれに背を向け、ポケットに手を突っ込み歩き始めた。
やはり猫背で、未来に絶望しか抱いていないような顔色である。
ちいさな、『抱擁』し損ねた瓦礫を蹴飛ばした。
そして、思い出したかのように「あ」と呟いた。
( ´_ゝ`)「……結局、あいつが何者か聞き出せなかったな」
( ´_ゝ`)「………『不運』だ……」
そう言って、アニジャは再び歩き始めた。
.
- 454 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:46:23 ID:ZhkTU.Uk0
-
◆
一人の男が、如何なる『因果』か、〝そこ〟に立っていた。
男のいる空間だけ暗黒のうねりができているような、圧倒的、そして『絶望的』なオーラ。
( )
世界に存在しているだけで、全ての規律を歪めてしまいそうな。
この存在、否、概念が在るだけで全ての可能性を消し去ってしまいそうな。
「神の唯一の過ち」と称しても良いほど、その男が持つオーラは最悪なものだった。
『拒絶』でも、圧倒的な『拒絶』のオーラを持つモララーでさえ
足下に及ぶことは疎か、対抗しようと云う意欲すら持つことができない程の「負」。
この男の吐き出す息が、大気と混ざり合うことで、この惑星すら崩壊しかねない。
それほどなのだ、この男の持つ空気の狂おしさは。
男は、瓦礫の塊から伸びている一本の手を見る。
( )「………自爆か、『不運』なヤローだ」
( )「……いや、憑(つ)いてなかった、と言うべきか」
男は、その腕をへし折ろうかと思った。
特に意味はない。
ストレスが溜まっているとか、気味が悪いなどではない。
一般人が何気なく音楽を聴こうかと思うのと同じように。
男は、この腕をへし折ろうと思ったのだ。
すると、男の声に反応したのか。
その腕は、ぴくりと動いた。
.
- 455 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:47:17 ID:ZhkTU.Uk0
-
( )「おめでてェヤローだ……まだ生きてやがる」
( )「……いや、自分の持つスキルだから、咄嗟に加減をしたのか?」
男がにやにやしながら呑気に考察していると、
なぜか、呑み込まれていた男を『抱擁』していた瓦礫が、一枚ずつ剥がれていった。
それを見て、男は「おや」と思った。
( )「剥がれる……? どうなッてンだ、おい」
( )「……そうか、オレサマが来たから……」
男が、不敵に笑んだ。
瓦礫がまた一枚、一枚と剥がれる。
( )「抑えてねェとなァ……。憑いてねェぜ」
片リ;∀ ・)「……ぐァ……?」
( )「絡まれたら面倒だ……撤収するか」
片;・∀ ・)「……ガ…………ッ!」
男を『抱擁』する瓦礫が、徐々に剥がれていく。
それを背にして、その男は、のっそりと歩き始めた。
やはり、『絶望的』なオーラを携えて。
.
- 456 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:50:32 ID:ZhkTU.Uk0
-
○登場人物と能力の説明
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
(゚、゚トソン 【???】
→時や力を『操作』した『拒絶』の少女。
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
_
( ゚∀゚) 【???】
→『拒絶』に関わりを持つ科学者。
.
- 457 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:52:13 ID:ZhkTU.Uk0
-
○前回までのアクション
川 ゚ -゚)
→逃亡
( ^ω^)
( ´ー`)
(゚、゚トソン
→バーボンハウス
( ・∀・)
→撤退
/ ,' 3
( <●><●>)
从 ゚∀从
→会議
.
- 458 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 20:56:20 ID:ZhkTU.Uk0
- 文丸さんへ
お手数おかけしますが、まとめの際、>>456-457をページの冒頭にお願いします
また、>>454の「神の唯一の過ち」を「神の唯一の失敗作」に修正お願いします
ご多忙のなか、申し訳ありませんが……
と、以上で、アニジャパート第一回はおしまいです
パソコンを使った初の投下なので、どこか変なところがあるかもしれませんが……
次回投下の予定などはなにも考えてません
- 459 :同志名無しさん:2013/01/21(月) 21:19:39 ID:isufA7XY0
- 乙!
続き楽しみにしてる
- 460 :同志名無しさん:2013/01/22(火) 23:04:19 ID:Y9uzgY7w0
-
○登場人物と能力の説明
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
(゚、゚トソン 【???】
→時や力を『操作』した『拒絶』の少女。
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
_
( ゚∀゚) 【???】
→『拒絶』に関わりを持つ科学者。
( ´_ゝ`) 【771《アンラッキー》】
→『不運』を引き起こすが、『能力者』でも『拒絶』でもない男。
.
- 461 :同志名無しさん:2013/01/22(火) 23:06:57 ID:Y9uzgY7w0
-
○前回までのアクション
( ´_ゝ`)
(・∀ ・)
→戦闘終了
/ ,' 3
( <●><●>)
从 ゚∀从
→会議
( ^ω^)
( ´ー`)
(゚、゚トソン
→バーボンハウス
.
- 462 :同志名無しさん:2013/01/22(火) 23:09:58 ID:Y9uzgY7w0
- はてしなく通信が不安定なので、どこまで投下できるかわかりませんが
- 463 :同志名無しさん:2013/01/22(火) 23:11:15 ID:Y9uzgY7w0
-
第二十一話「vs【771】Ⅱ」
从#゚∀从「じゃあどーすんだよ!」
ハインリッヒは、壁をドンと殴った。
それで壁が空かないのは、ハインリッヒが加減をしたのかそもそもの壁の材質が強固なのか。
少なくとも、ハインリッヒの苛々が募ってきていることだけははっきりとしていた。
/ ,' 3「家来でもなんでもいいんじゃよ。この際、隙を見出すための生贄でもよい」
一方のアラマキは、やはり貫禄と云うものが創り出しているのか、とても冷静な様子だった。
静かに、視界の奥の方で喚いているハインリッヒを無視してゼウスを見つめる。
その当のゼウスは、静かにマグカップを傾けるだけだった。
从#゚∀从「つまり、負け戦じゃねーかこんなもん!」
/ ,' 3「戦争とは、そう毎度毎度将棋のように平等とは限らない、むしろ不利であって然るべきなんじゃ」
从#゚∀从「ジジィもジジィでまったわけのわかんねー……」
ハインリッヒはハンモックから飛び降りた。
しゃな、と着地しては、ゼウスの隣まで近づく。
アラマキが黙って見ていると、ハインリッヒはゼウスと肩を組んだ。
いや、一方的に組んできた。
从 ゚∀从「ゼウス様ともあろうお方が、策無しであのバケモノに挑むってハラか? あァん?」
威圧的な声で、言った。
ゼウスは何事もないかのような顔のままで、コーヒーの二口目をのむ。
端から見れば、非行少女がビジネスサラリーマンに恐喝でもしている図のようにしか見えない。
( <●><●>)「策ならば言っている。それに貴様らがついてこれないだけだ」
从#゚∀从「それじゃー『策』なんて言わねぇんだよボケ!」
ゼウスに口づけでもするかの勢いで、至近距離からハインリッヒは言った。
それに全く動じないゼウスも大物だな、とアラマキは思っていた。
いまここで二人が戦いあうことはなかろう、と思ったがゆえの様子見だった。
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- 464 :同志名無しさん:2013/01/22(火) 23:12:22 ID:Y9uzgY7w0
-
ゼウスは三口目のコーヒーを流し込んだかと思うと、マグカップを置いた。
そのまま腕を組み、ハインリッヒは無視してアラマキを見た。
俯かず、若干右に傾け、更に不機嫌そうな顔で。
( <●><●>)「アラマキ」
/ ,' 3「なんじゃ」
( <●><●>)「ここで策を練るのも、水掛け論に等しい。そう思わないか?」
/ ,' 3「無益なことがなかろうて。ただどこぞのじゃじゃ馬が騒がしいだけで」
从#゚∀从「じゃッ……!」
アラマキに冷やかされるような眼で見られ、ハインリッヒはムッときた。
怒りの沸点が低いのは、彼らや内藤と出会う前からのことだった。
それだけは、いくら『英雄』になろうと変わらない。
/ ,' 3「逆に、無益じゃったらどうするつもりかの? えぇ?」
アラマキが、恫喝するように訊く。
ハインリッヒを振り払ったゼウスは、フンと鼻で笑った。
( <●><●>)「ボスだ」
/ ,' 3「はぁ?」
( <●><●>)「『拒絶』側のボスを突き止め、直接乗り込む」
/ ,' 3「………」
/;,' 3「……あのな、きゃつらのボスってことは必然的にモララーよりも強いんじゃぞ?
モララーの対策を練るだけでこないなっとる現状、どう相手取れと申すんじゃ」
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- 465 :同志名無しさん:2013/01/22(火) 23:21:46 ID:Y9uzgY7w0
-
( <●><●>)「違う。大事なのは『未確定要素が開ける』と云うことだ」
/ ,' 3「? ……?」
( <●><●>)「現状のままで手詰まりなら、まだ明らかになっていない要素を明かしていけば、
それらのうち一つくらいは突破口となりうるものがあってもおかしくはない」
( <●><●>)「それの最たるものが、ボスであるだけだ」
从 ゚∀从「……つまり、敵を調べるだけじゃねーか」
/ ,' 3「……まあ、そうなるわな」
ハインリッヒは扉の前に移動し、もたれ掛かる。
鼻に寄りかかった白い前髪を払って、腕を組んだ。
無表情のまま見下ろすようにゼウスを見る。
アラマキもアラマキで、重心を後ろに倒し、両手を後ろについた。
視線は宙に投げ、呆れたような顔をした。
从 ゚∀从「捕虜っつーことでワタナベから聞き出す手もあるが……」
/ ,' 3「聞けるのは何日も後、なんじゃろ?」
( <●><●>)「そのうちに、我々三人とも倒されかねない」
そう言うと、三人は黙った。
この部屋の中で、名もなき観葉植物が一番生き生きしているように見えた。
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- 466 :同志名無しさん:2013/01/22(火) 23:22:33 ID:Y9uzgY7w0
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( ^ω^)は
自らのパラレルワールドに
迷いこんだようです
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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- 467 :同志名無しさん:2013/01/22(火) 23:23:27 ID:Y9uzgY7w0
-
◆
アニジャは、廃墟から抜け出しては、走っていた。
鬱蒼としている樹海のような森のなかの、道なき道を。
大樹の根に躓くし、伸びきった蔦に絡まるし、巨大な蜘蛛の巣も掻き分ける。
『不運』にもスズメバチの巣に接近してしまい襲われそうになったが、
今度はスズメバチが『不運』にも別の巨大な蜘蛛の巣に引っかかってしまった。
無作為に、タイミングも選ばず『不運』が引き起こるのは困ったものだ、とアニジャは思った。
なぜ、こうも走っているのか。
一つは、また先ほどの男のような者に絡まれるのを面倒に思ったからだ。
もう一つは
( ´_ゝ`)「(なんで瓦礫の塊が崩れ始めたんだ……?)」
ガチガチに固まった筈の瓦礫が、それらを通していた糸が解けたかのようにぽろぽろと剥がれ出したからだ。
アニジャは耳がいい。
その時既に廃墟の外れにいたのだが、廃墟に反響する瓦礫の落ちる微かな音は聞き逃さなかった。
自分の能力だから、それを解除した、と考えることもできるが、どうも腑に落ちなかった。
そもそも、個々の欠片を一つの大岩にする能力の中心にいて、生き残れる筈がない。
圧力がどれほどかはわからないが、『抱擁』し終えた後の塊は一つの瓦礫のようにも見えた。
中心にいる人の骨は砕け、内蔵は千切れ、原型を留めることは不可能だろうと思われる。
もし、剥がれたのが
( ´_ゝ`)「(あいつが〝まだ生きているから〟だとしたら……?)」
そうすると、次に出会った時は逃げきれる保障がない。
アニジャの【771】は、あくまで「運」なだけであって、
そう何度も運良く発動できるわけではない。
だから、見つかる前に、と逃げ出していたのだ。
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- 468 :同志名無しさん:2013/01/22(火) 23:25:15 ID:Y9uzgY7w0
-
( ´_ゝ`)「とりあえず旦那に聞くか」
( ´_ゝ`)
( ´_ゝ`)「いまのいままで、旦那を探してたんじゃないか……」
( ´_ゝ`)「……『不運』だ……」
『不運』と言って、自分の掌を見た。
手相では、どの線も根本で一旦途切れている。
生命線なんか、一度占い師に見せると
「なぜ生きているのかが不思議だ」と言わせたほどなのだ。
――〝同じ手相の男がまだこの世にいる〟。
それが、アニジャにとっての生まれながらにして唯一の『不運』なのだが。
やがて、樹海も抜けた。
すると、山の下り斜面のようなところに出た。
今までは標高が高いところにいたのか、と初めてわかった。
そこから見える太陽の傾きからして、まだまだ昼なのだろう。
廃墟のなかではてっきり夕暮れか、もしくは豪雨の前兆かと思ったほど薄暗かったのに。
それは廃墟と云う先入観から生まれた見せかけの色なのだろう、とアニジャは割り切った。
――本当は、そこに〝全ての規律を乱す男〟がいたから、なのだが。
爽やかな風を全身で浴びる。
単身では醜い雑草も、集まって葉を風に預け波打っているのを見ると、どこか清々しい気分になれた。
誰も手をつけない、いわば文字通り自然の姿なのだから、当然といえば当然なのだろうか。
景色にとろけている暇はないので、慌てて下っていく。
雑草の波を踏むのに罪悪感はしたが、やめようとは思わなかった。
袂の方に街が――と希望的観測は抱いたが、テントの一つすらなかった。
正真正銘廃墟だな、とアニジャは思った。
ネーヨの行き先はこんな「裏」に近い場所だと思ったのが『不運』だった、と云うことだろうか。
アニジャは、再び自嘲したい気分になった。
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- 469 :同志名無しさん:2013/01/22(火) 23:26:13 ID:Y9uzgY7w0
-
その荒れ地を走ってゆくと、大きな河に突き当たった。
そういえば、ここに来るまでに河を抜けた記憶がある。
あの時は嘗て川守がいたであろう場所にあった舟を使ったのだが、今回は河を渡る手段は見あたらない。
濡れるなあ、と思い、アニジャは着服のまま河に飛び込んだ。
衣服を身に纏ったまま泳ぐのは、未経験者が思うほど簡単なものではないのだ。
水の抵抗が段違いに強くなるし、そのせいで水を掻くことも難しく、まして溺れやすい。
だが、アニジャはこの程度の辛酸なら何度も嘗めさせられてきた。
今更、この『運命』を恨むつもりはない。
生み出された時点で既に恨んだ『運命』なのだ。
甘んじて受け入れる、より他にない。
( ´_ゝ`)「とはいっても……うぉっぷっ」
( ´_ゝ`)「………」
( ´_ゝ`)「……将来、川守でもしようかな……」
アニジャが河を泳ぎ終えた時は、生きている心地がしなかった。
河の水を、大量に呑んでしまった。
堪らずおくびが出てくる。
ここらは荒れ地であるものの、本当の自然であるため、河が汚いと云うわけではない。
が、藻が生えたり虫が繁殖しているような河の水を呑みたいとは思う筈もなく。
おくびと一緒に胃の中のものも吐き出したい気分に陥った。
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- 470 :同志名無しさん:2013/01/22(火) 23:27:27 ID:Y9uzgY7w0
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服をおもむろに掴んでは絞って水を出す。
が、それでは効率が悪いと思い、周囲に誰もいないのだから――と考えて服を脱いだ。
上半身裸のまま、シャツごとそれを絞る。
随分と多量の水を含んだものだな、とアニジャは思った。
乾く筈はないものの、大方の水分をとれたなと思ったアニジャは、
近くの枯れ木の枝に服をかけようとしたが、その枝は簡単に折れてしまった。
地面は汚い土壌で溢れかえっている。
さすがに、アニジャでも泥塗れの服は着たくはない。
仕方なく、湿ったままの服を着て、次はズボンを絞ろうと思った。
( ´_ゝ`)「うわ、汚い……」
脱ごうとしてズボンを見たときの、アニジャの印象だった。
小枝や葉、泥が付いているまではいい。
虫がそこにへばりついていたりするのは、アニジャであれいい気分にはなれなかった。
それを摘んで投げ捨て、ズボンに付いたゴミを払った。
すると
( )「お」
右手の方から、声がした。
( ´_ゝ`)「ッ」
アニジャは、もう追いつかれたと思って咄嗟に身構えた。
距離は十メートル強、近くに身を隠せるものはない。
相手が銃を持っていると、今度は逃げ切れそうにない。
しかし、「油断、したなあ」とアニジャが思ってその男の顔を見ると一転、アニジャは身構えるのをやめた。
というのも、虚を衝かれたような顔をするだけだったのだ。
アニジャは半ば呆れたような顔をして、その男に声をかけた。
( ´_ゝ`)「……あんたかよ。どーしてここにいるんだ?」
( )「悪ぃかよ、居ちゃ」
( ´_ゝ`)「捉えようによっては、な」
.
- 471 :同志名無しさん:2013/01/22(火) 23:28:31 ID:Y9uzgY7w0
-
( ´_ゝ`)「―――ジョルジュ」
_
( ゚∀゚)「……こりゃー、随分なご挨拶だ」
脚の臑の位置にまで垂れた白衣を着た男、ジョルジュ=パンドラは笑った。
白衣の向こうには、黒いズボンと赤褐色のシャツが見える。
ズボンのポケットに手を突っ込んでいるのは、アニジャとはまた違う理由だろう。
ジョルジュはけらけら笑いながら歩み寄ってくる。
アニジャが身構えない以上、二人が知り合いであり、
且つ争いあうような仲でないことだけは見て明らかである。
アニジャはズボンを脱ぐのも忘れ、ジョルジュと向かい合っていた。
_
( ゚∀゚)「こんなところでかえる泳ぎの練習か?」
( ´_ゝ`)「あんたこそ……フィールドワークか?」
_
( ゚∀゚)「おかしいか?」
( ´_ゝ`)「マッドサイエンティストにはお似合いじゃあないな」
_
( ゚∀゚)「違いねえや」
.
- 472 :同志名無しさん:2013/01/22(火) 23:29:16 ID:Y9uzgY7w0
-
見た目は若い男は、しかしアニジャが言ったように〝普通の研究家ではなかった〟。
それこそ、文字通りマッドサイエンティストと云う言葉が似合いそうな男である。
口調や容姿は不良気取りの若者のように見えるのに、どう云うことか科学、
それも〝とある分野〟に関する知識に関しては天才的なものだった。
実績も――その行く末を追わないものと考えれば――頗る素晴らしいものである。
そんな、研究所に引きこもっていそうなジョルジュが、外出、
それもこのような荒廃した土地にいるのが、アニジャにとっては不思議でしかなかったのだ。
( ´_ゝ`)「さて……本当はなにしにきたんだ? 尾行か?」
_
( ゚∀゚)「残念だが、お前のデータはもういらねぇんだよ」
( ´_ゝ`)「? じゃあ――」
ジョルジュは、口角を吊り上げはせず
眉をひそめ、重苦しい顔をした。
_
( ゚∀゚)「なぁに……『拒絶』のデータだよ、俺が欲しいのは」
( ´_ゝ`)「……」
( ´_ゝ`)「っ! それじゃあ、ここら辺に――」
_
( ゚∀゚)「ほんと、『拒絶のオーラ』を解析しといてよかったぜ」
_
( ゚∀゚)「……こんなことになるなんて、なあ」
( ´_ゝ`)「………」
.
- 473 :同志名無しさん:2013/01/22(火) 23:30:13 ID:Y9uzgY7w0
-
ジョルジュがこのようにぼやく理由を、アニジャは知っていた。
だから、そのことを詮索しようとはしない。
代わりに、『拒絶』のオーラ、について話を伺った。
( ´_ゝ`)「……一応訊くが」
_
( ゚∀゚)「なんだ?」
( ´_ゝ`)「ショボンとワタナベは例の三人と交戦中だと聞く」
( ´_ゝ`)「じゃあ……ここにいる『拒絶』って――」
そこまで言うと、ジョルジュは掌をアニジャの口に向けて突きつけ、口を閉じるよう促した。
その動きに少し圧倒され、アニジャはつい口を閉ざしてしまった。
ジョルジュは少し俯き、暗い顔をした。
アニジャは、この時点でジョルジュがいま誰を思い浮かべているのかがわかった。
わかったのだが、しかしアニジャはそれを口にしようとはしなかった。
その理由も、お互いにわかっている。
_
( ゚∀゚)「今回の計画の……一番の誤算だよ」
( ´_ゝ`)「………」
突きつけていた右手を再び、ポケットに突っ込んだ。
背を屈め、自嘲気味なオーラを出してアニジャの横を通り過ぎようとする。
( ´_ゝ`)「……あんた単身でどうにかなる相手じゃないだろ」
_
( ゚∀゚)「んあ?」
( ´_ゝ`)「せめてもの尻拭いだ。俺にも手伝わせてくれ」
_
( ゚∀゚)「………お前」
.
- 474 :同志名無しさん:2013/01/22(火) 23:30:50 ID:Y9uzgY7w0
-
少し、静寂が彼らを包んだ。
アニジャの声は、今までに類を見なかったほど、真剣なものとなっていた。
――否、少なくともそれは今日で二度目である。
その一度目は、ネーヨがアニジャにある言葉を言おうとした時だ。
今のアニジャは、あの時のそれと、同じような顔をしていた。
ジョルジュは、アニジャが何をしようとしているのかがわかった。
_
( ゚∀゚)「冗談じゃねえ」
( ´_ゝ`)「?」
_
( ゚∀゚)「お前は俺の最後の計画の、偉大なる一歩だ」
_
( ゚∀゚)「万一だろうとお前に死なれちゃ困るんだよ」
_
( ゚∀゚)「まだ、完成してないんだからな……」
_
( ゚∀゚)「………《異常体質》の量産化、は」
( ´_ゝ`)「………」
.
- 475 :同志名無しさん:2013/01/22(火) 23:31:43 ID:Y9uzgY7w0
-
_
( ゚∀゚)「だが、〝アイツ〟をほったらかしてたら俺の計画がどうこうとなる前にこの世は崩壊する」
_
( ゚∀゚)「だから、今のうちに処理するしかねえんだよ」
( ´_ゝ`)「……」
ジョルジュが、半ば固まっているアニジャのわきを通り抜ける。
そこから二、三歩足を進める。
すると、アニジャが降り向きはせず、ジョルジュを呼び止めた。
そこで、ジョルジュもアニジャの背に背を向けたまま、俯いてぴたりと立ち止まる。
アニジャはそこで漸く振り返って、ジョルジュに訴えかけるように言った。
( ´_ゝ`)「元より勝算がねえんだよ、〝アイツ〟相手だと」
( ´_ゝ`)「前だって、俺がいたから運良く成功しただけじゃねえか」
ジョルジュは背を向けたまま黙っている。
( ´_ゝ`)「〝アイツ〟の能力は、まだ自制すらされてない、いわば常時半暴走状態だ。
〝アイツ〟にバレず背後から〝アレ〟をやったとしても、
『間違えて自分を閉じこめちゃいました』ってなったら洒落にならないぜ。
自分、だったらいい。世界を閉じこめちまったら、それこそオシマイだ」
_
( ∀ )
( ´_ゝ`)「それに、計画を実行できるのはこの世で機械も含めあんたしかいないんだ」
( ´_ゝ`)「あんたが俺に死なれちゃ困るように、俺もあんたに死なれちゃ困るんだよ」
_
( ∀ )
_
( ゚∀゚)「 ………。」
.
- 476 :同志名無しさん:2013/01/22(火) 23:33:01 ID:Y9uzgY7w0
-
_
( ゚∀゚)「…………俺の計画が浜辺のちいさな砂の城だとしたら、
〝アイツ〟は波――それも、飛びっきりのビックウェーブだぜ。
計画も余生も、もろとも呑み込まれちまう。
拒絶化計画は失敗だった、だから俺は死ぬしかない。
……そう云うことなんだよ、きっと」
ジョルジュは、アニジャに噛みつくように言い返した。
その内容は、内情を知らない一般人が聞けば、わけのわからない話。
しかし、この二人にとっては、今後、否、生命をも左右する死活問題だった。
だから、ジョルジュもアニジャも真剣な顔をしていた。
( ´_ゝ`)「いいや、それは違うな」
_
( ゚∀゚)「この天才科学者サマに指図すんのか?」
ジョルジュがやや威圧的に接する。
尤も、それにアニジャが怯むことはない。
もう、慣れていた。
思えば、この男との付き合いは思っているよりも随分と長いのだ。
( ´_ゝ`)「あんたが造ってるのは砂の城じゃなくて、お菓子の城ってことさ」
_
( ゚∀゚)「?」
( ´_ゝ`)「波に崩されるかもしれないが、出来上がったらそれほど魅力的な建築物はないってことだ」
_
( ゚∀゚)「………フーン」
( ´_ゝ`)「それ、俺のアイデンティティな」
_
( ゚∀゚)「あっそ」
そう言うと、ジョルジュはアニジャと向かい合った。
言葉は交わさず、ただ視線のみを交わす。
風が若干強くなってきた。
ジョルジュの長い髪と、アニジャの黒髪を風が横に流す。
塵がそれに合わせて飛ばされるので、一見すれば絵になる光景だった。
.
- 477 :同志名無しさん:2013/01/22(火) 23:33:49 ID:Y9uzgY7w0
-
( ´_ゝ`)「とりあえず、今は帰―――」
アニジャが「諦めてくれたか」と思い、ジョルジュに帰ろうと言おうとした時だ。
_
( ;゚∀゚)「ッ!?」
( ;´_ゝ`)「っ!」
――二人は、同時に、廃墟の方へと向いた。
同時に、暴風――むしろ、竜巻を形成するための風――が
廃墟の方へと混沌の渦を作り出すかのように吹きはじめていたのだ。
先ほど感じた微弱な風は、これの前兆だったのか。
風が吹くと同時に、唸り声のようなものが響き渡る。
アニジャもジョルジュも、嫌な予感しかしなかった。
( ;´_ゝ`)「おい、急げ! 〝アイツ〟が動いたのかもしれないぞ!」
_
( ;゚∀゚)「走っても遅ぇよ!」
( ;´_ゝ`)「じゃあ―――」
どうするんだ。
そう言おうとした時、アニジャの背後に、何者かが降りたったかのような音が聞こえた。
焦燥に駆られるアニジャを挟んで「彼女」の姿を確認したジョルジュは、少しばかり顔に安堵の色を見せた。
そんなジョルジュの顔を見て、アニジャもさッと振り返った。
そこには、童顔の、年齢こそ成人していそうだが一見すると少女のような女性が立っていた。
(*゚ー゚)「お待たせっ!」
.
- 478 :同志名無しさん:2013/01/22(火) 23:34:37 ID:Y9uzgY7w0
-
女性がいきなり現れたことに何のショックも示さず、
むしろ待ってましたと言わんばかりの表情で、ジョルジュは少女をまくし立てた。
_
( ;゚∀゚)「ナイスタイミン! 研究所――じゃなくてもいいからどこかに!」
(*゚ー゚)「アニジャくんはどうする?」
( ;´_ゝ`)「置いてくつもりかよ! 俺も一緒に頼む!」
(*゚ー゚)「はーい」
戦慄を顔面いっぱいに見せる男二人とは違い、少女は別段落ち着いてはいた。
そして二人を見つめてから、静かに目を瞑り、深呼吸を一度する。
終えると目をゆっくり開いて、いつも通りのあどけない笑顔を見せた。
精神を集中させていた、と言うべきなのかもしれない。
そして
ラスト・ガーデン
(*゚ー゚)「【最期の楽園】ッ!」
_
( ;゚∀゚)「のわッ!」
( ;´_ゝ`)「『不運』が起こらないように……」
そう何かを叫ぶと、同時にその場から三人は消えた。
残ったのは、アニジャが陸地に残した水の跡だけだった。
その跡が、嘗てそこに人が住んでいたことを示すためのもののようにも見える。
だが、それ以外はなにも残らなかった。
いや、あと残っていたとしたら、それは静寂だけだ。
.
- 479 :同志名無しさん:2013/01/22(火) 23:35:30 ID:Y9uzgY7w0
-
◆
時は少し前に遡る。
ある男が、自分を『抱擁』していた瓦礫たちが、その使命を果たし終えたかのように
ぽろぽろと塊から剥がれてゆくのと同時に、意識を取り戻しつつあった。
そこで、本能的に「生命力」を「自分」に『抱擁』させるように能力を発動した。
おかげで、朦朧としていただけだった意識を取り戻し、
同時にとりづらかった呼吸をとれるようになるまでは回復した。
四肢に力を籠めて、力を失った瓦礫たちを払っていく。
すると、嘗て塊であった彼らは、気がつくと皆、男を『抱擁』するのをやめていた。
足の踏み場を無くすかのように散らばった瓦礫、うち一つを蹴り飛ばして、男は頭を軽くさすった。
(;-∀ ・)「…クソ………」
まだ声帯は安定しない。
喉に瓦礫、それも鋭利な部分が刺さらなかったのがせめてもの幸いではあったが。
それでも、男の躯が万全でないことには違いなかった。
意識が戻ってきた。
眩む視界になんとか耐えて、男は地面に倒れていた状態から、のっそりと立ち上がる。
いくら自分の能力だからといって、その圧力には勝てなかった。
今ならば、中学生相手であっても喧嘩で負ける自信があった。
それほど、四肢を安定して使えないのだ。
.
- 480 :同志名無しさん:2013/01/22(火) 23:36:14 ID:Y9uzgY7w0
-
男は頭を掻いて、周囲を見渡した。
瓦礫が散らばっていること以外は、自分がこうなる前までと違っていなかった。
違っているとすれば
(・∀ ・)「アイツ……逃げやがったな」
あの、痩身で長身の男――アニジャだ。
特に能力を発動されたとも思えないのに、なぜか自分は結果的に負けてしまった。
そのことが不思議だし、また、アニジャと云う男を調べるには充分すぎる動機だった。
(;・∀ ・)「いてて……さすがに痛むな」
腰をさすりながら、壁に手をつき、瓦礫に足をとられないようにゆっくりと大通りにでた。
大通りには寂しい風が吹くだけで、変化も破壊された跡もない。
男は数秒ほどその景色を見て、視線を逸らした。
右に、左に、とアニジャがいるかを確認したのだ。
だが、むろんそこに居る筈もなかった。
わかっていながらも、逃げられたと云う事実を再認識するだけで、男には再びやりようのない怒りがわいてきた。
その怒りは、アニジャに対する憎しみへと変わってゆく。
気がつけば、アニジャを捕らえることしか考えていなかった。
(#・∀ ・)「ありったけの情報を吐かせた後、殺してやる……!」
(・∀ ・)「……もう、ここにはいないだろうな」
周囲を最後にもう一度、見渡す。
(・∀ ・)「俺もここを発つか」
そう決意して、来た道を辿ることにした。
記憶力は比較的良い方なので、迷うことはないだろう。
そう思って、繁華街の入り口だったのであろう朽ちたゲートをくぐった。
後は山を越え、河を越えればいいのだ。
恐らくではあるが、アニジャも、このルートで帰っているだろう。
男は、根拠もなくふとそう思った。
.
- 481 :同志名無しさん:2013/01/22(火) 23:37:01 ID:Y9uzgY7w0
-
一応、帰り道でも警戒は怠らない。
油断ほど自分を蝕むものはないからだ。
懐のデザートイーグルの重みを実感し、また一歩、と踏み出す。
(・∀ ・)「いつ現れるかわからないし……」
右、どこまでも続く荒廃。
(・∀ ・)「いつ見つけるかわからないし……」
左、どこまでも続く腐敗。
(・∀ ・)「いつ戦うかわからないし……」
前方、どこまでも続く道なき道。
その中腹辺りに、痩身の男が一人。
(・∀ ・)「そう、ちょうどあんな感じの後ろ姿で……」
(・∀ ・)「……」
(・∀ ・)
男は、もう一度前方をよく見た。
目を擦って、更にもう一度。
(・∀ ・)
(;・∀ ・)「(い……ッ、いた! 呑気に歩いてやがる!)」
.
- 482 :同志名無しさん:2013/01/22(火) 23:37:55 ID:Y9uzgY7w0
-
男は、急に動揺した。
まさか、こうもあっさり見つけるとは思ってもみなかったからだ。
ばッと伏せ、落ち着こうと数回大きく息を吸い、よし、と呟いた。
そして胸元からデザートイーグルを取り出し、標準を定める。
狙撃銃ではないのだが、この距離ならさして問題はない。
ここで背中か脚かを撃ち抜き、さながら拷問でもするかのようにして情報を吐かせるのがいい。
男はそう考え、すぐ実行に移った。
呑気に考えているうちに、気配でこちらの存在が悟られるかもしれないからだ。
(;・∀ ・)「(大丈夫……大丈夫……)」
唾を呑み込んで
男は、銃の引き金を―――引いた。
銃弾は、破裂音を発して標的――痩身の若者の背中――に向かって飛んでいった。
撃つ際、手元はぶれていなかった。
着弾点がずれることはないだろう。
そう安心して、被弾するか、じっと見つめた。
( )
(;・∀ ・)「(よっしゃ!)」
弾は、背中にぶつかるのが見えた。
男は思わずちいさくポーズをとる。
対面の時に一度悲惨な目に遭っているので、命中するか不安だったのだ。
男は、立ち上がって駆けだした。
.
- 483 :同志名無しさん:2013/01/22(火) 23:38:47 ID:Y9uzgY7w0
-
(・∀ ・)「ざまー見ろ、バーカバーカ!」
(・∀ ・)「いまそっちに行くから待ってて――……え?」
(;・∀ ・)「……命中した、よな………?」
( )「……」
男は、思わず立ち止まり、狼狽した。
それもそうだろう。
銃弾は確かに背中に当たった筈なのに
その背中は、無傷そのものだったのだから。
.
- 484 :同志名無しさん:2013/01/22(火) 23:39:28 ID:Y9uzgY7w0
-
(;・∀ ・)「え、えっと……その………」
相手との距離はおよそ十メートル。
男は、なにが起こったのか状況を呑み込めず、その場であたふたとした。
相手がのっそりとこちらに振り返る。
引き返すにしても、身を隠せるところにまで行くには二十メートルは走らなければならない。
それまでに、なにされるかもわからない。
相手は、自分の能力の対象をすり替えたのだ。
それが能力の正体かはわからないが――そもそも『能力者』と云う
事実そのものが驚きだが――男は能力を再度使おうとは思えなかった。
あれやこれやと考えている隙に、相手はこちらに気づいて歩み寄ってきていた。
(;・∀ ・)「あ、ああ……?」
( )「キサマか、オレサマに銃を撃ッたのは」
焦りと驚きが入り混じって、男は錯乱状態だった。
銃を持つ手は震え、膝は笑っている。
躯の芯からぶるぶると震え上がっているのがわかる。
それは、非現実的な情景を見たから――だけではない。
男は、いざ相手と目を合わせると――否、遭(あ)わせると、
なぜか、心がくしゃくしゃにかき乱されるような錯覚に陥ったのだ。
――馬鹿な、さっきまで向かい合っていた男なのに、どうして!
男は、心中でそう叫ぶ。
相手は、顔も同じ、体格も同じ、服装も同じなのだ。
間違いなく、先程まで戦っていた男と言えるだろう。
だが、有する『オーラ』だけは、どう考えても違っていた。
目を遭わせるどころか、同じ場に立つだけ、同じ大気を共有するだけで、吐き気がしそうなのだ。
背骨をガシッと掴まれ、揺すられているような心地すらしてしまう。
それが、男に形なき恐怖と動揺を与えていた。
.
- 485 :同志名無しさん:2013/01/22(火) 23:40:12 ID:Y9uzgY7w0
-
相手が、徐々に近寄ってくる。
相手の顔はなぜか、先程までの柔和なそれとは違い、般若のようにしか見えなくなっていた。
少し見つめ合うだけで、今後一生悪夢しか見られなくなるような――
( )「生憎な、売られた喧嘩は買うモンでよ」
(;・∀ ・)「………ぁ………ぁああ……っ!?」
相手が、男の顎を掴んだ。
ぐッと引き寄せられ、男はいよいよ涙が出てきつつあった。
( )「覚悟はできてンな?」
(;・∀ ・)「………ッ……!!」
なぜ、ここまで違う。
この男は、あの男――アニジャではないのか。
同一の筈なのに、全くの別人のようにしか思えない。
男は相手の顎を掴む手を振り払った。
――否。〝振り払おうとした〟。
.
- 486 :同志名無しさん:2013/01/22(火) 23:41:21 ID:Y9uzgY7w0
-
(; ∀ ・)「へぶッ!」
( )「………」
振り払おうとした己の右手は
〝なぜか拳をつくり〟
〝なぜか自分のこめかみを殴っていた〟。
なにが起こっているのか、さっぱり理解できない。
しかし、自分の意識に反して、躯が動く。
男が混乱状態に陥っていると、向かいの男が、面倒臭そうな顔をした。
顎を掴んでいた手を離し、男を突き飛ばす。
地面に頭を打ち、その男は少しばかし悶えた。
( )「……憑いてねェな、キサマ」
(;・∀ ・)「!? !?」
( )「オレサマを殴ろうとした手で、運凶(わる)く自分を殴るなンてなァ」
(;・∀ ・)「……ぁあばば?!」
( )「お、逃げるか」
アニジャらしき男の言っている意味は理解できなかった。
が、いつまでもこの男と向かい合っていてはだめだ、と云うことだけは本能的に理解していた。
放してもらったのを好機にと、咄嗟に男は覚束ない足取りのまま廃墟の方に逃げようと走り出した。
それをアニジャらしき男は黙って見つめる。
少しして、彼はにんまりと笑んだ。
(;・∀ ・)「(にげなきゃにげなきゃにげなきゃ、にげなきゃッ!!)」
( )「……バカめ」
(;・∀ ・)「(げなきゃにげなきゃにげな――)」
(; ∀ )「―――ッ!?」
.
- 487 :同志名無しさん:2013/01/22(火) 23:42:11 ID:Y9uzgY7w0
-
アニジャらしき男が呟くと、男に異変が見られた。
不恰好ながらも走っていたのが、急に転けたのだ。
ただ転けただけではない。
右足の臑辺りから折れ曲がるように、不自然な転け方をした。
刹那訪れる痛みに、男が悶える。
涎は垂らし、頭は意味もなく振り回し、無様にもじたばたと足掻く。
それを見たアニジャらしき男は、のっそりと近寄った。
男は、彼を死神としてでしか見られなくなっていた。
( < )「まだ足掻くか」
(; ∀ )「――――ッ??!」
男が見上げると、上から自分の顔を覗き込む彼の、恐ろしい顔が見えた。
無表情で、しかしその仮面の裏にはどす黒いものが潜んでいる、そんな顔が。
彼はなにも言ってないのに、男は能力を使って切り抜けるしかない、と考えた。
(; ∀ )「『瓦礫』ッッ!」
( < )「オ?」
この場面において、彼が能力を発動できたのは幸運以外のなにものでもなかった。
錯乱状態で発動できるのは、暗闇のなか黒い折り紙を見つけるのと同じくらい難しいことなのだ。
だから、その点においては彼は評価されるべきだろう。
だが。
(; ∀ )「…………」
(; ∀ )「……ア、レ…?」
( < )「吹いてきたな、風」
.
- 488 :同志名無しさん:2013/01/22(火) 23:42:41 ID:Y9uzgY7w0
-
本当なら、すぐに周辺の瓦礫が目の前の彼に向かって『抱擁』すべく飛びかかってくる筈なのだ。
しかし、近くの瓦礫は一枚も動こうとはしなかった。
どうした、なにがあった――と、男は思った。
錯乱状態だったから能力の発動を誤ったか、と思った直後。
代わりに
(; ∀ )「(まさか……ッ!)」
( < )「……」
〝凄まじい風〟が、しかも自分を台風の目にするかのように集まってきた。
少しして、その真意がわかった。
なぜ、急に風が吹いてきたのだろう、と。
答えは、簡単だった。
〝空気を自分に『抱擁』させる〟ように【集中包裹】を発動させてしまった―――
.
- 489 :同志名無しさん:2013/01/22(火) 23:43:23 ID:Y9uzgY7w0
-
( <_ )「呼吸ッてのはだな」
(; ∀ )「――?」
( <_ )「意外に、台風を浴びながらじャ、できねェモンなンだぜ」
言われると、確かに呼吸しづらさが実感できてきつつあった。
暴風を前に、息を吸うことができない。
(; ∀ )「あガがああああああッ!!」
風は一層強くなる。
それに従って更に酸素が体内に入ってこなくなるので、脳が酸素を求める。
しかし、それができない。
男は、発狂していた。
手足をじたばたさせ、足掻く。
アニジャらしき男は、それを見つめてから、少しして、踵を返し歩いていく。
(; ∀ )「なキャあああああああいがァァァァァァ!!」
彼に逃げられると察したこの男は、助けてもらおうと、もがきはじめた。
しかし、アニジャらしき男は聞く耳をもっていないのか、それを無視して、歩を進めるだけだ。
風が、台風とすら思えないほど、強くなっていく。
そんななか、彼はそれを受け付けることすらなく、静かに歩いては、
聞こえる筈のない呟きを、悶えている彼に向けるのであった。
.
- 490 :同志名無しさん:2013/01/22(火) 23:45:01 ID:Y9uzgY7w0
-
「憑いてねェ」
「憑いてねェよ、キサマ」
「これが、言うところの―――」
. インフェルノ
(´<_` )「【運の憑き】――ッてヤツ、かな?」
言うなれば「神の失敗作」。
オトジャ=フーンは、兄と同じように、来た道を静かに辿るのであった。
.
- 491 :同志名無しさん:2013/01/22(火) 23:48:27 ID:Y9uzgY7w0
- 30レス……短いな
ひょっとしたらどこか飛ばしてるかもしれないです。繋ぎとかで変な箇所があればご報告お願いします
ちなみに作者ブログはじめました。(→http://itsuwari777.blog.fc2.com/)
作者ブログとは名ばかり、実際はブーン系の感想を垂れ流すブログですが、一応貼っときます
リクエストとか「こんなの読んでみろ」ってなのがあれば読んで感想を書くので、教えてくださいな
- 492 :同志名無しさん:2013/01/22(火) 23:53:30 ID:g3BWllug0
- おっつおっつ
(´<_` )つええな
- 493 :同志名無しさん:2013/01/23(水) 12:12:24 ID:XwG14CyI0
- ブログ期待してる
- 494 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 10:51:23 ID:wcqMe8nU0
-
○登場人物と能力の説明
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
(゚、゚トソン 【???】
→時や力を『操作』した『拒絶』の少女。
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
_
( ゚∀゚) 【???】
→『拒絶』に関わりを持つ科学者。
( ´_ゝ`) 【771《アンラッキー》】
→『不運』を引き起こすが、『能力者』でも『拒絶』でもない男。
(´<_` ) 【運の憑き《インフェルノ》】
→「神の失敗作」「世界の規律を乱す男」などと称される男。
.
- 495 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 10:53:15 ID:wcqMe8nU0
-
○前回までのアクション
_
( ゚∀゚)
( ´_ゝ`)
(*゚ー゚)
→撤退
(´<_` )
(・∀ ・)
→戦闘終了
/ ,' 3
( <●><●>)
从 ゚∀从
→会議
( ^ω^)
( ´ー`)
(゚、゚トソン
→バーボンハウス
.
- 496 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 10:54:26 ID:wcqMe8nU0
-
第二十二話「vs【771】Ⅲ」
内藤がまず最初に驚いたのは、動く筈はないだろうと思っていた扉が、いとも容易く開かれたことだ。
手を押すだけで、すッとその扉は開いた。
訪れるつもりだったのにそのことに驚いたところに、逆説的なものを感じる。
だが、開いたことに驚いては、およそ一種の本末転倒だろう。
なんのためにきたのだ、と笑われるに違いない。
内藤は平生を装って、顔を覗き込んだ。
第二の驚きが
(゚、゚トソン
(;^ω^)「!」
バーテンが、依然無心のままグラスを磨いていたことだ。
それも、カウンター奥と云うバーテン専用の定位置に就いて。
揺れる後頭部の橙がかった髪が、淡いライトに反映されて煌びやかに見える。
寡黙さが好まれるバーテンとしては、加えてより美しい人物であった。
まだ、立て続けに内藤は驚くことになる。
そのカウンターの手前――つまり客席に、男が座っていたからだ。
呑気に、ビールなんかも呑んでいる。
( ´ー`)
(;^ω^)「!!」
呑んでいる――つまり、営業中だ。
しかし表の表示からすると、営業時間は一般的なバーと同じく夜のみだ。
それなのに営業しているところを見て、驚かない者がいるだろうか。
内藤はわけがわからなくなった。
(゚、゚トソン「すみませんが」
バーテン――トソンが、声をかける。
(゚、゚トソン「只今、営業時間外となっておりまして、御来店はご遠慮させて――」
(;^ω^)「……お?」
.
- 497 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 10:55:35 ID:wcqMe8nU0
-
内藤は、途中で「ん?」と思った。
彼女の言うことは至極当然ではある。
確かに、営業時間外であることには違いない。
しかし
( ´ー`)
目の前に、酒を呑んでいる客がいる――営業をしている、ではないか。
営業時間外ではあれ、こうして客が酒を呑んでいるのはどう云うことなのか。
内藤の、そう言いたげな心境を察したのか、客――ネーヨは、コト、とジョッキを置いた。
上唇に残った白い泡を、舌で絡めとる。
(゚、゚トソン「――と云うわけなので」
( ´ー`)「おいおい、来た〝まともな〟客を追い返すのかよ」
( ^ω^)「(まとも……?)」
(゚、゚トソン「いや、しかし」
トソンが言い返そうとする。
しかしネーヨはそれを許さなかった。
( ´ー`)「わざわざ、こんな辺鄙な立地のここに来るってこたあ、よっぽど酒が呑みたかったんだろうよ。
常識知らずだろうが、酒を愛する奴は俺の仲間だ。……入れてやんな」
( ^ω^)「……お?」
.
- 498 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 10:56:27 ID:wcqMe8nU0
-
ネーヨが流暢にそう説得する。
彼は静かなのも好きだが、同じ酒を好む者と何気ない話をするのも好きなのだ。
相手がバーテン、それも身内の者となると面白味などない。
無関係な赤の他人と、名も知らないのに話を交わすことに趣があるのだ――ネーヨは、そう考える。
内藤がそのとき思ったのは、どこか今の言葉のなかに、威圧に似たなにかが感じ取れたと云うことだ。
直接的に威圧したわけではないし、本人としても威圧しようなどと考えていないとは思うのだが、どこかに、威圧が感じられた。
内藤は、そのどこかを、またなぜかを探そうと思った。
しかしそれより前に、彼らが動いた。
(゚、゚トソン「あなたが〝常識知らず〟なんて仰っても説得力が……まあ、別に困りはしませんが。あなたの奢りはだめですよ」
( ´ー`)「わかってら」
トソンが落ちたのだ。
無表情のまま内藤の顔を見て、席に就くよう暗に促した。
状況を掴めないまま、とりあえずお許しがでたことだけは理解して、慌てて店内に入ってはチェアーに就いた。
非常に落ち着いた、ゆったりとした空間だった。
並ぶワインがインテリアなのかと思わせるほど、配置も美しくボトルそのものも美しい。
バーテンが良いとバーも良い、というだけに、内藤としてもここの居心地は良さそうだった。
妙な胸騒ぎこそするが――
オーダーは、おまかせと言いたかった。
だが、委せるのはいいが図々しくも押し掛けてきてオーダーまで委任するとは、厚かましくはないのか。
そうありもしない懸念を抱いたため、内藤はネーヨと同じビールをいただくことにした。
ジョッキになみなみと注がれたビールを見て、バーにジョッキなどあるのか――と疑問を抱きはしたが、他のバーはどうかさておき、トソンは、もはやネーヨのためだけにそれを用意しているようなものなのだ。
内藤が抱く疑問は、あらゆる意味で意味のないものなのであった。
.
- 499 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 10:57:49 ID:wcqMe8nU0
-
内藤は、浮かんだ疑問を押し隠し、それを一緒に流すかのようにビールを呷った。
喉ごしの時点で、内藤はそれが元いた世界でいう日本のものではなく、ベルギーのものだ、とわかった。
ビールに関しては「通」程度の知識は持っているのだ。
それも、内藤が例の作品で一発当てた当初、調子に乗ってビールというビールを呑みまくった産物であるだけなのだが。
この世界において、ベルギーなどと云う実在する国は存在しないだろう。
だとすると、西端あたりに位置する土地から仕入れたビールなのであろうか。
少なくとも、それを旨いと味わうことは十二分にできた。
( ´ー`)「隣、いいか?」
( ^ω^)「お?」
静かに、感動を噛みしめて呑んでいると、ネーヨが横から話しかけてきた。
彼はカウンターの上に両肘をついて手を組み、上体は屈むようにして顔だけを内藤の方に向けている。
社交性のない内藤としてはよもや話しかけられるとは、と思ったため、
一瞬動揺してしまった――理由は、なにも社交性の有無だけではないのだが――。
断る道理もなく、逆に断ると空気が一転して悪くなるのでは、と思ったため、内藤は二つ返事で受け入れた。
するとネーヨが席をたち、内藤の隣に座った。
しかし、ネーヨの方はいつも通りの流れなのだろうが、内藤にとってはその場には緊張しかないのだ。
畢竟するに、内藤はどう対応すればいいかわからなくなってしまっていた。
交流したい側がバーテンに言って相手にワインの一本を奢り、
そこから隣に座って――となるのが有名だが、ネーヨはそうはしなかった。
しかし特に深い理由はなく、ただトソンに釘を刺されていたからと云うだけだ。
隣に座ったネーヨは、内藤に緊張させる暇を与えるつもりはなかったようで、早速話しかけてきた。
このようなバーでは一般的な交流の仕方で、それを見るにネーヨは余程この場に慣れていると思われる。
だが、内藤が極端に慣れていないので、二人が噛み合いそうには全くなかった。
ネーヨは予てより抱いていた疑問をぶつける。
( ´ー`)「ところでよ、こんな時間帯に、どーしたんだい? リストラか?」
(;^ω^)「ににッ、ニートじゃないですお……ただの休暇ですお」
いきなり重い話題を振るなあ、と内藤は思った。
.
- 500 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 10:58:38 ID:wcqMe8nU0
-
( ´ー`)「休暇……サラリーを貰ってそうには見えないけどな」
( ^ω^)「まあ、サラリーマン……だと語弊が生じそうですお」
( ´ー`)「ほう……じゃあ、なにやって――いや」
( ´ー`)「当ててやるよ、おめえさんの職業」
( ^ω^)「お、ほんとですかお。楽しみですお」
すると、ネーヨはじろじろ内藤を見た。
上から下から、細かなところまでじっくりと観察する。
内藤は、どこか自分が動物園のコアラになったような気がして、くすぐったい感じがした。
少しすると、ネーヨは「はーん」と言った。
内藤が、お、と思うと、ネーヨは続けた。
( ´ー`)「なにかは知らねえが……物書きだな? それも会社の事務や経理じゃねえ、小説や脚本だ」
( ^ω^)「おっその通りですお。凄いで――」
( ;゚ω゚)「――ええッ!? なんでわかったんですかお!」
.
- 501 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 11:01:27 ID:wcqMe8nU0
-
まさか本当に当てられるとは――
内藤が魔物を見るような眼でネーヨを見ると、彼はビールを呷って、それを咀嚼した。
ビールをのみ下し、息を吐くと、にたあと笑んだ。
( ´ー`)「まず手だ。だいぶタコができてんな。
んで、右腕の筋肉――指伸筋の発達のし具合が、左腕との比較の上でもだいぶ差がある。
指伸筋が膨れてるってのは、長時間ペン握ることで、硬直しちまった状態で慣れてるってこった。
その証拠に、小指が薬指の内側に入り込むように曲がってる。
ま、これはパソコンのマウスを始終握ってる奴にも言えることだが、な」
( ´ー`)「んでもって、気づいてねえだろうがおめえさん、だいぶ猫背なんだぜ。
ドライアイなのか、瞬きの回数も多い。
それほど目を疲れさせ右手を頻繁に使い、まして屈む――つまり机と向かい合う仕事ってこった」
( ´ー`)「指伸筋が膨れる仕事は数あれど、それで机に向かい合って
ドライアイでサラリーを貰わねえとなると、物書きが真っ先に浮かぶんだよ」
( ;゚ω゚)「お、おお……おおおおっ…!」
一気に言い終えて、ネーヨはまたビールを口に含んだ。
内藤はその推理力に感服して、思わず拍手をしていた。
冷や汗を垂らし、真顔で、ぎこちない動作でするその拍手は、どこか不気味で、どこか滑稽だった。
( ´ー`)「これでも、今まで何人もニンゲンを見てきた。人を見る目だけは自信があんだ」
(;^ω^)「お見逸れしましたお。ご職業はスカウトか何かですかお?」
ネーヨが得意気な様子だったので、内藤もそれを助長するかのようにそう訊いた。
だが、内藤の予想とは一転、ネーヨはその質問にはあまり良い反応を見せなかった。
内藤が「おや」と思ったのも、その所為だ。
( ´ー`)「いや、全く関係ねえんだな、これが」
( ^ω^)「?」
( ´ー`)「あまりかっこよかあねえが……」
少し、ネーヨは間を挟んだ。
( ´ー`)「自警団、の一員だったぜ」
( ^ω^)「自警団……?」
.
- 502 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 11:04:11 ID:wcqMe8nU0
-
( ´ー`)「おめえさん、今のこの王国をどう思う」
( ^ω^)「!」
内藤は、知らぬうちに話がシリアスさを帯びたものになっていることに気がついた。
真面目な――それこそ酒の場にあわないような――空気を携えて、ネーヨは続けた。
( ´ー`)「街は荒れに荒れ、治安を守るべき警察もいわば国家が先だって在るもの。
その国家がムチャクチャだ。守るもんも守れてねえよ」
( ^ω^)「はあ」
内藤は、この世界を創りこそしたが、いざその世界観で一定期間を過ごした、なんて経験はない。
むしろ、創ったとは言えど感情移入させることはなかったので、全くの無知と言っても良いレベルであった。
このような世界観にさせられた側にしてみれば内藤は無責任の固まりではあるが、それをこちら側の住人が知る由もない。
詰まるところ、内藤には興味がなかった。
――いや、自分の創った世界観がどのような現状を生み出しているのか、に興味はあったが。
( ´ー`)「政治家なんてもん、良い奴がひょっこり出たと思ったら、買収されるか裏の連中に消される。
その裏の連中潰そうと必死な国家は、表の連中に治安を与えようとはしない。
あの荒れた環境じゃ、表の連中から裏に変わる奴もそりゃ出てくるな。つまり、悪循環だ」
( ´ー`)「俺は、ツレと小規模な自警団を組んで、そんな悪循環を生む元凶を潰してたんだ。
この目は、そんな元凶や被害者を見てくうちに自然と育っただけなんだぜ」
( ^ω^)「……」
この時、内藤は二つの疑問を抱いた。
一つは、言葉がいちいち過去形であったことだ。
つまり〝いまは違う〟と云うことなのだろうが、なぜそれを語り出すのか。
.
- 503 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 11:09:29 ID:wcqMe8nU0
-
こちらは内藤にとってはどうでもよかった。
別にバーでそう云ったことを語るのも一興だろう。
一夜――まだ昼ではあるが――限りの交流である以上、特に気に留めることも通常ならあるまい。
だが、この時に限っては、通常ではなかった。
――自警団?
――それって……
「自警団」に、聞き覚えがあったのだ。
否、これも、嘗てドクオと対面した時の状況に似ていた。
聞き覚え、ではない。
( ^ω^)「(……〝創り覚え〟っ!!)」
自警団など、いわば自治組織のようなもので、いつの時代の背景にもそう云った集団は現れてくるものなのだ。
だから、単に自警団、と言っただけでは内藤も疑いはしない。
だが、そこに
( ^ω^)「(〝ツレ〟と組んだだけの〝小規模〟な自警団なのに〝元凶を潰せた〟……っ!)」
その要素を踏まえると、内藤としては別の疑惑が浮かんでくるのだ――といっても、
その疑惑は霞がかっていて、手で払っても払ってもその奥にあるものは見えないのだが――。
ここまでくると、言うまでもない。
内藤の小説――の、原案に、登場したのだ。つまり、『拒絶』と同じ類、として。
それも、強敵として、である。
むろん、ただの勘に過ぎない。
だが、鍵の少女の件も踏まえると、内藤は疑わずにはいられなかった。
(;^ω^)「恐縮ですが……」
( ´ー`)「ん」
内藤が訊いた。
.
- 504 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 11:10:44 ID:wcqMe8nU0
-
(;^ω^)「その自警団って、どんな組織なんですかお?
そんな大層な自警団なら、僕も小耳には挟む筈なのに……」
( ´ー`)「……」
ネーヨは少し黙る。
正面を向いて、腕を組み顎をひく。
無表情のまま、少し目の前のビールの、無尽蔵にあがってくる気泡を見つめた。
( ´ー`)「酒の場に緊張はいらねえよ。敬語もやめな」
( ^ω^)「お?」
すると、ネーヨは続けた。
( ´ー`)「そら、おめえさんが知らねえのも当然だ。俺らが潰してたっつーのは、あくまで『裏』だからな」
( ^ω^)「……!」
( ´ー`)「腕っ節一本で、のし上がる。俺は正義なんて関係なく、暴れたいがためだけに拳を振るったもんなんだぜ。楽しかったねえ」
( ^ω^)「………」
今度は、内藤がビールを呑んだ。
当初とは違い、落ち着いた振る舞いだった。
( ^ω^)「……それも、どうやら昔の話みたいだけど、なにがあったんだお?」
( ´ー`)「男にはいろいろ事情があるってもんだ」
( ^ω^)「……」
(;^ω^)「は、はあ」
ネーヨはさらッと言った。
つまり、深いことは詮索するな、と云うことだろう。
本人が望まないことを、無理に訊くわけにもいかない。
それが酒を呑む場なら、尚更だろう。
まして、自警団を組み、腕っ節だけでのし上がってきたとなると、相当な遣い手と見える。
内藤は、これ以上訊くわけにはいかなかった。
.
- 505 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 11:11:38 ID:wcqMe8nU0
-
その代わりと言うつもりなのか、ネーヨは「うし」と声を漏らした。
顔を内藤に向け、先程までのシリアスな空気は吹き飛ばし、元のオーラに戻った。
平凡な、しかし圧倒されるなにかを感じるオーラだ。
( ´ー`)「辛気くせえ話はここまでだ。で、こんなとこに来てまでビールを頼むたあ、相当の酒豪だろ?」
( ^ω^)「お! ビールは好きだお」
( ´ー`)「いいねえ。おい」
ネーヨはちらっとトソンを見て、呼んだ。
グラスを磨いていた手を止めて、トソンは閉じていた目を細め、ネーヨを見た。
( ´ー`)「なんかアテくれや。何かあんだろ?」
(゚、゚トソン「……居酒屋にいけばいいのに……」
( ´ー`)「かてえこたナシだ。頼むぜ」
(゚、゚トソン「………まったく」
(;^ω^)「おおぅ……」
( ´ー`)「そう云うこった」
ネーヨがそう言うと、トソンの垂れた眉も見ずに、二人は世間話をはじめた。
最初はやはり緊張していた内藤だったが、数分すれば、すっかり饒舌になっていた。
それは、ネーヨの話術の巧みさと大らかな性格のためだろう。
トソンはすっかり呆れていた。
.
- 506 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 11:13:17 ID:wcqMe8nU0
-
◆
目を開くと、暗く闇のような天井が奥の方に見えた。
後頭部に痛みを感じる。
同時に、平衡感覚が、いま自分が立っていないことを告げている。
アニジャは、今自分が仰向けに倒れていることに気づいた。
頭を打ったのだろうか、その後頭部をさすりながら、アニジャは上体を起こした。
鼻をつく医薬品の香り――や、目を覆いたくなる標本やホルマリン漬け――
なんてものはないが、そこが何らかの研究所であることだけはわかった。
特に何らかの手がかりを得た、などと云うわけではない。
ただ、そこが〝通い慣れた〟場所だったから、なにを考えずともそこが研究所だ、とわかっただけなのだ。
と云うことは、隣には〝彼〟がいるだろう。
そっと、細い眼でチラッとそちらを見た。
_
( ;゚∀-)「ツツツ……」
( ´_ゝ`)「(やっぱり……)」
すると、ここがどこか特定できたようなものだ。
ここは、マッドサイエンティスト、ジョルジュ=パンドラの研究所である、と。
ジョルジュも目が覚めたようで、額をさすりながら背を反るように上体を起こした。
床に片手をついて、きょろきょろと周囲を見渡す。
すると彼は、少し離れたところに、少女がいることに気がついた。
アニジャもあわせてその視線を辿る。
四つん這いになって、頬骨の辺りをさすっている。
やはり、彼女もか――と、アニジャは少し嫌味に笑った。
なにも、『不運』が起こったからこのような事態になったのではない。
理由は、もっと単純だった。
.
- 507 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 11:15:59 ID:wcqMe8nU0
-
_
( ;゚∀゚)「……まだ、能力は未完成か」
(;*゚ー゚)「ご、ごめんなさい……」
少女が、尻すぼみになる言葉で謝った。
ジョルジュは、額をさするのをやめ、立ち上がっては白衣をはたいた。
アニジャもそれを見て、のっそりと立ち上がる。
少女はまだ起きれそうになかったので、ジョルジュが手をさしのべる。
礼を言いながらその手を受け取り、よいしょ、と声をあげて少女は立ち上がった。
_
( ゚∀゚)「心配すんな。成功例に一番近いんだぜ、シィは」
(*゚ー゚)「そう言ってくれるとありがたいけど……」
ジョルジュの助手、ファミリーネーム不詳のシィは、そう言うと頬を掻いた。
( ´_ゝ`)「【最期の楽園】……ねえ」
_
( ゚∀゚)「いまの俺には、この程度の能力しか〝創れねぇ〟んだ。いまは……な」
( ´_ゝ`)「まあ、不時着は技量の問題として、目的地には狂いなく移動できるんだから、能力としては完成だろう」
_
( ゚∀゚)「いや……違うんだ」
( ´_ゝ`)「ん?」
ジョルジュは、手帳を取り出しペンにいろいろ書きながら、そう言った。
手を止め、ページをはらりとめくってジョルジュは続ける。
_
( ゚∀゚)「移動先の緯度、経度、高度を演算してロケーション――ポイントを特定するのは成功だとしても、
その移動対象の体躯をポイントとして演算し、その値のまま移すのはまだ完成してない、ってことなんだ」
_
( ゚∀゚)「能力としては、移動先と移動対象両方のポイントを固定させたまま移さねえと、完成とは言えねぇ」
_
( ゚∀゚)「移動先の意識的演算は能力として組み込めたが、
移動対象のポイント固定の無意識的演算はまだ組み込めてない……それが、今後の課題だな」
( ;´_ゝ`)「? ……? すまん、俺はこう見えて馬鹿なんだ。授業なら今度にしてくれ」
_
( ;゚∀゚)「……つ、つまり、不時着するようじゃだめってこと」
( ;´_ゝ`)「オーケー、把握した」
.
- 508 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 11:19:12 ID:wcqMe8nU0
-
アニジャは、それ以上首を突っ込むと脳が捻れそうな世界になってしまうと察し、その一言で無理矢理脳を納得させた。
ジョルジュは、自分の頭脳が明晰すぎるだけに、そうでない者に簡潔になるよう説明するのはできないのだ。
凡人ならある程度は噛み砕いて説明ができるのを踏まえると、天才が凡人に負けると云う、皮肉な逆説である。
_ エデン. ガード. ラスト・ガーデン
( ゚∀゚)「『楽園』を『保守』し、移動する能力、【最期の楽園】……使い勝手はどうだ、シィ」
(*゚ー゚)「問題ないわ、パンドラ。ただ、移動先を選べるようになった分、
私が知らない土地に移動できなくなった、って云うデメリットも大きいわね」
_
( ゚∀゚)「移動対象のポイント固定ができるようになれば、その点も直すさ」
( ´_ゝ`)「……この理系オタクらめ」
嫌味を言って、アニジャは周囲をざっと見渡す。
訪れ慣れている研究所とはいえ、ここはあのジョルジュの研究所だ。
訪れる度に新しいものが増えている、若しくは古いものが消えている、そんな場所なのである。
頻繁に訪れているといっても最後に訪れたのは昨日や一昨日ではない。
つい先程まで無人だったためか、明かりは点いてない。
シィがそれを察して小走りでスイッチを押しにいった。
一、二回点滅してから、閃光が走ったかのように明かりが点いた。
廃墟といいこの明かりのない研究所といい、
ずっと暗い場所にいたため、若干その明かりを眩しく感じ、元々細い眼を更に細める。
徐々に光に慣れてきた。
そっと瞼を開くと、やはりいつもの研究所だった。
観葉植物や色鮮やかなものの一つはあってもいいと思うのに、
そのようなものは一切なく、代わりに不気味な装置が大量に並べられている。
クレーンゲーム機のような箱のなかに、碧色の液体が満ちており、
コードで手足を繋がれた何者かがそのなかでぷかぷかと浮かんでいた。
ある者は頭蓋骨を貫通され、脳の中にも管を通されている。
これを不気味と言わず、なんと呼べば良いのだろうか。
どこまでもマッドサイエンティストが似合う男だ――アニジャは呆れた様子で溜息を吐いた。
.
- 509 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 11:21:39 ID:wcqMe8nU0
-
そこで、めぼしい変化はあるのか――と思った矢先。
今まで空きだった水槽に、一人。〝被験者〟が追加されていたことに気がついた。
アニジャは「おや」と思い、おもむろに歩み寄った。
ジョルジュとシィもそれに気づき、彼を目で追った。
その水槽のなかに眠るのは、碧色の液体のせいで断言こそできないが、毛先がウェーブがかった赤い髪の少女だった。
様々なところにチューブが繋がれており、生きているのか、と疑わざるを得なかった。
だが、口元から漏れる気泡が、彼女に生きていると云う証拠を与えていた。
アニジャも、最初は「またか、可哀想に」としか思わなかった。
だが、踵を返そうとした時、はッとして、振り返りもう一度その少女を見た。
徐々に顔が嶮しくなる。眉間にひびができる。
口を半開きにし、疑り深い表情でジョルジュの方を見た。
ジョルジュは彼の言いたいことがわかり、そしてそれが正しいと言いたいのか、軽く口角を吊り上げていた。
( ´_ゝ`)「……こいつ」
アニジャがジョルジュにゆっくり近寄る。
( ´_ゝ`)「『英雄』の妹、とやらじゃないのか」
_
( ゚∀゚)「知ってたのか。そうだよ」
アニジャは、嘗てモララーと一緒に、アラマキたちの〝同士討ち〟を防ぐために彼らのもとに出向いたことがある。
モララーが『俺たちはここにいない』と云う『嘘』を混ぜ、姿を消して彼らを制止すると同時に、偵察もしていた。
元帥の【則を拒む者】、英雄の【劇の幕開け】、魔王の【連鎖する爆撃】。
どれも、並の『能力者』にはそう易々と負けないだろう程度の能力だった。
そんな偵察の際、アニジャは〝彼女〟のことも見ていたのだ。
『脚本』を『脚色』る能力、脚色家の【大団円】。
単体では無力であるにせよ、能力としてはこの上なく厄介なものだった。
『拒絶』の一人に、あらゆる『現実』を操作する【ご都合主義】たる能力を持つ者がいたが、
【大団円】とは、いわば対象が『英雄』に限定された【ご都合主義】と呼べるものなのだから。
.
- 510 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 11:22:57 ID:wcqMe8nU0
-
フィナーレ
( ´_ゝ`)「有する能力は【大団円】……名は確か、ヒート=カゲキ」
( ´_ゝ`)「どうして捕まえたんだ……いや、そもそもどうやって捕まえたんだ、こんな厄介者」
_
( ゚∀゚)「どうって、お前も知ってるだろ、ゼウスの『爆撃』をもらって倒れてたのを。そこを攫ったんだよ」
アニジャは「ほう」と声を発した。
偵察もしていたとは言えど、アニジャの目的はあくまであの三人なのだ。
外野の行く末など、いちいち覚えてはいなかった。
ジョルジュは、アニジャのしたもう一つの質問にも答えた。
_
( ゚∀゚)「……もっとも、『どうして』には答えられんがな」
( ´_ゝ`)「? 隠し事か?」
_
( ゚∀゚)「いいや、違う」
_
( ゚∀゚)「……〝人違い〟だったんだよ」
( ´_ゝ`)「人違い……?」
_
( ゚∀゚)「ああ。情けねぇがな」
(*゚ー゚)「彼女のDNAとかを検査したところ、パンドラが捜してた人と違うんだ、って気づいたみたいよ」
( ´_ゝ`)「……なるほど、〝人捜し〟ね」
_
( ゚∀゚)「ああ、〝人捜し〟だ」
.
- 511 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 11:25:45 ID:wcqMe8nU0
-
アニジャは合点がいった。
「誰を捜しているのか」。
「どうして人捜しをするのか」。
と、気になる点こそあったが、別段訊こうとはしなかった。
別に誰であってもいいし、どんな理由であってもアニジャとは関係ないのだ。
アニジャの何気ない疑問に答えたところで、ジョルジュは話を本筋に戻した。
_
( ゚∀゚)「……で、『拒絶』はどうなんだ」
( ´_ゝ`)「ショボンとワタナベが先陣きって奴らに襲いかかってるところ――らしい」
_
( ゚∀゚)「らしい、って……。
. まあ、別に伝聞だろうとなんだっていいんだがな」
( ´_ゝ`)「すまない。俺だって、常に『拒絶』といるわけじゃないんだ」
_
( ゚∀゚)「それはいい。……で、どうだった」
フェイク・シェイク
( ´_ゝ`)「まだ全ては把握してないが……モララーの【 常 識 破 り 】は、上物だ。
俺も実際に使われてみてわかったのだが、《拒絶能力》としては――」
_
( ゚∀゚)「《拒絶能力》の話じゃねえよ」
_
( ゚∀゚)「『拒絶』の一番の武器は、その『拒絶のオーラ』なんだぞ」
( ´_ゝ`)「……なに?」
アニジャは眼を丸くした。
初耳のことで、その事実はあまりにも意外だったのだ。
.
