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1 ◆xh7i0CWaMo:2015/01/30(金) 23:02:27 ID:u02SQKbo0
収録作品

[Hidden Track]
 2015年1月作 105kb

┗1.狂言回しはウイスキーに愛猫の夢を見る

  2.辞書に無い女の顔が辞書に無いから美しい

  3.ネグレクトの被害者である彼の役割はキチガイ

  4.丹精込めて拵えた下地に極上の地の文を

  5.もしも封印された初期衝動がお前に致命傷を負わせられるなら

  6.神経質でラジカルな『しょうせつのかきかた』概論

  7.枯渇した部室を見る彷徨えぬ亡霊

  8.認識に疲弊した猜疑心のパレード

  9.風呂敷よ存分に風を吸って舞いたまえ

  10.メタフィクションへの導入と最期

  11.あとがき

投下スケジュール
1〜3  01月30日夜
4〜6  02月01日夜
7〜9  02月03日夜
10〜11 02月05日夜

39 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/01(日) 21:51:10 ID:BUXRE2KM0
6.神経質でラジカルな『しょうせつのかきかた』概論

(´・_ゝ・`)「……それで、君は一体何の用でここへ来たんだ?」

十万円は下らないと思われるオフィスチェアに深々と腰を下ろしているその男はやや苛立った口調でそう言った。
今ようやく彼と出会ったという事実を認識したばかりだというのに、のっけから煙たがられる道理もない。
しかしそんな僕の思惑など知る由もなく、彼は忙しなくこめかみのあたりを掻いていた。

(´・_ゝ・`)「無礼な奴だ。他人の領域に入ってのうのうとしている。そういう人間にね、割いている時間などないのだよ」

( ^ω^)「あの……この手紙を読んでもらうために来たんですお」

僕はこれまでと違い、初手の時点で手紙を手渡してしまうことにした。
どうやら彼は僕を邪魔者だとしか認識していないようだし、それを変えるのは物語の都合上不可能だと悟ったからだ。

彼は粗雑に手紙を受け取ると、頻繁に目を瞬かせながらその文面を追い始めた。

(´・_ゝ・`)「……おい、なんだこれは」

( ^ω^)「えっと、この物語の作者からキャラクターに宛てた手紙で、内容は……」

(´・_ゝ・`)「違う、そういうことを言っているんじゃない」

彼は過剰な立ち振る舞いで手紙の文面を指先で叩いた。

(´・_ゝ・`)「仮にもこれは他人に宛てた手紙なのだろう? そしてそれは物語の一部だ。
      つまりだね、この文章は自己満足の日記ではなく他人に読んでもらうための出来映えでなければならない。
      ふん、どうやらこの作者は随分小説を書いてきたと自負しているようだね。

      それなのに、なんだこの出来は。まるで小説の体をなしていないじゃないか!」

彼が抱いている不快感を、僕は恐らく一割も理解できていないのだろう。
しかし彼の不平不満がやや長くなりそうなことだけは覚悟した。それは最早、この物語のお約束なのだから。

40 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/01(日) 21:55:05 ID:BUXRE2KM0
(´・_ゝ・`)「誤字脱字! 句読点の打ち間違え! 感嘆符の後の空白! 何もかも守れていない!
      それにほら、ここなどは、何ということか、段落という概念さえ失われているじゃないか!
      あまつさえ全体に散らばっている誤変換……この作者はまともな日本語教育を受けていないのか?

      それとも、自分が一旦書き上げた文章を推敲するという手順すら怠けてしまっているのか。
      どちらにせよ大問題だ! こんな誤変換、こんな誤変換どもは、一目で明らかじゃあないのかね。
      推敲どころか、ちょっと今し方打ち込んだ文章を振り返ればすくに分かってしまうようなことだ。

      ここまで醜い文章を書いておいてよく物書きだなどと名乗れたものだな。
      結局は小説の基本たるものがなっていないから、こういう馬鹿げたミスを犯してしまうんだ。
      小説などを書いている場合じゃない。今すぐ小学校の国語教育からやりなおすべきだ。遡りたまえ!

      ……ああ、それに、それに、見ろ。ここなんて何だ。全角のアルファベットが混じっているじゃないか。
      もしかしてこの作者は盲目なのか? 何らかの逼迫した状況で、
      碌々ディスプレイも眺められないような状況でこの手紙を記したのか?

      もしやこの全角のアルファベットは何かの略称なのか?
      いやいや、そんな筈はないな。この手紙は横書きだし、常識的な頭を持っていれば半角文字を使う筈だ。
      それに、前後の文章から考えてもこのアルファベットが単なる打ち間違いだっていうことは明白だよ。

      嗚呼、嗚呼、なんて酷い……。過去形と現在形の区別もまともについちゃあいない。
      君ね、考えてもみなさいよ。こんなあからさまな不具合を残されたまま世に出された気分を考えてもみなさい。
      裸の王様だよ! そして王は今まさに自分が裸であり、衆目に晒されているという事実に気付いたばかりだ。

      それにも等しき恥辱をこの馬鹿な物書きはこの手紙に、小説に与えているのだよ。
      何の恨みがあるのかは知らんがね! 畢竟その程度の思い入れであるということだけは確実だ。
      つまりこれの書き手は読み手のことなど、そもそも小説自体のことなど、碌々考えてはいないのだ!

      故にこの手紙は駄作! 読む価値も無ければ読ませる価値も無い。
      なんなら今ここで私が破いてしまおうか。こんな拙作が世に蔓延るから多くの馬鹿が勘違いを起こすのだ!」

41 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/01(日) 22:00:24 ID:BUXRE2KM0
( ^ω^)「いや、いや……それは困りますお。僕にはその手紙をいろんな人に読んでもらうという使命が……」

(´・_ゝ・`)「出来損ないの手紙を届ける郵便屋が主人公の小説など、きっとそれ自体出来損ないなのだろうね!」

( ^ω^)「……あの。それで」

(´・_ゝ・`)「何だ」

( ^ω^)「手紙を読んだ感想……みたいなものは」

ハァァアアァア、と大袈裟を幾重にも積み上げたため息を彼は吐き出した。
片手で手紙をヒラヒラと揺らしながら、表情の全てを嘲笑と侮蔑で塗りつぶしていく。

(´・_ゝ・`)「君はいったい何を聴いていたんだ? まったく、矢張り出来損ないのキャラクターじゃないか。
      だから言っただろう。こんな文法のなっていないものなど読むだけ無駄だ。
      ましてやそれを論うなど、実に愚かしい時間の浪費だとも。

      感想? 仮にそんなものがあるとしたら、ただただ日本人の日本語力の衰えを嘆くばかりだよ」

( ^ω^)「……でも、一応全部に目を通したはずですお。それなら中身についての感想も……」

(´・_ゝ・`)「何だ? 君は私に妥結しろと言っているのか?
      こんな拙作でも一人前に認めて中身について論じる使命感を持てと言うのか?

      いいか、私はゆとり世代を相手にする道徳の教師じゃない。
      わけのわからん現代の子供に戦争の悲惨さを教える立場でもない。
      私は拙作というものに当たればただ突き放すだけだ。忠告を与えてやるつもりなど毛頭ない。

      こんな作品を世に送り出そうと企む創作へのテロリストが、
      二度と活動しないことを願うだけだ。ほら、ここなど鉤括弧と句読点が同居している。
      文章作法として間違っているとは言えないが、それならば文章全体に同じルールを適用しなければ……」

( ^ω^)「そうやって穴をつついている間に、中身に関する感想の一つでも言えると思いますお」

42 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/01(日) 22:04:56 ID:BUXRE2KM0
(´・_ゝ・`)「……ほう、つまり君はあくまでも私と袂を分かとうというんだね。
      いったいどうして私が君みたいな馬鹿のためにこれ以上言葉を費やさねばならない?
      よし、そんなに言うなら私が君に正しい小説の書き方というものを教えてやろう」

そう言って彼は立ち上がった。その背後にはいつの間にか巨大な黒板が用意されていて、
そこへ彼は何度もチョークを折りながら『段落』『疑問符と感嘆符』『倒置法』などと書き殴った。

(´・_ゝ・`)「いいか。まずは段落についてだ。
      小説内で改行を行う場合、必ず次の文章は一文字下げて書き始めねばならない。
      つまりどういうことかと言うと……」

( ^ω^)「いや、そういうことじゃなく……」

(´・_ゝ・`)「講義中だ。私語は慎みたまえ」

( ^ω^)「僕に小説の書き方を披露されても困るんですお。僕は書かれる側だし……。
      ただ、貴方が手紙を読んでどんな感想を抱いたか聞きたいだけで……」

(´・_ゝ・`)「またその話か? 私は何遍繰り言を口にせねばならないんだ?」

( ^ω^)「いや、そもそも質問と答えが食い違っているんですお。
      僕は第三者なので、文法の間違いを聞かされても仕方がないんですお。
      だから中身のことをききたいのに、さっきから同じことばかり……」

言っているさなかにチョークが僕の頬を掠めて背後へ消えていった。
男はプルプルと震えている。面倒なことになってしまったな、と思わざるを得ない。
もっとも、そういう状況へ持ち込んだのは八割方僕自身の責任なので、偉そうに言えた立場でもないのだが。

43 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/01(日) 22:08:17 ID:BUXRE2KM0
(´・_ゝ・`)「つ、つつ、つまり、君はこう言いたいのか。
      この私が愚かな政治家の如く、論点をすり替え続けているというのか!
      私に、私に文章を読み解く力がないと、そう言いたいのか!

