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( ・∀・)チェンジアップのようです
1
:
名も無きAAのようです
:2016/02/18(木) 01:32:03 ID:Ub7qiCZM0
高校野球の話です。
2
:
名も無きAAのようです
:2016/02/18(木) 01:33:53 ID:Ub7qiCZM0
ゆっくりになりますが投下します
3
:
名も無きAAのようです
:2016/02/18(木) 01:37:07 ID:Ub7qiCZM0
( ・∀・)「」
はじめに、チェンジアップとは、速球と同じ腕の振りから投げる、速球より球速の遅いボールのことである。
一口にチェンジアップと言っても、握りや変化は様々で、基本的には打者のタイミングを外すものであるが、中にはバルカンチェンジのように縦に速く落として空振りを狙うものもある。
稀にストレートとの球速差が比較的大きな、ヨハン・サンタナのパラシュートチェンジのような例もあるが、プロの投手はスライダーとチェンジアップの球速差がそれほど無いことが多い。もう削除されてしまった為に載せることができなかったが、以前見たデータでは、NPBの投手はスライダーとチェンジアップの差が五キロ程度(五キロの差というのも大きなものだが)の投手が多かった。小林宏之のように、チェンジアップのほうがスライダーより僅かに速い(かった?)投手もいる。テレビで観戦する際に見てみると、面白いかもしれない。
前出のサンタナは、ツインズ時代約百五十.五km/hの速球に対しチェンジアップは約百二十四.七km/h。実に約二十五.七km/hの差があった。ちなみに、現在は球速差が縮まっている。
4
:
名も無きAAのようです
:2016/02/18(木) 01:38:02 ID:Ub7qiCZM0
ジェイミー・モイヤーは球威が無いにも関わらず(八十四マイルで、約百三十五km/h)チェンジアップを武器に活躍し、トレバー・ホフマンはスピードと球威を失ってからも、チェンジアップを武器に多くのセーブを積み重ね、メジャーリーグ史に残るクローザーとして君臨した。
トム・グラビンやグレッグ・マダックスも、球威はそれほど無かったがチェンジアップを巧みに操り、偉大な成績を残した。チェンジアップは昔、変化が予想しにくい球種だったため、従来ストライクゾーンの真ん中近辺でタイミングを外す球として使われていた。その球種を、両サイドいっぱいに投げ分ける技術を身につけ、芸術の域にまで高めたのがマダックスだ。
5
:
名も無きAAのようです
:2016/02/18(木) 01:40:15 ID:Ub7qiCZM0
二千四年から二千五年にかけて福岡ダイエーホークス(現福岡ソフトバンクホークス)でプレーし、一年目途中に打球を指に当ててリタイアするまでの間に八つの勝ち星を手にした"魔術師"リンゼイ・グーリンは、左腕からの最速が百三十キロにも満たない試合もあったが、平均百二十キロ後半の速球と、百十キロ程度のチェンジアップ、カーブのみで活躍した。
二千九年夏の甲子園でも、東農大二高の加藤綾が、その日の最速は百三十二キロ、百三十キロ以上は百十九球中僅か二球という球速ながらも、チェンジアップを効果的に使って青森山田に一失点完投勝利し、甲子園を沸かせた。四打数無安打に抑えられた青森山田の四番呉知佐勇は、加藤のストレートを速く感じたとコメントしている。ちなみに、呉に対する最速は百二十七キロ。チェンジアップやカーブを効果的に使うことで、遅いストレートを速く見せたのだ。ちなみに、加藤はプロに進んだ筒香(関東大会)と曲尾からも三振を奪っている。スピードや球威が無くとも、チェンジアップは有効なのである。
そしてこの物語は、平凡な投手でしかなかったモララーが、チェンジアップと出会ったことで少しずつ運命を切り開いていく物語である。
6
:
名も無きAAのようです
:2016/02/18(木) 01:42:35 ID:Ub7qiCZM0
夏真っ盛りの午後。ブルペンのマウンドに混ぜ込んだ黒土は、熱を受けて蒸されたような気を放っていた。如雨露で水溜まりを作ったとしても、十秒も経てば地面は水分を奪い去ってしまう。焼け石に水だが、それでも投球練習をする為に、水は撒かなねばならなかった。
たっぷりと地面を湿らせた僕は、ジョウロを地面に置くと、左手のグラブからボールを取り出し、握りを確かめた。チェンジアップは今年の夏から試しているのだが、抜けすぎたり、逆に抜けなかったりと、満足のいくボールを投げることはできていなかった。
( ・∀・)「チェンジアップ、あともう一球」
(´・ω・`)「よっしゃ来い!」
ショボンがミットを拳で叩いてから、真ん中低めに構えた。僕は両手を空に突き出すように上げると、左足を引き上げて力を溜め、捕手へ向かってステップする。そして左足で着地すると、抜いてスピードを殺すようなイメージでボールを投げ込んだ。
7
:
名も無きAAのようです
:2016/02/18(木) 01:44:37 ID:Ub7qiCZM0
投じたボールは、緩い軌道で高めに抜けていく。ショボンは、中腰になって打者の顔の高さで捕球すると、言いにくそうに僕に感想をくれた。
(´・ω・`)「全体的に高いね、もっと腕振って、ワンバウンドでいいから、低めに投げてけれ」
( ・∀・)「わかった。もう一球投げていい?」
言っていることはもっともだ。でも、そうすると今度はスピードが死んでくれない。目線を下ろしながらグラブを出す僕に、ショボンは慰めの言葉をかけてくれた。
(´・ω・`)「チェンジアップ投げたいのはわかるけど、やっぱり変化球って人によって向き不向きがあるじゃん? 練習試合もあるし、他の球種も練習すんべ」
やっぱり、向いてないのだろうか。野茂は社会人時代にフォークを覚える際、落ちるまで五十日かかったと聞く。それを励みに、チェンジアップ習得に取り組んできたが、選抜が懸かった秋の予選の前にある、地区リーグの開幕が近づいていた。他の球種の精度を落とさない為に、いつまでも思わしくないチェンジアップに拘るわけにはいかない。