- 512 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 11:28:01 ID:wcqMe8nU0
-
_
( ゚∀゚)「なんのために、この俺が『拒絶』に成り得る人材を『パンドラの箱』に詰めてやったと思ってんだ」
( ´_ゝ`)「そりゃあんた、《拒絶能力》を形成させるため――」
ジョルジュは彼の言葉を遮るように「違う」と言った。
アニジャは思わず黙り込む。
_
( ゚∀゚)「《拒絶能力》ってのは、『拒絶の精神』が上限に達した時点で創られんだ。
いわば、上限に達することが〝覚醒条件〟だからな」
( ´_ゝ`)「じゃあ、なんで――」
_
( ゚∀゚)「いいから聞け。
『拒絶の精神』が上限に達すれば、次に形成されんのは『拒絶のオーラ』だ。
それを長い時間――それこそ一年や二年費やして、その体臭じみたオーラを熟成させてやれば……」
_
( ゚∀゚)「その『拒絶のオーラ』は、特殊性こそないが《異常体質》と同等のものになる」
( ´_ゝ`)「……!」
アニジャは、はッとした。
ジョルジュの言いたいことがわかったのだ。
_
( ゚∀゚)「今のあまちゃんな奴らでさえ、近づいたり声を聞けば吐きそうになるレベルなんだ。
体質化したら、近づいたり声を聞いたりするだけで卒倒する――筈だった、のによォ!」
_
( ゚∀゚)「名付けて――《拒絶体質》は」
.
- 513 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 11:30:02 ID:wcqMe8nU0
-
語調を強め、荒い口調でそう言い放った。
気泡の浮かぶ音だけが聞こえる研究所に、彼のその声が響きわたった。
それにあわせて壁がメシ、と軋むような音をたてた。
少し静寂が生まれた。
ジョルジュの怒りは、アニジャにも助手のシィにも止められない。
だからこうして、静寂を以て鎮める他ないのだ。
ジョルジュもそれに気づいたのか、数秒して、嶮しかった表情をなんとか平生のそれに戻した。
頬をぽりぽりと掻いて、恥ずかしそうにそっぽを向いた。
( ´_ゝ`)「……まあ、《異常体質》の本質すら知らない俺に言われても、仕方がないんだけどな」
_
( ゚∀゚)「そのうちに説明するさ」
ジョルジュは彼らに背を向け、ポケットに手を突っ込んで歩き出した。
向かう先には冷たく白い金属でできた扉があり、それを抜けた先には
ジョルジュにしか解読できないであろう書類が山積みとなっているのだ。
とてもアニジャはその部屋に入りたいとは思えない。
入ったところで、忌々しい頭痛を抱えるだけで終わるのだから。
そのため、彼についていくことはないが、訊くべきことはあった。
ジョルジュの背中に向かって、アニジャは声を発した。
( ´_ゝ`)「そのうち……って、いつだよ」
_
( ゚∀゚)「『拒絶』が一掃されて、平穏が戻ってきたらだよ」
( ´_ゝ`)「へェ―――え?」
アニジャは肯こうとしたが、一瞬、その言葉が引っかかった。
だから、意図していなかった声も発してしまった。
聞き違いではないのか――いや、しかし確実にジョルジュは言っていた。
「『拒絶』が一掃されて」、と。
どう云うことだ――アニジャは彼を追いかけて、肩に手をかけた。
.
- 514 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 11:30:43 ID:wcqMe8nU0
-
( ´_ゝ`)「お、おい、今なんて言った?」
_
( ゚∀゚)「『拒絶』が全滅したら、だ」
( ;´_ゝ`)「いやいや……嘘だろ! それって、あんた……」
( ;´_ゝ`)「自分の計画が潰れるのを、みすみす見届けてるようなもんじゃねえか!」
.
- 515 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 11:32:34 ID:wcqMe8nU0
-
_
( ゚∀゚)「〝見届ける〟んじゃねぇよ」
( ;´_ゝ`)「じゃ、じゃあ――」
_
( ゚∀゚)「〝見届けた〟んだ、もうな」
( ;´_ゝ`)「……は?」
ジョルジュがアニジャの手を払い、扉のノブに右手を置く。
背中にいるアニジャに嘆きかけるように、ぼそっと呟いた。
そのときの声には、研究者としての儚さが感じられた。
_
( ゚∀゚)「奴が……」
_
( ゚∀゚)「プロメテウスが動いた時点で、この計画は潰れてたんだよ、既にな」
( ´_ゝ`)「ネーヨの旦那が……〝潰した〟?」
_
( ゚∀゚)「俺の『パンドラの箱』は、本来じゃあ誰も開けられねェ。
概念論と因果律、物理法則の全てから矛盾し独立させた『箱』だからな。
だが、それを開けられる奴が、一人だけいたんだよ」
( ´_ゝ`)「それが……ネーヨの旦那か?」
_
( ゚∀゚)「ああ。俺も聞いたときはびっくりしたぜ。まあ、すぐに調査して能力は解析したが――」
スベテ ム シ. ウチケ
( ´_ゝ`)「『拒絶』を『拒絶』し『拒絶』してしまう《拒絶能力》……」
_
( ゚∀゚)「そう……その、〝能力〟の時点で、俺はびっくりしたんだよ」
( ´_ゝ`)「……え?」
_
( ゚∀゚)「え? って……そりゃ、そうだろ」
_
( ゚∀゚)「あいつは、元々〝能力なんて持ってなかった〟んだからな」
( ´_ゝ`)「ッ!! それは本当か!」
.
- 516 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 11:34:17 ID:wcqMe8nU0
-
アニジャが身を乗り出した。
今までのなかで、一番信じられないことだったからだ。
彼の能力は、とんでもないものだ。
それが、もし――
_
( ゚∀゚)「『拒絶』化によって能力を得た、〝天然の拒絶〟なんだ」
_
( ゚∀゚)「俺が手を貸さなきゃ成れない『拒絶』、それでさえ『能力者』は適わないレベルなのに、それの〝天然〟だぞ」
_
( ゚∀゚)「同じ『拒絶』の連中でさえ、プロメテウスには歯が立たん。
そんな奴に、俺の小手先は通用する筈もなかったんだ」
――そうだとしたら、なぜ、自分や同胞たちを殺さないのだ。
全身が『拒絶』の塊である彼なら、そんなこともしてしまいそうなのに。
_
( ゚∀゚)「昔から言うだろ。策士策に溺れる――ってな」
( ´_ゝ`)「しかし――」
ジョルジュは、アニジャの追究を拒もうとしたのか、扉の向こうに足を踏み入れた。
半身が扉の向こうへと向かう。
これでは追究しても無駄だな、と察したアニジャは、別の質問を浮かべた。
そして、それをすぐに投げかける。
( ´_ゝ`)「……俺は、なにをしたらいい」
_
( ∀ )「………」
ジョルジュが、黙る。
答えられない――のではなく、答える気力がもう既になかったのだ。
だが、答えない限りは、アニジャはおそらくずっと粘るだろう。
ジョルジュは、なけなしの気力を使い果たして、言った。
.
- 517 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 11:35:05 ID:wcqMe8nU0
-
_
( ゚∀゚)「……引き続き、プロメテウスのそばについて、『拒絶』を観察してくれ」
( ´_ゝ`)「オーケー、把握した」
アニジャが、ぐッと親指を立てた。
同時に発した声は、力強いものとなっていた。
自然のうちに、ジョルジュに元気を与えようと思ったのだろうか。
ジョルジュは歯の隙間から息を漏らした。
そして、彼もアニジャにあわせて親指を突き立てた。
お互いににッとはにかんでから、二人はそこで別れた。
金属製の扉が、アニジャの視線を遮る。
扉が閉まってから、アニジャは突き立てた親指を、儚げに見つめた。
嘗て、このように親指を見せ合っていた肉親のことを、思っていたのだ。
そのときのアニジャの顔は、哀愁に満ちていた。
後ろから、シィが駆けてくる。
足音に気づいて、アニジャは指を戻して、何気なく振り向いた。
セミロングヘアーの少女が、零れんばかりの笑みを浮かべていた。
首を数度右に傾け、手は後ろで組んでいた。
(*゚ー゚)「難しい話は終わったかしら?」
( ´_ゝ`)「あ、ああ……まあ」
シィの屈託のない笑みに、アニジャは救われたような気がした。
思わず、アニジャも苦笑を浮かべる。
シィはいつだって、良くも悪くも無邪気なのだ。
(*゚ー゚)「――で、どうする?」
( ´_ゝ`)「ん」
アニジャは首を傾げる。
(*゚ー゚)「私の能力――不完全だけど、それで送ろっか?」
( ´_ゝ`)「……え?」
( ´_ゝ`)「あ、えっと……」
アニジャは返答に窮した。
.
- 518 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 11:36:33 ID:wcqMe8nU0
-
◆
( ´_ゝ`)「まあこうなるわけだがな」
(;*゚ー゚)「ご、ごめんなさい……」
アニジャが少しの間葛藤に悩まされるも、渋々肯いた直後。
アニジャとシィは、裏通りと思われる閑散とした場所に横たわっていた。
横たわっていたといっても眠るつもりで――などと云ったものでは断じてない。
やはり、彼女の能力を利用するには、どこかしらに軽い打撲は負うことを覚悟しなければならないようだ。
起きあがって付着した砂を払うと、アニジャは周囲を見渡した。
身にぴりぴりとくるこの独特の雰囲気は裏通りのもので間違いないのだが、この場所に見覚えはなかったのだ。
これでも裏通りを走ってもハイエナに喰われることはないアニジャだ、
だいたいの場所は一目見ただけでそこかどこかある程度までは把握できる。
それができないから、ここはどこだ、と思った。
近くに、地震の際やられたのか、太い柱や骨格が見事に粉々になり、傾いている建物がある。
半壊もいいところで、もはや廃墟としか思えない佇まいだった。
近隣の建物はそうでもないのに、その建物だけが見事に潰れている。
奇妙なものだ、とアニジャが思ったところで、シィも起きあがっては、周囲の景色に目を遣った。
じろじろと見てから、はて、と言っては顎に手をつけ首を傾けた。
その仕草を見て、アニジャは「まさか」と思った。
( ´_ゝ`)「あんた……ここがどこだか知らないで、ワープしたのか?」
(*゚ー゚)「えっと……」
.
- 519 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 11:37:25 ID:wcqMe8nU0
-
シィは言葉を濁らせる。
アニジャは、事前にジョルジュから聞いていたことを思い出して、先程とは違う奇妙なものを感じた。
恐る恐る、訊いてみる。
( ´_ゝ`)「確か、自分の知ってる土地でないとワープできない筈だが……」
(*゚ー゚)「それなんだけどね」
シィが早口になって返した。
(*゚ー゚)「『とにかくダークそうなところ』ってことでイメージした場所が、ここだったの」
( ´_ゝ`)「? じゃああんたはここを知っていることになるのだが……」
(*゚ー゚)「……いいえ、知らないわ。でも――」
( ´_ゝ`)「ん?」
(*゚ー゚)「昔、ここに来たことがある気がする」
.
- 520 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 11:38:24 ID:wcqMe8nU0
-
( ´_ゝ`)「どういうことだ?」
(*゚ー゚)「記憶こそ曖昧なんだけど、過去に来たことがあったからワープできた……ってことだと思うの」
アニジャは、「フーン」と相槌を打った。
そして腕を組み、彼なりに考察の一つ、してみようと思ったのだろうか。
さながらジョルジュのような語調で、彼はシィに訊いた。
( ´_ゝ`)「思考依存な能力かと思えば、思考を凌駕した本能の領域からも干渉可能、と……」
( ´_ゝ`)「本当は、『不運』が起こっただけじゃないのか?」
(*゚ー゚)「まさか」
しかし。
ジョルジュに関して言えば、より詳しいのは長らく助手を務めているシィだ。
ジョルジュに対して言い返すかのように、彼女は不敵に笑んだ。
(*゚ー゚)「ワープして景色を見たと同時に、『来たことがある』って思ったもの。偶然や『不運』じゃあないわ」
( ´_ゝ`)「そ、そうか」
(*゚ー゚)「まあ、来たことあるかどうかはどうでもいいけどね」
( ´_ゝ`)「全くだ。とても科学者の助手の言いそうなこととは思えない」
(*゚ー゚)「うるさい」
そう言って、二人は小さく笑った。
同じジョルジュに一枚噛んでいる者同士として、どこか馬が合うのだ。
上司の悪口を言うことで盛り上がるサラリーマンやOLのようなものなのだろうか。
奇妙な連帯感というか、共同体として感覚を分けあえることができるのが楽しかったようだ。
.
- 521 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 11:39:19 ID:wcqMe8nU0
-
しかし、笑いも少しすれば止む。
裏通りに似つかわしい、元在ったのような静寂が彼らを包む。
それはアニジャもシィも好きな空気ではあるが、他人が目の前にいて、その空気を味わうことはできない。
これが俗にいう気まずい空気とやらか――
アニジャは、困ったような笑顔を浮かべながら思った。
特になにをするでもないため、二人は黙る。
ああ、気まずい。
早くこの均衡を破らなければ。
そう思いはするが、彼らは自分から先に動こうとはしなかった。
相手から沈黙を破ってくれるのを待っているのだ。
( ´_ゝ`)「………」
(*゚ー゚)「………」
お互いが同じ思考に至ったようで、痛い静寂が耳を突くようになる。
アニジャは徐々に冷や汗をかき始めてきた。
いくら年下で見慣れているとはいえ、女性に見つめられることには慣れていないのだ。
シィもそれに気づいたようで、にやにやしながら無垢な眼差しでじっと見つめてくる。
アニジャが折れそうになった時だ。
その静寂は、沈黙から十秒して漸く破られることになった。
―――アニジャではない男の声を伴って。
.
- 522 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 11:40:15 ID:wcqMe8nU0
-
( ・∀・)「ん? アニジャじゃねーか」
( ´_ゝ`)「へ」
(;*゚ー゚)「あっ、ヤバ!」
フードはかぶらないのにパーカーを着た男、モララー=ラビッシュが後ろから声をかけてきた。
あまりに唐突な訪問者だったため、アニジャは少し動揺した。
他に誰もいないであろう空間に、その予期していなかった誰かがやってきたからだ。
だがモララーはそのようなことはつゆ知らず、呑気にアニジャに話しかけてきた。
( ・∀・)「おまえ、こんなところでどーしたんだよ。それも一人で」
( ´_ゝ`)「どうもなにも……って、一人じゃないぞ」
( ・∀・)「は? 一人だろーが。なに言ってんだ」
( ´_ゝ`)「ハ? あんたこそなに言って――」
シィがすぐ後ろにいる筈なのにモララーがそう言ったことに、アニジャは怪訝な顔をした。
最初はそれが冗談か何かだと思ったのだが、とてもそうとは思えない。
アニジャは「なに言ってんだ」と思いつつも、後ろに振り返った。
先程まで、シィはここで無垢な笑みをアニジャに向けていたのだ。
――向けて〝いた〟のだ。
( ´_ゝ`)「あ、あれ?」
( ・∀・)「なに寝言言ってんだと思えば……」
後ろに、シィはいなかった。
一瞬なにがあったのだと混乱してしまったが、その答えは存外早くに出てきた。
( ´_ゝ`)「(あんにゃろ……俺がモララーの方を見た隙に逃げやがったな……)」
.
- 523 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 11:41:09 ID:wcqMe8nU0
-
( ・∀・)「なあ、こんなとこで売れない油売んのもアレだろ。早く帰ろうぜ」
( ´_ゝ`)「あ、ああ……え?」
( ・∀・)「どした」
( ´_ゝ`)「帰るって? 俺はネーヨの旦那を捜してるんだが……」
( ・∀・)「うーん、二つの質問を同時に答えてやるよ」
モララーは指を二本立て、見せつけるように掲げた。
一本を折り曲げ、続けて二本目も折り曲げつつ言った。
( ・∀・)「帰る先はバーボンハウスで、旦那がいんのもそこだ」
( ´_ゝ`)「!」
( ・∀・)「…どした」
( ´_ゝ`)「(くそ……酒、だったか……。不覚………)」
.
- 524 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 11:42:18 ID:wcqMe8nU0
-
アニジャは、ネーヨは出て行く際満たされる云々言っていたため、
てっきり廃墟などで『能力者』を狩っているのではと思ったのだ。
だが、このときに言っていた満たされる云々のことが、
よもや一般人の持つ酒に対するそのような気持ちだったとは、アニジャには見当もつかなかっただろう。
半ば自己嫌悪――自分を情けなく感じ、額に手をあて俯いた。
モララーは疑問符こそ浮かべるものの、話を続けた。
( ・∀・)「なんかさっきから変だな。とりあえず帰ろうぜ、俺も酒が呑みたいんだ」
( ´_ゝ`)「あ……あ、ああ……うん。そうだな、帰ろう」
アニジャがいつもの無表情に戻り、モララーの提案に肯いた。
( ・∀・)「たまには歩いて移動するのも風情があるさ」
( ´_ゝ`)「『嘘』吐いて一気に運んでくれよ……」
( ・∀・)「なんのためのあんよだと思ってんだ。たまには歩こうぜ」
( ´_ゝ`)「……『不運』だ」
アニジャ=フーンは、身体を使うことが苦手だった。
.
- 525 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 11:43:06 ID:wcqMe8nU0
-
◆
(*^ω^)「そこで僕は言ってやったんだお!」
( ゚ω゚)「おーん!ぷてらのどーん!」
(*´ー`)「ぶっははははは!! わっけわかんねえよ!」
(*^ω^)「そして、締めの一言ッ!」
( ゚ω゚)「一番偉いのは、この武運様さ!」
(*´ー`)「ぶはッははははは! は、ハラいてえ!」
(-、-;トソン
.
- 526 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 11:44:36 ID:wcqMe8nU0
-
トソンは、グラスを磨きながら、半ば呆れかえっていた。
というのも、日頃はこの静かな空気漂う「筈」のバーボンハウスが、笑いの渦に呑まれていたからだ。
決して似つかわしくない、取り除きたい雰囲気だ。
日頃から酒、酒とうるさいネーヨもこの有り様なのだから、トソンには止めようがない。
内藤のくだらない洒落にネーヨが冷静にツッコめばいいのだが、
酒が回り本調子となっている彼にそのようなことができる筈もなかったのだ。
最初はただの話だったのだが、内藤が昔話をすると、ネーヨが食いついた。
内藤は過去に様々なことを経験してきたようで、その昔話そのものは確かに中身の詰まった面白いものとなっていた。
アルファベットを武器に見立てて三国の戦記物を考えたり、
指輪をはめれば得ることができるこの世界の『能力者』の持つそれのような能力をつくってみたり、
「もし自分が千年後の世界にタイムワープしてしまったら」と云うテーマで現地の状況をまじめに考察してみたり――
とにかく、内藤の想像力は垢抜けていた。
そして、ネーヨはそれがきっかけで小説家になったと云うのを聞いて、なるほどと思った。
内藤の想像力は、一つの世界を創り変えるほどのものを持っていたのだ。
そんな小説家になるためのプロセスから、今度は体験談へと変わった。
その内容が、トソンが真偽を疑いかねないほどに実に可笑しいものばかりだったので、
平生では大笑いしない筈のネーヨも、このときばかりは笑わずにはいられなかった、と云うことだ。
自分がまんじゅうになった夢を見たとか、
学生時代にした草野球で光る魔球を投げられたとか、
コンビニでアルバイトをしていた時、鉄砲に「見立てた」指を突きつけられ胸を見せろ、と言われたとか――
.
- 527 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 11:45:58 ID:wcqMe8nU0
-
(-、-;トソン
(゚、゚トソン「……あの」
(*´ー`)「なんだ」
上機嫌なネーヨが応える。
トソンは、そろそろ我慢できなくなったようだ。
ネーヨの気には障らぬように、控えめな語調で話す。
(゚、゚トソン「さすがに、『ふつうは』客が来ないとは言え、もう少し店の空気を読んでほしいのですが……」
(*`ω´)「まるで僕が『ふつうの』客じゃないかのような言いぐさだお!」
(゚、゚トソン「それはそうでしょう。営業時間外上等で乗り込んでくる、なんて」
(*^ω^)「こりゃ一本とられた」
(*´ー`)「とられすぎってもんじゃねえぞ」
そして、笑い。
泥酔状態の二人に、もはやマスターとしての忠告は通じないのだろう。
まして、その泥酔した二人が意気投合していたら尚更だ。
酒を客に与える者として、それは当たり前のように知っていた。
知っていた、が。
その酔っている相手が、あの『拒絶』の代名詞、ネーヨであるため、
威厳を保つ意味でも、こんな姿を自分に見せてほしくはなかったのだ。
店の空気を守る、ためではなく、自分の尊敬を守るために、トソンは忠告したのである。
.
- 528 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 11:47:07 ID:wcqMe8nU0
-
トソンは別の方面から忠告をすることにした。
外部からの体面を気にしないなら、内部からの体面を気にさせるのだ、と。
(゚、゚トソン「客は来ないとしても、『拒絶』のみんなが帰ってくるでしょ。恥ずかしくないのですか」
(*^ω^)「言われてるお、あんた」
(*´ー`)「恥ずかしいことがあっか!」
(*^ω^)「だお、だお! 男なら、それで―――」
( ^ω^)「――ッ?」
( ^ω^)「(あ、あれ……?)」
内藤が、泥酔しているにも関わらずその言葉を聞き取れ、咀嚼できる程度の
余裕を持っていたのが、彼に冷静な判断を下させた要因だった。
今し方マスターが発した言葉のうちのどこかに、引っかかる部分が見えたのである。
泥酔していたためその視界が霞かかっていてよく見えないのだが、確かに違和感の正体はそこに潜んでいた。
『作者』だからわかる、違和感。
『作者』だからできる、推測。
( ^ω^)「………『拒絶』?」
( ´ー`)「?」
.
- 529 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 11:48:03 ID:wcqMe8nU0
-
内藤の内に広がっていた霧が、違和感と云う団扇で扇がれ払われていった。
なぜか、羞恥心を捨てるほどの泥酔状態だったのに、自然と酔いが醒めてきたように思える。
すぅ、と何かが引く。
それが血の気であることに気づいたのは、直後にここ、バーボンハウスの扉が開かれた時だ。
その場にいた三人は、何となしに振り向いた。
いや、内藤だけは、がばッと覆い被さるように振り返った。
そこには、長身で痩身な男と、灰色のパーカーを着た男が立っていた。
彼らを見た瞬間、内藤の酔いは完全に醒めた。
( ・∀・)「旦那、いま帰った―――」
( ・∀・)「―――ぜ――……?」
(*´ー`)「どうした、モララー」
( ・∀・)
モララーと内藤の視線が、互いにぶつかり合う。
そして、二人とも別の感情により、かたかたと、躯がふるわせられることになった。
.
- 530 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 11:48:43 ID:wcqMe8nU0
-
( ・∀・)
( ^ω^)
( ・∀・)「……あ」
(;・∀・)「ああああああああああああああああああッ!!」
( ;゚ω゚)「あッあんたは―――!!」
.
- 531 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 11:51:42 ID:wcqMe8nU0
- >>494-530 第二十二話「vs【771】Ⅲ」でした
なんか王国なのに政治家?ってなるかもですが
天皇主権の日本みたいな感じじゃねって感じで脳内補完お願いします
- 532 :同志名無しさん:2013/01/27(日) 11:58:18 ID:/w1lI0Y.0
- 乙
とうとう邂逅か
- 533 :同志名無しさん:2013/01/29(火) 23:40:45 ID:ZgHCkuUc0
- 暇だったから能力解説なんてしちゃいました
http://itsuwari777.blog.fc2.com/blog-entry-22.html#more
気になる人は読むとちょっとこの作品の世界観が伝わるかもしれない
- 534 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 19:34:53 ID:EwL2ReHs0
-
○登場人物と能力の説明
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
(゚、゚トソン 【???】
→時や力を『操作』した『拒絶』の少女。
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
_
( ゚∀゚) 【???】
→『拒絶』に関わりを持つ科学者。
( ´_ゝ`) 【771《アンラッキー》】
→『不運』を引き起こすが、『能力者』でも『拒絶』でもない男。
.
- 535 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 19:37:13 ID:EwL2ReHs0
-
○前回までのアクション
( ^ω^)
( ・∀・)
→バーボンハウスで邂逅
( ´ー`)
(゚、゚トソン
( ´_ゝ`)
→バーボンハウスで合流
_
( ゚∀゚)
→研究所
(*゚ー゚)
→撤退
/ ,' 3
( <●><●>)
从 ゚∀从
→会議
.
- 536 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 19:39:17 ID:EwL2ReHs0
-
◆
こぽこぽと、碧色の液体が源泉かけ流しの如く彼女の躯を洗っていた。
温度を感じず、無呼吸に苦を感じず、肉体の損傷による痛みをも感じさせない、液体だ。
浮力と云う概念もないのだろうか。
いや、あるにはあるのだが、それを感じることは、彼女に関していえばなかったも同然だ。
「(……面倒、だねぇ)」
手足をロープのようなもので縛られている。
足――下半身にいたっては何も感じないのだが、躯を動かせない以上は下半身も縛られているのだろう。
頭をゆっくり振るって、短めの髪を液体にのせ揺らす程度しかできない。
胴体を動かすことはできない。
おそらく、碧色の液体が持つ回復の作用をより効率的に与えるためだろう。
治癒させる人に無駄な動きをされては、回復効率ががくんと下がりかねない。
それを理解して、自分は、なぜ治癒させられているのだ、と真っ先に思った。
自分は、殺されるべき存在なのだ。
生きていてはだめな存在であることを、知ってしまったのだ。
意識をなくしたふりをするのは簡単だった。
あれほどの負荷を受ければ、ゼウスであれ絶命と認定するからだ。
だからこうして敵地に乗り込めた、まではよかった。
よかった、のだが――
.
- 537 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 19:41:22 ID:EwL2ReHs0
-
「(……なーんか、抗おう、なんて気になれないなァー)」
無機質な表情を浮かべ、首を前後に動かす。
短めの髪が、ゆらゆらと海草のように揺れる。
呼吸をする用途で液体を体内に取り入れても、鼻は痛くならないし、
呑んでも、味がなければ腹に溜まる実感もない。
不思議な空間だな――彼女は、そう思った。
自分がどんな存在で、どう在るべきなのかを踏まえようと、どの道、自分は負けたのだ。
こんな能力を持たされて、負けたと云うのだ、
生き恥を体臭のように持ち歩く女になったのだ。
今更、プライドを取り戻そうとは思わないし、リベンジを臨もうとも思わない。
これからの運命の岐路次第で、自分がどう在るべきなのかも決まるだろう――
そんな惰性的な発想しか、彼女は抱かなくなっていた。
だが、躯がうずうずするのは仕方がない。
暴れられる時が来れば――ふと、そう思う。
しかし、それは今ではない。
『拒絶』がエゴのためだけに戦う、今ではない。
おそらく、自分が戦うのは、もっと、後――
「(その時は―――きっと)」
自分は、もう、拒絶と云う概念は捨てているのだろう。
そうでなければ、こんな水槽など破壊して、すぐさまリベンジに向かう。
まだ彼らは生きているのだ、戦う理由をこじつけることはできた。
それをしない理由は、それをする理由がなく、また単にモチベーションが欠如しているからだ。
『拒絶』を拒絶するこの戦いは、「拒絶」を受け入れた者が死ぬ。
一度受け入れてしまった自分が、戦線に戻れるだろうか――
.
- 538 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 19:42:52 ID:EwL2ReHs0
-
すると、少なくとも、今自分が戦うわけにはいかなかった。
ひょっとすると、モチベーションだの、理由だの云うより以前の問題だったのかもしれない。
しかし、今更、どうでもいい。
どうでも、よかった。
いずれ、自分はまた、戦う。
それも、『拒絶』だらけの戦いが終わったら、だ。
なんとなく、それはわかっていた。
「(その時までは、のんびりさせてもらうかな)」
そう決まれば、心の重荷がとれた気がした。
繋がれたロープに体勢の維持を委せ、彼女は俯いて、元のように眠りについた。
寝ようと思えば寝れるのは、この液体がそう云う作用を持っているからなのか、ただ自分が疲れているだけなのか、
今はまだ起きているべきではないからか――
「(でも、まだ)」
眠り際、彼女は思った。
コ レ
从 ー 从「(【手のひら還し】は捨てないぜ)」
从 ー 从「(『拒絶』は捨てても、コレだけは――)」
从'ー'从「(―――だよねー、ゼウス様?)」
.
- 539 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 19:45:38 ID:EwL2ReHs0
-
一方の彼女も、決意していた。
. タイムリミット
ノハ ⊿ )「(………もう、『 大 団 円 』か)」
ノハ ⊿ )「(悪いな、姉貴)」
ヒーロー
ノハ ⊿ )「(姉貴なら……『 英 雄 』なら、私を救ってくれる、って信じてたんだけどな……もう、『大団円』だ)」
ノハ ⊿ )「(……そろそろ……私も………)」
ワルキューレ
ノハ ⊿ )「(〝 神 話 〟に………呑ま…れ…………)」
.
- 540 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 19:53:17 ID:EwL2ReHs0
- ┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓
┃┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┃
( ゜ω ゜)
_____は自らのパラレルワールドに迷いこんだようです
Presented By Unti...
┃┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┃
┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛
第二十三話 「vs【常識破り】Ⅳ」
.
- 541 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 19:54:24 ID:EwL2ReHs0
-
◆
モララーと内藤が同時に叫ぶと、一瞬、静寂が生まれた。
閃光弾を喰らった後は一瞬視界が利かなくなるように。
火傷をした直後は物が冷たく感じるかのように。
逆説的なそれは、彼らに冷静な思考を与えるのに充分なものとなった。
内藤とモララーは、相変わらず眼をひんむいている。
トソンは事態を呑み込めない、と云ったような表情。
アニジャは、少し驚いたような顔をしたが、すぐ元に戻っては、ぽりぽりと頭を掻いた。
ネーヨは――
( ´ー`)「おかわり」
(゚、゚トソン「あ、はい……え、え?」
(;・∀・)「呑んでる場合か! ちょっと旦那、おい!」
今の静寂で、思考は疎か酔いまで醒めてしまったのか、トソンに更なる酒を要求していた。
トソンもまさか、と思い、一瞬躊躇ってしまった。
だが、ネーヨはいつも通りの顔のままだ。
「確かに、こんな人ではあるのだけど」と思い、トソンは仕方なくそれに応えた。
モララーはトソンのような柔軟な発想はできなかったのか、ネーヨにずいと身を乗り出した。
後ろから顔を覗かせ、モララーは続ける。
.
- 542 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 19:55:24 ID:EwL2ReHs0
-
(;・∀・)「『誰だ』とか訊かねーのかよ!」
( ´ー`)「知らねえよ。確かなことは、今のおめえがあまりに『常識知らず』ってだけだ」
( ・∀・)「俺は『破る』んであって、『知らない』のは旦那――」
モララーの口上に割り込むように、トソンが手を伸ばした。
その手には、ネーヨの専用らしきジョッキに、ビールが注がれている。
(゚、゚トソン「はい、どうぞ」
( ´ー`)「おう」
(;・∀・)「―――じゃ、ねえ! なにトソンまで呑気に――」
(;^ω^)「とッ、トソン!?」
(゚、゚トソン「ッ!」
モララーがマスター、トソンの名を呼ぶと、内藤も反応した。
そのことに、トソンまでもが反応した。
当然だろう、見ず知らずで赤の他人の筈の内藤に、名前に対してリアクションをとられたのだから。
そんなトソンを見て、更に内藤は「しまったッ」と思った。
どこまでも連鎖する反応合戦を見て、アニジャは半ば呆れていた。
.
- 543 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 19:56:41 ID:EwL2ReHs0
-
(゚、゚トソン「……モララー。一応訊きます。どちら様ですか」
磨いていたグラスを置き、じろッとモララーを見つめては訊いた。
途端に敬語になったのは、内藤に対し警戒心を見せていると云う証拠だ。
当初はモララーの驚きようを歯牙にかけるべきものではないと思っていたのが、今となっては逆になっていた。
モララーの驚きが後押しをして、彼女に強い警戒心を持たせるようになったのだ。
トソンの敬語を聞いて、モララーは少し冷静な気持ちになれた。
ゆっくり、固まっている内藤に指を差した。
(;・∀・)「…じ、実態は俺も探れちゃいねーが……」
(;^ω^)「……」
( ・∀・)「自称……『作者』」
(゚、゚;トソン「……ッ!」
(゚、゚トソン「……、……は?」
( ・∀・)「ぜッてー言うと思った。『は?』。好きだね、泣くぞ」
(゚、゚トソン「アニジャさん。どう云うことですか」
( ・∀・)「こ、こいつ――」
( ´_ゝ`)「……俺に訊くかぁ」
モララーは『嘘』は吐いていない。
だが、言っている内容がよくわからないものだったため、トソンは彼がまたほらを吹いているものだと思ったのだ。
そのため、モララーよりは十二分に信頼のおけるアニジャに尋ねた。
まさか自分に訊かれるとは。思ってもみなかったことにアニジャは少し戸惑うが、右手もポケットに突っ込んで、答えた。
( ´_ゝ`)「偵察してた感じで言うと、まあ『作者』とやらだ」
(゚、゚トソン「なんの作者ですか」
やはり意味が掴めず、トソンは追究する。
アニジャは面倒臭そうな声のまま、続けた。
.
- 544 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 19:57:52 ID:EwL2ReHs0
-
( ´_ゝ`)「この世界の、『作者』」
(゚、゚トソン
( ´_ゝ`)「だから、この世界のことはなーんでもお見通し」
(゚、゚トソン
( ´_ゝ`)「加えて、今はゼウスたちの成り行き上の仲間」
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン「………」
( ・∀・)「……アニジャ。何一つ『嘘』はなかったが、短絡的すぎんぞ」
( ´_ゝ`)「だって………」
.
- 545 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 19:59:06 ID:EwL2ReHs0
-
(゚、゚トソン「………」
(;^ω^)「おぉ……」
トソンが、思考回路がショートでも起こしたのか、表情を読みとらせないような顔のまま、内藤の方を向いた。
やや太り気味の、三十は喰っているであろう歳。
笑顔が貼り付いているかのように見える、贅肉のたるみ。
――彼が、この世界の『作者』?
トソンは、訝しげな顔をした。
それが、『作者』と云うのがにわかには信じがたい情報だから――
ではなく、ただ「こんな見て呉れの男が、まさか」と思ったからである。
それを内藤も視線だけで悟り、少しムキになったような顔をした。
トソンは百聞は一見に如かず、と思い、口を開いた。
内藤はトソンが自分になにを言うのか、だいたいの予想はできていた。
(゚、゚トソン「……『作者』とやら」
(;^ω^)「…な、なんだお」
来る。トソンが、自分を試す。
試される内容は、ただひとつ。
答える準備を、する。
正答を、自分の記憶の引き出しを探し回って、用意する。
トソンの唇が、動いた。
(゚、゚トソン「私のスキル――ひょっとして、存じているのでしょうか」
(゚、゚トソン「当然、名前だけでなく、それがいったいどういうものなのか、も……」
- 546 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:00:40 ID:EwL2ReHs0
-
(;^ω^)「……」
「やっぱり」と、内藤は思った。
同時に、背筋が冷たくなる。
これは最近――数時間前気づいたのだが、内藤は、不思議な現象に陥っているようなのだ。
確かに自分は、この世界の『作者』で、知らないことはほぼない。
それは確定事項ではあるのだが、妙なのだ。
妙、つまり。
(;^ω^)「(………〝知っているのに、思い出せない〟)」
これは、いわば、ワタナベの時に既に気づいていた。
【手のひら還し】。
名前も、能力も、使い手も、独特なものである。
だが、この名を、すぐには思い出せなかった。
忘れる筈もなかろうものだったのに、なぜか、すぐには脳に浮かんでこなかったのだ。
あの時はただ混乱や動揺のせいにすぎない、と思っていたのだが。
いま、問われるとわかっていたので、予め答えを用意しておこうと思ったのにも関わらず、出てこなかった。
「トソン」と云う情報があるのに、能力が出てこない。
これは、混乱や動揺のせいではなかった。
そこで内藤は、ある一つの仮説を立てた。
パラレルワールドに迷いこむのに際して〝作品の記憶を徐々になくしつつある〟のではないか、と――
.
- 547 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:02:56 ID:EwL2ReHs0
-
セント=ジョーンズの時も、そうだ。
いくら脇役とはいっても、能力名さえわかれば、個人名くらいは言える筈だったのだ、平生の内藤なら。
だが、混乱や動揺はなかった筈なのに、言えなかった。
――否、思い出せなかった。
また、一人の物書きとして、内藤は思う。
現実の世界で執筆活動をしていた時なら、ボツ設定の詳細は
いつでもどこでも、ぱっと思い出してはすらすら語ることができていたのではないか。
たとえお披露目することがなくなったと言っても、一度は自分で練ったストーリーである。
まして、そのボツになった能力はどれも強力で、工夫を凝らしたものばかりであったため、そう易々と忘れる筈もないだろう。
刑事や教師が、一度扱った事件や生徒を滅多なことでは忘れないのと同じように。
思い出深いものがそこにある限り、人の脳はそれを簡単には忘れないようにできているのだ。
それを忘れるようになった、となると――
(;^ω^)「(パラレルワールドの弊害が……〝進行している〟?)」
(゚、゚トソン「……」
トソンの視線が、純粋に内藤の返答を待っているのを訴える。
内藤は、できることなら答えたかった。
自分のためにも、相手のためにも。
だが、ヒントなしでは浮かんでこない。
「ヒントなしでは」がおかしいことに気づくのが、遅すぎたのだ。
だが、今更トソンに弁解なんかしては、モララーのこともある以上後々厄介なことになりかねないので、却下。
しかし、癖の強い《拒絶能力》を、勘で当てられる筈もない。
内藤は「どうしたものか」と思った。
.
- 548 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:03:49 ID:EwL2ReHs0
-
(゚、゚トソン「モララー」
( ・∀・)「んだよ」
内藤に見切りをつけたのか、彼を待つ間の時間潰しか、トソンはモララーに話しかけた。
この間も、内藤は思考を凝らし、記憶を呼び戻そうとする。
(゚、゚トソン「随分と悩んでいるようですが。本当に、この世界を全て知っている、のですか?」
( ・∀・)「実際に、俺とアニジャも初見で当てられたからな」
(゚、゚トソン「……ほう」
( ; ω )「(ハードル上げんなモララー! クソぉぉ!)」
.
- 549 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:04:42 ID:EwL2ReHs0
-
内藤は、覚悟を決めた。
――いや、むしろこの状況を利用しようと思った。
「答えられない」のではなく
「あえて答えない」ものにすればどうか、と。
「敵に手のうちを明かすような男ではない」など、逃げ口上はいくらでもある。
そして逃げた後に、ゼウスたちに情報を与えて、迎え撃つ準備をさせれば、とも。
そうと決まれば、早く逃げるべきだ、そう思った内藤はすぐさま行動にでた。
真意が顔に表れないように、細心の注意を払って内藤は答える。
若干顔の筋肉はひきつっていたが、トソンと顔を見合わせることはできた。
(;^ω^)「生憎、僕は挑発に乗らない男なんでね!」
(゚、゚トソン「!」
( ´_ゝ`)「……ま、それが普通ですわな」
トソンが少し背を反った。
ばれてないな、と思い、内藤は少し胸をなで下ろした。
ポケットに手を突っ込んで、金を出す。
幸い、内藤が来店と同時に訪ねた結果、通貨は変わってなかった。
料金がいくらかは把握していないが、釣りが充分来るであろう程の金を置く。
これで、自分はここにいる必要もなくなった、と見切りをつけるためにだ。
( ^ω^)「お代は置いとくお。だから、お暇させていただ――」
( ・∀・)「は?」
(;^ω^)「――ッ」
.
- 550 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:05:43 ID:EwL2ReHs0
-
瞬間、腹の底が冷たくなった。
帰る意向を見せた途端、モララーが威圧するような声を発したのだ。
思わず、身構えてしまう。
モララーは獲物を前にした獣のような顔をして、続けた。
( ・∀・)「敵の本拠地に堂々と乗り込んどいて、帰れると思ってんのか?」
(;^ω^)「………ぐッ」
正論だった。
内藤としてはそんなつもりは全くなかったのだが、結果としては同じだ。
自分は、敵の――『拒絶』の巣に、無防備に乗り込んでしまっているのだ。
そんな、敵に言わせてみれば格好の獲物である内藤を、ほうっておくものだろうか。
それも、全てを拒絶し、『拒絶』を受け入れさせることでのみ満たされると云う彼らが、だ。
モララーは不敵な笑みを浮かべ、トソンはカウンター向こうからのそのそと歩いてこちらにやってくる。
八方手塞がり、万事休す。
内藤は、手汗が止まらなくなっていた。
.
- 551 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:06:28 ID:EwL2ReHs0
-
( ・∀・)「………さぁ〜〜て」
モララーが、構えた。
右肘を曲げ、やや後ろに引く。
膝も少し曲げて、姿勢を低くした。
左手はぶらんと垂らしている。内藤相手には必要ない、と判断したのだろう。
そして、すっかり戦闘態勢に入ったモララーは、ちいさく呟いた。
( ・∀・)「おっぱじめようぜ、『作者』さんよ。下手に抵抗したら、トソンにぺしゃんこにされるぜ」
(;^ω^)「…………ッッ!」
慌てて、内藤は横に向いた。
トソンも、構えこそないものの、溢れんばかりの殺気を見せている。
おそらく、内藤が万が一の可能性であろうとモララーの初撃をかわしたなら、その隙を彼女が襲う寸法なのだろう。
( ・∀・)「………じゃ」
( ・∀・)「いざ、神妙に―――」
モララーが、右手を前に突き出した。
内藤が思わず目を瞑る。
刹那、モララーの右腕に感触があった。
肉を抉り、血を浴びた感触だ。
同時に、確かな手応えも感じた。
――よし。
モララーが、そう思った直後だ。
.
- 552 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:07:31 ID:EwL2ReHs0
-
( ´ー`)「っるせ」
(;・∀・)「!?」
( ; ω )「…………」
(;^ω^)「……あれ?」
――ネーヨが、自分の腕を貫いたモララーの右腕を引き抜いた。
〝穴〟ができたネーヨの腕から、鮮血が吹き出す。
酒の作用で血流がよくなっていた分、それはより激しさを増していた。
そして、そのネーヨの動きに、モララーも、内藤も、トソンも驚いた。
なぜ、内藤を守るような真似をしたのだろうか、と。
加えて、モララーとトソンは別のことについても驚いた。
ネーヨの動きが、全く見えなかったのである。
先程まで座っていたのに、気がつけば二人の間に立っている。
高速移動ではない――瞬間移動。
ネーヨの能力は、当然だが瞬間移動をするようなものではない。
では、ネーヨはどうやってコンマ一秒の動きよりも速く移動できたのか。
モララーとトソンは驚いたが、その答えは、考えるまでもなく実に簡単だった。
ム シ
―――彼が、物理法則を『拒絶』した。
.
- 553 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:08:32 ID:EwL2ReHs0
-
( ´ー`)「『作者』だとか、この世界を知ってるーだとか」
( ´ー`)「んなもん、知らねえよ」
(;・∀・)「で、でも!」
モララーが叫ぶ。
その頃には、既にネーヨの腕の〝穴〟は跡形もなく消えていた。
それを見て、トソンは「またか」と思った。
彼には、いくら攻撃しても無駄なのだ。
「自分が負荷を追っている」なんてことも『拒絶』するのだから。
首だけになっても、脳が内側から爆発でもしない限り、彼を倒せやしない、と。
( ´ー`)「なに、酒の場でおっぱじめようとしてんだ」
(;・∀・)「あくまで、コイツはゼウスんとこの、いわば参謀みたいなもんだぜ! 始末すんのが――」
( ´ー`)「知らねえよ。ここは酒を呑む場であって、こいつも酒を呑みに昼だってのにここに来たんだよ。
つまり、俺たちを偵察しにきた――とかじゃねえし、殺りあいにきたってハラでもねえ」
( ´ー`)「それで、どーしてこの場に血を撒き散らす必要がある?」
(;・∀・)「………っ」
ネーヨは、いわばエゴイズムの持ち主だ。
それも、極度な。
尤も、全てを拒絶する『拒絶』のリーダー的存在である以上、それはいわば必然的なのだが。
モララーは、それを改めて認識した。
舌打ちをして、両手を脇腹に当てる。
この頃になって、漸く内藤は状況を把握できた。
.
- 554 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:09:28 ID:EwL2ReHs0
-
(;^ω^)「あ、えっと……」
( ´ー`)「わりいな、酒はここでお開きだ。これ以上続けっと、こいつらがうるせえしな」
(;^ω^)「は、はあ……」
ネーヨの真意を掴められないまま、内藤は肯く。
( ´ー`)「もしおめえさんが偵察目的とかで来てたんなら止めはしなかったが……
ま、酒呑むんなら俺が止めねえ理由がねえわな」
( ´ー`)「だが、それもこれっきりだ。次ここに来たら、俺でも止めようがねえぜ」
( ^ω^)「……!」
( ´ー`)「そう云うこった。じゃ、けえんな」
( ^ω^)「………」
(;^ω^)「わわ、わかりましたお! では、失礼――」
漸くネーヨの言いたいことを理解し、内藤は慌ててバーボンハウスから出ようとした。
いつまでもここにいると、胸が押しつぶされそうになる。
遅れてやってきた『拒絶』のオーラに、だ。
.
- 555 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:10:52 ID:EwL2ReHs0
-
すると。
( ´ー`)「ゼウスに伝えとけ」
(;^ω^)「へ?」
踵を返して、そそくさと逃げようとした瞬間。
再び席に就いたネーヨが、ジョッキに手を伸ばしながら言った。
まだ呼び止められるとは思いもしていなかったので、内藤は背筋をピンと伸ばしてしまった。
ネーヨがジョッキに注がれたビールの泡と口づけをする。
一口呷ってから、唇についた泡を拭って、続けた。
( ´ー`)「明日」
(;^ω^)「あ、明日?」
( ´ー`)「ああ、明日だ。明日、昼頃―――」
( ´ー`)「そっちに殴り込みにいく、ってよ」
.
- 556 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:11:39 ID:EwL2ReHs0
-
(;^ω^)「ッ!!」
( ・∀・)「おっ」
(゚、゚トソン「…!」
( ´_ゝ`)「……」
▼・ェ・▼「あん!」
ネーヨは、そう、いつも通りの語調で、宣戦布告をした。
その言葉を聞いて、内藤とビーグル含む四人と一匹は反応を見せた。
まさか、宣戦布告をするとは――内藤とビーグル除く三人は、そう思っただろう。
無言で奇襲を仕掛け、無残な殺し方をするものかと思っていたのに、だ。
三人、特にモララーが何かを言う前にと、ネーヨは更に付け加えた。
( ´ー`)「――モララーがな」
( ・∀・)「おおっ」
( ・∀・)
( ・∀・)「え」
.
- 557 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:13:02 ID:EwL2ReHs0
-
(゚、゚*トソン「さすがですモララー、まさか敵方の参謀に自ら宣戦布告をするとは」
( ・∀・)「おいちょっと待て、わざとやってるだろ」
( ´_ゝ`)「……ま、それが普通ですわな」
( ・∀・)「おまえもだ」
(;^ω^)「………本気、かお」
静かに、問い返す。
しかしネーヨは、語調をほんの僅かに強めただけだった。
( ´ー`)「おめえら、ワタナベとショボンをもうとっちめたんだろ」
( ^ω^)「!」
( ´ー`)「モララーが連れて帰ってこねえのを見ただけでわかんだよ。
……まあ、その反応からして、図星か」
( ^ω^)「……で、なんだお」
( ´ー`)「こっちとしてもな、あの二人を仕留めるような連中を野放しにするわけにはいかねえんだよ。
他の『能力者』は放置して、ちとおめえらを優先させてもらうぜ」
( ´ー`)「………モララーでさえ手こずるようなら、俺が出る、ともな」
.
- 558 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:14:44 ID:EwL2ReHs0
-
(;・∀・)「―――なッ」
( ;´_ゝ`)「……なんだと?」
(゚、゚;トソン「正気ですか! たかが『能力者』風情に――」
ネーヨがそう言った瞬間、なぜか内藤――ではない三人が、驚愕を見せた。
( ´ー`)「〝たかが〟じゃねえ。『拒絶』を二度も
駆逐してる時点で、既に俺たちと同格、またはそれ以上だ」
(;・∀・)「じょ、冗談キツいぜ。俺が負ける、とでも?」
( ´ー`)「同じことをショボンやワタナベにも言えんぞ。
不可能を可能にする奴らなんだ、『負ける筈がない』と思う方が不可能だな」
( ´_ゝ`)「あんたに暴れられると、なにが起こるかわからんからな……俺はとめておくぞ、一応」
( ´ー`)「俺を相手に〝なにか〟を起こさせた時点で、あっちの勝ちだ。
そん時は俺は殺されてるだろうよ」
三人が、黙る。
ネーヨの目が、本気だったからだ。
冗談や冷やかしのために出向くのではない。
――『拒絶』を知らしめるために、自ら赴く。
.
- 559 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:16:35 ID:EwL2ReHs0
-
( ´ー`)「………で、おめえは反応しねえんだな」
( ^ω^)「……どうして、だお」
すっかり慎重に、そして冷静になった内藤に、嘆きかけるようにネーヨは言う。
( ´ー`)「意外だな。俺のことを真っ先に警戒してたもんだとばかり思ってたんだが――」
( ^ω^)「…」
( ´ー`)「トソンのスキルは知らねえ……つーより思い出せねえみたいだが、
俺のスキル――少なくとも、名前は思い出せるよな?」
挑戦状を叩きつけるように、ネーヨが訊く。
内藤は、その挑戦状を笑って受け取った。
( ^ω^)「……当然だお。でも、正直、あんたが自分の『拒絶』のオーラでさえ『拒絶』すんだから、
モララーたちが来るまで、僕はあんたがあんただとわかってなかったお」
( ´ー`)「……」
( ^ω^)「でも、今ならわかる。
あんたは、ネーヨ=プロメテウス。『拒絶』を体現する男だお」
それを聞いて、ネーヨは笑った。
( ´ー`)「………上出来だ。おめえが『作者』だって話、信じるぜ」
( ^ω^)「そうかお」
( ´ー`)「じゃあ、な。お別れだ。おめえと呑んだ酒、一生忘れねえぜ」
( ^ω^)「こっちもだお。じゃあ失礼するお――」
.
- 560 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:17:17 ID:EwL2ReHs0
-
―――オール・アンチ。
そう言って、内藤はバーボンハウスをあとにした。
.
- 561 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:19:04 ID:EwL2ReHs0
-
◆
「さてと……」
扉が開いた。
それに、シィはいち早く気がついた。
紅茶を呑んで、ゆったりとしていた時だった。
(*゚ー゚)「パンドラ?」
シィが「人間」として知っている「人間」は、この世に二人しかいない。
一人がアニジャ=フーンで、もう一人がジョルジュ=パンドラだ。
ジョルジュに関して言えば、彼女の唯一の肉親と呼べるかもしれない。
〝気がつけば生み出されていて〟〝気がつけばジョルジュと共に過ごしていた〟のだから。
肉親が部屋から出てきたため、用はなくとも迎えにいく。
ぱたぱたと小走りで向かい、開かれた扉の向こうからジョルジュが出てくるのを迎えるのだ。
(*゚ー゚)「パンドラ、研究は終わったの?」
シィが問う。
彼女の知っているジョルジュとは、一度研究に没頭すれば三日を不眠で過ごすこともあり得る男だ。
それほど、研究や追究にかける彼の思いは強く、その異端さもシィは知っている。
.
- 562 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:19:53 ID:EwL2ReHs0
-
そんなジョルジュが数時間で出てきたので、不思議に思ったのだ。
シィがその旨を告げると、ジョルジュは苦い顔をした。
_
( ゚∀゚)「違う」
(*゚ー゚)「ごはん?」
_
( ゚∀゚)「中断したんだよ。緊急事態が起こったからな」
(*゚ー゚)「なに、緊急事態って?」
_
( ゚∀゚)「………『拒絶』」
(*゚ー゚)「?」
_
( ゚∀゚)「『拒絶』が、動く。アニジャから連絡があった」
(*゚ー゚)「……はあ」
シィは、興味なさげに肯いた。
だからどうした、と思ったのだ。
彼女がそのことを問うと、ジョルジュは頭を掻いた。
_
( ゚∀゚)「奴らは、本格的にゼウスたちをとっちめ始めるつもりらしい」
(*゚ー゚)「それでどうするの?」
_
( ゚∀゚)「先手を打つ」
(*゚ー゚)「へ?」
_
( ゚∀゚)「シィ、試運転だ。俺をゼウスの屋敷の前に運んでくれ」
(*゚ -゚)「……! どうしたのパンドラ、なにしにいくの?」
シィが、少し焦りを見せた。
今まで平穏が続いていた生活に、異変が生じるのだとわかったからだ。
シィは、それを恐れていたのだ。
.
- 563 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:22:12 ID:EwL2ReHs0
-
_
( ゚∀゚)「お前が知る必要はない」
(*゚ -゚)「ある」
シィが、依怙地になって返す。
彼女が強情なことは昔から知っていたので、ジョルジュは苦笑を浮かべた。
どう言って彼女をやりこめようか、と考えていた。
しかし、言葉で無理に説得しても、無駄だとわかっていた。
シィはジョルジュの助手ではあるが、ジョルジュの研究には大した関心がなく、
ただジョルジュと平和に生活していけることだけに意義を感じているからだ。
_
( ゚∀゚)「……話すときがありゃー話すさ。
それよりも、奴らがゼウスたちを叩くよりも前に俺は行く必要があんだ。あっちに送ってくれないか?」
(*゚ー゚)「……ほんと?」
シィの強張っていた顔が、少しだけほぐれた。
彼女の機嫌を損ねないように、ジョルジュが問い返す。
_
( ゚∀゚)「なにがだ?」
(*゚ー゚)「いつか話してくれるってこと」
_
( ゚∀゚)「『拒絶』の事を、か?」
(*゚ー゚)「うん」
.
- 564 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:22:54 ID:EwL2ReHs0
-
_
( ゚∀゚)「逆に、なんで知りてえんだよ」
(*゚ー゚)「パンドラが隠し事をしてるっていうのが、イヤなの」
_
( ゚∀゚)「……」
(*゚ー゚)「……」
_
( ;゚∀゚)「………え、それだけ?」
(*゚ー゚)「そうですとも」
_
( ;゚∀゚)「別にいいじゃんか、隠し事くらい……」
(*゚ー゚)「だめです」
ジョルジュは、再び頭を掻いた。
やはり、精神的にはまだ未熟なんだな、と思った。
同時に、やはり自分では彼女には適わない、とも。
.
- 565 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:23:27 ID:EwL2ReHs0
-
_
( ゚∀゚)「まあ……とりあえず、急ぎたいから早く送ってくれ」
(*゚ー゚)「ねえ、パンドラ」
_
( ;゚∀゚)「今度はなんだ!」
シィは、少しもじもじしてから、顔を赤らめて、言った。
(*゚ー゚)「その……ぜうすの家……って、どこ?」
_
( ゚∀゚)
(*゚ー゚)
_
( ゚∀゚)
_
( ゚∀゚)「あ」
.
- 566 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:25:21 ID:EwL2ReHs0
-
――じゃあ、あの公園でいいよ。
ジョルジュは、呆れ果てたような顔をして、言った。
そして、シィがジョルジュに体勢を戻させる時間も与えぬうちに
《特殊能力》を使ったため、ジョルジュはワープ先で派手に転ぶのであった。
◆
( ^ω^)「……」
内藤は、ゼウスの屋敷に戻ってきていた。
正確に言えば、屋敷の前に立っていた。
傍らに落ちている白骨、ショボンとの戦いで生じた〝底のない落とし穴〟、ワタナベとの戦いで生じた地割れ。
どれも、今朝起きたものだったと云うのに、どこか内藤にとってはひどく古めかしいもののように思えた。
そんな今の時刻は、太陽が南を通り過ぎて傾きつつある、と言ったところだ。
時間軸でもねじ曲がったのか、と疑わざるを得ないほど、体感時間の進み具合が平生とずれていた。
――やはり、パラレルワールドの影響かお。
まだ、充分に考察のできていないパラレルワールドの現象だ。
一週間ほどの猶予を与えられたら、じっくりと思考を練って、現象を解析できる自信があった。
なんといっても、自分は『作者』なのだ。できないわけがない。
しかし、それを、そのパラレルワールドの持つ規格外の力が
横行されることによって妨害されるとは、内藤としても心外だっただろう。
.
- 567 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:26:46 ID:EwL2ReHs0
-
――また、内藤は妙な心地に浸っていた。
一時間と言葉を交わしていない筈の、彼ら――キャラクター――に対する喪失感が感じられてくるのだ。
目を閉じれば、ショボンやワタナベが隣で声をかけてくるように思える。
(´・ω・`)『やあやあ、「作者」さん。小説家とはいい仕事ですねぇ、「現実」から逃避できるもの!』
タキシード姿の彼が、飄々とした振る舞いで言ってくる。
嫌味がふんだんに籠められた、〝彼らしい〟声だ。
〝彼らしい〟と言えるほど交流を交わしていたわけでもないのに。
( ^ω^)「……」
すると、後ろから女の声が聞こえた。
内藤は振り返る。
彼女は、タキシード姿の彼に声をかけていたようだ。
从'ー'从『小説家なんてクソの集まりじゃねーか。
どいつもこいつも「ご都合主義」な展開で「手のひら還し」しやがってよォ!』
白い服に紫のカーディガン、紫の髪。
胸にも顔にも穴のない彼女は、威圧的な声を発していた。
( ω )「………」
.
- 568 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:28:03 ID:EwL2ReHs0
-
ショボンが言葉を発そうとしたので、内藤は慌てて彼らを思考の外へと追いやった。
彼らが、霧になって散ってゆく。
そして、内藤は喪失感が一層強くなった。
――なぜ、こうなるんだお。
ハインリッヒやアラマキが死んだ上で喪失感を抱くのなら、考えられない話ではなかった。
彼らと丸一日は共にしているから、だけではない。
現実の世界でも、内藤は彼らと〝交流している〟のだ。
紙面の上で踊る彼らと内藤には、数年来の面識があった。
まだ『英雄の優先』を使ってない、ハインリッヒ。
主人公を虐げた鬼の元帥、アラマキ。
回想のシーンで何度か存在を彷彿とさせた、ゼウス。
そんな彼らが消えたとなれば、内藤は自分が抱く喪失感をなんとも思わないだろう。
しかし、ショボンやワタナベだ。
没ネタの筆頭、『拒絶』なのだ。
規格外の強さと規格外の人格。
そんな彼らに喪失感を抱くほど、愛着は持っていなかった筈だ。
なのに、どうして幻覚を見るほど自分は心を痛めているのだろうか。
それは、ある意味で言えば、パラレルワールドの現象以上に興味深いトピックであった。
.
- 569 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:29:07 ID:EwL2ReHs0
-
( ^ω^)「『拒絶』……」
拒絶。アンチ。全てを忌み嫌い、拒む者共。
――そこで、内藤は昔のことを思い出した。
なぜかふッと、回想の世界に誘われたようだ。
場所は自分の書斎の後ろ。
ガラステーブルを挟んで向かいには、相変わらず美しい津出麗子が座っている。
B4の紙が、十枚以上。
麗子は、それら全てに目を通していた。
彼女が溜息を吐く。
苦い顔を浮かべて、麗子は口を開いた。
ξ ⊿ )ξ『先生。さすがにこの設定は……』
( ^ω^)『どうだお? コンセプトは「能力バトルのインフレーション」だお!』
( ^ω^)「……あれ?」
――こんなこと、言ってたっけ?
.
- 570 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:30:51 ID:EwL2ReHs0
-
ξ ⊿ )ξ『確かに、「拒絶」のアイディアはいいし、インフレと云うコンセプトに相応しい――
いや、相応しいどころじゃない規格外っぷりですが、ちょっと……』
( ^ω^)『大丈夫だお、「ご都合主義」な展開はないし、「手のひら還し」することもないお』
ξ ⊿ )ξ『そうじゃなくって……』
( ^ω^)『? あ、それと「常識破り」な展開が、若い人に受けると思うんだお。
「運の憑き」と思った次のページで、逆転劇が始まる、とかが』
ξ ⊿ )ξ『それと、こっちも……』
麗子が、別のB4の紙束に指を差す。
『拒絶』編とは違う、別の設定集とプロットだ。
能力の数が『拒絶』編より多いのもあってか、枚数も多い。
内藤はコーヒーを啜ってから、「お」と言った。
( ^ω^)『元々、この作品は〝封印の解かれた神話〟をベースにしてるところもあるんだお。
ゼウスとヘーラー、パンドラ、プロメテウスとか。で、それはそのうちの一つだお』
ξ ⊿ )ξ『ヴァル…キュ……?』
( ^ω^)『「ワルキューレ」だお。北欧神話の』
ξ ⊿ )ξ『………えっと、先生、これも……』
そこで、内藤は漸く、麗子が何かを言いたそうにしているのがわかった。
しまった、少しアツくなりすぎたか。
そう反省して、内藤は尋ねる。
すると、麗子はかなり申しわけなさそうな顔を浮かべながら、言った。
.
- 571 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:32:42 ID:EwL2ReHs0
-
ξ ⊿ )ξ『………この「拒絶」編と「ワルキューレ」編。
あと、これと、これも。………全て、ボツにしなければ、なりません』
(;^ω^)「ッ!」
そこで、目を開いたまま見ていた回想が終わった。
無意識だった彼は、はッとする。
なんだ、今の記憶は―――
内藤は、回想こそ見たが、なぜか〝そのような会話を交わした記憶はなかった〟。
むしろ、〝このようにしてボツにされたのか〟と云った気分にすらなってしまった。
それはおかしいことなのだ、内藤にとっては。
回想を浮かべる以上はそれを経験しているわけであり、またそうでなくとも、
『作者』である彼は没ネタになったその経緯を知っていなければならないのだ。
だが、内藤は少なくともこの件については〝知らなかった〟、若しくは〝覚えていなかった〟。
同じようなことが、何度か起こっている。
「自分の、この作品に対する記憶と現実との齟齬」だ。
そして、それは今の一件で、より確定的なものになった。
.
- 572 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:34:03 ID:EwL2ReHs0
-
(;^ω^)「……」
すると、内藤は、自分で考えて自分で結論に至っていただけなのに、動揺を隠さずにはいられなかった。
まるで他者にそのことを指摘されたかのような錯覚に陥ってしまう。
パラレルワールドに迷いこんだことで、自分のなかの何かが変えられていっている、なんて。
内藤にとっては、にわかには信じられなかった。
現実世界から乖離し、パラレルワールドに染まりつつある。
そんな、現状が。
( ; ω )「あああああ! だめだお、だめだお!」
「自分が変えられる」気がして、内藤は頭を振るった。
脳にこべりついた「コレ」が剥がれることはなかったが、そうせざるにはいられなかったのだ。
四肢をじたばたとさせ、なんとか振り払おうとする。
その動きを続けていなければ、また自分がパラレルワールドに呑み込まれつつある現状に至ってしまう、そんな気がしたから。
(;^ω^)「そんなことよりも!
あいつらに『拒絶』の襲来を知らせないとだめだお!」
そう自分に言い聞かせるように、何度も呟いた。
常に思考の浴槽のなかに水を注ぎ、パラレルワールドが入り込む隙をなくすようにして。
.
- 573 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:35:13 ID:EwL2ReHs0
-
そして、内藤は漸く一歩を踏み出し、ゼウスの屋敷の扉に手をかけた。
ふう、と息を吐いて自分を落ち着かせてから、ぐッ、と力を一気に籠めて思い扉を開いた。
それからは、急ぎ足で、自分の直感に委せて歩を進めていった。
メイドは、なぜそうなるのかは説明しなかったが、
「自分の直感に従って進んでいけば、行きたい場所に着ける」と言っていた。
それを信じて、ゼウスの部屋へと向かう。
すると、確かに、するすると様々なトラップをかいくぐっては、
道とは言えないような道を、無意識下で進んでいくことになった。
不思議だとは思ったが、その心情はすぐに消えていった。
そして、気がつけばそこにいた。
ゼウスの部屋へと繋がる、木製の扉に。
どう云った原理か毎日構造の変わる屋敷のなかで、ゼウスの部屋だけは不変のままらしい。
固い息を呑みこんで、扉を開いた。
.
- 574 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:36:05 ID:EwL2ReHs0
-
◆
(;^ω^)「あんたら、今から―――」
( ^ω^)「言うこと―――を………?」
内藤が、叩きつけるように扉を開くと、異様な
――ある意味では正常な――光景が目の前に広がっていた。
ハインリッヒがゼウスの襟首を締め上げている。
ゼウスは腕を組んだままハインリッヒを見下ろし、アラマキは澄ました顔で茶を呑んでいた。
从#゚∀从「……ッ」
( <●><●>)「……」
/ 、' 3「…………」
( ^ω^)「………」
(;^ω^)「……なにやってんの、あんたら」
/ ,' 3「お、おお。ブーン君か。ちょうどよかった」
.
- 575 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:37:41 ID:EwL2ReHs0
-
漸く内藤の存在に気づいたのか、アラマキはコップを卓上に置いて、彼を見上げた。
内藤はなにが起こっているのかわからなかったが、説明されなくともわかる気がした。
/ ,' 3「あのじゃじゃ馬を止めちゃくれんか」
言われて、ゼウスの方を見る。
なかなかに、シュールな光景だった。
( <●><●>)「煽られた程度で暴れ出す輩になにを言っても、蛙の面になんとやらではあるがな」
从#゚∀从「真顔で『人望のない英雄気取りの猿女』ァ言われて、黙ってられっか、ボケ!」
( ^ω^)「……あ、ああ…そう」
内藤は、先程まで抱いていた不安感や緊張感と云ったようなものが、急激に冷めてきたのを実感した。
いろいろと言いたいことはあったが、内藤はまず何より「あんたら全員ガキか」と、俗っぽい語調で言いたかった。
それほど、自分にとってはどうでもよかった。
( <●><●>)「それより……」
从#゚∀从「なッ…?!」
ハインリッヒの自分を絞めていた腕を難なく外し、ゼウスは内藤に歩み寄ってきた。
赤子を諭すようにあしらわれた自分を見て、ハインリッヒは驚きを隠せなかった。
そこに実力の差が顕著にでているのだが、ゼウスやアラマキにとってはそれこそどうでもよかった。
( <●><●>)「どうしたのでしょう、『作者』さん」
( ^ω^)「あ、えっと……」
( ^ω^)
( ;゚ω゚)「―――じゃない、あんたら喧嘩してる場合じゃないお!」
( <●><●>)「だから、何が」
( ;゚ω゚)「耳の穴かっぽじって、よく聞けお!」
.
- 576 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:38:46 ID:EwL2ReHs0
-
( ;゚ω゚)「明日、モララーがこっちに乗り込んでくる!」
バーボンハウスに居た時は、モララー以上の障害、ネーヨが目の前にいたため、逆説的に平生を保つことができていた。
しかしそこから解放された今、内藤は落ち着きを失わずにはいられなかった。
【常識破り】を有する『拒絶』一の好戦家、モララーがやってくるというのだ。
それが不意打ちではなく、文字通り宣戦布告として出されたため、その動揺は必要以上に大きかった。
だから彼らに伝えようと急いで帰ってきた。
だが、彼らの反応は、そんな内藤とは大きくずれていた。
――否、掠ってすらいなかった。
( <●><●>)「それはちょうどいい。捜す手間が省ける」
/ ,' 3「ヒョヒョヒョ。上等じゃの」
从 ゚∀从「やってやろーじゃねーか」
( ^ω^)「……え?」
皆が皆、迎撃する気でいたのだ。
自分たちが到底適う相手ではない、とわかっている筈なのに。
どうして落ち着いていられるのか、内藤にはわからなかった。
すると、それを察したアラマキが、笑った。
.
- 577 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:40:27 ID:EwL2ReHs0
-
/ ,' 3「まさかおぬし、『宣戦布告をされた。あいつらは驚くだろう、不安がるだろう』などたぁー思っとらんよな?」
(;^ω^)「いやいや、なんでそんなに平気なんだお! 勝算はあるのかお?」
/ ,' 3「勝算なぞ関係ない。もとより、やるしかないんじゃ」
从 ゚∀从「……それに。
暗殺でやられるよか予告された上で殺される方が、いいんだぜ」
(;^ω^)「お?」
从 ゚∀从「心の準備ができ、やり残したことを終わらせ、
敵を調べる猶予を得られ、万全の体勢で挑めるんだからな」
( ^ω^)「……っ!」
その時、内藤は気づいた。
彼らは、作中であろうとパラレルワールドであろうと、戦闘凶なのだ。
加えて、日頃より命の奪い合いをしている彼らに、命を惜しむところなどある筈もないのだ。
だから、いつ殺されるか教えられることは、むしろこちらの便宜をはかってくれているようなものなのである、と。
ハインリッヒの言葉を聞いて、ゼウスは腕を組んだ。
( <●><●>)「貴様も、やはりそう云った考えの持ち主なのだな」
从 ゚∀从「……意味に依っちゃ、てめぇを今すぐ焦げかすにすっぞ」
( <●><●>)「戯け」
.
