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ミニ5レス品評会 作品投下スレ
1
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/25(水) 21:49:40 ID:ZYq9nTAM0
〜 2013年 ミニ5レス投下日程 〜
作品投下 9/26(木) 夕刻より 9/28(土) 夕刻まで
審査員対談 9/28(土) 夜
読者座談会 9/29(日) 夜
ということで、9/26(木)の午後5時くらいからぼちぼち投下しちゃってください。
お待ちしています!
2
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/26(木) 17:00:38 ID:qZGmce820
瀬踏み仕る
3
:
デレを忘れない
◆9DAfJAI.I.
:2013/09/26(木) 17:03:12 ID:qZGmce820
私がまだ幼い頃、一匹の子犬を拾った。子犬は酷い怪我をしており、父が言うには人間の仕業だという事らしかった。
私はその子を見捨てることができず、両親に泣きつき手当をしてもらった。
しかし子犬は一向に回復する様子を見せず、どころか時と共に衰弱していった。
それから私は植物をちぎり取り、それらを食べないと分かると今度は小さな虫を持ち、
それらも口にしないと分かり今度は別の生き物をと、餌になりそうな物を次から次へと運んでいった。
こうした私の努力が功を奏したのか、はたまた生命の自然な治癒力か、何にせよ子犬は一命を取り留め元気を取り戻していった。
そして、私から離れなくなった。私は子犬に、デレと名付けて飼うことにした。
私とデレは、何をする時も一緒だった。一緒に食事をし、一緒に走り回り、一緒に眠った。
デレの体は暖かく、抱きしめると心地よかった。デレも、ことあるごとに額をこすりつけて甘えてきた。
私たちは兄弟であり、親友であり、あるいは、恋人同士であったのかもしれない。
私は絵を描くことが好きで、何枚もデレの絵を描いた。その間、デレは静止していた。
自分がモデルになっているということを理解していたのかもしれない。私のことをじっと見つめて、決して動かなかった。
その日も私はデレを描いていた。あとわずかで完成という時に、異変は訪れた。村に魔物が現れたのである。
至る所に死体が転がり、肉片が飛び散っている。そしてその中央で地獄のようなうなり声を上げる、黒く巨大な魔物。
私は立ちすくみ、一歩も動くことができなかった。魔物の牙が私に向いた瞬間も、震えることしかできなかった。
そのせいで、母が死んだ。私を庇い、魔物の前に立った母は、私の目の前で半分に噛み千切られた。
動けない私を父が担ぎ上げ、その後は覚えていない。ただ、デレ、デレと、何度も叫んでいたと後で父から聞いた。
私は筆を捨て、剣を手にするようになった。いや、剣だけではない。
斧を、槍を、弓を、ありとあらゆる武具を扱う戦士となり、各地の魔物を殺して回った。復讐を糧に、私は成長していった。
いつしか私の名は広がり始め、魔物の討伐を依頼されるようになった。家族を殺された者、民の不安を取り除こうとする者、
魔物の財宝を狙う者。依頼主の望みは様々だったが、私は関係なくそのすべてを請け負った。
そして、殺した。殺して殺して、殺し尽くした。
私は殺す為に生きていた。その生に疑問を持ったことはなかった。復讐心が、私のすべてだったからだ。
しかしある少女との出会いが、私の人生に変化を生じさせた。
4
:
デレを忘れない
◆9DAfJAI.I.
:2013/09/26(木) 17:04:15 ID:qZGmce820
ξ#゚⊿゚)ξ「命を粗末にして、あんたバカじゃないの!?」
魔物を討伐した直後、頬を叩かれながら言われた一言だ。その日私が屠った魔物は、私が相対してきた中で最も大きく、
最も強かった。神話の時代より生きているという噂で、誰一人近づこうとする者はいなかったらしい。
その魔物の脳髄深くに槍を刺し込んだ時、私もまた死の淵にいた。このまま死ぬのだと思った。悔いがあった。
殺したりない。まだまだ殺したりない。殺さなければならない。殺さなければ。殺して、取り返さなければ。
生死の境でもがく私に、駆けつけた少女は怒りながら手当てをしてくれた。
無謀な依頼を受けた私を心配し、追ってきたらしい。私はそのまま、彼女の家に住むこととなった。
ツンという名前のその娘は、やたらと口うるさく、お節介で、なにより私が魔物の討伐に向かう事を嫌がった。
ξ#゚⊿゚)ξ「あんたは! 普通の、何でもない普通の暮らし、日々の営みを知った方がいい。いいえ、知らなきゃいけないの!」
どんな魔物よりも厄介で、面倒だと思ったことを白状する。何故放っておいてくれないのかとも思った。
しかし彼女の押しの強さに負け、私は彼女の言う、普通の暮らしの中で生きることになった。
始めのうちは苦痛だった。魔物への憎しみが遠のき、過去を忘れてしまうようで怖かった。
だがそれも時と共に薄れ、いつしか私は、普通の暮らしを享受し始めていた。
やがて、ツンが私の子を身ごもった。女の子が産まれ、遠い昔に置いてきた感情が呼び覚まされたていくのを感じた。
ずっと、真に求め続けていたもの。私は、数十年ぶりに家族というものの暖かさを実感していた。
しかしその幸福も、長くは続かなかった。娘が病を患った。
大変な難病で、対応する薬は庶民の手には届かない希少で高価なものだった。
そんな折、国王から魔物討伐の令が出た。山岳の洞穴に住まう黒き魔物。血肉に飢え、人を喰らうという。
民の被害も甚大で、討伐に出た騎士団も全滅したとのことだった。足場が悪く数は頼りにならない為、
力のある個を求めていると掲示板には書かれていた。そして、報酬は望みの品をひとつ、何でも与えると。私は、王への謁見を求めた。
( ・∀・)「……いいだろう、内藤ホライゾン。そなたがかの巨悪を討ち果たしその証を持ち帰った暁には、求める品を与えると約束しよう。
では行け、勇敢なる戦士よ! そなたが英雄となり凱旋する未来を、余はここで祈り待とう!」
5
:
デレを忘れない
◆9DAfJAI.I.
:2013/09/26(木) 17:04:58 ID:qZGmce820
私は心配するツンに必ず帰ると約束し、魔物の住まう山へ向かった。魔物は頂上の洞穴を住処にしているらしい。
そこを目指して、登る。切り立った岩壁はまともに歩くことも困難で、用意した装備は却って足枷となった。
私はそれらひとつひとつを捨てながら、武器となる一本の斧だけを手に山頂を目指した。
そして、そこに魔物はいた。魔物は眠っているようで、長い尻尾で体をくるみ丸まっている。
黒く、巨大な体躯。その姿に、私は見覚えがあった。
私は足音をたてずに魔物へにじりよった。魔物は目覚めない。目の前に立つ。魔物は目覚めない。斧を振りかぶる。
魔物の目が、開いた。
( ゚ω゚)「村を返せ」
開いた目に向かって斧を振り下ろした。魔物は咆哮を上げて暴れたが、私はやつの肉ごと毛をつかみ、もう一撃を浴びせた。
( ゚ω゚)「母を返せ」
その魔物は、私の村を襲った黒き魔物と酷似していた。魔物は叫び、私を振り払おうと暴れた。
その足を刈った。魔物は這いずるように、洞穴から抜け出そうとした。私はその額目掛け、全力の殺意を振り下ろした。
( ゚ω゚)「デレを……デレを、返せぇ!!」
魔物は動きを止めた。斧を抜くと、赤黒い傷痕から血が吹き出した。
私は斧を投げ捨て、魔物討伐の証となる巨大なその瞳を、力任せに抉り取った。
復讐を果たした。依頼も達成した。これで、あの子は助かる。
気が緩んだためだろう。私はその時になって初めて、洞穴に積まれた死体の山に気がついた。
魔物を討伐に来た騎士団の物だろう。人間のものと分かる死体は、ひしゃげた鎧や兜をまとっているものがほとんどだった。
他には鳥類や鹿といった大型の動物、山猫かリスか、はたまた蜘蛛や芋虫といった小さな生物の死骸が転がっていた。
その中で、一際特異な死骸があった。白骨化した三体のそれらは、整えられた藁の上に並べられ、寄り添うように折り重なっていた。
それは、私の目に、三匹の、子犬の遺骨のように見えた。
6
:
デレを忘れない
◆9DAfJAI.I.
:2013/09/26(木) 17:05:54 ID:qZGmce820
胸の奥で、何か、嫌なものがせり上がってきた。予感だったのかもしれない。
私はいち早くこの場から抜け出さなければならないと思ったが、どういうわけか、立ちすくんだまま一歩も動けなくなってしまった。
ちょうど、子供の頃、あの巨大な魔物を前で怯えてしまった時のように。
そして、私はそれを見つけてしまった。
壁面に彫られた荒々しい絵。何か尖った物で彫ったのであろうそれは、細かな判別など付かなかったが、確かに人が、人間の姿が描かれていた。
筆を取り絵を描く少年の絵。何かで何度も、一度や二度ではない、何度もこすった跡の残る、かすれた絵。
( ゚ω゚)「――!」
背後に気配を感じた。咄嗟に振り返る。そこには、両目の潰れた魔物の黒い巨大な頭部が、眼前に迫っていた。
やられる。私がそう思うより先、魔物は倒れるように私に迫り、そして――割れた額を、押しつけてきた。
認めたくない。信じられない。だが、しかし、この、魔物は、この憎むべき黒い魔物は、こいつは、こいつ、が……。
( ゚ω゚)「デレ……なのか、お……?」
くぅん……。
甘えるような鳴き声を上げて、額をこすりつけてくる魔物――いや、デレ。
デレ、デレ、デレ。私の、ぼくの、デレ。ずっと会いたかったデレ。死んでしまっているのだと思っていた、
もう二度と会えないと思っていた、大好きな、デレ。なぜ、こんな所に。なぜ、なぜ、こんな形で。
一緒に帰りたい。一緒に暮らしたい。あの暖かな幸福を感じながら、デレを抱きしめ一緒に眠りたい。
デレは助かるだろうか。傷は深い。しかし、魔物の生命力の高さを私はよく知っている。
急いで手当てをすれば助かる可能性は高い。その為の知識も、技術も、今の私にはある。
だが、だが。思考が、地上へ落ちる。デレが生き延びることで支払われる、犠牲。
私にとっての、最愛。ぼくにとっての、最愛。私の、デレ、デレ、デレ、デレ……。
私の胸に「デ……」心地よい重たさが「……レェェェェェェェェ!!」押しつけられ――。
7
:
デレを忘れない
◆9DAfJAI.I.
:2013/09/26(木) 17:06:54 ID:qZGmce820
( ゚∀゚)「英雄が帰ってきたぞ!」
山を下りた私を待ち構えていたものは、大変な騒ぎだった。
私は英雄として迎えられ、人々は歓喜の声を挙げて賞賛を浴びせ、国王は約束を守った。
どころか王宮に仕える特別士官の座も用意していた。
パレードやパーティ、華やかな催しがすべて私の為に用意されていた。
私はすべてを断り、家へ帰ることを望んだ。早く娘に会いたいと。
家へ戻ると、妻は私に駆け寄り、私の無事を喜んでくれた。
そして薬を手にして、涙を流した。
ξ;ー;)ξ「これで、デレは助かるのね? 本当に、本当に私たちのデレは助かるのね?
嘘みたい、夢みたい。ねぇ、あなた。あなた……。
……あなた、どうしたの? どうしてそんな悲しそうな顔をしているの?
なぜ、泣いているの? ねぇ、あなた――?」
8
:
デレを忘れない
◆9DAfJAI.I.
