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( ^ω^)千年の夢のようです
-
- 矛盾の命 -
(推奨BGM)
https://www.youtube.com/watch?v=OTJLtz4ItZk&feature=youtube_gdata_player
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「ただいまだおー」
低いとも高いともとれないような、しかし喉から力強く発されて遠くまで届きそうな元気な青年の声が木造の小屋内に響く。
割られた丸太をいくつも重ねて造られた無骨な壁と天井は狭く、しかし主の声をたやすく涼しげに受け止める。
ξ゚⊿゚)ξ「おかえり」
青年の声を受け止め、返した声は抑揚の少ない、青年とは真逆におそらく目の前に立つ者にしか聞き取れないほどのかすれた音だった。
ブラウンの巻き髪、うすい唇。
少女と呼ぶには時遅く、しかし大人の女性と呼ぶにしては小さな両肩と、あまりに細すぎる首。
( ^ω^)「ただいまだお、ツン。
今日はまとまったお金が入ったから
奮発して街で売ってるフルーツ買ってきたお」
-
ξ゚⊿゚)ξ「そう…」
この丸太で出来た小屋には、二人だけが住んでいた。
間取りというほどのスペースなどない。
窓すらない。
…正しくは、四方の壁の一部がそれぞれくり貫かれておりそこから外の景色に通じていた。
その四角い枠に合わせて、細く切られた竹の束を紐で縛ったもので簾を作り、雨避けにと垂らしてあるだけの、窓と呼ぶにはあまりに簡素なものだ。
しかしそこから通り抜ける夕風は柔らかく、ときおり簾がふわりとなびく。
部屋のなかには……ツンの横たわる寝床以外に見当たる調度品はない。
まるでその他には用を成す必要がないかのように静かな空間だった。
ξ゚⊿゚)ξ「……」
( ^ω^)「食欲はあるかお?」
ツンは小さく、ゆっくり首をふる。
そっか、とブーンは寝床に横たわるツンの脇にかがみ目線を合わせた。
ブーンはシーツごしに、ツンの手の上に自身の手を乗せる。
手のひらにすっぽり収まるほどツンの手は小さく、そして
*鼹鮄瓦里茲Δ帽鼎*った。
-
>>3
は、文末が文字化けしたのでもう一度…
-
ξ゚⊿゚)ξ「そう…」
この丸太で出来た小屋には、二人だけが住んでいた。
間取りというほどのスペースなどない。
窓すらない。
…正しくは、四方の壁の一部がそれぞれくり貫かれておりそこから外の景色に通じていた。
その四角い枠に合わせて、細く切られた竹の束を紐で縛ったもので簾を作り、雨避けにと垂らしてあるだけの、窓と呼ぶにはあまりに簡素なものだ。
しかしそこから通り抜ける夕風は柔らかく、ときおり簾がふわりとなびく。
部屋のなかには……ツンの横たわる寝床以外に見当たる調度品はない。
まるでその他には用を成す必要がないかのように静かな空間だった。
ξ゚⊿゚)ξ「……」
( ^ω^)「食欲はあるかお?」
ツンは小さく、ゆっくり首をふる。
そっか、とブーンは寝床に横たわるツンの脇にかがみ目線を合わせた。
ブーンはシーツごしに、ツンの手の上に自身の手を乗せる。
手のひらにすっぽり収まるほどツンの手は小さく、
そして
鉄のように硬かった。
-
ツンは病にかかっている。
過去にこのような症例の病は発見されていない。
発見されるまえに収まるのだ…発症者の速やかな死をもって。
そして死した後、病は何事もなかったかのようにその侵した身体を正常な状態に戻す。
…奪っていった命を除いて。
突然やってくる倦怠感に戸惑いを感じた頃、すでに全身は硬化し、身体機能の全てを停止させる…。
"おそらく本来はそういった症状の類い"なのだろう。
( ^ω^)「気にしなくていいお。
ツンのお腹がすいたり、喉が乾いた頃にすぐに食べられるようにしておくから」
ξ゚⊿゚)ξ「…ありがとね…」
( ^ω^)「…ツンはずいぶん痩せたお」
ツンはこの2ヶ月間で、徐々に発症した。
はじめは歩いている時によくつまづくようになった。
気が付くと足の指に力が入らなくなった。
膝がガクガクと震えるようになり、立つのがやっとだった。
松葉杖を持とうとしたら、手の指先に違和感を覚えるようになった。
いつの間にか、手首が曲がらない。曲げられない。
それはまるで自分の身体と同じ形に縁取られた拷問器具を、順番に、ゆっくりと
身体の尖端から姿の見えない何者かに嵌め込まれている…。
ツンは以前、ブーンに対してそう表現した。
-
こんな事は二人が今まで生きてきた中で、一度たりとも無かった。
ブーンとツンは、二人で気ままにさまざまな土地を廻りながら、観るもの総てに感動や関心、不満や憤りを抱いてきた。
旅の途中、砂漠地帯ではオアシスが枯れていると言って避難した住民に飲み水をすべて盗まれてしまい、行き倒れた事がある。
海を航る船が転覆し、溺れた事もある。
知らずのうちに戦争に巻き込まれ、逃げおくれた子供ごと鉛玉に胸を撃ち抜かれた事もあった。
しかし二人は生きている。
どんなに重くても怪我は自然に治り、歳を取り身体が老けることもない。
いつの頃からかは記憶にない。
しかし、二人は生き続けてきた。
千年の命をもつ二人は、死なない。
永遠に死ぬことができない。
ツンの人生は、ブーンと共にその永遠を生きる運命にあった……はずだった。
ξ゚⊿゚)ξ「……ねえ、次は何処に行きましょうか?」
ブーンから目をそらし、ツンは語る。
-
( ^ω^)「おっおっ、北の岬なんてどうだお?」
風が吹く。
ξ゚⊿゚)ξ「ねえ、次の仕事はどんなことするの?」
返事をするわけでもなく、次の質問をする。
( ^ω^)「…んー、前回は郵便屋の仕事柄、どうしても紛争地帯に行かされることもあったお。
だから今回はなるべく町を離れない仕事にするつもりだお」
風が吹く。
ツンの身体は動かない。何一つとして。
髪が風になびかないほど硬化している。
目をそらしていたのではなかった…。
いままさに、ツンは顔を動かすこともできなくなった。
知らない人間がこの場を見れば、まるでブーンが喋るマネキンと会話しているようだと思うだろう。
それが自然なほどに、ツンは動かない。
ξ゚⊿゚)ξ「……」
( ^ω^)「……」
ブーンはなにも語りかけない。
頭のなかではさまざまな想いが浮かぶ。
この病気が千年を生きるツンにもたらすのは、即死ではなく、緩やかな死だろうか?
それとも、やはり死は訪れないのかもしれない。
死ねないまま死ぬ……それはどんな事なのか、ブーンには分からない。
ツンもおそらくそれを見越してブーンに多くを語らない。
二人の信頼関係が相手を尊重するあまり、会話は少なくなる。
-
ξ゚⊿゚)ξ「アタシ、待ってるからね」
いつのまにか俯いていたブーンは、ゆっくりとツンを見上げる。
ξ゚⊿゚)ξ「興味あるわね、この身体にこれからどんな事が起きるのか」
( ^ω^)「……もう…限界かお?」
ξ゚⊿゚)ξ「…みたいね。 もうずっと痛覚は無くなってたけど…」
そう強がるツンの声は、ほんの数分前と比べてもさらに小さく消えそうだ。
ξ゚⊿゚)ξ「…待ってるから」
( ^ω^)「ツン……」
ブーンはツンの手を力強く握りしめる。
言葉が浮かんでこない。
……自分はこんなにも不器用だったか?
握りしめた手になにも感じることができない。
……自分はこんなにも力が弱かったか?
( ;ω;)「あ、ぁぁ…」
ツンの顔をじっと見つめる事しかできなかった。
首から下の感覚を自分でも失っているのがわかる。
「ま っ て る か ら 」
ツンの唇だけ…その小さな唇だけが、まるで怯えているように小刻みに震えていたのを見逃さなかった。
ブーン、貴方がアタシを治す手段を見つけてくれるのを。
-
ツンはそう言った後、目を閉じることなく、その動きを止めた。
ブーンはしばらくじっと次の言葉を待った。
しかしそれっきりだ……
ツンはもう、動かない。
(推奨BGMおわり)
風が吹く。
太陽が完全に隠れ、月が夜を照らし、新たな陽が小屋のなかに充満した頃、ブーンの姿はその場からなくなっていた。
あとに残されたのは、ツンと呼ばれた女性が眠る、一つきりのベッドだけだ。
風がやんだ。
(了)
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1です
真夜中の投下になりましたが、よろしくお願いします
お話はいくつか続きますので
また後日、次の書き溜め分を投下します
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うおおなんだこれ話に吸い込まれる
乙
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続きが気になる…!乙乙!
-
乙
-
乙 期待
-
読んでくれてありがとうございます
それでは次のお話となります
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- 繋がれた自由 -
鉱石の削れる音、
硝子を変型させる窯の火の熱、
椅子に向かい合う傾いたテーブルは使い込まれており、上からの重力が増すたびに軋む。
この細工工房では昔から一代に一人の、選ばれた職人による代々受け継がれてきた技術を駆使した指輪が創られる。
その見事な細工は大陸を越えて海の向こうからの依頼が舞い込むほどの評判だった。
( ´∀`)「お腹すいたモナ…」
呟き壁時計をチラリと確認すると、男が作業を開始して既に数時間が経過している。
その間、男は一切手を休めることなく手元の指輪、そしてそれに埋め込む鉱石の細工に没頭していたようだ。
( ´∀`)「これは…なにかお腹にいれないと次は夜中になっちゃうモナね」
作業を中断し立ち上がる。
と、それに呼応して男の背後の扉が静かに開らき、女が顔を覗かせた。
川 ゚ -゚) 「お腹でも空いたか?」
( ´∀`)「相変わらずクーはそういうのよく分かるモナね。
今のうちに何かつまんでおこうかと」
クーが軽く頷き扉を更に開けて、身体を横に傾けた先の部屋から立ち込める匂いが届き始めると、釣られて男はゆっくりそちらへ歩き出した。
-
男…モナーが部屋を跨ぐとより一層の香りに刺激されて口のなかが落ち着かなくなる。
テーブルにはよく煮込まれた野菜スープ、軽くグリルされた肉には香草が添えられ牛エキスで煮込まれたワインソースが食欲をそそる。
必要な栄養素を考えて作られたのだろう、作業に忙しいモナーのために少ない品数でも食べやすく健康的なメニューが並んだ。
しかし、上品すぎる。
それがモナーの不満だった。
( ´∀`)「いつもありがとうモナ。
でもね、クー。モナーはもっと適当でいいんだよ?」
川 ゚ -゚) 「まだか? これでも適当なんだが…お前はいつもいったい何を食べてたんだ」
( ´∀`)「片手で食べられるもの」
川 ゚ -゚) 「このメニューだってスポークがあれば片手で食べられるぞ」
( ´∀`)「うん、ちょっと意味が違う」
これまでにも何度か繰り返されているやり取りには嫌みなど無い。
互いに純粋な意見を一言交わしながらどちらともなく食事を摂り始めた。
モナーとクーが居るこの街は大陸内でも大きく栄えた場所だ。
いくつもの区画が存在し、人を運搬するための電動貨車も備わる規模で迷いやすい。
余所からの旅人はまずガイドを手配する。
どこに何があるのか、どこにいけば自分に合う食事を取ることが出来るのか…
のんびりと街中を巡るのも旅の醍醐味だが、誰しも同じ時の流れを生きてはいない。
信仰する神によっては胃に収めてよい食べ物は異なるだろう。
故郷では禁忌とされる素材や、体質に合わない空間もあるだろう。
多種多様な人生に応えるように、この街では揃わないものはないとまで言われたこともある。
特に商業区ともなると、店同士の販売競争は激しい。
一年中、どこかで希望に満ち溢れた若者により新しい商売が始まったかと思えば、どこかで苦悩に打ちひしいだ果てに老舗の商売人生が幕をとじた。
-
この栄枯盛衰の繰り返される商業区において、4代目となるモナーの細工工房は数少ない職人の店と呼ばれた。
しかしその名声に反し、モナーの細工工房に直接足を運ぶ人はほぼ居ない。
いまの4代目モナーを含む過去のモナー達は、冷やかしの観光客や馴れ馴れしい街人達をことごとく拒絶した。
交流も最低限に留め、ひたすらに己の技術に磨きをかけるのみに時間を注ぎ込んだ。
したがって来客は自然と途絶え、現在では観光ガイドからもモナーの細工工房の名を聞くことはできない。
極僅かに存在する、モナーを知る人々の口伝のみから彼を知り、真摯な願い、純粋な想いをしたためた手紙だけを受け取り、モナー細工工房はその依頼主のためだけに技を駆使してきた。
そうして依頼主に届けられた指輪は生涯大切に扱われ、依頼主の子や孫達に伝えられる。
クーがモナーの元に現れた時も、モナーはその類いだと思った。
そして…気紛れから部屋に招き入れた。
それは祖父から聞かされていた依頼主の一人にそっくりで、依頼主にしか分かるはずの無い事柄をモナーに語り出したからだった。
一度でも関わりをもった依頼主と築き上げた信頼関係は裏切らない。
己の仕事に関連する事柄であれば、ミスがないよう継続して管理を行う。
それこそモナーの一族が代々信頼され、この街でいまだ現存できる理由でもあった。
-
しかしクーと名乗り、過去の依頼に対する礼を述べながら話す女は、4代目モナーに不快感を抱かせた。
手紙の内容、当時の季節や大陸内における情勢、そして依頼を受けたとされる2代目モナーの特徴…
まるで直接見てきたかのような語り口調にモナーは話を止めさせ、女の振る舞いを鼻で笑った。
二代目モナーに依頼をしてきた当時の依頼主は、工房として仕事を受けた事実がある以上、信頼に足る人物だったのだろう。
それに比べてこの女は、まるで自分が信頼を勝ち得て、モナー工房と繋がりを持ったといわんばかりの口調だ。
当時の依頼主がそれまで積み重ねてきた人徳…その結果として得られた信頼関係…
それは当人だけの権利であり、他の誰も侵すことは許されない。
礼を述べるだけならともかく、便乗して何を要求するつもりなのか。
利権をむさぼる…己は汗をかかずに…
結局は"彼ら"とおなじく薄汚い痴れ者か。
考え出せば苛立ちばかり生まれる。
部屋に招き入れたのは大きな失敗だった…
モナーは女を部屋から追い出そうとした。
"お前の祖父から預かった、どうしても渡さなければならない遺言があるんだ"
と、クーが言わなければ。
-
驚き向き直るモナーに、クーは言葉を続ける。
川 ゚ -゚) 「お前の私に対する不信感は目を見れば分かるよ」
川 ゚ -゚) 「しかし依頼主との信頼関係をお前の代で崩すわけもあるまい?」
モナーはその言葉を頭のなかで反芻させる。
川 ゚ -゚) 「言っておくが私は事実しか言わないぞ。
モナー工房に対する偽り、詐称など、冒涜以外の何者でもないからな」
再びみえた眼の奥にはなんの迷いも濁りもない。この女は真剣に話しているのだ。
モナーの性格も把握していることが、言葉の端々からも分かる。
後れ馳せながらも気持ちを切り替えたモナーにはそれが分かった。
( ´∀`)「…モナーのおじいさんは遺言を残さないまま亡くなったモナ。
あまりにも急な出来事だったからとはいえ、ひいおじいさんが死ぬときはおじいさんが…
おとうさんが死ぬときはモナーが遺言を受け取ってきた」
川 ゚ -゚) 「そして、そのなかでお前の父だけは祖父からの遺言を受け取ることができていなかった」
長い髪に覆われ、まるで能面のような表情でクーは続けた。
川 ゚ -゚) 「モナー工房…九十年前からこの場所で物造りを始めてから、一子相伝の卓越した技術をたった一人の子に継いでいく。
仕事の依頼はすべて手紙のみで、途中に依頼主とのやり取りは一切行われない」
( ´∀`)「その通り。
依頼受理は手紙の返送、そして依頼完了はモナー自身が直接依頼主に渡さなければならないモナ」
モナー工房の細工品は芸術的価値が高い。
出来上がった品を気軽に他人任せで発送すればたちまち盗まれてしまう。
そして、モナーの造る指輪のなかには大小あれど危険性を孕むものも少なからず存在した。
知識のない素人盗賊あたりが間違って使えば甚大な被害も及ぼしかねないだろう。
川 ゚ -゚) 「今回、私を部屋に入れてくれたのもきっと偶然の必然と言うやつだ」
川 ゚ -゚) 「そう、モナー一族においての遺言… 仕事の引き継ぎだ」
この出会いは気紛れのつもりが天啓だったのだろうか。
否、モナーは神を信じない。
( ´∀`)「…聞くモナよ、その遺言を」
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こうしてクーはモナー工房に住み始めた。
手伝いをするわけではない。
それこそクーも長居するつもりはなく、目の前でモナーへの遺言…その仕事を見守るだけのつもりだった。
だがモナーはすぐに取り掛かることはできなかった。
遺言内容を確認してみたが、どうしても一ヶ月ほど工房を離れなくてはならない。
作業中の細工品は容易くその性能を落とすだろう。
( ´∀`)「遺言を優先したいのはやまやまでも、タイミングがあるモナ…せめて一週間後にきてくれれば悩まなかったのに」
物置と化した、しばらく使われていない別の客間をおおざっぱに片付けながらそう言葉をこぼす。
川 ゚ -゚) 「すまない、知っていればそうしたのだが生憎とそのような能力は無くてな」
クーも手伝うように山積みの本や散らばった工具をまとめてはみたが、手持ちぶさたの感は隠さない。
部屋のすみに荷袋を下ろすと、両手を腰にあててモナーの動きを目で追った。
モナーは改めてクーから伝えられた遺言を頭のなかで反芻する。
" イライヌシ ユビワ カイシュウノヒツヨウアリ。 "
ただのなんでもない指輪ならば回収する意味もないため、その場で持ち主が破棄すれば済む話だ。
よって造り手も、このような遺言を残す必要はない。
つまりはそういう危険性がある、ということだろう。本来モナーは指輪の回収に急ぎ向かわなければならないのかもしれない。
-
しかし、モナーはその遺言の前に、現在依頼を受けている作業を完遂する必要があると考えた。
あくまで当面のモナーの待ち人は、いま造っている指輪の依頼主でありクーではない。
危険性があるならばそれを含めた結果が運命…ならば私情で順番を入れ換えるつもりはなかった。
川 ゚ -゚) 「いまつくっているのは?」
( ´∀`)「けっこん指輪モナ」
川 ゚ -゚) 「そうか、いまだそのような風習が残ってるのか」
( ´∀`)「………」
モナーは応えない。それ以上を語るつもりもなかった。
散らかり放題の客間だったが、ある程度のスペースが確保できるとモナーは窓を開けて空気を入れ換える。
部屋のなかだけで循環していた空気が、外の街の空気と混ざりあい、明るさを取り戻す。
( ´∀`)「この指輪ができたら、まずはこの依頼主に渡して、それから遺言の依頼を完遂するモナ。
それでいいモナね?」
クーは素直に頷く。
川 ゚ -゚) 「何日か、かかるんだろう?
食事の世話くらいならやらせてほしい」
-
モナーはそれからというもの、ほとんど寝ずに作業に没頭した。
クーが入れるのは客間まで。
作業部屋にはモナーしか立ち入らないので中の様子をうかがい知ることはできなかったが、数時間ごとに休憩を取るモナーの顔はそのたびに薄汚れ、皮膚がカラカラになっていた。
まるで水中から現れたダイバーが新鮮な空気と吸収可能な水分を求めるかのように、その都度、顔を洗い水を飲み、何度か深呼吸をしたと思えば…また作業部屋に潜っていった。
はじめは戸惑ったクーだが、何度も工房内を往来しているモナーの様子を見ているうちに、その時の彼が何のために作業部屋から出てきたかわかるようになった。
洗浄…排泄…補給…休息…
それを繰り返しながら、たまにはクーと簡単な会話をして過ごす。
( ´∀`)「…クーのご飯を食べるようになってから、トイレの回数が増えたモナよ」
川 ゚ -゚) 「いいじゃないか、むしろ健康的だ」
( ´∀`)「そのたびに作業の手が止まるのはロスでしかないモナ。
もうパンとかソイレントポットだけその辺に置いといてくれれば…」
モナーは愚痴る。
これまで一人、孤独に済ませてきた生活習慣が崩される点はどうにも慣れない。
川 ゚ -゚) 「もうそろそろ終わる頃だろう? ここまで来たら我慢しろ」
(;´∀`)「それはクーが決めることじゃないモナ…」
そう言いながらも、モナーは久しくなかった心地よさを感じた。
-
そして指輪が完成した日。
休むまもなく作業部屋から解放された身体を清め、塩でうがいを済ませたモナーにクーが近づいた。
川 ゚ -゚) 「もう出発するのか?」
( ´∀`)「一息つく暇があるならそれだけ早く届けられるモナ」
護身用ナイフを鞘に納めて腰にひっかけながらモナーがクーを一瞥すると、すでに彼女も外套を羽織り外行きのブーツに履き替えている。
工房を訪ねてきた時と同じ格好だった。
( ´∀`)「ついてくるモナか?」
川 ゚ -゚) 「お前が話してくれた依頼主の村と、私が連れていく所…
地図を確認したがそれほど方向がはずれていないからな。
その護身用ナイフがもう一本増えて、いざというとき勝手に動くと思えばいいさ」
( ´∀`)「連れていけるのは村の入り口まで。
依頼主の特定に繋がる範囲は立ち入らなければ構わないモナ」
クーを信用しない訳ではない。
伝統や習慣にイレギュラーは必要ないだけ…。
モナーに妻や恋人が居ても、彼はおなじ対応を取るだろう。
( ´∀`)「ん、ナイフがもう一本…?」
なんとなく違和感があるのは、クーの持つ錫杖だった。それほど背の低くないクーと同じくらいの全長。
外套の下は、他に携帯しているものが見当たらないほどこざっぱりしたどこにでもある服だけだ。
旅の僧…とでも言われれば大概の人々は納得できる。
川 ゚ -゚) 「あればで構わない。私にもナイフを貸しておいてくれ」
( ´∀`)「そりゃあうちは工房だから、片手間にナイフくらいは造ってるけど…別に業物じゃないモナよ?
というかやっぱり持ってないよね?ナイフ」
川 ゚ -゚) 「ん、私の獲物はこの錫杖だよ」
シャララン…と軽く振られた錫杖の先から、いくつも重ねられたリングがぶつかり合い、音を鳴らす。
川 ゚ -゚) 「ナイフは道中でお前に教えてもらうさ」
-
ちょっと休憩です
また後程つづきを投下させてください
------------
〜now roading〜
川 ゚ -゚)
HP / D
strength / E
vitality / E
agility / C
MP / B
magic power / B
magic speed / C
magic registence / C
------------
-
支援
-
支援ありがとうございます
再開します
-
モナーの依頼主は、工房のある街から山を1つ…その山中にある村に住むという。
そしてクーの目的地となると、そこからさらにもう1つ、山を越えた先に広がる湖をわたる必要があるらしい。
街を出発して二日め。
二人は1つめの山に足を踏み入れた。
この大陸には二季がある。
空の彼方…太陽がもっとも放熱する夏と、その放熱が静まる秋。
夏ならば山越えもひどく体力を消耗するところだが幸いとして、まだその季節ではない。
軽装でも問題なく過ごせるのがモナーには嬉しかった。面倒がなくて良い。
ただし、それは魔物にも同じことが言える。
(推奨BGM)
https://www.youtube.com/watch?v=GmR3AALCPzo&feature=youtube_gdata_player
「クケロケロッ」
生物が喉を鳴らす音が耳に届いた。
同時に、林の影から現れたのはケロロン族と呼ばれる二足歩行のモンスター。
知性があり、槍を携帯してはいるが体格も小さく臆病な個体が多い。
( ´∀`)「おっとと、あれ一匹だけモナ??」
川 ゚ -゚) 「過ごしやすい気候になるとどこにでも現れるな、コイツらは」
捕まえようとでもいうのか、クーは笑って腕を伸ばし無遠慮に近付こうとする。
( ´∀`)「あっ クー、危ないモナよ」
-
Σ 「コケロケロ!?」
しかしケロロンは二人を見るなり、ピョンピョンと跳ねてどこかへ行ってしまった。
持っている小さな槍が彼らの慌てぶりを示すように揺れ、やがて見えなくなる。
ケロロンはもともと凶暴な相手ではないが、暴れる個体も中にはいる。
モナーは用心のためにナイフに手を掛けていたが、ケロロンの後ろ姿を見送ると警戒を解いた。
( ´∀`)「ほっ」
…としてクーに目をやると、まだ構えを解かずに立っていた。
クーの目線はケロロンが逃げた先ではなく、まったくの逆。
つまり二人の背後だ。
川 ゚ -゚) 「私たちから逃げたわけではなかったか。
あれに喰われると思ったのか」
クーが威嚇するように錫杖を一振りした。
シャランっと錫杖から音が鳴ると同時に、茂みから四足歩行の獣が2匹、姿を現した。
まだ牙を剥き出しているわけではないが、明らかに二人を敵視していることが足運びと逆立つ毛並みから窺える。
恐らくは空腹なのだろう…舌を出しては口回りを舐めて、目をそらさない。
獣なりに人肉の味でもイメージして転がしているのか。
( ´∀`)「獣は背中を見せると飛び掛かってくるモナ。
先手必勝でとっとと追っ払うモナよ」
言いながらモナーは腰に携えたナイフを鞘から抜くと、獣に対して走り出す。
その動きは軽やかだ。
-
( ´∀`)「ハッ!」
刃が右下から左上に鋭くはしる。
…しかしそれだけだ。そこはなにもない空間。
モナーなりにタイミングを合わせて斬りかかるも、獣は容易く身をかわしている。
しかしかわされるのは予測していたか、モナーはそのままの勢いで 〆 の字を描くように腕を振り回す。
…直後、獣からうめき声が捻り出された。
モナーの手にあったナイフは、獣の腹部に深く突き刺さり、青白く発光している。
川 ゚ -゚) 「お前のスタイルは投擲か、なるほど」
クーも感嘆しながら残る獣に対して魔法の詠唱をすでに開始している。
獣は仲間のやられる様を見て怒ったのか、はたまた弱そうな人間を襲うことに復讐を見出だしたのか。
短く咆哮するとクーに向かって駆ける。
動きが早い …しかし、獣の欲望が叶うことはない。
川 ゚ -゚) 「姿を見るまえに使う魔法を決めたからな、乱暴だが気にするなよ」
クーの錫杖の先のリング、その内の一つが ギィン! と耳障りなノイズを発したと同時に、まさにいま飛び掛からんとする獣の腹部が爆散した。
(;´∀`)「!?!?」
飛び散る獣の頭部が爆風に押されてふわりと浮かび、残骸の脚部は爆風に押さえつけられて地面に圧する。
空中には鮮血のシャボン玉が紙吹雪のようにチリチリと散った。
それを見て、まるで固い鉱石を削るために、工具で摩擦させると飛び散る火花に似ているな、とモナーは思ってしまう。
-
(;´∀`)「す、凄い威力モナね」
モナーは自力で魔法を使うことはできないが、似たような効果を発揮する魔法を見たことがあった。
魔法の源となる魔導力を物理的なエネルギーに変換することで純粋な力をぶつける事ができる。
…しかしモナーが知っている"それ"とは威力が違いすぎた。
そもそもその魔法は非力な者でも一定の破壊力を出す事ができるというもので、追求してその破壊力を高める性質の魔法ではなかったはずだ。
まして一撃で獣を破砕してしまうなど、常人の出せる力ではない。
川 ゚ -゚) 「警戒しなければならない時は予め魔導力を練り込みながら歩いてるからな。
それをこの」
尖端にリングがいくつも重なっている錫杖を少し持ち上げてクーは続ける。
川 ゚ -゚) 「リングに溜めておくのさ。
あとは相手に合わせた魔法を解放するだけでいいから楽なものだ」
( ´∀`)「…まさか」
(推奨BGMおわり)
この世界には"リング"と呼ばれる、魔導力を内包した道具が流通している。
製造方法そのものは広く確立され、各地の細工工房でも一般化して販売されているものだ。
サイズは用途により様々。
指輪や腕輪、イヤリングにも応用できるが、魔導力を循環させるためにすべからくリング状である必要がある。
( ´∀`)「それに…その錫杖のリングは」
ただし通常のリングは、効果を継続して発揮させるために"薄く伸ばす"のが常識だ。
熱や冷気を溜め込んでおけば、ただの棒切れもその属性を帯びる。
猟師達は獣が苦手な性質を武器に持たせたり、漁師達は魚が力を失う性質を欲してリングを持つ。
そしてあくまでそれは護身用の効果に留まる。
一度発動するたびに効力が無くなってはお守りにもならないのだから、細工師はリングに魔導力を長く留める工夫をする。
( ´∀`)「いや、そもそも何度も魔導力を込めたり解放したり、それに耐えうるリングの素材があるモナか?」
好奇心が強いモナーは前のめりに興奮するが、その視界はすぐに肌色に遮られる。
川 ゚ -゚) 「落ち着け。一度に聞かれても疲れるだけだ」
つき出した手のひらをヒラヒラ眼前に泳がせてモナーの前進を静止した。
川 ゚ -゚) 「まだまだ歩かなければならないんだ。
歩きながらでも十分話はできるだろう」
-
……結局、一度話の腰を折られてしまったモナーは何かをクーに問い掛けることはなかった。
これまで一人で思考し、一人で試行してきたモナーは、自分の世界に閉じこもる癖がある。
目の前に他人が用意した答えを提供されてもそれを素直に受け取れない。
その日の夜、クーにナイフの指導を頼まれていた間もそうだった。
川 ゚ -゚) 「カチャ… カチャ… えいっ」
辺りは薄暗い。
かつん、と間の抜けた音を鳴らすのはモナーのナイフ。
がっしりした樹を見つけたクーが練習台とばかりに借りているナイフを幹に投げつけるが、刃が刺さるどころかひっかかりもせずに地に落ちる。
川 ゚ -゚) 「ふむ。思うように手首が動かないからか? こうスナップがだな」
( ´∀`)「……」
川 ゚ -゚) 「モナー、昼間のあの投擲はどうやったんだ?
単に手首を捻るだけではとても投げられないんだが」
( ´∀`)「……」
木々から枝を集めて燃やしている焚き火に視線を向けて、モナーはじっとして動かない。
その近くでクーはナイフ投げの練習に勤しんでいた。
しかしアドバイスを求めても反応がない。
川 ゚ -゚) 「なにをそんなに考えてるんだか」
無言と生返事ばかりのモナーとナイフの取り扱いに飽きたクーは、
先に横になるぞ…
と声をかけると外套にくるまり休息を取ることにした。
川 ゚ -゚) 「頭が良くても頑固者では宝の持ち腐れだ」
-
( ´∀`)「……あれっ」
ハッとした。
周囲をみれば、すでに焚き火は消えている。
クーも野宿に抵抗はないようで、樹に背を預けて寝息を立て、胸に錫杖を抱いていた。
こうして見るクーは、まるで貴族の娘か高級娼婦か…モナーは先程まで錫杖のリングに関して巡らせていた思考をクーに向けた。
濁りを知らないような綺麗な顔立ちだが、希望に枯渇した世捨て人の能面のように表情が動かない。
一見して礼儀知らずな素直な言動をするかと思えば、何人も子を育ててきた母親のようなお節介を焼こうとする。
( ´∀`)「君はいったい何者モナ……」
明日の昼頃には当初の目的である村に着く。
そこではモナーの造ったけっこん指輪を今かと待ちわびる依頼主が居るのだ。
それ以外の雑念は必要ない。
クーに貸していたナイフを回収し、腰の鞘に納める。
気持ちを切り替えようと努め、モナーも数十時間振りに睡眠を取るべく目を閉じた。
-
----------
たどり着いた村では、久方ぶりの来客が物珍しいようでモナーは何人にも声をかけられた。
起伏のあるこの土地は風が強い。
声をかけてきた村人に会釈しながらモナーは目的の家を探す。
村そのものは広いが、それほど人と頻繁にすれ違うことはなかった。
周囲に誰もいない事を確かめてからモナーは懐から取り出した手紙の模写を記憶から引っ張り出して文面を思い出す。
『庭先で黄色い花を沢山たくさん植えています。
小高い丘の上まで来てくれたらきっとわかるように』
景色に視線を戻すと…たしかに見えた。
もう少しだけ歩けば依頼主の家だ。
いつも依頼主に逢うときは緊張する。
自分と、モナーという一族の技術を頼って手紙をしたためる依頼主はどんな気持ちで自分を待っているのだろう。
深呼吸してから歩を進める。
家が近づくにつれて、モナーは心臓が早く脈打つのを自覚する。
家の目の前まで着くと、呼吸が浅くなる。
ひと呼吸… ふた呼吸… もう一度深呼吸して、扉を4度、ノックした。
扉の向こうで息を飲むような間を感じる。
ややあって開かれた扉から、モナーより少し若いだろうか、20歳を少し越えたほどの男女が出迎えてくれた。
男「モナーさん、ですね。お待ちしていました」
優しそうな青年だ。
モナーは軽く会釈して家の中に入ると素早く扉を閉める。
女「はじめまして。私達の手紙を読んでくださってありがとうございます」
後ろ髪でまとめて整った顔の輪郭をした女性は心からそう言った。
男女は笑顔で迎えてくれているが、モナーは目を細めるだけの笑顔で応対し、早々に荷物の中から防衝撃材で出来た小さな箱を取り出して男女の前に差し出す。
男「ああ、これが」
女「私達のけっこん指輪なのですね」
二人は顔を見合わせると、厳かに箱を開ける。
-
…中には、2つの指輪が収まっていた。
少し輪の大きい指輪と、それよりもふた回りほど小さな指輪。
中心部には、輪の内側と外側の両方から覗かせる真紅の鉱石が埋め込まれている。
( ´∀`)「…デザインも、"性能"も望まれた通りに仕上げたはずモナ。
もちろん、モナーは指を通していないから…」
まっすぐに二人の目を見据えながら、ひと呼吸おいて、言葉を続ける。
( ´∀`)「…"性能"はこの場で見届けさせてもらう義務がある…
本当にこれでいいモナ?」
男「もちろん構いません」
男はにっこりと笑う。
女「私達、けっこんするのですもの。
その証明人にあのモナーさんが成ってくれるのは名誉だと思ってます」
女はにっこりと微笑む。
( ´∀`)「…では、モナーの名をもって確かに貴方達の永遠の愛の証明者となりましょう」
モナーは笑わない。微笑まない。
男女はどちらも佇まいを直し、互いに正座で向き合うと…指輪をそれぞれ相手の薬指に嵌めた。
サイズもまったく正確な指輪は、男女の指でキラリと光っている。
女「……ああ、嬉しいわ」
男「…綺麗だね」
短くて長い時間、二人は互いの手を眺めていた。
まるで愛し子に別れを告げるように。
やがて笑顔のまま、どちらともなく、指輪を嵌めた手の平同士を重ね合わせると…
瞬く間に真紅の粒子となり、
二人の左手は指先から手首まで
粉々に散っていった………
-
モナーはじっとその様子を見つめていた。
二人の笑った泣き顔の下には、2つの指輪が知恵の輪のように絡み合って転がっていた。
二度と外れることのない、1つの指輪となって。
二人の左手は完全に失われた。
失敗ではない、この夫婦はこれから残りの右手同士で助け合い、文字通り手を取り合って生きて行くのだ。
…不便な生活も二人で乗り越える。
…不自由な人生を二人で支えあう。
そして、どちらかが天寿を全うする頃に、指輪は最後の仕事を果たすだろう。
二人のけっこんを見届けたモナーは外に出て、しばらく空を仰いだ。
庭先で咲き乱れる黄色い花が、風に吹かれて種を飛ばしている。
ふわふわと、綿毛のように舞っていった。
-
----------
そのころクーは当初の約束通り、村の入り口でモナーの帰りを待っていた。
今ごろは "結魂" 指輪の儀式も終わっただろうか。
街を出るまでに、この村の場所を地図で確認した時、一緒に読んでしまった。
クーが読んでしまった、模写された依頼主の手紙にはこう記されていた。
-
『私達の故郷では、結婚するときに誓いをたてるんです』
『病めるときも、健やかなる時も、お互いを尊重し、助け合う』
『天寿を全うして命尽きるその時には、二人で共に大地に還ることを誓います』
『…私達は二人とも子供を望めない身体なのです』
『次の世代に私達の証が遺せないならば、せめて精一杯生きて、誓いの通り、共に死にたい』
『私達の故郷にある信仰では自害はできません。この身に染み付いている教えは、いまの私達を苦しめてしまうのです』
『お願いします…私達が生きて、そして満足して死ぬために、モナーさんの力を貸してください』
-
川 ゚ -゚) 「……300年前に作られた風習と、800年前に現れた概念のせいで」
クーは大きく息をはき、
川 ゚ -゚) 「100年前から伝わる"呪術"を使わなければならないとはな…」
肺の中の空気を大きく入れ替えるべく息を吸い込んだ。
自然と見上げた空には、小さな花が飛んでいる。
しばらく見つめていたが、やがてそれも見えなくなると、村の方角からモナーが姿を見せた。
川 ゚ -゚) 「終わったのか?」
( ´∀`)「うん。 次は遺言を果たすモナよ」
あっさりとしたやり取りだが、二人はこの程度で良い。
そう至る思惑は違えど互いにそう感じていた。
(了)
-
!?
-
ひとまず本日分の投下は終了です
この話では第○○話〜という区切りは少しニュアンスが合わないので使用してません
それでも便宜上付けるならば
プロローグ:矛盾の命
>>1
第一話:繋がれた自由
>>17
となってます
次回投下の際は遺言のお話に進みます
-
今日の話の解説をと言いたいところだったが
最後まで読んでからにする
-
不思議な雰囲気だ…乙!
-
乙 惹かれる話だ
-
おつ
なんだこの雰囲気すげぇすき
陳腐な言葉しかでてこないが綺麗だ。次も楽しみにしてる
-
レス頂けて嬉しいです
ありがとうございます
この話は、
ドキドキワクワク!の冒険忌憚というより
ジーン、とか
スウーー、という感じのものになると思います
…カタカナが苦手すぎました
擬音は難しいですね
-
( ^ω^)千年の夢のようです
- 遺していたもの -
-
モナーを待っていた村の依頼主との契約を済ませてから十三日後。
もう一つの山も無事に越え、広大な湖を前にしたモナーは何度目かの興奮を露わにする。
( ´∀`)σ 「まるで海みたいモナね、向こう側が水平線になってるモナよ」
山越えでは休みながらとはいえ、歩けども似たような景色に辟易していたところだ。
日光に当てられた水面は刻まれる波に呼応するように反射し、魔法のように美しい。
日課となった、借りたナイフの感触を確かめながらクーが口を挟む。
川 ゚ -゚) 「ここまで来ることはあまり無いのか?」
( ´∀`)「大陸のこっち側は初めて。
一族としてもきっと渡った事があるのはいさんだけモナ」
-
地図で確認すると、この湖があるのは大陸の端。
湖を渡ったところで向こう岸には集落があるわけでもなく、すぐに海に出てしまう。
陸地からぐるりと迂回してもやはり観光になるようなものもない。
本来はこの湖を眺めて気を休めた後、皆 それぞれの道を歩んでいく。
だが、遺言である回収すべき指輪はこの湖を通る必要がある。
川 ゚ -゚) 「なんせ湖の真ん中に深く沈んでいるんだからな」
( ´∀`)「えっ」
川 ゚ -゚) 「お前の祖父が造った指輪は海に沈んでいる。
実は渡りきる必要はないんだ。
そうだな…ちょっと、こちらへ来てくれ」
-
----------
しばらくの間、先を歩くクーに従って向かう先には漁網が幾重にも大袈裟に被された、二人の背丈ほどある大きな岩がみえる。
ここまでくると道らしき道はなく、自然に囲まれた崖や浜が無骨感を醸し出していた。
( ´∀`)「? ここがどうしたモナ」
川 ゚ -゚) 「これは私が時間をかけて回収したものだ。
今は魔法と網でただの岩に見せてはいるが…」
クーが漁網をひっぺがえして軽く錫杖をかざすと大岩とその周囲の空間が一瞬歪み、その姿を現す。
ーー直後、異臭が辺りを包み込む。
-
(;´つ`)「ぐぁぅ…」
思わずえづく。
それは大量の甲殻獣や猛禽類、おそらくは貝や珊瑚など、この辺りに生息しているものが干物化した姿だった。
練り固められている。
まるで生き物という生き物の血や臓物を乱暴に吸出したかのように。
所々が風船のように膨張してグロテスクな形を擁してる。
ヘドロにまみれて固まった異形。
なぜか視線が外せなかった…こうして見たくないものを見ていると、視界が闇で狭まるような錯覚に陥る。
川 ゚ -゚) 「…ちょっと離れよう、空間をある程度は切り離してはいるから近付き過ぎなければ臭いもしなくなる」
コクコクと頷き、モナーは背を向けて数歩離れた。
クーも横にならび、同様に異形から目をそらす。
-
川 ゚ -゚) 「さて、順を追って話す。
これはお前の中だけで考えたり消化したりせず、しっかりと聞いてくれ」
俯くクー。モナーもニオイの元から離れると少し落ち着いた。
…最初にみた美しい湖を思い出すと空気も美味しく感じる。
川 ゚ -゚) 「さて、お前の祖父…二代目は、ここに居た女から依頼を受けて一つの指輪と、一つのリングを造った」
( ´∀`)「リングと…指輪?」
川 ゚ -゚) 「これが少々やっかいでな、どちらも実験的要素が強かった。
リングには揮発の特性を持たせた。
そして指輪には蓄積…半永久の特性を持たせたんだ」
錫杖を持ち直して、シャララ、と音が鳴る。
川 ゚ -゚) 「依頼主の女は、そもそも指輪には魔除けとしての効果を期待していたんだ。
…ちなみに、いまのお前ならこの依頼をどう応える?」
( ´∀`)「魔除け…半永久的…」
-
( ´∀`)「それなら光の属性を持つ魔導力から抽出したエネルギーを使うモナ。
破壊力としてのエネルギーベクトルは散漫で弱々しくても、スカラーとしては優秀なことが分かっているし、それを踏まえて造れば素材との組み合わせで波状的な相乗効果が…」
川 ゚ -゚) 「そうだ。いまならそうなるんだろう。
そして細工師としての技量が高いほど、比例して純度の高い効果が得られるはずだからな」
モナーと会話しつつも、クーは俯いたまま。
目を閉じているせいか、なにかを思い出しながら話しているかのように続ける。
川 ゚ -゚) 「だが、当時は光の魔導力というものは勘違いされていた。
定義が逆だった…人々が惹かれるほうが光だと考えられ、霊や悪魔のように魔なる生物が惹かれる属性が闇だと」
( ´∀`)「………」
川 ゚ -゚) 「そしてお前も…モナー一族にもそれが伝わってしまっている」
突如、刺すような一言にモナーは思わず身を固くした。
-
寿命のある人間は、物事を捉えきるまでに死んでしまう事がほとんどだ。
"人は想像力から闇に惹かれ、
霊は浄化を求めて光に惹かれる。"
その本質にたどり着くまでにどれだけの半端な知識を垂れ流したのか、当の本人らは理解するまえに死を迎える。
( ´∀`)「…たしかにモナーも、先代達もみんな闇の魔導力を使えるモナ」
川 ゚ -゚) 「……」
( ´∀`)「モナー一族に伝わる闇の魔法は…一つだけ」
ーー【ドレイン】ーー
モナーが先の村で受け渡した指輪にもこの【ドレイン】がかけられていた。
けっこん(結魂)指輪として、契約者同士の命を繋いだのは、禁忌を犯す死の呪い。
指輪を介して契約者の魂部分を構成する魔導力を指輪がドレインし、瞬間的に溶解した個別の魂を合わせた後、再び二つに分離して分け与えることで極めて拒絶反応を抑える。
ただし混ぜ合わさった魂は一心同体となる…どちらかが欠けてしまえば、それまで抑えられていた拒否反応が蓄積された年数分、契約者に襲い掛かる。
数十年生きてから片方が死ねば、数十年分の死の波動を遺されたもう片方が一身に受けることになる。
-
( ´∀`)「これがうちの家系に伝わった理由はモナーにも分からないし、そもそも滅多に使うこともないけれど…」
川 ゚ -゚) 「だろうな。
さっきの私の"アレ"も、あくまで擬似的にドレインを再現しただけで厳密には異なる魔導の仕組みだ。
まだ私のドレインは完成していない。
それを鑑みればお前達の呪術は精密で正確だから効果範囲が適切に限られている」
ただしそれは呪術だけの話でな。
付け加えて、クーは話を戻す。
川 ゚ -゚) 「細工技術というよりはそもそも当時の製造過程に難があったのかもしれない。
指輪は後々、依頼主だった女にも扱いきれないレベルで暴走を始めた」
話ながら二人は船を貸借りるために船渡しを探す。
川 ゚ -゚) 「暴走を抑えるにはその女が命を懸けてでもなんとかすれば良かったのだが、あまりに魔導力が反発するので決着が長引くほど、下手をすれば大陸全土に余波で呪いカスが広がる可能性があった」
(;´∀`)「そ、そんな…」
川 ゚ -゚) 「パンデミックとでもいうのかな…何が起こるか予測できないものを引き起こすよりは、と女が考えたのがこの広い湖を使った封印行為だったのだが…時間稼ぎが関の山だったよ」
-
小さな船を借りた二人は散歩に行くような足取り…それよりも少しだけ早歩きで船に乗り込み、沖を離れる。
ゆっくり、しかし確実に、二人を乗せた小さな船は湖の中心部に近づいて行く。
湖は相変わらず美しい。
透き通った水面は、その水面下を泳ぐ魚達の動きひとつひとつを優雅に魅せる。
-
(;´∀`)「…読めてきたモナよ。
まさかクー、君は…君がその…」
川 ゚ -゚) 「巻き込んですまないな、四代目。
しかしこの数日間だけでもお前の仕事に懸ける誠実さは本物だと感じたよ」
(;´∀`)「クー…」
川 ゚ -゚) 「以前も同じことを言ったが私は嘘などつかない。
二代目への依頼主とは私本人だ。
ずっと生きている…不死者というやつだ」
(;´∀`)「でっでも! …いや、もし失敗したらどうするモナ!」
川 ゚ -゚) 「その時は私なんて放っておいてひとまず工房に戻ってくれ。
今回みたいに直接指輪に向かう分には時間はもっと稼げるのさ」
クーの錫杖がカタカタと震え出す。
クーではなく、錫杖がひとりでに震えている。
川 ゚ -゚) 「実はその時のための保険をかけておいた。
お前ならすぐ気付ける類いのな」
錫杖はクーの手の中で激しく暴れている。
反動で船が揺れている。
しかし気が付けば、足場はクーの魔導力によって安定するよう少しだけ浮いていた。
-
川 ゚ -゚) 「ついでに言っておくが、いくら死なないと言っても殺され続ければずっと動けないし、痛いものは痛かったりする。
だからつけられる決着はつけておくのさ」
(;´∀`)「クー!モナーは…!!」
先程から耳鳴りが鳴り止まない。
クーの魔導力だけではなく、湖からはち切れそうな精神圧迫が押し寄せて、それを相殺しあっているせいだ。
身体全身を震わす衝撃が止まらない。
川 ゚ 々゚) 「覚悟を決めろ! モナー!
お前を信じてるぞ!」
ギギィインッッ
キリ
ギャッギャッ
キリキリキリ
キリキリキリキリキリキリキリ
振り上げ、水面に叩きつけられた錫杖から不協和音が凶悪にハウリングする。
湖の全ての水が逆流、驚地動天、まるで巨大な滝からなす統べなく落ちていくような浮遊感をモナーは感じた。
-
------------
〜now roading〜
( ´∀`)
HP / B
strength / C
vitality / D
agility / E
MP / G
magic power / D
magic speed / D
magic registence / E
------------
-
昔、遥か海のそのまた向こうの大陸で起きたのは失われた歴史。
紅い森と呼ばれる土地でのジェノサイド。
それを逃れ僅かに生き残った部族により、人が語る歴史からは透明性を欠如したが、
代わりに "呪術" を産み出す結果を招いた。
-
----------
モナーが目を覚ますと、一見して先程までとさほど変わらない景色が視界に入る。
どうやら船の上で倒れていたらしい。
クーの後ろ姿を煽って見上げていることに気が付く。
激震するクーの錫杖、
叩きつけられた水面、
宙に舞った自身の身体…
一瞬の出来事に記憶のフラッシュバックを順番に行ってから立ち上がる。
モナーのそんな悠長な寝起きを、周囲の風景が叩き砕いた。
重量感のある水泡の割れる音が聞こえる。
異臭が酷い。
…赤黒い大地が一面に広がっている。
しかし足場は乗っていたはずの船に間違いない。
耳鳴りが鳴り止まない。
続いていたのだ、モナーが気を失っていたほんのわずかな間も。
川 ゚ -゚) 「目が覚めたか」
光る錫杖を両手に持って身体を支えているクーをみて、急激に体温が下がった。
(;´∀`)「こ、これは…」
川 ゚ -゚) 「これが湖に封印していた指輪のいまの正体だよ。
湖の中だけでなく、周囲の土地からも穢れという穢れをドレインしたんだろう」
少しだけ落ち着いた口調でクーは状況を把握させる。
そう、この赤黒い大地があのさきほどまで美しかった水面なのだ。
いまや空気に触れた血液のように濁り、見渡す限りを埋め尽くしている。
-
モナーとクーの立つこの船の上だけが、まるで地獄の釜に投げ込まれたような錯覚に陥った。
時々、火柱のように吹き出る様は亡者が足掻き悶えて伸ばす腕のように見える。
このような光景が、誇りをもって取り組んできたモナー工房の…自分のおじいさんの仕事の結果とでもいうのか?
ドレインがいわゆる闇の魔導力といえど、ただ吸いとり、吐き出す…それだけの魔法だとタカをくくっていた。
ちょっとした物珍しい技術の延長と考えていた。
直面する地獄絵図にモナーは愕然としてしまう。
-
川 ゚ -゚) 「さあ、モナー」
気が付けばまたモナーの悪い癖が出ていた。
クーの一声で、現世に意識を引きずり戻される。
川 ゚ -゚) 「私がもし一人だったら、この状況のまま何年も膠着してるところなんだ」
川 ゚ -゚) 「でも今はお前と共にきた。
今ならお前のお陰でこの状況を静めることが出来るかもしれないんだ」
錫杖のリングが一つ、いままさに光を失っていくのをモナーは見逃さない。
これでは何年どころか、クーは錫杖に装着した揮発性の魔導リングを使用してやっと状況を膠着させているだけ。
そう長く保つはずがないのは分かりきった事実だ。
一つ一つ、状況を把握して身に落としていくにつれ、モナーは冷静さを取り戻してくる。
腰のナイフを抜き、懐から一つリングを取り出すと、ナイフの柄尻に装着した。
(;´∀`)「はぁ、はあ」
呼吸が浅い…
深呼吸を一回、 二回とゆっくりする。
川 ゚ -゚) 「いいぞ、そのまま聞いてくれ」
ナイフを持つ手が汗で滑る。
深呼吸をもう一回した。
川 ゚ -゚) 「この湖の中に飛び込む必要はない、多分20秒と潜って無事ではいられないからな」
モナーは唾を飲み込み、頷く。
川 ゚ -゚) 「この底から私が指輪をなんとかして引きずりあげる。
お前のドレインの有効範囲は?」
さきほど柄尻に装着したリングの具合を確かめてみる。
モナーは自力で魔法を使うことはできない。
つまり……
-
(;´∀`)「はっきり言うよ。このナイフが届く範囲モナ」
闇の魔導力を行使するために、専用のリングからエネルギーの管を通して対象から魔導力を抽出する必要がある。
川 ゚ -゚) 「わかった。
指輪からのドレインは私が潰す、そうすればお前のドレインが一方的に効くだろう。
…もう一度言うが、私が失敗したら工房にまっすぐ帰るんだぞ」
そう念を押すクーの錫杖から、また一つリングの光が消えた。
クーの身体がガクンと崩れるが、それも一瞬。
何事もなかったように錫杖を構え直す。
川# ゚ -゚) 「フゥッ!」
バシンッと空気を震わすクーの魔導の鼓動に合わせ、船が揺れる。
同時に船底をかすめるように、赤黒い水面に渦が巻き起こりだした。
今度はそれに抵抗するかのように、地鳴りのような音がまるで五感を奪うために鳴り響く。
クーが作り出す渦はそれに構うことなく深く、大きくなっていく。
指輪の出現を待っているモナーですら吐き気が止まらないのに、クーは微動だにせず魔導力の放出を続けている。
このような精神を、この華奢な身体のどこに秘めているのか。
-
その時、二人の背後から赤黒い亡者の腕が水面に固定されたように出現した。
影に気付き、振り向いたモナーが慌ててナイフでガード態勢に入る。
…しかしその攻撃がモナーに届くまでに、幾何学模様の魔法シールドに阻まれ弾かれた。
さらにそれに終わらず、たちまちシールドの余波で亡者の腕が霧散する。
どうやらこれもクーのおかげのようだ。
防御魔法まで張り巡らせていた…
モナーの知る限りのどんな魔法使いよりも、クーは展開を読み、魔法を使いこなしている。
川; ゚ -゚) 「…そろそろ来るぞ」
クーの顔が視界に入ると、モナーからみてもさすがに疲れが見え始めたように思う。
実際はそれほど時間は経っていないだろうが、それほどクーの消耗が激しい状況なのか。
気を失っていた自分を叱咤する。
川; ゚ -゚) 「言っておくが余計な真似はするなよ、気遣いも必要ない。
お前には指輪のために全力を尽くしてもらうからこそ、私がそれ以外に全力を尽くしているだけだからな」
クーがなにかの詠唱を行い魔導力を組み直すと、錫杖のリングの光がまた一つ消えた。
…いや、モナーが気が付かなかっただけで恐らくもっと減っている気がする。
ーーもう、やるしかない。
-
( ´∀`)「見えたモナ!」
渦の中から響き渡る亡者の叫び声と共に、指輪がゆっくりと水面から現れ、宙に浮いた。
川 ゚ -゚) 「やってくれ、モナー!」
(# ´∀`)つ=> 「せえぇーぃゃ!!」
モナーが腰を静め、その反動で全身をバネのように使い、ナイフを突き刺す。
ナイフと指輪が接触すると同時にジャストタイミングで発動したモナーのドレインが、指輪の動きを止める。
指輪から小さな淡黒い魔導力が漏れていくのが分かる…しかし、すぐには終わらない。
"((∴ ;´∀`)).゜「あがっ だッ」
漏れても漏れても指輪から溢れる黒い魔導力が、逃げ場を失い苦し紛れにナイフの持ち主へと殺到。
その力は徐々にモナーの身体を蝕んでいく。
-
川; ゚ -゚) 「ちっ、しゃらくさい!」
クーはモナーの一挙一動を監視してはいるが、手を差しのべることができない。
渦から飛び出た指輪の座標固定。
指輪のドレイン封印。
周囲の赤黒い水面からいまにも這い上がろうとする亡者の腕の抑止。
船の破壊防御。
足場の安定。
モナーへの魔法シールドの展開。
指輪の魔導力が作り出す空間の穢れの相殺。
_,
川; ゚ -`) 「く…そぅ、まだか…!?」
思わず奥歯を噛む。
錫杖のリングの力を駆使してるとはいえ、すでにクーのキャパシティは限界だった。
そもそも異なる複数の魔導力を行使できること自体が異常なのだ。
このままではこれ以上の魔法は使えない。
((#;;;´∀`/))つ=> 「あがが……!」
モナーは指輪の魔導力に傷付きながらも、ドレインの発動と突き刺したナイフを力の限り指輪に捩じ込んでいる。
ーーしかしその時、彼の頭のなかは、別のことに満たされていた。
-
----------
四代目モナーが、祖父である二代目と過ごしたのは極僅かな期間と回数だけ。
父は三代目として修行するべく、モナーの産まれる以前より、祖父と毎日まいにち工房で細工仕事をしていた。
親子といえども手加減のない指導に、いま思えば父も辛い思いをしていたのかもしれない。
モナーが産まれ、物心のつく年頃になっても、家庭での父は仕事の愚痴も多かったが、祖父その人を悪く言うことは一度たりともなかった。
モナー六歳の誕生日の時、珍しく祖父が会いに来た。
( ´/∀\`)『お前もそろそろ、触ってもいい頃合いだろて』
…そういって差し出されたのは、子供用に祖父が造ったスミスハンマーだった。
-
それはまだ幼いモナーの手によく馴染み、はじめこそは
『こんなもの!』
と、ふて腐れていたモナーも、気付けばよく触って感触を確かめていた。
滅多に逢うこともなかったのに、何故それほどの物を造ることができたのか不思議だった。
それから間もなく、祖父は倒れた。
父が朝はやく工房へ足を踏み入れたときにはすでに死んでいた。
原因は ーー 不明。
外傷もなく、ましてや持病もなかったはずの祖父。
病院で死因検査も行ったがなんの異常も発見されなかった。
当時はもう街の人々との交流もほとんど無かったため、葬式は身内だけで行った。
遺留品をまとめ、散らかったままの工房を片付けていた父とモナーが目にしたのは、最後に依頼を受けた客の、このあと産まれてくる予定だという赤ん坊のために造っていた小さな手乗りのメリーゴーランド。
土台となる円柱の内部にリングを埋め込み、風の魔導力で廻る仕組みのその玩具は、父が代理として依頼主に届けたらしい。
そもそも、本来の依頼の品はすでに引き渡していた後だった。
その品は、祖父が必要だと思って、それだけの理由で追加で造った玩具だったのだ。
-
その翌年の夏、父のもとに届けられた一通の手紙。
祖父の形見となった玩具を受け取った依頼主からだった。
『 猛暑が続き、
熱病が村で流行りました。
小さな子供たちが
何人も亡くなってしまった…。
でもね、モナーさん。
うちの赤ん坊ももう少しで
命を落とすところを、
貴方からいただいた
玩具のメリーゴーランド…
急に強い風が出てきて、
子を守るように
まとわりついてたんですよ。
不思議ですね。
壊れたわけでもないのに。
おかげで体温も上がりきらず、
うちの子も助かりました。
貴方に感謝致します。』
-
こんなものは偶然だ、と父は手紙を手の甲で軽くはたいて笑って読んでいたが、その顔は誇らしげにみえた。
ーー祖父の心遣い一つが命を救った可能性があるならばそれでいいと思う。
幼いながらも、それらしい言葉を使いモナーも父に祖父を誇った。
より嬉しそうに、父が頷いた。
-
----------
((#;;;´∀`/))つ=>「ぐ、ぐぅぅ…!」
この現状が祖父の遺恨となってしまうなら、それは遺された者が晴らさねばならない。
死者はもうなにも遺せない。遺さない。
遺っているのは、人が死ぬ前にやり残した事だけだ。
川 ゚ -゚)『お前の祖父の遺言だ』
そう。
どんな形であれ、祖父は死ぬ前に遺していたじゃないか。
生きていたからこそ、遺言があった。
なにも残さずに祖父は死んだわけではなかった。
遺言がない事を、
父も、モナーも、
いつの間にかそれが祖父の落ち度のように、どこかで考えるようになっていた気がする。
それをいま生きているモナーが無事受けとることが出来た。
この仕事は、しっかりとモナーに託されたのだ。
(#;;;´∀)つ=>「んがぁあ!!!」
モナーは最後の魔導力を振り絞り、指輪に注ぎ込む。
-
指輪から漏れ出る淡黒い魔導力も、残りカスのように絶え絶える瞬間。
……パキ ィ ン 。
モナーのナイフが折れた。
その瞬間、心の中のなにかも一緒に折れてしまったかもしれない。
ドレインの魔導力も最後まで伝け切ることはできなかった。
(#;;;´∀);." 「…ガフッ」
精魂尽き果てたモナーは、指輪に当てられ続けた魔導力のダメージを自覚する。
もうこれ以上の魔導力をぶつけられれば、耐えることはできない。
船が大きく揺れた。
モナーは倒れていく自分の身体になにも抵抗できない。
景色が暗く沈んでいく…。
川#;;゚ 々゚)
つ=> 「モナーよく頑張った!!」
咆哮が辺りを震わす。
邪悪ではない、
期待していたものを我慢して我慢して、
やっと手に入れたような希望の叫び声。
-
いつのまにかクーの手には錫杖ではなく、モナーから借りたままのナイフが握られていた。
錫杖とリングを手放し、すでに他の全ての魔法も解除している。
川#;;゚ 々゚)つ=> 「決着だ、私のような不死者は共に戦う他人の技術を時間をかけて盗める!
モナー、きちんとバトンは受け取ったぞ!」
川 ゚ -゚) 『ナイフはお前に教えてもらうさ』
川 ゚ -゚) 『私のドレインはまだ完成していない』
_,
川; ゚ -`) 『く…そぅ、まだか…!?』
-
クーはモナーからナイフ技術と、指輪に対するドレインの魔導力を盗み覚えていた。
さらにモナーと違い、クーは自力で魔法を行使できる。
リングのないナイフでもドレインの魔導力を込める。
そして周囲から迫る亡者の腕を掻い潜り、すでに指輪に接近していた。
川#;; ゚ 々゚) 「長い時間またせたな!
私のもとに戻れ、ばか指輪が!」
指輪は座標固定の魔導力が解除されているため水面に落ち逃げようとしている。
クーの腕は間に合わない
指輪が水面に沈む
ーー そう思われた瞬間
ーー クーの手から投擲されたナイフが指輪を貫き
ーー ナイフに込められたドレインが
ーー 発動する。
-
----------
波打ち際で倒れている男がいる。
美しい湖には不釣り合いのような、よく見れば傷だらけだが、呼吸していることが分かるため深く心配はしない。
( ´∀`)「………ねえ、クー?」
倒れていた男、モナーは隣で方膝を立てて座り込む女…クーに声をかける。
川 ゚ -゚) 「なんだ?」
( ´∀`)「指輪にナイフを突き刺しながら、モナはお爺さんのことを思い出してたんだよ」
川 ゚ -゚) 「ほう、ずいぶん余裕だったんじゃないか」
咎めるような言い方だが、クーはむしろ笑っていた。
-
( ´∀`)「お爺さんはお爺さんなりに精一杯生きたんだと思うモナ。
突然死んで家族は戸惑ったけど、考えてみれば大きな混乱はなかったんだ」
( ´∀`)「工房の仕事もお父さんがすぐ継げた。
そうしてモナーも成人した頃には仕事を任してもらえるまでになってたモナよ。
…精一杯生きたお爺さんだからこそ、色んな準備をしてたんだって分かったから、お父さんも見習って、モナーに工房を引き継げるまで指導してくれたんだモナ」
クーは黙って耳を傾ける。
( ´∀`)「モナーは一人で工房の仕事をするようになってから、過去の伝統や習慣ばかり気にしてたモナ。
余計な人に会わないとか、依頼のためならなにかを犠牲にしても良いとか」
( ´∀`)「そんな結果ばかり気にしてたから、細工師として信頼はされても、モナー個人としての信頼はまったく得られてなかったことにすら気付かなかったんだ」
クーが立ち上がる。
モナーはそれに気付いてるのか、独白を続けた。
( ´∀`)「あまつさえ同じ街で暮らす人達からの一切の依頼を断ってきたモナ。
おじいちゃんもおとうさんもそうしてきたから、そうするものだと思い込んでた」
( ´∀`)「でもそうじゃないんだ、評判を聞いてやってきた権力者が、さも当然のように造って貰おうとする…
気持ちのないただのブランド欲しさの態度が気に食わないからおとうさん達は断り続けて…
街の人達がそれを誤解した。
そして…モナもそんな彼らを誤解してしまってたんだ」
苦々しく、しかし清々しい口調で語るモナーは真っ直ぐ空だけを見上げ続けた。
-
蒼い空の下で懺悔するように、想いを口にしてみると心が洗われるようだった。
…思えば空を眺めるのをいつからやめてしまったのだろう?
子供の頃のほうが空模様をよく記憶している気がする。
( ´∀`)「…ねえ、クー?」
川 ゚ -゚) 「なんだ?」
クーはすぐに返事をしてくれる。
いつも考え事ばかりしていた自分と比べたら、まるで空のようにオープンな態度。
( ´∀`)「友達になってほしいモナよ」
突然のモナーな願いに、クーも思わず動きが止まる。
モナーを見下ろした体勢でその顔を見つめた。
川 ゚ -゚) (´∀` )
アハハッ
…声をあげて破顔したのはどちらだろうか…。
肩で息を吐き出したクーは、根負けしたようにかぶりをふって答える。
川 ゚ -゚) 「お前だけが老けても、私は若いままだからそのうち親子みたいな友達になるかもな」
そういって、懐から指輪を取り出した。
ドレインし尽くされ、魔導力のからっぽな指輪…。
それをモナーに投げ渡す。
-
川 ゚ -゚) 「ではさっそく友達価格でその指輪の修理を頼むよ。
お前のご自慢の技術でな」
「後日また工房に行くよ」
と、返事を待たず後ろを振り向いて、足早にクーはどこかに歩いていった。
モナーはそれを見送り、手を振る。
やがてお互いの姿が見えなくなった。
川 ゚ -゚)
「…まったく、よく喋るようになったものだ。
長生きしてれば面白いこともあるものだな」
「長生きしてるせいか変なところで素直じゃないモナね、きっと。
いつの間にか笑うようになったのは気が付いてるのかな?」
(´∀` )
モナーも立ち上がり、帰路につく。
久し振りにみる自分の工房は、もしかしたら今までと少し違った風景に見えるかもしれない。
(了)
-
便宜上の第三話
>>48
を投下しました
本日分は以上です、ありがとうございました
そして今回、読んでくださった方にお願いがあります
せっかくなので今後の投下エピソードの順番を決めてもらいたいのです
ーーーーーーーーーー
プロット上ですでに決定しているメインキャラを下記から一人ずつ選択してください
同一の方でなければキャラ重複可能、
同一の方による連投のキャラ重複は不可とさせてください
※一レス内に一キャラを適用
※先着順10キャラ分のエピソード適用
ミ,,゚Д゚彡
(´・ω・`)
('A`)
川 ゚ -゚)
( <●><●>)
上記5名より。
ブーンには役目があるので選択不可です
すみません
10キャラ分がカウントされたら告知しますね
よろしければご要望のほど
よろしくお願いします
-
乙
引き込まれるいい雰囲気だ
キャラはミ,,゚Д゚彡で
-
乙!すごい面白い!
俺は('A`)が見てみたい!
-
乙 面白かった
俺もキャラはミ,,゚Д゚彡で
-
読み&レスありがとうございます
>>82さんの
ミ,,゚Д゚彡
>>83さんの
('A`)
をカウントします
----------
ミ,,゚Д゚彡 → ('A`) → ?
----------
なお、ブーンは合間に登場してきます
すぐには10キャラ埋まらないと思うので、
投下をまたいで募集させて頂きます
-
>>84
行き違ってしまった!
ありがとうございます
カウントさせて頂きます
----------
ミ,,゚Д゚彡 → ('A`) → ミ,,゚Д゚彡→ ?
----------
残り7キャラ分
なお、次回投下はブーン枠なので
また後日近いうちに書き込ませて頂きます
-
乙
期待してる
( <●><●>)で
-
おつ
(´・ω・`)が見たい
-
おつおつ!
続き楽しみだ!
('A`)で
-
こういう物語には(´・ω・`)が不可欠、ショボン希望
-
思ったよりレスを頂けて驚いてます
ありがとうございます
嬉しくて投下を焦りそうになりますが、まだ細かいミスが出てしまうのできちんと推敲しております
たぶん書き込む際のコピペで文を細かくいじるのが原因かもしれないので、やり方もきちんと決めないとですね
キャラ選択は思ったりより偏りがなくてほっとしてます
('A`)主役の面白い小説が多いので、
万が一にも10連発とかされたらどうしようかと内心ハラハラしてました
----------
ミ,,゚Д゚彡 → ('A`) → ミ,,゚Д゚彡→
( <●><●>) → (´・ω・`) →('A`) →
(´・ω・`) → ?
----------
残り3キャラ分
-
どっくんで
-
ワカッテマス
-
ありがとう、しかしゴメンナサイ
軽くネタバレになるかもですが諸々の事情により
>>92
>>93
は無効票とさせて頂きます
-
出てないので川 ゚ -゚)を
-
同じく川 ゚ -゚)をが見たい
-
川 ゚ -゚)でお願いします
-
皆さんありがとうございます
>>95
>>96
>>97
の川 ゚ -゚)で計10キャラ分のカウントを修了します
----------
ミ,,゚Д゚彡 → ('A`) → ミ,,゚Д゚彡→
( <●><●>) → (´・ω・`) →('A`) →
(´・ω・`) → 川 ゚ -゚) →川 ゚ -゚) →
川 ゚ -゚)
----------
投下順は上記で行いますね
「どっくん」や「ワカッテマス」の無効票は、話が作れないとかそういった事情とは異なります
「その文字が選択肢になかった」、という程度で考えて頂ければ幸いです
むしろ川 ゚ -゚)の三連発に驚きました
-
現在のお話
( ^ω^):矛盾の命
>>1
( ´∀`):繋がれた自由
>>17
( ´∀`):遺していたもの
>>48
本日21時以降に、次のお話を投下できると思います
-
wktk
-
( ^ω^)千年の夢のようです
- 老女の願い -
-
空から太陽がこぼれ落ちていく頃。
光の下に集っていた人々がパラパラと荷物をまとめる時間。
辺りが闇に包まれようとすると、人は逃げるように、それが人工的なものであっても次の光を欲する。
まだかと帰りを待つ者を思い浮かべながら家庭に身を急ぐ人もいれば、一日の疲れを癒すべく、同じ目的の者が集う場へ身を隠す人もいる。
そのどちらも、心の安寧を求めて。
闇夜から身を隠し、安心して喧騒に溢れた酒場で飲む酒はひと味違う。
肉体労働のあとに飲む酒は最高だ、と声をあげる人達もたくさんいる。
…つまりそれが合わさった条件下での飲酒は、当てはまる者にとっては極上の嗜みといえるだろう。
酒好きには堪らない時間がここにある。
-
「おっ、ここじゃあ珍しい顔だな」
捲りあげた袖から、まだ発汗している腕を見せつけるように、頭にバンダナを巻きつけた男がジョッキ片手に隣にどかっと座る。
「観光か? 良かったら案内してやるぜ」
含み笑いをしながら話し掛けてくる男を一瞥したが、すぐに視線を自分の手元に戻す。
(,,゚Д゚) 「……グビッ」
先にこのカウンターに座っていた男は黙って酒をあおる。
美味い酒。
渇いた喉を刺激し、潤し、頭の中に沈殿した雑念を分解していくアルコールは、一種の麻薬だ。
「おいおい、聞こえないのか? 親切してやるって言ってるんだぞ」
バンダナ男の声が一オクターブ上がる。
吐息からは独特のアルコール臭…
すでに何杯も酒を飲み気が大きくなってるのか、ちょっとした事でも腹をたてているのだろう。
(,,゚Д゚) 「………」
一呼吸の間だけ顔を見合わせたきり、返事はない。
そのまま手元のコップを口に運び、少しだけまた酒を飲む。
沈黙が続くと、バンダナ男が立ち上がり
「けっ! ダンマリかい、湿気た面で不味そうに飲んでんじゃあねえよ」
と吐き捨てると、自分のジョッキを持ってまたどこかのテーブルに移動していった。
-
(,,゚Д゚) 「……」
"バンダナ男"の隣で酒を飲んでいた男がそれを見届けると、 席を移動してくる。
(,,゚Д゚)ゞ 「…よう、面倒くさかったろ?
まあ気分じゃなければああやって相手にしないのも一つの手だよな」
そしてこめかみを指で掻きながら、声を掛ける。
( ^ω^)「……」
バンダナ男に絡まれていたブーンは、同じように一瞥するだけで、再び手元の酒に視線をやる。
(,,゚Д゚) 「いやいや、すまない。
べつに絡むつもりはないんだ。
俺はギコ、あの野郎は飲みすぎると人様に話し掛けてはつまらねーお節介しようとするんで心配して様子見てたんだ」
( ^ω^)「…そうだったのかお」
(,,゚Д゚) 「けんかっぱやいとこもあるけど根は悪いやつでもないから、まあ水に流してやってくれないか。
もし今後なにかあれば俺に言ってくれ、すぐおさめるからさ」
-
ブーンはギコの言葉を聞きながらコップの中の酒を少量、口に含み、舌で転がす。
唐黍の甘い風味が遅れてやってくる。
のんびりと味わうのにこの酒は都合がいい。
( ^ω^)「ギコは彼の知り合いかお?」
(,,゚Д゚) 「ん、あー、…だった頃もあるんだけど多分あいつはもうあまり覚えてないかもな。
名前を言ってやれば気付くだろうけど」
ギコも持っていたコップをあおり、酒を飲む。酒場の空調の流れで柑橘系の薫りが、ふと漂った。
「お、ギコさん! お疲れさまーすっ、仕事終わりっすか?」
(,,゚Д゚) 「ん…?」
Σ(,,゚Д゚) 「おおー久し振りだな。
はは、今日は通しで工事に加わってたもんだから寝る前に少しだけな」
間もなく声をかけられたギコが振り向くと、若い二人組の青年が背筋を伸ばし、ギコに対して笑顔を向けていた。
二人ともそこそこに整った身なりをしている。
首もとには揃って同じ色のスカーフ。
滞剣してはいるが、鞘から誤って抜けないよう麻紐で柄を縛り付けていた。
「それはお疲れさまでした」
「ギコさんなら二、三日くらい通しで働いても大丈夫じゃないすか。
どーせ帰ったって、すぐに寝ないで奥さんとラブラブするんでしょー?」
真面目な青年と、砕けた口調で話す青年は、印象は異なれどどちらも穏和な雰囲気を醸している。
(,,゚Д゚) 「ばか野郎、なーにがラブラブだ。
もう60近いオッサンは丸一日完徹しただけでも奇跡なんだ、ラブラブもしねえ!
もっと労りやがれ」
ギコハハハ!と笑いながら、青年の横っ腹を肘でつつく。
仲の良い様子で一言、二言と言葉を交わすと、青年らはその場の別れを告げて奥の席に移っていった。
-
(,,゚Д゚) 「すまんすまん、今の奴らはこの町の青年自警団でな。
治安維持に貢献する頼もしい奴等さ。
実は俺もさ、昔はああやってパトロールとかしてたんだ」
…知っている。
ブーンが手に持っていたコップを傾けると、カラカラと氷がぶつかり音が鳴った。
40年ほど前にも、ブーンはこの町にツンと一緒に来たことがある。
当時まだ16歳になったばかりの少年の姿を思い出す。
(,,゚Д゚) 「今はしがない炭鉱夫だけどな。
引退するまでさっきの奴等や、まだぺーぺーだったあのバンダナ野郎にも稽古つけてたもんさ」
ギコはまた笑い、カウンター越しのバーテンダーの男に酒を注文する。
シェイカーを取り出しててきぱきとした動きを見せている様を眺めながら、
(,,゚Д゚) 「ところであんたのそれ…方言か?」
と、聞いた。
(,,゚Д゚) 「どっかで聞き覚えのある発音というか語尾訛りだよなあ。
それとも…海の向こうではそういう、ぁム、…もんなのかね」
言いながら、つまみに出された豆を一噛みすると、新しい酒が来るまでにさっと古い酒を飲み干す。
-
( ^ω^)「おっおっ。
そういうギコの笑い声も特徴があるお」
(,,゚Д゚) 「違いねえ、ギコハハハ!
こりゃ方言というか癖なんだがね。
こんなオヤジがおかしいか?」
やっとブーンの顔に笑みが見えはじめて、ギコも少し安心したのか歯を見せて笑う。
(,,゚Д゚) 「にしても…この町にはどんな用件で来たんだ?
とりたてて特徴のない町だし…まあ近くに鉱山があるから、リングや細工物の素材には事欠かないけどよ」
会話の流れで相手の立場や目的を聞き出そうとする。
組織化された自警団が旅人に行うこのやり方は、個人の勘や偏見による危険人物の監視よりも合理的かつ平和的な手法だ。
ギコの喋り方や親切そうな態度を見聞いていると、罪悪感からコソコソと悪巧みをしているような小悪党なら警戒心を解いてボロを出しそうだ。
ブーンはそれが年を重ねても身に付いているギコに感心した。
( ^ω^)「探し物なんだけど、今日一日まわってみても見つからなくて…
もう一日まわってみて、それでもなければ、また別のところに探しに出るつもりだお」
(,,゚Д゚) 「あ〜そうかそうか、そりゃ残念だったな。
なにを探してるのかわからんが、たしかにそういうのはたいてい大きな街のほうがいいかもな」
-
会話の合間を縫うようにバーテンダーがギコに新しい酒を出す。
話す二人の視界に入らないよう腕を低く、音も最低限しかたてず、しかし液体の入ったグラスの存在感だけを客に知らせるその挙動からも、ここは気配りのできた店だ、と感じさせた。
(,,゚Д゚) 「泊まる場所は確保してあるか?
宿がわからなきゃ案内するが…」
( ^ω^)「問題ないお、町の中心地で以前教えてもらった宿を見つけて、もう支払いも済ませたから」
自分のコップからは酒が無くなり、追加する気もないためブーンは立ち上がる。
(,,゚Д゚) 「それなら良かった。もういくのか?
また明日どっかで会ったらよろしくなー!」
ギコはまだまだ飲むつもりだろうか。
ブーンは自分の酒の代金を支払い、彼に別れを告げた。
-
酒場から出ると空は暗く、建物という建物から溢れる人工的な窓の明かりが路地を照らした。
アルコール摂取による火照りのせいか、ささやかに吹くはずの風も冷たく身に沁みる。
しかし、ブーンの足はそのまま宿に向かわず、一人 路地を右へ、左へと進んでいく。
時々立ち止まる姿をみて、通りすがる町人は訝しげにブーンに目をやるが、特に気にすることなくまた日常に戻っていく。
…以前、ツンと一緒の時はどこを歩いただろう。
40年前には無かった路地や建物が増えた。
同じ場所に立ってみても、見えている空の形が変わってしまっているおかげで、記憶の中の景色と、目の前の景色がうまく重ならない。
雲に隠れた月をぼんやりと眺めながら、ブーンは古い記憶に意識を預けた。
-
----------
ーー およそ200年前。
この町が、町として興される以前…
隣接する国と国が争いを起こしたせいで、この地は焼け野原だった。
戦争が終わったあとの大地は荒れ果て、
川の水は汚れ、
家々の細かな瓦礫が見渡す限りに散乱している。
動物たちもここで得るはずだった食糧や住まいを見限り旅立ってしまった。
この地は荒野だった。
ξ゚⊿゚)ξ「……バカバカしいわ、こんなの」
ツンはそう吐き捨てた。
-
ーー 180年前。
瓦礫を運び、この地を耕して畑を作り、小屋を建てて暮らし、木々を植えた女性が居た。
長く戦争に巻き込まれ、疲弊して通りかかったブーンとツンを労ってくれたその女性は、この地にあったはずの故郷を取り戻すのだと語ってくれた。
『何年かかろうとも、かまわない。
失われた20年を取り戻したいだけなの』
そう話す女性の手は、この大地と同じように荒れ果てていた。
手足は女性らしさから遠くかけ離れた筋肉がつき、身なりに気を遣う暇もないという。
それだけ身を犠牲にしても、復興が進んだ様子は残念ながら見受けられない。
その途方のなさは、普通の人間からすれば海に泳ぐたった一匹の魚を掴むにも等しい。
運んでも運んでも無くならない瓦礫は気力を奪い、長い孤独は勇気を挫く。
一人ではすぐに限界を迎えるだけだ。
ブーン達は、それでも見返りを求めずに労ってくれた彼女に報いようと、二人で復興を手伝った。
雨がしのげる程度だった小屋を、少しでも多くの人が住めるように大きくした。
流れる道を閉ざされ、
枯渇した川を呼び戻すために、ブーンは現存した離れの湖からこの地までの水の通り道をクワ一本で繋げた。
育ちの悪い木を見かねて、
ツンが土の成分を調べあげ、植物がよく育つ土壌を作りあげた。
ξ゚⊿゚)ξ「しっかり育つのよ…何年も、何十年でも」
次の芽となる種を植えながらツンはそう呟いた。
-
ーー 150年前。
徐々に戦争の爪痕が癒され、
当時避難していた人々が戻りだす頃、この地は集落と呼べるほどまでには生命の活気を取り戻した。
辺りには話し声が満ち、互いに励まし合うことでまた明日も頑張ろうと眠りにつく。
女性が一人で大地を甦らせようとしていた頃よりも、これからはもっと早いスピードで集落は規模を大きくし、昔の姿を取り戻していくだろう。
『もうこの地は大丈夫でしょうか』
実際の年齢よりも年老いてみえる女性は、ある夜、ブーンとツンの二人に深々と礼をした。
時が経ち、自分は老いていくのに、出会った頃のままの姿のブーン達を彼女は一度たりとも何も言わなかった。
『私はきっともうすぐお迎えがきてしまうけれど、ここまで人々が帰ってきてくれた。
安心して死んでいけるわ』
老女の思い出の故郷と比べればきっとまだまだ小さな集落だが、人々の結束は固い。
きっと皆がみんなを鑑みる優しい村になっていくだろうと、ブーンも老女に本心から言った。
ξ゚⊿゚)ξ「きっと大丈夫、信じましょ」
ツンも力強く老女に答えた。
-
ーー 140年前。
村の長老と呼ばれるようになった彼女は、もう動かなくなった右腕を擦りながら
『命が限られてるからこそ、あの時の私はやると決めたあと、躊躇する時間もなく働けたのよ』
と言った。
『きっとあなた達は神様の使いだったのでしょうね。
命が限られていないからこそ、私たちには出来ないような事をやってくれたんだわ』
ブーンもツンも、彼女の言葉が胸に優しく染み込んだ。
老女が若き女性であった頃…故郷を取り戻すべく一人で戦っていた時代、その孤独を癒したのは紛れもなくブーン達であり、ブーン達もまた、彼女の復興に立ち向かう姿に大きな勇気をもらった。
『戦争は私から色々なものを奪ってしまったけれど、おかげで今までの人生に目的と生き甲斐を与えてくれた。
ーー ありがとう、旅のひと。
ーー ありがとう、神様。
ーー ありがとう、戻ってきてくれた皆。
ありがとう……。』
最後の言葉は、涙で滲んでかすれていたが、しっかりと届いた。
ξ゚⊿゚)ξ「…ねえ、ここからもみえる? あの時、植えた樹にも仲間が増えてるわ」
集落の中心部から、そびえ並ぶ森を眺めてツンは寂しそうに老女に別れを告げた。
-
ーー 40年前。
ブーン達が再び立ち寄ったこの地は、立派な町に成長していた。
周囲には広大な森と、整備された山。
動物たちが住まい、町を囲む背の高い塀越しにも平和な鳴き声が時として聞こえる。
町に入ると、活気のある商店が建ち並び、笑顔の人々が迎えてくれた。
ブーン達は旅人が身を休める宿に歩を進めた。
しかし扉を開けると、それまでの印象を覆すような怒声が届く。
(;^Д^)「だから! 俺が聞いてた料金とあまりに違うんだよ!」
糸目の男が大きな困惑と、小さいながらも怒気を孕んだ様子で受付の娘に詰め寄っている。
娘「で、ですので、お客様から昨夜注文を受けたサービスの中には、別途料金の必要なものも含まれて ーー」
(;^Д^) 「それ! その金額が問題なんだって!
こんなにも金額が変わるなら一言伝えてくれれば良かったのに」
精算トラブルのようだった。
詰め寄る男の声は大きいが、内容を聞けば決して一方的に理不尽というわけでもない。
しばらく様子を窺っていたブーンだったが…
ーー ガチャガチャ!
後ろで乱暴に扉の開く音と、小さな鉄がぶつかり合う音が響く。
振り向いたブーンの目に飛び込んできたのは、胸当てや手甲を身につけた数人の男達。
(,,゚Д゚) 「何かありましたか!?」
緊迫した声と、それに驚く宿の娘の表情から一拍遅れて糸目の男も振り向いた。
-
(;^Д^) 「ちょっ、おい!なんだオマエラ…」
(,,゚Д゚) 「私達はこの町の自警団です。
なにか争う声がするとの通報から参りました。
事件ですか?!」
先頭に立っていた首にスカーフを巻く青年が身分を明かし状況説明を求める。
ただし、ブーンからすれば些か張り切りすぎているように感じるが。
(;^Д^) 「そうかい、だったら出る幕じゃねーよ。
これは宿の監督不行き届きが問題なんだ、別に料金をまけろとかそーいう話じゃねえ」
娘「料金が違うとのことでお話ししていたのですが、どうやらこちら側の従業員に説明不足があった…ありまして…その…」
突然の自警団の介入には宿側も少なからず戸惑いをみせた。
商売である以上、あまり大事にするのは避けたいのかもしれない。
(,,゚Д゚) 「そうでしたか。ではまず声を荒げるのはお止めください、皆が怯えてしまいます」
(#^Д^) 「!」
スカーフの青年はピシリと場を納めようと彼なりの正論を吐く。…しかし、あのような言い方ではかえって客の男の神経に触ってしまうだろう。
(#^Д^) 「あのな…」
(,,゚Д゚) 「そして宿側は再度、正しい金額を提示してお客様を納得させてください」
娘「は。はい…でも、その……」
スカーフの青年は疑う様子も見せずに指示を出すが、現場にいた者からすればまるで見当違いな発言をしている。
-
宿の娘はその正しい金額の話をすでにしているし、客である糸目の男は突き詰めれば金額の問題ではないという所でおそらく納得できなかったのだから。
(#^Д^) 「後から来て、したり顔でよく言えたもんだな。
なにか? この町じゃ下手すれば詐欺紛いのことを施設側がやらかしても、余所者を諌めてそれで済ますのか?」
(,,゚Д゚) 「ではその根拠をさらに示してください!
