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( ^ω^)赤い石が紡ぐ物語のようです 2

1 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/16(水) 22:13:14 cxcfyHyU0

※あるホラーゲームを基に脚色しています。

※かつてvipに同名で投下した作者と同一人物ですが
 内容は全くの別物です。
 前に投下したものは、いまは忘れてください。

※地の文多め、目薬推奨。
 部屋を明るくしてお読みください。    ウフフフッ…>


前スレ:

( ^ω^)赤い石が紡ぐ物語のようです
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/13029/1379847621/


2 : あらすじ ◆noe7UUkd3A :2013/10/16(水) 22:14:02 cxcfyHyU0

1937年、戦後の大都市VIP。

その日、ブーン=スギウラのもとに届けられた封筒は
あまりにも奇妙なものだった。

差出人として、父の名が記された封筒の中には
見覚えの無い小さな鍵が、一つ入っていただけ。

手紙の類は一切無く、それが何を意味するものなのか
彼には全く思い当たるところがなかった。

思い悩んでいた彼は、電話の鳴る音ではっと我に返った。
電話の向こうの声は警察と名乗り、父の家が火事に遭ったことを告げた。

驚いた彼は、慌てて身支度をすると、自らの故郷へと向かった。

その旅立ちが、後の奇妙な体験の始まりであることに
そのときの彼は、気付くはずもなかった…。


3 : あらすじ2 ◆noe7UUkd3A :2013/10/16(水) 22:14:44 cxcfyHyU0

主人公 ―ブーン=スギウラ ( ^ω^)

現実世界 1912年生まれ 21歳 男

戦後の大都市VIPに住んでいる。
母は既に亡くなっているが、父は健在。
平凡な一般市民だが、父から送られた手紙をきっかけに
スカルチノフ家と財閥の豪華客船「ニュー速VIP号」
父の過去に纏わる事件に巻き込まれることとなった。


〜ブーンの目的〜

・行方不明となった父と、父に関する手がかりを探すこと
 父と共に、過去の世界から元の世界へ戻ること

・父に纏わる『赤い石』『青い石』の謎を解き
 豪華客船「ニュー速VIP号」を彷徨う亡霊たちを救うこと


〜時間の流れ〜

・現実世界=ブーンのいた世界、1937年11月15日以降を指す

・過去世界=1937年11月15日「以前」の全ての年月日

・物語の仕様上、過去と過去を行き来する。
 現実世界へ戻ることは無く、未来に飛ぶことも無い。

・過去の世界でも、現実世界と同様、日時と天候に変化が生じる。
 しかし、過去に起きた事柄以後のものなので
 一切、現実世界への干渉は無い(※)
 
 ※例外としてブーン=スギウラが過去の世界で死んだ場合
  彼の死は現実世界に反映される。


4 : 冒頭主要登場人物 ◆noe7UUkd3A :2013/10/16(水) 22:16:44 cxcfyHyU0

―ロマネスク=スギウラ ( ^ω^)

過去世界 1879年生まれ 20歳 男

・過去で見た僕の父。

・若い頃は正義感の強い
 温厚な青年だったようだ。

・青い石を託した父はいったい
 何処に行ってしまったのだろうか…?


―アラマキ=スカルチノフ /,' 3

過去世界 1831年生まれ 68歳 男

・近寄り難い雰囲気の不気味な老人。
 孫娘を盾に、父を脅迫した。

・本の記述によると、父にとっては
 両親を殺した仇のようだ。

・ニュー速VIP号と共に行方不明のまま。
 赤い石は彼の手にあるようだが…?


―ツン=スカルチノフ *(‘‘)*

過去世界 1894年生まれ 5歳 女

・アラマキ=スカルチノフの孫娘。
 本を両手に抱えている。

・祖父であるはずのアラマキをひどく恐れ
 重傷を負った父の身を案じていた。

・父から青い石を託された彼女は
 ニュー速VIP号の航海から数ヶ月前
 行方不明となったらしい…。
 どこかで、無事でいるといいのだが…。


5 : 第一部登場人物 ◆noe7UUkd3A :2013/10/16(水) 22:17:42 cxcfyHyU0

―フサギコ ミ,,゚Д゚彡

過去世界 1868年生まれ 享年45歳 男 

・船長として、最期まで船の行く末を案じていた。
 年長者らしく誰よりも先に、己の死を受け入れていた。

・僕と言う生者の存在に気付いた彼は
 「外に出てはならない」と
 生者を憎む亡霊の手から、匿ってくれた。

・ニュー速VIP号の全てを僕に託して
 彼は消えていった…。


―ギコ (,,゚Д゚)

過去世界 1886年生まれ 享年27歳 男

・ニュー速VIP号の船員。
 恋人を残して帰れぬ船旅に出たことを
 後悔していた。

・恋人への一途な想いは、20年以上の月日を
 経て、尚も消えずに彷徨い続けていた。

・彼女の指輪を見た彼は、恋人を思いながら
 自分の死を受け入れ、静かに消えていった…。


6 : 第一部登場人物2 ◆noe7UUkd3A :2013/10/16(水) 22:18:23 cxcfyHyU0

―しぃ (*゚ー゚)

過去世界 ??年生まれ ??歳 女

・ギコの恋人。重い病を患っていた。

・二人にとって大切な婚約指輪を落としてしまい
 同じ場所で待っていたギコと会えずにいたのだ。
 
・婚約指輪を見つけたものの、ギコとは会えなかった。
 涙を拭い、指輪を僕に託した彼女は、最後の瞬間まで
 愛らしくも儚い微笑を浮かべていた…。


―プギャー ( ^Д^)

過去世界 1882年生まれ 享年31歳 男

・ニュー速VIP号の船員。
 明かりのつかない部屋で、ひどく怯えていた。

・出航直前、夜中の波止場で作業していた
 彼の荷物から、少女の亡霊が…

・乗客用連絡通路の鍵を閉めて、海図室で怯えていた彼は
 明かりが戻ってきたことに安心して、消えていった。
 その顔は、とても穏やかなものだった。


7 : 第一部登場人物3 ◆noe7UUkd3A :2013/10/16(水) 22:19:08 cxcfyHyU0

―フィレンクト (‘_L’) 

過去世界 1860年生まれ 53歳 男

・上等なスーツに身を包んだ、物腰穏やかな男。
 どうやら、スカルチノフ家の執事のようだ。

・今夜はパーティーだからと
 食堂に繋がる道を塞いでいた。
 それなりの格好をしないと、通してくれないようだ。

・僕が背を向けた後、彼はアラマキの名を呼んでいた。
 嘆いていた彼は、アラマキと何かあったのだろうか?

             _
―ジョルジュ=ナガオカ ( ゚∀゚) 

過去世界 1891年生まれ 享年22歳 男

・ゲスト用通路で足を投げ出していた酔っ払い。
 実はツンの母方の叔父で、ツンの母親の弟。

・画家であり、親友のダイオードに憧れていた。
 彼を真似てベレー帽を被っている。
 ちらりと覗く眉毛は、きりっとしていてかっこいい。

・親友を閉じ込めたことを、死んでも後悔していた。
 飲み慣れた酒の味がしないことから、己の死を悟り
 僕に三人の親友を託して、天に昇っていった…。


8 : 第一部登場人物4 ◆noe7UUkd3A :2013/10/16(水) 22:19:49 cxcfyHyU0

―でぃ(#゚;;-゚)

過去世界 1894年生まれ 享年19歳 女

・ツンのもう一人の叔父、オトジャ=スカルチノフの
 元妻から生まれた双子の姉。元妻の姓を名乗っている。

・双子の妹、つーさんの部屋に亡霊が出ることを深く悲しみ
 そのことが気にかかって、天に昇れずにいた。

・つーさんが天に昇った後、僕にツンのことを教えてくれた。
 快く教えてくれた彼女は、つーさんの後を追って
 微笑んで消えていった…。


―つー (*゚∀゚)

過去世界 1894年生まれ 享年19歳 女

・ツンのもう一人の叔父、オトジャ=スカルチノフの
 元妻から生まれた双子の妹。元妻の姓を名乗っている。

・自室のバスルームから、冷たい笑みを浮かべた女性の亡霊が…
 この船の人々を脅かす亡霊は、一体、何人いるというのか。

・でぃさんの部屋に置いてあったヒーターでドアを塞いで
 出なくなった亡霊に安堵しながら、ダイオードさんに会うよう
 僕に伝えて、つーさんは微笑んで消えていった…。


9 : 第一部登場人物5 ◆noe7UUkd3A :2013/10/16(水) 22:21:09 cxcfyHyU0

―ダイオード=スズキ / ゚、。 /

過去世界 1879年生まれ 享年34歳 男

・一流の腕を持つ画家のようだ。
 「二匹の蛇と斧を持った男」は、ジョルジュに作っていた
 カクテルのレシピだった。

・特別ゲストルームで、彼は「魔物が生まれる瞬間を見た」と言って
 ひどく取り乱してしまった為、三人の親友に
 図書室の隠し部屋に閉じ込められていた。

・錯乱状態は一時的なもので、冷静に己の死を受け止めた彼は
 ジョルジュと酒が飲みたいと、涙を零して消えていった…
 

―デレ=スカルチノフ ζ(゚ー゚*ζ

過去世界 1900年生まれ 13歳 男

・ツン=スカルチノフの弟。
 どことなく、幼い頃の、彼女の面影がある…。

・ゲスト用通路に、突如現れた彼は僕に
 少女の亡霊を救うよう言い残して消えてしまった。

・彼もまた、半透明の影だった…この船に、ツンはいないが
 弟である彼は、ツンの居場所を知っているのだろうか?


10 : 第一部登場人物6 ◆noe7UUkd3A :2013/10/16(水) 22:21:51 cxcfyHyU0

―クックル=テルミ ( ゚∋゚)

過去世界 ??年生まれ ??歳 男

・スカルチノフ財閥が所有していた金鉱で
 行方不明になった娘を探していた。

・つるはしを必死に振り下ろす彼の目の前に現れたのは
 娘の痛々しい死体だった…。


―ツイン=テルミ ⌒*(・∀・)*⌒

過去世界 ??年生まれ 享年??歳 女


・何人もの船員を、乗客を脅かした亡霊。
 その正体は、かつてアラマキ=スカルチノフに殺された
 不幸な少女の、悲しい亡霊だった。

・人形を手に抱えた彼女は、人間だった頃の温もりを思い出して
 音も無く消えていった…。


11 : 第二部登場人物 ◆noe7UUkd3A :2013/10/16(水) 22:23:02 cxcfyHyU0

―モララー=ジエン ( ・∀・)

過去世界 1853年生まれ 享年60歳 男

・アラマキ=スカルチノフの主治医を務める、優秀な医師。
 彼が乗船したのは、アラマキの要請があったからだと言う。

・乗船の一年前、アラマキに命じられて、ある薬を処方した。
 処方箋にはあろうことか、劇薬の使用許可と、使用記録の
 隠蔽を下の者に命じる記述、彼のサインが…。

・スクリーンに映し出された真実を見て、劇薬が原因でないと
 わかった彼は、安堵の笑みを浮かべ、天に昇っていった。
 彼の遺した鍵で開けた引き出しには、劇薬の中和剤が入っていた…。


―ビロード=ワカンナインデス ( ><)

過去世界 1894年生まれ 享年19歳 男

・シアターで映写技師を務めていた青年。
 電気をつけて欲しくて呼んだ僕に、貸し切りだと言って
 奥に戻ってしまった。

・人の良さそうな顔の通り、子供の相手をするのが好きなようだ。
 カウンターから中に入った僕を咎めず、子守唄のレコードを
 快く貸してくれた。

・子供が死んだことを悟った彼は、フィルムを差し出した僕に
 礼を言うと、最後に上映の準備をして、天に昇っていった。


12 : 第二部登場人物2 ◆noe7UUkd3A :2013/10/16(水) 22:23:44 cxcfyHyU0

―ちんぽっぽ (*‘ω‘ *)

過去世界 1906年生まれ 享年7歳 男

・ニュー速VIP号に雇われた歌手の子供らしい。
 ゲストの一人として来ていた。
 貸し切り上映を約束していた子供。

・好奇心旺盛な彼は、船内を回っているときに、総帥アラマキが
 長男アニジャを殺害する現場を、見てしまっていた…。

・大好きな母の歌を聞いて、再会した母と抱き合ったぽっぽちゃんは
 母の温もりで安心したように、天に昇っていった。
 彼が残したフィルムには、殺害の瞬間が鮮明に映し出されていた…。

―カーチャン J( 'ー`)し 

過去世界 1881年生まれ 享年32歳 女

・ニュー速VIP号に雇われていた歌手で、ちんぽっぽちゃんの母親。
 子供部屋で、いなくなったちんぽっぽちゃんを探していた。

・子供思いで、子守唄をよく聞かせていたようだ。
 映写室には、彼女のレコードがあった。

・レコードを蓄音機にかけると、彼女は透き通るような声で歌い始めた。
 聞きつけて、駆け寄ってきたちんぽっぽちゃんを抱きしめた彼女は
 天まで届くように歌いながら、幸せそうに消えていった…。


13 : 第二部登場人物2 ◆noe7UUkd3A :2013/10/16(水) 22:24:29 cxcfyHyU0

―フィレンクト (‘_L’) 

過去世界 1860年生まれ 享年53歳 男

・上等なスーツに身を包んだ、物腰穏やかな男。
 どうやら、スカルチノフ家の執事のようだ。

・大食堂への道を塞いでいたが、僕が着た夜会服を見て
 満足そうに頷き、僕を大食堂へ案内した。

・案内し終わった後、務めを果たしたと言うように天に昇った。
 彼は最後まで、スカルチノフ家に対して何も語らなかった…。


―アニジャ=スカルチノフ ( ´_ゝ`)

過去世界 1860年生まれ 53歳 男

・スカルチノフ家の長男。実父アラマキの功績を
 認めてはいたが、強引なやり方に批判的だった。

・『赤い石』とスカルチノフ家の系譜を教えてくれた。
 そんな彼も『赤い石』の犠牲者だが、それにしては冷静だ…。

・アラマキの居場所を教えてくれた彼は、スカルチノフ家の
 部屋に繋がるプレートを託し、探してくるように僕に頼んだ。


―ミセリ=スカルチノフ ミセ*゚ー゚)リ

過去世界 1863年生まれ 50歳 女

・アニジャ=スカルチノフの妻。アニジャさんに同じく
 アラマキのやり方には、疑問を感じていたらしい。

・船を救うと言った僕を、止めてくれた彼女も
 アニジャさんの言うことを信じて、僕を後押ししてくれた。

・先の階段室に、女性の悪霊がいることを教えてくれた。
 「設計ミス」と彼女は言っていたが、こんな事態が起きるなんて
 一流の技術士にも想定出来なかっただろう…。


14 : 第二部登場人物4 ◆noe7UUkd3A :2013/10/16(水) 22:25:19 cxcfyHyU0

―モナー国王 ( ´∀`) 

過去世界 ??年生まれ 享年??歳 男

・15世紀の、湖上にある城の国王。長い白髭を垂らしている。

・雷雨の中、デミタス=スカルチノフに胸を貫かれ
 多量の血を流して死亡した…。

・『赤い石』を持っていたようで、最期に「運命」という言葉を
 意味ありげに呟いたが…?
 デミタスの正体を知った彼は、何故か驚いていた。


―衛兵/オワタ&ブーム \(^o^)/ | ^o^ |

過去世界 ??年生まれ ??歳 男

・湖上にある城の兵士。長い槍を持って、鎧を着込んでいる。
 僕の声を聞き咎めてきたが、上手くかわすことが出来た。

・デミタスは「外にいるのは俺の部下だ」と言っていた。
 彼らもまた、デミタスの部下だったのだろうか…?


―デミタス=スカルチノフ (´・_ゝ・`)

・スカルチノフ家の祖先にして、モナー国王を殺した反逆者。
 自分が持っていた剣で、モナー国王の胸を貫くと、彼の懐から
 『赤い石』を奪った…。

・アニジャさんによると、彼は『赤い石』と『青い石』
 二つの石を、何故か同時に所有していたらしい…。
 やはりこの二つの石は、対となる存在だったのだ。

・祖先の彼の経歴や『赤い石』『青い石』の成り立ちは
 スカルチノフ家の誰にもわからないという。
 彼が消したのだろうか、それとも…誰かに消されたのか?


15 : 第二部登場人物5 ◆noe7UUkd3A :2013/10/16(水) 22:26:08 cxcfyHyU0

―デレ=スカルチノフ ζ(゚ー゚*ζ

過去世界 1900年生まれ 13歳 男

・ツン=スカルチノフの弟。
 どことなく、幼い頃の、彼女の面影がある…。

・僕への助言後、彼はデッキテラスで、本を読んでいた。
 足元の「深海魚の目」をくれた後、赤い月が浮かぶ夜に
 プールの底へ嵌めるように言い残して、微笑んだ。

・「赤い月が浮かぶ真夜中に死んだ」と言っていたが
 それ以外には自分のことを、何も語らなかった。
 彼の姉、ツンは現在、どうしているのだろう…。


―ワタナベ=サン 从 'ー'从

過去世界 1892年生まれ 享年21歳 女

・スカルチノフ家のメイド。のほほんとした喋り方が特徴的。
 少々おっちょこちょいだが、頼まれたことはきちんとこなす。
 警戒を解くために渡したパラソルを、素直に差してくれた。可愛い。

・同僚のクー=スナオさんが、突然いなくなった理由を
 彼女はどこかで知ってしまったようだ。
 その理由に、ひどく怯えていた…。

・歯車の取れたオウムが鳴かないのを見て「自分が壊した」と
 勘違いして、主人であるアラマキからの報復に怯えていたようだ。
 オウムが鳴いたのを見て、安心した彼女は、涙を零して天に昇った。


16 : 第二部登場人物6 ◆noe7UUkd3A :2013/10/16(水) 22:26:50 cxcfyHyU0

―アラマキ=スカルチノフ /,' 3

過去世界 1831年生まれ 79歳 男

・父の過去で会った『赤い石』の所有者。
 黒いハットに黒いスーツ…全身黒ずくめにした10年後の彼は
 前にも増して『赤い石』の力を求めていた。

・『赤い石』のナイフで幼い少女を殺害し、若いメイドの命をも
 冷酷に刈り取ったこの老人は既に、魔に魅せられているようだ。
 地下で見かけた見知らぬ僕をも、狙ってきた…。

・スカルチノフ家の部屋の、最深部にいるらしい。
 彼は今もなお『赤い石』を手に、人々の命を奪おうと
 来訪者を待ち続けているのだろうか?


―オサム=カンオケ 【+  】ゞ゚)

過去世界 ??年生まれ ??歳 男

・共同墓地の墓守。老人のようだが、年齢は不明。
 見張りの時間が来るまで、小屋で待機していた。

・情報を得ようと思った僕に、怪しい笑みを浮かべて
 「何も起こらないうちに帰ったほうがいい」と言ってきた…。

・アラマキ=スカルチノフと、手を組んでいたようだ。
 地下で出入り口を塞ぎ、僕を挟み撃ちにしようと待ち構えていた。


―クー=スナオ 川 ゚ -゚)

過去世界 ??年生まれ ??歳 女

・ゲストルームDの、つーさんの部屋から出てきた悪霊。
 バスルームを塞いで出られなくしたが、シアターで待ち構えていた。

・スカルチノフ家のメイドで、ワタナベさんの同僚だったようだ。
 彼女もまた『赤い石』の犠牲となり、共同墓地の地下で
 誰にも看取られない、孤独な最期を迎えていた…。 

・恋人だろうか、男性と撮った写真を、ペンダントの中央部に嵌めていた。
 血を流して倒れていた彼女の傍らに、そのペンダントが転がっていた。
 差し出したペンダントを、大事そうに抱えて、安らいだように消えていった…。


17 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/16(水) 22:27:54 cxcfyHyU0

以上、投下分の登場人物ここまで。
こちらのスレには、>>1の前スレが1000到達後に投下されます


18 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/16(水) 22:45:06 cxcfyHyU0
1000到達、こちらに投下します


19 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/16(水) 22:46:15 cxcfyHyU0

…ずっと気になっているのだが、彼は一体、何を読んでいるのだろう?
ちらりと覗き込んだ、彼の読む本には、題が無い。
その本には、何が記されているかも、わからない。

だから、それを聞く代わりに、僕はこんな質問をした。

( ^ω^)「…デレは、本が好きなのかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「そう…静かなところで、読むのが好きなんだ。」

初めて、まともな会話を交わした気がする。
それは彼も、同じだったのかもしれない。
僅かばかり声が上ずっている。

…けれども彼は、僕が想像していた以上に、賢かった。

ζ(゚、゚*ζ「教えないよ…まだ、だめなんだ。」

(;^ω^)「おっ…?」

そう言って、デレは読んでいた本を閉じて、両手で後ろに隠してしまう。
話が乗ってきたら、教えてもらおうなんて思っていたのだが、思ったよりも
はやく、あっさりとばれてしまったようだ。

ただ…僕は、彼の意味ありげな言葉が気になった。

「まだ、だめなんだ」というのは、どういうことだろう?
彼が持つ本は…僕と何か、関係のあることなんだろうか?

ζ(゚−゚*ζ「雨が止んだよ…」

思考を遮るように、デレが僕に呼びかけた。

ζ(゚ー゚*ζ「ほら、月が出てきた。」

(;^ω^)そ「えっ…おぉっ!?」

雨が止み、月が出るにしては、いやに時間が早いのではないか…?
そんなことを思いながら、目をやった先には、確かに赤い月が浮かんでいる。

デレの言動は、出会った当初から気になってはいたが
機会を逃しては、また無駄な行動をすることになってしまう。

今はその疑問を無視することにして、僕は、プールに通じるドアへ駆け込んだ。


20 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/16(水) 22:47:07 cxcfyHyU0


ガチャ



バタン


21 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/16(水) 22:47:48 cxcfyHyU0


#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船尾甲板 プール


22 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/16(水) 22:48:30 cxcfyHyU0

( ^ω^)「…おおっ…」

見上げた僕の目には、確かに赤い月が浮かんでいた。
ここへ来たときと同様、室内は真っ赤に染まっている。

その中で、違うのは一つだけ。

(;^ω^)「見事に水が抜けてるお…」

多量に溜められていた水が、綺麗さっぱり抜けていた。
ポンプが無事に動いた、何よりの証拠だ。

デレの言っていた窪みは、覗き込めばすぐに見つかった。
階段になっている足場から、すぐのところだった。

降りていくと、確かに、目がぴったりと嵌りそうな穴だ。
というのも、まるで本当の目のように、その穴の周囲だけ
山を作って盛り上がっている…これで何も無いというのは不自然だ。

(;^ω^)つ◎「でもこんな目玉はめ込んで、どうするんだお…」

取り出した「深海魚の目」に向かって、ぼそりと呟くと
僕はそれを、窪みの中に嵌めた。


23 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/16(水) 22:49:12 cxcfyHyU0

…と、嵌めこんだ瞬間。


(;゚ω゚)そ「ふぉおっ!?」

目玉から、月に向かって赤い光が出てきた!
…否、正確に言えば、それは赤い月に向かっていて
月の光が目玉を照らしていたのだ。まるで、共鳴するかのように。

ζ( ー *ζ「教えてあげるよ…」

( ^ω^)そ

目玉の赤い光が、プールの天井を照らした瞬間。
いつの間にか入ってきたデレが、プールの縁に立ってそう言った。

(;^ω^)「教えてあげるって…」

ζ(゚ー゚*ζ「あの赤い石のこと…」

( ^ω^)「!!」

あのときと…少女を救うように言ったときと、同じ。
半透明のデレは、真っ直ぐな視線を、僕に向けて言った。


24 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/16(水) 22:49:55 cxcfyHyU0

『赤い石』…多くの人を不幸に陥れた石。
彼もまた、スカルチノフ家の血を引く者だが…
彼は、何を知っているのだろう?

ζ( 、 *ζ「僕は知ってる。あの本に書いてあったから…」

( ^ω^)「あの本って…君が持ってる本とは違うのかお?」

ζ(゚、゚*ζ「…」

彼は、僕の問いに、何も答えてはくれなかった。
けれど、彼の行動が、答えだと、僕は知った。

ζ(゚、゚*ζ「…赤い石のこと、知っているかもしれない。」

ζ(゚、゚*ζ「でも…自分の目で、確かめてみてよ。」

デレは、そう言って…両手に持つ本を、僕の前に差し出した。
閉じられている、題名の無い本。
それを手に取った僕は…


25 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/16(水) 22:50:37 cxcfyHyU0


――疑問と好奇心が、綯い交ぜになった心のまま、何処かへ飛ばされていった…。


26 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/16(水) 22:54:57 cxcfyHyU0

今日はここまで投下します。前スレ965〜の投下です。
前スレから引き続きお読みくださってる方、ありがとうございます。


27 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/16(水) 23:00:55 cxcfyHyU0
>>2やらかした…

ブーンの年齢は25歳です


28 : 名も無きAAのようです :2013/10/17(木) 00:54:14 WEy3XQ6I0
おつおつ
毎回続き楽しみにしてるよー


29 : 名も無きAAのようです :2013/10/17(木) 01:51:41 qCv9PlpsO
登場人物紹介で―デレ=スカルチノフ ζ(゚ー゚*ζが二回紹介されている 
まだ生きて(?)いるし大事なことなんだなと思った


30 : 名も無きAAのようです :2013/10/17(木) 07:31:44 JuoPR7Wo0
>>1
乙!
楽しみだぁ
>>29
良く名前欄みろ
第一部と第二部になってる


31 : 名も無きAAのようです :2013/10/17(木) 10:02:19 S5Mz.R1Q0
だいじだな


32 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/17(木) 12:42:15 RjVkUWJwO
読みにくくて申し訳ない

構成としては冒頭→一部→二部…というようにわかれてて、現在は二部の終盤
メモの内容は進行するにつれて変わっていく人もいるので、同じ人物でも
昇天(アメリカが舞台なので成仏じゃないらしい)したり、何か変化があれば載せてます
昇天した人は年齢の前に「享年」とついてるからだいたいわかるはず(一人だけ違う人がいます)
ζ(゚ー゚*ζの生死は文章中でブーンが触れてますが、物語の要所で出てくる
「案内人」のようなキャラだから、かなり重要な役です


33 : 29 :2013/10/17(木) 15:50:30 qCv9PlpsO
>>30 
よく見てみた一部と二部だった


34 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/20(日) 16:27:31 LsvIsysMO

諸事情により投下が大幅に遅れます
書き溜めは進んでます
メンタルが豆腐なんで、現在、傷心旅行してるだけです
すみません


35 : 名も無きAAのようです :2013/10/20(日) 18:21:47 9bn95xUg0
把握
待ってますわ


36 : 名も無きAAのようです :2013/10/20(日) 19:08:46 Enq6e0e20
待ってるぜ


37 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/22(火) 23:02:37 B8b3s1tQ0

ご心配おかけして申し訳ございません。
予告どおり、23:30に投下します。

( ^ω^)+「何事も無くツヤッツヤになって戻ってきました。」

あと、パンは焼けませんでした。半生で止まってます。


38 : 名も無きAAのようです :2013/10/22(火) 23:20:38 lbIUvBkU0
キター


39 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/22(火) 23:30:05 B8b3s1tQ0


 ・


 ・


 ・


 ・


 ・


40 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/22(火) 23:30:45 B8b3s1tQ0

晴天の、青い空の下。

大きな大きな、ある図書館。

広くて綺麗な館内に、美人?な受付のお姉さん。

読書が好きな人には欠かせない、公共の施設です。


けれども、いつものように、本を読む人は見当たりません。

残念ながら、図書館は暫くの間、お休みなのです。


…なぜかって?

古い本をみんなで、片付けなくてはいけないからです。


長い間、あまり読まれなかった本や、汚れてしまった本を

買い直したり、捨てるお仕事をする日なのです。


41 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/22(火) 23:31:27 B8b3s1tQ0

立ち入り禁止の看板に、お姉さんの監視つき。

今日も司書さん達は、せっせ、せっせとお片付け。


おやおや、誰か入ってきてしまいました。

片付けに必死で、その人には誰も気付きません。


しめしめ…それではみなさん、いきましょう。

しゃがんで、見つからないように、お気をつけて…。


42 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/22(火) 23:32:57 B8b3s1tQ0


#過去世界 1935年 10月6日 ―図書館・受付


43 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/22(火) 23:33:44 B8b3s1tQ0

…スカルチノフ家の中でも、末子のはずのデレに
意味ありげに呟かれては、過去にぽんぽんと飛ばされる僕。

子供のデレの指示を受けて、大人の僕が飛び回っているようでは
立場が逆転していて、なんだかちょっと、情けない。

何より、あの謎めいた言動…姉であるツンから
いったい、何を教えられてそうなったのだろう?

なんとなく浮かんだ疑問符に、複雑な気分になりながら
落ち着いた配色の、広く綺麗な室内を見渡した。

ここが何処なのか…確認する前。


「who are you ?」

(;^ω^)「…お?」

僕の耳に、女性の声が届いた。きつく、咎めるような口調だ。

遥か斜めに向けていた視線を正面に戻すと、なにやら白い縦長の看板と
その奥に、眼鏡をかけた、なんとも恐そうな受付のお姉さんがいる。

よく聞くと、カタカタと何かを打つ音も聞こえた。
タイプライターを打って、事務作業をしているのだろう。

ではここは、オフィスの受付か何かか?


44 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/22(火) 23:34:48 B8b3s1tQ0

僕が声をかける前、お姉さんの更にきつそうな声が、受付に響き渡った。

ハハ#ロ -ロ)ハ「Take a look at this board !」

…うん、言いたいことはわかるが。

(;^ω^)「あの、お願いですから和訳」


ハハ#ロ -ロ)ハ「こ の 看 板 を 見 な さ い ! ! 」


(;゚ω゚)ゝそ「Yes,sir !!」

…あまりの気迫に、思わずポーズまで取ってしまった。
こういう女性は、僕の好みではない…なんて思って見ていると
物凄く恐い目で睨まれてしまったので、仕方なく、僕は正面に視線を戻した。

僕の目の前にでかでかと、道を塞いでいる、縦長の看板。
真っ白な看板に貼り付けられた紙には、こう書かれている。

「蔵書整理のため、当分の間休館します」

( ^ω^)「蔵書整理…? 休館…?」

とすると、ここは博物館か何かだろうか?
否、博物館は保管してあるものを展示しているのだから
「清掃」ならともかく「整理」はしなくてもいいだろう。

保管はするが、整理もする。ならば、ここは…?


45 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/22(火) 23:36:10 B8b3s1tQ0

( ^ω^)そ「Oh, this place the library !」(あぁ、ここ図書館か!)

ハハ#ロ -ロ)ハ「Could you be quieter, please ?」(静かにして頂けます?)

(;´ω`)「Oh, sorry...」(おぅふ、すみませんお…)

読書好きが集まる、公共施設で唯一、静かな…
静かにしていなくてはいけない、少々お堅い場所。
何処のものかはわからないが、僕は、とある図書館に飛ばされたようだ。

( ^ω^)(お? 図書館ということは…)

目的の本…デレが読んでいた本は、この過去の図書館に
保管されていて、貸し出しが出来るということなのか?
でも、今日は「休館日」で、入ろうとすると、受付にいる
恐い、眼鏡をかけたお姉さんに追い返されてしまう。

(;^ω^)(でも、蔵書整理って…探さないと、まずくないかお?)

蔵書整理…積もりに積もった本を処分する作業だ。
流行が廃れたり、好まれなかったりして、あまり読まれない本。
汚れたり、古くて使い物にならない、ぼろぼろな本。

その中に『赤い石』に関する本が、含まれていたら…?
早めに探し、手に入れなくては、捨てられてしまうのではないか?

…なんとしてでも、それだけは阻止しなければならない。


46 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/22(火) 23:38:25 B8b3s1tQ0

(;^ω^)「あのぅ、すみませんお…」
   _,
ハハ ロ -ロ)ハ「あなた、まだいたの?
      何言ってもだめよ、休館日なんだから。
      早く帰りなさい。」

(;´ω`)「和訳になった瞬間、容赦なく責められたお…」

きついお姉さんは苦手である…。
呆気なく、追い返されてしまった僕は、受付のお姉さんに
気付かれないような隅っこで、なんとか中に入れないか、考えた。


       カタ、カタカタッ、カタカタッカタカタカタ…

ハハ ロ -ロ)ハ  


…館内には、タイプの音だけが聞こえている。
受付のお姉さんは、目の前の作業に、集中しているようだ。


(;^ω^)(見つかる可能性大だけど…
      もし見つかったら、僕はとんでもなく
      恥ずかしいことになるけど…)


…やるしかない。


47 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/22(火) 23:39:21 B8b3s1tQ0

一計を案じた僕は、看板の手前辺りで、しゃがんだ。
衣擦れの音も、なるべく立てないように、四つん這いになって進む。


       カタ、カタカタッ、カタカタッカタカタカタ…

ハハ ロ -ロ)ハ 

(;^ω^)(見つかりませんように…)

まるで敵地に潜入した、スパイのような気分だ。
看板を越え、お姉さんの隣にある鉢植えも越えた。
後は横長の受付を越えるだけ…

(;^ω^)(お姉さん…足元、丸見えですお…)

木製のカウンターは、何故か下がぽかんと開いている。
そう、ちょうどお姉さんの足が見えるくらいに。

…こんなときに注目してはいけないと、わかってはいる。
見つかってはおしまいだ、人として大事な何かを失ってしまう。

わかってはいるのだが、男性諸君なら誰でも見たくなるだろう。
男のロマン、誰もが一度は覗いてみたくなるものだ。

カウンターの下を這って進みながら、僕はちらちらと注目…


( ´ω`)(…世の中、そんなもんですお)


肝心な部分は、まるで見えない。
すらりと、細い足だけが伸びている。

…そんなものに注目したことを、後悔しながら、僕は先を目指した…。


48 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/22(火) 23:40:24 B8b3s1tQ0

       カタ、カタカタッ、カタカタッカタカタカタ…

ハハ ロ -ロ)ハ 

…仕事熱心な人だ、僕が潜り抜けていることにすら全く気付かず
タイプライターと睨めっこして、ひたすら打ち続けている。
危なっかしい…そんなことでは、強盗が入ってきても、抵抗できないではないか。
まあ、盗むものなど、本ぐらいしかないが…


( ^ω^)(…おっ!)

心の中で、危機管理がなっていないことに、愚痴を零していた僕は
先がちょうど、受付とは死角になっていることにほっとして
見つからないうちに、急いでそこへ這い進んでいった。


…フゥッ(;^ω^)=3


ここまでくれば、もう大丈夫だろう。
受付から見えない角まで到達したことを確認して
立ち上がると、書庫に繋がるドアを開けた。


49 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/22(火) 23:42:57 B8b3s1tQ0

そぉっと…

| ω^)

⊂(^ω^ )閉めて。


50 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/22(火) 23:44:08 B8b3s1tQ0

…書庫に入ってきた僕は、いきなり目の前に現れた本棚に驚いた。
木製の本棚はどの段も空っぽで、置かれていた形跡すら見当たらない。

(;^ω^)(こりゃまずいお…)

「蔵書整理のため、当分の間休館します」という言葉通り、全ての本を
見ていくつもりなのだろう…役所顔負けの徹底ぶりに、僕は若干、焦りを覚えた。

『赤い石』の話など、身内が関わっている僕だから、信じられるのであって
何も知らない他人にとっては、本の中の、空想と同じ世界だ。

本がここにあったとしても、誰がそんな話を、信じるというのか。
あまり読まれることも、注目されることも無いとなれば
塵として処分されてしまうのは、容易に想像がつく。

…なんとしてでも、処分される前に回収しなくては。

(;^ω^)(でも、何処にあるんだお…?)

処分される予定の本は、何処にあるだろうか?
辺りを見渡した僕は、それが何処に置かれているのか
考えずとも、すぐに見つけることが出来た。


51 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/22(火) 23:45:24 B8b3s1tQ0

書物と睨めっこをしつつ、職員と思われる若い男性が
目の前の白い箱に、本を置いていたからだ。

遠目に見たその箱の中には、いかにも古そうな本が沢山
ごちゃごちゃと乱雑に置かれていた。
この箱の中は、処分する予定の物だろう…。


(;^ω^)そ(あぁっ!!)

その箱の中に、僕は見つけた。

(;^ω^)(あれ、デレが持ってた本だお…!!)

本は、山積みになっている箱の、一番上に置かれていた。
彼が持っている物より多少、古びてはいるが、確かにその本は
デレがデッキテラスで読んでいた、表紙に題名の無い本だった。

なんとか職員を説得して、あの本一冊だけを貰えないだろうか…?
生きている人間が相手だから、穏便に事を済ませたい…
そんな僕の考えは、甘かった。


52 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/22(火) 23:46:04 B8b3s1tQ0
 _,
(-@∀@)「おい、そこの君。」

(;^ω^)「うっ…」

職員の、冷たく咎める声が、僕の耳に嫌でも聞こえてきた。
咎められるようなことをやっているから、仕方ないとはいえ
これではまるでお尋ね者だ。

仕方なく目線を合わせると、職員は露骨に迷惑そうに言ってきた。
 _,
(-@∀@)「どうして一般の人間がここにいるんだ?」

(;^ω^)「お、おふ…す、すみませんお…」
 _,
(-@∀@)「受付を通ってきたのか?
     今日は休館日のはずだぞ。」

(;´ω`)「すみません、すみませんお…」

まるで、最初に出会ったときのビロードのようだ…。
気弱だが優しい映写技師の、そんな言動を思い出しながら
僕はひたすら頭を下げた。


53 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/22(火) 23:46:48 B8b3s1tQ0

すると、彼はそんな僕の様子に、責めすぎたと思ったのか
少し口調を和らげて、

(-@∀@)「…まあいい。くれぐれも、邪魔をしないようにしてくれ。」

と、視線を外して、目の前の作業に戻っていった。

…意外と、優しいところもあるものだ。
出来ればその、目の前の箱からどいていただけると
とても、とてもありがたいのだが…。

…僕の願いも虚しく、いつまで経っても、職員が退く様子は無い。
じっとその中を眺めて、なにか思案しているようだった。

(;^ω^)(お願いだから捨てないでぇぇ…)

僕だって退けないが、だからと言って、心の中で叫んでも仕方ない。
あの様子では、古びた本一冊をくれと言っても無理だろう。

…ならば、強行突破しかない。


54 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/22(火) 23:48:07 B8b3s1tQ0

どうしたら本を回収できるか?
あまりやりたくない方法だったが、答えはとうに浮かんでいた。

職員の気を逸らし、箱の監視を無くしてから近付いて
箱の中から本を、ちょっと拝借すればいいだけだ。
顰蹙を買うことは百も承知だが、譲ってくれる様子も無いので
回収するためには、それしかないだろう。

( ^ω^)(まずは、この中を回ってみるかお…)

実行に移すため、僕は先ず、気を逸らせるようなものが
この部屋の中にあるかどうか、探ってみることにした。

…少し歩いて、部屋の奥に行ってみた。
部屋の一番奥には、図書室利用についての注意喚起の紙が貼られている、掲示板がある。

背中合わせになって、三つ並んでいる本棚の間には
同じような箱が、二つ置かれていた。
見れば、反対側にもまだ点々と、三つほど置かれているようだ。

(;^ω^)(これはひどい)

…こんな膨大な量の本を、一冊ずつ丁重に扱い
見ていかなければならないというのは、なかなか大変な仕事だ。
それだけ神経質にもなるのだろう…。

が、そう職員を気遣って行動していては
僕の目的の物は手に入らないのだ。

…別の本を手に取れば、いじるなと言って、職員が
箱の方まで、注意しに来るかもしれない。

反対側の、空の本棚の前にいた僕は、隣にある箱の本に何気なく触れた。


55 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/22(火) 23:49:13 B8b3s1tQ0

 _、_
( ,_ノ` )「ふっ…やるじゃねえか、お前さん」
 _、_
( ,_ノ` )「俺の、この鷹の目を、掻い潜ろうとするとはな…」

(;^ω^)

…声のしたほうを見ると、なんともダンディな職員が、本を持ちながら
二段の踏み台に座って、僕を横目に見ていた。

その座り方、向き合い方と言い、まるで映画の重要なワンシーンを
撮っている最中の、現場監督のようだった。
正直、その姿勢で言われても、あまり格好良くは響かない言葉だ。
しかし、彼は気付かないようで、にやりと笑って僕に声をかけてきた。
 _、_
( ,_ノ` )「しかし、お前さん…どうやって入ってきた?
     受付には、館内でも有名な灯台、ハロ嬢を
     厳しく躾けて置いたはずだが。」

(;^ω^)「おふ…えっと…(灯台って…?)」

された質問は、先ほどの若い男性職員と同じものだ。

…何気に受付のお姉さん、灯台とか言われてますが。


56 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/22(火) 23:51:04 B8b3s1tQ0

…答えに詰まってしまった僕に、ダンディなその人は、ちっちっと指を振る。
見ると、いつの間にかその手からは、本がなくなっていた。
 _、_
( ,_ノ` )「ふっ…無理に答えなくていい。
     風が、全て教えてくれるからな…」

( ^ω^)「あの、ここ…室内ですが…」
 _、_
( ,_ノ` )

( ^ω^)
 _、_
( ,_ノ` )+「ふ…どうだ、この俺の一声で
      冷たい風が吹いただろう」

(;^ω^)(そんな風を吹かされても、風邪ひきますから!)

見かけだけならダンディなのだが、言うことはどうも
人として何かが、ずれているような気がする。
こちらとしては返答に困るので、やめてほしいのだが…。

(;^ω^)そ(はっ…も、目的を忘れるところだったお…)

僕はここに、そんな漫才をしにきたわけではない。

ともかくこれで、職員が二人いるとわかった。
その目を逸らして、本を抜かなければならないのだ。
非常に、非常に危うい事態なのである。


57 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/22(火) 23:51:51 B8b3s1tQ0

 _、_
( ,_ノ` )+
  _,
(#-@∀@)「ちょっと、シブサワさん!?
      人のこと構ってないで、やることちゃっちゃと
      済ませてくださいよ!」
 _、_
( ,_ノ` )「心配するな、お前の背中は俺が守r」
  _,
(#-@∀@)「あーはいはいしっかり監視しててくださいねー!」

…これほど賑やかな図書館は、他に無いだろう。
すっかり飲まれてしまった僕は、この二人の監視を
どう掻い潜るか、考えることに専念した。

若者の方はともかく、この名前まで渋い男…シブサワの方は
監視していないようで、実はしっかり監視している。
二段の踏み台に座るくらいだ、彼の役目は、本当の監視なのだろう。
彼自身が「鷹の目」などと言うくらいだから。

…シブサワという職員の目を逸らすのは、まず無理だ。
あの眼鏡の、神経質で堅物な男だけ、こちらに気を向かせよう。

さあ、どうしようか。
箱の本を弄ろうとすれば、あの男はすぐ、こちらへ咎めに来そうだが…。


58 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/22(火) 23:52:36 B8b3s1tQ0
 _、_
( ,_ノ` )+
  _,
(#-@∀@)「ちょっと、シブサワさん!?
      人のこと構ってないで、やることちゃっちゃと
      済ませてくださいよ!」
 _、_
( ,_ノ` )「心配するな、お前の背中は俺が守r」
  _,
(#-@∀@)「あーはいはいしっかり監視しててくださいねー!」

…これほど賑やかな図書館は、他に無いだろう。
すっかり飲まれてしまった僕は、この二人の監視を
どう掻い潜るか、考えることに専念した。

若者の方はともかく、この名前まで渋い男…シブサワの方は
監視していないようで、実はしっかり監視している。
二段の踏み台に座るくらいだ、彼の役目は、本当の監視なのだろう。
彼自身が「鷹の目」などと言うくらいだから。

…シブサワという職員の目を逸らすのは、まず無理だ。
あの眼鏡の、神経質で堅物な男だけ、こちらに気を向かせよう。

さあ、どうしようか。
箱の本を弄ろうとすれば、あの男はすぐ、こちらへ咎めに来そうだが…。


59 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/22(火) 23:53:16 B8b3s1tQ0

( ^ω^)(前列に三つ並ぶ本棚の間に、箱が一つずつ。
      そのうち二つ目の前に、あの人と例の箱が一つ。
      反対側後列、二つ目の本棚の前に、箱が一つ。
      最奥部、長い本棚二つの前に、箱が一つずつ。)

シブサワという職員は、反対側後列の、二つ目の本棚の間から
二段の踏み台で、座って目を光らせているようだ。
よく見ると彼の位置からは、前後左右が見渡せる。監視役の特等席だ。

ただ…二つ目の、本棚の間にある箱。
それだけは、あの眼鏡の職員からは見えても
シブサワからは、死角になって見えない。

あれに触れてみようか?
そうすれば、眼鏡の職員は僕を注意しに来るはずだ。

それで目的の箱から少し遠退くから、最奥の本棚の前にある箱を弄くって
死角に追いやれば、もう触れないようにとそこへ移動して
目的の箱から、完全に監視の目が無くなるはずだ。

(;^ω^)(最低、二回は注意されないといけないわけかお…)

やらなければいけないとは言え、やはり気は進まない。
仕方ないのだと、僕は深呼吸して…歩を進めた。


60 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/22(火) 23:53:56 B8b3s1tQ0

二つ目の、本棚の間にある箱。
僕は、それにそっと手を触れた。

(#-@∀@)「ちょっと、君!
      なにやってるんだ!!」

予想通りだ。若い職員が、怒鳴りながらこちらに向かってきた。
一回目は成功した…僕としては、そのほうが助かるのだ。

(;^ω^)「おっ…す、すみませんお!
      何なのかちょっと気になって…」

(#-@∀@)「あーだめだめ!
      困るんだよ、勝手なことされちゃ!」

…完全に、こちらの箱に気が向いている。
視線も、僕の方を向いている。この調子だ。

(;^ω^)「じゃ、じゃあ、この箱は」

(#-@∀@)「だ め だ ! !」

室内中に響き渡る怒声を、僕に向けた職員は、ずかずかと
最奥の本棚の箱に向かってきた。
しかもこの職員、僕にとっては予想外だったのだが
ちょうど、シブサワから僕が見えなくなるような角度に、立ってくれたのだ。

…二回目、大成功。

すみませんと、謝って退室する素振りを見せて
くるりと踵を返した僕は、漸く目的の箱の前に辿り着いた。

( ^ω^)「この本だおね…」


61 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/22(火) 23:55:12 B8b3s1tQ0


――古びた本を手に取り、そう僕が呟いた瞬間、意識は再び船内に戻された…。


62 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/22(火) 23:55:53 B8b3s1tQ0


 ・


 ・


 ・


 ・


 ・


63 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/22(火) 23:56:33 B8b3s1tQ0

#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船尾甲板 プール


64 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/22(火) 23:57:17 B8b3s1tQ0

…飛ばされた僕は、気付くと再び「深海魚の目」の傍に立っていた。
見回してみたが、デレはまた何処かに行ってしまったようだ。
今度、彼に会うのはいつになるのか…。

(;^ω^)「…戻されるのはいいけど
      読ませてからにして欲しいお…」

またもお預けを食らってしまった。
「待て」をさせられている、犬の気分が少しだけわかった気がする…。

手に持った、古びた本。
さして厚くは無い…父の、赤い手記と同じくらいだ。

…そういえば父は、どうしているのだろう。
「運命と戦う」という言葉通り、アラマキと対峙しているのだろうか?
父はいま、このニュー速VIP号の、どこにいるのだろう…。

( ^ω^)「…父ちゃん、待っててお。
      僕も、父ちゃんのこと…わかってきたから。」

見えない父に向かって言うと、僕は古びた本の表紙を捲った。


65 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/22(火) 23:57:58 B8b3s1tQ0


運命と二つの石の伝承


66 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/22(火) 23:58:43 B8b3s1tQ0

…1ページ目の見出しは、今まで幾度も目の当たりにし
人々によって紡がれてきた言葉だった。

「運命」とは何なのか。
『赤い石』と『青い石』とは?

