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Ammo→Re!!のようです

1 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 19:35:24 ID:F94asbco0
前スレ
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/13029/1369565073/

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                            配給

【Low Tech Boon】→ttp://lowtechboon.web.fc2.com/ammore/ammore.html

【Boon Bunmaru】→ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/ammore/ammore.htm

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662 名も無きAAのようです :2017/05/03(水) 16:36:58 ID:N80WR3D60
明日の夜VIPでお会いしましょう

663 名も無きAAのようです :2017/05/03(水) 18:12:30 ID:DlhAWLVc0
わーい!

664 名も無きAAのようです :2017/05/03(水) 19:20:19 ID:TqCco6Vs0
ペース早いなありがてぇ
楽しみに待ってる

665 名も無きAAのようです :2017/05/04(木) 00:18:55 ID:wM0LixR60
やったぜ。

666 人妻出会い掲示板 :2017/05/04(木) 17:24:31 ID:RhFCBFSg0
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667 名も無きAAのようです :2017/05/05(金) 08:15:00 ID:NjkwanZg0
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嵐の中で孤立したのならば、流れに乗るのが上策だ。
そうすれば、少なくとも嵐に刃向う心配はなくなる。
だがもし、嵐に刃向うのであればその者は嵐の運び手となり得るだろう。
そしてその運び手は、嵐を新たな場所へと誘う災厄となるのだ。

――シンディー・バートン:著 【嵐の中】へ、より抜粋。

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避暑地として、また、手つかずの豊かな自然が多く残る街として有名なティンカーベルにはあまり知られていない観光名所があった。
それは遺跡だ。
だがそれは非文明的な人間達が暮らした時代の名残ではなく、現代に生きる人間よりも優れた技術を持つ時代に生きていた人間が残した未来の残滓。
そこから発掘された多くの遺産が分析、修復されることで現代文明を驚異的な速度で発展させてきた。

太古の遺産は最新の機材として世界に広まり、今やなくてはならない物となっていた。
修復されたもの以外にも設計図を基に再現された物もあり、当時使われていた材料を代用することで大量生産が可能となった。
発明品を生み出したと喜んでいた者も、設計図やその発明品の上位互換品が発掘されたことによって鼻を折られ、次第に発明家は姿を消していった。
現代の人間が過去の人間の模倣をする時代ではあるが、それが彼ら人類にとって何か不都合かと問われれば、答えは否。

考える時間が省略され、代わりに、人類が最も反映していたとされる時代を取り戻しているのだから、好都合極まりない話だ。
方法や形態はどうあれ、進化は生物にとって都合のいいことなのだから。
結果として行き過ぎた進歩が人類に終焉をもたらしたが、それを手痛い教訓として人々が覚えることはなかった。
進化を止めることは誰にもできないのだ。

終焉を迎える前に、人間は多くの娯楽を機械経由で得ていた。
映像や文字、音楽などの情報は人間の手によって生み出され、そして機械を通じて人々へと送り届けられた時代。
その時代の名残であるラジオは現代では高級品だが、多くの家庭が購入する家電であり、娯楽を家に届ける数少ない道具だった。
ラジオが届けるのは娯楽だけではなかった。

小さなラジオから流れてくるのは流行の音楽や、軽快な口調でリスナーから送られてきた手紙を読み上げる声だけではなく、集約された世界情勢も流れてくる。
世界の情報もそうだが、ラジオの利点はそれだけではない。
専用の周波数に合わせることで、その地域に限定した情報が流れてくるのだ。
伝令よりも早く、警鐘よりも正確に情報の伝達が出来るラジオは、今や世界中どこの街にも必ず一台はある。

だがそれはあくまでも娯楽方面の進化。
人類が進化する上で産まれた、いわば副産物だ。
人類史を語る上で最重要項目に挙げられる道具は別にある。
それは兵器。

戦争のために作られた道具であり、動物の中でも人間だけが幾度となく繰り返す愚行の象徴。
兵器の進化こそが、人類の中でも重要な位置にあることは議論の余地もない。
開発過程で産まれた多くの副産物が人の幸福につながるという皮肉な側面も踏まえて、正に、兵器は人類進化の何よりの証と言えるだろう。
争いがなければ人の進化はなかったはずだ。

668 名も無きAAのようです :2017/05/05(金) 08:19:41 ID:NjkwanZg0
人類が開発した兵器の中でも最高傑作と言われるのが軍用強化外骨格、通称“棺桶”だ。
人間を殺し、兵器に対抗するための兵器。
無人機が人間にとって代わると言われた時代もあったが、それは結局幻想のまま終わった。
結局、手段はどうあっても人を殺すのは人だったのだ。

無人機同士での破壊は所詮、互いの財政を圧迫するだけで大した効果は得られなかったのである。
経済的な圧迫が戦争終結に結び付くこともあるが、憎しみが増大し、それまで市民だった人間がテロリストに転じる事が増えた。
テロリストと化した人間は難民として世界中に散り、そして、神の偉大さやその他諸々の言葉を口にして凶行に走った。
その時、無人機は全く意味を成さず、人々は命だけでなく他者に対する信頼までも失う結果となった。

失った物はあまりにも大きすぎた。
そして理解した。
恐れるべきは無人機などではなく、やはり人間なのだと。
無人機は生産するのに時間と金、手間と材料がかかるが人間は日に日に増え続け、更に機械では実行不可能な臨機応変な行動をすることが出来る。

勿論、そんなことは無人機開発の段階で分かっていた。
機械が人間を殺しても、人間は機械に対する信頼を失わない。
人工知能を恐れて人が暴動を起こすこともないが、同じ人間が殺しをしたとなれば、それは信頼問題に発展する。
移民の全てをテロリスト予備軍と恐れるようになった人間は暴動を起こすようになったが、国内に長らく潜伏していたテロリスト細胞の努力によってその暴動は内戦へと昇華された。

無人機を作る事の出来ない貧困国では、子供をある程度の年齢まで育てたら爆弾の運び手として様々な場所に移動させることで、大国の無人機に対抗することに注力した。
それが無人機戦争にとどめを刺した。
どのような機械でも、人の心の中身、爆弾を将来的に抱いて死ぬ人間を見つけ出すことは不可能だ。
子供たちはまるで無人機のように世界中に散らばり、死んでいった。

近所に越してきた移民たちを住民達は恐れ、排除し、それを差別と声高に叫ぶ人間達との間に決して埋まることの無い亀裂が生まれた。
やがて時が流れ、大きな時代の分水嶺が訪れ、無人機は無用の長物となった。
戦争は一周し、人同士の殺し合いへと戻ってきた。
こうして戦争の花形は無人機から人へ、そして、人が操る兵器へと移行していった。

人間が自己判断で動ける上に、装甲を身に纏う事から安全性を確保し、更には個人携行が可能になった事は戦場に大きな変化をもたらした。
それまで陸上最強だった戦車に対して、歩兵が正面から立ち向かう異様な構図が生まれたのだ。
正に、これこそが強化外骨格の本質だった。
新兵を猛者以上の存在へと変えるそれは、人と人との殺し合いをより激化させた。

訓練はほぼ無用であり、必要なのは、俊敏さと応用力、そして無慈悲な決断力。
強化外骨格、“棺桶”を身に付けられたならば、例えそれが十歳にも満たない少年であっても、兵士を素手で殺すことが出来る。
必要なのは人間だけであり、経験は機械が補ってくれるのだ。
世界が戦場と化し、戦場はやがて地獄と化し、そして焦土と化した。

時は流れ、現代になってもその姿は維持され続け、強化外骨格は最高の殺し道具として存在している。
常識で考えるならば、強化外骨格を身に纏っている人間と生身の人間では殺し合いに発展すらしない。
一方的な殺し。
それが一般的だ。

棺桶を破壊する武器があっても、使う人間の技量と度量、そして経験値が無ければその武器は通常の武器と何ら変わりのない物でしかない。
鎧の有無は殺し合いに於いてはかなり重要な意味を持ち、鎧を持たない人間は常に死と隣り合わせの状況を味合わなければならない。
そのため、小型であるAクラスの棺桶は少しでも使用者が戦闘で生き残れるようにと、対棺桶戦闘に特化した設計をしている。
設計者の考えと執念がよく表れているのがAクラスの特徴でもある。

669 名も無きAAのようです :2017/05/05(金) 08:20:58 ID:NjkwanZg0
両者が強化外骨格を使用したならば、それは大規模戦闘にも匹敵する殺し合いになる。
拳が砲弾並の威力を発揮する物も開発されており、それは、使用者の筋量を無視した殺し合いが可能であることを意味している。
例えば。
八月十一日のティンカーベルにある路地では、性別や体格差を無視した戦闘が行われていた。

从'ー'从「あれぇ? 皆向こうに行っちゃったけど、あんたは行かないのぉ?」

棺桶は大きく三種類に分類される。
最小のAクラス、中型のBクラス、そして大型のCクラス。
ワタナベ・ビルケンシュトックが装着するのはAクラスの“エドワード・シザーハンズ”。
軽量、そして必要最小限の力で棺桶を相手に出来るように設計された“コンセプト・シリーズ”の一つだ。

両腕に筋力補助を兼ねた籠手、そして十指を彩るのは淑女の繊手めいた鉤爪。
その十本全てが高周波発生装置を備えた棺桶殺しの武器。
正に、機能美の集大成。
実際、名匠として名高い設計者のT.バートンは自身が掲げた“決して優雅さを失わず、戦場に於いて洗練された姿を保つ”の目的を見事に達成した一作品を仕上げて見せた。

( ・曲・)『とは言っても、僕らは機動力補助が無いですからね。
      あちらはあちらに任せて、こちらはこちらで楽しみましょう』

ワタナベの隣に立つキャソック姿の男は、聖職者じみた口調でそう言った。
無知故の思い上がりか、それとも戦闘慣れした人間が持つ余裕なのか。
男の口調、立ち振る舞いからは何も分からない。
相対する者の分析を困難にしているのは、男の装備だ。

使用できる棺桶は一人一つ、というわけではない。
もしも装備できるのであれば、複数の棺桶を身に着けて戦う事は出来る。
例えば補強部位の異なるAクラスの棺桶であれば、同時にその特性を我が物にすることが出来る。
棺桶一つの金額が膨大であるが故に、ほとんどの人間がそうしないだけだ。

キャソックの男が“マハトマ”と“ハンニバル”を装着していたとしても、潤沢な資金源と資材が背景にある事を考えれば不自然でも不思議でもない。
だが棺桶を二つ装着しているから強いとは限らない。
ただ物珍しいだけで、そんな人間との戦闘が一般的な人間にとっては稀なだけだ。
そう、稀というのはつまり、未経験に近い物がある。

未経験での戦闘行為の恐ろしさは、戦闘経験が多い人間であるほど分かっている。
特に棺桶の戦闘では、相手の棺桶の正体を知らないだけで命取りになる。
可能であれば戦闘行為を避けるべきだが、それは対峙する人間の事情による。
男とワタナベに向けて殺意を放つ女が眼前の男を敵と見ているのか、それとも獲物として見ているのか。

ヘッドマウントディスプレイに覆われた瞳からは、何も読み取れない。

ノハ<、:::|::,》『……で、あんたらはどうするんだ?』

その場でただならぬ殺気を放つヒート・オロラ・レッドウィングは、奇妙な組み合わせの二人に向けてその言葉を送った。
彼女の装着する棺桶、“レオン”はAクラスでありながら全身を覆い、尚且つ対強化外骨格用の強化外骨格と言う、兵器界の食物連鎖の頂点に位置する物。
例え棺桶を装着した人間が二人相手でも、後れを取るような設計はされていない。
右手の杭打機は装甲を貫き、そして悪魔じみた造形をした巨大な左手の五指は棺桶の動きを奪うための武装だ。

670 名も無きAAのようです :2017/05/05(金) 08:23:07 ID:NjkwanZg0
ゼロ距離で放つことを前提とされた左手の電撃は豪雨の中でも威力を損なう事はなく、確実に対象のバッテリー、電子機器を破壊することで動きを奪う。
それのみならず、高周波振動の武器に対する耐性も備えており、薄い装甲を守るほぼ唯一の楯としての機能も備えている。
電撃で身動きが取れなくなったところを杭打機が貫き、操る人間――棺桶持ち――を屠り去るという、単純かつ明確な運用設計はコンセプト・シリーズにこそ相応しい。
鎧を纏った二足歩行獣のような風貌のレオンに対して、洗練された車両の様な造形をした棺桶が豪雨の中身じろぎ一つせずに返答した。

深紅の装甲は雨に濡れていながらも、溶鉱炉のような赤々とした輝きを放っていた。
カバーに覆われたモノアイの光が雨粒に反射し、輝きがまるで火花のように散っている。

(::[ Y])『先ほども言った通り、私は私の目で正義を判断します。
    少なくとも今、私の目の前には悪が二人。 そして、どちらでもない貴女が一人。
    排除するに値するのは悪のみと、私は決めています』

舗装路を高速で移動することに特化して設計されたコンセプト・シリーズの“イージー・ライダー”を駆るのは、ジュスティア警察に所属するライダル・ヅー。
警察の最高責任者の傍らで静かに策謀を巡らせ、冷静沈着に行動する冷血な秘書。
これまでの彼女は感情で動くという愚は犯さず、命令には絶対服従する機械の様な人間だった。
鉄血の女秘書と陰で囁かれ、人間味を欠如したまま育った機械人形と恐れられた女。

法律に従って死刑宣告を下し、一切の慈悲なく電気椅子のスイッチを入れ、自らの手で絞首刑を執行することもあった女。
全ては定められたものに対しての絶対的な服従から来る行動であり、規律を重んじる組織からすれば理想的な人間だった。
彼女と仕事を共にした人間は皆口を揃えて彼女の事を冷徹な機械だと評するだろうが、今や彼女の言動は従順な機械とは明らかに異なり、人間的な物となっていた。
恐らくは彼女の人生で初めて、上官の命令に対して異議を唱えたのである。

正義とは何かを判断するのは自分自身の目であり、誰かの命令ではない。
そのため、判断は自分で下す、と。
かつての彼女を知る人間が聞いたら間違いなくその正気を疑う言葉だった。
衝撃的な言葉の直後、上空に現れた赤い信号弾に呼び寄せられるようにして敵が一人去り、彼女に命令を下した二人の上官はそれを追って消えた。

円卓十二騎士と呼ばれるジュスティアの最高戦力に属するショーン・コネリとダニー・エクストプラズマンの目的は眼前にいる罪人ではなく、脱獄犯の逮捕もしくは処刑だった。
信号弾が上がった理由についての説明を一切受けていなかったが、彼女からしたら命令違反で咎められる面倒が省ける幸運に恵まれた。
そして残された彼女は文字通り、自分で下した判断を実行し、その後処理をすることにした。
彼女に抱えられたままの男は不機嫌そうな視線を彼女に送り、そして次に皮肉めいた言葉を送った。

(=゚д゚)「そうかい、それは良いんだが。
    俺を降ろすってことを忘れるなよ」

トラギコ・マウンテンライトはそう言って、厚い装甲に覆われたヅーの胸を拳で叩いた。
彼のぎらついた眼は豪雨の中でもはっきりと分かる程に殺意に満ちていた。
その殺意は、茂みに隠れる飢えた虎から放たれるそれ。
戦いの瞬間を待ち、いつでも襲い掛かる事の出来る状態だ。

(=゚д゚)「そいつらは、お前の手に余るラギ」

大きな水たまりの上にゆっくりと降ろされ、トラギコは鼻の頭についた水滴を鋼鉄の籠手で覆われた親指で拭った。
降り注ぐ雨が再び彼の鼻を濡らしてしまうため、その行為自体に意味はない。
全くの無意味極まりない行為だ。
だがそれだけで、トラギコの顔つきが変わったのは事実。

覚悟を決める動作など、ほんの些細な、それこそ無意味と思われるような物でいいのだ。
優れたスポーツ選手が試合前にする動作と同じく、心を落ち着けるための一動作。
吐き出した溜息には熱がこもっており、その心臓はエンジンの様に激しい鼓動を刻んでいる。

671 名も無きAAのようです :2017/05/05(金) 08:24:57 ID:NjkwanZg0
(=゚д゚)「でも、手は貸してもらうラギよ」

(::[ Y])『……背中ではなくてですか?』

トラギコは如何にも驚いた風に眉を吊り上げ、意味ありげな笑みを浮かべた。
あの分からず屋の石頭であるヅーが、トラギコの意図を理解していたとは驚きだったのだ。
何も言わずとも最善の手を考えたとは、実にいい兆候だった。
指示をする手間が省けて助かる。

(=゚д゚)「分かってんじゃねぇか」

(::[ ◎])『貴方の考えそうなことですから』

より広角の映像を処理する為に頭部のレンズカバーを展開したヅーは肉食動物を思わせる四足歩行に切り替え、その背にトラギコが乗った。
騎乗する旧世代の騎士を思わせる姿は、あまりにも不恰好。
槍であれば格好も付いただろうが、彼が持つのは山刀に近い剣。
騎馬戦ではまず使用されない武器だ。

しかし彼が乗るのは機械仕掛けの獣。
理性と知性、そして破壊力を備えた正義の信仰者。
どの位置に相手がいようとも、確実にトラギコの刃を届かせる。

(=゚д゚)「動きは手前に任せるラギ。
    さて……」

高周波刀、“ブリッツ”を肩に乗せてトラギコはその視線をまっすぐ目の前の敵に向けた。
そして彼は。
まるで。
虎のように――

(=゚д゚)「やるぞ!!」

――吠えた。

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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Reknit!!編 第六章【bringer-運び手-】
.      /二|=||=マニ二/_ ̄ ̄ ̄_マニ二/ニl|=|____
     |ニニニ|=|ニニマニ/二二二二ニマニ/ニ=l|=lニニニ|
     |ニニニ|=|::::::: \__________/::::::::::j‐′=ニ|
     |ニニ=(_卜、:::::::{:{ γ⌒ヽ .}:}::::::::::/〕!=ニニ|
.    八ニニ=|=\\ :从 乂___,ノ _从:: //=|ニ二八
       \__|ニニ\\:`≧=-=≦´ //ニニ|__/
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August 11th PM13:01
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672 名も無きAAのようです :2017/05/05(金) 08:44:54 ID:NjkwanZg0
イージー・ライダーは両手両足に備わった車輪によって、爆発的な加速力と機動力によって物資の運搬や追跡を目的に設計されたコンセプト・シリーズである。
秀でた武器があるとしたら、舗装路に於けるその機動力だけ。
それだけに特化したイージー・ライダーがその四肢を使って奔るという事は、攻撃性を捨てて安定性と速度を獲得した戦闘行為に備える事を意味する。
無論、舗装路に於けるその速力は他の強化外骨格を遥かに凌ぐ。

ただの人間であれば、その速度に翻弄されて詳細な姿を見る事さえ敵わないまま轢殺されるだろう。
例えば、部分的に補強をするだけのAクラスの棺桶であれば、その速度に追いつくことは非常に難しい。

( ・曲・)『あーあ、面倒なことになってしまいましたね』

神父と呼ばれていた男の呟きにはさほどの緊張感も感じられない。
十指を擦り合わせて不気味な残響音を雨音に忍び込ませたワタナベもまた、緊張感を欠いた様子で男を見た。

从'ー'从「あらぁ? 強気な女は好きじゃないのぉ?」

( ・曲・)『大好きですよ、そりゃあねぇ。
     だけど、暴力的な人間と強気な人間は別物で――』

(=゚д゚)「お喋りも結構だがな!!」

男が瞬きを一度した隙をヅーは見逃さなかった。
当然それはトラギコも狙っていた好機。
豪雨と言う環境が誘発する瞬きは生物である以上、止められない。
“マハトマ”を装着する男はその両腕を無造作に持ち上げた。

マハトマはレリジョン・シリーズ――宗教関係の人間が設計、開発した棺桶の事――の代表格であり、非戦闘向きの棺桶の筆頭に挙げられる。
あくまでも筋力補助を目的に設計されており、マハトマは戦闘には向かない。
ただし、過酷な環境での使用が想定されているだけあってその頑強さは確かだが、今回は相手が悪かった。
ただの無銘の刀であれば防げるだろうが、トラギコが持つのはブリッツ。

緊急時に強化外骨格を切り捨てるため作られた、ただ一つの目的に特化したコンセプト・シリーズ。
高周波振動の武器を防ぐには、同じ機構を持つ物が必要不可欠だ。
マハトマの装甲など問題ではない。

(=゚д゚)「マハトマなんぞが!!」

速度を乗せたその一斬はマハトマを両断し得る威力が十二分にあったが、直前にそれを防いだエドワード・シザーハンズの五指までは切り落とせなかった。
同じ高周波振動発生装置を備えた武器同士では、よほどの違いが無ければ互いを破壊することは出来ない。
加速しての一撃だったが、ワタナベは指を揃えて一つの柔軟な刃を作り上げ、トラギコの攻撃を受け流したのである。
人間の反射速度の成す技ではない。

見てから行動したのでは間に合わない。
つまり、見る前から動いていたのである。
ワタナベは男の瞬きにトラギコが攻撃を合わせてくることを予期した上で、手を出したのだ。
一瞬の攻防でその技量を理解したヅーは悪戯に追撃をせず、距離を空けて再びワタナベたちに向き合った。

本格的な戦闘に慣れていないヅーに関しては、この女に対して臆病なぐらいがちょうどいい。

673 名も無きAAのようです :2017/05/05(金) 08:50:15 ID:NjkwanZg0
从'-'从「ったく、マドラス・モララー。
     自分の事は自分でやってよぉ」

( ・曲・)『これはどうも。 いやはや、貴女が異常者でなければ惚れているところでしたよ。
      ところで何でフルネームを――』

ノハ<、:::|::,》『手前の相手はこっちだよ!!』

ワタナベの後ろにいたモララーの顔を悪魔の手が捕えたかと思うと、黒い腕は彼をそのまま力任せに投げ飛ばした。
頑強な素材で作られた建物の壁面に頭から激突したが、両腕を使って防御していたのをその場にいた全員は見逃さなかった。
へらへらしていても、戦闘経験はそこそこあるようだ。
口元を覆う奇妙な棺桶がどのような能力を持つのか、ヒートはまだ知らなかった。