先の説明からは間違ったことは言っていないつもりです。
納得できなければやはりお客様には一度この場から離れてもらわなくてはなりません」
(#^Д^) 「ふざけんな、一方的に決めてくれて…それでよく町の自警団とか名乗れるな!?」
(,,゚Д゚) 「それが決まりですから!」
ーー よくない流れだ。
ブーンは少し腰を浮かして構える。
そもそも会話が成立していない。
自警団の青年が場に介入してから、客の男が完全に怒り始めている。
あまりにも杓子定規な対応には、気持ちの事情が入り込めないのだ。
スカーフの青年はおそらく自警団として決められたマニュアルに沿っているのかもしれない。
しかしそれに徹するあまり、相手の気持ちに立てていない。
これでは目の前で怒鳴っている客の男を見て、ますます意固地になっているだけだ。
糸目の男も、娘と言い争っている時の困惑が消えてしまった。
今はただ、目の前の青年があたかも"言わされているマニュアル"でしか口を開かない事に苛立って仕方ないのだろう。
-
(,,゚Д゚) 「話の続きは留置所で聞きます。
おとなしくしていればすぐ開放しますから」
スカーフの青年が糸目の男の腕を掴もうとして、
…しかし振り払われる。
(#^Д^) 「こんな扱いがまかり通ってたまるか。
お前じゃ話にならない、説明はするからちゃんと大人を連れてこいよ」
「!? 貴様、抵抗するか!」
それまで黙っていた残りの自警団達が色めき、身を乗り出し始めた。
中には腰に手をやり、剣に手をかけた者もいるのをブーンは視界に捉え…
ーー パシンっ!
自警団の一人が抜剣しようとした手を上から握り、押さえ付ける。
( ^ω^)「そこまではやりすぎだお」
突然現れたとしか思えないブーンに、自警団の一人は思わず硬直した。
ブーンの手は剣の柄尻を抑え込みピクリとも動かない。
娘「ひっ!?」
それを見た娘も思わず上げた驚きの声。
(; ,,゚Д゚) 「ーー なっ、お前、なにをしている!」
先頭に立っていたスカーフの青年も背後を振り向きブーンにも驚いたが、その言葉は抜剣しようと構えていた仲間に向けられていた。
( ^ω^)「僕は君たちより先に見ていたけど、こんな風になる問題ではなかったように見えてたお。
…騒ぎをむやみに大きくするのが自警団の仕事ではないおね?」
(;^Д^) 「こ、このヤロウ、いざとなったら斬りつけるつもりだったのか!」
ブーンが止めなかった場合の自分の姿を想像してゾッとした糸目の男。
ここに来て、やっと興奮しすぎていた事を自覚して後ずさる。
( ^ω^)「さあさあ、君も落ち着くんだお」
-
数十分後。
静まった宿からゾロゾロと出ていく男達の姿。
糸目の男…プギャーはあのあと料金をきちんと精算した。
もともと使ったものは支払うつもりだったのだから…と、我にかえり、騒ぎを起こした事を宿に謝罪した。
自警団を名乗った青年達のリーダー…ギコは、あの場で剣を抜こうとした仲間の処罰をブーンとプギャーに約束した上で、場にいた全員にやはり謝罪の言葉を口にした。
特にギコは、危うく刺傷沙汰になりかねなかったところを治めたブーンに対して何度も礼を口にする。
やはり根は真面目なのだ。
そんなギコを手で制して、
「せめて、この町では争いを見たくないお」
…と、ブーンはそう答えた。
人が増えれば、そこは皆が同じように過ごせるよう規律が生まれる。
しかし、規律が生みだす争いもある。
皮肉な話だ、と思う。
もう一度、町の様子を眺めれば、やはり人々は笑顔で交流しあっている。
-
ブーンが旅を繰り返す中で、この町はとても平和な町と呼べた。
ーー 豊かな暮らしをしていても、目が虚ろな人々が住まう街があった。
ーー 貧しい暮らしを強いられ、強盗や脅迫、放火や殺人が絶えない町があった。
ーー 自給自足で生きていくのに不自由しない暮らしをしていても、子が増えずにやがて死に逝くであろう村があった。
ーー 満たされた暮らしをしていても、その影で裏切りに脅えた狂信仰の横行する集落があった。
この町からはそういった影を人々からは感じられない。
それだけに、先の自警団としてのギコのような…紙の上だけで考えられたような問題への対処方が浮いてしまっている。
きっとこれまで大きな事件がなかったために、もしもの対策案が拙いものしか作れないのだ。
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ブーンは老女のいた集落の時代を思い出す。
人は人を気遣い、協力しあって暮らしていた。
それが可能だったのは少なく狭い、限られた人々との世界だったせいかもしれない。
町は大きくなるにつれ、外の世界から集まる人々もそれに惹かれて合流する。
仕事を求めて、住処を求めて、人を求めて…理由は様々だ。
やがて習慣も思想も様々集い、人々の世界は関係を新たに形成していく。
この町もやがて、いや、おそらくもう、その段階にきているのだ。
…願わくば、あの老女が残念に思わないような良い町であって欲しい。
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記憶の書斎から手に取った本を閉じ、我にかえる。
さっきまで見上げていた空に浮かぶ月が雲の割れ目から、まんまると惜しげもなくその姿を晒していた。
雲の流れは早くない。
少し長く呆けていたか…明日の昼にはこの町を出よう。
再び歩きだす前に、冷えた身体を一度だけ震わせた。
夜が明けて。
少しだけ眠らせてもらった宿で早い朝食を取り、朝日が昇りきる前に外に出る。
目的は町の入り口とは別の、外れにあるという鉱山。
昨夜ギコがさりげなく言った炭鉱夫という単語を辿り、調べをつけておいた。
昨夜までに町のなかをあらかた回っても、探しものは見つからなかった。
ならば少しでも可能性のある場所を見てまわりたい。
そう考えた結果だ。
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一歩町を出れば緩い坂道。
道中は敷き詰められた石畳が行く手を導き、むやみに迷うことはなさそうだ。
手押し貨車などが転がり落ちないよう、石畳のところどころは木材でわざと段差が作られている。
周囲は見上げるほどの高い樹が作り出す、等間隔の枝葉のアーチがブーンを迎えた。
…ツンがならした土壌がこんなにも森を成長させている。
そう思い、隣に居ない彼女の事を想いはしたが、
ーー『別にアタシじゃなくても大きくなったわよ』
…まるでそんな風に返される声が聞こえそうだった。
…まさか、自分がツンの事をこうして想い浮かべる時が来るとは思わなかった。
千年の間、共にいたのだ。
例えひととき離れても、やがては再会して
『やあ。』
と挨拶を交わせば、また共に歩んでいく。
10年でも、
100年でも、
そして、1000年経ってもそれは変わらない事だと思っていた。
ツンの病気をどうにかしなくては、その日々は戻らない。
-
町のなかに居たときよりも、鳥の囀ずりが近くから聞こえる。
町では聞こえなかった、地の底で子供達が駆け回るような音も聞こえる。
鉱山が近い。
木々が間をあけ、やがて拓けた土地に辿り着くと、すでに何人もの炭鉱夫が右から左、上から下へと散り散りに点在して各自の作業に取り掛かっているのがみえる。
彼らの朝は町で働く人々よりも早かった。
ブーンは無意識に歩みを遅くしてその動きを眺めていると、鉱山口を出入りする何人もの男達に紛れて、同じように顔を土で汚してはいるが一人だけ佇まいと格好の異なる男に気付く。
その男から発せられる大きい声がここまで聴こえる。
-
( ,,^Д^)「だから! 新しく確保したD-1の坑道は早いうちにもう少し洞を開けて補強したほうがいいんだよ。
今は良くても、この調子じゃ作業が進むにつれて必ず手狭になる。
ピーク時の混雑や下手すれば落盤の可能性が出てくるぞ」
/ ,' 3 「そうかのう〜、しかしすでにD口は伸びた分だけ固定してしもうたし…」
( ,,^Д^)「もちろん作業員の不平も出るのは理解してるよ。
けどさ、今ならまだ数日のロスで間に合う…これがもっと作業が進んでから直すはめになれば数日どころじゃ済まないだろ!」
いつか見た糸目の男。 どうやら鉱山の関係者のようだが…
記憶の彼は自分と同じく外から来た人種だったはず。
( ,,^Д^)「…? おーい、そこのアンタ、なにか用かい?
ここは一般の方がくるとこじゃないぜ。
それとも仕事探しか?」
そう言いながらこちらへ歩いて来た。
( ^ω^)「おっおっ、ただの見学だお。
どんな鉱山なのか気になったから」
( ,,^Д^)「なんだ、そうかい。
中には入れないし外からじゃ面白いものなんて別段……」
-
言葉を止めた。
見定めるように、ブーンの顔から足先、そしてまた顔を見つめる。
( ,,^Д^)「……どっかで会ったこと、ないか?」
ギコと似たようなことを言った。
正直に答えても、信じる人は限りなく少ない。
知らないフリをしようか、それとも…
ブーンは少し迷うが、
ーー これも千年を生きる者だけが出来る戯れの一つかもしれない
そう考えて、糸目の男 プギャーに
( ^ω^)「40年振りだお」
伝えてみた。
しばらくの間、硬直してそのまま動かないプギャーはやがて、これまでに一番の大声を張り上げながらギコの名を叫びながら鉱山に駆けていった。
こんな出逢いと再会があってもたまには悪くない。
ブーンは二人が出てくるのを待ちながら、まずは荒野で一人きりだった強き女性の話をしてみようと考えていた。
この町の過去である歴史を、
この町の現在に刻んでみたい。
『きっとあなた達は神様の使いだったのでしょうね。
命が限られていないからこそ、私たちには出来ないような事をやってくれたんだわ』
歴史を学ぶことでこの町がもっと平和に発展してくれたら……
そんな事を勝手に願っても、バチは当たらないだろうか?
(了)
-
乙 こういう話は好きだ
-
ロスオデかな?
コト婆さんのパンの話は泣いた
-
お読み頂きありがとうございます
>>127
いかにもロスオデのテーマで作りました
エピソードが被らないように、
かつ、知っている方にはどこかニヤニヤしてもらえる様に書いてます
( ^ω^)達も、スターシステムを利用した永遠の命といえると思い
はじめてブーン系小説を書いてみました
私は天国に一番近い村が好きです
-
おつ
-
一応ロスオデを存じない方へ
( ^ω^)千年の夢のようです
は、ゲーム本編には一切関わりがありません
他にもたとえば…ドレインは魔法として存在しますがあちらでは何の重要性もない単なる黒魔法です
( ´∀`)が行った、命や精神をまぜっかえすような効果はありません
気にせず純粋に、生と死についてお読みください
-
1です
投下にはもう数日かかります
その代わりボリュームも増えると思います
現在までのお話
( ^ω^):矛盾の命
>>1
( ´∀`):繋がれた自由
>>17
( ´∀`):遺していたもの
>>48
( ^ω^):老女の願い
>>101
-
おつ
こういう話好きだわ…ツンが治ったらまたこの町に来てほしい
-
乙!
読みやすい地の文って最高だと思う
-
>>132
>>133
レス嬉しい!ありがとうございます
この話が読む方にとってささやかな気分転換になれば幸いです
-
一気読みした
ここ最近の新作で一番面白いと思う
是非とも完結させてくれ
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ロスオデ?っていうゲームが下地にあるってことでいいのか
-
>>135
ありがとうございます
( ^ω^)達にも失礼の無いよう、きっと完結すると思います
>>136
ロストオデッセイ。略してロスオデ。
xbox360でのみ発売された、ヒゲさんの会社のゲームなのです
いまや中古で100円200円の投げ売りレベルですが…
もし箱がある方は是非!
ヒロイン枠がおばさんなのに段々可愛く見える不思議付き!
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そろそろ書き溜めが出来てきたので投下準備をしていますが、
まとまった時間が微妙に取りにくいので
夜→翌朝→夜…という感じで
明日の21時以降からちょっとずつ投下します
よろしくお願いします
-
1です
梅雨入りによる豪雨のため少々時間に余裕が生まれました
予定より早く、多く、これから投下します
-
( ^ω^)千年の夢のようです
- 帰ってきてね -
-
灰色のフードを頭から被り、緩い坂道になった森を歩く集団。
話し声は無く、皆が一列に同じ歩調で進んでいく。
辺りは闇…。
先頭の者が手に持つカンテラを高々と掲げ、先の道を照らし、あとに続く者達もそれに倣う。
集団は明るく灯火に照らされてはいるがその足取りはみな、重い。
その原因は一部のカンテラを持たない者達が代わりに背負うロープと、ロープに繋がれて地を這う柩だ。
…一つではない、よく観察すれば集団の列の中にはさらにグループが別れ、一グループにつき一つずつ。
死者を納めた柩を運んでいた。
話し声は聞こえない。
しかし、啜り泣く音は聞こえてしまう。
「皆さん、もう少しで墓地に着きます。
そこでは最後の御別れと、埋葬の儀を行います。
…心の準備を、御願い致します」
先頭の者が静かに、しかしよく通る声で、後ろを連れだって歩いている全員に向けて伝えた。
夜の森は容易くそれを可能にする。
人々から特に反応はない。
分かっているのだから…ここのところ繰り返されるこの行為に。
-
いま、この大陸内では国家間の戦争が起きている。
はじめは小規模だった戦いも、いまやその至るところでいくつもの戦火が広がっていた。
忠誠心に溢れる国直属の兵士達、
報酬を目当てに群がる傭兵達、
そして…かき集められる領地の住人達。
始まった戦争は、当初の理由など簡単に変質させる。
戦いを勃発させた高官や国王、領主らは、一体なんの為に戦争しているのかなどもはや覚えてはいないだろう。
…一体どれだけの命が失われているのかなど、気に留めもしないだろう。
「…彼らがこの故郷に戻ってこられた奇跡と、これから無事にその御魂が天に召されるよう、祈りを捧げましょう…」
やがて集団は目的の地に辿り着く。
森の中深く、名を刻まれたいくつかの小さな墓石とまだ掘りかけの浅い穴が散見する場には、中心にひときわ高くそびえ立つ樹木が見守るようにその根を太く深く降ろしていた。
すでにこの村から徴兵された何人もの男達が、亡骸として帰り、葬られている。
フードを被り集団に混ざる人の中には、すでに家族を亡くしここに埋められた者もいる。
家族を何度も亡くし、何度もここに来る者もいる。
家族を亡くし、しかし、その遺体が運ばれなかった者もいる。
…身体が帰ってくるだけでも珍しいことなのだ。 戦争が起きれば焼き付くされた戦地に置き去りにされるのが、戦わされる者の日常となる。
-
皆が黙祷を捧げるなかで、一人集団から離れてその様子を見つめる青年が居た。
/,,゚Д゚ 「……」
彼も同じようにフードを被り、共に並んでやって来た村人の一人…のはずだが、喪に服す様子は見られない。
鋭い目付きで場を睨み付ける。
「皆さま、顔を御上げください」
黙祷を収める声が辺りに届く。
「それではこれより…村のしきたりに従い、凍葬、樹葬と続けて行います。
御家族の方は前にお出でくださいますよう…」
囁くような啜り泣きが、少し大きくなった気がした。
そして足を踏み出せば"別れ"という鐘が鳴り響いてしまう…
それを恐がり、しかしパラパラと、死者の身内達が集団から抜け出した。
その足取りは一様にさながら死刑台…というより"死刑を行う側"の、一歩の重み。
そびえ立つ巨大な樹木から放射線状に規則正しく柩が並ぶ。その数…6。
兄弟や息子、孫だろうか。
各々が身内の遺体が納められた柩を数人で囲み、被っていたフードを脱ぎ、対面する。
-
ミ,,゚Д゚彡 「……」
先の青年も居た。フードに隠された、王者の鬣の如き金色の髪。
「…あのナナシもならんどったか」
「あの柩はじゃあ…ミルナのやつかい」
かすかに聞こえる憐れみの声は森の音に紛れてすぐにかき消える。
彼のまわりには誰もいない。
足元に柩がポツリと置かれているのみ。
そしてナナシもじっと柩を見つめるだけだ。
ミ,,゚Д゚彡 「…ミルナ…」
ナナシは、自分にだけ聞こえる声で、柩に話しかける。
-
やがて柩の蓋が開かれた。
内部にはいずれも白い布に覆われた死者の身体が横たわっている。
誰も口を開かない空間で、死者の身内達に手渡されたのは…女性にも扱えるほどのハンドサイズのハンマー。その頭部にはリングが嵌められていた。
次に合図と共に詠唱が始まる。
魔法ではない。 魔導力そのものを発動させるための起動詠唱。
すると周囲には白い霧が立ち込め、次第に肌寒さを感じるほどに気温が低下していくのが、その場にいる全員の吐息からわかった。
ハンマーに付けられたリングの材料である"生きた氷塊"が、人々の魔導力に反応してこの現象を引き起こす。
そして……
ビキビキと死者の身体も白く染まり始め、やがて6つの氷柱が横たわる。
「気持ちに整理のついた御家族より、御願い致します…」
-
ミルナは村でも特に誠実な男として知られていた。
嘘はつかず、働き者で、気配りもできる。人と話すときにも目をそらすことのない凛とした姿勢が特徴的だった。
しかし、妻を娶る事はもちろん、一度たりとも恋人を作らなかった。
そんな彼はある日、長い出稼ぎから帰ると共に一人の男の子を連れて帰ってくる。
一部の村人は
「あっちで仕込んだ子か?」 「母親は誰だ?」
などと尋ねたが、ミルナは答えなかった。
それでも彼の生来の性格からも
「お天道様に唾するような真似はするわけはない」 「何か事情があるんだろう」
…村人達はそれ以上を聞かなかった。
-
誰ともなく、一人 また一人と、詠唱の声が止んでいく。
凍葬…それは死者を埋葬する際にその躯と肉体を凍らせる。
そして……
ーー パリンッ
…割り砕く。
抵抗力のない物体は、"生きた氷塊"による魔力で内部からその姿を氷に変えてしまう。
ーー パリンッ
意を決した者から、ハンマーを降りおろす。
一つだった躯が二つ、三つと分かれていき、その身を小さくしていく。
ーー パリンッ
生前のミルナの言葉を思い出す。
( ゚д゚ ) 『どんなに恥ずかしくても、どんなに辛くても、どんなに苦しくても、いつかは逃げられずに自分で決める時がくる』
( ゚д゚ ) 『だから、その時が来たらやるしかない。
だから俺ももう行かなきゃあな』
…そういって、ミルナは戦争に行ってしまった。
隣の柩に寄り添う父親らしき年頃の男性は、この村に帰ってきたときは見るも無残な姿だった息子…今は氷の柱となった息子の姿を、涙で溢れた瞳で見つめながら口元を強く結び、無言で叩き砕く。
またある女性は、啜り泣きを嗚咽に変えて、かつての恋人の名を叫びながら腕を降り下ろし、決別する。
ーー これが凍葬の、御別れの儀式。
-
ミ,,゚Д゚彡 「……」
ナナシはそんな光景をまるで夢の世界だとばかりに眺めてはいたが、否が応にも迫りくる現実からは逃れられなかった。
( ゚д゚ ) 『今までありがとう。もし帰ってこられたら、今度こそ俺はお前に……』
結局、彼の命は帰ってこなかったのだから。
ミ,,;Д;彡 「今まで…、ありがとう…だから」
ナナシは震える手で、なんとかハンマーを持ち上げ……
ーー 別れの鐘を、心のなかに大きく鳴り響かせた。
-
----------
ナナシが物心ついた時には、まわりはたくさんの子供達が居た。
彼らもナナシも、互いに出生は分からない。 そこは親に捨てられた者の受け皿となる集い場。
彼らはそこで里親となる者が現れるのを待ちながら、拙い共同生活を営んだ。
大人も居るが、圧倒的にその数は足りていない。 子供達も遊んでばかりはいられず共に助け合わなければ生きていけない…
ミルナが彼の前に現れたのはそんな環境で過ごしていた時だった。
( ゚д゚ ) 「ここに里親を募集している子供達が集まっていると聞いたんだが…」
身体は大きくそして強すぎる眼力は、子供達が怯えて逃げ惑うのに十分な威圧感をもつ。
「うああーー!!」
「怪物だよーぉぉー」
「こっちみるなー!」
( ゚д゚ ) 「……」
-
こちらが声をかける前に逃げてしまう様子を見るミルナは少しだけ悲しい顔をしたが、さして驚く風でもなく、その場に佇みとある一ヶ所を見つめていた。
(*゚ー ミ,,゚Д 「……」
物陰から覗く鋭い瞳と金色の髪が目立つ、子供らしからぬ子供。
そしてそれに寄り添うつぶらな瞳の女の子。
( ゚д゚ ) 「…俺が怖いか?」
(*゚ー ミ,,゚Д 「…少し」
( ゚д゚ ) 「君らは他の子達より勇敢なんだな」
ナナシがミルナに聞かれたのはそれだけ…
ーー どんな性格か? ーー 持病はあるか?
そのような質問を彼はしなかった。
その日からナナシは彼に引き取られ、共に暮らす事になったのだ。
…その時の女の子とも、それきりだ。
----------
-
ミルナを含めた村人達の葬儀を終え、ナナシが初めにした事は、ミルナと共に過ごした家の片付けだ。
…とはいえ、物は多くない。
家と呼ぶにはいささか憚れるかもしれない大きさの古家には、食事をする小さなテーブルと、衣類棚、そして寝床に敷くための毛布が数枚のみ。
その全てを売り払った。
唯一、手に残ったものは第二次成長期を過ぎたナナシの背丈を越える5メートル以上の尺を有する "騎兵槍" 。
なぜミルナがこんな物を持っていたのか…彼はナナシにも答えはしなかった。
ただただ長い間、古家の片隅で厳重に保管されていた。
ミルナがこれを使う場面は一度たりともなかったが、毎夜欠かさず手入れを行っていたのをナナシは知っている。
その時の瞳に宿る寂しげな表情は、常に堂々としていたミルナが見せる唯一の哀の相であることも。
そしてなぜ、彼が戦争に駆り出された際にこれを置いていったのかは分からない。
当然ながら自分はこんな武器を扱った事もない。
-
ミ,,゚Д゚彡 「…重い」
手に取ってみると、見た目以上に軽く、しかし想像以上の重量がのし掛かる。
…このままここに置いていけば、受け継ぐ者のないこの槍は朽ちゆくだけ。
槍を背にしたナナシが着の身着のまま外に出ると、家の前には数人の村人…そして村長。
険しい顔だ。
それはまるで……
-
「お前も行ってしまうのか…戦争に?」
齢の数だけ顔にシワを刻んだ村長が問う。
ミ,,゚Д゚彡 「…行く」
「お前は村に残る数少ない若者だ。
あとは老いた者と、まだ年端もいかぬ子供らしかおらぬ…」
ミ,,゚Д゚彡 「……」
「戦争も、もしやすれば終わるかもしれんぞ」
ーー きっと戦争はまだ終わらない。
本来、戦争は短期的に行われるものだ。
長引けばそれだけ領地は疲弊し、国の力は衰える。
にも拘らず…すでに何年も続き、いまだ終着点が見えていない。 もはや大陸のどこにいても戦火に巻き込まれる可能性がある。
-
ミ,,゚Д゚彡 「ナナシには、何もないから」
ミ,,゚Д゚彡 「昔いた所でも、そうだった…この村でもそうだったから」
「……ナナシ…お前は、」
ナナシは反論を許さない。
ミ,,゚Д゚彡 「ナナシは名前じゃない。
ナナシの名前…お前達が付けた名前…忘れてないから」
はっとなり、村長も、村人達も、その一言に目を伏せた。
ナナシはミルナにだけよく懐いた。
同年代の村人ともほとんど話すことはなく、ミルナが何度も出稼ぎに村を出た時には必要最低限の言葉で村人との会話を行った。
-
そんなナナシを、陰で村人達は奇異な者を見るように【塞ぎ児】と呼んだ。
人の口に戸は立てられない。
村人から発されるその言葉は、
何度も、何年も、ナナシの耳に届いてしまっていた。
( ゚д゚ ) 『正直、俺一人でどうにかなるもんじゃないのは判ってるんだ。
しかし、お前や、この村をもしかしたら守れるかもしれないだろう?
だから、そのために戦うつもりだ』
ミ,,゚Д゚彡 「ミルナは戦争に行くとき、そう言った。
これはナナシの意思じゃない。 ミルナの意思のために、ナナシも行ってくるから」
ミ,,゚Д゚彡 「…今まで村に居させてくれて、ありがとうだから」
…そう言って、ナナシは村を出ていった。
後ろでは村長が大きくため息をつき、村人達が互いに顔を見合わせていたが、やがて自身の家々に戻っていった。
一度だけ…村長だけが村の入り口を見やったが、その姿が見えなくなるまで、ナナシが村を振り返る事は無かった。
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〜now roading〜
ミ,,゚Д゚彡
HP / A
strength / A
vitality / B
agility / D
MP / H
magic power / H
magic speed / E
magic registence / D
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おつ
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作物を育てる王など存在しない。
権利を行使しない指揮官など存在しない。
大地を汚さない兵士など存在しない。
命を奪わない傭兵など存在しない。
ーー しかし、人を守ろうとする人は存在する。
それは恋人だったり、家族だったりするかもしれない。
共に同じ時間を過ごした友かもしれない。
だから一度戦争が起きてしまえば、人はその理由を胸に剣を取るのだ。
一度誰かの命が奪われてしまえば、次はその大切な人が犠牲になるのだから…。
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荒野を抜けて戦地に向かう貨物車が何台も走る中で、ひときわ異質な空気を纏うこの車内は薄暗く、しかし外気と日の光だけはうっすらと差し込んでいた。
その境遇にあるものを文字通り荷物扱いして…そしてそれを気に止めない者達が詰め込まれた戦場行きの弾丸列車。
そもそもこれから命の奪い合いをするのだから和気藹々とは当然いかない…
が、それを差し引いても異様な雰囲気がその中で充満していた。
('A`)「〜〜♪ 〜〜♪」
無遠慮な鼻唄がそう広くない車内に響き渡る。
座った目付きで虚空を見つめる男から漏れるその音は、その場にいる他の傭兵の神経をひどく逆撫でる。
(・∀ ・) 「おい」
外斜視の傭兵が堪らず声をかけた。
('A`)「〜! 〜〜♪」
にも関わらず、話し掛けられたことに気付かないのか、彼は鼻唄をやめる気配はない。
(・∀ ・) 「てめーだよ、ジャンキー。
耳障りな鼻唄をやめな」
('A`)「……え?」
(・∀ ・) 「そうだ。 それでいい。
そんなにビビってるのを誤魔化したいならいっそ向こうについたらケツまくって逃げな。
お前と違ってこっちは金のために命張りに行くんだからな、一緒にされちゃたまんねえんだよ」
車内の空気が張りつめるかと思われたが、意外にもすんなり鼻唄は止んだ。
('A`)「おー…わりぃ。 ふひ」
彼は大袈裟にバツの悪そうな顔を作り、周囲の男たちにも謝った。 飄々とした態度で、やはり目付きはハッキリとしない。
-
(・∀ ・) 「…ふん」
外斜視の傭兵は腕をくみ目を閉じた。
車内には沈黙が流れる。
ガタガタと、荒野をひた走る貨物車の車輪の音だけが大きく音をたてて傭兵らの身体を不規則に揺らしている。
(-_-) 「…ねえ、キミ、ひょっとしてあの"フサギコ"かい?」
沈黙が破られる。 陰鬱な様子の傭兵が話し掛けてきた。
ミ,,゚Д゚彡 「……」
(-_-) 「聞いてるよ、いくつも戦地に志願してはそのたびに生き延びてる傭兵がいるって」
-
ナナシもこの車内に乗り込んでいた。
そして村を出て数年あまり…歩兵にも拘らず剣や斧ではなく"騎兵槍"を手に、幾度となく戦闘を繰り返すうちにナナシの話題は傭兵達に広まっていたらしい。
傭兵同士は時として敵対する運命にあるためそれほど親密な関係にはあえてならないが、武勇の轟く者は自然と憶えられる。
そして、あまりに特徴ある者も。
『アイツは俺を殺さなかった』
はじめにそれを口にした傭兵が居た。
酒を飲みながら聞いていた他の仲間たちはバカにするように笑って聞いていたが、やがて一人、二人…
さらには戦いが起こるたびにその話題をポツリポツリ、耳にするようになった。
偶然ではない。 ナナシは人を殺めなかった。
背負う騎兵槍はそもそも尖端で突き刺さなければ殺傷力が発揮されない形状をしており、その大きさからも乱戦に向いた得物ではない。
その代わり、突撃する際の突破力と圧倒的な刺殺力は他の追随を許さない。
もしそれが避けられれば、そこからは別の武器で戦うのが一般的だ。
-
(-_-) 「本当に、その槍しか持ってないみたいだね」
ミ,,゚Д゚彡 「…使わないから」
ナナシは他の武器を一度も携帯しなかった。
度重なる戦さの経験を経て、今では軽々と扱えるようになった騎兵槍で敵相手を"薙ぎ倒す"。
…刺すことはない、刺せば相手が死んでしまうかもしれないのだから。
(・∀ ・) 「けっ! そんな見かけ倒しの武器をよくも偉そうにぶらさげるもんだな」
('A`)「ふひひ、見かけ倒しだと思うなら試してみればいいだろ」
(・∀ ・) 「…あぁ?」
鼻唄の傭兵が先程と同じ調子で、今度は挑発紛いの言葉を口にした。
外斜視が身を乗り出す。
-
(#゚;;-゚) 「…やめや。 あたしらの本分はケンカじゃない。
あっちに着いたら存分に暴れたらええ」
今度は端に胡座をかいて座る、顔にキズの残る女が止めにはいった。
陰鬱な傭兵は身をすくませ、外斜視の男は一瞥して舌を打ち、身体を壁に預けた。
(-_-) 「"スカーフェイス"さん…すみません、僕が最初に余計なことを」
スカーフェイスは傭兵仲間に伝わる称号の一つで、歴戦の強者に相応しい名として戦場に轟いている。
ナナシもその名は聞いたことがあるが、驚くことに女性だとは思わなかった。
(・∀ ・) 「…どいつもこいつもめんどくせーし気に喰わないな…
まあいいよ、今回は味方ってことで聞き流してやるぜ、ジャンキー」
('A`)「ふひひ、どーも」
鼻唄の男はどうにも掴めない雰囲気で、のらりくらり、外斜視の言葉を受け流した。
-
ミ,,゚Д゚彡 「……」
クセの強い車両に乗り込んだものだ。
その場に居た全員が、恐らくそう思っているに違いない。
互いに首元に身に付けているお揃いの識別プレートリングだけが、彼らを味方足らしめる証明だった。
-
----------
戦地に近付くにつれて、荒野を走る貨物車が続々と合流する。
異なる場から同じ目的地を目指して乱暴に突き進み、秘められた暴力性を解放するのを待ちわびるかのようにそれぞれがスピードを緩めない。
やがて、少しだけ狭まった岩場を乗り越え辿り着いた先から、閉じられた車内にまで響き聞こえる戦闘の音
ーー 否、そのすべては怒号、罵声、呻き声、掛け声、断末魔…ありとあらゆる人間の声で構成された音だ。
まもなく、貨物車が急ブレーキをかける。
('A`)「ぅぉおー〜っととー」
慣性に身体を引っ張られるが、やがてガクリと重力から解放された。
直後、貨物車の壁が組み畳まれ、運ばれていたナナシ達が太陽のもとに晒される。
(・∀ ・) 「うおっまぶしっ」
驚いている暇はなかった。
周囲を見渡せば同じように到着し、同じように荷台が開かれては飛び出してくる兵士や傭兵達の姿。
そして目の前はもう、戦場だ。
(#゚;;-゚) 「いくでえ、個別に動きすぎた奴は首ちょんぱされる前に別の隊に合流しとき!
それまでは一蓮托生や!」
-
スカーフェイスの一声を合図に、
鼻唄、陰鬱、外斜視、フサギコ…と、今では名乗るナナシが、チームとなって戦場の中心地に駈けた。
すでに乱戦となっているところに、強大なランスチャージを仕掛ける先陣のナナシ。
ミ,,゚Д゚彡 「ぉぉぉぉおぉッ!!」
ーー ッバカン!
乱入を許した敵陣の一角から、防御体勢を取っていたはずの全身鎧の騎士達がその衝撃に耐えられず、何人も吹っ飛ばされる。
相当の重量をもつ鎧が盛大に砕け、その破片がスローモーションのようにナナシの視界に映る。
-
敵兵士達も前衛が吹き飛んだことでナナシ達に気が付くが ーー
(-_-) 「はああ!」
陰鬱の持つ短い杖が一瞬輝き、付近の大地が次々に破砕し、騎士達がバランスを崩すと同時に上から衝撃を叩きつけられその身を地に伏せる。
目標の足場を崩した上で突如出現し降り注ぐ岩石群【グランド】の魔法により、敵騎士は反撃に移ること叶わず、
(・∀ ・) 「いくぜコノヤロウ!」
助走から高く跳ぶことで、ヘルムを被る騎士の視界外から、外斜視が剣を突きだして鎧の隙間を血の通り道にするかのように深く、力強く肩から串刺しにする。
「おのれぇぇ!」
「ひるむな、すすめ!」
「よくもォっ!!」
周囲からも続々と敵騎士が囲んでくる。
…が、破裂音と共に、その何人もが後方に弾け飛ぶ。
('A`)「あ〜、もしここまできたら無抵抗で斬られてやるからな。
がんばれよ」
暢気に呟きながら、手に持つ銃斧から
ーー バスッ!
と、火を噴いて、後方から援護する。
鼻唄が使っている銃斧はガンアクスと呼ばれる特殊な兵器型の得物。
繊細な扱いが必要な銃と、粗末に扱える斧が一体化したものらしく、従来のそれは構造上、人を吹き飛ばせるほどの爆発力は持てない。
この威力、恐らく彼のためだけに改造されている。
-
鼻唄が撃ち洩らした残りの騎士は接近に成功し、先頭のナナシと剣を合わせていた。
細長い尺を有する騎兵槍を器用に操り、左右から迫る剣を同時に捌いている。
(#゚;;-゚) 「あんたら、やたらコンビネーションできてて出る幕なくなるかと思たわ」
そこに真横から現れたスカーフェイスが、槍と見間違えるほどの長刀で躊躇なく、そして抵抗感なく、ナナシと斬り結ぶ二人の騎士の腰元をまとめて貫く。
(#゚;;-゚) 「焼き鳥みたいにプリプリの感触しやがって、ほんま」
ーー さらに、そのまま後ろに振りかぶると、長刀から騎士の身体が抜けてゴミのように宙に飛んでいった。
-
(・∀ ・) 「うお〜、こえーこえー」
(#゚;;-゚) 「なあ、"フサギコ"」
戦闘中とは思えない佇まいで、長刀を肩に担ぎスカーフェイスが声をかける。
ーー 後ろで絶命した騎士二人が
ぐしゃりと首から墜ちた。
その間も、陰鬱と鼻唄が攻撃を止めておらず、騎士達が近付く前に撃破していた。
(#゚;;-゚) 「殺せとは言わんけどな、あれならもうちょい強く突撃しても構わんで。
お前、手加減してるやろ?」
ミ,,゚Д゚彡 「…してる」
ナナシは否定しなかった。
はたから見れば先のランスチャージすら、熟練の騎馬兵が放つ一撃に匹敵する威力をもつ事が窺える。
そしてそれをその身一つで繰り出すナナシの膂力は明らかに常人離れしていた。
-
(#゚;;-゚) σ「ま、戦争に参加して殺し合わない事がすでに間違ってるけどな…みてみ、あれ」
('A`)「ふひひ」
指を指した方角には鼻唄。
笑みさえ浮かべながら敵を撃つ姿は、命の概念すらない、射撃ゴッコで遊ぶ子供のようだった。
鎧ごと彼に撃ち抜かれた相手は横たわり、もうピクリとも動かない。
即死だ。
その身体から流れ出す血液が "もしかしたらまだ生きているかもしれない" という希望すら感じさせないほどの量を垂れ流す。
ガンアクスのトリガーをひくたび、重い音が鳴り響き、その銃弾は敵騎士…をかいくぐって後衛に陣取る敵魔導士達の命も軽々しく奪う。
('A`)「こそこそ隠れてる奴は無駄だぞー、そのための銃だからなー」
(・∀ ・) 「だあっ! ほっ…うぉりゃ!」
その先でも、鼻唄のサイドをカバーするように外斜視が暴れていた。
恐がる様子もなく騎士に飛び掛かり剣を突き刺すと、すぐに剣を抜き放ちつつ騎士の身体を足場にして反対側の騎士に飛び掛かる。
彼は常に首、脇、顔、時には両太股を狙う。 ことごとく致命傷を加えていた。
軽業師の如し動きで、地に足をつけている時間の方が短い。
-
(#゚;;-゚) 「あたしらは昔から傭兵だから、ぽっと出のアンタとはちょっと根っこが違うかもしれん」
スカーフェイスは陰鬱にシールド魔法を要請し、長刀を構え直す。
(#゚;;-゚) 「けど、相手も死ぬのを覚悟してきてると思ってあたしらは戦ってるからな。
いざって時は本気でやりや」
ミ,,゚Д゚彡 「……わかったから」
その言葉が届いたかどうか…ナナシの返事を待たずにスカーフェイスは次の目標に向かって走っていった。
-
ナナシも後に続くように走るが、左右から騎士達が襲い掛かる。
振りおろされる長剣を身体ごと避け、横薙ぎの大剣を腰からひねり倒して上半身だけで躱す。
縮んだバネが弾むように、騎兵槍の柄尻で右騎士の顎を打ち上げ、もう片方の手で槍身を押し出すと、右騎士の鎧ごとその重心が大きく崩れる。
ナナシはそのまま身体全体を一回転させて、騎兵槍を360℃スイングさせた。
体勢の戻りきらない騎士達はその無防備な土手っ腹を、ナナシの騎兵槍により無抵抗で叩き付けられる。
吹き飛ばされ、地に背中をつけ、屈強な騎士達が一瞬気を失いかけるも戦意は失わない。
顔だけでも上げて目を凝らした先には、彼らには追い撃ちせず陣中を駆け抜けていく、風になびく金色の鬣の後ろ姿だった。
スカーフェイスを先頭にした陣形を崩さないよう、敵陣を切り崩していくが、段々とナナシが後方に追いやられる。
-
戦場に屍が増え始めた…。
その所々は目をつむって走っても必ず横たわる人間を踏み抜いてしまうほどに。
誰もがそれを気にかけることなく累々とした死体を足場に疾走するなかで、彼だけは全力で走ることを躊躇う。
(-_-) 「"フサギコ" さん! 隊列が…」
ミ,,゚Д゚彡 「すぐ追い付くから!」
乱戦模様の戦場において、陰鬱のような魔導士は前後左右のいずれかに穴があると狙われてしまう。
ナナシがあまりにも遅いわけではない…スカーフェイスと外斜視のようなスピード型が先陣を切る場合には、鼻唄のような遠距離型でもない限り、敵陣との衝突に対応が遅れてしまうのだ。
再び敵騎士が迫ってくる。
(#゚;;-゚) 「そいつらは後ろに任しとき! 吹っ飛ばしとけ!」
スカーフェイスの指示が、 ーー後ろから迫った騎士を蹴散らすよう、ナナシに向けて飛ばされた。
-
ミ,,゚Д゚彡 「っだァ!」
ナナシは駆ける脚を踏ん張りブレーキをかけつつ、騎兵槍を再度スイングする。
そのリーチはまだ本来届くことのない位置にいた騎士の鎧をかすり、その膂力は鎧を容赦なくガリガリと削り砕く。
前進を止められた騎士の身体が、真正面からの重力に逆らうように少しだけ宙に浮き、そのわずかな間にナナシが次の態勢に入る。
更に身体を一回転。
ーー まだ騎士の身体は宙にあり、その足は土を踏んでいない ーー
先の一撃とは異なる、ウェイトを乗せきった横からの渾身の一撃が襲い掛かる。
ミ#,,゚Д゚彡 「ガアアアアアアッッ!!!!」
ガシャアンっ!と鎧と骨の砕ける音が木霊した気がした。
金色の獣の咆哮と共に、踏み耐えることも叶わなかった騎士が後衛もろとも彼方へと滑り舞っていく。
ミ,,゚Д゚彡 「…〜〜フゥー…」
ナナシは大きく息を吐き、呼吸を一つ整えると、前進した。
-
スカーフェイス達との距離は離れてしまったがペースを速めることはない。
戦場で横たわる人間は三種類。
負傷し、自力で立ち上がることができない者。 息を潜めて体力を温存し、逃げる算段を練るもの。 …そして、志半ばで死んでしまった者。
負傷した者が立ち上がるまでに、それに気付かず後陣から踏み殺されるのは珍しくない。
そして、息を潜めるものも同様だ。
生き延びたい一心で震えてじっとしているところを、全体重をのせた歩みによって踏みにじられる気持ちは味わいたくないし、味わわせたくない。
ナナシは横たわる者達を足場に戦場を駆ける… 他の者から見れば、鈍重な戦士の歩みには見えても、手を抜いて走る様には見えない。
致命傷を負わないような手足に限っては躊躇せず、しかし、決して胴や顔を足蹴にすることなく、彼は戦場を一生懸命走った。
-
先をいくスカーフェイス達が周囲を改めて見渡すと、いつの間にか、
本来なら落城用突撃型兵器と思われるオートマトンが姿を見せていた。
遠くを見渡す見張り台ほどの全長に、上部からの矢雨と落石を防ぐための円錐形の傘、胴体下部には人の背丈に合わせたような極太の棍を装着。
その滑稽な形から"マッシュルーム"と名付けられた突撃兵器が、スカーフェイスの向かう先にそびえ立つ。
「こっちだ、急げ! 蹴散らせ!!」
広範囲に渡って回転し棍を振り回すその巨大な兵器は、地上戦においても凶悪と言える効果を発揮する。 そのリーチも人が扱ういかなる武器より長く、そして頑丈だ。
そして問題は、それを敵軍が用いて来たということ。
…すでにマッシュルームは起動しており、味方と思われる兵士や傭兵達の骨を砕きながらこちらへ向かってくる。
さながらまとわりつく亡霊の群れを振り払うように。
-
(・∀ ・) 「おいおい間近でみるとすげーな…」
('A`)「ふひ… 接続部分でも試しに狙ってみるか?」
そう言うが早いか…鼻唄がガンアクスを無造作に構えてトリガーをひくが、着弾した様子はない。
外したのではない、マッシュルームの目前で弾かれたのだ。
空中でエネルギーが拡散した際に表れる幾何学模様の魔導力…それはシールドが張られている事を示している。
('A`)y-~ 「コイツが弾かれるようなシールド魔法ってなると、普通の攻撃じゃ通用しないぜ」
慌てるどころかこの状況下でタバコを吸いだした鼻唄。
そしてガンアクスの銃口を抜け目なく周囲に巡らせ、相変わらず騎士の接近は許さない。
-
(-_-) 「シールド魔法ならどこかにそれを詠唱してる魔導士がいるはずだ、それを探さないと…」
陰鬱がそれらしい対象を探しながら、まずは視界の壁と化した騎士達に向けて魔法を放った。
前衛に立ち、自ら相手に立ち向かう騎士や兵士に比べて、身体能力に劣ることの多い魔導士が単体でその姿を晒すことは愚かしい。
そして距離を取りすぎると魔導力を正しく対象に伝えることが難しいため、兵器の大きさを鑑みてもこの乱戦の場のどこかにいるはずだ。
陰鬱の魔導力の解放と共に杖が光り、前方に立ちはだかる騎士達の足元から火柱が迸る
【フレアラー】の魔法により、周囲の温度が急激に上昇し揺らめく。
「ぐあああっー」
「があ"あ"!?」
火柱直撃の衝撃に加え、鉄や金属で造られた全身鎧にも耐熱効果のある素材が混ぜこんであるはずが、対象となった騎士達からは絶命の叫びが上がる。
-
(#゚;;-゚)〜♪ 「おーおー、なかなかやるなあ、その杖のお陰かは知らんが」
自身に迫る騎士を長刀で斬り薙ぎ、さらに陰鬱の詠唱を邪魔する敵兵士も強引に斬り伏せてなお、余裕を見せながら口笛を鳴らす。
陰鬱本人による魔導力の高さも手伝ってか、その威力にはスカーフェイスも唸った。
(-_-) 「どうも…。
しかしシールドがあったらほとんどの魔導力が削られるし…しかもあの大きさの兵器を守ってるとなると…」
シールドを担当するのは一人ではないはずだ。
…しかし、その捜すための労力を使う前に試すべき事がある。
ミ,,゚Д゚彡 「……どいてて」
ミルナの騎兵槍を携え、追い付いたナナシが再び先頭に立つ。
(#゚;;-゚) 「アンタならいけるか?」
ミ,,゚Д゚彡 「それが得意だから」
(・∀ ・) 「敵を殺せない分だけ足ひっぱってんだ、ここで役に立たなきゃ足手まといだわな」
外斜視の言葉には棘がある、が、気にはならない。
ミ,,゚Д゚彡 「人を殺して威張るより、自分が蔑まれるほうがよっぽど良いから」
ハッキリと外斜視の瞳を見て答えた。
-
(・∀ ・) 「へっ、格好つけるなよ!
いいからいけよ、頼んだぜ。
俺やスカーフェイスの武器はあくまで対人向けだから騎士の奴らでも相手しとくわ」
嫌味を言って、外斜視は敵陣に斬り込んでいった。
途中、マッシュルームが繰り出した旋風棍が迫る。
味方陣営の兵士や傭兵達は成す術なく薙ぎ倒されたが、彼はいずれも軽々と飛び越えて騎士に剣を突き立てている。
彼のような身軽さがあれば得物次第ではマッシュルームのような巨大兵器にも太刀打ちできるかもしれないが、人には得手不得手がある。
(-_-) 「マッシュルームのあの棍は攻撃力が高すぎる…君にシールドくらいはかけられるよ。
だけどもし敵兵が近付いたら…」
(#゚;;-゚) 「そん時はあたしがカバーしたる。
騎士どもはあの"外斜視"と…おらんな、ま、その辺にいる"鼻唄"の奴がなんとかするやろ」
戦いが繋ぐ関係とはいえ、人と対等に接する事がナナシは嬉しかった。
…人殺しが嫌なんじゃない。
ミルナを失った自分のように、遺された人の事を考えたら殺さないに越した事はないだけだ。
ミ,,゚Д゚彡 「…いってくるから!」
騎兵槍をしかと握りしめ、臆することなく、マッシュルーム目掛けて走り出す。
-
こちらの接近に気付くマッシュルームから、一発目の棍がナナシと、その周囲に対して振り回された。
まずは騎兵槍を大地に差し、その反動で宙に逃れる。
着地の際に騎兵槍の重みで考えていたより腰が沈んだ…数秒の遅れを取るが構わず走る。
右前方から敵魔導士の詠唱と共に、【ウインド】の魔法突風がナナシを襲った ーー が、陰鬱のシールドが発動した事に気が付く。
本来同時に迫り来るカマイタチの魔導力は防がれたため、傷ひとつ負わない。
ただし魔法突風は向かい風となってナナシの身に残り続けてしまう。
-
マッシュルームの第二撃が迫る。
おそらく相手の魔導士もこれを狙っていたのか、魔法突風のせいでさっきよりも身体が重い。
騎兵槍を斜めに構えて旋風棍を待ち受けた。
(;#゚;;-゚) 「"フサギコ"!」
背後でスカーフェイスの声が聞こえた気がするが、振り向く余裕はない。
陰鬱の魔法シールドが幾何学模様の魔導エネルギーを展開するも容易く打ち砕かれる。
ほとんど勢いの衰えない旋風棍による衝撃を限界までいなして今度は宙に飛ばされた……ただし、自分の意思で。
尺の長い騎兵槍によって、棍そのものが身体に届く前に衝撃ベクトルを斜めに受け続けたナナシは真上に吹き飛ばされた。
想定内のダメージを受けつつ、慌てず着地に成功して、三度走り出す。
-
しかしまだ思ったより距離が残っている。
もう一度なんとかあの旋風棍を凌がなければいけない…視界の端で先の魔導士がまた魔法を詠唱しているのも見た。
自覚はないがナナシの全身から冷や汗が流れ出す。
(#゚;;-゚) 「"陰鬱"、【ウィンド】や!」
(;-_-) 「それよりも… こっちだあ!」
スカーフェイスの指示より早く陰鬱が詠唱したのは、より広範囲の【ウインダラー】。
魔法突風とカマイタチが、まだ詠唱中の敵魔導士とマッシュルームにまとめて襲い掛かる。
…当然、マッシュルームの手前を走るナナシにも。
陰鬱の判断からワンテンポ早く発動した風の魔法。
敵魔導士の詠唱を中断させ、その身を切り刻む。
マッシュルームはシールドがその効果を阻み、びくともしない。
…そして、ナナシには、
ミ#,,゚Д゚彡 「がぁァアア!!」
陰鬱がナナシに掛けていたシールドは、【ウインダラー】の詠唱に切り替わった際、すでに解除されている。
そのせいで魔導力を背中一面にまともに受けながらも、ナナシは騎兵槍に全力を注ぎ込んだ。
-
捲き込まれる形とはいえ、トルネード並みの追い風によりスピードアップしたチャージランスがマッシュルームに肉薄。 接触。
バリリィン! と、幾何学模様のシールドを突き抜けて、さらにマッシュルームの根元で稼働している魔導力の源ごとぶち破った。
ーー 直後、マッシュルームの旋風棍や稼働域となる胴体部分、頭部が立て続けに小爆発を起こす。
ミ,,;;;Д゚彡 .;" 「ぐはぁ…っ!!」
爆発を間近で受けたナナシが大きく吹き飛ばされた。
-
(#゚;;-゚) 「"フサギコ"…!」
(;;・∀ ・) 「…ちっめんどくせえ奴だな!」
マッシュルームの撃破に気付いた外斜視がその方角に居たため、相変わらずの嫌味と共に、爆風で吹き飛ぶナナシの救出に向かった。
周囲の騎士はあらかた息の根を止められ、彼が障害なくナナシの元にたどり着くことができたのは幸いだった…
外斜視がナナシの顔を覗き込み、肩を抱いて起こしにかかる。
ミ,,;;;Д゚彡 「…い、いたいから」
(;;・∀ ・) 「痛いうちはダイジョブだろ、よくやったぜお前は」
ミ,,;;;Д゚彡 「み、耳が聞こえにくいから…」
爆発音によって、一時的な聴覚異常が起きただけだろう。 すぐに治るはずだ。
(;;・∀ ・) 「あー、いい いい。
ひとまず一旦、ここから離れるぜ」
身ぶり手振りで行動を伝える外斜視。
-
よくみれば余裕そうに戦っていた外斜視も無傷ではない。 乱戦はあらゆる方向から襲われるため、どんな手練れでも傷を負うものだ。
軽業師のような動きを駆使する外斜視も、例外ではない。
ミ,,;;;Д゚彡 「これで、皆ももっと闘いやすくなるから」
そう、幸いだった…
ーー 互いの戦力が程よく減ったのは。
-
(;;・∀ ・) 「ああ、そうだッ ーー 」
肩を支えてくれていた腕から突如ちからが抜けて、ナナシはまた倒れ込む。
不意をつかれたように後頭部を地に打ち付けつつも、意識を保って自力で頭を上げたナナシの前に、
胸に穴を開けて倒れ込む外斜視の姿があった。
…横たわる大地に、命が助かるとは思えないほどの、大量の血液を溢れ出させて。
-
------------
〜now roading〜
(#゚;;-゚)
HP / C
strength / B
vitality / D
agility / C
MP / F
magic power / D
magic speed / G
magic registence / C
------------
-
('A`)「いやあ〜、あのマッシュルームだけはなんとかしてもらえて助かったわ〜」
鼻唄の飄々とした声がやけに辺りを支配する。
('A`)「一通り見て回ってきたけど、あとはこれまで通り対人のみの戦さになりそうだな、ふひひ。
…どうした?」
(#゚;;-゚) 「…あんたァ」
ナナシにはまだ音が聞き取れない。
しかし、状況を把握することは出来た。
…鼻唄のガンアクスの銃口から硝煙が立ちのぼっている。
-
(;-_-) 「な、なにやってんだよ!
なんで味方を…」
('A`)ノシ「いや、そんなん居ないし」
二人の表情からもわかる。 …たしかに外斜視を撃ったのは鼻唄だ。
しかしそれを微塵も感じさせない態度が、スカーフェイスの怒りを増して買う。
(#゚;;-゚) 「ほ〜、裏切り者っちゅうわけか。
やってくれるやん」
長刀を握り直しいまにも飛び掛かるところだが、
('A`)ノシ「いやいやいや、それも違う」
要領を得ない鼻唄の返答に、さすがに違和感を感じて踏みとどまる。
ーー だが、それこそ失敗だった。
('A`)「俺はね、常に一人なの。
裏切るもなにもない。 皆殺しっていう」
(;;-_-) .;" 「グフッ…!」
(#゚;;д゚) .;"「…かっは…ァ…!?」
唐突に、スカーフェイスも陰鬱も苦しみだした。
ナナシは目を逸らしてはいない。 鼻唄は特になにもしていないように思う。
-
('A`)「ふひひ。 そろそろ効いてきた?
それね、毒」
(#゚;;-゚) 「!?」
('A`)「スカーフェイスっていえばそこそこ名の知れた傭兵だけど、俺の名前、聞いたことないか?」
(;-_-) 「ど、毒…? なら…」
('A`)「あ、忘れてたわ」
言うと同時に、またガンアクスが火を噴く。
もはや雑音にしか聞こえない破裂音と共に陰鬱から鈍い音が吹き出したかと思えば、その姿が背後へと吹き飛んだ。
喉から絞り出されるような呻き声が、何かをいう前に大地に染み込み、かき消えた…。
('A`)「魔導士を潰しとけば」
ナナシは陰鬱の最後の表情をみてしまった。
裏切りの驚愕、そして無念と憎悪に満ちた顔のまま、陰鬱は命を失ってしまった。
('A`)「俺の毒を戦場で治すこともできない」
-
スカーフェイスは膝をつき、しかし顔を鼻唄から離さない。
(#゚;;-゚) 「……あんた、"ポイズン" か…」
('A`)「知ってるじゃねえか」
('A`)「しかしなんで俺の顔が割れてないかな?
戦場でほかに生き残りがあんま居ないからかな」
ふひひ、と笑う。
彼の態度は貨物車に同乗していた時から変わってはいない。 …変わったのは、こちらが彼をみる目だ。
それだけで、ひどく不気味な印象に掏り替わってしまう。
-
戦局をみればマッシュルームの撃破は敵陣の意気を削ぎ、味方を鼓舞したが、まだ乱戦は続いている。
鼻唄は背後に騎士達を控えている。
が、それも味方ではないという…
ならば、
「しねええ!」
鼻唄…いや、 "ポイズン"に、騎士が斬りかかる。
"ポイズン" は表情を変えず、肩にガンアクスを掛けたかと思うと、振り向かずそのまま発砲する。
騎士がまた一人、無慈悲に命を吐き散らす。
ーー それと同時に、"ポイズン" の背中から血塗られた刃がズリュリと生えた。
ミ,,;;;Д゚彡 「!」
不自然に長いその刃が、決して自分の意思で生えたものではない事を主張するようにその身体をよろめかせる。
(#゚;;-゚) つ「……隙だらけや、ボケが」
スカーフェイスの長刀が手を離れ
「ーー ぼふっぅ」 ・".('A` )
"ポイズン" の心臓を貫いていた。
まるで、はち切れんばかりに水と空気を入れて縛られた袋に穴をあけたように、"ポイズン" の口からは止めどなく血が流れ出し、そのまま倒れ込む。
-
所持する武器が一つである限り、そして銃口が別の誰かに向けて牙を突き立ててる限り。
身体と顔がどちらを向こうが、その神経は銃口と共にある。
ーー 人は日常において…
五感の中で"見る"事に頼る部分が多いが、それは"神経で見ている"からだ。
というのがスカーフェイスの経験論 ーー
たとえ視界に入っていようが、神経がそれを見ていなければ視覚していないのだ。
彼女はその隙を見逃さなかった。
-
(;'A`)「ぐっほ…いてぇ〜
ち、くしょう〜 殺せ〜…ゲフっぇ……ふひ」
(#゚;;-゚) 「そらもう死ぬわ、あんた」
肺の中の空気が漏れるようにブツブツと呟くポイズンを捨て置き、スカーフェイスがまだ少しフラフラした様子でナナシに近づく。
(#゚;;-゚) 「立てるか?」
ミ,,;;;Д゚彡 「…だい、丈夫」
ナナシもやっとの思いで立ち上がる。
時間の経過で耳が正常に音を聞き取れるようになったのも大きい。
痛みに慣れた身体は、その場から退避するだけの力を甦らせる。
(#゚;;-゚) 「今度こそ一旦退くで。
今日の戦いはまだ終わらん、その傷を落ち着かせて、あたしも解毒しとかんと」
ミ,,;;;Д゚彡 「……わかったから。
でも…」
自陣に目をやるが、乱戦に次ぐ乱戦でもはや戻ることは難しく、すでに貨物車も次の兵を運ぶべく戦場から引き揚げている。
-
しかし、ナナシが気にしたのはそれではなかった。
スカーフェイスも胸元からカミソリ程の極小ナイフを取りだし、
(#゚;;-゚) 「…アイツらは残念やったな」
そう語りながら…
外斜視と陰鬱の首元から、同じ陣営で戦う証だった識別リングプレートを切り外す。
"ヒッキー"
"またんき.S"
プレート裏にはそれぞれの本名と思われる刻印。
彼らに家族がいるならば、このプレートが死亡通知となる。
家族がいなければ…墓標となるのだ。
ナナシは、心のなかで彼らの冥福をそっと祈った。
-
----------
ナナシとスカーフェイス。
二人が戦場から抜け出した先には、すでに避難が終わっている集落が佇む。
海に面したこの集落には火の手はまだ上がっていない。 …おそらく戦略的な利点が伴わないからだろう、とスカーフェイスが独りごちた。
先ほどまでいた戦地からは丘になっていて、ここからならその状況が遠目にだが確認できる。
…ただし、敵が迫ったら逃げることは難しいかもしれない。
-
ミ,,;;Д゚彡 「……」
集落の入り口を抜けると、なんともいえない不思議な感覚に心を覆われる。
(#゚;;-゚) 「当たり前やが人の姿は見当たらんな…
その辺お邪魔して手当て出来そうなもん捜すか」
彼女には特に何も感じられないようで、警戒は解かないまま奥に進んでいく。
この集落の家屋の文化的レベルは高くない。
点在する畑も、収穫を迎えることなく置き去りにされた野菜のほとんどは枯れ果てて放置されている。
いずれも個人が耕した程度の広さしかないため、避難の際に持っていかなかったのだろう。
散開とした発展具合を鑑みるに、たとえ戦争が起きていなくともそれほど裕福とは言えない土地なのかもしれない。
順番に家のなかを覗き、手分けして薬や包帯を探してみるが見当たらず、人も物も、もぬけの殻だ。
-
(#゚;;-゚) 「あかん、身体がぐらついてしゃーないわ…なんもないんかい」
スカーフェイスの顔色が芳しくなかった。
仕組みはわからないが "ポイズン" の仕掛けた毒は、彼女を蝕み続けた。
…恐らくは自然界において毒をもつ獣達と同程度の症状を発症させているのかもしれない。 …持続性が高く、獲物を追い詰めるための毒。
もしそうだとすれば、あまり長い時間そのままにしておけない。
即効性はなくとも、やはり命に関わる。
-
さらに集落の奥に進むと、螺旋を描く岩階段が見えた。
ミ,,;;Д゚彡 「……これ…」
ナナシの記憶に眠る、幼い頃のイメージが重なる。
この岩階段で、周りの子と馴染めなかったナナシが一人登り降りして遊んだ記憶。
いや、同じように一人で遊ぶ女の子がいたかもしれない。
岩階段を一歩一歩登り、振り向くたび、集落を上から見渡しては見晴らしの良い解放感を味わう。
そして、その向こうには海が広がる水平線と、まだ見たことの無い島か大陸か…。
幼いながらに想像して、しかし、永遠にあそこには行くことなく自分はこの集落でやがて死んでいくのだろう…と、朧気ながら思っていただろうか?
-
それまでの自分より、あの日、ミルナと歩み始めた頃からの記憶の方が鮮明だ。
( ゚д゚ ) 『…皆とお別れはしていかないのか?』
ミ,,゚Д゚彡 『へーきだから…』
( ゚д゚ ) 『さっきの女の子とも?』
ミ,,゚Д゚彡 『うん』
ーー そう言って、当時この岩階段の上にある教会を後にしたのだった。
-
岩階段がゴールを迎える…。
あれから何年も経ち、さすがに外観の古くなった教会が同じ場所で未だ健在していた。
当時の他の子ども達はあれからどうしただろう。
里親が現れたか、それともまだこの教会に住んでいるのか…いや、さすがにいまは避難しているか…。
(#゚;;-゚) 「だれや? 避難してなかったんか?」
思い出に浸るナナシの思考を遮るスカーフェイスの声が少しだけ警戒を滲ませている。
慌ててナナシも騎兵槍に手を掛けた。
-
( ^ω^)「そっちこそ何者だお?
こんなところまで…」
教会の入り口を塞ぐように立ちはだかるのは、ニコニコした若い男…
ナナシより少しだけ歳上だろうか。
だが、服や外套に覆われたその佇まいからは歴戦の戦士を思わせる雰囲気を嫌でも感じさせられる。
腰にも数本帯剣しており、かなり使い込まれていることが鞘の褪せ具合からも分かる。
スカーフェイスはいま長刀を持っていない。
もし敵兵だとすれば自分が矢面に立たねばならない。
ーー せめて彼女は逃がしてやりたい
思わずそう考え、そしてハッとする。
-
生来の勇敢さから過去、一度も敗北した時の事を考えたことはなかったナナシは、自分の頭によぎったこの考えに驚いた。
自分はこの男には敵わない。
万全な態勢であっても。
自然にそう考えてしまったのだ。 …その得たいの知れない強大さが、目の前の男には確固として存在する。
-
(#゚;;-゚) 「…あんたこそ、なんや?
うちらはちぃと手当てだけさせてくれるならすぐ消えたる。
でもな、もし…」
スカーフェイスはある程度の言葉を選んで対応した。
もし敵兵と分かれば ーー
( ^ω^)「構わないお。 ただ、この中には入らない。
…それが守れるならね」
(#゚;;-゚) 「それでもかまへん。
ただし爆弾だの危ないもん作ってないならな」
互いに探りあう。
こちらの探りにも、笑う男は動じない。
当然だ。
そもそもが杞憂だったのだから。
( ^ω^)「…この中で、赤ちゃんが産まれそうなんだお……」
-
彼が守ろうとしていたのは、ーー 妊婦。
避難に間に合わず、ついには産気付いてしまい、この教会で産むことになったのだ。
ブーンと名乗った笑う男にはそもそも敵意が無かったらしい。
スカーフェイスの推測通り、この集落をわざわざ戦場として使うような価値はなく、かといって万が一にも巻き添えは恐ろしい…
住人が迷い戸惑っていたそんな時、彼もここにたどり着いたという。
-
( ^ω^)つ ( (◎) )
「ブーンはここでツンと待ち合わせてるんだお。
はぐれてしまった時の合流地点…まさかすぐそこがもう戦場になってるとは思わなかったけれど」
( (◎) ) (゚-;;゚#)
「ツンってあんたの恋人かなんかか? …傭兵とかでもなければ多分あたしらは見かけてへんけどなあ」
教会にも手当てする道具は余ってなかったらしいが、ブーンは解毒魔法を使うことができた。
スカーフェイスは治療してもらいながら、もう彼との会話に馴染んでいる。
( ^ω^)「これで毒は平気だお。
…それにしても戦場で使うにしては悠長な効果の毒だおね」
(#゚;;-゚) 「やっぱりそう思うか?」
言われて気付く矛盾点。 スカーフェイスはさすがに分かっていたようだが、確かに違和感がある。
-
^Ъ (#゚;;-゚) 「ま、ええわ、巻き込んだらアカンからこの話はやめとこ。
…もうどれくらいなんや?」
治療を終えると、クイッと教会を指さし聞いた。
出産の事が気になる。
(;^ω^)「もうまる一日経つお…」
(#゚;;-゚) 「設備の乏しそうなとこでその時間は危ないな…」
ミ,,゚Д゚彡 「ブーンは…ずっと見張ってたの?」
( ^ω^)「おっおっ、これくらいならなんともないお」
(#゚;;-゚) 「せやけど、無事産まれたらええな」
( ^ω^)「だお! きっと大丈夫だお!」
弾むように答える様子はさっきまでの雰囲気とはかけ離れたものだった。
こちらが素の顔なのだろうか。
そして、
-
ーー …ァァ! オ ギャア!!
教会の中から元気な産声がここまで響いた。
心なしか教会全体を包み込む雰囲気も穏和になったような気になる。
きっと出産は成功したのだろう。
(*^ω^)「よかったお! 泣いてるお!」
ブーンは一層強く笑った。
こちらもつい笑みがこぼれる。 …今日の数時間前までは戦争に参加し、殺し合いをしていたのに。
(#゚;;-゚) 「おーおー威勢のいい産声や。
元気そうな男の子やろな」
ミ,,゚Д゚彡 「わかるの?」
(#゚;;-゚) 「傭兵に本腰いれるまでは助産婦だったんやで。
……ま、もう昔の話や」
スカーフェイスもニカニカと笑っていた。
…ほんの数時間前には殺し合いをして、
"ポイズン" をもその手で殺し、
陰鬱と外斜視の死を確かめてしまったのに。
-
助産婦の女性が教会の扉を開けると、こちらに声をかけてくる。
女「旅の方! 産まれました、母子共に健康に!
長い時間、見張りなんてお願いしてしまって…」
( ^ω^)「いいんだお!いいんだお!
…じゃあ、ぼくはこれでおいとまさせてもらうかお」
(#゚;;-゚) 「え、ちょいちょい、顔見てかんのか? 知り合いなんやろ?」
ブーンは顔を横に振り、岩階段の方角を指差す。
( ^ω^)ノ 「ただ待ち合わせのついでに見張ってただけで、別に知り合いではないお。
それに、もう待ち合わせもちょうど終わりだから」
女「あぁ、善良なる行為に感謝致します。
旅の方、あなたに神の祝福がありますように…」
助産婦が指を組み、頭を垂れてブーンに祈りを捧げるのを見届けると、彼は嬉しそうに両手を広げて急ぐように岩階段を掛け降りていった。
-
(#゚;;-゚) 「慌ただしいというか、明るいやっちゃな〜…」
女「あなた方も、見張りを?
もしお急ぎでなければ是非ともお礼申し上げさせてください。
この中で、さきほど母親となった方もお待ちしているんです」
助産婦が教会に招き入れようと扉を支えている。 本来ならブーンがここに入るべきだと思うのだが…
(#゚;;-゚) 「…なあ"フサギコ" 、あんた産まれたての赤ん坊、みたことあるか?」
ミ,,゚Д゚彡 「えっ?」
-
棄てられたての赤ん坊なら見たことがあった。
ーー 自分も恐らくは同じだったはずの、親に見棄てられた赤ん坊や子供。
ーー なにもわからないまま、きっと誰かが救い上げてくれなければ朽ちていく命だった赤ん坊。
幼い自分が退屈だと思っていた、暗い穴の底辺だと思い込んでいたこの教会が……こうして命を救い上げ続けていたのかと思うと。
ナナシは胸に込み上げてくるはじめての感情に心を囚われていく。
-
(#゚;;-゚) 「社会勉強や。 せっかくだからお邪魔して見てみぃ」
"人を殺さないあんたが、もしかしたら遠回しに救ってるかもしれん命だと思ってな"
…最後の一言だけ、とても小さくナナシにだけ聴こえるように喋った彼女は、特に笑ってはいなかった。
代わりに、なにかとても、とても寂しそうに見えたのが印象的だった…。
助産婦に迎えられ教会に入っていくナナシを後ろから見守りつつ、スカーフェイスは岩階段から集落を振り返り、見下ろした。
(^ω^)ノシ
ξ゚⊿゚)ξ ノシ
(#゚;;-゚) 「あれがブーンの待ち人かい」
仲睦まじく旅立つ二人を見送ると、小さく溜め息を吐く。
(#゚;;-゚) 「…あたしもああして過ごせとったら違った人生だったんかもなあ」
----------
-
教会で出産を済ませた女性との対面は、それまで空虚だったナナシの人生に、一粒の波紋を波立たせた。
かつての女の子との再会。
母親となったその女の子とナナシがくぐったのは、ミルナの故郷であり、ナナシが長く育ったあの村の門だった。
-
村長「…ナナシ、おぬし無事だったのか!」
数年ぶりに会う村長の顔はもはやしわくちゃで、まるで懐で押し潰された饅頭のようだと思った。
ミ,,゚Д゚彡 「…ただいまだから」
ナナシは思わずたじろぐ。
「風の噂でお前の事を聞いた奴がいたんだぜ!
フサギコって名前で、人を殺さない奇特な傭兵がいるってさ!」
「昔は、本当に悪かったな…
"塞ぎ児" だなんて、陰で呼んじまって…お前が出てったあと、俺たちみんな考えたんだ」
「このまま…、あいつは…、
ナナシは死んじまったら、そんな気持ちのままあの世にいっちまうのかよ…とかさ。
そんなことになったら、もし俺たちもあの世にいった時、ミルナに合わせる顔がないって!」
村人達から、謝罪と後悔の言葉が降り注ぐ。
ナナシの顔を見るなり、涙ぐむ者もいた。
-
傭兵家業は人に嫌われやすい。
このご時世…そのほとんどが、金のために働く人殺しや、戦争屋といっても差し支えがないからだ。
しかし、ナナシは決して殺さなかったのだ。
受け取った報酬も、自分のためにはほとんど使わなかったのだ。
村長「お前が送ってくれていたお金は一つも手をつけておらん。
お前の…ミルナとの古家に保管しておるよ」
ミ,,゚Д゚彡 「…みんな…」
これは、ミルナがくれた贈り物だ、と思った。
ミルナが居たから今のナナシが存在する。
そして…
(*゚ー゚) 「ミルナ…さんって、あの時のギョロ目の?」
昔、教会で唯一ナナシに懐いていた女の子…今は一児の母となった女性が、ミルナの名に反応する。
-
出産後、人のいなくなったあの集落では生活も成り立たないため、ナナシの村に避難しようと共に来たのだ。
スカーフェイスも道中まで見送ってくれたが、再び戦地に赴くと言う彼女は、村にたどり着く前に別れを告げた。
村長「ミルナをご存じか? ひょっとしておまえさんは…」
(*゚ー゚) 「はい。 ミルナさんはあのあと何度も私達の集落に寄って頂いてました。
出稼ぎの帰りだから、と、そのたびに教会に寄付されてたみたいで…」
ミ,,゚Д゚彡 「!!」
(*゚ー゚) 「皆に好かれてました。
最初は怖がってたけど…優しくて頼りになるって大人にも子供にも」
村長「そうか…あやつらしいな。
ところでお前さんの名前は?」
(*゚ー゚) 「しぃ。 せめてこの子が大きくなるまで、この村でお世話になります」
-
これから一緒に村で過ごすのだから…と、矢継ぎ早に質問する村人達を諌めて、ナナシとしぃは、ミルナの古家にその身をやっと落ち着かせた。
ナナシにとって、これから新しい生活が始まる。
まずは、しぃの夫を捜さなくてはならない。
(*゚ー゚) 「…彼も戦争に行ってしまったの。
もともとは国に雇われた軍師だったけど、ちょうど一年くらい前から戻ってこなくなって…」
ミ,,゚Д゚彡 「戦争はすごく大きくなったから…」
(*゚ー゚) 「フサ…ナナシは、紅い森って知ってる?」
-
大陸の北西には、ナナシとしぃの居た教会のある集落。
そこから山々を越えて南下するとミルナとナナシの故郷の村。
そして紅い森は、ここから反対側となる大陸の真東に位置する、古の部落が住むといわれる広大な土地だ。
(*゚ー゚) 「彼がその名前を口にしたのを聞いたことはある…でも、もしそこに彼が向かっていたとしたら…」
戦争は大陸の中心地に近いほど、激しさを増す。
よほど運が良くない限り、恐らく無事には帰ってこれないだろう。
-
ミ,,゚Д゚彡 「……」
(*゚ー゚) 「ねえ、ナナシ」
考え込むナナシに、しぃは訊ねる。
(*゚ー゚) 「…あなたも、また戦争に行っちゃうの?」
ミ,,゚Д゚彡 「……」
(*;ー゚) 「あなたも、もう、もしかしたら帰ってこないの?」
しぃの瞳から涙が零れる。
夫となるはずの男が出発して以来、
数週間… 数ヶ月… そして、一年…
子供を産んだ彼女は、なかなか戻らない伴侶をどんな想いで待ち続けているのか。
ナナシにとって、戦争に行ったきり帰ってこなかったミルナを待ち続けた日々…
そして、
ミルナの亡骸だけが帰ってきたときの絶望感を思い出す。
いまの彼女は、昔のナナシだ。
-
正直、悩んでいる。
ナナシは新しい命の輝きを知ってしまった。
死んでいく命の重さを知ってしまった。
スカーフェイスのように、過去と現在におそらくは葛藤しながらも、強く生きていこうとする想いもあるという事を知ってしまった。
…そしてミルナのように、自分の意思で出来ることを自分で探して、それを実行する偉大さを知ってしまった。
ーー ナナシは
-
ミ,,゚Д゚彡 「ナナシは」
(*;ー;) 「?」
ミ,,゚Д゚彡 「ちゃんとここに帰ってくるから!
しぃはここで安心してナナシと夫を待ってて欲しいから!」
(* ;ー;) 「……」
-
「ナナシは…
( ゚д゚ ) (*゚ーミ,,゚Д゚
きっとあの頃から、ずっとずっと、
強くなったんだね…」
-
ーー この故郷を守り、しぃの想いを護るべく、ナナシは再び戦地へと赴く決意をした。
「必ず帰るから。」
( ゚д゚ ) 『もし帰ってこられたら、今度こそ俺はお前に…
"お前の父親はもう俺なんだ" と、胸を張りたい』
人は、自信がないからこそ、
もっともっと頑張ろう!と、
胸を張って生きていく。
(了)
-
1です
夜→朝→夜 と分けるつもりのお話の投下がすべて完了しました
次回も少し長くなるかもしれませんが
よろしくお願いします
現在までのお話
( ^ω^):矛盾の命
>>1
( ´∀`):繋がれた自由
>>17
( ´∀`):遺していたもの
>>48
( ^ω^):老女の願い
>>101
ミ,,゚Д゚彡 :帰ってきてね
>>139
-
乙です、約100レス一気に読んでしまった
元気なξ゚?听)ξがいた
-
乙!
このブーンとツンってやっぱり不老不死の二人?
だとしたら老女の願いのときの戦争っていうのがここらへんの時代なのか
続きが楽しみだ
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乙 胸にぐっとくる話だった
-
ありがとうございます
皆さんにそう言ってもらえると、なんだか同じ想いを共有できたみたいに嬉しいです
>>226
作中にはあえて明確に書きませんでしたが、時系列として、まさにその通りです
そしてこの時の( ^ω^)とξ゚⊿゚)ξ も、【命の矛盾】における二人に相違ありません
今後もお話によって異なる時系列が展開されますが、なるべく分かるような分からないような書き方をするつもりなので、そこも推測しながら読んでもらえると違う楽しみ方があるかもしれません
完結後はすべての時系列ごとの出来事をまとめた年表も発表しますね
-
おつ
このドクオからどんな話が読めるのか今から気になる
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おつ!
このドクオは悪者だぜ…でもどんな話なるのかすげぇ気になるわ
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乙がとても嬉しいです
ありがとうございます
やはり('A`)は気になりますか?
ふひひ
-
>>1 楽しみにしてる ふひひ
-
22日の水曜日、16時頃に次のお話を投下します
よろしくお願いします
-
待ってる
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4ヶ月か…
-
謎の日時を伝えていたことにいま気が付きました…
頭がどうかしていたみたいです
少し遅くなりましたがこれより投下します
-
( ^ω^)千年の夢のようです
- ふたごじま -
-
「貴方は神を信じますか?」
信仰心を試されるこの町では、立ち入る者すべてに問われる言葉が丁重に出迎えてくれる。
旅人に限り、答えはなんでも良い。
コミュニケーションの一環として、旅人はそれぞれが信ずるものを口にして門をくぐるのだ。
神の概念を語る間柄でもなければ、そもそも神が偶像か実在かも曖昧な問い掛け。
( ^ω^)「信じてるお」
ξ゚⊿゚)ξ「信じないわ」
「ようこそお出でくださいました。
どうぞ、心安らかなご滞在を…」
同じ顔をして両脇に立つ門番が腕をあげ、胸の前で掌と拳を合わせる。
それが合図のように、凡そ見たことのない生物をモチーフとしたリリーフの荘厳な扉が、重々しく音をたてながら観音開いた。
-
谷の麓に居を構えるこの町について、一つ耳にした風の便り。
…いや、恐らくどこに居てもその話で持ちきりだった。
ブーン達がここにたどり着くまでに出会ったすべての土地で、それを聞くことができた。
"いままさに神の使いが肉体を棄て、より高位の存在として世を旅立たん"
との文言が、大陸中を席巻した時代。
三日月にくり貫かれた大地から海を隔ててすぐの孤島で、この町は独自の文化を形成している。
ξ゚⊿゚)ξ「中はキレイに整備されてるのね」
( ^ω^)「綺麗すぎるお…」
この町を初めて見た旅人が必ず口にする感想。 ブーン達もまんまと前人に倣った。
地形を利用して造られた大空洞。
はるか頭上にやっとみえる天井に目を凝らせば、白い羽根を背に生やす子供や、ヘイロウと呼ばれる輝く天輪を浮かべる美しい女性がところせましと画かれている。
通路や区画は存在せず、ただただ大広間が左右前方に延々奥へと続いている。
太陽の光が届かない代わりに、大空洞を内部から支えるため等間隔にそびえる巨大な柱。
そこに設置されたおびただしい数のランプの灯りが煌々と輝き、町中を照らし尽くす。
それはまるで闇を必死に拒むようにもみえた。
-
( ^ω^)「おーん…」
ξ゚⊿゚)ξ「ねえ、アンタも気付いた?」
町中を歩いていて、視界に収まる人々の挙動や表情。
同じブラウン色のローブを纏うのは、洋服や装いの文化が無いためだろう。
談笑する姿は穏やかで、子供も駆け回ることなく物静かに歩く。
( ^ω^)σ 「その辺に寝っころがってる人がいるお!」
ξ゚⊿゚)ξ「そうじゃないわよバカ」
町の人々は自由に過ごす。
大広間だけのこの町には、通路もなければ影になる場所もなく、地も平坦で少しの段差や傾きもない。
彼らは眠る時間が来れば好きなときに横になり、疲れたなら好きなところで座り込んでしまう。
(*^ω^)「バ、バカ…」
罵られてつい喘ぐも、もう一度、人々を眺めてみた。
講義する者…される者、天井の絵画に祈りを捧げるもの…地に祈る者。
鏡越しに反抗する己の姿を写し出すかのように。
ξ゚⊿゚)ξ「…みんな、双子だわ」
-
町のなかを歩く最中も、一組の双子に声をかけられる。
「旅人とは珍しい。 天かける儀式を見にこられたのかな?」
「神の使いたるビコーズ様なら、奥の祭壇にいらっしゃいますよ」
優しく微笑む双子に会釈し、ブーンとツンはなおも大広間を正面にまっすぐと歩む。
町としての面積は、外から想像するよりも広い。
脇目もふらず歩き続けてすでに十を超えるグループから話し掛けられている。
…そして、その全てが双子であり、内容も異口同音である事が、異質に感じられた。
何度も、何度も。
それ以外はこの町に触れてほしくないと言われているように。
歩いても、歩いても。
同じ間隔で柱が並び、それぞれ同じ顔の双子が並び語り合うための無限回廊を歩かされているような…そんな錯覚に陥る。
.
-
----------
「この世は誰が創られたのか、君は知っているか?」
手に開いていた本をパタンと閉じて、彼は棚にそれを戻すべく壁棚に向かう。
( ^ω^)
つ□ ~ 「…誰って……どういう意味だお?」
「文字通りさ」
書斎と見間違うほどの壁一面に本棚がレイアウトされたこの一室は、
神官のみが立ち入りを許される大空洞二階の各々の私室。
大広間とは異なる、町の外に一度出て別の岩場の狭い扉から入ることができる。
冴えない顔をしている…
青年と呼ぶには相応しくない、達観したような態度で語りかける長身の男と飲むコーヒーは、あまり美味しくなかった。
ブーンは甘いものが好きだが…それにしてもこのコーヒーは苦い。
( ´_ゝ`)「それともこの世界が、空が、海が、大地が、少しずつ現れたとでも思うか?」
-
長身の男はブーンに向き直る。
腕をくみ、テーブルを挟んで向かい合うソファーに身体を沈めて。
( ^ω^)
つ□~ 「うーん…」
ξ゚⊿゚)ξ「あ、これ読んだことある」
( ´_ゝ`)「あんまり考えないか」
身を乗り出して、その口が動き続ける。
真剣だが、どこか大事なものを置き忘れたような眼差しで。
( ´_ゝ`)「 -この世界は神が作り出した。
偉大な神は、真っ暗闇なその世界を憂いて己の眼球を取りだし、
その虹彩からは光を、
瞳孔からは闇を、
硝子体は大地を、
水晶体は海を産んだ」
( ^ω^)
つ□~ 「……」
ξ゚⊿゚)ξ「なにこれ、初めてみる本だわ」
( ´_ゝ`)「つまり、この世界は神の眼球そのものとして生まれ変わり、また神の瞼の下に埋め直された。
これにより神の体温を得たことで世界には暖かみが生まれた」
-
( ´_ゝ`)「だが神もまた真っ暗闇の中にいる。
神が目を開ければ夜になり…目を閉じれば朝になる…-
と、いうわけだ」
そこまで語り、ソファーに背中を預けた。
( ´_ゝ`)「……いまのが、この信仰で必ず詠まれる教典の最初の一文です」
どう思った? と言わんばかりに、彼は肩をすくめ、組んでいた腕のちからをだらりと抜いた。
…そして沈黙する。
どうやらこちらの答えを待っているらしい。
面倒な質問であり、いたずらに気を遣わされる…
そんな思いを抑えつつ、コーヒーカップをテーブルに置き、
( ^ω^)「面白い考え方ではあると思うお」
と返答した。
-
ξ゚⊿゚)ξ「……」
ツンは先程からずっと本棚を漁り、一つ一つ本の中身にパラパラと目を通している。
( ^ω^)「というより、人間らしい考え方だお。
いまある物や名前を当てはめて、それらしい物語で皆にお話しするんだおね?」
( ´_ゝ`)「そうとも言うな」
ξ゚⊿゚)ξ「やだ、紙が欠けてて読めないじゃない」
( ´_ゝ`)「神がなぜ真っ暗闇の中にいるか、それは神の世界もまた暗闇だからさ。
己を省みる前に他者を慈しむ。
神の慈悲で私たちの世界は創られ、常に神と共にある」
質問の意図は読み取れないが、彼の態度をみる限りはひとまず何事もなさそうで安心した。
( ^ω^)「おーん…」
ξ゚⊿゚)ξ
⊃Ι⊂ パタン
「…ツマンネ」
彼女は飽きた様子で本を閉じる。
本棚から身体を離し、その隣にある一人用テーブルに背伸びして寄り掛かった。
スカートから健康で活発そうな脚が伸びる。
(;´_ゝ`)「できればちゃんと聞いて…」
ξ゚⊿゚)ξ「その講義を聞かないと、この町には滞在が許されないの?」
( ´_ゝ`)「君たちが旅人である以上、神官として布教活動を行っているだけさ」
-
ツンの刺々しい言動にも動じないこの男は、大空洞を訪れたブーン達の呼び出しにより現れたサスガ一族…
その長身の男。
( ´_ゝ`)「私がサスガだが…君たちは?」
(;^ω^)「…あれっ」
( ´_ゝ`)「?」
初対面のはずだが、この顔をブーンは知っている。
そしてツンも。
ξ゚⊿゚)ξ「はじめまして。 で、いいのよね。
私たちはサスガ・弟者さんのことで家族を訪ねてきたんだけど」
そう言い終わる前に、彼の表情が一瞬だけ変わった気がした。
今は眉間にシワを寄せている…が、もっと、それ以上に。
( ´_ゝ`)б「そうか…伺おう。
立ち話も失礼ですからどうぞこちらへ…」
.
