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('A`)夏の日とGANG OF FOURのようです
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代理
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>>1
代理スレ立てありがとうございました。
助かりました……。
こんばんは。
最初に。
本作品は【('A`)夏の日とKILLING JOKEのようです】の続編となっております。
buntsundo.web.fc2.com/short/natsunohi_to_killing_joke.html (まとめ先:ブンツンドー様)
jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/13029/1432300732/ (元スレ)
上記の短編を読んだうえで本作品を読んでいただきますと、より一層楽しめると思いますのでよろしければご覧ください。
それでは、よろしくお願いします。
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『ああ、夏だ』
未だに、夏。
額から汗がつうっと流れ落ちた。
頬に垂れたそれを、右手につけたリストバンドで拭う。
開けた窓から流れ込む風は生ぬるく、練習場となっている部室は殺人的だと思える程に熱かった。
「本当に夏は終わるのか?」そう思わせるには十分なくらいの熱気がこの部屋の中を包んでいる。
肩から下げた黄色いテレキャスターのボディを触ると、想像していた以上の温度が伝わってきたのですぐに手を放した。
https://www.youtube.com/watch?v=SUAnU1A38ec
('、`*川「だからさーさっきから半拍くらいズレてるんだって」
ドクオは先ほどから小姑の様に口を酸っぱくさせている先輩を眺める。
『彼女の熱意もこれくらいありそうだよな』と、ドクオは暑さと疲労で回らなくなってきた頭でそう思った。
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('、`*川「ブーンさ、もう疲れた?」
(;^ω^)「いや……すみませんですお」
つい1週間ほど前、この校舎の屋上で結成したこのバンドは早くも修羅場を迎えている。
寄せ集めで作られた僕らのバンドは、とにかく時間がなかったのだ。
他のバンドが数倍の時間をかけて決めることの出来る曲目決めや練習を、僕らは大分圧縮してやらなくてはいけない。
焦るのも当然の話で、その様子はバンドメンバー全員に見えていた。
('、`*川「ちょっとクーちゃん、さっきのとこ叩いて」
彼女、ペニサスが後ろのスタンドに置いていた自分のムスタングベースを引っ張って肩へ下げる。
川 ゚ -゚)「分かった」
そう言って叩き出す彼女、クーのドラムのリズムは気持ちが悪いほど正確だ。
以前、メトロノームを使ってリズムをとる練習をしていた時も、何の苦も無く叩いていたのをよく覚えている。
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('、`*川「ここ。ダッタ・ダッタダッタ・ダン!で変えなきゃいけないのに、ブーンはダッタ・ダッタダッタ・ダンダン!で変えてるからおかしくなるんだよ」
自分でベースを弾きながら実演して見せるペニサス。
今回ボーカルで参加するはずの彼女は、そのベースラインをさも練習していたかのようにあっさりと弾いてみせた。
それを見て、ブーンの表情は一気に曇る。
(;'ω`)「はい、すみませんですお」
('、`*川「ちゃんとドラム聞いてる? 聞いてたらそんなズレ起こさないよね?」
(;'ω`)「……おっおっ」
(,,゚Д゚)「はい、一旦落ち着けー。今日はここまでにしておこうぜ」
両手を広げ、ブーンとペニサスの間に割って入るギコ。
ご自慢のツンツンヘヤーも、部屋の暑さと湿気のせいか、少しへたれて見えた。
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('、`*川「……あっ、もうこんなやってたんだ」
ペニサスが黒板上の時計を見たのにつられてドクオも同じく時計を見る。
1時を指していた時計の針は、既に3周して4の文字を指していたのだった。
(,,-Д゚)「明日から合宿だし、俺もこの後自分のバンドの練習があるから……」
('、`*川「そうね。ここで根詰め過ぎても良くないか」
(;^ω^)「が、頑張って練習しておきますお」
川 ゚ -゚)「ブーン、あとちょっとで本当に良くなるから。頑張ろう」
(,,゚Д゚)「……ま、俺たちゃ結成1週間のペーペーバンドなんだから。気楽に行こうぜ」
そう言って自分のギターをギターケースにしまい始めるギコ。
それがスイッチになったように、他のメンバーも片付けをノロノロと始めた。
相変わらず窓から差し込む日差しは熱く、僕らを酷く炙り続けていた。
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………
……
…
練習の帰り道、ドクオとブーンはいつものコンビニへと寄っていた。
夏のコンビニは天国だ。いつもそう思う。
灼熱の太陽とアスファルトから跳ね返る熱でジリジリと熱されていた身体が、
コンビニに入った瞬間にそこに溜まっていた冷気に包まれて、サッと冷やされる瞬間がたまらなく心地よい。
コンビニの中で流れる有線の曲を右から左に聞き流しつつ、僕らはアイスの置いてあるコーナーへと向かう。
https://www.youtube.com/watch?v=asLRL5r2f-E
('A`)「天国だ」
( ^ω^)「ずいぶん安い天国だお」
('A`)「俺は庶民感覚なんだよ」
-
ドクオとブーンはそれぞれアイスを一本ずつ買い、店を出るといつものように正面にある歩道の柵へと腰かけた。
ドクオは昔から変わらないデザインの鮮やかな青い袋を開け、水色のアイスキャンデーを取り出してそれに迷わずかぶりつく。
表面の少し硬いキャンデー部分と、中身の氷が口の中を冷やす。
シャクシャクとした食感が、暑さで不快になっていたドクオの気分を少し爽やかにさせた。
そしてそれが胃に落ちていくと、冷たさの感触で堪らなくなる。
何となく空を見上げる。
もう既に5時を回ろうかという時間にもかかわらず、まだまだ青く澄みわたった空が広がっていた。
( ^ω^)「僕って不釣合いじゃないかお?」
ソフトクリームにかぶりつきながら、ブーンがボソッとドクオに呟いた。
('A`)「そうだな、確かにソフトクリームと言うよりはジャンボチョコモナカって感じだな」
(;^ω^)「そうじゃなくて……」
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('A`)「バンドの事なら、別に俺はそう思わない」
ドクオも、アイスキャンデーの残りを食べながら答える。
('A`)「あん時も言ったけど、まだ集まって1週間しか経ってない」
('A`)「それであれだけ弾けるブーンは頑張っていると思うし、何より先輩方だって別に嫌な顔してないじゃないか」
( ^ω^)「でも、なんか皆凄すぎるんだお」
( ^ω^)「ペニサス先輩は、全く練習してないのにさらっと弾いちゃうし、クー先輩も今まで見たことないレベルでしっかりドラム叩いてくれるし」
( 'ω`)「そんでもってギコ先輩も……それにドクオだって皆に余裕でついていってるお」
( 'ω`)「ブーンはついていくので精一杯どころか、足を引っ張ってる始末だお」
そう言うとブーンは俯いた。手に持っているアイスクリームはドロドロに溶けて、彼の手を真っ白に染めていた。
(;'A`)「いやいや、俺だってついていくので精一杯だし、ブーンだって今日やった曲でちょっとつまずいただけじゃんか」
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( 'ω`)「……自信、ないお」
(;'A`)「大丈夫、大丈夫。さっきも言ったけどまだ1週間だし、学祭までまだ1ヶ月ちょっとあるから」
( 'ω`)「おっおっ、ありがとうだお」
ブーンは手に持ったドロドロになったアイスクリームをコンビニの袋に放り込み、手についたアイスの溶け滓を適当に払うと、柵から降りてスタスタと歩いて行ってしまった。
ドクオも彼の後を追いかけようと手を動かした瞬間、溶けはじめていたアイスキャンデーがポロっと落ちた。
(;'A`)「あっ」
それに気を取られて、目線を落とすドクオ。
すぐにブーンの方を追わなければと思いなおしてブーンが去っていた方向へ顔を上げるが、既に彼は人ごみの中へ消えていた。
足元に落ちたアイスは、空気と地面の熱ですぐにドロドロに溶けてしまう。
そして、その液体にはどこからか嗅ぎ付けたアリたちが既に寄ってきていたのだった。
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………
……
…
このバンドは数々の不幸が重なって一週間前、ポンと生み出された。
しかし、急遽生まれたという事は『何も無い』と同義なのだ。
今は猿から人間までの成長を猛スピードでやらなければいけない、そんな状態で日々を全力で駆けている。
(;'A`)「〜♪ 〜♪」
帰ってからもギターの練習は欠かせなかった。
今まで気分が向いたら家で弾いていたギターと、毎晩顔を合わせている。
指の先が痛くなってきて、自分の練習不足を最近は呪っているばかりだ。
まだ8月の半ばだけあって、まだまだ夜は蒸し暑い。
効かないクーラーのお陰でじんわりと熱される自分の身体と同じように、焦る心が少しずつ膨らんでいるような、そんな気がした。
(;'A`)「うおっ」
ビンッという鈍い音と共に、情けなく垂れ下がる弦。一弦が切れてしまった。
先ほどまで張りつめていた神経が弦が切れると同時に一気に緩んだのか、ドッと溜めていた緊張が身体の隅から隅に流れ込む。
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ドクオはギターをスタンドへ投げるように立て掛けると、自分もベッドに身体を投げ出すよう仰向けに倒れ込んだ。
それと同時にドッと疲れがやってくる。
流石にここ1週間朝から晩まで根を詰めて弾いていたので、いい加減疲れてしまったようだ。
ドクオは枕元に置いていたスマートフォンで、適当な曲を選んで流す。
その曲を聴きながら、ぼんやりと部屋の天井を眺めていた。
https://www.youtube.com/watch?v=OipL9ToIDuU
ここ最近、全くもって忙しい。
しかし、今までに感じたことの無いような充実感があるのも事実だった。
('A`)「(すげー贅沢な経験を俺はしているんだろう)」
初めて親父のアコギを触った時より、
初めて通しでGet Backが弾けたときより、
初めて人前でギターを演奏した中学のあの時より、
初めて部活に入ってバンドを組んだあの時より、
遥かな興奮と、感動を覚えている。
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それもこれも、全てはあのバンドメンバーたちのおかげだ。
「あ」と言えば「うん」と返すように、一音一音を弾くたびに向こうから思った音が返ってくる。
これは味わった事の無い至上の感覚だった。
満足しているのだ。物足りなさがまるでないのだ。
それだけ充実した、濃厚な日々を送れている自分は幸せなのだとドクオは思ってやまない。
しかし、ドクオには気がかりな事が一つだけあった。
( ^ω^)
ブーンの事だった。
.
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( 'ω`)『……自信、ないお』
今日の帰り道、彼がドクオに言ったこの言葉は心からの叫びなのだろう。
ドクオにとってもこのバンドのレベルは高すぎると思っているのが本音だ。
だからこそ、必死に毎日練習をして食いつこうとしている。
それはブーンにとっても同じだとは思うのだが、彼は少し真面目すぎた。
他人からのアドバイスも受け入れてしっかりと取り組んでいる。
しかし彼は同時に完璧主義者でもあったようで、完璧に受け入れる事を目指しすぎるあまり、1から10まで出来ない自分への自己嫌悪が募るのだ。
正直に言って、彼とドクオの技術はトントン、もしくは完璧主義者な分ブーンの方が上回っているかもしれない。
なのだが先輩達は知ってか知らずか、彼に対して少し厳しい。
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特に主導権を握る事が多いペニサスが同じくベース担当であった事もあってか、少し細かい注意をすることが多いようにドクオは感じていた。
彼のフォローに回ってくれる他の先輩と比べても、突き放すような注意をする時が多い気がする。
そして何より、彼はこの現状を作ってしまった責任を感じているように見える。
もちろんあんなのは誰のせいでも無く、起こるべくして起きた出来事であるとドクオは思っているのだが、本人はどうも落ち着かないようだ。
('A`)「(俺もうまくフォローに回ってあげなきゃいけないかなぁ)」
と、ベッドに寝転びながら一瞬そう思ったが、すぐに自分の中でドクオは否定した。
他人に構っている余裕が今の自分にあるかと聞かれればNOだからだ。
それでも、彼がしんどそうな時は自分が彼の手を引っ張ってあげる必要はあるだろう。
また喧嘩別れでバンド解散なんていうのは、ゴメンだ。
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………
……
…
翌日の早朝、ドクオは合宿先へ向かう電車に揺られていた。
運動部などの合宿とは違い、バスに乗って全員で向かうような事は軽音楽部には出来ない。
まず、人数も少ないウチの部活ではそんな事をすれば予算がそれだけでオーバーするだろう。
各自指定された時間、場所に集合して、終わり次第現地解散となるらしい。
名義上は部活動の合宿という事なので顧問も一応ついては来るが、結構『ゆるい』と言うことを聞いていた。
ただ、うちのバンドはとにかく時間が無い。
今回の合宿は、とてもじゃないが『ゆるい』合宿にはならないであろう事は、これまでの先輩たちの様子を見ても明らかだった。
そして『ゆるい』とは真逆の表情をしながらドクオの隣に座っているブーンは、今にも吐きそうな表情をしながら俯き加減である。
「昨日はまともに寝れなかった」とは本人の弁で、目の下にクマを作って何かブツブツと呟いている姿にドクオは軽い狂気を感じた。
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(;'A`)「……大丈夫かブーン」
(ヽ゚ω゚)「ベーンベベベーベンベンベーンベンベンベベベ……」
(;'A`)「電車の中でくらい運指の練習するの止めろよ」
(;゚ω゚)「お、落ち着かねえんだお、また何か言われそうで」
(;'A`)「大丈夫だって」
(;゚ω゚)「怖いお、ブーンは怖いお」
(;'A`)「俺だって怖いっつーの、何言われるか毎日恐怖だって」
(;゚ω゚)「ご飯も喉を通らなかったお、朝だってご飯2杯しか食べれなかったお」
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(;'A`)「お前の基準の量の方が恐怖なんだけど」
(ヽ゚ω゚)「4杯だお」
(;'A`)「あぁそう……」
(ヽ゚ω゚)「ベーンベベベーベンベンベーンベンベンベベベ……」
早朝のガランとした車内に、ガタンゴトンと音が鳴る。
そして隣からは、ベンベンベンと声がする。
朝からかかるプレッシャーとこの状況に嫌気がさしたドクオは、耳を塞ぐようにイヤフォーンを差し込み、
何時もよりも数段ボリュームを上げて【PLAY】ボタンを押したのだった。
https://www.youtube.com/watch?v=jhgVu2lsi_k
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………
……
…
合宿でも、特にこれと言って劇的な事は起こらず、ドクオたちのバンドの状況は変わらなかった。
練習用に貸し切っている宿泊施設内の会議室の中で、最後の一音が鳴り終わった後の沈黙が全てを物語っている。
('、`*川「……ダメだなー」
続く沈黙の中、ペニサスが呟いた。