量産されていないコンセプト・シリーズに対する最善の対抗策は、相手の能力を見極めることにある。
何に特化し、何が苦手なのかが分かって初めて攻略の糸口が見えてくる。
それまでは迂闊な攻撃を避けるべきだろうが、今は悠長なことを言っている時間はない。
彼女はティンバーランドの人間から聞き出さなければならない情報があった。

一度ならず二度までも、遠隔操作の棺桶を使ってヒートとの直接的な戦闘を避け続けている母親の情報。
弟と父の敵であるクール・オロラ・レッドウィングは今、どこにいるのか。
本当の仇を見つけた今、ヒートの目的は復讐を完遂させることだけだった。
島の行く末などに興味はなく、ただ、純粋な殺戮衝動があった。

こうしている間に隠れられたら見つけ出すのは至難の業だ。
そうなる前に居場所を聞き出し、逃げられる前に殺さなければ次の機会がいつになるのか分からない。
機会が失われる可能性すらあるのだから、焦るのも無理はない。
一見してモララーに対しての攻撃はやりすぎに見えたかもしれないが、頭さえ残っていれば人は喋る事が出来る。

彼女は経験上、どの程度痛めつければ人が死ぬのかは理解していた。
それに、彼の顔は棺桶で護られているのだ。
多少の無理をしても壊れることはそうないだろう。
咄嗟の事にも拘らず防御を成功させたモララーだったが、体勢を整える前に電光石火その速度で現れたヒートに後頭部を再び掴まれ、タイルで覆われた壁に向けて投げ飛ばされた。

壁にモララーの背中が触れるよりも早く、ヒートは飛び蹴りを放っていた。

(;・曲・)『ちょっ!!』

防御の姿勢を取ったモララーの素早さは称賛に値したが、その防御は大した意味をなさなかった。
モララーを蹴り飛ばしただけでなく、ヒートの飛び蹴りは背後にあった壁を易々と破壊したのだ。
二人の姿は壊れた壁の向こうに消え、そこから再び金属と金属をぶつけ合う音が響いてきた。
一方で、一瞬の内に味方を目の前から失ったワタナベは涼しげな表情をしていた。

从'ー'从「じゃあねぇ」

(=゚д゚)「よそ見してんじゃねぇぞ!!」

首狙った一閃をワタナベは上半身を仰け反らせることで回避し、そのままバク転で距離を取った。
高々と水飛沫を上げ、イージー・ライダーは建物に激突する前に急制動をかけ、素早く方向転換した。
車輌には厳しい地形の狭い路地だが、四肢を自在に動かすことのできる四輪走行ならば問題はない。
速度と装備の有利を持つトラギコ達の攻撃を捌くワタナベは、一体どれだけの死地を潜り抜けてきたのだろう。

674 名も無きAAのようです :2017/05/05(金) 08:55:06 ID:NjkwanZg0
毒ガス散布をしてただ殺しを楽しんでいただけではないはずだ。
どこかで高度な訓練を積み、棺桶との戦闘を嫌と言うほど経験したと見て間違いない。

从'ー'从「そうねぇ、刑事さんだけを見ていたいんだけどぉ。
     その女、邪魔なのよねぇ」

体勢を立て直した直後からヅーは吹き荒れる風のようにワタナベの周囲を高速で動き、トラギコはそれに合わせて刃を振るう。
鍔迫り合いにはなる物の、ワタナベは的確にその両腕を振るって攻撃を防いだ。
速力があろうとも、当たらなければ意味がない。
ワタナベの棺桶は斬撃を受け流すのに適した形をしており、一撃の重さこそないが、防戦の点ではトラギコを凌駕していた。

こうして面と向かって刃を交わして分かる、ワタナベの実力。
トラギコは歯噛みした。
例え一対一で対峙したとしても、ワタナベの方が実力的には上に違いない。

(=゚д゚)「だとさ!」

(::[ ◎])『……不愉快な発言ですね』

轢殺しようとしないのは、ヅーがその一手が悪手だと理解しているからだ。
速度と質量による一撃は確かに強力だが、それを行うのは彼女の体。
すれ違いざまにワタナベが高周波振動を続けるその指を掠めさせるだけで、高速で接近するヅーにとっては致命傷になってしまう。
十本の高周波振動兵器は容易に攻略できそうにもない。

从'ー'从「あらぁ? 嫉妬かしらぁ?
     でも残念、付き合いは私の方が長いのよぉ」

(=゚д゚)「何でもいいからさっさとくたばれってんだ」

(::[ ◎])『逮捕はしないのですか?』

(=゚д゚)「出来るならそうしたいが、こいつは殺した方が早いラギ。
    捕まえようとすれば殺されても文句は言えないラギよ」

从'ー'从「それは残念。
     手錠プレイ、してみたかったんだけどねぇ」

(::[ ◎])『……どういったご関係で?』

(=゚д゚)「刑事と犯罪者以外に何があるってんだよ」

从'ー'从「それで十分じゃない」

殺し合いの最中、ワタナベは鉤爪を付けているにもかかわらずそれで己の身を抱きしめ、悶えるような仕草を取った。
心なしか、その顔は少し上気しているように見えた。
殺し合いで興奮する、本物の快楽殺人鬼。
不気味なまでの妖艶さに、トラギコは背筋に冷たいものが走るのを感じた。

まるで恋する十代の乙女。
狂気を孕んだ恋する女程恐ろしい物はない。

675 名も無きAAのようです :2017/05/05(金) 09:01:34 ID:NjkwanZg0
从'ー'从「繋がりなんてぇ、それで十分よぉ」

言葉の途中でヅーは動いた。
折角の隙を見逃すまいと、優等生じみた一手を選んだのである。
その唐突な動きに、トラギコは合わせるしかなかった。

(::[ ◎])『この……変態が!!』

从'ー'从「女の嫉妬は見苦しいわよぉ」

勢いを乗せた一撃。
今度ばかりはいなせないよう、トラギコは上から振り下ろした。
そのまま両断されるかと思われたが、ワタナベは人間にはおおよそ考えられない足さばきでそれを避けた。
立ったままでの回避行動。

ワタナベのそれは正しい判断だったが、ヅーはそこで生じたワタナベのミスを見逃さなかった。
彼女が背中を向けたのだ。
高速回転をする左拳のタイヤで思い切り薙ぎ払う。
当たらないのならば、手数を増やせばいい。

一つの刃で駄目なら、他の武器も使えばいいという発想。
それも、防御の困難な下半身を狙っての一発。
ヅーらしからぬ容赦のない一撃だったが、ワタナベはその一撃を見ても笑みを絶やさなかった。
トラギコは嫌な予感がした。

否、予感ではなく確信だ。
殺し合いの中で起こり得る、刹那の判断と結果。
ワタナベは振り返りもせず、後ろ腕でヅーのタイヤを掴み、高周波振動の一撃であっさりと引き裂いた。
爆発音にも似た空気の炸裂音が響く。

結果から言うと、この攻防はワタナベの勝ちだった。
金属同士が激しく擦れ合う事で鮮やかな火花が散り、軸が完全に破壊される寸前でヅーは後退した。

从'ー'从「残念」

(::[ ◎])『……ちっ!!』

これで三輪。
ワタナベから距離を置いたヅーは、左手を見て舌打ちをした。
軽量化の施されたホイールがズタズタにされていた。
軸が歪み、交換修理をしない限り再び回転することはないだろう。

(=゚д゚)「熱くなるんじゃねぇラギ!!
    そいつはただの殺人狂じゃねぇ、理性のあるナイフだと思え!!」

从'ー'从「あははっ!! 注意されてるぅ!!」

(=゚д゚)「手前は黙ってろ!!」

676 名も無きAAのようです :2017/05/05(金) 09:04:40 ID:NjkwanZg0
トラギコには奥の手がある。
今はこうして高周波刀に注目させておき、しかる後にベレッタM8000で撃つ。
近接戦闘ばかりに注意させておけば、必ず隙が出来るはずだ。
高性能レーダー並の警戒力を持つワタナベに通用するかは、運次第。

(::[ ◎])『……この女、気に入りません』

(=゚д゚)「そりゃそうだろ……」

警官でワタナベを気に入る人間はまずいない。
猛毒ガスを散布して一般市民を殺し、愉悦に浸り、性的快感を覚える極めつけの変態なのだ。
世の中にいないほうがいい人間の、上位三人に入るだろう。

从'ー'从「さぁて、どうするぅ?
     まだ私とヤるぅ?」

(=゚д゚)「ヤるに決まってんだろ!!」

从'ー'从「わぉ、情熱的ねぇ」

(::[ ◎])『下品な……』

从'ー'从「あらぁ? 負け犬も言葉を話せるのねぇ、知らなかったわぁ」

(;=゚д゚)「だから黙ってろ!!」

(::[ ◎])『安心してください。 あのような安く、低俗な挑発に乗ることはありません』

だが、その声色には先ほどよりも濃い殺意が込められていた。
女同士の争いはこれだから面倒くさいのだ。
意味の分からないプライドを持ち出し、意味の分からない意地を張る。
そこに巻き込まれる人間の事を考慮しないのだから、男よりもたちが悪いと言われても仕方あるまい。

(=゚д゚)「だったら、やることやるラギ!!」

(::[ Y])『勿論です』

レンズカバーを降ろし、ヅーは両脚のエンジン回転率を一気に上昇させる。
掠めただけでも致命傷になる程の加速を見せつけようというのだろうが、トラギコが乗っていることを忘れないでもらいたいものだった。

(=゚д゚)「……手前、やっぱり怒ってるだろ」

(::[ Y])『何故ですか? 何故、この私が怒る必要があるのですか?
     今は戦闘行動の真っ最中ですよ、悪ふざけは止めてください』

もう何も言うまい。
一度こうなった人間は、もう人の話を聞かない。
激しい感情に流された人間は利用するのが最善であり、それ以外は最悪の一手となる。
トラギコはヅーにだけ聞こえる声量で話しかけた。

677 名も無きAAのようです :2017/05/05(金) 09:06:36 ID:NjkwanZg0
(=゚д゚)「とりあえず、あいつは情報の塊ラギ。
    どうしても逮捕するっていうんなら反対はしないラギよ」

(::[ Y])『あの狂人が情報を喋るという保証は?
     先ほど貴方が言ったように殺した方がいいでしょうに』

それは誰しもが思う疑念だろう。
狂人が真実を話すか、と問われれば事情を知らぬ者でも首を横に振るだろう。
だが何事にも例外がある。
このワタナベが、正にその例外だ。

(=゚д゚)「殺した方がいいって言うのは間違いないラギ。
    だけどあいつ、もう一人の名前を何気なく喋ったラギ。
    フルネームでな」

(::[ Y])『……』

先ほど、何故か突然フルネームを口にしたワタナベ。
それは気紛れだったのかも知れない。
確かに言えるのは、そのフルネームが偽りでない確率が高いという事だった。
これまでの言動がトラギコを陥れるための罠だとしても、どうしても、ワタナベの言葉が嘘には聞こえなかったことは言わずにおいた。

何故か、トラギコはワタナベの事をある意味で信頼しつつあった。

(=゚д゚)「理由は分からねぇが、あいつは何故か俺に情報を流すラギ。
    使えるんなら、使わない手はねぇだろ。
    だったら半殺しでもいいラギ」

どちらかと言えば、ワタナベは相手の組織にとっての癌だ。
勝手に行動し、勝手に情報を流し、勝手に攪乱を始める。
味方に引き入れるとこれほどまでに迷惑な人間はいないだろう。
予想外の行動は、どんな組織でも迷惑がられるのが道理だ。

いつ切り捨てられても不思議ではない人間だけに、早い段階でこちら側に情報を流させたいのがトラギコの本音だ。
しかし、ワタナベは不確定要素の塊。
どう転んで味方にはならないだろう。
この女は人を殺すことを止められない。

そうである以上、トラギコにとっての敵だ。

(::[ Y])『分かりました。 では、死なない程度に痛めつけます』

(=゚д゚)「あぁ、そうしろ」

何故だか、この殺人鬼に対してトラギコはこれまでに抱いたことの無い感情を抱いていた。
あらゆる犯罪者、あらゆる容疑者、あらゆる被害者に対しても抱いたことのない感情。
それを言葉にすれば自分がこれまでに積み重ねてきた何もかもを失いそうな気がして、トラギコはいたたまれなくなった。
こ の 女 に は 、 何 か が あ る 。

678 名も無きAAのようです :2017/05/05(金) 09:09:49 ID:NjkwanZg0
トラギコが知らない、何かが。
勿論、他人の事であれば知らない事があるのは当然だ。
それが普通。
まして、相手は犯罪者の中でも最悪の部類に入る快楽殺人鬼。

知っている事があるとしたらその異常性ぐらいで、それ以外は知りたくもないし、知る必要もない。
それでも。
ワタナベ・ビルケンシュトックという女の目が、トラギコに訴えかけてくるのだ。
深淵の奥に隠れた物を見つけてみろ、と。

見つけてくれと、言っているような気がしてならない。

(::[ Y])『足、もらいます』

从'ー'从「あらぁ? 足だけでいいのぉ?」

(::[ Y])『でないと、手錠がかけられないですから』

いきなり殴りつけるような突風が顔を叩いたかと思った瞬間。
それがイージー・ライダーの急加速によるものだと、トラギコは理解した。
疾風を思わせる加速によって一瞬でワタナベとの距離を縮め、ヅーは攻撃を開始した。
狙いは足ではなく胴体。

当たりさえすればいいのだ。
当たりさえすれば。
逆を言えば、ワタナベは当たらないようにしなければならない。
なのに、回避行動の予兆すら――

(;=゚д゚)「……っ?!」

――ワタナベが何故こうも余裕なのか、その理由に気付いた時にはもう手遅れだった。

从'ー'从「ばーか」

ワタナベの足元に転がる、筒状の物体。
ピンの抜けた無数の音響閃光弾。
トラギコは咄嗟に顔面を両腕で保護し、そしてヅーの背中から飛び退いた。
もしもトラギコがそうしなければ、ヅーが振り落しただろう。

炸裂して強烈な光と音を放つ音響閃光弾。
相手の動きを防ぐ非殺傷の道具ではあるが、使い方次第では立派な武器となる。
覚悟を決めていたトラギコは視界を覆っていたがそれでも漂白され、耳を聾する爆裂音によって雨音は完全に消え失せた。
慣性の法則に従って放り出された体を衝撃が襲う。

着地に失敗したのだろう。
その後何がどうなったのか、トラギコには分からない。
この一瞬の間で命を奪う主導権を所有するのはワタナベだ。
対等に戦える装備を持つのはヅーだが、今は状況が悪すぎる。

679 名も無きAAのようです :2017/05/05(金) 09:12:20 ID:NjkwanZg0
棺桶がどれだけ優れた物だとしても、音響閃光弾の全てを無力化できるわけではない。
レンズカバーを覆っていたのは不幸中の幸いと言うべきか、それとも迂闊と言うべきか。
カメラの映像は一瞬とはいえ白く染め上げられ、マイクは許容量を超える音を感知したために自動的に遮断された。
こうして、イージー・ライダーはほんの一瞬だけ視界と音を奪われた。

広角をカバーする状態だったとしたら、ワタナベが建物の壁を背にしていたことに気付けたかもしれない。
回復したヅーの視界に映し出されたのは回避不可能な位置にまで迫っていた壁。
猛烈な速度で走っていたヅーがその壁を回避することは叶わず、壁を破壊してようやく停止した。
未だ聴力が戻らないトラギコは、白んだ視界から得られる情報でどうにか現状把握を試みる。

最初に目に入ってきたのは、無傷のままトラギコを見下ろすワタナベだった。

从'ー'从「……」

何かを喋っている。
表情は相変わらずの薄ら笑いを張り付けたもので、勝ち誇ってすらいない。
何を嗤っているのか、まるで分からない。

从'ー'从「……残念」

(;=゚д゚)「何言ってんのか分かんねぇラギ」

ようやく回復した耳が聞き届けたのは、ワタナベのそんな一言だった。
命を奪える優位にありながら、そうしないのはトラギコを生かしておく必要があると考えているからだろう。
それが組織の命令でないのは明らかだ。

(::[ Y])『この……女っ!!』

体に積もっていた瓦礫を吹き飛ばして、ヅーが立ち上がる。
民家の壁はそこまで厚く作られていなかったため、見た目よりもダメージはないだろう。

从'ー'从「どうするぅ?」

(=゚д゚)「手前がしぶといのはよく分かったラギ……」

起き上がりつつ、左手を懐のベレッタに伸ばす。
ここで使わなければ、恐らくワタナベを止めることはもう出来ないだろう。
しかし、そこにあるはずのベレッタが無かった。

从'ー'从「こういう無粋な物は使っちゃダメよぉ」

そう言って、ワタナベは鉤爪でトラギコのベレッタを弄んだ。
長い爪が災いして普通に構えることはできないが、銃爪を引くことは出来る。
それが証拠に、ベレッタの銃腔はトラギコを向いていた。

从'ー'从「刑事さん、どうするぅ?」

(=゚д゚)「……あ゛?」

680 名も無きAAのようです :2017/05/05(金) 09:13:57 ID:NjkwanZg0
人質など、ヅーには意味がない。
この冷血女はそれこそ、水を得た魚のようにワタナベに襲い掛かる事だろう。
ジュスティアの人間、特に警察官には異常なまでの正義感を持つ人間が多く所属している。
正義に狂った人間の秘書であるヅーが人質で動揺すると思っているのなら、ワタナベの考え違いだ。

この体勢でどのようにして銃弾を防ぐか、トラギコはそのことにだけ思考を割くことにした。
ワタナベが隙を見せた瞬間に籠手で頭部を防ぎ、即死することを回避すればいいだろう。
後は、ヅーが機転を利かせて隙を作ってくれれば――

(::[ Y])『……』

――しかし、考え違いをしていたのはトラギコだった。

从'ー'从「あらぁ? 秘書さん、どうしたのかしらぁ?
    あぁ、そうかぁ。
    元々、刑事さんしか知らない情報を聞き出さないといけないから、殺 さ れ た ら 困 る の よ ね ぇ」

(::[ Y])『……何故それを知っているのか、問う事は止めておきましょう。
    銃を捨て、大人しく逮捕されなさい』

从'ー'从「お願いする立場なのにぃ、何で強気なのぉ?」

(::[ Y])『犯罪者に対して弱気でいる警官など聞いた事がありません』

空気が凍った。
僅かの静寂が、それを如実に物語る。

从'-'从「……は?
     警官だから? だから犯罪者に対して強気?
     あんた、もういい。 白けた」

突如としてワタナベは落胆を露わにし、深い溜息を吐いた。
それは本当にヅーの反応に対して呆れ、あまつさえ立腹しているようだった。
それまでの様子が嘘のようだ。
正に、豹変。

子猫が獰猛な豹へと変わり、敵意を剥き出しにした瞬間。
ワタナベの殺意を察知したトラギコは、動物的本能に従って腕を眼前に掲げた。
この特殊合金製の籠手であれば、高周波振動の武器でも数秒は耐えられるはずだ。
だが、ワタナベの反応は予想外の物だった。

从'-'从「刑事さん。 はい、これ返すわぁ。
     私帰るからぁ、あとはよろしくねぇ」

鉤爪を器用に使い、銃把をトラギコに向けた。
相変わらず、この女の行動が分からない。
立ち上がり、M8000を受け取る。

(=゚д゚)「……あいつはいいのか?」

681 名も無きAAのようです :2017/05/05(金) 09:15:51 ID:NjkwanZg0
从'-'从「もういい。 その女のせいで気分が乗らないからぁ、私は知らなぁい」

気分屋の人間だとしても、ここまでの行動が許されるものだろうか。
仮にも同僚の前でこの行動は、言い訳のしようがない。
同士討ちをしてくれるのならば勿論歓迎すべきことなのだが、ワタナベの場合、その行動の根幹が全く読み取れないために素直に受け入れられなかった。

(;=゚д゚)「いいのかよ、一応同僚だろ?」

世界からしたらワタナベのような人間が死ぬという事は、それは間違いなく有益なことだ。
むしろ、今この瞬間にトラギコが銃爪を引けばワタナベを射殺できる。
薬室には間違いなく銃弾が装填されているし、安全装置も解除されている。
銃爪を引けば、トラギコの勝ちなのだ。

それが分かっていながら、トラギコは銃爪が引けなかった。
引こうという気持ちすら、湧き上がらなかった。
本能がそれを押し留めていることに気付くのに、そう時間はかからなかった。
ここで銃爪を引けば、自らが死ぬ。

相対しているのは、頭のネジが外れた異常者。
異常な心と異常な反射神経、そして勘を持つ制御不可能な殺人機械なのだ。
今は気紛れで生かされているに過ぎない。

从'-'从「いいのよぉ、別にぃ」

(::[ Y])『何を勝手な事を!!』

銃がトラギコの手に渡った事で、ヅーはこの機を逃すまいと一気に飛びかかる。
会話中だから隙があると考えたに違いない。
しかしながらそれは、早計極まりない愚かな判断だった。
無理からぬ話だが、このワタナベが考えなしに行動している殺人鬼ではないと、まだ理解が追いついていないらしい。

トラギコの本能が銃爪にかけた指に力を入れさせないのは、ワタナベが己の優位性を決して失っていないと確信している情報を察知しているからに他ならない。
行動の裏に隠された殺意。
その殺意を感じ取れているのはこの距離だからか、それともワタナベだからかは分からない。

从'-'从「だぁかぁらぁー!!」

全てがコマ送りのスローモーションで進んでいく。
もしもこれが一年前、否、一か月前のトラギコであればヅーが目の前で殺される光景を眺めることになっただろう。

(;=゚д゚)「馬鹿、止めろ!!」

トラギコの警告が半瞬でも遅れていたら、ヅーは本日二度目の転倒を味わうと同時に、急所を破壊されていたはずだ。
ワタナベの鉤爪は油断なくトラギコの手首を銃ごと掴み、いつでも投げられる準備が整っていた。
強化外骨格の補助があったとしても、高周波振動発生装置が付いているワタナベの鉤爪に掴まれれば脱出は不可能。
銃は発砲する前に切り裂かれ、投げ飛ばされたトラギコはヅーに轢殺されていたに違いない。