-
ξ゚⊿゚)ξ「もう信仰のお話は結構よ。
否定してるわけじゃないわ、人の自由という意味でね」
( ´_ゝ`)「そうですか…これは失礼。
えーっと、弟者についてでしたね」
( ^ω^)「これを…」
差し出したのは黒い木札。
男はそれを眺めるものの受け取らない。
待てど動きがないため、ひとまずテーブルに置き直してみたが、それを手元に寄せる様子もなかった。
コーヒーの淹れられたカップの隣で、同じ灰黒色が灯りにゆらゆらと照らされる。
-
( ´_ゝ`)「……死んだのか、アイツ」
沈黙は思考の表れだった。
提出した灰黒色の木札はこの町の信仰における偶像であり、これを持つものは同時に孤島出身の証ともなる。
木札が町に返還される場合、そのほとんどが死亡や他宗教への心の移り住みを意味した。
ξ゚⊿゚)ξ「私たちが縁あって預かったわ」
兄者の言葉を否定はしなかった。
彼なりに、弟が他宗教を信仰する根拠には至らなかったと考えると、信頼感を感じさせる。
( ^ω^)「彼は兄者さんのことを心配していたお。
ちょっとびっくりしたけど…君も双子なんだね」
ーー 弟者からは『兄がいる』とは聞かされていた。
( ´_ゝ`)「心配? 俺が心配されるようなことは何もない」
ーー そして、その兄が自分の存在故にこの孤島に縛られているとも。
( ^ω^)「弟者は最後まで理由を言わなかったけど…彼はこの町に戻ろうとしなかったお。 なぜ?」
( ´_ゝ`)「……」
ξ゚⊿゚)ξ「私たちは弟者からその木札を預かって、弟者の代わりにこの孤島に来て。
弟者の代わりに貴方に…兄者に会いに来たようなものだわ」
( ´_ゝ`)「……フゥ」
( ^ω^)「家族をそんなに拒絶するなんて変だお」
( ´_ゝ`)「アイツは戻れなかったのさ。
なんせ追放されたんだからな」
-
( ^ω^)「追放…」
( ´_ゝ`)「この島で生まれ育った子供なら、物心つくまでには信仰心が育つはずなんだ。 親から教えられる。
"人様に石を投げつけたら怪我をするから危ないですよ" 、
と教えるのと同じ物差しで、
"この世界は神が創りたもうた" とね」
ブーンとツンの記憶から数えれば、今から約550年前。
信仰と共にそれを組織するための宗教が世界で初めて立ち上がったという話を聞いた事があった。
あれはどこだったか…。
それはおよそ人為的にはあり得ない奇跡を立て続けに起こした少女と、それを崇めた人々の歴史。
( ´_ゝ`)「島で生まれたなら、そのしきたりに従うのが常識であり日常なんだよ。
でも…弟者は疑ってしまった」
( ´_ゝ`)「この世界に神など本当にいるのか、奇跡など本当に起こりうるのか。
証明して見せてみろ…とね」
-
(;^ω^)「神を否定したら、追放かお…?」
ξ゚⊿゚)ξ「あたしも入り口で居ないって答えたけど?」
思い当たる節のあるブーンが気まずくなるのとは対照的に、その思い当たる元凶であるツンは堂々と、
追放してみろと言わんばかりに口を挟む。
( ´_ゝ`)「否定ではなく、疑いだよ。
それに旅人を追放なんてしないさ…
そもそも入信してないんだから」
m9(´<_` )「信仰とは、信じて仰ぐと書く。
なのに自分の意思で信じるのでなく、押し付けられた定義を信じるのが本当に正しいのか?。
単に寄り掛かってその責任から逃れてるだけ…
そうは思わないのか?」
( ´_ゝ`)「その一言が、人々への決定打になったよ。
親の言うことも素直に聞けない、
信仰もろくにできない、
あまつさえ信仰する人を責任逃れ呼ばわりだ…」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
信仰者にとっては信仰ありきの人生。
それは自然を愛し、共生する、山の民や海の民にも同じことが言える。
海を信じない海の民はいない。
山を信じない山の民はいない。
何が自分を支えているか、が信仰にはとても大事なのだ。
-
ブーンもツンも、それは理解できるよう努めている。
しかし、それでもひとこと言ってやりたかった。
ξ゚⊿゚)ξ「ねえ、いまの弟者の真似?」
(;´_ゝ`)「……」
ーー 兄者は少し、茶目っ気があるとも。
----------
-
白い点が、近付くにつれて台座になり、それに至る階段が同じ目線に下ってくる。
この大空洞で唯一、頭が高い祭壇が見え始めた。
( ´_ゝ`)「さっきは喋りすぎてしまって失礼した」
彼の私室を出て、実際に天かける儀式を行うための場所を教えてもらう。
儀式までにはまだだいぶ時間がある。
せっかくだから…と、兄者は案内を申し出てくれた。
ζ(゚ー゚*ζ 「ようこそ旅の方」
ミセ*゚ー゚)リ 「サスガ様もご一緒ですのね」
祭壇への階段を塞ぐように立つのは、やはり同じ顔の、双子の女性。
だが兄者の名を呼ぶ時のみ、その声色には若干の嘲りを感じた。
⊂ζ(゚ー゚*ζ 「旅の方。
天かける儀式は翌日…太陽が一番輝く時間に行われますのよ」
右に立つ女性が仰々しく頭を垂れながらその腕が導く方角…。
祭壇の上には台座。
そして、台座に御神体である真球体が長い年月の間、磨き奉ってある ーー と、すでに兄者から受けていた案内を思い出す。
ミセ*゚ー゚)リ 「サスガ様。
旅の方への布教はもうお済みですか?」
( ´_ゝ`)「ええ、もちろん」
ζ(゚ー゚*ζ 「では、旅の方も当教への入信を?」
-
( ^ω^)
( ^ω^)「えっ?」
ミセ*゚ー゚)リ 「信仰は素晴らしいものです。
また、皆で共に同じ教えに乗っ取り祈ることがより一層の幸せに…」
ξ゚⊿゚)ξ「ちょっと、私たちは入信するなんて言ってないわよ」
ζ(゚ー゚*ζ 「まあ。 それは失礼しました。
…私も幼い頃に入信致しましたが、目標をたてて邁進する日々はそれはそれは充実しております」
( ^ω^)「いや、あの」
ミセ*゚ー゚)リ 「わかりますわ、突然言われてもね…
しかし、一人でやるより皆さまが一体となって捧げる祈りは、己を高める第一歩のためにとても勇気付けられるのですわよ」
ζ(゚ー゚*ζ 「いえいえもちろん、強制は致しませんし、許されません。
しかし己を信じ続けることで拓く道も確かにあり、この町の信仰はそれを支え、皆で協力し合い、後押しするものです」
ξ゚⊿゚)ξ「こっちの話を聞…」
ミセ*゚ー゚)リ 「争いを好まず、平和のためにのみ、できうる限りの尽力を捧げましょう」
-
彼女達の破折屈伏(はしゃくくっぷく)の説は止まらない。
自身の信仰する教えが正しいと思うが故の行動が、一介の旅人を困惑させる原因とはつゆほども分からないらしい。
( ´_ゝ`)「デレ、ミセリ。
こちらの方々はまだ本日こちらに着いたばかりです。
それに折伏は信仰を知り、理解を求めた方のみに行うべきだと私は思いますよ」
ζ(゚ー゚*ζ 「そんな! 私達はただ旅人方のためを思って…」
ミセ*゚ー゚)リ 「デレ、およしなさい。
…失礼致しました。
旅の方、サスガ一等神官殿」
ξ#゚⊿゚)ξ「……」
その口調から、兄者は双子より上の階級に属すらしいが、どうにも節々からは彼を見下しているかのような目付きが先程から気に食わない。
そしてその盲信ぶりも。
-
その後も続く双子の話を兄者が適当に切り上げ、三人は双子と祭壇の元から離れる。
彼女達の目線を背中に感じながら、その姿が見えなくなるまで口を開く気にはなれなかった…。
ξ゚⊿゚)ξ「…たった数十分で弟者の気持ちが分かったわ」
( ´_ゝ`)「すまない、熱心な人になると少々ね…
摂受の説を蔑ろにしてはいけないといつも言ってはいるんだが」
兄者も苦労しているのかもしれない…しかし、
ξ゚⊿゚)ξ「謝るくらいなら身内のあんたらがなんとかするべきでしょ。
言われた方が我慢するのはお門違いなのよ。
そもそも幸せの定義なんてものは自分が決めるわ」
ツンの不満は相当なものだ。
彼女はそもそも押し付けがましい話が嫌いだった。
(;^ω^)「まあまあ…兄者はちゃんと止めてくれたお。
でも信仰の骨組み的な教えとしては彼女達に同意なんだおね?」
( ´_ゝ`)「……。
まあな」
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ結局は同じ穴のムジナじゃない。
兄弟を追放されても、あんただけがここに残ってるのがいい証拠だわ」
ーー 直後、兄者の足がビタッと止まった。
慣性からも、重力からも力強く逆らうように。
ツンの言葉に背中で逆らうように。
-
そのまま数分間、彼は一切動かなかった。
大広間に立ち並ぶ柱々のように、ズシリと重く…。
( ´_ゝ`)「…… 俺なんだ」
( ^ω^)「……」
( ´_ゝ`)「弟者を追放したのは、俺自身だ」
握りこぶしを作り震える。
( ´_ゝ`)「町の人々は関係ない。
俺が…俺が……」
沈黙に耐えかねたツンが見たものは、隠す様子もなく歯を食い縛り、口内から血を流しなお噛み締める兄者の顔。
それは…この大空洞より空虚な、記憶のなかの弟を想い、果てに懺悔の面を被った一人の兄の姿だったのかもしれない。
-
----------
やがて神がまばたきし、この世界に神の暖かみが満ち足りた時刻。
祭壇に集った町人らと、それに比べればわずかな旅人達が囲むなかで、
天かける儀式が始まった。
ξ゚⊿゚)ξ「こんなにたくさんの人がどこにいたのかしら」
( ^ω^)「町が広くて感覚が掴みにくかったんだお、きっと」
海に点在する魚達が一ヶ所に集まったようなものだ。
前をみても後ろを向いても、人の頭で埋め尽くされている。
なかなか圧巻だ。
儀式は信者一同による教典の復唱から始まり、
神への謝辞、
町への祈り、
隣人との相互一礼、と続く。
この時点ですでにツンはイライラを募らせていたが、祭壇に立つ特級神官がなおも信仰心溢れる話を続けている。
ξ#゚⊿゚)ξ「…あと一つでもなにかやるようなら出てくわ」
(;^ω^)「まあ…止めないお」
だがどうやら、ここで時間が来たらしい。
( ФωФ) 「ーー これを結びとし、我輩からの言葉を締めさせて頂く」
( ФωФ)⊃ 「さて、ついに太陽が天にもっとも登る時刻となった。
神の使いであるビコーズ様から、私たちへの現世最後のお言葉を承りながら、祝福を祈らせて頂きたい。
…ビコーズ様、どうぞ前へ」
-
( ^ω^)「!?」
特級神官が階段を降りてくると同時に、祭壇に一つの影が浮かび上がる。
ーー 人の顔…ではない。
人間でもない。
酷似したなにか別の存在。
それには身体が無いのだ。
幾重もの筋を刻む白い球体が、さらに眩い輝きが、小さくも強く、目下の人々へと注がれた。
「おお…なんと神々しい…」
「これが、ビコーズ様」
「御言葉を! ビコーズ様!」
人々からあがる歓喜の声。
御神体であった真球体…それがひとりでに宙にゆらゆらと舞う。
それは自身の目覚めへの自覚と、人々を見下ろし役目を果たさんとする義務感を纏いながら、やがて留まる。
-
( ∵)
.
-
( ^ω^)「御神体…あれが?」
ブーンの率直な意見だった。
思わず含みを持たせたが兄者は気付かない。
( ´_ゝ`)「町中に漂っている願いや祈りを集約してその身に宿す…という言い伝えが教典にある。
つまりあれが、この町の信仰の形ということになるな」
戸惑うブーンの感情は捨て置かれる。
兄者も無表情の奥では感極まった気持ちを抑え切れない。
( ∵) ーー ザザッ
( ∵) "生きる目的" という概念が、生への渇望となる
( ∵) 神託 ーー を 下す
_,
( ^ω^)
_, 「…ん?」
ξ゚⊿゚)ξ
ーー 僅かなノイズ音。
ブーンもツンもそれを聞き逃さなかった。
しかし、二人の表情に、誰一人気付くことはない。
周囲は誰しもが壇上の御神体に目をやり顔を背けることなく。
( ∵) この星の均衡は間もなく破られる
その一言で。
感涙や高揚に支配されたはずのその場から、大量の血の気が引いた。
-
聞き間違いか?
声は聞こえる…が、耳に届いているわけではない。
頭に直接響いたのだ。
…頭に、不吉な一文が。
だが、これからどのような内容が発されようとも、もはや逃れられない。
御神体ビコーズは言葉を続ける。
( ∵) 遠くて近いアサウルスらの
招来はもはや避けられない
激震は孤島から始まる
( ∵) このビコーズは精神体となり
世に満ちる
間も無く生まれ来る
"魔導力" の助けとなるために
-
(;ФωФ) 「こ、これは…?」
ζ(;゚ー゚*ζ 「…ビコーズ様? 一体何を??」
ミセ*゚ー゚;)リ 「孤島? 激、震??」
動揺が広がり口々に漏れる不安。
皆、混乱を抑えられない。
やはり同じ言葉をここにいる誰もが聞いているのだ。
( ∵) 不死 ーー ザザザ ーー は
ーーザザーー を操り、
これを迎撃できる可能性を
秘める
( ∵) このビコーズの身体が
欠けている 合、
人の願いは闇に傾 ている
ζ(;゚ー゚*ζ 「闇!?」
「そんな……なんで」
「ああ、神様…っ!」
一つ一つの単語に過敏に反応してしまう。
期待と違う。
望んだものと違う。
人々は思わず祈る。
光に満ちた大空洞での生活に。
-
( ∵) その祈りをやめるのです
アサウルスの増長を促
ザザッ ーーザ ーー
.
-
その場の誰もが呆気にとられていた。
…繊維の切れるような音。
声が止み、あとには静寂が残された。
物音一つ立たない。
動くことができない。
特級神官も。 デレとミセリも。 兄者も。
そこに居たすべての人々も。
時間という存在が忘れられたようだった。
…ついにはビコーズが光を失い、抜け殻となった御神体はただの球体となる。
ーー かつん、かつん、かつん。
と、無機質な音をたてて、祭壇から一段一段と転がり落ちる。
やがて人々の目線にまで転がり落ちて、それが動かなくなっても、町が呼吸を取り戻すまで、人々の時は停まり続けた。
----------
-
天かける儀式…
神の使いがより高位の存在となるべく用意されたはずの記念日は、人々の期待とは大きくかけ離れたものとなった。
うやむやに儀式を終えて…町の人々は生気という生気が抜け落ちてしまったように静かに立ち尽くした。
昨日までのように彼らが笑いあい、会話する姿は見られない。
壇上では背中を丸めて座り込む特級神官。
その階段の下で、いつもなら嬉々として旅人らに法を説くであろう双子の彼女達がへたりこみ顔を地に伏せる。
町全体が長年勤めあげた信仰が、崇め奉ったビコーズの神託に脆くも砕かれた…。
"その祈りをやめなさい"
神託のなかには理解できない言葉もあったが、人々に共通しているのはその一言。
この町に、そして人生に根付いた習慣であり、信仰の証であり、毎日毎日…神を想っておこなってきた行為の否定 ーー 。
信じてきたものに裏切られたという感情が、いまや町そのものを埋め尽くしている。
-
数少ない部外者であった旅人達が、町を後にするべくパラパラと港へ歩いている。
大陸中に流布された話から、
『その姿を一目観てやろう』
そう考えてはるばる孤島にやってきたが、却ってみてはいけないものを目撃してしまったという思いに駈られてしまう。
神託というものを初めて目の当たりにした旅人達は、きっと故郷や行く先々で様々語るだろう。
「以前、三日月の孤島で見た神託はなーんだか陰気臭くて、とても耐えられなかったね」ーー だろうか。
「神託なんてありがたいもんだとは限らないぜ! 俺が昔聞いたのなんて、町人が落ち込むようなことばかりだった」ーー かもしれない。
はたまた、
「あそこは邪教さ、悪いものを召喚する集団なんだ。 御神体にすら見放されたのを俺は見たぜ」ーー と言われてしまうか。
いずれにせよこの孤島の信仰は、信者にとっても余所者にとっても、
"考えていたものとは違う" 存在として歴史に語られることになるかもしれない。
ーー しかし
-
( ^ω^)
ブーンが町の外に一歩出て気付いたことがある。
自身の身体に満ちる充実感。
大空洞全体を包み込む暖かさ、
靴の裏に踏み締めた大地の感触、
港に流れる風の重厚感、
はるか水平線を映し出す海の躍動感、
そのすべてが生まれ変わったような…。
( ^ω^)「……不思議な感覚だお」
ーー この力を、後に世界では
"魔導力" と呼ぶことになる。ーー
.
-
ブーンとツンが港で迎えを待つ間、他の旅人達は自前の舟をこぎだし海の向こうに渡ってしまった。
こちらからは追い風のようで、その速度はあっという間に彼らを豆粒のように小さくしてしまう。
ξ゚⊿゚)ξ「…来ないわね、今日にお願いしてるのに」
わざとらしくぼやくツンがため息混じりに腰に手を当てた頃、町の方角から一人の長身の男…兄者がこちらに歩いてきた。
( ´_ゝ`)「……まだいたのか。
予め迎えを寄越してるのか?」
( ^ω^)「だお。 でもこの風だから向かい風になって遅れてるのかもしれないね」
( ´_ゝ`)「そうか。 たしかに風が強い…私はあまりここには来ないんだが」
ブーン達を追いかけてきたわけではなかった。
彼はただ、落胆した町から離れて独りになりたかったのだろう。
手にしていた水筒からコーヒーを注ぎ入れ、ちびちびと飲み始める。
-
ξ゚⊿゚)ξ「…儀式、結局はどう思ったの?」
( ´_ゝ`)
つ□~ 「…変わらんさ。 変われないよ」
無反応ではないが、やはり気落ちしているせいですべてを諦めたように彼は呟く。
( ^ω^)「神はまだ、兄者の中にいるかお?」
( ´_ゝ`)
つ□~ 「……どうなんだろうな」
( ^ω^)「……」
( ´_ゝ`)「…でももしかしたら、俺はもう町に居ても仕方ないかもしれないな」
そう言って彼は顔を伏せ、膝を折ってしゃがみこみ、祈るように少しだけ涙を流す。
それは海へ向けて…
かつて自分が追放した、もう会うことのできない弟へ向けて…
-
それからはもう、ブーン達はなにも言わなかった。
しばしの沈黙と、ようやくたどり着いた迎えの舟に乗りこみながら、兄者、と呼んだ…
ーー ブーン以外の男の声で。
-
「久しいなバカ兄者。 そんなとこでどうした?」
声は聞こえる。
頭の中ではない、直接耳に届いている。
ーー 顔がすぐには上がらなかった。
身体もすぐに動かなかった。
心だけが焦り、瞼の奥では何度も何度も、頭を動かしているのに。
「ちょっと! もう少し優しく呼んであげないと顔あげないんじゃないの?」
「それは流石だな、あの頑固者め」
「おっおっ。 きっとガクブルしてるんだお」
兄者がここに着いた際、周りにはもうブーンとツンしか居なかった。
背後から誰かが来た様子もない。
…つまり、三人の他には舟乗りしか居ない。
バカ兄者と呼ぶ者など、この世に一人しかいなかったのだ。
ヾ(´<_` )「おーい、元気してたか」
( ;_ゝ;)「……………なんで…」
( ;_ゝ;)「…死んでねえじゃん…」
涙を隠そうともせず彼はそのままブーン達を睨み付ける。
おかげで形相が凄い。
-
( ^ω^)「僕たちは弟者が死んだとは一言もいってないお」
(´<_` )「信仰しないのにずっと持ってても仕方ないから、いい機会だし返してきてくれとは頼んだがな。
おれ町に入れないし」
ブーン達から渡された弟者の木札。
確かに私室に置いてある…鍵つきの引き出しに大切にしまった。
ξ゚⊿゚)ξ「この孤島にだって弟者の舟で来たのよ。
帰りもお願いするつもりでね」
(´<_` )「そう、追放されてから舟乗りになったんだ。 しかも向こう岸の港町にそのまま住み着いてる」
(´<_` )「…何度か旅人もここに運んでるんだが。
外に出ないでずーっと引き籠ってるから気付かないんだよなバカ兄者は」
( ;_ゝ;)「………」
( う_ゝ;)「…」
( ´_ゝ`)「……まじで?」
+(´<_` )「まじだ」
兄者は今度こそ、がっくりうなだれて落ちた頭を上げることが出来なくなった。
恥ずかしさや怒りがこみ上げてくるも、それをうまく処理することが出来ない。
-
( ^ω^)「兄者。
ちなみに僕は、町に入るときには "神を信じてる" って答えたんだお」
あの時、ツンとは対照的に答えたブーンが、兄者の返事を待たずに話し掛ける。
( ^ω^)「木札のことは弟者から口止めされてたからハッキリさせなくて申し訳ないけど…
でも今だって、本当に舟を待ってたところに兄者がここに来たお!
タイミングが悪ければ、結局弟者とは会えなかったはずだお!」
そう、目的は違えど兄者は自分の意思で、自分のタイミングでこの港に来た。
( ^ω^)「僕たちは信仰心もなければこの町の信者にもなれないけど、自分の心のなかにはいつだって神様がいる。
旅をする上で、生きていく中で支えは必要だから、挫けないために自分の心に神様を創るお」
(´<_` )「いま思えば、おれもそうだったんだ。
町から…
他人から押し付けられる作り物の神ではなく、自分の心のなかに一本、ず太い支えを育てたかった」
兄者はまだ顔を上げない。
ブーンの言葉を弟者が引き継ぐ。
-
(´<_` )「兄者がおれを追放した理由、今は分かるよ。
あのまま町に縛られたら駄目になりそうなおれを助けるために、世間体を犠牲にしてでも逃がしてくれたろ?」
(´<_` )「この双子の町は、一人っ子や、離別して独り身になった者だけが役職に就ける。
そうすればせめて信仰心だけでも人一倍努力して育むからな…蔑みや軽蔑を避けるために」
(´<_` )「遅くなったけど、
……ありがとうな、兄者」
ーー すべてその通りだった。
気を遣っていたつもりが、悉くを見破られていた。
弟者を町から追い出すことで彼の精神を守り、
自分が信仰を続けることで今は亡き両親から託されたサスガの名を守り、
町のしきたりからとはいえ役職に就くことで行きすぎた折伏から旅人を守り、
無心にひたすら信仰を続けることで自分の精神を守ってきた。
兄者はすべてを守ろうとして、心に仮面を被りながら、この町で一人戦ってきたようなものだった。
離れて暮らしていた弟に見破られていた悔しさと、
同時に唯一の理解者がやはり弟である嬉しさに、
止めどなく涙をながし続ける。
兄者にはその権利がある。
-
ξ゚⊿゚)ξ「神託の件はともかく、今後この町の存在意義は大きく揺れるでしょうね…」
(´<_` )「…その口ぶりからすると、なかなかうまくはいかなかったみたいだな」
( _ゝ )「……」
( ^ω^)「でも、町の人々の心次第だと思うお…」
(´<_` )「そんなもん放っておいて逃げるのも手だけどな。
どうせ皆して自分の身が可愛いさ。
…兄者、なんなら一緒に乗っていくか?」
そう、信仰心で繋がっていた人々の心は恐らくバラバラになった。
支えを失ったいま、逃げ出す者やこれを気に独裁者となって恐怖と無理矢理戦う者も現れかねない。
彼らは皆、信じたものに裏切られたから。
兄者も裏切られた一人…
でも、弟者との再会のような裏切りなら何度あってもいい。
思い込みから裏切りを許せなくなるか、
考え方一つで裏切りも許せるか、
それは自身の心の持ち様なのだから。
-
( ´_ゝ`)「……。
俺は町に残るよ」
だから、放ってはおけない。
(´<_` )「そうか」
長年離れていてもそれが分かるから、止めない。
( ´_ゝ`)「その代わりに……ちょっとだけ、その舟で海を見せてくれないか?」
血で繋がった兄弟だから、分かる。
(´<_` )「一日くらいなら平気だろうしな。
わかった、乗れよ」
兄者が初めて孤島から足を離した時、彼の心を縛り付けていた見えない鎖は音をたてずに崩れ去っただろう。
想像してたよりも不安定な足場はこれからの自分を暗示しているようで、
しかしその浮遊感は味わったことのない未知の体験としてワクワクさせる。
-
(´<_` )「どうだ、おれの舟は」
( ´_ゝ`)「すごく…狭いです」
ξ゚⊿゚)ξ「まあ、四人も乗ってるからね」
( ^ω^)「おっおっ! みんなでガンガン漕ぐお!」
ひとときだけ楽しんだら、生まれ育った町に帰ろう。
よし。
( ´_ゝ`)「せっかくだ、俺も、町も生まれ変わってやる!」
(´<_` )「ナイス気概。流石だな兄者」
( ´_ゝ`)
つ□~ 「さあ、みんなで乾杯するぞ!」
(;^ω^)「お…」
ーー 俺が淹れたコーヒーが空になったら出発してくれ!
その言葉と共に、ブーンは美味しくないコーヒーで喉を潤すことを強要される。
-
まずは兄者が見せ付けるように、自身のコップを一息で煽り飲み干した。
すぐに新しくコーヒーを注ぎ入れ、次の者へ。
笑顔の弟者が続き、やれやれといった表情でツンも特に気にせずマイペースに飲み干した。
少しだけ躊躇したブーンだが、コップを手渡された時に兄者の目元に残る涙の跡をみて、
やはり一息で飲み干した。
( ´_ゝ`)b d(´<_` )
…彼はこれまでの取り戻せない生き方と向き合いながら、違う価値観で生きていかねばならない。
それにはとても勇気が必要なのだ。
一度手に入れたものを失くすのは、とても辛い。
だから、せめて ーー 生まれ変わる兄者に乾杯した。
-
それでもやはり、
ブーンは兄者のコーヒーが苦手だった。
(了)
-
1です
本日の投下を終わります
梅雨には特に頭が悪くなる特性持ちなので、予告すらきちんとできておらず失礼しました
現在までのお話
( ^ω^):矛盾の命
>>1
( ´∀`):繋がれた自由
>>17
( ´∀`):遺していたもの
>>48
( ^ω^):老女の願い
>>101
ミ,,゚Д゚彡 :帰ってきてね
>>139
( ^ω^):ふたごじま
>>237
-
おつ
-
おつ
普通にいい話じゃねぇか
-
超乙
-
>>235
おまい凄いな、日付と曜日の一致なんて気にもしてなかったよ
-
おつ
親も双子だとすると気味が悪いな
-
たくさんの乙をいただけて…
ありがとうございます
>>285
双子の母者とか他作品で出てきたら
ほぼ無敵でしょうね
-
なんだこれすげぇ面白い!でもレリーフが救援ピッチャーになってて吹いたぜ!
-
>>287
どうりで確認中、違和感が抜けないなあと思ってましたw
指摘&楽しんでもらえてありがとうございます
こういうのなんだっけ?とわざわざ検索してWiki閲覧したのにこの有り様…
せめて梅雨が早く終わってほしいものです
-
おもしろい
-
1です
風邪かと思ったら別の病気にかかってしまってなかなか症状が良くならず…
投下までもうしばらくお時間頂きます
梅雨が終わるではじっとしてるかもしれません
>>289
ありがとうございます!
-
>>290
とっとと休んでろ! 投下はその後だ!
-
>>291
お陰さまでだいぶ良くなりました
肺炎かと思うくらい酷かった体調は、やがてただの体調悪い人扱いで世の中まとまりました
夜間病院は独特の雰囲気でした
休みながらも、ちびりちびりと書いてはいたので来週月曜日の夕方くらいに投下したいと思います
投下分は完成しているのでこの日にちは確定です
宜しくお願いします
-
あくまで自分の場合だけど、夜間や緊急は意外と適当な診断されることもあったから納得いかないなら再診するんだぜ
-
>>1です
トリてすと
-
おお、付けられたw
>>293
私も以前までその認識だったのですが、今回に限り夜間の方が一番親身に診察してくれて、結果治すことができました
大病院の夜間と、小さな夜間病院はまったくの別物なのだなあと
心配して頂いてありがとうございます
-
無事で何より!
-
( ^ω^)千年の夢のようです
- 死して屍拾うもの -
-
目が覚めると、そこは暗闇だった…。
そんな神の話をどこかで聞いた気がする。
平穏が崩壊した瓦礫の下で、
常識が覆された死体の山の下で、
焼き尽くされた土煙の屑に吹かれて、
破壊し尽くされた戦場の空気に囁かれて、
(;;'A;`)「ーー ぶはっ」
血にまみれた身体を一人奮い立たせた。
手には吸い付くように銃斧が添えられ、握っていないにも関わらず血でぴったりとへばりついており離れない。
(うA;`)「…あー…やられてたのか」
ゴシゴシと顔を拭いながら軽い調子で呟いた。
('A`)「ふひひ、ベトベトして気持ちわりぃ」
ベッ!と、口内から血の固まりを吐き捨てて、準備体操のようにぐるぐると首を回す。
-
周囲を見渡してみればそこは戦場だった ーー かつては、だが。
落城用突撃兵器 "マッシュルーム" の残骸が目立つ上に、へし折れた剣、砕けた杖、ひしゃげた鎧が散乱する。
生存者はひとりとして居ない。
日が暮れて、夕闇にそよぐ風の音と、蒸せ返る死臭だけが、蘇った "ポイズン" と共に戦地に置き去られている。
('A`)y-~「…臭いがまだ強いってことは、今回それほど時間も経ってないな、こりゃ」
押し潰されてグシャグシャになったタバコに無理やり火を灯した。
魂の新陳代謝のような赤黒い煙がモクモクと唇から洩れる。
目覚めてまずやることといえば、自分が倒れてからどれほど経過しているのか、その判断材料を探すこと。
それが数少ない習慣になったのはいつからか。
-
ーー 不死者。
ポイズンは何十年も、何百年も昔から、世界をこうしてさ迷っている。
例え殺されても蘇り、歳老いて死ぬこともない。
永遠の命をもつ者。
しかし、その代償として
('A`)「なんで死んだ? 相変わらず思い出せねえ… うへ」
彼は死ぬ前からの、ある程度の記憶を失う。
今回も、戦争に参加すべく傭兵として潜り込んだまでは確かに記憶にある。
…だが、どうやってここまで来たのか。 なぜ死んでしまったのかは記憶がない。
身体中に血痕があることから、自殺ではないことは間違いないだろう。
無意識に胸に手を当てると、一際ぬかるんだ感触と、心臓にむず痒さを覚える。
('A`)「…なーんかここに刺されたかな。
そのあとも全身に食らわされて、ってところか?」
('A`)「ふひひ、犯人が生きてるなら見つけて殺すぅ〜っと♪」
散歩に出掛ける気軽さでポイズンは歩き始めた。
あてなど無い。 どこから来たのか覚えていない以上、方角すら頭に入っていないのだから。
-
荒れ地をしばらく歩いた先。
大陸を縦断する大きな河を越える前に、身に付けていた鎧を脱ぎ捨て、
シャツにこびりつく血をすすぎながら、
素肌に付着した、今はどす黒くなってしまった血液の瘡蓋を洗い落とす。
首もとには識別リングプレートが残っていた。
誰も彼の死体に手をつけなかった証拠だが、そんなことは気にならなかった。
シャツは血の色が広がり汚ならしい薄茶に変色してしまったがやはりどうでもいい。
要は衣類としての役目を果たしてくれれば良いのだ。
まだ濡れたままのそれを着ながら乾かすように、しばらくその場に留まる。
('A`)「………」
('A`)「… 〜〜♪」
無意識に鼻唄を唄う。 これも癖だ。
だが…どこで覚えたのだろう?
もう忘れてしまった。
手持ち無沙汰に河の流れを眺めていたその時、不意に聴こえる音。
どこかで誰かがこの河の水にバシャリと足を浸けた音。
…目に見える範囲には誰も居ない。 ならば、上流か下流のどちらか…
その方角が分かるまで耳を澄まし、やがてポイズンは音のする方へと歩き始める。
-
----------
(推奨BGM)
https://www.youtube.com/watch?v=GmR3AALCPzo&feature=youtube_gdata_player
そんな夕闇の下。
広げた両腕ほどもある樹が生い茂る林を駆けていく。
動きと体力には自信があったはずが、いざその場面となると呼吸は思い通りにリズムを刻んではくれない。
ノハ;゚⊿゚) 「ハアッ…ハアッ…」
赤い髪の女が、息を切らして疾走する後ろから迫る気配に追われてどれくらい時間が経ったのか。
走り始めた頃の見事な前傾姿勢はもはや鳴りを潜め、顎も上がりはじめてしまっている。
踏みしめる木枝と草は "さわさわ" "ばきばき" と遠慮なく音をたてて止まない。
女は時々後ろを首だけ振り向いて視界を移すが、一見何者も見当たらない。
だが確実にこちらを追い掛け、迫ってきている事を彼女は知っている。
-
ノハ;゚⊿゚) 「…ハアッ、くそう、あと何人だ!」
焦燥する。
片手が塞がっていることも本来のように走れない原因であることは間違いない。
だが、それを放棄することはできない。
そのために見えない相手達に追われているのだから。
やがて視界がひらけて草原に出る。
ここからは相手も姿を隠すことはできず、また女も相手を撹乱しながら走ることは出来なくなった。
ノハ;゚⊿゚) 「はー…はー…
やるしかない、出てこい卑怯ものめ!」
「里の秘薬を持ち出した輩が我等をそう呼ぶか」
女は予想より早い返答にぎょっとした。
考えていたよりも近い距離でこちらを追い掛けていたらしい。
「その顔。 本来の走りでないとはいえ、まさか…とでも思っているか?」
黒装束は女の右手側にすでに立っていた。
そして、挟み込むように左側にももう一人の気配。
…挟まれた。
-
「その秘薬はお前が思っているような代物ではない」
「いまならまだ間に合うぞ、こちらに渡すのだ」
二人の黒装束は交互に話し掛けてくるが、どちらかに振り向けば隙有りとみてもうどちらかが襲い掛かってくるだろう。
正面を向き、鍛えあげた己の視野に頼る。
ノハ;゚⊿゚) 「見逃せとは言わない!
けど、どうしても必要なんだ!」
「その秘薬が必要な時など有りはしない」
「貴様の住む村ごと死ぬ気か? ヒートよ」
ノハ;゚⊿゚) 「この、わからずやめええええ」
ヒートは持っていた麻袋を、腰縄に取り付けた手甲鉤にひっかけ、腰を落として構える。
半身で片腕を前に差し出すことによる、防御優先の体勢。
「仕方あるまい…アレに傷はつけるな」
「当然。 ヒートのみ戦闘不能にするぞ」
('A`)「ほー、そんなに貴重なのかアイツが持ってるのは」
ノハ;゚⊿゚) 「!?」
-
唐突な乱入者の相づちに体勢を乱される…だが、それは黒装束にとっても同じことだった。
「なっ! 何奴だ」
「曲もっ ーー ガッッ!」
機に乗じて弾丸のように翔び込んできたヒートの低空からの横蹴りが黒装束の脇腹に深く突き刺さり、
そのまま着地と共にもう一方の黒装束にも天を衝くような回し蹴りでこめかみを突き上げる…一瞬の出来事。
ポイズンから見えたその動きは鮮やかで気持ちよかった。
我慢しきれず瘡蓋から血がはち切れたような…
ヒートの赤い髪が一陣の風のようにその場でなびき、黒装束らが左右に散る様が、
焼け焦げて炭と化した古いからだを脱ぎ捨て、真新しい心臓がドクリと脈打つがの如しコントラストを映やす。
そして彼女はまた一瞬屈むと、足の裏で大地を思い切り蹴り出し、
三三 ノパ⊿゚)
「チャンスだあああ」
…結果に目をくれず、そのまま草原を駆け抜けて行った。
☆- (人'A`)「…おお〜、やるじゃんあの赤髪」
逃走も兼ねて流れるような一連の動作だった。
パチパチとのんきな様子で手を叩き、もはや届かない称賛を贈る。
ポイズンにとって、これは素直な気持ちだ。
だが、黒装束にとっては邪魔をされたこの事態…面白いはずがない。
「貴様」
-
黒装束の一人は脳震盪を起こして立ち上がれない。
脇腹を抑えながらゆらりと立ち上がるもう一人が乱入者を威嚇する。
首もとからクナイを素早く握り、
「馬鹿が、事情も知らずにっ!」
言い終えた時にはすでに手は降りおろされ、空 ーー
ポイズンの眼前にクナイが迫った。
('A`)「いや、油断してるお前らが悪いだろ今のは」
ふひ、と笑顔でそれを躱す。
黒装束の動きを真正面から見つめていたのだから、首に手をやった時点で殺意を察して身の軸をずらすのは容易かった。
黒装束の身体は次の瞬間、眼前に。
飛びかかり、今度は逆の手に握られたクナイが迫る。
速い、 ーーが、ポイズンの動きはそれより速い。
バスンッ!、 と銃声が周囲の大気を震わせた時には黒装束の身体は背後へと吹き飛んだ。
-
いつ味わっても最高の感触だと思っている。
発砲時の重力や反動。
肩まで響きわたる衝撃の痺れ。
なにより相手へのダメージを如実に表すかのような潔い発砲音が特にたまらない。
剣、棍、槍、弓、いずれも満たされなかった快感が、この銃斧からは得ることができる。
すべてを敵にまわす人生において唯一無二のパートナー。
('A`)「あーあー、腰のくびれがすげえことになったぞ。激ヤセだな、ふひひ」
更に、音を聞き付けて意識を取り戻し始めた黒装束にもポイズンのパートナーが意気揚々と、間髪入れず咆哮。
立ち上がろうとしていた勇気が災いし、頭の先から胸元まで喰らい尽くされるはめになったが、きっと痛みを感じる前に逝けたことだろう。
下半身だけとなった死体からもうもうと、火薬と死の臭いを空に巻き上げた。
('A`)ノシ「あの世に俺は行けないからな〜
…待たずにさっさと成仏したほうが楽だぞー」
彼なりの念仏を唱えたつもりでその場を後にする。
さて、これからヒートと呼ばれた赤髪の女を追い掛けてみるのはどうだ?
少し愉しそうだろ。ふひひ。
どうせ目的なんてあってないようなもんだからな。
ーー そう心のなかで呟くポイズンの顔は、子どもが秘密基地を見つけた時のような希望を秘めた笑顔にもみえた。
(推奨BGNおわり)
-
追い掛ける先にヒートの影を見出だすのは難しくなかった。
大陸内でも有数の山脈に向かう道のりで、ポッキリと欠けた刀や黒装束の身に付けている布の切れ端、
時には負傷した黒装束の男そのものを発見できた。
当然彼らは木陰や背の高い草に隠れて息を潜めているが、ポイズンの耳にはその呼吸が聞き取れるため、どこにいるかがよくわかる。
彼は耳が良い。
戦場のような乱戦時には発揮できない、隠密殺しの特性が本来の持ち味だ。
やや、怪我をしていますね、大丈夫ですか?ーー と、
敵意を示さない程度に声をかけながら肩を叩く気軽さで、
驚く間もなく黒装束を撃ち殺しつつ、彼は山脈内を歩み進む。
-
山に踏み込んだはじめこそ、小綺麗な草木を生やして侵入者を歓迎したくせに、やがて傾斜が高くなり始めるとろくな足場がなくなり空気も薄くなる…。
これは "いい加減に出ていってくれ" という自然界のボディランゲージか。
ゴツゴツとした岩肌やうっすらと申し訳程度に存在する雑草だけが広がる、殺風景な姿に変化してきた。
だが戦闘の足跡はまだ終わらない。
血斑点が岩肌の灰色に同化しようと試みているものの拒絶され、その赤さをより強調している。
それはまだ空気に触れて間もない証。
それがヒートのものか、黒装束のものか…
想像して歩きながら、これが普通の人間ならそこそこの退屈しのぎにちょうど良いのかもしれないな。
と、ふと考えたりする。
寿命をもつ人間と不死の人間にとって、"一瞬" は同じ一瞬なのだろうか?
こうして思考したり、大地を歩いている時の感覚はきっと大きな隔たりがあるのだろう。
('A`)「なんてな。 …ふひっ!」
-
ポイズンの視界に山頂を捉えた頃、すでに気温も下がり始め、辺りは小雨が降り始めていた。
こうなると音で追うことは空気の反響と手伝って難しくなる。
だがそうなる前に見つけることができたのは幸いだ。
赤い髪の女が立ち往生していたのは、山々を繋ぐ長い木橋の前。
いつもなら人が二人並んで歩けるほどの幅と少々のことでは揺れない足場、
流れる川の頭上を渡ることで目的地への行き来が楽になるであろうはずの信頼されていた橋は姿を消していた。
橋渡しの縄をくくりつけるための木杭だけが左右にその形跡を残す。
雨のせいで向こう側を見渡すこともできない。
ヒートの隣で顔から地に伏せている黒装束は見えるのだが。
ノパ⊿゚) 「…くそう…もう少し、もう少しなのに…」
そこではっとして振り向くと、目尻を垂らして薄汚れたポイズンがぼんやり立っているのだ。
('A`)ノ「よっ」
目的地が同じ? そんなはずはない。
ではなぜ私を追いかけてきたのか?
…そう考えて、ヒートは構える。
ノパ⊿゚) 「お前、さては悪いやつだな」
('A`)「えっ…」
言うが早いか、飛び掛かってくる。
雨のなかとは思えないほどのスピードで、ポイズンの足元目掛けて赤い影が迫る。
-
戦うつもりがなかったせいで、反射的に動いてしまい重心を後ろにした挙げ句、銃斧を降り下ろす。
当たるはずもない斧刃はむなしく地に突き刺さった。
(;'A`) (!? なにやってんだ)
我に帰る。
こんな攻撃は素人がびびってやるようなことだ。
つまり完全に "降り下ろさせられた" 。
彼のやる気が無かったにしても、容易く誘導されたことにも驚く。
ぬかるんだ足場をものともせずに眼前で体をずらしたヒートから、突き出しの掌がポイズンの脇腹にめり込んだ。
( 'A`);." 「ぐぼっ」
大きく吹き飛ぶが、ぬかるみのせいで下手に踏ん張らずに済んだ。
ダメージを逃がしながら二転三転し、慌てて顔をあげる。
-
ヒートの追撃は… …こない。
半身で掌を前に構えながら、肩を上下させて息を荒くし、ポイズンの動きを見ているだけだった。
……表情は疲労。
その証拠に掌を喰らわされた脇腹は痛むが、その内部的なダメージは思ったより少ない。
軽くもないが。
('A`)「げふ、おまえすげぇせっかち?
ただ興味本意でついてきただけだっつーの …お〜いてえ」
念のため言葉で牽制しながらよろりと立ち上がる。
その様子は相変わらず身に力の入っていないぼんやりとしたものだが、彼の心のなかではスイッチが切り替わり、構えができている。
もしまだ向かってくるなら、面倒くさいので腕や脚を撃ってしまおう…
そう考えた。
ノパ⊿゚) 「……」
('A`)「黒装束のやつらなんなんだ?
お前が逃げたあと俺も襲ってきたんだぞ」
全員撃ち殺したけどね、ふひひ、とは言わない。
ノパ⊿゚) 「おまえはどっちの国だ?」
不明瞭な問い掛け。
ーー 話の順序を知らないのかこの女は?
せっかちなのは間違いなさそうだ。
-
('A`)「よくわからんが…もし出身や所属を聞いてるならどっちでもねえよ」
いま大陸内で起きている大規模な戦争…その対立国を知りたいものと仮定して素直に答える。
ポイズンに故郷はない。 そして贔屓にする領地や国も有りはしない。
彼は一人だ。
今までも、これからも。
ノパ⊿゚) 「…嘘はついてないみたいだな。
死臭がこびりついてるのは?」
('A`)「おぅふ、俺臭ってる?」
洗い流しきれてなかったかとニオイをクンクンと嗅ぎ確かめる。
ノパ⊿゚) 「違うよ、それはおまえに、おまえのニオイとして身に付いてるんだ。
私には分かる」
('A`)「…あ〜、そっか」
ノパ⊿゚) 「でもとりあえず敵じゃないことはわかったぞ!
殴ってすまなかった」
うんうんと一人納得したヒートは、改めて橋のあった崖を見やり、何かを確かめるように視線をなぞらせた。
-
ノパ⊿゚) 「私は急いでるんだ。
黒装束はまだまだ追ってくるかもしれないから離れるぞおお」
そういって彼女は返事を待たずに来た道を走り出す。
…本当に会話すら満足にできないのか、とウンザリしたが、ポイズンの視界から消える前には振り向き、手招きしているのが見えた。
どうやら一緒に来ても良いという意味らしい。
ポイズンがヒートに向けて歩くように足を動かすと、それを見届けて視界から消える。
('A`)「…童話のいたずら好きの妖精みたいな振舞いだな」
旅人を道案内する時、いく先々で少しだけ姿を見せては消えて、方角だけを教えるかのように。
会話がまともに成り立たないところも、その想像に拍車をかける。
そんな出逢いをポイズンは、
('A`)「しちめんどくせぇ」
と言って無下にしてみせる。
そして彼女とは違う方角へと歩き出した。
-
他人のペースで物事を決めるのは大嫌いだが、理由はそれ一つではない。
ヒートに合わせる義務もなければ、それ以上にわざわざ同行する必要がなかっただけだ。
彼女が崖越しに目をやった方角くらいなら覚えていたし、適当に歩けばその痕跡も見ることができた。
('A`)「…案の定だったな〜」
先ほど別れた当初こそ平和な道のりを歩いてこられたが、徐々に黒装束の倒れる姿が確認できるようになる。
雨はまだ続いてる。
だが血のニオイは流されても、切り刻まれたこの仲間の屍を追えば黒装束達がヒートに辿り着くのは難しくないだろう。
今なお黒装束を戦闘不能に追い込む体力には感心するが、どうも後始末や煙にまくような小細工は苦手なようだ。
当然、ポイズンが屍を隠蔽してまわる義理もないので素通りする。
自分が殺したわけでもないのだから念仏も唱えない。
もはや外観の一部となった死体を死体とすら認識することなく歩みを進める。
気付けば鼻唄を振り撒きながら、
山脈を下って谷を渡る頃には小雨になり、さっきよりも標高の低い山に足を踏み入れた頃…空は雨曇を退かして星々を招き入れている。
つかの間の草原に雨露が身を休めて。
…彼は気付くのが遅かった。
招かれたのは星だけではなかったことに。
-
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〜now roading〜
ノパ⊿゚)
HP / D
strength / C
vitality / B
agility / A
MP / D
magic power / D
magic speed / C
magic registence / A
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シエンタ
-
違和感に目を背けていたつもりはなかった。
ヒートは黒装束を素手で倒していた。
ポイズンに襲い掛かった時もそうだ。
ーー つまり、岩肌についた血痕や、切り刻まれた死体は彼女によるものではない。
彼がそう思った頃にはすでに目の前で、天災と並び称される巨獣と合間見えていた。
(;'A`)「おーやべえ、ひひ、これやべえ」
それは本来、そこにいるはずのない生物。
地上では四本足で動き、その体格は人間の3倍以上。
触れれば突き刺さりそうなスピアを隙間なく生やした体毛、そのところどころは赤く血塗られている。
…蒼い百獣、グリガン。
最大の特徴は自身の体躯を二倍は超える大きな翼を操ることで、
大空を舞って山頂から山頂を渡り翔ぶ姿は神々しくもあり、一部の地域では神と崇められることもある。
性格は狂暴だがテリトリーを破ることはなく、他の獣や人間も原則近寄ることはない。
その習性から、山頂部以外で遭遇する話など聞いたことがなかった。
-
だからこそ、なぜこんな高度の低い場所にいるのか…。
ポイズンも、さすがに今まで生きてきてこの巨獣と無事に戦ったものがいるという話も聞いたことがない。
(;'A`)「あ〜…邪魔だな。
手ぇだせば殺せるかな? 殺されるかな?」
グリガンは幸い後ろを向いていた。
ポイズンは不死であり、従って死に恐怖は抱かないが、単なる戦闘狂ではないと自負する。
なにより今は ーー 彼の望みとは少し違う戦いになる。
戦わなくて済むならば…と、一歩後退した時、グリガンの向こう側から叫び声が聞こえる。
ノパ⊿゚) 「でえぇぇぇやああぁぁぁ!!」
跳躍して宙に逃れたグリガンの居た場所に、掌を突きだして代わりに立っている赤い髪の女、ヒート。
グリガンは滞空しながらミサイル雨のように羽根を撒き散らすが、ヒートもすぐに飛び退き距離をとる。
小さな草原に音をたてて突き刺さる何束ものスピア群。
-
('A`)「おまえ馬鹿なんだなあ」
ノパ⊿゚) 「あ、どこいってたんだ!
捜し…うおおっ!」
天災に見舞われてるとは思えない軽口を互いに交わしつつ、ヒートはさらに降り注ぐ羽根を、さらにさらに距離をとって避け続ける。
('A`;))「こっちくるなって」
…ヒートが距離をとるその都度、ポイズンの場所まで近付いてくるのは偶然だろうか。
ノパ⊿゚) 「えっなに? 聞こえない!」
「キュェワーーーツツ!!」
後退るもむなしく、とぼけた調子で走り寄ってきたヒートのせいで結局二人立ち並ぶ位置についてしまう。
グリガンは大きく鳴いて地上に降り立ち、後ろ足で地を蹴り遊ぶような様子。
大地が都度、掻きむしられる。
おそらくこの時点で、ポイズンもグリガンの獲物としてインプットされてしまっただろう。
-
('A`)「おまえアレがなんだか知ってるのか?」
ノパ⊿゚) 「知るもんか!」
「キュイィーーー!」
グリガンが牙を剥いて襲い掛かる。
無知な愚か者め! とでも一喝するように
巨躯が数倍に膨れ上がるよう錯覚させられる。
たまらず左右に別れて地を転がる二人の耳に届くのは、背後にあった樹が抵抗なく噛み砕かれる軟らかで聞き慣れない破砕音。
あれが人間の身体であればもっと弾力ある音が聞こえる事だろう…ただし本人には一生聞き取れないが。
崩れた体勢を整えるのはヒートが早いが、先に攻撃に移ったのはポイズンだ。
身体を起こしきる前に銃斧の引き金をひく。
バァン!と火を噴く音はすれど、聞き慣れた着弾音が聴こえない ーー 寒気。
その時点でもう二、三度、自分の意思で転げまわった……
引き金をひいた時に身を置いていた大地は、グリガンの翼の先端がギロチンのように降り下ろされ土をえぐり草が舞っている。
(;'A`)「ひゅー」
本能からすでに宙に逃れていたグリガンの横顔はニタリと微笑を浮かべているようにも見えた。
その人間臭さにはポイズンも少しだけ驚き、…そしてなおさらムカついた。
-
ヒートもいざ反撃に移る直前、
翔び上がり翼を降り下ろしてきたグリガンの攻撃を察知して背後に回り込むように接近し直していた。
腰に縛り付けてある手甲鉤を片腕分だけ装着し、跳躍する先はグリガンの背中。
すべての動きに無駄がなくしなやかだ。
…だが、その一連の素早い動きをしても無造作にグリガンが振り回す尻尾に阻まれ振り落とされる。
ヒートがくるくると回転しながら元の位置に着地すると同時に、グリガンは滞空しつつ振り向きざまに翼をはためかせたかと思うと、
まるで空気の壁を蹴ったように突進してくる。 再び膨張する巨躯。
草原が根こそぎ刈り取られるほどの突風が足元を揺らした。
だが、ヒートは揺れない。
躊躇う素振りもなく、グリガンに正面から地に伏せそうなほど低い体勢を維持したまま手甲鉤だけを大きく振りかぶる。
そして激しく、
ーー 衝突 ーー
聴き取れないほどの高音が耳をつんざいたかと思えば、
グリガンは衰えない勢いのまま上昇し、今度は安易にこちらの手が届かないところまで飛んでいく。
ヒートは超低空のまま見えない鉄棒で逆上がりをさせられるように何度も回転しながらも、やがて両足で着地。
禿げた地を上塗るように、ビチビチと音をたてて鮮血が遅れ零れた。
-
常人のまばたきほどの接触。
手甲鉤を振り抜くことが出来ず、弾かれた腕を悔しげに抑えるヒート。
…そして悠々と大空を舞いながらも、横面を淡く血で濡らす忌々しげなグリガン。
('A`)「…直撃してその程度か?」
そして銃口の余韻。
ーー グリガンの血は衝突に合わせて発砲したポイズンによるダメージだ。
人間に容易く大穴を開ける銃斧の一撃も、百獣にとってはせいぜい鈍器で殴られた程度の衝撃に成り下がる。
-
グリガンほどのスケールとなると、その羽ばたきや突進が生み出す衝撃波だけでも並みの人間に抵抗できるものではない。
だがヒートは怯むことなく真っ向から立ち向かった。
瞳には燃えるような焔の色が宿り、敵を見据えて。
おそらくグリガンも、そのヒートに釣られて "正面衝突させられた" のではないか。
半ば避けられることを考慮しつつも、あわよくば放った銃斧の一撃はたしかに蒼い百獣の肉体に傷を付けた。
…しかし、ダメージを通した喜びとは裏腹に、この銃斧では百獣を貫けないという事実。
ノハ;゚⊿゚) 「くそーー、硬いぞー!」
('A`)「……」
ノパ⊿゚) 「なあ! なにか良い手はないか!?」
('A`)ノシ 「いやあ〜無いな、ナイナイ」
ノパ⊿゚) 「え、ええ〜…」
ーー 良い手、なんてものは、な。
-
ノパ⊿゚) 「あれっ?」
その時、空を泳ぐグリガンの躯がぐらついたように見えた…一瞬だが確実に、翼を硬直させて高度を落とした。
('A`)「……おやあ?」
違和感を覚えたのはポイズンも同様だった。
グリガンと鉢合わせた時点で、"自分の身体からは見えない毒が散布されている"。
意識的にはもちろん、興奮すると無意識にもフェロモンのように体外へ、半径20〜50m範囲への毒…【ポイズン】を無差別にばら蒔いてしまうのだ。
敵や味方といった区別なく…
もし彼に家族が居たならば、ふとした弾みで披毒し、その生命を奪うだろう。
それ以前に、恋に焦がれたり性行為に及ぶ段階で興奮から【ポイズン】が発動するかもしれない。
だから家族は作らない。
彼は人と信頼関係を作れない。
グリガンにはどうやら【ポイズン】が発症した。 百獣の戸惑いがこちらからも見てとれる。
…だが…ヒートは?
-
ノパ⊿゚) 「あいつ、苦しんでる?
銃が効いてるのか?」
こいつ、気付いていない?
毒が効いてないのか?
ノパ⊿゚) 「チャンスだあああぁぁ!!」
ヒートは翔び上がり上昇して、手甲鉤を振りかぶる。
距離が足りない…躯の大きさから遠近感が狂い易いが、グリガンはヒートの想像以上に空高く舞って安全地帯を確保しているのだ。
ノパ⊿゚) 「"竜" !」
そこへ、ヒートが構わず虚空を殴り付ける。
安全地帯ではなかった ーー ジャラララン!と、チェーンの擦れる音と共に手甲鉤がヒートの腕から更に飛び出した。
次の瞬間、標的目掛けて空を駆ける鉤爪は、まるで昇り竜の如き波打つ軌道を描いてグリガンの翼を強かにその躯ごと撃ちつけた。
「グィギィィッ!?」
短い悲鳴とともに、グリガンがさらに高度をあげてその場から距離を置こうと飛び上がる。
ノハ;゚⊿゚) 「嘘だろー? その辺の獣なら簡単に真っ二つにできるのに…」
-
渾身の鉤爪も刺さらず、銃斧でも撃ち抜けない。
やはり致命傷を与えるだけの攻撃力がなければ、グリガンを倒すことは至難だ。
('A`)「おーい、そろそろ俺は逃げさせてもらうぞ」
だからこれが潮時と判断してポイズンは撤退を宣言する。
グリガンが意表を突かれて戸惑っている今なら逃げられる。
ノパ⊿゚) 「どうしてだ!
まだまだ戦えるぞ!」
('A`)「ふひひ、ならお前だけで一生やってろよ…
何時間かかるか知らんけどな。
奴のテリトリー外にさえ出れば追ってこないんだから俺は楽な方を選ぶぜ」
そう言って今度はポイズンが返事を待たず先に駆け出し、山脈奥に逃げ出した。
ノパ⊿゚) 「あっこらまて! 卑怯ものめ!」
-
('A`)「卑怯でいいんだよ、誰も皆そうさ」
ポイズンは毒づきながら的を絞らせないように体を振り走る。
空からの気配は感じられないが、チラリと背後を見るとヒートもついてきていた。
('A`)「ほらみろ、てめーも卑怯ものの仲間入りだ」
元々、秘薬とやらをどこかに届けるべく急いでいたのだから、悠長に戦っている暇など無いことに気付いたか…
それとも単に釣られて走っているだけか。
木々の合間を抜けてしばらく走ったが、グリガンが追ってくる様子は無い。
…やはりテリトリー意識のほうが強い。
あの場所もたまたま奴の休憩所のようなスポットで、そこに俺たちは踏み込んだのかもしれないな…
道中の黒装束達も知らずに踏み込み、グリガンの玩具ないしエサとなっていた。
ポイズンはそう思い、一旦、足を止めた。
('A`)「おい」
すぐ後ろを走るヒートも横に並び止まる。
辺りを見回しながら相づちをうつのは、グリガンというより黒装束を警戒しての事だ。
ノパ⊿゚) 「なんだ?」
('A`)「なんだ?じゃなくてなあ…
お前どこに向かってたんだ?
俺は単にあの場から逃げただけで目的地なんてないんだぜ」
ノパ⊿゚) 「……あ、そうか!」
ポンと手を打ち、
こっちだ!
と、今度はヒート主導で走り出した。
-
グリガンさえ追って来なければあとは人間同士の範疇でやり合えばいいのだから楽なものだ。
ノパ⊿゚) 「そういえば名前まだ聞いてなかったな!
私はヒート、おまえは?」
('A`)「…ぁあ?」
確かに彼女の名は黒装束との会話から聴いたが、互いに名乗ることはしていなかった。
走りながら思い出そうとする。
…名前、なんだったろうか。
"ポイズン" というのは、あくまで戦場における通り名のようなもので名前ではない。
考えてみれば、いつもなんと名乗っていたのだろう?
はたと思いだし、首もとの識別リングプレートを無造作に外して裏面を見る。
血と砂で汚れているため、文字が欠けていた。
('A`)「 ーー《ドク》 だ」
…ここでも "毒" の冠。
本名だとすれば我ながら面白くないジョークだと思い、
('A`)「ふひ」
笑った。
ノパ⊿゚) 「ドクかー、なんだかへんてこな名前だな」
ドクの心中には気付かないであろうヒートが、指差し進路を誘導しながら話を続ける。
-
ノパ⊿゚) 「私のいた里でも、なんとか男…とか、ほにゃ郎…とか、ただのどすけ平…とか」
('A`)「それ人の名前か?」
ノパ⊿゚) 「そうだぞー、不思議な呼び方だろ?
ドクも見た目は全然違うけど、ルーツは近いのかもな。
ドクオ…とかなら変じゃないぞ」
ヒートがいう里とは、東方の島国と同じ文化を持つ。
あの黒装束達や、ヒートが使う手甲鉤も、大陸内においては一般的に流通しているものではない。
たとえ流通してもまともに扱うには特殊な訓練が必要になる。
身体能力にしても彼女は非凡だ。
ましてあの百獣グリガンと短い時間でも張り合うほどにはどれだけ鍛練しなければならないか。
…そして、無数の黒装束とも。
('A`)「お前、まさか抜け忍ってやつか?」
ノパ⊿゚) 「抜けてない!
この秘薬を借りたかっただけで、用が済めばまた里に戻るさ!」
当然のように言うが、カマかけにはひっかかった。 やはり彼女は忍者らしい。
ならば果たしてそれはどうか…
ドクやグリガンが殺してしまった黒装束らは傷跡から弁明はできても、彼女が秘薬を持って追手に対立した事実は変わらない。
それともそれが許されるほど緩い組織なのか。
-
支援支援
-
ーー そんなはずはない。
この黒装束達が、ドクの記憶の彼方に知る忍者の里の者であればそんな甘さは有り得ない。
山中の崖道にこしらえた小さな縄木橋の前で、嬉しそうにヒートは小さく笑いだした。
見るものが見れば、それは赤い髪の少女の顔に戻っていたと気付いたかもしれない。
ノハ*゚⊿゚)σ 「そろそろ目的地だぞー、私の生まれた村だ。
物心つく頃には忍の里に出るしきたりだから、今あそこにいるのは戦えない男と子供を産む女達だけしかいないけどな」
('A`)「ほほ〜」
「…やっと、帰ってこられたんだ」
弾む声を抑えきれず、ヒートは深呼吸する。
ひさびさにゆっくりと吸い込む山の空気は美味しかった。
-
ドクが知る由もない彼女のこの帰郷は、幾度とない追手の襲撃と一ヶ月余りの眠れぬ日々の連続だった。
発端は修行中に届いた手紙…。
『ばあ様が病に伏せた。
もう長くないだろう。』
ヒートはその一文だけで帰郷を決めた。
齢にして150にもなる、病気ひとつしたことのない、村名物のばあ様はヒートの育ての親でもあった。
飄々として掴みどころなく、しかし本質を見抜いて子供達の長所を伸ばしてやるのが得意なばあ様。
ヒートが忍者という厳しい環境にもめげず、常に堂々と生きてこられたのは、ばあ様のおかげだと誇る。
そのばあ様が、ついに倒れた…。
そしてヒートは己が出来うる最大の恩返しを考える。
【すべてを救うといわれる秘薬】…。
忍の里に大切に保管されていたその秘薬の持ち出しを彼女は強く願ったが、許可されたのはその身一つで里を降ることだけだったのだ。
だから…彼女は秘薬を勝手に持ち出した。
-
ノハ*゚⊿゚) 「これでばあ様も救われるはずだ!
まだまだばあ様には元気で生きてもらわないとな!」
('A`)「ああそう」 ーー バスン!
ヒートの影に気配ごと隠れた木陰から、黒装束が口元の筒から何かを発射する前に、ドクの銃斧が明確な殺意を宿した弾丸を発射する。
ノハ;゚⊿゚) 「!?」
唐突な銃斧の登場にも驚いたが振り向き、それ以上に黒装束の接近に気が付けなかったのは村を前にした喜びからか。
完全に油断していたヒートを置き去りに、銃斧を構えたままドクは一歩前に出た。
('A`)「用ならさっさと済ませてくれば?」
ふひひ、と笑う。
一見して女を守る勇ましい男の姿。
だがヒートを助ける…そういう美意識は彼に一欠片もない。
彼の瞳に映るのは、今から血にまみれる都合の良い黒装束達の未来だけ。
-
ノハ;゚⊿゚) 「す、すまないな、行ってくるぞ!」
村へ駆け出すヒートを見送りながらも、ドクの頭にちらつくのはあの秘薬の効果。
彼女があれをどう使おうというのか?
愉しいことになるんじゃねえか?
それともまさか本来の使い道通りに?
('A`)「ふひ、ふひひひ!」
思い出したわけではない。
彼の千年の記憶は歪みっぱなしだ。
だが、それでも笑う。
「ヒートを止めろ、手段は問うな」
黒装束が続々と湧いて現れる。
('A`)「まあまて、ここは通さねえ」
「それどころではない! あの秘薬は…」
「関係ない者がなぜ我らの足を止める」
('A`)「ふひっ なんちゃって…
なぜ? だって?」
ひきつった笑みを堪えながら銃斧を身体に引き寄せて、銃身に手をかけると…
銃から手斧が分離する。 そのまま腕を広げる格好は、痩せ細った彼のスタイルと相まって悪魔的な影を闇に浮かび上がらせた。
-
ドクの手にそれぞれ添えられたガンとアクスは、その気になれば死神よりも仕事をこなす自信に満ち溢れている。
そのまま右手の銃で、いままさに翔びかかろうと腰を落とした黒装束の心臓を撃ち抜き、左手の斧では真横を通り抜けようとした黒装束を頭からカチ割る。
「相手にするな、あの縄木橋を抜けてしまえばいい」
「応!」
('A`)「抜けられるといーねえー♪」
いつもの軽口と、それに反比例した銃声が響き渡る。
一発では済まない…二発、三発と立て続けに放たれる弾丸に、黒装束達が面白いようにその身を命ごと削り取られていく。
黒装束達も黙ってはいない。
だが同時に迫る何本もの反撃の飛びクナイはアクスの刃を盾代わりにすることで弾く。
さらにその視界の影から迫る黒装束達の短刀がドクの横腹と腕を斬りつけるが、彼は怯まない。
痛みはある。 意に介さないだけだ。
そのまま通りすぎていく黒装束を一人として逃さず背から撃ち抜く様は、とても銃身の長かった銃斧のままでは成し得なかったろう。
ーー 三人、四人と黒装束達が橋の下へと落下していく。
このために彼はガンアクスを分離させたのだから。
('A`)「さて、まだその辺にいるんだろ?
こんだけ血の臭いがするんだ、通りすがりに降ってくるぜえ」
「…なにを言ってーー 」
-
土煙が舞いはじめ、大地を震わす咆哮がその場の全員に届いたのはまさにその瞬間。
「ギュオオアアアアアアアッッ」
ビリビリと空気が震えた…否。
これは突風と、混ぜ込められたスピアの雨が実際に振動して降り注いでいるのだ。
「がぼぐっ」
「ああ"ッ」 「ごォ」
「まば ーー 」
「ビシャァ!」 「逃 」
".; ('A`)「ほ〜〜らきたっ …げふ!」
黒装束達の絶命音が森から轟く。
空から百獣の奇襲。 ここもグリガンのテリトリーに入っていた事を、ドクは知っていたわけではない。
風の魔導力を帯びたグリガンの【ダウンバースト】による重力に巻き込まれ、ドクも避けきれず鋭い体毛に貫かれる。
「墜とせ、このままでは全滅だ!」
黒装束達の目標はドクから変わって空の天災に向けられる。
だがドクやヒートですら満足にダメージを与えられない相手に、クナイだけで立ち向かうのは無謀だった。
('A`)「ふひひ、お前らは俺の盾に成りな」
両手首に別々のリングを嵌ながら、不気味な笑みを絶やさない不死者の呟きはグリガンの作り出す風に消える。
そして、リングに反応して左手のアクスが焔を纏い始め…グリガンの風にも消えない魔導力がドクを戦いへと駆り立てた。
-
------------
〜now roading〜
('A`)
HP / F
strength / D
vitality / A
agility / A
MP / C
magic power / B
magic speed / C
magic registence / A
------------
-
大陸内のどこかの山中に、確かに存在はするものの人々から秘匿され、村ありきで作られた村。
人が集まって出来たのではなく…
不自然に存在する場所だからここに村が出来た。
村正面から窺える大きな水門がどしりと構え、村の水路を細かく整備している。
このおかげで村が大雨や洪水による被害を受けた歴史はない。
東方を模倣した瓦屋根、金箔や紅に彩られた建物は平屋にしては天井が高く、階層建てられているならば低い。
村を通る数本の川には水車小屋が造られていて、子供達が跳ねた水で無邪気に遊んでいた。
-
ヒートが村に戻るのは何年ぶりになるか…
幼い頃、ばあ様と村の皆に見送られて忍の里に旅立ったきり。
そんな記憶が甦ると、まるで彼女の心も当時に遡るようだ。
水車小屋の中では穀粉や酒などが造られている。
いまならお酒の味も分かるだろうか?
昔は嫌いだった麦飯も、成長した今ならありがたみがよく分かる。
ノハ*゚⊿゚) 「……」
Σ ノパ⊿゚) 「そうだ、ばあ様のところへ!」
思い出に浸ってしまう気持ちを抑え、ヒートはばあ様の屋敷へと駆けていく。
昔は広大な土地だと身体全体に感じていた村の風景が、今では数歩翔び歩くだけでガラリ、ガラリとその姿を変えていく。
畑仕事をこなすジジ達、
大荷物となる洗濯に勤しむ女達、
番犬の世話を兼ねて探検隊を組む子供達。
その誰もがヒートの帰郷を笑顔で迎えてくれる。
何年経っても、生まれ故郷は自分を祝福してくれるものだ。
…例え、どんなに汚れ仕事をしていても、
…例え、罪を犯しても、
…例え、一度は故郷を棄てたとしても、
故郷は優しく出迎えてくれる。
それはきっと、産まれた場所に還りたくなる本能として人間が最後に願う事なのかもしれない。
きっとばあ様にも喜んでもらえる。
ヒートは長旅の疲れも吹っ飛ばして村の最奥へと走った。
-
ノパ⊿゚) 「ばあ様!」
ヒートがガラッと屋敷の戸を豪快に開けた先で、暢気な様子で棚上の埃取りに精を出す老婆が振り返る。
lw´‐ _‐ノv 「……あれえ?
なんでヒートがここに?」
ノパ⊿゚)
ノパ⊿゚) 「……あれえ?」
老婆はヒートのばあ様であるシュー、その人だった。
しかし、腰も曲がってなければ顔や腕にシワも見当たらない。
唯一、首に刻まれたシワだけがそれを見分ける特徴。
若々しい女性だと誰もが思う容姿が、名物婆さんと呼ばれる所以だ。
だがヒートが驚いたのはそんなことではない。
ノパ⊿゚) 「病に倒れたんじゃないのか!」
lw´‐ _‐ノv 「倒れたよー。
そん時は忍者も真っ青の宙返りで鶏もびっくりしてたもんさ」
ノパ⊿゚) 「すげえ!」
-
騙された! とは思わない。
ばあ様は無事に生きて生活している…その事実の方がヒートには大切だった。
だが飄々として言葉を交わすものの、シューの表情には真剣味が増し始める。
lw´‐ _‐ノv 「…それで、なんであんたがここに帰ってきたんだい?
まだ忍の修行が終わる歳でもないだろう」
ポンポン、とハタキを反対の手のひらで弄ぶ。
手首に巻かれた数珠がカラカラ哭いた。
忍の里に出た子らは皆、使い物にならなくなる年齢になって初めて帰郷する。
もしくは任務中の死や、五体不満足による戦線離脱が常となる。
ノパ⊿゚) 「そうだ! 病に伏せたっていうばあ様のために薬を持ってきたんだ!」
lw´‐ _‐ノv 「薬?」
訝しげに問うばあ様に、ヒートは腰縄にくくりつけた秘薬袋をちゃぶ台の上にぽつりと置く。
直後、シューの目の色が変わった…
驚き、そして、怒りへと。
ヒートは気が付かない。 その変化に。
ノパ⊿゚) 「忍の里で伝えられてる、すべてを救う秘薬だ!
これならばあ様の体調もーー 」
.
-
ーー バチン!
言葉の終わりを待たず、シューは手に持つハタキをちゃぶ台に叩き付けた。
折れたハタキ棒が力なく畳の上にコロコロと転がる。
lw #´‐ _‐ノv 「これはなんだい?」
ノパ⊿゚) 「…え?」
lw #´‐ _‐ノv 「この…バカタレが!!」
怒声が耳をつんざく。
グリガンの猛攻にもひるまなかったヒートの身体が反射的にビクンと跳び跳ねる。
ノハ;゚⊿゚) 「え? え?」
lw #´‐ _‐ノv 「これは門外不出の秘薬だったはずだろう!
あんた、勝手に持ち出してきたね?」
ノハ;゚⊿゚) 「……ば、ばあ様のためと思って」
lw #´‐ _‐ノv 「ほー、私がこれを望んだって?」
シューの全身から立ち上る怒気は屋敷全体に留まらず…
外でまどろむカラスの群れもその場からバサハザと逃げ出し、
村の各所を見張る番犬達が一匹の例外もなく身を縮めた。
村の子供達にはその理由がわからず怯える番犬を宥めていた事を、ヒートは知る由もない。
-
ノハ;゚⊿゚) 「あ、あの…」
lw #´‐ _‐ノv 「そういうのはね、ヒート」
見たことも聞いたこともないばあ様の叱咤に震えるヒートをおいて、一呼吸後にシューは言葉を続ける。
lw #´‐ _‐ノv 「あんたがやりたいことを私のせいにしてる…そういう話さ」
ノハ;⊿;) 「!!」
そんなつもりではなかった。
喜んでもらう一心で、ヒートは我が身の明日を省みずに行動した。
ばあ様の身体を気遣ってここまで来た。
その気持ちに嘘偽りはない。
それなのに…
lw´‐ _‐ノv 「今は動けるけど…確かに私はそろそろお迎えが来るだろうね」
lw´‐ _‐ノv 「でもそれは自然な事だよ。
150年も生きてきたことが不自然なのさ。
それをあんたの独断で反故にしようって?」
ノハ;⊿;) 「違う! そうじゃない!!」
lw´‐ _‐ノv 「ねえ、ヒート?
よくお聞きよ」
狼狽える孫娘…もう何人目か分からない、自分の子孫を前にシューはその怒気を抑えて優しい口調に切り替える。
その顔は、ヒートのよく知る慈愛に満ちたばあ様の顔だ。
-
lw´‐ _‐ノv 「人はいつか死ぬんだ。
事故や病気、老衰や、早くても寿命がきて亡くなる幼子もいるだろう。
誰かに殺されたりもするさ」
lw´‐ _‐ノv 「皆、死にたくなくて頑張ってそれに抗う。
自分で身を守れない赤ん坊を守るためなら命をなげうつ母親や、息子を死なせたくなくて代わりに世の中を奔走する父親もたくさんいるだろうね。
…でも、やっぱり生きていれば死ぬんだよ」
ノハ;⊿;) 「……」
lw´‐ _‐ノv 「…あんたが持ち出したこの秘薬。
なんだか知らないだろう?」
ヒートが置いた秘薬の入った麻袋。
その閉じ口を親指と人差し指で、まるで不浄なものを摘まむように軽く持ち上げる。
ノハ;⊿;) 「すべてを救う秘薬…
忍の里ではそう伝わってて…」
lw´‐ _‐ノv 「それはもう聞いたよ、聞き飽きた。
…まったく、あの里にも困ったものだ」
そのまま指を離そうとして…
その危険性を考えてシューはゆっくりとちゃぶ台に麻袋を置き戻す。
lw´‐ _‐ノv 「これはたしかにすべてを救うかもね…
だが、人が生きるにあたってのしがらみから…だけども」
lw´‐ _‐ノv 「こいつは毒だ。
昔、天性の毒物からごっそり抽出された極上の猛毒の塊だよ」
-
('A`)「ふひひ、役立たず共め」
黒装束達は盾になるどころか、一つの攻撃の巻き添えになって意図しない者が倒れていくばかりだった。
ヒートとは違い、ドクも標的であるせいでグリガンに集中していない。
ドクの銃連撃をかすめながら宙を縦横無尽に駆け回るグリガンは、時に視界に入る黒装束に対しスピアの雨を降らせながらも、その意識を銃斧の男から外さない。
黒装束達が次々と屠られるなかで、同じ様に攻撃しても身を躱すドクを見てグリガンは想う。
その男の動きは無駄がなかった。
…というよりも、こちらの動作が始まると同時に回避行動を開始されている。
羽根を飛ばすべく身を屈める。
翼を降り下ろすべく背中を広げる。
突進すべく爪を縮める。
そのわずかな動作で、こちらの次の攻撃を知っているのではないか? といわんばかりの反応だ。
だが、グリガンは己に立ち向かう者を逃がしたことはない。
敵対する総てを排除してきた王者だから。
-
シューが秘薬袋を軽く開けると、中から一つの白い岩石が顔を覗かせる。
lw´‐ _‐ノv 「私がまだ若い頃…いまの忍の里で数人の仲間と忍者ごっこして過ごしてた時代さ。
水を飲んだ仲間が毒で死んだことがある」
シューはこの大陸における忍の祖であり、元は身を守る技として東方の術を学んだ一人。
忍の里を作り上げたのも彼女だ。
lw´‐ _‐ノv 「原因は一人の男。
川に浮かんでいたそいつは…死体かと思えばすぐに息を吹き返した。
でもね、その身体から湧き出る毒素がそこを死の川に変えてしまったんだ」
ノパ⊿゚) 「人間が…毒を?
…それにそんな川、里には無かった」
lw´‐ _‐ノv 「そりゃあそうだ。
だからコイツがある」
つん、と袋越しに白い岩石を優しくつつく。
見た目はどちらかといえば綺麗な石…しかし、よく見ればその輝きは砂糖水を溶かしたような淀みが内部で蠢いている。
lw´‐ _‐ノv 「これはその毒素を取り出して濃縮した結晶だよ。
その辺に捨てれば毒が滲むだろう。
破壊すれば毒が空気に散るかもしれない。
そもそも、ただそこにあるだけでも微量の毒素が噴き出しかねないんだよ」
ーー だから保管するしかなかった。
シューは無表情に、だが忌々しげな気持ちで呟きながら白い岩石を見つめていた。
-
グリガンは大地に降りてこない。
空から鋼の体毛を撒き散らしつつ、時には更に上昇して幾度目かの【ダウンバースト】を繰り出す。
('A`)「ふひひひ! あんま乱発するもんじゃないなそれ」
黒装束達は岩陰や大木に慌てて身を隠すが、
風と重力で根こそぎ地をえぐり、スピアを紛れ込ませる【ダウンバースト】の前になす術なく貫かれ、薙ぎ倒される。
唯一、ドクだけがどういう理屈かダメージを最小限に抑えるように動き回っていた。
徐々に受ける傷を減らしながら、グリガンに向けて放つガンアタックがその威力を増しているかのように力強く咆哮している。
「ピイィーーッ!」
('A`)「弱気な声出してんじゃねえよ、うるせえな」
ドクの右手首に嵌められたリングが、トリガーを引くたびに発光している事をその場の誰が知るだろう。
-
命あるものには "GC(ガードコンディション)" と呼ばれる防衛本能が備わっている。
ダメージを受ける際、反射的に力をいれたり、逆に力を抜いたりすることでその力の浸透を抑える。
或いは誰かを守ろうとする強い意思が、団体戦においてもその本能が発揮され空気中の魔導力と混合し、擬似シールドとして後衛の命を救うこともある…
と、語る戦術家も存在した。
グリガンが一度横面を撃たれた時、ダメージが通らなかったのもこのGCによる本能が無意識に発動していたからだった。
そのGCに影響を与える魔導力が、ドクの手首を通じて弾丸に込められている。
魔導力は効果循環のためにリング状を維持しなければならない…。
('A`)「おい」
('∀`)「…怖いのか?」
そう、弾丸はリング状を描きながら螺旋し放射され、目標を撃ち抜く。
ーー グリガンの、GCをも撃ち砕けるのだ。
「ゴアアァァァーーーッッ!!」
あり得ない! 俺は百獣! 人間如きに逃げ回るつもりなどない!
そうグリガンが吼えたのかもしれない。
巨大な躯から生やす体毛を全身逆立てて、翼を最大限に広げたグリガンが急降下する。
大地スレスレから方向転換したかと思った直後、最高速度に全体重を乗せた蒼い閃光となってドクに襲い掛かり ーー
-
ノパ⊿゚) 「…その男は?」
lw´‐ _‐ノv 「そのあと少しだけ一緒に皆と暮らしたさ。
意識さえあれば毒素を撒かずに生活できてたし、なにより川の浄化とこの結晶化にも協力してくれたからね。
…ま、罪滅ぼしってわけじゃあなかったらしいけど」
どこか見上げながら、シューは思い出にふけた。
150年生きてきた彼女の人生においても、不思議な体験だったのだから。
lw´‐ _‐ノv 「…秘薬があんたの思い通りの代物でなくて、がっかりしたかい?」
ノパ⊿゚) 「……うん」
lw´‐ _‐ノv 「そうかい」
いつの間にか、ちゃぶ台に置かれた湯呑みをすすりながらシューは穏やかにヒートを見つめた。
その顔はもう二度と、怒気を放つ鬼の形相にはならないだろう。
孫娘と邂逅して嬉しそうな老婆の顔。
そして…少しだけ死の影が濃くなった老婆の顔。
ノパ⊿゚) 「薬は…ないのか」
ヒートは諦めきれないようにすがる。
彼女はあまりにも直情だが、決して愚鈍ではない。
目の前の人間がどんな状態かくらいはきちんと汲み取れる優しい女性だ。
シューにはそれが堪らなく嬉しい。
忍としてなかば強制的に村から追い出しても尚、ヒートは非情な忍者ではなく、意思をもった人間であったことが。
-
lw´‐ _‐ノv 「ああ、無いね。
確実に死を逃れる薬なんてものは、存在しない。
それでいいんだ」
ノパ⊿゚) 「…そうかあ」
老いても忍の祖であるシューには、定期的な経過報告が忍の里から伝えられている。
報告内容は、すべての忍の生死や、任務遂行時における行動やその心理状況。
日常の健康や修行態度も。
ノパ⊿゚) 「それでも」
…ヒートは、人の死に携わった経験がなかった。
暗殺はもちろん、任務中における殺害や仲間の死に立ち会った事が、幸か不幸か皆無だった。
ノハう⊿;) 「……ばあ様には、もっと生きていてほしいよぅ」
lw´‐ _‐ノv
.
-
もし自分が彼女にとって最初の死との対面になってしまったら、彼女にどんな影響が出てしまうのだろう…。
シューの心配は、最後の愛娘に注がれる。
lw´‐ _‐ノv 「ヒートや」
lw´‐ _‐ノv 「死ぬのはいいものだ」
ノハ;⊿;) 「えっ?」
再び涙する赤い髪の孫に、シューは出来るだけ分かりやすい言葉を選んで伝える。
lw´‐ _‐ノv 「考えてごらん。
生き物が死なないってことは、何かを継いだり、継がれたりするって事から永遠に目を逸らされるって事さ」
lw´‐ _‐ノv 「草は草を食べる動物に。
草を食べる動物は肉を食べる動物に。
肉を食べる動物はやがて土に。
土はその死骸から栄養を頂いて美味しい草を育てるだろう」
ノハ;⊿;) 「…うん、ばあ様はそうやって米を育ててたな」
健康的な食物連鎖から育まれる豊かな土壌を使い、新鮮な水を通すことで稲穂を育てあげる。
忍の里と、その人材を秘匿しながら育ててきたこの村で、シューが子供たちに教える最初の仕事は稲刈りだった。
この村の水路が整備されているのも、シューが水の大切さと共に食育を通じて子供たちがせめて健やかに育つようにとの願い。
-
lw´‐ _‐ノv 「私らはいつか死ぬから、人を思いやったり、残された時間のなかでどうにかして生きた証を育むんだ」
親から子へ受け継がれる意思は、姿かたちを変えながらも、たとえ村から離れても、忍の里に行かなくても、またその子らへ継がれていく。
ああ、こんな時、親はどうしていただろう?
親ならどうやってこの子に教えただろう?
シューに限らず、親は一度は子供だった。
だが、親は親になって初めて親として生きていく。
だからその見本として自分の親を模倣するのだ。
lw´‐ _‐ノv 「私にとっての娘たち…
そしてヒート、あんたが私の最後の孫さ」
lw´‐ _‐ノv 「あんたが私の生きた証になっておくれよ」
ーー こんな事を言うなんて、私も老けたもんだ。
150年生きた老婆は、そう言って白い岩石の袋を縛り直し、ヒートに手渡した。
それと一緒に手首に巻かれた数珠も持たせる。
lw´‐ _‐ノv 「これは里に戻しておいで。
その数珠も見せるんだ。
元通りにしたなら軽い懲罰だけで済ませてもらえるさ」
-
数珠が手の中でカラカラ哭いた。
ヒートは二つの品を交互にみやると、ごしごしと涙をふいてシューに深くお辞儀する。
ノハう⊿゚) 「ばあ様、ありがとな!
私、戻るよ」
lw´‐ _‐ノv 「ああ。 達者でな」
ノパ⊿゚) 「…あ」
そう言えば、とヒートは思い出す。
村の外ではドクが追手を食い止めているままだ…。
ノパ⊿゚) 「急がなきゃ! ドクが」
lw´‐ _‐ノv 「ドク?」
ヒートは立ち上がり、踵を返す。
ノパ⊿゚)ノ 「途中で会って手助けしてくれたんだ。
もう戦わなくていいこと伝えなきゃ!」
lw´‐ _‐ノv 「ほうほう、そうかい。
そりゃあ大変だ」
ノパ⊿゚) 「ばあ様、また逢えるよな?」
lw´‐ _‐ノvノシ 「いや、そりゃあ無理だわ」
ノパ⊿゚) 「え、ええ〜…」
-
おどけた調子で返答するシューに、ヒートはがっくりするもののある種の安心を覚える。
lw´‐ _‐ノv 「なあに、死んだらあの世で待ってるから、あんたも人生楽しんでからおいで」
ノハ;゚⊿゚) 「逢えるのかあそれ?」
lw´‐ _‐ノv 「だから言ってるだろう。
死ぬのはいいものだって」
やっぱりばあ様はばあ様だなあ!
ヒートは手を挙げてシューに別れを告げ走り去る。
シューは老体に鞭を打ちながらも、屋敷の外でヒートが見えなくなるまで見送った。
lw´‐ _‐ノv 「……ドク。
そういえばあの男もドクオとか言ったっけね」
腰を叩きながら、大陸最高齢の老婆は屋敷へと戻っていった。
彼女は死を迎えるその瞬間まで、村の子供たちに稲刈りを教えていたという。
-
ノハ;゚⊿゚) 「……なんだ、これ……」
ドクと別れた村の外で見たものは、見渡す限り死屍累々の風景だった。
目に見える黒装束達は皆その身体を引き裂かれ、辺りに血の池をいくつも作り出している。
だがそれだけではない。
その顔はブクブクと爛れており、間近で直視するのも憚れる。
木々は倒れ、岩は砕け、草は根こそぎ散っている。
だが…やはりそれだけではないのだ。
木の幹はあり得ない箇所からへたれ、枝は悉く萎れ倒し、葉は例外なく泥々に液状化してその滴を真下の大地へと落としている。
そして極めつけは、
ーー 周囲を取り巻く瘴気。
ノハ;゚∩゚) 「ウグッ」
尋常ではないその空気の悪さに、思わずヒートもその場から逃げ出してしまう。
-
堪らず山を降りるべく駆け抜け、周りの景色が見慣れたものに彩りを取り戻すと、無意識に止めていた呼吸活動を再開する。
ノハ;゚⊿゚) 「はあ、はあ、
どうなってるんだ…あれは」
村の方角を振り返るも、もう一度あの場所に戻り、あまつさえドクを捜す気にはなれなかった。
あの場所にいては…たちまち脳みそから足の先まで血管ごと熔けてしまいそうだ。
あの黒装束達のように。
ノハ;゚⊿゚) 「ドクは…どこにいったんだ」
ヒートはなんとなくシューの話を思い出して、腰にぶら下げた麻袋に目をやる。
極上の猛毒…。
それはまるで ーー
-
----------
瘴気漂う崖の遥か下で。
首根っこにアクスを深々めり込ませた巨大な獣が佇んでいる。
蒼い体毛が焼け焦げ、血にまみれている。
その身を横に倒しながらも瞳を開き、意識を失ってはいない。
崖下までは瘴気も届いていないが、躯に染み込んだ毒素に抵抗するべく毛細血管からも異物を吐き出すように浅い呼吸を維持し、一方を睨み付けている百獣。
('A`)「まだ死なないか、おまえは」
ふひ、と笑う。
グリガンが睨み付ける先にへたりこんだ痩せこけた男は、右手にガンを持っている。
だが構えていない。 もはや狙いを定めるほどの体力も有していないからだ。
「グルル…!」
('A`)「おーおー、粋がっちゃって。
いや、生きたがっちゃって…か?」
げほげほとドクが血反吐をだらしなく垂らす。
ヨダレに混じる赤黒い血が、内蔵ごと彼の体内にダメージを蓄積していることを物語る。
-
グリガンもドクも、ともに自分の体力の回復を待っていた。
すでにドクの両手首からはリングが破壊され、GCの貫通もできなければアクスを取り戻そうとも焔を纏わせることもできない。
それでもドクは慌てる様子なくその場から動かない。
".; ('A`)「まーどっちもまだ動けないからな。
のんびり ーー ゲホッ、だべろうや」
痛みはある。 恐らくその痛みだけで並みの人間はショック死するだろう。
だが痛みに頓着しないドクはお構いなしにグリガンに話し掛ける。
('A`)「俺はさー、なんでこんな身体になったんだか…もう憶えてねえんだ」
('A`)「ともかくお前がいくら俺を殺そうが死なないわけよ。
けほっ… 希望としてはまともに死んでみたいけど」
ドクの言葉から命乞いや哀しみの色は表れない。
他人を欺くことはあっても己を偽らない。
('A`)「もしかして俺とお前って何度も戦ってるかもなあ〜、ふひひ」
-
グリガンはドクを変わらず睨み付ける。
今にも襲い掛からん勢いではあるが、躯を動かす様子は見られない。
('A`)「お前だって多分何歳とか何十歳じゃきかないだろ?
