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少女「私を忘れないで」

1 ◆WRZsdTgWUI :2018/02/17(土) 23:13:03 ID:SLrOQBwc
(プロローグ)
〜体育館裏・少女さん〜
男子「少女さん、わざわざ来てくれてありがとう!」

少女「……」

男子「えっと、その……明日から冬休みだね」

少女「そうですね」

男子「それでその……クリスマスの日は予定が開いてますか」

少女「クリスマスの予定?」

男子「は、はいっ!」

少女「ひとつ聞きたいのですけど、あなたと私は今日はじめて会いましたよねえ。それなのに、どうして教えないといけないんですか」

男子「それは少女さんのことが好きだからっ!」

少女「……?!」

男子「文化祭のときに笑っている少女さんを見て可愛いなって思って、それで一緒に話が出来たらいいなってずっと思っていたんです。だから、僕と付き合ってくれませんか!」

2 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/17(土) 23:18:18 ID:tJ8TVtFs
少女「えっと、私を好きになってくれてありがとうございます」

少女「でも……ごめんなさい。あなたとは付き合えません」

男子「ど、どうして……」

少女「私は今、好きな人がいるんです。だから、気持ちだけ受け取っておきますね」

男子「……」

少女「それでは、さようなら」ペコリ

男子「少女さん、待ってよっ!」

少女「えっ?! あ……あのっ、手を離してくれませんか!」

男子「どうして、僕の気持ちに応えてくれないだよおっ! こんなに少女さんのことが好きなのに!!」

少女「も……もう一度言いますけど、私には好きな人がいるんです」

男子「うあ゛あ゛あ゛あああぁぁっっ! な゛んでっ、何でなんだよおっ!!」

少女「ご、ごめんなさい。さよならっ!」タタタタッ・・・

3 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/17(土) 23:20:46 ID:tJ8TVtFs
少女「……はあはあ」

友香「少女、用事って何だったの?」

少女「えっと、な……なんて言うか告白されちゃった」

友香「こ、告白?! 相手は誰よ!」

少女「それがその、全然知らない人で……」

友香「手紙にも名前はなかったの?」

少女「うん。それでね、断ったら腕を掴んで怒鳴ってきて、すごく怖かった」

友香「うっわあ、何もされなくて良かったね」

少女「う……うん、そうだよね。もう思い出したくないし、何か温かいものでも食べに行かない?」

友香「じゃあ、いつもの喫茶店に行こっか」

少女「うん、行こいこっ!」


友達の友香ちゃんと過ごす冬休み。
クリスマスやお正月といった楽しい時間は、あっという間に過ぎていく。
そして、三学期が始まった。

4 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/17(土) 23:25:19 ID:SLrOQBwc
(2月15日)mon
〜学校・お昼休み〜
友「ようっ、男。昨日はどうだった?」


お弁当を食べ終えて漫画を読んでいると、友が話しかけてきた。
昨日は柔道部の交流試合があり、朝から北倉高校に遠征していたのだ。
試合結果を言うのを忘れていたので、恐らくそのことだろう。


男「何とか俺たちの勝ちだった。夏に試合をしたときは圧勝だったんだけど、向こうも相当稽古をしているみたいだな」

友「お前、何の話をしてるんだよ」

男「何の話って、昨日の交流試合の話だけど」

友「そうじゃなくて、チョコは貰えたのかって聞いてるんだ」

男「試合じゃなくて、そっちのほうか」

友「それで、どうなんだよ」

男「もちろん貰ったぞ。双妹からだけど!」

5 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/17(土) 23:29:12 ID:tJ8TVtFs
友「なんだそりゃ。そんなもん、ノーカウントだっつうの」

男「彼女がいない俺たちには、まったく関係ないイベントだな」

友「はあ、確かに……」

友「そういえばさあ、中学生のとき隣のクラスの女子に告白していただろ。その子は今、どこで何をしているんだろうな」

男「……さあな。学校でお弁当でも食べているんじゃないのか」

友「いやいや、そういうことじゃなくてだなあ」

男「もう3年も前のことなんだから、考えても仕方ないだろ」


俺が少女さんに告白したのは、中学1年生のときだ。
その後3年生のときに同じクラスになったけれど、失恋した相手に告白する勇気を出せなくて、結局何も起こらないまま少女さんは北倉高校に進学した。
卒業してから一度も顔を見ていないし、もう二度と会うことはないだろう。


友「それはそうかもしれないけど、今のお前なら彼女なんて楽勝で出来ると思うぞ。あのときみたいに突貫してみろよ。来月のホワイトデーにっ!」

男「それを言いたかっただけだろ。いい加減忘れてくれよ」

友「はははっ。あんな面白いこと、絶対に忘れてやるものか!」

6 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/17(土) 23:31:23 ID:tJ8TVtFs
双妹「ねえねえ。二人とも、今は大丈夫?」


友と雑談していると、双子の妹が話しかけてきた。
そういえば、今日は友にチョコを渡すとか言ってたな。


男「大丈夫だよ」

双妹「なら、ちょうど良かった。友くんに渡したい物があるんだけど」

友「俺に?」

双妹「昨日はバレンタインデーだったでしょ」

友「うおおぉぉっ! 双妹ちゃん、ありがとう!!」

双妹「いえいえ、どういたしまして」

7 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/17(土) 23:33:25 ID:tJ8TVtFs
友「男っ! 見ろよ、双妹ちゃんからチョコをもらえたぞ!」

男「大げさだなあ」

友「これって、本命チョコだよな」

男「それは絶対にない。俺が受け狙いで選んだチョコレートだし」

友「……」

友「……またまたあ、そんなご冗談を」

男「俺からの気持ちをぜひ受け取ってくれ」

友「お前の気持ちだけ選り分けて食べてやるよ!」

8 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/17(土) 23:35:19 ID:zMDr2mn6
〜放課後〜
顧問「今日の稽古はここまでだ」

男「お疲れさまでした!」

部員「お疲れさまでした!」

男「それじゃあ、帰るとするか」


俺は更衣室で制服に着替えて、外に出た。
空はすでに暗くなっていて、雪がドカドカと降り続いている。
昨日の激しい雨がまるで嘘だったかのように、今では真冬の装いだ。

この調子だと、明日の朝は大変なことになっているかもしれないな。
そう思いつつ足早に歩いていると、校門脇で女子生徒に声をかけられた。

9 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/18(日) 00:08:26 ID:NNrVydJo
女子「部活、お疲れさまでした」

男「えっ? ああ、お疲れさま」


俺は彼女に返事をしつつ、彼女の制服に目を向けた。
どうやら彼女はうちの学校の生徒ではないらしく、北倉高校が指定している冬用コートを着用している。
雪が降っているというのに傘も差さず、こんな所で何をしているのだろうか。


男「寒くないの?」

女子「大丈夫です。私、寒さには強いんです」

男「ふうん、そうなんだ。誰を待っているのか知らないけど、風邪を引かないように気をつけてね」


俺はそう言って、彼女から視線を外した。
部活仲間に見られて勘違いされると面倒だし、さっさと帰ることにしよう。

10 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/18(日) 00:12:53 ID:xFYKTtmE
女子「わわっ、待ってくださいよ。男くんですよねえ」

男「そうだけど」

女子「私のこと、覚えていませんか」マジマジ

男「あっ! もしかして、少女さん?」

少女「えへへ♪ 久しぶりだね」

男「ああ、久しぶり! 中学生のときと雰囲気が違っていて、まったく気付かなかったよ」


お昼休みに少女さんのことを思い出して、まさかその日のうちに会うとは思わなかった。
もしかして友のやつ、知っててネタ振りしてきたんじゃないだろうなあ。
しかし、俺が告白した相手を知っているのは双妹だけだ。
双妹が友に話したとは考えられないし、きっとただの偶然だろう。
そうなると、少女さんがここにいる理由はひとつしか考えられない。

11 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/18(日) 00:16:57 ID:NNrVydJo
男「それで、今日はどうしてこんなところに?」


昨日はバレンタインデー。
しかも少女さんは学校帰りに来て、ずっと俺のことを待ってくれていたようだ。
もしかすると、これはかなり期待しても良いのではないだろうか。


少女「男くんに会いたくて、ここまで来たんです」

男「そ、そうなんだ!」

少女「えっと、実は渡したいものがあって――」

少女「あれっ!? あっ、ああ、そっか……」

男「どうかした?」

少女「あはは、家に置いて来ちゃったみたいです」テヘッ

男「じゃあ、取りに帰ればいいんじゃないかな。傘に入れてあげるよ」

少女「それは……出来ないんです」

12 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/18(日) 00:19:23 ID:NNrVydJo
男「出来ないって、どういうこと?」

少女「家に帰りたくないというか、帰ってはいけないというか――。何となく、近付いてはいけないような気がするんです」

男「もしかして、お母さんがそういうことに厳しいとか?」

少女「……いえ。私、死んでしまったみたいなんです」

男「死んだ?!」

少女「はい――」


久しぶりに会えてうれしいと思っていたけど、とんでもない言葉が彼女の口から出てきた。
こうして話をしているのに、死んだとか訳が分からない。
そして、さらに彼女が言葉を続ける。


少女「私自身、どうしてこんなことになってしまったのか分かりません。記憶がすごく曖昧で、気が付くと病院のベッドで横たわる自分の姿を見下ろしていました」

男「ふ……ふうん、大変だったね」

13 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/18(日) 00:25:03 ID:fegUyZeA
少女「とりあえず、男くんの家に行ってもいいですか?」

男「えっ、俺の家に?! ドカ雪が降っているし、今日は早く帰ったほうがいいんじゃないかな」

少女「だから、帰りたくないんですよね……」


俺が知っている少女さんは、こんなことを言うような人ではなかった。
しばらく会わないうちに、性格が変わってしまったのかもしれない。
家に帰りたくないと言ってはいるけど、俺が帰れば少女さんも家に帰ってくれるだろう。


男「それじゃあ、俺は部活で疲れているから。少女さん、またね」

少女「……」


俺は少女さんに手を振って、駅に向けて歩き始めた。
そして校門を出てすぐ、少女さんがどうやって帰るのかが気になった。
彼女は同じ中学校に通っていたのだから、今から俺と同じ電車に乗ることになるはずだ。
もしそこで出会ってしまうと、絶対に気まずい。

少女さん――か。
久しぶりに会えてうれしかったし、バレンタインチョコを渡しに来てくれてすごくうれしかった。
やっぱり、どうしてあんなことを言ったのか最後まで聞いてみよう。
俺はそう思い、足を止めて振り返った。
しかし、少女さんはすでにいなくなっていた。

14 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/18(日) 00:36:10 ID:fegUyZeA
今日はここまでにします。
ジャンル的には、
女幽霊/双妹(いもうと)SSです。

15 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/18(日) 10:50:29 ID:J0dyUVSA
〜自宅・部屋〜
少女「ふうん、ここが男くんの部屋なんだ〜」

男「……ええっ?!」


背後から声が聞こえて振り返ると、なぜか少女さんが立っていた。
校門で別れたはずなのに、どうして俺の家にいるのだろう。
というか、付いてきている事にまったく気が付かなかったぞ。


少女「お邪魔してます♪」

男「お邪魔してますって、どうやってここに?!」

少女「それはだって、私は幽霊だもん」

男「幽霊?」

少女「はい。だから、姿を消して付いていくことも出来ちゃうんです」ドヤァ

16 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/18(日) 10:54:03 ID:J0dyUVSA
男「それ、本気で言ってるの?」

少女「もちのろんです」

男「じゃあ、証拠を見せてほしいかな」

少女「証拠ですか?」

男「俺には霊感なんてないし、少女さんが死んでいるとか信じられる訳がないだろ」

少女「それもそうですね。それじゃあ、私に触ってみてください」


少女さんは得意げに言うと、手を差し出してきた。
それを見て、俺は彼女の手を握ろうとした。
しかし握手をしようとした瞬間、手がすり抜けてしまった。

17 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/18(日) 10:56:29 ID:xFYKTtmE
男「……んなっ!?」

少女「これで私が幽霊だと証明出来ましたよね」

男「し、信じられない」

少女「でも、これが現実なんです」

男「そう……だよな。少女さんに触れないし、よく見たら空中にも浮いてるし」

少女「何だか魔法少女みたいですよね♪」


少女さんはそう言うと、ふわふわと空中に舞い上がった。
そして、俺のベッドに着地した。


少女「えへへ、すごくないですか!」

男「確かに魔法みたいだ」

少女「実は私、子供のころに憧れていたんです。るんらら〜♪」

18 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/18(日) 11:01:49 ID:fegUyZeA
もしこれが魔法だったとすると、少女さんに実体がないことの説明が出来ない。

少女さんの身体を触ることが出来ないこと。
少女さんがベッドに座っても、物理的に体重が加わっている様子がないこと。
そして、少女さんの影が出来ていないこと。

やっぱり、少女さんは幽霊なのだ。
そんな彼女に、俺は一体何が出来るのだろう――。


男「あのさあ、うまく言うことが出来ないけど、俺もお通夜とかお葬式に行ったほうがいいのかな」

少女「男くんは私の家を知っているんですか?」

男「知らないけど、同級生だったから行ったほうが良いと思うんだ」

少女「気持ちはうれしいですけど、お葬式は終わっていると思いますよ」

男「終わってる?」

少女「はい。私が死んだのは一昨日なんです」

19 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/18(日) 11:06:56 ID:fegUyZeA
男「一昨日ってことは13日か。どうして、その……死んでしまったの?」

少女「それなんですけど、なぜ死んでしまったのかよく覚えていないんです」

男「そうなんだ」

少女「……はい。バレンタインデーの前日に死んでしまうなんて、一生の不覚です!」ショボン

男「もしかして、誰かにチョコを渡す予定だったとか?」

少女「そ、それは……//」

男「そういえば校門で会ったとき、俺に渡したい物があると言ってたよね」

少女「は……はうぅっ//」


どうやら図星だったらしく、少女さんは顔を赤面させた。
そして照れ笑いを浮かべながら、恥ずかしそうにベッドの上で丸くなった。
何だか乙女チックで、すごく可愛い。

そんなことを思いながら見ていると、少女さんの身体がふいにベッドの中に沈み込んだ。
さすがにシュールすぎる光景だ。

20 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/18(日) 11:12:37 ID:xFYKTtmE
少女「わわっ、前が見えない〜」


少女さんがじたばたともがきながら、慌てた様子で言った。
かなり深く潜っているようなので、もしかすると親父の書斎に天井から足が生えているかもしれない。
どうやら、天然っぽいところは変わっていないようだ。
それからしばらくして、少女さんが照れ臭そうに毛布から顔を出した。


少女「あははは// 修学旅行とかでいますよね〜。テンション上がって、布団の上で水泳始める子」アセアセ

男「そうだな。いるいる、まさに少女さんみたいな人が」

少女「ううっ、男くんのいじわる〜」プンスカ

男「あはは、ごめんごめん」

21 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/18(日) 11:17:08 ID:xFYKTtmE
少女「じゃ、じゃあ、許してあげる代わりに、今日からここに泊めてくれませんか//」

男「それって、どういうこと」


少女さんのはにかんだ表情に、俺は一瞬ドキッとした。
しかし、よくよく考えてみると彼女は幽霊なのだ。
普通ならうれしいシチュエーションだけど、警戒せずにはいられない。


少女「えっと……実は私、男くんに取り憑いているんです」

男「ちょっと待った! 俺に取り憑いてる?!」

少女「えへへ、そうですよ//」テレッ

22 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/18(日) 11:24:02 ID:xFYKTtmE
PiPoPa...


男「もしもし」

友『もしもし、男か。どうしたんだ?』

男「実はさあ、幽霊に取り憑かれたんだけど除霊してくれないかな」

少女「えっ、ええぇっ!! 私、いきなり除霊されちゃうの?!」

友『幽霊に取り憑かれたって、どういうことだよ』

男「そのままの意味だ。除霊、出来るんだろ?」

友『やろうと思えば出来るけど、見える……のか?』

男「ああ、冗談抜きで見えてる。何とかしてあげてくれないかな」

友『分かった。少し待ってろ』

男「じゃあ、待ってるから」

23 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/18(日) 11:26:21 ID:fegUyZeA
少女「久しぶりに会えたのに、もうお別れなんですね……」


電話を切ると、少女さんが悲しげな表情を向けてきた。
何だか悪いことをしているみたいだけど、彼女は人に取り憑く幽霊なのだ。
少しでも早く成仏をするほうが、きっと少女さんのためになる。


男「もう少し話をしたかったけど、早く成仏をしたほうが少女さんのためになると思う。だから、分かって欲しい」

少女「成仏をしたほうが私のためになる……か。つまり、私のことが嫌いだから除霊するわけじゃないんですね」

男「そうだよ」

少女「そっか……。嫌われた訳じゃなくて、本当によかった――」

男「それじゃあ、友が来るまでの間、何か話でもしない?」

少女「……そうですね、そうしたいです」


少女さんはそう言うと、かすかに微笑んだ。
そして、俺たちは中学校の思い出を話し合うことにした。

24 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/18(日) 11:28:56 ID:J0dyUVSA
少女「――そういえば男くん、中学生のときに告白してくれたよね。よく知らない人だったし、あのときは恋愛に興味がなくて断っちゃったけど」

男「それが本当の理由だったのか。それじゃあ、3年生のときに告白し直していたらチャンスがあったのかな」

少女「それはその……たぶん付き合っていたと思います//」

少女「男くんと同じクラスになって、ずっと意識していたんだよ。告白してくれた人だし、部活動を頑張っていることがすごく伝わってきたから――。でもへたれで弱くて、いつも負けてばっかりだったけどね」

男「へたれって言うけど、入部して早々に小学生の頃からやっていた奴らに勝てるわけないだろ」

少女「あはは、それもそうだね。でも、どうして部活を始めたの?」

男「それはまあ、少女さんに振られたから……かな」

少女「えっ、私に振られたから?」

男「少女さんのことが好きだったし、何かスポーツを頑張って見返してやりたいと思ったんだ」

少女「そうだったんだ。男くんは見違えたと思うよ//」

男「ありがとう」

25 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/18(日) 11:45:26 ID:fegUyZeA
中学3年生のとき、どちらかが勇気を出していれば俺たちは交際が始まっていたのかもしれない。
その時間を埋め合わせるかのように、楽しかった学校行事を振り返る。
春の運動会の話からはじまり、文化祭や修学旅行、そして日帰りのスキー実習の思い出を話し合う。
やがて話に一区切りが付いたところで、来客のチャイムが鳴った。
どうやら、友が来てくれたようだ。
俺は部屋を出て、玄関に向かった。


友「――あのチョコ、ネタに走りすぎじゃないかなあ」

双妹「男が友くんはなんば辛いものが好きだと言っていたから、あれにしたんだけど」

友「確かに好きだし美味しかったけど、まじで男が選んだのかよ……」

双妹「そうだよ。友くんは幼馴染みたいなものだし、男が選んで私が買えば、二人でチョコを渡したことになるよねって」

友「あ、ああ……そういうことか」ショボン

少女「あれっ? この女子は――」

双妹「男、友くんが来てるよ〜」

男「分かってる。少し用事があって呼んだんだ」

26 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/18(日) 11:48:24 ID:fegUyZeA
男「ドカ雪が降ってるのに、わざわざ来てくれてありがとう。とりあえず、家に上がってくれ」

友「ああ、お邪魔します」


友はそう言って、俺の隣をちらりと見た。
そこには少女さんが立っている。
どうやら、幽霊が見えるという話は冗談ではなかったらしい。


友「おいっ、男。取り憑かれたって、まさか――」

男「その話は部屋でしよう」

友「そうだな」

双妹「……?」

27 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/18(日) 12:01:15 ID:xFYKTtmE
友を部屋に招き入れると、友は担いでいたカバンを床に置いた。
恐らく、その中に除霊グッズが入っているのだろう。
少女さんがしきりにカバンを気にしている。


少女「……友くん、お久しぶりです。というか、今朝も会いましたよね」

友「あ、ああ……あれは少女さんだったのか。まさか亡くなっているだなんて思ってもみなかったから、まったく気が付かなかったよ」

少女「やっぱり気付いてなかったんだ」

友「ごめんごめん。なんて言えばいいのか困るけど、お悔やみ申し上げます」

少女「あっ、はい……ありがとう」

男「少女さんのこと、双妹には見えていないみたいだけど友には見えるんだな」

友「当たり前だろ。俺の家はそういう家系だからな」

少女「それで、友くんは私を除霊するために来たんですよねえ」

友「そのことだけど、俺は少女さんの除霊をするつもりはないよ」

少女「えっ、そうなんですか?!」

友「ああ。除霊っていうのは、その必要があるときにするものなんだ」

28 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/18(日) 12:04:20 ID:J0dyUVSA
男「除霊をしないって、どういうことだよ。成仏させてあげたほうが少女さんのためになるんじゃないのか?」

友「人が亡くなったとき、故人が極楽浄土に行けるように四十九日の法要を営むだろ。宗派によって違いはあるけど、少女さんは今、成仏をするために気持ちの整理をしている時期なんだ」

友「そんな大切なときに除霊をしてしまうと、成仏をする機会を与えずに霊魂を破壊することになってしまう。だから、除霊をしないんだ」

男「なるほど」

少女「それじゃあ、私はこれからも男くんと一緒にいられるんですね」ルンルン

友「一応そういうことになるけど、男に取り憑いていることが気になるんだよな」


友はそう言うと、険しい表情になった。
そして、俺と少女さんを交互に見比べる。

29 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/18(日) 12:10:09 ID:xFYKTtmE
男「取り憑かれていることは俺も気になるけど、やっぱり不味いのか?」

友「まあな。こういう言い方はしたくないけど、少女さんがしていることは悪質な憑依霊と同じことなんだ。本来ならば、問答無用で除霊してしまいたいくらいだ」

少女「私は悪いことをするつもりはありません! ただ、その……男くんと一緒にいたいだけなんです」

友「それが成仏をするために必要な気持ちの整理ってことになるんだろうけど、どう考えても異常なんだよな」

少女「私が異常って、どうしてですか」

男「少女さんに対して、そういう言い方はないんじゃないか!」

友「じゃあ聞くけど、男は今まで幽霊を見たことがあるのか?」

男「ある訳ないだろ」

友「そういうことだよ。男が少女さんの姿を見て、普通に会話までしている。例えどんな死に方を選んでいたとしても、普通の浮遊霊がこんなに強力な力を持っているはずがないんだ」

30 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/18(日) 12:14:17 ID:xFYKTtmE
トントン
不意にノックをする音がして、双妹が部屋に入ってきた。


双妹「晩ご飯の準備が出来たんだけど、どうする?」

男「俺は後で食べる」

友「男、ご飯時なら俺はもう帰るぞ」

男「帰るって、今の話がかなり気になるんだけど」

友「現状では深刻な問題は起きないから、気にしなくても大丈夫だ。もう少し考えを煮詰めてから話をしたいし」

男「ということは、この状態が続くと問題が起きるということか……。分かった、雪も心配だし続きは明日聞かせてくれ」

友「ああ、任せとけ」

男「来てくれてありがとうな」

31 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/18(日) 12:17:19 ID:J0dyUVSA
友「それじゃあ、今夜は変なことをするなよ」ニヤニヤ

少女「変なこと?」

男「何もしないっつうの!」

友「ははっ、冗談だ」


友はそう言うと、カバンを持って立ち上がった。
そして俺と双妹は友を玄関まで見送り、リビングに向かった。
その傍らには、少女さんが付いてきている。


男「やっぱり、双妹には見えていないんだな」

双妹「見えていないって、何が?」

男「いや、何でもない」


少女さんには、普通の浮遊霊では考えられないほどの力があるらしい。
その力が俺に対する未練に関係しているのなら、それを解消する手伝いをしてあげたい。
俺は晩ご飯を食べつつ、そう思った。

32 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/18(日) 23:21:26 ID:xFYKTtmE
男「ふぅ、食った食った」


俺は部屋に戻り、ベッドの上に座った。
そして、傍らに少女さんがちょこんと座る。


少女「あの……男くんって、妹がいたんですね」

男「そうだよ。知らなかった?」

少女「はい」

男「実は、俺と双妹は双子の兄妹なんだ」

少女「ええっ! 双子なんですか?!」


俺と双妹が双子だと教えると、少女さんは目を丸くして驚いてくれた。
この様子だと、俺たちが一卵性双生児だということも知らないのかもしれない。


男「男女の双子って珍しいだろ」

少女「そうですよね。そっか、そう……だったんだ」

33 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/18(日) 23:24:27 ID:fegUyZeA
男「ところで、少女さんの未練って何なのかな」

少女「私の未練ですか?」

男「普通の浮遊霊では考えられないほどの力を持った理由が俺にあるなら、それを解消する手伝いをしたいなと思って」

少女「男くんに会いたいという願いは叶ったし、他にあるとすれば……その、あれかもしれないです」

男「あれって、バレンタインチョコを渡せなかったこと?」

少女「……たぶん//」

男「じゃあ、明日の放課後、部活を休んで少女さんの家に行ってみよう。それで何か分かるかもしれないし」

少女「だ、だめです!」


少女さんが慌てて声を上げた。
家に帰りたくないとは聞いていたけど、俺が行くのもだめらしい。


男「だめって、どうして?」

少女「私、男くんに取り憑いているんですよ。男くんが私の家に行けば、私も家に帰ることになるじゃないですか」

34 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/18(日) 23:26:06 ID:xFYKTtmE
男「あのさあ、自分の家だろ。どうして帰りたくないの?」

少女「何となく、近付いてはいけないような気がするんです。きっと良くないことが起きると思います」

男「良くないこと?」

少女「それが何かは分かりません。でも……いやなんです」


少女さんはそう言うと、顔を伏せた。
もしかすると、生きているときに余程のことがあったのかもしれない。
それを何とかして克服しなければ、少女さんが未練を解消することは出来なさそうだ。


男「家に帰るのが嫌なら、まずは家に帰りたくない理由を探すしかなさそうだね」

少女「……そうですね」

35 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/18(日) 23:28:11 ID:fegUyZeA
男「それじゃあ、とりあえずお風呂に入ってくるから」

少女「もうそんな時間なんだ」

男「悪いけど、少女さんは部屋で待っててくれるかな」


俺はそう言って、洋服ダンスから着替えを取り出した。
そして部屋を出ると、なぜか隣に少女さんが立っていた。


男「あのさあ、部屋で待っててくれたらいいから」

少女「……はい」

男「……」トテトテ

少女「……」フワフワ

36 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/18(日) 23:31:55 ID:xFYKTtmE
〜お風呂〜
男「えっとさあ、ここがお風呂なんだけど」

少女「わ……分かっています」アセアセ

男「じゃあ、どうして付いてくるの」

少女「それがその、男くんから離れられないというか――」


距離にして、約1.5メートル。
それ以上は離れようとしても離れられないようだ。
少女さんの背丈もそれくらいだし、もしかすると関係があるのかもしれない。


男「こうなったら、浴室の壁の向こう側で待っていてもらうしかないな」

少女「い、いやですよ。外は寒いし雪が降っているじゃないですか!」

男「寒さには強いって言ってなかったっけ」

少女「そ、そんな設定はなくなりました!」アセアセ

37 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/18(日) 23:43:51 ID:NNrVydJo
男「それなら、俺と一緒に入る?」

少女「それはその……仕方ない…………ですよね」


少女さんはそう言って、視線を泳がせた。
やっぱり、いくら幽霊だとはいっても一緒に入るのはまずいよな――。
何か良い方法はないだろうか。


男「そうだ! 部屋から水着を取ってくるよ」

少女「水着、ですか?」

男「それなら安心して一緒に入れるだろ」

少女「そうですね。気を使わせてごめんなさい」

男「別に謝らなくても良いから。それじゃあ、取ってくる」

38 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/20(火) 00:31:21 ID:n8a7uILg
俺は少女さんを連れて部屋に戻り、洋服ダンスから水着を取り出した。
そして、お風呂場に戻って制服を脱ぐと、少女さんは慌てて両手で顔を隠した。


少女「わわっ// 急に脱がないでくださいよ」アセアセ

男「えっ? ああ、ごめんごめん」

少女「水着に着替えるなら、バスタオルを腰に巻くとかその……してくれませんか」

男「それもそうだな。でも俺も見られていたら気になるし、少女さんは後ろを向いてくれるかな」

少女「そ……そうですね」アセアセ

双妹「ねえ、男。ちょっと良いかなあ」


少女さんと話をしていると、双妹がひょっこりと脱衣所に入ってきた。
そしてすぐに俺が持っている水着に気付き、呆れた顔を向けてきた。

39 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/20(火) 00:44:17 ID:PYfLsmYE
双妹「もしかして、水着を着てお風呂に入るつもり?」

男「いろいろと事情があってな」

双妹「事情ねえ……。身体を洗うときはどうするの」

男「そのときは脱ぐし」

双妹「脱ぐなら、着る必要なくない?」

少女「これは……双妹さんの言うとおりですね」

男「はあ、分かったよ」

双妹「分かればよろしい♪ ところで、来週からお父さんが海外出張でしょ」

男「土曜日に出発するんだっけ」

双妹「そうそう。だから、今週は私がバス停まで迎えに行ってあげようと思っているの。それでね、今日はお父さんと一緒に入るから設定を変えておいてね」

男「分かった。雪が積もってるから気を付けて行けよ」

双妹「うん、ありがとう。それじゃあ、行ってきます♪」

40 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/20(火) 00:48:13 ID:n8a7uILg
少女「あの……双妹さんって、未だにお父さんとお風呂に入っているんですか」


双妹が脱衣所から出て行くと、少女さんが困惑した面持ちで口を開いた。
そんな当たり前のことに、どうして驚いているのだろう。


男「そうだけど、それがどうかした?」

少女「いえ……私だったら嫌だなと思って…………」

男「ふうん、そうなんだ。とりあえず、水着を着るのはやめるから」

少女「そ、そうですね//」

少女「こうなれば実習の時間だと思って、洗い方をしっかりと確認させていただきますから! 覚悟しておいてくださいね!!」

男「覚悟しろって、変に意識しちゃうんだけど……」

少女「べべ……別に変な意味じゃないですし//」アセアセ


少女さんは声を上ずらせながら、俺の下半身をガン見してきた。
恥ずかしさを誤魔化そうとしているのが見え見えだけど、意外と肝が据わっているのかもしれない。
そう思いつつ脱ぐのを躊躇っていると、少女さんははっとした表情で我に返り後ろを向いてくれた。

41 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/20(火) 00:54:21 ID:xtymmhLM
ガラララッ・・・
少女さんと久しぶりに再会した日に、そのまま二人で一緒にお風呂。
俺は気まずい視線を背中に感じながら、緊張した足取りで浴室に入った。
そして湯船に浸かると、少女さんが浴室の中に入ってきた。
約1.5メートルの距離以上に離れることが出来ないからだ。

まあ、そこまではいい。
服を着てさえいれば――。


少女「わわっ、何これ! 男くんの家のお風呂、すごく広いし!」

男「ちょっと少女さん、どうして裸なんだよ!」アセアセ

少女「えっと、実は一昨日からずっとお風呂に入っていなくて……。恥ずかしいので、あまり見ないでください//」


見ないで欲しいと言われても、裸でいられると気になって仕方がない。
控えめな乳房と女性らしい腰付き。
少女さんを見ないように顔を背けてはいるけれど、どうしても意識がそちらに向いてしまう。

そんな俺の心境を知ってか知らずか、少女さんが湯船に入ってきた。
もちろん水位は上がらないし、波も立たない。

42 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/20(火) 00:57:57 ID:ojXTULs.
男「――?!」

少女「ごめんなさい。やっぱり、気に障りましたか」

男「いや、そうじゃなくて……」


俺はそれを見た瞬間、急速に興奮が冷めていった。
少女さんの首に何かで絞められた痕が残っていたからだ。


少女「もしかして、私の身体がどこかおかしいですか?」

男「それはその――」

少女「あっ、ああ……そういうことだね//」ドキドキ


少女さんは何を思ったのか、期待の眼差しを向けてきた。
だけど、彼女は死んでいるのだ。
それを強く実感してしまった今、浮ついた気分にはならなかった。

43 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/20(火) 18:54:50 ID:n8a7uILg
〜部屋〜
男「……」

少女「……」


お風呂場から戻ってくると、部屋が気まずい沈黙に包まれた。
いや、正確にはお風呂に入っているときからかもしれない。


男・少女「あ……あのっ!」

男「少女さんから言ってよ」

少女「えっとその……すごく緊張しましたね//」

男「あ、ああ、そうだね」

少女「緊張……し過ぎていたんですよね?」

男「し過ぎていた……か。確かにそうかもしれない」

少女「やっぱり、そうだったんだ。あまり元気がないようだったので、どうしたのかなって気になっていたんです」

男「なんと言うか、少女さんが死んでいることを実感させられて……。それで、ずっと考え事をしていたんだ」

44 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/20(火) 19:55:22 ID:xtymmhLM
少女「考え事って、どんな事ですか?」


少女さんはそう言うと、真剣な眼差しを向けてきた。
彼女は今、北倉高校の冬用の制服を着用している。
そのおかげで、今は首を絞められた痕が見えなくなっている。


男「別に話してもいいけど、かなり不快な気分になると思うんだ。それでも大丈夫?」

少女「そう言われると少し迷うけど、私に関係がある話なんですよねえ」

男「そうだよ。もしかすると、少女さんの死因が分かったかもしれない」

少女「ええっ?! そういう話なら、ぜひ聞かせてほしいです!」

男「それじゃあ言うけど、恐らく少女さんは誰かに殺されたのだと思う」

少女「誰かに殺された?! それって、どういうことなんですか!」

男「少女さんの首に紐か何かで絞められた痕があったんだ」

45 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/20(火) 20:30:55 ID:xtymmhLM
少女「……」

少女「それって……首を絞めて殺されたということですか?」

男「……うん。そうだとしか思えない」


少女さんは家に帰りたくないと言っている。
それは、家に侵入してきた何者かに殺されたからなのかもしれない。
だから近付きたくないのだ。


少女「でも、記憶がすごく曖昧であまり覚えていないんですよね」

男「それが証拠だよ。心が思い出すことを嫌がっているんだ」

少女「そっか――」

男「とりあえず、人が殺されたら新聞記事になるはずだろ。今から調べてみる?」

少女「そうですね。家に帰りたくない理由を知るためにも、私はなぜ殺されたのか知りたいです」

男「それじゃあ、取ってくる」


俺はそう言って、リビングから古新聞を持ってきた。
そして、少女さんが亡くなった13日の新聞から目を通すことにした。

46 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/20(火) 23:17:43 ID:n8a7uILg
・・・
・・・・・・
リビングから持ってきた新聞を読み終わり、俺は小さく溜め息をもらした。
どうやら、この近隣で殺人事件は発生していないようだ。
最初は事件が発覚していないだけかと思ったけれど、少女さんは『気が付くと病院のベッドで横たわる自分の姿を見下ろしていた』と言っている。
したがって、事件が発覚していないなんてことは有り得ない。


少女「載っていませんでしたね」

男「そうだな。これで殺人事件の線がなくなった」

少女「良かった〜。誰にも殺されていなくて」

男「俺も少女さんに話した後で、そんなことがある訳ないと思ってた。変なことを言って、本当にごめん」

少女「別に良いですよ。気にしないでください」


少女さんはそう言うと、にこりと微笑んでくれた。
しかしふと、俺は新しい可能性に思い当たった。
誰かに殺された訳ではないのならば、自分で死んだことになってしまうのではないか?

そう。
首吊り自殺だ――。

47 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/20(火) 23:50:40 ID:ojXTULs.
今年の冬休み、少女さんが通っている北倉高校で男子生徒が自殺をした。
詳しいことは知らないけれど、ニュースによれば遺書が遺されていたらしい。
そこまでは、まあよく聞く話だ。
きっと、少女さんもいじめに遭っていたのだろう。

しかし、少女さんの場合はそれだけでは終わらない。
風紀活動が厳しくなっていた中でのいじめだから、より巧妙で陰湿なものになっていたはずだ。
さらに北倉高校はただの進学校ではなくて、看護科や福祉科など医療系の勉強を教えている専門学校として有名だ。
そんな学校が、短期間のうちに二人目の自殺者を出してしまったらどうなるか。
もしかすると少女さんが死亡した記事がないのは、学校の評価が下がることを恐れて揉み消しているからなのかもしれない。

48 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/20(火) 23:55:35 ID:xtymmhLM
男「そうだ!」

少女「どうかしたんですか?」

男「新聞に載っていないなら、スマホで検索してみようよ。ニュースサイトに記事があるかもしれないだろ」

少女「……いやです」

少女「私の名前を検索するのは……何となく嫌なんです」


男「――」


ふいに思考が途切れ、軽い眠気を感じた。
今日はいろいろありすぎて、少し疲れが出てきたのだろう。


男「そうだな。今日はこれくらいにして、また明日にしようか」

少女「……ごめんなさい」

49 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/21(水) 11:45:45 ID:bBe.WQZo
乙面白いぜ乙

50 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/21(水) 22:05:25 ID:LvO5J0iE
男「それじゃあ、もう寝ようかと思うんだけど、明日は少女さんも俺の学校に来るのかな」

少女「……そうですねえ、そうなりますね。男くんの学校ではどんなことを勉強しているのか、すごく楽しみです♪」

男「へえ、そうなんだ」


俺はそう返しつつ、予想とは違う反応に驚いた。
少女さんが学校でいじめを受けていたのなら、あまり気が進まないのではないかと思ったからだ。
しかしそんな様子はなく、純粋に楽しみにしているように見える。
それは違う学校だからだろうか。


少女「それはそうと、準備が出来たのでお布団の中に入ってください//」


明日のことを考えていると、いつの間にか少女さんが枕元に移動して正座をしていた。
しかも、なぜか期待の眼差しを向けている。

51 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/21(水) 22:12:51 ID:UeSLK9Ho
男「ひとつ聞きたいんだけど、そこで何をしているの?」

少女「えっと、ほら! 幽霊は夢枕に立つって言うじゃないですか」

男「いやいやいや、すごく縁起が悪そうなんだけど!」

少女「ふふっ、いい夢を見させてあげますよ// だめ……ですか?」

男「だからそれ、すごく怖いんだけど!」

少女「むうっ……それじゃあ、洋服ダンスの中で寝ることにします」

男「何でタンスなんだよ。ていうか、幽霊なのに寝るのかよっ」

少女「そんなことを言われても、昨日からずっと寝ていないので眠たいんです。それに、女幽霊は洋服ダンスの中から現れるのがお約束なんですよ!」

男「そんなの初耳だし」

少女「えー、知らないんですか」

男「よく分からないけど、それも縁起が悪そうだから却下な」

52 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/21(水) 22:19:57 ID:LvO5J0iE
少女「それじゃあ、私はどこで寝ればいいんですか?」

男「双妹の部屋が隣にあるから、そっちで寝れば良いんじゃないかな。そこなら二段ベッドがあるし、そのほうが健全だと思う」

少女「双妹さん、ねえ……」

少女「私の未練は、男くんと一緒に寝ることだったような気がします//」

男「今、思い付いただろ」

少女「そんなことない……ですよ。ねえねえ、一緒に寝ようよ〜」

男「はあ、仕方ないな。もう好きにすればいいよ」

少女「わ〜い♪」


結局、少女さんに押し切られてしまった。
これで未練がひとつ解消するなら、協力してあげよう。

53 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/21(水) 22:34:52 ID:UeSLK9Ho
少女「男くん、おやすみなさい//」

男「おやすみ」


明かりを消してベッドに入ると、少女さんが隣に入ってきた。
そして目が合い、少女さんがにこりと微笑んだ。

少女さんが同じ部屋にいる。
中学生のときに好きだった少女さんが、今は俺のベッドの中にいる。
一緒にお風呂に入って、そのときは裸で何も着ていなくて――。

やばい、緊張して眠れなくなってきた!
彼女は俺に取り憑いている幽霊なんだぞ。
触ることも出来ないし、ムフフな展開とかあまい期待はするだけ無駄なんだ。

そう。
俺は少女さんが成仏できるように協力しているだけだ。
だから、何も起こらない。

俺は自分にそう言い聞かせながら、ゆっくりと目を閉じた。

54 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/21(水) 22:44:27 ID:LvO5J0iE
今日はここまでにします。
レスありがとうございました。

55 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/22(木) 19:52:27 ID:CDUzyq9M
(2月11日)thu
〜お買い物・少女さん〜
バレンタインデーが迫り来る、2月11日。
私は友香ちゃんと一緒にショッピングモールにやってきた。
もちろん、チョコレートを買うためだ。


少女「どのお店のチョコが美味しいんだろ」

友香「想像以上にたくさんあるんだね。こうなったら、一通り試食してから決めようよ」

少女「それ、賛成!!」

友香「まずは有名ホテルの専属パティシエが作ったシフォンケーキから♪」

少女「しっとりしてて、すっごく濃厚だね」

友香「うますぎ〜。これを自分で食べずに彼氏にあげる人がいるだなんて、もう信じられないよ」

少女「あはは、そうだね」

友香「このトリュフもカカオパウダーが絶品過ぎるしぃ。ねえねえ、今度はあっちの和チョコを食べに行こうよ!」

56 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/22(木) 20:23:52 ID:kcY6ZLyI
・・・
・・・・・・
友香「はあ、どれも美味しかった//」

少女「そうだね〜」

友香「それで決めたの?」

少女「えっと……和チョコにしようかなって思ってる」

友香「ああ、すっごく和風で美味しかったよね」

少女「そうそう。男くん、喜んでくれるかなあ//」

友香「きっと大丈夫だよ!」

少女「そう……だよね。じゃあ、買ってくる!」

57 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/22(木) 20:29:10 ID:CDUzyq9M
男くんに渡すチョコレートを買い、今度は友香ちゃんの買い物に付き合うことにした。
行き先は紳士服売り場で、お父さんに渡すネクタイを買うつもりらしい。
その移動中、催事場の一画にバレンタインコーナーが設けられているのを見つけた。
さっきまでいた有名店の特設会場とは違い、お菓子売り場の延長のような雰囲気になっている。


友香「少し寄っても良いかなあ」

少女「うん、いいよ」


私は二つ返事で応え、友香ちゃんと催事場に入った。
そこには子供向けの駄菓子やBig系のパーティーお菓子、笑えるダジャレ系のチョコレートが並んでいて、見ているだけで楽しい気分になってくる。
私もお父さんに何か買って帰ろうかなあ。
そう思いつつ見て回っていると、セクシーなチョコを扱う一画で友香ちゃんが立ち止まった。

58 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/22(木) 20:43:20 ID:daFXzB42
友香「ねえねえ、これなんてどう思う?」

少女「ええっ?! そういうのは良くないんじゃないかな」アセアセ

友香「お兄はこういうのが好きみたいだし、面白いでしょ」

少女「あ、ああ……お父さんじゃなくて、お兄さんにあげるんだ。でも、どっちにしても普通のチョコのほうが喜んでくれると思うよ」

友香「えー、そんなの面白くない!」

少女「バレンタインチョコに面白さって必要なの?!」

友香「当たり前でしょ。本命チョコじゃないんだから、くすっと笑えて楽しいほうが良いじゃない」

少女「それはそうかもしれないけど、それなら普通のチョコのほうが――」

友香「決めたっ! 今年はこれにしようっ!」

59 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/22(木) 20:52:44 ID:kcY6ZLyI
友香ちゃんはそう言うと、セクシーなミルクチョコを手に取って、堂々とレジに並んだ。
もしかして、本当にそれを買うの?!
私はさすがに気恥ずかしくなり、催事場の外で友香ちゃんを待つことにした。

周りにはたくさん人がいるのに、恥ずかしくないのかなあ……。
何だか感心してしまう。
だけど、私も友香ちゃんくらい大胆になったほうがいいのかもしれない。
カマトト女子は受けが悪いって聞くし、そんなことで男くんに嫌われたくはない。

私はそう思い、羞恥心を堪えてセクシーなチョコ売り場に目を向けた。
すると、無意識のうちに視線が一点に奪われた。
その場所には男くんがいて、見知らぬ女子と一緒に楽しそうにチョコを選ぶ姿があった。

60 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/22(木) 20:57:50 ID:daFXzB42
あの人は誰なの。
どうして、あんな場所で一緒にバレンタインチョコを選んでいるの?


友香「少女、お待たせ〜♪」

少女「……」

友香「どうかした?」


友香ちゃんはそう言うと、私の視線を追った。
そして、困惑した様子で言った。


友香「もしかして、あの人が男くんなの?」

少女「……うん」

友香「そうなんだ。思い切って声をかけてみる?」

少女「無理だよ。そんなこと――」

61 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/22(木) 21:10:04 ID:CDUzyq9M
女子「ねえ、男。見てみて、おっぱいチョコ。大人のミルク入りだって〜」

男「恥ずかしいから、そういうことを大きな声で言うなよ」

女子「あはは、もしかして想像しちゃった? 男はえっちぃ事が好きだし、これも買ってあげるわね♪」

男「そう言って、双妹が食べたいだけなんだろ。そんなことより、あれを見てみろよ」

女子「ん、どれどれ? チョコに唐辛子が入ってるんだ」

男「そうそう。チョコに唐辛子が入っているなんて、絶対に受け狙いだよな」


聞き耳を立てると、男くんと女子は名前で呼び合っていることが分かった。
しかも、えっちな話もオープンに出来る関係らしい。
このタイミングで、こんなことは知りたくなかった。


少女「男くんには彼女がいたんだ……。邪魔をしたら悪いし、早く行こっ」

友香「ちょっ、それでいいの?!」

少女「だって、名前で呼び合っているんだよ」


何だか気分が優れない。
私は逃げるようにして、紳士服売り場に向かった。

62 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/23(金) 22:02:23 ID:y7jUjsdA
(2月16日)tue
〜自宅・部屋〜
少女「男くん、朝ですよ〜♪」

男「……少女さん?! あっ、ああ、そうだった」

少女「おはようございます」

男「うん、おはよう」


朝起きて、隣に少女さんがいる。
それはとても不思議な感覚だった。
彼女が成仏をするまで、これからずっとこんな生活が続くのだろうか。

俺はそう思いつつ、ベッドから降りて暖房と明かりをつける。
そして着替えることを伝えて、パジャマから制服に着替えた。


男「ふと気になったんだけど、幽霊も夢って見るの?」

少女「夢ですか」

男「寝言をしゃべっているようだったから、どんな夢を見ているのかなと思って」

63 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/23(金) 23:39:21 ID:gIiIo4Hc
少女「……寝言って、どんな?!」

男「俺の彼女がどうとか」

少女「あうぅ、恥ずかしい……」

男「で、どんな夢を見ていたの?」

少女「生きていたときの思い出です。友香ちゃんとバレンタインデーのチョコを買いに行く夢でした」

男「友香ちゃんって、少女さんの友達?」

少女「はい、同じクラスの友達です。それで夢の中で、双妹さんのことを男くんの彼女だと勘違いしていたんです。笑っちゃいますよね」


少女さんは双妹のことを知らなかった。
それならば、双妹を俺の彼女だと勘違いしたとしても仕方がない。
一卵性なので小学生の頃は瓜二つだったけれど、中学生になった頃から容姿や体格などの性差が顕著になってきたからだ。
実際に、勘違いをされたことが何度かある。


男「それが笑い事じゃないんだよな……。小学生の頃は双子の姉妹だと勘違いされたこともあるし、もしかしたら『双子あるある』なのかも」

少女「へえ、そうなんですね。男くんは見た感じが優男だし、何となく分かる気がします」

男「まあ、俺たちは母親似だからね。あの頃は本当に大変だったよ」

64 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/24(土) 00:27:47 ID:/LkPoHmQ
双妹「男、起きてる〜?」


少女さんと話をしていると、双妹が入ってきた。
いつも決まった時間に起こしに来てくれるのだけど、今日はかなり早い。
つまり、昨夜から降っている雪の影響があるということだろう。


男「おはよう」

双妹「おはよう♪ お父さんがね、雪どかしを手伝って欲しいんだって」

男「やっぱり、相当積もったみたいだな。それじゃあ、行ってくるよ」

双妹「うん。私は朝ご飯を用意しておくから」

少女「男くん、頑張ってきてくださいね――って、わわっ! 引っ張られる!!」


部屋を出ると、少女さんもふわふわと部屋を出てきた。
俺から離れることが出来ないので、付いてくるしかないらしい。


男「少女さんも手伝ってくれるのか。それは助かるよ」

少女「ふえぇ、そんなあ……」ショボン

65 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/25(日) 10:24:25 ID:Ugzat92Q
〜最寄り駅〜
少女さんの声援を貰いながら雪をどかし、早めに朝ご飯を食べて学校に行くことにした。
昨日から降り続いているドカ雪の影響で、電車が遅延しているかもしれないからだ。
しかし、意外と大丈夫だった。


双妹「電車、意外と大丈夫だったわね」

男「そうみたいだな」

少女「あの〜、私は定期券を持ってないんですけど……」

男「ああ、そっか。少女さんは切符を買わないといけないのか。それじゃあ、昨日はどうやって電車に乗ったの?」

少女「駅員さんが普通に通してくれましたよ」

男「だったら、今日も大丈夫だろ」

双妹「ねえ、一人で何を言ってるの?」


双妹が怪訝そうに俺を見た。
そして少女さんが立っている場所を見て、首を傾げる。

66 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/25(日) 10:36:03 ID:Ugzat92Q
男「なあ、真面目な話なんだけど、双妹は幽霊っていると思うか」

双妹「……幽霊?」

男「うん。どうやら、取り憑かれてしまったみたいなんだ」

双妹「もしかして、先週から始まったえっちな漫画の話?」

男「そうじゃなくて、本当の話。何とかして成仏させてあげたいんだけど、双妹も手伝ってくれないかなあ」

双妹「真面目な話って言うから何事かと思ったけど、幽霊なんている訳がないでしょ。でももし本当にいるなら、私じゃなくてお母さんに相談したほうがいいんじゃないかなあ」

男「そうかもしれないけど、双妹じゃないと駄目なんだ」

双妹「それじゃあ、横断歩道から融雪剤を持ってきて清めてあげれば?」

少女「融雪剤は塩化カルシウムですから! そんなものでお清め出来ませんから!」

男「思いっきり突っ込みいれられてるぞ」

双妹「はいはい、もう分かったから。そんなことより、待合室に行こうよ。もう寒くて寒くて――」


双妹は声を震わせながら言うと、有人改札を抜けて暖房の利いた待合室に入っていった。
やっぱり、少女さんの姿が見えないと信じてもらうことは出来ないのかもしれない。
俺は相談を諦めて、双妹と一緒に電車を待つことにした。

67 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/25(日) 10:38:54 ID:kvJFJVk6
少女「……はあ。せっかく男くんと一緒にいるのに、お話できませんね」


待合室で暖を取っていると、少女さんが残念そうにつぶやいた。
だけど、それは仕方がない。
こんな所で話をすれば、俺は不審者扱いを受けてしまう。

しかし、それでは少女さんと話を出来る場所が限られてしまう。
何か良い方法はないだろうか。
そう思っていると、待合室の学生たちがしきりにスマホを操作する姿が目に入った。

そうか。
メモアプリを使って、筆談すればいいんだ!


