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Ammo→Re!!のようです

1 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 19:35:24 ID:F94asbco0
前スレ
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/13029/1369565073/

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【Low Tech Boon】→ttp://lowtechboon.web.fc2.com/ammore/ammore.html

【Boon Bunmaru】→ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/ammore/ammore.htm

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2 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 19:36:15 ID:F94asbco0
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好奇心で猫が死ぬ?        ヽ、   l          ヽ ,ィ
Cat has nine lives?               `ー.,′        _, イト
                        ,'         ..;;;;;;;;ィ  ジョルジュ・マグナーニ
まさか。                    /     ,ィ   ..,,;;;;'',.ィ仁   Georges・Magnanni
You're kidding me.             `ー--r‐、 ;;;;;:'' ,イ'.__ノ_イ
                             _,メリl__,ィニィ'ノ‐ ´
                         ,ィイメ` `r‐}l'´ , -イ
                        ,fリ′!、_ ..| ト∠- ′
                          Ⅷ  ー‐' ノ `リli|;;;;;;;;;;;;;
                    その猫が弱かっただけだろうよ。
                 That cat was so weak that it can't be alive.
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速度、信号、細かな道路規則を完璧に守るヴォルクスワーゲン社製の白いセダンは現代的で、そして厳めしい表情と堅牢な作りの洗練された美を有している。
低電力のライトは僅かに青みがかり、明るすぎず、だが暗く感じることのない適度な明るさで地面を照らしていた。
辺りには街灯が多く並び、仄かな白い光がアスファルトで舗装された道に光を落としている。
日中の太陽光と波力、そして風力で作られた電力を使用して発電しているため、その明るさは日によって違うと言う。

巨大な街が持つような発電施設はないが、自然の力を借りた発電施設は周囲の島々に散っており、この街には十分すぎるほどの電気が供給されている。
大嵐が島を襲ったとしても停電の心配はないと言われており、余った電力で得た金は街の重要な収入源の一つだ。
むしろ問題があるとすれば、建物の方だ。
嵐の度に昔ながらの作りをした家屋が新しくなるのは、この島の伝統的な風景とも言える。

3 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 19:39:55 ID:F94asbco0
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:|i   } |    .∧____  -‐=====‐-ミ
L|  .ヘ‐'      >''"    _,,,............,,_    `'マ〜く
ー'゙´    ァ=ーっ   ,x<´  ¢_¢  `>x   ヽ.ヽ\
      // 广´ /〃↑゙ヽ l÷l 〃♂ヽ {\__ノ ⌒^゙ヽ           August 9th
      //  } ∩/ ①乂__,.彡,.」⊥L乂__,.ノ__\       }          PM11:01
    /   U } `¨丁/      `丶.丁¨´{      /
    {       |ニニニ7    〃⌒ヽ.   マニニ|x-‐─《.
     '.      jニニニ{     {{QQQ}}    }ニニ!::::::::::::::::.
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鏡のように磨かれたスモークガラスのセダンを運転するのは、フレームレスの眼鏡によって知的な印象を与える鳶色の瞳を持つ若い女性だった。
美人に分類される顔の造形だが、彼女をよく知る人間からはそのような評価は一度たりとも下ったことがない。
一目彼女を見た人間もまた、その眼光に射竦められて評価を覆す。
もっとも、その女性は自分の容姿が異性に与える影響など眼中にはないのだが。

世界における正義の使者とも言えるジュスティア警察の長官専属秘書、ライダル・ヅーはハンドルを左手で掴み、右手は常にシフトレバーに添えている。
ギアを変える時に車が不自然に振動することもなく、車と搭乗者に負担をかけることのない運転を日頃から心掛けていることが分かる。
速度に応じてギアが変わっているのに気付くには、僅かなエンジン音の変化に耳を傾け続けるしかない。
時折ヅーの目は右側の助手席に座る男に向けられていたが、向けられた当の本人はそれに気付いていながらも無視を決め込んでいた。

助手席に座るのは整った服装のヅーとは対照的に、皺だらけのスーツを着てワイシャツのボタンを二つ外し、白髪だらけの乱れた髪の男だ。
右の頬にある大きな二本の傷は、人相の悪い彼をより一層悪人に思わせた。
落ち着きなく車外に目を向け、通行人や対向車、建物の上を観察する様は正に不審者そのものだ。
男の名前はトラギコ・マウンテンライト、ジュスティア警察のベテラン刑事である。

4 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 19:42:00 ID:F94asbco0
車は人通りの多い道から、ウィンカーを出して細い道に左折した。
すれ違う車は錆だらけ、もしくは土埃だらけの地元の人間が運転する車だけだった。
ヅーの車はいわゆる高級車で、地元民のそれとは明らかにかけ離れた美しさを持っているために、明らかに目立っている。
地味な見た目ながらも確かな質の品で彩られた車内に会話はなく、ラジオすら流れていない。

トラギコは気まずいとは思わなかったが、心地よい沈黙とも思えなかった。
目的地は本人の言葉が正しければ、ティンカーベルを代表する観光スポットであるグレート・ベル近辺のブライアンホテルだという。
ブライアンホテルという名前のホテルが実在するかどうか、実のところトラギコは知らなかった。
この島について、そこまで詳しくは知らないのだ。

閉鎖的な土地が好きな人間はそういないだろうし、トラギコもそういった人間の内の一人であり、ティンカーベルと関わる仕事の記憶がほとんどないのが原因だ。
何よりトラギコの記憶に強烈に焼き付いているのが島の雰囲気や地形よりも、捜査に非協力的な人間の多さだった。
そう云った経験も含め、この島での聞き込みはあまり実りあるものにはならないだろうとトラギコは確信していた。
だからこそ、自分の足を使って情報を手に入れて回るしかないのだ。

しかし、それはこのまま無事にホテルについて行動が出来るようになってからの話だ。
ヅーが大人しくトラギコの捜査の協力をするとは、どうしても考えられなかった。
規則一筋だからこそ優秀であり、ジュスティア警察の最高権力者であるツー・カレンスキーの専属秘書になったのだ。
世界で五指に入る優秀な秘書、とはよく言ったものだ。

トラギコに言わせれば、世界で五指に入る融通の利かない糞女である。
そのヅーが、己の独断で軍と警察の意向に反してトラギコを自由に行動させるなど、あまりにも非現実的すぎる話だった。
見え透いた罠だ。
彼女の目的はトラギコから情報を聞き出すことであり、保護することはその過程でしかない。

結果として情報を聞き出せれば、トラギコが殺されようとも気にも留めないだろう。
これまでに何度も彼女の行動を見てきたからこそ、彼女の言動の裏を考えざるを得ない。
ある意味で信頼と言えるだろう。
善意ある行動などなく、必ず裏に何かしらの目的を潜ませて動く女だという信頼。

5 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 19:45:28 ID:F94asbco0
このドライブも裏があると考えれば、常に首筋に剃刀を当てられているようなものだ。
脚の一本が使えなくてもヅーに力で勝つ自信はあるが、この女がトラギコとの体力的な差を考慮せずに拘束しようと画策しているとは考えられない。
ある地点に部隊が控えてあるか、この車に罠を仕込んでいるかもしれない。
テーザーガンで人をショック死させるような女なら、有り得る。

さりげなくルームミラーを見ると、後部座席に男女の対格差を無意味にする代物が鎮座していた。
強化外骨格――“棺桶”――だ。
彼女の使う棺桶は逃亡者を追い詰めるのに最適な物で、徒歩の人間は絶対に逃げきることが出来ない。
車内での争いは意味をなさないと考え、トラギコは再び視線を外に向けた。

車は、見覚えのある通りへと戻ってきた。
尾行車がいないか、それを見定めるための行動だ。
ヅーは意図的に細い道を選んだり、カーブを曲がる際に速度を上げたりと教本通りの対応をしている。
細かなハンドル操作と速度変化が多い中、ギアを変更する際、信号に従って車を止める際、どのような時もトラギコの体が前にのめり込むことはなかった。

車内には、エンジンが上げる低く小さな音だけがBGMとして流れていた。

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       {       |ニニニ7    〃⌒ヽ.   マニニ|x-‐─《
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6 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 19:49:58 ID:F94asbco0
走り始めて一時間以上が経過したが、ホテルに到着する気配は一向になかった。
尾行車を警戒しての行動だとしたら、いささか時間をかけすぎている。
先ほどから後方を見てはいるが、それらしき車両を見かけてはいない。
何かを考えているのだろう。

トラギコをどこかに連れ込み、拷問をする算段でも立てているかもしれない。
セダンは似た景色の道を繰り返し通りながらも、確実に島の奥へと向かっている。
流石に我慢が出来なくなってきたトラギコは、運転席に仏頂面で座るヅーの方を向いた。

瓜゚ー゚)「何ですか?」

相変わらず、この顔が腹立たしい。
何もかもを知っている人間だけが出来る、落ち着き払った表情。
忌々しいこの女は常にその表情を顔に貼り付け、接してくる。
自分が上位にいることを示すかのような表情は、己の知識と技量の裏返しだ。

それだけ自分に自信があり、相手よりも勝っているという確信があるのだ。
上司でなければ殴っているところだ。

(=゚д゚)「どこに向かっているラギ?」

視線を窓の外に戻し、トラギコは質問をした。
思えば、このセダンに乗車してから初めての発言だった。

瓜゚∀゚)「ホテルです、遠回りですが」

返答したヅーもまた、視線を前に固定したままそれに応じた。、
表情は微塵も変化がなかった。

(=゚д゚)「あんまり時間をかけてほしくないラギ」

7 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 19:52:51 ID:F94asbco0
瓜゚∀゚)「構いませんが、島の地図は頭にありますか?」

成程、とトラギコはヅーの発言の意図を理解した。
トラギコにこの事件を担当させるのであれば、当然、捜査を行うことになる。
捜査に必要なのは根気と土地勘、情報、そして暴力だ。
島の形を理解し、島にある街並みとその細かな道を覚え、どこにどのような店があるのかを覚えておく必要がある。

特に、酒場は情報収集には最も適した場所だ。
酒精を摂取した人間は多かれ少なかれ、必ず集中力が落ちる。
その隙に付け入り、情報を手に入れるのは容易な話だ。
現にトラギコは、この一時間で四件の酒場を記憶していた。

やはり、抜け目のない女である。

(=゚д゚)「……やっぱり、もう少しだけ付き合うラギ」

街の案内をしながら送迎されているとは、思ってもみなかった。
しかし、罠である可能性は微塵も減っていない。
再び、無言のドライブが始まった。

8 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 19:55:57 ID:F94asbco0
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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Tinker!!編
              _,,斗zセニ二..,,,_ ̄ ̄三二ニ丶、
     ,.. -─=≦=ー-  .,,_     )'´,.斗-‐t━=ミ\   _
    _(ハ,_,,..二{》二二...,,,,_/.ノ__,,.. ィ゙ <∠..,,___,ハ,.-‐\\にl}   第五章【drive-ドライブ-】
  〃) ∨__リ____  {!に二¨¨:ア´ ̄ ̄ ̄``マニ==ー<∠....,,,,__
  |:i' c |[「 ̄ ̄ ̄ ̄|/ r‐ュ.  |::;′     ∠.,`ヽ     `ヽ   `>、
  U n   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄    n ∪     / , -、'vハ        °/,:'ヽ',
  ∨_    0O           ____    /     ',Ⅵ',     l|  / ;  }|
  にニヽ. .....,,,,,,_ _ __ ___f'´-----‐\/ l{    }}ノ人      リ August 10th AM00:32
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ブライアンホテルに着いたのは日付が変わってからだった。
それまで徹底して口を利かないでいたトラギコは、この段階でもまだヅーを疑いの目で見ていた。
八階建てのホテルはペンキが塗り替えられて間もなく、内装は小奇麗に整っていた。
受付のあるラウンジも掃除が行き届いており、赤い絨毯は柔らかく足を負傷しているトラギコにとってはありがたく感じた。

ホテルの入り口近くには飲食や談話の出来る小さな丸テーブルと一人掛けのソファが三つあり、ラウンジの奥にはカウンターバーもあった。
ヅーは受付に立ち寄り、名前を告げてから鍵を受け取った。
その動作が生んだ僅かな時間の中で、トラギコはラウンジに不審な人間や物がないことを確認していた。
柱の陰や植木の陰にも目を向け、影や異常な動きがないかを見る。

入り口が密かに施錠されていないこと、その扉の近くに何か罠のような物がないことを確認した。
警察とジュスティア軍が好む手口は、標的が目的の建物に入った時に捕える方法だ。
瞬間的な油断の数値で言えば最も高いからだそうで、真っ先に行うのが出入り口の封鎖なのである。
別の手段で捕えに来るとしたら、部屋に入った瞬間か睡眠の際だろう。

9 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 19:58:11 ID:F94asbco0
トラギコを一瞥したヅーは何も言わずに先にエレベータに向かって歩き出し、昇降機を呼んだ。
それに続いてトラギコは松葉杖を突きながら、エレベータの前に立つ。
昇降機の中に武装した部隊がいたとしたら、抵抗は考えずに大人しくしておいた方がいいだろう。
だが予想とは裏腹に、開いた扉の中には誰もいなかった。

十人ほどが乗れるやや小さめの昇降機に乗って二階に向かい、五秒もかからずに到着する。
静まり返った廊下を進み、突き当りにある211号室の前で止まる。
廊下の突き当りには小窓があり、柵は設置されていない。
万が一の際にはここから飛び降りて逃げられることを確認した。

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部屋の扉を開き、先にヅーが入る。
一拍置いて安全を確認してから、トラギコも続いた。

瓜゚∀゚)「これから少し話をしますので、適当にかけてください」

そうは言っても、部屋には小さなベッドが一つと読書灯と電話、そしてメモ帳の載ったサイドテーブルが一つ。
椅子は一脚もない。
些細な家具の有無はどうでもよかったがどうしても見過ごせなかったのが、ユニットバスという点だった。
トラギコはユニットバスがこの上なく嫌いだった。

10 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 20:02:12 ID:F94asbco0
何が悲しくて糞を垂れる空間と、体を洗う風呂場を一緒にしなければならないのか。
だが侵入者が隠れる場所がないのはいいことだ。
とりあえず、トラギコはベッドの上に腰かけた。
ヅーは玄関を背にして、トラギコを見下ろしている。

窓から離れているのだ。
警察が盗聴に使用している機器の中に、窓の振動を使って室内の会話を聞き取る物がある。
本当に独断で動いているのかもしれないと、トラギコは今さらではあるがヅーの言葉に耳を傾ける気になった。

瓜゚∀゚)「まず、現状についてお話しします。
    脱獄犯の二人は未だ発見されておらず、現地の署、軍と連携して引き続き捜索しています。
    なお、軍からは人狩り専門の精鋭部隊が派遣されています」

(=゚д゚)「連中に人探しは無理ラギ。 跫音立てて狩りをするような連中ラギよ。
    狩りと捜査は全く別物ラギ」

瓜゚∀゚)「分かっています。 なので、軍は主に封鎖と緊急時の対応に力を入れています。
    全ての連絡所に部隊が設置され、数人の精鋭だけが島内を探っている状態です」

滅茶苦茶だ。
川の中を歩きながら探し物をするようなものだ。
泥が舞い上がり、足元が見えなくなることに憤りながら事態を悪化させ、更に憤慨して取り返しのつかない状況にするようなもの。
探し物をする時には慎重さが必要になる。

軍人にはそれが足りていない。
特に、ジュスティアの軍人はそれが致命的なまでに訓練されていない。
正義があれば何でもできると思い込んでいる狂信者。

(=゚д゚)「そもそも指揮は誰ラギ?」

11 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 20:05:47 ID:F94asbco0
瓜゚∀゚)「タカラ・クロガネ・トミーです。 元帥の」

軍の最高責任者のタカラについては、トラギコもその活躍を耳にしている。
そして、若さが仇となることを知らない人間であることも知っている。
行動力だけは認めるが、それ以外についてはあまり評価できる部分がない。
というのも、ジュスティア軍が他の地域に出向いて治安維持を行うようになったのは、彼が元帥になってからなのだ。

一世紀以上も前の仇を討とうとフォレスタに密かに派兵して壊滅したのは、確か彼の進言だったと記憶している。

(=゚д゚)「俺の足を撃ったのは、やっぱりカラマロスか?」

瓜゚∀゚)「……えぇ。 予定では掠めさせて脅す程度だったのですが、風の影響があったそうです」

嘘だと断言できる。
強い潮風が吹く中、高速で走るバイクのタイヤの軸を正確に撃ち抜いた人間だ。
確かに風の影響があったかもしれないが、カラマロス・ロングディスタンスはトラギコを殺すつもりで撃ってきた。
大動脈を撃ち抜いて殺すつもりが、風の影響で狙いが逸れただけなのだ。

どうやら、軍にかなり嫌われているらしい。

(=゚д゚)「あの糞野郎についてはさておくラギ。
    で、続きは? どうして手前がこの件に絡んでいるラギ?
    長官の専属秘書がどうしてここに?」

瓜゚∀゚)「……それについてはお教え出来かねます。
    私は別の指示があってここに来ているだけですから。
    話を戻しますが、ショボンが脱獄犯を逃した目的や彼の動き方を知っているのは貴方ぐらいしかいません。
    この状況でオアシズやオセアンの情報を貴方から聞き出すのは無理でしょうから、まずはこの事件を終わらせてほしいのです。

    リスク管理の問題です」

12 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 20:12:17 ID:F94asbco0
ようやく理解できた。
ヅーは、警察にかかる負担のほぼ全て。
つまり、事件に関わる上で発声する面倒全てをトラギコに押し付けようというのだ。
現実的に考えて、警察ではこの事件を解決出来ない。

相手は警察で働いていた経験を持つ、狡猾極まりないショボン・パドローネ。
トラギコを殺すために病棟を一つ燃やすような人間が、警察のやり方で見つけられるはずがない。
この女は尤もらしい理由を付けて説明しているが、あくまでも過剰なまでに盛り付けた話であって、本質には一切触れようとしていない。
そもそも、ヅーが独断で、という下り自体が明らかな嘘だし、正義を重んじるジュスティアがこれだけの大きな事件を一人に投げる訳がない。