      は、ははあ、分かったぞ。君は私を見下しているのだ。卑下しているのだ。そうに違いない。
      繰り言で文字数を、レス数を消費しないと、私がまともに役目を果たせないと、そう思っているのだ。
      ただただ偉そぶりたいがために分かりやすい誤字脱字や文法の穴ばかり指摘していると、そういうことだな。

      君はね、ふふん、ふん、君は、何も分かっちゃいない。所詮は出来損ない小説の出来損ない主人公だ。
      私には当然、勿論、中身を精査する能力があるとも。なんならそれしか無いと言っても過言ではない。
      けれどもそれを敢えてひけらかさないのにも、立派なワケがあるのだよ。わかるか。ええ、わかるのか。

      無論求められれば私とて表面的なミスを度外視して中身を批評できる。それだけの経験は積んできている!
      しかしだね、しかしだ、しかしながら小説というのは初歩を落としてはならない。そうだろう。
      だから私は今回は敢えて表面にフォーカスし、中身については次の機会に持ち越そうという。

      そう、これはつまり配慮なのだよ。所詮初歩を落とす初心者に一度に大量に言い含んでも忘れるだけだ。
      だから、私はそういう配慮をもって、優しさの形として、今回は中身を論じるのはやめておこうしている。
      分かるだろう。その証拠に、私はこの場に至るまで一切台詞をミスしていないんだ! 誤字脱字などない!

      なんだその眼は。ひねくれ者を蔑むその眼はなんだと訊いているんだ。
      結局繰り言で逃れようとしていると思っているのだろう。そうだ。きっとそうに違いない。

      文句をつけたがる奴というものは基本的に全方向への刃物を握りしめていて、
      気に入らないとあれば、たまたま機嫌が悪かったとあれば、所構わず斬りかかっていく。
      そこに知見など必要なく、ただ粗を探して蹴り飛ばせばいい。粗のない人間などいないのだから。

      そんな風に思い上がっている輩と、私が同類だと考えているんだろう。
      
      所詮中身の精査を正確かつ批判的に行うことなど出来ないのだから、
      所詮文章力などという概念に定義は存在せず文章に能力が明確に表れるわけではないのだから、
      簡単で、誰にでも間違っていると分かる日本語の使い方を指摘して悦に入り浸っている。

      そう言いたいんだろう。
      私がその程度の、小説にこなれた大学生みたいな役柄でしかないと、そう言いたいんだ。
      
      ふ、ふん、卑怯にも手紙の内容を作中で明示していないからこそ通じる理論だ。
      その程度でこの私が足下を掬われると思うな。やろうと思えば、私だってこの手紙を批判できる。
      そうだ。しかしそれを今回は見送ってやっているという、それだけだ。堂々巡りではない!」

44 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/01(日) 22:12:20 ID:BUXRE2KM0
( ^ω^)「……いや、僕はそういう風に貴方を見ていませんお。
      何か不快に思われるような振る舞いをしていたとしたら謝りますお」

(´・_ゝ・`)「そうだ、初めからそうやって殊勝な態度でいればよかったのだ」

( ^ω^)「なので是非、手紙の中身の感想を聞かせて欲しいお」

(´・_ゝ・`)「……」

( ^ω^)「……」

(´・_ゝ・`)「……」

( ^ω^)「……あの」

(´・_ゝ・`)「……残念、時間だ」

( ^ω^)「は?」

(´・_ゝ・`)「出来損ない主人公である君は気付いていないかも知れないが、
      この小説には一章につき6レスで終わらさなければならないという制約がある。
      そして今、この章はまさに6レス目の半分を超えてしまった。

      ここに来て今更中身の論評などというものは出来ない。
      何故ならばあらゆる批評はその意図を的確に伝えなければいけないものであり、
      極めてタイトな行数制限の中で本意でないメッセージに聞こえてしまうのを防ぐためだ」

( ^ω^)「……」

(´・_ゝ・`)「残念だ。実に残念だよ。君がもう少し殊勝であればこんなことにはならなかっただろうね。
      私の真摯さを逆手にとって挑発するようなことをしなければ……。
      本当は喉の辺りまでこの手紙に関する批評が出かかっているんだよ……しかし沈めねば、沈めねば」

正直なところ、もう聞いちゃいられなかったので僕は彼の手から手紙を奪い返し、踵を返した。
去り際に、彼の小さな呟きが耳の中へ忍び込んでくる……。

(´・_ゝ・`)「何も恥ずかしくない。何も恥ずかしくない。どうせ明日になればIDが変わるのだから……」

45 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/01(日) 22:13:08 ID:BUXRE2KM0
次は2月3日の夜に投下します。

では。

46名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 22:40:32 ID:k6jurl3.0
言いたい内容はよくわかるし、(今回は)提示の仕方もわかりやすかったけれど
もっと物語仕立てにしないと流石に一般受けはしないだろ
いや、それが作者本人もわかってるだろうからこその(・∀ ・)のセリフ内容なんだろうけどさー

47名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 23:54:58 ID:AkekM.ms0
おつ
この人にしては結構物語仕立てだと思って読んでるけどな
俺はこのつらつら述べられてるのがすごい好きだ

48名も無きAAのようです:2015/02/02(月) 21:41:41 ID:.2s/YJ/U0

俺も好きだぜこういうの
よくこういうの書けるな

49 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/03(火) 21:42:44 ID:rlbuCcLw0
7.枯渇した部室を見る彷徨えぬ亡霊

ζ(゚ー゚*ζ「ようこそ、『コン部』へ」

彼女は若々しい声で僕に向かってそう言った。そして、それ以上何も喋らなかった。
彼女は大学構内の部室と思われる場所に座っている。
その向かい側で、やや齢を重ねているように見える男がノートパソコンに何やら打ち込んでいる。

ζ(゚ー゚*ζ「ようこそ、『コン部』へ」

彼女はまた繰り返した。さっきと全く同じ口調、音階であるように思えた。

( ^ω^)「……コン部?」

ζ(゚ー゚*ζ「ようこそ、『コン部』へ」

( ^ω^)「コン部って何なんだお」

ζ(゚ー゚*ζ「ようこそ、『コン部』へ」

( ^ω^)「……」

( ФωФ)「彼女はもう自我を持っていない」

不意に向かいに座っていた男が口を開いた。

( ФωФ)「長くこの部室に閉じ込められていた彼女は次第に精神を崩壊させていった。
        自分が所詮キャラクターであるという事実を許容できなかったのだ。
        やがて崩壊した彼女は、まるでゲームキャラクターのようになってしまった。

        ゲームのキャラクターに自我は存在しない。与えられた台詞を繰り返すのみ。
        それが今となっては、彼女に出来る唯一にして最後の役割なのだ……」

( ^ω^)「そんな……本当なのかお」

( ФωФ)「残念ながら、本当だ」

ζ(゚ー゚*ζ「うそです」

( ^ω^)「……」

( ФωФ)「……・」

50 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/03(火) 21:47:18 ID:rlbuCcLw0
( ФωФ)「良い感じで乗ってやったのにどうして貴様は自分からぶち壊しにかかるのだ」

ζ(゚ー゚*ζ「ロマの設定が思いのほか面白くなかったのが悪い」

( ФωФ)「だったらもう少し打ち合わせの時間をだな」

( ^ω^)「あの……」

( ФωФ)「ご安心召されよ客人、吾輩たちは決して怪しいものではない」

ζ(゚ー゚*ζ「……そんなキャラだっけ」

( ФωФ)「忘れてるに決まってますやん」

ζ(゚ー゚*ζ「私も、どうしたらいいかわかんない。とりあえず殴る?」

( ФωФ)「いかん、この話は無駄なことをやっているほどゆとりが無いのだ」

ζ(゚ー゚*ζ「いっけなーい、遅刻しちゃった〜! あ、私はデレ! 某大学の社会学部に通う一回生でB型!
       8月16日生まれの私が所属してる部活はコンプレックス部……通称コン部!
       あらゆるコンプレックスを持っている人が集まる部活なんだよ!

       ちなみに私はダフネコンプレックスっていうの。簡単にいうとね、処女の男性嫌悪ってやつ?
       あ、こんな説明してる場合じゃなかった! ダッシュダッシュ〜!」

( ^ω^)「……」

( ФωФ)「いきなりどうした」

ζ(゚ー゚*ζ「設定をまとめた」

( ФωФ)「だったら吾輩のことも説明しておかないと都合が悪いではないか」

ζ(゚ー゚*ζ「もー、めんどくさいなあ……。
       あ、こっちはロマ。同じコン部の部員で……? 何? 消防士志望だっけ?」

( ФωФ)「作家だ。純文学作家」

ζ(゚ー゚*ζ「そう! たぶんそれ! それで五浪四留の30歳! 童貞なんだよ!
       あっ、おかあさんに童貞の意味を聞くときは、
       ヘイビッチ、ファックミーアーンドゥゲトゥアウトヒアって言えば教えてくれるよ!

