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('A`)TECHNOPOLISのようです

1 : 名も無きAAのようです :2015/08/17(月) 00:25:27 QRxUCoAw0
百物語参加ナンデス


2 : 名も無きAAのようです :2015/08/17(月) 00:27:20 QRxUCoAw0
('A`) T・E・C・H・N・O・P・O・L・I・S


('A`) TOKIO


('A`) TOKIO

  .,、
 (i,)
  |_|


('A`)TECHNOPOLISのようです


3 : 名も無きAAのようです :2015/08/17(月) 00:28:43 QRxUCoAw0



こちら側


( ^ω^)「あっ、来たお! あの人だお!」

友人であるブーンことホライゾンが俺に耳打ちする。
俺は仕方ないなと呟きながら彼が指し示す方を見た。
そこはキャンパス内の建物と建物の間を繋ぐ橋だ。
リノリウムの床を一人の女性が歩いてくる。

('A`)「あの人?」

( ^ω^)「そうだお!」

まず彼女のスタイルの良さに目を奪われる。
目立つ長身に白のタンクトップからは大きな胸の膨らみが見える。
スカートから覗くすらりとした足も長い。
濃紺のカーディガンの後ろでは肩甲骨のあたりまで伸びた髪が揺れる。
何よりとても整った顔立ちをしている。完璧と評価せざるを得ない。

('A`)「すげぇ、超美人じゃん」

(* ^ω^)「そうだお! そうなんだお!」

興奮気味に唾を飛ばしながらブーンは頷く。
そうして颯爽と歩いていく彼女を目で追っていた。
話しかけたりしないのだろうかと思ったが彼にそれほどの勇気はないのだろう。

(* ^ω^)「はぁ、やっぱりクーさんは今日も美しいお…」

姿が見えなくなってからブーンは感嘆する。
彼女の名前はクーというのだと彼から聞かされたのは数分間前の事だ。
同じ大学にものすごい美人がいたと熱弁していたのである。
彼女の事を知りたい彼は直接話しかける勇気がなく、他の人にやんわり訊いてみたりした結果ようやく簡潔なプロフィールを入手したのだという。


4 : 名も無きAAのようです :2015/08/17(月) 00:30:04 QRxUCoAw0
('A`)「お前さ、そんなに気になるなら話しかけてみろよ」

(; ^ω^)「そっ、そんな勇気ないお! 絶対テンパるに決まってるお」

ブーンは上がり症だ。緊張するとよく吃る。それが原因で小学生の頃にはいじめられる事もしばしばあったらしい。

('A`)「つーかあんだけ美人ならもう彼氏いんだろ」

ξ゚⊿゚)ξ「それがね、いないのよ」

ブーンの背後から少し刺のある声が聞こえる。
彼の幼馴染みであるツンだ。もう幼馴染みとしての付き合いは随分と長いらしい。
ただ二人に交際歴はなく正真正銘の腐れ縁だと初対面の時に聞かされた。

('A`)「見てたのか」

ξ゚⊿゚)ξ「そりゃあそこのデブのやかましい声が聞こえたからね」

(; ^ω^)「うっひどいお〜。 夏だから三キロぐらい痩せたお」

ξ゚⊿゚)ξ「ただの夏バテでしょ、デブ」

ブーンはぽっちゃり体型だ。吃る癖とその体型が余計にいじめの対象になったのだろう。
しかし小学生時代に彼をいじめの手から救ったのは他でもないツンなのだ。
ずっと幼馴染みをやっていた彼女はそうやって彼を守っていたらしい。
彼女の隠している気の強さとあまり表では出さない口の悪さを考えると納得の経歴ではある。

('A`)「なんでクーさんに彼氏がいないんだ?」

ξ゚⊿゚)ξ「そんなの私の知った事じゃないわよ」


5 : 名も無きAAのようです :2015/08/17(月) 00:31:31 QRxUCoAw0
クーの話となるとツンの機嫌は悪くなる。
少し考えればそうなるのも当然だと分かるが特段それに言及したりした事はない。

ξ゚⊿゚)ξ「ただね」 ツンは続ける。「噂があるのよ」

('A`)「噂」

ξ゚⊿゚)ξ「クーさんと同じ高校だった人曰くあの人は高校時代も彼氏がいなかったんだって」

('A`)「へぇ」

ξ゚⊿゚)ξ「それがどうやらあの人は同性愛者なんだとか」

('A`)「じゃあ、レズって事?」

ξ-⊿-)ξ「らしいわよ」

ブーンの方を見ると先程までの元気はなく俯いてしまっている。
既に知っているのだろう。もし噂が本当ならば彼の好意は絶望的だ。
もっともまさしくデブでいわゆる年齢イコール彼女なしの彼にチャンスがあるかと言われれば厳しいだろう。

ξ゚⊿゚)ξ「まぁでも、つくづく完璧よね、あの人は」

('A`)「お、それは認めるのか」

ξ゚⊿゚)ξ「別に正しい判断が出来ない訳じゃないわよ」

ツンが俺を睨む。

ξ-⊿゚)ξ「今日のコーデだって甘辛MIXで完璧だったわ」

まぁあのスタイルなら何を着ても似合うだろうけどね、と付け足した。

('A`)「まぁ、頑張れよブーン。 あんな美人なかなかいないぜ」


6 : 名も無きAAのようです :2015/08/17(月) 00:32:20 QRxUCoAw0
( ^ω^)「ありがとうだおドクちん」

美人の上に巨乳のクー。身長はなんとか百五十センチを越えるが胸は殆ど主張をしていないツン。
対照的な二人だと思う。



あちら側



歪みなき正方形が地平線の彼方まで続いていた。正確に区切られた四角いパネルの上に俺は立っていた。
夜が訪れたのか辺りは薄暗い。空からビルが大地に向かって聳え立つ。
大きな高層ビルから小さな雑居ビルまである。頭上のビル群はまるでシャンデリアだ。
ビルの光が俺を照らす。

