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Ammo→Re!!のようです

1 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 19:35:24 ID:F94asbco0
前スレ
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/13029/1369565073/

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763 セフレ人妻出会い掲示板 :2017/06/29(木) 08:48:18 ID:uF/8gXwU0
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766 名も無きAAのようです :2017/07/10(月) 11:16:50 ID:DhYdlkpc0
ワープです!

767 名も無きAAのようです :2017/07/15(土) 23:21:16 ID:vGS2cGqg0
デレ以外のキャラはほんと魅力が凄いな
づー生きててほしかった

768 名も無きAAのようです :2017/07/16(日) 18:09:23 ID:Ru2bTNxE0
デレが負ける所が歯車のヒート以上に想像できない

769 名も無きAAのようです :2017/07/17(月) 09:27:58 ID:JL/.WovA0
今夜VIPでお会いしましょう!

770 名も無きAAのようです :2017/07/17(月) 10:46:20 ID:SWVkkkDE0
おっ

771 名も無きAAのようです :2017/07/17(月) 20:48:24 ID:s.K.qiF.0
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                 騎士道は 滅することと 見つけたり

                              ――円卓十二騎士誓いの言葉より抜粋

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八月十一日。
怪盗、デミタス・エドワードグリーンからの挑戦状がジュスティア警察に送り付けられ、現場が大忙しで対応をしている頃。
一人の刑事が、黒塗りのセダンに乗せられてグルーバー島にあるホテルへと連行されていた。
車のガラスは全て防弾のスモークグラスとなっており、誰が乗せられているのか、誰が運転しているのかを外から確認する術はない。

運転手とその横に座る男は二人とも若々しさが残る三十代前半で、スーツを下から押し上げる程の筋肉の鎧は彼らが厳しい訓練、もしくは現場を潜り抜けてきた証だった。
懐の不自然な膨らみはそこに収められた拳銃の存在を物語り、鋭い眼光は場数の多さとその激しさを如実に表している。
時折バックミラーに向けられる視線は、周囲を見渡す時よりも一層鋭さを増した。
その視線の先にいる男は、“虎”と呼ばれる刑事だった。

エラルテ記念病院から連れ出された時、男は激怒して怒鳴り散らしていたが、今は嘘のように静まり返っている。
だがその目はこの状況を受け入れているようには思えない。
隙あらば襲い掛かり、噛み付き、殺そうとする獰猛な獣を彷彿とさせる目をしていた。

(=゚д゚)

人でありながらも獣を思わせる眼力を持つ男の名は、トラギコ・マウンテンライト。
正義の都として知られるジュスティアの人間であり、ベテランの警察官だった。
その性格は凶暴でありながらも抜け目なく、犯人の逮捕率と暴行による始末書の数は現役警官の中で最も多いと言われている。
それ故に警察署内には彼を警官として認めるべきではないとする人間と、犯罪に対する特効薬としての実力を認める人間がいた。

直接ではないが、ミラー越しに視線を向けていた男はハンドルを握る手が震えているのを悟られないよう、視線を前に向けなおした。
自分達に向けられる敵意の塊のような視線に耐えかねての行動だったが、それでも精いっぱいの行動だった。
手錠で動きは封じているはずなのに、何故か、トラギコの敵意は本物のナイフを突きつけているかのような感覚に陥らせる。
緊張のあまり、男達は二人揃って喉を鳴らして唾を飲み込んだ。

何も恐れる必要はない。
虎は捕えられ、こうして手錠を嵌めて後部座席で静かに座っている。
視線に気づいたのか、それとも空気の微細な変化を感知したのか。
沈黙を守っていたトラギコが地鳴りを思わせる声を発した。

(=゚д゚)「……どこに連れて行く気ラギ?」

答えない。
返答は許可されていないし、この男は少ない手がかりで何かの答えに辿り着く様な厄介者だ。
迂闊に答えて自分達の首を絞めるような真似は回避したい。
明日中にはトラギコをジュスティアに向けて移送するため、明朝にはこのグルーバー島の西に位置するバンブー島に移動しなければならない。

772 名も無きAAのようです :2017/07/17(月) 20:50:40 ID:s.K.qiF.0
それまでの間にトラギコが何もしないとは思えない。
ならば、余計な行動に繋がることは断じて避けなければならなかった。
この男が真実に辿り着くとは思えないが、その真実を可能性の一つに入れて行動したとしたら、かなり手荒な手段を講じなければならなくなる。
計画が大きく変更されることも考えられる。

ここは、沈黙こそが正解だ。

(=゚д゚)「んだよ、無視か」

まずは、トラギコをホテルに連れて行き、そこで薬物などを使った下準備をしなければならない。
早急に計画を実行に移すのが彼らにとって得策なのだが、それは余計な疑念を生む可能性があり、決して焦ってはならないと計画者に念押しされていた。
彼らはトラギコをジュスティアに移送するように命令を受けているが、その実、その命令は実行されることはない。
別命を受けた彼らが実行するのはトラギコの殺害。

事件になる他殺ではなく、納得のいく自殺を偽装しなければならない。
そのためにトラギコの殺害は今日ではなく、一日明けた明日である必要があった。
それに、今夜は騒ぎを起こしてはならない。
今夜と明日の夜に起こる騒ぎはすでに決まっているため、ここで新たものを付け加えるのはそれ以外の予定の変更につながる。

デミタスの予告を阻止するためにジュスティア警察と軍には全力を注いでもらい、それ以外のことについては意識を向けさせてはならない。
最高の舞台を用意し、彼らにはそれだけを見てもらわなければならないのだ。
今夜中には各要所に警官や軍人が配備され、エラルテ記念病院周囲は要塞と化す予定となっている。
それが完了するまでは、少なくともトラギコには何一つ騒ぎを起こさせてはならない。

大人しくホテルに連行され、そして、薬物によって意識と体の自由を奪われるまでは油断禁物。
時間にすれば一時間にも満たない僅かな作業だが、重要度は極めて高かった。
何もかも万事順調に進行して明日になれば、各方面の同志達が一斉に動き始める。
それに合わせて、彼らもトラギコを連れてジュスティアに移動を開始し、その道中でトラギコを殺すことになっていた。

本来は何人たりとも島の行き来は禁じられていたが、彼らの車だけは特例として許可が出されていた。
騒ぎを隠すのならば、騒ぎの中、と言うわけだ。

(=゚д゚)「この方向だと……なるほど、ホテルか。
    大方、どこかのホテルを貸し切ったんだろうな。
    で、朝方に出かけるって感じラギね。
    晩飯と朝飯ぐらい選ばせてくれるんだろうな」

この一言で、プランの変更が決定された。
方向感覚を狂わせるために街中を無意味に走っていたが、それは無意味だったようだ。
短期間の内にトラギコは街の様子を把握しており、彼らが試みた工作は失敗に終わった。
トラギコを明日の移送まで生かしておけば、必ず何か行動を起こす。

その前に殺さなければならない。
ホテルに行く前にトラギコを始末しなければ、必ずや災いをもたらすだろう。

( ''づ)「……」

(-゚ぺ-)「……」

773 名も無きAAのようです :2017/07/17(月) 20:53:10 ID:s.K.qiF.0
二人は互いに目線を合わせ、小さく頷いた。
ホテルに向かっていた進路を変更し、車は山の奥へと向かい始めた。
街の明かりが遠ざかり、街灯すらない山中に停まった時にはすでに日付が変わっていた。
エンジンを切ると、車内の明かりが一斉に消えた。

柔らかな月光が照らし出す車内に、うめき声の様なトラギコの低い声が響いた。

(=゚д゚)「……シナリオは?」

流石は刑事だ。
これから何が起きるのか、自分の身に何が起ころうとしているのかを察している。
だがもう、遅い。
野生の虎ではなく、檻の中に閉じ込めた虎であれば殺すことは容易だ。

(-゚ぺ-)「これまでの失敗と屈辱に耐えかね、自殺。
     そういう流れになっているので、抵抗はお止めください」

男は黒皮の手袋をはめ、ダッシュボードからベレッタM8000を取り出した。
それは間違いなく、トラギコの銃だった。
車に乗せる際にトラギコから没収し、そこに入れておいたものだ。
トラギコ自らに遊底を引かせ、薬室に入っていた弾も、弾倉の弾も取り出させており、その部品の全てに指紋が付いている。

当然、銃から検出されるのはトラギコの指紋だけ。
自殺に見せかけてトラギコを殺すことも、トラギコの仕業に見せかけて誰かを殺すことも可能だ。

(=゚д゚)「そんなこったろうと思ってたラギ。
    お前ら、警官じゃねぇだろ」

妙に余裕のある言葉を聞きつつ、男は弾倉に弾を込めて、それを装填してから遊底を引いた。
狙いをトラギコの脚に定める、銃爪に指をかける。
一発で頭を撃ち抜いて自殺しては、あまりにもリアリティに欠けてしまう。
自殺しようとするトラギコを制止しようと試みたが、取り押さえようとする過程でトラギコが自らの足を撃ち抜き、最後は心臓を撃ち抜いて自殺したとするシナリオが用意されていた。

本来は混沌状態にあるトラギコに施す処置だったが、意識があろうがなかろうが、この状況からの逆転は不可能だ。

( ''づ)「……我々が警官でないと考えた理由を、今後の参考までに聞かせてもらえますか?」

(=゚д゚)「当たり前だろ。
    理由は二つだ」

トラギコはもったいぶるようにして言った。
その言葉が力を持っているかのように、月に雲がかかって車内が薄暗くなる。

(=゚д゚)「一つは、俺をこうして捕まえたこと。
    んでもってもう一つは、 尾 行 車 に 気 付 け て い な い っ て こ と ラ ギ 」

トラギコの言葉を裏付けるように、眩い閃光が車内を照らし出した。
それはカメラの生み出す閃光。
勘のいいマスコミの犬が尾行していたのか。
後続車はいなかったはずだから、先回りされたという事だ。

774 名も無きAAのようです :2017/07/17(月) 20:54:34 ID:s.K.qiF.0
どれだけ疑問や仮定を思い浮かべても答えは出てこない。
逃げられる前にマスコミの人間を排除しなければならない。
車内で拳銃を構える男とトラギコの姿が世に出回れば、このシナリオは破たんする。
助手席の男は舌打ちをしつつ懐からコルトを抜いて遊底を引き、それからドアを開けようとした。

正にその時、起きてはならないことが起きてしまった。

(=゚д゚)「玩具は俺が預かるラギ」

一瞬の内にトラギコの手が後部座席から伸び、コルトを奪い取ったのだ。
彼の左手首には手錠がぶら下がり、右手とは繋がっていなかった。
コルトの銃腔はM8000を持つ男ではなく、ドアに手を伸ばしたままの姿で固まる男に向けられていた。

(-゚ぺ-)「いつの間に手錠を……!!」

トラギコの腕を拘束していたのは錠が無ければ決して開ける事の出来ない物で、その硬度はただの金属製の手錠よりも高い。
力で破壊することは無理だ。
ならば、別の手段で錠をこじ開けたのだろう。
しかし道具を手に入れるタイミングなどなかったはず。

(=゚д゚)「護送する人間に手錠をするんなら、ちゃんと体の前で手錠をかけるのは常識ラギ。
    でねぇと、俺みたいに手癖の悪い人間に逃げられるラギよ」

その言葉で、助手席の男は手錠を抜けるための道具をトラギコがどのように入手したのかに気付いた。

( ''づ)「懐に手を入れた時か!!」

あの時。
ベルベット・オールスターに中指を立てるために懐に手を入れたのは演出で、実際は道具を手中に隠すための演技。
気付いた時にはもう遅く、こうしてトラギコに多くの情報を与えた上に銃を持たせてしまった。
捕えていたと思っていたのは彼らだけで、その実、虎は虎視眈々と機会を窺っていたのだ。

獲物が勝利を確信し、隙を見せるその刹那の瞬間を。

(=゚д゚)「お前ら、俺を知らな過ぎラギ。
    本当に警官だったら、俺の両手両足を拘束してるはずだ。
    雇い主はベルベットだな?」

これ以上はもう生かしておけない。
男は、一の犠牲で済むのであれば今はそうするべきだと独自の判断を下した。
トラギコの言葉に対して銃爪を引いて撃鉄が落ちる小さな音が鳴ったが、銃声は響かなかった。
ベレッタは銃弾を吐き出さぬまま、ただ、沈黙している。

間違った鍵で扉を開こうとしているかのように、何度銃爪を引いても意味はなかった。

(-゚ぺ-)「何っ?!」

思わず間の抜けた声が漏れ出た隙を、虎は決して見逃さない。

(=゚д゚)「馬鹿が」

775 名も無きAAのようです :2017/07/17(月) 20:55:37 ID:s.K.qiF.0
今度は、トラギコの番だった。
罵倒の言葉と同時にコルトの銃爪が引かれ、狭い車内に銃声が響き渡り、まばゆい光が男達の目を覆った。
ドアに手をかけたまま、脳漿の一部を失った男の死体がギアボックスの上に倒れ込んだ。
普通の警官ならば警告の一つもあったのだろうが、この男はトラギコ。

犯罪者に対する警告など、頭の中から欠落した男なのだ。

(=゚д゚)「さぁ、話の続きをするラギ」

硝煙の立ち上る銃腔を男に向け、その手から抵抗する間も与えずM8000を奪い取る。
それは赤子の手から物を奪い取るように素早く、そして恐ろしく自然な動作だった。
発砲が出来ない以上無駄な道具であると誤った判断を下したと気付いた時には、もう手遅れだった。
恐らくはこの銃も、トラギコが何らかの細工を加えたために発砲が出来なかったのだろう。

細工をしたのがトラギコであれば、それを解除し得るのもトラギコ。
この銃は少なくとも、トラギコにとっては価値のある武器なのだ。

(-゚ぺ-)「喋ると思いますか?」

(=゚д゚)「知るかよ、そんなもん」

男の左手がシートの下に伸び、そこに隠されていたナイフに指先が触れる。
ナイフの刃には猛毒が塗ってあり、掠り傷でも十分に人を死に至らしめる事が出来る。
どれだけ鍛え上げた体を持つ大人でも五秒とかからずに心臓を停止させ、安らかな死を与えられる緊急用の武器だ。
今が使い時だ。

(-゚ぺ-)「役割を終えた葉は、ただ散るだけです」

(=゚д゚)「あ?」

男は自らの指先を刃に押し当て、その毒を自らの体内に取り込んだ。
すぐに毒が全身に回り、男の心臓は停止した。
死体と化した男を見下ろし、トラギコは溜息を吐いた。

(=゚д゚)「……糞」

そうぼやきながらも二つの死体を探り、身分証など何かの手がかりになりそうな物を探す。
見つかったのは精巧に偽造された警察手帳、封筒に入った通行許可証と、数枚の金貨だった。
それらの品を懐にしまい込み、M8000の撃針に施していた細工を取り除く。
車を出たトラギコの体を、冷たい風が撫でる。

(=゚д゚)「お前なら絶対に来ると思ってたラギ」

月光の下に浮かぶ人影に向け、トラギコが声をかける。
車の前で全ての成り行きを見守っていた男が、トラギコの言葉にニヤリと笑みを浮かべた。
この男ならば必ずエラルテ記念病院に向かい、そこでトラギコを見つけ出して追いかけてくると信じていた。
何故ならこの男は、優秀なカメラマン。

分かり易いスクープではなく、本物のスクープを追う男なのだ。

776 名も無きAAのようです :2017/07/17(月) 20:56:42 ID:s.K.qiF.0
(-@∀@)「へへっ、ワンショット・ワンチャンスってね」

男の名前はアサピー・ポストマン。
ティンカーベルにいる全ての新聞記者の中で唯一、この事件の真相に近づいている人間である。

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          ! | l  ', ', ‘  ゙、     ノ ,   } ノノ::.:.:.: :     l: :/
           ‘ミ辷__Ammo for Reknit!!編 第八章【heroes-英雄-】
                ヽ 、 ≧=--=≦   /
                      ニ二ニ   _,.イ
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八月十二日。
トラギコにとってやるべきことは山積みだったが、取り急ぎ解決すべきは、ショボン・パドローネ達の脱出を阻止することだった。
デミタスの予告状は間違いなく陽動であり、それに翻弄される警察官たちは本当の意味で事件を解決することは出来ない。
だが、自由に動くことのできるトラギコだけは別だ。

デミタスはライダル・ヅー達に任せ、自分はショボン達を追う事が出来る。
ただし、警戒しなければならないことがある。
終ぞ白状しなかったが、トラギコを殺そうと動いたのは報道担当官のベルベット・オールスターで間違いなさそうだった。
つまり、警察の中でもかなりの上層部にショボン達の細胞が潜り込んでいることになり、ここでトラギコが迂闊に生きている姿を晒そうものなら別の手段で命を狙われるだろう。

大々的にトラギコを殺すことは出来ないだろうから、事故に見せかけて殺そうとするだろう。
となれば、その働きをしそうな男の動きを封じなければならない。
狙撃手、カラマロス・ロングディスタンス。
実際にトラギコを殺そうとしてきた男であり、トラギコの友人を殺した男でもある。

この男が狙撃をする瞬間をアサピーは写真に収めており、それを使って糾弾するつもりだった。
その予定はしばらく棚上げにしなければならないだろう。
今写真をジュスティアに提供しても、上層部に潜り込んだ人間によってその存在を抹消されるのがオチだ。
致し方ないが、いつもより乱暴な手段に出るしかない。

まずはどこか落ち着いた場所に隠れ、それから策を練る必要がある。
車内から二つの死体を引きずり出し、森の中に捨てた。
トランクから強化外骨格“ブリッツ”の入ったコンテナを取り出し、乱暴に閉める。

(=゚д゚)「街はどうなってるか分かるラギか?」

777 名も無きAAのようです :2017/07/17(月) 20:57:51 ID:s.K.qiF.0
車内から見つけたウェットティッシュをアサピーに投げてよこし、血と脳漿の飛び散った車内の清掃を任せた。
アサピーは流石に眉を顰めたが、トラギコに一睨みには逆らえなかった。
渋々掃除を始め、トラギコの質問に答えた。

(-@∀@)「エラルテ記念病院の周りが慌ただしいぐらいで、他は静かなもんですよ。
      ま、あんなフェイクに引っかかるようじゃマスコミとしちゃ三流ですね」

(=゚д゚)「じゃあお前は二流ってところか」

(;-@∀@)「一流ですよ!!」

(=゚д゚)「自分で言う内は二流なんだよ」

それから二人を乗せたセダンは山奥にあるキャンプ場に向かった。
元々無人のキャンプ場であるため、これと言って道具の貸し出しを行っているわけではない。
あるのは開けた空間だけ。
騒ぎの最中ということもあり、利用客はほとんどいなかった。

駐車場に車を停め、トラギコはシートを倒した。

(=゚д゚)「ジェイル島に行く道ってのは、船だけなんだろ?」

ジェイル島は島そのものを監獄化した孤島だ。
海、もしくは空からの接近以外で島に上陸する手立てはない。
逆を言えば、それ以外の手段で外の世界に逃げ出すことも出来ない。

(-@∀@)「あぁ、まぁ、そうですね」

(=゚д゚)「他にあるのか?」

(-@∀@)「聞いたことがある程度なんですが、昔、磯釣りをしていた人は船を使わずにあの島に行ったらしいですよ」

(=゚д゚)「泳いだんじゃねぇのか?」

(-@∀@)「歩いて行ったらしいです。
      でも、これは島のコラムを作る時に老人ホームの人に聞いたので分からないんですけどね」

アサピーもシートを倒して、寝入ろうとする。
が、トラギコはアサピーの発言を無視することは出来なかった。
思い当たる手段が一つだけある。

(=゚д゚)「……ぼけた老人ってのはな、話を誇張することはあっても手段を言い間違えることはまずねぇんだ。
    それが昔話なら尚更ラギ。
    歩いて行けるんだよ、あの島には」

(-@∀@)「はははっ、ご冗談を!!
      海の上を歩くって言うんですか?」

778 名も無きAAのようです :2017/07/17(月) 20:59:54 ID:s.K.qiF.0
そう。
歩くのだ。
だが正しくは海の上ではなく、海面に出た岩の上を飛び移って行くのである。
そして釣り人が動き始めるのは夜ではなく、朝方。

つまり、朝方になれば移動するための道が開け、夜になる頃にはその道が途絶えるという事。
途絶えたとしても、それは海面に出ていないだけであって、場所さえ分かっていればいつでも使えるはずだ。
問題は、その老人が使った道が今も使えるかという事だ。

(=゚д゚)「あぁ、そうだ。
    そのためには写真がいるラギ。
    おい、朝一で撮りに行くぞ」

(-@∀@)「と言っても、場所知らないですよ、僕」

(#=゚д゚)「探すんだよ、そんぐらい!!
     お前の得意分野だろうが!!」

それから二人は血と硝煙の匂いが残る車内で眠りにつくことにした。
寝心地は最悪だったが、眠らなければならない。
今ジタバタしたところで得られるものは何もないだろう。
ほどなくして、トラギコは眠りについた。

――自然に目が覚めたのは、朝の四時だった。

(=゚д゚)「……」

眠りながらトラギコが考えていたのは、デミタスの侵入経路だった。
この島からジェイル島に行くためにはいくつもの困難がある。
言わずもがな、その立地があらゆる経路の前提条件としてある。
陸から離れた場所にあり、船で行こうとするのであれば岩礁の位置を把握していなければならない。

ゴムボートで行こうものなら、その船底を鋭い岩肌で切り裂かれて沈むことだろう。
仮にその条件を突破しても、そもそも島全体が封鎖されている今、どのようにしてジェイル島に向けて近づくのかを考えなければならない。
単独でこれらの条件をクリアすることは不可能だ。
必ず内通者がいる。

例えば、ベルベット。
彼が協力すれば、ヅーの施したあらゆる措置が白日の下にさらされ、その効果は決して発揮されない。
恐らく、デミタスとヅーの対決は実現してしまうだろう。
それは最早回避できない問題として考えるべきだ。

万が一、助力が必要な事態になった時を考慮し、トラギコも島に侵入するための手段を考えることにした。
デミタスの事で島中が騒ぎ出している今であれば、どうにか出来るかもしれない。
騒動の中で相手の目を盗んで動くことはトラギコも得意だ。
場所が島である以上、海から行くしかないだろうが、用心深いヅーは島の周辺に各種センサーを設置している事だろう。

779 名も無きAAのようです :2017/07/17(月) 21:01:21 ID:s.K.qiF.0
人の目を騙して島に近づいても、センサーに感知されてしまえば意味がない。
時間が無い中で目立たないようにセンサーを仕掛けるとしたら、必ずや理論的に配置するはずだ。
アサピーの言う釣り場に至る道を使えば、或いは、センサーは仕掛けられていないかもしれない。
紛れもない賭けだが、理屈に対抗するには賭けが一番なのだ。

今の時間帯を利用して道を写真に収め、それを記憶しておかなければ万が一に備えられない。
写真を覚えるのは難しい話ではないが、必要な時に思い出せるようにするには反復練習が必要だ。
となると、善は急げ。
一刻も早く現場に向かうため、トラギコは車のエンジンをかけ、アクセルを一気に踏み込んだ。