男『そうでもないよ。スマホを使えば話が出来る』

少女「さすが、男くん! まったく思い付かなかったです」

男『それじゃあ、外で話したいことがあるときはスマホを使うから』

少女「うん、了解です♪」

68 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/25(日) 10:41:39 ID:CFRra0aU
少女「ところで、この制服は似合ってますか」

男『それって、うちの制服?』

少女「はい。双妹さんの制服姿を参考にして、ちょっと着替えてみました」

男『似合ってるよ』

少女「えへへ//」

男『ふと思ったんだけど、こんなところで着替えて脱いだ服はどうなったの』

少女「それはまあ、私は幽霊ですから。魔法少女みたいに、ぱーっと変身したんです」

男『そんなことが出来るんだ』

少女「すごいでしょ〜♪」ドヤッ

69 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/25(日) 10:44:52 ID:CFRra0aU
双妹「ねえ、そろそろ電車が来るみたいよ」

男「じゃあ、ホームに移動しようか」

双妹「そうだね」


俺たちは待合室を出て、雪が積もっているホームに移動した。
俺の後ろを歩く少女さんの足跡は、当然残らない。
それにしても、少女さんはどうやって電車に乗るのだろうか。
重力の影響や慣性の法則など、物理法則がどうなっているのかはっきり言って謎が多過ぎる。


男『少女さんって、電車に乗れるの?』

少女「もちのろんです。昨日、男くんと一緒に帰ったんですから」

男『そうだったね』


文章を入力して改行すると、ちょうど電車が入ってきた。
俺は自動ドアのボタンを押して、ドアを開ける。
そして、俺たちは電車に乗り込んだ。

70 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/26(月) 23:50:52 ID:sxSwg5kk
〜学校・HR〜
少女「あれが男くんの教室ですよね」


学校に着いて廊下を歩いていると、少女さんは俺の教室を見つけて駆け出した。
そしてドアの前まで行ったところで、1.5メートルの制限に縛られた。


少女「あうぅ、中に入れない〜」

男「何やってるんだよ。ほら、もう入れるはずだよ」


俺はそう言いつつ、少女さんに歩み寄る。


少女「えへへ。ちょっと、はしゃぎすぎちゃいました」

双妹「言われなくても、普通に入るし……」

男「いや、双妹のことじゃないから」

双妹「……?」

71 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/26(月) 23:53:02 ID:94L8Z7Tw
男「友、うっす」

友「うっす! 双妹ちゃん、おはよう」

双妹「おはよう」


すでに席に着いていた友と軽く挨拶を交わして、双妹は自分の席に向かった。
それを見やり、友がニヤニヤといやらしい笑みを浮かべてきた。


友「少女さん、おはよう。昨日の夜はどうだった?」

少女「えっ?! そ、それは……//」


少女さんはそう言うと、俺を見た。
そして、恥ずかしそうに視線をそらした。

72 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/26(月) 23:59:33 ID:isR8G/Wc
友「ちょっと待て! まさか、何かあったのか?!」

少女「そ、そんなことない……ですよ//」

男「そうそう! 一緒に話をしたくらいで、何もなかったから」

友「……はあ、もう分かった。皆まで言うな」

男「そんなことより、昨日の話は忘れてないだろうなあ」

友「昨日の話?」

男「少女さんには普通の浮遊霊では考えられないほどの力があるって言ってただろ。その話が気になっているんだけど」

友「ああ、そのことか」

男「もうすぐHRが始まるし、昼休みになったら聞かせてくれないかな」

友「分かった」

男「それじゃあ、またあとでな」

73 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/27(火) 00:27:05 ID:dF1v/fBY
席に着くとチャイムが鳴り、HRが始まった。
教室に担任の教師が入ってきて、出欠を確認する。
そしてそれが終わると、HRに続いて1限目の数学の授業が始まった。


教師「――であるからして、角度と斜辺の長さが分かっていればsinθを活用することで、三角形の高さを計算することが出来るのです。それでは、各自で問題を解いてみましょう」

少女「三角関数を活用した面積の計算ですね」

男「ちょっ、少女さん……顔が近いって」ヒソヒソ

少女「はわわ、ごめんなさい//」


少女さんはそう言いうと慌てて身体を離し、今度は机の横から教科書とノートを覗き込んできた。
俺はそんな少女さんのことが気になりつつ、問題を解いていく。

74 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/27(火) 00:30:39 ID:s99yjGbI
少女「あっ! その問題、答えを間違えていますよ」

男「ああ、ほんとだ。ありがとう」

少女「どういたしまして♪」

男「この問題も難しいな」

少女「それは余弦定理を使えば解けますよ!」

男「なるほど、余弦定理か」

教師「男っ! そんなに喋りたいなら、前に出て模範解答と解説を頼もうか」

男「……ええっ?! マジッすか!」

少女「ふふっ、授業中に私語なんてしているからって……わわっ?!」フワフワ


席を立って教壇に向かうと、少女さんも引っ張られて一緒に付いてきた。
どうやら、解説を手伝ってくれる――訳ではなさそうだ。
俺は小さくため息をつき、少女さんと双妹の視線を感じながらチョークを手に取った。

75 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/27(火) 00:40:17 ID:6r8XeXyc
今日はここまでにします。

>>73訂正
そう言いうと

そう言うと

76 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/27(火) 19:55:51 ID:6r8XeXyc
〜学校・お昼休み〜
お昼休みになり、俺はお弁当を食べて友の席に行った。
そして隣の席の椅子を拝借し、少女さんの話の続きを促した。


友「それじゃあ、少女さんがどれほど強力な力を持っているのか。まずはその話から始めよう」

少女「それなんですけど、私ってそんなにすごい力を持っているんですか?」

友「そうだよ。男が少女さんの姿を見て、普通に会話までしていることは異常なことなんだ」

男「異常って、どういう風に……」

友「人はなぜ、物を見たり音を聞いたりすることが出来ると思う?」

男「それは目や耳があるからだろ」

友「目や耳があるだけでは、見たり聞いたりすることは出来ない。たとえば物が見えるのは、目の網膜で受容した情報が視神経に伝わって、最終的に大脳の視覚中枢が情報を受け取っているからだ」

男「まあ、厳密に言えばそうだな」

友「これが物を見るために必要な要素のひとつなんだ」

77 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/27(火) 19:58:12 ID:dF1v/fBY
友「では、物を見るために目以外で必要なものは?」

男「目以外で?」

少女「光、ですね」

友「そうだね。光がないと目に情報が入って来ない」

男「そんなの当たり前だろ」

友「当たり前かもしれないけど、それが物が見えるということなんだ。だけど、実はもう一つ必要なものがある」

男「まだ必要なものがあるのか?!」

友「それは見る対象となる物体だ。それがなければ、人は物を見ることが出来ない。これら三つの要素が揃うことで、人はようやく物を見ることが出来るようになるんだ」

78 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/27(火) 20:02:29 ID:dF1v/fBY
男「三つの要素か」

友「それじゃあ、少女さんはこの三つの要素が揃っていると思うか?」

少女「……私には身体がないから揃っていないです」

友「そうだね。幽霊には生身の体がないから、絶対にその姿を見ることが出来ないんだ」

男「それはおかしくないか? 生身の体がなくても、俺や友は少女さんの姿を見ることが出来ているだろ」

友「そのことなんだけど、幽霊は幽体と霊体、魂で構成されていて、魂が霊波動を発しているんだ。俺みたいに霊感が強いと幽体や霊波動を感じ取ることが出来るから、幽霊の姿を見ることが出来るって訳だ」

男「霊波動を感じ取るとか思いっきりオカルトだな」

友「俺はスピリチュアリズムを信仰している訳じゃないから、オカルトだと批判されても異論はない。だけど霊的解釈の一部は正しいみたいだし、男や少女さんにとって分かりやすい部分もあると思うんだ。超ひも理論とかユニバーサル余剰次元モデルだとか言われても困るだろ」

少女「そ……そうですね。心霊番組や小説で馴染みのある言葉を使ってくれたほうが、私も分かりやすいです」

男「まあ、そうかもな」

友「じゃあ説明を続けるけど、問題は霊感がない男の場合なんだ」

79 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/27(火) 20:07:06 ID:6EFZLJ12
友「少女さんには生身の体がないから、三つの要素が揃っていないだろ。そして男には霊感がないから、幽体や霊波動を感じ取ることが出来ない。それなのに、少女さんの姿を見ることが出来る。それは少女さんが男に自分の姿を見せているからなんだ」

男「もう少し分かりやすく言ってくれよ」

友「つまり少女さんが男に取り憑いて、大脳の視覚中枢に直接情報を与えているんだ」

男「えっ、ええぇぇっ! そんなことが出来るのか?!」

少女「……」

友「論理的に考えたら、それ以外に考えられないだろ」

男「確かに……」

友「少女さんと会話が出来るのも、それと同じ理屈だ。空気の振動を声として感じ取っているのではなくて、大脳に直接情報を与えて操っているからなんだ」

男「それを少女さんがしているのか」

友「信じられないかもしれないけど、そういうことになる。少女さんがどんなに強力な力を持っているのか、もはや説明するまでもないだろ」


視覚情報と聴覚情報の操作。
そんなに強力な力を持ってまでして、少女さんは最期に俺に会いたかったということだろう。
そう思うと、嬉しいような怖いような複雑な気分になった。

80 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/27(火) 20:19:11 ID:6EFZLJ12
少女「私が今さら言うのも変な話ですけど、そんなことをして大丈夫なんですかねえ」

友「現状では大きな問題はないと思う。だけど四十九日を過ぎても同じ事をしていたら、お互いに悪影響が出てくるだろうな」

少女「悪影響って、どんな事が起きるんですか」

友「生身の体を持たない少女さんが俺たちと会話が出来るのは、幽体を介して一部の電磁波や生きている人間の霊波動を意味のある情報として感じ取っているからなんだ。だけど、波には干渉する性質があるだろ。そのせいで幽体が劣化して、霊魂を傷付けてしまうことになるんだ」

少女「それじゃあ、普通に成仏するまでは大丈夫ってことですね」

友「まあ、そういうことになると思う」

男「でも、どうして少女さんはそんなに異常な力を持ってしまったんだろ」

友「その理由はいくつかある」

男「いくつかって?」

友「まず、今年がうるう年だということかな。星と暦の巡り合わせが影響して、霊的な力が強くなりやすいんだ」

少女「今月は29日まであるんだっけ」

友「そうそう。ちなみに西暦2000年のときは、いろいろ重なってかなりヤバかったらしいぜ」

男「……ふうん」

81 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/28(水) 21:06:41 ID:u3p/KNoU
少女「ところで、うるう年以外の理由は何なんですか?」

友「詳しいことは霊視をしてみないと分からないんだけど、何と言うか……少女さんの死因も関係しているみたいなんだ」


友は少し言葉を濁し、俺に目配せをしてきた。
さすが霊感が強いだけあって、死んだ原因も分かっているのだろう。


少女「私の死因が分かるんですか?!」

友「それはまあ、目に見えて痕跡が残っているからね。恐らく、死因はそれだと思う」

男「俺も気が付いていたんだけど、つらいことを思い出すんじゃないかと思うと、なかなか言い出せなくて――」

少女「そうだったんですね」

友「どうする? やっぱり言うのをやめようか」

少女「いえ、大丈夫です。私はそれでも知りたいです。知らないといけない気がするんです」

男「それじゃあ、悪いけど頼む。俺よりも友のほうが詳しく知っているだろうし――」

友「そうだな。分かった」

82 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/28(水) 21:13:43 ID:hU9QwySA
友「少女さんの首を見れば分かるだろうけど、少女さんは自殺霊なんだ」

少女「自殺……ですか」

友「何と言うか、首を吊って自殺したんだと思う」

男「少女さん、大丈夫?」

少女「はい。でも、あまり実感が湧かないです」

男「そっか」

友「それで自殺霊についてだけど、大きく分けて二種類いるんだ。一つは絶望や怨嗟を抱えながら自殺をした霊で、もう一つは欲望を叶えるために自殺をした霊だ」

少女「私はどっちの自殺霊なんですか」

友「それがその、少女さんの場合は何かがおかしいんだ」

83 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/28(水) 21:33:32 ID:43PIBbLQ
少女「何がおかしいんですか?」

友「少女さんの行動が自殺霊らしくないんだ。男に憑依して呪詛を吐き散らしている訳ではないし、心中のように望んで自殺をしたようにも見えない。しかも自殺霊が未練を抱えているなんて、俺はあまり聞いたことがない」

男「言われてみれば、それは違和感があるな」


未練とは、志半ばで死んでしまった人が抱く心残りのことだ。
それは怨恨や怨嗟といったネガティブなものではなくて、前向きでポジティブな気持ちの表れだというイメージがある。
生きることが嫌になって自殺をした人が、ポジティブな願いを抱くものだろうか。


少女「そうなると、私は自殺をしていないことになりますよね」

友「だけど少女さんには自殺痕が残されているから、他殺だとは考えにくいんだ」

男「まるでミステリだな」

少女「家に帰りたくない理由が分かれば、謎が一気に解明するんですかねえ」

男「やっぱり、それが最大のネックだよな」

84 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/28(水) 21:58:34 ID:u3p/KNoU
友「一つ聞きたいんだけど、どうして家に帰りたくないの? 日本独自の死生観で考えるなら、四十九日を迎えていない浮遊霊は自宅で過ごしているはずなんだけど」

少女「何と言うか、家に帰ると良くないことが起きるような気がするんです」

友「良くないこと?」

少女「……はい」

男「ちなみに、家に帰れないせいで俺に対する未練も解消できないんだ」

友「もしかしたら、少女さんは事故死霊の特徴を持っているのかもしれない」

男「それって、どういうことだよ。少女さんは自殺霊じゃないのか?」

友「少女さんの死因は首吊り自殺で間違いないけど、それだけではないような気がするんだ」

男「自殺だけど、事故死でもある――か。一体、何があったんだろ」

友「それはまだはっきりとしたことは言えない。だけど少女さんが家に帰れない原因は、それが関係しているはずだ」

85 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/02/28(水) 22:46:34 ID:u3p/KNoU
男「結局、肝心なことは何も分からないのか」

友「そうは言うけど、昨日の今日で解決しろっていうほうが無茶なんだ。とりあえず、今は家に帰りたくない理由を解明することから始めよう。まずは、少女さんの未練を解消させてあげたいだろ?」

男「そうだな。それは俺たちも話していたところだ」

少女「友くんは私を無理やり家に連れて帰る、なんてことは言わないですよね」

友「帰りたくない理由が分からない以上、そんな危険なことはしないよ」

少女「良かった……」

男「それじゃあ、そろそろお昼休みが終わる時間だし、俺たちは席に戻るから」

友「もうそんな時間か。また何か分かったら話をしよう」

男「ああ、そうしてくれると助かるよ」

少女「友くん、今日はありがとう。またよろしくね」ペコリ

86 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/01(木) 21:01:48 ID:wRUwK4Nw
〜自宅・部屋〜
部活が終わって自宅に帰ってきたときには、午後6時を過ぎていた。
俺の隣には今日も少女さんが立っている。
何だか付き合っているみたいだなと思いつつ、俺は遠慮がちに彼女を招き入れた。


少女「今日は楽しかった〜♪」

男「俺は少し疲れたよ。部活、今日はハードすぎ……」

少女「それじゃあ、私がマッサージをしてあげましょうか//」

男「えっ?! でも、少女さんは触れないだろ」

少女「そういえば、そうでしたね」

男「ま……まあ、触ることが出来たとしても遠慮するけど」

少女「どうしてですか?」

男「だって、少女さんにマッサージをしてもらったら緊張しそうだし」

少女「緊張するって、ただのマッサージですよ。もしかして、変なことを考えてる?」

男「いやいや、そんなことないって!」

少女「ふうん、それなら良いけど――。せっかく私のテクニックを披露するチャンスだったのに、すごく残念です」ショボン

87 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/01(木) 21:04:45 ID:8zm9Y3E6
男「それはそうと、少女さんが家に帰りたくないのはどうしてなんだろうな」

少女「わわっ、急にまじめな話にシフトしないでくださいよ」

男「ごめんごめん」

少女「家に帰りたくない理由ですけど、やっぱりよく分かりません」

男「俺、少し考えたんだけど、小学生や中学生のプチ家出が問題視されているだろ。ああいうのって、何が原因なんだろ」

少女「家庭環境が良くないとか、もっと自分を見て欲しいとか、そういった理由がほとんどじゃないかなあ」

男「少女さんは親と仲が悪かったとか、そういうのはないの?」

少女「別に普通だったと思いますよ」

男「普通?」

少女「バレンタインデーにお父さんにネクタイを渡すつもりだったし、それくらいには仲が良かったと思う」

男「そっか、そうなんだ」

88 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/01(木) 21:07:14 ID:7/dzlUtA
男「それじゃあ、今まで家出をしたことはないの?」

少女「したことがないです」

男「まあ、少女さんってそんなことをしそうには見えないもんな」


家庭環境に問題はないし、今まで家出をしたこともない。
それなのに、なぜ家に帰りたくないと言っているのだろうか。

いや、待てよ。
少女さんは『きっと良くないことが起きる』と言っていた。
そして少女さんの死因は、自殺だけど事故死でもある。
事故に遭ってしまったせいで、家に帰りたくないと思うようになってしまったのではないだろうか。


男「俺、ひらめいたかもしれない!」

少女「ひらめいたって、何をですか?」

男「少女さんが家に帰りたくない理由だよ」

少女「ぜひ聞かせてください!」

89 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/01(木) 21:17:47 ID:vkLsUefY
男「それじゃあ、話すよ。少女さんは自分の家で、とある事故に遭ってしまったんだ」

少女「とある事故?」

男「ああ。その事故で少女さんは意識を失い、病院に運ばれて入院することになった。そして入院することになった少女さんは、医師から衝撃の事実を聞かされたんだ」

少女「それって、何なんですか?」

男「それが何かは分からないけど、それを聞いて絶望した少女さんは自殺をしてしまった。つまり、そういうことだったんだ」

少女「はあ……それで結局、どういうことですか」

男「少女さんは自殺を考えるほどの事故に遭ってしまったから、良くないことが起きると思って家に帰りたくないんだ」

少女「話は面白いですけど、私は違うと思います。良くないことが起きるっていうのは、そういうことじゃないような気がするんです」

90 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/01(木) 21:28:25 ID:7/dzlUtA
男「じゃあ、どういうことかな」

少女「それは分かりません。それに意識不明で救急搬送されてきた患者に、自殺を選択させるかもしれない内容の話を告知するとは思えません」

男「でも、病院で自殺をしたんだろ」

少女「そんなのあり得ないです。出来るわけがないじゃないですか」

男「少女さん、自分で言ったことを覚えてる?」

少女「何のことですか」

男「昨日、病院のベッドで横たわる自分の姿を見下ろしていたと言っていたじゃないか。もし家で自殺をしていたのなら、病院よりも警察のお世話になっているはずだろ」

少女「それはそうかもしれないけど、何だか腑に落ちないです。病院で首吊り自殺をしたなら、ベッドで横たわる姿を見下ろすことは出来ないと思います」

91 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/01(木) 21:37:40 ID:8zm9Y3E6
そう言われ、俺は眉を寄せた。
確かに病院で首吊り自殺をすると、ベッドの上で横たわる姿を見下ろすことが出来ない。
しかし、家で自殺をした場合も警察のお世話になるので同じことだ。

少女さんの記憶と、首に残された自殺の痕。
そして、家に帰りたくない理由。
どんなに考えても、これらが一つに繋がらない。

そういえば記憶がすごく曖昧になっていると言っていたし、まだ足りない情報があるのだろう。
もしそうだとするならば、現段階ではこれ以上考えることは難しそうだ。

92 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/01(木) 21:48:48 ID:wRUwK4Nw
男「まだまだ、分からないことが多いな。これ以上考えても意味がなさそうだし、そろそろ着替えようと思うんだけど」

少女「そうですね。それでは、私は後ろを向きますね//」


少女さんはそう言うと、後ろを向いた。
それはつまり、少女さんが俺の視覚中枢を操作して、後ろを向いているという姿を俺に見せているということになる。

あれっ?
そうなると昨日お風呂に入ったとき、少女さんが裸だったのは俺になら見せてもいいと思っていたからなのか?


少女「もう着替えましたか」

男「いや、まだ着替えてない」


俺はそう言いつつ、少女さんのほうに振り返った。
すると、少女さんの服装が制服姿から洋服姿に変わっていた。
しかもそれに合わせて、髪形がアレンジされている。
少しでも可愛く見せようと、俺のために頑張ってくれているのだ。

だけど、彼女はすでに死んでいる。
気持ちはうれしいけれど、それに応えられるはずがない。
そう、応えられるはずがないのだ――。

93 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/05(月) 21:07:11 ID:WscPhLRE
(2月17日)wed
〜学校・お昼休み〜
友「なあ、男。少女さんのことで試したいことがあるんだけど」

男「試したいこと?」


お昼休みになり、お弁当を食べ終えると友が話しかけてきた。
試したいこととは、一体どんなことだろう。


友「心霊催眠っていう交霊術を使って、少女さんの記憶を呼び覚ましてみようと思う。普通は気持ちの整理が出来るようになった段階で思い出していくものなんだけど、少女さんの場合は特殊な状況だから必要なことだと思うんだ」

男「催眠術か……。それではっきりと思い出すなら、試してみる価値はありそうだな」

少女「でも、それで何を調べるんですか?」

友「少女さんの死因は首吊り自殺で確定だけど、事故死の要素も孕んでいるだろ。だからどんな状況で自殺に至ったのか、その経緯を知りたいんだ」

94 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/05(月) 21:23:17 ID:WscPhLRE
少女「なるほど。自殺の動機を調べるんですね」

友「それも気になるけど、今提案しているのは現場検証に近い感じかな」

少女「現場検証?」

友「いつどこで、どのように死んだのか。それを思い出すことで、自分を見詰めることが出来るようになるはずなんだ」

少女「自分を見詰めることが出来るようになれば、いろんなことが分かるようになりますよね。ぜひお願いします!」

友「それじゃあ、準備があるから土曜日に俺の家でってことで良いかな」

男「悪いけど、土曜日は予定が入ってて――」

友「予定?」

男「俺の親父が海外出張に行くんだけど、家族で見送りをすることになっているんだ。だから日曜日でも良いかな」

友「おう。そういうことなら、日曜日に準備をしておくから」

男「ああ、分かった」

95 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/05(月) 21:26:46 ID:WscPhLRE
少女「日曜日が楽しみだね。私が曖昧になっている記憶を思い出せば、男くんの推理が正しいかどうかも分かるようになりますよ」

男「俺の推理?」

少女「ほらっ! 私が家で事故に遭って、そのことがきっかけで病院で自殺をしたと言ってたじゃないですか」

男「ああ、あのことか。だって、それ以外に考えられないだろ」

友「あのさあ、病院で首吊り自殺をするとか、普通に無理だと思うんだけど」

少女「ですよねえ。私もそう思います」

男「そうは言うけど、家で自殺をしたら病院で気が付くって状況にならないだろ。警察沙汰になるんだから」

少女「でも、気が付くと病院にいましたし――」

友「ただ単に家族が救急車を呼んで、病院に運ばれて死亡したってことじゃないのか? まあ、どこで自殺をしたのか、少女さんの記憶を呼び覚ませばすぐに分かることだけどな」

男「言われてみれば、そう考えるのが普通かもな」

友「事故にこだわるから、変なことになるんだ」

96 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/05(月) 21:29:33 ID:WXE08Gjc
少女「それじゃあ、自殺の経緯は友くんが解明してくれるとして、自殺の動機は何なんでしょうね」

男「それも催眠術で同時に分かるんじゃないのか?」

少女「それもそっか」

男「少なくとも、いじめで悩んでいたってことはなさそうだけどな」


少女さんが話してくれた、生きていた頃の記憶。
それによると、少女さんは友達と一緒にバレンタインチョコを買いに行っていたらしい。
もしいじめられていたならば、そんな気持ちの余裕はなかったはずだ。


少女「でも、つらいことはあったような気がします」

男「つらいこと?」

少女「はい。でもクラスのみんなが私を励ましてくれて、すごくうれしかったことを覚えています」

97 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/05(月) 21:30:49 ID:VmdtOPbs
男「つらいことって何があったの」

少女「何がって……あれっ? うまく思い出せないです」

男「死んだときだけじゃなくて、つらい記憶も曖昧になっているのか」

少女「そう……みたいですね」

友「少女さんって、どこに行ってたの?」

少女「学校ですか? それなら、北倉高校ですけど」

友「クラスは?」

少女「看護科の1年A組です」

友「看護科って女子しかいないんだよなあ」

少女「そうですよ」

98 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/05(月) 21:34:49 ID:hrHg2ZeQ
友「なあ、男。ちょっと双妹ちゃんに聞いてみようか」

男「聞いてみるって、何をだよ。双妹は少女さんと面識がないんだぞ」

友「だけど、看護科に友達がいるかもしれないだろ。そうすれば、何か分かるかもしれないじゃないか」

男「そうかもしれないけど、どうやって説明するんだよ」

友「それは任せた!」

男「……仕方ないなあ」


俺は小さくため息を吐き、少女さんと双妹の席に向かった。
どうやら、双妹は妹友さんとファッション誌を読みながらだべっているようだ。
内容的に説明しづらいけれど、やるしかない。

99 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/06(火) 20:33:51 ID:lR0akWQQ
男「双妹、少し聞きたいことがあるんだけどいいかな」

双妹「聞きたいこと?」

男「北倉高校の看護科の1年A組なんだけど、そこに友達っているか」

双妹「いや、いないけど。それがどうかしたの?」

男「実は少女さんのことで知りたいことがあって」

双妹「……えっ、まだ諦めていなかったんだ」

妹友「何なに? もしかして、男くんに好きな人がいるの?!」


妹友さんが好奇の眼差しを向けてきた。
しかも、少女さんは期待で目を輝かせている。
こういう場合、どうやってやり過ごせば良いのだろう。

100 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/06(火) 20:48:03 ID:lR0akWQQ
男「それはその、何と言うか――」アセアセ

双妹「えっとね、少女さんは男が中学生のときに告白して断られた女の子なの」


どのように説明すればいいのか困っていると、双妹がストレートに説明してくれた。
俺は「そうそう」と頷き、妹友さんに目を向ける。


妹友「あっ、ああ。もしかして、未練たらたらってやつ?」

男「そうじゃなくて、日曜日に北倉高校に行ったんだけど、そのときに良くないうわさを聞いたから気になって――」

少女「ええっ、良くないうわさですか?!」


話を聞き出すための方便なのに、少女さんが驚いてどうするんだよ。
でも、そんな天然っぽい反応がちょっと可愛い。


双妹「ふうん、そうなんだ。それで、妹友ちゃんは聞いたことある?」

妹友「それかどうかは分からないけど、聞いたことがあるわよ」

男「ほんとに?!」

妹友「うん」

101 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/06(火) 20:56:33 ID:lR0akWQQ
双妹「ねえねえ、どんな話なの?」

妹友「私の友達が普通科に通ってるんだけどね、冬休みに自殺をした男子生徒と同じクラスなの。それで、警察やマスコミの人に聞き込みをされたんだって」

双妹「あれって、いじめ自殺なんでしょ」

妹友「それがそうじゃなくて、本当は告白をして断られたことがショックで自殺したらしいの」

双妹「うわあ、何それ〜」

男「そんなの有り得ないだろ!」

妹友「それでね、その相手の女の子っていうのが看護科の1年生なの」

男「まさか、それが少女さんなのか?!」

妹友「さあ、そこまでは……。それでその子、今は学校に来ていないんだって」

双妹「そうなんだ」

少女「……」

102 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/06(火) 21:02:47 ID:lR0akWQQ
双妹「その看護科の女の子、すごく可哀想」

妹友「そうだよね! その男子が自殺したのは自分のせいだって、思い込んでいるんだろうね」

双妹「彼女は命を守るための勉強をしているのに、こんなの許せないよ……。一生消えない心の傷を背負い続けることになるんだよ!」

男「そうだよな――」


男子生徒は自殺をすることで、女子生徒の未来を奪ったのだ。
それはきっと少女さんのことで、看護師を目指していた彼女にとってその苦しみは計り知れないものだったに違いない。
男子生徒がしたことはあまりにも身勝手で、とても許されるようなことではないと思う。


妹友「その女の子は今も落ち込んでいるのかもしれないけど、告白を断ったのは正解だよね」

双妹「そうそう! もし付き合っていたら、絶対に酷い目に遭わされていたと思う。自殺したのはそいつの勝手だし、さっさと忘れちゃえばいいんだよ」

妹友「ほんと、それ! サイッテーなオトコだよね!!」

103 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/06(火) 21:07:11 ID:BRf3qC0E
少女「……男くん、席に戻りませんか」


そう言われて少女さんを見ると、彼女の表情が曇っていた。
さっきまでの快活な笑顔は微塵も感じられない。
もしかすると、今の会話を聞いて曖昧になっていた記憶が戻りつつあるのかもしれない。


男「二人とも、ありがとう」

妹友「うん」

男「じゃあ、俺は席に戻るから」

双妹「……」

104 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/06(火) 21:19:09 ID:BRf3qC0E
友「どうだった?」

男「かなり胸くそ悪い話だった。恐らく、それが動機に繋がっているのだと思う」

友「どんな話だったんだよ」


そう言われ、俺は少女さんを見た。
泣いてはいないものの、とてもつらそうな表情をしている。
今はそっとしておいたほうがいいだろう。


男「悪いけど、今は勘弁してくれ」

友「そっか。何か事情があるみたいだし、日曜日までに話してくれたら良いから。今は焦らずに慎重にいこう」

男「そうだな」

少女「……ありがとう」

105 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/07(水) 23:02:23 ID:UhLvx9Ws
〜自宅・部屋〜
学校が終わり、家に帰ってきた。
昨日はずっと楽しそうだった少女さんも、今日はお昼休みからずっと気落ちしたままだ。
きっと、自殺した男子生徒のことを考えているのだろう。
そう思っていると、少女さんが小さくため息を漏らした。


少女「……はあ」

男「少し落ち着いた?」

少女「はい。お昼休みに話していたことをずっと考えていたんですけど、ようやく気持ちの整理が出来ました」

男「そうなんだ」

少女「もしよければ、聞いてくれませんか」


少女さんは儚げに微笑んで、俺を見詰めてきた。
そんな彼女に、俺は無言でうなずいた。

106 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/07(水) 23:04:16 ID:AzWCFTOo
少女「私は二学期の終業式の日に、少年くんに告白されました。もちろん断ったんですけど、そのあとに彼が自殺をしたんです」

少女「私がそのことを知ったのは三学期になってからでした。そのときは彼の名前を知らなかったので『普通科は大変だなあ』くらいにしか考えていなかったんですけど、次の日、生徒指導室に呼び出しされたんです」

少女「そこで待っていたのは警察の人で、私は彼との関係について事情聴取をされました。そして、遺書の内容を聞かされました。少年くんが自殺をしたのは、私のせいだったんです」

男「それでどうなったの」

少女「私は告白を断っただけですし、事件性がないということで厳重注意をされただけで済みました。それから彼の家族と面談することになって、友香ちゃんやクラスのみんながたくさん励ましてくれました」


少女「すごくうれしかった――」


少女さんが苦しそうに気持ちを吐き出していく。
そしてふいに見せた表情に、俺ははっとさせられた。

107 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/07(水) 23:32:28 ID:ddlQ40BE
男「俺、思うんだけど、少女さんは何も悪くないと思うんだ」

少女「……うん、分かってる。それでも、私が告白を断ったことが原因であることに変わりはないんです」


これが少女さんの自殺の動機なのだろうか。
そうだとすれば、あまりにもつらすぎる。
自分を追い詰めて追い詰めて、ずっと苦しんできたのだろう。


少女「だからこそ、私は前に進み続けるつもりです」

男「えっ?」

少女「看護師になれば楽しいことばかりではなくて、終末期の患者さんを看取ることで人の死と向き合い、つらい思いもたくさんすることになると思います」

少女「だからといって、私はそこに留まるわけにはいかないんです。より多くの患者さんをケアするために、その経験を繋げていきたいと思うから――」

少女「少年くんのこともそれと同じだと思うんです」

男「……」

108 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/07(水) 23:34:42 ID:xPJX3NhA
少女「男くん……聞いてくれてありがとう」


少女さんはそう言うと、寂しそうに笑った。
だけど、どういうことだ。
今の話を聞く限り、少女さんは男子生徒の自殺を乗り越えている。
しかもそれだけではなくて、将来の夢を真剣に考えていたことも分かった。


つまり、少女さんには自殺をする動機がないのだ――。


それならば、なぜ少女さんは自殺をしたのだろうか。
もしかすると、男子生徒の自殺以上につらい出来事があったのかもしれない。
その記憶を思い出すことは、少女さんにとって幸せなことなのだろうか。


少女「……!!」


俺は左手を伸ばし、隣に座っている少女さんの右手に触れた。
しかし実際には右手はなく、お互いの手が触れることなくすり抜けてしまった。
それでも気持ちが伝わったのか、少女さんははにかんだ笑顔を見せてくれた。

109 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/08(木) 11:53:47 ID:noqb6Xfo
動画に感想書くだけで10万!社畜なんかやってられねー!
goo.gl/3dtVP

110 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/09(金) 20:28:54 ID:.A4nN98k
(2月12日)fri
〜放課後・少女さん〜
友香「ねえねえ。駅前にスイーツのお店がオープンしたんだけど、一緒に行ってみない?」


放課後になってすぐ、友香ちゃんが話しかけてきた。
私は気分が乗らず、上の空で返事を返す。


少女「……そうだね」

友香「豆乳を使ったクリームの風味が良くて、しかもヘルシーなんだよ!」

少女「……そうだね」

友香「私はシュークリームを注文しようかと思っているんだけど、少女は何を頼む?」

少女「……そうだね」

友香「ううん、残念。そのお店にはソーダがないんだよね〜」

少女「……」

111 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/09(金) 20:57:38 ID:.A4nN98k
友香「もしかして、昨日からずっとあのことを考えているの?」

少女「……うん」


バレンタインデーのチョコを買いに行ったとき、男くんが見知らぬ女子と一緒にチョコを選んでいた。
二人はお互いに名前で呼び合っていて、とても仲睦まじそうにしていた。
そのことが、ずっと頭から離れてくれない。

中学校を卒業して、もうすぐ1年。
男くんに彼女がいないと考えるほうが、どうかしているんだ……。


友香「私はあの女子、絶対に男くんの妹だと思うな」

少女「どうしてそう思うの?」

友香「だって、雰囲気がすごく似ていたし、彼氏と一緒にバレンタインチョコを買いに行くっておかしいでしょ」

少女「そうなのかなあ」

友香「それにあの二人のこと、何となく知っているような気がするんだよね」

少女「友香ちゃん……その話はもういいよ。ありがとう」

112 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/09(金) 21:05:28 ID:S6zRzAWY
友香「それじゃあさあ、どうして男くんのことが好きなの?」

少女「それはなんと言えば良いのか分からないけど、男くんの頑張る姿が私の心に訴えかけてくるの。最初はへたれですごく弱かったんだけど、今ではうちの学校で試合をするくらい強くなっているんだよ//」

少女「私は男くんに告白されてから、ずっとそれを見てきたの……」

友香「そっか。一度は告白を断った相手だけど、それがきっかけで気になるようになっちゃったんだ」

少女「う……うん//」

友香「だったら、少女も勇気を出さなくちゃ!!」

少女「勇気?」

友香「好きな人に告白するっていうのは、本当に勇気がいることなの。断られたらどうしようって、もうそれだけで世界が終わってしまうような気持ちになるくらいに――」

少女「……うん」

友香「不安な気持ちは分かるけど、男くんも同じ気持ちだったはずだよ。それに、少女は前に進み続けるんでしょ?」

113 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/09(金) 21:14:44 ID:GT2R2d5U
そうだよね。
私は前に進み続けるんだ!

もしかしたら、友香ちゃんが言うようにただの兄妹かもしれない。
すでに付き合っていて、あっけなく振られてしまうかもしれない。
だけど、それは告白してみないと分からない。


少女「友香ちゃん。私、決めたよ!」

友香「ほほう、決めましたか〜」

少女「うん。14日の日曜日に、男くんにチョコを渡して告白するっ!」


14日の日曜日。
その日は私の学校で柔道部の交流試合がある。
その試合が終わったら、男くんに気持ちを伝えるんだ!


友香「ようし、それじゃあ作戦会議よ!」

少女「駅前のスイーツ店だよね。行くいくっ♪」

114 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/10(土) 10:51:59 ID:B6B4Z/Vs
私たちは学校を出て、スイーツ店へと向かった。
その道すがら、私は何となく落ち着かない気持ちになってきた。


少女「ねえ、友香ちゃん」

友香「どうしたの?」

少女「何だか、誰かに見られているような気がしない?」


そう言って、きょろきょろと周囲を見渡す。
だけど、不審な人影は見当たらない。


友香「少女、走るわよ」

少女「う、うんっ!」

115 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/10(土) 11:17:58 ID:B6B4Z/Vs
友香ちゃんの合図と同時、私たちは人ごみに紛れながら街中を駆け出した。
また、嫌なことをされるのかなあ……。

少年くんのことで私を一番傷付けてきたのは、週刊誌の心ない記事だった。
私が少年くんを自殺に追い込んだかのように書き、SNSやデートDVについて問題提起をしていたのだ。
お父さんがクレームを出していたけれど、出版社からの謝罪は一度もない。
こんな理不尽な仕打ちをしてくるのが大人なのだとしたら、すごく悲しい。


友香「……はあはあ、ここまで来れば大丈夫かも」

少女「はあっ……はあはあ、うんっ。気配が……消えたみたい」

友香「マスコミ、かなあ」

少女「分からない。でも、だとしたらどうして今頃――」ハアハア

116 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/10(土) 11:22:48 ID:B6B4Z/Vs
友香「少年くんの法要、昨日が四十九日だったんでしょ。だから思い出したんじゃないの?」

少女「私も遺族の人に呼ばれて参列したんだけど、マスコミの人は誰もいなかったわよ」

友香「だったら、狙いは少女の写真かもね」

少女「私の写真?!」

友香「少年くんを自殺に追い込んだ少女が、バレンタインデーをどのように過ごすのか。そんな記事を書きたいのかも――」

少女「まさか……」


いくら何でも、私のプライベートに興味を示す出版社があるとは思えない。
だけどあそこならば、また心ない記事を書いてくるかもしれない。
そうなれば、男くんに迷惑を掛けてしまう。

117 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/10(土) 11:26:46 ID:7cWTB4Z6
友香「少女、私たちでマスコミを出し抜くわよ!」

少女「……えっ、ええっ?!」

友香「出版社が欲しいのは、少女のスクープ写真でしょ。それさえあれば、いくらでも印象操作が出来るんだから」

少女「……うん」

友香「だったら、隠れているパパラッチに写真を撮られなければいいのよ」

少女「それはそうなんだけど、うまく行くかなあ」

友香「私が付いていれば、全部うまく行くって! だから、少女は男くんのことだけを考えていればいいのよ♪」

少女「はうぅっ//」


何だか頼もしい。
友香ちゃんがいれば、何でも出来る気がする。
彼女が友達になってくれて、本当によかった。

118 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/10(土) 11:46:40 ID:K2vlVPxw
(2月18日)thu
〜男くんの部屋・少女さん〜
少女「う……ううん…………」


駅前のスイーツ店に入ったところで、目が覚めた。
どうやら、生きていた頃の記憶を夢で見ていたようだ。
そしてそれが、心に重くのしかかってきた。

14日に告白すると決めたのに、私はまだ気持ちを伝えていない。
男くんと一緒にいた人が妹だと分かったのに、私はまだ気持ちを伝えていない。
中学生のときに両思いだったことを確認しただけだ。

男くんに今の気持ちを伝えないと!
そして、男くんから返事を貰わないと――。

119 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/10(土) 11:49:06 ID:B6B4Z/Vs
だけど、言えるわけがない。
だって、私はもう死んでいるんだから。
幽霊になった私が告白しても、男くんと恋愛なんて出来るわけがない。
どんなに頑張っても、もう前に進むことは出来ないんだ。


だからといって、
気持ちを伝えないなんてことはしたくない。


4月1日が私のタイムリミット。
その日までに成仏を出来なければ、きっと友くんに除霊されてしまう。
そしてこの世界から、私の想いを消されてしまう。


そんなの、絶対にいやだから――。

120 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/10(土) 11:52:36 ID:B6B4Z/Vs
双妹「男、朝だよ〜」


双妹さんが今日も男くんを起こしに来た。
男くんと双妹さんは、とても仲がいい。
同じ学校なので一緒に行っているし、夜はリビングや部屋で気兼ねなくおしゃべりをしている。
二人が話をしないのは、学校の教室にいるときくらいだ。

私にもお兄ちゃんがいれば、こんな感じだったのかなあ。
双妹さんのこと、何だかうらやましいな。


男「双妹、おはよう」

双妹「おはよう。早く着替えて下りてきてね」

男「分かってるって」


男くんが眠そうに返事を返すと、双妹さんは部屋を出て行った。
そして、男くんが私に挨拶をしてくれた。
それがうれしくて、私は笑顔で応える。


少女「男くん、おはよう//」

121 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/12(月) 12:50:17 ID:8BsaTsms
面白いがな

122 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/12(月) 20:17:21 ID:xd7i6H86
(2月19日)fri
〜学校・お昼休み〜
週末の金曜日、俺はいつものようにメモアプリで少女さんと雑談を楽しむことにした。
生きていた頃の話をすることで、自殺の原因を推察する手掛かりになるかもしれないからだ。


少女「それでね、文化祭の出し物が喫茶店に決まったんです」

男『それで?』

少女「それで普通、喫茶店っていえばメイド喫茶じゃないですか。だけどメイドは縁起が悪いからって、ナース喫茶に決まったんです」

男『ナース喫茶?』

少女「はい、みんな実習服を着て接客したんですよ。そうしたら普通科と福祉科から男子がいっぱい集まって、すっごく繁盛したんです!」

男『そうなんだ。行ってみたかったかも』

男『そういえば、少女さんは魔法少女みたいに着替えが出来るんだっけ。実習服姿を見てみたいな♪』

少女「えっ、ええぇっ?!」

123 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/12(月) 20:23:15 ID:ytMS2YGI
男『少女さんの可愛いところ、見てみたい』

少女「ええぇっ// 恥ずかしいから、今回だけですよ!」


少女さんは照れながら言うと、思案めいた。
恐らく、実習服を着た自分の姿をイメージしているのだろう。
そして表情が柔らかくなったかと思うと、次の瞬間には実習服姿になっていた。


少女「えへへ、どうですか//」

男「どうって、マジで可愛いし//」


看護科の実習服。
それを着た少女さんは笑顔がすごく魅力的で、男子が集まるのは当然だと思った。
ナース姿の少女さん、マジ天使!


