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小さくて黄色い虫
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ふとした時、テーブルに虫がいるのに気がついた
虫が苦手な私ではあったが、なんとなくそれから目を離せない
いつもなら即座に臨戦態勢だったのだが…
いつから私はこんな臆病者になってしまったのだろう?
"
"
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いや待て、決して虫を殺せない訳では無いのだ
できないのではなく、敢えてしないだけであって
無益な殺生を避ける、慈悲の深い人間になったのだろう
いや違う、そんなことはどうでもいい
問題はこの虫をどうするか、だ
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私が呑気に考え事をしている間でも、その虫は1歩と動かなかった
なんだか心を見透かされた気分だ
"この人間には俺を殺す気が無い” という心を
というか、この虫を見つけてから歩いているところを見ていない
まさか……死んでいる?
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それからじーっと見ていると、私を嘲るかのようにちびちびと歩きだした
2度も心を読まれ、3度目は無い事を祈るばかりだった
しかしなんだか、この虫は気持ち悪くないぞ?
歩く姿を見て思ったが、どことなく愛らしさすら感じる
私の脳内害虫リストには載せないでいてやろう
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米粒ほどの体長、ほんのりと黄色い羽、人間の産毛ほどの足
そして、不必要にも思える黒い模様
お前はこの模様で何をしようとしていたんだろう?
よく枯葉や枝に擬態する虫は見るが、お前には要らないだろう
"床に落ちてカビが生えた米粒” の擬態なら完璧だろうな
そんな無意味さも、自分と重なって愛しく思えた
"
"
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ああ待て待て、テーブルから落ちてしまう
私は少しだけ慌てて、そこらにあった紙で落ちる虫をキャッチしようとした
だが意外にも、この虫はテーブルの側面を歩いていた
こいつ、なかなかやる奴だな
前々から思っていたが、壁などを走る虫は何故落ちないんだ?
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足に接着剤でも付けているのだろう、かなり不便そうだが
少なくとも私は足の裏に接着剤をつけたくない
そんなことを考えていて、虫が落ちたことにも全く気づかなかった
全く、地球の引力に勝てると思ったのだろうか?
虫は何事も無かったかのように、床を歩いていた
ふん、私だけが知っているぞ、お前は地球に負けたんだ
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喋らない虫と会話している私が少し恥ずかしくなった
一人暮らしだ、虫と話したくもなるさ
いや、今はこいつと二人暮らしかな?
……なんてポエミーなことを考えるのだろう、私は
詩人になれるかもしれないな
ならないけど
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この虫に名前はあるのだろうか
名前を調べることができれば画像も出てくる
こいつがいなくなって、私の記憶からも消えた頃に、その画像を見て
ああ、こんな奴もいたなぁ、と思うのが好きだ
偶然同級生に会った時にも似ている
……虫と同級生が同じというのはどうなんだろう?
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まあいいや、とりあえず写真を撮っておけばいいだろう
適当なサイトで聞けば多分答えが返ってくる
さて、この虫自体はどうするかな
カブト虫すらまともに育てられない自分に飼育は無理だろう
だが折角の同級生だ、殺さず逃がしてやる
また会えたらいいな
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驚くことに次の日にも、テーブルにその虫がいた
ちゃんと外に逃がしたのに、どうやって入ってきたんだろうか
また会ったなぁお前
なんだか妙に嬉しくなって、その虫が食べそうな物を調べた
明日来たらエサあげるから、来いよな
来てくれるかな、なんてヘンテコな期待を膨らませて、その虫を逃がした
虫と人間の間にも、友情が芽生えることを知った
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おわり
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ほのぼのするな
乙
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おつ
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ケッキョクなんの虫なん…?
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良きかな
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良SS
"
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