僅か13歳のデレは、この本を読んで、何を思ったのだろう…?

浮かべた疑問は、最後のもの以外、これから解ける。

彼は「自分の目で確かめてみて」と言っていた。
僕がアニジャさん夫妻から聞いたことを、察していたようだ。

夫妻から教えられたことは、嘘ではないはずだ。
あんなにも冷静で、落ち着いていられるということは
全てを知って悟っていたからだと、思うから…。

僕は、次のページを、捲っていった。


67 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/22(火) 23:59:51 B8b3s1tQ0

古来より、人は何らかの
見えざる力によって
己の人生が定められていると
考えてきた。

全てを左右するその力は
「運命」と呼ばれている。


68 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:00:36 E/0hYse60

そしてここに、
一つの興味深い伝承がある。

運命を操るという、
二つの石の物語である。


69 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:01:39 E/0hYse60

その一つ「赤の石」は
運命の力を蓄える器であると
伝えられる。

人の命を捧げることで
その石は持つ者の
運命を変える力を持つという。


70 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:02:38 E/0hYse60

石の力を得た人間、
そのある者は
一国を支配する王となり
またある者は
莫大な富を手にしたという。


71 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:04:10 E/0hYse60

…ページを捲る指が、そこで少し止まった。
夫妻が語っていた『赤い石』とは何か…事実だったと、知ることが出来たから。

人の命さえあれば、いくらでも自分の願いは叶う。
そう…本当に「願いがなんでも叶う魔法」なのだということ。

もう一つ。遥か昔…遠い遠い、過去の問題。

ある城の国王が『赤い石』を使って、その地位を築いた。
それ故に、僕が見た過去の世界で、デミタス=スカルチノフに
命を狙われて死んだということが、この本の文中で、判明した。

(; ω )(運命は貴様にも…)

国王が遺した言葉が、気になって仕方なかった。
石の力で「運命」を変えた者が、言いかけた言葉…どう繋がるのだろう?

そして…「ある者は、莫大な富を手にした」という一文。
アラマキ=スカルチノフのことだろう。
何人もの命を赤い石に注ぎ込んだことで、力を得た奴が
「一代で財閥を築き上げる」ほどの富を手にしたのだ。


72 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:04:56 E/0hYse60

他人の命を犠牲にし、ただの騎士から国王に上り詰めた男。

その男を殺した祖先から受け継ぎ、莫大な富を手にした男。

彼らのしてきたことは、法ですら裁くに足りない重罪だ。
天は彼らに、相応の罰を与えたのだろうか?
少なくとも…前者に関しては、裁きを受けたと言っていい。

( ^ω^)(『青い石』は、まだだおね…)

ここまできて『青い石』の情報は、まだ無い。
あまり語られることが無かったのだという夫妻の言葉。
信じるとしたら…この本にも、書かれていないのではないか?

…その予想通り、捲っていった本の記述には、こう書かれているだけだった。


73 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:05:38 E/0hYse60

そしてもう一つの石
「青の石」について
伝承は多くを語ってはいない。

ただ青の石は
赤の石の対極にあるという
言葉が残されるのみである。


74 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:06:36 E/0hYse60

(;^ω^)「対極にある…って、そんなん誰でもわかるお…」

『赤い石』と『青い石』が対極にあるなど
名前を聞けば、誰にでも予測がつくような情報だ。
伝承と謳う本の中ですら、この記述だ。
本当に語られていないのだろう…。

( ^ω^)(…父ちゃん、教えてくれるかお…?)

そうだ、元々は父が持っていたものだ。
父に会ったときに聞けば、何か分かるかもしれない。
まあ…いままで隠し続けていたものだから、話してくれるかは、わからないが。

ひとまずの疑問は置いて、僕は残りのページを捲り…

(;゚ω゚)そ

…最後のページで、背筋に寒気がして、震えた。


75 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:07:17 E/0hYse60

そして、伝承はその最後に
強き運命を保ち続けるため、
守らねばならない事柄にも
言及している。


76 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:08:44 E/0hYse60

一つは、
あまりに多くの命を器に
注いではいけないということ。


そしてもう一つは、
赤と青の石を決して
重ねてはいけないということ。


77 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:09:25 E/0hYse60

その二つが破られた時、
運命は何をもたらすのか…

その答えを伝えるものは、
何一つ残されていない。


78 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:10:31 E/0hYse60

最後だけ…覆った。

「願いが何でも叶う」
それは無限ではない、有限の魔法だったのだ。
人の命を奪えばいいというものではなく、やはり限度があったのだ。

この記述だけ、夫妻の見解とは、少し違う。
僕の予想していたことでも無く、寧ろそれよりも危険ではないか。

器の限界を超えれば、どうなるのだろう。
アラマキ=スカルチノフが…石の力に魅せられて
あまりに多くの命を、犠牲にしすぎていたら?

(;゚ω゚)(まさか、あの男…船ごと赤い石に捧げたんじゃ…)

…とてつもなく恐ろしいことを、僕は考えてしまった。
『赤い石』の魔に、魅せられてしまったアラマキが、もう願いを叶える
必要がないのに「運命」を変えたがり…『赤い石』に、操られるようにして
ニュー速VIP号ごと、乗船している全員の命を注いでしまったのだとすれば?

それまで何人もの命を注ぎ続けた器が、一杯に満たされて溢れそうな
その中に、注ぎきれないほどの命を注いでしまい、溢れさせてしまったとしたら?

このニュー速VIP号の様々な怪奇現象は、その力が暴走してしまったせいではないか?


79 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:11:13 E/0hYse60

(;゚ω゚)

…絶句したまま、暫く動けなかった。

「命を注ぎすぎない」「赤い石と青い石を重ねない」…
破ってしまった一つ目…『赤い石』の力は、人々を救われぬ亡霊にした。

この船には、数百名以上の人間が乗っていたという。
幸か不幸か…今まで出会って来た人の数は、およそ15人程だ。
まだ船内の奥深く…二層から三層にかけて行っていないから
何人の霊が残っているのかは、わからないが…。

所有者のアラマキ=スカルチノフは、どうなったと言うのか。
アラマキは、父の過去で『青い石』も求めているようだった。
片割れは僕が持っている…未だ姿を現さないツンは今も、持っているだろうか?

(;゚ω゚)「…急ごう。」

本を閉じてしまった僕は、アニジャ夫妻のいる大食堂に急いだ。


80 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:11:56 E/0hYse60


 ・


 ・


 ・


81 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:12:38 E/0hYse60


#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内一層 招待客用大食堂


82 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:13:19 E/0hYse60

…プレートを手に入れたことを、伝えた僕は、古びた本を手に
彼らに『赤い石』の伝承を、もう一度、説明した。


ミセ;゚−゚)リ(;´_ゝ`)

僕の言葉を聞いた、夫妻の顔は強張り、青ざめていた。

…思い当たることがあったのだろう。
夫妻は、重い口を開いた。

(;´_ゝ`)「…前にも言ったが…
      父の目は、もう人のものでは無かった。
       そうか…やはり、あの人は…」

ミセ;゚−゚)リ「ええ…残念ながら…立証されました。
      父アラマキは、この船の乗員を全て
      赤い石の生贄にしたのです…。」

( ^ω^)「では、この船が嵐に遭い
      現世とは違う世界に送られてきたのも…」

ミセ;゚−゚)リ「…『赤い石』の力が、暴走したせいでしょう…」

夫妻の言葉で、アラマキが何をしたのかはわかった。
彼は、破られてはならなかった一つ目の掟を、破ってしまったのだ…。


83 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:14:04 E/0hYse60

(;´_ゝ`)「ありがとう、やはり君に頼んで正解だった。」

( ^ω^)「いえ、まだ終わっていません。
      あと二つのプレートを、見つけなければ。」

(;´_ゝ`)「ああ、そうだったな…」

僕の言葉に頷いたアニジャさんは、金色の鍵を僕に渡してくれた。

( ´_ゝ`)「この食堂の中に、もう一つ、ドアがあるだろう?」

( ´_ゝ`)「あのドアは、調理室に繋がっている。
       これは、そこの鍵だ。使ってくれ。」

( ^ω^)「ありがとうございますお。」

アニジャさん夫妻がいる場所から、少し距離がある、隅のドアだ。
鍵を受け取った僕は、早速、そのドアへと向かった。

「すまない。一刻も早く、見つけてくれ…。」

…重く震えた、切ない響きを持った言葉が、僕の背に届いた。

僕は、返事をしなかった。
かわりに、振り返らずに頷いた。


84 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:14:46 E/0hYse60


ガチャ




バタン


85 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:15:32 E/0hYse60


#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内一層 調理室


86 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:16:26 E/0hYse60

…船内の、何処もかしこも、電気は点けられていない。
ここ、調理室も例外ではない。悪霊が、消してしまったというのだろうか?

僕は、出入り口のすぐ傍にあるスイッチを押した。
ぱちん、と音がして、明かりが点く。

スイッチの傍にある電話。反対側に、大きなオーブン。
正面は、完成した食品や皿を置く為の、大きなテーブル。
その奥に、何か機械が置いてある。構造を見るに、配膳用のエレベーターか。

そのエレベーターの前で、半透明の影が、俯いていた。
頭頂部が…少し薄い。男だろうか。
救われぬ彼は、何をこの世に残してきたのだろう。


 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「…この下には…俺の部下達がいる…」

  彡⌒ミ
(  _ゝ )「あいつらは、自分が死んでいることにさえ
      気付いてはいないんだ…」

  彡⌒ミ
(  _ゝ )「連中を、置いていくわけにはいかない…」

(  ω )「…」

この航海士の未練…わかったような気がした。
今なら、痛い程にわかる。残してきた部下が、気になるのだ。

死んだことも自覚できないまま、いつ襲われるかもわからぬ恐怖に怯えつつ
船の下でずっと、己の仕事を続けている彼らを、救ってやりたいのだ…。


87 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:17:35 E/0hYse60

  彡⌒ミ
(  _ゝ )「こんなこと、厚かましいかもしれないが…」

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「このエレベーターを使えば…下に行ける。」

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「頼む…あいつらを、救ってくれないか。」

…この航海士は、自分が死んだことを知っている。
そして、死んだ人間には、救えないことも、理解している。
それでも彼らを放って行けず、ずっとここで待っていたのだ。

救いの手が、差し伸べられるまで、ずっと…。

(  ω )

( ^ω^)「わかりましたお。
      このエレベーターで行けば、下に降りられるんですおね?」
  彡⌒ミ
(  _ゝ )「ああ、そうだ…すまない、ありがとう…」

男の真横にある、エレベーターの入り口に、僕は立った。
上部にあるスイッチは、船内二層の船員室へ繋がっているようだ。

…この下に、彼らは眠っているのだろう。
僕はスイッチを押して、開いたエレベーターに、乗っていった。


88 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:18:16 E/0hYse60

ウィィィィーッ……


 ・


 ・


 ・


ガコンッ


89 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:19:15 E/0hYse60



#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内二層 船員食堂


90 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:19:57 E/0hYse60

機械音と共に、降りていたエレベーターは止まった。

(;´ω`)「ゲッホゲホッ…おうふっ…
      二度と使いたくないお…」

自動で開いたエレベーターから降りた僕は、思わず咳き込んだ。
やはり、長く使われていなかった箱の中は埃っぽくて
暗く狭い密室というのもあり、乗り心地はひどいものだったのだ。


(;^ω^)そ

全身についた埃を手で払い除けた僕は、そこが闇の中だと気付く。
それも…この暗さ、今までとは比べものにならない。

…今までに無い、底冷えのする、寒さが襲う。

(; ω )「で、でも…僕は、あの人を…!」

そこで、僕の言葉はぴたりと止まった。
少女も女性も救った、もう悪霊はいない…それは、早計ではないか?
彼女たちはどちらも、理不尽に命を奪われた『赤い石』の犠牲者なのだ。

他にも『赤い石』の犠牲者は、大勢いるはずだ。
何故、悪霊となって出てきたのかは、定かでないが
この世に対する未練が、或いは恨みが、特に強いからかもしれない。

それらがまだ、この船にいるのだとしたら?


91 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:21:15 E/0hYse60

           ||

           ||

           ||


92 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:22:11 E/0hYse60

           ||

           ||

           ||

          (゚"∀'゚" ) ウゥゥ…


93 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:22:59 E/0hYse60

(((;゚ω゚)!!!そ


戦慄し、声も出なかった。
見えない上部から、こちらへ落ちるように現れてきた亡霊は
金色の王冠を被り、白く長い髭を生やし、緋色のマントを羽織っている…


(´∀`)

(゚"∀'゚")


(;゚ω゚)(王…!?)

今から何百年も前、デミタス=スカルチノフに殺害された、古城の国王だった。

…何故だ? 何故、今になって彼が現れたのだ?
強すぎる『赤い石』の力が、引き寄せてきたというのか?
まさか彼は、この現代まで恨みを引き摺ってきたというのか…?

変貌した姿で現れた王は、僕を道連れにしようと、目をぎらつかせている!


94 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:24:08 E/0hYse60

(;゚ω゚)))「っ!?」

…逃げようとした僕は、自分の体が、物凄い勢いで
吸い寄せられていることに気がついた。
少女のときと同じ感覚を伝えた体に、危機を感じた僕は
反射的にエレベーターの細かい網目を掴んだ。

この王は、僕を引き寄せて、絞め殺すつもりだ…!
エレベーターに乗り、上に戻って対策を練らなければ…。

そう思って上部のボタンを押した、僕の耳に、無情な音が響いた。


カチッカチッカチカチカチッ

カチカチカチカチッ


(;゚ω゚)「なんで故障するんだ!!!」

ボタンをいくら押せど、エレベーターが動かない…!

その間にも、体は強く引っ張られていく!


95 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:25:36 E/0hYse60

((;゚ω゚)))      (゚"∀'゚" )


既に姿が、見えるところまできている。
王の赤い目は、僕を真っ直ぐ獲物として見据えている…!

(;゚ω゚))「くそっ、電気はどこだ!!」

必死に僕は探したが、電気のスイッチはここには見当たらなかった。
あるとしたら、カウンターの向こう側…船員が食事をする場所だろうか。

…心の中で僕は、自分の運の無さを嘆いた。


(((;゚ω゚)  (゚"∀'゚" )

物を投げつけようが所詮、霊だ。
虚しくすり抜けて壁に突き当たるだけだろう。
『青い石』は半分に割れていて、効果もさして無さそうだ。

いくら抗おうと、吸い寄せる力は圧倒的で
手で何を掴もうが、強く王のもとへ引っ張られていく。


(; ω ) (゚"∀'゚" )

王の悪霊が、目前に来た。
赤い目が僕を睨み、掴んだ獲物を殺そうと、輝いている。

もうだめかっ…!!


(; ω )


96 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:26:17 E/0hYse60

 
 

パチン


97 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:27:21 E/0hYse60



(゚"∀'゚")



(;⊃Дヽ)


98 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:28:26 E/0hYse60

…スイッチを押した音と共に…電気が、灯った。
王の悪霊は苦しみ出し、消えていく。

(; ω )「っくは…!」

急に力が抜けて、僕はよろめきながら、カウンターに両手をついた。
…電気という文明が、こんなにも頼もしいとは思いもしなかった。

しかし、何故…いったい、誰が?

顔を上げた僕の疑問は、間もなく解決し…思わぬ再会を、果たすことになった。


(;^ω )


(;^ω^)そ
                     (ФωФ )  


(;^ω^)「と、父ちゃん!!!」

カウンターを隔てて、向かい側に、彼はいた。

ロマネスク=スギウラ…母を亡くした僕にとって、唯一人の肉親。
この船に乗り込んだ、最大の目的である、その人との再会が
いま、果たされようとしていた…。


99 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:29:08 E/0hYse60


第二部:若い女性の亡霊 終了


※第二部のMEMOは既に>>11-16で紹介しているので
 MEMOは第三部からとなります。


100 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:30:15 E/0hYse60

――第三部:王の亡霊――


101 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:31:18 E/0hYse60

(ФωФ )「…」

父、ロマネスク=スギウラは、手を伸ばせばすぐ届くような距離にいた。
白のシャツにベージュのセーター、茶色の作業ズボン、革靴…。
いつもと変わらぬ服装で、そこに立っていた。
カウンターの向こう側、船員の食堂で、彼はじっとこちらを見ている。

(ФωФ )「…ここまで、来てしまったのであるか…ブーン…」

( ´ω`)「父ちゃん…ごめんだお、でも…」

( ω  )「言うな、ブーン…」

父は、謝った僕にそう言うと、声を落とした。

…僕は、父に全てを話そうと思った。
僕も父に、全てを話してもらいたかったし、父がどうしていたのかも知りたい。
この先、未だ彷徨う船員を、共に救うことが出来ればいいとも思っていた。
閉ざされた部屋に、アラマキがいることも含めて…二人で、解決出来ればと。

…そんな僕に、父は、何を思っていたのだろうか?
暫く顔を逸らして、俯いて…父は、語りだした。


102 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:32:53 E/0hYse60

(;^ω^)「な、なに言ってるんだお?
      父ちゃんは、ここにいるお?
      いきなり話し方、変えたりして…どうしたんだお?」

…心の中で、嫌な予感がするのを、僕は否定したかった。
想像が膨らみ、不安が増していくのを、何としてでも止めたくて。
そう思って、問いかけた僕に…答えは返ってこなかった。

代わりに父は、尚も震える声で、一人嘆くようにこう言った。


( ω  )「あの頃、あの少女に出会った頃の私は
       もういないのだ…」

「あの少女に出会った頃の私」…過去の、父のことか?

両親の仇を討つ為に、アラマキ=スカルチノフに立ち向かった、勇敢な青年。
正義感が強く、真っ直ぐで…満身創痍でも少女を気遣う、心優しい若者。
少女に『青い石』を託し、轟々と音を鳴り響かせて走る列車から、飛び降りた…。

あの頃の私はもういない…その言葉の、指し示す意味は?

(;゚ω゚)「…っ!」


まさか、まさか…父は…!


103 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:33:58 E/0hYse60

(;゚ω゚)「ど、どうして…」

(;゚ω゚)「どうして、そんなことを言うんだっ!!
     あなたは…あなたはここに
     何をしにきた…!?」

(;゚ω゚)「僕に送ってきた手紙!
     あれに入っていた鍵で…僕は地下に入って!!」

( ω  )「赤い石…アラマキ…」

父は、背を向けながらただ、虚ろな声でそう繰り返すだけだった。
僕の声は、もう父には届いていない。


( ω  )「私は…何を求めて…」


問う時間すらも、与えてはくれない。
叫ぶも虚しく、呟いた父は、背を向けた。

(;゚ω゚)「父ちゃん!!!」

…手を伸ばせば、すぐに届いたはずの距離は、次第に離れていく。

カウンターを乗り越えようとして…
それが、乗り越えられる高さと、幅が無いことに気付いた。

悪態を吐きながら、父の後を追おうと、必死に食堂の出入り口に駆ける。

カウンターから見えた父は、既にもう通路に繋がるドアへ、手をかけていた…。


104 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:35:10 E/0hYse60


バンッ



ガチャ……


バタン


105 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:36:18 E/0hYse60

(;゚ω゚)「っ父さん!!!!」

…僕が叫んでドアを開けたときには、父は既に、食堂から去っていた。
ちらりと見えた、父の片腕…通す腕の無い、だらりとぶら下がった袖だけが
凝視する僕の目に映った。

(;゚ω゚)

(; ω )「くそっ…!!」

壁に拳を、思い切り打ち付けて…項垂れる。
そこに額を乗せて、僕は必死に、父の言動を考えた。

何も言わずに、僕を見ていた父の翳る表情…己を嘆いていた、あの言葉。
まさか、父は…『赤い石』に、魅せられてしまったというのか…?

出したくなかった答えは、当の本人が暗に応えてしまっている…。

(; ω )(あの人は、僕に手紙を送ったときから
      心が揺れていたと、言っていた…。
      まさか…僕に、止めて欲しいから…?)

『青い石』を持ち、アラマキ=スカルチノフに立ち向かった若者は、老いて尚
諦めかけた復讐と救出に燃えて、再び立ち上がったのではなかったのか?

年老いた身一つでは心細い、だから息子にも、ついてきて欲しかった。
今まで黙っていた過去を、息子に知ってほしかった…。
そんな理由で、僕を呼んだのではなかったのか?

過去の世界で、「魔に魅せられている」と、アラマキにそう言い放った父もまた
『赤い石』の力に魅せられて溺れ、悲劇を呼び寄せてしまうのだろうか…?

共に戦い、一緒に帰ろう…そんな言葉をかければ、応えてくれるだろうと
或いは自ら言ってくれるだろうと、期待していた僕が、甘かっただけなのだろうか。


106 : 名も無きAAのようです :2013/10/23(水) 00:36:26 5kFSnJ/6C
立ち直り早かったな 



107 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:37:04 E/0hYse60

…考えている僕に、呼びかける声は無い。慰めも、労いの言葉も無い。
この船内で、ただ一人…孤独と言うのは、なんとつらいものだろう。

(; ω )「単純に魅せられてるだけなら
      正気に戻して、一緒に帰ることは出来る…」

口から出たのは、気休めにもならない独り言だった。
それが叶うことは、アラマキを見る限り…まず、無いと思っていい。

だが、父は『青い石』の所有者だったはずだ。
『赤い石』と、対になっているもの、あまり語られずとも
所有者の身を守ってくれるほどの代物だ。

安否は不明だが、ツンと合流して『青い石』を手に入れれば
或いは彼女の説得で、父を正気に戻すことが、出来るかもしれない。


( ^ω^)「…」

それを思い出した僕の心に、僅かな希望が灯った。


108 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:37:56 E/0hYse60

顔を上げて、すっと目をやった先に…電気のスイッチが見えた。
試しに電源を落としてみると、それはキッチン側のみのもので
食堂の明るさは、変わらなかった。

僕がいま立っている食堂側が、少し暗かったのは…父が、己の危険も顧みず
僕のいたキッチン側だけ、電気のスイッチを押して、明かりを灯してくれたからだ。

息子を助けてくれるほど、父はまだ、どうにか正気を保ってくれている…。

( ^ω^)「…諦めたくはないお。」

独り言ちて、壁から離れた僕は、二列に並んだテーブルの
中央付近から部屋を見渡し、電気のスイッチを探した。

正面の、通路に繋がるドアの傍らに位置するそれを押して、室内を明るくする。


109 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:38:44 E/0hYse60

右手にキッチンのスイッチ、左手には太陽のレリーフ。
あとはこれといった物は特に無い、ただの食堂だった。
アストラルピースはまだ二つ…二つだけなら、渡す必要は無いだろう。

それに…いまの僕には、この温もりが少し恋しかった。
たとえ接点の無い人間のものだったとしても、もう少しだけ
こうして持っていたかったのだ。


( ^ω^)


⊂(^ω^ )


何も無い、明かりのついた食堂を振り返った僕は
父の後を追うように、通路へと出た…。


110 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:39:25 E/0hYse60

===MEMO===


111 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:40:06 E/0hYse60



       彡⌒ミ
―チチジャ ( ´_ゝ`)

過去世界 1877年生まれ 36歳 男

・ニュー速VIP号の航海士。部下思いな人で、死の自覚も持たずに
 怯えながら仕事をする船員達が気になって、天に昇れずにいた。

・スカルチノフ家とも交流があったようだ。
 アニジャさんに渡された鍵で入った先に、彼はいた。
 
・船内二層に続く、配膳用のエレベーターを動かしてくれた。
 老朽からか霊の仕業か、二度と乗ることが出来なくなってしまった…。


―ロマネスク=スギウラ ( ФωФ)

過去世界 1879年生まれ 58歳 男

・僕の父であり、かつて『青い石』の所有者だった人。
 職業は画家で、シベリア市郊外の丘に一人、住んでいた。

・アラマキ=スカルチノフと『赤い石』共に、自分の両親を
 殺されたことから、長年に渡り、大きな確執があったようだ…。

・今の自分を嘆くと、僕が問う間もなく去ってしまった…。
 あの虚ろな呟き…父は『赤い石』に、惹かれてしまったのか…?





112 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 00:45:07 E/0hYse60

とりあえずここまで投下します。
シブサワのイメージは総合から頂きました。ありがとうございます。

>>106
浮き沈みが激しいので、ぼちゃんと沈んだり、ぷかりと浮き上がったり
浮きすぎたらパンが焦げます。


113 : 名も無きAAのようです :2013/10/23(水) 00:55:29 fnUDrWA6C
焦がしすぎない程度の焦げたパン食べたい


114 : 補足 ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 01:01:30 E/0hYse60

(´・ω・`)「やあ、久しぶりだね…待っていたよ。」

(´・ω・`)「彼も最近、私のところに来なくてね。
       こちらとしては、まめに来てもらいたいのだが…」

(´・ω・`)「>>113に、いいことを教えてあげよう。
      違う世界の、私と同じような顔をした男が」

(´゚ω゚`)「トースターで3〜4分に設定すりゃあいいだけじゃボケェ!」

(´・ω・`)「と言っていたよ。」

(´・ω・`)「口が悪いと、ある人から処刑されたようだ…
      君も、しばかれたくなかったら
      普段から言葉遣いには気をつけることだ…フフフ…」

(´・ω・`)「まあいい…では、第二部も終わったことだし
      少し込み入った補足を始めよう。」


115 : 補足 ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 01:13:34 E/0hYse60

(´・ω・`)「まず、諸君は豪華客船と言うと何を浮かべるかな?」

(´・ω・`)「おそらく、この作品と同じような時期に
      実際に沈没した『タイタニック』を浮かべるのではないかな。」

(´・ω・`)「史上最悪の事故、かつ映画化されているので有名だが
      開発スタッフはこれも参考にしているようだよ。
      君も、豪華客船というのはそれをイメージするといい…」

(´・ω・`)「それでも船内のイメージが、いまいち掴めないのであれば
      これを見たまえ。」

ttp://4travel.jp/travelogue/10789591

(´・ω・`)「個人サイトなのでhは抜いたが、横浜港氷川丸の
      船内を特別に見回った人が、船内を撮ってくれたようだ。」

(´・ω・`)「パーフェクトガイドによると、開発スタッフも
      客船の参考資料として、見に行ったらしい。」

(´・ω・`)「なかなか雰囲気が出ているので、こんな感じなのだと
      読み進めながら参考にしてもらえればありがたい。」


116 : 補足 ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 01:23:37 E/0hYse60

(´・ω・`)「作中の天候についてだが、晴れ・曇り・雨・雪の
      四種類が確認できるが、作者は雪については
      特定の過去世界でしか見たことが無いそうだ。」

(´・ω・`)「この天候は、第二部の「深海魚の目」でも
      大いに利用されていた。何故か。」

(´・ω・`)「晴れた日の夜、午後7時から午前5時の間にしか
      赤い月は出ないという条件があったからだ。」

(´-ω-`)「演出のためとはいえ、普段から変わる天気を
      ここだけ持ってくるとは…もったいない作者だ。」

(´・ω・`)「ともかく。天候について、あと一つ…」

(´・ω・`)「晴れた日の夜、午後9時から午前3時の間に
      デッキテラスへ行くと、1/64の確率で
      流星群が見られるということだが…」

(´・ω・`)「作者も見かけたことが無いのでね。
      この作品に反映されるかは、また別物だ…
      諸君が見られることを祈っているよ…」


117 : 補足 ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 01:35:54 E/0hYse60

(´・ω・`)「作中では描写されなかったが、( ^ω^)はプールへ
      男子更衣室から回って行ったようだ。」

(´・ω・`)「正直で真面目なおかげで、チップ引換券がまた一枚
      手に入ったようだが…。」

(´・ω・`)「これを使うのは、彼が船旅を終える手前だろう。
      プレイヤーが投げ出す最大の要因、最凶のギャンブラーが
      そこにいるからね…クックックッ…」

(´・ω・`)「では、時間も遅いので、ここら辺にしておこう。」


118 : 補足 ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 01:37:14 E/0hYse60

(´・ω・`)「おっと…大切なことを忘れていたよ。」

(´・ω・`)「君達は、ばとんたっちという、ブーン系小説の
      まとめサイトを、知っているかい?」

(´・ω・`)「どうやら、作者が違う作品を読んでいたときに
      たまたま目に留まったらしくてね…」

(´・ω・`)「なんと、そこにまとめられていたようだ。」

( ^ω^)赤い石が紡ぐ物語のようです
http://boonbaton.web.fc2.com/RSS.html


(´・ω・`)「重ね重ね、御礼申し上げますと作者が言っていたよ。」

(´・ω・`)「では、今度こそ…待っているよ…。」


119 : またやらかした ◆noe7UUkd3A :2013/10/23(水) 07:49:46 E/0hYse60

>>101>>102の間が抜けてましたorz
↓これ追加してお読みください


( ω  )「あのとき…」

(;^ω^)「お…?」

( ω  )「あのとき、お前に手紙を送ったときから…
       私の心は揺れていた…」

…いま、父は何と言ったのだ?
俯き、僕から目を逸らして言う父の言葉に、僕は耳を疑った。

「僕に手紙を送ったときから」「私の心は、揺れていた」…?
それは、どういう意味なのだ?

「我輩」だの、先程まであった「…である」という
古風で独特な喋り方が、消えている意味は…?

(;^ω^)「父ちゃん…?」

僕の呼びかけに、父は首を横に振る。

( ω  )「…私はもう、いない…」

震える声で呟かれた、その一言に…僕は、顔が青ざめていくのを自覚した。

「私はもういない」とは、どういう意味なのだ?
何故…僕の顔を見てくれない?
どうして、あらぬ方向に目を向けて…そんな震える声で、嘆いているんだ?

運命と戦わなければならない、そう言ったのは、あなたではなかったのか…?


120 : 名も無きAAのようです :2013/10/24(木) 12:47:17 dAO4LQVQ0
おつ!


121 : 名も無きAAのようです :2013/10/24(木) 12:57:13 M0G2AF6c0



122 : 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 17:04:37 kOv9eWioC
時間が早いな日本シリーズ見たいんだな


123 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:21:00 HNTARnqE0

予告どおり17:30に投下します。
まとめの管理人さん、ありがとうございます。

>>122

( ・∀・)「日本シリーズだそうだよ、モナー。」

(;´∀`)「いけませんモナ、坊ちゃま。」

(;´∀`)「ブーン系作家たるもの、ちゃんと現行作品を投下しなくては。」

( ・∀・)「どうせ40秒きっかしに投下してても間に合わないし」

( ・∀・)+「DVDに収めてあるから大丈夫さ」

ほっ…(;´∀`)=3「では、坊ちゃま」

( ・∀・)「あと10分したら投下しよう。」

( ^ω^)

( ^ω^)「あれ、これ僕の作品…あれ…?」


124 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:30:01 HNTARnqE0

 ・


 ・


 ・


125 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:30:55 HNTARnqE0


#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内二層 船員室前通路


126 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:31:35 HNTARnqE0

船内二層、船員室前の通路。
同じ船内二層でも『シアター前通路』とは
比べ物にならない程の闇が、広がっていた。

((;゚ω゚)))「…こ、これは、暗すぎにも程があるお…!」

ドアを開けて、前に踏み出そうと思った僕は、通路の暗さに身震いした。

食堂内から漏れる明かりで、どうにか構造はわかったものの
覚束ない足取りで出て行った父も、何処にも見当たらなかった。

今にも、王の悪霊が襲ってきそうな闇。
明かりを灯すことが第一だと、感じた僕は、そっと食堂のドアを閉めて
おそるおそる、その闇の中へ踏み出した。

…コツンという、いつもの革靴の音が、濁った。

(;^ω^)「おっ…?」

足元をよく見てみると…ここだけ造りが違うようで、壁から床まで全て金属製だった。
そういえば、ドアも鉄製のものだ。

…なるほど。船の内部に近付くほど、造りが変わっていくようだ。
船について、全く知らなかった僕には、そんな細かいところまで新鮮に思えた。


127 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:32:34 HNTARnqE0

カシャン、カシャン…


(;^ω^)「おっ…?」

僕の耳にもう一つ、自分の物ではない足音が届いた。
正面から近付く灯りは、カンテラから漏れるものだった。
巡回係だろうか、こちらに近付く様子を、じっと見ていた僕に
彼は若干、距離を置いて、声をかけてくる。

( ;`・ω・´)「そこの君、ここにいては危ないぞ!」

(;^ω^)「おっ、えっと…(顔が横に長いとか言えない…)」

カンテラを持った巡回係は、辺りをきょろきょろと見回し、ふぅ…と、息を深く吐いた。
悪霊がいないことを確認したのだろう。彼もまた、闇に怯える一人なのだ。

…と、僕はここで、一つ気になった。
この巡回係は、何故カンテラなど持っているのだろうと。


(;^ω^)「あの、もしかして…電気、つかないんですかお…?」

(;`・ω・´)「なにっ、知らないのか?
        この一帯は何故かブレーカーが落ちてしまって
        電気がつかないんだ…」
        
(;゚ω゚)そ「なっ…!?」

巡回係がいる意味、彼が持つカンテラの役割…。
船首甲板の配電室。そこでの出来事を、僕は思い出した。

明かりを求めていた船員を救う為に、少女の悪霊から逃れながら
ヒューズの代替品を、取り付けていた…あのときと同じだ。

違うのは、二点。

ここは船内二層、外の光も差し込まない。
…明かりが点くのは、船員食堂「だけ」ということ。
巡回係が持つカンテラの光など、王の悪霊には効かない…。


128 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:33:45 HNTARnqE0

(; ω )(ついに、この船内を彷徨う亡霊たちと
      同じ立場になってしまったお…)

これではかえって、食堂にいた方が安全ではないか…。

思った僕は、すぐにでも食堂へ引き返したくなったが、このままでは進めない。
彼らを救うには…何処かへ去った父を取り戻すには、なんとしてでも
電力を復旧させて、この一帯に明かりが点くようにしなければならない。

…この暗さは、悪霊が出てもおかしくない。
巡回係の彼や航海士達もおそらく、見知らぬ王の悪霊にやられたのだろう。

中でも特に、闇の中に立ち尽くしている生者…僕は、悪霊にとっては
格好の餌食だ、ここにぼっと立っているよりも、行動した方がいい。

(;^ω^)「お、お勤めご苦労様ですお…
      ど、どうか、お気をつけて…」

(;`・ω・´)「ああ…君もどうか、気をつけてくれ…」

…そう軽く言葉を交わして、巡回係は踵を返し、通路を往復する。
去っていくカンテラの光は儚く、それでも少し離れてしまえば
辺りは一気に、真っ暗になってしまう。

その背を、暫く見ていた僕の耳に、独り言が届いた。


(;` ω ´)「く…あいつめ、いったい何をしているんだ…
        もう交替の時間は、とうに過ぎているんだぞ…」

( ^ω^)「…!」

巡回係の漏らした呟き…それが、躊躇する僕の背を、後押しした。


129 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:34:27 HNTARnqE0

甲板で、全てを救うよう、船の運命を託した船長。
調理室で僕に、船員を救うよう頼んだ航海士。

…僕は、この船内に迷い込んで間もない。
しかし当事者である彼らは、二十年以上経っても未だに
役目から解放されず彷徨い、見えない悪霊と暗闇に、怯え続けている…。

僕が進まなければ、彼らの魂は永遠に、闇の中で惑うだけだ。
彼らを光へ導くことが、僕の役目。


(;^ω^)

(;-ω-)

(;^ω^)(大丈夫だお…なんとかするお。)


…頼りないかもしれないが、何もしないで立ち尽くしているよりも
一つ行動に移したほうが、ずっとマシだ。
自分にも、ここの亡霊たちにも言い聞かせた僕は、王の悪霊が出ないことを確認して
最近はあまり見ていなかった、設計図を取り出した。

(;^ω^)(暗くて読みにくいお…)

豆電球の明かりでもいい、何か光が欲しいところだが…
巡回係のカンテラを、借りるわけにもいかない。
仕方なく目を凝らして、なんとか現在地を辿っていく。

( ^ω^)(船内二層、船員室前通路…T字型の中央に船員食堂
      左右にそれぞれ右舷、左舷の連絡通路へのドア
      食堂から直進すると船員のトイレにシャワー室
      船員室AとB…)

(;^ω^)「右舷連絡通路に配電室…!」

部屋の名前を見た瞬間、読む声が上ずった。
そこを探して行くことが、いまの僕にとっての最優先事項だからだ。
悪霊の出やすいこの暗闇では、いつ襲われてもおかしくない…。


130 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:35:07 HNTARnqE0



   (゚"∀'゚") ウゥゥゥ…


(;゚ω゚)「!!」


不安を抱いていた矢先、悪霊が現れた。
先程のように引き寄せられることは無いが、徐々に距離を縮めてくる…!


(゚ω゚;)=       (゚"∀'゚") ウゥゥゥ…


急いで設計図をしまった僕は、右舷連絡通路に駆け込んだ。
迫り来る悪霊から逃れる為、ドアノブを捻って乱暴に閉める。

…明かりの漏れる食堂に駆け込めばよかったと、入った後に、僕は悔やんだ。


131 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:35:59 HNTARnqE0


ガチャ

バタンッ


132 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:36:41 HNTARnqE0

 ・


 ・


 ・


133 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:37:22 HNTARnqE0


#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内二層 右舷連絡通路


134 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:38:14 HNTARnqE0

(;゚ω゚)「暫く安心は出来ないってことかお…」

悪霊から逃れた僕は、後ろ手にドアを閉めて、見上げた先の
光が一つも差し込まない暗闇に、ぼそりとそんな呟きを漏らした。

…右舷連絡通路、全てが無機質な金属で出来ている道。
足音は先程のものよりも重く、船の動力源まで近いことを
知識の無い僕にも、知らせてくれていた。

(;゚ω゚)「海…」

正面から見て、右手についている窓から見えるのは
一筋の光も差し込まない、コバルトブルーと、プルシアンブルーの
二層に彩られた深海…その中で、ふよふよと遊泳する魚だけ。

船内二層は、外の光を浴びることも許されない、海の中。
電力の供給が遮断され、絶望する船員達の心を蝕んだ、青。
閉ざされた空間に、僕の呼吸以外の音は無い。


平常時に、何気なく通れば、綺麗だと見惚れていたことだろう。
馴染みの無かった海の世界に、浸ることが出来ただろう。


しかし、


135 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:38:54 HNTARnqE0



(゚"∀'゚") ウゥゥゥ…


136 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:39:58 HNTARnqE0

しかし、いつ悪霊が出てもおかしくないこんな状況では
普段、見慣れない景色に浸る余裕など、誰も与えてはくれない。

(;゚ω゚)「くっそ!!」

相手は霊…暗闇さえあれば、何処にでも姿を現すことができる。
光は無い、逃げ切ることなど出来ない。
二人の悪霊と同じ方法は、通用しないのだ。

急いで配電室を探した僕の目に「↑:配電室」と書かれた表札が見えた。


(;゚ω゚)!?そ


…が、嫌でも見えてしまった、表札の下の「あるもの」に
駆け込もうとした僕は、立ち止まった。

そこにあったのは、4桁の数字が書かれた、手動のパネル。
つまみがあり、自分で回せるそれは、4612と配置されている。

まさか、この配電室…ドアにロックがかかっているのか!?
どうして、配電室のドアごときにロックをかけたのだ!
こんなところ、船員以外には誰も立ち入らないというのに!!


(; ω )「だめだ、僕にはロックを解けない…!」

悪態を吐いていても、追い詰められていくだけだ。
迫り来る王の悪霊から、どうにか逃れた僕は
仕方なく、船員室前通路へ引き返した。


137 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:40:53 HNTARnqE0

…何処へ行けば、あのロックを解く手がかりは、見つかるだろうか?
考えている暇があればいいが、今は一瞬の判断が生死を握る。

突き詰めて考える必要は無い…どんな短絡的な考えでも良い。
あの4桁の数字…誰が知っていて、何処に行けばわかるか?

船員は知っているはずだ、だから船員室に行けばなんとかなる…。

(;゚ω゚)「船員室…あの奥!」

…僕はともかく、この暗闇をどうにかしたい一心で、船員室Aへと駆け込んだ。


138 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:41:33 HNTARnqE0


ガチャ


139 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:42:26 HNTARnqE0


#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内二層 船員室A


140 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:43:24 HNTARnqE0

==(;゚ω゚)つ「お邪魔しますおぉぉぉ!!!」

                    Σ(∵;)!?

中にいた船員に言うと、僕はドアを閉めて、ふう…と、息を深く吐いた。
…王の悪霊は、追ってこなかったようだ。

(∵;)

船員用のロッカーの前で、驚いた様子でこちらを見ていたのは
20代後半か30くらいの、船員の制服を着た男だった。

(;^ω^)「あ…あの…怪しい者ではありませんお。」

この台詞を、僕は何度、船の人達に言って回ってきただろう。
頭を掻いてそう言った僕に、男は逡巡していたようだが、暫くしてこう言った。


(;∵)「…怪しい者ではないと、言われた方が、余計に怪しむから
    訝しがられたときに言うのは、やめたほうがいいぞ…」

(;^ω^)「それ、誰かにも言われた気がしますお…」


ゆっくりと紡がれた台詞、どこかで聞いたことがあるようなニュアンス…。
さほど前でも無いのに、なんだか懐かしく感じながら、僕は男に名乗った。

返してくれた男の名はビコーズと言って、思ったとおり、船員だ。
ビコーズは、落ちたブレーカーを戻そうと、配電室に行こうとして
ロック解除の番号を控えたメモを、探していたらしい。

そしていま、4番のロッカーの中にあることを思い出したビコーズが
開けようとして、開かなくて悩んでいたときに、僕が来た…と。


141 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:44:42 HNTARnqE0

(;∵)「ドアロックの番号を控えたメモが
    4番にあるはず…。」

( ^ω^)「開かないって、鍵が閉まってるとか
      施錠されてるんじゃないですかお?」

(;∵)「いや、このロッカーには鍵が無いんだ。
    だから、すぐ開けられるはずなんだよ…」

(; )「早くしないと…このままじゃ、みんな死んじまう…」

( ^ω^)「お…」

…調理室にいた船員の、言葉通り、ここの船員達は皆
自分を含め、皆が死んだことには気がついていない…。

( ^ω^)「…だ、大丈夫ですお!
      巡回の人も、まだ生きてましたお。
      だから、一緒に解きましょうお。」

(;∵)「あ、あぁ、ありがとう…
    この時間ならもう、シャキンさんは
    ヒッキーと交替しているか…
    あいつ、大丈夫かな…まだ見習いだからな…」

…すれ違うときに聞いた、シャキンさんの言葉と被り
思わず緩んだ涙腺を、首を横に振ることで誤魔化した。

さあ、早くこのロッカーを開けて、知らなければ。
もう既に、役目を終えているのだと、救うことで気付かせてやらなければ。


142 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:45:22 HNTARnqE0

ロッカーは1番から6番まであり、入り口側から
6,5,4,3,2,1…と、壁にぴたりと背をつけて並んでいる。

試しに思い切り、取っ手を引っ張ってみるが
ビコーズの言うとおり、鍵穴も無いのに、本当にびくともしない。

唯一、抵抗も無く開けられたのは、1番のロッカーのみだ。
しかし、このロッカーの中は空で、何も無い。
開いても意味の無いロッカーなのだ。

(;∵)「そう、そこのロッカーだけなんだよ
    何も無く開けられるのは…」

(;^ω^)「なんでこのロッカーだけ…?」

ビコーズの言葉に頷いた僕は「1番のロッカーに、何かあるかもしれない」と
中を隈なく探してみたが、ぽかりと大きな空洞になっているだけで
このロッカーの謎解きに関する情報は、特に何も見当たらなかった。

何故、このロッカーだけ、何もしなくても開くのか?
2番から6番のロッカーは、どうすれば開けられるのだろう…。

( ^ω^)「…」

…こういうときは、逆に考えてみよう。

『発想の逆転』というものだ。


143 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:46:05 HNTARnqE0

どうして、このロッカーは全て、閉じられた状態なのだろう?

配電室のドアのような機能は、ついていない。
ついていれば、鍵の何処かに必ず、解除用のパネルがあるはずだからだ。

遠距離からロックを操作するまでの、技術の発展はまだ
僕の世代から見ても無いと思われる。
鍵穴も無いのであれば、鍵の開閉で解決も出来ない。

…もともと開かないのか、開かなくなったのか、どちらだろう?

通常ならばともかく、こうして急いでいるときや、焦っているときぐらい
何処かしら、開けっ放しになっていてもおかしくはないのだが…
このロッカー、そういった形跡も無いのだ。
ではやはり…もともと開かないのだろうか?

ものは試しだ、やってみようか?

( ^ω^)「…ここ、開けっ放しにして開けてみてもいいかお?」

(;∵)「あ、あぁ…」

とは言え、このロッカーは本来、船員達のもの、
部外者が勝手に開閉してはいけないので、ビコーズに許可を貰ってから
僕は1番のロッカーを開放させたまま…2番のロッカーの扉を、引っ張った。


144 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:46:46 HNTARnqE0


カチャン…


145 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:49:08 HNTARnqE0

(;^ω^)そ

(;∵)そ

…つい先程まで、びくともしなかったロッカーの扉が、開いた。
あまりに抵抗が無かったので、驚いた僕とビコーズはその場で、固まってしまった。

いともたやすく、2番のロッカーは、空っぽの中を見せてくれた。
「1番のロッカーを開けっ放しにする」という、単純な方法で。

…では、3番目のロッカーも開くだろうか?
疑問に思った僕が、3番のロッカーに手を伸ばすと

カチャン…

( ^ω^)「わぁお!」

(;∵)!?そ

抵抗も無く開いてしまった。
ということは…

( ^ω^)そ「もしかしてっ!」

この方法を使えば、他のロッカーも、開くかもしれない…!


146 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:50:01 HNTARnqE0

カチャン…


147 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:50:48 HNTARnqE0

(*^ω^)「おっお、予想通りだお!」

(*∵)「…おぉ、開いた!! 開いたぞ!!」

僕は後ろに退いて、歓喜してはしゃぐビコーズに、ロッカーの中を見せた。
最初に見ても良かったのだが、元々、開かずに困っていたのは僕ではない。
ビコーズが一番、このロッカーの中にあるメモを、拾いたかったはずなのだ。

…僕が見るのは、後でもいい。

(;^ω^)「しかし本当、この船、どうなってるんだお…?」

ロッカーの開け方一つで、こんなにも悩まなければならないとは…。
ビコーズがしげしげと見ている後ろで、僕はこの船の構造や仕掛けに
意図的な…不審なものを感じていた。

悪霊達の仕業なのか、それとも…?

