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Ammo→Re!!のようです

1 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 19:44:33 ID:cwrc78lw0
いつまでたっても規制が解除されないのでこちらで


纏めてくださっているサイト様

文丸新聞さん
ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/ammore/ammore.htm

ローテクなブーン系小説まとめサイトさん
ttp://lowtechboon.web.fc2.com/ammore/ammore.html

2 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 19:45:15 ID:cwrc78lw0





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Very rarely, the strong emotions cause unexpected results.
ごく稀に、強い感情は予期しない結果を招くことがある。

Angry, sadness, scare, delight and something else are included in the emotions which cause changing everything.
怒り、悲しみ、恐れ、喜びやそれに準じる物が全てを変える感情に含まれている。

If you think emotions are not important thing, you should change your mind ASAP.
だからもし、感情など取るに足らないものだと考えているのであれば、すぐにでもその考えを変えた方がいい。

The emotions are able to beyond your forecast easily.
感情は予測を簡単に上回ることができるのだから。

      著 カテリーナ・“C”・シャナハン【潜在的能力と感情がもたらす可能性】 P37より抜粋
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3 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 19:45:53 ID:8zj.SCjQ0
まじか

4 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 19:45:55 ID:cwrc78lw0
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‥…━━ August 3rd PM13:59 ━━…‥
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オープン・ウォーターが始まってから、一時間半以上が経過していた。
左足を庇うように歩く一人の青年は、腕時計からニクラメンの見事な街並みにその鳶色の細い目を向け、嘆息する。
乱反射をするコバルトブルーのビル群は、その建物の表面に敷き詰められた太陽光発電装置の色彩が作り出す一つの芸術だ。
ニクラメンのような海上都市には多く見られる設計で、他にも、交差点の中央に聳える風力発電装置は樹木の様に堂々としている。

その景色を見て、クルーカットの青年は薄らと笑む。
行き交う人の中、彼の浮かべた非憎げな笑みに気付いた人間は、一人もいない。
気付いたところで、誰も気にしない。
彼はあまりにも上手く周囲に溶け込んでいたし、彼の周りには仲間が大勢いた。

ここで言う仲間、とは姿格好の事を指し示す。
若く、そして若者の間で流行している服装――半袖のパーカーにジーンズ――が、彼を自然な存在に変えていた。
不意に、甲高いクラクションが鳴り響いた。
視線を三百フィート先の風力発電装置の根元に向け、そこに三台の大型トラックを見出す。

トラックは交差点の真ん中で軽度の正面衝突を起こし、それを避けようとした後続のトラックがハンドル操作を誤って歩道の街灯にぶつかったようだ。
街の交差点で起こったこの事故は、人命救助と車両移動が行われるまで、ニクラメンの交通を鈍らせるだろう。
ここに警察組織は介入していないので、動くのは海兵隊だ。
多くの人間がオープン・ウォーターの警備に向かっているだろうから、到着までしばらくかかりそうだ。

5 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 19:46:35 ID:cwrc78lw0
海兵隊が到着するまでの間、この場を諌めるのは雇われた外部の人間。
さて、この不慣れな環境下で人間がどう動くのか、楽しみではある。
運転手達は責任の押し付け合いをして、交通を完全に妨害している。
彼等はそれを気にすることなく、口論を続ける。

青年は現場に近づき、その口論の内容に耳を傾ける。

「お前がよそ見してるからこうなったんだ、その平ってぇ顔なら前がよく見えるだろうが!!」

「んだと手前、ぶっ殺されてぇか!!」

古汚れたスポーツキャップを目深に被った男が、唾を飛ばしながら罵声を上げる。
しかし奇妙なやり取りだ。
言い争いはするが、互いに手出しをしない動きと立ち回りをしているのだ。
それに、口調もどこか芝居がかっている。

トラックを傷つけられたのなら、もっと感情的になるのが普通。
けれども、三人の動きはその怒りの様子を周囲にアピールするかのようだ。
形だけの怒り。
見せ掛けだけの憤りだと、注意深く観察すればすぐに気付く。

なるほど、指示なくして動けない三下の彼らにぴったりの役回り、演出だ。
青年はくつくつと笑いながら、更に三人に近づく。
さて、この三問芝居にどのように介入すべきか。
どのように介入すれば面白く、そして劇的に己の存在を示せるか。

彼らに用意された台本通りに進むだけでは、あまりにもつまらない。
ここから先はアドリブで参加させてもらうとしよう。
面倒くさいが、まぁ、いいだろう。
これもまた一興。

6 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 19:48:03 ID:cwrc78lw0
下で祭りがあるのに、ここで祭りがないのは少々寂しい。
もうすぐ、この海上街でも祭りが始まる。
それに乗り遅れないように、精々、気の利いた台詞と気の利いた立ち回りを考えておこう。
青年は、事故を離れた場所から見ている野次馬の群れに紛れ、腕を組んで静観することを選んだ。

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‥…━━ August 3rd PM14:00 ━━…‥
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爆音と振動が同時に訪れ、悲鳴は遅れてやってきた。
青年は騒然とする周囲とは対照的に、驚くほど冷静に、そして、恐ろしいほどに暖かな笑みを浮かべていた。
満面の笑みだった。
だが、高鳴る鼓動と衝動に駆られながらも、青年はまだ動かない。

橋に背を向け、まだ、風力発電装置の根元の事故現場に注目している。
彼だけではない。
注意して周囲を観察すれば、他に、十人の男が同様の動きをしていることに気が付くだろう。
そして、彼らの足がゆっくりと、山中で獣の背から近づくのと同じように、トラックに向かっていることに。

もっとも、一般人にとって今はそれどころではない。
自分の命が危険に晒されていると察するや否や、ニクラメンと地上とを繋ぐ橋と、船着き場に向かって一斉に走り出した。
この段階で可能な限り早く助かるには、確かにその二つの道しかない。
彼らの選択は間違いではないが、過ちだ。

7 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 19:48:44 ID:cwrc78lw0
高鳴る気持ちを抑え、冷静に事態を見守る。
すると海の向こうから、爆音にも似た音が近づく。
それは徐々に大きさを増し、姿を現した。

「ヘ、ヘリ?!」

ニクラメンは電動ヘリコプターを所有していない。
最寄りのクロジングも、ましてやフォレスタにもそれはない。
人々を救助に来たヘリコプターでもない。
あれがこの世界にとっての重役を迎えに来たどの都市にも属さないヘリコプターだと知るのは、青年を含む数名だけ。

ヘリコプターは彼らの頭上を越え、一ブロック先の通りに降り立つ。
一分もしない内にヘリコプターは空に浮かび、水平線にその姿を消した。
つまり、重役はしっかりとこの街から撤退したということ。
計画に狂いはなく、万事スムーズに事が運んでいるのだと青年は理解した。

予定通りだ。
時間。
タイミング。
そして、配置。

全てが予定通りに進行している。
西川・ツンディエレ・ホライゾンから受けた指令は、ニクラメンの全てを海に沈めること。
ニクラメンは、もう、この世界の地図上に必要ないのだ。
そして、それを実行するのは彼一人ではない。

『夢と希望が我らの糧。我ら、正義と平和の大樹也!!』

注意が爆音とヘリコプターに注がれていた隙にトラックのコンテナに乗り込んでいた男達が、そこに積載されていた棺桶を装着し、戦闘準備に入る。
トラックの事故はあくまでも予定。
海兵隊の到着を遅らせ、一人でも多くの人間をこの場に釘付けにするための作戦。
そして作戦に基づいた行動がこれから始まる。

〔欒゚[::|::]゚〕

ヘルメットに描かれた黄金の大樹。
そして、複合装甲の放つ重々しい輝き。
これが、力無き彼らの力の化身。
独自のカラーリングとマーキングを施したジョン・ドゥが現れ、手にした軽機関銃のコッキングレバーを引く。

8 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 19:50:02 ID:cwrc78lw0
誰もが、この突拍子もない展開に目を点にしていた。
あるいは、彼らが救いに来たのかもと淡い期待を抱いた者もいたかもしれない。
しかし、それは違う。
救いに来たのではない。

終わらせに来たのだ。

〔欒゚[::|::]゚〕『死ね、薄汚い豚どもが!!』

爆裂と言い換えても差し支えのない銃声が、人でごったがえす交差点に響き渡った。
悲鳴など、彼らには聞こえない。
彼らの耳に聞こえるのは、豚の鳴き声とその行為に向けて送られる割れんばかりの拍手だ。
いつの間にか人混みをすり抜け、牽引されてきたコンテナの中に乗り込んでいた青年は、その悲鳴を決して快く思っていなかった。

彼にとって人は人であり、人以上でも人以下でもない。
命が消える音は、悲しくなるものだ。
外に比べて少しだけ静けさを保っているコンテナには多くの武器と、一つの兵器が鎮座していた。
ジョン・ドゥとは異なる大きさと形状の、Bクラスの軍用強化外骨格。

ハズレ呼ばわりされた太古の兵器を発掘、復元、改良、そして量産した一品。
長きに渡る綿密な計画。
その一つがこれだ。
その成果がこれだ。

大元はカリメア合衆国の作った“エアベンダー”から始まり、改良と量産化に成功したBクラスの軍用第三世代強化外骨格。
先行量産型“ラスト・エアベンダー”。
その棺桶を前に、青年は昨晩の出来事を思い出す。
己の成した偉大な成果。

あの伝説の魔女を。
あの、イルトリア最強の狙撃手、“魔女”ペニサス・ノースフェイスを兄と協力し、殺したのだ。
伝説を葬り去った感動を思い出すたびに、青年の手は震えた。
震える手で棺桶を背負い、青年――オットー・スコッチグレイン――は、ライフルを手にする。

9 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 19:51:05 ID:cwrc78lw0
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手に持つのは、百連装ドラムマガジンと高倍率光学照準器を装着し、強化ロングバレルに改造したM4アサルトライフル。
機動力を補うだけの火力がなければ、装甲の薄いラスト・エアベンダーは空飛ぶ的になる。
そこで役立つのが、この徹甲弾を撃てるライフルと云う訳だ。
民間人を殺すだけなら、このライフルだけで十分。

バッテリーと燃料の事を考えて、オットーは棺桶を装着しないまま、硝煙と血の匂いが漂う世界に飛び出した。
コンテナを背にして、その場に膝立ちになる。

(´<_` )「アニー、見ててくれ……
     俺は、一人でもできるから」

魔女に撃たれて森に落ち、そのまま行方不明となった兄に呼びかける。
幼少期から、互いに支え合って生きてきたただ一人の肉親。
貧しい生活を通して深めた兄弟の絆。
日に一つのパンを分け合い、身を寄せ合って暖を確保したあの日々。

力のない中、力を求めて逃げ続けた。
助け合うことこそが、彼らが持ち合わせたただ一つの力だった。
唯一の家族である兄の悲願は、自分が叶える。
叶えて、そして、世界を変えてみせる。

決意を再燃させ、オットーは狩りを始めた。

(´<_` )「……すまない」

最初に照準器に捉えたのは、おさげ髪の子供の背中。
四歳か、それとも、五歳だろうか。
小さな女児の背中はあまりにも無防備。
あまりにも儚げだ。

(´<_` )「せめて、苦しまないように逝かせてあげるからな」

10 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 19:51:46 ID:cwrc78lw0
そう。
こうして、数キログラムの力を加えて銃爪を引くだけ終わるのだ。
背中――心臓の真上――に醜いバラを咲かせ、倒れる女児。
誰も、彼女を助けない。

所詮は他人。
今は我が身我が命が最重要なのである。
母親でさえ、五歩進んだところでようやく気づき、踵を返すほどなのだ。
溜息を隠せない。

家族のつながりが希薄な時代の証拠だ。
これを正さなければ、世界はいつまでもこのままだ。
せめてもの情けとして、オットーは母親の額を撃ち抜いて――半ば爆ぜるような銃創となった――これ以上悲しむことのないようにした。
倒れた母親の手は、娘の手に届くことはなかった。

光学照準器に浮かぶ十字線に背中を重ね、次々と銃爪を引いて道路を赤黒く染める。
銃弾を掻い潜って橋に向かう人。
いち早く船着き場に向かう人。
その誰もが、生き延びることは出来ない。

ここから先は、誰一人として、このニクラメンから生かして出すわけにはいかない。
黄金の大樹の元に名を連ねる者以外、誰一人として。
――遠くから響いた銃声が、友軍のジョン・ドゥの頭を吹き飛ばした。

〔欒゚[::|::]゚〕『っ!! 狙撃だ!!』

散開しようと振り返ったジョン・ドゥが、足を撃ち抜かれて派手に転倒する。

〔欒゚[::|::]゚〕『ケニー!!』

助け起こそうとしたジョン・ドゥは、最も面積の広い急所である心臓部を撃ち抜かれた。
あれでは即死だろう。

〔欒゚[::|::]゚〕『遮蔽ぶっ……!!』

11 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 19:52:30 ID:cwrc78lw0
仲間に指示を出すために開いた口を残し、ジョン・ドゥの頭部が吹き飛んだ。
戦場における、狙撃の常套手段。
ニクラメンの海上街には絶えず強い潮風が吹いており、その中で狙撃を成功させ得る部隊は、ニクラメン海兵隊に二つある。
一つは“真珠頭”パール・ヘッド・ジャック率いる海底街第七連隊。

そしてもう一つ、海上街第三小隊。
率いるのは、パールの同期。
“岩頭”ドレッド・ドトール。

([∴-〓-]『……』

死体が積み重なる道路の先に現れたのは、腕を組み、仁王立ちになってオットー達を見据える士官用ソルダット。
丸みのあるヘルメットと一体になった、覆面装甲型ヘッドマウントディスプレイ。
削り出しの金属のような、武骨な全身装甲。
過酷な環境下での使用を前提とし、単純で量産性に富んだ設計ながらも、耐久性、性能、ともにジョン・ドゥと比較されるほどに高い。

堂々と構えるソルダットの棺桶持ちこそが、ドレッド・ドトールに違いなかった。
オットーは思考を切り替え、自分に有利なように状況を運ぶことにする。
しばらくの間、この場が落ち着くまではトラックのコンテナ内に隠れることにした。
幸い、狙撃手は彼の動きに気付いていなかった。

〔欒゚[::|::]゚〕『……図に乗るなよ、泥人形共が!!』

ジョン・ドゥを身に纏った男達が、雄々しく吠えながら全速力で疾駆した。

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‥…━━ August 3rd PM14:07 ━━…‥
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12 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 19:53:10 ID:cwrc78lw0
――結論から言えば、彼らが全滅するのに十分も必要なかった。

([∴-〓-]『図に乗るなよ、田舎者が』

倒れ伏したクロジングの同胞の頭を踏みながら、ドレッドは淡々と告げた。
勝利に酔うことなく、虐殺に嘆くこともない。
コンテナに空いた銃創からオットーが見た彼の姿は、経験を積み重ねた海兵隊らしい、威厳に満ちた姿だ。
彼の周りには狙撃装備のジョン・ドゥが五機、標準型ジョン・ドゥが十七機いた。

生存者を探して動く姿は津波の被害を受けた街を歩くボランティアにも似ているが、これは天災ではなく人災だった。
だからこそ、地面に転がるオットーの同胞の死体に向けて発砲し、息の根を確実に止めているのだ。
大型医療車両はすでに通りに停めてあり、その周囲は重軽症者の流す血と悲鳴によって、野戦病院と大差ない光景が広がっていた。
オットーは彼ら海兵隊の手際の良さに感動を覚えるとともに、同胞として招き入れた人間の不甲斐なさに頭を痛めた。

結局のところ、力のない人間がどう足掻こうと喚こうと、何一つ変わりはしないのだ。
だからこそ、オットーは決意したのだ。
この間違った時代を。
この忌々しい理が支配し、蔓延るこの時代を終わらせるために。

意を決し、オットーはラスト・エアベンダーの起動コードを入力した。

(´<_` )『心こそが全ての戦いに勝つ鍵だ』

オットーの体が、棺桶に取り込まれる。
軍用第三世代強化外骨格の通称である棺桶を、オットーは気に入っていた。
皮肉たっぷりの名前だし、何より、最も的確な名前だからだ。
これに入っている限り、戦場で本物の棺桶は不要になるのだから。

運搬用コンテナの中で、強化外骨格が己の体に合わせて装着されていく。
初めての感触ではない。
ジョン・ドゥも、ジェーン・ドゥも試したことがある。
フィンガー・ファイブ社で戦う中で、十種類近くの棺桶を動かしてきた経験がある。

だが、このラスト・エアベンダーは別物だ。
あの“魔女”の命を奪った棺桶なのだ。
装着を終え、オットーはコンテナの外に出る。

<0[(:::)|(:::)]>

群青色の装甲は、最早、装甲としての体を成していないほど薄い。
キー・ボーイと同等か、箇所によってはそれ以下だ。
昆虫のような、そう、トンボのような巨大な目を持った棺桶だった。
エアベンダーから更に装甲を削って軽量化を図ったのは、量産化を容易にするため。

そうして出来上がったのが、この先行量産型ラスト・エアベンダーである

<0[(:::)|(:::)]>『……』

13 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 19:54:05 ID:cwrc78lw0
空中戦闘に割ける時間は、僅か十分間。
その間に敵を全滅させることなど、あまりにも簡単だ。
背負ったジェットエンジンに火を入れ、オットーの体が一瞬で空中に浮かび上がる。
エンジンの音に気付いた海兵隊達がラスト・エアベンダーに視線を向け、次に銃口を向けてきた。

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『っ!! 残党だ!!』

しかしそれでは遅かった。
すでにオットーは機体を地面と水平にして高速移動を開始し、銃弾は一発も掠めない。
ビルの壁に沿ってより上空を目指し、太陽を背にして高度を上げていく。
ある程度の硬度を確保した段階で、オットーは上昇を止め、ライフルを構えた。

如何に経験豊富な海兵隊と言っても、上空の敵を相手にしたことはないだろう。

([∴-〓-]『全員屋内に!!』

文字通りの弾雨が降り注ぐ中、ドレッドは最も適切な指示を下した。
全てが見下ろせる上空から攻撃を受けないためには、視認されない以外の方法はない。
逆に反撃の点で見ても、上空の方が圧倒的に有利だ。
物理法則に逆らって発砲された銃弾は、いずれは重力に引かれて落ちる。

弾の威力も減退し、更には狙いも付けにくいという非優位性がある。
対して、上空から発砲された弾丸は重力の力を借りて威力が増す利点がある。
オットーのライフルは遠距離からの攻撃に特化して改造されているだけでなく、ラスト・エアベンダー自体が演算機能を持っているため、正確な射撃が可能だ。
撃ち負けることはあり得なかった。

<0[(:::)|(:::)]>『逃がすか!!』

土煙と共に、海兵隊達が倒れる。
部下に指示を出していたドレッドも、その銃弾を浴びて膝を突く。
休みなど、決して与えない。
銃爪を引き続け、オットーはドレッドの頭上に集中的に銃弾を浴びせた。

([∴-〓-]『ぐ、ああががっ!!』

14 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 19:55:21 ID:cwrc78lw0
穴だらけになったソルダットから血が流れ、周りと同じように骸と化す。
残存勢力は不明だが、早々に指揮官を潰せたのは幸先がいい。
僅か二分間で、海上街第三小隊は壊滅状態となった。
これで、オットーの任務は終わったも同然だ。

海兵隊の兵力を減退させ、市民虐殺の邪魔をさせないことがオットーの役割だ。
交差点を担当していた味方が全滅してしまったが、逃げ延びた市民に関しては追う必要はない。
オットーが手を下さずとも、彼等は必ず死ぬのだ。

<0[(:::)|(:::)]>『これで、この街も終わり、か』

高層ビルの屋上に着陸し、見るともなく全体を見渡す。
人の流れはやはり、船着き場に向けて動いているようだ。
橋が落ちたのなら、ニクラメンに残された脱出路は海しかない。
だが、海に飛び込むわけにもいかない。

水面は、落下高度によってはコンクリート並の硬さになるため、ただの投身自殺にしかならない。
恐怖心を拭い去って飛び込むだけの気持ちがあるのならば、冷静に考え直した方がまだ人間らしい死に方が出来る。
安全な方法として最初に考え付くのは、船だ。
オープン・ウォーターの開催に伴い、外地から訪れた大量の船舶がニクラメンの船着き場に停泊している。

しかし、船着き場に通じる道へ辿り着く人間は、誰一人としていない。
理由の第一に、その道には西川・ツンディエレ・ホライゾンの指示によって、三十名以上の棺桶持ちが待機している。
逃げ道を一か所に絞り、そこで殲滅する算段だ。
万が一そこを突破したとしても、問題の船着き場にある全ての船には時限式の高性能爆薬が仕掛けられており、後十分後には海の藻屑と化す。

では、船着き場の危険に気付いて泳いで逃げようとした場合は?
その点に関しても、抜かりはなかった。
安全に海に飛び込める場所には大量のクレイモア地雷――無数のベアリングを発射する指向性対人地雷――が設置され、生きてそこに到達できる人間は存在しない。
逃げ道など、残しはしない。

ここでニクラメンは終わるのだ。
半年以上にも渡って周到に準備されたこの計画に、抜かりはない。

<0[(:::)|(:::)]>『……ん?』

15 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 19:56:32 ID:lF63lSWA0
しえ

16 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 19:56:44 ID:cwrc78lw0
何かの気配を感じ、オットーは背後を見た。
そこには屋上に通じる扉が一つあるだけで、他には何もない。
危険が去るまでビルの中に隠れていようと思うのなら、それは意味がない。
目標達成後、このニクラメンは海の底に沈む予定となっているのだ。

オットーは不意に、苦痛を与えずに死を与えられるのなら今しかない、と思った。
圧殺されるよりは射殺した方が、まだ、慈悲深いだろう。
自分は殺人狂ではないのだから、わざわざ苦痛を伴った死を与えなくてもいい。
せめて、優しく殺してやろう。

ライフルを腰だめに構え、オットーはその扉に近づいていく。
時折風に乗って聞こえてくる銃声と、風の音以外、何も聞こえてこない。
不自然なほどに、静かな空気が漂っていた。
おかしい。

情況的に有利なのはこちらだ。
どう考えても、自分が危険に晒されることはない。
畏れる必要も、警戒する必要もないはずだ。
そのはずなのだが、オットーはこの空気に胸騒ぎを感じてしまう。

耐えきれずに、オットーは声を発する。

<0[(:::)|(:::)]>『誰かいるのか?
        ちょうどいい、こっちに来てあいつらから逃げる道を探そう』

安心させることを目的に声をかけたオットーだが、返事はない。
気のせいならばいいのだが、扉に近づくたびにオットーは煉獄の炎に近づいているような気分になって行く。
他の同志が、例えばクックル・タンカーブーツでも来ているのか?

<0[(:::)|(:::)]>『なぁ――』

鉄の扉が吹き飛び、オットーの脇に落下した。
厚さ一インチはある扉の一か所は深く陥没し、極めて強い力が一か所に加えられたことを意味している。
扉の向こうには、ジャケットを着たスカイブルーの瞳を持つ一人の男。
浅黒い肌と顔に負った細かな傷、そして白髪交じりの黒髪は鬣のようだった。

その瞳に宿る憤怒の色に気付くことなく、オットーは一際目立つ顎の傷に視線を奪われる。
獣に食いちぎられたような痕だ。

17 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 19:57:25 ID:cwrc78lw0
<0[(:::)|(:::)]>『――同志……か?』

一応、そう尋ねはするが銃口は向けたまま。
敵にしろ味方にしろ、この男は普通ではない。
出来れば味方であってほしいと願うが、男は返答ではなく質問をしてきた。

(,,゚Д゚)「お前、夢はあるか?」

<0[(:::)|(:::)]>『……あ、あぁ』

(,,゚ー゚)「……そうか。
    それは良かった」

満足そうに頷き、そして、男は静かに宣言する。
宣戦布告と、戦いの始まりを。








(,,゚Д゚)『目には目をではない。貴様らの全てを奪い取る』

18 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 19:58:09 ID:cwrc78lw0







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Ammo→Re!!のようです
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                    ノイヘ. ー‐― ,イノリ
                    /ハ,i:ヽ,:,:,:,:,/ トハ
                   _,/ / i! :    .: / ヘヽ、
          _...... .-.:::::´::/:::::/  ヘ、    /  l:::::ヽ、、
       ハ´::::::::::::::::::::::::/:::::::l!   /i   /    !::::::::l::::::`::.- ... _
                                          第九章【rage-激情-】
             ‥…━━ August 3rd PM14:15 ━━…‥
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19 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 19:59:25 ID:cwrc78lw0
咄嗟に発射した徹甲弾では、男の動きを止めることは出来なかった。
棺桶持ちが起動コードを口にしてから戦闘行動を開始するのは、バッテリーの使用量を減らし、少しでも長く活動することを目的としている。
いわゆる、様式美に近い慣習のようなものだ。
従って、コードを口にする間の致命的な隙は、全ての棺桶に共通した弱点でもある。

だから、棺桶持ちが棺桶を使う前に殺すのは当たり前のことだ。
それが容易であれば、棺桶はその存在の重要さを欠いていただろう。
その背負う棺桶が、使用者の命を守る楯として機能しなければ、そうなっただろう。
男は巨大な棺桶――間違いなく、大型に分類されるCクラスのそれ――を楯に、強化外骨格を身に着けることを成功させた。

棺桶を用いた戦闘を知っている証拠だ。
いや、こうなることを知っているだけで、ここまで疾くは動けない。
多くの場数を踏んできたに違いなかった。

ム..<::_|.>ゝ『夢ごと叩き潰す』

一目で分かった。
これは、コンセプト・シリーズの棺桶だと。
そして比類なき強さを持つ、強力なそれだと。

<0[(:::)|(:::)]>『ふざけんな!!』

オットーはブースターに点火し、屋上から飛び降りる。
彼の細胞は、対立ではなく逃亡を命じた。
正面からの殺り合いは分が悪い。
自らの得意な領域、即ち空へ逃げ、そこから攻撃を仕掛けるしかない。

もしくは、放っておくかだ。
逃げ道が多くある空中でなら、鈍いCクラスの棺桶相手に後れは取らない。
瞬く間にビルの屋上から三十フィート上空まで飛翔し、手を考える。
これだけの高度を確保すれば、銃撃を回避するのは容易だ。

銃撃を加えるのもまた、同じ。
優位性は、今、自分にある。

ム..<::_|.>ゝ『テルミットバリック!!』

20 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 20:00:39 ID:cwrc78lw0
声に応じて左肩の六角錐が、補助装置によって左腕に接続される。
何をしようと云うのか。
ショットガンのような広域を標的にできる攻撃しようというのなら、愚かな話だ。
上空目掛けて発砲したところでその威力は軽減し、攻撃としての意味をほとんど成さない。

それに、少しでもこちらが動けばそれだけで狙いは外れる。
六角錐の頂点がオットーに向いた瞬間、レーザー照射によってロックされたことを電子警告音が告げた。

<0[(:::)|(:::)]>『はぁっ?!』

レーザー照射をしたということは、銃弾ではない。
ミサイル兵器か、それに準じる距離の測定を必要とする兵器の使用を意味する。
あれは、明らかに危険なものだ。
オットーは素早く状況を判断し、仰け反りながら正体不明の兵器から逃げるように急降下を行った。

急降下中、追撃をさせないためにライフルで牽制射撃を加えるのを忘れない。
天地が逆転した視界の中、オットーは先ほどまで自分がいた空が紅蓮の炎に包まれるのを見た。
そして。
エンジンから吹き出していた炎が弱まり、体制を立て直そうとしていたオットーは虚を突かれる。

声を出そうとするが、喉が熱く、更には鼻腔の奥に焼き鏝を突っ込まれているような感覚がする。
肌も直火で焼かれているかのような、熱さを越えた痛みがある。
否、これは錯覚ではない。
現実の熱、そして激痛だ。

<0[(:::)|(:::)]>『あ……ごひゅ……?!』

空気が燃えている。
周囲一帯の酸素が燃え尽きるほどの高温の炎が、あの棺桶から放たれたのだ。
ビルの窓ガラスは砕けることなく溶け、建物の表面を伝って滴り落ちる。
コンクリートも焼け焦げる程の業火。

21 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 20:01:28 ID:cwrc78lw0
もう十フィートでも近くにいたら、オットーは棺桶と共に蒸発していた事だろう。
その代わりに右手のライフルが暴発し、右手の指が何本か吹き飛んだ。
薄っぺらな装甲が溶け、異臭が鼻いっぱいに広がる。
ヘルメットも焼けて溶け、顔全体が焼けただれる感覚に、声も出ない。

強風が彼の体を弄び、体勢は不安定となり、立て直すことも出来ない。
翼を失った鳥が落ちるように、頭から地面に向かって墜ちる。

<0[(:::)|(:::)]>『ぐっううううおおおおおお!!』

ここで終わるわけにはいかない。
酸素を求めてオットーはヘルメットを剥がし――顔の皮膚が一緒に剥がれた――、再びエンジンに点火を試みた。
すると、エンジンは彼の意志に応えるかのように息を吹き返し、彼の体勢を整えた。
どうやらあの兵器は、爆心地から周囲百ヤードほどに効果を発揮するようで、その効果範囲を逃れればどうにか動けるらしい。

兵器の正体は、想像を絶するほど強力な焼夷弾を射出する発射機。
それによって酸素が焼き尽くされ、エンジンが機能を果たさなかったのである。
一時的に酸素を失ったことによって推力を失ったが、酸素のある領域まで落下したことによって、エンジンが再起動したのだ。
だが一度だけ落下速度を落とすことに成功したエンジンは、直後、そのまま機能を停止した。

熱によって回路が焼かれたか、それともショートしたかは定かではないが、いずれにしてももう二度とこのエンジンが動くことはない。
すぐさま、パラシュートを開く。
ラスト・エアベンダーは被弾しても緊急用パラシュートが破損しないように、ジェットエンジンパックの最深部にそれを収納している。
開花するように開いたパラシュートは、特殊繊維が焼け焦げ、所々に穴が開いていた。

しかし、落下速度を落とすことぐらいは出来た。
百フィートの高さから落ちたオットーの足は、その衝撃に耐えきった。
ラスト・エアベンダーの持つ耐衝撃機構が、彼の命と足を救ったのだ。
このままでは、彼は己の使命を全うできない。

ここは、一時撤退が吉。
肌に溶着した装甲を剥がすだけの力もなく、オットーはその場から逃げようと一歩を踏み出そうとした。
安堵したのも束の間。
不意に、足元の影が不自然にその濃さを増した。