8
:
名も無きAAのようです
:2016/02/18(木) 01:46:43 ID:Ub7qiCZM0
( ・∀・)「わかった。じゃあ、ストレート」
(´・ω・`)「よっしゃ来い!」
力一杯投げ込んだストレートはスピードや勢いが無く、ミットを叩く音も響くことはなかった。残念ながら、切れや伸びがあるなんてこともない。
(´・ω・`)「ナイスボール! 次はカーブいってみよう」
威勢のいいショボンの言葉に、気持ちを乗せる努力をしながら、僕は再び振りかぶった。
僕が通う伊東高校は、秋田の田舎にある公立校だ。あまり偏差値の高くない普通高校で、進学組の進学先も、レベルの低い私大が多い。
野球部は、夏のここ十年の記録を見ると二回戦以上に進んだことは無い。いわゆる弱小校であり、選手は中学生の頃に控えだったり、レギュラーだったとしても弱いチームでプレーしていた選手が大半を占める。本当に実力がある選手は、なかなか進学して来なかった。ちなみに、僕は中学時代ライトの控えで、伊東に進学してから本格的に投手をはじめていた。
9
:
名も無きAAのようです
:2016/02/18(木) 01:49:56 ID:Ub7qiCZM0
だいたい一学年十人程度と人数も少ないにも関わらず、一年の夏に続き今年の夏の大会も、僕はスタンドから応援することになった。暑い中、ベンチから漏れた仲間と一年生に混じって、精一杯声を張り上げたものの、僕は心では悔しさや情けなさに震えていた。二回戦で負けた際に流れた涙も、きっと先輩達が引退したことが悲しかったのではなく、自分の為の涙だろう。そんな自分が、堪らなく惨めだった。
( ・∀・)「……」
新チームになってからも、僕の立場は良くて三番手投手程度でしかなかった。制球が不安定ながら、身長百八十センチの長身から、百三十キロのストレートとスライダー、フォークを投げ込む右の本格派の一年生ギコと、ショート兼任でサイドスローからのスライダーに光る物があるキャプテンのドクオが先発することが多く、一年生の内藤もアンダースローとして、リリーフを中心に登板を重ねていた。ちなみに、レベルの低い秋田県では、ギコ程度でも期待の好投手と呼ばれている。ノーコンとは言え、そんな投手が伊東高校に入学したこと自体珍しいことだった。
10
:
名も無きAAのようです
:2016/02/18(木) 01:52:12 ID:Ub7qiCZM0
僕はと言うと、オードソックスな右オーバースローで、速球の最速は百二十五キロにも届かず、身長も百六十八センチとボールに角度も無い。変化球は、スライダーと抜いた緩いカーブを投げられるものの、どちらも空振りを奪えるボールでは無い為、緩い変化球でなんとか打者を打ち取るタイプだった。コントロールも、四球を連発することは無いが、コーナーに淡々と投げ込めるほどでもない。全てに置いて、中途半端と言わざるを得なかった。
それでも、試合で投げたい。いつかエースになって、背番号一番を付けて先発で投げたい。チェンジアップの練習も、カーブとは逆の左打者から逃げる軌道のボールが投げられるようになれば、投球の幅が広がるのではないかという期待からだった。
(*゚ー゚)「モラ! しっかり投げろよ!」
マウンドに向かう際に、背中から監督の椎名に言葉をかけられた。返事を返すと、マウンドを自分の好みに掘り始める。緊張から足は震え、身体はガチガチに強張っていた。
11
:
名も無きAAのようです
:2016/02/18(木) 01:53:38 ID:Ub7qiCZM0
今日は練習試合で、相手は県内では中堅程度の強さの花井高校。新チームには大柄な選手が揃っており、それなりに期待されていると聞いている。
状況は七回裏で三対五と二点のビハインドで、花井の攻撃は一番からの好打順で始まる。ちなみに、午前の第一試合ではギコが九回を投げて三失点で切り抜けていた。
( ,,゚Д゚)「しゃあ!!」
身体が熱かった。きっと真冬だとしても、この熱は身体に満ちているだろう。手はじっとりと汗で濡れ、心拍数が上がり、未だ足の震えはおさまっていない。結果を出せば、秋の予選前の地区リーグ戦で、先発の機会があるかもしれない。そんな人参作戦も、この緊張を和らげることなどできなかった。どうしよう。お腹を膨らませながら、深く息を吸い込む。落ち着け、リラックスだ。
投球練習のボールは、やはり遅い。力一杯、速いボールを投げようとしてているのに、逆に打者の近くで垂れると言うか、投げていても伸びや勢いが無いのがわかる。
12
:
名も無きAAのようです
:2016/02/18(木) 01:56:22 ID:Ub7qiCZM0
規定の球数を投げ終え、ショボンがワンバウンド送球で二塁に送ったボールは内野を回り、僕のグラブに収まった。ギコはアイシングを受けている為、ショートは控えで一年生の都村が守っていた。ギコと違い守備が不安だが、不満を唱えたところで改善されるわけではない。腹をくくろう。
左打者が、打席に入ってきた。ショボンのサインは、初球アウトローへのカーブ。安全な入りだと思う。グラブを頭上に掲げて振りかぶり、手の甲から腕を振ってボールを親指と人差し指の間から抜きに、あれ? まずい、抜けない!
上手く抜けずに引っかかったボールは、ストライクゾーンの手前でワンバウンドした。ショボンが膝をついて止め、審判に話しかけてボールを変えてくれた。肩は強くないが、こういった気配りには感謝している。
13
:
名も無きAAのようです
:2016/02/18(木) 02:01:54 ID:Ub7qiCZM0
(´・ω・`)「落ち着けよ! 浮くくらいなら、今のでいいから!」
ショボンの言葉に頷き、次のサインを見る。内角いっぱいにストレート。移動したショボンの右肩が、ベース寄りに立つ左打者に隠れる。球威が無いのだ。ストライクゾーンを広く使う為に、内角も突かなければ。ショボンのミットへ向け、全力で腕を振り切る。
( ゚∀゚)カキ-ンッ!!