タイヤが地面を抉る音と振動で目を覚ましたアサピーは、目の前に迫ってくる木々に悲鳴を上げた。

(;-@∀@)「きゃー!?」

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(=゚д゚)「うるせぇよ。
    ほれ、シートベルト締めろ」

トラギコが言い終わるよりも早く、アサピーはシートベルトを締めていた。
キャンプ場を通り抜け、下り道へと差し掛かる。
木の根を乗り越え、跳ねた小石が車体にぶつかり、大きな岩を踏み越える度に二人の体は猛牛に跨る闘牛士のように上下した。
目指すのは川だった。

川沿いに下って行けば、自ずと海に出る。
海岸にいる警備の目を潜り抜ければ、写真を撮影するのは他愛のない話だ。
目的は場所の把握であり、それを記憶することなのである。
潮の関係もあるため、出来るだけ早く現場に辿り着きたかった。

しかし、車輌がセダンと言う事もあって、そう上手くいくとは考えていない。
川に到着できなくても、途中までの道をショートカットできればそれでいい。
度重なる衝撃に耐えかねた前輪が吹き飛び、トラギコは咄嗟に車体を木にぶつけて停車させた。
ほんの一瞬、トラギコの意識が飛ぶ。

780 名も無きAAのようです :2017/07/17(月) 21:03:04 ID:s.K.qiF.0
意識が戻り、最初に聞こえたのは川のせせらぎだった。
自分の四肢が動くことを確認してから、車の状態を見る。
フロントガラスは失われ、エンジン部分から白煙が上がっている様子がよく見えた。
木にぶつけた後部座席は大きく凹み、板金屋でも修理は不可能だろう。

この車はもう使えないが、隠す手間が省けたのは間違いない。

(;=゚д゚)「……ふぅ。
     生きてるか?」

(;-@∀@)「もうやだ……」

僅か二十分足らずで川の近くに来たと考えれば、危険を冒した甲斐もある。
割れたフロントガラスから這い出て、トラギコは水音のする方向に向けて歩き出した。
陽は昇り始めているだろうが、鬱蒼と生い茂る木々の間には朝日は十分に差し込まないため、薄暗かった。
足元に注意しながら駆け足で森を抜け、川に辿り着くまで五分もかからなかった。

遅れて到着したアサピーは肩で息をしながら、額に浮かんだ汗を拭いとった。
トラギコはそんなアサピーの肩に手を乗せ、川下を親指で指さした。

(=゚д゚)「さ、お前は写真を撮りに行ってくるラギ。
    俺はここで二度寝してるから、さっさと行ってさっさと帰ってくるラギよ」

(;-@∀@)「はい?!
      僕一人で行けと?!」

(=゚д゚)「ガキじゃねぇんだから、やれるだろ」

(;-@∀@)「えぇ…… 一緒に来てくれないんですかい?」

(=゚д゚)「俺は眠いラギ。
    それに、今は間違っても警官に見られたくねぇんだ。
    ほれ、行って来い」

アサピーは肩を落としてふらつきながらも走って海を目指し、その背を見送ってからトラギコは手ごろな岩の上に座って考えを巡らせることにした。
これはトラギコにとって、これはいわば保険だ。
決して使用されることの無い、そうであってほしい保険。
だから本腰を入れる必要はないのだが、どうにも胸騒ぎが収まらないのだ。

円卓十二騎士が二人いたとしても、決して拭いきれない不安。
その原因は、トラギコがこれまで多くの事件に関わってきたことによる経験則と、それに伴う勘だった。
デミタスの輝かしい犯罪歴は、彼の持つ才能の結晶だ。
あの男はこれまでに多くの美術品を盗んできたが、人の命を対象とした盗みはしなかったはずだ。

負傷しながらも不慣れなことに挑戦しようとしているということは、その命を捨ててでも成し遂げたいことなのだろう。
馬鹿な。
命がけの特攻を進んで買って出るなど、不自然でしかない。
不自然極まりなく、紛れもなく、本命は別にあると考える他ない動きだった。

781 名も無きAAのようです :2017/07/17(月) 21:04:03 ID:s.K.qiF.0
命を賭すという事は、それに足る何かが必要な状況ということ。
生還は最初から予定にない人間の狙いなど、一つしかない。
その遺志を継ぐ人間へのバトンパスだ。
それがショボン達の時間稼ぎなのか、それとも、本当にヅーを殺したい一心なのかは分からない。

両方かも知れないし、どちらでもないかもしれない。
それでもトラギコが今追うべきはショボンであり、デミタスの様な小悪党にかまっている時でない事は断言できる。
それは間違いない。
何度も訪れることの無い分岐点で道を間違える訳にはいかない。

何故、トラギコがヅーのために目の前にある獲物を逃がさなければならないのか。
ようやく警察官らしい振る舞いの出来るようになったばかりの青二才を気遣う道理など、どこにもない。
私情を仕事に持ち込む時期は終わっている。
最悪、ヅーが襲われて重傷を負おうがトラギコの知った事ではない。

それよりも気にしなければならないのは、ショボン達が使用したとされるヘリコプターの存在だった。
彼らは空を飛んで逃げるという手段を持ちながら、まだこの土地に居座っている。
何かが原因で、彼らはその手段を使えないのか、あるいは使わないだろう。
やはり、デレシアが関係していると考えた方が賢明だ。

デレシアを殺さんがため、彼らは危険を冒して島に滞在しているのだ。
だがそれも、デミタスの行動から察するに変更されることになったのだろう。
折角手に入れた死刑囚を生贄にするという事がその証明だ。
ショボン達が当初の目的を捨て、島を脱出しようとするのは間違いなさそうだ。

問題はそのタイミング。

(=゚д゚)「結局、あの女に行き着くのか……」

鍵を握るのは正体不明の旅人、デレシア。
トラギコの命を救い、この島で起きていた事件をあるべき形に戻した女。
単独、そして生身で棺桶を相手取って立ち回り、圧倒するほどの力の持ち主。
円卓十二騎士が束になっても勝てるかどうか、トラギコには分かりかねた。

デレシアは約束を果たした。
たった一人の力で状況を変えてしまった女は今、どこで何をしているのだろうか。
あの女がいれば、ショボン達を一網打尽にすることも出来るだろうに。
この手でデレシアを逮捕できればという気持ちは、増々強くなる一方だ。

島の事件を終わらせ、早急に元の道に戻るためにも、今は休む必要がある。
瞼を降ろし、トラギコは少し仮眠をとることにした。
連日の騒ぎでろくに休めていない。
休息を怠ればより大きな代償を払うことになると知るトラギコは、静かに眠りにつこうとした。

心地よい眠りの波に体が持って行かれそうな感覚が訪れ、呼吸が落ち着き始める。

(;-@∀@)「へへっ、撮ってきました!!」

だが、瞼を降ろしてすぐにトラギコの眠りはアサピーの誇らしげな声によって妨げられた。
驚きと苛立ちを半分ずつ抱き、トラギコは起き上がった。

782 名も無きAAのようです :2017/07/17(月) 21:05:44 ID:s.K.qiF.0
(=゚д゚)「早いな」

(;-@∀@)「すぐそこから望遠で撮影できたんですよ、ラッキーなことに。
       で、結論から言うと十分渡れそうです。
       後は現像してやらないと」

(=゚д゚)「じゃ、街に行くしかねぇな」

(;-@∀@)「えぇ、一緒に行きましょう」

(=゚д゚)「は? お前が行くに決まってるラギ。
    俺が行ったら警察が捕まえに来るだろ」

一応、トラギコは輸送中ということになっているため、目立たないに越したことはない。
少しの間だけでもそれを隠し通せれば、トラギコはマークされずに済む。
そうすればショボンの裏をかけるかもしれない。

(=゚д゚)「飯と移動手段を手に入れてここに戻ってくるラギ。
    金ならほら、たっぷりやるラギ」

死体から預かった金貨の内、二枚をアサピーに投げてよこす。
金貨二枚もあれば、中古車と十分な食料が手に入る。
お釣りで新しいカメラも買えるだろう。

(-@∀@)「……お釣りはもらっても?」

(=゚д゚)「やるよ、そんぐらい」

ここから街までは、徒歩で一時間以上かかる。
その間にトラギコが冒すことになる危険を考えれば安い物だ。
何より自分の金ではないため、トラギコは何一つ損をしない。

(-@∀@)「ご飯は何がいいですか?」

(=゚д゚)「肉ラギ。 後はお前に任せるが、合流はここに正午ラギ。
    それさえ守れば後は自由にするラギ。
    だけど、くれぐれも捕まったり尾行されたりするなよ」

(-@∀@)「へへっ、了解です。
      その前にトラギコさん、これを渡しておきますね」

そう言ってアサピーは黒いケースに入ったフィルムを差し出した。

(=゚д゚)「例の写真が入ってるやつか?」

(-@∀@)「えぇ。 僕が途中で殺されてもそれがあれば大丈夫、ですよね?」

初めて、トラギコはアサピーの言動で感心した。
この男は分かっているのだ。
トラギコの天秤で重視されているのが己の命ではなく、このフィルムであることを。

783 名も無きAAのようです :2017/07/17(月) 21:07:22 ID:s.K.qiF.0
(=゚д゚)「……そうだ。
    分かってるじゃねぇか」

(-@∀@)「どんなカメラマンもそうですよ。
      命よりも、命を懸けた物の方が大切なんです。
      僕にとってはそのフィルムが正にそれなんです」

(=゚д゚)「お前、意外と根性座ってるラギね。
    正直見直したラギ」

(;-@∀@)「これだけ巻き込まれたら、嫌でも根性尽きますよ!!
      ま、この騒動が終わったら僕も有名人になれると思えば安い物です」

(=゚д゚)「世界一有名なカメラマンになれるラギよ、お前なら」

(-@∀@)「へへっ、そうなりますよ」

アサピーは気恥かしそうに笑みを浮かべて、それを誤魔化すようにして山道を戻って行った。
運が良ければヒッチハイクで安全に街まで戻れるだろう。
その間、トラギコはショボン達の動向を予想し、先手を打たなければならない。
街に逃げ込んでいることは間違いないだろうが、それ以外の手がかりはなく、こちらに有利な点もない。

何かしらの手がかりがあれば状況は変化するかもしれないが、今はそれも贅沢と言うもの。
時計を見れば、まだ五時間は余裕があった。
カラマロスの動きを阻害するのは放棄し、ショボンの動きに集中した方がいい。

(=゚д゚)「……寝るか」

だが今は動こうにも、こちらの装備が不足している。
情報の獲得のためとはいえ、足となるセダンは潰したのは手痛い。
今はただ、寝るしかない。
トラギコは岩の上に寝転がり、空を見上げた。

雲が流れていくのを眺めながら、トラギコは考えを巡らせた。
ショボン達が逃げるとしたら、デミタスが現れ、場が混乱している正にその時だろう。
そうなると、船で逃げるに違いない。
ふとそこで思い至ったのが、死体から奪った通行許可証だった。

(;=゚д゚)「待てよ……?」

ジュスティアは書類関係についてかなり細かな規定を持っており、このような緊急時における通行許可証の発行には必ず上層部の承認が必要になるはずだ。
上層部の承認が得られない時には現場の中で責任者が承認することになっており、その際には市長へ連絡した後に責任者が捺印することになっている。
ショボンの組織の人間がジュスティア内に紛れ込んでいるとしたら、そういった許可証を発行することは容易であるはずだ。
だが発行の偽造はかなり難しく、不可能と考えてもいい。

あの市長が、正義を頑なに信仰する石頭のフォックス・ジャラン・スリウァヤがショボンの一派であれば、とうの昔にジュスティアはその組織に組み込まれているはずだからだ。
ならば、責任者こそが内通者であると考えてるのが自然。
懐から書類の入った封筒を取り出し、開く。

(#=゚д゚)「……やっぱり、ベルベットだったか!!」

784 名も無きAAのようです :2017/07/17(月) 21:09:37 ID:s.K.qiF.0
責任者の欄に直筆で記載されていたのは、ベルベット・オールスターの名前。
そして捺印も、彼の持つそれだった。
これを持っているという事は、トラギコを殺害しようとした男達はベルベットに依頼されたという事だ。
少なくとも無関係と言う事はあり得ない。

となると、ヅーの作戦は全て筒抜けになっているのは間違いない。
最大限の疑念だったものが、揺るがない確信となった。
彼女の棺桶についても、円卓十二騎士についても、デミタスは十分すぎる程の情報を手に入れることになる。
罠を仕掛けていたとしても、それが彼女の手によって直接仕掛けられたものでない限り知られるに違いない。

用意した道具の種類を教えることぐらいは出来るだろうし、その道具に統一された解除コードを仕込んでいれば装置はデミタスを一切関知しない。
報道担当官の持つ影響力は強く、仮にヅーが数人の部下達に銘じて罠を張ろうものなら、それはベルベットの耳に入るという事。
今夜、間違いなくデミタスはヅーの元に現れる。
それも、万全の状態で。

円卓十二騎士が手を貸せばあるいは撃退は可能かもしれないが、果たして、事がどう動くかは今の段階では分からない。
断言できるのは戦いの場が設けられ、ヅー達がデミタスと相対することだけ。
今、ベルベットを裏切り者と糾弾しても意味はないだろう。
はみ出し者の刑事と、優秀な報道担当官では発言力が違う。

ましてや、上層部はトラギコを嫌っている。
最終的にどちらの発言を聞き入れるかは明らかだった。
悔しい話だが、今は動いてはいけない。
感情に身を任せて動けば、以降全ての手がかりを失いかねない。

ベルベットやデミタスよりも、今はショボン達の動きを読んで先手を打つことが先決なのだと堪える。
怪盗一人と長官専属の秘書。
これを手放す代わりにショボン達の内誰かを生け捕りに出来るなら、トラギコは迷わずにショボン達を選ぶ。
それに、デミタスがどのような棺桶を使おうが、円卓十二騎士を二人相手にして勝てるとは思えない。

――トラギコはそう自らに言い聞かせ、アサピーの帰還を待つことにした。

アサピーの持ってきた小型自動車を使って島中を散策したが、結局、トラギコはショボン達に関して何も情報を得られなかった。
陽が落ち、予告時間まで残り三十分ほどとなった今も、その状況は変わらなかった。
ショボン達は相当慎重に姿を隠し、機会を窺っているのだろう。
無能なのか、或いは愚直な才能と言うべきなのかはこの際不明だが、ジュスティア警察はショボン達を無視してでもデミタスを追う事を決めた為、追加情報は期待できない。

黒幕を逃がして表に出た灰汁を掬い取る事で勝どきを上げ、偽りの終焉を描き出そうとする未来の為とはいえ、愚かな判断だ。
結局は病巣を取り逃し、再び別の形で病を発現するだろう。
それも、より厄介な形となって。
すでに逃げた可能性もあるが、それは限りなく有り得ないと断言出来た。

そう確信したのは、二人が山奥の駐車場でインスタントラーメンを啜っている時に現れた女の存在が何よりの証拠だったからだ。
跫音はしなかったが、ねっとりとした視線がトラギコの背中に注がれ、 そ ち ら の 方 を 向 か さ れ た。

785 名も無きAAのようです :2017/07/17(月) 21:10:35 ID:s.K.qiF.0
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    .: : / i :i : : :i :i八「|八 `メ: : i: i: ∧:│ : :i: : : : \: : : : \
   .: : //゙i :i : : :iL|二,,__`ヽ  ∨i/|/斗八‐ ∧ : : : 「 \: : : : \
  ,:′/,:': :i :i:.: :小弋:._㌻ヾ     /二,,__ Ⅵ∧: :i八: : : : : :\: :\
  .: : / : : : i: : : : :i人          弋:._㌻=ァ/ )八|: : : : : : : : : :\: :\
,: : :,′: : 八:.: :.i八 \     /    ´  厶ィ゙.: : : : : : : :\ : ;\:\: : .、
  ': :,:′ : : : :∧: :jハ.ヽ      }〉     \\: :\: :\: : : : : ∨   : : ヽ: :'.
/: ,: i : : /:│ :{ム i: : :. '.            .イ丶: : : : : : : :\: \ハ  ゙,: jハ: :'.
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从'ー'从「はぁい、刑事さん。
     あらぁ? 誰かと思えばぁ、有名人のカメラマンさんじゃなぁい。
     元気ぃ?」

ワタナベ・ビルケンシュトック。
糖蜜のように甘い声を響かせ現れた彼女を前に、トラギコはアタッシュケースを左手に瞬時に立ちあがり、右手を懐にあるベレッタの銃把に伸ばしていた。

(#=゚д゚)「……また手前かよ。
    今度は何の用ラギ?」

トラギコは指先が触れていたM8000を取り出し、ワタナベの心臓に銃腔を向けた。
度重ねてのトラギコへの接触。
その真意は常に不明であり、このタイミングで現れるという事は、また何かがある。
ろくでもない何かが。

从'ー'从「あらぁ、私はただここを通り抜けようとしただけよぉ。
     パーティーに遅れちゃったら後が大変だからねぇ。
     ただの、ショートカットよぉ」

(#=゚д゚)「パーティー?」

从'ー'从「うふふっ、これ以上は話せないわぁ。
     だってぇ、私はただここを通り抜けるだけぇ。
     お話をしに来たんじゃないわぁ」

この一瞬で、トラギコは強化外骨格“ブリッツ”の使用を決意した。
足を切り落とせば、嫌でも話すはず。
最悪、ショボンを捕えるのに失敗したとしてもワタナベを捕まえれば何かしらの情報を得られるだろう。

(#=゚д゚)「だったら話したくなるようにしてやるラギ!!
     これが俺の天職だ!!」

だが。
だがしかし。
コンテナは、反応しなかった。
そして、アタッシュケース型のコンテナに赤いランプが点滅し、それがすぐに消えたのを目視した。

(;=゚д゚)「馬鹿な……!!」

786 名も無きAAのようです :2017/07/17(月) 21:12:01 ID:s.K.qiF.0
从'ー'从「残念ねぇ、電池切れみたいねぇ。
     それも、完全にぃ」

致命的なタイミングで棺桶の充電が切れていることに気付いたトラギコは、この一瞬で膨大な量の疑念を抱いた。
ブリッツは長時間の使用にも耐えられるだけのバッテリーを詰んでいるため、そう簡単に切れる事はない。
エラルテ記念病院でも充電をしておいたため、過充電を防ぐための装置を使って放電をされたとしか思えない。
だが、そのような装置を使った記憶もなければ、警察がわざわざ放電のための装置を要した上に誤用するなど、有り得ない。

(;=゚д゚)「……待てよ、おい」

(-@∀@)「へ?」

(;=゚д゚)「昨日の夜、マスコミに対して警察は何か検査をしてたラギか?」

(-@∀@)「一部民間人も交じっていたので、無理ですよ」

そして、トラギコは察した。
デミタスは予告状を出してから動いたのではない。
予告状と同時に動いていたのだ。

(;=゚д゚)「デミタスの野郎、盗みやがった……!!」

(-@∀@)「予告時間前ですよ?
      盗むって何を……」

(;=゚д゚)「電力ラギ!! あの野郎、棺桶の電力を盗んだラギ!!」

棺桶がどれだけ強力な物だとしても、バッテリーが無ければ全く意味がない。
また、起動前にバッテリーが切れていればいいのだが、絶妙な量の電力が残されている場合は例外だ。
電力が不足している状態で使用者をコンテナに収め、装甲を装着する間に電力が空になり、文字通りの棺桶と化してしまう。
外部からの助力なしではこの状態から脱出することは構造上不可能であり、どれだけの猛者であっても、全身を装甲に包まれていれば動きようがない。

幸運なことに、トラギコの棺桶は単一の目的に特化して設計されたコンセプト・シリーズ。
彼の棺桶が“緊急時に於ける対強化外骨格戦闘”に特化されていなければ、トラギコの腕はただの錘と化した籠手に包まれていた事だろう。

从'ー'从「うふふぅ、どうするぅ?
     私と遊ぶぅ?」

(#=゚д゚)「……また今度だ!!
     アサピー、ジェイル島に行くラギ!!」

デミタスが仕掛けた騎士封じの一手。
これが成功すれば、デミタスは労せず目的を達成した挙句円卓十二騎士を二人殺すことが出来る。
情報は全てベルベットによって筒抜けとなっている事を考え、対抗手段は意味を持たない。
つまり、ヅーは確実に殺されてしまう。

カップ麺を放り出し、トラギコとアサピーは車に乗り込んだ。
そして、保険のはずだった道を使い、アサピーの運転でジェイル島を目指した。
島へと向かう道を最速で駆ける中、トラギコは車内のソケットを使ってブリッツの充電を始めた。

787 名も無きAAのようです :2017/07/17(月) 21:13:07 ID:s.K.qiF.0
(;-@∀@)「ちょっ!! バッテリーなくなったら、街まで帰れなくなっちゃいますよ!!」

(#=゚д゚)「うるせえ!! 車は片道切符でいいんだよ!!
     徒歩だ、徒歩!!」

五分だけでも使えることが出来れば、十分な時間稼ぎになる。
それをどのタイミングで使うのかが問題だが、デミタスをヅー達から遠ざけ、仕切り直しが出来ればそれでいい。
デミタスはデレシアに足を吹き飛ばされていることから、何かしらの棺桶を持ち出さなければ戦闘が出来ない事が確定している。
Aクラス相手であればM8000でも対処できるが、Bクラス以上になれば何も出来なくなってしまう。

足を失った人間を補助する棺桶はまずBクラス以上であると考えるべきだろう。
となれば、拳銃の弾は威嚇にもならない。
例え、対強化外骨格用の強装弾を装填していても、高速で戦闘行為をしてくる相手に対して適切な場所に当てなければ意味がない。
勝算で言えば薄いが、生き残る可能性を今は考えた方がいい。

一時撤退、もしくは別の手段を用いての迎撃が最善。
間違ってもデミタスを逮捕、もしくは殺害できるものと考えてはいけない。
そのための装備が欠落しているこちらとしては、生き延びられれば上出来なのだ。
どのような罵詈雑言が待っていたとしても、生きさえすればいい。

アスファルトの道にタイヤの跡を残し、二人を乗せた車は急停車した。
トラギコはアタッシュケースを片手に車を飛び出し、写真にあった足場へと走った。
暗闇の中でも、トラギコの目はしっかりと目の前の風景を認識していた。
大小様々な岩の転がる海岸は、一度誤った場所に落ちれば全身を強打することは避けられない。

(=゚д゚)「おい、お前は先に安全な場所に逃げてろ!!
    後は俺が始末をつけるラギ!!」

振り返らずに、トラギコはアサピーに指示を出した。

(;-@∀@)「分かりましたけど、スクープの約束は忘れないでくださいね!!」

(=゚д゚)「わかってるラギ!!
    さっさと行け!!」

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                  ,,,.ii..,
                ,,。..,ll::;;liii|,,..,,,
───ーー────ー-"───ー-─’──ー──ーー─────ーー─
... ... :::..:.............:::::.:.::.::.::::::: ... :::..:.............:::::.:.::.::.::::::: ::: ..:: .:.::... .... ....
 .....::::: .:.::.::. :::::::..        ...:::::.:.::.::.       :::::::  .....:::::.:.::.::.:::::::
 ... ... :::..:.............:::::.:.::.::.::::::: ... :::..:.............:::::.:.::.: ――予告時間まで、残り十七分。
:.::::::: ::: ..:: .:.::... .... ....
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海面下にある足場を目視するのは不可能だった。
星明かりと月光下であっても、見えるのは黒い水面だけ。
記憶の中にある鋭い岩の位置を思い出し、トラギコは躊躇なく海へと跳躍した。
靴底が踏みしめる鋭利な突起。