僕の、そんな思考を切ったのは、ビコーズの声だった。


( ∵)「ふむふむ…1,6,8,9…
   ≪1689≫だ!
   これに合わせれば開くはずだ!」

配電室のロック解除の番号だ。
≪1689≫…ビコーズの言った数字を、頭の中で繰り返した僕は


(*∵)「ありがとう、助かったよ!」

(;^ω^)「あっ、ちょ、待ってお!
      僕も行くお!」


そう言って、部屋を飛び出した彼の後を追った。


148 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:51:41 HNTARnqE0



ガチャ




バタン



      ガチャ




      バタン


149 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:52:22 HNTARnqE0


 ・



 ・



 ・


150 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:53:16 HNTARnqE0

#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内二層 右舷連絡通路


151 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:54:15 HNTARnqE0

(;^ω^)「フゥ…ふぅ、ビコーズ速いお…!」

飛び出したビコーズを追うのに、さほどの距離では無いのだが
見失わないようにと、合わせて走っていたから、そのあまりの速さに
僕は途中で、転びそうになったりしていたのだ。

…先程、王の悪霊に背後を狙われながら、目にした配電室のドア。
その隣の、ロック解除のパネルの前に、ビコーズはいた。


(;∵)


しかし、先程の嬉々とした表情ではないのが、気になった。
まさか…あの4桁の数字が、違っていたのか?

(;∵)「…くそっ、どうして合わないんだ…!
    確かに、1689に回したぞ!」


(;^ω^)「…1,6,8,9…」


…思い当たることがあった僕は、ビコーズの手にあるメモを
横から覗き込んで、繰り返し繰り返し…考えた。

1,6,8,9…1689。

この4つの数字には、ある共通項がある。
数字に詳しい人でなくても、わかるものだ。


152 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:54:56 HNTARnqE0

この4つの数字はどれも「逆さに読める」のだ。
僕達がもし、逆さに読んでしまっていたのだとしたら、実際は…?


( ^ω^)「ビコーズ、1689じゃないお!」

(;∵)「え?」

( ^ω^)「僕にやらせてみてお!」

頭を抱えて悩んでいたビコーズに、どくように言って
僕は再び、パネルの前に来た。

パネルの数字は≪1689≫となっている。
ビコーズが設定したとおりのものだ。
それでも開かないのであれば、あのメモから考えられる数字は、これしかない。


カチリ、カチリ、カチリ、カチリ…

僕は、パネルの数字を≪6891≫に合わせた。


153 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:55:37 HNTARnqE0


カチャンッ


154 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:56:18 HNTARnqE0

(*∵)そ「おおお!!」

(*^ω^)「開いたお!」

ビコーズの顔に、再び希望が満ちた。
僕もつられて、顔が綻ぶのを感じる。

(*∵)「やっぱりあんた、凄いな!
    ありがとう!ありがとう!!」

(*^ω^)「いえいえ、お安い御用ですお。」


(*^ω^)つ⊂(∵*)


…握手を求められ、返した僕は、その手の感触が無いことに、寂しさを覚える。
否、感触は無くとも、温もりは確かにある…アストラルピースもそうだ。
彼らが元は人間であった、生きていた証だ…。

達成感を噛み締める間もなく、ビコーズは開いた扉へと駆け込んだ。
その後に続いて、僕も中へと入っていく。

ここが闇の中だと、忘れてしまいそうなくらい
僕の心は、希望に満ちていた。


155 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:57:14 HNTARnqE0

ガチャ



バタン


156 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:57:58 HNTARnqE0


#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内二層 配電室前通路


157 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:58:42 HNTARnqE0

(;^ω^)「…こんな真っ暗なところからも
      もう少しでおさらばだお。」

ビコーズを導き、配電室に入れるということで、高揚していた僕は
呑まれそうな暗さにもめげずに呟き、足を踏み出した。

暗い中、足を踏み外さないように気をつけながら
階段を上り続けた僕を、迎えてくれたのは、

( ^ω^)「電気のスイッチ!」

壁についていた、電気のスイッチだった。
電源を押してつけると、ぱちりと、きちんと明かりが点いた。

(*^ω^)=3「ふぅ…これでもう、襲われなくて済むお…」

ここならば、もう出ることはない…!
喜びに顔がにやけてしまうのを、僕は抑えられなかった。

いつ狙われるかわからない恐怖から、逃れられるという安堵は
死者だけでなく、生者にも救いを与えてくれるのだ…。


(*∵)

配電室前通路を見ると、ビコーズが倒れたパイプを直していた。
…あの扉、確か…設計図のとおりなら、1階の接続通路に…


158 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 17:59:37 HNTARnqE0

(  ω )「…!!」

僕は、気付いた。気付いて、もっと早くに救えなかったことを、後悔した。
鉄製の鍵を使って開けた、ゲストルームとは別の、反対側のドア…
開けたくても、何か引っかかっているようで開けられなかった、あのドアだ。

あのドアは、ここに、繋がっていたのだ。
パイプが倒れて塞がっていた…それをどけて、ビコーズは


( -.-)

,*・+゚.。+゚:*・*゚.:。゚・*:.+,*゚+;, . )

:*・+゚.。+゚:*・*゚.:。゚・*:.。....


満足そうな顔をして、アストラルピースを遺し、天に昇った…。


159 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:01:11 HNTARnqE0

( -ω-)

( ^ω^)「お勤め…ご苦労様ですお…」

最後まで諦めず、なんとか脱出しようとしたのだろう。
ロッカーの前で睨めっこして、番号を考えていたのもその為だ…。

ビコーズがどかしてくれたおかげで、一層と二層の行き来が容易になった。
彼の何気ない行動が、誰もが希望を見出せる、活路を切り拓いたのだ。

なら、僕はもう一つ…明かりを灯す為に、行動しなければ。
僕に、悲しんでいる暇は無い。ビコーズが与えてくれた活路を
進んで行かなければ…。


160 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:02:28 HNTARnqE0

明かりの灯る、配電室前通路。

接続通路に繋がるドアまで歩み寄り、パイプの傍に浮かんでいる

ビコーズの温もりが残る、アストラルピースを手に取った、瞬間。


((;゚ω゚)))(…こ、この寒気…!)


背筋に、幾度も感じてきた悪寒が走った。

馬鹿な…ここには、明かりが点いている!
光を嫌う奴らが、出てくることなど有り得ない…!


161 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:03:52 HNTARnqE0

寒気は増していくばかりだった。

冷や汗が、伝う。


(((;゚ω゚)))


幼い少女が僕を狙って、笑ったとき。

大人の女性が霊気を放ち、視界を妨げたとき。

感じていたものと、同じ…。


…ここは、明かりが点いているはず。

悪霊は光に近づけない、だから、王も例外ではない…!


言い聞かせて、おそるおそる振り向いた僕は、再び絶望と恐怖に、蝕まれた。

どうやら『赤い石』の所有者でもあった彼は…例外だったようだ。


162 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:04:35 HNTARnqE0



パリンッ

 パリンッ

  パリンッ

   パリンッ


163 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:06:01 HNTARnqE0


通路の照明が、物凄い勢いで割れた。


164 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:06:42 HNTARnqE0


(゚"∀'゚")ウゥゥゥ…


165 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:08:46 HNTARnqE0

…何が起きたのか、理解できないまま、僕の体は強く吸い寄せられた。
父と再会した、船員食堂と同様の現象だ。


(((;゚ω゚)))「っ―――!!!」


冷静を欠いた僕の喉からは、声にすらならない悲鳴しか出なかった。
咄嗟の判断もままならず、体は思い切り引き寄せられていく。

抵抗すれば、千切れてしまいそうだ…!


⊂(゚ω゚;)))==「――!!」    (゚"∀'゚")


無我夢中で、僕はドアノブを掴んだ。
開け放たれたその中へ、強引に身を滑らせて


166 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:09:30 HNTARnqE0



バタンッ


167 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:10:16 HNTARnqE0

⊂( ω ;)「ぐうっ…げほっげほっ…ひっ…」

…抵抗をもろに受け、投げ出された全身が痛みを訴えた。
息も絶え絶えに、僕はなんとか膝を曲げ、よろよろと立ち上がり
ドアの傍らにあるスイッチを押した。


ぱちん


光が灯ると同時に、脱力した体が、その場に崩れ落ちた。

(; ω )「し、照明…はぁ…割る、とか、
      はぁ…ふ、ふぅっ…!」

…動悸が胸に響いて痛く、息苦しさが治らない。
ここは光が灯っているが、あんなことがあっては
それも気休めに感じられてしまい、何かせずにはいられなかった。

先程のように照明を割られたら、電気を点けても何もならない。
なんとしてでも、明かりを取り戻さなければ…。

そんな焦燥に駆られた僕は、膝をついて四つん這いに進み
奥にあるはずのブレーカーを探した。

稼動しているブレーカーは、上部の蛍光ランプが点く仕組みのようだ。
…見上げた僕は、奥から二番目のブレーカーが動いていないことに気付いた。

(; ω )(こ、このレバーを上げれば、電力が復旧する…!)

確信した僕は、レバーに重心をかけ、一気に持ち上げた。


168 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:11:26 HNTARnqE0

ガッシャン ウィィィイン……


(; ω )「っはぁ……」


なんとか、なったようだ。


(; ω^)


(;^ω^)


精神的なものもあったのか、背を預けて深呼吸すると
先程までの動悸も、息苦しさも、すぅっと消えて無くなった。


(;-ω-)(また逃げられるかも、微妙だし…
     あれはさすがに、恐すぎたお…)

(;^ω^)「…外に出るの、今はちょっとやめとくお…」


…明かりの確保された世界で、呟いた僕は
そこで少し、休息を取ることにした。

未だ救われていない船員達を、救いたいのも山々だが
自分の体を労わってやらなければ、自分が精神的に疲労して
父にも会えないまま、死んでしまいそうだ…。


169 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:12:12 HNTARnqE0

 ・


 ・


 ・


170 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:13:25 HNTARnqE0

…人間、やはり適度な休息は必要だと、身をもって感じた。

配電室前通路に出た僕は、予想通り、あの暗闇の中で
待ち伏せされていた王に狙われてしまい、全速力で逃げながら
どうにかここへ辿り着いたのだった。

(;´ω`)「はぁ、王様は精力旺盛なようですお…」

あまり良い響きではない…ふざけて言いながら、僕は巡回係とすれ違い
軽く挨拶を交わして、船員室Bへと入っていった。


171 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:14:05 HNTARnqE0


ガチャ




バタン


172 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:14:52 HNTARnqE0


#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内二層 船員室B


173 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:18:18 HNTARnqE0

「…あぁ、くそっ…頭に入っていかないよ…」

(;^ω^)「…お…?」

電気を点けた僕は、中から聞こえてきた独り言に
苛立ちの様子を感じ取って、話しかけることを躊躇った。

(;^ω^)「あの人…見習い、だおね…?」

少し歩み寄ってみると、若い男性が、ベッドの上に腰掛けて
なにやら書類を見て、頭を悩ませていた。

(;-_-)
  つ□と

どうやら、暗記したいようで、書面を見ては目を閉じて
その内容を必死に復唱している。

ああ…なるほど、先程の独り言は、その内容が頭に入らなくて
それで苛立って出てきたものなのだ。

(;^ω^)「あのぅ」

  (;-_-) 「…〜で……と……」
    つ□と

駄目だ、完全に上の空で、こちらの話を聞く様子が無い。
これでは彼を救う為に、何をすればいいかもわからない。

いつかの、暗闇に怯えていた船員を思い出した。

彼は明かりが点いて天に昇ってくれたからいいが
こちらは明かりが点いても反応しない。

どうしたらいいものか…。


174 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:18:58 HNTARnqE0

( ^ω^)「…ん? 見習い…?」

…見習いといえば、ビコーズはこう言っていた。

「この時間ならもう、シャキンさんは
 ヒッキーと交替しているか…
 あいつ、大丈夫かな…まだ見習いだからな…」

…では、いま目の前にいる若い男が、見習いのヒッキーなのだろうか?

あの巡回係がシャキンという名前の男で、ビコーズの言葉が事実なら
本来ならば既に、巡回の係を交替しているはず。

…ヒッキーは見習いだから、書類の暗記に夢中で
交代に気付かなかったというわけか。

彼が暗記しようと、熱心に見ている、あの書類…。
そんなにも重要なことが、書かれているのだろうか?

何かで気を引けば、彼は気付いて、交替するだろうか?
その隙に、あの書類を読むことが出来れば…。

(;^ω^)(…なら、ちょっと申し訳ないけど
      こっちに気を向かせてもらうお。)

そんなときのための、悪知恵を働かせて、僕は部屋を見回した。
彼の気が向くようなものは、何かあるだろうか?


175 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:20:06 HNTARnqE0

…答えは、意外と近くにあった。
入り口傍の壁にかかっている、警報機だ。

( ^ω^)(あれを鳴らせばいけそうだおね。)

どうやら警報機は、特定の時間によって鳴るタイプらしい。
時計の針を、何時に回せば鳴るだろうと、くるくる調節しているうち


ジリリリリリリリリッ…


(;゚ω゚)そ「!?」

…音が、盛大に鳴り響いた。
どうやら、針を0時に合わすと鳴るようだ。

あまりの音に耳を塞いでいた僕だが、どうやらこの見習い…
ヒッキーにも、その音はうるさく感じたようだ。


(#-_-)「あぁもう! うるさいなぁっ…」ジリリリリリリリッ…


(;^ω^)(ごめんお、お借りするお…)

少し離れて、見ていた僕は、彼が書類をベッドに放り投げて
警報機を止めに行った隙を狙い、投げられた書類を拾い、物陰に隠れた。


176 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:20:57 HNTARnqE0

(;-_-)「…って、あれ、無い…?」

(;^ω^)(ごめんお、許してお…)

とても悪いことをしているような気分だ。
いや、本当にしているのだが…謝りながら、探す彼の様子を
じっと見守っていた僕は、彼が時計の針をじっと見つめていることに、注目した。

(;-_-)そ「あ、やばっ…もう交替の時間だ…!」

…気付いたようだ。慌てて服を正し、彼は飛び出した。


(^ω^ )「書類の内容は、気になるけど」

( ^ω^)「後で、じっくり読むかお…」

…交替の役目を終えた巡回係を、見届けるために
僕は書類を、元の位置にそっと戻して、ヒッキーの後を追った。


177 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:21:39 HNTARnqE0

#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内二層 船員室前通路


178 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:22:25 HNTARnqE0

…外に出てみると、何か騒がしい。

見ると、少し先の通路で、巡回係の…シャキンという男と
ヒッキーが、何か話しているようだ。

(;`・ω・´)「馬鹿者、心配かけて…!」

(;-_-)「すみません、無線が…」

( ^ω^)(無線?)

( ^ω^)(もしかして、さっきの書類…
      無線のことが書いてあったのかお!)

それは、確かに重大だ。
SOSを発信する為の無線が使えなくては
たとえ見習いでも、船の乗組員として失格だろう。

納得した僕は、もう一度、後で見せてもらおうと
二人の様子を、遠目に見守っていた。


179 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:23:05 HNTARnqE0

(;`・ω・´)「全く…まあいい。」

(*`・ω・´)「見ろ、明かりが点いたぞ。」

(*-_-)「あぁっ…本当だ、いつの間に明かりが…!」

(;^ω^)(船内室でちゃんと点けましたお…)

熱中すると、何も見えなくなってしまうのは人の性だ。
しかしそれにしては、少し周りが見えなさすぎるのではないか
この見習い君こと、ヒッキーという青年は…。

少し愚痴っぽく、心の中で呟きながら
僕は二人に歩み寄って、声をかけようと思ったが…

その必要は、もう無かったようだ。


180 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:23:46 HNTARnqE0

( `-ω-´)「…私は、先に休ませてもらうぞ…」

(*-_-)「はい…」


( `-ω-´)

,*・+゚.。+゚:*・*゚.:。゚・*:.+,*゚+;, `-ω-´)

:*・+゚.。+゚:*・*゚.:。゚・*:.。....


(*-_-)「…あぁ、良かった…」

(*-_-)「明かりが点いたから
     もう、何もでない…」

(*-_-)「…」


,*・+゚.。+゚:*・*゚.:。゚・*:.+,*゚+;, -_-)

:*・+゚.。+゚:*・*゚.:。゚・*:.。....


181 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:25:20 HNTARnqE0

…役目を終えた二人の船員が、天に昇った。
人の形跡が無い通路は、ひどく静かだ。

( -ω-)

( ^ω^)「…お疲れ様ですお…」

見届けて、二つのアストラルピースを手にとった僕は
付近の探索を開始した。

まずは、トイレ。船員は全員、男性であることを
想定して、造られているようだった。それ以外に見るところは、特に無い。

用を足したいわけでもないし、何より
ここのトイレは、明かりが点かないのだ。
何も無いのに、長居するような場所ではない。
シャワー室も同じだった。水は相変わらず、流れなかったが。

船員室のA、B共に、もう一度見て回ったが、こちらも
見習いが熱心に読んでいた書類以外は、特に何の成果も出なかった。


( ^ω^)「…無線ねえ…」

先程の、船員の書類だが、書いてあったのは
船内中央部にある、無線の使用方法だった。


182 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:26:00 HNTARnqE0

−船内無線使用上の注意−

船内の無線使用に際しては、
以下に記載する使用チャンネルを
厳守すること。


183 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:26:40 HNTARnqE0

(使用回線一覧)

AA00〜AA03:船舶用1

AA10〜AA23:船舶用2

AB00〜AB23:船舶用3

BA00〜BA03:船舶用4


BA11〜BA23:一般用1

BB00〜BB23:一般用2


184 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:27:20 HNTARnqE0

※なお、緊急の場合を除き、
 専用特殊回線(BA10)の
 使用は厳禁とする。


185 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:28:06 HNTARnqE0

これだけの番号を覚えるのに、見習いとは言え、訓練を受けた船員が
暗記するのに苦労していたものを、一般市民の僕に
いったい、どうやって理解しろというのか。

(;´ω`)「まさか、使ったりしないおね…」

…余計なことは、言わないほうが良さそうだ。
怪しい霊能者や謎かけが好きなデレに、理不尽な目に遭いそうだから。

そういえば、霊能者の方は最近、会っていないことを思い出した。
色々と衝撃的な出来事が多く、会いに行く余裕が無かったし
あんな別れ方をしたのだ、あまり行きたいとも思えなかったが
アストラルピースの使い道は、彼に渡すしか無い…。

(;^ω^)「…レリーフ見つけたら行くお」

…食堂内にレリーフがあったことに、触れてはいけない。

書類をケースにしまった僕は、内容に痛む頭を、こつんと軽く叩いて
まだよく見ていない、左舷連絡通路へと向かった。


186 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:28:53 HNTARnqE0

ガチャ



バタン


187 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:30:43 HNTARnqE0

右舷連絡通路は、既に配電室の隣を調べて
既に閉ざされた場所だとわかったので、あえて向かわなかった。

左舷連絡通路も、向きが右舷と逆なだけで、構造はほぼ一緒だった。
窓からは、あの深海の景色が見えた。明かりを点けたから、もう十分に浸れる。

∩(^ω^ )「…綺麗だお…」

暗闇の中、僕が怯えていた景色でもあった。
吸い込まれてしまいそうな青は、美しくも恐ろしい。

…普段、滅多に見られない風景だ。
窓側に寄って、ゆっくりと進み、僕はその青を、目に焼き付けていく。

( ^ω^)「…お?」

さりげなく目をやった先は、船内三層の機関室に繋がるドアだった。

機関室には、誰がいるのだろう。誰がいて、何をしているのだろう?
気になってドアに手をかけたが、鍵がかかっていて、開かなかった。

…後回しにしろということらしい。


188 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:31:29 HNTARnqE0

その隣のドアは『乗客用連絡通路』…ゲストルームに繋がる通路と
この二層を、繋いでいるようだ。なんとなくではあるが、何処と何処が
繋がっているのか、だいたいわかってきた。

( ^ω^)「…で、この先は機関士室…」

( ^ω^)

(;^ω^)「と、無線室…だおね…」

…自分の台詞が、今になって、首を絞めることになってしまったようだ。
機関士室の向かい側に配置されている、無線室。
もう、関係ないとは言えないだろう。

( ^ω^)「まあ…大急ぎと言うわけではないから
      暗記しなくてもいいかお…。」

見習いのヒッキーにはかわいそうだが、書類を見ながら正確に
操作することにしようと頷いて、僕は機関士用通路へのドアを開けた。


189 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:32:10 HNTARnqE0



ガチャ





バタン


190 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:32:53 HNTARnqE0

 ・


 ・


 ・


191 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:33:34 HNTARnqE0


#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内二層 機関士用通路


192 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:34:16 HNTARnqE0


…トントントン…


(;゚ω゚)そ「ふぉぅっ!?」

ドアを開けて、機関士用通路に出た瞬間、何かの音が聞こえてきた。
驚き、声を上げた僕にも構わず、音は鳴り続けた。

ツー…トントントン…トントンツー…ツートン…

一定の拍子で繰り返される、ツーとトンの機械音。
船乗りではない僕でもわかる。

( ^ω^)「モールス信号…!」

そう、発明者にちなんだ名前の、音による連絡手段だ。

ツーという長音と、トンという短音から成る符号は、国際規格として承認され
「言語が通じなくとも、共通の音で信号を送受信できる」と、世界各国で
非常に高い評価を得たのだ。

今でこそ「テレックス」なるデジタル通信が、発達しつつあるものの
未だその需要は高く、音を出せば誰もが「モールス信号だ」と認識出来る。
この船は、1913年で止まっている。だから、通信手段もモールス信号のままだ。

(;^ω^)「…でも、モールス符号なんて知らないお…」

音の正体が何であるかはわかったが、音が何を伝えているのかまでは
符号を知らない僕には、さっぱりわからなかった。

…何処が始まりで、何処が終わりなのだろう?

僕は、耳を澄ませて音を聞いた。


193 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:35:03 HNTARnqE0

…ツー…トントントン…トントンツー…ツートン…

…ツー…トントントン…トントンツー…ツートン…


( ^ω^)「…ツー…からが始まりかお?」

一定の拍子で刻まれる音は、確かに最初のツーを始まりに
トンを終わりにして、間を置いて繰り返している。

後は、符号さえわかればいいのだ、機関士に尋ねてみるのが
一番いい方法だろうが、誰か機関士室にいるだろうか…?
もしかしたら、その人が無線を発信しているのかもしれないのだ。

( ^ω^)「…ていうか電気点かないから
      迷ってないでさっさと行ったほうが良いおね…」

ブレーカーを戻した意味は、あったのだろうかというほど、電気のスイッチは
どこもかしこも故障していて、点いたのは、左右の連絡通路ぐらいだ。
そしてここも点かないというのだから、こっちはひやひやしてしまう…。

そう思いながら、僕は向かい側の、機関士室へと向かった。


194 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:36:01 HNTARnqE0


#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内二層 機関士室


195 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:36:41 HNTARnqE0

(((;= nωn))「こわいんだょぅ…こわいんだょぅ…」


(;^ω^)そ

機関士室に入った僕が、目にしたのは、ベッドで潜りながら
「こわい」とうわ言のように繰り返し、震えている機関士の姿だった。

…ということはつまり、無線を打っているのは、機関士ではない?
まさか、また王の悪霊の仕業だろうか?

( ^ω^)「あのぅ」

((((;= ω ))))そ「ひぃいいっ」

(;^ω^)つ「だ、大丈夫ですお!
       僕は何もしませんお!」

((((;= ω ))))「そそそう言って、みみ、みみんんなを
         ここ、殺していくんだょぅ!」

(;^ω^)つ「そんなことありませんお!
       僕は貴方を助けにきたんですおっ」

((((;= ω ))))「だだ、だったら、ああ、あの音を
         む、無線の音を、止めるんだょぅ!」

(;^ω^)「おぅふ…」


…どうやら無線の音は、この機関士でさえ知らない間に
ずっと発信し続けているようだ。

機関士は怯えるあまり、僕の言うことを、聞いてはくれない。
無線の音を止めるまでは、何を言っても駄目だろう。


196 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:37:23 HNTARnqE0

(;^ω^)「無線の音、なんて伝えてるか
      わかりますかお?」

質問しても、返ってはこないだろう。
とりあえず聞いてみた僕の予想とは、ちょっと違った答えだが
こんな一言を残して、機関士は完全に黙ってしまった。

(((;= ω ))「ししし、知らないょぅ!
       むむ、無線室に符号の、一覧表があ、あるから
       じ、自分で確認しろょぅ!!」

(;^ω^)「ぐっさりと突き刺さる言い方だけど
      情報提供ありがとうございますお…」

…無線室に表があると、それを教えてくれれば十分だ。
恐怖に余裕が無くなっているだけで、実は良い人なのかもしれない。

こうして思案している間も、ツーとトンの音は止まらない。
誰が、発信しているものなのだろう…悪霊でなければいいが。

( ^ω^)「…行ってみるかお、無線室…」

頷いて、僕は部屋を後にした。


197 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:38:53 HNTARnqE0

ガチャ




バタン


198 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:39:51 HNTARnqE0


#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内二層 無線室


199 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:40:53 HNTARnqE0

音が、止んだ。

(;^ω^)そ「なっ!?」

…部屋に入った僕は、打鍵を動かしていたその姿に、驚いた。


Σζ(゚、゚;ζ

向こうも、驚いたようで、動作が止まっている。


ζ(゚、゚;ζ

デレ=スカルチノフ…プールで、僕に二つの石の
伝承を教えて、導いてくれた、少年だった。


(;^ω^)
                 ζ(゚、゚;ζ

ζ( ー ;ζ==


(;^ω^)そ「あ、ちょ…待つお!!」

彼は、僕を見てすぐに、姿を消してしまった。
音が止んだことから、無線を打っていたのは彼だろう…。

意外な人物に、呆然と立ち尽くしていた僕は、我に返り
巨大な回線選択装置の前へ歩み寄った。


200 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:41:33 HNTARnqE0

…何故、デレはここにいたのだろう?
彼はいったい、誰に向けて、信号を送っていたのだろう?

悪戯をするような子には見えなかったから
けして、悪戯などではないだろうが…。

(;^ω^)「本っ当、謎かけが好きだおね…」

頭を掻いて、僕は回線選択装置を見ていった。

机二つ分の巨大なそれは、ツマミをそれぞれ、上下の
A〜B、0〜2に合わせて、あの書類の通りに使い分けていくようだ。
それから、横にある打鍵で、符号を打って発信する…と。

( ^ω^)「お…打鍵の隣に、何か書いてあるお…」

右端の、打鍵の隣に、横向きに書いてあるアルファベット。


(;゚ω゚)そ

…読んだ僕は、衝撃に胸が熱くなり、全身を震わせた。


201 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 18:42:20 HNTARnqE0

鍋落ちしますげへへ


202 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 19:24:59 HNTARnqE0

投下再開します


203 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 19:26:12 HNTARnqE0

≪TSUN≫

それは、僕が…もとい父が、ずっと、ずっと…
長年に渡って、捜し求めていた人の名前ではないか?

僕がここまで来ているのは、その人を捜すためでもあった。
父の過去を知り、スカルチノフ家との確執を見てきた僕が
ずっと気になっていた、あの列車の少女…。


                *(‘‘)*


(;゚ω゚)「≪ツン≫…?」

…ツン=スカルチノフ…父の過去で、アラマキの傍にいて
実の祖父であるアラマキから、人質にされながらも泣かずに
まだ若かった父を気遣い…『青い石』を、託された少女。
僕が持つ『青い石』と合わさるはずの、欠片を持っている少女…。

(;゚ω゚)「じゃあ、さっきの、無線は…」

弟のデレは、姉の名前を発信していたのだ。
送る相手など、アラマキでなければ誰でもいい。

誰か…誰でもいい、出来るなら、姉自信に…この信号の音を
拾って欲しい一心で、発信を繰り返していたのだ…。


204 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 19:26:54 HNTARnqE0

(  ω )

( ^ω^)「…やりますお。」

スーツケースから、書類を取り出して、僕は装置の前に立った。

デレが送りたかった音…それは、緊急時以外には
使用を禁じられている、特殊回線『BA10』で送るべきだ。
どうせ、他の回線で送ったところで、この異界には
ニュー速VIP号以外のあらゆる物は、何一つ存在しないのだから。


( ^ω^)「B…」

( ^ω^)「A…」

( ^ω^)「1…0…」

…これで、送る準備は整った。
後はこの打鍵で、符号を打ち、信号として発信するだけだ。

( ^ω^)「符号は…この壁の通りだおね。」

誰でも使えるように…ということだろう。
打鍵のすぐ横に、アルファベットに対応した
符号の一覧表が、でかでかと掲載されていた。


205 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 19:27:37 HNTARnqE0

 A ・−       M −−      Y −・−−

 B −・・・     N −・      Z −−・・

 C −・−・     O −−−     1 ・−−−−

 D −・・      P ・−−・    2 ・・−−−

 E ・        Q −−・−    3 ・・・−−

 F ・・−・     R ・−・     4 ・・・・−

 G −−・      S ・・・     5 ・・・・・

 H ・・・・     T −       6 −・・・・

 I ・・       U ・・−     7 −−・・・

 J ・−−−     V ・・・−    8 −−−・・

 K −・−      W ・−−     9 −−−−・

 L ・−・・     X −・・−    0 −−−−−


206 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 19:28:21 HNTARnqE0

( ^ω^)「≪TSUN≫…だから、抜き出すと…」

抜き出すと、こうなる。

− ・・・ ・・− −・

最初に、耳を澄ませて聞こえてきた音と、全く同じものだった。

( ^ω^)「やっぱり、あの音…
      デレだったんだおね…」

彼は誰かに、気付いて欲しかったのだろう。
その行動一つで、隣の機関士を怯えさせているということに
なんとも複雑な気分だったが…。

(;^ω^)「まあ、多分…音が止んだから
      大丈夫だと思うお…」

隣で恐がって潜っている機関士に、少しだけ同情を寄せながら
僕は抜き出して、メモに控えた符号を、打鍵で発信した。

( -ω-)「…」

どうか、届くようにと、祈りながら。


207 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 19:29:02 HNTARnqE0


…ツー… トン、トン、トン… トン、トン、ツー… ツー、トン…


208 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 19:33:37 HNTARnqE0

( -ω-)

( ^ω^)そ


(^ω^ )


目を開けた僕は、背後に人の気配を感じて、振り向いた。


ζ( − *ζ


消えたはずのデレが、そこに立っていた。


209 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 19:34:34 HNTARnqE0

ζ(゚−゚*ζ「姉さんは…ツン姉さんは、ずっと待ってた…」

( ^ω^)「…『青い石』の、所有者を…?」

ζ( − *ζ「…」

僕の問いかけに、デレは、肯定も否定もしなかった。
ただ、黙って何かを取り出して、僕に渡した。


( ^ω^)つ■⊂ζ(゚−゚*ζ


( ^ω^)「これは…?」

ζ( − *ζ「姉さんが、僕にくれたオルゴール…」

( ^ω^)「そんな大事なものを、どうして…」

ζ( − *ζ「大事なものだから。」

ζ(゚−゚*ζ「姉さんは…ここにはいないから…」

( ^ω^)「…!」

「姉さんは、ここにはいない」…デレの言葉は、僕にツンとデレのことを
教えてくれた、でぃさんが言っていたのと、同じものだった。

ツンは、ここにはいない…数ヶ月前に、行方不明になった。
それでも僕は、船の奥に行けば、彼女に会えるような気がしていた…。

彼女は…何処へ消えたというのか?
デレが、このオルゴールを渡した意味は…?


210 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 19:35:16 HNTARnqE0

――考えるよりも早く、僕はデレに、過去の世界へと飛ばされていった…。


211 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 19:36:12 HNTARnqE0

===MEMO===


212 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 19:37:10 HNTARnqE0


       彡⌒ミ
―チチジャ ( ´_ゝ`)

過去世界 1877年生まれ 36歳 男

・ニュー速VIP号の航海士。部下思いな人で、死の自覚も持たずに
 怯えながら仕事をする船員達が気になって、天に昇れずにいた。

・スカルチノフ家とも交流があったようだ。
 アニジャさんに渡された鍵で入った先に、彼はいた。
 
・船内二層に続く、配膳用のエレベーターを動かしてくれた。
 老朽からか霊の仕業か、二度と乗ることが出来なくなってしまった…。


―ロマネスク=スギウラ ( ФωФ)

過去世界 1879年生まれ 58歳 男

・僕の父であり、かつて『青い石』の所有者だった人。
 職業は画家で、シベリア市郊外の丘に一人、住んでいた。

・アラマキ=スカルチノフと『赤い石』共に、自分の両親を
 殺されたことから、長年に渡り、大きな確執があったようだ…。

・今の自分を嘆くと、僕が問う間もなく去ってしまった…。
 あの虚ろな呟き…父は『赤い石』に、惹かれてしまったのか…?


213 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 19:37:50 HNTARnqE0

―シャキン (`・ω・´)

過去世界 1866年生まれ 享年48歳 男

・船員の中では、リーダー格だったようだ。
 頼りになりそうな顔をしていた。

・巡回係として、船員室前を見回っていた。
 交替の時間が過ぎていることに、不安と苛立ちを募らせていた。

・見習いのヒッキーが、交替の時間までに来ないことを叱りながら
 悪霊が出なかったことに安心し、休むと言って、天に昇っていった…。


―ビコーズ ( ∵)

過去世界 1883年生まれ 享年30歳 男

・船員の一人。辛抱強い性格。
 最後まで、諦めずに行動していた。

・ロック解除の番号を捜そうと、開かないロッカーの前で
 立ち尽くしていた彼だが、僕が足し算の法則でロッカーを開けると
 喜び勇み、配電室のロック解除へ向かった。

・番号が合わずに焦っていたが、僕が合わせると、嬉しそうに
 奥に入っていった。彼は接続通路に繋がるドアにひっかかっていた
 パイプを直すと、満足そうに頷いて、天に昇っていった…。


214 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 19:38:32 HNTARnqE0

―ヒッキー ( -_-)

過去世界 1894年生まれ 享年19歳 男

・船員見習い。若さ故か、少し怒りっぽい。

・無線の回線一覧を、暗記しようとしていたようだ。
 頭に入らず苛立っていた彼の気を引くと、巡回の交替時間を
 思い出して、シャキンの待つ通路へ出て行った。

・シャキンに叱られるも、明かりが点いたことに喜び、悪霊が出ないことに
 安心した彼もまた、シャキンの後を追うように、天に昇っていった…。


−ィョゥ (=゚ω゚)ノ

過去世界 1880年生まれ 33歳 男

・機関士のようだが、暗い機関室のベッドで
 ひとりでに鳴っている無線の音に、ひどく怯えていた。

・怯えからか、あまり話を聞かせてはくれなかったが
 僕に、無線の符号一覧が無線室にあることを教えてくれた。

・音が止まれば、彼は救われるだろうか…?
 暗闇の怪奇現象に沸き起こる恐怖心は、僕にも痛いくらい分かる…。





215 : ◆noe7UUkd3A :2013/10/27(日) 19:43:12 HNTARnqE0

ここまで投下します。
読んでくださった方、ありがとうございます。

あと、総合スレでツンの綴りを教えてくださった方々
ありがとうございました。


216 : 名も無きAAのようです :2013/10/28(月) 00:53:00 32qsmiMgC
読み終わった、乙


217 : 名も無きAAのようです :2013/10/29(火) 00:49:13 SCwKTz7o0
おつー


218 : 名も無きAAのようです :2013/11/28(木) 14:47:42 3sZfX5J.0
まだ?


219 : 名も無きAAのようです :2013/11/28(木) 18:35:26 Ue7H/COIO
今まで読んでなかったけど、前スレから一気に全部読んできた。
面白いな、続きがすごく気になる

元ネタのゲームにも興味持ったけど、
こっちのネタバレになるような部分は見たくないから
完結後にまったりプレイ動画探しに行こうと思う


220 : 名も無きAAのようです :2013/12/04(水) 00:15:38 gT6X95SY0
はやくう


221 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/06(金) 08:39:56 /YBx1epUO
長らくあけて大変申し訳ございません。メリークリスマスの時期になってました。
書き溜めてた分を土曜日〜日曜日にかけて投下します。
待ってくださってた方すみません。ありがとうございます。


222 : 名も無きAAのようです :2013/12/06(金) 12:23:47 fx9pGoF60
待ってた


223 : 名も無きAAのようです :2013/12/06(金) 12:41:16 LXS30EZw0
おおお、楽しみにしてる!!


224 : 名も無きAAのようです :2013/12/06(金) 19:08:00 UgqauobE0
うおお明日が楽しみだ


225 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 21:27:00 vQvedg3U0

予告どおり、21:30に投下します。

長らくあけて申し訳ございません。
なかなか浮かばずに進まなかったので、書き溜めてました。
思ったより乙もらえて嬉しかったです。

>>219
原作に興味を持ってもらいたくて書いたので
そう言ってもらえて嬉しいです。作者冥利に尽きます。


226 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 21:30:52 vQvedg3U0

 ・


 ・


 ・


 ・


 ・


227 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 21:32:11 vQvedg3U0

薄暗い空の下、建ち並ぶ民家。

裏通りを辿った先にある、白亜の大聖堂。


ここは、神への忠誠を誓う場所。

懺悔する者が、神に許しを乞う場所。


228 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 21:32:52 vQvedg3U0

…あなたは私を、覚えていますか。

幼い私に、青く輝く宝石を、託したあなた。


あなたはいま、どこにいますか。

どこで、なにをしていますか。


お願い、神様。

どうか私を、あの人に、会わせてください。


列車の中で、私に石を託した、ロマネスク=スギウラに…。


229 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 21:33:33 vQvedg3U0


#過去世界 1912年 12月10日 ―大聖堂


230 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 21:34:22 vQvedg3U0




( -ω-)

( ^ω^)「おっ…?」

目を開けた僕が見たのは、石造りの白い壁と支柱…
金や赤、青など、美しい配色で神を描いた、ステンドグラスだった。

陽光が透けることによって、その模様は映し出されるのだと聞いたが
実際に目にすると、やはり違うものだ。
それら全ては神々しく、厳粛な空気を醸し出している。

…建造物からして、ここは何処かの聖堂だろう。
その遠く、他より数段ほど高い場所に、祭壇がある。

( ^ω^)「…」

亡霊を救った後の、船内と同様、ここも無音だ。
コツン、という革靴の音が、広い空間に大きく、響き渡った。


231 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 21:35:04 vQvedg3U0

僕が立っている、聖堂の入り口付近。
左右には、簡素な木製のドアが、一つずつ見える。

( ^ω^)「…多分、同じ場所に、繋がってると思うお。」

聖堂は、大概にしてそういうつくりになっている。
両側から入れるようにすることで
何人も平等に受け入れるという、神の意思を表したのだとか。

…嘘か真かは、知らないが。

( ^ω^)「…誰もいないのかお…?」

こんなにも大きな聖堂なのだ。
聖職者が、一人はいそうなのだが…。

( ^ω^)「今のうちに、行動しろってことかおね…」

聖堂のつくりを知らないから、ここが何処に繋がるかも
よくはわかっていない…用心したほうがいいかもしれない。

独り言ちた僕は、右手のドアへ向かい、歩を進めた。


232 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 21:35:45 vQvedg3U0

ガチャ




バタン


233 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 21:36:28 vQvedg3U0

(;^ω^)「おぉう」

…聖堂だから仕方ないとはいえ、目の前に壁があるという
狭苦しい空間に、僕は思わず、驚きの声を上げてしまった。

船内ではないとわかっていても、悪霊に狙われっぱなしの
僕には少々、心臓に悪い通路だ…。

( ^ω^)「階段…」

先に見える急勾配な階段から、二階に繋がっているようだ。
十段ほど上がると、またドアが見えた。

ドアノブを掴み、開けた先には…


( ^ω^)「オルガン…!」

銀色に輝く管が幾重にも並んでいる、大きなオルガン。
置かれていたオルガンは、年季を感じさせる、古めかしいものだ。
ところどころ、小さな煤が付着している。


234 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 21:37:11 vQvedg3U0

(*^ω^)「おぉ…」

教会や聖堂に据え置かれた実物を、こうして近くで見るのは、初めてだった。
それも、この大きさ…古びた感じから、長く使っているはずだ。

無数の銀管の並びを見上げてから、白黒の鍵盤
足元のペダルまで、じっくり、隅々を眺めてしまう。

(*^ω^)「素晴らしいお…」

…荘厳な聖堂に合う美しさに、深く感嘆の息を漏らした僕は
試しに、鍵盤のドの部分を、指で軽く押した。


(*^ω^)そ

…重厚な低音が、鍵盤を通して、パイプの一つから押し出された。

その音は、静謐を保つ聖堂内に、広く響き渡った。
教徒達の讃美歌を奏でる声が、今にも聞こえてきそうだ。

音の大きさに驚きながらも、一度は憧れたことを
実行できた僕の心に、少しだけ活力を与えてくれた。


( ^ω^)「…」

( ^ω^)「で、僕に何をしろと…?」

オルガンを弄ったことで、冷静になった僕の頭は
誰もいない聖堂内に、そんな疑問を呟かせた。


235 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 21:37:53 vQvedg3U0

デレは、このオルゴールを僕にくれた。
しかし…オルゴールは、デレが姉ツンから貰ったものだという。

( ^ω^)つ■「…。」

( ^ω^)「鳴らしてみるかお。」

横についていたゼンマイを巻き上げて、僕は
そのオルゴールを鳴らしてみた。


( ^ω^)つ■ √ ・ ・ ・ ・ ・ ♭・ ・ ・ ♪

( ^ω^)

(;^ω^)「…短っ!」


何の曲かと期待していたら、流れた音色は、僅か数秒ほど
それも、僕の知らない曲調で終わってしまった。

…木彫りの、綺麗な装飾にしては、些かもったいない気もする。

(;^ω^)「曲でも無いのに、いったい…?」

貰ったものを、僕という他人を経由して、姉に返す…。
そして僕はデレに、全く知らない、別の場所へ飛ばされた。

…というのは、どういうことなのだろう。
僕がここへ飛ばされたのは、姉のツンが、ここにいるからだとはわかる。

では、貰ったオルゴールを返すのは、既にデレが
死んでしまっているから、ということか?
数秒しか流れないこのオルゴールが、気に入らない…なんて
デレにしては意外なような…年相応のような、そんな理由なのだろうか?

それとも…?


236 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 21:38:35 vQvedg3U0

( ^ω^)


(^ω^ )


( ^ω^)



( ^ω^) ……


(^ω^ )


(;^ω^)


237 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 21:39:20 vQvedg3U0

…僕は、傍らのパイプオルガンと、オルゴールを
暫く交互に見比べていた。

姉ツンのオルゴールを、僕に託したデレ。
デレが飛ばしたここには、ツンがいるだろうという推測。
オルゴールにしては珍しい、僅か数秒の、曲にすらなっていない音。

何処に繋がっているのかと思ったら、双方ともに
大きなオルガンしか置いていない部屋…。

あまりに簡素な設備にしては、聖堂の規模が、大きすぎるのではないか。
祭壇とオルガンしかないのなら、もう少し簡素でもいい。

では…隠し部屋でも、あるというのだろうか。
そして、そこにはツンがいる…アラマキを警戒していた彼女だから
奴から何かされて、そんなところにいても、ありえなくは無い。

まさか、このオルゴールの音色が、その隠し部屋の鍵だとか…?


238 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 21:40:20 vQvedg3U0

(;´ω`)「…え、ええ…まさか…」

…デレは、ツンと会いたいと言う僕に、その曲を
ただ音感のみで弾いてみせろというのか。

音楽に詳しいわけでもない僕に、それを強制するというのか…。


(;´ω`)「うう…むああぁ…もう…」

(;^ω^)「やるしかないんだお!」

痛む頭を片手で押さえて、僕は再び、鳴り止んだオルゴールの
音を聞くために、ゼンマイを巻いた。


■  √ ・ ・ ・ ・ ・ ♭・ ・ ・ ♪


(;^ω^)「…(聞き取るには速いお…)
      えぇっと…?」

ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シの、どれで始まるのか…
学生時代に習った、音楽の教科書を思い出しながら
音階を口ずさみ、オルガンの鍵盤を叩いて、音を聞き比べていった。


239 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 21:41:03 vQvedg3U0

 ・



 ・



 ・


240 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 21:41:46 vQvedg3U0

…耳に胼胝が出来るほど、オルゴールの奏でる音を聞いて。
オルガンの鍵盤を叩いては、それと聞き比べて。

僕は漸く、どの音で始まり、どの音で終わるのかを知った。


( ^ω^)「レ・ミ・ファ・ラ・シ♭・ラ・ソ・ファ…だおね。」

(;^ω^)「これで何も無いとかだったら
      僕の気力が尽きて終わるお…。」

何か起きることを願いながら、オルゴールと同じ調子で
オルガンを弾いた僕の耳に、ゴリゴリと、何かが擦れるような音がした。

二階部分…僕の立っているこの室内で、何か変わった様子は無い。
この広い聖堂内で、他に何処か変わりそうな場所といえば…

( ^ω^)「祭壇…」

1階の、僕が着いたときに、遠くに見えた祭壇だろう。
あそこしか考えられない。

( ^ω^)「行ってみるお!」


241 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 21:42:35 vQvedg3U0

ステンドグラスを透かす、陽光が差し照らしている祭壇は
僕が見たときよりも、幾分か横に移動していた。
ぽっかりと開いたそこには、地下へ続く梯子が見える。

…ここに、ツン=スカルチノフは、いるのだろうか?

( ^ω^)「…」

父の寝室で、時計を動かしたあのときを、思い出した。

隠し部屋に繋がる地下で、僕は父の手記を見つけた。
誰も知らない、かつての父…過去の世界を、僕は見た。
それは体験した…否、今も尚、体験している、非日常の始まり。

彼女は、過去の人。
過去の人が、成長を遂げた姿もまた、過去のもの。
あれが無ければ…僕は、赤の他人なのだ。
アラマキもそうだが、運命というのは実に不思議なものだ。
出会うことの無かった者同士を、引き会わせる機会を与えている。

( ^ω^)「…ツン=スカルチノフ…
      この下に、いるんだおね…」

弟のデレが、オルゴールと共に飛ばした、過去の世界。
実姉であるツンのことを、初めて話してくれたデレが、飛ばしたのだ。
彼女はおそらく、この地下にいるのだろう。


242 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 21:43:15 vQvedg3U0

この地下で、彼女はどうしているのだろう?
父に託された『青い石』を、今も尚、持っているのだろうか?

アラマキと、幼い頃に不仲だった彼女のことだから
薄暗い闇の中に閉じ込められて、外からの助けを、求めているのだろうか?


…僕が生きている、現在。
彼女は、どうしているのだろう?


243 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 21:44:02 vQvedg3U0



( ^ω^)「いま、行きますお。」

地下へ続く梯子に、僕は足をかけて、穴の中に降りていった。


244 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 21:44:45 vQvedg3U0

カツン、カツン…

自分の、革靴の音を聞きながら、僕は地下へ降りていった。


( ^ω^)


ズズッ…ゴトン…


地上の入り口が、閉まる音がした。
聖堂にはもう、用は無いということだ。
ここは、過去の世界…必要以上の干渉は、出来ない。


245 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 21:46:05 vQvedg3U0

…暗くとも、悪霊に襲われる心配は無い…。
そう思っていた、矢先のこと。

階段は低く浅いが、下に降りていき
見えなくなるにつれて、その実態が明らかになる。


((;゚ω゚)))


地下ということだけあり、地上からの光が、完全に遮断されている。
船内ではないから、悪霊が出る恐れは無いが
僕は別の恐怖に、足を竦ませていた。


((;゚ω゚)))(ち、地上から、離れすぎだお…!)


