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企画されたキャラを小説化してみませんか?vol.4

1しらにゅい:2014/01/27(月) 22:11:13
ここはキャラ企画つれっどにて投稿されたキャラクターを小説化しよう!というスレです
本編とはかかわりがなく、あくまでもアナザーストーリーという扱いです
時系列は本編(2002年のGW4月28日〜)よりも前の話が主になります
本編キャラの名前が名字無しカタカナの為、小説ではそれに合わせた呼び方が多いです
人様のキャラクターを借りる時は、設定を良く見て矛盾が無いように敬意を持って扱いましょう
詳しい説明などは下のURLをご覧ください
ナイアナ企画@wiki―「はじめに:企画キャラとは」
http://www22.atwiki.jp/naianakikaku/pages/1057.html


過去スレ
企画されたキャラを小説化してみませんか?
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/sports/28084/1208562457/
企画されたキャラを小説化してみませんか?vol.2
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/sports/28084/1301901588/
企画されたキャラを小説化してみませんか?vol.3
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/sports/28084/1317809300/
企画されたキャラを小説化してみませんか?vol.3.5
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14155/1330491756/

26akiyakan:2014/04/06(日) 10:20:05
※本作は番外編的な趣が強いです。

「……行くのですか、アッシュ」

 歩いて行く背中に向かって、ジングウは問いかけた。

「……うん」
「〝彼〟は強いですよ。まだ人を傷付ける程の固さも強さも持たなかった彼の角は、今や魔獣さえも殺す領域に届いている。模造品に過ぎない貴方の実力では――」

 その先を言わせまいとするように、アッシュは手を向けた。

「分かっているよ、父さん。僕の能力で〝兄さん〟には届かないって事ぐらい」
「…………」
「それでも――僕はあの人に勝ちたいんだ。それが、僕が生まれた理由なのだから」



 【Outer Line -Twin Fist-】



 子供達が仲良く遊んでいる。それ見て、都シスイはふっと小さく微笑んだ。
 そこは広大な空間だ。広大であるが、閉ざされている。彼らはここで育っていき、外の世界を知らずに生きていくのだろう。
 それは不幸な事なのかもしれない。だが、人間の人生などそう言うものだ。一つの幸福を得ると言う事は、別の幸福を捨てると言う事。少なくとも彼らは狭い世界で生きなければならないが、一方でその特異な出生に悩む事は無い。
 これが、現状におけるヒトの限界。それでも今は良いと、シスイは思う。

「――!?」

 不意に、シスイは強烈な殺気を感じて振り返り、そして目を見開いた。

 そこに、彼の〝影〟が立っていた。

「やぁ、兄さん。久し振りだね」

 〝影〟はそう言って、にこやかに笑い掛けてきた。本当に、何年もあっていない友人や家族と再会したかのような、気軽さだった。
 シスイそっくりの顔立ち。しかし、彼のように髪を結っていないので、心なしかシスイよりも髪を伸ばしているように見える。温和な表情も似ているが、一方で彼よりも幼く見える。私服姿のシスイに対して、〝影〟は首から下を青みがかかった黒色のバトルドレスで覆っていた。

 何もかもが似ているのに、何もかもが違っている。酷く歪んだ、歪な鏡像が向かい合っていた。

「……アッシュ」
「ちょっと付き合ってくれないかな、兄さん」

 まるで、「ちょっと一緒に買い物に来てよ」と言っているようなセリフ。しかしその実、それは脅迫だった。アッシュの身体は、全身が赤い返り血に濡れていた。一人や二人なんてものではない。部外者である彼がここにいる事実に当てはめれば、それが何を意味するのか容易に想像がつくだろう。

 「これ以上人を死なせたくなかったら、大人しくついて来い」。アッシュは言外に、そう告げていたのだ。



 ――・――・――



 荒れ果てた、無数のビルの廃墟が、まるで墓標のように突き立っている。
 巨大な廃墟街。そこで、二人は対峙していた。

「お前の目的は俺だったんだろ……何で、余計な人間まで殺した」
「余計? 余計な訳が無いだろう? 君達は僕らの敵だ。敵なら殺して当然だろう」

 愚問だと言うようにアッシュは言う。それを見て、シスイの表情が悲しげに歪んだ。

「……前のお前は、そんなんじゃなかった」
「…………」
「前のお前は、確かにふざけてはいたけど、そんな風に平然と命を奪うような奴じゃなかっただろ」
「……兄さんに、僕の一体何が分かるって言うんだ」
「それは――」
「何も知らない癖に、分かった風な口を利かないでくれよ!」