788 名も無きAAのようです :2017/07/17(月) 21:15:00 ID:s.K.qiF.0
踏み外せば肉を抉るであろうその存在に、だがしかし、トラギコは恐れを抱くことはなかった。
靴の中に入ってくる海水は、確実にトラギコの動きを鈍らせるが、それもまたトラギコの意志の外の話だ。
今は、ヅーと円卓十二騎士をデミタスに奪われることだけが恐ろしかった。
一度に三人もの重要人物を失えば、ジュスティアの信頼に大きな影響を及ぼす。

ベルベットの目的は恐らくはそれ。
デミタスとの死闘で三人を失い、そして、その全責任をデレシアに押し付ける。
実に狡猾なシナリオであり、世間受けするシナリオだった。
トラギコの見定めた、生涯最高の獲物を奪い取らんとするシナリオは断じて許容できない。

見えない岩から岩へと飛び移りつつ、腕時計で時間を確認する。
夜光液が映し出す時針が示すのは――

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                                 ,   、
                                     i|i_,...,j|}!
                                rj|i;;;::;:Vト、_ __ _
                              __ ,.イ ゞ=ゝ'゙,;:.::::;;:::;;::,.`ミ、
                 _     _,..-―'....:::.:::.'::::::;;;;;::;;:;;;::;;;:::;;;;:;;;;;:::;::..\
              _ ,.-― '゚ ..::::.>-<込、¨.:、::::::.' .:::::,,;;;;,,,,,,,,,,:;;;;;;,;,;,;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;:>-ー≦三ミz、
_____,.z≦"¨´_ .. _....;;;::::' .;;:::;;:::::.:.;,:.:,.ヾミ::;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;:;:;:;:;:;;;;;;;;;;;;;;;;:..\
: : : : : : . .  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 
. : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . :
: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :――予告時間まで、残り十一分。
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何度も海に転落しそうになりながらも、トラギコは何とかジェイル島へと辿り着く事が出来た。
下半身は水浸しで気持ちが悪かったが、彼は悪態を吐くこともなく、淡々と靴の中に入った海水を捨てた。
潮の香りで満たされた肺から息を吐き出し、再び酸素を取り込む。
目の前に浮かぶのは、断崖絶壁と言っても過言ではない切り立った崖。

登るにはあまりにも険しく、そして時間がなかった。
センサーを避ける必要も考え、この崖は道としては使えない。
トラギコは島の東側から別の進入路が無いかを探しつつ、回り込むことにした。
彼の頭の中にはジェイル島の地図が入っており、下水道の位置も忘れずに記憶されていた。

789 名も無きAAのようです :2017/07/17(月) 21:16:10 ID:s.K.qiF.0
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         > 、i    ;,      ' :..:... ;   ', :.'.. .'| ,'        ヽ  |
  *  ..:  `;  >、__ .\____  ________/.  ,.ィ´ ,,
'    ,     #  ; /:             \| l:ヾ     :\   '´
      '    ,||::::::...          ,, .';. ´  | l  .\ ____|  ,,
  l     :. ゚ ;゙ ゚||::::::::::..  ,,  ´    l:   | |  /_    | ´
  l  #  .; :  ;||::::::::::::l´: : : :      l:   | |   |:: : :.l   |   =
―  ―   ― -||::::::::::::| : : :           | |   |:: : :.i:  .|
  #    ;゚ . ヾ  ||::::::::::::|: : .         l:   | |   |:: : :.l   |  ̄
  |  #   :.   ||::::::::::::|ー - 、    l:   | |  _|:: : :.l   |   ー
  i   ;, '    |\::::::人      ` ヽ、 !  ,.| |//!-┴-‐_| ‐-
       _,., -―|: :.. ̄_.ノー- ‐ - ‐ !三三_ | |コ/=≡;/  \
 ,., '’: : : : : >'´ ̄- = ≡ = - ‐   ― - = ≡=/ ∨   .\
'’: : : : : >' ´≡ = -  ̄  ―  = ≡――予告時間まで、残り四分。
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センサーの位置はまるで不明だったが、セカンドロック刑務所の下水管を見つけ出すことに成功したトラギコは、そのまま枠を外して内部へと侵入した。
ヅー達は刑務所の地下にいるため、地上からの単純な侵入では必ず限界が来てしまう。
ならば、下水道を伝って最短のルートで内部へと侵入し、エアダクトを通じて地下を目指せばいい。
脱獄不可能な監獄ではあるが、弱点さえ把握できれば侵入は可能なのだ。

特に、トラギコはジュスティア警察でも脱走の常習犯として悪名高く、懲罰房は言うに及ばず厳重な警備下にある本部の独房からの脱走にも成功している。
基礎から応用までの脱獄の知識は持っていると自負するだけあり、実際、セカンドロックの構造的な弱点を見抜いていた。
セカンドロックは孤島にあるため、海路を用いて様々な物資の供給なしでは成り立たない。
島から出る方法が海路であるならば、その進入路もまた海路にある。

孤島であるが故に下水処理施設を刑務所内に設置しなければならず、それを海に捨てる際にはほぼ真水と同様に処理が済まされなければならない。
絶対に塞ぐことのできない下水道の出口は格好の入り口となるため、厳重な処理がされていた。
太く、熱にも強い合金を用いた鉄格子は専用の道具を用意しても破壊は困難であり、何か知らの外的接触が感知されたら即座にセンサーが反応。
自然を利用した凹凸の多い路面は素足で逃げる者の足裏を容赦なく切り裂き、雑菌による化膿は避けられない。

それらの僅かな死角を補う高性能なセンサーの数々は、表立って見える弱点を弱点とは思わせないための工夫だった。
道具なしでそこを通過するのは不可能であり、仮に道具があったとしても突破は非常に困難な作りになっている。
内側からの脱出は不可能だが、外側からの侵入については不可能と言うわけではなかった。
鉄格子についてはブリッツの高周波刀で切り落とし、路面は今履いている靴で十分に対処できる。

当たり前の話だが、鉄格子のセンサーは生きているし、その一撃に反応したはずだ。
だがトラギコは一切の躊躇もなくその道を駆け抜けていたのには、明確な理由があった。
センサーが異変を感知したとしても、ジュスティアの性格上、すぐに爆発や毒物による処理をすることはない。
設定されている目標が生け捕りである以上、必ず正体を確認してからそのスイッチを押すはずなのだ。

そして、センサーの管理をする人間はおそらくヅーだ。
彼女であれば、トラギコがやって来たことに対して驚きこそするだろうが、攻撃はしないはず。
ある意味での期待と信頼を抱いて、トラギコは暗闇を進んだ。
湿度の高い下水道を進み、やがて、非常灯が薄暗い緑色に照らし出す空間に辿り着いた。

天井に開いた大きな排水管の穴と、どこまでも続く暗い下水道。
ここがトラギコの予想通りの場所であれば、正しい道は一つだけ。
天井にある排水管を登るのは自殺行為であり、そこに多くの罠が仕掛けられていることは調べがついている。
では、先に進むのが正解だろうか。

790 名も無きAAのようです :2017/07/17(月) 21:18:50 ID:s.K.qiF.0
答えは否。
先に進んでもあるのは逃げ場のない天然の落とし穴だ。
長年の水の動きで突起を失った摩擦のほとんどない床に足を取られ、その先にある坩堝のような下水溜まりに落下し、死ぬまでそこに浮かび続けることになる。
時間が押しせまり、トラギコは道を選びそこなう余裕がない。

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;;;;;;,       ?',?', ?    '?,  {!               ',  / ???,イ――予告時間まで、残り一分。
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嗚呼。
どうして、このような仕事ばかりなのだろうか。
平穏無事な世の中を望みながらも、どうして切望するのは困難ばかりなのだろうか。
つくづく思うのは、この仕事は――

(=゚д゚)『――これが俺の天職だ!!』

籠手を装着し、高周波刀のスイッチを入れて地面に突き立てた。
正確な場所に突き立てられた刀は、その下にある巧妙な偽装を施された人口の床を切り裂いた。
正しい道は下。
合金製の板であろうが、高周波振動の前にはただの金属でしかない。

――予告時間まで、残り二十三秒。

(#=゚д゚)「くっそ……!!」

円錐状にして地面を削り、切り崩した瓦礫を放り捨て、トラギコは地面を削り続けた。
ブリッツの残り電源次第では、この作戦自体が破綻し、トラギコの行動は全くの無意味と化す。
とにかく切り裂き、とにかく抉り、とにかく進んだ。
執念の宿った刃が床を崩落させたのは、直下から爆音と振動が届いたのとほぼ同時だった。

――予告時間、二分経過。

瓦礫と下水に交じってトラギコが落ちたのは、地下にある独房の中だった。
外から届く僅かな明かりが、扉の位置を示している。

(;=゚д゚)「おい!! ヅー!!
    来てやったラギ!!」

扉に刃を突きたて、錠を破壊したところでブリッツの電源が切れた。
コンテナに籠手と高周波刀をしまって、トラギコは全力で駆けだした。
焦げ臭い香りの漂う方向へと急ぎ、そして、言葉を失った。

791 名も無きAAのようです :2017/07/17(月) 21:20:54 ID:s.K.qiF.0
――予告時間、三分経過。

トラギコの目に映ったのは、爆心地と断言できるだけの大きなクレータの出来た地面と、その中心に残る黒い消炭のような跡。
そして、そこから離れた位置に転がる赤黒い肉塊。
視線を足元に移すと、そこには炭化した肉片があった。
これは、人間のどこの部位で、誰の肉片なのだろうか。

(;=゚д゚)「……」

心臓が鐘楼のように脈打ち、トラギコはコンテナを投げ捨てて肉塊へと駆け寄った。
それがデミタスであればと。
それがヅーではない事を切実に願いながら、トラギコは走った。
そして、聞いてしまった。

「あああ゛あ゛っ!!」

血と肉の塊から発せられた、悲痛な叫び声を。
痛みから逃げるための声だ。
救いを求める声だ。
これから消えゆく命の声だ。

それは、間違いなくライダル・ヅーの声だった。

(;=゚д゚)「……っ」

人間味を欠いたような女だったが、その声は、生きることにだけ向けられた命その物の声だった。
だがその声を発するのは、人間とは呼べないような姿をした肉の塊だ。
四肢は無く、肌は黒く焼けただれ、顔は血と傷で汚れて判別できない。
もごもごと動く肉の切れ目から出てくる蚊の羽音のようにか細い声だけが、トラギコの耳に届き、それがヅーであることを認識させる。

その傍に跪き、トラギコは言葉にならない言葉を発するヅーの頬に触れた。
感じたのは憐れみではなく、惜し気のない称賛だった。
この女は戦闘をまともに経験したこともないだろうに、それでも、文字通り死力を尽くした。
これを憐れむのはヅーに対する最大限の侮辱になる。

円卓十二騎士の助力なしに戦うことになったと分かった時、ヅーはどのような気持ちだったのだろうか。
恐かっただろう。
泣きたかっただろう。
逃げたかっただろう。

逃げ出しても良かったのだ。
戦闘慣れしていない人間が命を狙われていれば、そうするのが当たり前の判断だ。
犯罪者の言葉を受け止める必要もなく、広報担当の馬鹿の言葉に従わなくても良かったのだ。

(=゚д゚)「……よくやったラギ。
    お前も、やれば出来るラギね」

792 名も無きAAのようです :2017/07/17(月) 21:22:28 ID:s.K.qiF.0
声は聞こえていないだろう。
本来そこにあるはずの耳はなく、あるのは赤黒く変色した傷口にしか見えない穴。
目は見えていないだろう。
本来そこにあるはずのところからは血が流れ出し、砕けた鉄片が突き刺さっている。

(=゚д゚)「何だよ、お前の事見直したラギよ。
     次からはペンじゃなくて、銃を持って一緒に仕事をしてみるラギか?
     お前みたいな根性のある女、長官の秘書にしておくのは惜しいラギ」

聞こえていない事を承知で声をかける。
これは死にゆく同僚に向けての、手向けの言葉。
返答など期待していない、ただの独白だった。

「あ……あ゛……」

そのはずだったのに、ヅーの悲鳴が止み、何かを訴えかけるような声が聞こえてきた。
失われた腕を動かして、必死に何かを掴もうとしているが、何も掴むことはない。
彼女の手が何かを掴むことなど、もう二度と出来ない。
だが、掴むことが出来た物ならある。

(=゚д゚)「どうだ? 俺とお前が組めば、結構いいコンビになると思わねぇか?
    俺が実働で、お前がその後処理。
    なぁに、お前なら出来るラギ」

掴んだのは、トラギコの信頼だった。
これまで、トラギコは進んで誰か警官を相棒にすることはなかった。
警察官としての人生の中で、誰一人として、トラギコの信頼を勝ち取ることは出来なかったのだ。
どんな新人も、どんなベテランも。

結局は、トラギコを落胆させてしまうだけで終わるのだ。

「と……ら……ぎこ……」

だが。
この女は。
聴力も視力もない中で。
トラギコの名を呼んだ。

(=゚д゚)「おう、どうした?」

優しげな声で、トラギコは聞き返す。
ここに横たわるのは騎士よりも高潔な女。

(=゚д゚)「遠慮せずに言えよ」

「わた……し……じょ……うずに……」

793 名も無きAAのようです :2017/07/17(月) 21:24:12 ID:s.K.qiF.0
その言葉に、トラギコは呆れそうになった。
この期に及んで、ヅーが求めたのは評価だった。
だがそれは、彼女の心の奥底に潜んだ本音なのだろう。
誰かに認めてもらいたいという承認欲求。

子供のようなその夢が、ヅーの根底にあった最後の望み。

(=゚д゚)「あぁ、上手にやれたぞ。
    俺が言うんだ、間違いないラギ」

今際の際に望むことを拒む理由はどこにもない。
殆ど失われた毛髪が覆う彼女の頭に手を乗せ、いたわるように撫でた。
泣きじゃくる子供をあやすように、トラギコはヅーの頭を撫で続けた。
もう、余計な言葉はいらないだろう。

今のヅーには言葉ではなく、こうしてやることが一番通じるに違いない。

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         _,、-―======‐‐‐‐---
        厶"´
          〃  ̄ ` ゛゙゙ ''''' 、
         " ゝ、 ____________, ,,,
          乂三三三三三三爻′
            ′`` ```````
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         _,、-―======‐‐‐‐---
        厶"´
          〃  ̄ ` ゛゙゙ ''''' 、
         " ゝ、 ____________, ,,,
          乂三三三三三三爻′      「あ゛……あぁ……」
            ′`` ```````'ヽ,゛
                       .i:
                      .l:
                       .l:
                        ,l:
                          J
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ヅーの目がある場所から、失われたと思われた水が溢れ出てきた。
彼女は泣いていた。
トラギコはこれ以上ヅーにかける言葉はなかった。
後は彼女が判断し、受け止めるだけだ。

掌に込めるのは、同僚に対する労いと尊敬の念。

(=゚д゚)「ゆっくり休め、ヅー。
    後は俺がやっておくラギ」

794 名も無きAAのようです :2017/07/17(月) 21:26:41 ID:s.K.qiF.0
その言葉が届いたのか。
それとも、感じ取ったのか。
ヅーは絞り出すようにして、最期の言葉を口にした。

「あ……り……」

そして。
もう、ヅーは二度と言葉を発することはなかった。
目の前で同僚が死ぬことは何度もあった。
その度に涙を流していては、トラギコの体内から水分は全て失われていたことだろう。

涙を流すことなく、トラギコはヅーの亡骸を見下ろしていた。
そして血が出る程の力を込めて拳を握り、立ち上がった。

(=゚д゚)「……」

トラギコは地面に転がる二つのコンテナへと歩み寄り、その側面にある緊急用のスイッチを蹴り飛ばした。
これは内部にいる人間を外部から強制的に排出させるための装置で、本来はコンテナ内の死体などを取り出すための物だった。
最初にコンテナから出てきたのは、ショーン・コネリだった。
その次にダニー・エクストプラズマンが立ち上がるや否や、視線を四方に向けた。

(;´・_・`)「くそっ、デミタスはどこだ!!」

<_プー゚)フ

二人はデミタスを探し、そして、ヅーを見つけた。
正確には、ヅーだった物を。

(#´・_・`)「……おい、トラギコ。
     お前がどうしてここにいるのかはさておいて、何が起きたのか今すぐ説明しろ!!」

激昂するショーンの気持ちも分からないでもない。
だが怒ったところで事態が変わることもなく、真実も変わりはない。
故にトラギコは、己の知る真実を伝えた。

(=゚д゚)「デミタスもヅーも死んだ。
    俺が知ってるのはそれだけラギ」

(;´・_・`)「そんなのは見れば分かる!!」

(=゚д゚)「へぇ、そりゃすごい。
    後は間抜けな騎士二人が罠にかかって、棺桶の中に閉じ込められてたってことぐらいだろうな」

(#´・_・`)「言わせておけば!!」

無言のままだったエクストがトラギコに掴みかかる。
胸倉を掴まれたトラギコは、動揺することもせず、静かに彼の目を見つめた。
怒りに燃えるエクストは言葉を発さないが、言わんとすることは簡単に予想がつく。

(=゚д゚)「何だよ、怒ったところで事実は変わらねぇラギ」

795 名も無きAAのようです :2017/07/17(月) 21:30:39 ID:s.K.qiF.0
エクストの手首を掴み、トラギコは骨を砕くつもりで力を込めた。
爪がエクストの皮膚を切り裂く直前に、彼はトラギコを解放した。

(=゚д゚)「この後はどうするつもりラギ?」

(#´・_・`)「決まっている、我々を嵌めた奴を見つけ出して、必ず滅ぼす!!」

溜息を吐き、トラギコはブリッツのコンテナに向かって歩き出した。
騎士道精神は結局のところ、自分の心の在り様であり、誰かに従えることではない。
彼らが抱いているのは正義。
幼少期から植えつけられてきた、ジュスティア人としての信念だ。

コンテナを拾い上げてから、二人の騎士にトラギコは言葉を送ることにした。

(=゚д゚)「……なら、俺から一つアドバイスしてやるラギ。
    馬鹿なことは考えずに、この後に誰がどう動くのかをよく見ておくんだな。
    そうすりゃ、戦うべき相手が見えるはずラギ」

――だが事態はトラギコの思う以上に急速に、そして予想通りの形で進行しつつあった。

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: : |   \: :∧                           __ く
\{       \_           ムー─=ニニ二工工´-一   ヽ
⌒}                                   ノ
 人                                    {
   \                                  |
    \                                 |
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ライダル・ヅーの死を知らせる連絡をショーン・コネリから受けたベルベット・オールスターは、激しい憤りを抑え込みつつ、決して動揺を表に出さないように努めた。
一人、優秀な仲間を失ってしまったことは悲しむべきことだ。
デミタス・エドワードグリーンは実に勇敢な男で、良き同志だった。
脱獄に成功して自由を謳歌するでもなく、彼は大きな信念のためにその命を懸けた。

( ><)「くっ……!!」

良い男だった。
惜しい男だった。
世界が黄金の大樹となるためには、是非ともいてほしい男だった。
だが彼は己の願いを成就したのだから、それを祝わなければならない。

796 名も無きAAのようです :2017/07/17(月) 21:31:30 ID:s.K.qiF.0
そのために最大限を出来たことを誇りに思うべきだ。
ヅーの用意した武装や、各種センサーの無力化に必要なキーコードなどを教えることはリスクが高かったが、それでも成果としては最高の物となった。
これで下地は出来上がった。
後は仕上げの段階。

ベルベットとしてではなく、ティンバーランドに所属するビロード・コンバースとしての仕事を執り行う時間だ。

( ><)「最悪の結果になったんです……!!」

拳を机に叩き付け、憤りをアピールする。
その場に居合わせるのはジュスティア警察と軍関係者、そして、民間人が一人。
ベルベットはその視線を民間人へと向け、悲痛な面持ちを浮かべて、予め用意していた言葉を予め用意していた声色で告げた。

( ><)「済まない、民間人の君にこんなことを頼むのは気が引けるんです……
      だけど、君しかいないんです、千の声色を持つ君しか……!!」

この計画に於いて重要なのは、ヅーの死ではなく事態終息を偽ることにあった。
そのためにはどうしても欠かせない存在として、ヅーがいた。
彼女がこの島を厳重に封鎖し、そして、事態の収束を約束した張本人だからだ。
だがその本人がいなければ、誰も事態の終結を宣言できない。

デミタスの狙いを叶える為とはいえ、その存在を失ったことは果たして打撃だったのだろうか。
答えは否。
そのようなことを案じるぐらいであれば、最初からデミタスの要求は通らなかった。
逆に彼らにとってみればこれはチャンスだった。

ジュスティアに更なる根を下ろすための大きな足掛かりを得るチャンス。
鳥の巣のように乱れた金髪、そして灰色がかった碧眼を持つ小柄な女性。
その声色は千を越え、同性であればほぼ全ての声を真似ることが出来る、ラジオ界の女王。

o川*゚ー゚)o「私に出来る事であれば、任せてください!」

――秘密結社ティンバーランドのNo4、キュート・ウルヴァリンがジュスティアへ入り込むための切っ掛けとなるのだから。

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         个 ̄: : : /: i: l: V: : : : : : ',     ー=≡ -‐ ´  〃/7  l: : :′
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            Ammo for Reknit!!編 第八章【heroes-英雄-】 了
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797 名も無きAAのようです :2017/07/18(火) 00:10:02 ID:zfiLBhSU0
投下乙

798 名も無きAAのようです :2017/07/19(水) 14:28:41 ID:D3YcJF9M0

ここでキュート来るのか

799 人妻出会い掲示板 :2017/07/19(水) 17:16:53 ID:i.J5k2yw0
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800 名も無きAAのようです :2017/07/19(水) 21:14:39 ID:.77Zgt1s0
すっかり忘れていましたが、これで第八章の投下は終了です

何か質問、指摘、感想などあれば幸いです

おまけ:o川*゚ー゚)o「私だよ!」
ttp://blog-imgs-114.fc2.com/a/m/m/ammore/cute.jpg

801 名も無きAAのようです :2017/07/19(水) 22:38:24 ID:lZc2Ny5QO
今回も熱かったです! 乙!