いや、俺だけではない。もう一人。

小柄な女性が同じように立っていた。
見覚えのないはずなのにどこか懐かしく感じる。
自然と足が動いて彼女の方へ近づいていった。

('A`)「やぁ、君は?」

ノパ⊿゚)「ヒート」

ぶっきらぼうに彼女は名乗った。俺が先に名乗らなかったのがまずかったのかもしれない。

('A`)「俺はドクオ」

取り繕うようにして俺も名乗る。

('A`)「あのさ、どこかで会ったりした事ある?」

ノパ⊿゚)「なにそれナンパ?」


7 : 名も無きAAのようです :2015/08/17(月) 00:33:27 QRxUCoAw0
('A`)「いやわりとマジで」

ノパー゚)「へんなの」

ようやくヒートが笑う。
ツンよりも身長は低い。目は少し釣り上がっている。
白のカット・ソーに紺のショート・パンツ、髪は後ろでまとめていて快活そうな印象を受ける。
やはり面識はない。脳内メモリでヒットしない。しかし拭えぬ違和感がある。

ノパ⊿゚)「逆に私のこと何か知ってない?」

('A`)「え?」

ノパ⊿゚)「私さ、なんか記憶ないんだよね」

('A`)「でもヒートだって」

ノパ⊿゚)「名前だけは分かるんだよね、こう、あらかじめ登録されてましたって感じで」

('A`)「はぁ…」

ノパ⊿゚)「何か知らない?」

記憶喪失なのだろうか。困ったようにヒートは首を傾げる。

('A`)「いや、全然」

ノパ⊿゚)「そっか」

残念だと言わんばかりの顔でヒートは口を尖らせる。

ノパ⊿゚)「それにここがどこかも分からないし」


8 : 名も無きAAのようです :2015/08/17(月) 00:34:38 QRxUCoAw0
確かにそうだ、ここはどこだろう。
頭上からにょきっと生えているビル群は大した数だ。これだけの数ならばきっと大きな街なのだろう。
都市があればインフラだって整備されている。あのビル群には幹線道路があって地下鉄があってJRがあるだろう。
その都市を動かす動脈が細やかに整備されていれば当然そこには人の動きだってあるはずなのだ。
人がいれば生活拠点がある訳で一軒家やらアパートやらマンションやら人が住む場所だってある。
生活拠点があり学校があり職場があり公園があり娯楽施設があるのが都市だ。
けれど手を伸ばしても空に建つビル群には届かない。煌々と照らす光を掴めない。
ビル群シャンデリアは遥か頭上で正方形だらけの大地を照らすのみだ。

ノハ-⊿-)「まぁ帰る場所も分からないんだけどね」

自嘲気味にヒートは言う。

('A`)「見つかるといいね」

ノパ⊿゚)「とりあえずは自分を見つけなきゃだけどね」

正方形が敷き詰められた地面を歩いてみる。しかしどこまで行っても正方形が広がっているだけだ。
均等に切り揃えられた正方形は無表情で何も語りはしない。踏んだり跳ねたりしても表情を変えたりしない。
相変わらずビル群のシャンデリアとの距離も縮まらない。夜のビル群はまさしく都市の象徴だ。
街を彩るネオンと路肩にずらっと並んだタクシー、連続する十一両編成の列車の灯り。
それらの光が収束して一つの大きな照明となっている。都市こそシャンデリアなのだ。

ノパ⊿゚)「せっかくだしさ」

ヒートが振り返る。一つに結んだ髪が揺れる。

ノパ⊿゚)「私さがしを手伝ってよ」


9 : 名も無きAAのようです :2015/08/17(月) 00:35:20 QRxUCoAw0
('A`)「あぁ」

ビルが一つ切り離される。すっと降下して正方形だらけの大地に墜落して炎上し大破する。
一つが落ちればそれが号令となり他のビルもそれに追随する。一度始まってしまえばもう止められない。
次々とビルが切り離されて大地へ墜落する。大きな砂埃が舞って辺りに立ち込める。
がっちりした造りの高層ビルなどが落ちてくると周囲を巻き込んで正方形の大地を震わせる。
壁は剥がれてガラスが飛び散り入居していたオフィスは壊滅的な被害を受ける事間違いない。
デスクがひっくり返りデスクトップ・パソコンが粉々に割れてボールペンがペン立てから抜け落ちていく。
ケースに収納されていたキングジムのファイルが散らばる。延長コードが根元から引きちぎられる。
コーヒーメーカーのブラジル産の豆が飛散する。消臭剤の無色のビーズがばらばらと転がっていく。
ビルの離脱降下は止まらない。それぞれオフィスやホテルを抱えながら例外なく墜落して炎上する。
一つのビルに入っている幾つものオフィスが墜落すると共に跡形もなく潰れてなくなる。
シャンデリアから容赦なくビルが落とされる。衝撃に脆い蛍光灯の様に砕け散る。
ぼくはヒートの手を取った。そして走りだした。そうしなければならない気がした。
暫く走ると先程までいた場所に新たにビルが落ちる。背後から爆風が頬を舐める。
そこらじゅうでビルが炎上するので恐ろしく熱い。酸素が足らず息苦しい。
煙と砂埃が立ち込めてすぐにむせてしまう。大きく咳をするとまた苦しくなる。
正方形で均等に区切られた大地はビルの降下状況の推移と共に徐々に暗くなる。
照らしていたビル群シャンデリアが大半の灯りを失ってしまったためだ。
見上げれば最後に大きなビルが残っている。地上七十階建ての超高層ビルだ。
満を持して超高層ビルがシャンデリアから放たれる。俺はヒートの手を引いて更に走る。
しかし射程範囲は広い。すぐ頭上に超高層ビルが迫る。大地目掛けて真っ逆さまに落ちてくる。
手を離してはいけない気がした。握った手をずっと掴んでいけない気がした。本能的にそう思った。
しかし繋いでいた手は離れてしまう。彼女は遠くへ弾き飛ばされてしまう。残るは俺一人。
轟音が響く。超高層ビルが正方形だらけの大地に激突する。ひしゃげて崩壊していく。
爆炎が膨れ上がり全てを飲み込んでいく。俺の視界が奪われた。