- 578 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:41:08 ID:EwL2ReHs0
-
( ^ω^)「……!」
――勝てる!
内藤はなぜか、根拠もなくそう思った。
彼らを見ていると、負ける、などと云ったマイナスな心情が消えてゆくような気がするのだ。
『作者』だからこそわかる、安堵感。
『作者』だからこそわかる、昂揚感。
自覚こそしなかったが、これは、自分が没ネタを練っていた時に感じていたそれに近い心地に似ていた。
負ける可能性が百パーセントを超えるとすら思えるのに、そんな気にさせない、魅力的な『登場人物』たち。
――これだ、これだお!
「なにが」を考えることもなく、内藤はただ漠然とそう思った。
.
- 579 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:42:34 ID:EwL2ReHs0
-
( <●><●>)「ッ」
その直後、ゼウスは動いた。
何の脈絡もなく動いたため、内藤は一瞬なにが起こったのだ、とたじろいだ。
从;゚∀从「ど、どーしたんだよ急に」
( <●><●>)「……」
静かに、姿勢を低くしたゼウスは空虚を見つめる。
少しして、ゼウスは体勢を戻してから、内藤の方に向いた。
( <●><●>)「……『作者』さん」
(;^ω^)「な、なんだお」
( <●><●>)「ここに来る前、広場に誰かいましたか?」
( ^ω^)「は? いや、いなかった……と思うけど――」
内藤がなんとなしにそう答えると、ゼウスは駆けだした。
部屋を出てすぐに在るダストシュートに、身を投じる。
残された三人は何が起こったのかわからず、一瞬呆然としたのち、最初にアラマキが動いた。
自分もダストシュートに身を投じ、ゼウスのあとを追う。
「あッアラマキ――」と内藤が声をかけようとした瞬間、ハインリッヒも
遅ればせながら「チクショウッ」と呟いて同じくダストシュートに身を投じた。
残された内藤は、あたふたとしたが、ええい、ままよ、と思っては
やはり同じようにダストシュートに足を突っ込み、恐る恐るその中に落ちた。
ダストシュートの奥は異次元のトンネルになっているのだろうか。
真っ暗な空間が続いたかと思うと、先に光が見えてくる。
気がつくと、内藤は屋敷の扉の前に横たわっていた。
ハインリッヒやアラマキは、同じように腰や頭をさすりながら、ちょうど上体を起こしている。
ダストシュートはここに繋がっていたのか――そう思っていると、前方、広場の方から声が聞こえてきた。
.
- 580 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:43:27 ID:EwL2ReHs0
-
「何の用だ」
「おいおい、客人だぜ? 中で話させねえつもりかよ」
(;^ω^)「……ん?」
視界が安定してきた。
目を擦り、凝らして彼らを見る。
男が二人と、傍らに少女が一人――
( <●><●>)「生憎、当方は無論信者でな。お帰り願おう」
「久々の再会だってのに、つれねえなァ――ゼウス!」
( <●><●>)「…………何の話、かな?」
(;^ω^)「――ぜ、ゼウス? 誰だお?」
( <●><●>)「知りま――」
.
- 581 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:44:08 ID:EwL2ReHs0
-
澄ました顔で、内藤に背を向けたままゼウスが答えようとすると、
白衣を着た男がそれを遮るように言葉を発した。
内藤の聞き覚えのない、声だった。
_
( ゚∀゚)「自警団『開闢』の元専属ドクター、ジョルジュ=パンドラだ。以後、宜しくな」
.
- 582 :同志名無しさん:2013/01/31(木) 20:46:58 ID:EwL2ReHs0
- >>534-581 第二十三話「vs【常識破り】Ⅳ」
また、この回はこの作品全体を通しても重要な話となってます
だからタイトルもちょっとだけ豪華にしてみた。変顔にツッコミはなしで
- 583 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 17:32:20 ID:aEObt95w0
- 投下はじめます
- 584 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 17:32:57 ID:aEObt95w0
-
何がしあわせかわからないです。
本当にどんなに辛いことでも、
それが正しい道を進む中の出来事なら
峠の上りも下りもみんな
本当の幸せに近づく一足づつですから
―― 宮沢賢治 ――
.
- 585 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 17:33:53 ID:aEObt95w0
-
○登場人物と能力の説明
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
(゚、゚トソン 【???】
→時や力を『操作』した『拒絶』の少女。
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
_
( ゚∀゚) 【???】
→『拒絶』に関わりを持つ科学者。
( ´_ゝ`) 【771《アンラッキー》】
→『不運』を引き起こすが、『能力者』でも『拒絶』でもない男。
.
- 586 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 17:36:21 ID:aEObt95w0
-
○前回までのアクション
_
( ゚∀゚)
( <●><●>)
→対峙
( ^ω^)
从 ゚∀从
/ ,' 3
(*゚ー゚)
→傍観
( ´ー`)
(゚、゚トソン
( ・∀・)
( ´_ゝ`)
→バーボンハウス
从'ー'从
→囚われの身
ノパ⊿゚)
→囚われの身
.
- 587 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 17:37:18 ID:aEObt95w0
-
第二十四話「vs【常識破り】Ⅴ」
/ ,' 3「自警団……」
从 ゚∀从「開…闢……?」
体勢を元に戻していた二人は、きょとんとして復唱した。
自警団、と名乗る以上は少なからず何らかの形で政治に関連してくる存在なのだろう。
そして、彼らは二人とも政治には一流の批判家よりも精通している。
国家の頂点に君臨し、軍事の指揮と並行して政治も牛耳っていたアラマキと、
第三勢力として名を挙げている『レジスタンス』のリーダー、ハインリッヒと。
だと言うのに、彼らはその自警団『開闢』と云う名を知らなかった。
だから、何のことだと思って彼らは復唱したのだ。
しかし、ゼウス、ジョルジュ=パンドラ、そして内藤の三人は、緊張状態にあった。
だから尚更なにがどうなっているのかわからなかった。
ハインリッヒが砂をはたきながら立ち上がると、隣にいる内藤に尋ねた。
この時、アラマキははッとしたような顔をしていた。
从 ゚∀从「……おい、デブ。カイビャクって、なんだ――」
/ ,' 3「―――待て。聞いたことがある」
从 ゚∀从「へ?」
アラマキも、同様に立ち上がる。
右手を曲がった腰に当て、髭をちいさく動かした。
.
- 588 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 17:39:05 ID:aEObt95w0
-
/ ,' 3「ちゅーても、本当に名前程度、じゃがの」
/ ,' 3「何年前じゃろうか。裏社会の狂いっぷりが最高潮に達していた時じゃ」
/ ,' 3「名もなき男女数人で構成された小規模な自警団――が、暴れとる、との。反政府組織のボスが喚いとったわ」
しかし、と挟んで続ける。
/ ,' 3「当時は小規模な組織なんぞに囚われちゃおれん事態じゃったからの、スルーしておいたんじゃが、のちにその名を聞くことものうて、忘れておったわ」
/ ,' 3「……のう、おぬし。『開闢』たぁ――」
質問を浴びせる前に、ジョルジュは肯いた。
一歩前に、踏み出す。
白衣の裾も、風になびきながらついていった。
_
( ゚∀゚)「お察しの通りだぜ」
_
( ゚∀゚)「『開闢』は、嘗てここら一帯の〝裏〟で暴れまわった、いまはなき組織だ」
/ ,' 3「!」
(;^ω^)「!」
从;゚∀从「え、え、なんだよー! 私にもわかるように説明しろ!」
.
- 589 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 17:40:22 ID:aEObt95w0
-
ハインリッヒが喚くが、この場に彼女に構おうとする者はいなかった。
それほど、場は緊張感が敷き詰められていたのだ。
また、ハインリッヒは実力こそあれど、まだ若い。
年輩者、しかも国家の頂点に立つ男でさえ
微かにしか知り得ない『開闢』を、ぽっと出の新参者が知る由もないだろう。
だから、犬猿の仲であるゼウスも、彼女を嘲ろうなどとはする筈もなかった。
ジョルジュの言葉は、まだ続くようだ。
アラマキは目を細め、聴覚に神経を集中させた。
_
( ゚∀゚)「でよ、ゼウスは――」
―――瞬間、ゼウスはジョルジュに飛びかかっていた。
ゼウスの十八番、不意打ちだ。
何の前触れも兆候も脈絡もなく、ジョルジュの喉元に手刀を繰り出していた。
砂の広がる場所でゼウス特有の加速法を用いたため、砂埃が舞い上がった。
嘗てここで戦っていたショボンやワタナベが自然現象を
むやみに扱ったせいか、土地のコンディションは平生とは随分と違っていた。
乾いた砂埃が、霧のように舞う。
(;^ω^)「ッ!」
/;,' 3「なッ……」
从;゚∀从「ぜ、ゼウス!」
彼らにも戦慄が走る。
背中が一気に冷たくなった。
目を見開いて、砂埃が晴れるのを待つ。
そして、霧が晴れた。
瞬間、彼らは目を疑った。
.
- 590 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 17:41:30 ID:aEObt95w0
-
_
( ゚∀゚)「成長してねーなぁ。この俺が、お前の不意打ちを喰らう、とでも?」
( <●><●>)
/ 。゚ 3「な……なんじゃ、ありゃ?!」
从;゚∀从「手刀が……〝止められてる〟?」
ポケットに手を突っ込んだまま、ジョルジュは立っている。
一方のゼウスは、ジョルジュの目の前で、今にも飛びかかりかねない体勢で、固まっていた。
左肘を少し曲げて引き、右の手刀が繰り出されている。
あと数十センチ伸ばせばいとも容易く喉元を抉れるのに、
ゼウスはその手刀をそれより前には伸ばさなかった。
――否、伸ばせなかった。
/ ,' 3「止められてるっちゅーよか……」
( ^ω^)「〝見えない壁に、押さえつけられている〟」
_
( ゚∀゚)「………ッ!」
ジョルジュが、反応した。
それを見て、内藤はあることを確信した。
.
- 591 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 17:42:59 ID:aEObt95w0
-
( ^ω^)「『開闢』のドクターで〝見えない壁〟を扱う奴なんざ、二人といないお」
_
( ゚∀゚)「……俺を、知ってるのか?」
ジョルジュが、虚を衝かれたような顔をする。
内藤は控えめに、ゆっくりと声を発した。
( ^ω^)「記憶があやふやだから、最初は断定しないでおこうと思ってたけど……それも、杞憂だったお」
从 ゚∀从「奴は、『拒絶』か?」
ハインリッヒが訊く。
内藤はちいさくかぶりを振った。
( ^ω^)「いいや。こいつは、ちゃあんと原作に出てくるお」
_
( ゚∀゚)「(……原作?)」
/ ,' 3「ちょうど良いわ。景気づけじゃ、きゃつめの能力、当ててやれい」
( ^ω^)「もとより、そのつもりだお」
_
( ゚∀゚)「……ほう、〝相手を見抜く〟能力か。興味深い」
内藤の謎の言動に多少は動揺したが、ジョルジュは冷静にそう言い放った。
こんな時でも冷静に解析することに努めるのが、職業病のようにすら思えた。
しかし、内藤はそれにもかぶりを振った。
ジョルジュは「あれ」と思った。
彼が追究する前に、内藤は続けた。
( ^ω^)「ジョルジュ=パンドラ。有する能力は、まんまだお」
. パンドラズ・エリア
( ^ω^)「【 絶 対 領 域 】」
_
( ゚∀゚)「ッ!」
.
- 592 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 17:44:33 ID:aEObt95w0
-
【絶対領域《パンドラズ・エリア》】と言われ、ジョルジュは太く凛々しい眉をひそめた。
同時に、それは正解を表しているのと同義だ。
内藤は少し胸を撫で下ろした。
内藤はこの調子のまま――と願いつつ、続ける。
. エリア
( ^ω^)「絶対不可侵な『領域』を創りだす《特殊能力》……ってとこかお」
/ ,' 3「不可侵?」
( ^ω^)「『質量を持たない』
『因果律から関与されていない』
『可視光線以外の一切の干渉をシャットアウトする』」
( ^ω^)「……そんな、概念論、因果律、物理法則の全てと矛盾し、独立させされた『領域』――
言っちゃあ壁みたいなものを、自由に創りだすんだお」
从 ゚∀从「意味がわかんねえよ」
_
( ゚∀゚)「ならば、簡単に言ってやろう」
从;゚∀从「……え?」
.
- 593 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 17:46:06 ID:aEObt95w0
-
ハインリッヒは当惑した。
なぜ、向こうからわざわざ説明してくれるのだ、と思ったのだ。
ジョルジュはしれっとした顔のまま続けた。
_
( ゚∀゚)「お前の『英雄の優先』、つえーよな」
从 ゚∀从「……どうして、私を知っている?」
_
( ゚∀゚)「詳しくは知らねえ。でも、これは知ってるぜ」
_
( ゚∀゚)「〝英雄だから何をやっても許される〟とかいう、ふざけた理論で何もかもから『優先』される――ってな」
从 ゚∀从「…………ふざ、けた?」
ハインリッヒの右の眉がひそめられ、目は細められた。
拳に力が入るのを、なんとか抑える。
一方のジョルジュはハインリッヒの心中など察することもなく、全く悪びれた様子を見せなかった。
_
( ゚∀゚)「おっと! 俺を殴るのは無理だぜ。『領域』が俺を守るから、な」
ワタシ
从 ゚∀从「抜かしやがれ。んなもん、『英雄』を『優先』させりゃーイッパツよ」
_
( ゚∀゚)「ところが、そうは行かないんだな、これが」
从 ゚∀从「! ……弁解のチャンスっつーことで、一応聞いてやる。なんでだ?」
ハインリッヒが睨みを強くさせて、問う。
怒りが募りすぎて、逆説的に冷静でいられた時だった。
しかし、ジョルジュの答えを聞くやいなや、その怒りがどこかに飛んでいってしまうことになった。
_
( ゚∀゚)「〝『優先』されるべき対象が存在しないから〟だ」
从 ゚∀从
.
- 594 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 17:46:56 ID:aEObt95w0
-
从;゚∀从「―――ハァ?」
やはりそうなるだろう――と思ったジョルジュは、不敵な笑みを見せながら、言った。
_
( ゚∀゚)「『優先』ってのは、物体Aと物体Bがあるとして、物体A――お前が、
物体B――対象に、無条件で勝利するっつーことだ」
_
( ゚∀゚)「ところが、だ。俺のこの『領域』に、対象なんてものは〝存在しない〟んだぜ」
从;゚∀从「? ……?」
( ^ω^)「(あーあー、だめだおそんな説明……。ハインリッヒは賢くないんだお)」
/ ,' 3「……そうか」
_
( ゚∀゚)「そっちはわかったみてーだな、元帥さんよ」
/ ,' 3「ほう! 儂を知っておるのか。殺しがいがある『能力者』じゃの」
_
( ゚∀゚)「はっはっはっ。呆けとんじゃねーぞジジイ」
.
- 595 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 17:48:07 ID:aEObt95w0
-
アラマキは赤子を見下すかのような微笑を浮かべてから、ハインリッヒと向かい合った。
やはり赤子をあやすように、噛み砕いて説明した。
/ ,' 3「つまり……じゃ。ハインリッヒの『優先』は、空虚には使えんわな? 『優先』すべきもんがないんじゃから」
从 ゚∀从「そりゃ、そうだ」
/ ,' 3「一方で、『領域』とやらは質量を持たず、因果律から在るもんでものうて、しかし壁として機能しておるのじゃ」
/ ,' 3「いわば、この壁も〝空虚〟なんじゃ」
/ ,' 3「これら二つのことを合わせると―――」
从 ゚∀从「…………」
从;゚∀从「……待て。それ、いろいろと矛盾してんじゃねーか?」
( ^ω^)「それが、【絶対領域】。そうだお?」
ジョルジュがにやりと右の口角を吊り上げて、肯いた。
ジョルジュの創りだす『領域』が絶対不可侵である理由は、実に簡単だった。
〝存在してはならない存在だから〟。
ネーヨが拒絶を体現しているのなら、こちらは矛盾と独立を体現しているようなものなのだ。
見えない壁があるためそれより向こうに干渉することはできない。
しかしその壁に質量は存在せず、圧さはゼロセンチメートルである。
〝存在しない壁〟だから、ハインリッヒがジョルジュを襲う際、
〝初めから何もない空間〟から自身を『優先』させることなど、できるわけもない。
概念論と因果律、物理法則の全てから矛盾し独立させた存在、それが【絶対領域】。
それは、文字通り、開けてはならない『パンドラの箱』のような――
.
- 596 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 17:49:12 ID:aEObt95w0
-
( ^ω^)「一応訊くと……以上の説明で、合ってるおね?」
_
( ゚∀゚)「半分アタリで、半分ハズレだ」
( ^ω^)「よかったお」
( ;゚ω゚)「―――え?」
内藤は、自分の心臓が巨人によって握りつぶされそうな心地になった。
目が自然と見開かれる。
急に心臓の鼓動が速くなったことにも気がついた。
すると、内藤が詳細を尋ねる前に、ジョルジュがそれを自ら言った。
隠す必要も隠し抜ける保証もない、とわかったからだろう。
躊躇いなど感じさせない、実に流暢な口調だった。
_
( ゚∀゚)「【絶対領域】は、もう〝古い〟んだよ」
(;^ω^)「どッどういうことだお?」
_
( ゚∀゚)「今の俺の能力は―――」
_
( ゚∀゚)「――いや、こっちの方が早いな」
(;^ω^)「?」
まくし立てるように内藤が訊くと、ジョルジュは一度答えようとして、しかしその口を閉ざした。
少し考えたかと思うと、左手をポケットから抜き、固まったままのゼウスを指差す。
今すぐにでも飛びかかりかねない体勢のまま、だった。
そして、彼が身動ぎひとつすらしないことに気がついた。
.
- 597 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 17:50:24 ID:aEObt95w0
-
――そして、しないのではなく〝できない〟ことにも、すぐに気がついた。
_
( ゚∀゚)「【絶対領域】じゃ、張れる『領域』は平面だ。
壁を一枚張っただけで、ゼウスの動きを止めれると思うか?」
(;^ω^)「そ、そりゃそうだとは思うけど……」
/ ,' 3「六面を覆うように壁を張った、んじゃないのかえ?」
_
( ゚∀゚)「押しいな、じいさん。しかし、それだといくら俺でも
とちっちまって数ミリ程の隙間を残しちまうかもしれんだろ?」
/ ,' 3「まどろっこしい。さっさと申せ、青二才が」
「言われなくとも」と笑って、ジョルジュは凛とした顔つきになった。
内藤は焦燥に駆られていたため、その風格の変化にすら気づくことはできなかった。
_
( ゚∀゚)「俺の〝今の〟能力は―――」
.
- 598 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 17:51:37 ID:aEObt95w0
-
◆
(゚、゚トソン「アニジャさん、あとはその壁だけです」
( ´_ゝ`)「はーいよ」
『作者』内藤の去った後のバーボンハウスでは、『拒絶』の面々とアニジャが、
営業時間外とは言え店内で見るのに似つかわしくない光景を繰り広げていた。
ネーヨはやはりカウンターの上に肘をついて、何かを考えている。
彼に関しては――考察の内容を除き――平常通りだ。なにも言及すべきことはない。
異様だったのは、その他だった。
マスターのトソンは何を考えたのか、店内の掃除をはじめだしたのだ。
アニジャを道具のように使い、店内から濁りを取り去って輝きを取り戻させようとする。
最初彼はなんのためだ、と思ったが、少し後に彼女が
ビーグルとじゃれているのを見て、なんとなくではあるが理由がわかった気がした。
問題は、モララーだった。
鉄砲玉よろしく後日の襲撃を委されたのはいいが、それは明日であって今日ではない。
だからトソンは彼にも掃除を手伝わせようと考えた。
すると、だ。
( ・∀・)「俺、トイレ!」
とだけ言い残して、戦闘中に見られるような素早さでトイレに駆け込んでいったのだ。
アニジャが、箒で床を掃いていた時だった。
そのとき、彼はふと思った。
( ´_ゝ`)「(あ、サボる気だコイツ)」
( ´_ゝ`)「(……『不運』だなあ……)」
しかし、モララーがトイレで時間を潰すものとは言え、
一度掃除を引き受けた以上は、モララーの不在を理由に投げ出すわけにはいかない。
だから、渋々彼は掃き掃除から拭き掃除と、トソンの言うとおりに掃除を手伝ってやっていた。
.
- 599 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 17:52:16 ID:aEObt95w0
-
言われた箇所の拭き掃除も終わった時だ。
トソンが優しい声で話しかけてきた。
(゚、゚トソン「結構綺麗になってきましたね」
( ´_ゝ`)「……あの、あんたは何やってたんだ?」
(゚、゚トソン「毛繕い」
( ´_ゝ`)「えっと……犬の?」
(゚、゚トソン「わ、私の毛繕いのついでです」
( ´_ゝ`)「あんた、自分を毛繕いするのかよ……」
(゚、゚トソン「うるさいですね。噛みつきますよ」
( ´_ゝ`)「攻撃方法が犬だ……」
(゚、゚;トソン「……もう、アニジャさんまで!」
( ´_ゝ`)「なぜ怒られるんだ……」
.
- 600 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 17:53:30 ID:aEObt95w0
-
そうぼやいて、雑巾をバケツに投げ入れる。
くすんだ色を持つ水が飛沫をあげた。
(゚、゚トソン「後片付けはモララーに委せましょう」
( ´_ゝ`)「……あんた、結構鬼だな」
(゚、゚トソン「なぜでしょう、よく言われている気がします」
( ´_ゝ`)「いいよ、俺が後片付けする。トイレに排水流すついでに、モララーもつまみ出すよ」
(゚、゚トソン「お願いします」
言われて、アニジャはバケツを持って、トイレに向かった。
万が一でこそあれ、男の排泄する姿など見たくもないため、一応ノックする。
音はしないため、眠っているのだろうか、とアニジャは思った。
仕方なく、鍵は閉まっているものと考えた上でノブを捻ってみた。
――すると、扉は開いた。
( ´_ゝ`)「え、モララー?」
逃げ口上とはいえトイレに籠もる以上、鍵はするものではないのだろうか。
そう思っていると、蓋のされた洋式トイレの上に、人がいることに気づいた。
アニジャがバケツを置いて近づくと、足を伸ばして座っているモララーが俯いているようだった。
肩を揺すると、反対側にもたれかかった。
――熟睡してるなあ。
そして、アニジャがそう思って寝顔を拝もうと視線を上に遣った時だった。
へ へ
( のもの)
`ー‐
( ´_ゝ`)
.
- 601 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 17:55:14 ID:aEObt95w0
-
( ´_ゝ`)「あいつ……まさか」
少し固まったアニジャは、その顔以外をモララーによく似せた人形を背負って、トソンのもとに戻った。
実に軽い。中身は、おそらく空洞で、ひどく脆いのだろう。
それをトソンに見せると、アニジャが瞬きをした次の瞬間、
アニジャの掲げていたモララー人形は〝粉になっていた〟。
アニジャが「へ?」と、頓狂な声と表情を浮かべると、《拒絶能力》を
使い時間と力を『操作』したであろうトソンが、アニジャの後ろで拳を突き出していた。
この拳で、人形を一瞬にして屑にしてみせたのだな。
そう推測したアニジャが視線を下に向けると、カウンターの上や床にその屑が飛び散っているのが見えた。
「掃除したのに……」と『不運』を感じ、うなだれるように彼は席に就いた。
( 、 トソン「…………あの、バカ」
( ;´_ゝ`)「怖い、怖いぞ」
(゚、゚トソン「………どうしましょうか、ネーヨさん」
モララーが、逃げた。
なんのために逃げたのか――掃除が終わっても尚帰ってこないのを見ると、それは言うまでもなく明らかだ。
どうしようかと、ネーヨの指示を仰ごうとした。
すると、やはりぼうっとしていたせいか「え?」と聞き返されてしまった。
トソンは少し呆れ顔になって、経緯を話した。
ネーヨは興味なさそうにふんふん、と聞く。
( ´ー`)「つまり、逃げたってのか」
(゚、゚トソン「どこに――と云う推測は、おそらくここにいる三人が、皆一致しているでしょう。
. ……さて、どうします?」
( ´ー`)「どうしますって、そりゃ―――」
――止めるっきゃ、ないだろ。
.
- 602 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 17:58:51 ID:aEObt95w0
-
◆
_
( ∀ )
从;゚∀从
/;。゚ 3
彼らは、その一瞬の出来事をすぐには把握できなかった。
いや、文字にすれば存外簡単なのだ。
〝いきなり、背後から殴られ、ジョルジュが倒れた〟。
致命傷ではないようで、彼はまだ生きているし、
運がよかったのか向こうが手加減したのか、目立った外傷はない。
しかし、彼らが驚いて絶句しているのは、なにもジョルジュが殴られたから、ではないのだ。
その本当の理由を、内藤が説明でもするかのように、言った。
( ;゚ω゚)「………ど、どーしてあんたがここにいるんだお……」
( ;゚ω゚)「…………モララーッ!!」
( ・∀・)「聞きてえか、平和ボケども」
.
- 603 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 18:00:03 ID:aEObt95w0
-
〝やってくるのは明日の筈のモララーが、今日やってきた〟。
それだけで、「戦闘凶」の彼らに戦慄が走るのは言うまでもないだろう。
ハインリッヒなんか、仰天のあまり自分を音速の壁に『優先』させ、モララーに襲いかかろうと思った程である。
ワタナベの策略により『優先』されなくなった『英雄』が取り乱すほど、これは【常識破り】な展開だった。
从;゚∀从「襲撃は、明日じゃねえのかよ!」
( ・∀・)「んん〜?」
嘲るかのように、モララーがわざと大袈裟に聞き返してくるような仕草をとる。
現時点で、正々堂々から最も遠ざかっている男だろうと思えた時だった。
ハインリッリは言うまでもないとして、彼の突然の襲撃は、内藤も納得することができなかった。
だから、普段はでしゃばらない内藤も、この時ばかりは一歩前に出るしかなかった。
(;^ω^)「『襲撃は明日』ッ!
これは、あんたの取り付けた約束じゃなくって、そっちのボスが決めたことじゃないのかお!」
( ・∀・)「へぇ〜〜?」
彼は耳に、耳殻を作るように当てていた右手を離し、脇腹にそのまま回す。
腰の角度を少し前に傾け、不敵な笑みは浮かべ続けている。
(;^ω^)「……聞かせてくれお。『明日に襲撃する』って云うのは、最初から二人の間で決めていた、『嘘』なのかお?」
(;^ω^)「不意を衝いて、一瞬でこっちを崩しにかかれるように……っ!」
( ・∀・)「……」
.
- 604 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 18:01:07 ID:aEObt95w0
-
モララーは黙る。
浮かべていた笑みはふッと消え、続けて不機嫌そうな顔をした。
(;^ω^)「………答え――」
( ・∀・)「違え」
(;^ω^)「…っ」
モララーが、短く言った。
( ・∀・)「あの人は、そんなつまらねー『嘘』なんざ吐かねえんだ」
( ・∀・)「大方、今頃俺が抜け出したことがバレて、俺を連れ戻しに誰かがこっち向かってるところだろうよ」
从 ゚∀从「ハン! 来るだけ無駄だった、っつーわけじゃねーか! とんだ無駄足だったようだな!」
本当は心中では焦燥と恐怖、不安と――拒絶しか感じていないハインリッリだが、どう云うわけか、虚勢を張ることだけはできた。
声の音波を波動に見立てて、モララーを攻撃するかのように。
彼女は、食らいついた。
だが、モララーは「へ?」と気の抜けたような声を発した。
ハインリッリの言っていることがわからなかったようだ。
少しして、彼女の言いたいことを把握したモララーは、高らかに、間隔を空けて笑いあげた。
そして笑いで肩を震わせながら俯き、フードをかぶった。
フードを左手で押さえ、フードの下から細めた目をこちらに向ける。
その目が、今まで見てきたなかで最も「黒い」目だったため、ハインリッリはぞわり、と不気味なものを感じた。
同時に、一気に解放でもしたのだろうか、『拒絶』特有の不快感しか与えない
強烈なオーラが、生温い風のようにゆっくりやってきては彼らを襲った。
無臭の筈なのに、おぞましいものの臭いがする。
無色の筈なのに、くすんだどす黒い陽炎が見える。
実体を伴わない筈なのに、手を伸ばせばそのオーラを掴める錯覚が感じられそうだ。
.
- 605 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 18:02:13 ID:aEObt95w0
-
――これが、モララーか。
ふと、ハインリッリとアラマキは思った。
今までは所詮手加減、それもお遊びだ――と。
また同時に、彼らはこうも危惧した。
――今から、奴は本気を出す。
そう思って筋肉が緊張しつつあるのを実感していると、モララーは口角を鮫のように伸ばし、そして開いた。
( ・∀・)「やっぱ、おまえ頭悪いわ」
从 ゚∀从「……なに?」
フードから左手を離し、体勢を変える。
左手も脇腹に添え、背中を反るようにふんぞり返っては、上から彼らを見下すように視線も高くした。
フードから覗けていた目が影で隠れる。
そしてモララーは続けた。
――というより、話題転換と言わんばかりに、内藤に向かって言葉を放った。
( ・∀・)「一応、答えといてやる」
(;^ω^)「……お?」
内藤が身構える。
もう、彼の『拒絶』のオーラは、氾濫しそうな程この場に満ちかえっている。
一般人の内藤が、それに耐えられる筈もないのだ。
( ・∀・)「別におまえらを騙そうと思ってあんな『嘘』を吐いたわけでもなきゃあ、
不意を衝いて一気に潰そう――なんてハラでもない」
( ・∀・)「ただ、『来るはずのない敵が、いきなりやってくるわけないだろう』なんて云う―――」
( ・∀・)「『常識』を『破る』のが、俺の美学なだけだ」
.
- 606 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 18:03:21 ID:aEObt95w0
-
/;,' 3「ッ!」
モララーの、聞いた人の内臓をかき乱すかのような声が聞こえてきたのと同時に、彼は動いた。
地を蹴る音と同時に、その場にはちいさな砂煙が舞い、モララーが消えた。
刹那、アラマキの後ろにモララーは現れた。
そして、彼は思った。
――これは、『俺はアラマキの後ろにいる』と云う『嘘』ではない。
――正真正銘、『真実』のモララーの実力だ。
モララーは飛び跳ねて彼の背後に向かったのだろう、宙に浮いていた。
後ろに引かれた右足が、アラマキに向かって飛んでくる。
アラマキは、本能的に迎撃に応じる。
振り向きざまに、右の拳を後ろに振り払った。
二人の攻撃がかち合ったかと思うと、鈍い音が聞こえた。
恐らく、この度の互いの威力は同等。
アラマキも能力を適応させる暇がなかったと見受けられる以上、単純な戦闘能力ならば、互角と思われた。
/;,' 3「っちィ!」
( ・∀・)「『英雄』よ、おまえの質問にも答えてやらぁ!!」
モララーはアラマキの拳の威力を相殺した上で、加えてその拳の力を利用し後ろに下がって着地する。
続けて体躯を低くし、直線上にいるアラマキに向かって突進した。
『解除』を念じる隙すら与えない連撃だったため、アラマキはこれもあしらわなければならない。
同じく自分も体躯を低くさせる。
両足を肩幅より一回り広めに広げ、腰を落とす。
直後左方面から飛んでくるモララーの右フックを、腰を右に動かし
上半身を左に大きく倒すことで回避し、同時に右の拳でモララーの左肩を狙った。
それをモララーは読んでいたのか、左肘で迎え撃った。
この時はアラマキが競り勝ったようで、彼の拳には確かな手応えが残った。
.
- 607 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 18:04:11 ID:aEObt95w0
-
――だが、情勢を見る限り、優勢に立っていそうなのはモララーの方だった。
単純なパワーならばアラマキの優勢なのだが、スピードはモララーの方が
何枚も上手であり、加えて立ち回りがとても素人のものとは思えないのだ。
アラマキはそのスピードについていくだけで言葉を発することさえできなくなったのに対し、
モララーは涼しい顔をしてハインリッリに声をかけている。
そんな情勢を見て、誰がアラマキの優勢と言えるだろうか。
そして、同じ見解を内藤も持っていた。
( ・∀・)「あいつらが俺を連れ戻すより、前に!」
/;,' 3「――ッ」
( ・∀・)「俺が先に始末するつもりなんだよ!」
( ・∀・)「それも、ステゴロのタイマンでなァ!!」
/;,' 3「―――『解除』ォォ!」
( ・∀・)「…っ」
.
- 608 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 18:05:01 ID:aEObt95w0
-
モララーがそう言ったのを好機と見て、アラマキが【則を拒む者】として動いた。
モララーの踏み込みの反動を『解除』して、駆け出すのを封じた。
モララーも初めて能力を受けるわけで、一瞬動じてしまった。
地にできた半径一メートル程度のクレーターを見て、何が起こったのかを理解する。
その頃には、ハインリッヒが動いていた。
【正義の執行】を開始することで『英雄』としての身体能力の補正を受ける。
そしてモララーに左から飛びかかり、右足を左後ろへと大きく引いた。
その脚が描くであろう孤の軌跡のちょうど真ん中に、モララーの首が捉えられていた。
モララーは咄嗟に右後ろに退こうとした。
だが、その跳躍をもアラマキが能力で封じる。
一層大きなクレーターができ、モララーが反動で前のめりになった。
その瞬間を、ハインリッヒとアラマキが同時に捉えた。
( ・∀・)「―――ちッ」
アラマキの右の正拳と、ハインリッヒの右の脚。
二つの軌道から逃れることができないと察したモララーは、両手を咄嗟に前後に繰り出した。
直後、爆音に似た乾いた打撃音が森にこだました。
森の葉が、爆風に扇がれたかのように揺れる。
モララーの右手はアラマキの拳を、
モララーの左手はハインリッヒの脚を
それぞれの同等の力を以て、完璧に迎え撃っていた。
――モララーは、あの一瞬で繰り出した両手で、アラマキとハインリッヒの一撃を完全に殺したのだ。
そうとわかって、ハインリッヒもアラマキも、『拒絶』に対する不安以上に、
強敵に対する胸の昂揚が膨らんでいっていることに気がついた。
ワタナベも、戦闘能力は持ち合わせていた。
だが、それは《拒絶能力》を利用した上での戦闘能力だ。
しかし、モララーのこれは違った。
〝素でハインリッヒとアラマキを相手にできる程の戦闘能力〟なのだ。
小手先なしでこの強さ。
一人の『能力者』としてより、一人の「戦闘凶」としての感情が
先立ってしまう結果となるのも、仕方のないことだっただろう。
.
- 609 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 18:06:03 ID:aEObt95w0
-
/ ,' 3「――ほう」
从 ゚∀从「……思ったより、遣えるな」
( ・∀・)「ほざけ」
モララーは、左手の掌を拳に変え、ハインリッヒの足首を下から殴りあげた。
すぐさまハインリッヒは反動に脚を委せ上に流すことで、威力を分散した。
続けて膠着状態だった戦況が再び目まぐるしく動き出した。
ハインリッヒは上に流すその勢いを利用して、空を仰ぐようにして後方に一回転。
彼女が退くのを察して、アラマキはそのまま攻撃に転じた。
二対一と云う絶対有利の局面である以上、二人が同じ事をしていてはその利点を殺してしまうことになる。
彼女が体勢を整えるうちに、フリーになっているアラマキは、突き出していた右腕を引き、続けざまに軽く跳ねた。
このとき、モララーは振り向こうともせず、突き出した右手を引き、
その反動と勢いを利用して右の膝でアラマキを蹴り上げようとした。
しかし、それよりアラマキの方が速かった。
/ ,' 3「重力――っ」
( ・∀・)「ッ!」
.
- 610 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 18:07:10 ID:aEObt95w0
-
ハインリッヒに気を取られていたモララーより、アラマキの方が猶予はあったのだ。
【則を拒む者】が、モララーの重力を『解除』した。
途端、味わったことのない、文字通りの浮遊感がモララーを襲った。
味わったことのない『異常』が続けて彼を動かしたので、モララーは一瞬動揺した。
そこを、アラマキは狙っていたのだ。
もとより、【常識破り】に、重力、もとい宇宙を使った勝利が掴めるとは思っていない。
それには長い時間的猶予が要るため、むろんそれより先にモララーの【常識破り】が動くからだ。
しかし、大技を決める程度の隙なら。
そう思ったがゆえの、『解除』だった。
ハインリッヒ相手には勝利目的で使ったこの技が
このように隙を見出すためだけに使われるとは、当時のアラマキには想像すらできなかっただろう。
目論見通り、モララーは体勢を崩し、針の穴ほどの隙を見せた。
跳ねて宙に浮いているアラマキは、その針の穴に両足――ドロップキック――を見舞った。
これをするのがハインリッヒだったならば生首くらい持っていけるだろう、それほどの大技だった。
モララーがその動きに気を払えたのは、両足がモララーの肌の手前三センチにまで迫っていた時だ。
アラマキは「勝った」とまでは思わなかったにしても、ある程度の安堵を得ることくらいはできた。
しかし。
その針の穴の向こうから見えたのは
モララー特有の、不敵な笑みだった。
/ ,' 3「――?」
( ・∀・)「ん〜〜、惜しいッ」
从;゚∀从「!」
.
- 611 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 18:09:02 ID:aEObt95w0
-
アラマキの放ったドロップキックは、空を貫いた。
その両足の数メートル先にまで迫っていたのは、モララーではなくハインリッヒだ。
一瞬の不可解な出来事に当惑したアラマキだが、ハインリッヒはより速くその不可解を理解した。
後ろに退き、ロケットよろしく加速してアラマキの方に気が行ったモララーに
飛びかかろうとしていたハインリッヒ、その後ろにモララーが現れたのだ。
そこで、自惚れていたアラマキも、はッとした。
体勢を崩しつつ着地し、立ち上がりながらモララーを睨む。
どこぞのタキシード男のように、やれやれと言いたげな仕草をしていた。
( ・∀・)「こちとら意識下での発動なんだ、コンマ一秒あれば圧倒的にこっちが勝つっての」
/ ,' 3「…フェイク、シェイク……ッ!」
从 ゚∀从「文字通り……常識破りな奴だ」
モララーとは対照的に、二人は、構える。
すぐに飛び出しても構わないのだが、二人の攻撃を一瞬にして
同時に防いだ彼のことだ、のれんに腕を押した時のような手応えしか感じられないだろう。
彼らがすぐに動かなかった理由は、そのためだ。
飛びかかってこないのを察しているのか
モララーはにやにやしながら続けた。
( ・∀・)「でも、そっちだって手品を使ってチャンスを見出したんじゃねーか。おあいこ、だぜ」
.
- 612 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 18:09:46 ID:aEObt95w0
-
/ ,' 3「まるでプロレスでも楽しんでるようじゃの」
( ・∀・)「そーかな。いや、違え。俺はボクシングが好きなんだ」
/ ,' 3「ヒョヒョ。空手の劣化が、か」
( ・∀・)「あー、空手もいいよな。あれどうすんの、あれ」
/ ,' 3「なんじゃいの」
( ・∀・)「ほら、貫手だっけ。こんな感じの――」
直後、モララーはアラマキの背後に
「四本貫手」の構えをしたまま現れた。
( ・∀・)「やつ」
音もなく『常識』を介さずして現れたモララーが、
「四本貫手」を、アラマキの肋骨と肋骨の隙間を通すように突き出した。
从;゚∀从「あっ――アラマキ!!」
.
- 613 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 18:10:53 ID:aEObt95w0
-
あまりに自然に放たれた不意打ちに、アラマキは反応しなかった。
傍らでその一瞬の一部始終を見たハインリッヒが、アラマキの失態を庇うかのように飛びかかる。
当然、彼女の加勢がモララーの不意打ちより速いはずもなかった。
しかし、なにも音は聞こえなかった。
モララーの指先とアラマキの躯とがかち合う音も、肉が抉られる音も、呻き声も。
聞こえたのは、アラマキの乾いた笑声だけだった。
/ ,' 3「なっとらん、なっとらんぞ若僧」
(;・∀・)「―――!?」
/ ,' 3「『四本貫手』っちゅーんはの、」
そう言って、ゆっくり背後に振り返ったかと思うと、瞬きをしていなくても
気づけなかったであろう一瞬のうちに、モララーの心臓部から血が流れた。
その速さは、高速戦闘が売りの筈のハインリッヒですら目に留めることができなかったほどであった。
/ ,' 3「こうするんじゃ」
( ∀・)
アラマキが見せた「四本貫手」と呼ばれる技の構えは、まるで一つの大きく鋭い剣のようであった。
それが、モララーの心臓部、肋骨と肋骨の間を見事に突き刺さっている。
モララーが前方に倒れ込もうとするので、余計にアラマキの手刀――貫手が、彼の胸に食い込んだ。
ハインリッヒはあまりに一瞬の出来事に、目を見開いてクチをあんぐりとさせるよりほかはなかった。
ハインリッヒが、飛びかかろうとした勢いを食い止め、アラマキに駆け寄ろうとする。
すると、アラマキに寄りかかったモララーの亡骸は、一瞬にして消えてしまった。
またも不可解な「手品」がされたため、ハインリッヒはぴたりと固まった。
一方のアラマキは動じていなかったが。
.
- 614 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 18:12:27 ID:aEObt95w0
-
/ ,' 3「わかったかの?」
( ・∀・)「ああ。嘗めちゃいけねえ、ってことがな」
/ ,' 3「じゃろ、じゃろ。空手はな、奥が深いんじゃ」
从;゚∀从「 ッ!」
アラマキが声をかけると、彼と背中合わせになるようにして、モララーが現れた。
平然と、会話なんかを交わしている。
それが、ハインリッヒにとっては異様な光景にしか見えなかった。
そんな彼女の当惑を置き去りにして、彼らは続ける。
( ・∀・)「ちげーよ。おまえらを嘗めちゃいけねえ、ってことが、だよ」
/ ,' 3「ごリッパな能力持ちよって、よく言うわいの。ホンキだしゃー、二人とも一気に殺れるんじゃろ?」
ぴりぴりと、張りつめた空気が漂う。
それは、テンションを限界ぎりぎりまでかけた弦楽器の弦のようなものだた。
いつ切れるかわからない、膠着状態。
いつ始まるかわからない、緊張状態。
しかし、そう云ったものを彷彿とさせないように、二人は続ける。
( ・∀・)「バカヤロー。それじゃー満たされねえっつーの」
/ ,' 3「〝満たされる〟……か。面倒なもんじゃの、『拒絶』は」
( ・∀・)「そうか? 〝満たされる〟は命有るもの万物に言える共通の快楽、〝生きる目的〟って言えるぜ」
/ ,' 3「〝生きる目的〟のぅ。若い、若いわ。確かに儂も若い頃は悩んでおったの、『人はどうして生きるのだ』と」
( ・∀・)「同じ事で悩んでる奴が、『拒絶』に一人いるわ」
/ ,' 3「あっそ」
.
- 615 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 18:13:17 ID:aEObt95w0
-
( ・∀・)「俺は俺で、猿みてーに〝満たされる〟ことを追い求めてるが――」
――弦が、切れる。
そのとき、ハインリッヒは直観的に思った。
モララーが振り返ろうとしたのだ。
( ・∀・)「なんでだろーな。そうしてっと〝そもそも満たされない〟んじゃね、って思えてきた」
/ ,' 3「――どう云う意味じゃ」
( ・∀・)「『英雄』はともかく――ジジィ、てめーだ」
( ・∀・)「てめーには、ホンキだす」
.
- 616 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 18:14:39 ID:aEObt95w0
-
(゚、゚トソン「そうはさせませんよ」
,,..。。,,
( ゙*。。 ,,゙
/ 。゚ 3「ッ!?」
从;゚∀从「ッ!?」
――モララーの躯の向きが完全にアラマキの方になり、モララーの声色が変わった時。
目の前に、髪を後頭部で縛った少女が現れ、
同時に、モララーの顔面の左半分が砕け散った。
瞬間移動としかとれない。
モララーの『嘘』よろしく、なんの前触れもない登場だった。
加え、二人にとっては面識のない相手だ。
モララーが呆気なく殺された事実。
モララーと等しく唐突な登場。
見覚えのない少女の出現。
あまりに強い驚愕が、二人を襲った。
.
- 617 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 18:15:23 ID:aEObt95w0
-
( ・∀・)「……もう来たのか」
(゚、゚トソン「気づくのに遅れただけ」
――それでもやはり、【常識破り】は還ってくる。
平然と、何事もなかったかのようにモララーが現れた。
そしていつものように、話し始めた。
( ・∀・)「トソンの真面目さなら、あと十分は延ばせたろうになー」
(゚、゚トソン「アニジャさんが、教えてくれたのです」
( ・∀・)「……ふん。『不運』だ」
(゚、゚トソン「どっちが。おかげで、掃除の仕事量が増えたのよ」
/ ,' 3「……許嫁、かの?」
(゚、゚トソン「誰が」
その、あまりに目まぐるしく変動する戦況にやっと思考が追いついたアラマキが、皮肉るように言った。
『拒絶』のひとり、トソンは応える。
/ ,' 3「ヒョヒョヒョ……なんでもないわい」
(゚、゚トソン「ったく。ホンキ出したら、満たされず虚無感が残る。拒絶心が強まる。そんな悪循環に陥ると云うのに」
( ・∀・)「手加減してたらそれ以上の蟠り、憎悪が募るだけだ」
(゚、゚トソン「それを打ち破ってこその〝生きる目的〟でしょうに」
( ・∀・)「トソンはそーゆー奴だったな。悪かった、悪かった」
(゚、゚トソン「……『嘘』、ね」
( ・∀・)「ばれたか」
.
- 618 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 18:16:38 ID:aEObt95w0
-
(゚、゚トソン「――とりあえず」
一旦会話を切り上げ、トソンは二人の方を向こうとした。
モララー共々引き上げる旨を告げようとしたのだろう。
しかし、彼女の網膜に映ったのは、無垢な笑みを浮かべた少女だった。
(*゚ー゚)「はーい!」
(゚、゚トソン「ッ!」
モララーやトソンと同じく音を立てずして現れた少女に、トソンは虚を衝かれた心地になった。
それはアラマキ、ハインリッヒも一緒だった。
面食らったような顔をしている。
トソンは反射的に《拒絶能力》を発動しようとした。
しかし、彼女、シィに対応するには既に遅かった。
. ラスト・ガーデン
(*゚ー゚)「【 最期の楽園 】ッ!」
(゚、゚;トソン「――ッ!」
シィは、アラマキとハインリッヒを連れ、その場から消えてしまった。
迎撃しようとしたトソンはしかし、《拒絶能力》の発動を遅らせてしまった。
意識下で発動する能力の欠点は、ここにあった。
使用者に『異常』が発生すると、能力を思うように使えなくなるのだ。
平生のトソンなら、一瞬にしてシィもろとも相手を〝粉砕〟することができるだろう。
.
- 619 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 18:17:25 ID:aEObt95w0
-
(゚、゚トソン「……なんだったの、今のは……」
( ・∀・)「クソッタレ。逃げられたか」
(゚、゚トソン「!」
モララーの言葉に、トソンは反応した。
(゚、゚トソン「……まさか、あなた」
( ・∀・)「当然よ」
( ・∀・)「『嘘』を吐いて、アラマキだけでも殺すつもりだったんだがなー」
(゚、゚トソン「……!」
モララーが平生見せるような笑みを浮かべる。
全く悪びれていない――むしろ、そうして当然、と言いたげな表情だ。
『嘘』の方面に関してはどこまでも黒い思考を見せた時だった。
( ・∀・)「よほど勘のいい奴が、アラマキたちを逃がそうと今のガキを動かしたんだろうよ」
( ・∀・)「―――白衣のアイツとか、がな」
.
- 620 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 18:18:16 ID:aEObt95w0
-
◆
そこは、「色」として表現しがたい空間だった。
青空のもとならば「青」、暗闇のなかならば「黒」と表現できる筈の「色」が〝表現できない〟。
まさに形容しがたい、不可思議な空間だった。
目を瞑ったときの、黒とも何色とも言えない時のそれに通じるものがあった。
空気の流れも感じられないし、空がどこまで続くか――そもそも空と呼べるものがあるのか――すらわからない。
根本的に、ここを現世と呼べるのかと云う時点で疑問符を打たなければならないような空間であった。
足場があるのか、おぼろげにしかわからない。
が、重力はありそうだ。
「そうだ」と云うのは、実際にはあるのかどうか、凡そ見当がつかないからだ。
耳鳴りすら聞こえない静寂。
そんななか、シィ、ハインリッヒ、アラマキ。
ほか、ジョルジュ、内藤。
計五人が、その不可思議な空間に横たわっていた。
が、気を失っていたり、眠っているわけではない。
案の定、シィの《特殊能力》の弊害、もとい副作用だった。
まだ現状を把握しきれていないハインリッヒが、最初に身体を起こした。
続けて、アラマキ、ジョルジュが頭をさすりながら起きた。
シィと内藤が起きあがるのには、少々時間がかかった。
.
- 621 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 18:19:22 ID:aEObt95w0
-
皆が皆立ち上がった時、やはり、静寂によって彼らは包まれていた。
布擦れの音、息づかいくらいしか聞こえなかった。
そして、最初にその静寂を破ったのは、ジョルジュだった。
_
( ゚∀゚)「……よりにもよって、ここか」
(*゚ー゚)「ご、ごめん……」
頭を下げるシィ。
続けて、ハインリッヒが
从 ゚∀从「ここは、どこなんだ」
ごく自然に浮かぶであろう質問を、放った。
だが、ジョルジュはそれらしき名称を挙げなかった。
_
( ゚∀゚)「名前なんてねえ場所だよ」
/ ,' 3「……もしかして、全員モララーにやられて、ここはあの世、とかの」
从;゚∀从「………え、縁起のわりぃこと、言うなよ……」
/ ,' 3「のぅ、ブーン君?」
アラマキが、五人の中で最後に起きあがった内藤に声をかける。
意外にも一般人の彼が一番静かだったため、不思議に思ったのだ。
.
- 622 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 18:20:05 ID:aEObt95w0
-
しかし。
内藤は、アラマキの持つ違和感以上のそれを感じていた。
アラマキに声をかけられても、一度では、反応できなかったのだ。
( ;゚ω゚)
/ ,' 3「……ブーン君?」
再度、呼びかける。
しかし反応はない。
( ;゚ω゚)
/ ,' 3「どうした、頭でも打ったか」
( ;゚ω゚)
( ;゚ω゚)「………」
/ ,' 3「…?」
さすがに違和感を覚えたアラマキ。
内藤の肩に手をかけようとした。
その時、内藤が漸く反応を見せた。
.
- 623 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 18:20:52 ID:aEObt95w0
-
( ;゚ω゚)「……頭」
/ ,' 3「は?」
( ;゚ω゚)「頭が……痛い」
/ ,' 3「やっぱり」
(;*゚ー゚)「ごめんなさ――」
シィが自責の念に駆られ、頭を下げようとした時。
「違う」と云う、内藤の声がそれをとどめさせた。
続けて
( ;゚ω゚)「―――ぱ、パンドラ!」
_
( ゚∀゚)「……?」
( ;゚ω゚)「こ、ここは、どこなんだお?」
( ;゚ω゚)「頭が……割れそうになるんだお…ッ!」
そう言って、内藤は自分の頭を抱えるように両手で押さえて、異様なほどに震えだした。
声もひどく掠れていて、顔色が一気に悪くなっていく。
これはただ事ではない。内藤を除く四人が、そう感じた。
_
( ゚∀゚)「……少なくとも、この世じゃねーな」
/ ,' 3「!」
从;゚∀从「えええええッ!? わ、私たちは死んだのか!?」
_
( ゚∀゚)「ちげーよ。〝別次元〟なだけだ」
从;゚∀从「別……」
.
- 624 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 18:21:56 ID:aEObt95w0
-
_
( ゚∀゚)「ブーン、とか言ったか? その頭痛……具体的には、どう――?」
まるで医者のように問われ、
内藤は同じ姿勢のまま答えた。
( ;゚ω゚)「な、…なんか、頭蓋骨ごと握りつぶされそうで、神経が引っ張られて…る、感じがして、あと……」
( ;゚ω゚)「〝躯が捻れそう〟な感じが……するお…ッ」
_
( ゚∀゚)「……!」
言われて、ジョルジュは一瞬反応を見せた。
まるでこの症状に心当たりがありそうな、そんな反応を。
しかしその表情はすぐにゆるんだ。
ポケットに手を突っ込んでは、ちいさく言った。
_
( ゚∀゚)「………打撲による、一時的な症状だろう。我慢してくれ」
( ;゚ω゚)「そ……そうかお」
_
( ゚∀゚)「……それよりも、だ。本題に入ろうじゃねーか」
/ ,' 3「そういえば、途中じゃったの。……能力が、どうこうっちゅー」
从 ゚∀从「てめーに訊きたいことは山ほどあるが――」
_
( ゚∀゚)「そりゃーそうだろうが、まず俺の能力について言っておこう。俺だって、用があんだから」
/ ,' 3「……」
_
( ゚∀゚)「俺の〝今の〟能力は―――」
.
- 625 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 18:23:14 ID:aEObt95w0
-
パンドラズ ・ ワールド
「【 未 知 な る 絶 対 領 域 】」
キリヒラ
「世界を『 開 闢 』く者の名だ」
.
- 626 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 18:26:15 ID:aEObt95w0
- >>584-625 第二十四話「vs【常識破り】Ⅴ」でした
ちなみに書きためは三十話まで進みました
いま気づいたんだけど
第一部でしぃの【最期の楽園】が【最期の庭園】って表記されてましたが、
特に深い意味はありません。ただの誤植で、ただしくは【最期の楽園】です。
- 627 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 18:47:55 ID:eHTN/JZk0
- 乙
今一番期待してるスレだわ
- 628 :同志名無しさん:2013/02/01(金) 19:42:05 ID:/SXlIPd60
- 乙!( ・∀・)倒せねーだろwwww
- 629 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:23:03 ID:mkhCogkg0
-
「――な――なんだと!?」
「どーして……は、『箱』は、どうしたんだ!」
「―――そうか、やっぱりおめえだったか」
「………!!」
「お前……まさか………」
「本当はよお。おめえなんざ、今すぐにでも殺してやりてえんだぜ」
「だがな、いーいモンを見つけた」
「そいつらを貰う代わりに、いま、ここでおめえを殺すのは、やめてやらあ」
「どうだ? 悪かねえジョーケン、だろ?」
「……、……フ。さすが……わがままさだけは、世界一なヤツだ」
「ほめんな、ほめんな。じゃあ―――」
「はじめるか。『拒絶』を拒絶する戦い、を」
.
- 630 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:23:43 ID:mkhCogkg0
-
○登場人物と能力の説明
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
(゚、゚トソン 【???】
→時や力を『操作』した『拒絶』の少女。
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
_
( ゚∀゚) 【未知なる絶対領域《パンドラズ・ワールド》】
→存在してはならない『領域』を創りだす《特殊能力》。
( ´_ゝ`) 【771《アンラッキー》】
→『不運』を引き起こすが、『能力者』でも『拒絶』でもない男。
(*゚ー゚) 【最期の楽園《ラスト・ガーデン》】
→『楽園』を『保守』し、そちらにワープする《特殊能力》。
.
- 631 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:24:23 ID:mkhCogkg0
-
○前回までのアクション
_
( ゚∀゚)
从 ゚∀从
/ ,' 3
(*゚ー゚)
→謎の空間
( ^ω^)
→謎の空間で『異常』
( ・∀・)
(゚、゚トソン
( <●><●>)
→ゼウスの屋敷前
( ´ー`)
( ´_ゝ`)
→バーボンハウス
.
- 632 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:25:09 ID:mkhCogkg0
-
第二十五話「vs【常識破り】Ⅵ」
場に残された者は三人だが、漂う雰囲気や気配、
感じ取れる息遣いや布擦れの音から察することのできる人数は二人だけだった。
モララーとトソンは、突如として彼らを出迎えた静寂に、半ば虚を衝かれていた。
ぼうっとして、思考を練るチカラが弱まった、そう形容できそうな心地だった。
風が何度か吹く。
『拒絶』がこうして暴れるようになってからというもの、
このように強めの風が吹くことが多くなった。
世界の基軸があったとして、それを陽炎を見せつけるほどの
拒絶心を持った『拒絶』たちが歪めようとしているのだろうか。
厳密に言えば、「ようとしている」わけではなかった。
酒臭い初老の男が若い女性に近寄ると、その女性の顔が歪むように
〝そこに『拒絶』が存在しているから〟世界の基軸たるものがぶれるようになった――そう捉えるべきなのだ。
それの最たる例が、今もこの地上のどこかにいる。
モララーでさえ顔を歪めるほどの『拒絶』だ。
〝近づくだけで『命運』が『絶望的』になる〟
まさに〝『拒絶』が世界の基軸を揺さぶる〟一番の例と言えるだろう。
風は吹き荒び、太陽をぶ厚い雲が覆ったかと思えば途端に悪天候に導かれる。
そう考えれば、彼ら一介の『拒絶』の放つ揺さぶりは、まだ優しい方なのかもしれない。
少なくとも、立っているだけで世界を破滅に導く――なんてほどではないだろう。
飛んできた木の葉が頬を掠めていった時、トソンははッとした。
時折、今のように、ネーヨが見せるような長考をすることがある。
『拒絶』の終着点が彼だとするなら、自分も着々と『拒絶』の完成形になりつつある、と云うことになるのであろうか――
トソンはふとそう思った。
.
- 633 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:26:00 ID:mkhCogkg0
-
(゚、゚トソン「ええと、その」
( ・∀・)「……」
トソンが、どう「この事」を切り出そうかと思い、言葉を濁していたとき。
モララーは、黙って「それ」に歩み寄った。
目の前で〝人が固まっている〟。
〝見えない壁〟のようなものがあるようで、モララーはそれに手を置いた。
手を置いている感覚はしないものの、重力に従って手が垂れることなく、
何かに支えられているため、〝見えない壁〟は確かにそこにあるのだろう。
トソンもそうわかると、彼に歩み寄った。
自分も壁をノックでもするかのようにして軽く叩く。
〝音はしない〟しかし〝確かに壁がある〟。
実に不可思議な壁だ。構成要素はこの世の物質ではないだろう。
自然のうちに、トソンはそう分析していた。
――一方のモララーは、この壁に覚えがあった。
( ・∀・)「……トソン」
(゚、゚トソン「はい」
トソンの返事の声色が自分の予期していたものと違っていたため、モララーは目を少し大きく開いた。
壁をノックし、続けてクチも開いた。
( ・∀・)「なんだおまえ、この〝見えない壁〟に見覚えはないのか?」
(゚、゚トソン「見えないのにどう見覚えをつくれ、と」
( ・∀・)「………あ、そうか」
モララーはその言葉の綾がわかり、咳払いをする。
見開いていた目を元に戻し、きまりが悪そうに頭を掻いた。
( ・∀・)「とりあえず……だ」
.
- 634 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:26:36 ID:mkhCogkg0
-
( ・∀・)「おまえ、この〝箱〟に閉じこめられたこと、ないのか?」
( ・∀・)「それも、あの白衣の奴に、だ」
(゚、゚トソン「………?」
モララーが、さぞ経験があることが当たり前であるかのような言い方をして訊いた。
しかしそれに反し、トソンは首を傾げるだけだった。
モララーは「あれ?」と思った。
妙に話が噛み合わないな、と思い、モララーは更に一歩掘り進んだ質問をする。
このときの表情は、奇妙なものを目の当たりにした時のそれに似ていた。
( ・∀・)「あれ、おまえ『拒絶』だよな?」
(゚、゚トソン「何をいまさら」
( ・∀・)「いやいや……えっとだな、その」
話が噛み合わないことをぎこちなく思い、蟠りを振り払うようにかぶりを振った。
そして、大きく息を吸った。
このままでは本題に触れる前にいたちごっこが続くだけだ。
モララーはそう思い、ついに核心に迫った。
( ・∀・)「えっと、だな」
( ・∀・)「―――この〝箱〟に閉じこめられねえと、『拒絶』になれねえんじゃねーの?」
( 、 トソン「ッ!?」
.
- 635 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:27:12 ID:mkhCogkg0
-
――「『拒絶』になる」。
それを聞いて、トソンはやや過剰に反応した。
なぜそうなったのか、モララーはわからなかった。
やはり、どこか話が噛み合ってないな。
モララーはそう感じ、話を続けた。
( ・∀・)「……俺も、ショボンも、ワタナベも、あと……アイツも。
この〝箱〟に閉じこめられたから、『拒絶の精神』が育てられて今みたいになってんだぜ」
( ・∀・)「例外は、ネーヨの旦那だけだ」
( 、 トソン「………」
( ・∀・)「……」
モララーがそう続けていくと、それにあわせてトソンの生気がみるみる減っていることに気がついた。
どこか、今の言葉でさえ拒絶している――そんな風にさえ見てとることができた。
モララーは、一応『拒絶』の一員として、ほかの『拒絶』と顔を合わせることはある。
アラマキたちに戦闘を申し込むより前から、彼らは『拒絶』として行動はしていた。
その当時から、モララーはある違和感を抱いていた。
〝トソンを『拒絶』として認知できない〟のだ。
しかし、トソンは『拒絶のオーラ』の塊であるネーヨと同じ空気を吸っても何の反応も見せず
聞いているだけで腹の底から戻してしまいそうになるショボンの声を聞いても平気でいられるのだ。
また、ネーヨ本人が彼女を『拒絶』と認めているため、モララーはあまりその違和感を表に出そうとはしてこなかった。
が、その違和感が、今になって地表に露骨に芽吹いてきた。
( ・∀・)「……もう一度、訊く」
( ・∀・)「――おまえ、『拒絶』か?」
.
- 636 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:28:08 ID:mkhCogkg0
-
( 、 トソン
( ・∀・)「なあ」
( 、 トソン
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン「……」
( ・∀・)「……」
モララーが、トソンの心の底でも覗き込もうとするかのように、彼女を見つめる。
純粋に、答えを――
『真実』を、知りたがっている様子だ。
スキル、【常識破り】を使えば、それはわかるかもしれない。
しかし、よしんばそうしたところで、モララーは納得しないだろう。
トソン本人のクチから、聞きたいのだ。
『真実』を拒絶し、『嘘』の殻に籠もったモララーだからこそ
そうすることに、強迫観念に近い使命を感じていた。
(゚、゚トソン「……モララー」
( ・∀・)「なんでい」
(゚、゚トソン「少し、昔話をしてもいいですか」
( ・∀・)「昔話ぃ?」
意外そうな顔をする。
どうして、『拒絶』か否かを答えるために、昔話が顔を出す必要があるのだ。
そう言いたかったが、モララーはクチにはしなかった。
ここにきて、トソンが話を逸らそうとはしないだろう、そう信じていたからだ。
.
- 637 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:28:47 ID:mkhCogkg0
-
(゚、゚トソン「えっと、」
( ・∀・)「あ、長くなる?」
(゚、゚トソン「へ? ……ま、まあ」
( ・∀・)「悪い。じゃあ――」
( ・∀・)「それは、コイツたちとの戦いが終わってからに聞くよ」
(゚、゚トソン「!」
( ・∀・)「『パンドラの箱なんて、ない』」
モララーは、一旦話を切り上げた。
そのときの彼が、平生のいい加減なモララーではなく、真剣味を帯びた、真面目な
――トソンが今まで見たことのない――モララーであるように思え、トソンは少し動揺した。
なぜ動揺したのかわからない。しかし今のモララーに、トソンは強烈な違和感を感じ取ってしまったのだ。
すると、モララーは〝箱〟に手をかざし、唐突にそう『嘘』を吐いた。
直後、はたから見れば空中に浮いているかのように〝箱〟に閉じこめられていた――
( <●><●>)「ッ」
( ・∀・)「よぉ〜〜〜う、『魔王』。お目覚めか?」
( <●><●>)「……!」
――ゼウスが、無防備にも地に落ちた。
(゚、゚トソン「…!」
(゚、゚トソン「パンドラの……箱……」
.
- 638 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:29:24 ID:mkhCogkg0
-
地にうつ伏せになるように横たわったゼウスは、瞬時に後方に跳びはねては体勢を取り戻した。
モララーに警戒心を抱いてこその、戦闘準備だった。
しかし、モララーはというと、ただやれやれと首を振るだけだった。
すぐに殺されると思ったゼウスは、その戦闘意欲の感じられない彼の様子を見て、半ば訝しく思った。
だが、モララーはあくまで『拒絶』だ。
【常識破り】を有している点からもわかるように、ワタナベ同様不意打ちの頻度は高い。
ワタナベの場合は物理的な不意打ちだが、彼は不意に即死級の『大嘘』を並べるのだ。
そう考えると、いくらモララーが戦闘態勢に入っていないからといって、構えを解くわけにはいかなかった。
しかし。
それでも、モララーに不意打ちを試みようとする様子は見受けられなかった。
ゼウスは少し不思議に思った。
ゼウスの胸中をあらかた見通していたのか、モララーは「信用ねーなァ」とごちてから、両手を脇腹につけた。
そして、少し俯く。
( ・∀・)「俺の標的は、アラマキ――そう、『武神』。『武神』だけだ。
徒におまえを殺めたりはしねーよ」
( <●><●>)「……」
( -∀-)「………信用ねーなァ……」
(゚、゚トソン「……」
( ・∀・)「……ん?」
自嘲するように笑みを浮かべていると、モララーはある事で
トソンに違和感を持ち、「あれ」と思いつつ咄嗟にトソンの方を見た。
そのときの彼の顔が意外に満ちていたので、トソンははッとした。
(゚、゚トソン「ど、どうした?」
( ・∀・)「いやあ……」
――やはり、今のトソンは、変だ。
そう思いつつ、頭を掻いてはクチを開いた。
.
- 639 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:30:06 ID:mkhCogkg0
-
( ・∀・)「いつもなら『そりゃ、普段から嘘ばっか吐いてますからね』とか言いそうなんだけどなーって思ってよ」
(゚、゚トソン「そ、そう?」
( ・∀・)「なんか考え事?」
(゚、゚トソン「なんでも、ない」
( ・∀・)「ほーん」
( ・∀・)「――と、こーんな無防備な姿を見せても、まだ『魔王』は信じねーか」
( <●><●>)「……」
( ・∀・)「……」
あたかも、今の振る舞いが予め定められていたものであったかのように、モララーはそう言った。
トソンは疑問符を浮かべたが、何もクチにしない。
閉口したままなのは、ゼウスも一緒だった。
実際、今のモララーに殺意などなかった。
ただでさえネーヨの命令で、明日攻撃を開始すると定められているのに、
それを無視して自分勝手に行動し、更に獲物を皆殺しに――なんて事態を引き起こしてしまえば、
今度は自分が何をされるのか、考えるだけで堪ったものではないのだから。
また同時に。
モララーが自分で言ったように、今はアラマキしか視界に入っていなかったのだ。
( <●><●>)
( <●><●>)「………」
ゼウスもそれを理解したのか、その場に漂う『魔王』たるオーラが少し薄くなったように思えた。
そして、構えは引き続き保ったまま、漸くクチを開いた。
( <●><●>)「……わけあり、のようだな」
( ・∀・)「べッつにー?」
ゼウスが反応を見せてくれたことを半ば嬉しく思ったのか、モララーは語尾を吊り上げて言った。
両手を後頭部で組み、小石を蹴る仕草を交えて。
ゼウスを歯牙にかけるまでもない――そう言いたげな様子だった。
.
- 640 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:30:45 ID:mkhCogkg0
-
( <●><●>)「……」
( ・∀・)「それよりも、だ」
( ・∀・)「知りたくないのか? 今、おまえを閉じこめていた〝箱〟のことを」
( <●><●>)「……!」
ゼウスは目を若干見開いた。
「知っているのか」、そう言いたげな表情を浮かべ。
ゼウスとジョルジュは、二人の――否、ジョルジュの発言を聞けば自ずとわかるように、旧知の仲だ。
ゼウスがそれを認めないため詳細は未だ明かされていないが、少なくとも
ジョルジュが『能力者』であること、またその《特殊能力》の全貌についてはゼウスは把握済みであろう。
その筈なのに、彼がジョルジュの《特殊能力》を知りたがっているのを内藤が見たら、不思議がっていたことだろう。
だが、それも言わば必然だったのだ。
( <●><●>)「私でさえ知らなかったあの能力を、どうして貴様が知っている?」
( ・∀・)「当然じゃねーか。
あの〝箱〟に閉じこめられたんだからよ、俺も」
( ・∀・)「―――ざっと、一年以上は」
.
- 641 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:31:21 ID:mkhCogkg0
-
◆
从;゚∀从「なにィ!?」
_
( ゚∀゚)「声がでけェよ、『英雄』」
ゼウスを取り残して――彼は〝箱〟に閉じこめられていたため、
彼も連れることは物理的に不可能だったのだろうが――ジョルジュ含む彼らは、異次元にやってきた。
そしてジョルジュは、自己の能力を明かすと同時に、〝ある事〟を明かした。
すると、ハインリッヒがあまりの驚愕に耐えきれず、大声をあげてしまったのだった。
その甲高い、『英雄』らしからぬ声を聞いて、ジョルジュはもちろん後ろにいた内藤も顰めっ面を浮かべた。
それでもまだハインリッヒは信じられなかったので、恐る恐る、クチを開く。
从;゚∀从「………聞き違いかもしんねーから、もう一度聞くが…」
_
( ゚∀゚)「何度でも言ってやるよ」
信憑性がないんだなあ――そう肩を落とすも、挑戦は呑むし、要望は引き受ける。
ジョルジュは、息を大きく吸った。
_
( ゚∀゚)「モララーたちを『拒絶』にしたのは、この俺だ」
_
( ゚∀゚)「能力で創った『パンドラの箱』に閉じこめて、な」
.