802 名も無きAAのようです :2017/07/20(木) 07:45:53 ID:CIWVHZg20
円卓の騎士さん無能晒してキレるとかどうしようもねえな

803 名も無きAAのようです :2017/07/20(木) 11:57:16 ID:/QaUENZI0
車乗ったら閉じ込められたようなもんだし多少はね

804 名も無きAAのようです :2017/07/21(金) 01:11:00 ID:1KZ0O4I60
棺桶に外部から充電状態を確認できる機構は無いのかな

805 名も無きAAのようです :2017/07/21(金) 10:49:29 ID:7FG1p9XI0
この監獄いつも突破されてるな

806 名も無きAAのようです :2017/07/21(金) 11:53:22 ID:7Ao0Ji2k0
正義(笑)だからな

807 名も無きAAのようです :2017/07/21(金) 20:10:47 ID:iXNzcMts0
>>804
勿論ついておりますが、車や腕時計のバッテリーと同じように確認する人は殆どいません。

从´_ゝ从「充電しておきました!」

(´・_・`)「でかした!」

こんな感じで、確認などする人はまずいません。
実際、トラギコも使用するまでバッテリー切れになっていることに気づきませんでした。
また、車と同じでバッテリー残量がごくわずかでも起動してしまうのが棺桶の特徴です。

>>805
絶対・大丈夫 など、パニック物の映画でフラグになるような物ですね。

どこかのサメ映画
「今が力を合わせるときなんだ!」→\(^o^)/

808 名も無きAAのようです :2017/08/14(月) 21:55:09 ID:bsJtY2lg0
今更だが乙
今回はもうトラギコの心情を察すると涙が出たわ…。 もはや期待は地の底に落ちてるけど、今後円卓組は有能な所見せれるんか…? ともあれ、今回も最高だったありがとう。

809 名も無きAAのようです :2017/08/16(水) 18:24:47 ID:UGgbEb0.0
ハマると何回でも読み返しちゃうなぁ続き待ってます

810 名も無きAAのようです :2017/09/25(月) 16:38:11 ID:bRKTg1bc0
お待たせいたしました
土曜日辺りにVIPでお会いしましょう

811 名も無きAAのようです :2017/09/25(月) 17:13:37 ID:pWjMwLrU0
最近1から読み終えた俺に嬉しいタイミング

812 名も無きAAのようです :2017/10/01(日) 19:02:48 ID:UYTFpBow0
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|:  |   /   ̄「〈_,ヽ,.∥
|:  |  //    ,}ミ|!ニr'.∥ 彼らに与えられた称号は、決して太古の遺産ではない。
|:  | _ノ/    て⌒)T`r{.}ュ
|:  |. /ィ     ゝ彡'ィrュf}) _. 騎士が騎士たる所以は、その在り方にこそある。
|:  |  l ,    ,イ /ヽ"ー''(-}三〉
|:  |   | i   / ! !   〉=、_,i′
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August 12th PM10:30
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秋の香りを孕んだ風の冷たい夜だった。
嵐が過ぎ去り、夏の熱気がどこか遠くへと運び去られた八月の夜。
ティンカーベル。
バンブー島、グルーバー島、オバドラ島と小さな島々で構成された“鐘の音街”と呼ばれる小さな街。

無数の島々で構成されたその街の象徴である大きな鐘、グレート・ベルが風に揺れて不気味な音を立てている。
鐘は最近その役割を果たしたばかりであり、その音色は安堵と不安を人々に思い出させた。
時の流れと風雨にさらされてきた鐘は最盛期の輝きを失っているが、街の明かりで僅かだが黄金の光を反射することが出来ていた。
街を照らす無数の明かりの中で最も不吉な色を放つのは、警察関係車輌の放つ赤い回転灯の作り出すそれだ。

回転灯が集中しているのは島の中で最も大きなエラルテ記念病院の周囲で、数十分前までそこは興奮した人々で溢れていた。
マスコミ関係者のカメラが放つフラッシュも、今ではもう疎らとなり一人、また一人と病院を後にした。
彼らが待ち望んだ犯罪者は別の場所に出現し、彼らが呆気にとられている間に事態は解決してしまったのだ。
手持無沙汰となったマスコミの人間が出来る事と言えば、撮影した写真をどう使って記事を作り上げるのかを考えることぐらいだ。

それでも久しぶりに手に入った仕事らしい仕事に、島に滞在する――厄介払いにあった――マスコミ関係者は嬉々として手を動かした。
上手くいけばこの辺境の地から都市部への栄転もあり得る。
全ては彼らの腕にかかっていた。
出来るだけ早く、そして正確に、感動的な記事を一分一秒でも早く書くことを求め、記者たちは筆を進めた。

気の早い記者は原稿を本社へと送り、承認を得る前に輪転機を動かして号外を刷る準備を整えていた。
どこよりも最速の情報を流すため、ラジオ局では早急に原稿を作り、どのような形であれジュスティアの手によって犯罪者が全員捕えられるという結末に備えた。
後はジュスティアからの発表を待ち、それと同時に情報を世界中に発信するだけだった。
この島で起きている出来事は、今、内藤財団の発表の次に注目されていた。

813 名も無きAAのようです :2017/10/01(日) 19:04:22 ID:UYTFpBow0
普段、この平穏な島でマスコミや警察が騒ぐことなどありえない話だが、ここ数日は例外だった。
ティンカーベルにはジェイル島と言う監獄島があり、そこには隣街であるジュスティアから護送されてきた凶悪犯が収容されている。
そのジェイル島が何者かによって襲撃され、二名の凶悪犯が脱獄――脱獄に成功した例はこれが初――した。
盗みの天才“ザ・サード”デミタス・エドワードグリーンと、連続誘拐犯の“バンダースナッチ”シュール・ディンケラッカーである。

脱獄犯は島へと逃げ込み、あちらこちらで戦闘行為に及んで一般市民を恐怖させた。
銃声と爆音、そして硝煙が島に満ちたのは百二十七年前に起きたデイジー紛争以来の事だった。
争いとは無縁だと思っていた多くの島民は自分達が住む世界を思い知らされ、認識を改めた。
この時代は、力が世界を変えるのだ。

八月八日から続いていた緊張状態は漁の規制に繋がり、観光客が皆ホテルの部屋に籠って外出を控えたことで飲食店や小売店が打撃を受け、島全体の産業から活気を奪っていた。
だがそれを覆すための救済の声が、島内に設置されたスピーカーを通じて島中に向けて発信された。
時刻は夜の十時半だったが、ノイズが僅かに混じったその声に、誰もが耳を傾けていた。
老人も、大人も、そして子供も。

次なる情報を、固唾を飲んで待った。
救世主の言葉を。
正義の味方の言葉を。

『先ほど、この島に逃げ込んだデミタス・エドワードグリーンはジュスティア警察の手によって射殺されました。
現在、脱獄を手引きした人間と最後の一人を追跡中です。
皆さま、もう少しだけお待ちください。
我々ジュスティアが、必ずや本日中に犯人一味を処理いたします』

それは先日、事件の早期終結を島民に約束したライダル・ヅーの声だった。
彼らが先日聞いた記者会見の言葉の通り、今日中に決着をつけるというブレの無い発言。
島の人間達は長い夜の終わりを夢見て、時計の針が進むのを待つことにした。
ラジオを持つ人間は放送に耳を傾けて時間の経過を待ち、持たない者は島の放送機器からの一斉放送を待った。

グレース・ナターシャの経営する民宿は、連日の騒ぎのせいで宿泊客が一人も来ず、加えて一人も定着していなかった。
これまでにいた客は皆、より堅牢な建物のホテルへと移ってしまったのだ。
彼女の民宿は木造で、銃弾が当たれば貫通するほどの薄い壁であるため、客が流れ出て行くのは当然だった。
可能であれば彼女も鉄筋の屋内に逃げたかったが、いつ客が来てもいいように店を捨てる訳にもいかない。

結局彼女は民宿の出入り口に鍵をかけ、日がな一日、ラジオを聞きながら読書をして過ごしていた。
彼女は何食わぬ様子でラジオを聞いていたが、いつもと違ったのはその後の行動だった。
埃を被り始めた客室の清掃を行い、食事の仕込みを始めたのだ。
心なしか、食材を刻む手が軽快になっていた。

明日からはいつも通りの日常が戻ってくる。
民宿はホテルと違って豪華な食事や設備があるわけではない。
その分、サービスで差別化を図らなければならない。
行き届いた清掃と美味な地元料理を観光客に振る舞えばそれは口コミで広がり、彼女の得意料理である煮込みハンバーグを食べようと大勢がやってくる。

早く明日が来ることを楽しみにしながら、彼女は鼻歌交じりに仕事を始めたのだった。

814 名も無きAAのようです :2017/10/01(日) 19:06:24 ID:UYTFpBow0
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           「   /                 ∨_|        '/∨   ',  ',
August 12th PM10:37
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島内に流れた放送を注意して聞いていたのは、何も島にいる人間だけではなかった。
ティンカーベルに寄港していた船上都市であるオアシズの市長、リッチー・マニーは傍受したラジオ放送の内容に違和感を覚えていた。

¥・∀・¥「……気のせいか?」

彼は以前に聞いたヅーの言葉では、犯罪者を駆逐する、と言っていた。
だがそれが今回は処理する、になっていた。
僅かな言葉の変化だが、それはマニーからしたら奇妙な物だった。
リアルタイムの放送とは一切の取り消しの効かない場であり、そこで放たれる言葉には全て意味がある。

ほとんど同じ意味の単語でもその微妙なニュアンスの違いで反感を買ったりするため、細心の注意を払って原稿が用意され、放送される。
あの日、ヅーが使用した駆逐という言葉はかなり強い言葉であり、絶対に犯罪者たちを逃さないという意志の表明でもあったはず。
それが処理、に変わると意味合いは少し弱くなる。
犯罪者たちの力を知っているはずなのに、それを格下にみるかのような処理と言う言葉の使用。

台本を書いた人間が別になったとしても、その仕事はあまりにも雑すぎる。
使用した言葉は出来る限り変えず、そのままであるべきだ。
それに、あの宣言がされた段階ですでに終結宣言用の原稿はあったはずなのだ。
常識で考えれば、一連の流れに於いて必要な台本は全て出来上がっていなければならない。

それが変わったとなると、何かがあったとしか考えられない。
言葉のわずかな変化が、マニーの中にしこりとして残されることとなった――

リi、゚ー ゚イ`!「声が違うな」

(∪´ω`)「おー、ちがいますおー」

――それに気付いた人間が、マニーとは違う部屋ではあるが、オアシズ内に二人いた。
二人は獣の耳と尾を持つ耳付きと呼ばれる人種で、船内最高級の一室にあるトレーニングルームでそんな言葉を交わした。
携帯用ラジオから聞こえてきたヅーの声が別人のものであると気付いた二人は、スパーリングの最中だった。
ヘッドギアとグローブを着けているのは垂れた犬の耳と丸まった尾を持つ、柔らかく垂れた目尻が特徴的な少年。

対して、狼の耳と尾を持つ女性はタンクトップとスパッツという出で立ちで、パンチングミットを左手にはめているだけだった。
波打った黒髪と目尻のつり上がった鋭い眼光を放つ赤い瞳は、彼女の持つ野生的な魅力をより一層引き立てている。

815 名も無きAAのようです :2017/10/01(日) 19:08:18 ID:UYTFpBow0
リi、゚ー ゚イ`!「人が変わったってことは、何かがあったってことだ。
      まぁいい。 ブーン、練習を続けるぞ。
      残り五分間、全力で打ち込んで来い」

(∪´ω`)「はい、ししょー!」

耳付きの少年はブーン、耳付きの女性はロウガ・ウォルフスキンと言う名前を持つ師弟関係の二人だった。
ロウガの言葉を受け、ブーンは一歩踏み出すと同時に無数のジャブを放つ。
その速度は大人から見ても中々のもので、手数の多さは同年齢の子供では太刀打ちできない程だ。
今のブーンは長時間に及ぶ練習で疲労していたが、疲労し切った時こそがベストコンディションなのだと、ロウガはブーンに言った。

戦いとは常に万全の状態で始まるものではない。
そのため、疲れ切っていたり負傷している時に行う練習こそが、最も本番に活かされる。
故に、今のブーンはベストコンディションだった。

(∪;´ω`)「ふっ!」

右ストレート。
左フック。
コンビネーションを見舞った直後、足元に向けて放つローキック。
それをロウガはミットで払落し、短く評価を口にする。

リi、゚ー ゚イ`!「あまい」

パンチの間に挟んだキックに対して、ロウガはそれを咎めるようなことは言わなかった
これはボクシングではなく、蹴りから噛み付きまで、あらゆる技の使用が容認されている実践的な稽古だ。
全ての技が許可されているブーンに対して、ロウガは左手のミットだけの使用を宣言していた。
ロウガの体に触れればブーンの勝ちというルールだったが、ブーンがロウガのミット以外に触れることは未だに敵っていない。

彼女の動きは正確極まりなく、容赦なかった。
子供相手だからと言って手を抜く様な人間ではない。
彼女は武人の都イルトリアの出身であり、その実力は生身で強化外骨格との戦闘でも後れを取る事はない。
前イルトリア市長の護衛を担当する唯一の人間であることから、その実力が如何に信頼されているのか推測するのは易い。

もっとも、ブーンはそのような情報を知らないため、ロウガについては強い女性である、という認識しかないのだが。

リi、゚ー ゚イ`!「……ふむふむ。 そうだ」

一発ずつ攻撃を払落しては評価をするが、彼女の右手は腰の後ろに回したままだった。
両手を使う必要すらないという絶対の自信に基づく構えだが、片手だけの使用でも手加減が一切ない事をブーンは良く知っている。
ブーンの攻撃が一つもロウガの体に掠りもしないのが、そのいい証拠だ。
今の自分の技だけでは太刀打ち出来ないと理解せざるを得なかった。

戦術を変えて攻めるしかない。
フットワークを使ってブーンが立ち位置を変えると、ロウガはいつの間にか相対する位置に立っており、まるで隙を見せなかった。
いつの間に移動したのか、ブーンの目で追う事は敵わなかった。
速度でもロウガに勝てるはずがなく、奇策は意味がない。

ならば、策ではなく技で挑む。

816 名も無きAAのようです :2017/10/01(日) 19:10:12 ID:UYTFpBow0
リi、゚ー ゚イ`!「キックを使う時の注意点は、攻撃後の隙だ」

ブーンが背面回し蹴りを放つのと同時、いや、その直前にロウガはその言葉を口にしていた。
攻撃が形になる前に読まれていたことに当初は驚いていたが、今ではもう慣れていた。
恐らくは視線と体勢から攻撃を推測しているのだ。
だからこそ攻撃の事如くが防がれる。

多分に漏れず、今回の回し蹴りも難なく防がれてしまった。
推測されない動きとは何か。
ブーンは思考をめまぐるしく回転させ、最善の一手を考える。

リi、゚ー ゚イ`!「ほら、考えすぎだ」

ミットを装着した左手がブーンの側頭部を叩く。
これが本気の一撃であれば脳震盪どころでは済まない。
軽く小突かれたブーンは、反射的に一歩退く。
退いた一歩分、ロウガが詰める。

リi、゚ー ゚イ`!「後退する時の注意点は?」

(∪;´ω`)「せなかになにがあるのか、りかいすることです」

リi、゚ー ゚イ`!「そうだ。 では、今お前の背中には何がある?」

当然、ここで振り返ろうものならロウガは先ほどよりも力を入れてミットで打撃を与えてくるはずだ。
ブーンには優れた耳がある。
使い方を誤らなければ、それは正確無比な索敵装置となる。

(∪;´ω`)「ロープがありますお」

リi、゚ー ゚イ`!「正解だ。 さ、続けるぞ」

そして、嵐のようなロウガのラッシュが放たれた。
たった左腕一本の攻撃なのに、その拳の数は秒間十数発以上を保ち続けている。
それらを視認して防いでいては間に合わない。
ブーンの本能が思考よりも先に動いた。

選択は後退ではなく、前進だった。

リi、゚ー ゚イ`!「ほぅ。 いいぞ、いい選択だ」

どれだけ早くてもロウガの拳が届く範囲は限られている。
左腕である以上、右側への攻撃にはかなりの負荷がかかる。
もっとも、それがロウガと言う人間である前提で考えれば、その負荷などあまり意味がないことは言うまでもない。
それでもリーチに影響が全くないかと言えば、そうではない。

片腕のハンデを利用する為、ブーンは相手の懐へと入り込んだ。

リi、゚ー ゚イ`!「これも良い判断だが、惜しいな。
       その手は常に私が警戒しているべき手だ」

817 名も無きAAのようです :2017/10/01(日) 19:11:02 ID:UYTFpBow0
ロウガは片足を軸に、素早く立ち位置をブーンの背後へと変えた。
一瞬の出来事だった。
ブーンの動体視力を持ってしても、彼女が目の前から消えた様にしか見えなかった。
声でようやくその存在を認識できたことを考えれば、仮にロウガが声を出さなければブーンは気付くことなく背後を取られていたことになる。

圧倒的存在感を一瞬にして消失させる技術。
これが彼女の実力。
身体能力が常人以上とは言え、ブーンの攻撃を回避するのは赤子の手を捻る様な物だ。

リi、゚ー ゚イ`!「さぁ、どう来る?」

頭頂部を軽く叩かれ、ブーンは姿勢を変えつつその場から飛び退き、ロウガと対峙する形に戻った。

(∪;´ω`)

額に浮かんでいた汗が頬を伝って足元にしたたり落ちる。
冷や汗なのか、それとも、運動による発汗なのかは今では区別がつかなくなっていた。
果たして、区別を付ける必要があるのか。
疲労によって思考の境界線が曖昧になり、節々から疲労感が消失した。

姿勢を低く、ブーンはリングの面を踏み抜かんばかりの勢いで疾走する。
それは無意識の行動だった。
弾丸と化したブーンの体が選んだ攻撃は、右のボディブロー。

リi、゚ー ゚イ`!「おぅ。 良い手だが、まだまだ速度が足りないな」

ブーンの攻撃速度を亜音速と表現するのであれば、ロウガの防御は光速だった。
圧倒的な速度差で決死の攻撃をパリングで防がれ、バランスを崩したブーンをロウガが片手で持ちあげて見せる。
無造作なパリングであればブーンの肩は脱臼していただろうが、ロウガはそれを微調整するだけの余裕があった。
完膚なきまでにブーンの負けだった。

リi、゚ー ゚イ`!「よし、ここまでにしよう。
       風呂に入って飯を食って、ゆっくりと休むがいい」

全身から一気に緊張が抜け落ちる。

(∪;´ω`)「おー、ありがとうございました……」

肩に担がれたブーンは抵抗する元気もないため、そのままロウガと共に浴室へと向かう。
ロウガは器用にブーンの服を脱がせつつ、自らも脱衣を始めていた。

リi、゚ー ゚イ`!「何故防がれたか分かるか?」

(∪;´ω`)「ししょーがつよいからですかお?」

その答えを聞いて、ロウガはくすりと小さく笑った。

リi、゚ー ゚イ`!「ふむ、それもある。
       だが、一番の問題は、私の真似をしているからだ」

818 名も無きAAのようです :2017/10/01(日) 19:13:40 ID:UYTFpBow0
(∪;´ω`)「お?」

リi、゚ー ゚イ`!「ブーン、お前は真似が上手い。 吸収し、それを無意識の内に実践したがるのは長所だ。
      だがそれではいつか限界が来るし、相手の得意中の得意な動きを真似るのは得策ではない。
      自分のやり方を見つけるか、更に多くの人間の技を我が物にするか。
      ま、そのうち自分に合っている型が見つかるだろう」

遂に服を全て脱がされ、ブーンは浴室の前で降ろされた。
ロウガが身振りで先に風呂に入るよう促し、ブーンはそれに従った。
浴室でシャワーを浴びていると、ロウガが遅れて入ってきた。

リi、゚ー ゚イ`!「すぐに強くなることなど、誰にも出来んさ。
       お前はお前の速度で強くなればいい。
       何かを守りたいと思うのならばなおさら慎重にならなければな」

内心を見透かされたのか、ロウガは優しくそう言った。
今、ブーンは焦っていた。

リi、゚ー ゚イ`!「ヒートはお前に無理をしてほしいと願ったのか?」

(∪;´ω`)「いえ……」

共に旅をするヒート・オロラ・レッドウィングは今、オアシズの医療室で治療を受け、眠りについている。
彼女は単身で戦い、傷つき、そして今はベッドの上。
もしもブーンが戦力としての実力を持っていれば、結果は違ったかもしれない。
あの時の自分に出来ることは全てやったつもりだが、それでも、結果としてヒートが傷ついたことが悲しかった。

少しでもいい。
ヒートのために力をつけ、彼女達との旅で足手まといになりたくはなかった。
その思いがブーンを動かし、ロウガは彼の気持ちを汲み取って夜遅くまで鍛錬に付き合った。

リi、゚ー ゚イ`!「なら無理をするな。 男が無理をしていいのは、無 理 を し な け れ ば な ら な い 時 だけだ。
       覚えておけ、ブーン」

(∪´ω`)゛「お」

ロウガがシャンプーでブーンの髪を洗い始める。
ブーンは目をつぶって、自分の臍を見るようにして体を丸めた。

リi、゚ー ゚イ`!「いい返事だ。 それに、今のお前なら街のチンピラ程度は伸せるだろう。
       ただし、一対一に限定されるがな」

(∪´ω`)「おー……」

戦わなければならない相手は、決してチンピラ程度の人間ではない。
相手が使うのは武器と兵器。
チンピラなど最初からブーンの目標には入っていなかった。

819 名も無きAAのようです :2017/10/01(日) 19:15:21 ID:UYTFpBow0
リi、゚ー ゚イ`!「いきなり私やヒート、ましてやデレシアさんのようになれるはずがない。
       生きている年月が違うんだ。
       今は先輩たちから学び、吸収し、そして己の物に磨き上げろ。
       それが今日のレッスンだ」

シャワーで泡を洗い流してもらい、ブーンはボディスポンジを手渡された。

リi、゚ー ゚イ`!「後は自分で洗えるだろう。
       それとも、手を貸してやろうか?」

意地悪そうにロウガがそう言ったため、ブーンは思わず首を横に振った。
首を縦に振ればロウガは本当にブーンが体を洗うのに手を貸すだろう。
だがそれはロウガの力を借りて自立から少し遠ざかってしまうという事。
せめてもの強がりとして、ブーンはその誘いを断ったのだった。

リi、゚ー ゚イ`!「風呂の後はどうする?」

(∪´ω`)「お…… ヒートさんのところに、いきたいですお」

リi、゚ー ゚イ`!「ふむ……
      まぁ、お前がそう言うなら止めはしないがな。
      行ってどうする? あいつは今、麻酔が効いた状態で寝ているんだぞ」

二人は体を洗いながら会話を交わす。
浴室に響く二人の声。
少しの思案を挟んで、ブーンはロウガの問いに答えた。

(∪´ω`)「あの…… ぼく……」

リi、゚ー ゚イ`!「ん?」

(∪´ω`)「そばに、いたいです……お。
      りゆうとか、なんか、よくわからないです。
      でも、いっしょにいたほうがいいって、その…… ぼく…… おもって……」

自分が辛かった時、ヒートやデレシアは傍にいてくれた。
今は自分がその恩を返す番。
何かが出来る訳ではないが、何もしないよりは、一緒にいた方がいいと思うのだ。

リi、゚ー ゚イ`!「ならそうすればいい。
      添い寝でもしてやれ」

(∪´ω`)「そいね?」

体についた泡を洗い落とし、二人は湯船につかる。
溢れ出すお湯の音と、体の芯からほぐす柔らかい湯にブーンは目を細めて満足げな吐息を漏らす。
二人で入っても十分な広さのある湯船で、ブーンはロウガの目を見て己の質問の答えを待った。
凛とした瞳が優しげに細まった。

820 名も無きAAのようです :2017/10/01(日) 19:17:55 ID:UYTFpBow0
リi、゚ー ゚イ`!「一緒に寝るってことさ。
       究極の親密さの一つだ」