(::[ Y])『この、卑怯者がっ……!!』

警告が功を奏し、ヅーはタイヤ痕を地面に残して拳を振りかぶった姿勢のまま静止した。

682 名も無きAAのようです :2017/05/05(金) 09:18:38 ID:NjkwanZg0
(;=゚д゚)「手前もいい加減にしろ!!
    こいつにはまだ手を出すんじゃねぇラギ!!」

狙いはワタナベではない。
脱獄犯二人だ。
あの二人をどうにかすれば、ヅーの目的は達成され、後はトラギコをジュスティアに連行するだけになる。
ここで無意味に殺されるくらいなら、大人しくジュスティアに連行されたほうがましだ。

(=゚д゚)「こいつはそう簡単に殺せる奴でもないし、殺されるような奴でもねぇラギ。
    ……ワタナベ、手前、本当に引き上げる気ラギか?」

   I don't wanna kill you, but, I wanna do fuck with you.
从'ー'从「殺る気はないけどぉ、ヤル気はあるわよぉ?」

     Fuck you.
(=゚д゚)「……糞が」

その呟きは雨の中に溶けるようにして消えて行ったのであった。

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      ‘    /!、 :;;’ ;:,.”:;,;:,:,.,:;:;,;:,:,.;:;;:,:;,;:,;: ; ’;:   ,へ、
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獰猛なまでの戦闘力を有する強化外骨格、“レオン”を身に纏うヒート・オロラ・レッドウィングは獣よりも恐るべき膂力を発揮し、マドラス・モララーへの攻撃を続けていた。
ワタナベの相手を一方的にトラギコ達に任せ、ヒートは戦闘能力の低そうなモララーを狙った。
戦いに不慣れな人間は痛みに弱い。
痛みに弱い人間は意志が弱く、意志の弱い人間は、口を割りやすい。

ヒートが知りたいのは、遠隔操作の棺桶を使ってどこからか己の手を汚さずにヒートを屠ろうとしている女の居場所だった。
今すぐに殺すべき相手の名前はクール・オロラ・レッドウィング。
ヒートの実母だった。

ノハ<、:::|::,》『あの女はどこだ!!』

ワタナベよりも弱いという彼女の目算は当たっていたが、戦闘経験が皆無と言うわけではないらしかった。
確実に攻撃を回避し、何かを狙うねっとりとした視線をヒートに送り続けているモララーは、この狭い1LDKの空間を素早いフットワークで動き回る。
ボクサーがリング上で立ち回るような精密さはないが、低くした姿勢で攻撃を回避する姿は堂に入っていた。

683 名も無きAAのようです :2017/05/05(金) 09:20:14 ID:NjkwanZg0
( ・曲・)『さぁ、どこでしょうね!!』

言葉とは逆に、彼の回避動作は決して余裕がある動きではない。
辛うじて攻撃を回避し、どうにかヒートが隙を見せないかを窺うので精いっぱい。
堂に入っているが、所詮はそこまでの話。
ヒートには到底及ばない凡人のせめてもの抵抗。

ヒートは家具を蹴り壊し、床を左手で引き裂き、壁を右腕で粉砕して隣部屋と繋げた。
それでも、ヒートの攻撃は当たらない。
常人以上に逃げ慣れていると気付いたのは、アパートに開けたトンネルから反対側の路地に出て来た時だった。
如何なる理由なのか想像もつかないが、男は退路を常に探し、最善の退路を選んで行動している。

どこかに誘い出すつもりだろうか。

( ・曲・)『さて、どうでしょう、この辺りで諦めていただくというのは』

ノハ<、:::|::,》『諦めることだったら、諦めてやるよ』

かつて自分に何度も言い聞かせた言葉は、自然に口から出てきた。
諦めることを諦めた人間は、例外なく厄介な存在と化す。
ヒートが殺した人間の中にも何人もいた。
死の淵で抗い、我が子を守ろうとした母親。

復讐を誓ったヒートにとってその光景は心を痛めつけるには十分だったが、銃爪を引くことを躊躇う理由にはならなかった。
それもまた、ヒートが諦めることを辞めた人間だったからこそ成せた技だった。
この覚悟を持った相手に対して、脅しや威嚇行為は意味がない。
にも関わらず、モララーの反応は相変わらずだった。

娼婦を前にした男のように、自らの優位性を疑っていない。

( ・曲・)『はははっ、勇ましい事だ。
     どんな声で泣いてくれるのか、どんな顔に歪んでくれるのかが楽しみですよ』

ノハ<、:::|::,》『そうかい……』

逃げることにだけ専念する相手ならばいいのだが、モララーはそうではない。
教科書通りに反撃の隙を狙っているだけあり、こちらが迂闊に隙を見せようものならそこを狙ってくるのは間違いない。
ヒートはこういう手合いが面倒なのをよく知っている。
全てがマニュアル通りならばまだしも、一部がプロ級の能力値となると、予想できる動きとそうでない動きの見極めが難しい。

特に厄介な要素がモララーの口部を覆う棺桶だ。
防御特化、もしくは攻撃性に特化した物ではなさそうだが、その形状は明らかに噛み砕くための形状をしている。
モララーが逃げている間、それを使う素振りを一度も見せなかったことから近、中距離での戦闘が前提だろう。
それはヒートの持つレオンと同じ間合い。

使う絶好のタイミングを相手が得るより前に決着をつけ、終わりにするしかない。
地面が爆発したかのような衝撃と音が生じたかと思うと、ヒートの姿はモララーの正面に現れていた。
狙いは無防備な胴体。
重要な臓器の集う、生身の人間の持つ弱点の一つ。

684 名も無きAAのようです :2017/05/05(金) 09:23:05 ID:NjkwanZg0
杭打機では殺しかねないため、左手の鉤爪で腸を抉ることにした。
情報を聞き出すには生きてもらわなければならないのだ。
少なくとも、情報を話せる間は――

( ・曲・)『ははっ!!』

ノハ<、:::|::,》『……っ!?』

――次の瞬間。
両者の影に巨影が現れ、壁となってヒートの一撃を弾いた。
予期していなかったのはヒートだけで、モララーは分かっていたようだった。

〔::‥:‥〕『甘い』

二者の間に現れたのは、防御力に定評のある“トゥエンティー・フォー”。
使用者の命をその名の通り二十四時間守り続けることを前提に作られた機体だが、レオンの前には砂岩にも等しい。
だがヒートはその中にいる人間の声から正体を理解すると、己の感情に逆らって大きく一歩飛び退き、片膝を突いて着地した。
突然の増援に対して臆したわけではない。

警戒したのは奇襲の理由だった。
奇襲を仕掛けるのであれば、ヒートの頭部を踏み潰すようにして現れればいい。
そうしなかったのには理由がある。
その理由が分からない以上、相手に近づいたままなのは利巧とは言えない。

特に、クールと言う女が抜け目のない卑怯者である以上、無策で挑むつもりはなかった。
激情の中にも冷静さを持ち続けることが重要だ。
相手の装備を観察し、周囲の環境と装備から考えられる罠を考慮する。
豪雨と暴風のせいで満足に状況の把握が出来ないが、恐らくは、問題ないはずだ。

二人を相手にするのではなく、一人を相手にするのであれば十分なはず。

ノハ<、:::|::,》『やっと出てきやがったな!!』

堅牢な装甲を一撃で撃ち抜く必殺の杭打機を起動させ、狙いをモララーからクールへと完全に移行させる。
逃げられようが、追う必要はない。
狙うべきはクールだけ。
この女を殺さなければ、ヒートの復讐が本当の終わりを迎えることはない。

終わったはずの復讐劇、即ち、悪夢の続き。
夢はここで終わらせる。
その感情がヒートの体に熱を宿らしめ、濡れた体にも関わらず体温は下がっていなかった。

〔::‥:‥〕『いちいち騒々しい奴。 獣みたいだな』

堪忍袋の緒が、音を立てて切れた。

ノハ<、:::|::,》『ぶっ殺す!!』

685 名も無きAAのようです :2017/05/05(金) 09:26:54 ID:NjkwanZg0
アスファルトの地面が文字通り爆ぜ、黒い颶風となってヒートが肉薄する。
一瞬の内に接近したヒートは、振りかぶった杭打機をトゥエンティー・フォーの胸部に向けて放った。
鋼鉄製の杭が高速で射出されて装甲を貫き、薬莢型のバッテリーが廃莢される。
杭は胸を貫いたが、背中のバッテリーパックまでは貫ききれなかった。

避けることを諦め、上半身を後退させて攻撃がバッテリーに届かないようにしたのだ。
それでも中に人間がいれば、間違いなく死んでいる一撃。
その一撃を受けても、棺桶からは苦痛など微塵も感じさせない女の声が聞こえた。

〔::‥:‥〕『単純な発想だな』

やはり、遠隔操作。
先ほど破壊した物とは別の物を使っているのだろう。
勿論、二度も同じ手を使われていれば可能性として視野に入れていた。
となれば、標的を変更する必要がある。

それでもまずは、装甲の厚いこのトゥエンティー・フォーを破壊するのが先だ。
モララーの楯にでもなられたら面倒だ。

ノハ<、:::|::,》『うるせぇ!!』

杭を引き抜き、左手を構える。
半ば無意識の内に取ったその行動が、ヒートを救った。
戦闘中における使用者の生存率を高めるために設計された棺桶に対して、電撃による攻撃が無意味だと思い出した時。
ニヤニヤ笑いを浮かべる男の顔が現れた。

( ・トェェェイ・)

開かれたのは醜悪な歯の並ぶ口。
それはあまりにも醜く、そしてあまりにも雄弁な形状をしていた。
説明がなくても、それが何に特化しているのか、一瞬でヒートは理解した。
噛み砕く。

ただ、それだけ。
ヒートの左手に噛み付いた瞬間、耳を聾する金属音が鳴り響いた。
それは高周波振動装置が金属を切り裂かんとする音。

ノハ<、:::|::,》『くっ!!』

高周波振動装置に耐性のある左腕に対して、その装置を使う事は無意味だが、力が勝れば噛み砕くことは出来る。
手を噛んでいるモララーの目が、ぎょろりとヒートを見上げていた。
純粋な愉悦に酔いしれる狂気の色。
肉を喰らう獣の喜びの顔だった。

( ・トェェェイ・)

ノハ<、:::|::,》『このっ……!!』

686 名も無きAAのようです :2017/05/05(金) 09:28:53 ID:NjkwanZg0
電流を放とうとしたその刹那、異臭がヒートの鼻に届いてそれを思いとどまった。
白煙が左腕から上がっているのを見て、ヒートは戦慄に近い感情を覚え、驚愕した。
モララーの噛んでいる個所が、徐々に溶けていたのだ。

ノハ<、:::|::,》『っ!!』

装甲に穴が開いている状態で電流を放てば、最悪、ヒート自身が感電しかねない。
咄嗟に杭打機で殴りつけ、モララーを腕から引き剥がす。
引き剥がすには十分だったが、殺すには不十分な力だった。

( ・曲・)『はははっ、焦りましたね。
     さぁ、次は足をしゃぶらせてもらいましょう』

装甲の一部が削れた左腕を一目見て、ヒートは舌打ちをした。
爛れた様に装甲が溶けている。
レオンの装甲を溶かした物の正体は、恐らくは強力な酸。
もう少し長く噛まれていたら、液体が装甲内部に流れ込んでヒートの手が溶けていた可能性が高かった。

そもそもレオンの装甲は軽量化を大前提とされているために必要最小限のもので、防御は視野に入れられていない。
そして、手には多くの関節が集中していることもあり、設計の都合上装甲の隙間が多くなってしまう。
にもかかわらずヒートの素手が無事だったのは幸運と言う他ない。
腕が助かったものの、置かれた状況は幸運とはかけ離れている。

モララーの棺桶に驚愕した時間は一秒にも満たない。
殺し合いの中では、その一秒未満の隙が命取りになる。
距離を取ることが出来なかったヒートの迂闊な隙を、クールは見逃さなかった。
トゥエンティー・フォーの拳が、ヒートの右肩を捉えた。

右肩から骨の折れる嫌な音を聞いたと思った時には、ヒートは建物の壁に背中から叩きつけられていた。
目の前で火花が散り、全身に激痛が走る。
まだ回復し切っていない躰に、新たな傷が増えた。
深追いしすぎてしまったと己を責めつつも、その選択に後悔はなかった。

ノハ<、:::|::,》『ぐっ……ぉ……』

( ・曲・)『さ、立ち上がってください。
     気丈な態度で立ち向かってください。
     その方が興奮しますからね』

言われずとも、ヒートは立ち上がっていた。
だがそれでも精いっぱいだった。
棺桶が補助してくれなければ、立ち上がる事すら出来ない程の衝撃。
立っているだけで、ヒートはそれ以上動くことが出来なかった。

戦う事は、とてもではないが無理だ。
逃げる他ない。

( ・曲・)『さて、さっそく――』

――バイクのエンジン音が聞こえたのは、正にその時だった。

687 名も無きAAのようです :2017/05/05(金) 09:32:56 ID:NjkwanZg0
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`i     |レ=======必_「 |ゞ======:彳   _          | |]|[][][]Tト彡'〉

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ディ、と名付けられた“Ideal――アイディール――”に跨る少年は自分の成すべきことだけを考えていた。
ハンドルを握り、両足でタンクを挟みつつも、考えることはヒートの事だけだった。
彼女のために役に立ちたい。
耳付きの少年、ブーンは雨粒の向こうにいるヒートの事を思い続けた。

彼の思いに呼応するように、ディは最短の距離を最速で駆け抜けた。
バイクに感情があるなど、お伽噺の世界だ。
勿論、ディに感情はない。
ブーンの考えていることを人工知能が感じ取るなど、あり得ない話だ。

長年の研究で多くの科学者が挑んだその命題は、世界が滅びるまで実現しなかった。
夢の終わりかと思われたが、それは誰も予想しない形で今育まれていた。
自己学習機能を備えた人工知能に対してブーンが接するうち、人工知能は設計者の予想をはるかに超えた速度で成長をしていた。
自我に近い物がすでに生まれ、搭乗者の特徴や状況を把握し、外部入力される音声から自分に対して人間の様に接してくる少年の事を考えるようになっていた。

ディは今、搭乗者の心拍数や呼吸音から精神的な状況を理解し、最速かつ安全な動きで路地を駆け抜けていた。
もしも自分に声があれば、とディはありもしない可能性を基に想定した。
落ち着くように声をかけ、抱きしめてあげればいいのだろうか。
感じ取る体重、声変わりを迎えていない中性的な声、体の大きさから推定されるのは十歳以下の幼い子供。

先ほど聞き取った銃声は少年が撃たれるような状況下にあり、それを守れるのは自分しかいない。
となれば、ディがするべきことは乗り手の生命を危険から遠ざける事。
そして、安心させることだった。
乗り手の精神的な状況が運転に影響を及ぼし、運転ミスによる死亡率の上昇に関係していることをディは知っていた。

(#゚;;-゚)

だが声にはならない。
彼女には声を発する機能もないし、その為に必要なソフトウェアが入っていないからだ。
出来ることはただ一つ。
要望に応じて目的地まで所有者を確実に連れて行く事。

(∪;´ω`)

688 名も無きAAのようです :2017/05/05(金) 09:35:55 ID:NjkwanZg0
雨に濡れ、風に凍え、それでもなお前を向き続ける少年。
ディに名前を与えてくれたブーンは、一度も弱音を漏らすことなくディのハンドルを握っていた。
体をタンクに預け、寒さに震えながら、銃弾に身を晒す危険を冒してでもまっすぐに生きる彼の目的はヒートの援護。
孤軍奮闘する彼女のためにブーンはあらゆる困難、苦痛に耐えているのだ。

これが人間。
不可解極まりない存在。
ついこの間まで、そのはずだった。
乗り手を理解するように設計されているディの人工知能は、いつしか人間を理解しようと試みるようになっていた。

詰まる所乗り手とは数多の人間の内の一人であり、乗り手が変われば人間性も変わる。
人間性の変化は運転の変化にもつながっているため、人間を理解することはどのような種類の乗り手に対しても有効な設定を導き出すために必要な下準備であり、無駄ではない。
一応は理に適っている。
効率的とは言い難いが、ディは待機中にその作業を密かに実行していた。

幾万、幾億もの計算をする中でディが参考にしたのはブーンのデータだった。
彼は子供。
子供はやがて大人になる礎であり、人格形成の基礎そのものだ。
だが人間の数が星屑の数ほどあるように、子供から大人に成長する段階は幾億にも枝分かれしてしまい、まるで予想が出来ない。

思いもよらぬ出来事に影響を受ける子供とは、どのような存在なのか。
彼が周囲で起きている事から受ける影響や、それに対する反応をディは貴重なサンプルとして蓄積することにした。
勿論、彼女が知覚できる範囲内での話だ。
今、彼女が知っている限りの情報を並べて考える限り、ブーンという少年は――

(∪;´ω`)「おっ」

――車体が大きく傾き、壁とぶつかる寸前でなんとかカーブを曲がり切った。
そして、ようやく探し続けていた人物を目視することが出来た。
雨の中で敵を前に独り立つ、ヒート・オロラ・レッドウィングの後ろ姿。
それを見た途端ブーンは安堵したが、まだ何も終わっていない。

やるべきことは一つ。
それを実行するチャンスは一度。
失敗すれば、それはブーンの死につながる。
デレシアには何度も危険性を念押しされ、ブーンは何度も理解を示した。

ブーンにとってのヒートは、デレシアと同様、失いたくない存在だった。
無力なままでは何も変わらない。
今はまだ無力だとしても、それを理由に何もしなければ何一つ変わらない。
何度も助けられてばかりでは我慢できなかった。

この世界は力が全てを変える。
誰かを助けるために力が必要だった。
ならば、変わるしかない。
非力な子供ではなく、非力に抗う子供にならなければならない。

689 名も無きAAのようです :2017/05/05(金) 09:36:53 ID:NjkwanZg0
変わりたいと願うブーンの気持ちを認めてくれたデレシアは、ディと共にヒート救出の作戦を託してくれた。
ディは運転手がいなくとも自立できるよう設計されており、また、目的地を指定すればその場所に向けて自動走行をすることが出来る。
そのため、ブーンはディに跨り、己の役割を果たすことにのみ専念すればよかった。
ブーンは囮であり、そして、要であった。

デレシアと同じローブを着て高速で逃げていれば、相手はブーンの事をデレシアと錯覚するだろう。
速度と機動力、一度も後ろを振り返らない精神力が求められる役割だったが、ブーンはそれを見事に果たした。
逃げているのがデレシアでないと分かった追手はすぐに狙いを変え、デレシアがいると思わしき方向に走り去った。
ヒートを手助けするのはデレシアではなく、ブーンだというのに。

こうしてブーンは無事に追手から逃げ延び、ヒートを救うために意識を切り替えていた。
ここからが本番だった。
デレシアが囮として戦っているのも、ブーンがこうしてディに乗っているのも。
全てはこの一瞬の為。

犯罪者たちをジュスティアの人間に任せ、その間にヒートを一時戦線から
ヒートはブーンが来ることを知らない。
打ち合わせなどない。
僅かな期間で互いの間に生まれた信頼関係、そして対応力だけが物を言う。

何としても成功させなければならない。
これまで守られ続けてきた自分が出来る、数少ない反撃の機会。
ヒートに対する恩返しの機会。
自分が誰かを守るために力を振るう、絶好の契機。

だから、叫ぶのだ。
声がかすれる程の大声で。
喉が潰れる程の大声で。
助けたいその人の名前を叫ぶのだ。

(∪;´ω`)「ヒートさん!!」

ブーンは大声でヒートの名を叫んだ。
まるで狼の遠吠え、獣の雄叫びのような大声量。
その声は暴風雨の中でも、まっすぐにヒートに届いてくれただろうか。
瞬く間に距離が縮まるが、ヒートは振り返らない。

もしも彼女にこの声が届き、そして、ブーンがここに来た意味を察してくれたのであれば反応があるはず。
あらゆるコミュニケーションの壁を越えた、反応が――

ノハ<、:::|::,》

(∪;´ω`)

――二人は視線を合わせることもなく、同時に手を伸ばした。
例え数百回練習したところで、ここまで見事な形で実現することは不可能だろう。
嵐と言う悪天候、そして戦闘中という環境に身を置きながらも、二人の呼吸は完全に一致していた。
まるで生まれた時から互いをよく知る姉弟の様な、阿吽の呼吸。

690 名も無きAAのようです :2017/05/05(金) 09:40:24 ID:NjkwanZg0
巨大な左手がブーンの右手を掴み、ほんのわずかに力が込められただけでその体は風に舞う木の葉のように軽々と持ち上がる。
そして鮮やかな動きでブーンの後ろに座った瞬間、ディの電子制御サスペンションが効果を発揮した。
自動で調整されるそのサスペンションは急な衝撃を緩和し、速度を落とすことなく疾走を継続させた。
ヒートの体が力なくブーンの背中にもたれかかり、辛うじて左手が体に回されている。

負傷しているヒートの為にも、急いで次の段階に移る必要があった。
目的地は、この島で最も安全な場所。
停泊中の船上都市、オアシズ。
戦闘行為はジュスティアの人間に任せておけばいい。

( ・曲・)『ああ?!』

狼狽する男の横を難なく通り抜けたブーンは、背後から迫る巨影に気付いた。
バックミラーを見ると、そこには岩石の様な姿をした棺桶が立っている。
一目で頑強な装甲を持ち、攻撃ではなく防御に特化した存在であることが分かる。
やはり簡単にはいかないようだ。