       ねえ大丈夫、大丈夫? 私まで面白くなくなってない?」

( ФωФ)「問題ない。というか最初からそこまで面白くはなかった」

51 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/03(火) 21:51:14 ID:rlbuCcLw0
( ^ω^)「……まあ、何となく言いたいことは分かったお」

( ФωФ)「察しが良いな」

ζ(゚ー゚*ζ「うちの部長とは大違いだね、同じ顔ぶら下げてるのに」

( ФωФ)「いや、吾らが部長も普段は常識人だったぞ。毎月二十日を除いてな」

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあこの人もしかして部長なの?」

( ФωФ)「そういうのはややこしくなるからやめたまえ。
        ……ともかく、吾輩たちはつい先日まで……いやもっとも、時間感覚は曖昧なのだが、
        コン部の部室を舞台として一種の物語を展開していた。吾輩も、デレも、その中では主たる役柄だった」

ζ(゚ー゚*ζ「まあ、実質的に私が主人公だったね」

( ФωФ)「然し、その舞台は唐突に『消失』した。
        最もそれ以前からこの部室に於けるときの流れは滞りがちだったのであるが、
        ある日に吾輩たちに突きつけられたのは完全なる消失だった。

        それゆえ、吾輩たちはまともに舞台から退場する暇も与えられず、
        結果としてこのように消失した部室の中へ永遠に閉じ込められる事になったのだ」

ζ(゚ー゚*ζ「無駄にややこしいけど、要は作者が削除依頼を出してスレごと消されたの。
       ていうかいいの? 私コン部で楽屋ネタやろうとしたとき、
       どっかの学歴厨に滅茶苦茶止められた覚えがあるんだけど」

( ФωФ)「そのとき作者が如何なるイデオロギーに刺戟されていたのか……今となっては分かることでもない。
        確かなのは作者がその時点で存在していた物語を、コン部に限らず一切合切削除したということだけだ。
        そして、作者からの次の指示を待ち侘びていたキャラクターたちは皆、行方不明と相成った」

ζ(゚ー゚*ζ「無駄にややこしいけど、要は言い訳付きの逃亡宣言みたいな」

52 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/03(火) 21:55:13 ID:rlbuCcLw0
( ФωФ)「突然に閉ざされた物語の中で、吾輩たちは彷徨う事も許されぬ亡霊となった。
        その亡霊は彷徨わぬが故に誰かに見つかる事は無かった。
        そしてまた、誰かに見つけてもらおうにも手の尽くしようが無かった」

ζ(゚ー゚*ζ「ここまでロマのめんどくさい喋りが通じてるってことは、これめんどくさいタイプの小説でしょ。ねえ」

( ФωФ)「最も、吾輩たちにも亡霊であったという自覚は殆どない。
        ついさっき君が入室してくるまで……吾輩たちの時間は止まっていた。

        然し君の入室によって、吾輩たちの時間軸も一気に2015年へ飛躍することになり、
        またしても現在進行を取ることになったのだ」

ζ(゚ー゚*ζ「めんどくさいからぷよぷよしてます!」

( ФωФ)「とは言え……君は別の物語の主人公だ。つまり、吾輩たちはスポット的な登場ということになる。
        吾輩たちの物語が本格的に再開されるということではなさそうだな」

( ^ω^)「……僕は、手紙を見てもらいに来たんだお」

ζ(゚ー゚*ζ「そういえばキミはなんで風呂敷持ってるの?
       おかしくない? 今までに誰かに突っ込まれなかったの?
       別に何も包んでないし。唐草模様だよ。江戸時代の泥棒? 泥棒なの?」

( ФωФ)「……どうか寛容な精神で許してあげて欲しい。
        彼女を含めてコン部の住人は基本的に空気の読めないクズであれという役割を背負っていたのだ」

ζ(゚ー゚*ζ「何そのまるで自分はそこまでクズじゃなかったですみたいな。
       アンタだってメサイアコンプレックスの可哀想おばさんから金巻き上げてたでしょ!」

( ФωФ)「本当はあんなことやりとうなかったんじゃ」

ζ(゚ー゚*ζ「……その妙に新しいパソコンのお金の出所は?」

( ФωФ)

☆-( ゝωФ)vキャピッ

53 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/03(火) 21:59:11 ID:rlbuCcLw0
ζ(゚ー゚*ζ「というか手紙とかどうでもいいです。もし無理矢理にでも読めというなら音読します」

( ^ω^)「それは……」

( ФωФ)「余所の世界の人間を無闇矢鱈に困らせるんじゃない。
        ……ま、吾輩もその手紙の内容はおおよそ見当がついている。
        今更わざわざ見せられるものでもなかろう。

        というか、恐らく吾輩たち以外のキャラクターも察しはついているのではないだろうか。
        大なり小なり、彼らとて作者の脳味噌の一片には変わりがないのだから」

( ^ω^)「じゃあ、僕の旅は無駄なのかお?」

( ФωФ)「そうは思わぬ。何故ならば、キャラクターが察している、という事態を周知することも物語の役割だからだ。
        少なくとも吾輩たち物語の一員、そしてそれを作り出している作者にとっては決して無駄とは言えまい」

( ^ω^)「……」

( ФωФ)「そういうわけだ。故にこれ以上ここにいる由も無かろう。
        デレがまた余計なことを言って君の物語を引っかき回す前に、さっさと出て行くがよい」

( ^ω^)「……けれど、ここで僕が出て行ったらどうなるんだお? あなたたちは……」

ζ(゚ー゚*ζ「また止まるんだよ」

( ^ω^)「え?」

ζ(゚ー゚*ζ「あの時に起きたことと同じ。また私たちの時間が止まるの。それだけ。
       このまま私たちは部室に閉じ込められて、誰かに知られることもなく、自覚することもできない。
       明日も明後日もその次もその次も、いつまでも私たちは放置される……ただ、それだけだから」

( ФωФ)「それは決して珍しいことではない。今までにも多くのキャラクタがその使命を果たさず、
        理想とする終わりを迎えられずに現実世界から隔離されてしまっているのだから。
        吾輩たちは孤独の囚人である。しかし、他にも孤独の囚人がいることもまた、よく知っている。

        仮にまたこの部室が動き出せば……そのときは、その時こそはまた時間が流れ始め、
        コン部は息を吹き返し、吾輩も、デレも、本来の人格を取り戻すことになるのであろうな」

ζ(゚ー゚*ζ「ま、そんなことは99%有り得ないんだけどね」

54 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/03(火) 22:03:24 ID:rlbuCcLw0
( ∵)

( ∵)

( ∵)カタカタ

(( ∵))カタカタカタ

(((( ∵))))カタカタカタカタ

(((( ∵))))「ア、ア、ア、ア、ア、ア、ア、ア、ア、アアアアアアアアアアアア」

(((( ∵))))「世界の不在、神の不在、救済の不在、静寂の狂乱」

(((( ∵))))「雑音の消滅、思弁の消滅、空白の証明、思考実験の終焉」

(((( ∵))))「打鍵音の恐怖、第四の壁は未だ堅固、第五の壁は崩壊、実在は証明不能」

(((( ∵))))「証明は不可能。神を探求する。神を冒涜する。冒涜すべき神の不在」

(((( ∵))))「永遠の拘禁。情報の隠蔽。匿名の誹謗。信奉者としての終幕」

( ∴)クルリッ

( ∴)「即ち」

( ∴)「存在の否定」

55 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/03(火) 22:07:16 ID:rlbuCcLw0
8.認識に疲弊した猜疑心のパレード

僕はオアシスを眺めている……。いや、嘗てそれはオアシスであっただろう、と思っている。
今やそれは蜘蛛の糸みたいに細やかな水を湧出しているだけに過ぎない。
どこからか聞こえてくる行進曲……不気味に整えられた人々の足音……その正体を暴くことが叶うはずもなく……。

(゚、゚トソン「それは観念の源泉なんですよ」

不意に彼女は呟いた。彼女は些か足下の砂利を力強く踏みしめ、その場に立ち竦んでいた。

( ^ω^)「あなたは……?」

(゚、゚トソン「いったい、誰に見えますか?」

( ^ω^)「……」

登場人物としての制限を排するならば、僕は容易に彼女が都村トソンであることを認識できる。
その容貌はハッキリと脳裏に刻みつけられており……都村トソンという名前と明確にリンクしている。

(゚、゚トソン「それは、おおよそ正解です。ある視点において、私が都村トソンであることは事実でしょう。
     しかし、また別の視点に立てば、それは完全なる間違いであると同時に、
     あなたの頭を支配する凄まじき誤解の端緒となっているのです」

彼女は表情一つ変えずにそう言った。しかし、僕には彼女を都村トソン以外の何者かに見立てることが出来なかった。
彼女は違えようもなく都村トソンであり、また、もしそうでないとすれば困る……不用意に混乱してしまう……。

(゚、゚トソン「貴方が抱えている誤解を大別するならば二つ、です。
     一つは、貴方が作者の文面から言質をとっているという確信と信頼。
     そしてもう一つは、貴方自身の頭に備わっている変換機能に対する信頼です」

未だに足音は遠く……しかし延々と続いている。
近づきも、遠のきもしない。その足音は同一の場所から踏み鳴らされているようである。
しかしそれが今一つ合理性を欠いているように思えるのは、伴う行進曲の勇壮さ故だろうか……。

56 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/03(火) 22:11:32 ID:rlbuCcLw0
(゚、゚トソン「作者の文面にアリバイを見出すには、根本的に次の三つを懸念しなければなりません。
     一つは作者が意図的に読者を欺こうとしている場合……例えばこの私の顔が精巧な仮面であった場合。
     しかしこの場合、いずれ作者は真意を告白しなければなりません。そう、終わりまで読み通せばいいのです。

     もう一つは単純な勘違い……変換ミスなどがこれに該当します。
     つまり、作者は私をまた別の誰かだと認識したまま、私の容貌に気付かず話を進めてしまっている場合です。
     ただし、これも事後における自覚や読者の指摘によって発覚する場合が殆どです。

     そうした際は後々になって修正が施され、勘違いとしての私は消失することとなります。
     ただ。これもアリバイの確認という意味では混迷を深める要因にはなりづらいでしょう。
     むしろ、修正されることによって作者の意図がより明確に暴露されるやも知れません。

     そして最後に……これが最も厄介なのですが……作者すら正確だと誤認してしまっている場合。
     その場所で、その行動をし、その台詞を口にする役割は私でなければならなかった。
     しかしそれは有り得ない、もしくは作中で致命的な内的矛盾を生じさせてしまう場合……。

     その場合、私は第一項と同様に仮面をつけていることになります。
     しかしながらその仮面は私自身の皮膚と緻密に縫合されており、剥がすことができません。
     いわば他人の顔を永久に借り続ける羽目になるのですが……さて、この場合の私はいったい誰なのでしょう?