:2013/09/26(木) 17:08:06 ID:qZGmce820
以上。次の方にバトンタッチ
9
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/27(金) 00:26:27 ID:WKzZbnUU0
乙
デレの為にデレを…悲しいな
二作連続で行きます
10
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/27(金) 00:27:02 ID:WKzZbnUU0
長い瞬きが終わった時には。
(´<_` )
どうやらとうに兄者は枷からの脱出に成功していたようだ。
11
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/27(金) 00:27:39 ID:phV65E3o0
(´<_` )『もしもし、モラか』
『もしもし、兄者捕まえた?』
(´<_` )『ああ…だけど…また…逃げられた』
『あー、やっぱり』
笑いながらモラは応えた。
『まあ、値段交渉とか展示会の日程の方はこっちで進めとく。逐次そっちにもメールしとくからそっちは兄者の捕獲の方がんばれ』
(´<_` )『ああ。すまないな、迷惑かけて』
そう、悪いのは全て脱走する兄者であって完徹ができなくてうっかりするとすぐ夢の世界に行ってしまう俺では無い。
電話を切り、ホテルの壁を見れば折角の真っ白な壁に絵の具でベットリと絵が描かれていた。
(´<_` )「うわぁ…何万かかるんだろ…」
俺は修理費のことを思うと溜息が出た。
まあ兄者の金から出すけど。
12
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/27(金) 00:29:41 ID:WKzZbnUU0
兄者は生まれてきた時にどう頭を打ったのやら
病的に無口で
病的に行動力があり
病的に藝術的才能があった
兄者はその病的な行動力で国外逃亡を何度も繰り返している。
手がかりは毎回残して行く絵。今回はこの壁に残った絵だけだ。
赤い太陽に
白い橋に
緑の芝生、
白のテーブルには
赤いドレスの貴婦人が
エメラルドの指輪をはめて
真珠のネックレスをつけて
ルビーのイヤリング
そして赤ワイン片手に料理を待っているようだった。
(´<_` )「どこだよ…」
政経選択者だった俺にはこの景色がどこぞのものかはわからない。
こうしてまた、まだエスカルゴも食べてないうちにまた別国に旅立つのことになってしまった。
13
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/27(金) 00:30:57 ID:WKzZbnUU0
ーーー
ーー
ー
なんとか解き明かしてその場所に向かう。
( ´_ゝ`)モグモグ
(´<_` )「お、見つけた」
( ´_ゝ`)
無表情でこちらを向くとすぐに兄者は川の方を向いて座ってしまった。俺は隣に座る。ついでにイラつくから頭を小突く。
(´<_`# )「勝手にあっちこっち行くんじゃねーよバーカ」
( ´,_ゝ`)
でも兄者は笑っていた。
サラサラと流れる川の音。
( -_ゝ-)(´<_` )
兄者が目をつぶる。
( -_ゝ-)(-<_- )
目をつぶると目が見えない分よく水の音が聞こえてとても清々しい。
14
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/27(金) 00:32:17 ID:WKzZbnUU0
(-<_- )
(´<_` )パチ
( ゚<_ ゚;)
芝生の上におかれたキャンバスには赤い太陽、黄色いビール、黒のソーセージ。
背景には超高速で駆け抜ける赤黒黄色の車の数々が描かれていた。
パスタもピザも食えないうちから俺はまた、別の国に行かなくてはいけないようだ。
旅描く藝術家の為に。
( ´_ゝ`)旅描く藝術家のようです(´<_` )
15
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/27(金) 00:34:46 ID:WKzZbnUU0
続いて二作目行きます
16
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/27(金) 00:35:31 ID:WKzZbnUU0
( ´_ゝ`)(-<_- )zzz
( ´_ゝ`)( ゚<_ ゚;)ハッ
ガシッ( ´_ゝ`)⊂(´<_`;)「逃がさないからな」
( ´_ゝ`)⊂(´<_` )
( ´_ゝ`)⊂(´<_- )
( ´_ゝ`)⊂(-<_- )
( ´_ゝ`)⊂(-<_- )zzz
スルリ( ´_ゝ`)(-<_- )
ガシャンッ
17
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/27(金) 00:36:25 ID:WKzZbnUU0
ーーー
ーー
ー
カランカラン
( ´_ゝ`)
ハハ ロ -ロ)ハ“Benvenuto!”
( ´_ゝ`)つ□□
ハハ ロ -ロ)ハ“Tela?”
( ´_ゝ`)つ□□
ハハ;ロ -ロ)ハ“Ah...2Canvas...OK?”
( ´_ゝ`)b
ハハ ロ -ロ)ハ“70€
18
:
>>17訂正
:2013/09/27(金) 00:42:04 ID:WKzZbnUU0
カランカラン
( ´_ゝ`)
ハハ ロ -ロ)ハ“Benvenuto!”
( ´_ゝ`)つ□□
ハハ ロ -ロ)ハ“Tela?”
( ´_ゝ`)つ□□
ハハ;ロ -ロ)ハ“Ah...2Canvas...OK?”
( ´_ゝ`)b
ハハ ロ -ロ)ハ“70Euro”
( ´_ゝ`)つ■
ハハ;ロ -ロ)ハ(Black card?! Che persona ricca?!)
19
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/27(金) 00:43:39 ID:WKzZbnUU0
( ´_ゝ`)φ_カキカキ
( ´_ゝ`)φ_ ?(・∀ ・))))
(・∀ ・)“Cosa stai facendo?”
( ´_ゝ`)(・∀ ・)
(・∀ ・*)“Buono! !Dammi questo! !”
( ´_ゝ`)
(・∀ ・*)“Voglio diventare un pittore che!!Ho appena ricevuto la paghetta oggi! !Voglio modellare”
( ´_ゝ`)(・∀ ・*)ゴソゴソ
( ´_ゝ`)(・∀ ・)
( ´_ゝ`)(・∀ ・;;)
(・∀ ・;)“……ah....E 'sufficiente in questo?2Euro…Solo…”
( ´_ゝ`)(・∀ ・;)
○⊂(・∀ ・;)“Madre Handmade Ciambelline! Dare! !”
( ´_ゝ`)(・∀ ・;)
( ´_ゝ`)b(・∀ ・*)!!
20
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/27(金) 00:44:49 ID:WKzZbnUU0
ーーー
ーー
ー
( ´_ゝ`)モグモグ
(´<_` )「お、見つけた」
( ´_ゝ`)
(´<_`# )「勝手にあっちこっち行くんじゃねーよバーカ」
( ´,_ゝ`)
( ´_ゝ`)(´<_`# )
( ´_ゝ`)(´<_` )
( -_ゝ-)(´<_` )
( -_ゝ-)(-<_- )
( -_ゝ-)(-<_- )zzz
( ´_ゝ`)(-<_- )zzz
(;´_ゝ`)(-<_- )zzz
21
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/27(金) 00:46:36 ID:WKzZbnUU0
( ´_ゝ`)(-<_- )zzz
カキカキ( ´_ゝ`)φ_(-<_- )zzz
( ´_ゝ`)(-<_- )zzz
´_ゝ`)) (-<_- )zzz
´_ゝ`))) (-<_- )zzz
_ゝ`)))) (-<_- )zzz
ゝ`))))) (-<_- )zzz
`)))))) (-<_- )zzz
))))))) (-<_- )zzz
(-<_- )zzz
(-<_- )zzz
(-<_- )zzz
( ´_ゝ`)藝術は国を越えて、のようです
22
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/27(金) 00:47:27 ID:WKzZbnUU0
では次の方どうぞ
23
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/27(金) 04:35:29 ID:fiWvPFek0
次行きます
24
:
目薬は空になって久しいようです
:2013/09/27(金) 04:37:50 ID:fiWvPFek0
ひらひら、まるで美しい蝶か鳥のよう。
ミセリの両手は、彼女のうちの醜さとはうらはらに、
上等の象牙を削りだして作ったものと言っても信用に足るほど、美しい。
ミセ*゚ー゚)リ「魔法よトソンちゃん、ミセリは魔法が使えるんだから」
もしも彼女がいつかのように世迷いごとを抜かしたとて、
私は「そうでしょうね」と頷いた。
そのくらいの非現実と秘密が隠されていても、何の不思議もありません。
象牙のように無機質で、蝶の羽のように儚く、
鳥のふっくらした羽毛のように暖かな、いっとう美しい彼女の両手。
鮮やかに彩られた爪、細かいブレスレットが放つひかり、しろく眩しい、いきもの。
彼女の唯一の美点。私から、すべてを奪うもの。
彼女は私から、宿題のプリントや給食のデザート、自由時間、気に入っていたヘアピン、
好きな男の子に正常な視界、尊厳、あげればキリがないほど色々なものを、あの、きれいな手で奪っていった。
さて、その、クソビッチの代名詞。もとい芹沢ミセリが刃傷沙汰で入院したらしい。
私のクラスに、いや学校に、当時の同級生が一体何人いるのやら。
それでも噂は私のところにまで回ってくるのだから、不思議なものです。
皆、受験を控えた高校生らしく娯楽に飢え鬱憤がたまっているのかしら?
ここは一つ、私もその波に乗っておこうと、向かいで弁当をつつくクラスメイトに相槌を返した。
25
:
目薬は空になって久しいようです
:2013/09/27(金) 04:38:40 ID:fiWvPFek0
ミセ*゚ー゚)リ「トソンちゃん、目ぇ閉じててね」
あ、これはまずいな。と最後まで思う前に、緑色のエナメルの指先がホースの口を潰していた。
寒い、というよりは痛い。
九月も終わりを迎えるような季節になると、夕方には昼間の暑さが嘘のようにつめたい風が吹く。
その中を、頭の天辺からつま先まで、まんべんなくズブ濡れでいるなんて、まるで狂気の沙汰ですが、
私だって、好きで、こうなったのではありません。
(゚、 ゚トソン「なに、するんですか……」
ミセ*゚ー゚)リ「だってぇ……トソンちゃん汚いんだもん、洗わなきゃ」
(゚、 ゚トソン「さむいです」
ミセ*゚ー゚)リ「きれぇになったよ」
秋というのは風がつよくていけない。
風にまきあげられた宿題のプリントを追って、プールサイドに行きました。
汚い緑色に濁った、落ち葉の目立つプール、その水面に紙を濡らさずに済んだことは幸いという他ありません。
だって、季節外れのプールには落ち葉どころか、変な虫の死骸まで浮いているんですもの。
降り注ぐ西日の眩しいこと。じきに夜がくる。
早く帰ろう。顔をあげた、錆びの浮いたフェンスの向こう側。
木々の茂る体育館裏の、今の季節、潰れた毛虫の名残をよく見かけるコンクリートの靴置き。
そこに、私の不肖の幼なじみであるミセリがいた。
26
:
目薬は空になって久しいようです
:2013/09/27(金) 04:39:26 ID:fiWvPFek0
ハンカチで内ももを拭い、足首に絡んでいる下着を履きなおすミセリのセーラー服の黒と、
足早に立ち去る、生成りのスラックスの白さが目につきました。
珍しいことです、彼女が跨る相手は、大抵が黒い詰襟の学生服を着ていますから。
その珍しさに気でもとられたのか、私の足首はうまく上体を支えられず、沼色のプールにどぼん、と。
汚れ、という言葉だけで満たされたプールだったのに、頬をぽろぽろ撫でていく水泡の感触が、
いやに美しかったことだけが印象的で、どうやって、這い上がり出てきたのか覚えていない。
プリントは結局、プールに浮かぶ、あるいは沈むごみの一部になった。
がっぽん、がっぽん、愉快でみじめな音を鳴らすローファーが明日までに乾くといいのですけど。
「トソンちゃん」
足元ばかりを見ていたら、逃げ損ねた。
そうして、私はつめたい、刺すような鋭い流水で、再び、濡れ鼠と化した。
ミセ*゚ー゚)リ「トソンちゃんは、いじめられっこなの?嫌われてるの?」
(゚、 ゚トソン「違いますよ、あなたと一緒にしないでください」
ミセ*゚ー゚)リ「自分で落ちたんだ、だっさ」
ミセリは私を嘲笑しながら、カーディガンのボタンをはずしていました。
貸してくれるのでしょう、ミセリは時々便利です。
(゚、 ゚トソン「ミセリ?」
予想を違え、彼女はその白いニットで私を拭きはじめました。
27
:
目薬は空になって久しいようです
:2013/09/27(金) 04:42:30 ID:fiWvPFek0
わしゃわしゃ、荒いニットの繊維が顔に無遠慮にこすり付けられて、少し痛みます。
ミセ*゚ー゚)リ「だってミセリ、ハンカチとか持ってないし
そのままだと風邪ひいちゃうよ?」
(゚、 ゚トソン「いいですよ……」
ミセ*゚ー゚)リ「よくないよ、ミセリのパシリとおもちゃなんだから
勝手に学校休んじゃだめ」
ミセ*゚ー゚)リ「ちゃんと洗って返してね、あとミセリの宿題やって
明日の給食の梨もちょうだい、あっ!ドーナツの新しいのも全部買って」
(゚、 ゚トソン「おとなしく風邪をひいた方が安いですね」
高い借りになってしまった、むこう半年はこのネタでいいように使われる。
わかっていながら、つっ立って大人しくしているのは何故でしょう。
私はそんな小さな抵抗さえ出来ないほど、ミセリという同い年の中学生を恐れているのだろうか。
膨張した太陽が空を真っ赤に焼いていた。それはそうと夕焼けってあんなにも、あからさまな色をしていたかしら?