どうだよ、生きてて楽しいことあるか?」
('A`)「俺は…戦ってる時が一番愉しいんだよなあ。
どうせ死ぬと記憶がトンじまうから、だんだん面倒になってきて普通に過ごす気が無くなっちまった」
まるで旧友に話し掛けるように、ドクは言葉を紡ぐ。
独り言ではない。
確かにグリガンに向けて喋っている。
('A`)「おい、もうすぐ俺は動けるぞ。
お前はどうだ?」
グリガンからの唸り声はいつの間にか途絶えていた。
死んだわけではない。
その証拠に…百獣はすでに躯を起こしてドクに向けて確実に歩を進めている。
ドクはまだ視力が回復していなかったのだ。
グリガンが見えていない。
そして、気配が動いていることにも。
('A`)「おーい、まさか死んだのか?」
ドクの身体に大きな影が差す。
だが、彼は気付けない。
無音の驚異が迫っていることに。
-
すでにグリガンはドクを一噛みできる位置にまで肉薄していた。
軽く口をあけ、牙を突き立てれば容易くこの華奢な肉体は噛み千切れるだろう。
生殺与奪はグリガンが握った。
('A`)「まじかよ…反応が、ねえ」
グリガンは動かない。
じっと目の前の男を見つめている。
('A`)「…戦いてえ」
('A`)「死にてえよお〜…」
ーー 不死者の嘆き。
グリガンには言葉が通じている訳ではない。
百獣が下等な人間の言葉を理解する必要はない。
グリガンはドクの身体に牙を…突き立てた。
-
そして、ひょいとその身を宙に放り投げたかと思うと、ドクはグリガンの背に身を預ける形になる。
戦闘時とはうって代わりその体毛は柔らかく、傷付いたドクを包み込むように受け止める。
('A`)「……あぁ?」
どうしたことかとドクが状況を把握する前に、グリガンはその翼を小さくたたみながら少しずつ高度を上げる。
「ケェェーッ!」
嘶きも小さく、ドクに何かを語るように一吠えして空へと昇っていく。
浮遊感は不思議と感じない。
ドクは少しだけ回復したその目でグリガンを背中越しに見つめる。
雄大な背中は何を語るわけでもなく、グリガンはゆっくり山頂へと身を泳がせた。
('A`)「…あー、あーあー、そーですかい」
ふひ、と笑う。
人類史上この百獣の背中に乗ったのは彼が初めてだろう。
滅多に出来る体験でもない。
-
グリガンが翼をはためかせる。
遠い向こうでグリガンを眺める誰かは、やはりこの姿を神々しいと表現するだろうか。
風が傷だらけの身体を撫でるたびに気持ち悪かった。
こんなものを気持ち良いと感じる阿呆がいたら撃ち殺したい気分だ。
('A`)y-~ 「治ったらまたやりあおうぜ」
どこから取り出したのか、タバコに火をつけて一服し出す。
たゆたう煙は空にかき消え、灰は風に煽られて散っていく。
そんなドクをグリガンは気に止めず、どこかへと飛び去った。
ドクの望みが叶わない限り、
たとえエサとしてドクを貪り喰おうとも再生し続けてその姿を見せるだろう。
たとえドクの身体をバラバラに引き裂いて空に散らばり棄てても、いつの日かその姿は五体満足でこの世に現れるだろう。
-
限りなく不死に近い蒼い百獣は、これまで孤独に世を謳歌してきたといえた。
そんな百獣と対等に向かい合える人間がいるならば、それはもはや人間ではなく、己のような怪物なのかもしれない。
孤独を馴れ合うつもりなど毛頭ない…が、怪物には怪物の欲がある。
気に入らないものは滅する。
気に入れば弄ぶ。
背中越しにタバコを吸うドクの吐き出した煙からは、極上の毒の香りがした。
(了)
-
>>1です
本日分の投下をこれで終わります
途中IDが変わったのは回線切り替えによるものです
次の投下は木曜日の夕方頃を予定してます
でも台風がきて仕事が出来なかったら
それより前日に投下させて頂きます
よろしくお願いします
-
送信しちゃった…
途中の支援とても嬉しかったです
ありがとうございました
-
現在までのお話
( ^ω^):矛盾の命
>>1
( ´∀`):繋がれた自由
>>17
( ´∀`):遺していたもの
>>48
( ^ω^):老女の願い
>>101
ミ,,゚Д゚彡 :帰ってきてね
>>139
( ^ω^):ふたごじま
>>237
('A`) :死して屍拾うもの
>>297
-
乙乙
-
乙 すごい面白いよー
-
登場人物全員キャラが立って面白い
('A`)回は暮間みたいなものだと思ってたが
('A`)にごめんなさいしないといけないくらい面白かった
-
おつ
ふっぐおおくそちくしょう面白かったドクオのくせに
-
毒…もとい、読レスありがとうございます
('A`)がブーン系において人気の理由が、自分で描いてみて分かった気がします
ふひひ
-
おつ
ヒートが無事里へ戻れたのか気になるぜ
-
ふひ
-
そういえばヒートが最初毒が無効だったのはなんでなんだろう
-
>>373
>>375
ノパ⊿゚) 「気合いだあああ!」
※あくまで本人の主観です。 実際の真実とは関係ありません
-
( ^ω^)千年の夢のようです
- 初めてのデザート -
-
大陸の夏期は人を殺す。
原因は太陽…
本来、星の恵みともいえる光と熱が過剰なまでに降り注ぎ、人体の限界値を越えてしまう。
それを防ぐため、木は影を作り、森は風を巡らせ、川は偶然にも気化熱を生み出して…
大地も海も星の母。
生きとし生けるものの命を護ってくれる。
だが、もし人がその大自然に感謝せず、あまつさえ見向きもしなくなった土地があるとしたら…?
-
ξ゚⊿゚)ξ「……暑いわね」
( ^ω^)「……相違なく暑いお」
喉が乾く…水筒の中身を一口。
ジリジリ照らすなどという生温い表現では到底追い付けない、空からも、そして大地からも、太陽の悪意すべてを凝縮した枯れ果てた土地 ーー 砂漠。
長い戦争に疲弊した二人は、争いのない場所を求めるうちにこんなところまできてしまった。
より正確にいうならば…砂漠とは思わなかった。
元々ここには町が作られていたのだから。
百年前にここを通った時、豊かとは言えずとも家畜と共に生活し、森を伐り拓きながら日々を過ごしていた遊牧民達の住まう記憶がブーン達にはある。
のんびりとした気性で、その日暮らしを満喫していた彼らは皆、何処に行ってしまったのだろう。
-
隆起したキメの細かい砂山に囲まれた迷路で、彼らはもう二週間ほどさ迷い歩いている。
"デザートコース" と呼ばれるこの砂漠道は、いまは砂漠の民が利用する、砂漠を縦断するための天然路だった。
正しい道のりを歩むことで、オアシスを経由しながら比較的安全な旅を約束してくれる。
だがもし道を大きく外れてしまうと、やがて隆起した砂山すらなくなり、一面平らな砂の海にはまりこむ事になる。
オアシスを見つけられる保障もなくなる。
…そうなれば確実に生き倒れだ。
( ><)「もう暑いのか寒いのかもわかんないんです……」
(*‘ω‘ *) 「ぽっぽー……」
ブーン達のすぐ後ろをついてくる、手を繋ぐもう一組の幼い男女は、その砂漠の民。
危うく路頭に迷うところを彼らと出会い、この天然路の存在を教えてくれた。
いわばブーン達の恩人だ。
-
ξ゚⊿゚)ξ「ポッポちゃん、喉かわいてない?」
(*‘ω‘ 三 ‘ω‘ *)「ぽんぽ!」
ふるふると首を横に振りながら笑顔を見せてくれる姿は愛くるしく、ツンは何かと気遣って話し掛けている。
( ^ω^)「ビロード、その辺りは足元がでこぼこしてるから少しだけこっちへ寄るお」
( ><)「はいなんです!」
返事よく素直で真面目なその姿は、普段ツンの尻に敷かれていたブーンに新鮮な気持ちを抱かせる。
出会ってまだ数日も経っていない間柄の二人だが、それぞれ理想のようないい子達だ。
ブーンもツンもそう思う。
( ><)「ぽーぽっぽぽー♪」(*‘ω‘ *)
仲睦まじく手を繋ぐ二人を見ていると、生態系を崩された砂漠の強すぎる陽射しが少し和らぐような気になるから不思議だ。
これが "癒される" というものだろうか。
千年を生きているブーンもツンも、度々、人間の闇を覗いてきた。
きっとそれだけしかない人生ならば、早々に旅を止めて自分達の殻に閉じ籠ったかもしれない。
彼らのような純粋さが、ブーンの生きる原動力になる。
-
…しかし、天は人に試練を与えなければ気が済まないような質らしい。
( ^ω^)「ビロード、ここは急に右に曲がるから気を付けて」
( ><)「あ、はいなんです!」
ーー ビロードは視力障害、
(*‘ω‘ *) 「んぽっぽ?」
ξ゚⊿゚)ξ「ポッポちゃん、なあに?」
ーー ポッポは言語障害をもっていた。
ビロードとポッポの間には信頼関係があり意思の疎通は滞りなく可能だが、他人からは何かしらの工夫が必要になる。
そのためか、二人はデザートコースにおける正しい道順を大人から教えられずに育ってしまったという。
過酷な環境において両親から見捨てられた…砂漠の民の爪弾き者であった。
-
とはいえ二人からそのような苦の感情はいまのところ窺えない。
生まれた環境ゆえ自立心の芽生えやすい砂漠の民として鍛えられたその精神は、幼い彼らを孤独から護っていた。
ξ゚⊿゚)ξ「それにしても代わり映えしない景色ねー」
( ><)「砂漠は人を惑わせるんです。
大人でも段々と道が正しいのか不安になるって言われてました」
( ^ω^)「おーん…なにか目印でもあればいいのにね」
( *‘ω‘ *)б 「ぽ!」
ポッポが指差す方へと目をやると、砂に埋もれた石柱の残骸が僅かながらその身を晒している。
砂以外は何もないと思われた不毛の大地…だが、そうではない。
過去の町の幻影も、現在のブーン達を導こうとしている。
( ><)「ポッポちゃんが道を見てくれてます。
少なくとも同じ場所をぐるぐる歩くような事にはならないんです」
(*‘ω‘ *) 「ぽっぽ!」
そしてこの二人との出逢いも、ブーン達にとっては導きなのだ。
人は独りでは生きていけない…たとえ何百年生きようともそう再認識する。
-
その日は丸みを帯びた屋根のような瓦礫に四人、身を寄せて眠りについた。
夜の砂漠は、陽の出ている時間から真っ逆さまに外気を変動させる。
帯熱する物の存在しない砂漠では、いくら暖められた空気や大地であっても、やがては放熱して温度が大きく下がる。
ξ>⊿<)ξ「ーー っへくし!」
夏期とはいえ、この温度差にはやはり寒さを感じてしまう。
不意に目覚めたツンが朧気な意識のまま隣を見ると、猫のように丸まって目を閉じるビロードとポッポの姿。
スヤスヤ ( ><)(*-ω- *) スヤスヤ
ツンからすればとても可愛らしい寝顔で身を寄せあっている二人は、こんなときにも手を繋ぎ合っている。
…荷物からタオルを取り出すと、二人の身体に掛けてやった。
ξ゚⊿゚)ξ「…仲の良い兄妹ねえ」
クスリと微笑む。 …タオルと一緒に出した水筒の中身を、一口。
それに比べて ーー
.
-
⊂( -ω-)⊃ 「スピー スピー」
ξ゚⊿゚)ξ「……頑丈で羨ましいこと」
一番外側で眠るブーンは、あろうことか両腕を広げて爆睡している。 ツンですら寒さで熟睡できないにも関わらず…。
不死者といえども、体調を崩すことはあるのだ。 風邪もひくし熱もだす。
それでもブーンのフィジカルの強さは昔から変わらない。
どんな長旅にも耐える事が出来る。
氷山に閉じ込められたツンをたった一人で迎えに来てくれた事もあった。
千年間、彼が病で寝込んだところすら見たことがない。
⊂(;-ω-)⊃ 「お…それはムニャ…食べたくない…ぉ」
ξ゚⊿゚)ξ「ぷっ …なによそれw」
食べ物の好き嫌いが多い事に目をつむれば、彼は優しくて、苦境にもへこたれない頼りになる人生のパートナーだ。
ξ゚⊿゚)ξ「…こんな風に過ごすの、久し振りね、ブーン…」
一つの空間で、ブーンとツン、そして子供二人が並んで眠る。
旅の道連れとはいえ四人で過ごす時間は懐かしい気持ちをツンの心に甦らせた。
-
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眠るブーンの夢。
ーー 千年の間の、夢…。
(推奨BGM)
https://www.youtube.com/watch?v=OTJLtz4ItZk&feature=youtube_gdata_player
-
「オギャア! オギャア!」
赤ん坊の声。
世界中の何者に比べても一番純粋で、そして愛しい声。
何もない真っ白な空間で、徐々にその姿があらわになる。
ξ゚⊿゚)ξ「はいはい、お腹すいたの?」
白く風に揺れるカーテンに、白を基調とした木製のベッド。
赤ん坊の母親がパタパタとかけていくと、それだけで赤ん坊は安心してそのトーンを上げる。
「んあぁー」
ξ゚⊿゚)ξ「よしよし、いまごはん食べましょうね〜」
母親は赤ん坊の口にはだけた胸をくっ付けると、赤ん坊も言葉にならないありがとうを伝えながらおっぱいを飲み始める。
ああ、そうか… あの母親はツンだ。
ツンと、自分の子供。
赤ん坊を見つめるツンの表情は穏やかで、ツンに寄りかかる赤ん坊の表情は晴れやかだった。
ξ゚⊿゚)ξ「この子が元気に育ちますように」(^ω^ )
.
-
何もない空間で、わずかなセピア色が差し始める。
風に揺れるまだ白いカーテン、木製のテーブルチェアを囲む、ツンと子供、そして自分の後ろ姿。
( ^ν^)「ごはん、うまい」
ξ゚⊿゚)ξ「良かったわ。 どんどんお食べなさい」
( ^ν^)「うん」
すくすく育つ子供はニューと名付けた。
二人で三日三晩、考えに考えた…
意味を込めたり、願いを込めたり、自分達を投影するような名前を二人で色々考えた。
そうして出した結論は、
"この子はまったく新しい生命であり、自分達の代わりや分身ではない"
というものだった。
新しい命、ニュー。
二人に宝物が出来た。
ξ゚⊿゚)ξ「この子はあんたにソックリだわ」
( ^ω^)「そうかお? 喋り方はツンにソックリだと思うお」
二人で暮らす日々も幸せだった。
…けれど、家族が増えるということはもっと幸せなのだと、そのとき確かに思った。
.
-
何もない薄白い空間に佇む二人の影。
小さな影はニュー。
大きな影はブーンだ。
二人で木の棒をナイフでかりかり削りながら、かっこいい武器をテーマに競っている。
( ^ν^)「とーちゃん、この剣はね、なんでも貫けるんだぜ」
( ^ω^)「おおーそれはそれは勇ましい」
( ^ν^)「とーちゃんも楽に刺せるぞ」
(;^ω^)「ちょ、それはやめて…」
( ^ν^)「それでねー、母さんを傷付ける奴もこれでやっつけるんだ」
( ^ω^)「おっおっ!
誰かを守るために使うならとーちゃんが正しい剣の扱い方を教えてあげるお」
( ^ν^)「うん」
(^ν^)「とーちゃんも守ってあげる」
このあと、二人で森へ狩りに出掛けて、大きな食用の獣を捕まえた時は子供の成長に驚いたものだ。
.
-
何もない薄白い空間に佇む二人の影。
小さな影はニュー。
大きな影はツンだ。
座り込み服をたたむツンと、その横で寝転がりながら紙に絵を描くニュー。
ξ゚⊿゚)ξ「…その女の人は私?」
( ^ν^)「こんな美人じゃないだろ」
ξ゚⊿゚)ξ「ナマ言っちゃって」
( ^ν^)「それでね、これがとーちゃん」
ξ゚⊿゚)ξ「……こないだの狩りの時の絵ね」
( ^ν^)「かっこよかった」
( ^ν^)「でもなんで母さんのほうがいつも偉いの?」
ξ゚⊿゚)ξ「別に偉くないわよ」
( ^ν^)「尻に敷いてるじゃん」
ξ;゚⊿゚)ξ「一体どこで覚えるのよ、そういう言葉を…」
ξ゚⊿゚)ξ「ブーンは誰かを護るためにしか戦わないからよ。
だから先に怒るのが私の役目なの」
( ^ν^)「ふーん」
父と母の姿を見て子は育つ。
細かな欠点の多い二人を、ニューはどんな目でみていただろう。
.
-
何もない空間に、セピアから闇色が漂う。
灯籠越しに映されたようなぼやけた町並みと、クッキリとした輪郭の三人の姿。
( ^ν^)「なあ」
( ^ω^)「お?」
( ^ν^)「なんで町の人は日に日に姿が変わるんだ?」
ξ゚⊿゚)ξ「歳を取るからよ」
( ^ν^)「俺も?」
( ^ω^)「……だお…」
( ^ν^)「……二人は変わらないのに?」
ξ゚⊿゚)ξ「ぁ……」
不死者は歳を取らない。
成長したニューは、まもなく二人と同じ齢に見られるようにまでなった。
だが。
( ^ν^)「俺も、いつかはジジイになるの?」
ニューは不死者ではなかった。
不死は子供には受け継がれない。
( ^ω^)「それでも、ニューは僕達の子供だお」
( ^ν^)「……」
( ^ω^)「とーちゃんと母さん、嫌いか?」
( ^ν^)「…好き」
喉が ーー 乾く。
.
-
ニューと暮らして三十年経ったある日。
…ニューは、町の事故で小さな子を庇って
土砂の下敷きになり、その命を失った。
話を聞きつけたブーンが夜通し土砂を掻き分け続け、ツンが駆け付けた頃、
もう、彼の目が開くことはなかった。
( ゜ω゜)「……ニュー」
ξ ⊿ )ξ「……」
ーー 喉が焼けるようにへばりつく。
町の人々と共に埋葬を済ませ、家にはまた二人だけの姿が残される。
助けられた子供はかすり傷で済んだ。
土砂に閉じ込められている間、ニューは子供を励まし続けたという。
『ニュー兄ちゃんが最後まで言ってた。
自分の…とーちゃんが来ればもう大丈夫だ! って』
『グスッ…… とーちゃんの子供なのに、生きられなくてっ、ウッ、ごめん ーー って』
.
-
その時、ブーンも、ツンも、助けられた子供も…身体中をめぐるすべての水分を涙に変えた。
誰一人、声は出なかった。
ただ、ただ… 世界を海に作り替えるように泣き続けた。
不死がニューに受け継がれていれば、こんな事にはならなかった。
二人の時間が無限でなければ、有限の時を生きるニューを苦悩させることはなかった。
二人は毎日のように、埋葬されたニューの墓に通い続けた。
ツンの喪失感は特に深く、日が昇るまでに墓に赴き、日が落ちたあとは家に散乱するニューとの三十年の痕跡をただ眺め続けた。
ブーンですら、しばらくの間、何もできなかった。
お腹を痛めてニューを産んだツンの哀しみを想像してしまう時、ブーンはただ自分の無力さに打ちのめされた…。
あの世で彼に逢うことも出来ない。
あの世で彼に謝ることも出来ない。
ーー もう、ニューとは永劫の別れを、告げなくてはならなかった。
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(推奨BGMおわり)
-
プニプニっ
( *‘ω‘ *)σ)^ω^;)「…おっ」
頬をつつかれ、ブーンは目覚める。
珍しく疲れが抜けない眠りだった。
夢の内容は思い出せず、だが目もとがペタついている事に気付くと、指で擦りながら少しだけ空虚な気持ちを味わう。
(*‘ω‘ *) 「ぽ?」
( ><)「…怖い夢でもみてましたか?」
ポッポの言葉を代弁するようにビロードが尋ねた。
…乾ききった喉を潤すべく、水筒から水を飲むと、やっと喋れるようになった気になるのは不思議だ。
( ^ω^)「うーん、どうだろね」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
-
再び四人はデザートコースを歩き出す。
すでに何度目かのオアシスを順調に越えている。
この調子なら砂漠の向こうにあるという高原まで無事に抜けられるかもしれない。
( ><)「お二人は高原に出たあと、どうするおつもりなんです?」
ヨタヨタとした足取りのビロードが、無言を避けるように話し掛けてくる。
口を開けば砂が入って体力の消耗も早くなるが、彼なりの気遣いをブーン達はしかと受け止めたかった。
( ^ω^)「うーん、向こうにたどり着いてからだおね…
二人こそ、どうするつもりだお?」
(*‘ω‘ *) 「ぽっぽっぽー」
( ><)「僕達でも暮らせそうな町を探すつもりです。
目は見えなくても、少しは鍼が使えるんです」
そう言うと、懐から長細いケースを取り出した。
得意そうにビロードがそれを軽く振ると、カタカタと硬い音が鳴る。
-
ξ゚⊿゚)ξ「あら、凄いわね。
人体のツボがもう判るの?」
(*><)「ポッポちゃんと一緒に勉強したんです!
両親から唯一買ってもらった本が、これだったんです」
(*‘ω‘ *) 「ぽっぽ!」
『両親から唯一買ってもらった』…
その言葉から恨み節は感じられない。
本当にそれを、彼は嬉しく思ってるのだ。
( ^ω^)「凄いお。 なのにどうして両親は…」
( ><)
「?」
(*‘ω‘ *)
( ^ω^)「…いや」
子を捨てる親は珍しくない。
口減らしのため環境に適さない子を家から追い出す事情もあるだろう。
その逆もしかり。
( ^ω^)「二人なら、きっとどこへ行っても頑張れるお」
だから、赤の他人であるブーンがむやみに口を挟む問題ではない。
彼らはいままさに立派に自立せんと旅立ったところ…人生の岐路にいる。
そう考えることにした。
-
ξ゚⊿゚)ξ「分かれ道だわ。
これは…さん、しー、……」
(;^ω^)「七叉路…?」
デザートコースは砂の隆起で道筋が判る。
四人の目の前で七方向に放たれた道は、地平線を越えてそれぞれまっすぐ続いている。
いまは小さな分岐でも、やがて大きな転換になる。
もし道を間違えれば激しいタイムロス…それどころか、さらに分岐が重なれば戻ること叶わず砂漠をぐるぐる迷うはめになるかもしれない。
(;><)「七叉路なんてはじめてなんです…
もしかして」
(*‘ω‘ *) 「ぽ! ぽぽぽー?」
( ><)「うん! 高原が近いかもしれません!」
正しい道を知らないはずの二人の口からは、あくまで未来への希望に満ちた言葉が飛び出す。
迷ってしまう。 間違えてしまう。
そんな恐怖は抱いていなのだ。
子供達には様々な未来が待つことを、大人であるブーン達は知っている。
大人達には経験からくる様々な不安や心配が渦巻いていることを、子供であるビロード達は知らない。
-
(*‘ω‘ *) 「ぽー……」
( ><)「どれにしましょうか…?」
ξ゚⊿゚)ξ「ねえ、ビロード。 あなた疲れてるでしょ?
少しだけ戻って木陰で休まない?」
七叉路に差し掛かる前、唐突に大きな石壁の残骸が形を残していた場所があった。
この灼熱の太陽の下よりは、と、提案する。
( ><)「いえ、まだ大丈夫なんです!」
そう言うビロードだが、目の見えない者が大地を歩き続けるのは常人の何倍も労力を必要とする。
…そして、まだ抵抗力の弱い女の子も。
(;*‘ω‘ *) 「ぽ〜」
( ^ω^)「ポッポちゃんも疲れてるお。
休憩させてくれないかな?」
(;><)「あ…っ ご、ごめんねポッポちゃん!
わかったんです!」
-
ビロードも、逸る気持ちに気付いて納得してくれた。
きっと普段の彼ならこう言わずとも休憩を取っていたかもしれない。
木陰に座り、オアシスで補給した水を各々飲み休む。
砂漠地帯でなければツンが水の魔導力を行使できるのだが…さすがに無から有を生み出すことは出来ない。
雨雲ひとつないこの気候では、基となる魔導力のきっかけすら掴めなかった。
(;*‘ω‘ *) 「ぽぽ〜」
( ><)「ポッポちゃん、脚をこっちに」
ビロードが手探りにポッポの身体に触れる。
太ももから足の指先にかけて丁寧に揉みしだくと、ポッポの表情が和らいでいく。
-
( ^ω^)「マッサージ上手いね」
( ><)「鍼が有効な場合は鍼を使います。
でも力が抜けすぎるとしばらく歩けないので、いまはマッサージのほうがすぐに効果も表れると思うんです」
ビロードの手の動きは大人に比べればまだ拙い技術…
それでも、妹のために懸命なその行為は何者にも勝るリフレッシュを与える。
(*‘ω‘ *) 「ぽっぽ! ぽっぽ!」
ξ゚⊿゚)ξ「いいお兄ちゃんで良かったわね、ポッポちゃん」
( ><)「ーー ふう…あとは筋肉がまた反応するまで待てばもう大丈夫だと思うんです」
手首をプラプラさせながらマッサージを終える。
休憩するといったこの時間を、ビロードは妹に費やしてしまった。
( ^ω^)「ビロード、ビロード」
( ><)「え? …あ!」
-
驚いたのはブーンがビロードの脚を掴んだからだ。
絹のズボン越しに戸惑うビロードの脚を伸ばさせると、見よう見まねでマッサージを始める。
( ^ω^)「今度は君の番だおぉ」
( ><)「わわ、僕は大丈夫なんです!」
ξ゚⊿゚)ξ「なに言ってるのよ、休憩時間に働いたんだからちゃんと休みなさい」
(*‘ω‘ *) 「ぽぽぽ!」
不死者の特性…【共に居る仲間の技を盗む】。
まだ未完成なビロードのマッサージだが、それを盗んだブーン。
力加減に注意を払いながら、ビロードが押さえていたポイントを重点的に揉みしだいてみる。
( ><)「うぅう〜… き」
( ^ω^)「…き?」
( ><)「きもちいいんです」
年の功か、十分な効果をビロードにもたらしたようだ。
-
四人ともが笑う。
遠い過去、子供を失ったブーン達と、
近い過去、両親から捨てられたビロード達。
ささやかな出逢いと、共に過ごす現在。
.
-
七叉路から一つ道を選び、長い時間を歩んだ先には、これまでとは違うひときわ大きなオアシスが待ち構えていた。
いくつものテントが張られ、その中で商売する人がいる。
デザートコースの存在を知らない外の旅人らは、これからの砂漠の旅に備えて馬を繋ぎ、荷支度をここで整える。
そんなオアシスの中心部にそびえる巨大なヤシの木を見て、ブーンは思わず興奮してしまう。
(*^ω^)σ「ツン! 見るお!
とんでもねーヤシの実の数だお!」
「あんたら歩いて砂漠を越えてきたのかい? おっそろしいなあ。
あのヤシの実は誰のものでもないよ、自由に取るといいさ、疲れたろう」
商人の言葉に甘え、ツンが何かを言う前にブーンは跳躍してヤシの木の幹をぐいぐいと登る。
ξ゚⊿゚)ξ「まるで猿か昆虫ね…」
溜め息混じりに呆れる横では、ビロードとポッポがその様子を眺めている。
-
( ><)「…ブーンさん、なにしてるんです?」
ξ゚⊿゚)ξ「あの実を取ろうとしてるのよ。
……あれ? ヤシの実、飲んだことない?」
(*‘ω‘ *) 「ぽぽ…」
( ><)「?? わかんないんです」
その三人の足下に、ドサドサと重い音をたてて果実が転がる。
頭上から、当たらないようにブーンが落としたものだ。
( ^ω^)「こうやって中身のエキスを頂くんだおー」
乱暴に実を幹にぶつけてヒビを入れる。
割れた実から滴が零れるも、地面の砂に吸い込まれて消えていく。
ξ゚⊿゚)ξ「ちょっと。 子供にそんなことできるわけないでしょ!」
(*^ω^)「うひょーーうめーーww」
実にかぶりついたブーンは、もはや小言など右から左に通り抜ける。
ξ#゚⊿゚)ξ「…聞いてないわね、あいつあとでシメる」
-
ツンが実を拾い上げて人指し指を当てると、短く魔導力の詠唱を行う。
ξ゚⊿゚)ξ「【フォース】」
バコッ!と、ヤシの実に小さな穴が開けられた。
魔導力を物理的な攻撃力に変換する、比較的簡単で応用力の高い黒魔法。
理論上は極めればどこまでも強く…
例えば、野生の獣程度なら爆殺できるかもしれないが、ツンはそこまで求めていない。
穴から覗く瑞々しい果汁を見せて、ビロードとポッポに手渡した。
自分の分ももちろん忘れずに。
(*‘ω‘ *) 「ぽ〜?」
( ><)「飲んでいいんですか?」
予想以上の実の重量に驚きつつ、二人はツンの顔を見つめてくる。
ξ゚ー゚)ξ「子供は遠慮しちゃダメよ」
ニッコリと微笑むツンが果汁を飲み始めると、真似をして一緒に喉を潤した。
-
ーー 命の水。
そんな言葉がよく似合う。
甘味のなかの清涼感は、身体がこれまで味わった事のない栄養を全身に行き渡らせる。
驚きつつも飲むことを止められない。
世の中にはこんなものがあったなんて。
( ><)「ーー ぷはっ!」
(*‘ω‘ *) 「ーー ぽぉ〜!」
顔から上に持ち上げられなかったために飲み干すことは出来なかったが、その感動は充分すぎるものだった。
ξ゚⊿゚)ξ「ん〜! 美味しいね」
(*‘ω‘ *) 「ぽっぽ!」
(*><)「美味しいんです!」
( ^ω^)「君たちはこれからはもっともっと色んなことを知れるはずだお」
いつのまにか木から降りていたブーンが三人のもとへ帰ってきた。
…両脇にヤシの実を挟めるだけ挟んで。
-
空っぽになっていたポッポの水筒に、ヤシの果汁を注ぎ入れる。
ポッポも嬉しさのあまり破顔し、ブーンの背中にまとわりつく。
(#)^ω- )「どうやらもうすぐそこが高原みたいだね。
町が入り口になってるから、そこの商人さんが連れてってくれるみたいだお」
ξ゚⊿゚)ξ「そう、じゃあ名残惜しいけど…ここでお別れかしら」
シメられて顔をはらしたブーンを気にすることなくアッサリとそう言うツンの口調は、しかし表情と一致していなかった。
出来ればもう少しだけでも一緒に居たい。
二人のそばに居てあげたい。
そんな思いが、叩かれた肩から中断される。
( ^ω^)「しっかりした二人なら、うまくやっていけるはずだお」
ブーンも同じ気持ちだった。
しかし、ビロード達に二度も大人に捨てられる思いをさせる事はない。
-
(*‘ω‘ *) 「ぽっぽ、ぽっぽ!」
( ><)「はい、ありがとうございました!」
不死者とそうでない者は、同じ時を過ごすことはできても、同じ時間を過ごすことは出来ない。
笑顔のうちに別れるべきなのだ。
ξ゚⊿゚)ξ「…ポッポちゃん、これからもお兄ちゃんと仲良くね」
(*‘ω‘ *) 「ぽっぽ!」
( ^ω^)「ビロード、ポッポちゃんをその心でいつも見てあげるんだお」
( ><)「わかったんです!」
良い返事だった。
彼らにはブーン達と別れるよりも、未来に生きる想いが勝る。
「おーい、そろそろ俺は出発だけど、あんたらどうするんだい?」
-
( ^ω^)ノ 「おっ。 乗せてくれお!
この子達二人だお」
砂漠の外の町に売り物を補充に戻る予定だという、少し肥えた商人が声をかけに来た。
徒歩ではない…キャリッジの、二頭の馬の手綱をひいている。
子供二人分くらいなら荷台の隙間に悠々と座れそうだ。
「んじゃ乗ってくれよ。
サスペンションにガタが来てるから乗り心地好いとは言えんがね」
商人はガハハ、と自虐気味に笑う。
それでもこのご時世にすれば立派な道具を所持しているものだ。
手押し車や、荷を直接背負って土地を行き来する者も多いのだから。
(*‘ω‘ *) 「ぽっぽ!」
「ん? あんだい嬢ちゃん??」
( ><)「よろしくお願いしますなんです!
ポッポちゃんもそう言ってるんです!」
「おうおう、そうかそうか。
気にするな! 旅は道連れ、物はついでってな」
-
荷台に乗り込むための足場は子供にとっては少々高い。
ポッポに導かれて足を上げるビロードだが、なかなか彼の予想の高さには足場を見つけることが出来ない。
(;><)「うんしょ…あれっあれっ」
(*‘ω‘ *) 「ぽー!」
所在無さげに足をプラプラさせてしまう焦る兄の身体を一度押さえ、ポッポがその靴裏を手のひらで包み込みゆっくりと持ち上げる。
バランスを崩さないよう、彼の手は妹の肩に添えられながら。
ξ゚⊿゚)ξ「だ、大丈夫?」
( ><)「よいしょ!
…すみません、もう平気なんです!」
「焦らなくていいよ、まだ日が落ちる時間でもない。
夕暮れ時には充分間に合うさ!」
( ^ω^)「恩に着るお」
肥えた男は温厚な性格のようだ。
手間取る子供を見ても表情一つ歪めることはない。
これならビロード達を無事に送り届けてくれるだろう。
ビロードが荷台の上で幅を寄せるのを確認すると、ポッポが身軽に跳び乗って、空いたスペースにすっぽりと収まる。
-
( ><)「ブーンさん、ツンさん!」
こちらに顔を向ける事はできないが、確かにブーンらに向けて声を発する少年。
( ><)「…あの、こういうと怒られるかもしれないんですが」
子供は純粋だから子供なのだ。
その時代は、いずれ終わる。
( ><)「二人と一緒に居た時間は、なんだかお父さんとお母さんに見守られてるみたいだったんです!」
(*‘ω‘ *) 「ぽっぽ!」
( ><)「ポッポちゃんも同じ気持ちみたいです!」
( ^ω^)「…僕達もそうだお」
だからその時代は、無条件に大人が信じてあげる時間だ。
そして、時が来ればかわいい子には旅をさせよう。
-
ξう⊿゚)ξ「…ふふ、ナマ言っちゃって」
( ^ω^)ノ「ありがとだお!
二人とも、またいつか逢えるから元気で過ごすんだおー!」
手を挙げて二人を見送る。
兄妹達は互いに手を繋ぎながらも、甘い果汁を入れた水筒を持つもう片方の手で、ブーン達に振り返した。
(*‘ω‘ *)ノシ 「ぽー!」
( ><)ノシ「またなんですー!」
ξ゚⊿゚)ξノシ 「風邪ひかないでね! 無理したらダメよー!」
商人が馬に合図を送りキャリッジを走らせる。
荷台の重みに逆らうように、馬が足並みを揃えて少しずつ馬車を引っ張り歩く。
遠足に向かうような笑顔で、ビロードとポッポは砂漠を後にした。
ξ゚⊿゚)ξ「いってらっしゃい」(^ω^ )
.
-
戦争に疲れ、荒む心でさ迷った砂漠の道。
スタートからゴールまでに、その心を癒してくれたあの子達にエールを贈る。
この乾きを潤し満たされた気持ちは、
まさに甘くてすっきりとした、
デザートを味わった後の幸せな心模様だった。
(了)
-
現在までのお話
( ^ω^):矛盾の命
>>1
( ´∀`):繋がれた自由
>>17
( ´∀`):遺していたもの
>>48
( ^ω^):老女の願い
>>101
ミ,,゚Д゚彡 :帰ってきてね
>>139
( ^ω^):ふたごじま
>>237
('A`) :死して屍拾うもの
>>297
( ^ω^):初めてのデザート
>>377
-
乙。
読みやすくて良いね。楽しみ。
-
乙乙
楽しませてもらってるよ
-
子供居たんだな… おつ
-
おつ
さらっと読めるけどなかなか重い話だよな毎回
すきだわ
-
おつん
-
いつも読んで頂き、ありがとうございます
>>417
当初はたんたんと
( ><) (*‘ω‘ *) の二人で話を作っていました
でもブーンを眠らせたとき、本当に突然ポンッと彼が現れたので
そのままノンストップで書いたという経緯があります
なお、元ネタとなっているロストオデッセイでも
公式設定において不死は遺伝しません
-
次の投下は水曜日の19時頃に行います
宜しくお願いします
-
最近読み始めたけど面白かった
スレタイから勝手にほのぼのまったり系とかそーいうの想像してたけど全然違ってワロタ
-
( ^ω^)千年の夢のようです
- 時の放浪者 -
-
ミ,,゚Д゚彡 「……」
まばたきをした。
二度、三度と、パチリパチリと瞼の感触を確かめる。
確かに感触はあるのに、目が開かない。
腕を…身体を動かす。
すぐに何か硬いものに触れて、それ以上の活動が許されなかった。
それは身体が確かに動いた証拠だと思い、やはりまばたきを繰り返す。
何度やっても瞼はその感触をナナシにフィードバックする。
瞼が開かないのではなかった。
ナナシは、何か狭苦しい空間に閉じ込められていることに気付く。
-
ミ,,゚Д゚彡 「あー、あー」
声が出た。
自分の耳に届く聞き慣れた音の震動は、すぐに反響しぼやけてしまう。
理解できない状況下に狼狽える前に、まずは出来ることを模索してみる。
ミ,,゚Д゚彡 ーースゥ、
ミ,,゚Д゚彡 「だれか〜〜っ!」
ガタガタッ!
深く息を吸い込み大声を挙げた途端、暗闇の向こうでなにかが倒れる音が聞こえた。
理由は分からないが、自分をどうにかするつもりならばこの現状には理解を越える何かがある。
なぜこうなったかも分からない。
-
ミ,,゚Д゚彡 「誰かそこにいるから?」
愚策ではあるが問い掛けてみる。
危害を加えるつもりならこの暗闇を引き裂いてくるなり、なにかしらのアクションが起こると思った。
ならばその瞬間を脱すれば良い。
…しかし、彼が心配するような事態にはならなかった。
「…だ、誰かいるの?」
幾重もの壁を通しているかのように、遠くから聴こえる若い女の声。
多分の怯えと、同じくらいに何かを期待するような返事が闇越しにナナシの元へかろうじて届く。
ミ,,゚Д゚彡 「よく分からないけど…出してほしいから!」
「ま、まってて! 誰か呼んでくる!」
その後、ナナシにとっては痺れを切らすほどの沈黙を経て、重いものをズリズリと引きずるような地響きが途切れ途切れ鳴り響く。
-
闇の裂け目から周囲を光が照らした時、天を仰ぐナナシの視界には数人の男達が顔を見合わせていた。
身体を起こすと、突如全身の関節や筋肉が悲鳴をあげる。
まるで何日も、何年も、その動かし方を忘れていたかのように凝り固まった身体が、ナナシの意識と解離してプルプルと震えてしまう。
「驚いた…なんでこんなことに」
「…おいアンタ、一体そんなところで何やってんだ??」
ミ,,゚Д゚彡 「…?? ナナシが聞きたいから…」
思うように動かない身体の首から上だけで周囲を見渡して唖然とする…。
彼が閉じ込められていたのは ーー 墓場。
拓けた森の中で、ズラリと立ち並ぶ墓石が規則正しく列をなすその一角から、
金色の髪をそよ風に吹かせてナナシは上半身を起こしていた。
「と、とにかく集会所まで運ぼう。
歩けるか?」
「おいおい! こんなところに閉じ込められてて急に動けるわけないだろう、誰か背負ってやれ」
男達も困惑している。
この様子では誰一人、こうなったナナシの状況を知る者は居ないだろう。
「つー! 先に戻って水と寝床を用意してやってくれ」
「う、うん!」
その声は先程の若い女と同じだった。
だが、その顔を確認することなく、ナナシの意識は再び闇へと沈んでいく。
…抵抗は出来なかった。
-
ミ,,゚Д゚彡 「!!」
当人には一瞬のまどろみ。
しかし周囲の風景は一変する。
目に飛び込んできた白いシーツ、だがそれは横になっていた自分の身体からみて、天井一面に貼られたものだと気付くのに少しだけ時間が掛かった。
脳内には疑問符だけが浮かぶまま、ひとまず身体を起こす。
そこは正方形に間取られた小屋の中であることが分かる…石壁と木床の小さな一部屋。
簾で仕切りが作られているらしく、入り口の扉がうっすらとだが見えた。
そして、その扉が開いたので少しだけ警戒する。
(*゚∀゚) 「あ、起きた…?」
桶を抱えた若い女が一瞬たじろぐ様子を見せるも、ゆっくりと部屋に入ってくる。
正面の小さなテーブルに桶を置くと、両手を腰前で重ねてじっとナナシを見つめていた。
-
(*゚∀゚) 「…えーっと……」
ミ,,゚Д゚彡 「……」
何から話せば良いかが分からないように、女は言い淀む。
ナナシより少しだけ年下だろうか…この声は聞き覚えがある。
あの時、暗闇でやり取りした声と同じだ。
ミ,,゚Д゚彡 「…あ、ありがとだから」
(*゚∀゚) 「へっ!? あ、いや…ううん、私はなにも……」
互いにぎこちなく話始めた。
状況が掴めていないのはお互い様なのだろう。
こういう時はどう切り出せば良いものか、ナナシには分からない。
だから素直に聞く。
ミ,,゚Д゚彡 「ここはどこ?」
(*゚∀゚) 「ここはー…私達の住んでる村だよ。
あなたこそどうしてあんなところに??」
ミ,,゚Д゚彡 「自分でもわからないから…」
なぜ墓場になど眠っていたのだろう?
…自分は、どうやってそんなところに居たのだろう。
(*゚∀゚) 「……」
答えに納得したのかできなかったのか、一呼吸の間がナナシに気まずさを与える。
(*゚∀゚) 「私はつー。 あなたの名前は?」
ナナシは、まだ付けられていない自らの証明を名乗った。
.
-
小屋を出て村を見渡すと、大きな森のなかに作られたコミュニティである事が一目で分かった。
まるで自分の故郷のようだと感じて、気が落ち着いてくるのを頭の隅で感じる。
故郷と違うのは、森の中に家を建てていったにしては風景が整いすぎている事。
木々で区画化されたその村並みはどこか人為的な手を加えて整備されている事を窺わせる。
そこへ、村人にナナシが目覚めたことを報告しに場を離れていたつーが戻ってきた。
(*゚∀゚) 「あ、もう歩ける、の?」
ミ,,゚Д゚彡 「うん」
(*゚∀゚) 「そっか。
皆もあなたの事を悪くは考えてないみたいだから、体調が戻るまでは村で自由に過ごしてて良いって。
でもあまり森のなか深くまでは歩かない方がいいよ」
村人からすれば明らかに異質な現れ方をしてしまったわりに、ナナシへの扱いは緩いものだった。
彼が墓荒しや極悪人の類いだった場合、女一人でナナシの元へ行かせるのは如何なものか…などと考えてから、それを振り払う。
なにも悪いことじゃない、自分を信用してもらえているのだと考え直す。
-
ナナシは人々の厚意に甘えて、村の中を歩いてみた。
ーー 背中には身の丈を遥かに越えた騎兵槍。
共に墓の中へと仕舞われていたものを、村の男達が回収してくれたらしい。
「村の中で使うなよ」
とは警告されたが、無論そのつもりもない。
…騎兵槍は、何故かところどころ錆び付いてしまっている。
何年も放置されたかのように汚れていた。
振り回す分には問題ないだろうが、これでは今までの刺傷力、突撃力を発揮できない。
指先で錆を擦ってみるが、やはり簡単には剥がれてくれず…万が一、内部侵食などしていたらミルナに申し訳がたたない。
恐らくまともなメンテナンスが必要になるだろう。
特にめぼしい物があるわけでもない森の村。
何故か気になる…このまま一周りしようと思い、まだ重いその足を動かしながら、ナナシは記憶を手繰り寄せていた。
-
しぃを故郷へと送り、少しの間だけ彼女とその赤ん坊と共に生活した。
彼女が村の生活に慣れた頃、その夫を捜すべくナナシは戦地へと赴いた。
職業は "軍師" 、 "戦術家" 。
当時の目的らしき場所は "紅い森"。
男の名は "ショボン"。
…これがしぃから聞いた、彼女の夫だ。
ショボンの事を話す時の彼女は、昔ナナシと過ごした頃にはない顔を見せてくれた。
きっと自分がミルナを語れば同じ印象を与えるのだと思う。
時の流れは、幼馴染みとの異なる人生の歩みを感じさせる。
ショボンという男は頭の回転がよく、知識も豊富。
しぃの閉鎖的な境遇を憂いたか、彼女が孤児院を出てからはしばらく共に世の中を廻ってくれたという。
そんな夫の、いつも何かに謝るような表情が、妻にとって、かつて見たミルナを彷彿とさせるような…
辛いなにかを背負っているような、そんな想いを抱かせていた。
児を身籠ったしぃを残してでもやらなくてはならない事があったのか?
早く見つけてやらなくてはならない。
早く、問い詰めてやりたい。
ーー なのに、戦地に赴いてから先の記憶が曖昧で、頭に分厚いモヤがまとわりついているようだ。
-
「聞いたよ、もう動けるのかい?」
ミ,,゚Д゚彡 「ありがとう。 平気だから」
道すがら、子連れの主婦に労られる。
「あんなとこで寝てたらバチが当たるぜ、もうすんなよ」
ミ,,゚Д゚彡 「ご、ごめんだから…」
通りすがる筋肉質の男に注意される。
「腹ぁ減ってないか? 木の実と菜っ葉の酢のモノくらいならすぐ出してやれっぞ?」
ミ,,゚Д゚彡 「後でまたくるから」
行き違う老夫婦からお裾分けの誘いを受ける。
ナナシを無視する村人は皆無だった。
最低限の会釈から立ち話まで、何かしらの接触を試みてくる。
それはいい。
目覚めたナナシの違和感の正体は、もう一つ。
やがて小さくもなければ大きくもない村を周り終えて…出発した小屋の前で彼が抱く感情は、ザワザワと胸騒いだ。
踏み締める大地から、目の前の小屋から、なぜか故郷の感触と匂いを感じたせいで。
.
-
夕食は休んでいた小屋で取らせて貰うことになった。
身体の調子は時間と共に戻り、明日には村を発てそうだ。
(*゚∀゚) 「私あんまり料理得意じゃなくて…ごめん」
ミ,,゚Д゚彡 「そんなことないから」
外は夕暮れ、食事時。
つーの作った木の芽の炊き込み飯を時間をかけずに平らげる。
空腹だったことにその時はじめて気が付いた。
身寄りのないつーはナナシと共にその時間を過ごすと、家には帰らずその場に残っている。
(*゚∀゚) 「ねえ、どうしてあんなところに居たのか覚えてないの?
悪戯じゃないんだよね」
ミ,,゚Д゚彡 「……わからない」
声が沈む。
あれからいくら記憶を辿ってみても、確信に至るイメージを思い出すことは出来なかった。
だからせめて、いまナナシが知っていることを聞くしかできない。
ミ,,゚Д゚彡 「つーは、赤い森って知ってるから?」
(*゚∀゚) 「えっ」
-
(*゚∀゚) 「ずっと昔、そんな土地があったって事は知ってるよ。
歴史の勉強した時に習ったもん」
ミ,,゚Д゚彡 「……は?」
歴史の…?
(*゚∀゚) 「ねえ、なにか思い出したの?」
ずっと昔…?
(*゚∀゚) 「あの場所…あのお墓が誰のものかも知らない?」
村の偉人か? 国の英雄か?
無礼なことをしていたならば謝らなければ…いや、その前にもっとはっきりさせなければ…
即座に巡った考えは、次の言葉から戸惑いを生む。
(*゚∀゚) 「あそこはね、私が曾お婆さんから受け継いだ大切な人のお墓だよ」
(*゚∀゚) 「曾お婆さんの、幼馴染みの墓…」
-
ーー ズキン、と心が痛む。
理由はまだわからない…しかし、昼間から感じた胸騒ぎがどんどんと膨らんでいく。
(*゚∀゚) 「曾お婆さんの願いを叶えるためにその人は旅立って…
そして、帰って来なかったって」
止められない。 止まらない。
心の臓が脳よりも早く反応している。
(*゚∀゚) 「ナナシ…あなたの名前と、曾お婆さんの幼馴染みの名前が一緒なのは、どうして?」
ミ;,,゚Д゚彡 「 ーー 」
どうして?
(*゚∀゚) 「私が曾お婆さんから聞いたナナシの金色の髪を、あなたも生やしているのはどうして?」
どうして? どうして?
ーー どうして?
.
-
肋骨を突き破って内臓の大部分が大爆発を引き起こす。 …それほどの衝撃が、頭の芯まで真っ白に破壊した。
気付けば座っていた椅子から落ち、ナナシは床に尻餅をつく。
ミ;,,゚Д゚彡 「 ーー 」
…声が出ない。
見下ろす形でこちらを見つめる女の瞳からなにも読み取ることは出来ない。
(*゚∀゚) 「まさか…死んだ人が生き返ったとでもいうの?」
(*;∀゚) 「なら…私の母さんも生き返るかな?」
涙を流すその姿を見たことがある。
あれは、ナナシがしぃと故郷の地を踏んだ最初の日。
ナナシがしぃと約束した、確かな記憶を保障する忘れられない日。
しかし、その結末は ーー ?
-
どれほど時間が経ったのか…
渇ききった唾をなんとか飲み込んで、気を落ち着かせるように椅子に座り直す。
ミ,,゚Д゚彡 「…ナナシにも、なにがなんだかわからないから…」
声を絞り出すので精一杯だった。
ミ,,゚Д゚彡 「少し時間をもらうから」
(*∩∀∩) 「…私にだってなにがなんだかわからないよ…」
月が照らす森の村で、男女は力なくうなだれる。
記憶の途切れた男は思考が放浪し、記憶を継いだ女は現実に戸惑う。
二人を襲う混乱の極みが収まるのはきっともうしばらく後の話だろう。
まさかナナシが未来に翔んできたなど荒唐無稽な話だ。
死んだ人間が甦るのも自然の摂理に反している。
…だがいまの現状はどうだ。
ナナシは対峙しなければならない。
この現実に。
そして立ち向かうためには、自分の心の支えとなる騎兵槍を…
ミ,,゚Д゚彡 「この辺りで、この」
ーー 騎兵槍に手を掛けて言葉を続ける。
ミ,,゚Д゚彡 「武器を直せるような施設はある?」
そのためには、まずは身を守る力を取り戻さなくては。
いまや自身の半身であり、何があってもこの手元から離れない友。
ミルナが遺してくれた戦うための力。
(*う∀゚) 「……武器」
-
涙を拭い、少し考えてつーは答えた。
(*゚∀゚) 「私、そういうの全然詳しくないから…ごめんね。
でも大きな街に行けば鍛冶屋があると思うよ」
ミ,,゚Д゚彡 「一番近い街は?」
(*゚∀゚) 「村からは少しだけ南東に。
大陸でも、一番くらいに大きな街」
地図を見せてもらう。
現在地と目的地を線で繋ぐと、その途中からは街道が通っているようだ。
不幸中の幸いか、距離もそれほど離れてはいないらしい。
ミ,,゚Д゚彡 「…一眠りしたら、ナナシは行ってくるから。
なにか判れば戻 ーー」
ーー 瞬間、言葉を紡げなくなる。
身体が、脳が紡ぎを拒絶する。
-
「戻る? そういってお前は
戻らなかったんじゃないか?」ミ Д ,,彡
.
-
瞼の奥で鏡に映ったような己の姿が、色のない瞳で問い掛けてくる。
一瞬の幻影は、しかしナナシの胸の奥に土足で足跡を遺して消えた。
(*゚∀゚) 「…?」
ミ;,,゚Д゚彡 「ーー あ、」
幻影はしょせん幻影。
目の前にいるのはつーだけだ。
ミ;,,゚Д゚彡 「…なにか判れば…つーにも知らせるから」
そして避けた言葉はナナシの心に影を作り出す。
(*゚∀゚) 「あ! 街にいくなら私も行くよ。
観光してみたいんだ」
ミ,,゚Д゚彡 「…えっ」
.
-
----------
「ウチではそんな大きな得物は扱ったことないなあ、ヨソのほうが出来るかもよ」
「ひえ〜、お客さん、こいつは特注だねえ?
材料がわからんから、新しく造り直しになっちまってもいいかな?」
「…どうやら錆だけじゃないねこれ。
芯の方まで腐食してるかも。
どうしても直したいかね?」
大陸で一番と言われる規模を誇る街の洗礼は、ナナシ達に落胆をもたらしていた。
彼らは騎兵槍の修復を依頼するために鍛冶屋の看板を探した。
ガイドから区画の説明を受け、街の中を円環状に運行する電動貨車にも乗った。
ナナシとは同年代と思われるつーが、年甲斐もなくはしゃぐ姿を見ることもできた。
…だが村を出るときから好奇心に満ちていたつーのその顔は、徐々に曇りがちになる。
商業区内の鍛冶屋を徒歩で一軒ずつ…
地道かつ確実な方法のはずだが、快い回答はなかなか得られない。
見た目よりも騎兵槍のコンディションがよろしくない事に加えて、打ち直しを行える職人が見つからなかったのだ。
ミ,,゚Д゚彡 「どこか他に鍛冶屋はない?
大事なものだから、どうしても直したいから」
「鍛冶屋ね… 無駄かもしれないが、一人だけ凄腕がいるにはいるよ」
-
そう言葉を濁す鍛冶職人が教えてくれた区画内の行き止まりにある一つの店先まで、藁にもすがる思いで二人は向かう。
行き交う人々がひしめき合う商業区においても、ここまでくると少しずつその数を減らしていく。
背中に巨大な槍を構えて歩くナナシとしても、その得物に奇異な目を向けられる機会が減る分には気持ちが軽くなるが…
(*゚∀゚) 「ねえ、道こっちで合ってるのかな?」
刻、夕暮れ。
周囲の人影が少なくなっていくのは別の意味で心配になってしまう。
道すがら目に入る店々の看板も、徐々にその数を減らし活気がなくなってくる。
…人のごった返すこの街にしては、だが。
やがて緩やかに曲がる通路の行き止まり。
教えてもらった場所はここで終点。
軒先に看板はなく、扉にかかった[closed factory]の札だけがその存在を報せていた。
店に灯りはついておらず、窓からも中を窺い知ることができない。
(*゚∀゚) 「なによ…閉店してるじゃん」
ミ,,゚Д゚彡 「…誰もいないから?」
-
ナナシは諦めきれずに扉に手をかけるが、 …やはり開かない。
ノックを4回…待てども反応がない。
(;*゚∀゚) 「……」
ミ;,,゚Д゚彡 「……」
(;*゚∀゚) 「えー…どうするの?」
しばらく無言でその場に立ち尽くし、途方に暮れてしまう。
武器を別のなにかに買い替えるつもりは毛頭ない…ナナシにはこの騎兵槍が唯一だった。
すべての鍛冶屋を訪ねたつもりだが、見落としがあるかもしれない。
もう一度ガイドを頼ってでも探してみて…
それでもダメなら、もはや別の街に行くしかないか…。
見るからに気落ちしたナナシと、かける声が見つからないつーが、
揃わない足並みで通路を戻ろうとした ーー その時、
向こうから緩やかに姿を見せた男性がいた。
-
…二人を一瞥して、ゆっくりと掛けられる声。
( ´∀`)「…うちの店に何かご用モナ?」
モナー細工工房、4代目モナー。
彼はいままさにクーの依頼…
祖父の遺言を終えて、長旅からこの工房に帰ってきたところだった。
-
------------
〜now roading〜
(*゚∀゚)
HP / F
strength / F
vitality / E
agility / C
MP / A
magic power / G
magic speed / A
magic registence / D
------------
-
支援
-
( ´∀`)「これは珍しい槍モナね」
工房の客間に招いたナナシの話を聞きながら、テーブルに置かれた騎兵槍を一通り眺めたモナーが少し難しい表情で答える。
( ´∀`)「そもそも素材からして普通じゃないモナよ。
知らない訳じゃないけど、この素材を実際にみるのは初めてモナ…」
(*゚∀゚) 「街中の鍛冶屋をまわっても誰も直してくれなかったよ」
ミ,,゚Д゚彡 「貴方なら直せるかもって聞いたから」
( ´∀`)「…ハア、無責任なのは相変わらずモナね」
勝手に名前を出す街の人間にそう毒づいた。
…だがそれは、仕事が出来るか否かの職人気質においてモナーの腕を信頼している裏返しでもある。
それにしてもどこの鍛冶屋だろうか…
接点を持たないはずのこの工房の名前を出した職人は、モナーが普通の依頼を受けないことを知らないのか。
-
ーー しかし今のモナーはこれまでとは違う心境でこの街に帰ってきた。
クーとの出逢いを経て、彼の心には変化が生まれている。
( ´∀`)「…もうちょっと調べさせてもらってから依頼の返事をするモナよ。
モナーもいま帰ってきたばかりでヘトヘトだから、明日また来てほしいモナ」
直接足を運ぶ来客の依頼を受けることは、彼にとって人生初めてとなる。
もちろん…その事を知らないナナシは、彼に一縷の望みを託せる可能性があることに希望を抱いた。
ミ,,゚Д゚彡 「! よろしく頼むだから!」
( ´∀`)「まだ依頼を受けるとは言ってないモナ。
確認するけど、要望は
"錆や腐食を取り除いた上で、出来る限り万全の状態にする事"
でいいモナね?」
ミ,,゚Д゚彡 「そうだから!」
( ´∀`)「では、また明日。
休みながら調べられる事は調べておくモナよ」
ナナシから騎兵槍を預かり、立ち上がる。
モナーはお辞儀をするわけでもなく、手を振るわけでもなく、じっとナナシ達を見つめて外に送り出した。
-
(*゚∀゚) 「なんか偏屈そうな人だけど大丈夫かなー。
都会ってああいう人ばっかり」
工房の扉が閉まるなり、つーが不満を漏らす。
これはモナーひとりにもたらされた感想ではない。
田舎暮らしのつーにとって、都会という環境は自身が思うよりも神経を磨り減らすものだった。
本質的にはナナシも同様であり、様々な人種と行動を共にする傭兵稼業に身を置いていなければ、今頃は彼女に大きく同意していたところだ。
ミ,,゚Д゚彡 「今日はもう疲れた?
この街で一泊していくから」
(*゚∀゚) 「うん、そうしよっか」
間もなく夜がくる。
今から村と往復するには時間がかかりすぎると判断して宿をとる事にした。
…そこで二人は気が付いた。 ナナシもつーも、あまりお金を持ち合わせていない。
商業区、歓楽区と泊まれそうな宿を探し回ってはみたが、この街の規模に比例してその相場は二人の予想よりも高くつくものとなる。
たびたび提示されるバラバラの料金に、しかし同じため息をつきながら、
宿を訪ねては出て、訪ねては出てを繰り返す。
やがて街の暗部 ーー スラム区へと足を踏み入れた。
-
( Ю∀`)「ふーむ」
工房の作業部屋に籠り、物質の状態を見破るためのサーチグラスを装着したモナーが、作業台に移した騎兵槍を細部まで覗き続ける。
今日は休むといいながらも、彼にとっては椅子に座ることがそれに相応した。
先ほど裸眼では確認しきれなかったが、騎兵槍の腐食はどうやらただの手入れ不足や経年劣化によるものとは毛並みが異なる事が判明した。
表面の錆ならば彼が日常調合してある薬剤で容易く落とすことができる。
内部の腐食も、並みの素材なら不要な媒体と魔導リングを組み合わせて【ドレイン】すれば吸い出すことが可能だ。
( Ю∀`)「…しかし、これは」
便宜上、 "腐食" という言葉を使いはしたが、正確には違う。
( ´∀`)
つЮ 「……ふーむ」
…サーチグラスで視れるものは、これでくまなく視たつもりだ。
あとは必要な素材を取り揃えられるかどうか。
ガサゴソと机の引き出しから束ねた紙をいくつも掘り返し、時々ページをめくっては次のファイルに目を通していく。
( ´∀`)「クーの依頼が本当は先だけど…
まあ、勝手に値切った罰として少しくらい遅くなっても文句は言わせないモナね」
.
-
(;*゚∀゚) 「…なんか、あやしいよー」
毛布にくるまり通路の両端に座り込む者や、木箱に火をつけて暖をとる者が散見する。
道々には無造作に棄てられたソイレント食品の缶詰めや不透明なごみ袋、
破損したまま修理されず放置されたコンクリート壁が、
その下に設置された廃棄物処理場までのショートカットを許可もなく造り上げていた。
人々はいずれも浮浪者のような出で立ち。
街が大きくなるにつれて適応出来なくなった者達が集い、新たな秩序を創った結果。
…このスラム区が形成された。
ミ,,゚Д゚彡 「でも」
不思議と危険な雰囲気は感じられない。
他人とソリが合わないなどという理由ではなく、彼らの境遇は不幸な事故や事件に巻き込まれた故の…
いわば時代からの放浪者とも呼ばれる。
-
モナーと出逢った商業区や、彼らには用がなく立ち入らなかった住居区などを[アッパータウン]と名付けるならば…
気付かないうちに坂を下りたどり着いたここは[ロータウン]といったとこか。
(*゚∀゚) 「みんななんでこんなところで住むんだろう?
あっちの綺麗なところに住んだほうが絶対にいいよ」
ミ,,゚Д゚彡 「…きっとお金の価値が大きく違うから」
村育ちのつーにも、商品やサービスに対する等価としてお金が必要になる事は理解できている。
しかし彼女には想像すらできない概念…土地代というものがこの街には存在する。
その土地に家を建てる権利、その土地に畑を作る権利、その土地に馬車を停める権利…
それをお金に換算し、街を治める自治体へと支払うことで街はより良い街として機能するべく変化していく。
巡りめぐってその安心と安全が住人へと還される。
だから ーー その環から外れてしまった者は街から見放される。
この[ロータウン]が存在しているのは、そんな見放された人々を黙認するための受け皿なのかもしれない。
本来、人に優劣はない…
などという綺麗事をナナシは口に出さない。
優劣がなければ孤児にもならず、ミルナとも出逢わず、そしていまの彼は存在しなかったのだから。
-
ミ,,゚Д゚彡 「この辺に泊まれる所はあるから?」
「……」
オロオロ戸惑うつーを横目にナナシが座り込む男に話し掛けてみる。
頭から毛布をかぶる男は顔をあげず…少しの間を置いてそのままゆっくり腕を挙げて応えた。
(*゚∀゚) 「…わあ〜」
時刻も手伝ってか、醸し出す闇に抵抗するかのように。
僅かながらのネオンに彩られた長方形の建物がうっすらと姿を見せる。
指し示す方角にそびえ立つビルは[ロータウン]に見合わず背が高い。
礼を言いその場を後にするナナシ達の後ろ姿がやがて小さくなる頃、はじめて男は顔をあげる。
/ ::: <●>) 「………」
毛布の隙間から、遊び疲れた猫のように開ききった瞳孔が浮かび上がる。
その瞳には邪気の欠片もなく…
彼は[ロータウン]を見渡すように首を回したあと、時間をかけて立ち上がり、ナナシ達と同じ路を歩み始めた。
-
「お部屋は10階層の奥から二番目になります。
チェックアウトの際はこちらの番号札をお持ちください」
格安料金に助けられ無事二人分の支払いを済ませることができたが、浮浪者に教えてもらったビルの中は外見よりも朽ちていた。
壁に取り付けられた灯りの半数は機能していない。
階段は錆びて所々に穴が目立ちとても歩けたものではなく、別の階層に移動するためには備え付けられた剥き出しのエレベータをわざわざ使用する必要があった。
二人は受付から離れるとエレベータを ーー 通り過ぎて、用意された部屋へとその身を潜らせる。
(*゚∀゚) 「明かりつけてー」
ミ,,゚Д゚彡 「うん」
そのビルは10階建てにもかかわらず、上に向かう道は無い…
なぜならビルの階層は下にのびているからだ。
入り口、非合法カジノや非合法ショップが10階層に。
宿は10〜9階層に用意されている。
8階層から下にはボタンを押しても反応がなく、通常踏み入ることはできない。
チェックインした部屋の中は心配していたよりも小綺麗な状態で二人を迎えてくれた。
部屋履き、衣装ダンス、支度鏡、チルドボックス…いずれも古臭さのない一定の清潔感を保ち、過不足を感じない。
つーも安心したようにベッドに腰掛け、ナナシに話し掛ける。
-
(*゚∀゚) 「寝るだけなら充分だね。
あんなにボロボロだったのにナナシどんどん話し進めちゃうんだもん」
ミ,,゚Д゚彡 「ご、ごめんだから」
つーは部屋に備え付けのテーブルに置かれたパンフレットを手にとり、パラパラとめくる。
ホテルの備品には女性の好奇心を満たしやすい物が揃っている事が多い。
夫婦、恋仲問わず、
支払いの権利を握りがちな女性の心理を掴むことで付属のサービスや施設利用へのリピート心をくすぐるのだ。
(*゚∀゚) 「あ、いいのいいの。
ナナシの槍、直せるといいね」
ミ,,゚Д゚彡 「でも、その前にお金稼がないとだから…」
格安とはいえそれはあくまで相場と比較した話…
宿に泊まることで、二人は所持金を大きく減らしてしまった。
ナナシのお金を先に使い、足りない分をつーが補ったが、彼女にももう余裕はない。
(*゚∀゚) 「えへへ、今ちょうどいいの見付けたんだけど…」
-
これ、とつーが差し出したパンフレットに書かれているページはビルの施設紹介。
『非合法カジノはハイリスク・スーパーハイリターン!』
『自信のある初心者大歓迎!』
…大きな文字で目を引きつつ、賭博ルールや開催ゲームがいくつも載せられている。
ミ;,,゚Д゚彡 「か、賭け事は苦手だから…」
(*゚∀゚) б「違うよ、カジノじゃなくてその下の部分」
つーが身を乗り出してページの一部分を指差す。
ーー 唐突に彼女の少し汗ばむ健康的な鎖骨が目に入った。
ナナシは慌てるようにパンフレットに視線を戻す。
-
『報酬は貴方次第! 決戦・ "ダットログ" !』
『バトルに直接参加するも、バトルに挑戦する勇者にチップをBETするも自由!』
『参加希望者は10階層受付にて別途ご案内致します』
.
-
ミ,,゚Д゚彡 「 "ダットログ" …?」
(*゚∀゚) 「ナナシならこっちの方が向いてそうでしょ?」
ーー この街に来るまでに、二人は幾度かの戦闘を行っていた。
村の外に広がる森のなかで。
…昔、戦争により汚染された土に溜め込んだ魔導力により肥大化した蓮の葉から、不規則に伸びる手足のような茎を生やした "クリフハンガー" 。
…遠い遠い過去には人間に飼われていた事もあるシカと呼ばれる生物が、いつの日か闇の魔導力にあてられて遺伝子変化をもたらし凶暴化したという "ディアコーン" 。
…草と水、そして安定した気候であればどこでも繁殖できる二足歩行のカエル "ケロロン族" 。
その全てはナナシによって軽々と迎撃された。
いずれも訓練された兵士や傭兵にとって命をおびやかす程の存在ではないが、戦う力を持たない者にとっては自然の脅威として数えられる。
つーの中で、ナナシはそんな脅威を振り払う屈強な戦士として株を上げていた。
ミ,,゚Д゚彡 「明日モナーさんの答えを聞いて、必要ならやってみるから」
(*゚∀゚) 「うん」
モナーが騎兵槍を直せなければそれでこの街での観光は終わりだ。
自分は仕事を探し、つーは村に帰す。
起きていない事をいくら悩んでも仕方がないと思い、二人はもう間もなくベッドの中で眠りについた。
-
翌日、[アッパータウン]にあるモナー細工工房に出向いた二人は、目の下にクマを作った工房の主と再び向かい合った。
( ´∀`)「さて、さっそく依頼の件だけれど」
(*゚∀゚) 「あの、体調良くないんですか?」
( ´∀`)「えっ? 」
(*゚∀゚) 「顔色が…そのー」
( ´∀`)「…ああ、寝てないだけだから大したこと無いモナ。
それより…」
そんなことは何事でもないように、モナーはナナシの騎兵槍を震える両手で持ち上げ、ゴトリとテーブルに置く。
その様子はまるで子供が大人用のウエイトリフティングに挑むようで…
むしろその動作の方が彼にとって重労働だった。
ナナシだからこそ簡単に振るえる騎兵槍はそれほどの重量を有している。
(∩;´∀`)「ふぃ〜重たかった…」
( ´∀`)「今回。工具はある。 作業行程にも恐らく問題は起きない。
…だからあとは素材だけモナ」
ミ,,゚Д゚彡 「なにが必要なの?」
( ´∀`)「鉄の隕石。
いわゆる "隕鉄" モナよ」
-
(*゚∀゚) 「 "隕鉄" ??」
まったく聞き慣れない単語に目をぱちくりするつー。
( ´∀`)「一般には滅多に流通しない石モナね。
焼き入れ自体が困難なこともあって、実はモナーも扱ったことはないモナ」
( ´∀`)「でも約90年前…モナーの曽祖父さんの代で一度扱った履歴が遺されていた。
それを見る限り、技術的な面は心配要らないと思うモナ」
ナナシも "隕鉄" など見たことがない。
もしも探し出す事すら困難な場合…
最悪、しばらく騎兵槍に別れを告げなくてはならないのか。
ミ,,゚Д゚彡 「ど、どこにいけば手に入るから?」
( ´∀`)「それも調べた。
本来、 "隕鉄" は空から降る天の鉱石とも呼ばれているモナ。
大地が育む自然鉱石ではなく、人工的な鉱石とも違う…
その希少価値は名だたる東方の名刀に使用される、かの "黒耀石" すら比べるべくもないモナ」
ミ;,,゚Д゚彡 「……そんな」
-
傭兵稼業に身を置いていたナナシですら "黒耀石" の存在は名前で聞いたことがある程度だった。
刃に必要とされる素養を生まれながらにして持つと称されるのが黒耀石。
ナナシが出逢った中でも、一番有名な傭兵 "スカーフェイス" が使っていた長刀がそれに近いかもしれないが…
あの時 "ポイズン" に投げ貫いたまま彼女は戦地を離脱していた。
もしそれほど貴重であればきっとその場で回収していただろう。
つまりあの長刀すら従来の鉄の範疇であり、そんな鉄を遥かに超える切れ味を有する黒耀石…
その黒耀石すら問題にしない天の遺物が、この騎兵槍に必要とされるのか。
-
( ´∀`)「次に原因と理由。
君の騎兵槍はなんらかの現象によって急速に冷やされつつ、熱せられた形跡が見られたモナ」
( ´∀`)「武器に使われる素材とその用量には複雑で細かな調整が行われるから、今はざっくりとした説明に留めるとして…
鉄は熱に強いものの、冷え過ぎたり水に濡れると錆びる。
そして隕鉄は熱に弱いものの、語弊を怖れず言えば冷やしたり濡れたりする分には比較的強いモナ」
ミ;,,゚Д゚彡
「???」
(;*゚∀゚)
専門的な話についていけない二人の頭は思考停止寸前。
その間も、目の前にいる孤高の細工職人はその口を動かし続けている。
…モナーの悪い癖はすぐには直らなかった。
(;´∀`)「あー、…つまりこの騎兵槍は互いの欠点を守るように造られたにも関わらず、
相反する属性を同時に受け付けたせいでこんな有り様になってる…
簡単に言えばそういう事モナ」
やがて二人の表情に気が付いたモナーは簡単な結論を出す。
彼としてはきちんと説明しなければ誤解を招き誤った情報を与えてしまう事を嫌っての行為なのだが、誰しもがそれを求めているわけではなかった。
ミ,,゚Д゚彡 「と…とにかく、その "隕鉄" は」
( ´∀`)「そうそう、 "隕鉄" を手にいれてきて欲しいモナ。
最後がこれらの解決方法モナね」
そういってモナーは騎兵槍の隣に、一束の小冊子を提示する。
…形は違えどその表紙には、ナナシとつーが見覚えのある文字でこう書かれていた。
-
『報酬は貴方次第! 決戦・ "ダットログ" !』
( ´∀`)「月刊ダットログ。
その冊子は観光用パンフレットとして流通している物だけど、もう一つの使い道があるモナ。
冊子を持って受付に提示すると、通常のダットログとは異なるルール上での参加となり…」
( ´∀`)「参加商品が切り替わる。
少額な賞金なら跳ね上がるし、流通の少ない…もしくは流通していない素材も用意されているらしいモナ」
ミ,,゚Д゚彡 「!!」
モナーが調べたこの情報、街のガイドからは決して聞くことはできない。
彼は情報を生業に生きる商人から "隕鉄" の入手経路を自腹で買い取ってきたのだ。
すべては依頼人となる相手の要望に応えるモナーの仕事に対する姿勢がそうさせた。
(*゚∀゚) 「ということは…」
ミ,,゚Д゚彡 「ーー 当然、行ってくるから!」
モナーのお膳立ては空腹時のどんなご馳走よりも高揚感を駆り立てた。
二人の表情に明るさが取り戻される。
お金を稼げて素材も手に入るならば、かつてなく美味しい話だった。
ーー たとえその美味しさには裏があるとしても。
.
-
------------
〜now roading〜
ミ,,゚Д゚彡
HP / A
strength / A
vitality / B
agility / D
MP / H
magic power / H
magic speed / E
magic registence / D
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-
「いらっしゃいませ。 …こちらの冊子は?」
ミ,,゚Д゚彡 「それを出せばもう一つのダットログに案内してもらえるって聞いたから」
今朝、チェックアウトしたばかりのビルにとんぼ返りしたナナシ達は、さっそく受付カウンターにパンフレットを提出する。
その背中にいつもの騎兵槍の姿は無い。
風通しの良さと居心地の悪さを同時に感じつつ、ナナシは動かない従業員から目をそらさない。
-
受付に立つ性別不明な従業員がやがて冊子を一瞥すると、
椅子から立ち上がり、カウンター奥に置かれた電話機をデタラメにプッシュする…。
(・(エ)・) 「お呼びですか?」
Σ (゚∀゚*) 「うわっびっくりした!」
直後、突然背後に現れたのは3メートルはあろうかという天井にすら頭がつきそうな、大柄な毛むくじゃらの男。
腕を後ろに回し、余裕ある佇まいで直立している。
「クマー。
この方々を "データムログ" へご案内差し上げてください」
(・(エ)・) 「はい」
粛々と手続きが進められるように、クマーと呼ばれた大男がカウンター横のスタッフルームの扉を開けた。
そしてナナシ達を誘うようにゆっくりと中に入る。
-
灯火の少ないビルの中よりも更なる暗がり…コンクリート製の通路を並んで歩く。
クマーの革靴、ナナシの革ブーツ、つーの布靴。
カツン、カツン…
ザリッ、 ザリッ…
スタ、 スタ…
三様の足音だけが狭い空間で響いている。
(*゚∀゚) 「なんだか寒くない?」
ミ,,゚Д゚彡 「そう?」
心なしかひんやりとした空気が通路内を包んでいた。
その先では転倒防止用の柵と、そこから続く下階層への階段が三人の視界に入る。
(*゚∀゚) 「そっか、エレベーターが途中からは使えないから…」
ビルの階段は朽ち果て、エレベーターも8階層以下へのボタンが反応しなかった事を思い出す。
恐らくこの通路からのみ立ち入ることができるのだろう。
(・(エ)・) 「この先はダットログ。
今回お客様が利用するのはこちらの階段では御座いません」
クマーが柵の前で止まり、その場の天井に手を掛け押し込むと、
ゴゴゴ…と音をたてて天井の一部がせりあがる。
ぽっかりと正方形の穴が空いた。
-
(・(エ)・) 「ではこちらへどうぞ」
ミ,,゚Д゚彡 「あっ」
天井に気を取られていたが、穴を開けたのは頭上だけではなかった。
正面の柵から左手側…
先程までこの通路を構成する壁であった所に、大柄なクマーがぴったり通れるほどの長方形の穴と、階段が現れている。
緩やかな螺旋階段。
ここに来る際、モナーからは騎兵槍の代替として、ツヴァイヘンダーと呼ばれる大剣をナナシは預かった。
この大剣は従来の剣と少し毛並みが異なる。
柄部分…グリップとはまた別に、刀身の根本に刃はなく、革で覆われている。
もう片方の手でここを握る事で、槍やハンマーのように広く支点を司り握ることができるのだ。
腰にさしたツヴァイヘンダーが螺旋状になった狭い壁にガツガツと当たるため、立てて手に持ち直す。
いつもの騎兵槍であればこの階段は通れなかったかもしれない…。
-
一段ずつ降りる階段は時間感覚が鈍くなる気がした。
もうだいぶ階層を降っているつもりだが、なかなか到着しない。
延々続く螺旋回廊は次第にぼやけるような薄霧に纏われる。
(*゚∀゚) ボヤ〜…
思考が疎かになる…そう思った頃、ちょうど螺旋階段に踊り場が出現した。
(・(エ)・) 「お連れ様はベットルームにて参加、お楽しみ頂けます」
Σ (*゚∀゚//) 「ーー べ、べべ、
べっどるうむ〜?」
ミ,,゚Д゚彡 「? BETルーム…賭ける部屋だから」
(*゚∀゚//) 「あ、うん、よかった」
(・(エ)・) 「……大丈夫ですか?」
ミ,,゚Д゚彡 「??」
一息つける事で緊張が緩んだのか、頓珍漢なつーとのやり取りもほどほどに。
彼女とはここで一旦別れ、ナナシはクマーと共に更に階段を降りていった。
-
宝石をあしらった指輪を五本すべての指に嵌めた、スーツ姿のでっぷり肥えた男。
下品なサングラスを掛けて室内にも関わらずつばの広い帽子を脱がない、全身白一色のドレスを身に纏う貴婦人。
大袈裟に脚を組みながらアルコールジョッキを片時も離さない、
シャツを大胆にはだけた胸元にジャラジャラと幾重ものネックレスを見せびらかす黒ずくめの長髪の男。
葉巻の煙、度数の強い酒、鼻をつく香水の匂い。
その全てが部屋の中心部 ーー ガラス張りになった箱庭へと向けられていた。
(;*゚∀゚) 「な、なに、これ……」
[ロータウン]に存在するデータムログ…
そのBETルームには、世の贅沢を各々表現した無遠慮な人種が集められているようでもあった。
そんな人々の表情に浮かぶのは、日常見ることすらないであろう極めて下衆に歪められた笑顔だと、つーは思った。
-
「さっきの戦いは酷かったが次はまともなんだろうな?」
「ションベン垂らして逃げ回るなんて、酒が不味くなる…あの挑戦者は生かして帰さなくていい、処分しておけ」
(゚∀゚*;) 「!?」
「ウチのジョージちゃん、大丈夫かしら? あんなもの食べて後でお腹壊さないといいんだけれど」
「ショーが終わったら医者を呼んでやろう。 ダメだったらまた新しいのを買ってやるさ」
(;*゚∀゚) 「!?」
耳に入る言葉は彼女にとってまるで異世界の単語に聞こえた。
途切れ途切れの不明瞭な話が、かえって想像力を働かせてしまう。
つーが振り向くと、すでに扉は閉まっている。
ここから出たい…しかし、音を立ててこの場にいる人々に自分の存在がバレたら?
まるで猛獣の檻に閉じ込められた愛玩動物のように、つーの足は動かない。
-
「おーい、突っ立ってないで、座ったらどうだい?」
(;*゚∀゚) 「!」 ビクッ
突如あげられた声 ーー それがつーに届いた。
周囲の顔がこちらへ向けられる。
能面、 能面、 能面……
今のつーには、誰もが顔のない人外にしか見えなかった。
_
( ゚∀゚) 「こっちこっち」
唯一、彼女にとって顔が見えた男が、少し離れた椅子に座りながら手招きしている。
海原に浮かぶ板切れにしがみつく気持ちで、能面の波を掻き分けるように男の元へと早足で駆けた。
_
( ゚∀゚)「あんな所に立ってたら反対に目立つぜ。
若いのに珍しい客だな」
(;*゚∀゚) 「あ、あの」
男はつーの言葉を遮るように手をかざし、
_
( ゚∀゚)「あー、いいのいいの。
礼も要らないし無理に君の紹介もしなくていいさ。
俺の事はジョルジュとでも呼んでくれ」
と言った。
-
螺旋階段の最下層に到着したナナシは、分厚く頑丈そうな、無骨な造りの赤い扉の前で、クマーからバトルルームでの説明を受けていた。
(・(エ)・) 「こちらの説明は以上です。
希望商品は "隕鉄" と現金Dランク…それでよろしいですね?」
ミ,,゚Д゚彡 「うん」
反則なし。
ギブアップ時は円形状になった闘技場の四方に設置されたブザーを3秒鳴らし続ける。
勝利または敗北判定については、BETする客の過半数投票が確認される事。
希望商品によって難易度が変わるこのデータムロム。 ナナシにとっては一対一の戦争をするのに酷似する。
彼にとって幸いなのは、ルールを聞く限り相手の命を奪う必要は必ずしも無いという事だった。
ナナシの返答を得たクマーは胸元に装着したピンマイクに向けてなにか言葉を紡ぐと、改めて赤い扉に手をかざす。
(・(エ)・) 「貴方の相手が決定しました。
回数は三戦、回復アイテムは先程手渡したヒールタンク1回分のみ使用可能であることに変更無しです」
(・(エ)・) 「このヒールタンクを含め、持参された他のアイテムやリングがあれば用途を問わず使用可能です。
回復行為のみ一度きりとさせて頂きます」
(・(エ)・) 「なお、対戦相手は人間とは限りませんのでご了承ください」
クマーの手に力が込められるのと同時に、ナナシの手にも力が入る。
ツヴァイヘンダーのグリップから、革を握り込む音が聞こえた気がした。
暗い薄霧の通路に、扉の先から少しずつ光が射し込んでいく……。
-
_
( ゚∀゚)「おっ。 次の挑戦者が出てきたな」
(*゚∀゚) 「ナナシ! 頑張れ!」
BETルームでは、つーとジョルジュがガラス越しに闘技場を眺めていた。
闘技場のほうが下の階層にあるため、必然的に見下ろす形になる。
ガラスは安全性確保のため分厚く作られており、中の音が直接伝わることはない。
代わりに天井に取り付けられた複数のスピーカから、闘技場内の音声だけを一方的に拾い上げる仕組みだ。
_
( ゚∀゚)o彡゜「楽しみだぜー! やったれやったれ!」
芝居がかったように腕をふる。
深く椅子に腰掛けて闘技場を見つめている周囲と比べ、ジョルジュは身を乗り出して楽しげに観戦していた。
手元にはBETしたマークシートと紙幣の束が握られ、やがてテーブル脇の不正防止ボックスに投入される。
つーもジョルジュに教わったように、少ない所持金を全てナナシにBETして投入した。
それを見て、能面の声が侮蔑に沸き上がる。
-
「ククッ! おい女、まさかそんなはした金しか持ってないのか?」
「やだわぁ、貧乏人がこんなところになんのご用かしら」
「みずぼらしい格好でこの部屋を汚さないでもらいたいものだな、ハハハ」
嘲笑が起こりはじめて、つーは改めて自分が場違いな所に身を置いていたことを思い出す。
能面の集団に己の育ちを覗かれたような気持ちで恥ずかしくなり、顔を伏せてしまう…。
_
( ゚∀゚)「おい」
ジョルジュのよく通る声がBETルームに響き渡った。
それほどの大声でもないのに、その質はその場の全員の頬を張り倒すような威圧感に満ち満ちている。
_
( ゚∀゚)「なにかおかしいのか?
他人を覗き見するほど不安なら帰って寝てろ。
な?」
能面達は咳払いをして目をそらした。
つーには不思議とその威圧感に当てられなかった。
むしろ暖かみのある何かに身を守られたように。
…その肩に、ぽんと手を置かれる。
顔を上げればジョルジュが何事もなかったようにニヤリとした笑みをつーに向けていた。
_
( ゚∀゚)o彡゜「ほらほら、がんばって応援しなきゃな。
君の彼氏が戦うんだぜー」
-
ナナシが闘技場へと足を踏み入れたと同時に、入り口の赤い扉が重厚な音をたてて閉まる。
ミ,,゚Д゚彡 「…ふぅ」
この時、つーのいるBETルームでも掛け金の投入が締め切られ、ボックスの蓋が閉じられていた。
(*゚∀゚) 「あっ」
_
( ゚∀゚) 「これで後は観戦するのみよ」
…この時点で賭けは成立となり、間もなくナナシの三連戦がスタートする。
相手側正面のケージが開いた瞬間、いかなる理由があろうと試合開始とみなされるのだ。
BETルームにいる客全員にも、投票カウント用のスイッチが手渡された。
ナナシがツヴァイヘンダーを構え、騎兵槍と同じく前傾スタンスをとる。
ミ,,゚Д゚彡 「……」
.