しかし、今度は着地した左足の膝が開いてしまい、ボールはシュート回転をしながら真ん中に入っていく。左打者のバットが一閃すると、打球は一二塁間を破っていく。先頭打者の出塁を、易々と許してしまった。
「モララー落ち着け! ゲッツーあるぞ!」
そうだ。落ち着かなければ。でも、僕の身体は思うように動いてくれない。まずは開かないよう、投げ急がずだ。口の粘つきを和らげる為に唾を飲もうとしたが、一滴の唾液も出なかった。
14
:
名も無きAAのようです
:2016/02/18(木) 02:25:25 ID:csbZ.Gtg0
見てるぞ支援
15
:
名も無きAAのようです
:2016/02/18(木) 08:23:29 ID:Pld7/67Q0
期待
もうちょっと改行した方が見やすいかも
16
:
名も無きAAのようです
:2016/02/18(木) 09:20:10 ID:5GTFDp.s0
試合の様子とかわかりやすくて好き
17
:
名も無きAAのようです
:2016/02/18(木) 13:52:08 ID:HlHOs6jU0
>>1
です。また再開します、また途中になってしまうかもです。
18
:
名も無きAAのようです
:2016/02/18(木) 13:55:14 ID:HlHOs6jU0
ショボンのサインは、外角へのスライダー。頷き、セットポジションからチョップするような肘の使い方でボールを投げ込む。走った! という声の一瞬後、ボールは小さな金属音とともにバックネットへのファールとなった。
あまり曲がってはくれなかった。マウンドで上がってしまい、ブルペンでのボールを投げられない。僕の悪癖だった。
(´・ω・`)「ワンスト(ライク)! いいぞモララー!」
(;・∀・)「おう! ワンスト!」
ありがとう。心の中でショボンに感謝しながら、人差し指を上げてバックに声をかけ、再びセットで構える。エンドランに失敗した相手は、苦い顔で監督のサインを確認していた。そして、今度はバントの構えを僕に向ける。
フライを上げさせるか封殺に仕止め、二塁には絶対進ませない。そんなショボンの気持ちがこもったような、内角高めへの速球のサインだった。
19
:
名も無きAAのようです
:2016/02/18(木) 13:55:56 ID:HlHOs6jU0
>>15
ありがとうございます、善処します!
20
:
名も無きAAのようです
:2016/02/18(木) 13:56:42 ID:HlHOs6jU0
>>16
ありがとうございます!これからも良かったら見てください!
21
:
名も無きAAのようです
:2016/02/18(木) 13:59:37 ID:HlHOs6jU0
( ・∀・)「……ッ」
しかし詰まらせてフライを上げさせることができず、三塁線に上手く勢いを殺したバントを転がされ、ランナーは二塁に進んでしまった。状況は一死二塁となった。奥歯を、歯根が軋むほど噛みしめる。球威の無い自分が嫌になる瞬間の一つだった。
右打席に入ってきた三番は、細身なものの長身で、先程も外に逃げるギコのスライダーを、右中間に弾き返すタイムリー三塁打を放っていた。一発を十分警戒しなければならない。
ふとベンチを見ると、ギコが不機嫌そうにこちらを睨んでいる。打たれたらどうしよう。抑えられなかったら、次の出番はしばらく無いかもしれない。そんな恐怖に、ますます身体が動かなくなるのを感じた。
サインは、外のスライダー。今度は曲がったが、余裕を持って見送られ、ボールとなった。
ショボンが打者を観察し、再び外角にストレートを要求した。これでストライクを取り、打ち取るかカウントを平行にしたい。
セットポジションからでも力を入れて投げたボールは、やはり垂れるもののしっかりと外角に向かっていった。しかし、ミットに入る数十cm手前で、ボールはオレンジ色のバットに行く手を阻まれた。
22
:
名も無きAAのようです
:2016/02/18(木) 14:03:37 ID:HlHOs6jU0
(゚、゚トソン「あっ、、」
無理矢理引っ張られた外のボールは、詰まり気味の不規則なショートゴロとなった。都村が正面に入ろうとし、捕球したものの、イレギュラーにより体勢が崩れた。当然、二塁走者はスタートを切れない。
(´・ω・`)「ファースト!」
都村、落ち着いて一塁だ。でも、そんな思いは簡単に消し飛ばされた。都村の高い悪送球は、一塁手がジャンプをしたもののミットに擦りもせず、ファールグラウンドを転々としている。ライトが追いつくが、その時既に二塁ランナーは三塁キャンパスを蹴っていた……間に合わない。一点を奪われ、バッターランナーも二塁に進んだ。
(´・ω・`)「気にすんな」
三塁のカバーからマウンドに戻る際に、キャッチャーの都村に声をかけられた。でも僕は、頷くことしかできなかった。
23
:
名も無きAAのようです
:2016/02/18(木) 14:09:02 ID:HlHOs6jU0
ショートの都村に、声をかけなければ。しかし振り向こうとした瞬間、ベンチから監督の椎名の罵声が耳に響いた。
(*゚ー゚)「コラァモラァ! ちんたらしてないでさっさと投げろ!」
我慢しろ。ショボンが目配せで僕に伝える。頷きながら、僕は大柄でがっしりした体格の四番と対峙した。
素振りを見た限りでは、スイングスピードが速かった。甘く入ったら、持っていかれてしまう。僕はセットで静止し、足を上げたところでようやく気づいた。また、投げ急いでいる。身体は、再び開いていてしまった。
( ∀)「……ぁ」
無意識に声が出た、こんな情けない声出したくないのにな。
ストレートのサインだったが、ボールは高めに抜ける。投げた瞬間、入ったとわかるボールだった。ライナー性の打球は加速しながら、左中間のフェンスを越えた。崩れ落ちそうになり、膝に手をついてなんとか堪える。これで、三失点目だ。
24
:
名も無きAAのようです
:2016/02/18(木) 14:11:53 ID:HlHOs6jU0
(*゚ー゚)「なんだあのピッチングは、やる気無いなら辞めちまえ!」
試合終了後、あの後もズルズルと失点し、計五点を取られ降板した僕を、椎名は怒鳴りつけていた。チームメイト達が醸す同情の雰囲気が、更に僕に屈辱を感じさせた。
(*゚ー゚)「お前全然球が速くならないな! ちゃんと練習やってるのか!」
( ・∀・)「すいません」