(∪´ω`)「きゅーきょく?」

リi、゚ー ゚イ`!「一番、ってことだ。
      寝ている時、人間は無防備だろ?
      その無防備な姿をさらしても構わないほど、信頼している相手というわけだ」

ブーンはそれ以外にも多くの無防備な姿を見せてきた。
それは同時に、ヒートも無防備な姿を見せてきた事でもあった。

リi、゚ー ゚イ`!「今こうして、私達が風呂に入っているのもそれの仲間だ」

(∪´ω`)「お!」

それからブーンは翌日に疲労が残らないように湯船の中でストレッチを行い、ロウガがそれを手伝った。
何度か水中に頭を沈める事となったが、それが楽しかった。
海に放り捨てられて溺れた後でも、ブーンは水を少しも恐れなかった。
水中での動き方を学びつつある今、かつて恐れた物でさえも、ブーンにとっては勉強道具の一つでしかない。

そして。
風呂上がりに腰に手を当てて飲むフルーツ牛乳の美味しさもまた、勉強の一つだった。

リi、゚ー ゚イ`!「うんっ!! 美味いっ!!」

(∪*´ω`)「ぷはーっ!!」

二人は同時に瓶の中身を飲み干し、同時に満足げな息を思い切り吐いた。
火照った体に沁み渡る冷たいフルーツ牛乳の味は格別だ。

リi、゚ー ゚イ`!「いいか、腰に手を当てて飲むのは様式美という。
      理由などない。
      そうするべきだからそうするんだ。
      いいな?」

(∪*´ω`)「おー!」

こうしてまた、ブーンは新しい言葉を一つ覚えたのであった。

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 ̄___ ̄―===━___ ̄― ==  ̄ ̄ ̄  ――_――__―____
 ___―===―___  Heat's dream ==  ̄ ̄ ̄  ――_―― ̄ ̄―
 ̄ ̄―‐―― ___ ̄ ̄―――  ___ =―   ̄ ̄___ ̄―===━__
 ――――    ==  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ―― __――_━ ̄ ̄  ――_―― ̄__
August 12th PM11:01
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821 名も無きAAのようです :2017/10/01(日) 19:20:00 ID:UYTFpBow0
ヒート・オロラ・レッドウィングは麻酔で深い眠りについていた。
右肩を骨折し、多くの打撲傷と擦過傷を全身に負った彼女は、満身創痍の状態だった。
夢は一切見なかった。
あるのは苦痛だけだった。

復讐のために人を殺めることを生業とし、両の手は血で汚れた。
全ては復讐、報復のためだった。
そこまで堕ちたのに、彼女は敵を討てなかった。
本当に殺すべき相手を殺せず、負傷し、己の未熟さに憤った。

殺す対象が肉親だったから油断したのか。
それとも、敵を侮った代償なのか。
いずれにしても、ヒートは失敗したのだ。
心と人を殺し続けた日々は、報われなかった。

今すぐに起き上がって殺しに向かいたいが、体は言う事を聞かない。
それはそうだ。
ここに運び込まれ、ヒートはすぐに手術を受けることになったのだ。
オセアンの戦闘での傷も完全には癒えていない中、こうして再び傷を重ねれば、流石に体が休息を求めて無理な命令に従うはずもない。

失ってきた物の多さが、今、ヒートを苛んだ。
努力も犠牲も、無意味だったのだ。
果たして今、自分は何の価値があるというのだろうか。
ティンカーベルでの騒動への参戦はもう不可能だろうし、ブーンに無様な姿を見せてしまった。

守るべきブーンに守られたことは誇らしくもあり、同時に、悲しくもあった。
自分はブーンの成長のために役立てないのだ。
あの子は、デレシア達がいれば十分なのだ。
もう自分は必要ない。

弟の生き写しであるブーンにそう思われることが、今のヒートには何よりも残酷な宣言だった。
最初にブーンに興味を持ったのは彼が弟に似てるから、という点だった。
だがすぐに、ヒートはブーンの持つ才能に惹かれ、彼の未来を見届けてみたいという想いに駆られるようになった。
彼は才能の塊だ。

良くも悪くも人を惹きつけ、人の力を海綿のように吸収する。
それはつまり、出会った人の数、経験した物事の数と質だけ成長し得るという事。
最終的に彼がどのような大人になっていくのか、本当に楽しみだった。
それを間近で見届けることは、まるで、花が芽吹くのを心待ちにするのに酷似している。

新しく見つけた生き甲斐。
復讐を果たしたと思い込んでいたヒートにとって、ブーンは心の拠り所のような存在だった。
無力さのために再び大切な物を失ってしまう事が、傷口の開いたヒートの心をじわりじわりと傷つける。
それは全身に負った痛みよりも、臓器に負った損傷よりも、遥かに長く残り、癒えにくいものだ。

デレシア達との旅から抜けるべきなのか、真剣に考えなければならないだろう。
足手まといとなってブーンの成長を阻害するわけにはいかない。
ここで手を引くという選択をするのも、きっと、ブーンのためになる。
自分がいなくても、ブーンは大丈夫なのだから。

822 名も無きAAのようです :2017/10/01(日) 19:21:34 ID:UYTFpBow0
――左腕に温もりを感じたのは、そんな考えを巡らせていた時だった。

寄り添う形で何かがヒートのベッドに入ってきたのだ。
布団の上からでも感じる温もり、体温。
それは人よりも体温の高い証拠。
つまり、これはブーンの体温に相違なかった。

何故ここにブーンがいるのかという気持ちが、ヒートの意識を麻酔の海から引き上げた。
呂律の回らない状態で、ヒートは彼の名を呼ぶ。

ノハ´⊿`)「ブーン……?」

(∪;´ω`)「お……」

ノハ´⊿`)「な……で……」

麻酔の為か、口が上手く動かせない。
目も見開けないが、その声は間違いなくブーンのそれだ。

(∪;´ω`)「えっと…… ヒートさん、しんぱいで……
      そしたら、ししょーが、そいねしろ、って……」

ブーンの言う師匠がロウガの事なのは知っている。
狼の耳付きであり、その戦闘力は桁違いに高く、棺桶を使ったとしてもヒートが勝てるとは考えにくい猛者だ。
彼女は縁あってブーンの命を助け、更には生き抜くための指導を買って出た。
そんな彼女と酒を飲み交わしたヒートの印象は、極めて良好だった。

人柄は掴み所がない印象だが実直な姿は正に狼といったところで、前イルトリア市長の警護を担当していることからも分かる通り、真面目な性格をしている。
そうでなければ、あの“ビースト・マスター”が雇うはずがない。
彼の武勇伝と伝説はいくつもあるが、そのどれもが彼の恐ろしさと情けの無さを物語るものであり、イルトリアの代表者としての資質を十分に発揮していた男。
そんな男が雇い、手近に置くとなれば間違いなく一流の人間だ。

ブーンはそんな男とも親しくなり、友と呼ばれる間柄となったのは本当に予想もしない展開だった。
全くの偶然だが、彼等はデレシアの知り合いであり、彼女に一目置いていた。
デレシアの人脈の広さについてはもう驚くまいと考えていたが、やはり驚かざるを得なかった。
だがそれは、ある意味でこの上ない保証でもあった。

デレシアの友人である彼女のアドバイスを受けたブーンは、ただそれを実行したに過ぎない。
恐らくあの短い話の中で、ロウガはヒートがブーンに抱いている感情を察したのだろう。
そしてブーンがヒートに対して向けている感情と合わせて考え、この案を出したはずだ。

(∪;´ω`)「ヒートさん…… ぼく、いっしょにいてもいいですか?」

ノハ´⊿`)「ん……」

その返事がブーンにどの意味で理解されたのか、意識が再び遠のこうとしていたヒートには考えることも適わなかった。
静かに眠りの波に身を流され、ヒートの意識は今度こそ深い海の底に沈んでいった。
だが今度は、傍らに感じる温もりが共に海底へと進んでくれたため、何も不安な気持ちは浮かばなかった。
何より、腕に感じる温もりがヒートの心の中に浮かんでくるあらゆる不安を消し去ってくれた。

823 名も無きAAのようです :2017/10/01(日) 19:22:48 ID:UYTFpBow0
悪夢が浮かぶたび、思考が奈落に落ちそうになるたび、その温もりがヒートに思い出させる。
何も恐れなくていいのだと。
言葉や推測ではなく、この存在こそが物語るのだと。
自分を頼り、慕ってくれる愛おしい存在こそ何よりの武器なのだ。

――ブーンはヒートの片腕に抱かれ、ヒートはブーンを抱いたまま、ゆっくりと眠りについた。

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                     Ammo→Re!!のようです
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  ,/   ゙<´:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: 第九章 【knitter-編む者-】
   \ /::::::::::::::ハ  |::::::小.:::::::: __ ,.   ∠._,'  /     :::::::::::::::/
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                                        August 12th PM11:03

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ジュスティアからの発表後の熱も冷めて寝静まった街を、静かに歩く一人の女性がいた。
月光に照らし出されるのは柔らかな黄金、もしくは黄金と比喩されるほど見事に実った小麦を彷彿とさせる金髪を持つ、碧眼の女性。
芸術的なまでに整った目鼻立ちと優しげな目元と口元は、見つめる者全てに安らぎを感じさせる。
だが多くの女性がそうするのと違い、彼女は服装でその魅力を引き出そうとはしていなかった。

身に纏うのはカーキ色をしたローブで、艶はまるでなく、使い古されてすっかり草臥れているが、見る者にとってそれは経年劣化した極上の皮を思わせる風情があった。
マントの様にも見える程にゆったりとした作りのそれは、デザイン性よりも実用性を重視した物で、現存するどの布よりも高性能だった。
そして足元を飾るのは無骨な形状をした、八インチのデザートブーツ。
履きならされたそれは、彼女の足によく馴染んでいた。

ローブに隠れているが、その両わきの下には大口径の自動拳銃が一挺ずつ、腰の後ろには水平二連式のソウド・オフ・ショットガンが二挺あった。
細身の彼女はそれらを片手で難なく扱うだけでなく、驚くべき精度で標的に当て、速やかに死を与える実力を有している。
即ち、それらの武器はただの護身用ではなく、この時代の人間が使用するのと同じく命を奪うための道具として十二分にその真価を発揮するという事。
その実力は未知数であり、その上限を目撃した者は皆無だった。

女性の名前はデレシア。
旅人であり保護者であり、そしてこの島で起きている騒動の中心点であった。
嵐の中心である彼女はラジオ放送を聞き、小さく嗤い、呟いた。

ζ(゚ー゚*ζ「……ふふ、声が別人ね」

声真似が出来る人間はこの世界に多く存在するが、この放送を担当している人間はかなりの手練だ。
かつて、とある島国では声優の物真似をしていた人間が、その声優の死後本物になったという話がある。
表沙汰にはなっていないが、そういった話は昔からよくあった。
これはそれに近い部分があるが、次元が遥かに異なった。

824 名も無きAAのようです :2017/10/01(日) 19:24:03 ID:UYTFpBow0
恐らく、音声認識をする機械を誤魔化すことぐらいは出来るだろう。
非常に軽微な声色の違いは機械の誤差の範囲として処理され、音声認識システムならほとんどの物を突破出来るはずだ。
聴力に自信がある人間でも、それを聞き分けるのは至難の業。
耳付きにとっては容易だろうが、一般人には不可能だ。

デレシアは相手の打ってきたこの一手に、称賛と落胆を半分ずつにして評価を下した。
称賛すべき点は二つ。
一つは、ライダル・ヅーが死ぬことを前提として作戦を進めていた抜け目のなさだ。
そのために幾つもの罠を張り巡らせ、彼女の命を絡め取った手腕はこれまでの人間とは別系統の動きだった。

単純な計画ではなく、複合的な視点を持った人間による計画の立て方だった。
仮にそれが一人の人間の思考によるものだとしたら実に面白い。
これまでにデレシアが潰していた“ティンバーランド”の中でも、今回は最高の仕上がりかも知れなかった。
ようやくまともに動ける人間が出現したのだと感心する一方で、この程度に到達するまでの時間を考えれば落胆すべきなのだという感情が湧き上がってくる。

だが。
何より込み上げてくるのは怒りだった。
それだけは変わりがない。
デレシアの怒りを買うことに関しては、この連中は天才だと断言できる。

称賛すべき二つ目の点は、正に、何度も彼女に刃向かってくるその学習能力の無さだ。
芽吹いてくる度にデレシアに潰され、その度に立ち上がる姿は生ける屍を彷彿とさせる。
もしくは害虫の類だ。
生命力の高さは、最早彼らの特技として認識せざるを得ない。

根絶やしにしたはずだが、それでも蘇るという事は、まだ根が残っていたという事だ。
もっと徹底的に潰すために、今回はある程度泳がせなければならない。
オアシズやニクラメンでその尻尾を見せ、今ではその爪先が見え始めている。
これまでであれば、もうこの時点で見えているティンバーランドの人間は全員殺していただろう。

そうせずに動きを傍観し続けることで見えてきたのは、ティンバーランドが内藤財団と言う世界最大の企業を隠れ蓑としている事実だった。
島でデレシアが動いている間にラジオで発表された内容は、マニーからの連絡で明らかとなった。
新単位の発表。
無知な者はその価値に気付かないだろうが、聡い者はその重大さに気づいたはずだ。

単位とは束ねるための物であり、効率化を図る物だ。
一度単位が確立されれば、多くの産業が様々な意味で変化せざるを得なくなる。
先んじて動いた者が初動で莫大な利益を得ることは間違いない。
己の影響力を理解した上での行動はあまりにも計算的だった。

だが利益を得ることが目的でない事は、同時に発表されたラジオの無償配布で明らかだ。
単位の統一を宣言したのと同時にラジオを配布することで、彼らが次に何を目指すのかについて、想像に難くない。
企業の統一、情報の統一、街の統一。
段階を踏んでいき、そして、ティンバーランドの最終目的が達成されるという仕組みだろう。

これまでと違って気になるのが、“大昔にあった単位をあたかも己の物として発表した”事だ。
確かに単位の統一は便利ではあるが、彼らがラジオ放送で唯一吐いた嘘はこれを発明したと言ったことにある。
それを偽る理由は何だ。
ダット――デジタル・アーカイブ・トランスアクター――を使えば、単位の起源を調べることなど一瞬で終わるというのに。

825 名も無きAAのようです :2017/10/01(日) 19:25:50 ID:UYTFpBow0
何か意図があっての事に違いない。
と考えると、彼らの考えにはまだ別の側面があるのかもしれない。

ζ(゚ー゚*ζ「……」

その意図が何であれ、最終的にやるべきことは決まっている。
そして今やるべきことは、目の前に残っているゴミの処理だ。
デミタス・エドワードグリーンの見え透いた挑戦は島全体にいる警察の目を一か所に集め、それ以外の警備を軽微にすることにある。
となれば、手薄となった警備を狙って残存勢力が脱出を試みるはず。

デレシアは今、脱出しようと画策している人間達を追っていた。
この状況下で島から逃げるには、爆音を響かせ撃墜される危険性のある空の道は現実的ではない。
ジュスティアへと続く陸路もあり得ない。
そう考えると、残った可能性は海路だけだ。

現在、ジュスティアの船がいくつもティンカーベルの海上に停泊し、海からショボン・パドローネ達が逃げられないように見張っている。
その中の一隻をティンバーランドが乗っ取ることなど造作もないだろうし、乗っ取らずとも協力者がいれば問題なく彼らを乗せられる。
となれば、後はその船を割り出せば答え合わせは終わり、後は掃除の時間だ。
勿論、デレシアはその船の目星をつけていた。

ジュスティアの軍隊は優秀だ。
一度下された命令であれば、それが例え理に反するような命令であっても必ず従う。
理想的な軍隊図だ。
そして海軍の所有する船とは、軍隊の中でも極めて連携力の重要視される集団の集まりであり、違反をするのであれば一斉に行う。

ましてやそれがジュスティア軍の船であれば、間違っても独断で動く船などあるはずがない。
つまり、不自然な動きをする船こそがティンバーランドの息のかかったそれということだ。
だが行動が嫌でも目立つ船であるため、ひっそりとそれを行うための何かしらの言い訳、大義名分を用意しているだろう。
そう言った工作をするためには、可能であれば民間人に目撃されない事が重要。

時間が大分押しせまっている事を確認したが、デレシアは歩調をそのままに進んだ。
目指すのはティンカーベルの北にある小さな岬だ。
地元の漁船ぐらいしか使わないその岬は、実は水深がかなりあり、ある程度の大きさの船でも近づく事が出来る。
何より、地形の関係から目撃される恐れが極めて少ない。

陸地に近づいた船に小型艇で乗り移り、そのまま島から遠ざかれば逃亡は完了する。
理由は後でいくらでも考えられる。
ヅーとデミタスが死に、全体の気が緩んでいる今が絶好の好機と言うわけだ。

826 名も無きAAのようです :2017/10/01(日) 19:27:16 ID:UYTFpBow0
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,、,、,、wリ゙W゛jリwj从リj"W゙リwリ゙W゛j;yノw''" ノ'ノ,'ハハ,ゝ ハ 彡゙;:.'ハヾゞ';'ヽヘ;;ハバゝ;>.:,ハ';'ヽ、
 从;: `:、リ゙W゛jリw''、`'.、,:`:,,‐'゛' ~    彡;:'ヘ;;ハバ ノハヽ、,ツノノ;:'ハ;;:. ノハil;:ヽゝ ノハil;:ヽゝ
`wリ゙W゛jリwj从リj`'.、-='´  _,ywj从リWv,ハヾゞ;;:. ゞノvノ;:,l'レゝ,ハ';'シハノシ;:,ヘ, ノノ ノ'ノ,'ハハゝ
.wj从リj`'.、 ,:,-‐'゛,,vw-‐W゛w从 W:;,',:从シハノシ;:,';,ノノゝハハ,ゝヘ,::..ヘ.:;ilゞ ハ';'ヽ..::...,ヘ、ハ.:;>
 ̄~^ ̄^ ̄ ̄~`^゙'、,゛jリw :;.:".:;.:'"゙:.:゙,;`彡ハノ;|ililヾvフノ;:,'ハ';'ヽ;;ハバゝハ';' ハ';'ヽハil;:ヽハ,ハ';'ヽ、
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August 12th PM11:29
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デレシアの予想は見事に当たっていた。
岬に向かって走る一台の車。
そのテールランプを見て、デレシアは躊躇いなく懐のデザートイーグルを抜いた。
艶消しのされた黒い銃身が月光を受けて怪しげに鈍い光を反射する。

弾倉を軽く抜き、遊底を引いて薬室に一発の銃弾を収めて弾倉を元に戻す。
そして、星の光と見紛うほどの小さなテールランプに向けて発砲した。
数秒後、爆発かと聞き間違うほど大きな音と共にテールランプは光を失った。
最後に光の見えた場所に向けて、デレシアは静かに疾走した。

一陣の颶風と化したデレシアは森を駆け抜け、山を下り、大木に激突して大破している乗用車の傍にやって来た。
目を周囲の茂みへと向け、耳を澄ませて跫音を探る。
跫音はまっすぐに海に向かっていた。
数は三つ。

そう簡単に逃げられるとは考えていないだろうから、必ず殿がいるはずだ。
強化外骨格程度で止められると本気で思っているのなら、かなりおめでたい脳味噌の構造をしている。
だがショボン・パドローネはそこまで馬鹿ではない。
兎にも角にも逃げることを考え、この島に於ける作戦を放棄することを選んでいるはずだから、殿は追いつかれた時にだけ動くだろう。

そうなった場合の最善の手を潰すために、デレシアはすでに手を打っていた。
ドミノが倒れるように、後は、ゴールに向かって進むだけである。

ζ(゚ー゚*ζ「……あなたが殿ね?」

――森から抜け出る一歩手前のところに、一人の男が立っていた。
シナー・クラークス。
オアシズではブーンの教育に役立ってくれたという背景もあるが、その本質は、デレシアにとっての敵でしかない。
殺すのは惜しいが、仕方がない。

一度目は殺さずにおいたが、そう何度も生かしておく必要はないかもしれない。

( `ハ´)「……これ以上は行かせないアル」

827 名も無きAAのようです :2017/10/01(日) 19:28:32 ID:UYTFpBow0
ζ(゚ー゚*ζ「ふぅん。 私を止められると本気で思ってるの?」

( `ハ´)「止める? 違うアル。
     ここで殺すアル!!
     炎を恐れては、炎に勝ることはできない!!」

そして、シナーは強化外骨格“ファイヤ・ウィズ・ファイヤ”の起動コードを入力した。
一度デレシアに敗北してはいるが、その機能は健在。
火炎放射兵装を使えば森一帯を焼き払い、この島に壊滅的な打撃を与えられるだろう。

(:::○山○)

ζ(゚ー゚*ζ「惜しいわね、本当に。
      覚悟もあるし、恐らくは実力もある。
      人間としての教養もあるのに、ティンバーランドに組するなんて」

構えから伝わるのは、武器を正しく、そして効果的に使おうとする意気込みだ。
挑んでくるのは至近距離。
火炎を中距離で使うのではなく、近距離で使う事でより確実に相手を燃やす算段だろう。

(:::○山○)『……』

返答はない。
少しでも時間稼ぎをしたい人間にとってみれば、デレシアがこうして話しかけてきているのは好都合のはずだ。
故に攻撃もなく、じりじりと神経をすり減らしながらこちらを見つめている。
今攻撃を仕掛けて返り討ちに合った時のことを考えれば、実に賢明な判断だ。

ζ(゚ー゚*ζ「ブーンちゃん、きっと悲しむわよ」

(:::○山○)『……知った事じゃないアル』

ζ(゚ー゚*ζ「あら、そうなのね。
      そうやって言い切ってもらえると私も気兼ねなく殺せるわ」

先手はシナーだった。
両腕を交差させつつ、一気に駆ける。
紅蓮の炎が両手に輝き、それが耐熱装甲を瞬時に覆った。
炎に対して耐性のある装甲だからこそ出来る芸当であると同時に、触れるもの全てに炎の祝福を与える芸当。

肉弾戦に対する特効薬的な効果を持つその戦い方は、だがしかし、長期戦には向いていない。
長引けば長引くほど貴重な燃料が燃焼され、実際に燃やすべき対象に使用するまでに底を尽きる。
ファイヤ・ウィズ・ファイヤの使用する高粘度の燃料は非常に貴重な物で、量産するには時間と金がかかる。
恐らく、一度の戦闘で消費される燃料の金額は平均的な家庭の二か月分の収入に匹敵するだろう。

骸骨のように不均衡な装甲が炎の中に浮かぶ姿は、聖書などで描写される煉獄の悪魔を連想させた。
熱が届かないギリギリの距離を保ったまま後退し、銃身を短く切り詰めた水平二連式ショットガンに弾を込める。
振り回す手足が木を砕き、木片が火の粉のように燃えて闇夜に散った。
散弾の装填を終えたデレシアの両腕がローブの下から出現し、シナーの足に照準が向けられた。

828 名も無きAAのようです :2017/10/01(日) 19:29:46 ID:UYTFpBow0
ファイヤ・ウィズ・ファイヤの脚は熱を出来る限り逃がすために細身の設計となっており、素早い移動や運動が苦手だ。
特に足場の悪いところでの戦闘はあまりにも不向きであり、デレシアが山側に後退する速度に追いつけていない。
足場を崩すために、デレシアは散弾を連続で放った。
狙い通りに巨体が傾いだが、それは、彼にとってそこまで問題ではなかった。

