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カグノコノミの咲く頃(相棒×名探偵コナン)

1暗黒史作者 ◆FPyFXa6O.Q:2018/09/15(土) 22:09:55 ID:6tkMwTSg
SS速報VIPからの移転です。
実の所、最初のスレ立てで誤記をやらかしました。
この際変更させていただきます。

旧:「カグノコノミが咲く頃」
新:「カグノコノミの咲く頃」

すいませんでした。

改めて冒頭のお断り

「相棒」と「名探偵コナン」を「一通り知ってる人」を対象としたつもりですが、
もしかしたら私の知識が負けているかも知れません。その時はすいません。


二次創作的アレンジと言う名の
改変、御都合主義、進行の変更等々が入る事がありそうです。


プロットに誰得の予感が漂っています。投石は控えめでお願いします。

Respect 竹内明


それでは、

ちょっとばかしちょうしこかせてもらいます。

それでは今回の投下、入ります。

156カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/10/29(月) 03:42:02 ID:/KaGHlFM

「逃げたらコロス」

女性にしては背の高い佐藤美和子が冠城亘を僅かに見上げる。
冠城は、こぼれそうになった笑みを飲み込む。
貴女に別の場所でコロされたい、と言う軽口と共に。
凛々しく対峙する佐藤美和子は、
そのために確固たる意志力を求められる程に魅力的だった。

「ま、ぺーぺーの平巡査が尻尾巻いたとしても、
すっぽんよりもしつこい人が離れろって言っても離れやしませんがね」
「あなたはどうなの? 冠城亘巡査?」
「逃げる心算はありませんよ」

当たり前の様な、穏やかな一言だからこそ、
佐藤美和子はそれが当たり前の事なのだと理解した。

157カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/10/29(月) 03:44:10 ID:/KaGHlFM

「明日の会議が一つの山になる。
現時点では一課は劣勢。
何を争うべき所かはとにかく、出遅れてる事は確か。
真実を掴むためには、巻き返さないといけない」

「じゃあ、ベストを尽くすしかないって事ですね」
「ええ、呼び止めて悪かったわね」
「いえいえ」

冠城が軽く手を挙げて応じ、一課の二人が動き出す。
果たして実際どんな顔でコロされているものなのか、
小さく頷き意思疎通をしている高木に確かめてみたいと、
冠城はその詰まらないジョークを敬意を以て喉の奥に押し込め封印する。
今、冠城の目の前を去ろうとしているのは、
それぐらいいい女であり、敬服に値する警察官だった。

==============================

今回はここまでです>>140-1000
続きは折を見て。

158カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/08(木) 19:25:03 ID:uju9Pimk
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>157

 ×     ×

4月29日朝、会議を終えて後輩の芹沢と共に廊下を進む伊丹は、
視線の先に見慣れた二人組を把握して進路を変更する。

「送検だ」

空き部屋に入り、伊丹は吐き捨てる様に言った。

「容疑は?」

上司の杉下右京と共に空き部屋について来た冠城亘が質問する。

「まずは公務執行妨害。
ガサ入れへの妨害って事で、関連する証拠も送るってよ」
「急ぎますね、逮捕状のヨンパチ(48時間)の半分以下で送検ですか」
「ああ。お陰で一課は碌に聴取も出来ちゃいない、
野郎の事は全部公安経由だ」

冠城の言葉に、伊丹が苛立たし気に言った。

159カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/08(木) 19:27:04 ID:uju9Pimk

「本件の証拠は出て来ているのでしょうか?」
「焼き付いた指紋とパソコンに入ってた図面、警備計画、
それにガス栓のアクセスログが正式に報告されました」

右京の問いに芹沢が応じた。

「それで、一課の方針は?」
「一課は一課の仕事をする、って方向だな。
まずは報告されたブツの裏を取る」

「毛利小五郎の供述は?」

「完全否認のまま送るってよ。
だから、目暮班長が色々口出ししたがハムに一蹴された」
「これだけブツがある以上、何かおかしい、
だけじゃあ話にならないって事です。
それだけ聞けば正論ですよ。実際それだけのブツがあるんですから」

冠城の問いに対して、伊丹に続いて芹沢が言った。

「目暮班長、ですか。佐藤主任は?」

「自分の仕事をしながら注意深く見守って、ってトコか?
もっとも、鉄面皮決めても内心どうだか、
あの美人も毛利探偵にはかなり入れ込んでたから
ホンボシってなったら無事じゃ済まないだろうよ。
女伊達らにいいデカだったんだが、そうなりゃ良くて所轄落ちだ」

伊丹の言葉に、冠城は小さく頷く。

160カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/08(木) 19:28:53 ID:uju9Pimk

「それで終わるタマじゃなさそうだがな」

伊丹が続ける。

「ほう、では佐藤主任は?」

「ええ、少なくともここで腐ってGWを満喫しよう、
って心算は欠片も無さそうですね。
三係の高木も動き出してるみたいですし、
あの主任はそういうデカですよ」

尋ねた右京が伊丹の言葉を聞く。
どうも右京自身もそのカテゴリーに入っているらしいが、
伊丹は女性の扱いが上手いと言うタイプではない。

だが、一方で、ごく短期間であるが、
佐藤美和子同様の女性の上官の下で事件を追った事もある。

他の例から言っても、全般的に決してとっつきやすいタイプではない伊丹は、
例え始まりは悪くても「刑事を見る目」は確かである。
右京もその事は前例として把握していた。

161カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/08(木) 19:30:59 ID:uju9Pimk

ーーーーーーーー

警視庁サイバーセキュリティ―対策本部のオフィスで、
青木年男は、後ろを通った同僚からの耳打ちを受けた。

「これはこれは」

廊下に出た青木は、待ち構えていた相手に馬鹿丁寧に応対する。

「うちの本部にもあなたの網の目が繋がってましたか」
「過去の捜査でね」

「で、一課の佐藤主任からの個人的な呼び出しって、
一体どういったご用件でしょうか?」
「あなたにお願いしたい事がある」

慇懃無礼そのものに芝居がかった青木に対し、
佐藤美和子警部補は端的に用件を伝えた。

162カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/08(木) 19:32:12 ID:uju9Pimk

「僕に、ですか?
それは捜査への協力と言う事で ?
佐藤主任が今扱ってる事件、
確かにバックアップはうちの本部にも割り振り来ましたけど、
IT関連のメインは生安部のサイバー犯罪対策課の筈では?」

「だからこそ、サイバーセキュリティ―対策本部としての業務は
未知数の上に裁量が効く」
「暇って訳じゃないんですけどねー」
「だけど、あなたは器用な上に知恵が回る」
「佐藤主任」

青木が、ふふんと口角を上げる。

「警察嫌いに星の数で押すのは逆効果だと、
誰かから教わって来ました?」

「私は、ホンボシを挙げたいの。もちろん、それがいればの話だけど」
「三係の協力者以外のマル被を、ですか?」
「そう願いたいわね」
「正直なんですね」

163カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/08(木) 19:33:49 ID:uju9Pimk

虚を突かれない様に気を張りながら、
青木は非常な居心地の悪さを感じていた。

それと言うのも、目の前の佐藤美和子警部。
確かに、新参で、かつ、警察嫌いかつ女嫌いの気のある青木でも、
これが警視庁で知らぬは潜りと言われるミス警視庁の評判は聞いているし、
見た目の時点でそれに相応しい事も理解出来る。

そんな、美人の部類に入る佐藤美和子の顔から、笑顔が消えない、
張り付いたままずっと青木を向いている。

「毛利小五郎、毛利さんはこんな事をする様な人じゃないわ」
「それが本音ですか佐藤主任?」

ふふんと笑う青木に、佐藤主任はにこーっと応じた。

「ええ、もちろん。
それを当たり前に信じられる相手だからこそ、
今まで協力関係を築いて来たんだから」

「いいんですかぁそんな事言って?
別件とは言え身柄押さえられて、物証も出て来てる被疑者ですよね?
それを、そんな先入観バリバリな事言っちゃうの、
まずいんじゃないんですか?」

164カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/08(木) 19:36:02 ID:uju9Pimk

「これは刑事の勘よ、新米君。
今、本部では公安主導で毛利探偵の容疑の裏付けに動いてる。
だけど、私も、三係の誰も本当の所はそんな事を信じてはいない。
だから、比較的自由の利く君の所にお願いに来た」

「へぇー、本部の方針とは別の事をやれと?」

青木の声から、笑いのトーンが消えていた。

「刑事として私が見た所、公安も実際かなり危ない橋渡ってるわよ」
「そうなんですか? 物証、あるんですよね?」
「ええ、今回の爆発事件に就いて、毛利探偵を指す物証は存在する」

「だったら」
「公安の強引なやり口は、一見すると事件解決を急いでいる様にも見える」
「違うんですか?」

「仮にもサミット会場の爆破事件よ。
ここで逮捕して、そこから全容が掴めなければ非常に危険な事になる。
本来公安は組織相手の捜査。
だけど、今回は事件だとしてこれだけの事件、
スタンドアローンなのかバックアップがあるのか、
その辺りの事が全く見えずに毛利探偵の逮捕だけが先行してる。
物証の出方も、仮にも元刑事の毛利さんにしては
余りにも間が抜けていて薄気味悪い」

165カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/08(木) 19:37:42 ID:uju9Pimk

「一課が知らないだけなんじゃないですか?
毛利小五郎って言えば有名人ですからね。
警察の中じゃあ一課の、特に三係の協力者って誰だって知ってますよ。
公安だって、そんな大事件の被疑者の情報をそんな所に流すと思いますか?」

「そうかも知れないわね」
「素直ですね」

思わず口を突いた青木は、
にこーっとこちらを向いた佐藤主任に戦慄する。

「私が言っている事が只の願望、保身なのか真実なのか。
君が直に確かめる、そういう話」
「いいんですか? 僕にそんな事を頼んだりして?」

青木が、ふふんと笑って佐藤主任を見る。

「協力者の不祥事でリーチかかってる
一課の主任が裏で妙な事を頼みに来た。
まずくないですか?」

166カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/08(木) 19:39:07 ID:uju9Pimk

「それでいいのかしら?」

「はいぃ?」

「佐藤美和子の首を狙うのに、
その程度のネタでいいのか? と言ってるの」

青木が見た佐藤美和子は、楽しそうだった。

「公安、佐藤美和子、杉下右京、或いはもっと上。
君が掴んだ情報をどう使うのか。それで、事態がどう転がるか。
君自身が真実の切れ端を掴んでそこに加わるのか」

佐藤美和子が、小柄な青木の顔を覗き込む。

「それとも、一課の女王蜂相手に、
詰まらないネタでケツモチの名刺ジャンケン張ってみる?」

笑顔の佐藤美和子の左手は、壁の蚊を叩き潰したらしい。

167カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/08(木) 19:41:43 ID:uju9Pimk