(´<_`;)「……は?」

22 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 20:02:20 ID:cwrc78lw0
空を仰ぎ見て、オットーは絶句する。
太陽を背に、ビルの屋上から飛び降りた歪で巨大な影。
先ほどの棺桶持ちが、オットーを追ってきたのだ。
この高さ、落下すれば例えコンセプト・シリーズと云えども即死は必至。

恐怖など。
躊躇いなど。
それら一切を不純物と断じ、一つの目的を果たすためだけに動く鋼鉄の精神。
オットーを殺す、ただそれだけを考えて動く殺人機械。

男の叫び声が、オットーを心の底から怯えさせた。

ム..<::_|.>ゝ『バンカーバスター!!』

それは跳躍する悪夢の跫音。
それは飛来する悪魔の羽音。
それは落下する悪鬼の奇声。
それは煮え滾る煉獄の王の咆哮。

刹那の時間。
オットーは、己の人生を断片的に見ることとなる。
生まれてから今日この日まで過ごした、辛く、厳しく、ほんの少しの幸せが共存していた日々。
兄と過ごした日々。

兄と見た、大きな夢。
世界を変えるという、御伽噺のような素晴らしい夢。
その夢が、夢のままで終わる。
夢のまま、成就も開花もすることなく、枯れ果てる。

全てがここで終わりを告げる。
圧倒的な殺意を込めて迫るその姿が物語る。
ここで終わり。
これで終わりだと、オットーは確信した。

23 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 20:03:48 ID:cwrc78lw0
――呆然自失のオットーを横合いから突き飛ばす存在がなければ、彼の人生は確実にここで終わっていた。

〔欒゚[::|::]゚〕『危ない!!』

全滅したと思っていた友軍の生き残り。
この危機的な、絶望的な状況で動ける人間が、クロジングにいたとは。
己の誤解を、オットーは呪った。
己の浅墓さを、オットーは罵った。

真に勇気ある人間は、まだ、世界には残されているのだと何故信じなかったのか。
同志達が世界に絶望していないように、オットーもまた、人間に絶望してはいけなかったのだ。
だが。
それは、後悔でしかなかった。

威力を一点に集中した爆撃は彼の肉片一つ残さず吹き飛ばし、地面に大穴を空けた。
オットーを救った最後の友軍は、彼の目の前から消え去ってしまった。
跡形もなく消し飛んだ勇気ある男。
まだ、礼も言っていないどころか、彼の名前さえ知らなかったのに。

そんな後悔は、直ぐに消え去った。
こんな、一目で規格外の化け物だと分かる敵を前にすれば、それも当たり前だ。
目的達成のために計算された凶行は、爆風に吹き飛んだオットーに底知れぬ恐怖を与えた。
自分は、畏怖の化身に魅入られてしまったのだと、すくみ上がった。

穴に落ち行く灰燼色の巨大な棺桶とすれ違う、一瞬。
地獄の宝石じみた赤い輝きを放つ機械仕掛けの両眼が、確かにオットーを見た。
人生で初めて、オットーは生きた心地がしないという感覚を味わい、戦慄する。
機械越しに確かに伝えられた圧倒的な殺意は、言葉よりも雄弁だったのだ。

――次は、必ず、叩き潰す。

24 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 20:04:28 ID:cwrc78lw0
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‥…━━ August 3rd PM14:20 ━━…‥
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ム..<::_|.>ゝ

落下速度の減速は、彼――ギコ・カスケードレンジ――にとって命題だった。
余計な茶々さえなければ済んだ復讐が妨害され、その軌道修正に彼は貴重な時間と手間を割かなければならなかった。
一発目のバンカーバスターで落下速度は若干ではあるが落ちたが、それでも、まだ早すぎる。
続けて二発目のバンカーバスターを発射し、爆風によって速度を落とす。

まだ、足りない。
ぶ厚い床を破壊して、更にマン・オン・ファイヤは下へ下へと向かう。
三発目の攻撃は床を三枚貫くほどの効果を見せたが、速度の減退に関しては劇的な効果を見せていない。
このまま落ちていくと、待っているのは虚無的な空間だ。

この先に待っている地下駐車場に通じる空洞に墜ちてしまえば、落下速度を落とすための手段はなくなる。
その前に、何としても速度を落とさなければならなかった。
元からギコは、爆風だけで十分な減速が出来るとは考えていない。
要塞攻略用のマン・オン・ファイヤに備わっている、高所からの降下用のワイヤーを使うことを考えていた。

地下壕に空けた穴からその内部に降下し、特殊焼夷弾で生存者を焼き殺すためのものだ。
言い換えればそれはマン・オン・ファイヤの体重を支えられるだけの強度を持ったワイヤーがあるということ。
高層ビルから無策で飛び降りたのではなく、ワイヤーの長さが足りなかったから。
更に地面を破壊しているのは、床と床との間隔が狭く、安全な着地が困難だからだ。

比較的厚みのある地面に対して対地下壕兵器を使用して穴を空け、着地が可能な地点まで自由落下。
その後、然るべき場所でワイヤーを使用して強制的に静動をかけ、減速を促すつもりだった。
しかし、ワイヤーを引っ掛ける場所はまだ見つからない。
そう思った矢先の事。

25 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 20:05:15 ID:cwrc78lw0
四発目のバンカーバスターは床を貫通しきれず、大きく抉ったような跡が出来ただけだった。
このままでは、転落死は確実だった。

ム..<::_|.>ゝ『くっそ!!』

マン・オン・ファイヤの両足が確かに床を踏みつけた。
幻覚のような、刹那の衝撃。
その衝撃に耐えきれず、床は巨大な岩の塊となって崩落した。
これは予想外の僥倖だった。

思わず左手の射出装置を床だった物に突き刺し、自身に引き寄せる。
巨大な岩は、その更に下にあった床を粉砕しながら墜ちていく。
落下しているのは建物の破片だけでなく、人間も同じだった。
爆発によって幾つもの階層が脆くなっており、辛うじて生き残った床も、彼が乗る岩によって砕かれそこにしがみ付いていた人間諸共墜ちる。

規則的な衝撃の中、ギコは罪悪感を抱くことなく、ワイヤーを引っ掛けるタイミングを見計らっていた。
機会を窺っているうちに衝撃がなくなり、とうとう、空洞と成り果てた駐車場にまで到達した。
機械仕掛けの両眼が最適な場所を計算する中、ギコは衝撃的な光景を目の当たりにした。

(∪´ω`)

ム..<::_|.>ゝ『な?!』

耳付きの少年。
デレシアと共に旅をする、奇妙な魅力を持った少年。
ペニサスの最後の教え子、つまり、ギコの後輩にあたる存在。
何故、ここにいるのか。

いや、ここにいる理由は一つだ。
デレシアが来ている。
ペニサスの仇討のために。
つまり、ギコと目的は同じ。

向こうがこちらに気付く前に、ギコを乗せた岩の向きが変わり、壁のように二人を隔てた。
少年に気を取られている間に床が迫り、直ぐに意識を切り替える。
ワイヤーを上方に射出し、崩れた床の淵に引っ掛け、急静動をかける。
強制的な静動によって体が跳ね、ワイヤーが掛かった床が砕ける。

26 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 20:06:34 ID:cwrc78lw0
先に落下した岩が砕ける轟音が響き、ほどなくギコもその上に落ちることになった。
速度と高さの問題を解決したことによって、ギコは難なく着地を成功させた。

ム..<::_|.>ゝ『……ふむ』

踏み潰している死体を見て、ギコは状況を把握した。
逃げ道を全て封鎖、破壊し、一人残らず海底に沈める魂胆なのだろう。
つまり、ギコは意図せずにその策略にはまってしまったということ。
狩りをしていて崖から落ちたような物。

一言で言い表すなら、しくじった。

ム..<::_|.>ゝ『……』

マン・オン・ファイヤの搭載する大容量バッテリーなら、後五時間は動き回れる。
問題なのは、右腕の対塹壕兵器の残弾だ。
残り一発。
崩れ落ちたこの空間から脱するには最適な兵器だが、一発だけとなると、使いどころ塾講師なければならない。

対して残弾が豊富なのは、左腕のテルミットバリック。
これを使うと、他の生存者をコンクリートごと溶かして燃やし尽くしてしまう。
これではいったい誰が大量虐殺の首謀者か分からない。
出来るだけ装備を消費することなく、出来るだけ早くこの場から脱出しなければ。

ワイヤーを回収し、ギコは瓦礫を蹴散らしながら前進を始めた。

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‥…━━ August 3rd PM14:30 ━━…‥
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27 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 20:07:15 ID:cwrc78lw0
トラギコ・マウンテンライトはワタナベ・ビルケンシュトックと別れてから、早速行き詰っていた。
恐らくワタナベが行き掛けに築き上げた死体の山が、通路を隙間なく塞いでいたからだ。
高周波刀“ブリッツ”を使っても、これだけの死体を切り刻んで進んだところでこま切れ肉を作るだけで、道を作るには足りない。
この先の通路が塞がれていることや潰されていることを考えると、このまま前進するのは得策ではない。

彼の神経を逆なでることに関して、彼女は飛び切りの人材だ。
間違いなく、通路は使用できない状態にされている。
次に会った時は必ずこの報復を果たすと、固く誓った。

(#=゚д゚)「あの尼ぁ……!!」

踵を返し、トラギコは来た道を駆け戻る。
道は直線に続いており、死体は乱雑に道の端に積み上げられていた。
トラギコと別れてから殺されたと思われる、虫の息の人間も多くいた。
行き掛けの駄賃にしては、割高だ。

だが彼は、彼等を助けることはしなかった。
救うことも助けることも、トラギコには出来ない。
精々彼にできたのは、愛銃のM8000で殺してやることだけ。
狙えるのならば心臓を。

狙えないのなら、頭を狙って即死させてやった。
彼の跫音と銃声、そして薬莢が血の匂いの充満する空間に響き渡る。
弾倉を二つ使い果たして、ようやく、瀕死の人間のうめき声も息遣いも聞こえなくなった。
ねっとりとした血溜まりを踏みながら、トラギコは奥へ奥へと進む。

途中、壁の一部が不自然に変形しているのに気付いた
壁ごと配管を叩き切って、道を作ろうとした痕跡だ。
柔軟性のある思考なのか、それとも乱暴者なのかは分からないが、馬鹿ではない。
トラギコが興味を示すに値する女だ。

ますますあの女が好きになりそうで、トラギコは自然と口元を歪ませた。
あれだけの技量と度胸を持つ女が身近にいるのは、とてもありがたいことだ。
しかし。
彼が今現在最も興味を持っているのはワタナベではなく、金髪の旅人だ。

あの旅人こそが、トラギコの人生を彩る存在だと、彼は確信している。
彼女の正体と目的が分かるまでは、他の人間に興味関心の天秤を傾けるつもりはない。
所帯持ちの人間が不貞を働かないのと同じ。
その異常な執念こそが、彼の強みであり武器でもある。

それでも気になるのが、ワタナベとトラギコの勝負に割り込んできた女だ。
灰色髪の女。
棺桶同士の戦闘に半ば生身で割り込んできたその胆力は、豪胆と言える。
あれだけの状況下で汗一つ流さず、焦った様子も見せていなかったのは、トラギコ達を敵として見ていなかったからだ。

28 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 20:07:55 ID:cwrc78lw0
敵として認めるに値しない。
そう、言っていたのだ。
完全に下に見られている。
これが由々しき問題でなくて、何だと言うのか。

兎にも角にも、ニクラメンから脱出しなければ話は始まらない。
海底二千フィートの場所から地上に戻るためには、何かしらの道が残されているはずだ。
ワタナベの道を辿れば、ギコもその先に行くことが出来る。
彼女は狂人だが、自殺志願者ではない。

非常に優れた殺人狂である。
と、内心で彼女を評している時、トラギコは目的の物を見つけた。
一か所、壁が配管ごと大きく抉れ、人と棺桶が通れるだけの大きさの穴が開いていた。
その先は暗闇が続いているが、風が通っている。

ワタナベが作ったと思われる通路を通り、トラギコはその奥に向かって小走りに駆けた。
もう、あまり時間はなさそうだ。

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    . |IIIIlミ|三三|゙ ____|ミ| LL LL LL LL LL | iニi,___| FFFFFFFFF |  |EEE|日
 ̄ ̄|!|IIIIlミ|三三| |田田田田|ミ| LL LL LL LL LL |ll.|__|.|==/\==|.| ̄ ̄|「| ̄ ̄
lllllllll |!|IIIIlミ|三三| |田田田田|ミ| LL LL LL LL LL |ll.| ロ ロ 「 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| | 田 |「|  田
‥…━━ August 3rd PM14:33 ━━…‥
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29 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 20:09:11 ID:cwrc78lw0
トラギコ・マウンテンライトが海底街に向かう一方で、ギコ・カスケードレンジは彼よりも少しだけ早く海底街に到着していた。
都合よくというか運よくと言うべきかは分からないが、明らかに人為的に瓦礫が蹴散らされ、扉が破壊されていたのだ。
きっと、生き残った警備員が棺桶を使ったのだろう。
そうでなければ、厚さ三インチの壁が一撃で蹴り壊されるはずがない。

壁に残された足跡は棺桶にしては小さかったが、小型の棺桶による一撃と考えていい。
壊された壁の先に広がる海底街の全貌に、ギコは思わず見とれてしまった。
これが世界に名立たる海上都市の姿。
箱庭の街、という表現が浮かぶ。

第一区画の住宅密集地の空き地から見下ろす風景は、これで見納めになるかもしれない。
補修工事の途中だったのだろう、住宅の傍に停められたライトバンの周りには道具が散乱しているが、作業員の姿はない。
両腕の兵器を解除してから、棺桶を脱ぐ。

(,,゚Д゚)「……橋は使えねぇか」

遠目でも分かる。
海底街と海上とを繋ぐ巨大な円柱は、混雑と混乱を極めており、今からそこに向かっても手遅れになることぐらい。
急いで別の道を探す必要があった。
このままニクラメンが海の底に沈めば、当然、ギコも海の養分の一部と化す。

マン・オン・ファイヤは確かに頑丈で強力な棺桶だが、水中での活動は一切できない。
それは、他の棺桶でも同じことだ。
水中専用の棺桶でなければ、重りとなって使用者を海底に引きずり込むだけ。
専門外のことが出来ないのが、コンセプト・シリーズに限らず、棺桶全般に共通して言える事だ。

だからギコが考えたのは、海兵隊基地に向かって、潜水用棺桶を手に入れるか、潜水艇を手に入れるという手だった。
海底にあるのだから、それぐらいの装備は当然あるに違いない。
日ごろニクラメンを守ってきた彼等なら、いざと云う時の備えは必ずしている。
が、一つ問題がある。

第一区画から基地のある第三区画までは、直線の下り坂であることを考慮しても、三十分はかかる。
車両が必要だ。
駐車場に足を向け、ギコは早速物色を始めた。
Cクラスの棺桶を乗せられるだけの大きさで、かつ、乱暴な運転でも壊れにくい物がいい。

出来れば四輪駆動の車両が望ましいが、海底街で四輪駆動を使う人間はほとんどいないのが現実だ。
整備された道路では、四輪駆動である必要がない。
殆どがセダンタイプの車両で、予想通り、彼の好みに合うものはなかった。
一つを除いて。

30 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 20:09:55 ID:cwrc78lw0
駐車場ではなく、住宅の傍に駐車されたライトバン。
これなら、Cクラスの棺桶を難なく運ぶことが出来る。
速度はさておいても、今はこれが最上の車両だった。
運転席側から乗り込み、キーを探す。

サンルーフやダッシュボードを探すが、鍵はなかった。
車両を残して逃げる際には鍵を残す、という習慣を知らなかったのだろう。
仕方なく、ダッシュボードの中にあったマイナスドライバーを手に取り、ギコは作業を始めた。

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‥…━━ August 3rd PM14:35 ━━…‥
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エンジンがかかるのと同時に、第一区画の橋が爆音を伴って崩れ始めた。
いよいよ、時間がない。
クラッチの具合を確認し、ギコはアクセルを底まで踏んだ。
素早くギアを変え、住宅街から商店街に向かう。

細い道を器用に走らせ、エンストしないようギアチェンジに気を遣う。
時折窓の外に視線を向け、街の様子――崩壊までの様子――を窺う。
その矢先に、再び爆音と轟音が響き渡った。
バンも若干振動で揺れたが、走行に問題はない。

商店街にはアーケードがある。
アーケードの下を走っている間は、天井からの落下物で車両が損傷することを避けられる。
四方の障害物を回避したり察知したりするのは出来るが、上方、下方のそれを知るのは難しい。
現に、細かな粒が天井から落ち始め、バンの天井を軽く叩いている。

第一区画の橋を爆破したということは、残った二本の橋が爆破されるのも時間の問題と云う訳だ。
あれが脅しだとするのなら、それを考えた人間はかなりの馬鹿としか言えない。
脅しの一撃ではない。
本命の一撃だ。

ニクラメンを守る海兵隊達がどれだけ優秀か分かっていないのなら、それも仕方ない。
戦闘能力は決して高くないが、任務遂行に対する責任感はイルトリアに匹敵する。
今、このニクラメンを襲っている敵は徹頭徹尾本気でここを海の藻屑にする腹積もりと考えていい。
海兵隊基地が瓦礫と焦土と化す前に、道具を手に入れなければ。

商店街のアーケードを目前にした時、ライトバンの前に何かが飛び出してきた。

(;,,゚Д゚)「うおっ?!」

31 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 20:10:37 ID:cwrc78lw0
ハンドルとサイドブレーキを使い、車体をわざと回転させる。
スピンターンと呼ばれるこの技術は、走行中の急旋回に使われる物で、緊急時にはこうして障害物を回避するためにも使える。
ブレーキ跡を残してアーケードの手前で止まったバンから降り、ギコは飛来物の正体を見た。
鉄製の扉だった。

追手か、それとも偶然か。

(#=゚д゚)「あんの腐れ尼ぁあああ!!」

怒りの形相で店の奥から現れたのは、見たことのある顔だった。
クロジングでギコに尋問をしてきた刑事――確か、トラギコとかいう名前――だ。
似合わないスーツを着て、似合わないアタッシュケースを持っているのを見るに、オープン・ウォーターに参加していたようだった。
勿論、人の趣味はそれぞれだから、彼がオープン・ウォーターを嬉々とした表情で楽しんでいたとしても、ギコは軽蔑しない。

(#=゚д゚)「次に会ったらぜってぇに泣かせてやるラギ……!!」

肩で息をするほど怒り猛るトラギコは、血走った目で周囲を見回す。
手負いの獣が、縄張りに侵入した獣を探すような、執念が伝わる眼差しをしている。

(,,゚Д゚)「……何、してんだ?」

(#=゚д゚)「あぁ? って、ギコ・カスケードレンジか。
     なんで手前がここに来てるラギ?」

こちらの名前をフルネームで憶えられていた。
言動に似合わず、かなり仕事熱心な性格をしているようだ。
この時制では珍しい。

(,,゚Д゚)「そりゃこっちのセリフだ」

(=゚д゚)「教える義理がねぇ、と言いたいところだが、教えてもいいラギ」

何故か、トラギコは似合わない笑顔を浮かべて知りたくもないことを話そうとしている。
ギコは嫌な予感がした。
構っていては時間の無駄だ。

(,,゚Д゚)「いや、結構だ」

(=゚д゚)「人の好意は素直に受け取れラギ」

(,,゚Д゚)「結構だ」

(=゚д゚)「まぁいいじゃねぇか」

(,,゚Д゚)「昼間のセールスマンみたいにしつこい刑事だな、あんたは」

会話を一方的に中断し、ギコはバンに戻る。
自然な流れで、トラギコが助手席に乗り込んできた。

(,,゚Д゚)「……」

32 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 20:11:54 ID:cwrc78lw0
(=゚д゚)「言っとくが、男とドライブを楽しむ趣味はねぇラギ」

(,,゚Д゚)「俺のセリフだ」

(=゚д゚)「ほら、時間がねぇラギ」

やり取りが面倒になったギコは、仕方なく、トラギコを乗せて運転を再開した。
商店街を走り抜ける中、一応、注意しておく。

(,,゚Д゚)「シートベルトを」

(=゚д゚)「あぁ」

意外と、すんなりギコの言うことを聞いた。
まだ更年期障害ではなさそうだ。

(=゚д゚)「トラギコ・マウンテンライトだ」

(,,゚Д゚)「驚きだ。
    甲斐甲斐しく自己紹介をしあう仲だったのか?
    それに、その名前ならもう知ってる」

(=゚д゚)「お頭が蕩けてバターみたいになって、俺の名前が垂れ流しになってるんじゃねぇかと思ってな」

トラギコは懐から拳銃――ベレッタM8000――を取出し、弾倉を交換し始めた。

(=゚д゚)「知ってるとは思うが、昨晩フォレスタで騒ぎがあったラギ。
    飛行ユニットを持った棺桶が、俺の見た限りで二機。
    後はガーディナとトゥエンティーフォーが少しだが、問題なのは飛行型の方だ。
    この件について、何か知っていることはあるラギか?」

バンは商店街を抜けてすぐに左折し、まっすぐ続く坂道を下り始めた。
トップギアに切り替え、アクセルを限界まで踏みこむ。

(,,゚Д゚)「話す義理が無い」

(=゚д゚)「ここでその糞生意気な口に、新品の穴を空けてやってもいいラギよ」

わざとらしく遊底を引いて、初弾を薬室に送り込む。

(,,゚Д゚)「正気か?」

(=゚д゚)「さぁな、人差し指が正気かなんて俺は知らねぇラギ。
    返答次第では、俺がこいつを説得する、なんてプランもあるラギよ」

この刑事は本気だ。
ハッタリで物を言わない。

(,,゚Д゚)「……一機は森に落ちて、もう一機は逃げた。
    どうだ、その糞ったれの人差し指は話を理解できたか?」

33 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 20:13:05 ID:cwrc78lw0
(=゚д゚)「足りねぇラギよ。
    落ちた方は俺が取っ捕まえたし、もう一機が逃げたなんてことも知ってるラギ。
    あいつらは何者か、その情報が知りたいラギ。
    それと、この事件との関連性も喋ってもらわないと、こいつが機嫌を損ねちまう」

これ見よがしに銃に話しかけるトラギコは、隙だらけに見えて全く隙が無い。
彼の目的は、フォレスタで起こった事件の情報。
いや、それが本命ではない。
あくまでも本命である事件への足掛かりとして、知りたいだけなのだ。

本命の事件は、おそらくはオセアンで起こった一大事件だ。
流れ者による、街の支配者の殺害。
トラギコは彼と初めに会った時、その事件に関する情報を求めてきた。
となれば、今彼が一番執着しているのはオセアンでの事件と考えるのが妥当だ。

生憎だが、ギコはオセアンの事件については全く何も知らない。
興味があるかと言われれば、確かに興味があるが、彼ほどの執着心はない。

(=゚д゚)「流石、イルトリアの元軍人ラギね」

こちらが手を出さずにいることに対する言葉だろう。

(,,゚Д゚)「知らん。
    知ってるのは、昨晩暴れた連中の一味がここに来てたことぐらいだ」

(=゚д゚)「ほぉ、やっぱりか。
    で、その残党をお前が潰して回った……ってわけじゃないけラギね」

(,,゚Д゚)「……」

鋭い。
しかし、勘で言っているのならばこの自信に満ちた口調は何だ。
何故、そこまで確信的な物言いをするのだ。

(=゚д゚)「照れなくていいラギ。
    その残党の中に、逃げ出したもう一機がいたラギね?」

(,,゚Д゚)「何故、そう思う」

34 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 20:13:47 ID:cwrc78lw0
(=゚д゚)「お前が言ったラギ。
    残党がここに来る情報は俺も知っていたが、本当に来たかどうかは正直知らん。
    だが、お前は“来てたことを知っていた”。
    ってことは、連中と会ったってことだ。

    会ったのならば戦うなり何なりして、時間を失う上に、こんなところまで来るはずがねぇラギ。
    俺がこっちで会ったのは狂人の女が一人だけ。
    つまり残党は海上街にだけいたってことが想定できるラギ。
    それにもかかわらずお前がここにいるのには、何かしらの理由があるからラギ。

    考えられる中で最も可能性の高い理由は、重要度の高い目標を追ってきた。
    そして手元のカードで重要度の高い目標は、逃げ出した飛行型棺桶ってことラギ」

全ての言葉は確認のための言葉。
トラギコは、ただ、確認をするためだけに話しているのだ。

(=゚д゚)「では、そのカードを追ってここに来たのだとしたら、だ。
    今この段階で俺を乗せて、海兵隊基地を目指すのは明らかに不自然だ。
    つまり、“標的はもうこの海底街にはいないってことが分かっている”状態にあると分かるラギ。
    混乱の中でもその標的を追うってことは、お前にとって、“その標的は殺すか捕まえるか半殺しにする価値のある奴”ってことラギね。

    ここまでが、お前の状況だろ?」

恐るべき推理力と洞察力だと、ギコは感嘆した。
イルトリアにも、ここまでの人間はいなかった。
この短時間でギコの状況を把握し、知りたい情報を入手した手腕は、まさに手練のそれ。
まるで魔法か何かのようにも思ってしまうその能力は、彼の持つ武器だ。

(,,゚Д゚)「……」

(=゚д゚)「だんまりラギか。
    まぁ、それでもいいラギ。
    因果関係はあまり興味ねぇ、喋りたかったら喋ればいいラギ」

どうやら、トラギコと云う人間は悪い人間ではなさそうだ。
イルトリア人でないことは分かるが、しかし、イルトリア人らしい人間でもある。
この男といると、イルトリアの訓練時代を思い出す。
正直、嫌いではなかった。

35 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 20:15:09 ID:cwrc78lw0
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____三二ニニ=-‐へ .メ、   ./  /                     / \;;;;;;〉 {   ,:}  / /  
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‥…━━ August 3rd PM14:50 ━━…‥
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

問題が発生した。
三本目。
つまり、最後の橋が倒壊したのは、辺りに散らばる棺桶の残骸を避け、脇道から基地内に侵入した時の事だった。
すぐ横で倒れ始めた橋は、まさに、ギコ達のライトバン目掛けて傾いでいる。

(;=゚д゚)「おいおいおいおいおい!!
    あれ、こっちに来てねぇラギか?!」

(;,,゚Д゚)「やべぇやべぇやべぇ!!」

高さ、重量、質量、共に合格点だ。
橋の欠片の一つでも直撃すれば、バンは一撃でスクラップになる。
スピンターンで逃げられるが、そうしたらいよいよ手がなくなる。
橋の残骸が道を塞いでしまう。

(;=゚д゚)「もっと飛ばせラギ!!
    ホットケーキになるのはごめんラギ!!」

(;,,゚Д゚)「これで精いっぱいだ!!
    ゲージも見れないのか、この天然ソフトフォーカス野郎が!!」

早速落下してきた住民――一瞬で爆ぜて肉塊となった――を回避し、ハンドルを右に左に動かす。
巨大な影がバンを覆う。
いよいよもって、不味い状況だ。
このままでは、間に合わない可能性も出てきた。

走り抜けなければ、ここで終わる。
声がこの結果を変えるとは思わない。
それでも、ギコは叫ばずにはいられなかった。

(;,,゚Д゚)「うおおおおおおお!!」

橋の表面が手の届く範囲にまで迫り、死への道が近づく。
しかし、生き残る道も迫っていた。
高さは残り一インチ。
道は残り五ヤード。

36 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 20:16:34 ID:tvqDksgU0
おお!支援!!!