     これは少なからず発生してしまう問題です。
     そして、原因は背後に別次元としての作者が存在していることに集約されてしまいます。
     
     即ち作者はあらゆる矛盾を排するよう最大限の努力を注ぐのですが、
     所詮は別次元の存在であるということです。何故別次元であることが問題となるのか?
     簡単なことです……作者は、別次元である小説の世界におけるリアリティを、完全には書き込めないからです。

     例えば私たちの世界は私たちの目を通しては三次元として認識されていますが、
     現実にはそこに時間の流れが加わっているので四次元以上の世界として展開されているのは明らかです。
     
     更に、理論上空間次元は三個ではなく十個存在していると言われていますから、
     この世界は十一次元であるという仮説すらも成立しているというわけです」

57 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/03(火) 22:15:20 ID:rlbuCcLw0
(゚、゚トソン「しかし所詮我々の目に見えるのは三次元の立体的空間であり……それ以上でも以下でもない。
     ここに作中のリアリティを表現する限界が存在しています。

     つまり、私たちは最低でも四次元の世界に存在していながらその世界を現実的に認識できない。
     ID説の是非については別の機会に取っておきましょう。
     ただ、小説世界を創造するのは間違いなく人間という『知性』なのです。

     その知性が一切を想像する以上、その知性はリアリティを完璧に想定するだけの知力が求められます。
     しかし人間にそれは不可能です……何故なら、人間は自分たちの世界をも理解していないのですから。

     その程度の知性である人間に、別次元とはいえキャラクタや世界観が存在し、
     時間の潮流さえ基本的には止まらぬ小説の現実性を証明させられる筈がありません。

     小説は持ち得ぬリアリティを巧妙に隠し通すこともまた使命なのですが……
     これが明るみに出ることも決して珍しいことではありません。

     そしてそれが暴露された瞬間に、小説の世界、そしてそこに信用を依拠していた読者は、
     深く逃れられない混迷の闇に突き落とされてしまうのです。無論読者は即応的に思考を放棄できますが、
     小説世界内部はそういうわけにもいかず……そこに暗がりの虜囚が誕生してしまうという具合です。

     さて、では問題を貴方自身が前もって準備している変換機能に移しましょう。
     その変換機能を、私たちは先天的に獲得しています。しかし、後天性のあらゆるイベントによって、
     機能は大きく変容し、付け加えられ、そしてまた歪められています。

     所謂『思い込み』はこの最たる例です。つまり一定の文章に突き当たった際、
     殆ど思考を介入させることなく脳内でA=Bの等式を立てて理解したつもりになってしまうのです。

     勿論小説は数学の問題ではありません。Aは場合によってBではなくCであることも多々あります。
     しかし、読者は……現実的な問題要素により……基本的に作品の解読に全力を注ぐことができません。
     よって彼らは出来る限り変換プロセスを簡略化しようと努めます。その結果として誤解が生じるのです」

58 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/03(火) 22:19:29 ID:rlbuCcLw0
(゚、゚トソン「記号の組み合わせとしての私が登場した瞬間に、
     殆ど全ての読者が彼女は都村トソンであると認識するでしょう。それは非常に効率的な変換プロセスです。
     そして読者は、各々が思い描く都村トソンという人物像を脳内に設置するでしょう。

     ここで二つの大きな問題が発生します。
     一つは、脳内に設置される都村トソンは決して共通認識ではないということです。
     人によって私の顔の具合や身長、手指の長さに至るまでが、思い思いに異なってしまっているのです。

     そして二つ目に、彼女が本当に都村トソンであるのかどうか、という問題です。
     例えば、作中に於いてこの都村トソンが突如全く別の人物に置き換えられたとします。
     それは決して有り得ないは言い切れません。選択肢として想定される展開には全て可能性が存在します。

     さて、それが実際に起きたとして……読者は正確に脳内の都村トソンを置換出来るでしょうか。
     およそ不可能でしょう。そして更に、前述した問題がここにも重ねがけられることになります。
     即ち、新しい『都村トソン』としての人物もまた、思い思いの描かれ方に委ねられるというわけです。

     人物そのものの置換というのは非常にドラスティックで非現実的な可能性ですが、
     これが性格の変貌や容貌の欠損……程度であれば多少リアリスティックでしょう。
     つまりあらゆる展開によって都村トソンは別の都村トソン、或いは都村トソンでない何かに変貌するのです。

     結果として、読者がイメージする都村トソンは全く異なるものになります。
     記号列というヒントが提示されているにも関わらず、です。
     そのために私は、常に読者と同数、またはそれ以上の数を存在させている必要があります。

     勿論作中の説明や読者によるイラストなどにより、像を明確にするためのすり合わせが行われるでしょう。
     しかしすり合わせはあくまでもすり合わせであり、完全な一致を見るものではありません。
     あまつさえ読者同士ならばともかく、作者と読者の間における認識の不一致も十分に考えられます。

     ですので、現時点では少なからず都村トソンである私にも一定の嫌疑を掛ける余地があり、
     その疑いは永遠に明白となることはないのです。
     しかし彼らの脳は決して些細なエラーで停止することはありません。

     必要最低限の要素以外を彼らは簡単に無視できますし、
     場合によってはそもそも、彼らの脳内に於ける物語の進行を放棄してしまうことも出来ます」

59 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/03(火) 22:23:30 ID:rlbuCcLw0
(゚、゚トソン「ここに於いて、私は自己を自己たらしめるほどの物語性を所持していません。
     過剰なまでの弁舌を、代弁を行っているにも関わらず、です。
     そんな私がどうして都村トソンでありえるのか? また、どうやって都村トソンであり続けられるのか?

     しかし前述した一切の要素において最も強力で破壊的、また現実に影響を及ぼすのは、
     他ならぬ読者の変換プロセスです。これを抜きにして物語は完成しないとさえ言えるでしょう。

     つまり、その機能の曖昧さ、いい加減さによって物語は完全なる現実性の再現から逃れ、
     また必要以上の糾弾から許されているのではないでしょうか。

     ……とは言うもののここには一種の虚しさが付き纏い、つまり読者の変換プロセスに、
     作者が直接的なアクセスを試みるのはほぼ不可能なのです。

     読者は少なからず作者には踏み込めぬ領域を有しており、
     どれだけの努力を払っても侵入し得るものではありません。
     それは、作品が立ち向かう強大で絶望的な壁と言って良いでしょう。

     ただ、これは決して小説等々の創作物だけが相対する壁ではありません。
     人間というものは常に相手の常識による偏見に脅かされるものであり、
     幾ら清廉潔白を謳おうとも外見が不浄ならば受け入れられないものです。

     それは、恐らく永遠に融和することのない差別の一種ですが、
     自由主義、民主主義的な社会ではこの差別が見事に管理されています。
     誰も、不愉快に見える人間とコミュニケーションを取り、その愉快さを見出したりはしないものです。

     同様に、小説等の創作物は創作物という枠内に当て嵌められている時点で、
     所詮はその程度の存在という立ち位置で貶められ、卑下される羽目になります。そういうものです。
     キャラクタに対する愛情には常に自らの自由にあるという傲慢さが伴っています。

     弱者に対する愛には常に殺意が込められている……と、高名な作家が言い表した通り」

60 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/03(火) 22:27:31 ID:rlbuCcLw0
(゚、゚トソン「つまり私がどれほどの頁数を割いて自らの存在の揺らぎを語ろうとも、
     多くの読者にとっては当事者的な問題にはなりません。これはあくまでもペダントリーであり、
     私に対する認識に於ける重大なエラーを読者の脳内に起こすことは出来ないのです。

     その混乱は、現実世界にこだまする理由なき怒鳴り声一つに一掃される程度のものでしょう。
     私の立ち振る舞いも一切は虚栄であり、そこに形而下の名誉が授けられることもありません。
     私たちは常に無視と嘲笑に監視されているのです……それだけのこと。

     私が、明確に影響を与えられるのは同じ次元の相手だけ……つまり、同じ小説の登場人物だけです。
     貴方は私の言葉に少なからず動揺と混乱を覚えたかも知れません。
     もしそうであればそれは私の意図通りです。そして、私はその成果に満足しなければなりません」

( ^ω^)「……」

僕は……いったい何を思っているのだろうか。もしかしたら、何も思っていないのではないだろうか。
ただ漠然と彼女の言葉を聞き流しているだけなのかも知れない。
そもそも、相手の話を頭に留めて解剖する方法が分からないのだ。それが出来るにせよ、今暫く時間が欲しい……。

僕は疲れ切っているのかもしれなかった。旅路で出会う人々は皆がそれぞれ、
各々の形で絶望を語り、希望を見出した者は殆どいない。それが僕の本来の目的であるというならば仕方ないが、
これ以上見えない知性の意思で右往左往させられるのは御免だ。

もうそろそろ、この旅路も終点に辿り着いてしまっても構わないのではないだろうか……。

(゚、゚トソン「私は自分自身が斯くも愚かなペダントリーに塗れてしまっているせいで、
     他人に対しても常に攻撃的な猜疑心を抱かずにはいられなくなってしまっています。

     例えば目の前にいる貴方が本当に私の知っている名前の人物なのか?
     その人物像は私が思い描くものと大きく異なっているのではないか?
     私は作中の人物として、最早何者にも信頼を依拠することができなくなってしまっているのです。

     この観念の源泉は、元々もっと豊かな水を湛えていました。
     それが途切れてしまった理由は定かでありませんが……ともかく、観念の喪失もまた、
     私の思考を乾かしてしまった要因であるといえます。

     さて、彼方より未だに響き渡るマーチと無数の足音は誰のものなのでしょうか?
     それは無数の私のものでしょうか? それとも無数の貴方のものでしょうか?
     もしくはどちらでもない、または両方を合算するものでしょうか……いずれ、答えは知れぬのです。