- 642 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:31:51 ID:mkhCogkg0
-
/ ,' 3「……っ」
从;゚∀从「………!」
二度目の告白だったため、初見よりは彼らに訪れた衝撃は幾分か薄れていた。
しかしそれでも、衝撃を完全に受け入れることはできなかった。
『拒絶』を『拒絶』にした――つまり、今自分たちの命をも
脅かす存在を仕立て上げた――張本人、言い換えたところの「元凶」、「黒幕」。
それが、目の前にいるマッド・サイエンティスト――ジョルジュ=パンドラである、と云う事実を。
それでもやはり、ハインリッヒにとっては衝撃が些か重い。
ゼウスもアラマキもだが、ハインリッヒ自身も、『拒絶』にこっぴどくやられてきているのだ。
【ご都合主義】には「死以上の苦痛」を与えられ
【手のひら還し】には『英雄』の資格を剥奪され
【常識破り】には形式上ではあるが、一度殺され。
そんな『拒絶』の親が目の前にいる男だ――
そうわかると、ハインリッヒは驚愕が一転、代わりに憤怒が途端に沸き上がってきた。
奥歯を噛みしめては摺り合わせ、強く握った拳を震わせる。
眉間に入ったひびが、より深く彫られるようになってきた。
そして
从#゚∀从「―――てッ…めェェェエエ!!」
.
- 643 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:32:37 ID:mkhCogkg0
-
やり場の見つかった、積もりに積もった怒りの矛先が、ジョルジュに向けられた。
数メートルと云う距離を、飛び出したハインリッヒが一気に詰める。
この短気な様が彼女らしいといえば彼女らしいのだが、今は抑えてほしかった――そう、その場にいた他の皆が思った。
が、それも杞憂に過ぎなかった。
そもそも、ゼウスの不意打ちを涼しい顔で止められるジョルジュが、ハインリッヒの不意打ち程度に反応できないわけがないのだ。
ゼウスを閉じこめたような『パンドラの箱』ではなく、『領域』でハインリッヒの繰り出されかけた蹴りを押さえる。
その『領域』の向こうで、ジョルジュは不敵に笑んでいた。
_
( ゚∀゚)「……まだ、話は終わってねえぜ。『英雄』さんよ」
从#゚∀从「イヤミったらしく呼びやがってよ……クソが!」
/ ,' 3「まあ抑えるんじゃ、ハインリッヒ。今はこやつの話が優先じゃ」
从 ゚∀从「…………チッ」
事ある毎に神経を逆撫でしてくるジョルジュに苛立ちを覚えるが、アラマキに宥められ、彼女は抑えた。
確かに、『拒絶』に万策封じられし今、ジョルジュが唯一の命綱のようにも思えたからだ。
自分に向けられたハインリッヒの脚が地についたのを見て、ジョルジュは『領域』を解除する。
そして、笑みを浮かべるのをやめた。
_
( ゚∀゚)「怒りたい気持ちはわかるぜ」
从 ゚∀从「無理に迎合しようなどとは――」
_
( ゚∀゚)「迎合じゃねえ。本心だ」
从 ゚∀从「ハン! どーだか」
_
( ゚∀゚)「本心じゃなかったら……そうだな」
_
( ゚∀゚)「今頃、『拒絶化計画』の妨げとなるお前たちを一斉に
『パンドラの箱』に閉じこめて、ここに置き去りにしたりしてるぜ?」
从 ゚∀从「……!」
.
- 644 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:33:20 ID:mkhCogkg0
-
ハインリッヒの目が見開かれる。
また、内藤の言葉を思い出す。
彼の生み出すそれは、物理法則、因果律、概念の三つから矛盾し独立させた存在なのだ。
『優先』の効かないそれに閉じこめられては――永久に、脱出不可能。
つまり、情勢はジョルジュの圧倒的有利となっているのだ。
そう考えれば、今の言葉には説得力があった。
_
( ゚∀゚)「俺がお前たちに接触する理由もふまえて、そこらの話をしておきてえんだが――」
静まったハインリッヒを見てジョルジュがそう言うと、一旦そこで言葉を濁らせ、視線を逸らした。
その新たに目を向けた先には、相変わらず体調不良を訴える内藤がいた。
痛みに慣れてきたのか、先ほどよりは大分取り乱さないようになっていたが、
流れ出る汗、震わせる腕や躯が、まだ彼の身に起こっている『異常』を訴えていた。
_
( ;゚∀゚)「……その、あんた」
( ; ω )
(;^ω^)「……おっ。僕かお」
_
( ;゚∀゚)「そう、僕だ。その……話を続けて、大丈夫か?」
苦笑いを浮かべ平生を取り繕おうとする内藤に、ジョルジュが訊いた。
はたから見れば、今の内藤は明らかな『異常』に見舞われていたのだから。
問われ、内藤は少し黙ったあと、頭を押さえていた手を離して、答えた。
.
- 645 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:33:51 ID:mkhCogkg0
-
(;^ω^)「で、できれば、ココにはいたくない…お。そもそも、どーしてココに来る必要があったんだお」
_
( ゚∀゚)「モララーから逃れるために、シィに咄嗟に動いてもらった――つまり、ただの偶然さ。わりィな」
(;*゚ー゚)「パンドラ……。場所、戻そうかしら?」
自責の念に駆られるのか、シィが恐る恐る言った。
ジョルジュは少し考えて、しかし首を横に振った。
内藤の顔が少し歪んだように見えた。
_
( ゚∀゚)「研究所――と言いたいが、あそこはだめだ。
で、他に安全が保証される場所がないから、ココで続きを話させてくれ」
(;^ω^)「………ご勝手に、だお」
自棄になったのか、嫌みったらしくそう返して、内藤は座った。
座ったと言うより、膝の力がすぅっと抜けたかのような感じだった。
手短に話を済ませる必要がある――ジョルジュは、苦笑いをしながら思った。
_
( ゚∀゚)「……えー、オホン」
_
( ゚∀゚)「時間がない。順を追って話したいところだが、余計なことは省く。いいな?」
ハインリッヒが肯く。
アラマキは右腕を腰に当て、眉の下から覗かせた眼でジョルジュを見つめるだけだった。
.
- 646 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:34:24 ID:mkhCogkg0
-
_
( ゚∀゚)「まず、ある理由の上で、俺は『拒絶化計画』を遂行した」
_
( ゚∀゚)「ショボンやモララーみたいに、一般人の頃から既に強い『拒絶の精神』を持っていた奴を捜しては、
そいつを『パンドラの箱』に閉じこめる――それだけで、計画の半分は終わっていた」
从 ゚∀从「閉じこめて……どうすんだよ」
ハインリッヒの力のない声を聞いて、
ジョルジュは相対的に元気のある声でそれに返した。
_
( ゚∀゚)「いいことを訊いてくれたぜ。詳しい原理は省くが――」
_
( ゚∀゚)「『箱』に閉じこめて……『拒絶の精神』を、熟成させんだ」
从 ゚∀从「熟……成…?」
_
( ゚∀゚)「ただでさえ強い拒絶心を、増幅させんだよ。助長すんだ」
_
( ゚∀゚)「そうすることで、『拒絶の精神』は極限にまで高まり、《拒絶能力》が生まれる」
从 ゚∀从「!」
/ ,' 3「!」
《拒絶能力》に、二人が反応した。
ジョルジュは気に留めず続ける。
_
( ゚∀゚)「だが、これで熟成は終わりじゃねえ」
从 ゚∀从「え?」
.
- 647 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:35:21 ID:mkhCogkg0
-
_
( ゚∀゚)「所詮、《拒絶能力》なんてただの面白手品に過ぎねえってことさ」
从;゚∀从「――――は!?」
ハインリッヒが、身を乗り出す。
アニジャと一緒だなあ――と呆れて、ジョルジュは目を閉じた。
やはり、説明が必要か。そう思い、開くのが億劫なクチを開いた。
_
( ‐∀‐)「『拒絶』の、一番の醍醐味。一番のミソ。それは――」
_
( ゚∀゚)「『拒絶のオーラ』だ」
从;゚∀从「な、なんで――」
/ ,' 3「……! 確かに!」
从 ゚∀从「! ジジィ、わかんのかよ」
ジョルジュは「おっ」と思わずクチにし、アラマキを興味深そうな眼で見る。
その眼差しが、彼の実験の手にかかる被験者を見るときのそれに似ていた。
/ ,' 3「なんとなくでしかわからんがの……」
/ ,' 3「おぬし、ワタナベと対峙していて、〝なにを感じた〟」
从 ゚∀从「何って……そりゃ、」
( ; ω )「…………〝拒絶〟…。」
.
- 648 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:36:01 ID:mkhCogkg0
-
从 ゚∀从「っ」
後ろの方にいた内藤が、ちいさく、ちぎれそうなか細い声で、言った。
思わぬ発言に少し驚いたハインリッヒが、振り返る。
内藤が、そんな彼女の横を通り、ジョルジュに近づいていった。
( ; ω )「近づくだけで、相手を、卒倒させかねない『拒絶のオーラ』は……
. 何をせずとも、『能力者』の九割以上を倒せる、この上ない利得的な武器……と、なるお」
_
( ゚∀゚)「……!」
( ; ω )「『拒絶』化する前から、既にある程度の『拒絶のオーラ』を持つ、奴らの拒絶心を強めれば……
. その『拒絶のオーラ』の、強さと、有効範囲が…ぐッと、広くなる」
( ; ω )「そうして育てた『拒絶』は、手にした《拒絶能力》との併用も相俟って、強い――
. いや、強すぎる程の駒、となる」
(;^ω^)「―――そんなとこ、じゃないかお?」
_
( ゚∀゚)「(………コイツ…っ)」
/ ,' 3「(儂の言いたかったこと、ぜーんぶ言いよってからに)」
たどたどしい語調で、内藤はそう言った。
アラマキがふてくされる一方で、ジョルジュは面食らったような顔をしていた。
予想以上の、模範解答以上の正答をずばり言われ、半ば動揺してしまったのだ。
.
- 649 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:37:03 ID:mkhCogkg0
-
――何者だ、コイツ。当てるのは能力だけではないのか?
訝しげに思い、ジョルジュは、あれこれと推察してみた。
しかし、今においてそんなことはどうでもいいことをすぐに思い出した。
むしろ、説明の手間が省けた――そう捉えれば、儲けものだ。
そう割り切って、ジョルジュは鼻息を鳴らした。
_
( ゚∀゚)「その通りだ」
从 ‐∀从「ほう……」
从 ゚∀从「………え? おい、ちょっと待てよ」
_
( ゚∀゚)「なんだ」
当初は、その説明でとりあえずジョルジュのそれまでの事情だけは
納得できた気がしたハインリッヒだったが、そこで途端に猛烈な違和感に見舞われた。
思わず、それが声色に反映されるも、声を発する。
一方のジョルジュの声は、平生通りだった。
从 ゚∀从「今の話を聞くと――」
从 ゚∀从「……まるで、今の『拒絶』はどれも失敗作だ――そう、言いたそうじゃねーか」
戸惑いを隠しきれていない声で、ハインリッヒが言った。
それに対して見えた反応は、右の口角が吊り上がったことだけだった。
ハインリッヒは急に冷や汗を浮かべた。
背中を、冷たいものが走っていくような心地に見舞われた。
現時点で三人の『拒絶』と対峙したが――
今の段階で、既に感じる『拒絶のオーラ』は凄まじいものであったのだ。
吐き気を催すし、目眩がしそうで、脳の前頭葉から脳天までの箇所がかき混ぜられるような錯覚に陥ってしまう。
まして、有する《拒絶能力》はどれもとんでもないものばかりだ。
自分も当然ながら、アラマキや、宿命の敵、ゼウスまで、『拒絶』にはてんで歯がたたないでいたではないか、と。
それなのに――
.
- 650 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:42:20 ID:mkhCogkg0
-
『拒絶』は、〝アレ〟で大きなハンディを背負っている、と云うことになるのだ。
(´・ω・`)『「現実」が望んでいるのは「拒絶」を甘受することだ!』
『現実』を自由自在に操る【ご都合主義】。
. クルワセ
从'ー'从『てめえらが知ってる「因果」を、全部「異常」てやる』
なにもかもを『反転』させる【手のひら還し】。
( ・∀・)『俺は、今の段階で一億八千二百三十六万五千八百七十二個の「嘘」を吐いている』
最悪な『嘘』を『真実』にしてしまう【常識破り】。
――〝コレ〟で、ハンディが。
.
- 651 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:43:11 ID:mkhCogkg0
-
从; ∀从「う、嘘………だろ?」
その場に『拒絶』はいないし、『拒絶のオーラ』も感じないのに、
ハインリッヒは『拒絶』のシャワーを浴びたかのように急に不快感に浸食された。
拒絶が、胸に巣くう。
脳内をミキサーでかき乱される。
途端に、心の奥底に押し隠していた恐怖が、浮かび上がってきた。
それを追い払おうと頭を振るうが、一度へばりついた汚れはなかなかにとれなかった。
徐々に、その恐怖は震えとなって、物理的に彼女の躯を揺さぶるようになる。
仕舞には歯をがちがちと言わせ、涙すら流すまでに至った。
从; ∀从「……ど、…。どうして……ンな計画…立てちまったんだよ………ッ」
_
( ゚∀゚)「……説明する時間と義理が、ない」
从; ∀从「は、ハハ……やっぱテメェは敵だ…」
_
( ゚∀゚)「結構、結構。続きを言うぞ」
从;゚∀从「………まだ、あるの?」
すっかり弱気になったハインリッヒが訊いたが、今度は逆にジョルジュが訊き返してきた。
揺らいでいる心に負担を与えるのは得策ではないのだが、それをジョルジュが考慮することはなかった。
_
( ゚∀゚)「逆に訊くが、どうして……」
_ クルワセ
( ゚∀゚)「どうして俺のこの計画が『異常』られたのか、わからねーのか?」
.
- 652 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:43:45 ID:mkhCogkg0
-
从;゚∀从「……え…?」
_
( ゚∀゚)「『英雄』の特権、『優先』ですら防ぐ俺の『パンドラの箱』だぜ?
すんなり事が進めば、誰もその『箱』を開けれねえ――」
_
( ゚∀゚)「つまり、〝本当なら成功するしか道のない〟計画だったんだ、元はと言えば」
/ ,' 3「じゃが、妨げられた」
ジョルジュが肯く。
ハインリッヒは引き続きジョルジュを懐疑の眼で見つめるだけだ。
_
( ゚∀゚)「……四人。俺は、『箱』に閉じこめた。初見でな」
_
( ゚∀゚)「次に見たとき、アイツら、どうしてたと思う?」
/ ,' 3「『箱』を開けられるのは、本来で言えばおぬしだけ、なんじゃろう。
. しかし、どーも話を聞く以上は――」
_
( ゚∀゚)「察しがいいな。アニジャ以上だ」
/ ,' 3「アニジャ……? あやつと、如何なる関係な――」
_
( ゚∀゚)「今はどーでもいい。それはそうと、お察しの通りだ」
_
( ゚∀゚)「………〝開けられた〟んだよ。
決して開かれる筈のない、『パンドラの箱』が……」
从;゚∀从「私でさえ開けれない『箱』を……誰なんだよ!」
/ ,' 3「考えが及びもつかんわい」
.
- 653 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:44:22 ID:mkhCogkg0
-
「―――ネーヨ=プロメテウス」
从 ゚∀从「っ!」
/ ,' 3「……ネー…ヨ?」
やはり、突如として放たれた言葉に、二人は反応した。
言葉の内容ではない、言葉が放たれたことそのものに、だ。
ジョルジュは、目を細める。
そして、傍らにいる男――内藤を、睨む。
内藤は、額を脂汗で湿らせているも、その表情だけは、至って真剣そのもののものであった。
張り付いた笑顔のような顔の裏に、鬼気迫る、形容のしがたい「真剣さ」が見えた。
(;^ω^)「ヤツは……持ち前の、スキルを使って…、各地に置かれた、四つの『パンドラの箱』を……開けた」
(;^ω^)「………違うかお?」
_
( ゚∀゚)「……! なぜ、そこまで知ってやがる」
さすがにそこまで当てられるとは予想すらしていなかったようで、ジョルジュは動揺を隠すことができなかった。
動揺が転じて、内藤に対して威圧的なオーラを放ちもした。
しかし内藤は、開き直った。
(;^ω^)「僕の前じゃ、なーんでもお見通し」
_
( ゚∀゚)「……こいつァ驚いた。研究のしがいがあるぜ」
(;^ω^)「断るお」
_
( ゚∀゚)「勝手に観察させてもらうことにしよう」
互いが互いに探りを入れあうかのように、言葉を牽制しあう。
そんななか、傍らにいたハインリッヒはその二人のやり取りに目もくれずいつもの調子で、内藤に訊く。
.
- 654 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:44:52 ID:mkhCogkg0
-
从 ゚∀从「そのネーヨとやらは……誰、なんだ?」
(;^ω^)「……おっ」
内藤は少し意外そうな顔をした。
しかしその顔も、すぐに戻る。
――そうか、まだ知らないのか。
そう自己完結した直後、原因不明の体調不良が悪化したのか、内藤はしゃがみ込んだ。
カバーし、寄り添うかのように、ハインリッヒが駆け寄る。
肩に手を添えると、どこか、内藤の体温が高いような気がした。
これはいよいよただ事ではなくなった――ハインリッヒは、危惧する。
从;゚∀从「おい…、大丈夫かよ」
( ; ω )「問、題ない……ッ…わけじゃ、な…いお」
_
( ゚∀゚)「……」
ジョルジュが腕を組み、黙って内藤の様子を立ったまま見守る。
アラマキも歩み寄っては、心配そうな顔をして彼を見つめた。
内藤は言葉を発そうとするが、頭痛と倦怠感が増したのか、頭を抱え、そのままクチを閉ざした。
これではだめだ――ジョルジュはそう思って、深刻な顔をして内藤の代わりにクチを開いた。
_
( ゚∀゚)「……いま」
从 ゚∀从「…っ」
_
( ゚∀゚)「いまお前たちは、『拒絶』たちと戦っているな?」
从 ゚∀从「なにを、今更訊きやがる」
_
( ゚∀゚)「だってのにプロメテウスのヤローは知らねえのか。おめでてーヤツらだ」
从 ゚∀从「……なに?」
.
- 655 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:45:26 ID:mkhCogkg0
-
じり、とハインリッヒが一歩前に踏み出す。
挑発に乗ろうと思ったのか、単純に話の続きが気になったのか。
しかし、次の一歩を踏み出しはしなかったので、ここで戦闘に発展する――と云うことはなさそうだった。
_
( ゚∀゚)「お見通し屋さんに話は聞いてねーのか」
ハインリッヒは少し悔しそうに、ゆっくりかぶりを振った。
呆れた顔をして、力なくジョルジュが笑う。
ハインリッヒは、それが一層悔しく思われた。
从 ゚∀从「話から察すると……四人目の『拒絶』か?」
_
( ゚∀゚)「四人目?」
/ ,' 3「今ンところ儂らが知る『拒絶』は、モララー、ショボン、ワタナベじゃ」
ジョルジュが「へえ」と声をあげる。
もうそこまで――と云ったニュアンスが含まれているようだ。
アラマキは顎をさすって、続けた。
/ ,' 3「が――そのネーヨとやらは、四人目やない思われるのぅ」
从 ゚∀从「なんでだ?」
/ ,' 3「話によると、『ネーヨが他の三人を助けた』んやのーて、
. 『ネーヨが閉じこめられた四人を助けた』んじゃないかの」
从 ゚∀从「……! で、でも、『ナントカの箱』に閉じこめねーと、『拒絶』にはならねーんじゃ――」
_
( ゚∀゚)「そうだ。頭が悪くても、理解できたようだな」
从#゚∀从「………いちいち、かんに障るヤローだぜ」
ジョルジュが、一際大きな声を発した。
純粋に彼女に感心したようだった。
というのも、彼女の触れたことが、「ネーヨ=プロメテウス」を知る上でもっとも重要となるトピックだからだ。
.
- 656 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:46:33 ID:mkhCogkg0
- _
( ゚∀゚)「結論から言うと、そこのジジィが正しい」
/ ,' 3「ほ」
_
( ゚∀゚)「で、『英雄』もな」
从 ゚∀从「………え?」
_
( ゚∀゚)「なんたって、プロメテウスは――」
_
( ゚∀゚)「唯一の、〝天然の『拒絶』〟なんだからな」
――ジョルジュが言葉を放ってから、ほんの少しだけ、静寂が生まれた。
それを埋めるように、ハインリッヒが「どういう意味だよ」とおきまりの言葉で返す。
しかし、アラマキはそうはしなかった。
いや、ジョルジュの今の言葉だけで意味を理解した、と言い換えてもいい。
_
( ゚∀゚)「つまり――」
/ ,' 3「! 待て、若僧」
_
( ゚∀゚)「なんだ」
/ ,' 3「大前提として、人を『拒絶』にするには
. そやつを『パンドラの箱』に閉じこめんと成り立たんわけじゃな?」
_
( ゚∀゚)「ああ」
/ ,' 3「が、それなしで『拒絶』になったー云うことは、そのネーヨっちゅー奴は……」
从 ゚∀从「…ッ! 〝それほど『拒絶の精神』がでかすぎた〟……!?」
_
( ゚∀゚)「ピンポーン。大正解だ」
ジョルジュが拍手を送る。
嫌みったらしく、彼らしいといえば彼らしい拍手だった。
相手を見下しているような態度が、見てとれる。
ジョルジュはその見下す態度のまま、しかし大変なことを言ってみせた。
_
( ゚∀゚)「つまり、ただの『拒絶』でさえお前たちを瞬殺できるってのに、
言ったらそいつらの上位互換なんだよ、ネーヨって男は」
.
- 657 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:47:04 ID:mkhCogkg0
-
从;゚∀从「――――はァ!?」
――そして、ハインリッヒは見て判るほどに動揺した。
目は見開き、躯を咄嗟に退いて。
アラマキも、オーバーな変化は見せなかったが、それでも動揺していることには違いなかった。
予想通りの反応に、ジョルジュが不本意にも口角をあげる。
その姿が不気味で、ハインリッヒは必要以上の恐怖をジョルジュから植え付けられることになった。
_
( ゚∀゚)「さすがにスキルの名前まではわからねーが、スキルの全貌――
いや、片鱗に過ぎないかも知れねえが、とにかく内容は解析済みだぜ」
_
( ゚∀゚)「………聞きたい、か?」
从;゚∀从「 ……あ、…ああ」
長い沈黙の後、ハインリッヒは、実にゆっくりではあるが、肯いた。
その姿が滑稽で、ジョルジュは少し笑った。
が、彼女の気持ちも、わからなくはなかった。
_
( ゚∀゚)「一言で言おう」
_
( ゚∀゚)「なにも効かない」
.
- 658 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:47:41 ID:mkhCogkg0
-
◆
( <●><●>)「……いちね」
(゚、゚;トソン「一年…以上ですって!?」
( <●><●>)「……。」
モララーの告白を聞いて、ゼウス以上にトソンが驚愕を躯と声で表した。
『拒絶』の事情を『拒絶』が聞いて驚く、とは面白い光景であったが、モララーは別段それで笑おうとはしなかった。
それどころか
( ・∀・)「おっ、イイ反応見せんじゃねーか」
そんな過去をなんとも思っていないように、振る舞っていた。
まるで、そんな過去などはじめからなかったものであったかのように。
その様子が不気味に見えた。
『拒絶』のトソンでさえ、不気味だと思ったようだ。
ゼウスはそれを不審に思ったが、深くは考えなかった。
(゚、゚;トソン「な、なぜ閉じこめられ……いや、どうやって出てき…え、えっと……」
( ・∀・)「おいおい、俺の耳は二個しかねーよ。クチなんか、一個だけだ」
(゚、゚;トソン「……失礼」
トソンが、珍しくも取り乱している。
ゼウスがそれを「珍しい」と感じることはないだろうが、モララーにとっては意外だった。
平生ではお茶目な一面を持つも、比較的クールに振る舞っている彼女なのに、と。
やはり、その点を衝こうとは思わなかったようだが。
.
- 659 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:48:14 ID:mkhCogkg0
-
( ・∀・)「んなこたーどうでもいいんだ」
( ・∀・)「問題はおまえだよ、ゼウス」
( <●><●>)「……」
狂気をものにしている二つの瞳が、ゼウスを捉える。
ゼウスは、迂闊にクチを開けはしなかった。
いや、できなかった。
すると、その瞳に呑み込まれてしまいそうだったからだ。
そのため、ゼウスは黙る。
そのまま十秒ほど、時は進んだ。
モララーは、彼の沈黙を否定と捉えた。
( ・∀・)「……訊きたくは、ねえってか」
( <●><●>)「嘘吐きに求める情報など、ないのでな」
( ・∀・)「そりゃ、そっか。じゃー俺が代わりに質問するぜ」
( <●><●>)「……」
頭を掻いて、モララーが言う。
この間も、ゼウスは気を抜けなかった。
それも、当然だろう。
彼は【常識破り】なのだから。
いつ隙を衝いて襲いかかってくるのか、予測できたものではない。
( ・∀・)「おまえと、あの白衣のヤロー」
( ・∀・)「いったい、どういう関係だ?」
そのとき、モララーの顔は、見た目ではいつも通りだったが、
その裏に、確かに般若の見せるそれのような表情が表れたことを、ゼウスは感じ取れた。
存在が言わば虚構で、〝この世でもっとも脆い男〟とされるモララーだが、
このときだけは確かに、モララーに〝中身〟を感じることができたのだ。
.
- 660 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:48:47 ID:mkhCogkg0
-
そのため、ゼウスは一瞬詰まった。
だが攻撃してくるわけではなさそうだったため、落ち着いて平生に戻る。
( <●><●>)「それを聞いて、どうする」
オレラ
( ・∀・)「『拒絶』には合理的な理由なんていらねーんだよ。答えてくれ」
( <●><●>)「こちらにも事情があるのでな。無条け――」
――刹那、モララーは右の拳をフックで繰り出し、ゼウスのこめかみの手前数センチまで近づけた。
それも、ゼウスでさえ反応が遅れた――それは不意打ちだったから、でもあるが――ほどの速度で、だ。
ゼウスはその不意打ちと、反応できなかった自分との両方に、驚いた。
殺気と拒絶とが、顔のすぐ左隣に、在る。
そのプレッシャーは、ゼウスが動じるほどではないにしろ、大きいことに違いはなかった。
( ・∀・)「あーそうかい、言ってやるよ、理由をよ」
陽気だったモララーが、露骨に顔を歪めて、言う。
声も、腹の底から煮えくりかえされたもののように聞こえた。
ゼウスは、なぜ彼が途端に怒りを露わにしたのか、わからなかった。
( ・∀・)「俺、おまえのことはどーでもいいんだけどよ、
あのヤローだけは許せねーんだわ。それが理由だ」
( <●><●>)「……なに?」
「それが理由」と言われたが、さすがの彼でもそれだけで
「理由」の全貌を理解できなかったようで、詮索を入れる。
モララーは歯を噛みしめ、すりあわした後、嫌な顔をして答えた。
( ∀ )「俺を、あんな、理不尽な箱に、ずっと閉じこめやがった、アイツを、
とことん、トコトンいたぶって殺してえんだよ、こっちはよ!!」
( <●><●>)「…!」
.
- 661 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:49:18 ID:mkhCogkg0
-
それを聞いて、ゼウスはピンときた。
いくら冷静で合理的な判断を下せるモララーでも、『拒絶』なのだ。
狂気に満ち、狂気に動かされ、狂気に呑まれた
拒絶に満ち、拒絶に動かされ、拒絶に呑まれた
ショボンやワタナベと同じ、『拒絶』なのだ、と。
殺人衝動や嗜虐の趣向を持ち合わせ、残忍なことに趣を感じる、彼らと。
ゼウスは一時、モララーはジョルジュに閉じ込められたことを大して気に留めてなかったのか、と思っていた。
だがそれが『嘘』で、本当は当時の自分を思い出したくもないがためにそう振る舞っただけだったのであろう。
本当は、心の奥底に、そのことを憎み拒み恐れる自分がいた。
その自分を解放しようと、元凶のジョルジュに仕返しを目論む。
しかし当時のことは思い出したくない。
その結果が、今の一連のモララーの動きだったのか。
ゼウスは自然のうちに、そう解釈した。
( ・∀・)「ヤツも『能力者』だから、俺がヤツを殺すことには誰も異議を挟まない。
だけどな、ただ殺すだけじゃトーゼン物足りんわけよ。
あらゆる『嘘』を使って――ヤツが面白半分で俺に与えたこの《拒絶能力》を使って、
俺が味わった苦痛を、拒絶を、トコトン味わってもらわねー限りは、な」
( ・∀・)「だが、それにゃー時間がかかる。その間に邪魔でもされっと、全てがパアだ。
だから今は迂闊に手を出せねえ。
その代わり、ヤツの情報を、集めておきてえ。それだけだ」
( <●><●>)「………」
ゼウスは、黙考した。
モララーの放った言葉を紡ぎあわせて、
『パンドラの箱』に閉じ込められたから『拒絶』になったこと。
また、副産物的に《拒絶能力》を得たこと。
その二つの事実を、導き出した。
そして、そのことがわかって、
ゼウスは溜息をあくまで胸中で吐いた。
実際にすればモララーの神経を逆撫ですることになる。
現状では自分が圧倒的に不利であるため、そのような愚行はしでかさなかったが。
.
- 662 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:49:52 ID:mkhCogkg0
-
( <●><●>)「……」
( <●><●>)「(面倒なことをしてくれたものだ………パンドラ……)」
ゼウスが若干目を細めたのを見たのか、
モララーは突きつけた拳を、ゆっくり下ろした。
彼も、数度の会話と観察から、彼の感情を読みとるには
彼の表情の僅かな変化から見出すしかないことを、理解していたのだろう。
そしてそんなゼウスが目を細めたことから、モララーは、
同情かなにか、マイナスな感情を受け取ったことを察した。
( ・∀・)「――そういうこった。さて、質問に戻るぜ」
( <●><●>)「……ならば、いいだろう」
( ・∀・)「引き替えに、今はおまえを殺さないことを約束するぜ」
( <●><●>)「……フッ。約束、か。笑わせる」
( ・∀・)「………」
モララーははじめから「今は」ゼウスを殺さないつもりでいたが、
話をスムーズに進めるために、そんなことを言った。
ゼウスが皮肉るようにそう言うが、ゼウスもゼウスでそうなのであろうことは察していた。
一方、モララーはモララーで、ゼウスがすんなり快諾してくれたことを、半ば訝しく思っていた。
言動や動向を見る限りで言えば、ゼウスは他の二人より圧倒的に聡明で、冷静な男だ。
そんな彼が、いくらこの情勢を前にしていたとしても、こう快諾してくれたことが少し不思議だったのだ。
だが、それは言わば当然だった。
ゼウスも、過去に似たような経験があったのだから。
このとき、ワタナベを救護室に運んだときのような回顧する気持ちが、戻っていた。
.
- 663 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:50:23 ID:mkhCogkg0
-
( <●><●>)「貴様に手を貸すつもりはないが、これだけは言っておこう」
( <●><●>)「貴様の恨む科学者、ジョルジュ=パンドラは、」
( <●><●>)「私の、敵だ」
.
- 664 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 17:57:36 ID:mkhCogkg0
- ここ数日の目次
>>534-581 第二十三話「vs【常識破り】Ⅳ」
>>584-625 第二十四話「vs【常識破り】Ⅴ」
>>629-663 第二十五話「vs【常識破り】Ⅵ」
どうでもいいですが、これ投下する前に昼寝したんですよ
そのときに、この作品がものごっそい叩かれる(理由→面白くないから)夢を見てしまいました。不吉すぎる
- 665 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 22:46:57 ID:wm0D5aQ60
- おつおつ
いつも読んでます
- 666 :同志名無しさん:2013/02/02(土) 23:40:34 ID:/VdgJnD20
- 面白いですよ
おつ
- 667 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 16:52:23 ID:w2Vd1AHQ0
-
「彼女は」
「彼女ォ?」
「ヘーラーのことだ」
「ああ、アイツ?
. ……ばらした、よ」
「……ばら、した…?」
「まんまの意味よ。
. それよりも、だ」
「話を逸らすな。ヘーラーは――」
「――俺ら、もうおしまいだぜ。
. 俺もプロメテウスも。
. で、お前もだ、………ゼウス」
「……なに………?」
.
- 668 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 16:53:08 ID:w2Vd1AHQ0
-
○登場人物と能力の説明
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
(゚、゚トソン 【???】
→時や力を『操作』した『拒絶』の少女。
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
_
( ゚∀゚) 【未知なる絶対領域《パンドラズ・ワールド》】
→存在してはならない『領域』を創りだす《特殊能力》。
( ´_ゝ`) 【771《アンラッキー》】
→『不運』を引き起こすが、『能力者』でも『拒絶』でもない男。
(*゚ー゚) 【最期の楽園《ラスト・ガーデン》】
→『楽園』を『保守』し、そちらにワープする《特殊能力》。
.
- 669 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 16:53:41 ID:w2Vd1AHQ0
-
○前回までのアクション
_
( ゚∀゚)
从 ゚∀从
/ ,' 3
(*゚ー゚)
→謎の空間
( ^ω^)
→謎の空間で『異常』
( ・∀・)
(゚、゚トソン
( <●><●>)
→対峙
( ´ー`)
( ´_ゝ`)
→バーボンハウス
.
- 670 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 16:54:24 ID:w2Vd1AHQ0
-
第二十六話「vs【常識破り】Ⅶ」
脅威となる対象のその度合いがあまりにも大きすぎて、抱くべき畏怖を逆に抱かなくなることがある。
度合いが大きすぎて、対象の存在そのものに現実味が薄れ、いまいち実感を掴めなくなるためである。
そして、今のハインリッヒがそうだった。
今回の場合、説明不足、もそれに含まれるのであろうが――
端的に、且つ簡潔に説明するとなれば、この一言以上に適したものは、ない。
そのため、どの道、一度聞いただけでは誰も到底理解できそうになかった。
从;゚∀从「は―――」
从 ゚∀从「………ハ?」
_
( ゚∀゚)「……意味がイマイチ、伝わってねえみてーだな」
それはジョルジュも理解していたようで、そう付け加えた。
わかってんのかよ――と、ハインリッヒは憮然とした表情を浮かべた。
从 ゚∀从「一言に『なにも効かない』って言われてもだな、」
_
( ゚∀゚)「この世には『百聞は一見に如かず』っつー便利な言葉がある」
从;゚∀从「ハァ?」
.
- 671 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 16:54:54 ID:w2Vd1AHQ0
-
_
( ゚∀゚)「この話――前座は、仕舞いだ。本題に入るぜ」
从;゚∀从「お、おい。スッキリしねーだろが、ボケ!」
その「一見」がなければ対象の脅威を完全に知ることはできず、
またその脅威を完全に知らなければ対象のことを完全に知ることもできないと考えたため、
ジョルジュはそう早口で言ってはその話を切り上げた。
この話は、自身で言うように、前座に過ぎなかったのだ。
ハインリッヒが未練を感じ追究しようとするが、ジョルジュは彼女のクチに掌を突きつけた。
彼女は思わず、クチを噤んでしまった。
/ ,' 3「えらく、なが〜い前座じゃったの」
_
( ゚∀゚)「まあ、こんがらがった話なんだ。許してくれ」
/ ,' 3「ええからとっとと言わんか」
_
( ゚∀゚)「わぁーってら!」
アラマキが皮肉りつつそう促すと、面倒くさそうにジョルジュは返した。
耳を大げさに塞いで、大きめの声でアラマキを制するように。
_
( ゚∀゚)「言いたいことは、ただひとつだけだ」
/ ,' 3「……」
从 ゚∀从「…チッ。言ってみろ」
ハインリッヒに促されるまでもなく、ジョルジュはクチを開いた。
一旦目を瞑り、深く息を吸ってからの言葉だった。
.
- 672 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 16:55:35 ID:w2Vd1AHQ0
-
_
( ゚∀゚)「俺の計画を―――」
_ アンチ
( ‐∀‐)「『拒絶』どもを……根絶やしにして…くれ」
从;゚∀从「ッ!」
/ ,' 3「……なに?」
――そう言って、ジョルジュ=パンドラは、頭を下げた。
唐突な懇願に、ハインリッヒもアラマキも、驚いた。
彼女は素直にそれを顔に表し、アラマキは逆にその言葉の真意を推し量ろうともした。
が、ジョルジュの今の言葉に裏はない――
そう見えたため、却って驚いたわけであった。
.
- 673 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 16:56:13 ID:w2Vd1AHQ0
-
从;゚∀从「……話を、整えるぜ」
_
( ゚∀゚)「……ああ」
从 ゚∀从「そのー、なんだ」
从 ゚∀从「『拒絶』を生み出したのは……てめえ、なんだよな」
_
( ゚∀゚)「ああ」
从 ゚∀从「で、その『拒絶』を今度は潰したがっている、と」
_
( ゚∀゚)「それだけの話だ」
从 ゚∀从「………あの、な」
_
( ゚∀゚)「なんだ」
たった二言で済んだ彼の用件を聞いて、だ。
ハインリッヒが最初に抱いた感情は――
从#゚∀从「―――ッッザけんじゃねーぞ、てめえッ!!」
_
( ゚∀゚)「…っ」
紛れもない、怒り、だった。
即座に、ジョルジュの胸ぐらを掴みにかかった。
それをはねのけなかった以上、ジョルジュはそれを甘んじて受け止めようとしているのだろう。
そうだとしても、彼女の怒りは収まろうとしなかった。
むしろ、その涼しい顔を見て、なお怒りが沸き上がった。
.
- 674 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 16:56:51 ID:w2Vd1AHQ0
-
从#゚∀从「どんな理由かは知らねーけどよォ!」
从#゚∀从「『拒絶』っつーなとんでもねぇバケモノを好きにつくっといてェ!」
从#゚∀从「それの後始末は人任せだァ!?」
从#゚∀从「ブッ殺すぞ、オラァ!!」
_
( ゚∀゚)「……」
ハインリッヒが怒りのあまり、そう恫喝する。
少し気を抜けば、すぐにその場で戦闘が勃発しかねない、そんな雰囲気だった。
すかさず、アラマキが止めに入る。
/ ,' 3「うるさいわ、小娘」
从#゚∀从「てめえも、なんとも思わねえのかよ!」
/ ,' 3「こやつの理不尽さは、わかっておる。
. 今が戦争どきと違うたら、はッ倒しておるわ」
从#゚∀从「……、」
ハインリッヒが、少し沸き上がる憤怒を抑える。
それを見て、アラマキは宥めるように続けた。
/ ,' 3「じゃが、言い換えたら、じゃ」
/ ,' 3「〝こやつは仲間になる〟……ちゅーことになるんじゃぞ?」
从 ゚∀从「…っ」
_
( ゚∀゚)「………」
そこでハインリッヒは目を見開いた。
.
- 675 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 16:57:44 ID:w2Vd1AHQ0
-
/ ,' 3「儂、おぬし、ゼウスの三人で言っておったではないか」
/ ,' 3「〝仲間はいないのか〟と」
从 ゚∀从「!」
――そのとき、ハインリッヒの網膜に映った情景は
つい少し前の、ゼウスの部屋で行ったやり取りだった。
裏社会を牛耳るボスの私室としては意外な、暖かみのある部屋。
自分はハンモックから降り、ゼウスに突っかかって。
そのときは、モララーと云う【常識破り】を打ち砕くための作戦を練っていた。
三人ではどうにもならない――が、このとき唯一共通して出された意見だったではないか、と。
それを思い出すと、ハインリッヒは、
自分の中の怒りがすぅーっと失せていくのを、実感した。
/ ,' 3「『パンドラの箱』が効かぬとは言え、あのゼウスの不意打ちをも止めてしまう男じゃ。
. 願ってもない勝機――と、思えんかの?」
从 ゚∀从「ッ! おい、てめえ!」
_
( ゚∀゚)「なんだ」
傍らのジョルジュに、殴りかかるように話しかける。
从 ゚∀从「てめえ、ナントカっつー組織で、暴れてたんだな?」
_
( ゚∀゚)「『開闢』だ」
从 ゚∀从「じゃあ、訊くぞ」
・ ・ ・ .・ .・
从 ゚∀从「てめえ、遣えるのか?」
.
- 676 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 16:58:31 ID:w2Vd1AHQ0
-
_
( ゚∀゚)「……、どういう意味だ」
从 ゚∀从「まんまよ。モララーは、私とこのクソジジィを同時に一人で相手取る程の男だ。
『パンドラの箱』が効かないってんなら、問題は腕――」
_
( ゚∀゚)「嘗めてんのか?」
从;゚∀从「ッ!?」
直後、ハインリッヒは目を疑った。
先ほどまで――いや、今の状況では「ハインリッヒがジョルジュの胸ぐらを掴んで」おり、
それは、ハインリッヒの優勢と見て取れるものだったのだ。
しかしそれが、ジョルジュの言葉が聞こえたかと思った直後〝その立場が逆転した〟。
「ジョルジュがハインリッヒの胸ぐらを掴んで」いる状況――と、変わってしまったのだ。
左手でハインリッヒの手を捻り、自分から離す。
同時に、右手でハインリッヒの胸ぐらを、掴む。
気を抜いていたとはいえ、『英雄』が反応できなかったほどには、ジョルジュのその動作は速いものだった。
そして、それの意味するところが、ハインリッヒの疑問に簡潔な答えを見せていた。
/ ,' 3「……速い」
_
( ゚∀゚)「お望みなら、ここに死体を一ヶ、置いてやるぜ。いますぐ、にな」
从;゚∀从「………ッ!」
ジョルジュの動作、言葉、態度。
その全てに、ハインリッヒは先ほどまでの印象が全て軽蔑にすぎなかったことを思い知らされた。
考えてみれば、それもそうだった。
昔の話だとはいえ、ハインリッヒの届かない実力を持つゼウスと行動を共にしていた男なのだ、ジョルジュ=パンドラとは。
そのハインリッヒに実力面に劣ってしまうようでは、とてもゼウスについていけるとは思えないだろう。
そう考えてみれば、今のジョルジュの行動は、むしろそうであって当然といえたものであった。
その動きが本物であることをアラマキが認めた上で、クチを開く。
.
- 677 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 16:59:05 ID:w2Vd1AHQ0
-
/ ,' 3「仲間たァー思いたくはないがの、『拒絶』らを葬る点だけ見たら利害関係は一致しとるわけじゃな?」
_
( ゚∀゚)「ああ」
アラマキが、溜息を吐く。
「どーして、毎度毎度こうなんじゃ」とぼやいてから、続けた。
/ ,' 3「よかろう。『拒絶』らをみーんな葬るまでの間だけ、同盟を組んでやってもいい」
_
( ゚∀゚)「……。」
从 ゚∀从「お、おい――」
/ ,' 3「じゃが」
_
( ゚∀゚)「!」
/ ,' 3「おぬしの生んだ『拒絶』が儂らに与えた拒絶……。この戦いが終われば………
. 味わってもらうぞ」
_
( ゚∀゚)「……」
そのときの、アラマキの声が
『拒絶』が怒りを見せたときのそれに似ていたように思えて、ジョルジュは少し息が詰まった。
自分のとった行動――『拒絶』化――に非を認めるつもりはさらさらないが、
アラマキのその声は、ジョルジュの心に深く、重くのしかかった。
これが『威圧』だった。
このときのジョルジュがそうわかることはなかったが、
少なくとも、ハインリッヒとアラマキとの間に大きな差が開いていることは理解した。
.
- 678 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 16:59:40 ID:w2Vd1AHQ0
-
(*゚ー゚)「……パンドラ」
_
( ゚∀゚)「ん……、ん?」
ジョルジュが固まっていると、シィが声をかけた。
彼女が声を発するとは思っていなかったようで、少し反応に遅れる。
シィは、内藤の隣でしゃがみこんでいた。
内藤の背中をさすっている。様態をみていたようだ。
このときジョルジュは、シィが自分とアニジャ以外の人に近づけていたことを、不思議に思った。
普段は、極端にいえば、それはあり得ないことなのに――と。
だが、この現状を前に、シィは良心を痛めたのだろう。
ジョルジュはそう割り切った。
(*゚ー゚)「この人……。だいぶ、弱ってる」
_
( ゚∀゚)「様態は」
――シィは、ジョルジュの助手だ。
まだ仕草が思春期半ば程度とはいえ、知識は豊富に得ている。
それも、ジョルジュの研究における狂気ぶりについていけるほどには。
だから、何かあったときは今回のようなやりとりをする。
医者のまねごとも、そのなかの一つだった。
「様態は」と訊かれ、普段ならシィはジョルジュの欲する答えを返す。
それを元に、『異常』の起こった相手に何かを施すのだ。
.
- 679 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 17:00:10 ID:w2Vd1AHQ0
-
だが。
(*゚ー゚)「不明」
_
( ;゚∀゚)「ッ!?」
ジョルジュは、このたびの『異常』が異常であることを確信した。
シィが、不明と即答したからだ。
普段なら、聞いているだけでアニジャが頭痛を起こしかねないほどには
多くの医学用語を用いてスムーズに話し、挙げていくのだが――
( ; ω )「………、……ッ」
从 ゚∀从「お、おい」
_
( ;゚∀゚)「……なんだ」
内藤の悪化した様態、シィとジョルジュのやりとり、ジョルジュの動揺。
それらを見て、いよいよ事の重大性に気がついたハインリッヒが、焦燥を顔に浮かべながらジョルジュに問いかけた。
从 ゚∀从「そいつ……何があったんだ?」
ハインリッヒが内藤に指をさした。
ジョルジュは、少し答えるのに戸惑った。
_
( ゚∀゚)「新種のウイルスにでもかかっちまったのかな」
从 ゚∀从「な、なに……!?」
_
( ゚∀゚)「バーカ、冗談だよ」
从#゚∀从「……っ!」
ハインリッヒが露骨に怒りを見せる。
だが、彼女が挑発や揶揄に弱いのは今にはじまった話ではない。
アラマキは、このときは動こうとはしなかった。
.
- 680 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 17:00:42 ID:w2Vd1AHQ0
-
_
( ゚∀゚)「……どうやら、〝この空間が原因らしい〟な」
/ ,' 3「ハ?」
_
( ゚∀゚)「こいつが『異常』を訴えだしたのは、ちょうどここにきたあたりからだ」
_
( ゚∀゚)「原因があるとしたら、ここだ。さすがに、これ以上ここにいるのはマズいか」
ジョルジュは――少し動じもしたが――冷静に現状を分析した上で、そう結論づけた。
心なしか、内藤が少し安堵の息を吐いたように見えた。
内藤自身、この『異常』に異常を感じていたのだから。
原理におよそ見当もつかないが、少なくともこの空間から抜け出せたら、元に戻れる。
そんな予感は無根拠ながらもするため、内藤としても早めの脱出を願っていた。
从 ゚∀从「戻る……って……」
/ ,' 3「……モララーとの戦闘は、これからのようじゃな。
明日、と聞いておったが、おそらく今日になるじゃろうて」
_
( ゚∀゚)「………」
アラマキの言葉に、ジョルジュは反応を見せない。
一方のハインリッヒは、モララーとの戦闘を予想して、震え上がった。
武者震いなのか、恐怖によるものなのかは、自身でもわからなかったが。
しかしその戦闘が現実味を帯びたところで、ハインリッヒはある一つの疑問を浮かべた。
いや、思い出した、のほうが正確である。
「おい」とジョルジュを呼んで、それを訊いた。
.
- 681 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 17:01:14 ID:w2Vd1AHQ0
-
从 ゚∀从「てめーも加勢すんのはいいんだけどよ」
_
( ゚∀゚)「なんだ。病人を待たせてまで訊くべきことか」
从#゚∀从「………チッ」
「原因はお前じゃないのか」「責任転嫁するな」と、ハインリッヒは思った。
だが、今更それに反応していられるほど余裕があるわけでもない。
歯痒い思いを感じながら、ハインリッヒは続きを言った。
从#゚∀从「……てめーの切り札の『箱』だがよォ」
_
( ゚∀゚)「文字通り『パンドラの箱』だ」
从#゚∀从「……その、あれだ」
从 ゚∀从「モララーには、効かねえんだろ?」
_
( ゚∀゚)「……。」
少し、黙る。
認めたくないがゆえの、沈黙だった。
だが、ハインリッヒと同じ理由で、その沈黙も早いうちに自ら打破した。
_
( ゚∀゚)「……ああ」
/ ,' 3「なぜじゃ」
_
( ゚∀゚)「『俺にパンドラの箱は効かない』っつー『嘘』ひとつで、『パンドラの箱』は通じなくなる。
いくら存在が矛盾した『パンドラの箱』であろうと、【常識破り】には効かないんだよ」
从 ゚∀从「だろ? そこで、だ」
从 ゚∀从「……どーやって、倒すつもりだよ、モララー」
.
- 682 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 17:02:01 ID:w2Vd1AHQ0
-
/ ,' 3「……失念しておったわ。情けない」
_
( ゚∀゚)「……」
アラマキが頭を掻く一方で、ジョルジュは再び黙った。
天才であるがゆえに、臨機応変には対応できないのだ。
全て、自分の筋書きの上で行動を選んでいるのだから。
シナリオ アドリブ
『常識』では『非常識』には勝てないのだ。
从;゚∀从「だってよ。たとえ首を飛ばしても、だ」
_
( ゚∀゚)「『俺はここにいる』っつー『嘘』を全て暴かねー限り、何度でも蘇るな」
从;゚∀从「……ッ!!」
/ ,' 3「思っておったんじゃが、どーしてその『嘘』があったら勝てんのじゃ?」
_
( ゚∀゚)「考えてみろよ」
_
( ゚∀゚)「一度首をぶっ飛ばしたとして、だ。
『俺はここにいる』ってのは『嘘』なんだから、つまり今首をぶっ飛ばしたモララーは、」
ニセモノ
从 ゚∀从「―――『虚構』」
/ ,' 3「……!」
_
( ゚∀゚)「(セリフとるなよ……)」
.
- 683 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 17:02:43 ID:w2Vd1AHQ0
-
ハインリッヒがちいさく放った言葉で、アラマキは二つのことがわかった。
モララーを殺せない理由とモララーの恐ろしさ、だ。
アラマキの顔が豹変ったところで、ハインリッヒは続けた。
从 ゚∀从「ゼウスがモララーの腹を突き破ったときも、さっきのてめーとモララーとの対峙のときも。
いくらアイツを痛めつけても、何度でも復活するじゃねーか。それが『嘘』だったみてーによ」
/ ,' 3「あれは……そんなからくりだったんかいの」
理解力の乏しいハインリッヒでも、実際にその身で『嘘』――『おまえは、もう死んでいる』と云う――を
味わっていたからだろうか、そのことに関しては既に理解が及んでいた。
今まで、モララーのそれを手品や記述と見なしていたアラマキが改めて、険しい顔をする。
ワタナベの――【手のひら還し】のときとは違って、今回は、自分では――【則を拒む者】では、抗えそうにない。
続けてそうわかり、アラマキは少し肩を落とした。
アラマキが対応できるのは、力関連のものだ。
物理法則や、力という概念。
【手のひら還し】の、特にカウンター技にはそれがあったから、自分は勝てたのだ。
だが、【常識破り】は力とは全く関係がない。
モララーに渾身の一撃を与えた上でそれを『解除』し『入力』しても、
そもそもそのモララーの存在が『虚構』なので、通用しない。
そして自分は、そのからくりに対抗する術を持っていないのだ。
――と、アラマキはある種の諦めを持った。
从 ゚∀从「私なら、イケたかもしれない」
_
( ゚∀゚)「?」
/ ,' 3「が、それができとったら苦労はせんわ」
从 ゚∀从「ゼウスも、やっぱり無理だ」
/ ,' 3「で、頼みの綱と思われた『パンドラの箱』も、ムダ」
_
( ゚∀゚)「俺の能力は、元々は戦闘用じゃねえ。期待すんなってこった」
.
- 684 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 17:03:14 ID:w2Vd1AHQ0
-
从 ゚∀从「――じゃあ、モララーを倒す術なんか、あんのかよ」
/ ,' 3「ないっつったら殴ったろか思うてたがの……
言われんでもハナからないってのはわか――」
_
( ゚∀゚)「ないわけじゃあ、ない」
/ ,' 3「――っておるゆえ、別に期待は……、……!?」
从;゚∀从「お、おいッ!! いま、なんつった!?」
_
( ゚∀゚)「なにって……」
モ ラ ラ ー
从;゚∀从「【常識破り】を………」
/;,' 3「倒すことが、できるともうすのか!?」
.
- 685 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 17:03:49 ID:w2Vd1AHQ0
-
◆
( ・∀・)「ヘぇ?」
( <●><●>)「……」
モララーが、不快なオーラを発しながら相槌を打った。
発しながら、とはいうが、意図して出しているものではない。
以前彼らが対峙したときにも見られたように、〝これで普通なのだ〟。
ゼウスは、いつもと変わらぬ表情を保っている。
が、心が何かに喰われつつある――そんな心地が、いまも彼を襲っているのだ。
ハインリッヒやアラマキなら、嫌な汗を流しているところだろう。
『拒絶のオーラ』とは、ジョルジュが言う分には未完成であるが、それでも常人にとってはとんでもないものなのだ。
状況を呑み込めていないトソンがそわそわするが、モララーは気にも留めない。
ただ、ゼウスの言うであろう情報に興味の対象が向かっているのだ。
( ・∀・)「ナントカって組織で、組んでたんじゃねーの?」
( <●><●>)「組んでいたから今も味方――それが通ると思えるか?」
( ・∀・)「あーはいはい。リクツ屋だねぇ、『魔王』のクセに」
小難しいことを言われそうになったので、モララーが耳を塞ぐ。
彼は、嘗てアラマキが指摘したように、頭はいいのだ。
だが彼にそれを嫌わせる理由は、彼が『拒絶』であるところに帰するのかもしれない。
理屈では明かせない理由がそこにあるのだろうが。
.
- 686 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 17:04:22 ID:w2Vd1AHQ0
-
( ・∀・)「で?」
( <●><●>)「何を訊きたいのだ。貴様の命日か?」
( ・∀・)「俺の命日はうんと前だ」
( <●><●>)「……?」
ゼウスは当惑した。
挑発のつもりで放った言葉に、興味深い返答がきたからだ。
( ・∀・)「俺が『拒絶』になった……いや、違う……、……えっとー」
適切な説明をしようと思うと、モララーはそう言葉を濁すようになった。
ゼウスが疑問符を浮かべるなか、モララーは言葉を選ぶ。
( ・∀・)「あ。そうだ、あれだ」
( <●><●>)「……?」
( ・∀・)「俺が、親友に裏切られた日」
( ・∀・)「あの日に、モララー=ラビッシュは死んだ」
.
- 687 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 17:05:21 ID:w2Vd1AHQ0
-
( <●><●>)「………ッ」
何気ない言葉から出てきたその言葉に、ゼウスは自分の予想以上に動揺した。
その理由は、考えずともわかっていた。
『拒絶』と戦うことが決まってすぐに交わした、内藤との会話の内容だ。
( <●><●>)『それは、過去の出来事が原因でそういった
精神の病を患った、ということで?』
( ^ω^)『そうだお』
( ^ω^)『モララーが最初に拒絶したものは、「真実」。
. それも、過去のトラウマが原因でだお』
( <●><●>)「(〝過去のトラウマ〟………ッ)」
( ・∀・)「どーした、急に深刻な顔して……、……いや、元々か」
「親友に裏切られた」。
それは、モララーに『真実』を拒絶させた元凶、
もっと言うなれば、〝トラウマ〟なのだろう。
『拒絶』は皆、言い換えれば、精神的に病んでいる。
ショボンも、ワタナベも、精神を壊したからあのような《拒絶能力》を得た。
そして――モララー、も。
ゼウスは、その〝モララーが死んだ日〟から、活路を見出せはしないかと考えた。
『拒絶』とはつまり、生理的な存在ではなく、心理的な存在である。
勝機が『絶望的』ななか、ないであろう勝ち筋を見出せるとするなら、それは心理的要因だ。
結論に至ったゼウスは、そのモララーの過去を探れやしないか。
そう考え、人間離れした脳でその方法を考えはじめた。
だが。
『拒絶』になるほど。
それまでの自分が死ぬほど。
その過去は、心を痛めつけたものなのである。
話を聞く限り、自分の境遇を憂えているモララーに、果たしてそれを聞き出すことができるのだろうか。
それが、ゼウスの最初に抱いた懸念だった。
.
- 688 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 17:05:55 ID:w2Vd1AHQ0
-
( ・∀・)「おーい、聞こえてるー?」
( <●><●>)「……モララー」
( ・∀・)「お、生きてた。あっぶねー、無意識のうちに殺してたのかと思ったぜ」
( <●><●>)「今の言葉は、どういう意味だ?」
( ・∀・)「? あ、そんな深い意味じゃねーよ。反応がなったのを死亡と見なし――」
(゚、゚トソン「いや、さすがにそれは」
( ・∀・)「うるせーやいバーカバーカ」
( <●><●>)「……」
過去のトラウマを思い出したわりには、ひょうきんすぎないか。
今の二人のやりとりを見て、ゼウスはそう思った。
自分なら、そんな『拒絶』になるほどのトラウマを思い出しただけで不機嫌になるのだが、とも。
少なくとも、今のモララーの声色に、それらしき感情は籠められていなかった。
アラマキほどではないが、今まで多くの人を見てきただけに、その聞き分けに関しては自信があった。
そう考えるならば、トラウマを聞き出すのは容易くないか。
ふとそう思いつくも、しかし、と自分を制するもう一人の自分がいた。
ゼウスにしては珍しく、二人の自分が胸中に立っていた。
が、止めようとする自分の気持ちも理解していた。
――モララーは、【常識破り】なのだ。
明日、と予告されたにも関わらず今やってくるほどには、『異常』な男である。
飄々と振る舞っておきながら、心の傷に触れられたときは即座に攻撃に移る――など、充分あり得る。
今のモララーは気分がいいのか、攻撃する様子は見受けられないが。
それでもやはり、情勢を見て言えば、ゼウスの劣勢は――そもそも揺るがないが――揺らいでいない。
.
- 689 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 17:06:49 ID:w2Vd1AHQ0
-
( ・∀・)「……で、なんだっけ」
( <●><●>)「……」
( ・∀・)「あ、あれ? どーせアレっしょ、『俺が死んだ、とはどういうことだ』とか」
( <●><●>)「わかっていたのか」
( ・∀・)「だてに俺もイケメンで秀才じゃねーしなー」
(゚、゚トソン「……」
トソンが、若干ではあるが顔を歪める。
モララーが自身を褒めたのを見て、不快感が襲ったのだろう。
どうやら、トソンは日頃からモララーの相手に手を焼いているようである。
( ・∀・)「まー、あれよ」
( ・∀・)「それまでの人格が、ぱたって、消えた」
( <●><●>)「………ッ」
( ・∀・)「ま、だから『拒絶』なんだし」
( ・∀・)「それに、元々格闘もヘタだったのに、気がつきゃあこれよ。
いやー、怖いね。怨みとか、そーゆーの」
( <●><●>)「……」
モララーが腕を真横に伸ばして、アピールする。
元々腕が悪かったのに今アラマキとハインリッヒを相手取ることが
できるというのは、それほど拒絶心が強かった、ということだろう。
ゼウスが唾を呑む。
やはり、ワタナベとは違う、「本物」だ。
自分で彼女たちを「自分より弱い」と言うだけある、と。
.
- 690 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 17:07:45 ID:w2Vd1AHQ0
-
( <●><●>)「何があったのだ」
( ・∀・)「へ」
モララーがおどける。
気にせず、ゼウスは続けた。
( <●><●>)「自分でも望まない『拒絶』になるとは、過去になにがあったのだ」
( ・∀・)「……」
――最終的に、ゼウスが選んだ方法は、「素直に訊く」だった。
気を損ねられようが、もとより賞賛のない対峙。
うまくいけばラッキー、程度に割り切ったが上での決断だった。
モララーが少し黙る。
ゼウスは「失敗だったか」と不安に思ったが、実際はそうでもなかった。
ゼウスがそう思った直後に、モララーが言葉を返したからだ。
( ・∀・)「おかしいなあ」
( <●><●>)「なんだ」
( ・∀・)「俺の質問タイムだったのに、気がつきゃおまえの質問タイムになってやがる」
( <●><●>)「それもそうだったな」
――失敗、か。
はじめからわかりきっていたことだ、そう自分を慰める。
不幸中の幸いと言えば、これでモララーが不機嫌になることはなかった、ということだ。
しかし。
続けて、そんなゼウスに希望の光を向けるような言葉が、放たれた。
.
- 691 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 17:08:17 ID:w2Vd1AHQ0
-
( ・∀・)「まあ、そーだな」
( <●><●>)「?」
( ・∀・)「あとで言ってやるよ。あとで、な」
( <●><●>)「ッ」
ゼウスが、虚を衝かれた。
それは本来ならばおかしいことなのだが、仕方がない。
モララーの心境に、なにか変化があったのか。
それとも、今までの考察は全部ゼウスの思いすぎで、
実際はモララーは言うほど過去に執着していないのか。
そこはわからなかったが、しかしわかる必要もない。
モララー相手に勝機を見出せるのなら、なんでもよかった。
( ・∀・)「話戻すけどよ」
ゼウスも思考を切り替える。
( ・∀・)「ジョルジュ?は、なんで―――」
( ・∀・)「俺らを『箱』に閉じこめて、『拒絶』なんかにしたんだ」
( <●><●>)「……(そこを訊くか)」
ゼウスはてっきり、ジョルジュの人となりや性格、有する《特殊能力》と、その弱点。
そういったものを訊いてくるのか、と思っていたのだが、的はずれだった。
ジョルジュが、『拒絶』を生み出した理由。
それは――
.
- 692 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 17:08:52 ID:w2Vd1AHQ0
-
( <●><●>)「わからないな」
( ・∀・)「なに?」
モララーが目を細める。
補足するように、ゼウスは続けた。
( <●><●>)「私と行動を共にしていたときは……」
( <●><●>)「『拒絶』を生み出す計画はおろか、先ほどの『箱』を生み出す能力すら持っていなかったのだ」
( <●><●>)「私に、わかるはずもない」
( ・∀・)「……」
モララーが、ゼウスの瞳を睨むように見つめる。
今の言葉が本当なのかどうか、を見ているのだろうか。
『俺は事実を見極めることができる』などと云った『嘘』でも吐けばいいのではないか。
ゼウスはふとそう思ったが、モララーがそうしない理由はつい先ほどわかった。
モララーは『真実』に関するトラウマを持っているのだ。
そのようなことをすれば、心の傷を更に抉りかねない、そう思っているのだろう、と。
そうだとしても、そちらの方がゼウスにとっては都合がよかったが。
.
- 693 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 17:09:30 ID:w2Vd1AHQ0
-
すると、モララーの顔が豹変った。
どこか陽気と思わせる表情だったのが一転、急に冷たい仮面をかぶったかのようなそれへと変貌を遂げたのだ。
( ・∀・)「あーそうかい。じゃあ役立たずか」
( <●><●>)「なに?」
( ・∀・)「ムカシからの仲みてーだったから期待したんだがな、やっぱその程度か」
( <●><●>)「……」
モララーの声が、徐々に重くなっていく。
――やはり、モララーも純粋な『拒絶』か。
そう思うと、自然とクチが閉ざされてしまった。
( ・∀・)「……」
( <●><●>)「……」
元々、雑談を交わすような仲ではない。
ここで戦うわけでもなく、他の何かをはじめるわけでもない。
そもそも、同じ場にいてはならない者同士なのだ。
モララーがその気ではないため、今はなにも起こらないが。
何も話すことがないなら、どうするか。
なに食わぬ顔して、帰ればいい。
明日の予定だの、世間話だのを話して相手の機嫌をうかがうことなどする必要がないのだから。
しかし、モララーも黙りこそしたものの、その場を動こうとはしなかった。
トソンも、モララーと距離をとって、同じように黙って立っている。
ゼウスは、二人が何をしたいのかがわからなかった。
.
- 694 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 17:10:02 ID:w2Vd1AHQ0
-
( <●><●>)「貴様は」
( ・∀・)「んん?」
( <●><●>)「まだ何か、用なのか」
( ・∀・)「あーん?」
( <●><●>)「パンドラについて話せることは、ほぼ、ない」
( <●><●>)「貴様の求めるようなことは、な」
( ・∀・)「……」
怒ったかと思えばおどけ、怒ったかと思えば黙る。
『拒絶』はこんな人たちの集まりなのかと、疑わざるを得ない。
しかし、それもほんの一瞬。
モララーは思っていたよりも存外早く、反応を見せた。
( ・∀・)「おまえにはねーよ」
( <●><●>)「……なら、誰に」
( ・∀・)「『武神』に決まってんじゃねーか、『武神』。アラマキ」
( <●><●>)「……」
『武神』と表現するのか――
ゼウスは少し、不思議な心地になった。
.
- 695 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 17:10:40 ID:w2Vd1AHQ0
-
( ・∀・)「帰る前にあいつは殺したいから」
( <●><●>)「ほう。宣戦布告を、早速破るのか」
( ・∀・)「それが俺だしぃ?」
( <●><●>)「『裏切り』を根に持つわりには、貴様自身は『裏切り』をものともしないのだな」
( ・∀・)「………、……ッ!」
( <●><●>)「……?」
ゼウスは、それをただの皮肉で言ったつもりだった。
今更なにを言っても仕方あるまい。
そう、半ば諦めていたからだ。
だが。
( ・∀・)「………。」
それがなぜか、モララーの心を揺さぶった。
惰性的に見ていただけでは気づけなかっただろうが、一瞬彼は、明らかに動揺したのだ。
今はもう、平生のモララーに戻っている。
だが、一瞬見せたあの動揺を、ゼウスは見逃さなかった。
また同時に、ゼウスは確信した。
〝モララーはまだ、過去のトラウマに囚われている〟。
.
- 696 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 17:11:19 ID:w2Vd1AHQ0
-
( ・∀・)「へん。俺にピッタリだろ」
( <●><●>)「…………そうだな」
( ・∀・)「んん? どったの、ゼウスちゃ〜ん?」
( <●><●>)「(思い違い……では、あるまい)」
ゼウスが深い呼吸をはじめる。
彼が集中力を――それも、考察における――高めるときに出てしまう癖だった。
正確には癖ではなく、それは故意でやっているのだが。
その呼吸の違いに、モララーは気づかなかった。
今の自分の動揺に気づかれていないと思っているようで、何もなかったかのように振る舞う。
( ・∀・)「ま、そーゆーわけだから」
( ・∀・)「アラマキの首をもらうまで、帰らねえぜ。俺は」
( <●><●>)「『俺は』、か。まるでそこの人は帰らせるような言いぐさだな」
(゚、゚トソン「!」
ゼウスに唐突に名指しされ、トソンは若干動揺した。
冷たい仮面は、どうやら徐々にゆるくなっているようだ。
( ・∀・)「トーゼン。どーせ、邪魔されるし」
(゚、゚トソン「わかってるなら、帰りますよ。ほら」
( ・∀・)「やだやだー!おうちいやなのー!」
(゚、゚トソン「演じるつもりなら地面に寝転がって暴れないと」
( ・∀・)「さすがにそこまでする勇気はねーわ」
.
- 697 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 17:11:49 ID:w2Vd1AHQ0
-
( <●><●>)「……」
ゼウスは、トソンを見た。
バーテンの恰好をしており、衛生に配慮するためか髪が後ろで縛られている。
この場に似合わない女だ――とまでは考えたが、その思考を直後に自分で打ち砕いた。
――彼女も、『拒絶』なのだ。
モララーと真顔のままクチを聞ける一般女性など、そうそういないだろう。
『レジスタンス』の頭領であり遣り手のハインリッヒでさえ、不快感を露骨に顔に表すほどなのだから。
だとすると、彼女が『拒絶』である線は濃厚だ、とゼウスは推理した。
そして、気を引き締めた。
モララーの持つ『拒絶』がなにかは、わかっている。
たとえそれが抗いようのないスキルだとしても、それを知らないことによる不安はない。
しかし、トソンのスキルに関しては、未知数そのものだ。
どのようなスキルか――そもそも、その片鱗すら、ゼウスは見ていない。
見ていれば、ワタナベの【手のひら還し】のときのように、推理することでおおよその見当はつく。
だが、それすらできないとなると、その不安はかなり大きかった。
視覚どころか気配さえ完全に殺される闇の中に、放り出されたような気分だった。
.
- 698 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 17:12:20 ID:w2Vd1AHQ0
-
ここで不意打ちをけしかけることはできる。
が、スキルがわからない。
触れるだけでその箇所に拒否反応が起こり、溶ける。
負荷を与えるとそれと同数の負荷が己に降りかかる。
そんなスキルが、『拒絶』の場合十二分にあり得るのだ。
無闇に突進することは、自然の禁じられていた。
せめて、なにを『拒絶』するのか。
それさえわかれば、とゼウスは思った。
だが、会話を注意深く観察しても、それを見いだすためのヒントすら、得られることはなかった。
詰まるところ、現時点では自分に為す術なし、だ。
引き返すこともできず、前に進むこともできない。
ただアラマキたちが帰ってくるのを、待つことしかできなかった。
そして、それがまずいことであるのを知りつつも。
( <●><●>)「……」
( <●><●>)「(なにをしているのだ、彼らは……)」
ゼウスは空を仰いだ。
.
