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女「気になる貴方」

1以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/18(木) 22:24:52 ID:fvi4nIJE
女「はぁ、はぁ……」

女「もう、無理」

女「お母さんゴメンね……私、薬を、見つけられ──」




??「大丈──か!?」

女「天国からのお迎え……?」

??「──!」

女(持ち上げられてる……ゴツゴツしてて痛い)

女(あっ、そっちはダメ……薬草が、とれな、い)

2以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/18(木) 22:25:43 ID:fvi4nIJE
女「いらっしゃいませ、こちらにどうぞー」

「「いらっしゃいませー」」

客1「女ちゃーん、これ二つ!」

客2「女ちゃん、これ頂戴!」

「女さーん」「女ちゃーん」「女ちゃん」

女「はーい!」

町娘1「相変わらず大人気ですね」

町娘2「羨ましいわ」

女「ほらっ、ボーッとしてないで料理運んで下さい」

「「はいっ!」」

3以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/18(木) 22:26:27 ID:fvi4nIJE
女「お母さん、これとこれの注文が入ったよ!」

女母「分かったわ、あっ! あ、危なかったわ〜」

女「最近よく躓くね……大丈夫?」

女母「大丈夫よ、あと地下水で冷やしてるお酒をお客様に出しといて」

女「うん、無理はしないでね? いつでも変わるから」

女母「うん、了解」

4以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/18(木) 22:26:59 ID:fvi4nIJE
狩人「おい女、女母さんはキッチンか?」

女「そうですが」

狩人「じゃあ女でいいや、今夜俺と遊ばない?」

女「結構です」

狩人「チッ……酒くれ」

女「注文ありがとうございます」


狩人「ふっ……」

5以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/18(木) 22:27:36 ID:fvi4nIJE
女母「今日も一日お疲れ様! 明日はお休みなので皆さんゆっくり休んでね!」


「「お疲れ様でしたー!」」


女「ねぇ、お母さん」

女母「んー?」

女「また狩人さんが来てたよ。あの人口悪いし、自分勝手だし、町中の女の人にてを出してるって噂もあるし、あまり関わりたくないよ」

女母「そうね、けどこの町の人じゃないのによく来るわねぇ……っと」

女「また躓いてる……足でも悪くしたの?」

女母「大丈夫よ、大丈夫。さっ、家に帰りましょう」

女「……うん」

6以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/18(木) 22:28:23 ID:fvi4nIJE
女母・女「「ただいま」」

女「お帰りなさい」

女母「はい、お帰りなさ──」

女「お母さん!?」

女母「きゃっ! うっ……痛っ」

女「大丈夫!? やっぱり変だよ、お医者さんの所に見せに行った方が……」

女母「いえ、大丈夫よ」

女「……じゃあ私に足を見せて」

女母「大丈夫と言ってるでしょう」

女「いいから見せて!」

7以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/18(木) 22:29:19 ID:fvi4nIJE
女「なに、これ」

女母「……」

女「足の色が、形が、変だよ」

女母「大丈夫よ、大丈夫だから」

女「触るとカチカチで、まるで木みたい……やっぱりお医者さんの所に」

女母「駄目! 駄目なの、これを町の人達にこれを知られてはいけないのよ……」

女「何で、そんな……おかしいよ」

女母「お願い、言うことを聞いて」

女「っ!」

女母「女、どこへ行くの! 待って、待ちなさい!」



女「理由はよく分からないけど町の人が駄目なら」

女「私が、私がお母さんを治すんだ……!」

8以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/18(木) 22:29:57 ID:fvi4nIJE
─────
───



女「ん……ここ、どこ?」

女「布が掛けられてる……誰かの家? 私を助けてくれたのかな」

??「よいしょっと……ん? おぉ、起きましたか、よかった」

女「なっ、あっ、ば、ばばば、化け物!」

??「あっ、ごめんなさい! 何年も町の人に会っていなかったのでうっかりしてました」

女「いやっ、何するの!? 来ないで! 食べないで!」

??「落ち着いてください! 食べませんし、何もしないですから!」

9以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/18(木) 22:31:06 ID:fvi4nIJE
??「落ち着きましたか?」

女「化け物なんて言ってごめんなさい……」

??「気にしてませんよ、次はこっちの腕を出してください」

女「痛っ……あの、私は女と言います。あなたの名前を聞いても?」

男「男です。女さんはなんでこの森に?」

女「母の為に森で薬を探してたら足を踏み外して、そのまま転がり落ちてしまったんです。男さんに助けてもらえなければ……きっと」

男「そうですか、助けられてよかったです」

10以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/18(木) 22:31:40 ID:fvi4nIJE
女「……」

男「私の体、気になりますか?」

女「いや、その……はい」

男「ははは、そうでしょう。なんせ──」



「木、ですもんね」

11以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/19(金) 22:06:40 ID:DKpb9NxM
なるほどなるほど

乙乙、続きに期待

12以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/20(土) 00:50:46 ID:r5.3OF5g
女「それって……本物なんですか」

男「はい、触りますか?」

女「い、いえ、大丈夫です」

男「これは体が木になる病気です。私は『樹木化』と呼んでいます」

男「感染症ではないと思いますが、正直分かりません。遺伝的な病気なのかもしれないし、そうではないのかもしれない……全てが謎だらけです」

女「……」

男「そうだ、何の薬草を探していたんですか? 私の物でよければ差し上げますが……」

女「あの……相談したい事があるんです」

13以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/20(土) 00:52:17 ID:r5.3OF5g
男「あなたのお母さんもこの病に?」

女「はい、そうだと……思います。足先が変色して、木のように硬くなってて、まるで男さんの左腕のようになっていて……わたし、わたし」

男「そうですか……」

女「なんとか、なんとかする事は出来ないのですか!? お母さんは、このままだと」

男「……木の進行を遅らせる薬はあります」

女「本当ですか!」

男「えぇ、しかし遅らせるだけです。完全に治すことは出来ません」

14以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/20(土) 00:54:15 ID:r5.3OF5g
女「完全に治す薬は無いんですか……?」

男「それに近いものはあります。しかし、未完成でとても危険です。最悪、命を落とします」

女「そんな……」

男「進行を遅らせる薬は差し上げます」

女「ありがとう、ございます」

男「今日はここに泊まって外が明るくなった頃に町へ帰るといいでしょう」

女「でも、お母さんが一人で家に……」

男「夜の森は多くの動物たちが動き出すのでとても危険です。それに怪我もしている、今日はここでゆっくり休んでください」

15以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/20(土) 00:55:32 ID:r5.3OF5g
男「では食べましょう」

女「私も食べていいのですか?」

男「一緒に食べた方が美味しいですし、私も誰かと食べるなんて数年ぶりでとても嬉しいのです。なので一緒に食べましょう」

女「ありがとうございます……いただきます」

男「いただきます」

女「美味しい……美味しいです!」

男「それは安心しました。実は、お口に合わなかったどうしようかと少し怯えていて……」

女「本当にすごく、すごく美味しいです!」

16以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/20(土) 00:56:26 ID:r5.3OF5g
女「ごちそうさまでした」

男「ごちそうさまでした」

女「……その左手は、普通に動くんですね」

男「ん? あぁ、右手に比べて少し鈍いですが普通に動きますよ」

女「その病気の最後は……どうなってしまうんですか?」

男「木になります」

女「それは例えとかじゃなく、言葉通り……なんですか?」

男「はい」

17以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/20(土) 00:57:28 ID:r5.3OF5g
女「男さんはどうしてこんな森に一人で暮らしているんですか?」

男「秘密です」

女「どうして一人でこの病気の研究をしているんですか?」

男「同じ病気に苦しめられている人を救う為です」

女「男さんは……本当に人間ですか?」

男「はい、人間ですよ」

18以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/20(土) 00:59:48 ID:r5.3OF5g
男「空いている部屋へ案内しましょう。こちらです」

女「こっちの部屋はなんですか?」

男「樹木化の研究をしている部屋です」

女「こんなのどうやって」

男「私がまだ小さい頃にすごく親切な人が居まして、その人が少しずつ時間をかけて研究する為に必要な器具を持ってきてくれたんです」

女「そんな人が」

男「もう5年くらい会っていないのですが、とても感謝しています」

女(5年前……お父さんが死んじゃった時を思い出しちゃうな)

男「女さんはこの部屋で休んでください」

女「あ、ありがとうございます」

19以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/20(土) 01:01:06 ID:r5.3OF5g

女「あ、あの! 男さんの体は、どこまで木に侵食されてしまったんですか?」

男「半分くらいですかね」

女「……見ても大丈夫ですか?」

男「まぁ……はい、いいですよ」

女「!?」

男「……」

女「うそ、こんな……」

20以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/20(土) 01:03:31 ID:r5.3OF5g
男「両足の先から太腿の半ばまで、左手の先から肩まで、肩からは首へゆっくりと木が進行中です」

男「人の肌を保っているのは右手と胴の上半分、後は腰と顔ですかね。しかしそれも見た目だけで体内では木が侵食しています」

女「体の中で……?」

男「はい、体内も木に侵食されます」

女「それじゃあ本当に、木に?」

男「進行に個人差はありますが体の内と外を完全に侵食され同化してしまうと、その部分は固定されて動かなくなります」

男「樹木化は手足から体の中心へ向けてゆっくりと進行し、心臓まで侵食されると呼吸が出来なくなり死んでしまいます」

男「確認されている限り、胸への進行は一番最後にです。頭を完全に侵食した後、心臓へ向かいます」

21以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/20(土) 01:04:09 ID:r5.3OF5g
男「私の足と左腕も、もう数年したら完全に動かなくなってしまうでしょう」

女「……っ」

男「辛い話をしてしまって申し訳ない。女さんはもう休んだ方がいいですね、明日は町の近くまで送ります」

女「……はい、ありがとうございます」

男「おやすみなさい」



女(お母さんが、お母さんが木になるなんて、そんな……)

22以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/20(土) 01:04:46 ID:r5.3OF5g
男「ここをまっすぐ進めば町に着くはずです」

女「ありがとうございました。薬までいただいて、どうお礼をすればいいか」

男「お礼なんて要らないですよ。薬も樹木化を遅らせるだけであって治すことは出来ない……力になれず、本当に申し訳ない」

女「そ、そんな事ないですよ」

男「あはは、あなたは優しい人だ。私はこれから山に向かうので女さんとはここでお別れです。」

女「あっ、はい、男さん、助けてくれて本当にありがとう」

男「いやいや、薬や薬草が必要なときはいつでも私を頼ってください。生きている限りは出来るだけお助けします」

女「そんな悲しいこと……」

男「では、さようなら。お気を付けて」

女「男さんも気を付けてください、本当にありがとうございました」

23以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/20(土) 01:05:44 ID:r5.3OF5g
女「ただいまー……」

女母「お帰りなさい。昨日、家を飛び出してからどこに行ってたの? 探したのに何処にも居なくて、すごく……すごく心配したのよ」

女「お母さん……これ」

女母「これは?」

女「お母さんの病気の進行を遅らせる薬」

女母「こんなものどこで手に入れたの……」

女「森の中で生活してる男の人に事情を説明したらくれたの」

女母「森に住んでいる人がこんな物を持っているなんて……信用できないわ」

女「そこは信じて欲しいの! その人も、同じ病気なの」

24以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/20(土) 01:06:25 ID:r5.3OF5g
女「男さん、こんにちは」

男「こんにちは、どうしてここに?」

女「研究のお手伝いをしに来ました!」

男「お手伝い?」

女「あれから薬を母に飲んでもらっているのですが、やっぱり完全に治る薬がないとどうしようもないなって」

男「そうですね、治せないと意味がないですね、わかります」

女「なので、私も男さんの研究を手伝って効率化を図ろうと!」

男「何故そうなるんですか?」

25以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/20(土) 01:07:23 ID:r5.3OF5g
女「大丈夫、 薬草が書かれた本はしっかり持ってきました!」

男「それは嬉しいのですが……」

女「毎日は来れませんがどうか、私に手伝わせて下さい」

男「……」

女「お願いします」

男「はぁ、簡単な作業だけならいいですよ」

女「本当ですか!? やったー!」

男「あなたは本当に、優しい人ですね」

26以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/21(日) 00:27:07 ID:0I5lRnO6
女「あっ!」

男「どうしました?」

女「大きなひびが……」

男「あぁ、もう一つあるからそれを使いましょう。裏の物置にあった気が……」

女「物置小屋なんかあったんですね」

男「えぇ、色々な物が入っているんですよ。一緒に行ってみますか?」

女「行きます!」

27以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/21(日) 00:27:43 ID:0I5lRnO6
男「足元に気を付けてください」

女「沢山の物が詰まってますね」

男「えーっと……どこだ?」

女「あっ、アレじゃないですか?」

男「高い所にありましたか、じゃあ足場になるものを探しましょう」

女「そこの棚を足場にしたら駄目ですか?」

男「大丈夫ですが、私の足はあまり曲がらないのでもう少し低いものを」

女「私が取りますよ! よいしょっと」

男「あっ、き、気を付けて下さいね」

女「大丈夫ですよー、取った……あっ」

男「あっ、危ない!」

28以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/21(日) 00:28:20 ID:0I5lRnO6
男「ふぅ、危なかった……」

女「あ、あの、その」

男「上手く受け止める事が出来て良かった。気を付けて下さいと言ったでしょう?」

女「ごめんなさい……」

男「でも薬研は無事取れましたし、戻りましょうか」

女「はぃ、あの、そろそろ降ろしていただけると……嬉しい、です」

男「あっ、すいません! 私の腕痛いですもんね、怪我とかはありませんか?」

女「大丈夫、です」

男「それはよかった」

29以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/21(日) 00:29:01 ID:0I5lRnO6
女「これを磨り潰せばいいんですか?」