こちら側


10 : 名も無きAAのようです :2015/08/17(月) 00:36:30 QRxUCoAw0
目が覚める。覚醒する。起床する。
データが整頓されていく。必要な情報が並べられる。
ドクオ。男性。十九歳。大学生。経済学部。
賃貸アパート一人暮らし。洋室八帖。家賃八万八千円。
彼女なし。主な友人はブーンことホライゾンとツン。

これが俺のプロフィールだ。

目を開くと読みかけの文庫本が目に入った。心地良い揺れが継続して身体を揺すっていた。
居眠りをしていたようだった。列車は停車駅に近づいて徐々にスピードを落とし始める。
制動がバケットシートに座る俺の身体にも伝わってくる。案内表示を見ると乗り換え駅である事に気づく。
開かれていた文庫本に付箋を挟んで鞄に仕舞って俺は席を立った。列車がホームに滑り込んでいく。

大学から乗ってきた地下鉄を降りて地上へ上がる。見慣れたビル群が出迎える。
ビル群はきちんと地上に建てられていてシャンデリアとしての機能はない。
地上に出るとすぐに路面電車の電停があり乗車口までは屋根で繋がっている。
雨の日でも乗り換えの際に傘を指す必要もない。日中でも高頻度で運行される路面電車がやって来る。

ここはTECHNOPOLISだ。一千万人以上の人が犇めく大都市なのだ。
先進的な取り組みとして公共交通機関を充実させ自家用車の乗り入れを最小限に抑えている。
中心地から広がるように構成される八つの環状道路の完成と首都高の完全地下化。
更にTECHNOPOLISには十数のMETROの地下鉄路線が張り巡らされている。
METROはまるで血流のごとくTECHNOPOLISを結んで一千万人を運んでいる。
更にMETROの駅と駅の間を補完しているのがMETRAMだ。
TECHNOPOLISで絶滅寸前だった路面電車を復活させ全域に広げたのだ。
自家用車の乗り入れを制限する代わりに新たに道路に線路を敷設させた。
中心地から郊外に至るまでTECHNOPOLISの全域にMETRAMの路線は広がっている。
大動脈であるMETROの駅から少し距離がある場所でもMETRAMの整備により行きやすくなった。
今やTECHNOPOLISを網目の様にMETROとMETRAMの路線が走っている。
路線バスと合わせるともはやTECHNOPOLISにおいて公共交通機関で行けない場所は存在しない。


11 : 名も無きAAのようです :2015/08/17(月) 00:38:21 QRxUCoAw0
俺の住むアパートもMETROの駅からは距離があるがMETRAMの電停からはすぐに着く。
ボンバルディア・トランスポーテーションの技術を用いて製造された車両に乗り込む。
着席を確保してから鞄から読みかけの文庫本を取り出して読もうとするが不意に先日の出来事を思い出す。
大学のキャンパスを移動中にブーンが気になる人がいるという話をはじめ、数分後にその本人に遭遇した時の事だ。
クーといったあの女性は確かに美人だった。歩く姿はまるでモデルのようですらあった。ブーンが興奮するのも分かる。
しかしいくら彼女に同性愛者疑惑があったとしてもあれほどの美人ならば周囲の男どもは放っておかないだろう。

ただクーにすら俺は謎の既視感があった。ブーンに気になる人だと教えられて初めて見たはずなのに。
知っているはずがないのだ。ブーンが言っていた彼女の出身高校とは一切の関わりがない。
まして彼女は俺達より一つ年上だ。もう夏間近だがようやく彼女の存在を知ったぐらいだ。
だから会った事などあるはずがない。気のせいだ。気のせい。俺の意識はようやく開かれたままの文庫本に戻っていく。



あちら側



おもちゃ箱をひっくり返したように積み木が散乱していた。その積み木は人の背よりも大きくそれをよけて歩くはめになる。
ばらばらに積み木は散らばっているので見通しはよくない。暫く進むと青いレールが見えるのでそれを伝って歩く事とする。
青い軟質プラスチックのレール脇を歩く。時折三両編成の新幹線が通り過ぎて行くのでその時は通過の様子を眺めていた。
やがて色とりどりのブロックで構成された街に出る。規格も等身も統一された街では破壊と創造が繰り返し行われている。
その効率的ではない連鎖を見てどこかうんざりしてしまうが実際の街だってスパンが長いだけでやっている事は同じだろう。
この街はサグラダ・ファミリアなのだ。きっと横浜駅なのだ。終わる事のない建造をいつまでも続けているのだ。
等身が統一された住人達がマンガチックな騒動を起こしたりドラマチックな恋愛をしたりしてその街に住んでいる。
基礎こそ同じだが顔の表情や服装などで個性が生み出されている。一人一人が違い同じ者は存在しない。
着色されたブロックで構成される橋を渡ると無機質な街とは違って欧州のような造りの家々が出迎えてくれる。
温かい木造りの家のように見えるが近くまで行って見てみるとコストの安いプラスチックで出来ていた。
二頭身の小動物達が生活をしている。食事を作って洗濯をしている。切り開かれた家で彼らの生活が見える。
森を抜けると今度は赤い十四連単純平行弦下路ワーレントラス橋に出る。眼下に広がる一級河川を渡る。
時間をかけて渡り終えると川沿いに堤防がずっと続いていた。奥にはテーマ・パークが見える。
なんだか楽しそうだったのでそれを目指す事に決める。堤防を降りて県道7号線を南下していく。
どうやらすぐにまた別の川があるらしく徐々に左右が狭くなっている。大きな川に挟まれているのだ。
右にも左にも堤防があって落ち着かない。堤防は背が高くて向こう側の様子が見えなくて余計に不安になる。
あれだけ大きい堤防がどかんと造られているという事はそれだけ危険な場所って事じゃあないだろうか。
大きな地震が来てサーファーもお手上げの大津波が来たらこの堤防を容易く乗り越えてしまうんじゃないだろうか。
南に進むにつれどんどん左右の堤防が迫ってきて街がぎゅうぎゅう詰めになる。そこでようやくテーマ・パークに着く。
その先にはコンクリートでがっちり造られた防波堤があってもう海なのだ。左右の一級河川は無事に河口を迎えたのだった。
テーマ・パークは家族連れでいっぱいだ。今日は土休日なのだろうか。カップルで来ている者だっている。