男「というか、脱がないのかよ!」

少女「何を期待していたんですか、何をっ!」プンスカ//

124 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/12(月) 20:25:08 ID:xd7i6H86
友「男、今は大丈夫か〜」


少女さんと雑談を楽しんでいると、友が無粋にも話しかけてきた。
少女さんもナース服のままで、何事かと友を見る。


男「別にいいけど、どうかした?」

友「今日は少女さんの初七日だから、ちょっと様子を見に来たんだ」

少女「あっ、ああ。そういえば、今日なんだ」


少女さんが自殺をしたのは13日だ。
だから、今日が初七日ということになる。


友「それで、三途の川に行ってきた?」

少女「三途の川? いえ、行ってないです」

125 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/12(月) 20:30:35 ID:xd7i6H86
友「初七日なのに三途の川が気にならないってことは、冥土の旅をするつもりがないってことか」

少女「そんなことを言われても、私は男くんから離れることが出来ないし――」

男「やっぱり不味いのか?」

友「必ずしも冥土の旅をしないといけない訳じゃないけど、成仏できないコースをまっしぐらって感じだよな」

少女「ふえぇ、そんなあ……」ショボン

男「あまり少女さんを脅かすなよ」

友「ごめんごめん。三途の川は宗派によって違いがあるし、冥土の旅をする必要がない場合もあるから」

少女「ううっ、分かりました」

友「でも、なるべく早く家に帰ったほうが良いのは確かだろうな」

少女「そうかもしれないけど、家には近付きたくないんですよね……」


少女さんはそう言うと、小さくため息を漏らした。
この数日でいろいろな記憶を思い出したけれど、未だに家に帰りたくない理由は分かっていない。
恐らく自殺をした理由が分かったときに、その理由も分かるのだろう。

126 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/12(月) 20:41:12 ID:xd7i6H86
友「とりあえず、心霊催眠をすれば何かが分かるはずだ」

少女「そうですね」

男「少女さん。またつらい思いをすることになるかもしれないけど、それは大丈夫?」

少女「……はい、私はなぜ自殺をしたのか知りたいです」

男「そっか」

少女「ところで、友くん」

友「何?」

少女「私を見て、何か気付きませんか?」フリフリ


少女さんはしなを作り、アイドルのようにポーズを取った。
ナース姿がとても可愛くて、かなりあざとい。

127 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/12(月) 20:45:09 ID:ytMS2YGI
友「……」

少女「……//」ドキドキ

友「それじゃあ、日曜日に待ってるから」

少女「……えっ?!」

男「お、おうっ!」


友は少女さんを一瞥し、何事もなかったかのように席に戻っていった。
一言くらい感想を言ってあげればいいのに、釣れないやつだ。


少女「はあっ、スルーされたし」ショボン

男「友のことなんか放っておいて、俺たちだけで話をしよっか」

少女「そうですね」

128 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/12(月) 20:52:29 ID:ytMS2YGI
今日はここまでにします
レスありがとうございました

129 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/13(火) 20:25:36 ID:tnfh/hjQ
〜市街地・料亭〜
学校が終わり、午後7時過ぎ。
明日から親父が海外出張で家を空けるということで、今夜は家族四人で外食をすることになった。
寒ブリや加納ガニ、地元の野菜を使った伝統料理。
冬の味覚をこれでもかと堪能することが出来る大名コースだ。


男「やばいな。この刺身、美味すぎるし!」

双妹「ねえ、男。煮物もすごく美味しいよ♪」

少女「……」

男「ちょっ、親父! なんで、カニばっかり食ってるんだよ」

親父「早く食べないとなくなるぞ」

男「双妹、ぶりしゃぶは後回しだ! カニを攻めるぞっ」

双妹「ええぇっ!! さっき食べてたお刺身って、ぶりしゃぶ?!」

母親「じゃあ、わたしがぶりしゃぶを頂こうかしら」

少女「……いいなあ」ショボン

130 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/13(火) 20:28:00 ID:tnfh/hjQ
双妹「ごちそうさまでした」

男「ふう、食った食った〜」

双妹「ねえ、お父さん。ゴールデンウイークには帰って来れそう?」

親父「そうだな。早めに仕事を片付けて、4月の半ば頃には帰って来られるように頑張るよ」

双妹「そうなんだ! お仕事、頑張ってね//」

親父「男や双妹は、将来やりたい仕事とか決まっているのか?」

男「いや、まだ……」

双妹「私は保育士になりたいと思ってる」

131 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/13(火) 21:04:07 ID:DB8LlpWE
親父「仕事っていうのはな、自分のためだけじゃなくて人々の生活を支えるためにすることでもあるんだ」

男「人々の生活を支えるため?」

親父「お父さんがしている設計の仕事の場合、書いた図面の通りに機械を作っている人がいて、その機械で仕事をしている労働者がいることになるだろ。そして、完成した製品を販売して購入してくれる人がいるから、また新しい仕事が入ってくるんだ」

男「ああ、そういう話か……」

親父「保育士の仕事も、子供を預かることで母親の就労支援をする時間を作ることが出来るから、子供の発育支援と家庭の生活基盤を支える仕事だと言い換えることも出来ると思う」

双妹「……うん」

親父「将来の夢とか何のために生きているかとか、そういうのは人それぞれだろうけど、人はみんなでみんなを支えて生きている。そのことだけは絶対に忘れてはいけないと思うんだ」

男「分かってる」

双妹「そうだよね」

親父「将来どんなことをしたいのか。男はまだ決まっていないみたいだし、2年生になってからの宿題だな」

男「ちゃんと考えておかないと――」

親父「それじゃあ、そろそろ帰る準備をしようか」

母親「そうね、そうしましょう」

132 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/13(火) 21:13:47 ID:tnfh/hjQ
〜自宅・部屋〜
食事が終わって家に帰ってきたときには、すでに10時を過ぎていた。
親父はまた母さんとどこかに出掛けたので、今は双妹が自分の部屋にいるだけだ。
俺はそう思いつつベッドに座ると、少女さんが隣に座って話しかけてきた。


少女「男くんのお父さんって、立派な人ですね」

男「立派と言えるのかは分からないけど、いつも何かをしていないと気が済まないみたい」

少女「そうなんだ」

男「立派っていえば、少女さんも立派だよね」

少女「私がですか?」

男「看護師になりたいっていう目標があって、それを叶えるために北倉高校の看護科に進学したんだろ」

少女「あ、ああ……そうですね」

133 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/13(火) 21:16:06 ID:JNCaVZN6
男「少女さんはどうして看護師になりたいと思ったの?」

少女「それはその……なんというか、小学生のときに入院したことがあって、そのときに担当してくださった看護師さんがすごく優しくしてくれたんです」

男「憧れってやつ?」

少女「そういうことになるのかなあ。私もその看護師さんみたいに、病気で苦しんでいる人に笑顔を届けたいと思ったんです」

男「少女さんらしいね」

少女「でも、私は将来の夢を諦めちゃったんですよね……」

男「余計なこと……聞いてごめん」

少女「ううん、いいんです」


少女さんは寂しげな表情を浮かべ、声を落とした。
看護師になりたいという叶うことのない将来の夢。
少女さんは三途の川に行っていないみたいだし、このまま渡らずに帰ってくることは出来ないのだろうか。

134 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/13(火) 21:21:19 ID:DB8LlpWE
少女「もう遅いですし、そろそろお風呂に入りませんか?」


少女さんは時計を見ると、ふわりと立ち上がった。
将来の夢の話はあまりしたくなかったのかもしれない。


男「そうだな」

少女「それでは、今日も一緒に入りましょう♪」

男「相変わらず、お風呂場の外で待つっていう選択肢はないの? 今日で初七日だし、行動できる範囲が広くなったとか――」

少女「もしかして、私とお風呂に入るのが嫌なんですか」

男「そ……そんなことはないし、少女さんと一緒なのはうれしいんだけど、そろそろ何と言うか、あれな感じで――」

少女「あれな感じって、何なんですか?」

男「いや、まあ、俺もオトコだし溜まるものがあるというか、いくら幽霊だとはいっても少女さんは女子だからその――」

135 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/13(火) 21:46:46 ID:DB8LlpWE
少女「男子には、何か溜まるものがあるんですか?」

男「えっとその……少女さんに会ってから、俺たちはずっと一緒にいるだろ。だから、アレが溜まってきてもう我慢できないというか――」

少女「よく分からないけど、溜まって良かったですね。私は100円玉貯金をしていたことがあるんですけど、200枚も貯まったときはすっごくうれしかったですよ♪」

男「あ、ああ……そうなんだ」


だめだ、分かってもらえそうにない。
少女さんは看護師になる勉強をしていた訳だし、性知識がないなんてことはないだろうけど……。
だからといって、直接的な説明をするのは憚られる。


少女「こつこつ頑張って、たくさん溜めてくださいね♪」

男「……はあ、そうだな」

136 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/15(木) 00:55:02 ID:GaIyy1Xc
〜お風呂場〜
結局、いつも通りに一緒にお風呂に入ることになった。
さすがにもう裸ではないけれど、ちょっとセクシーな水着を着ている少女さん。
最近は首の自殺痕を見慣れてしまったので、それを見ても何も感じなくなってしまった。
そうなると、女性的な曲線に目が行ってしまう訳で……。

小ぶりで控えめな微乳の膨らみ。
体育座りをしている少女さんの綺麗なヒップライン。
見ては駄目だと思っていても、抑えきれない情欲がいきり立つ。


少女「ねえ、男くん」

男「えっ?!」

少女「こうして一緒にお風呂に入るのも、何だか慣れてきたと思いませんか。最初はすごく緊張してたのに……」

男「そ、そうだっけ」

少女「そうですよ。私はまだ恥ずかしいけど、何だかうれしいです」

137 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/15(木) 01:01:15 ID:uHaDU1ZQ
男「うれしいって、どうして?」

少女「だって男くん、私の水着姿を見て元気になっている……よね//」


少女さんは顔を赤らめて、恥ずかしそうに微笑んだ。
俺は慌てて勃起した陰部を両手で隠し、少女さんから目を逸らす。
そして顔を俯けて謝った。


男「それはその……ごめんっ!」

少女「ふふっ、別に怒ってないですから// それってつまり、触ることも出来ない幽霊の私に興奮してくれたってことなんでしょ?」

男「えっと……少女さんについ見惚れてしまって――」

少女「良かった〜// ずっと私に魅力がないのかなって思っていたの」

男「そんなことないって! 少女さんは可愛いし、スタイルも良くて魅力的だと思う。だからそれでその……」

少女「男くん、ありがとう。あのね――」

138 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/15(木) 01:15:48 ID:uHaDU1ZQ
ガラララッ・・・
急に浴室のドアが開き、俺は驚いて振り返った。
するとそこには、髪を束ねた全裸の双妹が立っていた。

少女さんとは目に見えて差がある、半球型のふっくらとした乳房の膨らみ。
くびれた腰と丸いお尻が作り出す女性らしい曲線美。
双妹はそれらを恥じらう様子もなくさらけ出し、薄毛の陰部からは女性器の割れ目が覗き見えている。


少女「……ええっ?!」

双妹「男、一人で何をしゃべってるの?」


双妹が不思議そうな顔で浴室を見渡す。
そして首を傾げると、俺に心配そうな眼差しを向けて中に入ってきた。
双妹には少女さんの姿が見えていないと分かっているけれど、何だか見咎められたような気分で少し気まずい。

139 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/15(木) 01:17:57 ID:GaIyy1Xc
男「今日は一緒に入ろうとか言ってたっけ」

双妹「言ってないけど、今日は駄目だった?」

少女「ねっねえっ! これってどういうこと?!」

男「ま……まあ、見ての通りだと思う」

双妹「隣が空いてるし、大丈夫って意味だよね。ふふっ♪」


双妹は浴槽のお湯を汲んで浴びると、俺の隣に足を踏み入れた。
そこには少女さんがいて、彼女の身体を笑顔で蹴り飛ばす。
そして全身で圧し掛かると、身体を重ね合わせるようにして湯舟に浸かった。

ちゃぷんと音がして、水位が高くなる。
双妹は少女さんとは違い、生身の体があるからだ。

140 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/15(木) 01:18:57 ID:uHaDU1ZQ
少女「……」

双妹「ねえ、脚を伸ばしたいからこっち向いてよ」


双妹に促されて、いつものように向かい合う。
それと同時に、双妹の足が太ももの付け根に滑り込んできた。
その反動で水面に波が立ち、双妹の身体がゆらゆらと揺らめいて見える。


双妹「はああ〜//」


心地好さそうな声を出し、双妹はとてもご満悦な様子だ。
その一方で、少女さんは浴槽の隅に追いやられて不満そうな顔をしている。

141 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/15(木) 20:01:10 ID:Rw5.Fl5U
双妹「やっぱり、男と一緒のときが一番落ち着くわね//」

少女「男くんはいつも双妹さんとお風呂に入ってたんだ……」

男「そうだけど、いつもって訳じゃないから」

双妹「えー、そうなの?」

双妹「でも言われてみれば、少し気まずいときもあるよね。だけどそんなときでも、私は男と過ごせる時間を大切にしていきたいと思ってるよ」

男「えっ? ああ、そうだな」

少女「……」

双妹「そんなことより、聞いてくれる?」

男「聞くって、何を?」

双妹「今さあ、お父さんとお母さんが一緒に出掛けているでしょ。こんな時間に開いているお店なんてないし、私たちに弟か妹が出来ちゃったりしてね//」

142 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/15(木) 20:31:59 ID:Rw5.Fl5U
男「いやいや、それはないだろ」

双妹「でも明日からしばらく会えない訳だし、お母さんも寂しいんじゃないかなあ。こうしていつまでも仲がいい夫婦って、すごく憧れちゃうよね//」

男「そうだな」

双妹「私たちもいつか、こんな幸せな家庭を築いていくのかなあ」

少女「幸せな家庭……か」

男「そういうのって、まだ先の話だろ」

双妹「そうだけど、私はもう結婚できる歳になっているでしょ。まあ、そんな相手はいないんだけど」

少女「……私、お風呂場の外で待っています。どうぞ、ごゆっくり」


少女さんは不機嫌そうに言うと、約1.5メートルの範囲内。
浴室の壁をするりと抜けて、お風呂場の外に出て行ってしまった。
少女さんは家族ではないのだから、一緒にお風呂に入っていた今までがおかしいのだと思う。
それなのに、今は彼女のことを少し遠くに感じた。

143 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/15(木) 21:10:01 ID:GaIyy1Xc
双妹「ねえ、男。どうかした?」


少女さんが出て行った場所を見ていると、双妹が不思議そうな顔で聞いてきた。
そして、双妹も壁をちらりと見て言葉を続ける。


双妹「最近よく何もない場所を見ているよね。さっきも一人でしゃべっていたし、疲れているんじゃないの?」

男「まあ確かに憑かれているけど、別に大丈夫だと思う」

双妹「それならいいんだけど、月曜日からずっと気持ちがそわそわして違和感を感じるんだよね。生理前だからPMSの影響かもしれないけど、男のことが気になる感じだから関係ないと思うし――」

男「そういうことなら、少し気を付けたほうが良さそうだな」

双妹「うん、そのほうがいいと思う」

男「それじゃあ、俺はもう上がるから」

双妹「上がるって、何言ってるの? まだ身体を洗っていないみたいだし、そんなの有り得ないと思うんだけど」

男「うぐっ……」

144 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/15(木) 21:15:21 ID:uHaDU1ZQ
双妹「そうだ! 今日は一緒に洗いっこをしようよ♪」

男「ええっ?!」

双妹「だってほら、この前、水着に着替えて入ろうとしていたじゃない。ちゃんと洗っていないみたいだし、私がきれいにしてあげるから//」


双妹は目を輝かせると、俺に身体を寄せてきた。
そのせいで俺は股を開くことになり、太ももの間に双妹を挟み込む。
すると双妹は何食わぬ顔で、勃起したままの陰茎に手を伸ばしてきた。
指先が触れてびくっと反応し、包皮を剥かれてお湯の温度を敏感に感じ取る。
双妹に卑猥な意図がないことは分かっているけど、さすがに今日はいろいろとヤバ過ぎる。


男「悪いけど、自分で洗うから大丈夫だ」アセアセ

双妹「え〜っ、何なに? 別に恥ずかしがらなくても良いじゃない。ほらっ、早く洗い場に移動しようよ。泡あわですごく気持ちいいわよ//」

145 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/15(木) 21:35:56 ID:DXRE/GX6
男「別に恥ずかしいわけじゃなくて、ちょっと事情があるんだ」

双妹「私はそんな事情なんて気にしないし」

男「俺は気にするんだってば。えっと……そう、今日はあれな感じで――」

双妹「それくらい気付いてるし、ついでにすっきりさせてあげるわよ//」

男「いいって、そういうことは自分でするから」

双妹「でも、12日から一度もしてないんでしょ。今までこんなことはなかったし、少し心配なんだよね――。もしかして、病院で何か言われたの?」

男「そうじゃなくて、したいけど時間がなくて出来ないだけだから。というか、双妹は女子なんだから、もう少し恥じらいを持ったほうがいいんじゃないのか」

双妹「恥じらいねえ。私たちは同じ双子なんだから別に恥ずかしいなんて思わないし、女子もそういう話をするんだよ」

男「そうかもしれないけど、人前でそういう話はしないだろ」

双妹「今は私たちだけしかいないじゃない。それに兄妹だからこそ、えっちな話も気兼ねなく出来るんじゃないのかなあ」

男「まあ、そうだけど……」

146 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/15(木) 22:11:02 ID:Rw5.Fl5U
双妹「ねえ、私たちはどうして性別が分かれちゃったんだろうね」

男「それは染色体が――」

双妹「理屈は知ってるからいい。私はね、一卵性の双子なのに性別が違って、そのせいで身体の悩みを共感し合えないことが嫌なの。私たちはお互いに同じ自分なんだから、性の悩みも包み隠さずに相談したいしされたいじゃない」

男「それは分かっているんだけど、俺の言い方が悪かったよ。ごめん……」

双妹「ううん、私のほうこそ少しイライラしちゃってごめんなさい」

双妹「えっとね、私はどんなことでも気兼ねなく話をしたいし、男と一緒にお風呂に入る時間がすごく好きなの。もう一人の私のことを身近に感じていられるから――」

147 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/15(木) 22:20:21 ID:DXRE/GX6
双妹が言いたいことは、俺もよく分かっている。
俺と双妹は、普通の兄妹ではないからだ。

もし二卵性の双子だったなら、俺たちは普通の兄妹という感じで落ち着いていたのかもしれない。
しかし俺と双妹は一卵性双生児なので、性別が違っても、どこかで必ず自分の片割れだという意識が入り込んでくる。
そして、性別が違うもう一人の自分に興味を抱くことになる。
俺と双妹は、そんな普通の双子とは異なる特殊な環境で育ってきたのだ。

148 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/15(木) 22:24:55 ID:GaIyy1Xc
男「うまく言えないけど、俺も双妹と同じ気持ちだから……。俺も双妹のことをちゃんと知りたいし、もっと本音で話をしたいと思ってる」

双妹「……」

男「だけど、性別が違うから出来ないこともあるんじゃないかなって思うんだ。さすがに今日は洗いっこは無理だけど、背中を流してくれると嬉しいかな」

双妹「……! じゃあ、私も背中を流して欲しい」

男「仕方ないな」

双妹「ふふっ、やったあ〜♪」


双妹がうれしそうに顔をほころばせ、俺たちは洗い場に移動した。
何だかんだで、俺もこの時間が好きなのかもしれない。
俺はそう思いつつ、風呂椅子に腰を下ろした。
そしてスポンジが背中に触れると、浴室にボディーソープの香りが広がった。


双妹「さっきの話だけど、どちらかが結婚するまで、ずっとこうして一緒にいようね」

男「そうだな」

双妹「うん、そうだよね//」

149 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/16(金) 21:48:40 ID:LgkdM2wA
〜部屋〜
お風呂から上がり、部屋に戻ってきた。
少女さんは不機嫌な様子で、さっきから一言も口を聞いてくれない。


男「もしかして、双妹のことで怒ってる?」

少女「別に私は怒ってなんかいないです」プイッ

男「怒ってるし」

少女「怒ってないです!」

男「まあ、なんて言うか、うちではこれが普通なんだ。月曜日は双妹が――」

少女「言い訳なんて、しなくて良いです。双妹さんが未だに男くんやお父さんと入っていても、だからお風呂場が広いんだなって納得します。家族のあり方はそれぞれだし、やましいことがないなら別に構わないです」

男「じゃあ、何に怒っているんだよ」

少女「それは……そう、私がもう死んでいるから」

男「死んでいるからって言うけど、それは少女さんの個性みたいなものだろ。俺はそれを受け入れているつもりなんだけど」

少女「……」

150 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/16(金) 22:07:29 ID:gv9McpwQ
双妹「ねえ、男。今なんだけど、少し大丈夫?」


黙り込んでしまった少女さんの機嫌を直す方法を考えていると、双妹が部屋に入ってきた。
すると、少女さんが不愉快そうな顔で何かを呟いた。
やはり少女さんが怒っている原因は、双妹とお風呂に入っていたことが関係しているのだろう。
俺は切っ掛けが掴めるかもしれないと思い、双妹の用件を聞くことにした。


男「あまり大丈夫じゃないけど、少しだけなら――」

双妹「うふふっ// それじゃあ、手短に済ませるわね」

男「ああ、それで頼む」

双妹「……えっと、少女さんのことなんだけど、お風呂に入っているときに妹友ちゃんからラインが来ていたの」

男「ライン?」

双妹「男がこの前、少女さんの悪いうわさを聞いたって言ってたでしょ。それで私、妹友ちゃんに北倉高校の友達に会えないかなあって相談していたの」

男「へえ、そうなんだ」

双妹「そうしたらね、その友達が友香さんって人と同じ部活をしていて、うわさが本当か聞いてくれたんだって」

151 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/16(金) 22:22:52 ID:04m5dmgQ
男「友香さんって、少女さんの友達だっけ」

少女「……そうです」

双妹「そうそう。少女さんと同じクラスの人で、一番仲がいい友達なんだって」

男「もしかして、何か分かったのか?!」

双妹「そういう訳じゃないけど、友香さんに男のことを話したら、会いたいって返事が返ってきたらしいの。日曜日に待ち合わせをしているんだけど、男は行ける? もしかしたら、少女さんにも会えるかもしれないわよ」


友香さん……か。
彼女に会えば、少女さんの自殺の動機がはっきりするかもしれない。
そうでなくても、かなり有益な情報を聞くことが出来るだろう。
しかし、日曜日に会うことは出来ない。

152 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/16(金) 23:10:13 ID:lq40MIog
男「悪いけど、日曜日は友と約束があるんだ」

双妹「そうなんだ。じゃあ、男は行かないって返事をすればいいかな」

男「とりあえず、そう言っておいてくれるかな。でも、日曜日以降で会える日があったら話をしたいって、友香さんに伝えておいてほしい」

双妹「うん、分かった。男がまだ少女さんのことを諦めていないのなら、私はもう一度チャンスが来るように応援してるから」

少女「……」

双妹「だから、まずは友香さんの話を聞いてくるわね!」

男「双妹、ありがとう」

双妹「それじゃあ、頑張ってね// おやすみなさい♪」

男「ああ、おやすみ」


そう返すと、双妹は軽い足取りで部屋を出て行った。
どうやら、今度の日曜日は少女さんのことで大きな動きがありそうだ。

153 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/18(日) 19:36:04 ID:MF6PAvH6
少女「双妹さんって、男くんのことが好きなんですね」


双妹が出て行くと少女さんの表情が和らぎ、かすかに微笑した。
理由は分からないけど、少しは機嫌が良くなってくれたみたいだ。


男「まあ、双子の妹だし仲がいいと思う」

少女「双子の妹か……。よくテレビや漫画で、双子は見えない絆で結ばれているとかテレパシーがあると言ってますよね」

男「それ、分かる気がする」

少女「やっぱり、そういうのがあるんだ。男くんと双妹さんは特別な絆で結ばれていて、何だかうらやましいです」

男「まあ確かに、俺と双妹は特別な絆で結ばれているんだろうな」


奇跡のミックスツイン。
俺と双妹は、極めて稀な男女の一卵性双生児なんだから――。


少女「あっ、そういえば!」

少女「外まで声が聞こえてきて気になったんですけど、一卵性の双子ってどういうことなんですか?」

154 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/18(日) 19:47:45 ID:rgny/1Us
男「少女さんって、看護科だろ」

少女「そんなことを言われても、性別が異なる一卵性双生児なんて聞いたことがありません。男女の双子は絶対に二卵性双生児なんですよ」


少女さんの言葉を聞いて、俺は小さく嘆息した。
俺と双妹が一卵性双生児だと知った人は、大抵が少女さんのような反応を示す。
そして、頼みもしないのに語り始めるのだ。

面倒くさいから黙っていたのに、こうなったら話し合う以外に方法はない。
俺は仕方なく、今まで何度となく繰り返してきた説明をすることにした。


男「平たく言うと、受精卵が多胚化したときに性別を決める染色体が抜け落ちて、性別が男女に分かれたんだ」

少女「そんなことが本当にあるんですか」

男「ああ、本当にあるみたいだよ。異性一卵性双生児は世界中で数例しか報告されていなくて、ごく稀にしか生まれないんだ」

少女「でも、それだと異数体になってしまいますよね。少しおかしくないですか」


異数体とは、染色体の数が通常よりも1〜数本多くなったり少なくなっている個体のことだ。
そんな生物用語が出てきたということは、少女さんは知識が邪魔をして受け入れることが出来ないタイプなのだろう。

155 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/18(日) 20:41:23 ID:rgny/1Us
男「おかしいって何が?」

少女「男くんの説明だと、XYの受精卵が双子になったときに『XYとXO』に分かれたことになりますよね。そうなると、双妹さんはX染色体が1本しかないからターナー症候群を患っていることになります」

少女「だけど平均的な身長だし、胸もその……大きいですよね。性的発達が遅れているわけではないし、双妹さんがターナー症候群を患っているとは思えません」

男「たしかに双妹はターナー症候群を患っていないし、その他の検査でも異常はなかったみたい」

少女「それじゃあ、男くんのほうに染色体異常があるんですか?」

156 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/18(日) 20:48:03 ID:MF6PAvH6
男「いや、俺も異常はなかったみたい。まさしく健康そのものって感じだな」

少女「でも中学生のとき、よく学校を休んで病院に行ってましたよねえ。何だか信じられないです」

男「それじゃあさあ、親父の書斎に行ってみる?」

少女「お父さんの書斎ですか」

男「俺たちが生まれたときに話題になって、マスコミの取材を受けたらしいんだ。それで、親父がそのときの科学専門誌や週刊誌を保存しているんだ」

少女「すごく気になるし、読んでみたいです!」

157 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/18(日) 21:43:33 ID:mna2sIk2
〜親父の書斎〜
少女「男くんのお父さんの部屋の本棚、難しそうな本ばっかりですね」

男「そっちは設計とか工学関係とか、親父が仕事で使う資料が収められている本棚だからね。少女さんに見せたい週刊誌は、こっちの本棚に収まってるよ」

少女「わわっ! ここにある雑誌が全部そうなんですか?!」

男「そこにあるのは最近のやつだな。親父が特集記事を気に入って、それ以来ずっと定期購読しているんだ」

少女「へえ、そうなんだ。それじゃあ、このDVDは何なんですか?」

男「それは俺たちが5歳のときに出演した、民放のおつかい番組のやつじゃないかなあ」

少女「ほんとだ! あの番組名が書いてあるし!!」

男「その放送局が2分の1成人式を企画して家庭訪問バラエティにも出演したから、そのDVDもあると思う」

少女「男くんと双妹さんって、もしかして有名人だったの?!」

男「そんな訳ないだろ。現に少女さんは、俺と双妹のことを知らなかったじゃないか」

少女「そんなことないですよ。きっと、私が知らなかっただけですから」アセアセ

男「いいって、そんなフォローをしなくても」

158 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/18(日) 21:51:30 ID:mna2sIk2
少女「ところで、週刊誌は見つかりそうですか」

男「ああ、うん。これがさっき言ってた特集記事が載ってるやつだよ」

少女「えっ?! これって――」


少女さんに週刊誌を見せると、不快そうに顔を曇らせた。
これは男性向けの写真週刊誌なので、表紙に性的な言葉が載っている。
女子に見せるのだから、最初から目的のページを開いておくべきだった。


男「……ごめん! えっとほら、この記事が俺たちのことなんだ」アセアセ

少女「この記事が男くんのことなんだ……」

男「そうだよ。生物学的なめずらしさと話題性があったから、こうして記事にしてくれたんだと思う」

少女「そっか……。それじゃあ、読んでみるね」

159 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/19(月) 20:13:29 ID:X/AbCKBU
――奇跡の双子、異性一卵性双生児

少女さんは記事の表題をつぶやくと、ゆっくりと内容を読み始めた。
久しぶりに、俺も目を通す。
最初は祝福の言葉から始まり、その次に異性一卵性双生児のことが説明されている。
そしてその説明が終わると、健全な異性一卵性双生児が生まれた仕組みや性染色体異常について考察していく流れになっている。

160 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/19(月) 20:26:33 ID:X/AbCKBU
一卵性双生児はひとつの卵子(厳密には二次卵母細胞)にひとつの精子が受精し、その受精卵が何らかの刺激で二つに分離して多胚化することで誕生する。
そのため一卵性双生児は基本的に同一の遺伝子型を持っているので、通常は同性しか生まれない。
ところが先日、昨年12月13日にI県の彩川医科大学附属病院で男女の一卵性双生児が誕生していたことが分かった。

このような双子は異性一卵性双生児と呼ばれており、世界中でもわずか数例しか報告されていない極めて稀な存在だ。
なお異性一卵性双生児の女性はターナー症候群を患っていることが知られており、これまでは双子の一方または双方が性染色体に何らかの異常を持って生まれてくると考えられていた。
しかしこのたび生まれてきた男女の双子は健康そのもので、多胎妊娠による切迫早産で入院したこと以外には一切の異常がみられなかったのだ。
そのような報告は今までに例がなく、それが科学的に証明されたのは史上初めてのことである。
それでは、なぜそのような双子が生まれたのだろうか。

161 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/19(月) 21:43:23 ID:GybuDdV6
おつ

162 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/19(月) 23:42:46 ID:kUW.iojY
ヒトの染色体は22対(44本)の常染色体と1対(2本)の性染色体で構成されていて、性別は性染色体の組み合わせによって決定されている。
性染色体にはX染色体とY染色体の2種類があり、その組み合わせがXYならば男性でXXならば女性になる。
これら23対の染色体は父親と母親から1本ずつもらうことで対になっているので、通常は性染色体の本数が2本以外になることはない。
しかし、ごく稀に性染色体が1本多いXXYの男性や性染色体が1本少ないXOの女性が生まれることがあるのだ。※Oは無いという意味。

その原因のひとつが、減数分裂における染色体不分離である。
生殖細胞は精子形成や卵形成の過程で減数分裂を行い、それによって染色体数が半分になっている。
しかし性染色体で染色体不分離が起きると、性染色体が正しく分配されずにXYの精子やXXの卵子、性染色体を持たない精子や卵子などが出来てしまうことになる。
その異常な生殖細胞が正常な生殖細胞と受精すると、XXYやXOの性染色体構成を持つ異数体の受精卵が生じるのだ。
しかも驚くことに、健全な男女の一卵性双生児はこのXXYの受精卵が多胚化して誕生したと考えられている。

163 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/19(月) 23:44:36 ID:kUW.iojY
その詳細は今後の研究によって解明されることが期待される分野ではあるが、考え方はとても単純だ。
最初の体細胞分裂(卵割)の後期において、それぞれの娘細胞(割球)で余剰な性染色体を排除しようとする現象が起こり、X染色体を1つ脱落したXYの割球とY染色体を脱落したXXの割球に分かれた。
そして、それらの割球が直ちに分離して多胚化したので男女の双子になった、というものだ。
しかしこのような現象は、場合によっては遺伝子や細胞組織に異常を生じさせることになってしまう。

164 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/19(月) 23:56:34 ID:kUW.iojY
遺伝子はメンデルの法則で知られるように、両親から受け継いだ遺伝子が働きあってさまざまな特徴や性質を子どもに伝えている。
ところが、数ある遺伝子の中には父親から受け継いだ遺伝子のみが発現するものや母親から受け継いだ遺伝子のみが発現するものがあり、単為生殖を防ぐために、どちらの親からもらった遺伝子なのか識別して抑制してしまう仕掛けが施されているのだ。
したがって父親由来の染色体と母親由来の染色体が対になっていなければ、遺伝子の仕掛けが誤作動を起こして胎児が正常に育たなくなってしまうのである。

つまり遺伝子レベルの話では、X染色体を1本持つ正常な卵子に減数分裂の異常で生じたXYの精子が受精してXXYの異数体の受精卵になり、その受精卵が多胚化するにともなって父親由来のX染色体を脱落した男児とY染色体を脱落した女児に分かれなければならないことになるのだ。

さらに細胞レベルの話では、受精卵が2細胞期の時点で多胚化し男女の双子に分かれることが要求されることになる。
なぜなら受精卵は卵割を繰り返しており、多胚化する時期が遅いとモザイク型の性染色体異常になってしまうからだ。

165 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/20(火) 00:07:56 ID:PueheZXk
例えばXYの受精卵からY染色体を喪失することで生まれる異性一卵性双生児(XY正常男児とXOターナー女児)では、次のようなモザイクが考えられる。
仮に発生の初期段階に1つの細胞でY染色体を喪失し、そのまま卵割を繰り返して桑実胚期まで成長した場合、その受精卵はXYの正常な細胞とXOの異常な細胞を併せ持つ『モザイク胚』になってしまう。
そしてこのモザイク胚が2つに分離して多胚化すると、双子の双方が『X/XYモザイク型』の性染色体異常を持って生まれることになってしまうのだ。

この例のように核型が『45,X/46,XY』のモザイクを有していると混合性性腺異形成症などの性分化異常を伴い、病態として内外性器に異常がみられるようになる。
その障害の程度はさまざまで、外性器が正常な女性または正常な男性に近い外観になって病気に気が付かないこともあれば、曖昧な外性器になってしまうこともある。
また社会的な性別の決定が要求される場面では慎重な判断が必要となり、そのことが本人や家族に与える影響は計り知れない。
それはXXYの受精卵から生まれる異性一卵性双生児の場合も同様である。

以上のことから、健全な男女の一卵性双生児は天文学的な確率で生じた奇跡によって生まれてくることがお分かり頂けたであろう。
いくつもの偶然が重なり、ふたつの胚が無事に着床して妊娠が成立し、新しい生命が誕生したのだ。

166 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/20(火) 00:16:19 ID:oRuA957g
ところで、異性一卵性双生児の誕生にはまだ大きな疑問が残されている。
男女の双子は二卵性だと判定するのが通常であり、一卵性だと判定することは絶対にあり得ないからだ。
それでは、なぜ一卵性だと判明したのだろうか。

妊婦検診で多胎妊娠だと判明した場合、速やかに膜性の診断をしなければならない。
なぜなら膜性の種類によって妊娠や分娩のリスクが大きく異なり、母体と胎児の周産期管理がとても重要な課題になるからだ。
その膜性診断の結果、二絨毛膜二羊膜性双胎(DD双胎)という状態になっていることが判明し、2つある胎盤は癒合していないことが確認された。
このDD双胎の状態になるのは受精後3日以内に分離した一卵性双胎とすべての二卵性双胎であり、そのリスクは単胎妊娠の約5〜10倍だと言われている。
やがて性別診断で男女だと判明したので、双子の卵性はDD双胎になる条件と矛盾しない二卵性だと判定された。

ところが、出産後に状況が一変した。
切迫早産でNICUに入院することになり、そのときの血液検査で男女ともにA型だと判明したからだ。
血液型がO型とB型の父母から、通常はA型の子どもが生まれることはない。
しかもそれが二卵性の双子で起きたものだから、周囲は大変な騒ぎになった。

167 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/20(火) 00:22:17 ID:PueheZXk
両親の血液型から生まれるはずのない血液型の子どもが生まれる理由は、さまざまな可能性が考えられる。
今回のケースでは減数分裂のときに染色体がねじれて一部が入れ替わる乗換えという現象により、血液型を決定する遺伝子で組換えが起きていたことが原因だった。

血液型はABOの3種類ある遺伝子のうち、2つが組み合わさることで決定される。
その3種類の遺伝子はA遺伝子を基本の形として、B遺伝子とO遺伝子には、それぞれ次のような特徴がある。

B遺伝子は、前半部分がA遺伝子と同じ構造をしている。
O遺伝子は、後半部分がA遺伝子と同じ構造をしている。

つまり遺伝子の組換えにより、B型の母親が持っていた遺伝子(B遺伝子とO遺伝子)の後半部分が入れ替わってしまい、B遺伝子がA遺伝子と同じ構造になってしまったのだ。
そしてそのA遺伝子を持つ卵子が受精して、A型の双子が生まれたのである。

しかし、この現象が2つの卵子で同時に発生していたとは考えにくい。
そこでDNA双子鑑定を実施した結果、ついに男女の一卵性双生児だということが判明したのだ。
この血液型騒動がなければ、恐らく一卵性だと判明することはなかっただろう。

168 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/20(火) 00:29:16 ID:oRuA957g
・・・
・・・・・・
特集記事を読み終わり、俺はゆっくりと息を吐いた。
16年前に書かれたそれには、俺と双妹が生まれてくるまでの記録が残されている。
今でこそ笑い話になっているけれど、血液型騒動があった当時は本当に大変だったらしい。
だけど、それがあったから今の俺たちがいるのだと思う。

記事の最後は、両親の言葉でまとめられている。
誕生の喜びと不安、戸惑い、そして夫婦の絆。
多くの人に支えられて生まれて来たのが、異性一卵性双生児の俺と双妹なのだ。

169 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/20(火) 18:55:50 ID:oRuA957g
少女「ありがとう。読み終わりましたよ」

男「特集記事はどうだった?」

少女「生命が生まれるって、本当に奇跡的なことなんですね。すごく興味深かったです。それに男くんと双妹さんのご両親の想いや、医療従事者の方との連携が伝わってくる、そんな優しい気持ちになれる記事でした」

男「これを読むと、もっと頑張らないといけないなって思うんだ」

少女「そうだよね。それなのに、それなのに……」


唐突に少女さんが悲痛な声を出した。
そして、週刊誌が収められた本棚を見上げた。


少女「この出版社は私を苦しめるんです――」

男「それって、どういうこと?」

少女「私、この出版社の人にストーカーをされていたんです!」

170 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/20(火) 19:01:05 ID:oRuA957g
男「ストーカーをされていた?!」


俺はその言葉に驚き、少女さんを見詰めた。
すると、少女さんはぽつぽつと語り始めた。

男子生徒の自殺に関連して、この週刊誌に心無い記事を書かれたこと。
そのことでクレームを出したけれど、出版社からの謝罪がないこと。
そして、12日から気味の悪い視線を感じていたこと。
少女さんが口を開くたびに、怒りと苦しみが吐き出されていく。


少女「きっとこの出版社は、少年くんを自殺に追いやった私がどんな恋愛をしているのか、それを記事にするつもりだったんです」

少女「こんなに優しい記事を書けるのに、どうしてそんなことをするの?」

少女「どうして、私がそんな仕打ちを受けないといけないの?!」

男「少女さん……」

171 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/20(火) 19:07:49 ID:PueheZXk
男子生徒の自殺を思い出したとき、少女さんはとてもつらそうな表情をしていた。
それでも少女さんはそれを乗り越えて、将来の夢を真剣に考えていることを話してくれた。
つまり、生きていたときの少女さんがそんな気持ちになっていたのだろう。

しかし、マスコミはそれを許さなかった。
男子生徒の自殺は形を変えて、少女さんを追い詰めていたのだ。

2月12日。
それは少女さんが自殺をした前日。
彼女は悪意の視線に気付いてしまった――。

だけど、この出版社が悪意のある記事を書くとは思えない。
実際には記事を読んでいないので何とも言えないけれど、少女さんの当事者意識による思い込みが誤解を招いてしまっただけのような気がする。
ストーカー行為も本当にあったのだろうか。

男子生徒の自殺の記事を読めば何かが分かるかもしれないが、今はとても探して読めるような雰囲気ではない。
そっとしておいたほうが賢明だろう。


男「少女さん、部屋に戻ろうか」


俺は少女さんを連れて部屋に戻ることにした。
彼女はふわりふわりと、力なく浮いていた。

172 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/20(火) 20:24:51 ID:MTdnb2QA
ここまでで一区切りです
レスありがとうございました

173 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/21(水) 20:41:36 ID:Ia65vCR6
(2月20日)sat
〜Another View〜
今日は土曜日。
彼女は病室の窓から、鉛色の空を見上げた。
そして、懐かしい同級生の顔を思い浮かべた。

今頃は卒業式が行われているはずだ。
本来ならば、その卒業式に彼女も出席しているはずだった。
その……はずだった。

高校2年生の春、彼女は授業中に意識を失い入院を余儀なくされた。
そして、不治の病であることが宣告された。
今は学校を休学し、治ることを信じて闘病を続けている。

それでも、ときどき思ってしまう。
あと何ヶ月、生きていることが出来るのだろうか。
そしてあと何ヶ月、この胸の痛みを耐えなければならないのだろうか――と。

やがて、ぽつりぽつりと雨が降ってきた。
これは悲しみの涙だろうか。
それとも、卒業を迎えたみんなの感動の涙だろうか。

174 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/21(水) 20:44:23 ID:JAFB57hw
この世界から、彼女だけが取り残されている。
みんなの時間から、彼女だけがこぼれ落ちてしまった。
そして今日も時間だけが過ぎていく。


「女さん、ご機嫌はいかがですか?」


辺りが暗くなる頃、主治医の先生と看護師が入ってきた。
こんな時間に回診に来ることは、今までなかったことだ。
一体何があったのだろうかと、彼女は不安になる。
そんな彼女に、主治医の先生は思いも寄らない言葉を告げた。

とても信じられない。
だけど、彼女の返事は決まっていた。
そして、涙が溢れてきた。

外は激しい雨が降っている。
永遠の別れを悲しむかのように、激しい雨が降っている。

175 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/22(木) 20:01:39 ID:OeE7anno
(2月21日)sun
〜友の家〜
日曜日になり、俺は少女さんと友の家に向かった。
少女さんは一晩寝れば気持ちが落ち着いたらしく、昨日の朝には普段と変わらない様子に戻っていた。
そして今は、自殺の記憶が戻るかもしれないことに緊張しているようだ。


少女「友くんの家って、神社の隣だったんですね。知らなかった……」

男「友に霊能力があるのは、この神社の息子だからなんだ。ちなみに俺の母さんがこの神社で働いていたことがあって、その縁があってここで結婚式をしたらしいよ」

少女「へえ、そうなんだ〜」

男「それで俺と双妹が生まれたときにこの神社も話題になって、今では縁結びと子孫繁栄にご利益がある神社ってことで有名になっているみたい」

176 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/22(木) 20:03:43 ID:KVMmbaME
少女「縁結び神社かあ。生きているときに来たかったな」

男「今から寄ってみる? 御守りとか、すごくご利益があるらしいから」

少女「幽霊の私が神社に行くだなんて、怖くてとてもじゃないですよ。そんなことより、早く友くんの家に行きませんか」アセアセ

男「そっか、少女さんがそう言うなら仕方ないな」


神社は穢れを嫌う場所だし、幽霊の少女さんが嫌がるのも無理はない。
俺は神社の前を通り過ぎ、友の家の呼び鈴を鳴らした。

177 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/22(木) 21:37:35 ID:OeE7anno
ピンポ〜ン♪
ガチャリ


友「待ってたぞ。二人とも中に入ってくれ」

男「お邪魔します」

少女「お……お邪魔します」

友「少女さんのことだけどさあ、昨日メールを読んだんだけど、それから何か分かったか?」

男「いや、特に進展はない。今日は夢を見ていないみたいだし――」

友「そうか」


友はそう言うと、少し思案めいた。
今から催眠術をする訳だし、次の一手を考えてくれているのだろう。
そう思いつつ友の部屋に入ると、少女さんがはっとした表情で床に置かれているカバンに目を向けた。
その様子から察するに、催眠術の道具が入っているのかもしれない。

178 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/23(金) 21:31:25 ID:aiMuLZek
男「もしかして、ここで催眠術をするのか?」

友「そうだよ」

男「俺はてっきり、神社のほうでするのかと思ってた」

友「そっちでするなら初穂料を頂くことになるけど……」

男「お金を取るのか?!」

友「当たり前だろ。素人の俺が部屋で個人的にするから、サービスしてやれるんじゃないか」

男「まあ、それもそうだな。今度何か奢ってやるよ」

少女「でも、大丈夫なんですかねえ」

友「俺の実力のことなら、大船に乗ったつもりでいてくれ」

少女「う……うん」

179 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/23(金) 22:02:00 ID:Jmq9ukzc
友「それで先に話しておきたいことがあるんだけど、金曜日の放課後、学校帰りに少女さんの家に行ってきたんだ」

少女「私の家?!」

男「おいっ、聞いてないぞ」

友「男に話せば、少女さんの耳にも入るだろ。それを避けたかったんだ」

少女「もしかして、住所を調べたんですか?!」

友「調べるも何も、俺たちの中学校は体制が古いから卒業アルバムに住所と電話番号が載ってるじゃないか」

少女「……言われてみれば。でも、勝手に行かないでくださいよ!」

男「それで、何をしに行ったんだ?」

友「お線香をあげるついでに、少女さんの話を聞きたいなと思っていたんだ。まあ、家に行っても誰もいなかったけどな」

少女「勝手なことをするから、そうなるんです」プンスカ

友「ただ、誰もいなかったのは生きた人間の話だ」

男「どういうことだよ、それ――」

友「少女さんの家には浮遊霊がたくさん集まっていた」

180 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/23(金) 22:42:19 ID:Jmq9ukzc
少女「ええっ! 私の家に幽霊がいるんですか?!」

友「そうだよ。少女さんが家にいないから、近所の浮遊霊が様子を見に来ていたんだと思う」

男「もしかして、少女さんが家に帰るのを嫌がっているのは浮遊霊が集まっているからなのかな」

友「それはどうだろう。ただ今後のことを考えて、男の守護霊の力を高めておこうと思う」

男「守護霊の力?」

友「少女さんが家に帰れるようになったら、男もお線香をあげに行くだろ」

男「ああ、行かせてもらおうと思う」

友「そのときに低級霊が寄ってきたらうざいからな」

181 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/23(金) 22:54:42 ID:YyzZvQKo
男「それで守護霊の力を高めるにはどうしたらいいんだ?」

友「この御守りを身に付けていれば、半年くらいは効果がある。まあ、鞄の中にでも入れっぱなしにしておいてくれ」


友はそう言うと、カバンの中から御守りを取り出した。
神社の名前が刺繍されているので、普通に売っているものなのだろう。


男「そんなことで良いのかよ」

友「御守りはあくまでも補助的なもので、特に大切なことは健康な心身を保つことだ。しっかりと食事を取って、運動をして体力づくりをして、よく寝てストレスを溜めないこと」

友「そんな健康的な生活を送ることで、守護霊は強くなるんだ」

男「それって、もう守護霊とか関係なくないか?」

友「あと、守護霊がいるって信じることも重要な」

182 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/23(金) 22:57:52 ID:YyzZvQKo
少女「あのー、男くんの守護霊の力を高めて私に影響はないんですか」

友「害意があるなら、すぐに弾き出されるんじゃないかな」

少女「はうぅっ、そんなあ……」

友「でも今は成仏をする前の浮遊霊だから、四十九日までは守護霊も理解を示してくれると思う」

少女「そうなんだ」

友「でも、快くは思われていないだろうな」

少女「……ですよねえ」

男「ふと思ったんだけど、少女さんは守護霊の姿が見えないの? 守護霊も幽霊なんだろ」

少女「私には見えないです」

友「守護霊は妖怪や神格を伴った神霊だからな。ただの人間や浮遊霊程度の霊性では、その姿を見ることは出来ないよ」

男「そういうものなのか」

183 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/23(金) 23:34:46 ID:aiMuLZek
友「それじゃあ、そろそろ始めようか。少女さん、準備は良いかな」

少女「は、はいっ!」


少女さんが緊張した面持ちで答えると、友はカバンから御札を取り出した。
そして、二人は向かい合う。


友「心霊催眠で呼び戻す記憶は2月13日、少女さんが自殺をしたときってことでやってみるから」

少女「お願いします」ドキドキ

友「我が名は友。己に囚われし少女の幽体を取り払い、魂の記憶と交わらんとすることを欲す。我が求めるは死の要素、喪われし生命の記憶――」


本人は大真面目だけど、何だか中二っぽいぞ。
この前口上は本当に必要なのか?
そう思っていると、友は少女さんの鳩尾に御札を押し当てた。


少女「うぐっ……」

友「いざ、解き放てっ!!」

184 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/24(土) 13:20:23 ID:LdqQl75E
おつ?

185 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/26(月) 19:04:43 ID:IbqlonDQ
(2月13日)sat
〜部屋・少女さん〜
土曜日の午後、外は暖かい雨が降っていた。
天気予報によれば、明日にかけて低気圧が急速に発達して春の嵐になるらしい。
それはまるで、私の気持ちを暗示しているかのようだ。


少女「男くん……」


私は窓のカーテンを閉めて、小さく呟いた。
今日は暖かいし、あの女子とデートをしているのかなあ。
きっと、そうだよね――。

どうして、去年のバレンタインデーに告白をしなかったのだろう。
あの時にほんの少し勇気があれば、男くんの隣にいたのは彼女ではなくて私だったはずなのに。
悔やんでも悔やんでも、悔やみきれない。

186 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/26(月) 19:07:53 ID:5QUnJ7oQ
少女「……はあっ」


でも、私は決めたんだ!
もしかしたら、あの二人はすでに付き合っているのかもしれない。
告白をすることで、週刊誌に嫌な記事を書かれるかもしれない。
それでも、私は男くんに気持ちを伝えるんだ!


少女「するよ! 明日、絶対に好きだって告白するよっ!!」


私はうさぎのぬいぐるみを手に取り、ぎゅっと抱き締める。
野原をぴょんぴょんと跳ねていくうさぎのように、私も前に進み続けるんだ。
だから、キミも応援してくれるよね?


(でも、本当に上手く行くのかなあ)


不意に気味の悪い視線を感じた。
それは、昨日の放課後に感じた視線と同じだった。

187 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/26(月) 19:51:24 ID:5QUnJ7oQ
見られている。
この部屋も見られている。
どうして、マスコミの人はこんなことをするの?!


(それは人を殺したからじゃないか)


違うっ!
確かに少年くんが自殺をしたのは私のせいかもしれないけど、私は絶対に人殺しなんかじゃない!


(でも、他の人はどう思っているんだろうね)


それは……。


(みんな人殺しだと思っているよ)


私は本当は人殺し……なの?


そう思うと同時、不安な気持ちが膨らんできた。
私はうさぎのぬいぐるみをじっと見詰め、何度も繰り返した思考のループに迷い込んでいく。
そして、答えを探し続ける。

188 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/26(月) 19:54:02 ID:IbqlonDQ
(もう分かっているんだろ)


分かっている?