- 699 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 17:14:04 ID:w2Vd1AHQ0
-
◆
_
( ゚∀゚)「かなり望みは薄いが――」
ジョルジュが、ハインリッヒとアラマキの動転を受け入れる。
ポケットに手をいれ、宙を仰いで。
やはり、不思議な色を持つ空間だ。
ジョルジュ自身でさえ、この大気の色を表現することができない。
できるとすれば、それは「混沌色」だった。
続けてクチを開こうとした。
内藤のこともあるため、いたずらに話を伸ばすわけにはいかないのだ。
しかし、その考えを砕くように、シィが声をあげた。
焦燥を音にしたような、速く高い声だった。
(;*゚ー゚)「パンドラ、様態が悪化! 話ならはやく!」
_
( ;゚∀゚)「……チッ。おい、手短に言うぞ!」
从;゚∀从「元の世界の、どこか安全な場所で続きは話せないのか」
原因不明の症状に、いよいよジョルジュも動揺を隠しきれなくなった。
乱暴な口調でそう言うと、ハインリッヒがもっともそうなことを訊いた。
アラマキも同感だったようで、肯く。
しかし
_
( ;゚∀゚)「んなことしてみろ。三秒後にはモララーに抹殺されるぞ」
从 ゚∀从「……!」
/ ,' 3「な、なんじゃと!」
重苦しい言葉を、放った。
二人もジョルジュと同じように焦燥を見せ始める。
忘れていた拒絶心が、蘇ってきたような感覚だった。
.
- 700 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 17:14:41 ID:w2Vd1AHQ0
-
_
( ゚∀゚)「おそらくヤツは、『どこにあいつらがいるのかがわかる』みてーな『嘘』を装備してやがる。
同様に、『俺は瞬間移動ができる』とも、な」
/;,' 3「……くそ!」
从;゚∀从「そういや、そういう奴だった……な」
(;*゚ー゚)「ねえ、まだなの? 過呼吸! 呼吸不全! ……なんか、おかしいことになってる!」
内藤の様態が、当初ここに来たときよりも数段悪化していた。
それを表現するかのようにシィがジョルジュを急き立てる。
実際、そんな周章に見合うほど、内藤の身は徐々に『異常』を引き起こしつつあったのだ。
ジョルジュが乱暴に頭を掻く。
これは――モララーの倒し方は、重要な問題だ。飛ばすわけにはいかない。
いや、モララーに限らず、全ての『拒絶』に通じる話なのだ。
これを伝えなければ、自分たちに勝機がない。
だからジョルジュは、取り乱そうとする自分を抑えることができないでいた。
_
( ;゚∀゚)「あークソ、黙って聞けよお前ら!」
横目で、内藤を見る。
彼は胸の部分を鷲掴みするように服を握り、震えながら地面に横たわっていた。
目は、食いしばっているかのように力強く閉じられている。
シィがそんな内藤を上から覆うように、必死で介抱していた。
原因はわからないが、とにかく時間がないことだけはわかっていた。
原因がわからないだけに、この『異常』が引き起こす事の末もわからないのだ。
――死、など。
.
- 701 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 17:15:19 ID:w2Vd1AHQ0
-
_
( ;゚∀゚)「『英雄』ッ! 『拒絶』を『拒絶』として成り立たせてるのは、なんだッ!」
从;゚∀从「……ハァ?」
手短に、と言いつつ放ってきた質問に、思わずハインリッヒが聞き返す。
だが、ジョルジュは端から回答に期待してなかった。
_
( ;゚∀゚)「正解は『拒絶の精神』だ。
これが『拒絶のオーラ』も、満たされたいっつー欲も、《拒絶能力》も、『拒絶』そのものも生み出している」
_
( ゚∀゚)「《拒絶能力》に勝ったところで、完全な勝ちじゃあない。
その根本、『拒絶の精神』を打ち破ってこその、〝『拒絶』を拒絶する〟なんだ。つまり――」
从 ゚∀从「……本人に、拒絶する気をなくさせる……?」
.
- 702 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 17:16:06 ID:w2Vd1AHQ0
-
/ ,' 3「ッ! そうか、それか!」
_
( ゚∀゚)「そうだ、それを念頭に置け! 奴らに『拒絶したくない』って思わせれば、俺らの勝ちなんだ!」
从;゚∀从「で、でもどうやっ―――」
_
( ;゚∀゚)「そいつを考えんのが俺らのシゴトじゃねーか! おい、シィ! もういいぞ!」
(*゚ー゚)「わかった!」
从;゚∀从「ま、待てッ! せめて―――」
これだけじゃあ、足りない――
そう思ったハインリッヒだったが
ラスト・ガーデン
(*゚ー゚)「【最期の楽園】ッ!」
それを解決する前に、決戦の火蓋は切って落とされた。
.
- 703 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 17:23:25 ID:w2Vd1AHQ0
- ここ数日の目次
>>534-581 第二十三話「vs【常識破り】Ⅳ」
>>584-625 第二十四話「vs【常識破り】Ⅴ」
>>629-663 第二十五話「vs【常識破り】Ⅵ」
>>667-702 第二十六話「vs【常識破り】Ⅶ」
連日投下は新規読者と乗り遅れた人とまとめ殺し。わかってるんですが……ごめんなさい
ちなみに、二十六話では>>682のルビが自分でお気に入りだったり
毎度お付き合いいただき、ありがとうございます!
- 704 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 20:40:12 ID:f9id2bcU0
- 乙
- 705 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 21:51:53 ID:nXK75yHA0
- 一気に読めて嬉しいぜ
乙
- 706 :同志名無しさん:2013/02/03(日) 22:50:54 ID:LkuWUCg60
- 最初からいる読者としてはむしろありがたいがね
乙
- 707 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 00:53:36 ID:EEoLPV.UO
- 2、3日見なかったら170レスも進んでた
ごめんちょっとづつ読ませてもらうわ
- 708 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 17:56:41 ID:mYJBHJT.0
- >>707
わりとガチでごめんなさい
そしてそれなのに投下をやめない私を許してください
- 709 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 17:57:55 ID:mYJBHJT.0
-
「……くそ……ッ!」
「あのやろう……よくも、俺を騙しやがって………!!」
「もう……なにもかもが、パアじゃねーか……」
「……は、ハハ……。」
「こいつが、仲間を裏切った、代償ってモンなのか……?」
「……いや、違う…。あいつがただ、裏切りの常習犯だった、ってだけだ……」
「俺は、悪くない……」
「俺は、なにもしてない……」
.
- 710 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 17:58:32 ID:mYJBHJT.0
-
○登場人物と能力の説明
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
(゚、゚トソン 【???】
→時や力を『操作』した『拒絶』の少女。
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
_
( ゚∀゚) 【未知なる絶対領域《パンドラズ・ワールド》】
→存在してはならない『領域』を創りだす《特殊能力》。
( ´_ゝ`) 【771】
→『不運』を引き起こすが、『能力者』でも『拒絶』でもない男。
(*゚ー゚) 【最期の楽園《ラスト・ガーデン》】
→『楽園』を『保守』し、そちらにワープする《特殊能力》。
.
- 711 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 17:59:03 ID:mYJBHJT.0
-
○前回までのアクション
_
( ゚∀゚)
(*゚ー゚)
从 ゚∀从
/ ,' 3
( ^ω^)
→謎の空間から移動
( <●><●>)
( ・∀・)
(゚、゚トソン
→ゼウスの屋敷前で待機
( ´ー`)
( ´_ゝ`)
→バーボンハウス
.
- 712 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:04:42 ID:mYJBHJT.0
-
第二十七話「vs【771】Ⅳ」
バーテンのいないバーなど、水の汲めない井戸と一緒ではないのか。
アニジャ=フーンは、誰も就いてないカウンターを見て、そう思った。
そこに水――酒はあるため、厳密に言えば「水が汲めない」のではなく「釣瓶がない」井戸、と言った方が正しいのだが。
どのみち、なにかが欠けていることに違いはなかった。
モララーの『常識破り』な行動が、トソンを駆り立てた。
――というより、ネーヨが動くわけにはいかないし、アニジャは彼を止めることなどできない、
そう考えると、彼女しかモララーを止めに行く人がいなかった。
そのため、トソンは問答無用で戦地に赴くしかなかったのだ。
別の視点から言えば、ネーヨは、モララーのせいで酒が呑めなくなった。
トソンと云う釣瓶なしで、どうやって地下水を汲めというのだろうか。
酒において、ネーヨは呑むことに関してなら多少の知識はあるのだが、如何せん注ぎ方など考えたこともない。
適当に入れておいしい酒を呑めるとは思ってはおらず、またおいしくない酒を呑みたいとも思っていないため、
ネーヨは自然のうちに、酒を呑めないようにさせられていたことになった。
彼は頬杖をつき、いつものように何か長考に耽っていた。
なにをすればいいかわからず、アニジャは扉の傍らでただ呆然と立ち尽くしていた。
当然、アニジャにとってネーヨとは、雑談にしゃれ込めるような相手ではない。
かといって彼は、一般人や一介の『能力者』相手なら戦えるとはいえ、とてもモララーたちのところに行こうとは思えない力量なのだ。
つまり、何もすることがない。
手持ち無沙汰を感じ、どうしようか、とずっと考えていた。
こんなとき、タバコや煙管などの嗜好品をもっている人なら手持ち無沙汰を考えなくて済んだ。
アニジャはこのときはじめて、そういった嗜好品の偉大さを思い知らされた。
今まで金を払って毒を喰らおうとは思っていなかったが、考えを改めようかな、とも。
――どのみち、バーボンハウスで喫煙はできないのだが。
( ´_ゝ`)「……」
その結論に至って、アニジャも長考をやめる。
やめる、というより、思考が結末にたどり着いたから自然と解けた、と云ったような状態だった。
.
- 713 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:05:14 ID:mYJBHJT.0
-
視線を前に向ける。
先ほどまで、このバーボンハウスではちょっとした騒ぎがあったのだ。
トソンがネーヨを攻撃して、しかしネーヨにはさっぱり効かず。
内藤が来るも、相手が『拒絶』であることを知らずに交流。
内藤が彼らの実態を掴めそうになった直後、モララーとアニジャの帰還。
モララーと内藤との対面で、全貌が明らかになった。
続けて、ネーヨの案で『拒絶』との全面戦争が打ち立てられ。
空いた時間の暇つぶしか、トソンが掃除をはじめて。
掃除から逃げようと思ったのか、モララーがトイレに籠もる。
しかし実はその隙に、モララーは三人のもとへと向かっていた。
それを知ったトソンが、彼を止めに三人のもとに向かった――
アニジャも、その後半の喧噪は知っていた。
目の前で、その不穏な空気を漂わされたのだから。
しかし。アニジャは思う。
どうして、ここまで、ネーヨは平生を保てるのだ、と。
自分たちを脅かす――『拒絶』を拒絶しようとする――連中が行動しているのにも関わらず、彼は眉ひとつ動かそうとしない。
それが、アニジャにとっては、不気味以外のなにものでもなかった。
が、それも当然なんだな、と諦めるようにアニジャは肩を落とした。
内藤が去る際言っていた言葉を思い出して、アニジャはなおも考える。
.
- 714 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:05:47 ID:mYJBHJT.0
-
『こっちもだお。じゃあ失礼するお』
『―――オール・アンチ』
そうだ。
そうなのだ。
彼は――ネーヨ=プロメテウスは、『オール・アンチ』なのだ。
スベテ ム シ ウチケ
『拒絶』を『拒絶』して『拒絶』してしまう、最強にして最悪の《拒絶能力》の持ち主なのだ。
『拒絶』狩りがはじまっていようが、その『現実』を涼しい顔で受け止める。
そうなった『因果』も受け入れるし、自分が『拒絶』であると云う『真実』や『運命』なんかも、当然甘受している。
そんな、ジョルジュの予想していなかった『拒絶』。それが、目の前の男である。
( ´_ゝ`)「(――ジョルジュ?)」
「ジョルジュ」と云うワードを浮かべたとき、アニジャはなにかがひっかかった。
どうしたのだろうか――と思ったところ、アニジャは「あ」と言って手を叩いた。
さまざまなアクシデントに見舞われ忘れていたが、自分はこの男に、用があったではないか、と思い出したのだ
すると、いま抱いていた畏怖が、どこかに消えた。
忘れないうちに、と、気まずい空気も無視して、アニジャはネーヨに口を切った。
( ´_ゝ`)「旦那、ちょっといいか」
ネーヨは、応えない。
だが、応えるような男でもない。
ネーヨの示す肯定とは、沈黙だ。
否定もまた沈黙で表すのだが――
.
- 715 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:06:32 ID:mYJBHJT.0
-
( ´_ゝ`)「外を歩いているとな、ひとつ、奇妙なことが起こったんだ」
アニジャがいつもと同じように言う。
話に興味が出てきたのか、ネーヨもようやく反応を見せた。
上体をアニジャのほうに向ける。
( ´ー`)「奇妙だあ?」
( ´_ゝ`)「ああ。ちーとばかし長くなるが――」
そこで、アニジャは少し前に記憶を遡らせた。
ジョルジュと偶然出くわし、シィに運ばれる、その前に。
嘗ての面影など感じさせない、すっかり寂れてしまった街。
吹き抜ける風がカラカラに乾いているように思える、不吉な雰囲気。
廃墟のなかの廃墟と言えたその街で、ある男と会ったこと。
その男が『能力者』だった、までならよかった。
問題は――
( ´_ゝ`)「あんたら――『拒絶』のことを、嗅ぎまわってるやつがいたんだ」
( ´ー`)「ほう」
思っていた以上に興味を持てるトピックだったようで、ネーヨは完全に態度を変えた。
黙って続きを促す。
.
- 716 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:08:43 ID:mYJBHJT.0
-
( ´_ゝ`)「それも、リッパな『能力者』だったぞ」
( ´ー`)「へえ」
ザ・クラッシュ
( ´_ゝ`)「能力名は……【集中包裹】」
( ´_ゝ`)「対象に、なにかを『抱擁』させる能力だ」
( ´ー`)「………、へえ」
( ´_ゝ`)「心当たりはあるか」
( ´ー`)「知らねえな」
ネーヨが即答する。
別に問答が面倒になった――というわけではなさそうだ。
そう聞いて、アニジャは不思議な気持ちになった。
『拒絶』を嗅ぎまわるなど、一介の人間ができることではない。
その情報を得ること自体難しいのに、ましてそれを知った上で
詮索をしようなど、普通の感性を持っていれば考えにくいことだからだ。
つまり、その人は特殊な存在となる。
そう考えると、ネーヨなら知っているだろう、とアニジャは睨んでいたのだが。
.
- 717 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:09:17 ID:mYJBHJT.0
-
( ´_ゝ`)「そうなのか」
( ´ー`)「聞いたこと、ねえよ。もっとも、それほど『能力者』に精通してるわけでもねえしな」
( ´_ゝ`)「そりゃあそうだが……」
( ´ー`)「そいつ、なんか言ってたか?」
唐突にそう訊かれて、アニジャは返答に窮した。
( ´_ゝ`)「……悪いな。問いただそうとしたら、勘付かれた」
( ´ー`)「そうか」
ネーヨが体勢を元に戻す。
カウンターに向かい、肘をついて。
( ´_ゝ`)「……まさか、あいつら以外であんたらと深い関係を持ってるやつがいるとか?」
( ´ー`)「あいつら?」
( ´_ゝ`)「ゼウスたちだ。あいつらは、まあ、こっちからコンタクトとったからいいんだけどな」
「しかし」と挟んで、アニジャは続けた。
( ´_ゝ`)「面倒な連中が……いるかもしれないんだろ。どうするんだ」
( ´ー`)「……どうしようかねえ」
大して気にも留めてない様子で、ネーヨが答える。
アニジャは、やはりこの男は楽観視が過ぎる、と思った。
自分のスキルに自惚れているのだろうか、それとも――
.
- 718 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:09:47 ID:mYJBHJT.0
-
( ´ー`)「……………もしかしたら、よ」
( ´_ゝ`)「ん?」
少し沈黙を挟んで、ネーヨが口を切った。
俯いていたアニジャは、顔をあげる。
ネーヨが、背中を通してアニジャに話した。
( ´ー`)「あいつら、じゃねえのか」
( ´_ゝ`)「あいつって……ゼウスたちか?」
( ´ー`)「違えよ。……ああ、そういや、おめえは知らねえのか」
( ´_ゝ`)「なんだ?」
ネーヨが、少しもったいぶる。
貴重な光景だとも思い、アニジャは必要以上に乗り気な姿勢を見せた。
それをネーヨも察する。
そしてそれほど、今の話題が興味深く、珍しいことも同時に察した。
だからか、ネーヨは少し話を盛り上げるような話し方をした。
すう、と息を吸って、先ほどまでよりやや大きな声で、強調するように
( ´ー`)「おめえがいなかった時、だ。いっぺんよ、襲撃喰らったんだぜ」
.
- 719 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:10:28 ID:mYJBHJT.0
-
( ´_ゝ`)「へえ」
(;´_ゝ`)「―――ッ!? な、なんだと!?」
予想通りの反応をもらえて、ネーヨは満足げな笑みを浮かべた。
それは同時に、不敵な笑みの方にも見える。
後ろにいるアニジャが、動揺して体勢を崩したのがわかった。
ついでだ、腰を抜かすつもりで続きを話そう、彼はそう思った。
特に深い意味はない。
ただの遊び心だった。
( ´ー`)「モララー、ワタナベが迎え撃ったがよ、呆気なく逃げられたな」
(;´_ゝ`)「しかも、よりによってその二人か」
続けて欲しかった反応をもらえたネーヨは、少しすっきりした。
もともと、晴らすほどストレスを溜めていたわけではなかったが――というより、
彼はそもそもストレスを溜めることすらないのだが――、気分的に清々しかった。
( ´_ゝ`)「どんなやつなんだ?」
( ´ー`)「俺の、古い知り合いよ」
( ´_ゝ`)「……え?」
.
- 720 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:11:38 ID:mYJBHJT.0
-
予想外の答えをもらって、アニジャは動揺したというより、疑問符を浮かべた。
ネーヨに古い知り合いと呼べる存在がいたことにまず引っかかったが、
それ以上にそんな存在から攻撃を受けたということにいまいちピンとこなかったのだ。
が、ネーヨは自分のことを話したがらない人だ。
ただその話が今まであがる機会がなかっただけで、
ほんとうはアニジャの思っている以上にネーヨは謎の深い男なのかもしれない。
そう、アニジャは考えた。
( ´ー`)「あいかわらず、なやつだったぜ。あいつもよ」
( ´_ゝ`)「……ちなみに、名は」
( ´ー`)「できれば、口にしたくねえな」
( ´_ゝ`)「悪い」
すぐさまアニジャが詫びる。
やはり、ネーヨにも思い出したくない過去のひとつや二つはあったのかもしれない。
触れてはいけない古傷に、触れてしまったか――?
しかし、ネーヨは大して気にしてなかったようだ。
いつも通りの、けろッとした顔で、のんびり続けた。
.
- 721 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:12:18 ID:mYJBHJT.0
-
( ´ー`)「別にいいんだけどよ。おめえも知っておいたほうがいい」
( ´ー`)「そいつは名がいっぱいあるんだが――おめえにもわかるように言えば、そうだな」
ネーヨが、短く言う。
( ´ー`)「カゲキ」
( ´_ゝ`)「っ!」
( ´ー`)「『英雄』の、親だ」
.
- 722 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:14:59 ID:mYJBHJT.0
-
◆
从'ー'从『きれいでしょ〜?』
( ・∀・)『……』
(´・ω・`)『やあ。……なにやってんの』
从'ー'从『あ、へちょむくれ〜。いまさ、最近のボクのシュミ見せてるんだ』
(´・ω・`)『妙だな。モララーが完全にきみを軽蔑するような目をしていないか?』
バーボンハウスの店内、淡い光がカウンターや客、バーテン、そして背景と化しているボトルを照らす。
カウンターには右端から三番目に、ネーヨが。
二つ左に空けた先に、モララー。ひとつ更に空けて、左にワタナベが座っている。
ネーヨは相変わらずの姿勢で、バーテンの位置に立っているトソンもやはりいつもどおりだ。
違ったのはワタナベで、ひょんなことがきっかけで、モララーにあるものを見せていた。
が、モララーも平生とは違っていた。いや、『異常』を与えられた、というほうが正確である。
街の徘徊、『能力者』の虐殺にも飽きたショボンが戻ってきたとき、モララーの顔は、異様なものとなっていた。
扉をくぐると同時にそれに気づいたショボンが、着ていたコートを脱ぎつつ、問う。
脱いだコートは傍らのコートスタンドにかけた。
背後から返ってくる声に、耳を傾ける。
.
- 723 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:15:43 ID:mYJBHJT.0
-
从'ー'从『そんなことないよ〜。ね、モララー?』
( ・∀・)『……』
(´・ω・`)『……気になるな。僕にも見せてくれ』
从'ー'从『はいはいっと』
二人の間、不自然に空いた席にショボンが割り込む。
この席の空白の理由は、モララーが、ワタナベを――それも、アルコールの場で――好く思っていなかったからだ。
そこにショボンが入ったとき、彼も、モララーと同じような顔をした。
眼球を、数ミリ前に押し出したくなる衝動に駆られる。
すると、心なしか臭いも若干漂ってきた。
香水などのそれではない、紛うことなき異臭だ。
ショボンは、席に腰を下ろすことも忘れ、ただ呆然とそれを見尽くした。
モララーと同じ反応を見せられたため、ワタナベは不審に思った。
彼の顔色を窺いながら、のんきに口を開く。
从'ー'从『いやあねえ。生態系をいじるって、楽しいね〜』
(´・ω・`)
从'ー'从『どう、それ。傑作だと思うんだけど』
(´・ω・`)
(´・ω・`)『………やっぱり、僕ときみとじゃあ、感性ってものは分かち合えないようだ』
( ・∀・)『ほらな』
从'ー'从『なんでだよボケ糞ヤローどもが』
その言葉を待っていたかのように、ショボンにあわせてモララーもようやく口を開いた。
ワタナベは気性をころッと変えて、二人に食ってかかる。
そして、「それ」を手にとって、ショボンの眼前に突きつけた。
.
- 724 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:17:11 ID:mYJBHJT.0
-
从'ー'从『よく見ろよ包茎短小クソが。可愛いだろ、この蟲』
(´・ω・`)『おかしいな。この店はきれいなはずなのに』
( ・∀・)『違う。これは、コックでローチな虫では、断じてない。
突然変異を起こした、謎の生命体・エックスだ』
从'ー'从『なべちゃん三十二号って名前があるのに、センスの悪い名前、つけないでもらえる〜?』
( ・∀・)『……これがはじめてじゃねーのかよ』
(´-ω-`)『興醒めだ。酒だけ呑んで、帰らせてもらうよ』
そう言って、ワタナベの握っていた蟲を、睨んだ。
足が十七本あるが、一組として対となっているものはない。
触角も、背中――なのだろうか――から不規則に七本生えている。
いや、触角だけではない。
眼、口、生殖器、分泌液の放出口――と、あらゆるものが不規則に点在していた。
生物として認識できない物体だが、それは時たま足や眼を動かしたり、フェロモンなのだろうか、異臭を放ったりもした。
これが臭いの正体か――そう思い、ショボンは肩を落とした。
今の会話を見てわかるように、ワタナベは、日頃からこのような生物をつくり、弄ぶ趣味があった。
話に聞くだけでショボンやモララーは嫌な顔をしていたが、まさかここまでとは、二人も思っていなかったようだ。
モララーも、これを見せられたとき、『拒絶』でありながら精神がえぐられそうな錯覚に陥ったものだ。
.
- 725 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:17:43 ID:mYJBHJT.0
-
从'ー'从『せっかく久々に四人そろったんだし、ゲームやろうよ。
あ、そうだ、大富豪やらない〜? 都落ちありでさ』
( ・∀・)『四人……ねえ』
モララーは、店内は見渡さずとも、脳内でそれを再現する。
モララー、ショボン、ワタナベ、トソン、そして――ネーヨ。
人数としては五人いるが、ワタナベは、四人と言った。
そして、そう言う理由も、なんとなくではあるが、わかっていた。
――ワタナベは、ネーヨと、関わりたくないのだ。
それどころか、彼を人間として受け付けたくないほどだ。
だから、それを露骨に強調して口にすることで、自分は
彼となんら関係を持っていない、と再認識したいのである。
ネーヨがすぐそこにいるが、こんな声じゃあ考察中の彼の耳に
届くことはないし、仮に聞かれたとしても、ネーヨはなんとも思わない。
そうわかっているからこその、発言だ。
.
- 726 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:18:27 ID:mYJBHJT.0
-
(´・ω・`)『冗談じゃない』
从'ー'从『あ』
ショボンが、トソンから差し出された赤い酒をのどに通すと、そう言った。
直後、ワタナベが頭――らしき箇所を撫でていた物体が、消えてしまった。
心なしか、先ほどまで三人を包んでいた異臭も、消えたように感じた。
なぜいきなり消えたのか。
ワタナベもモララーも、なにを言われるでもなく、すぐに原因を突き止めた。
从'ー'从『てめえ、ブッコロされてぇのか? あ゙あ!?』
(´・ω・`)『うるさいよ、きみ』
(´・ω・`)『「そんな蟲はこの世に存在しない」。当然の「現実」じゃないか、甘受したまえ』
. エ ソ ラ ゴ ト
( ・∀・)『相変わらず【ご都合主義】なやつだ』
从'ー'从『……しかたないなあ。ナベちゃん機嫌がいいから、許したげる』
(´・ω・`)『はは。全くを以て嬉しくないね』
从'ー'从『なべちゃん三十三号、どうつくろうかな〜』
.
- 727 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:19:28 ID:mYJBHJT.0
-
( ・∀・)『……』
(´-ω-`)『……ふぅ』
ショボンの行動にワタナベが怒り狂うかと思ったが、存外そうはならず、ワタナベは自己完結しておとなしくなった。
そして先ほどまであんなに騒がしかったワタナベが黙り、次いでモララーも、黙る。
ショボンも静かになって、ゆっくり、酒を呑んだ。
自分が扱っていた酒だけあって、その味は格別なものだった。
都心の、最高級なバーよりも味の自信はあったほどだ。
が、空気が――
『拒絶』の空気がはちきれんほどに充満しているため、とても一般人は寄り付かないのだが。
そのため、バーボンハウスは隠れた名店としてすら売れることはなかった。
ただ、裏通りに居つくハイエナたちが、ここを利用する程度だ。
どうやら、裏通りでは、このバーボンハウスは都市伝説のようなものとして知られているようだ。
理由はわからないが、考えられるとすれば、店の外からでも感じられる『拒絶のオーラ』を
妖しげな雰囲気として捉えた誰かが、ここを名店と勘違いして広めた――
せいぜい、そんなことだろう。ショボンにとってはどうでもよかった。
(´・ω・`)『……』
ちらりと、扉を見やる。
もはや『拒絶』と云う己の同胞くらいしか常連がいなくなった店ではあるが、
やはり元店主としては、客が来るとそれなりに感慨深いものが生まれるのだ。
いまは、行くあてのないとされるトソンを引き取る形で自分の弟子にしたが、ショボンの店であることにはかわりがない。
『拒絶』であるショボンだが、やはり人間味を感じさせる一面も持っているのだ。
だから、こうして扉がゆっくり開かれたときなんか、ショボンはなんともいえない胸の昂揚を感じる。
.
- 728 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:20:30 ID:mYJBHJT.0
-
(´・ω・`)『――へ?』
从'ー'从『うわ。客きたし』
( ・∀・)『珍しいこともあるもんだ』
――開かれるはずがないと思っていた扉が開かれて、ショボンは「え」と思った。
続けてワタナベ、モララーも形は違えど同じような反応を見せた。
トソンが目を閉じながら、ばれないように客に酒を提供する準備をする。
席は、ワタナベの隣に二つと、モララーとネーヨの間の二つ、ネーヨの右にある幾つかが空いている。
この人は、やはり一番右端に座るのだろうか、それとも――
と、自然のうちに推理をしていたショボンは、呆気にとられた。
その人が、にんまりと笑ったかと思うと、ショボンたちの背中に在った壁を、殴ったのだ。
轟音を響かせながら、壁を崩し、煙をあげる。
ぱらぱら、と壁の破片が床に落ちてはじめて、彼らは事の『異常』を感じた。
( ・∀・)『なッ――!?』
(´・ω・`)『うるさいね』
最初に動いたのは、ショボンだ。
その、いきなり破壊活動に入った人を見て、落ち着き払ったまま、冷静に対処しようと思ったのだ。
『その人の目の前に立っていた』ショボンは、そのまま『その人の動きを完全に止めた』。
エ ソ ラ ゴ ト
『現実』を好き勝手に操作する――【ご都合主義】。
.
- 729 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:22:46 ID:mYJBHJT.0
-
遅れて、モララーとワタナベも、それぞれが席から降り、その人に近づいていった。
モララーは雰囲気を壊されたことによる憤り、ワタナベは単なる好奇からなった動きだ。
『動けなくなった』その人に近寄り、顔を覗き込む。
不敵な笑みを浮かべた、人だった。
背は高く、肩幅も広く、腕は太くて、首周りにも筋肉が行き届いている。
ネーヨ以上にがたいの良い人ではあったが、顔つきからして、女性であることがわかった。
そうとわかって、ワタナベは「ひゅ〜」と歓声をあげた。
これは面白そうだ――そう思ったのだろう。
从'ー'从『あらあなた、……っふふ』
( )
从'ー'从『気に入った。ねえ、ボクと一緒に遊ばない? もしよかったら、名誉あるなべちゃん三十三号の――』
( )
ワタナベが更に近寄り、口付けでも交わすのかと思うほど距離を詰めたときだった。
『動けなくなった』はずの女が、左の拳で、ワタナベの顎を下から突き上げた。
.
- 730 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:23:59 ID:mYJBHJT.0
-
从゚ー 从『―――ッ!』
( )『フン。思ってたより、弱いねェ』
女はそして、両手でショボンとモララーをそれぞれ掌で突いた。
が、攻撃ではなく、ただ距離をとりたかっただけなのだろう。二人を突き放した。
モララーは反応を見せるが、ショボンは胸に残る霞を感じ、ただ呆然としただけだった。
(´・ω・`)『………なに?』
( ・∀・)『なにが起こってるかわからんが――頭にきた。「おまえは、もう死んでいる」ってのによ』
( )『 』
モララーが落ち着き払って、そう『嘘』を吐いた。
直後、女はわけのわからないまま、地面に突っ伏した。
フェイク・シェイク
『真実』をうやむやにして『嘘』を混ぜる――【 常識破り 】。
.
- 731 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:25:07 ID:mYJBHJT.0
-
それを見て、モララーは女の後頭部に足を乗せる。
そして、ショボンに、奇妙な顔をして話しかけた。
( ・∀・)『おい、ショボン』
(´・ω・`)『…………なにかな』
( ・∀・)『おまえ、いまちゃんと使ったんだよな、スキル』
(´・ω・`)『当然じゃないか。あ、踏み潰さないでくれよ。いまからとことん遊んでみたいんだ』
ショボンも平生を取り戻したようで、そう言う。
女の頭を踏み潰そうとしていたモララーが、笑いながら足をのけた。
( ・∀・)『そうかいそうかい。ワタナベに変わらず、おまえもシュミ悪いわ』
(´・ω・`)『ほっといてくれないか』
( )『先にアタシに殺されるか、アタシに遊ばれるか……』
( )『どっちがいいんだい?』
(´・ω・`)『なにを急に言――』
(;´・ω・`)『――なにッ!?』
(;・∀・)『なんだとッ!? てめえ――』
.
- 732 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:26:40 ID:mYJBHJT.0
-
二人は、先ほどまでとは一転、心の底から驚愕を感じた。
だが、それも当然といえば至極当然だった。
ショボンの【ご都合主義】を受けて、動けなくなったのに。
モララーの【常識破り】を受けて、死んだのに。
その女性は、どうしてか、ごく普通に起き上がり、立ち上がったからだ。
こんなことは、普通では、まずありえない。
彼らの言う『嘘』や『現実』を生身で浴びてなお健康体でいられるなど、ネーヨ以外では考えられないのだ。
そのため、モララーはスキルは使わず、拳を握り締めて女に飛び掛った。
ショボンやワタナベとは違い、モララーは格闘技術にも長けているのだ。
単なる技術だけなら、ネーヨにも圧勝する――それはただ、ネーヨが技術を知らないだけなのだが――。
そんな拳が、女の眼前にまで迫った。
だが、このとき、二人の間に『異常』が起こった。
( )『 喝 ッ ! 』
.
- 733 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:27:21 ID:mYJBHJT.0
-
(;・∀・)『おわッ!』
(´・ω・`)『……!』
女が叫んだかと思うと、眼前にまで迫っていたモララーは、飛び掛る前の位置でしゃがみこんでいた。
重力に耐えかねて腰を地に下ろしたかのような体勢だった。
それを見て、いよいよショボンも、いまがただ事ではないことを、察した。
同時に、現状把握に努めていたワタナベも、同じ結論に至った。
カウンターの向こうで一部始終を見ていたトソンも、目だった動きは見せなかったが、
この決して起こるはずのなかろう現状を前に、冷や汗が垂れるのを防ぐことはできなかった。
言うまでもないだろう。
―――何者かによる、襲撃。
.
- 734 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:28:09 ID:mYJBHJT.0
-
从゚ー゚从『あっはははははははははははははははッッ!』
( )『ッ』
怒り狂ったワタナベが、モララーよりも速い動きで右に躯を回転させながら、迫った。
女が、その動きを見切って、しゃがみこむ。
彼女の頭上僅か数センチのところを、ワタナベの裏拳が通り過ぎていった。
空気を切る音が今の裏拳の破壊力を物語るが、当たらなければ意味がない。
从゚ー゚从『いいねェ、キミィ!!』
( )『……面倒――』
( ・∀・)『おっと。舌噛むぜ』
( )『!』
右に一回転したワタナベが、女と面と向き合って対峙する。
が、それもほんの一瞬。直後、ワタナベの掌底が、右と左の二つ、同時に放たれた。
その掌に狙われた女だが、攻撃の死角を見抜き、両腕を胸の前でエックス字に交差させる。
ワタナベの掌がその腕を通り過ぎた直後、腕をそれぞれ外側に向けて弾くように振るのだ。
だが。弾くと同時に、モララーが動いた。
体躯を低くして、女の腹に拳を向ける。
両手はワタナベの対処に使い、脚ではその拳の防御に間に合わない。
モララーも、この一発で、女の腹を貫くことができるだろう――と、思った。
しかし。女が、口を開く。
.
- 735 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:29:02 ID:mYJBHJT.0
-
( )『喝!』
( ・∀・)『――チッ!』
「喝」と唱えると、モララーはやはり飛び掛る前にいた位置で、同じように体躯を落としていた。
〝力が抜けるような感じ〟がしつつも、すぐに脚に力を入れて立ち上がる。
原理こそわからないが、これは女の《特殊能力》に違いない――モララーもワタナベも、そう推理する。
そう思った瞬間、二人の『拒絶』を宿す心に、火が点いた。
『拒絶』特有の、狂気を感じさせる笑みを浮かべ、女に向かった。
だが、次の瞬間、彼らの耳に強く残る、大きな声がバーボンハウス店内に響き渡った。
無機質な音ではない。人為的な――声だ。
( ´ー`)『うるせえと思ったら、なにやってんだおめえたちは』
先ほどまでぼうっとしていたネーヨが、ようやく、事態に反応できた。
それまでは、砕かれた壁の音や女の怒号など、あらゆる音が聞こえていなかったようだ。
頭を掻きながら、のっそりと、ネーヨは振り返る。
モララーもワタナベも女も、傍らにいたショボンやトソンも、ネーヨの顔に注目した。
それほど存在の大きな男なのだ、ネーヨ=プロメテウスとは。
少し間を挟んで、我に返ったワタナベが口を利いた。
ファイティング・ポーズ――掌底を今すぐにでも放ちそうな体勢――のまま、顔だけネーヨのほうを向けて。
从'ー'从『聞いてよネーヨちゃん〜。このダボがね――』
.
- 736 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:29:45 ID:mYJBHJT.0
-
だが、彼女が全てを言い終える前に、女が反応した。
( )『……おや。あんたかい』
( ´ー`)『どっちのセリフだ。酒呑みの恨み、でけえぜ。覚悟できてんのか?』
从'ー'从『そうそう、酒だけに避けられないぞってなんでやねーん!』
(´・ω・`)『……おや』
( ・∀・)『どうやら……お知り合い、みてーだな』
从'ー'从『ムシすんじゃねーよテメーら』
ネーヨが、ジョッキをカウンターに強く叩きつける。
萎縮し続けなトソンが、それを受け取って慌ててビールを注ぐ。
その間も、ネーヨと女は睨みあっていた。
ネーヨの機嫌を窺おうとしたのか、ただの世間話なのか――
女は、何気ない様子で口を開いた。
.
- 737 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:31:04 ID:mYJBHJT.0
-
( )『許しておくれよ。そこの道を歩いてたらさ、こっからえげつない空気を感じてねェ』
( ´ー`)『はあ?』
( )『で、入ってみたら、なんだいここは。思わず吐きそうになったよ。
. イライラしたもんだからねェ、つい壁を殴っちまったのさ』
( ´ー`)『すぐにものに当たる癖、なんとかできねえのかよ、カゲキ』
( )『未だにそんな名で呼ばないでおくれ。よそよそしい』
( ・∀・)『(カゲキ……妙な名前だな)』
ネーヨが口を利くようになり、相対的に口数の減った――なくなった残り四人は、ただ静かに、二人の会話を聞いていた。
二人が思っていたよりも旧知のなかであることを、なんとなくではあるが察した。
そして同時に、ワタナベとモララーをいなしたり
【ご都合主義】や【常識破り】に打ち勝ったことにも、理屈こそわからなかったが、合点がいった。
彼らの視線などお構いなしで、二人は会話を続ける。
一見穏やかで、しかし殺気と拒絶で張り詰めている空気だ。
気を抜くと、その混沌とした雰囲気に呑みこまれそうだった。
( ´ー`)『俺はおめえの事が大嫌えだからよ。ほんとうなら、今すぐ、ぶっ殺すところなんだがな』
( )『短気なアンタが、珍しいねェ。変な風でも吹いたのかい』
( ´ー`)『違えよ。酒がまずくなんだ。ただ、それだけだ』
( )『助かったよ。さすがのアタシも、アンタと殴り合いなんてしたら、アブナいからねェ』
( ´ー`)『よく言うぜ』
トソンから差し出されたビールをぐいッと呑んで、ネーヨが言った。
唇についた泡を乱暴に拭って、顔をあげる。
.
- 738 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:31:40 ID:mYJBHJT.0
-
( ´ー`)『――で』
( )『なんだい』
( ´ー`)『なんだい、はこっちのセリフだっつうの』
( )『意味がわからないね』
( ´ー`)『そうか。じゃあ、はっきり言うぞ』
( ´ー`)『扉の向こうに立ってる男も、中に入れろ』
( )『……ばれてたのかい』
( ・∀・)『………へ?』
そこで、モララーが首を傾げる。
二人の会話に、テレパシーでも会話に交えたのか、話さずして話されたトピックがあったため
モララーは、話の内容についていけなくなったのだ。
それを察して、先ほどまで口を開かなかったトソンが、モララーに近寄り、そっと耳打ちをする。
(゚、゚トソン『つまり、偶然ここに来た――とかいう話は嘘だってことですよ。それをネーヨさんが見抜いただけで』
( ・∀・)『ほーん』
(゚、゚トソン『言い換えると、やはりこの人は――』
.
- 739 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:32:49 ID:mYJBHJT.0
-
(´・ω・`)『強襲にきたってことで、間違いはないってことだね』
( ・∀・)『ッ!』
次の瞬間、ショボンが事情を把握したようで、手を真上にぴんと伸ばした。
そして指を弾き、パチンと音を鳴らす。
すると、ネーヨと睨みあっていた女の隣に、男が現れた。
『ここにその男はいる』という『現実』が成した一連の出来事だった。
唐突に呼び出された男は、一瞬、落ち着きをなくす。
が、四方八方を『拒絶』に囲まれたのを確認して、男はすんなり現状を理解したようだ。
「襲撃に来たのがあっさりばれて、自分が隠れていることもあっさりばれ、不思議な力でここに招かれた」という現状を。
男は、ふう、と溜息を吐いた。
懐に手を伸ばし、棒状のものを取り出す。
当初、それがピストルかなにかなのか、とトソンは警戒したが、実際は違った。
男は、ただ、キセルを取り出したかっただけだった。
それを加えようとして――トソンが口を開いた。
(゚、゚トソン『強襲に来た人にこんなこと言うのもおかしいですが――当店は禁煙です』
言われて、男は少しムッとした顔をしたが、思いのほか素直にキセルを懐に戻した。
自分たち『拒絶』と仲良くできそうにない男だが、聞き分けだけはよさそうだ。
そして男は、俯けていた顔を、あげた。
店内の淡い光に照らされた顔は、どこか、大人独特の「渋み」を感じさせた。
爪'ー`)
.
- 740 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:33:46 ID:mYJBHJT.0
-
( ´ー`)『……もう一度訊こう、カゲキ』
( )『なんだい』
( ´ー`)『なんの用だ。酒を呑みにきたんでなけりゃあ、いますぐ追い返すぞ』
( )『敵意はないよ。アンタがいるなんてことを知らなかった、ってのはほんとうなんだからね』
爪'ー`)『なんだ、知り合いか』
( )『昔の、ね』
黒いロングコートを羽織り、その内側にはこげ茶色のスーツを着込んでいる男が、低く渋い声を放った。
だが、そんなダンディズムに満ちた風貌とは違って、齢三十前後を彷彿とさせる顔つきをしていた。
そんな彼は女の仲間のようで、問われて、女は素直に答えた。
なんだかはぐらかされているような気がして、ネーヨは苛立ってきた。
何度も言うように、彼はストレスを抱くような人間ではないが、それとはまた別の苛立ちが、彼を急き立てるのだ。
カウンターを背にして、腕を組み、大きくした声でもう一度、ネーヨは訊いた。
( ´ー`)『あいにく、俺は昔話が嫌えなんでね。もう一度訊くが、答えなかったら問答無用で殺すぞ』
( )『ああ怖いね。これだから男ってのは面倒なもんだ』
爪'ー`)『おれたちは好きでこんな気持ち悪い連中に会いにきたんじゃないってのにな』
女が、続けて男が言う。
聞くに聞けなくなったワタナベが抑えられなくなったのか、右の掌底を突きつけようとする。
だが、その前に、女が口を開いた。
( )『なーに。ただのスカウトさ』
( ´ー`)『………はあ?』
.
- 741 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:34:35 ID:mYJBHJT.0
-
聞きなれず、予想すらしていなかった言葉を放たれて、ネーヨは籠めていた力がすッと抜けた。
女は、続ける。
( )『アタシもね、アンタたちと会わなくなってから、いろいろやってるってことさ』
( ´ー`)『ほーん』
爪'ー`)『「能力者」スカウトの旅のさなか、この店から猛烈なオーラを感じてね。
ここには、イイ「能力者」がいると思ったんだが――』
( )『壁を砕いたのは、アンタらが遣えるかどうかを試したってだけさ』
( ・∀・)『試した……ズイブンと勝手な連中じゃねーか』
ネーヨは合点がいった。
この二人は、なんらかの理由で、遣える『能力者』を集める旅をしているようだ。
その矢先で、このバーボンハウスから漂うただならない空気――『拒絶のオーラ』を感じ取った。
そこで女は、偶然を装って、そこにいるであろう『能力者』に喧嘩を売り、
あえて自分を攻撃させることで、その人たちの程度を計ったのか、と。
しかし。それに付き合わされたモララーたちにとっては、それはただの迷惑だ。
当然、そんな事情があったからといって、強襲が強襲でなくなるわけでもないし、記憶が改竄されるわけでもない。
むしろ、自分勝手な行動をされて、憤りを強く感じさせられた、といったところだ。
どんな合図をしたのか、モララーとワタナベの気持ちがひとつになったようで、二人の呼吸があってきた。
それを女と男も察したようで、まくし立てるように男が言った。
.
- 742 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:35:20 ID:mYJBHJT.0
-
爪'ー`)『悪いが、ここにおれたちのお望みはいなかった。帰らせてもらうぜ』
同時に、逃げるように、扉に手をかける。
が、そのとき、男は後ろの肩甲骨あたりに、柔らかいものが当たっていることに気がついた。
次いでやってくる仄かな体温、シャンプーの香り。
鼻が利いたところで、自分の背中に少女――ワタナベがもたれかかっていることがわかった。
ワタナベが、一瞬で距離を詰め、男にもたれかかったのだ。
そして、彼の耳元に、吐息をかけるように甘く優しい声で残虐な言葉をかける。
从'ー'从『還さねえよ』
爪'ー`)『ッ』
男は、はッとした。
気がつくと、先ほどまで目の前に扉があってすぐ後ろにワタナベがいたのが、
〝目の前にワタナベが現れてすぐ後ろには誰もいなくなっていた〟からだ。
よく見ると、自分の位置も僅かだが後ろに――先ほどまでワタナベが立っていた場所に――下がっている。
以上を統合して、男はいま自分の身に何が起こったのかを、判断した。
爪'ー`)『おれとあんたの位置を入れ替えたのか』
从'ー'从『「能力者」探しの旅みたいだけど、相手が悪かったね。あなたは今からここで死ぬの』
爪'ー`)『やれやれ、性格がころころ変わるな』
そう言われて、ワタナベはにんまりと笑った。
「その通り。よくわかりましたね」と彼女は思った。
イレギュラー・バウンド
概念から形而上の存在まで全てを『反転』する――【 手のひら還し 】。
.
- 743 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:36:11 ID:mYJBHJT.0
-
二人のやり取りを後ろから見ていて、女は溜息を吐いた。
続けて「確かに相手が悪かったよ」「面倒さね」と、二言発した。
彼女にあわせて、ネーヨが口を開く。
( ´ー`)『運が悪かったようだな、カゲキ。こいつらに目ェつけられたら、確かに健康体のまま帰るんは無理だわ』
( )『そうかい』
( ´ー`)『――のわりには、ずいぶんと余裕みてえじゃねえか。どうしたんだ、諦めたのか?』
『拒絶』たちに囲まれ、絶体絶命の窮地であることをわからされてなお、女は顔を変えなかった。
少しくらいは絶望を感じさせるような顔をしてもいいのに。ネーヨはそう思うと、違和感を感じた。
ネーヨの質問に、女が答える。
( )『アタシらがアンタらを嘗めたみたいに、アンタらもアタシらを嘗めてたってことさね』
( ´ー`)『よくわかんねえな』
( )『アンタらもなかなかな「能力者」のようだけど――』
.
- 744 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:36:46 ID:mYJBHJT.0
-
爪'ー`)『おれたちも、結構ヤるぜってことさ』
从'ー'从『ッ!』
渋い男と対峙していたワタナベは、そのとき、驚愕に見舞われた。
確かに目の前で取り押さえていた獲物が、気がつけば、
〝バーボンハウスの扉を開け、外に立っていた〟のだ。
瞬間移動や、瞬間的な高速移動ではない。
〝最初からそこにいたかのような〟、そんなように窺えた。
ショボンの『現実』やモララーの『嘘』とはまた違う、能力がもたらす作用。
ワタナベは、どうして彼に逃げられたのか、わからなかった。
( ´ー`)『ほう』
( ・∀・)『おまえ、なんなんだ』
爪'ー`)『おれかい? 通りすがりのフォークシンガーさ』
ワタナベと同じく不審に思ったモララーが、訊く。
しかし、男はまともに答えようとはしなかった。
ただクールに、且つ適当にそう答えただけだった。
そして顔の向きを変え、男は女に言った。
爪'ー`)『おれは殺されたくないからな。先に帰るぜ』
从'ー'从『……だから、還さないって言ってるじゃんよぉ!』
男の言葉に、動揺をなんとか振り払ったワタナベが、食いついた。
足取りを進めようとする男に、ワタナベが飛びかかる。
.
- 745 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:37:20 ID:mYJBHJT.0
-
――が。
爪'ー`)『おれはな、』
从゚ー'从『ッ!!』
飛び掛ろうとしたワタナベは、右脚が付け根から〝もがれていた〟ことに気がついた。
鮮血を店内にばらまきながら、ワタナベは志半ばで床に伏す。
その間、ゆっくり歩きつつ、男は、口を開いた。
爪'ー`)『こう見えて、』
フ ラ イ ン グ
爪'ー`)『【 不意討ち 】が得意なんだ』
.
- 746 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:37:54 ID:mYJBHJT.0
-
( ・∀・)『フライング………ッ』
あまりに唐突の攻撃に気が動転したのか、ワタナベは意識を自立させることはできなかった。
幾つもの感情が絡まりあい、うねりをあげ、混沌とした空間を脳内に築き上げる。
そのせいで、《拒絶能力》を用いて反撃をすることが、できないでいた。
自分が脚をもがれ、そのうちに悠々と男に逃げられる――
そんな現状をワタナベが把握しきれていないうちに、男は涼しい顔で言う。
从; ー゚从『ガ―――ッ』
爪'ー`)『どんなに強い人でも、絶対抗えないものがある。それを置き土産に、帰らせてもらうぜ』
ワタナベに背を向け、男は歩き始めた。
爪'ー`)『たとえ世紀の喧嘩師でもな―――』
爪'ー`)『〝時〟には、抗えないんだよ』
.
- 747 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:45:44 ID:mYJBHJT.0
- ここ数日の目次
>>534-581 第二十三話「vs【常識破り】Ⅳ」
>>584-625 第二十四話「vs【常識破り】Ⅴ」
>>629-663 第二十五話「vs【常識破り】Ⅵ」
>>667-702 第二十六話「vs【常識破り】Ⅶ」
>>709-746 第二十七話「vs【771】Ⅳ」
ショボン書いてたら懐かしすぎてやばかった
感想ブログのほうですが、現行っつかこの作品の更新を優先してるのでなかなか新しい感想が書けないです
- 748 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 18:53:37 ID:OffYFsG20
- 乙
- 749 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 23:01:40 ID:gsAXHf.E0
- 相変わらず面白い
更新も早くて最高っす
- 750 :同志名無しさん:2013/02/04(月) 23:54:04 ID:4Gjrd7Es0
- 面白かった
乙
- 751 :同志名無しさん:2013/02/05(火) 09:16:58 ID:KqdE8xE60
- 訂正
>>710
×( ´_ゝ`) 【771】
○( ´_ゝ`) 【771《アンラッキー》】
細かいところだけど
- 752 :同志名無しさん:2013/02/06(水) 00:01:09 ID:IPmHHEawO
- やっと追いついたぜ、ちょっとハードだった
- 753 :同志名無しさん:2013/02/07(木) 03:23:07 ID:c7SwzkTk0
- 乙
続きが気になるな
- 754 :同志名無しさん:2013/02/08(金) 12:41:02 ID:1b3aj7Fc0
-
「なにもかもを拒絶するなんて、生ける屍のすることだね。
. 与えられたものを否定するってことは、つまり生の全てを否定することなんだから」
「で、自らの境遇を、あたかも自分の功績のように誇示するのは、
. 怠惰と慢心だけで生きる、人間以下の人間のすることさ」
「……ほんとうに欲しいものは」
「ほかのどんなものを投げ売ってでも手に入れてやろう、とするものだよ」
「………そう」
「それまでの仲間を、裏切
.
- 755 :同志名無しさん:2013/02/08(金) 12:41:36 ID:1b3aj7Fc0
-
○登場人物と能力の説明
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
(゚、゚トソン 【???】
→時や力を『操作』した『拒絶』の少女。
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
_
( ゚∀゚) 【未知なる絶対領域《パンドラズ・ワールド》】
→存在してはならない『領域』を創りだす《特殊能力》。
( ´_ゝ`) 【771《アンラッキー》】
→『不運』を引き起こすが、『能力者』でも『拒絶』でもない男。
(*゚ー゚) 【最期の楽園《ラスト・ガーデン》】
→『楽園』を『保守』し、そちらにワープする《特殊能力》。
爪'ー`) 【不意討ち《フライング》】
→謎の女とともに嘗て『拒絶』を襲撃した『能力者』。
( ) 【???】
→謎の男とともに嘗て『拒絶』を襲撃した『能力者』。カゲキと呼ばれている。
.
- 756 :同志名無しさん:2013/02/08(金) 12:42:08 ID:1b3aj7Fc0
-
○前回までのアクション
_
( ゚∀゚)
(*゚ー゚)
从 ゚∀从
/ ,' 3
( ^ω^)
→謎の空間から移動
( <●><●>)
( ・∀・)
(゚、゚トソン
→ゼウスの屋敷前で待機
( ´ー`)
( ´_ゝ`)
→バーボンハウス
.
- 757 :同志名無しさん:2013/02/08(金) 12:44:04 ID:1b3aj7Fc0
-
第二十八話「vs【771】Ⅴ」
( ´_ゝ`)「それは……ありえるのか?」
( ´ー`)「なに?」
ネーヨから、その当時の話をされて最初に抱いた印象が、アニジャの場合、それだった。
( ´_ゝ`)「【ご都合主義】や【常識破り】を打ち消すなんて、旦那でもない限り、不可能じゃあないのか」
( ´ー`)「そういうことかい」
ネーヨが鼻を鳴らす。
その反応を見て、アニジャはますますわけがわからなくなってきた。
嘗てハインリッヒ=カゲキやゼウスが身を以て体験したように、
彼らの《拒絶能力》によって改竄された『真実』や『現実』は、
その存在のもとに生きている人たちにとって、決して抗うことのできないものである。
つまり、『現実』に生きるハインリッヒたちにとっては、改竄された『現実』は甘受するほかない、ということだ。
そしてそれは、「あらゆるものを『拒絶』する」ネーヨ以外、皆に共通する前提である。
それなのに。
アニジャが今しがた話を聞く限りでは、その女は、その改竄された『現実』や『真実』をことごとく打ち消した。
そんな行動を生身の人間が起こせたとは思えず、ネーヨの話に半ば懐疑的になったのだ。
しかし、それはネーヨにとっては大した問題ではなかった。
. イ マ
( ´ー`)「確かに、そうだ。『現実』の名のもとに、俺たちは〝現在を生きている〟以上、普通は抗えねえ」
.
- 758 :同志名無しさん:2013/02/08(金) 12:44:42 ID:1b3aj7Fc0
-
ネーヨは、「普通」を強調して言う。
ふんふん、とアニジャは肯いた。
( ´ー`)「けどよ、それは〝現在を生きるから〟抗えねえんだ」
( ´ー`)「やつらがここを去るときに残した言葉、そいつが全てよ」
( ´_ゝ`)「たとえ世紀の喧嘩師でも………」
( ´ー`)「〝時〟には、抗えねえ」
( ´_ゝ`)「……なんとなくではあるが、わかった……ような気がした」
アニジャは素直に、そう言った。
が、おそらくは、もう完全にわかったのだろう。
外していた場合が怖く、また確証もなかったので、あえて謙虚にそう言ったのだ。
ネーヨは、彼の心中を覗いたわけではないが、あたかも覗いたかのように「そうだ」と言った。
結果として、二人の考えは、一致していた。
( ´_ゝ`)「その襲撃してきた、旅人のお二人さんは――」
「〝時間軸〟を操った」
二人が、声を揃えて言った。
.
- 759 :>>758訂正:2013/02/08(金) 12:45:37 ID:1b3aj7Fc0
-
ネーヨは、「普通」を強調して言う。
ふんふん、とアニジャは肯いた。
( ´ー`)「けどよ、それは〝現在を生きるから〟抗えねえんだ」
( ´ー`)「やつらがここを去るときに残した言葉、そいつが全てよ」
( ´_ゝ`)「たとえ世紀の喧嘩師でも………」
( ´ー`)「〝時〟には、抗えねえ」
( ´_ゝ`)「……なんとなくではあるが、わかった……ような気がした」
アニジャは素直に、そう言った。
が、おそらくは、もう完全にわかったのだろう。
外していた場合が怖く、また確証もなかったので、あえて謙虚にそう言ったのだ。
ネーヨは、彼の心中を覗いたわけではないが、あたかも覗いたかのように「そうだ」と言った。
結果として、二人の考えは、一致していた。
( ´_ゝ`)「その襲撃してきた、旅人のお二人さんは――」
「その〝時〟を操った」
二人が、声を揃えて言った。
.
- 760 :同志名無しさん:2013/02/08(金) 12:46:48 ID:1b3aj7Fc0
-
そして、補足するつもりなのか、ネーヨが付け加える。
( ´ー`)「昔っから、タイムマシンだの、タイムパラドックスだのが、SF作品で出てくるわな」
( ´_ゝ`)「……憧れたものさ」
( ´ー`)「タイムパラドックスたァ、意味わかるよな?」
「ああ」とアニジャが肯く。
ジョルジュ=パンドラと日頃よく一緒にいるせいか、そう云ったことに関しては自信があった。
( ´_ゝ`)「いまの未来から過去に遡ったとして、その過去で本来の現実と相反するようなことをしでかしたら、
現実の世界がおかしくなり、起こってなかった、もしくは起こるはずのない現象が起きてしまう――」
( ´_ゝ`)「まあ、そんなところだろ」
( ´ー`)「おめえ、理系だったっけ」
( ´_ゝ`)「……あ」
そこでアニジャは、はッとした。
しまった、口が過ぎたか――?
アニジャは、とある理由のもと、ジョルジュと行動をともにし、こうして『拒絶』と深い関係をもつことになっている。
が、向こう――『拒絶』は、アニジャとジョルジュの関係を知らないのだ。
自分たちの仇の仲間が自分たちと一緒にいる――なんてことが
彼らに知られたら、次の瞬間には惨劇が待ち受けることだろう。
アニジャとしては、なにがなんでも知られるわけにはいかなかった。
どう言い訳しようかを、考える。
しかし、ネーヨにとってはそれこそがどうでもよかった。
( ´_ゝ`)「ガキの頃に見たアニメの受け売りだ」
( ´ー`)「奇遇だな。俺も見てたよ」
だから、アニジャの言葉に、全く疑う心を持たなかった。
そうとは知らないアニジャは、うまくごまかせた、と胸を撫で下ろす。
.
- 761 :同志名無しさん:2013/02/08(金) 12:47:45 ID:1b3aj7Fc0
-
「で」、アニジャが促す。
忘れていたようで、ネーヨは微笑しながら、話を再開させた。
( ´ー`)「一方で、こんな説もある。〝時間の流れは川の流れと似ている〟ってな」
( ´_ゝ`)「あ、ああ」
( ´ー`)「つまり、タイムマシンで移動するってのは川を逆流するってなるが、これを〝別の川に入る〟と解釈する人もいる」
( ´ー`)「その川でパラドックスを引き起こすようなことをすると、本来の川には何の支障も生じねえが、
その川は未来が変わり、本来の川とは違う流れを見せる――とかよ」
アニジャは、確かにどこかで聞き覚えのある話だったので、肯いた。
〝時〟とは不思議なもので、概念しかないものだが、それを古来から多くの学者が調べてきたものだ。
そしてそれは、科学が進展し、《特殊能力》も進化しつつある現代でもなお、続けられている。
別の言い方をすると、そんなご時世になっているにもかかわらず、未だに〝時〟とは解明されていないのだ。
だから、いまのように、異なる二つの説が出てくる。
誰も体感できない、足を踏み入れることのできない次元の話だからである。
これら二つの仮説を、ネーヨはどう使いたいのか。
そう思っていると、しかし、ネーヨは逆接を挟んだ。
( ´ー`)「でもよ、はっきりと言えることはある」
( ´_ゝ`)「なんだ」
( ´ー`)「この時の流れってのは、川で表現すんのはお門違いってこった」
( ´_ゝ`)「――え?」
アニジャは思わず呆気にとられる。
いままでの話――有力と思われたり、有名である説――のどれもと、根本的に食い違う話だったからだ。
( ´ー`)「俺が表現すんなら、そうだな」
( ´ー`)「時の流れってのは、弾丸だ」
.
- 762 :同志名無しさん:2013/02/08(金) 12:48:35 ID:1b3aj7Fc0
-
( ´_ゝ`)「…弾…丸……。ピストルの、か」
( ´ー`)「ここで最初の話に戻るんだがよ」
( ´_ゝ`)「なんだ」
( ´ー`)「俺たちは、ふつーの人は、〝現在を生きている〟たァ言ったよな」
( ´_ゝ`)「言ったな」
( ´ー`)「つまり、だ」
ネーヨは咳払いをする。
ここからが核心だ――アニジャはそう思い、身構えた。
ネーヨの口が、開かれる。
( ´ー`)「その〝現在〟を踏み外すと、〝なにも存在しない次元〟へ直行するんよ」
( ´_ゝ`)「!」
( ´_ゝ`)「……すまない。俺は、こう見えても理系じゃないんだ」
( ´ー`)「わからねえか。まあそれもそうだわな」
ネーヨが苦笑を浮かべた。
確かに、いま自分がしている話は、解説なしでは誰も理解できないであろう話だ、と自覚しているのだ。
.
- 763 :同志名無しさん:2013/02/08(金) 12:49:36 ID:1b3aj7Fc0
-
( ´ー`)「そうだな。記憶や概念としての〝過去〟や〝未来〟はあるが、
そこに実在している〝過去〟や〝未来〟はねえってことだ」
( ´ー`)「そんなもんは昔の夢見がちな学者たちが打ち立てた説っつーだけで、実際は〝現在〟しか存在しない」
( ´ー`)「その〝現在〟から離れると、即座にその存在は消滅するっつーわけだ」
( ´_ゝ`)「……」
簡単に言われた、であろう話を聞いて、アニジャはそれを脳内で再構築した。
理系ではないと言っているアニジャだが、このような話は以前からジョルジュによくされているため、
いまネーヨから話された話を理解しようとするのは、さして苦ではなかった。
そして、閃く。
手を叩いて、アニジャは少し声をあげて言った。
( ´_ゝ`)「そうか、だから『弾丸』なのか」
( ´ー`)「わかったか」
( ´_ゝ`)「弾丸の軌道の最初から最後までが概念として存在する〝時間軸〟で、弾丸そのものが〝現在〟。
〝現在を生きる〟俺たちがその弾丸の上に乗っているんだとしたら、
そこから飛び降りたら消滅する……ってことだな?」
( ´ー`)「理解力がいいな。理系だろ、おめえ」
( ´_ゝ`)「俺は将来はギャンブラーになりたいんだ」
( ´ー`)「……おめえには向いてねえよ」
.
- 764 :同志名無しさん:2013/02/08(金) 12:50:39 ID:1b3aj7Fc0
-
二人がそこで冗談を言い合ったが、話の本筋としては、アニジャの言ったことが正しかった。
それを要約すると、ネーヨが言いたいのは、至極単純だった。
声を伴って息を吐き、本題に戻る。
( ´ー`)「――まあ、つまりそういうこった」
( ´_ゝ`)「じゃあ、旦那が言いたいのは――」
( ´ー`)「そ」
( ´ー`)「人が〝過去に戻る〟〝未来に進む〟なんざ、できねえってことだ」
( ´_ゝ`)「そうか……」
やっとネーヨの言いたいことがわかり、アニジャは心に深みを感じた。
が、肯いていたのはほんの一瞬。
アニジャは「あれ」と思った。
( ´_ゝ`)「ちょっと待ってくれ」
( ´ー`)「お」
( ´_ゝ`)「さっきの旦那の話を聞くと、その『英雄』の親や渋い男は、〝時を操った〟んだよな?」
( ´_ゝ`)「だとすると、いまの旦那の見解と、食い違うんじゃないか?」
ネーヨの見解は、時は〝現在〟以外存在しない、だ。
しかし時を操って彼らが動いたとするなら、どこか、話が違うような気がした。
が、ネーヨが本当に言いたいのはそこではなかったようだ。
.
- 765 :同志名無しさん:2013/02/08(金) 12:51:29 ID:1b3aj7Fc0
-
( ´ー`)「違え。逆だ」
( ´_ゝ`)「というと」
( ´ー`)「時の流れのある一点に人が飛び込むのは不可能。俺が言いたかったのはそれだけだ」
( ´ー`)「カゲキたちは、〝過去〟や〝未来〟から俺たちに干渉したわけじゃねえんだよ。
〝時間軸〟に我が身を適応させんのは、さっき言ったみてえに、できねえからな」
( ´_ゝ`)「……わかったつもりだったが、わからなくなった」
( ´ー`)「言い換えるなら、そうだな」
( ´ー`)「〝時間軸を、自分たちの思惑に無理やり適応させた〟」
( ´_ゝ`)「……?」
(;´_ゝ`)「………ッ!」
アニジャは顔を蒼くさせる。
能力社会――この場合の「能力」とは《特殊能力》を指す――に生きる者として、この話に畏怖を感じたのだ。
( ´ー`)「時間軸に好き勝手に都合をつけて、俺たちを攻撃したり、俺たちから逃げたりした。
だから、あいつらはショボンの言う『現実』にも、モララーの言う『嘘』にも縛られねえで逃げ出すことができたんだ」
(;´_ゝ`)「ッ!!」
ここで、話が冒頭に戻る。
女がショボンたちのスキルを受けてなお動くことができたのは、だからだ、と。
「スキルを受ける前」に時間軸を操って見せたのか、その時間帯だけを捻じ曲げて存在しなかったことにしたのか。
それは当人ではないから判断できない。
しかし、いまの説明で、冒頭のアニジャの疑問は、きれいさっぱりと拭われた。
そして同時に、やり場のない畏怖をも感じた。
アニジャの質問に答えられたからか、ネーヨは、当初アニジャにされた質問
――【集中包裹】と『拒絶』の関係――という本題の本題に、戻った。
.
- 766 :同志名無しさん:2013/02/08(金) 12:52:16 ID:1b3aj7Fc0
-
( ´ー`)「どんな理由かは知らねえが、カゲキたちは『能力者』を集めてる」
( ´ー`)「一方で、俺たち『拒絶』に関わった『能力者』は、カゲキたちだけだ」
( ´ー`)「そうすっと、そのクラッシュとやらはカゲキの手先で、カゲキが俺たちを調べている……となるかもしれないな」
( ´_ゝ`)「……な、なるほど」
平生を取り戻さないうちにそう言われたが、アニジャは辛うじて理解することはできた。
おかげで、胸にかかっていた霞を、ようやく払うことができた。
話しすぎて疲れたな、と思い、ネーヨと席を三つ空けたところに彼は座った。
が、酒を入れる釣瓶がないことに気づき、「『不運』だ」とつぶやいた。
仕方ないと諦め、アニジャはネーヨの横顔を見た。
( ´_ゝ`)「しかし、だ」
( ´ー`)「まだあんのか」
「すまない」と一言詫びるも、アニジャは続けた。
霞を払えたと思った先に、つっかえ棒があったのだ。
( ´_ゝ`)「カゲキたちは、あんたらのことを『能力者』だと勘違いした」
( ´_ゝ`)「旦那がいることは知らなかったってのも踏まえると、
どうもそいつらがあんたらを調べるとは思えねえんだよな」
( ´ー`)「誰が『拒絶』の情報を流したかは、だいたい予想がつくとして、だ」
( ´_ゝ`)「! 誰――」
「誰だ」と訊こうとしたが、ネーヨはとまらなかった。
そのせいで、そのことを聞くことはできなかった。
.
- 767 :同志名無しさん:2013/02/08(金) 12:52:54 ID:1b3aj7Fc0
-
( ´ー`)「二つの可能性がある」
( ´_ゝ`)「……ふ、ふたつ?」
( ´ー`)「一つ。やつらが誰かを探してて、その誰かが『拒絶』――いや、俺と、深い関係を持っていると思われる場合」
( ´ー`)「もう一つ。俺たちのなかに、カゲキらにとって相応しいスキルを持つやつがいることを、知った場合」
アニジャは深い意味こそわからなかったが、とりあえず肯いた。
言いたいことだけはなんとか理解が追いついていたからだ。
( ´ー`)「後者だとすっと、俺ぁ不安なんだよ」
( ´_ゝ`)「どうした、珍しい」
見せ掛けではなく、本当に不安らしき感情を抱いているようだったので、アニジャも不思議に思った。
相変わらずの不敵な笑みを見せつつ、猫背のまま、彼は言った。
( ´ー`)「ここで問題だがよ」
( ´_ゝ`)「なんだ」
( ´ー`)「俺たちのなかで一人だけ、時間軸をも操れるやつがいる。そいつぁ、誰だ?」
( ´_ゝ`)「……? ショボンじゃないのか?」
唐突の質問に、アニジャが戸惑う。
最初に浮かんだ答えは、ショボン=ルートリッヒ。苦しい『現実』を拒絶した、悲しい男だった。
彼はまさに「なんでもできる」のだから、答えとして不足はしない、と思った。
しかし、ネーヨはかぶりを振った。
アニジャは「あれ」と思った。
( ´ー`)「言うと思ったがよ、ショボンは違え。『現実』はすなわちなんでも、だと思うかもしんねえが、
『現実』と時間軸は一緒のようで、実は違う次元のもんなんだぜ」
( ´_ゝ`)「だとすると……」
.
- 768 :同志名無しさん:2013/02/08(金) 12:53:28 ID:1b3aj7Fc0
-
ネーヨは、ちいさく言った。
( ´ー`)「ワタナベ」
( ´ー`)「【手のひら還し】、ワタナベ=アダラプターだよ」
.
- 769 :同志名無しさん:2013/02/08(金) 12:54:21 ID:1b3aj7Fc0
-
◆
ゼウスは、視線をモララーに戻した。
そして同時に、一向にやってこないジョルジュたちに、憤りと不安とを感じた。
ひとつ、同盟を組んだ自分を敵の前に残して去ったことに対する、疑惑。
ひとつ、たまたまモララーが助けてくれたおかげでなんとかなっているが、
本来脱出不可能である『箱』に自分を閉じ込めたままにされたことに対する不満。
そして、戻ってくるとモララーとの死闘を余儀なくされるのだが、それを向こうはわからないであろうと云う危惧。
だが、その入り混じった感情を持つのも、ほんの数秒だった。
背後に、気配を感じたのだ。
言うまでもない。
どこかに消えた、ジョルジュたち五人だ。
なぜか不恰好に彼らは転んだが、ゼウスはなんとも思わなかった。
ただ、不時着しただけなのだろう、と思った。
時間にして、十分以上は経っていただろう。
彼らは、なにをしていたのだろうか。
ゼウスがわからなかったのは、その点だった。
なぜ戻ってきた、にはさまざまな理由が思い浮かぶが、そこがいまいち釈然としない。
ただひとつわかったのは、
( <●><●>)「(『作者』さんに……なにか、あった?)」
( ; ω )「……」
内藤がどこか、不調そうに見えたということだけだ。
.