心の思いがつい口から飛び出してきた、そんな感じだった。
('A`)「……」
正直なところ、ここまで出来れば上等、それどころかこの部活の中でもトップクラスに演奏出来ているとドクオは思っている。
結成して1週間ちょっとで出来るようなレベルは、とっくに飛び越しているのだ。
それも全て、集まった先輩達の技術が飛び抜けていることが大きい。
クーは言わずもがなだが、予想以上にギコとペニサスの能力が高かった。
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ギコは「ちょっとしか弾いてない」と言う割に、ちょっと苦戦しそうなリフやフレーズをさらっと弾きこなしたし、
なにより予想外だったのは、冗談半分で依頼したペニサスのボーカルの質の高さだった。
英語の発音は流石としか言いようが無いし、何より歌唱力も一般的な基準で『上手い』方に入るレベルだ。
ドクオは確信している。
このバンドはとんでもないメンツが集まっていると。
(;゚Д゚)「うーん……」
ついにツンツンにする事を諦め、頭にタオルを巻いていたギコが、垂れてきた汗を右手につけたリストバンドで拭う。
川;゚ -゚)「……なんかイマイチ合っていない」
中身がもう殆どないペットボトルに口をつけながら、クーもタオルで汗を拭いた。
美しく黒く輝く長髪は、今日は後ろに簡単に纏められている。
曲を通すことは出来ても、致命的に演奏の『フィーリング』が合わないのだ。
それはタイミングであったり、リズムキープであったり、一口では言い表すことは出来ない。
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支援
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('、`*川「ねえブーン、どう思う?」
(;^ω^)「ぼ……僕が悪いんですかお……?」
('、`;川「いやそーいうこっちゃなくてさ」
頭をポリポリと掻くペニサス。
余計な事を言ってしまったとでも言うように、バツの悪そうな顔をしていた。
(,,゚Д゚)「……ようするにさ、息が合ってねえんだよ」
足元のエフェクターのスイッチを踏みつつ、ペグを弄る。
鳴らしている素のギターの音はアンプを通した時の歪んだ音とは打って変わって、軽く気の抜けたような音を響かせていた。
(,,-Д゚)「単純に合わせ足りてないんだ、俺ら」
川 ゚ -゚)「うーん……そうなんだろうな」
川 ゚ -゚)「演奏こそちゃんと通せてるから、逆にそこが浮かんでくる」
(;^ω^)「申し訳ないですお……」
川 ゚ ー゚)、「何を謝る必要があるんだい、今日はちゃんとブーン演奏してたよ」
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('、`*川「ブーン、私がよく言ってるからかもしれないけど……あんま気にしすぎんなよ?」
(;^ω^)「……いやいや」
(,,゚Д゚)「ま、そんなもんだよ! どのバンドだってあることさ」
(,,-Д゚)「昨日も言ったけど、まだ1週間だ」
('、`*川「うーん……そんなもん?」
('A`)「そんなもんなんじゃないっすか?」
('、`*川「偉そうに言うなよこのぉ♪」
ドクオの腹へとペニサスのパンチが飛んでくる。
思ったよりも鋭く重かったそのパンチは、鍛えていないドクオの柔らかい腹筋にいとも簡単にめり込んだ。
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(;゚A゚)「グフッ」
('、`;川「あ、ゴメン! 大丈夫?」
慌ててその場にうずくまってしまったドクオの脇にしゃがみ込み、背中をさするペニサス。
どうも思ったよりキッチリ入ってしまったらしい。
その姿を眺めつつ、ギコはまだペグを回していた。まだ上手くチューニングが決まらないらしい。
(;゚Д゚)「あっれー?」
川 ゚ -゚)「……ネック曲がっちゃってるんじゃないか?」
(;゚Д゚)「いやーそんな事は……」
川 ゚ -゚)「一部が変わっただけでチューニングが合わなくなる、全く難儀だよな楽器ってのは」
('、`*川「つーか他のバンドの奴らはどったの? 私らさっきからずっとここ使っちゃってるけど」
ようやく落ち着いてきたドクオの介抱を止めて、グーッと身体を伸ばす。
ポキポキと言う身体の縮こまったのが解放される音が聞こえてくるようだ。
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(,,゚Д゚)「んあ? そこの海行ってるよ。俺もバンドの奴らからさっきお誘いのメッセージ来てたわ」
('、`#川「夏をエンジョイしやがってるなぁおい!?」
川 ゚ -゚)「まぁまぁ……彼らが使わない分練習出来るんだからいいじゃないか」
('、`#川「クソッ……海ではしゃいでる奴らの水着を一人残さずズリ下げてやりたい」
( ^ω^)「……えげつねぇな……」
('、`*川「もしくはサメを召喚して奴らを恐怖のどん底に陥れてやりたい」
( ^ω^)「B級映画も真っ青」
('、`*川「お前は間違いなくエサ枠だな」
( ^ω^)「ふええ〜」
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旧式なのか、普段聞かないようなゴウンゴウンといったクーラーの稼働音が響く。
音楽準備室よりは遥かに快適な場所である事は間違いないが、それでもここは暑い。
着ているTシャツは汗で少し湿っていて、へばりつく感じが不快さを増させている。
('A`)「でも暑いっすもんね、確かに海にでも入りたいですよ」
('、`*川「確かにねー、最後の合宿くらいサボって海ではしゃぎたいもんだわー」
(,,゚Д゚)「いつもサボってたクセに」
('、`;川「う、うるせーやい」
川 ゚ -゚)「夏を満喫、青春の一ページって感じだよな」
窓の外を目を細めながら見つめるクーの口元には軽く笑みが浮かんでいた。
彼女の澄んだ瞳に、透き通る夏の青空が反射しているように見えた。
('、`*川「でも、いいさ」
('、`*川「私にとっての青春は今だから」
ペニサスは、頬に垂れてきた汗を拭いながら、ニヤリと笑った。
川 ゚ ー゚)「そうだな」
ペニサスの方を振り向いたクーも、同じようにニヤリと笑った。
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………
……
…
ふと空を見上げると、綺麗な三日月が出ていた。
日中太陽を遮ることの無かった雲は、月の光を邪魔することなく空の端に漂っている。
真夏の太陽の元で肌を日に焦がすことなく、耳がアンプから出る音で焼きついた合宿の最終日前日の夜。
ドクオとブーンは海岸沿いをフラフラと散歩していた。
('A`)「結局1日も入らなかったな」
( ^ω^)「噂に聞く、しい先輩のグレープフルーツも見る事が出来なかったお」
https://www.youtube.com/watch?v=2XoeYBwQL_Y
(;'A`)「お前なあ」
( ^ω^)「おっおっ、冗談だお」
-
既に陽が落ちて真っ黒くなった海を眺めつつ、夜風に吹かれてドクオとブーンは何となく黄昏ていた。
夜になると途端に合宿所内は騒がしくなる。それは当然、中に人が増えるからだ。
「誰と誰がくっついた」「どれくらい日焼けした」「しい先輩の胸の大きさが云々」……そんな話で溢れかえるのだ。
日中、ペニサス、クー、ギコ、そしてブーンと、一歩間違えれば殺伐とした雰囲気になりかねないような真剣な空気の中で練習していたあの空間とは、
全く別の所にいる気がしてならなくなる。
ドクオはそれに耐えられなくなっていく。何だか、自分たちの場所をぶち壊されている気分になる。
そして逃げ場を求めて外を散歩していた。
どうもブーンも同じ気分であったらしく、2人そろって夜の散歩となったわけである。
海は波寄せる音だけを響かせ、砂浜に白い泡を立てている。
遠くの方で光る灯台が小さく見えるだけで、あとは一切光が無い。それこそ、ここの歩道につけられた街灯位だ。
ドクオとブーンは歩道と砂浜の間にある手すりに寄りかかり、海をボンヤリと見つめた。
歩道と砂浜の間には結構な差があり、手すりからは砂浜を見下ろすような感じになっている。砂浜に降りるには、少し歩いた先の階段から降りなければならない。
波の動きと、遠くで回る灯台の光が差し込んで海面を反射していた。
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('A`)「ブーンが元気になったみたいで良かったよ」
( ^ω^)「おっおっ、心配してくれてたのかお?」
(;'A`)「そりゃあ目の下にクマ作って、気が狂ったように運指の練習してるあの姿見せられたら、誰だって心配するって」
( ^ω^)「……まさしく杞憂ってやつだったお」
そう、取りこし苦労をしていただけだったのだ。
思ったよりも先輩たちは優しかったし、何より演奏できていない事をそれほどナーバスに捉えていなかった。
('A`)「あの余裕は何なんだろうな、どっから生まれんだろ」
( ^ω^)「そりゃあれだけ上手けりゃ余裕だお」
(;'A`)「俺らがダメでも俺たちがカバーするからいいかってか」
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( ^ω^)「それよりブーンはペニサス先輩のあの発言にビックリしたお」
('A`)「……ああ、『私にとっての青春は今だから』……か」
( ^ω^)「元々生まれるはずの無かったこのバンドに入って、どうしてあれだけ入れ込んでいるのか」
('A`)「君の不始末のせいで分解しましたしね?」
( ^ω^)「申し訳ねえ」
('A`)「……ま、クー先輩は俺を焚き付けてくれた本人だし、ギコ先輩は真面目だし分かるが」
( ^ω^)「ペニサス先輩があんなこと言うなんて珍しいお」
('A`)「……ま、俺たちがバンドに打ち込むように、ペニサス先輩にも何かしら理由を持って打ち込んでくれてるんだよ、きっと」
( ^ω^)「ブーンにはよく分からないお」
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('A`)「でもさ、俺ペニサス先輩見て頑張ろうって思ったよ」
( ^ω^)「おっおっ」
('A`)「だって元は違うバンドなのにあんだけ入れ込んでくれてるんだぜ」
('A`)「俺頑張らなきゃ誰頑張るんだって」
( ^ω^)「……ブーンも頑張るお」
('A`)「おうよ」
ドクオとブーンは互いに促すわけでも無く手を互いに差し出し、そして握りしめた。
あの屋上での握手以来、これは最早挨拶のようになっている。
お互いの滾る熱さを手から感じ取っていると、ポケットに入れていたスマートフォンが震えた。
サッと取り出し、差出人と内容を確認したドクオはブーンにその画面をサッと見せると、同時に宿舎に向かって駆け出した。
『クー先輩:最後に夏っぽい事をしよう』
そんなメッセージと共に、花火と一緒に写るクーの写真が来れば、急いで帰るしかないじゃないか。
ドクオもブーンもお互いの滾る熱さより、花火の熱さを感じたかった。
とにかく夏を感じたかったのだ。
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(;'A`)「すいません」
('、`*川「おっせーよドクオぉ」
合宿所の正面にある広場に着くと、既に何人かの姿があった。どうやらうちのメンバーだけでは無いようだ。
見ると、既に火のついたロウソクが数本に水の張ったバケツ、さらに火のついた蚊取り線香まで準備されていた。
(,,゚Д゚)「ほんじゃあまぁ……花火の時間だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
_
(*゚∀゚)「フォォォォォォォォォ!!」
(*・∀・)「ヒョォォォッォォォ!!!」
('、`*川「ウヒョォォォォォォォォ!!」
(;^ω^)「ちょっ、ペニサス先輩引っ張ら」
ギコ先輩の掛け声に呼応するように、暗闇に隠れていた他のメンバーたちが一目散に花火に向かって駆けだす。
そしてとりあえず打ち上げ花火とロケット花火を確保すると意気揚々と火を点け、それを手に持って打ちまくっていた。
(;'A`)「おお、すげー……」
その姿を遠くで見ていたドクオの肩が、ポンポンと叩かれた。
川 ゚ ー゚)「一緒に線香花火でもしないか」
-
目の前では派手に花火が飛び交っている。
飛んではいけない方向に飛んでいく花火やロケット花火の音が、賑やかさに華を添えている。
川 ゚ -゚)「ああいうのは見るのはいいんだが、やるのはどうもね」
('A`)「同感です」
手元で小さく光る線香花火の光を見るととても落ち着く。
パチパチと弾ける火が、2人の顔を照らしている。
川 ゚ -゚)「今日、正式に私のバンドは解散が決まった」
('A`)「ああ……言ってましたね、メンバーが受験勉強でって」
川 ゚ ー゚)、「そもそも合宿に来てなかったからな、当然と言えば当然なんだが」
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('A`)「やっぱり3年生にもなると忙しくなるんですね」
川 ゚ -゚)「それでも最後だし、別に勉強を捨てなくても練習は出来るはずだと思って説得してたんだがな」
川 ゚ -゚)「『余裕が無い』の一言で突っぱねられてしまってな」
川 ゚ ー゚)、「加えて『あなたはいいわよね、勉強しなくても行けるから』って言われてしまって……悲しかったよ」
('A`)「……」
川 ゚ -゚)「……本当に、ドクオがバンドをやってくれて、それで私も入れてくれてよかったと思うよ」
いつの間にか、クーの線香花火は落ちていた。
もう消えているはずのその先を見つめながら、クーは話し続ける。
川 ゚ -゚)「もう、やりたい事をやれずに終わるなんて、嫌なんだ」
川 ゚ -゚)「……そして君にも同じ思いをしてほしくなかった」
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川 ゚ -゚)「でも結局は、自分がやりたい事のために君を焚き付けたような形になってしまったな」
('A`)「……バンドがやりたいって言ったのは俺の意思です」
('A`)「そのワガママに着いてきてくれただけですよ、クー先輩は」
ヒュウヒュウとロケット花火が飛び交う音と、破裂音がこだまする。
とてもじゃないが落ち着いた夏の夜と言った感じでは無い気がする。
川 ゚ ー゚)「『俺の意思』……か、随分しっかりするようになったじゃないか」
('A`)「……まぁそりゃ一応俺が言いだしっぺですし」
川 ゚ ー゚)「それでいいんだ、やりたい事を押し通す、そうするだけで自分が大分救われるんだ」
川 ゚ -゚)「いずれ何かがあっても、一番後悔せずにいられるはずさ」
破裂音と同時に、空へ花火が打ちあがる。
とてもチープなそれは、ようやく本来の空に打ちあがれたと言わんばかりに、次から次へ打ちあがり暗い空に彩を添えた。
何か付け加えようとしたクーの口は、夜空に開く花火を見て、閉じてしまったようだ。
ドクオとクーは何も言わず、揃って空に広がるそれを見つめていた。
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合宿が終わった帰り道、行きと比べて晴れ晴れとした顔で電車に乗っているブーンの姿がそこにあった。
一緒の方向へ帰る先輩や同級生たちが寝てる中、1人だけ背筋を伸ばして座っているものだから、いやに目立っていた。
('A`)「何かスッキリした顔してんじゃん」
( ^ω^)「そうかお?」
('A`)「うん、あの狂気に満ちた顔よりはいくらも」
(;^ω^)「あー……あの話はやめてくれお」
('A`)「まるでミスったら指でも詰められるんじゃないかと思う位の表情してたしな」
( ^ω^)、「……今までちょっと考えすぎてたお」
( ^ω^)「ミスったらどうしよう、ダメだったらどうしよう、そんな事ばっかり考えながらやってたお」
( ^ω^)「でも、思ったよりミスって怖くないって、先輩たちを見てて思ったんだお」
( ^ω^)「だから僕も気にしないでのんびりやろうって、決めたんだお」
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('∀`)「いいじゃん、いい事じゃん」
( ^ω^)「おっおっ、だから僕も緩やかにいくお」