ーーーーーーーー

「そうですか、役に立ちましたか。
それは何より。では」

自宅で、挨拶と共に電話を切る。
相手は、今は亡き先輩の娘。
強く、美しく育った彼女を思い、微かに感傷を覚える。

「君のそれは、自分の心の中に強く秘めておくもの、か」

一人呟き、通話を終えた携帯を操作する。
そこで見たメールは、最近までのごく短期間、
同じ職場で顔を合わせていた元同僚からの落語のお誘いだった。

168カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/08(木) 19:43:22 ID:uju9Pimk

==============================

今回はここまでです>>158-1000
続きは折を見て。

169カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/16(金) 03:24:03 ID:sDpNPqgM
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>168

ーーーーーーーー

「すぅぎしたさぁんっ」

組織犯罪対策五課に物理的に隣り合った特命係の小部屋に戻り、
たっぷりと空気を含ませた朝の一服を注いだ辺りで、
杉下右京は何処か物悲しい呼び声を聞く。

「おや、青木君」
「どーもっ」

のっそりと現れた青木年男の雰囲気は、何処か陰鬱だった。

「杉下さん、安室透とナイトバロンの都市伝説ってご存知でしたか?」
「いえ」
「そうですか」

そう言って、青木はにたりと笑ってノーパソを置く。

170カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/16(金) 03:25:04 ID:sDpNPqgM

「安室透って、例の<ポアロ>のウエイターの事か?」
「そのとぉーり」

珈琲に口を付けていた冠城亘の言葉に、青木が反応する。
冠城も、つい先程まで右京から渡された資料に目を通していた所だ。

「安室透って、SNSなんかでもやたら人気があるんですよね。
それで、一つの都市伝説が囁かれているんです。
安室透を追い続けるとナイトバロンに取り込まれる、って」
「それは、ひょっとしてコンピューターウイルスの事ですか?」
「正解ですぅ」

右京の言葉に、青木が言った。

「ナイトバロン、闇の男爵、そんなウイルスがありましたね」
「ええ、工藤優作のミステリー小説の主人公の名を取って名付けられた
極めて高性能のウイルスです」
「そぉーなんです。小耳に挟んではいたんですけどねぇ」

冠城と右京の会話の傍らで、
青木がノーパソを起動させて青い画面を表示する。

171カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/16(金) 03:26:20 ID:sDpNPqgM

「ありゃー」

冠城の言葉に、青木はくっくっ喉で笑う。

「熱狂的なファンと言うかストーカーの類がばら撒いたんですかねぇ。
なんか、ネットで安室透情報を熱心に追跡してると
ナイトバロンに食われる、
そんな都市伝説がちらほら聞こえてはいたんですけど、
正に、僕とした事が! ですよ」

「これ、ネットに繋がってないだろうな?」

青木の言葉に、冠城が尋ねる。

「大丈夫です、既に只の箱ですから。
ナイトバロン自体は古典的なウイルスで、
当然僕も最新のセキュリティーで色々と手は打っていたんですが、
あれ、今でも質の悪い変異型が出没してるんですよね。
これが職場だったら社会的に死んでましたよ杉下さん」

172カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/16(金) 03:27:43 ID:sDpNPqgM

「それはどうも、僕がお願いした事ですから、
出来るだけの事はさせていただきましょう」

「結構。バックアップは確保してありますし、これでも本職ですから。
それがウイルス対策に失敗して一台お釈迦とか、
とても請求なんて出来ません」
「そうですか」

「ま、今度奢るわ」
「期待してます」

右京が引き、冠城の気軽な言葉に青木が皮肉っぽく応じる。

「それじゃあどうも」

相変わらず押し付けがましい口調の青木が
大木、小松刑事の横を通って組対五課の大部屋を通り過ぎるのを
カップ片手の右京と冠城が見送る。

「右京さん」
「はい」
「自分、ちょっと外廻り行ってていいすかね?
昔馴染みと顔繋ぎたいんで」

173カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/16(金) 03:28:47 ID:sDpNPqgM

ーーーーーーーー

東京都内、下町の一角に聳え立つ巨大電波塔<ベルツリータワー>。
その展望室で、スコープを覗いていた世良真純が
背後の気配に感覚を研ぎ澄ませる。

「どうも」

そして、スコープを離れて振り返った所で、
真純は声を掛けられた。
真純の目の前にいた男は、真純にスーツの懐中を示す。

「………公安?」

ボーイッシュ女子高校生を体現した様な革ジャン姿のショートカット少女、
帝丹高校生徒世良真純が、一歩前に出てぼそっと尋ねる。

「やはり、公安警察の動向が気になりますか?」
「で、ボクをどうするの?」
「よろしければ、お茶でもご一緒しませんか?」
「そうだね。その前に………」

174カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/16(金) 03:30:33 ID:sDpNPqgM