男「はい、お願いします」

女「よいしょっ、よいしょっ」

男「……」

女「進行を遅らせる薬ってどれくらいの効果があるんですか?」

男「1日分の進行を1ヶ月まで延ばす事が出来ます。個人差はあると思いますが、だいたいそれくらいの効果です」

女「そうですか……それでも、進行を止めて治すことは出来ないんですね」

男「はい、残念ながら」

30以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/21(日) 00:29:54 ID:0I5lRnO6
女「男さんは樹木化してからどのくらいが経つんですか?」

男「うーん、発病したのが16の時ですから……8年?」

女「え、男さんってまだ20代なんですか!?」

男「そうですよ」

女「思ってたより若いんですね」

男「それは私が老けていると?」

女「ち、違いますよ! 30代半ばくらいの貫禄があるからビックリして……」

男「貫禄ありますか? あはは、いいですね貫禄、もっと出していきますか」

女(子供みたい)

31以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/21(日) 00:30:28 ID:0I5lRnO6
女「おはようございます」

男「おはようございます。今日は随分早いですね」

女「少しでも長くお手伝いがしたくて」

男「無理しなくてもいいんですよ?」

女「無理なんてしてないですよ。じゃあ今日も頑張りましょう!」

男「あっ、お皿を片付けるので少し待ってください」

女「……早く来すぎましたかね?」

32以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/21(日) 00:31:44 ID:0I5lRnO6
男「おっと、ふぅ」

女「だ、大丈夫ですか? 」

男「えぇ、足が折れたら困るので気を付けないといけないのですが……なかなか難しいです」

女「痛みとかって感じるんですか?」

男「あまり感じませんね」

女「じゃあ指先で感触を確めるとかは……?」

男「左手では出来ないです。あはは、動いているのが不思議でなりません」

女「笑い事じゃないですよ! 」

33以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/21(日) 00:33:12 ID:0I5lRnO6
男「おはようございます」

女「おはようございます! 何の準備をしてるんですか?」

男「今日は森の奥に行こうかと思いまして」

女「私も行っていいですか?」

男「駄目です。女さんは家でお茶とか飲んでいて下さい」

女「せっかく来たのに……」

男「あはは、ごめんなさい。でも森の奥は危険なので連れて行きたくはないんですよ」

女「でも、むぅ……分かりました」

男「家の中でしたら好きに寛いでください」

女「はい、行ってらっしゃい……お気を付けて」

男「はい、行ってきます」

34以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/21(日) 00:33:46 ID:0I5lRnO6
女「はぁ……暇だなぁ」

女「時間の流れがすごくゆっくりに感じる」

女「男さんはここで何年も一人なのかな……」

女「寂しくないのかなぁ」

女「家族とかは……どこに居るんだろう」

女「男さんについて、分からない事だらけ」

女「もっと知りたい、な……」

35以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/21(日) 00:34:48 ID:0I5lRnO6
男「ただいま戻りました」

男「返事がない、帰ったのでしょうか……ん?」

女「んっ、んぅ……」

男「寝ていたのですか……よいしょっと」

男「……」

女「おかあさん……」


男「私も研究を頑張らないといけませんね」

男「私と同じ様な目に遭ってほしくない」

36以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/22(月) 01:31:39 ID:HvLFBqO6

現実でも似たような病気があった気がする

37以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/23(火) 00:03:16 ID:D82sifgw
女「ふぅ……」

男「少し休憩しますか、お茶を淹れて来ますね」

女「私がやりましょうか?」

男「いいんですか?」

女「任せてください、葉っぱは棚の真ん中でしたよね?」

男「はい、じゃあお願いします」

女「美味しいお茶を淹れますね」

38以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/23(火) 00:04:27 ID:D82sifgw
女「男さん、これ片付けていいですか?」

男「はい」

女「男さん?」

男「はい」

女「……」



男「あれ、どこに置いたっけか……」

女「これですか?」

男「おぉ、それです。よく分かりましたね」

女「……女の勘です」

39以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/23(火) 00:05:29 ID:D82sifgw
女「こんにちはー」

女「家には居ないのかな……? 男さーん」

女「ん? これは……屋根裏への梯子かな?」

女「屋根裏があったなんて知らなかったけど……何かあるのかな」


女「!」

男「ふぅ、疲れた」

女「お帰りなさい男さん」

男「お、女さん!? 来てたんですか」

女「三日後にまた来ますって言ったじゃないですか」

男「……すっかり忘れていました」

40以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/23(火) 00:06:07 ID:D82sifgw
女「まさか、木が脳に」

男「あはは、たぶん違いますよ。普通に忘れていただけです」

女「よかった……それで、右手に持っているその袋は一体?」

男「これは朝に狩ってきた鳥です」

女「鳥!?」

男「はい、干し肉のしようかと」

女「何でも出来るんですね」

男「森での生活も長いですから」

41以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/23(火) 00:07:43 ID:D82sifgw
男「次来たときは少し森の中をを案内しましょうか」

女「いいんですか?」

男「ある程度知っておいた方がいいと思いまして」

女「じゃあお弁当を持っていきますね!」

男「ピクニックみたいで素敵ですね」

42以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/23(火) 00:09:47 ID:D82sifgw
女「お母さん、少しだけ調味料もらってもいい?」

女母「いいわよ、何か作ってくれるの?」

女「お母さんには作らないよ」

女母「じゃあ森に住んでる男さんに?」

女「そう、森を案内してもらうから美味しいお弁当を持っていくの」

女母「そう……胃袋掴めるといいわね」

女「なっ、違うよ! そんなんじゃないよ!」

43以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/23(火) 00:11:03 ID:D82sifgw
女母「ふふっ、冗談よ、冗談。でも毎日男さんの事を気にしてるから私はてっきりそうなのかなーってね?」

女「毎日なんて……言ってる? 私そんなに男さんの話してる?」

女母「んふふ、どうでしょう? あと、この果物も持っていきなさい」

女「もうっ……」

女「ありがと」

44以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/23(火) 00:11:59 ID:D82sifgw
男「こっちに進めば小さな池があります」

女「ふむふむ」

男「水が綺麗で素敵な場所です」


男「こっちに進むと洞窟があります」

女「ふむふむ」

男「夏は涼しくて素敵な場所です」


男「こっちの道はあの山のふもとに着きます」

女「ふむふむ」

男「遠いので滅多に行きません」

45以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/23(火) 00:12:46 ID:D82sifgw
男「ここは罠の仕掛け場所です」

女「罠で動物を捕まえてるんですね」

男「罠と弓をよく使っています」

女「銃とかは使わないんですか?」

男「じゅう?」

女「火をつけると筒から石ころがバーンと出てくるやつです」

男「知らないですね……子供の頃にあったのかなぁ」

46以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/23(火) 00:13:19 ID:D82sifgw
男「そこをまっすぐ進むと」

女「ふむふヌグッ!」

男「落とし穴があります」

女「……」

男「子供の頃に掘った自慢の浅い穴です」

47以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/23(火) 00:17:23 ID:D82sifgw
女「男さん、美味しいですか?」

男「すごく美味しいです。こんなに味のついた物を食べるのは久しぶりです」

女「もっと食べていいですよ」

男「ありがとうございます」

女「ふふっ」

女(本当に、大人な所と子供っぽいところがはっきりしてる人だな)

男「……?」

女「んふふ」

男「やっぱり、誰かと一緒に食べるご飯は美味しいですね」

女「はい」

48以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/23(火) 00:18:05 ID:D82sifgw
女母「女、明日は朝から森に行くのよね?」

女「うん、お店もお休みだしね」

女母「私も行っていいかしら?」

女「うん……うん?」


─────
───



女母「わー、本当に木なんですね。触っても大丈夫ですか?」

男「はい、どうぞ」

女「お母さん!」

49以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/23(火) 00:18:54 ID:D82sifgw
女母「別にいいじゃない、私もこうなるのよ? よく見ておかなくちゃ」

女「……」

男「女母さんは……怖くないのですか?」

女母「怖いですよ。でも、なってしまったからには前を向かないと」

女「お母さん……」

男「凄いですね」

女母「うふふっ、それはお互い様です」

50以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/23(火) 00:19:42 ID:D82sifgw
男「あっ、少し待っていて下さい。お茶を淹れてきます」

女母「女はここに通いはじめてから結構経つわよね、あなたがお茶を淹れてちょうだいよ」

女「私が?」

男「いえそんな、私がやりますよ」

女母「まぁまぁ、ね?」

男「……じゃあ、お願いします」

女「はい」

51以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/23(火) 00:20:47 ID:D82sifgw
女母「ふふっ、うちの娘可愛いでしょ」

男「えぇ」

女母「自慢の娘なの」

男「……それで、聞きたいことはなんですか?」

女母「あら、私は何も言ってませんよ」

男「ですが」

女母「病気のは娘から詳しく聞いていますし、どんな風になるのかも見れました」

男「では何故、女さんを部屋から出したんですか?」

女母「ふふっ、娘が毎日ある人の事を楽しそうに話をすので私も会って話したくなったんです」

男「ある人というのは私の事ですか?」

女母「正解です」

52以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/23(火) 00:25:00 ID:D82sifgw
>>36
リアルでもありますね
あまり意識はしていませんがそっちのイメージでも大丈夫かも、しれなくもなくなくないです

53以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/23(火) 23:19:48 ID:D82sifgw
女母「ところで、男さん」

男「?」

女母「私の事、覚えていますか?」

男「いえ、今日がはじめましてのはずですが……?」

女母「……男さんは昔、あの町に住んで居ましたよね」

男「住んでいましたね」

女母「私はよーく、覚えていますよ? 男母さんや男父さん、妹さんと一緒によくお店に来てました」

男「お店、あの町にある店……あぁ」

女母「思い出しました?」

男「家族で行った思い出がチラホラと、ですが」

54以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/23(火) 23:20:29 ID:D82sifgw
女母「それはよかった……では一つ、どうしても男さんに伝えたい事があります」

男「伝えたい事?」

女母「あのとき、男母さんがこの病気に掛かったとき……あなたを、男さんの家族を守れなくてごめんなさい」

男「……」

女母「もっと抗議するべきだった……力になれたかもしれないのに、何も出来ないままあなたたち家族は町から追い出されてしまった」

55以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/23(火) 23:21:10 ID:D82sifgw
女母「本当に、ごめんなさい……ごめんなさい」

男「そ、そんな、謝らないで下さい。女母さんのせいじゃないですよ」

女母「けど……」

男「実際、よく分からない病を患った人を隔離しようとするのは当たり前ですし、仕方のない事です」

男「この森に住んで10年以上経ちますが、私は町を出てよかったと思っています」

男「ここに来なければ樹木化の研究はしていなかったかもしれないですしね。なので謝らないで下さい」

女母「ごめんなさい……ありがとう」

56以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/23(火) 23:21:43 ID:D82sifgw
男「薬の効果で木の進行は遅くなりますが今の足を見た限り、おそらく、あと5年程で脚の外側は木に覆われると思います」

男「いま指先に違和感を感じたりは?」

女母「今のところはとくにないです」

男「……これから女母さんはどうするんですか?」

女母「きっと、町には居られないんでしょうね」

女母「5年で脚が木になってしまうと考えると、あと町で過ごせるのは長くても2年って所かしら……木の進行にも個人差があるみたいですし、もっと短いかもしれないわね」

男「町の人達に知られたらあの時のように、追い出そうとするでしょう」

57以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/23(火) 23:22:18 ID:D82sifgw
女母「まだ時間はありますし、ゆっくりと町を出る準備をしていきますよ」

男「……」

女母「悲しい顔をしないで。大丈夫、私は平気ですし、きっと娘も受け入れてくれます」

男「……行く先が決まらなかった時は私を頼ってください。動物が住んでいるかもしれませんが、近くに少し大きな廃屋があったと思います。そのときは、色々とお手伝いします」

女母「ふふっ、おねがいします」

58以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/23(火) 23:22:51 ID:D82sifgw
女母「今日はありがとうございました」

男「いえ、あまり力になれず……」

女母「男さん、今の私は、男さんに助けられているんですよ?」

男「ですが……」

女母「大丈夫、あなたなら出来ます。どうか、自分を信じて、研究を続けてください」

男「……はい、頑張ります」

女母「その調子です。私は帰りますが娘のこと、お願いしますね」

男「……え、一緒に帰らないんですか?」

女母「窓からの陽射しが気持ちよかったのかぐっすり寝ていましたよ。明日の仕事は午後からでもいいよと伝えておいてください♪」

男「え、ちょっ」



女「んっ……ふふっ」

59以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/24(水) 01:50:43 ID:fIq8mO26


60以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/25(木) 01:31:21 ID:xSie5le2
女「わぁ、大きな穴……男さん、ここは一体……」

男「以前に話した洞窟とは別の洞窟です。目的地はこの洞窟の奥ですね」

女「奥には何があるんですか?」

男「それは奥に行ってからのお楽しみってことで、洞窟に入りましょうか」

女「お楽しみ……わっ、ふぅ」

男「明かりはランタンだけなので足元には気を付けて下さいね」

女「そういうのはもっと早く言ってください!」

男「あはは、すいません」

61以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/25(木) 01:31:58 ID:xSie5le2
女「綺麗……」

男「壁一面に光輝く鉱石たち、いつみても凄い」

女「こんなの初めて見ました……夜の星みたい」

男「確かに星のようですね」

女「ここが目的の場所なんですか?」

男「いえ、もう少し先です。この先は少し道が狭くなりますが頑張って進みましょう」

62以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/25(木) 01:32:36 ID:xSie5le2
女「聞きたかった事があるんですけど、男さんの家族ってどこに住んでいるんですか?」

男「私の家族ですか?」

女「はい、ずっと気になってて」

男「あー、そういう話はあまりしてなかったですね」

女「そうなんですよ!男さんの所に通いはじめてから結構経つのに、あまり身の回りの事は話してなくて」

男「そう思うと樹木化の事ばかり話してましたね。じゃあ奥に着くまで私のことを少しだけ話しますか」

63以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/25(木) 01:33:11 ID:xSie5le2
男「私の家族は父と母、そして私と妹の4人家族でした」