〔::‥:‥〕『そう簡単に逃がすと思うか』

速度ではこちらが勝っているが、その手が握っている瓦礫はよくない。
砲弾を彷彿とさせる勢いで投げられた瓦礫をバックカメラで捉えたディはそれを回避したが、続く二投目、三投目の攻撃を避けられるかは分からない。
目の前に鉄骨が落下し、ディは急制動と急ハンドルを駆使して激突を免れた。
速度が落ちた一瞬を狙い、巨像が疾駆する。

短距離であれば速度でディに勝ることが出来るようだ。

〔::‥:‥〕『死ね、駄犬……!!』

淡々と、そして地の底から響く声がブーンの耳に届く。
これがデレシアの話に出てきた、ヒートの母親。
普段は冷静なヒートが激情に駆られる諸悪の根源。
忌むべき相手であり、油断のならない女であることは聞いている。

だがこの状況に陥っても、ブーンは焦らなかった。
焦る必要がないと分かったからだ。
ブーンには届いていた。
風変わりな音を奏でる風切音、タイヤが地面を高速で蹴り飛ばす音、そして覚えのある呼吸音と体臭をブーンは感じ取っていたのだ。

(∪;´ω`)「おねがいします!!」

両者の間に割り込む形で現れたのは、以前にブーン達を追いかけてきた独眼の棺桶に跨るトラギコ・マウンテンライトだった。

(=゚д゚)「一つ貸しだ、小僧!!」

接近していた女の拳をトラギコの刀が捉え、弾く。
勢いを殺された女はブーン達に追いつく術を失い、トラギコとの対決へと引きずり込まれた。
忌々しげに女が吠えるも、その声はもう届かない。
二人を乗せたディはその場を脱し、オアシズに向けて進路を変更する。

691 名も無きAAのようです :2017/05/05(金) 09:50:45 ID:NjkwanZg0
追手はもういなかった。
これで第一段階は完了したことになる。
即ち、本来対処すべき人間がそれぞれの位置につき、然るべき対処をする状況。
絡まった糸を解き、整える段階。

オアシズに到着してからは、第二段階へと作戦は移行する。

(∪´ω`)「ヒートさん、だいじょうぶ、ですか?」

ノハ<、:::|::,》『あぁ…… 悪いな、かっこ悪いところ見せちまって』

(∪´ω`)「お? かっこわるく、ないですお」

ノハ<、:::|::,》『……悪ぃな』

ブーンはヒート・オロラ・レッドウィングの過去に何があったのかを知らない。
彼女が母親を憎んでいる事、その母親がヒートを殺し屋へと駆り立てた影法師である事ぐらいだ。
難しいことは分からないが、それでもいい。
ブーンにとってヒートとは大切な人であることに変わりがなく、その過去に何があろうとも、過去は過去でしかないのだ。

ノハ<、:::|::,》『デレシアは?』

(∪´ω`)「ほかにやることがあるって、いってましたお」

ノハ<、:::|::,》『そうか。 しかし、すげぇな、ブーン。
      バイクの運転が出来るようになったのか』

別れてから一日も経っていないのに、ブーンはヒートの事が恋しくて仕方がなかった。
彼女がどこか遠くに行ってしまうのがたまらなく怖かった。
だからこうして彼女の声が間近で聞こえ、その漂う香りを感じている今。
ブーンは心底安心していた。

それはデレシアと共にいる時と似ているが、少し異なる安心感だった。
例えそれが傷ついた状態のヒートであっても、その存在そのものがブーンを安心させているらしい。

(∪´ω`)「おー、ディ、じぶんではしれるから、ぼくはのっているだけですお」

ブレーキレバーを握ることも踏むことも、ましてやクラッチを変えることもブーンには出来ない。
全てはディの人工知能によって電子制御され、最適化されているに過ぎない。
その機能が付いていたからこそブーンがヒートを助け出せたのだが、やはり、情けないという気持ちが生まれてしまう。

ノハ<、:::|::,》『自信を持ちなよ、ブーン。
      お前が乗っていたからディはここまで頑張ってくれたんだ』

(∪´ω`)「お?」

ノハ<、:::|::,》『バイクは、人を選ぶ乗り物なんだ』

692 名も無きAAのようです :2017/05/05(金) 09:53:25 ID:NjkwanZg0
そうなのだとしたら、ディはブーンを選んでくれたのだろうか。
確かに、ディはブーンに合わせて車高などを変えてくれているが、それは機能を果たしているだけではないのだろうか。
不安げにディのメータを見たブーンは、それまで何も表示がなかった個所がピンク色に光ったのを見た。
そこには、思わずブーンの尻尾が動く文字が映っていた。

“肯定”、とそこにはディの言葉が映されていたのだから。

(∪*´ω`)「お!!」

喜びも束の間。
嵐が激しさを増し、風が鐘を不規則に揺らして不協和音を奏でる。
その音はブーンの耳にとって不快極まりない音であり、ヘルメットをしていても届いてくる音に眉を顰める。

ノハ<、:::|::,》『この後どうするのか、デレシアから聞いてるか?』

(∪´ω`)「おー、おあしずにいけば、あとはだいじょうぶっていってましたお」

作戦の仔細は全てデレシアの頭の中に描かれているため、ブーンは作戦の全てを知っているわけではない。
ブーンはオアシズに到達すれば、後は自ずと作戦の第二弾が始まるとだけ聞かされていた。
絡まっていた糸が元に戻り、その次に起こることは想像に難くない。

ノハ<、:::|::,》『相変わらずだな、デレシアは』

(∪´ω`)「おー」

ヒートもそうだが、デレシアは分からないことだらけだ。
謎が多く、共に旅をしていても知らないことは尽きない。
だが謎の有無はブーン達の関係に於いて、なんら問題にもならない。
誰もが過去を持っているように、誰もが知られていない何かを持っている。

これは、デレシアからの受け売りだった。
その通りだと思うし、実際、その言葉の通りだった。
それでも、ブーンは己の好奇心を押さえきれるか自信があまりなかった。
デレシア達と会うまでの人生では考えられない事だったが、ブーンは少しでも多くの事を知りたいという欲に駆られることが多くなっていた。

文字も、言葉も、常識も、この世界に溢れる何もかもを知りたい。
途方もない欲であり、途方もないわがままだ。
勿論、この事はデレシアに話してある。
そしてデレシアは、ブーンの頬に己の頬を当ててこう返したのであった。

ζ(゚ー゚*ζ『女性にはいつだって秘密がつきものなのよ、ブーンちゃん』

693 名も無きAAのようです :2017/05/05(金) 09:57:11 ID:NjkwanZg0
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   云x           \.∨:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.
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     }弍:ハ  fr云=≦⌒    `ヾ彳 :!:.i:.:./       August 11th PM13:39
   /'.  .゙   }:. `t込ア       }ハj ':.:!:.{:
  /. : : . .′  ゙           f__/ イ:.:::.:{:
 : : : : : :.レ              廴_乂:{ 从(: :
 : : : : : :ハー--             ゙. : :  /イ〈: : :
 : : : : : :ハ ー- _   _`ヽ     ′   _{ ): :
 : : : : : : : :} こー== ´    /. : _.r-:イ 才{{ :
 : : : : : : :八   ̄     . イ. : :r-く {乂{> ´: :
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眼下で繰り広げられていた戦闘が終わってから、一人の男が感嘆の声を上げた。

(’e’)「いやはや、すごいな……」

男は臨時休業となった喫茶店で優雅にコーヒーを啜り、こめかみに人差し指を当てて考え事を始める。
これは極めて興味深い物が現れた時にする男の癖だった。
男の名前はイーディン・S・ジョーンズ。
考古学の権威であり、そして棺桶研究の第一線で活躍する先駆者だ。

ジョーンズが見ていたのは、デレシアの戦闘だった。
彼は同僚のジョルジュ・マグナーニに言われ、デレシアの戦闘を観察する役割を担っていた。
不慣れな戦闘から遠のくことが出来るのはありがたい話で、正直、最初は気が進まなかった。
そのため彼は臨時休業の看板を出していた喫茶店に押し入り、ジョルジュにコーヒーを用意させることで、その役割を請け負った。

想像以上の成果が得られた。
人間が銃を持ったところで、棺桶との戦闘をあそこまで華麗にこなせるはずがない。
現代でジョーンズ程棺桶を知っている人間はいないと彼は自負しているし、世間もそう評価している。
その彼が、棺桶を誰よりも愛する彼が断言する。

あれは、人間の動きではない、と。
あまりにも人間離れしたデレシアの動きに、ジョーンズはすぐに興味を持った。
人間が人間以上の動きをすることが可能かと問われれば、ジョーンズは迷わず首を縦に振り、その質問をしてきた愚か者に拳骨を進呈するだろう。
恐らく、ジョーンズの知らない棺桶をデレシアが所有、使用している可能性があると結論付けた。

薄型の棺桶は、実際に幾つも発見されている。
その最たる例が、“アート・オブ・ウォー”だ。
極めて薄く、まるで衣服のように着用することが出来るだけでなく、筋力補助によりBクラスの棺桶と格闘戦を行えるほどの高性能を誇る。
デミタス・エドワードグリーンの持つ“インビジブル”から着想を得た棺桶の一機だ。

その系統の一機をデレシアが使っていると考えれば、あの化物じみた動きにも説明がつく。
一体、何を使っているのか。
ジョーンズの興味はそれだけだった。
女の正体などはどうでもいい。

694 名も無きAAのようです :2017/05/05(金) 09:59:37 ID:NjkwanZg0
気になるのは、女の使う棺桶の正体だ。
名前は。
起動コードは。
コンセプト・シリーズなのか、それとも別のシリーズなのか。

考えれば考える程、興味深さが増していく。
粗暴で短気な性格をしているが、人間を見る目や行動力のあるジョルジュが気にしているだけの価値はある。
なるほど、確かに、気を付けなければならない女だ。
あのショボン・パドローネがまるで子供扱いだ。

(’e’)「しかし、恐ろしい女性だよ、本当」

恐ろしいのは戦闘能力だけではない。
気が付けば戦況は大きく変化し、当初描いていた計画は破綻させられている。
ジュスティア警察、軍、円卓十二騎士の目はティンバーランドの人間へと向けられてしまい、その対処まで自然と引き継がれてしまった。
ティンバーランドの人間がジュスティアに感知される前にデレシア達を排除するはずだったのに、これでは悪い方向へと話が流れてしまう。

脱獄させた犯人たちもそうだが、揺るがぬ証拠として効力を発揮する写真まで残されたとなれば、大きな作戦変更が急務となる。
デレシアとヒートが別れていた絶好のタイミングを失った側としては、次の機会を得られるとは思わない方がいい。
早期撤収の後、方針を定めなければならない。
このままデレシアを潰しにかかるか、それとも、このタイミングでは諦めるか。

西川・ツンディエレ・ホライゾンは決して諦めないだろう。
そもそも、この作戦自体がティンバーランドの目的を邪魔した人間を排除するための作戦であるため、このまま進むしかない。
仮にジョーンズが指揮官ならばそうする。
そうする以外の選択をするならば、最初から止めておけばよかったのだと一言釘を刺したうえで、こちらの独断で続行する。

故に、次の一手が勝敗を決する。
何に重きを置き、行動するかによっては組織の今後にも関わってくる。
ショボンの作戦が失敗したのはこれで二度目。
“あの”ショボンの作戦が立て続けに破られたとあれば、デレシア相手の作戦は彼に任せられない。

何より、ジョーンズ自身が我慢できなかった。
折角の謎をショボンやジョルジュだけが味わうなど、言語道断。
組織内ではジョルジュが一番デレシアについて執着しているようだが、だからといって、その分だけ彼が優れているわけではない。
今からでも追いつけばいい。

実際に目にして分かる、その深淵さ。
デレシアと言う女は実に、実に、実に。
実に、興味深い。
物知らぬ愚者はただの厄介者として認識し、思考を停止するだろうが、ジョーンズの目を誤魔化すことは不可能だ。

あの女は、ただの厄介者にあらず。
この世界に残された巨大な謎の一つだ。
考古学を学ぶジョーンズは、その名前が持つ特別な意味を誰よりもよく知っている。

(’e’)「どれ、知恵比べといこうか。
    歴代のデレシアとの差異、検証させてもらうよ」

695 名も無きAAのようです :2017/05/05(金) 10:01:52 ID:NjkwanZg0
これは彼にとって、棺桶以外で唯一興味をそそられる事案だ。
多くの街にその名を残すデレシア。
それは時には悪名であり、それは時には神にも等しい名前として文献に残っている。
街を救い、街を滅ぼし、街を復興させた者の名前。

この事実はジョルジュも知っており、ジョーンズは彼の推測が理に適っていることに感心した。
流石は元警察官。
その推理力は大したものだが、その秘密を独り占めしようとするのは感心できない。
美味いケーキは一人で食べるのではなく、分けて食べるべきだ。

そしてジョーンズは、分けたケーキを全て一人で食べたいと思う性格をしている。
ジョーンズはジョルジュに感謝した。
世界に数多存在する大きな謎の一つを目にする機会を得ただけでなく、実験をする機会まで得られたのだ。
この機会を使って、研究を進められる。

文献に記されたデレシアの働きが誇張された物なのか、それとも事実なのか。
試してみれば嫌でも分かるはずだ。
勇猛果敢な女傑も、噂という分厚い鎧で護られたただの雌である可能性はゼロではない。
学者冥利に尽きる素材の登場に、ジョーンズは引きつった笑いを浮かべる。

(’e’)「ああ、楽しみだ。
   本当に、楽しみだよ、デレシア」

そう呟いたジョーンズの股間は固くなっていたのであった。

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Ammo→Re!!のようです
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Ammo for Reknit!!編 第六章【bringer-運び手-】 了
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696 名も無きAAのようです :2017/05/05(金) 10:06:50 ID:NjkwanZg0
これにて第六章はおしまいです

質問、指摘、感想などあれば幸いです

697 名も無きAAのようです :2017/05/05(金) 13:55:38 ID:EqK3tzOw0

そろそろ6章も佳境かな

698 名も無きAAのようです :2017/05/05(金) 13:58:03 ID:EqK3tzOw0
あ失礼、間違えたReknit編も佳境かな

699 名も無きAAのようです :2017/05/05(金) 22:28:52 ID:XhlxOTCc0
おつです
こちらにイージー・ライダーのイラストは貼らないのです?

700 人妻出会い掲示板 :2017/05/06(土) 15:56:59 ID:/FecYoDM0
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701 名も無きAAのようです :2017/05/06(土) 22:07:51 ID:77/nppew0
>>699
(’e’)「こんなこともあろうかと改良を加えておったのじゃ」
http://blog-imgs-101.fc2.com/a/m/m/ammore/20170506220539a93.jpg

702 人妻出会い掲示板 :2017/05/07(日) 06:31:43 ID:vqAO1WyE0
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703 名も無きAAのようです :2017/05/07(日) 18:26:54 ID:ZHuc3QKU0
やはり天才か…

704 名も無きAAのようです :2017/05/07(日) 21:59:45 ID:f6cWj.uI0
>>703
(’e’)「ほほう、違いが分かるようだね」
http://blog-imgs-101.fc2.com/a/m/m/ammore/20170507215818614.jpg

705 名も無きAAのようです :2017/05/08(月) 08:39:11 ID:wN8ArsCE0
顔が想像よりMADで怖かった

706 人妻出会い掲示板 :2017/05/09(火) 07:29:52 ID:9Quw/NDk0
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707 名も無きAAのようです :2017/05/13(土) 18:47:01 ID:s/PBTxZI0
(∪´ω`)φ″「ひとづま、せふれ、じゅくじょ。

         おー……ふりん?

         けいじばんで、であいせっくす……お?」

708 人妻出会い掲示板 :2017/05/15(月) 05:20:13 ID:C9avMoxg0
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709 名も無きAAのようです :2017/06/11(日) 18:33:44 ID:gfJLzDVA0
今夜VIPでお会いしましょう

710 名も無きAAのようです :2017/06/11(日) 20:11:21 ID:b7qTW8Ck0
かっこいいこと言いやがって

711 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 20:27:56 ID:cylVOJUg0
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彼に盗めぬものはない。
その技は芸術。
その姿は概念。
そう、彼こそは世紀の大怪盗。

アルセーヌ三世(アルセーヌ・ザ・サード)。

――ファンキー・モンキー・キック著:【アルセーヌ三世】冒頭部より。

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┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻

船上都市オアシズの高級ラウンジには黒雲から降り注ぐ大粒の雨と大木を揺らす風を堪能する客が訪れ、嵐を肴に美酒を堪能する客が卓を囲んで話に花を咲かせていた。
ラウンジ内にはジャズの演奏がほどよい音量で流れ、照明は自然の明かりを最大限取り入れることで、まるで白夜の様だった。
客の間で交わされる話は主に、停泊中の島で起こっている騒動についてだった。
島にある監獄から二人の囚人が脱獄し、島に逃げ込み、深刻な問題を起こした。

そしてジュスティア警察、軍が介入したことによって状況が激変し、島はそれまで満ちていた平和を失い、今や戦場と化してしまっている。
先日まで同じ状況に陥っていた客たちは同情半分、好奇心半分で事態が収束するのを期待していた。
他人の不幸は蜜の味。
己の安全さを痛感することに快感を覚えるのは彼らが金持ちだからか、それとも、人間が持つ欲望に魅せられてしまったからなのか。

正常とは言い難い経験の後では彼らの思考が錯乱するのも無理はない。
帰還兵の中にも平和に耐え兼ね、次の戦場を捜し歩く人間がいるぐらいだ。
イルトリアの前市長、ロマネスク・O・スモークジャンパーはグレープフルーツジュースを一口飲んで、それからショートケーキを口に運んだ。
威圧的な効果を与える黒いスーツと黒いワイシャツ、そして筋骨隆々とした肉体とその食事の組み合わせは、どこか奇妙だった。

( ФωФ)「ふむ」

彼は甘いケーキを静かに味わいつつ、物思いに耽っていた。
その目は静かに閉じられ、まるで、瞑想をしているかのようだ。
瞼の上に負っている深い傷を見れば分かる通り、彼の視力は大分悪く、目を見開いたところでその黄金瞳が捉えるのは滲んだ景色だけ。
だが見えないからこそ分かることもある。

生物は失った器官を別の物で補う習性があり、視力に頼ることの減ったロマネスクが得たのは、より優れた聴力と嗅覚だった。
物音や匂いで周囲の状況を判断する力は前から持っていたが、それが更に研ぎ澄まされた彼には、普通以上の情報が入ってくることとなる。
時にそれは視覚以上の情報を彼にもたらした。

( ФωФ)「……そろそろか」

最後のひとかけらとなっていたケーキを平らげ、ジュースを飲み干す。
紙ナプキンで口元を拭い、ロマネスクはゆっくりと立ち上がった。
ラウンジのざわめきを背に、彼は静かな足取りで自室へと向かう。
その歩みは自信に満ち、迷うことなく通路を進んでゆく。

712 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 20:28:46 ID:cylVOJUg0
すれ違う人々とぶつかりそうになることも無く、ロマネスクはただ、風のように静かに進む。
彼が独り言のように口を開いて言葉を紡いだのは、果たして、何がきっかけだったのだろうか。
鼻歌を歌うような気軽さで、ロマネスクは真後ろに控えていた人物に話しかけた。

( ФωФ)「吾輩に用か?
       変装までしてご丁寧なことだ」

よほど観察力の優れた人間でなければ、彼が話しかけたかどうかさえ分からなかっただろう。
あまりにも自然すぎるその動作に対して応じた男の反応もまた、自然極まりない物だった。
故に、二人が会話をしていることに気付いた人間は皆無だった。

¥・八・¥「……お気づきでしたか」

背後にいた髭の男、オアシズ市長リッチー・マニーはその姿のままロマネスクの横に並んで歩いた。
オアシズを取り仕切るその男の立ち振る舞いは優雅さを決して失わず、それでいて自然体を保っている。
ある意味では、マニーは優れた役者だった。
己の心境を決して表に出さず、やるべきことにだけ目を向ける姿は、正に一つの役割を演じ切らんとする役者そのものだ。

( ФωФ)「何と言ってきた?」

¥・八・¥「“残火の処理を”、との事です」

皺の刻まれたロマネスクの口元が、僅かに笑みを形作る。
そしてほとんど見えていない黄金瞳をマニーへと向ける。

( ФωФ)「なるほど。
       お前は?」

¥・八・¥「予定通りに」

( ФωФ)「うむ」

何事もなかったかのように、二人はそれぞれ別の道を選んで別れた。
二人が会話をした時間は三秒程。
その声量は絞られ、嵐の音と船内に流れる緩やかな音楽、そして人々の喧騒によって周囲には聞こえていない。
そう、ただの人間には、決して聞き取ることが出来なかった。

( ФωФ)「……任せる」

独り言のようにつぶやかれたロマネスクの言葉は、果たして誰の耳に届いたのだろうか。
返答らしい返答はない。
それでも、彼は意に介した様子もなく、静かに歩き続けるだけだった。

713 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 20:29:40 ID:cylVOJUg0
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.        /  ̄/ /   /| |    _ ⌒\  ミ   \}
..   ー-- …''゛ /___,. ''゛ ノ | 斗''`ィ''"⌒  ミ  ト   \
      `¨¨¨¨´ {/⌒''ニニ x / ⌒ィ'代万⌒   ト 人 `'ト---
       {    {  代辷ソッ/ /               j/ ヽ| | August 11th PM02:15
       八  !     //|            〈^ | |
        丶  丶   __/   |                 ノ 八|
         \  \      l:::.、            r /
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オアシズは五つのブロックに分けて統治され、そのブロックごとに責任者が定められていた。
責任者は誰もが優れた能力を有する者で、己の力を正しく判断していた。
市長室に集めた得手不得手を知る五人のブロック長を前に、リッチー・マニーは最優先でやるべきことを告げた。

¥・∀・¥「医療室を確保、腕が確かで口の堅い船医を用意できるか」

('゚l'゚)「私が請け負います。
    ドクター・クルウにも協力を依頼します」

市長が最初に発した命令に対し、第一ブロック長、ライトン・ブリックマンが真っ先に挙手した。
マニーが頷き、ライトンへとその一件は一任される。
誰も異議を唱える者はいなかった。
一礼し、ライトンは足早にその場から移動した。