(*゚ー゚)「やっているのかと聞いているんだボケが! どうせサボってるんじゃないのか?」
( ∀)「……やっています」
(*゚ー゚)「じゃあ、なんであんなに遅いんだ! お前なんか中学生でも打てる! 恥かかせやがって!」
僕は、悔しさのあまり椎名を睨みつけるのを、必死で堪えていた。僕だって、スピードが無いのを気にしているのに。球速を上げる為、必死に練習やトレーニングを積んでいるのに。でも、なのに打たれてしまう。もしかしたら、本当に中学生にも打ち込まれるのかもしれない。
自分は、ダメな投手なんだ。怒鳴られている間、そんな黒い染みがどんどん心に広がっていっ
25
:
名も無きAAのようです
:2016/02/18(木) 14:19:16 ID:HlHOs6jU0
( ∀)「うああっ……、もう、ダメだ」
呻き声を上げながら、その場に四つん這いになった。あの後、全員が帰った後に一人罰走を課せられた僕は、日が暮れる頃になんとかノルマをこなすことができた。足が棒になるとはよく言ったもので、尻や股、脹ら脛や脛に足の裏までがパンパンになっている。明日の筋肉痛は避けられないだろう。
椎名の野郎。負けた憂さ晴らしに、こんな無茶させやがって。なんとか座り込んで足を揉み解すことにしたが、その間も悔しさは頭の中を渦巻いていた。
( ФωФ)「大丈夫? 歩けるか?」
悪態を吐きかけた瞬間、後ろから声が聞こえた。振り向くと、老人が一人、ネット越しにこちらを見ていた。最初から見ていたのだろうか。ミーティングでの叱責や、もしかしたら試合で打ち込まれたのも? そう考えると、長い時間走った上に、日に焼けて熱を持った顔が更に熱くなった。
26
:
名も無きAAのようです
:2016/02/18(木) 14:22:47 ID:HlHOs6jU0
老人は、ネットの切れ目からこちらに入ってきた。Tシャツに短パン姿で、顔には多くの皺とシミがあり、眼鏡越しの目は穏やかそうだが、奥からは鋭さも見える。やや腹が出ているが、袖から伸びた腕も逞しかった。
( ФωФ)「麦茶でよかったら飲みなさい。身体を冷やす効果もあるから」
暑い盛りを過ぎていたとは言え、夏の日差しを受けながら走り続けたのだ。喉が渇いていないわけがない。お礼を言って、受け取ると、ほぼ満杯まで入っていた。口を付けて傾けると、川の水のように冷えきった麦茶が喉を潤した。
( ФωФ)「さっき家さ帰って、作ってきたんだよ。全部飲んでしまっても構わないから」
(;・∀・)「ありがとうございます。いただきます」
申し訳ないが、更にいただくことにした。欲望のままに飲み込むうち、気づけば三分の二が無くなっていた。
27
:
名も無きAAのようです
:2016/02/18(木) 16:38:34 ID:iT8seE9w0
( ・∀・)「あの……ずっと見てらしたんですか?」
( ФωФ)「ああ。今日だば第一試合前の練習から見てたよ。普段の練習も見てら」
おずおずと切り出すと、何事も無さそうに老人は言った。やはり、全て見られていたか。恥ずかしい。
( ・∀・)「マウンド上がると、いつも緊張しちゃうんです。ブルペンだど、もう少しマシなんですけど……、って、言い訳ですよね」
( ФωФ)「こういう場合なら、言い訳も無いよりはいいべ。次に生かせばいい」
事も無げに、老人は口にした。僕はその言葉に頷く。
( ・∀・)「いつも緊張して身体が硬くなると、このままじゃダメだ。リラックスしなきゃって思うんです。でも、ますます身体が動かなくなってしまって」
( ФωФ)「それはそうだ。緊張は、考え方によっては力を出す為のエネルギーなんだから」
緊張は力を出す為のエネルギー? あんなに身体が動かなくなるのに。そんなの、聞いたこともなかった。
28
:
名も無きAAのようです
:2016/02/18(木) 16:41:13 ID:iT8seE9w0
( ФωФ)「緊張を利用できない人間はね、緊張すると自分の状態を否定するので手一杯だ。緊張しちゃダメだ、みっともないってな。人からどう思われるかなんて気にせずに、自分のペースで動かねぇば」
たしかに、打たれたらどうしようと思っていた。バッターと戦う前に、ベンチと戦っていたのだ。僕は返事をしながら頷き、続きを待った。
( ФωФ)「心拍数が上がるのはよ、血液を盛んに流して激しい運動をする為だ。筋肉が緊張するのも、瞬発力を出すため。手が汗ばむのは、滑らないように。本来なら一番力を出せる状態なんだよ。君もリラックスしようなんてしないで、緊張を楽しむくらいの度胸がないとね」
老人の口は、だいぶ滑らかになっていた。その言葉には、納得できる部分が多かった。
( ・∀・)「随分お詳しいんですね」
感心しながら言うと、不意に老人は、僕にあることを聞いてきた。
29
:
名も無きAAのようです
:2016/02/18(木) 16:48:36 ID:iT8seE9w0
( ФωФ)「そういえば、君は最近ブルペンで、浮いたボールを投げてたよね。あれはなしてなの?」
何故、それを知っているんだろう? そういえば、さっき今日はと言っていた。普段から、ウチの練習を見ていたんだろうか。その問いは、僕の返答の歯切れを悪くさせた。
(;・∀・)「あれは、その……、チェンジアップの練習をしていたんです」
( ФωФ)「チェンジアップ?」
老人の目が、急に険しくなった。僕、何か怒らせるようなことを言っただろうか?
(;・∀・)「は、はい。チェンジアップです」
険しい目は、どうやら僕を睨んでいるわけではないようだ。むしろ、何かを考えているような、それに近いものな気がした。
( ФωФ)「どんな感覚で投げてらの?」
( ・∀・)「えっ、軽く持って人差し指と親指でサークルを作って、抜くように投げています」
すると老人は、鼻を鳴らすようにしながら再び語り出した。
30
:
名も無きAAのようです
:2016/02/18(木) 16:51:58 ID:iT8seE9w0
( ФωФ)「日本人はね、チェンジアップを投げる時に難しく考え過ぎるんだよ、抜いたりして最初から意識的に遅くしようとしてる。だから難しい、アメリカでは、チェンジアップを"自分の得意な指を一本使わないで投げる真っ直ぐ"だと思っている。例えば、フォーシームから指を一本外して投げれば、十五km/hや二十キロは遅くなるべ?」
言われてみればそうだが、指一本でそんなに上手くいくだろうか?