(そうだよ)


確かにそうかもしれない。
きっと、告白しても惨めな想いをするだけだ。


男『悪いけど、キミと付き合うことは出来ない。実は付き合っている人がいるんだ』

少女『あの人と付き合ってるの?』

男『それじゃあ、今から彼女とデートだから。さよなら』

少女『男くん、待ってよっ!! あんな女子より、私のほうが――』

男『はあ?! はっきり言わないと分かんないのかよ。お前みたいな人殺しとは付き合えないって言ってるんだよ!!』

189 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/26(月) 20:02:22 ID:5QUnJ7oQ
少女「ううっ、ひっく……ひっく…………」


妄想をしていると、涙があふれてきた。
男くんと付き合うことが出来ないのなら、彼に告白しても意味がない。
男くんと付き合うことが出来ないのなら、生きている意味もない。


だったら、死んでしまえばいい――。


そうだ。
もう楽になってしまいたい。
悲しい想いはしたくない。

私は机の引き出しから、お父さんに渡す予定だったネクタイを取り出した。
団子結びをして輪を作り、ドアノブに引っ掛ける。
そしてそれが外れないことを確認すると、体育座りをして右手でネクタイを掴み、ドアに背中を押し付けながら腰を浮かせた。

190 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/26(月) 20:09:29 ID:NQZDA7Io
輪の中に首を入れる。
でも……本当に…………これでいいのかな。

そう思った瞬間、突っ張っていた両足が疲れてきた。
力が抜けて、腰が落ちる。
それと同時、ネクタイが頸部を強く圧迫した。


少女「……ぅぐっ?!」


息が詰まり、頭の中がとても熱い。
そしてすぐに意識が朦朧として、なすすべもなく眠りの中に落ちていった――。

191 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/26(月) 20:14:19 ID:5QUnJ7oQ
今日はここまでにします
レスありがとうございました

192 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/27(火) 01:12:44 ID:plRJFZ5U
足の疲れが原因か

193 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/27(火) 22:06:40 ID:F8CIbtDw
・・・
・・・・・・
〜友の部屋〜
催眠術が成功し、少女さんは友の誘導に従って当時の状況を語り始めた。
告白の決意と不安。そして、首吊り自殺――。
そのすべてを話し終えたとき、少女さんは催眠状態から復帰した。


少女「……はあはあ」

友「少女さん、お疲れさま」

少女「私、死んだ。本当に……自殺していたんだ」ハアハァ

友「そうみたいだね。そしてこの直後に家族が少女さんを見つけて、すぐに病院に搬送したんだと思う。魂が抜け落ちて幽霊になったのは、そのときだ」

少女「あまり実感が湧かないけど、そういうこと……だったんだ」

194 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/27(火) 22:14:22 ID:guseBiq.
男「どうして……どうして、こんなことで死ねるんだよ!」

少女「こ、こんなこと?」

男「だって、少女さんは俺に告白するつもりだったんだろ。それなのに、こんなの現実から逃げ出しただけじゃないか!」

少女「それは……」


少女さんの気持ちも分からなくはない。
男子生徒が自殺し、さらに週刊誌に心ない記事を書かれて、少女さんは精神的に追い詰められていたからだ。
そのせいで、恋愛に対して強い劣等感を抱いていたのかもしれない。

だけど、頑張って告白してほしかった。
そしてそれ以上に、こんな形で将来の夢を諦めないで欲しかった。

195 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/27(火) 22:21:33 ID:guseBiq.
友「そう熱くなるなよ。まさか、本当に少女さんが逃げ出したと思っているんじゃないだろうな」

男「思いたくないけど、そうとしか考えられないだろ。こんなことで自殺をするなんて、少女さんらしくないじゃないか!」

友「そういうことだよ。それが分かっているなら、もっと他にすることがあるんじゃないのか」

男「……!」


友の言うとおりだ。
いきり立つだけなら、誰でも出来る。


男「少女さん、ごめん。記憶を思い出してつらいときなのに、責めるようなことを言ってしまって……」

少女「いえ、いいんです。現実から逃げたのは本当ですから」

友「……」

196 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/27(火) 23:02:40 ID:F8CIbtDw
友「それじゃあ、気を取り直して少女さんの自殺の動機を考えてみようか」

男「それは、やっぱりアレなんだろうな」

少女「……」

友「確かにそれが関係ないとは言えないけど、ひとつ気になっていることがあるんだ」

男「気になること?」

友「ああ、少女さんには事故死霊の特徴があるだろ。それなのに、偶発的な要素がまったくないんだ」

男「足が疲れたことが原因だから、半分は事故みたいなものだろ」

友「いや、俺たちの業界筋では、能動的または受動的な要因で偶発的に死ぬことを事故死と言うんだ。その代表例が交通事故なんだけど、突然発生した事件や事故に巻き込まれて死亡した被害者には、ある共通した特徴が見られる」

男「それって、何なんだ?」

友「彼らの多くは、自分がなぜ死んだのか分かっていないんだ。そして、その現場に近付くのを恐れるようになる。そのせいで死を実感する事ができないから、事故死霊は成仏できない場合があるんだ」

197 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/27(火) 23:44:28 ID:guseBiq.
少女「それって、私と同じ状況ですね」

友「そうだよ。だから、少女さんは間違いなく事故死霊なんだ」

男「そう言われると、足の疲れは体力的な問題だから事故ではないよな」

友「ああ。マスコミに盗撮されていたことやネガティブ思考も、極論すると精神的な問題だから事故だとは言えないだろう」

少女「そうなると、やっぱり私の死因はただの自殺ってことになるんじゃないですか?」

友「いや、少女さんの自殺にはもっと他の要因が隠されている」

198 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/27(火) 23:47:41 ID:VykA8y2A
男「他の要因って、どういうことだよ」

友「そうだな、俺はうさぎのぬいぐるみが怪しいと思っている。少女さん、いつも話をしているの?」

少女「んなっ// そこですか?!」

男「それは俺も気になったかも。双妹がぬいぐるみと話しているところって見たことがないから、すごくメルヘンだなって思ったし」

少女「それはその……」

少女「何と言うか……私には歳が離れたお姉ちゃんがいるんですけど、私が小学生になる前に一人暮らしを始めて――」

少女「だからその、家ではぬいぐるみがお友達なんです//」

友「なるほど」

少女「あうぅっ……//」

199 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/28(水) 00:34:55 ID:VGtwCazY
友「どうやら、うさぎのぬいぐるみを調べてみないといけないみたいだな」

少女「ええっ! あの子を調べるの?!」

友「うさぎのぬいぐるみを手に取ったときから、少女さんの感情が急激に落ち込んでいるだろ。もしかすると、何らかの痕跡が残されているかもしれない」

少女「何らかの痕跡って、どういうことですか」

友「悪いけど、それはまだ言えない。もしかしたら盗撮カメラや盗聴器を仕掛けていた痕跡が残されているかもしれないし、それとは違うもっと別の何かが見付かるかもしれないからな」

少女「もっと別の何かって、何だか怖すぎるんですけど……」

男「でもさあ、うさぎのぬいぐるみを調べたとしても、少女さんの自殺から1週間も過ぎているから、あまり期待は出来ないんじゃないかな」

友「そうかもしれないけど、今は少しでも情報が欲しいし、何もしないよりは良いだろ」

男「まあ確かに――」

200 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/28(水) 00:41:03 ID:VGtwCazY
今日はここまでにします
レスありがとうございました

201 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/28(水) 20:15:59 ID:kfKbvawM
少女「あのっ、解離性同一性障害の可能性はありませんか」

男「解離性同一性障害?」

少女「いわゆる二重人格のことです」


二重人格なら、小説や映画の中で聞いたことがある。
1つの身体に二人の人格が入っているというものだ。
その場合、もう一人の人格は破壊衝動や自殺願望を持っている場合が多いらしい。


男「つまり、うさぎのぬいぐるみは別人格のメタファーだったということか」

少女「はい。それなら別人格が自殺をしていても、主人格の私は何も知らないってことになりますよね。辻褄が合っていると思います」

友「確かに偶発性の説明は付くけど、その可能性はないだろうな」

202 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/28(水) 20:40:21 ID:kfKbvawM
少女「はあ……。帰りたくないんだって、察してくださいよ」

友「それは分かってる。ぬいぐるみを調べるときに少女さんも来てくれって訳じゃないから」

少女「でも、私の部屋に入るんですよねえ」

友「あっ! 俺が一人で行っても入れないのか」

少女「そうですよ。残念でしたね♪」

友「少女さんの友達を紹介してもらえたら助かるんだけど、他に何か上手い方法はないかなあ――」


少女さんの友達?
そういえば今、双妹が友香さんに会っているはずだ。
しかも、彼女は俺に会いたがっているらしい。

203 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/28(水) 22:35:26 ID:kfKbvawM
男「少女さんの友達なら、俺が紹介できるかもしれない」

少女「紹介って、まさか友香ちゃんを?!」

友「マジかっ! 男に宛があるなら、俺に紹介してくれよ!」

男「良いけど、実は俺もまだ会ったことがないんだ」

友「どういうことだよ、それ」

男「何だか俺に会いたがっているらしくて、近い内に会う約束をしているんだ。だから、そのときに友の話を振ってみる」

友「……」

友「少女さんのことを考えると、訳ありなんだろうな。とりあえず、いい感じで頼む」

男「分かった」

204 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/28(水) 22:37:49 ID:VGtwCazY
友「さてと、上手く行けば、来週の日曜日には調べられそうだな」

少女「来週の日曜日って、そんなに急ぐ事なんですか?」

友「そりゃあ、少女さんも早く安心したいだろ」

少女「それはそうですけど、散らかっている部屋を見られたくないです」

友「大丈夫。ご両親がきれいに掃除してくれているはずだから」

少女「そういう問題じゃなくて、家に帰ると本当に良くないことが起きると思うんです」

友「だから、俺がそう思う原因を取り除いてあげるよって言ってるんだ」

少女「でも、でも……」


ぬいぐるみの調査が現実味を帯び始めて、少女さんが渋り始めた。
友に自分の部屋を見られたくない気持ちは分かるけど、それでは今までと何も変わらない。
そう思い、友に助け舟を出すことにした。

205 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/28(水) 22:41:33 ID:kfKbvawM
男「少女さんは催眠術の提案をされたとき、『自分を見詰めることが出来るようになれば、いろんなことが分かるようになる』って、そう言っていただろ」

少女「……はい」

男「死んだときの記憶を思い出して、何か分かった?」

少女「分かったと言うか、やっぱり私が自殺をするなんておかしいです。だって、男くんに告白するって決めたんだもん!」

少女「……あっ! いえ、これは違うんです!!」アセアセ

男「いいよ、ありがとう。少女さんはつらいことがあっても、前向きに頑張っていける人だと思う。俺はそう思ってる」

少女「……うん」

男「少女さんの記憶は戻ったけど、少女さんの主観だけでは分からない部分があるんだ。だから、もう少し一緒に頑張ってみようよ」

少女「そう……ですね。調べてみてください、私の部屋を――」


少女さんはそう言うと、友を見詰めた。
その表情には、強い意志を感じられた。

206 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/30(金) 20:45:49 ID:57eyaXz.
〜市街地〜
少女さんの催眠術が無事に終わり、俺と少女さんは友の家を後にした。
そして、二人で歩く日曜日の午後。
お互いに告白のことを意識してしまい、ずっと沈黙が続いている。
そんな気まずい雰囲気の中、少女さんが口を開いた。


少女「ちょっと休んでいきませんか」


少女さんはそう言って、公園を指差した。
普段なら親子連れが多い場所だけど、昨日の雨で水たまりが出来ていて、今日は誰もいないようだ。
二人で話をするにはちょうど良いかもしれない。

207 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/30(金) 22:51:09 ID:twkEuJY2
男「そうだね。少し休んでいこうか」

少女「……」


俺はぬかるんだ地面に気を付けながら、公園の中に入った。
その隣を少女さんがふわふわと付いてくる。
そして、二人でベンチに座った。


少女「えっと、その……さっきの告白のことなんですけど――」


少女さんは不安げな様子で言い、顔を俯けた。
もしかして、告白の続きをしてくれるのだろうか。
その気持ちはとてもうれしいけれど、彼女はすでに死んでいる。
付き合うことなんて出来るはずがない。

だけど、理屈ではなくて……。

彼女の気持ちと前向きな想い、そして自殺の悲しみ。
それらを二人で分かち合いたいと思った。

208 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/30(金) 23:15:19 ID:N9jhFgDI
男「……少女さん!」


俺は力強く立ち上がり、まっすぐに少女さんを見詰めた。


少女「は……はいっ……」

男「俺は少女さんのことが好きです!」


これが今の俺の気持ちだ。
それを伝えると、少女さんは唖然とした表情になり、やや遅れて驚きの声を上げた。


少女「ええぇっ?!」

男「こういう時ってさあ、やっぱり男子のほうから告白するべきだと思うから」

少女「本当に私なんかで良いんですか?!」

男「ああ、俺は少女さんのことが好きなんだ。だから、付き合ってください!」


きっと、大丈夫。
この告白は絶対に成功するはずだから――。
しかし、ややあって少女さんは冬の空のように顔を曇らせた。

209 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/30(金) 23:38:12 ID:kMqQQSmc
少女「……どうして、どうしてそんなことを言うんですか?!」

男「俺じゃあ、駄目なのかな」

少女「だって、私は死んでいるんですよ! 恋愛なんて出来るわけがないし、付き合うことなんて出来るわけがないじゃないですか」

男「でも、少女さんは俺に告白するつもりだったんだろ。そう言ってたじゃないか」

少女「それは……それは、生きていたときの話です!」

少女「私は結婚が出来ないし、赤ちゃんを産むことも出来ません。だからあのとき、私は双妹さんの前から逃げ出したんです」

少女「男くんのことが好きだからこそ気持ちを伝えないって、そう決めたんです!」

少女「それなのに――」


自殺の動機に、俺と双妹が関わっていた。
そしてその記憶と告白の決意を、催眠術を通してしゃべってしまった。
それは、少女さんにとって想定外のことだったのだ。

210 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/30(金) 23:45:34 ID:kMqQQSmc
男「人が人を好きになるのに、そんな理屈は関係ないんだよ!」

男「確かに少女さんは死んでいるし、幽霊だから付き合えないって思ってた」

男「だけど少女さんが記憶を思い出していくにつれて、つらいことがあっても前向きに頑張っていける人なんだなと思った。そして、そんな少女さんと気持ちを分かち合いたいと思ったんだ」

少女「でも、でも……私は4月1日でいなくなるんですよ!」

男「だから、そんな理屈は関係ないって言ってるだろ!」

少女「ふふっ……」

男「何がおかしいんだよ」

少女「ご……ごめんなさい。ちょっと、友香ちゃんの言葉を思い出して」

男「友香さんの?」

少女「好きな人に告白するのは、本当に勇気がいることだと話していたんです。それでその後スイーツ店でおしゃべりをしていたんですけど、やっぱり強引さも必要だったんだなと思って」

少女「男くん……本当に幽霊の私なんかで良いんですか?」

211 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/03/31(土) 00:12:46 ID:JlnGkhdU
男「だから、そう言ってるだろ」

少女「私も男くんのことが好きです。付き合って欲しいです!」

男「これで俺たちは恋人同士……だね」


そう言うと、少女さんは気恥ずかしそうに立ち上がった。
そして、右手を差し出してきた。

少女さんの手が触れて、そのまますり抜ける。
そう思った瞬間、彼女の右手が俺の左手に触れた。


少女「私ね、実は触ることが出来るんです」

男「それって、俺に姿を見せている方法と同じ理屈でってこと?」

少女「理屈なんて関係ないですよ//」

男「そうだな」


俺たちに理屈なんて関係ない。
今までは触れることが出来なかった、少女さんの身体。
その身体に触れることが出来て、体温を感じることが出来ている。
その事実だけで、俺の心は満たされていた。

212 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/02(月) 22:36:44 ID:2kwO/qSg
〜自宅・部屋〜
少女「な……何だか緊張しますね」ソワソワ

男「緊張するって言うけど、今朝までと何も変わらないだろ」アセアセ

少女「でも、付き合い始めたその日にお泊りだなんて//」


少女さんはそわそわと落ち着きがない様子で、ベッドに座った。
あまり離れられないので、俺もその隣に座る。


男「お、お泊りとか言うなよ」

少女「そ、そうですよね」

男「でもその……これってお泊りというか同棲だよな」

少女「はわわ// 同棲とか言わないでくださいよ」

男「あの、少女さん――」

213 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/02(月) 23:37:27 ID:2kwO/qSg
双妹「男、おかえり」


少女さんと落ち着いて話をしようかと思った矢先、双妹が部屋に入ってきた。


男「双妹、ただいま」

双妹「……」

双妹「…………」

男「どうかしたのか、黙り込んで」

双妹「ごめん、何でもない――」

214 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/03(火) 00:20:10 ID:Ifp8Goqw
男「何でもないってことはないだろ。もしかして、何かあったのか」

双妹「……うん」


双妹は力なく頷くと、俺の隣に腰を下ろした。
そして、そこに座っていた少女さんが慌てて横によける。


少女「もうっ、そこは私が……って、あ、ああ、そっか」


少女さんは言葉を詰まらせると、悲しげな表情を見せた。
双妹も同じく、悲しげでつらそうな表情をしている。

双妹は友香さんに会い、知ってしまったのだ。
少女さんの死を――。

215 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/03(火) 00:23:35 ID:LpENAeT2
男「話しにくいことなら、今日でなくても大丈夫だけど……」

双妹「ごめん、大丈夫」


双妹は気丈に言うと、軽く笑って見せた。
それだけで、これから話す内容があまり思わしくないものであることが分かる。


双妹「友香さんのことなんだけどね、明日のお昼に学校を休んで会えないかな」

男「学校を休んで?!」

双妹「……うん。ちょっと事情があって、多分その時間じゃないと駄目なの」

男「事情?」

双妹「驚かずに聞いてくれる?」

男「あ……ああ」

双妹「少女さんね、病院でずっと寝たきりになっているの」

216 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/03(火) 12:14:43 ID:VF91oP8A
幽体離脱ないしは生き霊か

217 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/03(火) 23:41:58 ID:Ifp8Goqw
男「それって、どういうことだよ」


少女さんが病院でずっと寝たきりになっている?
だったら、どうしてここに少女さんがいるんだ。
まるで訳が分からない。


双妹「13日のお昼に友香さんが少女さんの家に行ったら、少女さんが部屋で倒れていたんだって。それで病院に運んだんだけど、まだ意識が戻ってないの」

双妹「それでね、友香さんと一緒にお見舞いに行ってきた。本当は家族しか会えないんだけど、ご家族の方がいらして特別に会わせてくれたの」

男「少女さんに会ったのか?!」

双妹「……うん。でも、でもね……機械がいっぱいつながっていて、私はとても見ていられなかった――」

男「じゃあ、少女さんは……」

少女「そんなの、あり得ないです!」

218 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/03(火) 23:47:27 ID:Ifp8Goqw
双妹「ねえ、友香さんに会える?」

双妹「友香さんは男が少女さんに会えば、目が覚めるんじゃないかって。奇跡が起きるんじゃないかって、そう思ってる」

男「明日、友香さんに会いに行く。そして、病院で寝ている少女さんに会ってみたい!」

少女「……」

双妹「じゃあ、友香さんに連絡しておくわね。あと、私も一緒に行くから」

男「分かった。双妹、ありがとう」

双妹「少女さんに会えるかどうか分からないけど、本当に奇跡が起きるといいよね――」


双妹は肩を落とし、力なく立ち上がった。
そして「晩ご飯の手伝いをしてくる」とだけ言い残し、部屋を出て行った。

219 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/03(火) 23:57:36 ID:Z3abjQzU
男「少女さん! 少女さんは死んでなんていなかったんだ!」


思いも寄らない報せに、俺は声を上げた。
死んでいると思っていた少女さんが実は生きていただなんて、こんなにうれしいことはない。
考えてみれば、少女さんが生きていることを示す証拠はいくらでもあった。

少女さんが最初に病院で気が付いたこと。
新聞に少女さんの死を報じる記事がなかったこと。
妹友さんが『今は学校に来ていない』と言っていたこと。

恐らく、少女さんは幽体離脱をしてしまったのだろう。
だから入院している少女さんは、ずっと寝たきりで意識が戻らないのだ。


少女「私は首吊り自殺をしたんですよ。生きているはずがありません!」

男「じゃあ、友香さんと双妹が嘘を吐いているってこと?」

少女「それは……」

220 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/04(水) 00:05:58 ID:r0MSXfIg
男「友香さんのこと、友達なら信じてみようよ。もしかしたら、本当に奇跡が起きるかもしれないだろ」

少女「でも、私には分かるんです」

男「分かるって言うけど、少女さんが生きているのは事実だろ。少女さんが病院に戻れば、ぱちって目が覚めるんじゃないかな。それがハッピーエンドってやつじゃないか」

少女「そんな小説みたいなこと、起きる訳がありません」

男「もしかして、少女さんは生き返りたくないの? 俺たちは付き合い始めたわけだし、生き返れば色んなことが出来るようになると思うよ」

少女「私だって生き返れるならそうしたいです。でも、無理なんです。奇跡なんて起こりようがないんです!」

男「どうして、そう思うんだよ。もっと前向きに考えてみろよ」

221 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/04(水) 00:25:43 ID:r0MSXfIg
少女「心肺蘇生法の救命率はご存知ですか」

男「心肺蘇生法の救命率?」

少女「病気などで心肺停止状態になってしまったとき、その時間が長くなると救命率が下がっていくんです。一般的に、2分以内に心肺蘇生法が開始された場合の救命率は90%程度だと言われています」

男「それなら、保健体育の授業で習ったかも」

少女「それでその救命率なんですけど、4分後で50%程度、5分後には25%程度にまで下がってしまいます。どうして、こんなに早く下がると思いますか?」

男「それは心臓が止まって酸素が回らなくなるからだろ」

少女「そうです。その時間がわずか3分で、脳細胞がダメージを受けてしまうんです。だから、早期の救命活動が必要なんです」

男「少女さんの場合も同じだって言いたいのか」

少女「私の場合は首吊り自殺なので、頸部の動脈が締められて脳に血液が流れなくなります。だから発見が遅れれば遅れるほど、脳に致命的な障害が残ることになるんです」

男「じゃあ、少女さんは……」

少女「それが分かっていても、前向きに考えられるんですか!」

222 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/04(水) 00:34:12 ID:uNOmdCEA
男「それでも、希望はあると思うんだ!」

少女「そんなのないですよ!」

男「だって、友香さんも看護科の生徒なんだろ」

少女「その友香ちゃんが奇跡にすがっている時点で、もう駄目ってことじゃないですか」

男「だったら、俺が傍にいてやるよ」

少女「えっ?」

男「意識が戻ったら、今度は俺が傍にいてあげるから」

少女「……私の身体は自殺の後遺症が残っているかもしれないんですよ」

男「告白したときに言っただろ。少女さんはつらいことがあっても、前向きに頑張っていける人だと思う。俺はそんな少女さんと気持ちを分かち合いたいんだ」


少女さんは変に知識があるせいで、希望を持つことが出来ないのかもしれない。
だけど、助かるはずの命が消えてしまったら、それはもう二度と取り返しがつかないのだ。
自殺の後遺症なんて、一緒に克服して行けばいいと思う。

223 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/04(水) 01:01:17 ID:r0MSXfIg
今日はここまでにします
レスありがとうございました

224 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/04(水) 20:34:31 ID:uNOmdCEA
少女「気持ちを分かち合う……か」

男「そうだよ、一緒に頑張ろう。そうすれば、後遺症があったとしても乗り越えられるはずだから!」

少女「……」

少女「ありがとう。私、まだ死にたくない。もっと生きていたい!」

男「絶対に大丈夫。奇跡を信じて、友香さんに会ってみようよ」

少女「うんっ!」

男「じゃあ、友に連絡してみるか」

少女「友くんに?」

男「幽体離脱をした少女さんが身体に戻れなくなっているなら、俺たちよりも友のほうが詳しいはずだろ」

少女「そうだね」

男「それじゃあ、電話してみる」

225 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/04(水) 23:02:24 ID:TiT1XedY
PiPoPa...


男「もしもし」

友『もしもし、男か。どうしたんだ?』

男「実はな、少女さんは死んでいなかったんだ。それで友に相談したいことがあるんだけど、大丈夫かな」

友『ちょっと待て! 死んでなかったって、どういうことだよ』

男「双妹によれば、少女さんは病院でずっと寝たきりになっているらしいんだ」

友『いや、普通に考えて、少女さんは間違いなく死んでいる。誰かと間違えているんじゃないのか』

男「そんな訳ないだろ。間違いなく死んでいるって、どうしてそんなことが分かるんだよ」

友『それは少女さんの霊子線が切れているからだ』

226 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/04(水) 23:07:56 ID:uNOmdCEA
男「霊子線?」

友『霊体と肉体を繋ぐ幽体の線のことで、いわゆる命綱みたいなものだ。少女さんに生きていて欲しいって気持ちは分かるけど、それが切れているってことはもう死んでいるってことなんだ』


そう言われ、俺は少女さんを見てみた。
しかし、線のようなものが繋がっているようには見えなかった。


男「確かにそんな線は見えないけど、双妹は実際に会ってきたんだぞ」

友『本当の本当に、双妹ちゃんが会ってきたのは少女さんなのか?』

男「当たり前だろ。友香さんと一緒に行ったんだから」

友『もしかすると、少女さんは何らかの理由で生かされているのかもしれない』

男「生かされている?」

友『霊子線が切れている状態で心臓が動いているはずがない。それなのに生きているとしたら、それは人工的に延命されているからだ』

227 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/04(水) 23:43:03 ID:uNOmdCEA
男「人工的に延命されているって、どういうことだよ」

友『最近の医療技術はすごく発達しているから、ごく稀にそんな浮遊霊がいるらしいんだ』

男「へえ、そうなのか」

友『……んっ? ちょっと待て!』

友『もしかして、男は少女さんを生き返らせたいと考えているのか?!』


スマホの向こう側で、友が声を上げた。
さすが、察しがよくて助かる。


男「ああ、少女さんの身体が生きているのなら魂が戻れるはずだろ」

友『そうなんだけど、霊子線が切れているからなあ。戻れないことはない……と思うけど、期待は出来ないと思う』

228 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/04(水) 23:47:51 ID:uNOmdCEA
男「明日の昼、友香さんと一緒に少女さんが入院している病院に行くんだけど、友も来てくれないかな」

友『明日の昼?』

男「午後の授業を休んで、お見舞いに行くんだ。少しでも早く、少女さんを自分の身体に戻してあげたいだろ」

友『でも、マジでそんなことが出来ると思っているのか?』

男「さっき、戻れないことはないって言ってたじゃないか」

友『確かにそう言ったけど、一度切れた霊子線は二度と繋がらないんだ。奇跡でも起きない限り、少女さんの魂は肉体に定着しないと思う』

男「だから、俺たちはその奇跡を起こしに行こうって言ってるんだ」

友『奇跡を起こす……か』

男「ああ。助けられるかもしれない命を何もせずに諦めるなんて、出来るわけがないだろ」

友『そうだな。やれるだけやってみるか!』

男「おうっ! ありがとう」

229 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/06(金) 23:26:30 ID:uL3Kg94E
・・・
・・・・・・
交際が始まって初めての夜。
お風呂から上がって話をしていると、いつの間にか午後11時を過ぎていた。


男「明日は月曜日だし、そろそろ寝ようか」

少女「そうですね。おやすみなさい//」

男「うん、おやすみ」


俺は電気を消してベッドに入った。
しかし、まったく眠くならない。

俺のすぐ隣で、少女さんが眠っている。
しかも彼女は幽霊なのに、身体に触れることが出来る。
あまりにも無防備すぎて、意識するなと言う方が無理なのだ。

230 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/06(金) 23:30:28 ID:v1oUjXs2
少女「あれっ? 男くん、まだ起きているんですか」

男「ちょっと、寝付けなくて……」

少女「実は私もなんです」

男「少女さんもなんだ」

少女「うん// 眠れないなら、もう少し話をしませんか」

男「そうだね」


そう言うと、少女さんは今日の出来事を振り返り始めた。
それを聞いていると、改めて今日は色んなことがあったんだなと実感させられた。

231 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/07(土) 00:48:21 ID:IX9C7RdA
少女「ところで、お風呂はドキドキしましたね//」

男「それはだって、少女さんが相変わらず一緒に入りたいって言うから」

少女「男くんも健全な男子だもんね。やっぱり、私とその……えっちなことをしてみたいですか//」

男「えぇっ?!」

男「それはまあ何と言うか、少女さんは可愛いし、はっきり言うとしたい……と思ってる」

少女「ふふっ、そうなんだ//」


少女さんは恥ずかしそうに微笑み、上目遣いで俺を見詰めてきた。
すると俺はその視線に興奮し、急激に性衝動が湧き起こってきた。
心臓が激しく脈を打ち、陰茎が勃起してガチガチに硬くなる。

そんな状況の俺に、少女さんが手を重ねてきた。
そして、あまい声でささやく。


少女「それなら、一緒に触りっこをしませんか//」

232 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/07(土) 00:59:17 ID:IX9C7RdA
男「いやいや、さすがにそれは駄目だろ」

少女「駄目じゃないよ。初めてだから、その……優しくしてほしいです//」

男「そういうのはまだ早いって」

少女「私には時間が残されていないし、付き合っているんだから……ね?」


少女さんはそう言いつつ、俺の上半身から下半身へと指先を滑らせる。
そして、その手が硬くなっている陰茎に触れた。
しかし、性的な刺激はほとんど感じない。


少女「今度は男くんが触る番だよ//」

男「……それじゃあ、優しく触るから」

233 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/07(土) 01:26:40 ID:PKJXtEjs
少女「……んっ//」

男「少女さん、すごく柔らかい」


少女さんの胸に軽く触れると、手のひらにその柔らかさが伝わってきた。
可愛らしい表情とお皿のような微乳の膨らみ。
このままでは、限界まで溜まっている欲望が一気に溢れ出してしまいそうだ。

というか、もう1週間以上もオナニーをしていないのだ。
今までずっと我慢してきたけれど、もうしたくてしたくて堪らない。


少女「私ね、今ドキドキしているの//」

男「そんな事を言われたら、途中で止めることが出来なくなるけど」

少女「良いよ、もっとたくさん触ってほしいです//」

男「それじゃあ、本当にするから」


俺は少女さんを見詰め、優しく撫でるようにして身体に触れた。
胸の膨らみを、そして少女さんの柔肌を。
しかし次の瞬間、俺が感じたのは毛布とシーツの激しい抵抗だった――。

234 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/07(土) 01:47:04 ID:v8BcVV4Y
男「……!」

少女「期待させてごめんなさい」

少女「私は触っていると錯覚させることは出来る。だけど、本当に触ることが出来る訳じゃないんです」

少女「だからもし我慢できなくなったら、そのときは新しい彼女を作ってください。幽霊の私に好きだって言ってくれただけで、もう十分だから……」

男「その言い方、俺が身体目当てで告白したみたいに聞こえるんだけど」

少女「そう聞こえたのなら、ごめんなさい。でも、今のうちに話しておきたかったんです」


少女さんはそう言うと、毛布をすり抜けて背中を向けた。
実際のところ、少女さんはどの程度の障害を負ってしまったのだろうか。
自分の身体に戻ったあと、いつも通りの生活に戻ることが出来るのだろうか。

235 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/07(土) 01:52:51 ID:v8BcVV4Y
男「不安なのは分かるけど、奇跡を信じて前向きに考えようよ。たくさんお見舞いに行くから、一緒にリハビリを頑張ろうぜ」

少女「……うん」


結局、明日になってみなければ何も分からないのだ。
だから、今は奇跡を信じるしかない。


男「少女さん、おやすみ」


俺は少しでも気持ちがほぐれるように、優しく声を掛けた。
そして、どうしようもないほど興奮している欲望を必死に抑えながら、明日に備えて目を閉じた。

236 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/08(日) 23:28:14 ID:gl9fWclk
おつ

237 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/09(月) 22:12:35 ID:TJz.3EOY
(2月13日)sat
〜病院・少女さん〜
う……ううん。
ここはどこなんだろう。

気が付くと、私はベッドで横たわる自分の姿を見下ろしていた。
いくつもの機械が設置されていて、何本ものチューブやケーブルが身体につながっている。
人工呼吸器とよく分からない装置、そして各種モニターと点滴注射。
高度な医療機器を使っていることから察するに、ここは病院のICUらしい。

どうして、私はこんなところにいるのだろう。
しばらく考えてみた。
しかし、うまく思い出すことが出来ない。

238 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/09(月) 23:54:47 ID:iAbOuIbQ
あれっ。
そういえば、私って私を見下ろしてない?

もしかして、このまま死んじゃうのかな。
だから、自分を見下ろしているのかなあ。

まだ、やり残したことがいっぱいある。
男くんに告白をしてないし、看護師になる夢も諦めたくはない。
だけど、もう叶うことはないのだ。

ならば、ささやかな願いを一つだけ――。

会いたい。
せめて、最期に男くんに会いたいよ。

私は病室のドアを見詰める。
そして、強く念じてドアをすり抜けた。

239 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/09(月) 23:58:39 ID:iAbOuIbQ
少女「むぎゅうっ」


病室を出たと思った瞬間、私はまた病室の中に引き戻されていた。
身体が引っ張られて、病室から出ることが出来ない。

どうして出られないの?
私は男くんに会いたいだけなのに……。

半ば諦めて振り返る。
すると、眠っている私の頭から銀色の紐みたいなものが伸びていることに気が付いた。
どうやら、それが私の頭と繋がっているらしい。

これ、外せないかなあ。
とりあえず引っ張ってみた。
だけど、頭から抜ける気配はない。
つなぎ目も探してみたけど、そんなものはなさそうだ。

こうなったら、引き千切るしかない!
私は意を決して、銀色の紐を手に取った。

240 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/09(月) 23:59:46 ID:VEubA3ic
今日はここまでにします
レスありがとうございました

241 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/10(火) 22:57:51 ID:yHHUh7VU
(2月22日)mon
男「なあ、少女さん。俺、すごいことに気が付いたんだけど!」

少女「すごいことですか?」

男「俺が少女さんに触ろうとしたら、力加減が出来なくて通り抜けてしまうだろ」

少女「そうですね」

男「でも、少女さんが触ろうとすれば俺に触れるわけだ」

少女「正確には触っていると錯覚させているだけですけど」

男「その触っている感覚を工夫すれば、えっちなことも出来るんじゃないかと思うんだ!」

少女「すごいことって、そういうこと?!」アセアセ

男「ちょっと試してみようよ!」

少女「ええぇっ! ほ……本当にちょっとだけですからね//」

・・・・・・
・・・

242 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/10(火) 23:00:55 ID:yHHUh7VU
〜自宅・部屋〜
少女「男くん、おはよう♪」

男「んっ……あ、ああ、おはよう。なんだ、夢だったのか」

少女「ふふっ、今朝はどんな夢を見ていたんですか。すごく気持ち良さそうな寝顔でしたよ//」

男「どんな夢だったっけ……」


俺はまどろむ頭で、夢の内容を振り返った。
少女さんが恥ずかしそうに服を脱ぎ、いやらしい手付きでしごいてくれる夢。
その刺激で興奮が高まっていき、俺は欲望を吐き出した。

そんな夢だったとは、とても言えそうにない。
俺はそう思いつつ身体を起こすと、下半身にぬるりとした違和感を感じた。


男「やべっ、夢精してるし!!」

少女「むせい?」

少女「それってもしかして、噂で聞くオトコの人のアレってことですか?!」

243 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/10(火) 23:04:29 ID:KfN5/umY
男「ご、ごめん! とりあえず、後ろを向いてくれるかな」

少女「は、はいぃっ!!」アセアセ


少女さんが背中を向けたことを確認し、ベッドから下りてパジャマを脱いだ。
そして下着をめくると、想像を絶する惨劇が繰り広げられていた。
しかも、イカ臭いにおいがむわっと部屋中に拡散していく。

もう完全に気付かれているだろうな。
そう思いつつ下着を脱ぐと、部屋のドアが開いた。
いつの間にか、双妹が起こしに来てくれる時間になっていたようだ。

244 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/11(水) 00:54:17 ID:Z1t07Bbw
双妹「男、おはよう♪」

男「おはよう」

双妹「ふふっ、やっぱり夢精しちゃったんだ//」

男「なんて言うか、あれから一度も出来なくて」

双妹「ふうん。でも、お互いにこういう日ってあるよね。私も生理の血が下着に付いちゃって、朝からすごくショックだよー」

男「ああ、双妹は今日から生理なのか。いつもちゃんとしてるのに、失敗するって珍しいな」

双妹「うん。準備はしていたんだけど、予定より1日早く来ちゃったみたいで――。これってさあ、双子のシンパシーかなあ」

男「いや、さすがにそれは微妙なんだけど」

245 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/11(水) 01:00:58 ID:TGdJA6B2
双妹「あはは、冗談だってば。それじゃあ、下着をもらっていくわね」


双妹は俺の下着を手に取ると、未だかつてない惨劇を見て口元を緩ませた。
そしてティッシュで軽く拭き取り、ゴミ箱に手を伸ばす。


双妹「はあはぁ……//」

男「なあ、双妹。ついでに、パジャマも持っていってくれないかな」

双妹「ん? うん、良いよ。お風呂を温めておくから、身体を拭いたら下りてきてね」

男「ああ、ありがとう」

246 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/11(水) 01:06:56 ID:TGdJA6B2
少女「ねえ、男くん」

少女「双妹さんのことなんですけど、いくら兄妹でも、さすがにおかしくないですか?」


双妹が部屋を出て行くと、少女さんが困惑した様子で口を開いた。
兄妹なのにおかしいと言われても、俺と双妹にとっては普通のことだ。
少女さんには男兄弟がいないらしいので、そういう部分で感覚が違うのだろう。


男「おかしいとか言われても生理現象だからよくあることだし、これくらい兄妹なんだから当たり前だと思うけど」

少女「そういうものなのかなあ」

247 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/11(水) 01:20:49 ID:rprvFlh6
男「それはそうと、見られたら恥ずかしいんだけど」

少女「えっ? ああ……ふふっ//」

少女「もしかして、私が誘惑したからえっちな夢を見ちゃったんですか」

男「それはまあ、そうかもしれない」

少女「えへへ、ちょっとうれしいかも// オトコの人のって初めて見たけど、何だか初夏の匂いがするんですね」スンスン

男「少女さんは匂いも分かるのか。意外とむっつりスケベなんだな」

少女「はわわ、そんなことないですから//」


少女さんは力強く否定すると、慌てて後ろを向いた。
俺はそんな彼女を見やり、身体を拭いて着替えることにした。

248 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/11(水) 03:04:25 ID:p.OsMKuo
おつ

249 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/11(水) 19:10:10 ID:Z1t07Bbw
〜最寄り駅〜
今にも雪が降ってきそうな寒い朝。
最寄り駅に着いた俺と双妹は、暖を取るために待合室に入った。


双妹「今日からしばらく、座席争いはしなくて良さそうだね」

男「そうだな。3年生がいなくなっただけで、こんなに変わるのか」


一昨日の土曜日、俺たちの学校で卒業式があった。
そのおかげで、電車を待っている学生の数が半分くらいに減っている。
新学期が始まるまでは、ゆっくり座ることが出来そうだ。


双妹「うちの学校って、他より卒業式が早いよね。やっぱり、進学とか就職の準備をしないといけないからなのかなあ」

男「そうだろうな。県外に行く人は引越しの準備もあるだろうし、早いほうが助かるんじゃないか」

双妹「そうだよね。私は県内の大学に進学するつもりなんだけど、ゆっくり準備が出来るしそのほうがいいと思う」

男「大学って保育士の勉強?」

双妹「うん。子どもたちの力になりたいから、障がい児保育とか専門的な勉強もしておきたいの」

男「ふうん、ちゃんと考えているんだな」

250 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/11(水) 19:21:24 ID:Z1t07Bbw
双妹「ところで、今日のお昼のことなんだけど」

男「お弁当を食べたら、速攻で行くって事でいいんだろ」

双妹「そうなんだけど、その……会えるとは限らないから」

男「友香さんがいれば、何とかなるんじゃないの?」

双妹「集中治療室って、基本的に家族以外の面会は禁止されているらしいの。それで面会可能な時間も限られているから、私たちは家族の人がいる時間に合わせて行こうってことになっているの」

男「そうなのか。何とかして会いたいんだけどな……」


俺はそう言いつつ、ちらりと少女さんを見た。
不安に思っているのか、とてもつらそうな表情をしている。


双妹「友香さんもそのことを心配してた」

男「そのときは強行突破も持さない覚悟が必要かもな」

双妹「……いやいや、それは普通に無理でしょ」

251 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/11(水) 20:47:04 ID:Ppn/r2wI
男「そうなると、友だけが頼りだな」

双妹「そういえば、友くんも来るんだっけ」

男「ああ。少女さんのことで、色々と協力してもらっているんだ」

双妹「協力?」

男「まあ、ちょっとな」


霊能力でどんなことが出来るのかは分からないけれど、いざとなれば友が何とかしてくれるだろう。
俺は邪魔をしないように、サポート役に撤すればいい。


男「とりあえず、病院に行ってみないと分からないな」

双妹「そうだね」


まずは、面会が出来ますように。
俺はそう願いつつ、電車を待つことにした。

252 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/11(水) 20:54:35 ID:Ppn/r2wI
今日はここまでにします
レスありがとうございました

253 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/11(水) 22:50:53 ID:Sx9rvh56
生きかえるのか?
皆んなが幸せになるといいな

254 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/12(木) 20:05:59 ID:PnP.t9GE
〜学校・HR〜
男「友、うっす」

友「うっす! 双妹ちゃん、おはよう」

双妹「おはよう。今日のお昼、友くんも来るって聞いたんだけど」

友「そうそう。少女さんの件で、俺もちょっと用事があるんだ」

双妹「ふうん、そうらしいわね。でも、面会が出来るとは限らないわよ」

友「えっ、何でだよ」

双妹「私たちも会えるか分からないし、一度に面会できる人数が決まっているから」

友「やっぱり、普通の病室じゃないのか」

双妹「うん。そういうことだから、そのつもりでいてね」


友はそう言われ、双妹の説明を聞きながら双妹の席までついて行った。
俺はそんな二人を見やり、自分の席に座ることにした。

255 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/12(木) 20:21:58 ID:JKEMspaM
男『少女さん、今朝のことで何か怒ってる?』

少女「……別にそんなことはないです」

男『それなら良いんだけど、ちょっと気になったから』


いつもは俺の隣でふわふわと浮いている少女さん。
それなのに、今日は俺の後ろにいることが多い。
ちょっとしたことだけど、何だかそれが心に引っかかる。


男『もしかして、緊張してる?』

少女「そうかもしれないです」


少女さんはそう言うと、窓の外を眺めた。
やっぱり、病院のことが気になっているのかもしれない。

そう思っているとチャイムが鳴り、HRが始まった。
そしてHRが終わると、1限目の英語の授業が始まった。

256 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/12(木) 20:32:35 ID:OkQKmZLg
女教師「今日は仮定法過去完了について勉強しましょう」

女教師「もしあのとき〜だったら、……だったのに」

女教師「仮定法過去完了はこのような意味で、if節に過去完了、主節に助動詞の過去形+have+過去分詞を用いるのが原則です」


男「少女さん、分かる?」ヒソヒソ

少女「……」

少女「ごめんなさい、聞いてなかったです……」

男「少し調子が悪そうだけど、大丈夫?」

少女「何だか胸が痛いというか、お腹もちょっと調子が悪くて……」

男「幽霊なのに、胸が痛い?」

少女「……ううっ、あうううぅっ!!」

女教師「If I had known she was in hospital, I would have・・・」

257 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/12(木) 20:36:11 ID:loKH8gnc
男「えっ?!」

少女「うぐううぅっ、んんっ! んんんっ……んぐぅぅっっ!!」


少女さんは呻き声を上げながら、床に崩れ落ちた。
必死な形相で胸を押さえ、丸くなって身悶えしている。
そんな彼女に、俺は慌てて席を立ち声を掛けた。


男「少女さん! 大丈夫っ!?」

少女「んんっ! むうぅぅっ……!!」


俺の呼びかけに応え、苦しそうな表情で首を横に振る。
こんなとき、どうすればいい。
保健室?
いや、急病人が出たなら救急車だ!

258 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/12(木) 20:47:12 ID:JKEMspaM
男「今から救急車を呼ぶから! すぐに楽になるから!!」

少女「ぅぅっ……」

女教師「男くん、何度言えば分かるの! 席に着きなさいっ!」


その言葉と同時、女教師が俺の前にやってきた。
そして、苦痛で呻いている少女さんの頭を踏みつけた。


男「……なっ! 何してんだよっ!!」


俺は立ち上がり、女教師を睨み付ける。


女教師「な……何ですか、その態度はっ!」

双妹「男、だめだよっ!」

双妹「先生、そこに立たないでください! そこを踏みつけないでくださいっ!!」

259 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/12(木) 21:03:47 ID:OkQKmZLg
女教師「双妹さんまで授業妨害ですか!」

双妹「そんなつもりはありません。でも、理由があると思うんです!」

双妹「ねえ、前々から、ずっと気になってた。男には何が見えているんだろう、誰と話をしているんだろうって」

双妹「やっと分かったわ」


双妹は厳しい視線を足元に向けた。
そして、すべてを見透かしたかのように優しい視線を向けてきた。


双妹「男には少女さんが見えているのね――」

260 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/12(木) 21:06:54 ID:loKH8gnc
男「……!」

男「今、少女さんが苦しんでる。俺は何とかして、彼女を助けたいんだ!」

双妹「助けたいって言われても、私たちには男が一人で騒いでいるようにしか見えないんだよ。まずはみんなに分かってもらわないと、助けることなんて出来ないと思う」


確かに双妹の言う通りだ。
少女さんの姿はみんなには見えていない。
だから、少女さんを助けるためには、その存在を知ってもらわなければならないのだ。


男「くそっ! どうやって説明すればいいんだ――」

友「男、遅れてすまん。少女さんのことは俺に任せてくれ!」

男「友っ!」

双妹「……友くん?」

261 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/12(木) 21:17:41 ID:JKEMspaM
女教師「あなたは席に戻りなさい!」

友「いや、男がこうなったのは俺のせいなんです」

女教師「あなたの?」

友「はい。昨日、俺の家で心霊催眠の実験をしまして……。どうやら、それがうまく解けていなかったみたいなんです」

女教師「心霊催眠?!」

友「催眠術の一種です。とりあえず、保健室で休ませてもらっても良いですか?」

女教師「そうね、そうしなさい」


友は俺に目配せをすると、内履きを履きなおす振りをして少女さんを抱き上げた。
両手にはめている手袋が霊的な道具なのか、少女さんの容態が落ち着いていく。
それを見て、俺はほっと胸を撫で下ろした。

262 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/12(木) 21:26:03 ID:JKEMspaM
今週はここまでにします
レスありがとうございました

263 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/15(日) 18:19:23 ID:sawrlJaQ
ドキドキ

264 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/16(月) 22:15:15 ID:8oTMeYxY
〜保健室〜
保健室に入り、俺と少女さんはベッドに横になった。
俺が横になる必要はないと思うのだけど、催眠術で情緒不安定になっているという設定なので仕方がない。
少女さんの容態はすでに落ち着いていて、友によればすぐに目を覚ますだろうとの事だ。


男「友、ありがとう」

友「気にするな。俺のほうこそ、出るタイミングを逸して遅くなった」

男「いや、助かったよ。その手袋が霊的な道具なのか?」

友「まあ、一応な。これで触れば、興奮した霊を鎮めることが出来るんだ」

双妹「興奮した霊を鎮めるって、どういうこと?」

友「それは少女さんが目を覚ましたら説明するよ。そのほうが手間が省けるし」

双妹「……分かった」

265 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/16(月) 22:45:51 ID:kCQDvhVk
少女「……うっ、ううん」


しばらくして、少女さんが目を覚ました。
そして周囲を見渡し、俺に気が付くと困惑した様子で呟いた。


少女「えっと……ここは?」

男「少女さん、おはよう。ここは保健室だよ」

少女「保健室?」

男「ああ。俺の体調が悪いことにして、少女さんを連れてきたんだ。どこか痛いところはない?」


俺は身体を起こし、隣で寝ている少女さんに尋ねた。
すると少女さんは思案めき、掛け布団をすり抜けてふわりと浮かび上がった。

266 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/16(月) 22:47:09 ID:kCQDvhVk
少女「もう大丈夫です。ご心配おかけしました」

男「良かったあ。心配したんだよ!」

少女「ごめんなさい。周りを気にせずに声を掛けてくれて、すごく嬉しかったです//」

双妹「ねえ、気が付いたの?」

少女「……」

少女「えっ、ええっ! もしかして、私の姿が見えているんですか?!」

男「見えていないけど、少女さんのことはもう知ってるよ」

少女「そ……そうなんだ」

267 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/16(月) 23:22:18 ID:8oTMeYxY
友「それじゃあ、場所を変えようか」

男「場所を変えるってどこに?」

友「駅前の喫茶店でいいんじゃね?」

男「授業はどうするんだよ」

友「どうせ昼で帰るんだし、早退しようぜ!」

男「そうだなあ。どうせ午前中で帰るんだよな」

双妹「だったら、家で話をしようよ。喫茶店だと人目に付くし、落ち着いて話が出来ないだろうから――」

男「そうだな。それじゃあ、担任の教師に早退するって言ってくる」

双妹「あっ、待って。私も行くっ!」


俺はベッドから下り、双妹と少女さんを連れて職員室に向かった。

268 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/16(月) 23:26:27 ID:xArkhchg
今日はここまでにします
レスありがとうございました

269 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/17(火) 20:14:08 ID:ccSemnQg
〜自宅・部屋〜
俺たちは学校を早退し、みんなで俺の部屋に集まることにした。
そして部屋に入ってすぐ、友が話を切り出した。


友「双妹ちゃん、休みの日とか遊びに行くときに身に着けているアクセサリーって、何か持ってない?」

双妹「持ってるけど、何に使うの?」

友「少女さんの姿を見えるようにしてあげようかなと思って。多分、そのほうが話を理解しやすいと思うし」

男「そんなことが出来るのか」

友「まあな。でも、霊感がない人間に浮遊霊の姿を見えるようにするのは、本当は良くないことなんだ」

男「双妹、どうする?」

双妹「姿が見えないと話にならないし、部屋から持ってくる」


双妹はそう言うと、部屋を出て行った。
そしてしばらくして、ブレスレットを持って戻ってきた。

270 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/17(火) 22:07:47 ID:ccSemnQg
双妹「これで良い?」

友「大丈夫、いけると思う。それじゃあ、儀式を始めるから」


友は双妹にブレスレットを持たせ、その上に御札を重ねた。
そして、何やら怪しい言葉を念じ始める。
相変わらず、中二っぽいぞ。


友「我の名は友。我が作り出したるは、幽界の者を見し霊具。この器にて彼の者を捉え、共鳴する力を生み出したるは――」

双妹「な……何これ、すごく胡散臭いんだけど」

男「大丈夫だ。俺もそう思ってる」

友「じゃあ、少女さん。これに触れて、意識を集中させて欲しい」

少女「はい。分かりました」

271 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/17(火) 22:37:17 ID:ccSemnQg
少女さんがブレスレットに触れると、双妹がとっさに手を引いた。
そして、不機嫌そうに友を見詰める。


双妹「今、ビリッとしたんだけど」

友「大丈夫、今ので完成だから。少女さん、ありがとう」

少女「あっ、はい。どういたしまして」

友「それじゃあ、双妹ちゃん。それを着ける前に、この御守りを受け取ってくれるかな」


友は通学鞄から御守りを取り出すと、双妹に手渡した。

272 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/17(火) 22:41:40 ID:LbnPQ3lQ
双妹「これは?」

友「幽霊が見えることを低級霊たちに知られると、面倒なことになる場合があるんだ」

双妹「低級霊?」

友「平たく言うと、四十九日を過ぎても現世に留まっている悪霊のことだ」

双妹「悪霊……」

友「そう。だから、守護霊の力を高めておく必要があるんだ。半年くらいは効果があるから、カバンの中にでも入れっぱなしにしておいてくれるかな」

双妹「別にいいけど、守護霊の力ってこんなことで強くなるものなの?」

友「この御守りはあくまでも補助的なもので、特に大切なことは健康な心身を保つことだ。しっかりと食事を取って、運動をして体力づくりをして、よく寝てストレスを溜めないこと」

友「そんな健康的な生活を送ることで、守護霊は強くなるんだ」

双妹「それって、もう守護霊とか関係ないような気が……」

友「あと、守護霊がいるって信じることも重要な」

双妹「何だか信じられないなあ」

男「大丈夫だ。俺もそう思ったから」

273 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/17(火) 22:47:42 ID:yk1xbTBc
友「それじゃあ、双妹ちゃん。そのブレスレットを着けてみて」

双妹「う……うん」


双妹は恐る恐る、ブレスレットを右腕にはめた。
そして、緊張した面持ちで顔を上げる。


双妹「……!」

双妹「見える。見えるよ、本当にっ!!」

男「マジかよ! すげえな!!」

少女「わわっ! えっと、双妹さん。はじめまして」ペコリ

双妹「は、はじめまして」アセアセ

友「ふふん、成功だな」

双妹「友くん、ありがとう。えっと……男から少女さんの気配を感じるんだけど、それは何なの?」

友「少女さんは憑依霊だから、男の身体を共有している状態なんだ。双妹ちゃんが感じているものは根っこみたいなものだよ」

双妹「ふうん、そうなんだ」

274 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/18(水) 00:05:08 ID:Omd.hWJw
双妹「それで、これは外しても大丈夫なの?」

友「ああ、霊力が馴染めば3週間くらいは効果が持続すると思う。霊具として使えるのは少女さんが成仏するまでだから、理論上は4月の半ばくらいまで使える計算になるかな」

双妹「効果があるのは3週間で、使えるのは4月半ばまで――か」

友「もちろん、少女さんが身体に戻れたらすぐに使えなくなるけどね」

双妹「ふうん、そうなんだ」

双妹「でも、びっくりしたあ! まさか、本当に見えるようになるとは思わなかったわ」

友「俺のこと、ちょっとは尊敬しただろ」どやぁ

双妹「あはは。霊能力があるって、絶対に冗談だと思ってた」

友「これを機に惚れてもいいんだぜ」キリッ

双妹「ごめん、それはあり得ないから。いつも女の子の幽霊の裸ばっかり見ていそうだし」

少女「それってもしかして、双妹さんには私のことが裸のように見えているんですか?」

双妹「そうだけど、違うの?」

少女「違うに決まっているじゃないですか。私はちゃんと服を着ていますから」

275 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/18(水) 22:53:54 ID:Omd.hWJw
双妹「ねえ、男。少女さんって、本当に服を着ているの?」