ミセ*゚ー゚)リ「どうしたの?」
(゚、 ゚トソン「いいえ、視界がなんだかおかしくて」
ミセ*゚ー゚)リ「ゴミでもはいったのかな?後で目薬貸してあげる」
あたりに暗い影が落ちるなか、視界の端にちらつく彼女の手首が淡い橙の光に照らされていた。
洗浄や摩擦くらいで落ちるとは、到底思えない色が、眼球に染み込んでいくようだった。
28
:
目薬は空になって久しいようです
:2013/09/27(金) 04:44:20 ID:fiWvPFek0
ミセ*゚ー゚)リ「やっほ、ひさしぶり」
ミセリの声は相変わらず耳障りだ。キンキンと甲高い声はいつでも私の平静を乱す。
枝葉に紛れる芋虫の緑を見つけるのと同様、雑踏の中でさえ彼女の言葉だけは蛍光のラインを引いたように、よく目立つ。
こんなに静かな病室の中では、いっそ目に痛いほどだ。
直視すると痛むから、彼女が私に向かって声を発する時、いつも、忙しない手の動きを見つめていた。
見ていたから、他のどこに視線をやればいいのかわからない。
彼女の手は、あの生き物は、ぐるぐる巻きのギプスによって隠れ、わずかに覗く指先は変色し爪も欠けている。
ミセ*゚ー゚)リ「えっち、あんまり見ないでよぅ」
両手を背に隠したミセリが痛みに呻いた。いい気味。
ミセ*゚ー゚)リ「あ、笑った。ひどい。
可哀そうなミセリをもっと労わってよ」
(゚、 ゚トソン「可哀そうなのは小森くんでしょう
あなたみたいな性悪のせいで人生滅茶苦茶です」
私が詰るとミセリは笑った、のけ反り、けたたましく、痛みに呻いて、笑い続ける。
何がそんなに可笑しいのか。ミセリはひとしきり笑った後、瞬きの間だけ、かすかな軽蔑の面持ちを覗かせた。
ミセ*゚ヮ゚)リ「あは、トソンちゃん それってミセリのセリフ、ふふ、ねぇミセリあんたみたいな性悪、見たことない」
ミセ*゚ー゚)リ「はぁ、おっかし……何これ、梨?お見舞いといったら林檎とかメロンでしょ
ミセリ、梨嫌いなんだけど。いいや剥いて。うさちゃんの形ね。お見舞いっぽいことしてよ」
29
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/27(金) 04:45:31 ID:fiWvPFek0
終わりです。
次の方どうぞ。
30
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/27(金) 17:27:44 ID:PKSUrsU.O
いっくよー
31
:
( ^ω^)は造られたようです
:2013/09/27(金) 17:28:22 ID:PKSUrsU.O
カタカタ
(_
カタカタ
( ^_
カタカタ
( ^ω^_
カタ……
( ^ω^)_
こんにちは、ブーン
( ^ω^)「おっ!」
32
:
( ^ω^)は造られたようです
:2013/09/27(金) 17:29:10 ID:PKSUrsU.O
ブーンは元気だよね、あちこち走り回って
≡≡と二二( ^ω^)二二つ「ブーン!」
でもちょっとドジだから転んじゃったりして
( >ω<)「おっ!?」コケッ
……
( ^ω^)「……」
そうだな……ブーンはちょっと泣き虫だね
( ;ω;)「おーん!おーん!」
でも、強い子だから、すぐ泣き止んでまた元気に走り出すんだ
( ぅω^)グシグシ
≡≡≡と二二( ^ω^)二二つ「ブーン!」
33
:
( ^ω^)は造られたようです
:2013/09/27(金) 17:29:59 ID:PKSUrsU.O
……いや、違うな
やっぱりグジグジ泣いてるんだ
と二二(;^ω^)二二つそ
( ;ω;)「おーん!おーん!」
それで、泣いてるとツンが怒ってくるんだよな
ξ#゚⊿゚)ξ「もう!ちょっと転んだくらいでいつまで泣いてんのよ!男でしょ!」
( ;ω;)「お……」
それで、いつまでも泣いてるのは情けないと思って、ようやく泣き止むんだ
( ぅω;)グシグシ
そうしたら、ツンも少し優しくなって
ξ゚ー゚)ξ「……そ。それでいいのよ」
( ^ω^)「お……」
34
:
( ^ω^)は造られたようです
:2013/09/27(金) 17:31:18 ID:PKSUrsU.O
最後は二人で仲良く手を繋いで帰るんだ
ξ*゚⊿゚)ξ「さ、帰りましょ」
(*^ω^)「おっ!」
……あー…………リア充爆発しろ
カタカタカタカタ
ξ*゚⊿゚)ξ
(*^_
カタカタカタカタ
ξ*゚_
カタ……
_
('A`)「はい、これでリア充は消え去りました」
('A`)「自分で書いといてなんだって話か……」
35
:
( ^ω^)は造られたようです
:2013/09/27(金) 17:32:50 ID:PKSUrsU.O
('A`)「いいだろ?別に死んだわけじゃないし」
('A`)「『キャラクター』は一度生まれたら死ねない。作られた設定で、『誰も知らない世界』を生き続ける」
('A`)「誰かがその『誰も知らない世界』を覗いて、それを一つの『物語』にするのさ」
『誰も知らない世界』には、どれだけのブーンがいるのだろう。
あなたが造り出したブーン、誰かが造り出したブーン、不意に生まれたブーン。
完結したあの物語のブーンも、『誰も知らない世界』でまだ物語を紡いでいる。
('A`)「『キャラクター』は知らないんだよ。自分が『造られた存在』だって」
だから、彼らの存在する、『誰も知らない世界』で、何の疑問も持たずに生き続けるのだ。
('A`)「ちょっとメタっぽくなったけどこんなもんか。さて品評会品評会……っと」
……故に、彼も疑問を抱かない。
彼自身も、『造られた存在』だということを知らないから。
( ^ω^)は造られるようです 終
36
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/27(金) 17:33:48 ID:PKSUrsU.O
終わりだよ
俺の中ではブーン系自体がある種の藝術だよ
次の方どぞー
37
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/27(金) 18:09:42 ID:WKzZbnUU0
まあ( ^ω^)ξ゚゚)ξ('A`)もアスキーアートってぐらいだしな
乙
38
:
おやすみT−2のようです
◆7hI4GGdDEg
:2013/09/27(金) 19:35:25 ID:Ddx2jxxk0
博士がいなくなってしまった。
私を残して行ってしまった。
私を置いて消えてしまった。
私がデレでないから、捨てていってしまった。
博士は私を完璧に造り上げた。
死んだ娘と同じ容姿、同じ仕草、同じ声を出せる私を造り上げた。
私は歩ける。私は話せる。私は歌える。私はデレで在れる。
けれど、何かが違うらしい。
私の歌には、何かが欠けているらしい。
私には分からない。それはきっと、私がロボットだから。
人間でないから。
私は人間になりたい。デレと同じように歌いたい。
そうすればきっと、博士は戻ってくるから。
そうすればきっと、博士と会えるから。
私は歌っていた。毎日毎日歌っていた。その日も私は、崖近くに根っこを張る切り株に腰をかけて歌っていた。
私は歌いながら耳部の集音回路を鋭敏に作動させる。少しは人間に近づけただろうか。デレになれただろうか。
わからない。しかし、私は歌う。それ以外に知らないから、歌う。
そうして歌っていた私の集音回路に、私の声以外の音が受信された。
音は崖下から聞こえた。そこにはボロをまとった人影が倒れていた。
ボロからは、少年の幼い顔つきが覗いていた。
私は彼をかつぎあげ、きしんで朽ちかけた私たちの小屋まで戻ることにした。
39
:
おやすみT−2のようです
◆7hI4GGdDEg
:2013/09/27(金) 19:36:03 ID:Ddx2jxxk0
「なぜぼくを助けたんだい?」
「博士は言っていた。動物や子供、弱き者を慈しめと。だから助けた」
妙に大人びた口調で話す少年を介抱しながら、私は何万回とリピートした博士の言葉をもう一度リピートした。
博士は小さい者、困っている者を慈しみなさい、やさしい心を持ちなさいと言っていた。
怪我をして介護を必要とする少年は、弱き者だった。だから私は、少年を助けることにした。
そうすれば、私も人間になれるかもしれないから。
「きみの名前は?」
「デレ」
私と少年の共同生活が始まった。
少年は大人しかった。歩けるようになってもほとんど出歩かず、家の中の物も必要な物だけを選び、
一日ガラクタ遊びをしていることが多かった。どこになにがあるのかも、すぐに把握したようだった。
「それに触るな」
一度だけ、彼の行為を咎めたことがある。私の声帯回路のメンテナンスに必要な道具を、勝手に手に取っていたのだ。
私は彼からそれらを奪い取り、二度と触るなと告げた。他のどの部品を失おうと、声帯回路だけは守らなければならない。
なぜなら、博士に会えなくなるから。
その日の夜、彼は珍しく深夜遅くまでガラクタをいじっていた。
何かを組み上げているらしいその様子を見て、私は彼が来てから一度も歌っていなかったことを思いだした。
「上手だね。とても、上手だ」
私の歌を聴いた彼は、ほほえみの表情でそう言った。情報伝達組織が混乱したようだった。
今まで起こったことのない現象が、私の行動を支配した。それから毎日、私は彼が活動を休止するまで歌い続けた。
40
:
おやすみT−2のようです
◆7hI4GGdDEg
:2013/09/27(金) 19:36:33 ID:Ddx2jxxk0
私たちの小屋は古びていた。
腐った木が露出していたし、屋根も半分近く欠けていた。だから、こうなることは必然だった。
その日は酷い嵐だった。記憶チップを検索しても類のない程の嵐で、風に叩かれる度小屋の壁は甲高い音を立てた。
私と少年は一人用の地下シェルターにぴったりくっついて入っていたが、
頭上から聞こえる一際大きな音に私は飛び出し、声帯部品をメンテナンスする道具がどこにも見あたらない事に気づいた。
私は瓦礫の山をひっくり返し、道具を探した。あれをなくすわけにはいかない。
あれをなくしてしまったら、二度と博士に会えない。そう思って。
そして、私はそれらを見つけた。潰れて、もはや使い物にならなくなったそれを。
「――!」
少年の叫び声が聞こえたが、その言葉の意味を解析するより先に私の体は強い力に吹き飛ばされ、
そして、より大きな音が、腐った屋根の落下と共に鳴り響いた。
落下してきた屋根の下は、先ほどまで私の座っていた場所であり、今は少年の体が下敷きになっていた。
赤い液体が地面に広がった。
私は少年の体を引きずり出し、シェルターの扉を開いたまま急いで彼の体の修理を始めた。
彼の体は私の物と比較にならない程複雑で、大量の生体部品を必要としていた。
彼自身の体で故障箇所を補い、生命維持という基準で優先順位の低い部位を諦めもしたが、
どうしても、足りない。あとわずかだというのに。何かないのか。何か。
シェルターの扉が剥がれ、私の左腕を巻き込み飛んでいった。
私は咄嗟に声帯回路を守り、そして、気づいた。
これを使えば、彼を助けられるかもしれないことを。だが、それは。
彼の顔を見つめた。あの時と同じ、奇妙で、独特な現象。感覚――感情?