残った四人に視線を戻して、マニーが話を続ける。

¥・∀・¥「アイディールの整備を担当していたのは?」

マト#>Д<)メ「私のブロックにおります。
       腕も、口の堅さも保証できます」

市長の求める状況を把握したその人物は、第五ブロック長マトリクス・マトリョーシカ。
その目はまっすぐにマニーを見据え、ただ一言を待つ。
期待に反せず、マニーはその言葉を放った。

¥・∀・¥「すぐに用意を」

短く首肯し、彼女は走って部屋を後にした。
遠ざかる跫音だけで彼女がどれだけ真剣に事態を受け止めているのか、マニーにはよく分かった。

¥・∀・¥「医療室、およびアイディールの整備を行う部屋を警護してもらいたい。
      ジュスティアの人間ではなく、先の騒動の際、我々のために戦ってくれた信頼の出来る人間に限る」

誰よりも早く、第四ブロック長クサギコ・フォースカインドが手を挙げた。
事前にその言葉が来ることを予期していなければ、ここまで素早くは動けなかっただろう。

W,,゚Д゚W「お任せください」

714 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 20:31:46 ID:cylVOJUg0
彼の言葉には力がこもっていた。
絶対の信頼を置ける人間に心当たりがあることは何よりも強みとなる。
クサギコの頭の中にはマニーの要望を満たすことのできる人間が複数人浮かんでおり、有事の際にはすぐに行動できるように常に密な連絡を取る仲だ。
事態に合わせて彼は絶対の信頼を置く部下の名前を記憶しており、今回の様な護衛任務に適任とされる人間は特に強く印象に残っている。

クサギコは駆け足で部屋を出て行き、残ったブロック長は二人。

¥・∀・¥「これから乗船する客が二人くる。
      その迎え入れ、および適所への誘導を」

ノリパ .゚)「承ります」

静かに、だが有無を言わせぬ口調で第三ブロック長ノリハ・サークルコンマが名乗りを上げた。
マニーは無言で頷き、ノリハはすぐに無線の電源を入れて行動を開始した。
情報がまるで蜘蛛の巣のように広がり、ノリハへと集約される。
これにより、離れていたとしても情報が逐一共有されるため、ノリハは素早く的確な指示を出すことが出来る。

¥・∀・¥「ロミス、君には事後処理をお願いしたい。
      いくつ出るか分からないが、また死体が増える。
      それを秘密裏に処理できるか?」

最後に残った男は、自分の役割を心得ていた。

£°ゞ°)「船上での事故はよくあることですので、お任せください」

仔細を聞かずとも、第二ブロック長オットー・リロースミスが市長の依頼を引き受けたのは、市長の決断に対して疑念を持っていないからである。
彼らは皆、オアシズと言う船を守るためであればその手を汚すことも厭わない。
“オアシズの厄日”と呼ばれる一連の事件を経てから、彼らの連帯感は強くなっていた。
同一の目的を達するためにはそれぞれの役割を果たし、共通の敵を排除することが最優先だとようやく理解したのだ。

全てのブロック長がそれぞれの能力を生かし、市長の指示に従う姿は軍隊を彷彿とさせる。
市長の指示は即ち、彼らが選んだ代表者の意志。
緊急時に下されるその決断に過ちはない。

¥・∀・¥「さぁ、ここからが忙しくなるぞ」

ネクタイを締め直し、マニーは無線で入ってきた内藤財団のニュースを文字化した資料に目を通し始めた。
この忙しい事態の中で発表されたのは、世界共通の単位。
それはあまりにも魅力的な提案であり、画期的な発案だった。
長さや重さに関する単位の煩わしさは彼も感じており、どうにか統一できない物かと考えたこともあった。

世界最大の企業がその提案をするという事は、遅かれ早かれ他の企業もそれに追従することになる。
しかもそれが浸透するためにラジオを無償配布するという方法も大企業だからこそ実現できるもので、利益を度外視した物だった。
ラジオは新聞よりも早く、そして識字について考えなくて済む情報媒体。
声と電波さえあればどこまでもほぼ同じタイミングで同じ情報を流せるだけでなく、会話まですることのできる太古の技術。

ラジオによって発せられる広告は新聞やチラシよりも明確に人々に伝わり、そして伝播する。
巨大な広告市場を自ら開拓し、大きな損をして大きな得を取る戦術に出たのは大胆な発想だが、効果的だ。
オアシズにもラジオは当然あるが、それは客室で客たちが自由に聞くことのできる設備としてあるため、船内中に流してはいない。
地上の喧騒を忘れるために穏やかな曲を流し、客に極上の船旅を楽しんでもらうのがオアシズの方針であり、よほど緊急性の高いニュース以外は放送されなかった。

715 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 20:33:25 ID:cylVOJUg0
マニーが考えていたのは、この情報を流すかどうかだった。
明日の朝刊には間違いなくこの発表が一面に載るだろう。
だがこれは内藤財団独自の発表であり、客に知らせるのはマニーの責任でも仕事でもない。
これをどうするべきか、マニーは悩んでいた。

一つの問題にだけ頭を悩ませられればいいのだが、今は島の問題と船の問題、そしてこのニュースの問題があった。
世界を大きく変える可能性のあるニュースは、客にとっては有益な情報だ。
だが果たして、この情報は本当に客に伝えるべきなのだろうか。
余計なことに意識を向けてもいいのだろうか。

島で起きている問題を解決するためには、デレシアの力なくしては不可能だろうし、彼女のためならマニーはあらゆる協力を惜しまない。
最優先事項はデレシアとの連携。
そう考えれば、今、余計なことに意識を向けることはやはり愚行としか言えないだろう。
もし彼女の予定が狂い、一時的にティンカーベルからオアシズへ戻ってくるとなれば、それに即応する必要がある。

万が一の話であり、その可能性は極めて低いことをマニーは分かっていた。
彼女は自分の力と知恵で最悪の状況を打破することに長けており、マニーの手を借りずともこの急場を脱することだろう。
ジュスティアが介入したことによって島の状況は刻一刻と悪い方向へと流れている。
だがこれはデレシアの予想の範疇。

彼女はこうなる事を見越して、マニーに連絡を入れていた。
アサピー・ポストマンの保護は予定外だったが、それでも、それはすぐに作戦に組み込まれた。
そして今、事態を変えるための第一段階が終了したとの連絡があり、第二段階への移行が始まった。
オアシズが助力できるのはここからだ。

この島の中で唯一の安全な場所としての役割を果たす。
言わば箱舟。
その役割を果たすためには、今少しやるべきことがある。
それは残念ながらオアシズの人間だけの力では解決できないため、イルトリアの前市長の力を借りることとなっている。

勿論、その橋渡しをしてくれたのはデレシアだ。
彼女のおかげで事態はまとまりつつあり、対応しやすくなってはいるが、マニーには今の状況でも正直厳しい。
だが困難こそが人を成長させる最上の素材。
マニーが今一歩、市長として必要な資質を身につけるためには越えなければならない壁なのだ。

単位統一のニュースは一度棚に上げ、欲張らずに事態終息に助力することに決めた。
今はデレシアの指示を全力で補助する。
それからでもニュースを伝えるのは決して遅くはないだろうし、客同士の間で噂が広がってマニーが手を出す必要がなくなる可能性もある。
書類入れに紙を放り入れ、マニーは己の迷いを恥じ入った。

――ほどなくして、オアシズを目指して疾走してくる一台のバイクが現れたのを、ノリハ一行は船外で目視した。
追手が来ていたとしても迎撃できるよう、彼女達は全員が銃器と共に強化外骨格を装備していた。

ノリパ .゚)「来ました、急ぎ確保……を……」

指示を出すノリハの声が尻すぼみとなり、その目に映る光景を理解しかねていることが周囲に伝わる。
周囲も同じ気持ちだった。
バイクにまたがるのは二人。
一人は強化外骨格に身を包んだ人物。

716 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 20:35:35 ID:cylVOJUg0
そして、ハンドルを握るのは――

(<:: ´ω::>)

――どう見ても、子供だった。

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              Ammo→Re!!のようです Ammo for Reknit!!編

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戦闘続行よりも戦略的に迅速な撤収を選択したのはイーディン・S・ジョーンズだった。
ジョーンズの判断に従い、奇襲の優位性を完全に失っていたジョーンズの仲間達は皆、どうにか撤収することが出来た。
それはあまりにもみじめな撤収だった。
奇襲と言う有利な立場だったにも関わらず、必殺を誓った奇襲だったにも関わらず、彼らは失敗したのだ。

結果論になるが、彼らの矜持が失われた代わりに彼らは命を失わずに済んだ。
少しでも撤収の合図が遅れていたら、彼らの中に死者が出ていた可能性は極めて高かった。
また、彼らの撤退は嵐という天候にも恵まれ、合図から十分以内に姿をくらますことは難しくはなかった。
そういった意味では、かなりの幸運に恵まれていた。

日は沈み、嵐は次第にその勢力を失い、ティンカーベルには静かな夜が訪れていた。
ただし、主を失った教会に集まる人間の間に漂う空気は刻一刻と険悪なものになっていた。

(’e’)「おいおい、そろそろこの空気をどうにか止めてくれないかな。
   まるで子供同士の喧嘩じゃないか」

湯気の立つコーヒーを飲みつつ、ジョーンズは五度目となるその提案をした。
一度目は一堂に黙殺され、二度目は数人から舌打ち、三度目はほぼ全員から溜息、そして四度目は誰かに机を蹴られた。
人を殺せそうなほどの眼力で彼を睨みつけたのは、ショボン・パドローネだった。

(´・ω・`)「博士、貴方の考えは大いに分かる。
     だが、ここで手を引いてしまえばあのデレシアを仕留めることは不可能になることも理解してもらいたい」

ジョーンズが決定した撤退について、全ての人間が納得しているわけではない。
彼らは自分達が有利な立場にありながらもそれを生かしきれず、あまつさえ、対象に逃げられるという失態を犯していた。
その失態を一分一秒でも取り戻したいと考えるのは、それだけ彼らが真剣に取り組んでいる何よりの証明だ。
全員の真剣さは理解しているつもりだけに、ジョーンズは嘆かわしそうに答えた。

(’e’)「はぁ、そうは言うけど君ねぇ、あれは無理だよ。
    ジョルジュ君。 君からも言ってあげてくれたまえよ。
    デレシアをどうこうするのは、我々だけでは無理だと」

話を振られたジョルジュ・マグナーニは缶ビールを一口飲んでから深い溜息を吐き、つまみのポテトチップスに手を伸ばした。
もぐもぐとポテトチップスを食べ、それをビールで流し込んだジョルジュは小さくげっぷをし、短く答えた。
  _
( ゚∀゚)「あぁ、無理だな」

717 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 20:36:37 ID:cylVOJUg0
そうしてまたビールで喉を潤す姿には、真剣さはまるで見えない。
だがジョルジュはそう答えるしかなかった。
それが事実なのだ。
嵐に対抗するのが不可能なように、今はまだ、デレシアには対抗しようがない事を彼は良く知っていた。

(´・ω・`)「なぁ同志ジョルジュ。 どうしてあの女の事を知っていたのに黙っていたんだ?
     情報があれば殺せていたかもしれないんだぞ!!」

かつての同僚に、ショボンが憤りを露わにした。
情報を意図的に隠していたジョルジュの行いは、作戦の成功を左右するだけのものだったに違いない。
終わったことに対して文句を言うのはショボンの流儀ではないが、それでも、ジョルジュの行いは許しがたい物だったろう。
今回の作戦指揮を執っていたのは他ならぬショボンだったのだから、無理もない。

彼は作戦を成功させるために緻密な計画を練る性格をしており、些細な情報でも仕入れておきたかった。
例えば、デレシアの行動パターン。
この空間に集う人間で唯一、デレシアの行動を先読みして動いていたのはジョルジュだった。
それが彼一人ではなく、ショボン達全員だったとしたら、デレシアに勝っていたかもしれなかったのだ。

勝てなかったとしても、一矢報いるぐらいは出来たかもしれない。
  _
( ゚∀゚)「だから、話を聞けよ。
    いいか、デレシアを相手にして今生きていることを感謝するんならまだしも、文句を言われる筋合いはねぇよ。
    第一、先読みして全員で動いてみろ。
    これからパーティーをやるって相手に伝えてるようなものだぞ」

デレシアの動きによってショボンの思い描いていた作戦は破綻し、ジュスティアにデレシア達こそが悪の元凶だと思わせる目的は達成できなかった。
それだけではない。
デレシアはショボン達の対処をジュスティアに自然な流れで引き継がせ、自分は早々にその場から姿をくらまし、今もどこかに消えたのだ。
絡ませた糸が元に戻され、挙句、隠れ潜んでいたショボン達の存在が世界最大の正義信奉者に察知されてしまった。

まだ存在を隠し通す術はあるが、手間を考えると大打撃だった。
残ったのは面倒事と自分達の命だけだ。
これならいっそ、デレシアに攻撃を仕掛けるべきではなかったとさえ思える。

(#´・ω・`)「あぁ、糞!!」

从'ー'从「煩いハゲは嫌われるわよぉ」

ソファに寝そべって赤ワインをボトルから直に飲み、ワタナベ・ビルケンシュトックはチーズを几帳面にクラッカーに乗せて口に運ぶ。
教会に保管されていたその赤ワインは二十年近くも寝かされていた貴重な一本だったが、彼女は全くそれを気にする様子もなく、香りを楽しむ風もなかった。
彼女にとってワインの良しあしなど関係なく、アルコールが体に沁み渡るか否かだけが重要なのだ。

从'ー'从「負けは負け、そうでしょ?」

(#´・ω・`)「第一、お前もお前だ、同志ワタナベ!!
      もう少し真面目に任務を果たそうとは思わないのか!!
      同志キュートの推薦が無ければ、今すぐお前を殺しているところだ!!」

从'ー'从「はいはい、次はどうにかするからぁ」

718 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 20:39:35 ID:cylVOJUg0
これまた貴重なチーズに外皮ごと直接齧り付き、ワタナベはそれを咀嚼した。
再びワインを乱暴に飲み、チーズの欠片を胃袋へと落とした。
ショボンには視線を向けさえしなかった。

川 ゚ -゚)「なぁ、同志ワタナベ」

紅茶を飲んでいたクール・オロラ・レッドウィングは冷ややかな視線をワタナベに向けたまま、氷の刃じみた声で言葉を紡いだ。

川 ゚ -゚)「どうしてあの刑事に固執する?」

ワインで最後のチーズを飲み下し、ワタナベは挑発的な視線をクールに向ける。
口元は嘲笑するような三日月形に歪み、口の端についたワインがまるで血のように輝く。

从'ー'从「あらぁ、何の話かしらぁ?」

( ・∀・)「意図的にチャンスを与え、あまつさえ生き延びるように仕向けた理由を聞かせてもらいたいのですよ、我々は」

カソックに身を包み、愁いを帯びた視線をワタナベに向けるのはマドラス・モララー。
穏やかな声をしてはいるが、彼の心情が穏やかでないのは確かだ。

( ・∀・)「トラギコ・マウンテンライト、あの男に大分御熱心なようで」

机の上で組んだモララーの掌に力がこもっていくが、ワタナベの瞳にも攻撃的な光が宿っていく。

从'ー'从「うふふ、よく分からないわねぇ」

lw´‐ _‐ノv「前に私の邪魔をしたときも、その刑事が絡んでいた」

シュール・ディンケラッカーが口を挟んだ。
細められた目が訴えるのは、数々の愚行が産んだ結果に対する納得のいく言葉だった。
謝罪だけでは足りない。
この場に居合わせる人間でジョーンズ以外が、皆ワタナベの行動に対して不満を募らせていた。

lw´‐ _‐ノv「もういっそ、あの刑事は別の人間が殺した方がいい」

不信感を露わに、シュールは冷淡にそう言い放った。
作戦失敗の影にちらつくワタナベの存在に業を煮やした者の心情を代弁するような言葉。
対して、ワタナベは恐ろしいほど静かで、感情を感じさせない平坦な声で答えた。

从'-'从「……やってみろよ。
     私に喧嘩を売って楽に死ねると思ってるんなら、今すぐここで全員に試してやろうか」

( `ハ´)「それは面白いアル。
     疫病の根源は火炙りにされる、これは決まり事アル」

部屋の壁を背にしたシナー・クラークスは腕を組んだまま、細い目を僅かに開いてワタナベを睨めつける。
オールバックにして後頭部で三つ編みにした黒髪はまるで黒いビロードの様。
ゆったりとした服の下に見える肌には傷が無数に見え隠れし、彼が武器や兵器に頼りきる人間ではない事がうかがい知れる。
生身であろうとも、彼の戦闘力は衰えない。

719 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 20:42:10 ID:cylVOJUg0
从'ー'从「じゃあ死ねよ」

ワタナベがその言葉を言い終わる前に、ジョーンズを除くその場の全員が動いていた。
最も早かったのは手刀を放つ体制を取ったシナーだった。
次に拳銃を掴んだショボン、そしてシュール、モララーは共に手が拳銃の銃把に伸びている。
ジョルジュは視線を向けつつも、その腕はいつでもスミス&ウェッソンが抜けるように脱力されていた。

唯一、静かに立ち上がったデミタス・エドワードグリーンがいなければ、ワタナベの両手に煌くバリスティック・ナイフがこの部屋を血色に染め上げていた事だろう。
その切っ先はシナーの手刀、そしてショボンを向いていた。

(´・_ゝ・`)「……止めろよ。
      判断はどうあれ、結果として俺達は助かったんだ」

無精髭の伸びた彼の顔は薄暗く影っていたが、落ちくぼんだ眼窩に埋もれた両の目は病的なまでにぎらつき、脂汗の浮かぶ顔には血の気が無かった。
まるで幽鬼の様な彼の左足は、膝から先がなく、代わりに合金製の義足が付いている。
手術を終えたばかりの体は弱り、立っているだけでも相当な負荷がかかっているはずだ。
だが彼はそれを強じんな精神力で補い、力を失わない眼光を周囲に向けていた。

(´・_ゝ・`)「なぁ、ジョーンズ博士。
      俺達が今、この島でデレシアに勝てる確率はあるのか?」

(’e’)「ないね、皆無だと言っていい。 歴代のデレシアと遜色ないと言ってもいいだろうね。
    そうだろう、ジョルジュ君」
  _
( ゚∀゚)「あぁ」

ジョルジュは短く返事をし、ショボンから向けられている強烈な眼光を意に介した様子を一向に見せない。
まるでその視線をそよ風程度にしか思っていないのだろうか。
流石に業を煮やしたショボンは、会話を中断させた。

(#´・ω・`)「博士、貴方も情報を隠すのは止めていただきたい。
      あのデレシアに関して分かっている情報を、まずは我々に共有してください」

面倒くさそうに髪を掻き毟り、ジョーンズはわざとらしく溜息を吐いた。
その視線をジョルジュへと向け、眉を吊り上げて尋ねた。

(’e’)「あー、そうだな。
    どこから話した物かね、ジョルジュ君」
  _
( ゚∀゚)「さてね、説明は俺の専門外だ。
    ほら、博士。
    仕事だぞ」

(’e’)「と、言われてもねぇ。
    僕も不確かな情報は人に話すのは専門外でね、悪いね」

話はこれで終わりとばかりに、ジョーンズは肩をすくめて見せる。
そしてそんなジョーンズの性格を知っているショボンはやり場のない憤りを覚え、拳を握りしめて耐えた。

(#´・ω・`)「……くっそ!!」

720 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 20:45:03 ID:cylVOJUg0
(´・_ゝ・`)「落ち着けよ、ショボン。
      詳細はさておいて、俺達はデレシアに勝てないのは事実なんだ。
      なら、この島にいつまでもいる理由はない、そうだろう?」

(#´・ω・`)「腹立たしいがその通りだ。
      それで、そんな分かり切った事を訊いてどうするつもりだ?」

(´・_ゝ・`)「俺に考えがある。
      なぁ、手を貸してくれないか?」

誰もが怪我人の妄言、ショック状態の人間が口にする戯言だと思った。
しかし、それからデミタスが語り始めた提案は決してそうではないとすぐに分かった。
それまでの殺伐とした、一触即発の空気が変わり、デミタスの提案を全体がどう受け止めるかを真剣に考える場となった。

(´・ω・`)「それは本気で言っているのかな?」

プロらしく憤りを抑え込んだショボンは、まずはデミタスの正気を確認した。

(´・_ゝ・`)「本気だ。 だがそのためには協力が必要なんだ」

( `ハ´)「その考え自体には反対はないアルが、結果として我々にどう利益が出るのかを考えた方がいいアル」

(’e’)「出てきた結果をどう利益につなげるか、を考えた方がいいね。
    ふぅむ……」

珍しくジョーンズが考え込む様子を見せ、意見を求めるようにジョルジュを見た。
その視線を無視しようとしたが、ジョーンズはそれを許さなかった。

(’e’)「ジョルジュ君。 君の意見はどうかな?」
  _
( ゚∀゚)「何で俺なんだよ。 ジュスティア警察にいたのならショボンも同じだろ。
    それに、そいつの案件に俺は触れたこともねぇよ」

(’e’)「上層部の反応に関しては君の方が詳しいだろう。
    本気にすると思うか?」
  _
( ゚∀゚)「そのままだと難しいだろうな。
    だが、そのための人間がいるだろう。
    そいつ次第だな」

(´・ω・`)「同志ビロードはきっと上手くやってくれるだろうが、下準備が必要だ。
      片足が無いんじゃ、誤魔化しきれないぞ」

ジョーンズは指を一本立てて、嬉々とした表情で話を始めた。

(’e’)「それなら大丈夫。
   ここは棺桶の宝箱みたいなところでね、復元中の一機があるんだ。
   コンセプト・シリーズのCクラスだ」

721 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 20:47:10 ID:cylVOJUg0
(´・ω・`)「でも、復元中でしょう?
      使えるんですか?」