男「当たり前だろ。何言ってるんだよ」

双妹「もしかして、裸だと思っているのは私だけ?!」

男「なあ、友。そのブレスレット、失敗じゃないのか」

友「あのさあ、常識で考えて、幽霊が服を着ているほうがおかしいじゃないか。だって、生身の体がないんだぞ」

少女「はいぃぃっ?!」

男「ちょっと待て! 少女さんが服を着ていると思っているのは、もしかして俺だけなのか?!」

友「逆に聞きたいんだけど、男には少女さんがどんな服を着ているように見えるんだ?」

男「どんなって、少女さんは今、俺たちの学校の制服を着ているじゃないか」

双妹「……どう見ても裸でしょ」

友「ああ、そういうことか! 男は少女さんの姿が見えているんじゃなくて、少女さんが見せている姿が見えているんだ」

276 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/18(水) 23:38:38 ID:mXX5xWPQ
男「おい、ちょっと待て。そうなると、友は今まで少女さんの裸を見続けていたことになるよなあ。かなり気に入らないんだけど――」

友「安心しろ。浮遊霊の裸には興味ないから」キリッ

男「はあ?! それはそれで微妙に気に入らないんだけど」

少女「二人とも喧嘩はやめてください。こうすればいいんですよねえ」ポンッ

友「マジかよっ! 少女さんって、そういうことも出来るのか?!」

少女「ふふん、すごいでしょ〜!」ドヤッ


少女さんは得意げに言うと、ドヤ顔になった。
友もかなり驚いているし、一体何をしたのだろうか。


男「俺にはよく分からなかったんだけど、少女さんが何かしたのか?」

双妹「今、少女さんがうちの学校の制服姿に変身したの」

男「……変身?」

男「つまり、俺が見ている姿と同じ姿が見えるようになったってことか」

双妹「多分、そうだと思う」

277 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/18(水) 23:46:16 ID:Omd.hWJw
少女「男くん、その……今まで気付かなくてごめんなさい」

友「俺も悪かった。てっきり、男も同じように見えているものだとばかり思っていたから」

男「まあ、今まで助けられてばっかりだったし、今回だけだからな」

友「分かってるって」

友「ところで、少女さん。それは幽体の見た目を変えたってことだよね」

少女「ああ……はい、そうです。だから、この制服も私の身体の一部で――」

少女「……?!」

少女「それって結局、私は裸のままって事じゃないですか!」

男「……!!」

友「いやいやいや! 制服を着ているように見えている時点で、裸じゃないから!」

少女「そ……そうですかねえ」

友「そうだから! あまり変なことを言うと、男と双妹ちゃんからの心象が悪くなるからっ!」

278 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/19(木) 07:21:20 ID:Y4iuq9Tk
面白い

279 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/21(土) 19:19:12 ID:uaLdt28o
双妹「あまり時間もないし、そろそろ本題に入ろうよ」

男「そうだな」

双妹「それじゃあ聞くけど、少女さんは入院しているはずでしょ。それなのに幽霊とか浮遊霊とか、どういうことなの?」

男「実は――」


俺たちは双妹にこれまでの経緯を説明した。
その要所要所で思い当たる節があるらしく、双妹はときどき小さく頷いていた。


双妹「ふうん、そういうことがあったんだ。それで、これからどうするの?」

友「少女さんの魂を身体に戻せないか試そうと思ってる」

双妹「そんなことが出来るの?」

友「やってみないと分からないけど、勝算がないわけでもない」

280 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/21(土) 19:30:29 ID:ns7zdREs
少女「私、本当に生き返ることが出来るんですか?!」

友「少女さんは英語の授業中、胸を押さえながら倒れてしまっただろ。それで気になって詳しく霊視をしてみたんだけど、少女さんは普通の浮遊霊よりも幽体が少ないことが分かったんだ」

少女「幽体が少ない?」

双妹「ねえ、友くん。幽体とか魂って、結局何なの?」

友「そう聞かれると超ひも理論の説明をしないといけなくなるんだけど、イメージ的にはこんな感じかな」


肉体:現世の体、死んだときに脱ぎ捨てる。
幽体:肉体と霊魂を繋ぎとめる役割がある。死後の世界で体として利用し、成仏をするときに脱ぎ捨てる。
霊体:成仏をした後の体。
魂:人間の本質で霊波動という波を発している。


友「――つまり、魂は三つの体を重ね着しているんだ」

双妹「何となく分かったかも」

281 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/21(土) 20:07:05 ID:52C9RiiE
友「それで話を戻すけど、少女さんの幽体が少ないのは肉体に幽体が残されているからだと思うんだ。病院で幽体離脱をしたとき、頭に銀色の線がつながっていなかった?」

少女「あっ……ありました! でも、自分で切ってしまったんです」

友「なるほどな。少女さんは幽体が肉体から完全に離れてしまう前に霊子線を切ってしまったから、普通の浮遊霊よりも幽体が少ないんだ」

男「つまり、少女さんが授業中に倒れてしまったのは、幽体が少なくて霊的に不安定だったからなのか」


もしそうだとするならば、一刻も早く自分の身体に戻ったほうが良いだろう。
そう考えていると、友が少女さんを一瞥して思案めいた。

282 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/21(土) 20:30:14 ID:52C9RiiE
友「いや、むしろ幽体が少ないから、少女さんは普通の浮遊霊では考えられないほど霊的な力が強いんだ」

少女「えっ、そうなんですか?!」

男「少女さんの霊的な力が強いのは、うるう年の影響とか特殊な死因だからじゃなかったっけ」

友「それも関係あるんだけど、特に幽体の少なさが影響しているみたいだ。例えば、ホースの先を摘むと水が勢いよく出るようになるだろ。霊的な力もそれと同じような原理で強くなるんだ」

男「へえ、そういうものなのか」

少女「それで、どうすれば生き返ることが出来るんですか?」

友「それなんだけど、少女さんは幽体の状態を変化させることが出来るだろ。だから、自分の身体に憑依して肉体に残されている幽体を変化させれば、霊子線をつなぎ直すことが出来るはずだ」

283 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/21(土) 20:32:52 ID:uaLdt28o
少女「銀色の紐をつなぎ直せば、私は生き返ることが出来るんですね!」

友「まあそうなんだけど、実は一度切れた霊子線は二度と繋がらないんだ」

少女「……!」

友「でも、自分で霊子線を切ってしまった浮遊霊なんて聞いたことがないから、少女さんならば奇跡を起こすことが出来るかもしれない。いや、起こせるはずだ」

男「少女さん、俺と双妹がすでに奇跡みたいなものだから――。だから、諦めなければ絶対に大丈夫だ」

少女「うん、そうだよね。私は絶対に生き返るんだ!」


きっと、少女さんはたくさんの不安を感じているだろう。
それでも、彼女の言葉にはそれを感じさせないほどの力が込められていた。

284 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/21(土) 20:41:17 ID:uaLdt28o
今日はここまでにします
レスありがとうございました

285 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/21(土) 23:03:53 ID:9wU12fzk
よし
生き返れ

286 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/23(月) 20:07:18 ID:kjv3n51I
〜北倉駅前・バス停〜
お昼になり、俺たちは友香さんとの待ち合わせ場所に向かった。
少し早く着いたらしく、北倉駅に併設されているバス停にはそれらしい人の姿はない。


双妹「ねえねえ、友くん。このブレスレットを使えば、友香さんも少女さんの姿が見えるようになるの?」

友「いや、見えるようにはならないよ。その霊具は双妹ちゃんの魂の力を利用して作っているから、他の人では使えないんだ」

双妹「……ふうん、私と同じ魂じゃないと使えないのか」

男「それじゃあ、友香さんも少女さんの姿が見えるように出来ないかな。そのほうが説明しやすくなると思うし」

友「確かにそうかもしれないけど、友香さんは少女さんが目を覚ます望みを捨てていないんだろ。だったら、今の時点で浮遊霊の少女さんと対面させるのは慎重になったほうがいいと思う」

少女「私も友くんの意見に賛成です。今の私が友香ちゃんに会うと、不必要につらい思いをさせてしまうことになると思うんです」

男「言われてみれば、そうかもしれないな」

友「少女さんが自分の身体に戻れれば良いだけだし、今は友香さんには内緒にしておこう」

男「分かった」

双妹「そうだね」

287 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/23(月) 20:14:56 ID:kjv3n51I
少女「あっ! 友香ちゃんが来ましたよ!!」


自分の姿は見えないというのに、少女さんが手を振って呼びかけた。
どうやら、こちらに歩いてくる学生服姿の女子が友香さんらしい。
さすが看護師を目指しているだけあって、とても清楚な感じがする外見だ。
そう思っていると、俺たちに気付いたらしく慌てた様子で駆け寄ってきた。


友香「すみません。お待たせしました」

双妹「ううん、私たちも今着いたところだから」

友香「……うん、ごめんね。それでこちらの男子が――」

双妹「えっと、紹介するわね。こちらが私のお兄ちゃんで、そっちが友くん」

男「はじめまして、男です」

友「友です」

友香「こんにちは、友香です。今日は来てくれて、本当にありがとうございます!」

男「こちらこそ、会ってくれてありがとう」

288 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/23(月) 20:17:57 ID:Ogk2A2Qk
友香「一応確認しておきたいのですけど、男くんが少女に会いたがっているという話は間違いないですか」


友香さんは真剣な眼差しを向けてきた。
俺もそれに倣って、言葉を返す。


男「はい、俺はそのために来たんです」

友香「双妹さんから聞いていると思うけど、少女は今、病院のICUで寝たきりになっています。もう意識が戻る見込みがないそうです」

男「……」

友香「でも、男くんが会ってくれれば少女は目を覚ますかもしれない。そう思うんです」

男「俺もそう思う。ICUには面会制限があるみたいだし、まずは会えることを祈らないとな」

友香「そうですね!」

289 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/23(月) 20:26:37 ID:Ogk2A2Qk
男「そういえば、少女さんが入院している北倉総合病院にはどれくらい掛かるのかな」

双妹「バスに乗って10分くらいだよ」

男「10分も掛かるのか」

双妹「でも、バスを降りたら目の前だから」

男「そっか、早く来ないかなあ」


俺は待ち遠しく感じて、道路の向こう側を見やった。
しかし、バスの姿はない。


友香「あのっ、失礼ですけどひとつ聞いてもいいですか」

男「えっと、俺に?」

友香「はい。男くんと双妹さんは一卵性双生児なんですよねえ」

290 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/23(月) 20:37:52 ID:Ogk2A2Qk
男「あ……ああ、そういう話か。確かに、俺と双妹は一卵性双生児ですよ」

友香「えっとね! 昨日も双妹さんに言ったのですけど、ずっと会ってみたいと思っていたんです」

男「俺たちに?」

友香「はいっ!」

友香「お二人は雰囲気がすごく似ているけど、身長や体格がまったく違いますよね。性染色体がたった1本違うだけなのに、すごく興味深いです」

男「性別が違うんだから、体格が違うのは当然のことだと思うんだけど」

友香「それってつまり、従性遺伝と限性遺伝の影響が大きいってことですよね」

291 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/23(月) 20:43:33 ID:BANKwkBM
友香さんの口から、唐突に生物用語が飛び出してきた。
従性遺伝は常染色体上の遺伝子の優劣関係が雌雄で異なる遺伝のことで、限性遺伝はY染色体上の遺伝子による遺伝のことだ。

他にも双妹にはライオニゼーションの影響があり、2本あるX染色体のうち1本がランダムで不活性化されている。
そのことは伴性遺伝の発現にも関係しているし、一卵性双生児だとはいっても違いがあるのは当然だ。


男「詳しいことは分からないけど、そうだと思うよ」

友香「――ですよね。だから発生や遺伝って面白いし、生命はとても神秘的だなって思うんです」

292 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/23(月) 20:52:34 ID:kjv3n51I
双妹「こんな反応を示す人、初めて見た」

男「ああ、そうだよな」


ほとんどの人は異性の一卵性双生児は絶対に生まれないと主張してくるし、中には人格まで否定してくる人もいる。
そうでなくても、興味本位で迂闊なことを言ってくる人が多い。
しかし、友香さんは生命の誕生や遺伝子のほうに興味があるらしい。
とりあえず、生物の授業が好きなんだろうなということは分かった。


友香「……!」

友香「すみません。初対面なのに一人で舞い上がってしまって……。私のこと、変な女子だと思いましたよね」アセアセ

双妹「いえ、友香さんって優等生タイプだなって思っただけです」

男「少女さんもそんな感じだったし、別におかしくないですよ」

友香「……あれっ? 少女はお二人が双子だと知っているんですか」

男「そうだけど、それがどうかした?」

友香「それはおかしいです。少女は双妹さんのことを知らないはずなんです。いつ話したんですか」

293 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/23(月) 20:56:00 ID:BANKwkBM
……しまった!
俺が少女さんに双子の妹がいることを話したのは、先週の月曜日だ。
しかし自殺未遂をしたのはその前の土曜日なので、友香さんの視点では辻褄が合わないことになってしまう。
本当のことは言えないし、一体どうやって答えればいいのだろう。


少女「はあ、仕方ないですね。12日の夜に私が電話をしたことにしましょう」

男「えっと、12日の夜に少女さんから電話が掛かってきたんだ」

友香「12日の夜に?」

男「それでそのときに聞かれたから教えたんだけど、何かおかしいですか」

友香「いえ、おかしくないです。でも、そうだとすると少女は――」

少女「ねえ、男くん。バスが来ましたよ!」

男「ほんとだ。ようやくバスが来たみたいだ」

双妹「友香さん、行きましょうか」

友香「そ……そうですね」

294 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/23(月) 21:11:03 ID:Ogk2A2Qk
今日はここまでにします
レスありがとうございました

295 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/23(月) 22:22:46 ID:iBAgHl9w
よし
頑張れ

296 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/24(火) 20:13:05 ID:dGBrRWQE
〜総合病院・入院患者病棟〜
バスで揺られること10分。
ようやく少女さんが入院している総合病院に到着した。


少女「いよいよですね。何だか緊張してきました」

男「俺も緊張してきたかも。ちゃんと中に入れるかなあ」

双妹「どうなんだろ」

友「まあ、いざというときは少女さんだけでもどうにかしてみるから」


俺たちは不安に思いつつ、面会者用の出入り口から中に入った。
すると、すぐ脇に窓口があった。
どうやら、ここで受付を済ませないと面会することが出来ないようだ。


友香「あのー、すみません」

受付「こんにちは。いかがされましたか」

友香「少女さんに面会したいのですけど、よろしいですか?」

297 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/24(火) 21:15:06 ID:DLGSxhXw
受付「少女さんですか。その女性でしたら、申し訳ありませんが本日、退院なさいました」

少女「えっ?!」

友香「それって、どういうことなんですか! 少女はとても退院出来るような状態ではなかったですよねえ」

受付「そう言われましても――」

男「だったら、少女さんはどこの病院に転院したんですか? それだけでも教えてください。どうしても会いたいんです!」

友香「お願いします!」


俺たちが強く訴えると、受付の女性がどこかに電話を掛け始めた。
そして俺たちのことを話し、険しい表情で受話器を置いた。

298 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/24(火) 21:16:10 ID:WZJjxK8k
どうなんだ?

299 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/24(火) 21:20:45 ID:voB9GsOM
受付「皆さんは少女さんのご友人ですか?」

友香「はいっ!」

受付「そうですか……」

受付「個人情報が含まれるので詳しいことはお伝え出来ませんが、少女さんは2月20日にお亡くなりになられました。申し訳ありませんが、ご家族の方以外はお引取りください」

友香「亡くなったって、少女が……死んだ?」

少女「そんな! うそでしょ?!」

男「本当に、少女さんは――」

受付「申し訳ありません」

友「ちょっと待て! 2月20日って、一昨日だよな。おかしくないか?」

男「……!」

友香「そ、そうよ! 昨日、私たちはおばさんに許可を頂いて面会することが出来たんですよ!」

双妹「そうですよね。一昨日に少女さんが亡くなっていたのなら、どうして昨日は面会することが出来たんですか?」

受付「それは個人情報ですので、お答えすることは出来ません」

300 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/24(火) 21:35:55 ID:voB9GsOM
友香「今は面会可能時間ですよね。本当は、おじさんやおばさんが来ているんじゃないんですか? どうしても会わせて欲しいんです!」

受付「申し訳ありませんが、他の患者さんのご迷惑にもなりますし、お引取り願えませんか」

友香「でも、でもっ……!!」

少女「私、そんなの信じられない。自分で確かめてくる!」


その言葉と同時、少女さんの姿が見えなくなった。
俺に取り憑くことよりも、自分の身体に戻ることを優先したのだろう。
それほどまでに、少女さんの中で生き返りたいという想いが高まっていたのだ。


男「少女さん!」

双妹「外で待っていて欲しいだって」

友「一度、出直そう。まだ終わりだと決まった訳じゃないんだから」

男「そう、だな……」

301 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/24(火) 21:37:02 ID:dGBrRWQE
今日はここまでにします
レスありがとうございました

302 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/25(水) 14:08:09 ID:88eaCgAY
ヤバくなってるがな

303 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/26(木) 00:10:36 ID:APcIQ..6
俺たちは入院患者病棟を出て、近くにあったベンチに腰を下ろした。
そしてややあって、友香さんが申し訳なさそうな顔で話しかけてきた。


友香「男くん、本当にごめんなさい。せっかく来てくれたのに――」

男「ICUは家族だけしか面会出来ない場所だし、仕方ないよ。それにしても、20日に亡くなったというのはどういうことなんだろう」

双妹「まったく意味が分からないよね」


双妹の言う通りだ。
まったく意味が分からない。

もし本当に少女さんが20日に亡くなっていたとするならば、昨日はすでに死亡している患者を治療し続けていたことになる。
しかし、病院がそんなことをするはずがないので、昨日の時点では少女さんが生きていたことになる。
つまり、受付の女性の言葉を信じると辻褄が合わなくなってしまうのだ。

304 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/26(木) 00:26:05 ID:JPgtyCJk
友香「私、少女の家に行って話を聞いて来ます。そのほうが確実みたいだし」

双妹「私も気になるし、一緒に行ってもいいですか?」

友香「別に良いですけど、おばさんがいなかったら帰ってくるまで待つことになりますよ」

双妹「それは大丈夫。男も気になっているはずだし」

男「双妹、悪いな」

双妹「いいって、いいって」

友香「じゃあ、念のために連絡先を交換しませんか?」

男「ああ、そうだね」

友「俺も交換していいかな」

友香「ええっ、あなたも?」


友香さんは少し嫌そうな表情になり、しぶしぶ友と連絡先を交換した。
そして俺と連絡先を交換し、双妹と友香さんは少女さんの自宅に向かった。

305 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/26(木) 00:40:17 ID:JPgtyCJk
男「少女さんの家には浮遊霊がたくさんいるんだろ。大丈夫かなあ」

友「双妹ちゃんが見えるのは少女さんだけだし、御守りがあるから何の心配も要らないよ」

男「それなら良いんだけど……」

友「あっ、おかえり」


話をしていると、ふいに友が挨拶をした。
俺は少女さんが帰ってきたのだと思い、視線を追う。
すると、何か違和感を感じて少女さんの姿が見えるようになった。


男「……少女さん、おかえり」

少女「ただいま」


その声に覇気はなく、表情が重く沈んでいる。
つまり、望むような結果を得られなかったということだろう。

306 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/26(木) 00:42:23 ID:BmjYnMBo
男「それで、その……どうだった?」

少女「私が入院していた病室には誰もいませんでした」

男「じゃあ、少女さんの身体は一体どこに……」

少女「分かりません。全部の病室を覗いてみたけど、どこにも私の身体はありませんでした。やっぱり、私はもう――」


少女さんは悲痛な表情で、言葉を飲み込んだ。
そんな彼女に、俺は何と声を掛ければいいのだろう。
少女さんが生きていると知っていれば、もっと早く病院に行っていたのに……。


友「いや、まだ答えを急ぐ必要はない」

男「そうか。友には何か考えがあるんだよな!」

少女「そ……そうなんですか?!」

307 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/26(木) 00:50:49 ID:JPgtyCJk
友「俺が想定していた中でも最悪のパターンだから、あまり期待はしないで欲しいんだけど――」


友はそう言いつつ、通学鞄から何かの組み立てキットを取り出した。
そして、パーツを組み上げていく。


男「友、それは?」

友「平たく言えば、幽霊探知機だ。これをスマホにつなげば、地図アプリと連携して浮遊霊の居場所を探すことが出来るんだ」

少女「スマホのアプリで探すって、すごく説得力がありますね!」

男「何だか、不思議な感じだな」

友「まあ、そうだろうな。昔は式神を使役して霊的存在を探していたんだけど、広域探索の現場ではアプリで探す時代になったんだ」


そう説明してくれている間に、幽霊探知機が完成した。
何だかパラボラアンテナみたいな見た目で、友いわく、霊的な波動を効率良くキャッチすることが出来るらしい。
今回は少女さんの肉体に残されている幽体を探すので、霊的残留物質ではなくて少女さんの霊力を登録することになった。
よく分からないけど、そういうものらしい。

308 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/26(木) 00:51:43 ID:JPgtyCJk
今日はここまでにします
レスありがとうございました

309 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/26(木) 07:29:30 ID:xw9mPBD.
おつ

310 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/26(木) 19:45:24 ID:APcIQ..6
友「それじゃあ、アプリを起動するぞ」


その言葉と同時、パラボラアンテナが上下に首を振りながら時計回りに動き始めた。
そのゆったりした動きが緊張感を高めていく。


少女「いよいよですね」

友「……これが少女さんの幽体だ」

男「もう見付かったのか?! 俺にも見せてくれ!」


俺と少女さんは友のスマホを覗き込んだ。
それには周辺地図が表示されていて、俺たちが今いる場所に赤い点が表示されていた。
どうやら、これが少女さんの幽体反応らしい。


男「すげえな!」

少女「本当ですよね! すごいです!」

友「いや、ちょっとまずいかもしれない」

311 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/26(木) 19:53:36 ID:JPgtyCJk
男「まずいって、どういうことだよ」

友「少女さんの身体に幽体が残されているならば、赤い点が2つ表示されるはずだろ。それなのに、ここにいる少女さんの幽体しか表示されていないじゃないか」

男「確かに……」

友「もしかすると少女さんは本当に20日に亡くなっていて、もう幽体が消えてしまったのかもしれない」

男「幽体って消えるのか?!」

友「男の家で、幽体は肉体と霊魂を繋ぎとめる役割があるって説明しただろ。だけど少女さんはその繋がりを自分で切断してしまったから、肉体に残されていた幽体は離脱をするとそのまま消失してしまうんだ」

少女「友くん、ちょっと待ってください。地図が広域になりましたよ!」

友「ええっ?! どういうことだよ、これっ!」

男「どうかしたのか?」


もう一度、友のスマホを覗き込む。
すると周辺地図だったものが県内地図に変わり、南南西の方向に約70キロ。
彩川市の中心街にもうひとつの赤い点が表示されていた。

312 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/26(木) 19:56:41 ID:itTQYZ4c
男「どうして、こんなに離れた場所に少女さんの反応があるんだろ」

友「いや、よく見てくれ」


友はそう言うと、何かのアイコンをタップした。
すると県内地図がさらに広域になり、日本地図に切り替わった。
それを見て、俺たちは唖然とさせられた。

少女さんの幽体を示す赤い点。
それが北は北海道から南は九州に至るまで、全国各地に表示されていたからだ。
それらを数えると、なんと全部で10個も表示されていた。


少女「これって、どういうことなんですか?!」

友「俺にも分からない」

男「とりあえず、これを信じると少女さんの身体がバラバラになっていることになるよな」

少女「わ……私の身体がバラバラに?!」

男「もしかしたら、これを全部集めないといけないのかもしれない」

313 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/26(木) 20:46:19 ID:JPgtyCJk
少女「こんな時にいい加減なことを言わないでくださいよっ!」

男「ごめん。そういうホラー小説を読んだことがあって、それで可能性としてあり得るかなと思ったから……」

友「確かにホラーだとありそうな展開だけど、入院中の患者をバラバラにしたら殺人事件どころか社会問題になるだろ。もう少し常識で考えてから発言しろよ」

男「それじゃあ、専門家的にはどうなんだよ。幽霊のことについては、俺たちよりも友のほうが詳しいはずだろ」

友「可能性としては分霊が考えられる」

少女「それって、どういうことをするんですか?」

友「神道では神様を無限に分けることが出来て、その分霊した神様にも同じ力が宿るとされているんだ。それを新しい神社に迎え入れて祀ることによって、大元の神社と同じご利益を授かることが出来るようになる。これが全国各地に同じ名前の神社がある理由なんだけど、もしかすると少女さんの幽体にも同じことをしたのかもしれない」

314 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/26(木) 23:07:21 ID:APcIQ..6
少女「分霊かあ。共通点がたくさんあるし、バラバラにされたと考えるよりはありそうかも」

友「ただ、病院が分霊をするなんて考えられないし、まあ何と言うか――」


友は言い淀み、パラボラアンテナに目を向けた。


友「その……少し言いにくいんだけど、少女さんの霊力が強すぎてオーバーフローを起こしてしまったのかもしれない」

少女「それってつまり、私がそのアンテナを壊しちゃったってことですか?」

友「この異常な反応を見る限り、そう考えるのが自然だと思う」

男「だったら、これ以外の方法はないのか?」

友「俺としては、これが最後の手段だと思っていたんだ。ここに身体がないなら魂を戻す交霊術も使えないし、手の打ちようがない」

少女「そんな……」

友「少女さん、期待させてごめん――」

315 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/26(木) 23:31:47 ID:BmjYnMBo
男「こうなれば、双妹と友香さんだけが頼りだな」

少女「そういえば、二人の姿がありませんね」

男「ああ、何だか訳が分からないことばっかりだし、少女さんの家に行って事情を聞いてみることになったんだ」

少女「そうなんだ。やっぱり、お母さんに聞くのが一番確実かもしれないですね」

男「じゃあ、家に帰って双妹を待つことにする?」

少女「そうですね。そうします……」


一度家に帰ることになり、北倉駅に向かうバスの中。
俺は不安そうに俯いている少女さんに、そっと手を差し出した。
すると少女さんの手が触れて、俺の手をぎゅっと握り締めてきた。
その力強さが、生き返りたいという彼女の思いを表しているかのようだった。

316 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/26(木) 23:33:40 ID:itTQYZ4c
今日はここまでにします
レスありがとうございました

317 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/27(金) 09:27:54 ID:ROWIAir.
臓器移植か

318 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/04/27(金) 15:07:16 ID:GbT9WBAM
八大将軍を倒しチャクラを取り戻すのじゃ

319 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/01(火) 09:14:58 ID:AtqP3t.s
〜自宅・部屋〜
友は自転車通学なので一度学校に戻ることになり、俺たちは最寄り駅で別れることにした。
何かが分かったときは、すぐに友に連絡することになっている。
そして2時間半が過ぎた頃、双妹が帰ってきた。


双妹「……ただいま」

男「おかえり。どうだった?」

双妹「会うには会えたんだけど、あまり話は聞けなかった」

男「そうなのか」

双妹「私たちが行ったときには家に誰もいなくて、しばらく待っていたらおばさんたちが帰ってきたの。それでその……葬儀会社の人も一緒で、少女さんの部屋に身体が運ばれて――」

少女「それって、私の遺体が病院から帰ってきたってことですか」

双妹「……うん。今夜がお通夜で、明日がお葬式なんだって。でも家族だけでしたいから、私たちが行くのは遠慮して欲しいみたい」

320 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/01(火) 09:36:30 ID:AtqP3t.s
男「お葬式をするってことは、少女さんは……」

少女「そんな……私は間に合わなかったんだ。もう死んでしまったんだ」

少女「死にたくないっ、死にたくないよお!」

少女「ううっ……うわあああぁぁん!!」


今までどんなにつらい記憶を思い出しても、少女さんは気丈に振舞っていた。
それなのに、今は涙を見せて泣き崩れている。
悲痛な表情で声を上げて泣いている。

その悲しみは俺のせいだ。
俺が奇跡が起きると信じさせて、期待させてしまったからだ。
俺が彼女を苦しめてしまったのだ――。

321 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/01(火) 09:44:46 ID:uqfV3iqQ
双妹「……私、部屋に戻ってる。男は少女さんの傍に居てあげて」


双妹はそう言うと、きびすを返した。
そしてその後ろ姿を見やり、俺ははっとさせられた。
少女さんのことで、自分を責めている暇はない。
彼氏の俺が、少女さんを支えてあげなければならないのだ。


男「少女さん、俺が傍にいるから」


俺はそう言うと、むせび泣く少女さんを優しく抱き締めた。
すると、少女さんの温もりを感じた。

322 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/01(火) 10:17:24 ID:KVU65PgA
それからどれほどの時間が過ぎたのだろうか。
少女さんの温もりがふっと消えて、彼女は俺の腕をすり抜けた。


少女「……男くん…………」

男「気持ち、落ち着いた?」

少女「……うん。昨日も話したけど、私、分かっていたんです」

男「……」

少女「首吊り自殺をして助かるわけがないって。意識が戻っても、以前の生活を取り戻すことは出来ないって――」

少女「そう、分かっていたんです」

男「ごめん、俺が期待させたから……」

少女「ううん、男くんは悪くないよ。みんなが私の命を諦めていなくて、だから私も生きていたいと思ったの。奇跡を信じてみようかなって思ったの」

少女「自殺をした私がそう思えたことは、とても素敵なことだと思う。だから、ありがとう。私に生きていたいと思わせてくれて――」


少女さんは涙を拭くと、頬を緩めて微笑んだ。
それはまるで、憑き物が落ちたかのような表情だった。
そして、そのことが逆に俺の心を不安にさせた。

323 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/01(火) 10:19:54 ID:ob3ScTmA
今日はここまでにします
レスありがとうございました

324 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/01(火) 20:09:17 ID:uqcbZGKQ
どうなるんだ

325 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/02(水) 20:23:37 ID:c5GSlkpo
男「少女さん、何を考えているの」

少女「ちょうど良い機会ですし、今から家に帰ろうかと思っています」

男「家に帰る? でも、今まですごく嫌がっていたじゃないか」

少女「そうなんですけど、そこには私の身体があるので――」

男「あっ……ああ、そうか。生き返ることが出来るか試すってことだな」

少女「いえ、違います」

少女「今日、男くんから離れることが出来ましたよね。つまり、私の未練はもう叶っているのだと思います。だから私が死を受け入れるとしたら、今しかないのかもしれません」

男「死を受け入れる?!」

少女「はい、男くんが一緒なら帰れるような気がするんです。だからその、一緒に来てくれませんか」


少女さんはそう言うと、力強く俺を見詰めてきた。

326 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/02(水) 20:30:44 ID:0HV.Bc1A
男「ちょっと待ってくれよ! 俺たちは昨日、付き合い始めたばかりだろ。それって、成仏するってこと?」

少女「……そうなるかもしれません」

男「でも4月1日までまだ日があるし、もっと恋人らしいことをしてからでも遅くないんじゃないかな」

少女「恋人らしいこと……」

男「そう、俺たちはまだ一度もデートをしていないだろ」

少女「男くんが告白してくれたとき、私のことをつらいことがあっても前向きに頑張っていける人だと言ってくれましたよね」

男「ああ、言ったけど」

少女「だったら、私を支えて欲しいです。家に帰る勇気を出せるように――」

男「……」

男「……分かったよ。少女さんを家まで送り届けてあげるよ」

少女「男くん、ありがとう」

男「でも家に帰ることが出来るようになったら、待ち合わせをしてデートをしよう。約束だからな」

少女「うんっ、約束だね」

327 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/02(水) 20:32:52 ID:93NwKctc
双妹「どこに行くの?」


俺たちが部屋を出ると、双妹が自分の部屋から出てきた。


男「今から少女さんの家に行って来る」

双妹「そうなんだ。少女さんが身体に戻れるか試しに行くの?」

男「いや、家まで送ってあげるんだ」

双妹「……」

双妹「だったら、私も行く」

男「大丈夫だって。少女さんがいるから場所は分かるし」

双妹「そうじゃなくて、男は少女さんのお母さんと面識がないでしょ。私がいれば、少女さんの家に入れるかもしれないわよ」

328 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/02(水) 20:57:12 ID:c5GSlkpo
少女「家に入れるなら、双妹さんにも来てもらいませんか」

男「そうだな」


もし少女さんの家族の誰かの手が空いていれば、いろいろと話を聞けるかもしれない。
それに少女さんの魂が身体に戻れるか試してみるべきだ。
そう考えると、双妹の提案を断る理由はない。


男「それじゃあ、双妹も一緒に来てくれるかな」

双妹「うんっ」

男「じゃあ、少女さん。事情が変わったから、友に連絡してみる」

少女「友くんに?」

男「やっぱり、自分の身体に戻れるか試してみるべきだと思うんだ。それに、ぬいぐるみを調べることが出来るかもしれないだろ」

少女「……そうですね」

329 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/02(水) 21:22:20 ID:c5GSlkpo
PiPoPa...


男「もしもし」

友『もしもし。何か分かったのか?』

男「ああ。少女さんの身体なんだけど、どうやら家に帰っているみたいなんだ」

友『家に?! それって、まさか――』

男「双妹の話では、お葬式の準備をしているらしい」

友『そう……なのか』

男「それで今から少女さんの家に行くんだけど、生き返ることが出来るか試しておきたいんだ。友も一緒に来てくれないかな」

友『……すまん。俺は今、そっちに行くことが出来ないんだ』

330 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/02(水) 22:05:59 ID:0HV.Bc1A
男「行けないって、何か用事でもあるのか?」

友『いや。そうじゃなくて、彩川医科大学附属病院に来ているんだ。ここからだと2時間半は掛かると思う』

男「どうして、友が大学病院に?」

友『少女さんの幽体反応で、ひとつだけ行けそうな場所のやつがあっただろ。それで、そこに行ってみたんだ』


彩川医科大学附属病院は、俺と双妹が2ヶ月毎に精密検査を受けている病院だ。
そしてその検査結果と問診表の回答を実質的に有償で提供し、同じ遺伝子を持つ異性一卵性双生児の成長や性的発達の記録、遺伝子の発現などの研究を行うことに協力している。
つまり、彩川医科大学附属病院は最先端医療や医学の研究を行っている病院なのだ。
そんな場所に、どうして少女さんの幽体があるのだろう。


男「それで、友のほうは何か分かったのか?」

友『いや、来てはみたものの手詰まりだ。ちょっと異常過ぎて訳が分からないし、本格的に壊れてしまったんだろうな』

男「……そうか」

友『これがないと困るし、家に帰ったら修理に出しておくよ』

331 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/02(水) 22:18:11 ID:IPFNPkJ.
男「ところで、少女さんを身体に戻すにはどうしたらいい?」

友『少女さんは幽体の状態を変えることが出来るし、霊的な力も強いだろ。だから戻れる状態にあるならば、自分の身体に憑依して霊子線を繋げば戻れると思う』

男「自分の身体に憑依すれば戻れるんだな」

友『あくまでも、戻れる状態にあるならば……だけどな。もしそれで駄目なら、俺も行くから交霊術を試してみよう』

男「分かった。じゃあ、俺たちは先に行ってるから」

友『ああ、最寄り駅に着いたら連絡する』

男「じゃあ、また後で」


俺はそう言って、通話を切った。
そして双妹と一緒に、少女さんを家まで送ることにした。

332 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/02(水) 22:19:23 ID:0HV.Bc1A
今日はここまでにします
レスありがとうございました

333 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/05(土) 21:53:12 ID:CS2tfL8w
戻れたらいいな

334 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/07(月) 20:04:41 ID:GLYzdbCc
〜最寄り駅〜
少女さんの家は最寄り駅から歩いて10分ほどの場所にあるらしく、俺たちは歩いて行くことにした。
どうやら俺が南側の出入り口を利用しているのに対して、少女さんは北側の出入り口を利用しているという、それだけの違いしかなかったようだ。
俺と少女さんは小学校が別々で中学校が同じなのだから、そんなものなのかもしれない。

ちなみに外はにわか雨が降っていて、少女さんはレインコート姿になっている。
雨粒が全部すり抜けているみたいだけど、着替えた意味はあるのだろうか。


少女「なんだか緊張してきた」

男「緊張してきたって言うけど、自分の家だろ」

少女「そうですけど、もう一週間以上帰っていないから」

男「ああ、そうか。これが初めてのプチ家出だね」

少女「やっぱり、これって家出ですよねえ。私の家に浮遊霊が集まっているらしいし、もしかして怒られたりするのかなあ」

男「それはあり得るかも」


そんなことを話しつつ、駅舎の中を通り抜ける。
そして、北側の出入り口から外に出た。

335 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/07(月) 20:08:59 ID:GLYzdbCc
男「少女さんの家はここから……はぐぅうっ!!」

双妹「どうしたの?」

男「えっ、いや……ええっ?!」

双妹「雨が降ってるんだし、早く行きましょ」

男「なあ、双妹。ここって、何もないよなあ」

双妹「何もないわよ。ほらっ……」


そう言って、双妹が俺の手を取る。
そして「何言ってるの?」といった表情で、俺を見た。


男「じゃあ、俺だけか。ここに見えない壁があるのは」

双妹「見えない壁?」

男「ああ。自分でも信じられないんだけど、ここに何かがあるんだ」


俺だけが通ることの出来ない壁。
その壁の向こう側に、少女さんの家がある。
そう思ったと同時、双妹の視線が俺の後ろに向かった。

336 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/07(月) 20:12:23 ID:SdtKMrIo
少女「……ごめんなさい」

少女「私、やっぱり帰りたくない」

双妹「家に浮遊霊が集まっているから?」

少女「ううん、そうじゃなくて怖いんです。きっと良くないことが起きると思う」

双妹「それでも、家に帰るって決めたんでしょ。自分の身体に戻れるかもしれないし、頑張って帰りましょうよ」

少女「それは分かっているけど、どうしても近付きたくないんです」


少女さんの行動を制限する、約1.5メートルの行動範囲。
今までは俺がその行動範囲から出ようとすると、少女さんの身体が強制的に引っ張られていた。
行動を制限されているのは、いつも少女さんのほうだった。

それなのに、今は俺のほうが制限を受けている。
そこまでして、家に帰りたくはないということなのか?

少女さんの首吊り自殺の偶発性。
それが、彼女をこんなにも苦しめているのだ。

337 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/07(月) 20:13:03 ID:gEIPDZcM
今日はここまでにします
レスありがとうございました

338 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/08(火) 19:40:59 ID:zxSHqpmM
――「あれっ? 男くんと双妹ちゃんじゃないか!」


不意に名前を呼ばれて、俺と双妹は振り返った。
するとそこには、スーツを着た男性の姿があった。


男「えっと、記者さん?」

記者「ああ、こんにちは」

男・双妹「こんにちは、お久しぶりです」

記者「二人とも、大きくなったねえ。もう高校生くらいかな」

男「はい、今は1年です」

記者「そっか、早いなあ」

双妹「記者さんは取材でこちらに?」

記者「そのつもりだったんだけど、さすがに先方の都合が会わなくてね。それで休憩がてら喫茶店を探していたら、君たちを見かけたって訳だ」

双妹「そうなんですね」

339 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/08(火) 19:44:18 ID:eRVsnR.o
少女「あのっ、この方はお知り合いなんですか?」

男「この前見せた双子の特集記事を書いてくれた人だよ。2分の1成人式の撮影にも顔を出してくれたり、親父が懇意にしている人なんだ」

少女「へえ、あれを書いた人なんだ。でもそれって、あの出版社の人ってことですよね」

男「まあ、そういうことになるかな」

少女「そっか、そうなんだ――」


少女さんはそう言うと、記者さんを見据えた。
その視線には、明らかに敵意が込められている。
それに気付いた双妹が、小さな声でささやいた。


双妹「少女さんって、記者さんと何かあったの?」

男「例の男子生徒の件で、記者さんが勤めている出版社と険悪な関係になっているんだ」

双妹「……ふうん」

340 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/08(火) 20:00:15 ID:dykGAbsE
男「記者さん。雑誌記事のことで、いくつか聞いてもいいですか」

記者「別にいいけど、この後も仕事で17時には戻らないといけないんだ。だから手短に頼むよ」

男「分かりました。冬休みに北倉高校で男子生徒が自殺したんですけど、それを記事にしたのは記者さんですか」

記者「……なるほど」

記者「話が長くなりそうだから、そこの喫茶店に入ろうか」

男「そうですね」

双妹「えっ、いいんですか?」

記者「雨の中で立ち話をするのもあれだし、もともと休憩するつもりだったからね」

双妹「そうなんだ。ありがとうございます♪」

341 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/09(水) 06:30:12 ID:Tem4vPCQ
おつ

342 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/10(木) 20:32:39 ID:rWXNQSeY
〜喫茶店〜
駅前の喫茶店に入り、俺たちは記者さんと向かい合わせに座った。
少女さんは俺の隣に立ち、記者さんをじっと見据えている。

それも無理はない。
記者さんは、少女さんを盗撮して精神的に追い詰めた出版社に勤めているからだ。
俺は彼氏として、その辺りのことを聞き出さなければならない。
そして謝罪させなければならない。

そう考えていると、ウエイトレスさんがやってきた。
とりあえず、俺と双妹はミルクティーとホットココアを注文した。

343 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/10(木) 21:10:58 ID:YidckxYw
記者「さっきの質問に答える前に聞きたいんだけど、男くんは自殺をした男子生徒と友達だったのかい?」

男「いえ。俺が聞きたいのは、男子生徒のことではなくて少女さんのことです」

記者「少女さん?」

男「はい。少女さんが男子生徒を自殺に追い込んだかのように書いたせいで、少女さんはずっと苦しみ続けているんです」

少女「そうです!」

男「あの記事を書いたのは記者さんですか」

記者「あれを書いたのは俺じゃあない。知っているだろうけど、俺は健康や医療に関するテーマの記事を担当しているんだ」

男「だったら、誰が書いたのか教えてください」

記者「それは出来ないけど、あの記事に関する質問なら聞いてあげるよ」

344 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/10(木) 21:33:23 ID:rWXNQSeY
少女「ねえ、男くん。この人も同じ出版社に勤めているんだから、まずはこの人から謝罪の言葉を聞きたいです!」


少女さんは強い口調で言った。
どうやら、質問よりも先に謝罪の言葉を聞きたいらしい。


男「それなら、まずは謝罪の言葉を聞きたいです。あの記事のせいで、少女さんが傷付けられたから」

記者「謝罪……ねえ。それは俺ではなくて、編集長や担当者がするべき仕事だろ。しかも、家族ですらない男くんに対して、なぜ謝罪しなければならないんだい?」

男「家族ではないかもしれないけど、少女さんは俺の彼女だからです」

345 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/10(木) 22:01:25 ID:rWXNQSeY
記者「そう……だったのか」

記者「しかし、男くんが彼女の彼氏だったとしても安易に謝罪することは出来ないよ」

男「どうしてですか!」

記者「ただ単に謝罪の言葉を聞きたいだけなのかもしれないけど、それはとても大変なことなんだ。もし俺が謝罪をすると、『男子生徒が自殺をした事件を扱った記事で女子生徒の名誉が毀損されたこと』について、事実とは反することを認めてしまうことになるじゃないか。担当ではない俺に、そんな権限があると思うかい?」

少女「何、それっ! 開き直らないでください!」

男「つまり、出版社は少女さんに謝罪するつもりはないって事ですか」

記者「謝罪するつもりも何も、係争問題に発展することなく解決しているんだから謝罪する必要はないんじゃないかな」

少女「……ええっ?!」

346 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/10(木) 23:53:02 ID:rWXNQSeY
男「ちょっと待ってください。俺は出版社からの謝罪が一度もないと聞いているんだけど」

記者「ご家族の方の誤解が解けて、それで解決している案件だからだよ。それはそうと、男くんは記事を読んだ上で謝罪をするべきだと言っているのかい?」

男「……いえ、読んでいないです」

記者「それだと話にならないね。彼女の期待に応えたいという気持ちは分かる。だけど自分でよく考えることをせずに、ただ単に同調するだけではお互いのためにはならないよ」

記者「彼女が正しければ、一緒に共感する。彼女がもし間違っていれば、それを正してあげる。それも大切なことなんじゃないかな」


そう言われ、俺は何も言えずに俯いた。
少女さんに話を聞いたとき、一度は記事を探して読むべきだとは思ったけれど、結局、俺は探すことすらしなかった。
それなのに聞きたいことがあるとか、出来るはずがない。


男「記者さん、すみませんでした。家に帰ったら、記事を読んでみることにします」

少女「……むぅっ、何だか納得いかないです」

347 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/10(木) 23:53:37 ID:.G4aVNCQ
今日はここまでにします
レスありがとうございました

348 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/12(土) 23:55:21 ID:O8uuMgPc
話が一息つくと、注文した飲み物がタイミングよく運ばれてきた。
俺はミルクティーを口に含み、冷えた身体を温める。
双妹はホットココアを飲みながら、サービスの麩菓子を摘まんで口に運ぶ。
俺も食べてみると、フレンチトースト風でカリカリの焼け具合がとても香ばしかった。


男「意外と美味しいな」

双妹「そうだよね。すごく素朴なんだけど、甘くて美味しい//」

記者「とりあえず、聞きたいことはもういいのかな」


記者さんはコーヒーカップを置いて、話の続きを促してきた。
その言葉を受けて、少女さんはストーカー行為のことを口にした。
自殺の偶発性に関わる問題なだけに、この話題は絶対に聞かなければならない。
俺はティーカップを置き、記者さんを見据えた。


男「いえ、まだ聞きたいことが他にもあります」

男「少女さんがマスコミにストーカー行為をされていると言っているんですけど、彼女の部屋を盗撮しているなんて事はないですよねえ!」

349 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/12(土) 23:57:29 ID:O8uuMgPc
記者「そのマスコミって、うちのことなのかい?」

少女「もちのろんですっ!」

男「彼女はそう思っているようです」

記者「うちがそんな犯罪まがいの取材をする訳がないじゃないか。今からでも遅くないから、警察に相談したほうがいい。ご家族の方はそのことを知っているのかい?」


この反応は想定外だった。
確かにストーカー行為をされているのならば、すぐに警察に相談するべきだ。
少女さんは警察に相談したのだろうか。


男「そこまでは聞いてないです」

記者「そうか。それで、そのストーカー行為がいつからあったのか聞いているかな」

男「今月の12日に気が付いたと聞いてますけど」

記者「じゃあ、彼女がそれ以外に悩んでいたことは?」

男「えっ、それ以外に悩んでいたこと?」

記者「何でもいいから、心当たりがあれば教えてくれないかな」

350 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/13(日) 00:15:28 ID:FmZ2BYsQ
双妹「あのー、質問をしているのは私たちですよ」

男「……そういえば!」

少女「これがマスコミのやり口なんですよね。油断をすれば、いつの間にか情報を引き出されているんです」

記者「そういうつもりはなかったんだが、気に障ったのならごめんね」

双妹「それで、何を聞きだそうとしていたんですか。ここには少女さんのことで取材に来ていたんですよねえ」

少女「ええっ! この人が私のことを調べている?!」

記者「双妹ちゃん、取材の相手と内容は答えられないよ。先方との信頼関係が壊れることになるからね」

双妹「それはそうかもしれないけど、これは偶然なのかなあ――」

351 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/13(日) 00:58:52 ID:FmZ2BYsQ
記者「……この話は終わりにしよう。男くんは他に聞きたいことがあるかな」

男「北倉高校の件は解決しているし、ストーカー行為もしていないんですよね」

記者「そうだよ」

男「だったら、どうしようか」

少女「とりあえず、今日はもういいです」

男「それじゃあ、聞きたいことはもうないです。ありがとうございました」

記者「そうか、納得することが出来たのなら良かったよ。ところで、お父さんはもう行ったのかな」

男「行きましたよ。一昨日の土曜日に飛行機で――」


親父の話を皮切りに、俺たちは記者さんの思い出話に付き合うことになった。
それからしばらくして、記者さんのスマホが鳴った。


記者「どうやら、編集長がお呼びのようだ。久しぶりに二人に会えて、とても楽しかったよ。ここの御代は払っておくから、ゆっくりしていってくれ」

男・双妹「……はい、ごちそうさまでした」

記者「もしつらいことがあったら、兄妹で支えあって頑張るんだぞ。それじゃあ、お母さんにもよろしくね」

352 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/13(日) 21:32:12 ID:5yx2ZcdY
おつ

353 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/15(火) 23:30:33 ID:ZA6AV5vo
男「これからどうしようか」

少女「とりあえず、友くんを待ちませんか?」

男「そうだな。友がいれば、何とかしてくれるかもしれないし」

双妹「そんなことより、私に言わないといけないことがあるんじゃないの」

男「双妹に言わないといけないこと?」


それは一体何のことだろう。
そう考えていると、双妹が不機嫌そうに口を開いた。


双妹「二人は付き合っているんでしょ。それって、どこまで本当なの?」

男「あ……ああ、そのことか。双妹には話していなかったけど、昨日、少女さんに告白して付き合い始めたんだ」

354 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/15(火) 23:58:19 ID:xNNiEQJw
双妹「ねえ、どうして一言も相談してくれなかったのよ」

男「少女さんに取り憑かれたことは、双妹に相談しただろ。でも、信じてくれなかったじゃないか」

双妹「それは――」

男「だから、双妹に少女さんのことを話すのを止めたんだ」

双妹「そうだったんだ……。私はどんなことでも分かり合えると思ってた。どんなことでも話をしたいと思ってた。それなのに、ごめんなさい」

男「いや、俺のほうこそごめん。昨日の内に、少女さんのことを説明しておけば良かったと思うし」

双妹「昔は、気持ちがすれ違うことなんてなかったよね……」

双妹「だから、私たちはもっと話し合わないといけないんだと思う。今まで以上に、お互いのことを知ろうとしないといけないんだと思う」

男「それは大切なことかもしれないけど、双妹はもう少女さんのことを信じてくれているんだろ」

双妹「うん、そのことはもう信じてる。だから、言わせて欲しい」

双妹「私は二人が付き合うことは、絶対に反対だから」

355 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/16(水) 00:05:09 ID:PQ0KpgWg
男「この前は応援しているって言ってくれただろ」