光の差し込まない、暗い地下。
何処まで続いているかもわからぬ、螺旋階段。
その形状によって作られた、中央部の空洞…。
落下防止の柵など無い、目に見える落とし穴だ。


246 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 21:46:49 vQvedg3U0

手すりすらない階段に、何処まで降りるかわからない地下…。
一歩踏み外せば、奈落の底に突き落とされて、死ぬ。

((;゚ω゚)))(じょ、冗談じゃないお!)

こんなところで、足を滑らせて死ぬなどと言う
間抜けな死に方はしたくない…。

幸い、左手は壁だ。手すりも無いが、壁に寄って
背をつけるようにして歩けば、なんとか
落ちずに降りられそうだ。

カツン……カツン……

(((;´ω`))「ひぃい…」

あまりの恐さに、僕は情けなくも声を上げてしまう。

一歩、踏み間違えれば死に至る。
そんな緊張で、掌は汗まみれだ。

普段、したことの無い歩き方で、恐怖に竦んでいることもあり
歩く速度は、亀や牛よりも、ずっと遅い。


247 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 21:48:40 vQvedg3U0


―――ここから分岐―――


248 : ゲームオーバー ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 21:49:32 vQvedg3U0

底に滑り止めもない、革靴での慎重な移動は、厳しいものがある。
床はつるつるしており、今にも足を滑らせてしまいそうだ。
震える手を壁に、足を前に出していた僕の心は、焦り始めていた。

(; ω )「…じれったいお…」

未だ、先は見えず、段が終わる様子も無い。
このまま進んでいては、日が暮れるどころか、一日、二日と
夜が明けて…の、繰り返しになってしまうのではないか。

そんな焦燥と、募る苛立ちから、僕はついに歩を速めた。
誰かに追われているわけではないのに、気持ちが逸る。


早く、速く行きたい…この先がどうなっているのか
僕は知りたい…知りたい、知りたい、見たい、速く…!


249 : ゲームオーバー ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 21:50:19 vQvedg3U0



つるり


250 : ゲームオーバー ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 21:51:00 vQvedg3U0

( ゚ω゚)「アッー」

…なんて、声を上げる間もなかった。
焦るあまりに、階段から滑った、僕の体。

その重心は、柵も無い、暗い暗い、穴の中に傾いた。

片手に持っていたスーツケースは、手放した瞬間
重さで先に落ちてしまった。

ガシャン、という音が聞こえる。大破したのだ。
あれではオルゴールも無事ではすまない。
僕も、いまからあれと、同じ運命を辿るのだ…。

確実に迫り来る、死への恐怖。
高所から落ちていく感覚と、それによって起きた風。

全身で風の抵抗を受け止めながら、僕は、


251 : ゲームオーバー ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 21:51:43 vQvedg3U0


ドンッ


252 : ゲームオーバー ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 21:52:45 vQvedg3U0

 ・


 ・


 ・


 ・


 ・


253 : ゲームオーバー ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 21:53:29 vQvedg3U0

『まったく、どこ行っちまったんだか…』

 …何時まで経っても出てこない青年に、警官は愚痴を零した。

 寒空の下で、治安が不安定なこのご時勢、パトカーを野晒しにして
待ちぼうけしているとあれば、警官の怒りも至極、当然のものであった。

『第一、なんであんな老人の行方を
 追わなきゃいかんのだ…』

 変わり者の画家…画家であるかすらわからぬ、職業不明の老人を捜せなどと
上はよくも、厄介事を押し付けてくれたものだ。

 苦労の末に見つけた、息子である男は、そんな老人とは、似ても似つかぬ青年だった。
栗色の短い頭髪に、温厚そうな、ごく普通の顔立ち。本当に平凡な、一般人だ。
その様子から察するに、父や故郷を捨てて、都会へ出たわけでは、ないと思われた。

『…さすがに遅いな…まさか
 いなくなっちまったとかじゃあないよな…』

 青年は「父の行方に関する手がかりが、この狭い家の、何処かにあるかもしれない」
と、警官にそう言って、部屋の中に入っていったきり、何の音沙汰も無かった。


 これはまずい…警官としての勘が、部屋へ向かう足を駆けさせた。


254 : ゲームオーバー ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 21:54:13 vQvedg3U0

 崩れた瓦礫で、ところどころ塞がっている廊下を抜けた先。
止まった時計が、地下へ続いている通路を、針で指し示していた。

 何かある…そう思った警官は、地下の部屋に足を踏み入れた。

『!!』

 警官は驚き、後ずさった。

 端にある、愛らしい母子の、向かい合う胸像と、中央の絵画。
絵には、見覚えがあった。二十年ほど前に、世間を騒がせた、豪華客船だ。

 その前に、あの青年が倒れていた。何処かで強打したようだ、頭から血を流している。
さらに青年の手足は、歪な方向に曲がっていた。骨が折れているのだろう。
顔は苦悶に満ちており、この世に未練を残していることは、明白だった。

 死亡の原因は、おそらく高所からの落下によるものだ。
だが、そんな死に至る高所など、こんな狭苦しい、焼け落ちた家には無い…。

『なんてこった…』

 ロマネスク=スギウラの息子…大都市VIP在住の、ブーン=スギウラ、享年25歳。
あまりに短すぎる、青年の生涯は、原因不明の変死によって、幕を閉じた。


255 : ゲームオーバー ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 21:55:19 vQvedg3U0




256 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 21:56:00 vQvedg3U0



―――以下、何事も無かったように再開―――


257 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 21:57:55 vQvedg3U0

カツン………カツン………


(;^ω^)

一歩、一歩…慎重に、足を踏み出していく。
焦って滑ったり、転んだりしたらおしまいだ。
たとえどんなに急ぎたくても、駆け出したりしてはいけない。


カツン……カツン………

(; ω )

掌にはべったりと、背筋にはひやりとした汗が、沸き出ていた。

(; ω )「…いい加減、着いて欲しいお…」

…全身の神経を、爪先に、足元に、集中させて。
ぐるぐると、何処まで続いているかもわからない、螺旋階段を
ただひたすらに、降っていった。


258 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 21:58:40 vQvedg3U0


カツン………


259 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 21:59:40 vQvedg3U0

愚痴を零した僕の思いが届いたのか
ぐるぐると円を描いていた螺旋階段に、終わりが見えた。

(;^ω^)「見えてきたお…!」

壁を手すり代わりにしていた僕は、あと数段というところで
トントンと降りて、ふぅと、深く安堵の息を漏らした。

全身の神経を足に集中させ、慣れない歩き方をしていたせいか
地に着けてもぎこちなく、膝が震えている。

…こんな緊張、二度と味わいたくないものだ。

見上げた僕の正面には、一つのドアがあった。
深い穴の底…同じ材質の床は、そこが終着点であり
入り口以外は、行き止まりであることを、僕に告げていた。

では、この先に、ツンがいるのだろうか?
この先の隠し部屋で、ツンは待っているのだろうか…?


260 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:00:26 vQvedg3U0


( ^ω^)

( -ω-)

( ^ω^)「…行くお。」


頷いて、僕はドアノブを捻った。


261 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:01:09 vQvedg3U0


ガチャ




バタン


262 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:01:53 vQvedg3U0


#過去世界 1912年 12月10日 ―大聖堂・地下


263 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:02:35 vQvedg3U0

ドアを閉めて、数歩進んだ僕は、目の前の光景に、息を飲んだ。

そこは、部屋などではなかった。
天井まで伸びた頑強な鉄柵が、幾つも並び立つ、殺風景な部屋。
出入り口と思しき扉には、鍵がかけられ、行く手を阻んでいる…。

そう…まるで、罪人を閉じ込めておく『檻』のようだった。


( ゚ω゚)そ


その中に、彼女はいた。


||      ||
||ξ ⊿ )ξ||
||      ||


鉄柵から垣間見える、俯いた小顔と、巻かれた艶やかな金髪。
緑と白に統一されたドレスは、胸元がU字型に開いている。

…この女性が、ツン=スカルチノフ…。


264 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:03:58 vQvedg3U0

38年前…父が、列車の中で出会った、幼い女の子。
アラマキ=スカルチノフの孫娘、ツン=スカルチノフ。


*(‘‘)*


ξ ⊿ )ξ


僕が覗いた、過去の人…ツンは、美しい大人の女性に、成長していた。


(*゚ω゚)「…」

(*゚ω゚)「……」


ξ ⊿゚)ξ「…誰?」

(;^ω^)そ


少女の変貌に、見惚れ…もとい呆然としていた僕は
檻の中から、そう問いかけた彼女の声で、我に返った。

幼女のものから、大人のものに変わっていた声は
育ちのせいか、気丈で、しっかりとした響きを持っている。


265 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:04:53 vQvedg3U0

ξ゚⊿゚)ξ「何の用?」

(;^ω^)「お、えっと…」

強い声色に、きつい口調…どうやら僕は、警戒されているようだ。
無理は無い。息子である僕は、彼女にとっては知り得ない、赤の他人だから。

ξ゚⊿゚)ξ「…どうせ、お祖父様の命令で来たんでしょ。」

(;^ω^)「違うお、僕はそんな…」

ξ゚⊿゚)ξ「なに言ってるの、ここへ来ることが出来るのは
      限られた人間だけじゃない。」

ξ ⊿ )ξ「お祖父様か、その取り巻きの命令…
       それ以外の用で、ここへ来る人はいない…そうでしょ。」

(;^ω^)「…!」

ツンがいま、どんな状況下に置かれているのか…。
僕は、なんとなく想像が出来た。


266 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:05:36 vQvedg3U0

幼い頃から、自分の祖父を、あまり良く思っていなかったツンは
予想していたことではあったが…アラマキに、監禁されているのだ。

姉さんは、ここにはいない…。
デレが言っていたのは、こういうことだったのだ。
悪い意味で、アラマキから特別な扱いをされているツンは
実弟のデレと共にいることも、許されなかったのだ…。

『青い石』を託されたということもあって、よほど確執が深かったのだろう…。
それにしたって、年頃の女性が、こんな薄暗い地下に一人
孤独に監禁されているのは、あまりに不憫だ…。


ξ ⊿ )ξ「もう、どうでもいいわ…
       殺すんなら、早く殺せば…」


監禁生活が、長かったせいなのだろう…彼女は半ば、自棄になっていた。
物憂げな表情で俯き、小さく吐き捨てた言葉から感じるのは
全てに対する諦めの情だった。

地上の光も届かない、冷たく薄暗い地下に、長く閉じ込められれば
誰だってそうなる、僕だってきっと…。


267 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:06:28 vQvedg3U0

…僕は、檻の鍵を持っていない。
だから、彼女を地上に送ることは出来ない。

けれど…僅かな希望の光を、齎すことなら、出来る。


( ^ω^)「…ツン=スカルチノフさん。」

( ^ω^)「これ…覚えてますかお?」

彼女に歩み寄った僕は、デレから貰った、オルゴールのゼンマイを
巻き上げて、僅か数秒しか流れないメロディを、奏でさせた。


■  √ ・ ・ ・ ・ ・ ♭・ ・ ・ ♪


ξ ⊿ )ξそ

ξ゚⊿゚)ξ「…この音…!」


268 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:07:15 vQvedg3U0

はっと息を飲み、顔を上げた彼女は、僕とオルゴールを、交互に見つめていた。
最後に移した視線は…オルゴールではなく、僕に向けられている。


ξ;゚⊿゚)ξ「…どうして…そのオルゴールを?
       弟が渡したの?」

( ^ω^)

( -ω-)

( ^ω^)「そうですお。
      デレ=スカルチノフさん…あなたの弟から。」

ξ;゚⊿゚)ξ「弟を知っているの?
       あなたは、いったい…誰なの?」

(;^ω^)「…お…」

(; ω )「僕…は…」


269 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:07:56 vQvedg3U0

…その問いに僕は、戸惑い、躊躇った。

答えるのであれば、僕は…彼女の知るロマネスク=スギウラが
僕の父であることを…僕が、未来から来た人間であることを…
全てが、僕にとっては過去のことであると、話さなければいけない。

彼女から見て、僕は赤の他人だ。
いくら弟のデレに渡したオルゴールを、持っていたからと
そんな不思議な現象を、初対面の人間から話されて…信じてくれるだろうか?

それに…その真実を話すと、彼女を傷つけることにも、ならないだろうか。
父はいま、ここにはいない…『青い石』を託した父は、彼女が忌み嫌う
『赤い石』に、惹かれてしまったかもしれないのだ…。

しかし、名乗らなくても、出会わなければならなかったのだと
見ればわかるものを、僕は持っている。

『青い石』の片割れ…枠の部分と、嵌められた半分の欠片。
名乗ることは出来なくても、弟デレのオルゴールと合わせて
これを見れば、きっと彼女は信じてくれる。


270 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:09:12 vQvedg3U0

( -ω-)「…」


( ^ω^)つ∮


ξ;゚⊿゚)ξそ「!!!」


ξ;゚⊿゚)ξ「『青い石』…あの列車の…?」


驚くツンに、僕は、黙って頷いた。
でも、頷いた後、それ以上は…何も言わなかった。

父とこの人は知り合い、僕は赤の他人…。
彼女は過去の人、僕は現代に生きている…。

必要以上に干渉してはいけない。
だから、何も言わないほうがいい。

そう、思ったからだ。


271 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:10:16 vQvedg3U0

ξ*゚⊿゚)ξ「やっと…やっと、会えた…」

『青い石』を持つ僕に、ツンは、警戒を解いたようだ。
彼女もまた『青い石』の所有者を、捜していたのだ。
そして、会うことを切に願っていた…。

ξ゚⊿゚)ξ「ねえ、あの人はどうしたの?
      私に石をくれた、あの人…」

(;^ω^)「お…」

ツンは本当に、何も知らないのだ。
ロマネスク=スギウラが、あの列車で別れた後、どうなったのか…。

こんなところに監禁される程、アラマキと確執があったのでは
それも無理は無いのだが…なんと答えたらいいものだろうか?

怪我、或いは病気だから、代理で来た…そんなことを聞けば
希望に満ちている、彼女の心は、不安でまた揺れてしまうだろう。

もしかしたら『赤い石』に、魅入られてしまったかもしれないなんて
或いは、彼女の知らぬ間に死んでしまったかもしれないなんて
もっと悲しませてしまうから、言えない…。

(  ω )(はっきりと、安否を言えないのはつらいお…)

父は生きているが、少なくとも無事ではない…。


272 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:11:14 vQvedg3U0

ξ-⊿-)ξ「…いいわ、あなたを信じます。」

( ^ω^)「…!」

ずっと、口を閉ざしている僕を、見かねたのか。
ツンはそう言って頷くと、

ξ゚ー゚)ξ「弟が簡単に、これを渡すわけ、ないもの。」

微笑み、オルゴールを受け取ってくれた。
その微笑は本当に綺麗で、先程の物憂げな表情は、嘘のように消えていた。

…デレとはよほど、仲の良い姉弟だったのだろう。
弟を信頼している様子が、言葉や態度から窺える。

デレもまた、姉ツンを信頼していたからこそ
二つの石のことを、知っていた…そして『青い石』の所有者を
遠く離れた姉と共に、待ち続けていた…。


273 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:12:01 vQvedg3U0

( ^ω^)(ありがとう、これで漸く…)

ξ ⊿ )ξ「でも…私はあなたに、謝らなくちゃいけない。」

(;^ω^)「お?」

僕が、心の中で、ここにはいないデレに向けて、礼を言っていたとき。
それを遮るように、再び表情を曇らせたツンが、俯いて。
ぽつりと、こう言葉を紡いだ。

ξ ⊿ )ξ「あの石の欠片は…お祖父様に…」

(;^ω^)そ「なっ…!!」

表情の翳りが、何を意味するのか…考える間もなかった。

『青い石』の欠片…僕が求めていた、ツンに会えれば一つになり
効力を発揮することが出来ると、希望を抱いて捜した『青い石』の
もう半身は既に、奴の…アラマキ=スカルチノフの手に、渡っていた…。

(;^ω^)(でも、良かったと、思わないといけないおね…)

『赤い石』を持つ、奴の手に渡っても、欠片だから効果は無いはずだ。
命を器に注ぎすぎた上、合わさったとなっては、もう何が起きるかわからない。
想像したくないくらい、恐ろしい出来事…それが未然に防げて、本当に良かった。


274 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:13:39 vQvedg3U0

(;^ω^)「だ、大丈夫…だお、なんとか、なるお。」

ξ ⊿ )ξ「…ありがとう…」

そんな言葉は、気休めにしかならないだろうが…今はとにかく
出会えたということを、喜ばなければならない。

僕が言ったことで、少しは気力を取り戻したのか
ツンは僕に、少しだけ語ってくれた。

ξ゚⊿゚)ξ「…色々と、調べたわ。あの二つの石のこと。」

ξ゚⊿゚)ξ「『赤い石』の力を消すために
      あの石が必要なんでしょ?」

( ^ω^)「お…お、そうですお。」

僕は、ツンが石の伝承を知っていたことに、驚いた。

「祖父を正気に戻す為のもの」と、そう認識はしているが
さすがに石のことは知らないだろうと、思っていたからだ。

彼女は彼女なりに、二つの石のことを、調べていたらしい。
こんな目に遭っても、そうして動いていたとは
なんと気丈な人なのだろう…。


275 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:15:13 vQvedg3U0

ξ゚⊿゚)ξ「…約束する。
      あのかけらは、必ず取り戻すわ。」

ξ゚⊿゚)ξ「私の命に代えても。」

(  ω )「…!」

胸に手を添えて、決意を秘めた眼差しを向けた、ツンの言葉…。
彼女の悲壮な覚悟は重く、多くの人々の死を、間近に見てきた僕の胸に
鋭い刃のように、痛く突き刺さった。

( ^ω^)「ツン…さん、そんなこと言っちゃ…だめだお。」

(  ω )「そんなこと言ったら、デレが悲しみますお…」

ξ゚⊿゚)ξ「…」

ξ ⊿ )ξ「…あまり長くいると、危険だわ。
       誰か、ここにくるかもしれない。」

…僕の言うことを、聞いてくれていたのか、否かはわからないが
ツンは首を横に振って、僕に、退室するように促した。


276 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:16:14 vQvedg3U0

(;^ω^)(そう言われても、帰れませんお…)

そう…帰る方法が、無いのだから。
なんと答えていいかわからず、立ち尽くす僕の目の前で
ツンは何故か、耳を弄っている。
よく見ると、何か外しているようだった。

…耳の装飾というと、イヤリングか。
じっと見守っている僕に、もう少し近付くようにと、彼女は手招きして寄せた。

ξ゚⊿゚)ξ「機会があったら、これを、弟に渡して…」

(;^ω^)「おっ…デレに、渡せばいいのかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「ええ…あの子、私のことを心配してくれていたから…
      私は大丈夫だからって言う、証に。」

( ^ω^)「…わかったお。」

ξ゚⊿゚)ξっψ⊂(^ω^ )

僕の掌に乗せられたそれは、黄金に輝く、半月形のイヤリングだった。
彼女が身に着けているものの、片方だ。
これを渡せば、デレは分かってくれるという。

…姉弟の絆は、予想以上に深いものだった。


277 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:18:14 vQvedg3U0

ξ゚⊿゚)ξ「…行く前に、聞いていなかったわね…。」

( ^ω^)「お…?」

ξ゚⊿゚)ξ「お願い。
      せめて、名前を…教えて。」

イヤリングをしまった僕に、ツンはそう問いかけてきた。
名前…そう、フルネームを名乗ってしまえば、彼女にはわかってしまう。
僕と、ロマネスク=スギウラとの関係が…親子だとはわからなくても
身内だというくらいは、察してしまうだろう。

だから、本当に、名前だけ。

( ^ω^)「ブーン、ですお。」

ξ-⊿-)ξ「…ブーン。ブーンね…。」

目を閉じては、何度か頷くを繰り返した彼女は
僕の名前を、覚えてくれているのだろう。

ならば、これも…約束してもらわなければいけない。

( ^ω^)「名乗ったからには、約束してくださいお。」

ξ゚⊿゚)ξ「必ず、石を取り戻す…でしょ?」

( ^ω^)「違いますお。」

彼女の問いに、僕は首を横に振った。

ξ゚⊿゚)ξ「…え?」

それが何か分からない…そう言いたげに首を傾げたツンに、僕は
イヤリングを握り締めて、こう言った。


278 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:19:12 vQvedg3U0

(  ω )「命に代えても、だなんて、言わないでください。」

( ^ω^)「けして…命に関わるような無理をしてでも
      あれを取り戻そうなんて、思わないでくださいお…」

ξ゚⊿゚)ξ「…!」


279 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:19:54 vQvedg3U0

…僕が出会った過去の人は、年齢問わず皆、死んでいた。
老若男女、幼い子供から老人まで、既に息絶えていた。

でも、この人や父、アラマキは違う。
まだ生きている…これから、救えるかもしれない人。

否、これから僕が、救いに行くのだ。
自ら、死にに行くような無茶を、させたくない。

イヤリングを握って言う僕に、彼女は黙って頷いた。
…僕との約束を、守るというサインだろう。
僕もそれに、頷いて返すと、彼女から離れた。

掌のイヤリングが、輝き始めたのだ。
おそらく、僕を…船内へと、戻す為に。


280 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:20:35 vQvedg3U0

ξ゚⊿゚)ξ「会いに行くわ、絶対に…。」


        (^ω^ )「会いに行くお、絶対に。」


281 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:21:35 vQvedg3U0

――互いに固く約束し合った瞬間、意識は遠くに吸い込まれていった…。


282 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:24:26 vQvedg3U0

 ・


 ・


 ・


 ・


 ・


283 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:25:06 vQvedg3U0

#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内二層 無線室


284 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:25:46 vQvedg3U0

…暗闇と、無音の世界に帰ってきた僕の意識は、掌の硬い感触で覚醒した。
ゆっくり開いた手には、半月形の…ツンのイヤリングが、乗っていた。


( ^ω^)つψ(…会って、帰ってきたんだお…)


あれは、夢じゃない…実感した僕の胸に、熱い何かが、湧き起こってくる。

彼女の望んだ「あの人」では無く、半身も奪われてしまった後だが
『青い石』を持つ者同士は漸く、会うことができたのだ。

(*^ω^)(ツン、綺麗だったお)

列車の中で俯いていた、何処か近寄り難い印象の幼女も
気丈な大人の女性として、美しく成長していた。
見知らぬ一人の人間が、子供から大人になるまでを、少しでも
覗き見ることが出来たのは、なかなか貴重な体験だ。


285 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:26:32 vQvedg3U0

ζ(゚ー゚*ζ「お帰りなさい。」

背にかけられた声に、振り向くと、デレがいた。
彼の口元には、微笑が湛えられている。

( ^ω^)ノ「お…ただいまだお。」

ζ(゚ー゚*ζ「…」

( ^ω^)「…」

  ,_
ζ(゚、゚*ζ

(;^ω^)「?」


怪訝な顔をするデレに、僕は疑問符を浮かべた。
ただ手を上げて、軽く挨拶しただけなのだが…。
何か、気を悪くするようなことを、しただろうか?

首を擡げて考え始めた僕に、デレが、ふうと、ため息を吐いた後
僕が、どうしてわからないのか…不思議そうにこう言った。


286 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:27:52 vQvedg3U0
   ,_
ζ(゚、゚*ζ「姉さんには、会えたの?」

( ^ω^)「あ…!」

どうやら、彼は僕の報告を、待っていたらしい。
それはそうだ、過去の世界へ飛ばし、ツンと引き合わせてくれたのは
おそらく彼女が、最も信頼を寄せていたと思われる、実弟のデレなのだから。

僕を見上げる顔には、半分、不安の色も浮かんでいた。
大丈夫…僕は、ツンと出会えた証を、持っている。

( ^ω^)つψ「会えたお、ツンに。
        君に、これを…渡すようにって。」

ζ(゚−゚;ζそ「それは、姉さんの、イヤリング…!」


( ^ω^)つψ⊂ζ(゚−゚;ζ


ζ(゚−゚;ζ「本当に、会えたんだ…」

(;^ω^)「いやいや!
      君が会わせてくれたんだお…!」

(;^ω^)「とても感謝してるお、ありがとうだお。」


デレは驚いていたようだが…まさか、僕を飛ばした過去に
ツンがいるという保障が、無かったということか?
結果、出会えたからいいものの、出会えなかったら
それは徒労に終わっていたわけで…。


287 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:30:28 vQvedg3U0

ζ(゚ー゚;ζ「会えたなら、良かったよ、うん。」

( ^ω^)「なにこの子こわい。」

…こわいといえば、ここで無線を打信して、隣の機関士を
怯えさせていたのも、デレだった…。

意外と、後先省みないタイプなのか。


ζ(゚−゚*ζ「…姉さんは、君と会った。」

(;^ω^)「…」

ζ( − *ζ「『青い石』を持つ、君と…」

(:^ω^)「……!」

少し間を置いたデレが、表情を無くして俯いた。
僕は、今更になって思い出す。

デレもまた、半透明の影…。
この船で、死んでしまった人なのだと。


288 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:31:23 vQvedg3U0

幼い少女の悪霊に、歯が立たなかったとき
少女の過去へと導き、救う方法を教えてくれた。

プールを照らす赤い月に、怯んだ僕を案内して
「深海魚の目」のこと、二つの石の伝承を、教えてくれた。

無線室で、ツンに打信していたのを見つけると
僕をツンのもとへ、導いてくれた。


デレ=スカルチノフ…僅か13歳で、命を落とした少年の
二十年以上も続いていた、未練は。


( ^ω^)「デレ…!」

彼は『青い石』の所有者と、姉ツンを会わせたかったのだ。
一族に広がる悲劇を、食い止めるため…姉の願いを、叶えるために。


289 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:32:05 vQvedg3U0

ζ(゚ー゚*ζ「姉さんは、君と会った…」

ζ( ー *ζ「これで、運命は変わるんだ…」

ζ( ー *ζ


.。.:*・゜・.+.*, ー *ζ

:*・+゚.。+゚:*・*゚.:。゚・*:.。.... ,


デレ=スカルチノフ。僕を導き、ツンと会わせてくれた人。
スカルチノフ家の末子で…ツンの弟。

姉ツンの、半月形のイヤリングを手に、優しい微笑を浮かべて
叶えられた願いに安堵しながら、彼は静かに、天に昇っていった…。


290 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:32:50 vQvedg3U0

(  ω )「ありがとう…」

( ^ω^)「本当に、ありがとうだお。」

( ^ω^)「君が助けてくれなかったら
      僕はここまで、辿り着けなかったお…。」

浮かぶ、デレのアストラルピースに向けて、僕はお礼を言った。
出来ることなら、もっと早くに言いたかった。

( ^ω^)「…」

そして、もう一つ…彼には、あえて告げなかったが
聡明で知識豊富な彼でも、勘違いしていることが、あった。


運命はまだ、変わるときではない。


291 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:33:55 vQvedg3U0

ツンの持っていた『青い石』の欠片は、アラマキに奪われた…。
彼女が取り戻すのが先か、僕が見つけるのが先か…とにかく
運命を変えるのは、僕自身の行動にかかっている。


( ^ω^)「必ず、変えてみせる。」

( ^ω^)「だからどうか、見守っていてお。」


アストラルピースを手に取り、デレのいた場所に歩み寄って
そこに落ちていた物を、僕は屈んで、拾った。

燃え滾る炎と、大樹が描かれた石版。
スカルチノフ家の部屋へ行くのに、必要な「森炎のプレート」だろう。

四つのうちの、三つ目のプレート。
あと、一つだ。

( ^ω^)「…」

(^ω^;)「でも、先に…」

向かい側の部屋で、音に怯えていた機関士を、救わなければならない。
音はもう聞こえない…だからゆっくり休んでくれと。
役目を終えたことを、伝えなければいけない。

誰もいない、無線室を、僕は後にした。


292 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:34:35 vQvedg3U0


ガチャ





バタン


293 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:35:16 vQvedg3U0

#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内二層 機関士室


294 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:36:02 vQvedg3U0

(=゚ω゚)ノ「…ほ、本当に止めてくれたんだょぅ!
     ありがとうだょぅ!」

(;^ω^)「あ、いえいえ…どういたしましてだお…。」

…この船の所有者である、一族の御子が鳴らしていたなんて
口が裂けても言えない…言ったとしても、名を貶めるとして、顰蹙ものだ。

ベッドから起き上がった機関士は、僕に礼を言うと、あくびをし始めた。
この部屋に来たときから、ベッドに寝転がっていたのは、仮眠中だったからか…。

(=-ω-)ゞ「ふぁーあ…音が出なくなったって聞いたら
      急に眠くなってきたんだょぅ…」

( ^ω^)「もう大丈夫ですお。
      だから、おやすみなさいですお。」

(=-ω-)ノ「ありがとうょぅ…いい人なんだょぅ…
     じゃあ……」

(=-ω-)「おやすみなんだょぅ…」


(=-ω-)


.。.:*・゜・.+.*, = ω )


:*・+゚.。+゚:*・*゚.:。゚・*:.。.... ,


295 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:36:45 vQvedg3U0

…無線室からの、モールス信号の音も。
機関士室の、怯えて震える音も、何も聞こえない。

音の無い世界…こうも寂しいものなのか。

(  ω )(みんな…死んでいる人なんだお…)

思えば思うほど…今更だが、胸の内にある孤独感が、増していった。
しかしその中には、使命に燃える己もいた。

平凡な日常から、非日常に飛びこんだ僕を支えるもの。
それは、死者の安らいだ顔であり、最期の言動や何気ない仕草。
この手の内にある幾つかの約束、運命と、勇敢に立ち向かった…若き父の姿。

( ^ω^)「…」

何度も、言い聞かせていた。
僕に、悲しんでいる暇は無いと。

僕は感傷に浸るほど、余裕のある旅はしていない。


( -ω-)

( ^ω^)「…あのドアの奥に、まだ入っていないお。」

簡素なベッドが並ぶだけの部屋だ、あまり期待してはいないが
何か、あるかもしれない。暫し黙祷して、僕は機関士室の奥のドアに入った。


296 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:37:31 vQvedg3U0

…何かあるかもしれないから、なんて思わないで
入らずに帰っていれば、良かっただろうか?


(;^ω^)「あちゃー…」


二段ベッドと洗面所、工具入れのある部屋の、最奥。
ちょうど、壁の中央辺りに、太陽のレリーフがあった。
「見つけたら行こう」と、自分で決めたことだが…行きたくない。

(;^ω^)「…7個…か…溜まってはいるんだお…」

アストラルピースは、7個…7人の魂を、見送ったということだ。
僕がそれだけ、多くの人と出会い、その人達の魂を眠らせ
救っていった…ということでも、ある。

(;^ω^)「しょうがない…行くかお。」

あんな別れ方をしたから、心配なのだが…
久しぶりに会う彼は、どんな顔で僕を出迎えるだろうか?


297 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:38:53 vQvedg3U0

――彗星の本を取り出した僕は、太陽のレリーフに導かれていった…。


298 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:39:36 vQvedg3U0











299 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:40:24 vQvedg3U0

(´・ω・`)「やあ、待っていたよ。」

( ^ω^)

(´・ω・`)

( ^ω^)

( ^ω^)「案外、普通でした」

(´・ω・`)「普通だよ…フフフフフ…」

(;^ω^)(存在自体、普通じゃないとか言えないけど)

…彼は、前と変わらず、同じように僕を迎えてくれた。
それどころか「会いたかった」のだろう、熱烈なアプローチまで受けた。


300 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:41:13 vQvedg3U0

(;^ω^)「あの、アストラルピース」

(*´・ω・`)「おお…素晴らしい数のアストラルピースだ…」

(;^ω^)「あの、恐い目でこちらを見つめないでくださいお。」

(;´・ω・`)「君が来てくれないから、こちらは大変だったんだ。
        所持しているアイテムも補足説明出来なかった。」

(;^ω^)「何の話だお!?」

(;´・ω・`)「アストラルピースを持っていなくてもいいから
        顔を出してくれないとね…
        まとめや資料付の外観解説になってしまったよ。」

(;^ω^)「だから、何の話なんだお!」

(´・ω・`)「それに、君…こういう交換の仕方は良くない。
       私の方も、たっぷり作っておいた聖水が
       溜まりに溜まって困っていたんだよ。」

( ^ω^)「作り溜め出来るのかよ」


あとは、聖水の効能だとか、由来だとか、成分だとか…。
よほど僕に「会いたかった」のだろう、全く分からない話に
思わず、待ったをかけて、彼を落ち着かせた。


301 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:41:53 vQvedg3U0

(;´ω`)「あぁ…僕の時間が…」

(´・ω・`)「現代人は忙しいね…」

(;´ω`)(ツッコむのも疲れたお…)

(´・ω・`)「…こうなりたくないのであれば
       もっとここに、通ってくれたまえ。」

(´-ω-`)「君を待っていたというのに…
       気付けば、物語の終盤じゃないか。」

(;^ω^)「…お?」


…ショボンの言葉に、僕の中で、何かが引っかかった。
正体不明の「霊能者」と名乗るこの男…『彗星の本』を通して
僕を見ていたという男は、物語の終盤だと言った。

僕がいる過去世界…日常から著しく離れた世界での時間は
もう終わりだということか…?


302 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:42:37 vQvedg3U0

(´・ω・`)「君も、気付いているんだろう?」

(´・ω・`)「船旅は、もうすぐで終わる…」

(´-ω-`)「船が、あるべき場所へ戻る時が、近付いているのだよ。」

( ^ω^)「…」


男の言葉に、表情が強張っていった。
船が、あるべき場所へ戻る…何処へ戻ると言うのだろう?

現実の、僕のいる時代の海原に?
或いは、その海底の奥深く?
それとも、また別の世界の…死者の世界か?
たとえば天国か、地獄か…?


303 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:43:21 vQvedg3U0

( -ω-)「…」

( ^ω^)「…また、来るお。」

(´・ω・`)「おや…もう帰るのかい。
       興味の無い話だったかな?」

男の意外そうな態度は、初めて見るものだ。
エレベーターに伸ばしかけた手を下ろし、振り向くと
眼鏡の奥…全盲のはずの目が、僕を珍しそうに凝視していた。


( ^ω^)「…誰に問わずとも、真実は自ずと見えてくる。」

( ^ω^)「捜し求めれば、必ず出るもの。」

( ^ω^)「だから、考えるよりも、問うよりも
      行動して、見つけてみせるお。」

(´ ω `)「…フフフフ…」

霊能者は、怪しく笑った。
捜せるものなら捜してみろ…そんな笑いだ。

それでいいと、僕は思えた。
その席で、怪しく笑っているのがお似合いだと。

デレのふっかけた謎も解いた、彼を救うことも出来た。
さらにはツンにも会えた。その道程で、僕は人を救っている。

どんな『運命』にも、僕は抗ってきている…。
そんな己自身の行動が、心に余裕を持たせた。


エレベーターのボタンに手を触れ、開いた箱に、僕は乗った。


304 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:44:01 vQvedg3U0

 ・


 ・


 ・


305 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:44:44 vQvedg3U0


#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内一層 調理室


306 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:45:32 vQvedg3U0

…船内二層に、父の姿は見当たらなかった。
あの船員食堂から、何処へ向かったのだろうか。

船員を救い、目的の一つ、ツンとの出会いを果たせた僕だが
父だけはどうしても、気にかかって仕方なかった。

他人にとっては、ただの変わり者…世捨て人かもしれないが
僕にとっては、生まれたときから傍にいた、唯一の肉親なのだ…。

( ^ω^)「今は…前進あるのみだお…」

言い聞かせた僕は、部下達を待っている、航海士に声をかけた。
彼もまた死者なのだ、早く安心させなければ。

( ^ω^)「こんにちはですお。」

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「ああ…あんたは…!」

( ^ω^)「そうですお。
      この下に降りて、約束、果たしましたお。」

 彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「なんだって!
      じゃ、じゃあ…あいつらは…」

( -ω-)

( ^ω^)「船内二層には、明かりがつきましたし
      彼らは、救われましたお。」

頷き、僕は航海士に、そう告げた。


 彡⌒ミ
( ;_ゝ;)「そうか…そうか…お前ら、やっと…
       やっと、逝ったんだな…」


航海士は、咽び泣いていた。
手で拭うことも無く、天井を見上げ
止まることのない涙を、流し続けていた。


307 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:46:19 vQvedg3U0

 彡⌒ミ
( ;_ゝ;)「ありがとう…部下を、眠らせてくれて…」

( ^ω^)「お…どういたしましてだお…」

…道中、流しすぎたのだろうか。
あまりに多くの死を見て、感覚が麻痺したのだろうか。
嗚咽が聞こえても、涙ながらに握手をされても
今の僕には、何の感情も沸かなかった。

いや、違うと思う…違うと思いたい。
数多の魂を見届けて、冷静になれただけなのだ。

その証拠に、胸の奥が、熱い。


 彡⌒ミ
(  _ゝ )「さあ、私も…もういくとしよう…」


 彡⌒ミ
( -_ゝ-)ゝ

         彡⌒ミ
.。.:*・゜・.+.*,   _ゝ )ゝ


:*・+゚.。+゚:*・*゚.:。゚・*:.。.... ,


(  ω )ゝ

死を自覚出来ない部下を案じ、眠らなかったこの人も、また
部下を見届けたとして、敬礼し、天に昇った。

…航海士らしい最期に、僕もまた、敬礼を返した。


308 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:46:59 vQvedg3U0

( ^ω^)「…お、これは…!」

…敬礼を解き、アストラルピースを手に取ろうとした僕は
航海士の立っていた場所に、またもプレートが落ちているのを、発見した。
魚の尾鰭が、葉っぱのような形に彫られている…「水葉のプレート」だ。


( ^ω^)

(;^ω^)「普通に、水面に浮かぶ葉っぱとかじゃ
      だめだったのかなぁ…」

大粒の水滴がついた葉っぱでも、良い気がするのだが…。
絵面のセンスに文句をつけても仕方ないので、とりあえずそれをしまった。

しかし…プレートの、最後の一つが、こうも早く手に入るとは、思わなかった。

「火鳥」「天魚」「森炎」「水葉」…
この四つが、スカルチノフ一族の部屋の鍵になっている。
そして、その最深部には、アラマキ=スカルチノフがいる…。


( ^ω^)

( -ω-)

( ^ω^)「…行くお。」

一人頷いて、僕は、調理室を後にした。


309 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:47:47 vQvedg3U0

ガチャ




バタン


310 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:48:32 vQvedg3U0

ミセ;゚−゚)リそ (;´_ゝ`)そ    (^ω^ ) 


…広い、招待客用の大食堂。
白いクロスのかかったテーブルの前に、立ち尽くしていた男女の影が
こちらの気配を察したのか、振り向き…驚いていた。

( ^ω^)「…アニジャさん、ミセリさん。」

彼らは、僕を待ちわびていたようだ。
唯一、部外者であり…この船を、救う為に動いている、僕を。

アニジャさんが、僕に駆け寄った。
ミセリさんも、それに続く。

(;´_ゝ`)「無事だったんだな…良かった…!」

ミセ;゚−゚)リ「心配でした、プレートを取りに行く途中で
      力尽きてしまったのではないかと…」

(*^ω^)「お、お、大丈夫ですお。
      このとおり…プレートも全て、集まりましたお。」

夫妻も死者だが、そうとは思えないほど、生者の僕を気遣ってくれる。
たとえそれが、自分達も救われる為のものだとしても、過去の時代で
孤独に動き回るしかない僕には、とても暖かいものだ。

二人を促し、近くのテーブルに、プレートを四つ並べた。
おお、と感嘆の声を上げたアニジャさんと、息を飲むミセリさん…。


311 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:49:20 vQvedg3U0

( ^ω^)「アニジャさん、ミセリさん。」


…彼らの未練を果たし、願いを叶える為。
僕は…二人を、真っ直ぐに見据えて、言った。


( ^ω^)「僕を、案内してください。
      スカルチノフ家への部屋へ。」

( ^ω^)「アラマキ=スカルチノフの、もとへ。」


…少しの、間があった。
間を置いて、やがて、夫妻は目を合わせて、頷いた。


312 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:50:14 vQvedg3U0

最初に、ミセリさんが、テーブルのプレートに、手を伸ばした。


ミセ*゚ー゚)リつ◇ ◇

手に取ったのは、アニジャさんが持っていた「火鳥」のプレート
もう一つ…アラマキ=スカルチノフが、墓地の地下で使っていた
「天魚のプレート」だ。


( ´_ゝ`)つ◇ ◇

アニジャさんも、続いて、プレートを手に取った。
僕を、最期まで導いてくれたデレが遺した「森炎のプレート」
そして、先程…航海士が遺していった「水葉のプレート」だ。


( ´_ゝ`)「君こそが、我らの望んだ人だ。」

( ´_ゝ`)「ついてきてくれ。」

プレートを持ち、僕の返事を待つことなく、アニジャさんは
階段室へのドアに、向かっていった。


313 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:50:58 vQvedg3U0

ミセ* ー )リ「あなたに託して、良かった…」

( ^ω^)「お…」

ミセ*゚ー゚)リ「なんて…感傷に浸るのは、後ね。」

ミセ*゚ー゚)リ「さあ、私とあの人に、ついてきて。」

( ^ω^)「…はい。」


この人たちも…最期のときが、近いのだろう。
そのときを、笑顔で、迎えさせなければ。

続いて出て行ったミセリさんの後を追い、僕もまた、その場を去った。

この大食堂に、来ることは、もう二度とないだろうと、思いながら。


314 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:51:46 vQvedg3U0

ガチャ





バタン


315 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:52:35 vQvedg3U0

#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内一層 階段室


316 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:53:31 vQvedg3U0

船内一層、階段室。
僕が当初、若い女性の悪霊に、手を焼いていた場所。

カラスの鳴き声で、悪霊の気を引き、全速力で駆け出して
二階のスイッチを入れたことは、記憶に新しいはずなのに
いまでは何故か、とても懐かしいように思えた。


( ^ω^)「…」

そのときに見かけた、大きな扉。
四つの窪みがある、重厚な造りのそれは財閥スカルチノフ一族の
寝室を繋ぐに相応しい威厳を、保っていた。

扉の前に、アニジャさんとミセリさんの二人が、立っていた。
彼らは、プレートを…嵌めていなかった。
窪みの前で、手に持ち、二人が僕を見つめていた。


317 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:54:11 vQvedg3U0

ミセ*゚ー゚)リ「さあ、このプレートを、上の窪みへ。」

声をかけたのは、ミセリさんだった。
彼女は、最初に手に取った「火鳥のプレート」と
「天魚のプレート」を、僕に渡した。


(;^ω^)「え、いいんですかお…?」

( ´_ゝ`)「扉は、あなた自身が開けるがいい。」

( ´_ゝ`)「私達夫婦は、手伝ったまでに過ぎない…。
      それに…」


(  _ゝ )「我々は、この部屋の奥までは、案内できない…。」


(  ω )「…!」


声を落とし、俯いたアニジャさんは…震えていた。
よほど悔しいのか、歯噛みしているのが、音でわかった。

そう、彼らもまた、死者なのだ。
未練を果たし、願いを叶え…務めを終えたら、旅立たなければならない。


318 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:55:42 vQvedg3U0

( ^ω^)「…わかりましたお。」

頷いて、僕はミセリさんから渡されたプレートを
二つの窪みに、嵌めていった。

ミセ*゚ー゚)リ「…」

ミセリさんは、優しい微笑を浮かべて、見守っていた。

( ^ω^)「アニジャさん…」

(  _ゝ )「…身内同士の争いに、巻き込んですまない…。」

( ´_ゝ`)「どうか、これを、残り二つの窪みへ。」

アニジャさんは僕に、はきはきとした声で言うと
「森炎のプレート」と「水葉のプレート」を、渡してくれた。

…重みが、掌に伝わる。

人々の思いが詰まった、プレート。

後の二つに…僕は、それを、嵌めこんだ。


319 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 22:56:53 vQvedg3U0


コト、ン……



カチャリ


320 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 23:03:57 vQvedg3U0

重厚な扉とは裏腹に、鳴った音は軽快な、鍵の外れる音。
これで、もう奥に行けるということなのだろう。

( ´_ゝ`)「…君が来てくれなければ…きっと
      どんな形であれ、我々は救われなかった…」

( ´_ゝ`)「船の者を代表して、礼を言おう。」

( ´_ゝ`)「ありがとう、ブーン君。」

( ^ω^)「アニジャさん…」

アニジャさんの目は…死者とは思えないほど
しっかりとした光を、湛えていた。

正反対に、人よりも濃かった影は次第に、色を失っていった。


ミセ*゚−゚)リ「あなた…」

( ´_ゝ`)「…先に行くよ、ミセリ。」

案じたミセリさんに、アニジャさんは片手で制して
もう一度、僕に向き直った。


321 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 23:04:51 vQvedg3U0

( ´_ゝ`)「スカルチノフ一族を代表し…」

( ´_ゝ`)「私は君と、この客船の、全ての人々に」

(  _ゝ )「謝らなければならない…」

( ;_ゝ;)「申し訳なかった…『赤い石』の暴走を
      我々は、止めることが出来なかった…」

( ;_ゝ;)「身内で争うばかりで、何の解決も出来ないまま…」

( ;_ゝ;)「…ブーン…異界の者よ、どうか、父を…この船を…」

(  _ゝ )「…頼む…我らのかわりに、救ってくれ…」


.。.:*・゜・.+.*,  _ゝ )

:*・+゚.。+゚:*・*゚.:。゚・*:.。.... ,


アニジャ=スカルチノフ…スカルチノフ一族の長子。
実父アラマキを制止しようとして、逆に命を奪われた
『赤い石』の犠牲者…務めを果たした彼も、漸く眠りについた。


322 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 23:05:35 vQvedg3U0

ミセ* ー )リ「いやね…男の人って…すぐに
       かっこつけちゃうんだもの…」

何も言えずに、俯いていた僕の横で、ミセリさんは
寂しそうに…ぽつりと、そう呟いた。
床に落とした視線が…赤い絨毯に広がった、小さな丸い染みを、見つけた。

ミセ*;ー;)リ

ああ…やはり、ミセリ夫人のものだった。
気丈に笑いながら、涙を流すミセリさんの姿が
どことなく、ツンと被った。


( ^ω^)「…ミセリさん…」

ミセ*つー;)リ「言っておくけど、わたしはもう
       50歳のおばさんですよ。」

(;^ω^)「お、お…そんな、変な気があるわけじゃ…」

ミセ*つー;)リ「フフ…冗談よ…」

…こんなときにでも、泣きながらでも
冗談を言えるミセリさんを、僕は心から尊敬した。


323 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 23:06:22 vQvedg3U0

ミセ*゚ー゚)リ「…私も、行かなくてはいけないわ。」

( ^ω^)「この船も…寂しくなりますお…」

涙を拭ったミセリさんが、いつものように微笑んで、言った。
多くの人々を、見送ったこの船には…もう、一族を除いて誰もいない。
本来は…船さえも、残っていないはずなのだから、そうでなくては…。


ミセ*゚−゚)リ「…ブーンさん。」

(;^ω^)「お、なんですかお…?」


…それまで笑っていたミセリさんが、突然、微笑を消した。
その様変わりに、僕はどきりとした。射抜くような視線は、鋭い。

ミセリさんは真剣な表情で、僕をじっと見据えていた。


ミセ*゚−゚)リ「あなたは、真っ直ぐで…優しい人。」

(;^ω^)「お、お…?」

ミセ*゚−゚)リ「正義感もあり、好奇心もある…平凡な人。」

褒めているのか、貶しているのか…僕の性格を
おそらく的確に分析していく、ミセリさんの意図。

読めないその先の台詞に…僕は、衝撃を受けた。


324 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 23:07:04 vQvedg3U0

ミセ*゚−゚)リ「あなたは…最も『赤い石』に、魅入られやすい人…」

(;^ω^)「…!!」


『赤い石』に、魅入られやすい人…? 僕が?