 アッシュが叫んだ。その声が廃墟の壁に反響し、エコーとなって消えていく。

27akiyakan:2014/04/06(日) 10:20:41
「気持ち悪いんだよ、疎ましいんだよ! 実際に母の胎内から血を分けて生まれた兄弟でも何でもないんだ、僕達は! 僕が兄さんなんて呼ぶから、兄弟心でも芽生えたのか? 皮肉も分からないのか、この脳みそお花畑野郎が!」
「アッシュ……」
「僕はお前なんだよ、都シスイ! お前のクローン! お前の模造品! だからこそ、お前と言う存在が僕は許せない……! こんなお人好しの腑抜けが僕のオリジナルなんて、そんな事!」

 一気にまくしたてたせいか、アッシュは肩で息をしていた。その程度で呼吸が乱れる程、彼は柔に出来ていない。それだけ、彼は今の言葉に己の感情を乗せていたのだ。

 深呼吸で息を整え、感情を抑えていく。瞳を開いたアッシュの表情は、いつもの飄々とした態度に変わっていた。

「さぁ、始めようか――都シスイ」

 右手に下げていた、二本の角を持つ兜(メット)を被り、口元を覆い隠すマスクを嵌める。そうする事で、彼は変身するのだ。ヒトの形を持ちながら、ケモノの存在へと。二本の角を持ち、乙女を汚す、背徳の獣(バイコーン)へと。
 ブゥンと起動音が鳴り、赤い瞳が輝く。その双眸が、シスイの姿を見据えた。

「「――…………」」

 シスイの身体から金の、アッシュの身体から銀のオーラが立ち昇る。それは麒麟が持つ、祝福の力が可視化出来るレベルで顕現化した姿だ。聖獣の祝福を施され、万象はその存在を強固な物へと変貌する。

【まずは挨拶だ】

 くぐもった声。マスクを通したアッシュの声が聞こえ、彼の姿がその場から消える。と、次の瞬間、二人の今まで立っていた中間の距離に、彼らの姿が現れた。お互いに突き出した右の拳をぶつけ合っている。

「ふ――ッ!!」

 アッシュの顎を狙い、シスイが垂直に蹴り上げる。その攻撃を、アッシュは身体を逸らす事でかわした。マスクの顎の先がかすれ、その衝撃がビリビリと内部にいる装着者に伝わってくる。

【おぉォ――ッッ!!】

 お返しにと、姿勢を戻したアッシュが回し蹴りを放つ。避けられないと判断したシスイは、左腕でそれを受け止め――そのまま真横に、一直線に、まるで砲弾のように吹っ飛んだ。延長線上にあるビル壁に激突し、壁面に亀裂が発生し、まるで爆発でも起きた様に砂埃が舞い上がった。

【まさか、これで終わりとか言うんじゃないだろうな?】

 そう言って、アッシュは追撃を加える為に、シスイが吹っ飛んで行った先へと飛び込んで行った。

「がはッ――!!」
【オオォォォォォォォォォ!!!!】

 ビルにめり込むようにして倒れていたシスイの顔面を掴み、そのまま壁に向かって押し付ける。既にシスイの身体が直撃した事で脆くなっていた壁は、続けて襲って来たアッシュの膂力に耐え切れず、コンクリート製の壁は呆気無く内側に向かって砕けた。

 だが、アッシュは止まらない。ビルの内側に飛び込んだ彼は、シスイを掴んだまま、そのまま更に加速する。進行方向にある柱を砕きながら、シスイの身体を引き摺りながら、彼は更に進む。そして彼は、自分が入って来た壁の反対側にある壁に、シスイを叩き付け、そこでようやく停止した。