( ФωФ)「使うんだば、基本は真っ直ぐの後に同じコースに投げること。そうすれば、バッターは奥行きの錯覚で騙されるがら。明日以後試してみるといい。まんず、今日は家に帰って、ゆっくり休みなさい」
( ・∀・)「ありがとうございます。明日早速試してみます。教えて下さり、ありがとうございました」
チェンジアップの話が終わると、老人の顔に再び穏やかさが戻った。
31
:
名も無きAAのようです
:2016/02/18(木) 17:55:05 ID:pw5iTC.60
結構好き
支援
32
:
名も無きAAのようです
:2016/02/18(木) 19:55:45 ID:dBnVKeUQ0
支援しえん
最近野球好きになって色々勉強してたとこだからタイムリーで嬉しい
33
:
名も無きAAのようです
:2016/02/19(金) 09:02:27 ID:8UogSvVA0
( ФωФ)「いや、なんもだよ。私も、久々に野球の話ができて楽しかった。君は誰も見ていないのに、最後まで罰走をやりきった、妥協せずに最後までやり遂げる意志を持てる人間は、必ず成功する。野球に限らずだ。名前はなんて言うの?」
励みになる言葉だった。僕のように、あまり褒められることが無い選手にとっては尚更だった。
「茂等です、茂等モララーと言います!」
「モララー君か覚えておくよ、私は、ロマネスクだ。気をつけて帰りなさい」
「ありがとうございました、さようなら!」
感謝の気持ちを込めながら、丁寧に頭を下げる。関根さんは右手を上げて応えると、水筒を片手にネットをくぐり抜け、畦道へと消えて行く。僕はその後ろ姿を、見えなくなるまで見送ったのだった。
34
:
名も無きAAのようです
:2016/02/19(金) 09:03:26 ID:8UogSvVA0
>>33
ミスです
35
:
名も無きAAのようです
:2016/02/19(金) 09:14:40 ID:8UogSvVA0
( ФωФ)「いや、なんもだよ。私も、久々に野球の話ができて楽しかった。君は誰も見ていないのに、最後まで罰走をやりきった、妥協せずに最後までやり遂げる意志を持てる人間は、必ず成功する。野球に限らずだ。名前はなんて言うの?」
励みになる言葉だった。僕のように、あまり褒められることが無い選手にとっては尚更だった。
(* ・∀・)「茂等です、茂等モララーと言います!」
( ФωФ)「モララー君か覚えておくよ、私は、ロマネスクだ。気をつけて帰りなさい」
( ・∀・)「ありがとうございました、さようなら!」
感謝の気持ちを込めながら、丁寧に頭を下げる。ロマネスクさんは右手を上げて応えると、水筒を片手にネットをくぐり抜け、畦道へと消えて行く。僕はその後ろ姿を、見えなくなるまで見送ったのだった。
36
:
名も無きAAのようです
:2016/02/19(金) 09:19:11 ID:8UogSvVA0
>>33
これ消せないかな……関根勤の番組見てたら誤字ったし、顔文字張ってなかったし……しばらくまた書き込めないんですけど、誰か消しておいてもらえませんか……
37
:
名も無きAAのようです
:2016/02/19(金) 10:45:23 ID:8WxWqHS20
乙
>>22
> 三塁のカバーからマウンドに戻る際に、キャッチャーの都村に声をかけられた。でも僕は、頷くことしかできなかった。
ここの都村は誤字?
話は面白い
次も楽しみにしてる
38
:
名も無きAAのようです
:2016/02/19(金) 13:44:03 ID:CYPRGpvg0
関根ロマネスクって事にしよう
面白いし続きが気になる
39
:
名も無きAAのようです
:2016/02/19(金) 16:14:53 ID:8UogSvVA0
>>37
すいません誤字です
40
:
名も無きAAのようです
:2016/02/19(金) 16:16:14 ID:8UogSvVA0
>>38
あざます笑笑
41
:
名も無きAAのようです
:2016/02/22(月) 15:34:42 ID:BQvKgKeU0
( ´_ゝ`)「ふーん。んだばあの後、その ロマネスクさんにチェンジアップを教えてもらったわけか」
課外授業の合間の休み時間に、僕は野球部のチームメイトで、クラスメイトでもある兄者と話をして
いた。兄者とは中学も同じで、今年の夏も共にベンチ外だった。
生やしっぱなしの太い眉毛に、顔の形が昔から全くと言っていいほど変わらない童顔。休み時間は選手名鑑や野球雑誌、技術書を読んでいるなど、典型的な野球オタクである。頑固なところもあるが、素直で付き合いやすい奴だ。
( ・∀・)「うん、二日も経ったからようやく筋肉痛もよくなってきたし、今日のブルペンで試してみようと思う」
( ´_ゝ`)「もし使えれば、左打者対策にもなるもんな。緩急もつけられるし、負担も少ないし。今日は十二時半から練習開始だっけ?」
僕は兄者の問いに頷いた。午前の課外が終わると昼食を食べ、急いで練習に向かうことになっている。
42
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名も無きAAのようです
:2016/02/22(月) 15:35:25 ID:BQvKgKeU0
あ、1です。すこしまた投下します
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名も無きAAのようです
:2016/02/22(月) 15:39:53 ID:BQvKgKeU0
( ´_ゝ`)「頑張って、俺らももっと試合出れるようになりてぇよな。お前はビビりが直ってスピードも上がって、俺はもうちょっと守備が上手ければな」
兄者のタラレバに苦笑いしつつ、僕も心の中では同じことを考えていた。兄者はセカンドを守っており、左打ちで選球眼が良く、ボールを捉えるのもなかなか上手いのだが、脚力や守備に大きな問題がある為にスタメンを同学年に譲り、代打での出場が主となっていた。お互い、一桁の背番号を手にするにはまだまだ課題は多かった。
( ・∀・)「ロマネスクさん、たぶん野球詳しいと思うんだけど、ここらの元監督とかで聞いたことない?」
( ´_ゝ`)「うーん……、ロマネスクかあ。ちょっと聞いたことないかな。県南の迎高校の部長がロマネスクって名字だけど、まだ三十五歳だし」
山本は首を捻りながら言うと、おもむろにカッターナイフを取り出した。そして、ティッシュを出して手のひらにできた無数のマメを削っていく。
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名も無きAAのようです
:2016/02/22(月) 15:41:03 ID:BQvKgKeU0
( ・∀・)「ここでやんなよ」
( ´_ゝ`)「シャーペン握ってると、出っ張りが気になるんだ。ティッシュにくるんで捨てるからいいだろ?」
兄者は、顔をしかめる僕など気にせず、何食わぬ顔でマメにナイフを押し当てる。しかし、改めて見ると凄い手のひらだ。マメは爪が生えているように硬くなっており、分厚くなった手のひらは、以前触った時はまるで岩のような感触だった。