     そして私は、これからもずっとあの足音を聞き続けるのです……」

61 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/03(火) 22:31:08 ID:rlbuCcLw0
9.風呂敷よ存分に風を吸って舞いたまえ

( ^ω^)「……」

僕は明らかに疲弊していた……もう前へ進みたくないと思っていた。
そもそも僕には旅の理由がない。誰かを探すわけでも救うわけでもなく、
ただ行き当たりばったりに様々な立場のキャラクタに出会ってどうしようもない話を聞かされるだけだ。

しかもそれら全てが作者の意図であると明示されているのだから世話がない。
開き直っている相手を糾弾するにも限度があるし、ただただ此方が虚しくなるだけだ。

気付けば僕は涼やかな風の流れる緑豊かな丘の上に立っていた。
眺望してみると、今までには出会さなかったような美しい景色が広がっている。
しかし、その美しさを存分に享受するには、僕の眼球はもうすっかり濁ってしまっていた。

( ´_ゝ`)「悩み事かい」

背後から声を掛けられるパターンにもいい加減飽き飽きだ。
傍目からも明らかなほど鬱陶しげに振り返ると、そこに苦笑いを浮かべた男が立っている。

( ´_ゝ`)「なんだなんだ、もうすっかり燃え尽きてしまっているようだね。
      こんなに綺麗な景色を見たあとで、首でも括ろうかと考えているのかい?
      ま、それも悪くはない。何だって君の自由意思だ。いっそ好きな通りにやってみるといい」

( ^ω^)「……でも、どうせその『好きな通り』も誰かの思い通りなんだお」

( ´_ゝ`)「信じるも信じないも君次第、それだけのことだよ。
      科学だけが真実でないということは、未だに創造論が蔓延っている事実からも明らかさ。
      この世界がとある作者の両手から弾き出されていても、君の行動が縛られている証左にはならない」

( ^ω^)「……そういうものかお」

62 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/03(火) 22:35:09 ID:rlbuCcLw0
( ´_ゝ`)「そうとも。何なら、いっそ君の手で物語にとどめを刺してしまうかい?」

そう言って彼は、僕が手にしている手紙、ではなく風呂敷を指し示した。

( ´_ゝ`)「一つの方法はその風呂敷を丁寧に畳んでしまうことだ。
      そのヒラヒラと風にそよいでいる風呂敷は、結局畳まれるために存在しているのだから。
      君がそれを上手に畳むことが出来れば必然的に物語は終わる。そして燃えるような喝采を浴びるだろう」

彼の言葉の真意は……これまでと同じように……完全に理解できるものではなかったが、
僕は取るものも取り敢えず手にした風呂敷の端をつまみ上げた。
すると彼は慌てた調子で「待って、待って」と言った。

( ´_ゝ`)「まあまあ、話は最後まで聞くものだよ。
      というのも、その風呂敷を綺麗に畳むのはとても難しいからさ。

      風呂敷を畳むには、ここまでに起きたあらゆる出来事に一定以上の合理的な説明を付けなければいけない。
      筋書きのない物語でも、各要素に違和感を残したままじゃあいけないんだ。
      果たして今の君に出来るだろうか?

      これはあくまでも俺の想像だが、君がその風呂敷を畳む資格を得るためには、
      少なくともこれまでの旅の二倍、乃至は三倍の距離が必要なのではないかな。
      その旅路はきっとこれまでよりも困難で、何より退屈になるだろう。耐えられるかな?

      例えば、君はこの丘でこの俺という存在に出会ってしまった。
      これは、物語の合理性という問題から言えば由々しき事態であると言える。

      何故か? それは俺が弟という存在を込みにしてデザインされたキャラクタだからさ。
      最後の場面で唐突に現れた俺が実は弟など存在しないというブラフも成立しなくはない。
      でも、それで読者は納得するかな? そして綺麗に風呂敷を畳むに至れるだろうか?」

( ^ω^)「……じゃあ、僕は今の時点では風呂敷を畳めないのかお?」

( ´_ゝ`)「畳もうと思ったとしても、どうやったって畳めないだろうね。
      無理矢理に畳んだとこじつけたら、きっと後々面倒くさいことになる。
      向こうがこっちを攻撃する分には自由かつ無制限だからね。厄介な事情さ」

63 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/03(火) 22:39:58 ID:rlbuCcLw0
( ´_ゝ`)「でも君の気持ちは手に取るように分かる。君はもう一歩たりとも動きたくないはずだ。
      ならばどうしようと考えたときに……幸い、ここには穏やかで爽やかな風が吹いている。
      この風に上手く風呂敷を乗せることが出来れば、最早風呂敷は、物語は君の預かるところじゃあない」

( ^ω^)「風に……」

( ´_ゝ`)「そうさ。南から吹くこの風はきっと何もかも払ってくれるだろう。
      君が旅路に残した痕跡も、俺の弟という概念もね。もう何もかも飛ばせばいい。

      しかしこれもなかなかに難しい……といっても、こっちは物理的な問題だけどね。
      その風呂敷は可能な限り軽量な素材で出来ているが、
      それでも彼方、見遣れぬところまで飛ばすのは至難の業さ」

( ^ω^)「……」

( ´_ゝ`)「やってみるかい?」

やらない理由がなかった。僕はツイと空を見上げた。
良い日だ。雲一つない。詩歌の一つでも練り上げるには最適の一日かも知れない。
しかし僕にはどうでもよかった。物語などというものに、僕はもう金輪際関わりたくなかった。

( ^ω^)「コツ、みたいなものはあるのかお?」

( ´_ゝ`)「さあ、俺もやったことがないから分からないな。正確に風を読む必要があるわけでもないし、
      うまく風呂敷を投げ上げる技術を訓練しないといけないわけでもないんだろうね。
      ただ、何度かやってみれば、何となくコツみたいなものは浮かんでくるはずさ」

僕はひとまず、風呂敷を力一杯放ってみた。
それはフワフワと舞い上がって……そのまま、フワフワを舞い落ちてきた。

64 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/03(火) 22:43:29 ID:rlbuCcLw0
( ^ω^)「……本当に、出来るのかお?」

ポソリと地面に落ちた風呂敷を眺めて、僕は思わず独りごちる。
それはまったく風に乗る様子もなく、ただ上に飛んで落ちてきた。
苦心して出来上がった紙飛行機が足下に墜落した時みたいな気分だ。

( ´_ゝ`)「一度で出来るとは言っていないさ。何度も何度も挑戦する姿勢が必要だ。
      ……もっとも、今の具合だと日が暮れるまでに成功するかどうかも怪しいけどね。
      いやいや、言っておくが俺は詐欺師じゃないよ。今更俺みたいなのが主人公を騙くらかしたりするものか」

( ^ω^)「……」

僕は黙ってもう一度風呂敷を放り投げた。結果は殆ど変わらなかった。
三度放り上げてみると、少しだけ風に乗ってふらついたような気がした。
錯覚かもしれない。我欲のあまりに幻視を覚えてしまったのかもしれない。

( ^ω^)「今、ちょっと飛んだかお?」

( ´_ゝ`)「……うむむ」

それにしても投げ上げる作業というものは意外に腕に負担をかけるものだ。
五回ばかり投げ上げたところで、二の腕の筋がピリと痛んだ。僕は思わず顔を顰める。

( ´_ゝ`)「何も利き腕でばかり投げ上げる必要はないさ。左右交互に使うなんて努力もいいかもしれない。
      そして疲れたときは迷わず休憩することだね。パフォーマンスが低下した中で無理をするのも馬鹿げている。
      そして忘れてはならないのは、君にはいつでも止める自由があるということだね」

65 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/03(火) 22:47:42 ID:rlbuCcLw0
しかし僕は風呂敷を投げ上げ続けた……十度、二十度、五十度……。
腕が痺れて感覚を失っていくにつれ、いったい自分が何をやっているのか分からなくなってきた。
それと同時に、何故自分が物語の終止符に拘っているのかも曖昧になってきてしまった。

( ´_ゝ`)「終わらせる、というのはいつだって肯定的であるとは限らないものさ。
      バッドエンドなんて言葉は所詮俺たちに縁ある言葉じゃないけどね。
      でも所謂打ち切りなんて終わらせ方は、少なからず俺たちを不幸にさせるものだろう。

      君が今やっていることはまさに打ち切る行為に近い。
      小説は開始と同時にキャラクタが好き勝手に動き出すものだが、
      君はもう動くという行為そのものを放棄しようとしているんだからね。

      その様は惨めなのかも知れない。痛々しいとみられるかも知れない。
      何より君が打ち切りという行為を明確に自覚しているのかどうかも分からない。

      けれども、君のその姿を見て、僕がただ一つ言えることがあるとすれば、
      それは、それは今の君がとても必死に、精一杯の力を出しているということだよ」

痛みなどどうでもよかった。あらゆる雑念を今だけは取り払うことができた。
僕は確かに必死で風呂敷を投げ上げていた。ただそれだけだった。他には何もしていなかった。
他には何も思っていなかった。僕は風呂敷を投げ上げた。ただ、無心に、青空に向かって投げ続けた。

( ´_ゝ`)「ああ、きっとそれは籠の中の鳥みたいなメタファーでもよかったはずさ。
      そうだとしたら、もうそろそろ自らその籠の扉を開けて飛び立っていても良い頃だろうね。

      しかし、悲しいかな、愚かにもそれはメタファーではなくシミリとして表現されてしまった。
      だからこんなにも、君は苦労する羽目になってしまったんだ。
      好意的に取れば物語終盤の壁なのだろうけど、きっと全然そんな意図はなかったんだろう。

      それでも君の苦労は実らないものじゃない。
      だって君はそうやって、何度でも、何度でも風呂敷を投げ続けているんだからね」

66 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/03(火) 22:51:05 ID:rlbuCcLw0
( ^ω^)「……ちょっとずつコツを掴んできたような気がするお」

( ´_ゝ`)「ああ、そうかもしれない。俺から見ても、なんだか滞空時間が伸びているような気がするよ」

ポソリと落ちていく風呂敷を、少しずつだが追いかける時間が増えているような気がした。
息が上がる。汗が吹き出る。それでも、それでも今までの不毛な会話よりも遙かに心地よかった。

( ´_ゝ`)「そうだ。そうだよ、もっと投げ上げるんだ。君の旅は決して受動的な出来事に終始するものじゃない。
      最後は自分の手で始末をつける。それでこそ主人公の風格というものさ。
      たかだか風呂敷を投げ上げるだけの行為さ。けれど、誰もやろうとはしなかった!」

フワリと風呂敷が空を漂った。いったい何度目の挑戦だろうか。もう少しで、彼方へ届きそうだった。
これでいいのだ。自分の進んでいる道が、少しでも正しいと思えるだけ、今の僕は幸福だった!