 壁に叩き付けられ、瓦礫に押し付けられ。シスイの衣服はボロボロになっていた。全身の皮膚や肉が千切れて血が噴き出している。しかしそれでも、まだ原型を留めているのは麒麟の加護のおかげだ。常人であったなら、最初の一撃で腕ごと胴を割られ、臓腑と血肉を撒き散らして絶命していた筈であろうから。

28akiyakan:2014/04/06(日) 10:21:13
【……どうしたんだよ、都シスイ。お前の本気はこんなものか?】
「…………」
【張り合いがないよ。こんなお前を倒したところで、僕は満足しないぞ】
「…………」
【それとも、あれか。お前の本気を出させるには、もう何人か殺さないといけないかな】
「……――!!」

 アッシュがそう言った瞬間、だらりと下を向いていたシスイの右腕が、自分の頭を掴むアッシュの左腕を掴んだ。ブルブルと彼の手が震えているが、それは満身創痍だからではない。バチバチと火花が散り、バトルドレスの腕部分が握り潰されていく。

「お前の相手は……この、俺だ……!」
【がッ!?】

 左手を顔から引き剥がし、血塗れになった顔面で、シスイはメット目掛けて頭突きをぶつけた。一瞬、アッシュの視界の役割をしている画面がホワイトアウトし、彼はたまらず数歩後退する。

「――其は、四天の中心に座したる天帝の証」
【!】

 呪文が聞こえる。都シスイを変革する、彼だけに与えられた呪文。彼の為の呪文が。

「目覚めよ、黄道の獣。汝が往くは、王の道」

 呪文が紡がれるにつれて、シスイが纏っている金色の気の量が増えていく。それは周囲を包み込む程に溢れ、光輝いている。シスイの全身に出来ていた傷が、高められた自己治癒力によって見る見る消えていく。

「我、護国の剣となりて――魑魅魍魎を打ち破らんッ!!」

 最後の言葉が紡がれ、都シスイもまた変身していた。

 守る者から、戦う者へ。打ち破る者から、撃ち滅ぼす者へと。

 天士麒麟。死の淵に立った彼が手に入れた境地。自らの天敵を倒す為に手に入れた、縁覚の角だった。

【く……くくくくっ】

 変貌したシスイの姿に、アッシュは堪えきれずに笑みを浮かべた。マスクの内側で、彼は口端を歪め、三日月状に口角を吊り上げ、凄絶な笑みを浮かべている。

【そうだよ……それだよ! そうでなければ、張り合いが無ィッ!!】

 バトルドレスの、バイコーンヘッドの胸部装甲に備わった赤い光球が輝き、そこから二振りの剣が出現する。その柄を深く握りしめ、アッシュはシスイへと飛び掛かる。

「水装!」
【ッ!!】

 身体を駒の様に回転させながら、アッシュは右側から二つの刃を叩き付けた。しかし、その一撃は防がれる。シスイと刃の間に水の防護壁が出現し、刃を受け止めていた。しかもその水はただ刃を受け止めるに留まらず、鉄製の刃を侵食し、まるで何年も風雨に晒されていたかのように、赤錆た姿へと変えていく。

「火装ッ!!」

 シスイが纏う属性が変化し、水から炎へと変わる。シスイの周囲にあった防護壁は消失し、代わりに灼熱の火炎へと変貌する。水の浸食によって強度を奪われていた剣は、その炎に焼かれて一瞬の内に融解し、燃え尽きてしまった。

【ぐ……】
「アッシュうぅぅぅぅぅぅ!!」

 炎を纏った拳を振り上げ、シスイが向かって来る。放つ技は「炎槌」。以前にも、アッシュを破った技だった。

 だが、

「な――!?」
【馬鹿の一つ覚えかよ……!】

 突き出された拳を、アッシュは右の掌で受け止めている。彼の様子に変化は無く、技が効いているようにも見えない。

 不発。シスイの放った技は、完全に威力が殺され、受け流されていた。

29akiyakan:2014/04/06(日) 10:21:43
「そんな……!?」
【一流相手に、同じ技を使う奴がいるかよ……前勝てた技だからって、二度も通じる訳が無いだろッ!】
「くっ!?」

 胸の光球が輝き、そこから槍の石突が飛び出してきた。不意を突かれたシスイはそれに胸を打たれ、数メートル後ろへと弾かれる。咄嗟に体勢を立て直すが、その表情には驚愕の色が浮かんでいた。

