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( ^ω^)赤い石が紡ぐ物語のようです
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※あるホラーゲームを基に脚色しています。
※かつてvipに同名で投下した作者と同一人物ですが
内容は全くの別物です。
前に投下したものは、いまは忘れてください。
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#??? ??年 ??月??日 ―ある画家の手記
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…
運命は、まだ続いていた。
あの声は私を呼んでいる。
今度こそ、すべてを
終わらせなくてはならない。
もう、ここへ戻ることはない。
私は行かなければならない。
あの船の待つ、海へ。
…
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#現実世界 1937年 11月15日 ―父の家
-
僕の名前はブーン。
戦後の大都市VIPに住む、25歳男性。
平凡な社会人だ。
(;^ω^)「…なんなんだお、これ…」
平日の夜。
いつも通りに仕事を終え、帰宅して、間もない頃。
僕は家で頭を抱えていた。
僕が見つめている、質素な木製のテーブルには、一枚の封筒と
…見慣れない鍵があった。
人付き合いの少ない僕に、手紙が届くことなど滅多に無い。
届くとしたら、たった一人の肉親である父、ロマネスクからのものだろうと
封筒の裏を返せば、予想通り、差出人は父だった。
父は僕と同じ…いや、僕以上に、人付き合いの少ない画家だった。
とはいえ僕は息子で、父の全てを知っているわけではないから、昔からそうだったのか
何かの拍子にそうなってしまったのかは、定かではない。
ともかくそんな父親であるから、僕が故郷を離れても、手紙の一つも寄越さなかった。
僕も、父にそこまで固執していたわけではないから、手紙など出さない…。
つまり、二人とも音信不通に近い状態だったのだ。
-
だから、手紙が届いたということに対して、驚きや感動よりも
好奇心や期待の方が強かった。
しかし中身は先程、説明したとおりの、見慣れない鍵が一つだけ。
(;^ω^)「父ちゃん…息子に送るなら
『元気にしてるか』の一言くらい入れてくれお…」
音信不通だった息子に対して、出した手紙の中身が、見慣れない鍵一つ。
父は、人を煙に巻いて喜ぶような人ではないし、鍵に関して
実家で思い当たるようなことは、何一つ無い。
疑問符が浮かび、気になって仕方がなかった。
何故、父は自分に、こんなものを送ってきたのだろう?
この鍵には、どんな意味があるのだろう?
考え込んでいたそのとき、電話がけたたましく音を上げた。
解けない疑問を抱えたままでは、取るのも億劫になったが、音はいつまで経っても
鳴っていて、どうしても取らせたいようだった。
-
(#^ω^)「(うるせーお!)…もしもし?」
『…もしもし、VIP市郊外にお住みのブーンさんですか?』
(#^ω^)「そうですお。どちらさまで?」
『申し遅れました。こちら、シベリア市警察の者です。
貴方の父、ロマネスク・スギウラさんのことで、少々お話を伺いたいのですが…』
-
(#^ω^)…
( ^ω^)?
(^ω^ )…
( ^ω^)……
-
( ゚ω゚)!?
( ゚ω゚)「…シベリア市警察、だと…?」
-
・
・
・
-
…少し古びた青い車に、僕は乗っている。
この車は僕の故郷シベリア市の、警察のものだ。
あれから警察に事情を聞いた僕は、後ろから
頭を殴られたような感覚に、眩暈を起こした。
なんと、父の家が燃えたというのだ。
しかも、焼け跡から父のいた痕跡が無く、行方不明だと。
突然のことで頭の中が真っ白になりながらも、僕は自宅まで
車を寄せてもらい、警察に同行したのだった。
運転しているのは、電話で話した警察官とは別の年配の人で
僕の父のことも、少しだけ知っていた。
と言っても、近所のおばさん連中から流れる噂と変わらない程度だが。
-
『しかし、あんたの親父さんも、相当変わった人だねえ』
( ^ω^)「ええ…まぁ…僕が幼い頃から、よくそう言われていましたから」
『それにしたって、こんな町外れに一人暮らしなんて…』
( ^ω^)「…」
…人の父親のことを悪く言わないで欲しいと思ったが、警察官の言葉は事実だった。
実の息子である僕だって、そんな父を「変わった人だ」と心底、思っているのだから。
-
( ФωФ)
僕が幼い頃、先立たれた母に代わって、男手一つで育ててきてくれた父。
そんな父の過去を、僕は知らない。
父は優しい人だったが、自分の過去を語ることはなかったのだ。
実の息子である僕すら知らない、そんな父の経歴を知る人は、おそらく
この世にいない母だけだ…否、母すら知らなかったことだって、あるかもしれない。
僕の頭の中は、今朝に届いた、見慣れない鍵の謎で一杯だった。
家に、鍵付の扉など何処にあっただろう…?
考えを巡らせるが、先程同様、思い当たるものは何も無かった。
父は、質素を好む人だった。
( ^ω^)「…あ。」
-
そこまで浮かべて、脳裏を過ぎったのは…幼い頃に父の部屋で見かけた
とある古い新聞の切り抜きだった。
忘れようと思って、とうとう大人になっても忘れられなかった、あの新聞。
内容はさすがに忘れてしまったが、その切り抜きを見た瞬間に感じた
見てはいけないものを見てしまったあの感覚…。
( ^ω^)(…あれ…なんの記事だったんだお、父ちゃん…)
父は、世の中の動きに、関心を示さない人だった。
だから新聞など見ないし、たまにラジオを聞く程度。
それも何を聞いていたのか、それすらあやふやだ。
そんな父が、机に大事そうにしまってあった
古い新聞の切り抜き…気にならないわけが無い。
第六感が働いたというのか、僕は何となく…
「見てはいけないもの」が、今回の事件に関係しているように思えたし
それを、これから見なくてはならない気がしていた。
-
・
・
・
-
『さあ、着いたよ』
( ^ω^)「お…」
考え事をしているうちに、父の家に辿り着いたらしい。
車のドアを開けてもらい、外に出た僕は、警察官に案内されて家へと招かれ
およそ数年ぶりの帰宅を果たした。
…内部の到る所に見える、焼け焦げた痕が痛ましい。
感じるのは、家が焼けたという悲哀よりも、主のいない寂しさだった。
耳に痛いくらいの静寂の中、僕は家の中を探索し始めた。
ぎしぎしと、床を踏むたびに鳴る音が、ここにきて漸く僕を緊張させた。
今朝の見覚えの無い鍵と、考え事ばかりで
浮遊感を覚えていた体が急に現実へと引き戻される。
-
警察官は何も言わない。
『変わり者』の息子で、警戒しているのか。
或いは、実子である僕の心中を察してなのかもしれない。
来る直前までの、ちくちくと棘のある発言を思い返して
僕は寧ろ、黙っていてくれる方がありがたいと思った。
父の家…父の深い場所に踏み込んでいるという、なんとも言えない高揚と緊張だけが
僕の胸を熱くさせていた。
探索と言っても、狭い家で、歩ける場所は限られている。
火元として考えられるのは、暖炉ではないか。
…というか、それしか無いだろう。
父は、葉巻も煙草も吸わない、酒も飲まない人だったから。
(;^ω^)「…っていうか、家燃やしていなくなるって
何処の錬金術師だお…行き先ぐらい書けお…」
愚痴りながら、廊下に出た僕は、父の寝室へと入った。
相変わらず何も置いていない…と、ベッドしか置いていない
父の部屋を見渡した僕は
( ^ω^)「あ、父ちゃんの時計…」
父が愛用していた、古ぼけた置き時計を見つけた。
時刻は3時を指し示したところで止まっており、刺さっていたネジ巻きも取れている。
-
…ふいに、そこまで見た僕の頭の中で、何かが閃き、弾ける音がした。
(;^ω^)「これ、扉に鍵がかかってるお!
しかも、鍵穴、僕が持ってる鍵と同じくらいだお!」
ネジ巻きは持っていないが、どうせこの家の何処かに落ちているはずだ。
すぐに見つけられるだろうと思った僕は、早速、あの鍵を穴に差し込んだ。
鍵は穴にぴたりとはまり、そのまま横にすると、カチャリ、と、小気味の良い音が鳴った。
そっと扉に手を触れると、開いたではないか。
父はこれを開けて、時計のネジを回せと言いたかったのだ。
-
( ^ω^)「…」
(;^ω^)「いやいやいや!普通に一言添えればいいだけじゃね?
『ブーン、この鍵で時計の扉を開けて、ネジを巻いてくれ』って!
そこまで面倒くさがる必要なくね?
っていうか何処行ったんだお、あの変わり者め!」
…痛い独り言なのは十分に承知している。
けれども僕は仕事から帰ってきた後で、本来ならば疲れた体を
柔らかいベッドに預けて眠っているはずなのだ。
だのに、こんなちっぽけな鍵一つに振り回され、警察には呼ばれ、世にも奇妙な出来事を
今まさに体験している…たった一人の肉親だからと心配した末にこれである。
この僕の理不尽さを、諸君にもちょっとはわかってもらいたい。
だが、ここまで来て「謎は全て解けた」と引き返すわけにもいかない。
まだ多くの謎が解けていないし、僕自身、気になって気になって、仕方なかったのだ。
いくら変わり者と言っても、父はこんな「なぞなぞ」を
ふっかけるような、不可解なことをする人ではない。
何の意味があって鍵を送ったのか…それだけでも知りたかった僕は
疲れた体に鞭を打って、ネジ巻きを探すことにした。
-
廊下に出て、目を凝らした。
時計のネジ巻きは小さい。
外に転がったりして、紛失していなければいいが。
思いながら、僕は寝室の扉を開き、再び廊下に出た。
寝室から出て、向かって右奥の扉には、まだ警察官が
立っているであろう、玄関口に繋がる居間。
その更に奥、突き当りを進むと、僕の寝室があるのだが
瓦礫で塞がっていて、今は通れない。
瓦礫を辿っていくと
( ^ω^)「お、あったお。」
思ったよりも、容易に見つかった。
ネジ巻きはこの焼け焦げた家の中で、金色の輝きを際立たせていたのだ。
手にとって、父の寝室に引き返すと、僕は先程、扉を開けた時計の前に立った。
-
( ^ω^)「しかし、回して何があるんだお。
まさか、隠し部屋なんて…あるわけないお。」
独り言(ひとりごち)りながら、時計にネジ巻きを差し込んで回すと
時計の長針と短針が自動でくるくると廻り始めた。
(;^ω^)「おぉ…」
驚くほどの速さで廻り始めたそれは、一周して元の3時を指し示し、ぴたりと止まる。
-
ゴーン…ゴーン…ゴーン……
-
時を知らせる鐘の音が鳴り響いたかと思うと、時計をかけていた壁が、ごりごりと
なんとも言えない音を立てながら、横にスライドし始めた。
(;^ω^)「…え…?」
思わぬ事態に、僕は間抜けた声を出して、スライドした壁を呆然と見つめた。
直前に呟いたことが、本当に起きるとは思ってもいなかった。
しかも、質素で平凡だと思っていたこの家に、こんな隠し部屋があったことなど
今の今まで知らなかった。
――父はいつから、何処まで、僕に隠し事をしていたのだろう?
-
一緒に暮らしていた肉親の新たな謎に、竦んでいたはずの僕の足は
好奇心によっていつの間にか動き出して、その奥を目指していた。
本来ならばあの警察官に、伝えておかなければならないはずだ。
家の隠し部屋に、父の行方に関する手がかりがあるのは、確実だったから。
けれど、そんな心の警鐘も、今の僕には届かない。
進むと次第に、通路の天井が狭くなっていった。
どうやら隠し部屋は、地下にあるようだ。
( ^ω^)「…お?」
進もうとした矢先、僕は目の前に、赤い表紙の本が落ちていることに気付いた。
薄くも無く、厚みも無い、ごくごく普通の本だった。
その手軽さから見るに、日誌だろうか?
( ^ω^)「なんだお、これ…?」
父のものだろうか。
疑問を投げかけて、表紙を捲った瞬間。
-
(;^ω^)「!」
-
――吸い込まれるような感覚の中、僕の意識は遠退いた。
-
・
・
・
・
・
-
ガタン、ゴトン…シューッ…
蒸気を吹かした音を立て、止まった列車に、一人の青年が乗り込んだ。
-
…シューッ…ガタン、ゴトン。
列車は青年を乗せて、再び動き出した。
-
ガタン、ゴトン。深い闇の中、列車は進む。
闇は、外の宵のものか。
-
ガタン、ゴトン。ガタン、ゴトン。
-
( ω )
-
思い詰めた表情をした青年は、知る由も無い。
その後ろに、もう一人、列車に乗り込んだ男がいたことを。
青年にとっては、何十年も先の未来でしか、会えない人物であることを。
-
( ω )
-
人の運命を変える力。歪んだ運命を修正する力。
対となる石を乗せた天秤は、ただ、裁きの時を静かに待つのみ。
運命の歯車は軋み、徐々に歩調を乱し始めていた…。
-
#過去世界 1899年 4月12日 ―蒸気機関車車内
-
…けたたましい音に、僕の耳は敏感に反応して、意識を覚醒させた。
(;^ω^)「って、え、何? ここどこ?」
…見慣れない景色を認知して、覚醒した頭はたちまち混乱する。
僕は、火事で焼けた父の家で、隠し部屋を発見した。
そこで赤い表紙の本を見つけた。
赤い表紙の本を捲ろうと触れたら、何故か意識が飛んだ。
まるで宙にでも浮いているかのような、夢でも見ているかのような
不思議な感覚の中で、一人の青年を視線だけで追いかけていた。
自分も何故かふらりと足が向いて、気が付けば列車の中。
-
列車の中、二人掛けの長椅子に腰掛けている客は、僅か二人…それ以外は空席だ。
がらがらの列車内は異様な静けさに包まれて、空気は重い。
息苦しさを覚えた僕は、車掌を押し退けてでも、外に出てしまいたい衝動に駆られた。
いつ列車になんて乗ってしまったのか。
これは何処行きの列車なのか。
そもそも、どうして本を捲った瞬間に、こんなところに辿り着くのか。
疑問符だらけだが、考えて解決出来そうな問題でも無い。
(;^ω^)(さて、どうしたらいいんだおね…)
どういう原理かは知らないが、列車内に瞬間移動した原因は
あの赤い本の表紙を捲ろうとして触れたことだ。
また触れれば、家に戻れるのだろうかと探したが、手元に無かった。
………
-
(;^ω^)
( ^ω^)
( ゚ω゚)「無い…だと…っ」
-
あの本は父のもので、父の行方に関する記述や
この瞬間移動の謎がわかるかもしれない…
そう思っていた矢先のことだった。
不審者がられようが構わず、僕は慌てて空席の上や
足元を見ていったが、それらしきものは何一つ見当たらなかった。
周辺を隈なく探しても見当たらない。
まさか落としたのではないか…と、動く列車の窓から
外を見下ろしたりもしたが、さすがにそれは無いだろう。
うん、無いと思いたい。
…仕方なく諦めて、この列車が何処行きかという
初歩的な疑問から解いていこうと思い
僕は二人の乗客に歩み寄った。
中にいた乗客二人のうち、一人は老人、一人は幼い女の子だった。
一緒に座っているということは、この老人にとって女の子は孫であり
女の子にとって老人は祖父なのだろう。
素材の良さそうなスーツとドレスを、二人とも着こなしている。
何処かの上流階級の人であることは、容易に想像がついた。
-
/ ,' 3 「なんだね、君は」
(;^ω^)「あ、いえ、あの…」
突然、声をかけられて、驚いた僕は口ごもってしまった。
考えたら、僕はこの列車に乗るような身なりをしていない。
じろじろと見られているとも思ったのだろう、訝しがられてもおかしくない。
…このときの僕は、本来の目的を忘れていた。
適当な理由をつけて、この老人と女の子の前から
一刻も早く立ち去ってしまいたい気持ちで一杯だった。
/ ,' 3
老人の目は鋭く、その奥に、何か恐ろしいものを感じて寒気がしたのだ。
生きた人間のものではない。
そう…たとえるなら、悪魔。
*(‘‘)*
女の子は幼女らしくなく、ずっと暗い面持ちで俯いていた。
可愛らしいピンク一色の帽子や洋服も、そんな顔をされては映えない。
なるほど、空気が重苦しいのも、なんとなく納得がいく。
-
*(‘‘)*「…お爺ちゃんと、お出かけなの。」
空気を読んだのか読めなかったのか知らないが
ぽつりと呟いた幼女の一言に、僕は乗った。
(;^ω^)「お…お、そうなのかお!
楽しいかおっ?」
*(‘‘)*「…ちっとも…行きたくないって、言ったのに…」
普通の子供なら、無邪気な笑顔で「楽しい」と答えるはずの問いに
幼女は尚も暗い面持ちでそう答えた。
(;^ω^)(…なんなんだお…この子…)
人形のような愛らしい顔からは、何の感情も見えない。
答える幼女の目に浮かんだ、深い悲しみの色。
*(‘‘)* ……
錯覚だろうか。
「助けて」と言っているようにすら、僕には思えた。
きっと、何か訳のある、複雑な家庭なのだろうと、僕はそう思うことにした。
あまりの重苦しい空気に耐え切れず、僕は一言「失礼しました」と挨拶すると
前列の車両に向かおうと、その場を早々に立ち去っていった。
…
-
バタン。
-
(;^ω^)「ふううう…」
扉を閉めて外に出た瞬間、冷たい風を頬に感じた。
外の空気を深呼吸で取り入れて、僕は解放感に浸る。
あの重苦しい空気はなんだったのか。
あんな空気は今までに味わったことが無い。
出来れば、二度とあの中に入りたくない…
そう思って首を振った僕は、他の乗客を探そうと試みようとして、
-
ガチャ
-
(;^ω^)「おぉっ!?」
いきなり、向かい側の扉が開いて驚いた。
前列の車両から、乗客が移動してきたのだ。
乗客は若い男性で、あの二人とは到底、関係無さそうな身なりの人だった。
ならば最初に、こちらから攻めておくべきだった…と後悔するが、今更言っても仕方ない。
( ω )「…」
しかしその人は無情にも、尋ねようと口を開きかけた僕を一瞥して
すたすたと、今僕が出てきた車両へ入って行ってしまった。
…さすがに無視はひどいじゃないか、と思った僕は
文句の一つでも言ってやろうと、扉へ手をかける。
-
ガチャン。
ガチャ、ガチャガチャ。
-
( ^ω^)「…あれ?」
ガチャ。ガチャ。
(;^ω^)!!
…なんと、内側から鍵をかけられている!
-
(;^ω^)「ちょ…えっ!
まさか…立て篭もりかお?!」
お世辞にも優しいとは言えないが、中には、老人とその孫娘の二人しかいない。
車掌も、僕が赤い表紙の本を探している間に、気付けばいなくなっていたのだ。
先程、すれ違った若い男…あの男は確か、こちらに意識が飛んでから
無自覚のうちに視線で追っていた男ではなかったか。
顔までは見えなかったが、後姿は確かに似ていた。
何か思い詰めた表情をしていたし、誰も抵抗出来そうにない
あの空気の中で、彼が何をしだすかわからない…。
(;^ω^)「だ、誰か! 誰か呼ばないと!」
事態の重さだけを把握した僕は、助けを呼ぼうと向かい側の扉を開き、慌てて駆け込んだ。
-
( ゚ω゚)「…!!」
-
他にも乗客や乗務員の一人、いや車掌だっているはず…。
そう思った僕の視界に飛び込んだのは、がらんどうの車内で
仰向けに倒れて血を流している、あの車掌の姿だった。
辺りを立ち込める臭いが、流れた血液によるものだと、すぐに気付いた。
おそるおそる近付いた彼の顔色は白く、既に息が無かったからだ。
(; ω )「っう…」
込み上げる吐き気を押さえて、僕は車内を見渡した。
僕以外の客はいないようだ。
それは偶然なのか、それともそういう風に、誰かが仕組んだのか。
目の前にいる、この車掌は、先程の男に殺されたのだろうか…
そんな、何処ぞの名探偵のような推理を披露出来る余裕など
ただの一般市民である僕には無論、無い。
死体の前に、何か落ちてあるのが見えた。あれは…
(; ω )「こ、これ…クランクだお…!」
取っ手がついた、金色のクランクハンドルだった。
身を守る武器にはなるだろうし、使い道は他にもある。
なるべく死体を見ないようにしながら、震える手でクランクを取って、僕は駆け出した。
-
人が血を流して倒れている…それも死んでいる光景を見る機会など
一生のうちに誰が手にするのだろう。
誰も、そんなものは欲しくない。
僕だって、欲しくなかった。
見たくもなかった。
動悸で胸が痛い。
-
(; ω )「っはぁ…はぁっ!ふぅっ…!」
扉を乱暴に開け放った。
息を切らせて、後方の車両にかかる梯子をどうにか登ると
その上に這い蹲って、中を覗ける天窓を探す。
(;^ω^)「あった…!」
一筋の灯りも差し込まない、暗いトンネル内を通過している
列車の天窓を、手探りで見つけた僕は、開けようとして…
取っ手がないことに気付いた。
よく見ると、何かを差し込む穴がある。
クランクハンドルは、この天窓を開けるためにあったのだ。
気がついた僕は、まだ震えの止まらない手でクランクを差し込んだ。
-
カコン。
クランクは、音を立てて、穴にぴったりとはまった。
-
(;^ω^)「…」
最悪、僕一人で立ち向かうことになるのか。人を守るために。
動悸で痛む心臓の鼓動は耳に鳴り響き、全身が強張っていく。
まるで映画の世界だ、想像したことはあっても、実際に
その立場になることなど、誰が予想出来ただろうか。
老人と幼女を人質に、列車を乗っ取る成人男性…
その手にはピストルが、或いはナイフが握られているだろう。
想像できる光景が恐ろしい。
(# ω )「…何言ってんだお…!さっさと開けろお!」
自分へ叱咤するように言い聞かせた僕は、思い切り
クランクを掴んで回し、天窓を開けた。
-
キコッ…キーッキーッ…
(; ω )「…」
クランクを回すたびに、開かれていく天窓。
差し込んだ灯りに、恐ろしくなった僕は目を閉じた。
キーッキーコッ……キッ…
-
(; ω )「…」
(; ω^)「…」
(;^ω^)「なっ…」
全開にして、おそるおそる、目を開けた僕は、絶句した。
想像していた光景と正反対の図が、そこにはあった。
-
/ ,' 3*(‘‘)* (^ω^ #)
黒光りするピストルを、老人に向けた、あの、若い男。
対面する老人は…同様に構えたピストルの銃口を、男にではなく…
自分の孫娘に向けて、彼女を盾に、男を脅していた。
-
(;^ω^)「ど、どういうことなんだお…っ!?」
…だって、あの女の子は、老人の孫じゃなかったのか?
予想外の事態に混乱しながら、僕は二人…人質の幼女含め、三人を交互に見遣った。
あの、ピンク色の帽子が、幼女の顔を隠して見えなくしていた。
怖いだろうに、泣き声一つ上げない女の子を見て、僕は胸が痛んだ。
その場に下りては事態が悪化する。
自分も、あの幼女も…最悪の場合、全員が死ぬことになる…。
(;^ω^)「……」
「予想外」と「最悪」ばかりが重なっていく現実をどうにか受け入れながら
静観を決め込んだ僕は、二人の口論に耳を傾けた。
-
「どういうつもりだ!」(^ω^ #)
/ ,' 3「聞こえなかったかな?
君が武器を下ろさなければ
この娘は死ぬと言ったんだ。」
「何を言っているんだ、その娘はお前の孫だろう!」(^ω^ #)
/ ,' 3「その通り、わしの可愛い孫だ。
だが、君が狙っているのは
わし一人のはずだろう?」
/ ,' 3「肉親とはいえ、
孫は無関係な人間だ。
さて、見殺しに出来るかな」
「貴様…!」(^ω^ #)
-
(;^ω^)(…あの爺…狂ってるお…)
老人の言葉に狂気じみたものを感じた僕は、男を勝手に
立て篭もり事件の犯人に仕立て上げたことを恥じた。
もしかしたら、立場は逆かもしれない。
漸く冷静になった頭で、僕は考えた。
車掌を殺したのは事実だ。
しかし…危険なのは寧ろ、あの老人ではないかと。
先程、普通に会話していたことを思い出して、僕はぞっとした。
/ ,' 3
あのとき、恐ろしいものを感じた老人の鋭い目も、
*(‘‘)*
深い悲しみを宿した幼女の目も…錯覚などではなかったのだ。
-
/ ,' 3「君がわしを狙っていたことは
とうに知っておった。
だから準備もできたわけだ。」
/ ,' 3「わしに言わせてもらえば、
君はこういうことには
あまり向いておらんよ」
/ ,' 3「真っ正直で、正義感が強い。
何よりも、人を殺すには
優しすぎるようだ。」
/ ,' 3「…だからこそ
ここまで来たのだろうが」
「…」(^ω^ #)
-
(;^ω^)(…なるほど…そういうタイプだったのかお…)
男がどんな性格なのか知らなかったが故に、僕はあの男が、老人と幼女を
人質にする、卑怯な犯罪者だとばかり、思い込んでしまったのだ。
実際は逆だったのだ。
自分の孫すら盾にする、狡猾で冷酷な老人と、正義感の強い若者…。
こんなことなら、最初からあの男に、加勢していれば良かったのではないか。
/ ,' 3「孫の命は君の手の中だ。
…どうするね?」
銃口を向けなおした老人の顔には、おぞましい笑みが浮かんでいた。
この男に、出来るわけが無い…そんな余裕が、裏に見えた。
-
「…」(^ω^ #)
「……」(^ω^ )
「…っ…」 ( ω )
少しの間を置いて、男は首を横に振って、腕を降ろした。
悔しさからか、それとも無力に嘆いているからか、肩を震わせている。
降ろした腕も、震えていた。
老人の言うとおり、真っ正直で、正義感の強い男には
人質を犠牲にするという選択など、出来なかったのだ。
-
/ ,' 3「どうやら、
わしの勝ちのようだな」
(;^ω^)(…)
狂気に満ちた笑みを向けて、老人は再びピストルを構えなおしている。
このままでは、あの人が殺されてしまう…そう思う僕の体は
恐怖と緊張で完全に硬直して、動けなくなっていた。
/ ,' 3
まるで、心と体が切り離されてしまったように。
速く回転する頭に対して、僕の体は指一本動かせなかった。
( ω )
…パン、という乾いた音と共に、男はその場に倒れた。
男の胸からは、もう助からないのではないかと思う程、大量の血が流れている。
-
/ ,' 3「…フン、愚か者が!!」
倒れた男を見下ろして、老人は顔を蹴った。
弱者に向ける、侮蔑の眼差し。
向けられた男は、何を思っているのだろうか。
ああ、あの女の子は、大丈夫だろうか?
駆けつけたいと案じる僕の思考とは裏腹に、やっぱり体は動かない。
-
( 乗)「お客様!お客様!
大丈夫ですか!」
/ ,' 3「ええい!
うるさいやつだ!!」
…タイミングが良いのか悪いのか、今更駆けつけた乗務員の、慌てた声が聞こえる。
死んだ車掌を見つけ、銃声を聞きつけたからか。
老人は、煩わしそうに声を荒げて、外へ向かう。
その声は、天窓から車内を見渡している僕には、聞こえなかった。
-
「…でもない…何も聞かなかっ…
…これで…」
「…えっ…
…いやしかし…
…へへ…」
-
風の音に混じり、乗ってくる会話から察するに、賄賂だ。
何事かと駆けつけた乗務員に、恐らく口止め料として
金品を渡したのかもしれない。
乗務員が、金目の物に目をくらませ、下品に笑っている姿が容易に想像できる。
( ω )(黙って受け取るなお…)
それは、大人ならば日常的に目にする光景かもしれない。
しかし、今の僕にはそれが、とてつもなく気持ち悪いものに思えた。
あの、年がさほど変わらない、若い男に感情移入して
無力や悔恨、憤怒で、胸が熱くなっていたこともあったのだろう。
-
「…くっ…」( ω ;)
-
コトン。
-
( ω )「!」
項垂れていた僕の耳に、衣擦れの音と呻き声…何か落ちる音が聞こえてきた。
何事かと思い、もう一度車内を見てみると、
(;^ω^)「い…生きてたのかお…」
胸を撃たれたあの男が、未だ出血しながらも、身を起き上がらせているではないか。
…どう見ても、起き上がれるような傷ではない。
通常なら病院に運ばれて、生死を彷徨っている筈なのだ。
その男が、苦しそうにとは言え、身を起こして立ち上がれる
というのは、僕にとっては衝撃的だった。
( ^ω^)「…お?」
立ち上がった男を、僕は改めて見て、何か…
デジャヴというのだろうか、既視感を覚えた。
見下ろす格好だから、ここからはあまりよく見えないが
確かに正義感の強さ、真っ正直さを感じさせる顔立ちをしていた。
そんな人が、知り合いにいただろうか…と、先程からフルに
回転させている頭で回想してみるが、浮かんだどの顔も、当てはまらなかった。
-
思い当たらないものを、うんうん考えていても仕方が無い。
( ^ω^)「あれ、そういえばさっき
何か落ちた音がしたような…」
青年が起き上がったときのことを思い出し、僕は身を少しだけ乗り出して
…あまり見たくは無かったが、鮮血に塗れた床を見つめた。
よく見ると、起き上がった青年のものだろうか。
青い宝石のような『何か』が、血塗れの床に転がっていた。
「い、石が…」( ω ;)
瀕死の状態で、彼はその『何か』を拾い上げる。
(;^ω^)(…あれで助かったとか、無いお…)
いつ殺されるかもわからないという恐怖の中で、僕は見ていた。
確かに、弾はあの青年の胸を貫いた。
あの距離だ、宝石に弾が当たったとしても、まず割れて貫通するだろう。
割れた破片が何処かに刺さるかもしれない。
しかし、不可解な出来事に、首を傾げる余裕は無かった。
-
*(;‘‘)* ( ω ;)
(;^ω^)「!!」
青年は尚も流血している胸を手で押さえ、ふらりと
あの女の子に向かって、歩み寄っていったのだ。
-
(;^ω^)(ど、どうするんだお…?)
頭は十分に覚醒していて、あの血を流している青年が
生き長らえている謎を、必死に解こうとしていた。
それでも体は、石にでもなったかのように、動かなかった。
-
*(;‘‘)*「…おにいちゃん…だいじょうぶ…」
「ごめんな…怖かったろ…?」( ω ;)
(;^ω^)(ふ、普通だお…普通に会話しているお…)
銃撃戦の後、敗北し、大量に血を流している瀕死の青年。
その青年が身を起こし、少女に呼びかけている。
あの、青年が「石」と言った、宝石のような『何か』の力だと言うのか?
そして、大人だって恐ろしいと思う体験をし、震えながらも答える幼女。
たとえどんなに良い男でも、まともに顔を合わせることなど
普通の人ならばしたくないだろう。
(;^ω^)(この際、普通の概念は捨てるお…)
僕は思った。
この空間に『普通』は無い。
だから、僕の『普通』という感覚は捨てよう、と。
-
「…君は…
…おじいさんが…
…好きかい…?」( ω ;)
瀕死の状態で、青年はそれでも、幼女に優しく問いかけていた。
(;^ω^)「……」
その、青年の優しそうな声は、何処かで聞いたような…懐かしい響きを持っていた。
最近では無い、もっと昔…思い出せそうで、思い出せないくらい、昔に聞いた声。
もやもやしたものを抱えながら、僕はじっと、その光景を見守る。
顔を上げた幼女は、青年の問いにまた俯いて…首を横に振り、ぽつりとこう言った。
*( )*「…おじいちゃん…こわい…」
震えた声。
ピンク色の帽子に隠された顔は、悲しみに歪んでいるのだろう。
涙を流しているかもしれない。
もっと泣き喚いてもいいのに、それでも
そんな風に泣かなかったこの女の子を、僕は素直に偉いと思った。
大人の僕だって怖いと思ったものだ。
幼い女の子にとっては、もっと怖かっただろう。
何をするか、何をされるか…わからなかっただろう。
自分の身内なのに、そんな心配しなくてはならない女の子が
あまりに可哀想で、逆に僕が泣きそうになった。
-
「…」( ω )
「…君の…
…君のおじいさんは…
魔に魅入られている…」( ω )
「…僕はその魔を…
…追ってきた…
…この青い石と共に…」( ω )
(;^ω^)(青い石…捻り無いけど、やっぱりそういう
御伽噺によくある類のものなのかお…)
物語が好きな人なら、一度は、聞いたことがあるはずだ。
『どんな災厄からも、身を守ってくれる、護身のお守り』
『悪を退けて、魔を打ち払う魔除けのお守り』
『正義の勇者が、悪の魔王を倒す為の、破魔のお守り』
…そういうお守りが出てくる話を、誰だって一度は聞いたことがあって
誰だって、一度は持ってみたいと思うだろう。
それを、あの青年は持っていた。
青年はこう言った。
『君のおじいさんは、魔に魅入られている』
『僕はその魔を追ってきた、この青い石と共に』
青年の言葉からすれば『青い石』には、対となるものがある。
先程、僕が想像していた御伽噺にも、そういう話はつきものだ。
そして、あの老人が持っているのは、おそらく…
-
「…また君に会う日まで…
…この…かけらを…
預かってくれないか…」( ω )
「…きっと君を…
…守ってくれる…
たとえ何が起きても…」( ω )
*(‘‘)* っ‡⊂( ω )
(;^ω^)(渡しても、大丈夫なのかお…?)
そのお守りによって、青年の命は救われたのだ。
手放しては、お守りの効力が失われて、青年の身を守るものが
無くなってしまうのではないか。
そんな僕の疑問は、すぐに解決した。
「…名前を…
…聞いてもいいかな?」( ω )
青年の、この一言によって。
-
( ^ω^)「!」
やっと、詳細不明だった人物の名前が明かされる…。
沈みきっていた僕の心は、疑問符が一つ消えたことにより、浮上した。
*(‘‘)*「……ツン……
ツン・スカルチノフ…」
(*^ω^)(可愛いお…)
( ^ω^)(ん?スカルチノフ…?)
ツンと言う女の子の姓に、聞き覚えがあるような気がして
もう一度、休ませかけた思考をフル回転させた。
『ツン』には無くて『スカルチノフ』には聞き覚えがあるのだ。
上流階級の人のようだから、何かで話題になって、それで聞いたのかもしれない。
どのみち、その家のことは、僕には関係無い。
すぐに興味を無くし、考えるのを終えた僕は、青年の名前に注目した。
温厚そうな顔をした青年の正体が、気になって仕方なかった。
けれど、僕は、耳を澄ませたことを後悔した。
僕はその名を、聞いてはいけなかったのだ。
-
「…僕はロマネスク…
ロマネスク・スギウラ……」(^ω^ )
(;^ω^)「っ!?」
声にもならない、呼吸でもないような音が喉を伝った。
驚きのあまり、息を飲んだ…というのは、このことを言うのだろう。
ロマネスク・スギウラ。
( ФωФ)
それは、僕の、父の名前だ。
-
風呂落ち。30分くらい。
-
面白いです
支援
-
何処か見覚えのある顔。
懐かしいと思った、優しく語りかける声。
幼い頃、早くに亡くした母のかわりと思い
よく甘えていた僕を、時に厳しく、優しく躾けてくれていた父。
(;^ω^)「あ…あの人が…」
(;^ω^)「父ちゃん…だったなんて…」
あの青年は、行方不明となった僕の父だった。
ならば、ここは父の過去ということになる。
誰にも、一言も語らなかった、目の前の『過去』が、あまりに壮絶過ぎて
僕の思考は、あの青年が父だと認識した時点で、停止していた。
-
(;^ω^)「…っていうか、父ちゃん…
全く…面影が無いですお…」
僕と同じ口ぐらいで、目も口調も、昔と今では全く違う。
僕が「〜お」という語尾をつけているのは、あの人の影響だった。
何処か古風な喋り方に「〜である」とつける、いかにも変わり者な父が
今ではなんとも無いが、学生時代は少し恥ずかしかったものだ。
気をつけようと思っていても、語尾に何かつけてしまう癖が出来たのは
共に暮らして長く傍にいた、父のせいなのだ。
それが、昔は無かったんだな、なんて思うと、ちょっとだけ恨めしい。
兎も角、『父、老人、少女の三人の関係』という一つを除いて、多くの疑問が
解決したことにより、僕の停止していた思考は、活発に動き始めた。
部屋の掃除を、もう一段階で終えるときのような、爽やかな状態だ。
(;^ω^)「…っていうか、父ちゃん…
全く…面影が無いですお…」
僕と同じ口ぐらいで、目も口調も、昔と今では全く違う。
僕が「〜お」という語尾をつけているのは、あの人の影響だった。
何処か古風な喋り方に「〜である」とつける、いかにも変わり者な父が
今ではなんとも無いが、学生時代は少し恥ずかしかったものだ。
気をつけようと思っていても、語尾に何かつけてしまう癖が出来たのは
共に暮らして長く傍にいた、父のせいなのだ。
それが、昔は無かったんだな、なんて思うと、ちょっとだけ恨めしい。
兎も角、『父、老人、少女の三人の関係』という一つを除いて、多くの疑問が
解決したことにより、僕の停止していた思考は、活発に動き始めた。
部屋の掃除を、もう一段階で終えるときのような、爽やかな状態だ。
-
赤い表紙の本はおそらく、この過去のことを記したもの。
何故、触れた瞬間に飛んだかなど、考えてもキリがないから
今は考えないことにする。
あの青年は、父の若かりし頃の姿で、ここは何十年も前の時代。
女の子にお守りを託して大丈夫か…なんて、そんな心配する必要は無かった。
その証拠が、息子である僕だ。
父と、今は亡き母がいなければ、僕はこの世に
生を与えられていないはずだから。
人物がわかったところで、僕は改めて、天窓から車内を見下ろした。
あの青年…僕の父は、ツンという女の子に『青い石』を、託すと
*( ;;)* ( ω )「…またいつか、必ず…」
「…さよなら、ツン…」(^ω^ )..... *( ;;)*
そう、別れを告げて立ち去っていった。
-
( ^ω^)(…父ちゃん…この子には、会えたのかお…?)
僕が今、生きている時代は、この父の姿からして
確実に30年以上は経っているだろう。
ツンというこの女の子も、もう良い年をした女性だ。
元々、愛らしい顔をしている女の子だ。
きっと、美しい淑女になったことだろう。
(;^ω^)(僕の母ちゃん…なわけないお。)
父と大分、年の離れているこの幼女が母だったとしたら、僕は泣く。
些か不謹慎な妄想をしていると、
-
トントントン
上質な革靴が、床を踏みしめる音が聞こえた。
/,' 3
不機嫌そうな顔をした、あの老人が、車内に戻ってきたのだ。
(;^ω^)「!(ツンちゃん…父ちゃん…)」
僕の父と、ツンという女の子のやりとりを見てしまった以上
「どちらが悪か」など明白だ。
僕にとって、この老人は敵なのだ。
-
*( ;;)*「……!」
*( )*「…」
足音が聞こえ、ツンは再び顔を俯かせる。
これが普通の家庭なら今頃、ツンは愛らしい声で呼び
笑顔で愛するお爺ちゃんに抱きついているところだ。
そんな『普通の家庭』に恵まれなかったツンが
僕にはただただ不憫に思えてならなかった。
-
/,' 3「全く、手間をかけおる。
金を持ってさっさと
消えればよいものを…」
先程の乗務員のことだろう。
やはり、あれは賄賂だったのだ。
こんなに大量の血が流れても、小さな女の子が泣いていても
僕のように、たとえ肉親が殺されそうになる現場を目撃していても
そこに、明確な物的証拠があったのだとしても
すべては金で解決してしまうのだ。
この世の中は。
/,' 3「ん?」
おそらく、今回の事件は闇に葬られるだろう…。
この世の中の不条理さに、苦い思いを抱えていた僕は
血痕を視線で辿る老人に気付いた。
-
(;^ω^)(…や、やばいお!)
父が後を追われ、止めを刺されてしまう…!
その危険性は、十二分にあった。
この世界が父の過去で、僕という存在がここにあり、この後の父の生存が
確定しているとしても、自分以外の人が…それも僕の父が、目の前で深く傷つき
死ぬかもしれないという事態を、一体、誰が放っておけると言うのだろう?
冷や汗を、背中が伝う。
/,' 3「…ふん。」
/,' 3「あの碧石を持つ者だ。
そう簡単にはいかんか。」
…やっぱり、あの青い石は、特別なものなのだ。
そうでなければ、瀕死の傷で逃げた僕の父を
老人が執拗に追い詰める必要は無い。
老人は、最後部の、デッキに繋がる扉に手をかけた。
(;^ω^)「父ちゃん!」
助けに行かないと、本気でまずい。
-
天窓を閉めた僕は、列車から落ちないように気をつけながら匍匐し始めた。
先程、慌てて上った梯子に足をかけて、今度は急いで下る。
扉を開けると、あの凄惨な場が広がった。
場を支配する血液の臭いも、重苦しい空気も、今は気にならない。
父の安否が気がかりだった。
老人がそこまで父を追い詰める理由が、知りたかった。
*( )*「………」
ツンは、俯いたまま、黙って何かを握り締めていた。
おそらく、父から託された『青い石』だろう。
俯くツンを慰めてあげたいと言う気持ちは山々だが、今の僕には時間が無い。
(;^ω^)「ごめんおっ…」
その横を、僕は駆けた。
-
バンッ
-
ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン…
ゴォォォッ…
-
(;^ω^)「父ちゃんっ!!!」
思い切りデッキの扉を開け放ち、そう叫んでしまった。
叫んでから『しまった』と思ったが、二人とも気付いていない。
(;^ω^)「!?」
気付いていないのではない。
気付かないのだ。
二人には、僕の声が聞こえていないようだった。
過去の世界だから、それはそうかもしれない。
(;^ω^)(あれ、でも僕…
ツンちゃんやこの爺と会話したお…)
それも『青い石』の力なのだろうか?
思った僕は、デッキの『出入り禁止』のロープに身を預けた父と
その父と対峙する老人を見比べた。
最後部のデッキ…つまり、行き止まりだ。
見方を変えれば、追い詰めた老人と…追い詰められた父。
本来ならば、車掌が通さない筈の場所。
(;^ω^)「ま、まさか…!」
列車は猛スピードで、トンネル内を走り続けている。
/,' 3 ( ω ;)
父は、ここから飛び降りるつもりなのか!
(;^ω^)「だめだお、父ちゃん!!」
しかし無常にも、僕の声は、二人には届かない。
-
鮮血の広がる床を、避けることも考えずに駆け出した僕の靴は
底が真っ赤に汚れていた。
叫んだ拍子に、踏み出した一歩で気がついた。
帰ってきたとき、何か誤解を招く事態になるのではないか。
ここで大声を出せば、いるかもしれないほかの乗客に気付かれて
騒ぎを大きくしてしまうのではないか。
二人に見つかり、二人の過去が変わってしまうのではないか。
何処のものとも知れない自分が
どちらか片方に殺されてしまうのではないか。
そんなことを考えられる余裕なんて、僕には無かった。
(;^ω^)「父ちゃんっ!!
そこは飛び越えちゃだめだおっ!!!」
必死で叫ぶのに、僕の声は、闇に吸い込まれていくばかり。
どちらも、僕の方など向きもしない。
-
「分かっているのか…?
貴様自身も…
魔に…飲み込まれ…」( ω ;)
「こんなことで…
僕は…死ぬわけに…
いかな…」( ω ;)
/,' 3「ごたくは十分だ。
今度こそ、
死んでもらおう。」
ピストルを構える老人を見据えて、父は。
/,' 3 「待っていろよ!」( ω ;)
「アラマキ・スカルチノフ!」( ω ;)
-
父は、猛スピードでトンネル内を走る列車から、飛び降りた。
飛び降りるというよりは、そのまま支えにならないロープに
寄りかかって落ちた、と言ったほうが正しいか。
(;^ω^)「…」
思わず伸ばした手は、虚しく空を切っていた。
力なく降ろしたその手を軸に、開け放った扉を支えに
ふらふらと立ち上がった僕は…その闇を、じっと見つめていた。
僕が、父が飛び降りるのを止めたかった、もうひとつの理由。
それは、父の体のことだった。
-
父は、隻腕の人だった。
片方の腕が無かったのだ。
青年の頃の父には、両方ともあったのに。
戦争で無くした、と、父からは言葉少なに聞いていた。
しかし、こんな目に遭い、瀕死になった青年が
兵役を務めることなど出来るだろうかと、そう考えて…僕は否定した。
父は、戦争に行っていない。
片腕を無くしたのは、列車から飛び降りた時の大怪我が原因だろう。
まともな人間なら既に死んでいるあの体で、更に
猛スピードで走る列車から『落ちた』のだ。
無事でいられるわけがない。
いくら『青い石』でも、そこまで体を再生させる力なんて無いだろう。
全ては、この過去の事件を、僕に知らせない為の嘘だったのだ。
-
父の姿を見届けた老人…アラマキ・スカルチノフは
闇の向こうを見つめながら、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
追い詰めた獲物を捕らえ損ねたのだ、それそれは悔しいことだろう。
/,' 3「逃げたか…
奴め、簡単に死にはすまい。」
/,' 3「…だが。」
ぶつぶつと呪詛を呟く老人…アラマキ・スカルチノフは
言葉を切って、なにやら懐から取り出した『それ』を、大事そうに撫でた。
(;^ω^)「…!」
『それ』は、短剣だった。
ただの短剣ではない。
華美な装飾が施され、刀身がうねるようにくびれている。
何より、その柄の中央に嵌め込まれた石が、妖しい光で
アラマキ・スカルチノフの顔を照らし、その目の輝きを
おぞましいものにさせているのだ。
あれが、父の『青い石』と対になるものだろうか。
『青い石』は、ただの宝石とさして変わらないというのに
こちらは短剣…凶器となっているではないか。
-
(;^ω^)(ちょっとは考えて造って欲しいおね…)
心の中で愚痴を零しても、形状が変わるわけではない。
若干、アラマキ・スカルチノフから退いた姿勢で
僕はその様子をじっと見ていた。
/,' 3 つ†「飲み込まれるだと…?
…フフフ…」
含み笑いをもらした、アラマキ・スカルチノフ。
こんな寒気がする笑みを、生身の人間は浮かべられるだろうか。
/,' 3 つ†+「渡すものか…
…たとえ誰であろうと」
完全に飲み込まれているのだ、父の言った『魔』に。
飲み込まれた者は、大概、自覚出来ないまま破滅していく。
そんな『魔』と、生涯を共にすることを誓ってしまったのだ、彼は。
悦に浸っているのだろう、背後に控える僕の存在など、気付く由も無い。
(;^ω^)(今のうちだお…)
僕は扉に手をかけ、車内に戻ろうとした。
-
が。
背を向けようとした瞬間、気付かれてしまった。
ぎろりと僕を睨む目は、血走っている。
餓えた獣が、獲物を見つけたときの、鋭い眼光。
竦んで動けなくなった僕は…
/。゚3 つ†+
(;^ω^)「!!」
-
――吸い込まれていく、あの感覚に、再び意識が遠退いた。
-
とりあえず、本日はここまで。
拙文をお読み頂き、ありがとうございました。
-
ちょっと前作探してくる
-
前作見てきた一話完結の長編だったみたいだな
この作品は二話もあるみたいだし期待
-
>>105
書き方がとても紛らわしかった、申し訳ない
携帯から試しに立てたら、たまたまスレが立ったからというクズな理由で
書き途中の30レスくらい投下して終わったので、事実上前作は存在しない
更に言えばそれをまっさらにして、言葉通りの意味で1から書き始めている状態
-
続き待ってます
-
>>108
ありがとう、これから投下する
酉つけてみた
-
・
・
・
・
・
-
#現実世界 1937年 11月15日 ―父の家・地下室入り口
-
(;゚ω゚)「うぉおおお!!」
(;^ω^)「…って、あれ…?」
ぼぅっとする頭が、覚醒した瞬間。
殺されると思い、身構えた僕は、がらりと変わった風景に戸惑い
辺りをきょろきょろと見渡した。
そこは、本を捲る直前までいた、隠し部屋の前だった。
( ^ω^)「いないお…」
過去の父も、アラマキ・スカルチノフもいないこと
あるべき場所に戻れたことを確認すると、
-
(*^ω^)「生還したお!」
喜びのあまり、そんな勝利宣言をしてしまった。
まだ、半分ほどの謎が解けただけなのに。
だけども、身の危険から逃れたという事実は
癒えない仕事の疲れと相俟って、大きく負荷が圧し掛かった
僕の体の緊張を、幾分か解してくれた。
掌を握り締めたり、開いたりして、感覚を取り戻そうとしていたとき。
( ^ω^)「お…血がついてないお…」
さりげなく視界に入った革靴は、いつもと変わらぬ
黒塗りの表面を見せてくれた。
少し足を捻り、覗いた靴底も変わらない。
全て、過去の出来事だからか。
思い返して、僕は…
……
-
( ゚ω゚)「本っ!!!」
…思い出して、大声で口にした。
端から見ては、何事かと怪しまれるだろう。
しかし僕にとっては重大なことだ、察して欲しい。
思い出した僕は、慌てて首を左右に振って探した。
僕を、父の過去へと導いた、全ての元凶。
隠し部屋の前で見つけ、中を捲ろうとした、あの赤い本。
( ゚ω゚)「あったお!!」
(;^ω^)「って…あれ、ページが開いてる…」
その本は、地下に続く階段の前に、捲った状態で置かれていた。
まるで、誰かが読むのを、待っているように。
-
(;^ω^)「…」
(;^ω^)つ"「…」
歩み寄り、吸い込まれないことを確認しようと
僕はおそるおそる本に触れた。
( ^ω^)「…」
( ^ω^)「…何も、起こらないお…」
今度は大丈夫なようだ。
僕はその場に胡坐をかいて、本を覗き込んだ。
遠目でもわかる、見慣れた筆跡。
今、ここにはいない父の、クセのある字。
冒頭は、こんな詩のような一文で綴られていた。
-
あれから、もう38年もの
時が流れた。
私が青い石を手にアラマキと
戦った、あの日から。
-
書き出しの一文が言う「38年」は、先程、僕が見た父の過去だろう。
やはりこの本が、僕を過去へと導いたのだ。
( ^ω^)「…38年…か。
あれ、父ちゃんが20歳のときだったんだおね…。」
今の自分よりも尚、若かった父。
あんな形で見るのでなければ、父の過去を見れたと
大いにはしゃいでいたはずなのに。
( ^ω^)「父ちゃん…」
感傷に浸りながら、僕はページを捲った。
(;^ω^)「なっ…」
その内容は、僕にとってあまりに、衝撃的なものだった。
-
アラマキが私の前に
現れた時から、私の運命は
変わっていった。
父も、母もあの男の
あのナイフによって殺された。
私はすべてを奪われたのだ。
-
(;^ω^)「…父も、母も…あの男の
あのナイフによって…
こ、殺されたって…」
あのナイフ…僕が消える直前に、アラマキ・スカルチノフが
濁った目で見つめていた、妖しい光を放つ短剣のことだろう。
何故、そんなことになったのかはわからないが、僕にとっての祖父母は
既に『魔』の犠牲者となっていたのだ。
これで漸く、解けないだろうと思っていた疑問が無くなった。
また新たな疑問が生まれたが、読み進めていけば
答えは自然に出てくるはずだ。
-
『魔』に飲み込まれたアラマキ・スカルチノフは
父の両親をあの短剣で殺した。
孫娘であるツンは、そんな『魔』に飲み込まれた
アラマキ・スカルチノフを、恐れていた。
父は…アラマキ・スカルチノフに復讐しようと、あの列車に乗ったのだ。
-
( ^ω^)「父ちゃん…」
孫娘であるツンが、憎くはなかったのだろうか。
復讐したいのであれば、幼女とは言え仇の孫娘なのだから
その子を人質にして、脅せばよかったのだ。
『魔』に飲み込まれた相手に、効果があるかはわからないが。
…浮かべる自分に、嫌悪を感じながら、僕は首を横に振った。
思い出すがいい、若い頃の父の姿を。
いかにも温厚そうな顔をした、好青年といった容貌。
人当たりの良い、強い正義感が、透けて見えてしまいそうな言動。
今でこそ『世捨て人の変わり者』だけれども
死にそうな怪我を負いながらも、仇の孫娘すら案じる
優しさを持つ昔の父は、真っ当な人間だったのだ。
-
( ^ω^)「…父ちゃん、どうして…」
どうして、の先に続く言葉を、僕は口にすることが出来なかった。
「そんな真人間がどうして変わってしまったのか」
なんて、多くの苦悩を抱えた父のことを察すればわかることだ。
「どうして息子である僕に黙っていたのか」
なんて、そんな複雑な過去を話したくないからだろう。
それでも、実の息子だから…と、打ち明けるくらいはして欲しかった。
常人には信じ難い話だとわかっていても、僕はそう思ってしまった。
( ^ω^)「父ちゃん、僕は読むお。」
ここにいない父に向けて、僕は言った。
( ^ω^)「読んで、父ちゃんのことを知りたいお。」
今度はしっかりと紙の端を持ち、僕は次のページを捲った。
-
あの船が消えた時、
私はすべてを忘れようとした。
あの赤い石のことも、
青い石を託した少女も。
すべてはニュー速VIP号と共に
消えたのだと。
-
(;^ω^)「おっお…おぉふ…?」
意気込んだ矢先、話がいきなり切り替わったことで
頭の中へと無理に詰め込んでいた知識が、遂にパンクした。
パンクした瞬間の思考は酷いもので
『あの船』=『ニュー速VIP号』という
単語の意味から考え込んでしまうくらい
僕の頭は混乱していた。
(;^ω^)「えっと、一つ一つ整理して考えるお。」
まず、父が持っていた『青い石』と対になるもの。
それが『赤い石』のようだ。
『赤い石』は、アラマキ・スカルチノフが持っていた短剣の
あの柄の部分に嵌め込まれていた宝石だろう。
アラマキ・スカルチノフは『赤い石』で
父の両親…僕の祖父母を殺したのだ。
-
( ^ω^)「青い石に対する赤い石…」
( ^ω^)「捻り無さ杉だお…
もう少し捻ってもいいお…」
どうでもいいことだが、僕はもう少し、かっこいい名前かと思ったのだ。
単純な方がわかりやすいと言うし、本当にどうでもいい問題なのだが。
そして。
衝撃的な出会いをした、若い頃の父と、幼いツン。
彼らはあの後、再会できたのか、という問いに対する答え。
-
( ^ω^)
(;^ω^)「消えた…?」
そうだ、この一文があったから、僕の知識はパンクしてしまったのだ。
すべてはニュー速VIP号と共に
消えたのだと。
( ^ω^)「……」
( ^ω^)「ニュー速VIP…なんか聞いたことあるような…」
『スカルチノフ』と同様、聞き覚えのある単語だ。
それも、つい最近のこと。
何処で聞いたのかは思い出せないが、何故か頭に残っている。
印象深かった話題なのかすら覚えていないが
父に関わる断片を、僕自身も知らないうちに拾っていたようだ。
ともかく『消えた』という表現をする以上、この船で何かあって
父はそれで忘れようと思ったらしい。
この辺りの疑問は、読み進めていくうちに、自ずと意味をもつだろう。
ひとまず置いておこうと、僕はページを捲った。
胸の中で突っかかっているものが、あともう少しで
一気に出てきそうで、急かす心を抑え切れなかったからだ。
-
私の復讐は終わった。
そう信じたかった。
-
淡々と記されている文字の、裏側に隠された感情は、見えない。
ただ、震えながら書いたような形だった。
呼吸の音しか聞こえない静寂の中、ページを捲る音がいやに響いた。
-
運命は、まだ続いていた。
あの声は私を呼んでいる。
今度こそ、すべてを
終わらせなくてはならない。
-
運命は、まだ続いていた。
あの声は私を呼んでいる。
今度こそ、すべてを
終わらせなくてはならない。
-
(;^ω^)「すべてを…終わらせる…」
次第に乱れていく筆跡で、父はそう記していた。
僕の想像以上に、父に纏わる過去は重たいようだった。
言葉の意味など、あまり深く考えてはいない。
考えていればキリがないからだ。
今は、父が何を書いたかを、何を残したのかを知りたかった。
ごくりと溜まった唾液を飲み込んで、僕は次のページを捲った。
どうやらこれが最後のようだ。
焦っているように殴り書かれていた手記は
悲壮な決意を秘めた文章で締め括られていた。
-
もう、ここへ戻ることはない。
私は行かなければならない。
あの船の待つ、海へ。
-
( ^ω^)「…っ!?」
最後の文を、僕は繰り返し読み、考えた。
文章の裏などあまり考えたくはなかったが
気になってしまったのだ。
言葉通りの意味だとしたら、父は…
(;^ω^)「消えた船に乗った…?」
どうやって?