ーーーーーーーー

「杉下右京?」

タワーの女子トイレ個室で、
電話着信を受けてスマホを耳につけた真純が聞いたのは?
たった今、スマホの短文会話アプリで送信した名前だった。

「そう、警視庁の警部だって」
「それを、どうして私が知っていると考えるコン、コン」

「間違いなく日本人なんだけど、
イメージやセンスがナチュラルにイギリス紳士だった。
上物のteaを飲んでると思う」

「だろうなコホ、あれはシャーロック・ホームズだ」
「は?」

ぼそぼそと潜めていた真純の声が、聞き捨てならない名前に僅かに高くなる。

175カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/16(金) 03:32:31 ID:sDpNPqgM

「一時期ヤードにも協力していた事がある、
その時に、かのベイカーストリートの
諮問探偵の再来とまで言われた切れ者だコホ、コホ」
「よくある例えかも知れないけど………」

そう応じる真純の声は引きつっていた。

「実際に、幾つもの難事件の解決に貢献している、
イギリスでも、日本でもなコン。
それだけの切れ者である事に違いはない。
そして、偏屈者だコホッ、コホッ」

「偏屈者………切れ者だとして、杉下右京にとってのVR、
彼の騎士道は誰に忠誠を尽くしているの?」
「法の正義と真実だ」

真純は一瞬、何かの謎かけか? と身構えていた。

「真実を追究し、法の正義を実現する。
そのためにのみ、警察官として天才的な頭脳を駆使する。
それ以外の事には欠片の興味も望みも無い。
組織のしがらみも、人情も、少なくとも職務の上ではそういう男だ。
だからこそ、キャリア組でありながら未だに警部に甘んじている」

176カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/16(金) 03:34:56 ID:sDpNPqgM

「キャリアなの? あの歳の警部で?」

「ああ、うん十年間、雑用専門の窓際部署で警部のまま塩漬けだ。
それで腐って辞めるでもなく、
一人の警察官として雑用の中からでも難事件を掘り出して解決する。
警察組織の政治的問題に関わる様な事件すらだ。
だから、警察としても捨てるには惜しく
使いこなすには切れ過ぎる、そういう厄介者と言う事だコホッ」

「………じゃあ、出世を厭わず真実のみを追及する信念の人で、
それだけの実力もあるって事だね?」
「そういう事だ。
間違っても都合よく利用しよう等とは考えない方がいい相手だなコホッ」

177カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/16(金) 03:37:21 ID:sDpNPqgM

==============================

今回はここまでです>>169-1000
続きは折を見て。

178カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/29(木) 03:01:31 ID:DoZSdFE6
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>177

ーーーーーーーー

「それで、杉下警部はどうしてボクに声を掛けたのかな?」

ベルツリータワー喫茶室で、ミルクティーを頼んだ世良真純は、
相席で対面している紳士に尋ねた。

「どうも。では、改めまして。
世良真純さんですね?」

ストレートティーを運んで来た給仕に言葉を掛けてから、
杉下右京が対面の真純に問いかける。

「そうだけど」

「<エッジ・オブ・オーシャン>のエリアは現在、
警察によって完全に封鎖されています。
しかも、初動で公安機動捜査隊が主導権を取ったために、
刑事部捜査一課ですら間接情報すら得られない状態になっています。
毛利小五郎氏は、特に捜査一課三係に関わる
独自の民間人人脈の中心的な位置にいる様ですねぇ。
そして、このタワーの展望台はあの現場を見下ろす事が出来るポイントの一つ」

179カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/29(木) 03:03:37 ID:DoZSdFE6

「その網に、ボクがのこのこ入り込んだって訳か」

ミルクティーを口にしながら、真純は軽く自嘲する。

「高校生探偵を名乗るあなたは、
過去に幾つもの刑事事件に関わって来ましたね。
そこには、毛利小五郎氏や毛利蘭さんと深く関わる事件も含まれている。
特に、毛利蘭さんとは親しい友人の様ですねぇ」

「否定する程間違ってはいないね。いや、概ね正しいよ」

これでは帰国後に見た
何処ぞのフィクションの悪徳交換業者だとふと引っ掛かり、
偽り無き友情の為に真純は少々言葉を加える。

「それでは、今回は誰に頼まれて調査を行っているのですか?」

「これでも、探偵を名乗って活動してるって事を理解してくれるかな?」

「守秘義務と言う事ですか。では質問を変えましょう。
高校生探偵であるあなたから見て、
今回の事件と毛利小五郎氏との関りをどう見ていますか?」

「ボクだってあの人の事は知ってる。まして、蘭君の父上だ。
心情的にはまさか、と言うのが本音の所だよ。
それに、聞いている材料から見ても疑問を禁じ得ない」

180カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/29(木) 03:04:52 ID:DoZSdFE6

「ほう?」

「毛利探偵はひどいパソコン音痴で、
とてもじゃないけどIT技術を悪用した爆発なんて実行出来るとは思えない。
もっとも、身内の証言だから出来ない事の証明は難しいけどね」

「詰まり、毛利家でもそういう認識である、と言う事ですか?」

「ボクはそう聞いてるし、
探偵として嘘を言っている様には見えなかったとも言っておくよ」

「あなたは、僕が声を掛けた時、真っ先に公安警察を疑いましたね?」

「まあ、毛利さんを逮捕したのが公安警察だと聞いてるからね。
最初の家宅捜索の時も、捜査一課も立ち会ってたみたいだけど、
物証の押収は全部公安だったって話だし」

「成程。では、あなたの調査は順調に進んでいるのですか?」

「正直、手詰まりだね」

真純は、苦笑と共に答えた。

181カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/29(木) 03:06:16 ID:DoZSdFE6