「まさか、お前も天装を……!?」
【それこそまさかだよ。守り人の里に通って、何年も薫陶を受けた君ならともかく、一朝一夕で身に付く技術じゃあない。技術ってのは、そう簡単に得られるものじゃないでしょう?】
「だったら……」

 その時、シスイは気付いた。アッシュの全身から立ち昇る麒麟のオーラ。それに交じって、別の力が生じている事に。

「それは……魔力か!?」
【見せてあげるよ、都シスイ。本物の魔獣の力って奴をさぁ……!】

 アッシュの身体から放たれた圧力に、シスイの身体が弾かれる。地面を滑りながらシスイが顔を上げると、アッシュの身体は銀色だけではなく、紫色の光が混じったオーラに包まれていた。バイコーンヘッドの容姿と合わさり、正しく魔獣のような姿へと変貌している。

「……俺達聖獣属は、基本的に魔力を持たない」
【確かにね。魔力は魔属由来の力だから、僕達聖獣属が持つのは理屈としておかしい】
「だったら、」
【だがね、聖獣属としての相が濃いお前には無理でも、僕には可能なのさ。聖獣属としての相よりも、人間としての相が濃いからね――それでも、実用可能な状態にまで力を貯めるには少々苦労したけど】

 実用可能。その言葉に、シスイは思わず苦笑を浮かべる。これがゼロから魔力を貯め続けた人間の量か。ちょっとした大魔導士クラスの総量がある。

「何を食った? 竜の生き血か? 魔女の心臓か?」
【強いて言うなら、そうだね……孤島に咲いている妖花、ってところかな】
「妖花?」
【お前には関係の無い話さ!】

 地面を踏み砕きながら、アッシュが走って来る。それに立ち向かうべく、シスイもまた右手に出現した籠手「幻獣拳・麒麟」からオーラを噴出させる。

「土装!」

 土の気を纏い、シスイの髪の毛が黄色へと変化する。自らと相性の良い大地の気を取り込み、更にそれを麒麟の力で増幅。その一撃は、巨人の怪力に勝るとも劣らない。
 だが、止められている。シスイの放った拳は、先程同様に、アッシュの掌で止められている。

「ぐ……」
【無駄だよ】

 金属の様に硬質化した蹴りを放ち、それがアッシュの放った蹴りと激突する。しかし、ダメージは無い。むしろ、攻撃を行ったシスイの顔が苦痛で歪み、弾き返された。

「はぁッ!」
【それも無駄だ】

 木気を纏い、風の速さで相手をかく乱しようとする。だが、アッシュもまた同じ速さでシスイの動きに追従してくる。

【火には水を、土には風を。金には火を……お前が使う属性に対応し、僕もまた属性を切り替える。火に勝てるモノに。或いは、風に対抗出来るモノに】

 それが「魔装」。森羅万象、天地に存在する属性の気を取り込んで己を変革する天装に対し、魔装は自らの内側にある魔力を用いて属性を変える。

 シスイが炎を纏うならば、アッシュは水を放ち、シスイが土の盾を持てば、アッシュは風の刃でそれを切り裂く。

【せぇいッ!!】
「ぬッ!? ――ぐあッ!!」

 アッシュが放った回し蹴りを、両腕を固めてシスイがガードする――だが、やはり受け切れない。一瞬の拮抗こそすれ、シスイはガードごと蹴り飛ばされ、遥か後方にある瓦礫の山に叩き付けられた。

30akiyakan:2014/04/06(日) 10:22:22
【後出しジャンケンだよ、早い話が】

 シスイが激突し、もうもうと砂煙を上げる場所へと歩きながら、アッシュが言う。

【森羅の気を借りるその性質上、天装で属性を纏うのには、どうしてもタイムラグが生じる。気を引き出すのに1ターン、それを纏うのに更に1ターン、計2ターンかかる。一方、魔装は内側から捻出した魔力を使い、属性を纏う。気を造り出し、纏うまでの肯定すべてをひっくるめて1ターンだ。従って、僕の方が速い。僕は2ターンかけて纏ったお前の気を見て、1ターンでその為の迎撃策を用意するんだ】