息を飲んだ僕は、絶句して、目の前の夫人を
ただ見つめることしか出来なかった。

ぞくりとした背筋に、冷や汗が伝う…。
掌は、掴んだズボンで拭っても、拭っても、汗ばんでいた。


(;^ω^)「い、いきなり、何を言い出すんですかお…?」

ミセ*゚−゚)リ「…私はあなたを見たときから、ずっと…
      それだけが、気になっていました…。」

(;^ω^)「ぼ、僕はそんな」

ミセ*゚−゚)リ「あの石は、人の命と代償に
      何でも願いを叶えます。」

ミセ*゚−゚)リ「たとえば…あなたの大切な人が
      不治の病に罹ったとして。」

ミセ*゚−゚)リ「いつ死を迎えてもおかしくない…
      そんなときに、あの『赤い石』が現れたら?」

ミセ*゚−゚)リ「見知らぬ他人の命を奪うだけで
      願いが叶い、病が治ると言われたら?」


(;^ω^)そ

(; ω )「…!」


325 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 23:07:54 vQvedg3U0

…ミセリさんの言いたいことが、漸く理解出来た。
そしてそれは、十分に有り得た。

「自分にとって、本当に大切な人が
 『赤い石』を使うことで、救われるのだとしたら」

そう、そんな理由なら、僕は『赤い石』に、魅入られるかもしれない…。
だから僕は、ミセリさんの問いを、否定出来なかった。

どんな理由であれ、父が『赤い石』に魅せられかけているのだ。
対極の『青い石』を持ち、強い心で立ち向かった、父が…。

『青い石』の所有者と自負し、有り得ないと、思い続けていたこと。
孤独に歩み続けた故に、誰からも指摘されなかったこと。
ミセリさんは、それを…真っ向から、僕に突きつけてくれたのだ。


ミセ*゚−゚)リ「…私はあなたに、ひどいことを
      尋ねてしまいましたね…」

ミセ*゚−゚)リ「恐ろしいことを言って…ごめんなさい。」

ミセ*゚−゚)リ「でも、あの石に触れたら…どんな賢者も
      一瞬にして愚者になります。」

ミセ*゚−゚)リ「だから…」

(;^ω^)「…石の力を侮るなって
      脅してくれたんですおね。
      ありがとうございますお…。」

ミセ;゚ー゚)リ「せめて、釘を刺したと言って頂戴…。」


…内心、ひやひやしていたのだが、つまり彼女は
「たかが石と舐めてかかるな」と…どんな誘惑にも耐えろと
自信に溢れた僕の慢心を、戒めてくれたのだ。


326 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 23:08:34 vQvedg3U0

ミセ*゚ー゚)リ「じゃあ…私もそろそろ、行こうかしら…。」

( ^ω^)「お…」

…どうやら彼女も、そのときが来たようだ。
アニジャさんに同じく、一際、濃かった影の色が
薄れて、消えかけている…。

( ^ω^)「ありがとうございますお、ミセリさん…」

ミセ*゚ー゚)リ「どういたしまして。」

ミセ*゚ー゚)リ「くれぐれも、気をつけて。
      この先には…光が無いわ…。」

(;^ω^)「え…またですかお…」

ミセ*゚ー゚)リ「電気のスイッチがね…動かないのよ…」

ミセ* ー )リ「でも、きっと…あなたなら…」


ミセ* ー )リ「…ありがとう…ブーン…」


ミセ* ー )リ


.。.:*・゜・.+.*,  ー )リ

:*・+゚.。+゚:*・*゚.:。゚・*:.。.... ,


僕に忠告してくれたミセリさんも、柔らかく微笑みながら
アニジャさんのところに、昇っていった…。


327 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 23:09:20 vQvedg3U0

===MEMO===


328 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 23:10:04 vQvedg3U0


       彡⌒ミ
―チチジャ ( ´_ゝ`)

過去世界 1877年生まれ 享年36歳 男

・ニュー速VIP号の航海士。部下思いな人で、死の自覚も持たずに
 怯えながら仕事をする船員達が気になって、天に昇れずにいた。

・スカルチノフ家とも交流があったようだ。
 アニジャさんに渡された鍵で入った先に、彼はいた。
 
・船内二層に続くエレベーターの前で、僕を待っていた。
 残っていた船員が、既に天に昇ったことを知ると
 軍隊式の敬礼をして、船員達の後へ続くように、天に昇った…。


―ロマネスク=スギウラ ( ФωФ)

過去世界 1879年生まれ 58歳 男

・僕の父であり、かつて『青い石』の所有者だった人。
 職業は画家で、シベリア市郊外の丘に一人、住んでいた。

・アラマキ=スカルチノフと『赤い石』共に、自分の両親を
 殺されたことから、長年に渡り、大きな確執があったようだ…。

・今の自分を嘆くと、僕が問う間もなく去ってしまった…。
 あの虚ろな呟き…父は『赤い石』に、惹かれてしまったのか…?


329 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 23:10:45 vQvedg3U0

―シャキン (`・ω・´)

過去世界 1866年生まれ 享年48歳 男

・船員の中では、リーダー格だったようだ。
 頼りになりそうな顔をしていた。

・巡回係として、船員室前を見回っていた。
 交替の時間が過ぎていることに、不安と苛立ちを募らせていた。

・見習いのヒッキーが、交替の時間までに来ないことを叱りながら
 悪霊が出なかったことに安心し、休むと言って、天に昇っていった…。


―ビコーズ ( ∵)

過去世界 1883年生まれ 享年30歳 男

・船員の一人。辛抱強い性格。
 最後まで、諦めずに行動していた。

・ロック解除の番号を捜そうと、開かないロッカーの前で
 立ち尽くしていた彼だが、僕が足し算の法則でロッカーを開けると
 喜び勇み、配電室のロック解除へ向かった。

・番号が合わずに焦っていたが、僕が合わせると、嬉しそうに
 奥に入っていった。彼は接続通路に繋がるドアにひっかかっていた
 パイプを直すと、満足そうに頷いて、天に昇っていった…。


330 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 23:11:44 vQvedg3U0

―ヒッキー ( -_-)

過去世界 1894年生まれ 享年19歳 男

・船員見習い。若さ故か、少し怒りっぽい。

・無線の回線一覧を、暗記しようとしていたようだ。
 頭に入らず苛立っていた彼の気を引くと、巡回の交替時間を
 思い出して、シャキンの待つ通路へ出て行った。

・シャキンに叱られるも、明かりが点いたことに喜び、悪霊が出ないことに
 安心した彼もまた、シャキンの後を追うように、天に昇っていった…。


―ィョゥ (=゚ω゚)ノ

過去世界 1880年生まれ 享年33歳 男

・機関士のようだが、暗い機関室のベッドで
 ひとりでに鳴っている無線の音に、ひどく怯えていた。

・怯えからか、あまり話を聞かせてはくれなかったが
 僕に、無線の符号一覧が無線室にあることを教えてくれた。

・無線室で、音を鳴らしていたのはデレだった。
 発信音がなくなったのを知ると、あくびをして、静かに眠った…。


331 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 23:12:49 vQvedg3U0

―デレ=スカルチノフ ζ(゚ー゚*ζ

過去世界 1900年生まれ 享年13歳 男

・ツン=スカルチノフの弟。
 どことなく、幼い頃の、彼女の面影がある…。

・無線室で、彼はずっと、姉ツンに向けて、届かない信号を
 なりふり構わず、発信していたようだ。
 僕にオルゴールを渡し、ツンのいる過去へ、飛ばしてくれた。

・戻ってきた僕が、ツンのイヤリングを渡すと
 彼は安堵の息を漏らし「運命は変わるんだ」と言い残して
 嬉しそうに、天に昇っていった…。


―ツン=スカルチノフ ξ゚⊿゚)ξ

過去世界 1894年生まれ 18歳 女

・アラマキ=スカルチノフの孫娘で、デレ=スカルチノフの姉。
 でぃさんとつーさんとは、同年代のようだ。

・デレに導かれた大聖堂の地下で、彼女は監禁されていた。
 反発していた彼女は、アラマキに『青い石』の欠片を奪われて
 厳しい生活を強いられているようだ…。

・オルゴールを渡して『青い石』を見せると、警戒心を解いてくれた。
 鉄格子を挟みながら、僕達は「必ず会いに行く」と、約束した…。




332 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 23:13:41 vQvedg3U0

―アニジャ=スカルチノフ ( ´_ゝ`)

過去世界 1860年生まれ 享年53歳 男

・スカルチノフ家の長男。実父アラマキの功績を
 認めてはいたが、強引なやり方に批判的だった。

・『赤い石』とスカルチノフ家の系譜を教えてくれた。
 そんな彼も『赤い石』の犠牲者だが、それにしては冷静だ…。

・四つのプレートを手に入れると、一族の部屋へ案内してくれた。
 僕がプレートを嵌めこむと、涙ながらの謝罪を最期に
 船の命運を僕に託して、天に昇っていった…。


―ミセリ=スカルチノフ ミセ*゚ー゚)リ

過去世界 1863年生まれ 享年50歳 女

・アニジャ=スカルチノフの妻。アニジャさんに同じく
 アラマキのやり方には、疑問を感じていたらしい。

・船を救うと言った僕を、止めてくれた彼女も
 アニジャさんの言うことを信じて、僕を後押ししてくれた。

・プレートを嵌め込み、アニジャさんが天に昇った後
 『赤い石』に対する僕の慢心を見抜き、忠告してくれた。
 この先に光が無いことも教えてくれると、愛する夫の後を追った…。





333 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/07(土) 23:14:32 vQvedg3U0

今日はここまで投下。
お待たせしてすみませんでした。


334 : 名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 23:16:45 FjMLjQ8k0



335 : 名も無きAAのようです :2013/12/08(日) 00:26:34 qwAH2ZCU0
超乙
次回の投下は年内に来るかな?


336 : 名も無きAAのようです :2013/12/08(日) 09:16:15 UUzMZE9U0
おつおつ
デレが導き手だったぶん死者だってこと忘れてたよ…
次回も期待してます


337 : 名も無きAAのようです :2013/12/08(日) 12:06:41 zeDgnt.AO
乙。

相変わらず静かで引き込まれる空気だ


338 : 名も無きAAのようです :2013/12/08(日) 18:49:44 KVWe6PUk0
乙!


339 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 20:34:02 BCpcQKZ60

予告どおり、21:10に投下します。

>>335
なんか本当、長くあけて申し訳ありません。
本当に終わりのほうなので、年内には完結すると思います。


340 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 21:12:09 BCpcQKZ60



 ・


 ・


 ・


341 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 21:12:49 BCpcQKZ60

…僕は、革の手帳を捲った。
記していった、乗員の名前を、一人ずつ確認していく…。


( ^ω^)「…21人…」


二人の悪霊を含めると、23人…。
まだ出会っていない、まだ救えていない人もいる。
その数も加えると…もっと多くなる。

こんなにも多くの人々が『赤い石』と、アラマキ=スカルチノフという
老人が抱いた野望の、犠牲者となったのだ。

そこまでして…そんな多くの人々を犠牲にしてまで
アラマキ=スカルチノフはいったい、何を叶えたかったのだろうか?
一族の繁栄か、それとも…?


…この重い扉を開ければ、見えてくるだろう。
スカルチノフ家には、ツンとデレ…親類のでぃさんやつーさん達
含めて、アニジャさん夫妻の他に、どんな人がいたのかも。

その最深部には、アラマキ=スカルチノフも…。


( ^ω^)つ

扉を、開け放った。


342 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 21:13:31 BCpcQKZ60

ギィ……





バタン


343 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 21:14:13 BCpcQKZ60

#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内一層 家族部屋前通路


344 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 21:14:53 BCpcQKZ60

ひっそりと静まった、薄暗い通路。
小さな広間となっているそこは、電気が点かないせいか
何処か張り詰めた空気が漂っていた。

左右に二つずつあるドアは、各々の部屋だろう。
最奥にある、いやに大きなドア…その先に、アラマキがいるはず。

(;^ω^)(でも…)

赤い石に魅せられ、悲惨な最期を遂げた王。
僕はまだ、王をあるべき場所へ送っていない…。

最初に出会った少女や、若い女性のように
王はこの先で、僕を…生ける者を道連れにしようと
待ち構えているのではないか…?

( ^ω^)「…あの王様も、身分は違っても、同じ人間だお…。」

( ^ω^)「王様に、自分を取り戻してもらわないと、いけないお。」

しかし、何百年も前の、生きた時代すら違う人だ。
どうすれば、王は自分を取り戻すことが出来るだろうか?
赤い石に呪われた彼は、あるべき場所へと、帰ることが出来るだろうか?

…その為にも、スカルチノフ家の人に会い、話を聞かなければ。


345 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 21:15:34 BCpcQKZ60

( ^ω^)「と、決まれば、どこから行こうかお…」

( ^ω^)「…お?」

逸る気持ちを抑えて、ぐるりと、部屋を見渡した僕は
それぞれのドアの上部に、何か書いてあるのに注目した。

入り口向かって、右二つは「空」と「火」
左の二つには、「森」と「海」…。

( ^ω^)「…」

( ^ω^)


( ^ω^)そ「…おぉ!
       プレートの名前だお…!」

何処かで、聞いたことのあるような単語に
考えていた僕は、思い当たって感嘆の声を上げた。

ここと階段室を繋ぐ、扉の鍵となった、四つのプレート。
それらとこの部屋の名前は、共通していたのだ。
或いは、作るときに意識して名付けたか…。

繋がりに一人、納得しながら、ちょうど立っていた
「森」の部屋に、僕は足を踏み入れた。


346 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 21:16:17 BCpcQKZ60

ガチャ





バタン


347 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 21:16:58 BCpcQKZ60


#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内一層 家族部屋/森


348 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 21:17:40 BCpcQKZ60

(;^ω^)(暗すぎ!)

…ドアを開けて、部屋に踏み入れた僕は、室内を占める
あまりの暗さに一歩、後ずさってしまった。
いつもの悪寒は無いから、悪霊が出る心配は無さそうだが…。

警戒しながら、辺りを見渡していると、


「あぁ…」

(*゚ω゚)そ「ふぉっ!?」

色っぽい女性の声に飛び跳ね…否、驚いた。
僕が暗がりに歩を進めたその先、小さなテーブルの向かい側。
そこに、座って俯いている人。

( 、 トソン

暗がりの中でも分かる、半透明の影…声を発したのは彼女だ。
そして多分、この部屋の主でもあるのだろう、足を止めた僕に
俯いていた彼女は、顔を上げて声をかけてきた。


349 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 21:21:51 BCpcQKZ60

(゚、゚トソン「来ましたね…」

( ^ω^)「…!」

思ったよりも明るい声色で、彼女は僕にそう言った。
僕がここに来ることを、待っていたように。

( ^ω^)「あなたは…この部屋の人ですかお?」

(゚、゚トソン「そうです…私はトソン=スカルチノフ。
     アニジャ=スカルチノフの妹です。」

( ^ω^)「アニジャさんの…」

そうだ、ここはスカルチノフ一族の部屋だ。
彼の血縁者がいても、何らおかしくはない。
ということは…

(゚、゚トソン「ツンを、捜しているのでしょう?」

そう、やはり彼女も…二つの石の繋がりを、知っているのだ。
穏やかな口調で問いかけるトソンさんに、僕は答えた。


350 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 21:35:12 BCpcQKZ60

( ^ω^)「そうですお。
      僕は、ツンと約束したんですお。」

( ^ω^)「必ず、また会おうと。」

(-、-トソン「そう、あの子…あなたを待ってたのね…。」

(;^ω^)(意外とばれてるけど、大丈夫かお…?)

デレも、でぃさんも、所有者について触れてきた。

…推測ではあるが、ツンが『青い石』の所有者を待っていることは
スカルチノフ一族の、ツンを知る人なら皆、知っているように思えた。

アニジャさんやミセリさんも、あえて言わなかっただけで
もしかしたら、ツンのことを知っていたのかもしれない…。

意外と知られていた、ツンのこと…。
僕は、ツンの気丈な振る舞いを、思い出していた。

『会いに行くわ、絶対に…。』

冷酷なアラマキによる、絶対的な支配…『赤い石』の力を恐れる一族にとって
怯まず立ち向かう彼女は、一筋の、希望の光だったのだろう。
だからツンは、思春期で距離を置くはずの、弟のデレからも慕われ
数ヶ月も顔を合わせていなかったでぃさんも、彼女を忘れることがなかったのだ。


351 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 21:36:31 BCpcQKZ60

( ^ω^)(…四つのうちの部屋。
      その何処かに、君はいるのかお…?)


でぃさんと話したとき。デレが過去へ飛ばしてくれる前。
「ツンは船内にはいない」…数ヶ月前から行方不明だと言われた。

だが、いまはどうだろうか。
過去の世界で、僕はツンと関わった。
デレのオルゴールと、青い石を見せて、また会おうと約束した。

僕は、少なからず過去を変えてきた。
ならば…ツンの『現在』もまた、変わっているのではないか。
僕が過去を変えた彼女は、この船内にいるのではないか?

そう期待した僕は、トソンさんに問いかけた。
見出した淡い希望の光を、胸に抱いて。


( ^ω^)「ここに、スカルチノフ一族の部屋があると
      アニジャさん達に、案内してもらったんですお。」

( ^ω^)「トソンさん。
      ツンの部屋が何処か、教えてくださいお。」

(゚、゚トソン「ええ。でも…」

(;^ω^)「お…?」

頷きながらも言いよどむ彼女に、僕は、嫌な予感がした。
彼女は部屋を教えてくれることに、素直に頷いてくれているのだが…。

そう…こういうときの嫌な予感と言うのは、大概、当たるものなのだ。


352 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 21:37:33 BCpcQKZ60

(-、-トソン「…ツンの部屋は向かいよ。
     この『森』の部屋の向かい側。」

部屋の向かい側…確か『空』だったはず…。
思い描いた僕に、トソンさんは期待を壊す一言を、吐息と共に漏らした。

( 、 トソン「でも、入り方は…父しか知らないの。」

(; ω )「っ…(あのくそジジイッ…!)」

…心の中で、アラマキに向かって悪態を吐いた僕は
持った期待が外れたことに、嘆息した。

アラマキしか知らないということはつまり…

(;^ω^)「アラマキ=スカルチノフ…もしかして…
      中央の最奥部にいるんですかお…?」

(-、-;トソン「ええ…構造を見て分かるとおり…。
      父は、中央の部屋にいます…。
      でも会うのは、やめたほうが。」

(; ω )「…でも、ツンの部屋の開け方は…」

(-、-;トソン「……」


353 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 21:38:17 BCpcQKZ60

…アラマキ=スカルチノフに会わなければ、ツンには会えない。

僕の父と関わり『青い石』の欠片を持っていた。
奪ったところで『赤い石』に対抗しようとしている…。

あの、冷たく暗い地下牢に、閉じ込められていたことからも、分かるとおり
彼女とアラマキは、たとえ孫と祖父の関係でも、敵対しているようなものだ。
アラマキにとっては、当然の措置だろう…。

どうすれば、事を穏便に済ませられるか。
それを、トソンさんも考えてくれていたのだろう。


(゚、゚;トソン「待って…でも、オトジャなら、きっと…」


途方にくれていた僕の耳に、その一言が、はっきりと届いた。


354 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 21:39:18 BCpcQKZ60

(;^ω^)そ「オトジャって、誰のことですかお!」

(゚、゚;トソン「私の弟、オトジャ=スカルチノフ。
      オトジャなら、もしかしたら…。」

(;^ω^)「お、弟さん、ですかお…!」

トソンさんの弟…ということは、アニジャさんの弟でもある。
アニジャさん、トソンさん、オトジャさん…三人兄弟だったわけか。

(;^ω^)つ「…って、ちょっと待ってくださいお。
       オトジャさんなら知ってる、ということは…」

(゚、゚;トソン「ええ…そういうことです…。」

トソンさんから聞いて、違和感を覚えた僕は、すかさず
「待った」をかけて、トソンさんに問いかけた。

すると、頷いたトソンさんは僕に
彼らのことを、こう話してくれた。


355 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 21:40:16 BCpcQKZ60

(゚、゚;トソン「アニジャやツン達は、父の『赤い石』の力を恐れ
      父の強引な姿勢に、反対していました。」

(-、-;トソン「ですが、オトジャは…それでも父に従っていたのです。
      彼なりに、一族の繁栄を願っていたからでしょう…。」

( 、 ;トソン「私は…あの石に、恐ろしい力が
       秘められていることを、薄々気付いていました。」

( 、 ;トソン「でも、距離を置き…
       傍観者でいることしか、出来なかった…。」

(; ω )(兄弟同士で揉めあってたのかお…)

アニジャさん夫妻、ツンとデレの姉弟は、アラマキの強引な姿勢に反抗的だった。
反抗勢力はツンを除き…「死」という形で粛清されたのだ。
しかしその粛清は、彼らを含めた全員に降りかかった…。

なら、オトジャ=スカルチノフはどうだろうか?
アラマキの味方…とまではいかなかったとしても
利用価値のある片腕として、重用されていたのではないか?
だとしたら…


356 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 21:41:00 BCpcQKZ60

(;^ω^)「…オトジャさん…って
      協力してくれそうな人ですかお…?」

(-、-;トソン「最近の弟を見ると…とても、そうは思えないけれど…。」

(;^ω^)「…」

それはそうだろう、あんなジジイについていく人間なんて
トソンさんやアニジャさんには悪いが、よほどの下衆に違いない…。

と、心の中でひそかに思っている僕を横目に
トソンさんは、なにやら一枚の写真を取り出してきた。

⊂(゚、゚トソン「…弟は、情に弱い人なの。
      これを持って行って、弟に見せて。
      昔を思い出して、きっと…」

( ^ω^)「…!」

受け取った僕が写真を見ると、仲の良さそうな
幼い姉弟の笑顔が、そこに写っていた。

昔…まだ純粋で、仲の良かった頃…誰もが懐かしむ情景だ。
兄姉達と違う道を歩んだ彼は、そのときのことを
思い出してくれるだろうか?

( ^ω^)「…ありがとうございますお。」

(゚、゚トソン「……」

(-、-トソン「…」

( ^ω^)「…」


357 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 21:41:43 BCpcQKZ60


(;^ω^)(…って、あれ?)

今にも消え入りそうなトソンさん…影となった死者は
それでも消えることなく、未だにその場に座している。

僕はてっきり、彼女が弟を思って離れられなかったのだと
話を聞いて解釈していたのだが…どうやら違ったようだ。

急いている自分に頭を掻きつつ、僕は改めて問いかけた。


( ^ω^)「トソンさん…思い残したこと、あるんですおね?」

(゚、゚トソン「私のことでは、ありませんが…あります。」

意外にも、トソンさんはそう、はっきりと答えた。
こんなにもしっかりしてる女性が、ここで思い残したこと…。
いったい、なんだろうか?

( ^ω^)「なんでもいいですお。僕に出来ることなら。」

(-、-トソン「…」


358 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 21:42:38 BCpcQKZ60

…トソンさんは、逡巡しているようだった。
目を閉じて、規則正しい呼吸をしながらも、何か思い悩んでいるようだ。
出来ることなら、何でもいい…それは僕の本心だ。

でも、


(゚、゚トソン「…父を、解き放って欲しいのです。」

(;^ω^)「…アラマキを…」


『赤い石』の力に魅せられたアラマキを、解き放つ。
その答えはあまりにも、単純で…とても難しいものだった。

勿論、その為に踏み入れた場所ではあるのだが…。
そこに辿り着くには、もう少し、時間がかかる。
皆と同じように、すぐにでも解決して、なんてことは出来ない。

( ^ω^)「…時間が、かかるかもしれませんお。」

(-、-トソン「いいのです…それが
     私の、せめてもの償いだから…。」

( ^ω^)「償い…?」

反芻した僕に、トソンさんは深く息を吐いて、こう言った。


359 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 21:43:38 BCpcQKZ60

(-、-トソン「何も出来なかった…こうなる前に
     止められなかった私の、償いです。」

(  ω )「…!」

僕は、彼女のその言葉に、胸を衝かれた。
償い…罪を犯した人が、悔い改めて、善行を尽くすこと。

彼女は、何も悪くないというのに…。

(  ω )「…誰も、何も悪いことしてないですお。」

( ^ω^)「それは、アラマキだって同じですお。
      もう、どうにもならなかったんですお。」

( ^ω^)「だから、償いなんて言わずに
      そういうときは…」

(  ω )「…たった一人の、肉親だからって
      そう言う方が、気持ちが楽ですお。」


360 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 21:44:49 BCpcQKZ60

(-、-トソン「…」

(゚、゚トソン「…そう、ですね…。」

(゚ー゚トソン「お気遣い、ありがとう…。」

彼女を見ながら、僕は、最後に見た父を、思い出していた。

赤い石に、魅入られてしまったかもしれない父は…
いま、何処で何をしているのだろう?


(;^ω^)(って、進む前に考えててもしょうがないお…)


…ゆっくり考え事をしていても、先に進めない。
この船の皆を救う為にも、行動しなければ。

(゚、゚トソン「オトジャは、ここから斜め向かい…
     「空」の部屋の隣…「火」の部屋にいます。」

( ^ω^)「ありがとうございますお。」

教えてくれたトソンさんに頷いた僕は、写真を手にとって

( ^ω^)つ「…それじゃ、行ってきますお。」

軽く会釈をして、森の部屋を出た。


361 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 21:45:40 BCpcQKZ60


ガチャ





バタン


362 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 21:46:24 BCpcQKZ60

#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内一層 家族部屋/火


363 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 21:47:48 BCpcQKZ60

(;^ω^)「…」

トソンさんのいた「森」の部屋の、斜め向かい。
薄暗い、小さな広間を通って入った「火」の部屋。
棚に向かって立ち尽くす、その人の顔。

僕は、思わず、まじまじと眺めてしまった。


(´<_` )「…おい。」

(;^ω^)そ「すみませんお、怪しい人ではありませんので!」

(´<_`#)「…そう言う人間に限って
      挙動が不審で怪しいんだが?」

…そういえば、そうだった。
船長のフサギコさんと、船員のビコーズにも
そう言われたことを思い出した僕は、頭を掻き…
にっこりと笑って誤魔化した。

( ^ω^)+

(´<_` )


(´<_` )「…ペテン師の顔だな。」

(;^ω^)「ええぇ…」

…あまり評価は良くなかったようだ。
誤解は無くなったものの、警戒されていることに変わりはない。


364 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 21:48:38 BCpcQKZ60

(;^ω^)「す、すみませんお…知っている人に
      顔がよく似ていて…」

(´<_` )「あぁ、アニジャか…。
      愚兄に似ているとはよく言われるがな。」

愚兄…ということは…?
アニジャさんとよく似た顔の、この人が
「火」の部屋の主、オトジャ=スカルチノフか?

そう思って、問いかけた僕に、男は予想通りの答えと
痛烈な一言を返してきた。

(;^ω^)「…あ、あなたが…オトジャさんですかお?」

(´<_` )「そうだ、オトジャ=スカルチノフ。
      愚兄が世話になっている。」

(;^ω^)「お…いえ、そんな…」

(´<_` )「謙遜じゃない、ただの皮肉だ。
      あの正義感ぶった態度には正直、反吐が出る。」

(;^ω^)「……」

なんと反応していいかわからない僕を、知ってか知らずか
オトジャ…さんは、そう自分から言ってきた。

彼の言葉は、周囲の空気を張りつめさせるのに
十分な響きを持っていて…何より、その鋭い眼光は
緊張のほぐれた僕の体を、きつく強張らせた。


365 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 21:49:44 BCpcQKZ60

きわめつけに、この一言だ。

(´<_` )「あんたが、そうなのか?」

(´<_` )「青い石を持つ男…」

(;^ω^)「…!」


睨むように見られて、僕は全身に悪寒を感じた
悪霊に襲われたときとは違う…人の、負の感情によるものだ。

どうやら、僕とは言わずとも、一族の全員が
『青い石』の所有者を知っているらしい。

一族のある者は、協力しようと手を差し伸べて
ある者は石を狙おうと、牙を向けて待ち構えている…。

僕の立場は、想像以上に危ういようだ…。

(´<_` )「安心しろ。どうせ、俺は死んだ人間だ。」

(´<_` )「誰にも手出しできやしないさ…」

( ^ω^)(…自覚してるのかお…自分の死を…)

…身構えながらも、僕はオトジャの言動に
アニジャさんと、似たものを感じた。

彼らは自分の死を、自覚しているのだ。


366 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 21:51:03 BCpcQKZ60

(´<_` )「…アンタ、この家のこと、知ってるか。」

(;^ω^)「お…おっ?」

突然、違う話を振られた僕は、すぐには答えられずに口篭った。
この家…スカルチノフ家のことだろう。

今は、悪霊となって彷徨い続けている、ある国の王…。
その国の王から『赤い石』を奪った傭兵の家系。
アラマキが一代で築き上げた、スカルチノフ家…。


(;^ω^)「…お…お?」


…深く考えてみた僕は、そこに矛盾点があることに気がついた。

傭兵は、王から『赤い石』を奪った。
『赤い石』を奪った傭兵は、自らスカルチノフと名乗った。
彼は『赤い石』と『青い石』の、対と成る二つの石を持っていた。

スカルチノフ家はその後…その後、どうなったのだ?


367 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 21:52:19 BCpcQKZ60

(;^ω^)「…」

(´<_` )「…ほらな…正論を振りかざしている奴に限って
      肝心なところは何も見えちゃいないんだ。」

(;^ω^)「肝心なところ…って…」

(´<_` )「お前、親父の話を聞いてるだろう。」

(;^ω^)「…」

親父…アラマキ=スカルチノフのことだ。
スカルチノフ家を『赤い石』を使うことで、一代で財閥に…

( ^ω^)「…」

( ^ω^)


(; ω )そ「!!」

気付いてしまった。
僕が今まで気付けなかった、スカルチノフ家の矛盾点。

(´<_` )「…その様子だと、いま気付いたみたいだがな…」


( <_  )「親父の生まれた頃には…スカルチノフ家はもう
      没落寸前の家だったんだよ。」


368 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 21:53:27 BCpcQKZ60

…何故、今まで気付かなかったのだろう?
この二つの重大な矛盾点に。

≪デミタスという傭兵が『赤い石』で、スカルチノフ家を繁栄させていった≫

王を殺した傭兵…デミタス=スカルチノフは、僕が見たとき
『赤い石』と『青い石』の、両方を手にしていた。

しかし、現在はどうか。

≪アラマキが、スカルチノフ家を一代で、財閥に仕立て上げた≫

そう…二つの石のどちらも、何時か…何処かで一度、他人の手に渡っているのだ。
何百年の歴史を持つ、奇妙な力の石となれば、誰もが手にしたがる…。
たとえそうでなかったにしても、何らかのきっかけで
一度、二つの石は散り散りになっている。

そうでなければ、スカルチノフ家の現状や、アラマキという人物の
説明が、成り立たないのだ…。


369 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 21:54:35 BCpcQKZ60

(; ω )「…石を取り戻したのが…
      あなたのお父さん、なんですおね…」

(´<_` )「そうだ。あの石が無けりゃ、家はおしまいだった。」

( <_  )「石がどんな力持ってるか、なんて…わかってるがな。
      あれがなけりゃ、家は既に滅びている。」

( <_  )「だから、俺は親父のやることに手を貸してきた。
      どんなあくどいことでもな…!」

(; ω )「…」

…なんという、重大なことを知らなかったのだろう。
アラマキやこのオトジャとて、単純に、金儲けをしたいと
家を大きくしたいと、願っていたわけではなかったのだ。

「彼なりに、一族の繁栄を願っている」

トソンさんが言っていたのは、本当だったのだ…。


(; ω )「…でも…」

(;^ω^)「でも…!
      その裏で、どれほどの犠牲があったか…っ」

(´<_` )「そんなことぐらい、知ってるさ。
      言っただろう、俺は石の力を知ってると。」

(´<_` )「…いつから、そうなっちまったかは…知らないがな。」

( <_  )「だから、俺が思い残すことなんて…何も無い。」

もう、何も言うことなんてない…そう言いたげに
オトジャさんは、僕に背を向けて、何も無い棚に視線を落とした。


370 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 21:55:30 BCpcQKZ60

…こんな言い方、嘘に決まっている。
僕は、その背に…半透明の影に、ひどく物悲しさを覚えた。

彼はあくどいことに手を貸したと、自分で言った。
自分が悪いことをしていると、理解しているのだ。

そして…悪事に手を染めたことを、後悔している。
でなければ、こんな影になって、彷徨ったりしないだろう。
何らかの未練があるから、この世に留まっているのだ…。

そして、彼は…


( <_  )「…だって言うのに…なんで、こうなっちまうかな…」

( <_  )「なんで、俺は……ここにいるんだ……」


そんな己を気付けずにいる、もっとも、哀しい亡霊だった。


371 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 21:56:32 BCpcQKZ60

オトジャ=スカルチノフ…彼は、気付いていない。
自分の魂が、後悔に苛まれ、天に昇れずにいることを。
どうしたらそれに…気付かせることが、出来るだろうか?

何をすれば、その思いに気付いて、もう後悔はしないと
あるべき場所へと、戻ることが出来るだろうか?

(  ω )(写真…)

トソンさんから貰った、一枚の写真。
その中では、オトジャとトソンさんと思われる
姉弟が仲良く笑い合っている。

弟は、情に弱い人…トソンさんは、そう言っていた。
昔を思い出して、懐かしみながら…兄や姉達と同じ場所へ行くと
オトジャは言ってくれるだろうか?


372 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 21:58:31 BCpcQKZ60

( ^ω^)「…斜め向かいの、森の部屋に…行きましたお。」

( <_  )「姉さんの部屋…?
      それで、どうしたっていうんだ。」

( ^ω^)つ「…あなたのお姉さんが…僕にくれたものですお。」

⊂( <_  )「…」


Σ(゚<_゚;)「…なっ!! こ、これは…俺と、姉さん…!?」

僕は、トソンさんから貰った写真を、オトジャに見せた。
オトジャは…相当に驚いた様子で、その写真を、隅から隅まで眺めていた。

(´<_` )「…姉さん…こんな昔の写真を、まだ…」

(´<_` )「………」


( <_  )「…………」


373 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 21:59:45 BCpcQKZ60

…どれほどの沈黙が、続いただろう。
オトジャは、写真をじっと眺めたまま、動かずにいた。

やがて…写真に、ぽたりと…涙だろう、一滴、雫が落ちた。


( <_  )「あぁ…こんなときも、あったっけな…」

( <_  )「………」


( ´ω`)(…形に残るものは…いいおね…)

…片田舎で生まれた僕は、写真なんてものを、一枚も持っていない。
かわりに、父が画家だった僕の家には、絵や彫像がいくつかあった。

それでも…写真と言う、映したときの風景や自分や、その周囲を
そのままそっくり残せるという技術が、とても羨ましかった。
昔を懐かしむことは、絵でも出来るが…写真のように
本当の過去を、見せてくれるわけではない。


374 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:00:26 BCpcQKZ60

( <_  )「…ツンに、会いに来たんだろう。」

( ^ω^)「!」

僕は僕で、物思いに耽っていたとき。
オトジャがぽつりと、そう呟いた。

写真を見て…昔を思い出してくれたのだ。
気付いたのだろう、顔を上げたオトジャの表情は
少し晴れたような気がした。

それだけでなく、僕に協力してくれるようだ。
隣の「空」の部屋の仕掛けについて、説明してくれた。

(´<_` )「ツンのいる「空」の部屋はな
      親父の命令で、鍵がかかっているんだ。」

( ^ω^)「鍵、ですかお?」

(´<_` )「ただの鍵じゃない、時計だ。」

(;^ω^)「と、時計?」

オトジャの言葉に、ほっとした僕の顔がひきつった。

時計なんてもの…この周辺に、あっただろうか?
また、難解な仕掛けを解かなければならないのだろうか…?

その心配は杞憂で、答えは簡単なものだったが。


375 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:01:14 BCpcQKZ60

(´<_` )「ああ。中央の、親父の部屋…。
      扉の左側に、鉄製の箱があるだろう。」

( ^ω^)そ「あぁ! あれかおっ!」

四つの部屋とは違う雰囲気の、中央の扉。
その左側に、金属製の『何か』があったのを、僕は思い出した。
あれが、時計なのか…!

(´<_` )「そう、ただの箱じゃない。
      鍵で蓋を開けると、12種の絵柄を模した時計がある。」

(´<_` )「そいつを、鳥の絵柄に合わせてみな。
      ツンがいる「空」の部屋は、それで開く。」

( ^ω^)「おぉ…ありがとうございますお!」

鍵の在り処までは言わなかったが、捜すのは難しくない。

トソンさんのいる「森」の部屋は既に、探索を終えていたし
口調からして、オトジャのいるここ「火」の部屋には、鍵は無いだろう。

となると、調べていない部屋は「海」だけだ。


376 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:02:14 BCpcQKZ60

さっそく「海」の部屋へ行こうと、背を向けた僕に
オトジャは「待て」と、声をかけた。
振り向くと…影が、薄くなっている。

( ^ω^)(…ここに留まってた理由が、わかったんだお。)

部屋の主が漸く、答えを見つけたことで、
空気も何となく、明るくなったような気がした。

目を合わせた僕に、オトジャは少し間を置いて、照れくさそうに言った。


(´<_` )「…ありがとう。礼を言う。」

( ^ω^)「お…?」

(´<_` )「昔を、思い出させてくれて。」

( ^ω^)「…!」

それは、僕ではなく…トソンさんに言うべきだ。
写真を大事にとってあったのは、姉である彼女なのだから…。


377 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:03:11 BCpcQKZ60

(-<_-  )


( <_  )


.。.:*・゜・.+.*, <_  )


:*・+゚.。+゚:*・*゚.:。゚・*:.。.... ,


( ^ω^)「…今度は悪いことに、手を貸しちゃだめだお。」

…「海」の部屋にある、鍵を取りにいかなければ。
消えていったオトジャに向けて言うと、僕は部屋を後にした。


378 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:03:53 BCpcQKZ60

ガチャ





バタン


379 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:04:43 BCpcQKZ60

#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内一層 家族部屋/海


380 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:05:43 BCpcQKZ60

…海の部屋には、誰もいなかった。
トソンさん、オトジャ…とくれば、この部屋は
長兄であるアニジャさんのものだろう。

( ^ω^)「…寂しいおね。」

ぽっかりと、穴が開いたような気持ちで、僕は呟いた。
誰もいない部屋というのは、なんだかそれだけで、寂しさを覚えるのだ。
特に…部屋の主が、もうこの船の何処にもいないとわかっていれば、尚更。

( ^ω^)「操作盤の鍵…これかお?」

手に取ったのは、フォークのような波状型の、薄い板だった。
特殊な造りをしているそれは、鍵と言われなければ、ただのおもちゃにも見える。

袋にしまった僕は、今はいないアニジャさんに一言
「おじゃまします」と言って、部屋の中を見て回った。
構造は二人の姉弟の部屋と同じで、変わったことも何も無かった。


( -ω-)


部屋を立ち去る前に、少しだけ黙祷して、僕は時計の操作盤に向かった。


381 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:06:24 BCpcQKZ60

…薄暗い広間に、人の気配は無い。
悪霊が襲いかかってくるような、そんな雰囲気でもなかった。
ただ…

(;^ω^)「…やっぱり、この扉かお…?」

最奥部の、両開きの扉。
アラマキ=スカルチノフがいると思われる部屋。
その周囲だけが、とても重々しい空気を漂わせているのだ。

触れてはならないと、暗に言われているようで
隣で操作盤の蓋を開けていた僕は、身震いした。
扉に触れようとすれば、王が襲いかかってくるだろう。

…何かの拍子で、間違って触れないようにしなければ。

特殊な形の鍵を嵌め込んだ僕は、カチャリと
鍵の開いた音を聞くと、蓋をあけた。

(;^ω^)「…と、時計…?」

オトジャの言葉通り、中は環状になっていて、12種の絵柄があった。
ダイヤル式の…絵柄を回して、穴に嵌めこむタイプだろう。
それが時計と言えるかは微妙だったが、絵柄を
穴に合わせるだけなら、分かりやすい仕掛けだ。

…どの絵柄が何を指しているのかまでは、わからなかったが。


382 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:07:10 BCpcQKZ60

( ^ω^)「確か…鳥って言っていたおね。」

「空」の部屋に鳥…わかりやすい謎解きだった。

…が、僕は苦々しい気分にもなった。
冷たく、暗い地下の、檻の中に閉じ込められていたツンを思うと
辛辣な皮肉にしか聞こえなかったからだ…。

(  ω )「…いると思いたいお…」

呟きながら、僅かな希望をかけて、僕は穴に
可愛らしい絵柄の鳥を合わせた。

…すると、後方から、カチャリと、鍵の開く音が聞こえた。
オトジャの言うとおりなら「空」の部屋だろう。

立ち上がった僕は、部屋のドアの前で、暫く考えていた。

過去で出会えた彼女はここに、いるだろうか?
無事に『青い石』を、取り戻すことが出来ただろうか?

いたのだとしたら「空」の部屋で
何を思い、過ごしていたのだろうか。

いなかったのだとしたら…彼女は、何処に消えてしまったのか?

( ^ω^)「……」

(  ω )「…ツン…」

ドアノブを捻って、部屋の中へ足を踏み入れた。
淡い期待を寄せて…緊張に汗ばみながら。


383 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:08:04 BCpcQKZ60

ガチャ





バタン


384 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:08:55 BCpcQKZ60

#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内一層 家族部屋/空


385 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:10:04 BCpcQKZ60


……………。


( ^ω^)


(  ω )


そっとドアを開けて…閉めた僕は、無音の世界で
暫くぼぅっと立ち尽くして…何も無いことを確認すると
部屋の中へ踏み出した。

…いるのならきっと「ノックぐらいして」と怒られるだろうし
動かないでじっとしているか、少し物音を立てれば
やがて来訪者に気付いた彼女が、こちらに姿を見せてくれるだろうという…
僕の、悪あがきだった。

ツンは、ニュー速VIP号船内にはいない…これで、確定した。

では、ツン=スカルチノフという女性は現在
何処で、何をしているのだろう…?
『青い石』の欠片を持っていても、いなくても
平穏無事に、日々を過ごせているのだろうか…?


(;^ω^)「…大丈夫、どこかで会えるお…」

気休めにもならない、自分への慰めを言い聞かせて
僕は部屋の中を、改めて見て回った。


386 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:11:30 BCpcQKZ60

明かりは点いた。
青い空の色をした壁には、数点の写真と絵が飾られていた。

それらは小さい頃のツンのもので、列車の中で出会った彼女とは
似ても似つかないような…幸せそうな笑顔で映っている。

(*^ω^)「…よかったお…。
      笑ってるときが、ちゃんとあったんだお…。」

写真の中の小さなツンは、父親と思われる人から
肩車をしてもらっていたり、手を繋いで、笑っていたりした。
母親の腕に抱かれた、赤ん坊は…デレだろう。

…幸せな家庭で、育っていた子だったのだと、安心したと同時に
子供の純粋な笑顔が、僕を少し和ませてくれた。


(;^ω^)「…お?」


その中で、なんとなく浮いた感じの、大きな額縁の絵画。
既視感のある絵は…中世〜近世の時代のベッドを描いていた。

何故、こんな絵が、彼女の写真に混じって飾ってあるのだろう?
空の色とも似つかわしくない、違う場所に置くような…


387 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:12:15 BCpcQKZ60

( ^ω^)

( ^ω^)そ「あぁ!」

…そこまで考えて、僕は思い出した。

王の悪霊は…いつの時代の人だ?
おそらく、この絵は…王のいた時代を描いた、一つではないか?

彼もまた、救わなければならないのなら
この絵の中に…答えが、あるのではないか?

ツンはいなかったが…デレに同じく、僕を導いてくれたのだ。

( -ω-)

( ^ω^)「…過去へ、連れて行ってお。」

ここにはいないツンやデレに、頼むように呟いて。


388 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:13:15 BCpcQKZ60

――語らぬ絵に向かって、僕は手を差し伸ばした…。


389 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:14:02 BCpcQKZ60



#過去世界 1496年 11月26日 ―湖上の城・バルコニー


390 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:14:43 BCpcQKZ60

( -ω-)

( ^ω^)


(((;゚ω゚))そ「ひっ…」

…過去の世界へ着いて早々、広がった凄惨な光景に
僕は喉を小さく鳴らして、震え上がった。


( "゚"Д'゚").;゚・.


傭兵デミタス=スカルチノフによって、既に命を奪われた王。
夥しい血痕が、王の周囲を赤く染めていた。
色の無い土色の顔は…苦悶に満ちた表情で、白目を剥いたまま
こちらを見つめている。

((;゚ω゚)))「……」

…半ば開かれたまま…睨むような、眼。
開かれた唇から、流れ出る血。
生きた人間が、予期せぬ最期に苦しんで死んだ様相は…
見てきたどの人の、何よりも、おぞましかった。


391 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:15:55 BCpcQKZ60

(((; ω )))

恐怖に、寒気と焦燥が一気に襲いかかってきた。
あのとき…見ているだけで、何も出来なかったことへの
罪悪感も、あるのだろうか…無言の圧力が、恐ろしかった。

視線を外して、なるべく見ないように努めながら
僕は、手すりを背に崩れ落ちた、王の元に歩み寄った。

年は50くらいだろうか…立派な白髭を生やしている。
見ないように努めていた、苦悶に満ちた表情は
悪霊として襲いかかってきたときと、全く同じものだった。

(((; ω )))「…な、なにをすれば…」

何をすれば…この王様は救われるのだろうか?
あのときに戻ることは出来ないから、死は覆せない…。

この年の人ならば…奥さんか、子供か、孫の心配をするだろうか?
或いは、王様だから、国の行く末を案じるだろうか…?