37 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 20:16:39 ID:cwrc78lw0
ここが、勝負だ。
アクセルは既に限界。
加速も出来る範囲内での限界。
後は、ここまでやってきたこと全ての帰結を見届けるだけだ。

遂に、橋と車が接触した。
屋根が軋みを上げ、フロントガラスが砕けた。
ギコとトラギコの体を潰すより先に疾く、バンはどうにか窮地を脱した。
直ぐ後方で完全に倒壊した橋から土煙と強風が巻き上がり、高速で走行していたバンはバランスを失う。

ハンドルを懸命に切るが車体は風と衝撃に耐えきれず、二人を乗せたバンは無残にも横転した。
視界が五回転したところでようやく止まり、天地が逆転した状態で二人は悪態をつく。

(,,゚Д゚)「……洗濯物の気持ちがよく分かった」

(=゚д゚)「干す方か、それとも回される方か、それが問題ラギ」

横転の衝撃によって天井――今は床――は変形してしまい、人ひとりが通れるだけの広さもない。
こうして生きているだけでもかなり幸運だ。
割れたガラス片で顔を切り、衝撃で全身に鈍痛がある以外、いたって健康である。

(=゚д゚)「で、この先はどうするつもりラギ?」

(,,゚Д゚)「潜水用棺桶か潜水艇をもらう」

(=゚д゚)「逆さ吊りだから頭に血が回ってるかと思ったら、そうじゃなくてヤキが回ったみたいラギね。
    海兵隊から物をもらうなんて、カリスマホームレスでも無理ラギ」

(,,゚Д゚)「まだ硝煙の匂いが鼻に突く。
    戦闘がついさっきまで続いていた証拠だ。
    それに見ただろ?
    海兵隊の棺桶があれだけやられて、おまけにそのやられ方が異常だ。

    ってことは、もう、海兵隊は全滅してるよ」

一瞬見ただけだが、死体のほとんどは綺麗に分断されていた。
ジョン・ドゥの装甲はそこまで柔らかくはない。
しかも、近距離戦闘で負ったものでもない。
つまり中・遠距離からの攻撃で両断されたとみられる。

それが可能な兵器を、ギコは知っている。
戦術光学兵器。
イルトリアで最近実戦配備された物で、電力だけで対象を焼き切ることが出来る太古の遺産だ。
そして、それは車両や戦艦に搭載されるものだが、例外的な存在がある。

(,,゚Д゚)「ところでトラギコ、あんた、ここに来るまでの間に戦闘は?」

(=゚д゚)「あったラギよ、クレイジーな女だったがな」

(,,゚Д゚)「女か……イルトリアの人間だったか?」

38 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 20:17:55 ID:cwrc78lw0
(=゚д゚)「いいや、ジャーゲンの方の人間ラギね。
    イルトリア訛りもないし、それっぽさもなかったラギ」

(,,゚Д゚)「そうか」

(=゚д゚)「まぁ、お前に策があるんだかないんだかはさておいて、だ。
    さっさとこんな場所から出るぞ」

どうやって、と聞く前にトラギコは答えを口にしていた。

(=゚д゚)『これが俺の天職だ』

アタッシュケースが開き、そこから黒い機械籠手と山刀のようなものを取り出す。
コンセプト・シリーズの棺桶に違いなかった。
逆さの状態で器用に装着し、トラギコは右手に持った山刀のスイッチを入れた。
金切声のような、甲高い独特の音は、それが高周波兵器であることを意味している。

(=゚д゚)「良い車だが、男二人にゃ狭すぎる。
    特に解放感が足りねぇラギ」

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             ; :.:.:.::...:.:.::.... :   ...:::......:. |.:.::..:.|
             i!    ::......:... .. ... :..:.:. .:...:.|.:.::..:.|
  ___       X          ____i_,.::i-───────┐
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  |    |;;;;|    ,i'ili'i,         | iココ iコiコ  |";:l: .: lilXil二ilXi  |
__i___ ̄'i\___ |lilXil| _____| iココ iコiコ  |";:i. .: lilXil二ilXi  |
‥…━━ August 3rd PM15:07 ━━…‥
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

不安定な体勢と云うこともあり、思いのほか時間が掛かってしまったが、どうにか車外の空気を吸うことは出来た。
狭い車内から解放された二人は、痛む体を動かして、改めて四肢の無事を確認した。
折れてもいないし、捻挫もしていない。

(=゚д゚)「……ん?」

何かの音に反応して、トラギコは跫音を立てずに兵站庫の影に駆けより、背を付けてその端から向こう側を覗き見る。
その後を追って、ギコも中腰の状態で覗く。
百ヤード先。
男女一人ずつと、その足元に蹲る黒髪の子供が一人。

男が執拗に子供に対して攻撃を加え、子供はそれに耐えている状況だ。
見ていて痛ましい光景だった。

(#=゚д゚)「みぃつけたぁ」

白いドレスの女は横顔が疑える。
浮いた顔はしていないが、笑顔ならば美人に分類される造形をしていた。
トラギコが言っているのは、恐らく、その人物のことだろう。
彼女が噂の狂人、なのだろうか。

39 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 20:18:36 ID:cwrc78lw0
狂人かどうかは不明だが、人殺しに加担したのは間違いなさそうだ。
ドレスに付着した返り血は赤黒く、すでに酸化が進んでいる。
背負った棺桶の大きさはBクラス。
棺桶の力に頼らずとも人を殺せる人間であることが、この視覚情報から推測できる。

対して、子供を容赦なく蹴っている男が背負うのは、Cクラス。
その男に関しては、完全に顔が隠れているために人相が分からない。
筋骨隆々とした姿で、その足は丸太のように太い。
あの太さなら、大人でも蹴り殺せる。

しかし分からないこともある。
子供がここにいる理由。
そして、子供をあそこまで徹底して痛めつける理由。
男だけが攻撃し、それを見ている女のつまらなそうな表情の、その理由。

蹴り上げるような一撃を食らった子供が、その衝撃で一瞬だけ顔を上げた。

(∪;ω;)

(;=゚д゚)「な?」

(;,,゚Д゚)「に?」

それは、黒髪垂れ目の耳付きの少年だった。
そして、少年は蹲っていたのではないことも分かった。
彼の胸の下には、一人の少女がいたのだ。
彼は己の身を楯にして、一人の少女を守っていたのだ。

涙で顔を汚し、口の端から血を流し、それでも、その瞳には輝きが残されていた。
意地の輝き。
決意の輝き。
命の輝き。

少年は、あれだけの暴行を受けていながら、何故、折れない。
何故、挫けない。
何故、諦めない。
何故、逃げない。

皆目見当もつかない。
しかしそれが事実。
それが現実なのだ。




(∪;ω;)「ミセリ、こんなの……こんなの……
      こんなの……ぜんぜんいたくないから!!」


.

40 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 20:19:51 ID:cwrc78lw0
声が、聞こえた。
少年の心からの声が。
少年の芯をさらけ出した声が。
少年の本質が。

その声は、ギコの心に深く突き刺さるように響いた。
加えてギコを驚かせたのは、少年が口にした少女の名前。
それは、紛れもなく――

「ちいっ!!」

下から掬い上げるような、えげつない蹴りが少年の腹部を捉えた。
小さな体が僅かに宙に浮かび、少女の服を吐き出した血で汚す。
驚くべきは、その一撃を受けても泣き声一つ上げなかったことだ。
少年の年齢を考えれば、ありえない話だ。

泣きわめいて、命乞いをして。
そして、許しを請う。
それが、あの年齢の当たり前の話だ。
それは大人でもあり得る話なのだ。

だが、少年はそれを自分の意志で耐えている。
そこまでする義理があるのだとしても、その意地の根源は何だ。

「調子に乗るな!!」

男の口から発せられたその一言。
ギコは、聞き覚えがあった。

(;,,゚Д゚)「……あの野郎」

(;=゚д゚)「駄目だ、まだ動くんじゃねぇラギ」

標的を前にしても、トラギコは状況を冷静に捉えていた。
ここで飛び出しても、彼らの命が危険に晒されるだけだ。
単純な戦力で考えて、相手は棺桶を二つ所持している。
こちらもあるにはあるが、分が悪い。

拳銃で狙い撃つという手もあるが、銃爪を引く前に気取られればそれまでだし、何より背負った棺桶がそれを邪魔している。
背後から撃っても、Cクラス、Bクラスの棺桶が楯としての機能を果たす。
撃ち損じた瞬間に攻撃を加えられれば、それまで。
今は、静観して相手の動きを見るしかない。

拳銃にサプレッサーを装着していた女が男に話しかけ、それを手渡した。
男はそれを受け取り、少年に銃口を向ける。
少年の、顔に。

(;,,゚Д゚)

(;=゚д゚)

41 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 20:20:55 ID:cwrc78lw0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
            ィ:7 イ壬ソィ=-ミ、_          ヾ:.、: : .、:}、
            /i ! ゙弋辷彡ニ=ミ、`ヽ         `ヽ:、 :i:l:、
            /ο{ 、..:::ヾ.煙乂大ヾ.ヾ:.゙.          ヾ:、. ゙:.、.
       /゚    、:::、::ー-:::7´  ヾ:.ハ:.i:}          j } .}:i:!
‥…━━ August 3rd PM15:09 ━━…‥
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

二人の目の前で撃たれた少年は、当然のように少女の上に倒れる。
その背中に向けて、続けて銃弾を撃ち込み、男はその背中に唾を吐いた。
もう、限界だった。
激情が、彼の全身を支配した。

(,,゚Д゚)「……止めてくれるなよ」

関わりと呼べるものも、手助けしてやる義理もない。
だがあの少年が見せた命の輝きは、ギコが敬意を表するに値した。
ペニサスの最後の教え子、ギコの後輩。
断じて、後輩を侮辱した男をこのまま許すわけにはいかない。

それは、トラギコも同じだったようだ。

(=゚д゚)「……俺があの女を止めるラギ、お前が殺れ」

ギコは改めて建物の影に入り、棺桶の起動コードを入力する。

(,,゚Д゚)『目には目をではない。貴様らの全てを奪い取る』

装着されたマン・オン・ファイヤ。
バッテリーの残量は十分だ。
ギコは物陰から最高速で飛び出し、最高速で男に襲い掛かる。

( ゚∋゚)

音に反応して振り返った男の顔。
やはり、ギコが思った通りだった。
棺桶を切り裂く光学兵器を駆使する棺桶を所持し、単身でニクラメン海兵隊を相手取れる技量。
考えられるのは、イルトリアの元軍人。

クックル・タンカーブーツ“元”大尉。

( ゚∋゚)『光よりは遅いが、ナイフよりは断然疾い!!』

棺桶を背にしてコードを入力。
強襲に対する棺桶持ちの常識的な対処法だ。
傍らにいた女に向けてトラギコの銃撃が浴びせられるが、女は気付いていたのか、それを難なく回避する。

从'ー'从

42 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 20:22:48 ID:cwrc78lw0
数発の援護だけで、女は驚くほどあっさりとその場から逃げ去った。
元より、ギコの狙いは女ではなくクックルだから構わなかった。
クックルが棺桶の装着を完了させたのと同時に、マン・オン・ファイヤの鋼鉄の拳がその頭部を捉え――

[,.゚゚::|::゚゚.,]『ほぅ、久しいなギコ・カスケードレンジ中尉!!』

――巨大な三本の鉤爪を持つ左腕が、その拳を防いだ。
障害物除去に特化したCクラスのコンセプト・シリーズ、“エクスペンダブルズ”。
イルトリアに保管されていたそれは、クックルが軍を去るのと同時に盗まれた強力な棺桶だ。
最大の特徴は両腕に備わった戦術光学兵器。

近・中距離で絶大な威力を発揮し、あらゆる障害物を除去する。
車両でも、兵器でも、兵士でさえも高熱の一閃で焼き切る。

ム..<::_|.>ゝ『悪いが、“元”中尉だ!!』

一度距離を開け、兵装使用コードを入力する。

ム..<::_|.>ゝ『テルミットバリック!!』

[,.゚゚::|::゚゚.,]『再会の挨拶もなしとは、非礼!!』

左腕に六角錐の射出装置が装着されるよりも疾く、エクスペンダブルズの巨大な右の拳が迫る。
予想済み。
最高速に達する前に右腕で防ぎ、右足で腹部を思い切り蹴り飛ばす。

ム..<::_|.>ゝ『バンカーバスター!!』

続いて右腕に射出装置が装着され、両腕に強力な打撃武器が備わる。
距離を開けては、エクスペンダブルズには勝てない。
近距離戦で勝敗を決する必要がある。
テルミットバリックとバンカーバスターを使用すれば、少年が守った少女――ミセリ――まで焼き殺してしまう。

それだけは、何があっても出来ない。
それを知ってか、クックルは傲慢な口調でギコの行動を嗜めた。

[,.゚゚::|::゚゚.,]『お前らしくないな、激情的で保守的な戦い方など!!
     まさか、耳付きに情を移したのか?!』

クックルは分かっていないのか、それとも気付いていないふりをしているのか。
あの少年の持つ力に。

ム..<::_|.>ゝ『情? んなもん移すかよ!!』

[,.゚゚::|::゚゚.,]『ならば何故だ!!
     耳付き風情に加担する理由は!!』

ム..<::_|.>ゝ『惚れたのさ!!
      人生初の一目惚れだ!!』

43 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 20:23:29 ID:cwrc78lw0
再び、二機が大きく深く踏み込み、激突する。

ム..<::_|.>ゝ『そいつを見たら、誰だって惚れもするさ!!』

[,.゚゚::|::゚゚.,]『笑止!!
     耳付きの行いなど、万事笑止!!
     所詮は人の真似にすぎんのだ!!』

左の射出装置で殴り掛かり、右の射出装置を突き出す。
一方、エクスペンダブルズは両腕で挟み込むようにしてそれを迎え撃った。
鉤爪で作られた巨大な拳は射出装置の表面を滑るように移動し、マン・オン・ファイヤの頬を掠め、射出装置はエクスペンダブルズの肩を掠めた。
















「――笑止?
その少年の行いが、笑止?」
















突然、若い女性の声が、ギコのすぐ後ろから聞こえてきた。
ギコとクックルは驚きに戦闘行為を止め、距離を開けた。
女性の鉄のように冷たく静かな声は決して大きくはなかったが、明らかな怒りが込められていた。

44 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 20:24:09 ID:cwrc78lw0




















          (゚、゚トソン「……貴方、叩き潰します」





















前触れなしに現れた黒鋼の化身は、ネクタイを緩めながらそう宣言した。

45 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 20:24:58 ID:cwrc78lw0





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       |  |     i ´/ イ
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      / 从 jj::ヽエ   j j/
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  /:::::::::::::::::::::::ハ.....〉<:::::::::::┐
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  {::::::::::::::::::::::::::::ヽj:::::::i:::::::::::!
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  ヽ:::::::::::::ハ:::::::::ヽ:::::::::::::::i:::}   __  Ammo for Relieve!!編 第九章【rage-激情-】
   V::::::::::::ハ::::::::::i:::0:::::::::i:::i /7::/  To be continued...!!
    V::::::::::::ハ:::::::::i:::::::ノ::レ::レ::::::/
    V:::::::::::┴:::::: ̄::i:::::::::::::::::ノ
     V::´:::::::::::::::::::::::::::ニフT´
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.

46 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 20:25:54 ID:cwrc78lw0
支援ありがとうございました。

本日の投下はこれまでとなります。
何か質問、指摘、感想などあれば幸いです。


次回こそはVIPで投下しようと思いますので、それまではお待ちください。

47 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 22:01:18 ID:IBxRs2QE0
乙!
熱いねぇ

48 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 22:08:50 ID:W4PoTns60
乙なのです。

49 名も無きAAのようです :2013/05/26(日) 22:14:25 ID:JHoKMf9gC
うおおおおお
きてる!!!!

50 名も無きAAのようです :2013/05/27(月) 01:32:47 ID:2bsworSw0
乙!
待ってた。

51 名も無きAAのようです :2013/05/27(月) 02:31:10 ID:WM51HqbYO
こっちに来たんだ、まあAASあるからいいや、拡大はできないけど

52 名も無きAAのようです :2013/05/27(月) 10:34:20 ID:1lv59T0kO
こっちで読めるとはなんて幸せ

53 名も無きAAのようです :2013/05/27(月) 16:01:24 ID:sZFCeMyM0

トソンてどこで出てきたっけ

54 名も無きAAのようです :2013/05/27(月) 18:39:26 ID:QvHZeVzA0
>>(,,゚Д゚)「……何、してんだ?」
>>
>>(#=゚д゚)「あぁ? って、ギコ・カスケードレンジか。


ギコのラストネームってブローガンじゃなかったっけ
それともこっちが本名なん?

55 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 21:02:11 ID:ndF7vt0k0
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The witch was here.
かつて魔女がいた。

The witch who thought a lot of things for her students and pupils was wise person.
万物を数多の子に教えた魔女は、聡明な人間だった。

Now she is not anywhere.
今はもういない。

The chained child was here.
かつて子供がいた。

The child who had been insulted by many people was cowardly and kind person.
多くの人間に虐げられた子供は、臆病で優しい人間だった。

Now he is……
今はもう……

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||||||||||||||||||||||iiiiiiiiiiiii"",,,...'"ろ:::::::................                  .........................::::::::::::::
!!||||!!!!||||||||||||||||||||||iii;iiii!!!'"........                             ..................
::レ∠ii||||||||||!!!!!!!!ii;;~^''"
:: /|||||||||||!!!!,,.'''"~"''~................................                      .....................:::::::::::::::
: |'''''''""~~''"                        r´`;
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: |::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::                      ,,,-'`"´ ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;  `'ー
24 years ago...
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日の出と共に始まったアクティビティは、満月が頭上に現れても一向に終わらなかった。
人の手がほとんど入っていない森の中を歩き続けて、かれこれ十二時間以上が過ぎている。
手元のコンパスを頼りに東に進み続けるも、目標物は一向に見えてこない。
見えるのは生い茂る木々と夜空だけだ。

夜行性の動物の鳴き声が時折山に響き渡り、不気味に反響する。
教官の楽しげな顔と声が唐突にフラッシュバックし、短く浅い溜息を吐く。

「いつも訓練ばかりだと飽きるだろう。
だから今日は、楽しいアクティビティをしようと思う。
缶蹴りだ。
糞虫の貴様らでも、この遊びぐらいは知っているな?」

56 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 21:02:59 ID:ndF7vt0k0
七十キロにも及ぶ装備を身に着け、ペイント弾の装填されたM14ライフルを手にして行う缶蹴り。
想像していたよりも遥かに過酷なこのアクティビティは、基地内の訓練兵全員――二百四十六名――が参加し、未だに誰も缶を蹴るどころか、視認すらしていない。
無線の使用は禁止されており、日中行っていた手旗信号による通信もこの闇夜の中では出来ない。
一時間に二回ほど銃声が聞こえるが、ゲーム終了のアナウンスはかからない。

人里離れた山奥で今なお続く缶蹴り。
少年は倒木を背にして座り込んだ。
脚は疲労を感じているが、まだ歩ける。
背負ってた背嚢を降ろして、そこから水とスプーン、缶入りの携行食料を取出し、ナイフで蓋を開ける。

灰色の携行食料――アッシュフードと呼ばれている――を、スプーンでかっ込むようにして食べ始めた。
塩味が強く、美味いとは言い難い。
それでも、バランスよく栄養素が取れる上に腹持ちのいいこれに、文句は言えなかった。
何味なのかも判断が難しい、人工的な味。

炊事班の作る料理が恋しかった。
豆と肉のトマトスープの、酸味と甘みの混合したあの味を思い出す。
原価は安いが味と栄養は満点で、訓練兵たちの水曜日の楽しみだ。
ふと、背嚢の中に潜ませていた――この訓練の噂を聞いていたので、前日に入れていた――水筒を取り出す。

保温性に優れた水筒の中身は、前日、つまり水曜日に出されたスープの残りだ。
正確に言えば、ギコ達訓練兵の中で公平な勝負――ジャンケン――の勝者が得たスープだ。
蓋を開けると、まだ温かいことを示す薄い湯気が立ち上る。
と、同時に漂うのはトマトの甘い香り。

嗚呼、この香りがたまらない。
トマトの甘酸っぱい香りは疲れた体によく効く。
一口だけ啜ると、唾液が口内に溢れだす。
程よい酸味と仄かな甘味。

思わず溜息が漏れる。
僅か一口で、一日で流した汗の分の塩分を補給したと実感できる。
二年前までは、この一口で訓練への意欲を削がれていた事だろう。
今は、いち早くこの訓練を終わらせることに意欲を注ぐ活力となった。

乾いた喉を潤すため、別の水筒を手に取る。
そちらに入っているのは、一つまみの塩を入れた水だ。
唇を湿らす程度にその中身を口にした。
時折口に含む水の量は、非常に微量だ。

いつ水が確保できるか分からない状況で、水を無駄に飲むわけにはいかない。
かと言って飲まないわけにもいかず、こうして少しずつ飲むしかない。
食べ終えて残った缶を背嚢にしまい、一息つく。
日頃行っている訓練でも大分厳しいと感じているのに、それ以上の訓練ともなると体がもたない。

かと言って、訓練を止めるわけにもいかない。
自らの意志で兵士になることを望んだのだ。
その為なら、この訓練を乗り越えなければ。
少しの間仮眠を取ろうと身を屈めた、その時だった。

57 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 21:03:55 ID:ndF7vt0k0
直ぐ近くで、散発した銃声が響き渡ったのだ。
音がよく響く山中とは言っても、ここまではっきりと聞き取れるだけの距離。
方角は不明だが、確かに、近くで聞こえてきた。
銃の種類は、彼と同じM14。

発砲の間隔から、焦っていることが分かる。
それだけ至近距離に何かを見出したのならば、こちらはそれを利用させてもらう。
赤外線暗視光学照準器をマウントレールに取り付け、四方に銃口を向ける。
小動物の熱源から、微細な熱源までを捕らえる。

距離にして約一マイル先にある谷間、そこに、断続的に生まれる強い熱源がいた。
発砲している同期の訓練兵だ。
対赤外線用の繊維で全身を固めているため、人の姿は浮かばないが、発砲炎が形となって居場所を知らせる。
どこに向けて発砲しているかを確認するために銃を動かすも、どこにその標的がいるのか分からない。

一マイル先の彼が何かを見つけたのだと信じ、行動を起こす。
背嚢の中にあった固形燃料に火を点け、その上に携行食料をありったけ乗せる。
これで、一瞬だけだが時間を稼げる。
ライフルだけを手にして、西から標的に接近を試みる。

同期には悪いが、囮になってもらうしかない。
缶がどこにあるのかが分かれば、後は時間との勝負だ。
あの同期が動かないということは、あの付近に缶はない。
この長い缶蹴りの終わりは、後少しだ。

傾斜に生えた木々の隙間から聞こえていた同期の銃声が途絶え、彼が脱落したことを物語る。
谷を滑るように下り、浅い川を越え、崖を上る。
峰に向けて、ゆっくりと匍匐前進を開始。
悟られ、位置を変えられない内に勝負を決める。

常に照準器を覗き込んで熱源を探るも、一向に見当たらない。
事態の解決が単独では困難だと判断し、大木を背にしてコンパスを確認しながら、ライフルを空に向ける。
そして、不規則に銃爪を引く。
これで鬼がこちらの存在に気付くのと同時に、仲間がこちらの存在の意図に気付くはずだ。

この意図に気付けなければ、この場に援軍として来られても困る。
十分ほどその場に静止していると、人の気配が風下から迫ってきた。
気付いた仲間がいたようだ。
空に向けて放った銃弾がモールス信号の役割を果たし、座標と標的の発見を告げたのである。

無言のまま、すぐ傍を五人の人影が通り過ぎ、そして一分後には全員が転がり落ちてきた。
暗闇でも見やすいようにと作られた蛍光塗料のインクが、彼らの急所に付着していた。
ペイント弾の付着は、訓練の脱落を意味する。
言葉を発することも合図を送ることも許されず、その場に倒れて待機し、死体を演じることを強いられる。

58 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 21:05:24 ID:ndF7vt0k0
ここを少し進んだ先が、鬼の射程圏内と云う訳だ。
ならばどうすれば進めるのか。
対赤外線装備で身を固めた同期が一瞬で仕留められるとなると、相手は只者ではない。
教官が付け加えるように言った一言を思い出す。

「今回は、未熟な貴様らにはもったいないが、我々の大先輩が協力して下さることとなった。
まぁ、精々足掻いて見せろ」

足掻くどころではない。
たかが缶蹴りで、同期二百四十六名が翻弄されている。
脱落者の人数は不明だが、この状況を見るに、壊滅状態だろう。
しかも、鬼はたった一人。

確かに訓練兵の集まりだが、これまでに積み重ねてきた訓練の過酷さは彼らの自信に直結している。
今、その自信が揺らぎ始めていた。
どうすれば勝てる。
どうすれば、正体不明、武装不明の敵の目を欺き、缶を蹴り飛ばせるのか。

相手のいる方角は分かっている。
北にある峠。
そこに陣取っている。
これまでに脱落させられた友軍の全てが、そこからの攻撃で倒れていることから、それは明らかだ。

今、自分は相手に認知されていないはずだ。
この機を逃しては、他に機はない。
匍匐前進を再開し、距離を縮める。
呼吸が乱れないように、熱源が探知されないように静かに進む。

位置的な有利性は、向こうにある。
一度視認されれば、こちらに機は訪れない。
一瞬たりとも気を抜けない状況に、自然と気分は高揚していた。
この感覚、たまらなく楽しい。

銃声が轟く中、一時間以上時間を掛け、崖沿いに山頂を目指した。
ここまでで鬼の気配は微塵も感じられず、音もなかった。
ゆっくりと這い進み、ついに、缶を見つけた。
周囲に誰もおらず、罠らしき物も見つからない。

缶までの距離、残り、五フィート。
近くに人の気配はしない。
他の友軍を探しに移動したのだろうか?
でなければ、ここまで接近することがあり得るはずがない。

念のため、ライフルを肩付けに構えて周囲をスコープで覗きこむ。
小動物の熱源だけだ。
慎重に、周囲を警戒しながら缶まで距離を詰める。
後三歩で足が届く。

勝った、そう確信した瞬間の事だった。

59 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 21:07:09 ID:ndF7vt0k0
「残念ね、貴方で最後なの」

年老いた女性の声と減音器が生むくぐもった銃声。
そして、背中に衝撃。
ペイント弾が当てられたことを理解し、同時に、相手の言葉を理解して後悔した。
自分は泳がされていたのだ。

誘蛾灯のように味方をおびき出させ、最後の一人になるまで生かされていたのだ。
訓練兵の中には、自分よりも年上の人間が百七十人もいた。
恐らく彼らが優先的に抹殺されたのだろう。
指揮系統を構築される前に、その可能性がある人間が最初に屠り、最後は指揮権に服しない単独行動の人間を狩る。

終わってから分かる、相手の策略。
それは、自分達の考えが全て見透かされていたことを意味していた。
正直、これまでの訓練で初めての経験だった。
相手の行動に敬意を払い、そして、その教えを乞いたいと願ったのは。

「……くそっ!!」

「でも、貴方なかなか筋があるわよ。
決断力と行動力が伴っているし、単独行動も手慣れていたわね。
ただ、熱源の偽装はもう少し勉強しないとね。
それと、相手の装備が分からない中で賭けに出るにはまだ若過ぎよ」

大音量で、森全体に訓練終了を告げるサイレンが鳴り響く。
それまで死体役に徹していた同期達が動きだし、口々に後悔の言葉を口にする。
起き上がって振り向くと、そこにいたのは、一人の老女だった。

('、`*川「お疲れ様、おかげで楽しませてもらえたわ」

(;゚Д゚)「……あ、貴女は?」

('、`*川「ペニサスよ。
     貴方のお名前は?」

( ゚Д゚)「わ、私の名前は――」

それが、生涯の師となる“魔女”との最初の出会いだった。

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60 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 21:08:50 ID:ndF7vt0k0
ヒート・オロラ・レッドウィングは高性能爆薬が詰まった木箱を持ち上げ、車両点検を行っていたデレシアにそう声をかけた。
車載兵器である重機関銃を無反動砲と交換していたデレシアは、レンチを屋根に置いて言った。

ζ(゚ー゚*ζ「そうよ。さっき確認した場所に仕掛けておいて」

ノパ⊿゚)「あいよ」

二人は十分前に海兵隊基地に到着し、海兵隊基地がたった一人の棺桶持ちに蹂躙される様子を目撃していた。
だが、手を貸すことはせずに、人が出払った兵站庫から必要な資材を集めることに専念していた。
時間が許すのであれば、デレシアとしてはティンバーランドについての情報を手に入れるついでに潰してやりたかったが、ここまで事態が悪化してしまった以上、手出しは無意味だった。
ブーンの居場所が分からない以上は、いつでもすぐに脱出できるための準備を整えておくことこそが、最も有意義な行為だと判断したのだ。

事態の悪化によって見えたのは、ティンバーランドの情報はもうしばらく泳がせてからの方がいいと言うことだ。
ここを襲った理由は、やはり、デレシアが予想していた通りだった。
“ニューソク”と呼ばれる機関の奪取だ。
たった一基でニクラメン全体の電力を補うそれは、本来はニューソクと云う名前ではない。

語源は“nuke(ニューク)”が謝った形で訳されたことにある。
初めて原子力発電設備が発掘された時、人々はその名前を知らなかった。
原子力と云う言葉も知らなければ、その意味も知らなかった。
頼りになったのは、朽ち果てた本の山とダットだけ。

最終的にその設備の事が書かれた書物が見つかり、そこの文面から設備の名前を推測することとなる。
“ニューソーク”という大都市の名前が同じ文面に並んでいたのだが、当時の人間はそれが都市の名前だとは知らなかった。
そこで推測されたのが、ニューソークとニュークが同じ意味で、ニュークとはニューソークの短縮した形だというものだ。
結果、間を取って付けられたのがニューソクという名前だった。

つまり、ニューソクとは原子力発電設備のことなのだ。
その本質を理解している現代人はほとんどいないが、取り扱いの危険性について理解はしている。
復元の際に都市が四つほど滅びたのは、歴史の授業で子供たちも学んでいる事実である。
失敗の果てに得た神にも等しいエネルギーは、その街に発展を約束し、偽りの安寧を与えた。

ここ、ニクラメンはそう云った都市と大きく異なるのは、ニューソクの重要性だ。
他の街々にとっては便利な発電装置だが、ここでは、街の命である。
ニューソクがあったからこそニクラメンがあるのであり、これが復元されなければニクラメンは生まれなかった。
幸か不幸か、街を作った人間は、ニクラメンの本質に気付いていなかった。

巨大な構造物は明らかに人工の物で、だが、その巨大さ故に目的は理解し難かった。
だからこそ、街の真の姿を探求することを早々に放棄し、増改築による発展を図ったのだ。
その結果が、海上都市と海底都市の二分化だ。
これによって得た自然災害への抵抗力は凄まじい物で、だからこそ、ニクラメンはここまで発展することが出来たのである。

被服の町であるクロジングが近くにあったこともあり、町からはクロジングの戒律に嫌気がさした腕利きの職人の卵が毎年多くニクラメンに流入した。
クロジングからやってきた未来ある若者たちを、当時のニクラメンの市長は快く迎え入れた。
若者たちの才能と努力の甲斐あって、ニクラメンは海上都市として名を馳せ、大規模なファッションショーを開催するに至った。
いつしかそれが、ニクラメンによるクロジングの影の支配であると噂され、小さな嘘は真実へと昇華したのである。

61 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 21:10:38 ID:ndF7vt0k0
この目標が達成されることによって、ニクラメンは更なる発展を遂げるはずだった。
今日までは。
今日、この日までは。
“黄金の大樹”、ティンバーランドがニューソクに目をつけるまでは。

マリアナ・トンネルに通じる兵舎の影で作業を行っている二人は、作業中に幾つかの打ち合わせを済ませてあった。
一つは、この先の脱出について。
トンネルに通じる厚さ五インチの鋼鉄製の扉は音声認識システムで封鎖されており、爆薬で吹き飛ばす以外に方法はなかった。
突入後は、デレシアが運転、ヒートが十座に付いて障害物を除去するという分担で合意し、各種点検と整備を行った。

二つ目は、ブーンとの合流だ。
デレシアが安全な場所に投げ飛ばした後、再び崩落が起きたことを確認している。
それ以前に、デレシア達と別れた時からブーンの生死に関しては完全に彼自身に一任されている。
オセアンで選んだ生きるという選択に、どれだけの覚悟があったのかは分からないが、心配はしていない。

彼は自分のことを自分で選択できるだけの経験を積み重ね、それだけの素質を持っている。
どこかで死ねばそれまでの人間だし、生きていればまだまだ伸びしろのある人間だということがよく分かる。
デレシアの意見では、ブーンは間違いなく後者だ。
出来れば彼の果てを見届けたいと云うのが、デレシアとヒートの意見が合致した点だった。

兎に角、全てはブーン次第だという結論に至り、時間ギリギリまでは彼を待つということで合意した。
爆薬を持って兵舎に入ったヒートを見送り、デレシアは銃声が聞こえていた方角に視線を向ける。
侵入者の数は一人。
海兵隊の人数の方が明らかに勝っている状況で、棺桶を使用した彼らを全滅させたと云うのは、かなり気になる展開だ。