-
沈黙…ーー は、破られた。
(推奨BGM)
http://www.youtube.com/watch?v=JDAkiCYm12M&sns=em
-
開放されたケージの闇から、ガシャガシャと金属の擦り合わさる音が次第に大きくなってくる。
やがて現れたのは全身鎧に剣と盾を装備した騎士…そして、
ミ,,゚Д゚彡 「本が…浮いてる? 」
それは栞紐を垂らしながら宙に浮かぶ一冊の本。
どちらも青白い光に身を包んでいる。
ミ,,゚Д゚彡 「とにかく、やることは一緒だから!」
ナナシが先手を打つべく走り出す。
騎兵槍より軽量のツヴァイヘンダーが、その速度を軽やかにした。
全身鎧が盾を合わせて迎えるも、
ツヴァイヘンダーの切っ先が隙間を縫って腕の間接部分をいとも簡単に貫く。
ーー だが、全身鎧の動きが止まらない。
「……」
無言で剣を降り下ろし、驚くナナシは素早く身を退く。
-
一瞬の迷いを見せつつも、ナナシがその場からさらに飛び退いた。
後ろに控えていた本から魔導力が放たれ、ナナシの居た空間に小さな闇の渦が生じる。
空気だけを巻き込んだ黒い渦が不気味に収束、消滅。
(*゚∀゚) 「危ない! …相手は魔法騎士ってこと?」
_
( ゚∀゚) 「いや、あれは別々の個体だ。
前衛のソウルアーマーと後衛のフロウ…
互いに魔導力で紐付いてるから実質一体だが、そのぶん連携が速い」
ミ,,゚Д゚彡 「?? 感触がないから」
腕に刺さったはずのツヴァイヘンダーの刀身には血の一筋もついていない。
まるで空洞に刃を通したみたいだった。
戸惑うナナシに、フロウの詠唱が反撃を報せる。
「…【パライズ】」
鎖状の黄色輪がナナシを囲んだかと思うと一気にその輪が縮み、身体を締め付けてくる。
-
上半身を締め付けられたナナシに、接近したソウルアーマーの突きが襲い来る。
残る下半身で身体を捻り躱すも、そのまま水平に振り切ってきた剣を力の入らないツヴァイヘンダーでなんとか受け止め…
たたらを踏んだナナシに対するフロウの追撃。
「…【ポイズン】」
目視できるほどの毒の泡がナナシの眼前で弾けた。
ミ,,>Д゚彡 「ぐっ…!」
ーー 呼吸を止めて気を確かにもつ。
パライズの鎖を弾き破り、ポイズンの泡をも同時に振り払う。
距離が離れたためか、ソウルアーマーはクローズド・ガードの構えで盾に身を隠していた。
ナナシは臆さない。
刺した感触がないのであれば ーー
ミ,,゚Д゚彡 「叩く!」
再びフロウから放たれるパライズの魔法をくぐり抜け、低い体勢からツヴァイヘンダーを豪快に振り上げる。
ガシャアン!と、盛大な音をたててその腕は最後まで振り抜かれた。
防御したはずのソウルアーマーの身体が、つき出していた盾ごとバラバラに飛び散る。
-
(;*∩∀∩) 「ひぇっ!」
人間の身体が…?
反射的に目を伏せたつーだったが、落ち着き払った声でジョルジュが言う。
_
( ゚∀゚) 「心配ないよ、あれは魔導力で動く無機物だ…生身じゃない」
「あああっ! わ、私のソウルアーマーが!」
代わりに、賭けに参加していた病的に痩せた初老が叫んだ。
彼が出場させていたソウルアーマーの一撃粉砕により、伴だったフロウからも青白い光が抜けて地に墜ちる。
_
( ゚∀゚) 「ま、これは明らかに勝負ありだろ」
ジョルジュが手元の投票スイッチを押した。
周囲からも痩せ型の男を嘲笑うような声と共に、カチ、カチ、とスイッチを押す音がたて続く。
闘技場に甲高い音でチャイムが鳴ると、ソウルアーマーとフロウの残骸が床穴に滑り落ちていった…。
-
ナナシにそれほどダメージはない。
定位置に戻り、ケージの正面で構え直す。
_
( ゚∀゚) 「君の彼氏、なかなかやるね。
なにかやってたの?」
(*゚∀゚) 「べ、べつに彼氏じゃないよー。
なにかというか…普通に傭兵としか聞いてないよ」
_
( ゚∀゚) 「ふむ…?」
二人が軽く会話を交わしていたうちに、二度目のケージ開放。
開ききらないケージの隙間から闇の衣がスルリと抜けて出た ーー そのままナナシへと突進する。
ミ,,゚Д゚彡 「!?」
不意打ちに驚きながらも咄嗟にツヴァイヘンダーの刃背で受け止めた。
腕を通して辿る衝撃に少し痺れてしまう。
-
闇の衣は流れるような動きで宙を舞っていた。
時々、衣からはみ出る灰色の長爪がギラリと揺れる。
(;*゚∀゚) 「お、お化け…」
_
( ゚∀゚) 「なんだあれは…?」
ジョルジュも見たことがない闇の衣は、文字通り正体不明。
"データムログ" 側から送り出される闘技場用の魔導生命体だ。
ミ,,゚Д゚彡 「はああー!」
ナナシが一戦目と同様に真っ直ぐ駆ける。
ふよふよと浮かぶだけの闇の衣は避ける素振りも見せないまま、ナナシの振り払いが直撃する。
ーー が、しかし衣が破けたのみで手応えを感じられない。
ミ;,,゚Д゚彡 「ま、またこのタイプだから!?」
_
( ゚∀゚) 「…なあ、彼氏って魔法使えるの?」
(*゚∀゚) 「だから違うってば。
…使えるのかなあ? そんな感じじゃないけど…」
_
( ゚∀゚) 「ってことは、ちょっとまずいな」
ジョルジュは腕を組み、背もたれに身を預ける。
それを見て、戦いに疎いつーも察し始めた…
ナナシがこの三連戦を勝ち抜けるのかが分からなくなってきた事に。
.
-
同時刻…。
モナー細工工房の主はすでに騎兵槍の錆をとるべく作業に取り掛かっている。
彼から見ても、ナナシの意志は確たるものであったと感じている。
少しでも迅速に依頼をこなしてあげたいと思っていた。
四本の鎖で宙吊りにした騎兵槍を、モナーが調合した非毒性・非酸性の液体を染み込ませた布で厳重にくるんでおく。
形状変化や性質変化が起こらないように特別調合された溶液は、彼のみならずモナー工房の仕事を代々支える道具。
( ´∀`)「……理論上は問題ないはずモナ」
彼がその力をふるうのは "隕鉄" が入手できてからが本番だ。
待機時間の合間に、過去の作業データが記載された書類を穴が開くほど読み倒す。
( ´∀`)「…おや?」
すでに何度も目を通した書類の数ページ目…
これまでも見落としたつもりは無いが、いまになって一抹の違和感を覚えた。
よくよく考えてみればそれは彼の細工理論からみれば非効率で、当時の作業行程における時代錯誤かとも思ったが…
( ´∀`)「ーー 違う」
( ´∀`)「なぜこんな事を?
…もう一段階、騎兵槍の芯になにかなければこんな事はあり得ないモナ」
彼の使用するサーチグラスは市販されているものとは訳が違う。
対象の内部構造から成分質、属性、ウィークポイントまで網羅できるはずのこのサーチグラスでも見渡せないものがあるのか?
道具に頼るだけの職人は職人にあらず…
彼はもう一度、己の勘を頼りに騎兵槍の元へと足を動かした。
-
ミ;,,゚Д゚彡 「あー、もう!」
ナナシの攻撃が悉く通らない正体不明。
その不規則にゆらめく灰爪に殺意を込めて、右から左…左から右へと間断なく振り払ってくる。
素直に直撃を許すナナシではないが、無効化される自分の攻撃に歯痒さを抑えられない。
壁を背にしないよう身を躱す回数が明らかに増えてきた。
(;*゚∀゚) 「なんなのあれー!
ナナシ、なんとかしてー!」
_
( ゚∀゚) 「無駄だ、こちらの声は向こうに届かない」
歯痒いのはつーも同じだった。
攻撃を当てているのはナナシなのに、追い詰められているのもナナシなのだ。
(*゚∀゚) 「あなたどっちの味方なのよ!
あんなのアリなの!?」
_
( ゚∀゚) 「いや、それを俺に言われても…」
_
( ゚∀゚)「…ただ、あの不気味なもんを倒せる方法は思い付いた」
(*゚∀゚) 「ほんと!? どうすればいいの?」
_
( ゚∀゚) 「いや、だからそれを君に言ってどうするのよ…」
そう、こちらの声は届かない。
ナナシが自分で気付くしかないのだ。
ここは "データムログ" 。 その意味は
ーー 『歴史を与えるもの』。
-
ナナシのツヴァイヘンダーが千切り飛ばした正体不明は、分断したままの二枚の衣からそれぞれ灰爪を同時に伸ばしてくる。
ブーツの裏で爪のベクトルをずらしながら背転した時、闘技場内に金属とはまた違う硬い音が小さく鳴った。
ミ,,゚Д゚彡 「?」
距離をとった正体不明との中間で地に転がる筒形アイテム…ヒールタンク。
本来ならダメージを回復させるために手渡された物だが ーー
_
( ゚∀゚) 「おっ」
ミ,,゚Д゚彡 「…もしかして!」
ナナシは迷うより早く前進してヒールタンクを拾い上げる。
そのまま速度を落とさずに、
分離していた衣を復元しようとモゾモゾ重なり合う正体不明へとヒールタンクを握りしめた手を深々と突っ込んで ーー
ミ#,,゚Д゚彡 「でやっ!」
-
ーー パリン!
.
-
『ズヴォォォオォオオォッッ!!』
ビリビリビリッ
:(;*∩>∀<) : 「いやあぁーーっ!」
_
:(∩゚∀゚): 「あ、これ聴いたらアカンやつや」
耳を塞ぐつー達の脳内すら直接震わせるほどの断末魔がBETルーム内を支配する。
スピーカーのスイッチが管制側で切られたために長くは続かなかったものの、
不意をつかれ耳を塞ぐことすら出来なかった他の参加者達は喉の奥から胃液を絞り出す。
中には泡をふき昏倒するものも居た。
ジョルジュは恐る恐る、塞いでいた手を離す。
_
( ゚∀゚) 「まるで曼陀羅華だな」
引き抜かれた時、
または己の命を繋ぎ留める大地から切り離された時に、あらゆる絶望の悲鳴をあげるといわれる闇植物…曼陀羅華。
それに匹敵するほどの効力は、スピーカー越しの人間の魂すら持っていこうとした。
(*∩゚∀゚) 「ナ、ナナシは……」
それを間近で味わってしまったなら ーー
-
ミ,, Д 彡
闘技場の真ん中で、倒れないまでも無様に膝をつき、放心するナナシの姿があった。
正体不明は断末魔と共に消滅している。
(;*゚∀゚) 「…なにが、どうなったの…?」
_
( ゚∀゚) 「どうやら俺が考えた通りだったらしいな」
正体不明とは、命のない魔導生命体だった…
命の概念が存在しない者に、命の概念から造り出されるヒールタンクに込められた魔導力が与えられたらどうなるか?
_
( ゚∀゚) 「いわゆるアンデッドモンスターに生命力を与えたところで、
そいつらには "死んでも死にきれない" っていう命の概念があるからダメージは通らないが…
無機物の魔導生命体は違う。
無に有を吹き込めば、有を活かす機能がそもそも存在してないから、
体内で循環することができない異物として暴れてパンクしちまうんだ」
(*゚∀゚) 「??
よくわからないけど…あの闇の衣にとっては毒だったってこと?」
_
( ゚∀゚) 「まあそんな認識で間違いない」
ジョルジュは想像から答えを導きだし、
ナナシはすでに与えられていたヒントから答えを導きだしていた。
(・(エ)・) 『このヒールタンクを含め、持参された他のアイテムやリングがあれば用途を問わず使用可能です。
"回復行為のみ一度きり" とさせて頂きます』
ここはデータムログ。
歴史を与えるもの。
越えられない試練は… 無い。
-
(*゚∀゚) 「凄いじゃん! ナナシやるぅ!」
ジョルジュの説明にはついていけなかったが…
とにかくナナシが難関を突破したことが、つーには嬉しかった。
ザマーミロ!と言わんばかりに、つーは手元の投票スイッチをめいっぱい押し込む。
_
(;゚∀゚) 「あ! まだ押しちゃダ ーー」
(*゚∀゚) 「えっ」
…ナナシが正体不明の断末魔から回復する前に…
過半数が決着を認める証の、甲高いチャイムが闘技場に鳴り響いてしまった。
.
-
ガラガラと三度目の闘技場のケージが開放されていく。
ーー ナナシの意識は戻っていない。
(;*゚∀゚) 「えっ!? あっ! あぁっ!?」
_
(;゚∀゚) 「…いや、君だけのせいじゃない。
他の奴らもスイッチを押したからだ」
ジョルジュが周囲に目を向けると、今の騒動で卒倒している者を除き、全員の顔から邪な笑みが浮かんでいる。
BETルームにいる者の本来の望みは、戦いそのものを見せ物にして楽しむことではない。
己の利益を求め勝利の美酒に酔うことだ。
欲望に忠実だからこそ、データムログで大金を注ぎ込むのだ。
_
(;゚∀゚) 「まずい、いま襲われたらひとたまりもないどころか…あいつ死ぬぞ」
(*;∀;) 「ナナシ! ごめん、起きてよナナシ!」
つーはたまらず投票スイッチを押す。
試合が止まってくれればいい、そう思って何度も何度もスイッチを押し続ける。
当然試合は止まらない。
決着を認めるには過半数がスイッチを押さなくてはならない…。
さもなくば、ナナシが自分でギブアップのためのブザーを鳴らすのみ。
-
つーの願いも虚しく、ケージから最後の相手が現れた。
その姿は ーー
('A`)
ーー 人間。
(推奨BGMおわり)
-
------------
〜now roading〜
_
( ゚∀゚)
HP / A
strength / B
vitality / C
agility / C
MP / E
magic power / F
magic speed / B
magic registence / E
------------
-
ここで('A`)かよ、強すぎるだろ
-
_
(;゚∀゚)「なっ!?」
ガタン、と慌てて立ち上がった。
…その衝撃でジョルジュの座っていた椅子が後ろに倒れる。
_
(;゚∀゚) 「バカ野郎!!
あいつは "ダットログ" のチャンピオンじゃねえか!
なんでこのデータムログにまでしゃしゃり出てくる!?」
(;*゚∀゚) 「……?」
正体不明との戦いを観戦していた時とはまるで別人のようにジョルジュが焦っていた。
つーにしてみれば、相手は人間にしか見えない。
さっきまでのお化けのほうがよほど恐怖だと思った。
ジョルジュを見る目を、闘技場に移す。
('A`)「……」
無防備に佇む男。 ジョルジュは相手をチャンピオンだと言った。
二つあるこの街の闘技場…その表の戦いの王者。
痩せっぼちで酷く垂れ目の男は、その手に銃斧を握っている。
-
(;*゚∀゚) 「銃を持ってるよ!」
_
(;゚∀゚) 「あいつの銃は完全に相手を殺すために造られたものだ。
力も時間もいらない…引き金をひくだけで ーー 」
青ざめたつーが立ち上がり、BETルームの出入り口に体当たりする。
しかし、
いくらドアノブを捻っても、
叩いても、
扉は何一つ反応を示さない。
「へっ、どこへ行こうってんだ?」
「試合が完全に終わるまで開くことはない…絶対にな」
数人からハハハッ、と沸く笑い。
下卑た人間からは下卑たものしか得られない。
(*゚∀゚) 「ちょっと! いい加減にしてよ!」
つーにとっては仲間…
いや、知り合いが危機に陥っている状態だとしても、彼らにすれば見ず知らずの他人が惨殺される瞬間の映像でしかない。
なんの感傷も沸きはしない。
_
( ゚∀゚) 「賭け事にはいくらでも金をかけていいもんだ。
不慮の事故で死ぬのも、賭けに負けるようなもんだから仕方ない」
(*゚∀゚) 「そんな!!」
_
( ゚∀゚) 「…だけどイカサマは気に食わない」
この男を除いて。
-
_
( ゚∀゚) o 「これは無効試合だ」
ジョルジュが拳を強く固める。
その途端、周囲にいた他の客らが腰を浮かせて怯え出した。
「お、おい! 何する気だ」
「ちょっと、この部屋のなかでは暴れないでくださる!?」
_
( ゚∀゚)o 「お前らはどいてな」
闘技場では、いまだ立ち上がらないナナシに、チャンピオンがいままさに銃口を向けんと腕をあげようとしている。
(;*゚∀゚) 「ジョ、ジョルジュ?」
_
( ゚∀゚)o 「あーいいからいいから。
危ないからさ、ちょ〜っと離れてよ」
それは優しい口調だが、えも言われぬ雰囲気がジョルジュを包んでいた。
つーが思わず後ずさると、ジョルジュの身体から赤黒い光が溢れ出す。
_
( ゚∀゚)o 「【パワーデス】!」
発光し放たれた赤黒い魔導力が再集束し、ジョルジュの拳を中心点として集う。
そしてその拳は、
_
( ゚∀゚)o彡 「ーー ハアッ!」
目の前にある分厚いガラスを容易く貫いた。
ーー 音はない。
あまりにも容易く貫かれたガラスは、ジョルジュの拳から二の腕だけを易々と貫通させている。
-
ーー パキ、パキパキパキパキ
遅れて届く衝撃波が、穴をあけたガラス全体にヒビを走らせ
(*つ>∀<;) 「きゃああー!」
ガシャァン!!と、その身をすべて粉々に散らせてしまった。
単なるガラスなどではない。
たとえ闘技場内で暴れたとしても、
BET参加者の安全を保障するために、加工された金属や鉱石による物理的な衝撃をも吸収できる。
炎や風といった魔法を行使しても、
化学反応すら起こさないような魔導コーティングが施された、他に類をみない特別製のガラス。
たとえ大男のクマーが力任せに殴り付けても、一撃で破壊など出来はしない。
…恐る恐る、つーは目を開けた。
だがそこにジョルジュの姿はなかった。
-
('A`)「!」
_
( ゚∀゚) 「よう、そこまでだ」
トリガーに指をかけるチャンピオンの真横。
破砕したガラスの破片に彩られながらジョルジュがすでに着地している。
だがチャンピオンは驚く素振りもなく、無言で銃口の向きをジョルジュに変更し、躊躇なく発砲した。
_
(;゚∀゚) 「うおっあぶね」
キュイン、とどこかへ着弾する音を聴きながらも、ジョルジュは首から上だけを傾けることで弾丸を避け、その場から動く様子がない。
_
( ゚∀゚) 「チャンピオンさんよ、ここはあんたが来るところじゃないぜ」
('A`)「……敵は殺す。 それだけだ」
-
ーー じゃあ仕方ないな。
ジョルジュがそう言うが早いか、詠唱と共にまたも赤黒い光がジョルジュの身に溢れる。
_
( ゚∀゚) 「【ドッジ】!」
先とは異なる魔法。
赤黒い魔導力が、今度はジョルジュの足元に集束した後、弾むように光を天に昇らせる。
('A`)「邪魔だ」
チャンピオンの銃連撃が引き続きジョルジュを襲った。
…しかし、今度は余裕の表情で弾丸をスイスイ躱す。
_
( ゚∀゚)o彡゜ 「あたらねーよーだ」
('A`)「……」
ジョルジュは腕を振りながら無造作に歩を進める。
チャンピオンの表情は変わらない。
破壊力を高める【パワーデス】。
瞬発力を高める【ドッジ】。
同時に唱えることはできないが、ジョルジュの魔法はそのどちらも身体能力を大幅に上げる事ができる。
-
_
( ゚∀゚)o彡 「せえッ!」
チャンピオンまであと数歩の距離というところで、ジョルジュの身体が横滑りに瞬時に伸びた。
腰元から体重をのせて放たれた突き…
鳩尾めがけて冲捶を放つ。
チャンピオンの身体が くの字に吹き飛んだ ーー かに思われたが、攻撃はヒットしていない。
直前にバックステップで下がったチャンピオンから近距離発砲が見舞われる。
ジョルジュの眉間めがけた弾丸も当たらない。
そのまま身を沈めて尚も迫るジョルジュに、出鱈目に放たれるチャンピオンの銃連撃が威嚇として成立。
その前進を止めた。
_
( ゚∀゚) 「ちっ、そう甘くはないか」
('A`)「……」
大きく下がったチャンピオンの背後は壁が近い。
そのまま追い詰めれば接近戦の得意なジョルジュが有利だが、にも関わらずその場に静かに立つチャンピオンの振る舞いは思考を止めさせてはくれない。
なにかある…。
そして、こちらにはあの銃斧と渡り合うリーチが無い。
その時、ナナシに意識が戻った。
-
ミ;,,゚Д゚彡 「な ーー っ!?」
強い驚きを携えて。
('A`)「……」
ミ;,,゚Д゚彡 「… "鼻唄" !?」
意識を失っていた事すら即座に忘れてしまうほど ーー
彼の目の前にいるのは、あの日、戦場で裏切った "鼻唄" その男。
_
( ゚∀゚) 「お目覚めかい? …そして知り合いか?」
もう一人の男は判らない。
眉間にシワを寄せるような表情で、 "鼻唄" と対峙している。
(*゚∀゚) 「ナナシ! 目が覚めたんだね」
ミ,,゚Д゚彡 「つー!」
頭上からの声は、見上げればつーが身を乗り出している。
闘技場は壁一面が石畳に覆われているように見せかけられていた。
実際はBETルームのガラスには視覚情報を屈折する魔導力が掛けられており、
ナナシからはガラスがあることも、
BETルームの位置がどこかもわからなかった。
円形状の闘技場そのものが、巨大なリングによる魔導力の循環を促していたのだ。
-
(*゚∀゚) 「銃を持ってる人が最後の相手だよ!
ナナシが動けない間、ジョルジュが助けてくれたんだ!」
_
( ゚∀゚) 「…だ、そうです」
ミ,,゚Д゚彡 「把握したから!」
ツヴァイヘンダーを握り直し、 "鼻唄" にその尖端を向ける。
"鼻唄" の顔に特別な表情は見られない。
ナナシを見ても、何も言ってこないのだ。
('A`)「どいつもこいつも…邪魔なやつらだ」
"鼻唄" の声がどこか遠くから聴こえる気がした。
だがそれはナナシが記憶の中の彼との出来事を思い出していたから ーー
-
(・∀ ・) 『ここで役に立たなきゃ足手まといだわな』
最初こそ口の悪い男だと思った。
ナナシを罵って優越感に浸るような男だと思った。
(;;・∀ ・) 『痛いうちはダイジョブだろ、よくやったぜお前は』
(-_-) 『本当に、その槍しか持ってないみたいだね』
その顔は何を考えてるのか分からなかった。
噂話だけで、他人を知ったような気になる男だと思った。
(;-_-) 『な、なにやってんだよ!
なんで味方を…』
"外斜視" も、"陰鬱" も、
短い時間を共に戦っただけだとしても、
ナナシを味方としてきちんと迎えてくれていた。
倒れた自分を支えてくれた外斜視の腕の感触…。
裏切りによって死んだ陰鬱の最後の表情…。
-
('A`)「死ね」
ーー 他になにか言うことはないのか!?
ミ#,,゚Д゚彡 「うおぉぉっ!」
-
"鼻唄" の容赦無い銃弾。
それと同時に振り払い一閃したツヴァイヘンダーが弾き返す。
弾丸が一瞬でナナシに迫ったなら、ナナシが弾き返した弾丸が "鼻唄" の右胸に捩じ込まれたのも一瞬だ。
('A`)「…あ?」
('A`)・," ごふっ
勝負がものの数秒で片付く場合、その実力差は伯仲しているか…
ーー あるいは大きな隔たりがあるか。
_
( ゚∀゚)o 「…彼氏さん、あんた凄いわ」
ジョルジュが間髪いれずに "鼻唄" へと肉薄する。
わずかに屈み、腰を捻って鍛えられた脚が伸びる…【パワーデス】を纏って。
そして直撃の瞬間。
_
( ゚∀゚) 「震脚」
軸となる足は大地を踏み抜き、波動を伴う真槍へと昇華して "鼻唄" の左胸を残酷に貫いた。
.
-
"鼻唄" が倒れてから間もなく。
甲高いチャイムの音が鳴り響いた。
一戦目、二戦目よりも、長くゆっくりと。
闘技場、ナナシの入ってきた赤い扉が開く。
(*゚∀゚) 「二人とも、大丈夫?!」
(・(エ)・) 「データムログ、試合終了です」
扉をあけたクマーの脇をすり抜けて、つーがナナシ達の元へ走り出す。
ナナシもジョルジュも、つーに余計なものを見せないために、
身体に二つの穴をあけた "鼻唄" の死体を視界から塞ぐように並び立つ。
ミ,,゚Д゚彡 「大丈夫だから!」
_
( ゚∀゚) 「お二人さん、すまないね。
乱入なんてしちまった…
なにか目的があって参加しただろうに」
(*゚∀゚) 「ジョルジュがいなかったらナナシがやられてたかもしれないじゃん!
ありがとね」
ミ,,゚Д゚彡 「ありがとだから!」
そう礼を述べるナナシは、しかし心のなかで自分の不甲斐なさを恥じていた。
戦いにおいて意識を失う事は、死神に向けて首を差し出すに等しい。
つーの言う通り、
あの状況を見る限り "鼻唄" がもっと早く銃を構え、
ジョルジュの乱入が少しでも遅ければ、
…今ごろ闘技場に倒れていたのはナナシの方だったのだから。
-
_
( ゚∀゚) 「このデータムログじゃあ挑戦者の希望の品に応じて対戦相手が変わる。
ダットログのチャンピオンが出てくるなんて尋常じゃない…
あんたら、何を欲しがったんだ?」
つーの後ろから大きなシルエット。
案内人を務めたクマーが、小さなトランクを指で摘まむように差し出してくる。
(・(エ)・) 「…こちらですよ。
お客様、お受け取りください…
希望商品と、ランクに応じた金額、
どちらも現物で入っております」
身近にいたつーが振り向きトランクを受けとる…と、胸に抱えるほどの大きなトランクに変貌した。
実際には身長差によって小さなトランクに見えていただけなのだが。
それよりも ーー
_
( ゚∀゚) 「え、彼らへの商品でるのか?
失格とかでなく?」
(・(エ)・) 「ええ、滞りなく」
ミ,,゚Д゚彡 「ひょっとして…」
ナナシは再び思い出す。
案内人であるクマーの言葉…そのヒントを。
-
ーー そう、
ミ,,゚Д゚彡 「反則は…なし」
クマーが大きく頷いた。
(・(エ)・) 「違反ルールに抵触しない限り、いかなるケースも認められています。
一対一であるという縛りもなければ、外部からの支援行動も、今回は禁止されておりません」
これはBETルームにいる参加者には知ることのできないルール。
…最下層の赤い扉の前でクマーからバトル説明を聴けた戦闘人員のみが辿ることの出来る蜘蛛の糸。
-
そもそも外部からの支援とはいえ、
データムログ側が設置した特別製の防衝撃ガラスが割れるような想定はされていないのだ。
ナナシはジョルジュというイレギュラーな存在に偶然助けられたといえる。
_
( ゚∀゚) 「じ、じゃあ俺の掛けたお金も?」
(・(エ)・) 「勝利者にBETされたものであれば当然お支払いします」
_
( ゚∀゚)o彡゜ 「やっほう! くそ儲けたぜ」
最後の言葉につーは顔をしかめた。
とはいえ、ジョルジュがそれだけの結果を生み出した事には変わりはない。
銃を持つ "鼻唄" の前に立ち塞がってくれたのは彼なのだから。
(・(エ)・) 「ーー しかしながらお客様」
_
( ゚∀゚)o彡 「え?」
突如、クマーが丸太のような腕を伸ばしジョルジュの手首をがっしり掴む。
(・(エ)・) 「データムログ施設内の破壊を行った件に関しましては別問題です」
鋭い目付きでジョルジュを見た…
いや、睨むと形容すべき眼光が彼に襲いかかる。
-
_
( ゚∀゚)o彡 「離せよ、逃げやしないって」
(・(エ)・) 「!?」
しかしその腕は軽々と振り払われた。
クマーは力を抜いていない。
手首を握りこんだのは指圧で筋力の発揮を抑えるためだった…にも関わらず、まるで掴んでいた腕などなかったかのように。
_
( ゚∀゚) 「ちゃんと弁償するさ。
支払う金と差し引いてくれればいいよ」
ジョルジュはやはり何も思っている様子はない。
クマーも平静を装いつつ背を向ける。
ーー 振り向き様に、 チャンピオン… "鼻唄" の姿を確認した。
発砲と同時に着弾する銃弾を打ち返す剣技、生身を貫く蹴技、
…余りにも非凡な二人は、あくまでも常人の範疇にいるクマーが束になっても敵うことはないだろう。
(・(エ)・) 「それでは10階までご一緒します」
-
三人はクマーに従い、闘技場を後にした。
BETルームに居た他の客達も、螺旋階段を登るクマーが誘導する。
気を失っていた者は、クマーの腕にまとめて抱えられた。
…ナナシの試合が最後だったらしい。
こうしてデータムログに滞在する全ての人間が、10階層のスタッフルームからはけていく。
その表情は二通りしかない。
己の利益を狙い通りに生み出せたもの。
そして、賭けに負けて悔しさを滲ませるもの。
ーー 彼らは知らない。
闘技場に残された "鼻唄" の死体が、やがて土塊となり、空調から流れ出るゆるやかな風に吹かれ、砂となって消えていった事を。
----------
-
ーー 翌日。
ナナシとつーは、データムログで入手した "隕鉄" をもってモナー工房の扉をくぐる。
ツヴァイヘンダーも返却したかったが、その前に "隕鉄" をみたモナーの喜びようは凄いものがあった…。
母親に初めて買ってもらったプレゼントに狂喜する子供のように興奮を抑えきれず、
専門用語を噛み砕かずナナシ達に素材の素晴らしさを聞かせた。
その数十分は彼の独壇場…
はじめこそ真面目に聞いていたナナシは途中で放心し、
つーに至っては目の前で爪を弄ったり、果ては眠りに落ちた。
そんな都合は気にしないのがモナーなのだが……。
-
( ´∀`)「…では "隕鉄" もこちらで預かるモナよ。
実質、作業はモナーでも一週間くらいかかるかも知れないモナ。
逃げも隠れもしないから一度家に帰ってもいいくらいモナ」
ミ,,゚Д゚彡 「一週間…」
(*゚∀゚) 「…うーん、そのほうがいいかな?
何日もこの街で泊まってたらモナーさんに払うお金が無くなっちゃうもんね」
同意を求めるように顔を覗き込んでくるつーには答えず、ナナシはある事を考えていた。
先延ばしにしていた疑念。
騎兵槍を直せる目処がついた今、目を背けることはできない。
目覚めた時と同じ質問をモナーにぶつける。
ミ,,゚Д゚彡 「…モナーさんは、赤い森って知ってるから?」
( ´∀`)「モナ?」
何を突然?といった顔でナナシに向き直る。
…何を今更?といった顔でナナシに向き直る。
( ´∀`)「赤い森といったらだいぶ昔…
モナーの曽祖父さん、つまり一代目がこの工房を作った頃にはもう戦争で大陸から姿を消していたはずモナよ」
.
-
ーー 再び愕然とした。 今度こそ明確に。
しぃの夫、ショボンが赤い森の事を彼女に伝えたのがあの日から一年前。
その一年を、『昔』と呼ぶ人はいない。
(*゚∀゚) 「ナナシ…」
ミ,, Д 彡 「…つー、曾お婆さんの名前、まだ聞いてなかったから?」
あの時は聞かなかった……
うやむやに、聞けなかった答えをつーに求める。
偶然は続かない。
奇跡は何度も起こらない。
パズルのピースは ーー
(*゚∀゚) 「……」
(*゚∀゚) 「しぃ、だよ」
ーー 見事に嵌まってしまった。
-
ダットログやデータムログで少しずつお金を稼ぎながら街に滞在することも考えたが、
観光が目的だったつーの事はとりあえず村に帰したほうが良いと思った。
元はナナシが騎兵槍を直し、赤い森 ーー いや、ショボンを捜すための準備をしにこの街へ来たに過ぎない。
外の街道を戻る馬車に乗り込むつーを見送る際、彼女はこう言った。
(*゚∀゚) 「なんだかんだで楽しかったよ。
ナナシがあの闘技場で死ななくて良かった」
(*゚∀゚) 「曾お婆さんのことで混乱させてごめんね。
私にはやっぱりよくわからない…
けど、ナナシがもしナナシなら、生きてたならそれでいいって、
曾お婆さんも思う気がする」
(*゚∀゚) 「…また村に寄る事があれば、今度は正面入り口から入ってきてよねw」
ナナシはただ頷くだけで、気の利いた言葉を返すことができなかった。
それでも、つーは笑って自分の村へと帰っていった…。
-
ーー 3日後。
データムログで、つーと自分を助けてくれたジョルジュには、あれ以来会っていない。
受付カウンターで性別不明の従業員から細長い用紙に記入された弁償請求額を突きつけられた彼の顔は、
アゴが外れていたとしか思えないほどに驚愕していた。
_
( ∀ ) 『…パワーデスでハサンデスってか…』
ナナシにはよく分からない言葉だったが、その後の照れた顔を見た限り、きっと彼なりのユーモアがなにか込められていたのかもしれない。
今ならモナーへの依頼金を差し引いた分だけでも渡してやりたいが、
[ロータウン]のどこにも彼の姿は見当たらなかった。
この広すぎる[アッパータウン]では意図的に捜すことも難しいだろう。
ミ,,゚Д゚彡 「……」
今日もまた、日が変わるほどの時間になっていた。
彼の腰には、モナーに返し損なったツヴァイヘンダー。
その尖端が鞘越しに、舗装された街の路を時々引きずる音をたてる。
道行く人々がナナシを見ることはない。
大きな騎兵槍と違い、ツヴァイヘンダーは一般にも流通している凡庸な剣。
彼が視界に入っても、珍しくともなんともない群衆の一部として認識される。
作業に取り掛かったモナーは、ナナシが何度訪ねてもその扉を開けてはくれなかった。
店内から漏れ伝わる灯りと作業音が彼の不在を否定していた事から、ひとまず約束の一週間後に伺い直すつもりだ。
-
ーー 6日後。
あれからナナシは昼夜問わず街を観光している。
4つの区画と1つのスラムを内包したこの街は、改めて歩いてみるとその区画一つ一つがナナシの故郷…
いや、つーの村を遥かに上回る広さだった。
そしていずれも生活が成り立っている。
放置された空き家などはなく、人が出ていった次の日には違う人が住んでいたのも見掛けた。
唯一気になるのは、さっきまで会話していた者達が、次の瞬間にはまるで互いを認識していないかのように振る舞う事だ。
同じ場所に住んでいる仲間といった様子ではない。
その場は笑って過ごしても、立ち入った話はしない。
その日は隣人であっても、翌日は赤の他人になる。
相手に無関心…という単語が似合うのかもしれない。
ナナシには少しだけ、それが寂しかった。
-
モナーに "隕鉄" を預けてから7度目の夜が来た。
今日もまた周囲に灯りが点在する時間になる。
街をふらふらと歩いていたナナシの足は、やがて自然に[ロータウン]へと向けられた。
ダットログやデータムログが目的ではない。
人が多く賑やかな[アッパータウン]よりも、
[ロータウン]のような静かでゆっくりと過ごせる場所のほうが落ち着くのだ。
宿もあのビルの10階層をそのまま取り続けている。
食事も屋内のレストランは利用せず屋台で済ませていた。
ようやく馴染みの店となり、日替わりで適当な具材から時間をかけず出される炒飯が好きになった。
急ぐ理由もないのにガツガツとかっ込み、奥歯と舌でシンプルな味をシンプルに噛み締める。
ミ,,゚Д゚彡 「ふぅ!」
ーー 美味い。
たとえ一流のレストランで食べても、話題のグルメフードを食べても、この満足感は得られないだろう。
高価な材料や高名な料理が欲しいんじゃない。
その時、自分が食べたいものを出せる店が欲しいのだ。
-
「…あんたもこんな路地裏の飯屋に来るなんて物好きだよ。
……そろそろ俺も帰るぜ」
屋台主のくたびれた男が閉店を告げる。
急かす口調ではない、むしろ息子に声をかける酸いも甘いも味わった苦労人の父親のように。
ミ,,゚Д゚彡 「いつもありがとうだから!
もうすぐ食べ終わるから!」
「ああ、いいよ。 食べ終わった器はこのシンクに置いといてくれれば。
…どうせ誰も盗みやしないさ」
己の境遇を呪うように自傷気味な返事をして、屋台主は
「また来てくれよ」
と笑い、立ち去っていった。
暗闇に残されるのは屋台の提灯と、ナナシただ一人の姿。
ふと路地を見渡すが周囲には誰もいない。
そして僅かに残る炒飯を食らう。
もちろん暗闇が怖いわけではない。
一人が怖いわけでもない。
ただ…
ミルナが出稼ぎで家を空けていた頃、独りで食事をしていた幼い記憶をなんとなく思い出した。
-
米粒を残さず胃に納め、両手を合わせて誰もいない空間に御馳走様と呟く。
夜が明ければ約束の一週間になる。
モナーはうまく騎兵槍を直してくれるだろうか?
このツヴァイヘンダーも忘れずに返さなければ。
-
つーは無事村へ帰れただろうか?
あの村がつーの曾お婆さん…しぃの居た村ならば、
自分があのとき感じた懐かしい感覚はやはりナナシの故郷でもあったという事なのだろうか。
ーー だが、面影を残しつつも様変わりした故郷を、自分は故郷と呼んで良いのだろうか。
-
"鼻唄" はなぜあそこに居たのか?
彼の様子はいま思えばおかしかった。
本当にあの "鼻唄" であれば、
もっと得たいの知れない雰囲気で、
きっとなにか軽口を叩いていてもよかったのではないか。
…彼はやはりあの時に死んだのだ。
自分が……憎くかった彼の亡霊をも作り出してしまったのではないか。
-
ミ,,゚Д;彡 ーー ぽろっ
ナナシの瞳から不意に一粒の涙がこぼれ落ちる。
前触れのない感情は、拭いきれない無言の嗚咽となって闇を助長した。
心のどこかでいま、
たったいま、認めてしまったのかもしれない。
自分が時の放浪者となった事を。
知っている人間はもう誰一人としてこの世界には居ない事を。
ミ,,∩Д∩彡
幼い頃の孤独とはまた異なる…
世界に独り置き去られ、時に置き去られたという感傷。
どんな剣よりも、槍よりも、深く胸に突き刺さる常闇の感情。
-
……どれだけの時間が経っただろう。
気付けば薄暗い雲の隙間から、薄く朝陽が昇らんとしていた。
カウンターに肘をつき、顔を覆っていた両手を離す。
顔をあげたナナシの視界の端に、一人影が浮かんでいた。
…徐々に近付く影。 頭から毛布をかぶり、その顔は窺えない。
ナナシは気付かないが、それははじめて[ロータウン]に足を踏み入れた日、宿の場所を聞いたあの浮浪者だった。
/ ::: <●>) 「……泣いていたのですか?」
ミ,,うД゚彡 「あ…」
見ず知らずの人を前に気恥ずかしさをおぼえる。
涙したのはいつ振りだろう…。
ミルナを凍葬した以来かもしれない。
/ ::: <●>) 「知っている人が誰もいないのは、どんな気持ちでしたか?」
ミ,,゚Д゚彡 「!?」
心を見透かされた驚愕。
ーー いや、それはもっと確信的な言葉。
/ ::: <●>) 「……もう一人の行方はようとして知れませんが……
見付けましたよ、私の探し物」
ナナシは反射的に身構えた。
ツヴァイヘンダーを素早く鞘から抜き放ち、グリップを広く持つ。
声をかけてきた男は、するりと頭を覆う毛布に指をかけ腕をおろす。
-
( <●><●>) ミ゚Д゚,,彡
顔を合わせ対峙した瞬間、脳裏に駆け巡った。
ナナシが失っていた記憶の欠片 ーー
-
『彼を巻き込む必要はない!
お前達の目的は僕だろうっ!』
『貴様に関わるものすべて我らの大敵と知れ』
『逃げてーーーっ!』
.
-
ミ;,,゚Д゚彡 「はっ!」
イメージは一瞬。
一塵の風が吹いたように、その記憶は消えてしまった。
しかし、そのお陰でナナシはようやく思い出す。
( <●><●>) 「……不完全な魔法で貴方をきちんと始末できなかった "私達" の責任ということはわかってます。
……申し訳ありません」
"あの日" 、ナナシは相手の魔法をその身に受け止めてしまったのだ。
目の前に立つ、あの大きな瞳孔が特徴な、"あの一族" に出逢って。
( <●><●>) 「今の私であれば、もっと完璧に仕上げてみせます。
……この、未完成だった身体に託された先祖達すべての魔導力で」
ミ,,゚Д゚彡 「でやあああっ!」
ナナシの一歩は時を加速させたように男の眼前まで全身を運ぶ。
獣よりも速く、
獣よりも力強く、
ツヴァイヘンダーを男に突き付けて。
!
( <●><●>) 「……【リベンジフロスト】」
-
(*゚∀゚) 「ーー あっ」
ガシャン!と派手に音をたてて、手から滑り落ちた陶器茶碗が砕け散る。
村に戻ったつーは、またなんでもない日常を過ごしていた。
呆けていたつもりは無い。
それは手のひらから意思をもって逃げ出したように…
そう、逃げ道を捜して足掻くように床に落ちてしまった。
(*゚∀゚) 「もー、危なかったなあ」
破片を踏みつけないように部屋の隅から箒と塵取りを手に取り、片付ける。
一日だけ、ナナシと食べた夕飯。
お腹を空かせて、
炊き込みご飯を食べるナナシが使った、あの茶碗を……。
-
( <●><●>) 「……まさか、」
ミ,,゚Д゚彡 「……」
男は、フラりと身体を後ろによろめかせ…
…一歩下がっただけでまた立ち尽くす。
その身に怪我はない。
ツヴァイヘンダーの切っ先は、届いていない。
( <●><●>) 「まさか私が冷や汗というものをかけるとは知りませんでした」
( <●><●>) 「……詠唱を途中で止めなければ、倒れていたのはこちらの方でしたね」
ミ,,゚Д゚彡 「……」
前傾姿勢でツヴァイヘンダーを長く前に突き出したナナシは動かない。
ーー その全身は、蝋で塗り固めたように凍っていた。
( <●><●>) 「……中途半端な詠唱と魔法ゆえに、いずれまた目覚めてしまうことはわかってます。
……ですから」
そう言うと、先程とは違う詠唱を始める。
彼は凍ったナナシを粉々に砕きたかった。
武器を持っていないため、それに準ずる力を魔導力で努めるように。
それは魔導力を物理的な破壊力に変換する魔法。
詠唱完了と共に、男の身体が一瞬だけ黒く光る。
( <●><●>) 「【フォース】」
-
.
-
( <●><●>) 「……」
( <●><●>) 「……?」
ーー 無音。 静寂が辺りを包む。
男は自分の手をまじまじと眺めた。
魔法を放つ事だけを目的に創られたこの手。
魔導力は確かにこの身を駆け巡ったのに、発動していない。
( <●><●>) 「……なぜ?」
訝し気に首を捻るばかりの男の耳に雑音が混じる。
…シャラン、と重なりあう金属のぶつかる音。
「間に合って良かった。
あんな特殊な魔導力ならどこにいても見付けられるさ」
男が振り向いた方角には何もない。
裏路地の終わりを告げる壁一面。
だが、その壁の上には ーー
-
川 ゚ -゚) 「アイツに頼んだ依頼が後回しにされてると思えば…
どうりでキナ臭くてたまらないわけだよ」
ーー 千年を生き、
幾多の魔導力を同時行使する大魔法使いがその手に持つのは、幾つものリングを備える彼女だけの錫杖。
愚か者に天罰を与える女神の如く、
彼女は外套を風になびかせていた。
-
千年の時を生きる者達。
その総ての記録を見守り続ける事は誰にも出来ない。
唯一、それが出来るのは。
彼らと同じ時を生きる者か。
…どこかで千年の夢を視る観測者だ。
(了)
-
本日の投下を終わります
ありがとうございました
そろそろ物語が入り乱れてきます
現在までのお話
( ^ω^):矛盾の命
>>1
( ´∀`):繋がれた自由
>>17
( ´∀`):遺していたもの
>>48
( ^ω^):老女の願い
>>101
ミ,,゚Д゚彡 :帰ってきてね
>>139
( ^ω^):ふたごじま
>>237
('A`) :死して屍拾うもの
>>297
( ^ω^):初めてのデザート
>>377
ミ,,゚Д゚彡 :時の放浪者
>>423
-
乙
-
乙乙
あとどれくらいで物語は終わるのだろうか
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>>538
選択してもらった残り7キャラ分と
幕間がそれぞれ挟まれるつもりで作っています
単純計算で残り14、5回です
プロローグの【命の矛盾】を含め、
幕間は基本( ^ω^)が役割を負います
なので人によってはこの幕間を飛ばしても良いように「現在までのお話」で顔文字をつけてあります
ストーリーに支障はないけど、読んでいると所々でおやっ?と感じてもらえるのが
( ^ω^)の話…というようにやらせて頂きます
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ぬおおおもちろい
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乙!一瞬ミ,,゚Д゚彡も不死者化したかと思ったが凍らされてたのかな?
続きがきになる
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>>528のレスが気になるし登場人物が色々絡んできてこれからが本番な感じ
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前回もそうだがミ,,゚Д゚彡はなんかかわいそうになるな
本人真面目なのに報われてない感じ
また続き楽しみにまってるよ
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乙 すげー面白かった。
('A`)は死んだのか?ミ,,゚Д゚彡は報われるのか?
川 ゚ -゚)と( <●><●>)は何者なんだ?続きが楽しみでわくわくするわ。
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ああ、たくさんのレスありがとうございます!
みなぎってきます
答えたいけど答えられない部分はご容赦ください
>>541
>>544
ミ,,゚Д゚彡の行方は
生死を問わず、今後別のキャラ視点に引き継がれる事になります
次回投下はまた来週水曜日19時頃から行います
平日ど真ん中にも関わらず読んで頂いてありがとうございました
これからもよろしくお願いします
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モナー再登場は期待してなかっただけに嬉しい
色々繋がってきたし次もwktk
それとナナシの時代とつー達の時代では街の環境が大きく違うと思うけど
その辺りナナシは戸惑わなかったのか?
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>>546
ナナシは観たものを観たままに感じるタイプなので、驚きはしたと思いますが
今回は(*゚∀゚) も居たので時代的なギャップの戸惑いは少なかったのだと思います
私達が知らない土地へ旅行したときに
「ここはこういう土地なのかー」
と感じるのと近いのかもしれません
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はあああおもしろいおつ
入り乱れてきてんなぁ!すごい好きこういうの
ドクオどうしちまったんだよ・・・ナナシになにがあったんだよ・・・
しかしジョルジュがかっこいいなまともだ
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( ^ω^)千年の夢のようです
- その価値を決めるのはあなた -
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この大陸に流通する通貨は共通だ。
村や町、領土や国による違いはない。
皆、それで食糧を買ってその日を暮らし、雑貨を買ってその月を過ごす。
怪我や病気を治す事でその年を無事に越し、家を買えば長い人生の身を置いて、いずれは子や孫に看取られ生を終える。
悪くない…
人は働いてお金を稼ぐ。
稼いだお金でほんの少しの贅沢をすると、変わりない日々にも潤いが生まれる。
それなのに、
通貨の価値は ーー 同じではない。
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風通しの良い土地に建てられた平屋が並ぶ農林地帯の一角。
その中でもひときわ広い屋形に住む貴人が、ある日の突然、護衛を雇いだした。
( ,'3 ) 「誰か! 茶をもてい!」
老人が奉公人を呼びつけ雑用を言い渡す。
襖の向こうで聴こえるバタバタとした足音と、幾つもの返事が飛び交った。
16畳の客間で上座に座る老人。
すぐ横には脇差しを構える二人の剣士。
正面には三人の男が離れて座る。
( ,'3 ) 「お三方ともよぅ来てくださった。
ワシが主のバルケンじゃ」
一見温和な老人…バルケンは、
付近地域一帯を牛耳る公人だ。
しかしその実態は山の村のあらゆる収穫物で得た所得を懐に入れ、武器の輸出入も取りまとめる子悪党。
蓄えた富をもって彼は次々と事業を拡大する。
把握しているのはバルケンただ一人。
そしてその何もかもが、バルケンの懐を第一に満たしてゆく。
( ,'3 ) 「…して?」
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( `ハ´) 「シナーアル」
(-@∀@) 「アサピーと申します」
( ^ω^)「ブーン、だお」
バルケンの言葉に続いて三人は順に名乗る。
昨日のうちに屋形に到着していたものの、バルケンと対面したのは翌日の今。
ブーンは帯剣しているが、他二人は目に見える得物を所持していない。
( ,'3 ) 「シナーアルにアサピーとブーンじゃな」
(;`ハ´) 「シナー、アル! シナー!」
( ,'3 ) 「有るのか無いのかハッキリしてほしいわい…いっそ本名を名乗りなさい。
支那庵、そして朝日よ」
( `ハ´)
「!?」
(-@∀@)
バルケンはその性質からいよいよ命を狙われていたとの噂が囁かれていた。
そのために己を守る武力を集めているという。
そうして呼び出す外部の者に対する身辺調査をわざわざ欠かすことはない。
集めた刀で自滅するほど間が抜けてはいなかった。
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( ,'3 ) 「…お主はきちんと名乗ったな、よしよし」
( ^ω^)「だお」
ブーンにはもうひとつの名があるが、それをバルケンが知ることはない。
千年前の名前をたかだか100歳に満たない者が知る術は無い。
「失礼致します。 お茶をお持ちしました」
奉公人の声にバルケンが許可を出す。
静かに開く襖から、膝をつき手を揃え、頭を下げた下女が入室した。
イ从゚ ー゚ノi、 「どうぞ」
バルケンを一番に、それからブーン達にも振る舞われるお茶はほのかに湯気を纏う。
いの一番にアサピーが、湯飲みに手をかけたところをシナーに咎められた。
飲める順番は決まっている。
( ,'3 )
つ□~ 「……」
バルケンは動かない。
湯飲みから漂う湯気も気に止めず、臭いをかぎ、
「お前が飲め」
と、下女に突き返した。
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イ从゚ ー゚ノi、 「…え?」
( ,'3 ) 「お前がまずこれを飲め、と言っておるのだ」
戸惑う下女の顔からは、その他の表情を読み取れない。
なぜ疑われているのか ーー そんな思いが強かった。
その間にも、バルケンの横で剣士が脇差しに手を伸ばす。
イ从 ;゚ ー゚ノi、 「のっ飲みます!
いえ、ありがとうございます、いえっそれでは失礼して!」
慌ててバルケンの湯飲みを受け取り、下女は躊躇なく中身を一口飲み込んだ。
喉が大きく蠢き、たしかにお茶を胃に送り込んだ証を見てから、バルケンは下女から湯飲みをふんだくる。
( ,'3 ) 「…ご苦労じゃった、下がって…いや、そのままこの部屋におれ」
イ从 ;゚ ー゚ノi、 「はっはいぃ」
毒味だ。
もし遅効性のものを盛られたならば、やがて下女は苦しみ始めるだろう。
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( ,'3 ) 「お主らも気にせず飲みなされ。
今後はワシの元でしばらく過ごしてもらう客人じゃからな」
ホッホッ、と笑う。
今のやり取りの後では、先ほど無礼を働きかけたアサピーもすんなりと手を動かすことはなかった。
シナーも雰囲気に呑まれて空笑いしているだけ。
( ^ω^)つ□~ 「頂くお、ご老公」
…ブーンだけはバルケンの言う通りにお茶を飲んだ。
恐れなどはもちろん無い。
だが老公の瞳の奥から聴こえる声に気付き従ったまで。
《ワシの言うことは絶対じゃぞ?》
言葉は発さず、そして表情に薄笑みを浮かべるだけのバルケンも、瞳に嘘は付けていない。
バルケンはお茶を未だに飲もうとしない…
そして、その眼光はわずかな隙間を縫うようにたびたび下女へと向けられている。
ブーンはその隙間を狙い、シナーとアサピーにだけ分かるような動作を取った。
バルケンだけではなく、付き人の剣士二人すら目をそらした瞬間に。
二人もそれに気付く程度には鍛えられていたようで、平静を装って湯飲みに口をつける。
…当初の予定から少し考えねばならないとブーンは思った。
バルケンは子悪党などではない。
ーー なかなかの悪党だ。
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バルケンが三人を呼び寄せた理由は、屋形の護衛…
そして彼の悪事を暴かんとする、
"草" と呼ばれるスパイの存在を見つけて駆逐すること。
( ,'3 ) 「では今日からさっそく頼むぞ。
報酬は一週間ごと…なにか困った事があれば奉公人を使えば良い」
そう言って彼は立ち去っていく。
二人の剣士に挟まれるように。
( `ハ´) (-@∀@) ( ^ω^)
三者三様の眼差しに見送られる屋形の主。
バルケンの元には彼の信頼する剣士が常に二人以上付き従うという。
ブーン達の前から完全に姿を消すまでしかとその目を光らせていた。
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( ^ω^)「…ただの老人じゃないおね」
( `ハ´) 「うむ」
イ从;゚ ー゚ノi、 「えっと…し、失礼します」
下女も解放され、ようやく退室していった。
結局、毒などは入っていなかったということか。
バルケンを後衛に置き、剣士二人を前衛に置くとどうなるか。
陣形により発生するGC(ガードコンディション)を発動させて、バルケンに対する攻撃を極めて無力化する事を目的としている。
(-@∀@) 「戦術に通じた商人が、ただのジジイなわけはありません」
三人は見知った仲ではない。
もしかしたらこの中の誰かはバルケンを狙う殺し屋。
誰かはバルケンに取り入ろうとする報酬目当ての金の亡者。
もしくはバルケンの闇を暴くためにいままさに潜り込んだ "草" なのだ。
ただ言えること。
ブーンの目的は明確にバルケンの命ではなかった。
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「あたしらはそんなに欲が無いからね…
お金だの作物だのは家族が生きられればそれで充分なのよ」
薄紅の花が咲く、とある村の集会所で開かれたのは、
公人、バルケンのこれまでの所業に対する言及会。
「まあなあ〜…あぶく銭を懐に入れるくれえなら誰でも思いつかぁ」
「なに言ってるのよ、ウワサじゃ外から仕入れた剣とか槍とか銃とかもえっとしまいこんでるって話じゃない」
「そこは問題じゃ。
回り回ってその刃は孫を危険にさらしとる」
「我が物顔で村を歩くのも気に食わないな…
公人に成り上がってたかだか30年、別段村は変わっちゃいねえ」
「良くはならない、悪くなるだけでしょう?
不作の時季にバルケンはなにかしてくれたの?」
「なあ旅の方? 他の土地ではどこも皆もっともっと豊かに暮らしてるんだろ?」
次々に口をつく村人達の愚痴は数十分ほど前から止まる様子がない。
この耳に届く以外にも、その向こうでは別のグループ群による会話が進められている。
長くざわめく集会所の中にうずまく漠然とした願望。
いつもなら居ない男にも、そんな意見を求めてきた。
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( ^ω^)「そんなことはないお」
突然声をかけられ、つられてつい否定してしまった。
何気なかった村人の表情が固まり、雑多に話し合っていた他の数人もこちらに目を向ける。
ブーンがこの集会所にいるのは、ただ泊まる場所…
雨宿りできそうな所にお邪魔したのがこの寄り場というだけだった。
外は雨。
きっと話し声が漏れないよう見越してこの日になったのだろう。
やがて集まりだした村人に咎められる事はなかったが、まさか話を振られるとは思っていなかった。
「するってえとバルケンみてえのはどこにでもいるのか」
「ほらな、私腹を肥やすなんて人間誰でもそうなのさ」
「あんたは黙ってな!
…じゃあ武器を扱うのは?戦争が終わったばっかりなのになんでそんなことするのさ」
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終戦から5年…未だその傷跡は大陸に、
そして人の心に残されている。
(;^ω^)「そんなこと言われても…
でも、バルケンって人が悪いことをして稼いでるとしたら ーー 」
「そりゃーぁ悪い!
なんせあいつは方針も何も手前で決めて、俺らには一切合切伝えやがらねえ」
「稼いだ金は自分のもの!
稼げなかったら俺達のせいさ!」
「その金がほんのちょっとでもこっちにあれば息子にだってゼータクさせてやれる!」
「分け与えるってことをしらねんだ! あのジジイ!」
村人…とりわけ若い男衆は鼻息が荒い。
戦争によって傷付いた土壌と空気は、農耕業の発達していた地域に特別深いダメージを与えてしまった。
人は助け合わなければならない、
いや、助け合うべきだ ーー
そんな風潮が人の中に根付くのも時代柄、ブーンには理解できる。
…そして、
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( ^ω^)
彼はなるべく口を挟まない。
これはバルケン公を筆頭に、この村の問題…歴史の問題だと思った。
千年の時を生きる者がもしも、
あれもこれもとむやみに介入すれば
時間さえかければなんでも出来てしまうその実現力。
ブーンはその影響の大きさを知っている。
過去、未来においても、
そのような不死者が存在するかもしれない。
たとえば…大陸戦争は ーー
「ーー バルケンは盗んだよ」
村人のざわめき、そしてブーンの思考を切り裂いて小さな音が鳴った。
('(゚∀゚∩ 「ぼくの宝物を盗んだんだよ」
まだ声変わりもしていない男の子。
大人に混ざって埋もれた小さな身体を主張するように、腕を広げて真っ直ぐブーンを見つめている。
「ナオル! お前いつのまに…」
「フサグんとこの倅か、家で大人しゅうしとかんかい!」
…集会所を見渡してみれば、たしかに他の子供の姿はない。
大人からすれば子供が口を挟む問題ではないという事だろう。
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('(゚∀゚∩ 「人の物を盗んだらダメだよね?
ダメだよね??」
ナオルと呼ばれた男の子の言葉は、世間一般で当たり前のように言われるモラルの復唱に過ぎない。
だがそれを守り、それを見過ごさない大人はこの場にどれだけ居るのだろう?
( ^ω^)「何を盗まれたんだお?」
('(゚∀゚∩ 「ぼくの宝物! まっ白くてまん丸くて、珍しいからきっとバルケンは盗んだんだ」
これくらいの大きさだよ、とナオルは宙に手を振り、その宝物のフォルムを映し出す。
球状のそれほど大きくない…大人が持てば片手で足りるほどのサイズらしい。
( ^ω^)「バルケンが盗んだのは確かかなのお?」
念を押す。
ナオルも強く頷いた。
('(゚∀゚∩ 「ぼくの目の前で盗ったんだもん、高く売れるって!」
「ナオル…あんた……」
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…数年前、大陸戦争が終わったばかりの頃に、砂漠で出逢った兄妹の事を思い出す。
大人にとっては何気ない物も、
子供には子供の聖域で奉られる、神具とでも呼びたくなるような宝物になる事もある。
…あまつさえ大人の都合一つでそれを奪うバルケンは、確かに問題がありそうだった。
( ^ω^)「よし!
じゃあブーンが取り返してきてやるお!」
('(゚∀゚∩ 「ほんと!」
なんだか子どもには特別甘くしている気がする…
ツンがここに居れば先にツンがそうしていただろう。
そしていつもなら自分がそれをほどほどに止める役目…
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「お、おい旅の方、簡単に言うけどさぁ」
( ^ω^)「バルケン公はどこにいるんだお?」
ブーンはやると決めたらやる。
今度の彼の目的は、ナオルの宝物奪回だ。
「…一つ隣の村ですよ。
山も川も越える必要はない、すぐに着きます」
「ねえ?まずいって…もし私達のせいになったら……」
「腰引けてんじゃねーよ!」
「そうだ!いっそバルケンなんて居なくなればいいんだ!」
「それは困るぞぃ! そのあとにもっと酷い奴がきたらそれこそどうするんじゃ!?」
ガヤガヤと色めき立つ集会所は、問い掛けたはずのブーンを置き去りに意見を交錯させる。
降りしきる雨が屋根を叩く音にも負けていない。
(;^ω^)「お…」
ツンがいれば良かったなと、ぼんやり思った。
彼女とはつい昨日、喧嘩別れした。
数日雨が続いた影響で体調を崩した彼女の機嫌はすこぶる悪く、
なんの事はないブーンの言葉で一時的に旅路を離れてしまっている。
(;^ω^)「落ち着くお。
別にこの村の事なんて言う気もないし、
適当にカモフラージュしてくるから…」
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(-@∀@) 「ご老公は普段どこにいるって?」
てくてくと実際に屋形を歩きながら、奉公人から渡された見取り図を頭の中の屋形のイメージとすり合わせていく。
( ^ω^)「内廊下の奥の方に私室があるとは言ってたお」
天井は低く一階建て。
全体が正方形を型どっているこの屋形。
ぐるりと囲む縁側の外廊下からは、まだ続く小雨がさわさわと鳴りやまない。
アサピーは、何気なく手にかけた引き戸を開ける。
…8畳ほどの和室に壁はなく、四方全てに襖。
(-@∀@)つ| 「なるほど、こういうことですか」
部屋の襖の奥にはまた部屋がある、その襖を開ければまた部屋が…
そうして侵入者の動きを都度止める役目が備わっている。
( ^ω^)「…これ、見取り図にはなんて描かれてるんだお?」
(-@∀@) 「真っ白です。
所々に線が引かれてるのが廊下だとして、それ以外はこんな和室がひたすら続くってこと…てしょうねえ」
( ^ω^)「お…」
(-@∀@) 「…ひとまずここを真っ直ぐ開けて行って、廊下か向こう側にぶつかるまでの部屋数だけ書いておきましょうか。
目安にはなる」
二人はそのまま部屋の中に入っていった。
後に通る奉公人が、開けっ放しになっていた引き戸を閉めて立ち去っていく…。
まるで網にかかったネズミを確認するかのように。
(-@∀@) 「…シナーはどこいったんでしょうねえ」
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( `ハ´) 「俺はどこにいるアルか」
バルケンが立ち去った先を追いかけるように追跡したはずだった。
いつの間にか見失い、自身もやがて屋形内をさ迷っている。
あの客間に通される前、
彼は外からも屋形の規模や外壁の隙、
屋根作りに至るまで確認していた。
抜け目なく、そして私腹を肥やすに悪名高いバルケン。
…試しに名乗った偽名はすんなり看破されていた事も想定内だ。
だが。
( `ハ´) 「もう屋形の端から端まで歩いているのに ーー」
ーー たどり着けない。
理論上、まっすぐ進めばいずれは外廊下に抜け出るはずなのだ。
( `ハ´) 「早まったアルね〜」
落ち着いた様子で彼は独りごちる。
何か仕掛けがあってのこの状況、バルケンは何か対策を持って屋形に住んでいるのは間違いない。
さもなくばバルケンも同じく、さ迷うはずだ。
彼は四隅のうち一つの柱に手をかざしながら、正面の襖を開け進んだ。
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(;^ω^)「護衛を頼んでこの現状の意味がわからないお…」
ブーン達も場所を違え、シナーと同じ状況に置かれている。
部屋を開けども部屋、部屋、部屋 ーー
彼の経験からもどういう仕組みかが読み取れない。
(-@∀@) 「よもや護衛を頼んでおいて、私達が屋形をうろつくのは気に食わないとでも?
それにしては何も言われませんでしたがね…」
( ^ω^)「だおね。
それに僕達がすでに何らかの魔法にかかってるという事でも無いし」
たとえば。
光の魔導力を基とした【コンフュ】と呼ばれる混乱魔法がある。
対象の三半規管から脳に入り込み、その処理能力を一部失効させる。
失効した部分に差し込んだ幻影を見せることでちぐはぐな "混乱" を生み出す。
これなら真っ直ぐ進んだつもりで、
グルグルと同じ場所をさ迷うような主観的迷路を作り出すことはできる。
…しかしその性質上、魔法にかかってしまうと平衡感覚を失うという症状も必ず併発する。
ブーンもアサピーも、そのような状態では決して無い。
ならば ーー
( ^ω^)「逆に…見取り図の方に意図はなくて、この屋形全体で今まさに何かが起きている、とか?」
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それはつまり、バルケンが屋形ごと外部から襲われているという可能性の話。
(-@∀@) 「私達は今日雇われたのですよ?
そんなタイミングよく事件が起こるなんてあり得ますかね?」
( ^ω^)「人は新しい事を始めるときが一番隙があるんだお。
"草" が今日の事をあらかじめ知っていればこのタイミングだし、容疑者も三人増える」
(-@∀@) 「…まあ確かに。
私達は来たばかりなのにむざむざと疑われる様なことは一切しません!などという話を、あの御老公が信じるとも思えませんね」
頷きあい、考える。
この無限ループのような迷宮を脱け出して初めて、次の行動へ移ることに意味がある。
( ^ω^)「判断材料が足りなすぎるから、一旦思考を整理するお。
いま、僕達は閉じ込められている」
(-@∀@) 「故意か不慮かは不明だけれど、確実なのは私達が被害にあっていること…」
(-@∀@) 「なーんだ、単純な話でしたね」
アサピーがブーンを見やり、
( ^ω^)「おっおっ!」
ブーンがにっかりと笑った。
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アサピーは和服のようにはだけた胸元から、管筒に巻き付けた炭素鋼を取り出した。
遊ばせてある先端にはクナイのような分銅刃が黒光りしている。
(-@∀@) 「次元の発想を変えましょう。
平面がダメなら ーー 」
ブーンは腰鞘から剣を抜き、無造作に足元の畳へと、
( ^ω^)「上下に穴を開けてみるお!」
ーー 投擲、そして斬りつけた。
ブーンの斬撃範囲は剣筋に留まらず、その膂力で衝撃波が発生し、畳を真っ二つに割り飛ばす。
アサピーの炭素綱も、蛇のように鋭く天井を突き抜けた。
さらに戻す刀よろしくクナイが暴れ、広範囲に渡る破壊域を拡大発生させる。
木造の天井はガランバランと破片を撒き散らして崩れていく。
畳に守られていた床下地材も大穴を開けた。
そのどちらも闇の向こうに、本来あるはずのない内廊下を天地逆さに露出させて。
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( `ハ´) 「…なるほどなるほど。
大体解ってきたアルよ」
幾度となく誰もいない部屋を渡り続けたシナーは、ある法則性に気付き始める。
いまも彼が触っている四隅の柱…
その一部に刻まれた痕跡は、
彼が部屋を出る際に長袖に仕込んだ峨嵋刺(がびし)と呼ばれる、
両端が尖った30センチほどの鉄串による削りキズ。
彼は通ってきた全ての部屋で、全て異なる線を画いてきた。
( `ハ´) 「図にして縦7部屋、横7部屋の正方形にも関わらず、全体像からは明らかに尺が足りてない…
8部屋目から先に進むことが出来ていないアルね」
指先で虚空に絵を描く。
現在地も把握した今、現状を打破する術も己の手札にあることで自然に笑みがこぼれていく。
( `ハ´) 「さっさと仕事を終わらせてしまうアル」
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繰り返される無限回廊は所詮、時間稼ぎにしかならない。
現在まで他の被害が無いことから、
完成された悪意の罠とは異なる状況…
煮え切らないシナーは首を傾げる。
邪魔ならさっさと別の罠にかけて殺してしまえばいいのに。
そう思いながら、彼は自身が導きだした7×7…
その最北東に位置する部屋で詠唱を始めた。
( `ハ´) 「鬼門、そして結果として裏鬼門の柱を繋げたのは失策だったアルねえ」
屋形…建物を形成しているのは "柱" 。
そしてシナーの見立てではこの空間に干渉しているのもやはり "柱" である。
北東の鬼門、南西の裏鬼門 ーー
繰り返される歪空間は、
つまり表裏一体、同一を現していた。
柱に峨嵋刺を突き刺し、
小さな風穴を開け、
"屋形に掛けられているであろう魔導力を解除" する。
( `ハ´) 「【デスペル】!」
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イ从;> ー<ノi、 「きゃああ〜〜!(^ω^;)「いたたっ。ごめんお!」
開けた大穴へと飛び込んだ先は廊下ではなく、またどこかの部屋に通じていたらしい。
着地の際に女性を巻き込んでしまった。
(;^ω^)「ちがうお!
変なことするつもりじゃないんだお!
不可抗力とはいえ、ごめんだお…」
イ从;゚ ー゚ノi、 「い、いえ〜そちらこそお怪我はありませんでしたか?」
先に立ち上がり、剣を鞘に納めて「どうぞ」と手を差しのべる。
…それはよく見ればあの時バルケンにお茶を毒味させられた下女。
イ从;゚ ー゚ノi、 「ありがとうございます…
あのー…いまどうやってここへ?」
もじもじしながら下女が問う。
ーー ブーンが頭上を見上げると、そこはなんの変鉄もない天井だった。
彼が飛び降りた穴はない。
下女からすれば突然空から降ってきたのだ。
言い淀みながらも適当に答えつつ、下女の向こうに小さく蠢く何かを見つけた。
だがそれは陰に隠れてうまく見えず…
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イ从;゚ ー゚ノi、 「………」
平静を装う下女の顔には、見られたくない何か…
それを黙っていなければいけないという後ろめたさが張り付いている気がした。
ブーンはそちらを気にしていないような ーー だが実際は注意を払いながら、辺りを見渡す。
自分の背後に出入り口が一つ、
部屋のなかは、一角を除いて統一感のない日常雑貨がある程度整理された状態で積み上げられている。
屋形の奥部に設置されたことを示すかのように窓はなく、
和風家屋にあるような風通しの良さは感じられないが、
不思議と息苦しさや暑苦しさも感じられない。
問題は…音だ。
何かを食むような低い音が、
籠り止まず、カリュカリュと聴こえるのだ。
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( ^ω^)「すぐに出ていくけど…
なんの音だお?」
下女はビクリと跳ねるように驚き、そして恐る恐る首を振る。
「なんでも、ありません」
…そう答えるので精一杯のようだった。
( ^ω^)「そうかお…すまなかったね」
ブーンがそう言って部屋を出ていく瞬間、足元に何かがぶつかった。
そのまま擦り付くように蠢く物体。
(∪^ω^)「わんわんおー」
( ^ω^)「……」
イ从;゚ ー゚ノi、 「ぁあ! だめだってば!」
慌てて下女が駆け寄った。
さきほど音がしていた所を見ると、
深い器の中に骨肉がこまかく刻まれている。
( ^ω^)「君のペットかお?」
イ从;゚ ー゚ノi、 「あの…そのー…」
犬猫を室内で飼うような風習はどこでも見たことはない。
隠れて世話をしているのか…
下女は答えにくいようではっきりと話してはくれない。
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とはいえ、自分には当然関係のない事だ。
ブーンは彼女の心配を否定しながらバルケンの私室、その場所だけを聞いた。
下女に別れを告げ、子犬が出ないよう押さえ付けてる隙に部屋を出る。
廊下が左右に伸びているがそれほど警戒する必要も無さそうだ。
あの下女の様子から屋形に対する危機感は察せない。
いくらなんでもバルケンの身になにかあるような事態になれば奉公人として失格…
まだ老公の元には異変は起こっていないのかもしれない。
( ^ω^)「やっぱり試されてるだけなのかお」
己を守れるに値するかどうか?
あの老公ならそのために多少手の込んだ事でもやる気がする。
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その後も数人、他の奉公人達とすれ違う。
誰もが日常的な会釈をブーンに向けてくれる。
バルケンとの面会からはまだそれほど時間が経っていないが、
誰一人訝しがらないところからすでに護衛の件が伝わっているようだ。
時々、外から漏れ聴こえる雨の音。
そうして辿り着くバルケンの私室は、
これまでのように引き戸ではなく、
薄暗い暗幕が二重三重と垂れ下がり、
充分過ぎるほどその入り口を床まで覆い隠している。
( ^ω^)「…おっと」
そのまま暗幕を除けて入りそうになるところを、一歩下がり膝をつく。
慣れない礼儀作法に加えて、これが正解かどうかも分からないが、
そもそもたいした手間でもない。
( ^ω^)「ご老公、よろしいかお?」
前方に向け、自慢のよく通る声を発する。
彼の声は元気よく、そして感情をよく伝えた。
もしさっきまでの無限回廊がなんらかの試練であれば、それを越えた自信を ーー
もし試練ではなく異変なのであれば、それを伝えに来た忠誠を ーー
そしてバルケン公、貴方の身は私が守りましょう、という信用を ーー
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…しかし、なかなか反応がない。
常に付き添っているという剣士が出てきても良いはずだ。
まさか、と思い立ち上がると同時に、
後ろからシナーとアサピーが追い付いた。
( `ハ´) 「結局みんな合流したアルね」
(-@∀@) 「ここが御老公の部屋ですか」
( ^ω^)「だお。
声をかけたけど…様子が変だから勝手に入らせてもらうところだったお」
なるほどその前に…と、
さっきは炭素鋼をしまっていた胸元から
複数冊の帳面をアサピーが取り出す。
(-@∀@)
_つ◇ 「シナーさんにもさきほどお話し済みですが、これはあの御老公が隠していた過去の商売に関わる記録…」
(-@∀@)
_つ◇ 「つまりは帳簿ってやつです」
ブーンとは別の穴に飛び込んだ彼が見つけたのは、バルケンの金銭、物品の出納を記したノート。
…そんな物を持ち出す必要があるとすれば
(-@∀@) 「ご丁寧に、書かなくても良い事まで記録してしまって…
ははは、文字通り几帳面な方ですねえ」
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"草" ーー スパイの存在をバルケンは心配して護衛を雇った。
しかし、つまりは目の前の男がそれなのだ。
この短時間で彼は目的を達成した。
…あの老公はわざわざ護衛を集うつもりで、自らスパイを屋形内に引き入れてしまった事になる。
事前の調査もまるで役に立てず。
(-@∀@) 「さてさて、私は自分の役目も終えましたので。
あとはじっくり結末を観させて頂きますよ」
アサピーは帳面を胸元に戻し、壁を背にするまで後ろに下がった。
入れ替わりにシナーが前にズイッと進む。
( `ハ´) 「俺の目的はバルケンに仇なすものを守る事」
( ^ω^)「!?」
緊張が走る…が、それにしては殺気もなく、
アサピーやブーンに対しても行動していない。
^Ъ( `ハ´) 「だが奴はもう終わりだ。
そもそも一週間後の支払いさえ怪しいものだったアル」
その親指が指すのはアサピーの胸元。
つまりは帳簿を見て、
彼もバルケンの懐事情や、本当に重要視している部分に気付いてしまったという事か。
-
そこまで知ることができる帳面がどんなものか個人的にも気になるが…
とにかく二人はそれぞれの目的を果たすべく屋形に潜り込んだ。
そしてそれを今ブーンに話した。
こちらを見る二人の目は同じ意味を持っている。
『お前の目的はなんだ?』
ブーンの話に辻褄が合わない場合、
ーー それはつまり
"本当にバルケンの護衛" が目的なら
ここでお前を始末する。
…そういう想いが込められているのかもしれない。
( ^ω^)「ブーンは…盗まれた物を取り返しにきただけだお」
ナオルに聞いた特徴を添えて二人に問うた。
拍子抜けしたような顔で互いに目を合わせ、そして首を振る。
( `ハ´) 「…お前は変な奴アル」
たしかに…わざわざ子供の話を真面目に聞いて、その為だけに悪名ある屋形へ来るような者は滅多に居ない。
( ^ω^)「でもそれが生き甲斐なんだお」
-
ささやかな願いくらい、ささやかなままで叶ってもいいと思う。
ナオルはもう悔しさを味わったのだ。
なんにでも困難が待ち受けているような人生である必要なんて無い。
(-@∀@) 「でもそんな人がもっと世の中に居たら、満更でもないでしょうねえ」
アサピーの言葉は、ブーンを信用するものとして伝わってきた。
( `ハ´) 「俺は絶対そんな真似はしないアルよ」
そう言うシナーも、どこか呆れたように笑っていた。
三人は正面で飽きるほど垂れる暗幕を斬り払い、老公の私室に足を踏み入れる。
(-@∀@)( `ハ´)( ^ω^)
「御免!」「邪魔するアル」「失礼するお」
-
(; ,'3 ) 「たわばばばっ!?!」
腰を抜かして後ずさる老人の姿。
そこには今朝までふんぞり返り、下女に毒味させたような老獪さは微塵もない。
( ^ω^)「?」
…なぜこんなにも驚くのか?
暗幕を刻みはしたが、三人はただ入室しただけなのに。
(; ,'3 ) 「わかった! ワシの敗けじゃ!
いやあさすが!」
狼狽する声は確かにバルケンだ。
間違いない。
(-@∀@) 「御老公。
たった一日ではたいした用意もできませんでしたか?
それとも…あれが貴方の命にかけることができる充分な等価だったという事でしょうか」
バサリ、と帳簿を投げ落とす。
覇気を失った老いぼれはそれとアサピーの顔を何度も見やり、さらに後ずさる。
( ^ω^)「ご老公、人々から奪ったものはすべて返してもらうお。
どこにあるんだお?」
ブーンはぼやかして問い詰めた。
後に少しでも報復の可能性があるならば、あの村と繋がりがあることを知られてはならない。
-
(; ,'3 ) 「う、奪ったじゃと!?」
(-@∀@) 「心当たりがありすぎますよねえ?
まとめてどこかに置いてるでしょう?
その場所をまず言ってください」
シナーを連れてアサピーが詰め寄った。
イ从゚ ー゚ノi、 「バルケン様!?」
( `ハ´) 「まて、今それ以上は近付くな」
騒ぎを聞き付けたのか下女が数人…
部屋に入ろうとするもシナーの一言に阻まれその場に留まる。
混乱されてはまずいと思い、ブーンは奉公人達の近くへと位置を変えた。
(-@∀@) 「さあ、早く」
その後も彼の問い掛けには特に怯えるように、バルケンはペラペラと喋る。
アサピーは帳面を拾い上げ、品目別にページをめくりながらそれを書き込んで行く。
ーー バルケンの目の前で無防備に。
-
(# ,'3 ) 「けえっ!」
その時、
バルケンは歳に見合わぬ手つきで
腰元から抜いた小銃をアサピーに発砲した。
軽い音が室内に響き…
(-@∀@)Φ 「…」
(-@∀@)Φ" 「さ、次の場所は?」
何事もなくその出来事は終わりを告げた。
( `ハ´) 「ジジイ、お前は後で望まれない死に方をしなくちゃいけないな」
前に出ていたシナーが手のひらで弾をはじき、もう片方の手をバルケンの首に突き出していた。
ーー その顔も、猛獣が同じ檻に閉じ込められた獲物を威嚇するかの如く間近に迫って。
当然その両手は徒手空拳ではない。
彼の袖口からは暗鬼・峨嵋刺の刃が姿を現している。
幅の広くない峨嵋刺で弾を防ぐなど、
達人技だ。
-
数分後 ーー
洗いざらい吐き出したバルケンを尻目に、アサピーが帳面への記入を終えた。
(-@∀@)
つΙ⊂ 「…はい、ありがとうございました。
実際の捜査は奉公人達にも手伝ってもらうことにしましょう」
(; ,'3 ) 「ハァッ ハアッ ハァッ」
呼吸を荒げるバルケンの顔からみるみる血の気が引いていく。
この後の己の末路を想像しているのかもしれない。
( ^ω^)「一体どういうことだお?」
(-@∀@) 「遊戯です。
実は御老公には予め伝えてありましてね…
一週間以内に公が用意したトラップをクリアできればこちらの勝ちだと」
だがバルケンの用意したトラップは唯一あの無限回廊のみ。
付き人たる剣士も置かず、彼は悠々と屋形奥部で生活するつもりだった。
たった一日で、三人ともが辿り着く未来など、バルケンの頭のなかには存在していなかったのだ。
-
ブーンとアサピーが力業で突破を試みた時と同じ瞬間、
シナーが無限回廊の罠を解除したことで、屋形は正常な状態に戻った。
ブーンが着地した時、
見えていた景色と違う部屋だったのも
穴が塞がっていたのもそれが原因だったのだ。
愚かにも、無限回廊の解除を察知したバルケンは、
逃げもせずただひたすら震えて待っていた…という事になる。
( ^ω^)「彼をどうするんだお?」
愚問かもしれない。
しかし、出来ればむやみな殺生は見たくない…
とはいえこれはバルケンの問題であり、
彼が真に許されざる者であればいつかは断罪される運命なのだ。
…猶予があるなら、彼は生き延びることができる。
(-@∀@) 「私はもうなにもしませんよ」
カラッとした調子でアサピーは答えた。
先ほど銃を向けられた事など意に介していないように。
(-@∀@) 「もう御老公に出来ることはありません。
これから私は彼の肥やした財産を近隣住人の方へお返ししなければ」
(; ,'3 ) 「そ、そんな!
あと数年、いや、十年もしてワシが死ねば財産は息子のお主にそのまま ーー 」
(-@∀@) 「命乞いですか?
それとも…私がそんな物を欲しがるとでも思っているなら、本当に救いようがありませんねえ」
-
狼狽したバルケンは、何にでもすがるように手当たり次第に命を乞い、逃れようとした
(; ,'3 ) 「シナー! お主はワシの護衛のためにここに来たんじゃろう!
なあ!? 早く助けろ!」
( `ハ´) 「俺の役目はバルケンを護衛する事だが、お前の事じゃないアル。
…ここにいる、朝日・バルケンの護衛が仕事アルよ」
ーー 否定される。
そもそも成り立っていない信頼関係に頼ることなど甘いのだ。
下手に出ることも出来ないバルケンは、早々にシナーの説得を諦める。
-
(; ,'3 ) 「ブーン! ならお前じゃ!
見逃してくれんか、奪ったものは全て返すんじゃから元通りになるじゃろう!」
( ^ω^)「…」
(; ,'3 ) 「ブーン!!」
( ^ω^)「人が何かを奪われる時、
いまそうやって貴方が感じているように、
皆苦しい思いをしてたはずだお」
( ^ω^)「返したから、
はい、元通りになんて…ならないんだお」
(; ,'3 ) 「違う! ワシは! ワシの!!」
ーー この言葉はバルケンに届くだろうか。
-
(; ,'3 ) 「お前達! 奉公のためにここにいるんじゃろ!?
ワシが居たから今の暮らしがあるということを、わかっておるのか!」
イ从゚ ー゚ノi、 「……」
「……」
「…」
(; ,'3 ) 「なんで黙っとる!」
( ^ω^)「…」
ーー もうバルケンには、届かなかった。
(# ,'3 ) 「この役立たずどもめがあっ!
見ておれ、後で覚えておれよ!!」
ーー 彼は最後まで、自分以外の価値を見出だすことは出来なかった。
イ从゚ ー゚ノi、 「…バルケン様」
(; ,'3 ) 「おお、きつね!
お前はワシの味方じゃろう!」
イ从゚ ー゚ノi、 「……死ぬのも良い事ですよ?」
(; ,'3 ) 「は ーー !?」
-
そう言い放つと、
きつね、と呼ばれた下女は
イ从 ー ノi、
つ< グッ
自分の着物を乱暴に鷲掴み、
ーー 宙へ投げ棄てる。
.
-
(;; ,'3 ) 「ーー おっ、 おま」
共に舞ったかつらに隠されていた、
燃えるように赤い髪。
ノパ⊿゚) σ
「数々の非道と無礼、その言動!」
着物の下に隠された赤装束は、忍の証。
ノパ⊿゚) σ
「奉公人に毒味すらさせるその冷徹さ!
己を省みずに浅ましく命を乞う姿!
もはや誰も貴様を赦すことはできないぞ!」
ーー 聞いたことがある。
里の "秘宝" によって毒を無効化してしまう、
特異な赤い忍が存在する事を。
目立ってなお、任務を確実に遂行できる上忍のみが纏う証。
ノパ⊿゚) 「成敗ィイーーーーッッ!!」
「竜!」
叫ぶ声がその耳に届くよりも早く、
"きつね" の腕から手甲鉤が捻り飛び
(^ω^;)「!?」
瞬く間、ブーンすら動けぬスピードでその脇をすり抜け、
バルケンの腹部を貫いていた。
-
所詮は老いぼれ。
容易く後方に吹き飛んだバルケンの身体は、
しかしそのまま壁にぶつからず、不自然に上昇する。
「きゃああー!」
( `ハ´) 「お前達はそれ以上見る必要は無いアル」
シナーが奉公人達を部屋から追い出していたその背後で…
‖
( , 3 ) 「 ーー 」
首吊り死体と化した、
"かつてバルケンだった" 肉塊が天井に吊るされている。
…その現象を起こしているのは、
灯りに照らされる一筋の炭素鋼。
(-@∀@) 「さようなら、御老公…
いえ、御父上」
彼は自身もその責任を負うべく
結局、その手を下したのだった。
-
----------
('(゚∀゚∩ 「おかえり!」
( ^ω^)「ただいまだお」
バルケン死亡の報は伝えないように、とのアサピーの提案で、数日後ブーンは静かに村へと戻った。
彼はあのままバルケンとして、付近地域を治めていくのだという。
「思ったより早かったじゃないか」
( ^ω^)「おっおっ」
('(゚∀゚∩ 「ねえ、ぼくの宝物あった?」
その数日間で屋形内の物品整理を手伝った。
ナオルの言う、まっ白くてまん丸いものは一つしか見つけられなかったが、
きっとこれのことだったのだ。
( ^ω^)「見つけられたと思うお。
間違ってたらごめんだけど…」
ブーンの足元から姿を見せる "たからもの" 。
-
(∪^ω^)「わんわんおー」
('(゚∀゚∩ 「わんわんー!」
ナオルの姿を見るなり、子犬は駆けて飛び付いた。
じゃれついて嬉しそうな少年の表情に安堵する。
彼にとって、村の貧困よりも子犬の方が何より大事で価値のある者。
アサピーいわく、
この子犬は大陸で産まれた品種ではない…
そこにバルケンが目をつけたのではないか、という事だ。
同じ存在。
一方は心の拠り所を見つけ何者にも代えがたく、
もう一方は金銭としてしか見ることが出来なかった。
('(゚∀゚∩ 「ありがとね!」
( ^ω^)「ブーンはなにもしてないようなものだったけど、とにかく良かったお」
ナオルとのそんなやりとりの向こうで、集会所に走り寄る村人の声が聴こえてくる…
「お〜〜い、みんな!
バルケンの奴から、謝罪文と一緒に全員宛に金が届いたらしいぞ!」
「はあ!? あのジジイなにかたくらんでんじゃねーか」
「俺たちも、とにかくいってみようぜ!」
.