僕が父の過去に飛ばされたように、
父もまた、彼らが乗る船へ飛んでいったのだろうか。
この記述にある『青い石』の力で?
僕が考えに耽っていた、そのとき。
-
ぺらり
-
(;^ω^)「おぉっ!?」
触れてもいないのに、次のページがひらりと、風に乗ったかのように捲れた。
また飛ばされるのではないかと驚いた僕は若干退いて、暫く様子を見ていたが
その後に訪れたのは、場を支配する静寂のみだった。
(;^ω^)「まだ続きがあるから、読めってことかお…」
周囲に何の変化もないことを確認して、僕は独り言ちると
おそるおそるそのページを覗き込んだ。
(;゚ω゚)「!」
しかしそれは、父の書いた手記ではなかった。
見覚えのある、古い記事の切り抜きが貼り付けられていた。
(;゚ω゚)「あ…ああっ!!」
記事は対となっていて、事件の過程と結果が
一目でわかるようになっていた。
(;゚ω゚)「こ、これ!これだおっ…」
僕はそれを見て、思い出した。
-
幼い頃、父の部屋で遊んでいて…子供特有の好奇心をもって
何気なく机の引き出しを開けたことを。
その引き出しの中に、当時はまだ切り抜かれたままの記事が
大事そうに入れてあったことを。
なんとなく「見てはいけない」気がして
さっと読んだだけで戻したことを。
僕が生まれて間もない頃に起きた、その未曾有の事件は
3年前に「およそ20年のときを迎えた」と報道されて
事件の犠牲者に、多くの人々の黙祷と慰霊碑が捧げられたことを。
僕は、思い出した。
その事件の当事者は…
-
(;゚ω゚)「スカルチノフ財閥…」
(;゚ω゚)「財閥総帥アラマキ・スカルチノフを含めた
一族全員と関係者、乗務員合わせて数百名…」
全て、繋がった。
-
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シベリア市新聞
1913/4/12(土)
=客船ニュー速VIP号消息を絶つ=
スカルチノフ財閥の豪華客船ニュー速VIP号が本日、北大西洋上で行方不明になった。
同船には財閥総帥アラマキ・スカルチノフ氏をはじめとする
スカルチノフ一族と関係者が乗り合わせており、安否が心配されている
-
…本日未明、当局よりスカルチノフ財閥所有の客船
「ニュー速VIP号」からの無線通信が途絶えたという発表があった。
それによると、ニュー速VIP号は定期的に陸地と無線による通信を行っていたが
昨日深夜の通信を最後に連絡が無くなり、不審に思った操縦士が数回に
わたって通信を試みたが、まったく応答が得られないという。
直前の無線連絡では、なんら異常はないという報告がなされているうえ
緊急回線による通信の記録も残されていないため、ニュー速VIP号は
局地的な大嵐などの不慮の出来事により遭難してしまったのではないかとみられている。
海軍は今までに例をみない規模の捜索隊を結成し、早朝からニュー速VIP号の
捜索を開始した。
ニュー速VIP号には、スカルチノフ財閥総帥アラマキ・スカルチノフ氏をはじめとする
同財閥の主要人物、およびその招待客が乗っていた模様で、ニュー速VIP号の遭難が
確実となれば、わが国の経済界に多大な影響を及ぼすことは必至とみられる。
(上部写真・ニュー速VIP号 処女航海が最後の航海となったのか!?)
=ラウンジ半島に緊張再燃 =
―領土分配をめぐり対立激化 世界大戦の危機迫る?
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-
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シベリア市新聞
1914/4/12 (日)
"ニュー速VIP号事件、迷宮入り"
一年前、大西洋上を航行中に消息を絶った客船
「ニュー速VIP号」の捜索が、このほど遂に打ち切られた。
担当調査官の最終報告書によると、同船は局所的な大嵐に遭遇し、
沈没したという結論が成されている。
しかし、事件発生直後から行われた大規模な捜索活動にも関らず、
船の消息を示す明確な証拠は現在も発見されていないなど、事件は
事実上の迷宮入りと言えるだろう。
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-
まさか、こんな結果で終わるとは、誰が思っただろう。
このニュースを見た瞬間の、父の衝撃は…計り知れないものだ。
傍観者である僕だって、ショックが大きいのだから。
(;゚ω゚)「なんで、こんな…」
これでは、父だけではない…ツンも救われないではないか。
残された者の絶望はどれほど深いのか。
(; ω )「………」
父が『世捨て人』になってしまった理由が、分かった気がした。
-
・
・
・
-
#現実世界 1937年 11月15日 ―父の家・地下室室内
-
あれから、どうにか立ち直った僕は本をしまって
階段で地下室へと降りていった。
打ちひしがれていても変わらないし
あの文では、父がどうなってしまうのか不安だった。
見ていて、何かとても危うい印象があったのだ。
地下室にあったのは、上半身まで彫られた二対の
胸像と、一枚のキャンバスだった。
隅に置かれている二対の胸像は、母子を模っていた。
キャンバスには胸像である彼女達が描かれており
椅子と共に、中央に立てられている。
( ^ω^)「…」
( ^ω^)「父ちゃん、本当に画家だったんだおね…」
今、表に待機しているであろう警察官の、容赦ない一言を、僕は思い出していた。
-
『あんたの親父さん、本当に画家なのかね?』
『それらしい道具は見当たらないし、怪しいもんだな…』
-
僕自身、疑っていたのだ。
「父は本当に画家なのか」と。
父の部屋には、生活に最低限、必要なものしか置いていない。
ベッド、机、筆記用具…画材らしい道具は何一つ見かけなかった。
だから、父が何を職にしているのかなんて
息子である僕も知らなかったのだ。
( ^ω^)「んで、これ…」
( ^ω^)「…」
( ^ω^)「どうするの」
どうしていいかわからなくて、思わず語尾が抜けた。
-
( ^ω^)「…」
ヽ( ^ω^)ノ「……」
ヽ( ^ω^)ゝ「……」
(ノ^ω^)/「……」
別に、変なポーズをとりたかったわけじゃない。
-
(;^ω^)「いやいや、マジでどうするんだお、これ?」
隠し部屋に行けば何かある…そう思って降りてきたら
そこにあったのは、一枚の絵と二対の胸像だけ。
これ以上先には道がない、扉もない。
ヒントなど何もないので、行き詰ったも同然なのだ。
( ^ω^)「…お?」
二対の胸像と、一枚の絵。
見比べていた僕は、やがて気付いた。
(^ω^ )「お」
( ^ω^)「おお…」
( ^ω^)「絵と胸像が、なんか違うお!」
よく見ると、キャンバスに描かれた絵と胸像で、母子の向きが違うのだ。
-
セリ´∀`)ハ (^∀^ )
絵では向かい合っているのに対して
(∀^ ) セリ´∀`)ハ
胸像では向かい合っていない。
( ^ω^)「この違いをどうするか」
絵は動かせないので、基本は絵なのだとわかる。
その基本の形に、胸像を向かい合わせればいいのだ。
-
( ^ω^)「んしょっ」
実行する為にまず、通行を妨げている椅子をどかした。
胸像以外はどれも軽いものなので、大して苦にならない作業だ。
木製の椅子を端に置いて、僕は隅に佇む胸像と向き合った。
(∀^ ) セリ´∀`)ハ
( ^ω^)「要は向き合えばいいから、母ちゃんと子供の
どっちか片方を動かせばいいだけだお。」
…誰に解説しているのだろう。
自分で自分に突っ込みを入れるのも、そろそろ虚しくなってきた。
ともかく子供の像を持って、僕は母親の前に向き合わせる形で置いた。
-
セリ´∀`)ハ (^∀^ )
( ^ω^)「…母ちゃんに怒られて
そっぽ向いてふてくされてたのかお?」
向き合っていなかった像に言って、僕はじっとその顔を見た。
穏やかで優しそうな母親の顔。楽しそうな子供の顔。
僕には母がいないが、優しい父はいた。
変わり者の父は、他人には無愛想な人だったが、僕には優しかった。
息子だけに向けられる優しさだと、僕は優越感すら覚えていた。
青い石と赤い石、父の運命を弄んだ、その存在を知らないで。
父はこれを造りながら、何を思っていたのだろう。
( ´ω`)「…」
-
( ´ω`)「…」
( ^ω^)「…お?」
物思いに耽り、急に切なくなった僕は、ふと
部屋の空気が変わったのを感じた。
やはり、この胸像が鍵となっていたのだ。
Σ(^ω^;)「って、おぉっ!?」
胸像から視線を外し、振り向いた僕は
キャンバスに全く違うものが描かれていることに驚いた。
黒と赤が基調の、大きな船が、海原に佇む絵。
-
(^ω^;)「ニュー速VIP号?!」
そう、それは、記事の切り抜きにあった写真と同じ
あの豪華客船「ニュー速VIP号」だった。
どういう原理で変わったのだ、この絵は!
僕が立ち上がり、ツッコミを入れつつ絵に触れようとした瞬間。
(^ω^;)(吸い込まれる!!)
-
――僕の意識は、またあのときと同じように遠退いた。
-
とりあえずここまで。
-
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-
おつ!
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-
途中まで投下します。
-
・
・
・
・
・
-
深い宵闇の中、船は大海原を行く。
メインは財閥総帥とその一族。
招待されたゲストは上流階級の人間ばかり。
どんな傷病も治癒出来る名医も同伴。
船員は一級の航海士達と、数えるほどの研修生。
点検・修理は怠らず、傷一つ無い外観は、処女であることの証。
-
誰にもわからなかった。
何故、こんな理不尽な目に遭わなければならないのか。
誰にも予測できなかった。
不備も無いはずのこの航海が、最初で最期の航海となるなど。
-
事件から凡そ、20年。
眠れぬ彼らの魂は未だ、暗い船内を彷徨っていた。
-
#過去世界 1913年 4月12日 ―ニュー速VIP号・船長室
-
冷たい夜風が、僕の頬を撫でる。
( -ω-)
-
( -ω-)
…潮の匂いがする。
-
( -ω^)「…んーっ…」
( ^ω^)
( ^ω^)「おぉっ…」
-
目を覚ました僕の前に広がっていたのは
広大な海と、綺麗な夕陽、潮騒の音だった。
( ^ω^)「…ニュー速VIP号…」
父の過去へ飛ばされたのと同じように、僕は来てしまったのだ。
1913年 4月12日。
己の行く末も知らぬまま、航海していた豪華客船
「ニュー速VIP号」の船内に。
-
『…誰だ…?』
-
Σ(^ω^;)「おぉおぉっ!?」
ミ,,゚Д゚彡「うるせえ。」
(;^ω^)「あ、す、すみませんお…」
いきなり声をかけられたものだから、驚いた。
まさか、乗りこんで早々、人に声をかけられるとは思わなかったのだ。
(;^ω^)(…お?)
ところが、謝った僕は、その人を改めて見て…違和感を覚えた。
この人は、普通の人と何かが違う…そう感じさせる何かがあるのに
その違和感の正体は、中々掴めない。なんともじれったい。
考える僕をよそに、声をかけたその人は、ずかずかとこちらに歩み寄ってきた。
-
ミ,,゚Д゚彡「…ここで、何をしているんだ?」
(;^ω^)「あっ、えっと…決して怪しい者では」
ミ;゚Д゚彡「怪しいぞ、十分」
じろりと睨まれた僕は、慌てて弁明しようとしたが
容赦なく突っ込まれてしまった。
そりゃそうだ。
豪華客船に乗るには、いささか場違いな格好をしている。
普段着である僕の格好は、とてもこの船の乗客とは見えないだろう。
-
ミ,,゚Д゚彡「………」
(;^ω^)(おっ…?)
その人は、僕を見つめて何かを考えている様子だった。
まさか、この船の所有者…アラマキ・ロックウェルに
僕のことを報告しようと思っているのか?
財閥所有の客船に、無礼な密航者がいたと。
(;^ω^)「あ、あのっ…」
ミ,,゚Д゚彡「………」
見つめる視線と気まずい沈黙が心に痛くて、僕はなんとか声をかけたが
その人はくるりと後ろを向いて、元来た場所へと歩んでしまう。
(;^ω^)
まずい、密航の人間と思われている…
そんな僕の心配は、杞憂に終わった。
-
ミ,,゚Д゚彡「…私はフサギコ。この船の船長だ。」
(;^ω^)「おっ…?」
ミ,,゚Д゚彡「来たまえ。」
船長…フサギコと名乗ったその人は言うと、僕を一瞥して、すたすたと歩いていく。
何故かはわからないが、どうやら警戒を解いてくれたらしい。
白の鍔付帽子、白い制服に手袋。
後ろから見たフサギコさんは確かに、船長らしい格好をしていた。
こちらに着いて早々、船長に声をかけてもらえるとは、随分と運が良い。
…その期待は、またも衝撃的な場面に出くわすことで
見事に裏切られてしまうのだが。
-
ミ,,゚Д゚彡「君は。」
( ^ω^)「僕はブーンですお。
あの、船長。
僕のことは、いいんですかお?」
ミ,,゚Д゚彡「…ああ。いいんだ。」
少しの間を置いて、フサギコさんはそう返す。
その後ろ姿を見ながら、じわじわと違和感が胸に広がっていく。
何故、警戒を解いたのだろう?
僕を怪しいと言ったのは、フサギコさんではないか。
疑問符を浮かべる間もなく、十歩も歩かずに辿りついたのは
「船長室」と書かれた扉の前。
-
何をされるのか、ただではすまないはずだ。
こんなところで捕まってしまったら
父やツンを探すどころではない。
なんとか、なんとかフサギコさんに説明しなければ。
不安と疑念を抱えた頭で、僕は必死に考えていた。
-
しかし、次の瞬間には、自分が何を考えていたのか
頭からすっかり吹き飛んでしまっていた。
-
ミ,,゚Д゚彡
ミ ,゚Д゚彡
ミ Д彡
ミ 彡
-
(;゚ω゚)「…!!」
ドアノブに手をかけ、扉を開ける。
扉を開けて部屋に入り、扉を閉める。
普通の人ならするはずの動作を、フサギコさんは、しなかった。
(;゚ω゚)「す、す…すっ…」
すりぬけていったのだ。
-
ここで僕は、フサギコさんに覚えていた違和感の正体を掴んだ。
あの人は、普通の人よりも透けていたのだ。
それも、完全な透明ではない。
半透明の袋のような、影の状態になっていたのだ。
(;゚ω゚)「ま、まさか…」
…そこから導き出される結論を、僕は想像したくなかった。
おそらく、ただの想像ではなく核心をついているのだとはわかっても
その真実を、僕は認めたくも、信じたくもない。
-
『何をしているんだ、早く来るんだ。』
(;^ω^)「は…はいですおっ」
…ドア越しから聞こえた声で、我に返った僕は
一旦、考えるのをやめて、フサギコさんの後を追うことにした。
あの人は僕に、危害を加えようとしているわけではない。
僕への態度から、それだけは信じることが出来た。
-
キィッ……
ガチャッ
-
部屋に入った僕は、意外とこじんまりした室内に
驚きながら、じっくりと見渡した。
中央には来客用のテーブルとソファ。
左手にドアがあって、中は仮眠室だと思われる。
奥には事務机と椅子、反対側へ繋がるドアが設置されていた。
その中央に佇む、フサギコさんの顔は、険しいものだった。
ミ,,゚Д゚彡「…ブーン。」
(;^ω^)「は…はいですおっ」
この人の声は、重みがある。
思わず敬語で返事をしてしまった僕は
フサギコさんの険しい顔を見つめた。
彼は一度、目を閉じて、
ミ,,゚Д゚彡「ここから…出てはならない。」
僕の目を、真っ直ぐ見据えて、そう言った。
-
…この人には、逆らってはならないような、厳しさがある。
40代だろうか、経験豊富な大人だとすぐわかる。
船長としての貫禄は、十分過ぎる程にあった。
ミ,, Д 彡「何度でも言う。
外へ出ては…ならない。いいな。」
(;^ω^)「……」
押し黙ったままの僕を置いて、僕に釘を刺した
フサギコさんは、再び外へと出て行った。
その、半透明な体ですり抜けて。
(;^ω^)「…フサギコさん…」
重い足取り。翳りのある表情。
取っ手を掴まず、すり抜ける動作。
彼は多分、知っている。
自分が既に、この世の者でないことを。
-
ちょっと席外してた。ながら投下になります。
-
・
・
・
-
フサギコさんが外に出てから、僕は…罪悪感はあったが
何か使えるものはないかと、室内を物色していた。
この船に、スカルチノフ一族がいることを思い出したからだ。
彼らが皆、ツンのようにアラマキを恐れているとは限らない。
寧ろ、絶対的な権力を手にしたアラマキに従っているかもしれない。
先程のフサギコさんのように、優しく接してくれる人が
どれだけいるかも怪しい中では、手元に何も無いのは心細い。
何か、使えそうなもの、身を守るものが欲しかった。
始めに探した、部屋の奥にあった机の引き出しには
透明な液体が入った、綺麗な青色の小瓶がしまわれていた。
一口飲んでみると、今までの疲れが少し癒えたことから
栄養剤のようなものだろうか。一応、持っておくことにした。
部屋に入ってから目に付いていた左手の扉は、仮眠室に繋がっていた。
整頓されたベッド脇のサイドボードに、革の手帳があったのだが
後はこれといってめぼしいものはなく、大きな衣装ダンスの取っ手が
針金でぐるぐる巻きにされていて、異様な雰囲気を醸し出しているだけだった。
(;^ω^)「…こわいお。」
触れないでおくのが一番いいだろうと、僕は早々に仮眠室を出たのだった。
-
部屋の物色も終わり、何もすることがなくなってしまった僕は
ここから外に出ようか出まいか、立ち尽くして迷っていた。
( ^ω^)「…外に、何があるんだお?」
そもそも、ここから出てはならない理由が、僕にはわからなかった。
捕まるということにはならなかったが、フサギコさんが戻ってこない以上
閉じ込められているのと何ら変わらない状況なのだ。
(;^ω^)「…」
ドアを見つめて、僕は考えた。
フサギコさんは、既に死んでいた。いわゆる『幽霊』だ。
そんなフサギコさんが「外に出るな」と言うのだ。
フサギコさん…或いは、この船の全ての人に、降りかかった災いが
おそらく外にあるのだろう。
だが、このまま考えてばかりでは、何も始まらない。
(;^ω^)「もう、どうにでもなれお!」
半ば自棄になりながら、僕は反対側の通路に出るドアを開けた。
-
ドアを開けた先に広がっていたのは、雲ひとつ無い綺麗な夜空だった。
気付けば夜になっていたらしい。時の流れる速さに、僕は一つ溜息を吐いた。
-
その一瞬。
それまで穏やかな音色を奏でていた潮騒が。
火照る体に丁度良い、冷たい潮風が。
全ての自然現象が、ぴたりとやんだ。
-
( ^ω^)「お…?」
いきなり風がやむというのは、なかなか珍しいことだ。
ニュー速VIP号は、局地的な大嵐で沈んだという説が有力だから
もしかして一雨くるのだろうか…などと、ぼーっと考えていた僕は。
-
フフフッ…
-
Σ(^ω^;)「!?」
完全に、不意を衝かれてしまったのだ。
(^ω^;)⌒(
…この船の、怪奇現象に。
船員達を死に至らしめただろう、その存在に。
(^ω^;)⌒(
(;^ω^) ⌒*(゚"∀'゚)*⌒
( ゚ω゚) ⌒*(゚"∀'゚)*⌒
-
(;゚ω゚)「ひっ…!!」
その姿を認識した僕は、小さな、情けない悲鳴をあげることしか出来なかった。
可愛らしい服に身を包んだ、青白い顔の少女。
年は、僕が見たツンよりも多少上か下か、それくらいだろう。
その少女は、笑っていた。
⌒*(゚"∀'゚)*⌒
(;゚ω゚)
ぞっとするほど無邪気に笑う少女は
憎悪を込めた眼差しで、僕を睨みつけている。
それは、父の過去で見た、アラマキ・スカルチノフのものを
遥かに凌駕する、おぞましい光を宿していた。
この少女は、僕を、殺そうとしている――!!
-
頭だけを必死に動かして、少女から逃れようとするも、僕自身
パニックに陥ってそれどころではない。
(;゚ω゚)「―――!!」
声にならない叫びを喉に伝わせて、僕は逃げようとした。
しかし、体が動かない!
(;゚ω゚)(金縛り…!)
だがそれが、金縛りではないと気がついたのは、彼女が
⌒*(∩゚"∀'゚∩)*⌒
(;゚ω゚)「引き離されるっ?!」
腕を思い切り振り上げた直後だった。
-
(;゚ω゚)「ぐあぅっ!!」
あまりの痛みに、自分のものとは思えない呻き声があがった。
意思に反して強く引き離された体が、痛みを訴え始める。
加減も無く、風の抵抗をまともに受けているのだ。
痛まないわけがない。
(;゚ω゚)「うっぐぅっ…!!」
急激に引き離された体は、もう少女の思いのままだ。
新しいおもちゃを見つけたように、少女は喜んでいる。
遠退いた少女の顔は、恐ろしい笑みを張りつけたままだ。
今度は何をするつもりなのか。
-
⌒*(∩゚"∀'゚∩)*⌒
少女は、振り上げていた腕を、
⌒*(∪゚"∀'゚∪)*⌒
勢いよく振り下ろした。
(;゚ω゚)「がっ、はっ…!!」
次の瞬間、僕の体は容赦なく床に落下させられていた。
音を立てて打ち付けられた全身に激痛が走り
ぶつけられた衝撃で内臓と脳が、眩暈と吐き気を併発させる。
⌒*(∪゚"∀'゚∪)*⌒
そんな僕を、少女は笑う。
-
殺される――
そう思った、瞬間。
-
パチン。
-
⌒*(つ;−⊂)*⌒
⌒*(つ;−⊂)*⌒
⌒*(つ;−⊂)*⌒
-
⌒*( )*⌒
-
照明が点いた途端、おぞましい笑みを浮かべていた少女は
しくしくと泣き声を残して、消えていった。
(; ω )「…っぐは!!」
少女が消えたと同時に、拘束から解けた体が、僕に限界を訴えた
(; ω )「ごほっ…ぐ…うぐぇ…」
汚いなどと言える余裕も無い。
僕はその場で吐き出した。
-
(;^ω^)「…っふぅ…ひ、ひどい目に遭ったお…」
…漸く息が整って落ち着いた僕は、思わずそう漏らした。
いきなり人の死体を見たり、目の前で血が流れたりと
思い出してみれば散々な目に遭っているが今回は特にひどかった。
自分が殺されかけたのだ。
本当にひどかった。
-
(;^ω^)「父ちゃん、どこにいるんだおっ!」
姿の見えない父を、僕は必死に捜した。
しかし声は、僕の呼びかけを無視して、言葉を紡ぐ。
( )「…私は、この船にある力と戦わなければならない。」
( )「それが私の運命だ…」
(;^ω^)「…」
運命。
父に関わってから幾度と無く目に見、耳で聞いて来た言葉。
自分とは関係ないように思えた言葉。
父が背負い、僕が見ている『運命』は、そんなにも重たいものなのか。
『運命』と戦うということが、そんなにも重大なものなのか…。
今更だが、僕は父の声を聞きながら、そんなことを思っていた。
-
ミスッた…
202→201の順番で読んでください。すみません。
-
そうして、暫く照明のついた通路の壁に、僕はぼぅっとして凭れかかっていた。
油断すれば、また襲ってくるのではないかと思ったが、それでも僕の体は
先程の攻撃で限界に達したらしく、動かない。
船長室に、ソファがあったのを思い出した。
死者の部屋などと言わず、少し眠らせてもらおうか。
そんなことを思っていた僕の耳に、懐かしい声が届いた。
( )「…光だ。奴らは、光を嫌う。」
(;^ω^)「!!」
僕はその声に反応して、先程までの気怠さが嘘のように、がばっと跳ね起きた。
間違いない。僕に語りかけるこの声は…
( ФωФ)
父、ロマネスクのものだ。
-
まだ続いてた、支援
-
>>205
もうちょい続くお
>>203だけど>>204→>>202の順番だ…すまんorz
-
( )「すべてが終わったら迎えに来る。
それまでここにいるんだ。」
( )「下に行ってはいけない。
いいな、ブーン…」
声は、忠告するように言って、それきりもう何も語らなくなった。
僕の呼びかけは、届いていただろうか…?
聞く術が無いので、届いていることを願うしかないのだが。
( ^ω^)「下に行ってはいけない…か…」
フサギコさんに言われた『外に出てはならない』の意味。
あの少女…見るからに亡霊だろうが、それが命を奪うからだとしたら
父の『下に行ってはならない』も、亡霊が出るからという意味なのだろうか。
-
(;^ω^)「…」
僕は、迷っていた。
本来の目的である「父を捜す」ということ。
それに付随した「父の過去を知る」ということ。
派生した「赤い石と青い石の対決」…
何処までも、父を追いかけるために来たのだ。
行ってはならないと言われても行くしかないだろう。
( ^ω^)「…父ちゃん…」
でも、あんな目に遭ったからか、僕は決断できずにいた。
可愛らしいはずの少女の亡霊は、思った以上にこわかった。
僕が死んでしまったら元も子もない。
父も、それを言いたかったのだと思う。
けれど、僕には、
( ^ω^)「…たった一人の父親を置いていけるほど
僕は、冷酷にはなれないお。」
-
僕には、父を見捨てていけるような冷徹さは無い。
( ^ω^)「だから…そのときになったら、また、考えるお。」
月のない夜空を見上げて、僕は呟きながら歩を進めた。
-
薄情な人間になりきれない僕は、昔の父に似たのだろうか?
そうだとしたら、それはとても誇らしいことだ。
父よ、僕はあなたのような若者でありたい。
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―操縦室
-
…船長室の手前にある階段を上って、僕は二階へ出た。
( ^ω^)「おぉー…」
なんと心地よい風なのだろう。見える風景もまた違う。
変わった自然の風景に、少しだけ心を癒されながら、コの字型の船首通路を渡った僕は
「操舵室」と書かれたドアに手をかけた。
船に乗っても、船員以外は訪れることのない場所だ。
(*^ω^)「舵だお!」
だから、扉を開けて入った僕は、年甲斐も無くはしゃいでしまった。
どうせ長くなる『旅』なら、楽しんだ方が良いと思ったのだ。
(*^ω^)「凄いおっ!いろんな機械が並んでるおっ
…でかい羅針盤もあるお!」
-
羅針盤の指し示す方角は「南」だった。
ニュー速VIP号は南に向かって進んでいるわけである。
…もっとも、本当に南へ進んでいるのかはわからないが。
( ^ω^)「…お?」
他に何かないか、探していた僕は、床のある部分だけ違うことに気付いた。
正方形のマスは人が入るには小さく、何処かへの入り口というわけでもない。
どうやら物を収納出来る場所のようだ。
( ^ω^)「…何が入ってるんだお?」
調べたいが、床には取っ手がない。
誰かに持ち出されないように、わざとそうしてあるのだろうか?
(^ω^ )Ξ( ^ω^)
「おっ、あったお!」(^ω^ )
辺りを見回して、テーブルの下に、金色の取っ手が落ちているのを見つけた僕は
拾ってそれを床にはめこんだ。
-
パカリと開いたそこには、丸まった紙が一枚。
( ^ω^)「お、おおっ…!」
(*^ω^)「船の設計図だお!!」
男の子なら、一度は夢見たことがあるのではないか。
何層にも分かれている船の、部屋の間取り図。
冒険心と想像力を掻き立てられるそれは、実際に見ると…
( ^ω^)「…うん、とってもわかりづらいおね。」
こういうとき以外で地図代わりにするのはおすすめしない。
見慣れた技術者でないと、投げてしまうレベルだ。
とりあえず、僕はこれ以外に無いので参考程度に持っておくが。
-
( ^ω^)「後は…特にはないおね。」
あくまでも、船員にとっては「職場」なのだ。
船長室同様、最低限のものしか無いだろう。
あまり、期待はしない方が良いかもしれない。
行き先を考えながら、操舵室から出た僕の目に、一人の船員の後姿が映った。
---( )つ---
テラスに両肘を乗せて、夜空を眺めている船員。
ちらっと覗き込んだ顔は、憂いを帯びている。
(;^ω^)「なんか、かっこいいお…」
その姿があまりに似合っていて、思わず呟いてしまった僕の声が
聞こえてしまったのか、船員は振り向いた。
-
(,,゚Д゚)「…」
(;^ω^)「お…す、すみませんお!
お邪魔しm」
(,,゚Д゚)「いや、待ってくれ。」
慌ててその場を去ろうとした僕を、船員は止めた。
振り向いた僕を、船員が手招きする。
(,,゚Д゚)「…話を、聴いてくれるか。」
招かれて、隣に立った僕にかけられた、意外な一言。
( ^ω^)「おっ…お安い御用ですお。」
考えるまでも無く、僕は引き受けた。
その船員も、体が半透明の影になっていたから。
-
死んだ人の魂は、必ず天に昇るのだと言う。
けれど、フサギコさんにしろ、この船員にしろ、天に昇らず
船の中に留まっているのだ。
天に昇れない魂にはきっと、この世に大きな未練がある。
誰かに話す、物を置く…どんな些細なことでも
死んでしまえば叶わない。
僕は、死者の声に、耳を傾けることにした。
-
(,,゚Д゚)「…俺は、ギコ。
言っておくけど、船長とは関係ない。」
( ^ω^)「あぁ、名前が被るから紛らわしいんだおね…
僕はブーンだお。宜しくお、ギコ。」
(,,゚Д゚)「おう。」
少しだけ明るくなったギコは、僕と握手を交わした。
彼は、僕と同い年くらいの人だった。
同世代かそれに近い人と握手をしたのなんて
仕事以外では一体、何年ぶりのことだろう。
-
握手を交わしてから、僕はギコの話をずっと聴いていた。
僕はたまに仕事の話をする程度で、後はギコの聞き役に徹していた。
いま話している人が、既に死んだ人間なんだと思うと、涙を抑えきれなくなってしまうから。
(,,゚Д゚)「俺、さ…恋人がいるんだ。」
( ゚ω゚)「なん…だと…っ」
…ギコの話は、恋人のことが中心だった。
のろけかと思っていたら、寧ろ悲しいぐらいに切ない話だった。
恋人の名前はしぃさんと言って、彼女はギコに何も話していないが
重い病を患っていて、もう長くないのだと、ギコは知っていたとか。
その恋人に、先日、婚約指輪を渡したのだとか。
そんなことをギコが話し終わる頃には
( ;ω;)
(;゚Д゚)「おい、なんでお前が泣くんだよっ」
…抑えようと思っていた涙が、ぼろぼろと溢れて、みっともなく泣いてしまっていたのだけども。
-
( つω;)「いや、もう…ギコは卑怯だお…」
(;゚Д゚)「俺、本当のこと話してるだけなんだけど…」
涙を拭いながら、震えた声で返した僕の頭に、何かぴんと閃く音がした。
( ^ω^)「…」
この世に尚も魂を置き、船内を彷徨い続ける船員、ギコ。
彼の未練は、
( ^ω^)「…しぃさん、気になるおね…」
恋人の、しぃさんだったのだ。
-
重い病を、ずっと隠し続けているしぃさん。
婚約指輪を受け取った彼女は、悲しそうに笑っていたと言う。
(,,゚Д゚)「…」
(,, Д )「…」
さりげなく、しぃさんの話題に触れた僕に、ギコは返事をしなかった。
無言で俯いて、僕が出てきたときと同じように、手すりに両肘を預けて。
(,, Д )「…こんな、船に…乗るんじゃなかった…」
( ^ω^)「…」
ぽつりと呟いて、静かに首を横に振った。
(,, Д )「しぃ…最後に…会えなくて、ごめん…」
( ω )「…ギコ…」
同年代だから、余計に感情移入してしまうようだ。
僕は、ギコの最後の願いを、叶えてやりたいと思った。
-
切ないほどに、一途な恋人への思い。
それは奇跡を起こしてくれたらしい。
( ω )(この感覚…!)
空間がねじれて、全身が吸い寄せられるこの感覚。
父の過去へ飛ばされたときのものと、同じだった。
ただし、あのときと違うのは。
(; ω )(行けお!連れて行ってくれお!!)
初めて僕が、自分から過去へ飛ぶことを望んだという点。
-
一緒になって俯く僕の意識が、吸い込まれるように遠退いた――
-
とりあえずここまで。
付き合ってくれた人、ありがとうございます。
めちゃくちゃ長くなって申し訳ない。
-
おつ
いいよいいよー
-
復帰したばかりなのに辛口しゃべり場といい、精力的だな
でも次の投下予定なんか聞かないから安心しる(笑)
-
おつおつ
ホラゲーみたいで面白い
-
まだ投下しないけど
>>226
見てたのかよ!
「自意識過剰乙www」って笑ってくれっていうかむしろ笑え
>>227
元ネタはどちらかというと、サイレントヒル2に近い綺麗なホラー
稚拙な文でどこまで再現できるか怪しいが
元ネタであるホラーゲームの物悲しい雰囲気を味わってもらえれば
-
エコーナイトかな
-
投下します。
>>229
そう、元ネタはフロムソフトウェアの「エコーナイト」
OPだけうpったので、雰囲気を楽しんでもらえれば。
http://www.youtube.com/watch?v=hUeGV6bzoqw
-
・
・
・
・
・
-
#過去世界 1913年 4月11日 ―郊外の遊園地
-
( -ω-)「…」
( -ω^)「…ふぬっ…?」
( ^ω^)「お…ここ、どこだお?」
覚醒した僕は、首を横に振って、辺りを見渡した。
( ^ω^)「…遊園地…だおね?」
背に聳え立つ、大きな時計塔と、僅かばかりの遊び場。
郊外の遊園地だった。
ギコの話から飛んでいったことを考えれば、ここが
二人の待ち合わせ場所なのだろう。
こんな深夜の遊園地に、好んで遊びに来る人などいない。
いるとしたら、ギコとしぃさんだけのはずだ。
僕は、凡そ20年前の場所に立っていることを確認する為に
そこにいるべき人の姿を捜そうと踏み出したところで、
Σ(^ω^;)「おぉうっ!?」
そんな遠くない場所に、探し人がいることに驚いた。
-
(* − )
若い女性が独り、ぽつんと立ち尽くしている。
その人は、傍目に見てもわかるくらい青白い顔をしていた。
もう少しだけ歩み寄ると、はっきりと輪郭が映し出される。
(*゚−゚)
…この人が、ギコの恋人、しぃさんだろう。
(*^ω^)(…可愛らしい人だお。)
後ろに降ろされた、長いモスグリーンの髪。
白い春用のワンピースと、ピンクのカーディガン。
そんな格好の彼女は愛らしくも、ギコの恋人でなかったら
思わず駆け寄って、抱きしめたくなってしまいそうな儚さがあった。
-
(*゚ー゚)「あら…あなたは?」
( ^ω^)「おっ、えっと…」
鈴の音のような声。
言葉をかけられるとは思わなくて
ちょっと詰まってしまう。
( ^ω^)「僕は…ブーンと言いますお。
ギコの…古くからの友達、ですお。」
(;゚−゚)「!」
咄嗟に思いついた嘘を、しぃさんに言った。
「古くから」と強調したのは、昔の馴染みと言った方が
相手も信用してくれるだろうと計算したからだった。
…たとえ「古くから」が嘘だったとしても
短時間とはいえ仲良くなった人を「友達」というのを
僕は嘘だとは思いたく無かったけれど。
(;゚−゚)「ギコ君のお友達っ…?!」
(;^ω^)「そ、そうですけど…」
顔色を変えた彼女に僕は、嘘を吐くのが下手だから
すぐにバレたのかと焦ったが、そうではなかったようだ。
(; − )「…」
なにやら思い詰めた顔で、問いかけたしぃさんは
僕の答えを聞いて、すぐに俯いてしまう。
ただ事では無い様子に、心配になった僕が声をかける前。
-
(; − )「…指輪…」
( ^ω^)「お?」
(; − )「無いんです…」
搾り出すように、震える声で、しぃさんは言った。
(; − )「遠くに行ってしまうあの人に
話しておきたいことがあったから
ここで、待ち合わせしていたの。」
(; − )「でも、私…あの人との婚約指輪を
この遊園地の何処かに、落としてしまって…」
(;^ω^)「っ!!」
…そういうことだったのか。
彼女の、今にも泣きそうな声を聞いて、僕は知った。
手すりで項垂れるギコが
「最後に会えなくてごめん」と言っていたこと。
-
しぃさんは、待ち合わせ場所に来ていたのだ。
ギコの元へ、いますぐにでも行けるのだ。
しぃさんが「指輪を無くしてしまう」という
不測の事態さえ無かったら。
( ω )「…がすお…」
(*゚−゚)「えっ…」
( ゚ω゚)「僕が、探しますお!
しぃさんの指輪、一緒に探しますおっ!!」
(;゚−゚)「で、でも…」
深夜の遊園地に、僕の声が響く。
声の音量に驚いているのか、言いよどんでいるのか
言葉に詰まるしぃさんに、僕は言う。
-
( ゚ω゚)「ギコだって、言ってたんだお!
しぃに会いたいって!」
( ゚ω゚)「だから、すぐに見つけて会いに行くお!!」
(;゚−゚)「…!」
(; − )「…」
(; − )「…0時…」
(;゚−゚)「0時には行かなきゃって
あの人が言ってた。」
(;゚−゚)「だから…その10分前くらいには…
ブーンさん、一緒に探して…お願い…」
( ^ω^)ゝ「おっお!その言葉を待ってましたお!!」
-
…背に立つ時計塔の時刻を、振り向いて確認した。
23時40分。しぃさんの言う「10分前」
しぃさんとギコが会う時間に、余裕をもたせるとするなら、
( ^ω^)「…あと5分。」
呟いた僕はそれから、遊園地の中を隅まで隈なく調べていった。
深夜で街灯も無い暗闇の中、探し難い環境に悪態を吐きながら
凝らしすぎた目の奥が痛んできても。
(,,゚Д゚) (゚ー゚*)
あの二人には、幸せになって欲しくて。
…ギコが仕事よりも、しぃさんと共に過ごすことを選んで
ニュー速VIP号に乗ることをやめてくれればとも、思っていた。
-
( ´ω`)「……」
それから、幾度も幾度も同じ道を辿って
同じ模様の地面を、目を凝らしてみていたが
指輪らしき物が出てくる気配は全く無かった。
狭い遊園地の、何処を探して廻ってみても見当たらなくて。
この真っ暗な中では、彼女も探すのに苦労していることだろう。
こうしている間にも、時間は迫っているというのに。
途方に暮れて、俯いていたしぃさんの気持ちが
いまの僕には痛いほどよくわかった。
-
――僕には、何も出来ないのだろうか。
-
カチッ
ギィッ…
-
休止中のメリーゴーランドを休憩所代わりにして
無力な自分を悔いていた僕は
( ^ω^)「…おっ?!」
-
神様がくれた「奇跡」を、体験した。
-
投下予定二分前に予告かよ、こっちに気づくほうが早かったぞ
④
-
「おぉおおっ!?」( ゚ω゚) ミ
深夜の遊園地、料金も払っていないはずのメリーゴーランドが
何の前触れも無く、人が乗るには多少、目が回りそうな速さで動き出した。
振り落とされないよう、僕は慌てて適当な場所に跨る。
跨った木馬は『白馬の王子様』に憧れる女性向けの
神話の生物「ユニコーン」の模型。
上下に揺れて駆けるそれは、メリーゴーランドの煌びやかな照明と
自身が発する美しい光で、背に乗っていた僕を、
゚'・:*:・。,
:*:・。,☆゚'・:*:・。,:*:・。*:・。,☆゚'・
:*:・。,☆゚'・:*:・。+
|
|( ゚ω゚)そ
/ |⊂、
∈-^≡| _) ////////||
|=ノ=‖ヽ ///+o///||
| /////////||
探し物の場所まで、導いてくれたのだ。
-
ぐるりと一周して、ユニコーンは止まった。
停止したメリーゴーランドの煌々とした灯りは
何事も無かったようにぱちりと消える。
( ^ω^)
(;^ω^)「はっ、指輪っ…!!」
あまりにも不思議な出来事に、僕は一瞬、固まってしまった。
我に返って、さっき照らされた場所を、僕は探す。
(;^ω^)「確か、ここら辺だったおね…」
( ^ω^)「あ、あったお!!」 +o
メリーゴーランドから少し離れた、隅の一角。
指輪は、あまりにも見つけ難い場所に落ちていた。
こんな分かり難い場所では見つからないわけだ。
( ^ω^)つo+
…あのユニコーンが導いてくれなければ、今頃、あるはずの指輪を
見逃して、別の場所に移動していたところだった。
これで、これでしぃさんとギコは会える…!!
メリーゴーランドに、心の中でお礼を言いながら
( ゚ω゚)「行けぇええええ!!」
間に合ってほしい一心で、僕は全速力で駆け出した。
-
==⊂二二二(;゚ω゚)二⊃==「しぃさああん!!!!」
Σ(゚−゚;)ミ「!?
」
誰もいない深夜の遊園地で、叫びながら全速力で駆ける男。
さぞ驚いたことだろう、不審者ではないかと迷惑がられたかもしれない。
我ながら深く反省している。
-
(;゚−゚)「ぶ、ブーンさん…!」
(;^ω^)つo+「ハアッハァッ…しぃさん、指輪ありましたお!!」
さすがにこの年で、学生時代と同じように駆けるのは
無理があったかもしれない。
息を切らせながら、僕はしぃさんに指輪を渡した。
(;^ω^)つo⊂(゚−゚;)
(;゚−゚)っo+「こ、これです!
私と、あの人の指輪…!」
(;^ω^)「さぁ、しぃさん!急いで!」
(;゚−゚)「ありがとう、ブーンさんっ」
ここから時計塔まで、1分もかからないのだから、もう大丈夫だろう。
これで、ギコとしぃさんの運命が変わるのだ。
二人の涙が流れることは、もう無いのだ…。
安心しきった僕は、
(つ;^ω^)つ「ふぉおおお…」
遊園地の隅にあるベンチで、暫くへたっていた。
-
その後、二人がどうなったかも知らずに。
-
・
・
・
-
テストスレあんただったのか、( ^ω^)が壁オナしてるAAだと思ってた
-
背に聳え立つ、大きな、大きな時計塔。
振り向いて、時刻を確認する。
…23時59分。
初春の、未だ肌寒い風が、頬を刺激する。
(,,゚Д゚)「……」
止まって欲しいと願う秒針は、無情にも規則正しく時を刻んでいて。
(,, Д )「……」
-
カチリ。
0時00分。
(,, Д )
ああ、彼女は、やはり来れなかったのか…。
-
落胆に沈む心に、無理はないと言い聞かせた。
重病を患っている彼女は、思い通りの外出さえも、ままならないのだから。
寧ろ、こんな夜中に…思い出のある場所とはいえ
こんな場所で会おうなんて言う自分がおかしいのだ。
(,, Д )「しぃ…ごめん…会えなくて、ごめん。」
(,, Д )「俺…行くよ。」
(,, Д )「すぐに、帰ってくるから。」
だから…
(,,つД;)「な、泣かないで…笑うんだぞゴルァ…」
(,,;Д)「いつもみたいに…」
( ,,;)「笑って…」
「見送ってくれよなっ…」
-
( ,,) .........
-
===(;゚ー゚)
(;゚ー゚)そ
(;゚−゚)
・
・
・
(* − )
-
…その場に立ち尽くしたまま、僕は、何も言えなかった。
ベンチに身を預けて、諸々の疲れを取った後。
今頃、いちゃいちゃしてるんだろうな、あの二人…なんて。
冷やかしたい、半ば羨ましい気持ちを持って
見つからないよう、こっそり覗きに行った僕は。
(* − )
最初に会ったときと同じように、ぽつんとその場に佇むしぃさんの
小さな背を見て…何が起きたのか、何故、しぃさんは独りで
いるのかを、察してしまった。
( ω )
二人は、すれ違ってしまったのだ。
過去を遡って、無くした指輪を見つけた僕でも
そこまでの奇跡を起こすことは、出来なかったようだ。
-
( ω )「ごめんなさいお…」
あのときのギコと同じように、僕は項垂れて謝った。
ギコの、しぃさんの運命を変えられなかった自分が、無力で悔しかった。
(* − )「…」
俯いたしぃさんは、黙ったまま首を横に振って、ぽつりぽつりと語り始めた。
(* − )「私って、馬鹿ね…いつもそうなの…」
(* − )「肝心なときに、何か忘れたり、なくしたりして。」
(*;− )「…こんな、病弱な体だから…
ギコ君に、いっぱい迷惑かけて。」
(*;ー;)「私…なにやってるんだろうね。」
顔を上げたしぃさんは、ぽろぽろと涙を流しながら、微笑んだ。
肩を震わせて泣く彼女に、僕は最後まで、何も言えなかった。
(*;ー;)「ブーンさん…お願い、聞いてくれますか…?」
しぃさんは、涙を流しながらそう言って、項垂れている僕の手に
(*;ー;)っo⊂( ω )
指輪を、握らせた。
-
( ω )「!!」
(*;ー;)「私…もう、長くないの…。
時間が無いの…」
(*つー;)「あの人が帰ってくるときまで
この体が、持つかどうか…」
(*つーヾ)「だから…」
涙を拭いながら、しぃさんは言葉を紡ぐ。
( ω )「…!」
過去の空間が、ねじれて歪んできた。
ああ、待ってくれ…こんな、こんな終わり方は無いじゃないか。
重い病を患っていて、長くないと言ったしぃさん。
ギコはあなたよりも先に、逝ってしまったというのに。
(*゚ー゚)「だから、お願い…あの人に会うことがあったら
その指輪を渡して…伝えてください。」
-
いいね。支援
-
ありがとう、ギコ君…って。
-
・
・
・
・
・
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船首通路
-
( ω )
耳に届く潮騒の音。鴎の鳴き声。
何も変わらない過去を見終わって、僕は、ニュー速VIP号に帰ってきた。
( ω )「…」
…否、本当に、何も変わらなかっただろうか?
( ω^)(違うお…僕は、変えたお。)
変わらない部分はあったものの、僕は確かに『変えた』のだ。
掌の中にある感触が、何よりの証ではないか。
o+
過去の、恋人からの贈り物。
目の前にいるギコに、全て話して、渡そう。
(,, Д )
僕は、俯くギコの肩を叩いた。
-
( ^ω^)「ギコ。」
(,,゚Д゚)「…ん、何だ…?」
気怠そうに顔を上げた彼に、僕は、掌に握っていたものを差し出した。
それは…僕の汗とあの人の涙で、多少湿っていたけれど
夜空の下で、過去と同じように輝いていた、二人の婚約指輪だった。
( ^ω^)つo+「神様からの、贈り物だお。」
(,,゚Д゚)「…そ、それは…俺が、しぃにあげた…!!」
(,,゚Д゚)つo⊂(^ω^ )
(;゚Д゚)つo+「…お前…なんで、これを?」
( ^ω^)「ギコ。僕…しぃさんに会ったんだお。」
( ^ω^)「僕はしぃさんに、これをギコに渡すように頼まれたお。
あと…『ありがとう、ギコ君』って…言っていたお。」
僕は、伝えた。
遊園地で、既にしぃさんが待ち合わせ場所に来ていたこと。
しぃさんが、メリーゴーランドの一角で指輪を落としてしまったこと。
それをずっと探していて、時間がかかったこと…。
偶然、通りかかった僕が、手伝ったということにして。
最後に見たしぃさんは、笑っていたということも。
-
(,, Д )「しぃ…」
(,, Д )「…俺…俺、大事なこと…忘れていたよ…」
(,,;Д;)「俺、もう…ここから、帰れないんだよなぁ…」
しぃさんの指輪は…今度は、ギコの掌で、ギコの涙を受け止めていた。
嗚咽を漏らしながら、ギコは言う。
(,,;Д;)「ありがとう…ブーン。
お前のおかげで、思い出したよ…」
( ;ω )「…」
( つω )「おっ…おっ、思い出せて、よかったおっ…」
(,,;Д;)「あぁ…あぁ…」
-
嗚咽を漏らすギコと、涙を見せまいと、手で顔を覆う僕。
気付けば夜明けになっていて、朝陽がそんな僕達を照らしていた。
鴎の鳴き声も聞こえず、潮騒の音だけが、静寂の中で響いている。
-
しぃ・・・を俺のものにしたい!!!!!!!!!!!!
-
(,, Д )「…ありがとう、ブーン。」
+。:.゚(,,-Д-)「俺も、これで漸く…」
( つω;)「!!」
徐々に小さくなっていく、ギコの声で、僕は今更のように思い出した。
ギコは、もうこの世にいてはならない人なのだと。
残した未練は無くなり、天に昇らなければならない死者なのだと。
( ;ω;)「ギコッ!!」
僕は叫んだ。
僅かな時間しか出会えなかったけれど
心を開いて打ち明けてくれた「友」の名を。
+。:.-Д-)「…」
.。.:*・゜・.+.* Д )「…」
:*・+゚.。+゚:*・*゚.:。゚・*:.。.... ,
-
ギコの魂は、清清しい朝陽に照らされて
結晶のようにきらきらと輝きながら、消えていった。
紫色の水晶玉を、その場に残して…。
-
( ;ω;)「ギコ…」
( つωヽ)「…」
( ^ω^)「おやすみ、だお…」
これでいいんだと、僕は涙を拭って、友に別れを告げた。
彼は「帰れない」と言っていたが、そんなことは無いはずだ。
天に昇って、今度こそきっと、しぃさんといちゃいちゃしているのだと
僕はそう思いたい。
( ^ω^)「で、一つ解決したのはいいけど…」
(;^ω^)つ0「これ、なんだお…?」
ギコが去った後に現れた、紫色の水晶。
水晶は球状で、触れると僅かな温もりを感じる。
綺麗な紫の遠くを透かして見ても、何も無い。
( ^ω^)「まぁ、考えてても仕方ないおね…」
僕はギコからの贈り物だと思うことにして、先に進んだ。
-
( ^ω^)
( ^ω^)「あ。」
…と、一歩踏み出したところで、僕はある物の存在を思い出して
そこに記そうと立ち止まる。
船長室で見つけた、革の手帳だ。
ポケットから取り出した付属の万年筆で、僕はそこに書き始めた。
出会った人のこと。これから出会う人のこと。
その人達の名前と存在を、忘れない為に。
-
===MEMO===
-
…
―警察官
現実世界 ??年生まれ ??歳 男
・父の家まで車を動かしてくれた警察官。
・警察官なので根はいい人のようだが
ぶっきらぼうで少々、偏見が強い。
―車掌
過去世界 ??年生まれ ??歳 男
・過去の世界で、列車にいた車掌。
僕の独り言を聞いて、静かにするよう注意した。
・若い頃の父に不意を衝かれて
車両の鍵を奪われたようだ。
駆けつけたときには既に事切れていた。
-
―ロマネスク=スギウラ( ^ω^)
過去世界 1879年生まれ 20歳 男
・過去で見た僕の父。
・若い頃は正義感の強い
温厚な青年だったようだ。
・青い石を託した父はいったい
何処に行ってしまったのだろうか…?
―アラマキ=スカルチノフ
過去世界 1831年生まれ 68歳 男
・近寄り難い雰囲気の不気味な老人。
孫娘を盾に、父を脅迫した。
・本の記述によると、父にとっては
両親を殺した仇のようだ。
・ニュー速VIP号と共に行方不明のまま。
赤い石は彼の手にあるようだが…?
―ツン=スカルチノフ
過去世界 1894年生まれ 5歳 女
・アラマキ=スカルチノフの孫娘。
本を両手に抱えている。
・祖父であるはずのアラマキをひどく恐れ
重傷を負った父の身を案じていた。
・父から青い石を託されたが、行方不明に。
彼女は無事に生きているのだろうか?
-
―フサギコ
過去世界 1868年生まれ 45歳 男
・ニュー速VIP号の船長。
航海の経験は豊富で、責任感が強い。
・飛ばされた僕に「外出するな」と
厳しく忠告してくれた。
―ギコ
過去世界 1886年生まれ 享年27歳 男
・ニュー速VIP号の船員。
恋人を残して帰れぬ船旅に出たことを
後悔していた。
・恋人への一途な想いは、20年以上の月日を
経て、尚も消えずに彷徨い続けていた。
・彼女の指輪を見た彼は、恋人を思いながら
自分の死を受け入れ、静かに消えていった…。
―しぃ
過去世界 ??年生まれ ??歳 女
・ギコの恋人。重い病を患っていた。
・二人にとって大切な婚約指輪を落としてしまい
同じ場所で待っていたギコと会えずにいたのだ。
・婚約指輪を見つけたものの、ギコとは会えなかった。
涙を拭い、指輪を僕に託した彼女は、最後の瞬間まで
愛らしくも儚い微笑を浮かべていた…。
…
-
…それぞれの名前を書き終えた僕は、回りきっていない二階を
探索しようと、ぐるりとよく見渡して…
操舵室と反対側にも、部屋があることに気がついた。
( ^ω^)「行ってみるお。」
誰に言うでもなく呟いて、歩を進めた僕は思考を巡らせた。
灯りがついた後に聞こえてきた、父の声。
謎の多いニュー速VIP号の現象。
『赤い石』と『青い石』の関係。
ツンやアラマキを含めた、スカルチノフ一族の行方。
彼らはこの船に乗って、どうしていたのだろう。
この船に来た父は、彼らにもう会えたのだろうか?