芯でしっかり打てないと手が痛くなる竹のバットでの打撃練習の際も、兄者はバッティンググローブをつけることはなかった。理由を聞いたところ、バッティンググローブをつけると、バットの微妙な感覚が寸断されてしまうからという答えが帰ってきたことがあった。その打撃への高い意識を、守備にも回せばいいと思うのだが、僕の球速が上がらないように、向き不向きがあるということなのだろうか。それはそれで皮肉だと思った。
45
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名も無きAAのようです
:2016/02/22(月) 15:46:31 ID:BQvKgKeU0
从'ー'从「何やってんの? うわ、凄いマメ」
アンニュイなことを考えていたのに、淡い花のような優しい甘さを持った香りが鼻腔を満たすと、僕の思考は一瞬にしてお花畑になってしまった。女慣れしていないにも程があるのかもしれないが、こうなってしまうのだから仕方ない。
( ・∀・)「渡辺さんからも、なんか言ってくれよ。教室でマメ取るなって」
僕は席に座ったまま、渡辺綾香を見上げた。僕達が立ち上がったとしても、目線の高さはほぼ同じだろう。それくらい、渡辺の身長は高かった。ウチの学校の女子の中なら、一番の長身だろう。渡辺は腰を屈め、少し困ったような顔をしながら渡辺に話しかけた。大人びた横顔は、慎ましやかという言葉がぴったりだった。
「あにやん、今はやめておいたほうがいいよ」
おっとりした口調に、兄者のマメを削る動きも若干鈍った。
46
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名も無きAAのようです
:2016/02/22(月) 15:51:39 ID:BQvKgKeU0
( ; ´_ゝ`)「渡辺さん、最後にここだけ削らせて。ここ削ったら、やめるから」
こいつも、女慣れしてないな。兄者に仲間意識を感じていると、渡辺が僕らに話し出した。
从'ー'从「でも、私もそれくらいマメができるまで走らなきゃいけないよね。ところで、もっさんはマメ無いけどなんで?」
渡辺は、僕の手のひらを不思議そうに眺めていた。渡辺は、僕らが一年生の時に創設された女子サッカー部(当時は女子サッカー同好会)に所属していた。なんだか負けたような気分になった僕を、少し余裕そうな兄者がフォローする。
( ´_ゝ`)「こいつピッチャーだから、あんまりバット振らないの。野手が千本素振りするようにピッチャーが千球投げられるわけじゃないし」
( ・∀・)「マメくらい、俺でもあるっての」
兄者に対して少しムキになった僕は、手のひらを上にして、人差し指と中指を挟みのように出した。指先に加え、中指の第一関節の少し下にも、硬いマメができている。渡辺さんは、ほんとだ。なんて言いながら、不思議そうに僕のマメを見ていた。
47
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名も無きAAのようです
:2016/02/22(月) 15:54:55 ID:BQvKgKeU0
从'ー'从「ちょっと、触ってみていい?」
渡辺が、少し気合いが入ったような顔を僕に向けた。思わず、背筋がピンと伸びる。兄者を横目で見ると、やれやれと言った顔をすると急に囃し立て始めた。
( ´_ゝ`)「別にいいだろ? 渡辺さん、触っちゃえ」
( ・∀・)「お、おう」
从'ー'从「うん。じゃあ、いきます」
渡辺の細い指が、僕の指先に触れた。そのまま、何度か撫でたりつついたりを繰り返す。僕はドキドキしながら、真剣そうな渡辺の顔をずっと見ていた。
从'ー'从「結構、硬いんだね」
( ・∀・)「も、もういいでしょ?」
強めに摘まみ始めた渡辺に、僕は右手を引っ込めた。丁度、チャイムが鳴り響く。別れを交わしてため息をつくと、兄者がいじけたような目で僕に視線を向けていた。
( ・∀・)「マメ、もっと硬ければよかったかな」
( ´_ゝ`)「べっつにー。触ってもらえなかった俺には関係ねぇし」
『結構、硬いんだね』
先程の渡辺の言葉に顔が火照るのを感じながらも、僕は兄者のいじけた視線を振り払い、机に乗った教科書を開いたのだった。
48
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名も無きAAのようです
:2016/02/22(月) 16:00:32 ID:BQvKgKeU0
課外授業を終えた僕と兄者は、ともに部室へと向かっていた。一年生だった頃は部室を使わせてもらえず、新チームになってからは中に入れてはもらえたが、ロッカーなんかは先輩優先でまともに使わせてもらえなくて、一年生は隅っこにまとめて荷物を置くしかなかった。
でも、今は僕達二年生が部の最上級生だ。ちゃんとロッカーに物を置けるし、許可無くパイプ椅子に座ることだって許されている。
( ´_ゝ`)「おっ、タカラ! 課外どうだった?」
兄者が、部室の前で突如人垣に声をかけた。色黒で坊主頭のタカラは、僕達を見ると屈託の無い笑みを向け、こちらに近づいてきた。黒目が大きい為、目を細めると目が黒一色になる。
( ^Д^)「まったくわがらねがったな。あんな問題は、俺の知性ではわがらねぇよ」
( ´_ゝ`)「だよなー。問題のレベルも低いとは言え、偏差値低い伊東に通う俺らには難しいっつーのな」
49
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名も無きAAのようです
:2016/02/22(月) 16:09:45 ID:BQvKgKeU0
三人で、バカさ自慢をしながら部室のドアを開くと、中には既に数人が昼食を食べていた。
( ´_ゝ`)「ニダーは今日も早いな。あと白根も」
<ヽ`∀´>「おう、兄やんにしげるにタカラちゃんか」
恰幅の良い身体に似合わない小ぶりなおにぎりを頬張りながら、イカツイ顔に穏やかな笑みを浮かべた荷田。通称ニダーが僕達のあだ名を呼んだ。しげるって、個人的には呼ばれても微妙なんだよな。水木しげる好きな奴もいるだろうから、口には出さないし、僕も嫌いじゃないけど。まあ、あまり呼ばれないからいいか。
( ´ー`)「白根もってなんだよ、もって。俺もいつも早いだろ」
白根が、いつものようにたいして笑えない兄者のいじりに反応する。膝と弁当箱の間に綺麗な膝掛けをしているのが上品に見え、弁当の中の冷凍食品であろうおかずとのギャップを感じてしまう。僕達も、それぞれの席に座って弁当を開きだした。
50
:
名も無きAAのようです
:2016/02/22(月) 16:15:09 ID:BQvKgKeU0
( ・∀・)「今日の練習何やるかわかる?」
<ヽ`∀´>「守備中心らしい。一昨日の練習試合でエラーが多かったの、藤田まだ怒ってるからな」
僕の問いに、荷田が答えながら新しいおにぎりを取り出し、慣れた手つきで海苔を巻いた。
( ・∀・)「やっぱり、海苔って後から巻くもんだよな」
<*ヽ`∀´>「そうだよなっ。コンビニのおにぎりみたいに、パリッてして美味い」
荷田の顔がほころぶ後ろでは、兄者達が練習メニューについて愚痴っていた。
( ´_ゝ`)「たしかに守備も大事だけど、バランス良く組んで欲しいよな。てか、椎名最近練習に来る時間短くね?」
( ´ー`)「そうそう。終わった後にいくらティーバッティングしても、実際に投げたボール見たり打たないと鈍る感覚もあるし」