要は捨て駒。
敵をおびき出すための駒として動き回らせ、あわよくば事件に関する情報を収集したいだけなのだ。
何せ、平気でオアシズを沈めようとする組織が相手なのだ。
こうして餌となるトラギコをこのホテルに泊まらせておけば、自ずと尻尾を表すことになる。

成程。
利口な餌になれという事なのだ。
恩を売っているように見せておいて、その実は作戦を動かす部品の一つとして動かす腹積もりなのである。
やはり、この女は好きにはなれない。

だがしかし、好都合な面もある。
アサピーのネタはこちらで隠したままだし、彼にある程度の話をしたことも秘匿したままだ。
何よりほぼ自由に動けるのは大きな利点だ。
互いに手の内は全て曝け出していない状態にある。

先手を打てば、トラギコにとって有利な状況を作ることが出来る。

13 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 20:14:44 ID:F94asbco0
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(=゚д゚)「話は終わりラギか?」

瓜゚∀゚)「概ねは。 一つ、気になっていることがあります。
    貴方に答えてもらいたいことです」

来た。
恐らくこれが、ヅーがここにいる理由につながる質問のはずだ。
答える答えないはさておいて、話を聞けば相手の考えが何か分かるかもしれない。

瓜゚∀゚)「デレシア、という人物を知っていますか?」

(=゚д゚)「さぁ? 昨日も答えたけど、聞いたこともねぇラギ」

これで終わりだろうか。
デレシアはこちらもその正体が分かっていない上に、誰にも渡したくない獲物である。
何か知っていたとしても、教える気にはならない。
あの女は、トラギコの獲物なのだ。

瓜゚∀゚)「ニクラメン、そしてオアシズの事件に関与しているという話がありました。
    ですが、その人物の名前は偽名の可能性が非常に高く、その目的も不明です」

14 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 20:18:34 ID:F94asbco0
確かに関与はしていた。
それは間違いない。
関与どころではなく、深い部分で繋がっていたとトラギコは推理している。

(=゚д゚)「なら質問する先が間違ってるラギ。
    探偵に頼め」

会話が終わると思われたが、続きがあった。

瓜゚∀゚)「……問題なのが、その人物の名前がジュスティア史に出てくる人物の名前という事なのです」

それは初耳だ。
一応、ジュスティアにある大学を卒業したが、歴史の授業でその名前を耳にしたことはない。
特徴的な名前というのもあるが、トラギコは記憶力に関しては少し自信がある。
特に人命に関しての記憶力はよく、歴史上の人間の名前はある程度覚えていたはずだ。

仮に忘れていたとしても、その名前に何か違和感を覚えたりするはずなのだ。

(=゚д゚)「へぇ、単に歴史好きなだけじゃねぇのか?
    それとも歴史好きに悪い奴はいないとかって言うラギか?
    その名前、それほどすげぇのか?」

挑発的な言葉を無視して、ヅーは続けた。

瓜゚∀゚)「それはそうでしょう。 ジュスティアの中でもある程度の権威を持った人間だけが知り得る情報なのですから」

(=゚д゚)「……ほぅ?」

15 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 20:21:04 ID:F94asbco0
瓜゚∀゚)「詳しくはお話しできませんが、この名前を知っているという事は、ジュスティアにいたという事を意味します。
    そして、権威を持った人間であった、もしくはあるという可能性があります。
    そんな人間が件の事件を起こしたとなれば、これは非常に厄介な問題になります」

限られた人間だけが知ることの出来る歴史。
それはつまり、ジュスティアという街が出来上がるに際してかなり大きな影響を持つ情報という事だ。
これまでの間秘匿され続けてきた歴史。
是非とも知りたい。

当然の事だが、ヅーは話さないだろう。

(=゚д゚)「見つけたらどうするつもりラギ?」

瓜゚∀゚)「当然、死刑です。 汚点を世に晒すわけにはいきませんから」

これが、彼女の目的だ。
いや、彼女たちの、と言い換えた方が正確だろう。
真実の確認よりも先に消したい情報を持つ可能性のある人間、それがデレシアなのだ。
彼女が旅をしていることを知らなければ、同伴者がいることも知らないのに、随分と大きく出たものだ。

同時に複数の問題を解決しようとして――否、そうではない。
彼らは、デレシアもショボンの組織も同一視しているのだ。
とんだ勘違い、と言いたくもなるが実のところトラギコはデレシアの何も知らないことを再度自覚する。
本名も年齢も、旅の目的も。

16 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 20:24:26 ID:F94asbco0
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    何も      /{:八: : :i/: :八: ∨|八|  |/ :j            /    /: : :/ ハ :  \
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  知らない   / : : : : \ \ \: :从⌒            ∠/  //: / ノ.: :リ 〉: 〉
     /   人 : : :  -=ニ二 ̄}川 >、  `''ー 一    ∠斗匕/´ ̄ ̄ ̄`Y: :{/: /
     {   { 厂      . : { /⌒\          .イ///: : : .____   人: :\/
     ':   ∨} _: : : : 二二/ /   | \_   -=≦⌒\く_: : /: : : : : : :_:): :\: :\
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分かっているのはその姿が浮世離れした美しさを備え、風変わりな格好をしている事、耳朶に心地いい声をしているという事。
そして、並外れた勘とただならぬ雰囲気を身に纏った若い女性だという事だけだ。
捜査にはほとんど役に立たない情報だが、知らないよりかはいい。
横取りをさせるわけにはいかないため、トラギコは一切の情報を流さないことを決め込んだ。

(=゚д゚)「ま、好きにしてくれラギ」

トラギコはここまでの段階で、ヅーが自分を疑っていることに気付いていた。
デレシアという人物に関して何も情報を開示していないのがその証拠。
あくまでも名前だけだ。
例えば性別や容姿については不自然なほどに言及しておらず、万が一トラギコが口を滑らせようものならそこを突いてくるつもりだったのだろう。

甘い。
そのような罠をトラギコに仕掛けるなど愚の骨頂だ。
ジュスティア警察ではよしとされていない手段だが、トラギコにとっては常套手段。
常識的過ぎて逆に不自然なものにまでなっている手段なのである。

瓜゚∀゚)「……そうします。 捜査は今日からですか?」

(=゚д゚)「ま、その予定ラギ」

17 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 20:28:19 ID:F94asbco0
瓜゚∀゚)「くれぐれも、捕まらないようしてください」

捕まらないようにお膳立てをしてくれる、という意味に捉えておく。

(=゚д゚)「なぁ、予算はくれないラギか?」

瓜゚∀゚)「……五十ドルだけ、そこの机の引き出しに入れました。
    それでどうにかしてください」

(;=゚д゚)「五十……ドル……? 一週間それで過ごせたら表彰ものラギ。
    バラエティーラジオの聞きすぎで脳味噌が退化したラギか?」

どれだけ節制したとしても、三日でなくなってしまう。
聞き込み、張り込みの基本は飲食店だ。
身分を隠して店に長居するには商品を買わなければならない。
喫茶店ならば一番安いコーヒー、酒場なら一番高い酒だ。

それが、五十ドル。
安い喫茶店でもコーヒー一杯五ドルだ。
コーヒー一杯で喫茶店に滞在したとしても、最終的には食事が必要になる。
三食摂るとして、一食当たり一ドル五十セントから二ドルの間でやりくりしても、日にかかるのは十ドル弱。

更に一食一ドル五十セントとなると、せいぜい痩せ細ったフランクフルトしか買えないだろう。
つまり、五日も持たない計算だ。
予算から算出されたヅーがトラギコに与えた猶予は、今日を含めて四日。
四日以内に脱獄犯を捕まえなければ、トラギコは捕えられて今度こそ逃げられないように監禁される。

部屋を出て行ったヅーに向けて中指を立てることもなく、トラギコはさっそく地図作りに取り掛かることにした。

18 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 20:32:12 ID:F94asbco0
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      i                ノ、__
      !              r'´ヽ `':,
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    /               ノ   i/    `',
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瓜゚∀゚)「……」

ライダル・ヅーはホテルから出てすぐに、純白のセダンに乗り込んで一息ついた。
だがエンジンをかけただけで、ハンドルを握ることもギアを変えることもなかった。
小型の携帯無線機をグローブボックスから取り出し、時間ごとに定期的に変えられる特殊な軍用の周波数に合わせ、通信状態を確認した。

瓜゚∀゚)白「“虎”は檻に、繰り返す、“虎”は檻に」

断続的にノイズが走り、通信は終わった。
これでヅーから軍への報告が終わり、後は客に紛れた捜査官たちがトラギコの動向を探ることになる。
すでにこのホテルの宿泊客は警察と軍関係者だけとなっており、ホテルの従業員もジュスティアの息のかかった人間達だ。
つまり、トラギコはこのホテルに入った時点ですでに監視下に入っていたのだ。

いくら警戒していたとしても、意味はない。
ホテルのどこかに潜んでいるのではなく、ホテルそのものがトラギコを監視する施設。
もはや、トラギコは好き勝手に動くことはない。
そして、何者かに襲われて負傷することもないのだ。

実際、トラギコに話したことに偽りはほとんどなかった。
この作戦を立案したのはヅーだし、責任者もヅーだ。
ショボンが組織に属しているのは分かったし、トラギコが狙われていることも十分に分かった。
だからこそ、トラギコを自由に動かすわけにはいかない。

19 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 20:34:59 ID:F94asbco0
傷つき、命が失われれば情報も失われる。
それは避けなければならない。
ジュスティアのみならず、世界に影響を及ぼしかねない。
彼が持っている情報には、それだけの可能性があるのだ。

かと言って、安全のために監禁されることを彼は嫌うだろう。
束縛を好む獣はいない。
せめて自由でいるという錯覚を味わってもらうために、このような運びにしたのだ。
勿論、ショボンの組織の人間をおびき出すという目的も含んでいるのだが、何よりも最優先に考えていたのは、トラギコの安全確保だった。

こればかりは、トラギコに言った通り、ヅーの独断による部分が大きかった。
自分らしくない行動だが、全体的な利益を加味すればやはりトラギコの存在は重要だ。
彼以外、餌として絶好な人材がいないのだ。
それだけでなく、トラギコだけが敵の組織を知っており、彼だけが敵の興味を引き付けている。

躊躇なく病院を燃やすような人間が単身でトラギコを狙うとは思えず、彼一人で対処出来るとも思えない。
必ずその裏に繊細な計画を練る人間、それこそショボンのような人間が数人控えていることだろう。
大規模な組織が関与しているのはトラギコの口から聞いた可能性の一つだが、おそらくはその見込みが正しいはずだ。
可能性の段階であるため、本部にはまだ報告していないが証拠が見つかり次第捜査に移ることが出来る。

今、警察本部が躍起になっているのがショボンと脱獄犯の行方、そして目的だ。
警察が誇る優秀な捜査官でさえ、その手がかりを掴むことさえ出来ていない体たらくぶり。
となると、秘密裏にでもトラギコを頼らざるを得ず、彼の機嫌を損ねるわけにも命を失うわけにもいかないのである。
今最優先されるのは、ショボンたちを捕まえて新たな事件を起こさせないことだ。

周囲のパニックを回避するために二人の脱獄犯の情報を偽ってアナウンスした中、エラルテ記念病院で起こってしまった放火事件。
それは、警察が犯人の動きに対応できなかったことを意味している。
故に、病院の火災はタバコの火の不始末による火災、として処理される。
事件性がないことが分かれば、住民たちもパニックになることはない。

20 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 20:40:23 ID:F94asbco0
ジュスティア警察と軍が島で警戒する中、不注意によって強化外骨格の不審者に放火されました、などとは口が裂けても言えない。
そういった意味では、トラギコの担当医だった男――名前は忘れた――の死は実に迷惑な物だ。
射殺された死体の始末と隠蔽は容易ではない。
偶然現場に居合わせた軍関係者が死体を隠したからよかったものの、医療関係者に見つかれば大事になっていた。

まだまだ手探りによる捜査が続きそうだが、どうにかするしかない。
溜息を吐くことを我慢し、ヅーはシートベルトを締め、車を走らせた。
ラジオを入れる代わりに窓を開け、風を車内に取り入れる。
夏の夜の匂いと潮の香りがする風が、車内を勢いよく駆け回る。

トラギコの匂いが、これでようやく消える。
正直、トラギコの匂いは苦手だった。
嗅いでいるとアルコールを摂取したような錯覚に陥り、思考が鈍ってしまうのだ。
決して不快な匂いではないのだが、自分を保つためには邪魔な匂いだった。

セダンは街を離れ、山奥に向かっていった。
街全体を見下ろすことの出来る小高い山は、日中はハイキング客、そして夜には天体観測を楽しむ人間でささやかな賑わいを見せる。
島全体が行き来を禁じられてからも、その客足は途絶えも衰えもしていない。
だが、海岸沿いには検問所と警察犬が配置されており、絶えず監視が行われている。

島から逃げるのは非常に難しいだろう。
ギアをサードからフォースに入れ、アクセルを深く踏み込む。
ジュスティアからの資金提供もあって、グルーバー島の車道はどこも綺麗に整備されている。
五年に一回はアスファルトを敷き直しているため、セダンでも難なく山道を走ることが出来る。

ライトをハイビームにして、ヅーは山沿いに一周してから街に戻ることにした。
グルーバー島で最も標高のあるアルマニック山の周囲は速度制限がない代わりに、常に転落と落石に注意という道路標識が目に入るようになっている。
ガードレールがあるとは言っても、速度が増せばそれを飛び越えて崖下に落下することもある。
それはハンドリングとアクセル、そしてブレーキ操作を誤った愚か者のすることだ。

21 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 20:44:44 ID:F94asbco0
ヅーは徐々にアクセルを深く踏み、一気に加速させた。
強風が車内に吹き込み、あらゆる匂いを吹き飛ばし、一新させる。
急カーブに差し掛かるとすかさずクラッチとブレーキを踏んで速度を落とし、ギアを落とす。
カーブを曲がり切ってから、再びギアと速度を上げた。

普段はルールに従っているが、速度制限がなければヅーは運転している車の限界速度まで走らせたいと考えていた。
限界まで速度を上げることで感じられる高揚感とスリルは、何物にも代えがたい。
勿論、日常生活でそれを満たそうなどとは考えていない。
ルールは必ず守らなければならないからだ。

これはあくまでも、仕事の一環として楽しむだけだ。
崖沿いの道から森の中を通る道に進路を切り替え、ドライブを続ける。
やがて、セダンが峠に続く細い道に差し掛かった頃、異変が起こった。
暴風の音に混じって、バイクのエンジン音が森の中から聞こえてきたのである。

それは森を横切って迫り、横合いからヅーの車を殴りつけようとしているようにも感じられた。
音は森の中で木霊しており、どこから聞こえているのか、正確な方向が分からない。
接近する音の位置を理解してタイミングをずらせば、激突は回避出来る。
当然、方向をより確実に伝えてくれるライトの動きにも注意を配る。

森の中を走破するには視界が有効でなければならない。
ライトなしでバイクを運転しているのだとしたら、自殺行為だ。
自殺志願者であればそのまま崖に向かい、鳥人間コンテストよろしく飛んで行くことだろう。
問題となるのは、全てが杞憂であるか否かという事だ。

今聞こえている音だけではオフロードレースに狂った人間か、それともショボンの仲間かは判別できない。
ギア操作とブレーキで速度を急激に落とし、グローブボックスからベレッタM92Fと予備の弾倉一つを取り出す。
一瞬だけハンドルから手を放して安全装置を解除し、遊底を引いて初弾を薬室に送り込む。
銃を膝の上に置いて、バックミラーを見る。

22 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 20:48:38 ID:F94asbco0
横に注意を逸らせて後方から襲撃してくる可能性を考えたのだが、それも違うようだ。
果たして、この山奥で何をしているのだろうか。
音が近付き、眩いライトが見えたことから、バイクのいる方向が右側であることが分かった。
もう間もなく、右手側の森から出現するはずだ。

ハンドブレーキに手を伸ばし、その時を待つ。
速度を時速18マイルにまで落とす。
殆ど徐行と言える速度だ。
注意深く森に目を向けつつ、車を走らせる。

このセダンはバイクにぶつけられても大破しない構造になっているし、潰れるのは助手席側だ。
しかし、銃撃されたら大ごとになる。
視界の端に森を捉え、木々の間を走り抜けながら接近してくるライトを確認する。
低いエンジン音から、オフロードタイプのバイクとは違うことに気が付く。

次の瞬間、ヅーが通り過ぎた森から全く別の存在が出現し、思わず振り返った。
黒いオフロードタイプの車だ。
そして僅かに遅れて、大型ツアラータイプのバイクが森から飛び出し、姿勢を崩すことなくセダンの前方に着地した。
目の錯覚か分からないが、一瞬だけ、二人乗りをしているように見えた。

バイクはテールランプの赤い尾を残してあっという間に走り去り、それに続いてオフロード車がセダンを右側から追い越した。
全ては一瞬の事だった。
瞬く間に二台はヅーの視界から遠ざかっていく。

瓜;゚∀゚)「何……ですか、あれは……」

警戒していた自分が馬鹿に思えた。
が、すぐに思考を切り替えた。
あれは、ただ事ではない。
若者の遊びの延長線上にある一光景ではなく、追う者と追われる者の関係にある姿だ。

23 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 20:54:48 ID:F94asbco0
ギアを変更し、オフロード車を追うことにした。
この短時間で離れた距離は、すぐに取り戻せる。
銃に安全装置をかけて助手席に置いて、ハンドルを握りしめる。
久しぶりのカーチェイス、もしくはレースだと思えばいい。

秘書として働く前は、短い間だが婦警として働いていたのだ。
速度違反を取り締まる仕事ばかりだったが、その時に変な趣味が身についてしまったようだ。
しかし同時に、コツと知識を身につけた。
追う時は徹底的に、そして執拗に。