12 : 名も無きAAのようです :2015/08/17(月) 00:39:30 QRxUCoAw0
ノパ⊿゚)「おう」

声のした方を振り返るとヒートがいる。記憶喪失の彼女。

('A`)「よう」

ノパ⊿゚)「遅い、約束の時間に遅刻だぞ」

なんつって、とヒートは舌を出す。

('A`)「なんだそりゃ」

ノパ⊿゚)「いや、そういうのよくやるじゃん」

('A`)「そうか?」

G-SHOCKを見ると午前2時11分だ。コンビニエンス・ストアもびっくりのナイター営業である。
運営会社はブラック企業なんじゃないだろうか。でも二十四時間営業でなければ大丈夫だろう。
二十四時間営業のスーパー・マーケットすらあるのだけれど、テーマ・パークには閉園時間がなければ俗世と隔てられない。
あくまでも夢を与える場所であって利便性ばかり向上させておけば良いという訳でもないのだ。

ノパ⊿゚)「なんか乗ろうぜ」

('A`)「ボルト抜けないかな」

ノパ⊿゚)「心配性かよ」

カラフルに塗装された遊園地を二人で歩く。やはり家族連れやカップルが多い。
しかしこれでは俺達だってカップルに見えるだろう。そこのところヒートは大丈夫なのだろうか。
勘違いされてしまうかもしれないのだ。俺は別に構いはしないが嫉妬強い人間だって世界にはいたりする。

ノパ⊿゚)「苦手なものとかある?」

('A`)「ボルトが抜けなければオールオッケー」

ノパ⊿゚)「なにそれ」

観覧車がぐるぐるぐるぐる回る。永久に回転力を与えられたのか休む事なくぐるぐるぐるぐる周る。
ナイター営業などしているから休息が貰えないのだ。やっぱりブラック企業だ。観覧車に適切な休憩時間を。


13 : 名も無きAAのようです :2015/08/17(月) 00:40:48 QRxUCoAw0
ノパ⊿゚)「じゃああれ」

ヒートが指さしたのは一際背の高いジェット・コースターだ。一際、というより園内で一番大きい。
真下から見上げるとその迫力はいっそう増す。あんな高い場所からコースターが高速で落ちていく。
強風でも吹けばたちまち運転見合わせに追い込まれそうなもののこういう時には風は味方してくれはしない。
吹き付けていた海風は空気を読んでぴたっとやんで彼女の搭乗をエスコートする。
コースターに乗り込んでバーが下がってからはもう覚悟を決める。
どうせ途中で写真でも撮られるのだろうから変顔でもしてやろう。
ホロロッホロロッホロロッと地下鉄みたいなブザーが鳴ってからコースターはゆっくり登っていく。

ノパ⊿゚)「このジェット・コースターの登ってる時間っていいよね」

('A`)「俺は絞首台へ向かう気分だよ」

ノパ⊿゚)「そんな大げさな」

('A`)「そういえば何か思い出した?」

ノパ⊿゚)「ううん、全然」

('A`)「なかなか難しいね」

ノパ⊿゚)「難しいよ」

高さ九十七メートルの頂上に到達すると一気にレールを駆け下りる。
強烈なGが身体を襲う。あっという間に最高速度にまで達してしまう。
景色が飛んでいく。一級河川を横切る高速道路が飛んでいく。彼方まで広がる駐車場が飛んでいく。
コースターもレールを外れて飛んでいく。銀河鉄道999だったのかと考えてみるがそんな訳はない。
やっぱりボルトが抜け落ちたのだろうか。レールから脱線したコースターは駐車場へ不時着する。
広大なアスファルトの駐車場でコースターはようやく動きを止める。連結部分は外ればらばらになっている。
すると駐車場にヒビが入る。やがて不規則に割れる。投石されたガラスの様に幾重にも亀裂が走る。
悪い予感がしてコンクリートの防波堤を見る。案の定その向こうから大きな津波が迫る。
ヒートの手を引いて逆方向に走り出す。頑丈に造られた防波堤を津波はいとも簡単に乗り越える。
津波が飲み込んではその腹に蓄えていく。高さ九十七メートルのジェット・コースターを飲み込む。
休息を与えて貰えない観覧車が飲み込まれる。湾岸自動車道が飲み込まれる。
赤い塗装がよく目立つ十四連単純平行弦下路ワーレントラス橋が飲み込まれる。
切り開かれたプラスチック製の家が飲み込まれる。ドラマに溢れたブロックの街が飲み込まれる。
青いレールと三両編成の新幹線が飲み込まれる。何十通りもの可能性を持つ積み木が飲み込まれる。
飲み込まれてかき回されて沈んでいく。目を開いたそこは水の底。おもちゃ箱をひっくり返した水の底。
また彼女の手を離してしまっていた。空気が足りない。また助けられなかった。酸素が足りない。