僕もそう思う。公立校とは言えども、今は夏休みなのだから、バランスの良いメニューを組むことだってできるはずだ。
51
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名も無きAAのようです
:2016/02/22(月) 16:34:01 ID:BQvKgKeU0
( ´_ゝ`)「あと、ノックで俺ら途中から外されて、ランナーやらせられんじゃん。あれも悔しいから嫌なんだよ」
渋い顔をする兄者に、タカラが深く頷く。
( ^Д^) 「あー、わかる。控えはみんな途中から外されて、レギュラーだけでやるんだよね。で、俺らはランナーか並ばせられて声だしっていう」
( ´_ゝ`)「お前は足速いから、アピールできんべ? 俺なんか足遅いから、ただ評価下げてくだけなんだよ」
( ´ー`)「あの……、俺は新チームなってからレギュラーなんだけど」
盛り上がりかけた空気に、白根が水を差す。すかさず、僕らは白根に噛みついた。
( ´_ゝ`)「偉そうにしてんじゃねぇんが!」
<ヽ`∀´>「んだ! お前ギコが投げないでライト入った時は、いっつもベンチじゃねぇか!」
( ・∀・)「打順だって八番だし、練習試合で一番打ててないし」
人数に押された白根は、悔しそうな顔をしながら口をつぐみ、弁当のシュウマイを口に運ぶ。こんな下らない冗談の弄りが、僕らの中では定着していた。
52
:
名も無きAAのようです
:2016/02/22(月) 17:10:17 ID:BQvKgKeU0
そんな時、部室のドアが開き、数人が入ってきた。先頭は、キャプテンのドクオだ。
('A`)「おい! 喋ってないでさっさと食べてしまえよ。準備の時間だってあるんだからな」
部室に元からいた僕達は、この上から物を言うドクオに嫌悪感を覚えた。この男は監督から気に入られていて、入学当初からレギュラーな為か、一年生の頃からこんな態度なのだ。兄者なんて、露骨に嫌な顔をしながら、ドクオを睨んでいる。ドクオも、それに気づいたようだ。
('A`)「なんだその目は」
( ´_ゝ`)「だったらお前も、早く部室に来て飯食えよ。こんな時間まで何してたんだ。あと、お前が椎名が見てる時以外に準備手伝ってるのなんて、こっちは見たことないんだが」
怒気が含まれた兄者の言葉を、ドクオは余裕を持った表情でせせら笑った。
('A`)「そんな態度だから、いつまで経ってもレギュラー取れないんじゃねぇか?」
( # ´_ゝ`)「なんだと!」
この言葉に、兄者は立ち上がった。近くにあった椅子を蹴飛ばし、ドクオに詰め寄っていく。
53
:
名も無きAAのようです
:2016/02/22(月) 17:20:35 ID:BQvKgKeU0
(`・ω・´)「まあまあ、そこまでにすんべ、な?」
二人の間に入ったのは、ドクオの後ろにいたシャキンだった。身長百六十二センチと野球部で一番小柄だが、シャキンが間に入ったことで、兄者は未だにドクオを睨みながらも、向かっていく勢いを弱めている。もし殴り合いになったら取り抑えようとした僕達も、シャキンの登場に安堵した。
(`・ω・´)「今のはドクオが悪いだろ、言っていいことと悪いことがある。お前、さっき女子と話してたべ? キャプテンのお前が、そんなことしておいて偉そうな口を聞くのは違うんじゃね? 謝って、終わりにしようや」
シャキンの言葉に、ドクオはつまらなそうな顔をした。そして、僕達に背を向ける。
('A`)「俺、教室で食ってくる。ギコ、内藤、行くぞ」
そう言い去っていくドクオの後を、一年生二人がまごつきながら追っていった。
54
:
名も無きAAのようです
:2016/02/22(月) 17:28:21 ID:BQvKgKeU0
(# ´_ゝ`)「ッ、なんだあのクソ野郎ッ!」
兄者が悪態を吐きながらも、自分が蹴り倒したパイプ椅子を元に戻した。
( ^Д^)「あんなキャプテン、俺はついて行けないよ」
タカラが出来上がったカップ麺のフタを剥がしながら呟く。部室に、鶏ガラで出汁を取った醤油スープの匂いが広がった。
(`・ω・´)「まあ、仕方ないよ。椎名も、責任のある立場でドクオを成長させたいんだろ」
( ´_ゝ`)「俺には、ただ気に入ってるからにしか見えないけどな」
シャキンのフォローに、兄者が憎々しげに答えたシャキンは肩を竦めながら、自分の椅子に座った。
(`・ω・´)「しょうがないよ、一年の為にも、キャプテンなんかいなくていいくらいに俺らでしっかりしようぜ」
シャキンの言葉で、なんとかこの場は静まった。それでも、新チームになってから部内の空気は悪かった。
次の瞬間入ってきた斎藤も、それを感じ取ったのだろう。
(・∀ ・)「いやぁ、先生が漢検の申し込み用紙無くしちゃってさ……、って、なんか雰囲気悪くない?」
ほんとに、なんとかならないものか。
55
:
名も無きAAのようです
:2016/02/22(月) 17:31:20 ID:BQvKgKeU0
結局、練習は遅れてはじまった。椎名が一年生を四人も教室に連れて行ってしまった為、他の一年生達での準備が遅れてしまったのだ。僕らもグラウンドに着くとすぐに手伝ったが、それでも練習開始時刻は、いつもより十分も遅れていた。
('A`)「早く準備しろよ。俺らが一年の頃はこんなこと無かったぞ」
一年生を集めてそんなことを言い出したドクオを、シャキンやショボンがなんとかなだめて練習はスタートした。
スタートは一緒だが、野手と投手のメニューは、途中で別れる。この日も「伊東高(イトコー)ーファイオッ、ファイオッ」の掛け声でグラウンドを二周し終え、野手がストレッチに入る中、本職が投手である僕と、一年生の藤森と内藤の三人で四周目へと突入した。
56
:
名も無きAAのようです
:2016/02/22(月) 17:32:42 ID:BQvKgKeU0
>>55
一年生の藤森→ギコ
57
:
名も無きAAのようです
:2016/02/22(月) 17:36:43 ID:BQvKgKeU0
( ^ω^)「……」
(;,゚Д゚)「......」
五周のランニングを終え、三人でストレッチなどを行う。二人とも、いつも元気が無い。キツいアップではないし、入部してしばらく経ったのだから、夏バテでもしていない限り体力が無いという訳ではないだろう。なのにこの二人、内藤は時に気迫を感じる表情をすることもあるが、ギコには全体を通して、特に覇気を感じなかった。
( ・∀・)「今日ブルペン入るんだけど、チェンジアップ試していいかな?」
キャッチボール相手であるショボンに言うと、ショボンは垂れた眉間に皺を寄せながら、仕方なさそうに頷いた。
(´・ω・`)「いいけど……、他の球種もちゃんと練習するからな?」
( ・∀・)「悪いな」
言いながら、チェンジアップの握りをする。一本の指で投げるストレート。それを意識して、中指を使ってボールを投げる。まだ短いキャッチボール程度なのでわかりにくく、ショボンは右に逸れたボールを、足を動かしてきちんと正面に入り、多少の音を鳴らしながら捕球した。
58
:
名も無きAAのようです
:2016/02/22(月) 17:40:02 ID:BQvKgKeU0
とりあえずここでひと区切りのつもりなんですけど感想、質問、誤字の訂正などがあればよろしくお願いします!