 だからお前より強い。
 だからお前に勝てる。

 傍目には、そう言っているように見える。

 だが、だったらさっさとシスイに止めを刺せば良いだけの話だ。慢心しているのか――否、メットの下にあるアッシュの表情は全く油断していない。いつも浮かべている薄笑いは無く、その表情は煙の向こうに倒れているであろう、シスイの方を真っ直ぐに向いている。まるで、次に相手が繰り出してくるであろう技に対し、警戒しているかのように。

「――全は、一」
【!】

 短く、小さな声。しかし、煙の向こうから聞こえたその声に、アッシュは足を止めた。

「火は木から成り、」
「木は水から成り、」
「水は金から成り、」
「金は土から成り、」
「土は火より成る」

「万象を観よ」
「眼下に拡がる世界のように、己の内にもまた世界がある事を識れ」

「一は、全」

「人もまた世界なれば、」

「ここに、我は天を紡ぎ、天を纏う」

「天装――」

 瞬間、目も眩むような光が爆発した。

【――ッッッッ!!!!】

 圧倒的な気配の出現に、網膜を焼く閃光にすら構う事無く、アッシュはただ前方を見つめていた。

 シスイがいる。ただし、それは先程までと更に様子が異なっている。髪は金色に変色し、その背後に五色を放つ五つの宝珠が浮かんでいた。それは後光を放つ観音像か、或いは都シスイ自身を中心とした天体であるかのようだった。

31akiyakan:2014/04/06(日) 10:22:59
【……そうだ。それが正解だ】

 これまでとは比較にならない程の力を感じていると言うのに、冷や汗を浮かべながら、それでもアッシュの口元に浮かんでいたのは笑みだった。痩せ我慢でも無ければ、虚勢でもない。そもそも彼は、自分が笑みを浮かべている事すら実感してはいないだろう。

 そうだ、それでいい。全力のお前を破ってこそ、意味がある。

 胸の転送装置から、赤い二振りの刀が出現する。それはアーネンエルベであり、どちらも火気を備えた魔剣だ。それらの力を増幅させ、アッシュは大地を蹴り砕きながら向かっていく。

【おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!】
「でいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 雄叫びを上げながら向かって来るアッシュに、シスイは右腕の籠手を振った。展開された装甲から鬣のようなオーラが吹き出し、物理的な力を持って彼の前方を薙ぎ払う。だが時既にアッシュの姿はそこには無く、薙ぎ払いで生じた砂埃を飛び越えるように、刀を振り上げた彼の姿が飛び込んで来た。

 キィン、と言う金属質がぶつかり合う音。前方に翳したシスイの籠手が、振り下ろされた斬撃を受け止めていた。

 すかさず横からの回し蹴りをアッシュは放つ。だが、シスイの方が速い。アッシュの蹴りが届くよりも先に、シスイの左腕がバイコーンヘッドの腹部装甲に触れていた。

「ふッ!!」

 一瞬、すべての音が消えたかと思ったかと思うと、それから遅れるようにしてアッシュの身体が吹き飛ばされた。

【ぐがッ!?】

 地面を滑りながら転がっていくアッシュ。その腹部、シスイが触れていた部分を中心に、バイコーンヘッドの装甲には亀裂が走っていた。直接触れていた部分に至っては、何層もの特殊装甲が完全に貫通し、その下にあるインナースーツ部分、つまりほぼ生身の部分が露出してしまっている。

 意識を失いそうになる衝撃の中、しかしアッシュは血が出る程に歯を食いしばり、胸の転送装置を起動させた。鎖鎌がすぐさま現れ、その分銅部分をシスイ目掛けて投擲する。

「なッ!?」
【油断してんじゃ――ねえぇぇぇぇぇぇ!!】

 鎖がシスイの右腕に絡み付き、二人の身体を繋ぐ。滑っていく身体を止めるようにアッシュは足に力を入れ、逆にシスイはそれに引き摺られないように踏ん張る。鎖が一本の棒のように張り詰め、ギチギチと音を立てる。

「がッ!」

 だが、その拮抗も数秒だった。一発の弾丸がシスイの額に命中した。転送した拳銃をアッシュが撃ったのだ。堪えていた力が無くなり、すかさずアッシュは鎖を引き、シスイの身体を放り投げた。十メートル程離れた廃墟にシスイの身体は激突し、その衝撃に耐え切れず、廃墟が崩れていく。