392 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:18:29 BCpcQKZ60


コトン…


393 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:19:19 BCpcQKZ60

(;゚ω゚))そ「ふぉぅ!?」

震えながら、王の死体に手を伸ばしたそのとき
何か、床に落ちたような音が響き渡った。

前と違って、雷鳴も、雨も無い、闇だけの世界。
音の無い世界に、それは大きく余韻を残す。
驚いた僕は、音のした方へ目をやった。

( ^ω^)「…カメオ…」

石の…大理石や貝殻など、固くて高価な石の表面を
浮き彫りにして、絵を刻んだ装飾品だ。
この時代の貴族達は、装飾品以上に「お守り」として
男女関係なく身に着けていたという…。


 |゚ノ ^∀^) 


そのカメオには、綺麗な女性の肖像画が刻まれていた。
ドレスを着た、金髪の美しい女性は、絵の中で微笑んでいる…。

( ^ω^)(…娘さん…かお…)

年を考えるに、この人は王様の娘…この国のお姫様だろう。
裏を返してみると「レモナ」という名前が彫られている。
『レモナ』というのは、この人の名前だろう…。


394 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:20:00 BCpcQKZ60


――感傷に浸る間もなく、僕は船内へ引き戻された…。


395 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:21:17 BCpcQKZ60

#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内一層 家族部屋/空


396 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:22:33 BCpcQKZ60

(;´ω`)「…性急過ぎるお…」

意識を失う前、危うくカメオを落としそうになったことで
僕は内心、ひやひやしていた。
あの場に長居していたくはないが、こうも急では
何か、大切なことを忘れてしまいかねない。

それだけ…時間がないということでも、あるのかもしれないが。


( ^ω^)「…ツン…」


主のいない部屋は、変わらず僕の呟きだけを響かせる。
ここにいない彼女が…何処にいるのかはわからない。
何をしているのかもわからない。
『青い石』を取り戻せたのかも…不明だ。

( ^ω^)(でも…ツンがくれたんだお…)

デレが僕を、行く先々で導いてくれたように
姿を見せないツンもまた、陰ながら僕を助けてくれている。
それがわかっただけで、十分だ。


397 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:23:15 BCpcQKZ60

…部屋を出る前に、僕は、もう一度…ツンの
小さい頃の写真を眺めた。

どの写真でも、ツンは幸せそうに笑っていた。
特に、父親と思われる男性に、肩車してもらっている写真。
それが、ツンの笑顔を一番良く映していた。

もう一枚、母親と思われる女性の、腕に抱かれる赤ん坊…。
デレも、幸せそうに身を委ねている。

( ^ω^)「…そういえば…」

でぃさんに聞いたとき…二人の両親のことについて
彼女は、言葉を濁していた。

祖父に連れられていること、列車内での様子や
成長した姉弟の環境、そういう話を聞かなかったこと…。
何らかの理由で…二人の両親は、亡くなっているのかもしれない。


( -ω-)「…娘さんのこと、見守っててくださいお…。」


写真の、両親と思われる男女の笑顔に祈ると
僕は「空」の部屋を、後にした。


398 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:24:58 BCpcQKZ60


ガチャ





バタン


399 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:25:40 BCpcQKZ60

(; ω )そ「!!」


部屋に出た瞬間…ぞくりと、背筋に悪寒を覚えた。
苦しそうな…全てを呪うような、呻き声も聞こえる。

後ろ手にドアを閉めて、身構え…カメオを取り出した僕は
呻き声のする方に、顔を向けた。


( "゚"∀'゚")ウゥゥゥ…


予想通り…バルコニーで、無残にも殺された、王の悪霊だった。
二人の悪霊に続き、彼もまた、僕を本気で殺そうと
手からナイフのようなものを放ってくる!


(;゚ω゚)「!」     ←-=====


あの二人に比べ、攻撃が速いっ…!
すかさず避けた僕の横…ドアに、鋭い刃は突き刺さった。

それは数を増して、まるで矢のようになって
こちらに猛スピードで飛んでくる…


(;゚ω゚)(しかもあの鋭さ…刺さったら終わりだお!)


早めに決着をつけなければ!


400 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:26:46 BCpcQKZ60

カメオを差し出す前に…あの刃が飛んでくる。
避ける間もなく飛んでくるそれを…僕は、避けなかった。

あの女性のときとは違う。
避けていては、いつか疲弊して避けられなくなり
救えぬまま、終わってしまうからだ。


(; ω )「…!!」


かわりに、祈るような気持ちで、僕はカメオを
刻まれた絵が見えるように、差し出した。


401 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:27:43 BCpcQKZ60

……突き刺さるような痛みも、衝撃も、来なかった。

おそるおそる、目を開けた僕の眼前には


( ´∀`)「……」


元の温厚そうな顔つきになって
我に返り、立ち尽くしている王様の姿があった。
その手に…僕の掌にあった、カメオが、握られていた。

僕に向かっていた刃は…音もなく消えている。
成功した…というわけだ。


402 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:28:35 BCpcQKZ60

( ´∀`)「モナ…レモナ……」

(  ∀`)「モナの、かわいい娘…レモナ…」


(  ∀ )

;
,
.


(;^ω^)「……」

見守る僕の前で…王は、跡形もなく消えていく。

『赤い石』に、最期まで呪われた王は
あまりにも、呆気なく消えていった…。


403 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:29:31 BCpcQKZ60

 ・


 ・


 ・


404 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:30:13 BCpcQKZ60


第三部:王の亡霊 終了


405 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:30:58 BCpcQKZ60

===MEMO===


406 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:31:48 BCpcQKZ60


       彡⌒ミ
―チチジャ ( ´_ゝ`)

過去世界 1877年生まれ 享年36歳 男

・ニュー速VIP号の航海士。部下思いな人で、死の自覚も持たずに
 怯えながら仕事をする船員達が気になって、天に昇れずにいた。

・スカルチノフ家とも交流があったようだ。
 アニジャさんに渡された鍵で入った先に、彼はいた。
 
・船内二層に続くエレベーターの前で、僕を待っていた。
 残っていた船員が、既に天に昇ったことを知ると
 軍隊式の敬礼をして、船員達の後へ続くように、天に昇った…。


―ロマネスク=スギウラ ( ФωФ)

過去世界 1879年生まれ 58歳 男

・僕の父であり、かつて『青い石』の所有者だった人。
 職業は画家で、シベリア市郊外の丘に一人、住んでいた。

・アラマキ=スカルチノフと『赤い石』共に、自分の両親を
 殺されたことから、長年に渡り、大きな確執があったようだ…。

・今の自分を嘆くと、僕が問う間もなく去ってしまった…。
 あの虚ろな呟き…父は『赤い石』に、惹かれてしまったのか…?


407 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:32:30 BCpcQKZ60

―シャキン (`・ω・´)

過去世界 1866年生まれ 享年48歳 男

・船員の中では、リーダー格だったようだ。
 頼りになりそうな顔をしていた。

・巡回係として、船員室前を見回っていた。
 交替の時間が過ぎていることに、不安と苛立ちを募らせていた。

・見習いのヒッキーが、交替の時間までに来ないことを叱りながら
 悪霊が出なかったことに安心し、休むと言って、天に昇っていった…。


―ビコーズ ( ∵)

過去世界 1883年生まれ 享年30歳 男

・船員の一人。辛抱強い性格。
 最後まで、諦めずに行動していた。

・ロック解除の番号を捜そうと、開かないロッカーの前で
 立ち尽くしていた彼だが、僕が足し算の法則でロッカーを開けると
 喜び勇み、配電室のロック解除へ向かった。

・番号が合わずに焦っていたが、僕が合わせると、嬉しそうに
 奥に入っていった。彼は接続通路に繋がるドアにひっかかっていた
 パイプを直すと、満足そうに頷いて、天に昇っていった…。


408 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:33:47 BCpcQKZ60

―デレ=スカルチノフ ζ(゚ー゚*ζ

過去世界 1900年生まれ 享年13歳 男

・ツン=スカルチノフの弟。
 どことなく、幼い頃の、彼女の面影がある…。

・無線室で、彼はずっと、姉ツンに向けて、届かない信号を
 なりふり構わず、発信していたようだ。
 僕にオルゴールを渡し、ツンのいる過去へ、飛ばしてくれた。

・戻ってきた僕が、ツンのイヤリングを渡すと
 彼は安堵の息を漏らし「運命は変わるんだ」と言い残して
 嬉しそうに、天に昇っていった…。


―ツン=スカルチノフ ξ゚⊿゚)ξ

過去世界 1894年生まれ 18歳 女

・アラマキ=スカルチノフの孫娘で、デレ=スカルチノフの姉。
 でぃさんとつーさんとは、同年代のようだ。

・デレに導かれた大聖堂の地下で、彼女は監禁されていた。
 反発していた彼女は、アラマキに『青い石』の欠片を奪われて
 厳しい生活を強いられているようだ…。

・「空」の部屋に、彼女の姿は無かった…。
 王の悪霊を救う鍵をくれた彼女は、何処にいるのだろうか…。


409 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:34:32 BCpcQKZ60

―ヒッキー ( -_-)

過去世界 1894年生まれ 享年19歳 男

・船員見習い。若さ故か、少し怒りっぽい。

・無線の回線一覧を、暗記しようとしていたようだ。
 頭に入らず苛立っていた彼の気を引くと、巡回の交替時間を
 思い出して、シャキンの待つ通路へ出て行った。

・シャキンに叱られるも、明かりが点いたことに喜び、悪霊が出ないことに
 安心した彼もまた、シャキンの後を追うように、天に昇っていった…。


―ィョゥ (=゚ω゚)ノ

過去世界 1880年生まれ 享年33歳 男

・機関士のようだが、暗い機関室のベッドで
 ひとりでに鳴っている無線の音に、ひどく怯えていた。

・怯えからか、あまり話を聞かせてはくれなかったが
 僕に、無線の符号一覧が無線室にあることを教えてくれた。

・無線室で、音を鳴らしていたのはデレだった。
 発信音がなくなったのを知ると、あくびをして、静かに眠った…。


410 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:35:35 BCpcQKZ60

―アニジャ=スカルチノフ ( ´_ゝ`)

過去世界 1860年生まれ 享年53歳 男

・スカルチノフ家の長男。実父アラマキの功績を
 認めてはいたが、強引なやり方に批判的だった。

・『赤い石』とスカルチノフ家の系譜を教えてくれた。
 そんな彼も『赤い石』の犠牲者だが、それにしては冷静だ…。

・四つのプレートを手に入れると、一族の部屋へ案内してくれた。
 僕がプレートを嵌めこむと、涙ながらの謝罪を最期に
 船の命運を僕に託して、天に昇っていった…。


―ミセリ=スカルチノフ ミセ*゚ー゚)リ

過去世界 1863年生まれ 享年50歳 女

・アニジャ=スカルチノフの妻。アニジャさんに同じく
 アラマキのやり方には、疑問を感じていたらしい。

・船を救うと言った僕を、止めてくれた彼女も
 アニジャさんの言うことを信じて、僕を後押ししてくれた。

・プレートを嵌め込み、アニジャさんが天に昇った後
 『赤い石』に対する僕の慢心を見抜き、忠告してくれた。
 この先に光が無いことも教えてくれると、愛する夫の後を追った…。


411 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:36:41 BCpcQKZ60

―トソン=スカルチノフ (゚、゚トソン

過去世界 1863年生まれ 50歳 女

・アニジャさんの妹で、オトジャの姉。
 アラマキのことは父として見ていたが…。

・赤い石の秘密を知りながらも、続く悲劇を
 止められなかったことを悔いていた。

・オトジャとの写真を見せるよう、僕に言った彼女は
 「森」の部屋で、父アラマキの、解放のときを待っている…。


―オトジャ=スカルチノフ (´<_` )

過去世界 1867年生まれ 享年46歳 男

・アラマキ=スカルチノフの三男で、末弟。
 一族の繁栄の為、父アラマキに手を貸していた。

・スカルチノフという家が『赤い石』によって
 支えられていることを、誰よりも理解していた。

・悪事に手を染める前の、自分を思い出したのだろう。
 写真を見た彼は、僕に部屋の仕掛けを教えると、天に昇っていった…。


412 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:37:22 BCpcQKZ60

―モナー国王 ( ´∀`) 

過去世界 ??年生まれ 享年??歳 男

・15世紀の、湖上にある城の国王。長い白髭を垂らしている。

・雷雨の中、デミタス=スカルチノフに胸を貫かれ
 多量の血を流して死亡した…。

・『赤い石』の力に呪われ、何百年の時を経て現れた王は
 カメオに刻まれた娘の絵を見ながら、安らかに眠っていった…。





413 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:38:09 BCpcQKZ60

自らも『赤い石』に囚われた王を、解放した僕は
安堵の息を漏らして…両開きの扉を見つめた。

( ^ω^)「……」

『赤い石』の犠牲者は…僕の知る限りは、もういない。
もう、触れても大丈夫だろう。

そう思って、試しに、手を伸ばしてみると
本当に、何も起きなかった。

何も現れることの無い暗闇と、静寂だけが、空間に広がる。
僅か、数名の人を除いて…この船内にはもう、彷徨える魂はいない。
見返すうちに、いつしか地図も、ぼろぼろになっている。
経年劣化によるものでは無いことは、明らかだ。

長く続いた船旅も…終わりのときが、近付いていた。


414 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:38:50 BCpcQKZ60

ツンはあの後、どうなったのだろうか?
アラマキは、ツンを…どうしたのだろうか?

虚ろに呟いていた父は、いま、何処にいるのだろうか?
『赤い石』に、魅入られてしまったのだろうか?

アラマキ=スカルチノフは…本当に、この先にいるのだろうか…?


( ^ω^)「行けば、わかるお…」


僕は、各々の部屋とは違う、両扉の取っ手に、手をかけた。
ゆっくりと、その取っ手を引っ張っていく。

鍵は、かかっていなかった。
ギィイ…と、軋む音を立てて、扉は開かれ
僕を、中へと導いていった。


415 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:39:46 BCpcQKZ60


――第四部:アラマキ=スカルチノフの亡霊――


416 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:41:00 BCpcQKZ60

…重苦しい空気の漂う、最奥部の扉を開けた先。


(;゚ω゚)そ


緊張を胸に抱いた、僕の目の前に…飛び込んできたのは。


/ ,' 3


部屋の中央で、ネイビーのローブに身を包み
椅子に座って正面を見据える、一人の老人…。

アラマキ=スカルチノフ。
『赤い石』で、一族を繁栄させた裏で
多くの犠牲者を生み出し、豪華客船ごと、数多の命を捧げた男…。


(;゚ω゚)「な…」

(;゚ω゚)「なん、で…だお…」


僕は、出迎えたアラマキの顔に、驚いたわけではない。
疑問の言葉も、それで発したわけではない。

何故…何故、この男は、力なく項垂れ、血を流しているのだ?


417 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:42:27 BCpcQKZ60

/   3 ,;,,


濃い青と血の赤という、対極の色合いで目立たなかったが
腹部と思しき場所からの、多量の出血を見つけた。

それは新しいもので…染みていった血痕が
長い裾に、滲んでいた。


(;゚ω゚)


…何をしろというのだ。
こんな状態の老人を、放っておけというのか。
父や石のことを、この状態で問いただせというのか。

否、石よりも先に…アラマキの傷の手当をするべきだ。
だが、だからといって、何が出来るのだ…僕は、医者ではない。
応急処置ならば出来るが、それをしたって治療は無理だろう。
それに、この出血では…医務室に行っても、間に合わない。

…僕が悶々と考えていたとき、しわがれた、しかし
年にしては発音のしっかりした声が聞こえた。


/ ,' 3 ,;,,「『青い石』の所有者…」

(;゚ω゚)そ「!!」

驚く僕の顔を見据えて、放たれた一言。
その一言で、僕は我に返り…歩み寄ることを、決意した。


418 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:43:08 BCpcQKZ60

(; ω )「アラマキ=スカルチノフ…」

震える足を前に出して、一歩、一歩…慎重に近付いた。
負傷していると見せかけて、襲うのではと考えていたが
騙しでもなんでもないと…死が近いのだと
距離が縮まるにつれて、僕はわかった。

(; ω )(刺傷…)

お互いに、手の届く位置まで来た僕は、アラマキの腹部が
何者かによって、刺されたものだと判明して…首を横に振った。

犯人の特定なんて、消去法で考えていけば簡単だ。
この船にいるのは、僅か数人の亡霊と、僕と、アラマキ…。
あと、一人しかいないのだから。


/ ,' 3 ,;,,「…私の旅も…終わるときが来た…」

(´ ω `)『船旅は、もうすぐで終わる…』


前に会った霊能者の言葉と、アラマキの言葉が、重なった。

そう…この世に未練を残した魂は眠りにつき
石に囚われ悪霊となった者達も、多くの魂と共に、天に昇った。
この船の存在は…もう、不要となってきているのだ。

目の前に来た僕に、アラマキは虚ろに語り始めた。


419 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:43:54 BCpcQKZ60

/ ,' 3 ,;,,「『赤い石』を手にしたとき…
       あのときから、運命は変わり始めた。」

話しては傷に障る…何も知らない人ならそう遮るのだろう。
だが、知り尽くしている僕には、それが出来なかった。

それは…総帥アラマキ=スカルチノフの、遺言だから。


/ ,' 3 ,;,,「私は多くの命を、この手で奪い取った」

(  ω )「……」

黙って聞いている、僕の胸には…怒りとも、悲しみともつかない
複雑な感情が、堰き止められず、渦巻いていた。

アラマキは、悔いているのだろうか。
次男のオトジャと同じように…己を嘆いているのだろうか。
僕から顔を逸らして、彼は言葉を紡いだ。

/   3 ,;,,「そして私が、何を得ようとしたのか…」

/   3 ,;,,「今はもう、何も思いだせんよ…」

(  ω )「……」

僕には、それが…わかるような気がした。
没落寸前だった家を、再興させるため…ただ、それだけ。
最初は…生きていくに必要な力を、手にしたいだけだった。
『赤い石』の力が、アラマキの欲を、煽ってしまっただけだ…。
それでも、やるせない気持ちで、僕はその言葉を、黙って聞いている他無かった。


420 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:45:02 BCpcQKZ60

…少しの間を置いて、アラマキは右手を
のろのろと、傍らのサイドテーブルに伸ばした。

テーブルにはキャンドルと、エメラルドのような色をした、水晶玉。
水晶玉に手を伸ばして、アラマキは、僕に顔を向ける。

/   3 ,;,,「あの娘は…ツンは、君を待っていた。」

掌に乗った水晶玉は透明で…何も映し出してはいない。
しかし、

/ ,' 3 ,;,,「君と、君の父のために、戦おうとした。」

(;^ω^)「…!?」

アラマキの発した言葉に、反応した僕は、顔を上げた。

戦おうと…した?
運命と、いまも戦っているはずのツン。
それなのに何故、過去形で語るのだ。

彼女に、何があったというのだ…!?

アラマキは、僕の疑問に答えるように、視線をちらりと水晶玉に向けて


/ ,' 3 ,;,,「みるがいい…」

僕に、過去の映像を見せた。
その途端…水晶玉が、映画のフィルムのように…過去を映し出した。


421 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:45:53 BCpcQKZ60


……………


422 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:46:38 BCpcQKZ60

それは木製の、ある小屋の中での出来事。
出入り口と思しきドアの横に、窓が二つと、その下にテーブル…。

ガチャリ…と、音がして、出てきたのは。


ξ; ⊿ )ξ


( ^ω^)(ツン…!)

革のロングブーツに、白い服…緑のコート。
格好こそ違えど、特徴的な金髪と顔は、見紛う事もない。
その小屋に入ってきたのは…ツンだった。

(;^ω^)そ(って、ピストル…!?)

彼女が右手に下げていたのは…ピストルだった。
おそらく、追っ手から逃れている途中なのだろう。
辺りを見回して、何かを警戒している。

そして何も無いことを確認すると…テーブルに置いてあった
一発の銃弾を手にして、それを…ピストルへ装填した。

(; ω )(ま、まさか…)


423 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:48:09 BCpcQKZ60


「あのかけらは必ず取り戻すわ。」






「私の命に代えても。」


424 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:49:13 BCpcQKZ60

檻の中で出会った、彼女の言葉…。
現実になってしまったのではないか…?

(;゚ω゚)(お…お願いだから逃げるんだお、ツン!)

声を発することもできない映像の中で、僕はひたすら
ツンの無事だけを願い続けた。

…と、そのときだった。
彼女が、ピストルに弾を込めた瞬間。


ガチャン…と音がして…背後のドアが、開け放たれた。


ξ;゚⊿゚)ξそ

(;゚ω゚)そ


425 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:49:53 BCpcQKZ60

すかさず振り向いた、ツンの目の前には…


(’e’)「ふっふっふ…追い詰めたようだな」

ξ;゚⊿゚)ξ「…………」


黒の帽子に、黒のスーツ…いかにも狡猾そうな顔の
全身を黒尽くめにした男が、ドアから入ってきた。

追っ手だろうが、幸いにも、ツンが握っているのはピストルだ。
それも、反応したのが早かったおかげで、彼女はそれを構えている。

しかし…彼女は撃てなかった。無理はない。
僕だって、自分がそうなったときに、撃てる自信は無い…。

そんなツンを見て、余裕そうな口振りで、男は言う。


426 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:50:33 BCpcQKZ60

(’e’)「どうせ、プロの俺にはかなわないんだ…
    そいつを降ろしな。」

言葉から察するに、この男は、アラマキが雇った殺し屋…。
殺人のプロフェッショナルだ。

しかも、男の手には…ナイフが握られている!

(;゚ω゚)(ツン! 逃げるんだお、石なんか捨てて!!)

だが、こんな殺し屋をつけるということは…
石を渡したところで、逃げられる可能性は、


(; ω )(か、考えるな!)


最悪な事態に…思考が、悪い方へと向いてしまう。
けれども、映像の出来事もまた、悪い方へと、僕を導いていった…。


427 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:51:15 BCpcQKZ60

ξ;゚⊿゚)ξ   (’e’)「素直にその石を渡していれば
             命を捨てなくても済んだものを…」


ナイフを構えながら、男はじりじりと、ツンとの距離を詰めた。
ピストルなのだ、引き金を引いて撃ってしまえば…!


ξ;゚⊿゚)ξ  (’e’)


しかし…戦争の経験も無い彼女に、それが出来るだろうか?
一直線に構えている腕が、震えている…。
足が、自然に後ずさっている。

遠目でもわかった。彼女にはそれが…出来ないと。


((; ω )))(逃げろ…逃げてくれええ…!!)


…祈ったところで、映像の中の出来事。
僕が、どうにかできるわけがない…。

追い詰められて、壁に背をぶつけた彼女は…覚悟を決めたのだろう。
今度はしっかりと、両手でピストルを握った。
そして、声高々に、叫んだ。


428 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:52:18 BCpcQKZ60

ξ;゚⊿゚)ξ「あなた達は、祖父の
       本当の恐ろしさを、知らないんだわ!」

『赤い石』を持つアラマキ…魔に魅入られた彼が
任務を完遂したからと、簡単に報酬など与えるだろうか?
その命を『赤い石』に捧げることを、第一に考えそうなものだ。

…孫娘であるツンを人質に取ることも、出来たのだから。

だが、男はツンの忠告を、鼻で笑った。
そんなもの、とでも言いたげに。

(’e’)「ふっ、そんなこと俺には関係ない。」

(’e’)「その石を持ってゆけば
     いい金になるんでね…」

(# ω )(貴様っ…!!)

…金のためなら、どんなことでもすると言うのか!

下衆の言い分が腹立たしくて…何も出来ない自分が悔しくて
歯噛みしながら見守る僕の横で、会話は続く。


429 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:53:16 BCpcQKZ60

(’e’)「まあいい。これでおしまいだ。」


…男の言葉に、空気が、一気に張り詰めた。


ξ゚⊿゚)ξ「…あなた達も、生きていられないわよ。」


死に近づいても泣かず…喚かず、彼女は静かに言い放った。
それは、何が起きてもいいと…決死の覚悟をした、彼女らしい
気丈な振る舞いだった。


(’e’#)「えーい、いちいちうるさい女だ!
      死ね!」


そんな態度が、気に入らなかったのだろう。
逆上した男が…ナイフを、ツンめがけて――


(;゚ω゚)「ツン!!!」


430 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:54:04 BCpcQKZ60


――ゴゴゴゴゴ……ガタガタガタ…


431 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:54:47 BCpcQKZ60

…僕が、彼女の名を叫んだ瞬間。
小屋の中が…否、大地が…全てが揺れた。


(;゚ω゚)そ「なっ…!?」


それは、偶然なのだろうか?
石の力によるものなのだろうか?


ξ;゚⊿゚)ξそ

Σ(’e’;)「な、なんだ、こんなときに…!」

(;゚ω゚)「…!」

地震…自然によって、それは引き起こされたものだった。
揺れは次第に増していき、人がまともに立っていられなくなる。

バランスを崩した二人は倒れた。
近くにあったタンスが、男の上に覆いかぶさる。

(; ω )(これは…!)

これは、いけるかもしれない…!
そう思った僕の視界が、一瞬、暗闇に閉ざされた。
地震で、ツンの意識が消えたことによるものだろう。

(; ω )(ど、どうか…無事でいてお…!)


432 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:55:29 BCpcQKZ60

…少し時間が経って、僕が目を開けたとき。
ツンも、目を覚ましたようだった。


ξ;゚⊿゚)ξそ


(;^ω^)「ツン!!」

ツンが倒れていたのは、裏口の近くだった。
ドアを開ければ、もう外に出られる…逃げられるのだ。

幸いにして、男はタンスの下敷きになり、意識を失っている。
タンスは男より、数倍の大きさはある。
重量もそれなりにあるだろうから、放っておけばもう、長くない…。

祈るような気持ちで見つめていた僕は、思わぬ好転に
ほっとして…視線を、何気なく逸らした。


( ^ω^)

(;゚ω゚)そ


が、それは…目にしていいことだったのか。
こうなることがわかっても、何も出来ないというのに。


433 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:56:45 BCpcQKZ60


(;゚ω゚)「ツン!!!」


〜〜 ξ; ⊿ )ξ

叫んだ僕の声が、届いているはずも無い。
覚束ない足取りで、ドアに歩み寄るツンの手を、僕は見た。
彼女の右手には…本来、あるべきものが無かった。


( e ;)「…くっ…」


持っていたピストルは、倒れた拍子に
あの殺し屋の傍らに、転がっていたのだ!


(;゚ω゚)「ツン!!はやく逃げろおおおお!!」


銃弾の込められたそれは、手にした時点で
人に、致命傷を負わせることが可能だった。
まして、相手は殺人のプロだ。
うつぶせに倒れた状態でも、被弾させることなど容易い。

…願い虚しく、僕の叫びは、宙に響くだけだった。


434 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:57:41 BCpcQKZ60



パンッ…



 ・;,・;・ξ; ⊿ )ξそ


435 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:58:23 BCpcQKZ60

…空気の破裂する、乾いた音がした。
ドアノブに手をかけたツンの背から、少量の鮮血が噴出す。

呻き声を上げたツンが、ドアの前に倒れると…
やがてそこから、血が染みだしていった。

見届けていた男は、苦痛に顔を歪めながら、がくりと力尽きる。


(  ω )


驚く間もない、一瞬だった。


436 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 22:59:25 BCpcQKZ60



無力な己を嘆く余裕もなく、映像はそこで途切れた――


437 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 23:00:08 BCpcQKZ60


……………


438 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 23:00:51 BCpcQKZ60


(  ω )「……」

現実…船内に引き戻された僕は、夢見の悪い…
寝起きのような心地で、ふと顔を上げた。

アラマキが、それを待っていたかのように、口を開く。

/ ,' 3 ,;,,「ツンはもういない…
       全ては…過ぎ去ったことだ…」

もういない…全て過ぎ去ったこと…?

何を言っている。
僕は、こんなツンの結末など…認めるものか!


(  ω )「変えてやる…!」


『赤い石』の所有者だった老人の、哀れな最期。
アラマキは、自分が力尽きそうだから、全てを諦めているだけだ…。

だが、僕はどうだ?
僕は違う、生きている。

今までに多くの過去を見て、その出来事を変えて
多くの死者を救って、魂をあるべき場所に導いてきた。
死者を救えるなら、生きている人を救うことも出来るはずだ。

生きている人が…死んでしまう事態を、避けられるはずだ。
僕とツンが出会えば『青い石』が、一つになるのだから。


439 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 23:01:31 BCpcQKZ60


(# ω )「僕が、変えてやるお!」

(# ω )「会いに行くと、約束したんだお!
      それまで、死ぬようなことはしないと…!!」


今までの、全ての思いをぶつけるように、僕は言った。


(#^ω^)「アラマキ=スカルチノフ!
      僕は諦めないお!!」

(#^ω^)「そんな過去など、僕が変える!
      …ツンを、救ってみせるお!!」

/ ,' 3 ,;,,「…!」


440 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 23:02:17 BCpcQKZ60

…僕の言葉を、聞いてくれたのか。
間を置いて、アラマキは水晶玉を、僕の目の前に差し出した。

/   3 ,;,,「…フ…フフフ…」

/ ,' 3 ,;,,「…君ならば…変えられるのかも…」


/   3 ,;,,「ゲッホゲホッ…!!」


(;^ω^)そ「!!」

…やはり、長くはもたないのだろう。
喀血しながら、アラマキは何か言い遺そうとしている。
言葉を一句も聞き逃さないように、僕はもう少し近づいた。


441 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 23:03:37 BCpcQKZ60


/   3 ,;,,「『赤い石』の力は…
       君の父を、取り込んで…」

/   3 ,;,,「『青い石』…
       それが一つになれば…
       力を止められる…」

アラマキの言葉に、さほどショックを受けなかったのは
「やはりそうだったか」という気持ちが、何処かにあったからだろう。

僕の父は…ブーン=スギウラはもういない。
父は『赤い石』の虜となってしまったのだ。

アラマキの言葉通り『青い石』が一つになれば
『赤い石』の力は止められる。
だが、父は…僕の父は、正気に戻ってくれるだろうか?

アラマキ=スカルチノフから『赤い石』を奪った父は
『青い石』の所有者である僕を、何処で待っているのだろう…?

対極にある二つの石…それが合わされば、どうなるのだろうか?
それは、長年に渡って『赤い石』を使い続けた
アラマキですら知らない問題だった…。


442 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 23:05:46 BCpcQKZ60

…思ったよりも、アラマキの傷は深い。
『赤い石』を奪われたことで、寿命も近付いているのだろう。
皺だらけの手も、よく見ると、もう生きた人の色をしていない。

アラマキを救う術は…僕には無い。

でも、もし…アラマキが救われるのだとしたら。
僕が救えるのだとしたら、それは…


/ ,' 3 ,;,,「頼む……」


(  ω )


( ^ω^)


443 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 23:06:31 BCpcQKZ60



――『赤い石』が紡いできた悲劇を、終わらせることだろう。


444 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/08(日) 23:08:37 BCpcQKZ60

今日はここまで投下します。
読んでくださってる方、ありがとうございます。
終わりに近いので、もう少しお付き合い頂ければ幸いです。


445 : 名も無きAAのようです :2013/12/09(月) 00:49:37 QBWVOKiI0



446 : 名も無きAAのようです :2013/12/09(月) 22:19:35 jk5/xHlk0
乙ゥウゥゥ


447 : 名も無きAAのようです :2013/12/10(火) 20:21:50 UqNc9dYUC
200レスオーバー、(´・ω・`)長かった、あまりにも長すぎた(嘘だよ) 
なんとなく最初のころより文章に重厚感がでてきたような、内容のせいかな


448 : 名も無きAAのようです :2013/12/11(水) 06:58:25 HTrdo4Gw0
恐らく内容のせい
元ネタありならよくあること


449 : 名も無きAAのようです :2013/12/28(土) 02:32:43 VMjvUGMU0
迫り来る年明け


450 : 名も無きAAのようです :2013/12/31(火) 21:17:49 yHF0KRJg0
お、投下来るのか?
待ってたぞ


451 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 21:29:39 F.Flrzh60

遅くなってすみません。最終話です。
予告通り22:00に投下します。
長いのですが、お付き合い頂ければ幸いです。


452 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:05:00 F.Flrzh60

 ・


 ・


 ・


 ・


 ・


453 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:06:08 F.Flrzh60

…水の流れる音がする。河川だろうか?

見上げた僕は、あまりの高さに驚いた。

同時に、自分が鳥のようになって

その景色を見ていることにも気がついた。

渓谷だ…僕がいるのは、清い川の流れる、谷底だった。

間もなく視点は上空に移り、ぼろぼろの橋と

木製の小屋、ツンが来るであろう家を、映し出した。


454 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:08:20 F.Flrzh60

#過去世界 1913年 2月9日 ―渓谷の家


455 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:10:45 F.Flrzh60

( -ω-)

( ^ω^)


( ^ω^)「…おっ?」

飛び込んだような衝撃に、目を瞑った僕は
開けた視界が、小屋の中であることを確認する。

暫く、きょろきょろと辺りを見回して…

(;゚ω゚)そ

テーブルの上に、何気なく置かれている一発の銃弾を、発見した。

…そう、ツンが、ピストルに弾を込めなければ…
たとえ何らかのきっかけで、殺し屋にピストルが
渡ったとしても、ツンを殺すことは出来ないだろう…。

(;^ω^)=3(ふぅ…)

映像の中の出来事を、回避するために、すぐさまそれを
ポケットにしまいこむ…。


456 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:11:49 F.Flrzh60
ここには銃弾など、最初から無かった。
そう言って誤魔化せば、ツンも納得してくれるはずだ。
捜されたのだとしても、見ていないところで
あの谷底に落としてしまえばいい。

……

( ^ω^)

(;^ω^)そ

ポケットにしまいこんだ銃弾で、僕は、とてつもなく
恐ろしいことを思い出してしまった。

(;^ω^)(あいつ…ナイフ持ってたお…)

(;^ω^)(ツンも、ピストルを持ってたお…
      撃てなかったけど…)

…対して僕は、何も持っていない。

人を殺傷するものを、常備したいわけではないが
護身用の武器が、一つでも無いとなると…。


457 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:12:50 F.Flrzh60

(;´ω`)(おお…か、考えたくないお…)

とても情けないが、いま手元にある道具で
相手を怯ませるぐらいしか、戦う方法は無い。
身を挺して、ツンを庇うことぐらいなら出来るが
僕だってまだ、死ぬわけにはいかない…。

戦わずに済むに、越したことは無い。
それが最善なのだが…現実は甘くない。

いや、いざとなれば、全てを打ち明けて
ツンからピストルを貰って、僕が前線に立てば…

…などと、考えているうちに。
ガチャリと、ドアの開く音がした。


(;^ω^)そ


458 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:13:30 F.Flrzh60

ξ; ⊿ )ξ「…」

ξ;゚⊿゚)ξそ「!?」

ξ;゚⊿゚)ξ「あ、あなたは…!」


ξ;゚⊿゚)ξ「ブーン?!」

( ^ω^)「ツン!!」


…過去を変えるために、飛んできた僕。
再生された映像の中で…小屋に現れた、ツン。

互いの状況は違えど、約束通り、僕達は再会を果たした。
切に願った再会を…果たすことが出来たのだ…。
油断できない、緊迫した空気の中だが、僕は小さく息を吐いた。

ひとまず再会は出来た、あとは…


ξ゚⊿゚)ξ「…でも、どうしてここに?」

(;^ω^)「お?」

はやく逃げよう…そう言って、手をひこうとしたとき。
ツンの口から、僕に疑問が投げかけられた。
思わぬ質問に答えようもなく、僕は口篭ってしまった。

そんな僕に、ツンはじりじりと詰め寄った。


459 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:14:51 F.Flrzh60

ξ゚⊿゚)ξ「ここ、誰も寄り付かないような場所なのに…。」

(;^ω^)「お…いや、えっと…」
 _,
ξ゚⊿゚)ξ「不思議な人…この前も突然…」

(;^ω^)「いや、あとでちゃんと説明しますお!」


答えられぬ質問ではないのだが、説明すれば長くなる。
それに…ツンが悲しむような話も、多くある。
頭の中で整理して、話す時間があればいいのだが
追われている今…そんな場合ではない。

なんとか彼女を、説得しようとした、そのとき。
ガチャリと…もう一度、ドアの開く音が聞こえた。


(;^ω^)そ

ξ;゚⊿゚)ξそ

         (’e’)


460 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:16:45 F.Flrzh60

(’e’)「ふっふっふ…追い詰めたようだな。」

…殺し屋だった。
黒い帽子に、スーツ…全身黒尽くめの男。
あのときと、同じ格好をしている。

そして…手には、ナイフが握られていた…。


(;^ω^)「ツン、さがるお!」

ξ;゚⊿゚)ξ「なに言ってるの!
       あなた、何も持ってないじゃない!」

(;^ω^)「いいから!!」

それでも、盾ぐらいにはなれる…出来ることなら
そう言いたいところだった。
僕は男だから、取り押さえるぐらいなら…。

(’e’)「…うん? 連れもいたのか…」

(’e’)「まあいい。
     一人殺すも二人殺すも
     似たようなものだ…。」

僕が来たことで…多少、こいつの出番が増えたようだ。
だからといって、追い詰められていることに変わりはない…。

ピストルを構える彼女の前に、僕は立った。
「何をしているの」と、彼女に咎められたが…
この後を思えば、何もせずにはいられない。


461 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:17:25 F.Flrzh60

ξ;゚⊿゚)ξ(;^ω^)     (’e’)「素直にその石を渡していれば」


ξ;゚⊿゚)ξ(; ω )   (’e’)「命を捨てなくても済んだものを…」


じりじりと…壁際に、追い詰められていく。
登場人物が一人、増えたところで
そいつに武器がなければ、同じことだ。
「運命」に笑われているような気がして、腹立たしい…。

ところが、その「運命」は同情してくれたのか
僕にこんな気を利かせてくれた。


ξ;゚⊿゚)ξ(  ω )   (’e’)


心の中で、僕は笑った。

ナイフを構えながら、同じ台詞を吐く男…。
気付いていない、いや…気付けるはずもない。
それは、未来の出来事なのだから。

この男…映像の中で立っていたのと
全く同じ位置に、移動している。

…傍らに、タンスがあるのだ。


462 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:19:35 F.Flrzh60

ξ;゚⊿゚)ξ

(; ω )


…同様に、壁際に追い詰められたツンは
ほんの一瞬、僕の方に視線を向けた。

僕の身を、案じてくれているのだろうか?
…この後に起きることを、知ってしまった
僕としては…自分の身を案じてもらいたい…。


ξ;゚⊿゚)ξ「…あなた達は、祖父の
       本当の恐ろしさを、知らないんだわ!」

(’e’)「ふっ、そんなこと俺には関係ない。」

(’e’)「その石を持ってゆけば
     いい金になるんでね…」

(; ω )

…映像の中と、全く変わらないやりとり…。
この後、起きる出来事に、変化が無いのならば
必ず…そのときが来るはずだ。

後か先かはわからないが…出来れば
その前に、ここから二人で逃げ出したい。

男を睨みつけながら、計画を練ろうとした僕は…


463 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:20:18 F.Flrzh60

(’e’)「まあいい。これでおしまいだ。」

ξ;゚⊿゚)ξ


(;^ω^)「…お?」


…やはり、少しだけ変化が起きていることに、気がついた。

それは、あの映像の中では見られなかったものだ。
何も出来なかったツンが、腰を僅かに屈めて
狙いを、男に定めている…。

(;^ω^)「ツ、ツン!」

嫌な予感がした僕は、ツンに駆け寄ろうとした。
しかし、ツンの一声が、僕の動きを止めた。


ξ;゚⊿゚)ξ「この男は私がなんとかするわ!
       あなたは、はやく逃げて!!」

(;^ω^)そ「っ…!?」

ツンは、思った以上に、芯の強い女性だった。
武器が無いと、僕を罵るでもなく、むしろ
自分を犠牲にして、僕を守ろうとしてくれている。

女の君が立ち向かっているのに…誰が、逃げるものか!

男としての意地でもあったが、なんとしてでも
彼女だけは、無事に救いたかった。


464 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:20:59 F.Flrzh60

(;^ω^)「ツンっ…!」

ξ;゚⊿゚)ξ「さあ、はやく!!」


(’e’)「そうはさせ…」


465 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:22:14 F.Flrzh60

――ゴゴゴゴゴ……ガタガタガタ…


466 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:22:55 F.Flrzh60

男が、ナイフを振り下ろそうとした、そのときに。
それは、予定されていたように起きた。


そ(’e’;)「な、なんだ、こんなときに!!」

ξ;゚⊿゚)ξそ「っ…!?」


(;^ω^)


地震…それも、予想以上に大きな揺れだ。
一人、この出来事を知っている僕だけが
冷静な頭で思い出していく。

この後…二人とも、僕を含めて三人か…
全員が、バランスを崩して…気を失う。

映像の通り、揺れで重心の傾いたタンスは、男の上に覆い被さり
バランスを崩して転倒した、ツンと僕の意識は、闇の中に飛んだ。

…僅か、数秒の出来事だった。


467 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:24:01 F.Flrzh60

 ・


 ・


 ・


468 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:24:46 F.Flrzh60


……起きて……


469 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:25:26 F.Flrzh60

( -ω-)

( ^ω^)


( ^ω^)「…おっ…」

聞こえてきた声に、反応した僕が目を開けると…
ツンが、倒れた僕の目の前で屈み、僕を覗き込んでいた。

ξ゚⊿゚)ξ「目を覚ましたみたいね…大丈夫?」

( ^ω^)

(;^ω^)「…あれ?」

ξ゚⊿゚)ξ「どうしたの?」

(;^ω^)「あ、あの、だ、大丈夫、なんですかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「えぇ…私は大丈夫よ。
     あなたも…怪我は無いみたいね。」

(;^ω^)「……」

…彼女の方が、先に目を覚ましていたようだ。
僕が目を覚まし、怪我が無かったことを確認すると
ツンは何事も無かったように、すっと立ち上がった。

映像の中では、ふらふらしていたように見えたが…。
これも、僕がいたおかげなのか。

それにしても…彼女より後に目を覚まして
しかも、起こされるとは。男として、面目丸潰れだ…。


470 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:26:06 F.Flrzh60

何はともあれ、僕の荷物も無事なようだ。
身の回りを確認した僕は、


( ^ω^)「…とにかく、はやく逃げましょうお。」

ξ゚⊿゚)ξ「そうね…」


 ξ゚⊿゚)ξ⊃⊂( ^ω^)


その手を引いて、裏口のドアへと向かった。

ツンの右手に、あるものが無いことも、確かめた。
悟られないように、若干、動きを遅らせて、僅かに後方を見る。

彼女は、気付いていない。
己の、生死の分かれ目が…この瞬間にあったのだと。


( e ;)「…くっ…」


やがて後方から、男のものと思われる呻き声と
引き金を引く音が、聞こえた。


471 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:26:50 F.Flrzh60

カチンッ…


472 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:27:43 F.Flrzh60

…弾を込めていないピストルが、虚しく空を報せる。
間の抜けた音に、横目で見ていた男の顔が
驚愕と絶望に染まっていった。


( e ;)「な、何故…弾が…」


( e  )「グフッ」


嘆いた男は、力尽きて…そのまま動かなかった。
見届けた僕は、黙って男に歩み寄ると
その傍らのピストルに、手を伸ばした。


ξ;゚⊿゚)ξそ「あっ…」

そこで、彼女も気付いたようだ。
地震の衝撃で、ピストルを手放してしまったことに。

焦りで、目の前が見えていなかったのだ。
それが死に繋がるとは、思いもよらなかったろう…。
事の大きさを知ったのか、ツンは「ありがとう」と小さく呟いた。

( ^ω^)「弾、入ってなくってよかったお。」

涼しい顔で、僕はそれに答える。


473 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:28:26 F.Flrzh60

ξ゚⊿゚)ξ「……」

…礼を言いながら、ツンは不思議そうにしていたが
そんな些細なことを気にしていられるほど、余裕は無い。
すぐに、僕に向けていた顔を、ドアへと戻した。

なんとも呆気ないものだ。
ピストルを手に入れた僕は、心の中で、大笑いしていた。

(  ω )(は、ははは…!)

(  ω )(勝ったお…「運命」に勝ったんだお…!)

ツンの手前、声に出すことはしなかったが
僕は、心の中で思い切り、勝利の歓喜に打ち震えた。

(*^ω^)


僕は…ツンを、救うことが出来たのだ。


474 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:29:07 F.Flrzh60


ガチャ






バタン


475 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:29:49 F.Flrzh60

…意気揚々と、裏口のドアを、開けた先。

そこで待っていたのは、あのぼろぼろの橋と
爽やかな空と、綺麗な谷の風景…それだけ

の、はずだった。

ツンの手を引きながら、数歩、足を踏み出した僕は


「そこまでだ、ツン。」


ξ;゚⊿゚)ξそ「!?」 (;゚ω゚)そ「!?」


…聞こえてきた低い声に、耳を疑った。
それは僕が、一度も聞いたことのないものだ。

否、聞き覚えのあるわけが無かった。
僕は、未来の人間なのだから。

だが…だからこそ、僕は、自分の目と耳を疑った。

夢であれと、願った。


(; ω )(馬鹿なっ…!!)


476 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:30:30 F.Flrzh60

黄昏迫る夕闇…空には、青と赤の水平線が引かれ
その間に、月が浮かんでいる。


爪'ー`)y-


ぼろぼろの橋と、不思議な色の空を背に、男は立っていた。
タンスの下敷きになった殺し屋と、全く同じ格好の男…。
背景に馴染まぬ男の手には、機関銃が握られていた。

何故だ…この世界へ来たときに、見た僕の目に
こんな男の姿など、見えなかったはずだ!


(; ω )(…そん、な…)


…先程の、歓喜した心が、嘘のように萎れていく。
今の、僕の顔は…絶望に打ちひしがれて、酷いことになっているだろう。

ξ; ⊿ )ξ

視線を向ければ、横にいるツンも、同じような顔をしていた。

彼女もまた、僅かな希望にかけて
逃げられると、思ったのだろう。

現実は…甘くはない。
殺しのプロが、機関銃など持っていては
二人で無事に逃げることなど、出来ないだろう…。


477 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:31:11 F.Flrzh60

(; ω )(僕は、無理でも…
      せめて、彼女だけなら…)

…僕の考えは、固まっていた。
壁際に追い詰められたツンが、決心したとき同様
僕もまた、命を捨てる覚悟を、決めていた。


爪'ー`)y-「おまえも、哀れな女だ。
      呪われた一族の血を、受け継いだばかりになぁ。」

…とても、憐れむようには聞こえない台詞。
寧ろ、抗えぬ運命を、嘲笑っているようにすら取れた。


ξ ⊿ )ξ「………」

(; ω )「ツン…!!」


まだ、諦めるときではない。
僕達の手元には『青い石』がある。
それに『青い石』の所有者は…未来から飛んできている。

ロマネスク=スギウラの息子、ブーン=スギウラ。
この僕が、ここで倒れたら…未来が成り立たなくなる。
『青い石』だって、そんなことは望んでいないだろう。


478 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:31:52 F.Flrzh60

だと、いうのに。


爪'ー`)y-「その連れには、何の関係もないんだろう?」

ξ ⊿ )ξ「…」

先程の殺し屋より…よほど、頭の切れる男だった。
こいつは、僕とツンの両方を殺す為に
自分の元にツンを、誘おうとしているのだ…!

(#゚ω゚)「やめろ!!」

爪'ー`)y-「おまえがその石を渡すなら
      その男の命は見逃してやる。
      どうだね、ツン。」

ξ ⊿ )ξ「………………」


…他人の命を、引き換えに取られたら。
たとえば、逆の立場で、僕が追われていたのだとしたら。
その場にいただけのツンを、見逃してやると、言われたら。

僕は…僕なら…どうしただろうか?
男の要求に、頷いただろうか?
逆らって、ツンが死ぬことを…或いは
共に死ぬことを、選ぶだろうか?