(’e’)「メインの機能は完全に復元できていないが、まぁ、補助装置としてなら使えるよ。
   先の大戦で大分破損したみたいだが、なぁに、動く程度には修理できる」

コンセプト・シリーズの棺桶は何かしらの目的に特化して設計されているため、その目的を果たすための機能が使えないとなると、通常の棺桶よりも戦闘力は落ちてしまう。
だが補助装置としての機能であれば、それは棺桶の最低限の目的として組み込まれているため使う事は出来る。
長所を失った棺桶。
それは、役に立つよりも文字通りの棺桶と化すことの方が確立としては高い存在だ。

(’e’)「決行するとしたら、いつかな?」

(´・_ゝ・`)「明日の夜だ。
      予告状は今日中に出す」

八月十一日。
その日は後に、脱獄した大怪盗“ザ・サード”がジュスティア警察に向けて予告状を送った日として記録されることになる。
大胆不敵にも警察当てに送られた予告状。
そこで盗むと予告されたのは――

(´・_ゝ・`)「ライダル・ヅーの命は、必ず俺が盗んでみせる」

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Ammo→Re!!のようです Ammo for Reknit!!編
         第七章【housebreaker-怪盗-】

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八月十一日、午後6時37分。
予告状を送り付けられたライダル・ヅーは鼻でそれを笑い飛ばそうとしたが、出来なかった。
その日、彼女を含むジュスティア警察・軍関係者は臨時の作戦室として徴収したエラルテ記念病院に集まり、今後の対策を話し合っていた。
主な議題となっていたのはその日の午後に行われた大規模な戦闘と、犯罪者を全員取り逃がしてしまったことに対する会議だった。

会議はジュスティア人らしく、淡々と進められた。
議論は平行線だった。
厄介だったのは彼らの目的が一致していながらも、その手段が全く別の方向を向いていることにあった。
ヅーの考えでは、まずは相手を見定めることに専念すべきと言う意見があった。

対して、ジュスティアから派遣された円卓十二騎士の二人は首を横に振り、脱獄犯を捕える必要があると一歩も譲らなかった。
声帯を失っているダニー・エクストプラズマンに代わって、ショーン・コネリが理由を述べる。

(´・_・`)「それも重要だが、何より、脱獄犯を然るべき形で処さなければ示しがつかない。
     これが陽動だとしても、これを見逃せばジュスティアに対する信頼は地に落ちる」

瓜//-゚)「今は体裁よりも重んじることがあるはずですが」

722 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 20:50:01 ID:cylVOJUg0
(´・_・`)「……いいかい、秘書殿。
    オアシズで我々は海軍の優秀な兵隊を多数失っているんだ。
    そしてセカンドロックの脱獄に関わり、この島で暴れまわっている人間がオアシズで暗躍した下郎と同一人物、元ジュスティア警察の人間。
    そんな下種を放っておけと?」

彼の言葉はまるで迷いというものがなく、自信に溢れている。
確かにそれは正論だった。
しかし、正論が常に正しいとは限らない。
時にそれは本当に正しいことを見失わせ、人を盲目にさえしてしまう言葉となる。

瓜//-゚)「予告状はその下種を逃がすための目くらましであるとは考えないのですか」

(´・_・`)「無論、考えているさ。
    だが脱出の手段は極めて限られているし、逃がすつもりもない。
    何より、悪を前に引き下がる道理がない。
    二手に分かれて行動すれば問題はないだろう」

瓜//-゚)「ですから……!」

ヅーが苛立ちを声に表した時、トラギコ・マウンテンライトが口を挟んだ。
その声は冷静沈着であったが、どこか、相手を嗤うような含みがあった。

(=゚д゚)「騎士が二人がかりで仕留められなかった人間がいたらしいが、その辺はどう考えているラギ?」

(´・_・`)「……何?」

(=゚д゚)「ジョルジュ・マグナーニに足止めされてショボン・パドローネを逃がしたのはどこのどいつだって言えば分かるラギか?」

今度はショーンが感情的になる番だった。
机を拳で叩き、大きな音を立ててトラギコに対して威嚇をする。
訓練を積んだ軍人でさえたじろぐその剣幕に対して、ヅーは表情を変えなかったが僅かに身を震わせた。

(´・_・`)「貴様っ!! いい加減にしろよ、たかが刑事の分際で!!」

腹から出された怒声は部屋の窓を震わせるほどの大きさだった。
トラギコはショーンを睨み、その威嚇行為に対する返答とした。

(=゚д゚)「うるせぇ、いちいち怒鳴るなよ。
    天下の騎士殿が翻弄されて体裁が悪いのは分かっているラギ。
    だけどな、認めないといけない事があるラギよ。
    あいつらは、これまでにジュスティアが相手にしたどこの誰よりも厄介ラギ」

(´・_・`)「だからどうした。
    それがどうした。
    ジュスティア人は悪に屈しない、これは常識だ!!」

(=゚д゚)「心意気はいいがな、プライドを捨てるぐらいの事をしたらどうラギ?
    片手間で相手に出来る連中じゃない事は分かっただろ。
    これはお前らも分かってる通りの餌ラギ。
    だけどな、俺達がどっちか片方しか選べないようにしてある餌なんだよ。

723 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 20:52:25 ID:cylVOJUg0
(=゚д゚)「両方を取ろうとすればやられる。
    選ぶなら片方だ。
    片方を全力で対処しないとどっちも取り逃すラギよ」

彼の意見は決して消極的なものではなく、冷静に状況を判断しての物だった。
デミタス・エドワードグリーンの輝かしい犯罪歴はジュスティア警察を翻弄し続け、その警備体制の不備を明らかにした歴史でもある。
怪盗を名乗るだけあり、彼には秀でた才能があった。
人の死角を盗む才能だ。

(´・_・`)「なら――」

( ><)「――なら、デミタスを逮捕することを優先してもらうんです」

突如として口を挟んできたのはジュスティア警察の報道担当官、ベルベット・オールスター。
ティンカーベルに派遣された警察の一人で、若くして情報統制をおこなうための全権を与えられた男だ。
彼は情報を集約し、そして、それを体よく報じる力が見込まれて対マスコミ用の重要な人間として知られている。
トラギコがこれまでに行ってきた暴力的な捜査が大きく報じられなかった背景には、彼の力が影響していた。

その発言力は大きく、彼よりもキャリアのある警察高官でさえその言葉に従わざるを得ない。
彼は情報を支配する力を持ち、その気になれば人一人の人生を終わらせることなど造作もないのだ。

( ><)「デミタスはマスコミ各社にも予告状を送っているんです。
      優先するのはデミタスの逮捕なんです。
      島での諸々の事件については別の犯人をでっちあげればいいんです」

(´・_・`)「ショボンはどうするつもりだ?」

そんなことは分かっているとばかりに、ベルベットは肩をすくめた。

( ><)「放っておけばいいんです。
      今必要なのは島が平和になった、ということです。
      全ての原因であったデミタスは我々の手で捕まえ、それ以外の人間については射殺したとでもしておけばいいんです」

(;=゚д゚)「そりゃいくらなんでも無茶苦茶ラギ。
    目撃者も山のようにいるんだぞ」

ショーンの怒気を前にしてもたじろがなかったトラギコが、今度ばかりはそうもいかなかった。
ベルベットの言っていることはあまりにも暴論だった。
デミタスを捕まえる代わりにショボン達から目を背けておきながら、体裁上は見事任務を果たしたかのように振る舞う。
対外的には良く見せるだけの、プライド先行型の方法だ。

( ><)「だから、それを納得させるためにもデミタスには踊ってもらうんです。
      あいつが大々的に動けば人の意識はそっちに行くんです。
      後は、そうですね……
      何やら金髪碧眼の不審者がいたらしいですから、その人間を代わりに指名手配すればいいんです」

それがデレシアの事だと分かり、思わず声に出る。

(;=゚д゚)「……何?」

724 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 20:53:50 ID:cylVOJUg0
( ><)「ジュスティア警察官だった男達はこの事件には一切関係していない、とするんです。
     それとも、関係していたと発表することで何か得られるメリットがあるんですか?」

淡々と述べるベルベットの言う事は正論だった。
だが、それはあくまでもジュスティアが正義として在り続けるための正論であり、実際に事件を解決するという点ではまるで意味がない。
表面上の解決を演じるという彼の言葉の真意がトラギコには分からなかった。
警官であれば事件解決を最優先にするはずだが、この男は別の物を見据えている気がしてならない。

デレシアの素性を知らないで言っているのであれば、ベルベットは一般人を犯人に仕立て上げようとしている。
それはジュスティア的ではない。
正義を信仰しているはずの警官の行いとしては、不自然極まりない。
それともこれがこの男の本性なのか。

(´・_・`)「ないな」

瓜//-゚)「ですが、それはあまりにも乱暴な話ではないでしょうか、ベルベット」

このままでは話が固まると判断し、ヅーがベルベットに意見した。
彼女は常に天秤の目盛りを気にする性格をしており、今回の事があまりにも極端であると判断しての発言だった。

( ><)「正義を遂行するためには幾ばくかの犠牲が必要なんです。
     まさかこの事件が無傷で解決できると思っているんですか?
     これは早急に終わらせてしまわなければならない、非常に重要度の高い事件なんですよ」

(=゚д゚)「見せかけだけの解決に意味があるのかよ」

( ><)「見せかけではありません。
      今すぐに解決しないだけで、後ほど皆さんが解決するだけです。
      言っての通り、まずはデミタスを捕えてください」

(´・_・`)「さっきから捕えろと言っているが、奴は死刑囚だ。
    殺した方が早い」

ショーンの言う通りだ。
死刑の手間と捕獲する手間を省く分、その方が効率的だ。
早急に終わればショボン達の追跡に時間を費やせる。

( ><)「ただ殺しても宣伝効果が薄いんです。
      捕えて晒して、それからです」

(=゚д゚)「出来れば、の話で聞いておくラギ」

( ><)「それでは困るんです。
      これは命令です。
      それに、トラギコさんには出頭命令が出ていますね。
      部下を用意しているので、早急にジュスティアに行ってください。

      これは、貴方達以外の人間に関係のある話です」

725 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 20:55:31 ID:cylVOJUg0
冷たい視線をトラギコに向け、これ以上会話にトラギコが参加するのを良しとしない空気を作り出す。
だがそんな空気はトラギコには関係ない。

(=゚д゚)「そんなのこれが終わってからでいいだろ」

( ><)「駄目なんです」

(#=゚д゚)「人手が足りねぇんだろ?」

( ><)「それとこれとは別問題なんです」

指を鳴らすと、扉の外に控えていた屈強な三人の男がトラギコをすぐに取り囲んだ。
手錠とテーザー銃を持つ彼らは軍人、もしくは警官のどちらかだろうが、こういった仕事に慣れている様子だった。
抵抗すれば撃たれるとよく分かる。

(#=゚д゚)「……これが上の方針かよ」

( ><)「すぐに連れて行くんです」

( ''づ)「後ろで手を組んで」

三対一では分が悪い。
従う他ない。

(#=゚д゚)「その前に、そこのベルベットに渡すものがあるラギ」

( ''づ)「妙な真似はしないでくださいよ」

(#=゚д゚)「分かってるラギ」

ジャケットの懐に手を入れ、トラギコは中指を立てた手を取り出してみせた。

(#=゚д゚)凸「ほら、これラギ」

( ><)「……連れて行くんです」

そしてトラギコは後ろで手を組み、そこに座る人間達に一瞥向けてから部屋を出て行った。
部屋に静寂が訪れる。
この場を支配する力を持つ人間が誰なのか、全員が分かった。

( ><)「さ、手順の話をするんです。
      天下の大怪盗だった男とどう劇的な対決をするか、考えましょう」

(´・_・`)「対決?」

( ><)「これは絶好の宣伝になります。
      ジュスティアに逆らう人間がどうなるのか、どれだけ努力したとしてもそれを我々の力でねじ伏せる姿を世界中に知らしめるんです」

726 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 20:57:15 ID:cylVOJUg0
瓜//-゚)「馬鹿なことを。
      エンタテインメントのつもりですか?
      事態がどれだけ厄介なことになっているのか、分かっていないようですね」

( ><)「ヅーさん、例え長官の秘書だとしても、現場の動きに口出しは控えてもらいたいんです。
      僕はジュスティアがどうすればこの状況で信頼を勝ち取る事が出来るか、それを考えているんです。
      貴女に恨みを持つ死刑囚がわざわざやってくるというのですから、これを利用しない手はないんです。
      ラジオでも報じられ始めていることを考えれば、今、世界中で最も注目されている事件とも言えるんです。

      それを劇的に終わらせ、非常事態宣言を解除すればこの事件は誰にとってもいい形で終わらせられるんです」

瓜//-゚)「劇的に終わらせる……
      まさかとは思いますが、わざわざ場所をあつらえるつもりですか、私を餌にして」

拍手。
ベルベットは、ヅーの発言に深く頷きながら拍手を送った。

( ><)「その通り!
      然るべき相手には然るべき場所を!
      報道関係者も呼んで出迎える予定ですので、結末はリアルタイムで世界に届けられるんです」

(´・_・`)「おい、さっきから大分勝手がすぎるぞ。
     本当に事態の深刻さを分かっているのか?」

( ><)「分かってますよ。
      ただ分からないのは、どうしてあなた方は僕の話に対して否定気味なのかと言う事なんです」

(´・_・`)「何?」

( ><)「失敗したのは誰ですか?
      それぞれが独立して動かず、連携していればこんなことにはならなかったのでは?」

辛辣な言葉が並べられ、情報を操る人間にありがちな妄想――情報を操る人間の力は暴力に勝る――に捉われているのだと、ヅーは思わずにはいられなかった。
確かに情報も力だ。
この世の中は力が全てを変える。
力には力を。

情報の力と暴力が正面からぶつかれば勝るのは暴力だ。
ここでヅーがベルベットを殴り、黙らせることで彼の立案した作戦をなかったことに出来る。
最悪の場合、事故を装って二度と口をきけなくさせる事も出来た。

瓜//-゚)「随分と饒舌ですね。
      一応聞かせてもらいますが、どこを舞台にするつもりだというのですか?」

( ><)「それは勿論、この病院を――」

瓜//-゚)「却下です。
      味 方 の 狙 撃 手 に 撃 た れ た く は あ り ま せ ん か ら」

( ><)「……」

727 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 20:58:23 ID:cylVOJUg0
(´・_・`)「それはカラマロス・ロングディスタンスの事を言っているのか?
     彼は確かな家の出だ。
     腕も抜群なことは知っているだろう」

同じ軍人のフォローが入ることは予想していた。
確かに、“鷹の目”の腕はジュスティアで最高だ。
最高の腕があったとしても、ヅーには彼を信頼できない理由があった。

瓜//-゚)「えぇ。 ですが、捕えるはずのトラギコさんが危うく殺されかけたことを忘れたとは言わせませんよ。
      彼の腕を完全に信じることは不可能です。
      どんな人間でもミスはするものです。
      ただ、それがミスの許されない場で、となると話は別問題です」

予定ではトラギコの動きを封じるだけだったのだが、彼の放った銃弾はトラギコに重傷を負わせた。
偶然か、それとも故意だったのかは分からない。
カラマロスは単独行動が許可されており、今どこにいるのかは分かっていない。
そして何より、トラギコは彼を信じていなかった。

エラルテ記念病院でトラギコの代わりに撃たれたカール・クリンプトン殺害の犯人はカラマロスだと、トラギコは断言していた。
その証拠を収める為にマスコミであるアサピー・ポストマンと協力し、その瞬間を撮影させた。
ヅーもその現場を目撃していたため、後は証拠の写真を見れば疑いは確信へと変わり、すぐにでもカラマロスを敵と認識できる。
今、写真を手に入れたアサピーはどこにいるのだろうか。

( ><)「じゃあ他にどの場所があるというんですか?
      この島で奴を万全の状態で待ちかまえられるところなんて……」

瓜//-゚)「あるじゃないですか。
      相手が来る方向が絞られて、尚且つ、犯罪者相手に相応しい場所が」

最初に気付いたのは言葉を発することはないと思われていたエクストだった。
人工声帯を喉に当て、掠れた電子の音に乗せて、答えを口にした。

<_プー゚)フ『ジェイル島だな』

( ><)「ですが、あそこは突破されて……」

瓜//-゚)「だからこそ、ですよ。
      突破されたのは天井部、そして地上の部分ですよね。
      その修復が済み、すでに再開しているのも事実、そうですね」

( ><)「えぇ、そうですが」

瓜//-゚)「地下にまで侵入はされていない、という情報も合っていますか?」

ベルベットの口が噤まれたままの状態で固まった。
ジェイル島にあるセカンドロック刑務所は地上にばかり注目されているが、地下にも多くの独房や特殊な房がある。
一切の光を遮断する独房はそこに収容された人間が発狂し、そして死に至る場所として知られている。
その悪評を聞いたジュスティア市民たちの中から非人道的であるとの声が上がり、その地下独房は封鎖され、セメントによって塗り潰された。

728 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 21:01:03 ID:cylVOJUg0
あくまでもそれは表向きの話であることぐらい、ヅーは知っていた。
その計画に携わったのだから、知っていて当然だ。

瓜//-゚)「無言は肯定と捉えます。
     さて、私はセカンドロック刑務所の地下監獄でならこの挑戦を受けます」

( ><)「……それにはリスクが多すぎるんです。
      オアシズも選択肢の中に入れるべきでは?
      あそこなら侵入も困難だし、何より――」

瓜//-゚)「何より、大迷惑をかけるだけでなく事件解決後のオアシズに面倒事を持ち込んでジュスティアとの問題に発展させたいと?
     それでも報道担当官ですか?
     見せかけることは得意かもしれませんが、中身がありませんね。
     オアシズは世界を旅する巨大な街。

     ただの客船ではないのですよ」

報道担当者として、ベルベットは確かに若輩ながら能力のある人間だ。
だが人間性としてはまだ幼さが残り、ヅーのように感情を完全にコントロールすることはまだ出来ない。
ヅーの言葉にベルベットは拳を握り固め、精いっぱいの笑みを浮かべた。

( ><)「これは申し訳ありません。
      まだ若輩故の過ちとしてご容赦を」

瓜//-゚)「いつまで若輩気取りなのかは知りませんが、話が分かったのならばすぐに動きます。
      ジェイル島に行き、準備をします。
      くれぐれもこの件は報道しないように。
      マスコミに邪魔をされたくないので。

      例え好意にしているマスコミ関係者だとしても、私はそれを発見次第射殺します」

( ><)「しかしそれではデミタスに居場所を伝えられないんです」

瓜//-゚)「要は、失敗させればいいのでしょう?
      ならマスコミたちには真逆の方向を伝えてください。
      そこに別働隊を用意して、やって来たデミタスを捕縛すれば終わりです。
      結果は変わらず、そして何よりこちらが失敗するリスクが低くて済みます」

( ><)「対決はしないと?」

瓜//-゚)「誰に見せる必要があるのですか?
      いちいち犯罪者の言葉に合わせて動いてやる必要はありません」

彼女の言葉は正論であり、反論する余地もなかった。
ただ、ジュスティア的ではないという一点を除けば。
正義の都として知られるジュスティアの人間が相手を騙すような真似をするのは、半ばタブー視されている事だった。
特に決闘や公の目がある場となると、その傾向はより強くなる。

( ><)「そう仰るのならば、その通りにするんです。
      警備は何人ほどお付けいたしましょうか?」

729 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 21:02:39 ID:cylVOJUg0
瓜//-゚)「円卓十二騎士の二人がいれば十分です。
      貴方が気にするのは二人の棺桶を充電することです」

( ><)「警官や兵士を随伴させないのですか?」

瓜//-゚)「えぇ、当たり前です。
      万が一デミタスが潜り込んでくるとしたら得意の変装を使うでしょう。
      ですので、その人数が増えるリスクを減らして尚且つ信頼に足る二人を選ぶのは当然です」

音もなくヅーは立ち上がり、ベルベットを見下ろした。
氷のように冷たい目線に、ベルベットの体が僅かに震える。

瓜//-゚)「大好きな宣伝はお任せしますが、くれぐれも、足を引っ張らないように」

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         八:::::::::::::iく斧;::::/⌒ ー   ´   V:::/: }! r‐く::::′August 11th PM9:09
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陽が水平線の向こうに沈み、幸運の印とされる緑色の光を僅かに放った直後、紫色の夜が訪れる。
燃えるような水平線が徐々に群青に飲み込まれ、そして、消えた。
星が夜空に姿を現す頃には、巨大な月が世界をおぼろげな光で照らしている。
月光に照らされた世界最大の豪華客船にして世界最大の船上都市オアシズの巨体は、まるで巨大な雪山のように海上に浮かんでいた。

オアシズに潜伏していた五人の同盟者たちは、暗号を用いて密かに集まり、船の外で起きている事態について話し合いを行っていた。
怪しまれないよう、人の集まるショッピングモールの中に設けられた喫茶店を利用し、ビジネスマンを装うためにスーツを着てメモを取りながら話を進めた。
五人の中でもベテランのオーベン・ユーリカは溜息を吐くように、自然に話題を振った。

( 0"ゞ0)「内藤財団の発表についてだが――」

そう言いつつ、紙上に走らせる文字はこれから先の計画についての意見を求める内容だった。
彼らはオアシズの厄日の際、船に乗り込んだ賊の生き残りで、当初の予定通りにこの船に撒かれた種子の一部。
本来はオアシズの厄日後、船の動きを監視するための役割を持っていたのだが、ここに来てそれが変更となった。
彼らに与えられた新たな使命は、島で孤立してしまった同志達を招き入れるための下準備を整えることだった。

ここから先、どのようにしてこの船に同志達を迎え入れるのかを考えなければならなかった。
幸いなことに、ジュスティアの注目は別の人間が一身に受けることとなり、後は船内の警備体制の穴を見つけ出すだけでよかったのだが、それが問題だった。
島で起きている事件に巻き込まれないよう、船から島に降りることも、島から船に乗り入ることも容易ではなくなっている。
そのため、彼らはいくつもアイディアを募って明日の夜に警備の目を別の場所に向けさせる必要があった。