('A`)「……そのわりには背筋伸ばしちゃって、ピンとしちゃってるけど」
(;^ω^)「背中痛くて背もたれにつけらんねえんだお」
(;'A`)「どうした?」
(;^ω^)「……昨日のペニサス先輩の打ち上げ花火(横)が背中に直撃して、軽くやけどしてるんだお……」
(;'A`)「えぇ……」
(;^ω^)「当てられそうだったから逃げ回ってたのに、とんでもねえ精度で当ててきやがったお」
(;'A`)「……スナイパーか何かか?」
(;^ω^)「否定できねえ」
相変わらずのガランとした車内に、ガタンゴトンと音が鳴る。
目の前では例のスナイパーがポカンと口を開け、ベースを抱えて眠っていた。
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………
……
…
(,,゚Д゚)「……でさぁ、俺がこう言ったわけ。『そりゃあお前、夏のせいだよ』って」
('A`)「HAHAHA!!」
( ^ω^)「なんかドクオの笑いがアメリカンナイズされてるお」
('A`)「昨日『朝まで深夜に流れる海外通販CM耐久レース』してたからな」
川;゚ -゚)「お前一体夜中まで起きて何してるんだ……?」
('A`)「結構面白いんすよアレ。テンプレ派とちょっと捻ってる派があって。あとNASAムダな開発しすぎだろって思いますね」
そう言っておどけるドクオの眼の下にはクマが浮かんでいる。
『最近練習を夜中までしてて眠れない』
なんて、カッコ悪くて言えなかった。
-
部室には相変わらず歪んだギターの音とセミの鳴き声が響いている。
合宿が明けて盆休みが終わり、いよいよ夏休みも終わる。
セミの声はまだまだ鳴りやむ気配を見せないが、それでも時折吹く風はそろそろ夏の終わりを知らせていた。
夏に唐突に生まれた新バンドも、ようやく『フィーリング』が合わさってきている。気がしている。
( ^ω^)
全員が曲にこなれてきたと言うのもあるが、何よりブーンの上達が一番の変化だった。
あの合宿以降、彼は目に見えて上達していた。明らかに彼の中で何かが変わった。
そんな弾きっぷりだった。
('A`)「(吹っ切れた事が良い方向に向かったんだろうな)」
この前までつまずいていた箇所をスムーズに弾きこなす姿を見つつ、ドクオはこの前の車内でのブーンの言葉を思い出していた。
(;^ω^)「ねみーお」
どうやら彼も一緒らしい。
いくら意識を変えたと言っても、根が真面目な彼は相変わらず睡眠時間を削って練習時間を増やしているようだ。
いつも目の下にクマを作っては常に眠そうにしていた。
それで集中が切れてはペニサスに叱られるという事もちょいちょい見かける。
-
('、`#川「おいドクオ、そのフレーズで何回つまずいてんだよ!」
(;'A`)「す、すいません」
(,,゚Д゚)「そろそろ慣れようぜ〜ここダメだと一気にカッコ悪くなる」
最近の問題はどちらかと言えば、ドクオだった。
ブーンが一段飛ばしの勢いで階段を駆け上がっていくのに対し、今のドクオは一段昇るのもやっとと言った感じに近い。
一歩進んでは躓き、また進んでは躓く。
何をしても止まってしまう今の状態に、ドクオは少しウンザリしていた。
あれだけ練習して、あれだけ遅くまで弾いているのに。
ここまでこんな事になったのは、今までに無いことだった。
(;'A`)「……」
('、`*川「……」
('、`*川「ドクオ、今日この後空いてる?」
(;'A`)「空いてます」
-
しえ
-
('、`*川「よし、じゃあ特訓決定な」
('、`*川「クーちゃん空いてる?」
川 ゚ -゚)「私は大丈夫だが」
(,,-Д゚)「すまん、俺はあっちのバンドの練習だ」
(;^ω^)「すいません、僕はバイトですお」
('、`*川「よーし了解了解、じゃあ残れる奴でやんぞー」
川 ゚ -゚)「場所は?」
('、`;川「あ」
部室は持ち回り制だ。
時間と曜日を決めて、それぞれのバンドが使う決まりとなっている。
ドクオたちのバンドももちろん例外では無い。
-
('、`;川「駅前のスタジオ行くか〜? でも空いてるかな〜」
川 ゚ -゚)「私のいつも使ってる練習場所で良ければ使えるぞ」
('、`;川「えーでも鍵借りなきゃでしょう?」
川 ゚ -゚)「合鍵なら私が持っている」
川 ゚ -゚)「『砂尾になら安心して貸せるからな』と言われて吹奏楽部の顧問から貰った」
('、`;川「さ……流石優等生……」
川 ゚ -゚)+「じゃあ、行こうか」
最近、異様にクーが格好良く見える。
優等生という看板を背負って、それを使って上手い事立ち回る姿が素晴らしく美しく見えるのだ。
部室で2人と別れ、階段を昇り最上階の廊下の突き当たり。
音楽室の入口のすぐ隣にある古ぼけたドアが、音楽準備室への入口だ。
-
クーがカギを使って音楽準備室のドアを開けると、むわっとした熱気と埃っぽい臭いが勢いよく飛び出してきた。
たまらず2人は、準備室唯一の窓に駆け寄り、すぐに全開にした。
('、`;川「相変わらずやべーなここ……」
(;'A`)「色んな意味でむせそうっす」
川 ゚ -゚)「そうか? もう慣れてしまったよ」
ドクオとペニサスが眉を顰めたしかめっ面をしながら準備をする中、クーは涼しい顔をしてセッティングをしていた。
流石にこの部屋の主と言った所だろうか。
元々活動をする部屋ではないここにはクーラーのような上等なものは存在しない。
あるのはクーが何処からか持ってきた古ぼけた扇風機だけだ。
本人曰く
川 ゚ -゚)「これで十分涼しい」
らしいが、とてもドクオとペニサスには耐えられそうになかった。
-
('、`;川「うーっし、やるか」
チューニングを終えたペニサスが指を伸ばしながら声を上げる。
('、`*川「ドクオ、何やりたい? 何でも好きな曲やろーよ」
(;'A`)「え? やる曲の練習ですよね?」
ペニサスはゆっくりと首を横に振る。
('、`*川「違うよ、ドクオがやりたい曲をやるんだよ」
(;'A`)「それだと練習の意味ないっすよ」
川 ゚ -゚)「最近のドクオは楽しんで弾いていない」
('、`;川「あっ、それ私のセリフー」
-
川 ゚ -゚)「私と『Fell In Love With A Girl』をやっていた時の君は何処に行った?」
('A`)「……変わらずここにいますよ」
('、`*川「嘘つけ」
川 ゚ -゚)「少なくとも、今の君は君じゃない」
('、`*川「何か責任でも感じてるの? そんなもの私たちにでも投げ捨てておけばいいのに」
('A`)「……」
川 ゚ -゚)「『チューニング』」
('、`*川「?」
川 ゚ -゚)「どこか一か所でも変化があれば、楽器のチューニングも合わなくなる」
川 ゚ -゚)「それは既に楽器としての体を成していない」
-
川 ゚ -゚)「バンドも一緒さ、誰か一人がおかしくなればバンド自体が狂ってしまう」
川 ゚ -゚)「それも同じく、バンドとしての体を成してないんだ」
('ー`*川「くーちゃんカッコいい事言うね〜」
('A`)「……俺がやるって言ったバンドで、俺が一番躓いている」
('A`)「それで、皆に迷惑をかけている自分がたまらなく嫌なだけですよ」
('、`*川「それが背負いすぎだって言ってるんだよ〜! この〜!」
ドクオの後ろからヘッドロックをかますペニサス。
急に締めてきた腕を外そうとしたが、頭に当たる柔らかい感触がドクオにそれを少し躊躇させた。
川 ゚ ー゚)「だから好きな様にやろうって言ってるんだ」
川 ゚ ー゚)「所詮、学園祭の1ヶ月前に急遽結成した酔狂な奴らが集まったバンドなんだ。それぞれが勝手に楽しまなくてどうする」
-
('、`*川「そうそう、狂人の集まりなんだよこのバンドは!」
そう言うと同時にドクオの首をグッと更に締め上げるペニサス。
いい加減感触を楽しんでいる余裕が無くなったドクオは締め上げている腕をタップする。
(;゚A゚)「グッ、グゥッ!」
('、`;川「あっ、ごめん、締めすぎた?」
それに気が付いたペニサスは腕をすぐに緩める。
ようやく気道が確保できたドクオはゲホゲホとむせ、締められた首をさすりながらギターへ手を伸ばした。
(;'A`)「ゲホッ、ゲホッ……や、やりましょう」
(;'A`)「好きなように好きな事やらせてもらいますよ」
('、`*川「そーそー、そんくらいの気持ちでいいんだって」
川 ゚ ー゚)「じゃあ、何して遊ぶ?」
('A`)「……何でもいいんですか?」
-
川 ゚ -゚)「知ってる曲なら」
('、`*川「知ってる曲なら」
('A`)「じゃあ、これを」
そう言ってイントロリフを弾きはじめたドクオの音を聴いて、ペニサスとクーはニヤリと笑っていた。
https://www.youtube.com/watch?v=dbB-mICjkQM
いつかのように、延々とドクオはリフを鳴らし、歌う。
ペニサスもクーも、そのドクオについていくように延々と正確なドラムとベースで続く。
最後の一音を鳴らし終えると、ドクオは同じくいつかのように余韻に浸っていた。
そして2人の方を向いて、深く一礼をしたのだった。
('A`)「ありがとうございました」
('、`*川「なんだよ、こんなに生き生き弾けるんじゃん!」
川 ゚ ー゚)、「まったく別人みたいだったな」
-
(;'A`)「普段からこんな感じでいいんすかね」
('、`*川「こんな感じで、じゃなくて、こう弾かなきゃいけないんだよ!」
川 ゚ -゚)「そうそう……今くらい楽しんで弾ければもっと良くなるよ」
(;'A`)「……今まで自分の中で押さえつけていたかもしれません」
('、`*川「溜めてたの出して、気持ちよかった?」
(*'A`)「……え、ええ、とても」
ドクオはそれとなく、下半身をテレキャスターで抑えた。
少し火照った体に、外から吹き込む少し冷たい風が心地よかった。
-
………
……
…
1週間はあっという間に過ぎていった。
ドクオが弾いて、弾いて、そして間違ってはペニサスにシバかれる。
そんな毎日だった。
今まで、『他のバンドはどうなのだろう、あと残りは何日だろう』といったことばかりが頭に浮かんでいたがそれも無くなった。
そんな事を考える暇があったら練習に回した方が良いことに気が付いたからだ。
('、`#川「てめーまたリズムズレてんだよぉ!!」
(;'A`)「スァーセン、スァーセン」
そして夏休みが終わり、学校が始まる。
練習時間は夏休みよりも確実に減り、そしてハッキリと学園祭が見えてくる季節になった。
しかし僕らは未だに続く暑さのように、夏の勢いを引き継いだまま日々練習に没頭していた。
-
(,,゚Д゚)「はい、そんじゃこれ」
そんなある日の練習後、ドクオたちはファミレスへやってきていた。
各々注文を終え、全員がドリンクを各々入れて席に着くと、ギコが白紙のルーズリーフを1枚テーブルの上に出した。
(,,-Д゚)「いつもの奴決めておこうと思うんだ。そろそろ提出することになるだろうし」
('、`*川「もうそんな時期かぁ」
川 ゚ -゚)「早いな、あっという間だった」
(;'A`)「えーっと……これは」
(,,゚Д゚)「あぁ、ドクオは初めてか。そんな難しいもんじゃないよ」
('、`*川「メンバー・バンド名・SE・何曲演奏するのか・曲ごとの演出のお願いetcとかを指定の用紙に書き込んで、学祭担当に出さなきゃいけないのよ」
川 ゚ -゚)「アンプの位置とかは弄らないから、機材とか立ち位置とかまでは指定出来ないけどな」
-
('A`)「なるほど……」
( ^ω^)「常識だお」
('、`*川「てめーも知らなかっただろうが」
(;゚ω゚)「グフッ」
ペニサスの右アッパーがブーンの柔らかいお腹にめり込むのがドクオからも見えた。
川 ゚ -゚)「それじゃあザッと決めるか」
(,,゚Д゚)「うん、とりあえず責任者のところはドクオにしておくから」
(;'A`)「え゛っ」
思わず、口に含んでいたコーラを吹きだしかける。
その姿を見てペニサスがギャハハとドクオを指さして笑った。
-
('、`*川「何その声wwwww」
(,,^Д^)「ったりめーだろドクオ、お前が俺らを巻き込んだんだからさ」
川 ゚ ー゚)「そうだな、君がやるのが一番しっくりくる」
( ^ω^)「おっおっ、そうだおそうだお」
('、`*川「お前回復速いな」
( ^ω^)+「ふっ」
(;'A`)「……マジっすか」
('、`*川「リーダーDOKUO、良い響きジャン」
そう言ってププッと吹きだしたペニサス。ドクオは恥ずかしいやら混乱するやらで、頭の中が真っ白だった。
-
(,,゚Д゚)「書類の書き方とかは教えてやるから。提出は俺がまとめてやっておくからさ」
川 ゚ -゚)「名前だけの責任者だから安心しなよ、ドクオ」
('、`*川「そーそー。責任者がなんかやらされるのはやらかした時くらいだね」
(;'A`)「そ……それなら……」
('、`*川「よーし、お姉さん豚の臓物と炊き立てご飯ばらまいちゃうぞ〜」
( ^ω^)「おいやめろ」
(,,゚Д゚)「よーっしゃ、じゃあツメていこうぜー。とりあえずバンド名、これだな」
('、`*川「初っ端から一番難しいのぶっこんできたわね」
川 ゚ -゚)「カッコつけすぎると中二病ぽくなり、ふざけすぎると寒くなる」
(,,゚Д゚)「あー、ペニサスのバンドなんて……」
('、`*川「おいやめろ」
-
川 ゚ -゚)「去年の『†Blood Vampire†』とかいうバンド名を見たときは正直吹いた」
川 ゚ -゚)「すごく恰好もV系ぽかったのにやってる曲が青春パンクで更に吹いた」
('、`*川「なんかクーちゃんが言うと迫真感があるわあ」
(,,゚Д゚)「真顔で直球ディスするスタイル嫌いじゃないぜ」
('、`*川「そんじゃリーダーさん、まず第一案どーぞ」
(;'A`)「えっ、えっとそうっすね……」
ドクオは正直、何も考えていなかった。バンド名なんて誰かが勝手に考えてくれるもんだと思っていた。
キョロキョロと周りを見回し、何か使えそうなネタは無いか探す。
そんなとき、柔らかく光る天井の照明が目に入った。
-
('A`)「お……」
('、`*川「お?」
('A`)「『Orange Lamp』……とか」
('、`*川「オレンジ色のランプ、ねぇ。程よく回避してる感じで私は嫌いじゃないけど」
(,,゚Д゚)「いいんじゃねーの? リーダー発案だし」
川 ゚ -゚)「うむ、私も悪くないと思う」
( ^ω^)「同じく異議なしですお」
(;'A`)「えっ、めっちゃ適当なんすけど……いいんすか?」
('、`*川「いいのいいの。そんな痛くなけりゃ何でもいいんだから」
(,,-Д゚)「The Dokuosとかでもかまわんぜ?」
(;'A`)「それは勘弁してください!」
川 ゚ ー゚)「ふふっ、私は悪くないと思うけどな。The Dokuos」
( ^ω^)「僕としてはザ・ドックンズとかでも……」
https://www.youtube.com/watch?v=amlxiha38xs
(,,゚Д゚)「んじゃあ、とりあえずバンド名は『Orange Lamp』で決定な。残りもちゃちゃっと決めちゃおうぜ」
-
結局、他の部分もダラダラと話し合って、結果ファミレスには5時間ほど居座ってしまった。
なんだかんだと、細かい部分が決まっていくにつれて、どんどんと学祭に出演できるんだという嬉しさと緊張がドクオの中で膨らんでいるのが自分の中でも分かる。
バンドがバラバラになった時からは考えられない進歩と、楽しさにドクオは満たされていた。
会計の時に、入り口近くにあったガチャガチャをブーンが回していた。
(;゚ω゚)「こ、これは……幻の松坂牛・特Aロースフィギュア! シークレットだお!」
どうやらとんでもないレアモノが当たったらしく、小躍りしながら自分の支払いをしていた。
(*^ω^)「こりゃー最高にラッキーだお、運を使い果たしたかもしれないお」
うきうきでスキップするたびにブーンのお腹のお肉が少し揺れるのが、ペニサスのツボにはまったらしい。
彼を見ながら指さしながらゲラゲラと大笑いしていた。
-
(,,゚Д゚)「そんじゃ、また明日な」
('、`*川「あー疲れた、身体バッキバキよ」
ギコ、ペニサス、ブーンとは途中で別れ、ドクオはクーと一緒に帰路についていた。
ここ最近、ドクオはクーと帰ることが多くなっていた。
それは方向が一緒だと言う、ただそれだけの理由だったが。
('A`)「何かいよいよって感じですね」
川 ゚ -゚)「学園祭、か。私も毎年これくらいの時期になるとドキドキしてたよ」
('A`)「ドキドキですか」
川 ゚ -゚)「ああ。『これだけしか練習していないのに失敗しないだろうか』『客を冷めさせたらどうしよう』とか」
川 ゚ -゚)「マイナスの方向にしか考えが向かなかった。結局杞憂で終わるんだが」
-
ツンがサークラの奴だっけ?