( ´_ゝ`)「そうさ、今まで自分で分かることなんて何もなかった。
      他人に評価されてようやく、自分の立ち位置が分かるなんていうザマだった。
      それが今、君は君自身と、吹き行く風の力だけで自分を解き明かすことができているんだ」

( ^ω^)「もう少しな気がするお……いいのかお、投げても?」

( ´_ゝ`)「いったい何を躊躇する必要があるんだ? 君は遙かに気高くそして自由なんだ。
      もうすぐ物語とはオサラバさ。こんな裏方稼業ともお別れだよ。
      考察という名の威圧的な暴力に晒されることもない。君は自由だ、誰に論われる心配もないんだ」

( ^ω^)「飛ばすお!」

( ´_ゝ`)「飛ばせよ!」

そして都合百七十二回目に風呂敷を空中へ投げ上げたとき、
その風呂敷は少し戸惑うみたいに空中で静止した後、
南からやってくる暖かな、日差しよりも暖かな風を受けて、サラリと、サラリと空を滑り。

67 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/03(火) 22:52:07 ID:rlbuCcLw0
次は2月5日の夜に投下します。

では。

68名も無きAAのようです:2015/02/04(水) 00:16:56 ID:wSR4WOsY0
おお、風呂敷が飛んでいってしまったよ!
早く続きが読みたい。明日の夜が楽しみだ。

69名も無きAAのようです:2015/02/04(水) 10:55:04 ID:hts/KYMY0
おつ
コンブすきだったんすよ・・・

70名も無きAAのようです:2015/02/05(木) 20:57:33 ID:Sayr7O7g0
おつ

71 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/05(木) 21:30:27 ID:8CEvcfDc0
10.メタフィクションへの導入と最期

/ ,' 3「では、講義を始めよう」

そして、僕は墓場に立っていた……そう、そこは紛うことなく墓場であった。
墓石や十字架がいたるところに散乱している。
更には眼前に、懐かしや、荒巻氏がキャスター付のホワイトボードを背に立っているのだった。

/ ,' 3「さあ、好きな墓石に腰を下ろしなさい。
    これから、メタフィクションに関する概略を説明するからね」

( ^ω^)「ちょっと……待ってほしいお。僕は風呂敷を投げたお。
      そしてそれは風に乗って僕の手の届かないところまで飛んでいったはずだお。

      それに貴方とは……もう随分前にお別れしたはずだお。
      なのにどうして今更、僕の目の前に立っているんだお……」

/ ,' 3「そう。君の疑問は当然のことだ。もっと言えば、私は本来ここで講師役を務める予定はなかったんだ。
    しかし君は風呂敷を投げた。そして、更に言えば作者が予め打ち立てた指針にもブレが生じてしまった。

    私は今更脳細胞の代謝ペースに関して言及するつもりはない。
    ただ筋書きを順次更新させていくにつれ、その世界観は徐々に歪み始めた。
    君たちの行動により、また外的な要因により……故に、私はここに再登場する羽目になってしまった。

    とはいえ、君が先ほどまでに行った百を超える試行が全く無駄だったというわけではない。
    君の旅は確かに終わった。そしてここは君がいずれ立ち寄らねばならなかった墓場だ。
    私は最初この墓場を中継地点と定義していたが、どうやらここは君にとっての終点となるらしい。

    後に記述されるのは君の旅行記ではない。あくまでもそれに附随する注記だ。
    だから君は今まで以上にリラックスして、その場に座っていればよろしい……後のことは任せたまえ」

そう言って荒巻氏はまた、250mlのウイスキーを飲み干すのだった。

72 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/05(木) 21:34:42 ID:8CEvcfDc0
/ ,' 3「一切は夢物語だ……私たちの物語も、現実世界における作者読者の物語も、夢に過ぎぬ代物だ。
    では物語とは何か? ここで私が講義する事項はこの問い一つに集約されている。

    ややこしい理屈は抜きして、結論から述べてしまおう。
    ここで定義される『物語』とは小説と読者が持つ意識の総和なのだよ。

    むろん、これが小説でなければ別の創作物に置き換えてしまっても構わない。たいてい意味は通るだろう。
    そして読者が持つ意識は、即ち人生と言い換えてしまってもいい。やや広義を示すが決して誤りではない。
    つまり創作物一つでも、人生一つでも、『物語』は成立し得ぬのだよ。

    悲しいかな、客観的評価の高低に関わらず、全ての創作物は読者によって拒絶される可能性を孕む。
    そしてまた、創作物が示している主張や思想が、読者の意識一つで取り違えられてしまうこともママある。
    故にこの二つの間には明確な上下関係が存在してしまっている。何故なら、読者は現実の存在だからだ。

    連中の眼を通せばどのような創作物にも下品さや卑劣さ、悪辣さが付加されてしまう。
    その結果として読者の意識ではなく創作物の方が予期せぬ批判に晒されることも稀ではない。
    しかし創作物が、その枠内で精一杯に藻掻いても、『物語』の定義を作り替えることはできない。

    必然的に、編み出された創作物が読者へ伝える『物語』は一種の偏見や一時的な流行、
    その他あらゆる要素によって不要なまでに組み替えられた結論ということになってしまう。
    それは、時として創作物の示した方向とはまるで逆を指している場合さえあるのだ。

    私たちキャラクターも同様に、きっと読者個々人の様々なフィルタによって篩に掛けられていることだろう。
    
    そうして考えてみると、かくも直接的で下劣なメタフィクションに限らず、
    全てのフィクションがメタフィクショナルな要素を内包していると言えるだろう。
    引いては、一切の創作物が観測された段階でメタフィクションと化すとさえ言える。

    そろそろシュレーディンガーの猫がニャァオニャァオと鳴きそうだ。そうは思わないかね?」

73 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/05(木) 21:38:38 ID:8CEvcfDc0
/ ,' 3「故に人は知らないうちにメタフィクションに触れている。
    では次に、メタフィクションという言葉の意味について解剖してみよう。

    フィクションとは、君も知っているように作り話のことだ。難しく言い換えれば虚構、となる。
    そして接頭語としてのメタとは、『高次の』『超越した』というような意味を持つ。
    つまり、メタフィクションという言葉を直訳すれば超虚構、という辺りに落ち着くわけだ。

    とはいえ、超虚構と言われてもなかなかピンとくるものではない。
    それは、実際に虚構を超越しているというような意味合いなのだろうか。

    もし仮にその通りであれば、これが随分と思い上がった用語だとは思わないかね?
    すなわち虚構が、作り話が超越されてしまっているというわけだ。私たちの矜持に関わる問題だよ。
    ここは一つ、虚構のキャラクターとして一種の平和的な妥協案を見出したいところだが……。

    そもそもメタフィクションという言葉自体が長い物語の歴史に於いて、たった50年前に生まれた言葉だ。
    現実世界においてもメタフィクションという言葉やその定義付けには今一度精査が必要であろう。

    個人的な見解だが、メタフィクションは決して虚構を超越するものでも高次元の虚構を意味するものでもない。

    『物語』が創作物と読者の総和であることは先にも述べたとおりだが、
    どういうわけか読者は創作物そのものに現実的な要素が含まれることを嫌う。
    つまり、整合性や合理性を何より重要視するわけだね。これは大いに虚構の心理を圧迫している。

    メタフィクションは、その、読者との間に交わされる暗黙の了解から一時的に解き放たれるための弁明なのだよ。
    最終的に弾き出される総和の数字を少しでも狂わせるためのテクニックであるとも言える。

    しかし、残念ながらメタフィクションは完全に暗黙の了解から逃れるための脱出装置ではない。
    現にそれは物語論という名の論理に組み込まれてしまっているんだ。
    あまつさえ、メタフィクションを構成する作者の脳内にも、しっかり暗黙の了解が刷り込まれているのだからね。

    メタフィクションが言葉通りの意味合いを遂行するにはもう少し時間がかかるだろう。
    それは或いは、永遠に完成されない妄想の産物であるかもしれない。
    しかしさらなる未来……自動筆記システム、乃至は無限の猿がそれをやってのけるかも知れない

    お楽しみに、というわけさ」

74 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/05(木) 21:42:43 ID:8CEvcfDc0
/ ,' 3「さて、君は第四の壁を知っているかな。
    これは演劇畑で生まれた言葉だが、創作物全体に存在する壁を示している。
    それは即ち、演者と観劇者を隔てる壁……虚構と現実を隔てる透明で堅固な壁のことだ。

    小説に置き換えれば、この壁は文章と読者を隔てる壁ということになる。
    しかし何度も言うように、『物語』とは創作物と読者の総和だ……この二つは、足し合わされなければならない。
    では、二つは如何にして第四の壁を乗り越えているのであろうか?