女「妹さんが居たんですね」

男「はい、『お兄ちゃん大好きー!』といいながらいつも引っ付いていました」

女「ふふっ、可愛らしい」

男「素直で、泣き虫で、母に似て少し頑固なところもあって……感情豊かで、すごく可愛かったです」

女「きっと今は素敵な女性になっているんでしょうね」

男「……」

女「男さん?」

男「あ、あぁ……はい。じゃあ次は父の話をしましょうか」

64以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/25(木) 01:33:45 ID:xSie5le2
女「お父さんはどんな方だったんですか?」

男「とても朗らかで落ちついた人です。いつも明るく笑って、時には厳しく冷静で……力強く家族を支えていました」

男「父は医者で、多くの人を助けていました。仕事が休みの日は父に助けられたという人が必ず来ていて、父や母とお茶を飲みながら世間話をしたりとか」

女「慕われていたんですね」

男「道半ばに倒れていた人を家に連れて帰った事もありました。ニコニコしながら『拾ってきた』と言ったときは家族皆で呆れた記憶があります」

女「す、凄いですね……」

男「けど、人のためならと何の躊躇いもなく行動できる父には今でも憧れます。私も父のようになってみたいものですが……」

女「お、男さんも十分凄いですよ! 私とお母さんを助けてくれたじゃないですか!」

男「あはは、ありがとうございます」

65以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/25(木) 01:35:20 ID:xSie5le2
男「最後は母ですね」

男「母は……心が綺麗な人、と表現するのが一番ですかね。器が大きく、誰にでも公平で、善いことも悪いことも、全部優しく受け止めてくれました」

男「けど頑固なところもあって、自分の体調が悪くても何も言わず、指摘されても気丈に振る舞い、何がなんでも弱っているところを見せようとはしなかった」

男「家族の為に、自分を犠牲にしながら家庭を守っていたんだなと思います」

女「強く素敵な方ですね……聞いているだけで幸せな家庭だと伝わってきます」

男「自慢の家族ですし、すごく幸せでした……っと、この先が目的の場所、洞窟の最深部ですね」

66以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/25(木) 01:36:04 ID:xSie5le2
女「今日は初めてだらけです……」

男「どうですか?」

女「すごく綺麗……夢みたい」

男「あはは、現実ですよ」

女「洞窟の中に湖があるなんて……しかも普通の湖じゃない、まるで魔法が掛けられているみたい。でも、あの光はどこから……」

男「分かりません。見る限り天井に穴とかはありませんし、何がこの湖を照らしているのか、全く分からないんです」

女「神秘的ですね……」

67以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/25(木) 19:56:33 ID:xSie5le2
男「よいしょっと……目的はここの水だったんです。この蓋を持っていてもらえますか」

女「何か特別な事でもあるんですか?」

男「はい、ここの水は凄いんですよ」

男「傷を治すことが出来る水、と言いますか、切り傷などをこの水に浸けていると傷口が塞がっていくんです」

女「……流石に嘘ですよね?」

男「実際にやってみましょうか? まずは右手をナイフで……」

女「だ、駄目です! 何やろうとしてるんですか!?」

男「さっき言った通り水に浸ければ傷口は塞がりますし」

女「で、でも……自分の手を切ろうとするなんて」

男「見るのが一番だと思うのでっ」

女「ひっ……」

68以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/25(木) 19:57:15 ID:xSie5le2
男「さっき汲んだ水をこの窪みに入れてください」

女「……」

男「そのくらいで大丈夫です。ランタンを窪みの横に置いてもらえますか?」

女「こんな感じですか?」

男「いい感じです。じゃあ手を入れますね、よく見ててください」

女「……!」

男「分かりますか?」

女「す、凄い! 傷がゆっくりと塞がって、本当に魔法が……」

男「本当に魔法なんてものがあるのなら、そうかもしれませんね」

69以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/25(木) 19:58:03 ID:xSie5le2
女「結構な量の水を汲みましたね……何に使うんですか?」

男「薬です」

女「樹木化の薬ですか?」

男「えぇ、今使っている薬にも少量ですが入っています」

女「この水のお陰で薬が……」

男「正しい分量を見つけることが出来れば樹木化も治すことが出来るとのですが……色々あって研究が進まず、今に至ります」

女「色々……?」

男「はい、色々です。そろそろ戻りましょうか、女さんがまた家に帰れなくなる」

女「なっ、あのときは陽射しが気持ちよくて寝ちゃっただけで、起こさなかった男さんも悪いわけで!」

男「あはは、転ばないようにして下さいね」

70以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/25(木) 21:52:07 ID:xSie5le2
「女ちゃーん! 買い物してってよー!」

女「また今度行きますねー!」

「必ず来ておくれよー」


「おっ、いらっしゃい女ちゃん。サービスするよ」

女「いつもありがとうございます!」

「いいのいいの、こっちも女母さんのお店にお世話になってるからね」


「女ちゃーん、新しい服作ったから着てみてー!」

女「わ、私が着るって必要ありますか?」

「女ちゃんはスタイルがいいから私が幸せになれるのよー。ほら、脱いで脱いで!」

女「ちょ、ちょっと!」

71以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/25(木) 21:53:17 ID:xSie5le2
「お、女ちゃん、今夜俺と一緒に星でも見に行きませんか!」

女「ごめんなさい、夜はお店のお手伝いをしなきゃいけないの」

「で、でしたら、お店が終わった後にでも……」

女「え、えっと……」

狩人「よぉ、女」

「か、狩人さん」

女「こんばんは、狩人さん。またこの町に来たんですね」

狩人「どうしても落とせない女が居て困ってんだ」

女「それは大変ですね」

72以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/25(木) 21:53:53 ID:xSie5le2
狩人「ところでコイツは何をしてたんだ? 俺の女に声を掛けるとはいい度胸してるな」

「ひっ……」

女「……俺の女とか言うのやめてくれます?」

狩人「別にいいじゃねぇかよ」

女「よくないです」

「お、女ちゃん……」

女「あっ、一緒に星は見れないけどまたお店に来てね」

「う、うん! 必ず行くよ!」

狩人「チッ」

女「では狩人さん、さようなら」

狩人「おいおい、俺には何も言わねぇのかよ……ったく」

73以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/25(木) 21:55:05 ID:xSie5le2
狩人「クソっ、昨日の夜に飲み過ぎせいか頭が……ん? あれは、女か?」

女「……」

狩人「朝っぱらから随分と重そうな荷物を抱えて女のやつは何処に行く気なんだ」

女「よいしょっと……よしっ!」

狩人「……」


─────
───




狩人「見失っちまったか……この先は森だがそこに一人で入るほど女も馬鹿じゃないだろう」

狩人「……頭いてぇ」

74以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/25(木) 21:56:46 ID:xSie5le2
男「お腹が空きましたね」

女「……」

男「大きな音が鳴りましたね」

女「……///」

男「私にも聞こえるくらい大きな音で少し長めに鳴り響いて──」

女「お、男さん!」

男「あはは、つい」

女「もうっ……今日は私がお昼を作りますからお皿出しておいて下さい!」

男「本当に大きな音で──」

女「恥ずかしいからもう止めて……///」

75以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/29(月) 09:21:46 ID:NDAQHiXY
まだかな?

76以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/02(木) 23:26:47 ID:SkmkPYl6
女「あれ? 男さん、左腕が少し欠けてませんか?」

男「あぁ、昨日森で狼に襲われまして」

女「えっ!?」

男「幸い噛み付いたのが左腕だったので追い払うことが出来ました。けど、欠けたとはいえぱっと見た感じあまり変わっていない気もするのですが……よく気が付きましたね」

女「男さんのことはよく見てますから……じゃなくて! なんで何も言ってくれないんですか!」

男「え、何をですか?」

女「何をって……昨日狼に襲われたのに平然と何事も無かったかのように私とお話してて」

男「えっと、心配を掛けたく無かったので……あと私は元気ですし、言わなくても大丈夫かなと」

77以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/02(木) 23:27:26 ID:SkmkPYl6
女「……」

男「女さん……?」

女「男さん、私は怒っています」

男「えっ」

女「私がなんで怒っているか……分かりますか?」

男「……」

女「男さん、私はそんなに頼りないですか?」

男「そ、そんな事ないですよ! 研究でもすごく助かってますし、ご飯も美味しいですし」

女「じゃあ何で狼に襲われた事を私に言ってくれなかったんですか?」

男「それは、心配を掛けないように……」

78以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/02(木) 23:28:23 ID:SkmkPYl6
女「狼に襲われたら誰だって心配します! なのに、何も言われなかったら心配することさえ出来ません……」

男「……!」

女「私だって……あれっ、なんでこんな……涙が、ごめんなさい、男さんは私の事を思って言わなかったのは分かるんです……でも、でも」

女「心配で、でも、気に掛ける事も出来ないのは、悲しくて……きゃっ、あ、あの……えっと」

男「ごめんなさい」

79以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/02(木) 23:30:20 ID:SkmkPYl6
男「私が1人で生きることに慣れすぎて、誰かに心配されるという感覚をいつの間にか忘れていました」

男「これからは、何かあれば女さんに伝えます。どんなに些細な事でも、女さんに全部伝えます」

女「男さん……」

男「女さんに気付かされました。女さんはこんな姿の私の事を気に掛けてくれる優しい人です」

女「優しくなんて……今だって我が儘で、面倒くさくて、迷惑を掛けて……」

男「女さん、少し外に行きませんか?」

女「外ですか……?」

男「そんなに遠くはないのでこのままで大丈夫だと思います」

女「分かりました。じゃあ行きましょう」

男「今から行く場所はちょっとした思い出の場所なんです」

女「思い出の場所?」

男「ちょっとした花畑です」

80以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/02(木) 23:30:59 ID:SkmkPYl6
男「ここです」

女「森の中にこんな場所があったなんて」

男「綺麗な場所でしょう?」

女「はい……凄く綺麗な所です」

男「昔よくここで花冠を作ってもらったんですよ」

女「妹さんに、ですか」

男「えぇ、幸せが詰まっている素敵な場所なんです」

女「どうして私をここに?」

男「研究が辛くなったり、投げ出したくなったりしたら、この花畑に来て心を落ち着かせるんです」

女「……」

81以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/02(木) 23:31:33 ID:SkmkPYl6
男「私は、女さんが思っているような強い人間ではなんです。 いつも心が折れそうになっている弱い、とても弱い人間なんです」

女「そんな事……」

男「実際、薬の研究はほぼ諦めていました。手詰まりの状態が長く続いていて、現実から目を逸らそうとここに来る途中で会ったのが女さん、あなたです」

男「女さん森に来るようになってなら毎日がとても楽しいです」

男「研究も女さん、女母さんの為にと思うと寝なくてもいいと思うくらいに……どれも女さんのお陰です」

男「女さん、あなたに会えて本当によかった」

女「男さん……私も、男さんに会えてよかったです」

82以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/02(木) 23:32:54 ID:SkmkPYl6
男「ちょっと恥ずかしいですね」

女「でもなんで急に」

男「お詫びの気持ちもありましたけど……女さんに感謝の気持ちをどうしても伝えたくて」

女「そう、ですか……あっ、顔真っ赤ですね」

男「あまりこういう事は経験なくてですね」

女「可愛いですよ?」

男「それは……褒めてないです」

女「ふふっ、男さんを知れてよかったです」

83以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/03(金) 12:35:37 ID:EU8GfjyQ
いい雰囲気だ

84以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/09(木) 22:29:02 ID:cViebBek
女母「ふぅ」

「女母さん、お疲れ様です」

女母「うん、今日は忙しかったわね」

「そうですねぇ……ん?」

女母「どうかした?」

「女母さん、指先に何か付いてますよ」

女母「指先? なんだろう……!?」

「なんか緑っぽいですねー。あ、 もしかして野菜を触りすぎて指先が変色しちゃったとか?」

女母「あ、あはは、そうかもね」

「女母さんは手も綺麗ですね……なんか付いちゃってるけど」

女母「家に帰ったらよーく洗っておくわ」

「そうしてください! じゃあ後片付け始めますね」

女母「……うん」

85以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/09(木) 22:29:39 ID:cViebBek
女「あれ、お母さんなんで手袋なんかしてるの? 家出る時はしてなかったのに」

女母「え、えぇ、ちょっとお洒落を……ね?」

女「ふーん、似合ってるよ!」

女母「そう? ありがとう」

女「今日の夜は何を食べよっか」

女母「そうねぇ……」

「あ! お二人さーん、安くするよー!」

女母「お肉買って帰ろうか」

「お! 女母さん、女ちゃん、これ安いよー!」

女「ふふっ、野菜もね」

86以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/09(木) 22:30:41 ID:cViebBek
女「こんにちはー」

女「男さんは居ないのかな……? あ、でも荷物は置いてある」

女「男さーん、居ないんですかー?」

女「どこだろう……あれ、こんな色の薬あったっけ?」

女「新しい薬とか、なのかな?」

男「あ、女さん」

女「男さん! どこに居たんで……す、か」

男「すいません、屋根裏に籠っていて気付きませんでした」

87以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/09(木) 22:31:33 ID:cViebBek
女「お、男さんの体が、体から木が無くなって見えるのは……気のせい、ですか?」

男「いえ、気のせいじゃないです。ほっぺ引っ張りましょうか?」

女「お願いします」

男「はい」

女「い、いひゃい……夢じゃない?」

男「えぇ、夢じゃないです」

女「じゃ、じゃあ薬が完成したんですか!?」

男「いえ、まだ未完成です」

88以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/09(木) 22:32:07 ID:cViebBek
女「でも、見た感じ元に戻って」

男「それも見た目だけで……っ」

女「男さん!?」

男「ぐっ……あがっ、くっ、はぁ……はぁ……」

女「木が……!」

男「はぁ、はぁ、このように時間が経つと元に──」

女「わっ!?」

女「きゅ、急に倒れちゃった……お医者さん! は、多分ダメだし……と、取り敢えずベッドに運んで……!」

女「お、重いぃ」

89以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/09(木) 22:33:17 ID:cViebBek
女「息はしてる、 体も欠けたりはしてない……よかった」