こちら側


14 : 名も無きAAのようです :2015/08/17(月) 00:43:24 QRxUCoAw0
( ´ω`)「最近ツンが厳しいお…」

しょんぼりとしたブーンがそう呟く。
キャンパス内の食堂。お昼時なのでそれなりに混んでいる。
俺達はちょうど先客が開いたテーブルへ着席が出来た。
ブーンはカレー・ライス、俺は讃岐うどんだ。

('A`)「そうか? いつもあんな感じだろ」

( ´ω`)「まぁいつも厳しいんだけど、ここのところ拍車をかけてひどいんだお」

そんなもの理由は単純なものだと思う。しかしブーンはきっと気づいていないし気づかない。
ただブーンが鈍感というか、ツンが不器用というか、二人の微妙に噛み合わないところが現状を引き起こしているのだろう。
第三者として視点を持つ俺にはすぐに分かってしまう。俺でなくとも二人の関係性を知る者ならば皆同じ意見に到達するはずだ。
それにブーンとツンは幼馴染みだ。一体いつからこんながっちりとは噛み合わない関係になっているのだろうか。
いつからツンは意識し始めたのだろうか。ブーンが意識するのはまだ先かもしれないし、そんな未来が訪れないのかもしれない。

('A`)「ツンも不器用だからなぁ」

ため息混じりに俺は言う。

( ^ω^)「え、そうかお? ツンは器用でなんでもやってのけるお」

('A`)「あぁ、そうだな」

ツンは実際に器用な女だ。ブーンの前ではあんな態度だがそれ以外の人間と接する際には人当たりがよいと評判だ。
その状況ごとに自分がどう行動すれば良いかを心得ているような気がする。ブーンがまるで持っていないものを持っている。
きっと人と人の関係を取り持つのも、互いの関係性も壊す事をせず事態を打開するのも上手なのだと思う。
小学生の頃にいじめられたブーンを助けた時だってその後自分がターゲットになる事もブーンが再び対象となる事もなかっただろう。

('A`)「ツンはすごい奴だよ」


15 : 名も無きAAのようです :2015/08/17(月) 00:44:41 QRxUCoAw0
( ^ω^)「えらくツンを評価するお、好きにでもなったかお?」

('A`)「お前はバカだな」

( ;ω;)「うぅ、ドクちんまでひどいお、ツンが移ったお」

今度は正真正銘のため息をつく。ツンに少し同情する。
それでも俺は恋のキューピッドでもなんでもないので状況を把握していても取り持ったりするつもりはない。
まぁツンだってそれを周囲の人間に期待したりはしていないだろう。結局は二人次第なのだ。
冷たいようだが仕方がない。二人の関係に割って入っていくほどお節介ではない。

('A`)「つーかもしツンに彼氏が出来たらどうすんだよお前は」

( ^ω^)「へ」

カレー・ライスを頬張っていたブーンが間抜けな声を出す。

( ^ω^)「どうするって、うーん」

ブーンがカレー・ライスを咀嚼しながら少し考える。

( ^ω^)「まぁその彼氏と仲良くなれたらいいお」

('A`)「ははは、お前らしい」

やはりブーンはブーンなのだ。まぁツンは自分を呪うべきだろう。頑張れ。

('A`)「しっかし落ち込んでる割にはしっかり食うんだな」

( ^ω^)「当たり前だお、食わねば生きていけないお!」


16 : 名も無きAAのようです :2015/08/17(月) 00:45:57 QRxUCoAw0
('A`)「また太るぞ」

( ^ω^)「もう太ってるお!」

('A`)「またツンに怒られるぞ」

( ^ω^)「なんとかなるお!」

ξ゚⊿゚)ξ「ふうん」

ばん、と大きな音をたててツンがテーブルにお盆を置く。
ブーンのカレー・ライスを食べる手が止まる。
スプーンがぴんと静止する。

(; ^ω^)「つ、ツン…」

(;'A`)「お、おう、来てたのか」

ξ゚⊿゚)ξ「ええ」

ここ最近で一番機嫌が悪い。というより先程の会話を聞かれていたと考えるのが妥当だろう。
俺は残りの讃岐うどんを一気に吸い込み水をぐいっと飲み干して慌ただしく席を立つ。

('A`)「じゃ、俺ちょっと急ぐから」

(; ^ω^)「え、ちょっとドクちん、急に」

('A`)「じゃっ」

雷注意報発令のため当該ポイントを離脱。速やかに帰投する。
質問をしてしまった俺も悪いが基本的にはブーンが悪い。健闘を祈る。

食堂を出るとあのブーンが気になっていると言っていたクーの姿が目に入る。
一人でまっすぐ食堂に向かって歩いてくる。これから昼食なのだろう。
ブーンが彼女に気が付けばまたツンの機嫌が悪くなってしまうかもしれない。