59
:
名も無きAAのようです
:2016/02/22(月) 17:45:08 ID:BQvKgKeU0
>>9
新チームの正ショート兼任で、制球が不安定ながら、身長百八十センチの長身から、百三十キロのストレートとスライダー、フォークを投げ込む右の本格派の一年生ギコと、サイドスローからのスライダーに光る物があるキャプテンのドクオが先発することが多く、一年生の内藤もアンダースローとして、リリーフを中心に登板を重ねていた。ちなみに、レベルの低い秋田県では、ギコ程度でも期待の好投手と呼ばれている。
60
:
名も無きAAのようです
:2016/02/22(月) 17:46:06 ID:BQvKgKeU0
>>9
大変申し訳ないです、訂正お願いします。
61
:
名も無きAAのようです
:2016/02/22(月) 19:33:03 ID:w12CLGnY0
>>43
> 山本は首を捻りながら言うと、おもむろにカッターナイフを取り出した。そして、ティッシュを出して手のひらにできた無数のマメを削っていく。
山本=兄者かな?
部活内の描写がなかなか雰囲気あっていいね
62
:
名も無きAAのようです
:2016/02/22(月) 19:42:11 ID:gQf2q0ok0
>>61
はい、ほんとすいません!言い訳ではないのですが仕事のあとの帰りの電車とかに頑張って書いてたりするので誤字はたぶんこれからも治りません……申し訳ない
63
:
名も無きAAのようです
:2016/02/23(火) 00:25:21 ID:piZdTGYU0
追いついた
野球わからんけどわからん単語調べながら読むのも面白いな
以下誤字指摘(そこは誤字じゃないとか訂正が違うとかあったらさらに訂正頼んだ)
>>6
撒かなねば→撒かねば?
>>10
では無い→ではない? 全てに置いて→全てにおいて?
>>11
してている→している?
>>24
広がっていっ→広がっていった。?
>>27
ブルペンだど→ブルペンだと?
>>44
答えが帰ってきた→答えが返ってきた?
>>45
渡辺に話しかけた→兄者に話しかけた?
>>46
渡辺さんは→渡辺は?
>>50
藤田→椎名?
>>54
兄者が憎々しげに答えたシャキンは肩を竦めながら→兄者が憎々しげに答えた。シャキンは肩を竦めながら?
あとキャラAAがちょくちょく変だからAAは総合のテンプレからコピーして辞書登録するといいと思う
64
:
名も無きAAのようです
:2016/02/23(火) 00:36:53 ID:fnrvaSpY0
あんまり言いたくはないが誤字指摘は自己満にしか見えないからあんまり好きじゃない
65
:
名も無きAAのようです
:2016/02/23(火) 00:49:46 ID:piZdTGYU0
つっても作者が
>>58
みたいに言ってるから気づいた以上は指摘しないとな
66
:
名も無きAAのようです
:2016/02/23(火) 00:49:52 ID:vsHOidM60
乙
野球好きだから楽しみにしてるで
67
:
名も無きAAのようです
:2016/02/23(火) 01:16:31 ID:9Dc8ufG20
元はブーン系で書いてなくて、それをブーン系に直して投下してる感じがする
68
:
名も無きAAのようです
:2016/02/23(火) 10:59:12 ID:Y.o1zd0U0
>>64
いえできれば誤字は言ってもらえると嬉しいです……
69
:
名も無きAAのようです
:2016/02/23(火) 11:00:00 ID:Y.o1zd0U0
>>65
ありがとうございます!
70
:
名も無きAAのようです
:2016/02/23(火) 11:01:00 ID:Y.o1zd0U0
>>63
うわぁ!本当にありがとうございます!!細かなところまで読んでいただきありがとうございます……
71
:
名も無きAAのようです
:2016/02/23(火) 11:01:40 ID:Y.o1zd0U0
>>66
精進します。
72
:
名も無きAAのようです
:2016/02/23(火) 11:03:35 ID:Y.o1zd0U0
>>67
鋭いですね、実は私は以前違うところで書いておりました。そしてそれをブーン系風にアレンジして、さらにリメイクして書いてます。もともとの自分の作品を知ってる方だったりしますか?
73
:
名も無きAAのようです
:2016/02/23(火) 11:13:59 ID:Y.o1zd0U0
>>63
のやつで。
>>10
>>24
>>44
>>45
>>50
>>54
は63さんの通りに訂正させてください、大変申し訳ございませんでした。
ほかのものは秋田の方言としてあえてこうしているものです。わかりづらくてすいません
74
:
名も無きAAのようです
:2016/02/24(水) 14:28:10 ID:alZPCMIsO
>>72
俺は
>>67
じゃないけど、誤字脱字はともかくこうも頻繁に人名を間違えてるところがそう窺える
予測変換で間違えたにしては名前がかけ離れ過ぎてるし、たぶん一つ一つ人名を置き換えてるんだろうなと
話自体は面白いから是非完結まで頑張ってくれ
75
:
名も無きAAのようです
:2016/02/25(木) 11:51:32 ID:0PYRC0Bc0
決して華やかではない雰囲気が面白い
これからも期待
76
:
名も無きAAのようです
:2016/03/02(水) 10:52:18 ID:VJ.6RP1Q0
>>10
オ〜ドソックス・・・靴下かよ
77
:
名も無きAAのようです
:2016/07/07(木) 01:06:58 ID:rCn4nHF60
面白い。待ってる
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