-
村人がバルケン ーー
の名前で送られた、アサピーからの荷包みに騒ぎ立てているうちに、
「雨宿りさせてもらえて助かったお」
と、ナオルに伝えてその場を後にした。
この数日のうちに雨は止み、
久し振りに晴れ間の下を歩く事ができそうだ。
この土地まわり特有の薄紅の花、
"サクラ" に見送られるように村の門をくぐると、見覚えのある姿が腕を組んで仁王立ちしている。
( ^ω^)「お…もう体調は良いのかお?」
-
ξ゚⊿゚)ξ「またなにかやってたでしょ」
( ^ω^)「いやいやそれほどでも」
ブーンが歩を進めると、添うようにツンも並んで歩き出す。
ξ゚⊿゚)ξ「なーんてね。
…赤い忍者の人、いた?」
Σ (^ω^;)「あれ、ツンが関係してたのかお!?」
ξ゚⊿゚)ξ「私が雨宿りしてた村からも依頼されてたってね…
他の村でもバルケン公には不満があがってたみたいだから」
ξ゚ー゚)ξ「…アンタもきっとそれに一枚咬むだろうと思って」
…バルケンは誰にも好かれていなかった。
たとえ彼なりの思惑が何かしらあったとしても…
他人と価値を共有できなかったあの老人は、
最後は息子の手によってその生を閉じた。
-
「失礼します、お二方」
赤いつむじ風が…
ツンの髪を揺らし、
ブーンの頬を撫でた。
ノパ⊿゚) 「お世話になりましたので、一言…。
まさかあの子犬の件でおいでになられていたとは」
"きつね" の名で、奉公人として潜入していたあの赤い忍が颯爽と姿を見せる。
彼女はヒートと名乗り、
ブーンより一足先にバルケンの屋形から去ったはずだった。
( ^ω^)「ヒートこそ見事な変装だったお。
正直、全然普通の人だと思ってたから…」
ノパ⊿゚) 「潜入するためにはもちろん、
成り済ますのではなく "成ってしまえば" 、いくら長い期間も皆を眩ます事はできますから」
ヒートは事も無げにそう言う。
だが、長い時を生きるブーンの目を変装で眩ましたのは彼女が初めてだ。
…あれほどの能力を持ちながらそれを感じさせない、静と動の極みの一つ。
ξ゚⊿゚)ξ「話には聞いてたけど凄いのね」
ξ゚⊿゚)ξ「…でも忍ってもっとこう、
コソコソしてるというか…
こんな風に自分から話になんて来ないってイメージだったわ」
ノパ⊿゚) 「以前はそうでした。
でも今は違います。
悪事を働かなければ堂々として然るべきだと私は思っているので」
そう話す彼女の顔は、
どこか読みきれない自信に溢れている。
-
…なんだか似ている。
ブーンはそう思う。
彼女達は一見変わらない表情の中に、数えきれない色んな想いを秘めている。
ツンとヒート、
顔つきまで似る二人はまるで生き別れた姉妹のようだ。
ノパ⊿゚) 「では、これにて」
( ^ω^)「あっ」
ーー 再びつむじ風が巻き起こると、ヒートの姿はもうなくなっていた。
( ^ω^)「……」
ξ゚⊿゚)ξ「…あの人、ひょっとして今の忍達の頭領なんじゃないかしら」
( ^ω^)「mjd?」
ツンは自分の手首を示すように掲げて、
トントンッと指差した。
ξ゚⊿゚)ξ「古い数珠を付けてたわ。
憶えてる?
ずっと昔、忍になるんだーって言ってた子の事…」
言われてやっと、
彼の脳裏におぼろげに浮かんでくるのは飄々とした女の子。
ξ゚⊿゚)ξ「ま、もしかしたら…だけどね」
.
-
山を降りながら、
木々から露を垂らす雫にぬかるんだ坂道をゆっくり降った。
ブーンが先に降り、
手を差しのべてツンが後に続く。
言葉はない。
ーー さあどうぞ。 ーー ありがとう。
その言葉は二人の心のなかで共有されているのが分かるから。
人に言葉は必要だと思う。
長く連れ添っても、
感謝の気持ちや謝罪の心は口に出した方が絶対に良い。
…だからこれは
千年も一緒にいる二人だけの特権。
-
ξ゚⊿゚)ξσ 「…そういえば。
あれと、あそこと、それとあの上のも」
ツンが次々に指差す先には、色とりどりの花が咲いている。
白、紫、赤、黄 ーー
どれも、全て別々の品種だという。
ξ゚⊿゚)ξ「バルケンさん…だっけ。
あの人のお金の使い道って、この自然を守るためだって話もあったわ」
ーー だがそれを、
村人は誰一人気付いてなかったのではないか?
( ^ω^)「ふーん…」
村に咲く、あのサクラもそうなのだろう。
バルケンはどんな想いでこの自然にお金をつぎ込んでいたのか。
-
( ^ω^)「綺麗だおね」
ξ゚⊿゚)ξ「綺麗よね」
向いた方角が違っただけなのかもしれない。
それでも…もし老公がほんの少しでも、
価値を共有できる人を作っていたなら ーー
いや、止めておこう…
ブーンはかぶりをふって、また山道を降り始めた。
…自分も、彼と言葉を通じあわせる事が出来なかったのだから同罪だ。
山に咲いた花に見送られて、
二人はいつも同じ想いで道を歩んでいく。
(了)
-
本日の投下を終わります
ありがとうございました
個人的に実験要素を多く含んだので、
妙に感じるところがありましたら
気軽に仰って頂きたいと思っています
現在までのお話
( ^ω^):矛盾の命
>>1
( ´∀`):繋がれた自由
>>17
( ´∀`):遺していたもの
>>48
( ^ω^):老女の願い
>>101
ミ,,゚Д゚彡 :帰ってきてね
>>139
( ^ω^):ふたごじま
>>237
('A`) :死して屍拾うもの
>>297
( ^ω^):初めてのデザート
>>377
ミ,,゚Д゚彡 :時の放浪者
>>423
( ^ω^):その価値を決めるのはあなた
>>549
こちらに書いて良いのか迷ってしまい遅くなりましたが、
ブンツンドーさんにもまとめて頂き、
以来凄く嬉しい気持ちでやらせて頂いてます
重ねてありがとうございます
-
ひとそれぞれ
-
乙乙ー!!
キャラが立ってていいな
-
おつ
ヒートがあの後も上手くやっているようで何より
-
乙。
本当に( ^ω^)は閑話休題みたいなもんなのか?
でも最初にツンが病気になってるし伏線らしき単語も出てるからなんかしらあるんだろうが
-
読んで頂けていつもありがとうございます
>>602
表題はほんとそのままですw
その言葉って日常で使うと賛否別れると思うのですが、その賛否理由が裏テーマみたいなものでした
バルケンの対策も結果彼らからすればあまりに拍子抜けだったりといいますか…
>>603
(-@∀@)と( `ハ´)は当初、助さん角さんイメージのつもりが…最後は必殺仕事人もどきに
>>604-605
ノパ⊿゚)はあれから10年経ちましたので表面上は大人っぽくなってます
( ^ω^)も閑話休題というよりは他キャラ達とは別の流れというか…
サガフロ2でいえばギュス編とウィル編のようなニュアンスが一番近いかも知れません
-
つまりジニーは可愛いってこと?
-
>>607
ジニー可愛いですよね
なんででしょう、愛され方なのかな?
個人的にはギュスターヴの生き方に前向きさを感じられて好きです
なぜかトリが消えてたけれど、>>606のレスも>>1本人です
-
次回の投下は来週の水曜30日、21時頃から行わせて頂きます
その後は百物語に参加してみようと考えているので、少しそちらに時間を割いてみるつもりです
皆さん一人につきいくつくらい作るものなのでしょうね
以前はまとめで読んでいた身なので楽しみです
-
面白いね乙
つーかタイトルで損してると思われ
しばらく避けてたww
-
( ^ω^)千年の夢のようです
- 人形達のパレード -
-
その記憶は産まれた時から刻まれていた。
ーー 身を焦がす熱と気管を埋め尽くす煙が、呼吸する事を赦さない。
ーー 繋がれた手足と見開かれた瞳が、目の前で行われる蛮行と殺戮を止めさせる事を赦さない。
ーー 切り取られた耳で、女子供の絶命の叫び声を聴き漏らす事を赦さない。
ーー 貫かれた心臓がその後も何度となく刃を受け止める為に、死ぬことを赦さない。
…一族の記憶はドロリとした黒い血液となり、
歴史という肉から一滴残らず絞り出され、この身の糧となり…
初めてあけた視界はすでに赤く染まっていた。
朝も、夜も、空気が赤い。
動くものも動かないものも、
黒く染まった物体として判別できたのが救いだった。
そして眼を閉じた時だけは、安息の世界に浸る事が出来る。
……だから私は空の青色を知りません。
.
-
:おい、真面目にやってんのか?:
叱咤するような声が実験場に響く。
その声はブクブクと音が濁り、聴き取りづらい。
( <●><●>) 「……ええ、魔法自体はこれでも機能しています」
('A`) :だったらどうして俺の身体には変化が表れない?:
垂れ目の男が後頭部で手を組み、つまらなそうに床に寝そべっている。
この実験場には椅子もベッドも無い。
暇を潰すための本や玩具も無い。
( <●><●>) 「……不死者と常人の身体構造そのものには差がない事はわかってます。
既存の魔法は、空気中に浮かぶ魔導力や抽出物から集約する魔導エネルギーを利用して発動しますが…」
('A`) :あーそういう話はパスするわ。
どのみち身も心もきいてないんだしな:
( <●><●>) 「……身勝手な事ばかり言う」
実験場に置いてあるのは
ドーム型の魔導力集束装置と、
長さの異なる7本の筒の指向兼波長性放出装置のみ。
元は場内に灯りすら設置していなかったが、
垂れ目ーー "ポイズン" と名乗った ーー 男を迎えた際に勝手に持ち込まれた。
今は魔導装置付近にうっすらと足元を照らすカンテラが置かれている。
-
数年前、大陸のとある辺境の集落で一つの事件が "起こされた" 。
河の下流に定住していたその集落の人々は真面目で…そして極めて愚鈍でもあった。
自分達の暮らしが楽にならずとも、
代々領主のために畑を耕し年貢を納め、
二月毎に別途税金を支払って尚
「今年も領主様のお陰で無事に暮らしてこられました」
と頭を垂れる習わしを心から疑わなかった。
あるとき…
納税期を過ぎてもしかるべき税の支払いが行われない事に首をかしげた領主は、
わずか20の兵士に命を下し集落へと向かわせたという。
税の滞りに腹を立てたわけではない。
多くの民を見下してはいても、その集落に限っては一定の信用を置いていた。
ーー 何かあったのだろうか?
そう心配しての出兵は、
数日後、誰一人として帰城しないという結果を招いてしまった。
-
集落までの距離はそう離れていない。
事情があり、帰城が遅れているのであれば伝令だけ戻れば良い。
領主は次に50の兵士を向かわせた。
数日後、今度は100の兵士を向かわせた。
…しかし、やはり誰一人として戻らない。
得体の知れない状況に領主はそれ以上、
集落への一切の関与を停止しようと通達を出し、兵士達の不安をひとまず抑えた。
その一方で、領主は秘密裏に抱えていた忍びを向かわせる。
一番怖いのは正体の掴めない何かによって万が一の反乱を起こされる事だからだ。
…この場合は反乱による被害ではなく、
反乱を起こされたという事実を作らないためだが。
果たして予想に反し、忍びはすぐに戻ってきた。
ただ一言
『すべては燃え尽きて何もかも無くなっていた』
という報告を携えて。
.
-
('A`) :いまはなんの魔法だって?:
( <●><●>) 「……名前はまだありませんが、体内で微生物を異常活性させて故意に熱病を引き起こすものです。
【ウィルス】とでも名付けましょうか」
('A`) :うへえ、きもちわり:
いちいちからまるブクブク声が癇に障った。
…だが、それは "ポイズン" の責任ではない。
常に瞳孔を開く男 ーー 実験場の持ち主であるワカッテマスの身を司る怨念が、
およそ正常な身体機能を持ち合わせていないせいだ。
彼はあらゆる音声が歪に聴こえてしまう。
( <●><●>) 「……少し魔導力の波長…スカラー調整してみましょう。
それからまたどこかへばら蒔いてみて、常人と貴方の反応を比べることにします」
('A`) :ふひひ…あの時の集落のようにか?:
( <●><●>) 「……都合のいい実験場はこの大陸中のどこにでもありますから」
ワカッテマスが7本の魔導装置に手をかざすと、それまで光っていた2本の筒から力が失われていく。
実験場内に発動していた【ウィルス】がその効力を完全に無くした事を解ったかのように、
"ポイズン" がタイミングよく身を起こす。
-
('A`) :面白そうだったからお前の実験に付き合ってやってるんだ。
あまりに役に立たないなら死んでもらうからな:
ブクブク、と "ポイズン" は笑う。
言葉はまだしも、笑い声というものはもはや気泡が弾ける音にしか聴こえない。
嫌いではないが、相手の意思を感じることができないという点で、ワカッテマスはその音が好きではない。
( <●><●>) 「……殺せるといいですね」
無表情に笑って答えてみた。
出口の扉を開ける "ポイズン" の表情は読み取れない…
が、きっと彼も笑っているだろう。
(A` ) :【ウィルス】を試すときは呼んでくれ。
あの野郎も巻き添えにしてみたいから:
( <●><●>) 「……百獣ですか。
貴方の毒にも抵抗するという」
:そろそろ馴れ合いにも飽きたからな〜:
開き、そしてすぐに閉められた扉は別れの言葉を遮断し、他の音をたてることなく役目を果たした。
入退室を繰り返すたび、いつも同じ調子でガボゴボと主張されるのが面倒だと思い、
ワカッテマスが消音クッションを取り付けたのだ。
内部から鍵をかけ、一呼吸。
( <●><●>) 「……さて、静かになったことですし」
扉とは反対方向へ静かに歩き、 "ポイズン" が置いていったカンテラの灯りを消した。
実験場が闇に包まれる。
ワカッテマスの瞳には赤い世界が広がり、
場内には何がどう設置されているのか、さっきまでと同じ様に見渡す事が出来た。
そう、この眼に光は必要ない。
-
闇の中、蠢くワカッテマスは場内に設置したもう一つの装置を起動させる。
一拍おいて、床から腹部の高さまで競り上がってくる小さな台座…
その天板に写される音のない光を、彼はじっと眺めていた。
それはある村に仕掛けた魔導アクセサリが送り込んでくる映像。
( <□><□>) 「……」
ーー 苦しむ子供と、それを介抱しながら夫の帰りを待つ妻の姿。
ーー または両親とペットに見守られた小さな部屋のなかで医師に何かを告げられた後、
目をつむり、やがて永遠に目覚めない息子の姿。
切り替わる映像を眺めながらワカッテマスは呟く。
( <□><□>) 「……ムラが有りすぎます。
まだまだ実用性には欠けますね」
彼が "ポイズン" には伝えていない事実がある。
【ウィルス】はすでにばら蒔き始めており、大陸各地で熱病を流行らせている。
ただ、その効きめが軽症な者から重症、もしくは死に至るまで、規則性なくバラバラであった。
ワカッテマスは本来、魔導士の素質がない。
そしてその経験も浅い。
…だから魔法の練習は必要不可欠だった。
生まれつき彼に備わっているのは、
"人に復讐するための呪い" だけなのだから。
( <□><□>) 「……あの "ポイズン" に魔法が効くようになれば、私が望む効果を手に入れられたという証明になります」
-
----------
大陸中心部に位置する永久中立国、水の都。
過去に大陸全土を巻き込むほど大規模な戦争の歴史から学び、
未来への抑止力として造られた先進型都市。
大陸内地にありながら海の上に存在するこの都市は、
潜水技術に長けた職人による漁業、
そして航海船や潜水艦などを専門とした建設業によりその生活を支えている。
港にはホワイトボアと呼ばれる文字通り真っ白な巨大海洋戦艦が、都市のシンボルとして堂々と佇む。
比類なき近代兵器と広域監視装置を搭載して外部からの侵攻を察知、牽制する事が可能だ。
ただしこのホワイトボアが自発的に稼働したという歴史は、都市設立以降存在しない。
…にも関わらず、その脅威は大陸中に響き渡っている。
規模の大きな国家間や・領地間の争いは以降起こらないまま現在に至る。
都市内部も、水を象徴するかのようなゆるやかな気性の民族性によって穏和な日々が続いている。
統治する者が優秀だからこそとの名声高い評価。
それがこの都市の特徴だ。
-
_
( ゚∀゚) 「おかげでこうしてお茶でも飲みながら君をナンパしているのだけれど」
中央噴水を軸に、広くスペースを取られたメインストリート脇にあるカフェテリア。
そのオープンテラスでブラウンヘアの女性を口説く男がいる。
眉間にシワを寄せるように…
しかしそれがかえって引き締まった表情を作り、
バランスの良い骨格と身に纏うブランドスーツが優雅な景色とマッチしている。
注文したグラスティーを片手に、少しだけ女性へと肩を寄せるその姿はやたらと様になっていた。
世間的美意識と照らし合わせるならば、男は女性を虜にする容姿を備えているだろう。
_
( ゚∀゚)o 「あ、ほらほら見てこの新聞。
"大陸各地に発生する流行り病とその種類、その対策" だって。
怖いよねー」
邪魔にならないようテーブルに小さくたたんだ日刊紙を置いて話題をふる。
…恐らくは初対面の女性と、わざわざ語る内容ではないが、男もそれで振り向かれるとは思っていない。
_
( ゚∀゚) 「こんな都市伝説知ってる?
流行り病は大陸の東西南北でくっきり違うんだって」
-
たたまれた新聞を目の高さまで持ち上げ、もう片方の手でグラスティーを口に運ぶ。
_
( ゚∀゚)o◇
つ□~ 「この…新聞に書かれてるのは二種類だけど、その都市伝説の噂通りならもう二種類あるってことになる」
_
( ゚∀゚) 「ーー なのに、この都市の人がいまだ流行り病にかかったっていう話題は聞かれない。
まさにこの都市を中心に、病いの分布がキレイに別れすぎてるらしいよ」
…沈黙…
男が話し掛けているブラウンヘアの女性から特に反応はない。
_
(;゚∀゚) 「……」
男としては、もっとこう、
コワーイとか、
イヤーとか、 そうでなくともせめて、
ウザイからどっかいってよ、とか…
なにか反応が欲しいものだ。
_
( ゚∀゚) 「と、とにかく…それはひょっとしてこの流行り病を、
故意に流行らせてる張本人がこの都市に住んでるんじゃないかって噂さ」
ーー そこでやっと、女性に動きがあった。
男を無視し続け、メインストリートの噴水から湧き上がる水の循環に目をやっていた…その顔が。
ξ゚⊿゚)ξ「興味あるわね、そういうの」
詳しく聞かせて欲しいな、と
ジョルジュを正面に向き直った。
-
ーー 戦争の終結から55年。
焼け野原となった土地や、破壊された自然がその姿をようやく取り戻してきた時代。
人々を襲い始めたのは原因不明の流行り病だった。
地方の衛生概念の遅れによる発病や、
地域工業の発展による汚染問題なども囁かれたが、
そのいずれも当てはまらない事が一部の研究者から報告される。
ξ゚⊿゚)ξ「だから大きな街にしかまともな情報がないのね」
_
( ゚∀゚) 「人妻かあ」
ξ゚⊿゚)ξ「は?」
カフェテリアを出てメインストリートを一本外れた水路沿いを歩きながら、
ツンはジョルジュの話を反芻していた。
…当のジョルジュはナンパお断りならぬ、
「アタシ人妻だから」
の一言で上の空になっているところだ。
ξ゚⊿゚)ξ「ブーンと二手に別れて正解だったわね。
ここと、西の街にしかその研究者はいないんでしょ?」
_
( ゚∀゚) 「萌えるな」
ξ#゚⊿゚)ξ「…聞いてんの?」
ツンとその夫 ーー ブーン。
二人も、とある村の流行り病によって出た被害を目の当たりにして、やはり異常性を感じていた。
…というよりも、ツン達の目の前で人体が発火した現場を目撃したとき、
流行り病などという生ぬるい認識を持つことは出来なかった。
子供の目の前で、熱病で寝込んでいた親が燃え盛る…
その時の恐怖に染まる幼い瞳を忘れることが出来ない。
-
_
( ゚∀゚) 「俺もその話を聞いたのは情報屋からさ。
…しかし、まさか君もその件を調べてたとはね」
ξ゚⊿゚)ξ「自然の摂理ならともかく、あんな現象は人為的以外に有り得ないわ」
_
( ゚∀゚) 「それも結果論だけどな。
知識のない普通の人々には、やはり病いとしか表現できないと思うよ。
そうでなければ呪いだ」
ξ゚⊿゚)ξ「…呪い…」
ツンは足を止めて少し考え込んだ。
すぐ横を流れる川のせせらぎがキラキラと太陽を柔らかく反射し、街路樹が作り出す涼しげな空間を手助けする。
_
( ゚∀゚) 「…いやいや、ジョーダンだよ。
いまさら怖がってくれたの?」
振り向き見るジョルジュが軽い調子でフォローする。
しかし真面目な顔を崩さないツンはヒントを元に推測を積み上げた。
ξ゚⊿゚)ξ「…貴方はこの流行り病をどうしたい、とかあるの?」
_
( ゚∀゚) 「欲をいえば解決してくれと願うね」
推測は推測でしかない。
そしてそれは解決を望むツンだから必要な思考であり、一般人や無関心を貫く人に聞かせる内容では無い。
そう考えて問い掛けたのだが、ジョルジュの返答は迷いがなく、即答。
ツンの予想を大きく外れた言葉だった。
-
_
( ゚∀゚) 「出逢ったとき、君をどこかで見たことがある気がしたんだ」
ξ゚⊿゚)ξ「…ナンパはいらないって言ったでしょ」
_
( ゚∀゚) 「あ、そうじゃなくて。
多分どこかでたしかに見たんだ。
…しかも、なにか事件があったような場所で」
…ツンは記憶を辿る。
彼女にジョルジュを見掛けたような記憶はない。
事件という事件も思い当たらない。
10年前まで彼女は一人の老婆のために集落の復興を手伝うべく、ブーンと共に行動していた。
その後は比較的穏やかに過ごしたと思う…。
たとえば彼の幼少期に出逢っていたり、彼のなかでは事件だったという可能性もあるが、そこまでとなると分からなくなる。
_
( ゚∀゚) 「とにかく、だ。 きっと君は俺の運命の人さ。
困ってるなら助けるし…この噂は個人的にも気になってたから、どのみち調べるつもりだよ」
口説き文句は忘れずに、しかしその瞳を見る限り嘘をついている様には感じられない。
ツンも一人でこの件を片付けるつもりは無い。
きりの良いところでブーンと合流し、
あの時の子のような思いをする人が居なくなれば…と考えている。
-
ξ゚⊿゚)ξ「 "呪い" よ」
ジョルジュが適当に言った言葉をそのまま繰り返す。
ツンの中には一つの根拠があり、そこから導かれる推測は現在の結果へと紡がれる。
_
( ゚∀゚) 「それ、だからジョーダンだって。
そもそも呪いっていうのは対象に向けて恨みを晴らすための概念だろ?
こんな大陸中に広がるほどの呪いなんて ーー 」
ξ゚⊿゚)ξ「そう、概念…つまり動機の話よ。
呪いで病いが広がってるんじゃない。
何かを呪って、この現象を引き起こしてるんじゃないかしら?」
_
( ゚∀゚) 「ん? なにが違うんだ?」
ツンは溜め息をついた。
男というのは短絡的だとつくづく思う。
女性に比べて理論的に話すのが得意だなんてどこの誰が言ったのだろう。
ξ゚⊿゚)ξ「大陸中をまとめて呪うのと、呪って病いを広げるの、どっちのほうが簡単だと思う?」
_
( ゚∀゚) 「…あ、そういう意味か」
はたとジョルジュも気が付いた。
ξ゚⊿゚)ξ「貴方もさっき言ってたでしょ。
…もし大陸ごと呪うなら、この都市だけ被害を免れてるなんて説明はつかないわ」
-
----------
水の都…その最奥には永久中立を謳い、都市を統治する宮殿が存在する。
ツンとジョルジュが手を組んだその夜、
4人の賢者と1人の女王が住まうこの宮殿では緊急会議が行われていた。
その内容は…女王の不在と流行り病の対策について。
爪゚A゚) 「なんで女王が不在なのに会議するのかぬ?」
瓜゚∀゚) 「不在な事が今回の議題じゃづ」
爪゚ー゚) 「女王の放浪癖も困ったものだじ」
四隅に置かれた4つの観葉植物と、部屋の中心には巨大円卓。
賢者はそれぞれお気に入りの観葉植物の前に椅子を並べて座っている。
順番に
ぬー、づー、じー、と呼ばれる賢者達は、大陸に広がり始めた流行り病について女王の意見を伺う事を望んでいたが…
空席の2つのうち1つは肖像画を背景に、女王の座る上座。
もうしばらく連絡すら寄越してこない。
-
爪゚A゚) 「遅いぬ、フォックス」
爪'ー`) 「…失礼した」
会議室の扉を遅れてくぐったのは4人目の賢者フォックス。
もう1つの空席へと体を納める。
…肝心の女王は宮殿から出掛けたまま2年ほど帰ってこない。
現状を憂いた賢者達は、決定権のある女王を待つことを止め、自らの判断に基づいての対策を練る判決を下す。
爪'ー`) 「…それでは流行り病の調査と、その原因究明について」
フォックスの言葉を皮切りに、各々が発言する。
-
爪゚ー゚) 「もはややむを得ないじ。
すでに都市内の研究者達、そして西の街でも同時期に民間が独自に調べ始めているじ」
賢者じーは、一般人による自発的な調査そのものは歓迎するものの、
研究者が病いに感染した時、当人が気付かぬまま都市に侵食するバイオハザードを恐れている。
爪゚A゚) 「一刻も早う止めさせるぬ!
人々が余計なことを知ってしまえば、病いよりも恐怖が先に感染するぬ」
賢者ぬーは、一般人の自発的な調査に反対だった。
ただしそれは統率されない情報交錯により広まる恐怖によって、ゆくゆくは統治行為への支障を鑑みての話…
混乱、恐慌は力なきものが先に倒れていく。
弱者を守り、奪われないための統治を望む。
瓜゚∀゚) 「調べるにも都市憲兵だけでは数が足りんづ。
なにより都市の治安が第一…この期に乗じて民に何かあっては申し訳がたたんづ」
自分の国は自分で守る思いの強い賢者づーは、調査に兵を割く事に反対の立場を貫きたかった。
そのためならあえて外部からの調査結果を求めるのも厭わないと考えている。
-
三人の賢者はみな意見が別れた。
その目は4人目の賢者に向けられる。
賢者の間にも発言力の違いがある。
それは集団生活において権威や実力ではなく、自然にそういった役割を負う者が現れるように。
爪'ー`) 「…皆の意見を反発させない案があるな 」
…表情を変えずに、やがて口を開いたフォックスは眼に紫色の光を携えて提案する。
爪'ー`) 「…私達がそれぞれ直接出向けば良いのでは?」
爪'ー`) 「…研究者の報告によれば、この都市から東西南北…
各地で発生した流行り病の出所に向かうのだ」
-
フォックスの提案は3人の意見に新たな方向性を指し示すが、疑問は解消されていない。
爪゚ー゚) 「私達が知らず知らずのうちに感染すれば、都に戻った時、むやみに被害が出てしまうのでは?」
爪'ー`) 「…病い発症時の身体に現れる詳しい症状を突き止めれば問題ない。
病いの潜伏期間を考慮して一ヶ月後にここへ戻れば、感染の可能性は限りなく低い」
瓜゚∀゚) 「その間、宮殿を留守にするのかづ?
女王が居ればそれもよかろうが、その間は誰が都を見守るづ?」
爪'ー`) 「…侍女らに任せる。
我らの目的地が分かっていれば、伝令を飛ばすこともできるのだ。
それに憲兵が揃っていれば大概の対処もできよう…それも民を信用するという事だ」
爪゚A゚) 「後に我らが出向くことを知った民らに不安が広がった場合はどうするぬ?
人の口に戸は立てられぬ」
爪'ー`) 「…隠匿すから混乱を招くのだ。
始めから堂々通達すれば良い。
美しい都を守るべく、早いうちに我らが動くのだ…とな」
フォックスは3人の案そのものに修正を加えながら、これからの動きを決めていく。
賢者はお互いに相手を尊敬し、実力を認めあう間柄だ。
小さな異議はあれど、大きな同意が得られるならば彼らの会議が止まることはない。
慣例通りに進む会議は、フォックスの瞳に宿る、
ーー いや、瞳に "装着された" 紫色の光に気付かぬまま、淡々と行われていく。
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ごめんなさい
>>630を訂正して打ち直します
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フォックスの提案は3人の意見に新たな方向性を指し示すが、疑問は解消されていない。
爪゚ー゚) 「私達が知らず知らずのうちに感染すれば、都に戻った時、むやみに被害が出てしまうのでは?」
爪'ー`) 「…病い発症時の身体に現れる詳しい症状を突き止めれば問題ない。
病いの潜伏期間を考慮して一ヶ月後にここへ戻れば、感染の可能性は限りなく低い」
瓜゚∀゚) 「その間、宮殿を留守にするのかづ?
女王が居ればそれもよかろうが、その間は誰が都を見守るづ?」
爪'ー`) 「…侍女らに任せる。
我らの目的地が分かっていれば、伝令を飛ばすこともできるのだ。
それに憲兵が揃っていれば大概の対処もできよう…それも民を信用するという事だ」
爪゚A゚) 「後に我らが出向くことを知った民らに不安が広がった場合はどうするぬ?
人の口に戸は立てられぬ」
爪'ー`) 「…隠匿するから混乱を招くのだ。
始めから堂々通達すれば良い。
美しい都を守るべく、早いうちに我らが動くのだ…とな」
フォックスは3人の案そのものに修正を加えながら、これからの動きを決めていく。
賢者はお互いに相手を尊敬し、実力を認めあう間柄だ。
小さな異議はあれど、大きな同意が得られるならば彼らの会議が止まることはない。
慣例通りに進む会議は、フォックスの瞳に宿る、
ーー いや、瞳に "装着された" 紫色の光に気付かぬまま、淡々と行われていく。
-
('A`) :けっこう鮮明に映るもんだなあ:
ーー 紫色の光の奥には "ポイズン" の姿があった。
フォックスの眼に取り付けられたのは、ワカッテマスが改造した魔導アクセサリーのサーチグラス。
従来のルーペ型ではなく、眼球に合わせてレンズ化したものを、
呪いにより映像を送り出す機能に作り替えられている。
( <●><●>) 「……生身の人間に取り付けるにはまだ違和感を残してしまい、
発覚しやすいという欠点はありますがね」
ワカッテマスの実験場。
腹部ほどの高さの台座、その天板に映されている会議の様子を二人は眺めている。
-
('A`) :生身…じゃないってことか?:
( <●><●>) 「……あれは土塊です。
泥人形とも言いますが」
フォックスを指して答えるワカッテマスの言葉は抑揚がない。
聞かれたから答えはするが…はっきり言って "ポイズン" の声は耳障りなのだ。
('A`) :ふひ! お前人間も創れるのかよ、すげーな:
ーー その笑いを止めてくれ、ゴボゴボとうるさい。
そう心の中で唾を吐く。
( <●><●>) 「……人間は創れませんよ」
('A`) :ま、とにかく賢者共の動きは決まったみたいだな。
ひひ…一ヶ月…国の崩壊の始まりってやつか:
映像は、4人の賢者が各々席を立つ場面を映し出していた。
今日はもう動きは無さそうだと思い、台座を引っ込める。
-
( <●><●>) 「……流行り病と思いながら死んでいきなさい」
('A`) :ぁあ?:
長居するつもりのない "ポイズン" が、昨日と同じように退出する直前。
ワカッテマスの口からは独り言と、
肺の空気が漏れるような笑いがヒュゥヒュゥと吐き出されていた。
( <●><●>) 「……あの三人が出てくるまで、すべての命が人質」
_,
(;<●><●>) 「……私にはわかってます。
彼らはどこかに、いる…潜んで、私を殺、す算段でも、練っているので、す」
ヒュゥ… ヒュゥ…
ーーそれはまるで魍魎の嗚咽のように。
過去の怨念が、ワカッテマスという媒体では収まらないとでも言いたげに。
('A`) :おい:
扉の前で "ポイズン" が思わず声をかける。
…ただし、この男に他人を心配するような気持ちを期待してはいけない。
('A`) :ヒューヒューうるせえな、俺に移すなよ?:
面倒くさそうに言い放ち、去っていった。
闇にワカッテマスを置き去る。
-
(#<○><○>) 「貴様の方がうるさいぞ、骨屑が!!」
ワカッテマスの身体から殺意の固まりが魔導力となって "ポイズン" に向かう。
ーー が、すでに姿はなく、音の無い扉へとぶつかりやはり無音で消失した。
この実験場は魔導力が外部に漏れないよう念入りに時間をかけて細工してある。
物理的な衝撃には弱いが、ワカッテマスには必要ない。
呪いによって創られた彼は、呪いの魔導力だけを行使する。
実験場内に魔導装置以外の物を一切置かないのも、激昂して八つ当たりの対象にさせないためだった。
息を荒げて自らの肩を両手で押さえ込む。
(;<▼><●>) 「……拾われる屍すらない男が…」
ーー ワカッテマスは違う。
彼は幾多もの屍を拾い集めて、その想いを継いで産まれた者。
今は亡き "赤い森" に住んでいた、
一族すべての怨念で構成されている
人工の、人間。
-
ーー 人が一日を終えて眠りについた頃。
呼吸をなんとか落ち着かせ、ふらつく足取りでワカッテマスは実験場を出た。
もはや日常の彼の顔に戻っている。
実験場は地下深くにあり、
周囲は人の手も入っておらず補強されていない岩壁に囲まれている。
ここを出るためにはこれもワカッテマスが設置した一人用エレベータを使用しなければ往来出来ない。
そのエレベータ出口も、決して人が立ち入ることが出来ないような場所に通じていた。
( <●><●>) 「……今日中にスペアを造っておかなくては」
道の途中、彼だけに分かる仕掛けを動かしてもう一つの実験場に足を運んだ。
"ポイズン" も招くことのないその隠し部屋のまん中に、噴水の形をしたオブジェが一つ鎮座している。
張られているのは水の代わりに、
茶色く、粘度の高い泥々とした何か…
それを彼はすぐ横に立て掛けた二股の棒を注し、ゆっくりと掻き回す。
…正確には、ワカッテマスの力ではそれ以上スムーズに動かすことができないのだが。
-
( <●><●>) 「……【カース】」
呪いの魔導力から呪いの魔法を発動しつつ、棒を回す。
止めず、円く、その軌跡はリング状に…
棒を伝わり呪いが注がれる。
…彼を伝わり呪いが練り込まれる。
赤黒い光が、モヤのようにふわふわと、
そしてどくどくと棒を伝わり下っていくのだ。
火を使って温度を上げている様子はない…
しかし茶色い何かはやがて気泡を弾けさせ、噴水の中央が反り上がりだす。
ワカッテマスはまだ手を休めない。
そして繰り返される呪いの詠唱。
( <●><●>) 「……【カース】」
ーー 唱えれば唱えるほど
( <●><●>) 「……【カース】…」
背中に、赤い森で死んでいった先祖達が次々と乗り移り
それに押し潰されるかのように身体が重くなっていく。
(;<●><●>) 「……く、【カース】!」
先祖達だけが使うことのできた門外不出の呪術。
もし生きた人間が喰らえば、死ぬまで多岐にわたる悪症状を引き起こす。
猛毒、視覚障害、狂騒、混乱、身体麻痺、
…文字通り【呪い】の魔導力の塊。
-
【カース】を注がれ人の高さほどになった "それ" が摂理、重力に逆らって反りきった頃…
彼の体力と魔導力は底を尽いてしまう。
ーー 彼はまだ多くの魔法を使いこなすほどのキャパシティを有していない。
だから、この泥人形を創ることが出来るのはせいぜい数日に一体が限界だ。
手から棒を離し、膝を曲げて荒く呼吸する。
自分の耳に届く自分の吐息の音は
死の淵で雄叫ぶ亡者の声にも似て。
爪'ー`) (<●><●> )
ワカッテマスが顔をあげた時、曖昧だった泥人形はくっきりと型を浮かび上がらせる。
……四賢者の一人、フォックス。
だが目の前のそれに意思はない。
人形は所詮人形。
だから、これから意思の基になる "記憶" を注入する必要がある。
ワカッテマスは噴水の陰に隠れた…
いや、陰になって見えていなかった、俯せに倒れている人間を
ーー ゴロンッ
と足で転がした。
-
爪;;; ;;)
眼を奪われ、口を縫われた物言えぬ人間…
それは "本物" の賢者フォックスの姿。
彼はもう二週間ほど飲めず食えずの状態が続いているために、もはや虫の息だ。
( <●><●>) 「……媒体はできるだけ生きたままでなければ精度が落ちますからね」
そう言って手を伸ばす。
もう、このフォックスは保たないだろう…
これが最後の役目だ。
ワカッテマスの指先が、フォックスの痩せた首に触れ、
( <●><●>) 「……【シャドウ】」
小さな闇の炎が
その薄皮と肉、骨を焼き尽くさんと迸る。
ノ爪;;; ;;)) :ーー ! …っ!:
ビクンビクンッと悶える賢者は、
しかし声をあげることも叶わず、内側から急所を焼かれて死んでいく。
ーー 口を塞ぎ、首を狙ったのは正解だと思った。
音もなく首から上を焼失していく賢者の末路は静かで、それでいて溜飲が下がる。
どこぞの骨屑のような不快な音もたてずに死んでくれるこの男は、まさに賢者の名に相応しい。
感謝しますよ、私の実験体さんびゃくごじゅう…いくつ目だったろう?
……もう数えるのも飽きてきました。
-
【シャドウ】の魔導力が散り終わると、
そこには首と顔のない死体が一つ、
焼け跡には喉仏が転がっている。
それを拾い、泥人形の首へと近づけると
まるで欲していたかのようにズブズブとめり込んで、傷口もなく吸い込まれた。
爪 ー )
爪'ー`) 「……」
( <●><●>) 「……さて、これで良いでしょう」
光の宿り始めた泥人形の眼に、今度は特製のサーチグラスを嵌め込む。
これであとは時がくるのを待てば良い。
泥人形にはその場で待機させ、ワカッテマスはそのまま地下実験場を後にする。
エレベータで地上に出ると、目の前にはついさきほどまで動いていた泥人形の残骸がわずかに残されていた。
( <●><●>) 「……時間もぴったりでしたね」
泥人形の残骸から今日まで会議の様子を映していたサーチグラスを回収しておく。
…これでもう、ただの土塊となったこの泥人形に一切用はなくなったのだ。
-
ワカッテマスはその場で土塊を何度も蹴り飛ばし、周囲の風景にその残骸を溶け込ませる。
土塊は砂となり、その一粒一粒から残留するほんの僅かな魔導力も蹴り飛ばされた衝撃に耐えきれず、
キラキラと輝きながら空に分解されていく。
こうしてこれまでの証拠はなくなる…
また次から新しいフォックスが四賢者として行動する事になるのだ。
( <●><●>) 「……ふぅ」
無意識にため息をつき、空を見上げる。
…赤く見える月の位置が低くなっている。
その灯りは酷く弱々しい。
これから朝が訪れようとしている証拠だ。
ワカッテマスは辺りに闇が残っているうちに、何処かへと姿を消した。
誰もいなくなったその場所に
傾き昇り始める陽 ーー
-
いよいよ大地に光が当てられる。
…樹が目覚め、空に青みが射し、
自然のなかで生活する獣達が行動を始める頃。
「 ーー この辺から感じた気がするんだけどなあ」
静かな呟きが風にのって聴こえてくる。
逆光で黒くなった影が、それを人間の形に浮き彫らせた。
「いまは何も感じない…
でも気のせいじゃないね、ここに居たんだきっと」
ふぅ、と意識的にため息をつく。
それはもはや影自身の境遇を振り返った時に表れる癖のようになってしまっていた。
数時間前、同じ場所で同じようにため息をついたワカッテマスもそうなのかもしれない。
影は少し周囲を調べるように歩き回り、
果たしてなんの収穫も得られないままその場を後にした。
.
-
------------
〜now roading〜
( <●><●>)
HP / C
strength / H
vitality / G
agility / D
MP / F
magic power / B
magic speed / C
magic registence / C
------------
-
水の都に流通するラジオから、
四賢者が大陸に蔓延する流行り病の原因究明を直々に行う事を発表した数日後。
人々は目に見えなかった感染の恐怖から一時的に解放され、
いよいよ動いた彼らへ、口々に声援を贈っていた。
四賢者は大陸戦争を生き残りここに集った知恵者…
戦争終結後にはこの水の都を作り上げて、今の自分達が送る生活の土台を築いた功労者でもある。
彼らが動けばなにかしらの成果を約束されたような期待をせずにいられない。
「さすがは女王様だよな。
普段の日常にはほとんど口出しせず、
それでもってこういう時には必ず動いてくれるんだからさ」
「あたしらのことをいつも見てくれてるんだって感じるわねえ」
「この都以上に恵まれてる生活があるなら見てみたいもんだ」
「私の生まれ故郷も熱病が流行ってるって手紙がきたわ…」
「俺んところはいつのまにかバッタリ倒れてそれっきりだとよ…
それも一人や二人じゃないんだ、お袋を呼び寄せてるけど…心配だよ」
「大丈夫、これからはどんどん解決するはずさ!
なんたって四賢者全員が一斉に動くんだぜ!」
「女王様もいるしな!」
.
-
都に漂う雰囲気は元より暗くはなかったが、それ以来、目に見えて華やかさを取り戻した。
暗く沈むような空気は、人の心を蝕んでいく。
不安を口に出せば現実になったとき後悔し、
心にしまいこんでも現実になればより恐怖する。
_
( ゚∀゚)
つ◇ 「…先に賢者が動き出しちゃったな」
ξ゚⊿゚)ξ「それならそれでいいじゃない。
誰か一人より、何人も居てくれたほうが早いわ」
_
( ゚∀゚)
つ◇ 「おいおい、ラジオでも言ってたじゃん。
あんまり民間は勝手に行動するなって…」
怖じ気づいたようなジョルジュの物言いに、少しだけムッとしてしまう。
ξ゚⊿゚)ξ「都でどれだけあの賢者が信用されてるのか知らないけど…
あいにくアタシは自分の目で見たモノを、より信用する質なのよ」
_
( ゚∀゚)つ彡 「あっ」
貸しなさい、とジョルジュの手から一冊の手帳を半ば奪うようにもぎ取る。
彼が情報を集めまとめた走り書き…だが、
ξ゚⊿゚)ξ「…」
ξう⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「…」
ξ#゚⊿゚)ξ「……全然何書いてあるかわかんないんだけど?」
ジョルジュの走り書きはまさしくミミズが這ったようにしか見えなかった……
-
----------
爪゚A゚) 「ん、フォックスどしたんぬ?」
爪'ー`) 「…君の船はさすがに早いなと思ってね」
爪゚A゚) 「ああ、なるほど。
他の皆と違ってワシはもともと海賊出だからぬ」
西に海路をとる賢者ぬーの私船、
[ヌーチラス]のその船上。
そこには南へと向かう事が決まっていたはずのフォックスが同乗を申し出ていた。
カスタマイズされたヌーチラスには
昔、彼女が個人的に手に入れたオーパーツエンジンを搭載しており、
他の船にはないジャンプ機能やブースト機能が備わっている。
爪゚A゚) 「沖に着いたら谷に入らんと、近くの集落で馬を借りるんだぬ」
爪'ー`)y‐ 「…そうしよう」
自動操縦に船を任せ腕を組むぬーの背後で、フォックスは葉巻を取り出した。
火はつけない。
夕日が二人を赤く染める。
-
水の都からまっすぐ南下すると、海を隔ててすぐに千尋の谷が行く手を阻む。
それほど若くない賢者達の中で最年長のフォックスには、徒歩で越えるほどの体力がないのだろう…
ぬーはそう思い、彼の同行を許可したのだが……
爪'ー`)y‐ 「…」
爪゚A゚) 「吸わんぬか?」
爪'ー`)y‐ 「……」
ーー 返事はない。
賢者達は同じ宮殿に住まえど24時間常に共に過ごすような間柄ではなかった。
自室で魔導力を練ったり、趣味に没頭してなかなか姿を表さないなど日常茶飯事。
今回の件のように会議で終わらず、
ましてや4人が共同作業するなど数えるほどだ。
水の都が海と同化し、船からは何よりも高くそびえ立つホワイトボアの突端すら見えなくなる。
清らかな赤い水平線が景色の全てに成り変わった。
爪゚A゚) 「…フォックス?」
フォックスには一つ、揺るがない趣向がある。
ーー 本来、彼は如何なる時も葉巻を持ち歩き、そして躊躇いなく吸ってしまうのだ。
爪'ー`)y‐ 「…火を忘れてね」
-
直後、甲板上に激しい水泡の破砕が連続して巻き起こる。
目を開けてはいられないほどの水圧とその衝撃が船を揺らした。
爪゚A゚) 「何者だぬ、貴様!?」
トレードマークであるマント裏地の水色を露にするほどの魔導力を発動しながら、ぬーは距離を取った。
水流の拳を射ち与える【アクアラー】は
フォックスの身体を包み込み、逃がさない。
詠唱の速さは賢者ゆえの特性だ。
…しかしその魔導力が伝わりきる前に【アクアラー】が効果を失い散った。
宙に舞う水飛沫がパラパラとにわか雨のように降り注ぐ。
-
雨の中で棒立ちのフォックスが、先程までと変わらぬ佇まいで見つめてくる。
まるで亡霊だ…そう思い、ぬーはぞっとした。
爪'ー`)y‐ 「…葉巻が濡れてしまうじゃないか」
爪゚A゚) 「フォックスが火を忘れるものか!」
賢者達は各々得意とする魔法がある。
ぬーは水、そしてフォックスは炎。
…ワカッテマスの創りだした土塊であるこのフォックスは、炎の魔法を使うことはできない。
爪'ー`)y‐ 「…炎なら使えるさ」
爪゚A゚) 「!?」
爪'ー`)y‐ 「…【シャドウ】」
それはワカッテマスの魔導力と同じ呪術。
土塊フォックスから放たれる反撃の闇の炎がゴウゴウと渦巻き、
咄嗟に身を躱そうとしたぬーの身体を、容赦なく包み込んだ ーー
.
-
ξ゚⊿゚)ξ 「ちょっと! 方向変えて!」
同じ海の、しかしまだ都からそう離れていない小船の上でツンが叫ぶ。
_
( ゚∀゚)
つ@o 「えっ?」
ξ゚⊿゚)ξ σ 「あっちの方角に行ける!?
なにかおかしいわ」
気迫に押され、舵を握るジョルジュが船頭を動かし彼女の言う通りに海路をとる。
ツンとしては読めもしないメモの責任を取らせるべくむりやり連れてきたのだが、
彼が船を操縦できることはラッキーだった。
ツンは乗り物全般を運転することができない。
賢者達を追うにも、定期便出発までタイムロスを覚悟していたのだが。
_
( ゚∀゚)
つ@o 「…なんだ? たしかに変だな」
小船がそれに近づくにつれてジョルジュも思考が動き出す。
…海の上に船が停まっている?
だが、廻船賑やかなこの海でそんなことをする理由はない。
そうしたい者のためにわざわざクルージング専用の海路が他に用意されているのに。
ジョルジュは手帳を出して素早くページを開く。
-
_
( ゚∀゚)o◇
つ@ 「……あっちは定期便が通るような方角でもない。
ずっと行けば停泊できる港はあるみたいだけど、民間への使用許可も降りてない」
ホラ、と手帳を差し出すもツンは一目見て顔を戻した。
情報を集めてくれたその労力は買うが、口頭より分かりにくい記述に疲れたくない。
どのみち間もなく問題の船に横付けできるほどに近付いている…
ここまでくれば直接確認すれば良い。
ツンが詠唱を開始すると白い光が集まり霊魂のように漂い始めた。
光の球は静かに船に向かって飛んでいき、その場に現存する生体反応を確認する魔導力となる。
ξ゚⊿゚)ξ「【ライブラ】!」
発動と共に、光の球は一度だけ発光。
…つまりあの船には一人分の生きた反応があるという事を示した。
-
ーー ドガガッ
/爪'ー`))y‐ 「…?」
波の小さなこの海では起こり得ない、
ヌーチラスを揺るがす震動が土塊フォックスにも伝わる。
…プスプスと焼け燻る賢者ぬーから目を離し振り向けば、二人の男女がヌーチラスへと飛び乗ってくるではないか。
_
( ゚∀゚) 「失礼しますよっと…
おいおい、なんだこれ? 穏やかじゃないな」
ξ゚⊿゚)ξ「貴方はたしか…」
爪'ー`)y‐ 「…なにかね君たちは?」
ジョルジュは倒れ焦げたぬーを見やり、
ツンは先日ラジオで聴いた声の主に注目する。
爪'ー`)y‐ 「…この船は賢者の私物。
勝手に乗り込んではいけないよ」
_
( ゚∀゚) 「あんたは賢者フォックス?
い、いやー、ちょうど通り掛かったもんで…すんませんね」
ξ゚⊿゚)ξ「これは一体なにが? 」
-
ヌーチラス上の状況は異質だった。
襲撃か、裏切りか ーー
焼けた賢者、
それを見つめるもう一人の賢者。
爪'ー`)y‐ 「…落ち着きなさい。
順を追って説明しよう」
爪'ー`)y‐ 「…いかにも私は賢者フォックス。
彼女…ぬー殿と同じく、都の四賢者と呼ばれている」
フォックスが姿勢を正し、その視線は二人を真正面から向き捉える。
爪'ー`)y‐ 「…数日前の声明通り、
我々はまさにこれから流行り病の調査に出発したばかりだったのだが…
突如、ぬー殿が乱心されたのだよ」
_
(;゚∀゚) 「 ーー まじかよ」
爪'ー`)y‐ 「…本当につい今しがたの事だ。
咄嗟に反撃してしまったのでこんな事に…」
ξ゚⊿゚)ξ「…そんな…」
【ライブラ】で感知できたのは一人分の生体反応のみ。
ツンはフォックスの後ろで倒れている賢者を見つめた。
マントや衣類はところどころ焼け、皮膚の下からは黒い肉が見え隠れしているようにも見える。
つまり、ぬーは……
-
爪'ー`)y‐ 「…自分がしたこととはいえ痛ましい。
君達が来なければもうしばらく呆けてしまっていたかもしれない」
土塊フォックスは淡々と語る。
爪'ー`)y‐ 「…だがこれも僥倖だ。
さあ、急いで都に引き返さねば…
彼女を…弔ってやりたい」
あまりに無感情に口を動かしてくれる。
視線はぬーに向けていても、
ツンの意識はすでにフォックスの言葉に傾けられていた。
命を軽んじるような態度に、注意を引き付けられてしまっていた。
だからこの時、気付いたのはジョルジュだった。
_
( ゚∀゚) 「ーー いや! まだ息があるんじゃないか?!」
爪'ー`)y‐ 「…!?」
ξ゚⊿゚)ξ「!? 【ヒール】!」
すかさずツンは回復魔法を発動。
最小だが光の魔導力が賢者ぬーの身体へと注がれる。
呼吸している素振りもなく、
身体一つ動いていなかったはずの賢者ぬーは
しかしわずかな魔導力をその身に宿していた。
【シャドウ】の炎から最後まで足掻くように
自身の水の魔導力で抵抗していたのを、ジョルジュはなぜか感じ取ることができたのだ。
ξ゚⊿゚)ξ「間に合って… 【ヒーラ】!」
ツンの連続回復魔法が発動する。
爪'ー`)y‐ 「…させるものか、【シャド ーー」
ξ;゚⊿゚)ξ「!?」
-
_
( ゚∀゚)o 「ちょいまちぃ!」
三人の反応は同時だった。
フォックスの詠唱は素早く駆けてきたジョルジュの跳び蹴りを避けることによって妨害される。
ツンの光の魔導力は、先の魔法よりも効果の高い回復をぬーに注ぎ入れた。
…ただし、
彼女のダメージを見る限りそれもすぐに治るものではなさそうだが。
_
( ゚∀゚)o 「フォックスさん、いま何しようとしたんだ?
おかしいだろう」
爪'ー`)y‐ 「…なにも、おかしいことはないさ」
ーー フォックスに表情や口調の乱れはない。
その後ろでは賢者ぬーの火傷が癒され始め、指先に力が込められるのをツンも確認することができた。
ξ゚⊿゚)ξ「……(さっきの魔法は)」
ξ゚⊿゚)ξ「【ライブラ】の反応は一人分…
賢者ぬーが生きているなら、貴方は一体何!?」
ーー 土塊には感情も、生体反応も無いのだ。
爪'ー`)y‐ 「…私はフォックスという。
水の都の四賢者の一人さ」
_
( ゚∀゚)o 「? ……おい、そんな事はもう…」
…壊れたスピーカーから繰り返されるように。
爪'ー`)y‐ 「…数日前の声明通り、我々はまさにこれから流行り病の調査に ーー 」
土塊フォックスは "予め命令された通り" に反応していた。
-
ーー 同時刻。
水の都中のラジオから緊急声明が流れた。
『…番組を楽しんでおられる、水の都の皆さん』
『…先日に引き続き失礼する。
私は四賢者の一人、フォックス』
『…本日このような形で急に放送をお借りすることをお詫びすると共に、
どうしてもお伝えしなければならない事ができてしまった』
母親が夕食の下ごしらえをしている家の中で、
『…我々四賢者は、
今朝より順次この都を離れ、流行り病の解明に向かっているが…』
子供達が遊び疲れて別れ前のお喋りをしている街のスピーカーで、
『…その内の一人である、賢者ぬー殿が悪漢の手によって…殺害されてしまったのだ』
建設現場で仕事を終えた若者達が耳を傾ける前で、
『…これは我々の責任であり、誠に…
誠に…
ーー いや、平穏に暮らすべき民の皆に申し訳が立たない思いである』
夜通し働くために早めの食事を取っている父親達の耳に、
『…だが安心してほしい。
我々賢者はそれでも当初の責務を全うする。
これより私も都を離れるが、ぬー殿の仇も必ずとってくる』
土塊フォックスの声が、淡々と伝えられている…。
('A`)y-~ 「へえ〜」
-
水の都を流れる川。
それを渡る小舟を借りて暇潰しに散歩していた "ポイズン" の耳にも、それは届いていた。
『…なお、報告によれば犯人は変装技術に長けているとの内容もある。
これは確定ではないが、
素早く皆さんの疑心暗鬼を取り除くために宮殿からすでに対策を取るべく動かせてもらっている』
『…都の民よ。
一度、すべての職務から離れ、自宅に待機して頂きたい』
『…憲兵がお渡しするお守りを、各自が一つずつ、必ず身に付けておくのだ。
中身はここでは言わないが、それが民の潔白を証明するものとなるだろう』
『…隣人を疑ってはならぬ。
いま、諸君の隣にいるのは紛れもなく友であり、家族であり、仲間である』
『…犯人は陽が完全に落ちる頃にはこの都に侵入してくるかもしれない。
これは私からのお願いなのだ、
民よ、一度家族の元へとお帰り願う』
……そうして、ラジオからはいつもの音楽や番組が音を取り戻した。
都の中は動揺が広がるも、賢者の演説じみた放送に従って足早に屋内へと散っていく。
('A`)y-~ 「ふひひ! なるほどなあ〜…
ご立派ご立派」
('A`)y-~ 「……ん?」
悠長に寝転がりながらそれを眺めていた "ポイズン" は気付く。
(;'A`)y-~ 「俺はどこに行けばそれが貰えんだ??」
まあ、いいか ーー
考えることを止め、彼はその場からすぐに動くことはなかった。
どうせ面倒になれば何人殺してでも都から出ていけば良いのだから。
-
_
( ゚∀゚) 「そっちはどうだい?」
ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫、なんとかなったわ」
賢者の船、ヌーチラスの甲板。
ぬーの手当てをしていたツンからは明るい返事が帰ってきた。
そしてジョルジュの足元には先程までフォックスを騙っていた存在…
その土塊が風化して砂となり、鎮座している。
魔法を使わせる間もなく、ジョルジュの一撃で封殺された残骸。
ξ゚⊿゚)ξ「これ、どういうことかしら」
_
( ゚∀゚) 「…流行り病との関連性まではわからない。
けど、タイミング的には全く関係ないとも思えないよな」
夕日はその半身を海に沈めている。
甲板で考え込む二人の脳裏に浮かぶのは、もう二人の賢者の存在。
ξ゚⊿゚)ξ「…アタシ、ブーンを呼びに行くわ」
_
( ゚∀゚) 「西の街に手分けして調べてるっていう旦那か…それがいいかもしれないな。
賢者が襲われてる今、こっちが当たりなのかもしれない」
ξ゚⊿゚)ξ「それどころかブーンまで襲われてたら…
まあ並大抵の事なら大丈夫だろうけど。
とにかく同じ土地に固まってた方が良さそうだしね」
_
( ゚∀゚) 「…よほど頼りになるんだな、君の旦那は」
-
ツンは立ち上がり西の方角を見る。
少しの心配と大きな信頼を胸に、ブーンを想う。
ξ゚⊿゚)ξ「ええ、とても」
ξ^⊿^)ξ「……ま、ちょっと馬鹿なんだけどね」
その顔は影になりジョルジュからは見えない。
_
( ゚∀゚) 「そっかそっか。
なら俺は他の賢者を追うことにするよ。
今からじゃどこで追い付けるか分かんないけど、今回みたいに間に合えば結果オーライだし」
爪;゚A-) 「ーー ならばワシも手伝うぬ」
気を失っていたぬーが膝をつき、どうにか身体を起こす。
ツンが慌ててしゃがみこみ、その顔を覗き込んだ。
傷はある程度治されても、まだ蓄積したダメージが抜けておらず呼吸は荒い。
_
( ゚∀゚) 「あんたは無理しない方が良くないか?」
爪;゚A-) 「世話をかけたようだぬ…賢者の名が泣くわ」
爪;゚A゚) 「しかし、寝ているわけにもいかんぬ。
この件はきっと繋がっとる。
…お主らのいう通り他の賢者の身に何かあれば、ますます大陸は混乱してしまうぬ」
ぬーはゆっくりと歩き、ヌーチラスの操縦パネルを起動させる。
爪;゚A゚) 「残り二人の賢者の行き先はワシが知っとるぬ。
幸い船も二隻ある…そっちの娘さんは西の街に行くのかぬ?」
-
ξ゚⊿゚)ξ「ええ、でもアタシは船の操縦がまだできなくて…」
爪;゚A゚) 「ならばこのヌーチラスに乗るんだぬ。
完全自動操縦で西の街に一番近い港まで送らせる…
最後まで自動操縦な分、あまりスピードは出せぬが確実だぬ」
_
( ゚∀゚) 「じゃあ俺と…えーっと」
言い淀むのは名前を聞いていなかったからだ。
遅ればせながら三人は名乗り合う。
爪;゚A゚) 「では、ワシとジョルジュはそっちの小船で賢者を追うんだぬ」
_
( ゚∀゚) 「おーけー、操縦は俺がやるからぬー様はそれまで休んでていいよ」
ξ゚⊿゚)ξ「分かったわ、アタシもブーンと合流したらすぐに都に戻るから」
「気を付けてね」と声を背中に掛けられながら、ジョルジュはぬーを腕に抱いて、
その身に衝撃を伝えないようしなやかに小船に跳び移る。
-
その後も、ぬーを揺れの少ない場所へ寝かせてからジョルジュは手を振った。
_
( ゚∀゚)o彡゜ 「後で旦那に会わせてくれよ。
君が信頼する男がどんな奴か知りたいからな」
ξ゚⊿゚)ξ 「アンタからしたら気の利かない単細胞に思うかもね。
それじゃあまた後で」
爪;゚A゚) 「ヌーチラスの操縦パネルにある緑色のボタンを押せば発進するぬ。
…それと、港に着いたら合言葉を言え」
ツンは頷き、合言葉を確認する。
爪;゚A゚) 「忘れぬなよ? ヌーチラスのその後の管理も任せられるからぬ。
[コルディリネ・ストリクタ]…
ワシの育ててる観葉植物の名前だぬ」
_
( ゚∀゚)
つ@o 「よーし、それじゃあ行くぞ!」
横付けしていた小船が音をたてて動き出す。
ツンもヌーチラスの操縦室に向かい、操縦パネルの緑色のボタンを押した。
二つの船が、水面に映る夕暮れを切り裂き
それぞれの目的地を目指して発進する。
ーー 水の都では、
もう一体の土塊フォックスによって
住民全員にオーブ型サーチグラスが配られている時間だった……。
-
------------
〜now roading〜
ξ゚?゚)ξ
HP / G
strength / A
vitality / C
agility / D
MP / B
magic power / C
magic speed / C
magic registence / H
------------
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〜now roading〜
ξ゚⊿゚)ξ
HP / G
strength / A
vitality / C
agility / D
MP / B
magic power / C
magic speed / C
magic registence / H
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-
( <●><●>) 「……」
数日振りに実験場に戻ったワカッテマスの視界には、堂々と寝そべる "ポイズン" の姿。
('A`) :よう:
日を重ねるごとに…不愉快にも程がある。
"ポイズン" がここに居る事が問題ではない。
ワカッテマスの許可なく先に入っているのが問題だった。
( <●><●>) 「……どうやって入ったのですか」
('A`) :お前がロックを外す時と同じ道からだよ:
そんな事を聞きたいわけではなかった。
…この男はわざと言っているに違いない。
('A`) :ふひひ、外側から勝手にロック外したけどな:
( <●><●>) 「……なんですって?」
-
事も無げに言ってはいるが、それが異常なのだ。
ワカッテマスが戻ってくる途中、ロックを壊された様子はなかった。
外側から開けるには自分の呪術と同じ魔導力の波長が必要になる。
だが、普通の人間にそのような芸当が出来るはずはない。
しかし事実 "ポイズン" はここに居る。
もうワカッテマスが居なくても、この実験場に立ち入ることができると証明して見せている。
('A`) :お前のお陰で水の都から追い出されちまってよぉ〜。
大変だったんだぜ?:
…それも狙いの一つだったのだが、そう上手くはいかないということか。
( <●><●>) 「……それはお気の毒に」
もうそろそろここも引き払うべきか ーー 表情は出さずに計算する。
ここまでに "狙った獲物" は取りきれなかったが、
代わりに一つ、 "別の獲物" を捉えることはできた。
そうだ、焦る必要はない。
ひとまずは良しとしたい。
( <●><●>) 「……お聞きしたいのですが」
-
('A`) :…ぁあ?:
( <●><●>) 「……貴方みたいな人は、他にもいるのですか?」
どちらとも取れる質問を投げ掛ける。
惚けるか、気付かないか、
それとも理解できないかで
数秒後の "ポイズン" の運命が変わる…そういう類いの問い掛け。
('A`) :あーあー…:
ーー しかし "ポイズン" は飄々と
('A`) :どうだろうな? 居てもおかしくないんじゃないか?:
ーー ゴボゴボと音をたてて笑った。
返答もまんまとこちらの意図をつかんで、そっくり返された形となる。
('A`)ノシΠ :大まかな様子はこっから観させてもらったぞ:
ぽん、ぽんっ、と…本来床に収納してあった台座を弄ぶようにアピールする。
この装置もワカッテマスの呪術の波長によって作動するのだ。
やはりこの男……
('∀`)
……ワカッテマスを挑発している。
この男は、土塊フォックスや水の都の映像を観ながら暇を潰していたと言っているのだ。
つまり「お前は俺に必要ない」…そう言っているのと同義に。
-
ワカッテマスにはその方法が分からないが、 "ポイズン" はコピーしたのだと考える。
こちらの呪術…その波長を。
そうとしか思えないのだ。
だから奴は実験場まで一人で出入りできた。
( <●><▲>) 「……くく」
不愉快さ、苛立たしさよりも、
心に沸き上がるのは形容しがたい高揚。
教えてやらなくてはならない…
利用しているのはこちらなのだと。
教えてやらなくてはならない。
…あの賢者のように。 ーー あの女のように。
このワカッテマスが思い描く通りに、
物事は進んでいるのだと。
これは呪いではない。 欲だ。
人工物の私が欲を抱くのはおかしいだろうか?
-
壁に向かって、 "ポイズン" に背を向けて、
ワカッテマスは話し始める。
( <●><●>) 「……水の都の女王は今、不在だそうです」
('A`) :はあ?:
( <●><●>) 「……ここに戻る前、賢者から聞き出しました。
恐らくは都から南にある美しい湖にいるのではないかと」
('A`)
それは "ポイズン" にとって、どこか違和感を覚える光景だった。
腕を広げて…まるでいつかどこかで見学したミュージカルの一幕のように。
目の前の根暗瞳孔かっぴらき野郎が、
まさか仰々しく吟っているのかと錯覚する。
( <▲><▲>) 「……行ってみませんか?」
彼から見て、ワカッテマスは背中を向けているので表情を窺い知る事はできない。
だが分かる。
('A`)y-~ :…ちっ:
この野郎、醜悪に笑ってやがる。
-
----------
ξ; -⊿゚)ξ「…はあ、…はあ」
西の街を目前に、疲労に耐えながらツンは走る。
【ヒーラ】による回復行為はすでに行っていたにも関わらず、何故か彼女の痛覚は身体の異変を脳に訴え続けている。
ヌーチラスを停泊させて程なく夜の帳が下りた事で、ツンは選ぶ余地のない二択を前にした。
"すぐにでも徒歩で西の街に向かう" か、
それとも
"夜明けを待ち、馬車を借りる" か…
西の街までは数日の行程となる。
当然馬車を借りた方が早く、ツンもそれを選択した。
その選択が、
背後から迫る闇を覆わせる猶予を作り出してしまった ーー
それでも伝えなくてはならない。
ブーンに。
長い戦争が終わろうとしたあの時代…
ツンが赤い森で見た一族と同じ特徴を持ち、一族の呪術師らと同じ魔法を使う男。
過去の怨念の闇が、彼女の前に現れた事を。
-
疲労を庇う走りは余計に疲れてしまうものだ。
小高い丘を登る時、地中に埋まる根につまづいて足がもつれてしまう。
…一瞬だが膝の力が抜け、そのままその場にうずくまる。
ξ; -⊿-)ξ「ハアッ…ハアッ ーー」
あの呪術師の男との戦闘直後に比べればマシになったが、それでも残る息苦しさは彼女の身を縛り付ける。
なぜ光の魔導力【ヒーラ】でも治りきらないのか。
ツンは押さえつけている片腕をひらいた。
何度見ても外傷はない。
なのに…ズキンと響く、まるで弓で射抜かれているような感覚は一体…?
流行り病の調査を本格的に始めた直後から賢者が狙われ、ツンもこうして襲われた。
恐らくはジョルジュも標的になってるだろう。
…できれば無事であってほしい。
-
今回の件、すべての元凶はまず間違いなく
あの瞳孔を大きく開いた呪術師なのだ。
直感がそう告げている。
ξ; ゚⊿゚)ξ「…ブーンと合流したら治してもらえるかしらね」
ツンの魔法は傷や体力の回復に長け、
ブーンの魔法は病いや身体不調の治療に長けている。
ともあれ合流すればこれほど心強いものはない。
ξ゚⊿゚)ξ「スゥー…ハー… よしっ」
少しの間でも、こうして休めば脚に力が入る。
ツンは再び駆けた。 ブーンの元へ。
ーー この身に受けたあの【カース】という呪術が、
既存の魔法と同様に対処出来れば良いのだけれど……
----------
-
ぐるりぐるりと空を舞い、つがいと見間違う二匹の鳥を見上げながら…こうして広大な湖を前に立ち尽くすのにも飽きてきた。
そう思いながら、よくよく考え直す。
自分の人生に飽いていない時がどれほどあったのかを。
('A`)y-~ :……こねえじゃん:
足元の砂浜にはタバコの吸い殻が散乱している。
"ポイズン" がここに辿り着いてから丸一日経過した。
ワカッテマスの情報に誘われてやっては来たが、言った当人が姿を現さない。
女王の影すら見当たらない。
連れ添って歩くのはゴメンだが、待たされるのも性に合わない。
『……女王は無駄を好まない方と聞きます。
ならば、その湖には何かあるのかもしれませんね』
('A`)y-~ :女王様の隙ねえ〜…見つかるかあ?:
"ポイズン" はまだ半分ほど残るタバコを
足元に ーー は落とさず、湖に投げ捨てる。
空気抵抗が存在しないかのように大きく弧を描いた。
…女子供が関わる事はどうも頭が働かない。
どーせなんもねえ、戻ってワカッテマスの実験場でも荒らしてまたどこかに行こう…
そう思いながら、
水面に触れたタバコが湖の底に向かって沈んでいくのを見やりつつ踵を返す。
('A`) :んー:
.
-
その場でさらに踵を返した。
視線も身体も、元の通り湖へと向く。
('A`) :なんで沈むんだよ、タバコがよぉ?:
彼は学があるわけではないが、違和感には敏感だった。
ピピィー!と空から鳥が相づちをうつように一鳴きする。
('A`) :うるせえ:
"ポイズン" は無造作にガンアクスを頭上に振り上げトリガーをひく。
響き渡る重い発砲音。
気まぐれの行動は、あの時ワカッテマスの背中に感じたちぐはぐさと同じように。
ーー そして、ワカッテマスの策略通り
彼の意識は湖へと注がれる。
砂浜を踏みしめるブーツが
銃弾によって墜落した鳥を踏み潰す事も気に止めず…一歩一歩、湖へと近付いていく。
空ではもう一羽の鳥が、
興奮するように翼を小さくはためかせた。
-
湖を囲う塀の上から、タバコが沈んだ辺りを覗き込む。
そして胸元からタバコをもう一本取り出すと、今度は目の前で水面に落とす。
('A`) :こりゃあ沈んだんじゃねえな:
彼の目には、タバコが熔けるように消失したように見える。
それは酸や熱によって削り消えるものではなく、文字通り水面に触れた部分からの消失。
そしてゾワゾワと背中を走る神経の痙攣。
"ポイズン" は、しゃがみ込んでいた体勢から脚のバネを利用し大きく跳び上がった。
ーー 彼の居た場所を闇の炎が闊歩する。
('A`) :やっと来やがったのか:
-
( <●><●>) 「……どうも遅くなりました」
('A`) :なんか…明るいうちからお前の姿を見るの初めてだな:
【シャドウ】を放たれた事は気に止めず、
空を見上げながら分厚い雲に覆われた太陽の下で砂浜に着地する。
ワカッテマスはいつも夜にならないと "ポイズン" の前には現れなかったのに。
( <●><●>) 「……そうですね。
ところで何か分かりましたか?」
膝下まで隠す長いコートを纏い、スタスタと無防備に "ポイズン" の隣へと並ぶ。
('A`) :てめーで確認しろよ:
気に止めていない訳ではない、
彼は確実にやり返したかっただけだ。
ーー 鳥を撃ち落としたまま握りっぱなしのガンアクスを、ワカッテマスに向けて発砲する。
ビクンと震えたワカッテマスの背後に飛び散るコートの灰塵と焼けた肉片が、一足先に別れを告げる。
スローモーションのように続いて吹き飛んだワカッテマスは、
しかし笑みを浮かべてハッキリと ーー
-
「貴方も確認しまショウよお〜」
.
-
(;'A`) :あぁ!?:
何故か ーー 何故か "ポイズン" の身体が突然引っ張られる。
その勢いはガンアクスの弾丸が生み出した衝撃そのものだ。
二人の身体は地を離れ無様に宙を舞い、湖へと放られてゆく。
強制的に揺さぶられる視界の中、 "ポイズン" は見た。
先程より近くを飛んでいるのか…
大きくなった鳥と散りゆく雲、
天に広がる水面、
虚空を見つめるワカッテマスの顔、
そして…己の足に巻き付けられた闇の鎖。
(;'A`) :ふひ…野郎、さっきの魔法はまさか ーー !:
【シャドウ】に隠されたもう一つの魔法。
ワカッテマスの腕から淡く蠢く赤黒い糸…
それに繋がれた自分の足に苛立ち、その足ごと切断しようと自身の勘を頼りにガンアクスを構えた瞬間、
ーー 凶悪を冠る突風が吹き荒れ
"ポイズン" をキリモミ状に再上昇させる。
( ((;、∀,)) :ぐおおおっ!?:
空中でこれに抵抗する術はない。
もはや目を開けていられない程の旋風が襲い掛かっている。
-
まるで鉄の塊が降ってきたように
(;'A`))・、" :ガッはあっ:
ーー ッダン! と、
砂浜に背中全面を叩きつけられ
肺の中にある酸素から内蔵までをまとめて吐き出した…ような気がした。
ゲボゲボと下劣な音を隠さずたてる "ポイズン" の横に、空を飛んでいた鳥が寄り添うように降り立つ。
…だが大地に立つそれを鳥と呼ぶにはあまりに違いすぎた。
倒れ込んだ "ポイズン" と比べると4倍近く体躯の差があり、四本足から伸びる爪は太く逞しい。
体毛は刺さりそうなほどに鋭く毛羽立ち、
なによりその大きさを際立たせているのは巨大かつ強大な翼…
:グォォォァァアァッッ!!:
(;'A`) :ごポォッ ーー かっ…
や…っぱりお前か、グリガン:
数百年を生きる百獣の乱入は、
ワカッテマスの闇の鎖を容易く引き千切り
"ポイズン" の落下を結果として救った。
(;'A`),"・ :くそ、いてえ… ゲフッいてえよ〜:
その代わり受けたダメージは相当なものだ…
"ポイズン" だからこそグリガンも荒々しく吹き飛ばしたのだろうが。
-
自分の意思とは無関係に咳き込む身体を無理矢理起こしながら、 "ポイズン" は湖へと視線を移す。
ワカッテマスの姿はなく、水面には異物が入ったことを知らせる波紋だけが残っている。
('A`) :アイツは…あの中か:
( <●><●>) 「……どうも遅くなりました」
不覚にも心臓が跳ねた。
あわてて振り向くと、そこにはさっきと同じ台詞で現れたワカッテマスの姿。
ーー しかも、
( <●><●( <●><●( <●><●>)
( <●><●>) ●><●>) ●><●>)
(;'A`)
(;'A`) :そうか…泥人形ってことか:
-
六体の土塊ワカッテマスが立ちはだかり、
グリガンもスタンスを広げ戦闘態勢にはいる。
"ポイズン" も痛みに耐えるように立ち上がった。
純粋な戦闘であればグリガンだけに暴れさせてもお釣りが来るかもしれない。
それは泥人形ではなく、本物のワカッテマスも理解しているはず…
それでもやはり、土塊ワカッテマス達は目を細めてこう言うのだ。
( <▲><▲>) 「……湖に何があるか、一緒に確認しませんか?」
.
-
開幕、土塊の一人が放つ広範囲型の闇の炎。
( <●><●>) 「……【シャドラ】」
"ポイズン" を中心に集まりだす魔導力に、足元の砂がチリチリとサークル状に沸き上がる。
それを察知して空に逃れるグリガンの足を掴んで "ポイズン" も範囲外へと回避。
空いた手でガンアクスを土塊の数体にお見舞いする。
('A`) :ふひひ! 的がでけえぞ:
( <●> ;;<ф> 「……げぃふ」
外側にいた者は離脱できた。
だが真ん中にいた土塊は回避しきれずその頭部の左半分を打ち砕く。
繋ぎ止めていた筋繊維を失い目玉がどろりと零れた。
( <●><●>) 「……【シャドウ】」
( <●><●>) 「……【ノロード】」
人間より身体の大きなグリガンが的となった【シャドウ】は魔導力の集束に時間がかかり発動が遅れる。
グリガンは体毛のスピアを降らせた後に急旋回でそれを躱し、大きく空を舞った。
…だが次の魔法は針の穴を通すように、 "ポイズン" の身に降りかかってしまう。
ダメージはない。
訝しげながら手を離しグリガンから離れ地に降りようとするも、そこで違和感に気付く。
('A`) :ーー 身体が重い!?:
そう感じて手に力を込め直そうにも間に合わず、そのまま落下する。
【ノロード】は脳信号の伝達を遅らせ、身体機能を低下させてしまう。
グリガンからすれば "ポイズン" が自分から選んで落ちたとしか思っていないだろう。
落下しつつも、ワンテンポ遅れるようにガンアクスのトリガーに指をかける。
グリガンが放ったスピアを懸命に避ける土塊目掛けて発砲した。
-
バスン!と音をたてると同時に、
土塊が土手っ腹に穴をあけ倒れるのが見えた ーー その矢先、新たに襲い来る闇の炎が "ポイズン" を包み焦がす。
(;'A`) :がアッ…!:
彼の燃える視界の先ではグリガンが闇の炎を避けつつ高度を上げていく。
ーー 突風とスピアを重力にまみれさせて発射するグリガンの【ダウンバースト】。
詠唱中だった他の土塊をまとめて凪ぎ払っているのが見える。
(;;'A`) (俺が撃ち殺したのが1、2…
グリガンが【ダウンバースト】でいま3体やってるから…)
【シャドウ】に燃やされながらもカウントし、己が着地する前に最後の土塊目掛けて標準をあわせ発砲する。
( <●><●>) ) 「……狙われるのはわかっています」
二度撃つも当たらない。
"ポイズン" が思っているタイミングでトリガーを引くことができないために土塊は弾丸を躱す事が出来る。
砂浜に着地するも、やはりうまく身体が反応せずによろめいた "ポイズン" に大きな隙が出来てしまった。
( <●><●>) 「……【シャドラ】」
(;;'A`) :ふひひ…:
( <●><●>) (?)
なぜ笑うのか、土塊には分からなかった。
グリガンはこちらに背を向けて別の土塊を屠っている最中…この詠唱は止まらない。
頼るものなどないくせに。
-
恐らくここに居たのがワカッテマス本体であっても、その反応は理解し難かったかもしれない。
広範囲の闇の炎が、今度こそ "ポイズン" を囲って盛大に燃え盛った。
彼を中心点として砂浜にブラックホールと見間違うような黒い炎渦がジュウジュウと猛る。
( <●><●>) 「……やりました」
命令通りに "ポイズン" を撃破した。
不死とはいえ、一度死ねばしばらくの間は活動できなくなる。
まして呪術による死はより一層、その死を長引かせるだろう。
次はグリガンを捉えるべく顔をそちらへと向ける。
百獣は容易い相手ではなく、土塊如き自分ではダメージを与えられるかも怪しいが ーー
などと思考していたのが間違いだった。
… "ポイズン" は、相討ちを厭わない。
:;....::;.:. :::;.. ..... (;;'A;;)o彡 ;....::;.:. :::;.. .....
( <●><●>) 「……?」
うっすらと、
炎の中で "ポイズン" が振りかぶった気がした。
…なにを?
-
ーー ザクッ ーー
( <〇/"<●>)
土塊の顔面、
ガンアクスの刃が唐竹割りに斬り刺さる。
:( <〇/"<●>) : 「……えっ?」
ーー 土塊がそれを理解する前に
グリガンが重力を無視した急降下からの翼のギロチンを振りかざす。
泥人形の意識と身体は完全に分断された。
.
-
6体の土塊は全て動きを止め、死んだ順から砂浜に紛れて消えていく。
残されたのは無傷のグリガンと、
::;.. ..... (;;'A;;) ;....::;.:. :::
バチバチと、【シャドラ】の炎に焼かれる "ポイズン" 。
普通なら死ぬだろう。
ーー だが、これで終わりではない。
グリガンは体勢を整え向き直し、爪先で砂埃を舞い上がらせると
燃え盛る炎の中へ低空突進。
…嘴で "ポイズン" の腕を千切れない程度にくわえながら上昇し、闇から救いだしてみせた。
(;;'A;;;)
(;;'A;;;) :……お前、なにやってんだ?:
グルゥ、とグリガンは喉をならす。
(;;'A;;;) :ふひひ…:
……美しいお仲間がいて愉しそうですね。
.
-
突如、水面から水柱が吹き上がり
上昇最中だったグリガンの動きが一瞬止まった。
水のカーテンから現れた、膝下まで隠れるコートを纏う呪術師 ーー
ーー 最初に撃ち殺したはずのワカッテマス。
(; <●><●>) ⊃ 「……【シャ ーー」
瞳に紫色の光を携えながら、魔法を発動させている。
(; <●><●>) ⊃ 「……【 ド ーー」
赤黒い光が集束し始める。
だから、
グリガンの嘴から力任せに自らの腕を引き千切り
その身を宙に踊らせた不死者は ーー
「!?」 (; <●><●>(;'A;;;)) )
ワカッテマスをその身体ごと、湖へと叩き付けた。
質量の侵入によって水の飛沫が舞う。
そして湖に叩き付けられた衝撃で、
最後の土塊の瞳に映し出されたサーチグラスの映像はここで途切れている。
.
-
天板から流れる映像の光が消えていく。
……辺りは闇に包まれた。
ワカッテマスが使っていた実験場には
血にまみれたノコギリが無造作に放られている。
床に点々と、
時に湯水のように垂れ流した血液は
空気に触れてもう凝固していた。
先程まで "ポイズン" と7体の土塊との戦闘を記録したヴィジョンが煌々と映し出され、
その映像を確認していた者が一人。
その人物には右肩からバッサリと、
二の腕がない。
-
( <▲><●>) 「……ふふ、ふふはは」
ーー ワカッテマス。
彼こそ本物。
赤い森の呪術師達が最後に生み出した呪いの人工物。
湖で "ポイズン" を襲った "7体" は、
全てこの右腕を刻んで創り出した泥人形だ。
これであの不快な音をたてる男はしばらく現れないだろう。
やもすれば、永遠に湖の中で眠っていてくれるかもしれない。
そう想像するだけで、彼が目的とする三人を屠るに匹敵しそうなくらいに心が休まる気がした。
しかも、そのうちの一人は直接【カース】を発動させる事ができた。
…不死者相手にどこまで効果を発揮するかは未知数だが、どちらにしても喜ばしい成果を挙げられたといえよう。
この腕の激痛などどうでも良いほどに。
-
( <▲><▲>) 「……ははは」
賢者も三人葬り去った。
残り一人で何ができようか?
( <▲><▲>) 「……ヒュゥ、ははっ…!」
さらにあの湖の特性も大方予想が付いた。
自分の分身だったからか、映像以上に伝わる情報…
あの湖には恐らく、
沈んだ物の特性が付加されるのだ。
"吸収される" とでも言うべきか…そして
(; <▲><▲>) 「ふは、ヒュゥ ーー はは、ヒュゥ ーーあはあは」
その特性はきっと
"こちら側も恩恵を受ける" のだ。
撃ち抜かれそのままなら死んだはずの土塊が
湖に生かされて最後の伏兵と化したのはとんだ副産物だった。
ワカッテマスの策の中には、 "ポイズン" が【シャドラ】で燃やし尽くされる所までしか想定していなかったのだから。
:(; <△><▲>): 「ヒュゥ ーー ヒュゥ ーー」
…時代の流れはどうやら私に味方している。
ーー 私は世界に望まれているのだ。
-
------------
〜now roading〜
('A`)
HP / F
strength / D
vitality / A
agility / A
MP / C
magic power / B
magic speed / C
magic registence / A
------------
-
疼く右腕を止血しながら…
彼は数日かけて夜闇を移動し、湖までようやく辿り着く。
彼自身がここへ来るのは初めてだが、
どこか懐かしさを憶えるのは自分の泥人形が沈んでいるからだろうか?
光沢のない赤黒いコートに身を包み、
宵闇の中、ワカッテマスは浜辺に立つ。
(; <●><●>) 「……【キール】」
じっとりと汗をかいていた。
もうじき夏季がくるが、それだけが理由ではない。
呪術における毒の魔法を詠唱し、自身に発動する。
毛穴から入り込む赤黒い魔導力が身体の隅々に行き渡っていくのが分かる…
呪われたワカッテマスにとっては、
これが少しずつだが傷を癒す回復魔法なのだ。
周囲を見渡しながら、戦闘跡を探して歩く。
-
右に視線を向ければ鮮血色の湖が広がり、さざ波が寄せては返すを繰り返している…
人体を巡る血液も、心臓というポンプに押し出されながらこのような動きを繰り返しているのだろう。
本来この湖は美しいと評判で、大陸戦争の頃もあえて戦地としては選ばれなかったという。
( <●><●>) 「…… ーー 笑わせてくれます」
ならば何故、赤い森はその戦さ場に選ばれたのだ。
先祖達は森の外に出ることもなく、
決して周りに危害を与えることもなく何十年、何百年と暮らしてきたはずだった。
呪術とは名ばかりの、
森で生活するための知恵として受け継がれた魔法はやがて独り歩きし、
何も知らない者達が勝手なイメージを押し付けただけではないか。
呪術を "呪術" 足らしめたのは他でもない、
思い通りいかない鬱憤を晴らすために我らをスケープゴートにした大陸の者達だ。
それだけで皆殺しにされた一族の怨み
絶対に、赦しはしない。
-
…やがてワカッテマスは、
砂浜に紛れ落ちている二つの残骸を見つける。
サーチグラスを瞳に嵌め込んでいた鳥の死骸。
そして、あの男が自ら千切り飛ばした "ポイズン" の腕。
胴体を踏み潰され腐りかけた鳥の死骸から目玉を抉り出し、サーチグラスを回収する。
(; <●><●>) 「……ふむ」
少し悩み、腕を振り上げて闇の魔導力を細く灯籠のように漂わせる。
それに惹き付けられるかのように、一羽の鳥がワカッテマスの肩へと止まった。
(; <●><●>)б" 「……よしよし」
鳥は良い。
社交的で、馴れれば従順な僕や友となる。
勝手な人間の作り上げた尺度ではなく、己と心が通う者であれば
人格破綻者だろうが、
呪われた者だろうが、
造られたモノだろうが、
…垣根なく触れ合ってくれる。
-
ワカッテマスは回収したサーチグラスを鳥に呑み込ませ…さらに "ポイズン" の腕をその口にくわえさせる。
(; <●><●>) 「……頼めますか? 私の実験場まで」
ギキィ!と耳障りな鳴き声をたてて鳥は羽ばたく。
…この身体が本来の声を聞けたなら良かったのですが…
そんな風に時々は思わなくもない。
赤い空に消えていくその姿を見送って、
ワカッテマスの視界はやがて下る。
空色と同様に赤い、広大な血の湖へと。
-
実際に目の当たりにすると、躊躇せずにはいられない……
推測を重ね、一番高い可能性を胸にここまで来たのが現実だ。
もし推測が外れてしまえば、下手をすればワカッテマスの人生はここで終わるかもしれない。
(; <●><●>) 「……ふぅ」
天秤にかけるのはリスク、
そしてその先に得られるものは実りある復讐の架け橋。
泥人形が示した可能性は、
ワカッテマスにとって今一番欲しいものであり、
通常ならば生涯得ることのできない特性。
夜しか活動できない彼にとって
泥人形は時間を問わず活動できる優れものだが、欠点が多すぎた。
ーー 媒体がなければ創り出せず、寿命が短すぎる。
もしも泥人形をもっと生き永らえる事が出来れば、
わざわざ媒体を何度も用意する必要はなくなり、
果たして一族の復興も夢ではない。
(; <●><●>) 「……【キール】」
もう一度、呪術を自らに重ね掛けしておく。
万が一湖に取り込まれるような事があれば即座に脱しなければならない。
彼は魔導シールドのような防御壁を使うことはできない。
ダメージによる体力の減退だけでも相殺し、態勢を整えた。
(; <●><●>) 「……いざ」
.