アクセルはベタ踏み、狙いと注意は正確に。
報告は後だ。
一気に加速したセダンは、オフロード車との距離を順調に縮める。
先を行くバイクの姿はすでに視界になく、オフロード車は必死に追っているようだ。

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   |[l化」l |l |l ||l |:| l:| |:| | | l{〃: !   |三」 .|l ` ̄´ ̄ -―- 、゙ヌ |          |       l _ェ_、0!
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その特徴的な後ろ姿から、車種を導き出す。
――TOYOTA社製、ランドクルーザーだ。
頑丈かつ堅牢な作りをした四輪駆動車で、各地の武装勢力、ギャングにも人気の車種だ。
速度はそこまで出せないが、山道や悪路を走破するのには十分な性能を有している。

24 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 20:57:59 ID:F94asbco0
背後から迫るセダンは眼中にないのか、接近しても何の反応も示さない。
真後ろにピタリとつき、動向を窺うことにした。
相手から打って出てくれれば重畳だ。
そのまま返り討ちにして、情報を聞き出せばいい。

そうでなければどこか適当な場所で停車させ、情報を聞くだけである。
抵抗したならば制圧し、反抗したならば処分する。
いつものやり方でいい。
最上の展開としては、追っているバイクの乗り手に追いつき、この騒ぎの全容を知ることだがそれは難しいだろう。

峠を越え、下り道へと切り替わる。
道の両端に聳える木々が高速で過ぎ去り、速度感覚を狂わせる。
やがて山中から崖沿いの道へと抜け、起伏に富んだ一本道が待っていた。
速度を上げる二台の車は跳ねるようにして走り、着地し、タイヤを軋ませた。

左手に海を眺める開けた道に差し掛かったが、バイクの姿は見えない。
上手く撒かれたらしい。
ランドクルーザーが徐々に速度を落とし、待ち望んだ変化が起こった。
観音開き式のリアゲートが右側だけ開き、覆面をした人間が姿を現したのである。

その手にはストックを折りたたんだAK47突撃銃が握られており、発砲を予感したヅーは咄嗟にハンドルを横に切った。
予期していた発砲こそなかったが、その行為は明らかな脅しだった。
いや、親切な警告と言うべきだろう。
目の前にいる集団を敵として認識したヅーは、追跡から力による情報収集へと作戦を切り替える。

ランドクルーザーの右斜め後ろに素早く位置取り、ヅーは助手席からM92Fを手にして安全装置を解除。
パワーウィンドウを自動で全開にし、左手を窓から出して銃爪を引いた。
銃弾はリアバンパーに穴を空け、二発目の銃弾はカラシニコフの銃身に当たって火花を上げ、三発目で膝を撃ち抜いた。
膝を押さえて倒れた敵を無視し、ヅーは続けて運転席に向けて弾倉の中身を全て発砲した。

25 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 20:59:59 ID:F94asbco0
運転手に当たればと思ったのだが、最初の三発で警戒していたのか運転に大きな乱れはない。
また、後部座席にも五発ほど浴びせたのだが不気味なほどに反応がない。
撃ち尽くした弾倉を手首のスナップで落とし、再装填を素早く行って、ヅーは車の横に並ぼうとハンドルを切る。
だが、そうはさせてくれない。

ヅーの運転に合わせてそれを塞ぐ形で位置取り、後部座席から銃口がヅーを睨んだ。
近付きすぎていることを察し、ヅーはハンドルを切りながらブレーキを踏んだ。
数発がボンネットに当たって跳ね返り、フロントガラスに二発当たって残りは地面を穿った。
フロントガラスに拳大の蜘蛛の巣状のひびが入ったが、運転に問題はない。

すぐにアクセルを踏みながら、牽制射撃を行った。
相手のペースに飲まれることなく、ヅーは教本通り十対一の割合で撃ち返す。
こちらの装弾数は十七発と、あまり贅沢は出来ないのだ。
蛇行運転を繰り返し、少しでも被弾を減らす。

防弾ガラスも装甲も無敵ではない。
同じ個所に集中的に撃ち込まれたら、一発ぐらいは貫通する。
徹甲弾を撃たれたら一発でお終いだ。
二つ目の弾倉を撃ち尽くし、ヅーは銃を助手席に潔く投げ捨てた。

運転に集中し、フェイントをかけつつ横に並ぼうと一気に加速。
それを受け、一度だけランドクルーザーが左に曲がり、振り上げた拳のようにヅーのセダンに体当たりを放った。
が、これは予想通り。
ハンドブレーキを用いて急静動をかけ、それを回避する。

すぐさま速度を上げ、背後にピタリとつく。
これが警察車両であればサイレンや拡声器が使えたのだが、と舌打ちをする。
幸いなことに、峠を下りきった位置には検問所がある。
このままそこまで誘導できれば、ヅーの勝ちだ。

26 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 21:01:43 ID:F94asbco0
悶絶していた敵がカラシニコフを構えたのを見て、ヅーは咄嗟にアクセルを踏み込んでバンパーにぶつけた。
衝撃で男の体が大きく揺れる。
間隔を空けてもう一度ぶつけ、片方だけ閉じていたリアゲートが振動で開く。
あと一押しだ。

一際強く加速させて体当たりをすると、覆面の男が車外に転がり落ちた。
間髪入れずにヅーのセダンがそれを踏み潰し、車が大きく弾んだ。
この速度なら死んだだろう。
バックミラーでその姿を確認して、視線を前に戻した。

後部シートの間から銃口が見えた瞬間、ヅーは息を飲んだ。
H&K社製HK21軽機関銃だと認識したのは一瞬。
ハンドルを左に切ったのはその半瞬後。
銃弾が道を抉ったのは、僅かにコンマ五秒後の事であった。

思っていた通り、ただのチンピラではない。
装備が充実しすぎている。
海側に避けたヅーをガードレールに押し付けようと迫ってくることが予想されたため、ヅーは速度を上げすぎないように絶妙な位置につく。

瓜゚∀゚)「ここまでとは……」

思わず口を突いて出る独り言。
目の前にいるのがショボンの組織に関する人間なのは疑いようのないことだが、その行動力は見上げたものであると再評価しよう。
敵だと認識した瞬間に切り替える思考の速さは、是非とも見習いたいものだ。
警告の後の攻撃、そして攻撃の激化までの的確なプロセス。

一筋縄ではいかない。
少しばかり慢心があったのかもしれないと反省し、ヅーは改めて方針を打ち出した。
敵を一人だけでも捕え、尋問し、真実を吐かせる。
それ以外は処分するしかない。

27 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 21:05:20 ID:F94asbco0
次いで、現状の整理に移る。
相手は荒れた道を走破することに特化した車で、こちらは舗装路を走破することを得意とする。
車種による有利不利を言うのであれば、ヅーの方が有利だが大した意味はない。
逆に大した意味を持つのが武装だ。

拳銃と機関銃では、勝敗は明らかである。
おまけにこの状況では再装填も出来なければ、銃としての意味はない。
このままの状態で有利なのは相手だ。
そして次に相手が何をしてくるのかを考え、ヅーは覚悟を決めた。

――次の瞬間、ランドクルーザーは半回転しながら急停車し、セダンはその横っ腹に突っ込んだ。

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トラギコは観光用の地図に書き込みを終えると、それを折り畳んでサイドテーブルに置いた。
アサピー・ポストマンの写真が撮影された場所を考えると、このホテルに陣取るのは正解だ。
問題は操作をするのに必要となる資金が不足していることだ。
警察手帳を出せば足がつく。

ヅーはそこまで計算に入れた上で、五十ドルというふざけた金額を用意したのだ。
紛れもなく嫌がらせだ。

28 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 21:09:04 ID:F94asbco0
(=゚д゚)「ふぅ……」

ともあれ、ヅーはこちらをまんまと欺いたと思っているのだろうが、それは逆だ。
こちらがしてやったのだ。
アサピーを介して、昨晩の火事の全貌が公になる。
そうなれば、捜査は大混乱となる。

島中が警戒態勢となり、オアシズで行われたような作戦は展開し辛くなる。
ショボンの思い描いている計画は、これだけで大打撃を受けるはずだ。
昨夜の火事についてジュスティアが情報操作を行うことはおそらくショボンの計算の内にあることだが、その情報が表になるとは考えていないはず。
そうでなければあれほど大胆なことをするはずがない。

あれでショボンは慎重な人間だ。
ジュスティアが揉み消すことを信頼し、それを前提に作戦を進めていなければトラギコを焼殺する必要がない。
何か目的があって銃殺や毒殺を避け、あえて焼殺を選んだのだろう。
つまり火事を装ってトラギコを殺す必要があったという事だ。

しかし、それが崩されたのなら、どのような作戦であれ根底から練り直しが必要になる。
これでまずはショボンとヅーの両者に一矢報いた、という所だろう。
また、ヅーはトラギコがこのホテルに大人しく泊まると思っているのが傑作だ。
大前提として、トラギコはヅーを信頼していない。

もっと言えば、ジュスティアの人間で信頼しているのは一人としていない。
正義を口にする者全てが、トラギコの敵なのだ。
幾度となくトラギコに立ちはだかり、邪魔をし、そして罵ってきたのは正義。
今回もまた、正義が邪魔をしてきた。

29 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 21:14:17 ID:F94asbco0
銃と棺桶を持ち込めた時点で、トラギコはこのホテルからいつでも逃げることが出来る。
暫くの間はそうしないだけで、近々そうするつもりだ。
具体的に言えば、アサピーが放火の事を記事にして島中が大騒ぎになり、ヅーが憤慨してトラギコの下にやって来るまでだ。
明日の朝刊が配達されるのは後三時間後。

つまり、三時間以内にトラギコはここから逃げなければならない。
五十ドルの餞別をどう使うかが、今後に関わってきそうだ。
持ってきた銃の弾を確認し、懐のホルスターに戻す。
最悪の展開を回避するためには、武器は必要だ。

トラギコの考える最悪の展開とは、ヅーが用意周到にこのフロア全体に軍人を配備していることだ。
警官ならばまだ話が通じるだろうが、軍人となると会話にならない。
力で押し通るしかないのだ。
それこそ、足でも撃って行かなければならない。

トラギコはカラマロフ・ロングディスタンスに撃たれたのだから、お互い様だ。
思う存分やり返す。
まずは算段を立てなければならない。
前提とするのは状況だ。

どこにヅーの罠があり、どこに死角があるのか。
それを考えれる必要がある。
ホテルに入った段階、そしてこの部屋に来る段階で尾行者も監視者もいなかった。
それは間違いない。

しかし、しかし、だ。
あのヅーが手放しでトラギコに捜査を任せるとは思えない。
それは断言出来る。
用意周到さ、そしてルールを守ることに関しては徹底している女だ。

30 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 21:14:21 ID:nf.PkK0o0
支援

31 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 21:17:27 ID:F94asbco0
優しさなど、あの女には微塵も存在していないのだ。

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   }: :/〈    ,    - ,ノ
  ノイ   、    ⌒こイ
/^ヽ    \     /´__
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その時、三日後には誕生日を迎えるケイティ・グラハムは、人生で最も苛立っていた。
彼はツーリング仲間と共にモーターサイクル・ギャングへと転身し、新たな人生を謳歌していた。
妻と一人娘に恵まれ、街を転々として収入を得る生活に転機が訪れたのは、つい昨日の事。
対象を襲ってくれと言われて渡された金貨七百ドルは、日々の不安定な生活と別れを告げられるには十分な金額だった。

そのはずだった。
楽な仕事だと請け負った狩りには失敗し、十年の歳月を経て得た仲間を失い、愛車を失い、おまけにその追撃を邪魔された。
家族以外の全てを失った日とも言える。
こんな日は、人生の中で一度たりとも起こったことのない最悪の日だった。

胸を撃たれながらも咄嗟の判断で乱入者を食い止めた運転手のブブリア・ブロッコリーは意識を失い、助手席にいたオルゴン・バートレットは俯いたまま反応がない。
彼の手首に指を当てると、オルゴンの脈は停止していた。
後部座席で難を逃れたケイティは、一つだけ積んでおいた強化外骨格と軽機関銃を手に取って、車外に飛び降りた。
軽い頭痛がしたが、問題はない。

今は怒りのままに行動するだけなのだ。

32 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 21:20:17 ID:F94asbco0
Ie゚U゚eI『我らの一歩は友の道。我らの歩みは国の路』

強化外骨格、キーボーイを起動し、身に纏う。
こちらが警告しただけで、いきなり発砲してくる女だ。
これぐらいの用心はしなければならない。

〔 (0)ш(0)〕

あれだけの激突があったにも拘らずほとんど損傷のない高級セダンを前に、ケイティは再び怒りを覚えた。
金持ちが道楽でこちらの邪魔をしたのであれば、それは許しがたいことだし、何よりも高級車を乗り回していることが気に入らなった。
腰だめに構えた軽機関銃を運転席に目掛けて撃つ。
防弾ガラスがひびで白く汚れ、そして砕け散った。

死体を確認するために運転席側に回り込み、ドアを引き剥がした。
しかしそこには、人影も肉片もなかった。
どこに行ったのか、という疑問は彼の人生で最大の衝撃が横から襲った瞬間に消え去った。

〔 (0)ш(0)〕『もるぁ?!』

もともと、キーボーイの装甲が薄いことは聞いていた。
だが、それでも強化外骨格だ。
人間の蹴りでダメージを受けることはもちろんだが、吹き飛ぶことなどまずありえない。
アスファルトの上をゴミのように転がり、ガードレールにぶつかってからケイティはどうにか立ち上がった。

持っていた軽機関銃が拉げているのを見て、それを投げ捨てた。

〔 (0)ш(0)〕『くそっ、何だってんだ……!!』

33 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 21:23:07 ID:F94asbco0
キーボーイのカメラが捉えたのは、奇妙な影だった。
強化外骨格なのは間違いないが、見たこともない姿をしている。
モーターサイクル・ギャングとして生計を立てているケイティは、若干ではあるが棺桶についての見識がある。
しかし、目の前に現れたのはこれまでに見てきたそれとは明らかに異なる形状、異なる設計思想をしていた。

全体的に装甲に厚みは感じられなく小柄で、全身を覆う深紅の装甲の量とその大きさからAクラスの棺桶だという事が辛うじて分かる。
特筆すべきは、その両足だ。
大小合わせて二輪のタイヤからなる脚部。
内側にバイク用のそれよりも僅かに小さなタイヤ、その外側に小型のタイヤが並んでいる。

全身を覆う深紅の装甲の形状も、心なしかバイクの設計に似ていなくもない。
蕾が花開くようにして開いたフェイスカバーから覗き見えたのは、頭部のほとんどを占める巨大なモノアイカメラ。
金色に発光した中央部は白く輝き、灼熱の溶鉱炉を思わせる。
間違いない。

――コンセプト・シリーズだ。

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     |ニニニ|=|二ニ∨二ニニニニニニ∨二=lj‐′=ニ|
     |ニニ=(_卜、ニマニ二二二二ニ/ニニ/〕!=ニニ|
.    八ニニ=|=\\ニマニニニニニニ/二//=|ニ二八
       \__|ニニ\\マニニニニ/`//ニニ|__/   It's over.
         ゚,ニニ゚, \=ニニニ7/ ./ニニニ/    You're under arrest.
.          ∧ニニニ≧ュ。.._ ̄_..。r≦ニニニ∧
.        /ニ\二ニニニ=| | |ニニニニニ/ニ\
          \二二\二ニニ| | |=ニニニ/ニ二/
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(::[ Y])『捜査妨害により、あなたを逮捕します』

34 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 21:24:40 ID:c4OmieaY0
黒騎士的な…

35 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 21:26:23 ID:F94asbco0
フェイスカバーが閉ざされてから発せられた第一声は、あまりにも間抜けな女の言葉だった。
警察気取りなのか、それとも警察なのかは分からないが馬鹿なのだけは確かだ。
警官だろうが何だろうが、ケイティにはどうでもよかった。
殺す対象の職業など知ったことではない。

右の太腿に吊り下げていたUZI短機関銃を抜き放ち、発砲した。

〔 (0)ш(0)〕『黙れぇ!!』

装弾されているのは対強化外骨格用の強装弾。
Aクラスレベルの装甲ならば、使用者を負傷させることが出来る。
が、つい一秒前まで目の前にいた棺桶はタイヤが軋む音と金色の残像を残して姿を消し、銃弾を避けた。
姿を見失ったケイティは、再度横合いから衝撃を受け、ランドクルーザーに肩から激突した。

衝撃でフロントグリルがエンジンごと凹み、フロントガラスが砕け散った。
装甲の薄いキーボーイではその衝撃を緩和し切ることは出来ず、目の前が白く染まる。
一瞬だけ飛んだ意識の隙を、敵は見逃さなかった。
再び聞こえたタイヤの音と衝撃は、同時に訪れた。

左腕の骨が砕けたのが分かったかと思うと、次に右腕、そして両足が粉砕された。
どの攻撃にも容赦はなく、ケイティは瞬く間に戦意を喪失した。
殺されるかもしれないという恐怖が、彼の体を竦ませ、遂には落涙させるに至った。
車に埋まった体は指先一つとして動かすことが出来ず、ケイティは死を覚悟した。

しかし、月光を背にしたその棺桶持ちはとどめを刺そうとはせず、車内に残っている仲間たちを引き摺り下ろし始めた。
脈が止まったオルゴンは頭を踏み潰されてから、念入りに磨り潰された。
意識を失ったブリリアは心臓部に正拳突きを受けて胸部が陥没し、大量の血を吐き出した。
鬼だと思った。

36 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 21:30:48 ID:F94asbco0
同時に、この女が生粋のジュスティア人であることを理解した。
圧倒的な武力。
容赦の無さと、徹底的なまでの正義。
それらは全てジュスティア人が持ち合わせているもので、加えてコンセプト・シリーズの棺桶持ちとなると、警官であることは否めない。