女「自分を犠牲にしてまで薬の研究を……」

女「そんなに、してくれるなんて……お母さんの為に男さんは自分の体を犠牲にして」

女「男さん……」


─────
───



男「……っ、ん?」

男「寝てたのか……ここは、ベッド?」

女「……」

男「女さんが寝てる……まぁ人は呼べないし、運んでくれたのかな」

90以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/09(木) 22:36:20 ID:cViebBek
男「また、心配させちゃったかな」

女「すぅ……んっ」

男「……っ、右手の指先が更に硬くなってる、木が進行したのか……あの薬を飲んだ影響だろうな」

男「未完成の薬を渡すわけにはいかない。自分の体で効果を確かめるしかないがこれじゃ数十回、いや数回が限界か……」

男「いや、もう立ち止まらないって決めたんだ。父が私にやったように、私も女さん達を助けるんだ」

男「よいしょっと……あっ、女さんが風邪引かないようにしなきゃ……よしっ、少ししたら起こそう」

91以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/10(金) 03:00:24 ID:dUhAqv9M
どんな結末になるのか

92以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/10(金) 22:53:19 ID:KB9b4kCg
「──さん」

女「うーん」

「女さん」

女「んー?」

「……朝ですよ、お店はいいんですか?」

女「おみ…せ?」

「女母さんが待ってますよ、起きてください」

女「お母さん……はっ!」

「おはようございます」

93以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/10(金) 22:53:52 ID:KB9b4kCg
女「お、男さん、おはようございます! い、いま何時頃か分かりますか!?」

男「はい、女さんがここに来てから2時間くらいです」

女「2時間ってそんな……ん?」

男「私が倒れて、女さんが私をベッドに運んで、さっき起きた私が女さんを起こしました」

女「あ、朝っていうのは?」

男「起きるかなーって」

女「もうっ、ビックリしたじゃないですか!」

男「あはは、ごめんなさい」

女「でもよかった……って、よくないです!」

94以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/10(金) 22:54:30 ID:KB9b4kCg
女「体の方は大丈夫なんですか!?」

男「えぇ、お陰さまで」

女「私は何もしてないです! 男さんが普通の体に戻ってて、木が生えて、倒れて、それで……」

男「落ち着いてください、深呼吸です」

女「すぅーはぁー」

男「はい、どうぞ」

女「昼のアレは何が起こったんですか!?」

男「あはは……未完成だった薬に少し手を加えてまして」

女「それって最初会った時に危険と言ってた……」

95以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/10(金) 22:56:32 ID:KB9b4kCg
男「えぇ、女さんが居ない間に危険と言っていた薬を使って色々と実験をしていたんです」

男「2日前ですかね、実験中に躓いて机に手をついたのですが、机が大きく揺れてそのまま体勢を崩し転んでしまったんです」

男「そのとき薬が入った瓶がコロコロと机の上から転がって私の顔に落ちてきまして」

女「意図せず薬を飲んだ結果、体が元に戻っていたという事ですか」

男「その通りです。けど時間が経つと痛みと共に体から木が生えて元の姿に……」

女「どうしたんですか? も、もしかして木の進行が更に進むとかじゃないですよね」

男「……いいえ、私の体は今のところ急な変化はありません」

女「……本当ですか?」

男「はい、まぁ、体が元に戻る瞬間は凄く痛いのであまり使いたくはない……ですかね」

96以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/10(金) 22:58:45 ID:KB9b4kCg
男「でも良い事もありました。薬に手を加えた結果、人の体にも木の体にも比較的安全に戻れた事は凄く大きいと思います」

女「でも、木の姿に戻る時は凄く痛いって……」

男「痛いです、けど生きています」

女「……!」


『完全に治す薬は無いんですか……?』

『それに近いものはあります。しかし、未完成でとても危険です。最悪、命を落とします』


女「誰かが……命を落としていたんですね」

男「はい、なので慎重に扱っていました。けど私の不注意というか、躓いたせいで薬を被ってしまいました」

女「躓く……男さん、もしかして足が」

男「最近、思うように動かない事が増えてきました。元々、太ももまで木に覆われていましたし、頃合いなんでしょう」

女「……」

97以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/10(金) 22:59:39 ID:KB9b4kCg
男「あっ、女さん! そろそろ帰らないと森を夜に歩く事になってしまいますよ!」

女「そう、ですね……帰らないと」

男「あっ、そうだ、帰る前にこれをどうぞ」

女「凄く綺麗……これは?」

男「昨日洞窟に行った時に見つけた青くて綺麗な石です。ブローチっぽくしてみました」

女「私に?」

男「はい、女さんなら似合うと思って」

女「あ、ありがとう……ございます。とっても嬉しいです」

98以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/10(金) 23:00:42 ID:KB9b4kCg
女母「あら、それどうしたの?」

女「男さんから貰ったの」

女母「へぇー、綺麗でいいじゃない」

女「濃い青だけど透き通ってて、本当に綺麗……」

女母「大切にするのよ」

女「うん……無くさないようにしまっておいた方がいいかな?」

女母「そういう物は身に付けてこそよ?」

女「そっか……そうだね。あっ、お母さん、杖とかあったりしない?」

女母「杖? うーん……ちょっと待っててね」

女「?」

99以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/10(金) 23:02:11 ID:KB9b4kCg
女母「これとかどうかしら?」

女「わっ、立派な杖だ! でもなんでこんなに立派な杖が家に?」

女母「お父さんって何でも受けとる人だったでしょう? その内の一つよ」

女「へぇー」

女母「確か、『お前の作る料理で足が良くなったから礼にコレをやる』とかなんとかお客様に言われて貰ったの杖だった気がするわ……ふふっ、よく分からない理由よね」

女「私それ知らない」

女母「んふふ、あなたが生まれる前の事だもの」

女「そっか、でもコレ貰っていいの? お母さんはお父さんの物を大切に残してるし……」

女母「別にいいわよ。残してるんじゃなく捨てられないだけなのよ、埃を被っているよりは男さん使ってもらった方がいいでしょう」

女「そうだね……へっ?」

女母「あれ、男さんにあげるんじゃないの?」

女「そ、そうだけど……どうして分かったの?」

女母「母ですから」

100以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/10(金) 23:11:16 ID:KB9b4kCg
女「あっ、男さーん」

男「女さん、おはようございます」

女「おはようございます。杖、使ってくれているんですね」

男「えぇ、とても助かっています。でも本当に貰ってよかったんですか?」

女「気にしないでください。杖も埃を被っているよりは使ってもらった方がうれしいでしょうし」

男「そうですかね?」

女「きっとそうです」

101以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 06:39:11 ID:QHIepPTA
治るといいな

102以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/17(金) 00:08:39 ID:5toFFkdo
女「ずっと気になっていた事があるんですけど聞いてもいいですか?」

男「なんですか?」

女「屋根裏には何があるんですか?」

男「屋根裏ですか?」

女「たまに屋根裏に籠っていたりするので何かあるのかなーって」

男「あーまぁ、あるにはありまが」

女「……?」

男「じゃあ、見てみますか? 屋根裏」

女「はい!」

103以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/17(金) 00:09:13 ID:5toFFkdo
男「天井に頭を打たないよう気を付けてくださいね」

女「分かりました……狭いですね」

男「ただの屋根裏収納ですから」

女「この箱には何が入ってるんですか?」

男「私が小さい頃に着ていた服とかですかね?」

女「開けてみてもいいですか?」

男「どうぞ」

女「これは……なるほど、きっと小さい頃の男さんにはこの可愛らしいスカートも似合っていたんでしょうね」

男「……それ、分かってて言ってますよね?」

女「ふふっ、ごめんなさい」

104以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/17(金) 00:10:00 ID:5toFFkdo
女「これは人形と、小さな家?」

男「父と母が妹の為に作ったやつですね」

女「なんだか、素敵ですね」

男「……女さん、こっちに来てもらえますか」

女「はい」

男「そこで待っててくださいね……よっと」

女「そんなところに扉が……全く分からなかったです」

男「ここは暗いですし少し見えにくい場所に取っ手がありますからね……うっ」

女「うっ、眩しい」

男「こっちです」

105以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/17(金) 00:11:06 ID:5toFFkdo
女「ここは?」

男「屋根裏部屋です」

女「あの窓は外から家を見たときに見える窓ですね」

男「そうです。 あっ、ここに座って少し待っててください」

女「?」

男「よいしょっと……」

女「大丈夫ですか? そこに並べてある植木鉢を運ぶなら私も……」

男「いえ、大丈夫です……っと」

女「ここで育ててるんですか?」

男「まぁ、そう……ですね」

106以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/17(金) 00:12:09 ID:5toFFkdo
男「……」

女「どうかしました?」

男「いえ、大丈夫です」

女「?」

男「実は、この三つの木には家族との思い出が詰まってまして」

男「赤い植木鉢の一番育っている木は母との思い出が、隣の白い植木鉢は妹との思い出が、一番大きな植木鉢には父との思い出が……」

女「大きい植木鉢の木は他と比べるとあまり育ってないですね」

男「植えた時期が違いますからね」

女「この木の名前は何て言うんですか?」

男「それが分からないんですよね。森の中で同じ木を探しているのですが見つからなくて」

女「え、じゃあどうやってこの木を植えたんですか?」

男「……落ちていた枝を植えたらこうなりました」

女「それ、本当ですか?」

男「はい」

107以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/17(金) 00:13:35 ID:5toFFkdo
男「屋根裏はこんな感じですね、どうでした?」

女「面白かったです」

男「よかったです」

女「私も、私の知らない男さんを知れてよかったです」

男「そ、そうですか?」

女「ふふっ、はい」

108以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/17(金) 01:43:02 ID:NxJfX1Xw
(´・ω・`)

109以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/17(金) 23:43:06 ID:5toFFkdo
狩人「女、仕事終わったら俺と遊ぼうぜ」

女「結構です、しつこいですよ」

狩人「いいじゃねぇか、楽しいぜ?」

女「狩人さん、あなた町の女性に手を出しまくってると有名ですからね? そんな人と関わりなんて持ちたくないです」

狩人「それは俺がハンサムなのが悪い。実際寝た女共は皆満足してったぞ?」

女「そうですか、私には関係ないです」

狩人「チッ、親子揃ってつれないねぇ」

女「さっさと自分の町に帰ってください」


狩人「……」

110以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/17(金) 23:43:48 ID:5toFFkdo
狩人「依頼したい事がある」

??「またですか?」

??「狩人さんは本当に金持ちっすねぇ」

狩人「まぁな」

??「……で、依頼とやらは?」

狩人「前と同じように指定した女に絡んでくれるだけでいい」

111以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/17(金) 23:45:06 ID:5toFFkdo
女「や、やめてください」

チンピラ1「いいじゃんかよー、俺達と一緒に遊ぼうぜ」

チンピラ2「そうそう、きっと楽しいよー?」

女「こ、声を、大声を出しますよ!」

チンピラ1「やってみなぁ?」

チンピラ2「女ちゃんはそろそろ俺達が優しく誘っている事に気付いた方がいいよー?」

チンピラ1「男二人になんて勝てない゛っ!」

チンピラ2「なっ、このクソ女が調子に゛っ」

女「っ!」

チンピラ1「ま、待てこの……ぐっ」

チンピラ2「クソが、クソが」

112以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/17(金) 23:45:41 ID:5toFFkdo
狩人「あーあ、簡単な事を頼んだ筈なのに……」

チンピラ1「狩人さん、違うんだ! これはあのクソ女が!」

チンピラ2「そうだ! あのクソ女のせいで」

狩人「お前らが女を引き止めて、困っている所を俺が助ける。これだけなのに……難しい事か?」

狩人「股押さえてるだけの無能を雇った俺が馬鹿だった……報酬は無しだ、失せろ」

チンピラ1「チッ、クソが」

113以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/17(金) 23:46:25 ID:5toFFkdo
女「行ってきまーす」

女母「気を付けてね」

女「うん」


??「……噂の通り、朝早くから何処かに出掛けているな」

??「行くぞ」

??「あぁ」

114以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/17(金) 23:48:21 ID:5toFFkdo
女「……」

女(後ろに誰か……いや、きっと気のせい)

女(あと少しで男さんの家だし、少し走ろうかな)

女「!」

チンピラ1「よぉ、女ちゃん」

女「どうして、ここに」

チンピラ1「そりゃあ後をつけてきたからな」

チンピラ2「何でか知らないけどこんな森に入っちゃってねぇ……まぁ、誰も来ないだろうし有難いけど」

115以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/17(金) 23:49:49 ID:5toFFkdo
チンピラ1「昨日は散々だったぜ……なぁ、相棒?」

チンピラ2「あぁ、玉蹴られるし、依頼は果たせず報酬はパーだ。困ったもんよ」

チンピラ1「だからさ、女ちゃん」

チンピラ2「俺達のストレス発散に付き合ってくんない?」

女「な、何を……」

チンピラ1「おっと、昨日のような事は考えるなよ? 今の俺達がキレたら女ちゃんはこのナイフでズタズタにされちゃうよぉ?」

チンピラ2「昨日は優しくしたが、今日はそうじゃない。俺達を怒らせた女ちゃんが悪いんだからな」

女「いやっ、来ないで!」

116以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/17(金) 23:52:11 ID:5toFFkdo
チンピラ1「どんなに声を出してもここは森の中だ」

チンピラ2「誰も助けには来ない」

女「や、やめて、近寄らないで!」

チンピラ1「騒ぐなって、綺麗な肌が傷つくぜ?」

チンピラ2「楽しくなってきたなぁ、まずはどうするか」

チンピラ1「服が邪魔だしこのナイフでボロボロにして、そのままヤッちまおうぜ」

チンピラ2「いいねぇ」

女「ひっ……」

チンピラ1「こいつの胸柔らけぇ」

チンピラ2「マジ? 俺に揉ませろよ」

チンピラ1「どうせ揉むだろ、早く服を裂け」

女「いやぁ……ぐすっ、いやぁ……っ」

117以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/17(金) 23:52:46 ID:5toFFkdo
チンピラ2「仕方ねぇな、じゃあ女ちゃんの綺麗な体を見せてもらおうか──がっ、ぐっ……!」

チンピラ1「お、おい、急に倒れてどうし……!?」




「早くここから逃げるんだ!」

118以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/17(金) 23:53:21 ID:5toFFkdo
男「女さん! 大丈夫ですか!?」

チンピラ1「ば、化け物!」

男「ぐっ……この!」

女「男さん!」

男「女さんは逃げるんだ! 走れ!」

女「……っ!」

チンピラ1「よくも俺の相棒を……許さねぇ!」

119以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/17(金) 23:55:46 ID:5toFFkdo
女「もう日が落ちて……」

女「……誰かがこっちに来てる」

女「えっと、えっと、薪割り用の斧……一応持っていこう」

女(男さん……!)