双妹「そのときは少女さんの状況を知らなかったから、応援しているって言ったの。でも今は――」

少女「私が幽霊だから認められないってことですか?」

双妹「そうだよ」

男「それがどうしたって言うんだよ! 人が人を好きになるっていうのは、理屈じゃないだろ」

双妹「そんなこと、私も分かってる。分かっているけど、好きになってはいけない相手もいるんだよ!」

男「じゃあさあ、少女さんが自分の身体に戻れれば応援してくれるのか」

双妹「それは分からないけど、本気なの?」

男「当たり前だろ」

双妹「……はあ、仕方ないわね」


双妹は呆れたように言うと、ホットココアを一気に飲み干した。
そして軽くお腹をさすり、バッグの中からサニタリーポーチを取り出した。

356 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/16(水) 00:13:10 ID:QEh1f9Bw
双妹「ちょっと、お手洗いに行ってくる」


双妹はそう言うと、少女さんを一瞥して席を立った。
わざとらしく生理中であることをアピールしていくあたり、少女さんに対する牽制が始まっているのだろう。


少女「双妹さんには認めてもらえませんでしたね」

男「そうかもしれないけど、少女さんのことで協力をしてくれているし、今は機嫌が悪いだけじゃないかな」

少女「そうなんですかねえ」

男「とりあえず、今は家に帰ることだけを考えよう。双妹のことは、その後でも遅くないだろ」

少女「……そうですね」


少女さんはそう言うと、お手洗いを見据えた。
俺はそんな彼女を見やり、ミルクティーを手に取る。
そして口に含むと、それはすでに冷たくなっていた。

357 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/16(水) 00:15:24 ID:PQ0KpgWg
今日はここまでにします
レスありがとうございました

358 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/16(水) 20:14:38 ID:tKzJAiIc
〜最寄り駅〜
1時間半が過ぎた頃、友から電話が掛かってきた。
そして状況を説明し、俺たちは最寄り駅で合流した。


友「男、待たせたな」

男「いや、大丈夫だ。思っていたより早かったくらいだよ」

友「それで、少女さんが家に帰れないんだっけ」

男「ああ。不思議な力が働いて、まったく近付けないんだ」

双妹「そうそう。押しても引いても駄目なんだよね」


友が来る30分ほど前に雨が止んだので、俺たちは少女さんを家に帰らせることが出来ないか何度も挑戦してみた。
しかしその度に見えない壁に阻まれ、まったく近付くことが出来なかった。
少女さんの家に帰りたいという気持ちは、自殺の偶発性よりも弱いということなのだろう。

359 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/16(水) 20:18:33 ID:L/Y9xDkI
友「依り代の行動を制限するとか、さすがに憑依霊としての力も強力だな」

少女「友くん。どうすれば、私は家に帰れるんでしょうか」

友「少女さんを捕縛して連行する方法もあるけど、探知機を壊すほどの霊力を持った浮遊霊だからなあ。俺の力だと拘束具のほうが持たないだろうし、その方法は使えないだろうな」

男「じゃあ、他に方法はないのか?」

友「親父に依頼すれば、本格的な霊具を使って対処することが出来るはずだ。だけど、俺は気持ちの問題なんじゃないかと思ってる」

男「気持ちの問題?」

友「事故死霊が自分が死んだ現場に戻ることが出来ないのは、一種の心的外傷後ストレス障害に囚われているからなんだ。帰りたいという気持ちがあるなら、少しずつ克服していくしかないだろうな」

少女「結局、私の心が弱いから帰れないってことなんですね」

友「少女さんが悪いわけじゃないよ」

少女「ありがとう……」

360 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/16(水) 20:25:39 ID:L/Y9xDkI
男「少女さんが家に帰れないと、自分の身体に戻れるか試せないよな」

少女「男くん、ごめんなさい」

男「いや、俺の方こそごめん。少女さんを家まで送ってあげるつもりだったのに……」

双妹「ねえ、男。もう6時を過ぎてるし、今日は諦めたほうがいいんじゃない?」

男「俺はもう少し頑張ってみたいんだけど」

少女「そのことなんだけど、少し気持ちの整理をさせてください。生き返るチャンスを失ってしまうけど、もともと死を受け入れるつもりだったし、やっぱり家に帰るのは嫌なんです――」

男「そっか、少女さんの気持ちが優先……だよな」

少女「……」

双妹「じゃあ、みんなで帰りましょうか」


俺は小さくため息をつき、しぐれ模様の空を見上げた。
そして、仕方なく家に帰ることにした。

361 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/16(水) 22:20:11 ID:ETea936Y
うーん
難しくなったな

362 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/19(土) 13:03:31 ID:laoqVIZc
〜自宅・親父の書斎〜
自宅に着くと、俺と双妹は親父の書斎に向かった。
北倉高校の男子生徒が自殺した一件について、週刊誌の記事を読むためだ。


男「少女さんが読んだのは、この記事だよな」

少女「……うん」

双妹「とりあえず、読んでみましょ」

男「そうだな」

363 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/19(土) 16:47:05 ID:iBGRNsUg
――SNSの闇! 失恋の報復で首吊り自殺

I県の県立高校の男子生徒が同県内の自宅で首を吊って自殺していたことが1月8日、明らかになった。
県警の調べによると、男子生徒が自殺したのは昨年12月25日ごろ。
男子生徒の家族が自室で首を吊っているのを発見し、男子生徒が書いたとみられる遺書が彼のブログに投稿されていた。

近年、青少年の自殺が社会問題になっているが、なぜ彼は自ら命を絶つ選択をしなければならなかったのだろうか。
その理由は、すべて彼のブログに残されていた。

この数ヶ月、彼のブログには女子生徒への想いを書いた記事が多く投稿されており、彼女との恋愛に期待を膨らませていた様子が窺える。
しかし、自殺をする数日前に投稿された記事には女子生徒に告白して失恋したことが記されており、最後の記事には彼女への怒りや『想い』などが書き殴られていた。
そして恋人たちが花開く聖夜に自殺をすることで、女子生徒に復讐を果たそうとしていたのだ。

しかし、何が彼をここまで駆り立てたのか。
それには、10代の青少年を取り巻く生活環境の変化が関係しているのではないかと専門家は指摘している。

364 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/19(土) 17:05:35 ID:iBGRNsUg
その変化のひとつが、スマートフォンの普及だ。
青少年の間で急速に浸透している、SNSやオンラインゲーム。
彼らはSNSを通じてネット上で友人と交流し、不特定多数の他人に個人情報を発信している。
さらには、ネット上の世界で従来にはなかった形の人間関係を構築しているのだ。

それによって、人々はコミュニケーション欲求を充足することが出来るようになった。
SNSは人が持つ心理的な欲求を満たすために発達し、広く普及したと言っても過言ではないだろう。

誰かと繋がっていたい。
誰かに必要とされていたい――。

しかし、ネット上の交流でそれが真に満たされるはずがない。
だから急速に変質していく。

友達が今、どこで何をしているのか。
友達が今、どんなことを話しているのか。
それを知るためにSNSにアクセスし、友達の行動や発言をチェックせずにはいられなくなるのだ。

365 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/19(土) 17:17:23 ID:rgjIal92
それらが行き過ぎると、SNSの監視や依存が始まる。
そして、青少年の健全な人格形成に悪影響を及ぼすことになってしまう。

近年増加しているデートDV。
これは特に恋愛関係における恋人同士の支配・被支配関係、虐待状況、主体性の侵害のことであり、内閣府の調べで中高生からも相談が寄せられるようになっていることが分かっている。
しかも、小学生からの相談もあるというから驚きだ。

デートDVが増加している背景は恋愛経験の低年齢化に伴うものだが、その被害内容に従来の家庭内暴力や配偶者間DVでは見られなかったものが報告されている。
それがSNSによる暴力である。

366 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/19(土) 17:22:36 ID:iBGRNsUg
恋人の行動や発言を監視し、交流の制限やコメントの返信を強要する精神的な暴力。
恋人の自画撮り写真を無断で公開したり、失恋の腹いせにわいせつな画像を公開するリベンジポルノなどの性的かつ社会的な暴力。

このようなSNSによるデートDVは、SNSが日常生活に深く浸透しているためDVだと自覚しにくいことが特徴だ。
さらにSNS上の会話や画像は、不特定多数の閲覧者によって保存され拡散される恐れがある。
それによって、被害者は消えることのない暴力に苦しめられることになるのだ。
自殺をした男子生徒も遺書をブログに公開することで注目を浴び、女子生徒への悪意を残し続けようとしていたことが分かっている。

ネット上で形成された人格異常は、現実世界の男女交際に影を落とす。
そして歪んだ承認欲求はコミュニケーションツールであるSNSを通じて、消えることのない暴力を拡散させていく。
我々はSNSによるデートDVの被害を受けている女性、そして青少年たちの未来が奪われることのないよう、早急にこの問題の解決に取り組まねばならない。

367 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/19(土) 17:26:10 ID:laoqVIZc
今日はここまでにします
レスありがとうございました

368 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/19(土) 20:52:00 ID:2f.aTyFM
乙だよ

369 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/21(月) 21:53:49 ID:Qu5DXIR6
・・・
・・・・・・
双妹「何これ、本っ当に最低なオトコじゃん!」

男「そうだよな。こんなことをして許されると思っているのかよ!」


俺と双妹は記事を読み終わり、声を荒らげた。
男子生徒が遺書を遺していた事は知っていたけど、まさかブログで公開していたとは思わなかった。


双妹「私、デートDVなんてものがあるなんて知らなかった。すごく怖いんだけど、少女さんはその……大丈夫だったの?」

少女「ブログは削除されているんだけど、私の名前や学校名を検索すると拡散された遺書がヒットするんです。たくさんの人が私のことを知っているのかと思うとつらいけど、友香ちゃんやクラスのみんながたくさん励ましてくれました」

少女「だから、私は大丈夫です」

370 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/21(月) 21:55:25 ID:tLMZMIDU
男「大丈夫って言うけど、こんなことをされて平気なはずがないだろ!」

双妹「……そうだよね。私たちもネット上に色んな情報や動画が拡散されているけど、それとはまったく意味が違うもんね」

少女「もういいんです。少年くんの遺族の人と話をしてたくさん謝罪をしてくださったし、もう解決したことですから」

男「そんなの強がっているだけだと思う」

少女「心配してくれてありがとう」


少女さんはそう言うと、笑顔を浮かべた。
その表情はどことなく冷めていて、やんわりと拒絶の意思を感じられた。


男「もしつらいことがあったら、いつでも話を聞くから」

少女「……うん」

371 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/21(月) 23:14:08 ID:JgnfAE6s
少女「ところで、出版社の人の話を聞いてからこの記事を読んで印象が変わりましたよ」

男「それって、どういう風に?」

少女「最初に読んだときは、私が少年くんを自殺に追い込んだかのように書いている記事だと思っていたのだけど、本当は私のことを守ろうとしてくれている記事だったんですよね」

男「ああ、それは俺もそう思った」


この記事の主題は少女さんに対する名誉毀損ではなくて、SNS上のデートDVによる被害者である少女さんの救済と問題提起だった。
恐らく、当事者意識による思い込みが誤解を招いてしまったのだと思う。
俺は少女さんの言葉を真に受けるのではなくて、あのときに読んでおくべきだったのだ。


少女「こんな記事を書いてくれる出版社が、私のことをストーカーするはずがありません。何だか申し訳ない気持ちでいっぱいです」

372 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/21(月) 23:19:29 ID:tLMZMIDU
男「とりあえず、誤解が解けたみたいだね」

少女「はい。双子の特集記事も素敵だったし、ちょっと好きな雑誌になりそうです」

双妹「まあ、えっちな記事とかヌード写真も多いけどね」

少女「そ……そういうところは、あまり好きになれないかも//」

双妹「あはは、私もあまり好きじゃないかな。でも、男はそういうのが好きみたいだよ。スマホでもよく動画を見ているみたいだし」

少女「ええっ?! そ、そうなんだ//」

男「おい、少女さんに余計なことを言うなよ」アセアセ

双妹「余計なことじゃなくて、大切なことだよ。少女さんは男に取り憑いているから、24時間ずっと一緒にいるんでしょ」

男「まあ、トイレ以外はずっと一緒だな」

双妹「それってさあ、少女さんが成仏するまで続くんだよねえ」

男「多分、そうだと思う」

双妹「そんなの、どう考えても普通じゃないんじゃないかなあ」

373 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/22(火) 00:56:33 ID:BIvA0KnA
男「そうかもしれないけど、離れることが出来ないんだから仕方ないだろ」

双妹「それは少女さんの都合でしょ。この世に未練があるのかもしれないけど、だからと言って、男のプライバシーを侵害してもいい理由にはならないと思うの」

少女「それじゃあ、私が取り憑くのをやめれば良いってことですか?」

双妹「それが出来るのなら、私と男だけで少女さんの家に行くことが出来たはずですよね」

少女「それはそうなんですけど――」

双妹「つまり、少女さんは男のプライバシーを確保する方法を考えないといけないんです」

男「プライバシーの確保って言うけど、今のままでも大丈夫なんじゃないかな。トイレに行くときは外で待ってくれているし、着替えるときも後ろを向いてくれてるから」

少女「そうですよね。私なりに気を使っているつもりです」

双妹「あのさあ、男にとって、プライバシーはそれだけじゃないでしょ」


双妹は不機嫌そうに言うと、週刊誌を手に取った。
そして、カラーページを開く。
するとそのページには、巨乳アイドルの扇情的なヌードグラビアが掲載されていた。

374 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/22(火) 01:00:50 ID:1aBv8a9M
今日はここまでにします
レスありがとうございました

375 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/22(火) 08:08:14 ID:XcqNThas
確かにオッパイは好きだn…

376 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/22(火) 21:37:23 ID:BIvA0KnA
双妹「男は少女さんが一緒にいても、こういう画像とかアダルトサイトを見たりしているの?」

男「いや、双妹じゃないんだから、そういうサイトを一緒に見たりするとか出来るわけがないだろ」

双妹「金曜日の夜、『したいけどそんな時間がない』って言ってたよねえ。少女さんがいるせいでえっちなことを我慢するしかないのなら、性的なプライバシーが確保されていないことになるんじゃないの?」

男「まあ、そう言われるとそうかもしれないけど――」

双妹「それって、デートDVの被害に遭っていることになるんじゃないのかなあ」

少女「私が男くんにデートDV?!」

双妹「そうだよ。少女さんのせいでオナニーをしたくても出来ないんだから、そういうことになると思う」

少女「そ、それって、一人でするアレのこと……ですよねえ//」

双妹「そう。男はいつも週に4、5回くらいしているんだよ。それなのに夢精するまで10日以上も我慢させるとか、私だったら絶対に有り得ない!」

377 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/22(火) 21:46:30 ID:uu59lhR.
少女「ごめんなさい。私、兄弟がいないから、男子のそういう欲求がよく分かっていなくて……」

男「別に謝るようなことじゃないし、少女さんは何も気にしなくていいから」

少女「でもその……男くんは、ひとりでえっちなことをする時間が欲しいんですよねえ」

男「それはそうだけど、でもなんて言うか、しばらく俺が我慢すればいいだけの話だろ」

双妹「そんな状態で、少女さんと付き合っているとか言うつもり?」

男「特殊な状況だし仕方ないじゃないか」

双妹「そんなのおかしいよ。少女さんが一方的なデートDVをしているのに、男がそれを我慢し続けるなんて間違っていると思う」

少女「それじゃあ、私はどうすればいいんですか」

双妹「さっきも言ったけど、男のプライバシーを確保する方法を考えればいいと思う。離れることが出来ないのなら、とりあえず一緒に現状を改善する方法を探しませんか」

少女「一緒に?」

双妹「みんなで考えれば、きっといい方法が見つかるだろうし」

少女「そう……ですね」

378 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/22(火) 23:10:39 ID:BIvA0KnA
男「それで、双妹には何か考えがあるのか?」

双妹「ううん、まだ考えているところ」

少女「あの……ふと思ったんですけど、双妹さんはどうしていたんですか。双妹さんの部屋に二段ベッドがあるってことは、最近まで男くんも同じ部屋で寝ていたってことですよねえ」

双妹「そうだけど、あまり参考にならないかも」

少女「そうなんですか」

双妹「うん。私たちにはプライバシーが必要なかったから」

少女「えっ?」

双妹「だって、男はもう一人の私なんだよ。そういうことが恥ずかしいなんて思ったことがないし、一時期、お互いに暗黙のルールがあったくらいじゃないかなあ」

少女「それって、普通……なんですか」

双妹「どうなんだろ。私は普通だと思うけど――」


双妹がそう言うと、少女さんが困惑の眼差しを向けてきた。
男子生徒の自殺の記事を読みに来ただけのはずなのに、どうしてこんなことになっているんだよ。
勘弁して欲しい。

379 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/23(水) 05:10:00 ID:SC.Vzo8g
おつ

380 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/24(木) 00:04:43 ID:lni0Qiq2
男「あのさあ、よくよく考えてみれば、俺がトイレですればいいだけだろ」

双妹「それって、不衛生なんじゃないの?」

少女「そ……そうですよね。あまり好ましいとは思えません」

男「それじゃあ、少女さんが双妹の部屋に行けば良いんじゃないかな」

双妹「……えっ、私の部屋に?!」

男「双妹なら女同士だし、それですべて解決だろ」

双妹「ちょっと待ってよ。私にもそういうプライバシーがあるんだから、少女さんがずっと部屋に居るのは困るんだけど」

男「それは分かっているけど、他に良い方法がないだろ」

双妹「だったら、男が私の部屋に戻って来てよ。それで少女さんにずっと隣の部屋に居てもらえば、私たちもアレだし一番良いんじゃないかなあ」

男「確かにそういう方法もあるけど、さすがにちょっとアレだよな」

双妹「ん〜、まあ、少女さんがいるし……ねえ」

少女「あのっ! 私は時間を決めれば良いと思います。例えば11時まで男くんの部屋で過ごして、その後は朝まで双妹さんの部屋で過ごすとか――」

381 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/24(木) 00:32:38 ID:fmmtgMBI
男「なるほど。それが一番いいのかもしれないな。時間が決まっていれば、双妹に迷惑を掛けることもないだろうし」

双妹「まあ、少女さんが時間を守ってくれるなら別に良いけど、もう少しルールを決めて欲しいかな。急に壁をすり抜けて入って来られたら、びっくりするし」

少女「それもそうですね」


そんな訳で、少女さんは双妹の部屋の洋服ダンスを通って中に入ることが決まった。
そこならば、部屋に入る前に声を掛けることが出来るからだ。
そして、夜は以前まで俺が使っていた二段ベッドの上段で寝ることになった。


男「結局、俺が最初の日に提案したことに落ち着いたな」

双妹「ふうん、そうなんだ」

少女「……ごめんなさい」

双妹「ちなみに、今日から毎日、私も男と一緒にお風呂に入るからね」

男「ああ、分かった」

少女「ええっ?! それはきっぱり断ってくださいよ!」

双妹「ふふっ♪ それじゃあ、話が纏まったみたいだし、私は晩ご飯の準備を手伝ってくるわね」

382 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/24(木) 00:48:24 ID:l881Q5QE
少女「……はあっ。男くんと双妹さんって、本当にツイコンだよね」

男「ツイコンって何だよ」

少女「兄妹とは思えないくらい仲が良いと言うか、そういう事です」


少女さんは呆れたように言うと、ぷいっとそっぽを向いた。
とりあえず、双妹が一緒にお風呂に入ると言うのなら、それを利用してこちらから歩み寄っていくしかないだろう。
上手く行けば、少女さんのことを認めてくれるかもしれない。


男「何だかんだ言って、双妹も少女さんのことを知ろうとしているみたいだな」

少女「そうなんですかねえ」

男「そうでもなければ、少女さんと一緒にお風呂に入るなんて言わないだろ」

少女「私たちを二人きりにしたくないだけなんだろうけど……まあ、そういうことにしておきます」

383 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/24(木) 00:49:06 ID:fmmtgMBI
今日はここまでにします
レスありがとうございました

384 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/25(金) 00:08:37 ID:esHAmjSo
少女「ところでその、今夜は一人でえっちなことをするんですよねえ?」


少女さんは一転して、好奇の眼差しを向けてきた。
俺たちの前には、週刊誌のヌードグラビアが広げっぱなしで置かれている。
双妹もそうだけど、どうしてこういうことを聞きたがるのだろう。


男「そういうことって、普通は女子に話すようなことじゃないと思うんだけど」

少女「そ……そうだよね。それじゃあ、男くんはどの女優さんが好みなんですか」

男「それなら、ぱっと見た感じはこの人が好みかも」

少女「ふうん、そうなんだ。私と違って胸が大きいし、すごく可愛いですよね」

男「まあ、グラビアアイドルってそんな人ばっかりだし」

少女「やっぱり、男子は双妹さんみたいに胸が大きい女性のほうが良いのかなあ」

男「それは人それぞれだと思うし、俺は控えめな女性も好きだよ」

少女「……それは言わないほうがよかったかも。どうせ、私は胸がないもん」プイッ

385 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/25(金) 00:16:54 ID:smggGsC6
〜部屋・夜〜
晩ご飯を食べた後、双妹の部屋で洋服ダンスや二段ベッドの位置を確認し、3人でお風呂に入った。
そのときに双妹が生理中でちょっとしたアクシデントがあったけれど、やがて夜も遅くなり、少女さんが双妹の部屋に行く時間が迫ってきた。


男「そろそろ時間だな」

少女「そうですね」

男「……」

少女「……」


すぐに会話が途切れてしまった。
今日はいろいろな事がありすぎて、お互いに疲れている。

少女さんは自殺後、しばらく意識不明の状態で入院していた。
つまり浮遊霊ではなくて、生霊だった。

しかし、死亡が確定してしまった。
いまだに家に帰ることが出来ず、自分の身体と対面することも叶わない。
俺がそんな少女さんにしてあげられることは、一体何なのだろう。

386 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/25(金) 00:26:43 ID:smggGsC6
少女「あの、双妹さんの部屋に行ってきます」

男「そっか」

少女「それじゃあ、今夜はその……頑張ってくださいね//」

男「頑張るって、何をだよっ」

少女「何をって言われても、お……おな――」

少女「うぅっ、おなすみなさいっ!」


少女さんは顔を赤らめると、ふわりと浮かんで壁をすり抜けた。
恥ずかしいなら言わなければいいのにとは思うけれど、えっちな単語を言おうとする姿はすごく可愛かった。

俺はそう思いつつ、スマホを片手にベッドの上で横になる。
それからしばらくして、壁の向こう側から双妹と少女さんの話し声が聞こえてきた。
俺と少女さんが離れることが出来るのは、およそ1.5メートル。
壁を一枚挟んでいるだけとはいえ、今夜は一人で過ごす久しぶりの夜だ――。

387 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/25(金) 20:18:52 ID:Mbowj.3Y
自主トレタイムか

388 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/28(月) 20:21:07 ID:04auKy..
(2月13日)sat
〜病院・少女さん〜
辺りが暗くなってきた頃、ようやく頭とつながっていた銀色の紐を引き千切ることが出来た。
そしてそれと同時、人工呼吸器のアラームが鳴り始めた。
看護師さん数人が慌てて駆け込んできて、私の身体を取り囲む。
何が起きているのか分からないけど、どうやら自発呼吸が停止したらしい。

そんな中、私は心が冷めていくのを感じていた。
看護師さんの手際を見ていても、私が看護師になる夢は叶わない。
どんなに努力をしても、私では患者さんに笑顔を届けてあげることが出来ない。
だって、もう死んでいるんだから――。

いつまでもここにいないで、早く男くんに会いに行こう。

私はそう思い、ふわりと浮かんで自分の身体を見下ろした。
そして、そのまま病室を抜け出した。

389 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/28(月) 20:24:56 ID:lVvpRG/U
無事に病室を出ることが出来て、ふわふわと通路を歩いていく。
その道すがら男性医師とすれ違い、病院の職員さんとすれ違う。
しかし、誰も私の姿には気が付かない。
まるで透明人間になったかのようだ。

だけど透明人間は光が網膜を透過してしまうから、目が見えなくなってしまうんだよね。
そう考えると、今の私はすごく不思議な存在だ。

ふわふわ浮いているし、壁だってすり抜けられる。
雨が降っていても濡れることがないから、傘を差す必要もない。
それなのに人の声が聞こえるし、バスと電車にも普通に乗れてしまう。
もしかすると物理的な現象よりも、『私はここに存在している』という認知機能が関係しているのかもしれない。
しかしそれは、私が幽霊であることを強く認識させた。

390 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/28(月) 20:29:53 ID:lVvpRG/U
やがて最寄り駅に着き、私は違和感を感じた。

家に帰りたくない。
家に近づいてはならない。
心の奥底から、そんな感情が沸き起こってくる。

でも、どうしてなんだろう。
その理由はまったく分からない。
それなのに、何となく良くないことが起きるような気がする。

だけど家に帰らなければ、男くんにチョコを渡すことが出来ない。
14日に告白すると決めたのに、気持ちを伝えることが出来ない。
それでも、家には帰りたくない。

よくよく考えてみれば、私の姿は誰にも見えないんだよね。
もはや、告白する以前の問題だ。


少女「……はあっ」


私は小さくため息を吐き、家に帰ることを止めることにした。

391 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/28(月) 20:42:55 ID:zXr1.SQE
それからしばらく考えて、私は学校に行くことにした。
明日はうちの学校で柔道部の練習試合があるので、その試合に男くんが出場するはずだ。
告白を出来ないのならば、せめて陰ながら応援をしてあげたい。

そう思ったのだけど――。

なぜか気分が乗ってくれない。
学校にも近づいてはならないような気がする。

こうなったら、男くんの家に行くしかないっ!
だけど、私は彼の家を知らない。
じゃあ、男くんの学校で待つことにしよう。

私はそう決めて、電車に乗り込んだ。

392 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/28(月) 20:45:22 ID:zXr1.SQE
今日はここまでにします
レスありがとうございました

393 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/28(月) 22:36:10 ID:QdlhNbe6


394 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/29(火) 21:54:39 ID:tzJNo6uM
(2月14日)sun
〜校門前・少女さん〜
今日は待ちに待ったバレンタインデー。
それなのに、私は男くんの学校の前で立ち尽くしている。

今日の試合、男くんは勝てたのかなあ。
学校に行って、応援したかったな。
それなのに、どうしてこんなことになってしまったんだろう。

激しい雨の中、私はただ立ち尽くす。
ぼんやりと、ただ時間だけが過ぎていく。

395 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/29(火) 21:57:12 ID:NawV7Wcg
(2月15日)mon
〜校門前・少女さん〜
激しい雨が降っているにもかかわらず、音が何も聞こえない寂しい夜。
なぜ音が聞こえないのか疑問に思いつつ、男くんが登校してくるのを待ち続ける。
やがて日付が変わり、朝が近付くにつれて雨が重たい雪に変わっていった。
幹線道路は消雪装置が起動し、歩道には少しずつ雪が積もり始めている。

それからしばらくして、車や電車を利用する人々が通るようになり喧騒が戻ってきた。
なぜ音が聞こえるようになったのか、それは分からない。
そんなことよりも、誰も私に気が付いてくれないことが悲しかった。
学校に登校してきた生徒たちも、私に気が付くことなく校舎の中に入って行く。

やっぱり、私の姿は見えないんだ……。
それでも、男くんに会いたい。
そのために、ここで待っているんだから――。

396 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/29(火) 21:58:30 ID:MvORlNJY
私は気を取り直し、駅がある方向を見た。
歩道の雪はすでに踏み固められていて、その上を多くの生徒が列をなして歩いている。
人も増えてきたし、そろそろ男くんが登校してくるだろう。

そう思っていると、歩道の脇に溜まっていたシャーベット状の雪を車が踏みつけた。
そのせいで、歩いていた男女に氷水が撥ねる。
しかし、間一髪のところで男子生徒が傘を倒して防ぎ、難を逃れることが出来たようだ。

そして、走り去った車を見据える男女。
その二人は、男くんと彼女と思しき女子だった。

397 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/29(火) 22:00:08 ID:MvORlNJY
男「双妹、浴びてないか?」

女子「大丈夫だよ。ありがとう」

男「融雪道路に出てきた途端、これだもんな。勘弁して欲しいよ」


どういうこと……。
二人は一緒に登校するくらい仲がいいの?!

以前、友香ちゃんは彼女のことを妹かもしれないと言っていた。
しかしそれが正しいとすると、彼女は男くんと同い年だということになってしまう。
普通に考えて、そんなことがあるはずがない。

やっぱり、男くんは彼女と付き合っているんだ――。

そう思うと、心がちくりと痛んだ。
でも、これで良かったのかもしれない。
私は自分にそう言い聞かせ、男くんを見送った。

398 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/29(火) 22:02:27 ID:NawV7Wcg
今日はここまでにします
レスありがとうございました

399 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/30(水) 07:54:00 ID:A2qqw8wY


400 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/31(木) 23:22:02 ID:WN7doU.w
それからしばらく立ち尽くしていると、ふいに背後から視線を感じた。
私は慌てて振り返り、周囲を見渡す。
すると男子生徒が自転車に跨ったまま、じっとこちらを見ていることに気が付いた。

お互いに目が合い、彼がしまったという顔で目を逸らす。
その顔には見覚えがあった。
中学生のときに同じクラスだった友くんだ。


少女「もしかして、私のことが見えているんですか?」

友「……そうだけど」

少女「すごいっ! 私のことが見えているんだ!!」

友「俺は今、浮遊霊なんかに構っている暇はないんだけど」

少女「あっ、ああ……ですよね」

友「じゃあな」

401 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/31(木) 23:23:35 ID:WN7doU.w
友くんはそれだけを言うと、私を一瞥して校舎裏に向かって自転車を漕ぎ出した。
その後ろ姿を見つつ、私はふと疑問に思った。
友くんには、どうして私の姿が見えていたのだろう。

そもそも、見えるとは何だろうか。

私は生物の授業で勉強したことを思い出す。
目の働きと視覚情報の伝達経路。
ものが見えるのは、網膜に映った像が視神経を通じて大脳に伝達されるからだ。

大脳に伝達される?

……あっ!
分かったかもしれない。

402 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/31(木) 23:25:07 ID:4f0YciQ6
友くんに私の姿が見えていた理由は、依然として分からない。
だけど、最終的に情報を処理するのは大脳だ。
つまり大脳に直接情報を与えることが出来れば、普通に会話が出来るようになるはずだ。

会話をする方法があるなら、せめて最期に男くんと話をしたい。
男くんの恋を応援してあげたい。
でも、どうすればそんなことが出来るのかな。

私は幽霊なんだし、男くんに取り憑いてみるとか?
ぴったりくっついて、手をつないだりとかしちゃったりして――。

いやいやいや。
男くんには彼女がいるんだし駄目だよ、そんなことは!
私は妄想を振り払い、お昼休みに男くんの教室に行ってみることにした。

403 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/31(木) 23:37:40 ID:aPy.ofvI
〜お昼休み・少女さん〜
男くんの教室を探して中に入ると、友くんと例の彼女も同じ教室だということが分かった。
男くんは一人で漫画を読んでいて、彼女さんは友達と雑談をしているようだ。
その様子を窺っていると、友くんが席を立った。
彼には私の姿が見えているので、もしかすると勝手に教室に入ったことで何か言われるかもしれない。
私はそう思い、急いで隠れることにした。


友「そうじゃなくて、チョコは貰えたのかって聞いてるんだ」

男「試合じゃなくて、そっちのほうか」

友「それで、どうなんだよ」

男「もちろん貰ったぞ。双妹からだけど!」

友「なんだそりゃ。そんなもん、ノーカウントだっつうの」

男「彼女がいない俺たちには、まったく関係ないイベントだな」

友「はあ、確かに……」

404 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/31(木) 23:43:14 ID:WN7doU.w
その会話を聞いて、私は自分の耳を疑った。
『双妹』は男くんの彼女の名前だ。
その彼女からチョコレートを貰ったのに、男くんは彼女がいないと言っている。

もしかして、ただの女友達なのだろうか。
そう思っていると、例の彼女さんがやってきた。
そして、友くんにチョコレートを手渡した。
しかも、それは男くんが選んだものらしい。

これって、私にもまだチャンスがあるってこと?

そう考えると、急激に気持ちが高まってきた。
私がここに存在していることを知ってもらいたい。
そして、男くんに気持ちを伝えたい。

こんなとき、友香ちゃんならどんなアドバイスをしてくれるのだろう。
それを頭に思い浮かべながら、私は校門脇に戻って男くんの帰りを待つ。
やがて辺りが暗くなり、男くんが雪の中を歩いてきた。
私は勇気を出して、さり気なく声を掛ける。


少女「部活、お疲れさまでした――」

405 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/05/31(木) 23:45:31 ID:4f0YciQ6
今日はここまでにします
レスありがとうございました

406 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/01(金) 02:39:49 ID:GFXcQPeo


407 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/04(月) 20:54:46 ID:MDznBl7o
いつもありがとうございます
諸事情により、今回から一区切り兼お礼の下げ更新を控えようと思います

408 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/04(月) 20:55:32 ID:8yEwcyAM
(2月23日)tue
〜自宅・部屋〜
翌朝、目が覚めて隣を見ると、そこに少女さんの姿がなかった。
いつもなら俺を起こしてくれたり、掛け布団をすり抜けて寝姿を晒している少女さん。
その彼女が隣にいないことが、何だかもの寂しく感じた。
いつの間にか、一緒に寝ることが当たり前になっていたらしい。


男「まあ、着替えるとするか」


俺はベッドから降りて、暖房と明かりをつける。
そして洋服ダンスに歩み寄り、パジャマから制服に着替えた。


少女「えっ、あれっ?!」


ふいに背後から少女さんの戸惑う声が聞こえた。
背丈ほどの高さの場所で横になり、寝ぼけた表情で浮遊している。
どうやら、俺に引っ張られて双妹の部屋からすり抜けてきたようだ。

409 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/04(月) 21:21:56 ID:MDznBl7o
男「少女さん、おはよう」

少女「えっと、あの……男くん、おはよう」アセアセ

男「壁をすり抜けるとか、ものすごい寝相の悪さだね」

少女「そ……そんなことはないです//」


少女さんは恥ずかしそうに否定すると、ふわりと浮かんだままゴミ箱を覗き込んだ。
そして顔を赤らめ、まじまじと好奇の視線を向けてきた。
昨日のこともあって軽い冗談で爽やかな朝を演出しようとしたけれど、少女さんは俺がオナニーをしたのかどうかが気になるようだ。
我慢できなくなって抜いてしまったけど、ひょっとすると失敗したかもしれない。

410 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/04(月) 22:12:00 ID:MDznBl7o
男「どうかした?」

少女「いえ、昨日の朝と同じ匂いがするから、あのあと本当に一人でしたんだなと思って//」

男「あ、ああ、どうしても我慢できなくなって……」

少女「ふふっ、男くんは健全な男子だもんね。えっちな事をしたくなるのが普通なのに、今まで我慢をさせてごめんなさい」

男「いや、良いって。別に謝るようなことじゃないし」

少女「でも私、双妹さんに言われるまでずっと性的なことをないがしろにして来たと思うんです」

少女「男くんが週に5回もえっちな事をしているなんてびっくりしたけど、そういう一面も好きになるから、これからは我慢をしたりしないでくださいね//」

男「そんな事を言われると恥ずかしいけど、少女さんに嫌われなくてほっとしたかも」

少女「ふふっ。男くんがどんなにえっちでも、私が男くんを嫌いになることは絶対にあり得ないですから//」

男「ありがとう。俺も少女さんのことが好きだよ」

少女「うん、私も男くんが大好きです//」

411 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/04(月) 23:26:24 ID:8yEwcyAM
双妹「男、おはよう♪」

男「おはよう」


少女さんといい雰囲気になってきたところで、双妹が部屋に入ってきた。
そして、ゴミ箱に視線を向けて少女さんを見据える。


少女「双妹さん、おはようございます」

双妹「おはよう。少女さんは早起きだね」


双妹は皮肉混じりに言いつつ、お腹をさすった。
今日は生理2日目ということもあり、ちょっと辛そうだ。

412 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/04(月) 23:48:49 ID:C2vzJyDI
男「やっぱり、今日は少し辛そうだな」

双妹「まあね」

男「俺が朝ご飯の準備を手伝ってくるから、双妹はゆっくりしてろよ」

双妹「うん、ありがとう。そうしてくれると助かる」

男「それじゃあ、行こうか」


俺は少女さんに声を掛け、部屋を出た。
すると双妹が俺の隣に駆け寄り、頬を緩めた。
まあ、こうなるだろうなとは思った。


双妹「ふふっ♪」

少女「……」

413 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/05(火) 20:01:49 ID:LzAneh2Y
〜学校・お昼休み〜
新しい朝が始まり、いつも通りに授業が始まる。
そしてお昼休みになってスマホを手に取ると、友香さんからメールが来ていることに気が付いた。
一体、どんな用事があるのだろう。
俺はそう思い、早速開いてみることにした。



From:友香さん
件名:土曜日あいてますか

本文:
今週の土曜日なんですけど、少女の家にお線香をあげに行きませんか
男くんが行けば、少女が喜んでくれると思います
都合のいい時間があったら教えてください(^O^)

414 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/05(火) 20:12:09 ID:2Cj10nYY
男「お線香か……」


少女さんのお葬式は身内だけで行うことになっているので、友香さんは日を改めて弔問することにしたのだろう。
そのお誘いメールが来たわけだけど――。


男「少女さんが家に帰れないと、俺も行けないんだよな」

少女「ですよね」

男「とりあえず、土曜日は部活があるから都合が悪いって返そうか」

少女「でも、朝から夜まで部活って訳じゃないですよねえ」

男「そうだけど、行けないだろ」

少女「私、男くんだけじゃなくて友香ちゃんも一緒なら、今度こそ家に帰れると思うんです。だから、行くって返事をしてください」

男「……分かった。少女さんがそう言うなら、昼から行こうって返信するから」

少女「はい、お願いします」

415 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/05(火) 20:23:05 ID:AlgI77fQ
友「男、二人で何を話してるんだ?」

男「今度の土曜日、少女さんの家にお線香をあげに行こうって友香さんからメールがあって」

友「そうなのか。俺には来てないんだけど!」

男「それは知らないけど、友も行くだろ? うさぎのぬいぐるみを調べないといけないし」

友「そうしたいのは山々なんだけど、ちょっと無理かもしれない」

男「何かあったのか?」

友「昨日の英語の授業のことで、俺の家に連絡があったみたいで――」


昨日の英語の授業中、少女さんが胸の痛みで苦しみ始めた。
しかし他の人には少女さんの姿が見えないので、俺と双妹が騒いで授業妨害をしているかのように見えていたのだ。
それを友が上手くフォローしてくれたのだけど、心霊催眠が解けていなかったと説明したことが不味かったようだ。
そのせいで家に連絡があり、親にひどく叱られたらしい。

416 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/05(火) 20:24:25 ID:AlgI77fQ
友「そんな訳で神社の評判にも関わるから、しばらくは大人しくしていないといけないんだ」

男「そうなのか、俺のせいで……ごめん」

少女「ごめんなさい」

友「まあ、良いってことよ」

男「じゃあ、今日の放課後、俺も友の親父さんに謝りに行かせてくれ。元はといえば俺が原因だし、ちゃんと事情を説明しておいたほうが良いと思うから」

少女「そうですよね。私も謝ります!」

友「……悪いな」

男「そのついでに、期末テストの勉強も一緒にしようぜ」

友「そうだな」

417 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/06(水) 11:55:56 ID:d6mZ93L.
続きが楽しみだ

418 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/06(水) 16:48:22 ID:njMceeBs


419 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/07(木) 00:25:21 ID:Mfgssff.
〜友の家・神社〜
放課後になり、俺と少女さんは友の家に向かった。
今回は神社の宮司である親父さんに会うということで、前回以上に少女さんは緊張している。
怖い人ではないけど、さすがの俺も緊張してきた。


友「親父は社務所で仕事をしていると思うから、そっちに行こうか」

男「そうだな」

少女「あ……あの、神社に行くんですか?!」

男「そういえば、少女さんは神社に入るのが怖いんだっけ」

少女「そっ、そうなんです。いきなり除霊されたりしませんよねえ」オロオロ

友「それは大丈夫だよ。少女さんは除霊する必要がない浮遊霊だから」

少女「そうかもしれないけど、神社は神聖な場所だし――」

男「少女さん。ここには謝るために来たんだから、ごねるのはやめにしようよ。もし除霊されそうになったら、俺が守ってあげるから」

少女「ううっ、そうですね。ごめんなさい……」

420 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/07(木) 00:42:00 ID:O.1.hxHU
少女さんを説得し、俺たちは鳥居をくぐった。
そして境内に入ると、授与所にいた巫女さんが俺たちに挨拶をしてくれた。


友「巫女さん、ただいま。親父に会いたいんだけど、今は大丈夫かな」

巫女「大丈夫だと思いますよ。今は社務所にいらっしゃるはずです」

友「そっか、ありがとう。じゃあ、行こうか」

男「そうだな。それじゃあ、お邪魔します」


俺はそう言って、巫女さんに会釈をした。
すると笑顔を返してくれて、俺の背後に視線を向けた。
そこには、少女さんが立っている。


少女「あの巫女さん、私の姿が見えているみたいですね」

友「うちの神社では、本職巫女の霊的な神聖性を高めているんだ。そのおかげで神事や祭事にも定評があって、巫女舞を奉納するときには神霊の気配も感じ取ることが出来るほど高まっているんだ」

少女「へえ、そうなんだ!」

男「お祭りのときに見たことがあるけど、そんなにすごい舞だったのか」

友「ああ、密かにすごいんだぜ。うちの神社は――」

421 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/07(木) 00:43:10 ID:YAksLV5E
〜社務所〜
友に連れられて社務所に入ると、友の親父さんが仕事をしていた。
見たところ、桃の節句の準備をしているようだ。


男「えっと、こんにちは」

友父「こんにちは。男くん、久しぶりだね」

男「今日はちょっと謝りたいことがあって来たんですけど、少しいいですか」

友父「それは、そちらの可愛いらしいお嬢さんのことが関係あるのかな?」

男「はいっ」

友父「それじゃあ、3人ともそこに座りなさい」


そう言われ、俺たちは中に入って正座をした。

やばい。
かなり緊張してきた。

422 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/07(木) 00:45:22 ID:Mfgssff.
男「昨日のことなんですけど、友は俺たちを助けてくれただけで何も悪いことはしていないんです」

少女「……そうなんです。友くんは何も悪くありません」


俺たちは友の親父さんに事の成り行きを説明した。
少女さんに取り憑かれて、友に相談したこと。
記憶を思い出すために、少女さんに心霊催眠を試してみたこと。
少女さんが授業中に苦しみ始めて、介抱するために力を貸してくれたこと。


男「だから、悪いのは俺なんです。本当にすみませんでした!」

少女「すみませんでした」

友「俺は二人に協力したいんだ。迷惑をかけないように気を付けるから、もう少し続けさせてくれ!」

423 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/07(木) 00:49:01 ID:O.1.hxHU
友父「大体の事情は分かった」

友「じゃあ、続けさせてくれるんだ」

友父「こちらの浮遊霊は少女さんだったかな。かなり強力な力を持っているようだが、それをどのように考えているんだ?」

友「事故死霊の特徴を持った自殺霊で、幽体が通常よりも少ないから霊波動の影響が強く現れやすいと考えているんだけど」

友父「事故死をした自殺霊……ねえ」


友の親父さんはそう言うと、少女さんの首元を見据えた。
そこには、首吊り自殺をしたときの自殺痕が残されている。
やがて首元から視線を外し、優しい表情で少女さんに話しかけた。


友父「人はみな、生まれてきた意味を持っている。貴女はそれを探しなさい」

少女「生まれてきた意味を、ですか?」

友父「そうです。生きた証が見付かったとき、貴女の救いがそこにあるはずです」

少女「……はい」

424 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/07(木) 01:01:21 ID:VGQ1TV5c
友父「男くん、友。二人とも、彼女の力になってあげなさい」

男「もちろんです!」

友「それって、許してもらえたってことでいいのかな」

友父「まだまだ未熟者で足を引っ張っているみたいだけど、まあ、やれるところまでやってみなさい」

友「分かった、全力でやってみる!」

少女「男くん、友くん。よろしくお願いします」ペコリ

男「ああ、俺に任せてくれ」

友「そうだな。俺たちがいれば、大船に乗ったつもりでいてくれて大丈夫だ」


少女さんの生きた証。
それを見付けたとき、少女さんは家に帰ることが出来るようになるのだろうか。
そして、成仏をすることが出来るのだろうか。

そのためにも、まずは期末テストを片付けなければならない。
俺は友の家に行って、一緒にテスト勉強をすることにした。

425 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/07(木) 13:30:51 ID:PC9BRAf6
生き返る事はやはりないのか…

426 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/11(月) 19:57:56 ID:YN4BfG4M
〜自宅・部屋〜
1時間ほど友の家で勉強をし、外が暗くなってきたので家に帰ることにした。
明日は得意科目だし、いざとなれば少女さんもいる。
少しくらい勉強をしなくても、期末テストは楽勝だろう。
そんな訳で、俺は家に着くと古新聞を部屋に持って上がり、少女さんの生きた証を探すことにした。


少女「私の生きた証が新聞に載ってますかねえ」

男「載っているとは思えないけど、少女さんが亡くなったときの記事を読めば手掛かりを掴めるかもしれないだろ」

少女「……そうですね」

男「とりあえず、探してみようよ。少女さんが亡くなったのは、公式には2月20日だよな」

少女「ICUの受付さんを信じるなら、そうなりますね」

男「じゃあ、20日の朝刊から探してみよう」

427 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/11(月) 20:05:52 ID:naVE0Xjg
俺は少女さんと一緒に、20日の新聞を隅々まで読む。
しかし、それらしい記事は掲載されていなかった。
同じく21日と22日、そして今日の新聞も読んでみたが、少女さんのことはまったく書かれていなかった。


男「ないなあ」

少女「そうですね。私のことは報道する価値もないってことなのかな」

男「そんなことはないと思うけど、もしかしたら報道規制をされているのかもしれない。北倉高校は看護系の専門学校だし、二人目の自殺者が出たとか報道できないだろ」

少女「たしかに……学校のイメージが悪くなってしまいますもんね」

男「もうすぐ受験シーズンだし、それが影響しているのかもしれないな」

少女「もしそうだとしたら、すごく悲しいです」

428 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/11(月) 20:18:42 ID:xiIOF3xg
〜リビング〜
結局、新聞を読んでも何も分からないことが分かり、俺は仕方なく晩ご飯の準備を手伝いに行くことにした。
そして古新聞を元の場所に戻し、キッチンを覗きみる。
すると、ふわりとみその香りが漂ってきた。
どうやら、今日の晩ご飯はとり野菜鍋のようだ。


母親「男、ちょうどいいところに来たわね。おこたの上にお鍋を運ぶから、新聞を敷いてくれない?」

男「ああ、うん」


俺は食器類を運び、さっき読んだ古新聞をコタツの上に置いた。
そして、ふと思った。
母さんにとって、生きた証は何なのだろう。


男「なあ、母さん。ひとつ聞きたいことがあるんだけど、いいかな」

母親「良いけど、何を?」

男「母さんにとって、生きた証って何かなあと思って」

429 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/11(月) 20:54:24 ID:naVE0Xjg
母親「生きた証?」

男「そう」

母親「変なことを聞くのね」


母さんはそう言うと、コタツの上にお鍋を置いて首を傾げた。
双妹も俺の言葉を聞いて、コタツから顔を出す。


双妹「ねえねえ、私も聞きたいかも」

母親「ええっ?!」

少女「……私もぜひ聞かせて欲しいです!」

母親「二人がそう言うなら仕方ないわねえ。わたしの生きた証は、男と双妹が生まれてきてくれたことかしら」

男「俺と双妹が?」

双妹「どうして私たちが生きた証なの?」

母親「どうしてって、男と双妹も子どもが出来れば、きっとそう思うようになるはずよ」

男「ふうん、そういうものなんだ」

430 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/11(月) 20:59:20 ID:zL/MGWqM
少女「子ども……か」

双妹「じゃあ、子どもがいない人にとって、生きた証は何なのかなあ」

母親「それは人それぞれだろうけど、そもそも生きた証は考える必要がないことなのよ」

双妹「考える必要がない?」

母親「そうよ。お父さんがいつも言っているでしょ。人はみんなでみんなを支えて生きているって。そうすることで、自分の想いがみんなに繋がっていくの」

母親「つまりね、精一杯生きることがそのまま生きた証になるのよ。だから、二人とも今は自分のやりたいことを頑張りなさい」

双妹「そうだね」

男「そうだな。ありがとう」

少女「……」

母親「それじゃあ、冷める前にお鍋を食べましょ。今日は白菜がすっごく安かったのよ♪」

男「そうなんだ。いただきます」

双妹「いただきます♪」

431 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/12(火) 19:56:33 ID:zB7epf4A
〜部屋〜
晩ご飯を食べた後、少女さんはとり野菜鍋のシメについて語り始めた。
少女さんの家では素麺を入れてシメるのが定番で、うどんやラーメンはほとんどしたことがないそうだ。
作り方は下茹でした素麺を入れて、かまぼこと刻んだねぎを浮かべるだけ。
それが少女さんのマイベストらしく、部屋に戻っても延々と語り続けている。


少女「とにかく、試してみてくださいよ! おみそ汁にお素麺を入れるでしょ? それと同じじゃないですか」

男「いやいや、それとお鍋のシメは別問題だから」

少女「そういえば、私の未練はみそ素麺を普及させることだったような気がします」

男「まあ、そこまで言うなら食べてみてやろうじゃないか」

少女「ふふっ♪ 一度食べたら、もうラーメンには戻れなくなりますから」

男「さあ、それはどうだろうな。超少数派の素麺ふぜいが我が家の定番を覆すつもりだとは、片腹痛いわっ!」

少女「……その言葉、食べ終わった後でも言えますかねえ」

男「ふはははは、言うではないか!」

432 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/12(火) 19:59:17 ID:zB7epf4A
双妹「テスト勉強もせずに、二人で何をやってるの?」