むしろ、警官になるために産まれたような人間だ。

〔 (0)ш(0)〕『くっ、こ……殺せっ……!!』

逮捕されるぐらいなら、いっそ楽な内に死んだ方がいい。
そう、ここで死んだ方がいいのだ。
そんな懇願を無視して、女は機械じみた冷徹な声色でランダ警告の一文を読み上げる。

(::[ Y])『あなたには黙秘する権利、己に不利となる供述をしない権利、弁護士を雇う権利、裁判を受ける権利がありました。
     ……が、警官に対しての殺人未遂の罪によってあなたは全ての人権が剥奪され、ジュスティアに対して全ての情報を提供する義務が生まれます。
     つまり、“証人刑”が適応されます』

――証人刑。
数ある罰の中でも警察のみが持つ刑罰の一つで、通称“道具化”と呼ばれる処罰の事である。
地域ごとにある法律に対して目を光らせるモーターサイクル・ギャングのケイティは、その罰についてよく知っていた。
警察に身柄を拘束された後、四肢の腱を切断し、抜歯し、そして薬を用いてあらゆる過去の事を喋らされる。

つまり、情報提供の道具と化す処罰の方法である。
それを知っていたから、ケイティは死を望んだのだ。
だがこの女はそれを許さない。

(::[ Y])『あなた達が追っていたのは何者ですか?』

〔 (0)ш(0)〕『し、知らねぇよ……』

37 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 21:34:00 ID:F94asbco0
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     |ニニニ|=|ニニマニ/二二二二ニマニ/ニ=l|=lニニニ|
     |ニニニ|=|::::::: \__________/::::::::::j‐′=ニ|
     |ニニ=(_卜、:::::::{:{ γ⌒ヽ .}:}::::::::::/〕!=ニニ|     All right.
.    八ニニ=|=\\ :从 乂___,ノ _从:: //=|ニ二八   Let's drive.
       \__|ニニ\\:`≧=-=≦´ //ニニ|__/
         ゚,ニニ゚, \ :::::::::::: / ,/ニニニ/
.          ∧ニニ二\_}: 「| :{_/=ニニニ∧
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(::[ ◎])『……ふむ。 では、すぐそこの検問所までドライブしましょうか』

フェイスカバーを開いた女は背中からワイヤーの付いたフックを取り出して、それをキーボーイの装甲に取り付けた。
そして、ケイティは女の言葉の意味を理解した。
バイクで人を引きずるのと同じ要領と目的だ。

〔 (0)ш(0)〕『よ、よせ!!』

一瞬にして、ケイティの声は彼方へと置き去りにされた。
これまでに聞いたことのない猛烈なエンジン音が鼓膜を痛めつける。
視界が回り、何を見ているのか、どう動いているのかも分からない。
ガードレールが視界の全てを埋め尽くし、次の瞬間には衝撃。

装甲が削れ、火花が散る。
失われた装甲の代わりに、ケイティの血肉が散った。
叫び声は自分でも聞こえなかった。
本能がケイティの体を動かし、姿勢を整えさせようと足を動かした。

38 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 21:40:16 ID:F94asbco0
それが事態を悪化させた。
潰れていた足が根元から千切れ、崖の向こうに消えていった。
体が浮き上がり、叩き付けられ、転がり、腕が背中側に向けて折れ曲がった。
背中側の唯一の守りであったバッテリーが吹き飛んだ。

再び体が浮かび上がった時、女は急停止した。
慣性の法則に従ってケイティが飛翔しかけたところで、ワイヤーが外された。
勢いよく地面に激突し、転がり、何かにぶつかってようやく止まった。
もはや、ケイティは何も考えることが出来なくなっていた。

辛うじて分かったのは、自分の顔が涎や鼻水、涙で汚れ、体は血と小便で汚れていることぐらいだ。
息が出来る事の幸せを噛みしめ、ケイティは呪詛を吐いた。
道具として生かされるぐらいなら、ここで舌を噛み切って自殺するべきだ、と。
しかしそれが出来るだけの精神力があれば、彼はモーターサイクル・ギャングに身を落とすことはなかっただろう。

女が二言三言何か言葉を発し、再び恐怖を呼び起こすエンジン音が遠退いて行くのを聞いて、ケイティは安堵したのであった。

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     ̄ (_::::ノ
         Ο
           。                         August 10th AM01:20
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トラギコ・マウンテンライトはホテルの部屋に備え付けられたシャワーを頭から浴び、静かに物思いに耽っていた。
四十五度の湯はトラギコの体の内側からも熱を生み出し、血の巡りが活発になったことによって足の傷が鼓動に合わせて痛んだ。
まだ抜糸をしていない傷口に湯が触れる間、刺すような痛みがトラギコを襲う。
痛みは、トラギコの思考を邪魔することはなかった。

39 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 21:44:41 ID:F94asbco0
古傷だらけの体を伝って落ちる湯が排水溝に吸い込まれ、体と床から立ち上る湯気はトラギコの眼球を洗い流した。
シャワーの音は雨音にも似ていた。
俯いたまま、トラギコはただその音を聞き流し、このホテルから逃げ出す方法を考えていた。
ライダル・ヅーの考えは分かった。

なら、何故わざわざここにトラギコを連れてきたのか、という事を考えなければならない。
協力するつもりならば、別にアサピーのアパートでそう告げればよかった。
その方が手間を省ける。
島の案内はドライブと称して連れまわし、最後にアパートに送ればそれで済む。

つまり、このホテルにトラギコを連れてくることがヅーにとっては好都合だということだ。
目的は一つに絞り込めたが、方法は二つに分かれた。
囮としての役割から逃げないかどうか、そして事件を解決できるのかどうかを見定めるために、監視の出来る場所にトラギコを配置したのだ。
そして、監視するためにホテル内、もしくは外に監視チームが結成されているかの二つだ。

与えられた偽りの自由など必要ない。
欲しいのは本物の自由だ。
自由に動けなければ、この事件の解決はあり得ない。
その辺りをヅーは理解していない。

マニュアル通りでは何も変わらないのだ。
最近妙に耳にするようになったCAL21号事件も、その内の一つだ。
思い出すだけで腸の煮えくり返るような事件だったが、何よりもトラギコを憤慨させたのは正義を名乗るジュスティアの対応だった。
故に、トラギコは己の手を使って事件を終わらせ、大顰蹙を買ったのである。

このまま行けば今回もまた、あの時と似た結果になるだろう。
違うのは、トラギコが手を下せないという事だけ。
しこりの残ったまま事件は終わり、そして忘れ去られる。
そうはさせない。

40 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 21:48:06 ID:F94asbco0
カール・クリンプトンという恩人に報いるためにも、この事件の黒幕を暴き出す。
その後で、デレシアを追う。
ショボン・パドローネとデミタス・エドワードグリーンの手がかりは掴んだ。
彼らはこのグルーバー島にいる。

探し始めるのは二時間後。
つまり、朝の四時からだ。
それまでは大人しく寝て過ごし、様子を見た方がいい。

(=-д-)「ふぅ……」

シャワーを止め、並々と湯を張った湯船に肩まで浸かる。
溢れた湯の生み出す音が、やっとトラギコに安堵の溜息を吐かせた。
この瞬間に襲われたら、無防備なトラギコは為す術もなく殺されるだろう。
せめてこの時ぐらいはゆっくりとしたいものだ。

血管が広がり、指先まで血が流れていくのがよく分かる。
勿論、足の痛みは先ほどの比ではない。
しかし、痛みに耐えることは慣れている。
これぐらいなら、全く問題はない。

撃たれたことは何度もある。
例えば、警察訓練学校時にトラギコとよく衝突していた先輩が殴り合いの喧嘩に負けたことに腹を立て、射撃訓練中にトラギコの脇腹を撃ったことがあった。
危うく死ぬところだったが、死ぬことはなかった。
そう、撃たれたことはあっても撃ち殺されたことだけは、一度もない。

カールが受けた痛みを考えれば、この程度はかすり傷だ。
怒りを心の内で再燃させ、トラギコは湯船から勢いよく上がった。
体表の水気を手で払落し、洗面台の前に畳んでおかれた白いバスタオルを手に取る。
クリーニングしたての匂いがした。

41 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 21:51:45 ID:F94asbco0
体をバスタオルで拭き、髪を乱暴に乾かす。
アメニティのバスローブを着て、ベッドルームに戻る。
酒を一瓶飲んだこともあり、何か飲み物を口にしたかった。
備え付けのマグカップにインスタントコーヒーの粉を落とし、スティックシュガーを三本分入れ、湯を注ぐ。

安いコーヒーの匂いの中に、甘い香りがよく映える。
火照った体に、熱いコーヒーを流し込む。
薄く、おおよそ香りを楽しむようなものとは程遠いが、それでもトラギコに満足げな溜息を吐かせるだけの味がした。
精神状態によっては、冷えた物よりも温かな飲み物が効果的な場合がある。

今の状態では、この一杯のコーヒーが馳走にも思えた。
トラギコにも、自分が無力なのだと考え、押し潰されそうになる一瞬がある。
その一瞬は、これまでに受けたどんな傷や言葉よりも深くトラギコを傷つけた。
誰かが無能と罵るのではなく、自分自身で無力さを感じ取ってしまうその現象は、決して避けようのないある種の病気だ。

発作的に襲ってくるその瞬間を耐え続ける中で、トラギコが救いにしている物がある。
事件を解決した際に被害者とその家族から向けられる感謝の言葉と笑顔だ。
それを思い出すだけで、自分が無力ではないのだと持ち直すことが出来た。
どうしてもカールの死について納得が出来ず、トラギコは自責の念に心を握りしめられる思いだった。

気持ちを整理してからベッドの淵に腰かけ、書き込みを終えた地図を眺めながらコーヒーを一口啜る。
ブライアンホテルからグレート・ベルまでは徒歩で約三分、ショボンたちが目撃された市場までは十五分といったところだ。
漁港からグレート・ベルに続くなだらかな道――アイリーン・ストリート――沿いに並ぶ朝市は、大勢の地元住民と観光客で賑わうことが予想される。
となると、朝市に再び姿を現す可能性も考え、市場の中にある喫茶店、もしくは定食屋に張り込んで観察するのが最も賢明だ。

地図には一階、もしくは二階に席のある飲食店に印がつけられている。
中でもトラギコが注目しているのは、かなり広いスペースを持つアイリーン・ストリートのほぼ真ん中に位置する噴水周辺の店だ。
人々が円滑に行き来することを目的として作られた噴水周辺の道は太く、その道に沿って建物が並んでいる。
更に重畳なのが、その建物のほとんどが何かの店という事だ。

42 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 21:57:26 ID:F94asbco0
古着屋であったり雑貨屋であったりと、聞き込みをするのにも絶好の店ばかりが揃っている。
取り分け好都合なのが、全世界一位の人気を誇るチェーン店の“スタードッグス・カフェ”という喫茶店だ。
二階建てで客席数も多く、四人掛けのテラス席が五つもある。
そこならば余裕をもって人を観察できるため、早朝から二階席の窓際で陣取ろうと考えていた。

問題は、値段だった。
スタードッグス・カフェのコーヒーは一番安くて十五ドル、サイドメニューにあるホットドッグはなんと十ドルもする。
レシートがあれば二杯目は三ドルで飲めるのだが、予算を考えると非常に厳しい。
朝食を最も安く済ませても二十五ドルを使うことになり、残りの予算は半分の二十五ドルとなってしまう。

最近出来たばかりの街、カルディコルフィファームからコーヒー豆を従来よりも安く仕入れているのに値段は据え置きというのが、この店の恐ろしいところだ。
その強気な経営から、世界二位の内藤財団が経営する“ド・ゴール”に客層を奪われ、そう遠くない将来には逆転するだろうと予想されていた。
金の心配をしながら捜査をするのはいい気分がしないが、現実から目を逸らしてもいられない。
端金で真実に近づく事が出来るのなら、金は支払うべきだ。

店については後で改めて考えることにして、トラギコはコーヒーを一気に飲み干してカップをサイドテーブルに置いた。
明かりを消して布団をかぶり、そのまま瞼を下ろした。
眠気が体の奥、瞼の奥、脳の髄から沁み出すようにしてトラギコの体を包み込んだ。
そのまま眠りに落ちたいのが本音だが、どうしても耳だけはそれを許してくれなかった。

秒針が時を刻む音が聞こえる。
意識が眠りに近づくにつれて、耳が音に敏感になって行く。
廊下を歩く人の跫音、窓の外から聞こえる車の音、人の話し声。
次第に意識が黒く染まり、音だけの世界にトラギコは立ち尽くしていた。

無論、それはトラギコの脳が作り出したイメージだ。
音を頼りに脳が物を配置し、動きを想像し、記憶を辿って建物を作り出し、やがては世界を作り出す。
捜査が始まるまで、後二時間。
物事を考える時間は、まだある。

43 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 22:01:09 ID:F94asbco0
――結局のところ、安眠などトラギコには許されないのだ。

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朝市が始まる時間、まだ薄暗かったがパステルブルー水平線の果てが白み始め、市場で動く人影が彩を得て鮮明に浮かび上がって行く。
漁から帰ってきた男たちは船から魚の詰まったコンテナを降ろし、それらが次々と競りにかけられ、店先に並ぶ。
隣の島から野菜が運ばれ、賑わいを見せる。
それが、いつもの光景のはずだった。

しかし島が封鎖されている影響で漁に出る船はなく、島同士の行き来もない。
市場からは活気が失われ、磯で釣った僅かな魚だけが店頭に並んでいた。
辛うじて野菜は鮮度と種類を保っているが、オバドラ島やバンブー島でしか栽培していない野菜はない。
最も大きな打撃を受けたのは、輸入品に頼っている店だった。

小売店もそうだが、最も大きな影響を受けたのは喫茶店だった。
全ての商品を輸入して店が成り立っているため、在庫が尽きればそれまでとなる。
その店が商品のストックをよしとせず、週に一回の定期便で必要な量のコーヒー豆を輸入しているところとなると、店にとっては正に死活問題だ。
豆の仕入れが途絶えたスタードッグス・カフェは、絶望的な状況下にあった。

44 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 22:05:25 ID:F94asbco0
今後も店を運営していくためにも品薄を理由に値段をつり上げるわけにはいかず、店を閉める訳にもいかなかった。
髪を降ろしたトラギコは最も安いコーヒーと最も安いホットドッグ、そして無料で手に入る水を三杯頼んで二階に上がり、階段に近い窓際の二人席に陣取っていた。
鉄製の小さな机の上にはトレイに載ったプラスチックのタンブラーと、山のように積み重ねたスティックシュガーがあった。
この店のいいところ探しをするとすれば、このタンブラーだとトラギコは考える。

コーヒーの購入者に必ず渡されるタンブラーを使えば、以降の会計から三ドル割引される。
しかし所詮は三ドル。
十五ドルのコーヒーから三ドル引いたところで、トラギコの財布が受ける恩恵は微々たるものだ。
朝食として買ったホットドッグは値段の割には小さく、あまりコストパフォーマンスがいいとは思えない。

白い紙ナプキンの上に鎮座する作り立てのホットドッグは湯気を纏い、どこか気品さえ感じさせた。
パンはどちらかと言えば小さな方で、挟んであるソーセージは割と太めだ。
ソーセージの下にケチャップと粒マスタードが敷かれていて、彩は地味極まりない。
彩があるからと言って美味いわけでもないのだが、面白みに欠けた。

十ドルの価値がその姿からは見出せず、トラギコは少しだけ落胆した。
店の前にあるパラソルの広げられたテラス席、その少し先に広がる市場を見下ろしながら、トラギコは無関心の状態でホットドッグにかぶりついた。
最初に感じたのは意外にも強めの酸味で、トラギコは思わず目を見開いた。
次いで、粒マスタードの甘みを伴った刺激と熱い肉汁が口の中に広がる。

酸味の正体は濃厚なケチャップだ。
見た目に反して歯応えのあるソーセージから溢れ出した肉汁は二種類のソースによって冷却され、瞬く間に口の中で一つの濃厚な味と成る。
主体はトマトの酸味だが、マスタードとソーセージもそれぞれの味を主張していて複雑かつ大胆な味となっているが、他の味も感じられた。
噛み砕く中、トラギコの嗅覚が別種の酸味を嗅ぎ分け、触感が予想を確信へと変え、味覚がその正体を導いた。

酢の香りだ。
もう一口食べると、その正体が分かった。
――みじん切りにしたピクルスだ。
それも、キュウリと玉ねぎの二種類を程よく混ぜたものを、ケチャップとマスタードで覆い隠すという小技まで使っている。

45 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 22:09:06 ID:F94asbco0
これが味の秘密。
大雑把な味付けをそう感じさせないための工夫だ。
肉の甘みを引き立て、かつケチャップの酸味を主張させすぎない存在。
よく噛んでみれば、その瑞々しい歯応えがしっかりと感じ取れる。

それらを包み込むのが、断面を軽くトーストした柔らかなパンだ。
香ばしさの中に僅かな甘みを持つパンは、濃い味を調える重要な役割の担い手だ。
想像以上に味わい深いホットドッグに、トラギコは密かに舌鼓を打った。
値段は受け入れがたいが味は抜群だとして、トラギコはこのホットドッグの評価を改めた。

市場に動きはない。
大事にホットドッグを口に収めて、トラギコはタンブラーの蓋を外してそこから砂糖を入れた。
嵩が増え、かつ味が調えられたコーヒーを息で冷ましつつ口の中に招き入れる。
熱いが、甘くていい味をしていた。

十五ドルの味である。
こればかりは、美味くなければおかしい。
時刻は四時七分。
アイリーン・ストリートを歩く人の数は、明らかに少ない。

ホットドッグで汚れた口元と指をナプキンで拭い、懐から光学照準器を取り出す。
頬杖をつく動作と格好で照準器を構え、眼下の動きを観察する。
歩行者の顔や動きを見て、何か怪しげなことはないか、不自然な点はないかを探す。
ショボン・パドローネやデミタス・エドワードグリーン、もしくはシュール・ディンケラッカーがいれば十分。