よむほ
-
肩を並べて歩いているドクオの方にクーが顔を向ける。
クーの顔はなんだか嬉しそうで、あまり見たことが無いような笑顔を浮かべていた。
川 ゚ ー゚)「でもな、今年は凄くワクワクしてるんだ」
川 ゚ ー゚)「こんな素敵なメンバーで、練習も全力でやってきた成果が出せるのかと思うとね」
川 ゚ ー゚)「ペニサス、ギコ、ブーン、そして私と君。期間は短いけど最高に『楽しんでいる』時間だ」
川 ゚ ー゚)「こんなバンドに誘ってくれた君にお礼を言いたいよ」
(;'A`)「いやいや、俺はただバラバラになって途方に暮れていた所を先輩方に救ってもらっただけなんで……」
川 ゚ -゚)「それでも君はバンドをやる事を自分の意思で選んだじゃないか」
川 ゚ -゚)「あの屋上で君が『やります』と言わなければ、今日も私は音楽準備室で一人むなしくドラムを叩いていたかもしれない」
川 ゚ ー゚)「だから君に言わせてもらいたいのさ、ありがとうって」
-
そう言って立ち止まり、ドクオの方へ手を差し出すクー。
ドクオは少しだけ躊躇して、手の汗をゴシゴシと拭きとって差し出された手を握り返す。
相変わらずクーの手は柔らかくて、細くて、そしてほんのり暖かかった。
ドクオはクーの顔を見つめる。
少し落ちるのが早くなってきたオレンジ色の夕日が、彼女の白い肌を照らし柔らかな光になっている。
そして微笑みとも言えるような優しい笑顔を浮かべながら、見つめてきたドクオの顔を同じく見つめていた。
なんだかずっと眺めていたい。目を逸らす事も、話すこともしたくない。
ドクオは、ただただこのままで居たかった。
クーも、何も言わずただただドクオの顔を見つめていた。
川*゚ -゚)「あ、あの」
(*'A`)「は、はい」
川 ゚ -゚)「……そろそろ手を離してもらえるかい?」
(;'A`)「あ゛っ」
慌ててパッと手を離すドクオ。
-
川 ゚ -゚)「あんまりジッと見られていると、照れるな」
(;'A`)「スンマセン、スンマセン」
川 ゚ ー゚)「ふふっ、いいさ」
そう言ってまた帰り道を歩き始めたクーとドクオ。
別れるまでの帰り道は、ずっとバンドの話で終わってしまった。
クーと別れ1人になった時、モヤモヤと先ほどから抱えていた自分の中の気持ちを考えてみた。
『なるほど、これは恋だな』
その結論に至るには数秒とかからなかった。
それと同時に、この気持ちは自分の中に封印しよう。そう決めたのだった。
『バンド内での恋愛は崩壊を招く』
とても短い前のバンドでの、ほろ苦い経験を生かそう。
そう思った。というより、自分にそう言い聞かせた。
https://www.youtube.com/watch?v=1EY0Y3rveZo
-
………
……
…
('、`*川「〜♪」
この日、ペニサスは朝から上機嫌だった。
テレビの占いは1位、化粧も髪も一発で決まった。
朝食は最近お気に入りのベーカリーショップで買った大好きなデニッシュだったし、加えてちょっと奮発して買った紅茶の茶葉が最高に美味しかった。
なにより嬉しいのは、最近の愛機であったムスタングベースが調整から帰ってきた事だった。
本体のダイヤルを回した時のガリが酷くなっていたのでそこの修理と、ついでにピックアップの改造の依頼を馴染の店にお願いしていたのが仕上がってきたのだ。
/ ,' 3「忙しいから時間がかかるよ」
とか言ってた店主のジジイ(愛称)だったが、なんだかんだで1週間で仕上げてくれた。
これを今から部室に置いているデカいアンプでテストできるワクワクで、歩調もやけに軽くなっていた。
もちろんバンドのベースはブーンだから自分がメインで使う事は無いのだが、それでも新しくなっている機材を弄ると言うのは嬉しいものだ。
思わずいつもよりも早い時間に部室に向かっている。
午後の練習は、学校に着くまでの高く昇った日差しが非常に不快で嫌いなのだが、今日は全く気にならなかった。
-
そんなペニサスがルンルン気分で部室に向かう階段を上がっていると、上の階から荒げた声と乱暴にドアを閉める音が聞こえてきた。
('、`*川「(ケンカかよ〜どこか分かんねえけど、くわばらくわばら)」
軽音楽部の部室がある階は『文化系エリア』と呼ばれるほど、他の文化系の部活動の部室が集中している階だ。
そんな文化系の部でも別に喧嘩は珍しいものでは無い。
特にこのシーズンだと、熱心な部活は学園祭で活動発表を行う所が多い。
そんな部が方向性や展示方法などで熱い議論から口論に発展し、最終的には喧嘩になるのだ。
これまでに見たことがあるのは電車愛好会の喧嘩だった。
「なんでだよ! ○○をメインにすべきだろ!」
「アホか貴様は!! ××の車両をだな!!」
とかいった具合で言い争いの喧嘩をしているのを見た記憶がある。
('、`*川「(ケンカするほど、こだわるものなのねぇ)」
と、思いつつ遠巻きに眺めていた。
こだわりがある事は悪くない事だし、それが原因で喧嘩をするのもよく分かる事だった。
-
多分、傍から見たら「どれも同じ電車だろ」で終わる話なのだろう。
しかしそれを言ってしまえば、どの音楽をやるか言い争う軽音楽部も「どれも同じ音楽だろ」で終わらされてしまう。
その人にとってのこだわりは『絶対に譲れないモノ』でもあるのだ。
だから、ちょっと色や形が違うだけで言い争う、電車愛好会の気持ちもよく分かる。
('、`*川「(でも、そのこだわりを捨てて妥協するっていうのも大人なのよね〜)」
('、`*川「(ま、私は大人になれそうな気配はないけど)」
そう思いつつ階段を昇っていると、荒々しく階段を踏み鳴らしながら喧嘩の主であろう人物がペニサスの隣を過ぎ去っていった。
('、`*川「(あらあら、お怒りですこと)」
('、`*川「(ま、今の私は何されても怒らない自信あるけどね。なんたって今日はハッピーだし♪)」
そう言って歩調軽く部室への廊下を歩く。
スキップをしてみたら、昨日のブーンのお腹を思い出してニヤニヤしてしまった。
-
('、`*川「おっはよー♪」
そう言って勢いよく部室のドアを開ける。
川 ゚ -゚) (,,゚Д゚) ('A`) ( ^ω^)
部室の中にいる何時ものメンバーがペニサスの方を向いた。
いつも来るのが遅いペニサスにとっては慣れた光景だった。
しかし少し妙だった。
いつもより早い時間に来たのになんでこんなに揃っているのだろう。
(;^ω^)
あっ、とペニサスは気が付いてしまった。
ブーンの右手が、包帯でグルグル巻きにされていて、それが肩から吊るされていた。
https://www.youtube.com/watch?v=D90AOhojK3M
-
('、`*川「……どうしたの?」
(;^ω^)「朝、階段からコケて、腕を角に打ち付けて折りましたお」
('、`*川「……何で?」
(;^ω^)「えー……松坂牛・特Aロースのフィギュアを眺めながらスキップしてたら、踏み外しまして」
('、`*川「……」
(;^ω^)「あれって脂身まで忠実に再現してて……つるっと滑りやすくて……」
(;^ω^)「落としかけて、つい慌てて取ろうとしたら……」
('、`*川「ねえ、ブーン」
(;^ω^)「はい」
('、`*川「あんたバカ?」
(;^ω^)「返す言葉もございません」
ペニサスはその場に頭を抱えてへたり込んでしまった。
あまりの状況の展開と、バカバカしさに脳みそが理解を拒否してしまったからかもしれない。
とにかく何も考えたくなかった。
-
(,,゚Д゚)「と、いう訳でOrange Lamp緊急会議を始めまーす」
本来なら楽器の音が響いているはずの部室に、5人が円座していた。
それもこれも、全てブーンがやらかしたせいである。
('、`*川「この馬鹿が腕を折りました。以上!」
( ^ω^)「申し訳ねえ」
('、`#川「てめえこの時期にそんなことしておいてその態度はねえだろオラァァァン!?」
(;^ω^)「大変申し訳ございませんでした、痛恨の極みでございます」
('、`*川「ホントお前いきなりやらかしてくれるよな……前のバンドの時もそうだし……」
(;^ω^)「今回の一件においては何も言い返せません」
(;'A`)「まさか霜降り肉のフィギュアを引いて骨を折るなんて思いもしなかった」
(,,-Д゚)「まぁ……やらかしちゃったことはしょうがない」
-
川 ゚ -゚)「でも、どうする? ベース抜きで行くのか?」
(;゚Д゚)「まさか。そんな事するなら大人しく辞退した方がいい」
('、`*川「……しゃーねーな、私がやるわ」
(;゚Д゚)「それも無茶苦茶だよ、だってもう文化祭まで2週間あるかないかだぜ」
('、`*川「ブーンに教えようと思って、ある程度ザックリは覚えてるし」
('、`*川「細かいニュアンスとかアレンジ入れれば何とかなるはず」
(;^ω^)「おっ……」
-
川 ゚ -゚)「良くそんな時間があったな?」
('、`*川「歌詞覚えて歌うだけだと飽きるから、暇つぶしがてらね」
(;'A`)「本当に大丈夫ですか?」
('、`*川「へーきよ、へーき」
('、`*川「今日、丁度ベースも持ってきてるのよね……何なんだろう」
('ー`;川「私今日ついてるかもしれないわね、色々と」
ペニサスは苦笑いを浮かべながら、足元に置いていたケースからベースを取り出した。
取り出したベースのネックの部分に楽器屋のジジイの文字で、調整内容と余白に付け加えるように
『良い一日を。せっかく調整したのだからコケないように』
とジジイの文字で書かれたメモ紙が挟まっていた。
それを見た彼女は、アハハと声を出して笑ったのだった。
-
………
……
…
ブーン事変(ペニサスが勝手に名付けたのだが)翌日。
今日、部室の割り当てが無いドクオのバンドは音楽準備室で練習をすることになっていた。
('A`)「おざまーっす」
そんな音楽準備室のドアを開けた瞬間目に飛び込んできたのは、
椅子に座ってこちらを見てニヤついているペニサス。
そしておそらくこの部屋の隅に転がっていたのであろう、ボロいアコースティックギターを構えて鼻眼鏡をかけさせられているギコだった。
ドクオが入ってくるのを確認するや否や、ギコがポロンポロンと曲を弾きはじめた。
-
https://www.youtube.com/watch?v=tsXkp9FVzgg
('、`*川「お前をボーカルに♪ する前に♪ 言っておきたい♪ 事がある♪」
(;'A`)「え?」
('、`*川「かなり厳しい♪ 話もするが♪ 私の本音を♪ 聞いておけ♪」
('、`*川「ギターをトチって♪ 間違ってはいけない♪」
('、`*川「私よりうまく♪ 歌ってもいけない♪」
('、`*川「とりあえずうまく歌え♪ いつものど飴なめてろ♪」
('、`*川「出来ないと言っても♪ やらせるからな♪」
('、`*川「わあすれてぇ〜♪ くれるなぁ〜♪」
-
(;@Д@)「あ、ヤベッ、ミスった」
('、`#川「おいこらギコぉ! 今からサビだぞサビ! いいとこだったのに!!」
(;@Д@)「しゃーねーだろうよ! 昨日の夜にいきなり覚えて来いって、しかもチューニング狂いまくりのアコギで弾けなんてお前が言うから」
('、`*川「まぁ、いいわ。とりあえず言いたい事言えたし」
(;゚Д゚)っ-@@「いちいちこんな大ボケかまして言う事かあ?」
取った鼻眼鏡をポイッと何処かに投げ捨てるギコ。
急にこんなボケをかまされたドクオは何が何やら、混乱してその場で立ち尽くしていた。
('、`*川「と、いう訳でボーカルはドクオ、お前に任せるから」
(;'A`)「えっ、ちょ、なんで俺に?? てか、ええ?」
-
('、`*川「しゃーねーべ、ベース亡き今、私がガチって覚えるしか無いし、私ベース弾きながらボーカル歌えるほど器用じゃないし」
('、`*川「ていうか昨日練習してて思った。無理」
( ^ω^)「申し訳ねえ」
脇の方に置いてあった椅子に腰かけながらメロンパンを食べていたブーンが、モグモグ口を動かしながら軽く頭を下げる。
この原因となった張本人の癖に、えらく堂々とした態度である。
(;'A`)「僕だってそんな器用じゃないっすよ! ……そうだ、ギコ先輩なら本職じゃないっすか」
(,,゚Д゚)「えー俺ギター弾きたーい、歌うのやだーやだやだー」
(;'A`)「そんな小学生みたいな拒否の仕方しなくても」
川 ゚ ー゚)「私が推薦したんだよドクオ」
先ほどからドラムスローンに腰かけたままこちらを見ていたクーが、混乱しているドクオを見つめながら言い放った。
-
川 ゚ ー゚)「前にこの部屋で『Fell In Love With A Girl』をがむしゃらに弾きながら歌っている君を見てるからね。安心して推薦させてもらった」
確かにいつも適当に曲を弾く時はドクオはギターを弾きながら歌っている。
が、しかしあくまでお遊びのボーカルだ。ドクオは断りを入れようとするが、周りの先輩たちは更に盛り上がっている。
川 ゚ ー゚)「君のバンドで君がリーダーなんだ。大丈夫、誰も文句は言わないさ」
(,,゚Д゚)「そうそう。まぁしゃーないってことよ」
('、`*川「私が譲ってやるのだ光栄におもうがいい、ハッハッハッ」
(,,-Д゚)「……さっきまで『ドクオ大丈夫かな』『負担増えて嫌になったりしないかな』とか言ってた奴がどの口で」
('、`;川「あっ、こら言うな」
( ^ω^)「先輩は優しさの塊ですお」
('、`*川「うるせー殴るぞ」
( ^ω^)「ああ痛い、殴りながら言わないでほしいですお」
-
(;'A`)
これはエライ事になってしまったなとドクオは思った。
まさかブーンが抜けてベースが居なくなるだけでなく、自分がボーカルギターをやる羽目になるとは。
('、`*川「とにかく! 今日から残り2週間……いや、1週間ちょっとか!! 徹底的に鍛えてやるから覚悟しておけ!」
(;'A`)「ええ……」
('、`*川「練習終わったら居残って特訓な! バイト? 休め」
('、`*川「今日から私は鬼軍曹と化す。フハハハ覚悟しろ」
(;'A`)「サーイエッサー!」
('、`*川「問題は場所よねー……」