730 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 21:04:45 ID:cylVOJUg0
口と手が別の事を形にするのは少しの訓練で可能になる。
男達は皆、内藤財団がその日の昼に発表した単位統一に関する話をしつつ、いくつもの案を紙の上に書きだしていた。
最も有効そうだったのは火災騒ぎを起こし、その隙に海から同志達を招き入れる作戦だった。
後はどのようにしてそれを実行するかが問題だった。

オアシズはブロックごとに分厚い隔壁を持ち、火災が起きてもそのブロックを遮断することで火災の被害を最小限に抑えることが出来る。
それに、どうやって火災に気付かせるかも問題の一つだ。
小さな火事を起こしても気付かれなければ陽動にはならない。
民間人が多く集まる場所を利用し、そこで火を起こせばどうだろうか。

火が燃え広がり、人々が恐怖する場所。
ショッピングモールにある小型の移動用車輌のバッテリーに細工すれば、発火させることは可能だ。
炎に対して過剰反応を示しやすい女子供であれば、煙だけでも簡単にパニックになる。
細工をするのは簡単だ。

利用者を装って車輌を手に入れ、細工し、戻すだけ。
そうすればショッピングモールはパニックになり、船に散った警備担当者達はそれを鎮静化させるために一か所に集中するだろう。
後は、手薄となった海中から船内へと同志を引き揚げ、客室に匿えば万事解決。
男達は皆満足そうに頷き、用紙を丸めて灰皿の上に置き、ライターで燃やした。

消炭と化した紙を煙草で押し潰し、証拠を抹消する。
頼んでいた飲み物を飲み、別の話をして周囲に同化する。
会話を終えた一行は、最後の確認をするために店を出てショッピングモールに向かうことにした。
表向きは買い物をするためだが、当然、本当の目的は下見である。

会計を済ませて店を後にし、極めて自然にブロックの移動を行う。
モールに到着するまでは五分とかからなかった。

从´_ゝ从「あれ?」

最初に異変に気付いたのは、ポプリ・パマーゾだった。
自分を含めて五人いたはずのメンバーが、四人に減っていたのだ。
いなくなっていたのはオーベンだった。
彼はリーダー格としての人格が出来ている人間であるため、無断でどこかに消えることはない。

となると、仕方のない理由で離れてしまったのだろう。
問題はなそうだと判断し、四人は駐車されている車輌を探した。
買い物に利用している人間が多くおり、放置しているのか、それとも駐車しているだけなのか判断するのは難しい。
そこで四人は貸し出しを行っている場所に行くことになり、再び三分ほどかけて移動をした。

そして、そこでまたしても一人減っていることにポプリが気付いた。

从´_ゝ从「ベッシは?」

ベッシ・カローラは大食漢で温厚な性格をしており、自分勝手な行動をすることが時折あった。
それでもその戦闘力は抜群で、格闘戦はこの五人の中でも最高の腕を持つ。

(-゚ぺ-)「トイレじゃないか?
     さっきコーヒーをしこたま飲んでたからな」

731 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 21:07:03 ID:cylVOJUg0
陽気な性格のペリー・ボランが肩をすくめてそう言った。
確かに、彼は先ほどの喫茶店でコーヒーを五杯は飲んでいた。
誰も彼を見ていないのかと、もう一人のベネッセ・スィンケンにも目を向けた。

(,,゚,_ア゚)「俺も見てねぇから、多分トイレだろうな」

从´_ゝ从「そうか」

合流場所さえ分かっていれば問題はない。
三人で一台に乗り込み、ポプリがハンドルを握る。
発車させて間もなく、タイヤがパンクしている嫌な音が聞こえてきた。

从´_ゝ从「あぁ、くそ」

車を路肩に停めて、タイヤを見る。
釘でも踏んだのか、空気が抜けて後輪が無残にも潰れていた。
車を変えてもらわなければならないと判断し、車内にいる二人に声をかけようとした。

从;´_ゝ从「え?」

車内には誰もいなかった。
驚きの声を上げた彼は、すぐに周囲を見渡した。
だがどこにもいない。
ほんの数秒目を離した間に音もなく消えた仲間。

ようやく事態の異常さに気付き、ポプリは焦りを覚えた。
それが彼の最後の感情だった。
首に走った激痛が彼の最後の感触だった。
後は、視界が黒に染まって意識が消えるだけ。

――五つの黒いごみ袋を積んだ大きなカートを押し歩く清掃員姿の女性がその場を去ったが、当然、誰かの記憶に残っているはずもなかった。

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            //: : : ノ| |::|!: ://{::: : : /:::/: : /:ィ:: : :/: :.:/  .{::. ハ: : :ヽ:::ヽ..ノ
.          { ://: : : /:://:///:/:: : : |:/:/゙ト、!: :/|:./|/    }: :/: ::.: : }::::゙¨
.          乂y: : : :::::l/:/:://::: : /ィi',xr≠ミヾト!{ノ   ,ィノ }l/:l//}::::|
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           リ: : ::://:八:.{:::::::://::. !::::}ヽヽ         , `¨´/::::::::::/ィ´
          . イィ:/:.//:::::::::ヽ}:::ノ/:::::: :∨ .))        August 12th PM08:30
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日付が変わり、嵐から抜け出たティンカーベルはどこまでも突き抜けるような晴天に恵まれ、昨日起こった戦闘行動はあまり噂されていなかった。
それよりも噂されているのが、ラジオで放送された内藤財団による大規模な革命の宣言だった。
宣言はただちに実行に移された。
予め契約を結んでいた家電製品の小売店の店主たちはラジオを街中に配置し、新聞社は号外を配って回った。

これらの費用は全て内藤財団が負担する為、客の限られている地域でも在庫が瞬く間に消えて行った。
そして島にラジオが溢れ、情報が満ちた。
世界情勢が流れ込み、今夜予定されているジュスティアと大怪盗との対決に島中が注目していた。
隣接するジュスティアが対決を受け、正面から戦うのだと返答の声明を発表したのは午前九時。

732 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 21:07:57 ID:cylVOJUg0
それから異例のピッチで進められたエラルテ記念病院を取り囲む厳戒態勢は、ジュスティアが普段訓練を怠らずに行っている証となった。
予告されたのは夜九時だったが、準備が終わったのは午前十一時の事。
完全武装の警官、軍人が付近の道路を全て封鎖し、建物の屋上も制圧した。
実包の装填されたライフルを携える軍人の姿に市民は怯えを見せたが、同時に、興奮もした。

自分達に仇なす災厄と正義の味方が対決するのだ。
見届けたくもなろう。
彼らはジュスティア人。
正義を武器にあらゆる巨悪と対決してきた、世界の天秤たらんとする存在なのだ。

すっかり日も暮れ、夜空の月が昨夜同様の輝きを放つ夜八時半ともなると、空気はより一層重みを増した。
その重々しい空気はラジオを通じて、世界中の人間の耳に届けられた。

【占|○】『こちらぁ、極道ラジオFM893ですぅ。
     皆さぁん、先日脱獄したあの大怪盗ザ・サードがジュスティアに予告状を送ったのは知っていますよねぇ。
     予告されている時間は十時ですのでぇ、まだ余裕がありますけどぉ。
     本日はぁ、放送内容を少し変えてその様子を放送しちゃいますぅ――』

世界的な人気を誇るラジオ番組では現地にいる協力者を使い、現地の様子をリアルタイムで放送していた。
島にいた各新聞社の記者たちはこれを一世一代の出世のチャンスと考え、埃を被っていた機材を持ち出して現場へと急いだ。
ある者は質に入れていたカメラを買戻し、またある者は借金をして高性能なカメラを購入した。
狙うのは世紀の大怪盗が現れる瞬間と、決着がつくその時。

封鎖されているだけに、その写真が持つ価値はかなり貴重な物だ。
撮影できるのは一握りの人間。
現れるのは義賊として一部の市民から絶大な支持を得ていたデミタス・エドワードグリーン。

(-゚ぺ-)「しかし、すごいな、この警備は」

川_ゝ川「あぁ、この島でこんな警備態勢、見たことねぇ」

カメラを手にエラルテ記念病院を囲むマスコミ関係者の間からは、異口同音にその警備の厳重さを述べた。

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕

近距離戦闘を想定しているのか、短機関銃MP45を装備したジョン・ドゥが敷地から離れた場所に立ち、その後ろに同じくM4カービンライフルを構えるジョン・ドゥがいた。
更に、敷地内には追加装甲で全身を灰色にし、ミニガンをいつでも撃てるように待機するジョン・ドゥがいた。
恐らくは屋内にも同様に棺桶持ち――強化外骨格を使用する人間の俗称――が待機していることだろう。
軍人と警察の連携作戦はジュスティアの犯罪史でもかなり珍しいものだが、ここまでの警備体制は前代未聞かも知れない。

サーチライトが夜空を照らし、緊急車両があらゆる路地を封鎖した。
病院を中心に一マイル圏内は全てジュスティアの監視下に置かれた。
こうしてカメラを持つ彼らの周囲は現職の警官、もしくは軍人によって囲まれているため、不審な動きは一切できない。
厳重な警備の中に集まるマスコミ関係者の姿は、大物の取材会見さながらの様子だった。

これまでにデミタスが盗んできた多くの芸術品は、どれも高価な物でそのほとんどが闇市場に流れ、二度と日の目を見ることはなくなってしまった。
今回彼が出した予告状に書かれていたのは、これまでに彼が一度も予告をしなかった
彼は泥棒であり、暗殺者ではないのだ。
何もかもが異例の中、予告された時間が刻一刻と迫っている。

733 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 21:08:39 ID:cylVOJUg0
――予告まで残り、三十分。

腕時計から目を離したライダル・ヅーは静かに息を吐いた。
彼女は今、ジェイル島のセカンドロック刑務所の地下でその時が来るのを待っていた。
島にいるのは僅かに三人。
ヅーと円卓十二騎士の二人――ショーン・コネリとダニー・エクストプラズマン――だけのはずだった。

それ以外の警備員も一切認めず、彼女は頑なにこの三人以外の人間が島に入る事を拒んだ。
理由はいくつかあるが、最大の理由は変装の達人であるショボン・パドローネが入り込む機会を与えることを防ぐことだった。
デミタスとショボンが協力関係にある以上、どちらかがヅーの命を狙ってきても不思議ではない。
ショボンがデミタスの姿に変装してヅーを殺せば、それで予告は果たしたことになるのだ。

そして次に、内部の裏切り者が特定できていないことによる予防策だ。
元警察官が二人も敵にいるのであれば、現役の人間が裏切っている可能性は十分に考えられる。
それは現場の警官かもしれないし、高官かもしれない。
敵の正体が分からない以上、全てを疑ってかかるべきだとヅーは考えた。

結果、円卓十二騎士の二名を残し、他の人間は全てエラルテ記念病院に配置することとなった。
入院患者には悪いが、少しの間は我慢をしてもらわなければならない。
嵐の日に対峙した強力な敵。
トラギコ・マウンテンライトの言葉を信じるならば、その強大さは今のジュスティアでは対処しきれない。

潤沢な資金と豊富な人材を持つ秘密結社。
相手にとって不足はない。
ジュスティア人が望んでやまない巨悪だ。
昔は、そう思っていた。

この島に来てから、ヅーの考えは少しずつ変わり始めていた。
これまでに信仰してきた正義の在り方と、その実現を阻む者の存在。
決してデータだけでは分からない多くの情報を得たヅーは、今一度、ジュスティアに戻り次第秘密裏の調査が必要だと考えた。
また、ヅーは万が一に備えての保険もこの行動にかけていた。

もしもデミタスがこの場に現れたら、裏切り者はあのメンバーの中にいたことになる。
円卓十二騎士の二人、ベルベット・オールスター、そしてトラギコ。
四人の内二人を手元に置いたのは、その戦闘力の高さと忠誠心の高さを知っているからだ。
彼らがジュスティアを裏切るとは考えにくい。

裏切るとしたら、ベルベットだ。
若くて野心的な彼ならば、ジュスティアを欺いていたとしても不思議ではない。
時計を確認し、長針がじわじわと予定の時間を示そうとしているのを見た。
落ち着きが徐々になくなっていく感覚を精神力で抑え込み、ヅーは背負った棺桶の重みを確かめるようにして、それを背負いなおした。

イージー・ライダーの改修は済み、屋内での戦闘に必要な改造が済ませてある。
肉弾戦を早々に諦め、ドラムマガジンを装着したAA12ショットガンが二挺、コンテナ内に収納されていた。
近接戦闘は騎士たちに任せ、ヅーは中距離から散弾を撃ち続けることで接近を防ぐ。
他にもこの空間に多くの仕込みをしており、例え何かしらの方法で侵入されても対処できるようになっていた。

734 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 21:09:56 ID:cylVOJUg0
だから怯える必要はない。
命を狙われることは初めてではない。
何度も狙われ、何度も襲われた。
その度に撃退し、その度に生き延びた。

悪に屈しない心がヅーの恐怖心を麻痺させ、今日まで命の危険を感じたことはなかった。
感じていたとしても、それを自覚することはなかった。
だが今、ヅーは初めて己の気持ちだけで悪と向き合うことになっていた。
悪を自らの価値観で判断し、己の力で敵対する。

それは秘書という肩書を得た彼女にとって、全く経験のない事だった。
与えられた仕事をこなし、与えられた命令の通りに果たす。
それだけの人生のはずだった。
生まれてからこれまで、ずっとそうだった。

英才教育を施され、警察官僚になるための勉強をし続けた。
友人はいなかった。
いたのは、ライバルだけだった。
そのライバルですら、ヅーにとっては己を高めるための燃料程度にしか見ていなかった。

歴代最優秀の秘書として採用された時、彼女が感じたのは無だった。
こうなるために生きてきたのであり、こうなることは当然の結果だったからだ。
レールの上を歩き続け、そのままジュスティアの街を統治する重役へとなり上がる。
そう、思っていた。

レールに石を置いたのはトラギコだった。
彼は常にヅーの進路を妨害し続け、常に惑わせてきた。
その生き方はやがて、ヅーの中に小さな憧れとなった。
自ら定めた方針に従って生きるその自由さは、彼女にはないものだった。

CAL21号事件の判決が下った際の彼の声は、今も耳に残って離れない。
あれを慟哭と言うのだろう。
人間が腹の底から吐き出す激怒の声だったのだろう。
その姿を見た時、声を聞いた時、ヅーは羨望を覚えた。

彼は自分で生きている。
彼はレールを破壊して生きている。
その自由奔放なまでの生き方に、正義を通している。
正に、生きた獣の正義。

トラギコはジュスティア警察の在り方について文句を言いはするが、警官であり続けているのは、正義を貫きたいからに他ならない。
己の手で事件を解決したいからこそ昇進のチャンスを全て意図的に蹴り落とし、今の階級に甘んじている事をヅーは良く知っている。
最前線で事件と戦い続けるトラギコの姿は、かつて一瞬だけヅーが憧れた正義の味方によく似ていた。
唯一の違いは、ヅーの知る正義の味方には大勢の仲間がいる事だが、トラギコの仲間は極めて少ない点だ。

腕時計から聞こえてくる秒針の音に、ヅーは意識を現実に向けなおした。

瓜//-゚)「……センサーに反応は?」

(´・_・`)「ない。 小動物の反応すらない」

735 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 21:11:43 ID:cylVOJUg0
セカンドロック刑務所は今や、鉄壁の要塞と化していた。
全ての出入り口、通気口や下水の入り口にモーションセンサー、熱感知機、果ては音響感知機を設置し、何か異変があればすぐに反応するようになっている。
ボタン一つで異変のあった区画に毒ガスを流し込み、そこを死の空間に変えることも可能だ。
そのスイッチを握るのはヅーだけ。

デミタスを逮捕するなど、ヅーの頭にはなかった。
ベルベットと本部の意向など知った事ではない。
生け捕りにして得られるメリットなどたかが知れているし、この程度でジュスティアの信頼が回復するとはとても思えない。
すでにいくつもの醜態をさらしている以上、たった一人の犯罪者を劇的に捕えたところで意味などないのだ。

――予告まで残り、七分。

夜空に浮かぶ月を背に、黒い影がティンカーベル上空に現れたのは、予告された時間の七分前だった。
それに気付いたのは、エラルテ記念病院の近くにあるアパートの屋上に陣取っていた報道陣だった。
彼らの持つカメラのフラッシュが花火のように眩い光を放ち、歓声が夜の静寂を引き裂いた。
ラジオで流れるレポーターの声は興奮し、周囲の熱気を電波に乗せて世界中に届けた。

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【占|○】『現れました!! ザ・サードです!!
     世界最高の大怪盗が、今!! 月夜を背に現れました!!』

デミタス出現の報告は島に散った全てのジュスティア人の持つ無線機に届き、銃を持つ人間の視線を一斉に空へと向けさせた。
浮かぶ黒影。
それは優雅ささえ感じさせるほどの速力で、夜空を飛行していた。
まるで眼下に並ぶ大勢の人間をじらすようにして、円を描いて空を舞う。

軍人も警官も、皆構えた銃の銃爪に指をかけはするものの、そこに力を込めはしなかった。
彼らは命令を待っていた。
デミタスから攻撃を仕掛けられ、それに対する反撃の許可を待っている。
それまでは例え警告だとしても発砲は許可されていない。

抗戦許可なくしては、誰も攻撃できない。
その異様な光景は様々な構図で撮影され、銃腔の先に浮かぶデミタスがあたかも神聖な存在であるかのように思わせた。
警官の中には、デミタスのせいで降格させられた者や自殺に追い込まれた同僚を持つ者がいた。
脱獄犯を前にして何もできないことに、その全員が歯噛みしていた。

736 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 21:13:32 ID:cylVOJUg0
誰でもいい。
誰でもいいから、交戦規定を破ってあの男を撃ち落してほしい。
第一射さえあれば、後は続くだけでいい。
規律を破る人間が出現することを、警官たちは望んでいた。

だがこの時、誰一人として規律に背いた行動をすることはなかった。
彼らはジュスティア人。
世界で最も規律を重んじることを誇りとする街の人間なのだ。
そのような破天荒な人間は、この場には居合わせていない。

――予告まで残り、三分。

デミタス出現の情報は、地下で待機するジュスティア人たちにも届いていた。
誰一人、そのことに安堵する者はいなかった。
むしろ、全員が棺桶をいつでも起動できる状態になっていた。
否。

一人はすでに起動コードの入力を行っていた。

瓜//-゚)『自由を求めるのだろうが、そんなものはどこにもない』

その起動コードは正に、彼女の生き方そのものだった。
彼女に自由は無く、あったのは定められた道だけ。
その道に沿って生きてきた彼女にとって、これは道を外れた初めての一歩。
意志に従い、この世界へとようやく踏み出すための一言。

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(::[ Y])

――予告まで残り、二分。

感情を持たない機械はセカンドロック刑務所に現れた来訪者に対して、何一つ疑問を抱くことはなかった。
機械の感覚では感知できない存在は、いないのと同じなのだ。
開かれた扉はダミーの電気信号を受け入れ、開いていない状態にあると錯覚をした。
モーションセンサーはその足取りを無視するように命令され、熱探知機、音響感知器も同様に来訪者を無条件で受け入れた。

その跫音は、地下にいる三人のジュスティア人に届くことはなかった。
巨大な影が今、殺意を胸に地下を目指して移動を開始していた。

737 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 21:15:31 ID:cylVOJUg0
――予告まで残り、一分。

遂に、頭上の影が病院を目指して降下を始めた。
稲妻のようにフラッシュが焚かれ、急降下してくる影を、その顔を写真に収めようとする。
ジュスティア海軍に所属する狙撃手達は、そのフラッシュが照らし出した影を高倍率の光学照準器で目視し、驚愕した。
真相を目撃した人間が一斉に無線機に向け、報告をする。

『あれはデミタスじゃない!!
あれは人形だ!!』

――予告まで残り、0秒。

(_::゚゚[_|_]゚゚)

何の前触れもなく開いた扉の向こうから現れたのは、身の丈六フィートほどの棺桶だった。
墨色の装甲には傷が多数刻まれ、陥没している個所もあった。
朽ち果てた銅像を思わせるその姿、大きさは、間違いなくCクラスの棺桶。
だが青く光るその四つのカメラは少しの曇りもなく、間違いなくヅーを睨みつけていた。

(_::゚゚[_|_]゚゚)『盗みに来たぞ、その命』

(::[ Y])『そうですか、さようなら』

ヅーは問答の途中でショットガンの銃爪を引いた。
散弾程度では目くらましにすらならないことは百も承知だった。
必要だったのは、時間を稼ぐことだった。
二人の騎士が棺桶を身に着けるまでに必要な時間は十秒弱。

それだけ稼げれば、こちらの勝ちだ。

(´・_・`)『我らは巌。 我らは礎。 我らは第九の誓いを守護する者也!!』

そして二人が棺桶の装着を始める。
瞬く間にドラムマガジン二つ分の散弾を撃ち尽くしたヅーはショットガンを捨て、素性の分からないデミタスの棺桶から距離を取る。
距離を取り、安全な場所へと逃げると思わせ、その実、ヅーは柱の裏に隠していた重機関銃を取りに動いていたのであった。
対強化外骨格用の徹甲弾が装填された重機関銃であれば、散弾よりかは相手をけん制できる。

Cクラス相手であれば効果は薄いだろうが、カメラを貫通させることぐらいは出来る。

(_::゚゚[_|_]゚゚)『逃げるか、正義が!』

(::[ Y])『……』

奇妙な話だ。
何故、デミタスは攻撃を仕掛けてこない。
本気でこちらを殺すつもりであれば、それなりの武器を所有してきていて然るべきだ。
それは確信だった。

738 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 21:17:27 ID:cylVOJUg0
この場所をどのようにしてデミタスが探り得たのか、それは後で考えればいい。
ヅー以外の何者かが情報を流しただけの話だ。
情報の流出が行われたと考えれば、当然、ヅーの装備も分かっているだろう。
ならば、銃器があるはずなのだ。

少なくとも、無手はあり得ない。
三対一で武器なしなど、自殺願望があるにしても理に適っていない。
理に適わないという事は、別の理由がある。
氷上を滑るスケーターの様に素早く柱を楯にしつつ、その裏に隠していたHK121を掴みとり、即座に構えて発砲した。