-
( ^ω^)「わからないことばかりだおね…」
浮かべた疑問は、あまりに資料が乏しく、今は解けそうになかった。
そこで、また違う疑問符が浮かんだ僕は、そちらを考えることにした。
僕に「外へ出るな」と言ったフサギコさんは、何処へ行ったのだろう?
彼もまた、未練に囚われている人なのだろうか。
そうだとしたら、この船内にはまだギコのように
死んだことを受け入れられず、彷徨い続けている人が
多くいるのだろうか?
安らぎを求める彼らを、放っておいてはいけない。
20年以上も彷徨っている彼らの魂を、解放したい。
( ^ω^)(父ちゃん、フサギコさん、僕は…)
…僕の心は次第に、一つの答えへと傾きつつあった。
-
そこで思考を中断した僕は、ふと気になって、通路の手すりから外を眺めた
。
_____( ^ω)____
外の景色は朝だった。爽やかな日光が海を照らし、波が煌いている。
( ^ω^)「…」
(^ω^ )「…んっ?」
何か、違和感がある。
この風景でおかしなことが、何かある。
まじまじと、僕はもう一度、外の世界を眺めた。
そして…僕は、気付いてしまった。
-
(;^ω^)「時間が、止まってる…?」
僕は運命の日…1913年4月12日の夕方に飛んできたはずなのだ。
飛ぶ時間が遅すぎる、などと考えることもせずに
だらだらと過ごしてきたせいで、気付けば翌日の朝を迎えていたが。
本来ならもう、ニュー速VIP号は原因不明の消失事件に遭っているはずだ。
それが無いということは…つまり、この世界だけ、何らかの作用で
現実の時間軸から切り離されているのだ。
日は巡り、朝から昼、昼から夕、夕から夜…と、現実と同様に時を刻むが
たとえどんなに月日が経とうと、決してあの消失事件が起こることはないの
だ。
…と、ここまで推測したところで、僕は
(;^ω^)「…違う、逆かもしれないお…」
フル回転させた思考で、推測を真逆に変えた。
先程の推測でいけば、フサギコさん達の存在に矛盾が生じてしまうからだ。
もし「事件の起きる前」ならば、彼らは生きた姿でいなければならない。
ギコだって、天に昇ることは無い。
となれば、考えられる答えは、ひとつだけだ。
ここはもう「事件が起きた後」のニュー速VIP号なのだ。
-
(;^ω^)「時間が、止まってる…?」
僕は運命の日…1913年4月12日の夕方に飛んできたはずなのだ。
飛ぶ時間が遅すぎる、などと考えることもせずに
だらだらと過ごしてきたせいで、気付けば翌日の朝を迎えていたが。
本来ならもう、ニュー速VIP号は原因不明の消失事件に遭っているはずだ。
それが無いということは…つまり、この世界だけ、何らかの作用で
現実の時間軸から切り離されているのだ。
日は巡り、朝から昼、昼から夕、夕から夜…と、現実と同様に時を刻むが
たとえどんなに月日が経とうと、決してあの消失事件が起こることはないのだ。
…と、ここまで推測したところで、僕は
(;^ω^)「…違う、逆かもしれないお…」
フル回転させた思考で、推測を真逆に変えた。
先程の推測でいけば、フサギコさん達の存在に矛盾が生じてしまうからだ。
もし「事件の起きる前」ならば、彼らは生きた姿でいなければならない。
ギコだって、天に昇ることは無い。
となれば、考えられる答えは、ひとつだけだ。
ここはもう「事件が起きた後」のニュー速VIP号なのだ。
-
( ^ω^)
( ゚ω゚)
((;゚ω゚)))「ちょ、ちょっと待つおっ…」
自分の考えをまとめた僕は、それに答えようとする自分を制止した。
推測の域でしかない、あくまでも、推測の域でしかないが…
((;゚ω゚)))「せ、せ…」
((;゚ω゚)))「生存者はっ…?」
ニュー速VIP号の消失した原因としては、前も言ったように
「局地的な大嵐によるもの」という説が有力だ。
ここが実際に大嵐に遭ったかどうかは別として
既に船が消失していたのだとしたら?
20年以上の時を経ても、船員含め、乗船した人間が
独りも生還していない現実。
…この船に、生存者はいるのだろうか?
((;゚ω゚)))
今更な話だが、僕はそれを、認めたくなかった。
-
今日はここまで投下。
本日も付き合ってくださった方、ありがとうございます。
-
乙ー、気になる終わり方
-
本編から外れたおまけを投下します。
-
(´・ω・`) 「やぁ、待っていたよ。」
(´・ω・`) 「…安心したまえ。
私はただの案内人だ。」
(´・ω・`) 「この話に出てくるのは
もう少し後のことだがねえ…。」
(´・ω・`) 「フフフフフ…」
-
(´・ω・`) 「先ほども言ったとおり、私はここで
案内人として、解説の役目を務めていく方針だ。」
(´・ω・`) 「ただし、私は同じ話をすることが嫌いなのでね。
どんな重要な話でも、一度しか解説しない。
心して聞きたまえ。」
(´・ω・`) 「まず、元ネタについてだが」
(´・ω・`) 「>>229の指摘どおり『エコーナイト』というゲームだ。」
(´・ω・`) 「…ネタバレは避けたまえ。
君も、したらばを彷徨う亡霊にはなりたくないだろう…
フフフ…」
-
(´・ω・`) 「次に、作品のジャンルについてだが」
(´・ω・`) 「これも>>227の指摘通り、ホラーと呼ぶべきなのだが
システム自体は探索型の
アドベンチャーゲームとも言えるだろう」
(´・ω・`) 「ホラーにもれなくついてくる流血・暴力・グロテスクな描写の
3点セットはもちろん、この作品にも例外なくあるので
苦手な人はすぐに閉じることをおすすめする。」
(´・ω・`) 「…心配しなくてもいい。
メインは流血表現と、精神をじわりと侵食する恐怖…
君の想像する、ゾンビやウイルスは出てこない。」
(´・ω・`) 「…こわくなったかい?
安心したまえ、君の魂はきっと
ブーンが救ってくれることだろう…フフフ…」
-
(´・ω・`) 「それから>>245で言われていた投下予告だが」
(´・ω・`) 「同じことを思って、涙目になっている筆者が
画面の向こうにいるようだ。
想像して笑ってくれたまえ。」
(´・ω・`) 「これからは私が、30分前に
投下予告することを約束しよう…
フフフ…」
-
(´・ω・`) 「最後に、>>269」
(´・ω・`) 「しぃの元ネタのキャラクターは
システィーナ・ラットラインというのだが」
(´・ω・`) 「当時の、あのクソみたいなポリゴンでも頑張ったようだ。
ゲーム本編の彼女は、ソフトパッケージに出てる
事実上のヒロインより愛らしい人だったよ…」
(´・ω・`) 「おっと時間が迫ってきているようだ…
私もそろそろ、退室するとしよう…フフフ…」
(´・ω・`) 「…おや、君の後ろに少女の亡霊が立っているようだ。」
(´・ω・`) 「亡霊は灯りを嫌う。灯りをつけて眠ることをおすすめしよう。」
(´・ω・`) 「では、諸君。よい夢を。」
-
おつ。おもしろいよー
-
気になったからエコーナイト調べてみたら
思ったよりそのまんまっぽかったんで途中で読むのやめたわw
こっちで読みたい!
-
支援と乙くれている方々、ありがとうございます
予告どおり、19:35に投下します
>>293
こっちで読みたい…とな…
なんとお礼を言っていいか
作者としては非常にありがたい言葉だが
本当に話が長いので、飽きたら適当に動画を見たり
適当にゲームをやったり、適当に読み流してください
-
深刻なエラーが発生したため、多少前後します。
猫のかわいさは犯罪だ。
-
約束の時間より遅れて申し訳ございません
投下します
-
・
・
・
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・海図室入り口
-
(; ω )
あれから、重い足を運んで、なんとかドアの前に辿り着いたものの
僕はそれ以上、踏み込むことが出来ずにいた。
…この中にいる人も、死んでしまっていたら?
そんな恐れが、心の中でずっと僕を締めつけていたからだ。
ニュー速VIP号は豪華客船と言われる通り
大まかに分けたとしても、5つもの区画がある。
船首・船尾の甲板、船内の一層・二層・三層だ。
数百人もの乗客が乗るだけあって、規模が大きいのだ。
生存者は、無し。
数百人もの乗客の魂が、未練を残して逝けないと
この船に漂っているのだとしたら…。
-
――怯えて竦んでいる僕の頭に、あの声が響いた。
『私は、この船にある力と戦わなければならない。』
『それが私の運命だ』
( ω )「運命…」
「奴らは光を嫌う」と、助言をくれた声。
僕を助けてくれた、あの声。
あれが、父の声であることは間違いないはずだ。
( ω )「…」
…父が立ち向かう『運命』に、抗いたいと僕は思った。
あの言葉は、怯えていた僕の心に、ほんの少しの勇気をくれたのだ。
-
『この船にある力』が何なのかを僕は知らないし
父の立ち向かう『運命』の正体も知らない。
襲いかかる亡霊を避けて、過去の世界に行き来して
未練を残した死者の魂を救う。
御伽噺の中を覗いているような光景。
僕が目にしている現象は未だ信じ難いものだし
元の世界に戻れるかも分からない。
けれど。
(,, Д ) (* ー )
つい先程まで、死んでも残っていたギコの、切ない想い。
ギコを想い、僕に指輪を託したしぃさん。
ミ,, Д 彡
フサギコさんの、悲しそうな背中を思い出した。
多くを語らない彼は未だ、この船にいる。
-
出会わなければ、救われなかった魂。
そんな人達の魂が、まだ何人も彷徨っているのだとしたら。
( ω^)「…父ちゃん。」
父が『運命』に立ち向かっている間、僕に出来ることは。
( ^ω^)「僕は、行くお。」
原因不明の消失に、原因不明の彷徨う魂。
たとえ何十人いようと、その人達を救うため。
( ^ω^)つ「……」
僕は、ドアノブに手をかけた。
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・海図室
-
中に入り、ドアを閉めた僕は、あまりの暗さに思わず顔を顰めた。
(;^ω^)「で、電気…」
灯りをつけようと、僕は手探りでスイッチを探すが、なかなか見当たらない。
何でもいいから、何か灯りを点けないと、またあの少女が来てしまう…。
そんな焦りで、手が震えていた。
あの一件以来、すっかり臆病になってしまったが
本当に、もう殺されそうになるのは嫌だったのだ。
( ^ω^)「おっ」
壁を伝う手が何かに触れたのに反応した僕は
( ^ω^)つ【
( ^ω^)「これ、電話だお。」
…期待したが、どうやら壁掛け式の電話だったらしい。
取ってしまった受話器を見て、ふと試したくなった僕は、自宅の電話に
かけられるかどうか、ダイヤルを合わせて、耳を当ててみた。
-
( ^ω^)】トゥルルルル…
(*^ω^)「おぉっ、繋がるお!」
外部と連絡を取ることは出来るとわかったが
誰かが何処かから駆けつけることなど、到底無理な話。
そもそも誰が、今の僕が置かれている状況を、信じるというのか。
頼れる人がいない今の僕には、必要のない機能だ。
( ^ω^)「って…僕、電気のスイッチ探してたんだけど。」
ノリツッコミのしすぎで、語尾はどこかに置いてきた。
-
そんな軽いノリで探していると、目が慣れたのか、暗い中で
壁に突起物を発見した。今度こそ、電気のスイッチだ。
電話機とは反対側の壁にあったようだ。
反対側なら、手探りで伝っていってもあるはずがない。
横歩きでそちらに移り、僕はスライド式のスイッチを
上にくいっと上げた。
カチッ
( ^ω^)「…」
カチッカチッ
(;^ω^)「ええええ…」
なんと、灯りがつかない!
何処かで配線が切れているのだろうか?
故障では無いようだが、何をやっても灯りがつかない。
灯りの無い場所に、少女の亡霊は来るのだ。
このままでは僕と、奥で何事か口にしている誰かが
亡霊に襲われてしまう…!
-
「鍵…閉めたのに…」
(;^ω^)「おっ…?」
…ぶつぶつと、何か呟いている男の言葉だ。
鍵を閉めた…何処の鍵を閉めたのだろう?
彼のいる部屋…海図室は、鍵などかかっていないのに。
矛盾した一言が気になった僕は、声の主に近付いていった。
((; Д )))
中央に設けられたテーブルで、船員が頭を抱えながら震えていた。
怯え方が尋常じゃないと、見ていて心配になった。
声をかけようものなら、ショックで死んでしまうのではないか。
…いや、よく見ると、彼も半透明の影だった。
彼もまた、フサギコさんやギコと同様、既に死んでいるのだ。
((; Д )))「あいつが…あいつが、来る……」
そうだ…この部屋に入ってきてから、聞いていると
彼はその一言しか口にしていない。
-
20年以上経ち、尚も怯えている船員。
彼の未練は…大体、想像はつくのだが、ギコのように
実際に話を聞いて、過去へ飛ばなければわからないもので。
それは、彼に声をかけないとできないことなのだが。
. .: : : : : : : : :: :::: :: :: : :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
. . : : : :: : : :: : ::: :: : :::: :: ::: ::: ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
. . .... ..: : :: :: ::: :::::: :::::::::::: : :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
Λ_Λ . . . .: : : ::: : :: ::::::::: :::::::::::::::::::::::::::::
/:彡ミ゛ヽ;)ー、 . . .: : : :::::: :::::::::::::::::::::::::::::::::
/ :::/:: ヽ、ヽ、 ::i . .:: :.: ::: . :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
/ :::/;;: ヽ ヽ ::l . :. :. .:: : :: :: :::::::: : ::::::::::::::::::
 ̄ ̄ ̄(_,ノ  ̄ ̄ ̄ヽ、_ノ ̄ ̄ ̄ ̄
今の彼、まさに、こんな感じなのである。
(;^ω^)(…ど、どうしたらいいお?)
さすがに、なんて声をかけたらいいか、僕にもわからない。
後ろに立っていると、亡霊と誤解されても嫌だから、横にきてみても
彼は気付かない様子で、ぶつぶつと呟いている。
-
…暗がりの中にいて、何かに怯えているということは
僕と同じように、あの少女の亡霊に怯えているのだろうか。
それにしたって…こんなにも怯えているとは。
(;^ω^)「あ、あn」
(; Д )「鍵、閉めたのに…あいつが、来る……」
( ^ω^)「おっ…」
彼の震えが、止まった。
言っていることは同じだが、今度はそれを
誰か…僕に、伝えようとしている。
僕は、彼の震える声をしっかり聞こうと、隣で耳を澄ませた。
-
(; Д )「暗い…」
(; Д )「あいつが来る…」
(; Д )「あいつが来る…
鍵を閉めたのに…
どうして…」
(;^ω^)「あ、あの、あいつって、まさk…」
怯えて言う彼に、僕が『あいつ』の正体を問おうとしたとき。
-
空間が歪み、僕は有無を言わさず過去に吸い寄せられた――
-
・
・
・
・
・
-
#過去世界 1913年 4月10日 ―波止場
-
( ^ω^)
(;^ω^)「…慣れちゃったお。」
何度も行き来しているからか、過去に飛ばされる感覚になれて
五感はもう何も感じなくなっていた。
周囲を見ると、また空は真っ暗だ。
どうやら今度も夜中の時間帯らしい。
潮の匂いにつられて見ると、場所は何処かの波止場だろうか。
目の前には海が広がっていた。
( ^ω^)「おっ、あの人は…」
正面に目を向けると、見覚えのある背中が映った。
あれは先程、海図室の中で怯えていた人では無いか。
( ^Д^)
年は30代前半くらいで、まだまだ現役のようだ。
ニュー速VIP号に積む荷物だろう、手に木箱を抱えて
忙しなく動き回っている。
…普通だ。
-
( ^ω^)「…あのぅ」
(#^Д^)「見てわかんねえのか?
俺は忙しいんだ、あっち行ってろ。」
(;^ω^)「おぅふ…すみませんお…」
本当に、普通に仕事をしているだけだった。
しかも仕事熱心なようで、忙しいから邪魔だと言われてしまった。
…この人の何処に、未練があるというのだろう?
しかし、こうして過去に飛んだということは、過去に何かあったから
あんな姿で怯える毎日を過ごしているのだ。
仕事の中で、何かあったのかもしれない。
(;^ω^)(まぁ…大体、察しはつくお…)
心の中で思い浮かべた光景を、今はそっとしまうことにして
僕はその人を暫く観察していた。
-
倉庫から木箱を抱えては下ろし、また倉庫に戻っては
木箱を抱えて下ろす…肉体労働だ。
それが終わって、彼が一息吐いた頃。
隅で作業が終わるのを待っていた僕は、彼に声をかけた。
( ^ω^)「あのぅ」
(#^Д^)「おい、なに他所の物盗ろうとしてんだ?」
(;^ω^)「えっ…」
覚えの無いことだと言おうと思った僕は、弾力のあるものを
掴んでいる感触に、慌てて目を向けた。
(;^ω^)「…おっ、おおっ…?」
掴んでいたのは、ゴム手袋だった。
タラップに繋がる階段の手すりに、ゴム手袋が
かかっていたことに気付かず、手を乗せてしまったのだ。
-
(;^ω^)「…す、すみませんおっ!」
□)) (#^Д^)「すみませんで済むか!
大体あんた、ここの人間じゃないだろう?
いったい何やって…」
□)) (^Д^ )「ん?なんだっ…?」
怒鳴る船員の後ろに置かれた木箱が、動いている。
(;^ω^)「…!!」
嫌な予感がした僕の本能は咄嗟に、元の位置に
戻そうとしたゴム手袋を、両手に掴ませていた。
-
風、波、潮騒。自然現象が全て止まった、この感覚。
僕が体験して、大嵐の前触れではないかと言ったことが
今、過去の世界の、更に過去で起きようとしていた。
-
フフフッ…
-
無邪気で愛らしく…背筋に悪寒のする
特有の恐ろしい笑い声が、響いた。
-
パキン
次に…軽い、木箱の崩れる音がした。
-
開けた人を脅かして、呪い殺すびっくり箱。
恐怖で精神を蝕ませる、そんな恐ろしい行為も
少女にとってはただ、純粋な「遊び」と変わらない。
だから僕は、この少女が怖いのだ。
⌒*(゚"∀'゚)*⌒
-
⌒*(゚"∀'゚)*⌒ Σ(^Д^;)「ひぃっっ!!」
純粋な殺意と死をもって、少女は現れた。
やっぱりそうだった。
この船員も、僕と同様…憎悪に満ちた少女の亡霊に
不運にも出会ってしまったのだ。
それも、航海する前に。
⌒*(゚ ∀゚)*⌒ (^Д^;)))「な、なんだよ!なんなんだよ、こいつ!!」
⌒*( ∀ ゚ )*⌒ (((^Дヽ;))))「来るな!!こっちに来るな!!!」
〜〜〜 ⌒ ( ∀ )*⌒ ((((/Дヽ;)))))「ひぃいいいっ…!!」
∩ ∩
(;^ω^)「……!」
-
一部始終を、ただ呆然と見ていた僕は、成す術も無く吸い込まれていった――
-
・
・
・
・
・
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・海図室
-
(;^ω^)「……」
…呆然と突っ立っている、僕の頭の中は
いくつもの疑問符で埋め尽くされている。
一つ。
この人は、何をすれば救われるのだろうかということ。
先程の過去で、僕は成す術もなく帰ってきてしまった。
手元にあるのは、あのとき咄嗟に手にしたゴム手袋だけだ。
「仕事で忙しいから」という彼の望みは、何だったのか。
声をかけることしか出来なかった僕は、あのとき
無理矢理にでも引き止めるべきだったのか。
一つ。
このゴム手袋の使い道は、なんだろうかということ。
ゴム手袋の使い道は、作業の上で怪我や皮膚のかぶれや
荒れを防ぐためとしか浮かばない。
皮膚は守れるが、身を護るためのものでは無い。
これでいったい、怯える船員のために何をしろと言うのか。
一つ。
あの少女の亡霊はいったい、いつ、何処から
誰の姿を借りて現れたのだろうかということ。
-
実を言うと、3つ目の疑問が最も気になっていた。
フサギコさんやギコ、目の前にいる船員と違い、あの少女の
無邪気な笑顔は、狂気に満ちていて、明確な憎悪を感じるのだ。
あれが、父の立ち向かう『運命』なのだろうか?
(;^ω^)「…困った。」
まとまらない考えが、頭の中をぐるぐると回っている。
どうしていいかわからずに、暗い室内に視線を漂わせていた僕は
相変わらず聞こえる嘆きの声を拾う為に、耳を澄ませることにした。
-
(; Д )「あ…明かりを…」
( ^ω^)「!」
(; Д )「誰か…明かりを…」
(; Д )「…」
( ^ω^)「…」
彼は「明かり」が欲しかったのだ。
亡霊は光を嫌うから。
電気をつければ、亡霊は来ない…。
僕を助けた、あの声も言っていた。
彼も、そう思ったのだろう。
部屋を灯してくれる光さえあれば
彼の魂は怯えることをやめて、天に昇れるのだ。
-
…疑問が解決した僕は、震える彼に言った。
( ^ω^)「…大丈夫だお。」
( ^ω^)「ブーンが、ちょっくら行って
この部屋の電気を、直してくるお。」
彼は、答えなかった。
ただ、部屋を出る前に見た彼の肩は
僅かながら、震えが止まっているような気がした。
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―船首甲板二階・船首通路
-
( ^ω^)「…とは言ったものの」
(;^ω^)「どうしたらいいんだお?
僕、電機関係は自信が無いお…」
海図室を出て、僕は頭を抱えた。
亡霊に怯える気持ちは、痛いほどよくわかるから
彼を安心させたい一心で、ああ言ってしまったものの
僕は電気の故障を直せる業者ではない為、本当に
直せるかどうかの自信は、無かったのだ。
( ^ω^)「…とりあえず、配電盤の中だけでも
見てみるかお…」
呟いた僕は、配電盤の位置が何処にあるかを知るために
操舵室にあった設計図を開いてみた。
( ^ω^)「うん、わかりにくいお。」
詳細な間取りと細かい字は、お年寄りには優しくない仕様だ…。
そんなことを思いながら、現在地を辿っていく。
船首甲板の二階、船首通路。
操舵室の手前…ギコがいた場所だ。
ここにいると、不思議と落ち着くのだ。
彼がいた場所から、すぐ後ろにある階段を下ると
僕が最初に来た船長室に辿り着く。
-
( ^ω^)「…接続通路の先に、船具倉庫。
行ってみるかお。」
1階に降りた、船長室の反対側。
僕が行こうとして、亡霊に遮られた場所は
船具倉庫と船内二層を繋ぐ、接続通路になっているようだ。
更にそこから繋がっている船内二層は、乗客用の
娯楽施設や医務室のある場所。
父が「行ってはならない」と言っていた下層だ。
( ^ω^)「…この先、行くことになると思うお。」
迷いに迷った末の答えを、僕は口にすると
設計図を折り畳んで、階段で一階に降りていった。
明かりが点いているからか、外が昼の風景だからか
亡霊が出てくることは無かった。
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・接続通路
-
船長室の反対側。行きたくても行けなかった先。
真っ暗な室内に、全くの無音。
(;^ω^)「…配電盤、あったお。」
外界の音が遮断され、おそらく生存者もいないだろう
この船の中は、異様な静けさに包まれていた。
不安を煽る空気の中、きょろきょろと首を回した僕は
入ってすぐ左の壁にある配電盤の蓋を開けた。
( ^ω^)「…」
( ^ω^)「誰だよ、ヒューズ持ってったやつ。」
-
導体の役目を果たしているヒューズが無いのでは、
電気がつかないのも無理は無い。
内部の故障でなくて良かったと、僕は安堵の息を漏らしながら
ヒューズを無くした誰かに向けて悪態を吐く。
( ^ω^)「ヒューズのかわりになるものが必要だお。」
( ^ω^)「たとえば、針金とか…」
( ^ω^)!そ
( ^ω^)「あったお!」
思い出した。船長室の『針金』で頑丈に守られたタンス。
あの針金を、ヒューズ代わりに使えばいいのだ。
あんな雁字搦めの中を見るのは、気乗りしないが
何か使える物が入っているかもしれない。
そのときに余裕があれば、開けてみよう。
くるりと振り返った先の、船具倉庫へと入る前。
配電盤の中をよく見た僕は、明かりのつかない部屋が
『船具倉庫』と『海図室』であることを確認した。
船具倉庫。
(;^ω^)「…見つからないように、気をつけよう。」
僕は深呼吸してそう言うと、おそるおそるドアを開けて入った。
-
バタン。
(;^ω^)「…」
心臓の鼓動が速いのは、気のせいではない。
ごくりと唾を飲み込んだ僕は、船具倉庫の中を見渡した。
(;^ω^)(何も無い棚ばかり並んでるお…)
備品が山ほどあるはずの棚には、何も無かった。
それら全てが無くなるほど、窮地に陥っていたということだろうか。
入り口に立ちながら、ぱっと見た感じでは
棚の上にペンチは無さそうだ。
(;^ω^)「どこだお…どこにあるんだおっ…」
ペンチのある場所を、遠目でいいから見つけて
そこに駆け足で行こうと、考えていた矢先。
-
フフフッ…
⌒*(゚"∀'゚)*⌒
-
少女の亡霊が、行く手を遮った。
(;^ω^)「うぐっ…」
まずい。
また、あのときのように、弄ばれて…今度こそ死んでしまう。
僕はまだ、死にたくないし、死ぬわけにはいかない。
==⊂二二(;^ω^)二⊃==「うおおおおお!!!」
しぃさんに、指輪を渡そうとしたあのときのように、僕は走り出した。
少女が現れる直前に見つけた、西側の最奥にある、ペンチに。
-
==ガシッ(;^ω^)つу
(;^ω^)つу「目標確保!!」
(;^ω^)つу「作戦完了!!」
「走れぇええええ!!!」==у⊂二(^ω^;)二二⊃===
僕は、ペンチを持ったまま、全速力で外へ駆け出した。
-
バタン。
-
・
・
・
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船長室
-
(;^ω^)「はっ…ハァッ…フゥッ…」
(つ;^ω^)つ「ふおおおおっ…」
息切れし、へばり、なんとも情けない姿で
僕は船長室のソファに、身を預けていた。
明かりのついているこの部屋に
フサギコさんは未だ戻っていない。
彼は、何処へ行ってしまったのだろう。
彼もまた、未練を残したまま
この世を彷徨っている人なのだろうか。
-
…思考に耽り、一休みした僕は、ソファから起き上がって
左手にある仮眠室へと入っていった。
金属製のドアを開けて、入り口のすぐ手前に見えたタンス。
(;^ω^)「…」
針金で巻かれたそれは、いかにも
「これを開けてはならない」と言う空気を醸し出している。
それでも僕は、開けなければいけないのだが。
(;^ω^)つу「いくおっ…」
-
パキンパキン、パキン…
パサッ
-
フゥーッ…(;^ω^)=3
溜息を吐いて、僕は床に落ちた針金を拾った。
これをヒューズの代わりとしてつければ、あの船員は救われる…。
ペンチで針金を外すだけの作業が、大仕事のように思えたのは
見かけたときからずっと気になっていて、胸に広がっていた靄が
ここにきて漸く、晴れたからというのもある。
僕は、目の前の、針金を外したタンスを開けた。
-
( ^ω^)「…なんだお、これ?」
出てきたのは、一冊の本だけだった。
隅々まで見渡すが、空間がぽっかりと
その大きさを示しただけで、あとは何も収納されていない。
( ^ω^)「…彗星の本…」
手に取った本の題名は「彗星の本」。
流れ星の絵が表紙の、なんとも幻想的な雰囲気の本だ。
中を見ようと、その本を手に取った瞬間。
-
(´ ω `)「…待っていたよ…」
(´ ω `)「…さあ、こっちへ…」
-
重みのある声が、頭の中に響いたと同時に、空間が歪んだ。
既視感のある光景…そう、あの赤い表紙の本を触れたときと、同じだ。
(;^ω^)「…っ!?」
誰だ、何処から声をかけている?
僕が手に取る本には、人の意思でも封じ込められているのか?
-
問う時間すら与えられずに、僕は何処かへ飛ばされた――
-
・
・
・
・
・
-
私の視界に光は無い。
私の視界に闇は無い。
私の視界に映るのは、無だ。
その無の中で、私は待っている。
(´ ω `)
-
君はいま、運命の岐路に立っている。
救われぬ魂は君を、何処へ導こうというのか。
彼が選択した運命。君が選択する運命。
(´・ω・`)
全ての魂よ、私は待っている。
-
#過去世界 1937年 11月15日 ―天文台・1階
-
( ^ω-)「…」
(;^ω^)「飛ばされっぱなしだおね…」
目を開けた僕は、流されているような自分の状況に
ぼそりと嘆くと、辺りを見回した。
僕の意識で見えたのは、寂しげな荒野の中に
ぽつんと存在する、3階建ての天文台の外観だけ。
ここはその1階部分だろう。
大きなフロアに、小さな地球儀や天球儀が置かれていた。
まるで数多の星を研究する者が開いた、展示会のようだ。
( ^ω^)「…お、今度はちゃんと手元にあるお…」
赤い表紙の本…父の手記に触れたときとは違い
本はきちんと手に持っていた。
(;^ω^)「にしても、待っていたって…」
(;^ω^)「誰なんだお、あの声…」
聞き慣れた父の声ではなく、フサギコさんやギコでもない。
知り合いの誰かに、あんな声の人はいなかったと、僕は回想する。
『待っていたよ』
『さあ、こっちへ』
とても重みのある声は、僕がここに来ることを知っているように。
否、自分から呼び寄せたようにそう言って飛ばした。
(;^ω^)「…考えててもわからないお。
この本を読んでみるお。」
父のときもそうだったが、中に何か書かれているかもしれない。
そう考えた僕は、推測をやめて「彗星の本」に目を通した。
-
全ての魂たちよ
迷える魂たちよ
私は待っている
星の住む家で
-
運命に挑む者よ
運命に迷う者よ
私は待っている
星の住む家で
太陽の向こうで
-
太陽に彗星を掲げる者よ
私は待っている
私は待っている
-
( ^ω^)「…」
(;^ω^)「抽象的過ぎて訳が分からないお」
書かれていたのは、意味ありげな詩だった。
文学に詳しく無い僕には到底、裏が読めないのだが。
『待っている』という書き出しと
「待っていた」という言葉を合わせると
おそらく本の著者と声の主は、同一人物だろう。
(;^ω^)「こんなところに僕を飛ばして
どうしろと言うんだお…」
1階部分は、見惚れてしまうほどに綺麗な展示品が多数あるのだが
それ以外には特に何も無い。
真正面にあるエレベーターは、過去の世界に長くいた僕に
妙な安らぎと現実感を与えてくれた。
あの世界に無理にでも慣れようと、ぎこちなかった僕の体は
嘘のように軽やかな足取りで、エレベーターに向かった。
-
( ^ω^)「エレベーターに乗るの、久しぶりな気がするお…」
( ^ω^)「…」
( ^ω^)「…」
( ^ω^)「…あ」
( ^ω^)「ボタン押すの忘れてたお」
-
行き先の階を押すボタンは、何故か1階と3階のものしか無かった。
意図的に抜いているのか、設計上の問題なのか。
2つしかない行き先なら、もう押す階は決まっている。
僕は3階行きのボタンを押して、個室の壁に身を預けた。
あんなことが起きた後でも、エレベーター内の狭い個室は
不思議と苦にならず、むしろ気が休まった。
…3階に行くまでの間に僕は、気になった彗星の本の詩を
繰り返し、繰り返し、暗記するように読んでいた。
「全ての魂たち、迷える魂たち」
この『魂たちは、ニュー速VIP号の犠牲者のことか。
彼は、ニュー速VIP号のことを知っているのだろうか。
この『魂たち』のことを、どれくらい知っているのだろう。
「運命に挑む者、運命に迷う者」
その一文は、誰と誰を指し示しているのだろう。
父と、僕のことか?それとも…
( ^ω^)「…お。」
-
深く考え事をしている程、時間は早く過ぎていく。
気付けば正面のドアが開いていた。
3階に着いたのだ。
( ^ω^)「望遠鏡だお…」
1階からイメージしていた部屋の構成は
思いの外、とてもシンプルなものだった。
大きな望遠鏡を中心に、右には黒板、左には
不思議な模様のレリーフがあった。
(;^ω^)「汚い絵だお…」
黒板にチョークで描かれていたのは
『左下に鍵穴、男前な顔の太陽
太陽の方へ斜め矢印、流れ星』という
まるで子供の落書きのような絵だった。
…こんな表現で伝わるか、心配だが。
(;^ω^)「…」
( ^ω^)!
そうだ、彗星の本と照らし合わせてみればいいのだ。
閃いた僕は早速、彗星の本を捲った。
何も、全てを読まなくてもいい。
この絵と照らし合わせる部分だけ、抜き出せばわかるはずだ。
-
「星の住む家」は、天文台の1階部分と仮定しよう。
地球儀や天球儀、星座の並び等、星に関連するものが
多く展示されていたからだ。
「太陽の向こう」は、おそらく抜けていた2階部分だ。
次の記述からも見えるように、太陽に関係のあるものを
正しく使わないと、辿り着けない部屋だと思われる。
「太陽に彗星を掲げる者」は、3階部分。
彗星は「彗星の本」のことだと思えば
すぐに意味が飲み込めなくても、納得はする。
( ^ω^)「…太陽に、彗星を掲げる…」
答えは意外と、近くにあるものだ。
望遠鏡を挟んで、黒板の反対側。
金色に輝くレリーフの模様は『太陽』だ。
「太陽に彗星を掲げる者」
この詩の通りなら、僕は「彗星の本」を
太陽のレリーフに向けて掲げればいいのだ。
( ^ω^)
(;^ω^)「え、エレベーターの意味は…?」
…深く考えてはいけないような気がした。
きっと、それはツッコんではいけない問題だと思った。
-
反対側に回った僕が、彗星の本を
太陽のレリーフの前に差し出すと、先程同様に空間が歪んだ。
飛ばされて、飛ばされて。
僕は何処へ行くのだろう。
あの声の主と本の著者が同じなら
彼は何処まで知っているのだろう。
僕を呼んだのは、何故なのだろう。
不安と好奇心が綯い交ぜになった心は
景色が変わるまで、僕の中で複雑に渦巻いていた。
-
・
・
・
-
野犬の遠吠えが聞こえるような荒野。
中央に建つ、三階建ての寂れた天文台。
全盲の主に、存在する意味の無い天文台。
彗星は本の中、彼の行く末を見守っている。
太陽は彼を、主のもとへ導いた。
-
#過去世界 1937年 11月15日 ―天文台・2階
-
( ^ω^)「…」
様々な思いを抱えながら、辿り着いた先にいたのは。
(´・ω・`)「やあ、待っていたよ。」
( ^ω^)
(^ω^ )
( ^ω^)
(^ω^)
-
(´・ω・`) (^ω^;)
妙な形のオブジェと、棚で囲まれた部屋の中央に、彼はいた。
黒人なのか肌は浅黒く、黒い短髪に眼鏡をかけた彼は
紫の、聖職者が羽織るようなローブを身に纏い
真正面に置いた机で、来訪者の僕をじっと見据えていた。
こわい。正直に言ってこわい。
(´・ω・`)「…どうした、まあ、入りたまえ。」
(;^ω^)「入りたくないです」
奥へ進むように促されたが、僕は躊躇した。
机で両手を組む彼の声は、確かに
僕に呼びかけた声と同じものだ。
しかし…この男、怪しすぎるのだ。
その格好も口調も、胡散臭さが染み付いている。
-
(´・ω・`) (^ω^;)
(´・ω・`) (^ω^;)
(´・ω・`) (^ω^;)
おそるおそる、僕は彼に近付いた。
何をされるかわからない怪しさが、彼にはあった。
眼鏡の奥にある目は、僕の何を映しているのだろう…。
-
(´・ω・`)「どうだね、船の旅は。
なかなか楽しそうじゃないか。」
(;^ω^)「…」
(´・ω・`)「そう構えなくても良い。」
(´-ω-`)「私には少し変わった力があるだけだ。」
そう言った男は、眼鏡の中央…ブリッジと呼ばれる部分を
くいっと指で押さえてあげた。
(;^ω^)(…怪しいにも程があるお…)
この男は何故か、僕が過去に渡って
ニュー速VIP号に乗っていることを知っている。
それだけでも十分怪しいのに、少し変わった力があると
面と向かって言われては、身構えざるを得ないだろう。
-
この男は、いったい、何者なのか。
(´・ω・`)「…私は目が見えない。
代わりに作ったのが
君の持っている本だ。」
( ^ω^)「おっ…」
片手に持っていた本を指され、僕はそれに目を向けた。
「彗星の本」
目が見えない男にしては、いやに丁寧な字で記された詩。
タイプライターでも使ったのだろうか。
…目が見えないのなら、眼鏡をかけている意味は?
あの天文台は、誰の為のものなのか?
問いたいことは多々あれど、下手なことを言えない僕は
いかにも怪しいこの男を、じっと見据えることしか出来なかった。
-
(´・ω・`)「その本は世の中を巡り、
私はそこから
世界を見ることが出来る。」
(´・ω・`)「そう、ありとあらゆる世界をね…」
(´・ω・`)「クックックッ…」
(;^ω^)「……」
…怪しい、怪しすぎる。
あらゆる世界を、彗星の本から見られると言って
含み笑いを漏らすこの男。
まさかとは思うが、含み笑いを漏らす彼が
僕をここへ呼ぶために事を仕向けたのではないか?
ここまで怪しい言動をされては、逆に疑り深くなってしまう。
(;^ω^)「…あんた、いったい、誰なんだお…?」
(´・ω・`)「フフフ…呼ぶのに困ったなら…そう
私のことは『霊能者』とでも呼びたまえ。」
(;^ω^)「霊能者…」
霊能者と言うのは、本来…先程のように
この世の者ではない亡霊たちと、接触できる人間のことだ。
男もまた、あの亡霊たちの魂と会話
或いは何らかの干渉が出来るのだろうか?
-
謎が深まるばかりで、なかなか声をかけられない僕を
知ってか知らずか、霊能者は語りかける。
(´・ω・`)「…ところで、君は
面白いものを持っているね。」
(;^ω^)「…面白いもの?」
(´・ω・`)「君が見つけた球のことだ。
それを譲ってはもらえないかな?
(;^ω^)「!」
それは、
(;^ω^)つ0「こ、これのことかお?」
(´・ω・`)「そうだ。」
ギコ…ニュー速VIP号で、漸く眠りについた死者が
姿を消しながら置いていった、紫色の球体。
(;^ω^)「その前に、これが何だか教えてお。」
0⊂
(´・ω・`)「それは、アストラルピースと言う…
そうだね、簡単に言えば
ある種のエネルギー体だ」
(;^ω^)「アストラルピース…」
-
男が語る『ある種のエネルギー体』という見方で行けば
「アストラル」は「アストラル体」で「ピース」は欠片。
その名称の意味は「魂の欠片」だ。
ここで言う「アストラル体」は、1800年代に生きた
魔術師のエリファス・レヴィが発した
「アストラル・ライト」という考え方に基づいた存在だ。
人間の肉体に直接関係する物質体。
自然の「気」などが関係するエーテル体。
その上に重なる、意識・感情・精神発現の
媒体とも言えるのが「アストラル体」らしい。
その方面に詳しくない僕には、これ以上のことはわからないが
つまりこのアストラルピースの中には、消えていった死者の
強い意識が存在しているということだ。
-
(;^ω^)「…で、なんでそんなものを…?」
(´-ω-`)「私にはある目的がある。
そのためには
それが必要なのだ。」
これ以上は語らせない…指で眼鏡を上げる霊能者の
仕草からは、そんな空気が感じ取れた。
(´・ω・`)「もちろん、それなりのお礼はしよう
必ず役に立つはずだ。」
(´・ω・`)「どうだろう、承知してはもらえないかな?」
(;^ω^)「…」
この男に、アストラルピースを渡していいのだろうか?
人のあらゆる願い、想い…意識が宿る、魂の欠片。
球体は変わらず、透明な紫色に輝き続けている。
-
持っていたとしても、僕には使い道は無いが
僕はあくまで現代の人間だ。
信じずに渡さなかったとして、これは手元に
今後も残り続けるのだろうか?
救われ、眠りについた人達の生きた証。
現代に生きる僕が、持っていてもいいものなのだろうか。
…迷った末に、僕は
( ^ω^)つ0 ⊆(・ω・` )
霊能者に、アストラルピースを差し出した。
(´・ω・`)⊇0「フフフ…助かるよ。では、これを持って行き給え。」
物々交換というやつだ。
見返りを求めているみたいで複雑な気持ちだったが
それが条件なのだから仕方ない。
( ^ω^)つi 0⊆(・ω・` )
差し出された物を、僕は受け取った。
-
( ^ω^)つi「…」
( ^ω^)つi「マッチ棒?」
(´・ω・`)「見れば分かるだろう」
( ^ω^)つi「…」
( ^ω^)つi「アルファベット小文字?」
(´・ω・`)「ぶち殺すぞ」
( ^ω^)つi「…」
(;^ω^)つi「ろ…ロウソク…」
(´・ω・`)「火がついた本物をここへ
持って来てもいいのかね。」
(;^ω^)「すみませんでした。」
-
勿論、手に取ったものは、マッチ棒でもアルファベットでも
ロウソクでも無い、液体の入った透明な小瓶だ。
こほん、と咳払いをした霊能者が、問いに答えるように言った。
(´・ω・`)「これは私が作り上げた特別な薬だ。」
(´・ω・`)「微弱だが、人についた魔の力を
払い除ける力がある。」
(´・ω・`)「どうだい?今の君には必要なものだろう。
フフフフ…」
(;^ω^)「…」
含み笑いが恐ろしい。
霊能者の言葉を、信じても良いのだろうか?
手に持った小瓶をとりあえずはしまったが
本当に効き目があるのかもわからない薬など
どうしてもと言うときでなければ、飲みたくないものだ。
-
(´・ω・`)「その本を持っている限り
ここへはいつでも来られる。」
つまり、彗星の本を持っていて
太陽のレリーフがあるところならば
いつでもこの男の元に来ることが出来るということ。
それを僕に持たせたままでいるということは、暗に
「船を彷徨う魂を救った後、ここに
アストラルピースを持ってきてくれ」ということ。
(´・ω・`)「また来るといい。
待っているよ…」
(;^ω^)「…」
…どうやら僕は、霊能者に乗せられて
いつの間にか命じられる形となってしまったようだ。
この様子から察するに、彼の「頼み」は絶対だ。
安易に交換してしまったが、もう少し粘ればよかった。
-
(;^ω^)「…じゃあ、その…失礼しますお…」
用も無く長居するところではない。
そう思って、退室しようとした僕は、
(´・ω・`)「おっと、
大切なことを忘れていたよ。」
Ξ(;^ω^)「おっ…?」
なにか肝心なことを言い忘れたらしい霊能者の言葉に
反応した僕はくるりと振り向いた。
振り向いた僕に、霊能者は、手を差し出して言う。
(´・ω・`)つ「君にこれを渡しておこう」
(;^ω^)「なっ!!」
…差し出された掌にあったのは、宝石。
八角形の魔法陣を囲む環。
上に止まっている、白い二羽の鳥。
その中央に嵌め込まれた、菱形の、青い宝石。
僕はこれに、見覚えがある。
(;^ω^)「…『青い石』…」
-
サファイアのような青。
色素の濃い、どちらかというと青紫に近い石。
父の過去で見た、父が持っていた『青い石』と、同じものだ。
片側が割れているということは、もう片方があるはずだ。
そして、それを持っているのは…
(;^ω^)(やっぱり、ツンなのかお…?)
父の過去で見た少女、ツン=スカルチノフ。
彼女が持っているはずだ。
しかし、何故、この男が…?
(´・ω・`)「この石は君の運命を握るものだ…
大切にしたまえ…」
(´・ω・`)「フフフフ…」
(;^ω^)「ちょっと待てお!」
なんであんたg…」
…なんであんたが、これを持っているんだ!
-
僕の問いかけは、吸い寄せられた意識と共に、虚空に消えた――
-
・
・
・
・
・
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船長室
-
戻ってきてしまった。
解けない疑問をもやもやと、胸に抱えながら
今は何も解決できないというのは
なんとも気持ちが悪いものだ。
( ^ω^)「!」
タンスの前で、暫くぼぅっとしていた僕は
隅に散らばる針金の端切れで、思い出した。
( ^ω^)「ヒューズ!!」
配電盤の中にあったヒューズが、なくなっていたこと。
そのヒューズの代わりを探していたこと。
持っていた針金を取り出して、僕は
配電盤のある接続通路に駆け出した。
-
(;^ω^)「…でないおね。」
明かりがついていない接続通路には
不思議と亡霊が出なかった。
なにか魔除けでもされているのだろうか?
配電盤の蓋を開けて、針金を取り付けようとした僕の手は
あることに気がついて、ぴたりと止まった。
( ^ω^)「…」
(^ω^ )
Σ(^ω^)!
そうだ、感電だ!
ゴム手袋の使い道を、僕はここで漸く知った。
高圧電流の流れる場所に触れる際、素手では当然、感電する。
ゴム手袋を着用すれば、それを防ぐことが出来るのだ。
( ^ω^)
(;^ω^)「あぶない…自殺するところだったお…」
当然の知識が抜けていたことに、頭をかきながら
ゴム手袋を着用して、針金を取り付けた。
( ^ω^)「よし…っと。」
これで、電気がつくはずだ。
-
キイッ…
バタン
-
ためしに、船具倉庫に入った僕は、
フフフッ …⌒*(゚"∀'゚)*⌒
開けた瞬間、少女の亡霊に出くわしたが
急いで手前のスイッチをONにすると
ぱっと灯りが点いて、明るくなった。
⌒*(゚"∀'゚)*⌒
⌒*(つ;−⊂)*⌒
…しくしくと泣きながら、少女の亡霊は消えていく。
(;^ω^)「いくら人を襲うからって
女の子を泣かせるのは、なんかつらいお…」
そもそも、この少女は、何者なのだろうか。
航海前に船員を襲っていたということは
ニュー速VIP号に乗り合わせていた、犠牲者ではない。
いつ、何処で死んでしまったのか。
いったい、誰を憎み、何の未練を残して死んだのか。
( ^ω^)「…考えていても、しょうがないおね…」
考えることをやめた僕は、明かりの点いた
船具倉庫を後にして、海図室に向かった。
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・海図室
-
( Д^)「…光だ…」
( ^Д^)「これでもう、あいつは来ない…」
( ^ω^)「そうだお。あいつはもう来ないお。」
駆け回って、やっと明かりを点けられた海図室。
部屋の中央にある机で頭を抱えて、ひどく怯えていた船員は
明かりの点いた部屋に安心して、やっと顔を上げた。
そして。
( -Д-)
.。.:*・゜・.+.* Д-)
:*・+゚.。+゚:*・*゚.:。゚・*:.。.... ,
彼もまた、ギコと同じように
きらきらと結晶のように輝きながら
天に昇っていった。
( ^ω^)「…おやすみ、だお。」
-
消えていく彼もまた、アストラルピースを残していった。
声をかけながら、僕はそれを手にする。
霊能者はこれを手に入れて、なにをしようと言うのだろう。
僕には関係の無いことだ…わかってはいるのだが、気になってしまう。
( ^ω^)「…お?」
彼はアストラルピースの他にも、僕に置いていってくれた。
それは、ごく普通の、鉄製の鍵だった。
何処かへかけられるようについている
上部の穴には、赤い糸がついている。
模様の部分を良く見ると、小さく
『乗客用連絡通路』と書かれている。
(;^ω^)「…鍵閉めたって…」
…彼は海図室ではなく、連絡通路のドアに鍵を閉めたのだ。
おそらく、下にある船員の部屋から駆け上がって。
亡霊が、ここまでこないように。
( ω )「…もう…大丈夫だお…。」
( ω )「…」
彼の精神状態がどれほど不安定だったか
察した僕は、安らいだ彼に黙祷して
足早に部屋を退室した。
-
バタン。
-
…船首通路に出た僕は、久しぶりに見たような気のする
あの白い制服の後姿を見て、名を呼んだ。
( ^ω^)「フサギコさん…」
最初に出会って、僕を船長室へと避難させてくれた人だ。
ニュー速VIP号の船長だから、巡回に行っていたのかもしれない。
半透明の影が、振り向いて、揺れる。
彼もまた、救われずに彷徨う死者なのだ。
ミ,,゚Д゚彡「…お前だったのか。
ここの船員を、救ってくれたのは…」
( ^ω^)
( -ω-)
( ^ω^)
ミ,,゚Д゚彡「そうか…ありがとうな。」
「外に出るな」と、僕に言ってくれたフサギコさん。
船長室から外に出たことを、決して怒らずにいてくれる
豪華客船ニュー速VIP号の船長。
二人の船員の魂を見届けた僕に、礼を言った彼はいま
俯いて言葉を紡ごうとしている。
ミ,, Д 彡「…」
俯くフサギコさんの声に、僕は耳を澄ませた。
-
ミ,, Д 彡「みんな死んでしまった…」
ミ,, Д 彡「あの嵐の日に…」
( ω )「…」
予想はしていたことだった。
生存者は、いない。
この船にいるのは、死者の迷える魂だけ。
あの霊能者からの言葉でも、察することは出来る。
何より、あれから24年経った現在も、船だけでなく
乗り合わせた全員の行方がわかっていないのだ。
生存者など望めない。
ミ,, Д 彡「ここにいるのは影だ…」
ミ,, Д 彡「かつての自分の」
ミ,, Д 彡「姿を持ったままの影…」
ゆっくりと、船長は言葉を紡いでいく。
僕の他に…船員か、或いは自分に言い聞かせるような。
しっかりとした響きを持って。
-
ミ,, Д゚彡「私は待ち続けていた…」
ミ,,゚Д゚彡「救いが現れる日を…」
顔を上げたフサギコさんの眼差しは、真っ直ぐと
正面にある僕の顔を見つめている。
そして、フサギコさんは
船長の証である帽子を取って
僕に向かって、深々と頭を下げた。
( ^ω^)「フサギコさん…」
船長である、彼の未練は…
ニュー速VIP号に乗っていた、全ての人を救うこと。
迷える影となって彷徨う彼らの魂を、天に昇らせること。
ミ,, Д 彡「…頼む、この船を…」
.。.:*・゜・.+.*,,-Д-彡「救ってくれ…」
:*・+゚.。+゚:*・*゚.:。゚・*:.。.... ,
変わらない潮騒の音。
最初に出会った時と同じ、夕暮れ時の風景で。
深々と頭を下げながら、フサギコさんは
願いを託して、静かに消えていった。
-
===MEMO===
-
―ロマネスク=スギウラ ( ^ω^)
過去世界 1879年生まれ 20歳 男
・過去で見た僕の父。
・若い頃は正義感の強い
温厚な青年だったようだ。
・青い石を託した父はいったい
何処に行ってしまったのだろうか…?
―アラマキ=スカルチノフ /,' 3
過去世界 1831年生まれ 68歳 男
・近寄り難い雰囲気の不気味な老人。
孫娘を盾に、父を脅迫した。
・本の記述によると、父にとっては
両親を殺した仇のようだ。
・ニュー速VIP号と共に行方不明のまま。
赤い石は彼の手にあるようだが…?
―ツン=スカルチノフ *(‘‘)*
過去世界 1894年生まれ 5歳 女
・アラマキ=スカルチノフの孫娘。
本を両手に抱えている。
・祖父であるはずのアラマキをひどく恐れ
重傷を負った父の身を案じていた。
・父から青い石を託されたが、行方不明に。
彼女は無事に生きているのだろうか?
-
―フサギコ ミ,,゚Д゚彡
過去世界 1868年生まれ 享年45歳 男
・船長として、最期まで船の行く末を案じていた。
年長者らしく誰よりも先に、己の死を受け入れていた。
・僕と言う生者の存在に気付いた彼は
「外に出てはならない」と
生者を憎む亡霊の手から、匿ってくれた。
・ニュー速VIP号の全てを僕に託して
彼は消えていった…。
―ギコ (,,゚Д゚)
過去世界 1886年生まれ 享年27歳 男
・ニュー速VIP号の船員。
恋人を残して帰れぬ船旅に出たことを
後悔していた。
・恋人への一途な想いは、20年以上の月日を
経て、尚も消えずに彷徨い続けていた。
・彼女の指輪を見た彼は、恋人を思いながら
自分の死を受け入れ、静かに消えていった…。
-
―しぃ (*゚ー゚)
過去世界 ??年生まれ ??歳 女
・ギコの恋人。重い病を患っていた。
・二人にとって大切な婚約指輪を落としてしまい
同じ場所で待っていたギコと会えずにいたのだ。
・婚約指輪を見つけたものの、ギコとは会えなかった。
涙を拭い、指輪を僕に託した彼女は、最後の瞬間まで
愛らしくも儚い微笑を浮かべていた…。
―プギャー ( ^Д^)
過去世界 1882年生まれ 享年31歳 男
・ニュー速VIP号の船員。
明かりのつかない部屋で、ひどく怯えていた。
・出航直前、夜中の波止場で作業していた
彼の荷物から、少女の亡霊が…
・乗客用連絡通路の鍵を閉めて、海図室で怯えていた彼は
明かりが戻ってきたことに安心して、消えていった。
その顔は、とても穏やかなものだった。
-
―霊能者 (´・ω・`)
過去世界 ??年生まれ ??歳 ??
・「彗星の本」で僕を天文台へ導いた
とても怪しい雰囲気の男。
・彷徨う魂が残す「アストラルピース」を
ある目的の為に必要としているらしい。
彼に渡すと、魔除けの聖水を渡してくれた。
・父がツンに託した、青い石と思しきもう一つの欠片を
何故か彼は持っていて、僕に渡した。
彼は何者で、いったい何の関係があるのだろう…?
…
-
本編の投下は今日はここまでです。
読んでくださった方、ありがとうございます。
-
あ、あと。
大手メーカーパン大戦争を支援、乙してくださった方
駄目な始まり方で申し訳なかった。反省している。
そちらも読んでくださってありがとうございました。
こっち書くのに疲れたら書きます。
-
乙!
-
100レス以上読んだら腹へった、木村屋のあんパン食べたい
-
(´・ω・`)「やあ、待っていたよ。」
(´・ω・`)「まだ書き溜め中で投下はしないと
口下手な作者が私に伝えるよう、言っていたよ。」
(´・ω・`)「…はっきり言おう。
作者はながら投下できないタイプだ。」
(´・ω・`)「ながら投下しようものなら
オールナイトフィーバーで翌日、死んでしまう。」
(´・ω・`)「そんな作者が私を出したのは何故か?」
(´-ω-`)「前も言ったとおり
ちょっとした解説や補足をしていきたいのでね。」
(´・ω・`)「私も話に出てきたことだ。
ネタバレしない程度に
込み入った話もしていこうじゃないか。」
(´・ω・`)「フフフフフ…」
-
(´・ω・`)「その前に、長文を読んでくれた>>406
どうもありがとう。」
(´・ω・`)「君が食べたいと言っていた
かのキムラヤのあんぱんだが」
(´・ω・`)「どこかの世界で、私と同じ顔をした誰かが」
(´゚ω゚`)『誰が貴様などにあんぱんを恵むかっ!!