 駄目押しとばかりにバズーカを取り寄せ、その照準をシスイの落ちたポイントに合わせる。しかしその時、スコープ越しにこちらに向かって飛んで来る五つの光が見えた。

【くっ!】

 飛来した光はバズーカを砕き、更にそのままの勢いでアッシュに襲い掛かる。光はそれぞれが属性を持ち、赤い光が触れた場所はその熱で融解し、青い光に触れた場所は逆に凍りついた。土色と金色は砲弾のように固く、緑色の光は風を纏っている。

「アッシュうぅぅぅぅぅぅ!!!」

 砂埃を吹き飛ばし、シスイが向かって来る。その額は裂けて血が流れていたが、銃弾は防がれたらしく、傷は浅い。五色の光に気を取られていたアッシュは不意を突かれ、シスイの放った拳はバイコーンヘッドの頭部を捉えた。攻撃はクリーンヒットし、馬に似た頭部装甲に罅が入る。

【がはッ――……なんのおぉぉぉぉ!!」

 顔面を打たれながら、しかしアッシュはそれに抗うように顔を向け直し、自らもシスイに向かって拳を放った。腕を伸ばしきっていたシスイはそれを防ぐ事は出来ず、彼もまた横殴りに拳を受ける。

32akiyakan:2014/04/06(日) 10:23:31
「「おおおおおおおおおおおおおお!!!!」」

 殴り、殴られ、殴り返し、殴り返され。

 戦術も何も無い、至近距離での殴り合いだった。お互いにただ拳をぶつけ合い、蹴り合い、身体をぶつけ合う。技量も何も関係無く、ただ文字通りに自分達の持てるエネルギーをぶつけ合っている。ただそれだけの戦いだった。

 シスイの拳がアッシュに届く度、彼の纏う装甲が砕けて剥がれ落ちた。
 アッシュの拳がシスイに届く度、彼は血を吐き出した。

 お互いに限界だった。攻撃を放ち、受け止める毎に、それぞれの身に纏うオーラが目に見えて弱まっていくのが分かる。膝が嗤い、全身を貫く痛みで意識がショートしそうになっている。それでも、どちらも、拳を振り上げるのを止めはしない。

「あぐっ!?」
「ぎッ!?」

 一体何発ぶつけあっただろう。丁度その時、それぞれの左拳がぶつかり合った。その瞬間、両者の腕ともバキッと嫌な音を立てて折れた。

 それまで続いていた殴打の音が止んだ。左腕をだらりと垂らし、しかし何時でも自分の拳が届く距離から離れようとはしない。肩で息をしながら、ぎらつく眼光で互いを睨みつけている。

 両者共に残すは右腕のみ。次の一発で勝負がつくのだと、お互いが感じていた。

「――……ふふ」

 先に動いたのはアッシュだった。笑みを零したかと思うと、彼の右腕に銀色のオーラが集まり始めた。やがてそれは、シスイにとって見慣れたモノを形作った。

 銀色の籠手、幻獣拳・麒麟。シスイと同じく麒麟の頭部に似ているが、こちらは角が二本ある。

「僕の勝ちだ……兄さん……!!」

 残された麒麟の力を、すべて右腕に注ぎ込む。装甲版が開き、そこから銀色の鬣が出現した。

「いいや……俺の勝ちだ……!!」

 ぐっと拳に力を入れると、殴り合いで傷付いた籠手の表面が修復された。こちらも装甲版を展開し、金色の鬣が溢れ出す。

 腰を落とし、右腕を引く。両者共に、相手に合わせた訳では無いのに、それらの動作が全く同じタイミングで行われていた。だが、珍しい事ではないだろう。彼らは共に、お互いの鏡像であるのだから。

 そして、

「「ッ――!!!!!!!!!!」」

 金と銀が激突した。その衝撃が「爆心地」を中心に波紋状に伝わり、周囲の物を薙ぎ払う。

 暴風の様に衝撃波が周囲に伝わり――それから静寂が訪れた。

 勝者はどちらだったのか。

 結末は誰にも分からない。


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