479 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:32:56 F.Flrzh60

芯が強くて、優しい、真っ当な人である彼女は

ξ ⊿ )ξ「わかったわ……」

(;゚ω゚)「ツン…!!」

迷うことなく、前者の答えを、選んだ。
名を呼ぶ僕の声に、振り向きもしないで
男の方へと、真っ直ぐに歩いていく…。

(;゚ω゚)「ツン!だめだお!!!」

(;゚ω゚)「戻って来るんだお、ツン!!!」

(;゚ω゚)「僕は、僕は君に、名前を教えたんだお!」

(;゚ω゚)「簡単に、命を捨てないって、約束したからだお!」


(;゚ω゚)「だから、戻ってくるんだおおお!!!」


ξ ⊿ )ξ


…何を叫んでも、彼女は、立ち止まらなかった。
立ち止まったのは、変わらず機関銃を構える男の、手前だった。


480 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:33:42 F.Flrzh60
爪'ー`)y-「いい子だ…とても、あのアラマキの
      孫とは思えんな…」

爪'ー`)y-「ハッハッハ!」


(# ω )「ぐうっ…!!」


…無力な自分が、悔しかった。
これほど、恨めしいと思ったことは無かった。
何か…相手に対抗しうる道具があれば、別だった。

いや、持ってはいた…ツンのピストルだ。
テーブルから取り上げた、一発の弾を装填すればいい。

しかし、相手はプロだ。
使う間もなく、男はツンと僕の両方を、殺すだろう。

(# ω )(何か…何かないのか!)

そう考えを巡らせている間にも、時は進む。
男の手前で、止まったツンは
『青い石』の欠片を、渡したようだった。

それを受け取った男が、


爪'ー`)y-ξ;゚⊿゚)ξそ


予想通り…ツンを引き寄せて、僕の方に向かせた。
彼女が動けないように抱きしめて、機関銃を、僕の方へ構える。


481 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:34:31 F.Flrzh60

爪'ー`)y-「私は、完全主義者だ。
     足のつくような真似が、どうも苦手でね。」

爪'ー`)y-「残念だが、そいつには死んでもらうよ。」

ξ;゚⊿゚)ξ「何をするの!
       あの人には全く関係のないことだわ!!」

(; ω )「ツン…っ!」

全く関係の無い…関係の無いことだと?
僕は…君が捜していた、会いたがっていた
ロマネスク=スギウラの息子なんだぞ!

『青い石』の所有者で…父に関わって、君を知ったのに
全く関係の無いことだなんて、嘘を!


(; ω )「ツン、僕は!!」


爪'ー`)y-「心配するな、お前も一緒に」

爪'ー`)y-「あの世へ送ってやるから…ハッハッハ!!」


やはりこの男は、僕とツンの両方を、殺すつもりだった。
場の雰囲気に、不相応な笑い声が、渓谷に響き渡る。

抗えぬ「運命」に、勝ったつもりでいた僕は
敗北した悔しさを噛み締めながら、死んでいくのだ…。


482 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:35:44 F.Flrzh60

…だというのに。
何故「運命」は、僕をこのまま、死なせてくれなかったのか。
苦い惜敗の思いと、抗えぬ悔しさ…無力さに叩きのめされた僕を
何故、もっと痛めつけようとするのだ。

僕がツンと共に、死の淵へ巻き込まれようとした、その瞬間。
殺し屋の男に、片手で胸に抱き寄せられていたツンは


ξ( ⊿ ;ξ そ(゚ω゚;)


両手を広げて


爪;'Д`)そy-


僕の前で。


爪;'Д`)y-「えぇい、じゃまをしおって!
       どけ!!」

声を上げることしか出来ない僕の、目の前で、ツンが。
捕らわれていたツンが、僕を、庇った。


483 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:36:25 F.Flrzh60

片手でとはいえ、成人男性に引き寄せられていたツン。
何処に、それを跳ね除ける力が、あったのか。

間もなく、僕の目の前で
映画によくある光景が、繰り広げられた。

わかっていたのに、そんな光景を目にしながら
僕の体は、全身が石にでもなったように
指先の一本も、動いてはくれなかった。

男にとっても、予想外だったのだろう。
怒鳴り声を上げたと同時に、何発もの弾が
盾となった彼女に向けて、発砲された。

鈍い音と共に、弾丸は、華奢なツンの前身を、貫いていく。
被弾したツンの体は、振動に合わせて、がくがくと揺れた。


484 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:37:05 F.Flrzh60

爪;'Д`)y-     ξ( ⊿ ,;ξ.,,


瀕死の重傷を負って、血塗れになった体が
息絶えて、前のめりに倒れる前に。


爪;'Д`)そそy- ξ( ⊿ ξ==


ツンは、男に駆け寄っていく。
男は、橋の傍らに…崖を背に、立っていた。


485 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:37:47 F.Flrzh60

漸く、僕の体に、自由が利きはじめた頃には
ツンは既に、たじろぐ男と揉み合っていた。


(;゚ω゚)「ツーーーーン!!!!」


あらん限りの声で、叫ぶ僕の声など、誰に届くのだろう。
それでいったい、何を、どうすることが出来たのだろう。
今更、その後のことなど、変える時間もないのに。


爪;'Д`)y-ξ( ー ξ

「な、なにをしやがる! ど、どけ…」


486 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:38:32 F.Flrzh60


「うわぁあぁあっ」


487 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:39:18 F.Flrzh60

血に塗れた体を張って、ツンは、殺し屋を道連れに、崖下へと落ちていった。

成す術も無く、見ていることしか出来なかった、僕の目の前を、宝石が転がった。

ツンの手から、僕へと託すように投げ放たれた『青い石』だった。


488 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:40:05 F.Flrzh60
















489 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:40:53 F.Flrzh60

#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内一層 オーナー部屋


490 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:41:35 F.Flrzh60

…力なく項垂れている、僕の目の前には
アラマキ=スカルチノフが、静かに座っていた。

俯いた表情は、苦痛に歪んでいて
服についていた血の色は、黒ずんでいる。

…あれから大分、時間が経ったらしい。
最期に、己のしてきたことを悔いていたのだから
安らかにとは言えないが、苦しみながらも
老人もまた、深い眠りについたようだ。

同じ血を引くツン=スカルチノフも…死んでしまった。
「運命」を変える力があるという、この石ですら
人の死という自然の摂理には、抗えなかった。

(  ω )「スカルチノフ家の血筋は…絶えたんだお…」

石に弄ばれた、哀れな一族の終焉だ。
この世に残されているのは、船に乗ることも、近付くことも
許されなかった、遠縁の者ぐらいだろう。

二人の冥福を、僕はただ、祈ることしか出来なかった…。


491 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:42:15 F.Flrzh60

不思議なもので、涙は出なかったが
僕は、自分の無力さを悔いていた。

ああしていれば、こうしていれば…悲しみよりも
自分に対する悔しさが、項垂れる僕を、責め続けていた。


(  ω )「どうして、これだけ残ったんだお…」

あのときのピストルは、何処にも見当たらなかったのに
使われることの無かった、一発の弾丸だけが
『青い石』の欠片と共に、転がっていたのだ。

あのとき、撃っていればよかったのだろうか?
下手な真似をすれば、僕がツンを殺めてしまったかもしれないのに…。
石は、それでも使えと、言いたかったのだろうか?

(  ω )「…」

( ^ω^)「……」

ツンから託された『青い石』の欠片を
僕は、持っていた石の金枠に、嵌め込んだ。

本当に、片割れだったのだろう。
ぴたりと嵌まったそれは、菱形の綺麗な宝石となった。
これで、欠片ではない、本当の『青い石』を、僕は手に入れたのだ…。


492 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:43:04 F.Flrzh60

人の命と引き換えに、願いを叶える『赤い石』
その力を止めるための『青い石』…。
これがあれば、父もきっと、正気を取り戻してくれる。

(  ω )「失ったものが…大きすぎるお…」

呟いた言葉を、拾ってくれる声は無い。
慰めも労わりも、励ましの言葉も、何も無い。
老人の亡骸が、腰を据えている以外に、この場所には何も無いのだ…。


( ^ω^)「…お…?」    +

青い石をしまって、立ち上がった僕は
浮遊感の残る頭を何とか使って、部屋を見回して…気付いた。

アラマキの傍にあるテーブルに、鍵が置いてある。

( ^ω^)「機関室…!」

角ばった鈍色の鍵を手に取った僕は、小さく書かれた
鍵のかかった部屋の場所を、思い出した。

船内二層の、左舷連絡通路にあった、ドアの開かない場所。
そこが、確か「機関室」だったはずだ。
「機関室」は三層に位置していて、室内に倉庫がある。
船の中枢を担う、重要な場所だ。

二層の船員食堂で出会って以降、父の姿は見かけない。
アラマキが鍵を遺したくらいだ、おそらく父は、そこにいるのだろう。

( ^ω^)「でも、あと…行っていない場所が
      もう一つだけあるんだお。」

( ^ω^)「だから、もう少しだけ待っててお。」

鍵を手に取った僕は、亡骸をそのままに、部屋を後にした。
老人の最期を看取った僕が、向かう場所は…
そのときを待っていた、トソンさんの部屋だ。


493 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:43:47 F.Flrzh60

#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内一層 家族部屋/森


494 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:44:30 F.Flrzh60

(-、-トソン「そうですか…父は、死にましたか…」

一通り、最低限の説明に留めて話すと、トソンさんは
アラマキとツンの死に憂い、目を伏せていた。

…彼女なりに、思うところがあるのだろう。
少し黙祷を捧げて、トソンさんは僕に向き直ると、深々と頭を下げた。

(-、-トソン「父が、ご迷惑をおかけしました。」

(  ω )「そんな…僕の方こそ
      何も出来ずに、すみませんお…」

そう言うトソンさんに、僕も頭を下げた。
本来なら、救えなかったと謝るべきだったのだが…
彼女は静かに首を横に振って、これでいいと言ってくれた。

(-、-トソン「…では、そろそろ私も…」


(-、-トソン

( 、 トソン

.。.:*・゜・.+.*, 、 トソン

:*・+゚.。+゚:*・*゚.:。゚・*:.。.... ,


( -ω-)「…おやすみなさいですお。」

一族の終焉を見届けた彼女も、静かに天に昇っていった。
これで本当に、スカルチノフ家の者はいなくなったのだ…。


495 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:45:21 F.Flrzh60

 ・


 ・


 ・


496 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:46:02 F.Flrzh60

…トソンさんを見送った僕が目指したのは、三層の機関室ではない。
そこに行く前に、やらなければならないことがあるのだ。

まだ、僕は二層にいる亡霊を、救い出せていない。
忘れるわけが無い、ここは豪華客船なのだから
どんな施設も揃っていることを。

招待客の娯楽室として、設けられた一角。
彼らはそこにいて、来ない客を待ち続けている。


(;^ω^)「いやまあ、ギャンブルなんですけど。」

…そう、カジノだ。ギャンブラーの集う場所。

僕はいま、カジノの入り口で、遊ぶ為に必要な
チップの無料引換券を整理していたところだ。

…何処で取って集めたかは、聴かないこと。

純粋に遊びたいと思うか、金目当てに入り浸るか…。
世の中のイメージは、どちらかというと後者なので
あまり良いことではないのだが。

( ^ω^)「ま、ざっとこんなもんだおね…」

手に広げた引換券は、ざっと7枚ほどだ。
といっても、使えるのは一人3〜4枚が限度だろう。
そこまで気前良く分けていたら、採算が取れない。


( ^ω^)「んじゃま、いくかお…」


チップ引換券を片手に、荷物を取って、僕は
両開きのドアを押し開けた。


497 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:46:44 F.Flrzh60

#過去世界 1913年 ??月 ??日 ―ニュー速VIP号・船内二層 カジノ


498 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:47:25 F.Flrzh60

( ´ー`)「いらっしゃいまs」

( ゚ω゚)「チップ無料引換券4枚使用で!!」

(;´ー`)「なんか圧倒的な気を感じるんだけど」

( ゚ω゚)「シラネーヨ!」

(;´ー`)「人の台詞とるなヨ!」

…そんなやりとりを入り口で広げながら
半ば強引にチップを交換して、僕は何をしようか、迷っていた。
というか、何をすれば、この人達を救えるか、考えていた。

室内は、煌びやかな照明で明るく、軽やかなジャズの曲が流れている。
ドアの外の、陰鬱な雰囲気とはおよそ正反対のカジノだが
やはりここの支配人も、ルーレットの前で
機械的な動作をするディーラーも、半透明の影なのだ。

彼らも、巻き込まれて死んだのだと思うと
仕事で乗り合わせただけなのに、なんとも不憫だが…。

ギャンブルといえば、白熱した駆け引きを見せるしか
未練を晴らす方法が浮かばないが、ここには僕以外に
客がいない(物理的に無理)ので、勝負の見せ場も用意出来ない。


499 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:48:05 F.Flrzh60

…ふと、ディーラーと視線が合った。
背の高い彼は、ルーレットの前で、来客を待っているようだ。
目が合うと、無機質な声で礼をして、僕を迎えた。

(;^ω^)(なんか威圧感があるんだお…)

もしかして、このディーラー、やり手ではないだろうか…?
あまり強いディーラーに当たっても、困るのだが…。

しかし目が合ったのに、無視するのも気まずい。
彼におそるおそる歩み寄った僕は、チップを見せて
ルーレットで遊ぶことにした。


( <●><●>)「いらっしゃいませ。」

( <●><●>)「あなたがこちらに来るのはわかっていました。」

( ^ω^)「いやがらせか」

( <○><○>)

(((;´ω`))


目がこわい。


500 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:48:46 F.Flrzh60

(;^ω^)「あ、あの…ルーレットをしたいんですお。」

( <●><●>)「わかりました。」

( <●><●>)「準備は整っております。」

( ^ω^)「はええよ。」

( <●><●>)「それでは、幸運を…」


…まだ、心の準備が整っていないまま、始められてしまった。
確率の低いスロットでないだけ、まだマシなのだが…。
僕は一応、初心者だから、ルールの説明くらいはして欲しいものだ。


( <●><●>)「あなたがルールを
       よく知らないのはわかっていました。」

( ^ω^)「説明しろ。」

( <○><○>)

(;´ω`)「…せ、説明をお願いしますお…」


…このディーラー、嫌過ぎる。
先行きが不安な僕は、知られないように、そっとため息を吐きながら
説明するためにセットする彼を、じっと眺めていた。


501 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:49:39 F.Flrzh60

( <●><●>)「まず、私、ワカッテ=マスが
       円盤を回転させます。」

ディーラー…ワカッテ=マスと名乗った彼が
ルーレットの円盤を、実際に回しながら、説明を始めた。

次に、掌で転がしていた、小さな銀色の球を、その中に投げ入れる。
カラカラと、大きな音を立てて、球は転がっていった。

( <●><●>)「回転する円盤の中に、私が球を入れるので
       プレイヤーであるあなたは
       どの穴の中に入るか、当ててください。」

( ^ω^)n「先生、質問です!」

( ^ω^)n「賭け方はどうすればいいですかお!」

(;<●><●>)「私は先生ではありません。」

…少しでもディーラーに馴染もうとして、質問してみたのだが
どうやらノリは良く、ツッコむことはできるらしい。

しかもそうツッコみながら、僕の質問に、ワカッテ=マスは律儀にも
チップを置くテーブルの、レイアウトに沿って説明してくれた。


502 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:50:25 F.Flrzh60

( <●><●>)「賭け方は何通りもありますので、基本から。」

( <●><●>)「円盤の穴は『ポケット』と呼ばれ
       0と00、1〜36の数字
       合わせて38個に区分されています。」

( <●><●>)「各数字のポケット1つに対して
       賭けられるチップは10枚まで。」

( <●><●>)「数字一つに賭けた場合、配当は36倍なので
       1枚賭けて勝てば、36枚のチップが手に入ります。
       ストレイトアップという賭け方です。」

( <●><●>)「他にも、ポケットが奇数か偶数か。
       奇数→偶数の順に振り分けた赤・黒の色か。
       このレイアウトの縦三列か。」

( <●><●>)「1〜18か、19〜36の数字か。
       ライン上に置き、2〜4つの数字に賭けるか。
       1ダースの数値に賭けるか。」

( <●><●>)「様々な賭け方があるので、お好きにどうぞ。」


(;^ω^)「ご、ご丁寧にどうも…」


503 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:51:12 F.Flrzh60

きちんとした説明に驚きながら、僕は握ったチップの一枚を
何処に置こうか、テーブルを見ながら考えた。

1〜36のどれか一つへ全て賭ければ、36倍の配当で
かなり儲けられるが、ハイリスクなので、あまりやりたくはない。
…ギャンブラーとしては、タブーなのだが。

思うに彼らは、リスクを物ともせず賭けられるような
そんなギャンブラーを、心から求めているのではないだろうか。

もしそうだとして、それが未練なのだとしたら
尚更、僕はそのギャンブラーとして
一騎当千の賭けを楽しまなければ、ならないのだ…。

( `ω´)⊃(だったら…いくお!!)

決意を固めた僕は、25…自分の年齢の数字に
チップを一枚、賭けた。

…そしてもちろん、一箇所だけだ。


( <●><●>)「…他には。」

( ^ω^)「これだけで。」

( <●><●>)

( ^ω^)

( <●><●>)「あなた、ギャンブルをなめてるんですか?」

( ^ω^)「いたって本気です。」

( <●><●>)


504 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:52:10 F.Flrzh60

…気のせいか、視線がとても冷たい気がする。
まあ確かに、一箇所に一枚というのは、ぱっと見ると
しょぼすぎると思うのだが、よくよく考えれば、そうでもないのだ。

実は賭ける場所を、36まである数字のうちの
ポケット一箇所のみに絞れば、それが当たった場合の配当が、72倍。
当たれば、1枚賭けたとしても、72枚返ってくるのだ。

…僕がやったのは、本当の「運試し」である。
無謀だと呆れられても、無理はないかもしれない。


( <●><●>)「…わかりました。」

( <●><●>)「では、ルーレットを回します。」

少しの間を置いて、ワカッテ=マスは円盤を回し、球を転がした。
先程同様、カラカラと音を立てて転がる球を、僕は横目に見つめた。

大して興味は無かった。
当たらなくてもいいと、思っていたのだ。
その行動を続ければ、いつかは当たるのだから。

一枚だけしか賭けていないのだから、リスクは無いが
ギャンブルに必要な「運試し」にはなる。
他に客がいないからこそ、自分なりのやり方で出来る。


505 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:53:06 F.Flrzh60

カラッカランカラン…


カラカラカラ…



カコン


506 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:53:48 F.Flrzh60

( <●><●>)


( <○><○>)「なっ…」


(^ω^ )

(;^ω^)「…え?」

…関心を、次にチップを置く数字に向けていた矢先。
ワカッテ=マスは、一度、驚愕の声を上げたまま、固まった。

先程、僕に向けていた白目を、今度は円盤に向けている。
かと思うと、不正が無いかのチェックか、辺りを丹念に調べていた。

( ^ω^)

(;^ω^)「…え」

まさか、と思った僕に、ワカッテ=マスは、白目を向けた。
何を言われるのか…身構えた僕は、何も言葉を発しないまま
まじまじと眺めているワカッテ=マスに、痺れを切らして問いかけた。


(;^ω^)「あの、もしかして…」

(;^ω^)「当たっちゃいました、かお?」


勘違いなら恥ずかしいと、思っていたからか
問いかける僕の声は、自然と小さくなった。

…その後、僕はこの場に、客がいなくて良かったと、本気で思った。


507 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:54:30 F.Flrzh60

(;<●><●>)「…え…ええ、そ、そうです…」

(;<●><●>)「球は、レッド25のポケットに、入りました。」

(;<●><●>)「賭けが、一箇所のみの場合
       72倍の配当ですので…」

(;<●><●>)「あなたには、72枚のチップを用意します…」


( ^ω^)

( ゚ω゚)


…たった一箇所の、たった一枚の賭けで
僕は、大儲けしてしまったのだから。


508 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:55:21 F.Flrzh60

(;´ー`)「…お客さん、素晴らしい運をお持ちダヨ」

…半ば放心していると、いつの間にやってきたのか
カジノの支配人が、僕に声をかけてきた。

本当に勝つとは思っていなかったので
僕にとっては、何だか決まりが悪いのだが…。

(;^ω^)「え…なんか、すみませんお…」

( ´ー`)「寧ろ、それでいいんダヨ。」

謝る僕に、支配人はそう言うと、ワカッテ=マスと共に
「こっちへどうぞ」と、隅にある個室へと僕を招いた。

…そう、この個室、カジノに入ったときから
ずっと気になっていたのだが、支配人の目についた人しか
入れない、特別な部屋のようだ。

手招きされた僕が奥へ進むと、木のテーブルに
半透明だが、なんとも色っぽいお姉さんが腰かけていた。


509 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:56:27 F.Flrzh60

この部屋に来て、会ったときから、僕は
一種の緊張感のようなものを、この女性から感じていた。

なんというか、オーラがあるのだ。
他人を寄せ付けないような、何か。

…もしかしたら彼女は、偉大なギャンブラーなのかもしれない。


('、`*川「はじめまして。ペニサス=イトウよ。」

( ^ω^)「ブーンですお。」

('、`*川「ここから見ていたわ。
     あなた、臆病だけど、変なところで強気なのね。」

(;^ω^)「おぉう…」

互いに自己紹介をした後、手厳しい分析を受ける。
臆病だけど、変なところで強気…褒められている気がしない。

座るよう促されて、手近にあった椅子に腰を下ろした。


(;^ω^)「そ、それで、僕は
      何をしたらいいんですかお…?」

('、`*川「ここに来たからには、決まってるでしょ?」

('、`*川「私と勝負して。ゲームは、ブラックジャックよ。」

( ^ω^)「…!!」

物も言わせぬ態度で、彼女は僕に、そう切り出した。


510 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:57:08 F.Flrzh60

ブラックジャック…簡単に説明すれば
トランプの数字を合わせて、21にした方が勝ちだ。

単純なように思えるが、カードの合計は原則
「21」を越えないようにしなければならない為
ルールを知らなければ、勝つことは限りなく難しい。

知ったとしても、運試しだ。
純粋なその場の「運」だけが、鍵を握っている。
…イカサマさえなければ。

( ^ω^)(まあ…心配はいらないかお…)

個室といえど、ディーラーだけではない。
ここにはカジノの支配人もいる、ましてや彼らも亡霊だ。

なんとしても、勝って相手を満足させなければ。
手元に置かれたカードを見ていると、ペニサスが妖しく笑みを浮かべた。


511 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:57:51 F.Flrzh60

('、`*川「さあ、チップを狡賢く集めたお兄さん。
     私を満足させてくれるのかしら。」

(;^ω^)「あ…見られてましたかお…」

('、`;川「言っておくけど、ここからでも
      そっちの様子は見えるわよ。」

純粋な賭け事をして稼いだのでなく、引換券を渡して
そのうえ、チップ一枚でぼろ儲けしていたところを見られたとは。
相手が女性なだけに、なかなか恥ずかしいものだ。

('、`*川「まあいいわ…。
     念のために、ルールを説明するわね。」

(;^ω^)「お、お願いしますお…」

あまり、こういった賭け事をしない僕だ。
本業の人から、説明を貰ったほうがいいだろう。

若干、緊張で震えてきた僕を、知ってか知らずか、彼女は
手元の適当なカードを引いて、説明を始めた。


512 : ブラックジャックのルール ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:58:31 F.Flrzh60

('、`*川「まず、カードのA〜Kの数を使って
     21にしていくのは、わかるわね?」

( ^ω^)「はいですお。」

('、`*川「21にならなくても、出来るだけ
     合計数を21に近付けて
     ディーラー…私より、数が大きければ勝ち。」

('、`*川「逆に、大きすぎて21を越えると
     バーストといって、どちらも無条件に負けるわ。」

( ^ω^)「ちなみに、もう一枚カードを引くのは
      『ヒット』と言いますおね。」

('、`*川「そうよ。」

('、`*川「ヒットしないで、場に出ている手札で
     そのまま合計数を競うのは『スタンド』ね。」


513 : ブラックジャックのルール ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 22:59:15 F.Flrzh60

引いた一枚のカードを、ひらひらと振りながら、ペニサスは
予め練習でもしていたように、すらすらと説明を続ける。

('、`*川「使うカードの数字はA〜K。まあ一通りね。」

('、`*川「このうち、Aは1か11として扱うの。」

( ^ω^)「合計数が21を越える場合は1
      越えない場合は11ですおね。」

('、`*川「そうよ、だから手元の合計が10で
     そこにAが出れば21になる。」

('、`*川「だけど、それが認められるのはAだけで
     原則、数は1〜10で組み合わせるわ。」

('、`*川「だからJ,Q,Kは10として扱ってるの。」

('、`*川「めんどいから、細かいことは省くけど
     Aとの組み合わせ次第では、最初に出た
     手札二枚で、勝敗を決めることが出来るわ。」

(;^ω^)「いや、そこはめんどいとか言わず…」

('、`*川「だってめんどいもの。長いし。」

( ^ω^)「ひどい。」


514 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:00:04 F.Flrzh60

…彼女の説明は、プレイする上では非常に簡単かつ
わかりやすいものに思えるが、肝心なところが抜けている。

( ^ω^)(…不利だから、説明しなかったと思うけど)

( ^ω^)(一つ、最初に配られる二枚のうち
      ディーラー側の一枚は伏せられている。)

( ^ω^)(手札を競うときになって、プレイヤーは
      初めて、ディーラーのもう一枚の手札を
      見ることが出来るんだお。)

これは基本だ。
双方共に表向きで、互いに見えている一枚と
ディーラー側の、裏向きで、プレイヤーには見えない一枚…。

その一枚が何であるかによって、勝敗が決まるのだ。

( ^ω^)(もう一つ…ディーラー側は、手元の合計が
      17以下だとスタンドできず、
      18以上はヒットできないお。)

( ^ω^)(だから、三回に一回の確率で
      ディーラーはバーストするんだお。)

…だが、これはその場の「運」にもよる。
ディーラーがAをもっていたとすれば、話は別だ。
Aは手札の合計数によって、1にも11にもなる。
バーストすることを恐れなくてもいい、唯一の手札だ。


515 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:00:45 F.Flrzh60

('、`*川「…そろそろ、準備はいいかしら?」

(;^ω^)「おっ…」

賭け事は、腹の探り合いだ。
考えに考えていたせいで、チップの準備を
すっかり忘れていた。

いま、僕の手元にあるチップは、合わせて152枚…。
200枚稼ぐまで、勝負を続けろと彼女は言った。

…それはつまり、200枚稼ぐまで、僕はここから
永遠に離れられないということだ。

(;゚ω゚)(それはやばいお…)

どっぷりカジノ漬けの、廃人にはなりたくない。
そのうちの、およそ半分は手に入れているのだ。
慎重に賭けていかなければ…。


(;^ω^)「…お、お手柔らかに、お願いしますお…」

('、`*川「だ が 断 る」

(;´ω`)「ぎょえええ…」

…お手柔らかにというわけには、いかなさそうだ。

絶対に負けないという、闘争心や自尊心、自分の腕に対する誇り。
圧倒的なオーラが、ペニサスという人を包んでいる。

彼女と互角に渡り合うか、負かすかしなければ
ここにいる亡霊全てを、救うことは出来ないだろう。


516 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:01:27 F.Flrzh60

…会話は無かった。

初めて顔を合わせた異性と言えば、聞こえは良いが
これからどう賭けるか、勝機はあるのか…。
そんなことで、僕の頭はいっぱいだった。

(;^ω^)「…」

('、`*川「…」

ペニサスの顔が、真剣な表情になっている。
それを見た僕の手は、緊張で汗ばみ、心臓は早鐘を打っていた。
軽やかに流れていたジャズの音が、遠くに聞こえる…。

やがて…手札が配られて、ゲームが、始まった。

配られたカードを見る、ペニサスの表情は変わらない。
さすがだ、ポーカーフェイスを貫いている。

読み取られてしまっては、賭けとは言えない。
僕は…表情に出ていないだろうか?


( ^ω^)(6と7…合わせて13かお…)


…正直に言って、出だしは微妙なものだった。
ヒットした数が7以下でないと、バーストだが
このままスタンドするのには少ない数だ。


517 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:02:08 F.Flrzh60

一方、ペニサスの方は、ハートの5が表に見えている。
表向きのカードが7ならば
ヒットするかスタンドかの境目なのだが…。


('、`;川「あっ…そういえば、省きすぎて
      説明していなかったわね…。」

(;^ω^)「お…?」

カードを眺めて悩んでいた僕に、ペニサスは
慌てて「待った」をかける。

何を説明し忘れたのか、黙って見ていると
決まり悪そうに髪を掻き揚げて「ごめん」と
ペニサスは軽く謝って、言った。

('、`;川「ブラックジャックの、特別ルールよ。」

(;^ω^)「いや、それは省いちゃ
      だめじゃないですかお…」

特別ルールは、ヒット・スタンド以外の賭け方や制限のことだ。
採用されるルールは、カジノによって違うので
本来は、もっとも説明しなければならない部分である。

面倒くさがりと言えど、その辺りは理解しているのか
ペニサスは忘れていたことに、本気で焦っているようだ。

…まあ、今度は「めんどい」で省かれずに、良かったが。


518 : ブラックジャック特別ルール ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:02:55 F.Flrzh60

('、`*川「特別ルールは、何種類かあるけど
     ここで採用されているのは、二種類よ。」

('、`*川「一つは『サレンダー』…降参すること。
     手札を配られた直後だけ、選べるわ。」

('、`*川「負けても、自分の賭けたチップが、半額返ってくるの。
     引き際が良いと、有り金を失うリスクが減るのよ。」

('、`*川「自分に勝ち目が無いとわかったなら
     ヒットもスタンドもせず、降参することね。」

…ちらりと、僕を見遣って説明するペニサスの顔は
僕に「降参しろ」と、暗に告げているようでもあった。

もしかして…彼女の今の手札、かなり良い数字なのだろうか。
考える僕を尻目に、彼女は説明を続けた。

('、`*川「もう一つは『ダブルダウン』よ。」

( ^ω^)「ダブルダウン…チップを追加で賭けた後
      カードを一枚引いて、スタンドですおね。」

('、`*川「そう。儲けたいなら、やってみてもいいんじゃない。
     ハイリスク・ハイリターン。」

('、`*川「おすすめするわ。」

(;^ω^)「おすすめしないでくださいお…」


ブラックジャックの配当は2倍。
21が出れば、出た目によっては1.5〜5倍の配当になるが
先程よりもリスクがでかいので、やたら強気には出られない。

かといって、堅実な姿勢を保ち続けていると不利になる。
出るところを、よく見極めた方が良いゲームなのだ。


519 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:03:36 F.Flrzh60

彼女の手札の表は、5だ。
もう一枚がどの数であれ、どんなに頑張っても
手札の合計は17以下にしかならない。

ルールによってディーラーは、17以下の場合
強制的にヒットを選択させられるから
今回はそれがバーストすればいいのだが…。

( ^ω^)(こっちはどうしようかお…)

勝敗に関わらず、プレイヤーが先行のため
手札次第では、こちら側が不利になりやすい。
ディーラーがバーストしなかった場合、スタンドでは
確実に負けるし、こちらが先にバーストする可能性もある。

( ^ω^)(…やってみるかお…)

まだ初回だ、負けてもおかしくはない。
試しに、僕はヒットを選び、合図を送った。


520 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:04:16 F.Flrzh60

人差し指と中指を折り曲げて
軽く振った僕の前に、カードが配られる。

(;´ω`)(えええ…)

来たのは、3の数だった。これで合計は16だ。
どう足掻いても17には届かないが、この数は危ない…。
バーストする確率の方が高い。

(;´ω`)(おおお…)

…スタンドの姿勢に入るまで、僕のターンは続いている。
ひとまずもう一枚、引いてみようか。

もう一度、合図を送って、配られたカードを見た瞬間

('、`*川「残念ね、バーストよ。」

(;^ω^)そ「はやっ」

僕が確認するかしないかぐらいのときに、ペニサスはそう告げた。
ディーラーなだけあって、そういう作業は素早いようだ。

自分の手札を広げた彼女は、にやりと笑う。
伏せられていたのは、ダイヤのKだった。

('ー`*川「…ちょっと惜しかったわね。」

(;^ω^)(…)

それは、どちらに向けて言ったのか、判断し難いが
浮かんだ笑みは、決して卑しいものではない。

だからこそ、やりにくかった。
純粋に賭け事を楽しみ、強い相手を求めている人だ。
僕がその「強い相手」にならなければ、彼女が救われることは無い…。

(;^ω^)「…」

やれるだけ、やってみよう。


521 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:05:00 F.Flrzh60

二戦目、手札が配られる。
ペニサスの手札、表は7。
彼女がスタンドする可能性は高い。

僕の手札は…スペードの5とクラブのJだった。


( ^ω^)

( ^ω^)(無理ですお)


先程の72倍で、運を使い果たしたようだ。
降参した僕は、チップを半額返してもらった後に
めくられた彼女の手札を見て、眩暈を覚えた。

二戦目にして、Aが出ていた。
表向きの7と合わせて18。
こちらの勝率は、限りなく低かった。

…なんという強運の持ち主だ。


522 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:06:12 F.Flrzh60

(;^ω^)(勝てる気しませんお)

カードとチップの片付ける音を、耳にしながら
僕は、ブラックジャックの戦略を、必死に思い出していた。

先行だから、圧倒的に不利というわけでもなく
寧ろ、行動に制限のあるディーラーの方が不利だ。
プレイヤーを楽しませつつ、それを覆すのが、彼らの腕の見せ所。

('、`#川「随分、張り合いが無いわね。」

('、`#川「それに、さっきからちまちまと…
     男なら思い切り良く賭けなさい。」

(;´ω`)「す、すみませんお」

…お叱りを受けてしまった。
上限は10枚だが、先程から賭けているチップは、2枚だ。
あまり最初から飛ばしすぎると、ろくなことにならないと
考えての枚数だったが、降参して1枚返してもらったのもあって
機嫌を損ねてしまったようだ。

ならばいっそのこと、勢いよく
賭けてしまったほうが、いいのだろうか。

チップとテーブルを見比べていた僕は
配られたカードに目を見張った。

スペードのKとJ…合計数、20だ。


523 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:07:22 F.Flrzh60

( ^ω^)(これなら…)

傍らで、先程からカードを配ってくれている
ワカッテ=マスに、僕は掌を下に向けて、水平に軽く振った。
ヒット同様、全国共通の、スタンドの合図だ。

('、`*川「あら、運の良いこと。」

('ー`*川「じゃあ、オープンね。」

足を組み、色っぽく笑ったペニサスの手札…。
僕は、表向きになっているカードが、Aであったことに気付いた。

自分に良い手札が回ってきたことで、すっかり抜けていた。
A…合計数によって、1にも、11にもなる魔法のカード。


( ゚ω゚)「なっ…」


…他人が起こす奇跡を、僕は初めて目にした。
もう一枚の、伏せられたカードは、Jだった。

それも、ただのJではない。
Aと共に、スペードの絵柄の、

('ー`*川「純正ブラックジャック。」

配当が、5倍になる組み合わせだった。


524 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:08:23 F.Flrzh60

(;゚ω゚)「うおおぉぉ!!」

…とてもショックだった。
勝てると思ったのだが…予想以上の強運だ。
こんな調子では、帰ってこれるかすら危うい。

('、`*川「でも、いい目を出したじゃない。」

(;´ω`)「そ、それはそうだけどお…」

('ー`*川「まだこれからよ。」

妖艶な笑みを終始浮かべたペニサスは、飲酒したわけでもないのに
何処か、酔っているような雰囲気を醸し出していた。

それに、始める前こそ挑戦的な態度だったが、今となっては
すっかり、プレイヤーの僕を宥める側に回っている。
これは…僕とのゲームを、楽しんでくれているということなのか?

(;^ω^)(まあ、それが目的だから
      僕としては、そっちの方がいいんだお…)

互いの勝敗よりも、ゲーム自体を楽しむ…。
確かに、生々しく見苦しい金銭争いよりも
ディーラーの彼女にとっては、そちらの方が遥かに面白いだろう。


(;^ω^)「…さぁ、四戦目いくお。」

凹みそうになる自分を勇気付けるために、僕は言って
控えていたワカッテ=マスに、合図を送った。
ペニサスの表情から、笑みが消えて、元の真剣な表情に戻った。

カードが、配られる。


525 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:09:03 F.Flrzh60

 ・


 ・


 ・


526 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:09:43 F.Flrzh60

……六戦目終了後。

鏡を見たら、僕の顔は多分

( ´ω`)

こんな表情をしていることだろう。

チップの残り枚数は140枚…前の12枚は、使い切った。
見て分かるとおり、僕はあれから、ペニサスに負け通しだった。

数が足りないとヒットを選べば、バーストしたりと
使い果たした「運」は、なかなか回ってこなかった。
勝てると思った手札で負けているため、ショックも大きい。
何がいけないのか…ほんの少しの差だというのに。

一方の彼女はというと、勝ち通しで飽きている…そんな様子だった。

('、`*川「つまらないわ…あなた
     いったい、何連敗するつもり?」

(; ω )(悔しいお…)

忘れてはならない。彼女を含め、ここにいるのは死者だ。
彼女を満足させられるかどうかは、僕にかかっている…。
負けるわけにはいかないのだ。


527 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:10:23 F.Flrzh60

(; ω )「…まだ六戦目だお。」

(;^ω^)「つまらないなんて言うには、早いお。」

…負け惜しみにしか聞こえないが、自分に言い聞かせてもいる。

もう六回戦…いや、まだ六回戦だ。
十戦にも、二十戦にもなるかもしれないというのに
今から音を上げていては、勝てるものも勝てなくなってくる。


('ー`*川


僕の言葉を聴いたペニサスは、黙って笑みを深めた。
合図をして、次のプレイを再開させる。

七戦目…出来れば、十回戦行くまでには終わらせたい。


528 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:11:03 F.Flrzh60

配られたカードは、ハートのJとスペードのK。
合計数は20…いいところをいったものだ。
三戦目のようなことが無ければ、勝てるだろう。

表に見える、ペニサスのカードは…8。

( ^ω^)(スタンド、するか?)

伏せられているカードが9か10以下なら
彼女は、ヒットせざるを得ないだろう。
どちらにしても…これならば勝てるのではないか?

水平に手を振って、僕は合図を出した。


('、`*川

('ー`*川「…やるじゃない!」


七戦目にして、僕は初めて、彼女に勝った。
いちかばちか…10枚賭けたチップが、倍になって戻ってきた。
どうにか一度は勝てたようだが…次はどうだろうか。

合図を出して、僕は機械的な動作でカードを配る
ワカッテ=マスを労って、礼を言った。

( <●><●>)「これが私達の仕事ですから。」

…と、なんとも愛想の無い顔で返されてしまったが。


529 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:11:44 F.Flrzh60

次に配られたカードは、ダイヤの10と、ハートの2。
カードの合計数は、12…ヒットするにはちょうどいい数字だ。

一方のペニサスはと言うと、表向きのカードが4。
裏に伏せてあるカードが何であれ、ヒットしなければならない。

( ^ω^)(…)

僕は、迷っていた。
彼女がバーストすることに賭けるか。
次に僕がヒットする数字に賭けるか。

…そのどちらにも賭けるか。
彼女が説明した『ダブルダウン』…それを選び
今までの分を、取り返そうと、考えていたのだ。

先程、勝ったときに、ほぼ初期の数に戻ったものの
それから進めないのでは、いつまで経っても帰れない。
ここで、巻き返しておけば、有利になるのではないかと。

焦ってはしくじるだけなので
慎重に判断しなければならない。

…10さえ出なければ、バーストすることはないだろう。

10枚賭けたベットの隣に、チップをもう10枚重ねて
僕はそれを、人差し指で差して言った。


( ^ω^)「…ダブルダウン。」


Σ('、`;川「!」

(;<●><●>)そ「!」

…二人に驚かれてしまったようだ。
そりゃそうだろう、よほど自信が無い限りは
あまりおすすめしない賭け方なのだから。


530 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:12:24 F.Flrzh60

('、`;川「…いいのかしら、それで?」

まして負け続きで、いまさっき初めて勝った僕だ。
油断していると思ったのか、ペニサスさんも念を押してきた。

( ^ω^)「大丈夫ですお、後悔しませんお。」

そして僕は、若干、引き気味なワカッテ=マスから
カードを配られて…思わず、満面の笑顔で差し出した。


( ^ω^)「カードは9…合計21。
      ブラックジャックですお。」

まさか、出てしまうとは思わなかった。
これにはペニサスさんも驚いたようで、

('ー`*川「へぇ、やるじゃない!
     その調子よ!」

と、面白そうに身を乗り出してきた。
通常の配当は二倍なので、僕の手元には
40枚のチップが戻ってくる。

…これで、チップは190枚。
残すところ、あと10枚となった。


531 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:13:28 F.Flrzh60

('ー`*川「あなた、面白いわね…。
     こっちもやる気が出てくるわ。」

(;^ω^)「いやもう、そっちは最初から
      やる気満々じゃないかお…。」

('ー`*川「あなたのことを見直したのよ。」

僕の突っ込みにも、彼女は何とも無いように
手を軽く振って応えていた。

…本当にゲームが楽しいのだろう。
先程よりも若干、言葉が優しい、砕けたものになっている。

これで終わらなければ、格好がつかない…。
そう思っていた僕の目の前に、現れたカードは、


( ^ω^)「…クイーンジャック。」


三戦目と五戦目で、ペニサスが出した
純正ブラックジャックの下位、ダイヤのQ(クイーン)と
ダイヤのA(エース)による『クイーンジャック』だった。


532 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:14:09 F.Flrzh60

('ー`*川「フフフ…」

( ー *川「負けるなんてね…」

それまでとは違って、優しく微笑んだペニサスが
そっと、自分の手札をめくった。

表のカードはクラブの8で
裏に伏せてあるカードは、ハートの10だった。

(;<●><●>)「まさか…そんな…」

ワカッテ=マスは呆然と、僕を見つめている。
支配人も、同じように、ペニサスを見つめていた。
彼女は…よほど、腕の良いディーラーだったのだろう。

(;´ー`)

( ´ー`)「ゲーム…セットダヨ…」

(;^ω^)そ「!」

…支配人の言葉に、僕は一同とは違う意味で、驚いた。
室内が、急に暗さと冷たさを、増したのだ。

それまで煌々と点いていた照明は、全て消えた。
流れていた軽快なジャズの曲も、いつの間にか
演奏が止み、何処からも聞こえなくなった。

ここも、暗闇と、無音だけの世界になったのだ…。


533 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:14:50 F.Flrzh60

( ー *川「久しぶりに、楽しい勝負だったわ…。
      ありがとう…」


( ー *川

.。.:*・゜・.+.*, ー *川

:*・+゚.。+゚:*・*゚.:。゚・*:.。.... ,


…何か言葉をかける間もなかった。


( < >< >)

.。.:*・゜・.+.*, < >< >)

:*・+゚.。+゚:*・*゚.:。゚・*:.。.... ,


(  ー )

.。.:*・゜・.+.*,  ー )

:*・+゚.。+゚:*・*゚.:。゚・*:.。.... ,


ブラックジャックを楽しみ、笑ったペニサスも
ルーレットの後、ペニサスの助手に回ったワカッテ=マスも
それらを見守っていた支配人も、みんな消えていく。


534 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:15:31 F.Flrzh60

淡い紫色に輝く、アストラルピースが三つ、浮かんでいる。
それ以外は、何も無い…ひどく、寂しい光景だった。

(  ω )「…お別れくらい、言わせてお…」

テーブルに残されたトランプは、それまで
人が触れていた形跡が、確かにあるのに
その人達は皆、いなくなってしまった…。

(  ω )「これで、全部…かお。」

侘しさに耐え切れなくなって、ぽつりと呟いて
僕は、名前を記した手帳に、目を落とした。

船内に残っていた亡霊は、26人。
漸く、悲劇的な結末を迎えた、彼らの魂を
見届けることが出来た。


(  ω )

( ^ω^)「…あとは、これを…」


535 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:16:13 F.Flrzh60

 ・


 ・


 ・


536 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:17:13 F.Flrzh60

…映写技師のいた、シアターの受付カウンターから
太陽のレリーフで飛んできた僕は、

(´・ω・`)「やあ、また来てくれたね…」

( ^ω^)ノ「どうもですお。」

にやりと笑って、いつもの言葉で出迎えた霊能者に
軽く挨拶すると、集めてきたアストラルピースを
机に広げていった。

(´・ω・`)「ほぅ…これは…」

(´・ω・`)「全ての魂を、救ってきたのか…」

さすがの霊能者も驚いたようだ。
感嘆の息を漏らし、見えないはずの目を見開いて
机にあるアストラルピースを、順番に指差していく。

…とは言っても、僕にはまだ一人、救いたい人がいる。

僕の父、ロマネスク=スギウラ。
救えるかどうかはわからないが…それでも
僕にとっては、血の繋がった、実の父親だ。
息子の僕以外に、誰が救えるというのか。

アラマキやツン、父の顔を思い浮かべながら
一種の達成感に浸っていた、そんな僕に
霊能者は怪しく笑みを深めて、頻りに頷いた。

そして、

(´・ω・`)「…ご苦労だったね、これでもう十分だ。」

(;^ω^)そ「!?」

霊能者の一言で、様変わりした空気に、僕は背筋を震わせた。


537 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:17:58 F.Flrzh60

これでもう十分だ…どういうことか。
もう、この船で行動しなくていいということなのか。
当初の、アストラルピースを集め、渡すということか?


(´・ω・`)「…ところで、君は疑問に
      思ったことは無かったかい?」

(´ ω `)「私が何故、こんなものを
       集めているのか…?」

(;^ω^)「…!!」


…答えは無論、後者だった。
霊能者の言葉で、室内の空気が、急激に冷たくなる。
机に広げていたアストラルピースが…浮かんだ。

人の魂が、感情が、籠もっているという水晶。
眩い程に輝いている球体は、僕の目線の位置まで浮かび上がっている。

いったい何が、起きるというのだ…!


(´ ω `)「フフフ…」


霊能者は、妖しく笑った。
あまりの恐ろしさに、僕はぞっとする。

これから起きる出来事を…想像することなど出来ない。
自ら「霊能者」と名乗ったこの男が起こすことなど、想像したくはない。

何か起きるとすれば、悪い方にしか転がらないと
この男に出会ったときから、そう思っていたのだ…。


538 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:18:46 F.Flrzh60

(´ ω `)「見せてあげよう」

(´゚ω゚`)「その答えを…」


浮かび上がったアストラルピースは、鈍い輝きを放ちながら
霊能者と僕の眼前を、交差するように行き交った。
その輝きは次第に強さを増して、直視できない程になる。

そのあまりの眩しさに、目を瞑ろうとして、出来なかった。


(;゚ω゚)「なっ…!?」


僕は驚愕で、逆に目を見開いた。
その眩い、紫色の輝きはやがて、血のような赤に変わっていく。
速度を増しながら、水晶は円を描くように飛来する。

まさか、これは…!


539 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:19:30 F.Flrzh60

(´゚ω゚`)「これこそ奇跡の石!
      運命を捻じ曲げ、持つ者の望みを叶える!」


呪文を詠唱するように、霊能者は高らかに言い放った。
すると、凄まじい速さで回る、水晶の中央に
新たな球体が作られていく。

…その球の輝きは、紫色から次第に、赤に近くなっていく。
そう、血のような赤い…『赤い石』の輝きに、近くなっていく…!