あんぱんはオレサマのものだ!フヘヘヘヘヘッ』
(´・ω・`)「と言って発狂していたので」
(´・ω・`)う「彼が明日にとちぎって残したものを
盗って…取ってきたよ。」
(´・ω・`)う「半分のもので良ければ食べたまえ。
なに、遠慮することはない。
作者も、あんぱんはあまり好きでは無いらしいのでね…」
-
(´・ω・`)「おっと、本題を忘れるところだった。」
(´・ω・`)「>>293が指摘したとおり、実は、この作品は
原作再現を目指しているために
割りとそのままな部分がある。」
(´・ω・`)「たとえば、手記や本の内容は、固有名詞以外
全て原文をそのまま抜きだしている。」
(´・ω・`)「これを読んでしまえば、原作での
道具の使い方や情報がわかってしまうという
なんとも厄介な事態を招いているのだよ。」
(´-ω-`)「まあ、それが作者の狙いなのだが…」
(´・ω・`)「( ^ω^)の行動も、理不尽すぎる難易度を
大幅に下げてしまう効果を持っている。」
(´・ω・`)「これからやろうとしている人は
くれぐれも気をつけることだ。」
-
(´・ω・`)「ただし、設定資料から抜き出したものも多々ある。」
(´・ω・`)「( ^ω^)の、幼い頃の
『新聞の切り抜きを見た』という行動」
(´・ω・`)「>>139の新聞記事や各登場人物の年齢」
(´・ω・`)「これは
ザ・プレイステーションブック編集部の
「エコーナイト パーフェクトガイド」より
作者が抜粋・加筆修正している。」
(´・ω・`)「作者が感情的になりすぎるせいで
文章が長々としているが」
(´・ω・`)「原作はもっと淡々と進んでいく為に
ストーリーの重要な部分がわからなかったりするという
もったいないこともあるのでね」
(´・ω・`)「あえて設定資料を参考にしているようだ。」
-
(´・ω・`)「また、原作のメニュー画面で「MEMO」として開ける
登場人物の概要をメモ書きしてある『革の手帳』」
(´・ω・`)「これには、名前と性別こそ載っていれど
年齢は書いていなかったのでね。」
(´・ω・`)「しかも舞台がアメリカなので
人物名もアルファベット表記なのだよ。」
(´・ω・`)「冒頭にしか出てこない
あの腹の立つ『警察官』や、過去で
すぐに殺されてしまう車掌」
(´・ω・`)「過去にしか出ない(,,゚Д゚)の恋人(*゚ー゚)など
彼らも、年齢こそ表記されていないものの
ちゃんとフルネームで名前があったりする。」
(´・ω・`)「まだ物語は序盤のほうだ。
これからも多くの人物が出てくるのだが
彼ら全てに名前がついている。」
(´・ω・`)「どうだい?設定が細かくて面白いだろう?」
(´・ω・`)「フフフフ…」
-
(´・ω・`)「では、今日はこれで失礼するとしよう。」
(´・ω・`)「他にも多くの補足があるのだが
ネタ切れしてしまってはいけないのでね。」
(´・ω・`)「また来るといい。待っているよ…」
-
おつ
-
おつおつ、楽しみだ
-
予告どおり、22:42に投下します。
本当に今更ですが、地の文が多いので
目が疲れやすいです。どうかお気をつけて。
-
おまえ過去に長編を一話で完結させたやつとは思えないな
短期集中なら目指せ悪の華、嘘をついていただな
-
・
・
・
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・接続通路
-
…明かりの無い接続通路は、静寂に満ちていて
暗がりでも、亡霊の出ない不思議な場所だ。
鉄製の鍵を、掌で転がしながら、僕は手すりに凭れかかった。
振り向いて、手すりから見下ろしたドアの向こう。
乗客用の連絡通路。
亡霊に怯える船員が、鍵を閉めた
招待客の部屋に繋がる場所。
鍵のかかったこのドアに、乗客は深く絶望したことだろう。
-
『船員は我々を見捨てた』
そう思って、嘆いていたかもしれない。
あの船員の怯えは…亡霊だけのものではなかったのだ。
乗客を閉め出してしまったという、罪悪感もあったのだ。
『下に行ってはいけない』
重く耳に残る、父の声。
けれども、もう僕は迷っていない。
フサギコさん…この船の船長に、全てを託されたのだ。
父もわかってくれるだろう。
-
( ^ω^)「父ちゃん…
僕は、あなたの後を追いますお。」
姿の見えない父に言うと、僕は手すりから離れて
下に続く階段を降りた。
-
ガチャ
バタン。
-
・
・
・
-
#過去世界 1913年 ??月 ??日 ―ニュー速VIP号・乗客用連絡通路
-
階段を降りた先のドアを、鉄製の鍵で開くと
赤い絨毯が敷かれた、乗客用の連絡通路に出てきた。
(*^ω^)「おぉ…なんか、客船って感じだお。」
目に映ったのは、赤と茶系でまとめた、上品な色合いの空間。
客船と言うだけあって、落ち着いた明るさだ。
…次は旅行で、こういう場所に来たいものだ。
思いながら僕は、正面と左側…二手に分かれている道の
どちらに進もうか、設計図と見比べつつ思索した。
-
左手にちらりと見えたレリーフ。
あれに彗星の本を掲げれば、また霊能者の元に行ける筈だ。
…アストラルピースを渡さなければならないとはいえ
あまり気乗りはしないから、それ以外の用が無いことを祈る。
その手前には扉がある。
設計図と照らし合わせてみたそこは『ゲスト用通路』だ。
ドアを開けた先には、一直線の通路があるようだ。
設計図には、そこが『ゲストルーム』だと書いてあった。
ゲスト…招待客の為に用意された、特別待遇の部屋だろうか。
ドアを過ぎて進んだ突き当たり、レリーフ横には、二層に繋がるドアがある。
二層に行くには…もう少し先でもいい。
もう一方、僕の正面の通路は、真正面に進めば『大食堂前通路』へ
その奥、曲がって階段を降りれば、二層の『左舷連絡通路』に出られるようだ。
-
( ^ω^)「食堂…」
乗客一同が会食する食堂。
議論の場としても使われるだろうそこには、多くの人が
顔を揃えて、待っているかもしれない。
( ^ω^)「情報収集にはちょうどいい場所だお。」
二層には後で行くとしても、この船を…乗客全ての魂を救うのだとしたら
知っておかなければならないことは、幾つもあるだろう。
ゲストルームには、後で行こう。
そう思った僕は、足を正面の通路へ進めた。
-
(‘_L’)
( ^ω^)
(‘_L’)
(;^ω^)「…」
…気まずい沈黙が流れる『大食堂前通路』で、僕は
目の前の、いかにもと言った態度の男と
じっと睨めっこをしていた。
整った髪形、上質なスーツを着こなして
両手を鳩尾辺りで組んでいる、初老の男性。
彼の物腰は穏やかだが、一歩も譲らない。
その姿勢を見た僕は、直感した。
(;^ω^)(スカルチノフ家の執事…)
-
ここに来た瞬間の、顔は穏やかだが、僕を見るその視線。
長年、一流の財閥に仕えていたという、仕事に対する
気高い精神と誇りが、彼の態度には表れていた。
(‘_L’)「あの…お客様、失礼ですが、どちらへおいでですか。」
それも、厄介なことに…生存者のいないこの船では
当然のことなのだが…彼もまた、半透明の影となった死者なのだ。
(;^ω^)「あ、いえ、あの…しょ、食堂へ…」
(‘_L’)「あぁ…お客様。
本日は正式なパーティーですので…
そのようなお召し物では、困ります。」
(‘_L’)「アラマキ様は特に
礼儀に厳しい方です…」
…そう、招待されたわけでもない僕の格好は
それはもう、場違いにも程がある。
こんなにかたb…仕事熱心そうな執事の前では
到底、誤魔化せないものだろう。
(;^ω^)「そこを、なんとか!」
(‘_L’)「申し訳ありません。
どうか…お引き取りください。」
…はい、そう返されることはわかってましたよ。
心の底で返答した僕は、軽く頭を下げて
とぼとぼと、元来た道に戻ったのだった…。
-
ゲスト用通路に繋がるドアまで戻ってきた僕は、頭を掻いた。
実はあの後、執事の隙をついて
こっそりと横をすり抜けてみようとしたのだが
(;‘_L’)「いけません!
アラマキ様にきつく言われております。」
と、慌てて追い返されてしまったのだ。
それも、尋常じゃない慌てぶりで、僕がしぶしぶ背を向けて帰った後
(; _L )「あぁ…アラマキ様…」
と、何か嘆くように、主の名を呼んでいたのだ。
…あの奥には、絶対に何かある。
そう思わせるのには、十二分な言動だ。
-
(;^ω^)「…凄く気になるけど、やっぱりだめかお。」
しかし入るにはやはり、それなりの格好をして
それなりに礼儀を正さなければならないのだ。
とはいえ、今の僕の手元には、洒落た着替えなどない。
それでは僕は、永遠に食堂へ行けないではないか…。
( ^ω^)「招待客…」
( ^ω^)!そ
( ^ω^)「そうだお!
招待客の服を借りればいいんだお!」
…死者の服を借りるなんてと、思うかもしれないが
その死者を救う為の方法に、文句など言っていられない。
早速、僕は『ゲスト用通路』への扉を開けた。
-
ガチャ
バタン。
-
#過去世界 1913年 ??月 ??日 ―ニュー速VIP号・ゲスト用通路
-
…乗客用連絡通路と同様に、赤い絨毯が敷かれた、一直線の通路。
左右には六つの部屋に繋がる扉、真っ直ぐ進んだ奥には
『特別ゲストルーム』に繋がる、両開きの扉があった。
(;^ω^)「…お?」
何処の部屋から入るかを考える前に、僕は
通路に座る一人の影に目を向けた。
_
( ∀ )
|-(|
半透明の影…姿を見るに男だろう。
膝を曲げて足を開き、だらしない格好で
壁に背を預ける彼の横には、空のグラスが転がっていた。
(;^ω^)(酔っ払いかお…)
招待客なのに…と思った僕に気付いたのか、男が声をかけてきた。
-
_
( ∀ )「誰だよ、あんた…」
(;^ω^)「…お、僕は、ブーンですお…
あなたは…」
_
( ∀ )「ブーンか…聞いたことねえ名前だが…まあいいや…」
_
( ゚∀゚)「俺は、ジョルジュ。ジョルジュ=ナガオカだ。」
そう言って、僕に向けられた男…ジョルジュの顔は
意外と端整だった。よく見ると、彼はベレー帽を被っている。
画家なのだろうか。
( ^ω^)「ジョルジュは、画家なのかお?」
_
( ゚∀゚)「…しらねえのか?俺のこと。」
(;^ω^)「お、ごめんだお…
僕…まだ新参者なんだお。」
_
( ゚∀゚)「あぁん、ここに招待されといて知らないって…
…まあいいや。
一応、説明しといてやるよ…」
訝しんだ彼に、何か言われるかと思ったらそうでもなく
彼は律儀に、一から説明してくれた。
-
…ベレー帽からちらりと見える、きりっとした眉毛。
女性にもてそうなのに、もったいないなぁと、僕は思ったのだが
その発想はあながち、間違ってはいなかった。
実は彼、ただの画家ではなかったのだ。
その正体は、ツン=スカルチノフの、母方の叔父…
つまり、ツンの母親の弟らしい。
(;^ω^)「なんちゅうもったいない。」
_
( ゚∀゚)「いいんだってーの。みんなそう言うけど。」
僕の言葉を否定する、無気力で、投げやりな声。
けれど言葉からは、自分を卑下する様子も
他人に対する悪意も、何も感じられない。
元々なのか、酔っているからなのか
彼を知らない僕にはわからなかったが
そんな彼には、画家特有の、嫌味な雰囲気はなかった。
…ジョルジュを見ていた僕は、なんとなく…父を思い出した。
父はこの船の、何処にいるのだろう。
亡霊の潜むこの船内に、無事でいるだろうか。
-
( ^ω^)「…ジョルジュは、どうして画家になったんだお?」
_
( ゚∀゚)「俺かい? 俺は…ダイオードに憧れて、画家になったのさ…」
_
( ∀ )「今は、もういない、あいつに…」
( ^ω^)「お…」
語りだした彼の声は、途端に沈んでいく。
しゃっくりを上げた彼は、最初に話しかけたときと
同じようにまた俯いた。
…どうやら、彼の未練はここにあるらしい。
話に乗っていた僕の、出番のようだ。
_
( ∀ )「みんな、死んだ…
きっと、ダイオードの野郎も…」
( ^ω^)「…」
聞こう、死者の声を。
-
_
( ∀ )「あいつ…
奥の部屋に入ってから…
急におかしくなって」
_
( ∀ )「三人で閉じ込めたんだ…
戸棚の向こうの…」
_
( ∀ )「俺の」
_
( ∀ )「親友だった…」
( ω )「……」
ゆっくりと、ゆっくりと紡がれる彼の声は
先程の、無気力で投げやりなものとは違う
深い悲しみに満ちた、今にも泣きそうな声だった。
いや、彼は…泣いているのだ、ずっと前から。
宙を見上げる目に、涙は溜まっていない。
20年以上の月日で、もう、渇いてしまったのだと思う。
彼もまた、未練を残して
死を受け入れられない、救われぬ魂なのだ。
-
_
( ∀ )「ダイオード…」
不運にも、地獄に招待されてしまったゲスト
ジョルジュ=ナガオカの、未練。
_
( ∀ )「また、お前の酒が
飲みたい…」
涙に震える声は、胸を締め付けるような
悲しい呟きを、ぽつりと漏らした。
-
( ω )「…」
彼の親友…ダイオードという人はおそらく
あの少女の亡霊を見てしまったのだろう。
海図室にいた、あの船員のように。
船長の言葉で証明された、ひとつの事実。
起きてしまった、局地的な嵐。
その嵐の中でさらに、人に危害を加える少女の亡霊を
見たというのだ、取り乱しても不思議じゃない。
僕だって、最初は気が狂いそうだった。
( ω )「君達は何も悪いこと、してないお…」
-
「三人で閉じ込めた」と、ジョルジュは言った。
あとの二人は…このゲストルームの、どこかにいるだろう。
親友を閉じ込めて、船員に閉じ込められた彼ら。
罪悪感と絶望に塗れて、酒を呷るジョルジュ。
( ω )「ジョルジュ…」
( ω^)
顔を上げた僕は、項垂れるジョルジュの傍らにしゃがんだ。
( ^ω^)つ-(|
転がるカクテルグラスを、割れないように、そっと掴む。
(^ω^ )「…ジョルジュ、ちょっと待っててお。
すぐに、戻ってくるから。」
項垂れる彼に約束して、僕は、手前のドアを開けた。
-
ちょっと短めですが、今日は投下終了します。
>>416
ありがとうございます
あれは長すぎて飽和した
正直、ログ速に残ってるの恥ずかしい
まあ、書くのが趣味なんで
マイペースに投下するよ
-
作者の人に無理強いするつもりはないが
しばらく( ^ω^)←こいつから離れてただろうから
読者の立場で読んでもらいたい
( ^ω^)悪の華を咲かせるようですと( ^ω^)嘘を憑いていたようです
作品の質もさることながら投下ペースが凄まじい
今の投下ペース見てたらこの二作思いだしたよ
-
>>443
時間泥棒め…明日も仕事なのにどうしてくれる
いや、ありがとうございます
「悪の華〜」は、ちょくちょく覗いてた芸で前に見たけど
「嘘を憑いていたようです」は初めて知って、寝ないで読み耽ってた
…そしたらこんな時間じゃないか、どうしてくれる時間泥棒め
あ、投下ペースはあまり気にしてなかったんだが
ログの日付みたら、どちらも凄い量を一日で書いてたよなぁ…
('A`)<オレニハ、デキナイヨ...カーチャン...
ありがとうございます、こんなに楽しい時間を過ごせるとは思わなかったです
-
おつー
-
自分のペースでいいじゃない
-
レスありがとうございます。
予告どおり、0:37に投下します。
-
・
・
・
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・喫煙室
-
ジョルジュのカクテルグラスを手に、ドアを開けた僕は
傍にあるスイッチをぱちんと押して、部屋の電気を点けた。
ここは電気が通っているようで、今度はちゃんと光が灯った。
(;^ω^)「おお…」
…僕がドアを開けたこの部屋は、設計図によると『喫煙室』のようだが
僕の想像していた『喫煙室』とは、およそ180度も趣が違った。
正面には、新品かと錯覚するような、艶のある美しいグランドピアノ。
来客用の上質なテーブルと椅子が、点々と置かれている他、左手には
何を描いたのだろうか、絵画が幾つか壁にかけられていた。
右手には何故か、銀色に輝くバーカウンターが。
そう、そこは『喫煙室』というよりも
上品な『バー』に近い雰囲気だった。
(((;^ω^))「…金持ちってこわいお…」
よくもこれで『喫煙室』などと名付けたものだ。
こんな、喫煙することが憚られるような、上品な喫煙室など他にあるものか。
庶民と富裕層の違いを顕著に感じ、思わず身震いする。
僕は、左手の壁にかかる絵画に歩み寄った。
-
左手、入り口手前から、右手の喫煙スペースの壁に
かけられている四点の絵は、油彩画だった。
通路で出会ったジョルジュと、彼が憧れた、親友のものだろうか。
ぱっと見た感じでは、どうやら順番があるようだ。
順を追ってみようか。
入り口手前の、酒瓶が描かれた絵。
僕はジョルジュを連想させたが、隅の方に達筆な字で書かれた
サインの名前は、知らない画家のものだった。
角の照明を挟んで二番目…最初に見えたものだ。
二匹の蛇を退治しようと、斧を構えた大柄な男が
片手で一匹の蛇を握り締め、その傍らの、もう一匹の蛇が
男に襲いかかろうとしている…という、なんとも勇猛な図を描いた絵。
その隅に描かれたサイン…僕は、その名前に注目した。
-
( ^ω^)「…ダイオード=スズキ…
ジョルジュの、親友と言ってた人かもしれないお。」
ジョルジュが、画家を目指すきっかけとなった…と、語った人だ。
他にも、彼の絵があるかもしれない…そう思った僕は、次の絵を見ようと
絵に沿って、壁伝いに進んだ。
三番目の絵は、大蛇に襲われた二人の戦士の絵だ。
期待して見たサインは、違う者の名前だったが、蛇を襲う男とは反対に
蛇に襲われる戦士という図は、もしかしたら画家が、ダイオードに
対抗して描いたのかもしれない。
四番目の絵は、二刀を構えた戦士が、巨大な蛇に立ち向かっている絵。
サインを見たが、こちらも知らない名前の画家だ。
…油彩画の展示は、ここで終わっていた。
ここまで見て、ジョルジュの絵が無いところをみると
彼はまだ画家の「卵」で、故に彼の絵は、この中にはまだ
入れなかったのかもしれない。
何せ一流財閥の豪華客船だ、描かせる画家もまた
一流の腕を持つ者を揃えているのだろう。
その辺にいる名の売れない画家…僕の父も含むが…は
この中から除外されてもおかしくはない。
-
彼らの描く絵は、普通の絵とは違うのだ。
特に、ダイオード=スズキの絵…彼の絵は、一目見た瞬間
惹きつけられるような何かがあった。
「彼の絵は生きている、今にも動き出しそうだ」
そう思ったのだ。
( ^ω^)「…でも、趣味悪いお…」
絵から視線を外した僕は、描かれる絵のどれもが
暗い色でまとめられていることに、嘆息した。
この四つの絵、いずれも蛇が登場していることから、テーマは「蛇」だ。
しかし、憩いの場に飾る絵としては、どうも気味の悪い題目ではないか。
彼らにとっては、そうでもなく、普通の「絵」なのだろうか。
父は画家だが、芸術の道に精通しているわけではない僕には
あまりよくわからない感性だ。
-
( ^ω^)「で、問題は…ここだお。」
右手にある、バーカウンターに視線を向けて、僕は呟いた。
銀色のカウンターは、グランドピアノ同様、新品同然に綺麗だ。
灯した明かりで映された、僕の顔が映る。
生憎、バーテンダー以外は入れないように、鍵がかかっている。
普通には通れなさそうだが…
( ^ω^)「しゃがめば、入れそうだお。」
屈んでいけば入れそうなスペースがある。
僕はそこからしゃがんで進み、カウンターの中に入った。
( ^ω^)「…」
立ち上がると、一気に視界が広がった。
部屋の奥まで見渡せる、特等席だ。
( ^ω^)「…バー…カウンター…」
( ^ω^)
(*^ω^)
(*^ω^)「入ったからには…」
-
・
-
やあ( ^ω^)
ようこそ、バーボンハウスへ。
このカクテルはサービスだから
まず飲んで落ち着いて欲しい。
うん、「また」なんだ。済まない。
仏の顔もって言うしね、謝って
許してもらおうとも思っていない。
でも、このスレタイを見たとき
君は、きっと言葉では言い表せない
「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とした世の中で、そういう気持ちを
忘れないで欲しい
そう思って、このスレを立てたんだ。
( ^ω^)「じゃあ、注文を聞こうか。」
-
(*^ω^)「言ってみたかったんだお。」
( ^ω^)「…」
( ´ω`)
( ´ω`)「…ちょっと虚しいお…」
何をしているんだろう、僕は。
-
…誰もいない空間に響く、僕の声。
恥ずかしくなった僕は、咳払いをして、改めて周辺を調べた。
( ^ω^)「おっ…?」
カウンターの下、引き出しの部分の戸が開いている。
そこには、二本の酒瓶が専用の台に、逆さまに設置されていた。
台の下部にはレバーがあり、下げると酒が出るようになっている。
…なるほど、ダイオード=スズキは、ここでカクテルを作っていたのか。
(;^ω^)「…でも、わからないお…」
カクテルというのは、割り方一つで味が変わる。
「ダイオードの酒が飲みたい」というジョルジュに酒を作るには
ダイオード=スズキのカクテルレシピが必要だ。
-
二本の瓶には、それぞれ人と斧が描かれていて、壁にかけてある絵が
関係しているのだと予想はつくが、比率が分からないのでは作りようが無い。
( ^ω^)「他にも部屋があったから、そっちを調べて出直すかお。」
頷いて、出ようとした僕は…ふと、もう一つ
奥にも引き出しがあることに気がついた。
開けてみると、何か小さな紙切れが一枚、ぽつんと寂しく置かれている。
…手にとって見た僕は、思わず、紙切れ片手に設計図を見直した。
-
( ゚ω゚)「カ…カジノ!?」
おかしいと思ったのだ。
「無料チップ引換券」などというものが置いてあったこと。
引換券に「ニュー速VIP号・招待客用」と書いてあったこと。
船内二層、シアター前通路中央から入れる『遊戯室』
設計図に『遊戯室』などと書かれているが、こんなものが
出てきた以上、そこは賭博を楽しむ、いわゆる『カジノ』だ。
…施設の有無も場所も判明した、僕の答えは決まっている。
( ゚ω゚)「行くお!!」
行くに決まっているじゃないか。
魅惑のルーレットやスロット、トランプ…ではなく
数多の、救われぬギャンブラーの魂だっているかもしれない。
( ^ω^)「…まあ、ここの人達救ってからだから
時間はかかると思うお。」
さすがは豪華客船、つられてしまいそうな誘惑もあった。
目的を忘れてしまいそうになる前に、自分を抑制する。
他に何も無いことを確認して、退室した。
-
ガチャ
バタン。
-
・
・
・
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・ゲストルームA
-
向かい側の『図書室』には、ありそうで何も無かったので
僕はそのまま壁伝いに歩き、ゲストルーム…招待客用の部屋の
一つ、Aに繋がるドアを開けた。
( ω )「…」
少女の亡霊が出る前に、スイッチを上にして、明かりを灯した僕は
その部屋の中央で、暫く呆然と立ち尽くしていた。
散乱する画材…収納の為の壊れた鞄、キャンバス…を見るに
ここは画家ダイオード=スズキの部屋だろう。
一心不乱に何かを描こうとしていた…それは伝わるのだが
画材の散らばり方が普通ではない。
やはり、彼は見てしまったのか。この船を呪う亡霊を。
( ω )
( ^ω^)「…お…?」
黙祷し、顔を上げた僕は、机に何か文字が書かれているのを見つけた。
所々かすれていてよく読めないが…
( ω )「!」
…指でなぞっていくうちに、そのメッセージの
拾い集めた断片だけでも読んだ僕は、この男の精神状態が
どれほど不安定だったのか…実際に経験したから
痛いくらいによくわかった。
-
“この船は…駄目だ…
みんな…化け物に…殺される…
ジョルジュとの…はできない…
…俺の絵の…意味に…
…あいつももう…
…どうやら…あの酒は…
…向こうで… ダイオード=スズキ”
-
…欠けている部分を、僕には埋めることが出来ない。
しかし、その文章の意味は、なんとなくわかる。
これは、ダイオード=スズキの遺書なのだ。
ジョルジュと、酒を飲む約束でもしていたのかもしれない。
親友と言って死んでも後悔しているくらいだ、仲は良かったのだろう。
画家を目指すという約束を、一緒に絵を描く約束を
…していたのかもしれない。
( ^ω^)「…やっぱり、あの絵でいいんですおね?
ダイオードさん…」
いない部屋の主に向かって、返って来ない問いを
独り言ると、僕は再び喫煙室に向かった。
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・喫煙室
-
バーカウンターの中。
開いている引き出しに、設置されている二本の瓶。
しゃがんで、僕はグラスを差し出した。
ダイオードの描いた、斧を持った男が、二匹の蛇と対峙している絵。
あれそのものが、カクテルレシピだったのだ。
まず、斧が描かれた瓶の酒を、1。
レバーを引くと、キュッと良い音を鳴らして
グラスに酒が注がれた。
次に、人が描かれた瓶の酒を、1。
登場人物は一人。
武器は一本の斧だから、これでいいのだろう。
後の蛇は…先程、来たときには気付かなかった右手の
戸が閉ざされた引き出しにあった。
蛇は二匹だから、2。
その隣に剣が描かれた瓶があったが
絵には関係ないものなので、これは注がないでおく。
( ^ω^)「…出来たお。」
香りと色からして、度数の強そうな酒だった。
ジョルジュはよく平気で飲めたものだ…。
好みは置いておき、これでジョルジュの飲みたかった
「友の酒」が出来たのだ。
今日の一杯は、涙に濡れて、少し違うかもしれないが
彼にはこれを飲んで…友を偲び、天に昇って欲しい。
酒の注がれたグラスを片手に、僕は零れないように気をつけて外に出た。
-
酒を飲ませる前に、僕はジョルジュに、少しだけ
話を聞かせてもらうことにした。
…何より、これはもう呑めないと思っていた、友の酒だ。
驚かせたい気持ちもあった。
_
( ゚∀゚)「へっ、あの船員…カギなんかしやがった…」
(;^ω^)「おっ…」
話しかけた僕に、ジョルジュは吐き捨てるように言った。
…海図室でひどく怯えていた、あの船員のことだ。
知っているだけに、何も返せない。
(;^ω^)「や、やっぱり、恨んでたり」
_
( ゚∀゚)「いや、恨んじゃいないぜ…」
( ^ω^)「お…」
_
( ゚∀゚)「こんな状況だ、普通じゃいられない…」
_
( ∀ )「…俺だって…そうしたかも…クククッ…」
( ω )「…!」
…何もかも、諦めてしまったのだろう。
足を投げ出して、無気力にそう言って笑うジョルジュ。
彼の言葉には…ひどく胸を衝かれた。
僕が、解放しよう、その苦しみから。
-
( ^ω^)「…ジョルジュ。」
言葉を切って、再び項垂れたジョルジュの前に
僕は、酒を注いだグラスを、そっと差し出した。
_
( ∀゚)「…ん?
なんだい、こいつは…?」
_
( ゚∀゚)「この色…ダイオードの酒と同じ…」
( ^ω^)「…飲んでみるといいお。」
僕がすすめると、ジョルジュは言われるままに飲んで…笑った。
(;^ω^)「おっ…おっ…?」
笑みを浮かべたまま、ジョルジュは何も言わない。
「へへへへっ…へへっ…」
その口からやがて…ひくつくような笑い声が漏れた。
何も言えずに見守る僕に、ジョルジュは首を横に振る。
その次に紡がれた言葉を聴いて…僕は本当に、何も言えなくなった。
-
_
( ∀ )「…何の味もしねえ…
へへ、へへへへっ…」
それは、彼が、死者であることの証。
_
( ∀ )「そう…だよな…」
_
( ∀;)「死人に酒なんて…いらねえよな…」
自分が死んでしまっていることを、受け入れてしまった瞬間。
顔を上げた彼の目は、皮肉にも光を取り戻して、その瞳からは
涙が一筋、頬を伝って濡らしていった。
( つω;)
( つωヾ)
( ^ω^)「…そうだお。だめだお。
いつまでも、そんなところで酔ってちゃ…」
…いちいち泣いていては進めない。
慌てて涙を拭った僕はジョルジュに言って、その隣に座った。
僕は待とう。
死を受け入れた君が、涙を拭いて。
安らかな顔で、天に昇れるまで。
-
_
( ;∀;)「………」
_
( ∀;)
_
( ∀ )
…少しずつ、落ち着きを取り戻していったジョルジュ。
もう大丈夫だろうと、立ち上がった僕に、彼は声をかけた。
_
( ゚∀゚)「あんた、あいつを…」
_
( ゚∀゚)「ダイオードを、出してやってくれ。」
(;^ω^)「おっ…?」
_
( ∀ )「…ここの乗客じゃ、ないんだろう。」
僕に、ダイオード=スズキを外へ出すように頼んだ彼。
どうやら彼は、僕が思ったよりも聡明なようだ。
ここの乗客じゃないことを、すぐに見抜いた。
…頷いた僕は、再びジョルジュの隣に腰掛ける。
彼の親友、ダイオード=スズキの居場所を聞くために。
-
_
( ゚∀゚)「図書室に…行ったかい?」
( ^ω^)「行ったお。水兵さんが旗上げしてたお。」
『図書室』…ゲストルームAの前に行った部屋だ。
手前の本棚には、本ではなく、旗上げしている水兵の人形が
二段の棚に、それぞれ四体、置いてあったのを思い出した。
確か、あの水兵には胸にくぼみがあった。
もしかしたら、あのくぼみに、何かはめこむのかも…
そう考えていた僕に、ジョルジュの言葉が重なった。
_
( ゚∀゚)「そう…あんたの、思ってる通り…
あの水兵のメダルが、鍵になってる…」
やはりそうだった。彼は、隠し部屋にいるようだ。
そこまでして、閉じ込めなければならないほどに
彼は取り乱してしまったのか…。
当たったことを僅かに喜ぶ反面、僕はダイオードを哀れんだ。
-
_
( ゚∀゚)「メダルの一つは」
_
( ゚∀゚)「図書室のダクトに捨てた…」
一つ一つを思い出すように、ジョルジュはゆっくりと言葉を紡ぐ。
僕はそれを、一言一句、聞き逃さないように、耳を澄ませた。
_
( ゚∀゚)「あとの二つは」
_
( ∀ )「向こうの二人が…」
( ^ω^)「向こうにも、二人いるんだおね?」
…声は、小さくなっていく。
どうやら彼の魂も、限界に近付いていたようだ。
言葉を紡げないでいるジョルジュに、すかさず問うと
彼はこくりと頷いて、中身の残ったグラスを、床に置いた。
( ∀ )「… 、 …」
…身も心も、限界だったのか。
もう、彼の声は聞こえなかった。
けれども、彼の唇は僅かに、動いていた。
『あいつらを、頼む』
_
.。.:*・゜・.+.*, ∀ )
:*・+゚.。+゚:*・*゚.:。゚・*:.。.... ,
親友の身を案じて、僕に託した彼は
亡くすには惜しいほどに、綺麗な微笑を残して
消えていった。
-
( ω )「…あの世でたくさん飲んで
今度は楽しく、酔うんだお。」
( ^ω^)「あんな悲しい酔い方は…しちゃだめだお。」
消えたジョルジュが残した、アストラルピースと
図書室の水兵にはめるメダル。
二つを手に入れて、僕は、誰もいない通路を進んだ。
-
・
・
・
-
ダイオード=スズキが使っていた、ゲストルームAの向かい側。
ゲストルームBには、使えるものは何も無かった。
整然としていたその部屋は、おそらくジョルジュのものだろう。
寂しがりか、人付き合いの良い人だったとすると
一人でいる時間が少ないために、使わなかったのかもしれない。
休息したくなったら、ここに来よう。
ジョルジュの部屋を退室した僕は、その隣の部屋に入った。
-
ガチャ
バタン。
-
・
・
・
-
( ω )「っ!」
…部屋に入った僕は、あまりの暗さに、思わず身を竦ませた。
この暗さでは、亡霊が…亡霊が、出てきてしまう!
暗がりに壁を伝い、電気を点けようとした、その瞬間。
(* )「無駄よ、どうやっても動かないから
明かりはつかない。」
( ゚ω゚)「ふぉぉっ!?」
…突然、女性の声が聞こえて驚いた。
(* )「なに驚いてんの、私はここだよ。」
振り向いて見た僕の視界に、一人の女性の顔が、ぼんやりと見えた。
(* ∀ )
暗がりの中に浮かんだその顔は、快活そうな女性だった。
…彼女も当然、影だったが。
-
(;^ω^)「あ、あのぅ」
(# ∀ )「ばか、来ないでよ!」
僕が歩み寄ろうとしたその瞬間、女性は甲高く叫んだ。
びくりと震えた僕の姿が、向こうから見えたのか。
次に聞こえてきたのは、控えめな声だった。
( ∀ )「来ないで…そのまま、出て行って…」
…悲しそうな、声だった。
その声は…助けてと言うべきなのだ、本来は。
(;^ω^)「そんな、ほうっておけませんおっ…」
(* ∀ )「早く!」
ジョルジュの言っていた二人…この女性を含めて、あと一人。
ならば、この女性も、救い出さなければならない。
しかし、僕を避けるようなこの一言。
スイッチが動かず、点けられない電気に、暗い部屋。
まさか彼女は、出てくるかもしれない
あの少女の亡霊を、恐れているのだろうか?
-
…僕の予想は、悪い意味で当たった。
しかも、悪い意味で裏切った。
寒気のする部屋。
全ての自然現象が止まった空間。
-
ウフフフッ…
-
バダンッ
-
川 ゚々゚)
~ 川 ゚"々゚") ~~~~
-
( ゚ω゚)「っ…――!?」
僕は、目を疑った。
バスルームに繋がるドアから出てきた
髪の長い女性…あの少女とは、別人の亡霊。
白い靄のような…霊気だろうか、それを纏った彼女は
(; ω )「うっ…ぐ…っ!!」
僕に向けて、それを放った。
…あまりの予想外の事態に、またも油断していた僕の
不意を衝いた一撃は、全身に重く圧し掛かり、視界を暗くさせた。
なんなんだ、これは…?!
パニックに陥った僕は耐え切れず、部屋から飛び出した。
-
バタンッ
-
(; ω )「っ…は、っ…ぅ…ぐぅっ」
…情けない話だが、このとき僕は、完全にパニックに陥って
暫くそこから抜け出せないでいた。
目を開いても、明るいはずの通路は暗くて
背に重く圧し掛かる、訳の分からない負荷は
全身を軋ませている。
…何より、予想の遥か斜め上を行く、衝撃の事実。
少女同様に感じる強い殺気、深い憎悪の念…。
彼女もまた、生者を道連れにしようとしていた。
この船を襲う亡霊は、一人ではないということ。
それが、僕の頭を混乱させる、一番の原因だった。
-
(; ω )「暗いっ…重い…お…」
どうしたらいい?
どうすればいい?
どうすれば治る?
パニックで停止した思考を回転させようとするが
「このまま見えなくなってしまうのでは」という不安に駆られて
焦った僕には何も浮かばない。
何か、何か無いのか…
震える手で、暗い視界を凝らして
道具を探していた、僕の掌が掴んだ感触。
(; ω )つi「! こ、これ…っ」
あの霊能者に貰った、液体の入った小瓶だった。
-
怪しい、胡散臭いなどと言ってはいられない。
いちかばちか、飲んでみればいい。
(; ω )「効かなかったらこんど会うときに
叩きつけてやる…!」
早口でそう言った僕は、小瓶を開けて、一気に飲み干した。
-
(; ω )
味はしなかった。水のようだ。
( ω )
全身に圧し掛かる、重みが取れた。
( ω^)「…!」
視界が、完全に開けた。
(;^ω^)「き、効いた…っ」
「魔を払いのける力がある」…霊能者の言葉は、本当だったのだ。
飲んだ瞬間、体が嘘のように軽くなり、暗くなった視界も、完全に開けた。
明かりの点いた通路が見える。
…正直、かなり疑ってかかっていたのだが
一応、そういうところは信用できる人物のようだ。
-
・
・
・
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・ゲストルームB
-
…ジョルジュの使っていた…と思われるゲストルームBに、僕はいた。
ここは、明かりが点くから、亡霊に襲われる心配も無い。
物が散らばっているわけでも無いので、普通の部屋として使えるそこで
僕は暫くベッドに身を預けていた。
( ^ω^)「…どういうことなんだお…」
天井を見上げながら、僕はあらためて思考に耽っていた。
ジョルジュの言っていた二人のうち、一人。
彼女の部屋だけ、なぜ電気が壊れているのか。
…亡霊が壊したのだろう。
探せば他にも、そういった部屋があるかもしれない。
彼女が「来るな」と言った理由は、あの亡霊が
来訪者を待ち構えているからなのだ。
(;^ω^)「…どうしたらいいおね…」
向かい側にある部屋を調べないことには、何とも言えない。
僕は一旦、思考を切り替えることにした。
-
僕の出くわした、この船にいる亡霊は、二人となった。
一人目は、
⌒*(゚"∀'゚)*⌒
年端もいかない少女。
この少女は、航海前にも目撃されている。
二人目は、
川 ゚"々゚")
長髪の、若い女性。
紺色の服に身を包んだ彼女は、今までは出てこなかった。
この二人の亡霊は、何れも殺意と憎悪を抱いて、襲いかかってくる。
少女は航海する前に出てきていたのだから、死んでしまったのは
ニュー速VIP号の事件以前だとわかるが、女性の方は全く分からなかった。
ともかく、あの二人のどちらか…或いはどちらも
乗客は目撃して狼狽、その間に殺されてしまったり
ショックで死んでしまった…。
しかし、彼女らもまた、この世に未練を残して
死んでいった魂の成れの果てだとしたら
その乗客たち以上に、救わなければならない存在だ。
…どうしたらいいのだろう。
考えているうち、睡魔が襲い掛かってきた。
疲れのたまった体を、少し癒さなければならないようだ。
僕は額に手をやって視界を覆い、目を閉じた。
-
・
・
・
・
・
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・ゲストルームC
-
…深い眠りから覚醒して、疲れがとれたことを確認した僕は
亡霊の出た部屋の向かい側…『ゲストルームC』に入った。
こちらは特に寒気も何も感じない、暗いだけの部屋だった。
スイッチを探して、明かりを点けたかったのだが…
(;^ω^)「…」
点けようとした電気のスイッチが、動かない。
何をやっても、びくともしないのだ。
まるでそこだけ、何かで止められているかのように。
(# ;;- )「点かないよ…そこの、電気は。」
(;^ω^)そ「ふぉおっ!?」
…聞こえてきた女性の声に、僕は前以上に驚いた。
頼むから、この暗がりの中で
いきなり言葉を発するのはやめて欲しい…。
僕の心の声を無視して、女性の声は語りかけてくる。
-
(# ;;- )「…あなた、船の人じゃないの」
( ^ω^)「…!」
(# ;;- )「…だって、まだ生きてるもの」
この人も、ジョルジュと同じだ。
死を受け入れた後の、ジョルジュと同じ。
僕を、乗客じゃないと見抜いた。
僕が…生きている人間だとも。
( ^ω^)「…そうですお。」
( ^ω^)「僕はあなた達を、救いにきましたお。」
僕は、この女性にだけ、本当のことを打ち明けた。
自分の死、自分以外の、他人の死…。
この人は全てを、知っていたから。
-
(# ;;- )「…そう…私達を…」
(# ;;- )「…」
…僕は、彼女に歩み寄った。
向かい側の、女性のように、止められるかと思ったが
彼女は僕を止めなかった。
暗くても、ここには…亡霊は出ないようだ。
数歩、進んで近付いたところで、彼女の姿が見えた。
(#゚;;-゚)
ベッドの上で半身を起こし、彼女はこちらを見ていた。
こんな暗がりでも、彼女の視界は僕を捉えられたらしい。
先程の、彼女の言葉通り…その姿は影だった。
-
(#゚;;-゚)「…私は、でぃ。」
( ^ω^)「ブーンですお。」
(#゚;;-゚)「ブーン…」
名乗り終えた後、彼女は目を、ドアに向けた。
いや、その視線は遠い…ドアの向こうにあった。
(#゚;;-゚)「妹に…つーに会ったんでしょう?」
(;^ω^)「い、妹だったのかお…あの人…」
(#゚;;-゚)「そう、私達は双子なの…
だから、わかる。」
双子…なるほど、言われてみれば、彼女達はよく似ていた。
向かい側にいるのは、妹のつー。
この部屋にいるのが、姉のでぃ。
ジョルジュの言っていた「二人」が、これで揃ったわけだ。
-
(#゚;;-゚)「私、つーのことなら何でも分かるの…
私と同じだもの…」
…聞いたことがある。
双子は片割れのことを、母親よりもよくわかるのだと。
一心同体、というものだろう。
(# ;;- )「あの化け物…
あいつがいるから…」
(# ;;- )「つー…」
( ω )「…でぃさん…」
そう、向かい側の、でぃさんの妹…つーさんが、入ってきた僕を
必死に拒んで帰そうとした理由。
暗がりの中、つーさんのバスルームには…女の亡霊が取り憑き
棲みついてしまっている。
双子だから、わかる。
彼女の未練は…
(# ;;- )
(* ∀ )
向かい側の、妹の…つーさんの部屋の亡霊を、追い払うこと。
-
どうしたら、あの亡霊を追い払えるのだろう。
出て行っては、また亡霊に襲われてしまう…。
かといって、あの亡霊が救われる方法も、手元には無い…。
でぃさんの、ベッド前の椅子に座りながら
うんうん唸って考えていた僕に
(#゚;;-゚)「ブーンさん。」
彼女が、最大のヒントをくれた。
( ^ω^)「お…なんですかお、でぃさん。」
(#゚;;-゚)「私達は、双子。
同じなの…」
(#゚;;-゚)「何もかも、同じ…」
( ^ω^)「何もかも、同じ…」
双子、何もかも、同じ。
何もかも、同じ…
( ^ω^)
( ゚ω゚)!そ
でぃさんの言葉を、繰り返し繰り返し、頭の中で再生させた僕は
ある方法を思いついて、でぃさんに問いかけた。
-
( ゚ω゚)「でぃさん!」
(#゚;;-゚)「どうしたの?」
( ゚ω゚)「ここと、妹の、つーさんの部屋…
同じ構造ですおね?」
(#゚;;-゚)「そうだけど…」
「何もかも同じ」
ならば、部屋の構造も同じ。
電気が点かないのも、同じ。
置いてあるものも、まったく同じ。
ただ、違うのは「亡霊が出るか出ないか」
…その発想が、決して間違っていないことを、僕は祈った。
-
ガチャ
バタン。
-
・
・
・
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・ゲストルームD
-
(* ∀ )「…亡霊が、出ない…」
ドアを開いた瞬間に聞こえた彼女の
小さな、小さな呟きによって。
( ^ω^)「…言ったお。」
( ^ω^)「放っておけないって。」
僕の発想の転換が、間違っていないことが、証明された。
-
…亡霊のいなくなった部屋は、やけに静かだ。
ためしに電気を点けてみようとしたが、やはり動かない。
そういう風にされてしまったのだろう…諦めた僕は
先程と同じように、手近の椅子に腰掛けて、ベッドに
半身を起こした女性を見た。
(*゚∀゚)「…ありがとう…」
( ^ω^)「どういたしまして、だお。」
…同じように見えて、違うところもあるものだ。
対照的な双子だ…話していて、僕は感じた。
声の明るさ。話し方。
(*゚∀゚)「あなた…船の人じゃないの」
(*゚∀゚)「だって…まだ、生きているもの…」
言葉は同じでも、響き方が違う。
やはり彼女達も、個性のある人間なのだ。
( ^ω^)「…そうですお。」
( ^ω^)「僕は、あなた達を救いにきましたお。」
姉のでぃさんと同じ言葉を、僕は返した。
-
(*゚∀゚)「私は、つー。」
( ^ω^)「ブーンですお。」
(*゚∀゚)「ブーン…」
(;^ω^)(同じやりとりだお…)
返し、返される言葉まで、同じとは思わなかった。
それだけ、仲の良い双子だったのだ…。
(*゚∀゚)「姉さんに…でぃに会ったんでしょう?」
(*゚∀゚)「私たちは双子なの。だからわかる。」
( ^ω^)「はい…つーさんのこと、心配してましたお。」
頷いて、僕は改めてつーさんを見た。
やっぱり、でぃさんとよく似ていた。
-
(*゚∀゚)「…あなた、ダイオードを知ってる?」
( ^ω^)「! 知ってますお…
ジョルジュから、あなた達と
その人のこと…託されたんですお。」
(* ∀ )「そうなんだ…」
今度は、違うことを言ってきた彼女の言葉に
僕は反応して、ジョルジュのことを話した。
つーさんは…当時のことを思い出しているのだろう。
俯いて、ゆっくりと語った。
(* ∀ )「ダイオードは何か見たの…
だからあんな急に、おかしくなって…」
( ^ω^)「…」
彼が見たのは、この船を彷徨う亡霊だろう…。
彼女もわかってはいるはずだ。
口に出したら恐ろしいから、言えないだけ。
(* ∀ )「聞いたと思うんだ、ジョルジュから…」
(* ∀ )「ダイオードに会ってみて…
私達が閉じ込めた
あの人…」
(* ∀ )
.。.:*・゜・.+.* ∀ )
:*・+゚.。+゚:*・*゚.:。゚・*:.。.... ,
ジョルジュと同じように、友を閉じ込めたことを
心から後悔していた彼女は、僕にメダルと
アストラルピースを残して…消えていった。
-
ガチャ
バタン。
-
・
・
・
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・ゲストルームC
-
( ^ω^)「でぃさん…つーさんは
もう行きましたお。」
でぃさんの部屋に来た僕は、ドアを閉めて
こちらに顔を向けたでぃさんに、そう告げた。
彼女は双子だ。何もかも、知っている。
(#゚;;-゚)「そう…良かった…」
(#゚;;ー゚)「つーは行っちゃったのね…」
寂しそうに…嬉しそうでもあった微笑を浮かべて
彼女は言葉を紡いでいく。
(#゚;;ー゚)「じゃあ、私も行かなくっちゃ…」
( ^ω^)
( -ω-)
( ^ω^)「さよならだお、でぃさん。」
頷いて、僕は彼女を見送ろうとした。
が、彼女はじっとこちらを見ていた。
( ^ω^)?
僕の顔に、何かついていますか…?
そう問おうとした僕に、思いがけない言葉が返ってきた。
-
(#゚;;-゚)「あら?
あなたの、その青い石…」
(;^ω^)そ「し、知っているんですかおっ!!」
あの霊能者に渡された、青い宝石…今まで、誰も
話に触れることがなかった『青い石』に、彼女は言及したのだ。
何か知っているのか…?
期待した僕は思わず、身を乗り出して聞いてしまった。
そして、僕は、衝撃を受けた。
(#゚;;-゚)「あの人の、ツンのと同じ…」
ツン…ツン=スカルチノフ。
その名前を、もう一度、こんなところで
聞くことになるとは。
(#゚;;-゚)「あなただったの…
ツンの…
待っていた人…」
待っていた人…それはおそらく、僕の父のことだ…。
この人は何故、ツンのことを…?
ツンの、どこまで知っているのだろう…。
-
僕は、既に天に昇ってしまいそうだった彼女を、どうにか引き止めた。
申し訳ないのだが…これだけは、これだけは聞いておきたかったのだ。
彼女達双子が、ツンとどういう関係なのか。
ツンは無事なのか、どうしているのか…。
返ってきた答えはこうだ。
まず、彼女達双子と、ツンは同世代だということ。
双子の姉妹は、ツンのもう一人の叔父である
オトジャ=スカルチノフの元妻の子で、彼女達は
離婚した元妻の姓を名乗っているのだという。
…上流階級の人間には、よくありがちなホームドラマである。
それでも、同世代だったツンとは仲が良く
この『青い石』のことも聞いていたのだとか。
そして、もう一つ…ツンが何処で、どうしているのか。
最も知りたかったこの答えは、彼女も知らなかった。
ただし…あまり聞きたくなかった答えも、聞いてしまったが。
ツンには、弟がいる。
弟は、このニュー速VIP号に乗っている。
しかし肝心のツンは、このニュー速VIP号航海の
数ヶ月前から行方不明だ…と。
両親は、と聞いても、言葉を濁してしまったので
でぃさんやつーさんと同じように、複雑な事情があるのだろう。
( ^ω^)「教えてくれて…ありがとう。でぃさん。」
.。.:*・゜・.+.* ;;ー )
:*・+゚.。+゚:*・*゚.:。゚・*:.。.... ,
僕の言葉に、微笑んだ彼女は
妹のいる天に、幸せそうに昇っていった。
-
・
・
・
-
ガチャ
バタン
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・図書室
-
…双子を見送った僕は、手元に3つのメダルがあることを確認して
先程、何も無いと言った図書室へと来ていた。
水兵にはめこむメダルは後一つ。
ジョルジュは「図書室のダクトへ捨てた」と言っていた。
( ^ω^)「…ダクトらしきものはあるけど…」
(;^ω^)∩「届かないおね…」
部屋の隅にある、本棚の上に、ダクトはある。
しかし、ここからでは到底、ダクトに入ることは出来ない。
何か、上に登るものがあれば…
辺りを見渡すと、それは意外とすぐに見つかった。
□ (^ω^ )「おっ、あったお。」
小さな踏み台。ダクト用のものだろう。
僕は、その踏み台を、本棚の横、チェストが置いてある横に並べた。
ロ
ロ
ロ
これで、小さな階段が出来たわけだ。
-
(;^ω^)「まぁーっくらだおぉー…」
怖さを紛らわす為に、僕はダクトの中でそう呟きながら進んだ。
独り言でも発していなければ、この狭くて暗い闇に
とても耐えられそうにないからだ。
亡霊を見てしまった後では、暗闇が恐ろしくなってしまう。
ここを抜け出す頃には、暗所恐怖症にでもなっていることだろう。
…暫く奥に進むと、中で何か光っているものが見えた。
あれだろう。
( ^ω^)「あったお!」 o+
奥で見つけたメダルを手にすると、僕は来た道を戻り…
ダクトの格子の、隙間を覗いた。
読みが正しければ…この下の隠し部屋に、ダイオード=スズキがいる。
/ 、 /
見下ろした僕の目には、予想通り…ジョルジュと同じ
ベレー帽を被った男性がいた。
ここからではあまりよく見えないが、あれがダイオード=スズキだろう。
( ^ω^)(必ず、助けますお)
心の中で、彼にそう約束して、僕はダクトを抜けた。
-
…図書室に戻ってきた僕は、暫く
旗上げをしている水兵さんと、にらめっこをしていた。
( ^ω^)
|
(^o^)
|
(^o^)/
/
(^o^)
/ \
(^o^)
/ ―
( ^ω^)「AAも作れない作者が
無理して作るとこうなります。」
相変わらず、僕は誰に言っているのだろう…。
-
でぃさんとつーさんから貰ったメダル。
ジョルジュから貰ったメダル。
ダクトのメダル…この四つのメダルは
四体の水兵と対になっていた。
メダルの表に、旗を持った水兵の絵が描かれている。
つまり、水兵のポーズと同じ絵のメダルを
胸のくぼみにはめ込めばいいのだ。
( ^ω^)つo「よっこいせ…」
まず、一体目。
片手で端を上げていた人形は、ぱたりと腕を下ろした。
二体目。
片手で斜めに旗を上げていた人形も、ぱたりと腕を下ろす。
三体目。
両腕を斜めに構えていた人形が、腰に腕をぴたりとつけた。
四体目。
片腕を横に広げていた、最後の人形が、役目を終えた。
-
ゴトン…と、あっさりとした音を立てて、水兵を乗せている本棚が
スライドして、その正体を…隠し部屋に繋がるドアを現す。
この奥に、親友に閉じ込められた、ダイオード=スズキはいる…。
(;^ω^)「…」
彼は、恨んでいるだろうか、かつての友を。
亡霊に取り憑かれた、この船を…。
ごくりと唾を飲んで、僕はドアを開けた。
-
ガチャ
バタン
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・図書室隠し部屋
-
彼は、僕が思っていた以上に、冷静だった。
正気を取り戻したのか、死んだからなのか…わからない。
/ ゚、。 /「よく、ここに来れたな…」
二匹の蛇と、斧を持った男の絵で、カクテルレシピを描いた画家。
何かを目撃した後に錯乱して、自室の部屋の机に、遺書を書いた男。
ジョルジュと、でぃさんと、つーさんの親友。
( ^ω^)「ダイオード=スズキさん…。」
/ -、- /「ああ…そうだ。
そうか。ジョルジュから聞いたのか…。」
ダイオード=スズキ…気を狂わせて、閉じ込められた彼は
静かに、僕の問いに答えた。
-
/ ゚、。 /「ジョルジュから、聞いたか?