昨日の今日で出歩くとは思えないが、犯罪者は一度安全が確認された場所にもう一度足を運ぶ習性がある。
あのショボンも、その習性を知っている。
ならばこちらが知っていることを逆手にとって、あえて利用する可能性があった。
裏の裏を読む、そうしなければ今のトラギコはショボンの考えに追いつけない。

46 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 22:11:08 ID:F94asbco0
階段を早足で駆けてくる音が聞こえ、照準器を袖にしまいつつそちらを見た。
ネルシャツにジーンズといった格好をした若い新聞記者、アサピー・ポストマンが額に汗を浮かべ、息を切らせてそこにいた。
今朝、彼が務めるモーニング・スター新聞ティンカーベル支社に電話をした時よりも落ち着いているが、表情は興奮ににやけたままだ。

(;-@∀@)「と、とら――」

(#=゚д゚)

この馬鹿は、緊張感がないのだろうか。

(;-@∀@)「と、“トライダガー”さん、お待たせしました」

(=゚д゚)「あぁ、待ったラギ。
    で、どうなった?」

呼吸を整えながら、アサピーはトラギコの正面の椅子を引いて座る。

(;-@∀@)「へへ、しっかりと一面を使いました。 本社にもその話をしたら大喜びでしたよ。
      これです」

ジーンズに挟んだ新聞をトラギコに手渡すアサピーは、興奮冷めやらぬ様子だ。
汗で湿った新聞を広げ、その一面に目を通す。
見出し、内容、共に文句はない。
トラギコが伝えた内容を実に的確に記事にし、読者の心を煽っているが、トラギコの名前は一切出ていない。

代わりに、勇敢で優秀、そして献身的な医者であるカール・クリンプトンの名前が載っていた。
嬉しいことに、彼のこれまでの遍歴や島における活躍まで書かれている。
勿論、ジュスティア軍人が二人焼き殺されたことやコンセプト・シリーズの強化外骨格が使用されたことまであった。
これをジュスティア警察が読めば、大激怒すること間違いなしだ。

47 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 22:15:27 ID:F94asbco0
さて、後三十分もすればトラギコの読み通り警察が大慌てになる。
この店に来るまでの間に感じた尾行者も、それどころではなくなるだろう。
ホテルを出る際に誰もトラギコを止めなかったことを含めて考えると、警察はトラギコが昨晩の火事の情報を新聞社に流したとは知らないらしい。
トラギコはヅーに対して、この上なく美しい方法を使って中指を立てることに成功したのだ。

(=゚д゚)「よし、これでいいラギ。 それで、例の写真の件ラギ。
    あれはアイリーン・ストリートで撮ったラギね?」

(-@∀@)「その通りです、よく分かりましたね」

(=゚д゚)「市場っつたら、ここぐらいラギ」

(-@∀@)「それで、電話の続きは?」

アサピーに電話で話したのは、これから朝食を食べよう、という提案だった。
勿論この男と朝食を楽しむのが本命ではない。
それぐらい分かると見込んで、あえてそのような言い方をしたのだ。
抜け目のないヅーならば、部屋の中に盗聴器を仕掛けてトラギコの発言から行動を予想し、そこに手を打つと予想したのである。

見込んだ通り、アサピーはトラギコが自分を呼び出した理由を察していた。

(=゚д゚)「お前が撮った人間を探すラギ。
    俺はここで粘るから、お前は市場周辺を探してきてほしいラギ」

(-@∀@)「……ちょっと待ってください、今メモしますから」

懐から再生紙のメモ帳と万年筆を取り出したアサピーを睨み付け、トラギコは低い声で注意した。

(=゚д゚)「駄目ラギ。 メモは残すな。
    覚えろ」

48 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 22:18:58 ID:F94asbco0
メモは他人に見られる可能性がある。
落とした時は最悪だ。
それに人間は、メモをしたところで完全には覚えられない。
それならば最初から頭の中にしまっておいた方がいい。

(;-@∀@)「ちょっ、それは無茶ですってば!!」

四つに折り畳んだアサピーの写真を広げて見せ、ショボンとデミタスを指で叩く。

(=゚д゚)「なぁに、簡単ラギ。 この写真の、この二人。
    このどっちかを探してほしいラギ。 手がかりになるのは、こいつらはこの島では新参者ってことラギ」

新聞記者は言葉を覚えるよりも、画像を覚える方が得意なはずだ。
カメラのアングルに気を遣う人間ならば分かるが、過去の経験値から似たシチュエーションを検索し、その当時の撮影方法を活かした撮影をすることがある。
記者の場合はそれに加えて、取材対象の人間の特徴をパーツで記憶することに長けている。
この男も新聞記者の端くれならば、それぐらい出来て当然というわけだ。

(-@∀@)「はぁ、まぁ覚えましたけど…… 結局、この二人は一体何者なんです?」

(=゚д゚)「それは事件が終わったら教えてやるラギ。
    あぁそれと」

(-@∀@)「はい?」

(=゚д゚)「金、貸してくれラギ」

アサピーを呼び出した理由の中でかなり大きな比重を占めているのが、資金の提供だ。
朝食だけで予算の半分を消費していては、とてもではないが操作は続けられない。
下心があったとは言っても、こちらはそれなりのリスクを背負っているのだ。
暫くの間、警察官が血眼になって事件の情報を流した人間を探すことになる。

49 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 22:23:29 ID:F94asbco0
第一容疑者は、勿論トラギコだ。
逃げるには金が必要だった。

(;-@∀@)「もうありませんよ!! 僕はあなたの財布じゃないんですよ!!」

(=゚д゚)「そうか、分かった。 だから金を貸すラギ」

有無を言わせぬ物言いで、トラギコはもう一度金銭を要求した。
ブツブツと文句を言いながら、アサピーは財布から百ドル金貨を出した。
金貨とアサピーを見比べて、トラギコは素直な感想を口にした。

(=゚д゚)「は?」

足りるはずがない。
この男が手に入れたのは給料だけでなく、名声と信頼も同時に我が物としたのだ。
それまでスクープとは無縁だった男に光が当たり始めるきっかけを作ったのは、他ならぬトラギコ。
それに対する報酬が百ドルのはずがない。

硬貨の角で机の上を叩いて威圧すると、アサピーは必死に弁明を始めた。

(;-@∀@)「手持ちが今これしかないんですよ! 取材をするにしても何も買わずじゃ駄目なんですよ?
      報酬は後から追加で渡しますから、今はこれで勘弁してください」

百ドルあれば二日は捜査が円滑に進められる。
警察も無能ではない。
新聞社に情報をリークした人間がトラギコであることに行きつき、そして捕まえるのと同じ時間だ。

(=゚д゚)「ちっ、必ず払うラギよ。 あぁそれと、俺はしばらくどこかその辺りをほっつくラギ、配達用のバイク貸してくれ。
    お前がここに来るのに使った奴ラギ」

50 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 22:27:09 ID:F94asbco0
新聞社で広く使われている配達用のバイクと言えば、傑作自動二輪のスーパーカブをおいて他にない。
今の時代で使われているスーパーカブは発掘されたダット――デジタル・アーカイブ・トランスアクター――に残されていた設計図を基に、ラヴニカの職人たちが再現した物だ。
発電・蓄電方法の優秀さも然ることながら、他と一線を画すのはその異常なまでの耐久力だ。
悪路、悪天候、整備不良。

ありとあらゆる最悪の状況下にあってもその運転性能に支障をきたすことがなく、常に運転手を目的地に運んでくれる頼もしいことこの上ない二輪車である。
運転操作も容易で、クラッチ操作は左足で行う。
価格が安価であるため、世界で最も使用されている自動二輪車の一つとして知れ渡っている。

(;-@∀@)「どこまで横暴なんですか!!
      それにどうして、僕がバイクに乗ってきたって分かったので?」

(=゚д゚)「うるせぇ奴ラギね。 んなもん、音に決まってるラギ。
    それよりお前、怪我人に歩けってか? おいおい、とんだ人でなしだぜ、えぇおい。
    ほれ、さっさとキーを貸すラギ」

(;-@∀@)「くそっ……くそぅ……」

アサピーはポケットからキーを出して、トラギコに渡した。
多少無理矢理ではあったが、移動手段の確保に成功した。
窓の外を注視しながらそんな話を済ませ、トラギコは照準器を袖から出して窓の外に向けた。

(=゚д゚)「今後、連絡は俺から取る。 支社に電話するから、覚えておけよ。
    それと、何か昨日変わった事件とかはなかったラギか?」

(-@∀@)「いや、特には聞いていないですね。
      知っての通り、我々の新聞社はこの街では余所者ですから。
      トラさんの情報なんて、この支社始まって以来の快挙ですよ。
      ……いや、一つだけありましたね」

51 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 22:30:49 ID:F94asbco0
(=゚д゚)「ほう?」

(-@∀@)「ここに来る途中、グレート・ベルの傍にある民宿が工事をしていました。
      何でも昨日の夜、客室に石を投げ込んだ人間がいたとのことで、窓ガラスを交換していました」

心底どうでもいいニュースだった。
大方、火事に乗じて暴れた若者の仕業だろう。

(=゚д゚)「もう少し有益なのはねぇのかよ」

(-@∀@)「んなこと言っても、僕に入ってくる情報なんてそんなも――」

アサピーの言葉が自動的に切断され、トラギコの意識は視界に移るありふれた光景の中に潜む、一点の異質に注がれた。
黒い鞄が、テラス席に置かれている。
ただそれだけだった。
そう。

――誰も座っていない、テラス席に。

(;=゚д゚)「……」

記憶を辿る。
いつから、あの不自然極まりない鞄があったのか。
一体誰があの鞄を置いたのか。
ホットドッグを食べている時にはなかった。

そうすると、アサピーが来てからだ。
アサピーとの会話中も、常に外の変化には目を光らせていた。
流れるような動作で置かれでもしない限り、見逃すことはあり得なかった。
発見するまでの僅かな時間で置かれた不審な荷物。

52 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 22:35:14 ID:F94asbco0
(;=゚д゚)「おい、ちょっと窓から離れ――!!」

そして――

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            《〉                    /\
              。                | ̄\〉
           \〉 釗 :. ‖                   L_/    August 10th AM04:14
           ̄\|  、从_/  ゚
             ‖:.⌒  .:⌒)、/  o
            |! .:|!     .:⌒)‖       rく ̄〉              __
         ∧ l!l .:‖从    : 从_      L/             /: : :.,/ ̄\
         〈  i!l| .:,|l⌒:.、_从   ::⌒)、                    / ̄ ̄\  .:: :〉
       ..:┴: l!l|  .:⌒≫―(⌒:.   ,;:从                  くミ:;   ::: :.,>./
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――爆音と共に発生した衝撃波で、店中の窓ガラスが大きく震えた。
咄嗟にアサピーの頭を掴んで床に伏せたトラギコは、まず彼の安否を確認した。
音に驚いて気絶していたが、特に目立った傷もない。
倒れた松葉杖を掴んで立ち上がり、階段を飛ぶようにして降りた。

すぐに店の外へと出て、被害状況を確認する。
人の泣き声が聞こえる。
人の悲鳴が聞こえる。
耳に残る悲痛な声と騒然と化したテラス席。

爆心地は大きく抉れ、石畳が無残な姿となっている。
悲鳴を上げるだけの元気を持った軽症者はいるが、重症者が見当たらない。
これもまた、不自然だ。
普通、爆弾を仕掛ける人間は不特定多数を殺傷することを目的とする。

53 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 22:39:54 ID:F94asbco0
人通りの少なくなっている早朝に爆弾を用いたテロ行為をするのは、あまりにも理に適わない。
標的を殺傷することを目的とした戦略的な攻撃だ。
誰も倒れていないのを見るに、その標的は逃げ果せたようだが。

(=゚д゚)「……」

何かヒントになる物がないかと、黒く焦げた爆心地に向かって近づく。
負傷者に手を貸す程の被害ではないが、警察が駆けつけて現場を封鎖する前に、情報を手に入れなければならなかった。
抉れた石畳の形が明らかに歪なことに、トラギコは気付いた。
普通、爆発の衝撃は中心から円を描いて球体上に広がっていく物だが、その歪みは片側に大きく偏っていたのだ。

指向性の爆弾が使用された証拠だ。
対象は、鞄の北側に座っていた人間という事になる。
しかし肉片も血痕もない。

(=゚д゚)「……すげぇな、逃げたのか」

あれだけの短時間の間に爆弾を仕掛ける人間も然ることながら、逃げ切る方もかなり優秀だ。
トラギコでさえ、鞄の不審さに気付いた時には爆発していた。
つまり、鞄が置かれる前から警戒していたという事になる。
人並みならぬ警戒心と行動力だけが、この状況から生存するために必要な物だ。

対象となる人物。
可能性はいくらでも考えられる。
円卓十二騎士のダニー・エクストプラズマン、ショーン・コネリも暗殺の対象と成り得るし、爆殺から逃れることも可能だ。
それだけを把握し、トラギコは現場から離れることにした。

54 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 22:43:15 ID:F94asbco0
焦って動いてはいけない。
何事もなかったかのように静かに立ち去るのが鉄則。
新聞社のスーパーカブがスタードッグス・カフェの前で倒れているのを見つけ、アサピーから借りたキーが入るかを確認してから車体を起こした。
再び店内に戻ったトラギコは、気絶しているアサピーの顔を松葉杖で殴って起こした。

(;-@∀@)「い、痛たぁ…… トラさん、さっきのは一体?」

(=゚д゚)「暗殺未遂ラギ。 お前は目撃情報を集めてこい。
    今ならお前の手柄ラギ。
    ついでに人助けをしておくと、好感度が上がるラギよ」

(-@∀@)「や、やった!! こりゃあスクープをゲットせにゃかもだぜ!!」

言語中枢に問題が生じてしまったらしい。
トラギコが殴ったことが原因でないことを願うばかりだが、後は笑顔で階段を駆け下りていった彼が情報をまとめて手に入れてくれるだろう。
今はここから離れ、グレート・ベルに向かわなければならない。
そこを中心に建物の屋上を見て回り、カールを殺した狙撃手の位置を知り、今の爆殺騒ぎとの関連性を見つけることが出来れば大きな進展となる。

後手に回り続けてきたが、捜査はここから始まる。
追い詰めるのはこちらなのだ。
飲みかけのコーヒーの入ったタンブラーを取り、トラギコは早足で店を出た。
地面の焦げた匂い、無知な人間のどよめきがトラギコの頬を緩めた。

嗚呼。
最早。
遠慮は不要。
この事件、トラギコが食い千切るに値するものと認識せざるを得ない。

55 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 22:45:56 ID:F94asbco0
これだから警察は好きなのだ。
だから警官は楽しいのだ。
常にトラギコを興奮させ、新たな発見をさせてくれる。
この感覚こそが、警官人になった最大の喜びと言える。

オアシズでは出し抜かれたが、もう、そうはさせない。

(=゚д゚)「誰だか知らんが、俺を騎乗位でイカせようだなんてあめぇんだよ」

感情が昂ぶるあまり、トラギコは独り言ちてしまう。
主導権を握られ続けるのは性に合わない。
ここから巻き返す。
ここが逆転の始点。

次なる目標を手に入れたトラギコはバイクに跨り、グレート・ベルを目指してアクセルを捻った。

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___ 个ミ、{ f艾iァ、≧ \{x√ゞ' jll f㍉从「 `      Ammo→Re!!のようです
/////人ヽハ  ヽ二彡   ::::::`==彡'_, レ「ヽ__          Ammo for Tinker!!編
///// / \_,        ::: :::::::::::::;^iヽ{ヽ\`⌒ゝ―
//// / / / ∧ .::::::::::.   : _   :::ハ} i⌒ゞ―― ト            第五章 了
///}. {/ ///// 、:::::   ヽ:::'´ ィア .///ハ .|  i i i } }
// | ∨{ヽ  ∨ヽ ^ヽ=ニ三彡′/}:l i ノ .}  |            To be continued...
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56 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 22:47:08 ID:F94asbco0
これにて本日の投下は終了となります。
支援ありがとうございました。

何か質問、指摘、感想などあれば幸いです。

57 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 23:20:05 ID:nf.PkK0o0


58 名も無きAAのようです :2015/02/08(日) 23:41:54 ID:yakj3d/k0
ドリームキャッチャーや他のキングシリーズについて設定はあったりしますか?