「はぁ……はぁ……」


女「だ、誰ですか?」

男「わ、私です。あ、あの、斧は降ろしていただけると嬉しいです」

女「……っ」

男「うわっ、斧持ったまま抱き付くのは危ないですよ」

女「よかった……本当に、よかった」

120以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/17(金) 23:56:54 ID:5toFFkdo
女「怪我とかはありませんか!?」

男「え、えぇ、大丈夫です。女さんはその……大丈夫でしたか?」

女「私は……平気です。あの人達は……いえ、何でもないです」

男「……もう日が落ちてしまいますし、夜の森は危険なので今日は泊まっていってください」

女「……はい」

男「じゃあ家に入りましょう」

女「あっ、男さんは休んでいて下さい。私が明かりをつけます」

121以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/17(金) 23:57:36 ID:5toFFkdo
女「男さん、お茶を淹れて……来まし、た」

男「あっ、ちょっ、ま、待って下さい!」

女「その手に持っている物は何ですか? あと、その左腕に刺さっているナイフは……ナイフ? 」

男「えっと、その、刺されたら貫通しちゃいまし、て……あはは」

女「わ、笑い事じゃないです! 何で黙ってたんですか!?」

122以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/17(金) 23:59:02 ID:5toFFkdo
男「刺さったナイフが抜けなくて困っていたのですが、女さんがナイフに気付かなかったので、その……黙ってました」

女「そこにある木槌は何ですか」

男「左腕はあまり痛みを感じないので木槌で叩けばすぐ抜けるかなって」

女「どうしてそんな……」

男「女さんは隣の部屋で待っていてください。大丈夫、すぐ終わりますから」

女「て、手伝います」

男「えっ」

女「元は私が原因なんです。私のせいで男さんの腕にナイフが刺さったんです」

123以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/18(土) 00:00:23 ID:FDYt65S6
男「女さんは何も悪くは」

女「私のせいなんです……! だから、私にやらせてください、お願いします……」

男「……じゃあ、これを」

女(大丈夫、大丈夫……私がやらなきゃ、私が男さんを助けなきゃ)

女「一度引っ張ってみてもいいですか」

男「私は左腕が動かないように固定してますね」

女「抜けない……じゃあ、本当にこれで叩いて」

男「あまり無理しない方が」

女「大丈夫、です……いきます!」

124以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/18(土) 00:01:50 ID:FDYt65S6
男「あはは、思ったより痛くてビックリしました」

女「ごめんなさい……」

男「気にしないで下さい。無事ナイフも抜けましたし」

女「あっ、包帯が……」

男「木ですからね、包帯が上手く巻けないのも仕方ないですよ」

女「……っ」

男「ど、どこか痛いんですか!? もしかして、女さんもどこか怪我を……」

女「ち、違うんです……痛いとかじゃ、なくて、ごめんなさい、涙が……止まらなくて」

男「!」

女「少しだけ、こうさせてください」

男「……はい」

女「うっ、うぅ」

男「……」

125以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/18(土) 00:03:03 ID:FDYt65S6
男「落ち着きましたか?」

女「ありがとうございます……」

男「いえいえ……そうだ、お腹空いてませんか?」

女「……少しだけ」

男「もうすっかり夜ですし夕食を作りましょう?」

女「夕食……そうですね」

男「あ、女さんは休んでてください」

女「え?」

男「疲れているでしょうし、お皿を並べるのも私がやりますね」

女「でも、男さんは怪我して」

男「左腕ならもう大丈夫ですよ。それにちゃんと美味しいご飯を作りますから、座って待っていてください」

126以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/18(土) 00:03:38 ID:FDYt65S6
女「……はい」

女「……っ」




女「男さん」

男「あれ?」

女「私も作ります」

男「え、ですが」

女「ダメ……ですか?」

男「……じゃあ、一緒に作りましょうか」

女「はい、一緒に」

127以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/18(土) 00:04:13 ID:FDYt65S6
男「……」

女「……」


男「女さん」

女「なんですか?」

男「なんだか……近くないですか」

女「そう、ですね……手も握ってますし」

男「で、ですよね! あはは、はは……はは」

女「……」

男「……あはは」

128以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/18(土) 00:05:07 ID:FDYt65S6
男「……」

女「……」


男「お、女さん」

女「はい」

男「あ、あのですね……私はあの、こういう事はその、あれで……その、えっとですね」

女「……前に私を抱きしめてれたじゃないですか」

男「あれは……! で、でも、一緒に寝る必要は無いんじゃないかと……その、思うのですが」

女「男さん」

男「は、はい!」

女「夕食、美味しかったですね」

男「た、確かに美味しかったです」

女「……」

男「女さん?」

129以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/18(土) 00:08:25 ID:FDYt65S6
女「もう少し、こっちに来ませんか?」

男「そ、それはちょっと」

女「じゃあ私がそっちに寄りますね」

男「ちょっ、待って……!」

女「……っ」

男「震えて、いるんですか……?」

女「ごめんなさい、どうしても昼の事を思い出しちゃって……体が震えちゃうんです」

女「けど男さんの傍に居ると震えも……なので、傍に居て、欲しくて」

男「……」

女「!」

男「寝ますか」

女「……はいっ」

130以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/18(土) 00:09:00 ID:FDYt65S6
男「寝れなかった」

女「んっ、んぅ……」

男「でも女さんはすぐ寝れたっぽいし、まぁいいか」

女「すぅ……んっ」

男「……体洗って朝食の準備をしよう」

131以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/18(土) 00:09:34 ID:FDYt65S6
女「男さん、今日はどこかに行くんですか?」

男「行きませんよ」

女「じゃあその荷物は?」

男「女さんを町の近くまで送ろうと思いまして」

女「一人でも帰れますよ」

男「あの男達がまだ居るかもしれませんし、念のためです」

女「……」

男「よしっ、じゃあ出発しますか」

132以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/18(土) 00:10:25 ID:FDYt65S6
男「少し、寄り道してもいいですか?」

女「寄り道?」

男「もう居ないと思いますが……男達の姿を確認しに行きます」

女「もう居ないってどういう?」

男「……男達があの場所で夜を越したのなら、狼などの肉食動物に連れていかれていると思います」

女「狼……」

男「ここは夜行性の動物も多いので……っと 、ここですね」

女「散らばった布と、黒い跡は……」

男「血、ですかね」

女「……向こうに続いてますね」

男「これ以上追うのは危険ですし、このまま町に向かいましょう」

133以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/18(土) 00:11:26 ID:FDYt65S6
男「無事に町が見える場所まで来れましたね」

女「もう少しで開けた道に出ちゃいますね」

男「……そうですね」

女「男さん」

男「はい」

女「その……手を、繋ぎませんか? 昨日の夜みたいに」

男「……いいですよ」

女「あっ、ふふっ」

男「ゆっくり歩きますか?」

女「はい、そうしましょう」

134以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/18(土) 00:12:24 ID:FDYt65S6
男「ここら辺が限界ですね」

女「はい」

男「……」

女「また、男さんの家に行きますね」

男「……っ」

女「そんな顔をしないでください」

男「森は動物だけじゃなく人も危険だと分かった以上、女さんには森に来ない方がいいと、言うべきなのですが、私は……」

女「駄目って言われても、私は通いますよ?」

男「しかし……」

135以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/18(土) 00:13:15 ID:FDYt65S6
女「あっ」

男「?」

女「男さんに助けてもらったお礼をまだ言ってなかったですね」

男「お礼なんて要らな──んぐっ!」

女「んっ……ぷはっ、歯が当たって少し痛かったですね……ふふっ」

男「な、お、女さん!」

女「襲われた私を助けてくれて、夜も私の傍に居てくれて本当にありがとうございます」

男「だ、だからってこれは……!」

女「男さん」



女「また、会いに行きますね」

136以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/18(土) 00:14:29 ID:FDYt65S6
女母「男さんの所に泊まっているんだろうなとは思ってたけど、結構心配したのよ?」

女「うん、ごめんなさい……んふふ」

女母「……」

女「ダメ、頬が……ふふっ」

女母「これは、どっち?」

女「んへへ……///」

137以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/18(土) 00:15:03 ID:FDYt65S6
女母「私もついにおばあちゃんか……」

女「? お母さんはまだまだ若いよ?」

女母「……」

138以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/19(日) 00:06:39 ID:LGe5Ip.g
「うぅ……薬草採取に夢中になっていたらもうすぐ夜になりそうだ」

「日差しがあまり入らないから余計暗く感じる……怖い」

「そして道はこっちだった……はず」

「はぁ、お腹空いた……ん?」

「ん? あっ」

「ひっ、ビックリした……でも人に会えてよかった。あなたはここでなに……を、して」

「あっ、えっと、道に迷っているならあっちが町ですよ」

「あばばばばばば」

「……それでは」

「ば、ばばばば、化け物が……森に」

「に、逃げ、逃げなきゃ……い、急いで知らせなきゃ……」

139以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/19(日) 00:07:13 ID:LGe5Ip.g
狩人「あぁ? 森で化け物を見たぁ?」

「そ、そうなんですよ! 人の形をした化け物が居たんです!」

狩人「夢でも見てたんじゃねぇの?」

「体が木に覆われていて、片手に棒状の武器を持ってて、更に鋭い爪で私に襲い掛かって来たんです!」

狩人「へーへー、どうせ熊とかだろ」

「嘘じゃないんです、くそっ、なんで誰も信じてくれないんだ!」

狩人「そりゃあ、お前の頭がおかしいからだ。俺は今機嫌が悪いんだ、さっさとどっかに行け」

140以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/19(日) 00:08:02 ID:LGe5Ip.g
「……どう思う?」

「恐らく、あの時と同じだな」

「あぁ、けど、俺は親父みたいな行動はしたくない」

「町が危険な目に遭ってもか?」

「あのとき町の中では男母さん以外誰も木が生えたりなどしていなかった!何か解決策があるはずだ!」

「どういう経緯で発症するのかよく分からないからこそ追い出したのだ」

「けど、今回も同じ事をしたらこの町はどうなる? 女母さんが、女ちゃんがこの町から居なくなったらどうなる?」

「人は忘れる……世代が変われば、より何も無かったかのように生活していくだろう。男父家族の件だってそうだ、あれから数十年経つが町の皆は元気に暮らしている」

「そんなのって」

「お前はこの町長だ。町の為に、何が正しいのか、よく考えて行動しろ」

「……っ、クソッ」

141以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/19(日) 00:08:39 ID:LGe5Ip.g
女母「ふぅ……疲れた」

女「お母さん、お客さんが来てるよ」

女母「誰が来たの?」

女「町長さん」

女母「町長さん?」

女「そう、町長さん。ピークも過ぎたし会ってきてもいいよ? 私が厨房に入る」

女母「そう? じゃあ少しだけ開けるわね」

女「うん、行ってらっしゃい」

女母「お店よろしくね」

女「はーい」

142以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/19(日) 00:10:10 ID:LGe5Ip.g
女母「こんにちは、町長さん」

町長「こんにちは」

女母「今日は何のご用件ですか?」

町長「えーっと、少し聞きたいことがありまして……」

女母「はぁ、なんでしょうか」

町長「少し、手袋を外してもらえませんか」

女母「!」

町長「女母さん、お願いします」

女母「……場所を変えましょう」

143以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/19(日) 00:11:09 ID:LGe5Ip.g
町長「これは、あの木の病気ですね」

女母「……」

町長「女ちゃんは知っているんですか?」

女母「えぇ、知っています」

町長「なぜ、私達に隠していたんですか」

女母「誰かに知られれば町から追い出されるでしょう」

町長「そんな事……!」

女母「『そんな事はしない』本当にそう言えますか? 男父さん達の事、忘れたんですか?」

町長「いえ、あんな事件を忘れられるわけが……」

女母「それを娘に見せない為に私一人で町を出る準備をしていましたが、知られた以上、それも難しくなりましたね」

144以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/19(日) 00:16:09 ID:LGe5Ip.g
女母「ですが、少しだけ時間をください。夫が残した店をしっかりと閉めたいんです……その期間中に荷造も済ませますから」

女母「町長さん、あなたは優しい人です。きっと、まだ誰にもこの事は話していないのでしょう?」

町長「二人とも出ていくなんて……」

女母「町の人達から見たら、私は謎の病気を患っている人間で、追い出されるべき人間です。そして私に最も近い存在の娘も例外ではない」

女母「町長さん、あなたは正しいことをしています」

町長「くっ、町の為とはいえ、こんな……!」

女母「どうかお願いします……もう少しだけ、私達に時間をください」

町長「……分かりました。少しでも、女母さん達に時間を与えられるように頑張ってみます」

女母「ありがとうございます」




狩人「……」

145以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/23(木) 19:20:06 ID:v.RZ2Plk
やばい奴に聞かれたがな

146以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/24(金) 23:39:10 ID:/OSwRirg
狩人「よぉ、女母さん」

女母「あら、こんばんは狩人さん」

狩人「実は聞きたいことがあってだな……うわっ!」

女母「わっ!? 大丈夫ですか?」

狩人「あぁ、少し飲み過ぎてな……ん?」

女母「……っ! て、手袋を返してください」

狩人「手袋を取ってしまってすまない」

女母「あ、ありがとう」

狩人「……」

女母「わ、私はこれで……」

狩人「ん? あぁ、急いでいるところを止めてしまってすまない」

147以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/24(金) 23:39:54 ID:/OSwRirg
狩人「相変わらず暗い森だ」