- 770 :同志名無しさん:2013/02/08(金) 12:55:20 ID:1b3aj7Fc0
-
内藤はやはり、どこか苦しげな顔を浮かべていた。
が、先ほどまでいた空間では胸を鷲づかみしていた彼が、地上に降り立ったとたん、その手に入っていた力を抜いた、
そこから察するに、どうやら、やはりこの『異常』の正体は、あの謎の空間にあったとなるのだろう。
ジョルジュの推理は、大方あっていたことになる。
モララーとトソンも、すぐにそのことに気づいたようだ。
トソンは反応を少し見せた程度だったが、モララーは、露骨にうれしそうな顔をした。
. ジブン エ サ
『拒絶』を満たしてくれる獲物が、帰ってきてくれたからだ。
疑心に満ちているゼウスの横をとおり、やや早足で、モララーは彼らに近づいていった。
両手をポケットにいれて前かがみになっているなど、どこか不遜な態度が見られる。
それを見て、アラマキ=スカルチノフたちも、戦闘の開始の予感が脳裏によぎった。
アラマキ、ハインリッヒは即座に戦闘態勢に入る。
一方のシィは、そそくさと草陰に隠れた。
彼女は、戦闘の心得など、まさに皆無なのだ。
.
- 771 :同志名無しさん:2013/02/08(金) 12:56:43 ID:1b3aj7Fc0
-
/ ,' 3「待っておったとは、の。ご苦労なこった」
从 ゚∀从「嘘つきに相応しい、『劇の幕開け』だな」
( ・∀・)「『劇の幕開け』、か。そういやおまえ、俺に対して『優先』しようとは思わないんだな」
从;゚∀从「…ッ!」
モララーの何気ない疑問に、ハインリッヒは動揺を抑えることができなかった。
まさに虚を衝かれた感じがして、どきッとしてしまった。
・ ・
ハインリッヒは、ワタナベの手によって、『優先』のできない『英雄』――つまり、凡人に格下げさせられてしまった。
だが、それは一部の人しか知らない、極秘情報だ。
同盟のなかでも《特殊能力》の面では一番の強さを誇る【正義の執行】――が、弱体化している、ということは。
知られてしまうと、それは、情報アドバンテージにおいて、多大なハンディを背負うことになる。
いまはモララーは知らないため、こうして虚勢を張ったり牽制をしたりできるのだが、それすらできなくなる。
ハインリッヒは、どうしようか、と悩んだ。
しかし、悩むことそのものがだめであることに気づき、すぐにまた虚勢を張った。
どちらが「嘘つき」なのか、わからなくなったときだった。
从 ゚∀从「それでも『嘘』にはかなわない、ってわかってるからな。私は、実利主義なんだ」
( ・∀・)「おお、よぉぉくわかってんじゃねーか。そうだ、そうだよ」
( ・∀・)「俺は、【常識破り】なやつだ。おまえの能力も、破ってやるぜ」
.
- 772 :同志名無しさん:2013/02/08(金) 12:57:24 ID:1b3aj7Fc0
-
从 ゚∀从「能書きは結構だ。なんだ、結局いまからおっぱじめんのか?」
( ・∀・)「よっしゃ――」
(゚、゚トソン「そうはさせませんよ」
( ・∀・)「――チッ」
すかさず、トソンが後ろからやってきては、モララーの肩に手を置いた。
気を抜けば、その箇所にかかる圧力が数兆や数京にものぼり、あっという間に自分の躯はぺしゃんこにされるだろう。
モララーにとってはそれはなんてことない負荷なのだが、負荷なんかを差し置いても、〝モララーはそうされたくないと思っていた〟。
だからか、トソンがいることを思い出すやいなや、先ほどまで発していた殺気はなりをひそめた。
ポケットから出し、殴りかかろうとしていた両手を、後頭部に回した。
後頭部で手を組み、つまらなさそうな顔をする。
/ ,' 3「かの大嘘つきも、オンナにはかなわん、か」
( ・∀・)「そんなんじゃねーよ。ただ、気分の問題だ」
从 ゚∀从「気分とかどうでもいいから、ヤるつもりがねえんならとっとと帰ってくれねぇか。
テメェら見てるだけで、胸クソ悪くなんだよ」
( ・∀・)「さて、どうしようか――な―――?」
ハインリッヒに言われて、モララーは飄々とした態度で答えた。
いや、答えようとした。
視線を少し横にずらしたとき、モララーは、ハインリッヒたちの後方に男がいるのを見つけたのだ。
脚の脛にまでのびる白衣を羽織り、不機嫌そうな顔をしている、男。
ジョルジュ=パンドラ、を。
.
- 773 :同志名無しさん:2013/02/08(金) 12:57:57 ID:1b3aj7Fc0
-
自分で言葉を遮って静かになったモララーを見て、ハインリッヒは「なんだ」と思った。
どうしたのだ、と訊こうとすると、我に返った彼は、それも遮って言葉を発した。
( ・∀・)「予定へんこーう」
从 ゚∀从「は――」
ハインリッヒが聞き返そうと思った瞬間。
モララーは砂埃を撒き散らしながら、ハインリッヒとアラマキの間を通り抜けて更に向こうに駆けていった。
不意を衝かれたことにより反応できなかった二人が、遅ればせながら、振り返る。
ゼウスやトソンも、反応できたのは彼ら二人と同じタイミングだった。
モララーは、後ろのほうにいたジョルジュめがけて、鋭い蹴りを見舞おうとした。
よく使っていた拳を使わなかったのはハンディのつもりではない。脚のほうが速かったのだ。
しかし、不吉な音はいつになっても聞こえてこなかった。
それどころか、ジョルジュの声が聞こえてきた。
_
( ゚∀゚)「穏やかじゃねーな。えっと……あ、検体ナンバースリーの、モララー」
( ・∀・)
ゼウスやハインリッヒの不意打ちをなんなく防ぐ彼にとっては、モララーのそれも、さして脅威ではなかったようだ。
研ぎ澄まされた反射神経が、ジョルジュの持つ【未知なる絶対領域】の強さに拍車をかけたのか。
モララーは、即座に『パンドラの箱』に押し込まれた。
それは、数秒間の間空中で止まった彼を見れば、明白だった。
が、それを見て安堵の息を吐くものは誰ひとりとして、いない。
その場にいる皆は、わかっていたのだ。
――『常識破り』に、その程度のワザは通じない、と。
.
- 774 :同志名無しさん:2013/02/08(金) 12:59:07 ID:1b3aj7Fc0
-
( ・∀・)「……相変わらず、面倒なやつだ」
(#・∀・)「おまえはよォ………ッ!!」
/ ,' 3「!」
モララーが『嘘』を吐いて『パンドラの箱』から脱出する。
アラマキは驚きを見せたが、脱出劇を見たから、ではない。
モララーの顔が、いきなり豹変したのだ。
額に血管が浮かび、筋肉が強張る。
そのせいで声帯も窮屈になり、放たれる声は低く、小さく、震えたものとなる。
歯も食いしばり、ぎりぎり、と音をたてていた。
嘗てのワタナベのように、モララーの気性が変わったため、アラマキやハインリッヒは驚いた。
トソンも、そのときのモララーの顔を見て、少し後ずさりをしたほどだ。
(#・∀・)「ひっさびさに……それに閉じ込められたせいで……」
(#・∀・)「思い出したくねーことを、次々に思い出しちまったじゃねーか……てめえ………ッッ!」
_
( ゚∀゚)「思い出はダイジにとっときな。老後の楽しみになるぜ」
( # ∀ )「 」
モララーが急に憤怒した理由、それは。
『パンドラの箱』に閉じ込められたせいで、過去のトラウマや『拒絶』化したときのことを、思い出してしまったから、だった。
クールだったりユニークに振る舞ってきていたモララーが怒りを見せるほどには、その過去は、すさまじいものだった。
が、それをジョルジュに笑われて、モララーの額の血管が弾けた音が聞こえたような気がした。
口を開くも、声が出てこない。
一方で、全身の筋肉が強張ってくる。
歯茎が悲鳴をあげ、歯の表面がだんだんと削れてきた。
その圧倒的な『拒絶のオーラ』と威圧感と殺気に、ほかの人は動こうにも動けなかった。
怯んだというよりは、モララーの放つその三つのせいで金縛りにあった、そんな状態となっていた。
.
- 775 :同志名無しさん:2013/02/08(金) 12:59:52 ID:1b3aj7Fc0
-
( # ∀ )「 」
_
( ゚∀゚)「……チッ」
モララーがジョルジュに飛び掛る。
しかし冷静な判断を欠いているせいか、隙だらけで、ジョルジュは能力を使わずとも避けることができた。
勢いを殺せないモララーは、そのまま、放射状を描いたのちに地面に倒れた。
続けて一陣の風が吹いた。
鳴る木の葉を聞いて、トソンは我に返った。
モララーの身になにが起こったのかはわからないが、とにかく彼を止めなければならない、と思った。
能力は使わず、駆け足でモララーに近寄る。
モララーは、のっそりと起き上がり、ジョルジュのほうに躯を向けるだけだ。
トソンは彼の正面に立ち、両肩を手で押さえつけるようにして、向き合った。
モララーの顔やすさまじい力に怯えそうになるが、トソンはそれをぐッと我慢する。
ゼウスやアラマキたちは、未だに、動こうと思えなかった。
普段威圧などされないゼウスではあるが、このときは、唾を呑みこむことくらいしかできなかった。
力を籠めようにも、それを『拒絶のオーラ』に吸い取られていくような、そんな――
(゚、゚;トソン「モララー!」
( # ∀ )「 」
(゚、゚;トソン「どうしたの、急に!」
( # ∀ )「 …… 。」
( ∀ )「 ……、… … 。」
トソンが必死に彼を宥めようとする。
それが伝わったのか、はたまた動けないことに気づいただけか、モララーは呼吸を落ち着かせていく。
少しすると、伏せていた目を、開けた。
それに、トソンも応じる。
.
- 776 :同志名無しさん:2013/02/08(金) 13:00:22 ID:1b3aj7Fc0
-
(゚、゚トソン「モララー……?」
( ・∀・)「………なんだよ」
(゚、゚トソン「いまここで彼を殺しても、空しくなるだけです。落ち着いて」
( ・∀・)「俺は落ち着いてるよ」
(゚、゚トソン「ほんとうにあなたは嘘つきね。あんなでたらめな蹴りを見せといて」
( ・∀・)「……」
(゚、゚トソン「…?」
モララーが急に、黙る。
トソンが首を傾げると、モララーは口を開いた。
( ・∀・)「………おまえは」
(゚、゚トソン「?」
( ・∀・)「おまえは、あの白衣のヤローを見て、なんとも思わねーのかよ」
(゚、゚トソン「……? …?」
( ・∀・)「あいつに、俺は一度、殺された。数えるのも面倒になるほどの、トラウマを植えつけられた。
そして、『拒絶』なんて存在に、俺はなっちまった」
( ・∀・)「おまえは……違うのかよ、トソン」
(゚、゚トソン「………っ」
.
- 777 :同志名無しさん:2013/02/08(金) 13:00:52 ID:1b3aj7Fc0
-
/ ,' 3「……何がはじまっとると言うんじゃ」
( <●><●>)「静粛することだな」
/ ,' 3「なに?」
( <●><●>)「私たちが思っているよりも、『拒絶』は複雑、ということだ」
トソンは、先ほど、モララーから『拒絶』と『パンドラの箱』の関係について聞かされた。
それといまの言葉とを統合して、モララーの言いたいことがわかった。
同時に、自分のことを考えて、トソンは心臓の鼓動が速くなった。
アラマキが不審に思うが、なにも言うことができなかった。
急に離し始めた二人で、隙だらけだ。
しかし、その背後から襲い掛かることは、できなさそうだった。
モララーに訊かれたが、トソンは、明確な答えをしようとはしなかった。
その代わりに、彼女は別のことを言った。
(゚、゚トソン「……またいつか。話す機会があれば、話すから」
( ・∀・)「………」
モララーは黙って、トソンの眼、瞳の奥を覗き込む。
『拒絶』のなかでも『異常』な存在、トソン。
その過去は、トソン当人も、彼女のことを知っているネーヨも、話してくれない。
だから、彼女が『パンドラの箱』やジョルジュに対して狂気じみた拒絶を見せない理由も、わからない。
ほんとうの『拒絶』なら、それくらいはしそうなのに。モララーは思った。
しかし、いま、トソンの瞳は澄んでいた。
日頃からモララーを杜撰に扱っているトソンではあるが、このときは、真面目な顔つきをしていた。
それがわかったモララーは、ふん、と鼻を鳴らして、全身の強張った筋肉から、力を抜いた。
.
- 778 :同志名無しさん:2013/02/08(金) 13:01:33 ID:1b3aj7Fc0
-
( ・∀・)「おまえも、なかなか面倒な性格、してんな」
(゚、゚トソン「あなたには負けます」
そう嫌味ったらしく言って、モララーは彼ら――ハインリッヒたちのほうに向いた。
怪訝な顔のアラマキ、何かを察しているゼウス、困り顔のハインリッヒ、倦怠な顔を浮かべるジョルジュ。
隅っこのほうで顔だけを覗かせるシィに、地面にうずくまる内藤。
いつものモララーなら、ジョルジュを見ただけで発狂しかねないのだが、
なぜかこのときは、平生を保って口を利くことができていた。
その理由がトソンにあるであろうことを、モララーは皆目見当がつかないでいた。
( ・∀・)「本当は」
从 ゚∀从「……?」
( ・∀・)「本当は、今すぐおまえたちをブッ殺したいんだぜ。本当だからな」
( ・∀・)「でも。なーんか、気分が削がれた。だから、帰るわ」
从 ゚∀从「……………」
モララーが、ポケットに突っ込んだ左手の代わりに右手をあげて、そう言う。
が、その間、ハインリッヒたちの間で、そう言われて顔の筋肉を和らげた者はいなかった。
三人とも、懐疑的な顔をして、モララーの動向をじっと見つめている。
モララーはくすぐったい感じがして、微笑した。
やっぱり、信頼されないんだよなあ、俺――そう思って。
.
- 779 :同志名無しさん:2013/02/08(金) 13:02:09 ID:1b3aj7Fc0
-
( ・∀・)「確かに俺は【常識破り】さ。宣戦布告を破って強襲するほどには、な」
( ・∀・)「でも、さすがの俺も分別はつけるさ」
从 ゚∀从「……分別?」
そこでようやく、ハインリッヒが反応を見せる。
モララーは「おっ」と思い、ハインリッヒに向けて言葉を返した。
( ・∀・)「トソンがこんなだから。さすがに無視してたら、あとあと面倒なことになりそうだ」
(゚、゚トソン「どういう意味よ」
从 ゚∀从「……」
モララーが自然にそう言い、トソンも自然な形で横から割り込む。
だが、それを聞いてもやはり、ハインリッヒたちの心から疑心が抜けることはなかった。
むしろ、疑心暗鬼に拍車がかかり、いまから戦闘がはじまるのだ、と確信に近い予想をたてていた。
そんな三人の相手をすることすら無益のように思えたのか、モララーは浮かべた微笑を消した。
無表情になって、『拒絶』に稀に見られる冷たい声を放つ。
.
- 780 :同志名無しさん:2013/02/08(金) 13:02:45 ID:1b3aj7Fc0
-
( ・∀・)「……じゃあ」
/ ,' 3「………」
( ・∀・)「俺、帰るわ」
( <●><●>)「………」
( ・∀・)「明日、楽しみにしてんぜ」
_
( ゚∀゚)「………」
( ・∀・)「じゃあな」
そのとき、モララーの後ろのほうの草むらから、音が聞こえた。
.
- 781 :同志名無しさん:2013/02/08(金) 13:03:31 ID:1b3aj7Fc0
-
◆
( ´_ゝ`)「ワタナベ、か」
アニジャは、納得した。
あらゆるものを『反転』する彼女は、時の流れをも、『反転』することができる。
言われてみて改めて考えると、彼女以外にこのクイズの答えにおける適任が、いないようにも思えた。
( ´ー`)「正直、ゼウスたちに殺られるまでは、気が気でなかったぜ」
( ´_ゝ`)「なぜだ?」
( ´ー`)「深い理由じゃあねえ。ただ、あいつも『拒絶』だからよ。
『拒絶』が『拒絶』でなくなっちまいそうで、むなしい感じがしたんよ」
顔色をおとなしくさせて、ネーヨは答えた。
だが、言うほど、彼女のことを想っていたわけではなさそうだ。
ただなんとなく、ワタナベが引き抜かれるのをおそれていただけのようだ。
しかし、その程度だったとしても、あのネーヨが他人を想うことが、アニジャにとってはおかしいように思えた。
だから答えられてもなお、アニジャは訝しげな顔をする。
ネーヨは溜息を吐いた。
( ´ー`)「なんでだ? 死んじまったりしたならまだ諦めがつくが、ヘッドハンティングだぞ。
俺かて、一応人間なんだ。思うところはあるわ」
( ´_ゝ`)「……そういう、もんなのか」
( ´ー`)「おめえならわかると思ったんだがよ」
わからないアニジャを見て、ネーヨが肩を落とす。
しかし、これは感性の問題だ。わからないなら、仕方がない。
そう思って、説得をするのを諦めた。
そこで、ふとネーヨは手を叩く。
.
- 782 :同志名無しさん:2013/02/08(金) 13:04:05 ID:1b3aj7Fc0
-
( ´ー`)「あ、逆か」
( ´_ゝ`)「逆?」
( ´ー`)「おめえなら、よけいにわかんねえ問題だわな」
( ´_ゝ`)「?」
なんだと思い、アニジャが疑問符を浮かべる。
ネーヨは平生のまま、変わらない語調で続けた。
――話の雰囲気が一気に重くなるのに、表情はおろか、声色すら変えない。
ネーヨがそんな男であることを、アニジャは、すっかり忘れていた。
( ´ー`)「『拒絶』の天敵と手を組んでんのに、『拒絶』と仲良しこよしなおめえじゃあ、な」
.
- 783 :同志名無しさん:2013/02/08(金) 13:05:07 ID:1b3aj7Fc0
-
(;´_ゝ`)「―――ッ!」
( ´ー`)「おい、どこに行く」
ネーヨが、言った。
その瞬間、体中の毛穴が逆立ち、汗が噴き出し、目がすっかり冴えていった。
自分の身にかかる重力が、とたんに強くなったような気がする。
背中も冷たくなるし、いま、自分が走っていることを、アニジャは理解するのに時間がかかった。
ネーヨの言葉と同時に、アニジャは、本能的に席をたち、バーボンハウスから飛び出したのだ。
なぜ、本能がそんな行動を指示したかは、正確にはわからなかった。
だが、とにかく、いまの言葉が聞こえた瞬間、アニジャのネーヨに対する耐性が、すっかり消えてしまったのである。
同時に、向こうも向こうで『拒絶のオーラ』を発したのだろうが、そうしなくとも、アニジャはこうして逃げ出していたはずだ。
バーボンハウスを飛び出し、獲物を待ち構えるくもの巣のように張り巡らされている裏通りを、駆け抜ける。
その間、アニジャは、ひとつのことしか考えていなかった。
―――どうして、ばれてしまったんだ!
そのことがわかった瞬間、自分の命の保障がなくなったように感じた。
いわば、自分は、裏切りの身なのだ。
決して『拒絶』たちに不利益を蒙らせるつもりではなかったが、彼らに言わせてみれば、裏切り以外のなにものでもない。
モララーを見ればわかるように、『拒絶』は、トソンを除いて、皆あの男にとてつもない拒絶を抱いている。
マッド・サイエンティスト、ジョルジュ=パンドラ。
『拒絶』というものを生み出してしまった、張本人に。
そしてアニジャは、ネーヨが言ったように、ジョルジュとただならぬ関係を築いているのだ。
ジョルジュが嘗て放った言葉――その名も《異常体質》。それが、全てを物語っている。
加えジョルジュは、アニジャに『拒絶』の観察を指示している。
これは言い換えると、『拒絶』計画に加担していることを表す。
『拒絶』計画に〝殺された〟『拒絶』たちが、はたしてその計画に一枚噛んでいるアニジャを、好く思うだろうか。
それどころかむしろ、憎悪の対象とすらなるだろう。
『拒絶』にとっての拒絶すべき対象とされてしまえば、嘗てのハインリッヒやゼウスのように、
目もあてられない、悲惨な、拷問とも呼べるそれがはじまってしまう。
そして、ネーヨも『拒絶』のひとりだ。
彼は『パンドラの箱』に携わっていないが、だからといってアニジャのことをなんとも思わない、が通じるわけもないだろう。
以上を統合すると、そのことがばれてしまったアニジャがとれる行動は、ただ逃げる、しかなかった。
.
- 784 :同志名無しさん:2013/02/08(金) 13:05:45 ID:1b3aj7Fc0
-
一方のネーヨは
( ´ー`)「……ったく。面倒なやつだ」
そうごちて、深く、呼吸をした。
弄んでいた空のジョッキを、コト、とカウンターに置く。
( ´ー`)「俺は、別におめえのことはなんとも思っちゃいねえ」
( ´ー`)「だけどよ、ほっといたら、モララーがおめえをグチャグチャにしちまうだろ」
( ´ー`)「だとすっとよ、俺に殺される方が、おめえにとってもいいわけなんだよ」
( ´ー`)「いつかはこのことを話して、俺に殺されてもらおうと思ってたんだがなあ……」
誰もいなくなったバーボンハウスで、ネーヨが独り言をつぶやく。
まるで、後ろにアニジャがいて、その彼に語りかけるかのように。
( ´ー`)「しかたねえな」
ネーヨは、重い腰をあげて、地に足を踏みしめた。
首の関節をこきこきと鳴らして、言う。
( ´ー`)「寄り道になっちまうが」
( ´ー`)「ゼウスたちを殺す前に、おめえを……」
.
- 785 :同志名無しさん:2013/02/08(金) 13:06:28 ID:1b3aj7Fc0
-
. アンラッキー
( ´ー`)「【 7 7 1 】を、殺させてもらう」
( ´ー`)「甘受しな」
.
- 786 :同志名無しさん:2013/02/08(金) 13:15:04 ID:1b3aj7Fc0
- ここ数日の目次
>>534-581 第二十三話「vs【常識破り】Ⅳ」
>>584-625 第二十四話「vs【常識破り】Ⅴ」
>>629-663 第二十五話「vs【常識破り】Ⅵ」
>>667-702 第二十六話「vs【常識破り】Ⅶ」
>>709-746 第二十七話「vs【771】Ⅳ」
>>754-785 第二十八話「vs【771】Ⅴ」
ミステリーブームが私のなかで再燃焼をはじめて、最近新作を書き始めたわけで
パラレルワールドは三十一話を投下すると少しお休みするかもしれません
が、三十一話がちょうどクライマックス直前の話で、きりはいいのでご安心ください
というわけで、三日もお待たせしてすみませんでした
- 787 :同志名無しさん:2013/02/08(金) 20:05:14 ID:UnNaiTTQ0
- ヤバイ滅茶苦茶好きだわこういう展開。乙。
- 788 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 21:40:15 ID:Od7z4gzA0
-
「……? なんだ、おまえ」
キリヒラ
「俺か? ……フン。世界を『開闢』く者だ」
「………ップ」
「?」
「ギャーッハッハッハッハッハッハハハハハハハハッッ!!
. な、なんだおまえ! いきなり笑わせるんじゃねーよ! ギャッハハハハハハ!!」
「おう、笑え笑え」
「―――ッ。おい、ちょっと待て」
「なんだ」
「どうして……俺と、向かい合っていられる?」
「はァ?」
「俺の声を聞いて、どうして、そんな平気なツラしてられんだ?」
「……なんだ、そんなこと」
「………おい。答
「あーあーうるさい。
. お前は、黙って、そこに入ってりゃーいいんだ」
「なあ、返事は?」
「――なーんて、な。できるわけ、ねえよ」
「検体ナンバースリー……えっと、モララー=ラビッシュ」
.
- 789 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 21:40:51 ID:Od7z4gzA0
-
○登場人物と能力の説明
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
(゚、゚トソン 【???】
→時や力を『操作』した『拒絶』の少女。
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
_
( ゚∀゚) 【未知なる絶対領域《パンドラズ・ワールド》】
→存在してはならない『領域』を創りだす《特殊能力》。
( ´_ゝ`) 【771《アンラッキー》】
→『不運』を引き起こすが、『能力者』でも『拒絶』でもない男。
(*゚ー゚) 【最期の楽園《ラスト・ガーデン》】
→『楽園』を『保守』し、そちらにワープする《特殊能力》。
.
- 790 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 21:41:23 ID:Od7z4gzA0
-
○前回までのアクション
( ・∀・)
(゚、゚トソン
→撤退を見せる
_
( ゚∀゚)
从 ゚∀从
/ ,' 3
( <●><●>)
→モララーたちと対峙
( ^ω^)
(*゚ー゚)
→傍観
( ´_ゝ`)
→ネーヨから逃亡
( ´ー`)
→アニジャを追跡
.
- 791 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 21:42:02 ID:Od7z4gzA0
-
第二十九話「vs【771】Ⅵ」
アニジャは走った。
途中で転んだり、上から壁の破片が落ちてきたりと『不運』に見舞われたが、
一歩道を踏み外せば即死すらあり得る裏通りで、彼が迷うことはなかった。
それは、裏通りに通いなれているというのもあるのだろうが、
裏通りなんかよりも更に恐ろしい存在――ネーヨ=プロメテウスが背後にいるから、もあったのだろう。
つい数分前までは、和やかさが伴っていたかは別として、ごく平凡な会話を交し合っていた仲だ。
ネーヨはアニジャの実態を知らないだろうと思っていたし、アニジャ自身もネーヨに対しなんとも思っていなかった。
それが、ネーヨのほんの一言で、ここまで――本来在るべき関係まで――関係が一変するなど、考えられただろうか。
腐った死体やそれに群がる見たことのない虫。
嘔吐された跡が生々しく残っている街灯の足元。
その街灯のランプは当然の如く割られており、そのなかに蜘蛛が巣を張り巡らせていた。
そこには見るからに毒々しい蛾の、無残にも食い散らかされた姿が見受けられる。
その蛾と未来の自分とが重なって、アニジャは寒気がした。
よけいなものは見ないようにして、ただとにかく走り続ける。
目的地など、特に考えていない。ただ、ネーヨが知らなさそうな場所だ。
ネーヨが本気を出せば、どこに向かってもすぐに身元が割れ、襲われるのだろうが。
そうだとしても、可能性のある道を、アニジャは選びたかった。
ふと、脳内に、ジョルジュの研究所が浮かぶ。
そうだ、あそこに何かネーヨから逃れる打開策が眠っているかもしれない。
『拒絶』のデータや過去の観察日誌のなかに、いい情報が隠されているかもしれない。
そう思うと、いつの間にか、足取りはジョルジュの研究所のほうへと向けられていた。
ジョルジュの研究所は、ここから駆け足で向かっても三十分はかかるだろう。
人目に触れられない――そもそも、人の寄り付きそうにない場所に建てられているからだ。
それまでに、足がやられるだろうか。
それとも、ネーヨに追いつかれてしまうだろうか。
もしかすると、この裏通りに迷って命が喰われるかもしれない。
さまざまな可能性が脳裏を掠めるが、アニジャは諦めなかった。
いつ『不運』が起こるか、わからない。
ルーレットにも似たその『不運』の行く末に、自分の無残な死がないことを、ただ祈るしかなかった。
祈るだけではだめだから『不運』だと言うのに。
.
- 792 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 21:42:36 ID:Od7z4gzA0
-
だんだんと、裏通り特有の薄暗さが晴れてきた。
ここからはしばらく、森が続く。
西に向かえば嘗てジョルジュと偶然出くわした廃墟が見えるのだが、向かうのは北東だ。
さっそく悲鳴を上げ始めた膝の皿に鞭を振るい、自分も奮い立てる。
走っている間は、死――いや。死ではない。「拒絶」だ。
拒絶と隣り合わせに在る自分を実感し、ただ冷や汗を流すことしかできなかった。
いくら自分の持つ力が「運」にまつわるものだからといって、その運ひとつでネーヨから逃げられるとは思わない。
つまり、こうしていま自分は逃げているが、それも無駄。彼は、そう、自分でわかっていた。
しかし、だからといって足を休めるわけにはいかない。
その間、なぜ自分の実態がばれたのかを、彼は考えはじめた。
が、それもすぐにやめた。
相手はネーヨだ。最初から気配でなんとなく察していたのか、もしくは『英雄』の親とされる存在から聞いたのか。
ネーヨのことだから、知る方法や察しのつく機会はかなりあったのだろう、
それにいまさらそれを知ったところで、いまのアニジャにはなんの変化も訪れないのだ。
無駄な考察は諦めて、とにかく、走り続ける。
走ってばかりだ、と、アニジャは自嘲したい気分になった。
だが、そう思うのも当然だった。
アニジャは、『不運』を引き起こす。
それはどんな人が相手であれ通用する、強力には違いないものだ。
だが、それは所詮運であるし、それ以上に、彼は大した格闘技術を身につけていないのだ。
そこらにいるアウトロー相手なら互角に闘いあう程度の力こそ持っているが、
モララーやハインリッヒなどの本格的なファイターには適いなどするはずがない。
結果、アニジャは、必然的に逃げることを選択する機会がほかと比べ圧倒的に多くなる。
走ってばかりで、当然なのだ。
.
- 793 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 21:43:08 ID:Od7z4gzA0
-
――とそこで、ふと、アニジャは速度を緩めた。
だんだんと、見ない景色が眼前に広がってきたからだ。
辺りをきょろきょろとしながら、現在の状況を、必死に脳内でまとめる。
五キロメートルほど走っただろう。
走るのをやめたとたんに溢れてきた汗と、それに伴う発熱作用がそれを物語っている。
しかし、そのわりには、既に見覚えのない場所に立っていた。
(;´_ゝ`)「おかしいな……確かにいつもの道できたのだが……」
ジョルジュの研究所は、切り立った崖の、中にある。
崖の中腹にある入り口は、鬱蒼とした森林が隠している。
日光すら入ってくるのを許さないので、入り口を見つけ出すには慣れが必要だ。
それを踏まえても、ネーヨの追跡を振り切るのに相応しい場所だと思っていたのだが――
根本的に、その崖が、見つからない。
昔に起こった地殻変動でできあがった崖で、それそのものは遠目からでも視認できる。
しかし、それすら、いま立っている位置からでは、見つけることができなかった。
もう見えるはずなのに――
(;´_ゝ`)「ッ! こんなときに……!」
原因は、すぐに判明した。
アニジャに言わせてみれば、いまさら触れるまでもないことだった。
. アンラッキー
ただの『 不 運 』。
.
- 794 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 21:43:52 ID:Od7z4gzA0
-
(;´_ゝ`)「――クソッ! アイツを殺すまで、死ぬわけには―――」
アニジャが自分の運命――こんな『不運』を身につけてしまった――をいまさら恨み、しゃがみこんでは地を殴った。
そちらに気をとられ、膝の痛みや肺の活発な呼吸運動の苦痛を、感じなくなった。
顎や髪を伝って、汗が乾いた砂地に滴り落ちる。
涙や雨にも似た、まだら模様がそこにできあがった。
どうすればいい。
そう思って立ち上がろうとしたとき、アニジャは後ろから、声をかけられた。
「アイツって、誰だ?」
(;´_ゝ`)「ッッ!」
.
- 795 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 21:44:24 ID:Od7z4gzA0
-
咄嗟に振り返る。
声の主は、振り返るまでもなく、その声色と、彼が発しているオーラでわかった。
筋骨隆々で、しかしクールな――その実はなにも受け付けてないだけの――顔色を浮かべる、男。
自分の知る限りでは、彼以上に強い者など存在するはずがないと言える、『拒絶』。
振り返って、彼の、おそらく最後になるであろうその姿を、見納める。
やはり、はじめて会った頃と変わらぬ、彼らしい姿であった。
ジーンズに白いシャツと、ラフな恰好で。
角刈りで、洒落っ気にまるで興味を示さない、白と薄橙の中間のような肌を持つ。
どこにでもいそうな風貌と、決してほかにはいないオーラとを携える、
( ´ー`)「これでもおめえのことは嫌えじゃねえからよ、置き土産として聞かせてほしいわ」
(;´_ゝ`)「………、……くそ…」
――ネーヨ=プロメテウス。
別名、『オール・アンチ』。
.
- 796 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 21:45:07 ID:Od7z4gzA0
-
◆
動いたのは、ハインリッヒだった。
モララーの背後に、ハインリッヒは脅威を感じた。
相手が【常識破り】で、過剰な警戒をしていたからこそ感じた、脅威だ。
草陰が、動いた。
決して風がもたらす揺れではない。
そこに何かが隠れているという、人為的な揺れだった。
いくら『英雄』の資格を剥奪されていても、持ち前の脚力は健在だ。
地面を蹴って瞬間的に加速し、モララーの横を縫うように駆け抜ける。
その速さと唐突さに、不覚にもモララーは対応することができなかった。
草陰まで、十メートルを切った。
目と経験則でだいたいの的を定め、そこに向かうように跳び蹴りを図る。
超低空で、走っているとなんら変わらないような、横に平行移動でもしているかのような跳び蹴りだ。
それは槍のように鋭く、実際、槍のように着地点を抉るのだろう。
ハインリッヒは、実際はそれが全くの脅威でなく、またモララーと関係がなかったとしても、
その不確定要素を、なんとか芽吹かないうちに摘み取っておきたかった。
そしてそれは、彼女だけに関わらず、アラマキやゼウスにも、通じるところがあった。
彼らも、不自然な草の揺れは、感じ取っていたのだ。
トソンとモララーは、そういったことには長けていないのか、そのことには気づかなかった。
ハインリッヒが飛び出したのを見て、咄嗟に振り返ることしかできなかった。
槍と化したハインリッヒの、その先を見定める。
なんてことのない、茂みだ。
そこにいったい、なにが―――
.
- 797 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 21:45:42 ID:Od7z4gzA0
-
すると直後、ハインリッヒが喰らいつく寸前、茂みにまたも変化が現れた。
いや、変化ではない。
〝そこから、音の主が飛び出してきた〟。
それは、ハインリッヒの懸念とは違って、ただの、小動物だった。
茶色の毛並みで、ひときわ大きな耳が特徴的な――
▼・ェ・▼「!」
从;゚∀从「ッ?」
(゚、゚;トソン「――ッ! 待って!!」
現れた正体にモララーの策略がなさそうだと察したハインリッヒだが、その槍の軌道を、いまさら変えることはできない。
しまった、無駄に動いてしまった――その程度しか、ハインリッヒには、考えるところがなかった。
しかし。その後ろのほうで、動いた人がいた。
トソンが、ハインリッヒと同じようにその小動物の正体を見つけた瞬間、目を疑った。
小動物――そう、ビーグルが。
バーボンハウスに置いてきたはずのビーグルが、こんなところに、やってきたからだ。
そしてそれは、自分を追いかけてきたものであることを、すぐに理解した。
その証拠に、茂みから顔を出したときのビーグルは、尻尾を振っていた。
.
- 798 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 21:46:16 ID:Od7z4gzA0
-
トソンは、無駄だとわかっていても、制止しようとした。
自身の能力を使えばまだ間に合ったかもしれないが、突然現れたビーグルと、
それに喰らいつこうとするハインリッヒを前に生まれた焦燥と動揺が、トソンの制止を妨げた。
だから、ただ立ち尽くして、その情景を見届けることしかできなかった。
そんなトソンは、右手だけを前に伸ばしかけ、走り出そうとしたまま、固まっている。
視覚情報が伝える、目の前の、ハインリッヒの跳び蹴りの様子が、スローモーションのように映し出される。
そして
从;゚∀从
(゚、゚トソン
◎、
`' 。
▼,.`ラ,、*ィ
゙゚▲
.
- 799 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 21:46:48 ID:Od7z4gzA0
-
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン
ビーグルは、ハインリッヒの蹴りを喰らって、なおも原型を保てるはずがなかった。
それどころか、文字通り、木っ端微塵になってしまった。
ちいさな血飛沫があがる。同時に、内臓が多く、噴き出される。
骨も粉々に砕かれたようで、氷の結晶のように、それらが舞い上がっては、乾いた地にぱらぱら、と降り注がれた。
その雪は、赤黒く染まったものもあるし、本当に真っ白なものもある。
宙にいた状態から、ハインリッヒは不恰好に着地した――いや、地に転がった。
モララーの策略が絡んでいると思っていた矢先で虚を衝かれたため、体勢を崩したのだ。
その調子でビーグルへの蹴りも外していれば、まだ救いようはあったのかもしれないが、そこは小説のようにうまく行くことはなかった。
ハインリッヒが、状況を理解できないまま立ち上がるが、
その間、この場にいる人のなかで、誰一人として言葉を発したものはいなかった。
一方で、最初に動きを見せたのは、トソンだった。
走りかけのまま止まっていたところから、再開するかのように、彼女は走り出す。
が、全力疾走ではなく、力の抜けた様子で、ぱたぱたと駆け寄る。
「なにがあった」と混乱し、戸惑っているハインリッヒを無視して、トソンは、その砕け散った残骸を前に、しゃがみこんだ。
ハインリッヒとトソンに面識はないのだが、このときのトソンの表情が虚無一色で
気味悪く思ったハインリッヒは、ゆっくりと後退し、彼女から着実に離れていく。
.
- 800 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 21:47:21 ID:Od7z4gzA0
-
(゚、゚トソン
トソンは、ビーグルだった肉塊を落ち着いた所作で、すくいあげる。
どれが顔で、どれが前足で、どれが胴体で、どれが尻尾かわからないが、確かにそれは、元はビーグルだった。
まだ、温かい。滴り落ちる血液や組織液が、トソンの服を濡らす。そこからも、温かみが感じられた。
それに、まだ、重い。
バーボンハウスで抱いていたときほどの重さはなかったが、それでも一キロ弱はあった。
そこに生命がまだ残っている可能性を感じて、トソンは口を開く。
ビーグルに、呼びかけようと思ったのだ。
(゚、゚トソン「 」
が、名前をまだつけてなかったことをトソンは思い出した。
嘗ては、バーボンハウスをきれいにして、ビーグルを飼う環境をつくってから改めて名づけようと思っていた。
それを思い出し、やがて、ゆっくりと口を閉じる。
しかし、名を呼ぶまでもなく、ビーグルがそれに返事を返せないであろうことは、すぐに察しがついた。
返事をするための、犬らしく前に尖った口も。
感情を示すのに使われる、愛らしく振れる尻尾も。
『拒絶』に汚れたトソンを唯一じっと見つめる、その透き通った瞳も。
そのどれもが、いま抱いている肉塊の、どこにも見当たらなかったからだ。
それに気づいて改めて、ビーグルを抱き寄せる。
血生臭く、どろどろとした液体が服を通り越して己の躯を汚すとわかっていながらも、それを
ビーグルを、強く抱きしめた。
.
- 801 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 21:47:54 ID:Od7z4gzA0
-
トソンを汚す液体が、服に染み渡ってくる。
どれも醜く、臭く、どろっとした、不快さしか与えないであろう液体だ。
だが、それで汚される服の一箇所に、透明な、透き通った液体が染みついた。
それは雨や汗のようで、トソンの服、袖の手首あたりのところに、まだら模様を形成していった。
(;、;トソン「 」
( ・∀・)「と……トソン………?」
彼女の異変に気づいたモララーが、慌てて駆け寄る。
アラマキとゼウスはただ、呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
なにが起こったのか。それは、把握している。
ハインリッヒがビーグルを粉々に砕き、それに気づいたトソンがビーグルを抱いて、号泣しはじめた。
ただ、それだけの話だ。
だが、「それだけ」で済ませてはならないような、そんな感じがした。
〝動けない〟のだ。
威圧されているわけでもなく、恐怖に戦いているわけでもない。
もっとも的確な言葉で表現するなら、彼らを縛っているのは、紛れもない「予感」だったのかもしれない。
トソンの奇行を目の当たりにして、このあとに起こるであろうことが
なんとなくではあるが見当がつき、それが、彼らを金縛りにしたのだろう。
それはモララーも一緒で、なにか、不穏な何かが、トソンのなかに生まれてくるのを感じた。
いままでは『拒絶』のなかでも別にオーラを感じさせなかった、『拒絶』なのかどうかを疑っていたトソンから
嘗て自分が親友に裏切られた――モララーが死んだ――ときに感じていたものを、感じ取ることができた。
それは、拒絶、ではない。
正確に言えば、それは―――〝絶望〟。
.
- 802 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 21:48:52 ID:Od7z4gzA0
-
( 、 トソン「あ、あ………ッ…、……」
(;・∀・)「トソン、どうした! 答えろッ!!」
――そうとわかった瞬間、モララーの顔に、焦燥が張り巡らされた。
なにかから逃げ出すかのように、トソンの両肩に置いた手を使って、彼女を後ろから揺さぶる。
トソンは力なく、無抵抗に、されるがままに揺れただけだ。
ポニーテールの髪が、ただむなしく、揺れる。
次第に、自分のなかにあった落ち着きや余裕が、トソンのなかに芽生えた絶望に脅かされていくのを感じた。
焦りしか、感じなくなる。
汗を流し、鼓動を速め、目を見開き、筋肉が硬直しようとするのを、抑えることはできなかった。
そして、トソンは、肉塊を抱えたまま、立ち上がる。
ふらふらと立ち上がった彼女の足は、どこか覚束ない。
全身の筋肉に力が入らないのか、彼女は、肉塊を抱く腕ですら、震えていた。
モララーが彼女を揺らし、正気に戻そうとするが、このときでもう、手遅れだった。
トソンが死人のように口を開き、声にならない声を放つ。
いよいよだめか、そう思ったモララーは、ハインリッヒと同じように、ゆっくりと後退して行く。
トソンの声が、遠く離れていてもかすかにだが聞こえるようになってきた。
それに合わせてか、肉塊を抱いていた腕が耐えきれなくなったようで、肉塊が落ちる。
気味の悪い音とともに地に落ちて、かたちが変わった肉塊を、トソンは見下ろす。
( トソン「―――あ――……、…――ッ…――」
从;゚∀从「な、なにが……」
ハインリッヒが、事の重大さに気づいたときには、既に遅かった。
そしてついに、トソンは、自我を保つことができなくなった。
.
- 803 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 21:49:25 ID:Od7z4gzA0
-
( 口 トソン「あああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!
. ああああああああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛ああああああああああああ゛あ゛あああ!!
. あああああああああああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああッッ!!
. あああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッッ!!!」
(;・∀・)「くそッ! まさか、ここで―――」
――― 『拒絶』、トソン。
――――― 覚醒。
.
- 804 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 21:50:15 ID:Od7z4gzA0
-
◆
アニジャは、一歩後退した。
目を背けたくなる衝動に駆られるが、決して逸らさないようにする。
少しでも精神的に弱い一面を見せてしまえば、そこを衝かれ、目の前の『拒絶』に侵食されるような――
そんな不安が、無根拠ながらも確実な予測としてそこにあったからだ。
汗を多く流し、疲れているアニジャとは対照的に、ネーヨの見て呉れに見てわかるような変化は見られなかった。
いつも通りの涼しい顔をしていて、シャツは汗で濡れてないし、靴にも泥はぜんぜん付いていない。
つまり、ネーヨは、ここまで走ってこなかった、となるのだろう。
瞬間移動だ。
この男の場合、その程度のことなら顔色ひとつ変えずにすることができる。
走ることを『拒絶』したのだ。
やっぱり、走って逃げても無駄だったんだなあ――アニジャは、溜息を吐いた。
( ´ー`)「疲れて声もだせねえ、か。ちったァ運動しろよな」
(;´_ゝ`)「………し、心配、ありがとよ」
( ´ー`)「お、クチ利けんじゃん。よかったぜ、悲しいお別れをせずに済む」
(;´_ゝ`)「お別れ……ねぇ」
具体的な言葉が放たれたので、アニジャの抱いている自分の『命運』の予想に、現実味が足された。
更に一歩、後退する。
ネーヨが追ってくる気配はないが、そんなことは彼にとってはなんの関係もない。
「ただ、そこにいるから殺す」。そんな考えさえあれば、一瞬でアニジャを殺すのだろう。
改めて恐怖を――拒絶を感じ、アニジャは唾を呑みこんだ。
.
- 805 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 21:51:36 ID:Od7z4gzA0
-
( ´ー`)「どうした。どうして、俺をそこまで拒絶する」
(;´_ゝ`)「いままでは免疫があったんだが、それが対応してない新たな『拒絶』が流行ったみたいでな。
. ワクチン、貰いにいくつもりだったんだ」
( ´ー`)「ワクチンなんていらねえよ。ただ、甘受すればいいんだ、おめえはよ」
(;´_ゝ`)「………ひとつ、聞かせてくれ」
( ´ー`)「おめえの病状か?」
(;´_ゝ`)「どうして、旦那が、俺を殺す必要がある」
( ´ー`)「……」
アニジャのなかにあった抗体こそ意味を成さなくなったが、
それでもアニジャは必死に、ネーヨと云うウイルスを前に立ち向かおうとした。
それを意外に思ったのだろうか、ネーヨは黙った。
(;´_ゝ`)「確かに俺は、ジョルジュの手先――と捉えられても仕方ないだろう。
. でも、あんたらに危害を及ぼすつもりはないんだ。ただ、肩書きがあんたらにとって目に毒なだけで。
. それを、ワタナベとかならともかく、どうして旦那の気に障ってしまうっていうんだ?」
( ´ー`)「なるほど、な」
ネーヨはやっぱりそうなるかあ、と思って、肯いた。
だが、それに対する答えは、既に出ていた。
( ´ー`)「俺は、さっきも言ったけどよ、別にどうでもいいんよ。おめえのことなんか」
(;´_ゝ`)「……」
「でも」。ネーヨは続ける。
( ´ー`)「殺さねえと、おめえ、モララーに八つ裂きにされるぜ。
そうでなくとも、『拒絶』の拒絶対象の連れなんざ、生かしといて『拒絶』の面々にとっていいわけがねえ。
それが、答えだ」
(;´_ゝ`)「………」
.
- 806 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 21:52:10 ID:Od7z4gzA0
-
今度は、アニジャが黙った。
正論――かどうかはわからないが、納得させられる内容であることには違いなかった。
黙ったら未練がないものと見られて、殺されかねない。
アニジャは、とにかく何か言葉を紡ごうとした。
(;´_ゝ`)「……、…」
( ´ー`)「……」
しかし、言葉にならない。
声帯が恐れをなしたのか、震えようとしないのだ。
口をぱくぱくと動かすだけで、なにも声と云う声は出てこなかった。
見かねたのか、ネーヨが代わりに口を開いた。
( ´ー`)「……今度は、俺に聞かせてくれねえか」
(;´_ゝ`)「…?」
すぐに殺そうとしないのを見て、アニジャは「おや」と思った。
( ´ー`)「もし、おめえが本当に『拒絶』に危害を与えるつもりがなかったんなら」
( ´ー`)「どうして、『拒絶』のなかにもぐりこんだ?」
(;´_ゝ`)「………そ、それか」
ようやく、アニジャは声を出すことができた。
びっしょりと額や頬を濡らす汗を、拭う。
落ち着きを取り戻そうとしつつ、アニジャは答える。
.
- 807 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 21:52:52 ID:Od7z4gzA0
-
(;´_ゝ`)「前にも、言ったよな。小屋で、だ」
( ´ー`)「……ああ、あんとき」
(;´_ゝ`)「俺はあんたらには興味がない」
( ´_ゝ`)「俺にとっての、唯一の『拒絶』。……それが誰かは、あんたもよく知ってるだろ」
( ´ー`)「……弟、か」
「ああ」と、アニジャは肯いた。
先ほどまで震えた声だったのが、このときだけは、はっきりとしたものになっていた。
( ´_ゝ`)「どうせ死ぬんだったら、俺の計画、教えてやるよ。聞いてやってくれ」
( ´ー`)「おう」
( ´_ゝ`)「俺は、弟を―――」
( ´_ゝ`)「オトジャ=フーンを、殺すために。あんたらと、つるんでいた」
.
- 808 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 21:53:30 ID:Od7z4gzA0
-
◆
(;・∀・)
从;゚∀从
/;,゚ 3
トソンがひとしきり叫んだかと思えば、皆のほうに向いた。
顔を俯かせているため、前髪が顔を隠す。
そのせいで、いまのトソンの心情が、わからなかった。
だが。
先ほどまでトソンが感じていた絶望は、一瞬にして、感じられなくなった。
その代わり、モララーを除く皆が感じることのできたものがあった。
( <●><●>)「………どういう、ことだ」
/;,' 3「あやつ、さっきまで、こんなんじゃなかったぞ!」
ゼウス、アラマキ、ともに焦燥を露わにした。
先ほどまで、蚊帳の外に出されているような心地だったのに。
気がつけば、彼らの空気に呑みこまれていたのだ。
二人さえ感じ取ることのできた「それ」を、もっとも痛感したのは、ジョルジュだった。
肌に、びりびりとやってくるその空気を、冷静に分析するまでもなく、実態を解明した。
不遜な態度を見せていたのが、いつの間にか、研究者としてのジョルジュに戻っていた。
.
- 809 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 21:54:05 ID:Od7z4gzA0
-
_
( ;゚∀゚)「この感じ……くそっ。そういうことか」
(;・∀・)「……」
ジョルジュが現状を分析したようなので、モララーが、彼を見た。
このときだけは、彼に対する憎悪が、湧いてこなかった。
从;゚∀从「お、おい! アイツ、何があったんだ!」
_
( ;゚∀゚)「言うまでもねえよ。あいつは――」
(;・∀・)「『拒絶』化した―――のか?」
_
( ゚∀゚)「! あ、ああ。たぶん、そうだ」
(;・∀・)「………………。」
从;゚∀从「……逆に言えば、さっきまでは、『拒絶』じゃなかったのか?」
_
( ゚∀゚)「たぶん、そうだ。俺は、あんな女、知らなかったんだからな」
/ ,' 3「『拒絶』……化……ッ」
アラマキは、そう知って、鳥肌がわき立ってきた。
ワタナベと死闘を繰り広げた身として、『拒絶』の名が語る、その恐ろしさは充分知っている。
そんなワタナベと同格の彼女が、目の前にいるのだ。
咄嗟に、戦闘モードならぬ、戦争モードにスイッチを切り替える。
非情になりきり、自らの勝利のみを考える、『武神』としてのモードに。
.
- 810 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 21:54:38 ID:Od7z4gzA0
-
(;・∀・)「………ッと……、トソン……?」
( 、 トソン
モララーは、二つのことに、戸惑っていた。
ひとつ、『拒絶』の一員だと思っていたトソンが、本当は『拒絶』でなかったこと。
また、ただの『能力者』だったトソンが―――とうとう、『拒絶』になってしまったこと。
『拒絶』の一人としては、彼女の『拒絶』化は、むしろ、笑って受け入れるべきなのだろう。
しかし、モララーは、そうしなかった。
彼女の身を案じては、本来在るべきものと違う感情が、胸中で渦を巻く。
心配、不安、同情、煩悶、苦悩――拒絶。
モララーはなんとか自分を奮い起こして、歩き出すトソンを押さえにかかった。
制止しようとし、踏みとどまるように促す。そして、事情を話せと言う。
ところが、トソンは、モララーのその差し伸べる手を、乱雑に振り払った。
明らかに態度が違う――そう思うと、モララーは、複雑な心境になった。
モララーの制止を振り切り、トソンは歩く。
やがて、ハインリッヒの前に、立った。
背の低いハインリッヒを、やや長身なトソンが見下ろす。
ハインリッヒは戦う姿勢をとるが、トソンは手を出そうとはしない。
ただ、ハインリッヒの前で
.
- 811 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 21:55:09 ID:Od7z4gzA0
-
( 、 トソン
手を、天高く、突き上げただけだ。
そこから振り下ろしたり、実はそれはフェイントで蹴りを喰らわせたりするのか、とハインリッヒは警戒した。
が、その手に、そのような意味は全く含まれていなかった。
一言、トソンはつぶやく。
パラメート
( 、 トソン「『 操 作 』」
从;゚∀从「ハ?」
直後。
この星は、崩壊した。
.
- 812 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 21:55:44 ID:Od7z4gzA0
-
◆
( ´ー`)「あの狂人を、か」
アニジャにとっての、唯一の『拒絶』。
それは、「神の唯一の失敗作」と称され、
ただそこにいるだけで世界の規律を乱してしまいそうな、
どうしようもなく最悪で、最凶で、最低な男だった。
オトジャが気を抜けば、あっという間に世界は滅びるかもしれない。
この星の核に『異常』が起こり、大爆発を起こし得るかもしれないのだ。
それほどの男をこの世から消し去るために、アニジャはアニジャなりの計画を以て、生きてきた。
そして、その男の名は、ネーヨも当然知っていた。
紛れもない『拒絶』の一人にして、モララーを黙らせるほどの狂った『拒絶の精神』を持っているのだから。
また、狂っているのは『拒絶の精神』だけではない。
その、有する《拒絶能力》も、目も背けたくなるほどの狂いっぷりだった。
インフェルノ
【運の憑き】。
『不運』ではすまないような、あらゆる災難を呼び込む能力。
これが《拒絶能力》なのに対してアニジャは《異常体質》とされていることから、完全な上位互換となるわけではない。
が、そんな差が気にならないほど、この《拒絶能力》は、本人の性格ともあいまって、狂ったものであった。
.
- 813 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 21:56:54 ID:Od7z4gzA0
-
アニジャが、兄として、この弟を滅ぼそうとするのも、肯ける話だった。
だから、そう言われて、ネーヨは疑おうとしなかった。
むしろ、同情するような眼差しでアニジャを見る。
( ´_ゝ`)「昔、な。一度は、殺害――とまではいかなかったが、封印することができたんだ。
俺の運と、ジョルジュの『箱』とで、な」
( ´ー`)「よかったじゃねーか」
( ´_ゝ`)「が、『不運』はむしろ、俺たちにあった。誰かが、『箱』を開けたんだ」
( ´_ゝ`)「あんただよ、ネーヨの旦那」
( ´ー`)「………」
ネーヨが、黙る。
( ´_ゝ`)「中途半端に『箱』に閉じ込めてしまったせいで、アイツは、
いたずらに『拒絶の精神』を増幅させただけで還ってきやがった。
アイツのスキルが強化されて、なんていうオマケつきだ」
( ´_ゝ`)「しかもそのせいで、アイツのスキルは無意識下でも適応されるようになった。
おかげで、遠く、遠くからアイツだけをピンポイントで『箱』に閉じ込めることすらできなくなった。
『箱』を閉じ込めようとしても、運を亡(な)くされるせいで、別のなにかを閉じ込めてしまうか、なにかが起こっちまう」
( ´_ゝ`)「そこで、ジョルジュの指示で、俺はあんたらのところに潜りこんだ。アイツを封印する術を探って、な。
ところが、だ。アイツは、一向にあんたらのもとに帰ってこない」
( ´ー`)「オトジャが連中と顔を合わせたのは、トソンが来るよりも前。その一回きりだ。
あいつはあいつなりに、満たされるなにかをしていたんだろうよ」
と、悪びれた様子を見せず、ネーヨが言った。
が、反省の色を見せないことに、アニジャがとやかく言うことはなかった。
( ´_ゝ`)「……というわけだ。確かに、ジョルジュは『拒絶』にとっちゃあ拒絶の対象だろう。
でも、俺の目的は、いま言ったように、弟ただ一人。
で、アイツが『拒絶』である以上、ネーヨの旦那が直接手を下すこともできないだろ?」
( ´ー`)「……」
( ´_ゝ`)「だから、俺を殺すのは、もう少し待ってほしい。
アイツが消えるか封印されたら、そのときは俺も死を甘受しよう。どうだ?」
.
- 814 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 21:57:26 ID:Od7z4gzA0
-
苦肉の策で、そう提案する。
ネーヨは、少し、考えるそぶりを見せた。
アニジャはこのとき、気が気でなかった。
こうは言っておきながら、いつ殺されるかがわからず、またそのことで軽い恐怖を感じていたからだ。
アニジャは実生活に未練は残していない。
唯一の未練は、オトジャだけ。これに関しては、嘘はついていない。
正真正銘の、本心だ。
それを、ネーヨが、汲み取るのか――
( ´ー`)「事情があんのは否定しねえけどよ」
( ´_ゝ`)「!」
そんなもん、
知らねえよ。
.
- 815 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 21:58:06 ID:Od7z4gzA0
-
◆
从 ゚∀从「ッ!」
/ ,' 3「っ!」
( <●><●>)「……ッ」
その瞬間。
彼らは、なにが起こったのかはわからなかったが。
確かに、その瞬間に、『異常』が起こったことを、把握した。
一瞬、なにがとは言わないが、『異常』が、己を包んだ、
そんな錯覚を抱いたため、ハインリッヒをはじめとする三人は、きょろきょろとした。
何が起こったのだ――そう思い。
ハインリッヒの前にいるトソンは、わけがわからない、と言いたげな顔をしていた。
目の色が、少し、薄くなる。
そんな、動揺で満たされるなかで。
彼らとは違い、動揺よりも焦燥を感じている人が二人、いた。
モララー=ラビッシュと、ジョルジュ=パンドラである。
ジョルジュは「なにが」起こったのかについて、心当たりがあった。
ぼんやりと浮かぶそれを考えては、悪寒がするのを抑えようとする。
息を急き切っているモララーを見て、ジョルジュはその霞がかった心当たりが正しいことを、確信する。
/;,' 3「おい! いま、何が―――」
_
( ;゚∀゚)「モララー! いま、そいつは――」
アラマキが動揺する理由もわかるが、ジョルジュはそれどころではなかった。
事情の説明はあとからいくらでもできる。
だが、現在進行形で進んでいる問題解決は、いましか、できない。
だから、ジョルジュは、アラマキを無視してモララーに話しかけた。
.
- 816 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 21:58:37 ID:Od7z4gzA0
-
( ;・∀・)「……ッ。なんだ!」
_
( ;゚∀゚)「ひょっとすると、いま――」
ジョルジュの言わんとすることを、モララーは読み取る。
彼は、科学者だ。アラマキたちがわからなかった「これ」に、唯一気づくことができたのだろう。
そう思い、モララーは肯いた。
( ;・∀・)「ああ、そうだよ、クソッタレ! トソンは、いま……」
( 、 トソン
( ;・∀・)「この星を、つぶした――いや。〝爆発させた〟!」
_
( ;゚∀゚)「……くそッ!」
从;゚∀从「ど、どういう意味だ!」
ハインリッヒが乱暴に問いかける。
それに答えたのは、モララーでもジョルジュでもない男だった。
息も絶え絶えな声で、ぼそり、ぼそりと、言葉を紡いでいく。
その声は、実際はそうでもないのに、なぜか、かなり懐かしいような気がした。
「彼女は、温度を『操作』したんだお」
.
- 817 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 21:59:07 ID:Od7z4gzA0
-
从 ゚∀从「パラメート……?」
从;゚∀从「――って、テメェ!」
ハインリッヒは、がばッと振り返る。
そこには、顔面に粒のような汗をびっしり浮かべた、内藤が立っていた。
相変わらずにへらとした笑みを浮かべ、しかし深刻そうな空気を携えながら、歩いてくる。
(;^ω^)「なんだお?」
从;゚∀从「いつから起きてた――」
_
( ;゚∀゚)「ンなこたァどーでもいい! おい、お前!」
トソンは、まだ現状が把握できてないのか、ただ、呆然としていた。
太陽を見上げるかのように、高く突き上げた右手を、じっと見つめる。
その隙を見計らって、ジョルジュが内藤に近寄った。
_
( ゚∀゚)「いまのは、なんだ! わかるんだろ、お前なら!」
(;^ω^)「……なーんとなく、だお?」
_
( ゚∀゚)「いいから、言ってくれ! 対策が練られねえ!」
(;^ω^)「……じゃあ」
内藤は、どうやら、多少は後遺症が残るも、復活したようだ。
病み上がり同然の彼にいきなり多くを話させるのには抵抗を覚えるが、それでもジョルジュは話してもらった。
ジョルジュにとって、内藤個人よりもこの世界、なのだ。
.
- 818 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 21:59:42 ID:Od7z4gzA0
-
(;^ω^)「一瞬肌が焼けた感じがした、でも一瞬後にはこうして元に戻ってる。それを踏まえると――」
( ^ω^)「トソンは、温度を『操作』して、この世に存在してはならない数字をたたき出させた」
_
( ゚∀゚)「温度……やっぱり、そうか」
( ^ω^)「それに核が『異常』を来され、爆発。
宇宙の隅から隅まで届くような、とんでもない大爆発が起こったと推測されるお。
……僕の推測で言うなら、温度を現在の三十兆乗のそれに『操作』したんじゃないかお」
从;゚∀从「はぁ!? さんじゅ――」
( ^ω^)「で、星は崩壊したけど、この場にいるなかで唯一、生き延びてる人間がいた」
( ^ω^)「モララーだ」
( ・∀・)「………」
全員が、モララーに視線を向ける。
内藤は続けた。
( ^ω^)「『ここに存在していない』モララーは、
爆発したあとの星を見て何が起こったのかを推理し、咄嗟にこう『嘘』を吐いた」
( ^ω^)「『星が爆発を起こしたのは、嘘だ。トソンは、なにもスキルを使わなかった』。
………違うかお?」
.
- 819 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 22:00:16 ID:Od7z4gzA0
-
そう言って、内藤はモララーを見る。
モララーは訝しげな顔をしつつも、内藤にだけ聞こえるような声で、言った。
( ・∀・)「……『作者』、とか言ったな」
( ^ω^)「お」
( ・∀・)「その話、信じるよ」
( ^ω^)「…!」
内藤は、いまの言葉に、ただならぬ違和感を感じた。
しかし、矢継ぎ早に放たれた次の言葉で、その違和感は埋められてしまった。
だが、とにかく、いまの内藤の推測が全て本当であることは、否定しないモララーを見てわかった
( ・∀・)「トソンを―――」
( Д トソン「あああああああああああああああああああああああああああああああ」
( ;・∀・)「――くそ!」
モララーはなにかを言おうとしたが、トソンの絶叫に遮られた。
直後、再び星は爆発した。
モララーが、それを『嘘』にする。
そのやり取りが、繰り返される。
最初は狂気に任せてスキルを乱用していたトソンだが、
何度やってもモララーに『嘘』にされるのを見て、次第に、スキルを使うのをやめるようになった。
.
- 820 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 22:00:57 ID:Od7z4gzA0
-
( ;・∀・)「………」
从;゚∀从「い、いまの………なんだ?」
ハインリッヒが、訊く。
それに近い内容の質問を、ゼウスとアラマキもした。
( <●><●>)「……いまのも、その彼女のスキル……なのか?」
/;,' 3「ずいぶんと、何度も肌が焼けた気がしたんじゃがの……。いったい、何回、あやつは――」
そして、それに近い内容の答えを、モララーが言った。
( ・∀・)「聞いて驚け。いまの一瞬の間に、一年が経過していた」
(;^ω^)「ッ!」
_
( ;゚∀゚)「一年だと!?」
.
- 821 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 22:01:28 ID:Od7z4gzA0
-
( ・∀・)「……で、やっと、おさまった」
( 、 トソン
そう言って、トソンのほうを見やる。
内藤たちも、なにも言葉を話そうとしないトソンを、見つめる。
静かに、ゆっくり、呼吸をしている。
腕は自然体のままで、握っても開いてもいない手が、垂れている。
顔もやはり俯いたままだった。そのせいで、表情が読み取れない。
モララーが全てを『嘘』にしたため、事の一部始終はわからないが、
狂気に満ちたトソンが発動したスキルの回数は、数え切れないほど。
モララーの体感時間からして、一年間もの間、トソンは〝この星を爆発させ続けた〟。
それの繋がるところ、ビーグルが殺されたことによる『拒絶』になる。
『拒絶』になった際の副作用だ、と、ジョルジュがちいさく、トソンに聞こえないような大きさで言った。
モララーは、当初の目的とは一転、いまは覚醒したトソンを宥めることで頭がいっぱいだった。
憎悪すべきはずのジョルジュのことなんか、もはや二の次となっていた。
トソンに拒絶させる気を削がせて、間接的にスキルの発動を食い止める。
その結果が、一年と云う時の経過なのだろう。
『拒絶』の恐ろしさを、彼らは、改めて、思い知らされた。
トソンが動く。
モララーは説得しようと、それに応じる。
.
- 822 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 22:02:03 ID:Od7z4gzA0
-
( 、 トソン
( ・∀・)「………トソン」
トソンは、まっすぐモララーのほうに向かう。
改心してくれたのか、我に返ってくれたのか。
とにかく、モララーは彼女の『拒絶』を、受け止めるつもりだった。
彼女の――得体こそしれないが――その有するスキルに立ち向かえるのは、いまのところ、モララーしかいない。
だから、二重の意味において、彼女を説得するのはモララーが適役だった。
( 、 トソン
( ・∀・)「おまえのその、つらい気持ちは、よくわかる。俺も、それに似た感情を、持ってた」
( 、 トソン
( ・∀・)「『拒絶』だ。で、さっきみたいに、狂気に振り回されたまま、軽く一年は、過ごしてきた。俺も」
( 、 トソン
( ・∀・)「……だから、トソン」
( ・∀・)「落ち着いてく―――」
.
- 823 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 22:02:41 ID:Od7z4gzA0
-
――直後、トソンは、モララーに殴りかかった。
平生の、非力な彼女からは想像もつかない、かなりの速さをで、だ。
モララーの左のこめかみから頭蓋骨を破壊するかのように、右腕を放つ。
スキルを使っているのかと思ったが、実際は違った。
もし彼女がスキルを使った上で殴っていたなら、モララーは反応できなかったからだ。
持ち前の戦闘能力で、そのトソンの唐突な攻撃を、かろうじて、かわした。
膝をたたんで、上体を重力に従わせて地に落とす。
結果、トソンの拳をもろに受けることは、なかった。
なかった、が―――
/;,゚ 3「も、モラ……ーッ!!」
从;゚∀从「おいッ! 大丈夫か!!」
( メ∀・)
.
- 824 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 22:03:14 ID:Od7z4gzA0
-
モララーは、顔、右目に、大きな傷を負った。
肉が抉られ、鮮血が飛び出す。
その負傷に気づいてから、モララーとトソンは、全く動こうとしなかった。
ハインリッヒたちが、思わず声をかける。
しかし、モララーは反応しなかった――いや、できなかった。
一瞬、頭の中が、真っ白になったのだ。
少しして、自分の両手の掌を見つめる。
そして、右手だけを、顔、負傷した箇所に近づけた。
傷を手で覆う。
生温かい液体が、掌に、ぶわあっと広がってゆく。
――そしてわかる、紛れもない『真実』。
トソンが、同志のはずの自分を、攻撃した。
.
- 825 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 22:03:47 ID:Od7z4gzA0
-
( メ∀・)「……………な………」
( メ∀・)「……なんで……………」
一同が、硬直した。
.
- 826 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 22:04:35 ID:Od7z4gzA0
-
( メ∀・)「……なんで………使えないんだ………」
( メ∀・)「なんで、使えないんだよ……【常識破り】………」
从;゚∀从「な……ッ――――」
_
( ;゚∀゚)「なにィィィィィィィッィイ!?」
.
- 827 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 22:05:07 ID:Od7z4gzA0
-
「『俺は攻撃を受けなかった』んだぞ………」
「どうして………消えないんだよ、コレ……………」
―――それは。
「この世でもっとも脆い男」が、ついに、崩壊してしまった、ときだった。
.
- 828 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 22:07:56 ID:Od7z4gzA0
- ここ数日の目次
>>534-581 第二十三話「vs【常識破り】Ⅳ」
>>584-625 第二十四話「vs【常識破り】Ⅴ」
>>629-663 第二十五話「vs【常識破り】Ⅵ」
>>667-702 第二十六話「vs【常識破り】Ⅶ」
>>709-746 第二十七話「vs【771】Ⅳ」
>>754-785 第二十八話「vs【771】Ⅴ」
>>788-827 第二十九話「vs【771】Ⅵ」
ブログに新たに感想一個うpしました
また創作板でいくつか短編投下しました
書きためも残すところあと二話
これからもがんばっていきたいです
- 829 :同志名無しさん:2013/02/09(土) 22:11:57 ID:ZaNwRRMY0
- おお、一気に面白くなった
続き期待
- 830 :同志名無しさん:2013/02/10(日) 13:38:56 ID:a7PwKI260
-
「あなたは?」
「『拒絶』イチのイキでクールなナイスガイ、モララー様だ」
「……よろしくお願いします」
「モララーにはカラスの死骸でいいですかね」
「お、やったれやったれ。モララーなら喜んで食うぞ」
「食わねーよ! 俺にも食えるものくれよ!」
「………」
「どうした、トソン」
「あ、いや……なんでもないです」
「気になるな。言えよ、聞き流してやる」
「……ちょっと」
「ちょっと?」
「昔のことを、思い出していただけです」
.
- 831 :同志名無しさん:2013/02/10(日) 13:39:30 ID:a7PwKI260
-
○登場人物と能力の説明
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
(゚、゚トソン 【???】
→時や力を『操作』した『拒絶』の少女。
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
_
( ゚∀゚) 【未知なる絶対領域《パンドラズ・ワールド》】
→存在してはならない『領域』を創りだす《特殊能力》。
( ´_ゝ`) 【771《アンラッキー》】
→『不運』を引き起こすが、『能力者』でも『拒絶』でもない男。
(*゚ー゚) 【最期の楽園《ラスト・ガーデン》】
→『楽園』を『保守』し、そちらにワープする《特殊能力》。
.