('、`*川「クーちゃん、準備室って今日でラスト?」
川 ゚ -゚)「うむ。明日からは使わない机とかの置き場所になるから、もう使えない」
学園祭の準備が活性化すると、空き教室などに机などの資材が運ばれて埋まる。
クーが借りている音楽準備室も名ばかりの準備室で死に教室となっているので、ここもまず使われるだろう。
-
('、`;川「うーん、どうしよ……今度こそスタジオ行くかぁ」
(,,゚Д゚)「……屋上」
('、`*川「ん?」
(,,゚Д゚)「屋上で練習したらいいんじゃねーの? あそこいつも誰もいねーし」
('、`*川「おー、それいいね」
川 ゚ ー゚)「まさしく秘密の特訓って感じでいいな」
( ^ω^)「でも屋上だと雨降ったら使えなくないですかお?」
(,,-Д゚)「そのためのこの鍵よ」
ギコは自分の右ポケットから鍵を取り出した。
使われていないのか新しいのか、窓から差し込む光がやけに反射して眩しかった。
-
(,,゚Д゚)「入り口脇に建物あるだろ。あそこは元々去年潰れた天文部の部室だったみたいでさ」
(,,゚Д゚)「倉庫になっちゃってるからゴチャゴチャはしてると思うけどさ」
(,,゚Д゚)「電気も点くし、コンセントもあるからアンプの電気は確保できると思うぞ」
川;゚ -゚)「天文部が潰れたのは知っていたが……」
('、`;川「てか何で鍵持ってんのよ、そんでなんで中知ってんのよ」
(,,゚Д゚)「ん、俺が使ってたから」
(;^ω^)「……ギコ先輩って天文部でしたかお?」
(,,゚Д゚)「はぁ? 俺は1年の時から軽音楽部だっつーの」
(,,-Д゚)「あそこの最後の部長と知り合いでさ、ちょっとお話合いをして鍵と場所を時々譲ってもらってたんだ」
(,,-Д゚)「そん時借りた鍵をちょーっと持ち出して……後は分かるな?」
-
('、`;川「あー、ハイハイ。全部聞いちゃって共犯扱いされたら堪らないから皆まで聞かないでおくわ」
(,,^Д^)「ハハハ、まぁ使ってくれよ。確か俺のアンプも置きっぱになってるはずだ」
(;'A`)「先輩、ありがとうございます」
(,,゚Д゚)「あ、でも万が一見つかった時には自己責任でよろしく」
(;'A`)「ハハハ……」
(,,゚Д゚)「本来は俺が手伝えれば一番いいんだけどな……自分のバンドもあるから」
(,,-Д゚)「ま、これで許してくれや」
ギコは持っていた鍵をドクオに向けてポーンと放り投げた。
スポッと言う効果音が付きそうなくらいピッタリドクオの手に収まったのを見て、ギコはハハハとまた笑った。
-
………
……
…
('、`*川「ぶっちゃけた話、こればっかりは回数を重ねるしか無い」
ペニサスの頬から汗がつぅっと流れ落ちるのが見えた。
屋上入り口脇のこの小部屋は風通しがあの準備室よりさらに悪い。窓が無いので風通しもクソもあったモノではないが。
部屋の中には気持ち程度の小さな扇風機があるくらいだ。
加えてまともに使われていない事もあって埃が喉に張り付く。
('、`*川「ボーカル兼楽器弾きになるための道のりは3行程」
('、`*川「1、曲を弾けるようになる 2、歌えるようになる 3、弾きながら歌う ……以上!」
(;'A`)「さらっと難しい事を簡単そうに言いますね」
('、`;川「あったりめーだろ、簡単だったら私がやってるわ」
-
('、`*川「まぁでもドクオはさ、遊びとはいえちょこちょこ歌いながら弾いてたわけだし、慣れちゃえば案外簡単に行けると思うのよ」
('、`*川「一番難しいのは『弾きながら歌う』とこだってギコも言ってたしね」
('、`*川「それが既に他の曲とはいえ出来るあんたならどうにかなるはずなのよ」
('A`)「なるほど」
('、`*川「私見てるくらいしか出来ないけど、ちゃんと聞いてあんたにアドバイスくらいは出来るはずだから」
('、`*川「とりあえず、やってみよう」
('A`)「……はい」
この埃と打ちっぱなしの壁から伝わる熱で室温がだだ上がりな、最悪の環境で特訓が始まった。
しかしその勢いも2時間も経たずに途切れてしまう。
あまりにもこの部屋の中の空気が淀みすぎて、ドクオの喉が先にやられてしまったからだ。
-
(;゚A゚)「ゲフッゲフッ」
('、`;川「だ……大丈夫か? ゴホッ」
部屋から飛び出し、もたれるように屋上の手すりでグッタリしているドクオの背中をさするペニサス。
そのペニサスもゲホゲホと咳き込みながら自分の喉をさすっていた。
('、`;川「水飲む?」
ペニサスは自ら口をつけたペットボトルをドクオへ差し出す。
彼は特に躊躇する事も無くそれを受け取ると、グイッと一気に飲み干した。
('、`;川「……落ち着いた?」
(;'A`)「ええ、何とか」
その言葉を聞いてふうと安心したように息を吐き出したペニサスは、おもむろにドクオの隣に並び彼と同じように柵に寄りかかる。
-
('、`*川「もうすっかり秋じゃん」
屋上に強く吹き付ける風は、夏のようなジメッとした暑さが無くスッキリしていた。
共に運ばれてくる匂いも草木の青臭さが限りなく薄くなり、どんどんと枯れたような冷たい風が身体を包んでいた。
('、`*川「そろそろ1ヶ月経つわね、」
('A`)「……そーっすね」
あの、屋上での電撃結成からもう1ヶ月も経つと言うのだ。
ドクオは時の流れる早さに少し、不思議な感覚を覚えてしまう。
('A`)「……先輩」
('、`*川「ん? 何?」
('A`)「どうして先輩は俺とバンドやってくれたんですか?」
-
彼女、ペニサスは比較的不真面目な人間だ。
ひいき目に見ても真面目でない事は、彼女を知っている人間の9割は理解している。
そんな彼女が唯一真面目に取り組んでいたのがバンドであり、音楽である事も同じ割合位の人間が知っている事だろう。
だからこそ不思議だったのだ。
彼女の前のバンドがいくら人数が揃わず、練習が上手くいってないからと言って、こちらにこんなに力を入れているのは何故だろうと。
('、`*川「んー……」
('、`*川「いやね、お前らのバンドが壊れたタイミング位でうちのバンドもほぼ解散状態になったんだよ」
(;'A`)「えっ!?」
('、`;川「あれー? ゴメン言ってなかったっけ」
(;'A`)「初耳っす」
('、`*川「ドクオとさ、部室で『Shoot you down』やったあの日にさ、まぁ喧嘩別れしちゃって」
('ー`;川「『最後くらい真面目にやりたい』って言ったらめっちゃ喧嘩になっちゃってさ」
-
(1∀1)『今まで真面目になんてやってこなかった奴がそんなこと言う?』
(2∀2)『冗談もいい加減にしとけって。こっちだって色々あんだよ』
(3∀3)『女とか?』
(2∀2)『うっせ殺すぞ』
ゲラゲラゲラ……
ゲラゲラ……
ゲラ……
('、`*川「私の組んだバンドのメンツってさぁ、まぁ、私と一緒であんまり真面目じゃなくて」
('、`*川「……なんつーか『これでいいんじゃね??』みたいな妥協の塊で出来てたバンドだったんだ」
('、`*川「だから、最後に妥協無しで行こうぜって話したら……まぁ私のせいもあるけど、こうなっちゃって」
-
('、`*川「そんなときにさ、お前のバンドが別れてさ、そんで茶化してた私の目の前で『バンドやりたいです』なんて真面目な顔して言っててさ」
('、`*川「その時思ったんだよね。なんつーかこの機会逃したらもう二度と頑張れなくなるんじゃないかって。そんな気がして」
('ー`*川「……だから、全部私の自分勝手な都合なの。ゴメンな、ドクオ」
('A`)「? 何を謝る必要があるんです?」
('ー`;川「だってさ、私がバンドぶっ壊れたからお前に便乗してるだけなんだよ? やってることは過程が違えどツンと一緒さ」
('A`)「だって先輩は真面目にやってるじゃないですか。僕にだってこんな熱心に教えてくれてるし」
('A`)「しかもタイミングが丁度良かったと言え、バンドやりたいって言う僕のワガママに付き合ってくれて」
('A`)「色々やってくれる先輩に感謝ことすれど怒りなんて絶対にしませんよ」
-
('、`*川「……ドクオは優しいなぁ」
(;'A`)「結果で言えばこっちが振り回してるようなもんですからね」
(,,゚Д゚)「ういーっす」
いつの間にやらやってきていたギコが校庭を柵越しに眺めながら話していた彼らの背中を叩く。
2人はほぼ同時にギコの方へ振り返る。
('、`;川「おめえ……とんでもないとこ紹介してくれたな」
(,,゚Д゚)「だって最終手段だもん」
(;'A`)「埃まみれで使えたもんじゃ無かったですよ」
(;゚Д゚)「あ、ごめん、換気しろって言うの忘れてたな」
('、`*川「おかげで喉ガビッガビだよ」
-
(,,-Д゚)「ゴメンゴメン、2人にジュースでも奢るわ。先行って選んでおいてくれよ」
('、`*川「やったぜ」
そう言って意気揚々と出口へ向かっていくペニサスの後に続いてドクオが歩き出そうとした瞬間、ポンとまたギコに肩を叩かれた。
(,,゚Д゚)「……あんまり気にすんなよ? 迷惑かけてるとかどうだとかさ」
('A`)「……聞いてたんですね?」
(,,-Д゚)「聞いたんじゃない、聞こえたのさ。後ろにいたらな」
(,,゚Д゚)「みーんな、ここまで付き合ってくれてるって事は、みんな楽しんでやってるって事なんだ」
(,,゚Д゚)「だから、一々聞くのも野暮ってもんだぜ」
-
(;'A`)「……すいません」
(;゚Д゚)「いやっ、謝るとこじゃねーよ! ……そこはお前のいいとこでもあるんだからさ」
(,,゚Д゚)「ほら、ジュース買いに行くぞ」
('A`)「あの、先輩」
(;゚Д゚)「あん? 早く行かねーとペニサスキレちまうぞ」
('A`)「先輩は、なんで掛け持ちしてまで僕のバンドに……?」
(,,゚Д゚)「……そりゃーお前」
(,,-Д゚)「向こうで弾けないギターを弾きたいだけさ」
https://www.youtube.com/watch?v=geJthfw049k
-
………
……
…
(,,゚Д゚)「ういーっす」
ある日の放課後、部室に少し遅れてやってきたギコが片手に持った用紙をヒラヒラと振りながら入ってきた。
(,,゚Д゚)「今年の演奏場所とかがようやく決まったとさ」
('、`*川「えーやっと? 今年遅くない?」
中々チューニングが上手くいかないようで、さっきからペニサスはヘッドに付けたチューナーとずっとにらめっこ状態だった。
(,,゚Д゚)「なんかOBのお笑い芸人が学祭当日にイベントするって、急遽決まったらしくてさ」
川 ゚ -゚)「なんだそれ。こっちの都合はお構いなしだな」
クーもさっきからチューニングに苦戦している。何回もスネアを鳴らしては張り具合を調整している。
('、`*川「有名人なんてそんなもんよ。名前しらないけどね、そのOB」
( ^ω^)「あ、でもこの前ローカル番組に出てたお」
3枚目のメロンパンの皮に口をつけたブーンの口の端から欠片がポロポロ落ちる。
片手で食べるのも最早慣れっこのようだ。
-
ブーンとことんダメだな
しかしバンドメンバーそれぞれにスポット当てられてていいね
-
(,,゚Д゚)「でも今年の演奏場所は最高だぜ?」
('、`*川「え、なに? いつものホールじゃないの?」
(,,゚Д゚)「そこをそのOBに貸し出すんだと。だから俺たちの演奏場所は……」
('A`)「ちゃーっす」
ギコが場所をペニサスに伝えようとした瞬間、ドクオが部室へと入ってきた。
思わぬタイミングで入ってきたドクオを、思わずペニサスがじっと見つめる。
(;'A`)「……あれ? 何か入ってきちゃまずかったすか?」
('、`*川「……うんにゃ、全然大丈夫。ただ、タイミングが常に悪くて最低だなぁと……」
(;'A`)「詫びてるのか貶してるのかどっちかにしてくださいよ」
-
( ^ω^)「おっおっ、乙だお」
(,,゚Д゚)「今日やけに来るの遅かったな。どうしたんだ?」
('A`)「え、ギコさん行ってないんですか? 開催委員会にバンド毎責任者集合って言われてたじゃないですか」
(;゚Д゚)「あ! ……今日だったか出演順番決めの日」
(;'A`)「あ、あれ順番決めなんですか? 何かいきなりクジ弾かされたからサッと引いちゃいましたよ」
(;゚Д゚)「やべーなー、委員会の奴からチラシ貰って満足しちゃってたわ」
('、`*川「で、何番引いたのよドクオ」
ようやくチューニングが上手くいったペニサスは、チューナーを外そうとヘッドへと手を伸ばした。
('A`)「えーっと……5番ですね」
-
その数字を聞いた瞬間、ペニサスは外したチューナーを手からぽろっと床に落とした。
カツーンと乾いた軽い音を響かせながら床を滑る。
('、`*川「……なあギコ……今年の出演バンドって何組だっけ」
(,,-Д゚)「俺のバンド、Orange Lamp、ツンwithジョルジュバンド、2年生バンド、そんで一般生徒の有志バンドだな」
川 ゚ -゚)「……うちのバンドは大トリってことか」
(゚A゚)「えっ?」
( ^ω^)「おっ?」
('、`*川「……で? ギコ、今年の場所と時間は?」
(,,-Д゚)「書類によると『今回バンド演奏の開催場所を校舎2階ホールから、体育館へと変更する。時間帯を最終日16時より……』」
('、`*川「ようするに、バンド演奏が学園祭の全プログラムのラストのラスト。最後は校長のあいさつで閉めるだろうから……実質全校生徒の前での演奏ね」
-
((((((゚A゚))))))
('、`*川「前言撤回。ドクオお前やっぱ持ってるわ。最高だわ」
(,,゚Д゚)「ラストのラストか……いい思い出になりそうだな」
川 ゚ ー゚)「本当、いい最後の飾り方だな。ドクオに感謝しなければ」
(*^ω^)「おっおっ、最前で応援するお」
笑顔で和気あいあいと話すブーンと先輩たちの傍らで、ドクオは頭の中が真っ白になって固まっていた。
(゚A゚)「(俺が、ボーカル、大トリ、全校生徒、体育館)」
(;゚A゚)「(そこで、歌、歌う?)」
('、`*川「もしも〜し、ドクオさん生きてますか〜」
ドクオの目の前でひらひらと手を振るペニサス。ドクオは瞬きすら忘れたように目をかっぴらいて突っ立っている。