「まず、現場は完全に封鎖されてる、物理的にも情報の上からもね。
警察官である杉下さんの前じゃあ
口に出すのは少々微妙なネタ元の心当たりも無いでもないけど、
そもそも、今回は警察内部でも情報が限られてる、そうじゃないかな?」

「どうでしょうね?」

右京の紳士なスマイルに、真純も苦笑を返す。

「もちろん、隙間から糸で鍵を引っ張る様な謎解きとは程遠い。
正直、高校生探偵の手に余る事件だね」

とうとう、真純はお手上げをした。

「それで、杉下さんはどういう心算でボクに接近して来たんだい?
公安? それとも刑事部?」

「僕が知りたいのはこの事件の、
何人もの警察官、人間の命が失われたこの事件の真相を知る事、
そして警察官として正当な裁きに導く事。
それだけですよ」

てらいもなく言う紳士を前に、真純は口角を上げた。

182カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/29(木) 03:07:20 ID:DoZSdFE6

ーーーーーーーー

「ごめんなさい」

鈴木園子はそう断ると、オフィスビルの一室にある
「妃法律事務所」からスマホを手に廊下に出た。

「蘭」
「どうしたの園子?」

戻って来た友人に声を掛けられ、毛利蘭が問い返す。

「世良さんが、今回の事件で蘭に話があるって。
蘭も小母様も物理的に動き難いから今回の件を調べられないか
私の方で頼んだんだけど、まずかった?」

「ちょっと待って」

同級生でもある園子の言葉を聞き、蘭は自分のスマホで電話を始める。

「お母さん」

「何?」

「世良さんって、私の同級生で高校生探偵なんだけど」

「あの神奈川のマンションにいたショートカットの娘?」

183カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/29(木) 03:08:23 ID:DoZSdFE6

「うん。その世良さんがお母さんに話があるって、いいかな?」

デスクに就いた妃英理弁護士が頷き、
蘭が英理にスマホを渡す。

「お電話代わりました、はい、ええ………」

英理がメモを録りながら会話を続け、電話を切る。

「少し、出かけて来るわ」

「お母さん?」

「世良さんが、今回の件で私に話したい事があるって」

「じゃあ、私も」

「探偵として、弁護士の私に会いたいと言っている以上、
あなたを連れて行く訳にはいかないわ。
それに、彼女が休みだから留守番もお願いしないといけないし」

英理が、休暇中の事務員に触れながら蘭を制する。

「緑台町のこの店で待ち合わせだけど、
今回の件で何か連絡があったら報せて。
それ以外の件は余程の事が無ければ留守電、お断りでいいから」

英理が蘭にメモを差し出した。

184カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/29(木) 03:09:57 ID:DoZSdFE6

ーーーーーーーー

東都環状線米花駅に向かっていた英理は、
途中ですっと足を止め、目を細めた。
前方から、サングラスにキャップの人物が何気なさを装って接近して来ている。
その相手は、英理の前に立った時、ジャンパーの襟元からメモを抜き出した。

ーーーーーーーー

妃英理が杯戸町にある杯戸公園のベンチに座っていると、
隣に、先程自分にメモを渡した人物が着席した。

「世良真純さんね?」

「どうも、世良です。妃英理さんですね?
お嬢さんにはお世話になっています」

噴水をバックにしたベンチで、
キャップとサングラスを外した真純の挨拶に
英理が営業スマイルを返す。

「それで、お話と言うのは?」

「失礼………」

英理の言葉を遮る様に、真純がスマホを取り出す。
そして、真純が英理にスマホの画面を見せた。

185カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/29(木) 03:11:20 ID:DoZSdFE6

(from:S 無題
このメールをこのまま見せて下さい
変わった持ち物を身に着けていませんか?)

心の中で画面のメールを読み上げた英理は立ち上がり
ポケットから所持品を取り出す。
手始めに透かす様にペンを見るが、もちろん愛用品だ。
その間に、近くのベンチで英字新聞を読んでいた男性が接近して来ていた。
男性は、左手の人差し指を自分の唇の前に立てながら
右手で警察手帳を開いていた。
そして、右手の人差し指で、英理のスーツの腰の辺りを指さす。
無言のまま、その警察官杉下右京を含む三人掛けになったベンチに、
更に別の男性が接近して来ていた。
黒縁眼鏡に割とラフなスタイルのその中年男性が、
頭を下げて英理に名刺を差し出す。
そして、自分のスマホに音楽を流しながら、
そのスマホを、英理のスーツから剥がした小さな物体に近づける。
すると、眼鏡男が肩から提げている機材から
同じ音楽がスマホの接近に合わせて流れ始める。

186カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/29(木) 03:13:15 ID:DoZSdFE6

ーーーーーーーー

杯戸町内の純喫茶のテーブル席に、男女計四名が着席していた。

「それで杉下さん、先程の盗聴器は?」

まず、妃英理が口を開いた。

「見ての通り、非常に小型のものでしたので、
クッション封筒で小曽根さんの研究所に郵送しました」

「小曽根さんですか」

確かにポストへの投函にも同行していた世良真純が言い、
先程の黒縁眼鏡が頭を下げる。

「こちらの小曽根さん、本業は別にあるんですけど
この分野でも高い技術を有していまして、
今回の件を相談した所、手が空いているので手伝っていただけると」

「杉下さんにはお世話になりましたから。
念のためと言う事でしたが、妃先生の移動に合わせて
噴水の音を拾った電波が発生していましたので」

「世良さんを介して回りくどいコンタクトをとったのも、
杉下さんは最初から警戒していたと言う事ですか。
公安警察だとしたら、ここまでやるなんて………」

小曽根の言葉に英理が呻き、真純が右手で額を掴んでいた。

187カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/29(木) 03:14:22 ID:DoZSdFE6