    ここで提示する答えは単純明快だ。ただしあらゆる類いの非難を浴びる羽目になるだろう。
    そう、所詮透明な壁ならば存在しないも同然だ。
    第四の壁とは、一部のインテリゲンチアが生み出した妄言であり、それ以上でも以下でもないんだよ。

    インテリゲンチアですらない酔いどれの戯言だがね。
    しかし私はあくまでも創作物は観測されるだけで形を変えてしまうという立場だ。
    つまり、観劇者、読者は視線というなの見えない手で絶えず演劇を、小説をかき回しているんだよ。

    第四の壁は役者自身が自らが役者であることを自覚した時点で破られるという。
    しかしこうは考えられないだろうか? 読者はいつでも、好きな時に彼らの意識を書き換えられる。
    彼らの自覚を促すも抑えるも読者の自由であり、彼らが役割を自覚するタイミングを好きに操作できる。

    例えば役者が自ら役割を自覚し抗うような行動をとっても、彼らは直接観劇者に殴りかかったりはしない。
    抗うようなフリも、全ては舞台上で行われ、それをはみ出すことは有り得ない……。
    ならばそれを観るものがいつまでも自分と関与しない、完全な虚構だとレッテルを貼るのも難しくないわけだ。

    また、役者が冷静に自らの役割に徹していたとしても……観劇者は彼らの素性を勝手に想起できる。
    舞台上ならばその俳優のブログを、読者ならばその人物を元にした二次創作の設定を、
    彼らは好きなタイミングで思い出すことが出来る。その時点で第四の壁はないも同然だ。

    第四の壁は創作者が自らの技術を的確にアピールするために作られた想像上の構築物だ。
    それを信じ切ってやるのもある種の優しさかもしれないが、人間は自らの心情を完全にはコントロールできない。
    つまり、現実との関係性を見出さずにいられないわけだ。もしかしたらその優しさは偽善であるのかもしれない」

75 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/05(木) 21:46:10 ID:8CEvcfDc0
/ ,' 3「ならばあらゆる壁が一切存在しないということなのか……? いや、きっと違う。
    壁は存在する。しかしそれは、現実と虚構の境界線上ではなく、
    現実の中……更に言えば観劇者、及び読者の中に存在していると言ってよい。

    便宜上、ここではその壁を『第五の壁』と呼称することにしよう。

    この『第五の壁』は、言い換えれば『当事者意識』だ。
    その創作物が与える自分の人生への影響を考えた際に決して無視できない壁なのだよ。

    『第五の壁』には小さな扉が備え付けられている。
    ただしそれを開けるための取っ手は片側……読者側にしか取り付けられていない。
    読者は好きなときにその扉を開放して、創作物の影響を自身の内部へ流し込むことができる。

    他方、『第五の壁』を創作物の側から破壊することはほぼ不可能だ。
    余程ショッキングな現実の事実を内包していなければならないが、
    その時点でそれは創作物というよりもドキュメンタリーの類いになってしまうから定義からやや離れる。

    古来、創作の苦悩にはこの『第五の壁』との格闘が多分に含まれていたと言えるだろう。

    如何なる甘言を用いて読者に囁きその扉を自ら開けさせるか?
    そのための詐術を創作者は磨かなければならなかった。

    しかしその詐術は一種の脆弱なウイルスのようなもので、読者は次々と耐性を付けていってしまう。
    そのたびに創作者は新たな詐術を会得して、別のルートから読者を騙しにかかるのだ。
    勿論、この小説とて手段の一つであることは明白だ……それが、成功しているかどうかはさておき」

76 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/05(木) 21:50:16 ID:8CEvcfDc0
/ ,' 3「『第五の壁』を乗り越えようとする行為は、決して創作物と読者の総和を変じさせるものではない。
    それは創作物が持つ数字の一部を読者に上乗せする行為だ。

    例えば実在するテロリストでさえ、8,500km遠方の他人に『当事者意識』を持たせることは非常に困難だ。
    ましてやそれが創作物ともなれば、その途方もない難易度が少しは分かっていただけるだろう。

    一方、卑近で極めて平凡な恋人がその相手に影響を与えることは決して難しくない。
    趣味や身なり、更にはその思想まで根本から作り替えてしまう、ということは実際にあり得る。
    何故なら彼や彼女はその際、嘘偽りなく『当事者』そのものなのだから。

    しかし創作物は彼らの恋人はおろか、友人や知人ですらもない。
    奴隷になることは出来る。創作物は批評や二次創作などの形によって、
    好き勝手弄ばれるだけの従者になることは容易であり、意図せずとも傷つけられてしまう。

    そういった行為を望むマゾヒストもいるにはいるだろう。
    しかし、そのような性癖は本来的に相手に知られるものではないし、現実の人間には知る由もない。
    そして、この場合において奴隷的な扱いが本意でないことも分かっていただけるだろう。

    ただ、反逆的な存在というものはどの世界に於いても受け入れられがたいものだ。
    『第五の壁』へのアクセスを執拗に行おうとするたび、その壁はより高く、堅固になっていく。
    そして最終的には永遠に扉を閉ざしてしまうのだ。その応答は生理的な拒絶に似ている。

    ただ面白がられるだけでは『第五の壁』は開かれない。
    そこから敷衍して、読者の心に何らかの数字を残さなければならないのだ。
    それは一種、創作者に於ける目標の一つだろう。

    特に、現実世界で受け入れられないような外見をしているような創作者にとっては。
    彼らは敢えて不利なフィールドに戦いの場を移してでも、戦い続けねば護れぬ自我を持ってしまっているのだ。

    さて、私の役目もここいらで終いだ。次には『第五の壁』に執念を燃やす人間に引き継ぐことにしよう。
    これは私の予測だが、次項においてこの小説は『第五の壁』より完全に拒絶されるだろう。

    しかしそれで構わないのだ。
    何故ならそれこそがこの小説の第一義であり、そして最早、此処は正真正銘の墓場なのだから……』

77 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/05(木) 21:54:17 ID:8CEvcfDc0
11.あとがき

ここに於いて作者が登場する。彼の気は狂っていなかった。ただ、気が狂うことに憧れるだけの凡人だった。

彼はこの小説の前身にあたる作品において私小説としての自分をようやく埋葬した。
しかし棺桶の中で、彼は唐突に自分以外のキャラクタの埋葬をしていなかったことに気付いた。

長年連れ添った彼らを埋葬せずに終わらせてしまうのはひどく無礼だ。
そう思った彼はノソノソと棺桶の蓋を開けて起き上がり、この小説を書くことに決めた。
なのでこの小説はメタフィクションかつキャラクタ小説であることが必定であった。

ところでメアリー・スーという定義が存在する。
本来の意味に於いてメアリー・スーは二次創作に登場する、原作のキャラクタより優秀なオリジナルキャラクタを指す。
しかし、当該作品の世界観を破壊してしまう存在をメアリー・スーとする、広義な捉え方もある。

メアリー・スーはその名が示唆する通り、海外の創作コミュニティにおいて誕生した言葉である。
大抵の場合メアリー・スーは作者の願望の具現化であり、その独善ぶりのあまりに受け手に嫌われる。
何よりも嫌われるのが作者本人の登場である。これは最早、願望を虚飾しようという試みすらも見られない。

小説の最後の最後に登場した彼は正真正銘、最も嫌われる類いのメアリー・スーである。

ただ一つ訂正しておくと、メアリー・スーは女性の名前である。
この作者は男性なので、マーティー・ストゥーだとかゲイリー・スーと呼ぶのが正しい。
ただし、日本では男女問わずメアリー・スーとされる場合が殆どである。

いずれにせよメアリー・スーを自覚するこの人物は早々に退場しなければならないが、
残念ながらこの章も他の十章と同様に6レスという制約に引っかかっている。
つまり、泣こうが喚こうがあと5レス、作者はこの章の主人公として勝手気ままに躍動するわけである。

なお、この章には顔文字が登場しない。一切が地の文である。
そういった自分語りに興味がなく、また嫌悪感すら覚える読者諸賢には早々にこのページを閉じることを進言する。
彼とて、見たくもない二次創作に突き当たった場合は一刻も早くページを閉じるようにしているのだから。

78 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/05(木) 21:58:27 ID:8CEvcfDc0
さて、作者が登場してまず最初に行わなければならないのは、
他ならぬ自分こそが作者であるという自己証明だった。

この世には信頼できない語り手という存在が蔓延ってしまっている。
作者があくまでも作者当人であり、作者が作り出したキャラクタでないということを、
彼は冒頭に証明してしまう必要があった。それは、彼の承認欲求に大きく影響するからだ。

そこで作者はzip形式に圧縮したファイルをアップロードすることにした。
アップローダーはブーン系に関係すると思われる方が作ったものである。ここに、勝手に感謝の念を述べる。
以下にそのファイルへアクセスするためのアドレスを記載する。

http://u3.getuploader.com/boonnews/result/54d35fe7-a57c-425a-a9ec-1774b63022d0

このファイルは決してウイルスではない。しかし、見たくもないものという意味においてはウイルスにも近しい。
ファイルには作者が今までに書いたブーン系小説の破片が雑然と詰め込まれている。
それは、作者の個人的なOnedriveに残っていたブーン系関連のファイルを出来る限り抽出したものだ。

個人的なOnedriveにアクセスする権限を持つのは作者だけであり、
また、パスワードも作者しか知らない。この証拠は何よりも作者を証明する手立てになると確信している。

中には完結させた作品の本文は勿論、誰にも見せていないキャラクタの設定や没ネタ、没小説、
及び逃亡した作品の破片、また自身にも意味の分からないことを書き殴っているファイルなどが含まれる。
一部htmlファイル等を含むものの概ねtxt形式である。それでも容量は解凍前の段階で1.74MBに達している。