毎分700発以上という驚異的な発射速度で放たれた徹甲弾は光の尾を引いて、まっすぐにデミタスを目指した。

(_::゚゚[_|_]゚゚)『そんな弾が効くと思うか!!』

両腕で顔を覆い隠し、デミタスが突進してくる。
すでに装甲が弱っていたのか、銃弾を受けた装甲が歪み、剥離し、穴が開いた。
銃弾が肘関節を貫き、汚れた潤滑油と赤黒い血液が噴出した。
それでも彼の勢いは止まらない。

狙いは特攻か。
それも理に適っていない。
では一体、何が目的なのか。
命を懸けて、何をするつもりなのか。

刹那の時間で彼の言葉に違和感を覚えた時、異変が起きた。

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August 12th PM10:02
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彼、デミタス・エドワードグリーンにとって正義とはもっとも理解しがたい存在だった。
生まれてから何度もその意味について考えてきたが、分からないままだった。
代わりに幼少期に惹かれたのは、正義を名乗る人間を翻弄する義賊の物語だった。
大胆不敵に警察を翻弄し、金の亡者たちから金品を巻き上げ、貧しい人間に配って回る。

生き残るためにパンを盗み、それを同じように飢えている子供に分け与えたのは、間違いなくその物語が影響していた。
デミタスは幼くして両親に捨てられ、一時的に孤児院に入って幸せな日々を過ごしたが、長くは続かなかった。
食事すら満足に出せないほどの経営難だった施設は遂に潰れ、デミタスは施設を出て行かざるを得なかった。
同じような境遇の子供たちと共に生きる道を選ばざるを得なかったが、それは自然な流れだった。

739 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 21:19:37 ID:cylVOJUg0
飢える者同士、十分な稼ぎを得られない子供であれば、共同体として集まり、助け合わなければ生きられない。
彼の生まれた街では、そういった子供たちをストリートチルドレンと呼び、救済措置は一切行われなかった。
代わりにあったのは、ストリートチルドレンを取締り、街の清浄化を図る事だった。
警察はそのために雇われ、不法労働をする子供たちが次々に捕まり、施設に投獄された。

施設は子供たちを救うための場所ではなく、商品としての選別を行う場所だと、子供たちの間では有名だった。
実際、施設から逃げ出した多くの子供がそこで行われている選別作業を目の当たりにしていた。
女は娼館や金持ちの家に売られ、男は炭鉱やごみ処理施設に送られ、それ以外は慰み者として施設で飼い殺しにされた。
恐れるべきは捕まる事だと、子供たちはストリートチルドレンと化した時から教えられた。

やがて理解したのは、警察は正義の味方ではないという事だった。
正義はきっと、子供たちのところには現れないのだと諦めたのは割と早い段階でのこと。
大人たちの間に正義はあり、子供であるが故に正義の恩恵が受けられないと考えるようになった。
そして、正義の味方は金持ちの味方であることを知ったのは、彼が十歳になった時だった。

いつもと同じ要領でパンを盗み、逃げていた時の事だった。
運悪く鉢合わせた警官に捕まり、デミタスは死ぬほど殴られた。
逮捕こそ見逃されたが、その日、デミタスはゴミ屑のように地面に横たわって体力の回復を待つしかなかった。
夜が明け、下水道に作っていた彼らの家に戻ると、そこには誰もいなかった。

代わりにあったのは、打ち壊された家の残骸だけだった。
後に目撃していた人間から聞いた話では、深夜に警察の一斉捜査が行われ、下水道を住処にしていたストリートチルドレンが大勢施設に連れていかれたとの事だった。
パンを盗みに行っていたデミタスは命拾いをしたのだ。
だが、自分よりも幼い子供たちは逃げることなどできようはずもなく、投獄されてしまった。

彼らに待っている結末を想像しただけで怖気が走ったが、どうすることも出来ない事をよく理解していた。
彼には力がなかった。
何かを変えるための力がなかったのだ。
月日が流れ、デミタスは力をつけるようになった。

ケチな盗みから強盗に仕事を変え、路上強盗や押し込み強盗にも手を出した。
売春の斡旋にも手を染めたが、薬物には手を出さなかった。
女が金を稼ぐ最も簡単な方法は売春で、それは年齢が若ければ若いほど高額になった。
デミタスが行ったのは子供相手に性をぶつけたい変態を見つけ、未払いで逃げられることを防ぐために客の選別を行い、少年たちをボディーガードとして雇う事だった。

取り分は女たちと決めた分だけもらい、後は体を売った彼女達に支払われた。
十歳にも満たない女でも安全に体を売ることが出来る為、彼の商売は右肩上がりとなった。
様々な会社の重役や高官が客として来ることも珍しくなく、それを弱みとして握り、警察に圧力をかけて子供たちに手出しをさせないようにした。
だがまだ足りなかった。

彼は子供たちに売春や危険な仕事などさせず、もっと多くの子供を救いたかった。
そして、決意した。
怪盗となり、盗んだ金品を売り払おうと。
道具を揃え、少しずつ下積みをしていった。

彼は十件目の盗みを終えた時に気付いた。
自分には盗みの才能があると。
盗みは芸術性を重視するようになり、より優雅に、より華麗に盗むことを目指すようになった。
予告状を出し、警察を翻弄し、その無能さを世間に知らしめた。

740 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 21:21:24 ID:cylVOJUg0
彼なりの復讐は、確かな効果があった。
街の警官たちは以前までのように威張らなくなり、少しずつだがストリートチルドレンの数も減ってきた。
彼は匿名で孤児院を設立し、それまでの劣悪な施設ではなく、その孤児院に子供たちが入るように尽力した。
孤児院を出ていく頃には、子供たちは世の中で生きていくのに必要最低限の学を身に着け、危険ではない仕事に従事することが決まっていた。

次にデミタスは美術品のついでに様々な書類も盗むようになった。
子供たちを金で買い、ペットのように扱う変態を世間に知らしめようとしたのだ。
それが大物たちの怒りを買い、多くの警官が導入された末にデミタスは捕えられることとなった。
事情を説明しても警察はデミタスの話を聞かず、死刑にされても構わないから子供たちを助けてほしいと懇願しても、それは黙殺された。

死刑が確定し、デミタスはセカンドロック刑務所に送られた。
資金を得られなくなった孤児院は潰れ、子供たちは売られ、デミタスは親しい友人からの情報でその末路を独房内で知ることになった。
誰が悪かったのか、それを考えるのは無駄だ。
ただ、変えたかった正義があったのだろう。

こうして、ようやく仇を討てる瞬間に巡り合えて、よく分かる。
デミタスの夢。
それは、悪になる事でも、子供たちを救う事でもなかった。
もっとシンプルな、子供の様な夢。

――正義の味方に、なりたかったのだ。

(_::゚゚[_|_]゚゚)『死ね!!』

(::[ Y])『?!』

飛び蹴りを重機関銃で防いだが、ヅーの体はまるで放り投げられた人形のように宙を舞い、鉄格子に激突した。
コンテナに入ったまま円卓十二騎士が出てこないことに、ヅーは気付いたことだろう。

(::[ Y])『盗んだのですね、電源を……!!』

流石は聡明な秘書だ。
こちらの仕掛けたトリックに気付いたようだ。
だがもう遅い。

(_::゚゚[_|_]゚゚)『あぁ、そうだ。
      充電されなければ、棺桶はただのコンテナ。
      充電ケーブルを繋げば充電されるなんて考えをする奴が馬鹿なんだ。
      そんな馬鹿に充電を頼んだ奴は、もっと馬鹿と言うわけだ』

エラルテ記念病院を本部に、ヅー達が集う事は分かっていた。
几帳面なジュスティア人であれば棺桶の充電を行うための部屋を用意すると考え、デミタスは充電を行う部屋の位置を割り出した。
そして、その部屋の電源に細工をして充電ではなく放電をするようにしたのだ。
電力を消耗した状態の棺桶を装着すれば、途中で必ずその力を失うことになる。

円卓十二騎士を二人相手にすることなど、デミタスには出来ない。
無力化するための手段として最も有効な手を使い、それは今、最高のタイミングで形となった。
だが、ヅーは棺桶の充電を誰かに任せることをしなかったため、放電の難を逃れた。
それだけが唯一、デミタスの用意した下準備での誤算だった。

741 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 21:23:19 ID:cylVOJUg0
(_::゚゚[_|_]゚゚)『今度こそ、殺す』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ん
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(::[ ◎])『嘗めないでもらいましょうか』

有利なのはどちらでもない。
どちらも戦闘は不慣れな人間だ。

(_::゚゚[_|_]゚゚)『……』

(::[ ◎])『……』

静かに。
どちらともなく。
次の一手に向けて、動き出した。
デミタスが選んだ一手とヅーの選んだ一手は同じだった。

それは偶然ではない。
ヅーがこの空間に様々な武器を隠していることは知っていた。
腕力や格闘で戦えない彼女は、必ず武器に頼る。
武器の隠し場所さえ分かれば、デミタスは自ら武器を持参せずとも武器を手にすることが出来るのだ。

互いに物陰から武器を手に現れ、銃撃戦が始まった。
デミタスが手にしたのはフランキ・スパス12と呼ばれるオートマチック式のショットガンだった。
対してヅーが手にしたのは、M4カービンライフル。
デミタスはほくそ笑んだ。

互いに装填されているのは対強化外骨格用の弾だろうが、口径が違う。
口径が違えば威力が違う。
勝つのはより口径の大きなこちらだ。
高速で移動しつつ、ヅーはデミタスに正確に弾を当ててきた。

肩の装甲が完全に剥がれ落ち、その下にある筋力補助装置のケーブルが切断された。
ショットガンを使えなくてもいい。
少しの間だけ、相手が可能性を忘れてくれればいいのだ。

(_::゚゚[_|_]゚゚)『うおおお!!』

742 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 21:26:17 ID:cylVOJUg0
絶叫。
咆哮。
デミタスは声を上げ、ヅーを目指して駆け出した。
カービンライフルの銃身下に装着されていたグレネードランチャーが火を噴き、榴弾がデミタスの顔を捉えた。

(;´・_ゝ・`)「ぬっおおお!!」

だが止まらない。
ヘルメットが吹き飛び頭を深く傷つけたが、デミタスの頭部は健在。
ライフルの弾が尽き、ヅーがそれを投げ捨てる。
このまま逃げるか、それとも向かってくるか。

もしも逃げられたら、デミタスが追いつくことは不可能だ。
だが、この突撃をヅーが見逃すとは思えなかった。
わざわざ人体最大の急所を晒しているのだから、これを好機と捉えない人間はいない。

(::[ ◎])『しっ!!』

急制動、急転回、そして高周波ナイフを鞘から抜き放つ。
ヅーは覚悟を決め、ここでデミタスを切り伏せることを選んだ。
それでいい。
そう来なければ、ジュスティア人ではない。

勝敗が決するまで、残り数秒。
デミタスは抜き放たれた高周波ナイフの切っ先を凝視し、そして――

(;´ _ゝ `)。゚ ・ ゚

切っ先が、デミタスの肺を捉え――

(::[ ◎])『?!』

――デミタスの両腕が、ヅーの体を掴んだ。

(;´・_ゝ・`)「つ……か……まえ……」

(::[ ◎])『しまっ……!!』

ようやく狙いに気付いたのだろうが、もう遅い。
デミタスは奥歯に隠したスイッチを噛み砕いた。
その瞬間、膨大な量の情報がデミタスの脳裏に甦った。
それはかつて彼が過ごしてきた孤児院の記憶であり、路地裏の記憶であり、怪盗の記憶だった。

幾億もの声が響く中、人生の全てが一枚の写真のように連続する光景にデミタスは圧倒された。
何と美しい光景なのだろう。
何と醜い光景なのだろう。
なんと優しい光景なのだろう。

743 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 21:28:02 ID:cylVOJUg0
彼が助けたかった子供たちの笑い声が遠くから聞こえる。
懐かしい声だった。
もう二度と聞く事が出来ないと思った笑い声だった。
嗚呼。

(´・_ゝ・`)「……はは」

これでいい。
これがいい。
もう誰も苦しむ姿を見ないで済む。
永遠の平和が、永劫の平穏が待っている。

世界が白く染まる。
声だけが大きく聞こえる。
自分を呼んでいる。
懐かしい、あの声が。

(´・_ゝ・`)「皆、俺は――」

そして、彼の意識は体と共にこの世界から消え去った。

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ヅーはその可能性を考慮しなかったわけではなかった。
だが、理に適わない、という理由だけでその可能性を頭から消し去っていた。
それこそが彼女の最大の過ちだった。
人間は理に適わない生き物なのは、トラギコが生き様で語っていたというのに。

744 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 21:29:27 ID:cylVOJUg0
時間稼ぎだと思っていた。
場を混乱させ、自らは逃げるのだと思っていた。
デミタスは違った。
彼は、最初から死ぬつもりだったのだ。

死ぬことが狙いの人間を殺そうとしていたのであれば、ヅーはとんだ愚か者だ。
至近距離でさく裂した高性能プラスチック爆弾の閃光が、彼女の視界を白く染め上げた――

瓜; - )

――思えば、自分はいつもそうだった。
大切な物に自分だけでは気付く事が出来ず、誰かの力や存在を経てようやく理解できる。
器用な人間ではないのだ。
器用を振る舞い、不器用に生きていただけ。

誰かの期待に応えるために奮闘し、自分自身に期待することは一度もなかった。
決められたレールの上で物事は動き、その物事を管理する内、見落とすことが増えて行った。
それにさえ気付けなかった。
例えば、自爆の道を選んだこの男もそうだ。

デミタスは孤児たちのために美術品を売り払っていた。
それは事実であり、彼が救った子供たちは多くいる。
その資金供給を断ったのはヅーだった。
それが規則だからだ。

規則に従い、孤児院に流れる金の一切を遮断した。
万が一、その孤児院が違法ビジネスに使われていたら取り返しがつかなくなると考えた警察の判断だった。
彼女はそれに従った。
結果、大勢の子供が路頭に迷い、体を売り、そして肉片と化した者もいた。

心は痛まなかった。
彼女には直接関係ない事だったし、それは、彼女の判断ではなかったからだ。

瓜; - )「ぐ……ぁ」

気が付けば、ヅーは地面に倒れていた。
爆音のせいで鼓膜は両方とも破れ、全身には無数の破片が突き刺さり、両目は硝子によって潰れていた。
痛みは感じなかった。
四肢の感覚は無くなっていた。

赤黒い色以外、何も見えない。
耳鳴り以外、何も聞こえない。
寒さ以外、何も感じない。
今、自分は生きているのだろうか。

分からない。
誰かに教えてもらわなければ、何も分からない。
酸素が足りない。
いくら息をしても、まるで、どこかに穴が開いているかのように抜けていく感じがした。

745 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 21:30:16 ID:cylVOJUg0
寒い。
痛い。
苦しい。
恐い。

一気に多くの情報がヅーの頭に流れ込み、その苦痛にもがき苦しんだ。
声を出しているのかもわからない中、ヅーは体をよじって痛みに苦しんだ。

瓜; - )「あああ゛あ゛っ!!」

恥も外聞もなく、ヅーは悲鳴を上げながらとにかく痛みから逃げる事だけを考えた。
誰か、助けて。
そう、声に出したかった。
出したい言葉は、彼女の口から出ることはなかった。

意識が遠のく事だけが救いになるのだが、体に突き刺さった金属片がそれを許さない。

(:::::::::::)「……」

何かが、ヅーの頬に優しく触れた。
それは人の手だった。
ごつごつとした、不器用そうな人間の手だった。
誰が触れているのか、ヅーは見たかった。

その手が触れている間、ヅーの痛覚は遮断され、全ての意識が不器用そうな手に注がれた。

(:::::::::::)「……」

誰の手なのか。
姿を見ようとしても、もう、彼女の目が何かを見つめることはない。

(:::::::::::)「……」

声が聞きたい。
声を聞こうにも、もう、彼女の耳は音を捉えられない。

(:::::::::::)「……」

瓜; - )「あ……あ゛……」

伝えたい。

(:::::::::::)「……」

何を?

(:::::::::::)「……」

誰に?

746 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 21:30:59 ID:cylVOJUg0
(:::::::::::)「……」

どうして?

(:::::::::::)「……」

でも。
もしもこの手が、彼の手だったならば。
それは、とても幸せなのかもしれない。
この地獄のような苦しみの中で差し込む希望。

ジュスティアに向けて連行され、この場にいるはずのないトラギコがいてくれたならば。
彼の手がどんなものなのか、調べておくべきだった。
いや、調べていたらこうして願う事さえ出来ないだろう。
知らない幸せも、世の中にはあるのだ。

なら、この時はせめてその幸せに身を委ねてみよう。

瓜; - )「と……ら……ぎこ……」

声は上手に出せているだろうか。
みっともなくないだろうか。

瓜; - )「わた……し……じょ……うずに……」

手が、ヅーの頭を撫でた。
その意味は、言葉が無くても分かる。
褒められているのだ。
自分は今、褒められているのだ。

こうして奮闘したことを認められた。
認めてもらえたのだ。
結果は悪いが、努力を認めてもらえた。
生まれて初めての経験だった。

瓜; - )「あ゛……あぁ……」

涙があふれ出した。
激痛に際しても流れなかった涙が流れた。
あまりにも嬉しかった。
誰かにこうして認められるのが、たまらなく嬉しかった。

こんな状況にありながら、ヅーは今、幸せを感じていた。

瓜; - )「あ……り……」

感謝の言葉は、最後まで紡がれることはなかった。
黒く染まった視界。
全身から消え去る感覚。
まるで、炎が消えるかのように。

747 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 21:31:45 ID:cylVOJUg0



誰かの手の温もりも感じられなくなり、そして、ヅーの心臓はその活動を停止した。


瓜 - )


(=゚д゚)「……」


息絶えたヅーの傍を離れたトラギコは、静かに歩き始めた。
無表情のままだったが、強く握られた彼の両手の拳からは血が滴り落ちていた。


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               }ヘ      ヽ、_ヽ 、
              }             i
              |           ,  }
                  ',}         /ノ¦
                  '|   ; ',      }勹!
               | i  ; }  ',     i }
                    、 ', i {   ヽ_  /
               ヽ- 、_,-- -/ ̄
Ammo→Re!!のようです
Ammo for Reknit!!編 第七章【housebreaker-怪盗-】 了
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748 名も無きAAのようです :2017/06/12(月) 21:33:20 ID:cylVOJUg0
これにて第七章は終了です

質問、指摘、感想などあれば幸いです

749 名も無きAAのようです :2017/06/13(火) 10:34:54 ID:hKQGD1oY0
おつ
ヅーもデミタスもこんなにあっさり退場するとは...

750 名も無きAAのようです :2017/06/13(火) 11:54:41 ID:MMTDGiVEO
乙。
確立× 確率○ な。

751 名も無きAAのようです :2017/06/13(火) 20:08:17 ID:c0tA6uXA0

退場者が増えてくると辛いものがあるな

752 名も無きAAのようです :2017/06/13(火) 20:18:35 ID:WqE.04EE0
>>750
ご指摘ありがとうございます

早速修正した最新話は↓で読めますのでぜひ
http://ammore.blog.fc2.com/blog-entry-51.html#entry-top

753 名も無きAAのようです :2017/06/13(火) 20:53:05 ID:juuzTotY0

棺桶に閉じ込められた円卓なんとかさんたち相当気まずいねこれ
何言ってきても「放電」つったら黙るしかないもんね

754 名も無きAAのようです :2017/06/13(火) 21:19:10 ID:MzWMtGtg0
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755 名も無きAAのようです :2017/06/13(火) 21:21:01 ID:oHvrOAdA0
まじかづー死ぬのかよつらい
ちょっと円卓さんたち無能すぎません?

756 名も無きAAのようです :2017/06/13(火) 21:37:25 ID:WqE.04EE0
http://blog-imgs-106.fc2.com/g/u/r/guruguruhaguruma/20170613213200761.jpg
https://www.youtube.com/watch?v=I2nWJixqXF4
今回活躍した(´・_ゝ・`)の棺桶(完全な姿)になります

まぁ爆発四散したのでもう出てこないんですけどね!

757 名も無きAAのようです :2017/06/14(水) 01:41:09 ID:Xo3kKizY0
というかこれヅーの棺桶も放電されててコンテナの中から出られなかったらどうしたんだ?デミタスに殺せる装備はあったんだろうか

758 名も無きAAのようです :2017/06/14(水) 04:24:58 ID:0/1Sd7kg0
>>757
>>741
武器の隠し場所さえ分かれば、デミタスは自ら武器を持参せずとも武器を手にすることが出来るのだ。

互いに物陰から武器を手に現れ、銃撃戦が始まった。
デミタスが手にしたのはフランキ・スパス12と呼ばれるオートマチック式のショットガンだった。
対してヅーが手にしたのは、M4カービンライフル。
デミタスはほくそ笑んだ。

互いに装填されているのは対強化外骨格用の弾だろうが、口径が違う。
口径が違えば威力が違う。
勝つのはより口径の大きなこちらだ。

759 名も無きAAのようです :2017/06/14(水) 18:21:20 ID:wwTbG8hU0
>>757
>>758さんが指摘されている通り、武器があの場には沢山あるということもありますし、
いざとなれば彼女達が仕掛けたガス使う、もしくは海にポイーで終わります。
が、デミタスはヅーの棺桶だけがちゃんと充電されていた事を>>740でもある通り知っていました。
なので行き当たりばったり、ではありませんでした。

ではどうしてデミタスはそれを知っていたのか、については
あちらこちらにヒントが散りばめてありますのでよろしければ探してもらえるとより一層楽しめるかと思います。
第八章でその辺りについては触れますので、今しばしお待ちください

760 名も無きAAのようです :2017/06/14(水) 20:34:20 ID:Vd8QBM960
デミタスかっこよかったなぁ

761 名も無きAAのようです :2017/06/15(木) 13:11:49 ID:vxL7mKIE0

如何なる方法でトラギコが駆けつけたのかも気になるが
間に合わなかったか…


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