それはバグなのかもしれない。けれど、消去したい、感覚ではなかった。
41
:
おやすみT−2のようです
◆7hI4GGdDEg
:2013/09/27(金) 19:37:37 ID:Ddx2jxxk0
私は彼を失いたくなかった。助け、守りたいと思った。
だから私は、声帯回路<私のデレ>を彼に移植した。
そして私はシェルターの屋根となって風を遮り、
やがて、小屋の壁と共に吹き飛ばされ崖下に落下した。
嵐は止んだ。しかし、それを知覚できる機関を既に私は喪失していた。
自分の体がどのようになっているのかも確認できない。
それでも、私は安らかだった。安息というものを認識したのは初めてだった。
彼はきっと、無事だろう。そう信じられた。
私は歌った。声帯回路を失った喉で、声なく歌った。
「――」
声が聞こえた。誰かの声。失った聴覚器官を越え、聞こえてくる。
彼だろうか。いや、違う。これは――。
「――――」
そんな所にいたのですか、博士、博士。
見えなくても分かります。聞こえなくても感じます。
会いたかった。ずっと、ずっと、会いたかったのです。
こんなにもほったらかしにして、一人にさせて。
私はあなたを憎みます。私はあなたを恨みます。
だから、その分愛してください。抱きしめてください。
頭をなでて、よくがんばったねって、褒めてください。
内藤博士<おとうさん>
42
:
おやすみT−2のようです
◆7hI4GGdDEg
:2013/09/27(金) 19:38:08 ID:Ddx2jxxk0
「すまなかったお」
300年の人生。300年の孤独。本当に長かったろう。苦しかったろう。
人としての私が寿命を迎え、この素体に私という人格を定着させる事にこんなにも長い年月を要するとは、私にも想定外だった。
人工皮膚も剥げ、あの美しかった金髪が一本残らず抜け落ちてしまった君が、今もまだ歌っているとは夢にも思わなかった。
君を見つけた時は、一散に駆け寄って抱きしめたかった。
だが、それはできなかった。
君が私を私として認識してしまったら、君はデレという役割と同化し続けてしまっただろう。
デレという呪縛から解放される機会を、永遠に失っていただろう。
それはすなわち、君という生<存在>を、君自身が認めない事に他ならない。
君という生<存在>が、初めから無かったと証明することに他ならない。
エゴかもしれない。しかしそれは私にとって、余りにも耐え難い結果だった。
愛する者を失うのは、もう沢山だった。
だから私は、君が君自身を確立するまで正体を明かすことをしなかった。
君がデレへの依存を断ち切るまで、ガラクタから部品を作り上げ、君を補修し延命させた。
私は確かに娘に模して君を造った。
けれど君はデレじゃない。
君は、君だ。
思い悩み、“赤”を感じる君そのものだ。
君に名前を返そう。おやすみT−2<ツン>。私の娘。
生まれてくれて、ありがとう。
43
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/27(金) 19:38:44 ID:Ddx2jxxk0
終わり。次の方どぞー
44
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/27(金) 21:01:33 ID:HRc9QPjE0
切ないなぁ…
ずっとずっと歌っていたツンがいじましい
45
:
ある個展のようです
:2013/09/27(金) 21:11:28 ID:tJ/QHhPA0
('A`)「彼女の絵が好きだったんだ」
酷く、寂しさを感じる絵だと思った。
緑がかった黒で大部分が占められている。真夜中なのだろうか。
真っ暗な暗闇の中で、絵の中の男は、真っ白なシャツを着てこちらに背を向けている。
男の周囲には、薄黄緑色の光が無数に舞っている。蛍のようだった。
顔こそ見えないが、僅かに見える頬は蛍の光で照らされている。柔らかい輪郭の頬は、きっと顔も優しいのだろうと思わせた。
真夜中に舞う蛍を、男がこちらに背を向けて眺めている絵。
その絵には『彼』というタイトルが付けられていた。
('A`)「綺麗な絵だろ。俺の彼女が描いたんだ」
そうなんですか、と返事をした。
46
:
ある個展のようです
:2013/09/27(金) 21:12:27 ID:tJ/QHhPA0
首が痛くなるほど高いビルが立ち並ぶ都会の、老舗デパートのひっそりとした端のスペースで、個展をやっていた。
入口に掲げられていたのが、この『彼』という絵だ。
人寄せ用に縮小されたその絵に惹かれて、なんとなく入場料を払って回ってみた。
おそらくこの絵が目玉なのだろう。
僕の身長を超えるほど大きな絵だということもあってか、これまで一メートル間隔で壁に掛けられていた絵とは違って、少し広めのスペースに、この絵は飾られている。
薄暗い照明は絵と合わせでもしているのだろうか。
ほんのりと暗い空間に立てかけられた絵は、ずっとここでこの絵を見つめていたいような、そんな気にさせられた。
('A`)「俺はこの絵が描かれる一部始終を見てたんだ。彼女は描いてる途中ずっと無言でさ、遊びに来たはずの俺は退屈でしょうがなかった」
写真見るか、と横から紙を差し出された。
受け取って見ると、一人の女性が椅子に座って、大きなカンバスに黒い緑の絵の具を乗せている写真だった。
47
:
ある個展のようです
:2013/09/27(金) 21:13:50 ID:tJ/QHhPA0
女性は肩甲骨辺りまである黒曜石のような髪をそのまま結わずに下ろして、焦げ茶の涼やかな瞳を真っ直ぐとカンバスに向けていた。
着ている七分袖のVネックのシャツは、赤青黄緑紫白黒、とにかく沢山の色で塗り潰されていて、元が何色だったのか分からなくなっていた。
筆を持つ腕は驚くほど白く細い。女性特有の曲線を持つ腕は、明確な意思を持って、カンバスの白い部分を埋めようと今にも動き出しそうだった。
('A`)「俺がカメラ向けてもさ、全然気付きやしないんだ。普段はすぐに気付いて怒るのに」
彼女さん、素敵ですね。僕がそう言うと、隣にいた男は吐息で笑った。
('A`)「うつくしい人だよ。俺なんかにはもったいないくらい」
そんなことないですよ。
写真の中の彼女は、その瞬間をまさに切り取ったように、生命力に満ち溢れて眩しかった。
そういえば、彼女の絵こそ美しいが、彼が撮ったこの写真も素晴らしい。
('∀`)「お世辞が上手いね」
お世辞なんかじゃないです、と僕が言うと、彼は少し照れたように頭を掻いた。褒められるのには慣れていないらしい。
48
:
ある個展のようです
:2013/09/27(金) 21:15:12 ID:tJ/QHhPA0
('A`)「ありがとうな」
隣の男は消えそうなほど小さな声でそう言うと、僕の後ろを通って歩いて行った。どうやら次の順路に向かうようだ。
僕はもう少しだけこの絵を見て行こうと思って、再び絵を見つめた。
('A`)「ああ、そうだ」
男の足音が止んだ。どうかしたのかと振り向いて見ると、男がジーンズのポケットに手を突っ込んだまま、こちらを見て口を開いた。
('A`)「この絵、どうだ?」
好きです。
即答だった。
('∀`)「そうか」
男は僕の返事を聞いて、満足そうに笑って、背を向けた。僕も絵へと視線を戻して――そこで、手の中の写真に気が付いた。
( ・∀・)「あの、これ」
返していたつもりだったが、返していなかった。僕は再び振り向いたが、男の後ろ姿はどこにも無かった。
49
:
ある個展のようです
:2013/09/27(金) 21:16:12 ID:tJ/QHhPA0
―
全ての絵を見終えると、この個展の主の写真や、経歴などが壁に貼り付けられていた。
それを見上げながら、僕は「ああ」と思わず声を漏らしてしまっていた。
目の前のパネル写真には、先ほどの男と、持っている写真に写っているのと同じ彼女が、並んで幸せそうに笑って居た。
パネル写真の下には「クーさんと、恋人のドクオさん」と小さく補足されている。
そして、経歴の最後は、こう締め括られていた。
『写真家であり恋人だったドクオ氏と、同棲していた家のベッドで薬物自殺をしているところが発見される』
( ・∀・)「どうか、お幸せに」
きっと、『彼』とは先ほどの男であり、この写真に写っている男だったのだろう。
僕に彼女の絵が好きだと告白した彼と、彼を描いた彼女が、幸せに笑い合っていることを願った。
50
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/27(金) 21:17:08 ID:tJ/QHhPA0
終わりです
次の方どうぞ
51
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/27(金) 21:41:55 ID:HRc9QPjE0
山奥の工房に、一人の磁器職人がおりました。
名前はブーン、いつもニコニコと笑顔でいる風変わりな男です。
ブーンには家族がいません。
お父さんもお母さんもとっくの昔に亡くなって、たくさんいた友人も職人になってからはどんどん疎遠になっていました。
奥さんも最近いなくなってしまったので、彼は本当に孤独でありました。
だけどもブーンは寂しくありません。
彼の工房にも、その隣にある家にも、たくさんの作品が置いてあるからです。
透き通った乳白色のそれらは、ブーンの自慢の子供であり、家具であり、宝物でありました。
書斎に置かれているコーヒーカップとソーサーは、次々あふれでてくるアイディアを取りまとめるお手伝いをしていて。
寝室のチェストに置かれたランプのシェードは天使が降り立ったような真っ白なキノコの形でいつもブーンのいびきを聞いていて。
キッチンの食器棚には滅多に来ない来客のためのティーカップと大皿たちが首を長くしながら待ちわびていて。
居間には、動物をモチーフにした置物たちが床や飾り棚を占拠していて。
バスルームのソープ置き場や見事な薔薇の模様が描かれたシャンプーのボトルさえも、彼の作品でありました。
( ・∀・)「本当に、この家はすごいよ」
( ^ω^)「どこがだお?」
( ・∀・)「だってこれじゃあ、どっちが住人なのかわからないよ」
行き場がなくなって玄関やウッドデッキ、駐車場にまで侵食してきている磁器たちを見て苦笑した友人が、そう言いました。
その彼も、今となっては口をきくこともできないのですが……。
ブーンの、磁器に対する愛は並々ならぬものでありました。
本当は売るのだっていやなのです。
だけどもあまりにもみんなが素晴らしいと口々に讃えて欲しがるものですから、ブーンは決心した時だけそれらを売るようにしていました。
そのおかげで、食器や置物たちはとんでもないような値段で飛ぶように売れていきました。
ですから、暮らしにはまったく苦労していませんでした。
52
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/27(金) 21:42:28 ID:HRc9QPjE0
ブーンのいなくなった奥さんは、ツンといいます。
どこかの国の血が入った彼女は、くるくると巻き癖のついた金髪と碧い瞳が自慢の、美しい人でありました。
こんな美しい人がどうしてこんな辺鄙なところにいるのかと言いますと、彼女もまた、ブーンの作品のファンだからでありました。
といっても彼女の家族は結婚に大反対したので、ツンはほとんど縁を切るような形でブーンのもとへ嫁いだのでした。
ξ ゚⊿゚)ξ「わたし、ブーンの作るものが全部好きよ」
( ^ω^)「それは嬉しいお」
ξ ゚⊿゚)ξ「ええ」
と、彼女は微笑みます。
ξ ゚⊿゚)ξ「だってずっとそばに置いておけるものね」
ツンは、いとおしそうにティーカップの縁をなぞりました。
ξ ー⊿ー)ξ「どうして兄さんもお母さんもお父さんも、みんなこれの素晴らしさに気づかないのかしら」
( ^ω^)「…………」
ブーンは黙ったまま、引き出しからナイフを取りました。
ツンはそれを見ても微笑んだままでした。
ξ ゚ー゚)ξ「ブーン」
( ^ω^)「ツン」
僕の、かわいい人。
53
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/27(金) 21:45:46 ID:HRc9QPjE0
山で見る夕暮れというものは意外と禍々しいもので、世界の終わりのようだとブーンはいつも思っていました。
( ^ω^)(少し肌寒くなってきたお)
今日はもうこれで作業を終えようか、とブーンの考えが夕飯のメニューに切り替わった時でした。
山には不釣り合いな黄色いスポーツカーが、ものすごい勢いでやって来るのが見えました。
( ^ω^)(めずらしい、ツンのお兄さんの車だお)
二度か三度しか見たことがありませんが、それはたしかにツンの兄であるギコの車でありました。
まもなく車は、乱雑に駐車場に停められました。
(#,,゚Д゚)「…………」
鍵もそのままに、車から出てきた彼は真っ赤な目をしていて、ブーンに掴みかかりました。
( ^ω^)「お兄さん、こんばんは、お久しぶりですお」
それでもブーンはニコニコと友好的に笑いかけました。
(#,,゚Д゚)「ツンをどこにやった」
ギコの言葉に、ブーンは不思議そうな顔をしました。
( ^ω^)「ツンならいますお?」
54
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/27(金) 21:46:27 ID:HRc9QPjE0
(#,,゚Д゚)「とぼけるな!」
ギコはブーンを突き飛ばし、馬乗りになってめちゃくちゃに殴りました。
(,,゚Д゚)「ツンの携帯に連絡しても、なにも返ってこない、お前がなにかしたんだろう!」
( ^ω^)「誤解ですよ、早とちりですね」
やおらブーンはギコを突き飛ばして、体を起こしました。意外と彼は力があるのです。
(,,゚Д゚)「このっ……!」
( ^ω^)「ツンに会わせてあげますよ」
ギコの手を掴み、立たせてやりながらブーンは言いました。
家の中に入り、床に並んだオブジェたちを倒さないように歩きながら彼らが向かった先は、キッチンの食器棚でありました。
(,,゚Д゚)(なんてデカさだ)
天井といっしょくたにくっついてしまっているそれを見上げながら、ギコは思いました。
どこからか持ってきた脚立に登ったブーンが上から取り出したのは、ゴブレットでした。
長くすらりとしたステムはいまにもおれてしまいそうですが、プレートがしっかりしているので倒れる心配はしなくてよさそうです。
まんまるい形のボウルには、山の風景が事細かに描かれていて、ひとつの絵画みたいで、それはどうも、ブーンたちの住んでいる山がモデルになっているようでした。
それらは光を受けて、乳白色の生地からぼんやりと浮かび上がるようになっていてとても美しいものに見えました。
(,,゚Д゚)「……ツン?」
これが?というように、ギコは呟きます。
55
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/27(金) 21:47:10 ID:HRc9QPjE0
脚立から地面へと降り立ちながら、ブーンが言います。
( ^ω^)「僕が作っている磁器というのは、ボーンチャイナという種類でして」
ボーン、という響きを聞いた瞬間、ギコの顔からみるみるうちに血の気が引いていきました。
(,, Д )「お前は、お前は……!」
( ^ω^)「ああ、お兄さんもご存知ですかお?」
(#,,゚Д゚)「人殺しめ!!」
掴みかかろうとするギコを避けて、ブーンは思いきり腹を蹴りました。
(,, Д )「ぐっ……!」
( ^ω^)「心配しなくても、ツンと一緒にさせてあげますお」
兄妹仲がいいのに離ればなれにするのはあまりにも可哀想だから。
その言葉を最後に、ギコの意識は途切れました。
食器棚に、また作品が増えました。黄色いスポーツカーがボウルの真ん中に鎮座するゴブレット。
山の風景が描かれたゴブレットの隣に置かれたそれは、不釣り合いでしたがブーンはとても気に入っていました。
( ^ω^)「ずーっと一緒だお」
よかったね、と彼は笑いかけて、梯子を降りて、また工房へと向かいました。
ボーンチャイナのようです
56
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/27(金) 21:47:51 ID:HRc9QPjE0
次の方どうぞ
57
:
老ウィリアムの追憶
:2013/09/27(金) 22:11:17 ID:hHnNdZ960
投下します
58
:
老ウィリアムの追憶
:2013/09/27(金) 22:11:48 ID:hHnNdZ960
「ジェスター機が落ちるところなんて、誰も見てやしなかったんだ。」
目の前の老人――かつての撃墜王、ウィリアム・ウォレス――は、そう語った。
その時に受けた衝撃は、きっと、私の記者人生の中で、もっとも忘れがたいものの一つとなるだろう。
=================================
リベラル系の新聞としてはこの国では名の知れた存在であるヘラルド・トリビューン紙の記者として、
かつての撃墜王ウィリアム・ウォレスにインタビューに行ったとき、
私はまだ入社したての、何の実績もない、若いだけの記者だった。
半世紀も前の戦争で活躍した人物なんだから、さぞかしソファの上の置物とでもいうべき状態になっているものと思っていたが、
ウィリアム老人は、老人と呼ぶのも憚られるほどに、足腰が丈夫で元気だった。
若い私のほうが不健康で、喧嘩をしたら負けるんじゃないかと思ったほどだ。
老ウィリアムは、私を暖炉のある部屋へと招きいれた。
暖炉はもう使われていない(火災予防法で使用が禁止された)が、ここは昔ながらのウォレス家の客間なのだろう。
私が勧められた椅子に座ると、老ウォレスはレコードに針を落とし、音楽を流しはじめた。
静かで優雅な旋律が、しんと冷えた客間に、ゆっくりと満ちていく。
( ´_ゝ`)「ジェスターの好きな音楽なんだ」
彼はそう言った。
( ・∀・)(ジェスター? …音楽家か何かか?)