- 832 :同志名無しさん:2013/02/10(日) 13:40:14 ID:a7PwKI260
-
○前回までのアクション
(゚、゚トソン
→『拒絶』化
( ・∀・)
→『異常』が起こる
_
( ゚∀゚)
/ ,' 3
( <●><●>)
→動揺、焦燥
( ^ω^)
(*゚ー゚)
→傍観
( ´_ゝ`)
( ´ー`)
→対峙
.
- 833 :同志名無しさん:2013/02/10(日) 13:41:57 ID:a7PwKI260
-
第三十話「vs【常識破り】Ⅷ」
アニジャは身構えた。
しかし、ネーヨがなにかする、ということはなかった。
ネーヨは、警戒するアニジャにお構いなしで、続けた。
( ´ー`)「おめえは、言っちゃあ、裏切ったんだ」
( ´ー`)「銀行を襲った動機が妹の手術代だったとして、その強盗の事実が消えるわけじゃあ、ねえ」
( ´ー`)「それと、一緒よ」
( ´_ゝ`)「……」
掌から汗が滲んでくるのを、感じる。
気のせいか、軽い眩暈も感じてきた。
深く呼吸をするときにあがる肩が、震えている。
ネーヨが一歩、前に出る。
もう、おしまいか――
そうは思うが、しかし、だからといって自分の計画を投げ出すわけにはいかない。
『不運』には『不運』でしか対抗できないのだ。
オトジャを消し去るには、必ず、自分がいる。ジョルジュだけでは、消し去れやしない。
アニジャは、そう思っている以上、ここで死ぬわけにはいかなかった。
だから、どこまでも、足掻こうと試みる。
( ´_ゝ`)「なぜだ」
( ´ー`)「?」
ネーヨが、三歩目を踏み出した足を止める。
変わったアニジャの声に、止めさせられたのだ。
.
- 834 :同志名無しさん:2013/02/10(日) 13:42:28 ID:a7PwKI260
-
( ´_ゝ`)「あんたらを襲った、とかなら、言い訳はしない。だが」
( ´_ゝ`)「『裏切り』が、どうしてそこまで深刻な問題に関わってくる」
( ´ー`)「………」
( ´_ゝ`)「答えろ」
窮地に立たされたからか、アニジャが強気になった。
本来ならここでネーヨにすぐに殺されるのであろうが、ネーヨもネーヨで考えるところがあったので、踏みとどまった。
少し考えてから、ネーヨは口を開いた。
その開き方が、自分を焦らしているようにアニジャは思えた。
( ´ー`)「拒絶ってのは」
( ´_ゝ`)「?」
( ´ー`)「拒絶ってのは、心が引き起こす、最悪な反応だ」
( ´ー`)「物理的な攻撃には、拒絶は起こらない。起こるとしたら、反射だ。中学で習ったろ」
( ´_ゝ`)「……」
( ´ー`)「つまり、拒絶ってのは、精神的問題だ」
. アンチ
( ´ー`)「拒絶が元となって生まれた『拒絶』もまた、言ったら精神の具現化された姿なわけよ」
( ´ー`)「心の中でしか生まれねえ拒絶心が、形を成した、そんな感じだ」
( ´_ゝ`)「…………」
.
- 835 :同志名無しさん:2013/02/10(日) 13:42:58 ID:a7PwKI260
-
( ´ー`)「一方で、『裏切り』。裏切りってのは、物理的な攻撃じゃ、ねえ。心理的、精神的な攻撃だ。
仲間を裏切ってそいつを殴ったとしても、物理的な意味で言えばそれはただの『殴打』で、
精神的要素を除けば『裏切り』なんて概念はそもそも存在しなくなる。
つまり、裏切るってのは、精神を攻撃する行為なんだよ」
( ´ー`)「存在が精神体の『拒絶』に、精神面での攻撃を図って、それが深刻な問題に発展しねえってハラか?」
( ´_ゝ`)「………………」
長い説明ではあったが、それで、アニジャはわかった。
事情を理解したと同時に、『拒絶』の実態にもまた一歩、近づけた。
そう考えると、確かに、自分のとった行動が深刻だな、と思った。
続けて、ネーヨが説明をする。
アニジャには、納得した上で、死んでもらいたいのだろうか。
ネーヨの、中途半端な人間味が顔を出したときだった。
( ´ー`)「それに。理屈だけじゃなくて、ちゃんと証拠もあるんだ」
( ´_ゝ`)「証拠?」
( ´ー`)「モララーよ」
( ´_ゝ`)「?」
アニジャは首を傾げた。
どうして、ここにモララーが出てきたのだ、と。
.
- 836 :同志名無しさん:2013/02/10(日) 13:43:32 ID:a7PwKI260
-
( ´ー`)「強え。確かに、強えわな、【常識破り】。【ご都合主義】のパワーアップ版みてえなもんなんだから」
( ´_ゝ`)「……?」
( ´ー`)「だけどよ。むろん、モララーのほうが劣ってる点もある。
そのうちの一つが、小回り効かねえんだよ。アレだと」
( ´_ゝ`)「…あ、ああ……」
( ´ー`)「だが、んなもん、ちっせェ。
そんな点なんかよりも、もっとでけえ、致命的な弱点があんだ、モララーには」
( ´_ゝ`)「致命的、だと?」
( ´ー`)「そうよ。簡単だ」
( ´ー`)「モララーは、裏切りに弱えんだ」
.
- 837 :同志名無しさん:2013/02/10(日) 13:44:05 ID:a7PwKI260
-
◆
( メ∀・)「……ど……うなって…んだ………」
/;,' 3「【常識破り】が……」
从;゚∀从「〝使えない〟!?」
モララーが、右手にこべりついた血を拭いもせず、ただ震える両手を見て、呟いた。
涙は流れてこない。が、号泣でもしているかのような、そんな心境だった。
【常識破り】は、嘗て、ハインリッヒにもアラマキにも、ゼウスにもその脅威を見せつけた。
スキルを使えば相手を即死させることもできるし、瞬間移動や復活もお手の物。
【ご都合主義】と違い、何度殺しても、モララーの重ねてきた『嘘』が尽きない限り、彼は何度でも蘇る。
そしてその『嘘』の数は、数時間前にモララーが言ったように、極めて非現実的な量が告げられている。
加え、『嘘』とは思考相当で『混ぜ』られるため、たとえ残りひとつにまで『嘘』を減らしたとしても、
次の瞬間にはまたありったけの『嘘』を補充することができるのだ。
彼ら三人の、打倒『拒絶』を掲げる上でのもっとも厄介な存在。
それが、モララー=ラビッシュだった。
しかし。
そんな彼が。
【常識破り】な彼が。
明らかに、崩壊した。
『嘘』が吐けない、と言うのだ。
.
- 838 :同志名無しさん:2013/02/10(日) 13:44:43 ID:a7PwKI260
-
いくら相手が敵だとは言え、このことに驚愕を隠せるはずもない。
ハインリッヒたちは、まるでそれが自分の身に起きたことであるかのように、動揺した。
そしてそれは、彼女たちだけではなかった。
/;,' 3「ブーン君! きゃつに、いったい何が、起こっ……た………?」
アラマキが振り返る。
内藤の、信憑性のある見解を訊こうとしたのだ。
しかし、そう訊こうとする前に、その言葉は自然と止まった。
内藤も、同じく動揺していたのだ。
( ;゚ω゚)「………ばか、な……っ!」
从;゚∀从「ッ! おいデブ、こりゃーいったいどういうことなんだ!」
内藤の異変にハインリッヒも気づくが、落ち着いていられない事態なので、問う。
しかし、彼女の求める答えが返ってくることは、なかった。
( ;゚ω゚)「知るかお! 【常識破り】に吐けない『嘘』はないんだからな!」
( <●><●>)「なに……?」
内藤のその言葉を訊いて、ゼウスもいよいよ事の重大さを実感することができた。
内藤がそう言う以上は、モララーがこのように【常識破り】を使えなくなるという事態など、本来はありえないのだろう。
しかし、実際に起こってしまった以上、なんらかの要因が絡んでくるのだろう。
内藤の知らないような、『異常』が。
そこでゼウスもなるべく、考えられるケースを思い浮かべていった。
網膜を、数多くのデータと経験則が埋め尽くす。
.
- 839 :同志名無しさん:2013/02/10(日) 13:45:25 ID:a7PwKI260
-
( <●><●>)「……っ」
すると、人外の頭脳を誇るゼウスは、ひとつのデータを見つけた。
思いのほか、すぐにそれは見つかった。
少し前、モララーと交わしていた会話から、それを見つけ出した。
一方の内藤も、考えられるこケースを、記憶の引き出を次々に引っ張り出す。
『作者』だからこそできる、荒業だ。
モララーと云う男、【常識破り】と云うスキルを生み出していたときに、記憶を遡らせる。
『拒絶』という、この世界のさきがけとなった作品での、内藤の自信作だ。
ショボンは、『現実』の醜さ、理不尽さに。
ワタナベは、些細なことから繋がってゆく『因果』の恐怖に、拒絶を感じた。
そして、モララーは―――
( ;゚ω゚)「………っ!」
(;^ω^)「ま、待てお! ひょっとすると――」
そこで、ひとつの可能性を、引っ張り出した。
『拒絶』になるためには――そもそも、『拒絶の精神』を手に入れるためには、
狂気に満ちたり状態異常を引き起こすほどに、特定のなにかを拒絶しないといけないのだ。
ショボンにおける『現実』、ワタナベにおける『因果』がそれにあたる。
モララーにおけるそれは、確か、『拒絶』との戦いが幕を開けたときに、ゼウスに言った記憶がある。
――そんな遠まわしでないと思い出せないというのはおかしいのだが――内藤は、それを思い出した。
(;^ω^)「モララーは――」
( <●><●>)「――同志だと信じていた彼女に、攻撃された」
( ^ω^)「!」
内藤が思わず口を閉じる。
.
- 840 :同志名無しさん:2013/02/10(日) 13:46:56 ID:a7PwKI260
-
( <●><●>)「そして、過去のトラウマ――〝モララーが死んだ日〟のことを思い出してしまい、
自らの《拒絶能力》がうまく使えなくなった」
( <●><●>)「そういうところでしょうか」
( ^ω^)「……なんで、それを――」
( <●><●>)「そんなことはどうでもいい」
ゼウスは、説明する時間も惜しいため、強引に話を続けた。
その声には、珍しく、焦燥が感じられた。
( <●><●>)「彼を――モララーを殺すには、いましかない」
( <●><●>)「となれば……すべきことは、ひとつ」
ゼウスの言葉を、アラマキ、ハインリッヒ、ジョルジュが、聞き取る。
その瞬間、だ。
从;゚∀从「チクショウ!」
/;,' 3「こうなったら一か八かじゃ! おっぱじめるぞ!」
_
( ;゚∀゚)「クソッ!」
――合図をしたわけでもないのに、その三人は一斉に、飛び出した。
ゼウスも遅れずに、彼らを追って飛び出す。
言うまでもないだろう。
モララーの身に『異常』が起こっている今しか、勝機はないのだ。
であるならば、いまのうちに、一気に畳み掛ける。
.
- 841 :同志名無しさん:2013/02/10(日) 13:47:32 ID:a7PwKI260
-
. モララー
『 拒 絶 』を拒絶するのは、いましか、ない。
【常識破り】と同盟四人との、己をかけた全面戦争が、幕を切った。
.
- 842 :同志名無しさん:2013/02/10(日) 13:48:08 ID:a7PwKI260
-
◆
( ´ー`)「わかったか?」
( ´_ゝ`)「……む」
言われても、自分が実際にその様子を見たことはない。
モララーが誰かに裏切られて、それが原因で奴が崩壊する、などというような。
いまの話に根拠はあろうと証拠はなく、事実を見せ付けられたわけでもないので、
アニジャはただ返答を濁らせる程度でしかできなかった。
一歩、ネーヨが近寄る。
一歩、アニジャが退く。
胸がきゅうきゅうと音をあげて締め付けられる。
ネーヨの語調から、殺気は感じられない。
しかしアニジャは、それを信用しようとは思わなかった。
なんたって、相手は人間ではない。
「拒絶」の具現化された、人間の皮をかぶった化け物――なのだから。
きっと、毎朝にパンを食べるのと同じような様子で、自分を殺すだろう。
そして、その罪悪感や背徳感には、決して縛られないのだろう。
それが、己の知っているネーヨ=プロメテウスなのだ。
アニジャは、必死に、活路を見出す。
不意を衝いて逃げることが、不可能なわけではない。
ここらは木々が生い茂っており、視界からはずれる程度なら容易なのである。
.
- 843 :同志名無しさん:2013/02/10(日) 13:48:41 ID:a7PwKI260
-
しかし問題があったとすれば、それはネーヨから逃げても無駄、ということだった。
アニジャが逃走を開始したときに抱いた懸念も、それに当たる。
物理的に逃げられた、その『現実』を『拒絶』する。
奴が自分から逃げた、その『真実』を『拒絶』する。
逃げられてしまった自分の『運命』を『拒絶』する。
奴の持つ事情の成すあらゆる『因果』を『拒絶』する。
つまり、どこに逃げようがいかなる心的要因があろうが、アニジャは逃げられないのだ。
一瞬後には、あっさりと首を胴体から引きちぎられるだろう。
ネーヨは、相手をこの世界から「拒絶」という大義名分をかかげて消す、ということはできない。
文字通りそれは「拒絶」であるため、己に関係することしかスキルを発動できないのだ。
もっとも、そうだとしても、それこそ彼にとっては「知らない」ことなのだが。
( ´ー`)「……話は、こんくらいでいいだろ」
( ´_ゝ`)「………っ」
アニジャが露骨に後退する。
視線はネーヨのそれとかち合わせたまま、しかし逃げ腰になる。
アニジャは、とたんに走り出そう、とはしない。
そうすると、向こうは遠慮なしで自分を殺しにかかるからだ。
ならば、こうして話の利く状態のまま逃げ出そうとするほうが、はるかに合理的だった。
アニジャはやはり逃走の活路を見出せない。
目的は、逃げること。現実は、逃げても無駄。
つまり、完全な「詰み」、もしくは「必至」。
――だが、あるいは。
アニジャは、己の可能性――いや、『運命』に身を委ねようとした。
天命に結果を預けるなど、本来ならばありえないことだが、アニジャにとってはそれしか方法がなかった。
つまり、【771】による、避けようのない『不運』がネーヨに降りかかることを、祈るのだ。
当然、それは所詮「運」。狙って発動できるものではない。
奇跡、偶然、まぐれ。そう云ったものに、アニジャは賭けた。
今後の『命運』を。
.
- 844 :同志名無しさん:2013/02/10(日) 13:49:27 ID:a7PwKI260
-
( ´ー`)「おっと、ひとつだけ言っておく」
( ´_ゝ`)「…な、なんだ」
すると、アニジャの考えを見透かしたのか、ネーヨが口を開いた。
嫌な予感しかしない。だが、甘受する腹構えで聞く。
( ´ー`)「おおかた、おめえは『不運』が起こることを期待してるんだろうが、よ。そいつはできねえ」
( ´_ゝ`)「……なに?」
アンラッキー ム シ
( ´ー`)「俺は、己に降りかかる『 不 運 』を『拒絶』することにした」
( ´ー`)「急に腹を壊すとか、転ぶとか、『拒絶』し損ねるとか――
んな『不運』は、ねえと思え」
( ´_ゝ`)「ッ!!」
最初は、「それはできない」という言葉は、ただのハッタリだと思った。
そう言って相手を不安がらせることで、へたな抵抗をさせないようにするためだ。
しかし、当然というべきか、それはただのハッタリではなかった。
ネーヨはたった今、スキルを発動したのだ。
『オール・アンチ』。
内藤が言っていた、言葉。おそらくは、これが能力名。つまり、ネーヨの真名。
全てを拒絶する者につける名としては、相応しいものだ。
だからこその畏怖、現実味、絶望を、押し付けられてしまう。
.
- 845 :同志名無しさん:2013/02/10(日) 13:50:16 ID:a7PwKI260
-
スキルを発動――いや、装備して、アニジャに歩み寄る。
その歩幅や速度は依然変わらないのに、アニジャにとっては先ほどよりもかなり速くなっているように思えた。
その一歩一歩が、己の命を削る鉋のように思える。
あまりの恐怖と拒絶に、アニジャは歯をがちがちと奮わせるようになった。
だが、そうしていると、あっさり殺されてしまう。
歯を食いしばって、ネーヨに背を向け、転びそうになりながらも全力疾走をはじめた。
禁じ手だ、と自分でわかっていた、最悪の方法だ。
だが、それしか現状、方法はなかった。
足が疲労でまいっていたはずなのに、その痛みすら発しないで、足は動いた。
重さも、地を蹴る感触も、感じない。
だが、そのことにすら気づかないで、顔をぐにゃぐにゃに歪め、アニジャは駆ける。
ネーヨが、それを追わないはずはない。
十メートルほど差を空けられてから、ネーヨは大きな息と同時に、「うしっ」と声を発した。
ただでさえ膨れている筋肉が、更にもう一回り膨れ上がった。
( ´ー`)「いいぞ、いいぞ。もっと足掻け、もっと俺を拒絶してくれや」
( ´ー`)「その足掻きを『拒絶』してこっちの力を見せ付けるほうが、気持ちいいんだからよ」
( ´ー`)「しかも、ある意味じゃあモララーでさえ適わねえ人材だしな、おめえは」
( ´ー`)「……そうだな。なんつーか、ひっさびさに……」
「満たされそうだ」。
その一言を残して、ネーヨは、体躯を低くしては駆け出した。
スタートダッシュを決める際に蹴った地が、砕けた。
同時に、風を切る、轟音のようなものも断続的に鳴るようになった。
.
- 846 :同志名無しさん:2013/02/10(日) 13:50:52 ID:a7PwKI260
-
(;´_ゝ`)「―――ッ!!」
その音は、全力疾走しているアニジャのもとにも、心なしか届いたようだ。
同時に湧き上がってくる、更なる恐怖と拒絶。
だが、目を背けたり足を休めたりなんてことは、いっさいできない。
ただがむしゃらに、走るだけだ。
ネーヨが足を地につけ蹴り離すたびに、地のその箇所が砕ける。
速度こそゼウスやハインリッヒには劣るが、その分威圧感は段違いだった。
後ろから迫ってくる恐怖――に関しては、ネーヨの走りに適うものはいないだろう、それほどのものだった
(;´_ゝ`)「(………こうなったら!)」
おそらく、ネーヨは、いまは自分を殺すことよりも、〝満たされること〟に重点を置こうとしている。
それも、自分の意思にかかわらず発動してしまう【771】があるから、だろう。
なにもしていなくても自分に刃向かってきてくれる、この能力に、ネーヨは惹かれている。
だったら。
惨めでも、無様でも、滑稽だと笑われてもいい。
ネーヨ=プロメテウスと、戦う。
.
- 847 :同志名無しさん:2013/02/10(日) 13:51:45 ID:a7PwKI260
-
逃げを選んだら、捕まることが『運の憑き』をあらわす。
しかし、拳を見せたら、どうなるだろうか。
きっと、ネーヨは、どこまで足掻こうとするのか見たさに、加減をしてくるだろう。
すると、その分【771】が発動する機会は多くなる。
つまりその分だけ、チャンスが生まれるということだ。
だから。
アニジャは立ち止まり、振り返った。
ネーヨも、慣性を押し殺さないように減速する。
そして、先ほどまでとなんら変わらない距離を保って、アニジャが、構えた。
両足を大きく広げ、腰を低くし、上体を前に倒す。
両手を握りしめ、不恰好ながらも、攻撃の姿勢を見せる。
それは、誰が見ても、攻撃態勢と認めざるを得ない構えだった。
( ´ー`)「………くッ」
(;´_ゝ`)「……?」
( ´ー`)「く……くくククク……っ」
( ー )「ぐくククククくくァ………っ……、…ッ!」
それを見て、ネーヨが、不敵に笑む。
どころにとどまらず、前かがみになっては、溢れてくる笑い声を噛み殺そうとした。
アニジャのその決断に、思いのほか、満たされたのだ。
「これは、いい」。
「こいつぁ、いい」。
「これだ、こういうのを俺は待っていた」。
――そう、ネーヨは感じた。
.
- 848 :同志名無しさん:2013/02/10(日) 13:52:25 ID:a7PwKI260
-
同時に、全身の筋肉を、本来在るべき姿にまで膨らませた。
体長二メートル、を疑わざるを得ないほど、その姿は〝巨大化〟した。
そして、いままでの姿は、いわば「手加減」だったのだろう、ともわかった。
(;´_ゝ`)「ッ!?」
( ー )「イーイことを教えてやるぜ……」
(;´_ゝ`)「…な、なん……」
( ー )「俺ぁ……ゼウス相手にゃ、喧嘩で勝つこたァねえんだが……」
( ー )「単純な〝破壊〟の力なら……」
ネーヨの笑みが、嘗てワタナベ、ショボンの見せていた「拒絶の笑み」に豹変った。
( ー )「圧勝するぜ」
―――直後、その場で地割れが起こった。
.
- 849 :同志名無しさん:2013/02/10(日) 13:53:08 ID:a7PwKI260
-
◆
从#゚∀从「だアッ!!」
まず最初にモララーに飛び掛ったのは、ハインリッヒだった。
ゼウスは初速こそ四人のなかで最速だ。
しかし、『英雄』となったハインリッヒの脚力には、劣る。
地面を砕かず、その分の力を前に向かわせる。
そうして、ハインリッヒは俊足に似合う動きを見せながら、モララーに襲い掛かった。
躊躇いなく、最初から大技を見せる。
軽く跳ねて、上体を左に捻ってはその弾みをつけて右脚を蹴り放った。
アラマキの「破壊」に並ぶであろう、人間が叩き出してはならない威力を生む蹴りだった。
しかし。
(# メ∀ )「嘗めるなアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
从;゚∀从「…ッ!」
.
- 850 :同志名無しさん:2013/02/10(日) 13:53:41 ID:a7PwKI260
-
怒号を発したかと思うと、モララーは右の裏拳でハインリッヒの蹴りを止めていた。
威力がかち合ったようで、一瞬二人とも制止した。
ハインリッヒがその反動を利用して後ろに退こうとする。
入れ替わりでモララーに飛びかかったのは、ゼウスだった。
彼がハインリッヒに気をひかれているうちに、背中から心臓を貫こうと手刀を突きつけた。
だが、それも無駄だった。
(# メ∀ )「―――ッ!!」
( <●><●>)「!」
モララーが声にならない声を発したかと思うと、彼は〝ゼウスの後ろに立っていた〟。
その、なんの前兆も見せずに魅せる、『常識破り』なワザ。
それに見覚えがあったゼウスは、一瞬気が散ってしまった。
それを見定めて、モララーが、後ろに引いていた拳をゼウスに突きつける。
ゼウスの背中を思いっきり殴りつけ、ゼウスを仰け反らせた。
その動きを見て、遠くから彼らを見ていた内藤は驚愕した。
( ;゚ω゚)「―――ッ!!」
( ;゚ω゚)「………ど…どういうこと……だ……?」
内藤の驚愕を、ハインリッヒとアラマキとジョルジュも感じていた。
それもそうだろう、今しがた彼が見せたワザは―――
从;゚∀从「【常識破り】ッ……!?」
_
( ;゚∀゚)「使えなくなったんじゃ……ないってか!?」
.
- 851 :同志名無しさん:2013/02/10(日) 13:54:19 ID:a7PwKI260
-
(# メ∀ )「……………。」
( 、 トソン
モララーは、トソンから〝裏切り〟の一発をもらった。
そんな彼女は、その一発で気力を使い果たしたのか、地に倒れている。
そして、その一発が、モララーの創りあげた「モララー」を、砕いた。
つまり――【常識破り】を、使用不可にした。
四人と内藤はそう思ったがゆえに、モララーから勝機を見出し、飛び掛ったのだ。
しかし、『真実』は、外見と中身とが正反対だったようだ。
体勢を取り戻しつつ、ハインリッヒとゼウスは後退する。
モララーの北東にハインリッヒ、北西にゼウス、真南にアラマキとジョルジュが位置する情勢となった。
中心部にいるモララーが、情勢で言えば一番不利であった。
しかし、少なくとも彼を囲んでいる四人が、優勢を感じることはなかった。
皆等しく、ひどい動揺と、ひどい拒絶を感じていた。
_
( ;゚∀゚)「まさか……」
从;゚∀从「な、なんだよ」
モララーは冷静を失ったからか、彼らに襲い掛かろうとはしないで、
ただ立ち尽くし、ひたすら深呼吸を続けていた。
その隙に、ジョルジュが冷静に分析をする。
_
( ;゚∀゚)「奴が、【常識破り】を失ったんじゃなく……」
_
( ;゚∀゚)「〝傷のほうが【常識破り】を打ち消した〟……?」
.
- 852 :同志名無しさん:2013/02/10(日) 13:54:56 ID:a7PwKI260
-
从;゚∀从「!? ど、どういう意味だッ!」
_
( ;゚∀゚)「奴が『嘘』を吐けないのは、あの女が創った傷に対してだけだっつー話だ!
つまり、その他のことに対する『嘘』はなんら変わってねえってことよ!」
从;゚∀从「………ッ! じゃあなんも変わんねーじゃねーか!!」
/ ,' 3「…いや。変わったこと、はあるぞ」
从;゚∀从「………な、なんだ?」
/ ,' 3「きゃつめを見てみぃ」
从 ゚∀从「……なに?」
言われて、ハインリッヒが、モララーを直視する。
気のせいか、彼のまわりを、黒い靄のようなものが渦巻いているように見えた。
顔を俯かせ、肩をゆっくり上下させ、右手は顔の例の傷に当てている。
そのモララーの様子を見て、ハインリッヒは、どうしようもない恐怖を感じた。
見ただけで精神を壊されてしまいそうな、それほどまでの畏怖を、受け取ってしまった。
/ ,' 3「モララーを……」
.
- 853 :同志名無しさん:2013/02/10(日) 13:55:40 ID:a7PwKI260
-
(# メ∀ )
「……ついに、モララーを怒らしてしまった、っちゅーことじゃ」
―――常識破り、始動。
.
- 854 :同志名無しさん:2013/02/10(日) 13:56:24 ID:a7PwKI260
-
◆
地殻変動か、大規模な地震が起こったのか。
アニジャとネーヨの間を引き裂くかのように、プレートがずれてしまった。
刹那、その場――ネーヨ側の向かいに、断層がむき出しにされた。
断続的に響く轟音とともに、その断層は、ネーヨの視界を完全に遮ってしまった。
――ネーヨの周囲の大地が、徐々に下に落ちつつあったのだ。
(;´_ゝ`)「ッ!」
( ー )「……なんだァ? こいつァ……」
アニジャもネーヨも、その突如として起こった『異常』を不審に思った。
一歩、二歩と後退をした上で、アニジャは現状を把握しようと努める。
しかし、わからない。
もともとのパニックも相俟って、アニジャは冷静な思考をすることができなかった。
それはネーヨもだった。
なんで、急に地割れが起こって――そのうえ、自分が大地のなかに埋められそうになっているのだ。
アニジャのことはあとにするとして、まずはせめて脱出し、地上に戻らないと、生き埋めになってしまう。
仮に生き埋めになってしまったとしても、彼なら無傷で生還できるのだが、今は事情が違った。
戦闘態勢を完全に解いたアニジャは、なにはともあれ
今が好機だと見て、ネーヨとは反対の方向に向かって走り出した。
轟音はなおも鳴り響く。次第に、その音が大きくなっていった。
地面の崩れる音、地中にあった岩がこぼれ落ちる音、地表が割れる音――
.
- 855 :同志名無しさん:2013/02/10(日) 13:57:18 ID:a7PwKI260
-
ネーヨは必死に、自分の頭上を塞ごうとして落ちてくる岩やら土やらを次々に破壊していった。
一発拳を振るうたびに、その岩々は粉々に粉砕されていく。
が、それが却って自分を埋める要因となってしまったようで、徐々に身動きが取れなくなってきた。
自然の力とは想像以上に強力なもので、たとえば台風なんかの力は、人間一人では決して適うことはないとされる。
それと同様に、ネーヨを地中に埋めようとするその断層の力に、ネーヨは簡単に抗うことはできなかった。
四肢を中央に折りたたんで寄せ、まるくなる。
そして、ひとまずこの『異常』が収まるのを待つことにした。
(;´_ゝ`)「これは……」
(;´_ゝ`)「……考えてる暇は、ない。…行くか」
アニジャがそう独り言をこぼして、そのまま逃げるように研究所のほうへと向かう。
足取りは、先ほどよりは若干重かった。
あのネーヨであろうと、このように地に呑まれてしまっては、そう簡単に抜け出すことはできないだろう。
当然、この程度で死ぬ男ではない。それは自分がよくわかっていた。
が、それでも、逃げきれるほどの時間的猶予は与えてくれるだろう―――
.
- 856 :同志名無しさん:2013/02/10(日) 13:57:53 ID:a7PwKI260
-
◆
そして、アニジャが去ったあと。
その場に、数人の存在を示唆する足音と、それに伴って声が聞こえてきた。
発せられた声のどれもが、女性的なものだった。
「地割れ……?」
「おっかしいなー。誰か、ここで殺りあってたのかなー?」
「今はどうでもいいだろう。それよりも」
「ああ、わかってる。わかっているのだが……」
「どーしたの、ねーちゃん」
「ここらへんに気配こそ感じるのだが、どうも、曖昧になってるんだ」
「なんだ、それ」
「知らない……が、何者かの作為は感じるな」
「ひぇー。怖ーい」
「……」
「ム? どうした」
――赤い髪を風に流して、少女はたった今『異常』の起こった大地に目を遣った。
つられるようにそちらに目を向けつつ、黒髪の少女が訊く。
なにを感じたのか、もともと無愛想な彼女は、更に無愛想になって答えた。
.
- 857 :同志名無しさん:2013/02/10(日) 13:58:32 ID:a7PwKI260
-
「……おい。あそこから、とんでもないものを感じるぞ」
「トンデモ? あらら、ひょっとしてバクダ――んんっ」
「……確かに。何か、感じ……イヤ。なんだこれ。なんかヤバい感じがするよ」
「本当だな……」
紫か、藍か、群青か――
寒色系の色がうっすらと混じった少女が、一瞬おどけたかと思えば真剣な顔に戻った。
そんな彼女を見て、黒髪も肯く。
その大地から、どこか、とんでもない狂気に満ちたオーラを感じとれたのだ。
――彼女たちは、ネーヨ=プロメテウスの存在を、知らない。だから、そう呑気に話すことができた。
しかしそれでも、胸を巣くう黒いオーラを、無視しておくことはできなかった。
「ひとまずコレ中断して、もう帰らね? アイス食べたい」
「ここまできて、かよ」
「フン……私は別に、構わんが、な」
すると、その大地が、少し盛り上がってきた。
その内側で、ネーヨが、少しずつ土を掘って、地表にでようとしていたのだ。
徐々に、その土を殴る音が鮮明に聞こえてくる。
彼女たちの心臓の鼓動は、若干速くなった。
また、それを見て、いよいよおぞましい感情が強まった。
三人は、踵を返し、その大地の位置にとって死角となるであろう方角に、足先を向けた。
.
- 858 :同志名無しさん:2013/02/10(日) 13:59:21 ID:a7PwKI260
-
風が吹きぬけ、彼女たちの髪をさらう。
そのとき、ようやく三人は顔を見合わせた。
川 ゚ -゚)「目印は、この赤い石でいいだろう」
トル゚〜゚)「よし、とっととヤってくれ」
lw´‐ _‐ノv「はいはいーと。じゃ、いっくよー」
寒色がかった髪の少女が両手を広げると、
その場から三人は消えて、かわりにフォークが三本現れた。
.
- 859 :同志名無しさん:2013/02/10(日) 14:00:39 ID:a7PwKI260
-
◆
「おらアアアアアアアッッ!!」
少女たちが消えた直後、タイミングを見計らったかのように、地中からネーヨが飛び出した。
地雷でも爆発したかのように、真上五メートルほどにいたるまでの高さを、土や泥が舞う。
跳躍して、そのまま少し前に着地する。
体中泥まみれであったが、一瞬するとそれらは全部消えて、元の姿に戻った。
ネーヨが険しい顔をして、四方八方を、ゆっくり、首の向きを変えて見遣る。
そのどこにも、人影や気配らしきものは見受けられない。
そうとわかって、ネーヨは眉間にしわを寄せた。
( ´ー`)「……チッ。なんだったんだ、今のは」
腕を組み、独りごちる。
そして、唾を吐いた。
( ´ー`)「………待てよ。まさか……」
ひとつ心当たりが浮かび、眉間のしわを消した。
代わりに、彼の肺が一回り大きくなった。
( ´ー`)「今のは………『不運』だった……ってのか?」
それが、一番わかりやすい、且つ真っ先に浮かぶ、『異常』の原因だった。
「しかし」と挟んで彼は続ける。
ム シ
( ´ー`)「『不運』は『拒絶』したんだがなあ……―――いや、待て」
.
- 860 :同志名無しさん:2013/02/10(日) 14:01:33 ID:a7PwKI260
-
( ´ー`)「よく考えたら、俺は〝俺にかかる『不運』しか〟『拒絶』してなかったな」
( ´ー`)「いまのが『不運』だとすっと、その対象は俺やあいつじゃなくて、この地面……もっと言うなら、この星、か」
( ´ー`)「………そうか。まんまとやられちまったぜ」
納得のできる理由を見つけ、ネーヨは肺の中の空気を、一気に吐き出す。
だんだん、自分の境遇が情けなく思えてきたときだった。
腕組みを解いて、両手をジーパンのポケットに突っ込んだ。
アニジャを追う気力もなくなり、ただその場に立ち尽くす。
だんだんと、ネーヨの思考に「面倒」の二文字が浮かんできた。
( ´ー`)「ったくよォ……兄といい、弟といい、面倒な奴らだ」
( ´ー`)「確かに、『運命』を『全否定』すれば、この世界は崩壊する」
( ´ー`)「ある程度までなら『拒絶』できっが……それでこのザマか、クソ」
( ´ー`)「【771】に【運の憑き】……」
( ´ー`)「アイツは、よくまあ、こんなとんでもねえバケモン二人を産んだもんよ」
フン、と鼻を鳴らし、嘗ての同輩を思い浮かべる。
あいつといい、こいつといい、どうして嘗ての同輩たちが、己の願望を妨害しあうのだろうか。
ネーヨは、ふと、そう思った。
自分は、もう、何もかもを投げ捨てたいだけなのに―――
.
- 861 :同志名無しさん:2013/02/10(日) 14:02:06 ID:a7PwKI260
-
( ´ー`)「…ッ」
するとネーヨは、肌に、電磁波に近い痺れを感じた。
髪の毛や鳥肌が逆立つような錯覚に見舞われる。
心が侵食されることはない。
途方にくれた絶望を味わうこともない。
しかし、味わい慣れたはずの、このオーラ。
それがどこかいつもと違って、不純物を取り払った、いわば完成品のように思えた。
―――『拒絶』。
それがたった今、この星を呑み込んだ。
それも、これほどすさまじいオーラを自分以外の人間から感じられるとは、久しぶりだ。
ネーヨはそう思ったうえで、今の『拒絶のオーラ』の発信源を、直感で探った。
直感、とは言うが、ネーヨの直感には、結果論ながら信憑性があった。
それも、そうだろう。
続けざまに放ったその答えが、みごとに合っていたからだ。
( ´ー`)「……トソン」
( ´ー`)「あいつ、やっと『拒絶』化したのか」
( ´ー`)「ヘッ……見せ付けてくれんじゃねーか。今のは、びびッとキたぜ―――」
.
- 862 :同志名無しさん:2013/02/10(日) 14:02:54 ID:a7PwKI260
-
. ワールド・パラメーター
「……【 暴 君 の 掟 】。
――― トソン=ヴァルキリア」
――ネーヨはそう言って、決戦の地へと向かうことを決意した。
なんてことはない。
この「『拒絶』を拒絶する戦い」を、見納めるためである。
.
- 863 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/10(日) 14:10:03 ID:a7PwKI260
- ここ数日の目次
>>534-581 第二十三話「vs【常識破り】Ⅳ」
>>584-625 第二十四話「vs【常識破り】Ⅴ」
>>629-663 第二十五話「vs【常識破り】Ⅵ」
>>667-702 第二十六話「vs【常識破り】Ⅶ」
>>709-746 第二十七話「vs【771】Ⅳ」
>>754-785 第二十八話「vs【771】Ⅴ」
>>788-827 第二十九話「vs【771】Ⅵ」
>>830-862 第三十話「vs【常識破り】Ⅷ」
300レスも更新しちゃったけど、文丸さん死なないかな…
追いついてない人を待つためにも、次回、第三十一話「vs【常識破り】Ⅸ」投下はしばらく遅らせます
冗長に続くこの話をここまで読んでくれて、ほんとうにありがとうございます
また、ぶっ通しの投下を失礼しました。これからは以前のような投下頻度に戻ると思うので、これからもよろしくお願いします
- 864 :同志名無しさん:2013/02/10(日) 21:56:19 ID:ZFQiy4eY0
- 乙、凄く熱いじゃあないか…やっぱり敵vs敵の構図って好き、敵のみりきがでてくる
- 865 :同志名無しさん:2013/02/11(月) 15:49:02 ID:lLQ3lfeg0
- 『定理』はどういう事だったのだろう…気になる。おつ!
- 866 :同志名無しさん:2013/02/12(火) 16:54:41 ID:T4/7U1RU0
- トソンさんエインフェリア連れて来なきゃ
- 867 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/14(木) 00:57:45 ID:8QeMaSGI0
- 自作品の絵を描くのはふつうらしいってことで、以前ノリで描いたのを貼ります
作者のイメージはこんなんだよーって感じで受け取ってくれたらなあって
※擬人化注意
ワタナベ
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_811.jpg
モララー
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_812.jpg
ショボン
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_813.jpg
オトジャ(描いてる途中で紙紛失ゆえ中途半端な仕上がり)
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_814.jpg
- 868 :同志名無しさん:2013/02/14(木) 01:01:52 ID:8QeMaSGI0
- しまった
>>867のワタナベは擬人化に加えて閲覧注意
- 869 :同志名無しさん:2013/02/14(木) 02:14:26 ID:tQK1X.tg0
- 渡辺やばばば
- 870 :同志名無しさん:2013/02/14(木) 10:19:15 ID:GKCdNUxIO
- めだかボックスおもいだした
- 871 :同志名無しさん:2013/02/14(木) 20:20:37 ID:jMmgeE.o0
- これ全知全能だからワカッテマスなのかいま気づいた
- 872 :同志名無しさん:2013/02/15(金) 01:08:12 ID:n.h1K0g.0
- なんかおかしいと思ったら( ・∀・)に耳が無かったのか。いや別にいいのだけれど
- 873 :同志名無しさん:2013/02/15(金) 13:04:16 ID:UHFI7Dpc0
- >>867
いいぬえぇー
- 874 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 17:40:42 ID:sDFjx8Yo0
-
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌
. だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
. 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌
. だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す
. 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺
. す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す
. 殺す消えてお願い消えてお願い消えてお願い消えてお願い消えてお
. 願消えいておい願消おてえい願てえ消おい消消え願てお願えおえて
. いおお願消え願いててお願えて消え消おえ消願いいてお願え消てい
. 消え願えて死ぬ願い消えて殺す死の願いそして全てを拒絶して生きる
. お死ぬ拒死い殺消えて死拒絶消え死ぬい願お消えてお願消消消て
. 消え拒拒願消願死ぬ死ぬ絶消願消て死拒い願消お死願拒絶消願」
.
- 875 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 17:41:18 ID:sDFjx8Yo0
-
○登場人物と能力の説明
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
(゚、゚トソン 【???】
→『ワールド・パラメーター』と呼ばれる少女。
( ´ー`) 【???】
→『オール・アンチ』と呼ばれる男。
_
( ゚∀゚) 【未知なる絶対領域《パンドラズ・ワールド》】
→存在してはならない『領域』を創りだす《特殊能力》。
( ´_ゝ`) 【771《アンラッキー》】
→『不運』を引き起こすが、『能力者』でも『拒絶』でもない男。
(*゚ー゚) 【最期の楽園《ラスト・ガーデン》】
→『楽園』を『保守』し、そちらにワープする《特殊能力》。
川 ゚ -゚) 【???】
→ブレスレットの「鍵」が特徴的な黒髪の少女。
トル゚〜゚) 【???】
→体長と変わらぬ大きさの槌が目立つ少女。
lw´‐ _‐ノv 【???】
→寒色がかった髪の映える飄々とした少女。
.
- 876 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 17:41:52 ID:sDFjx8Yo0
-
○前回までのアクション
(゚、゚トソン
→〝裏切り〟そして気絶
_
( ゚∀゚)
从 ゚∀从
/ ,' 3
( <●><●>)
( ・∀・)
→戦闘開始
( ´_ゝ`)
→逃亡
( ´ー`)
→出動
川 ゚ -゚)
トル゚〜゚)
lw´‐ _‐ノv
→撤退
.
- 877 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 17:42:47 ID:sDFjx8Yo0
-
第三十一話「vs【常識破り】Ⅸ」
モララーの躯を這うように舞っていた、不可視の黒いオーラが
その一瞬にして、泡のようにして弾けとんだ。
( メ∀・)「――――っはははははははハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
その直後だ。
モララーは、高らかに、狂気に満ちた声で、笑いあげた。
一音一音が、鼓膜を引き裂かん勢いで場にいる人間を襲う。
それは攻撃ですらないのだが、気を抜くと、あっという間に彼に呑まれそうだった。
.
- 878 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 17:43:33 ID:sDFjx8Yo0
-
四人が、息を呑む。
ここからどう動くか――まったく、予想がつかないからだ。
【常識破り】と云うスキルがある以上、攻撃に関してはそれこそ読むことができない。
因果律からの干渉も、物理法則を無視した動作も、なんでもできるからだ。
先読みに長けるゼウスでも、彼のこれからの行動を読むことはできなかった。
シィは、逃げ出そうと思えば今すぐにでも逃げ出すことができた。
しかし、それではいざというときに、彼ら――ジョルジュたちを救うことができない。
ほかの四人はいいにしても、ジョルジュだけは必ず助け出さなければならない。
シィは、そんな使命感を背負っていたため、離れることはできず、近くの茂みに身をひそめていた。
内藤も内藤で、シィとはまた別の理由で、この場を離れることはできなかった。
狂ったモララーに、狂ったトソン。
その両者から、いつ狙われるかわからない。
内藤は、ある意味で言えば要注意人物筆頭であるため、その可能性は充分に高かった――のに。
だが、そんなことはお構いなしで。
モララーは、いままでのような発声はしなくなった。
腹の底から声を出すようになっていた。
( メ∀・)「――もう『常識』だの宣戦布告だの……」
(# メ∀・)「どぉぉおおおおおおおお〜〜〜っでも! いい!!」
びりびりと、臨戦態勢をとる四人の肌が焼かれる。
モララーは向いている方向――真南に、歩みはじめた。
その先には――
.
- 879 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 17:44:04 ID:sDFjx8Yo0
-
_
( ゚∀゚)「…」
/ ,' 3「…」
(# メ∀・)「…」
ジョルジュとアラマキが、自らを能動的に緊張状態に追い込む。
一瞬でも気を緩めたら死ぬ――そう意識しておかなければ、とても太刀打ちなどできない。
だが、残された二人、ゼウスとハインリッヒに言わせてみれば
同志――否。同じ戦いを生き抜くことになった、仲間を、見捨てるわけにはいかないのだ。
ゼウスもハインリッヒも、打ち合わせをしたわけではないのに、同時に駆け出そうと体躯を低くする。
しかし、踏み出せない。
この一歩を踏み出せば、モララーのもとに向かうことはできる。
だが、できなかった。
無策で行っても、無駄だ、とわかっているからだ。
ハインリッヒも、嘗てゼウス相手に無策で突っ込んだことがあった。
その当時、アラマキが助けてくれなければ、彼女は「即殺」されていた、というのだ。
それを思い出して、ハインリッヒは、駆け出したくなる気持ちをぐッと抑えた。
.
- 880 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 17:44:45 ID:sDFjx8Yo0
-
_
( ゚∀゚)「……」
/ ,' 3「のう、おぬし」
_
( ゚∀゚)「なんだ、ジジィ」
「さっきはじーさんと言ってくれたのにな」と、アラマキは呑気な口調で言う。
が、それにジョルジュも構っていられるほど、余裕はなかった。
自分を、緊張させていたのだ。
しかし、その緊張がいっそう引き締められそうなことを、アラマキは口走った。
/ ,' 3「凄いのぅ、ニンゲンってもんは」
_
( ゚∀゚)「どうした、急に」
/ ,' 3「なんちゅーかのぉ……いままで戦場に向こうた時にゃあ感じんかった感情なんじゃが……」
/ ,' 3「死の予感ってのは、やっぱ、するもんなんじゃな」
_
( ゚∀゚)「――――ッ」
.
- 881 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 17:45:17 ID:sDFjx8Yo0
-
それを聞いて、ジョルジュは、絶句した。
しかし、反応していられる暇はなかった。
モララーが、もうそこにまで迫ってきているのだ。
飛び出してくる様子はない。
だからこそ、構える必要があった。
様子はない――つまり、いつ飛び出してくるかがわからないのだから。
アラマキは、死期を悟ったというのだろうか。
それも、このタイミングで。
だとすると、それはたちの悪い冗談、では済まなくなる。
ジョルジュは四肢に力を籠め、右腕を後ろに引いてから言った。
_
( ゚∀゚)「なーに寝言ほざいてんだよ、ジジィが」
/ ,' 3「ヒョヒョ。歳喰うとのぉ、虚言っちゅーもんがぽっと出るもんよ」
_
( ゚∀゚)「お前なあ、良くない未来が見えたんなら、ちっとも足掻かないでそれを甘受すんのか?」
/ ,' 3「時と場合によりけりじゃ」
_
( ゚∀゚)「……ケッ」
/ ,' 3「なんじゃ、若僧」
_
( ゚∀゚)「やっぱり……お前と、価値観は共有できねえわ」
/ ,' 3「どーゆー意味じゃ?」
.
- 882 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 17:45:57 ID:sDFjx8Yo0
-
いま、互いに飛び出せば、文字通り一瞬で、文字通り鉢合わせする。
モララーと二人との距離は、そこまで狭まっていた。
ゼウスにも、ハインリッヒにも、助太刀を期待できそうにはなかった。
そこで、ジョルジュは、ようやく動きを見せた。
モララーも待ち構えていたものだ。
引いた右手を前に滑らせるようにして、突きつける。
同時に、ジョルジュは、モララーに負けないほどの大きな声を、放った。
_
( ゚∀゚)「良くない未来が見えたら、することはただひとつ――!」
(# メ∀・)「ッ」
_ キリヒラ
( #゚∀゚)「 『 開 闢 』 く ッ!!」
ジョルジュの右腕が伸びきったかと思うと
/ ,' 3「!」
(# メ∀・)「!」
モララーは大の字になり、後方へ飛ばされた――いや、〝押し出された〟。
突風かなにかに押し出されたような、妙な心地だった。
その様子を見て、また放たれた言葉を咀嚼して、アラマキは心が落ち着いた。
一方のモララー。
〝見えないなにか〟に、後ろへ後ろへ、と運ばれる。
その、自分を後方に押し付けようとする〝見えないなにか〟に、心当たりがあった。
. エリア
――パンドラの『領域』。
.
- 883 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 17:46:34 ID:sDFjx8Yo0
-
( <●><●>)「ッ!」
从 ゚∀从「ッ!」
そうとわかった瞬間、ゼウスとハインリッヒは、好機を見出した。
彼らは、モララーより北側にいた。
そのモララーが、北に向かって押し出されているのだ。
モララーは戸惑っている――なら。
いま、その隙を、狙える。
(# メ∀・)「(な、なんでだ―――)」
その間、モララーは、狼狽していた。
【常識破り】で、『俺にパンドラの箱は効かない』という『嘘』を吐いているのに、
それを『拒絶』したかのように、この見えない『領域』は、自分の行動を制限しているからだ。
が、そのことを考えていると、あっという間に背後からゼウスとハインリッヒに攻撃されるだろう。
そうなってしまうくらいなら、何も考えずに『目の前の壁なんて効かない』自分にすればいいのだ。
从#゚∀从「ちぇあッ――」
(# メ∀・)「――だあああああああああああああッッ!」
从#゚∀从「…くそッ」
【常識破り】。
たった今の『領域』をすり抜けて振り返り、ゼウスとハインリッヒを前に戦闘態勢にはいった。
飛び掛ったハインリッヒだったが、モララーの咄嗟の判断に負け、そのままとどまった。
ハインリッヒとモララーの距離は、五メートルもない。
彼らに関して言えば、かなりの至近距離だ。
金縛りにでも遭ったかのように、ハインリッヒが、動けなくなる。
モララーはこのとき「『英雄』よりも『武神』を優先して殺す」などといった嘗ての考えを、とっくに捨てていた。
〝もう、どうでもよくなった〟のだ。
.
- 884 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 17:47:08 ID:sDFjx8Yo0
-
(# メ∀・)「――ッ!」
从#゚∀从「…っ」
モララーが、飛び掛った。
踏み出す足の動きを見ていたので、一瞬遅れてハインリッヒが後退する。
モララーの戦闘におけるスピードは、確かに速い。
しかし、総合的に見れば、スピードはハインリッヒのほうが上だ。
このときハインリッヒは、モララーの蹴りを間一髪でかわすことができた。
ハインリッヒは咄嗟に動いたため、体勢を保ったまま着地できず、地面に落ちては四メートルほど転がってしまった。
直後、モララーは左後ろからのゼウスの接近を許した。
初速だけならこの五人のなかでも最速だ。
また、気配を悟らせない点においても、同様である。
モララーははッとして振り向いた。
振り向きざまに左手で裏拳も見舞おうとしたが、遅かった。
( <●><●>)「 ッ」
(# メ∀・)「 」
左わき腹を、抉られた。
咄嗟の回避が功を成したのだが、それでもモララーは負荷を与えられた。
油断したから――?
『領域』を喰らったから――?
そんな『因果』が脳裏を駆けるが、いちいち咀嚼している暇はない。
右脚で、すぐ目の前にて無防備な姿でいるゼウスに、カウンターを見舞ってやろう。
モララーはそう思った。
――しかし、ゼウスは〝笑った〟。
.
- 885 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 17:47:57 ID:sDFjx8Yo0
-
( <●><●>)「――――『爆撃』ッッ!」
(# メ∀・)「なッ――」
从 ゚∀从「!」
. チェーン・デストラクション
从 ゚∀从「【 連 鎖 す る 爆 撃 】……ッ」
(# メ∀ )「 がアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
チェーン
手負いを『連鎖』させた――。
ゼウスは、無情にも、モララーに非現実的なまでに『爆撃』を見舞った。
ハインリッヒもゼウスも、バックステップで一気に距離をとる。
モララーのいた場所、半径五メートルを包むように
その場に、彼の『爆撃』にしては大規模な爆発が十連続で引き起こされた。
モララーの叫び声が、聞こえる。
悪魔のそれに似た、おぞましい、悲痛な叫びだ。
.
- 886 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 17:48:31 ID:sDFjx8Yo0
-
十連続で爆撃を見舞ったあと、ゼウスは更なる『連鎖』を狙おうと、七連続の『爆撃』を試みた。
しかし、『爆撃』は引き起こされなかった。
その場から、〝手負いを背負ったモララーが消えた〟のだ。
_
( ゚∀゚)「後ろだ!」
( <●><●>)「ッ」
(# メ∀・)「があああああああああああああ!!!」
ゼウスの背後には、肌や肉が全て焼かれたはずのモララーが、健康体のままで浮いていた。
――が、トソンから受けた傷は、それでも消えていない。
そうわかると、ゼウスはこう考えるしかなかった。
やはり、『拒絶の精神』は、弱まってきている―――
「『優先』っ!!」
(# メ∀・)「――!?」
モララーの左拳がゼウスを貫こうとしたとき、確かに、そう聞こえた。
そしてそれは、モララーにとって聞き違えるはずのない、〝用心しなければならない存在〟だった。
ヒーローズ・ワールド
【 正義の執行 】――ハインリッヒ=カゲキ。
.
- 887 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 17:49:21 ID:sDFjx8Yo0
-
『優先』と聞いて、モララーはつい反射的に、拳を止めてしまった。
音速の壁から『優先』されて、ハインリッヒが現れると思ったのだ。
いくら自分でも、『優先』された『英雄』を殴ればひとたまりもなくなる。
――しかし。
一秒経っても、『英雄』は目の前に現れなかった。
前だけでない。後ろにも、左右にも見当たらない。
それどころか、彼女は依然変わらぬ位置に、つったっていた。
「ただ声を発しただけだ」とわかったのは、ゼウスにカウンターをされたときだった。
( <●><●>)「…」
(# メ∀ )「………な……に……?」
状況を把握しきれず、混乱状態に陥ったまま、心臓を貫かれ、モララーは後方に飛ばされた。
意識が朦朧とするなか、ハインリッヒは、安堵の息を漏らしていた。
从;゚∀从「……ひゅー」
( ;゚ω゚)「……ッ!!」
( ;゚ω゚)「あ…あいつ……陽動作戦をした……お……ッ!」
( ;゚ω゚)「『英雄』の………アイツが……ッッ!」
.
- 888 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 17:49:57 ID:sDFjx8Yo0
-
◆
ハインリッヒが陽動作戦をとったことで、モララーに致命的な隙が生まれた。
それをゼウスが、見逃すはずもない。
すぐさま、モララーの心臓を空いている左手で貫く。
だが、もちろんそれでこの戦いは終わらない。
意識が朦朧として、力なく宙に飛ばされたモララーは、次の瞬間、消えた。
『俺はここにいる』という『嘘』を、暴いた。
結果、自分が殺されたという『嘘』も一緒に消えて、〝本当にいた場所〟にモララーが現れるのだ。
だが、その〝本当にいた場所〟もまた、『嘘』である。
そうして、【常識破り】は何度も還ってくる。
それが【ご都合主義】との違いであり、また【手のひら還し】に似た部分であった。
次は、どこに現れるのだ――
すると、ジョルジュとアラマキの後ろに、着地音が聞こえた。
砂が擦れる音が、彼ら二人に気配を悟らせた。
汗腺から汗が噴き出た。
が、それも一瞬。
振り向くと同時に、その汗は飛ばされ、乾いた土に染み込んだ。
.
- 889 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 17:50:28 ID:sDFjx8Yo0
-
モララーは、やはり、完全に怒っていた。
その理由もわからないが、ただひとつ言えることは、
今のモララーは、精神状態がこの上なく不安定である、と云うことだ。
(# メ∀・)「……この…ッ……ヤロ…オオオオオオオオ!!」
その怒号は、ハインリッヒとゼウスのどちらかに向けられた。
そのどちらかまではわからなかったが、二人とも、それに動じることはなかった。
既に、動じているのだから。
/ ,' 3「…」
モララーが歩いてくる。
アラマキは自分が狙われるものだと思い、咄嗟に構えた。
しかし。
モララーは腕を動かす前に、口を開いた。
(# メ∀・)「……オイ、テメエ」
_
( ゚∀゚)「俺、かな?」
(# メ∀・)「あア、そうだ」
力みすぎているのか、声帯の震え方がかなり平生とずれていた。
どこかぎこちなく、片言になっているように聞こえる。
それほど、彼は憤慨しているのだろう。
しかし。モララーは何か、話したい――訊きたいことがあったそうだ。
それを言葉にして放とうとする。
質問に答えなければ、おそらくモララーは躊躇いなく自分たちを抹殺する。
時間を稼ぐ意味でも、機嫌を保たせるためにも、ジョルジュはそれに答えなければならなかった。
.
- 890 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 17:51:02 ID:sDFjx8Yo0
-
(# メ∀・)「テメエ、さッキ、俺に〝なにをした〟」
_
( ゚∀゚)「なに……だと?」
(# メ∀・)「『領域』が動く……ナンて、俺は聞いテナいぞ」
_
( ゚∀゚)「……ああ、それ」
(# メ∀・)「答えろ。拒否権はねえ」
_
( ゚∀゚)「………」
低い声でそう言われ、ジョルジュは少し黙った。
気配と音で、アラマキ、ハインリッヒ、ゼウスの動向を探る。
彼らは、動こうとしない。
が、動く準備はできていたようだ。
それさえわかれば、ここで自分が時間を稼ぐ必要がないことがわかる。
_
( ゚∀゚)「……そーいや、さ」
(# メ∀・)「…」
_
( ゚∀゚)「まだ、お前たちにコレ、種を明かしてなかったな」
/ ,' 3「……タネ?」
ジョルジュの言葉がモララーにだけ向けられているわけではない、とわかって、アラマキも反応する。
「ああ」と挟んで、彼は「種明かし」を続けた。
.
- 891 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 17:51:46 ID:sDFjx8Yo0
-
_
( ゚∀゚)「どーせ、『パンドラの箱』はもう使わねーんだ。『拒絶』化計画なんて、二度としたくねーからな」
(# メ∀・)「……よぉぉく言うぜ、キチガイヤローがよォォ!」
_
( ゚∀゚)「ブーンとやらァァ! お前の蟠り、答えてやらァ!」
(;^ω^)「…お!?」
ジョルジュが、依然モララーと睨みあったまま、不敵な笑みをこぼし――また、冷や汗を流して――
離れたところにいる内藤にわかるように、大きな声を発した。
そして内藤も、その声を聞き取ることができた。
――蟠り?
一瞬、その語の意味がわからなかったが、冷静に考えると、すぐにそれを思い出した。
そういえば、ジョルジュの《特殊能力》について話していたとき――
( ^ω^)『一応訊くと……以上の説明で、合ってるおね?』
_
( ゚∀゚)『半分アタリで、半分ハズレだ』
( ^ω^)『よかったお』
( ;゚ω゚)『―――え?』
パンドラズ・エリア
――内藤の知っていたジョルジュの能力は、【 絶 対 領 域 】だ。
しかし、実態は違った。
すると、内藤もまた、知らないのだ。
この、ジョルジュの「新しい」能力を。
.
- 892 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 17:52:31 ID:sDFjx8Yo0
-
_
( ゚∀゚)「【未知なる絶対領域】……
モララーくんのために、その〝未知なる〟能力を、説明してやろう」
(# メ∀・)「―――チッ」
_
( ゚∀゚)「【絶対領域】は、〝ただ平面の『領域』を張るだけ〟だ。
一方で【未知なる絶対領域】っつーのは―――」
_
( ゚∀゚)「その〝存在してはならないもの〟を
〝自在に創りだす〟上で〝自在に操る〟」
_
( ゚∀゚)「たーった今お前を襲ったのは、〝勝手に前に進む〟〝未知なる〟『領域』ッッ!」
_
( ゚∀゚)「そして俺のコレは、未知なるものを『開闢』くためのモノだッ!」
.
- 893 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 17:53:13 ID:sDFjx8Yo0
-
――ジョルジュが、そう、大きな声で言い放った。
が、それはモララーのために言ったのではなくて、内藤のために言ったようなものだった。
言われて、モララーは少し言葉を咀嚼したのち、鼻を鳴らした。
どこか、強張った顔の筋肉が、緩んだような気がした。
(# メ∀・)「……やっぱ、そうか」
_
( ゚∀゚)「あ?」
(# メ∀・)「俺の『嘘』が通じなかったんじゃなくて、ただ――」
( メ∀・)「おまえがひとりでに進化してたってだけか」
/ ,' 3「…ッ」
直後感じる、虚無感。
それは自分の心から生まれたのではなくて、モララーの持つオーラから感じ取れた。
拒絶心とはまた違う、やり場のない虚無感。
なぜか、それは拒絶心よりも、ある意味において恐ろしいもののように思えた。
モララーが、歩くのを再開させた。
向かう先にいるのは――アラマキ=スカルチノフ。
もう、謎は解けた。加え、懸念事項がなくなった。
だから、モララーは、この戦いをも再開させるつもりになったのだろう。
そして――拒絶を、終わらせるために。
.
- 894 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 17:53:47 ID:sDFjx8Yo0
-
( メ∀・)「―――なーんか、もう、醒めた」
/ ,' 3「ッ」
距離が、十メートルを切った。
モララーはなおも歩きながら、右腕を前に差し出す。
彼が『嘘』を吐くときに見られる、特に意味のないであろう所作だ。
アラマキが身構える。
直後、モララーは口角を吊りあげた。
( メ∀・)「トソンが寝てるうちに、とっととおまえら殺すわ」
/ ,' 3「はて、そううまく行くもんかの? 今の今まで、押されてたおぬしが」
( メ∀・)「は? あれがホンキだって思ってたのか?」
/ ,' 3「ホンキじゃろうとそーでなかろうと、『真実』じゃ」
( メ∀・)「そーかそーか。じゃあ、新しい『真実』を付け加えてやるよ」
/ ,' 3「なん―――」
モララーは、前に突きつけた右手を、ぎゅっと握りしめた。
距離が五メートルにまで迫ったときだ。
すると、先ほどまで悠長に話していたアラマキの様子が、変わった。
いや、〝変わらなかった〟。
変わらなかったからこそ、それはおかしかった。
.
- 895 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 17:54:33 ID:sDFjx8Yo0
-
/ ,' 3「――ぬおッ!!」
_
( ゚∀゚)「ど、どうしたんだ」
急にアラマキが、狼狽に満ちた声を発する。
しかし、体勢は〝依然変わっていない〟。
いや、それが変わっていないのではなくて〝変えることができない〟のだろう、ということはすぐにわかった。
( メ∀・)「『おまえは、もう動けない』っつー『真実』だ。」
/ ,' 3「ッッ!」
ざっ、ざっ、と砂を蹴る音が、すぐ目の前にまで迫ってきた。
そしてアラマキも、モララーの言葉を聞いて、自分がいまどんな状況に陥っているのかを理解した。
【常識破り】によって、自分の躯を固定化させられてしまった―――
( メ∀・)「ダッ!!」
距離、二メートル。
もう、ハインリッヒはおろかゼウスでさえ、間に合わない。
その距離になって、モララーは、ありったけの力を右拳に籠めて、アラマキに向けた。
――そして、アラマキは笑った。
(; メ∀・)「 ッ!? 」
/ ,' 3「……」
.
- 896 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 17:55:11 ID:sDFjx8Yo0
-
モララーがアラマキの顔面、鼻っ柱を殴ったかと思うと、
その右の拳が、手首からもがれてしまった。
〝アラマキの顔に触れた途端、その顔に弾き返された〟ようだった。
続けて、肩も変な方向に曲がる。
直後に訪れる、痛み――
( <●><●>)「――」
(; メ∀・)「――チッ!」
何が起こったのかは、わからない。
しかしそのモララーの動揺の隙を狙ったのか、
右腕が壊されてしまったと同時に、ゼウスがすぐそこにまで迫ってきていた。
『嘘』により、モララーは少し離れた位置に瞬間移動した。
それによって生まれた空虚を、ゼウスの手が貫く。
あらかじめわかっていたようで、ゼウスは無表情のまま、着地した。
(; メ∀・)「―――こ、今度は、なんなんだ!!」
『嘘』を暴いて、今しがた右腕に与えられた負荷も解除する。
しかし、胸に残った黒い靄は、依然払われることはなかった。
ジョルジュの『領域』の謎を解いたかと思った次の瞬間、新たな謎が生まれたのだ。
モララーは、半ば混乱状態に陥っていた、いや、また陥ってしまった。
――いま、俺はなにをされた。
アラマキを殴ったかと思えば、その力がまるまるこちらに押し返されたような――
.
- 897 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 17:55:42 ID:sDFjx8Yo0
-
(; メ∀・)「ッ!! ま、まさか!!」
モララーは、そこまで考えて、すぐに今の『異常』の原因を突き止めた。
嘗て、公園でアラマキ、ゼウス、ハインリッヒが対峙していたときに、このワザを何度も見ていたではないか、と。
こちらにやってくる力の向きを『解除』して、そのまま力を全部相手に押し返す――
ジェネラル・キャンセラー
【 則 を 拒 む 者 】、彼が降臨した―――
.
- 898 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 17:56:24 ID:sDFjx8Yo0
-
( <●><●>)「悪いな」
( メ∀・)「ッ!」
背後から、ゼウスが接近したかと思えば、一瞬だけぴたりと静止して、言葉を放つ。
が、その隙をモララーが衝くことはできなかった。
( <●><●>)「確かに、貴様は【常識破り】だが―――」
(; メ∀・)「ぐッ――」
( <●><●>)「こちらも、わりと『常識破り』な連中がそろっているのでね」
.
- 899 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 17:57:59 ID:sDFjx8Yo0
-
(; メ∀・)「ッッ!」
ゼウスに掌で突かれ、思わず体勢を崩し、地面にしりもちをつく。
受身も、防御も、回避も、なにもできなかった。
モララーは、その『真実』が信じられなかった。
『現実』では、自分は圧勝できるスキルと戦闘能力を持っている。
自分が圧勝し、その拒絶を見せ付ける『因果』など、なんの『異常』もない。
しかし。
いまの情勢が、いま、己がもっとも信じたくない『真実』を、雄弁に物語っていた――
从 ゚∀从
/ ,' 3
_
( ゚∀゚)
( <●><●>)
(; メ∀・)「―――ッ!!」
.
- 900 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 17:58:41 ID:sDFjx8Yo0
-
『英雄』、ハインリッヒ=カゲキ。
『武神』、アラマキ=スカルチノフ。
『開闢』、ジョルジュ=パンドラ。
『魔王』、ゼウス。
気がつけば、自分の周囲四方向を、彼らが囲んでいた。
己の『拒絶』で動きを止めたはずの、アラマキでさえ、だ。
そしてこれは、あるひとつの『真実』を示していた。
―――〝己の『拒絶』は、所詮この程度だ〟―――
.
- 901 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 17:59:14 ID:sDFjx8Yo0
-
◆
アンチ
『拒絶』の一番の特徴は、その精神だ。
あるものをひどく憎み、拒み、怨むことで、心の奥底に育まれる、ちっぽけな精神体。
それはその対象が自分に与える危害が、多くなればなるほど
より、もっと強大に、形を成していくこととなる。
――存在する限りで最強の生物とは、なにか。
過去から、幾度もの議論が交わされてきたが、そのなかでもっとも有力な答えとされているのが、ニンゲン。
攻撃力も防御力も、身体能力も、なにより、本能も捨てた、ステータスとしてはひどく弱い生物。
しかし、その答えにたどり着いた原因は、至極単純だった。
「考えることができるから」。
つまり、高度な精神体をその身に宿し、またそれをどうとでも創ることができるから、
生物としては最弱のステータスを持って生まれてしまったニンゲンのアクションを、限界を超えて生かすことができるのだ。
熊や虎に、腕力で負ける。
ならば銃をつくれ、発砲しろ、急所を貫け。
蜂や蛇に、猛毒で侵される。
ならば免疫をつくれ、抗体を打ち込め、針や牙を抜け。
無機物に、有害物質を放たれる。
ならば対抗物質をつくれ、隔離しろ、それらを取り除け。
そうして、この星に存在するさまざまな生物に、対抗してきた。
その根本となるのは、精神体だ。
.
- 902 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 18:00:06 ID:sDFjx8Yo0
-
ジョルジュ=パンドラがこの点に気づいたのは、いつの頃だったか。
ほかの生物という生物を圧倒する精神体、これは最大の武器となる。
では、その精神体のなかで、いったいなんの精神がもっとも強く、他の精神を圧迫するのだろうか。
「慈愛」、「同情」、論外。
自己以外に向ける、情けなどもってのほか。
自己が最良とは、生ける者万物に共通する前提条件だ。
「正義」、「信条」、論外。
つまりそれは、自己表現の婉曲化されたものだ。
自己をさらけ出すために、他の伝達媒体を使う。それが、こういった精神だ。
ならば、最強の精神とは、いったい――
と、ジョルジュはここで、あるひとつの共通点を見出した。
この、論外となる感情が、どれも、「自己」の前に完全に屈しているということだ。
――そうだ、自己だ。
ジョルジュはそう思い、考えを改めた。
自己をもっとも顕示する精神体こそが、最強ではないか。
そういった精神体が、ニンゲンに、他の生物を圧倒する力をわれわれに与えてきたのではないか。
自己を、表現する。
その答えは、すぐにでた。「欲望」だ。
「欲望」は、いい。自己を満たすための、もっとも手っ取り早く、直接的な感情だからだ。
女を犯すのも、食物を食い荒らすのも、奇行に走るのも、「欲望」こそが先行して成す感情だ。
.
- 903 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 18:00:36 ID:sDFjx8Yo0
-
ジョルジュはそう思い、すぐにそちらの研究を開始した。
程なくして、自己の「欲望」という感情を、限界を超えて感じさせる薬品を生み出した。
物は試しに、とモルモットに打った。
すると、どうだ。
狂ったかのように、ケースに攻撃し、藁を食い散らかし、性器を壁に擦りつけ、
試しに更なるモルモットをいれると、そのモルモットを十分もせぬうちに見るも無惨な形状に変えてしまった。
――これはいい。
そうわかったジョルジュは、すぐさまその薬品をニンゲンにも打った。
隔離施設に、破壊できるもの、食うためのもの、性器を突っ込むためのものを置いて、観察をした。
やはり、嘗てのモルモットと同じような実験結果を、ジョルジュの目に見せ付けてくれた。
――成功、か。
ジョルジュはそう思い、狂喜した。
が、それもものの数日だった。
「欲望」には、致命的な欠陥があったのだ。
それは、考えてみれば当然のことだった。
「欲望」とは、つまり、向かう先は自己である。
言い換えると、自己の考えること以上のことは、まったくしないのだ。
疲れたから、破壊活動をやめる。
怠いから、牛飲馬食をやめる。
飽きたから、強姦行為をやめる。
これでは、ただ本能を取り戻しただけの、非力な生物に戻っただけだ。
本能を投げ売ったからこそ、ニンゲンは生物の頂点に君臨する存在となったのに。
ジョルジュは、己のとった行動は、ただニンゲンの朽ちてゆく様を網膜に焼き付けただけだった、と後日わかった。
.