59 名も無きAAのようです :2015/02/09(月) 00:44:16 ID:V8kG6P8.0
(=゚д゚)
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1655.png

おっさん描くの難しい……

60 名も無きAAのようです :2015/02/09(月) 23:01:06 ID:gir2BfEQ0
>>58
勿論ありますし、登場して来る予定ですよ。
他にも「ショーシャンク・リデンプション」なんてのがあったりします。

>>59
此度も素敵なイラストを描いていただいてありがとうございます!
描くのは慣れ次第でどうにかなるんじゃないかなとか無責任なこと言ってみますね

61 名も無きAAのようです :2015/02/10(火) 03:57:58 ID:v.2vxf5.O
ショーシャンクは偉大なる名作
異論は認めない

62 名も無きAAのようです :2015/03/14(土) 10:31:35 ID:V0j39Rog0
明日VIPでお会いしましょう

63 名も無きAAのようです :2015/03/14(土) 11:58:54 ID:U8BCuTa60
乙、待ってるぜ

Rellieve!!編より

(゚、゚トソン
ttp://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1683.png

(゚、゚トソン フルカラーver.
ttp://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1682.png

64 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 20:09:20 ID:J8kdJ1IQ0
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それでも我々は、正義を探し求める。

その道を阻むものは、全て蹴散らす。

――警察歌 一番より抜粋

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世界の秩序を守り、正義の代表者として認知されている都市、ジュスティア。
堅牢な壁に囲まれた世界一優れた治安と、世界中に散らばる警察の総本山を抱えた正義の街は八月十日の朝も、いつもと同じように平穏な空気が流れていた。
薄い霧に包まれた街の中を車が走り、人が歩き、徐々に活気が姿を見せ始める。
朝日が水平線の向こうで赤々と燃え、空に群青と目の覚めるようなオレンジのグラデーションを作り出す光景は、新たな世界の誕生のように神々しかった。

しかし。
ジュスティアを象徴する一対の巨大なビル、“ピースメーカー”で早朝から開かれた緊急会議は平穏も幻想的な雰囲気もましてや安寧など皆無で、眠気を吹き飛ばすような緊張感を作り出していた。
朝早くから叩き起こされた重役たちの中には髭を剃っていない者、制服の皺を取っていない者もいたが、不服を漏らす者もそれに対して揚げ足を取ろうとする者は一人としていない。
目の前にある状況は他人の事を気遣う余裕もなければ、楽観視もできない程のものだった。

彼らが直面している唯一の議題は、その日に発行されたモーニング・スター新聞の一面についてだった。
世界最大の新聞社が刊行したその一面には焼け焦げた建物の写真が一枚だけあり、後は文字だけが並んでいる。
問題は、その文字の羅列がもたらす効果だった。
羅列された文字には読者の心を動かし、ジュスティアに対する不信感を膨らませるだけの力があった。

65 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 20:15:20 ID:J8kdJ1IQ0
眠気覚ましのために淹れられたコーヒーの匂いが充満する会議室には椅子がなく、誰も座っていなかった。
正確に言えば、椅子は全て壁沿いに移動されており、会議の参加者は全員長方形の机を囲むようにして立っていた。
手元にはホチキス止めされた資料と新聞の切り抜きのコピーがあり、何が起こったのかを的確に、そして正確に参加者に伝えた。
会議の第一声は警察副長官のジィ・ベルハウスの怒号で始まった。

爪#゚-゚)「どうなってるんだ!!」

机に新聞を叩き付け、ジィは憤りを部下たちにぶつけたが誰も答えない。
勿論、ジィは答えを求めているわけではない。
この場にいる人間で答えを出せるとは思えないし、出せるはずがないと云うのは百も承知だ。
だが彼女が憤慨するのも当然だった。

全世界で最も読者のいる新聞社の今日の一面には、本来書かれるはずのない、秘匿された情報を基にした記事が掲載されていたのだ。
ティンカーベルという島で起こった火事が事故ではなく放火によるもので、それだけでなく暴漢による侵入をジュスティア警察が許してしまったという事。
それに加えて、民間人の被害者――よりにもよって射殺体――が出てしまったことまで書かれていたのだから、現場に関係している人間で激怒しない者はいない。
火事の隠蔽はどうにでも出来たかも知れないが、射殺された死体について述べられるとどうしようもなく、正直に認める他ないのである。

当然、これは決して公にはしたくない情報だった。
信用問題に大きく関係するだけでなく、世界からの評価が悪くなってしまう。
それだけに、現場となったエラルテ記念病院の関係者全員には厳重に口止めをしていた。
それでも、情報は漏れてしまった。

病院関係者しか知り得ない情報が流出したのは、情報封鎖の初動の段階で大きな失態があったという事を意味している。
その失態を産むのは、現場の指揮者の指揮能力のせいだ。
現在、ティンカーベルで指揮を執っているのは軍の総帥、クロガネ・タカラ・トミー。
彼は軍人であり、警察官ではない。

66 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 20:17:08 ID:pL9VCxjU0
きた 支援

67 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 20:20:02 ID:J8kdJ1IQ0
軍による情報統制など、最初から期待せずに警察に一任すればよかったのだ。
繊細な行動は彼らに期待できないという事が、今回よく分かった。 
怒りの矛先は彼だけではなく、万が一に備えて派遣したライダル・ヅーにも向けられていた。
秘書風情がこの事件を処理し切れると信じてしまったのが悔やまれる。

だがタカラよりは、よほど上手に情報をコントロールできただろう。
最低でも漏洩などという情けない事態は回避できたはずだ。
激怒しながらも、ジィは今やらねばならぬことが状況の把握にあることを忘れなかった。

爪#゚-゚)「情報の出処は?!」

彼女の部下たちは首を横に振った。
期待はしていなかった。
そもそも、この短時間の間で離れた場所の正確な状況や背景を把握できれば、今頃は別の場所で難事件解決を担当している。
この場に集まったのは優秀な人間に違いはないが、別分野で活躍をしている人間達だ。

検挙率や書類上の実績ではなく、もっと能力のある人間が必要だった。
しかし外見や書類では、能力の有無は分からない。
部下たちの中で誰が有能なのか、誰がこの種の事件に強いのか、ジィは把握していなかった。
警察を離れたある男が言い放った言葉を思い出し、自分自身に苛立った。

――“あんたは正義じゃなくて、正義に酔う自分しか見てないんだよ”

かつての同僚。
そして、かつての部下。
恩人であり、そして友人だと信じていた男。
今、どこで何をしているのかも知らないが、共に正義について語り合った仲だった。

その彼が残した言葉が、毒のようにジィを責め立てる。
意味もなく当たり散らす自分の姿こそが、その証拠だと自分自身が責め立てる。

68 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 20:26:41 ID:J8kdJ1IQ0
爪#゚-゚)「くっそ、こんな……こんな事……!!」

ティンカーベルでの失態はこれで二度目になる。
重犯罪者の脱獄、そして厳戒態勢の中で起こった放火。
世間に知られているのは後者だが、前者が知られるのも時間の問題だ。
脱獄不可能と言われたジェイル島から二名の犯罪者を逃がしてしまったことは、ジュスティアの歴史に刻まれるべき大問題だ。

出来れば表に出すことなく、闇に葬りたい。
このままではそれすら困難になる。
避けなければならない。
早急に解決しなければならない。

とり急いで行うべきは脱獄者の抹殺。
それに尽きる。
脱獄者さえ殺せれば、放火の責任を全て彼らに被せることが出来るのだ。
それが最善の手だろう。

そうなると、問題になるのは指揮者だ。
タカラは警察が普段行っているような慎重な捜査には不向きな指揮者であり、ヅーでは管理し切れない人間性をしている。
また、ヅーも指揮者としては不向きな性格をしており、補佐の位置にいてこそ発揮する能力を有している。
つまり、理想的な展開に持ち込むための作戦を考え、指揮する人間がティンカーベルにはいないということだ。

最悪である。
では、誰ならば解決できるのか。
解決できる人間はあの島にはいないのか、と言えば答えは否。
一人だけいる。

警察きっての鼻つまみ者であり、警察でも屈指の捜査能力を有する男。
恐らくは情報を新聞社に流した諸悪の根源――

69 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 20:31:47 ID:J8kdJ1IQ0
爪#゚-゚)「虎か……」

――“虎”の渾名で忌避される、トラギコ・マウンテンライト。
あの刑事が入院していたのは、奇しくも放火されたエラルテ記念病院だ。
放火された後に彼が保護されたとの報告があったが、彼が新聞社の人間と接したとの情報もある事から、無関係とは言い難い。
捜査のかく乱が目的ではないにしろ、捜査に対して多大なる妨害をしたことは事実だ。

怒りを抑えるために、ジィは握り拳を作って改めて机を叩いた。
どれだけ怒ったところで、今は島に介入することは出来ない。
全ての海路、陸路を封鎖し、脱獄犯たちの逃げ場を絶たなければこれまでの全てが水泡に帰してしまう。
不本意極まりないが、今は待つしかない。

あの島で、誰かが事件を解決してくれることを。
新聞を握り潰し、それを捨てようとした時、会議室の扉が突如として開いた。
現れたのは報道担当部に所属していることを示す階級章を胸につけた、経験浅そうな若い男だった。

( ''づ)「ほ、報告いたします!!」

爪#゚-゚)「……何だ?」

これでどうでもいい報告がされた場合、ジィは握った新聞紙を投げつける用意があった。
しかし、不運にもこの男は非常に有益な情報をジィに話したがために、その怒りを買うことになる。

( ''づ)「ティンカーベルで爆破テロが起こりました!!」

怒りを越えた時、人は物理的な破壊と威嚇行動に出るのだと、その場の全員が学習することとなった。

70 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 20:35:15 ID:J8kdJ1IQ0
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             ,.r‐'´.  . . : `::‐:;、
              ノ: :: : . : : : : ::::::;:;:;:;:;:ヽ
           ./'ー'^: : : :::: :::::、:::::;:;:;:;:;:;:;:'!             第六章【reaction-反応-】
          ノ: .  . : :: :.:.:.::_;;ヽ:::;:;:;:;:;:;:;'l
           i、. . .___-、ー,='"ヽ|^!::;:;:;;::;:;:;|   __.........___
           `'、ー、.ニ'_Zィ‐ァ. ' .ヽ:;:;ハ::;:;;| r' : :::::::::::::`ー:、
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スタードッグス・カフェの正面で起こった爆破テロはすぐに駆け付けた警察によって対処され、現場は完全に封鎖された。
こればかりはエラルテ記念病院の時とは違い、誤魔化しようがなく、警察は隠蔽ではなくその対処と処理に追われることになる。
幸いにして死者と重傷者がいないため、テロは未遂に終わったと公表されるか、気の狂った男による犯行で犯人は逮捕、拘留されたと発表することだろう。
爆発の規模も小さく、そこまで取り立てて騒ぎ立てるものではなかったのが警察にとっての幸運だ。

一方で、松葉杖を突きながら物思いにふける男にとっては、爆破テロなどあまり興味がなかった。
今しがた起こった爆破テロよりも、昨晩の放火にこそ注視するべきだと考えていた。
トラギコ・マウンテンライトは騒ぎの収まらぬアイリーン・ストリートから離れ、事件解決に必要な情報収集を行っていた。
探しているのは、彼の友人だったカール・クリンプトンを射殺した犯人の手がかりだ。

思い出す限りで分かるのは、銃弾は病院の東側から飛んできた可能性が高いということぐらい。
専門家ではないため、僅かな情報から精確な距離や位置までは分析できない。
有益な情報があるとしたら射殺された時間帯に病院の東側にいた人間なのは、間違いない。
ある程度の高さのある建物から狙撃したのであれば、その銃声や発砲炎が目撃されている可能性がある。

71 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 20:42:06 ID:J8kdJ1IQ0
それが分かれば、発砲場所の特定につなげられる。
発砲場所には何かしらの痕跡が残っている可能性があり、真っ先に捜査するべき場所でもある。
特に、海が近くにある場所だと風雨の影響をもろに受け、証拠が失われる可能性が高い。
早急に狙撃地点を割り出し、情報が鮮度を保った状態の時に捜査を行わなければならない。

例えば薬莢に残された指紋。
例えば宿泊履歴に残された名前や筆跡。
例えば毛髪や体液など、個人を特定する何かが現場に残されていないとも限らない。
全ては可能性の話ではあるが、とにかく調べなければ可能性はゼロにすらならないのだ。

捜査の基本は自らの足を使うことにある。
例え怪我をしていようが、死にかけであろうが、追われている身であろうが関係はない。
他人の力だけで情報収集するなど、刑事として失格だ。
あくまでも他から仕入れた情報は自分の推理を固めるための材料でなければならず、主導権を手放した時点で刑事ではなくなる。

事件解決の主導権を握ったままにするには、自分で動きながら情報を収集するのが一番簡単で確実な方法なのである。

(=゚д゚)「ちょっといいか?」

Ie゚U゚eI「……何だい?」

まず訪れたのは、ティンカーベルを“鐘の音街”と言わしめる巨大な鐘楼グレート・ベルのすぐ隣に並ぶ、木造二階建ての宿泊施設だった。
木製の扉を開くや否や警察手帳を見せて、トラギコは店主が余計なことを口にしないように先手を打った。
カウンターの前で宿泊名簿を開いて準備をしていた六十代前半の店主は溜息を隠そうともせずに吐いてそれを乱暴に閉じ、トラギコを見た。
短身で小太り、白髪は短く刈り揃えられ、団子鼻の下に蓄えた顎髭が特徴的な男だ。

薄汚れた白いシャツと色褪せたデニムのオーバーオールという姿は、宿屋というよりかは八百屋の店主に相応しい。
観光客には受けがいいだろうが、トラギコには受けが悪い。
腕を組んでトラギコに目を向ける姿は、高圧的を通り越して挑発的にしか見えない。
ならば、礼儀は不要。

72 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 20:46:26 ID:J8kdJ1IQ0
左手に持っていた黒いアタッシュケースを乱暴にカウンターの上に乗せ、トラギコは質問を始めた。

(=゚д゚)「昨晩のことでいくつか聞きたいことがあるラギ」

Ie゚U゚eI「出来る事でしたら」

(=゚д゚)「昨日、銃声を聞いたラギか?」

Ie゚U゚eI「さぁ、聞いていませんね。 聞いてたら騒ぎになりますよ」

それはそうだ。
銃声は市街地では非常に目立つ。
次に知りたいのは、閉鎖的な街の情報網を駆使した目撃情報だ。

(=゚д゚)「不審者は?」

Ie゚U゚eI「さぁ、昨日のことはよく覚えていないもので」

そっけなくそう答えると店主はこれ見よがしに帳簿を開き、それに目を走らせ始めた。
明らかに敵意のある態度であり、何かを知っていて隠そうとする態度だ。
どうやら、この店主はトラギコに対してかなり強い不信感を持っているようだ。
先ほどの爆発騒ぎだけでなく、放火のことについて新聞で知っているのかもしれない。

となれば、その不信感の矛先はトラギコだけでなく警察全体に向けられている。
誰が頼んだところで、協力的な姿勢は望めない。

(=゚д゚)「何なら、思い出すのを手伝ってやってもいいラギよ?」

Ie゚U゚eI「警官がそんなこと言うと問題になるんじゃないですかね?」

73 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 20:51:09 ID:J8kdJ1IQ0
(=゚д゚)「……!!」

理性はあった。
このような小物の発言に対して理性を失うほど、トラギコは愚かではない。
むしろ、あまりにも矮小すぎて同情すら禁じ得ない次元の人間にしか見えていない。
それでも、この先の障害になるようであれば排除するべきだという判断は揺るがなかった。

十分すぎるほどの理性を持ちながら、トラギコはカウンター越しに店主の髪を掴んで引き寄せる。
髪の毛が数十本単位で千切れ、その顔が恐怖と痛みに歪む。
噛み付かんばかりの勢いでトラギコは顔を寄せ、声を潜めて言った。

(=゚д゚)「何が、どう問題だって?」

Ie゚U゚eI「ちょ、ちょっと……!!」

まさか、警官が手を出すとは思っていなかっただろう。
それが正常な認識だ。
この男にとっての不幸は、その認識がトラギコには適応されないという事を知らなかった事だ。
確かに、警察官の規定には無暗やたらに暴力を振るってはならないと定められているが、トラギコの場合は必要に応じて振るっているだけだ。

相手が女だろうが子供だろうが老人だろうが、トラギコに必要な情報を持っているのであれば、手は出す。
腱を切って逃げる手段を奪うのも、トラギコのやり方の一つだ。
これまでに一千件近くのクレームがあったが、その全てをトラギコは無視してきた。
処理は上の人間の仕事だからだ。

(=゚д゚)「非協力的な奴にゃ、いくらでも罪状付けてムショにぶち込めるんだよ。
    いいから教えろ、不審者の事を」

片足でも、民間人を脅すぐらないなら支障はない。
たちまち素直に怯え始めた店主だが、トラギコの求める答えは口にしなかった。

74 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 20:59:30 ID:J8kdJ1IQ0
Ie゚U゚eI「ほ、本当に知らないんですって!!」

(=゚д゚)「知らない? 覚えてないじゃなくて?」

動揺する店主に殴りかかろうとした、その時。
背後で扉が開く音がした。
もしもこの時、トラギコが長年の経験で培った癖で音の方を見ていなければ、この先の展開が大きく変わった事だろう。

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      {i:i:i||i:i:||i:i:i:i:i:||i:i:i:i:i:||i:i:i:i:i:i||i:i:i:i:i:i||i:i:i:i:i:i:||i:l
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          ',i:i:i:i:||i:i:i:i:i:||ネァ´      }.}||i:i:i:ij|il
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         __ ヾi||i:i:i:i:i:||i:iゝ-===-彡i:ij|i:i:i:ア _
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(::0::0::)「……」

黒い目だし帽。
黒いジャケット。
黒い皮の手袋。
黒いショットガン。

75 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 21:07:51 ID:J8kdJ1IQ0
ただならぬ雰囲気以前に、その風体は一瞬でトラギコの意識を戦いに必要な物へと切り替えさせるには十分すぎた。
意識が切り替わって行動するまでに必要なのは、コンマ五秒。
その間にトラギコは一瞬で状況を理解し、的確な動きをしなければならない。
一枚の写真を見て瞬時に理解するように、複数同時の処理がトラギコの脳内で行われた。

ショットガンの射程は短い。
だが、その攻撃範囲は離れれば離れるだけ広くなり、その分だけ威力が落ちる。
筋肉の付き方から男であることが分かるのと同時に、腰だめから肩付けに構え直したのは素人の証。
トラギコと男との距離は約七フィート、ショットガンにとっては必殺の距離だ。

何かが起こるよりも前にカウンターの向こうに飛び込んだのは、脊髄反射的な物だった。
それで正解だった。
答え合わせは、トラギコの行動からコンマ一秒後に執行された。
店主の悲鳴と肉が飛び散る湿った音、そして銃声がトラギコの頭上で響く。

余りある威力に吹き飛ばされた店主は壁に叩き付けられ、血の帯を壁に残して力なく頽れた。
床に自分の肩が触れるのと同時にトラギコは懐からM8000を取り出し、上半身を起こして木製のカウンターの裏から応戦した。
威力と弾道に影響が出るが、パラベラム弾でも厚みのある木を撃ち抜くことは可能だ。
狙いが逸れた弾が窓を割り、どこかから女の悲鳴が聞こえた。