-
ハードルwww
-
(,,゚Д゚)「いやーでも、すげえよドクオ。本当にマンガみたいだ」
川 ゚ -゚)「人生で1度でも経験できるかってレベルだな今回のは」
(;^ω^)「……あれ? 僕すげー勿体ない事をしてしまったのでは」
('、`*川「感謝感謝。南無南無」
そう言ってペニサスがドクオに向かって拝むと、ドクオがプルプルと震えだす。
痙攣というよりは、遅れてきた武者震いのような感じだった。
((((;゚A゚))))「おっおっおっ」
('、`*川「お?」
(;^ω^)「あれ? 僕? あれ?」
(;゚A゚)「お、俺、練習しないと! 練習しましょ!先輩!!」
-
('、`*川「おーそうだな! 恥かけねえもんな大トリリーダー!」
そう言ってニヤニヤしながらベースを構えるペニサス。
川 ゚ ー゚)「うむ。リーダーには頑張ってもらわないと」
同じく、ドラムスティックを持って構えるクー。
(;゚Д゚)「えーっと、とりあえず俺クジ引いてきていいかな?」
そして入口に手をかけた状態で許可を貰うのをギコが待っていたのだった。
https://www.youtube.com/watch?v=penvn9VL32Y
-
………
……
…
校内が普段よりも慌ただしさを増している。
普段聞こえる生徒の喧騒よりも、さらに多くの声と音が校舎の中に響き渡る。
学園祭がいよいよ目前へと迫ってきた。
出店する各クラスは最後の打ち合わせと調整に勤しみ、展示・実演をする部活動は練習と作成に勤しむ。
もう気が早いところでは、資材や機材の準備も始めているらしい。
この残りの期間はとにかく加速度的に過ぎていく。
それは軽音楽部にとっても例外ではない。
ドクオのバンドも、いよいよ練習から本番に向けてのリハーサルに近い形へと移り変わる。
まさしく佳境を迎えていた。
-
('、`*川「あれー? ブーンは?」
('A`)「クラスで出す焼きそばの指導してます」
川;゚ -゚)「し、指導?」
('A`)「アイツの作る焼きそばってマジで旨いんですよ、屋台の名店並みに」
('A`)「食品に関しては一切妥協をしたくなくて自分でやりたかったらしいけど、腕あの状態じゃないですか」
(;゚Д゚)「まぁな」
('A`)「だから指導」
('、`;川「そ……そこまでやるの?」
('A`)「ラーメン屋の暖簾分けみたいなもんっすね。合格出すまで焼きそばは出せねえみたいな」
川;゚ -゚)「材料費練習だけで尽きちゃうんじゃないのか」
('A`)「ブーンの自費だから大丈夫です」
('、`;川「……すごいねぇ……」
-
('A`)「……そんじゃ、確認しますね」
バンドのメンバーはA4の紙を囲むようにしゃがんでそれを見ている。
ドクオが書いてある文字を指で追う。
('A`)「えー制限時間30分、SEが流れてから退場するまでが時間ですね」
('A`)「とりあえずSEが流れたら任意のタイミングで入場、観客側から見て左手側がベースアンプ、右と中央がギターアンプなので……」
('、`*川「あー、分かった分かった。そこは変わらないから一々言わなくて大丈夫」
(;'A`)「あっ、さーせん」
(,,^Д^)「ま、とりあえず集合時間に遅れなきゃなんとでもなるよ」
川 ゚ -゚)「去年のペニサスなんか完全に遅刻してきたし、殆ど飛び入りに近かったからな」
('、`;川「うっ、うるせーやい、屋上で居眠りしてたら時間が来てたんだ文句あっか!?」
(,,゚Д゚)「……今回は無しでよろしくな?」
('、`;川「信用無いなあ」
川 ゚ -゚)「ペニサスだからな」
-
('、`;川「ああん、クーちゃんに言われると心に刺さるわぁ」
ドクオはいそいそと真ん中に置いていた紙を脇に置いていたクリアファイルに入れる。
そしてそのクリアファイルからまた違う2枚目の紙を取り出した。
('A`)「そんでこれがセットリストです」
きっちりメンバー分コピーしてきたそれを、各メンバーの前に配っていく。
全員がそれを手に取りながら眺める。
('、`*川「あ、結局変更なしなんだ」
('A`)「ちょっと悩んだんですけどね」
(,,゚Д゚)「MC入れんの?」
('A`)「んー軽くバンド名言うだけでいいかなって……」
-
川 ゚ -゚)「いざとなったらペニサスにふりなさい」
(,,゚Д゚)「漫談で場を繋いでくれるから安心してふれ」
('、`*川「なんか私の扱い雑くない?」
(,,゚Д゚)「そんなもんそんなもん」
川 ゚ -゚)「そんなもんそんなもん」
('、`;川「えー」
ドクオは手に取ったセットリストを改めて見直す。
数曲練習した中から、制限時間に収まる様に絞り込むのは、ドクオにとって死ぬほどつらい作業だった。
タダでさえ好きな曲を何度も練習した事で更に思い入れが強くなってしまった。
さらにその曲の中からいいものを選んでいくというのはドクオにとっては中々拷問に近いものがあった。
なのでフラットに見てもらえる他のメンバーの協力も仰いだのだ。
もちろん、演奏のしやすさ等の要望を聞くという意味もあったが。
そうしてようやく決まったセットリストは、ある意味メンバーの努力の結晶だ。
全ての時間と思いの入った曲を、これでもか!という位に詰め込んでいる。
-
('A`)「(もし観客が満足しなくても、俺にとっては最高の時間になるな)」
ドクオは、セットリストに書かれた曲目を見つつ、満足そうに頷いた。
('A`)「(例えこれがオナニーだと言われたとしても、俺にとっちゃ本懐だ)」
(,,゚Д゚)「よっしゃ、じゃあ今日の練習は通しでやってみよう」
('、`*川「あー何か緊張するわぁ……」
川 ゚ -゚)「おや、ペニサスでも緊張する事があるんだな」
('、`;川「あんた、私をなんだと思ってんのよ」
川 ゚ -゚)「ペニス脳」
('、`*川「クーちゃんに真顔で言われちゃうととても悲しい気分になっちゃうぜ!」
-
('A`)「あ、だから怒ると頭が血で一杯になっちゃって頭回らなくなっちゃうんですね?」
('、`;川「お、お前……事実だから何も言い返せない! く゛や゛し゛ぃ゛〜〜〜」
(,,゚Д゚)「はいはい練習するぞ〜。今週から時間無いんだから」
学園祭1週間前のこの時期になると、軽音楽部だけでなく有志バンドにもこの部室を解放するのが例年の決まりになっている。
近所のいつも使っているスタジオも、この時期だけ値段を上げている。よってどのバンドもなるべくスタジオは避けたい。
なので予約が殺到し、部室の貸し出しタイムスケジュールはカツカツとなる。
そのため1バンドあたりの貸し出し時間も短くなってしまっているのだ。
(,,゚Д゚)「でもさーよく考えたら屋上使えばいいんじゃ」
('、`*川('A`)「「ダメです」」
(;゚Д゚)「あ、あぁうん……」
-
ギコは足元に置いてあるエフェクターを踏む。
そしてリフを刻みはじめる彼に合わせてドクオもテレキャスターを鳴らす。
呼応するようにペニサスのベースが、クーのドラムが響く。
そしてドクオの歌声がそれに彩を添えるのだ。
バンドの奏でる曲がドンドンとテンションを上げていく。
それに引っ張られるように、ドクオのテンションも上がっていく。
('A`)「(普段表に出せない昂ぶりが、一気に解放されていくのが自分でも分かる)」
('A`)「(やりたい事をやりたいようにやる、そして気持ちよく自分を解放する事が出来るのが今なんだ)」
('A`)「(本当に楽しい。月並みの言葉だがこれしか言えない。これ以外に形容する言葉が見つからない)」
そしてその時間はあっという間に過ぎていく。
最後の一音の残響をアンプが鳴らしながら、演奏は終わる。
まるで、いつまでも続けばいいのにと思っているかのようなそのフェーズアウトしていく音を聴きながら、ドクオは快感に浸るのだ。
-
(;゚Д゚)「……結構良かったんじゃね?」
('、`;川「うん、ここ最近の中では最高かも……」
流れる汗をペニサスとギコは右手に付けたリストバンドで拭う。
川;゚ -゚)「本番に取っておきたかったくらいだよ」
クーもタオルで顔に浮かんだ汗を拭きながら満足そうな顔を浮かべている。
ドクオも、これ以上ない手ごたえを今の演奏で掴んでいた。
(;'A`)「い、今俺結構上手く歌えてましたよね? リズム狂わなかったし」
('、`*川「んーまぁ90点ね。英語の発音がクソ過ぎて私的に-10点」
(;'A`)「帰国子女にそこを突っ込まれてしまうと俺は何にも言えません」
('、`*川「はっはっはっ、でも大分良くなってる。安心しなよ」
そのペニサスの言葉を聞いてドクオはホッとする。
これまで散々スパルタな教育と辛口なコメントで調教されてきたペニサスの口から、優しい言葉がようやく出てきたからだ。
-
(,,゚Д゚)「あとはこれを続けていこう。本番でもこのクオリティで出来れば、他の奴らなんか目じゃないぜ」
川 ゚ -゚)「うん、頑張って残りの期間も練習して行こう」
(,,^Д^)「ま、一番は俺のバンドだけどなーハハハ」
('、`*川「聞いたぞギコ、こっちの練習にかまけすぎて結局向こうのバンドでオリジナル曲やるの止めたんだって?」
(;゚Д゚)「! な、なぜそれを知っている!」
('、`*川「しいちゃんが愚痴ってたよ、『ペニサスのバンドの方にお熱入りすぎて困ってる』って」
(;゚Д゚)「あちゃー……まあクオリティがイマイチだったから……向こうだけやってても没だったかな、あれは」
('、`*川「結局なにやるの? またデリコ?」
(,,゚Д゚)「うん、皆で相談してそれでいいって」
-
('、`*川「ちゃんと弾けんの?」
(,,゚Д゚)「当たり前だろ馬鹿。なんなら今弾いてやろうか?」
('、`*川「だってよ?だってよ? 1年生の頃に取り乱したギコ君が!」
(;゚Д゚)「あっ! やめろその話はするんじゃねえ!!」
('A`)「なんです? その面白そうな話」
川 ゚ -゚)「ああ、彼が1年生の頃の学園祭の時な……」
唐突。この一言に尽きる。
バンと扉の開く音がした。
人ごみの中突然鳴り響く破裂音のように部室内が一気に静まり返り、そして視線は扉の方へ集中する。
-
_
( ゚∀゚)「うーっす」
壁に掛けてある時計を見ると、思ったより時間が過ぎていた。
('、`*川「あ、ジョルジュじゃん、……あ、時間か。ゴメンねーすぐどけるから」
_
( ゚∀゚)「良いっすよ全然。まだこっちもメンバー揃い切ってないんで」
(,,゚Д゚)「え? アサピーもネーヨもいるじゃん」
(-@∀@)「うちに新加入したお嬢様がまだ来ていないんでね」
分厚い眼鏡をかけて、相変わらず神経質そうな顔をしながら朝日、通称アサピーが皮肉をこめて吐き捨てるように言った。
背負ったベース用のソフトケースに付けている缶バッジが、窓から差し込む日を反射して輝いている。
( ´ー`)「アイツに常識を期待する方が間違ってるんじゃネーノ?」
根予も呑気そうな顔をしながら、相変わらず毒たっぷりの言葉を同じように吐き捨てた。
('、`*川「あー、お前らのとこだったっけ、ツン入ったの」
_
(*゚∀゚)「そうなんすよ、結構彼女の歌っていいとこあって。おっぱいは小さいけど」
「あれのどこがいいんだよ」と、アサピーがぼそっと呟いたのが、ドクオの耳に飛び込んできた。
-
('、`*川「私の胸見ながら小さいとかいうなよお前」
_
( ゚∀゚)「いや、クー先輩が大きすぎるだけで決してペニス先輩が小さいわけでは」
('、`*川「お前私の中の『真っ先に殺すリスト』最上位に入ったからな、覚悟しておけ」
_
(;゚∀゚)「ちょっ、勘弁してくださいよ〜」
('、`*川「お前らも、ビシッと〆てやれよビシッと」
(-@∀@)「……できりゃあいいんですけどね」
( ´ー`)「寵愛されて庇護されて。ぬくぬく育てられているから中々難しいんじゃネーノ」
('、`*川「なんじゃそりゃ〜お前らパンクバンドだろ! パンク魂を見せろ! パンク魂を!」
(-@∀@)「いやー、やる曲も変わっちゃって……大人しくなっちゃいました」
(;´ー`)「ステッカーべったべたのアサピーのベースであんなシットリした曲弾かれると調子狂うわマジ」
-
('、`*川「戦え! 叩け! 反体制だろうが! 反旗を翻せ!」
_
(;゚∀゚)「あのー、うちのバンドに反逆扇動するのやめてもらえます?」
その時、足音が廊下から響いてきた。
『待たせたわね』と言わんばかりにツンが廊下を闊歩してやってきたのだ。
走る素振りすら全く見せず、悠々と歩く姿は既に『軽音楽部の女王』と言っても差支えないんじゃないかとドクオはその姿を見て思った。
https://www.youtube.com/watch?v=krCk3EcsaxE
ξ゚⊿゚)ξ「すいませ〜ん、お待たせしましたぁ」
_
(*゚∀゚)「あっ、ツンちゃん大丈夫大丈夫! まだ全然過ぎてないから!」
そのツンの姿を見たアサピーとネーヨはとても苦々しい表情で彼女を睨みつけていた。
舌打ちを今にでも飛ばすんじゃないかと思うほどに彼らは憎々しい表情をしていた。
ツンとお話しする事で頭がいっぱいのジョルジュは、その事に気が付いていないようだが。
-
('、`*川「さ、さっさと避けますか」
(,,゚Д゚)「おう、行こう行こう」
川 ゚ -゚)「うむ」
('A`)「はい」
入口でツンとすれ違う先輩一同にドクオも続いて歩いて行った。
正直、あのバンド解散は誰が悪いわけでも無く、複合的な問題が重なった末の分解だったのだと思う。
それでも、決定打となった彼女とはとても目を合わせる気にはなれず、ドクオも一瞥もせず立ち去る。
はずだったのが、いきなり肩を誰かにグッと掴まれた。
-
ξ゚⊿゚)ξ「ねえドクオ」
掴んだのは、ツンだった。
脇目に動揺しているジョルジュがチラッと見えたが、ドクオはツンの方へ向き直った。
('A`)「……何?」
ξ゚⊿゚)ξ「あの先輩達とバンドやってるの?」
('A`)「そうだけど?」
ξ゚⊿゚)ξ「ふぅ〜ん……」
ξ゚ー゚)ξ「何かよく分かんない曲やってたね!」
ξ゚ー゚)ξ「聴いてたけど、ドクオ歌ってるのも下手くそだったし」