ティンバーランドがこれまでとは違い、計画的で用意周到な、深く太い根を張り巡らせていることが窺える。
使用された棺桶は多数のジョン・ドゥとジェーン・ドゥを壊滅させるだけの能力を持つ、コンセプト・シリーズ。
記憶が正しければ、障害物除去に特化した“エクスペンダブルズ”。
確か、イルトリアに保管されていたはずの棺桶だが、どうしてそれがティンバーランドの人間の手にあるのだろう。

イルトリアの警備を突破して奪取されたとは考えにくく、内部の人間が協力して手に入れたと考えられる。
いや、内部の人間その物だろう。
まさかイルトリアからそのような愚か者が出るとは意外だったが、それ以外の可能性が浮かばない。
此度のティンバーランドがどのような喜劇を演じるのか、非常に興味深い。

大がかりの劇でなければ、潰し甲斐がない。
これまでティンバーランドが仕掛けてきた劇は、途中で台無しにしてやったために、それが成る瞬間を見ていない。
まぁ、事が成る前に潰してきたのだから、それも当然だ。
今回はどの段階で潰れるか、それもまた楽しみである。

視線を手元に戻して、改めてレンチを使い、無反動砲を台座に固定させる。
この装輪装甲車のタイヤは八つあり、その安定性を生かせば、確実に障害物にこの砲弾を撃ち込める。
手負いの身であるヒートでも、これなら扱える。
ヒート・オロラ・レッドウィングは、デレシアのお気に入りの人間だった。

直情的でありながら、それを押し隠す精神の強さ。
愚直とも言える行動力を支える実力。
猪突猛進な言動が多いが、それでも、それは彼女の愛おしい部分でもある。
時折見かける、ブーンに向けられる愁いを帯びた視線が気になるところだ。

62 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 21:13:27 ID:ndF7vt0k0
退屈しない人間は好感が持てる。
静動ではなく変動している、何よりの証拠だからだ。
彼女は必ず、ブーンの将来にいい影響を与える。
慈悲や偽善の心でブーンに接していないのだから、それは確信できた。

思案する内に、車両点検、装備の点検、その他一切合財全ての点検を済ませた。
後はヒートとブーンを待つだけだ。

ノパ⊿゚)「設置、終わったぞ」

ζ(゚ー゚*ζ「ご苦労様。
      実はさっきそこでコーヒーセットを見つけたんだけれど、一緒にお茶しない?」

その誘いに対してヒートは、肯定の笑顔を浮かべた。
この素直さもまた、彼女が愛おしい存在の理由の一つなのであった。

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‥…━━ August 3rd PM15:03 ━━…‥
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車両が近づいてくる音が耳に届き、デレシアとヒートはその方向に目を向けた。
兵舎が邪魔をしていて詳細が分からないため、見える位置まで移動する。
無言で同じ行動を起こしていたのは、二人が同じことを考えていたからだ。
つまり、新たな敵かそれとも避難民――ブーンを含む――が到着したか、という可能性を考えたからである。

それぞれの得物を取出し、建物伝いに姿と跫音を消しながら音源に近づく。
距離は約百五十ヤード、風下だ。
到着した車両は、何と軽トラックだった。
荷台には大きく“八百屋”の文字が書かれ、商店街からやってきたことが分かる。

商店街から来たのなら、避難民の説が濃厚だった。
しかし、予想に反して降りてきたのは、あらゆる意味で期待を裏切る存在だった。
最初に運転席から降りてきた若い鳶色茶髪の女は、白いドレスに赤い返り血を浴びており、一般人や堅気の人間ではないことが一目で分かった。
次に荷台から降りてきたのは、ブーンだった。

从'ー'从

(∪´ω`)

ミセ*'ー`)リ

63 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 21:15:11 ID:ndF7vt0k0
( ゚∋゚)「人間の真似をするな、駄犬が!!」

――彼は、その身を楯にミセリを守っていた。
ミセリと自分との間に空間を作り、衝撃の一切を自分の体で吸収していたのだ。
横合いからの蹴りに対しても、上からの蹴りに対しても。
掬い上げるような蹴りに対しても、全て耐えていた。

涙が出るほど嬉しいことだが、今すぐこの街諸共海の藻屑にしてやりたいほどの憤りを感じた。

ノハ#゚⊿゚)「……殺す、殺す、絶対に殺す」

ζ(゚−゚*ζ「今は駄目よ。
      あの子の行動が、無意味になりかねないわ」

男の標的が今のところブーンだけで済んでいるからいいが、彼がそこまでして守っているミセリにその矛先が向いたら、彼の努力の全てが無意味になる。
それだけは、駄目だ。
彼が自ら選び、進んだ道なのだ。
例え死んだとしても、それは、果たされなければならず、果たさせてやらねばならぬ道なのである。

彼の涙と血反吐は、決して、無駄にしてはいけない。
何より、デレシアは見届けなくてはならない。
彼の選択と覚悟。
そして、その果てを。

ノハ#゚⊿゚)「じゃあよ、この怒りをどうしろってんだよ、おい」

ζ(゚−゚*ζ「溜めておきなさい」

ヒートの握り拳からは、血が滴り落ちていた。
ここで動いてはいけないことを、彼女は分かっているのだろう。
分かっているからこそ、憤っているのだ。
それはデレシアも同じだ。

(∪;ω;)「ひぎっ、あぎっ……!!」

ミセ;'−`)リ「ねぇ、ブーン、どうしたの?!」

(∪;ω;)「えぅ……」

涙を零し、息を切らせ、四肢を震わせるブーンは、もう、ぼろぼろだった。
だが、それでも。
それでも、彼の瞳は死んではいなかった。
ブーンは事態を見ることの出来ないミセリに向かって、大声で言った。

(∪;ω;)「ミセリ、こんなの……こんなの……
      こんなの……ぜんぜんいたくないから!!」

64 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 21:16:30 ID:ndF7vt0k0
――この状況で、本当に、本当によくぞ言い放った。
今すぐ抱きしめてやりたい。
頬ずりをして、彼の行動を褒めてやりたい。
傷が癒えるまでの間、好きな物を食べさせて、甘やかしてやりたい。

何が彼をここまで変えたのか、デレシアには分からない。
それでも、彼が起こした行動は年齢や性別、世代、時代や人種を越えて尊敬するに値する。
ただ、問題がある。
抱きしめるには、百五十ヤードの距離はあまりにも、あまりにも現実的で遠すぎる点だった。

( ゚∋゚)「調子に乗るな!!」

大量の血を吐きながらも悲鳴を上げなかったブーンに対して、男は勢いをつけた蹴りを放とうとして――

从'−'从「……ったく、何熱くなっちゃってるのぉ?」

――それまで静観していた女性に、それを止められた。

( ゚∋゚)「何故邪魔をする」

从'−'从「邪魔するつもりはないけど、別に蹴り殺す必要はないでしょ?
     銃でいいじゃない。
     時間、ないんじゃないのぉ」

ある意味で、それは女性の慈悲だったのかもしれない。
蹴り殺されるよりも一発で殺す方が、同じ死でも大分楽だ。
取り出した拳銃にサプレッサーを装着し、女性はそれを手渡した。

( ゚∋゚)「……それもそうだな」

男も、自分の行動を振り返り、大人気なかったのだと反省したようだ。
大人気ないどころではない。
万死に値する行動だ。
ただの死では生ぬるい。

男は拳銃を受け取り、構えた。
銃口はブーンの頭部に向けられ、いよいよ、手出しが出来なくなった。

( ゚∋゚)「今、その痛みと苦しみから解放してやる」

(∪;ω;)

その声に反応して、ブーンは振り返るようにそちらを向いた。
目の前に現れた銃口に、彼は何を思ったのだろうか。

(∪ ω )

ブーンは、マズルフラッシュと同時にミセリの上に倒れた。
その背中に三発の銃弾が浴びせられ、最後に唾が吐きつけられた。

65 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 21:19:40 ID:ndF7vt0k0
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            ィ:7 イ壬ソィ=-ミ、_          ヾ:.、: : .、:}、
            /i ! ゙弋辷彡ニ=ミ、`ヽ         `ヽ:、 :i:l:、
            /ο{ 、..:::ヾ.煙乂大ヾ.ヾ:.゙.          ヾ:、. ゙:.、.
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‥…━━ August 3rd PM15:09 ━━…‥
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ノハ#゚⊿゚)「ぶっ殺す」

ζ(゚ー゚*ζ「……それはまた別の機会ね」

デレシアは、あの糞の塊以下の愚か者を許すつもりは毛頭ないが、それでも、笑顔を浮かべた。
それは憤怒の表れでもあったが、別の意味もあった。
嬉しかったのだ。
単純に、悦ばしい事態に笑顔を浮かべたのだ。

これ程嬉しいのは、久方ぶりだ。
今度の事態は、デレシアが一切介入しない中で起こった事なのだ。
つまり、起こるべくして起こり、成るべくして成った事態。
眼前で起こったのは、自然の摂理の象徴だった。

ノハ#゚⊿゚)「……んでだよ?」

まだ気づいていないヒートに対し、デレシアは落ち着かせるために穏やかな口調で説明する。

ζ(゚ー゚*ζ「いくつか理由があるけど、まずは、そうねぇ……
      ほら、あれ」

突如として出現したのは、Cクラスの棺桶。
要塞攻略用棺桶、“マン・オン・ファイヤ”だ。
あの棺桶は、ギコ・ブローガン――いや、ギコ・カスケードレンジと言った方がいいだろうか――が使用していたコンセプト・シリーズ。
彼も、この場に来ていたのだと、それで分かった。

激情的な機動で接近し、電撃的な速度で強襲を仕掛ける。
機動力こそジョン・ドゥ並だが、あの棺桶が持つ破壊力と戦闘能力はずば抜けて高い。

( ゚∋゚)『光よりは遅いが、ナイフよりは断然疾い』

慌てることなく、男は即応した。
コード入力と共に棺桶を起動させ、装着。
ほぼ同時にギコの背後にある物陰から始まった銃撃は、傍観していた女に向けられていた。
女はそれを察知していたのか、軽くステップを踏んで回避し、その場から迷わず逃走した。

賢明な判断だ。
近くにいて巻き込まれることを考えれば、身を引くのが最もいい手だ。
武骨な大型棺桶二機が激突し、肉弾戦を開始する。
重金属がぶつかる音は、鈍い鐘の音に似ている。

66 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 21:22:48 ID:ndF7vt0k0
この状況下で打撃戦を行ったギコの意図を察し、デレシアは内心で彼を称賛した。
流石は“魔女”ペニサス・ノースフェイスの教え子だ。
彼は、ブーンとミセリに被害が及ばないように、両腕の兵器を使用しない戦い方を選んだのだ。
一度距離を置いた二人が、大声で会話をする。

[,.゚゚::|::゚゚.,]『ならば何故だ!!
     耳付き風情に加担する理由は!!』

ム..<::_|.>ゝ『惚れたのさ!!
      人生初の一目惚れだ!!』

ペニサスの言った通りだ。
感情を表に出さないタイプだが、優しく、そして激情的な一面を持っている。
そして慧眼の持ち主だった。

ム..<::_|.>ゝ『そいつを見たら、誰だって惚れもするさ!!』

[,.゚゚::|::゚゚.,]『笑止!!
     耳付きの行いなど、万事笑止!!
     所詮は人の真似にすぎんのだ!!』

その言葉を聞いた瞬間、周囲一帯に電気が走るように殺気が走った。
憤怒の化身になりかけていたヒートも、一瞬で冷静さを取り戻すほどの殺気。

ノハ;゚⊿゚)「……な」

この感覚、随分と久しいが間違いない。
絶対零度の大地を髣髴とさせる独特の殺気を放つ人物を、デレシアは覚えていた。

「――笑止?
その少年の行いが、笑止?」

ギコの背後。
灰色の髪、冬の空の色をした瞳。
兵舎の影から姿を現したのは、黒鋼の女。

(゚、゚トソン「……貴方、叩き潰します」

彼女の名は、トソン・エディ・バウアー。
軍事都市イルトリアが誇る“イルトリア二将軍”の一人、“左の大槌”である。

67 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 21:22:55 ID:3xx7Z7ME0
支援

68 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 21:23:52 ID:ndF7vt0k0
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Ammo→Re!!のようです
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              ‥…━━ August 3rd PM15:11 ━━…‥
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宣言した直後、トソン・エディ・バウアーはネクタイを緩め、瞬き一つせずに疾駆した。
エクスペンダブルズに対して生身で接近戦を挑むのは、どう考えても無謀だ。
軍にいたころ、彼女の輝かしい戦歴や武勲は聞いていたが、それでも不利極まりない。
ギコ・カスケードレンジは援護を考えたが、彼女がスーツの下から取り出した得物を見て、考えを変えた。

彼女が持っているのは、二本の高周波ナイフ。
ジョン・ドゥ用に用意されているタイプのもので、ここに来る途中で鹵獲したと思われる。
彼女が普段の戦闘で使用するのはあの類の得物なので、勝算は十分にあり得た。
Cクラスの棺桶全体が持つ欠点が、長すぎるリーチにある。

そこを狙うのなら、トソンが一方的にやられるということはない。

[,.゚゚::|::゚゚.,]『なんだ、貴様は!!』

トソンはその問いに答えることなく、戦闘を開始した。
殴り掛かろうと振り上げた右腕の付け根に、ナイフを一本投擲。
刺さり具合は浅いが、腕は力なく垂れ下がった。
エクスペンダブルズの装甲強度に対してナイフがどこまで有効かを試すことなく、ただの一投で回路を絶った。

性能を熟知している人間にしか出来ない戦い方だ。

[,.゚゚::|::゚゚.,]『生身で勝てると思うか、この女!!』

動かない右腕は重りでしかない。
クックル・タンカーブーツは左腕の鉤爪を展開し、光学兵器を構えた。
その行動自体は正しい物だが、相手を理解していない時点でクックルの失敗だ。
ニクラメンの二将軍の素顔は、そう滅多なことでは見られない。

謁見の機会が得られるとしたら、戦場か、それとも殺される直前だけだ。
クックルは、これまでに一度も彼女と面識がないのだろう。
ギコは床を踏み砕く勢いで跳躍し、襲い掛かる。
トソンの行動と戦闘方法を知っているギコが彼女に合わせて動くのは、至極当然のことだった。

彼女はギコを信頼し、計算した上で行動しているのだ。
それに、この至近距離にいながら動かぬ道理はない。

ム..<::_|.>ゝ『させるか!!』

69 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 21:25:08 ID:ndF7vt0k0
エクスペンダブルズの左肘にバンカーバスターの先端を叩きつけ、光学兵器を地面に向けて発射させた。
青白い光が勢いよく迸り、地面が黒く焦げて溶解し、小さな穴が開いた。

[,.゚゚::|::゚゚.,]『ぐっ!!』

薬莢型の使用済みバッテリーが、腕の廃莢口から飛び出す。
その僅かな隙。
一瞬の内にトソンはエクスペンダブルズの傍に現れ、ナイフを開いた廃莢口に突き刺した。
火花と電流が飛び散り、左腕から黒煙が上る。

堅牢な装甲にある、僅かな弱点。
エクスペンダブルズの設計と性能を熟知しているトソンは、その弱点を容赦なく叩き、そして潰した。
彼女はその場から飛び退き、新たな高周波ナイフを右手で取出し、逆手に構える。
すかさず、ギコはエクスペンダブルズの足関節を上から踏みつけた。

バランスを崩し、エクスペンダブルズは膝を突く。

[,.゚゚::|::゚゚.,]『姑息な真似を……!!』

(゚、゚トソン「棺桶の性能を過信しすぎです」

それだけ言って、トソンは背面のバッテリーボックスをナイフの一突きで破壊し、戦闘を終了させた。
彼女はそれ以上攻撃を加えることはせず、ただ、興味なさ気に擱座したエクスペンダブルズの横を通り過ぎた。
性能に頼り切り、慢心した棺桶持ちなど殺す価値もないとばかりに。
この間、僅か三十四秒。

(゚、゚トソン「ギコ、行きますよ」

これが、イルトリア二将軍の実力。
これが、“左の大槌”の実力。
これこそが、トソン・エディ・バウアーという女性の戦い方であった。

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         l./    ヽ    l ヽ .l  .ヽ ..l     \ .l   人 .l\ヽ
     l  k_      ヽ   l  ヽ l  ヽ .l     \.l ,r'i´¨iヾゝ`ヽ
     l l/ `ー- 、  ヽ   l  ヽ.l   ヽ.l      ,rイ丿ノ ノ 丶ヽ
      l lー---t----≡=\l_  ヽl  ヽ `   ,r'"ー'イ_, イ    l
   ,i  l l `ヽ、 ヾーイ=',ノ`'ーヾ_ー--- ゝ   ー--―'"        l
   / l  li,i   `ー-==--―='"´                  
‥…━━ August 3rd PM15:11 ━━…‥
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(=゚д゚)「……待てよ、ワタナベ・ビルケンシュトック」

兵舎の間を走り抜けていた白いドレスの女の背に、トラギコは銃口を向けながらその言葉を送った。
逃走していたワタナベ・ビルケンシュトックは大人しく立ち止まり、優雅な仕草で振り返る。
その顔は、何かを期待しているかのように楽しそうだった。

从'ー'从「なぁに? 何か忘れてたのかしらぁ?」

70 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 21:27:06 ID:ndF7vt0k0
(=゚д゚)「いくつか訊きたいことがあるラギ」

撃鉄は既に起きている。
後は銃爪を引くだけで、ワタナベの頭の半分を吹き飛ばすことが出来る。
情況を理解しているのか、彼女は抵抗する様子も仕草も見せず、だが、残念そうな口調で返事をした。

从'ー'从「私について?」

(=゚д゚)「……じゃあ、まずはそっちから訊くラギ。
    なんで、あのガキを助けたんだ?」

ワタナベは、明らかに意図的に耳付きの少年を助けようとしていた。
ただ、助け方がかなり特殊で、そこに至った理由が知りたかった。
彼女は何故、あの少年を助けようとしたのだろうか。

从'ー'从「……助けた? 勘違いじゃないのぉ」

(=゚д゚)「いいや、それはねぇラギ。
    ここに来る途中、手前は散々人を殺した上に壁まで丁寧に作ってくれやがったラギ。
    だけど、あのガキどもはお前がここに連れてきただけで、殺そうとはしていなかったラギ。
    お前らしくねぇラギ」

从'ー'从「……覗き見が趣味なのかしらぁ?」

ワタナベは、今度は否定しなかった。
つまりそれは、肯定を意味している。
彼女の言葉を真実として、トラギコは話を続ける。

(=゚д゚)「加えて奇妙だったのが、殺人狂の手前が、どうしてあのガキを殺すのに手を貸さなかったのか、ってことラギ」

从'ー'从「……」

(=゚д゚)「やろうと思えば、お前も殺しに加われたはずラギ。
    それに、もっといたぶって殺す事も出来たはずラギ。
    だけどそれをせずに、拳銃を渡した」

無言。
この無言は肯定か、それとも否定か。
彼女の返答を待たず、トラギコは続けた。

(=゚д゚)「そして、どうして拳銃を渡す時にサプレッサーを付けたラギ?
    これが一番不可解だったラギ。
    周囲に発砲音を聞かれても、今更何もデメリットはないのに、どうして付けたのか」

先ほど得た、少年を殺すつもりがなかったという意志。
にも関わらず手渡した拳銃。
そしてサプレッサー。
これらのつながりが導き出すのは、一つの推論。

71 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 21:28:26 ID:ndF7vt0k0
(=゚д゚)「……ワタナベ、お前、ガキが怖がらないように、わざわざサプレッサーを付けたんじゃないラギか?
    そして、ガキがこれ以上苦しまないために拳銃を渡して、一発で死なせようとした。
    違うラギか?」

从'ー'从「だとしたら何?
     それがどうかしたのぉ?」

それは肯定の答えだった。

(=゚д゚)「理由を知りたいだけラギ」

そう。
この殺人狂が何故、あの少年にそこまでの慈悲と手間をかけたのか。
それがどうしても気にかかっていた。
道中に見た夥しい死体と、どうしてもつながらない。

ルールがあるにしても、やはり気になるのだ。

从'ー'从「私の主義と、あの子が気に入ったからよぉ」

主義、と言われたらそれまでだ。
何故なら、主義を掲げる人間は総じてその主義に明確な理由を持たず、他人に共感してもらうことをしない。
彼らの中にある彼らのルールなど、誰に分かる物か。
ましてや、相手は殺人によって快楽を得る狂人だ。

分かるはずがない。

(=゚д゚)「……シンプルラギね」

从'ー'从「その方が分かりやすくていいでしょぅ?」

一つ、気がかりなことが解消できた。
しかし、もう一つある。
こちらが本命だ。

(=゚д゚)「それじゃあ、本題ラギ。
    ……何のために、こんなバカげた騒動を起こしたラギ?」

从'ー'从「それを、教えると思う?」

(=゚д゚)「あぁ、教えてくれるラギね」

トラギコは拳銃を強調するように構え直す。
何故か、ワタナベは笑みを浮かべた。

从'ー'从「なんでも、ここにあるニューソクって物が目当てみたいよぉ。
     後は搬出するだけになってるしぃ。
     まぁ、私はただ雇われただけだから、どうでもいいんだけどねぇ。
     ほら、私のプレイグロードって汚染物質やらなんやらに強いからさぁ」

72 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 21:29:33 ID:ndF7vt0k0
(=゚д゚)「……え?」

从'ー'从「え、って、何?
     知りたかったんでしょ、この騒動の目的と私がいる意味を」

(=゚д゚)「あ、あぁ……そりゃあそうラギ。
    でも……」

从'ー'从「……私の主義。
     じゃあ、またねぇ」

そのまま立ち去るワタナベを、トラギコは撃つことが出来なかった。
彼女が浮かべた笑顔は、どうしてか、子供のように無邪気で。
そして。
そして、とても儚げなものだったから。

気持ちを切り替え、トラギコはギコの元へと向かった。

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‥…━━ August 3rd PM15:12 ━━…‥
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ノハ;゚⊿゚)「……」

トソンが見せた手際の良さに、デレシアの隣で観戦していたヒートは絶句している。
彼女は殺すための戦闘ではなく、動きを止めるための戦闘を行ったのだ。
理由は分かり切っている。
手持ちの武器では殺せないからだ。

一度目は相手が油断しきっていたから有効だったが、二度目はないだろう。
殺し合いとは常に起こり得る事態であり、常に己の力が試される。
しかし、戦闘とはそういうものだ。
その結果がこれだ。

イルトリアの軍人でありながらこの失態劇を演じたのは、彼の実力不足のせいである。
会話を聞く限りでは元大尉だが、実力は元中尉のギコ以下だ。
階級に関してはかなり厳しい規則を設けているイルトリアで大尉にまで上り詰めた経緯は不明だが、所詮は肩書。
昇格するために、ハイエナのような手段で手柄を立て続けたのだろう。

しかし、鎮座している豚への興味はもうほとんど失っている。
どうでもいいことだ。

ζ(゚ー゚*ζ「手出しをしなくていい理由の二つ目」

73 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 21:31:57 ID:ndF7vt0k0
もう、抑えきれなかった。
抑える必要もなかった。
衝動に身を任せ、デレシアはヒートの手を引き、ブーンの元に駆け出した。

ノハ;゚⊿゚)「な、なんだよ!」

全て偶然の産物に見えるが、その実は違った。
全てはブーンの実力。
彼の持つ力が、全てを変えたのだ。
最悪に思われた事態を、彼自身がここまで変えて見せたのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「あの子は、死んでなんかいないわ!」

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Ammo→Re!!のようです

              ‥…━━ 第十章【answer-解答-】 ━━…‥

                                         Ammo for Relieve!!編
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――ブーン生存は、いくつかの要因が関わって初めて成立するものだった。

まず前提として、ブーンの体力と身体能力の高さを留意しておく必要がある。
人生の大半を暴力と共に過ごし、痛みが日常と化していたその生活の背景。
殴る、蹴るという攻撃に対しては並外れた耐久力が備わったのは、必然だった。
クックルの体躯から繰り出されたあれだけの暴力にも関わらず絶命を免れたのは、奇跡ではなかったのである。

続いて、彼の衣類――カーキ色のローブ――が、優れた防弾繊維であることも欠かせない。
“魔女”ペニサス・ノースフェイスが彼に手渡した少し大きめのローブは、デレシアも愛用している高性能な繊維で、徹甲弾でもない限り貫通しない強度と柔軟さを持つ。
それを身に纏ったブーンの背中に撃ち込まれた銃弾は、確かに凄まじい威力を有していただろう。
だが、強靭な骨を持つブーンには強烈な打撲傷と軽度の骨折だけが残った。

更に、若い女性が使用した拳銃にも要因があった。
サプレッサーを付けることで静音効果を得た反面、その威力が減退していたのである。
明らかに威力減退を意図したその行動は、ブーンの背中に与える衝撃を僅かだが軽減したのだ。
これが、彼を襲った打撃と銃撃の結果である。

外的要因に含めるとしたら、ギコとトソンのイルトリア人二人の参戦も欠かせない。
ブーンの意志に呼応した二人がいたからこそ、クックルはブーンの生存を確認する間もなく、戦闘行動を強いられた。
このさほど重要でもなさそうに思える時間こそが、重要だった。
結果としてブーンは、あれ以上の攻撃を受けることなく済んだのだ。

最後に残る疑問は、顔に撃ち込まれた銃弾。
防御力のない顔は絶対的な急所。
一撃で事を終わらせるなら、そこに限る。
それが普通だし、クックルはセオリー通りにそうした。

74 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 21:33:08 ID:ndF7vt0k0
だが。
ブーンは普通ではなかった。
彼は耳付き。
優れた身体能力と、並外れた身体機能を持つ人類なのだ。

そして。
状況は普通ではなかった。
積み重ねられた幾つもの偶然。
それらが生み出した答えは、必然だった。

銃弾が撃ち込まれたことによって、大量のアドレナリンが分泌された状態のブーンが見た世界は速度を落としたものだっただろう。
亜音速で飛来する弾丸を視認することぐらい、彼には造作もないことだった。
ましてやそれを。
それを――

――文字通り“弾丸を食らう”ことなど、不可能ではない話なのだ。

歯で弾丸を噛み取ることは、普通の人間には不可能だ。
だが、ブーンは違う。
並外れた顎の力。
そして、歯の硬さ。

これらの要因が全て揃って初めて、ブーンの生存に繋がったのだ。

ミセ;'−`)リ「ブーン、ねぇ、ブーン!!」

今にも泣き出しそうなミセリの傍に、デレシアとヒート。
そしてトソン、ギコとブーンの行動を見守り、そしてそれに感化された人間達が集まった。
ブーンを抱き上げて容体を確認したのはデレシア。

ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫、この子は怪我をしているだけよ」

その言葉を裏付けるように、ブーンの口から銅色の金属片が転がり落ちる。
歯型が残るそれは、紛れもなく銃弾だった。
人間では不可能な芸当を成し得た何よりの証拠。

(゚、゚トソン「ミセリ、彼は気絶しているだけです」

倒れたミセリを抱き上げたのは、トソンだった。

ミセ;'−`)リ「トソン、それに……デレシアさん?!」

ζ(゚ー゚*ζ「久しぶりね、ミセリちゃん。
       それにトソンちゃんも」

(゚、゚トソン「……お久しぶりです、デレシア様」

75 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 21:37:59 ID:ndF7vt0k0
三人のやり取りを不思議そうな顔で見るギコ。
棺桶をコンテナに収納し、彼もまた、ブーンの状態を知るために駆けつけたのだ。
あれだけの大声で想いを叫べば、彼の性格がよく分かる。
無口だが、その分目が雄弁だ。

(,,゚Д゚)「……」

ζ(゚ー゚*ζ「……ブーンちゃんは大丈夫。
      ただ、出来るだけ早く治療してあげないと」

(,,゚Д゚)「そうか」

安心したようにそう呟いたギコの後ろから、トラギコ・マウンテンライトが姿を現す。
どこか釈然としていない、不完全燃焼といった様子だ。
それぞれの事情はさておいて、今はこの場所から脱出することが優先であることを知っているからこそ、何も言ってこないのだろう。
利害の一致によって、無駄なやり取りは避けられる。

(゚、゚トソン「プランは?」

ζ(゚ー゚*ζ「マリアナ・トンネルを使うわ」

(゚、゚トソン「ご一緒しても?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、もちろんよ。
       そこのダブル・ギコも乗るのなら、どうぞ」

――斯くして、擱座したクックルを除く全員が一台の車に乗り込むこととなったのであった。

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‥…━━ August 3rd PM15:20 ━━…‥
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ノパ⊿゚)「なぁ、ギコの名字って、確かブローガンじゃなかったか?」

銃座の無反動砲の具合を確認しながら、ヒート・オロラ・レッドウィングは運転席のデレシアに単刀直入にそう尋ねた。
だが、答えようとしたデレシアより先に、正答を口にする者がいた。
刑事、トラギコ・マウンテンライトだ。

(=゚д゚)「昔の名だと、こいつのことを毛嫌いする人間が多いラギ。
    だから退役した後の仕事が難しくなる。
    イルトリアじゃあ、退役後に名前を変えるなんてのは珍しくないことラギ」

トラギコの言う通り、それは、イルトリア人特有の慣わしのようなものだった。
イルトリア軍人の力は世界共通の認識で、その軍隊の中尉ともなると恨みを買うことが多い。
直接的な恨みは少ないが、その分、名が知れ渡ることで風評が立つ事がある。
引退したイルトリア人が外地に出向かないのは、報復など面倒なことに巻き込まれる確率が高いためだ。

76 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 21:39:22 ID:ndF7vt0k0
その為、イルトリア人が外地で隠居生活を送る際には、必ずと言っていいほど偽名を使う。
ペニサス・ノースフェイスからギコの本名については訊いており、彼が名を変えていることは既に確認してあった。
優秀な教師の優秀な教え子なら、必ずそうしていると思ったからだ。
だが、気付きはそれ以前からあった。

トラギコに連れて行かれた取調室で、彼が電話でギコの名を口にして確認したのを盗み聞いた時から、デレシアはペニサスとの関連に気付いていた。
だからこそ、ペニサスの教え子がギコであることに確信をもって質問をすることが出来たのだ。
長い隠居生活を送っていたペニサス自身、イルトリア人である以上、偽名を持っていた。
それは――

――ペニサス・ブローガンという、偽名。

狙撃手ほど戦場で忌み嫌われる存在はいないが、ペニサスほど恐れられた狙撃手はそういない。
全ての狙撃の記録が非公式で、彼女は常に単独で行動する狙撃手だった。
そうして残ったのは、敵が死んだという結果と“魔女”という渾名だけ。
彼女の名を知るのは、イルトリアの人間ぐらいだ。