うどん・ラーメン派と素麺派の戦いを繰り広げていると、双妹が俺たちに呆れたような視線を向けていた。
いつの間にか部屋に入ってきていたらしい。


男「お鍋のシメを素麺にするべきか否かで、論争を繰り広げていたんだ」

双妹「まだ続いてたんだ……」

少女「双妹さんもぜひ食べてみてください!」

双妹「そんなことより、そろそろお風呂に入らない?」

少女「そんなことより?!」ショボン

男「お風呂って言うけど、まだ晩ご飯を食べたばっかりじゃないか」

双妹「でも今のうちにお風呂に入っておけば、ゆっくりテスト勉強が出来るでしょ」

男「……それもそうだな。もう一度復習しておくか」

双妹「じゃあ、先に行ってるわね」

男「分かった」

433 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/12(火) 20:19:38 ID:zB7epf4A
〜お風呂場〜
双妹が部屋を出た後、俺は5分ほど時間をずらしてお風呂場に向かった。
昨日から3人で入ることになった訳だけど、今は双妹が生理中なので布ナプキンを洗わないといけないからだ。
別に時間をずらす必要はないと思うのだけど、昨日はいつも通りに双妹がじゃぶじゃぶと洗い始めて、経血で赤くなっていく水を見た少女さんがドン引きしてしまった。
それで、少女さんに配慮することになったのだ。
この辺りの感覚も、やっぱり普通の兄妹とは違うようだ。


少女「ねえ、男くん」

男「どうかした?」

少女「お風呂なんですけど、やっぱり双妹さんと一緒に入るのは変だと思います。このまま上がってくるのを待つことにしませんか」

男「それをすると、少女さんの印象が悪くなるだけだと思う。昨日も言ったけど、歩み寄るチャンスだと思ったほうがいいんじゃないかな」

少女「それはそうかもしれないけど、双妹さんを見ていると何かが違うような気がするんですよね」

434 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/12(火) 20:22:06 ID:ZY0Bv2qw
男「それって、どういうこと?」

少女「それを聞かれると困るんだけど、何となく距離感が近すぎるような気がして。一卵性双生児の兄妹は普通の兄妹とは違って、私が想像している以上に仲が良くなったりするものなのかなあ」

男「んー、それはあるかもしれない。双妹は俺にとって、本当にかけがえのない存在だと思うし」

少女「あ、ああ……やっぱり、そうなんだ…………」

男「異性一卵性双生児は世界中に俺と双妹だけしかいないから、この感覚は俺と双妹だけが分かるものなんだろうな」

少女「そう……かもしれないですね」

男「それじゃあ、あまり遅くなると双妹の機嫌を損ねるし、そろそろお風呂に入ろうか」

少女「はあっ、そうですね」


少女さんは小さく嘆息し、後ろを向いた。
どうやら双妹に対して不満があるみたいだけど、絶対に嫌だという訳ではなさそうだ。
とりあえず、俺は着替えを棚に置いて服を脱ぐことにした。

435 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/12(火) 21:44:20 ID:z6wEpRvA
おつ

436 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/14(木) 20:32:57 ID:55QZOZf.
ガラララッ・・・
浴室に入ると、双妹がまだ洗い物をしていた。
今日は生理2日目なので、布ナプキンを使った枚数が多かったのだろう。
俺は双妹が寒くないのか気になりつつ、少しぬるめのお風呂に浸かって少女さんを招き入れた。


双妹「少女さん、今日はビキニ姿なんだ。男にもその水着姿が見えているの?」

少女「……そうですよ」

男「多分、双妹が見ている姿と同じだと思う」

双妹「ふうん、すごく可愛いよね」

男「ブラにフリルが付いてて、それが可愛いよな」

双妹「自分のイメージで好きな水着を着られるって、ちょっと羨ましいかも」


双妹はそう言うと、布ナプキンを浸け置き用のミニバケツに入れてふたをした。
そしてスポンジを手に取り、身体を洗い始める。

437 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/14(木) 20:37:51 ID:Vl/BfX5g
双妹「そういえばさあ、どうしてお母さんに生きた証を聞いていたの?」

男「実は今日、友の家の神社に行って、親父さんに生きた証を探したほうがいいって言われたんだ」

双妹「そうなんだ」

少女「双妹さんは生きた証って何だと思いますか?」

双妹「それは少女さんのって意味? それだったら、お母さんが言っていた通りじゃないかなあ」

少女「でも、それは死んでしまった私に言えることではないですよね」

双妹「そんなことはないと思うよ。生きていたときに頑張っていたことの中に、少女さんの生きた証があると思う」

少女「頑張っていたこと……か。私は将来の夢を諦めてしまったんですよね」

双妹「でも1年間頑張っていたんだから、振り返ってみれば気が付くことがあると思う。一度、学校に行ってみたら良いんじゃないかなあ」

少女「そうだね。あまり気が進まないけど――」

438 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/14(木) 20:41:58 ID:Vl/BfX5g
男「逆にさあ、今から生きた証を残す方法もあるんじゃないかな」

少女「それって、どうやるんですか?」

男「ほらっ、少女さんは超マイノリティーな素麺を普及させようとしていただろ。それを俺がネットに投稿すれば、少女さんの想いが残り続けることになると思うんだ。つまり、そういう感じかな」

少女「超マイノリティーは余計ですっ」プンスカ

双妹「私は反対だな」

少女「ええっ?! 美味しいですよ、みそ素麺!」

双妹「そっちじゃなくて、ネットに投稿して生きた証を残すことに反対だと言ってるの。少女さんはSNSでデートDVに遭っているんだよ。生きた証がそれと一緒にヒットするって考えたら、私なら絶対に嫌だと思う」


そうだった。
少女さんはSNSでデートDVの被害に遭っているのだ。
双妹が言うように、ネットに投稿するなんて論外だ。

439 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/14(木) 21:14:08 ID:P2F57jiQ
少女「……」

双妹「あれっ? ネット投稿は意外と嫌じゃない感じ?」

少女「いえ、そんなことはないです。本当に早く削除されてほしいし!」

双妹「やっぱり、そうだよね」

男「少女さんはSNSで被害に遭っていたのに、気持ちをまったく考えていなかった。本当にごめん……」

少女「別に謝るほどのことじゃないです。あまり気にしないでください」

双妹「それはそうと、今度みそ素麺を試してみようと思ってるの」

少女「えっ、本当ですかっ?! ぜひ試してみてください!」


双妹は少女さんに笑顔を返し、身体の泡をすすぎ落とした。
どうやら、双妹も少女さんのことを考えてくれているようだ。
そしてそのことが少女さんに伝わったのか、何となく少女さんの態度が軟化したかのように感じられた。
何だかんだ言いつつ、女同士で分かり合える部分があるのだろう。

440 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/14(木) 21:16:18 ID:Vl/BfX5g
少女「ところで、双妹さん。布ナプキンって、洗うのが面倒じゃないですか」

双妹「え? もみ洗いをして浸け置きするだけだし、明日の朝に洗濯かごに入れておけばお母さんが洗ってくれるから、別に面倒だと思わないけど」


双妹はそう言いつつ、風呂椅子を洗い流して湯舟に浸かってきた。
さすがに3人だと狭いので、俺が入れ替わりで湯舟を出て身体を洗う。


少女「そうなんだ。でも、どうして普通のナプキンを使わないんですか」

双妹「私は事情があって2ヶ月毎に精密検査を受けているんだけど、肌トラブルのことで女医さんに相談したら布ナプキンを勧めてくれたの。肌触りがすごく良いし、蒸れないから快適だよ」

少女「へえ、そうなんだ」

双妹「そうそう。慣れるまで戸惑うことがあるかもしれないけど、少女さんも少ない日から試してみたら?」

441 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/14(木) 21:30:32 ID:Vl/BfX5g
少女「それがその、私にはもう来ることがないだよね……」

双妹「……!」

双妹「ごめん、今のはうっかりしてた」

少女「いいですよ、別に――」

双妹「え……えっと、少女さんは今日がお葬式だっけ」

少女「……多分」

双妹「それでお昼休みに友香さんからラインが来たんだけど、土曜日にお線香をあげに行く約束をしているんでしょ。少女さんは家に帰れるの?」

少女「それは分からないけど、今度こそ家に帰れるように気持ちの整理をしたいと考えています」

双妹「そうなんだ。じゃあ、私たちが期末テストを受けているときに、少女さんも試験勉強を頑張らないといけない感じだね」

少女「そうなりますね」

双妹「私に出来ることがあれば協力するから、遠慮なく言ってくださいね」

少女「はい、よろしくお願いします」

442 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/14(木) 21:58:10 ID:Ryed0ANY
〜部屋〜
お風呂から上がり、部屋に戻ってきた。
時刻はまだ10時前なので、テスト勉強をする時間は十分にある。
俺はミニテーブルの脚を広げて設置し、双妹が来るまでに参考書の準備をしておくことにした。

それからすぐに双妹が来て、お互いに得意科目を教えあいながら勉強をした。
その間、少女さんは俺のベッドに座って何やら考え事をしているようだった。

それが何かは分からないけれど、きっと土曜日のことを考えていたのだろう。
生きた証と心的外傷後ストレス障害。
これらの問題を解決して気持ちの整理をしなければ、少女さんは家に帰ることができない。

明日から3日間。
その間に、少女さんは答えを見付けることが出来るのだろうか――。

443 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/16(土) 08:02:39 ID:6nC0vdOk
おつ

444 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/18(月) 19:52:40 ID:OijKQv2g
(2月27日)sat
〜市街地〜
期末テストが無事に終わり、土曜日になった。
今日は少女さんの家にお線香をあげに行く日だ。
俺は朝から部活に行き、学校帰りにお昼ご飯を食べてから待ち合わせ場所に向かった。

その途中で、空を見上げる。
雲行きは少し怪しい感じだけど、今日は久しぶりに晴れ間が覗いている。
昨日のドカ雪のせいで歩道には雪が残っているけれど、それも歩くことに支障はない。


男「少女さん、気持ちの整理は大丈夫?」

少女「たぶん大丈夫です。お葬式も終わったんだし、いつまでも現実から目を背けているわけには行かないから――」

男「そっか、一緒に頑張ろうな」

少女「うんっ!」

445 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/18(月) 19:54:25 ID:UOAwxQmw
〜最寄り駅〜
最寄り駅に着いて有人改札を抜けると、北側の出入り口でみんなが待っていた。
それぞれ学生服を着ていて、友香さんは胸に供花を抱いている。
俺は急いで駆け寄り、3人に声を掛けた。


男「お待たせっ」

双妹「やっと来た。遅いわよ」

男「ごめんごめん」

友香「男くん、こんにちは」

男「こんにちは」

友香「それじゃあ、供花代をお願いします」


俺はそう言われ、友香さんに500円を手渡した。
供花は白を基調とした花が多く、とても可愛らしくまとまっている。
少女さんはそれを見て、笑顔がこぼれていた。

446 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/18(月) 19:57:15 ID:R2vYSZjI
友香「それじゃあ、みんな揃ったし、そろそろ行きましょうか」


俺たちは友香さんに付いて歩き、駅舎を出て歩道に出た。
すると、双妹が小声で話しかけてきた。


双妹「ねえ、男。少女さんは大丈夫なの?」

男「どうだろうな。大丈夫だと思いたいけど……」

少女「今日は友香ちゃんもいるし、頑張ります!」


少女さんは威勢よく答えると、ふわふわと俺たちの前に浮かんだ。


双妹「意気込みだけは十分みたいだね」

少女「意気込みだけじゃないですっ」


しかしすぐに少女さんは立ち止まり、俺たちと肩を並べた。
そして、約1.5メートル。
やっぱり、今回も同じだった。

447 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/18(月) 19:58:55 ID:72TLzY7c
双妹「駄目だったね」

少女「すみません」ショボン

男「でも、先週より前に進んでいるだろ。もう少し頑張れるんじゃないか?」

少女「そ……そうですよね!」

男「ぐぬぬぬ――」


全力で右足を踏み出そうとしたが、やはりピクリとも動かない。
それだけ、少女さんの心の闇が深いということだろう。


友香「……あの、どうかしましたか?」


友香さんが歩みを止め、振り返った。
そして歩道の真ん中で立ち往生をしている俺たちを見て、眉をひそめた。

448 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/18(月) 20:01:41 ID:OijKQv2g
男「何て言うか、身体が動かなくて」

友香「身体が動かない?」

双妹「えっと、ほら。好きな人の家に行くのかと思って、それで緊張しているのかも」アセアセ

友香「あ、ああ……なるほど」

男「そ、そうなんだ」

友「……」

友「友香さんに話しておきたいことがあるんだけど、いいかな」

友香「私に?」

友「俺たちは今、少女さんが亡くなった理由を調べているんです。そのことで少し協力してくれませんか」


その言葉に俺は驚いた。
まさか少女さんのことを話すつもりなのか?!
しかし、現状を考えると友香さんの協力が必要なことは間違いないだろう。

449 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/19(火) 19:21:00 ID:SFP9K7sE
友香「亡くなった理由を調べているって、どういうことですか」

友「単刀直入に言って、少女さんを成仏させるためです」

友香「あの、言っていることの意味が分からないんですけど」


友香さんはそう言うと、怪訝そうに友を見据えた。
そして、友が慎重に口を開く。


友「少女さんは今、自分が死んだ理由が分からなくて現世をさまよっています。そんな彼女の魂を救うためには、どうしても友香さんの協力が必要なんです」

友香「こんなときにふざけるのは止めてください!」

男「友香さん、俺たち3人には少女さんの姿が見えているんだ。彼女は今もここにいて、家に帰ることが出来ずに苦しんでいるんです!」

双妹「信じられないかもしれないけど、本当のことなの」

友香「少女が今も苦しんで……いる?」

男「そうです。俺たちではなくて、少女さんに力を貸してあげてください」

450 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/19(火) 19:23:41 ID:54bXVuLU
友香「信じられないけど、その……分かりました。それで私は何をすればいいんですか」

少女「もしよければ、友香ちゃんと話をしたいです」

友「そうだな、そのほうが手っ取り早いもんな。それじゃあ、最初に友香さんも少女さんの姿を見えるようにしたいと思います」

友香「そんなことが出来るの?」

双妹「友くんには霊能力があって、私も見えるようにしてもらっているんです」

友香「霊能力?!」

友「今、日常的に身に着けているアクセサリーを持っていますか?」

友香「持ってないけど、それがないと駄目なんですか」

友「いや、大丈夫です」

友「……少女さん。今回は前と違って霊具を作ることが出来ないから、友香さんの鳩尾に手を添えて意識を集中してくれるかな」

少女「は、はいっ。分かりました」

友「それでは、友香さんは俺が合図を送るまで目を瞑っていてください。次に目を開いたとき、少女さんの姿が見えるようになっているから」

友香「う……うん」

451 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/19(火) 19:27:42 ID:6HF/dohc
友香さんが言われるがままに目を瞑ると、少女さんが歩み寄りそっと友香さんの鳩尾に手を添えた。
そしてその手に、友が御札を重ねる。


友「我の名は友。心の臓より送りたるは幽界の者を見し力。此の者は彼の者を捉え、干渉する力を生み出したるは――」


本人は真剣にやっているのだろうけど、相変わらず胡散臭い。
この中二っぽい呪文はどうにかならないのだろうか。
やがて儀式が終わり、友が少女さんの手から御札を離した。


友「もう目を開けても大丈夫ですよ」

友香「……」

少女「友香ちゃん。私のことが見えていますか」

友香「えっ……うそでしょ。本当に少女なの?!」

少女「そうだよ。たくさん心配掛けてごめんね」

452 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/19(火) 19:31:13 ID:6HF/dohc
友香「どうして? どうして、自殺なんてしちゃったのよお!」

少女「それは――」

友香「つらいことがあるなら、一人で悩まずに相談して欲しかった。だって、私たち親友でしょっ!」


友香さんは気持ちを昂ぶらせ、供花を手にしたまま、悲痛な表情で少女さんを抱き締めようとした。
しかし、その腕は身体をすり抜ける。
そして友香さんはそのまま泣き崩れた。


友香「ううっ、うわあああんっ!」

少女「友香ちゃん、ごめんなさい――」

男「これで良かったのかな」

双妹「これで良かったんだよ、きっと……」

男「……そうだな」

453 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/20(水) 15:01:01 ID:mpmZxSJY


454 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/20(水) 19:37:17 ID:gl0cKDkA
やがて気持ちが落ち着いたのか、友香さんがしゃくりあげながら立ち上がった。
そんな彼女に友が説明を始める。
少女さんの姿を見ることが出来る期間や守護霊の力を強めるための御守り。
それらの説明が終わると、友香さんは赤く腫れた目で少女さんを見詰めた。


少女「友香ちゃん。私は私がどうして死んでしまったのか、その理由を知りたいの。だから、私に協力して欲しい」

友香「……ひっく、分か……ってる。私は何を……したらいいの」

友「うさぎのぬいぐるみを調べたいので、少女さんの部屋に案内してほしいです」

友香「少女の……部屋?」

友「少女さんの自殺は意図的なものではなくて、偶発的な事故によるものなんです」

友香「あれが、事故だって言うの?!」

友「その事故原因が分からないせいで、少女さんは家に帰ることが出来ないんです。詳しいことを話すと長くなるので、まずは少女さんの家に行きませんか」

友香「そう……ですね」

455 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/20(水) 19:39:47 ID:nOyQoMbQ
男「なあ、友。俺たちは少女さんの家に行けないんだけど」

友「行けないものは仕方ないだろ。ちゃんと調べてくるから、後のことは任せてくれ」

友香「あの……どうして男くんは行けないんですか」

友「憑依霊には霊的占有範囲というものがあって、男の霊的中心が少女さんの占有範囲から出られない状態になっているんです」

友香「ふうん、そんなことをしているんだ」

双妹「ねえ、少女さん。このままだと男がお線香をあげられないわよ」

少女「そうなんだけど、やっぱり怖くて……」

双妹「そっか。それじゃあ、仕方ないわね」

456 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/20(水) 19:42:10 ID:IDe8nIjw
男「友香さん。そういう訳だから、ごめん」

友香「ひとつ聞きたいんですけど、その動けないのって、いわゆる金縛りなんですか?」

男「多分、金縛りとは違うんじゃないかなあ」

双妹「金縛りって言うより、男が無意識に全力で抵抗している感じだよね」

男「もしかしたら、少女さんが運動神経を操作しているのかも」


少女さんは視覚や聴覚、触覚の操作をしている。
それくらい霊的な力が強いのだから、さして驚くほどのことではない。


友香「私に良い考えがあるんだけど」

男「良い考え?」

友香「男くんが自分で動けないなら、誰かに運んでもらえばいいんです」

双妹「それはもう考えたし、押しても引いても駄目でしたよ。さっきも言ったけど、全力で抵抗して来るんです」

友香「だったら、抵抗しても無駄な状況を作ってしまえばいいじゃないですか」

457 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/20(水) 19:43:41 ID:gl0cKDkA
友香さんはそう言うと、スマホを取り出して何かを調べ始めた。
そして少し距離を取り、どこかに電話を掛ける。


双妹「何をするつもりなんだろ」

男「……さあ」

少女「友香ちゃんのことだから、突拍子もないことだと思うけど――」

双妹「突拍子もないこと?」


そうこう話していると、友香さんが戻ってきた。
何となく、にこやかな表情をしているように見える。


友香「電話で聞いたら、すぐに来てくれるって」

男「来てくれるって、誰がですか」

友香「タクシー」

男「ええっ、タクシー?!」

458 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/20(水) 20:07:59 ID:IDe8nIjw
双妹「ね……ねえ、本当にタクシーがこっちに来てるよ!」

男「まじかよっ!」

双妹「もしかして、あれに乗って強引に連れて行くってこと?!」

友香「そうですよ。男くんが少女から離れられないなら、少女も男くんから離れることが出来ないはずですよね。私も供花を持って歩くのが大変だから、ちょうどいいかなと思うんです」

友「なるほど。車に乗せるのは盲点だったな」

双妹「ちょっと待ってよ! もし少女さんの留まる力のほうが強かったら、男はどうなるの?!」

男「あ、ああ……確かに」


車の中でぺちゃんこになるとか、魂が身体から抜け落ちるとか。
最悪の場合、そんな状況になるんじゃないのか?!

459 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/20(水) 20:12:09 ID:R1owHpMY
男「でも少女さんに一歩を踏み出す勇気があるなら、俺は友香さんの提案を試してみたいと思う。少女さんはどうしたい?」

少女「今のままだと、私は何も変われない。だから、死を受け入れるために家に帰りたいです」

男「そうか。じゃあ少女さん、一緒に頑張ろう!」

双妹「男、何を考えているのよ! もし万が一のことがあれば、死ぬかもしれないのよ!」

男「そうかもしれないけど、俺は少女さんを支えてあげたいんだ」

双妹「じゃあ、少女さんは責任を取れるの?」

少女「双妹さんの気持ちは分かります。だけどここで私が頑張らないと、男くんの気持ちに応えることが出来ないと思うんです」

少女「双妹さん、私は前に進みたいんです!」

460 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/20(水) 20:15:52 ID:IDe8nIjw
双妹「口で言うのは簡単だけど、そもそも少女さんは――」

友「まあ、はっきり言って大丈夫だけどな」

男・双妹「えっ?」

友「男は守護霊を強化しているだろ。最悪の場合、少女さんが弾き出されるだけだから」

双妹「……」

少女「……」

双妹・少女「そういうことは先に言ってよね!!」

友「ご、ごめん」アセアセ

461 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/20(水) 20:19:15 ID:nOyQoMbQ
友香「えっと、タクシーに乗るのは大丈夫ってことで良いんですか?」

双妹「まあ、そうだね」

友香「じゃあ、待たせているから行きましょうか」


そう言われて友香さんが指差したほうを見ると、タクシーが駅前に停車していた。
いつの間にか到着して、俺たちを待っていたらしい。


男「少女さん、頑張ろう!」

少女「はいっ」


俺は少女さんの手を取り、駅前のタクシーへと歩みを進めた。
その足取りは少しぎこちなく、まるで自分の身体ではないかのようだ。
しかし、それは少女さんが勇気を出している証なのだ。

一歩、一歩、また一歩。
前に向かって足を踏み出していく。
そして、ついに少女さんはタクシーに乗ることに成功した。

462 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/21(木) 05:32:57 ID:94L/6ilk


463 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/25(月) 19:59:13 ID:aSBwdqro
〜住宅街〜
駅からタクシーで走ること数分。
さっきまで帰ることが出来なかったのが信じられないほど、簡単に少女さんの家に到着した。
タクシー代はみんなで割り勘にし、車から降りる。
そして、俺は少女さんの様子を確認した。


男「家に着いたけど大丈夫?」

少女「だ……大丈夫です」


その声はわずかに震えていた。
自分が死んだ場所に戻ってきたのだから、もちろん怖いに決まっている。
それでも、少女さんは気丈に振舞って頑張っているのだ。


男「ここまで着たら、もう一息だな」

少女「そうですね」

464 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/25(月) 20:02:11 ID:aSBwdqro
双妹「そういえば、少女さんの家って浮遊霊が集まっているんだっけ」

友香「ええっ、そうなの?!」

友「確かに浮遊霊の集会場みたいになっているけど、そのほとんどは少女さんのことが心配で来ているだけだから特に気にする必要はないと思う」

友香「……ふうん。よく分からないけど、少女は謝っておいたほうが良さそうだね」

少女「そうかもしれないけど、本当に浮遊霊が集まっているんですか?」


少女さんはそう言うと、友に疑いの眼差しを向けた。
どうやら、少女さんには他の浮遊霊の姿が見えないらしい。


友「少女さんは男の守護霊が守っている範囲の中にいるから、他の浮遊霊の姿が見えないんだ」

少女「じゃあ、取り憑くのを止めれば見えるようになるってことですか」

友「そういうことになるね」

少女「ずっと家に帰っていなかったし、怒られたりするのかなあ」

友「それはあり得るかも」

少女「いやだな……」ショボン

465 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/25(月) 20:03:44 ID:aSBwdqro
男「とりあえず、心配をかけているなら早く帰って安心させてあげようよ」

双妹「そうだね。もう2週間近く帰っていないんだし」


ピンポーン♪
ガチャリ


少女「……お母さん、ただいま」

少女母「友香ちゃん、双妹さん、いらっしゃい。中学校の同級生も一緒だと聞いていたけど、男の子だったのね」

少女「……」

友香「……はい、そうなんです」

双妹「私のお兄ちゃんと友くんです」

男「こんにちは、男です」

友「友です」

少女母「みんな、今日はありがとう。どうぞ上がってください」

466 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/26(火) 08:07:18 ID:PfOvCzvE
どうなる

467 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/26(火) 22:37:10 ID:bPt9NxvQ
〜少女さんの家〜
友香さんが供花をおばさんに渡すと、俺たちは仏間に案内された。
仏壇の横に中陰壇が置かれ、遺影や遺骨が安置されている。

少女さんの死が、すぐそこにある――。

月曜日に自分の死を知り、泣き崩れていた少女さん。
死を受け入れるために、勇気を出していた少女さん。

ようやく自分の身体がある場所に戻ってくることが出来て、彼女は一体何を考えているのだろうか。
寡黙に佇んでいる彼女の心境は、生きている俺では推し量ることが出来ない。

そう考えていると、友香さんが仏壇の前に座った。
俺たちもそれに倣い、仏壇と向かい合う。
そして、友香さんがお線香に火をつけるとお香の香りが仏間に広がり、俺たちは静かに手を合わせた。

468 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/26(火) 22:46:21 ID:bPt9NxvQ
少女母「お友達が来てくれて、きっと少女も喜んでいるわね」

少女「……」

友香「そ……そうですよね」

少女母「それじゃあ、みんな。お菓子を用意するから、ぜひ食べていってね」


おばさんはそう言うと、あんころ餅とコーヒーを座卓に並べてくれた。
一口食べると小豆の優しい甘さが口いっぱいに広がり、それがコーヒーのほろ苦さを中和して風味を引き立ててくれている。
小腹を満たして冷えた身体も温まり、とてもほっとさせられた。


男・双妹「ごちそうさまでした」

友香「ごちそうさまでした」

友「なあなあ、友香さん。あの話を――」

友香「えっと……ああ、うん」

469 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/26(火) 22:53:14 ID:bPt9NxvQ
友香「あの、おばさ……」

少女母「そうだ! 男くんって、もしかして柔道部をやってる男くん?」

男「はい、そうですけど」

少女母「やっぱり、そうなんだ。思い出したことがあるから、少し待っててくれるかしら」


おばさんは笑顔を見せると、仏間を出て行った。
そのせいで、友香さんは言葉を切り出すタイミングを逸してしまったようだ。
それからしばらくして、おばさんが戻ってきた。


少女母「少し迷ったのだけど、これを受け取ってくれませんか?」


おばさんはそう言うと俺に向かって座り、小さな箱を差し出してきた。
その箱は四つ葉のクローバーがデザインされた包装紙に包まれていて、緑色のリボンで十字にラッピングされていた。
それはとても温かく、まるで優しい気持ちが伝わってくるかのようだ。

470 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/26(火) 22:56:02 ID:bPt9NxvQ
少女「わああぁぁっ!」

少女「ちょっと、お母さん! みんなの前で、何やっちゃってくれてるのよお!!」アセアセ

友香「あのっ、おばさん。私たち、少女さんの部屋に行っても大丈夫ですか」

少女母「でも、あそこは――」

友香「それは分かっていますけど、私たちがいたら少女さんが恥ずかしいかもしれないし」

少女母「それもそうね。みんなの前で渡したりなんて出来ないわよね」

友香「じゃあ、私たちは少し席を外させていただきます」


友香さんは立ち上がり、仏間を出て行った。
その後を友が付いて行き、双妹が少女さんを一瞥して席を立つ。
どうやら、無事に少女さんの部屋の調査が出来そうだ。

471 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/26(火) 23:07:54 ID:bPt9NxvQ
少女母「これをお渡しする前に、娘の話をしても良いかしら」

男「……はい、ぜひお願いします」

少女母「男くんのことは、よく少女から聞かされていたの。夏の大会で頑張っていたこととか、14日に学校で練習試合があることとか――。他所の学校の生徒なのに、とても熱心に応援していたみたいだわ」

男「そう……なんですね」

少女母「だけど少しつらいことがあって、それでも男くんにチョコレートを渡すんだってすごく照れ臭そうに話してくれたときは、私も応援してあげたい気持ちでいっぱいだったの」

少女母「それなのに、どうしてこんなことになっちゃったのかしらね――」

少女「お母さん……」

男「今週の月曜日、妹と一緒に少女さんのお見舞いに行ったんです。でもそうしたら土曜日に亡くなったと聞いて、すごく驚きました。少女さんはどうして亡くなったのですか」

少女母「あの娘は看護師になるのが夢だったの」

男「それは知っています。小学生のときに入院したことがあって、そのときに看護師に憧れたと話してくれました」

少女母「……」

少女母「ごめんなさい。やっぱり湿っぽい話になってしまうわね」

472 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/26(火) 23:10:27 ID:bPt9NxvQ
少女母「ところで、男くんには好きな人はいるの?」

男「はい」


俺はそう答え、少女さんを一瞥した。
そして、名前を告げる。


男「少女さんのことが好きなんです」

少女「……!」

少女母「男くん、ありがとう――」


おばさんの表情はとても寂しげで、それでいて気恥ずかしそうな笑みを浮かべていた。
もしかすると、お世辞だと思われたのかもしれない。

473 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/26(火) 23:12:46 ID:bPt9NxvQ
少女「男くん」


少女さんが緊張した面持ちでおばさんの隣に座り、俺と向かい合った。
そして、彼女は声を振り絞った。


少女「私もあなたのことが好きです。遅くなってしまったけど、私の気持ちを受け取ってくれませんか」


およそ2週間遅れのバレンタインチョコ。
俺は少女さんの死を肌で感じながら、彼女の気持ちを受け取った。

474 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/27(水) 20:32:28 ID:R/aW0NRI
〜住宅街〜
弔問を済ませ、俺たちは少女さんの家を後にした。
何だか、今はとても複雑な心境だ。

少女さんの死と家族の悲しみ。
おばさんは娘を亡くして、それでもその現実を受け入れようとしていた。
それなのに、俺たちの前には少女さんが当たり前のように立っている。

それは少女さんが成仏をしていないからだ。
きっと、この状況は望ましいことではないのだろう。
俺と少女さんは、いつかは――。


少女「ねえ、友くん。私の部屋を調べて何か分かりましたか?」

友「少なくとも、盗撮カメラが仕掛けられていた痕跡はなかった。マスコミは関係ないと思う」

少女「そうなんですね」

475 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/27(水) 21:22:25 ID:R/aW0NRI
友「それはそうと、男も無事にチョコを貰えたようだな」

男「俺は本命だけど、友は義理じゃないか」

双妹「そうそう。男に絡む余裕があったら、早く彼女を作ったほうがいいんじゃないかなあ」

友「ぐぬぬ……双妹ちゃん、容赦ないな」ショボン

少女「そ、そうだ! 友くんって、意外と友香ちゃんと気が合うかも」

友香「……えっ?」

少女「友くんはすごく親身になってくれるし、良い人だよ。試しに話だけでもしてみたらどうかなあ」

双妹「それは良いアイデアかも!」

友香「ちょっ、え……ええっ?!」

476 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/27(水) 21:23:00 ID:R/aW0NRI
友「それじゃあ、あの喫茶店で少し休んで行きませんか? 少女さんのことで、今までのことを話しておきたいし」


嫌そうな顔をしている友香さんに対して、友は少女さんを誘う口実に使った。
今までのことを話すとなれば容易には断れないし、友香さんが困り切った表情で俺と双妹に視線を向ける。


友香「もちろん、みんなも来てくれるんでしょ?」

男「俺たちが聞いても仕方がないし、雨が降りそうだから帰ります」

少女「友香ちゃん、まずは最初の一歩が肝心だよ!」

友香「えええぇぇっ?!」

友「そこまで嫌そうにされると、さすがの俺もちょっと傷付くかも――」

友香「はあっ、分かりました。少女のこともあるし、話を聞かせてもらうだけですからね」

友「了解。それじゃあ、友香さん。行こうか」

477 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/27(水) 21:25:39 ID:R/aW0NRI
俺たちは駅前で二人と別れ、駅舎へと入っていった。
そして様子を見るために一度振り返ると、友と友香さんがこちらを見ていた。
あの二人は喫茶店に行かずに、俺たちを見送って何をしているのだろう。
俺は疑問に思いつつ、駅舎の中を通り抜けて南側の出入り口から外に出た。


双妹「今頃、友くんたちはいい雰囲気になってるのかなあ」

男「少女さんのことを話すわけだし、楽しい話題にはならないんじゃないか?」

双妹「それもそっか。でももし二人が付き合うことになったとしたら、男もうかうかとしていられないわよ」

男「……は?」

双妹「だって少女さんは幽霊だし、私は絶対に交際を認めないもん」

男「絶対なんだ」

双妹「当たり前でしょ」

478 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/27(水) 21:32:04 ID:R/aW0NRI
少女「でも双妹さん、北倉駅前の図書館で幽霊ものの恋愛小説を借りてきて、最近ずっと読んでいますよね」

男「ふうん、そんな本を読んでいるんだ」

双妹「そうだけど、どうして内容を知ってるの?!」

少女「私、本を読むのが好きなんです」

双妹「べ……別に二人の交際を認めるつもりはないんだからね!」プイッ

少女「ところで、バレンタインチョコの消費期限は大丈夫ですか」


双妹がただのツンデレだと察した少女さんが、チョコレートの話題を切り出してきた。
ここでアピールをしてくるとは、なかなかの策士かもしれない。
俺は通学鞄からチョコレートを取り出して、消費期限を確認した。
すると、それには一度はがして貼りなおした痕跡が残されていた。


男「まだ1ヶ月くらいあるみたい」

少女「そっか、よかった//」

479 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/27(水) 21:37:03 ID:R/aW0NRI
双妹「それはそうと、少女さんはどうしてまだ男に取り憑いているの。チョコは渡したし家にも帰れるようになったんだから、自分の家に帰るべきなんじゃないかなあ」

少女「確かに家に帰れるようにはなったけど、今度は家の中にいるのが嫌なんです」

双妹「もしかして、知らない浮遊霊が集まっているから?」

少女「そうじゃなくて、良くないことが起きるような気がするんです」

双妹「それって、杞憂なんじゃないの? 実際、何も起きなかったし」

少女「でも、もやもやした気持ちは変わっていないんですよね――」

男「家に帰ったとは言っても、自分の部屋には戻っていないだろ。それが関係しているのかも」


少女さんが自殺をしたのは自分の部屋だ。
しかし今日は家に帰っただけで、自分の部屋には戻っていない。
友香さんたちを呼びに行こうとしたけれど、少女さんの行動範囲に縛られて2階に上がることが出来なかったからだ。
気持ちの整理も出来ていなかったし、今回は家に帰れただけでも前進したと考えるべきだろう。

480 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/27(水) 22:29:04 ID:R/aW0NRI
双妹「……そっか。結局、まだ気持ちの整理が出来ていないし、家に帰れただけでも前進したと考えるべきなのかもしれないわね」

男「そうそう、俺もちょうどそう思ってた」

少女「すみません。次は部屋に入れるように頑張ります」

男「まあ、そんなに焦ることはないよ」


俺はそう言い、話題を変えて雑談をすることにした。
しかし会話が盛り上がってきたところで、冷たい雨が降り始めた。


双妹「男は傘を持ってる?」

男「ああ、降りそうだったし持って来てる」


俺はそう言いつつ、傘を差して双妹を入れてあげた。
その一方で、少女さんは幽体の見た目を変えてレインコート姿になっている。
何だか可愛い。
それからしばらくして雨が強くなり、俺たちは足早に家に帰ることにした。

481 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/06/28(木) 08:59:59 ID:g725WIZs
友はうまく行くといいな

482 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/02(月) 20:52:12 ID:fJyNSwOQ
〜自宅・部屋〜
自宅に着いて部屋に戻ると、俺は暖房をつけて部屋着に着替えた。
そして通学鞄からチョコを取り出し、ミニテーブルの上に置いた。
少女さんは俺の隣で、そわそわと浮いている。


男「じゃあ、いただきます」

少女「……うん//」


俺は若葉のような色のリボンを解き、四つ葉のクローバーがデザインされた包装紙を破った。
すると土色の小箱が出てきて、和チョコというラベルが貼られていた。
中は10個入りのアソートになっていて、5種類の味が楽しめるようだ。


男「抹茶と小豆は分からなくはないけど、醤油ショコラ?!」

少女「試食したんだけど、すごく美味しかったよ」

男「へえ、そうなんだ」


醤油ショコラを手に取り、ぱくっと食べてみた。
噛むと舌の上で溶け、優しい甘さと香ばしい風味が口の中で広がっていく。
奥深い味が絶妙で、今までにない楽しさを感じることが出来る。

483 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/02(月) 20:55:30 ID:DpuvkNLw
男「確かに、すごく美味しいな!」

少女「でしょでしょっ♪」

男「他にもほうじ茶生トリュフと桜チョコがあるのか」

少女「そ……それとね、包装紙にも意味があるんですよ//」

男「包装紙に?」


俺は抹茶チョコを食べ、包装紙を手に取った。
四つ葉のクローバーが描かれているので、幸せとか幸運といった意味だろう。


少女「その4枚の葉っぱにはそれぞれ願いが込められていて、すべて揃って『真実の愛』を表しているんです。そして四つ葉のクローバーにも花言葉があって――」

男「花言葉?」

少女「そのひとつが『ビー・マイン』なんです」

少女「だ……だから、私はその包装紙に包み変えたんですっ//」

484 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/02(月) 20:59:01 ID:.qfiyutw
ビーマイン。
Be mine.

直訳すると、私のものになって――か。

チョコレートは手作りではなくて、市販のものかもしれない。
だけど包装紙を交換し、ちゃんと少女さんの想いが込められている。
俺はそれがすごくうれしかった。


男「少女さん、ありがとう。俺はもう少女さんの彼氏だから!」

少女「……うん//」

男「それで明日、一緒にどこかに行かない? 付き合い始めたのに、まだデートらしいことをしていないだろ」

少女「そうですよね。デートに行きたいです//」

485 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/02(月) 21:02:02 ID:fJyNSwOQ
トントン・・・
ノックの音がして、双妹が入ってきた。


双妹「そろそろいい雰囲気になってる頃かなと思って、邪魔をしに来たわよ」

男「双妹、ちょうど良いところに来てくれたな」

双妹「ちょうど良いところ?」

男「明日少女さんとデートに行くんだけど、お勧めの映画って何かないかな」

双妹「映画デートに行くの?」

男「そうそう」

双妹「それなら、『魔王の命令なんて聞かないんだから!』って映画はどうかな。すごく話題になっているみたいだよ」


俺たちの交際は認めないと言いつつ、素直にお勧めの映画を教えてくれた。
それにしても――。
何だよ、そのラノベみたいなタイトルの映画は。
よく分からないけど、魔王軍を裏切った側近が勇者と共闘するファンタジー映画なのだろう。
それはそれで面白いかもしれない。

486 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/02(月) 21:13:27 ID:DpuvkNLw
少女「双妹さん、それって今日から公開されている映画ですよねえ!」

双妹「うん」

少女「私、すごく楽しみにしていたんです!」

双妹「へえ、そうなんだ」

少女「ねえねえ、男くん。一緒に観に行こうよ」

男「別にいいけど、それって勇者系のファンタジー映画とか?」

少女「もうっ、違いますよ!」

少女「魔王役の外島くんと天使役の知波くんがヒロインを奪い合う、胸きゅんラブストーリーです//」

男「……ふうん、恋愛映画なんだ。それじゃあ、明日はそれを観に行こうか」

少女「やったあ♪」


俺は喜ぶ少女さんを見やり、二人分のオンラインチケットを予約した。
そして映画の話題で盛り上がる少女さんと双妹の話を聞きながら、その後の予定を考えることにした。

487 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/03(火) 03:26:01 ID:ndUWB3TI
おつ

488 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/03(火) 20:30:41 ID:gZXHDvA.
(2月28日)sun
〜映画館〜
雲の隙間から晴れ間が覗く日曜日。
俺と少女さんは電車とシャトルバスに揺られて、ショッピングモールに併設されている映画館にやってきた。


少女「見てみて、今日の上映分はもう満席みたい。予約しておいて良かったね」

男「ああ、やっぱりすごく人気があるんだな。それじゃあ、チケットを発券してくる」


俺はそう言って、券売機を操作した。
後方通路側の座席を2枚。
そこが俺と少女さんの席だ。


少女「あれっ? 私の分の座席も予約していたんですか」

男「隣の人と重なり合うわけには行かないし、落ち着いて観られないだろ」

少女「……そうですよね。男くん、ありがとう」

489 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/03(火) 20:48:41 ID:CHRtutMM
やがて上映時間になり、俺たちは席に着いたのだが……。
観客は若い女性や女子中高生ばかりで、男性は俺だけしかいなかった。
もしかして、俺ってものすごく場違いじゃないのか?!


少女「男くん、いよいよだね♪」

男「あ……ああ、うん」


閉じた状態の座席にふわりと腰をかけている少女さん。
照明が暗くなり、予告編が始まっただけですでに興奮を隠し切れない様子だ。
まあ恋愛映画は主に女性が観るものだし、少女さんが楽しんでくれればいいだろう。
俺は居心地の悪さを感じつつ、スクリーンに目を向けた。

490 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/03(火) 21:08:22 ID:gZXHDvA.
・・・
・・・・・・
映画の上映が終わり、俺たちは表に出た。
最初はどうなることかと思ったけれど、ヒロインを中心とした三角関係が複雑に絡み合っていて面白く観ることが出来た。
とはいえ、女性たちの黄色い声のせいで居心地は良くなかったが――。


少女「はふぅっ// 魔王くん、格好良かったね♪」

男「ヒロインにバイオリンを手ほどきするシーンとか、気障っぽいけどすごく良かったよな」

少女「そこ、面白かったよね。みんなも笑ってたし」

男「でも友達の皐月ちゃん、少し可哀想だったな」

少女「うーん、そうだよね。でも、舞踏会の帰りには気付いていたんじゃないかな。ヒロインのことを疑っている感じだったし」

男「そうだけど、俺はヒロインが告白する前に皐月ちゃんにチャンスを与えてあげるべきだったと思うんだ。皐月ちゃんのほうが先に魔王のことを好きになっていたんだから」

少女「えー、それって嫌味に聞こえない?」

男「そうかなあ。恋愛ものじゃないんだけど、魔法少女もののアニメで三角関係の話があって――」

少女「多分あれのことだと思うけど、それとは状況が違うと思うよ」

491 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/03(火) 21:25:36 ID:gOqLEb4Q
〜ショッピングモール〜
少女さんは意外とアニメに詳しいことが分かり、フードコートでお昼ご飯を食べながらアニメの話に花が咲いた。
しかしふと、少女さんが寂しそうな表情になっていることに気が付いた。


男「どうかしたの?」

少女「えっ、どうして?」

男「ちょっと寂しそうな顔をしているような気がしたから」

少女「……気のせいだよ」ニコッ


少女さんは笑って誤魔化したが、視線は気持ちを訴えていた。
恐らく、一緒にお昼ご飯を食べられないことに心を痛めているのだろう。
このままだと、今日一日、少女さんに寂しい思いをさせてしまうかもしれない。

何かないだろうか。
俺と少女さんが二人で一緒に出来ることは――。

492 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/04(水) 23:56:22 ID:6aUFAEms
アニメの話で盛り上がった後、俺はスマホのゲームアプリの話をした。
そしてその流れで、俺は少女さんをゲームコーナーに連れて行った。
もちろん、考えがあってのことだ。


男「ここに来たら、やっぱり太鼓のベテランだよな!」

少女「ふうん、そうなんだ。私、こういうところに来たことがなくて……」

男「ゲーセンで遊んだことがないんだ」

少女「はい」

男「そっか。太鼓のベテランは音楽に合わせて流れてくるアイコンを太鼓で叩くゲームなんだけど、まずは俺がプロの技を見せてあげるよ」ポチッ

太鼓くん『いよっしゃー! ドンパチかましてやろうぜ!!』

〜♪
ドドドンッドドド・・・
カツカツ、ドドドンドンッ!!

男「ふうっ、ざっとこんなもんかな」

太鼓くん『やるじゃねえか。漢がたぎってくる熱いスピリットを感じたぜ!』

493 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/05(木) 00:15:07 ID:q8BnLock
少女「すご〜い!!」

男「少女さんもやってみる?」

少女「ええっ?! 私じゃあ触れないし無理ですよ」

男「ほらっ、少女さんの家に帰るとき、俺を動けなくしていただろ。それを逆に考えれば、少女さんは俺の身体を操ることが出来るってことになると思うんだ」

少女「でも……」

男「いいから、一緒にやってみようよ。すごく楽しいから」

少女「そう……ですね。やってみます」

太鼓くん『せいやあ! もういっちょ、魂の鼓動を感じて叩いてくれや!!』


開始の太鼓を叩くと曲が流れ始め、俺はまず全身の力を抜いた。
すると何となく身体が熱を帯びてきて、両腕がゆっくりと上がり始めた。
そして自分の身体ではなくなってしまったかのような浮遊感を感じ、俺は少女さんにすべてを委ねることにした。

494 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/05(木) 00:26:18 ID:q8BnLock
〜♪
ドンッパチパチ・・・
ドド・・・ドドドンドドン

少女さんがぎこちない動きで、太鼓くんを叩き続ける。
それはリズム感があるとは、とても言えるようなものではなかった。
しかし、喩えようのない高揚感で心が満たされていく。


太鼓くん『ふははは、遅い遅いぞっ! バーニング太鼓アターーック!!』

少女「はわわっ?!」アセアセ

太鼓くん『くうぅっ、まったく俺の太鼓魂に響いて来やがらねえ! もっと熱い想いをぶつけてみせろや!』

少女「……」

男「どうだった?」

少女「すっごく気持ちいい!!」


少女さんはゲーム画面を見詰めて、目を輝かせた。
そして、真剣な表情で太鼓を叩く真似をする。

495 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/05(木) 00:37:57 ID:zEoPzNnk
少女「男くん、もう一回挑戦させて」

男「じゃあ、リベンジと行こうか」

少女「うんっ!」

太鼓くん『応っ! その言葉を待っていたぜっ!!』


俺の身体を使って、必死に太鼓くんを叩いている少女さん。
コツが分かってきたのか、最初にプレイしたときよりもリズム感が良くなっている。
そんな彼女のプレイ内容に太鼓くんも満更ではなさそうだ。


太鼓くん『ちょっとは腕を上げたようだな。この調子で、もっと俺の熱い太鼓魂を震わせてくれ!!』

少女「ねえねえ。もう一回、太鼓くんを叩きたいっ!」

男「ああ、リズム感が良くなってきたし、太鼓くんが満足するまで叩きまくろう!」

少女「ありがとう。今度こそやるわよっ!」

496 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/09(月) 20:03:13 ID:0rN8DTsU
・・・
・・・・・・
太鼓くんに褒められて満足し、俺たちはゲームコーナーの休憩所に移動した。
そこで火照った身体をクールダウンし、俺は冷たい棒茶を買ってきて喉を潤す。


少女「はあ、すごく楽しかった♪」

男「最後は連打が決まっていたし、初めてにしてはいい感じだったんじゃないかな」

少女「だよね! 太鼓くんも褒めてくれたし」

男「そうだな。少女さんはリズム感があると思う」

少女「そうかなあ//」

男「それで、次はどうする? そろそろ、場所を変えようかなと思うんだけど」

少女「私は男くんが行きたいところでいいです」

男「それじゃあ、ウインドウショッピングをしようか」

少女「うん、そうだね」

497 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/09(月) 20:11:10 ID:Jg7Mnko2
俺たちはレディースファッションが集まる一画に移動し、色んなお店の服を見て回ることにした。
ブランドによって雰囲気が違うので、見ているだけでも面白い。


少女「このブラウスとスカートのコーデ、すごく可愛いと思いませんか?」

男「良いんじゃないかな」

少女「試着してみようかな〜♪」


少女さんはそう言うと、マネキン人形の観察を始めた。
一体、何をするつもりなのだろう。
そう思っていると、少女さんの着ている服がマネキンと同じになった。


少女「えへへ、似合うかなあ//」

男「そっか、少女さんは服を自由に変えられるんだっけ。清楚な感じですごく可愛いよ」

少女「ありがとう。この機会に色んな服を試してみたいな」

498 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/09(月) 20:23:28 ID:zN5oYU6E
少女さんは満面の笑みを浮かべると、最初に着ていたデート服の姿に戻って店の奥に進んでいった。
俺はその後を付いて歩き、約1.5メートルの行動制限に引っ掛からないように気を付ける。
そして、少女さんのファッションショーが始まった。


少女「ねえねえ、今度はそっちのお店に行こうよ」

男「さすがにそこは不味いだろ」

少女「でも、可愛い下着も着てみたいな//」


少女さんは動ける範囲で店内に入り、下着を指差した。
そうだなあ……。
俺も一人のオトコとして、少女さんの下着姿をたくさん見てみたい。


男「まあ、少女さんがそこまで言うなら仕方ないな」

少女「ふふっ、ありがとう//」

499 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/09(月) 21:19:37 ID:Jg7Mnko2
下心に負けてランジェリーショップに入ったものの、女性客の視線を感じて居心地が悪くなってきた。
こういう感覚は双妹の買い物に付き合ったりして慣れてはいるけれど、今回は少女さんと来ているので俺が一人で物色しているかのように見えている。
それを考えると、さすがに今日は少し気まずい。


少女「このランジェリー、すごくセクシーだね」

男「ああ、うん」

少女「男くんだったら、私にどれを着て欲しいですか?」


俺はそう言われ、いくつか見比べてみた。
店頭にあったような可愛い下着やセクシーなランジェリー。
それを着ている少女さんの姿を妄想し、はやる気持ちを隠しながら実際に手に取ってみる。

500 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/09(月) 21:25:39 ID:Jg7Mnko2
店員「お客様、何かお探しですか?」

男「うわあっ! びっくりした……」

店員「本日は何かお探しですか?」

男「えっと、彼女に似合うものをと思いまして――」


俺はそう言って、女性店員に苦笑いを返した。
すると女性店員は怪訝そうな顔になり、俺が持っているピンク色のベビードールとブラ&ショーツに目を向けた。

ヤバい……。
これは事案発生か?!