('A`)「……」
-
ξ゚⊿゚)ξ「前のバンドの時もさ、なーんにも言わないで分かってる自分みたいな感じで私たちを遠巻きから見ちゃってさ」
ξ゚ー゚)ξ「相変わらず好きだね、そういう自己満」
('A`)「……で?」
ξ゚⊿゚)ξ「は?」
('A`)「言いたいのはそれだけ? なら俺行くけど」
ξ#゚⊿゚)ξ「はぁ? 先輩方に迷惑だとか思わないワケ? あんたの好き勝手にやってることに付き合わせてるだけじゃない!」
('A`)「それでいいんだよ、俺がやりたい事なんだ。これは」
ξ#゚⊿゚)ξ「だから自分勝手だって言ってんのよ! そういう所が本当にムカつくのよ! キモイ!」
立ち去ろうとしたドクオの背中に向かって相変わらずのヒステリックな叫び声をツンが突き刺す。
('A`)「みーんな自分勝手にやってるぜ、うちのバンドは少なくともな」
('A`)「……それに、その理論で言うならツン、お前も十分自分勝手だと思うよ」
-
これは悪いツン
-
やれやれと言った感じで振り向き、ドクオはそう言ってまた立ち去った。
何かが、カツンと足に当たった気がした。何か投げられたのだろうか。
特に気にせず、歩き続けた。
廊下を曲がり、階段を下りた先の踊り場で先輩たちが待っているのが見えたので、ドクオは慌てて駆け下りる。
('、`*川「何してんのよ」
(,,゚Д゚)「ツンと何か話してたん?」
('A`)「ええ、まぁ……」
川 ゚ -゚)「よし、じゃあ行くぞ」
横並びで4人は、同時に一歩踏み出した。
歩調を合わせているわけでも無い。他の人を見ているわけでも無い。
それでも彼らは一緒に歩いたのだ。
-
………
……
…
部屋の中にけたたましいベルの音が鳴り響く。
それに続くようにスマートフォンのアラームも大きな音で時間を知らせる。
のそっとベッドから起き上がったドクオは鳴れた手つきで目覚まし時計のスイッチを押し、スマートフォンの画面をシュッとスワイプする。
画面の表示は6時30分。毎朝こうだ。何も変わらない。
いつもと同じだ。
J( 'ー`)し「ドクオ、今日学園祭なんだっけ」
('A`)「そうだよカーチャン」
運ばれてきたトーストにマーガリンを塗りながら答える。
とーちゃんの朝はいつも早い。今日も起きた時には既に出発した後だった。
-
J( 'ー`)し「ドクオも何か出るのかい」
('A`)「うん、まぁ、一応……」
J( 'ー`)し「最近毎日ギターの練習してたの聞こえてたもの。上手く出来るといいわね」
('A`)「うん、まぁ、一応……」
J( 'ー`)し「かーちゃんも見に行っちゃおうかしら」
('A`)「うん、まぁ……」
(;'A`)「かーちゃん、それは勘弁してくれ」
J( 'ー`)し「ふふふ、冗談よ」
そう言いながら牛乳を注いだコップをドクオの前に差し出すかーちゃん。
ドクオは少しホッとした。
-
('A`)「かーちゃんが来てもつまらないと思うよ。煩いし」
J( 'ー`)し「あら、かーちゃんも昔よく聞いてたのよ、ロック」
('A`)「へぇちょっと意外だなぁ、何聞いてたの?」
J( 'ー`)し「Bad ReligionとかThe Misfitsなんかよく聴いてたわね〜」
(;'A`)「!?」
https://www.youtube.com/watch?v=moPY9_wqH-8
https://www.youtube.com/watch?v=HJpaqOFjJME
-
かーちゃんワロタ
-
(;'A`)「……その手のCDの類、家で全然見たことないんだけど」
J( 'ー`)し「ここに引っ越しするときに処分しちゃったのよね、今考えると勿体なかったわ〜」
J( 'ー`)し「でも、ドクオがお腹の中にいた頃はガンガン流してたのよ。スターリンとか」
(;'A`)「吐き気がするほどロマンチックだね」
https://www.youtube.com/watch?v=r3OMoHX7qzA
J( 'ー`)し「ともかく頑張ってくるのよ。一発ぶちかましてきなさい」
そう言ったかーちゃんのファックサインに見送られながら、学校へと向かった。
ドクオは自分の価値観を見直すことが必要になってきたかもしれないと真剣に思い始めた。
-
('A`)「と、言う訳で俺は人生を見直す必要が出てきたわけです」
(;゚Д゚)「なんじゃそりゃ」
(;^ω^)「パンク過ぎて意味分かんねえお」
学校の付近で出会ったギコに朝の出来事を話したドクオは、困惑した表情でギコとブーンに顔を見つめられた。
ギコの相変わらずのツンツン頭は、今日は一段とビシッときまっているように見える。
一方のブーンは相変わらず痛々しい包帯姿だったが、もうギプスは取れるレベルには回復したらしい。
(;゚Д゚)「ま……まぁ今日は頑張ろうな」
(;'A`)「そっすね」
-
('、`*川「あ、おっはよー」
川 ゚ -゚)「おはよう」
校門正面の横断歩道で信号が変わるのを待っていると、一緒に歩いてきたクーとペニサスに声をかけられた。
普段、1人や2人に出会う事はあっても、バンドメンバー全員が一堂に揃うのは珍しい。
この道を歩いて、彼らに遭遇したことがドクオは少なくともなかったからだ。
('、`*川「ついに本番ですよ! 本番!」
そう言ってドクオの背中をバンバンと叩くペニサス。
やはり気持ちいつもよりテンションが高い。
(;'A`)「いてえっす、いてえっす」
川 ゚ ー゚)「ふっふっふ、初ライブだな。頑張るぞ」
同じくドクオの背中を叩くクー。
ペニサスよりも、いくらか優しい叩き方だった。
-
(;'A`)「うっす、頑張るっす、うす」
( ^ω^)「僕も頑張りますお!」
('、`*川「おう、ブーンも焼きそば番長頑張れ」
( ^ω^)+「来てくれたらサービスしますお」
(,,^Д^)「いいねえ、お前の評判の焼きそば食ってみたかったんだ」
そんなこんな話していると、いつのまにか正面玄関に到着していた。
下駄箱で各々と別れたドクオは上靴に履き替えてから、パンパンと両手で自分の頬を叩いて気合を入れる。
いよいよ、この日が来たのだ。
あまりに緊張しすぎて午前中だけでたこ焼きのタネを3回ほど地面にぶちまけてしまい、クラスメイトから罵声を浴びせられてしまった。
こっちはあまりにも散々だった。
-
………
……
…
リハーサルの時間になり、ドクオは落ちつかずその場をウロウロとしていた。
指定されている集合場所には、ミスの連続で追い出されるように教室から出てきたドクオが一番乗りのようだ。
今も体育館の中では出し物が行われている。
漏れ出てくる低音とポップな音から察するに、ダンス部のパフォーマンスでもやっているのだろうか。
誰も居ない集合場所の体育館脇で、ドクオはその音に耳を傾けていた。
今回のリハーサルは音を出して、音量を決めるだけ。
PAとの打ち合わせみたいなものだ。
時間が無いのでここで決めたセッティングで本番を迎えることになる。
曲を通す時間なんかはもちろんない。
そんな大したことをするわけでは無いが、とても重要だ。
-
( ・∀・)(´∀` ) ( ・3・)(ФωФ )
ボーっとしていると、続々と人が集まってきた。
見知った顔もいれば、普段見慣れない顔もいる。多分知らない顔は一般有志の生徒だろう。
(´・ω・`)「あっ」
('A`)「おっ」
久々に見た顔な気がした。
つい最近の合宿でも顔を合わせているのに。
(´・ω・`)「どう? そっちは」
('A`)「まぁボチボチ」
(´・ω・`)「ふぅーん、そう」
(´^ω^`)「でも、先輩しかいないんだから下手なわけないよね」
-
('A`)「当たり前じゃん、何言ってんの?」
(´^ω^`)「いやさ、それでショボかったら面白いよねって」
('A`)「……はぁ?」
(´^ω^`)「だってドクオもそんな……ねぇ?」
('A`)「お前ケンカ売ってる?」
(´・ω・`)「そんなそんな、とんでもない。ただ僕は事実を……」
('A`)「おもしれえ事……」
(,,゚Д゚)「おもしれえ事言ってくれるじゃん」
ヌッと、突然ツンツン頭が姿を現した。
普段よりもさらに尖っているように見えるそれは、最早何で固めているのか分からない程に鋭利だった。
それに加えて普段とは違う革ジャンのゴツイ恰好をしている先輩は、更に威圧感が増していた。
-
(;´・ω・`)「あ、先輩こんちゃーっす」
(,,^Д^)「今日はショボンさんの演奏を聴いて勉強させていただきますぅ〜」
(;´^ω^`)「いやーもう、そんなそんな、先輩から逆に勉強させていただきます」
そう言ってそそくさとその場から立ち去るショボン。
ギコはさっきまでショボンが立っていた場所に向かってペッと唾を吐いた。
(,,゚Д゚)「ああいうのホントムカつくわ」
(;'A`)「先輩スンマセン」
(#゚Д゚)「ホントだよ! お前一発くらいぶん殴っときゃ良かったんだ」
川 ゚ -゚)「そういうのは良くないな」
黒髪をなびかせながら、クーが颯爽と現れた。
いつも通りの制服姿で現れた彼女は、担いでいたベースをそっとそばの地面に寝かせた。
-
(,,゚Д゚)「だってあいつ舐めた事言ってからよ」
川 ゚ -゚)「君がそういう事をするのはダメだって言っているんだ」
川 ゚ -゚)+「私がぶん殴れば問題あるまい?」
(;゚Д゚)「いやいやいやいや」
(;'A`)「いやいやいやいや」
('、`*川「そういうのは私の仕事だっつーの」
一同はやってきたペニサスの姿に自分の目を疑った。
黒のワンピースのスカート裾に白のフリル、そして同じくフリルのついた白いエプロンを身に着けている。
('、`*川「いまどきメイド喫茶やるとか言って馬鹿じゃねーのと思いながら着てみたんだけどさ、これが中々で……」
-
('、`*川「どーよ似合う? メイド服」
(,,゚Д゚)「全然」
川 ゚ -゚)「全く」
('A`)「ゲロ吐きそうです」
('、`*川「……酷くなぁい? ちょっと私久々にガチで傷ついちゃうよ〜」
('、`*川「あとドクオ貴様は殺す」
(;'A`)「ご、誤解っす、『緊張で』が抜けただけっす」
川 ゚ -゚)「普段の制服すらコスプレに見えるレベルなのだから、コスプレを着たら異質なモノに見えるのは仕方の無い事だ」
(,,゚Д゚)「うむ」
-
('、`;川「私がメイド服を着ると服ですらない何かに見えるのか……?」
('、`;川「ていうか制服すら似合わないって、私一応女子高生よね……?」
川 ゚ -゚)「まぁ、それはおいといて」
('、`;川「このまま着て出ようと思ったけどやめよ……」
(,,゚Д゚)「もうそろそろダンス部終わるから準備しておけよ、リハ最初だし」
('A`)「あれ? 俺たちってトリですよね? なんで最初に……」
川 ゚ -゚)「? トリだからに決まってるじゃないか」
('、`*川「トップバッターを最後に調整させればそのセッティングのまま本番行けるんだから楽だろバーカ」
(;'A`)「ああ、なるほど」
(,,゚Д゚)「調整どうする? 1人1人客席行って見る時間なんてねーよな?」
-
( ^ω^)+「そこで僕の出番って訳だお」
(;゚Д゚)「のわぁ! ビックリした!」
('、`*川「うん、この焼きそば屋台の主人を呼んでおいたからコイツに任せようと思う」
川 ゚ -゚)「どうだ? 売り上げは」
( ^ω^)「お陰様でバッチリ売れてますお、学園祭の過去最高記録更新を狙えるレベルで売れてて、てんてこ舞いですお」
(;'A`)「そんな状態でこっち来てて大丈夫なのか?」
( ^ω^)「まぁ僕片手折ってるから呼び込み位しか仕事無いお。それに」
(;'A`)「それに?」
( ^ω^)+「奴らには徹底的に仕込んだ技術が備わってるから安心して店を任せられるお」
('、`;川「……なんだろう、この溢れ出る大物店長感……」
(・∀ ・)「すいませーん、バンド演奏出演の皆さんお待たせしました」
右の二の腕付近に蛍光色の腕章を付けた、学園祭の実行委員がステージ脇入口の扉から顔を出していた。
(・∀ ・)「ただいまよりリハーサルを開始しますので、演奏順最後のバンドの方から調整お願いします」
(・∀ ・)「以前お伝えした通り、調整終わり次第ステージ脇の控室で全員待機していただきます。全バンド終わり次第開演となりますので! お願いしまーす」
-
………
……
…
リハーサルはつつがなく終わった。
('、`*川「あいつは意外に耳がいい」
そうリハーサルに入る前に呟いていたペニサスの言葉通り、ブーンはサクサクと指示を出してPAに調整させていた。
( ^ω^)「ドクオ、声とギター出してー」
( ^ω^)「……PAさん、ボーカル少し上げて、ボーカルギター少し下げて欲しいですお」
( ^ω^)「ギコ先輩、もう少しリバーブをアンプの方で上げてもらった方がいいですお」
(;^ω^)「あ、ペニサス先輩ベースのリバーブ切ってください、音が変ですお」
( ^ω^)「クー先輩、OKですおーそれくらいで大丈夫ですおー」
ペニサス、ギコ、クーが「下手なPAよりよっぽどマトモに音を聴けている」と称するブーンによる調整はすぐに終わった。
PAも少し感心したような顔で二言、三言彼と喋っていた。
-
(*^ω^)「それじゃ、客席で待ってますお!」
そう言いながら去っていく彼の背中が偉大に見えた。
今まで見た中で、焼きそばを作る彼の姿の次に輝いて見えた。
(,,゚Д゚)「……あいつすげーな」
(;'A`)「俺あそこまで細かく弄ったの初めてですよ」
('、`;川「練習中からすぐに音修正してくるから『耳がいい』とは感じていたけどさ……ここまでやるとは……」
川 ゚ -゚)「彼にはプロフェッショナルな仕事が似合うな」
4人で彼の仕事に感心していると、トップバッターのバンドが控室に戻ってきた。
時計を見ると15時50分。あと10分で開演予定の時間だ。
ステージ脇からチラッとホールの方を眺めると、前の方に人が固まっていて、あとはチラチラと中ほどに人がいるくらいだった。
16時には校内での販売が終わるから、片付けが終わり次第ドンドン人は増えていくはずだ。
-
ここから人が増えたら、いったいどんな景色になるのだろう?