その証拠に、クロジングの人間はペニサスの事を“魔女”と呼び、名を呼ぶことをしなかった。
彼女がヒート達の前で本名を名乗ったのは、親友であるデレシアの前で偽名を使う必要がないと考えたからだ。
何故ギコがペニサスと同じ偽名を使っていたのかは定かではないが、故意に同じ偽名を使用したのだと、デレシアは想像している。
そう考えれば、恩師と同じ地域に暮らしていた理由にも説明がつく。

町に下りない恩師の元に食料品を届け、いつでも窮地に駆けつけられるように。
ギコは、ペニサスの事を心から慕っていたのだ。

(=゚д゚)「大方、ホステージ・リベレイターで名を挙げて、自分の正体を隠そうって考えていたんだろ?
    その甲斐あって、その筋じゃ有名人だ」

(,,゚Д゚)「……あぁ」

二人のやり取りを見る限り、ギコ自身が己の本名を喋ったわけではなさそうだった。
トラギコが短期間で調べ上げたに違いない。
警察の持つ情報網を工夫すれば、あるいは可能かもしれない。
そういった機転を利かせることが出来るのを考慮すると、トラギコは思っていたよりも優秀な刑事だ。

(=゚д゚)「俺はトラギコだ。
    ……折角だ、あんたの名前も教えてくれラギ」

ノパ⊿゚)「……スナオだ」

(=゚д゚)「スナオ、ね。
    そっちのあんたは?」

(゚、゚トソン「名乗る理由がありません」

(=゚д゚)「ちっ、社交性に欠ける女ラギね。
    それで、金髪のあんたの名前は?」

77 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 21:43:54 ID:ndF7vt0k0
このトラギコの優秀さを考えるのであれば、下手に名前を名乗りたくはない。
一度警察のリストに載ってしまえば、靴底に付いたガムのように世界中の警察官が捕獲しようと目を光らせる。
捕獲した警察官には、特別手当――約一万ドル――が支払われることになるからだ。
前時代と形態は変わったが、効率の面で言えば圧倒的にこちらの方がいい。

偽名を使うのは簡単だが、彼の耳はそれを容易く聞き分けることだろう。
トラギコが金目当てで聞いていないのは分かる。
それに、ここで本名を名乗っておいてもいいかもしれない。
その方が、後が楽しくなるからだ。

ζ(゚ー゚*ζ「デレシアよ」

(=゚д゚)「……なるほどな」

自己紹介――名乗るだけの簡単な物――が終わった後の車内は、声一つ聞こえないほど静かだった。
殆ど面識の無い物同士の相乗りなら、こうなるのが自然だった。
全員に共通している話題は、助手席で気を失っているブーンだけ。
そして今は交流会ではないので、ブーンの話題で盛り上がる必要はなかった。

ヒートはギコが棺桶を天井に固定したのを確認してから、銃座に付いた。
役割として、トラギコが砲弾をヒートに手渡し、トソン・エディ・バウアーが遠隔起爆装置を扱う。
残ったギコはその棺桶をいつでも使えるように、トラギコの隣に腰掛ける。
全員の配置が済むのと同時に、運転席でハンドルを握るデレシアはエンジンを吹かし、装甲車を発進させた。

人工の空がひび割れ、空間全体が地鳴りによって震える。
終わりが近い。
海上都市ニクラメンの歴史の終わりが、もうそこに迫っている。
崩壊を始める都市の風景は、幻想的だった。

建物の窓ガラスが砕け散り、雨音のように鳴り響く。
振動に耐えかねて崩壊する建造物。
生存者の口から発せられる悲鳴。
全てが一つとなって、終焉を告げる。

タイヤを軋ませ、装甲車は予定していた道を走り、十分に加速する。
速度を増した装甲車が遠隔起爆装置の有効範囲内に入った瞬間、トソンが起爆スイッチを押した。
百フィートほど離れた場所にある、マリアナ・トンネルへの入り口を封鎖していた兵舎が爆発し、辺り一帯に爆音が轟いた。
折れ曲がった鉄骨や粉々になった壁が舞い上がり、薄らと炎の残る兵舎だった場所に落ちる。

荒れ果てた地面に、巨大な長方形の穴が開いていた。
先ほどまで五インチの厚みを持つ扉が閉じていたのだが、高性能爆薬五キロには勝てなかった。
あれこそが、マリアナ・トンネルに通じる道だ。
ヒートはトンネルに通じる穴の大半が瓦礫で塞がれてしまっているのを見て、無反動砲の狙いを定めた。

発射された砲弾が瓦礫を細かく吹き飛ばす。
トラギコから砲弾を受け取り、ヒートが再装填。
もう一発撃ち込み、車が通れるだけの幅を確保した。

(=゚д゚)「よし、戻れ!!」

78 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 21:47:21 ID:kJUeEPCoO
既読感があるなと思ってたら再投下か、まだ一昨日のところだな

79 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 21:47:28 ID:ndF7vt0k0
言われるまでもなく、ヒートは車内に戻って銃座に続く天井部を閉めてから、シートベルトをした。
一行を乗せた装甲車はトンネルに向かって、瓦礫を踏み越え進む。
穴の先は暗闇で、何が待っているのかまるで見えない。
しかし、車内の誰も恐れてはいなかった。

恐れたところで、状況が何一つ変わらないことを理解しているからだ。
生温い生き方をしてきた人間は、この車には乗り合わせていない。
ある意味で、心強いメンバーが揃ったものだ。
これも、旅の醍醐味の一つだ。

トンネルに侵入した瞬間、一瞬の暗転があった。
直ぐに、ハイビームが照らし出す景色が目に入る。
壁と天井には大小さまざまなパイプが張り巡らされ、それらが血管のように絡み合っていた。
まるで生き物の体内だ。

聞こえる音は風の通り抜ける、轟音だけ。
先ほどと比べての変化と言えば、環境が変わったことによる音の違いと、振動がより大きくなっている点だ。

ζ(゚ー゚*ζ「……始まったわ」

ノパ⊿゚)「え?」

デレシアの言葉に反応したのは、ブーンとミセリ以外の全員だった。
何の話をしているのか理解できなかったが、それがどちらに向けられた言葉なのかは理解した。
全員が一斉に振り返り、デレシアの言葉の意味を理解した。
入り口だった場所 が、瓦礫に埋もれて消えていた。

ひょっとしたら、巨人の跫音とは、このような音なのかもしれない。
ゆっくりと微震が走り、そして、固い物体が砕ける音と共に大きな振動が訪れる。
崩壊が一歩、また一歩と迫っているのがよく分かった。
振動がある意味で規則正しく、まるで時間を刻むように訪れていたことに、その時に全員が初めて認識した。

ここから先は、デレシアの運転に全てが掛かっている。
そう思うと、デレシアは胸の高鳴りを抑えきれなかった。

(=゚д゚)「……ちょっと軽くしてやるラギ」

アタッシュケースを膝に乗せ、トラギコはそんなことを言った。

(=゚д゚)『これが俺の天職だ』

その言葉と共にアタッシュケースが開き、機械籠手と山刀のような剣が現れる。
携帯可能な対強化外骨格装備、“ブリッツ”だ。
手際よく装着したトラギコは、銃座に続く天井部を開いた。
金切声のような音の後、金属が転がり落ちる音が後ろから一瞬だけ聞こえた。

バックミラーで確認すると、円筒が転がり落ちていた。
重量を減らして、少しでも速度を上げるために迫撃砲を切り落としたのだ。

(=゚д゚)「砲弾もいらねぇ、まとめて寄越せ」

80 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 21:49:14 ID:ndF7vt0k0
なかなかに大胆な思考と行動力を持っていると、デレシアは感心した。
ヒートが砲弾の入った麻袋を手渡し、それをどうするのかと見ていると。

(=゚д゚)「せぇい!!」

全力で投擲した。
なるほど、機械籠手の補助があれば、人間離れした遠投が可能だ。
無尽蔵の食欲を持つ化け物に餌を投げ与えるが如く、砲弾を瓦礫に与える。
瓦礫が麻袋を飲み込んだ瞬間、連続して爆発が起きたが、直ぐに別の瓦礫がそれを覆い隠した。

車内に戻ったトラギコは、ブリッツをアタッシュケース型のコンテナにしまった。

(=゚д゚)「ただ乗りはしねぇ主義でね。
    これでチャララギ」

(,,゚Д゚)「そりゃ驚きだ。
    俺の時はただ乗りしたくせに」

ギコの言葉を受けて、トラギコは鼻で笑う。

(=゚д゚)「さっき援護してやっただろ、それでチャララギ」

似た名前だから仲がいいのか、それとも気が合うのか。
クロジングで初めて出会ってからこの二人に何があったのかは分からないが、大分進展しているのは確かだ。
トラギコの軽量化のおかげか、心なしか速度が上がった気がした。
しかし、依然として崩壊の跫音は近づきつつある。

緩やかな上り坂に差し掛かった時、沈黙を守っていたトソンが口を開いた。

(゚、゚トソン「……後、一分いえ、四十秒でしょうか」

ζ(゚ー゚*ζ「そう? 私は二十秒だと思うけど」

ノパ⊿゚)「何の話してんだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「トンネルの安全装置が作動するまでの時間よ。
      ほら、トンネルから浸水したらシャレにならないじゃない?
      ある一定以上の衝撃を感知したら自動的に隔壁が上がるのよ、ここ。
      それに、ブロック形式でトンネルを作っているから、隔壁が上がれば崩落も自然と止まるわ」

車内に再び沈黙が訪れた時、それは起こった。
ライトが照らしていた道の先に、巨大な板がせり上がってきたのだ。
目の前で隔壁が完全に閉まり、一行を乗せた車両はその前で停車した。

ζ(゚ー゚*ζ「ほら、二十秒だったでしょ?」

(;=゚д゚)「ほら、じゃねぇラギ……」

安全装置が作動したおかげで、崩壊に巻き込まれる心配はなくなったが、退路が文字通り絶たれた。

81 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 21:51:27 ID:ndF7vt0k0
ζ(゚ー゚*ζ「まぁ、そう焦らなくてもいいわよ。
      後五百ヤードぐらいで、地上よ」

そこに至るまでにある隔壁の数は三枚。
一枚が約十フィートの厚みを持っており、対戦車砲では貫通させることも難しい。
対戦車砲の弾頭は装填されている分と合わせても六発。
この量では、隔壁一枚に小さな穴を空けるので精いっぱいだ。

トソンとブーン、ミセリを除いた全員が車外に出る。
改めて見ると、その隔壁の大きさを実感する。
これが見かけ倒しでないことは、一目で分かる。

(=゚д゚)「ブリッツじゃ、切れねぇラギね」

ノパ⊿゚)「どうする?」

ζ(゚ー゚*ζ「ギコ、マン・オン・ファイヤでそこに穴を開けて頂戴」

要塞攻略用強化外骨格の地下壕潰しの兵器なら、この扉を貫通できる。
マン・オン・ファイヤの右腕ある発射装置には、六発のバンカーバスターが収納されている。

(,,゚Д゚)「生憎と、残り一発なんだが。
    特殊焼夷弾ならまだまだあるんだがな」

ζ(゚ー゚*ζ「あら、それで十分よ」

そう言って、デレシアは簡単に作業の手順を説明し始めた。

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             弋       -‐       __,ィt‐テアミ}  | | |ミ/(:::廴____
              ヘ   /      __,-‐ニニヘミ彡'´、 _j_j_j込、:ヽ、___二ニ
               >x、     ,イ⊆ミj ,      ̄   Yミ/ュュュ圭込>'´
‥…━━ August 3rd PM15:30 ━━…‥
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強化外骨格に身を包んだギコ・カスケードレンジは、扉の前にいた。
扉の前には、彼一人しかいなかった。
聞こえるのは、血流の音に似た機械の駆動音。
武骨な右腕に備わった六角錐の六連装発射装置を振り被り、使用コードを入力する。

ム..<::_|.>ゝ『バンカーバスター!!』

その先端を扉に叩きつけた瞬間、六角錐の先端部から、内部に装填されていたバンカーバスターが射出された。
塹壕潰し、地下壕潰しを目的に開発されたバンカーバスターは、その設計上地上でも使用が可能である。
小型故に威力は落ちるが、それでも、十フィートの壁ならば貫通できる。
大爆発の後、隔壁には装甲車が通れるだけの大きな穴が開いていた。

82 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 21:54:45 ID:ndF7vt0k0
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しかし、ここで終わりではない。
ここから先にはまだ二枚の隔壁が残っている。
その隔壁を破壊しないことには脱出は出来ない。
流石に、バンカーバスター一発では扉二枚を破壊するなど、そんなことは出来ない。

この先も、ギコが一人で進んで道を開拓しなければならない。
それまでの間、デレシア達は車内で待機することになっている。
そうでなければ、彼等を巻き込んでしまうからだ。
特に、後輩にあたる人間を巻き込みたくはなかった。

彼は尊敬するに値する、立派な人間だ。

ム..<::_|.>ゝ

軍用第三世代強化外骨格、通称“棺桶”。
開発者が意図した事でないにしろ、このフルフェイスのヘルメットをギコは気に入っていた。
覆面は多くの事を隠し、心を押し殺して行動すること出来る。
押し殺し、隠した心の中では、常に多くの事を考えていた。

銃弾の飛び交う線上で。
緊張感の漂う現場で。
棺桶に包まれている間は、ギコにとって物事を落ち着いて考えられる時間であった。
戦闘の組み立て方から、全く別の事まで。

――ギコは進む。

今もまた、ギコは考えていた。
何故、自分はあの耳付きの少年に心惹かれてしまったのだろうか、と。
弱さ、儚さ、そして惹かれて止まない不思議な魅力。
腕力はないが、あの少年には他者よりも秀でた魅力を持っている。

彼の魅力は、きっと、二つの作用があるのだとギコは思う。
一つはギコのような人間を魅了する作用。
そしてもう一つは、人間の嗜虐心をくすぐる作用だ。
その魅力のせいで、あの少年は虐げられ、そしてあそこまで人を惹きつけているのである。

それはもう、十分な力だ。
力が世界を動かす時代において、彼の魅了もまた、十分な力。
イルトリアの軍人を三人も魅了したのだから、間違いない。
彼は将来、間違いなく大物になる。

――ギコは進む。

83 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 21:56:39 ID:ndF7vt0k0
今もまた、ギコは考えていた。
恩師、ペニサス・ノースフェイスを失った八月二日の夜。
あの日以来、ギコはブローガンの偽名を捨てた。
彼女に憧れて付けたその偽名が、あまりにも恥ずかしかったからだ。

自分には、彼女と同じ偽名を使う資格がない。
あまりにも弱く、あまりにも脆い自分が使っていい名前ではないのだ。
思い上がっていた自分を、ギコは責めた。
そして、ブローガンの名を捨て、嘗てペニサスの元で教えを受けていた当時の名前、カスケードレンジの名で生きることを誓ったのだ。

正にそれは誓いだった。
恩師の復讐を遂げ、そして、彼女が最後に残した物を守るまで、決して消えない誓い。
この二本の足は、それまで決して崩れることはない。
そんなこと、許されないのだ。

突如として現れた飛行能力を有する棺桶。
平穏な生活を送っていたペニサスを殺した理由。
ニクラメンを沈め、ニューソクを手に入れるために現れたクックル・タンカーブーツ。
全ては、線でつながっているような気がしてならなかった。

詳しくは分からない。
クロジングの田舎者たちを巻き込む手腕。
厳重な警備が自慢だったニクラメンを内部から崩し、全体の崩壊に導いた手際。
個人の動きでは到底ありえない。

巨大な組織が背後にあることは間違いない。
問題は、それがどこの組織か、である。
これだけの規模、計画、資金、兵力を有する組織となると、これまでにギコが見たことのないほど大きな組織に違いない。
ギコが手に入れた情報では、その正体を推測するには不十分だ。

ピースが無くては、パズルは形にならない。
パズルを始めるには、まずは十分なピースを揃える必要がある。
なら、まだ準備は万端ではない。
情報を手に入れ、相手の事を知らなければならない。

――ギコは、扉の前で立ち止まった。

巨大な窪みの出来た二枚目の隔壁の前に着いたギコは、左腕――特殊焼夷弾、テルミットバリックの発射装置――を振り被って叩きつける。
衝撃と同時に起こったのは、発光、としか表現できない。
一瞬の内に周囲が炎に包まれ、堅牢さの象徴とも言えた扉は無残にも溶け落ち、直撃を受けた場所は蒸発していた。
全てを焼き尽くす六千度の炎は、壁や天井だけでは飽き足らず、周囲の酸素を貪欲に食い散らかす。

百ヤード圏内の物で焼けていないのは、マン・オン・ファイヤだけ。
炎を踏み散らかし、ギコは蒸発して出来た穴を通って疾走した。
扉を潜った先も、大分炎の影響を受けており、所々が燃えていた。
二発目の発射用意を済ませ、ギコは視線の先に最後の隔壁を捉えた。

84 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 21:57:20 ID:ndF7vt0k0
レーザー照射によって狙いを定め、小型の焼夷弾を狙った場所に連続で三発発射する。
世界がテルミットの炎で漂白されるまで、数秒の間があった。
閃光と炎、そして強風が生まれる。
地上から吹き込む風に炎が揺れ、新鮮な空気がトンネル内を満たす。

炎が身の回りを焼き尽くす中、膝を突いて急速冷却を行う棺桶の中でギコは考えていた。
自分がこの先取るべき行動は理解していた。
何をして、何をするのか、その結果何が待っているのかも分かっている。
考えていたのは、その時期。

動く時期はいつでもいいが、出来るだけ速い方がいい。
ならば、今。
この瞬間に動き出そう。

ム..<::_|.>ゝ『……じゃあな、後輩』

視線の先に見える外の光に向けて、冷却を終えたギコは走り出した。
後輩への義理は果たした。
もう、彼らに関わることはないかもしれない。
これから始まるのは、ブローガンの名を捨てたギコ・カスケードレンジの旅。

或いは、それは――

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‥…━━ August 3rd PM16:00 ━━…‥
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溶けた扉が固まり、装甲車が走行可能になるまでに二十分必要だった。
冷えた外気がトンネルに強風を生み出し、割れたガラスから車内に風が入り込んだ。
デレシアはその風を感じ取り、ギコが作戦を成功させたのだと理解し、ローブを剥がした。
被っていたローブの下から五人の同乗者が顔を出し、まだ熱い酸素を吸った。

(;=゚д゚)「あっちぃ……!!」

勢いよく飛び起きたのは、トラギコ。

(゚、゚トソン「……ふぅ」

ミセ;'−`)リ「あ、暑い……」

続いて起きたのは、トソンとミセリのイルトリア人二人組。
トソンは、苦しげな表情を浮かべるミセリの額の汗を服の袖で拭い取る。
最後に、ブーンを胸の中で守っていたヒートがゆっくりと体を起こした。

ノハ;゚⊿゚)「サウナ並だな、こりゃ……」

(∪-ω-)Zzz……

85 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 21:59:44 ID:ndF7vt0k0
ヒートの腕の中でブーンは寝息を立てており、命に別条がないことを示している。
人並み外れた回復力と生命力に、デレシアは安堵した。
この少年の成長を、まだ見続けることが出来る。
まだ、見届けることが出来るのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「全員無事みたいね」

ペニサスが作った特殊な繊維のローブを被って、デレシア達は後部座席で身を寄せ合って熱風から身を守ったのである。
ブーンとヒート、そしてデレシアのローブの三人分がなければ、全員が助からなかった。
この作戦の危険な部分は、特殊焼夷弾の生み出す熱だけでなかった。
酸素の急激な燃焼による低酸素状態が、最も恐ろしい問題だった。

一時はトンネル内の酸素が失われたが、詰んでおいた潜水用の酸素ボンベを使い、それぞれが交互に酸素を補給した。
極限とも呼べる状態で意外な行動を示したのは、トラギコだった。
彼はミセリとブーンに優先的に酸素を与えるように指示をして、二人が酸欠にならないように配慮したのである。
結果として、体力面で劣る子供二人はこの状況を無事に潜り抜けることが出来たのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「トラギコ、ありがとう。
      おかげでこの子たちが助かったわ」

(;=゚д゚)「けっ、礼を言われるようなことはやってねぇラギ。
    本当に感謝してるんなら、さっさとここから出るラギ。
    減量中のボクサーじゃあるまいし、蒸し焼き料理になるなんてのはごめんラギ」

一人の例外もなく大量の汗を流し、誰の汗か分からない汗で全身を濡らしていた。
早くキンキンに冷やした水を飲んで、失われた水分を取り戻さなければ。

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、行きましょう」

そして、タイヤの溶けた装甲車はギコが作った道を走り始めた。
悪路に揺られる車中では、会話はなかった。
兎に角熱く、そして苦しかったのだ。
苦しみは肉体的な物だけでなかった。

結局のところ、デレシア一行は生きて脱出することに成功した。
しかしそれだけだ。
ティンバーランドの目論見の破綻も、ペニサスの仇討も出来ていない。
デレシア達の脱出を除いて、相手の計画通りに事が進んだ。

それだけではない。
ブーンは傷つけられ、危うく命が奪われるところだった。
どこまでも腹の立つ連中だ。
時代が変わろうとも、彼らはいつだってデレシアを苛立たせる。

強いて。
強いて、よかったこと探しをするならば。
極限の状態で起こった、ブーンの選択による驚異的な成長。
自分の意志でミセリを助け、彼女を庇った。

86 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 22:01:18 ID:ndF7vt0k0
デレシアが仕向けたことではない。
誰かに強いられて行った行動でもない。
彼が自分で考えて起こしたことだ。
それだけが、唯一今回彼女達が得たもの。

得た物は確かに大きかった。
大きかったが、奪われた物も大きい。
全くもって、不愉快な決着だ。
このまま終わらせるわけには、当然いかない。

力によって、彼らの夢を踏み躙ろう。
徹底的に叩き潰し、捻り潰そう。
木っ端すら残さず、名残すら消し飛ばそう。
そうでなければ、この気持ちが収まる気がしない。

丹念に、丁寧に。
ウィスキーのように時間を掛けて注意深く熟成させたその計画。
その計画が実る直前に、それを刈り取ろう。
開花直前の花を握り潰し、凌辱するようにいたぶりながら台無しにしてやろう。

――見えてきた出口の先には、四角く縁取りされた黄昏の空に浮かぶ巨大な月が彼らを待っていた。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

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‥…━━ August 3rd PM16:10 ━━…‥
To be continued...
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87 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 22:01:58 ID:ndF7vt0k0
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Ammo for Relieve!!編 Epilogue【Relieve!!-解放-】
               . ・  .        .         .    . .
       .+     .      .          .     °.   .             。
   .                .   。       .      .     .   .
         '    ‘  .       .      .      .        . 
          .        .       。       .     .   .
                         +     . . ゜ ゜        .
‥…━━ August 3rd PM19:00 ━━…‥

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

弓のように細い月が夜空に浮かび、足りない分の明かりは星が補った。
町外れの酒場に続く道に街灯はなかったが、天然の明かりが影を濃く照らしだす環境の中で、それは不要だった。
その酒場は看板が朽ちていて名前が読めず、客からは“廃屋”と呼ばれていた。
客層はこの近隣の人間ではなく、別の地域から流れてきた者がほとんどだ。

クロジングに立ち寄ろうとする旅人は少なく、床下のある宿を借りるぐらいなら、銃を枕に野宿をする方がマシだと言われている。
クロジングから最も近い距離にあるこの“廃屋”に客が押し寄せるのは、必然だった。
店主もこの地の利を活かして、店に隣接する宿――娼館も兼ねている――の経営も行っている。
だからこそ、ここの店には訳ありの人間がよく訪れ、店側もそれを知っているので配慮した店作りになっている。

基本的に客は個室を宛がわれるので、他者に顔を見られないようになっている。
勿論、会話の面でも秘匿性は比較的高い。
酒場特有の喧騒と店内で流れるラジオが内密な話を上塗りするために、他者に聞かれる心配も少ない。
情報交換には、もってこいの店だった。

その日、酒場で一番人気の肴は、もちろん海底に沈んだニクラメンの話だ。
店でその話に触れない人間はいない。
それは事件とも事故とも、災害とも言われているが、誰も事実に辿り着いていない。
生存者はおらず、街が沈んだ時間と事実以外、正確な情報は何一つない。

謎が謎を呼ぶこの話は、店で流されているラジオからもそのことについてパーソナリティーが面白おかしく話している。
ひょっとしたら発電機の暴走による大規模な爆発か、それとも海底生物による襲撃か、などだ。
リスナーから寄せられたハガキを交えて、その話は更に真実からかけ離れた方向に盛り上がりを見せていた。
木の板で区切られた個室で、五人の男女は大量の酒と食べ物、そしてジュースを前に話をしていた。

ヒート・オロラ・レッドウィングは、ストローを使ってジョッキから水を美味しそうに飲む、四肢のない少女に尋ねた。

ノハ^ー^)「うめぇか、ミセリ?」

ミセ*'ー`)リ「はい、このお水美味しいです」

ミセリ・エクスプローラーは、トソン・エディ・バウアーの膝の上でそう感想を述べた。
流石に七ドルもする水だから、ただの水ではないだろうと興味を示して注文したのは、トソンだった。
トソンはジョッキから直接一口飲むと、その味の違いに気付いたようだった。

(゚、゚トソン「これはドルイド山の水ですかね」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね、このあたりの井戸から汲んだのかもしれないわね」

88 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 22:03:36 ID:ndF7vt0k0
(*∪´ω`)「あの……ぼくも……」

デレシアの膝の上で、遠慮気味に声を上げたブーンの垂れ下がった目がデレシアを見上げる。
全身に傷を負ったブーンは、自力で食事をすることは困難で、しばらくの間は流動食しか食べられない。
むしろ、あれだけの傷で、すでにここまで回復していることが驚きだった。
ローブの下の尻尾がわさわさと揺れ、気持ちを素直に表現する姿は本当に可愛らしかった。

ニクラメンから脱出後、ブーンはすぐにクロジングの街病院に連れて行かれた。
当然、医者は嫌な顔をもろにしたが、デザートイーグルと視線を合わせた途端に従順になり、ブーンの治療を的確に行った。
破裂した内臓もすでに回復が始まっており、命に別状はないとの診断だった。
撃鉄を目の前で起こして尋ねたのだから、真実だろう。

ζ(゚ー゚*ζ「はい、どうぞ」

トソンから回ってきたジョッキをブーンの前に持ってくる。

(∪´ω`)「あ、あの……じぶんでもてます……から」

ζ(゚ー゚*ζ「いいから、ね?」

そう言って、強引にデレシアの手で水を飲ませる。
今日一日は、ブーンを徹底的に甘やかすと決めていた。
それだけのことを、この小さな少年はやったのだから。
ちなみに明日は、ヒートがブーンを甘やかす番になっている。

(*∪´ω`)「すきとーった、あじ?」

喉を鳴らして水を飲んだブーンは、感想を漏らしたというよりかは、それが正解かどうかを確認するような口調だった。
人よりも遥かに優れた嗅覚と味覚を持っているブーンには、水の味の違いが分かるのは当然だった。

ζ(゚ー゚*ζ「良い表現ね、ブーンちゃん」

食事を始める前に、トソンが早速話題を切り出した。

(゚、゚トソン「では、本題に入りましょう。
    デレシア様、この後はどのような予定を?」

ζ(゚ー゚*ζ「一先ずは、船を使ってティンカーベルに向かうわ」

通称“鐘の音街”、ティンカーベルは沖合にある三つの島と無数の小さな島からなる街だ。
山々に囲まれたその地には、ティンバーランドが求めているニューソクがある。
しかしティンカーベルの人間はそれを使おうとはせず、安全な状態でどこかの島に保管している。
そのことは公にはなっていない情報だ。

他にも、強化外骨格が大量に眠る谷や、上質なウィスキーの蒸留所などがある。
観光名所ではないが、いい街だ。
仮に遭遇しなくても、先んじてニューソクに手を加えることが出来れば御の字だ。
原子力発電施設は非常に繊細な機械の集合体で、どれか一つでも異常が検知されれば安全装置が作動して機能が停止する。

89 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 22:05:43 ID:ndF7vt0k0
ティンカーベルに向かうには、ここから北にある正義の街、ジュスティアを通って行く陸路。
もしくは、海路を使って迂回する二つの道がある。
速く到着するのであれば当然陸路だが、ジュスティアを通過するのは正直面倒だった。
三重の検問所――スリーピース――を越えて、高さ百フィートの城壁に囲まれた騎士道精神が現在進行形で横行する街だ。

常に軍事都市イルトリアと比較されてきたその街では、棺桶の持ち込みは一切禁じられている。
更には人種差別思想が強く、肌の色は勿論、髪や瞳の色で街に入ることを拒絶されることもある。
ブーンが街に入ることを拒まれるのは明らかで、そのような所にデレシア達が居合わせれば、検問の段階で戦闘になることは目に見えていた。
街一つを潰せないこともないが、不要な戦闘は避けたい。

(゚、゚トソン「なるほど」

ζ(゚ー゚*ζ「トソンちゃんはどうするの?」

(゚、゚トソン「ミセリ様をお連れして、一度イルトリアに戻ります。
    “戦争王”に、この一件をお伝えしておいた方がいいので」

イルトリアの現市長、“戦争王”フサ・エクスプローラーがこの一件を知れば、直ぐに動いてくれるだろう。
彼の動きは速く、そして静かで正確だ。

ζ(゚ー゚*ζ「なら、黄金の大樹についての情報を集めるように言っておいて」

(゚、゚トソン「かしこまりました。
    ティンカーベルに向かう船なら、この先のポートエレンに明日まで停泊しているはずです。
    ただ……」

ζ(゚ー゚*ζ「オアシズ、でしょ?」

世界最大の客船でありながら、世界最大の船上都市、それがオアシズだ。
七千人が船上で生活可能な客船には、二千人の住民がおり、五千人の旅行客が常に乗っている。
海上を移動する都市には、コンサート会場からスケート場、更には常駐の警察官から探偵まで揃っている。
その原動力は驚くべきことに波力・風力・太陽光の自然のエネルギーから補っており、航海に燃料費はかからない。

オアシズは旅行客と安全確実な輸送を収入源として、多くのビジネスを船上で行う。
トソンが懸念しているのは、ブーンの事を快く思わない人間が多く乗っている船ならば、彼に逃げ場がなくなるということ。
勿論、そのことを考えていないわけではない。
しかし、この先も旅を続ける中で差別は避けて通れない災害のようなものだ。