「念のため、程度の心算だったのですけどねぇ。
改めまして、警視庁特命係の杉下右京です」
「妃英理です」

「ご丁寧に」

右京が、微笑みと共に名刺を受け取る。

「杉下警部の事はかねてより」

「それはどうも」

「一応形式上は元刑事の妻であり、
刑事弁護の分野でも実績を重ねて来た心算です。
警視庁の公式記録からは見え難い裏側で、
特命係、杉下警部が明晰な頭脳と頑固な程の正義感で
捜査一課でも苦心した幾つもの難事件の解決に寄与して来た事。
武藤かおり先生が担当した事件の真相解明にも
深く関わっているとも伺っています」

社交辞令を否定する英理の言葉に、
右京はもう一度頭を下げる。

188カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/29(木) 03:15:39 ID:DoZSdFE6

「私が世良さんに是非にとお願いしたのですが、
騙し討ちの様な形で申し訳ありません」

「すいません、もしかしたら何かの役に立つかも知れない、
と思ったんですけど」

右京に続き、真純も頭を下げる。

「そういう訳ですが、お話、続けてよろしいですか?」

「ええ、それでは私から。杉下警部は今回、やはり
<エッジ・オブ・オーシャン>爆発事件に就いての捜査を?」

「正式な捜査は捜査本部で行われていますが、
色々と気にかかる事がありまして、妃先生にもお話を伺えればと」

「その前に」

慇懃な程に柔らかに尋ねる右京に対して、
英理がカチッとした口調で切り出す。

「あなたの部下の冠城巡査が娘に近づいたのもあなたの指示ですか?」

「その件は彼から報告を受けています。
下見を兼ねてあの周辺にいたのは本当ですが、
お嬢さんと遭遇した事は予想外に近い事だったと」

189カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/29(木) 03:17:18 ID:DoZSdFE6

「そうですか。杉下さん」

「はい」

「何人もの死者が出ている爆発事件、
それもサミット会場と言う政治的な重大事件で、
重大な殺人事件で疑いを掛けた被疑者を
転び公妨の様な露骨な別件逮捕で市民を拘束する。
まず、弁護士として看過し難い行為であると申し上げておきます」

「捜査権すら無い立場ですので、
今、公安部で進められている捜査に就いて何かを言える立場ではないのですが、
一人の警察官として承ります」

「そうですか。では、杉下さんの関心の中では、
毛利小五郎はあの事件の犯人である、そうお考えなのですか?」

「難しい所ですねぇ、現時点ではあの事件で逮捕されたと言う訳でもない。
あの事件の情報に就いては、警察内部でも限られていますので」

「疎明として現場から指紋が検出されて、
パソコンから関連する資料が発見されて、
それに現場のガス栓へのアクセスログも発見されて今回送検に至った。
そう伺っています。これまでの信頼関係もありますから、
差し支えの無い範囲での説明は受けています」

190カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/29(木) 03:21:01 ID:DoZSdFE6

「それでは、妃先生としてはそれをどの様に?」

「背後関係のある公務執行妨害事件として送検するには十分。
そんな所でしょうか」

「弁護士としての客観的な分析ですか」

「ねえ、杉下さん」

英理が、一度言葉を切った。

「私があの人を疑っているとしたら、
そう考えた事は?」

「それは、もちろん考慮すべき可能性でしょうね。
あなたは聡明で実績のある弁護士です。
もし、毛利小五郎氏の犯行の可能性があれば、
その事に気付くと言う事は十分にあり得ます。
そうであるならば、その様な人に配偶者の殺人容疑に就いての見解を
弁護士として答える様に求めるのはひどく残酷な事と言えるでしょう」

「それでも質問するの?」

「妃先生はそれを欲している、そうお見受けしましたので」

「どういう意味かしら?」

191カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/29(木) 03:21:57 ID:DoZSdFE6

「こちらの世良真純さん、高校生探偵だそうですねぇ。
聞く所によれば、妃先生の身近にもその様な人物がいるとか」

「まあ、そうね」

「そして、夫である毛利小五郎氏も私立探偵で
幾つもの刑事事件を解決に導いている。
詰まり、妃先生はそうした存在を身近なものとして認知している。
こちらの世良さんも、探偵として幾つかの殺人事件の調査にも関わった他、
普段から素行調査等の依頼も受けていると伺いました」

「まあ、否定する程間違ってはいないね」

右京の言葉に、真純は軽く苦笑いを浮かべて答える。

「同時に、世良さんはお嬢さん、毛利蘭さんの友人でもある。
だから、これまで世良真純さんが関わった事件、
特に殺人事件に於いては、
蘭さんは高い確率で真純さんと行動を共にしています。
それは、妃先生も同じですね」

「同じ、とは?」

「偶然巻き込まれたケースもあった様ですが、
蘭さんが積極的に妃先生と行動を共にして、
その結果殺人事件に、
それも妃先生の仕事絡みの事件に巻き込まれたケースもあるとか」

192カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/29(木) 03:23:22 ID:DoZSdFE6

「はい。その事は私も反省すべき所があったのかも知れません」

「しかし、ここには一人で来られた」

右京と英理が、向き合った。

「蘭さんの友人でもある世良真純さんとの対面に、
あなたはこうして一人で出向いて来られた。
先程も申し上げましたが、
世良さんは高校生ではあっても探偵として活動している、
殺人事件の調査にも関わっている。
それを踏まえた上で、一人の弁護士として
少しでも真実に近づく為の情報を得ようとした。
それがプラスであれマイナスであれ」

英理が、一口、ブラックコーヒーを口にした。

「私の聞く限り、公安警察が余程の抜け作じゃない限り、
否、例えそうであっても、
あの抜け作の毛利小五郎に出来る犯行じゃない」

「それは、IT技術の問題ですか?」

193カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/29(木) 03:26:30 ID:DoZSdFE6

「それもあるし、人間性の問題もある。
そもそも論として、あの人がそんな事をする意味がさっぱり分からない。
あの人は、いい所も悪い所も、凄く分かり易い人です。
例えば、百億円詰まれたと言うのであれば、
まかり間違ってと言う事も考えられますが、
そんな分かり易い話でもない限り、わざわざハッキングの手間を掛けて
サミット会場を爆破するなんて全く以て意味が分からない。
むしゃくしゃしてやったとでも言うのなら、
その辺で酔い潰れるか看板を蹴り飛ばして虎箱に入るのが関の山です」

「ひどく、単純に聞こえますが」

「ええ、単純です。あの人は、馬鹿な所は単純に馬鹿であって、
そして、単純な正義漢です。
何か背後関係があるとしても、蘭にも隠れて秘かにIT技術を磨いて
一文の得にもならない大量殺人を実行してあっさり逮捕される物証を残す。
馬鹿げているベクトルがあの人の性質とは全く別の方向を向いています」

「成程、興味深いですねぇ、証明するのが難しいのが惜しい所ですが」

「そうなのよねぇ」

右京の返答に、英理が嘆息する。

194カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/29(木) 03:27:55 ID:DoZSdFE6

「まず、現場から指紋が出た、ここから始まってるみたいだけど、
この辺りの事が本当に分からない。
最初は蘭も酔っ払って現場に入り込んだんじゃあ、
って冗談めかして言ってたみたいだけど、
仮にも最近まで建設中だったサミット会場、
それも配電関係なんて流石に無理がある」

「どの様な状態で指紋が検出されたか、その辺りの事はご存知でしたか?」

「いえ、捜査一課からこれまでの信頼関係、人間関係で
ある程度の話は聞いていますが流石にそこまでは」

「そうですか。毛利小五郎氏は元刑事で、
殺人事件の捜査を担当した事もある。
そして、私立探偵、通称<眠りの小五郎>として
警察を退職した後にも幾つもの刑事事件、殺人事件を解決して来た」

「退職後の事は、私も長く別居していましたが、
ここ最近その様な事件の解決に関わって来たとは聞いています」

195カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/29(木) 03:29:45 ID:DoZSdFE6

「すると、現場保存の心得は当然ある訳ですね」

「ええ、それは当然ある筈です。
幾らあの人が抜けてても、彼に犯人だとするなら
現場に簡単に指紋を残すなんて」

「腑に落ちませんか」

「もちろん、実際の犯罪に於いてはしばしば理屈通りではない失敗が発生する。
その事も理解している心算ですけど」

右京の言葉に、英理はあくまで冷静な口調で返答する。

「指紋は万人不同終生不変、故に、絶対的な個人識別性を持つ物証として
古くから研究が重ねられ実務が積み重ねられて来ました。
紋様、分泌物、その鑑定に於いては様々な要素が検査され、
個人の識別を初めとした指紋とその付着に関わる
状態、性質の把握が行われています」

「今では常識として知れ渡っているから、
計画犯罪であれば大概の犯罪者は手袋等を用意する。
もっとも、手袋による接触もある程度の痕跡の付着は避けられない。
仕事柄、そうした事を扱う機会は少なからず経験しています。
じゃあ、あの人の指紋は、実際にはどんな状態で………」

「古典的な物証、か」

英理が言葉を切ってふと思考に沈み、真純も真面目な顔で呟く。
その英理が、動きを取り戻してスマホを取り出した。

196カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/29(木) 03:32:06 ID:DoZSdFE6

「もしもし、蘭? え? それじゃあ来てるの?
タチバナキョウコ、登録番号確認したら私に送って、
今から戻るからそれでいいなら上がって待っててもらって頂戴。
杉下さん」

電話を切った英理が右京に声を掛ける。

「御免なさい、すぐに戻らなければならなくなりました」

「いえ、大変な時に時間を割いていただいて」

「世良さん、今回の事は、
まず結果オーライで有意義だった事にはお礼を言うけど、
特に信頼を求められる探偵の行動として愉快とは言い難いものがあるわ。
あなたの事は信頼しているみたいだから、
これからも蘭の事をよろしくお願いします」

「はい、その点はすいませんでした。
お嬢さんはいいお嬢さんです」

英理が、紙幣を置いて店を後にする。

「それでは、僕も済ませたい用事がありますから」
「分かりました………失礼」

真純が立ち上がり、お花を摘みに移動する。
真純が店の奥に消えた頃、
右京は自らのスマホでメールを早打ちしていた。

197カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/11/29(木) 03:33:20 ID:DoZSdFE6