俺が、ここにいるわけを」
( ^ω^)「…聞きましたお。」
化け物を見た…そう言って、気が狂って暴れた。
そんな彼を見ていられなくて…三人で閉じ込めた。
でぃさん、つーさん、ジョルジュ…三人から聞いたことを
僕はダイオードさんに、要点をまとめながら話した。
/ 、 /「…そう、俺は見たんだ…」
話し終えた僕は、ダイオードさんの聞き役に回ることにした。
二十数年もの間…閉じ込められていた、彼の話を。
/ 、 /「あの部屋で、俺は見たんだ…」
/ 、 /「魔物が生まれるのを…」
(;^ω^)「…魔物が、生まれる…?」
彼の話では、ゲスト用通路の最奥にある、あの両扉の先…
『特別ゲストルーム』で、魔物が生まれる瞬間を見てしまったらしい。
魔物が生まれる…とは、どういう意味なのか。
あの少女の亡霊か…若い女性の亡霊が、初めてこの船に出現した瞬間。
おそらく、そういう意味なのだろう。
/ 、 /「俺は、気が動転して…
それから後はあまり
覚えていない…」
(; ω )「……」
それは、発狂しても、おかしくない。
居合わせたわけでない僕だって、想像したくないものだ。
-
/ 、 /「…」
/ 、 /「ジョルジュの奴…
あの酔っ払いも
死んじまったかな…」
( ω )「…」
何も言えなかった。
自分も、親友も…死んでいると、彼はわかっていたから。
わかっているけれど、疑問系にしておきたいのだ、彼らは。
/ ;、; /「…また、あいつと…」
/ ;、; /「酒が飲みたい…」
.。.:*・゜・.+.* 、 /
:*・+゚.。+゚:*・*゚.:。゚・*:.。.... ,
( ω )「飲むといいお…好きなだけ…」
友を懐かしんだ、ダイオード=スズキは
涙を零しながら…友の元へ昇っていった。
-
( ω )「…四人とも、行ったおね…」
静寂しか無い空間で、僕は彼らの冥福を祈りながら
ダイオードが立っていた場所へ近付いた。
『真ちゅうの鍵』…特別ゲストルームへの鍵。
割れたガラスケースの中に入っていたそれは
まるで宝石のように、丁寧に飾られていた。
『特別ゲストルーム』で…亡霊が生まれた。
亡霊のどちらかは、入った瞬間に、必ず現れるだろう。
特別なだけに広い空間で、何をされるかはわからない。
用心していかなければ…。
緊張に汗ばんだ手で、鍵を握り締めた。
残されたアストラルピースを、道具を入れていた袋にしまうと
僕は、部屋を後にした。
-
・
・
・
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・ゲスト用通路
-
( ω )「…」
ゲスト用通路の最奥…特別ゲストルームの前で、僕は立ち止まっていた。
最初に、僕をおもちゃのように投げて、殺そうとしたあの少女か。
つーさんの部屋で、突如現れた、凍るように冷たい笑顔を浮かべた女性か。
出てくるのは、どちらの亡霊なのか。
僕は、彼女達を、救えるのだろうか。
( ^ω )「…」
( ^ω^)「行くお。」
僕は、意を決して、ドアに「真ちゅうの鍵」を差し込んで
開けた。
-
カチャリ
ガチャ
バタン
-
( ω )
フフフッ…
-
出てきたのは
僕を最初に痛めつけた
あの船員を怯えさせて
乗客を閉じ込めさせた
⌒*(゚"∀'゚)*⌒
無邪気で、残酷な少女の、亡霊だった。
-
( ゚ω゚)そ「!?」
驚いて一瞬、反応が遅れた。
慌てて右に飛んだ僕のすぐ横を…物凄い勢いで飛んだ椅子が
壁にぶつかって、微塵に壊れた。
(;゚ω゚)
いつもと同じように腕を上げた少女の攻撃は
余裕で人を殺せるほど、過激なものに変わっていた。
(;゚ω゚)「ポ…」
(;゚ω゚)「ポルターガイスト現象…」
ポルターガイスト現象…信じていなかった僕は
初めてその光景を目の当たりにして
その現象が実在したことを…信じざるを、得なかった。
-
物体が、一人で勝手に動き出す現象。
誰も触れていないのに、物が持ち上がったり
ときには発火したりする現象。
⌒*(゚"∀"゚)*⌒
本気だった。
彼女は今度こそ、本気で、僕を殺そうとしている…。
彼女の顔も、凶悪さを増している。
(;゚ω゚)(くそっ…勝ち目がないおっ…)
-
『こっちに来て』
『こっちへ逃げて』
-
万事休すというときに、その声は聞こえた。
(;゚ω゚)「!」
ドアの外…ゲスト用通路からだ。
いまは、逃げるしかないのか…。
敗北に嘆きながら、僕は
両扉を勢い良く開閉して、その場を逃れた。
-
ガチャ
バタン。
-
( ω )「くそっ…」
…成す術の無い自分の立場に、閉めたばかりのドアを、強く叩いた。
あの少女に、なんとかして対抗できないのか。
この船を、救うことは出来ないのか。
迷った僕の耳に、聞き覚えのある声が語りかけた。
「諦めないで。
道は残されているから。」
( ω )「!」
この声。
先程、僕に逃げてと言った、少年の声だ。
僕は、顔を上げた。
-
ζ(゚ー゚*ζ
( ^ω^)「…!」
その少年も、半透明の影だった。
しかし彼は…彼だけは、他の人と違う。
彼は…どこか、見覚えがあったのだ。
( ^ω^)「き、君は…」
ζ(゚ー゚*ζ「…デレ。デレ=スカルチノフ…」
( ^ω^)「…!」
そう、彼は。
でぃさんから聞いた…ツンの弟だ。
ζ(゚−゚*ζ「…本当のあの子は、ここにはいない。」
(;^ω^)「おっ…?」
彼は、語った。
ζ(゚−゚*ζ「暗い穴の中で、あの子は泣いてる…」
ζ(゚−゚*ζ「誰かに救ってほしいんだ…」
暗い穴の中で、泣いてる?
誰かに救って欲しい?
あの子というのは、少女の亡霊のことだろう。
しかし、それ以外の言葉の意味が、まるでわからない。
(;^ω^)「ちょ、ちょっと待ってお、どういう意味…」
僕の問いかけは、彼には届かない。
あの霊能者と言い…謎かけだけは得意らしい。
僕の意識は、あっという間に闇に飲まれていく。
久方ぶりに感じた…吸い寄せられる感覚。
ζ(゚−゚*ζ「気付かせてあげてよ。」
ζ( − *ζ「ここにいちゃいけないって…。」
-
――デレの言葉を遠くに聞きながら、僕は吸い寄せられていった…。
-
今日の投下はここで終了です。
メモこと登場人物紹介は、時間も遅いので
次に回します、すみません。
長いですが、読んでいただいた方、ありがとうございます。
-
この時間帯に100レス超えとは、明日読むことにするわ
投下乙
-
おつ
でぃとつーの部屋の謎はなんだったんだろう?
-
続きがきになる
-
読んだ、亡霊がでなかった理由が気になる
-
風呂場閉めたんじゃね?
-
( ^ω^)ノシ「おいすー。」
(*^ω^)「なんか、思った以上に反応を貰えて嬉しいおっ」
(;^ω^)「投下はまだですお、すみませんお…」
( ^ω^)「謎解きが主なので、あまり謎が解けてばかりだと
面白くないなぁと思って書いたらこうなった。」
(;^ω^)「…ということで、ちょちょいっと説明しちゃうけども」
-
(;^ω^)「まぁ、説明というかなんというか…」
(;^ω^)「一種の攻略になっちゃうので
ネタバレ注意だお。」
-
( ^ω^)「あの双子の部屋は、でぃさんの
『何もかも同じ』という言葉通りで」
( ^ω^)「物の位置を動かすと
それも反映されちゃうんだお。」
川(;^ω^)「作者のミスで、文章中に入れ忘れてしまったけれども
あの姉妹の部屋には、持ち運びできるヒーターが
部屋の隅っこに、ちょこんと置いてあるんだお。」
-
川゚((;^ω^)))「…で、でぃさんの…部屋の、そのヒーターを
ババ、バスルームの前に持ってって」
川゚々(((;゚ω゚))))「>>551ののの言うとおりにに
ババ、バスルームのドアを…」
((゚ω゚;)))
ウフフフッ…川 ゚々゚)((;゚ω゚)))ヒィッ…
-
ぬこが教えてくれたよ、23:43になったら始まると
-
23:43に投下します。
-
・
・
・
・
・
-
カンッ…カンッ…カンッ…
カンッ…カンッ…カンッ…
世界の何人が、この場所を覚えているのか
打ち捨てられて久しい、この鉱山
カンッ…カンッ…カンッ…
カンッ…カンッ…カンッ…
世界の何人が、この廃坑を思い出すのか
ある財閥が掘り尽くし、廃坑にしたこの鉱山
カンッ…カンッ…カンッ…
-
いつか、文明が進み、炭鉱の需要がなくなって
風化し、荒廃し、朽ち果てて
所在地も、所有者も、存在すら忘れ去られても
カンッ…カンッ…カンッ…
カンッ…カンッ…カンッ…
世界の地図から、その名が消えても
カンッ…カンッ…カンッ…
カンッ…カンッ…カンッ…
-
誰が、誰が忘れるものか
この鉱山に入った、数多の人々が
行方知れずのままだということを
俺は、知っているんだ
あいつらが廃坑にした、本当の理由を…
-
…カンッ…カンッ…
…カンッ…カンッ…
カンッ…カンッ…カンッ…
-
#過去世界 1910年 7月27日 ―廃坑一層
-
…でぃさんから聞いた、ツンの弟、デレ=スカルチノフに
語られた言葉の意味を、聞けないまま飛ばされた僕は
おそらく廃坑と思われる場所で、そのまま動けずにいた。
(;^ω^)「…あのぅ」
(;^ω^)「こんな寂れた鉱山で、何をしろと…」
目の前に広がるのは、鈍色の、ごつごつとした壁と岩。
…そう、巨大な岩が進路を邪魔して、それ以上先には
進めないようになっていた。
トロッコを走らせる、レール沿いに進んだ僕は
運搬用の、簡素なトロッコを発見した。
試しに、手前のレバーを引いてみると
思ったとおり、トロッコが発進した。
どうやらこれを引けば、トロッコはレールの
道筋通りに走るようだ。
-
追いつけないくらいの速さで突き進んだ
トロッコの後を追った僕は、
(*^ω^)「おぉっ…!」
トロッコの思わぬ威力に、感嘆の声を漏らした。
先程、道を塞いでいた巨大な岩は、発進させた
トロッコで砕け散り、通行出来るようになっていたのだ。
早速、先へ進んだ僕は、視界に開けた
同じような光景に、頭を掻いた。
右側にあるトロッコは、何処に行くのだろう…と
敷かれたレールを追って行くと、途中で道が
二手に分かれていることに気が付いた。
右側は、レールが途切れて他の坑道に繋がっている。
左側は行き止まりで、すぐ壁に突き当たってしまった。
となれば、右側に行くしかない。
…トロッコに、乗って。
-
(;^ω^)「落ちたらと思うと、乗れないおね…」
右側の、レールが途切れている部分は
線があるからトロッコは走れても
レールが無いから底抜けなのだ。
僕の重みで負荷が大きかったり、速度が不十分な場合に
止まってしまうと、その部分から下の層に、トロッコごと
真っ逆さまに落ちてしまう。
トロッコに乗るというのは、子供の頃に一回だけ、憧れた記憶はある。
が、この年で乗ってみたいという好奇心は、さすがの僕でも湧いてこない。
…砂利の踏みしめる音が、人っ子一人いない廃坑に、大きく響き渡る。
右側入り口から、来た道に戻ろうとした僕は
( ^ω^)「あっ…」
( ^ω^)「ポイント切り替えないとだめだお…」
足元に目を向けて、トロッコのルートが
左側に行ってしまうことに気がついた。
危なかった。気付いていなければ、そのままトロッコに乗って
左側に行った後に、虚しい思いをするところだった…。
-
トロッコの前まで戻ってきた僕は、早速
上下に操作する、ポイント切り替えレバーを降ろした。
これで、ポイントが切り替わって、右側に行けるはずだ。
( ^ω^)「せーんろはつづくーよー」
(*^ω^)「どーこまーでーもー」
…陰鬱な雰囲気の廃坑に、響き渡る僕の声。
正直、バーカウンターでの独り言より恥ずかしい。
しかし、こんな歌でも歌わなければ、気が滅入ってしまいそうだった。
このトロッコの先には、あまり想像したくない結果が
救いを求めて、待っているだろうから。
-
==( ^ω^)「ひょぉおおおおっ!」
ゴォォ…という音を立てて、トロッコは発進した。
思ったよりも速くは無く、遅くも無い、ちょうど良い速度だった。
重力に逆らい吹く風が、顔に当たって気持ちいい。
この速度だ、落ちるのではないかという僕の不安も
杞憂に終わり、トロッコは別の坑道へ目指して、駆け抜けていった。
やがて、ガコォン…という音がして、留め金に当たったトロッコは止まった。
(^ω^ )「…」
トロッコから降りた僕は、来た道を振り返る。
-
最初に来たときにはわからなかったが
この廃坑は、おかしい部分が幾つかある。
一つは、掘り進めて行くのに使う道具が…
トロッコも含め、そのままなこと。
道具が完全に、ぼろぼろに朽ち果てていた…
というのならまだしも、まだまだ使える物ばかりだった。
他の鉱山を発掘するにしても、トロッコを含めて
いちいち、新品に替える必要など無いのだ。
もう一つ。壁の所々が…断片的に赤かったこと。
錆ではない、岩の色でもない。そんな自然の色ではなかった。
見れば見るほど…人の、血の色に近い赤だった。
ここで、何か事故があって、人が怪我をしたにしても
壁に多量の血が付着するような、事故・怪我などあるだろうか…?
『気付かせてあげてよ、ここにいちゃいけないって』
…幼いツンの面影が残る少年、デレの言葉。
疑い出せば、想像したくないことばかり浮かんでしまう。
立ち止まっていては、帰れない。
( ^ω^)「…進んでから分かるお。」
僕は自分への気休めにそう言って、乗ってきた坑道を見渡した。
-
…道が岩とトロッコで塞がれて、中々進めない。
仕方なくトロッコに乗って、先程と同じように
レバーを引いて発進させると、行き当たりにぶつかって止まった。
(;^ω^)「また分岐かお…」
迷路のようなものは苦手だ、勘弁して欲しい。
乗車中に見えたレールは、また二手に分かれているようだ。
トロッコから降りて見てみると、反対側の道は
立ち入り禁止を表す、大きな木の板があった。
ただの木の板なのだが、ぴったり通路にはまっていて
とても、人の手でどけられるものではない。
( ^ω^)「またぶつけてみるかお…」
…その木の板の場所だけ、真っ白で
明らかに、人の手が加えられているという点。
僕はあえて、そこには触れないようにした。
-
ポイント切り替えのレバーを下げて、トロッコを走らせた。
トロッコは勢い良く直進し…先程のように上手くはいかず
ガシャンと音を立てて、真正面の行き止まりに、ぶつかってしまった。
(;^ω^)「おっ…なんでだお?」
ポイントを切り替えたはずなのに…と、歩き回って
レールの切り替え部分に、よく目を凝らした僕は
(;^ω^)「あっ…」
レールのポイントが、連動していることに気がついた。
切り替えれば向こう側にいけるものの、真正面にぶつかるだけで
トロッコは行ったり来たりを繰り返してしまう。
かといってレバーをもう一度、元に戻しても…トロッコも
最初にあった位置へ戻って行ってしまう。
(;^ω^)「おー…めんどくさいおー…」
…トロッコが戻ってこないようにするには、どうしたらいいか?
-
ガコンッ
(;^ω^)「ポイント切り替えてー…」
(;^ω^)「トロッコを走らせてー…」
ガーー…ゴトン
(;^ω^)「…直進しちゃうお。」
行ったり来たりを繰り返し、ポイントを何度も切り替えながら
僕は根気良く、トロッコの進行方向を調べていた。
最初のままのポイントで行けば、トロッコは
僕が元いた位置と、今いる位置を行き来する。
ポイントを切り替えて行くと、トロッコは
僕が今いる位置と、真っ白な壁にぶち当たる。
-
ガーー…ゴトン
戻ってきたトロッコの縁に手をかけて、僕は考える。
(;^ω^)「直進させながら…」
( ^ω^)「ポイントを切り替える…」
これだ。
ポイントを切り替えると、トロッコは
行き止まり同士を行き来する。
最初のポイントで行くと、トロッコは
行き止まりから元いた位置に戻っていく。
どちらかのポイントで、必ずトロッコは
木の壁のある方に行くはずなのだ。
( ^ω^)「そうと決まったら、やってみるお。」
僕は、レバーを引いて、トロッコを発進させた。
-
ガーー…ゴォオオ…
4
ガーー…ゴォォ…
3
ガーー…ゴォ…
2
ガーー…
1
( ^ω^)「ここで、切り替えれば!」
一線の交差する、分岐路の手前。
僕は、再びポイント切り替えレバーを上げて、切り替えた。
-
ガーー…ガンガンガンッ…ガゴォーン…
分岐点を変えられたトロッコは、右側の通路に入り
打ち付けられた木の壁を壊しながら、止まった。
-
…トロッコは、右側の通路に入っていった。
その後に、何かを壊して、ぶつかる音が聞こえる。
(*^ω^)「…これで進めるおっ!」
ずっと粘って考えていたのだ、道が開けたという達成感が
憂鬱だった僕の心を占めた。
レールの上の砂利道を歩き、トロッコの後を追う。
立ち入り禁止と言わんばかりに、木の壁が行く手を遮っていた、その先。
人の手が加わった、真っ白な空間。
床には、ぽっかりと穴が開いていた。
冷たい風がひゅうひゅうと吹いてきて
中から微かに、何かを打ちつけるような音も聞こえる。
(;^ω^)「…ここ、廃坑だおね…?」
穴の傍には、梯子代わりに、ロープが垂らされていた。
捨てられてから大分時が経っているように見えたが
まだ、ここで掘り進めている人が、いるのだろうか…?
もしかしたら、まだ何かあるのかもしれない。
( ^ω^)「行ってみるしか…無いおね。」
疑問を解決するには、今は進むしかないのだ。
僕は、縄を掴んで慎重に、その穴の中へと降りていった。
-
・
・
・
-
#過去世界 1910年 7月27日 ―廃坑二層
-
ぶちっという、何か嫌な音がした瞬間。
( ゚ω゚)「アッー」
…僕は、情けなくも、尻餅をつくことになった。
慎重に掴んでいたはずの縄は、既に劣化していたらしい。
重みに耐え切れず、途中で切れてしまったようだ。
体重のせいではない、決して。
(;^ω^)「…よかったお、思ったより浅くて。」
深い穴の中に落ちたわけではないことを、ひとまず安心した僕の耳に。
カンッ…カンッ…カンッ…
その音は、聞こえてきた。
-
( ^ω^)「おっ…」
そうだ、この音だ。穴の入り口から聞こえた、何かを打ち付けるような音。
僕は視線を、音のするほうへ向けた。
( )⊃Tミ
…頭に、電灯付のヘルメットを被った大柄な男が、一心不乱に
壁に向かってつるはしを振り下ろしていた。
カンッ…カンッ…カンッ…
-
(;^ω^)「…」
何を、しているのだろう?
こんなにも必死に、鬼のような形相をして…。
僕は、その人に歩み寄った。
( )⊃Tミ カンッ…カンッ…カンッ…
男は、僕に気付いていないようだ。
いや…気付いているのかもしれないが
振り向いて話す余裕も、無いのかもしれない。
その鬼気迫る姿に、僕は立ち竦んだ。
(;^ω^)「…おっ…?」
話しかけないほうがいいのか、どうしたらいいのか。
困っていた僕は、
-
⌒*リ´・-・リ
…男の、作業道具から、土で汚れた人形を見つけた。
(; ω )「っ…!!」
僕は、どきりとして、息を飲んだ。
あまりにも、場違いすぎる人形。
土で汚れている、人形…。
一心不乱に、鬼のような形相で、掘り続ける男。
僕が、ここに飛ばされてきた、理由。
『暗い穴の中で、あの子は泣いてる…』
『誰かに救って欲しいんだ…』
デレの、言葉。
人の手が加えられた廃坑。
置き去りの道具。赤に塗れた壁。
たった一人で、必死に廃坑の奥を掘り進める男。
連想されるものは、なんだ?
-
( ゚∋ )⊃T「…その人形は
さっき土の中から
出てきた…」
(; ω )「!」
つるはしを振るう音が、止まった。
人形を見ていた僕に、気付いた男が振り向いて
そう声をかけたからだ。
何処から来たとか、誰だとか…そんな問いではない。
彼に、他人を気にする余裕は無い。
( ∋ )⊃Tミ「間違いない…
俺がツインに
買ってやった…」
( ∋ )⊃Tミ「……」
カンッ…カンッ…カンッ…
…黙って、男は再び、つるはしを振るい始めた。
-
カンッカンッカンッ…
( ∋ )⊃Tミ「ここは昔、金鉱だった。」
カンッカンッカンッ…
( ∋ )⊃Tミ「知ってるだろう。
スカルチノフ財閥…
あそこの山だった。」
カンッカンッカンッ…
( ∋ )⊃Tミ「あらかた
掘り尽したからって
閉山されたがな…」
カンッカンッカンッ…
( ∋ )⊃Tミ「だが、本当の理由は
それだけじゃない…」
カンッ…カンッ…カンッ…
( ∋ )⊃Tミ「何人もの人間が
次々といなくなった。
事故もないのにだ…」
カンッ…カンッ…カンッ…
( ∋ )⊃Tミ「俺の娘もそうだ…
たまたま遊びに来て
そのまま…」
カンッ…カンッ…カンッ…
-
尚も響く、つるはしの音が、いやに煩く感じられた。
スカルチノフ財閥が所有していた、鉱山。
金鉱として掘り尽くされ、廃坑となった、鉱山。
廃坑になった、本当の理由…。
事故も無いのに、何人もの人間がいなくなった。
この男の、娘さんも、いなくなった。
…話を聴いた僕の頭に浮かんだのは、久しく目にしていない
アラマキ=スカルチノフの、おぞましい笑顔。
彼が持っていたナイフ…『赤い石』だった。
父の両親は『赤い石』で、殺された。
復讐をするために、アラマキを追った、父。
アラマキを恐れていた、孫娘のはずの、ツン。
出来てしまった、僕の、推測。
この男が言う娘も、他にいなくなった何人もの人間も
アラマキ=スカルチノフが『赤い石』で、殺したのだ。
…あんな老人一人相手に、何を怯える必要がある?
父の過去での姿を思い出して…それでも僕は、体が震えた。
(; ω )「ちっ…違う、と、思いますお…
こ、こんなところで…娘さんは…」
僕の否定の言葉は、誰に向けたものだったのだろう。
カンッ…カンッ…カンッ…
つるはしを振るう音は、止まらない。
-
カンッ…カンッ…カンッ…
( ∋ )⊃Tミ「俺の娘は、ここにいたんだ」
カンッ…カンッ…カンッ…
( ∋ )⊃Tミ「その人形が
あったってことは
娘はここに来たんだ」
カンッ…カンッ…カンッ…
( ∋ )⊃Tミ「俺はあの子を見つけ出す…
必ずな…」
-
愛する娘を見つけるために、男は幾度も幾度も
つるはしを振り下げていた。
…手伝うなんて、僕には言えなかった。
彼以上に、僕の頭の中は、混乱していたから。
(; ω )
カンッ…カンッ…カンッ…
暗い穴の中、救って欲しい…。
それは、誰のことだ?
まさか、この男の…娘のことではないか?
そして、その娘は…。
-
カンッ…カン…カンッ…
(; ∋ )⊃Tミ「チッ…この岩
やけに硬い…」
…疲労が溜まったのか、男がそう漏らした。
カンッ…カンッ…カン…
-
ガラガラガラッ
永遠に続くと思われた、その作業は
最悪の形で…終わりを告げた。
-
(;゚∋゚)⊃T ⌒*(;; - ;;;)*⌒
(; ∋ )⊃「ツイン…やっぱり…」
( ∋ )「………」
-
(; ω )
(; ω゚)
( ゚ω゚)
-
俯いていた…直視することを恐れていた僕は
聞こえてきた慟哭に、顔を上げた。
泣き崩れる男の前、漸く崩れた岩の中。
…見なければよかった。
( ゚ω゚)「…ぁあ…あああ…」
( ゚ω;)「うぁああ…」
( ;ω;)「あああ……」
泣き崩れた男の慟哭すら、僕の耳には届かなかった。
あの人形を見て、本来の目的を思い出して…デレの言葉から
もう、予想はしていたことだった。
けれど、けれども…こんなことが、あっていいのか。
( ;ω;)「あの子がっ…あの子が…」
寂れた廃坑の奥、暗い穴の中で、眠っていたのは。
⌒*( - )*⌒
蝋人形のように、青白い顔をした、少女の。
⌒*(゚"∀'゚)*⌒
僕を…船の乗員を怯えさせた
あの少女の亡霊と、同じ顔の…痛々しい、亡骸だった。
-
…今までの疑問は、全て解けた。
彼女は、アラマキ=スカルチノフの持つ
『赤い石』の犠牲者だったのだ。
幼くして死に、父親と、父親に貰った大切な人形と別れ
死体は誰にも見つけてもらえないまま、暗い廃坑に
長い間…ずっと、閉じ込められていたのだ。
( ;ω;)「おお…おおお…」
どうしていいか、わからなかった。
多くの人々を怯えさせた、少女の亡霊は
僕が出会った多くの乗員を死に追いやった彼女は
その他の誰よりも、あまりに惨い死に方をしていたのだ…。
-
暫く、僕は立ち直れなかった。
乗員だけでなく、僕自身、この少女の亡霊に殺されかけて
少女を救いたいという反面、恨む気持ちもまた、強かったのだから。
( ω )
( ;ω^)「…」
拭いきれない涙でぼやけた視界の中、僕の目は、ある一点を捉えた。
⌒*リ´・-・リ
作業道具に紛れていた、あの人形…。
父親が買った、この廃坑の中で見つけたという人形だった。
この人形を、初めて手にしたとき、少女はとても喜んだだろう。
廃坑の中で見つかったというのだから、彼女は肌身離さず
死ぬ間際まで、この人形を持って遊んでいたのだ。
⌒*(*・∀・)*⌒
⊃⌒*リ´・ー・リ⊂
-
「…本当のあの子は、ここにはいない。」
知らない老人に命を奪われ、誰にも見つけてもらえず
大切な父と人形を失くし、人の心すら忘れてしまった少女。
「暗い穴の中で、あの子は泣いてる…」
彼女を救えるのは…誰だ?
「誰かに救ってほしいんだ…」
なら…僕が、彼女にするべきことは?
「気付かせてあげてよ。」
僕が、彼女に出来ることは?
「ここにいちゃいけないって…。」
-
( ω )
( ω^)
( ^ω^)
――決意し、顔を上げたとき、僕の意識は吸い寄せられていった…。
-
・
・
・
・
・
-
#過去世界 1910年 7月27日 ―ニュー速VIP号・ゲスト用通路
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・ゲスト用通路
-
…ゲスト用通路に、あの少年の影は無かった。
みっともなく酔っ払っていたジョルジュも、とうにいない。
部屋で怯えていた、でぃさんとつーさんも、閉じ込められた
ダイオードさんも、もう天に昇った。
後は、あの子だけだ。
慌てて開閉した、あの両扉を、今度はしっかりと
取っ手を掴んで、開いた。
-
ガチャ
バタン
-
⌒*(゚"∀"゚)*⌒
開けた瞬間、目の前に広がったのは
本気で僕を殺そうとしている、あの少女の亡霊だった。
彼女は両腕を上げて、椅子やテーブルなどの家具を
僕にぶつけようと待ち構えている。
(;^ω^)「…僕は、君を、知ってるお!」
⌒*(゚"∀"゚)*⌒
通じるかはわからない。
それでも、僕は彼女に呼びかけた。
(;^ω^)「君は、あの暗い廃坑の中で」
(;^ω^)「ずっと探してもらうのを、待ってたんだおっ」
⌒*(゚"∀"゚)*⌒
…彼女は両腕を上げたまま、振り下ろそうとしなかった。
聞こえているのだろうか、聞いてくれているのだろうか。
僕は、呼びかけた。
-
( ^ω^)「君の名前は、ツインだお。」
( ^ω^)「ツインちゃん。僕は知ってるお。」
( ^ω^)「誰かも知らない人に、命を奪われて…」
( ω )「暗い穴の中で…ずっと、助けを待ってたんだお…」
⌒*(゚"∀"゚)*⌒
( ω )「でも、君のお父さん、見つけてくれたお。」
⌒*(゚"∀"゚)*⌒
( ^ω;)「ほら…君のお人形、見つけてくれたんだお…」
つ⌒*リ´・-・リ⊂
( ;ω;)「君の、お父さんもっ…君のこと…
暗い穴から、見つけて、くれたんだおっ…」
つ⌒*リ´;-;リ⊂
…情けない大人だと、ツインちゃんは笑うかもしれない。
けれども、僕は涙を抑えることが、どうしても出来なかった。
お人形遊びをするような年の子が、あんな形で死んでしまった。
僕の生きている現代から、何十年もの間、ずっと報われず
恨み続けながら、知らない他人までをも巻き込んでしまった少女。
彼女は何も…悪いことはしていないのに。
-
( つω;)
⌒*リ´;-;リ⊂
( ^ω^)「…ツインちゃん、君は
ここにいちゃ、だめなんだお…」
⊃⌒*リ´;-;リ⊂
( ω )「お人形さんと一緒に、天国に昇るんだお。
君は、そこで…好きなだけ、遊ぶんだお…」
⊃⌒*リ´;-;リ⊂
⌒*(゚"∀"゚)*⌒
⌒*(゚∀゚)*⌒
⌒*( ∀ )*⌒
⌒*( −;)*⌒
-
----ここまで投稿-----
…人形を見た少女の顔は、次第に人間らしさを取り戻していった。
⌒*(;−;)*⌒
ぽろぽろと涙を流す亡霊の表情は、もう悪霊のものではない。
ごく普通の…愛らしい少女の、悲しむ顔だった。
「おっ…」( ^ω^)つ 〜〜 ⌒*リ´・-・リ ⌒*(;−;)*⌒
人形は、吸い寄せられるように、涙を流す少女に向かった。
少女同様に、愛らしい顔の、小さな人形は
彼女の腕の中に、すっぽりと収まった。
-
⌒*(*・∀・)*⌒「お人形…」
⊃⌒*リ´・ー・リ⊂
⌒*(*・ー・)*⌒「…パパから貰った…」
⊃⌒*リ´-ー-リ⊂
⌒*(* ー )*⌒「お人形…」
⊃⌒*リ´-ー-リ⊂
-
多くの人々を、航海前から脅かしていた、少女の亡霊は
父親の愛情が篭る、貰った人形を抱きながら
とてもかわいらしい、満面の笑顔を浮かべて
安らかに、眠った。
-
===MEMO===
-
―ロマネスク=スギウラ ( ^ω^)
過去世界 1879年生まれ 20歳 男
・過去で見た僕の父。
・若い頃は正義感の強い
温厚な青年だったようだ。
・青い石を託した父はいったい
何処に行ってしまったのだろうか…?
―アラマキ=スカルチノフ /,' 3
過去世界 1831年生まれ 68歳 男
・近寄り難い雰囲気の不気味な老人。
孫娘を盾に、父を脅迫した。
・本の記述によると、父にとっては
両親を殺した仇のようだ。
・ニュー速VIP号と共に行方不明のまま。
赤い石は彼の手にあるようだが…?
―ツン=スカルチノフ *(‘‘)*
過去世界 1894年生まれ 5歳 女
・アラマキ=スカルチノフの孫娘。
本を両手に抱えている。
・祖父であるはずのアラマキをひどく恐れ
重傷を負った父の身を案じていた。
・父から青い石を託された彼女は
ニュー速VIP号の航海から数ヶ月前
行方不明となったらしい…。
どこかで、無事でいるといいのだが…。
-
―フサギコ ミ,,゚Д゚彡
過去世界 1868年生まれ 享年45歳 男
・船長として、最期まで船の行く末を案じていた。
年長者らしく誰よりも先に、己の死を受け入れていた。
・僕と言う生者の存在に気付いた彼は
「外に出てはならない」と
生者を憎む亡霊の手から、匿ってくれた。
・ニュー速VIP号の全てを僕に託して
彼は消えていった…。
―ギコ (,,゚Д゚)
過去世界 1886年生まれ 享年27歳 男
・ニュー速VIP号の船員。
恋人を残して帰れぬ船旅に出たことを
後悔していた。
・恋人への一途な想いは、20年以上の月日を
経て、尚も消えずに彷徨い続けていた。
・彼女の指輪を見た彼は、恋人を思いながら
自分の死を受け入れ、静かに消えていった…。
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―しぃ (*゚ー゚)
過去世界 ??年生まれ ??歳 女
・ギコの恋人。重い病を患っていた。
・二人にとって大切な婚約指輪を落としてしまい
同じ場所で待っていたギコと会えずにいたのだ。
・婚約指輪を見つけたものの、ギコとは会えなかった。
涙を拭い、指輪を僕に託した彼女は、最後の瞬間まで
愛らしくも儚い微笑を浮かべていた…。
―プギャー ( ^Д^)
過去世界 1882年生まれ 享年31歳 男
・ニュー速VIP号の船員。
明かりのつかない部屋で、ひどく怯えていた。
・出航直前、夜中の波止場で作業していた
彼の荷物から、少女の亡霊が…
・乗客用連絡通路の鍵を閉めて、海図室で怯えていた彼は
明かりが戻ってきたことに安心して、消えていった。
その顔は、とても穏やかなものだった。
-
―フィレンクト (‘_L’)
過去世界 1860年生まれ 53歳 男
・上等なスーツに身を包んだ、物腰穏やかな男。
どうやら、スカルチノフ家の執事のようだ。
・今夜はパーティーだからと
食堂に繋がる道を塞いでいた。
それなりの格好をしないと、通してくれないようだ。
・僕が背を向けた後、彼はアラマキの名を呼んでいた。
嘆いていた彼は、アラマキと何かあったのだろうか?
_
―ジョルジュ=ナガオカ ( ゚∀゚)
過去世界 1891年生まれ 享年22歳 男
・ゲスト用通路で足を投げ出していた酔っ払い。
実はツンの母方の叔父で、ツンの母親の弟。
・画家であり、親友のダイオードに憧れていた。
彼を真似てベレー帽を被っている。
ちらりと覗く眉毛は、きりっとしていてかっこいい。
・親友を閉じ込めたことを、死んでも後悔していた。
飲み慣れた酒の味がしないことから、己の死を悟り
僕に三人の親友を託して、天に昇っていった…。
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―でぃ(#゚;;-゚)
過去世界 1894年生まれ 享年19歳 女
・ツンのもう一人の叔父、オトジャ=スカルチノフの
元妻から生まれた双子の姉。元妻の姓を名乗っている。
・双子の妹、つーさんの部屋に亡霊が出ることを深く悲しみ
そのことが気にかかって、天に昇れずにいた。
・つーさんが天に昇った後、僕にツンのことを教えてくれた。
快く教えてくれた彼女は、つーさんの後を追って
微笑んで消えていった…。
―つー (*゚∀゚)
過去世界 1894年生まれ 享年19歳 女
・ツンのもう一人の叔父、オトジャ=スカルチノフの
元妻から生まれた双子の妹。元妻の姓を名乗っている。
・自室のバスルームから、冷たい笑みを浮かべた女性の亡霊が…
この船の人々を脅かす亡霊は、一体、何人いるというのか。
・でぃさんの部屋に置いてあったヒーターでドアを塞いで
出なくなった亡霊に安堵しながら、ダイオードさんに会うよう
僕に伝えて、つーさんは微笑んで消えていった…。
-
―ダイオード=スズキ / ゚、。 /
過去世界 1879年生まれ 享年34歳 男
・一流の腕を持つ画家のようだ。
「二匹の蛇と斧を持った男」は、ジョルジュに作っていた
カクテルのレシピだった。
・特別ゲストルームで、彼は「魔物が生まれる瞬間を見た」と言って
ひどく取り乱してしまった為、三人の親友に
図書室の隠し部屋に閉じ込められていた。
・錯乱状態は一時的なもので、冷静に己の死を受け止めた彼は
ジョルジュと酒が飲みたいと、涙を零して消えていった…
―デレ=スカルチノフ ζ(゚ー゚*ζ
過去世界 1900年生まれ 13歳 男
・ツン=スカルチノフの弟。
どことなく、幼い頃の、彼女の面影がある…。
・ゲスト用通路に、突如現れた彼は僕に
少女の亡霊を救うよう言い残して消えてしまった。
・彼もまた、半透明の影だった…この船に、ツンはいないが
弟である彼は、ツンの居場所を知っているのだろうか?
-
―クックル=テルミ ( ゚∋゚)
過去世界 ??年生まれ ??歳 男
・スカルチノフ財閥が所有していた金鉱で
行方不明になった娘を探していた。
・つるはしを必死に振り下ろす彼の目の前に現れたのは
娘の痛々しい死体だった…。
―ツイン=テルミ ⌒*(・∀・)*⌒
過去世界 ??年生まれ 享年??歳 女
・何人もの船員を、乗客を脅かした亡霊。
その正体は、かつてアラマキ=スカルチノフに殺された
不幸な少女の、悲しい亡霊だった。
・人形を手に抱えた彼女は、人間だった頃の温もりを思い出して
音も無く消えていった…。
…
-
長いレスをお読みくださり、本当にありがとうございます。
これで、第一部は終わりです。
続きが気になると言ってくださったり
でぃとつーの部屋の謎に触れてくれたり
とても嬉しいです。
以下、(´・ω・`)による補足に入ります。
-
(´・ω・`)「やあ、待っていたよ。」
(´・ω・`)「おや、>>556…フフフ…ねことはいいものだ。」
(´・ω・`)「さて、本題に入ろうか。」
-
(´・ω・`)「まず船に起きた嵐だが
『エコーナイト パーフェクトガイド』
の開発インタビューによると」
(´・ω・`)「『嵐は起きたが、嵐が遭難の直接の原因ではない。
赤い石の力が大きくなりすぎて
違う世界に送られてしまった。』
とのことだ。」
(´・ω・`)「船内の時間が止まっているのは
そういった経緯で、異世界に
いるからなのだろう…」
(´・ω・`)「君も気をつけたまえ、異界送りをされぬようにな…
フフフフフ…」
-
(´・ω・`)「次に、登場人物の人間関係だが」
(´・ω・`)「ツンとでぃ&つーの関係も、ジョルジュの家柄も
パーフェクトガイドにしか載っていない設定なので
プレイするときは、くれぐれも気をつけてくれ。」
(´・ω・`)「無論、設定は細かい。施設ではたとえば…
流れないが、トイレ、シャワー、洗面所
日常で使うものは全て調べられる。」
(´・ω・`)「しかし、ゲームをこれからやろうとする人には
あまり期待しないで欲しいのでね…フフフフ…」
-
(´・ω・`)「物語はまだ序盤だ。
あまり話が出来ないのは残念だが…」
(´・ω・`)「今日のところは
これで失礼するとしよう。」
(´・ω・`)「時間も遅いのでね…」
(´・ω・`)「またくるといい、待っているよ…」
-
川 ゚"々゚")こっちのほうも亡霊になった理由があるんだろうな
-
おつ!
-
(´・ω・`)「やあ、待っていたよ。」
(´・ω・`)「昨日は、仕事の疲れと
書き上げた達成感で、ろくに物も言えなかったのでね」
(´・ω・`)「花の金曜日である今日、改めて補足をしにきたよ。」
(´・ω・`)「ではまず、ブーンが持っていた
アイテム一覧を見せよう。」
-
------アイテム一覧------
小さなカギ―手紙から入手
父の部屋にある置き時計の扉を開ける
ネジ巻き―父の家・廊下から入手
置時計のネジを巻く
クランク―過去世界・蒸気機関車の車内から入手
後方車両の天窓を開ける
赤い本―父の家・隠し部屋前から入手
父の手記(スカルチノフ家との因縁が書かれている)
-
革の手帳―船長室寝室・サイドボードから入手
登場人物の概要。MENU画面の「MEMO」が使用可能になる
金属の取っ手―操舵室・テーブルの下から入手
床の収納庫にある蓋を開ける
船内設計用紙―船長室・収納庫の中から入手
メニュー画面の「MAP」が使えるようになるが無意味
婚約指輪ー過去世界・郊外の遊園地から入手
(*゚ー゚)に渡した後(,,゚Д゚)に渡す
ゴムの手袋―過去世界・波止場のタラップから入手
装着すると、感電を防ぐことが出来る
ペンチ―船具倉庫・左奥から入手
船長室のタンスに巻かれた針金を切る
-
彗星の本―船長室・タンスの中から入手
太陽のレリーフの前で使うと、天文台2Fへいける
割れた宝石―天文台2F・霊能者から入手
『青い石』の断片の一つ
針金―船長室・タンス床下から入手
接続用通路の配電盤にはめる
鉄のカギ―海図室・( ^Д^)から入手
接続用通路にある『乗客用連絡通路』への鍵を開ける
グラス―船内一層・ゲスト用通路から入手
_
( ゚∀゚)のためのカクテルを作る
-
水兵のメダルA―船内一層・図書室のダクトから入手
図書室にある水兵の人形にはめる
右手を斜めに挙げている
_
水兵のメダルB―船内一層・( ゚∀゚)から入手
図書室にある水兵の人形にはめる
両手を斜めに広げている
水兵のメダルC―船内一層・(#゚;;-゚)から入手
図書室にある水兵の人形にはめる
左手を高く挙げている
水兵のメダルD―船内一層・(*゚∀゚)から入手
図書室にある水兵の人形にはめる
右手を横に真っ直ぐ伸ばしている
真ちゅうのカギ―図書室隠し部屋・/ ゚、。 /から入手
『特別ゲストルーム』の扉を開ける
ツインの人形―過去世界・廃坑二層から入手
少女の亡霊に差し出す ⌒*リ´・-・リ
-
体力回復薬―船内各部屋から入手
体調を完全に回復する
アストラルピース―昇天した魂から入手
天文台で聖水と交換できる
聖水―天文台・(´・ω・`)から入手
憑依(後述)を直し、体調を一段階、回復する
-
(´・ω・`)「長々とすまなかったね。」
(´・ω・`)「次は、後述と書いた憑依のことだが
これはブーンの状態のことだね。」
(´・ω・`)「他のゲームで見かける毒などは無く
『正常』と『憑依』の二種類しかない。」
(´・ω・`)「亡霊に襲われて『憑依』になったブーンは
視界が暗く、狭くなってしまう。」
(´・ω・`)「彼の苦しむ姿を見ただろう?
なりたくなければ、気をつけることだ…」
(´・ω・`)「自然回復はするが、私と交換する聖水が
その場ですぐに治してくれる。」
(´・ω・`)「決まった数しか渡せないから、使い道には
十分、気をつけたまえ…フフフ…」
(´・ω・`)「体力(体調)は
Best/Good/Normal/Wound/Dangerの五種類だ」
(´・ω・`)「青に満たされた左上の◇が、その目印だ」
(´・ω・`)「これが、青から赤に変わる瞬間は
見ていて実に楽しいものだ…フフフフフ… 」
-
(´・ω・`)「これで第一部の補足は終わりだ。」
(´・ω・`)「一区切りついたところで、解説をしたかった作者も
少し落ち着きを取り戻したようだが」
(´-ω-`)「全てを救うまでは、まだまだ先が長いのでね…」
(´-ω-`)「飽きたら遠慮せずに、読むのをやめることだ。」
(´・ω・`)「では今度こそ、失礼するとしよう…」
(´・ω・`)「また会おう、待っているよ…」
-
おつかれ!
-
乙!
-
今更だがアストラルのあたりは吹いた
-
乙ありがとうございます
確認したいことがあり、プレイしなおすので投下が遅れます、すみません。
>>633
原作は一部以外、人物のセリフがフルボイスなんだが
酔っ払いと霊能者があまりに良い声しててワロタ
-
最初から最後まで一気に読んじまった
期待
-
あいや 詳しくないというわりにめちゃくちゃ詳しいやん ブーン
-
予告通り、19:35に投下します。
その前に、予告スレで(´・ω・`)が言っていたとおり
第一部は一区切りついただけで終了ではないです。
大変申し訳ございません…。
第一部終了部分の投下後、第二部投下という形になります。
あと、大手パンメーカーの感想をどうもありがとう。
最初に投下したものと、タイトルが反対になってたのを
投下後、しかも暫く日が経ってから気付いた。
まあ気にすんな。
>>636
あれでも触りだけしか無いんだぜ…。
詳しい話をすると、霊界の云々かんぬんの話から
全ての宗教をひっくるめた話まで出てくるから…。
-
・
・
・
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・特別ゲストルーム
-
…音も無く消え去った、少女の亡霊。
先程まで起きていた、ポルターガイスト現象すら嘘のように
真っ暗な広い部屋には、音が無かった。
( ^ω^)「電気…点けるかお…」
近づけなかった奥のスイッチに歩み寄り、取っ手を右に回すと
カチャリと音がして、部屋は明るくなった。
中央には、少女が持ち上げていた、丸いテーブルが。
その奥には、柵のある暖炉。
その隣の壁には、電気のスイッチ。
右手と左手には、ドアがあった。
暖炉の手前のロッキングチェアは
触ってもいないのに、揺れている。
( ^ω^)「…あ、そうだお。」
右手のドアと左手のドア、どちらから開けようか
迷っていた僕は、ここに来た本当の理由と
来る前の出来事を思い出した。
(;^ω^)「あのカタブt…執事をどかすために
パーティーに来ていけるような服が
欲しかったんだお…」
上等な夜会服でないと、あの執事は納得しないだろうし
本当の意味で、役目を終えることも出来ないだろう。
特別ゲストルーム…『特別ゲスト』が誰かはわからないが
『特別』と言うくらいだ、ここの部屋の主なら
きっと上質な生地の夜会服を、持っているに違いない。
-
( ^ω^)「寝室は…左かお。」
設計図を見て、位置を確認した僕は、夜会服があると思われる
左手の寝室を調べようと、二歩進み…
( ^ω^)「やっぱり、右手から調べるお。」
考え直して、右手の部屋に入った。
何故って?
(^ω^ )=( ^ω^)
( ^ω^)!そ
( ゚ω゚)「やっぱりっ!特別ゲストなだけはある!」
チップの『無料引換券』が落ちていそうな匂いが
そこはかとなくしたからだ。
…無論、これは僕の「カン」であるが、どうやら当たったようだ。
トイレの隅に、チップの『無料引換券』は落ちていた。
小さな紙だから、ポケットに忍ばせておいた人が
出ていくときに、ぽろりと落としてしまったのだろう。
( ^ω^)+「んじゃ、行くかお。」
拾って戻ってきた僕は、何も無いことを確認して
揺れるロッキングチェアの背にある、左手のドアを開けた。
-
ガチャ
バタン
( ω )
-
キィイ…
-
(;´ω`)「おう、暗いお…」
部屋の暗さに思わず退いた僕は、ドア付近の壁にある
スイッチを右に回して、電気を点けた。
女性とは言え、二人の亡霊を見ていた僕は
帰る頃ではなくもう既に、暗所恐怖症だった。
暗いところにいては、自分の身が危ない…
奥底の生存本能が、そんな警鐘を常に鳴らしているのだ。
パチリと音がして、煌々と灯った明かりが映したのは
天蓋付きの豪華なベッドと…その上に、まるで着替える直前のように
無造作に置いてある夜会服だった。
(*^ω^)「おぉっ…ベッドの心地よさも味わいたいけど
手に入れたいものが目の前にあるって
ちょっといい気分だお。」
-
…悪霊に二回も襲われたというのに
僕は、すっかり浮かれていた。
招待客と船員の亡霊、少女の悪霊を見送った。
そんな自負を、知らない間に抱えていたのかもしれない。
-
( ω )
-
この部屋に、鍵さえかけていれば。
怪しい者がいないか、確認さえしていれば。
(======)━∩ Σ(゚ω゚;)!! ( )━∩
夜会服を手に取ろうとした瞬間
ベッドのシーツに映りこんだ、黒い影。
その影は、棒のような物を持っていた。
まさか…僕を、襲おうとしている!?
-
≡(; ω゚) ガッ ━⊂( ) 彡
-
振り向こうとしたが、間に合わなかった――
-
( ) ドサッ... ( )
∪━
( ω )「…」
━∪
( ω )「……」
-
・
・
・
・
・
-
第一部:少女の亡霊 終了
-
――第二部:若い女性の亡霊――
-
・
・
・
・
・
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・???
-
(; ω )「っお…うう…」
…後頭部が、鈍い痛みを発している。
ぼやけた視界は、天井に灯る、白光の明るさを捉えた。
(; ω )「ど、どこだ…?」
ここはどこなんだ…?
誰が、あんなことを?
何故、僕を…?
よく回らない頭に、次々と浮かぶ疑問符。
最初の疑問を解くためには、起き上がらなければ…。
しかし、意思に反して、僕の体は鉛のように重たい。
半身を起き上がらせるのが、やっとだった。
-
(; ω )「…」
だめだ、意識が朦朧とする…。
沈みかけた瞼を、どうにか開けた僕の目に
もう一つの小瓶…最初に、船長室で見つけた液体が映った。
…あのときの、霊能者に貰った、小瓶の中身を思い出す。
いちかばちか…飲んでみれば、効くかもしれない。
気怠い体の一部をどうにか動かして、僕はそれを開ける。
そして、無臭の液体を、無理矢理に飲み干した。
(;´ω`)=3ウッ…プハァッ…
…どうやら、かなり効き目が良かったようだ。
頭の鈍痛も、全身の気怠さも、一気に取れた。
あの霊能者から貰ったものと言い…味はただの水なのに
体の疲れや痛みを取るとは、どんな成分が入っているのだろう?
-
(;^ω^)「…何も、盗られてない…おね?」
早速、軽くなった体を起き上がらせて、ベッドに腰かける姿勢になった僕は
道具の全てを確認して、自分の身辺が無事なことを、改めて認識した。
直前に取ろうとした夜会服も、何故か手元にある。
物取りの犯行では無いようだが…僕を襲ったのは、誰だ?
( ^ω^)「まぁ…後でじっくり考えるお。」
今は、場所の確認も必要だ、犯人探しは
ひとまず後回しにしよう…僕は、辺りを見回した。
僕が眠っていた、白いベッドの隣には、簡素な丸椅子。
傍らには、鉄製のサイドボード。壁に掛けられた電話機。
なんとも、質素な造りの部屋だった。
( ^ω^)「…この匂い…」
余裕が出来た僕の体が、その機能を果たした。
鼻腔を刺激する、独特な匂い…薬品特有のものだ。
…連想した場所が合っているかどうかは
外に出てみればわかるだろう。
合っていれば『そこに必ず置いてあるもの』が見えるはずだ。
忘れ物が無いか確認して、僕はドアノブに手をかけた。
-
ガチャ
バタン
-
( ^ω^)「やっぱり…」
正面に広がる、白いベッドに医療器具。
椅子に腰掛ける、白衣を着た男、ニュー速VIP号の医師だろう。
彼もまた、半透明の影だったが…。
それらは、僕が浮かべたとおりの居場所を、指し示していた。
(;^ω^)「船内二層…医務室…」
既に何度も見直した設計図の一部を
頭に描いた僕は、額に手をやった。
…なんということだ。
運び込まれた僕は、知らない間に、下に降りてしまったようだ。
外に出れば、シアター前通路だ。そこから階段を上れば
乗客用連絡通路の、太陽のレリーフがあった方へ出られる。
すぐに、あの一層に戻れる方法はあるのだが…。
-
(; )
目の前にいる医師も、半透明の影。
人の命を救う仕事をしていた彼もまた
未練を残して死んでいったのだ。
全ての魂を救うと決めた以上、それを放って
上に戻ることは出来ない。
運び込んでくれたのが誰なのか、わからなかったが
お礼は言おうと、僕は医師に話しかけた。
( ^ω^)「あのぅ」
(; ∀ )「私は…知らない…」
(;^ω^)「おっ…?」
しかし、医師はひどく憔悴していた。
何があったのだろう…未練の元だろうか。
問いかけようとした僕の耳に、不穏な単語が聞こえた。
-
((; ∀ ))「毒のことなど…
私は…何も…」
(;^ω^)そ「!!」
「毒」…?「毒」だと?
誰が…誰に、毒をどうしたというのだ。
何故?
(((; ∀ ))「アラマキ様…
私は何も知らない…」
(;゚ω゚)(アラマキっ…!?)
震える医師が、呻くように口にした名…僕は、その名に愕然とした。
アラマキ=スカルチノフ…先程、悪い意味で聞いたばかりの名だった。
『赤い石』を使って、多くの人々を…少女を殺し、彷徨う霊にさせた悪魔。
老人の皮を被った悪魔に、そんな毒をどうしたと言うのか。
-
(((; ∀ ))「うう…うぅう…」
(;゚ω゚)「あんた、あのアラマキに何したんだおっ!?」
叫び、その肩を揺さぶろうとして…我に返った。
返らざるを得なかった。
僕が乱暴に掴もうとしたその手は、するりと空を切ったから。
そうだ…この医師も、死んでいたのだ。
その証拠に、体が半透明に透けている。
死んだ人間に、触れられるわけが無い。
(;゚ω゚)「…!」
僕は、急いで医務室の中を見渡した。
「毒」「アラマキ」…この単語に関連する何かが
この医務室のどこかに、必ずあるはずだ。
医師の机は、目の前にいる以上
手を伸ばせば止められるだろう。
医療器具…そんな目立つ場所に
隠しておけるとは思えない。
( ゚ω゚)そ「あれは…!」
ちょうど死角になっている部屋の、隅の戸棚。
何かあるかもしれない…。
希望を持って、僕は戸棚の扉に手をかけた。
-
扉を開けた僕は、過去の世界に吸い寄せられていった―
-
・
・
・
・
・
-
#過去世界 1912年 3月15日 ―研究室
-
…晴天の下、大きな建物…何処かの大学か何かだろうか。
施設の、とある一室に、僕は飛ばされたようだ。
( ^ω^)「おっ…」
目の前にあるのは、大きなテーブルに置かれた、木の薬箱。
左手に並ぶのは、天井にまで届きそうな背丈の、頑丈な鍵がかかった棚。
振り向いた先で、顕微鏡を覗き込んでいたのは…
( ・∀-) \
±
おそらく、医務室にいた医師だろう。
顔と白衣の下の服が、よく似ている。
( ^ω^)「あのぅ」
(・∀・ )「なんだね、君は。
何処から入ってきた?」
(・∀・ )「仕事の邪魔だ。
用が無いならとっとと出て行ってくれ。」
(#^ω^)「……」
この…高圧的で嫌味な言い方。
僕は、乗船して以来、初めてカチンと頭にきた。
医師特有のものだとわかっていても
僕にはどうしても、慣れることができなかったのだ。
アラマキに毒を渡したんだろう…そう、問い詰めてもよかったのだが
証拠が手元に無い現段階では、とても危険な試みだった。
下手をすればその証拠を、消されてしまう可能性が高い。
…何が何でも、証拠を掴みたい。
-
ここは広い部屋だが、鍵のついた棚以外には何も無い。
あるとしたら…医師の手前にある、小さな二段の引き出し。
試しに、触れてみようか。
疚しい物が入っているわけでなければ、注意されるだけで終わる。
しかし、何か…人に、見られてはいけない物が、入っていたとしたら
恐らくこの医師は、注意するだけに留まらず、僕を部屋から追い出したりするだろう。
( ^ω^)つ"「…」
試しに、手を触れてみた。
(#・∀・)「それに触るな!!」
きた。予想通りだ。
-
顔を真っ赤にして怒った彼は、首を横に振って
(#・∀・)「…私は忙しいんだ。
出て行ってもらおうか。」
と、僕を無理矢理追い出そうとする。
「い、いたた、出て行きますから
引っ張らないでくださいお!」(^ω^;)>⊂(#・∀・)「全く…」
(#・∀・)「二度とくるんじゃない。
わかったな!」
ドアを開けて、医師は僕を追い出そうと…
-
そこで僕の意識は、また吸い寄せられていった――
-
・
・
・
・
・
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内二層 医務室
-
…これで、あの医師が「毒」「アラマキ」に関連した
何か疚しいものを持っているということが、証明された。
頑丈な鍵のついた棚に触れても
「そこらのものに触っちゃいかん」と注意されただけなのだ。
そう…普通なら、あそこまで怒ったりはしない。
あの一室にあった引き出しに、証拠が入っているのだ。
それを、何としてでも手に入れなければ…
(;^ω^)(しかし…どうしたらいいか…)
あの医師が、いないときに持ち出す。
それぐらいしか、方法は無いのだが…
医師のいないときに侵入、奪取するなど、出来るのだろうか?