ブーンが自分の力でそれを打破できるまでは、デレシア達が手本を見せてやればいい。
何事も経験だ。
耳を晒さなければ、ブーンが疎まれたり蔑まれたりはしない。

ζ(゚ー゚*ζ「ほら、これ」

傍に置いてあった紙袋から取り出したのは、ベージュ色の毛糸で編んだ通気性のいい帽子だ。
北国のティンカーベルの気候は、夏でも肌寒い。
それに、船旅も何かと冷えるので、毛糸の帽子は別に不自然な服装ではない。
試しにブーンに被せてみると、予想よりに可愛らしい姿になった。

90 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 22:07:00 ID:3xx7Z7ME0
読んでる支援

91 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 22:08:11 ID:ndF7vt0k0
  (~)
γ´⌒`ヽ
{i:i:i:i:i:i:i:i:}
(∪´ω`)おー

目的は彼を愛でる事ではなく、その耳を自然なものとすることにある。
毛糸の帽子の端から覗くこの垂れ下がった耳は、あたかもファッションの一部であるかのように振舞える。
これならば、オアシズ内ではもちろんのこと、北国でブーンが不快な視線を浴びることは減るはずだ。
それにしても、本当に可愛い。

ζ(゚ー゚*ζ「ブーンちゃん、この帽子には魔法がかかっているの。
       この帽子を被っていれば、ブーンちゃんが虐められることはないわ」

(∪´ω`)「まほー?」

ζ(゚ー゚*ζ「不思議な力の事よ。
      だけど、この帽子を取ったら、ブーンちゃんは自分の力でいろんなことと立ち向かわなければならないの。
      それだけは覚えておいてね」

小さな頭を胸に抱きしめながら、デレシアはそう囁いた。
無論、この世界に魔法など存在しない。
ただの気休めだ。
気休めなのだが、効果は絶大である。

自信に満ちた行動は疑念を薄れさせ、信じ込ませる力がある。
子供のブーンにそれを意識して行わせるのは難しいと判断し、デレシアはこの方法を取った。
盲信しなければ、言葉は絶大な力を持つ。

(∪´ω`)「……お」

首を動かし、ブーンはつぶらな瞳でデレシアを見上げる。

ζ(゚ー゚*ζ「ん?」

(∪´ω`)「ぼく……あの……」

やがて、意を決したようにブーンは口にする。

(∪´ω`)「もっと、つよく……なりたい……です。
      ずっと、だれかに、たすけられるのは……あの、その……えっと……
      よくなくて……だから……ぼく、つよく、なりたいです。
      それで、それから……それ、から……」

息を一つ呑む時間。
これまで聞いたどの言葉よりも強く、深く、静かで、実直な言葉。
今日までの成果とも言える言葉が、ブーンの口から紡がれた。

(∪´ω`)「あいのいみを、しりたいです」

92 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 22:09:51 ID:ndF7vt0k0
ペニサスが死の間際、ブーンに与えた宿題であり命題。
愛の意味を知る、ということ。
愛されたことも、愛を感じたこともないブーンが知らなければならないその感情の正体は、ペニサスでも到達することが出来なかった。
それを知るのに必要なのは時間でも知識でもなく、もっと、根本的な部分にある。

果たして彼がそれを持っているのか否かは分からないが、この先の成長次第では到達できることだ。

ζ(゚ー゚*ζ「……そう」

嗚呼、とデレシアは思う。
僅かな時間の中、出会いの連鎖が、彼をここまで成長させたのだと。
そして彼は、依存の中でも確かな成長を見せ、少しずつ自立への道を歩き始めようと決意したのだ。
何と愛しく、何と素晴らしい存在だろうか。

長い旅の中で、ブーンと同じかそれよりも最悪な環境で育った人間を多く見てきた。
しかしながら、ここまでデレシアの想像を裏切る成長を果たした人間は初めてだった。
やっと、見つけた。
成長を見届けたいと思わせるだけの存在ではなく、それ以上の存在。

彼女の旅の同伴者として、最も相応しいと思える相手が。
だから、まだブーンには学んでもらわなければならない。
自分自身の事。
そして、世界について。

(゚、゚トソン「……ブーン、と呼んでも?」

(;∪´ω`)「……お」

(゚、゚トソン「遅れましたが、私はトソン・エディ・バウアーといいます。
     ブーン、貴方がいなければ、ミセリ様は今頃瓦礫の下。
     本当にありがとうございました」

差し出された手と言葉に、ブーンは初め、戸惑いを見せた。

(;∪´ω`)「お……お……おっ……」

恐る恐るその手を握り、握手を交わす。
どうやら、トソンもブーンの才能に気が付いたようだ。
ある種の人間を惹きつける魅力。

(゚、゚トソン「この恩は、必ずお返しいたします」

ミセ*'ー`)リ「もー、トソン。
      そんな固っ苦しい言葉だと、ブーンが緊張しちゃうでしょ」

(゚、゚トソン「敬意を表するに値する人物に敬語を使うのは、当然のことです。
    ミセリ様も知っての通り、あの状況下であの言葉を口にできるなど、イルトリア人でも稀なこと。
    ブーンは必ず、将来は大物になります」

ζ(゚ー゚*ζ「勿論。 ね、ヒート?」

93 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 22:11:16 ID:ndF7vt0k0
ノパー゚)「あぁ、ブーンは間違いなくいい男になる」

デレシアとヒートの思想は、大分似ているところがある。
ブーンに対する見方も評価も、その大部分は同じだ。
違いがあるとすれば、やはりブーンに向ける視線の種類だ。
時間があればブーンの傍で話をしようとするヒートの心情はデレシアも理解できるが、その理由が分からない。

旅の中でそれが分かれば、きっと、ヒートの事がもっと好きになることだろう。
彼女が語るまでは、そのことに触れるのは止めておく。

ζ(゚ー゚*ζ「さ、料理が冷める前に食べちゃいましょう」

(゚、゚トソン「それもそうですね。
    ミセリ様、最初は何を?」

ミセ*'ー`)リ「サラダをお願いします、トソン」

ボウルに盛られたサラダを小皿に取り分け、トソンはフォークを新鮮なアスパラに突き刺した。
それをミセリの口元に持っていくと、ミセリは一口でそれを食べた。
七年前に視力と四肢を失った代わりに、彼女は優れた聴覚と嗅覚を手に入れた。
だからこそ、卓上に並ぶ料理の中にサラダがあることが分かるのだ。

ミセ*'ー`)リ

(;∪´ω`)「おー」

それを羨ましげな眼で見るブーン。
意識が戻ってから、傷が癒えるまでの間、固形物が食べられないことを告げると、悲壮な表情を浮かべていた。
噛み応えの無い物は、彼にとってはあまり好ましくないものなのだろう。
しかしそれは、これまでに彼が食べたことのある流動食に問題がある。

ノパー゚)「ちょっと待ってな、ブーン。
    今リンゴをすってやるからよ」

(*∪´ω`)「りんご!」

ぱっと顔を輝かせ、ブーンの尻尾がローブの下で激しく動く。
店に頼んでおいたリンゴとすりおろし器を手にしたヒートは、それをすり始めた。
果肉が細かくすりおろされ、溢れだした果汁を果肉が吸い上げる。
ヒートはスプーンで果汁を吸った果肉を掬い、ブーンの口にそれを近づける。

ノパー゚)「いいか、必ずよく噛んで食べるんだぞ」

(*∪´ω`)「はい!」

スプーンについた果汁を全て舐め取る勢いで、ブーンはリンゴを食べた。
言いつけ通りに果肉を何度も噛んでから、喉を鳴らして飲み込む。

(*∪´ω`)「おー! おいしいです!」

94 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 22:12:09 ID:ndF7vt0k0
この一場面を切り取ってみても分かる通り、ミセリと出会ってから、感情表現が少しずつではあるが出来るようになってきている。
前は感情を表に出すことを恐れている様子だったが、大分慣れてきたのだろう。
これも成長の証。
ブーンは出会ったもの、経験したものを糧として進歩することが出来る。

何とも嬉しいことだ。
きっと、母親や姉と云うのはこういった時に感動を覚えるのだろう。

ノハ*^ー^)

ζ(^ー^*ζ

自然と笑みがこぼれる。
言葉ではとても言い表せないこの胸の高鳴り。
抱き寄せ、想いを伝えずにはいられない。

(*∪´ω`)「……お」

ノハ^ー^)「どうした、ブーン?」

(*∪´ω`)「りんご、ミセリにも……あげて……いいですか?」

ノパー゚)「あぁ、もちろんだ。
    ミセリ、リンゴは食えるか?」

ミセ*'ー`)リ「はい!」

先ほどと同じ要領でミセリにすりおろしリンゴを食べさせると、ブーンと似た反応が返ってくる。

ミセ*'ー`)リ「美味しい!」

(*∪´ω`)「お! ミセリ、りんご、好き?」

ミセ*'ー`)リ「うん!」

食事はやはり、大勢で話をしながらした方が断然美味い。
デレシア達成人組は、注文した酒を掲げ、静かにグラスをぶつけ合った。
一口飲み、ゆっくりと息を吐き出す。
酒に感覚が鈍る彼女達ではない。

気分を落ち着かせ、気持ちを和らげるための酒だ。
そうでなければこの気持ち、いつ爆発するかは分からない。
微笑ましく、可愛らしく、愛しいこの光景。
争いと殺戮の中で過ごした時間の長い彼女達には、何よりの薬だ。

トソンも、ヒートも、そしてデレシアも例外ではない。
長く争いの中に身を沈めていると、人はいつしか狂う。
精神を病み、やがては死に至る。
それに気付かず、殺戮こそが自分の全てだと誤解し、そして死ぬのだ。

95 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 22:12:49 ID:ndF7vt0k0
殺されるか、それとも自殺するか。
死に方は様々だが、長生きをしたところでその人生に彩りはない。
そうならないためにも、ミセリやブーンのような存在は必要だった。
一時の安寧を与える無垢な存在。

ただ笑顔を浮かべて、ただそこにいるだけでいいのだ。
それだけで、彼女達は救われる。
どんな薬物よりも強力で即効性の高い効果を約束してくれる。
だから、彼女達はブーンやミセリに惹かれるのだ。

今夜は、いい酒が飲めそうだった。

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   _ノー‐_.八_
 γ´  <__ノ`ヽ
  |l ______ l|
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  |l |       | l|
‥…━━ August 3rd PM19:40 ━━…‥
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トラギコ・マウンテンライトは“廃屋”に来店するなり、椅子に座る間もなくシングルモルトウィスキーをダブルで注文した。
カウンターに備え付けられた丸椅子に腰かけ、出されたナッツを一つ摘まんだ。
気に入らないことだらけで非常に虫の居所が悪く、何か機会があればそれを発散したいところだった。
続けて出されたウィスキーを一口だけ口に含み、その香りと味を堪能した。

磯の香りを思わせる熟成香が鼻から抜け、一時の安らぎを与える。
一杯十ドルの割には、いい味をしていた。

(#=゚д゚)「……」

苛立ちは収まらない。
フォレスタで回収したあの男は少し目を離した隙に病院から連れ出された後で、分かっているのは連れ出した人間が“ジェーン・ドゥ”と名乗る女性であること。
監視カメラも何故かその時に限って機能しておらず、人相は曖昧だった。
貴重な情報源を失っただけでなく、その足掛かりさえ失ったのだ。

こうしてまた、微妙な進展しかできていない。
デレシアを追う中で、どうやら、トラギコは想像以上に巨大な思惑に片足を突っ込んでしまったようだ。
それはいい。
それは許容範囲どころか歓迎すべきことだ。

だが、彼を嘲笑うように捜査が難航するのだけは気に入らない。
何故ニクラメンを襲い、何故沈める必要があったのか。
歴史に名が残るほどの大量虐殺が事件として報じられないのは何故か。
事故後、一日足らずの内に真相究明に乗り出した内藤財団の不自然な動き。

次から次へと、事態が複雑化していく。
始まりはオセアンの大事件だったのが、今ではその範疇を明らかに超えている。
恐らくは世界規模でこの事件は連鎖を起こし、飛び火していくだろう。
結果としてトラギコが危惧しているのは、デレシアの謎を解くという重要な目的が妨害されないかと云うことだ。

96 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 22:14:15 ID:ndF7vt0k0
トラギコが目を離した一瞬の内に彼女は病院から姿を消し、消息を眩ませた。
ギコ・カスケードレンジもまた、彼等をトンネルから脱出させてから姿を消した。
本当に腹立たしい。
どこまでも馬鹿にしている。

どうしてもっと早く、彼女達と出会わなかったのか。
もっと早く出会っていれば、もっと愉快な人生を過ごせたはずなのに。
幾ら悔やんでもこればかりは改変のしようがないことぐらいは理解している。
が、やはり悔しい。

二口目は、先ほどよりも多めにウィスキーを口に含んだ。

あらゆる手がかりを失った以上、手元の情報と経験を使って捜査を進めるしかない。
デレシアが向かった方角は、恐らくは北だ。
南のオセアンから北上してきている以上、彼女はそのまま進むだろう。
トラギコを歯牙にもかけずに旅を続けることは、一目で分かった。

だからこそ言える。
彼女は針路を北に取り、旅を続行しているはずだ。
となると、次の目的地は山を越えるか正義の街を越えるか、だ。
耳付きの少年ブーンが怪我を負っていることを考慮すると、山越えは考え辛い。

残された選択肢はジュスティアの突破だけ。
では、トラギコが次に向かうべきはジュスティアだ。
正直、トラギコはジュスティアに寄りたくはなかった。
警察の本社があり、苦手な人間――トラギコを目の上の瘤として扱う人間――が大勢いるからだ。

こうして出張費を使っていることも気に入らないだろうが、本部はトラギコに大きな借りがある。
幾つもの難事件を解決し、警察への信頼獲得と利益への貢献だ。
常客達の中にはトラギコの存在があるから依頼をする人間もいるほどで、それが、トラギコがここまで好き放題に動いていながらも解雇されない理由である。
今も好き勝手に事件を追っている中でジュスティアに行けば、間違いなく壮絶な嫌がらせを受けるに違いない。

取り分け、事務屋あたりから経費に関する文句で一週間は足止めを食らうだろう。
デレシア達がジュスティアを通過するのであれば、トラギコは容易に彼女達と合流できる。
さて、ここは思案のしどころだ。
三口目は唇を湿らせる程度にしておき、ナッツに手を伸ばす。

カシューナッツの甘い風味がウィスキーとよく合う。
シングルモルトはトラギコが最も愛する酒だ。
思考がよく回るようになり、意識が適度に調和された感覚になる。
結果、トラギコは一つの答えを導き出した。

陸路を使う。

ただし、目的地はジュスティアではない。
一先ずの目的地は貿易の中継点、ワインと潮風の街、ポートエレンだ。
道は何も陸だけではない。
空もあれば、海もある。

97 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 22:15:01 ID:ndF7vt0k0
ジュスティアを回避できる道は海路か空路だけだ。
この周辺から飛行便は出ていない。
となると、選択肢から除外され、残るのは陸路と海路の二つだったのだ。
出ているのは、ポートエレンからの定期便。

そして、船上都市のオアシズだけだ。

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     l l、「l \\                                   \
     l l、l l ||.\\ E!                                  
     l l、l l || |\\(___)       E! (___)      E! (___)      E! (
     l l、l l || |   l\\         | ̄ ̄ ̄ ̄|      | ̄ ̄ ̄ ̄|      |
      l\l l. ̄ ゙̄\l」 \l二二二二|        |二二二|        |二二二|
     |\l三三三三l  l」 ||  | |\|        |   |\|        |   |\.|
‥…━━ August 4th 00:32 ━━…‥
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厚い金属の壁と床に囲まれたその空間は、狭く息苦しかった。
床は金属の網で作られ、その下には配管が通っている。
空間全体からは唸るような低い音が鳴り続け、生き物の体内を思わせる。
湿度も高く、世辞でも快適とは言い難い。

ここは、海底三千フィートを進む原子力潜水艦“オクトパシー”の艦内。
艦内食は毎週金曜日がカレーで、それ以外はレトルト食品が並ぶ。
娯楽と言えば酒かカードゲームかの二択で、若い船員には不評だった。
ワタナベ・ビルケンシュトックにとっては監獄と大差ない場所であり、正直、強化外骨格装着の際にコンテナ内に引き込まれるよりも苦痛に感じている。

ストレスは面白いほど溜まる一方で、ワタナベは常に何かしらのストレス解消方法を探すことに艦内で過ごす時間を割り当てていた。
今日のストレス解消に選んだのは、役立たずをなじることだった。
机を挟んだ目の前で腕を組む偉丈夫に、挑発的な言葉をかけた。

从'ー'从「で、お礼の言葉もないわけぇ?」

( ゚∋゚)「礼だと? 貴様が援護すれば、私が負けることもなければエクスペンダブルズを破壊せずに済んだことだろう」

クックル・タンカーブーツは今にも怒鳴りそうな声色で、そう返す。
ワタナベは意に介さず、手元のコーヒーカップを手に取る。
湯気はとうになくなり、コーヒーはすっかり冷めきっていた。

从'ー'从「へぇ、イルトリア人が負けた言い訳するんだぁ。
     みっともないなぁ」

(#゚∋゚)「……なんだと?」

身を乗り出して掴みかかろうとしたクックルの顔に、ワタナベはカップを投げつけた。
視界を一瞬奪われたクックルの手は空を切り、代わりに、ワタナベは砕けたカップの破片をクックルの喉に押し当てた。
先端が喉元に食い込み、ジワリと血が滲む。

从'−'从「うるせぇんだよ、鳥頭。
     手前、助けてもらっただけでもありがたいと思えよ」

98 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 22:16:12 ID:ndF7vt0k0
(;゚∋゚)「ぐっ……」

从'−'从「……ふん」

薄く切り傷を残し、ワタナベはクックルを突き飛ばした。
つまらない人間だ。
殺す楽しみも見いだせない。
席を立ち、自室に戻ろうとする背中にクックルが憎しみを込めた声をかける。

(;゚∋゚)「ワタナベ、貴様……!!」

从'−'从「何?」

振り向きもせず、ワタナベはその場にクックルを残してその場を去った。
道中、彼が背中から襲うことは考えていなかった。
それが出来ないから、あの程度の男なのだ。
部屋の前に来た時、別の種類の視線を背後に感じた。

o川*゚ー゚)o「なかなかいい見世物だったよ、ワタナベ」

ボサボサの金髪を持つ、小柄な女性。
胸ぐらを大きくはだけさせたワイシャツと白い下着だけを身に着けた彼女は、濁った碧眼を輝かせ、ワタナベに声をかけた。
女性の名は、キュート・ウルヴァリン。
当初の予定通り、海底街から潜水艇で脱出したワタナベとクックルの回収を行った張本人だ。

この作戦は元々クックルが請け負っていたもので、ワタナベはその支援に回っただけに過ぎない。
結果的には成功でも、経過的には失敗に近い。
クックルとキュートはこの後に別の作戦を控えており、これはあくまでも途中経過でなければならなかったのだ。
無能さを前面に出したクックルのせいで、大分手古摺ってしまった。

このままで本当にジュスティアでの作戦が成功させられるのか、ワタナベは疑問だった。
まぁ、クックル程度を欠いたところで作戦に支障が出るような脆弱なものなら、最初から実行には移さないだろう。
艦内の人間によれば、クックルは監視役的な意味で作戦に加わったのだという。
監視役が足を引っ張るようでは、この先が心配だ。

从'ー'从「あらぁ、やだなぁ、キュートさん見ていたんですかぁ」

o川*゚ー゚)o「あぁ、堪能させてもらったよ。
       ニクラメンで何かいいことでもあったのかな?」

流石だ。
飄々としているが、鋭い観察眼と勘を持っている。
隠し事は通用しなさそうだったが、素直に話そうとは思わない。

从'ー'从「いい出会いがあったんですよぉ」

それだけ言って、ワタナベは部屋に戻った。
これ以上、キュートに話したくはない。
胸の高鳴りはまだ収まっていない。
嗚呼、早く。

99 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 22:16:54 ID:ndF7vt0k0
早く、彼に再会したいものだ。
一体いつ、次は会えるのだろうか。
そしてその時、彼はどう変わっているのか。
それが気になって、体の芯が疼く。

ワタナベに宛がわれた部屋は、剥き出しの金属の上に薄い布が乗せられただけの簡易ベッドがあるだけで、それ以外には本が一冊あるだけ。
厚みのあるその本は綺麗な装丁がされていたが、手垢で汚れ、端は破れていた。
ベッドに腰を下ろし、ワタナベはその本を手に取る。
栞のはさまれたページを開き、そこに並んだ文字に目を走らせ、意識の世界をそこに投じさせる。

十五年間の中で、もう何万回と読み返した本だ。
内容は一字一句違えずに覚えている。
それでも、この本を読むと気持ちが落ち着く。
本の内容が気に入って読んでいる訳ではない。

この本の存在が気に入っているだけなのだ。
中身に関しても、決して傑作と呼べるものではないし、好きでもない。
精々凡作止まりの、無名な作家の本だ。
大切なのは、この本の存在だった。

擦り切れた表紙には、“世界の童話集”と書かれていた。
紛う事なき、子供向けの本だ。
本には百近くの童話が載せられており、栞を挟んでいたページは特に念入りに読み返していた。
この話だけは、ワタナベのお気に入りだった。

一日に最低でも十回は読み直さないと気が済まないほどのお気に入りだ。
随分と昔から伝わる物語らしく、その発端は親が子に読み聞かせようと考えた話らしい。
何度読んでも愉快な話で、睡魔を誘う仕上がりだ。
この話をいつか彼にも伝えたいと、ワタナベは切に思う。

从'ー'从「……お休み」

彼との再会に胸を躍らせながら、ワタナベはゆっくりと瞼を降ろした。

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‥…━━ August 4th AM04:01 ━━…‥
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100 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 22:20:00 ID:ndF7vt0k0
涼しげな風が浜辺に吹き付け、細かな砂とサンゴが混じったそれを巻き上げている。
数千、数億年の歴史の中で作られてきたそれらは、いとも容易く舞い上がった。
水面は穏やかに揺れ、太陽と空の色を反射して煌めいている。
風と波の音以外に聞こえるのは、どこからか聞こえてくる木々のざわめき。

人の息遣いは、どうにか五人分――その内二人は寝息――が聞こえる。
女性四人と少年一人が、クロジングから離れた砂浜にいた。
砂埃とも何とも云い難い物が足元を白ませ、水平線の向こうを紅蓮に染め上げる太陽に照らされる、風変わりな二組。
向かい合う二人の女性は、それぞれの背中に小さな子供を背負っている。

(゚、゚トソン「では、イルトリアでお待ちしております」

再会の約束を最初に取り付けたのは、トソンだった。
背中の少女は、まだ、眠っている。

ζ(゚ー゚*ζ「分かったわ。
      遅かれ早かれ、イルトリアには必ず寄るつもりだったし。
      ミセリちゃんをよろしくね」

(゚、゚トソン「勿論です」

ノパ⊿゚)「トソン・エディ・バウアー……だったな。
    また会おう」

夜明けを迎える直前、ヒートの背中には耳付きの少年、ブーンの姿があった。
ブーンは昨日の疲れもあってか、起きる気配がない。
すやすやと寝息を立てる二人に配慮して、彼女達は声を潜めながら会話を続けた。

(゚、゚トソン「えぇ、ヒート・オロラ・レッドウィング様。
    では、またお会いしましょう」

その言葉と共に、それぞれ別の道を歩き出す。
ヒートとデレシアはポートエレンを目指し、北上する。
トソンは南へと向かう。
東に見えていたはずのニクラメンは海底に沈み、太陽が世界を明るく染め上げる。

追い風が、南から北に向かって勢いよく吹き付ける。
空に浮かぶ夏の雲が、風に流されてゆっくりと北に向かう。
足取りは軽い。
デレシアも、そしてヒートも、この先に平穏が待ち受けていないことを知っていた。

それでも、この旅は終わらない。
旅に終わりが来るとしたら、この命が止まる時だけ。
生きている間に是非ともブーンの成長を見届けたいというのが、デレシアとヒートの共通の望みだ。
そしてデレシアは、彼なら必ず、彼女が目指すものに到達できると確信している。

これまでの間、ブーンは本当の意味で枷から解き放たれてはいなかった。
それは誰かに習い、誰かに従って成長する、依存と云う枷に守られたか弱い存在。
しかし、自分自身の意志で行動し、それを己の強さとした。
それは彼の自立の一歩を意味していた。

101 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 22:20:41 ID:ndF7vt0k0
彼は、枷から解き放たれたのだ。
誰でもない、自分自身の力でそれを果たしたのだ。
後は彼の両足で好きな場所に歩き、思うままに行動し、成長する。
デレシア達の元を旅立つ日も、そう遠くないかもしれない。







太陽に横顔を照らされる旅人達の行く先には黒雲が浮かび、視界の果ての空は灰色に滲んでいた。
空は鈍色で、雲は墨色だ。
海の果てに見えるのは墨汁のような濃厚な夜の残滓。
一瞬、その雲の隙間、空の向こうに何かが煌めいたように浮かぶが、意識するよりも速く消える。







――だが、その遥か彼方に浮かぶ最果ての都の姿に気付いた人間が、一人だけいた。







果てしない旅を続けるデレシアだけなのであった。






Ammo for Relieve!! 編 The End

102 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 22:21:28 ID:ndF7vt0k0
支援ありがとうございました!

昨日、一昨日でVIPに投下した物をこちらに改めて投下させていただきました。

質問、指摘、感想等あれば幸いです。

103 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 22:22:50 ID:kJUeEPCoO
既読のところだから流し読み 
もう少しだな、支援

104 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 22:25:04 ID:kJUeEPCoO
と書きこんだら、終わってた

105 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 22:36:25 ID:kJUeEPCoO
このあたりの描写が後々どう使われてくるんだろうか

106 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 22:50:35 ID:3xx7Z7ME0

おもしろい。
棺桶はそれぞれどのくらいの大きさですか?

107 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 22:57:55 ID:ndF7vt0k0
>>106
クラスによってバラバラですが、大まかな指標は

Aクラス 〜165cmぐらいまでの高さ
Bクラス 165cm〜220cmぐらいまでの高さ
Cクラス 220㎝〜

となっています。
Cクラスを運べるのはマッチョだけです。

108 名も無きAAのようです :2013/07/23(火) 23:34:18 ID:3xx7Z7ME0
>>107
背負える大きさだとは予想してたけど、Cクラスの大きさは予想以上だった。続き待ってますよ

109 名も無きAAのようです :2013/07/24(水) 18:26:59 ID:QQMq7RMEC
乙!