(:::○山○)『燃えろっ!!』

両手を構え、倒れながらも燃料を撒き散らす。
降り注ぐ火炎の雨。
成程、実にいい判断だ。
これが屋内や市街戦であれば死活問題に発展しかねない攻撃だっただろう。

だがここは森。
木々の生い茂る天然の城塞。
いささか判断が早すぎたようだ。

ζ(゚ー゚*ζ「残念ね」

炎は網目状に生い茂った木にまんべんなく絡みつき、細い枝を瞬く間に燃やし尽くし、太い幹を炭化させた。
デレシアにかかる炎は皆無。
次弾を装填し終えたショットガンの銃腔が、シナーの顔面を捉えた。
銃爪に指をかけた時、デレシアは思わず感嘆の声を上げそうになった。

そこにはすでに装甲に覆われたシナーの顔はなく、彼の姿は散弾の射程外にあった。
デレシアの意識がほんのコンマ数秒炎に向けられた隙を狙って、即座に後退を選んだのだ。
本当に優秀な男だ。
もしもこれがショボンであれば、この機を逃すまいと近接戦を開始していたかもしれない。

そうなっていたとしたら、シナーの頭部は胴体と離れて転がっていた事だろう。
良い判断だが、それだけだ。
距離を開けたシナーは、その位置から火炎放射を放つ。
炎が上に行く習性を利用し、周囲の木々ごとデレシアを焼き殺そうというのだろうが、その発想があまりにも安直だ。

デレシアは木を楯にし、素早く移動。
木の間から対強化外骨格用のスラッグ弾を放ち、装甲を確実に削っていく。
四発の弾丸は正確にファイヤ・ウィズ・ファイヤの腕と背中を繋ぐケーブルを破壊し、そこから供給される燃料を断った。
それだけでなく、周囲で発生した火の粉が燃料に引火し、シナーの足元が炎に包まれる。

(:::○山○)『くっ!?』

シナーは急いで棺桶を脱ぎ捨て、地面を転げる。
直後、背中のタンクに引火し、バッテリーともども爆発した。
命までは失わなかったものの、爆風と熱風でシナーはかなりの手傷を負うことになった。
舗装路の上に転がるシナーの前に颯爽と降り立ち、デレシアは笑んだ。

ζ(゚ー゚*ζ「……あの子のために役立ったから、この辺で許しておいてあげる。
      だけど、流石に次は殺すわよ」

(;`ハ´)「……ぐっ、く」

829 名も無きAAのようです :2017/10/01(日) 19:30:34 ID:UYTFpBow0
殺す代わりに、デレシアはシナーの腹部を蹴った。
その一撃でシナーは白目をむいて意識を失い、起き上がることも指先を動かすこともなかった。
我ながら甘いと思うが、ここですぐに殺しては惜しい存在だ。
教材として生き長らえ、ブーンの成長のために死んでもらう。

獅子の子供にとっての遊び道具のような物だ。
壊しても問題ないが、脆すぎては問題のある物。
少なくとも、そこいらにのさばっているチンピラや雑魚よりもずっと役に立つ。
精々いい教材として成長してもらう事を願うばかりだ。

シナーとの戦闘で失った時間は、ほんの数分だった。
問題ないと言えば嘘になる時間の消費だが、間に合わなくなることはない。
先ほどよりも速く走り、デレシアは岬へと急いだ。
そして、岬が見えて来た時、巨大な黒影が海から近づいてきているのを見咎めた。

ライトを消しているが、あれはジュスティア海軍の所有する駆逐艦だ。
ビーコンの光さえない事から、間違いなく周囲に気取られないように動いている一隻。
ティンバーランドの息のかかった船と見て間違いないだろう。

ζ(゚、゚*ζ「……」

ゴムボートが繋がれた岬に立つ人間は二人。
ショボンと、シュール・ディンケラッカーだ。
船で逃げてもデレシアに撃ち殺されると理解し、ここでデレシアを食い止めようというのだろう。
確かに、それ以外の手に出れば生き残る確率は皆無。

彼女に喧嘩を売った時点で賢いとは言えないが、何もしないよりかは遥かにましだ。
さて、どこまで戦えるのか、今のティンバーランドの水準を測る意味も込めて見させてもらうとしよう。

(#´・ω・`)「来たか、デレシア……!!」

ζ(゚、゚*ζ「どうやって死にたいか、リクエストはあるかしら?」

(#´・ω・`)「何度も僕たちの邪魔をして、そんなに楽しいか!!
      人の!! 夢を!! 踏み躙るのが!!」

愚問だ。

ζ(゚、゚*ζ「つまらないわよ、あなた達の夢なんて。
      いい加減その夢、諦めなさい」

(#´・ω・`)『英雄の報酬は、銃弾を撃ち込まれることだ!!』

ダイ・ハードの起動コードが入力され、ショボンが戦闘態勢に入る。
コンテナから飛び出し、ショボンは即座に飛び蹴りを放つ。
両脚に装着された楯が展開し、死神の鎌を思わせる一撃がデレシアの頭上を通過。
姿勢を低くしたところを狙い、頭上から踵落としが彼女の頭部を叩き潰さんと迫る。

一撃で熟れたトマトのように爆ぜる彼女の頭を幻視したショボンを、衝撃が現実へと引き戻した。

830 名も無きAAのようです :2017/10/01(日) 19:31:57 ID:UYTFpBow0
(::[-=-])『ぐっ?!』

衝撃の正体はデザートイーグルの一撃だった。
それは正確に脚と楯とを繋ぐマニピュレーターを破壊し、高周波振動の楯を奪ったのだ。
二枚の楯は重力に従って地面に落ち、唖然とするショボンの胸部に銃弾が連続で撃ち込まれる。
偶然にもショボンが体勢を崩していなければ銃弾は装甲を貫通し、その下にある彼の心臓を破裂させていた事だろう。

だが衝撃を緩和することは敵わず、彼は仰向けに倒れてしまった。
そこにすかさず撃ち込まれる銃弾。
ショボンはどうにか身をよじってそれらを回避するも、銃弾によって桟橋が無残にも砕かれ、ゴムボートは引き裂かれて沈んだ。

lw´‐ _‐ノv『夢と希望が我らの糧。我ら、正義と平和の大樹也』

そして、傍観していたシュールが動き出す。
入力したのは、以前に聞いたことのあるジョン・ドゥの特殊な起動コードだ。
案の定現れたのは、白い装甲に金色の大樹が描かれたジョン・ドゥ。
コードを強引に書き換えただけの棺桶だが、その背景にはイーディン・S・ジョーンズがいる事を忘れてはならない。

世界的な棺桶研究の権威がティンバーランドの一員であることは、極めて重要な情報だ。
ティンバーランドは貴重な棺桶を大量に所有しているだけでなく、それを自由に改造が出来る立場にある。
ダットを数台使ったとしても、一般人では棺桶の起動コードはそう簡単に書き換えが出来ないはずだ。
恐らく、現代人でそんな芸当が出来る人間は彼だけだろう。

戦闘能力が皆無の男ではあるが、可及的速やかに殺しておいた方が後々のためではある。
だがあのような男は極めて慎重であり、臆病であり、賢い。
一度隠れ潜めば発見は難しいだろう。
彼は世界中に個人的なコネを持ち、そこに加えて内藤財団の強力な影響力があれば、一年は行方をくらませられるだろう。

ひょっとしたら、このショボン達の逃亡は彼を隠すための行動かも知れない。
彼らの行動の全てを睥睨したいところだが、今はそうする余裕があまりない。
個人で旅をしていたら可能だが、今はブーンの成長、そしてヒートの生き方を見届けたいという細やかな願いがある。
多少の問題は目を瞑らなければならないのが面倒なところだった。

MP7短機関銃を両手に構えたシュールが、咆哮と共に弾丸の雨をデレシアに浴びせかける。
万が一を考えて回避行動に移りつつ、反撃の銃弾を撃ち返す。
二発の銃弾でシュールの持つ二挺の銃が砕け散り、続けて放たれた弾丸によって肩の装甲に穴が開いた。

〔欒゚[::|::]゚〕『この女っ……!! 化け物かっ……』

ζ(゚、゚*ζ「失礼な女ね」

(::[-=-])『退け!! 敵う相手じゃない!!』

距離を開け、シュールはショボンの傍で膝を突く。
弾倉を交換し、デレシアは銃腔を二人に向ける。

ζ(゚、゚*ζ「何を今さら……」

(::[-=-])『僕 た ち で は ね !!』

831 名も無きAAのようです :2017/10/01(日) 19:33:24 ID:UYTFpBow0
口調ががらりと変わり、勝利を確信したそれになった。
その言葉が発せられるのとほぼ同時に、沖にいた駆逐艦にまばゆい光が灯り、そして――

ζ(゚、゚*ζ「あら」

――巨大な砲弾が、デレシアの頭上に撃ち込まれた。

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巨大な爆発が起きた。
少なくとも、生身の人間では耐えられるような爆風と熱風ではない。
木々は力任せに薙ぎ倒され、まだ青々しい葉が次々と燃え、地面は風圧で抉れた。
その衝撃は強化外骨格の装甲を纏っている二人の体をまるで小枝のように揺るがし、片膝を突いて転倒を免れた。

(::[-=-])『はははっ!!
      残念だったな!! 僕の勝ちだ!!』

デレシアの身に纏うローブが耐熱、防弾に優れた繊維であろうとも、砲弾の直撃を受けて生きていられる人間はいない。
棺桶があったとしても、砲撃を受けて耐えられる種類などそうそうない。
エイブラムスですら戦車砲に耐えられるぐらいで、それ以上となるとCクラス、それも“名持ち”でなければ有り得ない。
そして、デレシアは棺桶を所有していない。

その情報を基に、ショボンはこの忌々しい女を葬る方法を考えていた。
自分達が逃げれば、間違いなくこの女は追ってくる。
どのような方法を使うにせよ、それは断言出来た。
案の定、デレシアは逃げようとするショボン達を追い、ここまでやって来た。

おびき寄せることに成功した後は、艦砲射撃による一掃だ。
タフな人間にせよ、動きが俊敏な人間にせよ、この一撃を生き延びられるはずがない。
仮にデレシアが耳付きの類だとしても、だ。
絶対に勝てる方法を導き出し、それにまんまと誘導されたデレシア。

呆気の無い最期だが、これでいい。
どれだけ剛の者でも最期は呆気の無いものなのだ。

(::[-=-])『ははっ…… は……?』

笑いが止まる。
爆炎が薄れ、ショボンの目に三つの影が浮かび上がった。
揺らめき、煌き、そこに立つ影。

832 名も無きAAのようです :2017/10/01(日) 19:34:41 ID:UYTFpBow0
(::[-=-])『な……』

一つは、夜風に揺れるローブを纏った影。
炎が下から照らし、月光が頭上からその姿を明らかにする。

(<::、゚:::>三)

頭から被ったローブには焼けた跡すらない。
それどころか、破れた跡や血の跡さえもなかった。
全くの無傷。

(::[-=-])『な……ぜ……』

だが驚きはそんな事ではなかった。
デレシアが生きているという可能性は、ショボンの中に常に最悪の可能性として残されていた。
今はその最悪の可能性が具現化しただけだ。
問題なのは、それがどうして具現化したのかだ。

回避行動は間に合わなかった。
迎撃もしようとしなかった。
完全に不意を突いた一撃のはずだった。
二度とないほどの好機を失った原因。

ショボンの驚愕は、そこにこそあった。
そしてその答えは明白だった。
明白だったが、不可解だった。

(::[-=-])『あり…… ありえ……』

こんなこと、有り得ない。
こんなことが有り得えるはずがない。
こんな馬鹿げたことが有り得てはいけない。
断じて有り得てはならない!!

(:::::::::::)

(:::::::::::)

黒影は二つ。
一つはデレシアの正面に立ちはだかり、もう一つはショボン達に向かって堂々と立っていた。
炎が薄れ、その正体が肉眼でも分かる程くっきりと浮かび上がる。

(::[-=-])『ありえ……ないっ……!!』

それは、悪夢。
それは、一パーセントも可能性の中に組み込まれていなかった展開だった。

833 名も無きAAのようです :2017/10/01(日) 19:35:57 ID:UYTFpBow0
似`゚益゚似

ショボンの前に立ちはだかるのは鋼鉄に覆われた猟犬、番犬。
全身を覆う外骨格に仕込まれた高周波振動発生装置を最大の武器とする、コンセプト・シリーズ。
“ダニー・ザ・ドッグ”。
それを使う人間はたった一人。

ジュスティアが世界に誇る円卓十二騎士の一人、“番犬”の渾名を持つ第七騎士、ダニー・エクストプラズマン。
この男があの砲弾の爆風と爆炎、更には破片を粉々にしたのだ。
全身の高周波振動発生装置を総動員することで、強力な楯としてエクストはデレシアを庇ったのである。

<::[-::::,|,:::]

デレシアの前に立ち、地面に突き刺した大振りの剣の上に両手を乗せ、機械の瞳をショボンに向ける男が一人。
足元に落ちる巨大な薬莢が、この男のしたことを物語っていた。
砲弾の直撃を受ければ、ダニー・ザ・ドッグと雖も破壊は免れない。
だが、爆発が事前に起きたのであれば、楯としての効果は十二分に発揮できる。

そう。
世界に一機だけ残されたガバメント・シリーズ、“アーティクト・ナイン”の装備である大口径ライフルをもってすれば、砲弾でさえも撃ち落せる。
そしてダニー・ザ・ドッグが打ち消せなかった炎や鉄片、衝撃波をこの機体が身を挺して受け止めた。
吹き飛ばされないように剣を地面に突き刺してまで、デレシアを守ったのだ。

これを駆るのは、“執行者”の名を持つ第四騎士、ショーン・コネリ。
ショボン達が襲ったセカンドロック刑務所の所長。

(::[-=-])『どうして……貴様たちがっ……!!』

ようやくまともな言葉として、ショボンが叫び声をあげる。
ジュスティアからこの二人には、デレシアを捕えるように指示があったはず。
それを無視するなど、騎士がするはずがない。
彼らは法の番人。

ジュスティアと言う、正義の都の体現者なのだ。
その彼らが指示を無視して犯罪者に加担するなど、あり得ない。
ショボンの心からの疑問に答えたのは、デレシアの静かな声だった。

(<::、゚:::>三)「騎士が誰かの窮地に駆けつけるなんて常識じゃない」

それは皮肉たっぷりの言葉だったが、今のショボンには業腹な事実として突きつけられている。
その紹介を受けた二人は答えることなく、己の視線を静かにショボン達に固定していた。
何かがあったに違いない。
デレシアとこの騎士たちの間に、何かが。

だが、まだだ。
まだ終わりではない。
最後に全ての濡れ衣をデレシアに着せて脱出する目論見はまだ終わっていない。
常に戦力は分散させ、然る後に合流させるのがショボンのやり方だ。

834 名も無きAAのようです :2017/10/01(日) 19:37:15 ID:UYTFpBow0
ジョルジュ・マグナーニとワタナベ・ビルケンシュトックが残っている。
後者は戦力として計算に入れていいものかどうか悩ましいが、前者は間違いなくデレシアに対抗するためのプロフェッショナルだ。
仔細は知らないが、ジョルジュはデレシアの行動を熟知しており、正面から対抗できる数少ない同志。
彼の力があれば、この状況を少しでも変えることは可能。

ζ(゚、゚*ζ「援軍は来ないわよ、少なくともここにはね」

フードを脱ぎ、デレシアが淡々と告げる。
主兵装を失ったショボンは、その言葉を聞くしかなかった。

ζ(゚、゚*ζ「さぁ、男の子らしく困難に立ち向かってみせなさい」

(::[-=-])『何を、何を言っている!!』

ζ(゚、゚*ζ「そのままの意味よ。
      期待している二人は、ここに来れないってことよ」

その言葉の意味を理解したのは、遥か後方から響いて聞こえた巨大な銃声が彼の耳に届いた時だった。

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August 12th PM11:51
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ショボンとデレシアが対峙するのとほぼ同時刻。
ジョルジュ・マグナーニとワタナベ・ビルケンシュトックの姿は島の西側にあった。
二人は小型のセダンに乗り、ジョルジュの運転でジュスティアを目指していた。
まずはバンブー島へと辿り着き、そこから事前の仕込みを利用して目的を達成しようという流れだった。

彼等の仲間であるベルベット・オールスター=ビロード・コンバースの計らいのおかげで、それは容易く達成できる予定だった。
そのはずだった。
全ては、彼らの眼前に突如として現れた倒木が台無しにしてしまった。
  _
( ゚∀゚)「……ちっ」

舌打ちをして、ジョルジュは急停車させた。
倒木を越えるには道幅が狭く、車輌は貧相だった。
仕方なく、ジョルジュは車を降りた。
恐らく、嵐の影響での倒木だろう。

835 名も無きAAのようです :2017/10/01(日) 19:38:16 ID:UYTFpBow0
島の危機管理体制も然ることながら、道路工事に関してはあまりにも杜撰だ。
ウィンチがあれば車で引っ張って撤去できたが、そのような道具は持ち合わせていない。
そこで彼は、己の所有する強化外骨格を使用して、力で倒木を排除することにした。
  _
( ゚∀゚)『Go ahead. Make my day.』

たちまち両腕に装着される手甲と、巨大な一挺の拳銃。
その威力は強化外骨格の装甲をいとも簡単に貫通し、中の人間を一撃で死に至らしめる程強力だ。
倒木を正確に狙い撃ち、太い幹を粉々にして車でも押し通れるようにする。
全くの偶然だったが、海から響いた砲声とその銃声はほぼ同時。

一発の砲声が意味するのはデレシアの登場とその死だ。
だが果たして、あのデレシアがそう簡単に死ぬだろうかという疑問は決して拭えない。
どうにかしてあの場を切り抜けるというのが、ジョルジュの見解だったが、それはショボン達に言わずにおいた。
言葉よりも実体験を通じて学んでもらわなければ、デレシアという女の断片を見ることは敵わない。

木が砕けたのを確認し、ジョルジュは社内に戻ろうとして、ドアに伸ばした手を止めた。
何かがおかしい。
何がおかしいとは断言できないが、何かがおかしいことだけは分かってしまう。
  _
( ゚∀゚)「……誰だ?」

返答はない。
あるのは暗闇と、不気味に揺れる木々の影と、潮騒に似たざわめき。
そして、闇が動いた。
  _
(;゚∀゚)「おっ?!」

反射的に銃を顔の前に掲げたのは、彼のこれまでの経験の賜物だった。
それがなければ、彼の首と胴体は間違いなく分かれて地面に転がっていただろう。
鋭く鈍い一撃を受けたジョルジュは車の陰に隠れ、車内に残っているはずのワタナベに声をかけた。
恐らく防いだのは鋭利な刃物だ。

刃物ということは、至近距離にいたという事。
接近を許してしまったという事だ。
もしも刃物ではなく銃器であれば、ジョルジュは殺されていたはずだった。
つまりは相手の自信の表れであり、実力の差を見せつける行為だった。

単独では分が悪いかもしれない。
  _
(;゚∀゚)「ワタナベ、手を貸せ!!」

だが返答はない。
車はスモークガラスの為、中を見ることが出来ない。
拳でガラスを叩いて、ワタナベにどうにか接触を試みる。
  _
(;゚∀゚)「おい!!」

836 名も無きAAのようです :2017/10/01(日) 19:41:21 ID:UYTFpBow0
何者かの視線を感じてそちらを向くが、そこには何もなかった。
それは音も姿もなく、ジョルジュの周囲を動いているようだ。
どこの誰かは知らないが、喧嘩を売ってきたのならば後悔させてやるだけだ。
ツェザリカから空薬莢を排出した、その刹那。

(:::::::::::)

時間にして一秒にも満たない瞬間。
リボルバーを使う人間が無防備になるその時、影が動いた。
風切音だけを伴ってジョルジュを押し倒し、とっさに構えた腕に噛み付いたのは巨大な狼だった。
  _
(;゚∀゚)「糞っ!!」

ティンカーベルには確かに野生の狼が生息しているのは聞いている。
だが人間を襲うほど狼は愚かではない。
ましてこちらは武器を所持し、先程、巨大な銃声を聞かせてやったばかりのはずだ。
なのに襲ってくるということは、何かが起きているということ。

狼を振り払い、装填作業を再開しようとした時、今度は背中から衝撃。
豪腕を振って殴り殺そうとするも、狼は一撃浴びせただけで追撃をしようとせず、すでに闇の中に消えた後だった。
人を知っている動きだ。
人間の戦い方を知っているが故に、一撃離脱で少しずつこちらの集中力と体力を削る方法を選んでいる。

どこかに統率者がいるはずだと考え、ジョルジュは別のS&Wのリボルバーを目にも止まらぬ速度で抜き、闇に向けて発泡した。
その速度は、今まさに飛びかからんとしていた狼を撃ち落とし、発砲炎で照らし出された別の狼を撃ち殺した。
ここから形勢逆転を狙うジョルジュであったが、まさか、楯にしていた車ごと吹き飛ばされるとは考えてもいなかった。
不可避の一撃により、ジョルジュの体は呆気なく中を舞い、受け身をかろうじて取るのが精一杯だった。

狼が車を動かせるはずもなく、人間が関与していることは明らか。
  _
(#゚∀゚)「いい加減にしろってんだ!!」

耐えかね、ジョルジュは声を荒げて激怒した。
姿を見せずに攻撃をしてくることは、まぁいいだろう。
狼をけしかけてくることも、まぁいいだろう。
だが、その両方を同時にされるのは気に入らないし、我慢ならない。

ようやくツェザリカの装填を終えたジョルジュは、車の向こうに向けて発泡。
ドアを貫通し、その向こうにいるかもしれない人間を殺そうとしたのだ。
当然、手応えはない。
いるかどうかも分からない相手に撃ったところで、意味が得られるなど虫が良すぎる話だ。
  _
(#゚∀゚)「無礼やがって……!!」

姿の見えない襲撃者に、ジョルジュの堪忍袋の緒が切れた。
腕に装着された強化外骨格の力を使い、車を殴り飛ばす。
地面から少し浮き上がる程の一撃は、車を車道から押し出し、森の中へと転げ落とした。
運が良ければ狼を数匹巻き添えに出来ただろう。

837 名も無きAAのようです :2017/10/01(日) 19:44:12 ID:UYTFpBow0
そして、右手にツェザリカ、左手にS&Wを構えて仁王立ちになる。
そもそも、ジョルジュは隠れて戦うことを好まない。
奇襲をされるのも好かない。
ならば、こうして正面から攻めてくるように仕向けて、こちらの得意な状況に持ち込むのが得策だ。

唸り声一つ立てない狼の群れ。
それを指揮する人間。
考えられるその人種は、一つだけ。
動物と意思疎通を図る事の出来る、人ならざる人間。
  _
(#゚∀゚)「耳付きが俺に喧嘩を売るっていうんなら、容赦はしねぇ!!」

そうでなくても容赦はしない。
果たして、ジョルジュのその言葉に返答はなかった。
風が吹き、木々がざわめき、月明かりが周囲をまばらに照らし出す。
木漏れ日のような光の柱がジョルジュの目の前に黒い人影を見せた。