-
----------
ーー ワカッテマスの意識が、湖に融けてゆく ーー
(推奨BGM)
http://www.youtube.com/watch?v=Tgy1wt3ZBbo&sns=em
.
-
予め決めておいた線に沿い、
針と糸で、布地を縫い合わせていく…
『ーー 戻ったよ、ただいま』
夫が帰ってくると作業の手を休め、
出迎える。
『お帰りなさい。 お疲れ様』
『立ち上がらなくていい、迎えてくれただけでも充分すぎるよ』
妻は『そう?』と微笑みながらまた手縫い作業に戻る。
『一日やるだけでもけっこう進むんだなあ』
『そうね… 前もって準備さえしておけばね』
妻の周りには、完成間近の縫いぐるみが積み上がっている。
口と目が縫われた人型、あとは中身を詰めて背中を縫えば良い。
…しかし、その中身に詰めるのは柔らかな綿などではない。
天の恵みである雨、水、
赤い森で採れる大地の恵みの象徴、土、
ーー それが混ざった時に出来る "泥" を詰める。
-
『…それにしても今年は多かったんだな』
『8人分…産まれた子供の数だけ作ってあげないとね』
妻は最後の縫いぐるみの口を縫い終わると、
自分の長い髪の毛を一本つまんで引っ張った。
二本、三本…
抜いた髪の毛を、まだ縫っていない背中にそっと差し入れる。
全ての縫いぐるみに髪の毛を入れ終えたら、最後に泥を詰め込んだ。
細い指で、周りを汚さぬよう、
少しずつ丁寧に背中へ注いでいく。
『俺も手伝うよ』
夫が志願すると、妻は泥を詰め終えた縫いぐるみを手渡した。
中身がはみ出ない様、夫も丁寧に背中を縫い針で綴じていく…。
完成した縫いぐるみは、一見してグロテスクと擁されるかもしれない。
さわり心地も泥が詰まっているのだからグニョグニョとして落ち着かない。
それでも、
一族にとっては新生児を祝う品であり
一度だけ身代わりになり、児を護ってくれるタリスマンなのだ。
縫いぐるみを作る夫婦の表情は穏やかだった。
.
-
『我らはどちらにも荷担するつもりはない。
戦争行為そのものに反対なのだ』
静かだが、怒りを滲ませた声が誰かと話している。
『…この森も巻き添えを? なぜ?
貴方らは自分で未来を決めたにも関わらず、
戦う場所も選ぶ事ができないのか?』
『……ここは我らが昔から代々暮らしてきた土地なのだ。
それをどうして、金や、貴方らの都合一つで退かねばならん』
その声は怒り、そして憐れみ、
『……我らをそっとしておいてくれ…
もう一度言う、どちらの味方をするつもりもないのだ。
戦争は反対なのだ……国王にも、そう伝えてくれ』
懇願を遺して消えた…
この交渉が決め手だったのかをもはや知る者はいない。
…やがて赤い森は戦火に巻き込まれる。
軍を率いた者の名は ーー
(推奨BGMおわり)
----------
-
(; <◯><◯>) 「……っ」
ワカッテマスが目を覚ました時、
彼の身体は浜辺に打ち上げられるように
波の毛布が全身を覆っていた。
混濁した意識を時間をかけて取り戻す。
いくら波に濡れようとも構わない…先の記憶は、ワカッテマスが観たくても観れない映像だったのだから。
この身に宿る怨念は
いつも漠然としたイメージだけを発作的に叩き付けるだけで、総てを塗り潰す赤い色しか見えて来ない。
黒い幻影しか、彼に語りかけては来ない。
(; <●><●>) 「……はあ、はあ…」
だからせめて…少しだけその余韻に浸りたかった。
指先を、寄せて返す波が往ったり来たりするのを視界に捉えながら……
( <●><●>) 「……ん」
-
彼が見ているのは指先。
ーー 失ったはずの右手だった。
顔をあげ、身体を起こす。
自然に動いているが、やはり両腕で起こしている。
全身を蝕む痛みとは別に、
腕そのものからは痛みがなく、違和感もない。
( <●><●>)
つ 「……そうですか、これは…」
動く右手から伝わるのは自分自身だった。
記憶の彼方からではなく、
"ポイズン" と共に沈んだ土塊…
その媒体となった、己の右腕の感触が戻ってきたのだろう。
Σ (; <●><●>) 「……痛っ」
喜ばしさ…その実感と共に、全身を襲う倦怠感と痛みが自覚されていく。
よく観察すれば赤黒いコートは所々が酸を吸い込んだように破け、皮膚がジリジリと痺れている事に気付いた。
そして、それは徐々に肥大化する。
【キール】のような呪術の毒ではなく
文字通りの毒を浴びたのだろう。
"ポイズン" が湖に沈んだことで
右腕と【ポイズン】を吸収してしまったか…そう推測する。
想いに更け、見上げてみれば
空を埋めていたはずの分厚い雲は消えていた。
真球の如き満月が、砂浜とワカッテマス…
そしてこの美しく偽られた湖を照らす。
-
彼が無意識に "美しい" と感じていた事には気付かないまま、湖に背を向けたその時。
(; <●><●>) 「……?」
事前に誰も居ない事を確認したつもりが
明らかな人影が地平線に映り込む。
旅人か?
それとも事の発端となった女王が戻ってきたか?
いずれにしても自分の姿を見られる前にここを離れようと思った。
ーー だが、ツンが選択肢を誤ったように、
彼もまた選択肢を誤った…
それを認識する事が彼には果たして出来るだろうか?
その偶然を嘲笑うかの如く、
人影は堂々と、
そしてゆったりした動きとは裏腹に恐ろしいまでの速度で接近 ーー
-
(´・ω・`) 「ーー やあ」
(; <●><●>) 「!!!」
三日月型の斬撃がワカッテマスの頬を掠める。
油断していたわけでは…あった、だが、
それを差し引いても速すぎる肉薄。
(; <▼><●>)Ξ 「……貴様はっ!」
Ξ( ´・ω・`) 「よくもここまでやってくれたね!」
斬撃、 ーー そして斬撃、斬撃、斬撃。
突然現れ、振り止まぬ剣舞が
退くワカッテマスの身体を少しずつ斬り刻んでいく。
(; <▼><●>) 「……【シャドウ】!」
魔導力を放り出すように生み出した闇の炎 ーー
しかし迫った男の斬撃はそれすら斬り裂いてしまう。
…とはいえ、その分の距離だけでも稼ぐことが出来たのは大きい。
( <●><●>) 「……【シャドラ】!」
今度はより正確に、より強力な闇の炎を放った。 ーー はずだった。
-
(´・ω・`) 「……」
理解不能。
(´・ω・`) 「なんのつもり?」
呪術が…発動しない。
(; <●><●>) 「……??」
魔導力はまだこの身体に残っている。
計り損なったわけではない…なのになぜ。
(; <●><●>) 「……【シャドウ】!」
ーー 静寂。
(; <▼><●>) 「……いったい?!」
ーー 先程使えた魔法すら不発。
茫然とするワカッテマスを前に、
その男は剣先をこちらに向けて語り始める。
(´・ω・`) 「魔法が使えないなら都合がいい…
一度でもゆっくり話したかったから」
男は言う。
…話したいと?
相手に剣を向けて行う対話がどこの世界で成立するというのか。
(; <▼><●>) 「……貴様と何を話すのですか?
一族を滅ぼした元凶が」
ーー 軍を率いた者。
ーー 赤い森を殲滅した張本人。
-
(; <▼><●>) 「……ショボン!」
(´・ω・`) 「…それについてはもう弁明できない。
謝って赦してもらえるとも思っていない」
突き放した返答が、ワカッテマスの神経を大きく逆なでする。
(´・ω・`) 「この流行り病、君なんだね?」
ショボンは哀しげに訊ねる。
(; <▼><●>) 「……そうですね」
(´・ω・`) 「…目的は、僕?
それとも大陸の人々?」
聞いてどうするのだ、このしょぼくれめ。
(; <▼><○>) 「……グッ ーー 貴様だ、とでも答えれば満足ですか?」
息が苦しくなる。
(´・ω・`) 「そうか…」
(´-ω-`) 「……そっか…」
ショボンの哀しみが一層増す。
とはいえ、ワカッテマスにはもはやそんなことはどうでも良かった…
苦しい……
【ポイズン】のダメージではない、
もっと、根本的な……
-
まるで、自身を構築している呪いに
穴が開いて漏れてしまっているような
.
-
(´・ω・`) 「…僕の言葉が君に届くかは分からない…
でももう、これ以上は ーー !?」
そこでショボンの言葉が止まる…
どうしたのです?
そういえば、普段なら聞こえるはずの耳障りな音がしませんね……?
"ポイズン" の笑い声のような、
そう、
ゴボゴボと臓器が沸騰するような ーー
-
ワカッテマスの身体から赤黒い光が漏れている。
本人は気に止めているのかすら読み取れないが、ショボンの目からも魔導力の流出は明らかだった。
(; <○><○>) 「ーーあ、あぁぁっ!?」
(;´・ω・`) 「な、なに…っ?!」
はじめて見る現象が目の前で起こっている。
ワカッテマスの肉体を司る呪いの魔導力が血飛沫のように噴き出して空に舞っているのだ。
ーー それどころか、それが湖へと吸引されるように赤黒い雲がドボドボ流し込まれていく。
Ξ(; ´・ω・`) 「くそっなんだこの湖は!?」
ワカッテマスに向けていた刃を一旦鞘に納め、ショボンは駆け出した。
同時に一瞥するも、ワカッテマスは明らかに意識を失いかけており、その視線は何も映さずただ虚空をさ迷っているだけ。
Ξ(; ´・ω・`) 「ーー やむを得ない!」
-
ショボンは鞘に納めた剣 ーー "隕鉄" の刀を握りながら、
まるで空に浮くような動きで立ち向かいそれを見据える。
その神速の目標は魔導力を吸い込んでいる水面の一点。
その剣撃の目標は魔導力を吸い込んでいるという特性その一点。
本性を現したかのような悪魔の顋…
怯まず目掛け、ショボンは抜刀する。
【ドレインガード】!
斬撃はショボンの発する魔導力を帯びながら湖を斜めに斬り裂く。
さしずめ古代の予言者が海を渡ろうと奇跡を起こすかのように、見渡す限りの水圧の崖がその効果を物語る。
ーー 直後。
ガボガボガボガボ!と、
まるで生き物がもがき苦しむかのように。
水面から亡者の轟き嘆く音が可視化され、周囲を埋め尽くす。
-
ォォゥ…オオウ ーー ォォゥ ーー
(; ´・ω・`) 「……効いた? 仕組みは一緒か」
間も無く遠くなる怨念の耳鳴り。
ーー 吸い込まれていた魔導力が勢いを殺され宙に漂い…霧散していく。
それに伴い亡者の声は止み、
辺りは月夜が支配する静寂を取り戻していった…。
( ´・ω・`) 「…吸い取るものなら一通り効果がありそうだね」
独りごちるショボンは刀を納め、
湖に後ろ髪を引かれながらもワカッテマスへと向き直る。
_
( -∀-) 「すピー…」
(´・ω・` ;) 「…えっ」
…ワカッテマスに……向き直ったはずだった。
.
-
慌てて辺りを見回すも、
ワカッテマスのその姿、その形跡を見付けることができない。
正真正銘いまこの場には
ショボンと…眠る男、ジョルジュしか居ないのだ。
(´・ω・`) 「…」
ショボンは思案し、ジョルジュを背に担いだ。
成人男性…しかも長身のジョルジュを軽々と持ち上げる。
_
( -∀-)
(´・ω・`) 「よいしょ…」
ジョルジュは目を覚まさない。
深く寝入っているようだった。
「こんな荷物まで持ってたら、僕が入れるのは水の都くらいだしなあ」
と、呟きながらショボンは湖を後にする。
ーー だがその水の都こそ。
ワカッテマスの策略による人同士の監視社会が出来上がってしまった事に、まだ彼が気付く事はなかった。
-
.
-
人は『疑え』と言われれば信じたくなり、
『信じろ』と言われれば疑いたくなる生き物だ。
人々は善良な仮面を被りながらも、
その手に持つのは仕組まれた呪いのオーブ。
ワカッテマスは本来闇の中でしか活動できなかった。
だからこそ様々な策略に長けた。
自身が動けない間、
物事が思い通りに進んでいればこれほど楽なことはない。
大陸の中心で、
優雅な生活に潜ませたディストピアが
これから幕を開ける。
生きながら知らぬ間に操られた人形達は
無意識下に主人の帰還を待っていた。
(了)
-
以上で本日の投下を終わります
ありがとうございました
現在までのお話
( ^ω^):矛盾の命 >>1
( ´∀`):繋がれた自由 >>17
( ´∀`):遺していたもの >>48
( ^ω^):老女の願い >>101
ミ,,゚Д゚彡 :帰ってきてね >>139
( ^ω^):ふたごじま >>237
('A`) :死して屍拾うもの >>297
( ^ω^):初めてのデザート >>377
ミ,,゚Д゚彡 :時の放浪者 >>423
( ^ω^):その価値を決めるのはあなた >>549
( <●><●>) :人形達のパレード >>611
-
乙
面白かったです
-
いろんな所が繋がってんのおもしれぇなぁ。乙
次回も楽しみにしてる
-
一気読みしたけどすごく面白いな、好きだわ
乙乙
-
乙!
この湖ってあれか
-
更新はえええwww超乙!
>>719
俺もそう思った
そしてツンの笑顔に(ry
-
安定して面白さだ乙
ツンさん貫禄のStrengthAですか
-
皆さん読み&レスありがとうございます
>>718
このレス数を一気読みは大変だったかと思います、嬉しいです
次回は百物語が終わりましたら予告&投下します
幕間にはなりますが( ^ω^)ではありません
またよろしくお願いします
-
追い付いた、面白い
ロスオデは本編より千年の夢の方が圧倒的に好きだという……千年の夢出来良すぎて作者の重松清が書いた他の小説よりも好きだ
続きもワクワクしながら待ってるぜ
-
>>723
俺も千年の夢のほうが好きだった
本編そっちのけで探してたなwいまでもたまに本で読んでる
-
100レス超え疲れた、面白かったけど
-
読レスありがとうございます!
なのに疲れさせて申し訳無いです
自分が長編を読むときはがっつりと読み込む派だったので、話を書く際にあまり細かく分けることを考えていませんてした
せめてローディング画面で日を区切りながら投下する事も思案していたので、一つずつ試してみますね
-
>>726
気のきいたこと思いつかないから、乙だけじゃ寂しいので苦肉の書きこだよ
読むほうは読みたいと思うから時間かけてでも読んでるんだから
-
>>727
嬉しいです、ありがとう
完結してからと考えていた年表ですが、物語の進行上、公開した方が良いと考えたので投下しておきます
公表具合は調整中として、ひとまずは簡単なものを
-
-900年代 ***********
→信仰概念のはじまり
-400年代 ***********
→結婚(結魂)制度のはじまり
-350年代 ***********
【ふたごじま】→魔導力の蔓延
-210年代 ***********
→大陸内戦争勃発。
【帰ってきてね】→前半
-200年代 ***********
【帰ってきてね】→後半
【死して屍拾うもの】
-195年 ***********
→大陸内戦争終了。
【はじめてのデザート】
-190年代 ***********
【その価値を決めるのは貴方】
-180年代 ***********
【老女の願い】→復興活動スタート
-150年代 ***********
【老女の願い】→荒れ地に集落が出来る
→川 ゚ -゚) が二代目( ´∀`)に指輪依頼
-140年代 ***********
【老女の願い】→老女は間もなく死亡
→指輪の暴走。 大陸の端の湖に封印。
-130年代 ***********
【人形達のパレード】
→二代目( ´∀`)死亡時期
-
-120年代 ***********
【命の矛盾】
-100年代 ***********
【繋がれた自由】
【遺されたもの】
【時の放浪者】
-40年代 ***********
【老女の願い】→集落→町になる
00年代 ***********
【老女の願い】→( ^ω^)が
官僚プギャー、炭鉱夫ギコに再会
----------
下にいくほど起こった出来事が新しくなっていきます
-100年代なら
【繋がれた自由】【遺されたもの】のあとに
【時の放浪者】が起こりました
なんとなく「こんな流れか〜」程度にも感じて頂ければ幸いです
-
時の放浪者が最新と思ってたおつ
-
年表出たことだし、もう一度読みなおしてきますね
元ネタは知らんけど読んでると楽しくてしょうがない
-
( ^ω^)千年の夢のようです
- 此処路にある -
-
_
( ゚∀゚) 「……あれ?」
目を覚ますと、
そこは見知らぬベッドの中だった。
薄暗くもセピア色に彩られた空間は、
寝起きの眼に優しい。
窓からは空が見え、
それ以外の景色は映されていない…
しかし「昼間の山小屋といったところか」と、ジョルジュはごく自然に察した。
山蝉のような虫が片隅で留まっている…
部屋が暗いのは陽の当たる方角を壁が遮っているからだろう。
_
( ゚∀゚) 「ん?」
スーツ着のまま寝ていたからだろうか…
シワが出来ている…
しかも、ところどころが特にクシャクシャとなっていた。
ジョルジュにとっての身だしなみは数少ない楽しみの一つなのに。
_
( ゚∀゚) 「しくじったな…また新調するか」
_
( ゚∀゚)o彡゜ 「さーて、起きたての体操、体操!」
腕を振り肩を回す。
腰をひねり太股を交互にお腹につける。
ふくらはぎを伸縮させ足の爪先を伸ばす。
違和感は無い。
身体にも、そして記憶にも。
不意にガチャリ ーーと、
ドアノブをひねる音に反応して振り向く。
…古くなってるのだろう、ノブに続いて扉も軋みながら…
しかし部屋の中に不釣り合いな自然光を注ぎ入れる。
.
-
|o(´・ω・`)「ーー おっと失礼、もう起きてたんだ」
_
( ゚∀゚) 「…おはよう。 というか…どなたで?」
男はショボンと名乗り、
扉を開けたまま腕を組み、その身を壁に預ける形でジョルジュを見つめた。
(´・ω・`) 「…覚えてないのかい?」
ショボンへの第一印象は "他人を信用しないタイプだな" と感じた。
腕を組むのは勿論、己に対する眼差しと
その腰に帯刀する得物がすぐに抜けるよう
体勢を整えている…
_
( ゚∀゚) 「?? 酔っぱらってたとか?」
…彼の記憶は、賢者ぬーと共に船を走らせ、
他の賢者を追い掛けていた所で途切れている。
ーー より正確には、
"その後はぬーと別れて賢者じーを捜すために一人東へと向かっている"
と思っていた。
(´・ω・`) 「……」
_
( ゚∀゚) 「…?」
(´-ω-`) 「嘘をついてる風には見えないしね」
(´・ω・`) 「君はここからずっと南の、"美しい湖" から僕が運んできたんだよ」
-
_
( ゚∀゚) 「…なんだって?」
(´・ω・`) 「ワカッテマス、という名に聞き覚えは?」
ショボンは今にも帯刀の柄を握りかねない威圧感で問い掛ける。
_
( ゚∀゚) 「いや、ないな」
ジョルジュは嘘をついていない。
だから即答できるし、部屋を包む威圧感にも動じることはない。
(´・ω・`) 「…ちょっと腕を出して。
そう、その状態で力をぐっと入れてくれないかな?」
言われた通りに力を込める。
見た目より鍛えられたその身体は
【パワーデス】を唱えなくともショボンを凌駕する強靭さを露にする。
-
ショボンの表情からはまだ疑念が消えなかった。
…しかし、発していた威圧的な雰囲気は失せ
ジョルジュを見る目も心なし和らいだ。
(´・ω・`) 「…運んでる時にも思ったんだ。
君の肉体は僕の探していたワカッテマスとは明らかに異なっている…」
_
( ゚∀゚)o 「すまないけど、言ってる意味がわからない。 …なにか困ってるのか?
詳しく聞かせてくれ」
ショボンは目を細めて再び壁に寄りかかった。
腕を組むのは癖なのかもしれない。
(´・ω・`) 「いいよ。 僕が君を運ぶ前に見た事を話してあげる」
(´・ω・`) 「…代わりに君が一体誰なのか?
それを先に教えてよ。 それこそ詳細にね」
その細い瞼の奥に潜む瞳を見ると、
ジョルジュはどうしたことか素直に従うつもりになる。
おかしな話だ… 初対面、しかも得体の知れない男に。
まだ自分は寝惚けてるのかもしれない。
.
-
----------
ーー これは…俺、ジョルジュの昔話だ。
(推奨BGM)
https://www.youtube.com/watch?v=OTJLtz4ItZk&feature=youtube_gdata_player
.
-
俺はいつ生まれたのか覚えていない。
物心つく頃には、すでにある程度の金や知識をもってこの世界を放浪していた。
別段、生きる目標も無かった…
『大金持ちになりたい』とか、
『商売で一発当てたい』とか、
『人様の役に立ちたい』とか、
『こいつを幸せにする』とか、
どれもピンと来なかった………。
旅をしていて気付いたのは、そんな風に
誰もが未来の自分を思い描いて生きる姿をみて
…俺はそういう想いの無い、
つまらない人間なのか?
って事だ。
.
-
…だが、それも道理を理解できていた。
周囲の人間と違って俺は歳を取らない。
_
( ゚∀゚) 『なあ、もう防人は辞めたのか?』
『いつまでもできる仕事じゃない。
子供に任せて、俺は引退さ…』
ついこの間まで一緒につるんでいた仲間が
老いぼれていく様を俺は見て。
……何年も一緒につるんでいた仲間が
全く変わらない様で俺は見られていた。
『ーー お前は…
いつまでそうやっていられるんだ?』
あの頃たしかに通じ合っていた心は、
鈍感な俺を差し置いていつのまにか
どこへ消えていったのだろう。
.
-
同じ場所に居れば
やがて友の死を目の当たりにする。
『あの頃は…楽しかったな』
_
( ゚∀゚) 『……』
起き上がることもできない身体を寝かせ、
懐かしそうに話す友の声…
「そうだな」 とは咄嗟に言えなかった。
友の言うあの頃は、遠い "過去" であり、
俺にとっての "現在"だった。
今の自分を振り向けるほど、俺は器用じゃなかった。
『生まれ変わりって信じるか?』
友は、しわくちゃになった風体で言う。
『きっとあの世で待ってもお前は来ないんだろう?』
_
( ゚∀゚) 「…そう、なのかもな」
『ーー だったら俺が生まれ変わるしかない。
また、一緒に肩を並べて同じ景色を観よう』
『そして…すまなかった』
『…あの日のこと、ずっと謝りたかった』
そう言って、友は俺に別れを告げた。
_
( ∀ )
何を謝る事があったのか?
友からすれば、いつまでも同じ所で燻ってる俺を見かねてわざわざ声をかけに戻ってきてくれたようなものだ。
謝るのも、礼を言うのも俺の方なのに。
生まれ変わったかつての友。
俺は出逢えたのか…未だそれは分からない…。
.
-
それ以来、
俺がひとつの土地に定住した記憶はない。
朧月のように曖昧な目的がそうさせたのか
あっちこちへと旅をしながら、
その場その時を楽しむようになったな。
ーー ああ…そういえば。
時々長い夢を見るよ。
具体的なものじゃないけど、なんだか
懐かしい気持ちになる…そんな夢。
.
-
それはなんていうか……色だ。
一面が暖かいオレンジの事もあれば、
肌寒い青を塗り潰すように後から暖かみのある水が差したり…
そんな夢なら良いんだ。
なんつーか… ーー 見たこともない母親が
すぐそばにいてくれる気になる。
俺が恐かったのは、
心地よい肌色が突然真っ赤に染まったり、
…かと思えば闇より深い漆黒に包まれて
……しかもそれがずーっと続く景色。
俺の声は届かないし、
誰の声も届かない。
ーー たまらなく孤独なんだ、そんな時は。
やめてくれ! …って叫んでも
黒が赤を塗り潰す。
助けてくれ! …って叫んでも
赤が黒を塗り潰す。
それはまるで、発作のように繰り返す
【絶望の色】なんじゃないか……?
.
-
……そんな目覚めは決まって不幸なことが起きる。
知人の事故死、
見知った土地を巻き込む事件、
…理由は様々だけど。
例えば予知夢ならどんなにいいか ーー でもさ、
予知しても…いつも終わった後なんだ。
誰も助けられない。
いつも俺は蚊帳の外だった。
ひょっとして俺は、そういう不幸を運ぶ
星の生まれなのかもしれない。
他人に関わらない方が…
いいのかもしれない。
それも旅をしていた理由かもな。
.
-
ーー それでも。
やっぱ目の前で誰かが困ってるなら、
懲りずに助けてあげたいと思う。
前向きな想いが囁く…不幸なんてのは結果論だと。
その瞬間、誰かが助けを求めてる
"その瞬間ってのは現在" だから……
まだ結果は出てないんだよ。
俺の中にも。 その人の中にも。
ましてや神様にもわかってたまるか。
なにかを不幸だと思うのは
"未来が創りだす過去" の仕業だ。
それをどうして
"現在を生きる自分が恐怖" しなきゃならない?
目標のない俺なんかと違って、
毎日違う暮らしを過ごす普通の人々からすれば
いつもが同じ事の繰り返しなんて、
そんな保証はどこにもない。
似たような出来事があっても
それは全く同じ出来事じゃない。
人は毎日、螺旋を描く。
生きて死んで…
そしてきっと別の生命に生まれ変わる。
俺の友はそう信じてた。
俺もそんな友を信じたかった。
(推奨BGMおわり)
----------
-
_
( ゚∀゚) 「ーー "俺達" みたく、
生命の定めから目をそらされたような奴には
退屈な話か? ショボンさんよ」
…語り終えるジョルジュの瞳には、
先程まで無かったような力強い光が宿っていた。
(´・ω・`) 「……いきなりなに?
まるで僕が普通じゃないみたいな言い種だね」
_
( ゚∀゚) 「いや、はっきりとは知らない。
ただ ーー 俺の記憶の【絶望の色】と、
あんたの纏う雰囲気が同じなんだ」
「いま話してみて気付いた」…ジョルジュはそう言って立ち上がる。
なぜならショボンの手には今にも抜刀しそうな得物の柄が握られていたからだ。
(´・ω・`) 「面白くて、君という人が分かる
よく出来たお話だった」
( "出来たお話" ーー ?)
(´・ω・`) 「…ただ僕はあまり非論理的な事を信じない質でね。
今の君の話しには足りない部分があるよ」
( "……貴様がそれを言うのですか?" )
(´・ω・`) 「…なぜ僕にその色を感じたのか。
君はきちんと説明できるの?」
_
( ゚∀゚) 「分からないって言ったじゃんか。
そっちこそなんで今、柄に手をかける?
俺になにか恨みでもあるのか?」
(´・ω・`) 「それをいまから調べさせてもらうんだ ーー 」
-
「よ!」と。
ショボンの身体が天井を這うように頭上から襲い掛かる。
部屋の片隅にいた虫も驚いて逃げるほどの殺意と速度。
そして抜刀した先端はすでにジョルジュの鼻先を掠めていた。
_ ,,
( ゚∀゚)) 「ーー っなろ」
彡
顔を引いてなければその一閃で観音開きの
血花が咲いていたところだ。
「まさに最悪の"けっか"は免れたな!」と笑いながら、
僅かに舞う己の血に構わずそのまま反転し
ショボンごと天井を突き破る勢いで蹴りを放つ。
バッカァンッ ーー !
(≡ (・ω・` ;) 「ぅおっ」
飛び散る天井破片がショボンに降り掛かる。
壁を跳び直撃は免れるも、その圧力に重心が逸れて床を転がっていく。
そしてその隙を縫ったジョルジュの詠唱が、
_
( ゚∀゚)o 「【ドッジ】!」
ショボンの疑惑を一つ解消する。
(´・ω・` ;) 「君はその魔法が何か…!
知ってて使っているのか?!」
問い掛けと同時に赤黒い光が、
ジョルジュの足元から弾けるように天に昇る。
ーー その赤黒い光こそ、赤い森の一族が使う呪術の証。
ショボンが追って追われる、
ワカッテマスと同じ門外不出の魔法だった。
-
_
( ゚∀゚)o 「この魔法はっ ーー」
(…… "この魔法は" ?)
_
( ∀ )o
(……"この光は" ?)
【絶望の色】…そう形容したのは自分自身。
それなのに、なぜ迷いなく行使するのか?
どうして、力を与えてくれるのか?
記憶をまた呼び戻す。
希望をもつ人に憧れ、希望をもった人が絶望し、絶望した人から死んでいく。
人は…そんな人生ばかりだろうか?
-
_
( ゚∀゚) (…そうじゃないはずだ。
人の数だけ、また希望をもって死ぬ事もある)
夢を塗り潰し合った赤と黒、青と水。
流動しているのだ、
(……果たしてそうですか)
きっとこの世は。
(……私にはわかりません)
いつかの 友のように。
(……いつかの、貴方も?)
.
-
正しい答えか彼にはまだ分からない。
だがその【赤黒い色】は、
平和と戦争で一生を閉じた一族の ーー
_
 ゚̄∀゚ 「 ーー【生まれ変わった証】!」
ジョルジュの姿が消えた。
´・ω・− 「ワカッテマスは、それを
【全ての怨念の証】と言ったよ」
ショボンの姿も消える。
神速の二人は部屋の壁すべてを足場にして
互いを牽制し、衝突し、結び合う。
ジョルジュの体術は
ショボンの刀筋を見破り往なし、
ショボンの刀術は
ジョルジュが繰り出すその膂力を受け流す。
三 ・ω・`)「君も実のところ、そう思っているんじゃないか?」
_
( ゚∀゚ 三 「俺は俺だ。
この魔法は必ず俺に纏われてくれる。
そもそもそいつの事も知らないのにどーしろと?」
-
ーー キギュリィッ!と、
陶器を擦り合わせたような、
それでいて骨が軋むような音が二人の耳をつんざく。
_
:( ゚∀゚)oo(´・ω・` ): 「…さっきの続きだけど」
幾度目かの衝突の末、まるで鍔迫り合いのような体勢になる。
ショボンはあと少しでも強く押し込むか、
手首を捻るだけで、
ジョルジュの肩にその刃が届くほどに肉薄している。
:o(´・ω・` ): 「僕はワカッテマスを捜していた。
…彼はなかなかに頭が回ってね。
いざ痕跡を見付けてもそれは尻尾のかけらばかりでイタチゴッコが続いてたんだ」
_
:( ゚∀゚)o: 「ほうほう」
対するジョルジュは、ショボンの刀を握るその拳ごと被うように握り潰す。
彼の膂力は手首すら動かすことを許さず、ショボンも抵抗するだけで精一杯だった。
油断すればジョルジュの膝蹴りが彼を襲う。
ショボンはその為にスタンスを広げて半身を相手深くへと陣取り、
腹筋から下部 ーー 下半身の先まで集中しなくてはならない。
:o(´・ω・` ): 「大陸を席巻してる流行り病も高い確率でワカッテマスが原因だ。
そんな中、僕はやっと彼に追い付いた
……けれど、直後にアクシデントがあってね」
_
:( ゚∀゚)o: 「そんな大事な奴を逃がしたってか?
アンタも俺からすれば大概だな」
:o(´・ω・` ): 「…いるんだよ、目の前に」
.
-
_
:( ゚∀゚)o: 「…なんだって?」
:o(´・ω・` ): 「君だよ。 ワカッテマスは君なんだ…理屈は分からないけど。
痕跡の根元には、君がいた」
互いに口は動かしながらも、
ぶつかり合った力のベクトルが正面衝突し
磁石のように離れない。
:o(´・ω・` ): 「ワカッテマスは結果として
僕が滅ぼしてしまった赤い森の残滓だ。
そして君も同じ類いの呪術を使う」
_
:( ゚∀゚)o: 「じゃあ俺も生き残りってことじゃないか?」
:o(´・ω・` ): 「先に君に出逢っていればそう考えたかもしれないね。
僕が結果として殺した一族の中に不死になった者がいた ーー とか」
:o(´・ω・` ): 「でも、もうその線は遥か過去に消えた。
いま僕が知りたいのは君の中に彼がいるのか…
それとも彼の中に君がいるのか……だ!」
ーー 徐々にだが、
ショボンの押し込む力が勝り始める。
ジョルジュの体力が劣っているわけではない…
だが精神的な柱はショボンに分が有り、
会話が進むにつれてジョルジュの心に揺らめきを生じさせた。
_
:(;゚∀゚)o: 「…くっ、好き勝手言ってくれるもんだ」
ジョルジュの全身に赤黒い光が集束し始める。
身体が動かないのから動くようにするまでだ。
-
_
:( ゚∀゚)o彡: 「【パワーデス】!」
:o(´・ω<` ;): 「ーー くそっ!」
増強された腕力で振り抜くも、瞬間、
ショボンは危険を察知して無理矢理に腕からその身を捻り膠着を解いた。
その代償に、握っていた刀も宙を舞う。
_
((# ゚∀゚)) 「せえっ!」
彡
歯止めを失ったジョルジュの掌底が空を切る ーー が、そのまま身体を一回転させ
踵で刀の背を真下へと蹴り抜いた。
一瞬でチェーンソーと化した頭上の刃。
「 ーー !!」 (´・ω・` ;#)
避けられるはずが無い ーー それほどに刹那。
-
しかしショボンは即座に白刃取り往なすと
勢いそのままにジョルジュへ
投擲。
_
(#;゚∀゚) 「んなっ ーー 」
……風を切る音が思い出したように、ザクリ
_
( ∀ ) 「ーー がッ」
ジョルジュの片足には甲を貫き、
床深く刺さる隕鉄の刀が鎮座した。
(`-ω- ´;) 「…はぁ、…はぁ、」
ε_ (´・ω・`∩;) 「ーー ふう、危ない危ない」
…お互いにどこまで本気だったのか、
その顔からは読み取ることはできない。
-
_
(;゚∀゚) 「……やばい、すげー痛い、タンマ。
ちょっと抜いてくれないか」
(´・ω・`) 「ん」
両者共にあっさりと ーー
ショボンはジョルジュの足を貫いて床に突き刺さった刀を引き抜いた。
_
(#; ∀ ) 「ばっ…!」
その時、軽く捻り回したせいでジョルジュには激痛が走る。
( ´・ω・`)
つ◇" 「…むしろその程度で済んだ事で僕の気持ちも察してよね」
刀に付着した血を懐紙で拭き取りながら
刺し穴の空いた…ジョルジュの足が解放され、持ち上げた下を見やる。
_
(;゚∀゚) 「…途中で気が付いたよ、
いてて…なんだこの虫は?」
(´・ω・`) 「僕達を盗撮するための媒体っていうのかな」
それは部屋の片隅を陣取っていた山蝉…
踏み潰され、刺し殺されてはいるが
その体からはみ出した臓器に紛れて、
砕けたレンズが辺りに散乱していた…。
-
(´・ω・`) 「虫そのものはなんてことない。
ワカッテマスの放った監視用のこのレンズこそが問題なんだ」
そう言って忌々しげに残骸を踏み潰し、呟く。
(´・ω・`) 「こいつが姿を変えて、いま水の都中に散っている。
全住人の手に渡ってる上、これを持ってない人間は即牢屋行き…
外部からは都市に入ることすらできやしない」
_
(;゚∀゚) 「はあっ?」
ジョルジュがツンと都を出発するまでにそんな動きは無かった。
_
( ゚∀゚) (…まさか、あの泥人形が他にもいたのか?)
(´・ω・`) 「ワカッテマスに直接聞き出したいところだけど…君が君である以上はそれも難しそうだしね」
剥き身だった刀を腰鞘に納めながら、ショボンはこちらを見やった。
今度こそ、その瞳には敵意も威圧感も持ち合わせていない。
(´・ω・`) 「誤解しないでね。
まだ君がワカッテマスである事の疑いは
僕のなかで晴れていない。
ただ…君自身が少しは信頼できるってだけだ」
(´・ω・`) 「君はこの虫を踏み潰そうとして
さっき僕ではなく刀を蹴り飛ばしたろう?
君ほどの体術が扱えるなら【パワーデス】後の僕は死んでるよ」
ショボンはニヤリとしていた…
言葉は本心ではなく、
上から見下すような言い種であることが伝わってくる。
_
(# ゚∀゚) 「なんてこった、殺せば良かった…
あんたの話だと全部知ってて俺の足をぶっ刺してるんだし」
(´・ω・`) 「だから、まだ少ししか君は信頼されていないって事だよ。
あの瞬間、僕が隙を見せてワカッテマスに急変貌されたら面倒だからね」
_
( ゚∀゚) 「……」
-
今度はすぐに否定できなかった。
彼の追うワカッテマスが自分…
そのワカッテマスが流行り病の原因…
ワカッテマスは自分と同じ赤黒い光の呪術を使う…
_
( ゚∀゚) (そして俺にはその自覚がない…)
ショボンが話すその内容はあくまで推測でしかない。
……とはいえ心当たりが全くないわけでもなかった。
彼が旅を繰り返していたもう一つの理由…
ーー "目覚めると、別の土地にいる" という事。
ーー そんな時、"記憶はあるがその詳細が思い出せない" という事。
_
( ∩∀゚) 「いや、まさか…だろ」
_
( ∩∀゚) 「はは…でももし、
もしも……俺が都市伝説の元凶だとしたら…
とんだ詐欺野郎だ」
その笑いは渇いていた…
昨日の出来事のように、
ツンをナンパした日を思い出す。
ξ゚⊿゚)ξ『ーー あんな現象は人為的以外に有り得ないわ』
_
( ゚∀゚) 『きっと君は俺の運命の人さ。
困ってるなら助けるし ーー』
一方では災厄をばら蒔き、
一方ではそれを鎮めようとする
他者からすればなんと卑劣だろう。
ショボンでなくとも自分が怨まれて仕方無い。
だが ーー
-
(´・ω・`) 「取りあえず君は僕と共に居てもらおうかな」
背後でショボンの声がする。
起きぬけに動いたせいか、頭が重い。
(´・ω・`) 「結局のところ確証が取れてない事を僕は信用しない。
君がワカッテマスに切り替わる事がなければそれで良し…
でなければ、やっぱり僕は君ごとワカッテマスを封殺する方法を考えなきゃ」
…後でショ ーー …の声が…る。
(´・ω・`) 「そ…間は ……くり君と情報共有…もして ーー」
ι;' ・ω・`∫ ∫お、…いっ 大丈 ーー∫
_
( ∀ )
ーー ジョルジュの意識が、
溶けてゆく……
.
-
------------
〜now roading〜
_
( ゚∀゚)o彡゜
HP / A >> A
strength / B >> A
vitality / C >> D
agility / C >> B
MP / E >> C
magic power / F >> D
magic speed / B >> C
magic registence / E >> D
------------
(推奨BGM)
http://www.youtube.com/watch?v=t1bzIOvNVO4&sns=em
-
蒼い空
赤い土
その狭間にそびえる 紫の葉 を有した森。
一年中、色をつける広大な森。
それが赤い森。
……まだその名に忌まわしい記憶が滲んでしまう前の、呪術師の森。
広場で集まるのは数人の子供たち。
背丈、性別、性格に差はあれども
皆同様の表情を浮かべている。
集まった少年少女たちは今年で7歳になる。
この赤い森において、
本来ならばこれから独り立ちする年頃だ。
-
『……な、なあ、おまえなんて言って呼ばれた?』
それまで皆が黙りこんでいた。
一人が恐る恐る口を開くと、堰を切ったように全員が喋り出す。
『あたしは…ここでみんなが集まるからとしか言われてないよぉ』
『ぼくはイイモノ配るって、きいたよ?』
『それほんと?! なんだろ?』
『えぇー? ひなんくんれんって聞いたけどなあ』
『うそぉ。 わたしも渡すものがあるって言われたわ』
興奮し、無邪気にはしゃぐ姿は
このあと起こるであろう何かに期待する様子だった。
一族しか住まない森のなかとはいえ、
子供たちだけでポツンと集まる景色は
外の人間が見れば些かの不安を感じるだろう…
しかし当の子供たちは無邪気なものだ。
( ゚∀゚) 『こないだのかくれんぼの決勝トーナメントかな?』
川д川 『……わかりません』
その数は合計8人。
時はまもなく…日の出を迎えようとしている。
『あっ、パパ!』
-
一人の子が指を指し、声をあげる。
…その方角から現れたる16人。
女性は紅、男性は碧の着物に身を包み、
腕の太さ程の白い荒縄で肩、腰、背中へとその身を結び締めている。
子供たちとは違い厳かな雰囲気で一歩一歩…
ゆっくりと自分達に歩いてくる父と母の姿を見て、その息子や娘も気圧されて居直す。
その一族は皆、厳しくも優しい気質の持ち主だった。
幼い頃からそれは両親と同郷の友をもって培われていく。
彼らの中に、
笑みを浮かべながら叱る風習はない。
子供だから仕方無いという概念はない。
だらしなくも働かないような習性はない。
厳しい顔をしていれば、それは事実厳しい結果が待ち受けている。
柔らかな顔をしていれば、それは包み込まれるような慈愛が待ち構えているのだ。
だから…子供達は誰に言われるまでもなく
自然と横一列に並びだした。
-
『…いつもと違うね』
( ゚∀゚) 『あんな服はじめてみたぞー』
『ぼくも…みたことないよ』
川д川 『……』
無理もない。
これは定められた年齢に達した一族にのみ行われる儀式の正装であり、
それまでは子にも秘匿される衣裳なのだ。
『ーー 全員揃っているようだな』
碧を着る誰かの父の声が広場中に響く。
静かだが張り詰めた一声は、
空という天井をすぐそこにまで低く感じさせるに充分な熱を感じさせる。
『あまり身構えなくて良いのよ…
これが終わったあと、あなたたちにはやらなくてはならない事があるのだから』
紅を纏う誰かの母が続けて言った。
その声には二種類の色が込められているが、彼らはまだ気付けない。
それぞれの両親の元へ…彼らは歩を進め前に出る。
-
『…これは?』
彼らに手渡されたのは各人に一体の人形。
『今からお前たちに教えるのは一族に伝わる呪術だ。
途中で具合が悪くなったら…』
また誰かの父がそう話しかけ、
『…いや、具合が悪くなるかもしれないが最後まで耐えてもらう。
死んだり怪我をするわけではないから安心しろ』
と緊張の面持ちで言った。
川д川 『……呪術の、れんしゅう』
『そうよ、その人形にあなたたち一人ひとりの魔導力を込めて…』
彼女の母は目にほんの少し…涙を浮かべていた。
子供に気付かれぬよう、長めにまばたきを繰り返す。
気持ちを隠すわけではない。
これから一族を待ち受ける運命に、
どうかこの少年少女らが太刀打ちできる様…
純粋に秘めた想い。
他の子供達も同様の説明を承けた。
この人形から授かる呪術は……
-
( ゚∀゚) 『…?』
少年は自身の親の態度に感じるものがあった。
『皆も心の準備はできたか?
…背中部分の繋ぎ目に指を容れるんだ』
皆一様に人形をくるりと回す。
それは手の中で、グニャリとした感触で頭を垂れる。
『押すんじゃない、"刺し込め" 。
できれば全員が一緒にな』
子供たちは互いに顔を見やりながら
やがて…親指に力を込め始めた。
川д川 『……』
指示に従いながらも少女は気付いていた。
自身の親の態度、その違和感に。
ーー それは焦燥感。
.
-
しばしの間隔をおいて
子供達の指が人形を突き破るのと、
その穴から噴き出す赤黒い煙のような光、
…それは同時だった。
広場の向こう側で、
森が爆発音と共に炎上するのも。
.
-
子供達の悲鳴が聴こえる ーー
人形に貯め込められた黒い魔導力に煽られ、
一人ひとりの体内を巡る赤い魔導力が
目まぐるしく入れ替わるかのように何度も何度も往来する度、その身が跳ねる。
そして背後で大人達の悲鳴が聴こえる ーー
赤い森の至る場所で立ち上る炎が、色づく葉を橙に照らして離さない。
広場にいる両親らは真逆で起きる現象に慌てふためき、一時とはいえ狼狽してしまう。
『ーー 早すぎる、せめてもう少し時間があると思ったが…』
『始まったものは仕方がない。
継承の儀が済めばあとは逃げるだけだ』
男親達はすぐに理を取り戻し、
目の前の子供達を注視する動作に戻る。
…しかし、
-
『あ、ああわわ……!』
全員ではなかった。
一人だけ、タイミングが合わずに始められなかった子が混乱に呑まれ動けない。
『畏れるな! 森は大丈夫だ。
だからお前も皆と一緒に儀を行え』
『で、でで、でもっ ーー だって…』
子の視線は同い年の友へと向けられる。
:(( ∀ )): 『 あがが ーー』
『っあぁ ーー 』
『きゃぁあぁぁ ーー 』
:|川 д 川|: 『ーー ぁ ーー はっ』
赤黒い勾玉を成形するかの如き魔導力の渦は
その瞳に畏怖を与えるものだった。
『…案ずることはない、これは一族に伝わる
【ドレイン】の魔法。
私達も、そして一族全員が最初に覚える呪術だ』
『私たちもこうやって覚えてきたのよ。
だから大丈夫…循環する命が魔導力という形で表れているだけ』
…両親は今まさに森を襲う悲劇を思い、
その背に冷や汗をかきながら子を諭す。
.
-
( <●><●>) 「……」
_
( ゚∀゚) 「……」
そんな彼らの様子を間近で見つめる二人が立ち並ぶ。
一族の怨念、ワカッテマス。
そしてワカッテマスと同じく、呪術を行使できるジョルジュ。
その姿は…誰にも映らない。
_
( ゚∀゚) 「これは、俺の記憶なのか?」
( <●><●>) 「……同時に私の記憶でもあります」
二人の視線は交わらない。
注がれるのは炎に焼かれ広がる赤い森と、
継承の儀の風景。
向こうからは認識できず、
またこちらからも干渉はできない。
( <●><●>) 「……このあと、私達はショボン率いる軍隊によって森ごと焼け死ぬのですよ」
-
ワカッテマスの声色は淡々としている。
今に限り、怨念から解放されているかのように。
_
( ゚∀゚) 「そうか…」
( <●><●>) 「……私も憶えているわけではありません。
ただ…漠然とした皆の想いだけが遺されていました」
_
( ゚∀゚) 「こうしてみると、あの暗そうなガキがお前か?」
( <●><●>) 「……貴方はそのまま身体だけ小さくなったようなガキですね」
そう言い合い、一瞬だけ顔を見合わせた。
笑いはしない…けれども怒りもない表情で。
( <●><●>) 「……私は誰というわけでも無い。
あの少年も、少女も、両親らも、私の礎でした」
( <●><●>) 「……だから貴方のことも覚えていたのですがね」
_
( ゚∀゚) 「俺はこうしていつも夢の中だけでしかお前のことを憶えていなかったよ」
_
( ゚∀゚) 「だから目を覚ますと…何もかも忘れてた」
( <●><●>) 「……能天気なものです」
忘却の彼方で二人は何度も邂逅していた。
かつての友として、
…仲間として、
ーー そして家族として。
_
( ゚∀゚) 「悪かったよ」
-
ーー バチバチと重なる音は全てが炎。
余りに広大な森にも関わらずその全てを灰にせんとする勢いが、
その炎を極めて人為的な悪意として証明する。
『…どうしても、怖いのか?』
闇夜に盛る橙に晒されながら…
最後に優しく尋ねる父親の言葉に小さく頷く子の姿を見て、
『やむを得まい。
皆の衆、各自の子を連れて森を抜けるぞ』
と言い残してその手をひいた。
継承の儀を終えてグッタリと倒れ込む他の子らも、それぞれ両親に背負われる。
『人形を忘れるな。
もう奴らはすぐそこまで来ている』
『…他の皆は無事かしら?』
『こうなった時のために、長と数人で予め退路を拓いている手筈になっている』
『行くぞ……子は前に抱えろ。
手の空いた者は護衛だ』
我が子を抱える父や母。
胸に眠るその重さに懐かしさを覚えながら、
彼らはこれからこの森を生きて出ていかなくてはならない。
『全員を護ろうとは考えるな。
私達は皆でひとつ……誰かが生き残れば…
また一族は甦る』
誰かの言葉に、その場の全員が頷いた。
.
-
『【ドッジ】!』
脚力に重点を置いた身体強化を終えた者から駆け出していく。
爆発音はもはや真後ろといっていい程に迫っている。
一刻の猶予もない。
広場を出れば、あちこちで悲鳴と怒声が炎にまみれ聴こえてくる。
『火の廻りが早すぎるわ! どうして…』
着物越しにも届く身体への熱が、じりじりと体温を上昇させた。
呼吸をするにも重苦しさを感じ、息が切れる。
常人には到底不可能なスピードで走りながらも、大人達は思考を止めず互いに指示を飛ばす。
赤黒い残像がその軌跡を描き消えていく…
『そっちはもうダメだ、こちらに!』
木々生い茂る森の中を、右へ左へ。
行く先を変えながら休まずに彼らは動く。
『…あの日以来、欠かさずにパトロールして不審物がないかを監視していたはず。
乾燥材のようなものは見つかっていないぞ』
『風、かしら? まさかね』
『天候を読み切れるならばそれは神に等しき所業だよ……
私達ですら、一族の経験知識として伝えられていてもずばり当てることは難しい』
『…戦争を引き起こしているのはそういう人種ってことか』
-
もしそうならば…と両親は考え。
(;; -∀-) 『…』
川; д 川 『……』
この子らを無事に逃がすことができるだろうか?
そんな不安が膨らむばかりだった。
大人達は疲労して眠りこける我が子を見つめながら、尚も走る。
なるべく爆炎から遠ざかるように。
…せめて未来を生きるべき子供達だけでも逃れられるように。
しかしその時だった。
『 止まるな! 危ないッ!』
ーー その叫びの直後、
全ての酸素をマントルの下から引っこ抜くかのような大きく短い音が轟き、
彼らを引き裂くような赤い津波が天高く地走った。
『きゃああっ!』
『ぐっ ーー おのれ、しゃらくさい!』
まばたきするほどの瞬間で目の前に炎の壁が立ち塞がり、
橙が森を赤く染める。
-
ゴウゴウと猛る炎の障壁。
『こんな…こんなの、普通に火を放ってなるようなものじゃないわ!』
《おぉい! そっちは無事かぁ?!》
炎壁の層は分厚く、まるで溶岩が噴き出しているような色濃さによってグループは二手に分断されてしまった。
そして……
『いたぞ、こっちだ!』
壁のこちら側と、
《ここにもいたぞ!》
壁の向こう側で聞き覚えのない怒声。
『見付けたぞ呪術師の一族め!』
ガシャガシャと金属の当たる音を立て、
森に火を放った軍隊兵が来てしまった。
どちらも行く手を阻むように出現したせいで、一族は決断を迫られる事になる。
川; д川 『……ぱぱ、まま?』
『…目が覚めてしまったか? すまない』
決断だと? ーー そんなのは決まっている。
-
川; д川 『……森が、焼けているのですか』
『案ずるな、和香。
形あるものはいずれ消えて、また型を成すものだ。
…お前も私達が必ず護るからな』
《大陸に不幸を呼ぶ赤き一族め!
我らが王と、軍師ショボンの名において
皆殺しにしてやるぞ!!》
炎壁の向こうで叫ぶ敵の声が聴こえる。
そうか…
やはり我らが大陸戦争を拒否した事で、
赤い森は一族大地もろとも大陸から拒絶されたというのか。
『王…ショボン…… それが貴様達の司令塔か』
川д川 『……しょぼん?』
-
(;-∀゚) 『……と、とーさん?』
壁のこちら側でも同じく、子は目覚め始める。
…たとえ溶岩が噴射し大地を隔てようとも、我らの意識は共にある。
《案ずるな、和香。
形あるものはいずれ消えて、
また型を成すものだ。
…お前も私達が必ず護るからな》
きけ…同胞の声がする。
『ふふ、その通りだな。
我が子を守らずして何が親か…』
(;゚∀゚) 『か、かーさん…これは?』
『慈夜、ごめんなさいね…
もっと一緒に居てあげたかったけれど』
ーー 慈夜と呼ばれた男の子も、
『和香、お前と私達は常に繋がっている』
川; д川 『……ぱぱ、どうしてですか?』
ーー 和香と呼ばれた女の子も。
その場にいた親子全員が、最後の言葉を交わす。
目の前の、死を招く黒蟻の群れに背を向けて。
.
-
支援
-
_
:( ??? ) :「……もういい、やめてくれ」
:( < ><○>): 「……パパ、ママ」
それをただ見るしかできない二人も、
思わず目を背けそうになる。
黒蟻…人間だと思っていたその顔々が変貌し、
割けた口から
"まるで獣のような牙" が剥き出される。
_
( ;∀;)o彡゜ 「もうやめろっつってんだろ!!」
ジョルジュは赤い森の一族に
……文字通りの牙を向ける黒蟻の群れに、
その身を躍らせ出鱈目に腕を振り回した。
それが無駄な行為であっても…
歴史に塗り潰された儚い記憶と夢であっても。
( <○><○>) 「……ジョルジュ」
ワカッテマスもそうしたかった…
この腕に力があれば。
この身に実体があれば。
たとえその腕が目の前の惨劇を
触れること叶わず、すり抜けるとしても。
だがそれは止められない記憶。
ああ、いま、彼らの眼前で
人間の形をした黒蟻が
人間を咀嚼している…。
.
-
>>778 文字化けにより一部訂正します
_
:( ∩∀゚) :「……もういい、やめてくれ」
:( < ><○>): 「……パパ、ママ」
それをただ見るしかできない二人も、
思わず目を背けそうになる。
黒蟻…人間だと思っていたその顔々が変貌し、
割けた口から
"まるで獣のような牙" が剥き出される。
_
( ;∀;)o彡゜ 「もうやめろっつってんだろ!!」
ジョルジュは赤い森の一族に
……文字通りの牙を向ける黒蟻の群れに、
その身を躍らせ出鱈目に腕を振り回した。
それが無駄な行為であっても…
歴史に塗り潰された儚い記憶と夢であっても。
( <○><○>) 「……ジョルジュ」
ワカッテマスもそうしたかった…
この腕に力があれば。
この身に実体があれば。
たとえその腕が目の前の惨劇を
触れること叶わず、すり抜けるとしても。
だがそれは止められない記憶。
ああ、いま、彼らの眼前で
人間の形をした黒蟻が
人間を咀嚼している…。
.
-
----------
赤い森の悲劇が歴史から抹消されず、
文献として事細かに遺されていたならば
歴史家によりこう記されるだろう。
**********
赤い森を襲った大陸戦争の余波は
過剰に無駄で、凄惨たる痕を大地に刻む。
広大な土地にびっしりと敷き詰められた
自然界の動植物は悉く焼き尽くされ、
大地を抉り取られた。
森に住まう原住民が強く抵抗した跡は
見られなかった。
元は穏やかな民族であり抵抗できなかった
…もしくは破壊を主とした抵抗ではなく、
襲い来る外敵にのみ表れる限定的な
反撃は成し得たのかもしれない。
尚、最後に住人が身に纏っていたとされる
紅と碧の礼服は、一族の概念に帰依する。
一族は魂と生命を司る偶像を胸に秘めており
紅が動脈、碧が静脈を表現していた。
これは心臓から酸素を送り込み老廃物を
回収するという、人体血液の循環。
生きて消費し、糧を得る人の一生…
いわば生命の鼓動を動脈(紅)に見立てた。
ーー 対して静脈(碧)とは、
血液に蓄積された老廃物を元の心臓へと回帰させる。
それは人生の思い出という名の記憶を
生まれた場所に還す…そんな意味が込もる。
.
-
森の一族を葬った一方の軍隊であるが
これには諸説ある。
この時代にはすでに火薬、機械…そういった
一定のテクノロジーが存在するも、
赤い森のような他に類を見ない広大な
土地全域に対して、完全消滅を促す程の
発達した技術は未だ発掘されていない。
大陸戦争による大規模な被害により
テクノロジーそのものが失われた可能性も
考えられるが、それよりも一つ、
より想定される事項が歴史学者の間で
挙げられている。
ーー ではそれはなにか?
.
-
大陸戦争の約20年前、
とある孤島において空から降り注ぐ…
この星に対しての外敵が
突如出現したとの噂が一時囁かれた。
ただし実際の観測者が大陸には居らず、
問題の孤島においても箝口令が敷かれ
有益な情報が得られていない模様。
…断片的な記録としてここに遺るのは、
それは四本足で動く小さな島ほどの体躯を
有し、皮膚は黒く、全面分厚い岩で覆われ
獣よりは昆虫に属するような知性と活動域を
備えていた……という事だ。
その顎(あぎと)は耳まで裂け、瞳は黄色。
ひとたび咆哮すれば目の前の景色を
溶岩の如き爆炎に包み込むという…。
これが真実であるか伝承であるはまだ
定かではない…しかし。
この赤い森の悲劇を生み出した兵士達も
また、同じ特徴を備えていたという。
我々歴史家としても賛否両論であり、
これを世界の事実として捉えるには
些かどころか強く疑問視する声は高い。
…そんなものが存在すれば、この星は既に
成す術なく蹂躙されているはずなのだから。
だがそんな意見が半数支持されるほど、
赤い森での惨劇は酷く醜いものだった。
**********
----------
-
(推奨BGMおわり)
.
-
ーー 動くもの全てが地に伏して、
血にまみれた風景がやがて白く染まる頃…
膝を抱えて座り込む二人の背は小さかった。
「なあ、ワカッテマス?」
普段は明るく振る舞うはずの男が、
消え入りそうな声で呟く。
_
( ゚∀゚) 「…これが、ショボンが招いた結果だと思うか?」
( <●><●>) 「……」
普段は物静かな男…いや、もはや性別などなかったのかもしれない。
瞳孔の大きなその者は一点を見つめて動かない。
彼らは見てしまった。
両親が焼かれ、生きたまま子供が頭から齧られる様を。
…その死体を、鎧を纏い人の形をした黒蟻達がなおも貪り喰う様子を。
( <●><●>) 「……やはり赦しません」
ワカッテマスはそう呟くしかなかった。
……しかし。
-
_
( ゚∀゚) 「アイツの姿は最後にしか出てこなかった。
これが本当に一族の記憶なのは判る、
でも……」
( <●><●>) 「……黒蟻との関係は分からなかった、ですか?」
一族の記憶が終わる頃に現れたショボン。
そしてツン。
そこにはもう一人、金色の髪を携える青年がいたのだが……
和香と慈夜の意識が途絶えた時点で記憶は終わってしまい、
彼をハッキリと認識することは出来なかった。
当のショボンの姿も、もはや怒りに我を失った誰かの父親を斬り伏せるまでが
彼らの視た限界だった。
( <●><●>) 「……ならば私がこれまでやって来たことはなんなのですか?」
( <●><●>) 「……それに一族を滅ぼした原因が大陸戦争に起因する事は間違いありません。
だから ーー」
_
( ゚∀゚) 「ーー だから大陸の人間は赦さないって?
なんでそうなんだろうなお前は」
ジョルジュは諭すも、論調は強くない。
彼にも分かるからだ…やるせない想いが。
( <●><●>) 「……ショボンの真実、もはや私には調べられません」
そう言って、ワカッテマスは立ち上がった。
力なく…、
しかしその瞳だけは何かを取り戻して。
-
_
( ゚∀゚) 「…いくのか?」
( <●><●>) 「……私は怨念の塊…もとよりいかなければならない場所などありません」
その指が宙に漂い、ジョルジュの胸元を指し示す。
( <●><●>) σ 「……あとは、そこにいます」
_
( ゚∀゚) 「…そうか」
( <●><●>) 「……ふふ」
惨劇の記憶…
そこでは慈夜も和香も、一族は誰一人として
生き残ることは出来なかった。
二人の魂はあの身代わり人形…
黒蟻が喰い残したうちの一体に、
思念として共に宿っていたのだ。
( <●><●>) 「……そろそろ時間ですね」
_
( ゚∀゚) 「まてよ、流行り病はどうするんだ?
俺だってそこはお前を赦さないぜ」
( <●><●>) 「……そう、ですか。
私と意識が重なったから…」
( <●> < ) 「……私が居なければ自然と収まりますよ。
発動者が居ないのですから」
背を向けながら語るワカッテマスは、もう、
その場から逃げ出したかったかのように見える。
罪の意識ではない。
…だが疲れたのかもしれない。
垣間見た現実と、己の所業に。
-
( <●) 「……そうそう、泥人形ですが」
ふと言い残した事を思い出した。
( <●) 「一体だけ、まだ無事かもしれません。
私はもう貴方の中に溶けますが、
その土塊は新しい私として再び世に現れる…
そんな気がします」
_
( ゚∀゚) 「ふざけるな、処分しろ」
( <●) 「……言ったでしょう?
私はまだ大陸の人間が憎い。
解決したいなら貴方の自由意思でどうぞご勝手に」
_
(# ゚∀゚) 「コノヤロウ…」
真剣に怒りが沸いてくる。
ジョルジュには彼の…ショボンや、
一族を実際に滅ぼした者に対する怨みを心情的には理解できる。
…かといってそれ以外の人間に罪があるかと言われれば、
決して首を縦に振る事はできない。
ワカッテマスがしてきた事は、
ジョルジュにとってはやはり "悪" なのだ。
-
いつの間にか、二人の周囲に "赤い森" は無い。
ひたむきに平和だったあの頃の
色鮮やかな森に満たされている。
_
(# ゚∀゚) 「だったら自力で見つけ出して、とっ捕まえてやるさ」
同じ一族でも、人格が異なれば思想も違う。
それはワカッテマスにも理解できる。
だから ーー 自らの行いを肯定される謂れもない。
消えゆく怨念の象徴はジョルジュに完全に背を向けると、
「……眩しくて、ここにいるのは辛い」
と言った。
…もはや彼の瞳に赤く染まった世界はなく、
澄んだジョルジュの声が聴こえるようだ。
「……そういえば、貴方は追いかけっこが好きでしたね」
_
( ゚∀゚) 「…隠れんぼでお前を見付けられた事は滅多になかったけどな」
このやり取りに意味などない。
思い出話を交わす程に過去は遠くなる。
足先から溶けていくワカッテマスはやがて想う。
この光は、ジョルジュの世界だ…
彼はいつもこの視界で世界を見ていたのか、と。
それを羨ましいとは思わなかった。
…しかし、
こんな見え方もあるのだな、と心の中で呟いた。
.
-
_
( ゚∀゚) 「ーー あ…」
ジョルジュの目の前で手を伸ばす、
川 д川 「……さようなら、慈夜」
_
( ゚∀゚) 「…後始末、しといてやるよ」
消えていくワカッテマスの最後の顔は、
一瞬だけ…あの頃の和香に見えた。
後には同じように手を伸ばし
独り残された青年が立ちつくす。
_
( ゚∀゚) 「……後始末、か」
その手には小さな小さな血塗られたバトン…
幼い子供達が仲間同士で繋ぎあう道具。
ワカッテマスが独りで隠し持ち続けた結晶。
それはジョルジュの中の願望がそうさせただけの、ただの気のせいかもしれない。
でもそれで良かった。
血も汗も本質は同じ ーー 生きていた証。
ジョルジュは今まさに初めて、
"自分の人生の目的" を創ることができたのだから…。
.
-
----------
_
( -∀-)
「ーー ぃ」
「ーー っちゃうよ?」
_
( ゚∀゚) パチリ。
(´・ω・`) 「あ…起きた」
大の字に倒れ目を覚ましたジョルジュの瞳に映るのは、へこみ、もしくは崩れた天井と、
_
( ゚∀゚) 「……なにしてるんですかねあんたは?」
(´・ω・`) 「怖いから緊縛しとこうかと」
どこにあったのか、縄を両手に持ち構えたショボンの姿。
まるでサドマゾがプレイを始める前のワンシーンだ。
_
(;゚∀゚)o彡゜ 「やめろ! なんか怖い!」
"( ´・ω・) 「ここに運んできた時もそうしたのに今更だなあ」
_
(# ゚∀゚)
つ< 「ーー あっ まさかスーツのシワって…そのせいか?!」
縄を小さく畳みつつ抗議の声を無視する。
ショボンからすれば合理的な方法を選んだつもりだ。
成人男性を担ぐには芋虫みたいにしてやるのが一番楽なのに。
-
(´・ω・`) 「気に障ったならごめんね。
…しかし、急に倒れるから少し驚いたよ」
_
( ゚∀゚) 「あー、ああ…」
ジョルジュは特に目立った鈍重さを感じさせずに立ち上がり、
スーツについた埃を手のひらではたき落とす。
そのまま一瞬だけ考えて、
_
( ゚∀゚) 「まあ話してもいいか」
(´・ω・`) 「?」
ショボンにいま自分が見たものを、
拳を交わす前と同じように語り始めた。
赤い森の最後をその間際まで視たこと…
呪術師の仲間が何をしていたのか…
兵士の皮を被った黒蟻の群…
ワカッテマスとの別れ…
そして、ショボンに対する疑問…
-
(´・ω・`) 「……」
_
( ゚∀゚) 「アイツの怨みってのは、
個人でなく一族全体のものだから…
簡単には消えないと思う」
_
( ゚∀゚) 「むしろ個人としては迷いながら…俺のなかに消えていった。
なあ、どうなんだ?」
.
-
「やっぱりあれは
あんたの仕業だったのか?」
.
-
(´・ω・`)
_
( ゚∀゚) 「……」
ショボンは、
(´・ω・`) 「…」
_
( ゚∀゚) 「……」
(´-ω-`)
.
-
その顔を強く紅潮させるジョルジュに、
_
(# ∀ ) 「…何も無いのかよ、言うことが」
ーー 意を決した様に、長い沈黙を破る。
(´-ω-`)
「次は僕が話すよ」 (´・ω・`)
.
-
もう一つの失われた歴史を。
正しくは、
人々の記憶に渡らなかった惨劇…というのか。
それはかつて三日月の孤島で起きた。
これを話せば、君はもう逃れられないんだ
ジョルジュ…
(´・ω・`) 「その名前は、聞く者の存在に
感染するから」
_
( ゚∀゚) 「……感、染?」
「銷魂流虫アサウルス。
それが赤い森を喰い潰したモノだ」
(了)
-
以上で本日の投下は終わりです
途中支援ありがとうございました
現在までのお話
( ^ω^):矛盾の命 >>1
( ´∀`):繋がれた自由 >>17
( ´∀`):遺していたもの >>48
( ^ω^):老女の願い >>101
ミ,,゚Д゚彡 :帰ってきてね >>139
( ^ω^):ふたごじま >>237
('A`) :死して屍拾うもの >>297
( ^ω^):初めてのデザート >>377
ミ,,゚Д゚彡 :時の放浪者 >>423
( ^ω^):その価値を決めるのはあなた >>549
( <●><●>) :人形達のパレード >>611
_
( ゚∀゚) :此処路にある >>733
-
乙乙ですー
そういえばフォックスの泥人形もまだ都に残ってるのか?
-
※千年の夢 年表※
------------------------------
-900年 ***********
→信仰の概念がうまれる
( ∵)は偶像生命体として同時に生誕。
-400年 ***********
→結婚(結魂)制度のはじまり
-350年 ***********
【ふたごじま】→魔導力の蔓延
-210年 ***********
→大陸内戦争勃発。
【帰ってきてね】→前半
-200年 ***********
【帰ってきてね】→後半
【死して屍拾うもの】
→ "赤い森の惨劇" ☆was added
-195年 ***********
→大陸内戦争終了。
【はじめてのデザート】
-190年 ***********
【その価値を決めるのは貴方】
-180年 ***********
【老女の願い】→復興活動スタート
-150年 ***********
【老女の願い】→荒れ地に集落が出来る
→川 ゚ -゚) が二代目( ´∀`)に指輪依頼
-140年 ***********
【老女の願い】→老女は間もなく死亡
→指輪の暴走。 大陸の端の湖に封印。
-130年 ***********
【人形達のパレード】
【此処路にある】 ☆was added
→二代目( ´∀`)死亡時期
-
話や出来事が年表に追加されると
【☆ was added!】の文字で差し込みします
>>798
今回は【人形達のパレード】から比較的すぐ後のお話なのでまだ水の都に残っています
ただし、その頃創ったフォックスの泥人形はそれほど長い間は生きていられません
時期が来れば砂となって消えてしまいます
-
おつおつ
新しい話が出るたびに昔の話を読み返すと楽しいな
これがこうなって、あれがああなってって新しい発見があって気持ちいい
-
時の放浪者を読み返して、ドクが出てきた後にも続いてたことに今気付いたわ
残ってる土塊ってドクのことだったのかな
赤い森が物凄く気になるぜい
-
乙!面白かったよ
でも年表みるとこれよりあとの時の放浪者でもワカッテマス出てくるんだよなー
>>802
たしかにドクの腕回収してたね
でもそれなら誰かがドクの泥人形をつくってるってことじゃないかといま書いててふと気付いた
-
あちこちで目にするドレインが気になるな
今回も読みごたえあってよかったおつ
-
読&レスありがとうございます
>>801
そう言って頂けると嬉しいです
>>802-804
現在の進捗具合でいうと…
ミ,,゚Д゚彡 → ('A`) → ミ,,゚Д゚彡→ ( <●><●>)
----------ここまで投下済み----------
→ (´・ω・`) →('A`) →(´・ω・`) → 川 ゚ -゚) →川 ゚ -゚) → 川 ゚ -゚)
以降のキャラでもう少し語られる予定です
次の(´・ω・`)でちょうど半分が終わりですね
次回投下はまた予告スレでもお伝えします
よろしくお願いします
-
おつおもしろいよー
ジョルジュやっぱいいやつで安心した・・・
ショボンの話が気になって仕方ないぜまったく
-
乙
感想が難しいが楽しませてもらってる
現行で完結が楽しみなのはひさしぶり
-
( ^ω^)千年の夢のようです
- 銷魂流虫アサウルス -
-
(`・ω・´) 起きろ
(´・ω・`) …もう? 疲れてるんだけど
(`・ω・´) もうすぐアイツがくるぞ
(´・ω・`) いいよ。 どうせ大した用じゃない
(`・ω・´) 駄目だ。 起きろ
(´・ω・`) …真面目だなもう…わかったよ
(`・ω・´) フェイントに気を付けてな
.
-
静かだった部屋に響き渡る堅いノック音。
( ФωФ) 「起きるのだ、朝礼の時間である」
年老いた特級神官の声は空間を仕切る扉などまるで無いかのように、しかと彼の耳に届けられる。
(´・ω・`) 「もう起きてるよ」
( ФωФ) 「それは失礼した。
準備が出来たら礼拝堂まで降りてくるのだ」
(´・ω・`) 「うん」
特級神官を見送り、ベッドから出ると同時。
手の届く範囲に掛けておいたハンガーから外行き用の法衣を掴み、乱暴に背中へと振り回す。
バサァ!と大胆に音をたてて広がり舞った法衣の勢いを殺すことなく片袖を通した。
…そして、もう片袖は放っておく。
だらりと垂れ下がる白の法衣の各部位に施されたゴシック模様。
使用されている金糸によって宗教組織の位を示しているが、
まだ幼さを残すショボンは法衣に着させられているようだ。
-
( ФωФ)つ | ガチャリ
Σ (´・ω・`;) 「うわびっくりした」
( ФωФ) 「……ちゃんと着るのである」
(´・ω・`) 「着る意味があるならね」
ショボンはそれを拒否する。 毎朝のように。
特級神官ロマネスクもそんな彼を叱るわけでもなく、再び扉を閉める。
二人の関係は、口うるさい老人と、少し背伸びした少年のそれだった。
足音でどこを歩いているのかが分かればもっと楽なのだが、とショボンは思う。
だがこのフロア全体に敷かれる絨毯のせいでそれは叶わない。
なにかと朝礼をサボる彼をわざわざ起こしに来るロマネスクとのやり取りは、もはや様式美というものだ。
(´・ω・`;) 「…フェイントってこれか?」
ため息をついて頭を上げる。
翼を背負い天を仰ぐ戦士達、
覆われた雲から射し込む太陽の光、
彼方を泳ぐ四つ足獣の影…
眠りにつく時、決まってうつ伏せになる彼は
その天井画が好きではなかった。
.
-
宗教的要素が日々の生活に取り込まれた孤島…
だが、ショボンが産まれる以前からすでに何も崇めてはいない。
礼拝堂で行われる毎日の朝礼。
誰かの長々とした話を聞く時間ではなく、
島の人々が気になる事、不便、不満などを報告し合うことが目的だ。
ミセ*゚ー゚)リ 「ーー 以上が昨夜中に発覚した設備不良だそうです」
( ФωФ) 「ふむ。 では072番、201番の柱の灯りは今日中に取り替えて…」
ζ(゚ー゚*ζ 「ロマネスク様、201ではなく210ですのよ」
( ФωФ) 「おっとすまぬ。 …歳を取るとどうにも数字に弱いのである」
この礼拝堂は全一階。
孤島全体の三分の二を占めるほど広いスペースを誇る。
それは海を渡ってきた何人もの旅人が
荘厳な入り口をくぐるに付けて必ず驚愕するほどに。
いつの日からか
島の住人がこの礼拝堂を家として
自由に眠り、自由に語らっていた。
いま現在もその風習は変わっていない。
この礼拝堂は寝起きする家であり観光地でもある。
旅人はカルチャーショックを受けつつも
そんな孤島を満喫するのだ。
-
ミセ*゚ー゚)リ 「大きな乱れは今日もありません」
ζ(゚ー゚*ζ 「細かいものはありますけれどね…
計11点の改善要望はこのノートに書いておきましたので後程ご確認を」
( ФωФ )
つ◇⊂ 「うむ、うむ」
( ФωФ)
つ◇⊂ 「……また壁画の縁と空調機の部品が一部紛失しているのであるか?」
顔のよく似た双子の妙齢女性から受け取った朝礼報告書…
そこには最近よく目にする一文があった。
ミセ*゚ー゚)リ 「外蓋を閉じるネジが欠けていたそうですよ」
ζ(゚ー゚*ζ 「何十とあるうちの数台ですので支障はありませんけれど…」
ミセ*゚ー゚)リ 「この前はたしか室外機だったわ」
ζ(゚ー゚*ζ 「どこかに転がってしまうのかしら?」
ミセ*゚ー゚)リ 「殆どは古い設備ですものね」
( ФωФ)
つ◇⊂ 「ふーむ?」
( ФωФ)
つ◇⊂ 「…兄者殿はいずこに?」
.
-
□⊂(・ω・` ) 「はい、今日の分」
ーー 同時刻。
島外れの海岸沿いにはロマネスクの呼び掛けを無視したショボンが居た。
その手には小さな布袋が握られている。
差し出した先には彼と似た法衣を羽織る壮年の男性。
( ´_ゝ`)つ□ 「いつもすまない、こんなことをさせて」
兄者は布袋をさっそく漁った。
手のひらにジャラジャラと展開するナットやネジ、ワッシャー等の細かなパーツを満足げに見つめ頷く。
( ´_ゝ`) 「またこれで作業も進みそうじゃないか?」
(´・ω・`) 「そろそろ完成でしょ?
あと必要なパーツを確認してみようよ」
ショボンもそう言って頷いた。
年の離れた兄弟のように仲の良い様子で。
……刻は引き潮。
二人はさらに礼拝堂から離れるように海辺沿いを歩いていく。
普段は水位が上がり通れない道も、
いまなら足も濡らさずに移動できる。
-
(´<_` )「お。 意外と早かった」
( ´_ゝ`)つ□ 「待ったか?」
□⊂(´<_` )「いや…むしろもう少し遅くても良かったかな」
( ´_ゝ`)「だってよ、ショボン」
(´・ω・`) 「そんなこと言ったって…」
崖下の死角に待っていたのは弟者とその持ち舟。
数十年前と変わらない弟者の舟は薄汚れていたが、当人にとっては何度も年を越した名誉ある相棒である。
当然のことながら何度も穴が開き、
船体は削られていった。
そしてそのたびに弟者は欠かさずメンテナンスを繰り返しながら大切に使用してきたのだ。
(´<_` )「ショボンに言っても仕方無いだろうに」
兄者から受け取った布袋の中身を確認し、
弟者もまた頷いた。
その仕草はついさっきの兄者にそっくりで
ショボンは少し笑ってしまう。
(´・ω・`) 「新しい船、これでもうできるかな?」
"(´<_` )「うーん…そうだなあ」
-
カチャカチャと音をたてる弟者の腕の先…
そこには四人乗れば限界な彼の舟よりも
二回りほども大きく、
だが近代的なデザインの船が鎖に繋がれ
浅瀬の上にたゆたっている。
その横にはブルーシートにくるまれた浮き袋。
この中に、今日と同じくこれまでショボンが
持ち運んだ数々のパーツが入っていた。
…いや、その他にも大きな鉄板や一般人が
見る機会もないような専門的な物品が
入っているらしい。
(´<_` )「…ざっと見た感じ、
わずかに足らないかもな。
あと兄者も手伝ってくれたらいいのに」
( ´_ゝ`)「俺は毎日仕事で
疲れてるんだって何度も言ってるだろ?
こうして島からすれば紛失した部品だって
適当な理由つけて帳尻あわせしたり
大変なんだから、んもう」
(´<_` )「俺もこの船造るために
色々向こうから持ちこみ過ぎて、
漁港組合からだいぶ睨まれてるんだぞ。
あとなんだよんもうって」
(´・ω・`) 「僕、手伝うよ」
( ´_ゝ`)「「危ないから駄目」」(´<_` )
(´・ω・`) ショボーン
-
三人にはそれぞれ役割分担があった。
まだ若いショボンがこっそりと島の備品を拝借し、持ち出してくる。
兄者は素知らぬ顔でその備品を島に補充する名目で、依頼として弟者に注文を頼む。
唯一大陸に居を構える弟者は、組合からそれを取り寄せてこの島まで運ぶ。
…ついでに注文されていない物も持ってくる。
そうしてまで彼らが造っているのは
一隻の船だった。
だが、ただの船ではない。
( ´_ゝ`)「世界にまだない唯一の "潜水艦" か…」
(´・ω・`) 「本当に海を潜れるのかな?」
(´<_` )「俺の腕を信じろ。
理論的には充分可能なんだ」
…だが、まだ誰も挑戦していない。
人間は海を渡る概念を手に入れ、
それを叶えはしたが ーー それだけだ。
-
----------
きっかけはショボンの言葉だった。
(´・ω・`) 『…どうして海へ還すの?』
人が生命を終えた時、
その故人を悼み、遺族との今生の別れとする葬儀を執り行う…
いつの頃からか生まれたこの風習は、"ふたごじま" にも当たり前のように取り入れられている。
( ´_ゝ`)『……どうしてだろうな』
それは遺体を海へと送り出す海洋葬。
浜辺に作られた石畳は緩やかながら滑りのよい坂を形成し、柩はそこから海へと降ろされる。
その間、柩には遺族や親しい友人と同じ数の縄が繋げられ、周囲の人工柱へと結ばれていた。
(´・ω・`) 『意味もわからずやってるの?』
この時、兄者は答えを知らないわけではなかった。
《神の生んだ自然があるから人間は生まれた。
それを母なる海へと還すのさ》
こう言えたならば楽だったろう。
…ふたごじまには
"神への信仰" が数十年前まで染み着いていた。
( ´_ゝ`)『誰もが同じ意味や想いを抱くわけじゃないからな』
.
-
よっしゃ支援
-
周囲は無言で手を合わせる島の住人ら…
ーー そこに祈りの声はない。
松明の灯を縄に重ね、着火する。
故人への思い出と共に、
縄の繊維が一本、また一本と燃え千切れていく。
(´・ω・`) 『海中はどんなものがあるんだろう』
( ФωФ) 『これ、集中しなさい』
(´・ω・`) 『ねえ、なにがあるの?』
( ФωФ) 『うむ、魚がいるのは確かだが…
か ーー …人間は水に潜れない。
誰も海の中をきちんと見たことはないのである』
《神のみぞしる》…そう言いかけたロマネスクは唾を飲み込み誤魔化した。
目の前では全ての縄が焼き切られ、支えを失った柩がゆっくりと海へ流れていく。
それを見送るその場の人々は、
やはり声を押し殺して頭を垂れていた…。
(´-ω-`) 『死んだ人も安心していける海の中…か』
( ´_ゝ`)『……』
約30年前の神託以来、このふたごじまで
神への祈りは禁じられていた。
.
-
(´<_,` )『海に行きたいって?』
( ´_ゝ`)『海じゃない、海の中だ』
数日後、島に物資を運んできた弟者は
何を勘違いしたのか笑ってその話を聞いていた。
(´<_` )『なんだ…』
( ´_ゝ`)『弟者のような立場からみて、
海中ってのはどういうものかと思ってな』
(´<_` )『陸と同じさ。
俺達は酸素がなければ生きられない。
地中に潜って死にかけながら、あるかどうかも分からない何かを探すやつがいるか?』
それはそうだ、と兄者は思う。
普段なら気に止めない一言は、しかし
ショボンが発したからこそ頭に残された。
( ´_ゝ`)『じゃあ地中に何かがあって、
呼吸さえできれば…?』
(´<_` )『行く奴はいるだろうな。
だが誰もそれをしないのはその "何か" を必要としないからだ』
-
(´<_` )『……』
(´<_` )『そうか。 ショボンは…』
兄者にしては妙に突っ掛かってくると思った。
あの日、信仰が消えたこの町で、
兄者は島に残る人々を説得しながら新しい生き方を共に模索してきた。
根底を揺るがされた人の心をケアしつつ、
代理となる心の支え、習慣の改革を行った。
ーー そんな中のイレギュラー。
過去に例のないもうひとつの出来事は、
ショボン生誕時に起こってしまう。
( ´_ゝ`)『必要とするのかもしれない。
産まれた時、兄弟を死なせたアイツには』
----------
-
(´・ω・`) 「具体的にあと何が必要なのか言ってくれたら早いのになあ」
島全土が静まり返る真夜中、丑三つ時。
潜水艦の完成を間近に控えつつも、
残りのパーツ集めに礼拝堂の備品を物色するショボンの姿が闇に浮かんでいる。
船乗りである弟者の頭の中には設計図があるらしいが、兄者やショボンにそれを計り知れるはずもない。
おかげで余分不要な物も持ち出している可能性がある。
(´・ω・`) 「…あっ」
何かに気付き、礼拝堂に延々と建ち並ぶ柱の影に身を隠す。
こっそり顔だけを覗かせた視界の向こう側。
平坦な礼拝堂中央に唯一そびえる段差の前から
掠れ年老いた声と、落ち着き払った声がそれぞれ聞こえてきた。
-
( ФωФ) 「ーー が、……に…」
( ´_ゝ`)「…では、発 ーー りに……」
(´・ω・`) (こんな時間にロマネスク爺?)
ここからではよく聞き取れない…
そう思い、音を立てずに素早く、
柱から柱へと低い体勢で移動しながら近付いていく。
(よし、ここまでくれば) (´・ω・`)
( ФωФ) 「そうそう、ところで兄者殿」
( ´_ゝ`)「どうされました?」
( ФωФ) 「ショボンといつも何をしているのであるか?」
( ´_ゝ`)「…」
( ФωФ) 「ああ、隠さなくて良いのである。
これは我輩の好奇心ゆえ」
( ФωФ) 「きっとデレやミセリが聞けばガミガミ言うのであろう。
だが我輩の胸のうちであればやがて勝手に海に還るとは思わぬか?」
-
…兄者がその言葉にすぐ答えることは無かった。
しかし隠れていたショボンときっと同じ感想なのだろう。
ロマネスクはすでにこちらの悪巧みに気付きながらも、
いつからか見て見ぬふりをしていたのだ。
( ´_ゝ`)「…騙すような真似をしたことを謝罪します。
だからこのような時刻に私を呼び出されたのですね」
( ФωФ) 「うむ。 デレとミセリが気付き始めそうだったのでな。
陰ながら黙って見守るつもりではあったが
そろそろ我輩も知っておく方が根回しできるかと考えたのだよ」
「たまには悪巧みも悪くないのである」
すっかり白くなったヒゲや髪をさすりながら、ロマネスクはホッホッと笑って言った。
悪くない悪巧みとはまさに "巧み" という事か。
ロマネスクからすれば兄者も息子のような年齢であり、可愛く映るのかもしれない。
( ´_ゝ`)「ショボンの奴が海の中を見たいと言ったので、その準備をしています」
(あ、言うんだ) (´・ω・`;)
( ФωФ) 「…いつかの葬儀の時か。
しかしなぜ兄者殿が手伝う?
ショボン一人でやらせるのも成長の糧であろう」
-
( ´_ゝ`)「そうですね。
単なる過保護なのかもしれません」
( ´_ゝ`)「…もしくは私も知りたいのかもしれない。
定義のなかで生きてきた人生の大半に逆らうように、
この島は信仰の代わりをまだ見付けきれていない」
( ∩_ゝ`)「いえ ーー 小難しい言い方はこの際やめておきます。
本来私達にもあるはずの冒険心や、未知への挑戦に私も一歩踏み出したい。
ただそれだけでは…どうでしょうか?」
( ФωФ) 「構わんよ、皆同じである。
特にそなたはこの島に、人々に、
饒舌し尽せないほど貢献してくれた」
( ФωФ) 「デレやミセリ、
そして我輩もそなたに救われた」
( ФωФ) 「…ショボンを特別可愛がってしまうのもな」
-
(大人の会話は難しいな) (´・ω・`)
まだ少年の彼には理解できない。
…人は言葉だけを弄するに非ず。
兄者もロマネスクも、伊達に数十年と共に生活しているわけではない。
( ФωФ) 「巧み…我輩に手伝えることがあれば言うが良い。
ーー だが」
( ФωФ) 「そなたらのやったことは横領である。
罰として向こう一週間の礼拝堂掃除当番を命ずる」
(あーあ兄者さんかわいそ) (´・ω・`;)
( ´,_ゝ`)「分かりました、連帯責任としてショボンとやらせて頂きますので」
(なにィ?!) (´・ω・`;)
( ФωФ) 「うむ。 では二人で二週間か」
(;゚_ゝ゚)
(( な、なにィ?!?! ))
(´゚ω゚`;)
…少年はこの瞬間理解した。
大人は歳を重ねれば重ねたほど、狡猾になるものなのだと。
.