あんなに強かったクックルがなんたる噛ませ・・・

110 名も無きAAのようです :2013/08/18(日) 20:26:18 ID:8zgNUgUU0
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Remember, kid.
覚えておけ、若造。

The truth is not always single.
真実はいつも一つではない。

The truth which you have been believing is just one side of the truth.
お前が信じている真実は、真実の一面でしかないのだ。

The solving the mystery of a crime is just puzzle.
事件解決など、ただのパズルに過ぎない。

Therefor, you do not forget that thing.
だから、このことを忘れるな。

There is no mystery which cannot be solved in this world.
解けない謎など、この世界には存在しないのだと。


                      Mr. Sherlock Gray - [Letter to the fake]
                      シャーロック・グレイ著【-偽りへの手紙-より抜粋】


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                            配給
【Low Tech Boon】→ttp://lowtechboon.web.fc2.com/ammore/ammore.html

【Boon Bunmaru】→ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/ammore/ammore.htm
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                     序章【fragrance-香り-】
              ‥…━━ August 4th AM03:25 ━━…‥
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アルマニャックとジャズミュージックを愛するその人物は、二時間前に殺された。

銅色の光沢を放つ物体を指先でつまみ、弄ぶ。
真鍮製の薬莢に包まれたそれは、銃弾だった。
ただの銃弾ではない。
殺傷力を高めるために先端に十字の切れ込みを入れた銃弾だ。

111 名も無きAAのようです :2013/08/18(日) 20:27:38 ID:8zgNUgUU0
着弾の衝撃で弾頭が広がり、周囲の肉を吹き飛ばす。
頭に撃ち込めば頭蓋骨を貫通し、脳漿を四方に撒き散らす事だろう。
ガンオイルに輝くそれを、一発ずつ、じっくりとダブルカラムの弾倉に押し込む。
一発毎に、想いを込めて。

秒針が時を刻むような音が、ただ、一人分の息遣いと絡まって部屋に漂う。
オイルと鉄の匂いに混じって、シャンプーと石鹸の濃い香り、そして情事の残り香が時折鼻につく。
悪い匂いではない。
まだ漂う仄かな汗の匂いもたまらなく好きだ。

準備を始めてから、静かな時間が過ぎていた。
時計の秒針はまだ四周半しかしていない。
弾込めを終えた弾倉を、拳銃に装填する。
遊底はまだ引かず、それをそのまま枕の下に忍ばせる。

腰掛けているベッドの上には、眼を見開き、口を大きく開けた死体があった。
太い手足は血の気を失い、顔は青白く変色している。
これが先ほどまで獣のように体を求めてきた人間の末路だ。
まぁ、最後にいい思いが出来たし、二回も派手に絶頂できたのだから、本望だろう。

白い指先に触れてみると、冷たくなっていた。
絡めていた指先の感触が一瞬でこうも変わると、生命とは機械に近い物だと感じる。
顔の傍に手をついて、動かなくなった顔を見つめる。
口の中に躊躇うことなく腕を突っ込み、その奥に詰まっていたハンカチを取り出した。

そのハンカチをビニール袋に入れて、床に置く。
腕に付着した独特の匂いを放つ唾液を見つめ、舌を出して舐める。
汗と唾液、様々な液体の混ざった味。
悪くない味だ。

二時間前に味わったものと比べて新鮮さに欠けるが、美味だ。
だが物足りない。
一度味わってしまうと、次から次へと別の味を求めるのが人間の性。
さて、まずは指から味わってみよう。

硬くなった腕を持ち上げ、口に含む。
舌で舐めまわし、皮膚の下にある味を吸い出す様に堪能する。
石鹸の風味と汗の風味が混じった、何とも言えぬ味だ。
舌先に若干感じる毛の感触も味わい深い。

堪能しながら、ふと、これまでの道のりを振り返る。

計画には長い時間が必要だった。
材料の調達、計画の調節。
雌伏の時は終わりだ。
今夜、周囲の全てが変わる。

112 名も無きAAのようです :2013/08/18(日) 20:29:02 ID:8zgNUgUU0
全てはこの日のためにあったのだ。
自分の人生も、何もかもが大義成就のためのパーツに過ぎなかったのだ。
傍の机に置いてあったバーボンの瓶を手に取り、一口飲む。
肢体を肴に飲む酒は、格別だ。

ましてや、死体の肢体となると、多少手をかけなければ味わえない珍味。
最後にしゃぶっていた爪先から口を離し、そのまま舌先を腿の裏に滑らせる。
やはり生きていた時と味が違う。
死んでからだと風味も落ちるし、反応が無いので面白みに欠けるが、その分味に深みが増す。

堪能しきった死体には、もう、自分の唾液が付いてない部分はなかった。
耳の中からうなじ、背中、とにかくあらゆる部位を舐めて味わった。
もういいだろう。
この死体が発見されても、オーバードーズで意識が朦朧とした人間が偶然海に転落したとして処理される。

これは、そういうシナリオなのだ。
時間も、場所も、タイミングに至るまで、計画に関わる全てが計算されているのだ。
海沿いに位置する物置のようなこの部屋を手に入れたのも、全ては計画のため。
この計画に、一切の不備も隙も無い。

完全にして完璧な計画。
即ち、完全犯罪である。

海に面する窓を押し開くと、潮の香りと力強い打楽器の音が入り込んでくる。
死体に服を着せて窓から海に投げ捨てる。
海面に落下するその音は、誰の耳にも届かない。
聞こえるのは潮騒と戯れるように奏でられるヴァイオリンの旋律だけ。

黒い海面に揺られる死体を見届けてから、シャワーを浴びるために部屋の中に戻った。
水平線が朱に染まる頃には、死体はどこかへと流されて消えていたのであった。

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‥…━━ August 4th AM06:25 ━━…‥
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ゆらり、ゆらりと規則正しく体が揺れる。
遠くから届く、磯の香り。
耳に届くのは潮騒と、力強く脈打つ鼓動の音。
心が芯から解され、体全体が液体のようにリラックスしている。

甘く、心地いい香り。
とても、気持ちのいい微睡の中。
夢見心地の中、何かを考えることは、出来なかった。
思考が蕩けきった中、出来るのは身を任せることだけ。

大きなそれに身を委ね、いつまでも、そうしていたかった。
安定した動きの中に安心を見出し、そこに安寧を求めた。
節々が痛む体のことなど、今は気にならない。
体を支える誰かの大きな背中と一つになる感覚が、痛覚と思考を麻痺させる。

113 名も無きAAのようです :2013/08/18(日) 20:31:42 ID:8zgNUgUU0
そう、これは誰かの背中だった。
とても親しく、そして素敵な人の背中。
誰の背中か、考える前に感じ取れるほどにその背中には覚えがあった。
出会ったその日から、自分の事を大切にしてくれている、一人の女性。

ヒート・オロラ・レッドウィングの背中だ。
力強い鼓動と、華やかな香り。
それは、自分の体が一番よく覚えている。
この背中は多くの事を語り、そして教えてくれた。

何かを守るために全てを懸け、強大な物に立ち向かうことの難しさと大切さ。
そうしたいと自分が思ったから動くということは、彼女に教わった。
彼女の背中が、そう教えてくれたのだ。
その教えを守り、自分は実際にそれを行動に移せた。

言葉だけなら、行動には移せなかった。
無言で実行に移した彼女の背中があったからこそ、自分はミセリ・エクスプローラーを守ることが出来た。
かなり痛い思いもしたが、後悔はなかった。
彼女が笑顔を浮かべて、再会を約束してくれただけで満足だった。

ヒートの跫音に重なるように、砂を踏みしめる別の跫音を聞き取る。
匂いを嗅がずとも、呼吸音を、この足運びの音を聞かずとも分かる。
存在感だけで伝わる、この圧倒的な安心感。
命の恩人であり、よき理解者。

デレシアだ。
今でも思い出せる。
四日前、七月三十一日の出会いの瞬間を。
あの日、デレシアとあの店で出会わなければ、今こうしていることはあり得なかった。

自分は奴隷で、自由はなく、思考は禁じられ、ただ道具として徹することが人生だと思っていた。
売られ、蹴られ、罵られ。
それが日常だった。
不変だと思っていた、当たり前の光景だった。

だが、それは大きな間違いだと知ることが出来た。
たった一人の意志と力で、世界は大きく変わるのだ。
デレシアはその二つだけで、ブーンの人生を変えたのだ。
未だに理由は分からないが、とにかく、結果は変わらない。

ようやく、自分の置かれている状況が分かった。
今、自分はヒートに背負われながら、海辺を歩いているのだ。
そしてその傍にデレシアがいるのだ。
どこに向かっているのか、まだ分からない。

だけど、これだけは分かる。
この先に何が待ち受けていても、きっと、大丈夫だ。
意識が再び微睡み始め、思考がぼんやりとしてくる。
そうして呼吸をする内に、また、眠りの中に落ちていく。

114 名も無きAAのようです :2013/08/18(日) 20:33:14 ID:8zgNUgUU0
どこか遠くから、ウミネコの声が聞こえてきたのを最後に、ブーンは眠りに落ちた。

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                                    原作【Ammo→Re!!のようです】

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沿岸に走るシーサイドシュトラーセ鉄道は、ポートエレンを通る唯一の鉄道だ。
鋼鉄の線路は潮風による酸化を防ぐための加工がされており、津波や暴風から車両を守るための線路壁が設置されている。
線路壁とは、緊急時に電動で作動する防波・防風の役割を果たす壁の事だ。
普段は細かく蛇腹状に分断されて線路脇に広がっているが、いざ電気信号を受け取ると、花の蕾が閉じるような動きで線路と車両を守る壁になる。

寂れた無人駅の券売機で、三人分のチケットを購入し、改札を通ってホームに立つ。
時刻表では、後七分でポートエレン行の列車が来ることになっている。

ζ(゚ー゚*ζ「ヒートはどこまで旅をしたことがあるの?」

三人だけのホームで最初に口を開いたのは、カーキ色のローブ、豪奢な金髪、宝石のような碧眼、そして履き慣らしたデザートブーツで足元を飾るデレシアだった。
風に靡くローブと髪の毛が、どこか涼しさを感じさせる。
普段は何も背負っていない背中には、彼女の背丈よりも僅かに小さな黒い長方形の物体があった。
軍用第七世代強化外骨格――通称“棺桶”――の中でも、特化した目的で設計されたコンセプトシリーズのそれだ。

強化外骨格を破壊することだけに重点を置いて設計された、対強化外骨格用強化外骨格。
その名は、“レオン”。
左腕には放電装置、右腕には巨大な杭打機を備え、あらゆる装甲を一撃で撃ち抜く力を持っている。
だがそれは、デレシアの使用する棺桶ではなかった。

デレシアの隣に並び立つ、黒いスラックスとグレーのワイシャツの上にデレシアと同じローブを羽織る女性こそが、その棺桶の持ち主。
赤髪と瑠璃色の瞳、そしてまだ新しい傷を全身に負った元殺し屋、ヒート・オロラ・レッドウィングだ。

ノパ⊿゚)「あたしは、北は水の都、南はシュタットブールまでだな」

ヒートは、棺桶の代わりに犬の耳と尻尾を持つ少年を背負っていた。
一般的には耳付きと呼ばれ忌避される人種だが、その運動能力、身体能力は一般的な人間を凌駕しており、その生態は謎が多い。
奴隷として売られたり、生まれた途端に処分されたりとしているためだ。
彼女達と共に旅をする少年の名は、ブーン。

湾岸都市オセアンで奴隷として扱われていた彼は、偶然出会ったデレシアの手によって自由の身となった。
同じくオセアンで出会ったヒートにも彼は受け入れられ、それ以来、三人で旅をしている。

115 名も無きAAのようです :2013/08/18(日) 20:35:18 ID:8zgNUgUU0
ノパ⊿゚)「ポートエレンは初めてだから、あそこに何があるのかあたしは分からねぇ」

ζ(゚ー゚*ζ「市場と、あとはワインぐらいかしらね。
      人柄的にはオセアンよりも温厚よ」

オセアンもポートエレンも海沿いに作られた街だが、オセアンは世界屈指の大都市だ。
大量の埠頭を持つオセアンであるが、最大でも大型のタンカーが停泊できるぐらいの大きさしか――普通はそれで十分なのだが――ない。
それに比べればポートエレンは小さな街だが、しかし、ポートエレンには可変式埠頭がある。
埠頭を可変させることでどのクラスの船でも寄港することが可能となり、世界最大の船上都市であるオアシズが停泊できる数少ない港の一つとなっている。

可変式埠頭の欠点は、それを使用している間、停泊できる船の数が減るという点にある。
それでも、オアシズ停泊中に得る利益の方が魅力的だ。

ζ(゚ー゚*ζ「実はね、あそこはワインよりもグレープジュースの方が美味しいのよ」

ノパ⊿゚)「ほぉ、美味いグレープジュース、ねぇ。
    あれに美味い不味いがあるのかは知らねぇが、美味いのを飲んだことはねぇな」

ポートエレンで採れるブドウはワインにすると甘口となり、ジュースにするとこの上なく濃厚な物となる。
段々畑のような街並みの中にあるレストランでは、しばしばそのジュースを飲むことが出来る。
しかし、ブドウをジュースに加工するよりもワインに加工する方が、はるかに利益がいいため、あまり数は出回っていない。

ζ(゚ー゚*ζ「一度飲んだら忘れられない味よ」

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          .rロ、.    |.。○.| !-! |.○。|  ||      |:|     _,;;-''
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::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::!:    _,, ='' 三三三 ''= .,,_   :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
:::::::::::::::::::::::::::::::::: _,, =''  ̄三三三三三三三  ̄''= ,,__ :::::::::::::::::::::::::::::::::::

                 脚本・監督・総指揮【ID:KrI9Lnn70】

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(∪-ω-)「おー……」

ヒートの背中で、ブーンがゆっくりと瞼を開く。
最初に目があったのは、デレシアだった。

(∪´ω`)「お」

ζ(゚ー゚*ζ「おはよう、ブーンちゃん」

(∪´ω`)゛「おはよう……ございます、デレシアさん。
       ヒートさんも、おはよう、ございます」

ノパー゚)「おう、おはよう。
    どうだ、体の方は?」

116 名も無きAAのようです :2013/08/18(日) 22:48:18 ID:fQdY.ViA0
支援

117 名も無きAAのようです :2013/08/19(月) 13:50:04 ID:IXC.FyFoO
来てる来てる!

118 名も無きAAのようです :2013/08/20(火) 21:47:14 ID:S.muFcjM0
(∪´ω`)「ちょっとだけ、おなかが……いたい、だけです」

昨日負った傷が癒え始めている証拠だ。
回復の具合によっては、流動食から固形物に切り替えてもよさそうだ。

ノパ⊿゚)「そうか、なら今日はしばらくおぶっててやるからな」

(∪´ω`)゛「ありがとう、ございます……お?」

最初の頃は気まずそうに甘えていたが、今では、大分素直に甘えられるようになっていた。
これもまた、成長だ。

(∪´ω`)「なにか、きます」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね、そろそろ時間だからね。
      ブーンちゃん、列車を見聞きするのは初めて?」

(∪´ω`)゛「れっしゃ?」

ζ(゚ー゚*ζ「大きな乗り物なの。
      敷かれたレールの上をしっかりと走る、大きな乗り物の事を列車、っていうのよ」

そして、地平線の向こうに現れた小さな点だったものが近づき、徐々にその赤黒い姿が大きさを増す。
シーサイドシュトラーセ鉄道が誇る大型六両編成の鋼鉄の車両――テ・ジヴェ――が目の前を悠然と通り過ぎた時、ブーンの尻尾はわさわさとローブの下で動いていた。
テ・ジヴェは発掘復元された太古の車両で、振動の少なさと速度の面において非常に優れたものだ。
ポートエレンからジュスティアに入り、そしてその先の都市に行く前には別方面から合流した車両と連結を行い、合計で十二両編成となる。

六両編成とは言っても、車内販売は勿論の事、食堂と個室を備え持つ。

(*∪´ω`)「おー! おおきい! おおきいお!」

珍しく声を上げて興奮を表すブーンに、デレシアもヒートも破顔を抑えられなかった。
やはり、ブーンは子供なのだ。
子供にはあまりにも悲惨な環境下で育った彼の中から、子供らしさは消えていない。
この無垢な笑顔が、二人の心が腐り落ちるのを防いで暮れる。

ある意味で、相互扶助の関係にある。
ブーンを守り、無事に成長するまで手を貸し続ける代わりに、彼女達の精神安定剤の役割を果たしてもらう。
無意識の内に生じたこの関係は非常に強力だ。
何より、心地がいい。

デレシアとしてはブーンだけでなく、ヒートの様子も観察できることが役得だと思っている。
彼女にはまだ謎がいくつもあるが、特に気になるのが彼女の過去だ。
これまでに多くの人間の過去を知ってきたデレシアの楽しみが、他人の過去を知り、現代に至るまでの歴史を知ることである。
果てしない旅を続ける中で、これが彼女の趣味のようなものになっていた。

人にはそれぞれの歴史がある。
ブーン然り、ヒート然り。
当然、デレシアにも過去はある。
誰かに語り継ぐような過去ではないし、話すような過去でもない。

119 名も無きAAのようです :2013/08/20(火) 21:48:08 ID:S.muFcjM0
空気の抜けるような音と共に、列車の扉が開く。
まとまって降りてきた二十名弱の男女は、皆、似たような恰好をしていた。
日焼けした肌、海水で色が抜けた茶色の髪。
金属がぶつかり合う音のするボストンバックに、マリンシューズ。

海底に沈んだニクラメンに向かい、金品や貴重品を引き上げるトレジャーハンターだ。
身に付けた装飾品、もしくは服には彼らがトレジャーハンターギルド(※注釈:企業よりも規模の小さな集団)に所属することを示す、独自のロゴが描かれていた。
錨とサメをあしらったロゴは、彼らがトレジャーハンターの中でも世界第三位の規模を持つギルド、“マリナーズ”に所属していることを意味している。
それに続いて、マリナーズと同じ格好をした十人ほどの男達が降りてきた。

案の定、服にはギルドのロゴがあった。
それまで寝ていたのか、続々と人が列車から降りてくる。
フリーランスのトレジャーハンターやギルド、彼らを狙った売春婦の一団までいた。
先に乗車していたヒートとブーンが、デレシアの方を不思議そうに見る。

ニクラメンに向かった人間達に対する興味を失い、デレシアも乗車した。

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            撮影・演出・音響・衣装・演技指導・編集【ID:KrI9Lnn70】

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ひんやりとした列車内は、驚くほど空いていた。
三人が乗り込んだのは三号車だったが、誰も座っていない。
一駅先のポートエレンまでは、十分弱の列車旅となる。
短い間だが、楽しませてもらうとしよう。

テ・ジヴェの座席は全て、机を挟んだ対面型の四人席。
一車両に十四セットあり、合計で五十六人が乗ることが出来る。
それが今は、三人の貸切状態だ。
これで、周囲を気にすることなく電車旅が出来る。

入り口に最も近い席を選び、ブーンを窓際に座らせ、ヒートが通路側に座った。
ブーンと向かい合う形で座り、デレシアは途中まで降ろされていた窓を全開にした。
若干くぐもった車内の匂いと空気は、ブーンの鼻には厳しい物がある。
直ぐに涼風が車内の空気と入れ替わり始めた。

一瞬だけ車両が揺れると、テ・ジヴェはゆっくりと発車した。

(*∪´ω`)「すずしい……です」

120 名も無きAAのようです :2013/08/20(火) 21:49:12 ID:S.muFcjM0
静かに移り変わる景色を見ながら、ブーンはそう呟いた。
冷房よりも自然の涼の方がブーンは気に入っているようだ。
徐々に加速する景色から目を離さず、食い入るように見ている。
青空と真っ白な入道雲を背景に、まだ雪化粧の残るクラフト山脈と、鮮やかな新緑に囲まれたフォレスタが作り出す幻想的な風景は、まさに夏の景色と言える。

蝉の声とウミネコの鳴き声が合わさって、そこに風と潮騒、そして枕木がリズミカルに踏まれる音とが重なり、音楽を作り上げる。
遠ざかるフォレスタの森に、ブーンは何を思うのだろう。
自分を愛してくれた人間との別れを経験した地、それがブーンにとってのフォレスタだ。
目の前で笑い、目の前で死んだペニサス・ノースフェイスは、ブーンに何を残せたのだろうか。

列車が曲がり道に差し掛かり、車両が内側に傾く。
視界からフォレスタが消え、景色に夢中になっていたブーンの表情が一瞬だけ陰り、小さく呟いた。

(∪´ω`)「……またね、ペニおばーちゃん」

その小さな声は風がそっと運び去り、夏の空へと吸い込まれていったのであった。

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             制作協力【全てのブーン系読者・作者の皆さん】

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波止場に打ち寄せる波の音に耳を澄ませ、弱々しい太陽光を乱反射する水面に目を細めた。
強く吹き付ける潮風に流れる紫煙に目を細めつつ、水平線の向こうに浮かぶ黒雲を眺める。
今夜には嵐になりそうだ。
嵐は好きだ。

音を、姿を、匂いを、そして人の記憶を曖昧にしてくれる。
晴天よりも曇天、曇天よりも雨天、雨天よりも嵐だ。
計画実行にはこの上ない天候である。
この天候も予定の内。

必要とされる状況、展開、そして結末。
そこに至るまでに必要とされる環境。
あらゆる不測の事態を想定し、それに対応するだけの策は巡らせてある。
そして、つい先ほど、想定していた負の展開が発生したことを確認した。

しかし問題はない。
それの解決の仕方を知っている。
解決に至るシナリオは用意してある。
その事件は描いたシナリオの通り、事故へと転じ、無害な物へと変わる。

121 名も無きAAのようです :2013/08/20(火) 21:50:44 ID:S.muFcjM0
.





斯くして、全ては整った。
あらゆる物事がレールの上を走り、完全犯罪成就という終着点まで進むだけ。
誰にも止められない。







何故ならこれは――







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               これは、力が世界を動かす時代の物語
      This is the story about the world where the force can change everything...

                 そして、新たな旅の始まりである
              And it is the beginning of new Ammo→Re!!

                                                 序章 了

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122 名も無きAAのようです :2013/08/20(火) 21:51:33 ID:S.muFcjM0
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 「「「「「「「「l|ヨヨヨ|T:|l]]]]]]]]]]l甲|―┐ -- : |.._」//!il:::::::|\\|iiiill|同TTTTT −コ「
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 ⌒..~^..⌒ 〜...^...~ 〜... ⌒ ...^〜~..⌒~...^~ {i二二二二二二二二フ  ̄ ̄ ̄
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               ‥…━━ August 4th AM07:05 ━━…‥

                                        Ammo for Reasoning!!編
                                                   第一章
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潮風は市場の活気と海の香りを乗せて、街全体に凉を運んでいた。
所々が敗れた白い――今では薄汚れている――テントが港に設営され始め、次々と漁船から陸に魚が上げられる。
水揚げ場では、早速威勢のいい声で競りが始められ、ベルの音と歓声が上がる。
砕いた大量の氷の上に魚が積まれ、テントの方へと運ばれる。

商品が届いたその場で、赤いマジックペンで段ボールの札に値が書かれ、売り子が手と口で客を呼び寄せる。
漁船の船着き場の反対側にある荷降ろし場には、中型の輸送船が錨を降ろして停泊し、重機を使って荷を降ろしている。
積み荷を仕分ける水夫たちの肌は皆黒々としており、額には大粒の汗を流していた。
木箱の隙間からは木屑が顔を覗かせている。

中身は別の土地から輸入された酒だ。
これから輸出する特産品のポートワインは、降ろした荷と引き換えに積み込まれることとなる。
この土地のポートワインの原料は、西部に広がる畑で採られたブドウだ。
気候の影響も強いが、発酵の際に使用する樽の独特な香りがワインに移り、それがポートエレン産のワインの特徴となっている。

数は少ないがウィスキーも生産しており、こちらも磯の香りと樽の香りで人気を博している。
色とりどりの野菜と鮮魚が並ぶ漁港で開催されているポートエレンの朝市は、普段以上の賑わいを見せていた。
その原因は、港に停泊している巨大なビル群かと見紛う船。
その名はオアシズ。

世界最大の船上都市にして、世界最大の客船でもあるオアシズが補給のためにポートエレンに寄港しているのだ。
出航時間は夜なので、船の上で長い時間を過ごしていた人間達は久しぶりの地上を味わおうと、ポートエレンの朝市を訪れていた。
オアシズの客だけでなく、住民から船員まで、出航時間までの間で地上の空気と店を満喫している。
混雑する朝市の中、カーキ色のローブ――ペニサス・ノースフェイスからの贈り物――を身に纏うデレシア、ヒートに肩車をされたブーンがゆっくりと通り抜ける。

濃い灰色の空の向こうから、涼しげな風が吹いてくる。
どうやら、海の向こうでは大雨が降っているようだ。
風向きと強さを考えると、昼には雨雲がポートエレン上空に到達するだろう。

ζ(゚ー゚*ζ「ブーンちゃん、朝ご飯はどんなものが食べたい?」

(*∪´ω`)「おー、シャキシャキしたものが、いいです」

耳付きと呼ばれるブーンのような人種は、獣と人間のあいのこのような物で、歯応えのあるものを好む。
逆を言えば、歯ごたえの無い物はあまり好まない。

123 名も無きAAのようです :2013/08/20(火) 21:52:44 ID:S.muFcjM0
ノパー゚)「リンゴサラダでも食うか?」

(*∪´ω`)「リンゴサラダ?!」

ヒートの頭上で、ブーンが顔を輝かせる。

ノパー゚)「あぁ、シャッキシャキのレタスとトマト、それとスライスしたリンゴのサラダだ。
    あたしはシーザーサラダドレッシングをかけて食うのが好きだが、そのままでも十分美味いんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「なら、私がいいお店を知っているから、そこに行きましょう。
      少し歩くけど、いいかしら?」

ノパー゚)「どんとこい」

(*∪´ω`)゛「おー!」

デレシアの案内に従い、三人は市場を北西へと進んでいく。
ブーンの尻尾は絶え間なく揺れ続け、露店に並ぶ様々な食品に目を輝かせていた。
取り分け興味を示していたのが、マグロと新玉ねぎのカルパッチョだ。
露店ではそれを、ガーリックバターを塗った一口大の固めのパンに乗せて販売しており、食欲をそそる香りが大勢の鼻と心を虜にしていた。

確かに、この香ばしさは朝食を食べていない人間には拷問的な威力を発揮する。

(*∪´ω`)「おー……」

ノパー゚)「あれを食いたいのか?」

(*∪´ω`)゛「えっと……はい……」

デレシアとほぼ同時に気付いていたヒートが、デレシアが言おうとしていた言葉を口にした。
甘やかすと決めたのだから、これぐらいはいいだろう。
傷を癒すためにも食事は重要だ。
価格も十五セントと安く、サイズも一口大だ。

ノパー゚)「よし、一つ買ってやるよ」

(*∪´ω`)「え?!」

ノパー゚)「ただし、一つだけだぞ」

(*∪´ω`)゛「お!」

ヒートが人混みを掻き分け、露店の前に並ぶ。

「いらっしゃい! おう、坊主、何にする?」

(;∪´ω`)「……」

124 名も無きAAのようです :2013/08/20(火) 21:53:35 ID:S.muFcjM0
いつもと違う対応に、ブーンは解答を躊躇った。
普段なら、彼の耳を見られた瞬間に罵声が浴びせられてきたのだが、どういうわけか、それがない。
この反応に驚いていることにデレシアもヒートも気付いており、微笑みながら見守っている。
自分が被っている帽子の力が本物だと理解したのか、ブーンはおどおどしながらも答えた。

(;∪´ω`)「その……ちいさな、パンの……えと……」

ノパー゚)「それはマグロのカルパッチョ、って読むんだ」

(;∪´ω`)「マ……グロの、カル、カルカルカルパッチョのせ? を……ください……」

「あいよ! ねーさんたちの分もおまけしとくよ!」

ζ(゚ー゚*ζ「あら、ありがとう」

両手でブーンの足を押さえているヒートに代わって、デレシアが料金を支払う。
人混みから一旦離れて、露店の脇にあるパラソルと椅子とテーブルが置かれた飲食スペースに立ち寄る。
席は全て埋まっていたため、三人は立ったまま食べることにした。
紙ナプキンで包んで渡されたパンをブーンに渡す前に、一言付け足した。

ζ(゚ー゚*ζ「少しずつ口に入れて、ちゃんとよく噛んで食べるのよ」

(∪´ω`)「はい」

ノパ⊿゚)「ゆっくりと噛まないと駄目だからな」

(∪´ω`)「わかりました」

受け取ったパンは、ブーンのちょうど一口ほどの大きさがある。
言いつけ通りほんの少しだけ口に含み、パンの欠片がヒートの頭に落ちないようにと、唾液でパンを柔らかくしてから噛み千切った。
ゆっくりと咀嚼を繰り返し、固形から液体になる頃に飲み込む。

ζ(゚ー゚*ζ「はい、ヒートの分も」

ノパ⊿゚)つ「おう」

口で受け取ったパンを、ヒートは唇と舌を器用に使って口内に運ぶ。
ブーンの半分以下の咀嚼で飲み下したヒートは、一言で感想を述べた。

ノパー゚)「六十三点。
    だけど、海の上なら八十点越えだな。
    白ワイン片手に、釣りなんかしながらだといいな」

その中途半端な点数の理由を知るため、デレシアは半口食べた。
そして理解した。
塩味がかなり強く、味に深みが足りない。
フレッシュバジルを一枚足すだけでもかなり変わるだろうに。

が、海上で釣りをしながら片手で食べるとなると、この塩味の強さとガーリックの風味は逆にプラスポイントになる。
ニクラメン生まれならではの意見だ。

125 名も無きAAのようです :2013/08/20(火) 21:55:42 ID:S.muFcjM0
ζ(゚ー゚*ζ「そうね、そのぐらいが妥当かしら」

ようやく一口目を飲み込んだブーンは笑顔で感想を口にした。

(*∪´ω`)「おいしいです!」

点数など関係なく、純粋な味の観点で評価を下すブーンの方が、彼女達よりもよっぽど料理を楽しんでいる。
旅が長くなると、どうもよくない癖がついてしまうことに気付かされ、デレシアとヒートは同時に困った風な笑顔を浮かべた。
子供は大人の教師とはよく言ったもので、彼らから教わることは山のようにある。
それはかつて自分達が知っていた事なのだが、いつしか成長する過程で忘れ去り、あるいは捨て去ってしまった感情だ。

普通の子供よりも過酷な生活を強いられてきたにも関わらず、ブーンはそういった点が全く削れておらず、年相応のまま残っている。
ある意味で奇跡に近い存在で、それが彼の持つ魅力の一つだ。
だからこそデレシアだけでなく、ヒートやペニサス、ギコと云った人間が彼に惹かれるのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「じゃ、行きましょう」

デレシアの案内に従って、三人は石畳の坂道を上るにつれ、次第に景色が変わってくる。
建物の前に並ぶ黒板には、色鮮やかなチョークでモーニングセットの内容が書かれている。
観光客向けのレストランやホテルが軒を連ねる通りを抜け、市場全体を見下ろすことの出来るところまでやってきた。
人通りはほとんどなく、崖に打ち寄せる波の音と木々のざわめきが合わさった音に、二人分の跫音が合わさるだけの静かな通り。

その先に、デレシアの目指す店がある。
店の名前は“トラットリア・ペイネシェン”。
美味くて安い窯焼きピザと、新鮮で濃厚なグレープジュースが楽しめる店だ。

ζ(゚、゚*ζ「あら、残念」

しかし、店の前には一枚の張り紙があるだけで、客の姿はなかった。
借家、と汚い字が色あせた紙に書かれている。
以前来た時、店主は三十七歳。
まだ死ぬような時間は経過していないはずだ。

店内の酷い荒れ具合と埃の積り方を見ると、最近借家になったばかりと云う訳ではなさそうだった。
早死にでもして、家族が店を売ったのか。
紙に理由は書かれておらず、ただ、借家としか書かれていない。
あまりにも唐突に、まるで、草を根ごと引っこ抜いたような印象があった。

ノパ⊿゚)「地上げ屋、ってわけでもなさそうだな。
    ただ、あんまり愉快な理由でもなさそうだけど」

何かに追われるようにして店を後にした、といった様子だろうか。
しかしそれなら、借家にする理由は何だ。
売地にするならまだ分かるが、借家と云うことは、戻ってくる予定があるということだ。
不自然な閉店の理由を考えても状況は変わらないと判断し、デレシアはヒートとブーンを見て肩をすくめた。

ここが駄目となると、彼女が知り得る中で二番目に美味いグレープジュースを出す店に行くしかない。
今日は、何が何でもブーンとヒートにグレープジュースを飲ませるのだと決めていた。

126 名も無きAAのようです :2013/08/20(火) 21:58:08 ID:S.muFcjM0
ζ(゚ー゚*ζ「仕方ないわ、別のお店に行きましょう。
      この坂の上にあるホテルのレストランなの」

ノパ⊿゚)「……この坂の上だな?
    名前は?」

ζ(゚ー゚*ζ「コクリコ、ってホテルよ。
      後二百ヤードぐらいかしらね」

ノパー゚)「よーし、コクリコ、だな。
    負けた方の……おごりだ!!」

そう言うや否や、ヒートは肉食獣を思わせる勢いで坂を駆け上った。
石畳と云う足場でさえ、彼女の健脚ぶりは大いに発揮され、瞬く間にその姿が離れていく。
背中のブーンが喜んでいるのは、ローブの下の尻尾の動きを見ればよく分かる。

ζ(゚ー゚*ζ「それなら!」

ヒートが肉食獣なら、デレシアの速度は弾丸だった。
五十ヤードはあった距離が、ほんの三秒でゼロになり、秒針が一つ動くまでにはヒートはデレシアの背中を見ることとなる。

ノハ;゚⊿゚)「はぁっ?!」

振り返りざま、デレシアは驚きの表情を浮かべるヒートに対して余裕の声をかけた。

ζ(゚ー゚*ζ「お先に失礼、御嬢さん」

上り坂において重要なのは、如何にして一歩を稼ぎ、どのようにしてピッチを上げるかにかかっている。
ヒートの走り方はそれを心得ていたが、デレシアの速度には遠く及ばない。
背中のブーンの有無を抜きにしても、彼女は勝つ自信があった。
結果、二十ヤード近くの差をつけてデレシアがホテルに到着し、遅れてヒートが到着した。