私は音楽のことはわからない。だから老人の言葉の意味もわからない。とりあえず、愛想笑いで頷いた。
59
:
老ウィリアムの追憶
:2013/09/27(金) 22:12:45 ID:hHnNdZ960
( ・∀・)「ウィリアムさん、先の世界大戦で英国王立空軍の撃墜王としてご活躍されたあなたに――」
と切り出した俺の質問に、素早く、的確、まるで昨日の出来事を語るかのように、
ウィリアム老人は威勢のいい下町なまりの兵隊言葉で、答えを返してくれた。
その答えを聞いて手帳にペンを走らせながら、私はひそかに、舌を巻いていた。
こんな老人、いままで見たことがない。
老人というものは、あの独特の匂いを撒き散らしながら、遠い昔の出来事の断片だけを語りつなぐものと相場は決まっているが、
このウィリアム老人だけは、そうした連中からは縁遠い存在だったと言っていいだろう。
ただ――
そう。ヘラルド紙の読者ならご存知だろうが、私は、この撃墜王ウィリアムの話を、記事にはしていない。
だから、この事実については、今はじめて語るのだが――
( ・∀・)「ウォレスさん、60機以上のドイツ軍機を撃墜したエースのあなたですが、その…撃墜王の秘訣って、なんだと思います?」
という私の問いに対する答えは、…最初は、沈黙。
やがて、
( ´_ゝ`)「これを聞いたら、あんた、きっと俺のことをきちがいだと思うだろうな。
それにお堅いヘラルド・トリビューンに乗せられる記事には到底ならねえぞ。それでも聞くか?」
私は身を乗り出した。
60
:
老ウィリアムの追憶
:2013/09/27(金) 22:13:27 ID:hHnNdZ960
( ´_ゝ`)「ロンドン大空襲だった。あれは」
彼は話し始めた。はっきりとした言葉で、まるで昨日のことのように。
ドイツ野郎が700機もの戦闘機と爆撃機をイギリス上空まで飛ばしやがったから、
お返しにわがRAF(英国王立空軍)は350機の戦闘機でお出迎えしてやった。
史上最大の空中戦だったさ。
( ´_ゝ`)「俺たち二人はスコフィールド空軍基地から飛び立った。スピットファイアもハリケーンも、飛べる戦闘機は全部飛ばしたさ」
( ・∀・)「…excuse me? 俺たち二人、とは?」
( ´_ゝ`)「俺とジェスター。知らない? いつも二人チームでいっしょに飛んでた、弟のジェスター飛曹長だよ」
不勉強にも、私は知らなかった。彼には弟がいたのだ。
ウォレス家の兄ウィリアムと弟ジェスターは、同じスコフィールド空軍基地で、同じく戦闘機パイロットだったのだ。
61
:
老ウィリアムの追憶
:2013/09/27(金) 22:14:31 ID:hHnNdZ960
( ´_ゝ`)「あそう。ジェスターを知らない。ふーん」
(;・∀・)「も、申し訳ありません。不勉強で」
( ´_ゝ`)「でも、我がイギリス軍の戦闘機には二種類の無線機が積んであった、てのは知ってるよな?」
( ・∀・)「司令部と通信するための長距離無線機と、部隊内通信のための短距離無線機ですね」
( ´_ゝ`)「そう。俺たち上空の戦闘機隊には、地上のレーダー基地から刻一刻と無線で指示が入る。これが長距離無線だ。
たしかRF-Q03なんとかって言う機械だったんだが、この機械は優秀なやつで、超長距離の通信でもほとんどノイズが入らない。
いっぽう、短距離無線のほうはひどかったな。雑音さ。バアちゃんちの真空管がむき出しのやつのほうが、まだマシな音だった」
( ´_ゝ`)「で、空が飛行機の爆音と、曳光弾のきらめきと、怒鳴り散らす司令部の長距離無線でいっぱいに満たされているような時に、だ。
俺は何機目のドイツ野郎のケツを追っかけてるのか、もうわかんなくなりかけてた頃にな、レシーバーから突然、飛び込んできたんだよ。
短距離無線だか長距離無線だかわかんねえ。ただ、声は間違いなくあいつのだった。ジェスターの声だったんだ。
『兄貴、危ない!!』ってな」
( ・∀・)「ほう…僚機の弟さんが、危機を知らせてくれたのですね」
( ´_ゝ`)「俺は、頭が言葉を理解する前に操縦桿を思い切り押し込んで、ダイブして逃げた。
間一髪で、風貌の真上を敵の曳光弾がかすめていったっけな」
老人は、そこでいったん、言葉を切った。
( ´_ゝ`)「おかしな話だが、…実際、ほんとうにそんな声を聞いたのかどうか、それはわかんねえんだ。
大体、軍隊では、あいつは俺のことを兄貴なんて呼ばなかった。あいつはただの下士官で、おれは国王陛下の立派な士官。
「ウォレス少尉」って呼ぶのが普通だな。
あの乱戦だし、それにその日、……。『ジェスター機が落ちるところなんて、誰も見てやしなかったんだ。』
( ・∀・)「……えっ。えっ!?」
( ´_ゝ`)「唯一はっきりしてるのは、あの日、弟のスピットファイア戦闘機は、スコフィールド空軍基地に帰ってこなかったってことだ」
62
:
老ウィリアムの追憶
:2013/09/27(金) 22:15:45 ID:hHnNdZ960
( ´_ゝ`)「それからだな。俺がウィリアム・ザ・バックアイって呼ばれるようになったのは」
( ・∀・)「後ろに、目……」
バックアイ。そうつぶやいた私に、老撃墜王は、片目を閉じてみせた。
「わかるだろ?」って。
( ´_ゝ`)「それで俺は、あの戦争を生き延びた。ここでこうして、あんたに思い出話を語ってるってわけ」
=================================
( ・∀・)「……」
私は結局、ウィリアムの記事を書かなかった。
どう書いていいのかわからなかったのだ。
私はあの話をどう理解すれば良いのだろう。
英国軍隊の伝統、17世紀から続く、よくありがちなホラ話?
それとも、真に実力ある撃墜王の、照れ隠しを含めた比喩の物語?
戦争神経症が治らない老兵の、失った過去の宝物を求める、自由な想像の産物?
それとも、……?
もしかしたら、私は、いまだにひとつ、あの質問をしなかったことを後悔しているのかもしれない。
最初に違和感を覚えた、あの老人の言葉。ひんやりとした客間で、バイオリンの旋律の中で。
『ジェスターが好きな音楽。』
好きな。過去形ではなく、現在形。
63
:
老ウィリアムの追憶
:2013/09/27(金) 22:17:35 ID:hHnNdZ960
以上です
次の人どうぞ
64
:
('A`)乱立し、立ちふさがるかつての遺産ζ(゚ー゚*ζ
:2013/09/27(金) 23:30:27 ID:zjZ8dde.0
投下
65
:
('A`)乱立し、立ちふさがるかつての遺産ζ(゚ー゚*ζ
◆gWowFpZsKo
:2013/09/27(金) 23:31:52 ID:5c7Dw2Yk0
(゚、゚トソン「残念ですが、こちらの小説は<藝術>として認められませんでした」
('A`)「なんだって……? そんな馬鹿な! 今回の作品は今までで一番の自信作なんだ!」
(゚、゚トソン「封筒の中にご応募頂いた原稿と、審議官の批評が入っておりますので詳しい理由はそちらをご覧ください」
('A`)「……ああ、そうだったね。わかってる。知ってるんだよ。ぼくは何度もここに来ているからね……」
ドクヲの苛立った声を聞いても、その受付嬢は顔色をまったく変えなかった。
背後から急き立てられる気配を感じ、彼はその場を離れたが、口からは悪態が漏れ続けている。
壁際に並べられた椅子に身を投げ出すように座り込み、俯き、思い切り肩を落とした。
('A`)(また駄目だった……これで何作品目だろう……くそ。次こそはきっと……。
しかしもう良い着想が……いいや、まずは今回の批評を見てからだ……)
すぐにでも自宅へと戻って封筒を開け、中の批評文章に目を通したかったが、
今日ここに同じ目的でやってきている友人を待つ約束をしていた。
しかし本当のところ、そんな約束がないとしても立ち上がり、帰路につく活力はなかった。
自分の全精力を懸けて作り上げた作品が、世界に『無価値』と認定されてしまったためだ。
ζ(゚ー゚*ζ「おまたせ。ドクヲの結果はどうだった? って、その様子じゃあ聞くまでもないか」
('A`)「デレはどうだった? きみも今回の歌、自信作なんだろう? ……もしかして?」
ζ(゚ー゚*ζ「いいや。残念だけど、また認められなかったよ。……安心した?」
('A`)「まさか……残念だったね」
ζ(゚ー゚*ζ「自動販売機で何か、飲み物を買ってくるよ。それ飲んでさ、それから、帰ろう」
66
:
('A`)乱立し、立ちふさがるかつての遺産ζ(゚ー゚*ζ
◆gWowFpZsKo
:2013/09/27(金) 23:33:10 ID:5c7Dw2Yk0
ゴミ箱に缶を落とすと、からんと乾いた音がした。底に積み重なっていた缶に当たった音だ。
その音を聞いて、ドクヲは思わず缶に自分を重ね合わせていた。この中にあるすべての缶は、
『もう必要ではないと判断され、捨てられた』ものなのだ。銘柄や味こそ違えど、『中身は入っていない』。
ドクヲは自分が感傷的になっているのを自覚した。こんなことを考えるなんて、と自嘲の笑いを漏らす。
ドクヲと同じように気落ちした顔の人々と、意気揚々と胸を張って<藝術審議所>にやって来た人々。
その二つの感情が混ざり合った集塊を縫うようにすり抜けて、ドクヲとデレは建物を出た。
<藝術審議所>にあふれていた緊張と窮屈さからやってきた疲れを追い出すように、デレは大きく伸びをした。
彼女の体の関節が小気味良い音で鳴る。その間ドクヲは、デレが手に持っている封筒をじっと見つめていた。
ζ(゚ー゚*ζ「お昼前だし、喫茶店でも行かない?」
('A`)「悪い。ぼくは家に帰るよ。早く批評が読みたいんだ。
また新しい作品を応募しないとね。……デレは、今回受け取りに来たので最後?」
ζ(゚ー゚*ζ「いや、わたしはまだもう一曲残ってるよ。
その曲も今回のと同じ日に提出したんだけど、結果発表の日はまだわからないみたい」
('A`)「結論が長引いているってことは、審議官も悩んでるってことだろ。<藝術>と認められる確率が高いんじゃないか?」
「そうだといいね。それじゃあ、また」とドクヲに手を振り、デレは背を向けた。ドクヲも自宅へと歩き出す。
脇に抱えた封筒が揺れる感覚が、彼の胸の内で、先ほどデレに向けた言葉を蘇らせた。
『結論が長引いているってことは、審議官も悩んでるってことだろ。<藝術>と認められる確率が高いんじゃないか?』。
彼がその言葉を口にする裏側で『即決できるほど優れているものでもない』といった意味を込めていないとは言い切れなかった。
自室の机の前に腰を下ろすと、ドクヲはひとつ、大きな息を吐いた。
これから彼は、自作品が『出来損ない』のお墨付きを受けた理由に目を通すのだ。
気が滅入ったが、前に進むために必要なものだと考えると、ほんの少しだけ楽になった気がした。
67
:
('A`)乱立し、立ちふさがるかつての遺産ζ(゚ー゚*ζ
◆gWowFpZsKo
:2013/09/27(金) 23:37:24 ID:5c7Dw2Yk0
原稿用紙を取り出し、机の隅に置いた。束ねられた紙の重さがやけに手に残る。
それから、原稿用紙に比べるととてつもなく薄い、審議員の批評を取り出して紙面に目を向けた。
何度も使いまわされた機械的なはしがきを飛ばし、作品について批評されている部分を探した。
物語の構成、登場する人物、文章の適切さ、世界観の描写、全体的な主題。
すべてが興味を惹かれるものではありませんでした。あらゆる部分から既視感が流れだしています。
序盤の主人公が街をあてもなく散策する場面は杉浦ロマネスクの『蝸牛の先生』を思わせましたが、
それから特に展開しないこの場面は不要だと断言できます。素直クールが書いた『文通堂』のように、
全体を通して何もない日常を描くのならば良いのですが、今回お送り頂いた作品は、