狩人「俺の町では『森に近づくな、森に魅入られる』という馬鹿みたいな言い伝えがある……」

狩人「女母さんの指先は確かに変色していた」

狩人「あの町長は事情を知っているみたいだがこの話を下手に広めると女母さんや女が追い出されると……」

狩人「先ずは1人で情報を集めるとしよう。奥に行けば行くほど危険と言われるこの森に何か手掛かりがあるはずだ」

狩人「『森の化け物』のな」

狩人「きっと原因はそいつだ。あの薬屋の言っていた事が確かならきっとその化け物が何かしたに違いない」

狩人「フハハッ、問題を解決してやればきっと女母さんも女も俺に落ちるだろうな」

狩人「さぁ、姿を見せろ」

148以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/24(金) 23:41:18 ID:/OSwRirg
─────
───



狩人「チッ、これ以上森に居ると危険か。今日はここら辺で切り上げ……あ?」

狩人「これは……なんかの血痕か?」

狩人「狼か、または化け物が動物を食らった後かもしれないな」

狩人「もう少し調べるか……いや、ここは戻ろう。帰れなくなる」

狩人「必ず化け物を見つけ出して正体を暴いてやる」

149以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/24(金) 23:42:26 ID:/OSwRirg
男「よし、完成だ」

男「女さんはお店のお手伝いだと言ってた気がするし……今しかない」

男「飲んで効果を確かめよう」

男「……ぷはっ」

男「前回の薬は人の体に戻れはしたが時間が経つと木が生えて元の姿に戻ってしまったが、今回はどうだ……っ」

男「ぐっ、うぁ……がっ、な、何だ……これっ、木が」

男「くっ、だ、駄目だ! このままだと完全に、木に……!」

男「何か手段は、前回の薬でどうにかならないか……? いや危険すぎるっ!」

男「くそっ、左腕が動かない……右手も覆われてっ!」

男「ぐっ、い、痛みで意識が」

男「駄目だ、もう……立っていられな───」

150以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/24(金) 23:43:01 ID:/OSwRirg
男「んっ……」

男「倒れてたのか……はぁ、体がまったく動かない」

男「私は、木になったのか」

男「母さんや妹のように……木に、なってしまったのか……!」

男「父さん……ごめん、約束守れなかった……」

男「ごめんなさい……女さん」

男「!?」

男「指が……動いた?」

男「気のせいじゃない、確かに動いた!」

男「まだ終わってない……!」

151以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/24(金) 23:43:46 ID:/OSwRirg
男「身体中がすごく痛む……立つのがやっとだな」

男「全身が木に覆われている……私はなんで生きているんだ」

男「手足も少しだけ動く、力も入る……そして、呼吸をしている」

男「心臓までは木になっていないという事か? 今の私はどうなっているんだ……」

男「今は元に戻る方法を探すのが先だな。いつか心臓も木に侵され止まるという事だ」

男「少しでも時間を延ばさなくては……薬を作らなければ」

男「……とりあえず前回の薬を飲んでみるか?」

男「それしか浮かばない自分を責めたいが木に影響を与える物はこれしかない」

男「一か八か、体内の木が無くなってもう少し動きやすくなる事を信じて……」

152以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/24(金) 23:46:04 ID:/OSwRirg
男「左腕は前と同じ、右腕は手首まで木が侵食」

男「太もも半ばで止まっていた木が腰まで進行、侵食……まぁ、立って歩けているだけいい方か」

男「顔も人肌に……とはならず、顔の半分は木のまま、額からは木が生えて角みたいだ」

男「……」

男「やらかしたなぁ」

男「もう少し慎重に……いや、いま考えてもどうにもならないか」

男「体の負担も大きいし、この姿に戻れたのも運が良かっただけかもしれない」

男「次に活かしたいが……次が最後かもしれないな」

男「けど休んでいる時間は無い、薬を作り直そう」

153以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/25(土) 11:56:13 ID:xh4XgFqA
薬が出来るといいな

154以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/26(日) 22:14:18 ID:T6e0hRPw
狩人「朝から森を歩き回っても何も見つからず……か」

狩人「化け物への手掛かりはあの血痕と薬屋の証言だけ……しかし、化け物と女母の手、これを繋ぐ鍵に心当たりがある」

狩人「血痕の後を追うのもいいが今回は……」

─────
───



女「行ってきまーす」

女母「えぇ、行ってらっしゃい。気を付けるのよ」



狩人「……」

155以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/26(日) 22:15:40 ID:T6e0hRPw
狩人「少しひらけた場所……そこに木造の家と、あれは畑か?」


女「男さーん、こんにちはー」


狩人「そして、あの家に入ろうとする女。声は聞こえないが恐らく女母さんを人質にとられているんだろうな」

狩人「扉が開いた……っ!」


男「女さん……こんにちは」

女「えっ……」

男「……ごめんなさい、取り敢えず家の中に入りましょう」


狩人「な、なんだ、あれは……頭から鋭利な角が生えている化け物が……! 化け物がこの森に、本当に存在したとは……」

狩人「はっ! お、 女が震えながら化け物の住処に入ったぞ」

狩人「今すぐ助けに……っ、女が化け物側に居る以上こちらが不利だ。迂闊に手を出せば女の命が危ない」

狩人「チッ……」

156以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/26(日) 22:16:49 ID:T6e0hRPw
男「新しい薬を飲みまして……」

男「そしたら全身が木に覆われてしまって、思い付きで前回の薬を飲んで今に至ります」

女「……それで、今は何をしているんですか?」

男「薬を作ってます」

男「本当はもう何回か私の体を実験台に出来ると思っていたのですが……この姿になってしまったので次が最後かもしれないですね……あはは」

女「ぁ……っ、や、やめ……研究をやめて……」

男「やめません」

女「でも……」

男「私に残された時間が、一気に無くなってしまいましたから……」

女「男さんはどうして……そんな、そんなにも、自分を犠牲にして……」

男「……ごめんなさい」

157以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/26(日) 22:17:45 ID:T6e0hRPw
狩人「女を待っている間にこの辺りを見て回るか」

狩人「歩いてる間に女が町に帰るかもしれないが……どうするか」

狩人「ここに来る道のりはそれほど危なくもなく、獣道なども無かった……女が無事に町に帰れるよう祈るか?」

狩人「どっちにしろあの化け物を退治する方法を考えないとな……あぁ、くそっ!」

158以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/31(金) 00:58:39 ID:AtOGFuWs
女母「……」

女「お母さん大丈夫? 疲れてるなら後は私がやるよ」

女母「……大丈夫よ。でも、少しだけ休憩しようかしら」

女「うん! 片付けは私がやっておくね」

女母「ねぇ、女」

女「なに?」

女母「明日は男さんの所に行くの?」

女「うん、朝から行こうかなって」

女母「そう……」

女「お母さん?」



町長「女母さん! 女母さんは居ますか!?」

女母「町長さん!?」

女「そ、そんなに急いでどうしたんですか?」

町長「木の事が、あなたの手の事が町の人達に知られてしまいました……!」

159以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/31(金) 00:59:33 ID:AtOGFuWs
女母「そんな、どうして」

女「え、えっ」

町長「よくこの町に来る狩人という男が親父や町の人達に言いふらしているんです」

女母「なぜ狩人さんがこの事を知って……」

町長「分かりません。今は女母さんが木の病気を患っている事と、もう一つ……」

女母「もう一つ?」

町長「森に化け物が居て、そいつが原因だと」

女「!?」

町長「そんな話、誰も信じないと思っていたのに町の人達は何故かそれを信じて……」

女「……っ」

160以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/31(金) 01:02:15 ID:AtOGFuWs
女母「……!」

女「な、何の音?」

町長「これは……!」


元町長「やぁ、女母さん」

女母「元町長さん……どうしてここに?」

元町長「それはですね」

狩人「お前たちをここに閉じ込める為だ」

女「と、閉じ込める?」

「狩人さん!」「もっと言葉を選んでください!」

狩人「チッ……店から出さないようにするんだから閉じ込めるで合ってるだろ」

女母「どういう事ですか?」



狩人「俺達は明日の早朝に化け物の住処を燃やしに行く」

狩人「女母さん達、特に女は洗脳されている可能性がある。だからここに閉じ込める」

161以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/31(金) 01:03:01 ID:AtOGFuWs
男「ふぅ……完成した。後は飲んで効果を確かめるだけ」

男「一応、今までの研究はノートにまとめたから私が死んでしまっても大丈夫……大丈夫……」

男「手が震えている……足も、体もだ」

男「死にたくない……な」

男「……よしっ、飲むか。最後の実験だ」

162以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/31(金) 01:04:53 ID:AtOGFuWs
─────
───



男「んっ……?」

男「生きて……る?」

男「体は……動く。あ、あぁ……足が元に、人の姿に戻ってる!」

男「だ、駄目だ、喜ぶのはまだ早い。取り敢えず人の姿に戻れただけ、時間経過で木に戻らないかどうか、そこが重要だ」

男「でも、歩ける内に外に出てみるか」

男「肌に自然を感じられるのも最後かもしれないからな」

男「女さんが来るのは明日の昼頃……もう一度、この姿で女さんに会いたい」

男「成功しててくれ……っ!」

163以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/01(土) 02:02:55 ID:rCF5xr4Q
男「もう少しで花畑か」

男「前回人肌に戻った時は家に籠って土とか触らなかったけど今回は色んな物の感触を確かめよう」

男「さっき水浴びしたからか風が気持ちいいな……っと、足は動くのに上手く歩けないのは木の体に慣れすぎたせいかな」

男「到着だ」

男「薬を飲んでから結構な時間が経ったが木に戻る気配は無し、体の内側も痛くない」

男「長いこと感じることの無かった、足裏から伝わる土と草の感触、全身を通っていく風、左手ので物に触れる……っ」

男「本当に、本当にやり遂げたのか……私は、人間に戻れたのか」

男「父さん、母さん、妹」

男「ようやく……樹木化を止められたよ」

男「まだ昼だし、ここで横になってもいいか、日が暮れる前には起きるだろうさ……」

男「本当に、長かった……」

男「……さ、ん……」

164以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/01(土) 02:03:58 ID:rCF5xr4Q
男は夢を見た

昔の夢

町に住んでいた頃の夢


ある日、母の身体に異変が起きた。
手先が変色し、木のように硬くなっている。
侵食が進み町での生活が難しくなったとき、妹にも同じ症状が現れた。

父は樹木化を治そうと研究に力を入れた。
しかし、何も分からないまま半年程が経った。
その頃には町の人達から疎まれ、距離を置かれ、買い物も出来ない程関係が崩れていた。

気味悪がる人達には畑を燃やされ、町長からは町からの出ていって欲しいと言われた。
父が森にいい所があるというので男家族は森へ行き、そこでひっそりと暮らす事になった。

森の中には幾つかの廃屋があったが大型動物が住んでいたりで大変だった。
しかし、歩き回った甲斐あって陽当たりもよく、水辺も遠くはない素敵な場所を運良く見つけることができた。

165以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/01(土) 02:05:20 ID:rCF5xr4Q
それから数年、母は動けなくなった。
ここ数ヵ月、身体全体に木が侵食し、動きも鈍くなり、寝ている時間の方が増えていた。
そしてある朝、母は綺麗な顔のまま、本当の木になってしまったのだ。
木が心臓にまで侵食してしまったのだろう……昨日までしていたはずの呼吸をしていない。

三人で母の体に生えた小さな枝を一つ選び、折った。

その後、母の体を燃やした。
止めたくても、どうにもならないと分かっていたから余計涙が止まらない。

母から出来た灰を土と混ぜ、赤い植木鉢に入れ、枝を植えた。

166以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/01(土) 02:08:26 ID:rCF5xr4Q
男は父と二人で樹木化の研究に力を入れた。
悲しみを糧に行動して妹を救わなければならない。
その時には父にも同じ症状が現れていたのだ。

感染症なのだろうか?
それなら町の人々も感染性しているはずだが何も情報は入ってこない。

毎日、妹の体を少しずつ蝕んでいく木をどうにか止めなければならない男と父は自分の体を実験台にし始めた。
父の親友であるというある男性が住んでいた元の家から多くの医療器具を運んでくれていた

二人で森の中にある多くの草や木の実、虫を集め、潰し、混ぜ、そして飲んだ。
毒であろうと口にした。


全ては妹のために。

167以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/01(土) 02:10:35 ID:rCF5xr4Q
数年が経ったある日、木の進行を遅らせる薬が完成した。
とある洞窟にある湖の水が謎の力を秘めていたのだ。

しかし、妹は救えなかった。

妹は部屋で寝ている。
木に体を蝕まれ、もう動けなくなった姿がそこにある。
木の進行を遅らせる事が出来ても治すことは出来ない。

それから数日、妹は木になった。
父と二人で、母と同じ様に体に生えた枝を折った。

その後、妹を燃やした。
男と父は泣く事しか出来なかった。

妹から出来た灰を土と混ぜ、白い植木鉢に入れ、枝を植えた。

母の隣に妹が置かれた。

168以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/01(土) 02:12:06 ID:rCF5xr4Q
薬のお陰で父の木の進行は遅く、余裕をもって研究を続けている。
しかし、数ヵ月前から男の身体にある異変が起きていた。
そう、男の身体にも症状が現れ始めていたのだ。

男と父は完治する薬を研究していた。
前と変わらず自分の体を犠牲にして。

ある日、特定の薬草と森の最深部にある水を混ぜた薬と新しく作っていた物を混ぜた薬を飲んだら一瞬だけ身体が元に戻った。
しかし、喜びもつかの間、身体中に激痛が走った。