相手の姿が見えない中、音だけがトラギコにとっての判断材料になるため、その悲鳴は邪魔だった。
第二射がこない事から考えられるのは、敵が逃げたか、負傷したか、それとも移動したかだ。
結果を確認するために弾痕から向こう側を覗くと、覆面の男が胸を押さえて倒れていた。
血溜まりの中で痙攣しているのを見ると、防弾着は着ていなかったらしい。

一先ず事態を納めることが出来たことに安堵の溜息を吐き、ふと横を見る。
胸がグロテスクに抉れた店主の死体と目が合った。
情報は聞き出せないが、タイミングの良さを考慮すると相手はこちらを尾行していたと考えられる。
同時に、襲撃者が一人では済まないことを悟った。

76 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 21:10:21 ID:J8kdJ1IQ0
敵はどうあってもトラギコには消えてもらいたいと考えているらしく、情報が伝わる速度が想像以上に速いことから相当な手練が後ろにいるのだと分かる。
ならば、事態をかき回す存在であるトラギコは早急に消しておきたいだろう。
アサピー・ポストマンと一緒にいたところも目撃されていたと考えると、彼も今後は危険に晒される立場となる。
互いに利用しているだけの関係であるため、アサピーが襲われてもトラギコは一向にかまわなかった。

万が一人質となったら、喜んで見捨てるつもりだった。
念のために上半身を晒すよりも先にカウンター上に手を伸ばし、アタッシュケースを回収する。
これこそがトラギコの持つ強化外骨格――通称“棺桶”――“ブリッツ”だ。
緊急時における強化外骨格との近接戦闘に特化したこの強化外骨格は、対人間との戦闘でもその力を発揮することが出来る。

肉弾戦ともなれば、頭を殴り潰すことさえも可能だ。
アタッシュケースに見えるのは運搬用のコンテナで、非常に堅牢な作りをしている。
ライフル弾でさえも防ぎ得る硬度を持ちながらも重量は非常に軽く、下手な楯を持ち運ぶよりも利便性がいい。
M8000を構えながら、トラギコは片手をついてゆっくりと体を起こす。

目の前にあった入り口の扉には穴が空き、質素な窓ガラスは砕け散っていた。
その小さな窓の向こうに見える通りには人が集まり、何事かと騒いでいる。
これでいい。
人目がある以上、迂闊な追撃は来ない。

カウンターを乗り越え、床に転がっていた二本の松葉杖の内一本だけ掴んだ。
店主が殺されたのは、偶然ではない。
第一射で仕留めるなら、間違いなくトラギコを狙う。
それが、どうしてか店主が先に撃ち殺された。

狙いを誤ったにしては、店主の胸に空いた穴の位置が不自然だ。
敵はトラギコと店主の二人を標的として捉え、店主を優先的に殺したように見える。
今は撃ち殺したばかりの男の顔を見るよりも、上の階を目指すことを優先した。
銃声が真下の部屋から鳴り響いたにも関わらず誰も出てこないのは、銃声におびえているのか、それとも誰もいないのかのどちらかだ。

77 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 21:11:50 ID:9Z2m0VmM0
支援

78 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 21:16:57 ID:J8kdJ1IQ0
何にせよ好都合だ。
これで捜査がしやすくなった。
店主が殺された理由は後で考えるとして、まずは狙撃手の証拠を集めるのが先決だ。
仮にこの建物から発砲されたのなら二階ではなく、もっとも高さのある屋上からでなければならない。

その高さが十分かどうかも見定めるためにも、トラギコは階段を上って二階に向かった。
二階の廊下に出た時、トラギコは首筋に嫌な寒気を感じた。
何か凶暴な生物がいる。
そんな感覚だ。

まるで、知らず知らずの内に熊の巣に入り込んでしまったかのような感覚には、覚えがある。
若い頃、聞き込み対象の部屋と間違えて三人組の殺し屋が仕事をしている現場に遭遇したことがある。
後に分かった事だが、彼らは“ケコッズ三人組”という通り名で知られる殺し屋集団で、本部も内々に捜査をしようと狙っていたらしい。
結果として現行犯逮捕一名、射殺二名という結末の貢献者となったトラギコは彼を快く思わない人間からより一層嫌われることになった。

漂う空気と感覚は、その瞬間に似ている。

(=゚д゚)「……いきなり大当たりラギか」

アサピーの写真からトラギコが推測したのは、ショボン・パドローネ達がアイリーン・ストリートの近くに潜伏している可能性だった。
あくまでも、可能性の話だ。
捜査における可能性が正解になる確率は、果てしなく低い。
しかしながら、それは言い換えれば可能性が一発で正解に直結する場合も稀にあるという事だ。

適当に選んだ一軒の施設が正解であることもまた、可能性としては十分にあり得るのだ。
正解に辿り着くとは、正直、想像してもみなかった。
喜ばしいことではあるが、体調面も含めて戦闘に必要な準備が整っていないのは致命的だ。
いつ襲われてもおかしくない状況の中、トラギコはゆっくりと、周囲を警戒しながら歩く。

79 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 21:20:30 ID:J8kdJ1IQ0
屋上に出るには、天井裏へと通じる階段を降ろす必要がある。
それがどの場所にあるのか、それを聞く相手は死んでしまった。
自力で探すほかない。
恐らく、廊下のどこかに付いているのだろうが、もし見つからなければ部屋を虱潰しに見て周る他ない。

五部屋の中に二種類の正解が潜んでいると考えると、心臓がむず痒くなる。
天井だけでなく部屋にも注意を向けながら、ゆっくりと。
歩く。
ただそれだけの行為にこれほど緊張するのは久しぶりだった。

自然と笑みがこぼれる。
生きている実感が体中に満ち溢れる。
恐ろしいまでの静寂が満ちる廊下には、ブーツの底が床板を踏みつける音と松葉杖が立てる音のみが流れている。
五感の内、トラギコの聴覚は最大限にその能力を発揮すべく、意識のほとんどがそこに注がれていた。

――それが、仇となった。

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                 /  ハ:::j/ィ‐‐、ヽ㍉
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80 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 21:25:22 ID:J8kdJ1IQ0
静寂を打ち砕くように響いた巨大な鐘の音。
グレート・ベルの鐘には大きく二つの役割がある。
一時間刻みに時刻を知らせる時鍾、そして島全体に緊急事態を知らせる警鐘の役割だ。
耳を押さえながらも腕時計を見ると、時間は朝の四時四十五分。

時鍾ではない。
先ほどの爆破騒ぎを知らせるために鳴らされた警鐘と考えられるが、タイミングが最悪だ。
爆音にも思えるその音の中、トラギコは手前から二番目の扉が開くのを見た。

lw´‐ _‐ノv

(;=゚д゚)

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現れたのは、喪服のように黒一色の服装をした女だった。
黒いレースの帽子と長手袋、黒いロングヘアー、シースルーの黒いワンピースの下には黒い下着が見える。
背負った黒いコンテナは棺桶に酷似しており、服装と相まって葬式に出た露出狂か変質者のそれだが、その正体は違う。
誘拐魔“バンダースナッチ”こと、シュール・ディンケラッカーだ。

81 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 21:31:01 ID:J8kdJ1IQ0
両肩に正方形の小型コンテナ――ミサイル発射装置だろうか――が載っており、両腕にはメッシュ装甲の籠手が付いている。
通常の戦闘に特化した棺桶なら、ライフルの一挺や二挺持っているはずだ。
更に、起動コードに使用された言葉は少なくとも量産型のそれではないことを考えると、トラギコのブリッツと同じく、単一の目的に作られたコンセプト・シリーズのものだろう。
その名前はおろか、性能さえトラギコには分からなかった。

何より恐ろしいのが、コンセプト・シリーズには共通した強みがある点だ。
一点特化型。
言い換えれば、初見の場合には何に特化しているのかが判別不可能だという事。
二、三度会って初めてその性能が分かる場合もあるぐらいだ。

感情や目的に左右されず、迂闊に仕掛けない方が賢い。

(=゚д゚)「シュール・ディンケラッカーだな?」

√[:::|::]レ『そうね、だとしたらどうするつもり?』

(=゚д゚)「ダルマにしてやるラギ!!」

高周波刀のスイッチを入れ、いつでも装甲を切断できる状態にしておく。
勝てる見込みはない。
中遠距離を得意とする相手なら、勝機はない。
近距離ならば、一割以上の確率で勝てる。

問題は、どちらかという事だ。

√[:::|::]レ『ふふ、怖い言葉を使うのね』

相手は動かない。
余裕の表れだろうか。
それとも、こちらが動くのを待っているのだろうか。

82 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 21:33:44 ID:J8kdJ1IQ0
(=゚д゚)「こいよ、阿婆擦れ」

√[:::|::]レ『そっちが来たら? 加齢臭』

(=゚д゚)「言ってくれるラギね……」

戦闘慣れしていないのが、今の会話で分かった。
会話をする時間があれば襲い掛かるぐらいでなければ、プロではない。
子供に特化した人攫いを専門にしている女ならば、戦闘に慣れていないのは道理。
勝てる見込みがあるが、性能差という問題が消せるわけではない。

√[:::|::]レ『来ないなら、こっちから行くわよ』

再び響いた鐘の音が、トラギコの聴覚を支配する。
シュールの声は、もう聞こえない。
その左手がゆっくりと持ち上がったかと思った瞬間、トラギコは倒れていた。
何が起きたのか分からなかった。

何をされたのかすら、解らなかった。

(;=゚д゚)「あ……ん……が……」

鐘の音に紛れて耳障りな音が聞こえたのは分かった。
それだけで、トラギコの全身から力が抜け落ち、高周波刀を手放してしまった。
意味が分からない。
殺す意欲はあった。

なのに。
なのに、両手両足が言う事を聞かなかったのだ。

83 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 21:39:13 ID:J8kdJ1IQ0
√[:::|::]レ『実験通りね。 ありがと、虎さん』

重い跫音が近付いてくる。
禍々しい姿近づいてくる。
だが体は動かない。

(;=゚д゚)「こ、の……こい、よ……」

力がどうしても入らない。
初めての感覚だ。
筋肉が言う事を聞かず、意識だけが空回りする。
毒を使われた可能性が高かった。

√[:::|::]レ『SAYONARA-Bye Bye』

余裕をもって殺される。
踏み潰すもよし、殴り殺すもよし。
今、トラギコは指を一本動かすだけでも困難な状態にあった。
鐘の音を残しながらも直接的に送り込まれる甲高い不協和音は、トラギコの体から力を奪い、戦う意欲を削いだ。

(;=゚д゚)「……」

死を覚悟する時が来るとしたら、きっと、この瞬間なのだろう。
だがトラギコには、そんな覚悟は出来なかった。
今ここで死んでも仕方がないと自分を納得させることなど、不可能だったからだ。
力の抜けた腕で高周波刀を掴み、気休めにもならないが投げつける用意をする。

84 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 21:43:14 ID:J8kdJ1IQ0
シュールはある程度の距離を保ったまま、それ以上は近づこうとはしない。
流石に馬鹿ではないようだ。
投擲される刃物は距離が開くほどにその軌道が読みやすくなる。
飛び道具を持っている以上は、飛び道具で戦うのが最善だ。

ブリッツが高周波刀の攻撃に特化していることは、一目で分かる。
多少トラギコについて勉強していれば、その弱点も分かってしまう。
小型のAクラス故に正体不明の攻撃に対して防御の手段がないことも、この女は知っているのだ。
知っていて勝負を仕掛け、そして制した。

偏頭痛に似た頭痛が始まり、思わずブリッツを手放して耳を押さえた。
とにかく、頭の奥が痛かった。
脳の奥でガラスの鐘が狂ったように鳴り響いているようだ。
音による攻撃なのだと分かったところで、トラギコにはなす術もない。

両手で耳を押さえながら本能的に体を丸め、防御の姿勢を取るも効果がない。
いっそ鼓膜がなければ、とさえ思うほどの痛み。
脳の片隅に残った僅かな理性で懐に手を伸ばし、M8000の銃把を握りしめる。
一か八か、装甲の隙間を狙って攻撃を中断させる。

その思考が伝わったのか、音がその大きさと残忍さを増した。
最早、反撃どころではなかった。

『ちょっとぉ、それは駄目よぉ』

場違い極まりない陽気な声が、シュールの攻撃を中断させた。
背後から聞こえた聞き覚えのある声は、鐘の音が鳴り響く中でもはっきりとトラギコの耳に届く。

从'ー'从「その刑事さんを殺すのはぁ、この私よぉ?」

85 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 21:47:57 ID:J8kdJ1IQ0
快楽殺人鬼、ワタナベ・ビルケンシュトック。
ショボンと同じ組織に属する女であり、ニクラメンで行われた虐殺に加担した女だ。
最悪の状況に最悪の女が現れた。
冷静に考えれば、ここにいても不思議ではない。

オアシズの到着と同時に姿を消し、尚且つ所属するのはショボンの組織。
つまり、認識としてはシュールたちと同じ存在なのだ。
敵であり、追うべき標的でもある。

√[:::|::]レ『初耳』

从'ー'从「今初めて言ったものぉ、当然でしょう?」

耳を押さえながら、トラギコは顔だけをワタナベに向けた。
鳶色の瞳はシュールに向けられ、相変わらず無垢そうな笑顔で殺意を垂れ流しにしている。
染み一つない白いレースのワンピース、そして黒いアタッシュケース。
否、あれはコンテナだ。

トラギコのブリッツと同じく、棺桶を運ぶためのものだ。
以前はBクラスの棺桶を使っていたと記憶しているが、新たな物に切り替えたのだろう。
勿論、棺桶は一人一機とは限らない。
毒ガスを使われたら、間違いなくトラギコは死ぬ。

それどころか、周囲の民間人にも死者が出る。
考え得る限り最悪の状況だった。

√[:::|::]レ『でも、殺すなら同じでしょ』

从'ー'从「全然違うわよぉ」

86 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 21:52:12 ID:J8kdJ1IQ0
ワタナベは愛おしそうにコンテナを胸の前で抱きしめる。

√[:::|::]レ『ん?』

从'ー'从「私が殺さないと意味がないのよぉ」

助けに来てくれたというわけではなく、獲物の奪い合いに来たらしい。
状況は変わらず、最悪のままだ。
二人の動き次第で、どう殺されるのかが変わってくる。
ただ、それだけの話だった。

√[:::|::]レ『意味不明。 何でもいいけど殺すなら殺せばいいんじゃない?』

从'ー'从「えぇ、殺すわよぉ。
     でもその前に、お痛をした罰は受けないとねぇ」

√[:::|::]レ『……は? オオイタ?
     何のためにそんな無駄な事を――』

从'ー'从『この手では最愛を抱く事さえ叶わない』

起動コードの入力、そしてコンテナの解放。
内蔵された装着補助装置の力を借り、それまで小枝のようにほっそりとした長い女性の指が一瞬の内に醜い鉤爪を纏った。
一見すれば長手袋に見えなくもないが、金属を削り出して作られたような色合いをしたその鉤爪は、優雅さとは無縁の造形をしている。
特徴的な一フィートはあろうかいう長い爪は、鏡のように磨き上げられた鋭利な刃物の形状をしており、それ以外は脈打つ鎧そのものだった。

間違いなく、コンセプト・シリーズの棺桶だ。
高周波装置が発生させる独特の音が、その鉤爪から鳴り響く。
近接戦闘に特化した作りなのは間違いない。

87 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 21:55:49 ID:J8kdJ1IQ0
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              /\             / .l ∧
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  / \ 丶、     ,'        \∧ニニl   .l     ∧\ \ \ \   August 10th
. i   \  `ー- __l        / `∧l\l    l      ./ニニ\\ \ \      AM 04:44
 i     \     .l       ./    / . l   .l     ./\ニニ\ ──-∨
 i     /` 丶 、 l       /    /.ヽ.l.  .l     /l  \ニニ\____∨
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 i   .i  l l \__.l         l lニニニニニl  l    .l- ̄    / /\lゝ_  /         / `丶 、_
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щ从'ー'从щ「指あたり、もらおうかしらぁ」

仲間割れを起こしてくれるのなら望むところだ。
その間に退却するのが今は望ましい。
音の支配から解放されたトラギコはブリッツを掴み、スイッチを入れた。

√[:::|::]レ『共闘するつもり? というか、裏切るの?』

从'ー'从「笑えない冗談ねぇ」

88 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 21:57:40 ID:9Z2m0VmM0
支援

89 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 21:58:58 ID:J8kdJ1IQ0
(;=゚д゚)「……阿婆擦れ会議なら勝手にやってろラギ!!」

強化外骨格の装甲さえ切り刻み得るブリッツならば、木製の床を切り抜くなどあまりにも用意なことだ。
刀を深々と床に突き刺し、自分の周囲の床を円形に切り裂いた。
床板と共に背中から一階に落下したトラギコは埃が濛々と舞う中すぐに立ち上がり、M8000を懐から抜いて天井に向けた。
追撃はない。

視線を感じて店の入り口を向くと、そこには制服姿の警官が二人立っていた。
すでに周囲はテープとロープ、そして目隠し用のブルーシートで封鎖され、関係者以外は立ち入れなくなっている。
警戒態勢中という事もあり、到着と仕事の速さは流石だ。
二人は今まさに扉を開けたところのようで、トラギコが降ってきた光景を見て扉にかかった手が途中で止まっていた。

川_ゝ川「……」

( 0"ゞ0)「……」

(;=゚д゚)「……」

銃口を向けるべきか否かを逡巡し、トラギコはこれ以上自分が不利な状況に陥らないようにそれを抑え込んだ。
上の階にコンテナを置いたままであるため、近々ここに戻らなければならない。
ここで警官を脅したり殺したりしようものなら、それはもう無理になる。
流石に同業者殺しは気が引けた。