川 ゚ -゚)「きみ、ドクオ君だろう」

考えていた途中で急に話しかけられて思わず肩が跳ねる。
クーだ。俺を見ている。俺に話しかけている。


17 : 名も無きAAのようです :2015/08/17(月) 00:47:16 QRxUCoAw0
('A`)「そうですけど」

どうして俺なのだろう。どうして名前を知っているのだろう。
あの日ブーンに教えられて初めて見たはずなのに。
面識などないはずなのに。

('A`)「何でしょうか」

川 ゚ -゚)「いや、覚えていないかなと」

('A`)「えっ」

分からない。クーの事に関するデータなど俺の中には存在しない。つい最近知ったばかりの存在だ。
それなのに彼女の方は俺の事を知っている様子だ。

('A`)「すいません、覚えてないです。 どこかで会いました?」

川 ゚ -゚)「そうか、それならいいんだ」

('A`)「はぁ」

川 ゚ -゚)「だけど」

クーはぐっと顔を近づける。耳元に彼女の息が吹きかかる。
そうしてそっと愛を囁くかのごとく、

川 ゚ -゚)「君のことなら何でも知ってる」

そう言い残してさっと去っていく。俺はその場に取り残される。
意味が分からなかった。何も思い出せなかった。
だけどきっと彼女は俺の事を知っているのだ。



あちら側



空は赤かった。月は赤かった。月明かりは赤く街に降り注ぐ。
コンクリートの壁も赤かった。整列した机と椅子も赤かった。
黒板も赤かった。個人用のロッカーも赤かった。掲示物のプリントも赤かった。
石鹸が括りつけられた水道も赤かった。赤い蛇口を捻って出てきた水も赤かった。
ワックスがかけられた廊下も赤かった。教室のプレートも赤かった。
入室すると顔が赤い生徒達が既に着席している。よく見ると制服も頭髪も赤い。
開いている席があったのでそこに座る。NEW HORIZONの教科書もCampusのノートも赤い。
ペンケースも赤い。三色ボールペンも赤い。HBの芯が装填されているシャープ・ペンシルも赤い。


18 : 名も無きAAのようです :2015/08/17(月) 00:48:03 QRxUCoAw0
チャイムが鳴ると同時に赤い教師が入ってくる。赤い教壇に立ち赤い名簿を開く。
最前列右端の先頭の赤い生徒の名前を呼ぶ。赤い生徒が返事をする。ごとりと重たい音がする。
見れば赤い生徒の赤い首が赤い机に落ちて赤い水溜まりをつくっていた。
赤い教師はその後ろの赤い生徒の名前を呼ぶ。赤い生徒が返事をする。
赤い生徒の首がごとりと落とされる。次の名前を呼ぶ。返事がする。赤い首が落ちる。
ごとり、ごとり、赤い首が落ちる。落とされた赤い首はぐるりと一回転してきちんと赤い机の上に鎮座する。
これでは赤い俺の赤い首も落とされてしまう。赤い席を立って赤い教室から赤い廊下に飛び出す。
ごとり、隣の赤い教室からも同じ音がする。どこの赤い教室でも出席点呼を行なっている。
赤いガラスから赤い中庭を見る。赤い庭では赤い生徒が赤いショベルで赤い穴を掘っている。
赤い穴が完成すると赤い首を伸ばして赤い穴の前で跪く。隣の赤い生徒が赤い鋸で赤い首を落とす。
赤い首は赤い穴に落とされて赤い鋸の生徒によって赤いショベルで埋められる。
埋め終えると隣に赤いショベルで穴を掘る。赤い穴が出来上がると赤い首を伸ばして跪く。
次の赤い生徒が赤い鋸で赤い首を落とす。赤い首が収まった赤い穴を赤いショベルで埋める。
また隣に赤いショベルで赤い穴を掘る。赤いガラスの向こうの景色を見る事をやめて俺は歩き出す。

階段を上がってドアを開ける。フェンスが張り巡らされた屋上に出る。空はやはり赤い。
隅の方で女性が座っている。ヒートだ。ただでさえ身長が低く今日は制服を着ているので余計に幼く見える。
中学校の屋上にベンチなんて気の利いたものなどあるはずもなく彼女は床に直に座っていた。

('A`)「やぁ、また会ったね」

ノパ⊿゚)「よく会うね」

ヒートは顔を上げる。

ノパ⊿゚)「やっぱり何か知っているんじゃないの」

('A`)「本当に何も知らないんだ」

何も知らない。面識がない。データにない。

ノパ⊿゚)「中学校って、懐かしいよね」

('A`)「そうだなぁ」


19 : 名も無きAAのようです :2015/08/17(月) 00:49:43 QRxUCoAw0
ノパ⊿゚)「なんだか楽しい思い出がたくさんあった気がする。 思い出せないけど」

('A`)「そこは頑張って思い出しなよ」

ノパ⊿゚)「むりだもん」

またヒートは口を尖らせる。

ノパ⊿゚)「でもすごいよね、小学校とか中学校とかの同級生って」

('A`)「なんで?」

ノパ⊿゚)「だって生まれた年が同じだからって小学校六年間と中学校三年間を同じメンバーで過ごすんだよ」

('A`)「まぁそうだな」

ノパ⊿゚)「ある意味で運命的な集合体だと思うんだよ、同じ年に生まれたってだけでこの先ずっと同級生として一括りにされるんだよ」

('A`)「三月生まれと四月生まれでは学年すら違うのにな」

ノパ⊿゚)「そうそう、だから同じ学年って運命的だと思うんだ」

確かにヒートの言う通りだ。同級生という関係は死ぬまで続く。
生まれた年が同じという理由だけで分別されて共同生活を強いられる。
好きな奴がいても嫌いな奴がいてもずっとそのメンバーは変わらない。