男と父はなんとか耐えた。
しかし、父の様子は少し違った。
人間の肌になっている場所から木が飛び出し、父の身体を裂いていたのだ。

169以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/01(土) 02:14:42 ID:rCF5xr4Q
表面だけは人の肌に戻った。しかし、謎の激痛と共に蹲った瞬間、体内の木が外へ飛び出したのだ。

感覚を失い思うように動かせなかった四肢や胴体を急に激しく動かした結果、体内に残った木が折れ、押し出され柔らかい皮膚を破ったのだろう。

父は痛くないと言いつつも呼吸は荒くなっていく。
処置をしようにも下手に手を出せない。
慌てていると父は口を開き、こう言った。

「私はもう駄目だ。だいぶ木の侵食が進んでいたのか感覚が鈍くなり痛みもあまり感じない」

「しかし、これをよく見ろ。身体中から枝が飛び出ている。治療出来たとしても長くは持たない」

「今この瞬間も目がチカチカして、男の顔もよく見えないんだ」

170以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/01(土) 02:16:41 ID:rCF5xr4Q
「男はあまり木の侵食が少ない事が救いか……足も無事なようだな。身体に走った激痛は、きっと元に戻った体内と残された木、急に戻った痛覚がそれに反応して起こったんだろう」

「男、この薬は不完全でとても危険だ。肉体は元に戻るが中途半端で、今回みたいに体内の木が戻りきらなかったら、私の体のように木が飛び出てしまう」

「男、これ以上自分を犠牲にはするな」


「生きろ」

171以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/01(土) 02:17:25 ID:rCF5xr4Q
父はそのまま息を引き取った。
男は一人、父の身体から生えた枝を折った。

その後、父を燃やした。
悲しくて、一人が怖くて、泣くことしか出来なかった。

父から出来た灰と骨を土と混ぜ、大きな植木鉢に入れ、枝を植えた。

屋根裏に男の家族が並んだのだった。

172以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/02(日) 05:57:15 ID:y9iUwaQc
男と女が幸せになりますように

173救済プラン的な何か:2019/06/04(火) 00:28:46 ID:ZDO/Yx06
女、男、母の樹木化が進行しトレントに
男の家族も鉢植えの状態から急激に成長し同様にトレントに
彼らは人間としては死んだものの、その魂は苗木を依り代として生き続けていたのだ

狩人はトレントたちを執拗に狙い森に放火をするも女たちはどうにか耐え凌ぐ
だが炎は森を覆いつつあった

突然吹き荒れる嵐、消えて行く猛火
暴風と豪雨のなか狩人はなおも襲いかかるが女たちの反撃を受けて死亡
自らの意志で形を変えるトレントの腕は鋭い槍となり狩人の胸を、腹を貫いていた

人間たちの追撃はなくトレントたちは森の奥深くに消えて行く
森の深奥は禁足地となりトレントは伝承、伝説の中の存在となった

174以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/08(土) 00:29:14 ID:dOa2X.wE
町長「な、なんだって!? 化け物が男父さんの息子!?」

女「化け物じゃないです!」

女母「えぇ、私たちと同じ人です」

町長「す、すいません……それで、助けてもらっているというのは?」

女母「男さんからは病の進行を遅らせる薬をいただいています」

女母「それに、男さんは樹木化を完全に治す研究もしています」

女「お母さんの為に色んな事をしてくれて、男さんが居なかったら今頃お母さんの足は……」

女母「うん、歩けなくなっていたかもしれないわね……」

町長「し、しかし、なぜ化け物と呼ばれているのですか? 話を聞く限り男父さんのような方で……恐れられる理由が分からない」

175以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/08(土) 00:30:10 ID:dOa2X.wE
女母「それは……」

女「お母さん、少しだけ足を見せて」

女母「分かったわ」

女「……母の足を見てください」

町長「はい」

女「足の指先が硬くなり木で覆われて硬くなっています」

町長「変色もしていますね」

女「男さんは体の半分以上を木に侵食されています」

町長「半分以上!?」

女母「……」

町長「なるほど……それを女母さんの病と結び付け、原因は男さんという事になったのか」

女「お母さんを救えるのは男さんだけなんです……どうにかして町の人達を、狩人さんを止めないと!」

女母「女……」

町長「どうにかしてここを抜け出さなくては……ん? なんだか外が騒がしいな……まさか!?」

176以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/08(土) 00:30:50 ID:dOa2X.wE
狩人「これは俺特製の矢だ」

狩人「矢じりに固めた油を挟んでいて矢を放っても火が消えることはない」

「なるほど」「これは凄い」「これで化け物を退治するんだ!」

狩人「何人かこの矢を持ってくれ、あまり数はないからよく狙って射て」

「狩人は何を使うんだ?」

狩人「俺はこの銃を持つ、鈍器にもなるしな」

元町長「……」

元町長(木の病を知っている者は皆怯えていた。あの事件をどうしても忘れられないのだろう……しかし、その原因を突き止めた)

元町長(たとえ嘘でも、これが町のためになるのなら、儂はこっちを選ぶ)



狩人「準備は整った! 今から森に入り化け物の住処に向かう、何人かはランタンや松明を持っているが後続は逸れないようしっかり前を見て歩け!」

狩人「行くぞー!」

177以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/08(土) 00:32:08 ID:dOa2X.wE
女母「ちょっといいかしら?」

「女母さん?」

「駄目ですよ、しっかり店の中に居ないと」

女母「お茶を淹れたのだけど、二人もどうかしら?」

「えっ、いいんですか!?」

「おいっ、俺らは見張りだぞ!」

「別にいいじゃねぇか、狩人達は森に入ったし少しくらい休憩したってバレないよ」

「でもよぉ……」

女母「駄目……ですか?」

「女母さんもこう言ってるし、な?」

「……はぁ、じゃあ一杯もらいますね」

女母「ふふっ、嬉しいわ。じゃあカウンターに座って待っててくださいね」

「はいっ……やっぱり美人だよなぁ」

「……そうだな」

178以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/08(土) 00:33:00 ID:dOa2X.wE
「ここで好感どっ」

「! おいどうしっ、た……」

町長「ふぅ……」

女「す、すごい」

町長「朝飯前ですよ」

女「朝飯前って……な、何かしてたんですか?」

町長「それは秘密」

女母「終わったかしら?」

町長「えぇ」

179以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/08(土) 00:33:44 ID:dOa2X.wE
女母「流石ですね。 女、これを持って」

女「っと……これは?」

女母「救急箱ときれいな水が入っているわ」

女「!」

女母「行くんでしょう?」

女「お母さん……」

町長「女母さんの安全を確保したら私も後を追います」

女「町長さん……」



女母「さぁ、行きなさい」

女「……うん!」

180以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/08(土) 00:35:09 ID:dOa2X.wE
女「はぁっ、はぁっ……」

女「ど、どうして、狩人さん達は私がいつも使っている道を進んでいるの……?」

女「も、もしかして」

女「私が、誰かに後をつけられて、それで……っ」

女「考えてる場合じゃない」

女「このまま進んだら見つかっちゃう、道を変えて男さんの家を目指さないと」

女「誰よりも速く男さんの所に行かなきゃ……私が、知らせなきゃ……!」

181以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/08(土) 00:35:51 ID:dOa2X.wE
男「ふぁ……ようやく終わった」

男「簡単にだけど樹木化含め色んな薬の作り方をまとめたノートがあれば町の人も助かるだろう」

男「あっ、そうだ」

男「忘れない内に女母さんに渡す薬と、女さんに樹木化の症状が現れたとき用の薬、この2つを鞄に詰めておかなくちゃな」

男「後は……」


「男さん!!」


男「わっ!? お、女さん!こんな夜にどうしたんですか!?」

女「はぁっ、はぁっ……んっ、はぁっ……無事でよかった」

男「無事……? と、取り敢えず休みましょうか。お茶を……」

女「ま、待ってください……んくっ、はぁっ……はぁ……」

182以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/08(土) 00:38:05 ID:dOa2X.wE
男「大丈夫ですか?」

女「はぁ……もう、大丈夫で……!お、男さん、体が!」

男「やっと見てくれましたか。そうなんです……ついに樹木化を治す薬が完成したんですよ!」

女「凄い……本当に凄いです!」




女「じゃない! 男さん、今すぐここから逃げる準備をしてください!」

男「え?」

183以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/08(土) 18:33:20 ID:KqEkZ5y2
早く逃げろ

184以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/09(日) 01:29:10 ID:W0tRvgzQ
女「町の人たちがここに向かって来てるんです!」

男「どういう事ですか?」

女「それは……っ」

男「……あっ」

女「……っ」


「「ごめんなさい!」」

「「えっ」」


男「わ、私が森で迷っている人の前に姿を現したせいでここに来ているのでは?」

女「わ、私が誰かに後をつけられて男さんの姿を見られたから……だと思います」

男「うーん……」

女「な、悩んでいる場合じゃないんです! 町の人たちが男さんを退治しようとここに向かっています。早く準備を!」

男「そうですね……少し待っていてくだい」

185以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/09(日) 01:29:45 ID:W0tRvgzQ
男「あらかじめ鞄に薬を詰めておいてよかった」

男「あとは実験ノートだ」

男「父さん達はどうするか……」

女「男さん!」

男「どうしました?」

女「家が……囲まれています」

男「!?」


「ここが化け物の住処……」「家の中が明るいってことは……起きてるのか?」「分からない」


狩人「出てこい化け物!」

186以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/09(日) 01:30:53 ID:W0tRvgzQ
女「!?」

男「……」

狩人『起きているなら少し話し合おうじゃないか!』

狩人『俺たちは女母を助けるためにここに来た。お前が呪いを解いてくれると信じてここに来た!』

女「呪いだなんて、男さんは何もしてないのに……どうして」

男「しかし、話し合いで解決するなら今から外に出て……」

女「駄目です! あの人たちはここに火を放つと言っていました。何をされるか分かりません!」

狩人『女母へ掛けた呪いを解き、女を解放しろ!』

女「……っ、私がいきます」

男「女さん!?」

187以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/09(日) 01:32:00 ID:W0tRvgzQ
女「男さんが外に出たら危険です。私が出て事情を説明し、なんとか町に戻ってもらいます」

男「ですが……」

女「人の体に戻っていると言っても男さんを退治しようとしている事には変わりません」

女「大丈夫、町の人たちは皆優しいですから、きっと信じてくれます……」

男「待って……」

女「行ってきます」

188以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/09(日) 01:32:58 ID:W0tRvgzQ
「出てこないですね」「怯えてんじゃないか?」「さっさと出てこい化け物!」

狩人「チッ、出てこないなら火矢の準備をし……ん?」

「お、おい」「ど、どうしてここに……」「町に居るはずじゃないのか!?」

狩人「……」


女「……皆さん聞いてください!」


「女ちゃん、どうしてここに!」「ま、まさか拐われて」「くそっ、化け物め!」

女「私の話を聞いてください」

女「男さん……あなた方が化け物と呼んでいる人は、私や母に何もしていません!」

女「呪いを掛けたり、脅したり……すべて全くの嘘なんです!」

189以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/09(日) 01:34:52 ID:W0tRvgzQ
狩人「じゃあお前は何故ここに通っていた? 森は危険だ、脅されでもしない限り一人で来る場所じゃない」

「そ、そうだ」「きっと化け物に言わされているんだ」「卑怯者め……!」

女「男さんは樹木化……木の病の研究をしています。そのお手伝いをするためにここに来ていました」

女「そして薬は完成しました。母の病気は治ります……助かるんです」

「治る……?」「な、何を言っているんだ」
「……っ、あれを見ろ!」

狩人「……ようやく出てきたか」

女「えっ……男さん! どうして出てきたんですか!」



男「皆さん、武器を下ろしてください」

190以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/09(日) 01:35:26 ID:W0tRvgzQ
男「私は昨日まで体の半分を木に覆われていました」

男「女母さんの足にあらわれている木の病と同じ病気です。それが更に悪化した結果が木の化け物ような姿でした」

男「樹木化を研究し、諦めた事もありましたが女さんが私を助けてくれたお陰で無事に薬を完成させる事が出来たのです」

「お、おい」

「どうかしたのか?」

「お、男ってもしかして男父さんの子供の名前じゃないか?」

男「はい、男父とは私の父の名前です」

「!?」「男父さんの子供!?」

「男父さんや男母さんはどうしたんだ?」

男「私の家族は……」

191以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/09(日) 01:36:43 ID:W0tRvgzQ
狩人「黙れ化け物!」


男・女「「!?」」


「狩人さん銃を下ろしてくれ!」「女ちゃんや男くんに当たったらどうするんだ!」

狩人「お前たちは何を見ているんだ?」

狩人「女は町に居る、見張りをつけた店に閉じ込めているはずだ」

狩人「じゃあ目の前に居る女ちゃんはなんだ? そう、答えは簡単だ」

狩人「"偽物"だ」

女「!」

男「何言って……」

狩人「黙れ、こいつらを惑わせてたとしても俺は違う」

狩人「俺は話し合おうとしていた……しかし、あっちは俺たちを洗脳しようとしていたようだな」

192以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/09(日) 01:37:39 ID:W0tRvgzQ
狩人「けどお前たちが化け物に言いくるめられるほど馬鹿な集団だとは思わなかった」

「……っ」「け、けどあれは女ちゃんそっくりで」「しかし女ちゃんは町だ……じゃあ、あの女ちゃんは」

狩人「おい、火矢の準備は出来てるだろう」

「あ、あぁ」

狩人「矢を放て」

「!?」

狩人「どうした? 早くしろ……出来ないのか?」

「ち、違っ……」

狩人「はぁ……どいつもこいつも、貸せ!」

「あっ、待てっ!」「や、やめろ!」「馬鹿、あいつは偽物で……!」

狩人「偽物共々燃えちまえ……!」


女「……っ!」

男「危ない!」

193以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/09(日) 01:38:54 ID:W0tRvgzQ
男「扉に矢が刺さっていますね……本当に間一髪でした」