戸棚に、もう一度触れてみよう。
どんな仕組みで過去へ行けるかはわからないが
念じれば、或いは…と、手を伸ばしかけた、ときだった。
(; ∀ )「時間だ…」
( ^ω^)「じ、時間…?」
(;^ω^)つ「あ、ちょっと!」
…何があるのかは知らないが、どうやら医師にとって
特別な「時間」になったらしい。
僕が呼び止める間もなく、医師は、ドアを開けて早々に出て行った。
-
(;^ω^)「…」
…そこで、僕は改めて、わかったことが一つある。
死を自覚していない者は…生前と、全く同じ行動を取るということ。
この船に来て、最初に出会った船長…フサギコさんは
部屋を行き来する際に、必ずドアをすり抜けていった。
生きている人間には、絶対に出来ないことだ。
あの医師は、自分が死んだことを知らない。
自分の死を自覚できない程、大きな闇を抱えているのか。
憔悴しきった様子から、自分の死を自覚する余裕すら、無いようにも見えた。
( ^ω^)「…あんたの目、覚まさせてやるお。」
閉められたドアに向かって、僕はそう言い放った。
-
・
・
・
・
・
-
#過去世界 1912年 3月15日 ―研究室
-
…あれから僕はもう一度、戸棚に触れて、研究室に来ていた。
戸棚に触れる前、壁の貼り紙に書いてあった診療時間を確かめた後に
使わない、意味が無いと思っていた、自分の懐中時計と比較して
医師が出て行った理由にも、納得が行ったからだった。
診療時間は、朝の9時から、夕方の17時まで。
僕の懐中時計の針は、17時03分を指していた。
既に、診療時間は終了しているわけだから
何の用があって出て行こうが関係ない。
そして、あの世界はもう、事後の世界だということを
僕は今更ながら、思い出したのだ。
外から完全に切り離されている、過去の世界というだけ。
否が応でも、時間は進む。
もしかしたら、現在の状況と比例しているのかもしれない…。
そう考えてみた僕の予想は、見事に当たっていて
顕微鏡を覗き込んでいた医師は、そこから姿を消していた。
-
( ^ω^)「さあ…何が入っているんだお?」
二段になっている、小さな引き出し。
入っているとしたら…現物か、或いは手紙か何かか。
すっと、引き出しを開けた僕は
その中に入っている紙を、取り出した。
-
――中身を読む間もなく、僕の意識は吸い寄せられていく…。
-
・
・
・
・
・
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内二層 医務室
-
(;^ω^)「あぁ、もう…中身くらい見せてくれお!」
誰のせいというわけでもないが、焦らされているみたいで
むずがゆい気持ちになった僕は、思わずそう漏らした。
『ブツ』は手に入ったから良いのだが…。
( ^ω^)「って…あいつ、戻ってきてるお。」
…さすがに、内容を知る前に見つかってはまずい。
幸い、憔悴しきっていて、気にかける余裕も無い彼には
僕の言葉は聞こえていないようだった。
先程、目を覚ました個室に入り…今度は、念のために
内側から鍵をかけて…僕は、手に入れた紙に目を通した。
(;゚ω゚)そ「…!!」
…その紙は、処方箋だった。
貼られた写真の人物は…アラマキ=スカルチノフその人だ。
-
処方箋には、幾つかの薬品名が記されていた。
僕は医学に詳しくないから、その薬品に関しては
知識が無く、全くわからない。
だが、その下の記述が、薬品が何であるかを明示していた。
“(特別許可)
以下の薬品は本来、持ち出し禁止に当たる劇薬であるが
今回、特例として、アラマキ=スカルチノフ氏への移譲を認める。
なお、この件に関して、薬品使用記録には一切
記載しないことを厳命する。
モララー=ジエン”
-
( ω )「…」
カチャリ
ガチャ
-
…人は、ある感情が一定の線を越えて、頂点に達したとき
或いは第三者の視点でその瞬間を見たとき
かえって冷静になるものだと言う。
無言で退室して、彼の前に来た今の僕も、そんな感じだろう。
( ^ω^)「…モララー先生。」
(; ∀ )「うう…うう…」
( ^ω^)「モララー先生。」
( ^ω^)「あなたに『診て』もらいたいものがあるんですお」
…いや、案外、そうでもなかったようだ。
僕は、医師の机に思い切り、処方箋を叩き付けた。
びくりと、医師の体が震える。
((; ∀ )そ「そ、それは…!!」
( ^ω^)「これ、処方箋ですおね。」
( ^ω^)「『アラマキ=スカルチノフ』総帥への
『劇薬特別許可』の、処方箋ですおね。」
((; ∀ )))
「劇薬」…副作用の重さ・強い中毒性があると
法によって認められ、一切の使用を禁じられている薬。
例外は…
医師から許可を貰う。
処方する際に、使用者の個人情報を全て明記。
無論『全ての記録は厳重に保管される』べきもの。
もう、言い逃れは出来ない。
医師が…モララーが、本格的に震え始めた。
-
後もう少しだ…後もう少しで、これが何に使われたかを
知ることが出来る…。
知らなければならないのだ、僕は。
彼の言う「毒」が「アラマキ」に渡った後
「誰」に対して、どう使われたのか。
((; ∀ )))「そ、それは…」
((; ∀ )))「ア、アラマキ様が…」
((; ∀ )))「う…」
「うわぁああああっ」
( ゚ω゚)「逃がすものか!!!」
狼狽したモララーは、形振り構わず、ドアめがけて駆け出した。
叩きつけていた手を離し、処方箋をしまいこんだ僕は追いかける。
彼を逃がすまいと、開け放たれたドアを、半ば蹴るように全開して。
しかし、彼を追い詰めることは出来なかった。
-
ウフフフッ…
~~~~川 ゚"々゚")~~~~
-
背筋を走る悪寒、纏わり憑く靄、放たれる霊気…。
つーさんの部屋に出てきた、あの若い女性の亡霊が
僕の行く手を遮った。
(;゚ω゚)「くっ…!!」 ~~~⊂(゚"々"゚ 川~~~~
少女の次は、若い女性の亡霊か…!
それも、この女性は、乗客用連絡通路に繋がる道を塞いでいた。
夜会服を着ていく、などと、僕の思い通りには行かないようだ。
(;゚ω゚)「電気はっ…電気はどこだっ!!」
放たれる霊気を避けながら、僕は電気のスイッチを探した。
この亡霊も、あの少女と同じだとしたら…彼女には申し訳ないが
今はどいてもらわなければ。
(;゚ω゚)そ「あった!!」
スイッチは、女性のいる方とは反対側…遊戯室の手前にあった。
寄って遊んでいきたいなどと、言っている場合ではない。
僕は、遊戯室手前にあったスイッチを、押した。
-
カチ。
カチ、カチン。
(;゚ω゚)「なんだとぉおおおっ」
今度こそ、本当に故障していて、点かないのだ。
~~~~川 ゚"々゚")⊃~~~~~
その間にも、亡霊は霊気を放ってくる。
あれに当たってしまえば、また前のように
視界が閉ざされて動けなくなってしまう…!
その場しのぎと、遊戯室に入ろうとした僕の前を
霊気が通り過ぎる。その距離はあまりにも近い。
(;゚ω゚)「くそっ…どこか無いのか!」
どこでもいい、明かりの点く場所へ…そう思った僕の目の前に
大きな両扉が見えた。その先はおそらく…
(;゚ω゚)「シアター!!」
映画館なら、映写機の光など、何かしらの明かりがあるはずだ。
僕は奥まった通路を駆けて、両扉を開け放った。
-
バタンッ
-
・
・
・
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内二層 シアター
-
⊂(; ω )「はぁっ…はぁっ…」
取っ手に手をかけながら、僕は喘いだ。
人を助ける為に走るのと、亡霊から逃れる為に走るのでは
疲れ方が全く違う…などと、どうでもいいことを考えながら。
フゥッ・・・(;^ω^)=3
呼吸を落ち着かせ、顔を上げて見渡した。
どうやら、僕の考えは間違っていなかったようだ。
設計図を取り出し、見直して…頷く。
( ^ω^)「シアター前通路の中央が、シアターで」
(^ω^ )「反対側が、遊戯室だったんだおね…」
遊戯室の斜め前…シアター側の正面から見て
左手には、幼い子供の為の子供部屋が
右手には、先程僕が出てきた、医務室がある。
…あの悪徳医師め、何処に行ったのだ。
( ^ω^)「今度あったとき、とっちめてやるお…」
呟きながら、僕は、シアター入り口のカウンターに歩み寄った。
受付用のカウンターには、来客用の名前を書くメモと
金色に輝く呼び鈴が置いてあった。
…僕が探しているのは無論、電気のスイッチである。
ここも、明かりが無いのだ。
(;^ω^)「おー…電気…」
見つけた…と思ったら、カウンターの奥
つまり、従業員の立つ場所のすぐ横にしか
スイッチはついていないようなのだ。
バーカウンターと違い、呼び鈴があるということは
勝手に入ってはいけない、鳴らせということなのだろう。
「すみませーん」( ^ω^)つ"n チーン
(;^ω^)「…って…考えたら、全員死んでるから
押しても来ないんじゃ…」
(>< )ヘィ オマチ!
( ^ω^)「きたし!」
-
僕は、鳴らして人が来たことに驚いた。
乗員全員が死んでいるのだ。それも、嵐と亡霊にやられて。
だから、鳴らしても怯えるか警戒するだけで
反応してくるとはとても思えなかった。
しかもすり抜けて…ということは、この人は…
死んだことを、自覚している。
( ^ω^)「あ、あのぅ」
(;><)「すいませんなんです…」
(;^ω^)「お…?」
いきなり申し訳無さそうに謝られて、驚いた僕が顔を乗り出して見ると
人の良さそうな…映写技師だろうか…が、本当に申し訳無さそうな顔で
僕に頭を下げていた。
彼に、何かされた覚えは無いのだが…と
僕が思案していると、おずおずと、彼は言った。
(;><)「すいませんなんです…上映は、もう終わりましたんです…」
(;^ω^)「あ、そっちかお…いいえ、どうも…」
(;><)「はいなんです、この後は…その…」
(;><)「貸し切り、なんです…」
(;^ω^)「あ、あぁ…そうなんですかお…」
どうやら、シアターではもう、上映は終了して
今は何もやっていないようだ…。
それも、この後は貸し切りらしい。
分かっても、仕方の無いことなのだが。
-
(;^ω^)「あのぅ、電気を…」
(;><)「また今度…お越しくださいなんです…」
(;^ω^)「あのぅ…電気…」
「すいませんなんです…すいませんなんです…」=(;><)
(;^ω^)「あの!ちょっと、電気を…!」
ついつい、おっとり、おどおどとした態度につられてしまったが
彼は僕の言葉にも一切、返事をせずに、言うだけ言うと
ドアの向こうに帰ってしまった…。
-
…人の話を聞け!と言いたいところだが、何だかあんな風に
頭を下げられてしまうと、こちらもつられて、何も言えなくなってしまう。
仕方なく、僕はまた、バーカウンターのときと同じように
しゃがんで中へ入っていき、横にある電気を点けた。
パチリ。
点いた電気にほっとした僕は、
( ^ω^)
( ^ω^)「あ…」
…従業員用の、奥の部屋に繋がるドアの前で、見つけてしまった。
太陽のレリーフ…あの霊能者の元へ行ける、その紋様を。
( ^ω^)「確かに…」
( ^ω^)つ0「溜まってきた(×6)けども…」
(;^ω^)「行きたくないです」
あの、無駄に渋い声。胡散臭い話し方。含み笑い。
本当に何とかならないものか…。
紫色の、聖職者が纏うローブのような服は
人種差別をするわけではないが、黒人肌に眼鏡と
その格好では、胡散臭さが倍増するというものだ。
しかし、彼が渡してくれた小瓶は、確かに効き目があった。
暗く、狭くなった視界が明るくなり、疲労も少し取れた。
それで救われたようなものだ、礼は言わなければならない…。
( ^ω^)「じゃあ、行くかお…」
彗星の本を掲げて、僕は霊能者の元へと飛んでいった…。
-
#過去世界 1937年 ??月??日 ―天文台・2階
-
どうも、この部屋の異様な空気に慣れない。
妙な形のオブジェと、木製の棚が並べられて
横には入れないようになっている…。
何処かの屋敷にある、謁見の間のような道。
なんというか…なんとも、表現し難いのだ。
(´・ω・`)「やあ、また来てくれたね…」 (^ω^;)
以前と変わらぬ格好で出迎えた、目の前の霊能者は怪しいし
そんな男に真正面から見つめられても、僕にそっちの気は無いから
反応に困るだけでちっとも嬉しくない。
(´・ω・`)「どうだい、旅は楽しいかい?」
(´・ω・`)「フフフフ…」
そして、この含み笑い。
(´・ω・`) (^ω^;)
笑みを浮かべながらの、熱い視線。
男性の僕には不要なものだ。
さっさと物を渡して、出て行ってしまおう…。
-
(´・ω・`)⊇0 ⊂(^ω^;)「ほぃ…」
(´・ω・`)「フフ…助かるよ。」
(´・ω・`)「では、これを持って行きたまえ。
きっと、君の役に立つだろう。」
(´・ω・`)⊇ i⊂(^ω^;)
(^ω^;)「実は、もう役に立ってますお…」
「そうかい、それは良かったよ…」(´・ω・`)
(´・ω・`) (^ω^;)「…」
…聞きたいことは、幾つもある。
山ほどあるのだ、問い詰めたいことが。
霊能者と名乗る、この男は何者なのか。
こんなところで、何をしているのか。
何故、ニュー速VIP号のことを知っているのか。
船内の魂が残す『アストラルピース』を、どうするつもりなのか。
『青い石』を、何故、持っていて、僕に渡したのか。
しかし、
(´・ω・`)「どうした。」
(^ω^;)「あ…いえ、なんでも…」
この顔で…眼鏡の奥の、全てを見透かしているような視線。
何人たりとも寄せ付けないような、空気。
怪しいとわかっていても、そんな霊能者に、僕は何も問えなかった。
-
(´・ω・`)「前にも言ったとおり
その彗星の本を持っていれば」
(´・ω・`)「いつでもここに来ることが出来る。」
(´・ω・`)「また来るといい。
待っているよ…」
(´・ω・`) (^ω^;)「…」
…どうやら、帰るしかないようだ。
もう話すことは無いという様子で、笑みを浮かべながら
視線は僕を鋭く射抜いてくる。
(;^ω^)「ま、また…きますお…」
来たくないけど…と、心の中で付け加えて、僕は
エレベーターのボタンを押した。
-
#過去世界 1913年 ??月 ??日 ―ニュー速VIP号・船内二層 シアター入り口
-
…肩の荷が少し下りたことで、ほっと息が漏れる。
一つ用は済んだ。また、後で来よう。
しかし、そんなことより、先程の映写技師の様子が気になる。
貸し切りという割りに、浮かない顔をしていたが…
( ^ω^)「貸し切りの相手が、面倒な人とか…」
アラマキでは…という考えは、さすがに捨てた。
何でも結びつけるのは良くないし、今は
思い出したくないことも、いくつかあるから。
僕は、彼の後を追うために、従業員用のドアを開いた。
ドアの向こうは、暗くて狭い小部屋。
すぐ横に、はしごがあった。
落ちないように立て付けられているから
一応は安全だ。
( ^ω^)「この上に、さっきの人ががいるのかお…」
呟いた僕は、はしごに手をかけた。
-
キィッ…
キィッ…
-
…映写室の中は、元々の仕組みなのだろう。
電気はなく、明かりが灯るのは映写機ぐらいだった。
あるはずの映写機の光が無いだけで、とても暗く感じる。
上ったすぐ横に、棚があった。
レコードが置いてあるが、何の曲だろうか…?
手にとって見ると、レコードには「Lullaby」と書かれていた。
( ^ω^)「ララバイ…子守唄かお。」
(;><)「あ…それは…」
(;^ω^)「お…」
手に取った僕に、先程の青年が、おずおずと話しかけてきた。
(;><)「あの子の…お母さんのなんです…
ここを、貸し切りにして、上映する約束をしてた…」
( ;ω;)
(;><)そ「な、なんで泣くんですかっ!?」
…この、いかにも人が良さそうな映写技師は
子供の為に、こんな大きな映画館を、貸し切りに出来るような
とても優しい青年なのだ。
なんとも心温まる話だ…なんて
子守唄のレコードとあわせて考えていたら
いつの間にか涙が溢れていた。
カーチャン…天国でどうしてるのかなあ。
-
…聞けばこのレコードは、上映の約束をした子供の、母親のものらしい。
母親はニュー速VIP号に雇われた歌手で、よく歌を聞かせてやっていたとか。
…これから魂を救うときに、何かの役に立つかもしれない。
そう思って、僕はこのレコードを、お借りすることにした。
この映写技師の許可があるのだ、どこで使っても大丈夫だろう。
( ><)「もう来てもいい頃なのに…
遅いなぁ、あの子…」
( ^ω^)「おっ…」
僕に、ビロード=ワカンナインデスと名乗ってくれた
映写技師の青年は、僕と話し終えて暫くすると、そう呟き始めた。
…半透明の彼も、いずれ救わなければならない人だ。
聞いておいた方が、いいかもしれない。
僕は、彼の言葉に耳を澄ませた。
-
( ><)「フィルム…上映する約束だったのに…」
(;^ω^)「…!」
上映する約束をしていた子供が、来ない…。
彼の心配そうな呟きに、僕は嫌なものを感じた。
子守唄を聞きたがる年の子だ、わざわざ自分の為に
この大きな映画館を貸し切りにしてくれて
こんな広い空間で、自分と母親だけが
楽しい映画を見られると言うと、時間前にはもう、はしゃいで来るはずだ。
こんな物騒な船の中だ、何かあったのかもしれない。
(;^ω^)「僕、探してきますお!」
(;><)「あ、お、お願いします、なんですっ!」
そう言って、背を向けて慌てて梯子を降りた僕の耳に
ビロードの切なそうな声が届いた。
…彼は元々、人よりワンテンポずれるタイプらしい。
-
キィッ…
キィッ…
-
(;^ω^)「あっ…」
子供を捜しに行こうと、両扉の取っ手に触れたとき
僕は、通路の電気が点かなかったことを思い出した。
電気が点かないということは
あの女の亡霊も、まだ出てくる…。
子供を捜す前に自分がやられてしまうのだ。
(;^ω^)「どうしたらいいお…」
通路の明かりを、どうにかして灯せないか考えていた僕は
そういえば…と、ここにもまだ
行っていない場所があることにも気がついた。
肝心の、シアターだ。
子供を捜す前に、貸し切りにしていたこのシアターを
丹念に調べる必要があるかもしれない。
もしかしたら、すれ違っているのかもしれないから。
甲板で出会った船員ギコと、恋人のしぃさんのように。
…外に出る方法を調べるには、その後でもいい。
僕は、左手の、シアターに繋がる扉を開けた。
-
ガチャン
バタン
-
(;゚ω゚)!!そ
入った僕は、違う意味での捜し人を見つけてしまった。
( )
暗い映画館の中、白衣を着た老人が、項垂れて立ち尽くしていた。
近付いて見た僕の予想通り、彼は、先程まで追いかけていた
モララー=ジエンその人だった。
(; ∀)
(;・∀・)「…」
( ^ω^)「…」
振り向いた彼の視線は僅かに泳いだが
すぐに僕の顔を、真っ直ぐに捉えた。
(;・∀・)「…私を追い詰めて…
どうするつもりだね…?」
( ^ω^)「どうもしません。」
擦れた声で問いかけた彼に、僕は答えた。
( ^ω^)「ただ、僕はある事情があって
あなたを含め、この船の人々を救っています。
その為にも、アラマキ=スカルチノフ氏を
どうしても追い詰めたいのです。」
(((;・∀・)「君…話し方が変わっているよ…」
( ^ω^)「真面目な話をするときぐらい、変えます。」
…僕は、本気になると怖いと、人によく言われる。
その理由が「いつもの語尾が抜けるから」らしい。
元々、父の口癖がうつっただけなのだが…。
モララーも、そう感じたのだろうか?
-
( ^ω^)「…そんなことより、僕に教えてください。」
( ^ω^)「あの処方箋の劇薬は、アラマキ氏に渡した後
誰に…何の為に、使われたのですか?」
( ^ω^)「あなたは知らないふりをしていましたが
うわごとで毒、アラマキという単語を
何度も、何度も発していましたよ。」
(;・∀・)「…」
( ^ω^)「あなたに人の心があるのなら
包み隠さず教えてください。
モララー=ジエン先生。」
(;・∀・)
-
(;・∀・)
(;-∀-)
フゥ・・・(;-∀-)=3
(;-∀-)「…仕方が…無かったんだ…」
嘆息した彼は、観念したように話し始めた。
僕は、一言一句、聞き逃さないように耳を澄ませる。
彼の小さな自供は…広く静かなシアターで、やけに大きく響いた。
(;-∀-)「君も、知ってのとおり…
アラマキ様は、恐ろしい方だ…」
(; ∀ )「し…仕方がないだろう…?
このアメリカで有数の、黒い噂の絶えない
財閥総帥から命じられたら…」
人の命を救うという、全国に欠かせない仕事をする
医師ですら、金と権力には勝てなかったということだ。
一般市民の父では到底、太刀打ちできる相手ではない…。
平凡人だった僕なんて、ここまで来て返り討ちにされて
元の時代に戻れず死んでしまう可能性の方が、高いのだろう。
-
((; ∀ ))「ア、アラマキ様の…ご子息、アニジャ様…」
(((; ∀ ))「私が…私が…殺した…」
( ω )「…」
…どうやら劇薬は、アラマキ=スカルチノフの息子
アニジャ=スカルチノフ殺害に、使われたようだ。
奴は、孫娘を盾に取るだけでなく、実の息子の命すら
なんとも思わずに奪うような人でなしなのだ…。
( ω )
( ω^)
( ^ω^)「…」
(; ∀ )「そ、それで…君は
どうするつもりなんだ…」
( ^ω^)「言ったはずです。僕は
この船の全てを救いに来ました。」
(; ∀ )「…」
彼は黙って、俯いたままだ。
…もう、何も言うことは無い。
僕は、両扉の取っ手を掴み、外へ出ようとした。
-
( ∀ )「…」
( ∀ )「ここの電気は、故障していて動かない…」
( ∀ )「船内に出る、変な女の亡霊に、やられたらしい…」
⊂(^ω^ )「…」
取っ手を掴み、引こうとしたときだった。
モララーが、擦れた声を絞り出すように、そう言った。
振り向かずにいた僕に、彼は語りかける。
( ∀ )「シアターを出て、すぐ左の壁に
星座が描かれているのを、知っているだろう。」
( ∀ )「星座は、夜の18時から朝方6時まで光る。」
( ∀ )「だが、その中に一つだけ…
光ることの無い星があるはずだ。」
( ∀ )「そこを調べなさい…
そうすれば、通路の明かりが点くはずだ…」
⊂(^ω^ )「…ありがとうございますお、モララー先生。」
人を救う医師だ、根はきっと、優しい人なのかもしれない。
だからこそ、良心の呵責に苛まれていたのだろう。
手を貸してしまった以上、その罪からは逃れられないが
彼にも、酌量の余地はあるだろう。
僕は、モララーの言葉を一言一句、間違えず記憶して、外へ出た。
-
ガチャ
バタン
-
( ^ω^)「…」
通路の、シアター前の扉。
左手の壁を見上げた僕は、その一つ一つが
淡く、白い光を灯しているのを目にした。
モララー医師の言葉通り、この壁には十二の星座が描かれており
素晴らしいことに、星の位置まで再現されていた。
(;^ω^)「綺麗で見惚れていたいけど
明かりつけないと、亡霊が来ちゃうお…」
本来は観賞用に作られたもので、非常用の電気はついでに
仕掛けておいたものと見てもいい。こんな面倒な非常灯は、他に無いからだ。
製作者もまさか、点けることになるとは、思いもよらなかっただろう。
( ^ω^)「おっ…?」
光る星座をじっと見つめていた僕は、ふと
その中に、光っていない星があることに気がついた。
モララー医師が言っていたのは、これか!
僕は、その星に点いていた出っ張り…照明のスイッチを、押した。
-
パチン
川 ゚"々゚")
川;ノ - )
。
・
,
_
-
(;^ω^)「これで、大丈夫なはずだお…!」
通路に明かりが灯った僕は、ほっと一息吐いて
おそるおそる、シアター前から先の通路に一歩、出た。
船内一層の『乗客用連絡通路』への道は
亡霊がいなくなって通れるかと思ったが、そういうわけにはいかないようだ。
緑色の…いかにも、踏んだら危険そうな毒。
おそらく、モララー医師が渡したという劇薬だろうか。
それが、水溜りのように床一面に広がって、道を塞いでいた。
更に、
(*;ω; *) | ω^)
(;‘ω‘ *)そ |ω^;)「あっ」
(;‘ω‘ *)「ぽ、ぽっ…!」
(;^ω^)「だ、大丈夫だお、お兄ちゃんこわくないお!」
通路を覗き込んだ僕は、ここでも探し人に出会った。
僕の腰に、届くか届かないかぐらいの、小さな男の子。
映写技師が、映画館を貸し切りにして待っていた子だろう。
…壁から覗いていた僕の姿は、さぞこわかったと思うので
慌てて声をかけて、こちらから出向いたのだった。
-
(;^ω^)「驚かせちゃって、ごめんだお。
お兄ちゃんは、君のことを探してたんだお。」
((; ω *)「……」
…半透明の影となった、小さな子供。
彼は、俯いて震えていた。
ひどく怯えた様子で、服の裾をぎゅっと握り締めている。
やはり、何かあったのだ。
( ^ω^)「…ぼく、お名前は?」
(;‘ω‘ *)「ち…ちんぽっぽ…
ぽっぽって呼ばれてるっぽ…」
( ^ω^)「そっかお、ぽっぽちゃんかお。
ぽっぽちゃん…どうしたんだお。
ぽっぽちゃん、震えてたお。
何か…こわいこと、あったのかお?」
(;‘ω‘ *)
( ^ω^)「…大丈夫だお。
お兄ちゃんは、誰にも言わないお。」
…この様子から察して…この子は
何か恐ろしい出来事に遭遇してしまったのだ。
そして、それは誰にも言えないこと。
誰にも言えないけど、こわくて忘れられない…。
影になって彷徨っているということは
今でもずっと、一人で抱えているのかもしれない…。
小さな子だから、余計にそういった「負」を、感じやすいのだ。
僕は、ちんぽっぽちゃんの不安そうな目を、じっと見つめた。
信じてもらいたかったし、この小さな子の心を晴らす為にも
知っていることは、すべて話してもらいたかったのだ。
-
(;‘ω‘ *)「…」
(*‘ω‘ *)
(* ω *)
(* ω *)「…ぼ…ぼく…」
( ^ω^)「…」
小さな、か細い…震えた声で、子供は話し始めた。
子供にはあまりにも惨い、残酷な光景を。
(* ω *)「ぼく、見たんだっぽ…」
(* ;ω *)「アラマキおじいさまが…
ナイフで…アニジャおじさまを…」
(;゚ω゚)「!!!」
小さな子が涙ながらに話したそれは、アラマキ=スカルチノフが
実子であり、長男であるアニジャ=スカルチノフを
ナイフで刺したという、殺害現場だった。
ナイフは恐らく…『赤い石』だ。
『赤い石』の嵌め込まれたナイフで、アラマキは自ら
家長となり、跡を継ぐべき者を殺したのだ。
(* ;ω;*)「おかあさん…こわいっぽ…
どこにいるんだっぽ…」
(; ω )「……」
殺害現場を見てしまった、子供。
その衝撃と恐怖は、計り知れないものだ。
大の大人だって、中には発狂する者もいるのだから。
-
しかし…しかしだ。ここで一つ、矛盾が生じる。
(; ω )(じゃあ、目の前のこれは…?)
泣いている子供の後方…『乗客用連絡通路』に繋がる道を塞ぐ
緑色の液体…女性の亡霊の、置き土産。
これは、モララー医師の劇薬ではないのか?
…自ら、調べてみるしかない。
恐る恐る、それに歩み寄った僕は
ジュワジュワと音を立てているそれを
指先で…ほんの少しだけ、つついた。
(;゚ω゚)そ「っ…!!」
触れた瞬間…ジュッと、焼けるような音がして
声を発することも出来ない、火傷を遥かに越す痛みが、僕を襲った。
(;゚ω゚)「あ、あれが…劇薬だと!?」
慌てて指を離し、踏まないようにその場を移動した僕は
上着の裾でその指先を包んで、あの液体に悪態を吐いた。
実験したほうが早い…そう思ったのは、これほどまでに
薬の毒性が強いとは、思わなかったからだ。
痛みが治まった頃に見た指先は、醜く焼け爛れていた。
あの緑色の液体…あれは、確かにモララー医師のものだ。
ただし「劇薬」ではない。彼の言うとおり、あれは「毒薬」だ…。
-
劇薬と、毒薬の違いを、何かで聞いたことがある。
いずれも、法で使用が禁じられている薬だが
「劇薬」と「毒薬」では「毒薬」の方が圧倒的に
副作用・有毒性が高く、致死量の差はおよそ十倍だと言う。
正確な数値・単位など、知識の無い僕は覚えていないが
「劇薬」の致死量が10だとしたら「毒薬」は100。
その違いは、あまりに大きい。
アラマキが、長男アニジャを殺害する為に
「劇薬」を処方させたというモララー。
しかし、実際は「毒薬」レベルの薬品を
処方していたことになる。
そして、アラマキが、長男であるアニジャを
ナイフで殺害する現場を目撃した…と怯える
ちんぽっぽちゃん。
どちらの供述も、嘘では無いと思う。
では、劇薬も使って、ナイフの刺殺も試みた?
-
(* ;ω;*)「…ぽ…」
(; ω^)「…お…」
…そんな思考に耽っていた僕は、すっかり忘れていた。
目の前で泣きじゃくる、ちんぽっぽちゃんに、どうすればいいか。
(;^ω^)「ご、ごめんだお、ぽっぽちゃん。
お母さん…必ず見つけるお。」
かわいそうに…この子は、お母さんと離れ離れになって
ショッキングな場面に遭遇した怖さを引き摺ったまま
ずっと船内を彷徨っているのだ…。
待ち続けている、映写技師のところに連れて行きたいが
母親だって、もしかしたらこの子を探しているかもしれない。
( ^ω^)「ぽっぽちゃん、お母さんは
お兄ちゃんが探してくるから
もうちょっと待っててお。」
( ^ω^)「男の子だお…?
泣かないで、待っててお。」
(* ;ω;*)
(* ∩ω;*)
(*‘ω‘ *)「…ぽ…ぽっぽ!」
…話したことで、少しは良くなったのだろうか。
泣き止んだちんぽっぽちゃんの返事は
しっかりしたものだった。
さあ、ちんぽっぽちゃんのお母さんを、探しに行こう。
僕は、素直に偉いと褒めて、ちんぽっぽちゃんの頭を撫でると
手近な壁に寄りかかって、設計図を取り出した。
船内二層の一部であるこのフロアは狭い。
『乗客用連絡通路』以外の通り道は無いのだから
子供とそう遠くない、このフロアの何処かにいるはずなのだ…。
( ^ω^)「行ってみるかお…」
設計図をしまった僕は、シアター前通路の最奥…
あの子に設けられた部屋であろう「子供部屋」に、足を運んだ。
-
===MEMO===
-
…
―モララー=ジエン ( ・∀・)
過去世界 1853年生まれ 60歳 男
・アラマキ=スカルチノフの主治医を務める、優秀な医師。
彼が乗船したのは、アラマキの要請があったからだと言う。
・乗船の一年前、アラマキに命じられて、ある薬を処方した。
処方箋にはあろうことか、劇薬の使用許可と、使用記録の
隠蔽を下の者に命じる記述、彼のサインが…。
・やはり、根は優しい医師なのだろうか。
問い詰めた僕に、自らの罪と、自責の念を打ち明けた…。
―ビロード=ワカンナインデス ( ><)
過去世界 1894年生まれ 19歳 男
・シアターで映写技師を務めていた青年。
電気をつけて欲しくて呼んだ僕に、貸し切りだと言って
奥に戻ってしまった。
・人の良さそうな顔の通り、子供の相手をするのが好きなようだ。
カウンターから中に入った僕を咎めず、子守唄のレコードを
快く貸してくれた。
・貸し切りだと言って僕を通さなかったのは
ある子供と、上映の約束をしていたからだった。
時間になっても、フィルムを持ってこない子供を心配していた。
―ちんぽっぽ (*‘ω‘ *)
過去世界 1906年生まれ 7歳 男
・ニュー速VIP号に雇われた歌手の子供らしい。
ゲストの一人として来ていた。
・好奇心旺盛な彼は、総帥アラマキが
長男アニジャを殺害する現場を、見てしまっていた…。
・殺害現場を見たショックと恐怖で泣いていた。
母の温もりを求めていた、この子の親を
早く見つけてあげたいものだ…。
…
-
以上で、今日は投下終了です。
今夜も、長いレスを読んでくださった方
ありがとうございます。
-
乙!!
うはー続き気になってしょうがないやw
-
致死量は低いほうが毒性強いんじゃ……
-
>>728
( ・∀・)「…だ、そうだが。どういうことだね?」
( ^ω^)
-
( ・∀・)「証拠なら私もある。>>722だ。」
>「劇薬」と「毒薬」では「毒薬」の方が圧倒的に
>副作用・有毒性が高く、致死量の差はおよそ十倍だと言う。
>「劇薬」の致死量が10だとしたら「毒薬」は100。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
( ^ω^)
( ・∀・)「作者は電車の中で気付いて
『うあああ絶対に突っ込まれるよやべえええ』
と思いながら」
( ・∀・)「逆に突っ込んでくれるのを期待して
補足せずそのままにしたらしい。」
( ^ω^)
-
( ω )
( ;ω;)
( ;ω;)つttp://www.doyaku.or.jp/guidance/data/H21-4.pdf
( ;ω;)「実験用マウス100匹のおよそ半分が死ぬ量を
LD50と言う!」
( ;ω;)「体重1kgに対し、200ml以下の注射で
半数以上死ぬのが『劇薬』!」
( ;ω;)「20ml以下の注射で半数以上死ぬのが『毒薬』!」
( ;ω;)「内服した場合は体重1kgに対して300mlが『劇薬』!!」
( ;ω;)「体重1kgに対して30mlで死ぬなら『毒薬』!!!」
( ;ω;)「ずびばぜん!ごべんなざい!!
死ぬほど恥ずかしくて悶えました!!」
( ;ω;)「穴があったら入りたい!!」
( ;ω;)「おーん!!おーん!!」
大変申し訳ございません。orz
-
そんなどっちが10でも100でも気づかなかったら無問題
-
予告通り、何事も無かったように22:30に投下します。
>>732
気付いちゃったからなww orz
-
・
・
・
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内二層 子供部屋
-
そこは子供部屋というだけあって、入り口や壁に、様々な柄が描かれていた。
暗い空間の中でもわかる、原色に彩られた動物達。
床には…子供の落書きだろうか?
クレヨンで描かれた人が、虫や魚達と仲良く遊んでいた。
そして…中央には、美しい貴婦人が、呆然と立ち尽くしている。
J( - )し
ここにいるということは、通路で探していた、ちんぽっぽちゃんの母親だろう。
部屋の明かりを灯すと、彼女は我に返ったようで、僕に困り顔で聞いて来た。
J(;'-`)し「すみません、家の子を知りませんか?」
J(;'-`)し「言葉の後に「ぽ」をつける男の子で
ちんぽっぽちゃんという子なんです。
私の息子で、ここにいてって言ったのにいなくて…」
(;^ω^)「と…とりあえず、落ち着いてくださいお!」
いなくなってしまったのは、まだ十にも満たない、小さな子供。
船内の中は残念ながら、お世辞にも安全とは言えない。
そんな状態では、我が子がいなくなったと慌てふためいても、おかしくはない。
入り口で足止めを食らってしまい、それ以上、先に進めなくなってしまって
困ってしまった僕はとにかく、彼女に落ち着くように言った。
-
…映写技師と、貸し切りで上映の約束をしていたことから、彼女は子供が
シアターに向かったのだとばかり思っていたようだ。
しかし、実際には違った。
子供は…ちんぽっぽちゃんは、シアターにはいなかったのだ。
ちんぽっぽちゃんから、前もって聞いた話を思い出す。
上映までまだ時間があったから、と、ちんぽっぽちゃんは言った
元々、好奇心旺盛なこともあった彼は、時間になるまでシアターには行かず
お母さんの目を盗んで、船内を見回ることにしたらしい。
そして、彼は…凄惨な光景を目撃し…その後は、よく覚えていないと。
(; ω )
…何から話せばいいのか、僕は考えていた。
はぐれたちんぽっぽちゃんの行動を、咎めるような言い方はしたくないし
かと言って誤魔化していけば綻びは出て、僕が不審者になってしまう。
彼が恐ろしい光景を目撃したことなど、論外だ。
(; ω^)!
と、そのとき。
腰に手を当てて、考えていた僕の頭に、一つの声が木霊した。
-
(* ;ω;*)「おかあさんの歌が…聞こえないっぽ…」
-
( ^ω^)「…歌…」
映写技師から借りたレコードの存在を、僕は思い出した。
「Lullaby」…子守唄。
彼女は歌手だった。きっと毎日「子守唄」を聞かせていたことだろう。
なのに、ちんぽっぽちゃんは、おかあさんの歌が聞こえないと言っていた。
何故なのだろう…あまりのショックに、心を閉ざしてしまったからなのか。
それとも…取り乱した彼女が、歌うことをやめたから?
では、落ち着きを取り戻した彼女が歌えば、ちんぽっぽちゃんも
母を思い出して、母子共に、安らかに眠れるのではないか…?
-
( ^ω^)「お母さん。」
J(;'-`)し「は、はい…」
( ^ω^)つ○「ここに、蓄音機はありますかお?」
J(;'-`)しそ
…僕の持つレコードを見た母親が、はっと息を飲んで、辺りを見渡した。
彼女も漸く、気付いたのだろう。
探しても見つからないなら、歌で呼び寄せれば…と。
探せば意外と近くにあるもので、左手の台に置かれた蓄音機を、指差した彼女は頷いた。
彼女の視線を追った僕は、その蓄音機に、レコードをセットする。
大きなクランクで巻き上げると、ターンテーブルが静かに回転を始めた…。
-
流れてきた曲は、ピアノとバイオリンで構成された幻想的な曲だった。
J( 'ー`)し「――〜〜―♪」
透き通るような、彼女の歌声は
(* ;ω;*)!そ
ドアの遥か向こうにも、聞こえたようだ。
J( 'ー`)し「〜〜―――♪」
J(;'ー`)しそ「〜――〜♪」 (* ;ω;*)==
J( 'ー`)し「〜―――♪」 (* ;ω;*)==
J(*'ー`)し「――♪」(* ;ω;*)
ヨシヨシ・・・J( 'ー`)し⊃⊂(* ;ω;*)ポッポー・・・
J( ー )し⊃⊂(* ω *)
,*・+゚.。+゚:*・*゚.:。゚・*:.+,*゚+;, ー )し⊃⊂(* ω *・+゚.。+゚:*・*゚.:。゚・*:.。.... ,
:*・+゚.。+゚:*・*゚.:。゚・*:.。.... ,0 0:*・+゚.。+゚:*・*゚.:。゚・*:.。.... ,
-
…レコードの回転が、止まった。
-
・
・
-
…僕はその場に残った、二つのアストラルピースを手にとって
その後、床に落ちていた、王冠のピースを手に取った。
これは、あの子が遺していったものだろう。
残してくれたからには、取っておくべきだ。
レコードは…天国でも歌えるよう、そのままにしておこう。
ピースを拾った足で、母親がいて通れなかった、部屋の奥に入っていった。
( ^ω^)「おっ…」
そこにあったのは、大きな宝箱。鍵の部分は、先程の王冠と同じ形だ。
子供にとって、大切なものを入れられるようにと、用意したものかもしれない。
鍵代わりに、王冠のピースを嵌め込んで開いた僕は、底にあった物を見た。
小さな歯車と、一本のフィルム。
歯車は用途がわからないが、フィルムはおそらく…。
( ω )「…」
( ^ω^)「これ…渡してくるおね。」
手に取って、宝箱を閉めた僕は、消えた子供に向かって言って、部屋を後にした。
-
ガチャ
バタン
-
・
・
・
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内二層 映写室
-
( ><)「…」
映写室に戻った僕は、心配していたビロードに…黙って、フィルムを差し出した。
彼は、己の死を自覚している。だから、その意味がわかるだろうと思ったのだ。
フィルムを受け取った彼は、黙って目を閉じて、俯いた。
その意味を、察したのかもしれない…僕は、何も言わずに見守った。
静寂しか無い空間に、二人分の呼吸音だけが、暫く続いて…
俯いている彼の口から、ぽつりぽつりと、悲しい呟きが零れた。
( ><)「そうか…」
( ><)「あの子は…もう…」
( ><)「…死んで…」
-
傍に立っていた僕は、その様子を…じっと見ていた。
ビロードは、自分の死を自覚していた。
それでも、優しい彼だから、あの子を待ち続けていた。
彼が残した未練は、もう、この世には無い。
( ><)∩ π(
Λ
ガチャ、ン…
…映写機にフィルムをセットして、彼は微笑んだ。
( ><)「…ブーンさん、ありがとうなんです。」
( ω )「…どういたしまして…だお。」
彼は…死に行く人にしては、随分と穏やかな顔をしていた。
他に未練が無いと言えば、そうではない。けれども、彼にとっては
あの子の安否だけが気がかりで、それがわかっただけでも、救いなのだろう。
( ><)「約束だから…」
( ><)「これが最後の…」
( )「上映…なんです…」
,*・+゚.。+゚:*・*゚.:。゚・*:.+,*゚+;, )
:*・+゚.。+゚:*・*゚.:。゚・*:.。....
-
…技師のいない映写室は、狭くて暗い…本当に静かな空間だった。
下のシアターで、上映されるのを待とうと思った僕は
(;^ω^)「…動かない…おね…」
いつまで経っても動かない映写機に、不安を覚えて、下に行けなかった。
普通、電源をつけてフィルムをセットすれば、それだけで動くはずなのだが…
まさか、この二十年以上の歳月で、壊れてしまったというのか?
π(
Λ
( ^ω^)「おっ…」
一度、映写機からフィルムを取り出して覗くと、映写機の歯車の一部が
取れて無くなっていることに気がついた。
…子供部屋にあった宝箱の歯車は、ここのものだったのだ。
何故、抜けていたのかは…あえて聞かないでおこう。
(;^ω^)(ちゃんと、おにいちゃんに謝らなきゃだめだお。)
今はもういない、ちんぽっぽちゃんに向けて、僕はこそっと言った。
-
とにかく、これで動くはずだ…と、もう一度、フィルムをセットして
映写機が作動したことを確認すると、僕は慌てて梯子を降りた。
始まる前に行かないと、僕は最初の部分を見逃してしまう…。
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内二層 シアター
-
シアターの扉を開けて、僕はスクリーンに映っている一点の光を見た。
(*^ω^)(よしよし、ついてるお!)
(; ∀・)
中に入り、僕は映画を見るために、モララー医師の隣に立った。
彼はぎょっとした顔で僕を見ていたが、僕の視線につられた彼も
光の集ったスクリーンに目を向けた。
…彼とはもう一度、話をしなければならない。
頭の片隅で考えた僕は、始まった映像に、思考を無理矢理中断させた。
-
・
・
・
-
― One day,in the early afternoon ―
(―ある日の昼下がり―)
〜〜( ^^ω) 〜〜<_プー゚)フ
リハ´∀`ノゝ〜〜
〜〜( ^^ω) <_プー゚)フそ
リハ´∀`ノゝ〜〜
"Hey! Rose,aren't you?"
(やあ! 君、ローズじゃないか?)
ΣΣアウチッ( ゚゚ω(<_プー゚)フ
Σリハ´∀`ノゝ
チー(ン |||ω||)
<_プー゚)フ リハ´∀`*ノゝ
-
"They had a good time
like making up for a long absence...."
(久しぶりの再会を果たした彼らは
それまで離れていた時を埋め合うかのように
楽しい時間を過ごしていました…)
「――!」
「――!」
<_プー゚)フ リハ´∀`*ノゝ
(||| ^^ω)「――…」
「――!」
「――!」
<_プー゚)フ リハ´∀`*ノゝ
(# ^^ω)「――!」
「――!」
「…;」
Σ(゚ー゚;プ_フノ´д`;ノゝアウチッそ
(; ^^ω) (゚ー゚;プ_フ
リハ ノゝ
-
…映画の内容は、三人の男女によるどたばたコメディだった。
これは確かに、面白そうな内容だ…わかればじわじわと腹にくる。
(;^ω^)「おっ…?」
…そんな、子供が面白がりそうなコメディが突如、切れた。
フィルムの劣化によるものではないことは、すぐにわかった。
過去の世界へ飛ぶときと同じ、空間が渦のように歪な形となり
消えて…やがて、切り替わったからだ。
-
(;゚ω゚)そ
色の灯った空間は、映画によるものではない…。
そんな技術を、僕は知らない。
だからこれは…実際に、現実で起きた光景なのだ。
赤い絨毯が敷かれて、茶系に纏められた、落ち着いた空間。
それは僕が、執事に止められた先の部屋…大食堂を、映していた。
色鮮やかな映像は、隠された真実を映し出したのだ…。
-
‖ 〜〜ミセ; д )リ ,,, ミセ; リ
‖(;´_ゝ`)「!!」 ミセ::: リ
‖ ==(;´_ゝ`)「!!」ミセ::: リ
ミセ::: リ
‖/,' 3 つ† Σ(´く_`;) |
‖ ,, /,' 3 つ† ((´く_`;)|
‖ ,, /,' 3 つ†+ ⊂(´く_`;)|
/,' 3 ( く ;),.;.
/。゚ 3
-
映像は、そこで終わった。
-
最後の映像はおそらく、ちんぽっぽちゃんが実際に目撃したものだ。
見てしまったのだ、あの小さな子は…この、殺害現場を…。
(; ω )
しかし、これで…これで、判明したのだ。
アラマキ=スカルチノフが、何をしたのか。
あの悪魔は、実子のはずの長男夫婦を『赤い石』で殺した。
…理屈で考えたって、正気とは思えない行動だ。
「長男」と言うのは本来、一家を存続させる為に必要な跡継ぎなのだ。
跡継ぎ争いで兄弟がと言うならまだしも、一家の繁栄を願う者なら
繁栄の為に種を残す筈だ、跡継ぎの命を奪うことにメリットは無い。
-
( ・∀・)「毒の…せいでは、ない…?」
(;^ω^)そ
呆然と呟く声で、我に返った僕は、慌てて隣のモララー医師を見た。
そう、映画が終わったら…僕は罪悪感から憔悴している彼に
ちんぽっぽちゃんから聞いたことを、話そうと思っていたのだ。
「アニジャ殺害に、劇薬は使われていない」と。
だが、こうして映し出された以上…もう、その必要は無いだろう。
-
( ・∀・)「あのナイフは…赤い、ナイフは…」
( ∀ )「アラマキ様の……」
深く息を吐き出すように言って、目を閉じたモララー医師の頬を、涙が伝った。
その声も、全身も、震えている。
( ∀ )「アニジャ様は…ナイフで…」
( ^ω^)「…そうですお。」
( ∀ )「毒では…なかった…?」
( ^ω^)「そう…毒で殺されたわけでは、ないですお。」
( ∀ )「…私の…」
( ;∀;)「私の…せいでは…なかった…」
( ^ω^)「…そう、あなたのせいでは、ありませんお。」
( ;∀;)「……」
( ^ω^)「…」
モララー医師は、僕を見た。
ぼろぼろと涙を流しながら、拭おうともせず。
僕は、何も言わずに…頷いた。
-
( ;∀;)
( ;∀ )
( ∀ )
,*・+゚.。+゚:*・*゚.:。゚・*:.+,*゚+;, ∀ )
:*・+゚.。+゚:*・*゚.:。゚・*:.。....
-
天に昇った医師もまた、何処かの鍵を、僕に残していった。
手に取った僕は、それが…棚のものであると、確認出来た。
ドアに差し込む鍵よりは、小さいと感じたからだ。
ぽっかりと、丸い穴が取っ手の鍵。
医務室の…収納場所のどれかに、使うのかもしれない。
誰もいなくなったシアターから立ち去って、僕は医務室へ向かった。
-
ガチャ
バタン
-
・
・
・
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内二層 医務室
-
人気の無い廊下を隔てて、医務室へ戻ってきた僕は、片っ端から探していった。
最初に目が覚めた個室には、鍵のかけられるものは何も無かった。
そこから入り直して、見かけたものから中を引き出したり鍵が
かかっているか、いないかを確認して…漸く、見つけたのは。
( ^ω^)「おっ…」
過去の研究室に飛んだ、戸棚の真下。狭く小さいが、左右に引き出しがあり
しゃがんで確かめてみると、そのうちの片方…左側だけが、開かなかった。
これかもしれないと思って、鍵を差し込んで捻ると
鍵の開く音が聞こえて、確かな手応えがあった。
何が入っているのか…引き出して、取り出した。
引き出しの中に転がっていたのは、液体の薬品が詰まった瓶だった。
-
…引き出しをしまって、立ち上がった僕は、壁に凭れかかった。
今しがた取ったばかりの瓶を、掌で転がして、目を通す。
瓶のラベルに書かれていたのは、薬品の成分と、モララー医師の名前。
薬品に関して知らない僕でも、瓶の中央に大きく書かれた文字で
それが何に使う薬かは、わかった。
「中和剤」
誰が用意したなんて、書かれているのだから聞くまでもない。
悔やんでこれを作っておきながら、死んでも死に切れなかったのだ。
「毒薬」を渡したことを、よほど後悔していたのだろう。
犠牲者の、誰も悪くはない。医師もまた、人間だったというだけ…。
-
( ω )
( ω;)
…それまで溜まっていたものが、一気に溢れてきた。
( ;ω;)
堪え切れずに流れた涙は、拭っても拭っても止まらない。
拭うことをやめて、鼻を啜った僕は、壁に背を預けて宙を見上げた。
-
この船には、あと何人の魂が、未練を抱えて彷徨っているのだろう?
いったい、何人のやりきれない思いが、行き場をなくして漂っているのだろう?
切なく悲しい彼らの嘆きは、胸に突き刺さって離れない。
…明るく白いはずの天井は、ぼやけて見えなかった。
-
・
・
・
-
===MEMO===
-
…
―モララー=ジエン ( ・∀・)
過去世界 1853年生まれ 享年60歳 男
・アラマキ=スカルチノフの主治医を務める、優秀な医師。
彼が乗船したのは、アラマキの要請があったからだと言う。
・乗船の一年前、アラマキに命じられて、ある薬を処方した。
処方箋にはあろうことか、劇薬の使用許可と、使用記録の
隠蔽を下の者に命じる記述、彼のサインが…。
・スクリーンに映し出された真実を見て、劇薬が原因でないと
わかった彼は、安堵の笑みを浮かべ、天に昇っていった。
彼の遺した鍵で開けた引き出しには、劇薬の中和剤が入っていた…。
―ビロード=ワカンナインデス ( ><)
過去世界 1894年生まれ 享年19歳 男
・シアターで映写技師を務めていた青年。
電気をつけて欲しくて呼んだ僕に、貸し切りだと言って
奥に戻ってしまった。
・人の良さそうな顔の通り、子供の相手をするのが好きなようだ。
カウンターから中に入った僕を咎めず、子守唄のレコードを
快く貸してくれた。
・子供が死んだことを悟った彼は、フィルムを差し出した僕に
礼を言うと、最後に上映の準備をして、天に昇っていった。
-
―ちんぽっぽ (*‘ω‘ *)
過去世界 1906年生まれ 享年7歳 男
・ニュー速VIP号に雇われた歌手の子供らしい。
ゲストの一人として来ていた。
貸し切り上映を約束していた子供。
・好奇心旺盛な彼は、船内を回っているときに、総帥アラマキが
長男アニジャを殺害する現場を、見てしまっていた…。
・大好きな母の歌を聞いて、再会した母と抱き合ったぽっぽちゃんは
母の温もりで安心したように、天に昇っていった。
彼が残したフィルムには、殺害の瞬間が鮮明に映し出されていた…。
―カーチャン J( 'ー`)し
過去世界 1881年生まれ 享年32歳 女
・ニュー速VIP号に雇われていた歌手で、ちんぽっぽちゃんの母親。
子供部屋で、いなくなったちんぽっぽちゃんを探していた。
・子供思いで、子守唄をよく聞かせていたようだ。
映写室には、彼女のレコードがあった。
・レコードを蓄音機にかけると、彼女は透き通るような声で歌い始めた。
聞きつけて、駆け寄ってきたちんぽっぽちゃんを抱きしめた彼女は
天まで届くように歌いながら、幸せそうに消えていった…。
…
-
・
・
・
-
#過去世界 1937年 ??月??日 ―天文台・二階
-
…あの後、医務室を出た僕は『乗客用連絡通路』を塞ぐ劇薬に
医師が残してくれた中和剤を振り掛けて、毒を取り除いてから
船内一層に戻ってきたのだった。
(´・ω・`)「やあ、また来てくれたね…」
…そんな僕が、何故、こんなところにいるのか?