-
.
-
(`・ω・´) おい、起きろ
(´・ω・`) …また? まだ眠いよ
(`・ω・´) アイツがくるぞ
(´・ω・`) 掃除当番の一週間も済ませたし、
そろそろ船も完成するんだ。
そしたら島ともしばらく ーー
(`・ω・´) 駄目だ。 やることができる
(´・ω・`) …もう、わかったよ……えっ?
(`・ω・´) 挫けるなよ、ショボン。 二回だ
(´・ω・`) ……なに言ってるのさ? シャキン…
.
-
その日の朝、ロマネスクは
いつものように彼の目を覚ましには来なかった。
ベッドから身体を起こし、
手の届く範囲に掛けておいたハンガーから外行き用の法衣を掴み、乱暴に背中へと振り回す。
バサァ!と大胆に音をたてて広がり舞った法衣の勢いを殺すことなく片袖を通した。
…そして、もう片袖は放っておく。
毎日繰り返すこの習慣も
考え方によっては儀式だな…と、ふと思った。
まだ幼さを残すショボンはこの法衣に着させられているようで、皆のようにきちんと着るには抵抗があったのだ。
(´・ω・`) 「…潜水艦出来たかな?」
毎日その事ばかりを考えている。
…だから、彼は自室の扉を開けて初めて
その異変に気が付いた。
-
(´・ω・`) 「……なんか騒がしい」
自室のあてがわれたフロアの静けさとは対称的に、礼拝堂の方角が騒がしかった。
構造上、一度は建物外に出なければならないためか、ショボンは面倒な気分を隠すことなくとぼとぼと歩き出す。
まだ太陽が昇りきらない時間…いつもなら朝礼が行われる時刻。
外に出るとよりその騒ぎが大きくなる。
人の声がうるさいといった騒ぎではなく、
混乱と往来でバタバタとしたやかましさ。
ミセ;*゚ー゚)リ 「ショボン! どこにいってたのです?!」
正門へと辿る長階段下でミセリを見つけた。
興奮している様子で大振りに手招きしている。
どうやらあちらもショボンを捜していた様子だが…
(´・ω・`) 「寝てました…なんですか?」
ミセ;*゚ー゚)リ 「そ、そら、空を見て!」
( ´・ω・) 「そら?」
.
-
(;ФωФ) 「なぜ…なにが起こったであるか?」
(;´_ゝ`)「太陽と、 ーー …」
太陽。
かつての信仰に沿うならば…
神はその眼球を抉り出し、世界のあらゆる物質を作りたもうた。
ミセ;*゚ー゚)リ 「…神の虹彩…」
(うω・` ) 「眼が霞んでてよく見えないな」
祈りは止めども、教典は心に残っている。
人々は誰もが棄てることが出来なかった。
いま、目の前にある神の創造 ーー
(´<_`;)「…なんだありゃ」
日課のように島へ向かっていた弟者も、
海の上で雲に隠しきれないそれを確かに見た。
"二つの太陽が人間を照らそうとしている" 。
.
-
ーー そしてそれは唐突に始まる。
陸地に居た者は気付かなかったが、
前兆は舞堕ちる硬質の灰だった。
(´<_`;)「雨…じゃないよな」
海面に浮かぶほんの細やかな気泡、波紋…
それはパラパラと何かが着水する様を映している。
細かすぎて微弱な反応。
稚魚の大群からはぐれた数匹が舟の周りを泳いでいてももう少しくらい波はたつ。
(´<_`#;)「 ーー って、オイ!」
水平線の向こう……空の上で。
兄者の視線は下がり始める。
異変は果たして。
弟者のいる海上ではなく
兄者達のいるふたごじまで肥大した。
-
「ショボン! あぶな ーー 」
その声は届けられるべき人間の元へ
不完全なまま届けられた。
ショボンは増えた太陽を直視せず、
少年特有の斜に構えた平静心で物事をしっかりと視なかった。
外見を気にして余裕振ろうと努めてしまった。
……現実を、自室の天井画と同じ程度に嫌ってしまった。
それが幸か不幸だったかは
本人にしか分からない。
ミセ* -( リ
ーー 突き飛ばされたショボンの眼前。
そこには煙のまとわりつく黒い岩石と
頭部を半分以上失い倒れたミセリの姿がある。
腹這いに…しかしその顔は少年ショボンの無事を確かめるように、地から反らしていた。
(´・ω・`) 「……」
そして、
どろり、
と。
降り注いだ岩石のせいで濁った血液は、残るミセリの頭蓋骨を盃にして他のすべてを紅く覆ってしまう。
特徴のない鼻も、口うるさそうな唇も、歳より少し若々しかった頬もすべて。
-
支援
-
(´・ω・`) 「……」
ショボンは無表情のままだった。
その胸中とは反対に。
ミセリから目をそらさないまま、笑う膝を抱えて立ち上がる。
(;´_ゝ`)つ|「外に出てる人は
早く礼拝堂に入れ! 危険だ!!」
坂の上では礼拝堂の扉を開けて待つ兄者の小さな姿が見えた。
まだ彼はミセリとショボンの動向に気付いていない。
(´・ω・`) 「…」
後ろ髪を引かれる思いで階段を駈け上がるも、その足元はおぼつかない。
右、左、と足を動かすたび、
いつもなら歩き慣れたはずの段差にすらつまずきそうになる。
-
аζ(゚ー゚*;ζ 「兄者様! 上を!」
(;´_ゝ`)つ|
「わかってる! ショボン早くしろ!」
兄者と、その後ろに隠れるようにデレが叫ぶ。
その声から明確なのは
未だ脅威は空にある、という事だ。
(・ω・`; ) ))
だがそれをショボンは理解できなかった。
いざとなれば状況認識もできない憐れな少年。
他人が慌ててるのは分かる…
しかし、
なぜ慌てているのか?
兄者とデレの言葉が何を指しているのか?
頭で反芻するばかりで意味を考えられない。
三(#;´_ゝ`)「このっ ーー 何をのたのた歩いてるんだお前はァ!」
|⊂ζ(゚ー゚*;ζ 「あ、兄者様!」
ーー 空から音がする。
「シィーーー」 と、
間の抜けたガスが噴き出すような細い音。
.
-
空から大地へと墜落する "それ" は、
無防備に晒されたショボンのまだ幼い後頭部にグングンと迫る。
三(#´_ゝ`) (・ω・`; ) ))
階段を飛ばし飛ばし下る兄者と、
階段に足をつっかけながら登るショボン。
兄者は思った。
こんなに走るのはいつ以来かと。
ショボンは思う。
なぜ兄者はこちらへ向かってくるのだろうかと。
-
そして "それ" は笑った。
顔のない顔で。
わざわざ二人、獲物が
己の着弾地点に入り込んだのだから ーー
.
-
支援よー
流石兄弟も出てくるのか
-
(´<_`;)三 「ハッ…ハッ…」
弟者が浜辺に着く頃、
すでに周囲はいつもの孤島の空気を取り戻していた。
空は晴れ、太陽は一つ。
海上で見た灰も降り止んでいる。
いつも停泊する島の死角ではなく、今回は堂々と港から上陸した。
最も早く礼拝堂まで辿り着くために。
人々が無事なら安全だったのは建物の中だろう。
…弟者は思った。
陸をこうして走るのはいつ振りかと。
彼が舟の上で見ていたのは降り注ぐ隕石…
そして槍と見間違うような鋭い一本の細い黒線。
-
礼拝堂に続く長階段、
…その中腹に人影を見た。
(´<_`;)「はあ…はあ……」
砂浜に足をとられながら走ったせいで
思ったより体力を奪われたが、
もはやそれどころではない。
立ちすくむ。
呼吸が荒い。
だがそれは走ったせいだけではない。
(´<_`;)「……お前達、どうして…」
呟いてからの歩みは遅かった。
それでも一歩ずつ前に踏み出して階段を登る。
……時を同じくして、礼拝堂からも人影が現れる。
ζ(゚ー゚*;ζ
デレもまた様子を窺いに来たのか。
彼女の姿は見えるのに
どうしてその途中にいる影の姿はしっかりと見えないのか…。
ーー 二人が向かい合う長階段。
交差する視線の間で佇む影は、やがてその瞳に正体を映す。
-
( _ゝ )
人影は重なり、二つあった。
黒い槍に後頭部から胸部まで貫かれ
百舌鳥のはやにえのような有り様の兄者の死体。
そして……
( ;ω;`)
胸部から腰まで、同じく貫かれてなお
まるで痛みを感じてないかのように涙を流すショボンが居た。
弟者もデレも
しばし言葉を発することはなく…
「…なんなのさ、これぇ……」
……ショボンの嘆きの息だけが、
二人の耳にいつまでも残った。
.
-
------------
〜now roading〜
(´・ω・`)
HP / C
strength / C
vitality / D
agility / B
MP / C
magic power / A
magic speed / D
magic registence / D
------------
-
あの日から幾ばくの夜を跨いで ーー 。
兄者さんとミセリさんの亡骸は
ロマネスク爺によって葬られた。
信仰を失わされたこの島において、
形骸化した神官という立場をあえて貫いていた二人。
神ではなく己の信念を一から組み直し
困難には率先して立ち向かい……
後についてくる人々に新しい生き方を説いてきた二人。
( ФωФ) 『二人の御霊は我らと共にある。
肉体は朽ちても、魂がいく場所は我らの記憶の中なのだ』
( うωФ) 『彼はそう、我輩に説いてくれた… それで…良いのだろう?』
ロマネスク爺の言葉は
ある日の兄者さんの言葉だったと後で知った。
-
ζ(;ー;*ζ 『……ミセリは…どんな気持ちだったのでしょう』
デレさんの心は、死したミセリさんについて逝こうとしていた。
(∩<_∩ )『…代わりにあんたが精一杯生きてやれ』
(´<_` )『思い出は永遠だ……
だから俺も、兄者のためにそうする』
それを止めたのは追放解除を求めた弟者さんだった。
彼はその日から島に戻ってくることになる。
外の世界で生きてきた彼は
新しい足跡を、デレさんと共に、
この "ふたごじま" に遺していく……。
-
刺されて死んだ兄者と刺されてなお生きてるショボン
いったいどういうことなの…
-
(´・ω・`)
僕が変わっていったのはそれくらいからだった。
無力どころか、他者の足を引っ張ってまで生き残る自分の厚かましさに打ちのめされたから。
あの日、僕と兄者さんを貫いた黒い槍を握り締めて。
自分に出来ることから始めたんだ。
…不思議とクヨクヨしたりはしなかった。
しても意味がないと思ったし、
その権利すら…あの時に奪われたのかもしれない。
.
-
_
( ゚∀゚) 「……」
ーー 話をぼんやりと聞いていたジョルジュは、
「ここまでで何か質問はある?」
というショボンの声で我に帰った。
ここは山小屋の寝室。
だが彼とショボンの数分にも満たない戦いによって、壁から天井にまで破壊跡が残されている。
_
( ゚∀゚) 「…あんたは、生まれつきの不死者だったのか?」
(´・ω・`) 「どうだろうね。
恐らく僕が死んだのはそれっきりだし、
少しして歳も取らなくなったからそうだと思うってだけさ」
ショボンの答えは回りくどくもあり、
限りなく事実に基づいた彼らしい回答だった。
不死者とは一体なんなのか…
……違和感を残しながらも、ジョルジュは話の続きを促す。
(´・ω・`) 「…場所を移そうか。 まだ長くなる」
-
破壊された部屋を出ると、すぐそこは階段。
ショボンはジョルジュに背を向けて先に降りていく。
ギシギシと軋む木造階段は、しかしてガッシリと二人分の重量を支える感触がした。
小屋の一階は広くもなければそう狭くもない、何処かの酒場のような雰囲気を醸し出している。
長テーブル席が縦に二つ、横に三つと並べられ、
まだ空いたスペースにはいくつもの大樽と…恐らく予備であろう長テーブルが横倒しに壁際へと寄せられている。
空っぽの陳列棚と向かい合うバーカウンター席に、二人は腰掛けた。
(´・ω・`) 「水くらいならひいてあるから喉が乾いたらそこのシンクで好きに飲んでいいよ」
_
( ゚∀゚) 「ああ、サンキュー。
ここってあんたの家かなんかか? 」
(´・ω・`) 「ここ何年か勝手に拝借してる。
昔は傭兵やら旅人が集う酒場だったらしいけどね」
-
適当な相づちをうちながらジョルジュは回り込み、水道から出た水を手すくいで飲む。
ついでに顔も洗った。
…日常的な行為のはずなのに、どうしてか長いこと忘れていた感覚にとらわれる。
静かな空間で、しばらくシンクに当たる水の音だけが響き渡った。
(´・ω・`) 「大丈夫?」
_
( ゚∀゚) 「……すまん、ぼーっとしてた」
水を止め、ポケットから取り出したハンカチで手顔を拭う。
_
( ゚∀゚) 「…」
_
( ゚∀゚) 「他に誰かいるのか?」
(´・ω・`) 「えっ?」
その視線に合わせてショボンは振り向く。
後ろには小屋の出入り口があるだけ。
しかし、特に物音は聴こえない。
-
(´・ω・`) 「……?」
ショボンも扉を開け外を見回したが、
やはり誰も居ないことを確認して席に戻る。
_
( ゚∀゚) 「気のせいかな…」
(´・ω・`) 「僕には何も感じない。
でもまた何かあれば教えて」
その声は少しだけ警戒を滲ませていたが、二人は改めて席についた。
一度だけ、ショボンは肩で大きく息を吸う。
(´・ω・`) 「ーー さて、それからなんだけど」
その腰に下げた "隕鉄" の刀が揺れた。
-
(´・ω・`) 「兄者さん達が死んでから、
僕は当時の馬鹿な頭をフル回転させて原因を調べ始めたよ」
(´-ω-`) 「なぜ島にあんなものが降ったのか?
あの隕石はそもそもなんなのか?
…どうして僕は生物として死ななかったのか?」
(´・ω・`) 「潜水艦の製造も中止した。
弟者さんにはやることが出来たし、
僕の興味も海中から天空へと移ったからね」
_
( ゚∀゚) 「俺はワカッテマスと同化した一族の魂みたいなもんだ…
でも、あんたみたいな人は普通に母親から産まれたんだよな?」
(´・ω・`) 「そうだよ。 両親はなんの変哲もない人だった。
…双子は産めなかったけどね」
"ふたごじま" ーー 。
それは産まれる子の殆どが双子であり
そこから名付けられた俗称ともいえる。
(´・ω・`) 「正確には双子 "だった" 。
僕もね。
でも片割れは死産だった……
僕だけが、こうして生きて産まれた」
-
島の歴史において、
彼は最も希有な命だったという。
流産、死産は数あれど
片割れが死体のまま出てきた例は無い。
(´・ω・`) 「島では一人っ子がまず神官職に就く習慣があってね。
僕もそうやってやりたくもない雑務をやらされてた」
(´・ω・`) 「……ずっと思ってたんだ。
ひょっとしたら僕の不死はその片割れ…
シャキンがもたらしているんじゃないかって」
_
( ゚∀゚) (…兄弟と同化してるってことか?)
シャキンは時々、予言じみた言葉を残すためにショボンの眠りに現れる。
とはいえジョルジュとワカッテマスの関係とは異なり、あくまでショボンはショボンとして生きていると言った。
(´・ω・`) 「彼は僕のなかに存在するオラクルそのものだと思う。
ちなみに…さっき君と一戦交えた最後の攻防。
それも事前にオラクルとして知ったから出来た事だよ」
-
ひとつ、ジョルジュの合点がいった。
蹴り飛ばした刀の疑似チェーンソー…
あの瞬間、あの刹那、
ショボンは顔を上げることなく白羽取りしてみせた。
_
( ゚∀゚) 「すげえ便利だな…いや、
これは不謹慎か、すまない」
(´・ω・`) 「いいよ。 なんせシャキンは曖昧だ。
その時のオラクルも何か教えてあげようか?」
(`・ω・´)o 『下は向くなよ。 ゲンコツだぞ』
(#´・ω・`)б 「ふざけてるよね、これ……
実際に飛んできたのは刀だよ?
僕はせいぜい君の脚だと思ったんだから」
_
( ゚∀゚) 「ハハッ 子供かよ」
ジョルジュが笑うと、ショボンも少しだけ笑ったように表情が和らぐ。
こうして思い出話が出来るのは愉快なことなのかもしれない。
少なくともジョルジュにとっては
同じ時間を生きる存在としてショボンを認め始めている。
-
_
( ゚∀゚) 「それで、隕石がなんだったのかは判明できたのか?
それが…なんとか虫のアサウルスってやつなのか?」
(´・ω・`) 「銷魂流虫、ね。
結論から言えば…僕達を襲った隕石や黒い棒。
それ自体はアサウルスでありアサウルスではなかった」
_
( ゚∀゚) 「ん??」
(´・ω・`) 「これの刀身、何で出来てると思う?」
ショボンは腰鞘に収めた刀に手をやり
少しだけ抜いた。
鍔と鞘の隙間から輝く鈍色 ーー 矛盾した刃がその身を覗かせる。
(´・ω・`) 「 "隕鉄" さ。 特に銘付けはしてないけれど…
昔、知り合った職人に刀として加工してもらったのさ」
_
( ゚∀゚) 「聞いたことくらいはある。
"隕鉄" って言ったら空から降る天の鉱石」
_
( ゚∀゚) 「俺はそんな由来くらいしか知らないが…
成る程その通りのシロモノなんだな」
(´・ω・`) 「ただし、その職人はその後
長生きできていない。
…燃え尽きたんだ、人としての魂が」
_
(;゚∀゚) 「……魂が、燃え尽きる?」
(´・ω・`) 「これはね、アサウルスの欠片なんだよ」
-
ーー ジョルジュが息を呑む音がした。
覗かせていた刃を収めてショボンは悪くなった座りを直す。
(´・ω・`) 「ここまで来ると、今度はアサウルスについて話さないとね」
ショボンは窓の外と出入り口を順に見やる。
ジョルジュもつられて顔を動かし、
_
( ゚∀゚) 「……やっぱなんか居るよな?」
と聞いた…… いや、"言った" 。
(´・ω・`) 「…実は待ち合わせはしてるんだ。
でもいつ頃に来るかまでは ーー」
ショボンが言い掛けたその時、
初めて彼の耳に外からの音が聞こえる。
ジャリ… ジャリ…と。
石ころを踏み歩く音が。
(´・ω・`) (…まさかこの音を聴いていたのか?)
ジョルジュの顔を横目に立ち上がる。
-
やがてその音が扉の前で止むと、
かちゃりとドアノブが捻られた。
_
( ゚∀゚) 「……」
(´・ω・`) 「……」
かちゃり、かちゃりと ーー
…何度か同じ行為が繰り返されるも
一向にその正体を見せようとはしない。
(´・ω・`) 「……」
(´・ω・`) 「…あっ」
ーー 鍵がかかっているのだ。
だから普通なら扉は開かない。
-
「おい」
ジョルジュでもショボンでもない、
第三の声が室内にかけられる。
静かに、そして厳しく。
「開けろ。 さもなくば」
(;´・ω・`) 「ま、まずい!」
ショボンは狼狽し慌てて一歩踏み …出そうとしたが
「壊してでも入るぞ」
時遅く、扉はその一部を
外からの衝撃によって大袈裟に破壊された。
.
-
------------
〜now roading〜
_
( ゚∀゚)o彡゜
HP / B
strength / A
vitality / D
agility / B
MP / C
magic power / D
magic speed / C
magic registence / D
------------
-
本日分の投下はここで終わります
ショボン編その1はまだ続くので
残りは金曜21時頃にやらせて頂く予定です
よろしくお願いします
投下中のレス嬉しかったです、ありがとうございました
(´・ω・`) :銷魂流虫アサウルス>>808
-
おつ隕鉄を預かったモナーが心配だ…
-
乙
まさかのふたごじま続編に歓喜してたら兄者悲惨だったでござる
-
乙
ショボンがなぜ死なないのかとレスしてすぐに不死だと言われて恥ずかしい
毎回面白い
細かい表現まで何か隠されてるのかと勘ぐっちゃって読むの楽しい
-
おつおつ!これでまた明後日とか早くて嬉しい
>>864
おなじく深読みしてるw
刺されたのに痛みを感じてなさそうとか自分で不死と思ってるだけとか
ドクオはちゃんと死んでたって自覚してるのに
-
------------
〜now roading〜
( ゚д゚ )
HP / B
strength / B
vitality / B
agility / C
MP / F
magic power / G
magic speed / F
magic registence / B
------------
-
ふたごじま。
大陸の海岸から眺めた時、
ちょうど水平線に浮かぶように佇んだ島…
空から見下ろしたその形が月に酷似する事から、旅人の間では三日月の孤島とも呼ばれる。
-
( ´・ω・)" 「ーー よっと!」
ロマネスクが天寿を全うし、
弟者とデレも年老いて、やがてこの世を去った。
(;´・ω・`) )) 「重いなあ、これ」
信仰の廃れと共に神官は居なくなり、
島の人口は全盛期の半分以下。
礼拝堂だった建物内部からは壁画、天井画が塗り潰し、
或いは取り外されていき……
観光地としての魅力は大きく損なわれた。
(´・ω・`) 「こんなものかな…」
双子もあまり産まれなくなった。
一両親に一人ずつ、新たな命は順番に宿っていく。
ーー 約90年。
青年として、そして不死者として…
ショボンの歴史が始まり、経過した年月は
"ふたごじま" がそれと呼ばれなくなる程の時間を過ごさせた。
-
「あの人、またなにかやってるのね」
離れた場所で一組の夫婦が
一つのバケツからいくつものザルへと
魚、貝、海藻、ゴミ… 収穫した海産物を
分別しながらひそひそと話している。
「漁の邪魔にさえなんなきゃ構わないよ、
こちとら生活が掛かってるんだから…」
「……不老不死って楽でいいわね。
飲み食いしなくたって生きていけるんでしょ?」
夫婦の視界の先…浜辺でショボンは杭を打ち付けていた。
その手には黒く長い槍が握られ、
それを一度振り下ろすだけで1m近い杭が音もなく軽々と砂に食い込んでいく。
(´・ω・`) 「よし」
一ヶ所に三本ずつ、
等間隔に打ち立てられた杭がずらりと並ぶ。
杭を打ち付けるたび、羽織っている法衣の裾がふわり。
漁に出るための舟が集う港から少し離れた場所で、ぽつんと独り、寂しげな光景を醸し出していた。
-
「さあ、できた。
お前はそっちのバケツを持ってくれ」
「ええ。 …声、かけていかなくていいの?」
帰り支度を始めた夫に対し、妻が遠慮がちにショボンを見やる。
「いいだろ、俺のジイさんの代ならともかく…今じゃ単なる変人さ。
ったく、毎日毎日、飽きずに何してるんだか分かりゃしねえよ」
そういってその場を離れていく若夫婦。
……入れ違いに、礼拝堂の方から歩いてきた男が浜辺に現れた。
年の頃はショボンと同年代。
その身体は大きく、広い肩幅は恵まれた身体能力を隠しきれない。
-
(´・ω・`) 「ひい、ふう、……15隻分か。
もう少し必要かな?」
腕を組み、片手を顎に当てる仕草がわざとらしくもある。
( ゚д゚ ) 「そろそろ休憩したらどうだ?」
そこへ背中から声を掛けられて、
ショボンは首から上だけで振り向いた。
一呼吸、顔を見合わせ視界を杭へと戻す。
(´・ω・`) 「ミルナか。 なんだい?
誰かに言われてきたの?」
( ゚д゚ )
つ□~ 「そう捻くれなくていいだろう。
コーヒーを淹れてきたから飲まないか?」
(´・ω・`) 「いらないよ。 コーヒーは嫌いなんだ」
( ゚д゚ ) 「……そうか」
-
ショボンは砂浜に数式のような、
あるいは図面のようなものを描いていく。
いつも違うものを描いている気がするが…
ミルナにはそれが何を意味しているのか分からない。
( ゚д゚ )
つ□~ 「ここ毎日はずっとじゃないか。
部屋に戻った様子も無いから気になってな」
"(・ω・` ) 「…」ガリガリ
("Е◎゚ ) グイッ…
( ゚д゚ )
つ□~ 「…よほど大事なことなのか?」
(´・ω・`) 「君は自前の舟を持ってなかったよね?」
( ゚д゚ ) 「? ああ、俺は必要な時に
人から借りる程度しか使わないからな」
ミルナは "運び屋" だ。
島ではどんな重いものも顔色一つ変えず持ち上げる。
しかし、停泊した船から荷下ろしはするが自身が乗ることはない。
当のショボンは先の砂の数式に線を足し、
また作業を再開する。
-
( ゚д゚ ) 「……」
(´・ω・`)" 「…」
カツン…!
ショボンが黒い槍を振り下ろす。
叩かれた長い杭が抵抗なく砂に埋もれる。
そうして繰り返される作業も時々何か気に食わなかったのか、深々と突き刺した杭を引き抜く場面も見られた。
舟を持たないミルナも、それを見て気付く。
( ゚д゚ ) 「これは一時的に舟を留めておくためのものか」
( ´・ω・)" 「…よく分かったね」
錨をおろさず、岸壁に係留させる時
主に使用するビットの役目を果たす係船柱…
ショボンが造っているのはその代わりとなる杭だった。
島には小型舟しか置かれておらず、
大きな船を造る技術もまだない。
だからこの杭でも充分実用に耐えうる。
例えば…予めここに小舟を用意し、
縄で縛り付けておけばそれを切るだけで何隻もの舟が同時に海へと出発することもできるだろう。
( ゚д゚ ) 「どうしてまたそんなものを…
しかもこんなに」
(´・ω・`) 「必要だから」
-
( ゚д゚ ) 「……」
返ってきたのは簡潔で質素な回答だった。
だが不思議と不快ではない。
ミルナが小さい頃、礼拝堂の改築を行っていたショボンを思い出す。
当時は子供の我が儘と思って遊んでくれたのだろうか?
周囲の大人達は相談もなしに一人で黙々と改築作業を行うショボンを煙たがっていたが、
ミルナには優しかった気がする。
( ゚д゚ ) (…改築中に取り外した鉄骨をみて、
片手で持つショボンに憧れて真似たら
滑って膝を強打した事もあったっけ)
その時の傷はまだミルナの膝小僧に痕を残している。
だがやがて年を重ねるごとに、
ショボンと皆の間にはより深く溝ができていった。
ミルナともあまり話すことが無くなった。
ミルナが話し掛ければ答えはするが、人々がそれを見てコソコソ耳打ちする姿が燗に触る。
その都度、ミルナの両親のそのまた親、
つまりは……
( ゚д゚ ) (あの頃はじいさん達が率先して周囲をたしなめていたな)
二人の言葉。
彼は今でも思い出す事ができる。
.
-
(´<_\` )『ショボンは私らの頃から
共に育ってきた仲間だ。 家族だ。
皆が思うほど悪い奴じゃない…それに ーー』
ζ(゚ー\゚*ζ 『彼は他の人と少し違ってるだけ。
偏屈だけど…根は良い子だから ーー』
(´<_\` )
『島に必要な人間だから』
ζ(゚ー\゚*ζ
.
-
そんな祖父母の影響が全くないわけではなかったが、ミルナは自分の意思でショボンを見続けてきたつもりだ。
当時は反感をかった礼拝堂の改築も、
「信仰を無くしたこの島には、もっと相応しい象徴と技術がある」として、
工芸作業場のスペースを一人で造り始めた。
荘厳なレリーフ、豪華な刺繍などは
島で代々育まれた技術であり、大陸に出れば唯一無二になり得る職種でもある。
…そう言って技術者を連れだって
大陸で宣伝、売り捌いてきた事もあった。
そしていま大陸では、三日月島出身の職人が各地で裕福な生活基盤を根付ける程、その技術を求められている。
長くショボンを快く思わない島の住人も未だに居る。
だが産業的な結果を出し、
かつ最古参となるショボンに正面から口を出せる者はいない。
ーー しかも不老不死だ。
世代が変わるにつれ、ショボンは不気味な存在として誰からも一切話しかけられなくなった。
ショボンも、誰に話し掛ける事はない。
……例外はミルナだけ。
-
( ゚д゚ ) 「なら舟はこれからか?」
たった一人、
弟者とデレの忘れ形見となったミルナだけが、今もショボンに臆さず話し掛ける。
(´・ω・`) 「もう8割方は準備できてる。
明朝には全て完成する予定だよ」
( ゚д゚ ) 「俺も手伝うよ」
(´・ω・`) 「……」
( ゚д゚ ) 「ダメか?」
( ´・ω・) 「いや、それなら別に頼もうかな」
そう言われて、ミルナは少しだけ驚いた。
申し出たのは自分の方だが…
ショボンから頼み事をされるのは初めてかもしれない。
( ゚д゚ ) 「ああ! 俺が出来ることなら」
(´・ω・`) 「じゃあ明日中に、住人全員が
荷物をまとめてこの島を出れるようにしておいてほしい」
( ゚д゚ )
( ゚д゚ ) 「……は?」
-
つい今しがたまで喜んでいた内心に氷水を浴びせられるような一言。
(´・ω・`) 「出来る?」
( ゚д゚ ) 「待ってくれ。 突然過ぎて…
どういう事だ? 俺達にこの島を捨てて出ていけというのか?」
(´・ω・`) 「うん。 誤解を恐れず言えば、ね」
返事は簡潔で質素で…明確に冷徹だった。
数秒前とは真逆に。
ショボンの表情からある種の迫力を感じずにはいられない。
( ゚д゚ ) 「…」
だからこそ、ミルナは頷く。
-
( ゚д゚ ) 「…分かった。 明日中だな」
(´・ω・`) 「ありがとう。 なるべく早くだよ」
( ゚д゚ ) 「しかし伝える理由はどうする?
俺が適当に決めていいのか?」
(´・ω・`) 「何も僕を庇わなくて良い。
でももし駄々を捏ねる人がいるなら……」
その問い掛けに少しだけ考えるように…
ショボンは手元の黒い槍を掲げる。
(´・ω・`) 「ねえミルナ。
君の父、末者さんがこの槍を造ってくれたのは知ってるよね?」
( ゚д゚ ) 「昔、隕石と一緒に降ってきた棒を
親父が不馴れながらも加工したと聞いている。 …それがどうした?」
(´・ω・`) 「それがまた降るかもしれない。
それも前回の比じゃなく」
(´・ω・`) 「これは "ふたごじま" 二度目の神託に値する」
.
-
( ゚д゚ ) 「だからせめて一日だけ、緊急避難するつもりでこの島を離れてくれれば良いんだ」
その後すぐに人々を集めたミルナは
さっそくショボンの意と言の葉を伝えた。
昔の神官のようなまとめ役も階級も風習も
現在は存在しないため時間がかかった。
この場に来ていない人も当然いる。
本来こんな時こそ組織という団結力は必要とされるのかもしれない。
無精髭を蓄えた男が言う。
「…いきなり何言ってんだ? ミルナ。
困るよそんな急に……」
( ゚д゚ ) 「承知の上だ。 それでも伝えなくてはならなくなった。
今夜から舟も次々用意されるから早い方がいいと」
夫に寄り添った女が言う。
「ショボンがそう言ったからって…
悪いけど信用しにくいわ。
そんなことが起きるなんて、とても思えないもの」
( ゚д゚ ) 「過去に事実、同じ事件が起きているのは皆も知らない訳じゃないだろう?
当時も急に異変が起きたから…犠牲者が出た」
腰の曲がった翁が言う。
「信仰は終わらせたはずじゃが…なぜ
ショボンが神託を知るのだ?
なにか企んでおると考えてしまうのが皆の
総意ともいえるのだぞ」
( ゚д゚ ) 「…ならば逆に今、なぜショボンがそれを口にしたのかを考えてやってくれ。
そもそも何を企もうというんだ?」
-
無意識のうちに…段々とミルナの口調は強くなる。
彼一人に対して人々は意見を口にするも、
その誰もが "ショボン" という各自のイメージフィルタ越しに見聞きする。
あまつさえ、客観的事実である島の歴史すら直視しようとしない。
「でもなあ……」ボソッ
…人は過去の教訓すら生かせない。
それが、当事者にならなかった近くて遠い
隣人達の倫理観。
(#゚д゚ ) 「〜っ! 皆どうかしてるぞ?
島が危険だと言われても動かないのか?
自分で自分を見殺しにするのか?!
もし家族に何かあったら…」
(#゚д゚ ) 「自分で責任を取れるのか!!」
その一瞬、人々のざわめきが止まる。
(#゚д゚ ) 「俺の祖父母は弟者とデレだ!
当時ショボンを庇って死んだ流石兄者さんの兄弟と、ミセリさんの姉妹が俺の家族だ!」
(#゚д゚ ) 「ショボンがどうだなんて今は関係ない!
俺は祖父母から教えられた言葉を守りたいだけだ! 俺の意思で!
島全体に関わる問題を、たまたまショボンが提示しただけだろう?」
(# ゚д゚ ) 「アイツが皆に言えないから、皆がアイツを見ないふりするから!
こうして俺が伝えているんじゃないか!!」
-
怒声、もしくは悲鳴か。
人々はそんな彼を見たことが無い。
若いながらもどっしり構えた青年というのが他者からミルナへの評価だった。
ミルナの心の中では亡き家族の在り方と
その言葉が強く遺されている。
たまたまその先にはショボンが居て……
そのショボンが皆に初めて語ってくれた島の危機。
見様によっては皮肉だ。
だから、人々からは尚も反論の声が上がる。
「だからよぉ! そもそもそのショボンが
注目されたくて適当言ってるんじゃねえか、と俺らは言ってんだぜ?」
「仕事がある…身重の妻もいる…身体の不自由なばあばがいる。
外は天気だっていつもと同じで変わりない」
「私も昔のことは聞いてるわ……けど、
その時は礼拝堂に居れば助かったって。
それじゃあ、ダメなの?」
……もはや言葉を交わすほどに呆れてくる。
彼らは単にショボンの存在ならばなんでも拒否したいのではないか。
彼らは恐らく面倒臭いという気持ちが、もしもの自衛の心を上回っている。
…ダメかもしれないから島を出ようと提示されていると、彼らは考えないのだろうか。
-
長い人生の一日を惜しんだばかりに
残りの人生をフイにするかもしれないのに
…なにが人をこうさせるのだろう。
島への愛着か? ショボンへの嫌悪か?
ミルナはその場にいる全員の顔を見渡す。
(#゚д゚ ) 「……皆、動く気はないんだな?」
彼らは…
遠い先祖が災害で亡くなっても、
その警告が形として残されたとしても、
同じことを言うのだろうか?
「「「 ………… 」」」
ーー 誰も応えなかった。
ショボンと自分の声が届かない。
島の歴史すら、
自分達のせいで蔑ろにされている。
それがミルナにはとても悲しかった。
…心のなかで、両親や祖父母、そして、
見たことのない兄者とミセリに謝罪する。
-
「 じゃあ島に居て良いよ 」
( ゚д゚ ) 「!」
礼拝堂に響き渡る声はそう大きくない。
それでも全員がその方向へと顔を向けた。
(´・ω・`) 「居れば良いよ。 この礼拝堂に」
正門に寄り掛かりながら腕を組み、
こちらを眺めているショボンの姿があった。
(´・ω・`) 「ただ、僕はもう君達には警告したからね。
明日中に島を出なかった人の命の保証はない」
(´・ω・`) 「…聴こえたよね?
後になって聞いてない、は通じないよ」
その言葉は挑発めいたものだ。
なにより ーー これはショボンの本心でもある。
( ゚д゚ ) 「ショボン……お前…」
-
(( ( ´・ω・)「分かったろ、ミルナ?」
扉から背を離し、ツカツカと音をたてて
こちらへと歩いてくる。
(´・ω・`) 「僕が彼らと接しない理由。
それは僕が不死だとか、気に食わないとか色々あるのかもしれないけど」
(´・ω・`) 「要は相対的にしか物事を判断しないんだ。
視野が狭い。 現実を見ない。
自分達がどれだけ滑稽かも知ろうとしない」
その歩みはゆっくりとしているのに、
いつの間にかミルナと並ぶ位置にショボンは立っていた。
(´・ω・`) 「……この90年間、ずっと見てきたよ」
ーー 間近で見るその顔は、
(´・ω・`) 「君らは昔の僕と一緒だね。
いつも他人に甘えて…それを他人が許容してくれていた事に早く気付くべきだ」
ーー 燐として、しかし空虚な、
(´・ω・`) 「本当は、自分がどうしたいかが大切なのに人の顔色ばかり窺って。
今だって声の大きな人の後ろで悩んでる」
ーー いつかの後悔の顔。
(´・ω・`) 「…君達の人生は一度きりなのに、重大な決断を他人に委ねていいの?」
-
静まり返る礼拝堂で、ショボンは一呼吸置き
彼らへの最後の言葉を伝える。
(´・ω・`) 「僕は無駄が嫌いだ…いい?
舟は16隻分、必ず用意しておく。
使わない分は僕が後で処分する」
(´・ω・`) 「自分の舟を持たない人が優先して使ってくれたらいい。
操作できる人は往復して皆を運ぶんだ。
そして少しでも早く島から離れること」
(´・ω・`) 「君らの人生は死ねば終わりだ。
僕と違ってやり直しは効かない。
それに比べれば僕に騙されることくらい、
なんてことないんだよ?」
(´・ω・`) 「それでも島に残る人は以後、
一切の苦情は飲み込むように。
言い換えるなら被害者面はしないでってこと」
(´・ω・`) 「どちらを選ぶのも君らの選択だし、背負う責任でもある。
意地でも僕の言うことを嘘だと決めつけるのは勝手だけど、隣人は巻き込むな」
( ´・ω ) 「…あとは大切な人の顔でも見て決めるんだね」
二度と聞き返されないようにハッキリと言った。
それきり、ショボンはまた礼拝堂の扉を出ていってしまう。
-
( ゚д゚ ) 「ショボン…」
後に残された人々が困惑の表情を浮かべる
…その気持ち、ミルナには分かる。
とはいえ気の利いた言葉も見付からない。
無言でショボンを追いかけた。
( ゚д゚ ) (なぜだ? ショボン…)
そして考える。
なぜ無駄なことが嫌いならば、
ショボンは人々ともっと友好的に接して来なかったのだろう。
いわばそのための時間が彼には十二分にあったのではないだろうか?
( ゚д゚ ) (何かできない理由があったのか?)
ショボンも完璧な人間ではない。
ただ不老なだけだ。
…ゆえに疑うならば。
彼は孤独をこじらせた、ただの甘ったれという見方も出来なくもない。
.
-
三日月島の夜が更けていく ーー 。
.
-
しえんッ
-
----------
夜が明けて……
ミルナがちからなく砂浜へ向かうと、
舟に荷物を運び出す人々の姿がチラホラと見えた。
( ゚д゚ ) 「……これは」
既に何隻かは出発した形跡すら見られる。
昨日の出来事から皆、島に残るばかりかと懸念していたのだが…
率先して誘導する漁師たちが舟を漕ぎだし
仲の良いグループは集まり、荷分けして水平線を目指し陸離れしていく。
時刻はまだ朝焼けが出たばかりだ。
「あなた、ねえ急いで」
「ま、まってくれよ…お前だけ手ぶらじゃねえかよ」
「舟はまだあるらしいから慌てずに」
振り向けば、まだまだこれから荷造りを終えてくる者達。
( ゚д゚ ) (なんだ、皆分かってくれたのか)
ミルナは辺りを見回してあるものを捜す。
どこにいるのだろう?
浜辺から港へ…港から礼拝堂へと駆け足で通り抜ける。
-
島の住人からは不揃いなパーツで組み立てられた舟に不安がる声も聞こえたが、
問題なく海面にたゆたう事を確認すると、
やがて浜辺を離れていく。
その行動はことのほか速やかで、
皆、仲間たちへ
思い思いに手を振り別れを告げていった。
( ゚д゚ ) 「……?」
だがそこにショボンの姿はない。
そして彼を捜す素振りも、人々からは見えない。
用意された舟をさも当たり前のように利用する住人達を横目に、
ミルナは島をまるまる一周するつもりで更に走った。
.
-
島の死角 ーー 普段は潮の満ち引き次第で
足場の消える崖の下。
いつもなら踏み入れない領域を覗いた。
:( ; ´>ω ):
ミルナがやっと見付けたのは、ブルーシートに寄り掛かってガタガタと震える
…ショボンの後ろ姿。
まだこちらには気付いていないのか、
振り向く様子もない。
( ゚д゚ ) 「…捜したぞ」
ショボンはゆっくりと立ち上がるも、
ミルナは見逃さなかった…
一瞬その背中が跳ねたことを。
( ´・ω) 「……君か」
( ゚д゚ ) 「皆早くからぞくぞくと避難しているようだ。
昨日のあれも結局はお前の作戦か?」
(´・ω・`) 「…ん、そうだね。
ねえ、避難はもう終わるかな?」
( ゚д゚ ) 「ああ。
あれなら昼頃までには全員済むんじゃないか。
お前の用意した舟も皆使って ーー」
(´・ω・`) 「それじゃあ駄目だ…予想が外れた」
( ゚д゚ ) 「なんだ? 指示通りだと思うが…
なんなら自分で見てきた方が ーー」
(´・ω・`) 「そっちじゃない。
予想より遥かに早いんだ…空をみなよ」
その言葉に、ミルナの背筋に言い様のない悪寒が走る。
-
顔を上げると、濃い朝雲がこれでもかと空を覆い囲っている。
…今日は一雨来るのかもしれない。
そんな空模様のはずだった。
(´・ω・`) 「この時期に雨なんて降らないんだよ。
過去90年間で一度もね」
その言葉を聞いているまさに今。
雲が目の前で流動し、その速度を上げ始めた。
それも一方的に流れているのではない…
まるで大きな渦を作り出し、散り散りになりつつも一つの大きな生物のように集合していく。
(; ゚д゚ ) 「な、なんだ…おかしいぞ、空が」
(´・ω・`) 「さあ君も早く避難するんだ、ミルナ」
ショボンの足元には突き立てた黒い槍。
それを握ると、ショボンの震えはもう止まっていた。
(´・ω・`) 「さもないとなにが起こるかわからない」
-
(; ゚д゚ ) 「しかしショボン…」
(´・ω・`) 「行くんだ」
(; ゚д゚ ) 「ならせめて一緒に ーー」
(´・ω・`) 「行くんだ」
命令を繰り返す。 親が子を諭すように。
そしてその返事を待たず…
ブルーシートの中から数本の鉄剣と鉄槍を
抱き上げてショボンは駆け上がる。
(´・ω・`) 「稼がなきゃ…時間を」
崖の上へと、
「ショボン!」
叫ぶミルナを置き去りにして。
空は今も渦巻いている……。
出てくるのは 鬼か。
蛇か、
蟻
。
-
「なんじゃあ、ありゃあ?」
舟に乗り込む一家の老父が最初に声をあげた。
ポカンと開けたその口に灰が落ちる。
まだ陸地にいる周囲の人々も何事かと見上げた。
「空が……黒い…?」
暗いのではない。
黒いのだ。
そして蠢いている… 二つ目の太陽の中で。
中心部から黒点が現れたかと思うと、
徐々にそれは大きくなって、まもなく太陽を遮るほどになる。
人々は釘付けになった。
太陽どころか、ますます大きくなる黒点は
モヤモヤと歪に形を変えながら、
「なにか降ってくるぞ?!」
出発して間もない舟々を海の上から押し潰し、悲鳴を飲み込みながら、
"それ" はついに出現する。
-
(´・ω・`) 「ビコーズ!」
二本足で崖を登り礼拝堂の屋根まで登っていたショボンが、手の中から小さな珠を宙に放る。
…そして、一向に落下しない。
ゆらゆらと重力に逆らうように浮かんでいるそれは、過去にご神体と崇められた真球体。
(( ( ) ))
( ー) キュィィ
( ∵) ザザッ
130年前、天かける儀式を経て魔導力を
世界にもたらしたとされる神の使い。
(´・ω・`) 「お前にも責任を取ってもらおう。
僕と一緒にね」
( ∵) ーー ザーザッ ーー
(`・ω・´) キリッ 「さあ、行くよ」
.
-
------------
〜now roading〜
( ∵)
HP / ??
strength / ??
vitality / ??
agility / ??
MP / ??
magic power / ??
magic speed / ??
magic registence / ??
------------
-
"それ" は礼拝堂と同じ程の全長を誇った。
空から着水した衝撃だけで水飛沫がショボンの身体を濡らす。
(`・ω・´) 「…でかすぎる。 でもやらなきゃ。
ビコーズ、あれの情報を神託してくれ」
眉を吊り上げたショボンの声に圧されたわけではないだろうが、ビコーズは傍らで雑音混じりに神託を告げる。
( ∵) ザッ ーー 銷魂 流虫
( ∵) ーー アサウルス。 祈りの象徴 ーー
( ∵) ザザッ ーー お前たち人間が "光" と
見誤っていた "闇" の偶ザ像 ーー
(`・ω・´) 「…だから信仰が問題視されていたのか。
弱点はあるのか?」
( ∵) ーー ザザザ…胸部の太陽 ーー
( ・ω・´ ) 「胸部……」
-
四つ足の…まるで蟻か蜘蛛のような造形。
腹這いの姿は超巨躯であるがゆえか、人から見上げれば腹部が丸出しになっている。
ィ'ト―-イ、
以`θ益θ以 《ゴゴゴゴ…》
島を出ようと舟に群がっていた人々を品定めするその顔、手足、背…
全身が硬質的な外殻に覆われているにも関わらず。
膨らみのあるその胸部には、
太陽を内包したような橙の灯りが神経筋や血管を浮き上がらせながら膨縮を繰り返す。
ィ'ト―-イ、
以`θ益θ以 《…ゴググ…ゴグルル》
((@))((@)) ドック…ドック
(`・ω・´) 「なるほど、あれか」
ーー そして、ショボンは一息ついた。
(;´・ω・`) 「…疲れた、"こっち" は休憩。
ビコーズ、僕から離れるなよ」
〜 ( ∵) ふよふよ
ショボンは高く跳び上がり鉄の槍を手始めに一本。
-
「ーー うわああっっ」
「きゃあぁあ!!」
人を喰らおうと間抜けに開けた口許めがけて投擲すると、その剥き出しの牙に突き当てた。
ガィインッ、と金属同士がぶつかり合う音。
ィ'ト―-イ、
以`θ皿θ以 《ガアア…》
アサウルスの動きが止まる。
鉄の槍は刺さりはしなかったどころか反動で砕け散り、しかしその衝撃を伝えることには成功したようだ。
(´・ω・`) 「お前の相手はそっちじゃないよ」
ショボンは礼拝堂前に着地すると、屈んだ体勢を利用し走りつつ二本目を投擲。
距離200m以上先のアサウルス目掛けて
先の攻撃を超えるスピードを誇ったが
ィ'ト―-イ、
以`θ益θ以 《…ゴゴゴ》
ィ'ト―-イ、
以`θ□θ以 パカッ
-
::《ゴ ア ア ア ア ッ ッ ッ ! ! !》::
ビリビリ
:(>ω・` ;): 「うわっ」
ーー 辺りを咆哮が支配する。
視界は爆炎、
肌に感じる大気の熱が急上昇したかと思えば
アサウルスとショボンの間に核熱が過ぎ去った。
(´・ω・`;) 「…」
額から極冷の汗が流れ落ちる。
それと同時に疑問がわいたショボンは動きを止めることを良しとせずに再び大きく跳躍。
ィ'ト―-イ、
以`θ□θ以 パカッ
間髪入れず放たれる咆哮。
真下から炎が巻き上がり、爆風圧でショボンは更なる空へ投げ出された。
彡
彡
"(;; ´つω<;)" 「 ーー っ!」
彡
彡
.
-
( ゚д゚ ) 「ショボン!」
港まで戻ってきたミルナも、
爆炎に抵抗出来ず吹き飛ぶショボンの姿を捉えていた。
( ゚д゚ ;) 「…あんな怪物が…ショボンが言っていた島の危機だっていうのか?」
海を見れば視界一面にアサウルスが映るほど。
スケールが違い過ぎるのだ……ミルナは混乱の渦中にいる。
「どうするの、ねえあなた、どうするのよ」
「しらねえ……聞くなよわかんねえよ」
「うわあえあぁぁぁん!!」
「逃げろ、逃げろ逃げろ逃げろ!」
「どこに!」
「うるせえ!!」
( ゚д゚ ) 「……」
砂浜で右往左往する住人達。
海に出ようにもアサウルスが立ち塞がる。
舟が通るスペースは十二分に有り余るも、
誰も獅子の股ぐらを潜ろうとは考えない。
( ゚д゚ ) 「…皆、このままここにいても危険だ、早く舟に乗れ!」
「はあっ?! お前あれが見えないのか?
無理言うなよ! バカが!」
「島の反対側に行きましょ! 少しでも離れないと!」
-
壮年の夫婦が舟から離れるように後ずさる。
動ける者からそれに倣い始めた。
……まとめた荷物も、そして老人も置きざりにして。
(#゚д゚ ) 「おい待っ ーー」
「まあまあ、あんたらちと待ち!」
遮る若い女の声。
ミルナの思いと異口同音のその言葉は
人々の動きを制止した。
(#゚ -゚) 「落ち着きや。 こうして喋ってる暇があるんやからまだ平気っちゅーこっちゃ」
(#゚ -゚) 「荷物も家族も見捨てるなや、けったくそ悪い。
…よく考えてみぃ? 象が蟻を気にしてわざわざ踏むか?」
ミルナも見たことのある女だった。
たしか緊急時には礼拝堂内にある分娩室に待機する助産婦の一人だったろうか…?
うろ覚えではあるが。
「あんなもん象とか蟻とか関係あるかよ!
だったらお前一人で行け!」
(#゚ -゚) 「そうさせてもらうわ。
そしたら舟はあんたらの元から一隻、
確実に減るけどな」
「「 ?! 」」
-
「あたしたちを見捨てるっていうの?!」
「自分だけ逃げる気か!」
(#゚ -゚) 「はあっ? たったいま動けない家族を見捨てようとしたのはあんたらや。
一緒にするなんて失礼やろ」
( ゚д゚ ) 「皆、落ち着け。
舟であの怪物を通り過ごしたとして…
また外から戻ってくるのは現実的じゃないという事だろう?」
「…ぁ……」
人は顔を見合わせた。
女は鼻で笑い、頷く。
(#゚ -゚) 「フン、そーいうこっちゃ…
ここにいる誰が好き好んで往復できる?
一度往くなら決死も覚悟できる。
だのに何度もウロウロしとったら象かて運よく蟻を踏むこともあるわ」
(#゚ -゚) 「それに…… 定員オーバーは?
全部合わせても残り7隻、誰が運転できる?」
「手ぇ挙げてみぃ?」
その声に、ちらほらと頭上に挙がる手のひら…
およそ7人。 舟の数と同じ。 そして ーー
(#゚ -゚)σ 「あんたらの家族にせいぜい数人ずつ足すとして…全員が乗りきれるか?」
(; ゚д゚ ) 「……そうか、その問題もある」
-
元より漁船であれば大人数が乗っても
重量の点ではなんとかなる。
大波さえ来なければ転覆する心配もない。
…問題はショボンの用意した手作りの舟。
かつて兄者と弟者の三人で造船していた
潜水艦パーツを分解し、それを分けるように造り上げたそれはせいぜいが1隻ごと7人乗りにしかならない。
「の、乗れるんでしょ? ショボンはそうやって人数分造ったんじゃ…」
(#゚ -゚) 「なんやその根拠……
なら試そうや。 論より証拠でな」
( ゚д゚ ) 「……」
きっと乗りきれない… かもしれない。
彼女はさっさと島を脱出したい一心で人々をうまく誘導している気もするが…
今日このタイミングであの怪物が襲ってくるのは、ショボンにとっても予想外だと口走っていたのをミルナは聞いてしまった。
ーー 後ろで礼拝堂の屋根が爆発炎上。
いまもショボンがアサウルスを引き付けている。
Ъ(#゚ -゚) 「はよしいや。 ああやって爆発したいんか?
…子供とジジババから乗りぃ」
.
-
フヨフヨ
( ∵) 〜
(´・ω・`;;) 「…なにをまごついてるんだ、あっちは」
焼け落ちた屋根の残骸と共に外気に晒け出された礼拝堂で毒づく。
ショボンがアサウルスに仕掛けているのは
時間稼ぎのためだったが、その身に受けたダメージは正真正銘。
爆炎の咆哮は規模が大きすぎてうまく避けられない。
(∵ ) 〜
(´・ω・`;;) 「このままじゃ先にこっちが参るね」
そう言うショボンの口調からまだ焦りは見られない。
既にいくつかの情報をアサウルス自身から
引き出せている事が、彼を立ち上がらせる理由だった。
-
身体に残った屋根の残骸を手で払い除けつつ辺りを見回す。
礼拝堂の二階部分…ちょうど彼自身の私室に落ちたらしい。
砕かれたコンクリートまみれになったベッド脇。
その引き出し棚を乱暴に引っ張り開けて中身を握り込む。
なんでも良かった。 手探りに漁る。
手の中の万年筆や鉛筆、消ゴム、あらゆる事務用品を法衣の袖の下にしまいこんでいく。
(´・ω・`) 「あっ」
引き出しの奥で堅いなにかが指先に引っ掛かった。
(´・ω・`) 「……」
灰黒色の木札 ーー それが三枚。
それも法衣の内ポケットにしまい、
ショボンは再び高く跳び上がった。
〜 ( ∵)
-
(#゚ -゚) 「なんや全員乗れやたんか」
アサウルスが鎮座する目の前の浜辺で
島の住人達は各々舟に乗り込み終わるところだった。
( ゚д゚ ) 「…お前は乗らないのか?」
……その中に、女とミルナの姿はない。
二人は礼拝堂への長階段に腰掛けていた。
(#゚ -゚) 「皆で荷物を減らしてやっとやからな。
あたしまで乗らん方がええやろ」
( ゚д゚ ) 「そう変わらんと思うがな」
通常よりも深く沈む舟は重くゆっくりと…
怯えるように陸を離れて旅立っていく。
アサウルスがどこを見ているのか定かではないが、今も空では爆炎が轟いている。
きっとショボンが何かしているのだ。
::《ゴ ア ア ア ア ッ ッ ッ ! ! !》::
咆哮と共にビリビリと震える空気に
鳥肌をたてるのは何度目だろう。
昨日まで何事もなく過ごしていた日常は
もう跡形もない。
そこかしこで現実離れした炎が破裂するうちに、どこかの神経が切れてしまったのだろうか。
-
徐々に小さくなる舟の上で人々は屈み、
頭を上げる様子はない。
それは少しでも恐怖から逃れたい表れであり、彼らに出来る唯一の抵抗だった。
( ゚д゚ ) 「…無事でいてくれよ」
その言葉は誰に向けたか。
女には島を出た人々に向けたものと感じられたが、ミルナにとってはこの女にも、ショボンにも等しく伝えたい言葉。
取り残された二人……
先にミルナが立ち上がり、礼拝堂へと向き直る。
(#゚ -゚) 「どこにいく?」
( ゚д゚ ) 「俺がここに残ったのはショボンを助けるつもりでもあった。
アイツが確保していた武器を借りて俺も戦う」
(#゚ -゚) 「本気で言ってるんか?」
顔を上げる。
爆風に飛ばされながらも鉄の槍を投擲して
怪物 ーー アサウルス ーー に攻撃を仕掛けるショボンの姿が見えた。
(#;゚ -゚) 「あんなこと出来るわけがないやろ」
( ゚д゚ ) 「当然だ。
別に同じことをするわけじゃない…
けど、アイツだって一人であんなバケモノに勝てるわけないじゃないか」
-
(#゚ -゚) 「アタシも親から聞いてるで。
ショボンは不死なんやろ? だったら ーー」
ーー 任せておけば良い。
そう言いたいのだろう女の言葉は、
瞬時にミルナの思考を巻き戻す。
( ゚д゚ ) 「違う。 不死でも人間だ。
たとえ死ななくても、俺達と同じ人間だ」
( ゚д゚ ) 「お前は見てないからそう言えるんだ。
皆だってそうだ、アイツを見てこなかったから……」
.
-
------------------------------------------------------------
『ショボンがそう言ったからって…
信用し難いわ ーー』
『またなんかやってるよ…』
『ーー 今じゃ単なる変人さ』
『ショボンはそうやって人数分造ったんじゃ…』
『……不老不死って楽でいいわね。
飲み食いしなくたって生きていけるんでしょ?』
------------------------------------------------------------
-
------------------------------------------------------------
:( ; ´>ω ):
------------------------------------------------------------
-
不死……
決して羨ましいとミルナは思えなかった。
単に不死身ならば何も恐れることはない。
怪我を厭わなくていい。
暴君として振る舞えば反逆も許さなくていい。
他人に媚を売る必要もなければ、
誰かを救う必要もまた無いはずだ。
( ゚д゚ ) 「ショボンが一度でも暴力を振るったか?
一度でも島の人らを支配しようとしたか?
細工技術の場を用意したのはアイツだ。
島と大陸の繋がりを作ったのもアイツだ」
( ゚д゚ ) 「ああして舟を造ったのも、島の危機を伝えたのも、皆に避難を勧めたのも、今も怪物と戦ってるのも、全部アイツだ」
(#゚ -゚) 「……」
( ゚д゚ ) 「そんなショボンが…
子供みたいに独り怯えていたんだ。
あの怪物が現れる前」
不死は不老であり、その身体は生き続ける。
だが心はそのままでいられるのだろうか?
人の心は本来、ひどく脆い。
-
(#゚ -゚) 「…怯える? アイツが?」
彼女がそれを想像することは難しい。
これまでに知るショボンのイメージとは
だいぶかけ離れていたから。
たまに見かけるショボンの姿はむっつりとしていて、人に興味を示さない…
遠巻きに見ても物事に動じない男性だと、
なんとなく思っていた。
( ゚д゚ ) 「だからせめて側に居てやりたい」
(#゚ -゚) 「…なんやそれ、
あんたはショボンの何なん? 恋人か?」
( ゚д゚ ) 「友達だ」
(#゚ -゚) 「なら大人しく逃げるべきやったな。
友達を亡くしたくないやろショボンかて」
:( ゚д゚ ): 「…見解のちが ーー」
:《ゴ オ ウ ン ッ ! !》:
:(#;゚ -゚): 「?!」
-
二人の会話を咆哮が遮る。
これまでより更に間近で起きた爆炎が
二人の頭の上に瓦礫の雨を降らせた。
ーー そしてアサウルスと孤独に戦う男も。
(;´-ω・`;;) 「っいてて…」
( ゚д゚ ) 「ショボン!」
(;´・ω・`;;) 「なんだ、皆と逃げなかったの」
心配して駆け寄るミルナの顔も見ることなく、ショボンは高く跳び上がった。
( ゚д゚ ) 「おいショボン、まて!」
…彼はそうして跳び上がる。
何度も、何度も。
全ては島の住人が乗り込んだ舟、
そしてミルナ達を巻き込まないために。
.
-
(´・ω・`;;) (何度も試したが…間違いない。
アサウルスの咆哮は接触着弾型。
…そして僕が気を引いてるうちは、舟もあのまま通り抜けられるはず)
互いの間に障害物があればそこを基点として爆発が起こる ーー
今もまたショボンが腕を振るうと同時に、
咆哮と爆炎が襲い来るアサウルスの攻撃。
爆風で後ろに吹き飛ばされても肌が焼ける程度で済んだ。
何度も熱でめくれ上がった皮膚…ショボンの腕は中の肉が見えそうだ。
筋肉が動くたびに軋み、痛む。
とはいえ常人なら一歩間違えば即死。
運良く生き延びても、こう分析出来るほど冷静ではいられないだろう。
(∵ ) 〜
(´・ω・`;;#) 「ふんっ!」
ショボンは残る鉄の武器を使わず、
先ほど手に入れた事務用品を投擲し始める。
そのたびに視界を埋め尽くす
咆哮、爆発、核熱、雲煙 ーー
-
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三
三三三三 彡
三三 彡 (( :(∵ ): ビリビリ
三 :(つω<`;;):
三三 ビリビリ 彡
三三三三三
三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
今度も直撃はしていない。
ショボンがチャフの様に投げ付けた備品を
アサウルスがその有り余る魔導力で破壊した。
熱源に近くなるほどショボンの身が焦げていく。
ビコーズは風に揺れることはあっても
熱や煙に干渉を受けないのか、無傷で漂い寄り添う。
何かを語っているようにも見える…
だが、その声を今のショボンが聴く事はできない。
(;´-ω-`;; ) 「ふぅ… ふぅ…」
(;´・ω・`;; ) 「……はーあ、子供っぽい」
-
その言葉は自分自身の滑稽な姿か、
……それともアサウルスへと向けられているのだろうか。
(´・ω・`;;) (アサウルス…あいつには
僕が何を投げつけているかなんて見えてないんだ。
最初の一撃が何度も来ているものだと奴は思い、反応してるだけじゃないか)
(´・ω・`;;) (…見た目の通り、まるで虫だ)
次の段階へと進む心の準備はできた。
煤にまみれた礼拝堂の瓦礫を踏み砕き、
残骸をまた法衣の袖にしまう。
背中には黒い槍…
腰にぶら下げた数本の鉄剣…
これが今のショボンの武器となる。
…浜辺から、今度は跳び上がらず純粋にアサウルスに向かって海の上を疾走。
ィ'ト―-イ、
以`θ益θ以 《……ゴァ、ゴァ》
海を走り立ち昇る水飛沫が線となり、
その軌跡をウェーブ上に描いていく。
.
-
( ゚д゚ ) 「なあ、でぃ。
この武器は使わないと思うか?」
その頃、ミルナはショボンを見付けた時の
ブルーシートを漁っていた。
塩水に浸からないよう、シートの中には
浮き袋と共に防水袋に包まれた大小様々な
パーツがしまい込んである。
中には古今東西の得物を模したような武器の数々。
剣ひとつ見ても同じ型のものはなく、
ーー この時のミルナには理解できない ーー
刀、手甲鉤、峨嵋刺などの東方武具も揃っている。
(#゚ -゚) 「えらい量を溜め込んでたな。
こんな所に置いといて後でも糞もないやろ」
( ゚д゚ ) 「そうだな、持っていこう」
女は "でぃ" といった。
ミルナは彼女の職業以外を知らなかったが、でぃはミルナをよく知っていたらしい。
曰く、
『ショボンに懐くウドの大木』
……でぃの周りではそんな声が挙がっていたのだとか。
体格に恵まれ、力もあり、仕事も黙々とこなす……しかし、ただそれだけのつまらない男。
-
アサウルスの視界に入らない為か、
少しだけ緩やかな時間が流れる気がした。
連続する爆発音も心なし遠く聴こえるように。
( ゚д゚ ) 「…お前、そんなもの扱えるのか?」
(#゚ -゚) 「適当や適当。
そもそもどれだって一緒やろ?
そんなら遠くに届きそうなこれにするわ」
でぃが手にしたのは柄の丈も刀身も尺の長い長刀。
ツヴァイヘンダーのようにはいかずとも、
似たような扱い方が出来る。
( ゚д゚ ) 「なら俺は……」
そう言ってミルナが取り上げたのは……
極めてオーソドックスな型をした長剣。
ショボンが投擲用に持ち忘れたといっても良いほどに何の変哲もない。
(#゚ -゚) 「…あんた、ほんまつまらんな〜」
ミルナは堅実な男だった。
無理をせず、自身がこなせる身の丈をよく知っている。
だからこそ島の女性から
"異性としてつまらない" 男と呼ばれていたのだろう。
堅実は時に雄の持ち味を殺す。
(#゚ -゚)つ‖ 「あんたはこれを持ちぃ。
なぁに、なかなか似合うと思うで?」
こんな非常時に、でぃはニヤリと笑った。
.
-
いざアサウルスに近付いてみると、遠巻きでは分からなかった事がある。
接近戦を挑み始めたショボンだったが ーー
(; ・ω・`;;) 「くそっ! うざったいなあ!」
思わず毒づいてしまう程に苦戦を強いられる。
腕と言わず身体全体を振り回して蟻を振り払おうとする。
最初はただの灰だった…
アサウルスから散り散りと分泌されるそれは、やがて無数の蟻となって身体にまとわりつき ーー
「がっ…」 ( ゚ω゚`;;) ーー 喰われる。
焦げた頬を。
爛れたその腕を。
焼けた法衣の奥にある胸を、背中を。
腐肉をついばむ死鳥のような遠慮のなさは
ショボンの考えていた戦略ごと毟っていく。
だがショボンにとって恐ろしいのは
"喰われる痛み" ではなく、
"喰われる痛みが無い" ことだった。
剥き出した肉が風に触れる痛み…
剥き出した骨が海に濡れる痛み…
激痛はそのせいだ。
"蟻の咀嚼そのものは痛くない" 。
だから気付くのが遅れた。
-
ィ'ト―-イ、
以`θ益θ以 《ガアア…》
ィ'ト―-イ、
以`θ□θ以 パカッ
アサウルスの動きも緩慢そのものだ。
咆哮が来るタイミングも判別しやすい。
(∵ ) ))
(;・ω・`;;) 「ーー ッ!」
…にも関わらず、もはや身体は言う事を利いてくれなかった。
・ω・`;;) 「しまっ ーー 」
何かが光った気がする。
ω ) 「
彼の耳が一切の音を遮断した。
「
爆炎の咆哮は ーー 聴こえない。
.
-
----------
(#;゚ -゚) 「どういうこっちゃ、これは」
(; ゚д゚ ) 「俺に聞くな」
思い思いの武器をその手に持ち
ショボンを追いかけたその時、異変は既に起きていた。
二人は肩を上下に揺らすほど、荒い呼吸を抑えられずにいる。
「グウ″ウ″ウ″ル」
「ミルナぁ……」 「でぃい……」
(; ゚д゚ ) 「…皆、やめろ!」
二人の目の前。
口から牙を覗かせ、黄色に輝く瞳…
姿型は島を出るときと同じでも、決定的に異なってしまっている人々の群れがあった。
今も続々と船から人々が降りてくる。
大人も、子供も、…赤ん坊までが自力で。
大陸から戻るにしては早すぎると思っていた…
そこには揃いも揃って振り子のように、
まったく同様に頭を揺らしこちらへと近付く島の仲間達の成れの果て。
(#;゚ -゚) 「近寄るなや!」
それが不気味に佇みながら迫ってきた時、
ミルナもでぃも…反射的に武器を振るってしまった。
二人の足下に血塗れで倒れる男女の姿。
…ミルナが昨日まで言い争っていた若い夫婦の末路。
-
(#;゚ -゚) 「ミルナ! おかしいでこれは」
でぃは長刀を両手に握り直す。
手が汗で滑る…
しかし、それは果たして汗だけのせいだろうか。
(; ゚д゚ ) 「なにが……どうなっているんだ」
見倣うようにミルナも武器を構えた。
長身のミルナを遥かに越えた尺の騎兵槍。
それを…黒蟻と化したかつての同郷者へ。
ショボンが用意していた中でも群を抜いて
目立つそれは、
皮肉にもいまやミルナが持つべきものといわんばかりに馴染んでいる。
「やめろ…だと?」
( ゚д゚ ) 「ーー !」
くぐもった声…辛うじて聞き取れた言葉は
醜くしゃがれていた。
-
「やめてくレえェえ〜ッ?」
這いつくばり、にじり寄る老人が信じられないような動きで飛び掛かってきた。
ーー まるで虫のように。
(; ゚д゚ ) 「うわああっ?!」
振り回した騎兵槍で老人を横殴りにする。
グニャリと柔らかな感触が伝わると同時に
老人が吹き飛ぶと、それきり動かなくなった。
老人の瞳にあった黄色の輝きは濁った黒色へと。
(; ゚д゚ ) 「ハア……ハア……」
振り抜いた体勢のまま、ミルナの動きは止まってしまう。
俺は何をしているのか…?
なぜ島の人間にこんなことを…?
(; ゚д゚ ) 「……」
思考力が失われていくのをぼんやり自覚する。
今の老人もそうだった…、
やはり昨日、自分と言い合った翁その人。
(; ゚д゚ ) 「それを……俺は…?」
(#;゚ -゚) 「ぼさっとするな! 脚!」
(; ゚д゚ ) 「?!」
-
いつのまにかミルナの脚はガリガリと齧られている。
それも…赤ん坊に。
「やめろぉ?」
「やメろ?」
「 ヤ め ロ ォ ? 」
一体どこから声を出しているのか?
だが確かに赤ん坊から放たれる、
呪詛のように繰り返される言葉は先のミルナの言葉だった。
(; ゚д゚ ) 「なっ?!」
痛みがないせいで気付くのが遅かった。
パニックになり脚をいくら振り回しても、
赤ん坊を振りほどくことができない。
((; ゚д゚ )) 「くそぅ、離れろ! やめろ!」
地団駄を踏んでも、手で押し退けても、
赤ん坊の牙はミルナの皮膚を喰い破っていく。
(#;゚ -゚) 「なにしとるんや?! あんたが死ぬで!」
(; ゚д゚ ) 「だ、だが…!」
三 (#;゚ -゚) 「〜〜っ クソボケがぁ!」
でぃの振り下ろした長刀は上から下に真っ直ぐ砂浜に吸い込まれる。
「ぴギョあぁッ」
……赤ん坊の首と胴が別れ、ゴロリと転がった。
-
(#; -゚) 「……ぅ」
その傷口から
ド
ロ
リ と…。
赤黒い血液が砂に吸い込まれていった。
(#; -゚) 「……ぅぅ」
赤ん坊の小さな身体に見合わない量の出血。
でぃが助産院で勤めた理由は
新しい命を掬い上げる喜びを知りたかったからだった。
(#; - ) 「…ぐゥっ……」
今…それを自ら断ち切ってしまった。
動いていたのは蟻なのに、
死んで肉と化した赤ん坊は人間になった。
(#; л゚) 「 うぷっ…」
無我夢中のさなか、
脳内麻薬にもマヒさせる事のできない良識が。
(#; ц ) 「ーー うォエッ」
…でぃの口から胃液と共に喪われる。
-
(; ゚д゚ ) 「でぃ! しっかりしろ!」
ミルナの心中は罪悪にまみれる。
異状な事態…異状な現状に呑まれた自分と違い、でぃの気丈さに甘えていたのかもしれない。
(# ц )
でぃは跪き、そのまま頭を垂らして動かなくなった。
そのつもりが無くても、女であるでぃに
赤ん坊を斬らせてしまった事を悔いる。
自分の手を汚さず、彼女に被せてしまったのだ……。
:(; >д< ): 「すまん… すまない……!」
心から贖罪する。
今すぐにでも心臓を掻き毟りたくなる程の衝動にかられる。
なんの解決にもなりはしないのに。
しかし彼を取り巻く状況はそれすら許されない。
これを機と見たのか、他の人々も襲い掛かってくる。
四本足で、間接を曲げ、蟻のように…。
「ミИ,ナぁー〜」
-
(; ゚д゚ ) 「うわあああー!!」
ミルナは騎兵槍を振り回した。
「あ あ あ あ っ !」 ( д ;#)
ただ闇雲に振った。
何も考えられなくなるくらい
心に恐怖が "感染" していく事に、
彼が気付くことはない。
.
-
(推奨BGM)
http://www.youtube.com/watch?v=ye71DzVgw_k&sns=em
ーー その時。
-
コツン、と。
ミルナの頭に固いものが当たる。
襲われたものだと思い、腰を抜かしながら
慌てて頭上を見上げた先……
(( (∵) )) フワフワ
それはショボンと共に行動していたはずの
ビコーズ。
(; ゚д゚ ) 「……あ」
もちろんそれをミルナは知る由もないが、
あまりに危機感なく滑るような動きに目を奪われた。
ビコーズの声はミルナにも聴こえない。
だがその動きはまるで、
(∵ ) ーー もう大丈夫 ーー
「大丈夫?」
……そう言っている気がした。
( ゚д゚ )
ーー そしてハッとする。
自分自身はまだ、何も失っていない事に。
-
この身体はまだ無事なのだ。
ショボンに守られ、でぃに護られていた。
ーー だから聴こえた気がしたのではない、
現実に声が聴こえたのだ。
気付けば周囲の蟻の動きも止まっていた。
皆、一方向に顔を向けている。
( ゚д゚ ) 「……ぁ…」
少しだけ冷静さを取り戻したミルナも
同じく顔を向けてそちらを見やった。
ブラウンの巻き髪、うすい唇。
ミルナとは真逆にその場にいる全員にわざと聞かせるかのような透き通る声。
ξ゚⊿゚)ξ「困っているなら力になるわ」
( ゚д゚ ;) 「…あんた…は…?」
.
-
(´・ω・`) パチッ
ショボンが目を覚ました。
慌てて身体を起こすとそこは海…ではあるものの、海面ではなく舟の上。
(・ω・`;) 「いてて…… ーー ?」
爛れた皮膚に触れる潮風が痛覚を現実に引き戻す。
記憶を手繰る。
ーー 爆炎が直撃するあの瞬間、
何かに護られるような感覚に陥ったことを朧気に思い出した。
-
ここでツンさんきたか
-
(´・ω・`;) 「……そうか、僕は…」
途中まではショボンが長年蓄えてきた知識と予定調和の範疇で戦いは進んでいた。
しかし、予想を超える計算ミスが続けて
起きたせいで危うくアサウルスに殺されるところだったのだと…
素直に自覚する。
「大丈夫かお?」
そしていま自分の向かいに立つ者。
彼のお陰でショボンは行動不能にならずに済んだ。
低いとも高いともとれないような…
しかし喉元から力強く発される青年の声。
(´・ω・`) 「ありがとう、助かったよ」
心から礼を述べる。
目の前の彼のような存在が現れることは
シャキンのオラクルによって既に伝わっていた……
とはいえ、不安要素の一つだったのは間違いない。
-
ショボンの本当の役目。
…それは己のできうる限り、
アサウルスの戦闘情報を集めておくこと。
(´・ω・`) 「こんな状況だけど…
歓迎するよ、僕以外の不死者さん」
(^ω^;)「…どうやらとんでもないことになってるみたいだおね…」
かつて、ビコーズの
一度目の神託を目の当たりにした者。
------------------------------------------------------------
( ∵) 『不死 ーー ザザザ ーー は
ーーザザーー を操り、
これを迎撃できる可能性を
秘める』
------------------------------------------------------------
ビコーズの神託に
当てはまる、もう一人の不死者。
-
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
(´・ω・`) 「急ぎ現時点までに集まった情報を伝える。
頼む、一緒に戦えるならこれほど
ありがたいことはない」
( ^ω^)「もちろんだお!」
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
「なんでこんな所に…」( ゚д゚ ;)
ξ゚⊿゚)ξ「呼ばれたのよ、アレにね」
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
〜 ( ∵) フヨフヨ
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
ィ'ト―-イ、
以`θ益θ以 《ガガガ…》
((@))((@)) ドクンドクン
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
-
((@))((@))
ドクン…
.
-
( ( @ ) ) < 人 人 > ( ( @ ) )
ドクン…
.
-
( ( ◎ ) ) ⊆从 -∀从⊇ ( ( ◎ ) )
ド ク ン ・・・
(続)
-
------------
〜now roading〜
( ^ω^)
HP / A
strength / B
vitality / A
agility / A
MP / H
magic power / E
magic speed / C
magic registence / F
ξ゚⊿゚)ξ
HP / G
strength / A
vitality / C
agility / D
MP / B
magic power / C
magic speed / C
magic registence / H
------------
-
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
ディスクを入れ換えてください。
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-
おつ でぃ…
-
※千年の夢 年表※
------------------------------
-900年 ***********
→信仰の概念がうまれる
( ∵)は偶像生命体として同時に生誕。
-400年 ***********
→結婚(結魂)制度のはじまり
-350年 ***********
【ふたごじま】→魔導力の蔓延
-312年 ***********
【銷魂流虫アサウルス】→前半 ☆ was added!
→ "隕鉄" が世界に初めて存在する
-220年 ***********
【銷魂流虫アサウルス】→後半 ☆was added!
-210年 ***********
→大陸内戦争勃発。
【帰ってきてね】→前半
-200年 ***********
【帰ってきてね】→後半
【死して屍拾うもの】
→ "赤い森の惨劇"
-195年 ***********
→大陸内戦争終了。
【はじめてのデザート】
-190年 ***********
【その価値を決めるのは貴方】
-180年 ***********
【老女の願い】→復興活動スタート
-150年 ***********
【老女の願い】→荒れ地に集落が出来る
→川 ゚ -゚) が二代目( ´∀`)に指輪依頼
-140年 ***********
【老女の願い】→老女は間もなく死亡
→指輪の暴走。 大陸の端の湖に封印。
-130年 ***********
【人形達のパレード】
【此処路にある】
→二代目( ´∀`)死亡時期
-
以上で水曜と併せての投下は終わりです
>>889さんご支援ありがとうございました
現在までのお話
( ^ω^):矛盾の命 >>1
( ´∀`):繋がれた自由 >>17
( ´∀`):遺していたもの >>48
( ^ω^):老女の願い >>101
ミ,,゚Д゚彡 :帰ってきてね >>139
( ^ω^):ふたごじま >>237
('A`) :死して屍拾うもの >>297
( ^ω^):初めてのデザート >>377
ミ,,゚Д゚彡 :時の放浪者 >>423
( ^ω^):その価値を決めるのはあなた >>549
( <●><●>) :人形達のパレード >>611
_
( ゚∀゚) :此処路にある >>733
(´・ω・`) :銷魂流虫アサウルス >>808
-
乙乙
-
良かったら>>930でのせた
http://www.youtube.com/watch?v=ye71DzVgw_k&sns=em
も是非聴いてください
ロストオデッセイをプレイした多くの人が
「これがFFで良かったんじゃ?」という感想を抱くのはこの辺りも大いにあるのではないかと
もちろん作曲家は植松伸夫さんです
-
乙!
ミルナでぃにツンさんブーン 一体何が起きてるんだ…?
交錯するなあ…面白い
-
おつ
やだもうおもしろいけど辛い・・・ショボン辛い・・・
ブーンさんこれに立ち向かえるのかよすげぇな
案外でぃ長生きなんだな
-
エヴァ見終わってからきたらめっちゃ燃える展開になってたww乙
なんかハインが出てきてるのも気になるw
-
今回AAが凝ってますね
-
エヴァより楽しみにしてたぜ
-
乙
ディスクを交換してくださいが一番気になる
-
>>908の誤字訂正
--↓---↓---↓--
(#゚ -゚) 「なんや全員乗れたやんか」
アサウルスが鎮座する目の前の浜辺で
島の住人達は各々舟に乗り込み終わるところだった。
( ゚д゚ ) 「…お前は乗らないのか?」
……その中に、女とミルナの姿はない。
二人は礼拝堂への長階段に腰掛けていた。
(#゚ -゚) 「皆で荷物を減らしてやっとやからな。
あたしまで乗らん方がええやろ」
( ゚д゚ ) 「そう変わらんと思うがな」
通常よりも深く沈む舟は重くゆっくりと…
怯えるように陸を離れて旅立っていく。
アサウルスがどこを見ているのか定かではないが、今も空では爆炎が轟いている。
きっとショボンが何かしているのだ。
::《ゴ ア ア ア ア ッ ッ ッ ! ! !》::
咆哮と共にビリビリと震える空気に
鳥肌をたてるのは何度目だろう。
昨日まで何事もなく過ごしていた日常は
もう跡形もない。
そこかしこで現実離れした炎が破裂するうちに、どこかの神経が切れてしまったのだろうか。
-
読レスありがとうございます
>>949
(#゚ -゚) はこの時20歳頃、
【帰ってきてね】後半には40歳を越えていますが
ロスオデには白髪だらけになっても背筋を伸ばして銃で戦うじいちゃんが居たりするのでまだまだ現役です
( ゚д゚ ) がこの時少し上の25歳頃、没年は37歳頃でした
>>953
次のスレに続くのでゲームに見立てただけでした
物語には影響ありません
-
ストーリーが長いのに面白いなぁ
構成がしっかりしてるんだろうね
乙!!
-
でぃがツンのこと知らなかったのはこのとき気絶してたからか
時系列しっかりしてるから何回も読み返してしまう、ほんと凄いわ
それとようやくブーンのステータスが出てきたわけだけど
くっそ硬い上に回復魔法使ってくる達人級の不死者とか絶対戦いたくないな
-
>>957
アストロンとベホマ使える死なないハッサンということか
-
土日で一気に読んでしまったwじわじわくる面白さに乙です
というか帰ってきてねをもう一度読んだら泣きそうになった
>>958
強すぎww
-
これまでたくさんのレスを本当にありがとうございました
スレ埋めがてら、なにか書こうかと思います
ひとまずBGM紹介から…重複失礼します
★parting forever(永遠の別れ)
使用レス
【矛盾の命】>>1
【はじめてのデザート】>>386
【此処路にある】>>738
http://www.youtube.com/watch?v=0PxuRHGbg7A&sns=em
★Fire Above the Battle(バトルテーマ)
使用レス
【繋がれた自由】>>29
【死して屍拾うもの】>>302
http://www.youtube.com/watch?v=DMpov_WHtWg&sns=em
-
★An Enemy Appears! (バックヤード)
使用レス
【時の放浪者】>>478
http://www.youtube.com/watch?v=aTBqAkHL9aE&sns=em
★The Wanderer of Darkness(呪術師の遺跡)
使用レス
【人形達のパレード】>>697
http://www.youtube.com/watch?v=t1bzIOvNVO4&sns=em
★Tosca Village(村落)
使用レス
【此処路にある】>>759
http://www.youtube.com/watch?v=Tgy1wt3ZBbo&sns=em
-
★各キャラのステータスについて
現時点の能力そのものではなく、資質をランク化してあります
例えば同じCランクでもレベルが違えば強さは異なる…という感じです
>>446の (*゚∀゚) でいえば
MP / A
magic speed / A
であっても、遥かにランク下の
ミ,,゚Д゚彡 や ( ^ω^)には
戦闘経験やレベルの関係で到底叶いません
>>338 の ('A`) についても
Agility、 Vitality、共にAですが
(手が早く)、(死を恐れない)、
というニュアンスでランク化されてたりするので、本来の意味合いより緩いステータス値だと思って頂いて構いません
それでも( ^ω^)がくっそ硬いのは間違いないです
-
★now roading の意味
Loadingと引っ掛けてあるので誤字のつもりではありません
とは言っても、
彼らの人生の道の途中…
くらいに受け取って貰えれば幸いです
例えば>>759のジョルジュのように
ステータスが変化することもあります
-
★まとめサイト様について(以下敬称略)
ブンツンドー
http://buntsundo.web.fc2.com/long/sennen_yume/top.html
グレーゾーン
http://boonzone.web.fc2.com/dream_of_1000_years.htm
お世話になっています
お忙しい中ありがとうございました
-
★( ^ω^)千年の夢のようです
について
Xbox360専用ソフトRPG
【ロストオデッセイ】及び
ゲーム内に散りばめられたサウンドノベル『千年の夢、千年の記憶』を原作とした作品です
作品は設定を下地にしたタイプなので
本編のキャラクターやストーリーは一切出てきませんが、
土地やアイテム等の名称はゲーム内から多分に拝借しています
サウンドノベルは作家の重松清さんが執筆。 これを一冊の本にまとめた
《永遠を旅する者 千年の夢》も発刊されています
記憶を失った主人公が旅先で出逢う人々の物語…これは本当に名作です
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……全然埋まりませんでした
次のお話は新スレを立てるので、
頃合いを見てこちらは過去ログ送りとなります
-
ここまで練られてるブーン系って珍しいよね
乙
これからも楽しみにしてるぜ
-
新スレ楽しみにしてるよー
-
まだ追いついてないが楽しませてもらってますよ
原作は知らないがそれでも引き込まれる作品
新スレも期待してます
-
支援絵はまだか!?
1000までいかねえぞ!
-
無茶言うなww
千年は絵のイメージないなー
ひと部分でなく全体の面白さだし
-
よーしスレ完走のお祝いにささやかながら俺が書くぜ支援絵をな!
3つくらいならなんとか明日中にいけると思うから好きなキャラを選んで
>>1もこれ見てるなら選んでくれ
ただしアナログなので色とか他の人みたいなクオリティーは期待しないでw今日内にレスなければ勝手に書かせてもらおう
-
つん
-
でけた
擬人化?というのか俺の勝手なイメージ
はじめてアップしたから見れなかったらすまん
http://imepic.jp/20140914/831380
>>973
おけ
-
良い乳だ
-
ξ゚⊿゚)ξと( ^ω^)
http://imepic.jp/20140915/091460
>>975
そうきたか……
-
ドクで
-
良い乳だ...
-
ドクでけた
http://imepic.jp/20140915/589660
支援絵って難しいな>>1ごめん
でもいつも楽しみにしてるから
>>978
これでもういい乳とは言えまい
-
良い腕だ...
-
意地ワロタww
絵おつ。よく思い付くな
-
おおお、絵が…ありがとうございます
しかと保存させて頂きます
まさか自分が絵を描いて戴けるとは思ってもみませんでした
もう少し早く来れば良かったですね
それに皆さんに期待していると仰って貰えるとすごく嬉しいです
本当にありがとうございます
次回は9月24日(水)の夕方から投下予定です
よろしくお願いします
-
次は新スレかな?
-
いい乳だ
-
スレ完走おめ!
次スレも楽しみにしてる
http://imepic.jp/20140918/034880
-
>>985 この絵、小説のイメージと近いしすげー好み
-
>>985
うまいなあ!俺も好きだこういうの
千年は白黒絵がよく馴染むね
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まってくれヒートだけ許せない
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ヒートは犠牲になったのだ……遠近法の犠牲にな
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>>985
おおお凄い、誰が誰か一目でわかります
本当にありがとうございます
小躍りって本当にするものなんですね
>>983
投下日に新スレを立てて、そちらに正式移行します
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正座してまってるよー
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好きって言ってもらえて嬉しい。
首を長くして新スレ待ってるよ!
>>988
ヒートごめんね!
http://i.imgur.com/oygsI1w.jpg
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>>992
ノパ⊿゚)キターーーー(゚∀゚)ーーーー!
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>>992
サムネだけみてフィギュアかとおもたw
デッサンかなにか習ってるのかと思うほど硬派で素晴らしい
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>>992
これは燃えますね!手甲鉤とか自分が思ってたフォルムそのままw
次スレも頑張ります
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新スレを立てたので明日の投下が終わる頃までには
埋め&過去ログ依頼提出させていただきます
新スレ
( ^ω^)千年の夢のようです
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/13029/1411483057/
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乙ですょぅ
あと3人来るんだ!
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次も頑張って
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乙!
梅
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1000ならみんな幸せ
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