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みんなで文才晒そうぜ part2

509以下、名無しが深夜にお送りします:2016/12/07(水) 21:32:34 ID:MMyJR7zs
世界のいろんなところで争いがあったとしても、空が青いうちはなんてことはない。
いざこざが過ぎて鞘に収まり切らな問題だって、いつかは必ず丸く落ち着く。
だから、困ったときは闇雲に頑張ろうとするんじゃなくて、まずは空の色を見るんだよ。
祖母は生前、それを俺によく言い聞かせていた。

口調は穏やかでのんびりとした性格。
茄子を育てるのが趣味で、収穫期にはいつも背負い籠を紫色で
満たして「作りすぎてね」なんて言い訳しながら近所に配り歩く。
祖父が先に逝った翌年から、茄子の出来が悪いねえとこぼすようになったが、
優しい祖母が作る茄子はたいがい色艶がよくて、一般人に違いは判らなかった。

「どうやって茄子作ってたんだよ」
若い体力を持っていても鍬一本で畑を耕すのは骨が折れる重労働だった。
汗と土埃で汚れた顔を手ぬぐいで拭くと、あっという間に茶色に汚れた。
顔を上げて畑を見渡す。時間と体力をかけて拵えた畝は、想像以上に立派に伸びていた。
疲れていた顔が思わず緩む。祖母が毎年畑に夢中になる気持ちを知った気がした。

「若えもんや。こっちで飯食わんか」
声に振り向くと、三倍も歳が離れた近所の農夫が手を振っていた。
農夫は祖父との好みで、その孫である俺にも親身になって接してくれるいい人だった。
声をあげる元気を惜しんで手をあげて返事をした。
鍬を置いて畑を出ると、農夫は大きなおにぎりとよく冷えたお茶で出迎えてくれた。

「たまんねえだろ、畑仕事は」
農夫はおにぎりを頬張りながら遠くを見つめる。
「たまんないですね、色々と」と言うと、年齢を感じさせる含み笑いが返ってきた。
三年後、都市化の流れで畑を買い上げられてマンションが建つ予定らしい。
たったの三年。そうと知っていればもっと早くに祖母から継いでいただろう。
「ここにビルがおっ立てば都会と変わらんな」と農夫が言った。
本当にそうだと思う。あの空が追いかけてくると思うと、蒼色が滲んで見えた。


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