『シアター前通路』から『乗客用連絡通路』に出る道に
太陽のレリーフが飾ってあったから、ついでに寄っておこうと思ったのだ。
-
(´・ω・`) (^ω^ )
「霊能者」と名乗るこいつにも、聞きたいことが山ほどある。
怪しい男だからと、尻込みしてはいられない。
いつものように、アストラルピースと…彼が「聖水」と言っていた
液体入りの小瓶と交換した後、僕は立ち去らず、彼の前に歩み寄った。
(´・ω・`)「どうしたんだい。」
( ^ω^)「…あんたに、聞きたいことがあるんだお。」
男の眉が、ぴくりと動いた。
僕は、臆することなく続けた。
-
( ^ω^)「あんたは何者で、何故ここにいる。」
( ^ω^)「何故、この青い石を持っていた。」
( ^ω^)「何処まで、あの船のことを、知っているんだ?」
(´-ω-`)「じきにわかる。」
答えは、予想以上に速く…簡潔に、返ってきた。
即答ということは、質問されることをわかっていて、予め用意したらしい。
…いつもの、眼鏡のブリッジを持ち上げる仕草が、いつにも増して胡散臭い。
(;´・ω・`)「君の語尾が抜ける方が、私は危ない気がするよ…」
(#^ω^)「人の心を読むな。」
そんなことを言うのなら、怪しさ全開の格好と言動を、何とかしてもらいたいものだ。
-
そんな、間の抜けたやりとりをしながらも、
( ^ω^)「…」
(´・ω・`)「…」
僕は一歩も引かなかったし、霊能者も引かなかった。
霊能者がいくら帰そうとしても、僕は帰らない…膠着状態だ。
(´・ω・`)「じきにわかると言ったはずだよ。」
(´-ω-`)「答えを急ぎすぎては、失敗する。
君は、あの船の人々を、救いたくないのかい。」
( ^ω^)「…何に失敗すると?」
(´・ω・`)「帰りたまえ。」
初めて、霊能者はぴしゃりと、僕の言葉を弾くように遮った。
-
(;^ω^)「っ…」
開かれた目は、僕を真っ直ぐに見据えている。
…全盲の霊能者の目は、見えないはずの全てを、見抜いているかのように鋭い。
突如、強くなった口調と相俟って、見つめる僕の背筋を、震え上がらせた。
(´・ω・`)
もう、ここに用は無いだろう…そう言いたいのだ。
これ以上は、話すこともしないと。
じきに、わかる…だから、聞くまでも無いというのか?
-
(; ω )「…」
俯いて、唇を噛み締めた僕は、踵を返した。
この霊能者には、勝てない…本能が、そう悟ったのだ。
いつも通り、僕はエレベーターのボタンを押した。
開かれたドアに、乗り込もうと足を踏みかけた…その瞬間。
-
(´ ω `)「一つだけ、答えを教えよう。」
背中越しに、霊能者の声が聞こえた。
ぴたりと足を止めて、振り向かずに、僕は耳を澄ませる。
一つだけ教える答え…それはおそらく、僕の問いに対するものではない。
それなら先程、濁さず答えればよかっただけだから。
-
…数拍、置いた霊能者は、答えた。
-
(´ ω `)「私は、ありとあらゆる世界を旅することが出来る」
(´ ω `)「世界は、一つではない」
(´ ω `)「君の見ている世界、君の知っている世界は」
(´ ω `)「私の知っている世界の、一つにしか過ぎない」
(´ ω `)「君が住む世界とは違う世界に、私はいる」
(´ ω `)「君が見たことの無い世界、君の知らない世界に、私はいる」
(´ ω `)「或いは、私ですら知らない世界に、君はいる」
(´ ω `)「君が見たことの無い世界で、私は君を待っている」
-
――
-
(´ ω `)「…しかし、どの世界でも、運命を握るのは『君』自身だ」
(´ ω・`)「『君』が、どんな運命を選ぶのか…」
(´・ω・`)「私は、最後まで見届けよう。
『青い石』の継承者、ブーン=スギウラ。
君が望み、選び、背負い続ける運命を…」
-
・
・
・
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内一層 乗客用連絡通路
-
…結局、知りたいことは、何一つ知ることが出来なかった。
返ってきた答えも、抽象的過ぎて訳が分からない。
あの霊能者は、何を知っているのだろうか。
「じきにわかる」とは、どういうことなのか。
( ^ω^)
(;^ω^)「…もう考えるの、やめるお。」
答えのわからぬ問題に、頭を抱えていても仕方ない。
「じきにわかる」というのならば、そのときを待てばいいだけだ。
-
レリーフの前で佇んでいた僕は、彗星の本をしまうと、気を取り直して
( ^ω^)ヾ
( ^ω^)+
金色のレリーフを鏡代わりに使い、夜会服のみだしなみを正した。
通した袖のボタンも留めた。髪の毛も整えた。靴も、出来るだけ磨いた。
多少、行動が機敏に出来ないのは…まあ、仕方ないだろう。
…何処で着替えたというのは、聞かないこと。
( ^ω^)b+「準備万端だおっ」
今度こそ大丈夫だろう。
というか、これで駄目だったら泣いてしまう。
僕は、格好をなるべく乱さないように、大食堂へと赴いた。
-
ガチャ
バタン
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内一層 大食堂前通路
-
久しぶりのように感じながら、ドアを開けて歩み寄ると
目ざとく…素早く見つけた彼が、品定めをするように
頭から爪先まで、僕の全身をじっと見つめ始めた。
(‘_L’)「大変結構でございます」
ホッ(;^ω^)=3
…頷いた執事に、僕は安堵の息を漏らした。
誰かは知らないままだが、誰かに殴られて、二層からわざわざ回って
先にそこで出会った人々を昇天させて…長い道のりだった。
そんな道のりを経て追い返されたのでは、さすがにお手上げだと
ここに来るまで内心、ひやひやしていたのだ。
-
(‘_L’)「こちらでございます」
彼はそう言って、僕を奥へと案内してくれる。
…が、僕の笑みはすぐに消えた。
案内してくれる場所は大食堂。
一同が会食する場だが、予想が当たっていれば、それだけではない。
道が見えるにつれて、僕の体は強張っていく…。
(‘_L’)「…それでは、存分にお楽しみください。」
執事が、立ち止まり、礼をした位置。
案内された場所、ドアの方角、受付のカウンター。
確信した僕は、その奥の道を、睨みつけた。
( ^ω^)
そう、やはりここだ…ちんぽっぽちゃんが見た、殺害現場は。
この執事は、何処まで知っていたのだろうか?
スカルチノフ家の執事を、長く務めているはずの、この執事は。
-
( _L )
しかし彼は、何も、語らなかった。
,*・+゚.。+゚:*・*゚.:。゚・*:.+,*゚+;, _L )
:*・+゚.。+゚:*・*゚.:。゚・*:.。....
黙したまま、彼は天に昇っていった。
スカルチノフ一族の執事として、アラマキ=スカルチノフに仕える者として
責務を果たしただけで消えた、彼のその姿は…忠誠心の表れなのか。
⊂( ω )
違う、それは忠誠心ではない…間違いを正せない、臆病者のすることだ。
忠誠を誓う主が、人として間違いを犯しているのだと気付いたのならば
たとえ己を犠牲にしてでも、その時点で、主に対して矛を向けることも厭わない。
それが、真の「忠誠心」だと僕は思う。
…天に昇った彼が、本当の役目を果たすことを信じて、僕は大食堂に入っていった。
-
ガチャ
バタン
-
・
・
・
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内一層 招待客用大食堂
-
…間仕切りのある、三列に分けられた空間。
白いクロスのかかったテーブルが、左右の二列…部屋の上方と下方に二台。
中央の一列に三台と、右奥と左奥にそれぞれ一台ずつ。
そこは大食堂というだけあって、何処かの屋敷と錯覚するくらい、とても広かった。
壁には、幾つかの絵が飾られており、その絵の中央付近に…半透明の男女が、二人。
( ^ω^)「…あれは…」
遠目に見ても、わかってしまう姿。
衝撃的な場面だった為に、網膜に焼き付いてしまったのだろう。
ミセ* − リ ( _ゝ )
一組の夫婦が、大きな絵の前に佇んでいた。
彼らがアニジャ=スカルチノフと、その婦人だろう。
アラマキ=スカルチノフについて…彼の持つ『赤い石』について。
「じきにわかる」というのは、こういうことだったのか。
霊能者の言葉に納得して、僕は、気配に気付いて振り向いた、二人の影に、歩み寄った。
-
( ´_ゝ`)「…ほぅ、君は…」
( ^ω^)「ブーンですお。」
ミセ*゚ー゚)リ「見慣れない人ね?」
(;^ω^)「お、えっと…」
( ´_ゝ`)「知っているよ。君は、この船内の人では無いだろう。」
( ^ω^)「!」
…アニジャ=スカルチノフはそう言って、僕をじっと見つめた。
実の親に殺されたとは思えない程、彼は冷静だった。
隣で冗談を言って首を傾げた婦人も、彼の言葉と同時に背筋を正して
微笑みながらも、真摯な対応を返してくれる。
-
( ´_ゝ`)「ここまで来たということは、知っているかもしれないが…」
( ´_ゝ`)「私は、アニジャ。アニジャ=スカルチノフだ。」
ミセ*゚ー゚)リ「ミセリ=スカルチノフよ。」
…今まで出会ってきた亡霊と違い、感情の乱れが無いことに、僕は驚いた。
この二人は、本当に殺されてしまったとは思えない程、冷静だった。
初老の夫婦は、互いに見合わせて頷くと、
( ´_ゝ`)「なぜ我々がここにいるのか…
君はその断片を見たはずだ。」
( ^ω^)「おっ…」
片方の…アニジャ=スカルチノフが、僕に向けて、そう言った。
彼らは、僕を待っていたのだろうか。
全てを救ってくれと、託した船長の…フサギコさんのように。
そう思うくらい、彼らは生前の出来事を覚えており
この船の真実を、重く受け止めていた。
-
( ´_ゝ`)「我々の父、アラマキ…赤いナイフ。
それが、始まりだった。」
ミセ*゚ー゚)リ「父はわずか一代で、このスカルチノフ家を
財閥に仕立て上げた。」
ミセ*゚−゚)リ「それも全て、あの赤い石のナイフを
手にしてから…」
(;^ω^)「…」
婦人の顔から、微笑が消えた。
その言葉の意味は、聞かなくとも、大体の想像はついた。
『赤い石』は、一代で財閥を築ける程の、巨額の富と絶対的な地位を、主に授けるのだ。
アラマキ=スカルチノフは、それを利用して、スカルチノフ家を大きくしていった…。
-
( ´_ゝ`)「もともと父は、冷酷な人間ではあった。」
( _ゝ )「だが、父は…父の目は、徐々に人のものでは
なくなっていった…」
老人は力に酔い痴れ、溺れて…悪魔となった。
人を、人とは思わない行動を、平気で取るようになった。
( _ゝ )「そう、まるで…あのナイフの…
赤い石そのものに…」
ミセ*゚−゚)リ「私たちは恐ろしかった。
だからこの船の中で、父を殺すつもりでした。」
(;゚ω゚)
-
…顔から、血の気が引いたのを、自分でも感じて、よろけた僕は思わず
傍らのテーブルに後ろ手を乗せて、なんとか平静を保った。
あの後…思い描いていたものとは、真逆の現実だった。
殺意は、一方的なものでは、なかったのだ。
命の奪い合い…血の繋がった、実子と実親の殺し合い。
殺すか、殺されるか。
そんな一触即発の事態を、目前にするとは思わなかったのだ。
(; ω )「正気なんですかお…?
あんな人でも、実の親ですお…。
それを、殺すなんて…」
( _ゝ )「君も見ただろう、あの瞬間を。」
ミセ*゚−゚)リ「実の子なのにと…そう思うかもしれません。
しかし…「それ」は、父も同じだったのです。」
ミセ* − )リ「父もまた私達を殺そうとし、それは
あのナイフによって果たされたのです…」
(; ω )
-
小説やドラマでは、よくある光景だろう。血の繋がる親子が憎しみ合うなど。
描かれる人間模様は複雑で、いずれも見ていて面白いものだった。
しかし、それを実際に見たことはなかったし…
そもそも、見る機会など、願っても無いように思えた。
それが、現実となれば…話は別だ。更に、多くの人を巻き込んだ末のものならば、尚更。
僕は、純粋に知りたかった。父の追う『赤い石』とは何かを。
人を悪魔に変える『赤い石』の力…あの老人が、何故『赤い石』に拘るのかを。
僕の父が持っていた『青い石』…いま、僕が持っているそれと、どんな関係にあるのかを。
-
( ω^)「教えてくださいお…」
( ^ω^)「『赤い石』とは…そこまでして、人を魅了し
悪魔に変えてしまう『赤い石』とは…何なのか。」
僕は、独りの人間として、知りたかった。
『青い石』を持つ者としてではない、ただ純粋な、一人の人間として。
一族を巻き込んだ秘宝…歴史に名を残していない『石』に纏わる、全てを。
-
( _ゝ )
( ´_ゝ`)「遥か昔、あの絵の向こうで
運命は動き始めた。」
「運命」…『赤い石』の話をするたびに、誰もがそれを口にする。
その言葉の真理は、何処に隠されているのだろうか。
-
――彼が目を向けた絵の中に、僕は飛ばされていった…。
-
・
・
・
・
・
-
15世紀初頭のこと。ある国に、人の運命を変える力を
求めてやまない、錬金術師がいた。
( )
あるとき、彼は一人の男に出会い、それによって
もたらされた知識をもとに『赤い石』を作り上げる。
その石こそ、彼の望んでいた、人の運命を変える力を持つものだった。
錬金術師は狂喜したが、石の秘密を知った、友人の騎士
「モナー」によって殺害されてしまう。
( ´∀`)
こうして『赤い石』を手中に収めた「モナー」は、運命を変える力によって
国王の座まで、のし上がっていった。
しかし、ある日…彼の運命は、またも大きく変わるのであった。
-
響き渡る豪雨の音。
雷鳴が照らし出したのは、湖上に聳え立つ、大きな城。
夜の、静かな城内に忍び込んだ、一人の男。
彼の知らない、中世の世界で。
ざあざあと降る雨の雫に、鮮やかな『赤』が混じった。
-
#過去世界 1496年 11月26日 ―湖上の城・廊下
-
(^ω^ )=( ^ω^)
( ^ω^)
(;^ω^)そ「えぇえええ!!!」
年季の入った、石造りの壁に、狭い通路。
辺りを見回して、僕は思わず声を上げた。
大食堂に飾られていた、中世の世界を描いたあの絵と
まるきり同じ場所に、僕は飛ばされたようだ…。
(;^ω^)「昔過ぎるわ!」
あまりに昔過ぎて、格好すら浮いてしまう。
そんな僕が衛兵の目についたりしたら…牢獄送りでは済まない。
早く行動を起こさなければ…
(;^ω^)「…って、僕、赤い石は何か聞いたんだったお…」
直前のやりとりを思い出して…嫌な予感がした僕は、首を振った。
まさか…こんな古くから、因果のあるものなのか?
そんなにも昔から、この『赤い石』が伝わっていたというのか。
では、対となる『青い石』は…?
-
\(^o^)/「ちょっと、そこのあなた」
( ゚ω゚)「はぁあああいい!!!」
| ^o^ |「おしずかに。みなさまごしゅうしんのじかんです。」
((;゚ω゚)))「すみません、すみません…怪しい者じゃないんでっ…」
…衛兵に言う僕の体は、廊下に立った二人の格好に怯え、震え上がっていた。
現代ではレプリカ、つまり模型でしかない甲冑に、彼らは身を包んでいる。
無論、本物の鎧だ。片手には、本物の長い槍を装備している。
こんな二人に、一般市民の僕が敵うわけがない。
逆らおうものなら、彼らに串刺しにされてしまう…。
((;゚ω゚)))!そ
\(^o^)/「どこへ、いくんですか」
| ^o^ |「まちなさい、まちなさい」
何処かに入れる場所が、何か無いか…探した僕の目に、一つのドアが映った。
衛兵の声から、逃れるようにそこへ駆け込んだ。
-
ガチャ
バタン
-
(;^ω^)「はぁっ…ふうっ…飛ばされた、先が…
中世の、お城とか…どういうことなんだお…」
模型や人形で見ることしか無かった、御伽噺でしか知らない世界だ。
僕が子供で、無邪気に駆け回れる年ならまだいいが、あいにく僕はもう大人だ。
…ドアノブから手を離し、息を落ち着かせていたとき、僕は気がついた。
( ^ω^)「…お?」
来たときには気づかなかったが…ざぁざぁと、雨音のようなものが響いていた。
外は雨なのだろう。落雷の音も聞こえた。
現代のような隔壁や、防音設備が無いために、自然の音すらも聞こえてしまうのだ。
どのみち、城の外へ出るのは、無理だ。
先に進もうと、僕は目の前の通路を見た。
-
(;^ω^)「…どっちに行こうかお…」
駆け抜けた先は、一直線の通路に二つの扉。
さあ、どちらを開けようか…。
考えていた僕を急かしたのは、
\(^o^)/「ここにいるはずです」
| ^o^ |「まだいるでしょうね」
(;^ω^)そ
ドア越しに聞こえる、二人の衛兵の会話だった。
まだ、侵入者である僕を、彼らは探している…。
迷ってなどいられない、僕は手前のドアを開けた。
-
ガチャ
バタン
-
(;゚ω゚)そ「っ!!」
…こんな光景に遭遇するのは、いつ以来だろうか。
脳裏を過ぎる、父の過去が浮かび上がらせた映像。
おそらく見張りである兵が、血を流して絶命していた。
既に息絶えているとわかったのは、あらぬ方向に白目を剥いていたから。
いま…この城で一体、何が起きている…?
中世の時代、堅牢な城の中。
命を狙われるような人物は、たった一人。
このままでは、最悪な事態を、招いてしまう…!
(;゚ω゚)「…だ、誰かっ…!」
だが、叫ぼうとした僕の声は、消えた。
いま見つかっては、逆に僕が不審者になってしまう…。
そんな理性が働いたのと、もう一つ。
ドア越しに聞こえた雷鳴と…それに混じった、喧騒。
-
…何かに、吸い寄せられているように。
行ってはならないという、自分の意思とは裏腹に。
僕は、そのドアの先、テラスへ向かった。
-
降りしきる雨。鳴り響く雷。
見張り用テラスの、向かい側。
門番が道を閉ざす、王の寝室から繋がるテラスに。
(; ∀ ) (´・く_・`)
(;゚ω゚)「!!!」
テラスの背に追い詰められた国王と、剣を握る傭兵が、見えた。
想定していた…したくなかった、最悪の事態。
-
(;゚ω゚)「やめろぉおお!!!」
僕は出来る限り、叫んだ。
ここを動いてはいけない。僕は、動けない。
僕がいない間に、王は殺されてしまうだろうから。
しかし、僕の声は聞こえていないようだった。
父の過去で会った、アラマキ=スカルチノフと…若い頃の父と、同じように。
-
(;´∀`)「な、何をするモナ!!
き、貴様…狂ったモナか!?」
(;´∀`)「だ、誰か! 誰かいないのかモナ!?」
助けならここにいる! 誰か、誰かあの男を、王様を―
何度叫ぼうと、僕の声は、止むことの無い雨と
拍子でも合わせているかのような雷鳴に、かき消されていく。
(;゚ω゚)(くそっ…届け、届けええ!!)
(;゚ω゚)「誰か!!誰でもいい!あの男を止めろおおお!!!」
…びしゃりと、鳴り響いた雷に、僕の声はまたもかき消された。
-
「…騒いでも無駄だ」(´・く_・`)
(;´∀`) (´・く_・`)「表にいるのは俺の部下だ。」
(;´Д`) (´・く_・`)「ここには誰も近づけるなと言い含めてある。」
(;゚ω゚)(…!!)
聞こえた傭兵の言葉に、絶句した。
今の、僕の気持ちと…国王の気持ちは、同じだろう。
ならば、尚更、僕は動けない…動けば、傭兵の部下に捕らえられ
口止めとして殺されてしまう。
(; ω )
王の寝室まで駆け込んで、間に合うかどうか。
間に合ったとして、相手は実物の剣を持っている。
対して僕は丸裸だ。
僕にはどうすることも、出来ないのか…?
-
(;´Д`) (´・く_・`)「さあ…覚悟してもらおう。」
(;´Д`)つ「ま、待つモナよ!! わしを殺して…
逃げられると思うのかモナ!」
(;´Д`)つ「こ、このまま剣を引けば…見逃してやるモナ。」
(;´∀`)つ「どうモナ…よく、考えてみるモナ!」
(´・く_・`)「フン…心配は無用だ。
俺は絶対に生き延びる。
貴様にも分かるはずだ。」
王の命乞いは、虚しくも一蹴されてしまう。
-
(;´Д`) (´・く_・`)「俺は知ってるんだよ」
(;´Д`) (´・く_・`)「凡庸な一騎士だった貴様が」
(((;´Д`)) (´・く_・`)「瞬く間に王にまで上り詰めた、その秘密をな…」
(;゚ω゚)
様子をじっと見つめていた僕は、傭兵の発言に動悸がした。
ただの騎士だった男が、王にまで上り詰めた秘密。
僕が、この世界に来た理由。
まさか…それは…
-
(((;´Д`))「き、貴様…まさか、あれの…」 (´・く_・`)
「ぐおっ…!!」(; Д ).;゚・.
(;゚ω゚)そ
傭兵の、無慈悲な一撃。
( )(´・く_・`)
(; ω )
胸を貫かれた王は、多量の血を流して、絶命した。
僕はただ、その様子を…見ていることしか出来なかった…。
-
今日はここまで。
読んでくださった方、ありがとうございます。
-
ついに石回きたか
-
ついに秘密に近づくのか
-
もう800超えか乙
-
パン3読んだ、ログ速でようです検索で気づいた
書くとこないからここにかいとく「乙だ」と
てかパンに気合い入りすぎ、あの引用リンクの数々 まあ面白いからいいけど
-
パンメーカーの方、支援・乙・保守までして頂いて
本当にありがとうございました
予告どおり投下します
どちらの話にも反応頂けるのが、とても嬉しいです
>>835
調べながらやってたらああなった
息抜きって言って手を抜けない性格だから
あっちの方が書いてて面白いとかは特に無いし
まあ「こいつなにしてんだ」と思いながら
生温い目で見ててやってくれ
-
傭兵には、聞こえただろうか?
王が遺した、意味ありげな一言が。
≪覚えておくモナ…運命は、貴様にも…≫
『運命』…僕は幾度、この言葉を耳にし、口にするのだろう。
現実離れしている…そんな感覚も無くなるくらい、深く関わってきた言葉。
(´・く_・`)「やはり、身につけていたか…
見つからんはずだ。」
傭兵は、血溜まりに倒れた王の体から、何かを探すように漁っていたが
そう呟くと、王の懐から取り出した物を、己の目の前に掲げた。
+†⊂(´・く_・`)
(;゚ω゚)「…」
『赤い石』だ。
暗闇の中、あの『赤い石』のナイフが、妖しい輝きを放っている…。
僕の予想通り、王は『赤い石』を持っていた。
しかし彼は容易く殺されて、身に着けていた『赤い石』を奪われた。
では、あの傭兵は?
-
†⊂(´ く_ `)「フ、フフフフ…フハハハハハッ!!!」
+†⊂(´゚く_゚`)「ついに、ついに俺は力を手に入れた!!」
(;゚ω゚)「っ…」
傭兵が浮かべた笑みは、アラマキ=スカルチノフ同様に、おぞましいもの。
権力に取り憑かれ、私利私欲に溺れ、力に呑み込まれた者の姿だった。
禍々しい光が、暗闇の中で傭兵を照らし出している。
+†⊂(´゚く_゚`)「これで俺が!!」
+†⊂(´゚く_゚`)「このデミタス=スカルチノフが!!」
+†⊂(´゚く_゚`)「この国の王となるのだ!!!」
(;゚ω゚)(スカルチノフ…!!)
スカルチノフ家と『赤い石』の関係…そういうことだったのか!
-
――頭の中で理解した瞬間、僕の意識は飛んでいった…。
-
・
・
・
・
・
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内一層 招待客用大食堂
-
(;゚ω゚)
頭の中が、真っ白のまま…僕は、大食堂に戻ってきた。
( ´_ゝ`)「先程の男が…我らの祖先、デミタス=スカルチノフだ。」
呆然と立ち尽くす僕に、アニジャさんが、語りかけてきた。
隣の夫人…ミセリさんは、既に説明を任せているようで
アニジャさんの方に顔を向けたままだ。
…そういえば、気付けば彼らは、絵から離れていた。
テーブルを一つ挟んで、僕と向かい合うように立っている。
-
( ´_ゝ`)「デミタスは『青い石』と『赤い石』の両方を持っていた。」
( ´_ゝ`)「…青い石に関しての情報は、あまり多くない。」
( ´_ゝ`)「私が調べた限り…わかっているのは
『赤い石』を手にしたとき、彼は既に
『青い石』を持っていたということだけだ。」
(;゚ω゚)「赤い石と、青い石…同時に?」
対となるそれらを持っていた、デミタス=スカルチノフという傭兵。
遥か昔…中世の世界で、クーデターを果たした彼は一体、何者なのだ?
しかし不思議なことに、彼らがいくら調べても、祖先に関する記録は
『赤い石』を手にし、一族を繁栄させた時代以降のものしか、他に無いという。
意図的に消したのか、第三者によって消されたのかすら、わからないと。
-
ミセ*゚−゚)リ「でも、これだけはわかります…」
神妙な面持ちで、ミセリさんは、答えた。
ブーンさん、よく聞いてと…そう、一息置いてから。
ミセ*゚−゚)リ「…簡単に言ってしまえば『赤い石』は
己の願いを、何でも叶えてくれる
魔法の石なのです。」
(;゚ω゚)「っ…!!」
ずっと問い続けた疑問が解決した僕は、あまりの衝撃に、呼吸すら忘れた。
己の願いを、何でも叶えてくれる魔法の石。
「運命を変える」というのは、そういうことなのか…。
-
「願いを何でも叶える魔法」
それは、実在して欲しいと誰もが願い、けれど絶対に、存在してはならない魔法。
一人の騎士が、瞬く間に一国の王にまで上り詰めた。
その何百年もの後、一人の男が、一代で財閥を築き上げた。
それらは全て『赤い石』の力によるものなのだ。
そんなものが存在すれば、自然の摂理や世界の秩序は、大きく歪んでしまう。
…御伽噺ではよく、願いには相応の代償を払わなければならないという。
おそらくこの『赤い石』も、例外ではないだろう。
その僕の推測は、当たっていた。
( ´_ゝ`)「願いを叶える力は、相応の代償を払うことで増幅する」
ミセ*゚−゚)リ「しかし代償が必要といえど、尽きることのない無限の魔法」
(; ω )「…その代償を、払いさえすれば…なんでも願いは叶えられる…」
最後、そう口にした僕は…二人に問いかけた。
答えは、もうわかってしまっていた。僕が認めたくないだけだ。
だからこそ、それを、答えてもらうために。
-
(; ω )「相応の代償とは、なんですか…?」
(; ω )「貴方達の父アラマキ=スカルチノフの「願い」
その「願い」に対する「代償」とは…」
…少しの間のあと、彼らは、答えた。
ミセ*゚−゚)リ「人間の、命です。」
( ´_ゝ`)「父は一族を繁栄させるためだけに
以前から、多くの人間の命を、犠牲にしてきた。」
( ´_ゝ`)「…願いを叶える為、だけに。」
…理解した僕は、黙ったまま、視線を床に落とした。
-
廃坑の奥深くで、行方不明の娘を探し続けた男。
娘を一心不乱に探し続けた彼は、言っていた。
『あらかた掘り尽されたと、廃坑になった金鉱で
数多くの人間が、事故も無いのに行方不明になった』
…アラマキ=スカルチノフが、巨額の富と絶対的な地位を願う代わりに
裏でその存在を隠し続けながら『赤い石』のナイフで
数多の命を奪っていったのだ。
人を襲う悪霊となったのは『赤い石』の犠牲者。
何の罪も無いのに、己の命を、理不尽に奪われていった者達の恨みが
具現化して、船内の人々を襲うようになった…。
『人の命を代償として、願いを何でも叶える石』
存在してはならないのに、何かの理由で、この世に一つあったが為に
悲劇は繰り返され、悲しみ彷徨う霊が生まれてしまった。
無理の無い話だと思う。僕だって、父と何ら関わりが無ければ
『赤い石』に魅了され、手にして人を殺していたのかもしれないから。
-
…ならば、僕がするべきことは。
( ω )
( ω^)
僕は顔を上げて、二人に問いかけた。
( ^ω^)「アニジャさん。ミセリさん。」
( ^ω^)「僕に教えてくださいお。」
( ^ω^)「貴方達の父、アラマキ=スカルチノフが
いま、何処にいるのかを。」
…正体が分かった以上『赤い石』の持ち主を…アラマキを、止めなければならない。
彼だって、一人の人間だ。願いを叶えるという魔法に、魅了されてもおかしくない。
奴には強い怒りも、深い憎しみもある。
しかし、同じ過ちを犯してしていたかもしれない、人間同士だからこそ
彼もまた、救わなければならない者の、一人…そのはずだ。
-
奥にいる父の安否も定かでない、この船を彷徨う魂も天に送り届けたい。
やらねばならないこと…それらの目的が、やがて一つに繋がるということも
今の僕にはわかっている。
奥にいる父が、どこまで行ったのか…無事なのか。進むうちにわかるだろう。
船を彷徨う魂も、進むうちに出会える。彼らから、貴重な情報も得られるだろう。
全ての元凶…『赤い石』の持ち主、アラマキ=スカルチノフを止められれば。
そうすれば、この船だけではない…スカルチノフ一族も、彼らに両親を奪われた父も
世に深い怨恨を残していた悪霊も、数多の犠牲者も…アラマキ本人だって
何十年もの呪縛から解き放たれ、救われるのだ。
-
ミセ;゚−゚)リ「そんなことはおやめなさい、危険です…」
ミセリさんは僕を止めたが、対してアニジャさんは、何か思索するように
顎に手を当てて、視線を別の方向に逸らしている。
彼なりの、考えがあるのかもしれない。
不安そうに見つめるミセリさんと一緒に、僕は彼を待った。
…やがて、考えがまとまったのか、視線を戻した彼は、懐から一枚の…
プレートだろうか、を取り出し、テーブルに置いて頷いた。
( ´_ゝ`)「…ブーン、君に、これを託そう。」
ミセ;゚−゚)リ「あなた、それを人に託すなんて…」
ミセリさんは、プレートを見て、息を飲んでいた。
彼女も、これが何かを知っているということは、このプレートは
スカルチノフ一族と深い関わりのあるものなのだろう。
-
制止するような彼女の言葉に、アニジャさんは首を横に振って
( ´_ゝ`)「君に選択肢は無い、そうだろう?」
( ^ω^)
逆に、僕にそう問いかけた。
ミセ;゚−゚)リ「どういうことなのです?」
( ´_ゝ`)「君もまた、我々と同じ…この船に囚われた一人だ。」
( ´_ゝ`)「その通りに行動しなければ…永遠にこの船を彷徨う。」
ミセリさんの浮かべた疑問符に、アニジャさんは僕にも、言い聞かせるように答えた。
そう…僕の置かれている状況は、彼の言うとおりなのだ。
-
「船長のフサギコさんに託されたから」
「何十年も彷徨い続ける、彼らを放っておけないから」
そういう人としての気持ちも、確かにあるけれど、
( ^ω^)
( -ω-)
( ^ω^)
ミセ;゚−゚)リ「……」
僕に「このまま静観している」という選択肢は無い。選べないのだ。
何故か…「そうする以外に、この船から脱出する術が無い」から。
( ´_ゝ`)「…では、あらためて。」
咳払いをして、アニジャさんは、テーブルに置いたプレートの説明を始めた。
-
( ´_ゝ`)「これは父の部屋に行く際に、必要なプレートだ。」
( ´_ゝ`)「これと同じプレートが、あと三枚。
合わせて四枚あるプレートを使えば」
( ´_ゝ`)「我らスカルチノフ一家の部屋へ繋がる扉を、開けることが出来る。」
アニジャさんが僕に見せてくれたプレートには、火の鳥が描かれていた。
この「火鳥」の他の三枚は、それぞれ「天魚」「森炎」「水葉」という呼称があり
描かれたプレートを、絵に合わせてくぼみにはめれば、扉が開くのだという。
…こんなプレート四枚で扉を閉ざすのだ、スカルチノフ一族が
どれほど大きく、高い地位にまで上り詰めていたのか、よくわかる。
( ´_ゝ`)「…そういうことだから、君に、あと三枚のプレートを
この船の中から、探してきてもらいたいんだ。」
( ^ω^)「お使いですおね」
(;´_ゝ`)「ああ…まあ、最終的には君一人で
入ってもらうことになるんだが…」
あえて分散させたというのは、一人の人間に委ねるのは危険だと
アラマキか、或いは他の一族の誰かが、判断したからだろうか。
とにかく僕は、アニジャさんに頼まれて、まずは残りのプレートを探すことになった。
-
…あまりに落ち着いた対応で、頭から抜けていたが、彼らは死者なのだ。
死者がそこまで干渉することは、もう出来ない。
だから、彼らもまた、生者の僕に託したのだ。
ミセ*゚−゚)リ「…ここから出て、すぐのドアを開けると
スカルチノフ家の部屋とここ(大食堂)、それから
船尾のデッキテラスを繋ぐ階段室があるわ。」
( ^ω^)「お、ありがとうございますお。」
そうか…執事が塞いでいて気付かなかったが、大食堂の手前には
船尾と船首を繋ぐ部屋の、ドアがあったのか。
早速、外に出て確認しようと、踵を返した僕に、ミセリさんが「待った」をかけた。
-
ミセ;゚−゚)リ「安易に行こうとしてはだめ。
階段室には、あの女の霊が出る…」
(;^ω^)そ「ええっ…マジですかお…」
ミセ;゚−゚)リ「確か、鳴くカラスの置物があったと思うわ。
それを使って、気を引けば…」
(;^ω^)「あ、明かりは…?」
ミセ;゚−゚)リ
ミセ; − )リ「設計ミスね…こんなこと、想定していなかったから…」
ミセ; − )リ「ここと、私達の部屋を繋ぐ1階部分と
船尾のデッキテラスを繋ぐ2階部分…
それぞれスイッチを、1つずつ分けているの。」
(;^ω^)そ
つまり、1階の電気をつけても、明かりがつくのは1階部分だけ…。
ミセリさんの話では、2階部分に、若い女性の悪霊が出る。
悪霊が自ら、スイッチを塞いでしまっているというのだ。
それで、重要なのが「カラスの置物」で、この置物は鳴き声を上げるから
その鳴き声でひきつけてから横をすり抜けてスイッチを押す…と。
なんて危険な…。
(;^ω^)「あ、ありがとうございます、お…」
ミセ;゚−゚)リ「お気をつけて…」
ミセリさんの強張った表情に見送られながら、僕は部屋を後にした。
-
ガチャ
バタン
-
・
・
・
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内一層 階段室
-
(;^ω^)「…!!」
…ドアを開けた瞬間、背筋に寒気を感じた。
僕の防衛本能が疼いて、思わず身構えてしまう。
姿は見えないが、悪霊は確かに、この部屋のどこかにいるのだ…。
幸いにして、すぐ傍の壁にあった電気を押すと、すぐに明かりがついた。
(;^ω^)「…」
…あの女性の悪霊は、何処にいる?
気になった僕は、慎重に、一歩一歩…部屋の中へ踏み出した。
ぽっかりと開けた空間に、両開きの扉が見えた。
先程のプレートをはめる窪みが四つあることから
あれが一家の部屋だろう。
その奥に、カラスの置物。
二階…船尾甲板・デッキテラスに続く、階段が見えた。
-
ミセリさんは、二階に悪霊が出ると言っていた。
なら、悪霊はこの先にいるのか…?
(;^ω^)「……」
壁伝いに、僕は一歩、足を踏み出した。
危険でないとわかると、もう一歩…もう一歩。
二階への階段を、一段ずつ登っていく。
~~川 ゚"々゚")~~~
いた。
-
(;゚ω゚)「っ!!」
そう、ミセリさんの言うとおり…悪霊は、二階部分だけを塞いでいた。
しかも手すりから、一階を覗き込める位置にいて、そこから霊気を飛ばしている。
電気のスイッチは…悪霊の立つ場所から、およそ斜め後ろにあった。
そのまま行けば気付かれるが、なにかで気を逸らしている間に行けば気付かれない。
なるほど、気をひきつけろとは、こういうことだったのか…。
慌てて駆け下りた僕は、一階部分に戻って、カラスの置物を調べた。
置物はミセリさんの言うとおり、どうやら機械仕掛けのようで
スイッチを押すと、鳴き声が出てくる仕組みになっているようだ。
…パキンッ
-
(;^ω^)そ「えええっ!!」
スイッチが何処か、置物をあちこち触っているうちに
取れた背中の蓋を見て…僕は、思わず声を上げた。
あるべきはずの歯車が、一つだけ、取れていたのだ。
(;^ω^)「歯車といえば…映写機…」
(;^ω^)そ
映写機にはめた、あの歯車…ここにも、使えるのではないか?
(;^ω^)「ま…まさか、ここで使うことになるなんて…!」
…少し面倒だが、取りに行くしかない。
僕は部屋を出て、映写室に向かった…。
-
・
・
・
-
( ^ω^)「…で、背中の蓋を開けて、歯車をつけたら」 カァーカァーカァー>
(;^ω^)「見事に鳴いたお…うるさいくらいに」 カァーカァーカァー>
(;^ω^)「なにこれマジでうるさいお… カァーカァーカァー>
金持ちの趣味は本当にわからないお…」 カァーカァーカァー>
真っ黒な羽根、金色の嘴を持つカラスは、本物そっくりの鳴き声をあげている。
これなら、悪霊も寄り付かない…と思ったのだが、
(;^ω^)「えぇ…?」 >
うるさいなどと言ったのがいけなかったのか、カラスはすぐに鳴き止んでしまった。
…どうやら、うるさいわりに、鳴く時間は予想以上に短いようだ。
試しに懐中時計を見ながら、鳴く回数ではなく
鳴き終わる時間を数えてみて…僕は、あまりの短さに絶句した。
-
(;^ω^)「じ、十秒…」
…鳴らしてから、階段を駆け上り、スイッチをつけるまで、十秒。
やるしかないとは言え、出来るのだろうか?
(;^ω^)「あーもう…やるしかないお!」
文句を言いながら、僕は置物のスイッチを入れて、
カァーカァーカァー>
「おおおおおおお!!!」==⊂二二二(;゚ω゚)二⊃==
鳴き出した直後に、階段を駆け上った。
-
亡霊を横目に見た。
==⊂二二二(゚ω゚;)二⊃==
カァーカァーカァー>
川 ゚"々゚")
完全に気を取られており、気付いていない。
カァーカァーカァー>
====⊂二二二(;゚ω゚)二⊃==
電気のスイッチまで辿り着いた。
==(;゚ω゚)つ
パチン。
-
川 ゚"々゚")
川;ノ - )
。
・
,
_
…悪霊は苦しそうに顔を歪めて、緑色の液体を残し、消えていった。
-
(;^ω^)「うへええ…」
女性が消えた後、道に広がった液体は、シアター前通路を塞いでいたものと全く同じ
モララー医師の劇薬だった。中和剤は既に使用してしまったので、手元には無い。
今回は一応、壁側に避けることで触れずに通れるが
こんなものを残して去るとは、なかなか厄介な相手だ。
出来れば、あまり会いたくないが…。
(;^ω^)「もうちょっと待っててくださいお…」
あなたを救う方法も、どこかで見つかるはずだからと
消えていった悪霊に告げた僕は、ひとまず下に降りた。
カラスの置物の背中を、開いて中央にはめた歯車。
機能を停止したカラスに「お疲れ様」と労い、僕はそれを回収した。
この歯車…他の部品としても使えるということが、判明したからだ。
またどこかで、足りずに使えなかったということが無いように
ここで回収しておきたかったのだ。
-
( ^ω^)「さて…」
再び階段を上り、明かりの点いた二階部分を見渡す。
置かれた飾り台の付近に、悪霊が残した緑色の液体が広がっている。
それを避けて行けば、船尾通路に行ける、二つの、鉄製のドアがある。
一つは、左舷の船尾通路に、もう一つは、右舷の船尾通路に出られる。
( ^ω^)「一応、設計図によると…」
(^ω^ )「右舷の通路から、船尾甲板に行けるんだおね」
左舷通路は行き止まりのようで、設計上、景色を眺める為だけの場所だろう。
行き止まりにわざわざ、行く必要も無い。
僕は、右舷の船尾通路へのドアを開けた。
-
ガチャ
バタン
-
・
・
・
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船内一層 プール前通路
-
…宵闇に、波の音が聞こえてくる船尾通路。
そこを抜けた僕は、ドアを開けてすぐに、明かりを求めた。
先程…明かりを点けたはずの船尾通路で、背筋の凍る笑い声を聞いたのだ。
あの笑い声は、間違いなく、女性の悪霊のものだった。
外が夜というだけで、現れてしまうのだ…油断は出来ない。
=(;^ω^)つ パチンッ
(;^ω^)「ふぅ…」
…明かりの灯った通路に、安堵の息を漏らして、居場所を確認する。
開いた設計図に目を通し、現在地と思しき場所に、指を辿らせた。
プール前通路…招待客用の男性・女性の更衣室、監視のいる
「オフィス」の、それぞれ三つの部屋に繋がる場所だ。
「プール」には、男女の更衣室を通して行くことが出来る。
(;^ω^)「明かり…ついていないんだおね…?」
(((;^ω^)))「真っ暗なプールとか、絶対嫌だお…」
-
プールといえば水…水は「死」を連想させるものでもあるらしい。
行く前に必ず、電気を点けてからでないと、悪霊以外の何かが出そうだ…。
怖くなった僕は、細かくてわかりづらい設計図を凝視して
プールの電気がどこから供給されているか、必死に調べた。
(;^ω^)「オフィス…」
…どうやら、三つ並ぶドアのうち、真ん中の「オフィス」内に
プール全体の電気を点けるスイッチが、一つだけあるようだ。
となれば、行く場所はすぐに決まってしまう。
僕は設計図を畳んで、三つ並ぶうちの、真ん中のドアを開けた。
-
ガチャ
バタン
-
…不覚だった。
(;゚ω゚)そ
(;ノωヽ)「見たくなかったおおん…」
それが、何の為に設けられているものなのか、すっかり忘れていた僕は
目の前に広がった闇に、慌てて両手を覆った。
水泳の際に、事故が起きるのを防ぐ為、何も無いか見張る為の場所。
部屋の隅から隅まで見渡せる、中央に位置していなければならない…。
つまり、電気も何の明かりも無いプールを、僕は中央から
一瞬にして綺麗に見渡してしまったわけだ。
…こわい。暗闇以外に何も見えなくて、本当に良かった。
-
( ノω;)「電気が欲しいおっ…」
怖くて片目を開けた状態で、僕は電気のスイッチを探す。
ひんやりとした壁の感触は、通常なら冷静にさせてくれるものだが
こういうときの僕にとっては、その感触すら恐怖の対象になる。
(;^ω^)つ「あったおっ!!」
…スイッチは、意外にも近くに合った。入り口のすぐ傍だ。
パチン、と明かりを点ける。
(;゚ω゚)「…!」
しかし、その明かりに、僕は違和感を覚えた。
-
明かりではない…ならば、これはなんだ?
抱いた疑問は、視界を染める赤への恐れで、形を成さなかった。
部屋全体が、染められたように赤いのだ。
ここから部屋一面を見渡しても、何も無いのに。
確かに、点いている明かりは、白光のもの。
部屋全体が、赤く染まるということは、有り得ない。
(;ノωヾ)ゴシゴシ
(;゚ω゚)
(;゚ω゚)「どういうことなんだお…」
明かりが…白光が灯っているはずだ。赤い光など、ここには無い…。
考えを巡らせて、カウンターから身を乗り出しても、何も見えない。
足が竦むが、プールに行くしか無いのか…?
…躊躇っていたそのとき、久方ぶりに、僕はあの声を聞いた。
-
ζ( − *ζ「更衣室から、プールに出てみて。」
-
(;゚ω゚)そ
僕に、少女の悪霊を救うように言った、大人びた少年の声。
過去の世界へ飛ばして、少女を救う方法をくれた、ツンの弟の声。
(;゚ω゚)「デレ=スカルチノフ…!」
…僕の呼び声に対する返事は無い。
だが、声がしたということは、彼はこの近くにいるのだ。
見渡したプールにはいない、ということは、彼がいるのは…
プールの先の「デッキテラス」ではないか?
彼が言うのだ、進んでも何もないと見ていい。
何かあれば…他の方法を提示してくれたはずだ。
…怯まずに行ってみよう、プールへ。
( ^ω^)「今、行くお。」
デレの言葉通り、僕は更衣室を抜けて、プールへ…
その先の「デッキテラス」へ、向かうことにした。
-
ガチャ
バタン
-
・
・
・
-
更衣室を経て、辿り着いた、全てが赤いプール。
天井を見上げた僕は…その理由に、驚きながらも納得した。
(;゚ω゚)「月が…赤い…?」
プールの天井は窓になっていて、空を見上げることが出来た。
空の様子が、プールの利用客全員にわかるという代物だ。
そこで、生まれて初めて…僕は、見た。
真っ赤な色に染まった月。
その真っ赤な月が、プールを照らしているのを。
(;゚ω゚)「月が赤いなんて…」
まさか、この現象は『赤い石』のせいなのか?
『赤い石』は、こんな自然にまで影響を及ぼすというのか…?
見上げたまま、僕はその赤さに身を震わせた。
…しかし、月が赤いだけならまだいいものだ。
明かりが点いていれば、悪霊も出ることは無いから。
そう思うと、恐怖心は、すっと消えてなくなった。
-
( ^ω^)「…」
改めてよく見たプールは、とても広かった。
足場を含めて、面積が何㎡あるかは定かでないが、乗客全員が入っても
十分に余るのではないかと思うくらい、広く、深いプールだった。
水面は、年月を思わせないほど透き通っていて、底までよく見える。
こんな状況でなければ、きっと一人楽しく、水中に浸っていたかもしれない。
( ω )「…静かだおね。」
ここには、外の風や波音が聞こえない。
人一人いないここでは、小さな僕の声が…呼吸音だけが、大きく響き渡る。
だが不思議なことに、それは恐怖を感じさせる静けさではない。
一切の精神的な乱れを無くし、心を落ち着かせる静けさだ。
気障な詩人ならきっと「深海にいるような心地だ」とでも、言うかもしれない。
デレ=スカルチノフの言葉を、信じてよかった。
( ^ω^)「…行こうかお。」
独り言ちた僕は、真っ直ぐ進んで、正面のドアを開けた。
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船尾甲板 デッキテラス
-
…静かな、とても静かな空間だった。
扉を開いたその直後から、見渡せる真夜中の風景。
赤い月が浮かぶ夜空…聞こえるのは、自然の音だけ。
最奥部に、海へ落ちないようにと、申し訳程度に設けられた手すり。
船の構造から、台形に設計されているデッキ。
その中央には、座る者もおらず寂しく置かれている、二台のデッキチェア。
…その間に、挟まるようにして、立っていたのは…
ζ( 、 *ζ
年のわりに、大人びた少年。デレ=スカルチノフだ。
あのときは遠目にしか見ていなかったが、近付いてみると
いかにも良家の子という感じの、あどけない少年だった。
…そんな彼の姿も、乗船客の一人に変わりなく、半透明の影だ。
こんな未来ある少年の命すら、無情にも奪われてしまっている現実に
僕は今更ながら、ずきりと胸が痛むのを感じた。
-
彼は背に壁をつけて、何かの本に目を落としていたが
やがて僕が近付いたことに気がつくと
ζ(゚、゚*ζ
顔を上げて「ここまで来たんだね」と、ぽつりと漏らした。
( ^ω^)「…ブーン=スギウラと言いますお。」
ζ(゚、゚*ζ「デレ=スカルチノフ…。」
静かな、静かな空間で、僕らは名乗りあった。
ζ(゚、゚*ζ「…」
デレは、本当に大人びた子だった。聞けば年は13歳だという。
年の割りに、父の過去で見たツンのように、幼さが抜けてしまっていた。
あんな家に生まれたのだ、散々なごたごたも見てきただろう。
生きていれば、画家のジョルジュのように、自分の好きなことをして
姉と共に、あの息苦しい家から抜け出せたかもしれない彼が
僕にはただただ、不憫に思えてならなかった…。
-
…夜が更けて、波の音が木霊する空間。
壁に背を預けて、デレは横に立つ僕から、顔を逸らした。
向けた視線の先には、雲ひとつ無い闇と、広大な海原。
ζ( − *ζ
…この少年は、他の霊とは何処か違う。
他の亡霊と何が違うのかは、自分でもよくわからない。
しかし今の彼は、こんな場所も相俟って、何処か
神秘的な雰囲気を、醸し出していた。
ζ( 、 *ζ「月が出てた…」
( ^ω^)「!」
長く続いた沈黙を破り、彼は、語り始めた。
-
ζ( 、 *ζ「僕は、その明かりで本を読んでた」
ζ( 、 *ζ「真夜中なら、ここは誰も来ないから…」
ζ( 、 *ζ「僕は、死んだんだ。
真夜中に、月が赤く染まって…」
(; ω )「月が…赤く…!」
それは先程、プールで見上げた真っ赤な月と
いま、夜空に浮かんでいる月と、全く同じものだろう。
真夜中に赤く染まるつきなど、滅多に見られるものではない。
…僕は、次の言葉を待ったが、デレはそれ以上、何も語らなかった。
赤い月のことも、自分がどうやって死んだのかも…黙したままだ。
それ以上のことを知らないのかもしれない。
覚えていないのかもしれないし、仮に覚えていたとしても
少年にとっては思い出したくもないことだ。
無理に語らせる必要は無い。
-
( ^ω )「…お?」
何と声をかけていいかわからず、床に視線を落としていた僕は
( ゚ω゚)そ ◎
(;゚ω゚)「目!?」
デレの足元に転がる、大きな目玉に驚いた。
少年の足元に、こんなものがあったとは。
来たときには無かったような気がするのだが…と
思考する僕がおかしかったのか、デレは苦笑いしていた。
ζ(゚ー゚;ζ「それは、深海魚の眼。」
(;^ω^)「し、しんかいぎょ…?」
ζ(゚ー゚*ζ「プールの底…あの魚の目だよ。」
プールの底…そう言われてみれば、透けて見えた水底には
何かをはめられるように、丸い窪みがあったような気がする。
思い出した僕を見て察したのか、デレはその目玉の
用途について、こう言ってくれた。
-
ζ(゚ー゚*ζ「月が赤く染まるとき…染まっているときに
底の窪みに、それをはめてみてよ…」
( ^ω^)「…今からでも、間に合うかお?」
ζ(゚ー゚*ζ「間に合うよ。」
僕の問いに、デレは答えてくれた後、でも…と、付け加えた。
ζ(゚−゚*ζ「水の中に入って嵌め込んでも
すぐに窪みから取れてしまう。」
(;^ω^)「あっ…確かに…」
冷静なデレの返しに、僕は頷いて頭を掻いた。
子供に指摘されてしまったのが、ちょっと恥ずかしい。
プールはかなり深いから、それだけ溜めている水量も多い。
濡れるのを我慢して潜っていったとしても、目玉を嵌め込めるわけがない。
-
なら、どうすればいいか?
それにはまず、プールの水を抜かなければならない。
プールの水は…ここの床下を降りて行ける地下倉庫と
併設している、ポンプ室で調節出来るだろう。
そこで多量の水を抜いた上で、赤い月の出る頃合を見計らって
プールの底に目玉を嵌め込む…。
(;´ω`)「なかなか面倒だおね…」
手間のかかる作業に、疲労を覚えて、ぼそりと呟いた僕。
しかしそれに、デレは何も返さなかった。
ζ( ー *ζ
視線を本に落としていて、それでも僕には、デレの表情が見えた。
俯く少年はまるで、悪戯っ子のように微笑んでいるのだ。
…僕はどうやら、この少年に試されているらしい。
謎を解き、そこまで辿り着けるか、どうかを。
ならば、僕はそれに、応えなければならない。
( ^ω^)「…行ってきますお。」
床下の、地下倉庫に繋がる引き戸を開けた僕は、本に視線を落としながら
未だ微笑んでいるデレに言って、梯子を降りていった。
-
とりあえず今日はここまで。
-
乙!
-
相変わらず更新早いな、乙
-
9:26なんて、なんで9:30じゃないんだ
-
予告どおり、21:26に投下します
>>896
30分前だ、それで良しとしようじゃないか…フフフフ…
-
タン
タン
タン
-
・
・
・
-
#過去世界 1937年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船尾甲板 テラス地下倉庫
-
…降りてきた地下倉庫も、見事に真っ暗だ。
特にここは「地下」だ、悪霊が出る以前に、明かりが無ければ足元も見えない。
(;^ω^)「ああもうスイッチどこだおー」
梯子を降りた僕は、さっそく電気のスイッチを探した。
この地下倉庫、入り組んでいるというのは、語弊があるかもしれないが
倉庫の支柱が、何本も何本も間に建っている為に、邪魔で通行が容易に出来ないのだ。
(;^ω^)つ パチン
探し回った末、入り口からそう遠く無い場所にあったのを見つけて
些か落ち込みながらも、僕は電気の明かりをつけた。
…そう、設計図の通り、本当に単純な部屋なのだ。
だだっ広い部屋の左右に、二つドアが有るだけ。
片方は先程から言っていた「プール用ポンプ室」で、もう片方はただの物置。
( ^ω^)「んじゃま、行くかお。」
デレ少年の期待に応えるため、僕は勇み足で「プール用ポンプ室」へ向かった。
-
ガチャ
バタン
-
…ところが、その勇み足はどうやら無意味なものだったようだ。
ドアを開けた瞬間に感じた、氷点下の中にいるような冷たい空気。
背筋に走った悪寒は、これまで幾度も体験してきたもの。
~~~~~川 ゚"々゚")~~~~~
靄を纏わりつかせて、これまで以上に強い霊気を放ってくる
若い女性の悪霊が、部屋の中央で、来訪者である僕を待ち受けていた。
…やはりというかなんというか、電気のスイッチは、部屋の遥か奥の方。
⊂(゚ω゚;)===
成す術もない僕は、慌てて部屋の外へ飛び出した。
-
ガチャ
バタン
-
(; ω )「マジかおっ…」
鉄製のドアに凭れかかり、僕は後ろ手にドアを殴った。
…少女の悪霊に、ポルターガイスト現象を見せられた、あのときと同じだ。
いずれ救わなければならない女性だと、わかってはいたのだが
今回、デレの助けは無い。彼は上のデッキテラスで、僕の帰りを待っている。
あの少女…ツインちゃんは、ゲストルームの最奥である
「特別ゲストルーム」に救いを求めて現れ、消えていった。
彼女を救ったのは、他のゲストルームに訪れ、人々の魂を救っていった後のことだった。
( ^ω^)!そ
では、ここ以外の部屋に、何かヒントがあるのか?
反対側の、物置に…。
-
そういえば、ここに来てずっと、物置から、弱々しい女性の声を聞いていた。
ポンプ室で、水を抜いた後に、訪れようと思っていたのだ。
どのみち訪れることになるので、どちらでも良かったのだが
悪霊が塞いでいて、通れないということであれば…もしかしたら。
( ω^)「…」
僕は反対側の、物置のドアに、聞き耳を立てた。
…人の話を盗み聞きしているようで、僕としては躊躇われたが
物置の女性はどう聞いても、狼狽しているようだった。
こんな様子では、近付いても何も教えてはくれないだろう。
-
<ど、どうしよう〜…早く直さないと〜…
<動かないよ〜…
( ^ω^)(…何か、壊した?)