ノパ⊿゚)「まぁ高校とか大学まで行ったら地元を出る人もいるだろうし同級生なんて疎遠になっちゃうけどね」

('A`)「そうだな、仕方ないけれど」

ノパ⊿゚)「でも結局どこかで繋がっているんだよね。 なかなか関係って簡単に断ち切れないものだよ」

ヒートは屋上で足を投げ出して赤い空を見上げる。赤い雲が赤い月を遮る。

ノパ⊿゚)「ドクオは、中学校で何か楽しい思い出ある?」

('A`)「色々あるなぁ、ずっとバカやってた気がする。 修学旅行とかさ、全然寝ないで次の日眠いの眠いの」


20 : 名も無きAAのようです :2015/08/17(月) 00:51:05 QRxUCoAw0
ノハ^⊿^)「あはは、中学生だ」

('A`)「だろう」

ノパ⊿゚)「えー、じゃあ逆に嫌な思い出とかは」

('A`)「それも色々あるな、仲良かった奴と喧嘩しちゃったり」

ノパ⊿゚)「でも男子って喧嘩してもすぐ仲直りするじゃん」

('A`)「まあな」

ノハ-⊿-)「女子はねちっこいからね〜」

('A`)「だよなー、もう小学生の頃から女って出来上がっているんだよな」

ノパ⊿゚)「分かる分かる」

('A`)「中学か…」

もう随分と昔の事の様に思える。

('A`)「そういえば中三の時、夏休みが終わるのが嫌だったなぁ」

ノパ⊿゚)「あー、あるね」

('A`)「隣の中学なんか学校を爆破しますって予告電話が来てさ、警察が捜査してそこの学生が補導されて」

ノパ⊿゚)「学校爆破ね、よく皆考えるよね」


21 : 名も無きAAのようです :2015/08/17(月) 00:52:28 QRxUCoAw0
('A`)「こう、ミサイルが飛んできてさ」

赤い空が光る。輝きを持つ物体が高速で飛んでくる。綺麗な放物線を描きながら突っ込んでくる。
レーダーが感知する。国家の威信にかけて迎撃体制に入る。準備は万端であるはずなのだ。
しかし飛んでくるミサイルは止まらない。まっすぐ学校目掛けてすっ飛んでくる。何の恨みがあるのか。
あのミサイルは夏休みの宿題をやらなかったのだろうか。花火をもっとやりたかったのだろうか。
海で泳ぎたかったのに台風が日本列島を横断して入れなかったのだろうか。
高校野球で自分の住む県の学校が負けてしまったのだろうか。
迎撃のパトリオット・ミサイルは間に合わない。飛んできたミサイルが炸裂する。赤が爆ぜる。
世界がいっそう赤に染まる。爆炎が膨れ上がる。身体が光に包み込まれる。



あちら側



またしてもブーンは落ち込んだ様子だった。
俺は明治通りの近くにあるマクドナルドにブーンと二人で入っていた。
ブーンはセットの他に更に単品でハンバーガーを注文している。
元気の無さそうな様子とは裏腹に相変わらず食欲だけは旺盛のようだった。
カウンター席についてブーンはさっそく紙包みを開け始める。
大学から近い事もあって同じキャンパスの学生の姿も見られる。

('A`)「で、どうしたんだよ」

( ´ω`)「ツンに告られたお…」

俺は思わずダブル・チーズバーガーが喉に詰まりそうになってファンタ・グレープで流し込む。
予想すらしない急展開だった。思い切ったなぁと感心する。

('A`)「それで?」

( ´ω`)「なんとうか、ツンは幼馴染みであって、そういう対象として見てなかったんだお」

('A`)「そう言ったのか?」

( ´ω`)「言ったお…」


22 : 名も無きAAのようです :2015/08/17(月) 00:53:53 QRxUCoAw0
('A`)「そうしたら?」

( ´ω`)「ブチギレだったお…ブチのギレ…大マジだったお…過去最悪のキレっぷりだったお…」

('A`)「そりゃあ、過去最大の山場だったからな」

( ´ω`)「意味分かんないお…」

ブーンはぶつくさ言いながらビックマックを頬張る。
俺は呆れながらまたストローに口をつけた。

('A`)「ツンといつから幼馴染みなんだっけ」

( ^ω^)「幼稚園からだお」

('A`)「ガチの幼馴染みじゃねーか」

そんなテンプレートみたいな幼馴染みが存在するのだ。
俺には幼馴染みと呼べる存在がいない。
いない。いないはずだ。幼馴染み。
保育園。小学校。中学校。高校。大学。
いないはずだ。いないはず。幼馴染み。

ファンタ・グレープで流す。

( ^ω^)「大学までずっと一緒だったし、ずっと隣にいたし」

言い訳をするように言葉を並べながらブーンはがつがつとビックマックを食べ進める。


23 : 名も無きAAのようです :2015/08/17(月) 00:55:06 QRxUCoAw0
('A`)「でもさ」

俺はやはりため息をつきながら言う。

('A`)「ツンはいつからお前の事が好きだったんだろうな」

ブーンの手が止まる。数十秒の間そうやって固まっている。
ようやく「えっ…」と言葉を漏らした。本当に鈍感なのだ。
遂に気づいたのだろう。手間がかかる。

('A`)「高校かな、中学かな、はたまた小学校かな」

ブーンは目を白黒させる。完全に食事が止まる。

('A`)「いつからお前の事が好きだったんだろうな、ツンは」

ブーンがビックマックを落とす。肩は震えている。

(; ^ω^)「あ…あぁ見えてツンは泣き虫なんだお…」

('A`)「あぁ」

(; ^ω^)「な、泣いてるかもしれないお…!」

がたん、と席を立ってブーンが店を飛び出す。
結局取り持ってしまった。お節介になってしまった。
どうして俺はこんな安い恋愛ドラマを見せられているんだろう。

店を出るとすぐ前をMETRAMが通過していく。
この明治通りも以前は交通量の多い二車線道路だったが今はMETRAMの線路が敷かれている。
METRAMは電停で充電するので架線が必要ない。電柱も地下に埋設されて空はすっきりしている。
ここはTECHNOPOLIS。先進的な街なのだ。そう記憶している。