- 904 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 18:01:07 ID:sDFjx8Yo0
-
おかしい。確かに、「欲望」こそが自分の求める、至高の感情物質なのに。
そこで、ジョルジュは考え直した。
こういった研究のときだけ、彼の頭脳は、世界でも随一のものとなる。
それが、彼をマッド・サイエンティストと言わしめる原因だった。
自己に突き動かされるも、その向かう先も自己にある。それが失敗だったのなら
自己に突き動かされるも、その向かう先は外界にある。そうすれば――?
――とここに行き着いて、「これはどういうことなんだ」とジョルジュは珍しく頭を悩ませた。
これは、自分の心に巣くう感情に自己を支配されるも、
その感情は特定のなにかによってもたらされるものである、ということなのだ。
内的矛盾を孕んでないか。ジョルジュは、そう思って、しばらくこの研究を進めるのをやめた。
自分の頭で研究が行き詰まったということは、それ以上考えても無駄だ、ということなのだから。
.
- 905 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 18:01:51 ID:sDFjx8Yo0
-
そして、ジョルジュにアイディアがもたらされたのは、ある日、裏通りを歩いていたときだった。
人身売買に、違法薬物の取り扱い、また強姦や殺人などが、目の前で繰り広げられている。
ジョルジュは、以前「欲望」を打ち込んだ男と彼らとが似ていたように思えて、やはり、この研究は失敗か、と思った。
汚らわしいのだ。
おぞましく、不愉快で、満たされない。
これが自分と同じ生物であるのか、と思うと、顔をしかめずにはいられなかった。
表通りに向かおうとすると、途中で、ついにアウトローに絡まれた。
――というより、一方的に射撃された。
この裏通りでは、『能力者』でもない限り、相手を制止した上で金品を提示させる、なんてことはしない。
そうする前に、さっさと殺して、さっさと奪って、さっさと去るほうが、よっぽど合理的で効率的だからだ。
が、発砲音を聞いたと同時に、ジョルジュは、その音の方角に向けて『領域』を張った。
その『領域』に弾丸が着弾するが、音は発しないし、地面に力なく落ちることもない。
まるでそこに食い込んだかのように、固定させられてしまった。
その奇怪な現象を見せ付けられたせいか、アウトローが痺れを切らして、ジョルジュに襲い掛かった。
ジョルジュは面倒くさく思い、【絶対領域】を巧みに使って、アウトローの行動を制限した。
そして、常備している拳銃を構え、アウトローの頭部を打ち抜き、脳漿を散らかしてやった。
ここまでは、いつもと変わらぬ情景だ。
しかし――ふと、ジョルジュは思った。どうして、俺はこの男を殺した、と。
自分の命が狙われたから――といつもなら即答するのだが、この日は違った。
というのも、裏通りに足を運んだ際、彼は感じたのだ。
――「拒絶」を。
.
- 906 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 18:02:21 ID:sDFjx8Yo0
-
「………ッ!!」
ジョルジュの目は、見開かれた。
〝自己に突き動かされるも、その向かう先は外界にある〟その条件を満たす感情が、ついに見つかったからだ。
それは、嘗ての「欲望」のように、自己の都合で行動を止めるようなものではない。
対象が存在する限り、永久に、行動を止めることはないのだ。
それが、「拒絶する」ということなのだから。
そして、ついに生み出すことのできた『拒絶』だが、やはりそれにも、問題はあった。
『拒絶』の第二の特徴が、目的が「満たされること」にあったということだ。
《拒絶能力》を手に入れ、拒絶心により発達した身体能力も手に入れたというのに。
「満たされるため」に彼らはそのスキルや腕を振るう、というのだ。
だから。
たとえ、百の力を持っていても。
いざ拳を振るわせると、十ほどの力しか発揮させることができない。
これが、『拒絶』の。
この上のない、ハンディキャップだった。
だがそれでも、たとえ十ほどの力しか使うことはなくとも、
一介の『能力者』を相手取らせると、相手になにもさせないうちに圧勝してしまう。
彼らの発揮できる力は、『拒絶』のそれが十だとすれば、ほんの一にも満たないからである。
だから、第二の特徴には絵を瞑ることができた。
しかし、『拒絶』の第三の特徴。ここにもやはり、問題があった。
対象に対する拒絶心が尽きれば、その得たあらゆる能力を、途端に失ってしまう――
.
- 907 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 18:02:54 ID:sDFjx8Yo0
-
◆
(; メ∀・)「くそッ!」
モララーは立ち上がったかと思えば、すぐに十メートルほど離れた位置にあらわれた。
そしてすぐさま戦闘態勢に入り、近くにいたハインリッヒめがけて、飛び蹴りをかます。
が、その蹴りは、嘗てハインリッヒとアラマキとが同時に彼に挑んだときと比べて、随分と精度が落ちていた。
確かに力強く、迅く、鋭いものではある。
おそらく、まともに受ければ、骨や肉くらい、あっさり持っていかれるだろう。
『拒絶の精神』がもたらす、精神体の賜物といってもいいだろう。
しかし。
「無鉄砲」「当てずっぽう」「むやみ」。
そんな言葉が当てはまるような、雑な攻撃だった。
当然、ハインリッヒはそれを避けることができた。
その後方にいたアラマキが、その衝撃を『解除』して、蹴りを受け止める。
再び、モララーは四人に囲まれる状況となった。
もう、わけがわからなくなっていた。
.
- 908 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 18:03:25 ID:sDFjx8Yo0
-
(; メ∀・)「――ど、どういうことだ!! どうして、俺が、……っ!」
それ以上先は、言わない。
言うと、それを自分で認めてしまうことになるからだ。
認めてしまうと、自分は―――
_
( ゚∀゚)「ほら、吐けよ、『嘘』を」
(; メ∀・)「なに……?」
両手を広げて、ジョルジュが、無防備をアピールする。
不意打ちに長けるゼウスも、こんな至近距離にいるのに、モララーを攻撃しようとはしなかった。
そしてそれは、ハインリッヒとアラマキも一緒だった。
_
( ゚∀゚)「お前は、いますぐにでも、俺たちを殺せるんだぜ」
_
( ゚∀゚)「【常識破り】を使えば、イッパツじゃねーか」
_
( ゚∀゚)「なぜ、それをしない?」
(; メ∀・)「……っ!!」
モララーは、思わず黙った。
いや、ジョルジュのその言葉は、暗に彼を黙らせる効力を持っていたのだ。
.
- 909 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 18:04:02 ID:sDFjx8Yo0
-
また、モララーは。
つい先ほど、トソンから言われた言葉を、思い出した。
(゚、゚トソン『ったく。ホンキ出したら、満たされず虚無感が残る。拒絶心が強まる。そんな悪循環に陥ると云うのに』
( ・∀・)『手加減してたらそれ以上の蟠り、憎悪が募るだけだ』
(゚、゚トソン『それを打ち破ってこその〝生きる目的〟でしょうに』
.
- 910 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 18:04:40 ID:sDFjx8Yo0
-
―――即死の『大嘘』は、吐かないんじゃない、〝吐けない〟のだ。
そして、その理由は、トソンがああ言っていたし、自分でも大前提として知っていた。
そのことを、ジョルジュも言った。
_
( ゚∀゚)「わかってるよ。そうしたら、自分の存在意義を、自ら〝拒絶〟することになるんだもんな」
(; メ∀・)「……っ!」
モララーが、なにか言いたげな目をしている。
そして、その心中でなにを語っていたのか、ジョルジュには明瞭に伝わっていた。
_
( ゚∀゚)「ああ、お前の疑問はもっともだ」
_ .ホンキ
( ゚∀゚)「そうだとしても、今までの邂逅じゃあ勝っていた――少なくとも、『大嘘』を見せずとも、充分通じてた」
ショボンも、ワタナベも、モララーも。
相手を一瞬で葬り去ってしまうような『拒絶』を、平生では見せることはなかった。
理由は、前述のとおりだ。
それは、大きなハンディとなっていた。
しかしそれでも、彼ら三人は、彼ら、『能力者』たちに圧勝していた。
が――
_
( ゚∀゚)「なのに」
_
( ゚∀゚)「どうして、今、『大嘘』なしじゃ勝てなくなったのか――それが、わからないんだろ」
(; メ∀・)「………」
_
( ゚∀゚)「答えてやるよ」
ジョルジュは、なんの感情も介さずに、淡白な様子で言った。
.
- 911 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 18:05:27 ID:sDFjx8Yo0
-
_
( ゚∀゚)「お前の『拒絶の精神』が、打ち砕かれたんだよ」
_ ・ .・ ・
( ゚∀゚)「あの女が――お前の『嘘』の鎧を壊したことで、な」
――モララーは、目の前がだんだん白く染まっていった。
すると、頬を温いものが伝っていくのがわかった。
.
- 912 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 18:07:57 ID:sDFjx8Yo0
- ここ数日の目次
>>534-581 第二十三話「vs【常識破り】Ⅳ」
>>584-625 第二十四話「vs【常識破り】Ⅴ」
>>629-663 第二十五話「vs【常識破り】Ⅵ」
>>667-702 第二十六話「vs【常識破り】Ⅶ」
>>709-746 第二十七話「vs【771】Ⅳ」
>>754-785 第二十八話「vs【771】Ⅴ」
>>788-827 第二十九話「vs【771】Ⅵ」
>>830-862 第三十話「vs【常識破り】Ⅷ」
>>874-911 第三十一話「vs【常識破り】Ⅸ」
気がついたら900台突入
そして作者になってはじめて「投下のストックがない」状態になった
とりあえず、小説2の完走一番乗りを目指します
- 913 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 19:58:19 ID:I0.D50k60
- 乙!
やばいゾクゾクするわ
- 914 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 21:17:59 ID:rHExmctk0
- 乙!小説2の星となれ!
- 915 :同志名無しさん:2013/02/19(火) 15:07:53 ID:9vTQIbD6O
- 絶倫すぎる読むの追いつかねぇ、追いついたけど
- 916 :同志名無しさん:2013/02/23(土) 15:53:31 ID:jf4KZylYO
- 兄者の話を読んで思い出した
アルカディアにあるめだかボックスの二次創作でオリジナルの主人公がまんま『不運』の能力持ってた
気分悪くしたらすまない
- 917 :同志名無しさん:2013/02/23(土) 19:03:35 ID:KcS6WLfk0
- >>916
能力に関する細かい説明を書いた上でどこまでかぶっているか見てもらおう、と思ったのですが、
よく考えたら、【771】と【運の憑き】が活躍するのはもっともっとあとの話なので
現時点では「ぱくっていない」としか言えないです。ごめんなさい
- 918 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:07:12 ID:LPOyqarA0
- 皆さんへ
今から投下するのは「三十三話」です
「三十二話」も書こうと思っていたのですが、あまりのgdgdぶりに書いてるこっちがヒィィってなったので
三十二話はまたいつか、番外編として書く…ということにします。なので三十二話は無視しててください
でも、まあ三十二話は本編と関係がない(ようにつくるつもりな)ので
気にせず投下したいと思います
- 919 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:09:34 ID:LPOyqarA0
-
知らねえよ。
.
- 920 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:10:06 ID:LPOyqarA0
-
○登場人物と能力の説明
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
(゚、゚トソン 【???】
→『ワールド・パラメーター』と呼ばれる少女。
( ´ー`) 【???】
→『オール・アンチ』と呼ばれる男。
_
( ゚∀゚) 【未知なる絶対領域《パンドラズ・ワールド》】
→存在してはならない『領域』を創りだす《特殊能力》。
( ´_ゝ`) 【771《アンラッキー》】
→『不運』を引き起こすが、『能力者』でも『拒絶』でもない男。
(*゚ー゚) 【最期の楽園《ラスト・ガーデン》】
→『楽園』を『保守』し、そちらにワープする《特殊能力》。
.
- 921 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:10:38 ID:LPOyqarA0
-
○前回までのアクション
( ・∀・)
→劣勢
_
( ゚∀゚)
从 ゚∀从
/ ,' 3
( <●><●>)
→モララーを追い詰める
(゚、゚トソン
→気絶
.
- 922 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:12:13 ID:LPOyqarA0
-
第三十三話 「vs 」
――それが涙だ、と気づいたのは、いつの間にか肉薄していたハインリッヒに蹴られたあと、だった。
モララーはハインリッヒに蹴られ、ジョルジュとアラマキの間を通って
そのまま十メートル弱、飛ばされた。
(; メ∀ )「――ッ!!」
从 ゚∀从「………?」
ハインリッヒは蹴ったあと、己の脚に目を遣った。
蹴った感触が、想像していたものとまるで違っていたから、だ。
蹴った感触がしない――わけでは、ない。
ちゃんと、「蹴った」という実感はできた。
脚に残る感触が、それを雄弁に物語っている。
だが、どこか、「強敵を蹴った」というような実感は、思いのほか、なかった。
少なくとも、実の詰まったものを蹴ったような感触ではなかった。
空のダンボールを思いっきり蹴ったときのようなものである。
そしてハインリッヒは、蹴り飛ばされているモララーが静止したあたりで、ふと、その正体がわかった。
充足感、達成感ではなく―――虚無感。
言い換えるならば、今のモララーは脆かった、ということだ。
.
- 923 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:12:45 ID:LPOyqarA0
-
(; メ∀・)「く……ソっタレ……!!」
从;゚∀从「も、モララー?」
砂を躯の右側に塗りつけ、モララーはのそり、と起き上がった。
その動きはどこかぎこちなかった。
怒りに震えた者が起き上がる動作にそれは似ていたが、モララーの場合は違った。
どちらかというと、大きな病に侵されている脆弱な者のそれに似ていた。
それを見てハインリッヒは、明らかに『異常』を感じた。
(; メ∀・)「み……みせてやろうじゃねえか……」
ホンキ
(; メ∀・)「俺の……『大嘘』を……っ!」
やがて、モララーは立ち上がった。
しかし、生まれたての小鹿のようにその足取りは覚束なく、
まるで立っているだけでやっと――であるかのように思わせられた。
――いや、実際に、彼は立っているだけでやっと、の状態だった。
.
- 924 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:13:33 ID:LPOyqarA0
-
从;゚∀从「いつの間に、ここまでダメージ喰らってやがんだ……?」
_
( ゚∀゚)「……今の飛ばされ様を見て、身を以てわかったんだろうよ」
从 ゚∀从「え?」
ぼそ、とつぶやくと、ジョルジュが訊かれてもないのにそれに答えた。
この間、モララーから不意打ちがやってくる――そんな気配は、感じられなかった。
_
( ゚∀゚)「一見ふつうのように見えるが、今のモララーの精神は、ズタズタだ」
从 ゚∀从「なに…?」
_
( ゚∀゚)「もう、俺たちが手を下すまでもねえ。勝手に死ぬぞ、あいつ」
从 ゚∀从「!」
それを聞いてハインリッヒは目を見開いた。
また、モララーもそれに食いついた。
彼の声は、ジョルジュの主張を裏付けするかのようなものだった。
(; メ∀・)「……ずいぶん、勝手なこと、言ってくれんじゃねえか……!」
_
( ゚∀゚)「お前の、モララー=ラビッシュの生みの親だぜ。判るよ、ンなこと」
(; メ∀・)「ッるせえ!!」
(; メ∀・)「『消えていなくなれ』ッ!!」
.
- 925 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:14:17 ID:LPOyqarA0
-
――そしてジョルジュは、モララーに飛び掛った。
(; メД )「 ッ 」
_
( ゚∀゚)「精神が安定してないのに、意志の弱ぇ『嘘』が吐けるかよ、ボケ」
(; メД )「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」
ジョルジュは両手をポケットに突っ込んだまま、右脚でモララーの腹を捉えた。
メリ、と何かが軋む音が聞こえては、モララーはすぐ背後の壁にぶつかって、その場にくずおれた。
壁、とは言うが、言うまでもなく『領域』である。
もう、己にかけていた『ジョルジュの能力は効かない』という『嘘』でさえ、効かなくなっていた。
(; メ∀ )「ま……待て! 待ってくれ!」
_
( ゚∀゚)「生きる時間を一秒でも無駄にしたいのか」
(; メ∀ )「な、なんで『嘘』、吐けねえんだよ! なんで『拒絶』できねえんだよ!!」
_
( ゚∀゚)「……」
オレタチ
(; メ∀・)「答えてくれ! 『拒絶』の元凶だろ、てめえ!」
_
( ゚∀゚)「………」
.
- 926 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:15:12 ID:LPOyqarA0
-
モララーは反撃するかと思えば、うずくまったまま、腕だけをジョルジュの足に伸ばしてきた。
彼の足首を掴んでは、そのまま、かすれた声で叫んだ。
それを聞いて、ジョルジュは目を細めた。
その目が、己を哀れむそれのように見えて、モララーは叫びを強くした。
ジョルジュの呼吸の一つひとつが大きくなる。
モララーは全身の毛穴が広がってきた。
_
( ゚∀゚)「……お前は、な」
(; メ∀・)「…?」
_
( ゚∀゚)「〝怖くなった〟んだよ。『拒絶』するのが、な」
(; メ∀・)「……なんだと……?」
ジョルジュは腕を組んだ。
彼はよく腕を組むかポケットに手を突っ込むのだが、
物事を軽視するさいは後者、真剣になるときは前者になることが多いようだ。
_
( ゚∀゚)「お前は、『真実』を拒絶する人生のなかで、唯一…かは知らねぇが、信頼できるものができた」
_
( ゚∀゚)「あそこの、女だ」
(; メ∀・)「……」
モララーはうずくまったまま、そちら――トソンに目を遣った。
平生から肌がきれいなわけではないが、今のトソンはその平生と比べてずいぶんと肌を荒らしていた。
目じりのあたりにしわが窺える。
生気の感じられないその様子を見て、モララーは眉をひそめた。
.
- 927 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:15:58 ID:LPOyqarA0
-
_
( ゚∀゚)「――だというのに、その信頼を、壊された」
_
( ゚∀゚)「壊した原因は、『拒絶』そのものだ」
(; メ∀・)「違う!」
恫喝に近い声でモララーが言う。
しかしジョルジュはお構いなしに続けた。
_
( ゚∀゚)「せっかくそこに信頼ができたのに、あろうことか『拒絶』に潰されたんだもんな。
. 本末転倒だ。入り組んだパラドックスだ。そりゃ、『拒絶』が怖くなるわ」
(; メ∀・)「……勘違いしてるぜ、おまえ」
_
( ゚∀゚)「なんだ?」
(; メ∀・)「俺は……トソンのことなんざ、ハナから信頼して…ねえよ」
(; メ∀・)「あいつは『拒絶』のなり損ない」
(; メ∀・)「完成品の俺が、あいつを同格と見なすわけがねえ」
_
( ゚∀゚)「……」
(; メ∀・)「なんとか、言えよ。息すんのも、つらくなってきた」
ジョルジュの足を掴んでないほうの彼の手は、自分の胸のあたりにまわしていた。
そして、服を、皮膚を鷲づかみにしている。
呼吸が困難なときに見られる所作だ。
この言葉に、「嘘」は感じられなかった。
.
- 928 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:17:00 ID:LPOyqarA0
-
_
( ゚∀゚)「確かに、互いを〝『拒絶』として見てたら〟、お前はだーれも信頼なんざしてねーよな」
_
( ゚∀゚)「むしろ、この世でもっとも信頼しちゃならない存在なんだからな、『拒絶』なんてシロモノは」
_
( ゚∀゚)「人の、考えられる限りもっとも黒い精神で構成された存在なんだから」
ジョルジュは右手で左腕の肉を掴んだ。
服にしわができる。
――が、彼の眉間には更にしわが刻まれていた。
しかし、それは怒りを表すものではない。
彼の今の心の険しさ、を表現するものであった。
(; メ∀・)「ワタナベが、その好例だろーよ」
(; メ∀・)「『同じ拒絶同士なんだから、きっと心の底では通じ合えているさ』」
(; メ∀・)「なーんて……『嘘』でも言えねえな」
_
( ゚∀゚)「あいつは単なる心の黒さならお前にも勝ってたしな」
_
( ゚∀゚)「だが、それでもお前は、あの女を信頼していた」
(; メ∀・)「ジョーダンも、たいがいにしやがれよ……!」
( メ∀・)「『俺のフェイク・シェイクはまだ死んでない』んだからな……!!」
.
- 929 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:17:38 ID:LPOyqarA0
-
そう言うと、モララーはすッと立ち上がった。
【常識破り】――己の『拒絶』で、己の負荷を取り払ったのだろう。
彼のこの言葉にも、「嘘」はなかったようだ。
ジョルジュ自身も、「意志の弱い『嘘』は吐けない」としか言ってない。
意志があれば――
自分のその一瞬一瞬の思いに「嘘」がなければ、スキルはまだ死なない、ということのようだ。
だが、今の彼は、自分の精神体に「嘘」を吐いていた。
_
( ゚∀゚)「……そもそも」
( メ∀・)「あ?」
_
( ゚∀゚)「信頼することを『拒絶』したやつが誰かを信頼するなんて、本来ならありえねえよ」
( メ∀・)「よぉぉ〜〜くワカってんじゃねーか。
だから、さっきのおまえの推理はまったくのデ・タ・ラ・メって――」
_
( ゚∀゚)「人の話聞かねえ奴だな。『本来』つっただろ」
( メ∀・)「……なに?」
.
- 930 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:18:41 ID:LPOyqarA0
-
モララーはどうやら、徐々に調子を取り戻しつつあるようだ。
この感情の起伏の激しさは、ワタナベの前例を見ているため、彼らが不審がることはなかった。
「『拒絶』とは負の精神体の具現化」――そう、わかっているのだ。
先ほどまでか細かった声はどこにいったのか、モララーは野太い声を発した。
しかし、ジョルジュの声は、それよりも更に低かった。
_
( ゚∀゚)「それまで、モララーのなかにあったものじゃねえんだ、この信頼は」
( メ∀・)「悪いな、俺は科学者サマのおまえほど賢くはねえんだ」
_
( ゚∀゚)「こういう言葉で表現すんのは苦手なんだが……端的に言ってやるよ」
( メ∀・)「なにをォ?」
_
( ゚∀゚)「おまえが今まで押し隠してきた、信頼の皮に覆い隠された『真実』だよ」
そしてジョルジュは、深く息を吸った。
同時にうつむけた顔をあげ、彼は組んでいた腕をとき、指をトソンのほうに向けた。
彼の声は無意識のうちに大きなものとなっていた。
_
( ゚∀゚)「お前はな」
.
- 931 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:19:14 ID:LPOyqarA0
-
_
( ゚∀゚)「あいつを、〝オンナとして〟想っていたんだよ」
.
- 932 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:19:56 ID:LPOyqarA0
-
( メ∀・)
从 ゚∀从「…? どゆこと?」
( <●><●>)「貴様には縁のなさそうなハナシだな」
从 ゚∀从「……おい、ジジィ。どういうハナシだ」
傍らにいた三人が、そのときに各々が口を開いた。
ハインリッヒは首を傾げて、きょとんとした顔で。
ゼウスは依然、無表情のままで。
アラマキは、なにやら渋い顔をしては、ハインリッヒの問いに応じてやった。
/ ,' 3「儂の冗談が通じた、ってとこじゃな」
从 ゚∀从「?」
ハインリッヒがもう一度首を傾げる。
今度は誰も応じてはくれなかった。
.
- 933 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:20:51 ID:LPOyqarA0
-
_
( ゚∀゚)「それまでのお前は、調査によると
. とにかく拳ひとつで暴れまわっていただけの、ただのアウトローだったようだな」
_
( ゚∀゚)「『拒絶』となってからもそれは変わらずだ。
. ただ、ショボンやワタナベっつー同志…にもならない同志ができただけで」
_
( ゚∀゚)「ワタナベは、あれはもう狂人だから『オンナ』には入らないからな。
. この手のことに関しては、以前と変わらずだ」
( メ∀・)
_
( ゚∀゚)「だが、そこにあの女が来た」
_
( ゚∀゚)「どうやって『拒絶』の集団に潜りこんだかは知らねーが……
. ひとつ言えることは、当時は『拒絶』じゃなかった」
_ オマエラ
( ゚∀゚)「ふつうのオンナだったんだよ。ただ、ちょっと『 拒絶 』と話ができるだけの、な」
( メ∀・)
( メ∀・)「……おまえ、結構つまんねーこと考えてたんだな」
( メ∀・)「そーゆーのは非科学的だ、とか言って一蹴しそうなのによ」
.
- 934 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:21:29 ID:LPOyqarA0
-
ジョルジュの言葉を聞いて、最初にモララーが発したのは、
そんな、呆れたような声色をひそめた、力のないものだった。
_
( ゚∀゚)「でも、そうすっと、お前が『拒絶の精神』を乱したことに合点がいく」
( メ∀・)「なに?」
_
( ゚∀゚)「お前は、あの女に殴られたことで嘘の鎧が砕けたんじゃない」
_
( ゚∀゚)「〝あいつが『拒絶』化したって『真実』を身を以て知ってしまったから〟」
_
( ゚∀゚)「お前は壊れてしまったんだ」
.
- 935 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:22:08 ID:LPOyqarA0
-
( メ∀・)「!」
_
( ゚∀゚)「お、わかったみたいだな」
(; メ∀・)「ッ!」
ジョルジュは、明らかに動揺したモララーを見てそう言った。
その言葉を聞いてもう一度、モララーは動揺を見せた。
今度は上体を少し屈めて、だ。
モララーはそれを信じようとはしなかった。
不覚ながら動揺してしまった自分に「嘘」を吐くように、彼は声を大きくさせた。
(; メ∀・)「……あまり、人の神経を逆撫でするもんじゃ……ねえぞ…!」
_
( ゚∀゚)「じゃあ試すか?」
(; メ∀・)「なに…?」
言うとジョルジュは続けて、白衣を翻しながら振り返り、ゼウスのほうに上体を向けた。
モララーもゼウスも、なんだと思ってジョルジュの顔を見る。
ジョルジュはなんてことなない様子で、しかしあまりに重い言葉を投げかけた。
_
( ゚∀゚)「ゼウス、その女殺していいぞ」
.
- 936 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:22:44 ID:LPOyqarA0
-
( メ∀・)「 」
( <●><●>)
ゼウスがその言葉の真意を測ると、持ち前の初速を生かして、
すぐさま近くに横たわっているトソンのほうに飛び掛った。
砂煙が舞う。
なんの躊躇いもなく、ゼウスはトソンの首を切り落としにかかった。
一秒にも満たない、瞬間移動とも呼べそうな攻撃。
彼の、決して腕とは思えない手刀を、やはりいつものように振りかざす。
しかし――
というより、おそらくハインリッヒとしぃ以外の誰もが予測できたことではあったが――
.
- 937 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:23:33 ID:LPOyqarA0
-
( メ∀・)
( 、 トソン
( <●><●>)「……フン」
/ ,' 3「…ほ」
从;゚∀从「……モララー…?」
――モララーよりも、ゼウスのほうがトソンとの距離は短かった。
モララーの足は彼らのなかでもハインリッヒに次ぐほど速いが、
それでも初速に限って言えば、モララーでもゼウスには敵わない。
しかも、モララーは完全に出遅れていた。
ゼウスは最初からわかっていたのか、ジョルジュの言葉とほぼ同時にスタートを切ったのに対し
モララーは、ゼウスが砂煙を撒き散らしたときにようやくジョルジュの言葉の意味を理解したのだ。
だが、それでも
.
- 938 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:24:43 ID:LPOyqarA0
-
( メ∀・)「………殺すぞ」
( <●><●>)「一度殺した男が言うと、洒落にならない言葉だな」
モララーはトソンの前に立ちはだかって、ゼウスのその手刀を、受け止めていた。
つまり、これは『嘘』――彼は、【常識破り】を使って、ゼウスを止めにかかったのだ。
そのときの姿勢は、先ほど声を震わせて、崩壊を感じさせていた男とはまるで違って見えた。
嘗て――ハインリッヒとアラマキ二人を同時に相手をして、且つ簡単にいなしていたときのような。
あのときのようなモララー=ラビッシュに見える男が、目の前でゼウスの手刀を止めていた。
それを見て、ゼウスは不覚にも関心してしまった。
同時に、「戦闘狂」に相応しい興奮も感じてしまった。
( メ∀・)「おまえに言ってねえよ」
( メ∀・)「白衣、テメーに言ってんだ」
_
( ゚∀゚)「……自分から聞いておいてコレたあ、な。
. 飼い犬に手を噛まれるってやつだぜ」
ジョルジュは依然変わらぬ態度で、苦々しく言った。
この間も、ゼウスとモララーは膠着状態に似たその姿勢を保っていた。
( メ∀・)「人の心を抉って、人の心を弄んで、人の心を試して」
( メ∀・)「ああ、認めるよ。テメーは、『拒絶』の天敵だ」
( メ∀ )「テメーがいなけりゃーなあ……」
( <●><●>)「――ッ」
.
- 939 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:25:23 ID:LPOyqarA0
-
――その膠着状態は、モララーが破った。
ゼウスの手刀を掴んでいた腕を大きく振り上げたのだ。
しかも、やはり高速で、だ。
( メ∀ )「『拒絶』になることも!」
( メ∀ )「もう一度死ぬことも!!」
( メ∀ )「この女を助けるなんざ!!!」
その腕を、『ゼウスを抵抗できなくさせ』た上で振り回し、
ジョルジュたちのいるほうに、思いっきり投げ飛ばした。
.
- 940 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:26:39 ID:LPOyqarA0
-
( メД )「なかったのによおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
オオオオオオオオオオオオオああああああああああああああッッッ!!!!!」
.
- 941 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:27:37 ID:LPOyqarA0
-
「 んなもん、知るかよ 」
.
- 942 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:28:31 ID:LPOyqarA0
-
( <●><●>)「ッ!」
_
( ;゚∀゚)「!?」
( ;゚ω゚)「……ッ?!」
( ;゚ω゚)「お―――お前――ッ!!」
―――このときになって、今まで黙って事の成り行きを見守っていた内藤が、声帯を震わせた。
いや。
特筆すべきは、〝震わせさせるのに値する男が現れた〟ことなのだ。
.
- 943 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:29:23 ID:LPOyqarA0
-
「……やっぱ、アレだ。」
「おめーも『なり損ない』だよ。」
「それも、そのアマ以上に、中途半端だ。」
男は突如として現れては、投げ飛ばされたゼウスを片手で受け止めた。
その腕は太く、ゼウスを受け止めても一ミリもぶれなかった。
しかし、それでは語弊が生じた。
彼の腕は、ぶれなかったのではない。
ム シ
ゼウスから伝わる衝撃を、『拒絶』したのだ。
( ´ー`)「……答えろよ。 モララー=ラビッシュ」
この男――ネーヨ=プロメテウスは。
.
- 944 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:29:54 ID:LPOyqarA0
-
┌┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┐
├┼┼┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┘
├┼┘
└┘
B o o n s t r a y e d i n t o h i s
P a r a l l e l W o r l d : P a r t .Ⅱ → U n t i
E p i s o d e . t h i r t y - o n e → 『 A l l u n t i .Ⅰ 』
┌┐
┌┼┤
┌┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┼┼┤
└┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┘
.
- 945 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:31:55 ID:LPOyqarA0
-
第三十三話 「vs【全否定】Ⅰ」
(; メ∀・)「………旦那……じゃねえ、か…」
ようやく絞り出せたその声は、先ほどとはまた違う細さを感じさせるものだった。
彼の存在を認識したところで、モララーの
先ほどまで漂わせていた『拒絶のオーラ』はとたんに薄くなった。
ネーヨを見て、一気に萎縮してしまったのだろうか。
それとも、彼の言葉――お前も中途半端だ――を聞いたからだろうか。
とにかく、ネーヨの言葉を聞いて、モララーの声は一変した。
ゼウスは地に倒れこむように着地した。
彼が着地を失敗するなど、日頃では考えられない話だ。
人形のように地に落ちた彼を見て、
ハインリッヒとアラマキは――ネーヨの登場も含めて――驚愕をあらわにした。
――しかし、一番驚いていたのは、ゼウス自身だった。
驚いた原因は、無様に地に落ちた自分、ではない。
後ろに現れた男が放った声、である。
.
- 946 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:32:31 ID:LPOyqarA0
-
( <●><●>)「……」
( ´ー`)「……」
(; メ∀・)「……?」
ゼウスは立ち上がりながら、ネーヨの顔をじっと見た。
そして、平生では決して彼が見せるはずのないような、呆気にとられた顔をした。
アラマキとハインリッヒはその顔を見て、先ほどの驚愕もあいまって、
いま、異常事態が発生していることを感じ取った。
その間、おそらく十秒ほど。
彼らにしてみれば、あまりにも長すぎる時間。
その時を経て、先に口を切ったのはネーヨだった。
( ´ー`)「久しいな、ゼウス。……そして、パンドラ」
( <●><●>)「………」
_
( ゚∀゚)「……顔を合わせんのは、確かに久しいぜ。プロメテウス」
ネーヨはモララーのことなど忘れた、と言わんばかりに、注意を彼ら二人に向けた。
ジョルジュが、二人のもとに歩み寄ってくる。
その行動が、ハインリッヒたち外野の人間にとっては、異様のもののように見えた。
――この男は、誰なのだ。
ゼウスと旧知の仲だと?――
.
- 947 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:36:58 ID:LPOyqarA0
-
从 ゚∀从「……ぷろめ…てうす……?」
/;,' 3「……! ま、待て……待て!」
( ^ω^)「……一応、二十四時間は同じ世界を生きた人間として、忠告してあげるお」
从 ゚∀从「いた、のか」
先ほどまで陰に隠れていた内藤だが、
ジョルジュがゼウスとネーヨのもとに向かうのを見て、小走りで二人のもとに駆けつけた。
毒づくハインリッヒに苦笑を浮かべ、内藤はゴホンと咳払いをした。
そのときの顔がどこか、「内藤」ではない男のような気がして、ハインリッヒはどきりとした。
( ^ω^)「……【ご都合主義】を、倒した」
( ^ω^)「【手のひら還し】を、やり込めた」
( ^ω^)「【常識破り】を、追い詰めた」
( ^ω^)「……正直、この〝『拒絶』を拒絶する戦い〟がはじまる前からしてみれば、考えられない戦績だお」
( ^ω^)「………でも。それも、ここでオシマイ」
「 僕たちに、これ以上の未来はないお。 」
「 ここで……死ぬ。 」
.
- 948 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:38:09 ID:LPOyqarA0
-
/ ,' 3「ほっほっ」
从 ゚∀从「へッ……。戦ってねぇ奴がナニをぬかすかと思えば」
/ ,' 3「……いま、儂とこやつは、おぬしに質問をひとつ、したがっている」
/ ,' 3「おぬしが今から言おうとしていることと、それは一緒かの?」
依然ハインリッヒは毒づくが、どこか、それすら心地よく感じられた。
また、布を被った戦慄を感じるアラマキは、内藤にそう訊いた。
それに、内藤はうなずいた。
アラマキの嫌な予感が、的中したときだった。
( ^ω^)「あいつは、ネーヨ=プロメテウス」
( ^ω^)「……そして、いま拒絶するべき、最後の『拒絶』だお」
从 ゚∀从「…!」
/ ,' 3「……ねーよ…ぷろ…メ……テウス!」
ネーヨ=プロメテウス。
謎の異空間にてジョルジュが放った言葉と、合致した。
それを聞いて、「戦闘狂」の二人は意識せずとも拳を握った。
なにも、強敵が現れたから――ではない。
正体不明の威圧感に、一気に襲われたからだ。
.
- 949 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:38:39 ID:LPOyqarA0
-
( ´ー`)「……なつかしいぜ。まさか、おめーと、も一度ツラ合わせるなんてよ」
_
( ゚∀゚)「昔話、嫌いなんじゃなかったか?」
( ´ー`)「さすがの俺も、仏さんに対しての礼儀くれーはわきまえてるっつーこった」
_
( ゚∀゚)「その礼儀で、事は穏便に済ませてもらいたいトコなんだが、な」
( ´ー`)「それじゃー俺が礼儀を払う意味がなくなる」
( ´ー`)「……だよなあ。ゼウス」
( <●><●>)「……貴様」
ハインリッヒたち三人は、少し距離のある場所からその光景を見る。
特に、『拒絶』の、ネーヨを。
筋骨隆々、が一番似合いそうな男だ。
肩幅の広さ。
腕や足、首もとの太さ。
ラフな恰好が、彼のがたいの良さをより引き立てている。
また、涼しげな顔のその裏からは、得体の知れないものを感じ取れた。
それは『拒絶のオーラ』ではない。
ただ――圧倒的な、威圧感にそれは近かった。
.
- 950 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:39:20 ID:LPOyqarA0
-
从;゚∀从「ぜ……ゼウスっ! そいつァ、知り合いなのか!?」
その威圧感を拭おうと思ったのだろうか、ハインリッヒが声をあげた。
ネーヨという男のことはあらかじめ聞かされていたが、彼とゼウスの関係など知らないのだ。
迫ってくるかのような威圧感に後押しされ、言葉と同時に足も踏み出した。
しかし、ゼウスは応じない。
その間に、ハインリッヒの頬を二筋の汗が通っていった。
それを見かねたのだろう。
ネーヨはゼウスとジョルジュを置いて、のそり、のそりとハインリッヒたちのほうに足を向けた。
ポケットに手を突っ込んでは、一歩ずつ、ゆっくり、しかし大きな歩幅で近づいてくる。
それを見て、ハインリッヒは二歩、後ずさりした。
( ´ー`)「……そっか。おめーが、カゲキの娘か」
从 ゚∀从「…! お袋を……知ってんのか?」
( ´ー`)「昔、ちょっとな」
从 ゚∀从「な……なんで、お袋が、テメェみてーな奴と知り合いなんだよ」
( ´ー`)「お、意外そうだな。……そうか。自己紹介、まだだったっけな」
从 ゚∀从「………?」
.
- 951 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:39:54 ID:LPOyqarA0
-
そのことを思い出して、ネーヨは視界にハインリッヒとアラマキを据える。
内藤も目に入ったが――今の彼にとってはどうでもよかった。
ただ内藤が一方的に緊張を感じて、一方的に汗を垂らしているだけなのだ――彼は、そう割り切った。
――しかし、なんだ、この涼しげな様子は。
ハインリッヒが「自己紹介」と言われて、ふと、思う。
ジョルジュの言葉によれば、彼は『拒絶』の親玉的存在なのだ。
各地に散りばめられた『パンドラの箱』を次々に開けて、
意思の残っている状態で『拒絶』を助け出した、という。
そして、彼自身が『拒絶』とのことだ。
しかし、そのわりには
从 ゚∀从「(……感じねぇな……『拒絶』)」
( ´ー`)「…」
彼から、威圧感こそ感じ取れるものの、しかし『拒絶のオーラ』は感じ取れなかった。
また、ワタナベやショボンのように、見るからに歪んでいる――ような容姿ではなく
工事現場にでもいそうな、ごくふつうの男性、といった印象を与えられる。
なにより、ずっと――ゼウスの前に立とうが、ずっと、涼しい顔を保っているのだ。
彼が体臭のように放っている「恐怖」を前にまったく屈しないとは、まるで信じられなかった。
なにやら観察されているな――
ネーヨはそう思ったのだろうか、ハインリッヒの感じている不審が大きくなる前に、と口を開いた。
.
- 952 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:40:38 ID:LPOyqarA0
-
( ´ー`)「はじめまして、の人が三人もいるみてーだから、一応自己紹介としゃれこもうじゃねーか」
从 ゚∀从「三人……」
( ´ー`)「俺の名は、ネーヨ=プロメテウス」
( ´ー`)「またの名を―――」
从;゚∀从「!」
/ ,' 3「――ッ」
――直後、ネーヨの背後にジョルジュが飛び掛った。
ゼウスを髣髴とさせる不意打ちに、味方のはずのハインリッヒとアラマキが驚いた。
しかも、ただの不意打ちではない。
その、眉間に刻み込まれたしわに、険しい表情。
動作の何においても、とてつもない殺気が感じられるものだった。
そして、二人の声帯が震える前に
ジョルジュは、ネーヨの後頭部に、思いっきり殴りかかった。
結果、破裂音にも似た打撃音が周囲に響き渡った。
破裂音をすぐさま包み込む静寂が、よりそれを強調した。
.
- 953 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:42:17 ID:LPOyqarA0
-
――そして
〝なんてことない様子で〟ネーヨは言葉を続けた。
( ー )「 またの名を―― 『 オールアンチ 』 。」
_
( ゚∀゚)「……クソ」
从;゚∀从「――なああああああああああッ!?」
/;,' 3「殴られてビクともせん、とな?!」
――確かに、破裂音はした。
打撃の音が破裂音に聞こえた、とは、それほど、凄まじく鋭い打撃だったはずなのだ。
しかし、殴られたはずのネーヨは、ぴくりとも動かなかったし、動じなかった。
それが、あまりにも異様のように思えて、二人は目を丸くした。
ついに、戦闘がはじまる。
そう思った内藤は、なんとか平静を保とうと努めながら、声を放った。
その声は、無意識ながらも大きいものとなっていた。
.
- 954 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:43:11 ID:LPOyqarA0
-
( ;^ω^)「今更驚くべきことじゃないお!
. それが、ネーヨって男のスキルだお!!」
/;,' 3「じゃあ、なんじゃと申すんじゃ!」
すぅ、と、意識せずに内藤は大きく息を吸った。
. スベテ ム シ ウチケ
( ;^ω^)「『拒絶』を『拒絶』し『拒絶』してし……いや!」
――内藤はそこで、言葉を変えた。
( ;゚ω゚)「なにも効かない!! なにも受け付けないスキルなんだお!!」
オールアンチ
( ;゚ω゚)「 その名も、【 全 否 定 】 ッ ! 」
.
- 955 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:44:29 ID:LPOyqarA0
-
从 ゚∀从「……?」
ム シ
( ;゚ω゚)「いまのあいつは、あらゆる攻撃を『拒絶』してるんだお!」
( ;゚ω゚)「つまり、〝どう攻撃しても、いまのあいつにはさっぱり通じない〟ッ!!」
从;゚∀从「は――ハアアアアアアッ!? んなわけあるか!」
( ;゚ω゚)「あァるから言ってんだお! なにをどーやっても勝ち目なんざない!」
/;,' 3「な……なに!?」
( ´ー`)「勝ち目がどうこうっつー話じゃねーよ」
/;,' 3「ハァ?―――」
/ 。゚ 3「ッ!!」
从;゚∀从「!? ――ッ!?」
「いつの間に」なんて言葉は、それがあまりにも
一瞬の出来事だったため、脳裏に浮かべることすらできなかった。
ネーヨが突然、三人の間に立っていたのだ。
先ほどまでは、前方にいたはずなのに――と。
ネーヨは、今の言葉を聞くところによると、
決してモララーやショボンのような多芸なスキルではないはずだ。
――なら、どうやって一瞬で移動したというのだ。
.
- 956 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:45:36 ID:LPOyqarA0
-
などと思うも、彼らはまず本能的に、左右に展開するように後退した。
着地してからはじめて、心臓の鼓動がこの上ないほどに速まっていることに気がついた。
冷や汗を浮かべつつも、二人はとたんに、険しい表情を浮かべる。
ネーヨはその二人の様子を見て、呆れたような顔をした。
( ´ー`)「なんだァ? 急に驚いてよ」
( ´ー`)「まさか、『人間が瞬間移動するなんて、物理的にありえない』とか思ってんじゃねーよな?」
从;゚∀从「…」
/;,' 3「…」
( ´ー`)「んなもん、知らねえよ」
( ´ー`)「瞬間移動できるもんは瞬間移動できんだよ」
( ´ー`)「甘受しな」
「甘受しな」。
この言葉には、ネーヨの涼しい顔からは決して想像もつかないような、重いものが籠められていた。
そのため、この言葉ひとつに威圧感が漂っているように思わせられた。
実際に、その言葉を聞いて、ハインリッヒはぞわり、とした。
ほんとうはそこには『拒絶のオーラ』などないのに、それを、感じてしまったのだ。
.
- 957 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:46:49 ID:LPOyqarA0
-
/;,' 3「……心筋の…、運動……じゃな」
从;゚∀从「…!」
アラマキも心地は一緒だったのか。
それを払拭するのも兼ねてか、アラマキはぽつり、と「それ」をつぶやいた。
聞き取れたのは、向かいにいたハインリッヒくらいのものだっただろう。
彼は続けて、右腕を前に突き出した。
そして
/ ,' 3「……『解除』ッ!」
ネーヨの「心筋の運動」を、止めにかかった。
そして、手ごたえからして、ネーヨの心臓は「止まった」。
直後、アラマキは〝背後から〟蹴り飛ばされた。
.
- 958 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:48:12 ID:LPOyqarA0
-
( ´ー`)「知らねえよ」
从;゚∀从「ッ!!」
/;。゚ 3「――ガッ……!」
从;゚∀从「あ――アラマキィィッ!!」
アラマキは無防備だった。
意識を、完全に『解除』することに向けていたためである。
そしてそのせいで、アラマキは想像以上に飛ばされてしまった。
その距離、二十メートル。
『武神』たるアラマキにしては、ありえないと言っていい数値だ。
そしてその攻撃を喰らって、アラマキはひとつ、ネーヨについてわかったことがあった。
ネーヨの持つ『拒絶』、【全否定】。
彼が強い原因は、なにもそのスキルのおかげ――というだけではない。
ネーヨの戦闘能力そのものが、抜きん出ているのだ――
.
- 959 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:49:14 ID:LPOyqarA0
-
( ´ー`)「おら、かかってこいよ『英雄』」
从;゚∀从「……なに?」
( ´ー`)「カゲキの娘ってことだからトーゼン、鍛えられてんだろ?」
( ´ー`)「あの反則じみた能力、【劇の幕開け】。いっぺん、使われてみたかったんだ」
从;゚∀从「ハン! ……あいにく、『英雄』はちょっくら休業中でね」
( ´ー`)「なに? おめーが?」
ハンリッヒは、心臓の鼓動こそ凄まじいものになっているものの
このときだけは、凛とした様子で、言い放つことができた。
从;゚∀从「いまは……そうだ」
从 ゚∀从「この、情けねェヤロウどもに手を貸してやってる……のさ」
.
- 960 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:49:56 ID:LPOyqarA0
-
( ´ー`)「……ゼウスとそこのオイボレの、か」
从 ゚∀从「ちげェよ」
( ´ー`)「…?」
「違うのか?」
そう思ったネーヨだったが、その次の瞬間に、その謎は解けた。
从 ゚∀从「ゼウス、アラマキ、私。そして………」
从 ゚∀从「ジョルジュ」
( ´ー`)「…!」
从 ゚∀从「そうだな、この四人で、さしづめ……」
从 ゚∀从「 『革命』 」
.
- 961 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:50:41 ID:LPOyqarA0
-
_
( ゚∀゚)「…!」
( <●><●>)「……。」
/;,' 3「ほ……?」
从 ゚∀从「『拒絶』を拒絶するがためだけに組まれた」
从 ゚∀从「敵対する私たち四人を唯一つなぐ、同盟の名……だ」
.
- 962 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:51:24 ID:LPOyqarA0
-
( ;^ω^)「革命……ねぇ」
内藤が、ぼそっとつぶやく。
そのときの顔はどこか、気持ちの悪い笑みが含まれていた。
その笑みには二つの理由がある。
そのうちの一つは、彼らが【常識破り】との戦いを渇望したときに感じたものと、まったく一緒だった。
勝算こそ絶望的なのに、負けることを感じさせない魅力的な『登場人物』たち。
『作者』として、これ以上に勇気を与えてくれるものは存在しなかった。
.
- 963 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:52:06 ID:LPOyqarA0
-
( ´ー`)「……へェ。かっちょいいこと言うんじゃねーか」
从 ゚∀从「テメェ、自分が勝つ気しかねーだろ?」
( ´ー`)「?」
从 ゚∀从「せいぜい、今のうちに慢心に浸っておけよ」
从 ゚∀从「……ショボン、ワタナベ、そしてモララー」
从 ゚∀从「コイツらを拒絶したときのように……」
从#゚∀从「 『革命』 を起こしてやらァ!!」
从#゚∀从「『イッツ・ショータイム』――ッ!」
.
- 964 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:52:54 ID:LPOyqarA0
-
( ´ー`)「ッ――」
( <●><●>)「…!」
ゼウスとネーヨは、とっさに視線を変えた。
――いや、依然として、視線が捉えるものは変わっていなかった。
彼らはずっと、ハインリッヒを見ていた。
変わったのは、ハインリッヒの〝位置〟である。
【正義の執行】を開始するハインリッヒには、『英雄』たる者としての、ある程度の補正を受ける。
その結果、二人がとっさに向きを変えなければならなくなる程度には動きが速くなったのだが――
その機動力が、ゼウスがかねてより知っていたもののそれよりも更に高まっていたのだ。
从 ゚∀从「遅ェ!!」
( ´ー`)「……ぐッ」
从;゚∀从「―――ッ!?」
.
- 965 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:53:27 ID:LPOyqarA0
-
ハインリッヒはそのまま、蹴りかかった。
『あらゆる攻撃』を『拒絶』しているネーヨに、だ。
ネーヨは、自分が『英雄』の資格を剥奪されていることを知らない。
だから、はったりも兼ねて、彼女は一か八かで蹴りかかってみたのだ。
当然、普通ならネーヨにその蹴りは効かない。
しかし――いや、〝だからこそ〟、ハインリッヒは戸惑った。
ネーヨが苦痛の声を発したのだ。
( ´ー`)「……カゲキの娘だけ、あるわ」
从;゚∀从「ッ!」
ネーヨはそう言って、ハインリッヒを掴みにかかった。
予想外のことが起こったため一瞬思考が停止したハインリッヒだったが、
本能的に、その手に捕まる前に後退する。
二人の距離が空いてから、ネーヨは変わらない語調で、続けた。
.
- 966 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:54:33 ID:LPOyqarA0
-
( ´ー`)「一応、同僚のムスメってことだからな。いっぺん、おめーの攻撃、受けてみたかったんよ」
从;゚∀从「う、……〝受けてみたかった〟ァ!? ……って、〝同僚〟!?」
( ´ー`)「……ああ。そういや、自己紹介が途中で終わってたな」
从;゚∀从「…?」
ネーヨは、ハインリッヒに蹴られた箇所――背中をぽんぽんと叩きながら、言った。
それを見て、ハインリッヒは一つ、気づいた。
〝自分の渾身の蹴りを喰らってなお、涼しい顔をしていられていることに〟。
.
- 967 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:55:09 ID:LPOyqarA0
-
( ´ー`)「しっかしよ」
( ´ー`)「〝パンドラと同盟を組む〟なんざ、笑えるな」
从;゚∀从「なに…?」
( ´ー`)「俺らのことを少しでも知ってんだったら、まずそんな愚行はしでかせねーたァ思うんだがなァ」
从 ゚∀从「……いちいち回りくどいこと言ってっと、女子高生に嫌われるぜオッサン」
( ´ー`)「敵の一端を見ただけで知った気になってっと、オッサンに嫌われるぜ女子高生」
从 ゚∀从「………もう成人してるわ、ボケ」
( ´ー`)「わりィな、俺は年齢と身長は比例してるって考えてるもんでね」
从#゚∀从「……ッ……! さっさと言え、カス!!」
( ´ー`)「おーおー怖い。せっかく〝忠告〟してやってるってのにな」
从#゚∀从「忠告だア!? なんだってんだよ!」
_
( ゚∀゚)「奴のペースに持っていかれるな、『英雄』」
从#゚∀从「………チッ」
ジョルジュが、言う。
仕方なく思い、ハインリッヒは舌打ちをするだけして、閉口した。
それを見てネーヨは笑った。
やりこめられたハインリッヒに、ではない。
そう言葉をかけてきた男、ジョルジュに、だ。
.
- 968 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:55:54 ID:LPOyqarA0
-
( ´ー`)「おー、サマになってるねェー」
_
( ゚∀゚)「……ンだよ」
( ´ー`)「今度は『革命』とか云う組織に入ってるみてーだが」
_
( ゚∀゚)「ただの成り行きだ。ほっとけ」
( ´ー`)「楽しみだわ。」
( ´ー`)「今度は、どーやって〝仲間〟を裏切るのかが、な」
从 ゚∀从「………ウラ……切る……?」
_
( ゚∀゚)「耳を貸すな、『英雄』。ただの戯言だ」
( ´ー`)「戯言? ソレが戯言じゃねーか、パンドラよ」
从 ゚∀从「……? どういうこと…だ?」
( ´ー`)「じゃあ、あらためにあらためて、自己紹介といきましょーか」
从 ゚∀从「?」
.
- 969 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:57:14 ID:LPOyqarA0
-
( ´ー`)「俺の名は、ネーヨ=プロメテウス」
( ´ー`)「またの名を、【全否定】」
( ´ー`)「そして……」
「 パンドラに〝裏切られ〟今はなき自警団。 」
「 『開闢』 の者だ。 」
.
- 970 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 23:00:26 ID:LPOyqarA0
-
これまでの目次
>>534-581 第二十三話「vs【常識破り】Ⅳ」
>>584-625 第二十四話「vs【常識破り】Ⅴ」
>>629-663 第二十五話「vs【常識破り】Ⅵ」
>>667-702 第二十六話「vs【常識破り】Ⅶ」
>>709-746 第二十七話「vs【771】Ⅳ」
>>754-785 第二十八話「vs【771】Ⅴ」
>>788-827 第二十九話「vs【771】Ⅵ」
>>830-862 第三十話「vs【常識破り】Ⅷ」
>>874-911 第三十一話「vs【常識破り】Ⅸ」
今回の投下分( ※三十二話はありません。)
>>919-969 第三十三話 <タイトルはご自分の目で>
.
- 971 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 23:02:20 ID:LPOyqarA0
- 次回…ってか今回から「拒絶」編最終パートなのは見てのとおりですが
三十四話以降は、ここではなく新スレを立てて投下します。よろしくです
一ヶ月ぶりでしたが、今回も読んでいただきありがとうございました!
- 972 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 23:28:41 ID:x2AN0PS60
- 乙
- 973 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 23:40:49 ID:K1WeaUcY0
- これから大量に人が出てきそうだな。乙。
- 974 :同志名無しさん:2013/03/17(日) 00:09:45 ID:O77Zck5k0
- おつー
- 975 :同志名無しさん:2013/03/17(日) 00:22:10 ID:0jUdsEcM0
- >>944 で31って書いてあるけど33じゃないの?
- 976 :同志名無しさん:2013/03/17(日) 00:31:57 ID:Ms8sK/Pc0
- >>975
いやああああああああああああああああああああ
素でミスりました。訂正版いまからつくります…ごめんなさい
- 977 :>>944訂正:2013/03/17(日) 00:35:44 ID:Ms8sK/Pc0
-
┌┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┐
├┼┼┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┘
├┼┘
└┘
B o o n s t r a y e d i n t o h i s
P a r a l l e l W o r l d : P a r t .Ⅱ → U n t i
E p i s o d e . t h i r t y - t h r e e → 『 A l l u n t i .Ⅰ 』
┌┐
┌┼┤
┌┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┼┼┤
└┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┘
.
- 978 :同志名無しさん:2013/05/03(金) 12:15:08 ID:9ebvwjyA0
- http://draft-bbs.net/2013yamane.y.html
- 979 :同志名無しさん:2013/05/03(金) 14:15:37 ID:AgXVO6cU0
-
パラレルワールド
―――あるいはありえたかもしれない、もうひとつの『 世 界 』。
NG→1 : 『 手のひら還しの謎 』
.
- 980 :同志名無しさん:2013/05/03(金) 14:16:12 ID:AgXVO6cU0
-
「Ⅷ【し還らひの手】sv」話六十第
その爆音を聞いて、内藤は屋敷の陰から飛び出した。
目を凝らして、砂煙が晴れるのを待つ。
そこに見えるワタナベの姿を見て、内藤は仰天した。
( ;゚ω゚)「なァァ?!」
ワタナベが。
あのワタナベが。
『拒絶』のワタナベが。
【手のひら還し】が、とんでもない負荷を負っていたからだ。
.
- 981 :同志名無しさん:2013/05/03(金) 14:16:43 ID:AgXVO6cU0
-
胴体が、「粉々」と称するのが相応しいほどに、形をなくしていた。
肉と呼べる肉は飛び散り、血は嘗てない程の量を流し
大腸や胃、そして何より肺までもが粉砕されそこら中に散乱していた。
下半身は胴体からちぎれ、また爆撃のせいで焦げ、溶け、そしてなくなっている。
また、ワタナベの絶叫に近い悲鳴が、聞こえる。
内藤は、その信じられなさに、半ばワタナベに同情するような心地になっていた。
( ;゚ω゚)「(ばかな! どーしてワタナベはこの『因果』を『反転』させなかったんだお!?)」
苦しそうに、ワタナベはもがき苦しむ。
満身創痍のゼウス、及びアラマキは、そんな彼女をじっと見下ろしていた。
内藤はいてもたってもいられなくなり、彼らのもとへ駆け寄った。
『拒絶』、『恐怖』、『威圧』の入り交じった空気に、内藤が入ることができた。
最初に気づいたアラマキが、内藤に応じた。
苦笑混じりで、内藤に近況を言う。
/ ,' 3「……見てのとうりじゃ」
( ;^ω^)「ッ!」
从;Д;从「――カァァッ―――ああああっあッ!! ―――〜〜!!」
ワタナベは、それほど痛みを感じているのか、声にならない声を発していた。
じたばたとのたうち回り、四肢をぐるぐると動かす。
とても、一般人には見せられない光景だった。
.
- 982 :同志名無しさん:2013/05/03(金) 14:17:38 ID:AgXVO6cU0
-
そして、なぜワタナベがこれほどまでに苦しむのか。
その理由は、内藤もアラマキもわかっていた。
恐る恐る、内藤はそれを口にする。
( ;^ω^)「……! 『反転』不可の〝即死〟技かお!」
/ ,' 3「ふつーに殺りあったら、これほどの負荷は食らう前に『反転』させるか、
. 食らってから事実関係を『反転』させる……
. それも無理なら、時間を『反転』させて、回復を狙うじゃろぅ」
――そして、儂の拳は全ての『反転』をすり抜けた。
アラマキが、ちいさく、誇らしげに言った。
ワタナベが苦しむのも、いや、苦しみと云う概念が残っているのが普通だったのだ。
『生死の概念の反転』と言っても、『反転』させられたのは『生死の概念』のみであって、
苦痛、負荷を『反転』させて快楽を得られると云うわけではない。
それなのに先ほどまで反撃できなかったのは、
そもそも「苦痛、負荷を与えることができなかった」からだ。
ワタナベ、と云う本命の前に、【手のひら還し】と云う壁が立ちはだかるためである。
また、もうひとつ、彼女が苦しむ理由。
アラマキの放ったそれが、問答無用の〝即死〟技だからである。
いくらゼウスでも、胸部から下の躯を失い、致死量を充分に超える失血を経て
〝呼吸器官の欠乏〟による〝常時窒息状態〟まで与えられてしまえば、間違いなく死ぬだろう。
そうでなくとも、苦痛を感じて、ショック死するに違いない。
人間の身体は、そのようにできているからだ。
.
- 983 :同志名無しさん:2013/05/03(金) 14:18:10 ID:AgXVO6cU0
-
―――という見解が、内藤がその現状を見てから思い浮かんだ仮説であった。
仮説だった、とここで強調するのは、それがただの仮説にすぎないことを嫌でも認めざるを得ない状況になったからだ。
ワタナベが、もがく。
勝利を確信して、アラマキが腰に右手を当てる。
なんともいえない虚無感。
心に、ぽっかりと穴が開いたような――
「………はぁ。」
――その穴を見て失望したのか
背後から、そんなため息を吐く声が聞こえた。
.
- 984 :同志名無しさん:2013/05/03(金) 14:18:40 ID:AgXVO6cU0
-
( ;^ω^)「……? え、アラマキ?」
/ ,' 3「? なんじゃ」
( ;^ω^)「――じゃ、ない……。……え?」
内藤はそのため息を聞きつけて、ばッと振り返った。
それまで、後ろには誰もいなかった。
だから、おかしいのだ。
〝背後から〟そんなため息を吐く声が聞こえた、など。
「なァ〜〜にが、『反転』不可の即死技?」
「ぶひゃひゃひゃ!! そんなんで納得するのですか、あなたは!」
「さッすがは、『作者』なだけ、ある。」
「適当に話をでっち上げるのだけは、この僕でも勝てないな!」
.
- 985 :同志名無しさん:2013/05/03(金) 14:19:11 ID:AgXVO6cU0
-
( ;^ω^)「………、」
( ;゚ω゚)「…………ッ……!」
「マ、でも、褒めてあげますよ」
「適当な話をでっち上げる点においては、僕も見習わなくちゃならない」
「〝僕の華麗な復活劇〟。それが、なかなか思いつかなかったから、ね」
/ ,' 3「……、」
/;。゜3「……! お、おぬしは―――」
(´・ω・`)「『あ、死んでる』」
.
- 986 :同志名無しさん:2013/05/03(金) 14:19:44 ID:AgXVO6cU0
-
/ 。゜3「 」
( ;゚ω゚)「あ――アラマキ!?」
(´・ω・`)「そこまでだ」
( ;^ω^)「!?」
なぜ、この男が―――
こう考える猶予も、彼は、ショボン=ルートリッヒは、与えてはくれなかった。
ツカツカ、と、如何にも彼らしい歩み方で、彼は迫ってくる。
その顔には、余裕を感じさせる笑みすら、なかった。
.
- 987 :同志名無しさん:2013/05/03(金) 14:20:29 ID:AgXVO6cU0
-
(´・ω・`)「その理屈が通じるなら……」
(´・ω・`)「やはり最初、ワタナベの心臓を吹き飛ばした時点で、あなた方は、勝っていた」
( ;゚ω゚)「!?」
(´・ω・`)「心臓がなくなったことで、血液循環はオールストップ」
(´・ω・`)「よって、酸素が行き届かなくなるから、脳細胞も死滅」
(´・ω・`)「そうなると、生と死を『反転』させようが、彼女はまもなく、動けなくなるからね」
(´・ω・`)「……なのに、生きていた」
(´・ω・`)「これの意味するところがなにか、わかります?」
.
- 988 :同志名無しさん:2013/05/03(金) 14:21:02 ID:AgXVO6cU0
-
( ;゚ω゚)「しょ――ショボン! あ、あんたは、確か――」
内藤は慌てて、近くに彼が創った落とし穴のほうを、見た。
それは、ショボンの背後のほうにある。
確かに、穴は、ある。
そこからここまで直線で歩いてきたであろう跡も、残っている。
つまり、それは紛れもない「現実」なのだ。
しかし、目の前に彼が立っていること。
これは、およそ「現実」とは思えなかった。
エ ソ ラ ゴ ト
ただの 【ご都合主義】 としか思えなかった。
.
- 989 :同志名無しさん:2013/05/03(金) 14:21:36 ID:AgXVO6cU0
-
(´・ω・`)「全部、全部だ。」
( ;゚ω゚)「!」
(´・ω・`)「僕が華麗に復活できるまでの、時間稼ぎだったのさ」
(´・ω・`)「彼女……『英雄』に植えつけられた精神的ダメージは、思いのほか大きかったからね」
(´・ω・`)「僕の『拒絶の精神』が、みごとにえぐられていた」
(´・ω・`)「もしワタナベがここであっさり死んでしまうと、僕が体勢を取り戻す猶予がなくなる」
(´・ω・`)「だから、ちょちょいのちょいと、『現実』を創りかえた」
.
- 990 :同志名無しさん:2013/05/03(金) 14:22:11 ID:AgXVO6cU0
-
( ;゚ω゚)「ばァーか言っちゃよくないお! そんな【ご都合主義】があってたまるか!」
(´・ω・`)「……なんだって?」
( ;゚ω゚)「エ、なに、今の話には、矛盾があるお!」
(´・ω・`)「面白い。聞いてみよう」
( ;゚ω゚)「まず、あんたはハインリッヒによって、『拒絶の精神』に負荷をかけられた!」
( ;゚ω゚)「それも、すぐに復活できないほどの、大きなダメージを!」
(´・ω・`)「……」
( ;゚ω゚)「すぐに復活できない……つまり!」
( ;゚ω゚)「【ご都合主義】!」
( ;゚ω゚)「あんたは、ここで、死んだんだ!」
.
- 991 :同志名無しさん:2013/05/03(金) 14:22:42 ID:AgXVO6cU0
-
(´-ω-`)「……」
( ;゚ω゚)「なのに、自分のスキルが使えなくなっていたのに、なに、スキルを使ってワタナベを延命させた!?」
( ;゚ω゚)「そんな【ご都合主義】がまかり通って―――」
(´・ω・`)「もう、いい」
( ;^ω^)「――ッ……。」
(´・ω・`)「きみには、甚だガッカリだ」
(´・ω・`)「そんなもの、いくらでも『理詰め』できる」
( ;^ω^)「(『理詰め』……?)」
(´・ω・`)「……まず、きみが提示した点に言わせていただこう」
.
- 992 :同志名無しさん:2013/05/03(金) 14:23:49 ID:AgXVO6cU0
-
(´・ω・`)「僕は、『英雄』に甚振られ、この現実に生きることを『拒絶の精神』が拒んだ」
(´・ω・`)「『拒絶の精神』の持つ本能と生存本能とが食い違ってしまう。
. 結果、僕が復活するようにはスキルを使うことができなかった。」
(´-ω-`)「……だが。ワタナベを延命させることは、『拒絶の精神』の損壊との直接的なリンクはない」
(´・ω・`)「だから、捻じ曲げることができた」
(´・ω・`)「……【ご都合主義】は、死んでなかったのだよ」
.
- 993 :同志名無しさん:2013/05/03(金) 14:24:28 ID:AgXVO6cU0
-
( ;゚ω゚)「……!」
(´・ω・`)「……今度は、本気を出させていただこう」
(´・ω・`)「幸い、『英雄』は、ワタナベにあっさり殺されてしまった」
(´・ω・`)「僕の『現実』を塗り替える、とんでもない奴だったが……
. まあ、死んだのを見ると、悲しくならなくもない」
( ;゚ω゚)「……ま、…待て………、」
(´・ω・`)「そして、今」
(´・ω・`)「【ご都合主義】は、完治した」
(´・ω・`)「……もう、僕を止める者は、いない」
( ;゚ω゚)「く……くるな………くるな! 来るな!!!」
.
- 994 :同志名無しさん:2013/05/03(金) 14:25:00 ID:AgXVO6cU0
-
(´・ω・`)「 『拒絶』 に呑まれて……足掻くがいい」
(´・ω・`)「僕の、ように」
→To be continued...?
.
- 995 :同志名無しさん:2013/05/03(金) 14:27:20 ID:AgXVO6cU0
- 文丸さんへ このNGはまとめないでください
あと、NGってのを見ればわかるように
これは本編とはまったく関連しません。ごめんなさい
あとは少し間を置いてから適当に埋めます
- 996 :同志名無しさん:2013/05/03(金) 18:35:11 ID:n/gw2iDA0
- 言われないと気づかなかった。
- 997 :同志名無しさん:2013/05/15(水) 22:39:23 ID:2khxFlsk0
- 適当に現在投下分までの暫定能力ランキングつくった
(強い→弱い)
【トチ狂っとる】
( ´ー`) (´<_` ) 从 ゚∀从(覚醒)
↑なにも効かない ↑どう足掻いても死ぬ ↑絶対負ける
【他作品の最上位】
( ・∀・) (´・ω・`) 爪'ー`) 川 ゚ -゚)
↑殺せないし瞬殺される ↑左に同じ ↑残機なかったら即死 ↑会ったら即死
【そこそこチート】
从'ー'从 从 ゚∀从 ( ゚∋゚) (゚、゚トソン / ,' 3
↑会ったら即死 ↑優先 ↑力じゃ敵わない ↑時間と力を操作 ↑重力解除かオールカウンター
【なんか、うん】
( ^Д^) ( <●><●>) (・∀ ・) <゚Д゚=> (’e’) ('A`)
↑因果律操作 ↑素で強いから ↑環境次第 ↑会ったら重傷 ↑肌が弱かったらやばい ↑こいつ誰だっけ
【最弱】
( ^ω^) ノパ⊿゚)
↑ブーン ↑ヒート
【攻撃の術を持たない】 _
(#゚;;-゚) ( ゚∀゚) ( ´_ゝ`)
↑会ったら引き分け確定 ↑会ったら不戦敗確定 ↑なにが起こるかわからない
でも完結前提で言ったら現在トップのネーヨさんとかトップ3にすら入らないから、実はあまり当てにならない
- 998 :同志名無しさん:2013/05/15(水) 22:41:09 ID:2khxFlsk0
- よく考えたらネーヨさんよりオトジャのほうが強い気がしてきた
- 999 :同志名無しさん:2013/05/15(水) 22:42:01 ID:2khxFlsk0
- 八頭身がガタッしてるAA探してくる
- 1000 :同志名無しさん:2013/05/15(水) 22:45:13 ID:2khxFlsk0
- * + 巛 ヽ
〒 ! + 。 + 。 * 。
+ 。 | |
* + / / イヤッッホォォォオオォオウ!
∧_∧ / /
(´∀` / / + 。 + 。 * 。
,- f
/ ュヘ | * + 。 + 。 + たまに現実逃避がしたくなる。
〈_} ) | 次スレも…パラレルワールド!!
/ ! + 。 + + * http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/16305/1364881754/
./ ,ヘ |
ガタン ||| j / | | |||
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