その女性は、どうやら何かを壊したようだ。
「動かない」ということは、機械か何かのようだ。
…僕は、先程、カラスから回収した歯車を手にとって見た。
もしかして、また使うことになるのだろうか?
それも、今度は人を救う為に。
聞き耳を立てていた僕は
次に紡がれた言葉に、不穏な何かを覚えた。
-
<ううっ…早く直さないと、私も…あの人みたいに…
(;^ω^)(…!?)
-
バタン
-
驚きのあまり、思わず僕はドアを開けて、中に入ってしまった。
从;'ー'从そ「!?」
(;^ω^)「あっ…」
暗い物置の中にいたのは、どうやらスカルチノフ家のメイドのようだ。
紺色のワンピースに、白いエプロンを着けている。
(;^ω^)つ「あ、あの、すみませんお。
その、えっと…」
…勢いで出てきてしまったのだ、なんと言ったらいいものか。
今の僕は多分、メイド以上に動揺しているのではないか?
単刀直入に「あの人とは誰ですか」とは聞けないし
「ドアの向こうで聞いていました」とは言えない…。
しどろもどろになりながら、僕はとりあえず彼女に、落ち着くように言った。
-
…動揺していた僕が、よほどおかしかったらしい。
そんな僕を見て笑って、幾分か落ち着きを取り戻したメイドは
ほんわかとした話し方で、僕に自己紹介し始めた。
彼女は格好の通り「ワタナベ」という名前の
スカルチノフ家に仕えるメイドだそうだ。
(*^ω^)「ワタナベさん、そこのパラソル差してみてくださいおー」
从;'ー'从「ふ、ふぇ〜?パ、パラソルですか〜?
えっと…よいしょっ」
(*^ω^)「おっお、かわいいおー。」
从;'ー'从「も〜、私でなにしてるんですか〜!!」
たまたま、部屋の隅には招待客用のパラソルが、何本か置いてあったのだ。
怪しい人でないと、わかってもらいたかった僕は、警戒と緊張を解くために
そのパラソルを使って、ワタナベさんをからかってみたのだ。
とはいえ、戸惑いながらもパラソルを差した彼女は、なんとも可愛らしい。
その様子に、僕はお世辞では無い、純粋な言葉を向けた。
-
( ^ω^)「…」
从 'ー'从「…」
…静かな、それ以外には何も無い物置だ。
暫くすると、僕とワタナベさんの、二人とも落ち着いてきた。
( ^ω^)「ワタナベさん…そこの、オウムの置物…ですおね?」
从;'−'从
从; − 从
沈黙を破った僕の一言に、笑みを消したワタナベさんは、俯いてしまった。
模型の木の枝に乗っている、赤と緑の体色が、綺麗なオウム。
階段室にあったカラスと、完全に同じ形の、機械仕掛けの物置だ。
鳴き声が出ない、動く様子が無い…中の見方もわからないワタナベさんは
その置物を自分が「壊してしまった」と、思い込んでしまったのだ。
( ^ω^)「大丈夫ですお、ワタナベさん。
僕が、これを直します。必ず。」
从;'−'从「で、でも〜…」
(;^ω^)「というか、語弊がありましたお。
これ、壊れてるわけじゃないんですお。」
从;'ー'从「えっ…?」
オウムを指差しながら、僕がワタナベさんにそう言うと、彼女の目には希望の色が宿る。
よほど気にしていたのだろう、無意識なのか、笑みすら浮かんでいる。
そんな彼女を、早く安心させたいのは山々だが…
僕はまだ、彼女に聞けていないことがある。
-
( ^ω^)「でも、僕がこれを動かす前に…
一つだけ、教えてください。」
( ^ω^)「ドアの向こうで、僕は…すみません。
あなたの独り言を、聞いてしまいました。」
从;'−'从「エッチ…」
(;^ω^)「ご、ごめんなさい。」
( ^ω^)「と…とにかく、僕は、あなたの独り言で
気になったことがあるんですお。」
从; − 从「…」
( ^ω^)「…あなたの言う、あの人…とは、誰ですか。
その人に…何かあったんですか。」
从; − 从「……」
僕の問いかけに、ワタナベさんは、俯いて黙したままだ。
話すことが恐ろしいのか、全身が震えている。
…やがて彼女は、視線を床に向けたまま、ぽつりとこう呟いた。
-
从; − 从「…殺される…」
(;゚ω゚)そ
殺される…いったい、何があったというのか。
震える彼女は、部屋の隅にふらふらと歩いていく。
恐ろしくていられない、というように…隅を移動した。
从; − 从「あの人…クー=スナオさんって言うの…」
从; − 从「…黒くて長い髪を降ろした…綺麗な人だった…」
从; − 从「ここに…スカルチノフ家に、一緒に仕えていた…」
(; ω )
黒くて、長い髪…仕えていたということは、彼女と同じメイドだった。
あの女性の悪霊は、どんな格好をしていた?
同じような、紺色のワンピースを着ていなかったか?
ワタナベさんは、自分の年が21だと教えてくれた。
悪霊も、見かけからして同じくらいの年ではないか?
まさか、彼女が怯えている理由は…
-
从; − 从「…クーさん、ある日突然、いなくなったの…」
(; ω )そ
从; − 从「聞いたら、いきなり辞めていったって…」
从; − 从「…でも、私…知ってる…
あの人は…アラマキ様に、殺されたの…」
从; − 从「…わ、私も…こんなことが、ばれてしまったら…
こ、殺される…アラマキ様に…」
(; ω )
…悪霊となった若い女性も、アラマキの手によって殺された一人。
メイドであるワタナベさんが、それを何処で知ったかはわからない。
けれども、彼女はそれによって、ミス一つすることに、ひどく怯えている。
お茶を零したなどという、些細なミスを一つでもすれば、殺されるのだ。
そんな状況に置かれている中で、機械仕掛けのオウムが鳴かないとなれば…。
「壊してしまった」と勘違いして、死んでもなお怯え続けているのも、無理は無い。
-
( ω^)「ワタナベさん…ありがとうございますだお。」
从; − 从「…」
( ^ω^)「大丈夫。オウムは鳴きますお。」
隅に移動して震え続ける彼女を、僕はこちらに招き寄せた。
希望の色に満ちていた目が、怯えから涙で潤んでいる。
…彼女には、かわいそうなことをしてしまった。
早く、安心してもらわなければ。
ふらふらと、歩み寄ってきた彼女の目の前で、僕はオウムの背中を外した。
パキンッ
从;'−'从そ「あっ…」
予想通り、オウムの背中には、あるはずの歯車が一つ欠けていた。
落ち着いてよく見ればわかるものだが、彼女にはそこまでの余裕も、無かったのだろう。
驚く彼女の前で、僕はカラスの歯車を、そっとオウムに嵌めた。
…口元に手を当てて、ワタナベさんはその様子を、じっと見ている。
背中の蓋を閉めて、電源を入れた。
-
( ^ω^)つ クッークゥッークッークゥッー>
从;ー;从そ「鳴いた!!」
ワタナベさんの、安堵の声。
見ると彼女は…口元に手を当てたまま、涙をぽろぽろと流していた。
こんなことで泣くなと、普通の人は思うかもしれない。
だが、彼女にとってはそれほど重大なことだったのだ。
同僚を亡くした彼女は、鳴かないとわかったとき、本当にこわかったのだろう…。
从;ー;从「…よかった〜…」 クッークゥッークッークゥッー>
从;ー;从
从 ー 从
,*・+゚.。+゚:*・*゚.:。゚・*:.+,*゚+;, ー 从
:*・+゚.。+゚:*・*゚.:。゚・*:.。....
-
…オウムが、鳴き止んだ。
-
( ^ω^)「…おつとめ、ご苦労様だお…」
彼女が残したアストラルピースを取って、そう言葉を向けたとき
僕は、オウムが止まる枝の下にある、引き出しが開いているのを目にした。
(;^ω^)そ
その引き出しに入っていたのは、アニジャさんが言っていた
スカルチノフ家の扉を開ける、石造りのプレートに、よく似ていた。
違うのは…それが、バラバラに割れていたということ。
何をすれば、こんな丈夫な石が割れてしまうのか。
考えても仕方ないことだが、破損する要素が無さそうだから
こうして壊れていると、作為的なものを感じるのだ。
何とか直せないものか。
そう思った僕が、それを、そっと手に取ろうとしたとき。
-
欲シイカ?欲シイカ?>
(;^ω^)そ「ひぇっ!?」
なんと、オウムが喋ったのだ。機械仕掛けなのに。
本物と違って、言葉を覚える機能など無いのに、何故…?
探シテ来イ!探シテ来イ!>
(;^ω^)「えっ…」
-
――驚きに、身を強張らせたままの僕はまたも、過去の世界へと飛ばされた…。
-
・
・
・
・
・
-
鉄柵の向こうに並ぶ、幾つもの墓石。
ここは誰が眠っているかもわからぬ、共同の墓地。
墓の下に眠るのは、必ずしも、死者の骨とは限らない。
年の暮れ、雪がしんしんと降り積もる夜。
誰にもわからないような、墓の下で。
その儀式は今日も、静かに行われた…。
-
#過去世界 1910年 12月29日 ―共同墓地
-
…飛ばされた先が、まさか墓地だなんて、思わなかった。
それも、引き取り手のない遺体が葬られる、共同墓地。
直に表された「死」に、僕は一歩、退いてしまう。
平常のときだって、来たいとは思えない場所だ。
…雪が、降っている。いやに寒く感じたのは、そのせいか。
石で舗装された道を辿っていけば、各々の墓石が見られる。
…見たいとは思わないが。
(;^ω^)「っていうか、あのオウム…なんなんだお…」
(;^ω^)「機械なのに喋って、探して来いって…」
背中が外れ、歯車で動いていることが見えたのだ。
今更、まさか本物ではないかと言うつもりはないが、あれは誰の言葉で
何故、オウムがプレートのことを知っていたのだろう?
…解けない謎にぶつかった僕は、またしても、考えることを諦めた。
-
とにかく、あのオウムが探して来いと言って、僕をここに飛ばしたのだから
ここにプレートと…悪霊を救う方法が、あるのだと思う。
( ^ω^)「…」
耳に痛いくらいの静寂の中、見渡すと、傍に小屋があった。
古い木造の小屋で、ひどく殺風景だが、おそらく墓守の小屋なのだろう。
…中に、人はいるのだろうか?
確かめようと、僕はそのドアを開けて、小屋の中へ入っていった。
-
ガチャ
バタン
-
木で出来た、簡素な小屋の中には、大きなテーブルに、ランプが乗っているだけだった。
それと向かい合うようにして、椅子に腰掛けているのは、怪しげな笑みを浮かべた老人。
…霊能者と並ぶくらいに、怪しい猫背の老人は一人
椅子に腰掛けて、こちらを眺めている。
【+ 】ゞ゚)「やあ…いらっしゃい」
【+ 】ゞ゚)「ん、お前さん…見たこと無い顔だ。」
【+ 】ゞ゚)「誰だね?」
(;^ω^)「あ…えっと…」
さすが、年の功と言うべきか…こちらが何か言い出す前に、問いかけてくる。
入ってきて早々、僕は完全に、相手のペースに飲まれてしまった。
【+ 】ゞ゚)「…まあ、いいや。」
【+ 】ゞ゚)「用が無いんなら、さっさと引き上げるこった」
【+ 】ゞ゚)「そうしたほうがいい…」
【+ 】ゞ゚)「何も起こらんうちにな…クッヘッヘ…」
-
…怪しすぎる。特に、最後の笑い方。絶対に、この男…何か企んでいる。
しかも、この言い回し…いかにも「何か起こる」と言いたげではないか。
ただの墓守ではないと、感じさせるこの男…一体、何者なのだ?
(;^ω^)「…」
だが生憎、僕はここに、亡霊を救う為に探しにきているのだ。
こんな老人に脅されても、引き上げるわけにはいかない。
【+ 】ゞ゚)
とりあえず…この老人の目の前では、何も起こさないようにしよう。
こんな狭い部屋で何かされても、丸裸の僕には、自分の身も守れない。
( ^ω^)「それじゃあ、…失礼しますお。」
言葉だけ…本当に口だけでそう言って、僕はその部屋を後にした。
-
…さて、どうしようか。僕は小屋を出てすぐに見える
立派な造りの、三つの墓を眺めて思索した。
墓地に飛ばされるくらいだ、墓自体に、何か意味があるかもしれない。
歩み寄った僕は、墓に刻まれた言葉をじっくり見ながら、思考に耽った。
古い墓で、文字のところどころが擦れているから、名前は読めなかったが
刻まれた言葉の断片を、左から順に読んでいくと、こうなる。
『始まりを求めた偉大なる男』
『その人生の最後に彼は道を切り開いた』
『常に生と死の狭間に』
(;^ω^)「おー…?」
一番目と二番目は繋がるような気がするが、三番目はどう読んでも繋がらない。
言葉を並べ替えても、文章がおかしくなるだけで、三番目の存在する意味がわからない。
-
(^ω^ )「お…?」
移動しつつ考えていた僕は、三番目の墓の横に、鉄柵で囲まれている墓を見つけた。
…いや、本当に墓なのかすら疑うほど、それは簡素な造りの石だった。
地下への入り口のカモフラージュ…そう思ってもいい。
(^ω^ )
( ^ω^)「よいしょっ」
背後に、あの墓守がいないことを確認して、僕は鉄柵を開けた。
キィイ…
鉄柵は、思ったより簡単に、軋んだ音を立てながらも開いた。
中には簡素な造りの石…下に繋がっているであろう、隠し通路の蓋と
三つのスイッチがあった。どうやらこのスイッチで、蓋を開けられるようだ。
あの、怪しい墓守…やはり、何か隠している。
-
ガシャンッ
( ^ω^)そ
凄い音を立てて閉じられた鉄柵に、驚いた僕は振り向いた。
この出入り口は困ったことに、中に入ると自動で、閉まるようになっているらしい。
幸い、墓守には見つからなかったが…後戻りはできないということか。
…先へ進むしかないようだ。
(^ω^ )「塔・魚・翼…?」
近付いて見たスイッチの上には、それぞれ紋様が彫られていて
順番通りに押せば、重たそうな石の蓋が開く…という仕組みになっているようだ。
( ^ω^)
( ^ω^)!そ
思い出した。
三つの墓の裏にも、同じような紋様が彫られていた。
つまりあの墓の言葉は、このスイッチの順番を表しているだけだ。
眠る主の名前がわからないのではなく、あれもまた、墓ではないということ。
-
( ^ω^)「…なるほど…そういうことだったのかお…」
ならば、あの微妙におかしな言葉の順番にも、納得が行く。
( ^ω^)つ「始まりだから塔」
( ^ω^)つ「狭間だから翼」
( ^ω^)つ「最後だから、魚…」
言葉の節々を拾っていけばいいだけで、仕掛け自体は、実に簡単だった。
そうやってぽちぽちとスイッチを押していくと
ズズズ…
(;^ω^)そ
重たそうな石の蓋が、スライドして…梯子が現れた。
下に降りられるということは、予想通り、この先は地下だ。
( ^ω^)「…」
覗き込むと、ひゅうひゅうという風の音が聞こえる。
…何処に繋がっているのだろう?
ともかく、こんな厳重に囲って隠してあるということは
人には言えない、疚しい場所だということだ。
墓守に見つかってはまずい。背後を気にしながら、梯子を降りた。
-
トン
トン
トン
-
#過去世界 1910年 12月29日 ―共同墓地・地下
-
…ひやりとした空気に、僕は身震いした。
比喩ではなく、寒いのだ。
冷気に混じって、別の何かが全身の体温を下げる。
考えたくはなかったが、ここは墓地の下…不吉な場所なのだ。
外の空気とは、違う何かを体に感じでも、おかしくない。
気は進まないが、進むしかない。
(; ω )「…」
慎重に、一歩一歩、踏み出していく。
自分のものなのに、コツン…コツン…と、響く革靴の音が耳障りだ。
-
歩きながら、そろそろと視線を移してみると、灰色の壁には斑模様のような
赤い染みが広がっていて、僕は思い出したくない光景を、目に浮かべてしまった。
少女の眠っていた廃坑にも…同様の壁が、いくつかあったのだ。
やはりここも、また多くの死者が眠る『墓』なのか…。
(;-ω-)「しっかし、ひどい迷路だお…」
薄気味悪い場所と広さに、些か疲労を覚えながら、僕は呟いた。
そう、ここ…ただの地下道だと思っていたら、大間違いで
地下道にしては広く、道が入り組んでいた。
(;´ω`)「おー…」
柵のようなものが、道を塞いでいた。
壁には、何かをはめられるようなレリーフがあるが
僕は何も持っていない。
行き止まりに当たってしまった、この虚しさ。
果たしてどう解消できるか?
足取り重く戻っていきながら、分かれていたもう一つの道を
なんとか足を運びながら進んだ。
…そんな僕の頭を、ある声が、一瞬にして覚醒させた。
-
「そこにいるのは誰だ!」
(;^ω^)そ
やばい、見つかったか…そう思った僕は、
( ^ω^)
(;゚ω゚)そ
目の前に現れた男の姿に、愕然とした。
/ ,' 3
冷たく通る声で僕を咎めたのは、父の過去で見た
『赤い石』の持ち主…アラマキ=スカルチノフだった。
-
/ ,' 3「貴様、何者だ?
どこから入ってきた?」
(;゚ω゚)「おっ…」
お前は、アラマキ=スカルチノフか…そう言おうとした僕の口を
僅かに残る理性が、噤ませた。
何故か? 僕とこの老人は、赤の他人だからだ。
僕の父と、アラマキ=スカルチノフは面識がある。
しかし、僕とアラマキ=スカルチノフには…何の接点も無い。
父の『青い石』が無ければ、彼は僕にとってただの「若僧」であり
僕にとっても彼は、ただの「老人」に過ぎないのだ。
赤の他人にそんな言葉を投げかけたところで、失礼に当たるし
この男に対して、礼儀など気にしなかったとしても…不利になるのは、僕の方だ。
…運命とは、不思議なものだ。
出会うことの無かった人間を、引き合わせたのだから。
『赤い石』と『青い石』…二つの石の力を考えながら
僕は身構え…老人にしては壮健な、アラマキの顔を、じっと見据えた。
-
/ ,' 3「貴様、何者だ?
どこから入ってきた?」
(;゚ω゚)「おっ…」
お前は、アラマキ=スカルチノフか…そう言おうとした僕の口を
僅かに残る理性が、噤ませた。
何故か? 僕とこの老人は、赤の他人だからだ。
僕の父と、アラマキ=スカルチノフは面識がある。
しかし、僕とアラマキ=スカルチノフには…何の接点も無い。
父の『青い石』が無ければ、僕にとって彼はただの「老人」であり
彼にとっても僕は、ただの「若僧」に過ぎないのだ。
赤の他人にそんな言葉を投げかけたところで、失礼に当たるし
この男に対して、礼儀など気にしなかったとしても…不利になるのは、僕の方だ。
…運命とは、不思議なものだ。
出会うことの無かった人間を、引き合わせたのだから。
『赤い石』と『青い石』…二つの石の力を考えながら
僕は身構え…老人にしては壮健な、アラマキの顔を、じっと見据えた。
-
/ ,' 3「…まあ良い」
/ ,' 3「ここへはあまり他人に出入りして欲しくないのだ。
悪いが帰ってもらおう。」
/ ,' 3「出口は向こうだ。
…来たまえ。」
(;゚ω゚)「……」
…矢継ぎ早に、淡々と僕に告げたアラマキが、指し示して案内しているのは
明らかに通路の奥だった。風がひゅうひゅうと吹いているのを、確かに感じる
とは言え、そこが本当に出口に繋がっているとは考え難い。
過去の父と、孫娘のツンに対する行動。
廃坑で、必死にツインちゃんの亡骸を探していた、父親の証言。
アニジャ夫妻の「もともと冷酷な人間」という評価。
誰でも察することが出来るはずだ。
この男は…僕を「消す」つもりでいる、と。
しかし、過去へ飛んできた目的は、まだ果たされてはいない。
原型を留めている、プレートの入手も、あの若い女性を救う為の…
少女のような「物」が、未だ手元に無い。
目的を果たす為には、命懸けということか…。
(; ω )(抵抗しては、ここにいられなくなる…)
…僕は、大人しくアラマキに従うことにした。
-
コツン…コツン…コツン、コツン…。
不穏な空気の中、二人分の革靴の音が、大きく地下に響き渡る。
前を歩くアラマキと…そのすぐ斜め後ろに、僕が続いている。
握り締めた掌は汗ばんでいて、喉の中は渇き切っている。
心臓の動悸が激しく、呼吸をするのもやっとだ。
僕は、アラマキの一挙一動を、見逃さないように睨んだ。
/ ,' 3「この奥だ。」
そう言って、アラマキが取り出して、レリーフに嵌めたのは…
(;゚ω゚)(プレート…!)
僕の、第一の目的、プレートは…奴が持っていたのだ。
このプレートは、船内の、スカルチノフ家への部屋だけに使う物ではない。
道に幾つかあったレリーフに嵌めこんで、その下のスイッチを押すと
連動している柵が開けられるという仕掛けにも、使えるようだ。
-
/ ,' 3「…どうした?早く行きたまえ」
(;゚ω゚)「っ…言われなくても…」
煩わしそうに急かす老人の目は、既に僕を、獲物として見定めていた。
…奴を横目に見ながら、僕は慎重に進み始める。
数歩、進んだところで、奴は何かを懐から取り出していた。
僕はそれが、何かを、知っている。
(;゚ω゚)(今のうちに…!)
気付かれないように、僕はレリーフから
カコンッ…
プレートを、外した。
-
…音がしたことで、気付かれるかと思ったが、アラマキは気付かなかった。
アラマキは懐から取り出したものを、夢中で眺めているようだ。
目的を一つ、達成した僕は、息を深く吐いて
プレートをすぐに取り出せる場所にしまうと、重い足を運んで、進んだ。
コツン…コツン…コツン、コツン…
僕の背後から、足音が数歩したかと思うと、止まった。
どうやら奴は…特定の位置で僕を、待ち伏せるようだ。
だが僕は、立ち止まるわけにはいかない。
鼻につく異臭が、先へ進む毎に増していくから。
その先にあるものが…何なのか…大体の察しはついたから。
-
コツン…
(; ω )
(;゚ω゚)
立ち止まり、視線を正面に戻した僕は、
( ω ;)
描いていた以上に惨い光景に、思わず顔を逸らした。
-
|;.:,川 || - ),;,:,・,
何時の時代から、あるものかも分からない…人の頭蓋骨。
その骨が、多く埋め込まれている壁を背に
悪霊となった若い女性は、倒れていた。
黒く、長い髪の…紺色のワンピースを着た、美しい女性。
彼女は胸の辺りから、多量の血を流していて…紺色のワンピースに
目立たない染みをつくらせていた。
青白い顔は、もう…死者のもの。既に、息絶えているのだ。
/ ,' 3「ここまで連れて来るのが難しくてな…
いつも苦労している」
( ω ;)そ
冷たい声に、僕は我に返った。
-
/ ,' 3「今日は幸運だ…」
≡(;゚ω゚)
振り向いた僕の視界に入った、おぞましい笑みと
/ 。゚ 3つ†+「もう一つ、魂が手に入るとはな…」
『赤い石』のナイフ。
…もう、これで明白だ。
僕の目の前に倒れている女性は、アラマキに殺されたのだ。
アラマキの持つ『赤い石』の、犠牲者。
最初に救った少女も、きっとそうだろう。
謎は解けていったが、それで安心など出来ない。
(;゚ω゚)「まだっ…だ!」
逃げる前に、後一つ。
僕にはまだ、後一つ…やらなければならないことがある!
-
素早く女性の方に向いた僕は、彼女の身辺を探した。
あるはずだ…彼女に、人の心を思い出させる「物」が。
|;.:,川 || - ) +υ⊂(゚ω゚;)そ
あった…彼女の手元に、無造作に落ちている。
手に取ったそれは、ペンダントだった。
(; ω )「っ…!!」
…が、ただのペンダントではない。
白や青等、様々な宝石が散りばめられているその中央には
(*'A`) 川*゚ー゚)
幸せそうに並んだ男女の写真が、形に合わせて収められていた。
-
「物」に感情移入している場合ではない。
背後から迫る、尋常ならぬ殺気から、逃れなければ。
(; ω )「っくう…!」
…しかし、今の僕には、駆け出す…走るということが、全く出来なくなっていた。
流血している死体と、その人物を知る為の「物」を見てしまった僕の
精神的なショックは、意外にも大きい。迷路で体力をごっそり奪われて
心身共に蓄積されてきた疲労が、僕の行動に支障をきたすという形で
ついに出てきてしまったのだ。
…込めているはずの力が、膝に入らない。
笑っているという表現は、こういうときのことを指すのだろう。
/ 。゚ 3つ†+「どうした?もう限界かね…ふふふふ…」
だが…現実は、そう甘くない。
僕を嘲笑いながら、アラマキは『赤い石』のナイフを向けて
どうにか立ち上がった僕の方に、歩み寄ってくる。
…ここで、死にたくなんかないし、死ぬつもりなどない。
船内を彷徨う霊も、そこにいるはずの父もまだ、救えていないのに。
(; ω゚)「誰がっ…」
(;゚ω゚)「誰が、やられるか…!」
僕は、自分に叱咤する意味も込めて言うと、ふらつく足を動かした。
ナイフを突き出した、アラマキの横を間一髪、すり抜ける。
-
すり抜けた後、体を壁にぶつけて、そこを支えに僕は歩き始めた。
早足くらいなら行ける…はずだ。
/ 。゚ 3つ†+「フフフ…」
そんな僕を、不気味な笑みを浮かべるアラマキが追う。
駆け寄って一気に止めを刺さないのは、老いによるものではない。
怯える相手を、隅へ隅へと、じわじわと追い詰めたいのだ、この老人は。
(;゚ω゚)(趣味の悪い…!)
心の底で悪態を吐きながら、僕は先を急いだ。
無理に走ろうとすれば、足が縺れる…相手はこちらに
合わせてくれていると考えて、焦らずに逃げよう。
(;゚ω゚)「み、見えてきたっ…」
僕が迷った、通路の分かれ目…出入り口の中間地点だ。
そこを過ぎればもう真っ直ぐ、梯子へ行けばいいだけだ…。
-
そう思った僕の目の前に、現れたのは。
||||||
頑丈な鉄柵だった。
(;゚ω゚)「!!!」
出口は、塞がれている…!
しかもその奥で、
|||【+ 】ゞ゚)|||
あの墓守が、笑っているではないか!
【+ 】ゞ゚)「もう逃げられはせん。
貴様の魂も、アラマキ様のものに…」
下品な笑い声を上げて、墓守は前に立つ僕を、ぎろりと睨みつけてくる。
後ろには、ナイフを持ったおぞましいアラマキが、こつこつと靴音を響かせて
僕を追い詰めようと歩み寄ってきている。
(;゚ω゚)(挟む気か…!!)
この墓守…怪しいと思ってはいたが、霊能者と違い
本当にアラマキと手を組んだ「敵」だったのか…!
-
どうにかして、掻い潜らなければ…!
別の脱出路を探そうと、アラマキのナイフを避けて
踵を返した僕は、思い出した。
(;゚ω゚)「レ、レリーフっ!」
仕掛けが分からなかった為に「行き止まり」と表現した
鉄柵で塞がれた通路…あの道の傍には確かに、レリーフがあった。
プレートを持っている今、先程のアラマキと同じようにはめ込めば、或いは…!
(゚ω゚;)
/ 。゚ 3つ†+「どうした?逃げないのかね、フフフフ…」
おぞましい笑みを浮かべて、僕を徐々に追い詰めていくアラマキは
この暗闇の中の、ゆっくりとした追いかけっこを、気に入ったようだ。
…そんなものに、付き合っていられるか!
(;゚ω゚)(あの道へ、逃げるお!)
僕は、すぐに取り出せるようにしまっておいた、プレートを手に持った。
-
ひどく長い道のりに感じる通路を、早足で進んでいった僕は
目の前に見えたレリーフとスイッチに、安堵の息を漏らしながら
急いで窪みにプレートを嵌めこみ、
カチリッ (;゚ω゚)つ◇
その下のスイッチを、押した。
すると、道を塞いでいた鉄柵が持ち上がり、別に脱出路があることを教えてくれた。
=/ 。゚ 3つ†+
(゚ω゚;)そ
…それに気付いたアラマキが、若干、足早に僕を追いかけにきた。
まずい、油断していれば追いつかれる!
=(;゚ω゚)
忘れずにプレートを回収して、僕は開かれた道へ進んだ。
もし、もし脱出路に繋がっていれば、このまま…!
-
…少し進んだ先、そこにもレリーフとスイッチがあった。
=(;゚ω゚)つ◇
急いでレリーフを嵌めこみ、僕はスイッチを押した。
…しかし、何も起こらない!
(;゚ω゚)「開かないだと!」
手で掴んだ鉄柵は、ガシャガシャと不快な音を立てるだけで
一向に道を開く様子が無い。
/ 。゚ 3つ†+ Σ(゚ω゚;)つ||||
そうしている間にも、アラマキが距離を詰めてくる。
(;゚ω゚)つ「開けぇええ!!」
叫んでも掴んで揺らしても、鉄柵は開かない。
このままでは、追い詰められてナイフの…
『赤い石』の、犠牲者になってしまう!
-
/ 。゚ 3つ†+ (;゚ω゚)そ
…迫る距離に、焦った僕の、目に飛び込んだ一文。
プレートを外した窪みの中央に、小さくこう書かれていた。
「先が後になり、後が先になる」
先が後になり、後が先になる…順序のことか!
今まではプレートを嵌め込み、スイッチを押していた。
逆に今度は、スイッチを押してからプレートを嵌めこめばいいだけ…。
絶望しかけた僕に、再び活力を与えて、希望を持たせるには十二分だった。
-
「うおおおおお!!!!」==⊂二二二(;゚ω゚)二ニ⊃==
スイッチを押し、プレートを嵌めこんだ僕は、半ばぶんどるように
プレートを回収して、開いた鉄柵の向こうに駆け込んだ。
火事場の馬鹿力…というやつか、先程まで動かなかった足が、嘘のように動いた。
Σ/ 。゚ 3つ†+
これにはアラマキも焦ったのか、後ろに聞こえる足音も早くなる。
だがこの距離、この差では、もう追いつけないだろう。
僕は現在、全速力で駆け出しているのだから。
=
==⊂二二二(;゚ω゚)二⊃== |_|
梯子が、見えた。
==(;゚ω゚)つ|_|
-
――梯子の端に触れた瞬間、僕の意識は、闇の中に落ちていった…。
-
投下終わります。
今日も、お読みいただいてありがとうございます。
…次スレどないしよ。
-
やはり、主人公補正は最強の能力だな
完結させるなら次スレいるだろ
-
いや、一つの作品で、二つスレ立ってても大丈夫かなと思って
VIPと違って残るし、スレ立て上限あるみたいだから
大丈夫なら次に投下するときに立てる、ありがとう
-
1000埋める目処があるならたてるべきかと
-
次スレは別に1000行かなくてもいい
今スレが1000行くようなら立てればいい
完結すればそれでいい…
-
乙
-
ありがとうございます。
予告どおり、22:00に投下します。
次スレは980辺りで立てます。
完結させる気は満々です。大丈夫だ、問題ない。
-
・
・
・
・
・
-
#過去世界 1937年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・船尾甲板 テラス地下倉庫
-
( -ω-)
…深い眠りに、ついていたようだ。
目覚めは決して良いとは言えないが、疲れは取れた。
( ^ω-)
ぱちりと目を開けると、木目調の天井が見えた。
視線を横にやると、鳴かなくなったオウムが僕を見つめている。
すっと視線をやった手には、プレートとペンダントが。
…僕は、生還したのだ。
フゥッ…(;^ω^)=3
父の過去から帰ってきたときと、同様に安堵の溜息を吐いて
半身を起こした僕は、掌に握り締めていた、プレートとペンダントを眺めた。
-
何をイメージしたのか…魚の尾を持った、奇妙な鳥が、中心部に描かれていた。
アニジャさんの言った三つのプレート「天魚」「森炎」「水葉」のうち
絵柄からして、おそらく「天魚」…と思われる。空飛ぶ鳥を、天だとすれば。
(;^ω^)「なかなか奇抜な絵柄だお…」
鰭の代わりに、羽根をつけた魚では、駄目だったのだろうか?
まあ、飾り物でも無いので、あまり気にしても意味は無いのだが。
ごそごそと、それを袋にしまった僕は、もう一つ…
重大な意味を持つ道具を、手に取った。
( ^ω^)つυ+「…」
あの女性の悪霊の、ペンダントだった。
( ^ω^)「…こうやって見ると、綺麗な人なのになあ…」
中央に嵌め込まれた…恋人であろう一人の男性と、幸せそうに
微笑んでいる女性の写真を見ながら、僕はぽつりと呟いた。
靄を纏い、霊気を放って人を襲う彼女も、生前は美しい女性だった。
ぬいぐるみを抱えて、消えていった少女もそうだ。
知らない老人に殺された…その恨みが強いとは言え、死後になって
今度は自分が人を殺すようになってしまったとは、なんて悲しい因果なのか。
人の心すら忘れてしまった彼女に…その温もりを、思い出させなければ。
( ^ω^)「…いま、行きますお。」
向かい側にいる彼女に言うと、立ち上がって、ドアノブに手をかけた。
-
ガチャ
バタン
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・テラス地下倉庫 プール用ポンプ室
-
…ペンダントを握り締めて、ドアを開けた瞬間。
⊂(;゚ω゚)そ「ふぉぅっ!?」 (∴ )(∴ )(∴ )=≡~~~
容赦なく放たれた霊気に、驚きながらも僕は、横へ飛ぶように避けた。
…特別ゲストルームで出会った少女と同様、彼女も、本気だ。
凍りつくような笑みを浮かべて、霊気…しかも、人型の物を
僕に向かって、立て続けに放ってくる。
⊂(^ω^⊂;)「ちょっ」(∴ )(∴ )(∴ )=≡~~~
~~~=≡( ∴)( ∴)( ∴)「おううっ」(⊃;^ω^)つ
だめだ…こちらは避けるのに、精一杯だ。
あまりの速さに、僕はポンプ室の中を飛び回る事態に陥った。
僕は、そんな攻防を、繰り広げにきたわけではないのだが…!
-
特別ゲストルームと違い、ポンプ以外に一切の物が無いから
まだ怪我を負うようなことは無いが…彼女の攻撃は速く、続けて行われ
僕に言葉を発する暇さえも、与えてはくれない。
川 ゚"々゚")⊃≡== ( ∴)( ∴)( ∴)
⊂(^ω^⊂;)「おぉうっ!」(∴ )(∴ )(∴ )=≡~~~
彼女が霊気を放てば、その霊気は人型となって僕に襲いかかる。
僕はそれを避けるために、行き止まりへ進まないよう、気をつけながら横に飛ぶ。
そこに、また彼女が霊気を放つ。人型の霊気が襲い掛かり、僕が避ける。
…このままではキリが無い!
(^ω^;)(た、多少の怪我は、我慢するしかないか…!)
ポンプの管に手を掴み、覚悟を決めた僕は、
(;^ω^)「行くおおおおっ」
放たれる霊気を避ける為に、しゃがんだ。
間一髪、避けた人型が管に当たって、消えていく。
-
それを見届けて、彼女の足元まで這って進み…
掌で握り締めていた、ペンダントを差し出した。
(*'A`) 川*゚ー゚)
中央部の、写真が、はっきりと見えるようにして。
川;゚"々゚")!!そ
それを見て、彼女は驚いたようだ。息を飲み、霊気を放つのを止めた。
…どうやら少女と違い、大人である彼女は、すぐに思い出せそうだ。
川;゚"々゚") +υ⊂(^ω^;)「ク…クー=スナオさん!」
希望を持ちながら、僕は、彼女に呼びかけた。
-
川;゚"々゚")
(;^ω^)⊃υ+「み、見えますかお? クーさんですお!」
川;゚"々゚")
…彼女は、驚いた顔でじっと、ペンダントを見ている。
彼女の周囲に纏わりつく、靄のようなものは消えた。
霊気も既に、彼女の手からは放たれていない。
(;^ω^)⊃υ+「…この笑顔を浮かべた二人は、クーさんと…
クーさんの、大切な人なんですお!」
川;゚"々゚")
川;゚々゚)
…僕の言葉を聞いているのか、彼女の顔が若干、穏やかになっていった。
もう少しだ、もう少しで彼女は、思い出せる…。
-
( ^ω^)「…思い出してくださいお、クーさん。」
( ^ω^)「クーさん…あなたは、ここにいてはだめですお。」
…彼女は、僕が生まれる何年も前に、殺された。
だから彼女の恋人が、今はどうしているかなんて、僕にはわからない。
けれども、
( ^ω^)「これを持って…これを、持って…」
( ω )「恋人を思い出してくださいお…そしたら
その思い出を大切にして…天国へ、昇るんですお。」
その思い出は胸の中に、いつまでも残ると思うから。
川 ゚々゚)
川 々 )
川 - )
-
…クー=スナオさんの顔は、次第に人のものへと変わっていった。
今にも逆立ちそうだった、黒く長い髪は、肩から背にかけ、緩く降ろされている。
少女同様に…彼女も、自分を取り戻すことができたのだ。
川 ; -;)「…私の…ペンダント…」
僕が、差し出したペンダントを、彼女は白い手で、掬うように取った。
大切そうに…本当に大切そうに、両手で包み、胸に抱えて。
-----ここまで投稿
川 ; ー;)「私と…」
川 ; ー;)「あの人…」
川 ; ー )
川 ー )
;
,
.
…穏やかに微笑みながら、音もなく消えていった。
-
===MEMO===
-
…
―モララー=ジエン ( ・∀・)
過去世界 1853年生まれ 享年60歳 男
・アラマキ=スカルチノフの主治医を務める、優秀な医師。
彼が乗船したのは、アラマキの要請があったからだと言う。
・乗船の一年前、アラマキに命じられて、ある薬を処方した。
処方箋にはあろうことか、劇薬の使用許可と、使用記録の
隠蔽を下の者に命じる記述、彼のサインが…。
・スクリーンに映し出された真実を見て、劇薬が原因でないと
わかった彼は、安堵の笑みを浮かべ、天に昇っていった。
彼の遺した鍵で開けた引き出しには、劇薬の中和剤が入っていた…。
―ビロード=ワカンナインデス ( ><)
過去世界 1894年生まれ 享年19歳 男
・シアターで映写技師を務めていた青年。
電気をつけて欲しくて呼んだ僕に、貸し切りだと言って
奥に戻ってしまった。
・人の良さそうな顔の通り、子供の相手をするのが好きなようだ。
カウンターから中に入った僕を咎めず、子守唄のレコードを
快く貸してくれた。
・子供が死んだことを悟った彼は、フィルムを差し出した僕に
礼を言うと、最後に上映の準備をして、天に昇っていった。
-
―ちんぽっぽ (*‘ω‘ *)
過去世界 1906年生まれ 享年7歳 男
・ニュー速VIP号に雇われた歌手の子供らしい。
ゲストの一人として来ていた。
貸し切り上映を約束していた子供。
・好奇心旺盛な彼は、船内を回っているときに、総帥アラマキが
長男アニジャを殺害する現場を、見てしまっていた…。
・大好きな母の歌を聞いて、再会した母と抱き合ったぽっぽちゃんは
母の温もりで安心したように、天に昇っていった。
彼が残したフィルムには、殺害の瞬間が鮮明に映し出されていた…。
―カーチャン J( 'ー`)し
過去世界 1881年生まれ 享年32歳 女
・ニュー速VIP号に雇われていた歌手で、ちんぽっぽちゃんの母親。
子供部屋で、いなくなったちんぽっぽちゃんを探していた。
・子供思いで、子守唄をよく聞かせていたようだ。
映写室には、彼女のレコードがあった。
・レコードを蓄音機にかけると、彼女は透き通るような声で歌い始めた。
聞きつけて、駆け寄ってきたちんぽっぽちゃんを抱きしめた彼女は
天まで届くように歌いながら、幸せそうに消えていった…。
-
―フィレンクト (‘_L’)
過去世界 1860年生まれ 享年53歳 男
・上等なスーツに身を包んだ、物腰穏やかな男。
どうやら、スカルチノフ家の執事のようだ。
・大食堂への道を塞いでいたが、僕が着た夜会服を見て
満足そうに頷き、僕を大食堂へ案内した。
・案内し終わった後、務めを果たしたと言うように天に昇った。
彼は最後まで、スカルチノフ家に対して何も語らなかった…。
―アニジャ=スカルチノフ ( ´_ゝ`)
過去世界 1860年生まれ 53歳 男
・スカルチノフ家の長男。実父アラマキの功績を
認めてはいたが、強引なやり方に批判的だった。
・『赤い石』とスカルチノフ家の系譜を教えてくれた。
そんな彼も『赤い石』の犠牲者だが、それにしては冷静だ…。
・アラマキの居場所を教えてくれた彼は、スカルチノフ家の
部屋に繋がるプレートを託し、探してくるように僕に頼んだ。
―ミセリ=スカルチノフ ミセ*゚ー゚)リ
過去世界 1863年生まれ 50歳 女
・アニジャ=スカルチノフの妻。アニジャさんに同じく
アラマキのやり方には、疑問を感じていたらしい。
・船を救うと言った僕を、止めてくれた彼女も
アニジャさんの言うことを信じて、僕を後押ししてくれた。
・先の階段室に、女性の悪霊がいることを教えてくれた。
「設計ミス」と彼女は言っていたが、こんな事態が起きるなんて
一流の技術士にも想定出来なかっただろう…。
-
―モナー国王 ( ´∀`)
過去世界 ??年生まれ 享年??歳 男
・15世紀の、湖上にある城の国王。長い白髭を垂らしている。
・雷雨の中、デミタス=スカルチノフに胸を貫かれ
多量の血を流して死亡した…。
・『赤い石』を持っていたようで、最期に「運命」という言葉を
意味ありげに呟いたが…?
デミタスの正体を知った彼は、何故か驚いていた。
―衛兵/オワタ&ブーム \(^o^)/ | ^o^ |
過去世界 ??年生まれ ??歳 男
・湖上にある城の兵士。長い槍を持って、鎧を着込んでいる。
僕の声を聞き咎めてきたが、上手くかわすことが出来た。
・デミタスは「外にいるのは俺の部下だ」と言っていた。
彼らもまた、デミタスの部下だったのだろうか…?
―デミタス=スカルチノフ (´・_ゝ・`)
・スカルチノフ家の祖先にして、モナー国王を殺した反逆者。
自分が持っていた剣で、モナー国王の胸を貫くと、彼の懐から
『赤い石』を奪った…。
・アニジャさんによると、彼は『赤い石』と『青い石』
二つの石を、何故か同時に所有していたらしい…。
やはりこの二つの石は、対となる存在だったのだ。
・祖先の彼の経歴や『赤い石』『青い石』の成り立ちは
スカルチノフ家の誰にもわからないという。
彼が消したのだろうか、それとも…誰かに消されたのか?
-
―デレ=スカルチノフ ζ(゚ー゚*ζ
過去世界 1900年生まれ 13歳 男
・ツン=スカルチノフの弟。
どことなく、幼い頃の、彼女の面影がある…。
・僕への助言後、彼はデッキテラスで、本を読んでいた。
足元の「深海魚の目」をくれた後、赤い月が浮かぶ夜に
プールの底へ嵌めるように言い残して、微笑んだ。
・「赤い月が浮かぶ真夜中に死んだ」と言っていたが
それ以外には自分のことを、何も語らなかった。
彼の姉、ツンは現在、どうしているのだろう…。
―ワタナベ=サン 从 'ー'从
過去世界 1892年生まれ 享年21歳 女
・スカルチノフ家のメイド。のほほんとした喋り方が特徴的。
少々おっちょこちょいだが、頼まれたことはきちんとこなす。
警戒を解くために渡したパラソルを、素直に差してくれた。可愛い。
・同僚のクー=スナオさんが、突然いなくなった理由を
彼女はどこかで知ってしまったようだ。
その理由に、ひどく怯えていた…。
・歯車の取れたオウムが鳴かないのを見て「自分が壊した」と
勘違いして、主人であるアラマキからの報復に怯えていたようだ。
オウムが鳴いたのを見て、安心した彼女は、涙を零して天に昇った。
-
―アラマキ=スカルチノフ /,' 3
過去世界 1831年生まれ 79歳 男
・父の過去で会った『赤い石』の所有者。
黒いハットに黒いスーツ…全身黒ずくめにした10年後の彼は
前にも増して『赤い石』の力を求めていた。
・『赤い石』のナイフで幼い少女を殺害し、若いメイドの命をも
冷酷に刈り取ったこの老人は既に、魔に魅せられているようだ。
地下で見かけた見知らぬ僕をも、狙ってきた…。
・スカルチノフ家の部屋の、最深部にいるらしい。
彼は今もなお『赤い石』を手に、人々の命を奪おうと
来訪者を待ち続けているのだろうか?
―オサム=カンオケ 【+ 】ゞ゚)
過去世界 ??年生まれ ??歳 男
・共同墓地の墓守。老人のようだが、年齢は不明。
見張りの時間が来るまで、小屋で待機していた。
・情報を得ようと思った僕に、怪しい笑みを浮かべて
「何も起こらないうちに帰ったほうがいい」と言ってきた…。
・アラマキ=スカルチノフと、手を組んでいたようだ。
地下で出入り口を塞ぎ、僕を挟み撃ちにしようと待ち構えていた。
―クー=スナオ 川 ゚ -゚)
過去世界 ??年生まれ ??歳 女
・ゲストルームDの、つーさんの部屋から出てきた悪霊。
バスルームを塞いで出られなくしたが、シアターで待ち構えていた。
・スカルチノフ家のメイドで、ワタナベさんの同僚だったようだ。
彼女もまた『赤い石』の犠牲となり、共同墓地の地下で
誰にも看取られない、孤独な最期を迎えていた…。
・恋人だろうか、男性と撮った写真を、ペンダントの中央部に嵌めていた。
血を流して倒れていた彼女の傍らに、そのペンダントが転がっていた。
差し出したペンダントを、大事そうに抱えて、安らいだように消えていった…。
…
-
・
・
・
-
( -ω-)「…」
( ^ω^)
…今の僕に、悲しんでいる暇は無い。
彼女の冥福を祈った後、僕は、部屋の奥にあるスイッチを押した。
パチンという音と共に、部屋の明かりが灯る。
明かりがあるという、当たり前のことが、とてもありがたく思えた。
現実の、自分の家にある電気が、点かなくなってしまったら…
こんな体験をしている今では、考えるだけで、身震いしてしまう。
( ^ω^)「あれだおね…?」
見通した部屋の奥には、巨大なポンプが据え置かれていた。
壁には貼り紙と、先程、僕が掴んだ管の上に、小さなバルブが。
そこから巨大なポンプの高くに、大きなバルブ。
屈んで真下にスイッチ、隣に押し上げるレバー…。
(;^ω^)「おー、操作が大変そうだお…」
ある程度、順序良く並べられていればいいのだが、間隔が広い。
これを見ただけでは、操作の手順が分かりづらい。
壁の貼り紙は、恐らくそのための物だろう。
この四つの装置の、操作方法が書かれているはずだ。
僕は、壁に貼られた紙に注目した。
-
( ^ω^)
( ^ω"⊂)ゴシゴシッ
( ゚ω゚)
ゴシゴシッ( ⊃"ω゚)
( ゚ω"⊂)ゴシゴシッ
(;゚ω゚)「…なん…だと…」
これは…なんだ、自分の、見間違いではないのか?
疲れて、目が霞んでいるだけではないのか?
次に、頭を抱えてもう一度、
_,
( ゚ω゚)
壁の貼り紙を、見直した。
-
M;AN,.UAL.,;;,
1,T|U;;R;N SM;A,;.LL,; ;;,;AL;V:E
2,|,,||U,,R|,,|N|| M;;;;;;;;;|;;|V;,.;A;;;L;;,,.;,;.;;;|;||
;;,:.,,.;;,:,,.|;;||||;;,:.,,.;;,:,,
;;,:.,,.;;,:,,.|;,.;,,|;;,:.,,.;;,:,,
-
_,
(#゚ω゚)「誰がこんなんでわかるか!!!」
何故かは知らないが、貼り紙そのものに濡れた形跡があり
紙は皺くちゃで、文字はだいぶ滲んでしまっていた。
赤インクの題はどうにか、原型を留めているものの…
肝心の内容が滲みきって、わからなくなってしまっているのだ。
…これでは、マニュアルの意味が無いではないか!
_,
(;゚ω゚)「えぇっと…小バルブを、回して…?
…二番目は…?」
-
・
・
・
-
…何分、貼り紙と睨めっこをしていただろう。
痛む目を片手の指で押さえて、空いているもう片方の掌で、僕は頭を抱えた。
見難いものの、操作方法の二段階目までは理解出来た。
まず、管についている小さいバルブを回す。
次に、メインバルブ…恐らく大きなバルブだろう…を、回す。
それだけ。後は、真下のスイッチと隣のレバーの、どっちを先にするか。
(; ω )「どれを先にすればいいのかわからないし…」
(; ωヾ)「…うう…」
(;ノω`)「目がしばしばするおー…」
あんな操作方法なら、いっそ無かった方が…いや…まあ…
知識の無い僕には、あるだけありがたいものなのだが…
ともかく、理解出来たのなら実行に移すだけだ。
痛む目をこすって、僕は左から順に、
( ^ω^) つ つ" キュッキュッ
( ^ω^) つ つ" キコッキコッ
回していき…真下のスイッチと、その隣のレバーの間で、止まった。
普通は…普通は、スイッチを押した後にレバーを押し上げる手順を踏む。
しかし今回は、財閥の所有する豪華客船の内部。
仕掛けも実に巧妙なものばかりだ、一筋縄ではいかないだろう…。
(;^ω^)「…」
さあ、どうしよう?
-
( ^ω^)「ちょっとひねって…レバーにしてみるかお。」
僕は、レバーを押し上げた。
ガコンッ
…カコンッ
( ^ω^)「えっ…」
レバーが、上げる前の位置に戻っている。
僕はもう一度、レバーを上げた。
ガコンッ
…カコンッ
( ^ω^)
( ゚ω゚)「抵抗も無くひとりでに戻った…だと…」
…どうやら僕の、捻った考え方は通用せず、順番を間違えてしまったようだ。
-
幸いにして、壊れることも、水が漏れてくることも無かったが、この仕掛け…
もといバルブの操作方法は、一度間違えると、最初から
やり直しになってしまうようだ。
その証拠に、僕がいくら手順を変えても、全く反応しない。
(;´ω`)「せめて、手順を間違える一歩手前からでも…」
そんな愚痴を零しながら、僕は最初の小バルブへと向かった。
これもまた、位置が元に戻っているようだ。
本当に1からの開始となるのだろう。
…僕は、何度目かもわからぬ溜息を吐いた。
どういう仕組みなのか、一度でいいから、中を見せてもらいたい。
やり方さえわかれば、一歩手前で止まるようにしたいから。
(;^ω^)「回してー」キュッキュッ
(;^ω^)「回してー…」キコッキコッ
小バルブ→メインバルブの順で、もう一度回していき、
(;^ω^)
もう一度、スイッチとレバーの間に止まった。
今度こそ間違えないようにしなければ。
-
手前のスイッチを押すと、ポンプの一部が作動し、ランプが点灯した。
…がたがたという起動音がしてきたから、もう大丈夫だろう。
ほっとした僕は、レバーをゆっくりと押し上げた。
ガコンッという音と共に、レバーが押し上がる。
完全に起動したのか、ポンプ全体が震え始めた。
水を吸い上げる音が聞こえる。プールのものだろう。
フゥゥ…(;^ω^)=3
動いてくれて、本当に良かった。
頷いた僕は、作動音を背に、部屋を後にした。
-
ガチャ
バタン
-
トントントントン…
(;^ω^)「…お?」
ポンプ室のドアを閉めて、プールへ急ごうと思った僕の耳に
何かを叩くような音が、上から聞こえてきた。
…しかし、人の手で叩くような音ではない。
それにしては小さすぎるし、拍子が規則正しい。
では、なんだろうか?
また、新たな悪霊が、道を塞いでいるのだろうか?
僕は梯子に手をかけ、足を乗せたままの格好で
目を閉じて、耳を澄ませた。
-
トントントントントン……
ポツン
ポツン
ポツン
ポツン……
( ^ω^)「雨…?」
そう、小雨程度の音だ。
叩くような音は、ここが床下という設計上のもので
降って落ちてきた雨の雫が、響いているだけだった。
( ^ω^)「…って、」
(;^ω^)そ「雨っ!?」
僕は今更ながら、この世界の問題に、もう一つ
答えがあることに気が付いた。
事件後であっても、時間が流れているだけではなく
天候すらも変わる…僕の生きる、現代の世界と、全く同じなのだ…。
(;^ω^)「…困ったお。」
呟いた僕は、デレ少年の微笑を思い出して、頭を掻いた。
濡れるという心配よりも…赤い月が、浮かぶかどうか。
-
月は厳密に言えば、浮かんでいても、雲で遮られたりして
人間の目では見えないだけなのだと言うが、浮かんでいても
その光が遮られて見えないのでは、同じことだ。
(;^ω^)ヾ(絶対、馬鹿にされそうだお…)
頭を掻いて、僕は暫く躊躇していたが
激しく降る前に抜け出そうと、上部の蓋を外した。
-
#過去世界 1913年 ??月??日 ―ニュー速VIP号・デッキテラス
-
…蓋を外し、地上に出た僕は、急いで閉めて、デレ少年の下へ駆け込んだ。
ざあざあというよりも、しとしとと降る小雨だったが
なるべく、濡れたくはなかったのだ。
風邪をひいても、看病してくれる人はいないし、ここには薬も無いから。
(;^ω^)=3
…どうにか濡れずには済んだが、見上げた空はどんよりと
曇っていて、とても月など見える天候ではなかった。
どれくらいで止むのか…考えた僕は、暇つぶしに道具を整理し始めた。
ペンチ等、船の備品は、元の場所に戻してある。
鍵は、念のために持っておこう。
使い終えた薬品の瓶は…流しにでも、置いておけばいいだろう。
船内で手に入れた、スーツケースの中にしまってある物を
整頓していた僕は…その中で、少し皺が寄ってしまった、紙を見つけた。
( ^ω^)「…!」
アラマキ=スカルチノフの処方箋…かのモララー医師が用意したものだ。
厳格な顔の写真と、薬品名…モララー医師の手記があるそれは
彼が死んでも良心を痛めて悔やみ、怯えていたもの。
もう、僕には必要の無いものだ。
…デッキテラスの、手すりに向かった。
先程は嫌がっていたが…小雨だから、少しの間だけ。
-
しとしとと降る雨の中、
僕はそれを、破り捨てた。
胸のつかえが、取れたような清々しい気分だ。
ζ( ー *ζ「…」
デレは、何も言わずに微笑んでいる。
気になるだろうに、視線を向けただけで
何も聞かずに、彼は再び、本に目を落とした。
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