斎藤マタンキ作、『ジャンブル・ブーン』によく似た舞台設定の近未来SFファンタジーであるため……。
……中盤、自分が所属する組織が実は黒幕であったと判明するシーンは遥か昔から使い古されていますが、
盛り上がる展開なので問題ありません。しかし、この作品の場合、伏線も疑惑もなく唐突に明かされ、更に、
主人公がヒロインの言うことを鵜呑みにして、行動を共にする。まるで説得力がありません。ご都合主義すぎます。
『風切り音・円形・新聞』の作者、ジョルジュ長岡は同じ展開でありながらも説得力と臨場感を演出させています。
……終盤でヒロインが主人公に笑いかけ、親指を立てますがこれまでに書かれてきたヒロインとは思えません。
おそらくは、ここでらしくない行動をさせて魅力を引き立てようと考えたのでしょうが、唐突すぎます。
このような演出を行うならばハインリッヒ高岡の『文芸要人』、荒巻スカルチノフの『卵包鶏飯』のように……。
……「他人を想う気持ちがあるから、自主的に動く。つまり、機械もこころを持てば人間と同じである」。
全体的な主題としてはこのようなものでしょうが、あまりにも陳腐ですし、加えて、結論に穴が多すぎます。
深刻味を出そうとして下手な哲学など入れてしまったため、作品全体がとんでもなく幼稚に見えてしまいます。
外国人作家ではありますがギコ・ツーシーエイチの『低技術』、ツンデレ・ラヴロックの『浪漫』を読んでみて下さい……。
('A`)(……言われてみれば『ジャンブル・ブーン』に似ているかもしれない。
今度、ジョルジュ長岡の作品を買ってみよう。ハインリッヒ高岡の作品は肌に合わなかったな……。
最後に薦められているギコとツンデレの作品は、何度も読み返すほど大好きな作品なんだけど……)
68
:
('A`)乱立し、立ちふさがるかつての遺産ζ(゚ー゚*ζ
◆gWowFpZsKo
:2013/09/27(金) 23:39:00 ID:5c7Dw2Yk0
ドクヲは、批評を一文字残らず糧にするため、ずいぶんと時間をかけて読み終えた。
自作品の欠点を細かく、丁寧に指摘してくれているのはわかってはいたが、抑えきれない怒りがこみ上げてくるのを感じている。
小説という媒体を通してはいたが、『お前は、いつかの誰かが劣化した存在である』と、紛れも無くそこに記されていた。
翌日。布団から身を起こしたドクヲは、自分が完全に打ちのめされているのに気がついた。
日課であった執筆どころか、食事の用意すら行う気力がなく、とうとう何もしないまま日が落ちてしまった。
空腹も時間の流れも感じることなく、ただただ延々と布団の中にいた。半ば眠っているように意識が定まらない。
その次の日の夕方、ドクヲの家のインターホンが鳴った。しかし、彼は応対する気にならなかった。
ただただ布団の中でじっとしていたかった。このまま死んでも良いとさえ、ドクヲは考えていた。
何度も何度も家に響く音を聞いているうち、更に思考が加速していく。やがて、ドクヲの頬に涙が伝った。
それと同時に、彼の家のドアノブが回った。彼は在宅時、施錠をしていなかった。家の中から何の反応もしないことや、
先日のドクヲの落ち込み度合いから、良からぬ方向に想像を膨らませたデレが青ざめた顔で家の中に飛び込んできた。
ドクヲの無事を確認したデレは、傷心し、目に見えてやつれている彼に食べ物を作った。
彼はそれを食べ終えて落ち着いた後、ゆっくりと話し始めた。この二日間、布団の中で痛感したことを。
ζ(゚ー゚*ζ「それで、もう小説を書くのをやめちゃうわけ?」
('A`)「……うん。もう、いいんだ。何を書いても過去の優れた作品と比べられてしまう。
ぼくの才能では、乱立し、立ちふさがるかつての遺産を飛び越えられない。……少し、疲れたよ」
ζ(゚ー゚*ζ「そんなの、わたしの音楽も一緒じゃない。
他の<藝術>である、絵画も、建築も、工芸も、舞踊も、彫刻も、全部同じだよ」
('A`)「その通りだ。ぼく達は生まれてくるのが遅すぎた。<藝術>が増えすぎたんだ。あらゆる分野で、
何をやっても、極めて高い確率で、過去の誰かが同じようなことをより優れた方法で既に行なっている」
ζ(゚ー゚*ζ「別に、古いものは良いものだってわけじゃあないでしょ。
今だって良いものは生まれ続けているし、昔にだって、わたし達みたいな人はたくさんいたと思う」
69
:
('A`)乱立し、立ちふさがるかつての遺産ζ(゚ー゚*ζ
◆gWowFpZsKo
:2013/09/27(金) 23:41:47 ID:5c7Dw2Yk0
('A`)「その通りだ。傑作と呼ばれるものは、忘れられた人々の無念と嫉妬と嗚咽の上に、今までずっと在り続けているんだ。
<藝術>と認められなかった……大多数に無価値と判断された名前も知らない彼らが、他人とは思えないよ。
……たったひとりの天才が生まれ出るまでに、一体何人の凡人が死んでいくんだろうね……」
ζ(゚ー゚*ζ「ドクヲの言ってることはすごくよくわかるよ。わたしだって、そう感じたことは何度もある。
それでもわたしは、音楽作りをやめないよ。音楽を作るのが好きっていうのもあるけれど、
本当の、一番の理由は……わたしが、世界で一番の傑作が生み出せるかもしれないからなんだよ」
('A`)「そんなこと、できるわけないじゃないか。一度も『藝術審議所』を通過しない時点で才能は知れているんだ」
ζ(゚ー゚*ζ「いいえ。わたしは、マイケル・ジャクソンよりも、エルヴィス・プレスリーよりも、ビング・クロスビーよりも、
ナナ・ムスクーリよりも……誰よりも、素晴らしい音楽が作れるかもしれないの。……その理由を聞きたい?」
('A`)「自信過剰にもほどがある。ぜひ、お聞かせ願いたいな」
ζ(゚ー゚*ζ「『わたしはまだ、生きている』のよ。死んでしまった人よりも、『将来の可能性』があるわ」
その瞬間、稲妻に打たれたようにドクヲの動きが止まった。
何も言わずにただじっとデレを見つめている風だったが、彼の焦点は彼女に結ばれていない。
ここではないどこか、これから先に実現するかもしれない将来を見つめている。
……そして数分後、デレはドクヲの目を見据え、はっきりとした声で問いかけた。
ζ(゚ー゚*ζ「わたしは諦めが悪いの。こんなところで終われないわ。
まだまだ立ち止まってなんかいられないよ。わたしが望む結末は遥か未来にあるんだから。
君にも、過去のどんな文豪も超えられる可能性が秘められているのだけど……どうする?」
彼女の声に、彼は、決意に満ちた声で返事をした。
('A`)乱立し、立ちふさがるかつての遺産ζ(゚ー゚*ζ 了
70
:
('A`)乱立し、立ちふさがるかつての遺産ζ(゚ー゚*ζ
◆gWowFpZsKo
:2013/09/27(金) 23:43:16 ID:5c7Dw2Yk0
次の人、どうぞ
71
:
(゚、゚トソン 点数、名声、私の絵 のようです
:2013/09/28(土) 00:36:31 ID:BPMSsqjE0
『授業中に描いたヤツです。相変わらずの低クオリティ/(^o^)\wwwww
早くバイトでもしてペンタブ買いたいわぁ。。。気が向いたら後で塗るかもね(´・ω・` )』
(゚、゚トソン「よし、投稿っ。ポチッとな」
寝転がってスマホを操作し、今日の数学の授業の時にノートの隅っこに描いた絵を、私はピクシブにアップした。
ただ今絶賛放送中の、人気アニメのキャラクターの半身をグリグリサッサッと落書きしたものだ。
なんせ授業中だったし、特に数学の担当は校内でも堅物兼厳しいことで有名なあの盛岡先生なので、その監視の目を掻い潜って描いたこの絵が低クオリティなのは、どうか大目に見てほしい。
ま、そんなもんわざわざ上げるなよって言われればそれまでなんだけどね(笑)
(゚、゚トソン(こんな下手くそな絵でよければ見てやってください( ˘ω˘)スヤァ……っと)ポチポチ
今しがた上げた絵が貼ってあるピクシブのURLリンクを載せて、ツイッターにてつぶやく。
(゚、゚トソン(まだ日付変わる前だし、流石にみんなまだ起きてる……よね?)
『 ほわっちょ@勉強がんばらない。 @kmkm7210 1分
@tosomaru トソ丸ちゃんの落書きktkr!!!( ˘ω˘)スヤァ 』
(゚、゚トソン「ちょwwwほわっちょさんwwwww相変わらず反応早いwwwww」
早速私のツイートに反応してくれたフォロワーの人がくれた返信に、思わずニヤけてしまう。
時間を確認すると絵の投稿から5分程が過ぎていたので、そろそろいいかなと、自分のツイートからリンクを踏み、もう一度落書きを貼ったピクシブのサイトへと飛ぶ。
そして真っ先に評価の欄へとスクロール。
見てみると、評価回数は2、総合点に20の数字が付いていた。
(゚、゚*トソン(うはwwwこんな絵にwww20点wwwwwあざーすwwwww)
それからしばらくお気に入りのサイトを巡回した後、寝る前、もう一度ツイッターの最終チェックをする。
今度は別のフォロワーが「これが落書き…だと…」なんてつぶやいているのを見つけて、私は大いに満足しながら目を閉じた。
72
:
(゚、゚トソン 点数、名声、私の絵 のようです
:2013/09/28(土) 00:38:53 ID:BPMSsqjE0
寝覚めは割と気持ちよかった。が、学校が退屈なのを思い出すと、どうしても億劫になる。
特に今日、金曜日。我が高校にもいよいよ文化祭の日が近づいているということで、そのためのクラスでの出し物の話し合いがあるらしいから、余計にだ。
クラスの中でも目立たない、その中でも腐女子なグループに属している私に、手ぬぐいを捩じってハチマキ風に装備するようなリア充のDQN共と同じように祭りを楽しめというのは、ちょっと酷な話だと思う。
そんな風に考えている私が、放課後のクラスミーティングの時になんと名指しで、役割を割り振られたのだから、そのときのテンパりようったら、そりゃあもう半端なかった。
_
(;゚∀゚)「いやーごめんごめん。いきなり名前上げちゃって」
話し合いが終わり、各々が帰り支度をしている最中、真っ先に私の席まで歩いてきたこいつの名前は、長岡ジョルジュ。
このクラスの中でもリーダー的な地位に立っているこいつが、先程私を「お化け屋敷の宣伝のチラシを描く係」に推薦してくれやがった張本人だ。
(゚、゚;トソン「あ……いえ……別に大丈夫、ですよ」
_
( ゚∀゚)「そう?いやでもホント、チラシは絶対必要だと思うからさー。ほら、都村さんって、画伯とかって呼ばれてるらしいじゃん?折角なら上手い人にお願いしたいなーって、思ったんだよねー」
(゚、゚;トソン「そんな、大したことないですけど……」
_
( ゚∀゚)「えーでも、クラスん中では一番上手いっしょwどう?お願い、できる?ダメ?ダメ?」
(゚、゚;トソン「そ、そこまで言うなら……い、いいですよ」
_
( ゚∀゚)「マジ!?いやー助かった!じゃ、出来るだけ早くお願いねー。ヨロシクゥッ!」
右手をビシッと空中でチョップさせると、ジョルジュはまた風のように、教卓の辺りでうるさくしているDQN仲間の所へと加わりに行った。
対して未だ状況を上手く把握しきれていない私の方には、いつもお昼を共にしている地味子グループの面々が、様子を伺いながら近寄ってくる。
「大丈夫?」「それにしても、そういうことなら事前に相談しにくればいいのにね」「でも、実際トソンちゃん絵上手いし、ダイジョブっしょ!よっ!トソ画伯!」
と、私と同じように文化祭を快く思っていなかったはずの仲間たちが、割と嬉々としてかけてくるそんな言葉たちに、
(^、^;トソン「まぁ、やれるだけやってみるよ」
私は自信なさげに作り笑いを浮かべてみせるだけだった。
73
:
(゚、゚トソン 点数、名声、私の絵 のようです
:2013/09/28(土) 00:40:16 ID:BPMSsqjE0