(;゚ω゚)「やめろおおお!!!」

(´゚ω゚`)「呪われた至宝!!
     『魔の紅石(くせき)』だ!!!」


手を伸ばして叫んだが、間に合わなかった。


540 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:20:19 F.Flrzh60

次の瞬間、アストラルピースは、粉々に割れた。
人々の魂が籠められた球体は、あまりに呆気なく、軽い音を立てて割れた。

かわりに…僕と霊能者の眼前には、色鮮やかな
『赤い石』のはめ込まれたナイフが、浮かんでいた。


(;゚ω゚)「あ、ああ…!!」


人々の魂を代償に、願いを叶える石…。
『赤い石』の素材は、その人々の魂なのだ。

この男は最初から、表向きは「この船の魂を救済させる」という
善意の行動を取らせ、自らが生成した聖水と交換に
裏では『赤い石』を作り上げようと、その期を待っていたのだ…!

最初から、断っておけばよかったのだ!
たとえ使い道が無かったところで、こんな使われ方をするのなら
荷の奥底にでも眠っていたほうが、遥かにましだった…!


541 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:21:01 F.Flrzh60

(´・ω・`)「この石は…君のものだ。」

霊能者は、がくりと項垂れる僕に、淡々と言った。

僕のもの…何故、これを僕に渡す必要があるのだろうか。
霊能者はこの石で、僕に「人を殺せ」と言いたいのか。
この霊能者の狙いは…なんなのだ。


(´・ω・`)「もう一つの紅石…
       君とあの石の運命が終わるとき…」

(´ ω `)「そのときに…また会おう…」


(#゚ω゚)「待てお、ふざけんなお!!」


机を叩いた僕に構わず、霊能者は笑って、新たに作り出した
もう一つの『赤い石』と共に、部屋の中で透けて、消えていった。

「運命が終わる」…父を救って『赤い石』を壊した…その後だろう。
僕のものということは、逆の捉え方をすれば
「僕の好きにしていい」ということだ。

ならば、答えは一つだ。


(#゚ω゚)(あんなもの、何度でも壊してやるお…!)

…人もいないのに、長居していても仕方ない。
主のいない椅子を睨みつけて、誓った僕は
いつもどおりに、エレベーターのボタンを押して、船内へと戻った。


542 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:21:43 F.Flrzh60



ガチャ




バタン


543 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:22:34 F.Flrzh60

#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内三層 機関室


544 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:23:56 F.Flrzh60

『赤い石』を持った霊能者が、何処で現れるか。
それを考えながら歩き続け…答えは、この中にあると
僕は、機関室のドアを潜った。

全てが終わったときに会おうと言った。
ならば、父を救った後に、考えればいい。

( ^ω^)「…鉄臭いお…」

船内の中枢部というだけあって
機関室の入り口から全てが、金属で出来ている。

ドアを閉めて、階段を下りた先の掲示板には
機関部の間取り図が貼られていた。
暗い中で、目を凝らしてよく見ると、非常灯の
細かな注意事項が書かれている。

左舷のボイラールームBに、ピストンの
非常停止用の鍵が、置かれているようだ。

船底倉庫には、燃料庫の制御パネルに嵌める
大事なバルブが置かれているらしい。

(;^ω^)「…そんな大事なものを
      倉庫に置いていくなお…」

危機感の無い船員に、愚痴を零しつつ
僕は、倉庫に繋がるボイラー室の中へ、入っていった。


545 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:24:36 F.Flrzh60

「………ブーン……」

ドアを開けて、機関室の中へ入った瞬間
耳に、懐かしい声が届いた。
僕の名を呼ぶ、この声は…

(;^ω^)そ「と、父ちゃん!?」

父、ロマネスク=スギウラのものだ。
間違えるわけがない、たった一人の肉親だ。
それに、この船では…僕を除いた、唯一の生存者なのだから。

「こっちだ…こっちに来るんだ…」

(;^ω^)「……」

…声は、妖しい響きを持って、招いている。
僕を…『青い石』の所有者である僕を、呼び寄せている。

声の響きからして、父はもう、正気ではない…。
普通に考えれば、誘き寄せて罠に嵌めるつもりだろう。

…それでも、僕は進まなければならないのだが。

金属特有の匂いを嗅ぎながら、カンカンという
足音を立てて、船尾軸へ進んでいった僕は
そのドアの前で止まった。

無論、躊躇うことなく、ドアノブを回す。


546 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:25:16 F.Flrzh60

…そこは、暗くて、冷たかった。
冷たい水の底にでも、沈んでいるかのようだ。

不気味な静けさが広がる中で、父は僕を呼んだ。
船員食堂で対面して以降、出会っていなかった父は…


(¢ω )「久しぶりであるな…ブーン…」

(¢ω¢ )「待っていたのだ、このときを。」


既に、変わってしまっていた。
片手で握った短剣は、血の色を刃にこびりつかせて
柄の中央に嵌め込まれた『赤い石』が
血の色と同じ輝きを放っている。

( ^ω^)「お父さん…」

(  ω )「なんで、そんなものを…!」

(¢ω¢ )「…やっとわかったのだよ、ブーン。」


僕の言葉を聞いているかどうかも、わからないような
虚ろな響きで、振り向いた父は、語った。


547 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:25:57 F.Flrzh60

( ¢ω¢)「アラマキを殺して
      『赤い石』を手にしたとき…知ったのだ。」

( ¢ω¢)「自分がどれほど、この力に
      惹かれていたのかを…」

…ミイラ取りがミイラになった…よくある諺の通りに
父は『赤い石』に魅せられてしまったのだ。

僕が声をかける間もなく、父は短剣を翳した。
『赤い石』が、辺りを覆うように輝くと
短剣から外れた『赤い石』が、ひとりでに頭上へと浮かび上がる。

…あのときと、霊能者が作り上げたときと、同じだ。


(;゚ω゚)「やめるんだお!!
     それは、もう…!」

(  ω )「私は力と一つになる」

器が支えきれないところまで来ている…。
僕の制止は、父の静かな一言と
あまりにも強烈な圧迫感に、遮られた。


(((;゚ω゚))

思わず、二歩、三歩…後退する。
おぞましい「何か」が、今にも襲いかかってきそうだ。
焦燥に駆られて、懐の青い石を、僕は握り締める。

それを見たのか、父が、…もう父なのかすらわからない
目の前の男が、試すようにこう言った。


548 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:26:43 F.Flrzh60

(  ω )「青い石…その力ですら
      もう止められまい…。
      この暗闇の中では…」

(  ω )「ここに光は無い…
      生き残れるかな…」

( ФωФ)「青い石を持つ男よ…」


(; ω )そ「!!」


彼の言葉を聞いて、僕は確信した。

…試すようにではない、試されているのだ。
ロマネスク=スギウラの子として。

『青い石』の所有者として…
『赤い石』の力を、阻止できるかどうか。

…やらなければ。

(;`ω´)「やってやるお…!!」

しかし『赤い石』からは、強い光が発せられている…。
人々の魂を飲み込んだ、強大な力が、満たされているのだ。
『青い石』の力を出すには…それにも勝る光が、必要だ。


549 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:27:24 F.Flrzh60

『このままではだめ…』

(;^ω^)そ「!?」

已む無く石から背を向けて、駆け出した僕に
聞こえてきたのは、女性の声だった。
短い期間だが、聞き覚えのある声。

(;^ω^)「ま、まさか…ツン!?」

『はやく…はやく明かりを…』

…僕の問いかけに、答えはない。
だがこの声は、確実に、ツン=スカルチノフのものだ。

過去で死なせてしまった彼女が、どうやって
僕に呼びかけてくれたのかはわからないが
声は、焦りを感じているように取れる。

それほどの危機が、押し迫っているのだ。

(;^ω^)「明かり…光、どうやって…!!」

照明のスイッチが無いことに気がつき、僕は焦る。
これ以上、何も出来ないというのか。

船内の中枢部、ボイラーやピストン等、燃料はいくらでもある。
浮かべて、あれでもない、これでもないと、考えを巡らせていると
機関室の入り口で見た内容が、頭に浮かんだ。


550 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:28:06 F.Flrzh60

(;^ω^)そ「あ!」

…思い出した、非常灯だ!

燃料タンクのバルブを回し、エンジンが動いた状態で
ピストンをロックさせれば、非常等が点灯する。

非常灯があれば…力を弱めることが出来る!

機関室Bの部屋から、ボイラーBへ入っていく。
タンクのバルブは船底倉庫…二度手間になるが、行くしかない。

そのとき、ボッ…と、何かが、火の点くような音がした。
そして間もなく、ヒュンッと、ナイフが耳元を掠める。


(;゚ω゚)そ「おぉおお!?」


…間一髪、通路の手すりに凭れて、攻撃を避けるが
僕は、その姿に驚いたまま、暫く身動きが取れなかった。


551 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:28:46 F.Flrzh60

/ 。゚3  †+


…アラマキ=スカルチノフ。
『赤い石』の所有者だった老人が、最期に出会った
あの服に身を包んで、僕を攻撃していたのだ。

(;゚ω゚)「ば、ばかな…!!」

全てを、救ったのだと思っていた。
あまりに多くのものを、奪いすぎた彼は
死ぬことで…救われたのだと、思い込んでいた。

…どんな救い方があるというのだろう。
『赤い石』が、壊されたとき…だというのか。


(; ω )「アラマキっ…」

何も浮かばなかった僕は、攻撃を避けながら
ただひたすら、倉庫を目指して駆けて行った。


552 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:30:05 F.Flrzh60

(;゚ω゚)「どこにあるんだおおお!!」

四区画から成る倉庫の中を、僕は駆けた。
必死の思いで探すが、アラマキの悪霊に阻害されていることもあり
なかなかバルブを見つられずにいた。

 
( ゚ω゚)「あった!!!」

数分の間を置いて、僕は声を発した。
木箱や荷物が散乱する中から、鉄製のバルブを取り上げ
そのままの勢いで、燃料倉庫へ引き返す。

燃料倉庫にある、左右の制御パネルは
鍵が無くとも開くようになっていた。

大急ぎで制御パネルを開き、バルブを回す。
同様に反対側も回すと、エンジンが動く、鈍い音が遠くから響いた。

(;゚ω゚)「あとはピストンを…!!」

ピストンを止めるには、鍵が必要だ。
地図を頭で思い描きながら、燃料倉庫の通路から
ボイラーA左端の通路を通り、壁側の鍵目指して駆け出す。


553 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:30:46 F.Flrzh60

(;゚ω゚)  + ≡

  「ふぉおおお!!!」

ナイフと、靄のような何かを避けて
通路壁の鍵を外した。
勢いよく外した衝撃で、フックが壊れたようだが
そんなことを気にかけてはいられない!

再び燃料倉庫を通り、機関室Bへと戻った。
ピストンが、忙しなく作動する音が、けたたましく響いている。

(;゚ω゚)「止まれええ!!」

左側通路の、非常操作盤のふたを開けて
ピストンの鍵を差し込み、勢いよくひねった。


554 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:31:34 F.Flrzh60

ガコン…



パチンッ


555 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:32:30 F.Flrzh60

(;゚ω゚)

(; ω )=3 フゥ…


壁に凭れて崩れ落ち、肩で荒く息を吐きながら
僕は、機械音の止んだ室内を見渡した。

( ^ω^)「アラマキは…いないおね…」

確認して…立ち上がった。
休んでいる間は無い、父を…『赤い石』を、とめなければ。

( ^ω^)(ツン…君は、父が『赤い石』に魅入られたことを…)

僕を通して、見ていたのだろうか。
それとも、知っていたのだろうか?

それを、本人に聞く術は無い。
身分すら明かせなかったことに、僕は罪悪感を覚えていた。
嫌でも知らなければならないことならば…
伝えておけばよかったのかもしれない。

(;゚ω゚)

(; ω )=3 フゥ…


壁に凭れて崩れ落ち、肩で荒く息を吐きながら
僕は、機械音の止んだ室内を見渡した。

( ^ω^)「アラマキは…いないおね…」

確認して…立ち上がった。
休んでいる間は無い、父を…『赤い石』を、とめなければ。

( ^ω^)(ツン…君は、父が『赤い石』に魅入られたことを…)

僕を通して、見ていたのだろうか。
それとも、知っていたのだろうか?

それを、本人に聞く術は無い。
身分すら明かせなかったことに、僕は罪悪感を覚えていた。
嫌でも知らなければならないことならば…
伝えておけばよかったのかもしれない。


556 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:33:10 F.Flrzh60

…声を回想しながら、父の元へ戻った僕は
『青い石』を取り出して、一歩一歩、歩み寄っていった。

非常灯の点いた室内は、明るい。
『赤い石』の力も、弱まっていた。

( ^ω^)「…」

『青い石』を、僕は『赤い石』に投げつけた。
相反する二つの石が、重なり合った。

重なり合うとき…何が起こるかわからない。
伝承には、そうあったはずだ。
何が起こるというのか…固唾を飲んで、僕は見守った。

間もなく、僕の心配は杞憂だったと気付く。

青と赤、それぞれの光が、互いを飲み込んだ。
眩い輝きは次第に弱く、か細いものになり…小さくなって。

石は、音も無く、消えていった。


557 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:37:35 F.Flrzh60

(  ω )「力…」

( ФωФ)「全てを変える力…消えていく…」

( ;ω;)「父ちゃん!!」

『赤い石』が無くなった。
対極の『青い石』も無くなった。

その場に残されたのは、哀しいほど弱った姿で
軸に背を凭れかけた、父一人だけだった。

その表情は穏やかで…涙が込み上げてくる。
久しぶりに、そんな穏やかな表情を見た気がして。

( ;ω;)「父ちゃん、しっかりするお!!」

( ФωФ)「……」

父はしかし、虚ろな目で僕を見ていた。
正気ではあるが…もう、長くないのだろう…。

58歳になるこの人には、過酷過ぎる運命だった。


558 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:38:15 F.Flrzh60

( ФωФ)「…ここは長くない…」

( ФωФ)「はやく…船の先へ…」

(  ω )


( ;ω;)「父ちゃん…!!」

父の頭が、後部へ垂れた。
抱き起こした父の体が、重くなったのを感じる。
温もりを残す体を、僕は暫く抱えていた。

石に翻弄された、ロマネスク=スギウラは
静かに、息を引き取ったのだった。


559 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:38:56 F.Flrzh60

 ・


 ・


 ・


560 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:39:36 F.Flrzh60

…揺れを感じて見上げると、ニュー速VIP号を包む世界が
崩壊を始めたのだろう、いくつもの粒子が輝いて
辺りを包むように舞っていた。

揺れは、今にも崩れそうなほどひどいもので
立ってバランスを取るのも難しい。

父の背を軸に凭せて、僕は、船尾軸を後にした。


561 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:40:43 F.Flrzh60

ガチャ



バタン


562 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:41:24 F.Flrzh60

…父を失った哀しみが、意外にも尾を引き摺っていた。

(; ω )「どこへ逃げればいいんだお…!」

これまで、多くの犠牲者の死を悼んだが
身内の死は、やはり割り切れないものがある…。


『倉庫へ…』


(;^ω^)そ「!!」


聞こえてきた声に、僕は顔を上げた。
何処へ逃げればいいのかわからない僕を
導いてくれたのは…ツンだった。


(;^ω^)「ツン、ツンなんだおね!?
      僕は、倉庫のどこに行けばいいんだお!!」

『船底倉庫へ…はやく…!』

僕の問いかけに、今度は答えてくれた。

やはりツンなのだ…胸が熱くなるのを感じた僕は
機関室Bを抜け、ひたすら倉庫を目指した。

船底倉庫…船の最奥にある部屋。
燃料タンクのバルブを、必死に探した場所。
階段を上り、燃料倉庫のドアを、僕は開けた。


563 : ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:42:06 F.Flrzh60

ドアを開け、全速力で駆け出していた、僕の耳に
その言葉は何故か、はっきりと届いた。


(´ ω `)「約束を…果たしにきたよ…」

(;^ω^)そ「っ!!」


この声は…あの、霊能者のものだ。


『君とあの石の運命が終わるとき…』

『そのときに…また会おう…』


あの男はそう言って『赤い石』と共に、消えたのだ…。


(; ω )


霊能者に、僕は会うべきなのだろうか。
残された時間は少ない…それに、あの男の言葉は、信用に値しない。
信用した結果、僕は、新たな災いの種を蒔いてしまったのだから…。


(´ ω `)「さあ、ここへ…太陽の中へ…」


誘う声に、僕は…


564 : ノーマルエンディング ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:43:27 F.Flrzh60

僕は、霊能者の呼びかけに応じなかった。
彼の元に行けば、新たに作り出された『赤い石』が、僕を待っている…。
乳を含めた、多くの犠牲者を見てきた僕には、その力はあまりに強大で…恐ろしかった。
あの男の声には…応じてはならない、危険なものを感じたのだ。

こんな非常事態だ、素直に逃げた方がいい。

心の中に、僅かなわだかまりを残しながらも
僕は、船底倉庫Bの扉に駆け出した。

駆け出したのは、時間が無かったというのもあるが
思いがけないことに、その扉の前で、ツンが待っていたからだ。

…他の亡霊たちと同じように、ツンの姿もまた、半透明だった。
ああ、本当に死んでしまった人なのだと、今更ながら痛感させられる。


565 : ノーマルエンディング ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:44:41 F.Flrzh60

僕は、霊能者の呼びかけに応じなかった。
彼の元に行けば、新たに作り出された『赤い石』が、僕を待っている…。
父を含めた、多くの犠牲者を見てきた僕には
その力はあまりに強大で…恐ろしかった。
あの男の声には…応じてはならない、危険なものを感じたのだ。

こんな非常事態だ、素直に逃げた方がいい。

心の中に、僅かなわだかまりを残しながらも
僕は、船底倉庫Bの扉に駆け出した。

駆け出したのは、時間が無かったというのもあるが
思いがけないことに、その扉の前で、ツンが待っていたからだ。

…他の亡霊たちと同じように、ツンの姿もまた、半透明だった。
ああ、本当に死んでしまった人なのだと、今更ながら痛感させられる。


566 : ノーマルエンディング ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:45:22 F.Flrzh60

( ^ω^)「ツン…」

ξ-⊿-)ξ「…あまり時間はないわ。」

感傷や余韻に浸る間もない。
首を横に振って、ツンは言った。


ξ゚⊿゚)ξ「この船の命は終わる…」

ξ ⊿ )ξ「さあ、こっちへ来て…」


久しぶりに見た姿に、戸惑う僕を促して
彼女は、船底倉庫Aへ繋がるドアに、透けていく…。

ツンは…僕を、元の世界へ戻そうとしてくれているのだ。
静かで、柔らかな声音から、それが伝わった。

彼女を信じた僕は、黙ってその後を追った。


567 : ノーマルエンディング ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:46:03 F.Flrzh60

ガチャ



バタン


568 : ノーマルエンディング ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:46:45 F.Flrzh60

( ^ω^)「…!」

中に入った僕は、室内に佇むツンに、近付きながら息を飲んだ。
煌く星のような輝きが、狭い倉庫内を照らしていた。
幾つもの煌きが、全てを飲み込もうとしている。

僕が、正面まで来たのを確認したツンは、静かに言った。


ξ゚⊿゚)ξ「…この船はもう、消えてしまう。」

ξ-⊿-)ξ「あなたは、ここにいてはならない人…」

(  ω )「…ツン…」


…この船の全ては、あるべき場所へ戻る。
ツンもまた、多くの犠牲者と共に、天へ昇るのだろう。
今にも消えてしまいそうな、儚い姿は、見ていてつらかった。


569 : ノーマルエンディング ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:47:29 F.Flrzh60

ξ゚⊿゚)ξ「さあ、帰りなさい。」

ξ ⊿ )ξ「すべては終わったわ…」


ツンの言葉と共に、船内は、透き通った美しい青で満たされた。
海の色だと思考する間もなく、僕の意識も薄れていく。
何処か哀しそうな笑顔が、遠くに消えていった。

光が、船を覆った。
眩い光に照らされて、ニュー速VIP号は
暗い海原から、跡形もなく消えていった。


570 : ノーマルエンディング ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:48:09 F.Flrzh60

 ・


 ・


 ・


 ・


 ・


571 : ノーマルエンディング ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:48:52 F.Flrzh60

#現実世界 1937年 11月15日 ―父の家・寝室


572 : ノーマルエンディング ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:49:33 F.Flrzh60

…どれくらいの時間が、経ったのだろう。
こちらでは、どれほどの時間が、経っていたのだろう。

ぱちりと目を覚ました僕は、船で見つけたスーツケースが…
中身も含め、全てなくなっていることに気がついた。

…そうか、あれは過去の出来事で…
未来の人間が、干渉してはならないこと。

だから、過去に関わる全ての跡を消して
僕はここへ、帰ってきたのだ…。

( ^ω^)「…時計…」

…父の愛用していた、壊れた時計。
この裏に、隠し部屋があったのだが
既に閉ざされて、入れなくなっていた。


573 : ノーマルエンディング ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:50:15 F.Flrzh60

あれは、夢だったのか?
現実に起きたことなのか…?


(  ω )「現実に、決まってるお…」

『おい、何をぶつくさ言ってるんだ?』

( ^ω^)そ

夢であることを否定したい気持ちで、呟いた僕は
声に振り向いて…随分、久しぶりのような気がする顔を、眺めた。

当初、父の家に連れてきてくれた、警官だった。

…あまり不思議がられていない…様子で、
いなくなったとは、思われていないようだ。

ということは、僕がここに来てから
過去の世界へ行くまでに、さほど
時間は経っていなかったようだ。


574 : ノーマルエンディング ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:50:56 F.Flrzh60

『…全く、人がこんな寒空にパトカーを
 止めてやってるっていうのに…』

(;^ω^)「お…お、すみませんお…」

相変わらず愛想の悪い警官に謝りながら、僕は
父の寝室を、暫く、じっと眺めていた。

…あれが現実でなければ、なんだというのか。
父は、どこへいってしまったというのか…。
『赤い石』や『青い石』は、なんだったのだろう。

『もう時間も遅い。
 何も出なかったし、そろそろ引き上げよう。』

警官の言葉に、僕は心の中で靄を抱えて
出来ればそれを、吐き出したかったのだが…
この警官に言ったところで、それが晴れるわけもない。


575 : ノーマルエンディング ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:51:37 F.Flrzh60

玄関に向かいながらも、僕は、狭い父の家中を、見渡していた。
焼け焦げた跡の中に、やかんを見つけて…今更だが
それが火事の原因だと、気付かされた。


『そう、落ち込みなさんな。
 そのうち、ひょっこり
 帰ってくるかもしれんだろう。』

(;^ω^)「え、ああ…そう、ですおね…」


…よほど、酷い顔をしていたらしい。
先程よりも優しい、慰めの言葉をかけてもらっていた。
この警官も、あながち悪い人ではないのかもしれない。

『おーい、すまんが、ちょっと手伝ってくれんか?
 車が動かないんだよ、くそ…』


(;^ω^)そ

(;^ω^)「ちょっと待っててくださいおー!」


576 : ノーマルエンディング ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:52:19 F.Flrzh60

…忘れようと、思った。
僕は、悪い夢を見ていただけだ。

世捨て人の、父のことだ。
警官の言うとおり、そのうち、ひょっこりと帰ってきて
大して気にも留めずに、この火事のあった家で
また、絵を描きながら暮らすんだ…。

そんなことを、心の中で自分に言い聞かせて
玄関を潜り、警官の声がした外へと出た。

冬の風が、頬に冷たく刺さるように吹いた。
寒さに身を震わせていると、呼びかけた警官が
僕が出てきたのに合わせて言う。

『トランクに工具が積んであるんだ。
 悪いが、とってきてくれんか?』

( ^ω^)「わかりましたおー。」

僕は一応、被害者なのだが…。
使い走りさせられるとは、ひどいものだ。

(;^ω^)(車の整備ぐらい、自分で
      ちゃんとしてほしいお…)

ぶつくさと愚痴を零しながら、僕はトランクを開けた。

( ^ω^)

(;゚ω゚)そ


577 : ノーマルエンディング ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:53:34 F.Flrzh60

…悪夢は、まだ続いていたようだ。

トランクの中央で、

工具箱の代わりに、眠っていたのは。




   †+


578 : ノーマルエンディング ◆noe7UUkd3A :2013/12/31(火) 23:55:16 F.Flrzh60

以上、ノーマルエンディング。

条件

・全ての亡霊を救って(昇天させて)いない

・アストラルピースを霊能者に渡していない

・船内脱出時、倉庫の「太陽のレリーフ」に触れていない


ベストエンディング・バッドエンディング
時間切れエンディングは、このあと元旦になります。
年内に終わると言っておきながらすみません。


579 : 名も無きAAのようです :2013/12/31(火) 23:56:12 yHF0KRJg0
いいってよ
エンディングだろ?


580 : 名も無きAAのようです :2013/12/31(火) 23:58:16 W6uvZOfo0
乙!!


581 : 名も無きAAのようです :2014/01/01(水) 00:02:11 f4QW8tag0
もちろんバッドエンディングから始まるよな?


582 : ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 00:13:36 Ip/FC9yQ0

年が明けました。
今年も宜しくお願いします。

>>581
Yes
バッドエンディングから始めて
ベストエンディングに持っていこうかと。


583 : 名も無きAAのようです :2014/01/01(水) 00:23:25 f4QW8tag0
あけおめぇえぇぇがんばれよぉ


584 : 名も無きAAのようです :2014/01/01(水) 03:47:30 7qzbuUGo0
ひとまず乙
今日も楽しみだ


585 : ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 16:46:55 Ip/FC9yQ0

乙と支援ありがとうございます。
17:00に投下します。


586 : ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 16:59:56 Ip/FC9yQ0

全速力で駆け出していた、僕の耳に
その言葉は何故か、はっきりと届いた。


(´ ω `)「約束を…果たしにきたよ…」

(;^ω^)そ「っ!!」


この声は…あの、霊能者のものだ。


『君とあの石の運命が終わるとき…』

『そのときに…また会おう…』


あの男はそう言って『赤い石』と共に、消えたのだ…。


(; ω )


霊能者に、僕は会うべきなのだろうか。
残された時間は少ない…それに、あの男の言葉は、信用に値しない。
信用した結果、僕は、新たな災いの種を蒔いてしまったのだから…。


(´ ω `)「さあ、ここへ…太陽の中へ…」

誘う声に、僕は…それでも、応えた。
『赤い石』…あれを残してはいけない。
残してはならないのだ…。


587 : ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:00:37 Ip/FC9yQ0

…あまり、時間は無い。急がなければ。

霊能者は『太陽の中』と言った。
太陽といえば、レリーフだ。
『太陽のレリーフ』が、何処かにあるはずだ…。

慎重に壁を伝って探していくと
それはちょうど、倉庫の四区画の境にあった。
彗星の本を急いで取り出して、僕はレリーフに翳す。

いつもはそこで、彗星の本から天文台へ飛ぶのだが
今回は違い、レリーフの飾ってあった壁が
扉のように開いて、道を示した。

( ^ω^)「…!」

狭い通路を抜けて、奥へ進むに連れて、

(´・ω・`)

忌まわしい、あの男の全身が、見えてきた。


588 : ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:01:17 Ip/FC9yQ0

紫の服に身を包んだ霊能者は、眼鏡を持ち上げると
歩み寄った僕に、声をかけてきた。

(´・ω・`)「やあ…」

(#゚ω゚)「貴様っ…!!」

…いつもどおりに、何ら変わらない挨拶をするこいつが
僕は、腹立たしくてたまらなかった。

数多の犠牲者を生み出した『赤い石』を
作り出したこいつに…その進行を
止められなかった僕に、憤っていた。

(´・ω・`)「約束しただろう…
       ブーン=スギウラ君。」

天文台で出会ってから、初めて、僕の名を呼んだ。

…僕はこの男に、名乗った覚えは無い。
やはり、僕のことを知っていたのだ。
おそらく、父のことも、アラマキのことも知っていたはずだ。

知っていながら…何も言わずにただ、傍観していた…。


589 : ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:02:01 Ip/FC9yQ0

霊能者は、目の前に再び『赤い石』を翳した。
目前に浮遊するそれは、妖しい輝きを秘めている。


(´・ω・`)「今、君は大いなる力の前にいる…」

(´・ω・`)「すべての運命を捻じ曲げる力…
       その力は君のものだ」

(´・ω・`)「さあ、持っていくがいい…」


霊能者は『赤い石』を、僕へ差し出すように向けた。
『赤い石』は変わらず妖艶な輝きを持って
僕の目の前を、浮遊し続けている。

全ての運命を捻じ曲げる力。
人の命を代償に、願いを叶える石。

僕は、

『赤い石』を


590 : ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:02:42 Ip/FC9yQ0


取る




取らない


591 : 取る ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:03:24 Ip/FC9yQ0

…赤い石。

運命を歪め、願いを叶える石。
数多の人々が魅了され、命を奪われた魔の力。

その力を、僕は憎んでいるはずだというのに、何故だ。
何故、父を殺したこの力を…手にしたいなどと、考えているのだ。

ミセリさんが、言っていた。
赤い石に魅入られやすい、だから気をつけろと…。

しかし…しかしだ、唯一人の肉親を失って
親類もいない、天涯孤独の身になるほど
恐ろしいことが、この世にあるというのだろうか?

周囲の人々は、僕とは何の繋がりも無い他人なのだ。
僕は孤独なのだ…暗闇を、当て所なく彷徨い続ける
亡霊達と同じ、孤独な人間になってしまう。

それに比べたら、赤い石の呪いなど、瑣末なことではないか。
他人がどうなろうと、他人だから、気に留めることもない。


592 : 取る ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:04:04 Ip/FC9yQ0

…そもそも、何故、僕や父は
そんなものに、関わってしまったのだろう。

僕なんて、警察から、父の家が火災に遭ったと…
父だけがいないと、そう連絡を受けて、急ぎ様子を見に行っただけだ。

元を辿れば、僕は平凡な社会人で、本来ならば
オフィスへ足を運び、成すべき仕事をこなしているだけの
何の取り得も無い、一般市民だ。

なのに、不可解な現象に巻き込まれた挙句。
僕の「運命」が狂わされて、父は、死んでしまった。

死ななくていいはずのロマネスク=スギウラという
変わった画家でも、僕にとって唯一人の
かけがえのない肉親を、死なせてしまったのだ。
このまま戻れば、僕は現実の世界で、天涯孤独の人間となる。

………。

『赤い石』…『赤い石』さえあれば。
元の、平穏な生活に、戻れるのだろうか?

御伽噺みたいな悲劇に嘆くことも、悲しむこともない
平凡な一般市民で、いられるのだろうか?


593 : 取る ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:04:45 Ip/FC9yQ0

長く、重苦しい沈黙が続いた。

(´・ω・`)「…さあ、ブーン君…」

霊能者の声に、吸い寄せられるように
僕は、赤い石に近付いた。

『あなたはもっとも魅入られやすい人』

赤い石に魅入られやすい…。
誰かが…そう、言っていたような気がする。

…誰だったっけ。
もう、何もかもどうでも良くなった。
赤い石…父も欲しがったその力を、今度は僕が手にするのだ。


594 : 取る ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:05:25 Ip/FC9yQ0

目を合わせた霊能者に、僕は頷いた。
赤い石は…君のものだと、霊能者は言っていた。
なら、どうしようと、僕の勝手なのだ…。


(  ω )


僕は、眼前の赤い石を


( ゚ω゚)つ†+


受け取った。


595 : バッドエンディング ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:06:06 Ip/FC9yQ0

(´ ω `)「フフフフ………」

(´ ω `)「ブーン…君は何を望むのかな…?」

(´ ω `)「楽しみだよ、フフ…」

(´゚ω゚`)「フハハハハハハハ……」


哄笑が、辺りに響き渡る。
薄れ行く霊能者の姿など、もうどうでもよかった。

何を望む…?

いつもどおりの生活を。
出社し、仕事をこなして、帰宅する日常を。
平凡だったあの日々を、…僕は何よりも強く望んだ。

手に持った赤い石には、温もりがあった。
その温もりに触れていると、父に頭を撫でてもらっていた
幼少の頃のような…暖かい安らぎがあった。


( ゚ω゚)「石の呪いなんて嘘だお…暖かいお…
     赤い石は、こんなにも美しいお…」


596 : バッドエンディング ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:06:47 Ip/FC9yQ0

 ・


 ・


 ・


597 : バッドエンディング ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:07:27 Ip/FC9yQ0

…それからというもの、僕の記憶は定かでない。

外に出て、崩れゆく船に別れを告げるとき
女性の影が何故か、悲しそうな顔をしていたことだけは
頭の中で鮮明に残っている。

あの人が、誰だったか。
聞かれてもわからないし、覚えていない。

僕は何をしに、あの場所へ行ったのだったか。
ああ…この赤い石を求めていたのかもしれない。

何故、求めていたのだろう?
この包むような温もりが、欲しかったからだ…。


598 : バッドエンディング ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:08:07 Ip/FC9yQ0

…目を開けた僕の前には、壊れた時計が立っていた。
この時計は確か、父が愛用していたものだった。
何故、壊れているのだろう。

父の家は、焼け焦げていた。
火事に遭ったときのままなのだ。

あれ…どうして、父はいないのだろう?

(  ω )

赤い石が、囁いた。

「運命」がお前を狂わせたんだと。
平凡な日々に戻りたいと願ったのに
お前の父は死んで…もう孤独に過ごすしかないのだと。


599 : バッドエンディング ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:08:48 Ip/FC9yQ0

嫌だ。そんなのは嫌だ。
遠くで見守ってくれる父のために
僕は都会で働くことを決めたというのに。

僕には父も、母もいない。
他に頼る親類もいない。
それを、変えるためには…
変えるためには、どうしたらいい?

願いを、叶える赤い石。
赤い石で、何をすれば願いが叶うのか…?

思い出した。

( ^ω^)「誰か、殺さなきゃいけないお。」

…呟いて、手始めに、誰を殺そうかと考えた僕の頭に
浮かんだのは、青い服の、あの無愛想な警官の姿だった。

ここを見るに、僕が過去へいってから
そんなに時間が経っていないようだ。
あの警官も、まだ外で待っているかもしれない。


600 : バッドエンディング ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:09:29 Ip/FC9yQ0

『おい、何をやっていたんだ?』

予想通り、寝室から出た僕を、警官が待っていた。
遅かったから、気になっていたのだろう。
怪訝な顔をするその警官に、僕は近寄った。

『…!』
『おい、貴様、何をすr…がはっ!』

警官の胸に、僕はナイフを突き立てた。
ずぶりと、生々しい音がする。

…引き抜くと、滑りと共に、鮮血が
手を、ナイフを、赤く染めていった。

血は…石へ吸い込まれるように、滴り落ちていく。
赤い石が…鈍く輝いていた。

(  ω )⊃†,+

まだだ、まだ…石は欲している。
魂を奪えと、僕に訴えかけている。
やらなければ…殺らなければ…


601 : バッドエンディング ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:11:34 Ip/FC9yQ0

以上、バッドエンディング。

条件

・全ての亡霊を救って(昇天させて)いる
・アストラルピースを霊能者に渡している
・船内脱出時、霊能者に会い『赤い石』を受け取る

以降、>>590から分岐


602 : 取らない ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:12:22 Ip/FC9yQ0

( ゚ω゚)「誰が、そんなものを!!」

霊能者と、僕の前に現れた『赤い石』は
怒鳴る僕の目の前で、鈍い輝きを放っている。
変わらぬ姿で、主を求めて浮遊している…。

この輝きで、数多の人々を魅了してきたのだ。
人の「運命」を狂わせて、命を奪って…僕の父までも!

再生を繰り返した『赤い石』が、憎くてたまらなかった。
この場に『青い石』があるのならば、全力でぶつけていたところだ。

(´・ω・`)

口元に、笑みを浮かべている霊能者を、僕は睨みつけた。
この男…最後まで、正体を明かすことは無かった。
真実を、黙して語らず…ただ、傍観者でいるだけの男…。

(  ω )

ならば、こちらも同じだ。

『赤い石』が必要か、不必要かなんて…言うまでもない。
こんなもの…僕には必要のないものだ。
何を言われようが、こいつだけには…何も言うまい。

僕は、霊能者と『赤い石』を睨みつけながら
何も言わずに、背を向けた。


603 : 取らない ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:13:03 Ip/FC9yQ0

(´・ω・`)「いらないのかい…?」

(´ ω `)「フフフ…」

入り口の前に、立った僕の背で、霊能者は笑った。
いつもと同じように、怪しい含み笑いを漏らしながら
愉快そうに言葉を紡いでいく。

(´ ω `)「面白い…君は実に面白いよ…
       フフフフフ…」

( ω  )

(#^ω^)

何が面白いと言うのだ…さすがに腹が立ち
前言撤回して、何か言い返そうと振り向いた僕は
自分の目を疑った。


604 : 取らない ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:13:48 Ip/FC9yQ0

(;゚ω゚)そ「なっ…!?」

変わらぬ笑みを浮かべながら、霊能者が
自らが生み出した『赤い石』を、いとも簡単に壊したのだ。

硬く、重たいガラスを砕くような音が木霊して
『赤い石』は輝きを失い、粉々に砕け散っていった…。


(´・ω・`)「…どうしたんだい?
       『赤い石』は、いらないんだろう?」

(;゚ω゚)「…」

(; ω )「…」

( ω ;)


『赤い石』を…作ったのだ。
『青い石』を持たずに壊すことも可能だろう。
当然の事実だが…受け入れ難かった僕は、歯噛みして背を向けた。

この男に、弄ばれているようで、悔しかった。


605 : 取らない ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:14:33 Ip/FC9yQ0

(´・ω・`)「さよならだ…」


(´ ω `)「運命が君に微笑まんことを…」


606 : 取らない ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:15:17 Ip/FC9yQ0

 ・


 ・


 ・


607 : ベストエンディング ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:15:58 Ip/FC9yQ0

(  ω )

( ^ω^)「…ツン…」


霊能者に背を向けて、歩き続けた僕は
船底倉庫Aの前で待ってくれているツンに、声をかけた。

他の亡霊と同様、彼女もまた、半透明の姿だ…。

彼女の望み通りになった。
『青い石』は『赤い石』を壊した。
だが…一人の少女を救えなかったことは、胸が痛い。


ξ;゚⊿゚)ξ「よかった…ここまで来れたのね。」

ξ;゚⊿゚)ξ「時間がないわ…さあ、こっちへ。」


言った彼女の姿は、ドアに透けて消えていく。
「ああ、己の死を自覚出来ているのか」と
どうでもいいことを思いながら、僕はその後を追った。


608 : ベストエンディング ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:16:38 Ip/FC9yQ0

木箱の一つも無い、船底倉庫Aへ入ると
それまで、今にも足場が崩れそうなほどに
揺れていた感覚が、無くなった。

灰色の空間で、幾つもの粒子が、星のように輝いていた。
中央に佇む、半透明のツンが、僕に視線を向ける。

(  ω )「いままで黙ってて、ごめんお…」

(  ω )「僕は…ブーン=スギウラ…。
      あなたが待っていた
      ロマネスク=スギウラの、息子だお…。」

ξ゚⊿゚)ξ「…」

ξ-⊿-)ξ「……」

…僕の言葉を、聞いてくれていたのだろうか。
それを聞いて、何を思っていたのか…。

ツンは、ただ黙って、首を横に振った。
答えの代わりに、僕に言う。


609 : ベストエンディング ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:17:23 Ip/FC9yQ0

ξ-⊿-)ξ「この船の命は、終わります…」

ξ-⊿-)ξ「あなたは…ここにいてはならない人…」


1913年4月12日…ニュー速VIP号は
数多の命と共に、海の底に沈んだ。

そこに、僕はいない。
僕はシベリア市で、1912年に生まれたばかりだ。
母を亡くし、男手一つで育てられた僕は
今は、大都市で生活している。

関わることもなく、関わってはならないことだ。
彼女達からすれば、僕は未来の人間なのだから…。


610 : ベストエンディング ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:18:09 Ip/FC9yQ0

ξ゚⊿゚)ξ「さあ、帰りなさい…」

ξ-⊿-)ξ「全ては、終わったわ…」


凛とした響きを持った声が、遠くなる…。

ツンの全身から、僕の視界を、全てを、海の青が覆った。
水中にいるような感覚の中、自分の体が
浮くように、軽くなっていくのがわかる。

…薄らと開いている目を凝らすと
儚い、半透明のツンの姿が、透けている。


(  ω )「  !」

ツン、と呼んだはずだった。
ところが声は、発した僕ですら聞こえなかった。

体の自由が利かず、手を伸ばそうとしても
出来ないまま、ツンの姿は消えていった。

煌く粒子がやがて、眩い光へ変わる頃。
僕は意識を失った…。


611 : ベストエンディング ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:18:50 Ip/FC9yQ0

 ・


 ・


 ・


 ・


 ・


612 : ベストエンディング ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:20:05 Ip/FC9yQ0

#現実世界 1937年 11月某日 ――自宅


613 : ベストエンディング ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:20:45 Ip/FC9yQ0

…あれから、目を覚まして、どうなったかというと。
僕は寝室の、壊れた時計の前に、いたのだった。

その時計は、地下の隠し部屋に繋がっていたはずだが
再び開こうとしても、時計のかかる壁はびくともしないし
仕掛けのあった時計は、うんともすんとも言わなかった。

警官が寝室に入ってきたのを見て、僕はここから
過去の世界へ飛んだ時間が、さほど長くなかったことに驚いた。

もっと驚いたのは…父の遺体が、中で見つかったということだ。
たとえ死んでしまったのだとしても、僕と一緒に
帰ってきたのだと、嬉しくもあった。

当然だが…ここで焼死したわけではないから、遺体に損傷は無い。
隅に転がっていたやかんから、火事の原因は、よくある「火の消し忘れ」で
死因は「一酸化炭素中毒」だろうという、見解がなされた。

僕が、父の死を知っていて、さほどショックを受けなかったことや
「今まで捜査したのに見つからなかった」と、警官に疑われながらも
なんとか理解を得て、漸く落ち着いた日常を取り戻して、現在に至る。


614 : ベストエンディング ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:22:15 Ip/FC9yQ0

( ^ω^)「…あんなことが、現実にあったなんて
      信じられなかったけど…現実なんだおね。」

コーヒーの入ったカップを片手に、立ち上がった僕は
久しぶりに、自宅の机に向かって歩み寄った。

机の中央に置かれた、オルゴール。
開くと、綺麗な音色で曲を奏でた。
僕が帰宅したとき、手紙と共に置いてあったものだ。

過去の世界で手に入れた、全ての荷が、無くなっていたから
これを見たときは、夢や幻ではなかったのだと知って、胸が熱くなった。

ツンが、弟のデレにあげたものと同じものか
そうでないかは、定かでなかったが
手紙から、ツンのくれたものだということだけは、わかった。


( ^ω^)「…ありがとうだお」

僕は、何度も何度も読み返したツンの手紙に
言葉を向けて、もう一度、最初から読み始めた。


615 : ベストエンディング ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:24:31 Ip/FC9yQ0
                   
ミ,,゚Д゚彡

(,,゚Д゚)

( ^Д^)
 _
( ゚∀゚)

(*゚∀゚)

(#゚;;-゚)

/ ゚、。 /


⌒*(・∀・)*⌒


616 : ベストエンディング ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:26:48 Ip/FC9yQ0

( ・∀・)

( ><)

J( 'ー`)し

(*‘ω‘ *)

(‘_L’)

从'ー'从


川 ゚ ー゚)


617 : ベストエンディング ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:27:28 Ip/FC9yQ0

( ∵)

(-_-)

( `・ω・´)

(=゚ω゚)ノ

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)

ζ(゚ー゚*ζ

ミセ*゚ー゚)リ

( ´_ゝ`)


( ´∀`)


618 : ベストエンディング ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:28:27 Ip/FC9yQ0

(´<_` )

(゚、゚トソン

( ´ー`)

( <●><●>)

('、`*川


619 : ベストエンディング ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:29:17 Ip/FC9yQ0

/ ,' 3


ξ゚ー゚)ξ


( ФωФ)


620 : ベストエンディング ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:29:58 Ip/FC9yQ0


( ^ω^)


621 : ベストエンディング ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:30:44 Ip/FC9yQ0

THE END


622 : ベストエンディング ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:31:25 Ip/FC9yQ0

以上、ベストエンディング

条件

・全ての亡霊を救って(昇天させて)いる
・アストラルピースを霊能者に渡している
・船内脱出時、霊能者に会い『赤い石』を受け取らない


623 : ゲームオーバー ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:32:46 Ip/FC9yQ0

シベリア市新聞

1937/11/16

15日、シベリア市郊外の住宅で火災が発生。
家屋の半分を焼き、鎮火された。

火災による犠牲者は今のところ見つかっていないが
住人であるロマネスク=スギウラ氏は
火災の前後から忽然と姿を消しており、
警察では何らかの事件の可能性もあると見て
捜査を続けている。

また、警察の要請によって現地を訪れた
ロマネスク氏の息子ブーン氏も
火災現場で突如姿を消し、
現在もその消息は
明らかになっていない………


624 : ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:35:46 Ip/FC9yQ0

以上、終盤のみのゲームオーバーエンディング

条件

・制限時間(99秒)以内に船内から抜け出せなかった場合


625 : ◆noe7UUkd3A :2014/01/01(水) 17:39:36 Ip/FC9yQ0


これで完結です。
投下まで長くお待たせしてしまい、すみませんでした。
また、思った以上に多くの支援と乙、ありがとうございました。

前スレで書いたとおり、元ネタは
フロムソフトウェアより、1999年に発売された
PS1の「エコーナイト」という、死んだ人を昇天させていく
謎解きが難解ながら、物悲しい雰囲気のホラーゲームです。

この「赤い石〜」は、その昔に流行った
ゲームブックのように読んでもらえれば幸いです。


626 : 名も無きAAのようです :2014/01/01(水) 17:42:51 E0IhcojE0
完結乙!!!


627 : 名も無きAAのようです :2014/01/01(水) 18:31:45 Jg0slqP20
乙でした!


628 : 名も無きAAのようです :2014/01/01(水) 20:14:06 iOyywCzE0



629 : 名も無きAAのようです :2014/01/01(水) 23:20:51 ZUnFtSbk0
乙!!!


630 : 名も無きAAのようです :2014/01/01(水) 23:38:58 f4QW8tag0
毎回投下楽しみにしてたぞ!
乙!!!


631 : 名も無きAAのようです :2014/01/02(木) 00:00:35 maNXFf7wC
終わったな、次は一話で完結してしまった先代の赤い石のリメークだな 
パンメーカーも続き読みたいけど


632 : 名も無きAAのようです :2014/01/02(木) 07:48:39 1gKfYyNM0
おつ


633 : 名も無きAAのようです :2014/01/03(金) 02:26:53 f4SQVqTU0
おつ
毎回楽しみに待ってた
これで終わりかと思うと残念だが、完結まで見られて良かった


634 : 名も無きAAのようです :2014/01/07(火) 12:56:51 ZqAZceZgO
おつ、静かだけど面白い話だった
ちょっと原作探してくる


635 : 名も無きAAのようです :2014/01/28(火) 22:21:54 vOITpdjI0
今更だけど面白かったよ
これ読んで興味持ってエコーナイトのプレイ動画観てきたけど
原作よりこっちの方が好きだった
背景や心理描写が丁寧で、原作の描写不足な部分を上手く補ってくれてると思う
次があればまた読みたい


636 : 名も無きAAのようです :2014/02/14(金) 07:10:05 OQuslfRk0
乙!!


637 : 名も無きAAのようです :2014/03/04(火) 17:10:41 GRHim7FE0
おつおつ


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