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Ammo→Re!!のようです

813名も無きAAのようです:2017/10/01(日) 19:04:22 ID:UYTFpBow0
普段、この平穏な島でマスコミや警察が騒ぐことなどありえない話だが、ここ数日は例外だった。
ティンカーベルにはジェイル島と言う監獄島があり、そこには隣街であるジュスティアから護送されてきた凶悪犯が収容されている。
そのジェイル島が何者かによって襲撃され、二名の凶悪犯が脱獄――脱獄に成功した例はこれが初――した。
盗みの天才“ザ・サード”デミタス・エドワードグリーンと、連続誘拐犯の“バンダースナッチ”シュール・ディンケラッカーである。

脱獄犯は島へと逃げ込み、あちらこちらで戦闘行為に及んで一般市民を恐怖させた。
銃声と爆音、そして硝煙が島に満ちたのは百二十七年前に起きたデイジー紛争以来の事だった。
争いとは無縁だと思っていた多くの島民は自分達が住む世界を思い知らされ、認識を改めた。
この時代は、力が世界を変えるのだ。

八月八日から続いていた緊張状態は漁の規制に繋がり、観光客が皆ホテルの部屋に籠って外出を控えたことで飲食店や小売店が打撃を受け、島全体の産業から活気を奪っていた。
だがそれを覆すための救済の声が、島内に設置されたスピーカーを通じて島中に向けて発信された。
時刻は夜の十時半だったが、ノイズが僅かに混じったその声に、誰もが耳を傾けていた。
老人も、大人も、そして子供も。

次なる情報を、固唾を飲んで待った。
救世主の言葉を。
正義の味方の言葉を。

『先ほど、この島に逃げ込んだデミタス・エドワードグリーンはジュスティア警察の手によって射殺されました。
現在、脱獄を手引きした人間と最後の一人を追跡中です。
皆さま、もう少しだけお待ちください。
我々ジュスティアが、必ずや本日中に犯人一味を処理いたします』

それは先日、事件の早期終結を島民に約束したライダル・ヅーの声だった。
彼らが先日聞いた記者会見の言葉の通り、今日中に決着をつけるというブレの無い発言。
島の人間達は長い夜の終わりを夢見て、時計の針が進むのを待つことにした。
ラジオを持つ人間は放送に耳を傾けて時間の経過を待ち、持たない者は島の放送機器からの一斉放送を待った。

グレース・ナターシャの経営する民宿は、連日の騒ぎのせいで宿泊客が一人も来ず、加えて一人も定着していなかった。
これまでにいた客は皆、より堅牢な建物のホテルへと移ってしまったのだ。
彼女の民宿は木造で、銃弾が当たれば貫通するほどの薄い壁であるため、客が流れ出て行くのは当然だった。
可能であれば彼女も鉄筋の屋内に逃げたかったが、いつ客が来てもいいように店を捨てる訳にもいかない。

結局彼女は民宿の出入り口に鍵をかけ、日がな一日、ラジオを聞きながら読書をして過ごしていた。
彼女は何食わぬ様子でラジオを聞いていたが、いつもと違ったのはその後の行動だった。
埃を被り始めた客室の清掃を行い、食事の仕込みを始めたのだ。
心なしか、食材を刻む手が軽快になっていた。

明日からはいつも通りの日常が戻ってくる。
民宿はホテルと違って豪華な食事や設備があるわけではない。
その分、サービスで差別化を図らなければならない。
行き届いた清掃と美味な地元料理を観光客に振る舞えばそれは口コミで広がり、彼女の得意料理である煮込みハンバーグを食べようと大勢がやってくる。

早く明日が来ることを楽しみにしながら、彼女は鼻歌交じりに仕事を始めたのだった。


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