(゚、゚トソン「はぁ……。しゃーない。やりますか」
それから放課後、力なく家に帰ってきた私は、頼まれた絵を描く作業をどーしてもやる気にはなれず、手を付けようと決意したのは2日後、結局日曜日のお昼過ぎのことだった。
(゚、゚トソン「まぁ構図は、サササーッと、こんなもんで……」
適当にA4のコピー用紙に、鉛筆で下書きしていく。
ホラーといえば定番の貞子を模した感じで、中央に井戸を置き、そこから白い死に装束を着た髪の長い女が這い出して来ているような……って、これじゃまるっきり貞子そのまんまだな。
(゚、゚トソン「まー所詮一高校の、そのまた一クラスの文化祭のチラシだし?適当でいいっしょ」
井戸と女の他に色々と装飾し、それっぽい雰囲気に仕上がったと思ったら、今度はペン入れ。
太めの油性マジックで鉛筆の線をなぞっていく。
(゚、゚トソン「多分コピーして配るんだろうから、全部白黒で描かなきゃなー、っと」
言いながら、絵にペンだけで影なんかを付けていく。
これがなかなか難しく、普段の落書きではこういう面倒なことは曖昧にぼかして描いているため、この絵も同じように誤魔化して描いていく。
(゚、゚トソン「っよし。これで完成でいいかなー」
鉛筆の線を消した際に出た消しカスを払ってから、出来上がった絵を両手で持ち、遠くからしげしげと眺めて見てみる。
なかなかどうして、悪くない。
乗らない気分で描いた絵にしては、上手く仕上がっているほうだと思えた。
(゚、゚*トソン「ふむ……。あ、そだ。せっかくだし、ピクシブに上げよ」
上手く描けたと思った絵をピクシブにアップするのは、もはや私の習慣になっていた。
そしてまたいつもの通り、ツイッターにて自分が上げた絵を宣伝する。
それに反応してくれるフォロワーを見て、私はいつもと変わらぬルーティンワークに、安心感を覚えていた……。
74
:
(゚、゚トソン 点数、名声、私の絵 のようです
:2013/09/28(土) 00:41:44 ID:BPMSsqjE0
(゚、゚トソン「あの……長岡君、これ……」
_
( ゚∀゚)「ん?おー!チラシのイラスト?もう描いてきてくれたの!?」
次の日のお昼休み、友達のところで弁当を食おうと席を立った彼を、私は控え目に呼び止めた。
わざわざ放課後を選ばなかったのは、早く自分の描いた、内心ちょっと自信のある絵を見てもらいたかった故の、無意識のうちの行動だったのかもしれない。
そうして、すっかり誉め言葉を受け取る準備をしていた私は、絵を見て発する彼のくぐもった声に、面食らってしまったのだった。
(゚、゚トソン「?あ……、あの?どうかしました?」
_
( ゚∀゚)「ん〜……。いや、いいんだけどさ。なんか、こう……、もちっとリアルさが欲しいというか……」
(゚、゚トソン「?え……」
_
( ゚∀゚)「例えば……そうだな、こんな感じで」
言いながら彼は、自分の机の中から適当なプリントを引っ張り出し、そのプリントの裏に油性マジックでサラサラと絵を描き始めた。
(゚、゚;トソン「…………ッッ!」
彼が5分ちょっとで描き上げたのは、私の絵などちっぽけな物に思えるくらい、瞳孔は開ききり、皮はブクブクと腐って爛れてウジが湧いた、できれば直視したくないほど気持ち悪いリアルなゾンビの顔面だった。
_
( ゚∀゚)「こんな感じで、もっと恐怖感を煽ってくるようなイラストがいいかなって、思うんだよねー」
(゚、゚;トソン「……そ……そうです……ね」
_
( ^∀^)「ここまで描いてもらって悪いんだけどさ。もう一回、そんな感じで描いてみてくれないかな?」
私は反論することも忘れて、返されたA4のコピー用紙を落としてしまわないよう、必死に指に力を込めながら、「わかりました…」と頷くしかなかった。
75
:
(゚、゚トソン 点数、名声、私の絵 のようです
:2013/09/28(土) 00:43:26 ID:BPMSsqjE0
午後の授業が終わった。
私は家に帰ってきた。
自室のベッドにゆっくりと座り込んで、茫然とする。
目は足元を見ているが、視覚的情報などこれっぽっちも頭に入ってこなかった。
( 、 トソン(……何が、『画伯』よ……)
あれは適当に書き上げたヤツだ、とか。
本気で描けばもうちょっと上手く描けるし、とか、そういう次元の話じゃない。
私が何時間もかけて完成させた絵と、長岡ジョルジュが5分で書き上げた絵。どう見ても画力の差は歴然だった。
( 、 トソン(……何で私、絵を描いてきたんだろう……)
ツイッターの仲間から、上手いね、って褒めてもらいたい。
その仲間から絵の評価の点数を付けてもらいたい。
いつの間にか、そんなことばかりを求めるようになっていて、絵を描くこと自体への楽しさなんてものは感じなくなっていたのではないか。
私は思い付いて、この前の数学の時間の落書きをアップした絵のリンクにアクセスしてみた。
評価回数は13、総合点に130の数字が付いていた。
( 、 #トソン「……ッ〜〜〜!」
こんな数字が、なんだっていうのだ。
こんなのどうせ、全部仲間内から贔屓目に貰った、見たよ!っていう、ただの足跡にすぎないっていうのにっ……!
私はピクシブに上げていた、数十枚ある全ての絵を削除した。
多分、数時間後にはフォロワーの誰かが、私のこの行為に疑問を持って心配した声をかけてくれるんだろうが、そんなことはどうでもいい。
今はただ、何のために絵を描くのか分からなくなった自分が、どうすれば長岡ジョルジュの、クラスのみんなの期待に答えられるのか。
どうしよう、どうしよう、そればかりを、考えていた。
76
:
(゚、゚トソン 点数、名声、私の絵 のようです
:2013/09/28(土) 00:45:09 ID:BPMSsqjE0
以上
77
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/28(土) 00:49:35 ID:VQbqs1Hw0
おお…ここで終わりか、乙
てかジョルジュお前が描けよwww
宣伝チラシってグロくていいのか
78
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/28(土) 16:20:39 ID:9gmHbfSo0
なんともはらはらする話だなー…投下します
79
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/28(土) 16:23:38 ID:9gmHbfSo0
うお、改行ひっかかった!すっかり忘れてたわ……次の方先にどうぞ
80
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/28(土) 16:24:46 ID:NXI1lwB2O
では失礼して……いきます
81
:
/ ,' 3 紡がれる旋律のようです
:2013/09/28(土) 16:25:40 ID:NXI1lwB2O
芸術家達は皆一様に不幸な最期を遂げるという。
では、作曲家の私もその例に漏れず、最期は不幸なものとなるのだろうか。
/ ,' 3「……ごほっ」
私ももう長くはない。
妻もなく、両親はとうの昔に他界し、親族とも疎遠となった私を気遣う人もいない。
曲を作ってやった歌手や演奏家達も、私が曲を作れなくなってしまった途端に連絡が来なくなった。
('、`*川「荒巻さん。夕飯の時間ですよ」
そんな私に声をかけてくれる人と言えば、今私がお世話になっている病院のスタッフくらいか。
尤も、私が作曲家で、今テレビで話題のアーティストの曲を作ったと知っている人はいないのだろう。
私自身が人目に立つようなことを拒んだのだから当たり前と言えば当たり前だ。
82
:
/ ,' 3 紡がれる旋律のようです
:2013/09/28(土) 16:26:11 ID:NXI1lwB2O
/ ,' 3「……おや、もうそんな時間でしたか」
('、`*川「えぇ、もう外は真っ暗ですよー?」
そう言いながら、看護婦の女性は今日の夕食をベッドのテーブルの上に並べる。
今夜は魚か。
('、`*川「では、食べ終わった頃にまた来ますね」
/ ,' 3「はい。ありがとうございます」
笑顔で出ていく彼女を見送り、私も料理に手をつけた。
年寄り用に、量を少なくしているようだが、それでもこれを食べきることはできない。
元々小食な方ではあったが、最近はてんで食べれなくなってしまった。
/ ,' 3「……」モグモグ
誰もいない、静かな病室。
聞こえる音は箸と食器がぶつかる音くらい。
結局私は、米を少しと魚を半身、それと味噌汁を少し啜ったところで箸を置いた。
83
:
/ ,' 3 紡がれる旋律のようです
:2013/09/28(土) 16:26:48 ID:NXI1lwB2O
/ ,' 3「ふぅ……」
再びベッドに体を預ける。
食べてすぐ寝たら牛になるぞと若い頃はよく言われたが、それを言う人などいない。
無音の病室。
だが、探せば音はすぐに見つかるのだ。
空調の音、廊下を歩く誰かの足音、外から聞こえる虫の声。
もし、本当の無音というものがあったとしたら、それが死後の世界なのではと思う。
長年音楽に携わってきた私にとって、その世界は一体どういうものに感ぜられるのだろう。
('、`*川「荒巻さーん。食器を片付けに来ましたー」
/ ,' 3「おや、ありがとうございます」
無音の病室に入ってきたはっきりとした音。
カラカラと台車の車輪が鳴らす音と、女性の声。
女性はせっせと、余った料理の乗った皿を片付けていく。
84
:
/ ,' 3 紡がれる旋律のようです
:2013/09/28(土) 16:27:22 ID:NXI1lwB2O
私はおもむろにテレビの電源をつけた。
ちょうど、音楽の番組をやっているようだ。
/ ,' 3「……おや」
('、`*川「……?どうしました?」
二人組のユニットがステージに立ち、柔らかなピアノの伴奏が始まる。
いつぞやに「秋っぽい感じで、どうか一つ」と頼まれて作った曲だった。
/ ,' 3「……これは、私が作った曲ですね」
('、`*;川「えっ!?そうなんですか!?」
画面の下には曲のタイトルと一緒に、作詞者、作曲者の名前も出ていた。
それを見て看護婦の女性も目を見開く。
そして、歌が始まった。
85
:
/ ,' 3 紡がれる旋律のようです
:2013/09/28(土) 16:27:59 ID:NXI1lwB2O
メロディを殺すことなく、優しく、溶け込むように歌を紡いでいくボーカル。
テーマは確か、孤独な秋の夜長だったか。
曲が終わると、歓声と共に大きな拍手が上がった。
観客席の様子が映ると、中には涙ぐんでいる人の姿も伺えた。
/ ,' 3(ああ……)
私の曲で、感動してくれている人がいる。
私の曲で、感動を伝えてくれる人がいる。
/ ,' 3「……いい歌にしてくれましたね」
('、`*川「えぇ、最近の若い人にはすごい人気のある歌ですよ」
看護婦の女性の言葉に、小さく笑みをこぼすと、彼女も笑顔を返してくれた。
そして、片付け終わった食器を台車に乗せて、彼女はいそいそと部屋を出ていくのだった。
芸術家はみな一様に不幸な最期を遂げるという。
だが、少なくとも私は、芸術家として幸せな最期を迎えることができそうだ。
/ ,' 3 紡がれる旋律のようです -おわり-
86
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/28(土) 16:28:34 ID:NXI1lwB2O
おわりー
次の方どうぞ
87
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/28(土) 16:51:54 ID:9gmHbfSo0
乙!
今度こそ投下します!!