==============================

今回はここまでです>>178-1000
続きは折を見て。

198カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/12/31(月) 02:57:14 ID:v7.WoG0k
それでは今回の投下、入ります。

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>>197

ーーーーーーーー

「もしもし、コナン君?」

「妃法律事務所」で、スマホに着信した電話をとった蘭が問いかける。

「蘭姉ちゃんっ、おばさんから何か連絡あったっ?」

「お母さん? もうすぐ帰って来ると思うけど」

「だから、おばさんからの連絡は?」

「どうしたの? お父さんの弁護人の志願者が来てるって報せたら
すぐに帰って来るって」

「あ、そうなんだ。
えっと、その電話した時、おばさん何か変わった事は?」

「ううん、何にも。本当にどうしたのコナン君?」

「い、いや、なんでもない。僕もすぐに戻るから」

199カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/12/31(月) 02:58:37 ID:v7.WoG0k

「どうかしましたか?」

スマホの電話を切り、首を傾げていた蘭に、
応接セットのソファーに掛けた女性が声を掛ける。

「いえ、もうすぐ戻りますので」

少々困惑した様な蘭の言葉に、女性はにっこり頭を下げる。
その時、蘭は、事務所の玄関ドアが開く音を聞く。

「お母さん? ………」

蘭は、戻って来た母の背後に見知らぬ中年男性の姿を見た。

「あなたが橘先生?」
「はい」

英理の言葉に、待っていた女性、橘境子が立ち上がり一礼する。

「ごめんなさい、もう少しの間だけみんなそこを動かないで」
「はあ………」

事務所にいる境子、蘭、園子が戸惑いを隠せない間に、
英理の背後から現れた男性が肩から下げた
機材に繋がったアンテナを室内に向けながら事務所に入って来た。
そして、少しの間、事務所内をあちこちうろついて回る。

200カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/12/31(月) 02:59:49 ID:v7.WoG0k

「大丈夫みたいですね」
「そう」

男性が、英理に報告する。

「あの、もしかして盗聴器発見業者の方ですか?」

「盗聴器っ?」

境子の言葉に、蘭の声が跳ねた。

「ええ、知人から紹介してもらったの。
仕事柄ね、セキュリティー点検をお願いしたんだけど、
来客中にごめんなさい橘先生」

「いえ、弁護士として行うべき事ですから。
橘境子、弁護士です」

「小曽根です。今はこちらが本業ではないのですが」

境子と小曽根が名刺を交換する。

「それじゃあ、請求書を送ってもらうと言う事で」

「本当に良かったんですけど、そうさせていただきます」

小曽根が頭を下げ、事務所を出て行く。

201カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/12/31(月) 03:01:19 ID:v7.WoG0k

「ごめんなさい、お待たせした上にバタバタして。
改めまして妃英理です」

「橘境子です。先生のお噂はかねがね」

名刺交換を行いながら、英理は境子を見定める。
年齢はまだ二十代だろうか、
地味な丸眼鏡が彼女をより童顔に見える。
黒いパンツ・スーツにも着られている感じで、
第一印象を言えば野暮ったく頼りない。
それは、あざといぐらいに。

「それで、毛利小五郎の弁護の件でこちらに来たと伺いましたが?」

「はい、弁護人を探していると弁護士会で聞きました。
私、橘境子に『眠りの小五郎』の弁護をさせてください!」

境子がぱたんと一礼した所で、ばたんとドアが開く。

「コナン君、何処行ってたの?」

事務所の玄関ドアが開き、そこでスケボーを抱えて
ぜーはー荒い息を吐いている男児、
帝丹小学校一年生江戸川コナンに蘭が声を掛ける。

202カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/12/31(月) 03:03:39 ID:v7.WoG0k

「ごめん、蘭姉ちゃん。おばさんは?」

「どうしたのコナン君?」

そんなコナンに、妃英理も不思議そうに声を掛けた。

「あ、はは、ごめんなさい。えっと、その人は?」

「弁護士の橘境子さん。
お父さんの弁護をさせて欲しいって」

「弁護士さん?」
「この子は?」

蘭の説明にコナンが聞き返し、境子が訝し気にコナンを見る。

「あ、江戸川コナン君です。
事情があって父が預かってる」

「こんにちは」

「こんにちは」

蘭が説明してコナンと境子が挨拶を交わす。

203カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/12/31(月) 03:05:11 ID:v7.WoG0k

「あの、話を進めても」

「ええ、構わないわ。
この子も、邪魔にはならないと思うから」

「妃先生がそうおっしゃるのでしたら」

橘境子は、手始めに過去に自分に手掛けた事件に就いての
簡単な資料をデスクに広げた。

ーーーーーーーー

「女性の趣味が変わったのかしら?」

「正直、来てくれるか厳しいって思ってたよ」

お目当ての店の側で、冠城亘は九条玲子と言葉を交わしていた。

204カノコミ ◆EO2CFwwgUE:2018/12/31(月) 03:06:12 ID:v7.WoG0k

==============================

今回はここまでです>>198-1000
続きは折を見て。

恐らくは今年最後の投下です。
よいお年を。

205以下、名無しが深夜にお送りします:2020/09/01(火) 04:28:35 ID:3/IVEimo
続き待ってます


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