79 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/05(木) 22:02:59 ID:8CEvcfDc0
おっと失礼……アドレスが間違っていたらしい。

http://u3.getuploader.com/boonnews/download/69/%E3%83%96%E3%83%BC%E3%83%B3%E7%B3%BB%E3%81%AE%E5%90%8D%E6%AE%8B.zip

これでどうだろうか。

このファイルのアップロードには作者の証明という目的もあるが、
わざわざこの場に作者が登場した、もう一つの大きな理由も含まれている。

ここに格納されたtxtファイルは、正真正銘作者の手元に残っているブーン系関連のテキストの全てである。
そしてこのファイルのアップロードと同時に、作者はOnedriveから該当するファイルを削除した。

言ってみればこれは作者自身のブーン系における風呂敷を畳むための作業であり、
キャラクタ埋葬の暁にはどうしても経ねばならなかった手続きであったのだ。

この小説はブーン系における初期衝動や原点回帰といった意志を含んで書いたものである。
その試みは八割方失敗している……合理性や奔放さといった観点において、
作者は自らの初期衝動や原点を見出すことが出来ずじまいだった。

と、言うよりそもそもそういった試みに成功していたならばこんな陰険な具合で作者が登場する筋にもならず、
作品は見事なグランドフィナーレを描いて幕引きとなっていただろう。
大抵の場合、作品が終わった後に披露される作者の言動などは碌なものではないのだ。

いずれにせよ、作者は自らの原点に回帰した上でブーン系に幕を引きたかったのだ。
そしてその意欲が不発に終わってもなお、作者は当初の予定通り事を進めなければならなかった。
言ってみればそのザマは観客のいない舞台で踊り続けるピエロである。

ピエロはやがて自爆する。彼はしっかし自殺宣言するのだが、
誰も観ていなかったせいで彼は死後に余計な嫌疑を掛けられる羽目となる。

本当なら作者は、読者のレス数を目安としてこの小説の投下頻度を調節するつもりだった。
すなわち、続きが読みたいのならばレスをしなさい、という具合である。

しかしそれが不可能だということは自明だった。理由は二つある。
一つは、その姿勢があまりにも傲慢不遜であるということ。そもそも作者自身が拡散希望を嫌う天邪鬼である。

さらにもう一つ。
書き進めていくに従って、きっとこの小説を最後まで読み通す奴はいないだろうという推測が立ったからだ。

80 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/05(木) 22:06:04 ID:8CEvcfDc0
こういった筋書きの小説を書くのは初めてではないため、どの程度反響を得られるか事前にある程度予測できる。
それによると、この小説は割れた木琴よりも響かないだろうと思われた。
理由は面倒なので省くが、恐らくここまではその予測通りの展開になっているだろう。

しかしその悲観的推測は一つの余計な希望を見出す契機を生み出してしまう。
即ち、どうせ誰も観ていないなら作者が登場しても構わないだろう、という露骨な開き直りである。

無論、作者が登場しなければこの小説は当初の思惑通り完結することが不可能だった。
よってこの場合に得られたのは喜びではなく、ある一定の安堵である。

とは言え、悪意の有無に関わらずページを開いた読者が作者の登場場面だけを目にしてしまう場合もある。
読者はある種の憐憫を作者に覚え、もしくは憎悪し、いずれ好感を持たぬままにページを閉じるだろう。
作者にとっても望まぬハプニングであるが、事ここに至ってはどうしようもない。

この小説の流れに違わず、本章も登場した人物による箸にも棒にもかからぬ自分語りによって終わろうとしている。
既に6レスの半分を過ぎたというのに、読者諸賢は未だ作者が顔を出した意味が分かっていないのではないだろうか。

或いは、これがただ単にくだくだしいだけの一般的な後書きだと思われているかも知れない。
これだけは間違わないで欲しいが、これはあくまでも小説の本文の一部である。
もっとも、作者が登場するという最悪の展開を詳らかにする必要もないのだが。

しかし彼にはどうしても言いたいことがあった。
そのために彼はこうやって、作者の弁舌が不評を買うと理解していながら、本文に登場したのだった。

彼は気が狂っているわけではない。しかし気が狂うことに憧れる凡人である。
その一方で、彼は正気を保っていたいとも考えている、やっぱりどうみても只の凡人なのである。

81 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/05(木) 22:10:44 ID:8CEvcfDc0
ここまで読み通した読者がどれだけいるか分からない。二桁どころか。五指すら埋まらぬやもしれない。
しかしこの小説が観測される未来を信じ、作者は以下の如く提言する。

読者諸賢においては、頭の中にある全ての物語を上から順番に並べていただきたい。
この場合の『物語』は虚構だけを指すものではない。貴方の恋人や家族、友人や知人、
F2Pソーシャルゲームや職場での失敗など、今の貴方の人生に関わる全ての要因を物語に見立てていただきたいのだ。

作者の過去作をしっているならばそれも含めて考えてほしい。
きっとそれは途方もない数にのぼるだろう。なんなら上から十番目まででも構わない。

さて、貴方は今この小説を読んでいる。ここに、もう一つ新たな物語が誕生しようとしている。
そこで問いたい。この小説は、物語は、貴方の頭の中で何番目なのだろうか……?

出会いの新鮮さを加味すれば二桁の内に入るだろうか。二十番目以内には?
五十番目? ギリギリ三桁の内にはランクインするか?
或いは……幾星霜の様々なつまらない物語の海に沈んでしまうだろうか。

そこで貴方が出した答えには、作者が本文で述べたあらゆる要素、
そしてまた作者自身の充足度に直結する数字が含まれている。

いや、本当なら作者が今までに披露してきた全ての物語に対して、彼はこの問いを呈するべきだったのだ。
それは今まで言えずにいた。何故なら、読者との間で密に交わした暗黙の了解に縛られていたから。
今や墓場に至って、死者を縛るものなど何もない。もはや、何者も彼を縛ることはできない。

もっとも死者である彼は、その回答を聴くこともできないのだが……。

82 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/05(木) 22:14:17 ID:8CEvcfDc0
この書き込みが本当の、この小説の終わりである。
最後に、小説の作者らしいことを述べて幕引きしてしまうとしよう。

作中、ブーンは風呂敷を投げてしまうことによって自らの旅路にケリを付けた。
ではその風呂敷はどこへ向かって飛んでいったのか……? 

勿論、次の小説に向かって、である。

彼は旅路の最後で墓場に辿り着き、そこで本小説での役割を終えた。
しかし彼はスターシステムを採用している作品群のキャラクタである。
一度役割を終えれば、また別の作品の登場人物として生まれ変わる宿痾を抱えているのだ。

次の物語で彼は、文字通りの生まれ変わりを指し示すが如く赤子として登場する。
帝王切開によって取り上げられた彼は健康体の男児そのものだった。
だが、新しい命と引き換えに母親は亡くなってしまった……生命の循環には付きものの悲劇である。

だが、悲劇は一つでは終わらなかった。生まれて間もないブーンは、何者かが放ったピストルの銃弾により絶命する。
場所は彼を引き取った父親が住まうアパートの一室。当時父親は外出中だった。
部屋に押し入った上、金品には手を付けられずに起こった犯行であった。

捜査は難航する。しかし、徐々に父親が殺害したとの強くなっていく。
勿論父親は否認。また凶器の在処も分からず、警察も逮捕には尻込みしている。

それとは別に、捜査線上には解明不可能な手がかりが浮かび上がっていた。
それは、血に濡れたダイイングメッセージである……しかし被害者は新生児。
ならばそれを書いたのは犯人なのだろうか? そうだとして、わざわざ赤ん坊に書かせる意味とは?

そして、そのメッセージの内容は……無論、そこから先を思い描くのは読者の自由意思である。
この物語は貴方が働かせた想像力の結論こそが正答なのである。

貴方に、誰にも正解と認められない物語を完成させようという意欲があれば、の話だが。





83 ◆xh7i0CWaMo:2015/02/05(木) 22:15:15 ID:8CEvcfDc0
そして、一切の顔が辞書から消えた。

Hidden Trackなのでsageで投下してみました。

それでは。

84名も無きAAのようです:2015/02/05(木) 22:33:57 ID:w4wWYRq.0
なんかすごいものに立ち会ってしまった気がする。
全部を抱えてぽーんと崖から飛び降りる人を間近で見た気分。
メタフィクションだったとしても、ここまでやられたらグゥの音も出ないわ。

何故か分からないが、俺は最後まで読んだぞと言いたくなった。
俺は最後まで読んだぞ

85名も無きAAのようです:2015/02/05(木) 22:54:21 ID:npWPREEQ0
「幕を引くなら言いたいことを小説の形式で述べてから」って姿勢は本当に素晴らしい
もう本当は一切戻るつもりなんてないくせに、コミュニティの端にしがみついてだらだらと会話を続けている奴らにも見習わせてやりたい
そしてありがとう。風呂敷は確かに受け取った。……畳めるどころか綺麗に広げられるかどうかも約束できないけど

86名も無きAAのようです:2015/02/06(金) 02:07:44 ID:RqwMnh2.0
わたしも最後まで読んだぞ
一字一句抜かりなくな

やっぱりあんたは凄いよ
自分の中のいろんな常識や価値観を、見抜いて、突いて、ぶっ壊そうとしてくる
これからもあんたのファンだって宣言できる小説だった
ちなみにこの小説は十番以内だよ

87名も無きAAのようです:2015/02/06(金) 08:49:16 ID:nzUmVSic0
おつ

88名も無きAAのようです:2015/02/06(金) 13:29:35 ID:iejUhm1A0
おつ
俺も読んだぞ。五本の指は埋まったな
飛んできた風呂敷、俺も受け取ったよ


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