黒い鍔広帽子。
黒いマント。
幽鬼のように立つ姿は、まるで滲み出た夜の化身。
返答の代わりに、その人影は殺意を漂わせた。
  _
(#゚∀゚)「……死ねよ」

選んだ手段は速攻。
両手の銃がその黒い人影に向けて火を吹き、一切の回避の余地を与えない。
まさに一撃必殺、電光石火の一撃。
ジュスティア最速の射撃は、複数の発砲にも拘らず銃声がほぼ一つにしか聞こえない程の早さだった。

銃弾は微妙にその着弾点がずらされ、相手が前後左右どう避けても当たるようになっていた。
音速を超えた銃弾を避ける人間は多くいる。
だが音より速く動ける人間などいない。
結局のところ、直前の動作を読んで動いているだけに過ぎない。

ならば読ませなければいい。
読むだけの時間を与えなければいい。
あらゆる可能性を潰せばいい。
実に簡単な理屈だ。

――合計十発の銃弾が一瞬の内に闇夜に消え、ジョルジュは言葉を失った。
ただの一発も当たらなかった。
それは彼の狙いが悪かったわけではない。
事実、相手が前後左右、どちらかに動いても弾は当たるようになっていた。

それは紛れもない事実だ。
問題だったのは、ジョルジュが可能性の中に上下、という概念を入れていないことにあった。
地面を這う程の姿勢で駆け抜け、一瞬でジョルジュの前にその影は現れていた。
こうなってしまえば、もう、抗う術は一つしかない。

838 名も無きAAのようです :2017/10/01(日) 19:45:46 ID:UYTFpBow0
頭突きを放とうとするも、影は風に吹かれる紙のようにするりとジョルジュの前から消え失せ、肋骨に固い一撃を見舞った。
鍛えようのない骨を狙われ、彼の肋骨は悲鳴を上げた。
音だけで折れたのが分かる。
その一撃でジョルジュは意識を失い、地面に落下して意識を取り戻した。
  _
(;゚∀゚)「ぐっ…… くそっ……」

冗談のような強さだ。
この強さは円卓十二騎士よりも遥か上。
騎士を二人相手にして生き延びたジョルジュだからこそ、そう断言できる。
影に潜んだこの襲撃者は、ジュスティアの最高戦力二人を合わせたものよりも強い。

相手の正体は耳付きであり、そして、この超人的な戦闘能力。
この二つを手にしてしまえば、答えを導き出すのにそう時間は必要なかった。
  _
(;゚∀゚)「“イルトリアの獣”か……!!」

前イルトリア市長の元には、三人の直属の部下がいた。
全員が耳付きであり、全員が最高戦力という存在。
三人の戦闘力は円卓十二騎士の総数よりも上とされ、ある種の伝説として語られてきたもの。
それが、イルトリアの獣。

その内の一人は狼の耳付きであり、近距離戦闘に非常に長けていたと聞く。
“讐狼”、“ウルフ・オブ・ヴェンデッタ”、“アヴェンジャー”など、渾名は一つ収まらない。
これがオアシズでショボンの画策を打ち破った人間の一人。
その名は、ロウガ・ウォルフスキン。

相手にとってこの上なく最悪の人間だ。
元警察官が敵う相手ではない。
容易に逃げ切れる相手でもない。
どこまで抗えるか、試してみる他選択肢はなかった。

木を背にし、吹き飛んでも手放さなかった二挺の銃を構え、最後の反撃を試みる。
ジョルジュは覚悟を決めた。
噛み殺されるにしろ、切り殺されるにしろ、最期は無抵抗で終わるつもりはなかった。
だが、いくら待っても止めの一撃を刺しに来る気配がない。

それどころか、周囲には気配すらなかった。
殺さずに消えたというのか。
敵として認識せず、殺す必要すらないと判断したのか。
それとも、別の目的があったのかは分からずじまいとなった。

上体を動かすと肺に痛みが走るため、木に寄りかかったまま時が過ぎるのを待つことにした。
ややあって、一台の車が山道を進んでジョルジュの姿を照らし出した。
その頃にはジョルジュの意識は朦朧としており、その車が味方なのか、それとも別なのかの判別は下せなかった。
車から降りてきた人間によって銃が力づくで奪い取られたことから、少なくとも、味方ではないことは確かそうだ。

そして、固定されているツェザリカも取り外され、ジョルジュの棺桶についての知識を持つ人間であることも分かった。
もう抵抗をする体力はなかった。
聞こえた声には間違いなく聞き覚えがあり、怒りが含まれていることも聞き取れた。

839 名も無きAAのようです :2017/10/01(日) 19:47:21 ID:UYTFpBow0
(=゚д゚)「ジョルジュ・マグナーニ。 お前を逮捕するラギ」
  _
( -∀-)「……お前にそんなことを言われる日が来るとはな、トラギコ」

トラギコ・マウンテンライト。
どのようにしてこの場所を知ったのかは分からないが、見つけたのがこの男で良かったとジョルジュは思った。
この男であれば、少なくとも、すぐに殺されることはない。
明らかな犯罪者であれば別だが、トラギコは間違いなくジョルジュをジュスティに送るはず。

ティンバーランドの生き証人として利用するつもりなのだろう。
その考えの甘さは昔から変わっていない。
ジョルジュがこうして変わったように、トラギコも変わるべきなのだ。

(=゚д゚)「俺も、あんたにこんな事を言う日が来るなんて思ってなかったラギ。
    あんたをどうこうする前に、訊きたいことがあるラギ」
  _
( -∀-)「デレシアのことか?」

(=゚д゚)「話が早くて助かるラギ。
    あの女、何者ラギ?」

これはチャンスだと、ジョルジュは思った。
意識が無くなる前に、トラギコをこちら側に引き込む種をまいておくべきだと判断した。
  _
( -∀-)「……知りたければ、俺に協力しろ。
     今のジュスティアであいつを知るのは不可能だ。
     俺を突き出すか、それとも、匿うか……
     選びな、トラギコ」

トラギコもデレシアにある意味で惹かれているのだ。
彼女の秘密を知ることは、恐らく、世界の何よりも面白いことを知ることに繋がる。
その好奇心。
その知的欲求。

抗えるはずがない。
トラギコはジョルジュと同じなのだ。
同じであるが故に、デレシアに関する情報は喉から手が出るほど欲しい事だろう。
彼ならば同意するはずだ。

そして、ティンバーランドに参加し、デレシアを追うという目的のために世界を変える事にも加わる。
手強い敵が味方になる事を考えると、非常に嬉しい展開だ。
後は、同意の言葉さえ聞ければいい。
ジョルジュと同じ道を進むという、その言葉を。

――か細い意識が黒に染まる直前、ジョルジュが聞いたのは手錠がつけられる無情な音だけだった。

840 名も無きAAのようです :2017/10/01(日) 19:50:24 ID:UYTFpBow0
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l!./ゞ、 .,.;;'ノ         /⌒ヾi! ,/、;.,.''.,;    , ,. ';
i´ //  ,.、         ;.,、_,.;'')'/ 、.,;''/     ., ;:.')
|/./'".,゙'"         ., ;:' ;.,'")ノ |i!l|_/、;., 、.,;;. ,.;'ハ、
l!/ (⌒;.,;.         ;、.,;ll! l|.ヽ|i!l| lv/;.,、__,.、.;:ノ'" `ヽ
|、wv从/l'|、wv从/l'|、wv从/l';.,'|l! l|. |i!l| |i!|.'|i!|' 、.,;'゙:、.,;., ,.;_..;')
川 /|ノル'川 /|ノル' ノルバl 彡ハ///vw彡|i!|,,;.、,:'゙、,:' ,:;゙ヽ,;.,ヾ
VjjNw/〃lVjjNw/〃レ'ヘ  lル'/vwjj/从jj/彡彡,..|i!|,,,,,,____ハ
---――''"""""´´~."""""" ̄ ̄ ̄              ̄ ̄ ̄ ̄```゙゙゙゙゙゙゙゙''''''''''―――--
August 13th AM00:03
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ワタナベ・ビルケンシュトックの姿は、ジョルジュがいた場所から遥かに離れた場所にあった。
倒木が罠だと素早く見破り、彼女は一人初めから定められていた合流地点に向かうことにしたのだ。
合流場所は崖下。
その下は自然が作り出した巨大な空洞となっており、海底まではかなりの深さがあった。

厳重な警戒態勢にあるこの島を脱出するためには、陸路と空路は選択肢から消され、海路だけが残される。
だが船を使って逃げたとしても、ジュスティアが気付いて砲撃をされたら元も子もない。
姿が見えないように逃げることが重要であることを、ワタナベはよく理解している。
背後で銃声が響いているのを我関せずと言った調子で聞き流し、合流場所へと足を進めた。

今頃はトラギコとジョルジュが仲良くしている頃だろうと、彼女はほくそ笑んだ。
開けた場所に到着し、時計で時間を確認する。
予定の時間まで、後数分だ。
ところが、背後から聞こえた跫音に、ワタナベは振り向いた。

从'ー'从「……あらぁ、なんのつもりかしらぁ?」

( ><)「どういうつもりなんですか?」

从'ー'从「何がぁ? 予定通りでしょぉ?
     それよりぃ、情報統制の方はどうなってるのぉ?
     こんなところで油売っていいのかしらぁ?」

ビロード・コンバースは飄々とするワタナベに対し、明らかに怒りを込めた目を向けてきていた。
これはあまり好ましくない状況だ。
冗談は通じなさそうだ。

( ><)「一度ならず二度、三度……!!
      同志を売って、何がしたいんですか!!」

从'ー'从「楽しみたいの、それだけよぉ」

( ><)「裏切るつもりですか……!!」

从'ー'从「裏切る? 違うわよぉ。
     私は私のしたいようにしていいって言われているから、そうしているだけよぉ。
     なんなら、キュートにでも訊いてみたら?」

841 名も無きAAのようです :2017/10/01(日) 19:51:06 ID:UYTFpBow0
( ><)「……だからって、限度があるんです!!」

これ以上会話を重ねたらビロードが激昂して襲ってきかねない。
戦闘になれば彼を殺すことは造作もないが、そうしてしまえば、組織から追われる身となる。
ワタナベは世界中で恨みを買っているため、これ以上余計な恨みを増やしたくはない。
彼女の目的を邪魔しなければ、ある程度の事には目を瞑るつもりだった。

仕方あるまい。
ここは引きさがり、今一度計画を練り直す必要がある。
折角一足先に逃げられるというのに、この男は空気が読めない程の実直さが欠点だ。

从'ー'从「どうするのぉ? ジョルジュはトラギコが連れて行ったみたいだけどぉ、大丈夫なのぉ?」

ワタナベは余計な戦闘を回避するため、話題を逸らすことにした。
それについてはビロードも同じ気持ちだったらしく、渋々ながらそれに乗ってきた。

( ><)「……それは心配いらないんです」

流石、ジュスティアの中心部に潜入しているだけの事はある。
それに、今はキュート・ウルヴァリンもジュスティア警察の深部へと関わることに成功している。
この島で起きた一連の事件はすでに当初の目的を破棄し、別の目的のために動き出していた。
素早く機転を聞かせ、駒として使われている人間以外はもう少し先に予定されていた計画を踏み倒して行動していた。

――即ち、ジュスティア内部へティンバーランドの根を潜り込ませ、組織第二の拠点をジュスティア内に作るという事である。

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                 ,-┐ ∧ヾ V7 rァ
              ,r-、」 k V ハ Y / //__ Ammo→Re!!のようです
                ィx \マ ィ、 〈 | 、V rァ r‐┘
             > `‐` l/,ィ V / 〉 〃 ,ニ孑Ammo for Reknit!!編
            f´tァ 厶フ ヽ! fj |/厶7厶-‐¬
             │k_/`z_/> ,、    ,、 xへ戈!│第九章【knitter-編む者-】 了
            | l      ̄ | f^´  ̄    !│
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842 名も無きAAのようです :2017/10/01(日) 19:52:19 ID:UYTFpBow0
これにて第九章は終了です

質問、指摘、感想などあれば幸いです

843 名も無きAAのようです :2017/10/01(日) 20:01:08 ID:NqHU.iDQ0
おおティンバーランド一気にズタボロになったな
やっぱトラギコかっけぇわ
おつ!

844 名も無きAAのようです :2017/10/01(日) 20:36:48 ID:oOIrID4U0
ロウガつえー……乙

845 名も無きAAのようです :2017/10/02(月) 22:37:43 ID:hJSj9XUs0
ロウガさん一人で勝てるなら狼さん犬死にじゃないですかね……

846 名も無きAAのようです :2017/10/03(火) 00:31:37 ID:9eJdJl9.0
ジュスティアは円卓がかませにされたりスパイ送り込まれたり幹部が殺されたり散々だな

847 名も無きAAのようです :2017/10/03(火) 00:54:17 ID:w1atDnWc0
だって「絶対正義」みたいなのって壊されるために有るって風潮有るでしょ?

848 名も無きAAのようです :2017/10/03(火) 19:26:42 ID:/sIgNpDM0
>>845
第十章でその辺りに触れますので、今しばらくお待ちください!

849 名も無きAAのようです :2017/10/14(土) 19:25:54 ID:qtFYEdh.0
やっぱ棺桶の燃料とか弾薬って自分で補充するのか
ギコとか凄く金かかりそう

850 名も無きAAのようです :2017/10/16(月) 16:05:50 ID:mV3TyT9I0
耳付きが完全に普通の人の上位互換だなぁ

851 名も無きAAのようです :2017/12/02(土) 00:24:59 ID:pZ4FoQqc0
今日土曜日の夜にVIPでお会いしましょう

852 名も無きAAのようです :2017/12/04(月) 19:41:45 ID:v4yXdykE0
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糸は針を見る。
針は布を見る。
布は人を見る。

――では、人は何を見る?

                           ――被服の町、クロジングに伝わる問いかけ。

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人は糸を見る。 己の道筋が正しいか、そして離れて行かないかを見るためだ。
                             ――過程を重視する人間の答え

                脚本・監督・総指揮・原案【ID:KrI9Lnn70】

August 12th  PM11:53
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それは、第三次世界大戦以来初の出来事だった。
ティンカーベルの大地が艦隊から砲撃を受け、その轟音で大勢の住民が目を覚ましたことを記憶している島民はいない。
語り継がれることの無い大昔の話だ。
かつてこの地が大規模な戦場と化したことは有名だが、その詳細までは残っていない。

戦時中、この島で起きたことを推測するのは思いのほか難しい話ではない。
今も発見され続ける多くの強化外骨格――通称、棺桶――が激戦と過酷な状況を物語る。
最新型の棺桶が一度も使われることなくこの島で発掘されるという事は、この島で棺桶が作られ、そして、それが一度も使われることなく戦闘が終結したという事。
即ち、恐るべき速さで戦闘を終わらせる何かが起きたということに他ならない。

無論、それを知る者も語る者も、この島には誰一人として住んでいない。
故に、砲声と爆発音の違いを理解できる者もおらず、きっとただの爆発だと考える者がほとんどだった。
一部の人間は万が一の可能性を考えたが、実際にそれを目にしたわけではないため、誰も行動を起こそうとは考えなかった。
民間人が考えているのは、もう数分でこの島で起きている問題が全て終わるという事だけ。

爆発音も銃声も、争いを直接見ていない彼らにとってみれば、最後を締めくくる花火のようなもの。
この爆発を機に全ての事件が終わると考えれば、全く苦にならないどころか、楽しみですらある。
マスコミは報道開始のカウントダウンを始め、気の早い漁師は漁の準備を始めた。
もう間もなく、悪夢の夜が終わるのだ。

――砲撃音を聞いて行動を起こしたのはその島で唯一、ジュスティア軍人達だった。

ジュスティア海軍は軍艦を派遣しているが、決して砲撃をしないようにとの命令が下っていた。
砲撃は民間人を巻き込みかねないという懸念と、それを使用することによるこれ以上のイメージダウンを避ける意味合いがあった。
使用可能とされていた武装は機銃のみで、それでも対処できない場合にのみ許可を得て砲撃する手筈になっていた。
だが、命令は完全に無視され、砲撃は実行されてしまった。

853 名も無きAAのようです :2017/12/04(月) 19:42:58 ID:v4yXdykE0
確かに複数の銃声はあったが、その銃声が機銃のそれとは明らかに異なる物だと気付けなかった軍人は皆無だ。
常日頃から聞いている友軍の銃声を聞き間違えるはずもなく、海軍の面々は即座に連携を取った行動を始めた。
無論、そこに混乱はなかった。
規律を重んじる軍人の中でも、海に関係する部隊はより強く規律を重んじる傾向にある。

海上という状況を考えればそれは当然の流れだろう。
ジュスティア海軍の行動はそういった軍隊の中でも指折りの練度を誇り、行動力を持っている。
それが単なる誇張でない事が今正に証明された。
まず艦隊は砲撃を行った友軍の船を数秒で割り出し、即座にその艦に連絡を入れた。

暴走なのか、それとも窮しているのかはまだ分からないためだ。
やむを得ない状況では砲撃も致し方ないが、その前に何かしらの報告があって然るべきである。
専用の周波数を用いた無線通信に対する返答はなく、何か緊急事態が発生していると判断した指揮官は二隻の駆逐艦を現場に向かわせることにした。
海軍大将、ゲイツ・ブームの右腕と呼ばれる人物が決断に要した時間は一秒にも満たなかった。

到着までは約五分。
その五分が勝負であることは、誰の目にも明らかだ。
初期動作は完璧だったが、その次の動作が完璧となるかはまだ分からない。
彼らの行動如何では水泡に帰すことも十分にあり得る。

二隻の駆逐艦を束ねるのは、駆逐艦エイハブの艦長であり、海軍大将の右腕として知られるグルジア・“ストーム”・セプテンバー。
ジュスティア海軍の中で彼を知らない船乗りはいない。
グルジアは一隻の船で世界中の海を渡り歩き、海賊を数百人単位で捕まえ、海賊船や武装船を沈めてきた男だ。
長い戦いを通じて培われた観察眼は伊達ではない。

双眼鏡を覗き込む彼の両眼は、遠く離れた島で輝く炎の揺らめきに胸騒ぎを覚えていた。
まるで嵐の中心を見るような心地がする。
あれは彼がまだ新人だった頃、航海中の艦隊が大嵐に巻き込まれたことがあった。
冬の嵐の事だった。

凍えるような風と潮の中で、彼らは嵐の中心に入ってその巨大さに圧倒され、感動した物だ。
それは恐怖とも感激とも言える感情で、今も鮮烈に彼の胸に刻まれている。
砲弾が作り出した炎は間もなく消える事だろう。
破壊が目的の弾頭で生み出される炎などたかが知れている。

地上の、それも小さな埠頭の近くに向けて放つなど尋常なことではない。
人間相手ではないだろう。
となると、強化外骨格を相手にしていると考えるのが普通だ。
直撃を受ければまずほとんどの棺桶を破壊できるだろうし、破壊を免れたとしても致命傷は避けられない。

堅牢で知られるトゥエンティー・フォーでさえ、装甲が変形して本来の目的を達成できなくなる。
艦砲は、それほどまでに強力なのだ。
それを放った真意を推測しなければならないのだが、脱獄犯を見つけたとして、殺すのに果たして砲が必要だったのだろうか。
その前に機銃による射撃があって然るべきではないだろうか。

であれば、まずは見定めなければならない。
相手が何者で、何が起きていて、自分はこれから何を相手にしなければならないのかを。

854 名も無きAAのようです :2017/12/04(月) 19:43:53 ID:v4yXdykE0
("゚公゚")「サーチライトを。
     それと、全員完全装備で配置につけ。
     警戒レベルは――」

从´_ゝ从「――最高値、ですね」

("゚公゚")「頼むぞ」

副艦長のドネル・モーゼスは彼の上司が次に何を言うのかを予期し、その手筈を完璧に進めていた。
勿論、グルジアは己の右腕が行動していることを予期しており、今口に出したことはあくまでも確認のための一言でしかない。
月光の下、二人は燻る炭のような赤黒い地点を注視している。
そこに何が見える訳でもないが、目を逸らすことが出来ない。

恐らく、そこには何かがある。
予感は最早確信の域に迫っており、そこで目にする何かこそが、この事件の核心部と言ってもいいだろう。

("゚公゚")「さて、どんな鬼が出るかどうか、見せてもらおうじゃないか」

懐に吊り下げて久しく使っていないベレッタM92が嫌に重く、頼もしげに感じられた。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

人は針を見る。 結果はその後に形となってついてくるからだ。
                  ――手段を重視する人間の答え

     総合プロデューサー・アソシエイトプロデューサー・制作担当【ID:KrI9Lnn70】

August 12th  PM11:57
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

それは、日付が変わる寸前の二分間で起きた出来事。
二人の騎士が罪人を前に立ちはだかり、罪人たちが正義を相手に立ち向かうことになったのは。
一方は激怒を胸に。
片や絶望を胸に。

火ぶたを切るきっかけになった一言の通り、今、罪人は正義に立ち向かう事となっていた。

(::[-=-])『らぁっ!!』

誰よりも先に覚悟を決め、攻撃を仕掛けたのはジュスティアで警官として働いていた経験を持つショボン・パドローネだった。
本来であれば彼の使用する強化外骨格“ダイ・ハード”の脚部には特徴的な装甲があるのだが、今、それは地面に横たわっていた。
しかし、彼の強化外骨格は単一の目的に特化した物であり、装甲の喪失など大した問題ではない。
ダイ・ハードは足を使った戦闘に特化しており、装甲が無くとも、脚部の各箇所に仕込まれた高周波振動発生装置は健在だ。

それが生き延びていれば大概の棺桶との戦闘に耐えられる。
楯を失っても刃は失っていない。
戦闘が避けられない状況下で、即時攻撃を選んだショボンの判断は実に的確だった。
事実、地面を粉砕する程の強い蹴り込みから生み出された加速は人間の動体視力を遥かに凌ぎ、瞬きする間に眼前に迫る程の速度と化し必殺の域にあった。

855 名も無きAAのようです :2017/12/04(月) 19:45:00 ID:v4yXdykE0
それでも。
それでも、だ。
所詮彼は元警官であり、ジュスティアの誇る最高戦力に匹敵するだけの鍛錬を積んだわけでも、場数を経験したわけでもない。
余計な柵から解放された騎士相手に、その行動はあまりにも軽率であり、騎士を甘く見過ぎていたとしか言えない行動だった。

仮にその行動が軽率だとしても、誰も彼を責められないだろう。
彼は今、究極的な選択を迫られていた。
宿敵と、それを庇う騎士二人が目前にいれば、攻撃する以外に手はない。
そして彼は、逃亡以外の積極的手段として攻撃を選んだに過ぎず、むしろ勝率を微粒子レベルで上げるための努力をしたと言えるだけ良い。

仮に相手が騎士でなければ、ショボンの選択は最良の結果を導き出せたかもしれない。
世界の正義を名乗るジュスティアの円卓十二騎士が激怒し、その怨敵を目前にしていなければ、或いは状況は変わったかもしれない。
だがそうはならなかった。
そうなるはずがなかった。

世界を大きく二つに分ける時、真っ先に名が挙げられる街の最高戦力が“相手を本気で殺す気”でいれば、元警官が相手になるはずもない。
十二人の戦力に分散されているとは言え、実力は世界屈指。
中空で蹴りを繰り出そうとするショボンに対し、怨敵を討つための第一障壁である“ダニー・ザ・ドッグ”は人間離れした反応速度で攻撃を放った。
それが一手目であり、決定打となった。