501 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/09(月) 21:51:18 ID:Jg7Mnko2
店員「もしかして、恋人へのプレゼントですか」

男「えっと、そうなんです」

店員「それでしたら、サイズ等はご存知でしょうか」

男「バストサイズですか?」


俺は少女さんに目を向け、水着姿を思い浮かべた。
身長は150センチくらいで、小柄な体型。
胸もかなり小さくて、お皿を伏せたような扁平な形をしている。
きっと、Aカップかそれ以下のサイズだと思う。
そう考えていると、少女さんが恥ずかしそうな顔でねめつけてきた。


少女「それは禁則事項です!」アセアセ

男「……すみません。詳しいサイズはちょっと」

店員「それでは仕方ありませんね。ブラジャーは採寸をしたほうが良いですし、今度はお連れの方とご来店ください」

502 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/09(月) 21:53:44 ID:zN5oYU6E
男「……はあ、体よく追い出された感じだな」

少女「そうですね」

男「少女さんが教えてくれたら、もう少しいられたのにな」

少女「だって、胸がないから恥ずかしいんだもん。ちなみに、さっきのランジェリーが男くんのお気に入りなんですか?」

男「それはその……着たところを見てみたいと思った」

少女「ふふっ、男くんのえっち//」

男「それでどうする? まだ服を見て回る?」

少女「それじゃあ、今度は男くんの服をコーディネートしませんか」

男「うん、そうだな」


そう決まり、俺たちは紳士服ブランドのお店を見て回ることにした。
そして、時刻は15時。
俺たちはシャトルバスに乗り、暗くなる前に家に帰ることにした。

503 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/10(火) 19:37:44 ID:2q.P4Vdo
〜電車内〜
シャトルバスが終点に着き、俺たちは電車に乗換えて二人がけの椅子に座った。
周りに乗客はほとんどいないけれど、念のために少女さんが窓側で俺が通路側だ。
そして流れ行く景色を眺める振りをしながら、少女さんの横顔を見詰める。
するとそれに気付いた少女さんが、にこりと微笑んだ。


少女「今日はありがとう。すごく楽しかったです//」

男「俺もすごく楽しかったよ」

少女「今日観た映画ね、年末にドラマが放送されてずっと楽しみにしていたの」

男「へえ、そうだったんだ」

少女「魔王くんってオラオラ系で強引なんだけど、実は誠実でシャイな一面があるんだよね。それがすごく可愛くて、いいなあって感じで――」

504 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/10(火) 19:39:00 ID:2q.P4Vdo
男「少女さんって、そういう男性がタイプなんだ」

少女「うーん、それはどうだろ。映画だから見ていて楽しいけど、現実にそういう男子に迫られるのは苦手かも」

男「要するに、適度にリードして欲しいってことか」

少女「そういうことかなあ。もしかしてやきもち妬いてた?」

男「そ、そんなんじゃないし!」

少女「だけどよく考えてみたら、男くんも強引なところがあるよね。私に告白してくれたとき、すごく嬉しかったよ//」


少女さんはそう言うと、俺の左手に触れた。
そして、真っ直ぐな視線を俺に向ける。

505 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/10(火) 19:41:44 ID:mwMzLOBA
男「……」

少女「……」


お互いの視線が交錯し、無言で向かい合う。
これって、そういうこと――だよな。

だけど、どうすればいいのだろう。

俺は混乱した頭で、映画のキスシーンを思い出した。
しかし、強引に奪うようなキスは出来ない。

緊張で心臓が早鐘を鳴らし、呼吸が荒くなる。
もう、少女さんのことしか考えることが出来ない。
俺は身体がすり抜けないように、出来る限りゆっくりと。
そして、優しく唇を重ねた。

506 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/10(火) 19:52:04 ID:2q.P4Vdo
少女「……初めてのキスが電車の中だなんて//」

男「えっ、ああ……でも景色が綺麗だよ」

少女「そんなことを言われても、ロマンチックな気分にはなれないです!」

男「少女さん、拗ねた顔も可愛い」

少女「も……もうっ、誤魔化さないでくださいよ//」


口ではそう言っているけれど、キスが出来た時点で少女さんがそれを望んでいたということになる。
それなのに、少し拗ねている少女さん。
そんな彼女が可愛くて仕方がない。


男「今日は本当に最高の一日だよ//」

少女「そうだね。ずっとこうしていられたらいいのに――」


少女さんは面映げに言うと、俺に肩を寄せてきた。
だけどその言葉には、少し憂いが含まれているような気がして……。
だから俺は、その不安を打ち消すかのように少女さんの肩に腕を回した。

507 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/11(水) 19:43:23 ID:EbVWVUIs
おつ

508 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/11(水) 21:13:49 ID:QOsTCYiI
〜自宅〜
男「ただいま」

少女「……お邪魔します//」

母親「あら、お帰りなさい」


家に帰ると、わざわざ母さんがキッチンから出てきて俺を迎えてくれた。
何か良いことがあったらしく、とてもニコニコしている。
早く話したくて仕方がない、ということだろう。


母親「男、聞いたわよ〜」

男「聞いたって何を?」

母親「今日はデートだったんでしょ。男も隅に置けないわねえ」ニヤニヤ

男「んなっ?! どうしてそれを知ってるんだよ!」

母親「ふっふっふ、お母さんの情報ネットワークをあまく見ないことね!」

男「いやいや。普通に考えて、双妹が話しただけじゃないか」

509 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/11(水) 21:19:24 ID:ioQXOjlU
母親「それでどうなの」

男「どうって、何がだよ」

母親「もうキスまでしちゃったの?」

男「べ……別にそれくらいしても良いだろ」アセアセ

母親「ふうん、男も隅に置けないわねえ。でも、無責任なことはしちゃ駄目よ。大丈夫だと思うけど、もしものときは避妊をするのが最低限の優しさなんだからね」

男「わ……分かってるって!」

少女「……」

母親「はあっ、早くお父さんが帰って来てくれないかしら〜//」

男「この流れでそういうことを言うなよ……」

母親「うふふ〜♪ お母さんだって、お父さんとデートをしたいんだもん//」

男「可愛く言っても一緒だし。それじゃあ俺、部屋に戻るから」

母親「もうっ、男はノリが悪いわねえ」プンスカ

510 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/11(水) 21:21:49 ID:b5GriCkw
〜部屋〜
母さんから解放されて、俺たちはどうにか部屋に戻ってきた。
しかし今の話をした後に少女さんと二人きりになるのは、性的なことを想像してしまって微妙に気まずい。
そのせいで沈黙と緊張が張り詰め、部屋に重たい空気が漂っている。

だからといって、このまま黙り込んでいる訳には行かない。
俺は状況を打破するために、意を決して少女さんと向かい合った。


男「えっと……少女さん」

少女「……! は、はいっ」

男「その、さっきは母さんが変なことを言ってごめん」

少女「え……ああ、そんなこと全然ないです。逆に避妊するように教えていることを知って、すごく感心しました。いいお母さんですよね」

男「そうかなあ」

少女「私はそう思います。だけど、私たちには必要のない物……ですね」

511 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/11(水) 21:59:06 ID:ioQXOjlU
男「それって、この前の話?」

少女「……はい」

少女「私には身体がないから、男くんを包み込んであげることが出来ないんです。だから好きな人と離れ離れになって愛し合うことが出来ないお母さんの気持ち、分かるような気がします」

少女「やっぱり、それを思うと寂しいです」

男「寂しい……か」

少女「べ、別に変な意味じゃないんだけど、触れ合うことが出来ないことは私にとって存在を否定されていることと同じなんです」


少女さんは顔を伏せ、力なく言った。
確かにそう言われると、俺と少女さんは本当の意味で触れ合うことが出来ない。
あくまでも、少女さんに触れていると錯覚しているだけに過ぎない。

512 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/11(水) 22:09:39 ID:ioQXOjlU
男「それはそうかもしれないけど、俺は今日、少女さんと一緒にデートをしてすごく楽しかった。キスをしたときはドキドキしたし、もっと少女さんのことを知りたいと思った」

男「こうして色んなことが出来るのに、もし触れ合うことだけが出来ないのだとしたら、それは少女さんが本音ではまだ望んでいないからってことになるんじゃないかな」

少女「……」

男「今は出来ないことがあるかもしれないけど、一緒にそれを乗り越えて出来ることを増やしていこうよ」

少女「私ね、ずっと思っていたことがあるんです。私がここに存在していることを知ってもらいたい。そして、男くんに気持ちを伝えたい――って」

少女「だけど、いつの間にかそれに執着していたのかもしれません。だから、これからは思いやりの気持ちを忘れないようにしたいです」

男「思いやりの気持ち?」

少女「はい。今までは自分の気持ちに囚われていて、あまり男くんの気持ちを考えていなかったような気がするから――」


少女さんはそう言うと、爽やかな笑みを浮かべた。
それはまるで、真冬の空に広がった青空のようだった。

513 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/12(木) 20:25:39 ID:MKIvZ/Lo
〜双妹さんの部屋・少女さん〜
午後11時になり、私は双妹さんの部屋に移動することにした。
いつもと同じように洋服ダンスの中から声を掛けて、返事を待つ。


少女「双妹さん、入りますよ」

双妹「どうぞ」

少女「お邪魔します」


部屋に入ると、双妹さんは抱き枕をクッション代わりにして小説を読んでいた。
私も読んだことがある幽霊ものの恋愛小説だ。
その内容を思い返しながら二段ベッドに歩み寄ると、双妹さんが意外そうな顔で話しかけてきた。

514 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/12(木) 20:33:17 ID:siarMGH.
双妹「ふうん、ちゃんと時間通りに来るんだ。てっきり、今日は来ないのかと思ってた」

少女「そう言われても、これが私たちのルールだし」

双妹「そうだけど、今日はデートだった訳だし遅くなるのは仕方ないかなって考えていたから」

少女「じゃあ、今から戻ってもいいですか?」

双妹「だめに決まってるでしょ!」

少女「……ですよね。ところで、今日は違う本を読んでいるんですね」

双妹「ええ、読み終わったから新しいやつ」

少女「それも幽霊ものの恋愛小説ってことは、やっぱり私のことを認めるつもりはないんですか」

双妹「まあ、それもあるけど、ちょっと気になることがあって――」

515 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/12(木) 20:36:53 ID:siarMGH.
少女「気になること?」

双妹「少女さんって、いつかは成仏するんでしょ」

少女「そう……ですね」

双妹「それって、この世からいなくなるってことだよねえ。それじゃあ、そのあと男の気持ちはどうなるの?」

少女「それは……」

双妹「もちろん、少女さんに未練があることは分かってるよ。だけど男のことが好きなら、自分が幽霊だということを受け入れて後腐れなく別れて欲しいです。だって、男には未来があるんだから」


男くんと後腐れなく別れる――。
少し険悪な雰囲気になったときもあったけど、今日はとても幸せな一日だった。
だから、これからも男くんと良い関係を築きたいと思っていた。
それなのに、そんなことを考えながら交際しないといけないの?

だけど、私はすでに死んでいる。
男くんの将来を考えるなら、お互いに納得して綺麗に成仏しなければならないのだ。

516 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/12(木) 20:53:44 ID:H.SeLBNA
双妹「ごめんね、嫌な気持ちにさせて……」

少女「ううん、大丈夫です」

双妹「えっ?」

少女「指摘してくれないと、たぶん気付かなかったと思うから」

双妹「そっか――」


双妹さんは申し訳なさそうに言うと、読んでいた小説に視線を戻した。
その小説のラストは、生まれ変わったヒロインが16歳になったときに主人公と再会して結ばれる、というものだ。
私と男くんにも、そんなハッピーエンドが用意されていればいいのに――。
私はあまい夢想をしながら、二段ベッドの上段に移動した。

517 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/14(土) 10:06:11 ID:UlyGvnco
おつ

518 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/17(火) 22:47:09 ID:2iqxfLtM
(2月29日)mon
〜学校・HR〜
うるう年の2月最終日。
今日は朝から激しい雨が降っていて、相変わらずの空模様だ。
週末は暖かくなるみたいだけど、しばらくは寒い日が続くらしい。


男「友、うっす!」

友「うっす! 双妹ちゃん少女さん、おはよう」

双妹・少女「おはよう」

友「ひとつ聞きたいんだけど、男は少女さんとデートに行ったりしてるのか?」

少女「デ……デートですか//」


少女さんは友の言葉を反芻し、恥ずかしそうに顔を赤らめた。
もう、その反応を見ただけでバレバレだ。

519 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/17(火) 22:49:31 ID:Dlf32XH6
男「まあ、行ったりしてるかな」

友「マジかよっ! このリア充めっ!!」


友はそう言うと、シャドーボクシングを繰り出した。
友なりに祝福してくれているのだろうけど、オーバーリアクションで何だか気恥ずかしい。


男「分かったから、やめてくれよ」アセアセ

友「ははは、これくらいで勘弁しておいてやるよ」

双妹「ちなみに、友くんは友香さんとどうなったの?」

友「俺は少女さんのことで話をしただけだし」

双妹「ふうん……」

少女「デートに誘ったりとか、そういう話はしなかったんですか」

友「そういう話はしてないけど、少女さんを水族館に誘ってあげようって話にはなったかな」

双妹「へえ、そうなんだ〜」

520 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/17(火) 22:53:16 ID:mqo.3q7k
友「それで今度の土曜日なんだけど、男と双妹ちゃんの予定は空いてる?」

双妹「あー、ごめん。その日は妹友ちゃんと映画を観に行く約束をしてるんだよね」

男「俺も部活があるから、土曜日は無理だ」

友「そっか、日曜日なら大丈夫かな」

双妹「その日なら大丈夫だよ」

男「ああ、俺も大丈夫」

少女「私はもちろん大丈夫ですっ!」

友「じゃあ、友香さんに日曜日ってことで伝えておくから」

男「分かった、日曜日な。ところでさあ、連絡し合えるようになってるってことは脈ありなんじゃないのか?」

友「そうかなあ」

男「どうやら、俺たちが取り持ってやらないといけないみたいだな」

友「え……いや、別にいいって」アセアセ

少女「ふふっ、そんなことを言わずに頑張ってね♪」

521 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/17(火) 23:01:42 ID:mqo.3q7k
〜学校・お昼休み〜
お昼休みになり少女さんと話をしていると、友が奇行に走っている姿が目に入ってきた。
何もない空中にパンチを繰り出し、さらに教室の隅に何かの印を書いている。
はっきり言って、訳が分からない。
そんな友の姿を眺めていると、ついにクラス委員長が重たい腰を上げた。


委員長「友くん!」

友「ああ、委員長さん。何か用?」

委員長「何か用じゃないでしょ。教室に変な落書きをしないでくれませんか」

友「うるう年は霊的な力が強くなって悪い霊が活発になりやすいんだ」

委員長「悪い霊?」

友「ああ、結構いるんだ」

委員長「友くんがオカルト好きなのは勝手だけど、教室はみんなで使っている場所なんです。こういう事はしないでください。この前、英語の授業を妨害して怒られたばっかりですよねえ」

友「くそっ、仕方ないな。別の方法を考えるか……」

522 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/17(火) 23:07:26 ID:mqo.3q7k
男「なあ、友。一体、何やってるんだよ」

友「んっ、ああ……ちょっとな」


助け舟を出そうとして声を掛けると、友は歯切れの悪い口調で言葉を濁した。
何か言いにくいことでもあるのだろうか。


委員長「男くん、ちょうどいいところに。今から消すので手伝ってください」

男「でもさっき、悪い霊がどうとか言ってただろ」

少女「そうですよね」

委員長「先週、あなたも授業中に騒いでいましたよねえ。同じ理由で怒られる前に、ちゃんと消しておいたほうがいいと思いますよ」

友「男、悪いな。そういうことだ。俺たちが消し終わるまで少し待っててくれ」

男「俺も手伝うよ」

友「……すまん、サンキューな」

523 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/18(水) 20:10:32 ID:i7AUTSV.


524 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/18(水) 20:49:07 ID:ar9pOgio
10分ほどで教室に書いた印を消し終わり、俺は友から事情を聞くことにした。
悪い霊がどうとか言っていたし、友の奇行には何か理由があるはずだ。


友「単刀直入に言って、低級霊が少女さんのことを連れて帰ろうとしているみたいなんだ」

少女「私のことを?!」

男「……そっか、そうなのか」

少女「やっぱり家に帰らないといけないですよね……」

友「それはそうなんだけど、問題は神霊ではなくて低級霊が来たってことだ」

男「どういうことだよ」

友「低級霊は四十九日を過ぎても現世に留まっている悪霊だから、関わると碌なことがないんだ。もしかすると、少女さんを引き込もうとしているのかもしれない」

男「少女さんを引き込む!?」

友「ああ。やつらに目を付けられた以上、何か良くないことが起きるのは間違いないだろう」

525 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/18(水) 20:53:55 ID:Kmw.1DYk
少女「良くないことって、何が起きるんですか?」

友「それは分からないけど、少女さんは男に憑依している状態だし、今は守護霊に護られているから大丈夫だと思う」

少女「そうなんですね」

男「少女さんがいつも『家に帰ると良くないことが起きる』と言っていたけど、それはこのことだったのか」

友「たぶん関係があるだろうな。実はうさぎのぬいぐるみに霊的残留物質が残されていたんだ」

男「霊的残留物質?」

友「霊的な痕跡のことだ。少女さんの家には浮遊霊や低級霊が集まっていたから、その痕跡がいつ付いたものなのかは判然としないんだけど――」

男「判然としないんだけど?」

友「とりあえず、今はそれを調べようと思ってる」

友「それと少女さんの家にお線香をあげに行った帰りなんだけど、結構な数の低級霊が俺たちの後を付けて来ていたんだ。尾行されないようにすぐ除霊してやったんだけど、制服を着ていたから学校がバレたんだろうな」

少女「全然気が付かなかった……」

526 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/18(水) 20:56:05 ID:MmqSf0QE
友「そんな訳だから、男にこれを渡しておくよ」


友は学生服のポケットに手を入れると、手袋を取り出した。
以前、少女さんが苦しんでいたときに使っていたものだ。


男「これで触れば、興奮した霊を鎮めることが出来るんだっけ」

友「あのときよりも強力な霊具に作り変えておいたから、低級霊に触れば男でも除霊することが出来るはずだ」

男「すげーじゃん!!」

友「まあ、少女さんクラスの力を持っている怨霊が相手になると、動きを抑えるだけで精一杯なんだけどな。少女さんに触らない限り悪影響はないから、いざってときに使ってくれ」

少女「でも、私と男くんは低級霊の姿が見えないですよ」

友「いざってときは、少女さんなら姿を見ることが出来るはずだ。もしそのときが来たら、男の脳みそを弄くればいいと思う」

少女「なるほどっ!」

男「お前ら、さらっと怖いことを言うなよ」

527 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/18(水) 21:00:08 ID:ar9pOgio
友「それはまあ冗談として、今日から俺も電車で帰ろうと思ってる」

男「友は自転車通学だろ」

友「そうだけど、低級霊が少女さんを引き込もうとしているなら、次の狙いは男の家のはずだ。だから、もし最寄り駅に低級霊がいたら除霊しておきたいんだ」

男「だったら、教室に書こうとしていた結界を俺の家に書いてくれたらいいじゃないか」

友「それが出来れば良いんだけど、俺がその中にいなければ発動しないんだ。今は地道な除霊が一番だと思う」

男「そっか、そう都合の良い話はないよな」

少女「でも除霊をしているだけで、根本的な解決になるんですか?」

友「ならないけど、それ以外に方法はないし。とりあえず、春休みになるまでが勝負だ」

少女「……そうですね」

528 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/19(木) 18:12:36 ID:M9QU2jSU
おつ

529 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/23(月) 22:00:53 ID:b35c6lEs
男「ところで、ひとつ聞きたいことがあるんだけど」

友「何を?」

男「やっぱり四十九日を過ぎても現世に留まり続けることは、良くないことなのか?」

友「以前も話したと思うけど、霊波動は波だからお互いに干渉する性質があるんだ。そのせいで幽体が劣化して、霊波動の波源である魂をも傷付けてしまうことになる。そうなると悪霊や怨霊になってしまうだけではなくて、魂も壊れて消えてしまうんだ」

男・少女「ええっ?!」

友「少女さんは幽体が少ないから、霊的な力が強い代わりに霊波動の影響も受けやすくて……。仮に四十九日を越えてしまった場合、浮遊霊としての寿命はとても短いものになると思う」

少女「私は寿命が短い?」

男「やっぱり、四十九日を越えることは出来ないのか」

友「そう考えておいたほうがいいだろうな。離脱日基準で4月1日が少女さんのタイムリミットだ」

530 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/23(月) 22:23:26 ID:yXtLAfo2
少女「じゃ……じゃあ、生まれ変わりってあるんですか!」

友「生まれ変わり?」

少女「小説だと、成仏をしたヒロインが美少女に生まれ変わって、主人公と結ばれたりするストーリーがよくありますよね」

友「確かによくある話だけど、仏教の最終的な目的は六道輪廻から解脱して極楽浄土に往生して成仏することなんだ。だから、成仏をしたヒロインが人間界で生まれ変わる話は破綻していると思う」

少女「つまり、生まれ変わることは……ない?」

友「ああ。期待するような返事ではないと思うけど、少女さんは成仏をするか魂が壊れて消えてしまうか、そのどちらかしかないんだ」

少女「そっか、そうなんだ……」

男「……」

531 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/23(月) 22:25:41 ID:b35c6lEs
〜自宅・部屋〜
低級霊が少女さんを道連れにしようとしていること。
そして少女さんの寿命は短く、生まれ変わる可能性もないこと。
それらのことがずっと頭の中で引っ掛かっている。

俺は小さくため息をつき、手袋を棚の上に置いた。
少女さんにとって幸せな結末は、やはり成仏しかないのだろうか――。


男「……少女さん」

少女「何ですか?」

男「ずっと考えていたんだけど、友の言っていたことは本当なのかな」

少女「私は友くんのことを信用しています」

男「でも仏教以外にキリスト教とかイスラム教があって、それぞれ考え方がまったく違うだろ。だから、友が絶対に正しいとは言えないんじゃないかな」

532 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/23(月) 22:30:08 ID:b35c6lEs
少女「もしかして、友くんのことを疑っているんですか?」

男「そうじゃなくて、ずっと一緒にいられる方法を探してみようって言ってるんだ」

少女「……」

少女「ねえ、男くん。幽霊の私には身体がありません。それなのにどうやって物事を考えたり、記憶したりしていると思いますか」

男「えっ?」

少女「私は魂が大脳の代わりをしているんだと思います」

男「何が言いたいんだよ」

少女「生きている人と同じように外部からの刺激に対して反応を返すことが出来るということは、何らかのエネルギーを消費して変化し続けているということなんです。つまり、魂が老化して壊れてしまうことは避けられないんです」

男「そんなことを言うなよっ!」

少女「私も今日、ずっと考えていたの!」

少女「魂が壊れて消えてしまうなら、私は一日一日を大切に過ごしたい。そして、そうなる前に笑顔で送ってもらいたい!」

533 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/23(月) 22:48:35 ID:/5BcffAk
男「本当にそれしかないのかな」

少女「仕方ないよ。だって、私は死んでいるんだもん――」

男「そう……だよな。少女さん、分かったよ」

少女「……」

男「4月1日に笑顔で成仏できるように、今を大切にして過ごしていこう」

少女「……うん」


俺たちは無言で向かい合い、唇を重ねた。
そして、お互いに気持ちを確かめ合う。

あと1ヶ月。
それまでに少女さんの自殺の偶発性を解明し、未練を叶えなければならない。
そして、俺は彼女を笑顔で送ってあげるんだ――。

534 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/24(火) 20:13:14 ID:TCuFI97Y
おつ

535 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/25(水) 23:31:25 ID:2CiAKuZM
(3月1日)tue
〜最寄り駅〜
今朝は厳しい冷え込みになり、昨日から降り続いている雨が雪に変わっていた。
積もるほどではなさそうだけど、歩道が凍結していて歩きにくい。
そんな悪路を友が平然と自転車で走ってきた。


友「うっす!」

男「うっす!」

双妹・少女「友くん、おはよう」

友「おはよう。じゃあ俺、自転車停めてくる」


駐輪所に行った友が戻ってくるのを待ち、駅舎に入る。
そして、俺たちは待合室で暖を取ることにした。

536 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/25(水) 23:34:18 ID:M.U88byo
友「……思ったよりいなかったな」

少女「いなかったって、低級霊のことですか」

友「ああ。式神に構内を探査させながら除霊していたんだけど、数えるほどしかいなかった」

少女「構内にいるってことは、私のことを待ち伏せしていたってことですよね」

友「そうだと思う」

少女「嫌だな……」

双妹「ふと思ったんだけど、その式神っていうのをボディーガードにすることは出来ないの?」

友「それが出来れば良いんだけど、俺がいないと使役することが出来ないから、ボディーガードにするのは無理だと思う」

双妹「ふうん、そうなんだ」


俺は3人のやり取りを聞きつつ、最寄り駅で待ち伏せされていたことが気になった。
もしかすると、すでにここが特定されているのかもしれない。

537 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/25(水) 23:38:23 ID:2CiAKuZM
男「なあ、友。待ち伏せされていたってことは、ここが特定されたんじゃないのか?」

友「いや、それはないと思う。昨日は学校前の駅に少しいただけだったからな」

男「それって、登下校の手段が電車だとバレたことになるだろ。それでもし、今朝はこの周辺のすべての駅で待ち伏せをしていたとしたらどうなると思う」

少女「どうなるんですか?」

男「相手からしてみれば学校前の駅とこの駅で待ち伏せしていた低級霊だけが除霊されたことになるから、俺たちがその2つの駅を利用したことが分かるんだ」

少女「そっか、そうですよね!」


最寄り駅を特定された以上、もし低級霊たちにすべての交差点で待ち伏せをされたとしたら、あっという間に家も特定されてしまうことになる。
そうでなくても、俺たちには低級霊の姿が見えないのだ。
少女さんが姿を消して俺の家まで付いて来たことがあったように、俺たちだけならば簡単に尾行することが出来るだろう。

538 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/25(水) 23:45:10 ID:VgsMjpSk
友「でもそうだとすると、低級霊の意思が統率されていることになるだろ。あいつらが組織だって動けるとは思えないんだけど」

男「だったら、リーダー格の上級霊がいるってことになるんじゃないのか」

友「リーダー格の上級霊ねえ……。もしそんな悪霊がいるならそいつを除霊してしまえば解決することになるけど、それは幽霊探知機の修理が終わってからの話だな」

男「あのアプリのことか。それって、いつ直るんだ?」

友「まだ分からないけど、今月の中旬には帰ってくると思う。とりあえず、男と双妹ちゃんは守護霊を強化しているから手出しを出来ないはずだし、こちらから攻勢に出るのはその後でも大丈夫だと思う」

男「本当にそれで大丈夫なのかな」

友「大丈夫だって。待ち伏せが心配なら、毎日違う道を通ればいいだけの話だろ」

男「それはそうなんだけど」

双妹「とりあえず、今日も友くんと一緒に帰らないといけないのなら、私は男の部活が終わるまで待ってるから。たまには見学に行ってもいいよねえ」

男「ああ、構わないぞ」

双妹「やったあ♪」

少女「……」

539 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/26(木) 06:35:45 ID:fGBNzRrQ
おつ

540 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/26(木) 21:59:59 ID:p8OuJiEc
〜学校・お昼休み〜
午前中の授業が終わり、待望のお昼休みになった。
そしてお弁当を食べようとすると、珍しく双妹が俺の席にやってきた。


双妹「ねえ、一緒に食べようよ」

男「いいけど、妹友さんは?」

双妹「インフルエンザなんだって」

男「ええっ、そうなんだ。昨日から天気が悪いし、寒い日が続いているもんな。妹友さんは大丈夫なのか?」

双妹「大丈夫ってことはないだろうし、今週は学校を休むんじゃないかな」

男「まあ、そうなるよな」

少女「まだインフルエンザが流行っているなら、気を付けないといけないですね」

双妹「うん、そうだね」

541 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/26(木) 22:51:19 ID:p8OuJiEc
男「ところでさあ、友って何かを隠しているように感じないか」


俺はお弁当を食べつつ、友の席を見やった。
それに合わせて、双妹も友の席に目を向ける。


双妹「隠すって、何を?」

男「昨日、友が言っていたことだけど、うさぎのぬいぐるみの霊的な痕跡と低級霊の付き纏い行為には何らかの関係があるはずなんだ。それなのに、友は上級霊の存在に懐疑的だっただろ」

少女「言われてみれば、確かに……」

男「友は何かを知っていて、俺たちに隠しているんじゃないかなあ」

双妹「ねえ、男。あ〜んして、あ〜ん♪」


双妹は唐揚げを挟むと、臆面もなく俺の口元に持ってきた。
いやいや、さすがに学校でそれはおかしいだろ。
しかし、双妹はにこりとした表情のまま引き下がろうとしてくれない。
つまり、俺の口を塞ぎたいということか。

542 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/26(木) 23:00:18 ID:4yuM3riY
男「もしかして、双妹も何か知っているのか?」

双妹「……」

双妹「やっぱり、私たちに隠し事は出来ないわね。じゃあ、あ〜んして♪」

男「みんなが見てるぞ」

双妹「私たちが特別な双子だってことは、みんなも知っているでしょ。好きなように言わせておけば良いし、もう気にすることなんて何もないよ」

男「はあ、仕方ないな」

ぱくりっ
もぐもぐ・・・

双妹「ふふっ// 少女さんは男とこういうこと、出来ないよね♪」

少女「むぅっ……」

男「ほれはいいはら、はやく教えろよ」

双妹「えっとね、少女さんの部屋を調べたときに聞いたんだけど、友くんは何も教えてくれなかったの。慎重にならないといけないことだからって」

男「それじゃあ、双妹も詳しいことは知らないってことか」

双妹「まあ、そういうことになるかなあ」

543 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/26(木) 23:06:10 ID:5nd0HRZc
男「やっぱり、友に問いただすしかなさそうだな」

双妹「はい、あ〜んして//」


今度はプチトマトを指で摘んで持ってきた。
少女さんやクラスのみんなが見ているし、さすがにそれはレベルが高すぎるぞ。


双妹「冗談だって、冗談」パクッ

双妹「私もね、友くんの話を完全に信じているわけじゃないの。だって、低級霊がいるとか言われても見えないんだもん」

男「まあな」

双妹「でも、少女さんがいるのは本当のことでしょ」

少女「……」

双妹「だから、少女さんの死因と低級霊のストーカー行為が無関係ではないのなら、私たちは忘れてはいけないんだと思う」

双妹「少女さんがいわゆるPTSDで苦しんでいるってことを――」

544 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/27(金) 01:02:51 ID:PjGA/eLM
男「ああ、そうか。家に帰れるようにはなったけど、まだ完全に乗り越えてはいないんだよな……」

双妹「そうだよ。男の気持ちも分かるけど、少女さんのペースで歩いてあげないといけないの。だから、友くんを信じることも大切なんじゃないかな」

少女「……双妹さん」

男「ちょっと答えを急ぎすぎていたのかもしれない。双妹、ありがとう」

双妹「それじゃあ、あ〜ん//」

男「今度は何だよ」

双妹「私の唐揚げをひとつ食べた」

男「俺にくれたんじゃなかったのかよ」

双妹「あ〜んっ//」


俺は仕方なく、雛鳥のように大きく口を開けて待つ双妹に唐揚げを食べさせてあげた。
そして、満足そうな表情を浮かべている双妹を見て、たまには一緒に食べるのも悪くないなと感じた。

545 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/31(火) 19:35:59 ID:RyHs8D3I
(3月3日)thu
〜自宅・放課後〜
今日はひな祭りということもあり、朝から双妹がとても浮かれていた。
リビングに飾られた、立派なひな壇。
そして雛人形と一緒に飾られている、華やかな金花糖。
まあ、俺には関係のないイベントだ。


双妹「お母さん、ただいま〜」

男「ただいま」

母親「おかえり」

双妹「ねえねえ、今夜はちらし寿司なんでしょ」

母親「そうよ。今から治部煮を作るんだけど、どれを入れるの?」

双妹「今年は海老とマツタケにする」

母親「じゃあ、持ってきて」

双妹「は〜い♪」

546 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/31(火) 19:44:18 ID:RyHs8D3I
〜部屋〜
少女「双妹さんの家では、すぐに金花糖を食べちゃうんですね。うちではひな壇を片付けてから食べてましたよ」


双妹が俺の部屋に入って来ると、少女さんが笑顔で話しかけた。
女子にとって、ひな祭りは楽しい行事なのだろう。
それは幽霊になっても変わらないようだ。


双妹「あれっ? 少女さんの家でも金花糖を飾るんだ」

少女「はい。ひな祭りが近付いてきたら、お祖母ちゃんが送ってきてくれるんです。友達は飾らないって言うし、うちだけかと思ってました」

双妹「私もうちだけかと思ってた。すごく可愛いよね〜」

少女「そうですよね」

双妹「少女さんはそのまま食べるの?」

少女「そのままでも食べるけど、煮物に使ったり、いちごジャムにしたりするかな」

双妹「ふうん、そうなんだ。いちごジャム、美味しそう♪」

547 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/31(火) 20:06:52 ID:RyHs8D3I
少女「でも、どうしてひな祭りの日に食べるんですか」

双妹「うちでは、ひな祭りの日に私が選んだものを料理に使うことになっているの。縁起物だし、願いを込めて煮込むのが良いんだって」

少女「へえ〜、おもしろい」

双妹「それで私は双子だから、毎年2つ入れることにしているの」

少女「へえ、そうなんですね。それじゃあ、今年は海老とマツタケだから――って、海老は分かるけど、どうしてマツタケなんですか?」

双妹「夫婦松茸っていう言葉があるんだけど、いつまでも兄妹で仲良く一緒にいられたら良いなと思って」

少女「いつまでも、兄妹で仲良く一緒に?」

双妹「そうだよ。男もそう思ってくれてるよね//」

男「ああ、当たり前じゃないか」

双妹「ふふっ、ありがとう♪」

548 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/31(火) 20:20:11 ID:hVerhy2M
〜リビング〜
晩ご飯が完成し、俺たちはリビングに行った。
今日はひな祭りなので、ちらし寿司と治部煮、ハマグリのお吸い物だ。
少女さんは、それらを美味しそうに食べる双妹を羨ましそうに見詰めている。
こればかりはどうにも出来ないし、今日ばかりは本当に可哀想だ。


母親「ふと気になったんだけど、双妹には彼氏はいないの?」

双妹「どうしたの、急に」

母親「男に彼女が出来たんだし、双妹はどうなのかなって気になるじゃない」

双妹「あはは、それがまだいないんだよねー」

母親「双妹が男にべったりだから、それが伝わるのかしらねえ。最近はまた、毎日一緒にお風呂に入っているでしょ」

549 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/31(火) 20:47:06 ID:grrFxCqk
双妹「それって関係あるの?」

双妹「私と男は同じ双子なんだよ。別にやましい事は何もしてないし、私は男と過ごす時間を大切にしたいだけなの。男もそうだよね」

男「そうだな、俺もそう思う」

母親「……はあっ。男と双妹がそういう心理的傾向になりやすいのは分かっているつもりだけど、やっぱりそれを理解してあげるべき――なのかしらねえ」

双妹「ふふん♪ やったあ//」

少女「ええっ?! もう高校生なのに、兄妹で一緒にお風呂に入るのを許してしまうんですか」

双妹「今夜は久しぶりに洗いっこをしようかな〜//」

少女「双妹さんっ、そんなの絶対に駄目ですから!」

550 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/07/31(火) 21:50:34 ID:hVerhy2M
少女「男くんからも何か言ってくださいよ!」

男「双妹、俺には今、彼女がいるってことを忘れるなよ」

双妹「はいはい、分かってるって」

母親「それで、男はその彼女とどうなってるの?」

男「週末にみんなで遊びに行こうって決まってて、それなりに順調だと思う」

母親「ふうん、そうなのね。とりあえず、二人とも高校生らしい普通の恋愛を経験してみなさいね」


その言葉を聞いて、俺ははっとした。
もしかすると、母さんは少女さんが幽霊だということを知っているのかもしれない。
だけど、知っているかどうか聞くなんて出来るはずがなく、俺は適当に返事を返して晩ご飯を食べることにした。

551 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/08/06(月) 22:35:51 ID:I8pYUPbE
(3月4日)fri
〜学校・お昼休み〜
久しぶりに雲の隙間から晴れ間が覗く金曜日。
今日も妹友さんが欠席をしているので、双妹とお弁当を食べている。


双妹「妹友ちゃん、明日は大丈夫かなあ」

男「一緒に映画を観に行くんだっけ」

双妹「そうそう。この前、男が少女さんと観て来たやつ」

少女「魔王くんがすっごく格好良かったですよ! きっと、双妹さんもキュンキュンすると思う」

双妹「へえ、そうなんだ。それで妹友ちゃんがね、入浴シーンを楽しみにしているんだけど、おかしいよね〜」

少女「そうかなあ。そのシーン、すごくドキドキしましたよ// それで男くんなんてね、ヒロインのヌードを期待しちゃったみたいで『お前かよっ!』って突っ込みいれてて」

双妹「ええっ、何それ」クスクス

男「仕方ないだろ。お風呂場でシャワーの音がしたら、ヒロインのサービスシーンを見られると思うじゃないか」

少女「周りの女性客がすごく引いてて、見てて可笑しかったです」

552 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/08/06(月) 22:45:47 ID:PnJzGHqw
週末の教室はにぎやかで、双妹と少女さんの会話も弾んでいる。
俺はそんな二人のたわいないおしゃべりに耳を傾けながら、お弁当を食べる。


ドガシャアアンッッ!


女子生徒「きゃあああぁぁぁっ!!」

不良「おらあっ、だらくそっ! くたばりやがれっ!!」

友「がふっ……がはぁっ…………!」


心地よい時間が流れるお昼休み。
それが突然、喧騒に包まれた。

553 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/08/06(月) 22:51:05 ID:lJ3KmMkg
怒声が聞こえた場所を見ると、不良グループの男子二人が執拗に友を蹴り続けていた。
友は座席ごと蹴り飛ばされたらしく、床に崩れ落ちて丸くうずくまり、必死に堪えている。


男「友っ!!」

友「うぐっ……っ……」

男「てめえらっ! 何やってんだよ!!」


俺は急いで駆け寄り、DQNを蹴り飛ばした。
そして不良が繰り出してきた右腕を逸らし、懐に入り込んで投げ飛ばす。


男「おりゃあぁっ!」

不良「がふっ!!」

554 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/08/06(月) 23:32:10 ID:YR5pR/GQ
男「友っ、大丈夫か!」

友「……げほっ……あ、ああ……すまん、何とか…………」

少女「お……男くんっ! 後ろっ!!」


少女さんの緊迫した声が聞こえて振り返ると、DQNが椅子を高く持ち上げて力強く構えていた。
そしてその直後、DQNが奇声を発しながら椅子を振り下ろしてきた。
俺はそれを全力で打ち払い、体勢が崩れたDQNに足をかけて転ばせる。
するとDQNは隣の机で身体を強打し、俺は流れるようにして腹に蹴りを追加してやった。


DQN「がはっ……ぐっ…………」ガクリ

男「ふう、片付いたな」

双妹「いやっ、いやあぁぁっ!!」


ほっと安心した直後、双妹の悲鳴が聞こえて俺は咄嗟に振り返った。
するとそこには男子生徒の姿があり、そいつらに双妹が押し倒されていた。
デブが双妹に馬乗りになり、ガリが双妹の両腕を押さえている。
普段は目立たないモブのくせに、双妹に何やってくれてるんだっ!

555 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/08/06(月) 23:36:44 ID:PnJzGHqw
男「……ちっ、双妹っ!」

少女「双妹さんっ!!」

デブ「動くなっ! 俺がぴょんぴょんしたらどうなるか、試してほしいのか?」

双妹「うぐぅっ、ううぅっ……」

男「くそっ!」ギリッ

ガリ「きしゃしゃしゃ……。ボクたちのお遊びが終わるまで絶対に動くんじゃねえぞ」

ギャル「おらあっ! お前らも這いつくばれっ!」

才女「そうですわ!」

友「がふっ……」

男「……はぐぅっ…………」


ギャルさんと才女さんが突然豹変し、俺たちに殴り掛かってきた。
まったく注意を向けていなかったせいで拳が脇腹にめり込み、俺は激痛で膝を付く。

556 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/08/07(火) 00:14:25 ID:BwRjl.FM
デブ「ぐふふっ! 双妹さんって可愛い上に巨乳だし、やっぱり上玉だよな」

双妹「うっ……ううっ…………」

ガリ「双子の兄妹ってさあ、いつも一緒にお風呂に入ったり、エロいことをヤりまくったりしているんだろ? 男に胸を揉まれて、こんなに大きく育ったのかもな。げへっげへっ」

デブ「それじゃあ、今度は俺たちのモノを大きくしてもらおうか!」

双妹「いやっ……触らないでっ! 男、男ぉっ!!」

男「くそっ、お前らっっ! 俺の双妹に手を出して、ただで済むと思うなよ!!」

才女「あらあら、怖い怖い。可愛い妹さんが素敵な声で鳴いているのですから、お兄さまも素敵な声で囀ってくださいませんか?」


才女さんは嗜虐的な笑みを浮かべ、その外見からは想像する事が出来ない力で蹴り込んできた。
まるで、全身を抉られているかのようだ。


男「……う゛あ゛あああっ…………」

才女「うふふ// そう、その声ですわ」ゾクゾク

557 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/08/07(火) 15:07:19 ID:HCW.aRB2
憑依されたのか?
急展開どな

558 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/08/08(水) 00:13:24 ID:8vX2X6jk
男「才女さん。どうして、こんなことを――」

才女「どうしてって、したいからに決まっていますわ」

男「したい……から?」

才女「ええ、男子を蹂躙してみたい。そして、思うがままに服従させたいんですの!」


才女さんは強く言い放つと、俺を蹴り転がして内履きズックを脱ぎ、右足で股間を踏みつけてきた。
急所をぐりぐりと圧迫されて、足の裏の感覚とともに鈍い痛みに襲われる。


少女「お……男くんっ!」

男「うぐうぅっ……」

才女「あはははっ! このむにゅむにゅしている物は何かしらねえ♪」

男「くそっ! やめ……お゛う゛うぅっ!」

才女「少しでも暴れると踏み潰しますわよ。それとも、気持ちよくて身悶えしているのかしら!」

才女「ねえ、お兄さま。大切な妹が犯されている姿を見ながら、そしてそんな妹に見られながら、このまま卑しい劣情を吐き出しても宜しいんですのよ//」

559 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/08/08(水) 00:44:48 ID:uMOnhQdg
委員長「ちょっと、あなたたち! こんなこと、今すぐやめなさいっ!!」

男「い、委員長!!」

委員長「みんな、分かってるの? 男くんと双妹さんは一卵性双生児なんですよ。デブ君とガリ君は、男くんにホモレイプをする趣味があるってことなんですか?」

デブ「あーっ、そうだったな。見た目は可愛いけど、こいつと男は100%同じなんだっけ。想像したらマジで萎えてきたぜ」

ガリ「げひゃひゃひゃひゃ……。脱がせたらアレが生えていたりしてな」

双妹「……」

双妹「そんなの……」

双妹「そんなの……もう聞き飽きたわよ! 離してっ! 離しなさいよ!!」

委員長「だまれっ、染色体の異常で生まれてきた出来損ないの癖に! 男くんと同じ遺伝子で性別が違うなんて、あなた気持ち悪いのよ!」

デブ「そうだそうだ。本当はオトコなんじゃねえのか?」

ガリ「きしゃしゃしゃしゃ! 私はオンナの見た目をしているだけの出来損ないですって、言ってみろや! それが言えたら、下の口にたこさんウインナーを食わせてやるよ!」

双妹「……いやっ、やめて…………やめてくださいっ。お願いだから!」

560 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/08/08(水) 01:12:16 ID:uMOnhQdg
男「くそっ、ふざけやがって! この、だらくそがっ!!」


双妹がこんなにも傷付けられて、俺がいつまでもされるがままになっていると思うなよ!
俺は才女さんの右足を両手で掴み、全力で持ち上げながら立ち上がった。
そして、才女さんのスカートを捲り上げる。
普段はお淑やかな彼女にとって、この恥辱には耐えることが出来ないはずだ。


才女「んなっ?!」

才女「きゃああぁっ//」


才女さんは慌ててスカートを押さえ、恥ずかしそうな表情で俺をねめつけてきた。
その一瞬の隙を逃さず、俺は脇を抜けて双妹へと駆け出す。
そしてその勢いのまま、デブに跳び蹴りを食らわしてやった。


デブ「ひでぶうぅっ!」


デブが吹っ飛び、俺は続けざまにガリの股間を蹴り上げる。
すると、ガリは奇声を発しながら激しく悶絶し、白目を剥いて動かなくなった。

561 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/08/08(水) 01:17:25 ID:j2.HHR5s
気絶したデブとガリを見やり、委員長が呆然とへたり込む。
俺はそんな彼女に睨みを利かせ、双妹に手を差し出した。
制服が少し乱れているけれど、特に怪我などはしていなさそうだ。


男「双妹、大丈夫か!」

双妹「うん……助けてくれるって信じてた// 男は怪我とかその、大丈夫なの?」

男「ああ、俺は大丈夫だ。とりあえず、みんなから距離を取れ。俺は友に加勢してくる!」


そう言って振り返ると、友が女子生徒5人から集団リンチを受けていた。
さて、どうしたものか。
女子を投げ飛ばす訳にはいかないし、割って入って友を引きずり出すくらいしか方法はなさそうだ。
そして双妹に合図を送って、教室から逃げるというのが無難なところだろう。

そう思った次の瞬間、教室にいた生徒たちがバタバタと倒れ始めた。
委員長も上体が脱力し、糸が切れた人形のように動かない。
そして、ふらふらと友が立ち上がった。

562 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/08/08(水) 08:39:16 ID:uyg5tBOc
頑張れ

563 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/08/08(水) 20:36:10 ID:I5Et4Sw2
双妹「何なの……これ」

男「さ、さあ……何なんだ、これは――」

友「…ぐっ……つぅっ、これは憑依霊の仕業だ。俺が除霊しまくっているから、低級霊がみんなに憑依して俺を排除しようとしてきたんだ」


友はよろめきながら手近な椅子に座り、状況を説明してくれた。
この一週間、友が低級霊の除霊を続けていたので、低級霊たちは少女さんの依り代である俺の家を特定することが出来ないでいた。
だから低級霊たちは不良グループに憑依し、友を排除するために暴動を起こしたのだ。

しかし俺が倒してしまったので、低級霊たちは双妹を人質に取って俺を牽制し、反撃しづらい女子生徒に依り代を変えて攻撃してきた。
そして友が除霊に成功したおかげで、憑依霊の支配から解放されたみんなが意識を失った。
それが現在の状況らしい。

564 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/08/08(水) 20:55:33 ID:I5Et4Sw2
少女「私のせい……ですよね。ごめんなさい――」

友「いいって。これくらいの怪我ならすぐに治るだろうし、少女さんの気持ちだけで十分だから」

少女「でも……痛いですよね。ごめんなさい」

友「まあ、それはそうと、いくつか気付かれただろうな」


俺と双妹が兄妹で、一緒に住んでいること。
守護霊を強化していても、人間に憑依すれば物理的に接触できること。
そして物理的に接触は出来るが、依り代にして支配することは出来ないこと。


友「やつらは欲望や不安、抑圧した気持ちに付け込んで意識を支配して来るんだ。とりあえず、みんなに破魔の印を仕込んでおいたから、しばらく大丈夫だと思う。念のために広域結界を仕掛けておいて助かったよ……」

男「友、ありがとう」

双妹「……ありがとう」

565 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/08/08(水) 21:01:14 ID:I5Et4Sw2
それらの説明が終わる頃、気を失っていたみんなが意識を取り戻し始めた。
委員長も呻き声を上げ、呼吸を荒らげながら呆然としている。


委員長「はあはあ、私……どうして…………」

委員長「……! 双妹さん」


委員長はおぼつかない様子で立ち上がり、視界に双妹を捉えると顔を曇らせて視線を泳がせた。
双妹はそんな彼女の出方を、ただ黙って見据えている。


委員長「双妹さん、その……酷いことを言ってしまってごめんなさい。どうしてあんなことを言ってしまったのか、その……分からなくて。本当に私…………どうかしていたと思う……」

双妹「そんなこと、気にしないで。もう慣れてるから――」

566 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/08/08(水) 22:04:14 ID:uMOnhQdg
委員長「ううっ、うううっ……ごめんなさい。ごめんなさいっ…………」

双妹「……」


双妹は泣き崩れる委員長を寂しそうに見詰めると、倒れたままのデブとガリに冷めた視線を向けた。
きっと今まで言われてきたことを思い出しているのだろう。

同じ双子でも女子のほうが力が弱いからなのか、心ない言葉を言われるのは双妹のほうが多かった。
もし普通の二卵性双生児だったならいじめられる事はなかったのだろうけど、少し特別だというだけで人の態度は大きく変わってしまうのだ。

俺たちのお弁当は騒ぎのせいで床に落ち、もう食べることは出来そうにない。
俺は小さくため息をつき、双妹の肩を抱き寄せて優しく頭を撫でてあげた。
すると、双妹が心地良さそうに身体を預けてきた。
そんな双妹に寄り添い、俺たちは心を通わせる。

少しでも早くつらい気持ちが癒えるように。
そして、少しでも早く双妹に笑顔が戻って来てくれるように――。

567 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/08/09(木) 05:05:01 ID:uax08Jx.
おつ


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