女「男さん、扉に火が……!」

男「燃え広がるのも時間の問題ですかね」

女「ど、どうしましょう」

男「奥の部屋から窓を割って逃げましょう」

女「でも家の裏まで囲まれてたら……」

男「どうすれば……あっ!」


男「女さんは奥の部屋まで移動してて下さい。 私もすぐに向かいます!」

女「ど、どこに行くんですか」

男「大丈夫、すぐ向かいますから」

女「……はいっ!」

194以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/09(日) 01:39:35 ID:W0tRvgzQ
女「男さん!」

男「お待たせしました」

女「覗いた感じ裏側には誰も居ないみたいです」

男「じゃあこれは使わなくて済みそうですね」

女「それは?」

男「失敗作の薬です。木になれば女さんが逃げる時間を稼げると思いまして」

女「……っ」

男「けど大丈夫そうなので使いません」

女「……一緒に、生きて逃げるんです。男さんにその薬は使わせません」

男「……はい、一緒に逃げましょう」



男「窓を割ります! 出たら森に向かって全力で走ってください!」

195以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/09(日) 01:40:15 ID:W0tRvgzQ
女「誰も居ません」

男「森に入ればなんとかなります。 走りましょう!」

女「はいっ!」

男「離れないように私の手を握ってください」

女「絶対に離しません」

男「えぇ、このまま二人で逃げ切るんです──っ!?」

女「きゃっ!?」

男「がっ、ぐっ……あ、足がっ」



狩人「逃がさないぞ、次は頭を狙う」

196以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/09(日) 01:41:23 ID:W0tRvgzQ
男「お、女さん、この鞄を持って逃げるんだ……ぐっ、」

女「はぁっ、はぁっ……あぁ、あ、あぁ……」

狩人「化け物が、いま弾を込めてるからそこ動くなよ……」

男「女さん、早くこれを持って逃げるんだ……これで、この薬で女母さんを助けるんだ!」

女「わ、私は……っ!」

男「何をしてるんだ!? 私の事は置いて逃げろ!」

女「もう、一人で逃げないって決めたんです……男さんを助けるって、そう心に決めたんです!」

男「しかし!」

197以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/09(日) 01:42:28 ID:W0tRvgzQ
狩人「逃がすか……!」

「やめろ!」

狩人「邪魔をするなっ!」

「ぐっ……銃を、おろ、せ」

狩人「お前もあの化け物に洗脳されたか?」

「違う……町から報告が入った。あの女ちゃんは本物だ!」

狩人「……」

「だから狙う必要なんてない! 銃をおろしてっ──がはっ」

狩人「化け物の言葉を信じ洗脳された奴の言葉なんぞ信じるものか」

狩人「チッ、見失ったか。しかし流れた血は隠せない……すぐに追い付いて殺してやる」

198以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/09(日) 05:44:53 ID:.8HB5LQg
狩人は動物の餌になれ

199以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/10(月) 00:20:24 ID:xyDWBf6Q
女「こ、ここは……」

男「花畑に、出ましたね……っ」

女「足は大丈夫ですか?」

男「な、なんとか……」

女「も、もう少しだけ頑張って、狩人さんが私たちを見失うまでは……きゃっ!」

男「うぐっ」

女「はぁっ、はぁっ……ごめんなさい、何もない所で……」

男「転んじゃいましたね……やっぱり、私を置いて逃げたほうが……」

女「嫌です……私は、男さんを助けるって決めたんです……だからっ!」



「追い詰めたぞ……!」

200以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/10(月) 00:21:46 ID:xyDWBf6Q
女「……っ!」

狩人「ようやく追い詰めたぞ……さぁ、女母さんに掛けた呪いを解いてもらおうか」

男「樹木化は、呪いなんかじゃない……原因不明の病気だ」

狩人「……」

男「しかし鞄に入っている薬を使えば治すことが──がっ!」

女「男さん!?」

狩人「チッ、足か……まぁいい」

女「狩人さんやめて! どうしてこんな事をするんですか……男さんは何もやってないのに!」

狩人「邪魔だ!」

女「きゃっ!?」

男「お、女さ……ぐっ」

201以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/10(月) 00:23:30 ID:xyDWBf6Q
狩人「俺は町の奴らと違ってまともでな……お前の洗脳なんか効かないんだ」

男「洗脳なんかして……ない」

狩人「まぁ、最後にもう一度聞いてやる……女母に掛けた呪いを解け」

男「私は何もしていない!」

狩人「そうか、残念だ」

女「か、かはっ……ぐっ、お、男さんの言っていることは……本当です!」

狩人「……」

女「な、なに……っ」

狩人「おい偽物、お前うるさいぞ」


狩人「いい加減黙れ」


男「女さん、に、逃げて……っ、足が……」

202以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/10(月) 00:25:00 ID:xyDWBf6Q
女「ひっ……!」

狩人「じゃあな、偽物……っ!」

男「女さんに、近付くな……!」

女「男さん!」

狩人「どいつもこいつも俺の邪魔ばかりしやがって……離せ化け物!」

女(男さんの手から何か落ちて……あれは!)

狩人「離れろ! くそっ、オラァッ!」

男「ぐっ……!」

女「いや……いやっ、だめ、やめて……」

狩人「っ! な、何を……化け物、何をしている──がはっ!」

男「──っ!」

203以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/10(月) 00:26:03 ID:xyDWBf6Q
狩人「ぐふっ……なんだ、これ」

男「……っ、はぁっ、はぁっ」

狩人「これは……枝か?」

狩人「俺の体から枝が、出てるのか……がはっ」

女「あ、あぁ……あぁ……!」

狩人「けどな、俺はこれくらいで……体が穴だらけになったくらいで死ぬような男じゃあ、ない……んだっ」

男「はぁっ、はぁっ」

狩人「俺は、化け物を殺して……崇められて、それで……っ」

狩人「それで、それ、で……」

狩人「」

204以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/10(月) 00:26:59 ID:xyDWBf6Q
男「い、いま、体から生えた枝を、ぐっ、折りますね……」

女「お、とこさん……」

男「……っ、ふ、ふぅ」

狩人「」

男「あ、あはは……狩人さんに組み付いたまま木に戻って拘束しようと、女さんが逃げる時間を稼ごうと思っていたのですが……これは、誤算でした」

女「血が、血が……!」

男「……それ以上、私に近付かないでください」

女「……あ、えっ」

男「飛び出した木が女さんに刺さったら……危険です、から」

女「……っ、もう喋らないで! きゅ、救急箱、救急箱は……!」

205以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/10(月) 00:28:04 ID:xyDWBf6Q
男「私は、もう駄目みたいです」

女「そんな、そんなことない……っ」

男「体が穴だらけですから……ははっ」

女「どうして、笑ってるんですか……どうして」

男「最後に、伝えたい事がありまして」

女「最後なんかじゃ……今からでもまだ間に合うはずです!」

男「私は、女さんに出会えて……とても幸せでした」

女「いやっ、聞きたくないです! もう喋らないで……最後だなんて言わないで!」

男「私は……おんな、さ……愛してい──」

女「ぁ……」

男「」

女「あぁ……ぁぁぁぁ、あぁぁぁぁぁ!」

女「嫌、イヤ……いやぁぁぁぁぁ!」

206以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/10(月) 00:29:13 ID:xyDWBf6Q
女「お願い、目を開けて……お願い……っ」

女「か、体に触れただけで木が、飛び出して……」


「女ちゃーん! どこだー!」


女「町長さんの声……」

女「ぁ……男さんから貰ったブローチが落ちて……」

女「! 鉱石がある洞窟の最奥、あの魔法が掛かった湖」


「女ちゃーん! 無事なら返事をしてくれー!」


女「町長さん……お母さん、ごめんなさい」

207以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/10(月) 00:29:47 ID:xyDWBf6Q
女「ぐっ、男さんに触れただけで枝が飛び出して……でも!」

女「男さんに比べればこんな痛み……!」

女「洞窟まで、男さんを連れていくんだ……っ!」

女「今度は私が、男さんを助けなきゃいけないんだ」

女「痛い、痛いけど湖に行けば……きっと」

女「待っててください……必ず、助けます」

208以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/10(月) 00:31:18 ID:xyDWBf6Q
町長「こ、こんなところに花畑があったのか……ん?」

「どうかしましたか?」

町長「あれは……誰か倒れている!」

「なんだって!?」「誰か居たぞー!」「おいっ、人を呼んでこい!」

町長「大丈夫か!?」

町長「ここでなにが……っ」

「狩人さん……か?」「周りが血だらけだ」「身体中に穴が……」

町長「辺りを調べるんだ! 女ちゃんや男くんがまだ近くに居るかもしれない!」

「町長、これが近くに落ちてました」

町長「この瓶は……例の薬か?」

「恐らく、あとはノートと手紙が散らばっていました」

町長「手紙は……女母さん宛か、これは男くんの持ち物で間違いないだろう」

「私はこのまま辺りを調べてみます」

町長「ありがとう、任せた」

町長「二人はどこに行ったんだ……」

209以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/10(月) 00:33:15 ID:xyDWBf6Q
女「あ、あと、少し……で、湖に」

男「」

女「あぐっ……ダメ、意識が朦朧として……」

女「けど、ここを通れば……湖に」

女「はぁっ、はぁっ……やっと、着いた」

女「後は、水を汲んで男さんに……駄目だ」

女「もっと近くに、行かなきゃ……もっと、もっと」

女「湖の近くに……あっ、駄目、落ちっ──わぷっ」


女(あぁ、男さんが離れちゃう……)

女(いや、いかないで……)

女(男さん──)

210以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/10(月) 00:34:14 ID:xyDWBf6Q
─────
───


211以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/10(月) 00:34:48 ID:xyDWBf6Q
女母「よいしょっと」

「今日も森に入るんですか?」

女母「どうしても諦めたくないの」

「そうか……あっ、これ持っていってくれ」

女母「これは?」

「新しいランタンの燃料だそうだ」

女母「ふふっ、ありがとう」

「俺も諦められないからな……何か欲しいものがあったら言ってくれ」

女母「えぇ、そうするわ」

212以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/10(月) 00:36:16 ID:xyDWBf6Q
女母「あれから1ヶ月……」

女母「女、どこに行ったの?」

女母「とりあえず今日はこの花畑からこっち方面に進んで……ん?」

女母「この石、何か書いてあるわね……」


「家で──ます」


女母「これは……!」

─────
───


女母「はぁっ、はぁっ、家……ってことは、ここかしら?」

女母「男さんの燃えてしまった家……!」

女母「女、そこに居るのよね……!」

213以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/10(月) 00:36:51 ID:xyDWBf6Q
「もう日が暮れちゃいますね」

「帰りますか?」

「今日はもうちょっとだけここにいませんか?」

「いいですよ」

「あっ、でも帰りたかったら一人で帰ってもいいですよ?」

「離れられないんですから無茶言わないでください」

「ふふっ、ごめんなさい」

「まったく女さんは……あっ、んぐっ」

「んっ……ぷはっ」

「……これ止めませんか?」

「女って呼んでくれないのが悪いんです」

214以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/10(月) 00:37:27 ID:xyDWBf6Q
男「……誰も来ませんね」

女「誰も来なかったら、私たちはこのまま手を繋いだまま過ごす事になるんですよね……?」

男「そうですね……薬を作ろうにも家の物は燃えて使い物になりませんし、例のノートも何処にあるか分かりません」

女「私は、最近このままでもいいかなと思い始めましたよ?」

男「体の右半分が木ですけど……いいんですか?」

女「男さんだって体の左半分が木じゃないですか」

男「けど、手を繋いだまま離れないのは……その、困りませんか?」

女「な、慣れましたから……」

男「私は慣れません」

215以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/10(月) 00:38:02 ID:xyDWBf6Q
女「けど、本当に誰も来ないのなら……それはそれでいいと思っています」

男「……」

女「男さんと二人で、手を繋いだまま過ごすのもいいかなって……」

男「女さん……」

女「また、さん付けしましたね」

男「あっ……」

女「じゃあ抱き締めてください」

男「……はい」

女「私は今のままでも幸せですから……ね」

216以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/10(月) 00:38:36 ID:xyDWBf6Q
女「……!」

男「この声は……女母さん?」

女「来てくれたんだ!」

男「行きますか」

女「……」

男「?」

女「この姿を町の人たちに見せたら……私たちはどうなるんでしょう」

男「女さん……」

女「あの時みたいに、私たちの言葉を信じてもらえなかったら……どうすればいいんでしょうか」

男「……」

女「ごめんなさい……でも、怖くて」

217以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/10(月) 00:39:11 ID:xyDWBf6Q
男「じゃあ、その時は私と一緒に森で暮らしましょう」

女「……!」

男「女母さんに協力してもらって少しずつ研究室を整えてですね、ゆっくり時間を掛けて薬を作りましょう」

男「畑を作って、狩りをして、美味しいご飯を作るんです」

女「男さん……」

男「何があっても隣に居ますから」

女「……っ、本当に、傍に居てくれるんですか?」

男「はい、ずっと傍に居ます」

218以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/10(月) 00:40:00 ID:xyDWBf6Q
「お願い、居るなら返事をして!」


男「ほら、女母さんが呼んでいますよ」

女「……男さん」

男「?」

女「大好きです」

男「……私もです」

女「ふふっ」



「お母さーん!」

219以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/10(月) 00:55:34 ID:xyDWBf6Q
おしり

220以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/10(月) 01:02:27 ID:xyDWBf6Q
酷い作品でしたが読んでいただき有り難うございました。

パッと思い付いた内容だったのですが、ろくに書き溜めしないままスレを立ててしまったため中盤〜後半とても大変で辛かったです。

男と女は手を繋いだままどうやって1ヶ月過ごしたのか、女母と一緒に町に向かった話、その後の話など書きたかったのですが書けない気がしたので終わらせる事にしました。

221以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/10(月) 01:03:51 ID:xyDWBf6Q
またどこかで

222以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/10(月) 01:23:33 ID:/DoPTjHU
おつ

223以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/10(月) 22:39:22 ID:HTZH6GUs
乙だ

224以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/12(水) 15:13:57 ID:vyi2jz2s
乙乙


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