似`゚益゚似『……っ』

恐らく、ショボンの目にはすでに攻撃を放ち終えたダニー・ザ・ドッグの姿しか映らなかった事だろう。
全身に高周波振動発生装置を仕込んだ彼の攻撃は、実にシンプルだった。
左手の手刀によって蹴りをいなしつつ、握り固めた右の裏拳の一撃でダイ・ハードの弱点である装甲の薄いヘルメットを粉砕しただけ。
表現すれば実に呆気の無い一撃だが、実際は幻を見ている心地の如く、違和感すら覚えることの無い見事な一撃だった。

その衝撃によってショボンは呆気なく気絶し、まるで見えない壁にぶつかったかのように背中から転倒した。
呪詛はおろか、呻き声さえ上げる余裕はなかったのである。
残されたのはあまりにも哀れな女が一人。
無抵抗な子供相手に誘拐を働き続けた、いわば、戦闘とは無縁の女だった。

〔欒゚[::|::]゚〕『マジで……』

<::[-::::,|,:::]

そして、絶望によって呆然とする反射的な隙。
戦闘に不慣れな人間にありがちな、絶望的な隙を見逃す程、第四騎士のショーン・コネリは優しくはなかった。
抜刀と踏み込みはほぼ同時に行われ、シュール・ディンケラッカーの目にはまるで彼が瞬間移動をしたかのように映った事だろう。
肉薄すると同時に閃いた白銀の一閃を最後に、シュールの意識は途絶えた。

その一撃は芸術的なまでに完成され、狙い澄まされた攻撃だった。
狙われたのはショボンと同じく頭部だった。
だがジョン・ドゥの頭部の装甲は比較的頑丈で、ただの刀では切断することは敵わない。
高周波振動を利用した一撃であれば、彼女を一撃で殺すことになる。

無論、ショーンはそれを知っていた。
知っていて狙ったのは、棺桶の持つ保護能力を超えた一撃。
長大な刀の背中を使い、的確な角度と速度で最適な位置を殴打したのである。
頭部への損傷を防ぐためのクッションやサスペンションを無効にするほどの一撃は、シュールの脳を激しく揺さぶり、その意識を遠い彼方へと連れ去った。

856 名も無きAAのようです :2017/12/04(月) 19:46:49 ID:v4yXdykE0
――そして、日付が切り替わった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

人は布を見る。 過去と現在が布の上で繋がり、そして作品を形にするからだ。
                              ――今を重視する人間の答え

           編集・録音・テキストエフェクトデザイン【ID:KrI9Lnn70】

August 13th
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

日付が切り替わってから数十分後。
静まり返った山の中を、一台のセダンがヘッドライトもつけずに走っていた。
セダンを運転する男は月光のみを頼りに運転し、カーラジオすらかけず、開け放った窓から流れ込んでくる風の音と虫の声をBGMにしていた。
男は物憂げであり、不満げだった。

人気のない道を静かに走るセダンの後部座席にはもう一人、同乗者がいた。
同乗者は拘束具によって自由を奪われた状態で気を失っていた。
その拘束具はただの拘束具ではなく、ジュスティア警察が凶悪犯逮捕に使用するために“職人の都”に特注した一品だった。
極めて頑丈かつ軽量で、伸縮性と柔軟性に富んだ素材で作られているため破壊は容易ではない。

腕力に自信のある者でも自力で脱出することは不可能で、強度実験の段階でAクラスの棺桶を使っても突破出来なかった実例が報告されている。
両腕を胸の前で組んだ状態で大きな布で腕全体を覆い、背中の後ろで固定するという単純な構造だが、効果は極めて高い。
拘束具を嵌められて抵抗を試みた人間ならば、誰もが一時間以内にそれを理解する。
そして、警官だった人間であれば誰よりもよく理解しているため、抵抗すらしない。

ジョルジュ・マグナーニは抵抗する素振りすら見せず、申し訳なさ程度のクッション性を持った座席の上に静かに横たわっている。
彼は拘束具に加えて口に猿轡をかまされ、言葉を発することの一切を禁止され、目隠しとヘッドフォンによって視覚と聴覚も奪われていた。
猿轡は余計な言葉――罵詈雑言は勿論、強化外骨格の起動コードなど――を口にさせないため。
目隠しは己の周囲にある物を見せず、時間の流れも悟らせないため。

絶えず不協和音を奏でるヘッドフォンは周囲の状況の一切を知覚させず、思考を妨害するため。
五感の内触覚と嗅覚以外を奪われた場合、人間は周囲の状況を推測することが極めて難しくなる。
尤も、気絶している人間にそのような事を気にしても仕方がないが、相手が相手であるため油断は出来ない。
ジョルジュと言えばジュスティアの暗部を知り尽くした人間であり、あまりにも多くを知りすぎている。

ひょっとしたら、誰も知らないだけでこの拘束具の欠点を知っているかもしれないのだ。
倫理観を無視した行動を平気でする人間である以上、悪質な手段を取られかねない。
運転手は例えこの男が目を覚まして排泄を所望したとしても、それに応じるつもりは断じてなかった。
車内で垂れ流しにして、屈辱を味わってもらうだけだ。

ジョルジュの折れた肋骨では自力で脱獄など到底不可能だが、一切の油断も慈悲もない対応がされ、それが弱められる予定は何があろうとも一切ない。
このまま彼を警察に引き渡せば、待っているのは暗い未来だけである。
汚れ仕事を多く処理してきた彼の存在が公とならないように内々に処分し、闇に葬り去らなければならない。
ただでさえ元警官が大きな犯罪に関わったというのに、また新たな警官が――それも公に出来ない仕事ばかりをしてきた――事件を起こしたとなると、大きな問題になってしまう。

857 名も無きAAのようです :2017/12/04(月) 19:49:58 ID:v4yXdykE0
ジュスティア警察の考え方を考慮すれば、間違いなく、事故に見せかけた獄中死が待っている事だろう。
だが彼を逮捕したトラギコ・マウンテンライトは、この先に待っている未来とは違った考え方を持っていた。
ここで殺すのは極めて簡単な選択だ。
そうすれば永久に闇に葬る事が出来るし、妻帯者でないジョルジュが死んだところで真相究明に誰かが動き出すこともない。

しかしそこで話は終わってしまう。
終わってしまえば、そこまでなのだ。
話を終わらせるのであれば誰にでも出来る。
それこそ、素人の屑人間でも、だ。

世界を股にかける巨大な秘密結社の断片であり、手がかりとなる人間を殺すなど言語道断である。
徹底的に尋問し、薬物を使用してでも情報を引き出さなければならない。
多くの街の深部にまで入り込んでいる組織の情報が持つ価値は計り知れず、今後起こる事件を未然に防ぐために役立つかもしれない。
その重要性にジュスティア警察は勿論、街の上層部がどこまで気付き、トラギコに協力するか。

トラギコの言葉だけでは絶対に協力は得られないのは間違いない。
これまでに彼が行ってきた命令違反、規定違反などを考えれば信用はないに等しい。
それでも、完全に孤立無援と言うわけではなく、幸いなことにジュスティア内部に理解者がいた。
社会的信用を持つ人間の理解があれば、トラギコの言葉も上層部の耳に届くはずだ。

島に来ている二人の騎士。
彼らは今、トラギコに協力的な姿勢を見せ、事件解決のために協力まで買って出たのだ。
その発端は、セカンドロックでライダル・ヅーが殺された直後に遡る。
激昂するショーン・コネリに対してトラギコは当たり前のことを告げ、単独で行動しようとしていた。

(=゚д゚)「……なら、俺から一つアドバイスしてやるラギ。
    馬鹿なことは考えずに、この後に誰がどう動くのかをよく見ておくんだな。
    そうすりゃ、戦うべき相手が見えるはずラギ」

トラギコの歩みを事前に引き留めたのは、ダニー・エクストプラズマンの人工声帯を通じて発せられた声だった。

<_プー゚)フ『……戦うべき相手について知っているんだな?』

(=゚д゚)「あ? あぁ、そりゃあな」

意外な人物からの声かけに、トラギコは思わず足を止めていた。
これがショーン・コネリであれば、黙殺したまま復讐を果たすために歩き続けていた事だろう。
彼との問答で時間を使える程、今、トラギコには余裕がなかった。

<_プー゚)フ『余計な問答をしている時間はない、という前提で話をする。
        単刀直入に言う、お前に手を貸す。
        だから、俺に手を貸せ』

願ってもない協力の要請だった。
正直、この状況下でこの申し出は非常にありがたい。

(´・_・`)「……悔しいが、俺達には情報が不足している。
    お前の力を借りる他ない。
    俺もエクストと同じだ」

858 名も無きAAのようです :2017/12/04(月) 19:50:49 ID:v4yXdykE0
この申し出が事態好転のきっかけとなる事は間違いない。
戦力としては心強い連中だが、事件を調べるにはいささか灰汁が強すぎる。
しかしその強い灰汁も場合によっては強力な武器となる。
使い方次第では、相手に一杯喰わせてやることが出来るだけでなく、トラギコの目的達成にも一役買える。

(=゚д゚)「なら、デレシアを探せ。 そうすりゃ、何かがどうにかなる。
    俺は別で動くラギ」

トラギコが事件解決のための鍵を知ると勘付き、協力を申し出た彼らに対してトラギコが告げたのはデレシアの捜索だった。
嵐の全貌を見たければ嵐の中心を見ればいい。
彼等もデレシアの面貌は知っており、その強さ、神秘性も経験済みという前提があるからこそ説得力を帯びる一言。
その重要さには彼らも気づいていたようで、トラギコにその理由を訊こうとはしなかった。

(´・_・`)「……あの女、やはり只者ではないということか」

(=゚д゚)「あぁ。 分かってるとは思うが、絶対にあの女に手を出すなよ。
    腕が食いちぎられるだけじゃ済まないラギ。
    それに、俺の獲物ラギ」

デレシアはいわば自然災害のような物だ。
下手に手を出せばこちらがやられる。
落ち着いて機を窺い、然るべき時に捕まえるしかない。

<_プー゚)フ『合流して援護すればいいのか?』

(=゚д゚)「援護じゃねぇ。 そもそも、あの女に援護はいらねぇラギ。
    ただ、あの女を狙って出てくる輩か、あの女が狙ってる輩を横取りすればいいラギ」

彼女の動くところに何かがある。
今、この島で単独行動をしているであろう彼女を見つけ出せば、必ず有益な発見がある。
それを奪い取れば、貴重な情報源をこちらの手中に収めることができる。
これがこちらの手を離れて絡み合った糸を取り戻す最善の手であり、円卓十二騎士を有効活用できる唯一の手段だとトラギコは判断した。

ジュスティア軍と警察が島から撤収を始める前に、集められる物を集めなければ今後一切チャンスを失っても不思議ではないのだ。
協力してもらう以上、老婆心ながら、トラギコは最後に一つだけ彼らに忠告をすることにした。

(=゚д゚)「それと、一つ忠告だけしておいてやるラギ。
    裏切り者を探そうとするなよ、今はまだな」

今度こそ、トラギコはその場を立ち去ることにした。
もう声がかけられることはなかったが、彼らならひどいことにはならないはずだ。
繊細さを求めるような依頼でなければ、後は、彼らが持つ力と正義感を存分に発揮してもらえばいい。
自分自身で動きたいのもやまやまだが、彼の持つ装備ではショボン達と戦う事は出来ても、勝つことは出来ない。

ならば復讐に燃える騎士たちに任せておけば、全力で対処をしてくれるはず。
特に、戦闘に関しては彼らの方がトラギコよりも優れている。
事件解決には不慣れでも、戦う事だけ任せておけばどうにでもなる。
そしてその狙いは見事に成功し、こうして、ジョルジュを捕えることに成功した。

859 名も無きAAのようです :2017/12/04(月) 19:52:36 ID:v4yXdykE0
――島の反対側から聞こえてきた砲撃音が何を意味しているのかは分からないが、十中八九デレシアが関係しているだろう。
だが、彼等の行動力があれば今頃はデレシアと合流し、臨機応変な対応をしてくれるに違いない。
そして首尾よく事態が動けば、予定通りショボン・パドローネとシュール・ディンケラッカーを捕まえている事だろう。
いずれにしても悪い方向に転ぶとは考えにくい。

トラギコは自分のやるべきことに専念し、そちらの方については結果が出てから考えることにした。
考えるべきはジョルジュについてだった。
僅かだが憧れを抱いたことのある男の堕落した姿に、トラギコは深く落胆していた。
このようにして逮捕するとは、極めて残念な話だ。

分かっていても、溜息が漏れ出る。
警察の汚れ仕事を引き受けてでも彼の信じる正義を果たし続けていた男が、今では、混沌の根源と化してしまった。
何が彼をそうさせたのか、断片ではあるが聞く事が出来たのがせめてもの慰めだ。
恐らく彼は、トラギコと同じ物を追っていた。

即ち、秘密のベールに覆われた旅人の正体。
デレシアと名乗る旅人について、ジョルジュはその正体を知りたければ自分に協力しろと交渉してきた。
それは、彼もまたデレシアについて調べている事を意味しており、それが警察を裏切る理由の一つになったと考える他なかった。
優れた警官だった男と言う背景を考えれば、何故彼女について調べているのか、想像するのは難くない。

ジョルジュも彼女の背景に興味を持ち、己の手で解決するべき事件であると判断したのだ。
その為だけかは分からないが、少なくとも、昔からデレシアに執着しているのは間違いない。
一体どれほど昔からデレシアについて調べているのか、それが気になるところだ。
そしてその切掛けについて知る事が出来れば、トラギコは少しではあるがデレシアの素性に近づく事が出来る。

こうして考えてみると、結局、多くの謎がデレシアへと帰結してしまう。
まるで堂々巡りだ。
彼女の周囲にある謎にかかわると、デレシアへと至り、そこで打ち止めになり、再び謎が生まれる。
安易な気持ちで取り掛かるのではなく、これまでよりも慎重に調べて行かなければならない。

今、トラギコは一本のか細い糸を握っていた。
それは手を離れたとしても気付かない程細く、軽く、本当にあるのかさえ不安になる程だ。
デレシアとトラギコを繋ぐのは、貸し借りと言う極めて不確かな糸。
糸を手繰れば相手に繋がるかもしれないが、手繰れないかもしれない、そんな糸。

貸し借りの大きさで言えば、間違いなくトラギコはデレシアへの借りの方が大きい。
彼女に貸しを一つでも二つでも作っておけば何らかの繋がりになるという打算も込みで、騎士たちを彼女の元に向かわせた。
これで少しはデレシアに貸しを返せたはずだ。
彼女にとっては余計な助力かも知れないが、それでも、これが繋がりとなってくれることをトラギコは心のどこかで望んでいた。

容疑者の力に頼ることになったのは極めて遺憾だが、それでも、プライドで事件が解決する程世の中は上手くできていない。
力にはより強力な力を持って対処しなければならない時もある。
彼女はこの世界の各地に強力なコネを持ち、比類なき戦闘力も有している。
そんな彼女と数度のやり取りを持てば、繋がりのような物が生まれるのではないかという僅かな期待があった。

それは恋する思春期のような気持ちであり、トラギコにとっては極めて不慣れな感情でもあった。
しかし、これしか手段がないのだ。
あの正体不明の女に繋がるためには、何だってやるしかない。
きっとジョルジュもそんな考えで警察を捨てたのかもしれない。

860 名も無きAAのようです :2017/12/04(月) 19:53:39 ID:v4yXdykE0
だがトラギコは違う。
デレシアを追うあまり本質を見失うことはしない。
本質はデレシアを逮捕することで、彼女の秘密を暴く事ではない。
まずは彼女の周囲に現れる犯罪者を捕まえ、雑草を処理しつつ、その正体を知らなければならない。

自分が相手にしようとしている人間は果たして、何者なのか。
それが分かって初めて、逮捕するための算段が立つのだ。
そこまで手間をかけなければならない犯罪者は、これまでに見たことも聞いたこともなかった。
それだけに、今さらながら自分の勘が恐ろしくなりつつあった。

直感のような物でトラギコはデレシアを生涯最後の獲物に相応しいと考えたが、どうやらそれは大いに的中し、同時に大いなる困難をトラギコにもたらしてくれた。
オアシズで起きた一連の事件は、結局迷宮入りとして処理されたそうだが、トラギコはそれを皮切りにしてデレシアを追い詰めようとした。
それがそもそもの始まりだった。
今では世界中に影響力を持つと推測される秘密結社の存在を知り、巻き込まれることになった。

ふと、背筋に冷たいものが走る。
まさか、デレシアはここまで見越していたのだろうか。
幾度も殺そうと思えば出来たはずだ。
それをしなかったのは、トラギコをここまで引きずり込むためだったのか。

時間を追うごとにデレシアに対する気持ちが膨らみ、トラギコは目の前に転がるジョルジュの甘言に乗らなかった自分に称賛を送った。
一歩間違えれば自分がこうなっていたのかもしれないと思うと、ぞっとする。
静かなドライブが続き、尾行車もないまま、二人を乗せたセダンは港の方へとやって来た。
市街地でようやくライトを点けたトラギコは、エラルテ記念病院へと向かった。

事態を今どのようにして収束させようとしているのか。
そして、上層部に紛れ込んでいる裏切り者の目星をつけるための仕込みをするため、トラギコはあえてその場所を目指した。
本来であればトラギコは今頃ジュスティアへと連行されていることになっており、ここにいてはならない存在だ。
誰が指示したのか、下準備をしたのかまで明白ではあるが、それを知らない体で戻るのだから極めて危険な賭けでもある。

恐らくは、ベルベット・オールスターは警察内に紛れ込んだ秘密結社の細胞だ。
彼がトラギコの抹殺を企て、デミタスが円卓十二騎士の棺桶から電力を奪い取るための下地を整えた人間で間違いないだろう。
全ての状況がそう言っているのだ。
このままトラギコが死に、円卓十二騎士もデミタスによって殺されていたら、全ては闇の中に葬り去られていたはずだ。

ヅーの奮闘とトラギコの抵抗が無かったら、否、デレシアとの出会いでトラギコが変わり、トラギコとの出会いでヅーが変わっていなければそうなっていた。
これでも最悪の結果は回避できたことになる。
後はこれからの動き次第でその結果が生きてくるはずだ。
決して無駄には出来ない。

(=゚д゚)「さて、いっちょやるか」

車から降り、後部座席からジョルジュを担ぎ上げてトラギコは病院へと足を踏み入れた。
懐のM8000は安全装置が解除されていた。
待っているのは最低の待遇か、それとも、最高の待遇か。
あまり期待することなく、いつでも拳銃を抜けるようにだけしてトラギコは重い足取りで病院の扉を開いた。

――待っていたのはある意味で最高の待遇だった。

861 名も無きAAのようです :2017/12/04(月) 20:23:49 ID:v4yXdykE0
白い湯気の立つコーヒーが出され、冷めてはいたがアップルパイまで出された。
勿論、トラギコはそれらを一口も口にはしなかった。
何が盛られているか分かった物ではない。
毒身をさせたとしても、毒を盛る位置に工夫がされていたら意味がない。

ジョルジュは即座に仮設勾留所に運ばれ、患者用を拘束するためのベッドに拘束具ごと括り付けられた。
そこから二部屋離れた場所に、トラギコの姿があった。
そして、ベルベットの姿もあったが、歓迎している空気は一切なかった。
病院でトラギコにベルベットが投げかけた質問が再度され、トラギコは同じ答えを返したのであった。

(=゚д゚)「車が事故ってな、俺だけ放り出されたラギ」

それが嘘であると立証が出来ない以上、ベルベットがいくらトラギコに圧力をかけても意味がない。
まさか自分が送り込んだ暗殺チームが失敗に終わったとは、口が裂けても言えないはず。
案の定、それ以上その話題についてベルベットが触れることはなかった。

( ><)「……では、トラギコさん、別の質問に答えてください」

(=゚д゚)「あ?」

本題が来た。
トラギコの生存よりも相手にとって厄介な問題。
今すぐにでも解決したいのは、こちらの方だ。

( ><)「我々は憶測で人を逮捕できません。
     ジョルジュさんが何の罪を犯したというのですか?」

この島でジョルジュが行ったのは戦闘行為だが、それを正当防衛だと言い張れば罪にはならない。
恐らく、ベルベットはその主張を受け入れて事を穏便に済ませるつもりなのだ。
円卓十二騎士との戦闘も、緊張状態が産んだ誤解だと言い張る気に違いない。

(=゚д゚)「誰も殺してないし、攻撃していないと?」

( ><)「目撃者も証拠もないんじゃ、裁判のしようもないんです!!」

もし目撃者がいると言ったとしても、トラギコの息のかかった人間では意味がない、と言うだろう。
流石は報道担当者だ。
やることが実に狡い。

( ><)「被害者がいないんじゃ、事件とは呼べないんです。
     すぐに治療を受けさせて、それから釈放するんです」

情報管理については得意なのだろうが、まだまだ青さが抜けきっていない。
これがこの男の弱点だ。
ジョルジュを追う段階以前に、トラギコは考え続けてきた事があった。
世界中に根を張り巡らせながらもその全貌が分からない相手と戦うには、どうしたらいいのか。

どこに根があるのかも分からない相手だが、それ故に、付け入る隙がある。
だから策を練り、保険をかけておいた。
真実を言葉ではない形で残せば、言い逃れは決して出来ない。

862 名も無きAAのようです :2017/12/04(月) 20:24:47 ID:v4yXdykE0
(=゚д゚)「……誰が殺人やら暴行罪で逮捕したって言ったラギ?」

( ><)「……え?」

(=゚д゚)「こいつは、野生動物を殺したラギ。
    しかも、狼を二匹だ」

殺人、暴行が駄目なら別の罪で捕まえればいい。
警察官であれば誰もが使う手だ。
この男が現場経験をほとんど積んでいない事は明白だ。
故にこの手に対して、彼は脊髄反射的な反論をしてしまう。

それが罠だとは気付かないままに。

( ><)「証拠はあるんですか?
     それがないと、ただの言いがかりなんです!!」

(=゚д゚)「証拠だぁ?
    あるに決まってるだろ」

( ><)「言っておきますけど、トラギコさんの目撃証言では意味がないんです!」

発想が実に貧相だ。
目撃証言だけで事件を立証することが難しいのは、五年以上現場にいる人間なら誰でも一度は経験する。
温室でぬくぬくと育ってきた人間には決して分からないだろう。
事件にならない事件を追う人間の口惜しさなど、一生分かるはずもない。

(=゚д゚)「勿論、俺以外の人間で尚且つ絶対公平な証拠ラギ」

そう言って、トラギコは動かぬ証拠をベルベットに見せつけた。
それは――

(;><)「フィ、フィルム……?!」

(=゚д゚)「ここにばっちり写ってるラギ。
    ジョルジュが狼を撃ち殺してるところがよ」

――スクープと真実を追う、とある男の手柄だった。

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人は己の指を見る。 針と布を持つ指が失われれば、布は不完全なものになるからだ。
                              ――己の保身を重視する人間の答え

      撮影監督・美術監督・美術設定・ビジュアルコーディネート【ID:KrI9Lnn70】

August 13th
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