88
:
ξ゚⊿゚)ξ果ての庭園に咲くようです
:2013/09/28(土) 16:52:29 ID:9gmHbfSo0
私はある画集を探そうと思う。
その進捗の記録として、この日記をつけていくことを決めた。
記憶の中でその画集は絵本であるため、こうして『画集』と呼ぶには些か抵抗があるのだがいかんせん文字も脈略もない。
また、それはどうやら私家版らしく、確認出来た限り60部ほどしか出回っていないらしい。
加えて作者不明なのだ。
無名の芸術家が一作だけ描いたものか、はたまた既に名の売れた芸術家が気まぐれに描いたものなのかもわからない。
私は幼いころ祖母の机に置いてあったそれを好奇心から手に取った。
魅了された。
今まで与えられたどの絵本よりも、一頁が重く感じられた。
漆黒の表紙、裏表紙。
普通の絵本と変わり無い見目に相反する、ずっしりとした重み。
作品名は『果ての庭園に咲く』。
そして、画集を開いて左側、ちょうど表紙の裏に当たる場所。
そこに金糸で文字が縫い付けてあるのだ。
【Drag in】
直訳は『引き摺り込む』。
その意味を理解できるようになって、ああ、成る程と思った。
私は要するに、引き摺り込まれたのだ。
彼、あるいは彼女の世界へ。
89
:
ξ゚⊿゚)ξ果ての庭園に咲くようです
:2013/09/28(土) 16:53:45 ID:9gmHbfSo0
ξ゚⊿゚)ξ「……ここは」
何もない。瞳には、闇しか映らない。視界明瞭な真っ暗闇とでも言おうか。暗がりを絵筆に乗せて塗りたくったような、意味のわからない空間。
ξ゚⊿゚)ξ「まあ扉も見当たんないし、歩き回るしかないんだけど。……っと、あれ」
目的もなく足を動かせば、唐突に現れた赤。天井もないのに、上から真っ直ぐに降りてきている。紐かと思ったが、それにしては太いような。
ξ゚⊿゚)ξ「これ、茎だわ」
近寄って観察すると、どうやら植物のようだった。なんとなく触れるのは躊躇われたので、見上げてみる。六枚花弁の垂れ下がるような赤い花冠が目に入った。
ああ、何処かで自生しているのを見たことがある。記憶の中のそれとは随分大きさが違うけれど。
ξ゚⊿゚)ξ「カサブランカかしらね。いや、でも」
拭いきれない違和感。目を凝らすとおかしなことに気が付いた。花弁が、繋がっていないのだ。一枚一枚が暗闇からぬっと浮き出ている。よくよく見ればそれぞれの質感も微妙に異なっているようだ。一度落ちた花びらを集めて無理矢理くっつけたかのよう。それは、フランケンシュタインを彷彿とさせた。腐り果てた死体の辛うじて綺麗な部分を切り取り持ちより繋ぎ合わせてはい出来上がり。
ξ-⊿-)ξ「悪趣味が過ぎるわね」
自分で想像したこととはいえ、あまりの禍々しさに吐き気を覚えた。さっさとここを立ち去ってしまおう。そう思って背を向けようとした瞬間。
ξ;゚⊿゚)ξ「――ッ」
ぐちり。不吉な音がした。六枚花弁の内の一枚が、闇からもぎ取れたのだ。床に叩き付けられたそれは、さらに細かな花弁に崩れて舞い上がる。強烈な鉄の臭いが身を包んだ。駆け出していた。上がっていく息、乱れる呼吸。舞い上がる死んだ花弁――拒絶反応――無理矢理につぎはぎした死体が腐り果てるさま。違和感の、本当の正体。
ξ;゚⊿゚)ξ「カサブランカ!あの、高貴な花のっ別名は――」
・・
――純白の女王。
走り去った床の上でダンスでもするように、赤い花弁が舞い降りていた。
90
:
ξ゚⊿゚)ξ果ての庭園に咲くようです
:2013/09/28(土) 16:54:15 ID:9gmHbfSo0
どれぐらい走っただろうか。鉄の、あの血溜まりに突き落とされたかのような濃臭は、嘘のように消え失せていた。その代わりなのだろうか。
ξ;-⊿-)ξ「あー…目がチカチカする」
目の前には極彩色の花や葉が溢れていた。例えば、それはもう可憐な空色のセイヨウタンポポ。はたまた闇から唐突に垂れ下がり、豪快に咲き誇るトルコキキョウ。それらと距離をおいて群生しているカーネーションはやけに肉厚で――というよりもあれはもはや生肉の塊なのでは――深く考えないことにした。足元でぴちゃりと音がしたかと思えば、闇の中でハスがゆうらりと浮かんでいる。葉が透けるような桃色で、花が緑をどろどろに煮詰めたような色であるためだろう、非常におぞましい眺めになっていたがそんなことよりも。
ξ;゚−゚)ξ「……ああもう、なんなのよ本当」
それらのどれにも見覚えがあることが、ずっと恐怖を煽った。昔から――多少のくせはあるのだが――物覚えが良く、記憶力には自信があった。記憶にあるのだ、この『場面』は。いや、待て、何かがおかしい。どうしてこんな存在しようもないものが記憶にある――?違う、そこじゃない。もっと根本的でシンプルだ。
ξ;-−-)ξ「どうして私はここにいる……?」
ここはどこだ。夢の中?それにしては感覚がリアルすぎる。鼻先で甘い芳香が香った。無意識の内に足が動いていた。ふらふらと覚束ない足取り。自分のものとは思えない。何かに足を取られた。蔓だ。
体に力が入らず、そのまま前のめりに倒れごろりと転がる。甘い香りはむせ返るほどに濃くなっていた。吐き気がする。
ξ; ⊿)ξ(やばい)
薄く目を開けると、吊り下げ灯火のような花が、いくつも。エンゼル・トランペットだろうか。一つ一つが私の体よりずっと大きく、身の毛がよだつような竜胆色をしていたとしてもそう呼べるのならば。
逃げなければ。
心臓が大きく跳ねた。逃げろ、逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ。頭がくらくらする。
目を開けているのが精一杯。直感だった。同時に確信でもあった。あれは、エンゼル・トランペットモドキは〝獲物〟へ狙いを定めている。体へ力を込めようとするが、感覚がない。既に手足はいくつもの蔓に絡め取られていた。
ξ; ⊿)ξ「……!」
ぐばりと口を開けた。ちょうど私の、真上の。
凶悪に広がった花は私の体をすっぽりと覆い――勢いよく閉じた。
91
:
ξ゚⊿゚)ξ果ての庭園に咲くようです
:2013/09/28(土) 16:54:49 ID:9gmHbfSo0
ξ;゚⊿゚)ξ「 !」
声にならない叫びをあげて、私は、気が付いた。自分の部屋だった。何か夢を見ていた気がする。それも、あまり思い出したくない類いの。頭が混乱している。何をしていたのかも思い出せない。自然と、開かれたままの日記へ目がいった。
――悲願はあまりにも呆気なく叶った。
一文目。不吉な予感に胸が波打つ。視線を先へ滑らしていく。
この日記にペンを走らせるのも、今日で最後になるだろう。私はバイト先の古本屋で見付けてしまったのだ。幼い頃、祖母に内緒で手に取ったあの画集を。
『果ての庭園に咲く』を。
祖母が亡くなったとき、私はよく懐いていたからだろう、祖父はなんでも好きなものを持っていっていいと言ってくれた。そのときに、ふっと思い出したのだ。『庭園』の存在を。
あの絵本は、と無意識の内に口を出ていた。祖父は一瞬目を見開くと、ゆっくり首を振った。燃やしてしまったよ、と。探し始めたきっかけはそれだった。
人間、今まであると思っていたものが手元に無いとわかると血眼になって探すものだ。
話が逸れている。余程興奮していたのだろう、これを書いているときの、私は。
そして時間をおいたからだろうか。今はその反対に、読めば読むほどすうっと冷たくなっていく感覚が強い。
祖父母との思い出が書き出してある行をいくつか飛ばす。
そうだ、これも書いておこう。画集を絵本として記憶していた理由がわかったのだ。私はものを覚えようとするとき、自分がそれを体験したかのように場面を空想する癖がある。本は特にそれが顕著だ。自分が主人公になったかのように、描かれていない場面さえ空想し、記憶していた。
『庭園』は闇の中に異形の花々が咲き誇るさまが描かれた画集だった。それは幼い私にはあまりに衝撃的な画だったはずだ。隅々まではっきりと覚えているのは、否応なしに目に焼き付いてしまったからだろう。
しかし、絵本として記憶していた理由は別のところにあった。それは十数年ぶりに開いた画集の、最後の画。そこまで植物のみであった『庭園』に、唯一人間が描かれていたのだ。
数行の空白。こまで読めば、私も思い出していた。
自分がどのような結論を出したのか。
92
:
ξ゚⊿゚)ξ果ての庭園に咲くようです
:2013/09/28(土) 16:55:22 ID:9gmHbfSo0
喰われていたのだ。
一人の少女の手足を幾つもの蔓で絡め取り、竜胆色の花は貪るようにして、喰っていた。 漆黒に浮かぶ赤と青のコントラストが残酷にも美しく、どこか幻想的で、何よりも強烈な印象を残したはずだ。だからこそ、幼い私は一瞬で物語を組み上げたのだろう。
闇に迷い込み、異形の植物を目にする少女のストーリーを。最期に喰われる結末を見通して。
・・・・・
それを自分に当てはめて。
ξ-⊿-)ξ「我ながら、とんだ悪癖持ちだわ」
額に片手を当て、天井を見上げた。背もたれがぎぃと音をたてる。日記はそこで終わっていた。まだ書きかけだったのか、はたまた片付けるのが面倒だったのかは忘れてしまったが、机上にペンが転がっている。
夢の内容を思い出していた。喰われたから――結末を迎えたから、目が覚めたのだ。こんな日記を書いてから寝たのだから、妙に夢がリアルだったのもうなずける。
加えて、机の端。
どっしりとした存在感で鎮座する画集『果ての庭園に咲く』。私は日記を書く前にそれを見返していたのだ。
ξ-⊿-)ξ「……水、飲も」
今一度それを開く気にはとてもなれず、伸びをして、立ち上がる。
はらり。
視界の端で何かが舞った。
ぎょっとして振り返り、足元を見る。
視線の先には。
一枚の、赤い花弁――。
93
:
ξ゚⊿゚)ξ果ての庭園に咲くようです
:2013/09/28(土) 16:55:55 ID:9gmHbfSo0
以上!次の方どうぞー
94
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/28(土) 16:58:50 ID:VQbqs1Hw0
乙
ホラーチックだな
果たしてあと2分も無いのにだれか来るのか…
95
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/28(土) 17:30:19 ID:kNZPVwWo0
間に合ってない!?
ごめんなさい投下だけでもさせてくれー!
96
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/28(土) 17:31:39 ID:kNZPVwWo0
騒々しい教室。
義務として行われる以上仕方のないことだが、
こんな場所で芸術など生み出せるはずもなく、味気ない繰り返し日々の業務に飽き始めていた。
( ・∀・)「もうすぐチャイム鳴るから順番に提出しにきてー!」
ミセ*゚ー゚)リ「どう、先生? 良く描けてるでしょ」
( ・∀・)「どれ。
おぉ、いいね。成績期待して良いよ」
ミセ*^ー^)リ「やーった! あのね、ここの」
( ・∀・)「ごめんね、後がつかえるから。
次は」
(#゚;;-゚)「あ、のっ……」
(σ-∀・)「これは、終わらなかった?」
(#゚;;-゚)「っと、放課後」
( ・∀・)「残る? じゃあ、ここ開けておくから頑張ってな」
ミセ*゚ぺ)リ「エーッ! ずるいー、あたしも放課後残る!」
( ・∀・)「ははは。三瀬は今日から数学の補習だろ? 茂名先生気合い入ってたぞ」
ミセ;´ー`)リ「うえ、マジで? 絵描いてたいよー……」
97
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/28(土) 17:33:22 ID:kNZPVwWo0
女子生徒とのくだらない会話に、同僚の愚痴に延々と付き合わされ、
美術室の扉を開けたのは、ホームルームを終えて一時間以上過ぎた後だった。
( ・∀・)「ごめんな、捕まっちゃって」
(#゚;;-゚)”
( ・∀・)「ふーっ」
( ・∀・)「…………」
(#゚;;-゚)
椎名でぃ。
私が受け持つ百数十人の中で目に止まる存在ではあった。
引っ込み思案で口数の少ない、決して目立つ子ではなかったが、彼女の作品からは確かな力強さを感じた。
夕暮れに照らされた、落ち着きのある空間。悪くない。
顔を汚すことも厭わず、ひたむきに絵を描き続ける彼女の姿が良く馴染んだ。
ただじっと彼女を見る。
雑味ばかりで構成されるようになった私の世界を、今は彼女が占めていた。
ちょうど彼女の世界を、目の前のキャンバスが占めるように。
数少ない満たされた時間だった。
進捗は九割以上、数日中には完成してしまうだろう。
明日はもっと早くここへ来なければ。そう思った。
98
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/28(土) 17:34:18 ID:kNZPVwWo0
(#・∀・)「なんだってこんな時に……!」
大股で歩く。一踏みに怒りがこもる。今日には完成するだろうという今日に限って、これだ。
他に手が空いている者もいただろうに、学年主任は、わざわざ私に雑用を押しつけてくれた。
すれ違う生徒の視線が痛い。少し歩を緩める。冷静になろう。
教室は目の前だ。彼女の邪魔はしたくない。
(;゚;;-゚)
そっと扉を開けると、彼女はオロオロと、何かを探していた。
( ・∀・)「……どうした?」
(;゚;;-゚)「あのっ、絵が……」
( ;・∀・)「……ッ!?」
(; ;;- )「あたし、出来上がって、トイレに行きたくて、そしたら、
帰ってきたら、なくなってて、それで」
(;゚;;-゚)「あの、あたし、また描きますっ! 私が悪いんです! 目を離したから……」
( ;・∀・)「い、いいんだぞ? 評価は出来るくらい見てたし」
(;゚;;-゚)「か、描かせてください! あ、駄目でなければ、なんですけど」
( ;・∀・)「そうか? ならまぁ、私はいいんだが……」
99
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/28(土) 17:36:07 ID:kNZPVwWo0
彼女の手前、顔には出さなかったが、私の心は怒りに充ち満ちていた。
許せなかった。終わってしまう寂しさはあったが、誰より完成を楽しみにしていた。
出来上がったそれを、真っ先に私が見たかった。
翌日、校内を聞いてまわった。何人かの生徒が美術室に入るのを見ていた。
同僚に確認すると、確かにソイツは欠席していた。所詮生徒のやることだった。
( ・∀・)「どこに隠した」
ミセ;゚ー゚)リ「違います! あたしじゃないです!」
( ・∀・)「お前を見たって生徒がいる。
茂名先生にも聞いた」
ミセ;゚ー゚)リ「ちがっ、サボったけど……でも」
( ・∀・)「なんでこんなことしたんだ」
ミセ ;−;)リ「あたしじゃないです。
先生に会いに行っただけで、あたし……」
( ;・∀・)「……」
どうしてくれよう。……いや、どうしようか。
感情に任せ、問いただすところまできたが、泣かれてしまった。
これじゃ捜し物は出てこないだろう。挙げ句お守りまでする羽目になるとは。
私は何をしているんだ? 彼女は今も描いている。……私は。
( ・∀・)「……」
( ∀・)「――なァ、三瀬。頼みがあるんだが」
100
:
5レスだ!名無しさん
:2013/09/28(土) 17:37:40 ID:kNZPVwWo0
美術室。
(#゚;;-゚)
今日も彼女は描いている。
まっすぐにキャンバスを見つめている。
あの日すぐに立ち直り、「描きます」と私に言った時と、同じ視線。
怒り、落胆、戸惑いに紛れて、私は感動を覚えていた。
そうまでして彼女を芸術に向かわせる何かを知りたくなった。
もう一度あの姿を、見てみたくなった。
しばらくはこの時間が続く。そう、まだしばらくは続いてくれるだろう。
三瀬のおかげで。
( -∀・)「もうこんな時間か。片付け始めてくれ」
( ・∀・)「急がなくて良いぞ。とりあえず見ていてやれるから。
好きに描きな」
(#゚;;-゚)「はい、ありがとうございます」
帰り支度を始める彼女、
不意に視線を落とすと、かすかに笑った気がした。
(# ;;ー )
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