その景色を想像したドクオは、ブルっと背筋が震えた。
川 ゚ -゚)「……緊張してるか?」
震えているドクオの肩をポンと優しくクーが叩いた。
(;'A`)「い、いえ、全然そんなことは」
川 ゚ -゚)「そうか? 凄いなドクオは。私は緊張している」
(;'A`)「え?」
川;゚ ー゚)「さっきから手の震えが止まらなくてね、ほら見てくれよ」
肩に置かれたクーの細く白い手がプルプルと震えている事に気が付いた。
身体も少し震えたその姿は、まるで恐怖に震える小動物のようだった。
川;゚ ー゚)「こんな大きい舞台でやると思うと緊張してたまらない」
-
何時もと変わらぬ制服姿のクー。
いつもならもっとクールで堂々としている彼女が、今はとても小さく見えた。
(;'∀`)「い……一緒ですね、僕も震えがさっきから止まらないんです」
川;゚ ー゚)「ふふっ、少しお互い気持ちを落ち着けよう」
肩に置いた手を外しドクオの下げていた右手を自分の両手で握るクー。
手から伝わるくらい彼女の心臓は脈打っているようだ。ドクオの心拍数もさらに上がった気がする。
('、`;川「わ、私も緊張してきた!」
(;゚Д゚)「お、俺も少し……」
そう言って包んだ手の上から更に包み込むように両手をペニサスとギコが被せてきた。
全員の手が、1つに重なった。
-
(;'A`)「え……エイエイオーとかやっておきます?」
('、`;川「やったら落ち着くかな?」
川;゚ -゚)「やらないよりいいんじゃないか?」
(;゚Д゚)「あ、待った、なんか恥ずかしくなってきた」
('、`;川「な、なんだよ今更」
(;゚Д゚)「だって俺自分のバンドでもこんな事したことないし!」
川;゚ ー゚)「あそこで、しいちゃんが生暖かい目で見ているぞ」
(*^ー^)
(*゚Д゚)「は……恥ずかしい……」
-
(;'A`)「もう4人こんなギュッとしてる時点で恥ずかしいですから! 大丈夫です!」
川;゚ ー゚)「やろう、やっちゃおうぜ」
('、`;川「くーちゃん、口調おかしいわよ」
(;゚Д゚)「よ、よし! 音頭はドクオが取れ! リーダー!」
(;'A`)「うっす。で……では……」
(;'A`)「エイッ、エイッ、オーッ!」
('、`;川「オーッ!」
川;゚ ー゚)「オーッ!」
(;゚Д゚)「オーッ!」
『ただ今より本日の最終演目、軽音楽部および有志によるバンド演奏を開始いたします……』
4人の手が天高く突き上げられたと同時に、開演案内のアナウンスが鳴った。
もう止められない。行くしかないのだ。ドクオは括れなかった腹をようやく括る。
そして自分勝手なギャング達4人の演奏が始まる。
夏は、通り過ぎていった。
-
………
……
…
季節は黙っていても移り変わっていく。
時間が過ぎれば、季節も同じように過ぎていく。
僕らにとって、あの夏は一瞬だった。
一つ瞬きをすれば過ぎていってしまうような瞬間だった。
だが、今でもあの瞬間は目をつぶれば鮮明に思い出すことが出来る。
ハッキリしたあの日の記憶は、いくら季節が通り過ぎても忘れることは無いだろう。
何回重ねても塗り潰されることなく、そこにずっと残り続けるだろう。
少なくともドクオにとっては、そうだ。
https://www.youtube.com/watch?v=e_SdOrwv56I
('A`)
-
外にセットされた机によりかかり、椅子に座りながらぼんやりと周りの光景を眺める。
新入生が入ってきたばかりという事で、辺り一面勧誘に必死だ。
『先輩に話を聞くコーナー』担当として座らされているが、大体が目の前の人ごみで捕まってしまってこっちまでやってこない。
あまりにも暇だった。
目の前で散る桜の花びらを眺めながら、ドクオはあの日の事を思い返す。
『やっぱりShoot you downをSEにして正解だったね。心躍るわ』
『オー, there is ア light エンド it never goes out……』
『どうもこんにちは、Orange Lampです』
『こんな曲ばっかりやってます』
『ユア kiss ソー sweet ユア sweat ソー sour……』
『最高だお! 最高にカッコよかったお!』
『ドクオ……ドクオ……」
-
(;^ω^)「ドクオ?」
気が付くと、目の前に内藤が立っていた。
両脇に初々しい感じの男女2人が内藤の一歩後ろで控えめに立っている。
( ^ω^)「話聞きたいそうだお。よろしく頼むお」
ブーンがそれぞれ椅子を引いて、2人に座るよう促す。
おずおずと座った2人を見ると、ブーンは満足そうに頷いた。
( ^ω^)+「そんじゃ、また捕まえに行ってくるお!」
そう言って彼はまた人ごみの中に消えていった。
あのもみくちゃの中で、どうやって連れてきているのかドクオには不思議でたまらなかった。
目の前に座る2人に視線を戻す。
(;><) ハハ;ロ -ロ)ハ
何というか、軽音楽部に興味を持つような感じの2人には見えないなと言うのが失礼ながら第一感想だった。
しかしそれを言ってしまうと自分にも特大のブーメランが返ってくる。
-
(;'∀`)「よ、ようこそ軽音楽部の質問コーナーに」
今できる最大限の笑顔を作ってみた。
表情筋が引きつっているのが自分でも分かる。
(;><) ハハ;ロ -ロ)ハ
ただでさえ緊張気味の2人が更に引いていくのが目に見えて分かる。
これは不味いと思ったドクオが慌てて話をふる。
(;'∀`)「ふ、2人はなんで軽音楽に興味を持ったのかな?」
入試の試験官かよ。と自分で突っ込む。ただ、一番当たり障りのない質問ではないかと心に言い聞かせていた。
ハハ;ロ -ロ)ハ「ワ……私ハ、dadがバンドやってたから、私もヤッテミタイナーって……」
('∀`)「へぇー、お父さんがバンドやってるとか素敵だね」
('A`)「君は帰国子女?」
ハハ;ロ -ロ)ハ「No,ハーフです。チューガク2年のトキ、日本に来ました」
-
('A`)「そっか、つい最近までうちの部活に破天荒な帰国子女がいたから話が合ったかもなー」
ハハ ロ -ロ)ハ「Oh,ドコーから来た方なんデースカ?」
('A`)「確か、イギリスだったかな」
『モッズの本場からやってきたんだぜ』と胸を張りながら言っていた彼女の姿を思い出す。
ハハ*ロ -ロ)ハ「私のdadもイギリス!」
('A`)「お、じゃあちょいちょい顔出す先輩だから、話せると思うよ」
ハハ*ロ -ロ)ハ「Year,ありがとうございますー」
('∀`)「ぜひ入部してね」
ハハ*ロ -ロ)ハ「ハーイ!」
-
(;><)「ぼ……僕は……」
何かモジモジながら口をモゴモゴさせている。言い出せないような理由……
ああ、とドクオは思い当たる節を出してみる。
('A`)+「『どんるく!』……かな?」
『どんるく!』とは、口の悪い女の子の姉妹が高校の軽音楽部のバンドを乗っ取り、プロデュースしながらサクセスストーリーを駆け上がっていくと言う深夜アニメだ。
キャラクターデザインが可愛い事と楽曲のクオリティが異常に高い事で、最近一大ムーブメントを巻き起こしているアニメである。
('A`)+「僕はノエルちゃん派だよ」
(;><)「僕もそうなんです! でもそうじゃないんです!」
(;><)「あなたの演奏を学園祭の時に聞いたんです!」
-
(;'A`)「えっ」
意外な一言が飛んできた。
(;><)「曲は聴いたことない曲ばかりだったんです、でも他のバンドより断然カッコよかったんです!」
(*><)「あれは伝説です! 感動したんです!」
(*><)「周りの人達も、友達もみんな凄い凄いっていってたんです!」
(;><)「……それで……浅はかながら……僕もバンドやってみたいな……って思って……」
(;><)「でも楽器なんて、やったことが無いんです……だから来ちゃったけどやっぱり……」
そう言ってまたモジモジしてしまった彼の姿を見て、ドクオはスッと立ち上がり、彼の両肩をパンっと掴んだ。
(;><)「!?」
('A`)「やりたい事を……」
(;><)「や、やりたい事を……?」
彼の肩を握る手に少し力が入る。
ドクオは目の前の彼の言葉を聞いて、あの黒髪の後ろ姿を思い出していた。
-
ぼくはりあむちゃん!
-
('A`)「やりたい事をやろう。そして何を言われてもそれを押し通そう」
('A`)「……そうするだけで、自分はとても救われるよ」
('∀`)「だから、君がやりたい事をやればいいんだ。誰がどう思おうが、関係ないさ」
(*><)「……!」
('∀`)「今さ、うちのバンド俺とベースしか残ってないんだ。君とぜひ一緒にやりたいな」
('A`)「だから君の入部を心から……」
(*><)「入部するんです!」
高らかに入部を宣言したかと思うと、ドクオの手をふり払うように勢いよく立ち上がる。
そしてその弾かれたドクオの両手を包むように両手で握り、ぶんぶんと上下に振った。
周りの学生たちは何事かと訝し気な目でこちらを見ているのが分かった。
-
(*><)「今すぐ入部するんです! 君も一緒に入るんです!」
ハハ*ロ -ロ)ハ「Oh,Crazy! イイデスネー!」
(;'A`)「え、マジ? す、少し落ち着こう、な?」
(*^ω^)「おっ、ドクオ流石だお! 巧みな話術で早速ゲットかお!」
(*><)「うおおおおおおおやってやるですー!!」
ハハ*ロ -ロ)ハ「Yeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaahhhhhhhhhhhhh!!!!!!!!!」
(;'A`)「勘弁してくれ──!」
ドクオの悲痛な叫びと、ビロードの雄たけび、そしてそれに反応したハローとブーンの歓声が響き合い、さながらカオスな空間を作り出していた。
周りからの目線は痛いし、もちろん先生からは怒られた。
それでも、火が付いた彼を止めることは出来なかった。
次の日、ドクオの元へ入部届を持ってきたビロードとハローが、めでたく入部1号・2号となった。
-
………
……
…
川 - )「なんか懐かしい気分だ」
川 - )「まさかまたここでやる事になるとはな」
時間は過ぎる。人は変わる。
.
-
(,, Д )「見てよこれ、例の奴。いい色してね? 結局ピックアップSH-4乗せちゃったよ、ダンカンだぜダンカン」
入れ代わり立ち代わり、季節も周る。しかし、周るという事はまた戻ってくるという事だ。
.
-
( 、 ;川「ピンクと黒ってどういうセンスしてんのよ」
( ω )「おっおっ、そろそろ時間ですお」
ドクオがあの瞬間を鮮明に思い出すことが出来るように、ハッキリ残した意思はいくら季節が通り過ぎても忘れることは無いだろう。
何回重ねても塗り潰されることなく、そこにずっと残り続けるだろう。
.
-
そして歪んだ音と熱狂的なビートを刻んで、音楽は鳴り続けるのだ。
ずっとそこに。
そして幕は上がる。いつでも同じように。
(*><)「ドクオさーん!」
.
-
('A`)「えーどうも皆さんこんにちは」
('A`)「今日は学園祭、お呼びいただきましてありがとうございます」
('A`)「Orange Lampです」
.
-
『('A`)夏の日とGANG OF FOURのようです』
終わり
.
-
良かった
-
以上で終了となります。
スレッドを立てていただいた方及び支援くださった方々、本当にありがとうございました。
……ちなみに、途中で反応してくださってる方もいらっしゃいましたが、「どんるく!」の元ネタは某眉毛兄弟の楽曲です。
https://www.youtube.com/watch?v=39NS7h92WcA
では、また機会がありましたらお会いしましょう。
ご覧いただきましてありがとうございました!
-
上にもレスあったけど全員に見せ場があって良かった。小ネタもあって面白かった
長時間お疲れさま
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さっき前作も見てきた!全作通して、まさに『青春』の塊みたいな作品で最高でした…。こんな学生時代を味わいたかったなと思わずにはいられない勢いと熱さがもうたまらんかったです!
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メチャ爽やかで良かった
欲を言えばライブも見たかったかな…というのはあるけど楽しませてもらいました!
乙!
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おつ!
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面白かった!
時間の流れ方とかがすごいリアルで、等身大の青春って感じだ
永遠に読んでたい
-
昨日途中で寝落ちしてたから今読んだよ
面白かった
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続きあったらなぁと思っていたさくひんでした。
面白かったよ。
-
前スレから一気に読んだけどめっちゃおもしろかった乙
ツンとショボンはあの後どうなったんだろうなと思ったけどろくな事になってなさそう
-
初期スーパーカーとか、the Smithsとか、とても俺得な趣向だった
おつおつ!
-
ツンたちのバンドのその後が気になるな
後成功したドクオへの反応も
-
今回もだれることなくしっかりまとまってて読みやすかったし面白かった!
乙
-
ちょっと泣きそうになった
改めてバンド頑張ろうと思えたよ
乙
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