24 : 名も無きAAのようです :2015/08/17(月) 00:56:19 QRxUCoAw0
それなのにこの違和感は何なのだろう。まるで自分が自分でないような。
このTECHNOPOLISにいるようで、いないような。



こちら側



銀河ステーションに入ってきたのは宇宙船だった。
アナウンスが到着を告げる。夜空でも暗くないように照明が当てられる。
水の宇宙船からタラップが伸びてきて、銀河ステーションに接続する。
他の乗客に倣ってそのタラップを登っていく。乗客を収容するとタラップが回収される。
ホロロッホロロッホロロッとまた地下鉄みたいなブザーが鳴ってから水の宇宙船が発進する。
銀河ステーションから大銀河を駆け巡る壮大な旅が始まる。水の宇宙船が浮上を開始する。
水が湧きだして甲板から滴り落ちる。泉のように宇宙船からは水が溢れては流れていく。
進路は光達が指し示す。光のパネルが連続し光の帯となって水の宇宙船を誘導する。
光の帯のエスコートに導かれて水の宇宙船は銀河の大海原へと旅立っていく。
デッキで俺は探していた姿を見つける。探していた。探していた。

('A`)「やぁ」

ノパ⊿゚)「ドクオ」

ガラスの向こうには星が瞬く銀河の海が広がる。水の宇宙船はゆったりとしたスピードで進む。
どうしてヒートの事を探していたのだろう。記憶喪失の彼女の私さがしを手伝うため。
どうして彼女には記憶がないのだろう。こんなところを漂流しているのだろう。
どうして初めて会った時に懐かしく感じてしまったのだろう。

('A`)「君は一体なんなんだ」

ん?とヒートが首を傾げる。

ノパ⊿゚)「急にどうしたの」


25 : 名も無きAAのようです :2015/08/17(月) 00:58:03 QRxUCoAw0
('A`)「いや…」

ノパ⊿゚)「私が知りたいくらいだよ」

('A`)「その…既視感というか違和感というか…」

ノパ⊿゚)「なにそれ」

('A`)「やっぱり、俺と君はどこかで会った事があるんじゃないか」

ぴしり、ガラスに亀裂が入る。たちまちガラスは割れて俺の身体は銀河に放り出される。
落ちていく。燃えていく。まるで流星の様にばらばらに砕けていく。意識が途絶える。
次に目を覚ますとそこはMETROの車内だった。ま



あちら側



た地下鉄で居眠りをしてしまった。きっと文庫本を開いたままだ。読みたい小説はまだ控えている。

('A`)「違う」

METROとMETRAMが張り巡らされた先進的なTECHNOPOLIS。

('A`)「違う」

ここは俺の居場所じゃない。

('A`)「ヒート…」

ヒート。記憶喪失の彼女。ヒートに会わなければいけない気がする。
あちら側。ヒートのいるあちら側に。

('A`)「あちら側?」

川 ゚ -゚)「もう気づいたのか」

('A`)「クーさん…?」

地下鉄の車内に突然現れたのはクーだ。

川 ゚ -゚)「こちら側とあちら側を途中で取り替えておいたんだがな」


26 : 名も無きAAのようです :2015/08/17(月) 01:00:37 QRxUCoAw0
('A`)「な、何を言って…」

違う。ここはこちら側だ。いつから。

('A`)「どうして、そんな」

川 ゚ -゚)「こちら側もあちら側も同じなんだよ」

('A`)「何を言ってるんだ、貴方は…」

川 ゚ -゚)「ヒートは私のものだ」

はっきりとクーは宣言する。

('A`)「…お前は一体」

クーは笑う。勝ち誇った顔で笑う。

川 ゚ ー゚)「この世界を創ったのは私だ。お前には止められない」

地下鉄が割れる。隧道内は闇夜。奈落の底に落ちる。
どこまでも落ちていく。そのうちに意識が飛んでいく。
記憶を奪われたのはヒートだけではなかった。
ようやく失った記憶が蘇ってくる。
ここはTECHNOPOLISではない。
TECHNOPOLISなど存在しない。

( A )「…クソが」

意識が戻る。ダイブから帰ってくる。
また失敗した事を確認する。
まただ。また助けられなかった。
TECHNOPOLISという名の電脳世界。
人工知能に囚われた幼馴染みを助けるために俺はまたダイブする。



  (
   )
  i  フッ
  |_|



('A`)TECHNOPOLISのようです


27 : 名も無きAAのようです :2015/08/17(月) 01:03:25 QRxUCoAw0
投下終了です。
読んでいただいた方ありがとうございました。


28 : 名も無きAAのようです :2015/08/17(月) 01:11:14 i0sLrpX20

ドクオの幼馴染み=クーなのか…?


29 : 名も無きAAのようです :2015/08/17(月) 01:11:45 Z5EfERMw0
乙乙
初めに見て思ったのがYMOかよ!やべえ口端吊り上がって来た!だけど
読み込んでみるとなんだかマトリックスみたいでかっこいいな、という感想


30 : 名も無きAAのようです :2015/08/17(月) 02:03:53 fgrHsd2Y0

なんかどこかで読んだことあるような


31 : 名も無きAAのようです :2015/08/17(月) 06:24:13 Ydw6Y0I.0
いつもながら世界観がすごい。
飲み込まれそうになる
赤い世界の話ら編がこわかったなぁ、乙


32 : 名も無きAAのようです :2015/08/18(火) 21:30:54 u8C6XghA0
ありがとうございます〜

>>28
ドクオの幼馴染み=ヒート
人工知能=クーです

>>30
なんと鋭い
今回は以前に投下したものの改変みたいなやつです


33 : 名も無きAAのようです :2015/08/19(水) 17:23:43 TcmJxvLU0
おつおつ!この雰囲気なんか好き
SF映画見てるみたいで面白かった!


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