この状況を切り抜ける方法を考えるために、トラギコは時間稼ぎをしなければならない。
一つ、十八番の技を使うことにした。

(=゚д゚)σ「上の階で警官が戦ってるラギ!!」

90 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 22:02:40 ID:J8kdJ1IQ0
健全な警察官は正義感に溢れている。
その彼らが最も反応するのが、同僚の危機だ。
優先順位と彼らの好むものを与えてやれば、馬鹿は勝手に食らいつく。
警察学校で懲罰問題に発展しかけた時に、トラギコが教官の目を欺くために使った手段だ。

( 0"ゞ0)「行くぞ!!」

川_ゝ川「応!!」

勇み足で扉を開き、二人は階段を駆け上がっていった。
馬鹿は扱いやすくて助かる。
あわよくばシュールとワタナベを始末してくれればと思うが、無理だろう。
予感はすぐに当たる事となった。

跫音が頭上で乱暴に響き、悲鳴が続いた。
トラギコの空けた穴から制服の付いた腕が落ち、腸がはみ出た男が落ちてきた。
そして僅かに遅れて、目と耳から血を流した男がその上に折り重なった。
いくらなんでも弱すぎる。

(;=゚д゚)「やっぱ駄目ラギか」

時間稼ぎにもならなかったが、捕まえられる心配はなくなった。
今は、あの二人が仲間割れの末に一人に減ってくれることを願うばかりだ。
騒々しく聞こえてくる跫音の多さが二人の立ち回りを教えてくれる。
あの様子では宿泊客が皆起きて、巻き込まれ兼ねない。

そこでやるべきことを思い出した。
宿泊名簿を手に入れるなら、今だ。
ブリッツを杖にして立ち上がり、カウンターに向かう。
血と弾痕で汚れたそこから宿泊名簿を見つけ出し、全てのページを千切り取る。

91 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 22:05:11 ID:J8kdJ1IQ0
他に何かシュールの手がかりになるような物はないかと探すと、店主が生前大切にしていた帳簿を見つけた。
かなり細かな部分まで収支が書かれており、備品や食事、光熱費まで全てが書かれている。
そんな中で、不自然な金額が目についた。
アマギカンパニーから寄付という名目で得た、七十万ドルの収入。

格安の宿泊施設を経営するアマギカンパニーと言えば、内藤財団の子会社だ。
つまり、内藤財団から資金提供があったことになる。

(;=゚д゚)「内藤財団がどうして……」

この宿の立地条件は確かにいい。
名物の真横という好立地だが、宿泊客は定着しない。
グレート・ベルの音によって叩き起こされれば、一日だって耐えられない。
その証拠に、一泊限りの客がほとんどだ。

大企業が目をつけるに値するとは思えない。
寄付金という名目ではあるが、買収するのが目的なのだろう。
買収するにしては魅力に欠ける宿だ。
何故、街一つを運営するだけの大企業がこの宿に寄付金を出したのか。

(;=゚д゚)「……」

帳簿の該当するページを千切り、懐にしまった。
これは間違いなく、大きな証拠だ。
先ほどトラギコが殺した男は、これを隠すために来たのかもしれない。
だとすると、ショボンが所属している組織の背後には内藤財団の影が――

(=゚д゚)「……んなわけねぇか」

92 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 22:10:08 ID:J8kdJ1IQ0
あるとしたら、内藤財団の中に隠れた別の思惑を持つ人間達だろう。
大企業を隠れ蓑にすれば、怪しまれることはない。
やっと尻尾を捕まえた。
頭上から聞こえていた跫音が止み、戦いが終わった事を告げる。

生き残った方を確認するまでもない。
今は、ここから逃げる。

(;=゚д゚)「……どっちでもいいけど、もう少し粘れよ」

置き去りにしていたもう一本の松葉杖を拾い上げ、宿から急いで出た。
追手がないことを確かめながら、トラギコは慎重にブルーシートの向こうに出て行った。
両手の籠手を外してカブの後ろ籠に高周波刀と共に乗せ、その場を走り去る。
コンテナを失ったのはかなりの痛手だ。

特に、コンセプト・シリーズのコンテナは中身と同じくそれ専用の物だ。
世界に一機しか存在しないという事は、収納して持ち運ぶだけでなく、充電を行うための装置も一つしかないのだ。
回収しなければ、充電が出来ない。
充電が出来なければ、ブリッツは使えないのだ。

そしてもう一つ、トラギコがあの場に置いて行ったものがある。
手製の松葉杖だ。
狙撃銃の代用として使うつもりだったのだが、これで失われた。
手痛い忘れ物というわけではないが、手製の物だけに残念だった。

狙撃地点の割り出しは出来なかったが、十分な収穫があった。
ショボンの組織は、内藤財団内に隠れ潜む者たちが首謀者だ。
が。
それが、カール・クリンプトン殺害の解決に通じるものとは考えにくい。

93 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 22:14:22 ID:J8kdJ1IQ0
もっと確実な証拠が必要だ。

(=゚д゚)「……くっそ」

アサピーと合流する手もあるが、今は避けておいた方がいい。
こうしてトラギコが襲われたという事は、アサピーの方にも追手が向かっていることだろう。
彼には悪いが自分の身は自分で守ってもらわなければならないし、新聞記者たるもの、そうでなければ真実を追うことなど出来ない。
これで生き延びることが出来れば、彼の出世は現実味を帯びることだろう。

生き延びることが出来れば、の話だが。

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        `ヽ、__,,,,,..、-―=ニ二,,_    ̄ゝ‐、            \
      ,,.-‐''"´ //     / ィnァ、`ヽ、  \ `ヽ、          /
  __/_,,,,,,.,-‐〈`rn、   /  /lJ' ヽ. ├-、_/l   `゙ヽ、    __,ノ  August 10th
    ̄   /   〉l 'J|'´ ̄| 、 ヽ--、_/' /      〉   _ ` ̄ ̄≦_   AM 05:33
        ├‐-/__,ツ     \ `   /     /  /,.-、\ ヽ   了`
       ヽ.⊥l        `'ー‐''´     /,  / / ヽ' l   `  \
         | `ヽ               /,〃/  )  〉, |       ミ、
         ',                  '/'"'´ く_ / /     /´
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その部屋には一人しかいなかった。
雑然とした机上。
タバコの匂いと黄ばみが染み付いた壁。
窓から差し込む日差しは、室内が埃と煙で白んでいることを教えてくれる。

94 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 22:17:10 ID:J8kdJ1IQ0
部屋には五つの机があり、その内の四つは向かい合わせで一つの島を作り、残った一つはその島を離れた位置から見守るようにして配置されていた。
本来であれば向かい側に座る人間の顔が見えるようにと配慮されているのだが、山のように積み重なった書類によってそのささやかな配慮は無意味なものとなっていた。
互いに作り上げたごみのバリケード、もしくは目張りから分かるのは働いている人間の行動パターンだ。
それは、彼らが社内にあまり滞在せず、頻繁に外部に足を伸ばしていることの表れでもある。

普段はタバコをふかしながら雑談にふける時もあるが、いざとなれば彼らはコミュニケーションよりも優先すべきことのために動く。
朝日が昇り、朝刊が発行され、配達され、そして得られた反応は彼らの埃を被っていた闘争心に火を点けた。
いち早く情報を手に入れ、いち早く公にするという闘争心。
即ち、記者魂と呼ばれる闘争心に他ならない。

部屋に一人残るアサピー・ポストマンは今朝の朝刊で掲載されたビッグニュースがもたらした反響を全身で感じ、そして感動していた。
自分の書いた記事が一面に載るという事は、新聞を読む人間の目に真っ先に止まり、真っ先に読まれるという事だ。
それは、アサピーの言葉を人々が読み、飲み込み、信じ、そして口にするという事。
モーニング・スター新聞が世界で最も読まれている新聞である以上、今、自分が世界の流れを作っていると言っても過言ではない。

偶然手に入れた情報がアサピーに与えたのは、その感動だけではなかった。
本社の最上階にある最も高価な椅子に座る“新聞王”から、今後に期待していると電話をもらったのだ。
これはつまり、昇進が約束されたような物なのだ。
来年にはどこかで優雅に旅行特集の記事を担当できるかもしれない。

旅行記事は記者にとって、有休のようなものだ。
期間が長ければ長いだけその観光地で羽を伸ばせるし、費用は全て会社持ち。
心行くまで旅行を楽しんだ後に書く記事が魅力的になるのは、当然のことだろう。
その地位に就くには、ビッグニュースになり得る記事を数本書かなければならない。

アサピーは今の自分が、その一歩手前であると判断していた。
何もないはずの島から、世界一正義に五月蠅い街の失態を手に入れたのだ。
このスクープは必ずや、後世に語り継がれることだろう。
支部長には先ほど、ボーナスの約束を取り付けたところだ。

95 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 22:21:28 ID:J8kdJ1IQ0
ボーナスを使って、デジタル一眼レフカメラを購入すれば更なる撮影の幅が広がる。
そうすれば、夢に近づける。
新たな希望を胸に抱き、アサピーはトラギコに頼まれた爆破テロの目撃情報とその記事化に勤しむことにした。
タイプライターを使って記事を作成しようと自分の席に着き、眼鏡の縁を持ち上げた。

一文字目をタイプしようとした時、視線を感じて唯一の出入り口である引き戸に目を向けた。
そこには、見知らぬ男が立っていた。
禿頭の男だった。
皺だらけのワイシャツを身に纏い、傷だらけのジーンズをはいた男だ。

眉と目は垂れ下がり、年老いた老犬に似た面構えをしていた。
無精ひげには白髪が混じり、顔には細かな傷が複数あった。
ずっしりとした体つきをしており、特に上半身は中年太りとは無縁そうな健康体。
軍人か警官か、もしくは格闘技を嗜んでいる人間のそれだった。

壁に寄りかかり、視線をアサピーに向けている男の顔に見覚えはない。
何かを背負っている事に気付き、首を傾けてその正体を見る。
それはまるで、死者を納める棺桶のような形をしており――

(;-@∀@)「ややや、けったいな…… あ、あの、どちらさまで?」

(´・ω・`)「……あ、僕?」

男は自分を指さしてそう言い、アサピーは首を縦に振った。
体に似合わず飄々とした態度に、一瞬だけ警戒心が解ける。

(´・ω・`)「あぁ、気にしなくていいよ。 それより悪いけどさ、死んでもらえないかな?」

96 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 22:24:11 ID:J8kdJ1IQ0
挨拶よりも実に自然と口にした言葉の意味は、十分すぎるほどに理解できた。
この男はアサピーに死んでもらいたくて、アサピーは死んだ方が喜ばれる。
実に単純な図式だ。
それ故にアサピーは、改めて確認するしかなかった。

例え、その答えが明白だとしても、だ。

(;-@∀@)「え、え? 死んでもらうって、僕が死ななきゃいけないかもで?」

(´^ω^`)「あぁそうか、殺されるのは初めてなんだね。
     大丈夫、優しく殺してあげるよ。
     結構上手いんだ、こう見えて。
     なぁに、君の同僚も痛そうにはしてなかったから安心してよ。

     悲鳴、聞こえなかったでしょ?」

訊き返したアサピーに対して男は満面の笑みを浮かべ、殺伐とした言葉を楽しげに並べ始めた。
悲鳴。
そして、殺す。
最早疑うまでもなく、最早確認するまでもない。

この男は、自分を殺すつもりなのだ。

(;-@∀@)「いや、いやややや!!」

(´^ω^`)「ははは、かわいらしい声で鳴くねぇ」

97 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 22:28:27 ID:J8kdJ1IQ0
男の言葉が正しければ、社内に残っていたアサピーの同僚は皆殺されたことになる。
記事のネタを手に入れようと街に繰り出した同僚以外、全員が。
音もなく。
悲鳴もなく、殺された。

それは手練の証明であり証拠でもある。
ひ弱な自分など、こともなげに殺すことが出来るはずだ。

(;-@∀@)「ひいっ!! こいつぁコトだ!!」

机の上にあった堅そうなものを、手当たり次第に投げつける。
飛んでくる文鎮やペンケースを避けながら、男は一歩ずつ近づいてくる。
それに合わせてアサピーは物を投げながら後退し、どうにか活路を見出そうと思考を巡らせた。
だが浮かぶのは、ただ逃げるという事だけ。

警察に電話をしたり、近隣の人間に助けを求めるために窓ガラスを割って逃げるという事は、考え付きもしなかった。
同僚の机にあったカッターを手に取って刃を三インチまで伸ばし、アサピーはそれを投げた。
しかし所詮は非凡な男の非力な投擲。
軽い手つきでそれを払いのけ、男は笑顔を崩さずに新たな言葉でアサピーを恐怖させる。

(´^ω^`)「ほらほら、そんなに暴れなくても大丈夫だから。
      絞殺ってね、思いのほか気持ちいいんだよ?」

確かに、聞いたことがある。
首を絞めて窒息する中で得られる快感は、一度味わえば病みつきになるという噂を。
年に十数件報告される自慰行為、または性行為中の窒息死が後を絶たないのはそのためだ。
だがそれは一度間違えば死に直結する危険な行為であり、快感のために死を選ぶ可能性もある諸刃の剣であることを示している。

死ぬまでに味わう苦痛は少なく、代わりに快感を得ることが出来るとは言っても、殺されることに変わりはない。
殺されるのだけはどうしても受け入れられなかった。

98 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 22:31:46 ID:J8kdJ1IQ0
(;-@∀@)「く、来るな、このファック野郎!!」

走って出入り口を目指すが、男は常に最短距離でアサピーの正面から迫ってくる。
机を乗り越えられるのにそれをしないのは、この男が追うのを楽しんでいるからだ。
よく見れば男の股間は盛り上がり、性的に興奮していることが分かる。
変態だ。

(´^ω^`)「あははははは!! 待ってくれよ!!」

遂に男は机の上に乗り、書類やごみの山を蹴散らしてアサピーに浴びせ、退路を塞いできた。
足を止め、アサピーは最後の抵抗を試みることにした。
最後の武器としてアサピーが選んだのは、胸にさしていたラミーの万年筆だった。
キャップを取り、ペン先を男に向けながら何か気の利いた台詞でもと思うが、何も言葉は出てこない。

(´^ω^`)「冷めるからそういうのやめろよ」

必死の抵抗も虚しく、男はただ足を動かし、ただ万年筆を蹴り飛ばしただけだった。
ペンは剣よりも弱く、蹴りよりも弱かった。
武器は失われ、抵抗する気力も失われた。
目の前に降りてきた男は笑顔を絶やすことなく、その逞しい両腕でアサピーの両肩を力強く掴んだ。

恋人を抱擁するようにして、男はアサピーを抱きしめた。
気色の悪さよりも恐怖が勝った。
指先一つ動かせず、アサピーは男のなすがままにされる。
抱擁を解いた男の手は優しく首まで這い、ごつごつとした指の皮を喉に感じ――

(;-@∀@)「くっ……」

――男のすぐ背後の窓ガラスが砕け散り、黒い影が現れたのを見て取った。

99 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 22:35:06 ID:J8kdJ1IQ0
(´・ω・`)「……君は、呼んでないんだけどなぁ」

溜息を吐きながら男は両手をアサピーから離し、振り返った。

(´・_・`)「呼ばれた覚えもないがな、ショボン・パドローネ!!」

現れたのは、垂れた眉毛とつぶらな瞳の男だった。
歳は四十から五十代だろう。
ネイビーブルーの迷彩服を身に纏い、黒い箱を背負っている。
一目で軍人であることが分かるのと同時に、只者ではないことが分かる。

(´・ω・`)「ったく、面倒なのが出てきたね。
     円卓十二騎士は夏季休暇中なのかな、ショーン・コネリ。
     それとも、仕事を首にでもなったのかな?」

ショボン・パドローネ。
アサピーはその名前を聞いた覚えがある。
ジュスティア警察の人間で、得意の推理で難事件を次々と解決した凄腕の男だ。
一時期、彼の解決した事件を基にした小説も出ていたほどの影響力を持っていた。

そして円卓十二騎士。
ジュスティアが誇る騎士の称号を持つ、十二人の騎士。
公にはなっていないが、十二人の中でも特に優れた能力と経歴を持つ七人は内々で“レジェンドセブン”と呼ばれているらしい。
ショボンの言葉が正しければ、ショーン・コネリはセカンドロック刑務所の所長でもある。

本物の円卓十二騎士が世間に姿を現すのは、何年ぶりの話だろうか。
その存在は長らく神話的に語り継がれ、噂として生きていた。
何が起きたにしても言えることは、円卓十二騎士の一人がアサピーの窮地を救ってくれたという事だ。

(´・_・`)「セカンドロックで好き勝手にやってくれたおかげで、しばらく休みはないんでな」

100 名も無きAAのようです :2015/03/15(日) 22:40:30 ID:J8kdJ1IQ0
(´・ω・`)「どういたしまして。 休みたかったら、残った人生を全部有休消化すればいい」

二人が会話に花を咲かせている隙に、アサピーは少しずつ後退る。
逃げ切れば勝ちだが、カメラを手に取って写真に収めれば大勝利になる。
この状況でスクープを狙わないのは、記者として失格だ。
ここでの選択が、必ずや大きな分岐点になる。

今、アサピーがその選択権を持っているのだ。
他の誰でもなく、アサピーだけが持っているのである。
これを逃すわけにはいかない。
これは使命だ。

(´・_・`)「有給など、死んでから取ればいい」

(´・ω・`)「今それをしろって言ったつもりだったんだけど、ジョークが通じないのか」

(´・_・`)「貴様のジョークは分かりづらい。
    もっと分かりやすいのを用意するべきだ」

ショボンの手の届かない位置まで後退できたアサピーは、散らかった机上に横たわる一眼レフカメラを掴んだ。
距離は五フィート。
油断をすればすぐに捕まる位置。
しかし臨場感、そして迫力ある絵が撮れる位置でもある。

レンズキャップを外し、電源を入れる。
ファインダーを覗き込みながら、ピントを合わせる。
引き気味に捉えた二人の像が重なっているため、映し出せるのはショボンの背中だけだ。
着実に距離を置きながら、アサピーは机を挟んだ位置から二人を撮ることに決めた。


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