息一つ乱さずに到着したヒートは悔しそうに、だが、すっきりとした様子で敗北を認めた。

ノパー゚)「……疾ぇな、やっぱ。
    秘訣は何だ?」

ζ(゚ー゚*ζ「疾く走ることよ」

(∪´ω`)「どうやってはやく、はしるんですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「刺激に対する反応を速めて、一瞬に力を込めて地面を蹴り飛ばして、可能な限り先に着地すると同時に、逆の足で同じく地面を蹴り飛ばす。
       これの繰り返しよ」

指をぐるぐると回しながら行った説明に、ブーンは何度も頷いた。
この理屈は、短距離走における速度向上の全てと言っても過言ではない。
ストライドとピッチの絶妙な関係を説明するには彼はまだ幼いし、そんなややこしい説明をするよりも単純な方がいい。
物事は単純が一番なのだ。

(∪´ω`)゛

127 名も無きAAのようです :2013/08/20(火) 21:59:21 ID:S.muFcjM0
ζ(゚ー゚*ζ「さ、適度な運動もしたし、ご飯にしましょう」

コクリコ・ホテル。
ポートエレンでも五指に入る長い歴史を持つホテルで、建物は木と鉄筋コンクリートで作られている。
切り立った崖の上に位置しており、そこから眺める水平線に浮き沈みする太陽と、眼下の険しい岩場に生じる渦巻きの迫力が人気を呼んでいる。
岩場では小型の漁船が釣りに訪れ、観光客がやった餌で肥えた魚を釣り上げる姿がよく見られる。

エンジンを積んでいなければ船は渦巻きから脱出することが出来ないため、観光客の立ち入りは禁じられている。
人間が禁止と云う言葉に魅了されるおかげで、コクリコ・ホテルは客に困ることはない。
何も景色だけが、コクリコ・ホテルの売りではない。
ホテルのレストランで出される魚料理はここの白ワインとよく合い、食が進む。

安めの金額設定だが、それ以上の価値を持つ料理が出される。
また、金額が安く設定されている理由だが、デレシアはその秘密を知っていた。
調理される魚は昔からつながりのある漁師から安く仕入れ、酒はホテルの料理に魅了された地主の持つ畑で作られた物をこれまた安く仕入れることで、コストを削減しているのだ。
これはコスト削減が目的だったのではなく、開業当初、ホテルのオーナーが地元の物にこだわった食事を提供したいという信念が大元だ。

この信念は先ほどのトラットリア・ペイネシェンも感化され、小さい店ながらも切り盛りしていたのであった。
ホテルの前にはちゃんと看板が出ており、昔と変わらず、十ドルでワイン、サラダ、魚料理、焼き立てのパンが付いてくるコクリコ・セットが書かれていた。
字体を見るに、デレシアの知っていたシェフから代替わりしたようで、しかしながら価格を守っているのを考えると、その意志は継がれているようだ。
ガラス張りの回転ドアを開けて中に入ると、そこには風変わりな客が一人、フロントの女性と話していた。

一瞬、デレシア達に目を向けたその客は、黄色いポロシャツの上に皮製のホルスターを下げ、真新しいジーンズを履いていた。
ホルスターの中に納まっているのはグロックで間違いない。
ホックは外してあり、いつでも発砲が可能な状態にあった。
デレシア達を見てすぐにしまったのは、机上に置かれていた警察バッジだ。

警察が権力を振りかざしてただ飯を食らおうという魂胆ではなさそうだ。
ジュスティアの膝元の街でここまで腐敗が進んでいるとは思えず、となれば、彼が調査のためにここに来ていることは明白。
必然的に事件、もしくは事故が起こったことを意味している。
が、今は朝食が優先である。

ζ(゚ー゚*ζ「三人、コクリコ・セットで。
      飲み物はグレープジュースね。
      サラダにはスライスしたリンゴを乗せてくれる?」

警察を完全に無視して、デレシアは近くで固まっていたウェイターの男性にそう言いつけ、席に案内させた。
警官はカウンターに腕を乗せ、デレシア達を品定めするような目で観察を始めた。
対象にそれを悟られていることから、警官としての経験はそこまで豊富ではなさそうだ。
無能な警官が相手ならその追及をかわすことは造作もない。

トラギコ程の人間が出てくるとなると話は別だが、この警官は犯人追求にそこまで執着できそうもない。
つまらない男だ。
三人は四人席について、ウェイターがガラスのコップに氷の浮かぶ水を注ぐのを見ていた。
男の手は震えていなかったが、表情は硬い。

気の毒だが、このホテルで良からぬことが起こったのだろう。
客人同士のトラブルならばここまで緊張することはないはずだ。
ホテルでは日常茶飯事、無い方がおかしいイベントなのだ。
となると、死人が出た可能性が高い。

128 名も無きAAのようです :2013/08/20(火) 22:00:30 ID:S.muFcjM0
――デレシアは、自分の悪い癖がまた出てしまっていることに気付き、誰にも気づかれないように笑った。

旅が長くなると、一つ一つの現象の背景を考えてしまう。
砂丘の湖や、火口に咲く一輪の花。
それらと人間の歴史は、デレシアにとっては同じものだ。
向かい合って座っているヒートは、隣のブーンにナイフとフォークの使い方を確認しているため、デレシアの自嘲に気付いていなかった。

「お待たせしました」

気配を殺して移動していた眉雪のウェイターが三つのグラスとサラダを盆に載せ、デレシア達の席に戻ってきた。
その足取り、跫音の殺し方といい、長い経歴がありそうだ。
盆を脇に抱え、最後に一礼して去ろうとした男性の姿に、デレシアはその人物の名を思い出した。

ζ(゚ー゚*ζ「ありがとう、パーカー・スティムウッド。
       随分と大人になったのね。
       盆を回す癖は相変わらずね」

「……え?
お客様、どうし――」

驚いた風に顔を上げてデレシアの顔を直視した瞬間、パーカーと呼ばれたウェイターは目を大きく見開いた。

「で、デレシア様?!
お久しぶりでございます、私の事を覚えておいで下さったのですか!
いや、それにしても……」

ζ(゚ー゚*ζ「いいじゃない、細かいことは」

ノパ⊿゚)「知り合いなのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「随分前のね。
       前来た時はいなかったけど、ひょっとして修行にでも行っていたのかしら?」

気恥ずかしげに、パーカーは口元に皺を作った。
まるで、旅行の感想を親に報告する子供のようだ。

「お恥ずかしながら、他の地で技術と知識の吸収にと思いまして……
最後にデレシア様とお会いしてから二週間後のことでございます。
それからつい三年前に戻ってまいりまして」

ζ(゚ー゚*ζ「いいことね、パーカー。
      じゃあ、冷めない内に焼きたてのパンと新鮮なバターと、とっておきのジャムを持ってきてくれるかしら?」

パーカーは返事をしなかったが、心得ているとばかりに恭しく一礼してその場を去った。
相変わらず跫音を立てず、無駄のない動きだった。
他にも客はいたが、パーカーが軽く頷くと、別の従業員が対応した。

ノパー゚)「さっすが、顔が広いんだな」

129 名も無きAAのようです :2013/08/20(火) 22:01:13 ID:S.muFcjM0
ζ(゚ー゚*ζ「知り合いが多いだけよ。
       それじゃあ、この先の旅に向けて」

デレシアとヒートがグラスを掲げ、ブーンもそれに倣った。
それから軽くグラスをぶつけ合い、濃厚な深淵にも似た紫影の液体を一口飲む。
途端に、ヒートとブーンの表情が変わった。

ノハ^ー^)「……こいつは美味い」

(*∪´ω`)゛「おいしいです!」

濃厚な味わいながらも、飲み終えた後口に残るのはその芳醇な香りだけ。
喉に残るようなこともなく、見た目と味に反して爽やかな飲み心地と後味は、この地方のブドウならではのものだ。
二人に好評なようで、デレシアは安心した。
だが、この味は前回とは全く違う。

この味は、トラットリア・ペイネシェンのものだ。

ノパー゚)「ブーン、これがリンゴサラダだ」

(*∪´ω`)「リンゴ!」

目を輝かせ、ブーンは早速サラダを食べ始めた。
新鮮な野菜とリンゴを噛む音だけで、彼が満足していることがよく伝わる。
薄らと湯気の立ち上るパンを籠に入れて戻ってきたパーカーを見て、デレシアはにこりと笑んだ。

ζ(゚ー゚*ζ「このジュース、どうしたの?」

「流石、お気づきになりましたか。
来る途中に見かけられたとは思いますが、ペイネシェンがあのようなことになってしまったので、そのブドウ畑を当ホテルで買収したのです。
ご存じの通り、あの畑のブドウはジュースにするとこの地域で一番の味になりますからな。
幸いにして製法は同じなので、ある程度あの店の味を再現できております」

ペイネシェンに何があったのか、デレシアはあえて訊かなかった。

ζ(゚ー゚*ζ「なるほどね」

「さ、どうぞこちら焼き立てなので、冷めない内にご堪能ください」

そう言って置かれた籠から漂う甘い香りに、ブーンは垂れた瞼をより一層垂れさせた。
ヒートかデレシアが手を出さないと自分が手を出してはいけないと思っているのだろうか、グラスを両手で持ったまま、パンと二人を交互に見やっている。
そわそわして落ち着いていない様子に、ヒートが動いた。

ノパー゚)「ブーンはまだ傷が治ってないから、少しずつ、ちゃんとよく噛んで食べる事。
    いいな?」

(*∪´ω`)゛「はい」

ノパー゚)「じゃあ、まずはあたしと半分こだ」

130 名も無きAAのようです :2013/08/20(火) 22:02:57 ID:S.muFcjM0
拳大のパンを手に取り、ヒートがそれを半分に千切る。
より濃厚な香りと湯気に、ブーンは目を輝かせ、喉を鳴らした。
ブーンの取り皿にパンを乗せ、自分の皿にも乗せてから、ヒートはジャムの瓶を手に取った。

ノパー゚)「ジャムの使い方は分かるか?」

蓋を開けながら投げかけられたヒートの問いに、ブーンは小さく首を横に振った。

ノパー゚)「よし、じゃあ覚えような。
    まず、こうしてパンを小さく千切って……」

親指ほどの大きさに千切ったパンに、ナイフで掬い取ったブドウのジャムを乗せ、パンの淵でナイフの刃に付いたジャムを拭うように取る。
それをブーンの口元まで運ぶと、彼は自然と口を開けた。

ノパー゚)「はい、あーん」

(*∪´ω`)「おー」

ヒートの手からパンを食べたブーンの表情が、蕩けるように緩んだ。
何度も何度も言いつけどおりに噛み、そして飲み込む。

(*∪´ω`)「あまくて、ふわふわしてて……あまくておいしいです」

ノパー゚)「本当か? じゃあ、あたしも食べよう。
    さっきあたしがやったように、パンを千切ってジャムを塗ってみな」

ぎこちない動きだったが、ブーンはヒートと同じようにパンを千切ってジャムを塗ることが出来た。

ノパー゚)「あーん」

(*∪´ω`)「おー」

先ほどヒートがそうしたように、ブーンが彼女にパンを食べさせた。
ブーンが周囲の目を気にせずそういう事が出来るようになっているのを確認してから、デレシアは彼の成長を喜んだ。
雰囲気を察してその場を消えるように立ち去ったパーカーに目で礼を述べ、デレシアもパンを食べ始めた。
食事にはたっぷりと二時間かけ、三人はサービスで出されたブドウのシャーベットで朝食を締めくくった。

ζ(゚ー゚*ζ「美味しかったわ、シェフにお礼を言っておいてくれる?」

「かしこまりました、シェフも喜びますよ。
何せ、他ならぬデレシア様からの御言葉ですからね」

ζ(゚、゚*ζ「あら? シェフは誰なの?」

「ジェフですよ、しょっちゅう皿を割ってはトーマスさんに怒られていた、あの彼が当ホテルの料理長なのです」

ζ(゚ー゚*ζ「すごいじゃない! そう、あのジェフが……
      貴方も鼻が高いんじゃないの?」

「えぇ、それはもう」

131 名も無きAAのようです :2013/08/20(火) 22:03:38 ID:S.muFcjM0
「お楽しみのところ申し訳ないが」

会話に割って入ってきたのは、それまで様子を窺っていたあの警官だった。
机の上に厭味ったらしくバッジを投げて置いてきたので、デレシアはそれを丁寧に払い落とした。

「この……!!」

ζ(゚、゚*ζ「申し訳ないのなら、後にしなさい」

バッジを拾い上げ、警官はそれをデレシア達に向けながら言った。

「今朝、このホテルのすぐ近くで水死体が発見された。
それについて何か情報を知っていたら、教えていただきたい」

デレシアが警官の顔も見ずに出したのは、テ・ジヴェの乗車券だった。
打刻された時間は、彼女達がこの街に来てまだ半日となってないことを示している。

「そんなものはどうでもいい。
知っているのか、知らないのか、それを教えてもらいたい」

ζ(゚、゚*ζ「知らないわ」

「やれやれ」

その時、新たな人物がデレシア達の席に近づいてきていた。
ショートカットにした白髪、鳶色の瞳をした、ゆったりとしたベージュ色の服を着る身長六フィートほどの初老の女性――の変装をした男性だ。
声や仕草、果ては雰囲気までもかなり巧みに誤魔化しているが、体重のかけかたと匂いで分かる。

「まったく、見てられないね、君の捜査は」

「なんだ、お前は……って、男?!」

変装した男性はまずかつらを取り、次いで顎の下に手を入れ、マスクを取った。
禿頭の男の顔には深い皺と傷が幾つも刻まれ、垂れ下がった眉の下にある老犬のように静かな目が、一瞬だけデレシア達に向けられた。

(´・ω・`)「情報収集はもっと丁寧に、そして誠意をもってやらんといけないな、坊主」

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  Y ノ  ノ⌒ヽ          '';;;;;;;;;;;_;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;/
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               ‥…━━ August 4th AM10:07 ━━…‥

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132 名も無きAAのようです :2013/08/20(火) 22:05:49 ID:S.muFcjM0
歳は五十代後半、もしくは六十代前半。
首の太さが常人離れしていることから、彼が格闘術に長けていることが分かる。
しわがれた声の奥に潜む獰猛な雰囲気は、年老いた獅子にも似ている。

「誰だ、お前は」

(´・ω・`)「ショボン・パドローネ、って言えば伝わるかな?」

「ショボン……?
……し、失礼しました、ショボン警視!」

(´・ω・`)「元警視、だけどね。
     今は探偵だよ」

なんだかややこしいことになってきたと、デレシアとヒートは目で会話をした。
彼女達の席を囲むようにして二人の男が現れてから、ブーンはヒートの方に身を寄せ、動きを窺っている。

(´・ω・`)「君、発見者への聞き込みは?」

「ぶ、部下が行っております」

(´・ω・`)「君も行きたまえ。
     このホテルは私が調べておく、もちろん、後で調書を送るから心配しないように」

「はっ!!」

警官は敬礼をして、ホテルから出て行った。

(´・ω・`)「すまないね、御嬢さん方。
      だが彼には悪気はなかったんだ、許してやってくれないか?」

ζ(゚ー゚*ζ「別に、怒っていないわよ。
      で、探偵さん。
      変装をしてここに張り込んでまで、何を知ろうとしていたのかしら?」

(´・ω・`)「はははっ、いや、単純にホテル内の捜査だよ。
     ……ここ、いいかな?」

デレシアの隣に座ったショボンは、向かいの席にいるブーンに軽く会釈した。
ブーンは体を小さく震わせ、恐る恐ると云った様子で目礼した。

(´・ω・`)「残念、嫌われてしまったのかな。
     さて、この件の詳細を――私が調べた限り――話させてもらおうか」

事が起こったのは、今朝の六時半。
ホテルの近くで漁をしていた男性が、崖の下に浮かぶ白い布を発見、引き上げてみたところ女性の水死体であることが分かった。
死因は窒息死、解剖の結果、死亡推定時刻は午前一時ごろ。
多量の薬物反応がでたことから、自殺の可能性が高い。

133 名も無きAAのようです :2013/08/20(火) 22:07:03 ID:S.muFcjM0
女性の身元が分かる物は身についていなかったが、ホテルの宿泊客の女性が一人消息不明になっていることから、その人物である可能性が濃厚だった。
ホテルの名簿には昨日の夜十一時三十八分にレイトチェックインしたとの記録が残されていた。
このホテルでは、夜の十時を過ぎると予約客は自分でチェックインの記録を付けて部屋に行くことになっており、女性の顔を見た人物はいない。
が、自殺を計画していた女性の心境を考えると、自然なことだった。

遺体発見後、ショボンは彼女の泊まっていた部屋にオーナーと共に立ち入った。
部屋には鍵がかけられており、カードキーはベッドの下から発見された。
テラスに続く窓は開け放たれており、そこから飛び降りたものと推測された。
遺書は鏡台の上に置かれているのが見つかり、字体はチェックインした際に記されていた物と一致している。

そこまで話すと、ショボンは懐から黒皮の手帳を取出し、部屋の図面と現場写真を並べて見せた。
部屋に入ってすぐ右手側に、洗面台・トイレ・シャワーが備わった三点ユニット。
右の壁沿いに大きなベッドが置かれていて、シーツが乱れていたが、使った形跡はなく、風の影響と判断された。
遺書の置かれていた鏡台は左の壁、窓の近くにあり、これまた使用の形跡はなく、備え付けの鏡以外何も置かれていない。

窓は内側に向けて開くタイプで、部屋に入った時には開いていた。
荷物は一切なく、抜け殻のような部屋になっていた。
写真と図面での説明を終えたショボンは、やっと本題に入った。

(´・ω・`)「彼女を自殺に追い込んだ人間を探し出したい」

続いて、ショボンは手帳に挟んでいたもう一枚の写真を机に置いた。
それは、遺書を写真に収めたものだった。

(´・ω・`)「彼女が部屋から飛び降りて以降、チェックアウトをした人間はいない。
      私がそうさせた。
      遺書には、とある人物に向けての恨み言が書いてあるが、名前が書いてないんだ。
      警察はその人物の特定に躍起になっている。

      ちなみに、私がここにいるのはオアシズの乗客が無実だと証明するためだ。
      これで、ある程度納得がいったかな?」

つまり、このショボンと云う探偵はオアシズが雇っている探偵だということだ。

ζ(゚、゚*ζ「納得はしたけど、私たちは何も知らないわ。
      残念だったわね」

(´・ω・`)「まぁ、そうだろうね。
     だけど、探偵っていうのは疑い深く慎重でね。
     済まない、時間を取らせてしまったね。
     せめてものお詫びとして、ここの勘定は私が払っておこう。

     それと、警察には君たちは事件に一切関係ないと伝えておく」

ζ(゚ー゚*ζ「そう、それならお言葉に甘えさせてもらうわ。
       ごちそうさま」

デレシア一行はホテルを後にして、市場の方へと向かった。
風が冷たい空気を運んできた方には、嵐の前兆である黒雲が浮かんでいたのであった。

134 名も無きAAのようです :2013/08/20(火) 22:08:00 ID:S.muFcjM0
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                     全ては、予定通り。
                    事件は事故になった。

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(´・ω・`)「おい、ホテルの客全員から情報を聞きたい。
      全員、この食堂に集めてくれ。
      全員だ、いいな?」

受付カウンターにいた女性従業員が強張った表情を浮かべたが、ショボンの一瞥に頷いた。
館内放送を入れ、睡眠中の客も全員集まるようにアナウンスをかけた。


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                   誰も真実にはたどり着けない。
                          誰も。

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席についた七十一名の前で、ショボンは宣言した。

(´・ω・`)「いかなる偽りも、このショボンには通用しない。
     必ず見抜き、突き止め、そして――」


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                    凄腕の探偵だろうと。
                     凄腕の刑事だろと。

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(´・ω・`)「――真実を、私の前に引きずり出してやる」

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                      陳腐で滑稽な台詞だ。
             この偽り、引きずり出せるものなら、してみるがいい。
                  目の前にいる偽りを暴いてみるがいい。

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(´・ω・`)「さぁ、始めようか。
     真実探しを、ね」

135 名も無きAAのようです :2013/08/20(火) 22:09:44 ID:S.muFcjM0
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                       さぁ。
                         舞台の幕は上がった。
                                   演者は十分。
                               下地は完璧。

           真実とやらが見つかることを夢想するといい。
      偽りに満ちた真実を見つけ、歓喜するがいい。
  計算され尽くした計画を前に目を逸らし、偽りの道を進むがいい。
           そして偽りの答えを掲げ、声高らかに勝利を宣言するがいい。

                精々見抜いてみるがいい。
                         偽りのとやらを。
                             精々突き止めてみるがいい。
                                         真実とやらを。


                         では、始めよう。
                     真実探しとかいう、茶番劇を。

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136 名も無きAAのようです :2013/08/20(火) 22:11:37 ID:S.muFcjM0
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Ammo→Re!!のようです
               ‥…━━ August 4th AM10:33 ━━…‥
                                        Ammo for Reasoning!!編
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                          第一章
                       【breeze-潮風-】
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市場に到着したデレシアは、まず、オアシズの乗船券を購入することにした。
自殺だか他殺だか知らないが、デレシア達に関係のない事件に関わる必要はない。
ポートエレンには一日と滞在しないのだから、面倒事に巻き込まれるだけ時間の無駄だ。

(*∪´ω`)「おー……」

ノハ;゚⊿゚)「おー……」

目の前に停泊している世界最大の船上都市オアシズを前に、ヒートとその肩の上のブーンは言葉を失っていた。
一枚壁、あるいは山としか思えないその巨体は、圧巻の一言に尽きる。
原子力空母よりも遥かに巨大で力強く、そして生活の拠点となり得るこの船は世界で最も巨大なだけでなく、世界で最も時間を掛けて修復された船でもある。
直上を見上げてもその先端は見えず、その全貌も分からない。

海に浮く都市。
それがオアシズなのである。

ζ(゚ー゚*ζ「チケットを買ってくるから、ちょっとだけ待っててね」

ノハ;゚⊿゚)「おう……」

(∪´ω`)゛「お」

船に圧巻される二人をその場に残して、デレシアは船から港に降りている五本の橋の内の一つを上った。
エスカレーターがデレシアの体重を感知し、自動で動き始める。
かけられた体重の位置でエスカレーターの進行方向が変わるタイプの物だ。
船上に到着すると、黒服の男四人がデレシアを迎えた。

(■_>■)「失礼、チケットは?」

ζ(゚ー゚*ζ「持っていないわ。
       ティンカーベルまで、三人分欲しいのだけど」

デレシアの格好を見て、男は若干眉を顰めて言った。

(■_>■)「三人分ですと、一万七千ドルになりますが」

137 名も無きAAのようです :2013/08/20(火) 22:12:57 ID:S.muFcjM0
ζ(゚ー゚*ζ「はい」

男の手に、デレシアは要求された金額分の金貨を乗せた。
それを見て男は己の無礼を感じたのか、仰々しく受け取り、枚数を数え始めた。

(;■_>■)「た、確かに。
       こちらがチケットになります。
       チケットは――」

懐から銀色のケースを取出し、指紋認証を済ませて取り出したのは、三枚のプラスチックのカードだ。

ζ(゚ー゚*ζ「部屋の鍵、各種サービスを受ける際に使用する、でしょう?」

カードに内蔵されたチップがオアシズ内の様々な施設を利用する際に活躍する。
部屋の鍵、身分証明であることは当然だが、売店やレストランでの代金はこのカードに記録され、下船時に一括で支払うという仕組みだ。

(;■_>■)「は、はい。 その通りです。
       ではこちらを」

ζ(゚ー゚*ζ「ありがとう」

三分で手続きと購入を済ませたデレシアは踵を返し、何気なく街を見下ろした。
ブーンとヒートがデレシアの姿を見つけて手を振っていたので笑顔で振り返し、市場を歩く見知った人物の姿を見咎めた。
あれは――

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    { 。  ・  。゚  ・ }
  .  { ・  ∴  ・  ノ
    ζ〜μwJ〜νι
     /;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:ヽ
    /;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:ヽ
‥…━━ August 4th AM10:40 ━━…‥
  .  {;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:.ノ
    ε〜〜J〜νιζ
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二十分前にようやく仮設遺体安置所から解放されたトラギコ・マウンテンライトは、この上なく不機嫌だった。
仮設遺体安置所は蒸し暑く、おまけに酷い腐臭がしていたからだ。
死体が腐敗を始めている証拠だった。
関わりたくはなかったが、流石に腹立ったトラギコは若い検視官の頭を掴んで振り回し、トラギコは早急に氷を持ってきて遺体を冷やすように命令した。

全く興味のない一件に関わってしまったのは、自らの悪名が彼の想像以上に広まっていたことにあった。
市場に入った途端、坂から降りてきた彼の後輩である警官と鉢合わせし、捜査に協力するように要請された。
この要請を拒絶しようものなら、トラギコが今後警察本部から援助を受けられなくなるだろうと、遠巻きに脅されたのだから仕方がない。

(#=゚口゚)「で、仏さんは?」

手袋、マスク、手術着を着たトラギコが遺体袋を前に検死官に尋ねると、彼は手元のクリップボードを見ながら答えた。

138 名も無きAAのようです :2013/08/20(火) 22:14:27 ID:S.muFcjM0
「クリス・パープルトン、三十一歳。
職業、住所、その他もろもろ不明です。
死因は窒息死、もしくは溺死で、血液検査で極めて強い薬物反応が出ています。
恐らくは薬物の過剰摂取による――」

(=゚口゚)「待てよ、もしくはって何だ、もしくはって」

「じゃあ溺死で……」

(=゚口゚)「ふざけんな!
    そこんとこちゃんと調べるのが手前の仕事だろうが!
    調べたら俺に資料を寄越せ!」

トラギコが不機嫌になった第二の原因が、この検死官にあった。
兎に角全てがいい加減で、責任感の欠片もなかった。
それに付き合わされて貴重な時間を浪費し、デレシア達を追い詰めるチャンスを失うことを考えると、この上なく腹が立った。
遺体袋のジッパーを開くと、青ざめた女性の顔がそこあった。

まだ新しい水死体だ。
遺体袋を全開にし、死体を隅々まで凝視する。
全身に細かな擦り傷や切り傷、小さな打撲の跡があるが、これは海面を漂っていた際に岩場で付いたものだと推測できる。
肩と太ももに古傷を見つけ、それが銃創であることに気が付いた。

この女性は撃たれた経験がある。

(=゚口゚)「撃たれた時期はわかんねぇ……というか、調べて無いラギね?」

塗られたマニキュアとは正反対に蒼白になった手の指を見ながら、トラギコは一応尋ねた。
返答は予想通りだった。

「は、はぁ……」

検死官に期待することを止めたトラギコは、引き続いて死体を調べる。
女性の顔をよく見ると、口紅が薄らと塗られていた。
死に化粧と云う訳か。
足の指にマニキュアが塗られていないのを見るに、この女性がそこまで気が回らないぐらいに焦っていたと推測される。

(=゚口゚)「暴行は……」

傍に置かれていたクスコ式膣鏡を使い、確認する。
新しい傷はなく、体液も確認できないため、性的暴行を受けた可能性が極めて低いことを確認した。

(=゚口゚)「……ないラギね。
    おい」

「はい?」

(=゚口゚)「ひっくり返せ」

139 名も無きAAのようです :2013/08/20(火) 22:16:02 ID:S.muFcjM0
理由を尋ねようとしたので、トラギコは殺意を込めた睨みでそれを封じ、死体の背中を見た。
古い刺し傷が一つ、わき腹付近にあった。

(=゚口゚)「服には?」

「岩礁でできた傷だけでした。
傷口の位置と一致しています」

(=゚口゚)「そこは調べたんだな」

死体を元通り仰向けにさせ、袋を閉める。

(=゚口゚)「俺は街に行ってくるから、お前は死因を明らかにしろ。
    いいな、どんな小さなことでも必ず報告するラギ」

「は、はい!」

というわけで安置所を後にしたトラギコは街の屋台で好物のチョコミントアイスを買い食いしても、機嫌は一向に良くならなかったわけである。
飛び降りたと思われるホテルに出向いて、その後で死因を明らかにし、調書をまとめ、契約者であるホテルに報告すれば万事解決。
今日中に片が付くだろう。
不意に視線を感じ、そちらに目を向けると、オアシズがあった。

(=゚д゚)「……経費で乗れるのか?」

目的地がどこであれ、オアシズへの乗車券は五千ドルを下ることはない。
経費として申請するにしても、稟議書ものの金額だ。
書類は嫌いなので、普段は貸のある部下にやらせているが、こればかりはそうはいかない。
アイスを齧りつつ、トラギコはホテルに続く坂道を渋々上ることにした。

ホテルの看板を前にする頃には、トラギコのアイスは胃袋に収まり、汗がだらだらと流れていた。
クロジングで買ったジャケットは汗で濡れ、ワイシャツも汗で肌に張り付いていた。

(;=゚д゚)「くそっ、もう少し平らな所に建てやがれってんだ……」

涼を求めるようにしてホテルに入ると、そこに、懐かしい顔があった。

(;=゚д゚)「あ? ショボン警視?」

(´・ω・`)「ん? トラギコ君?
     水泳でもしたのかい?」

(;=゚д゚)「ちげぇラギ!
    何であんたがここにいるラギ?」

ショボン・パドローネ。
トラギコが三カ月だけコンビを組んだ先輩である。
とうに引退して、外地で家族と共に隠居生活を送っていると聞いていたのだ。

(´・ω・`)「そりゃあ捜査のために決まってるだろう?
     今は探偵をやっているんだ」

140 名も無きAAのようです :2013/08/20(火) 22:16:57 ID:S.muFcjM0
(;=゚д゚)「捜査? 自殺した女の捜査ラギか?」

(´・ω・`)「あぁ、そうだよ。
      その様子だと、君も捜査に加わっているみたいだね」

(;=゚д゚)「不本意極まりないけど、そうなってるラギ」

汗で濡れたハンカチで、トラギコは汗を拭う。
気を利かせたウェイターが氷の浮かんだ水を持ってきたので、それをありがたく一気に飲み干した。

(=゚д゚)「……ふぅ。
    ってことで、俺は俺の仕事をさせてもらうラギ」

(´・ω・`)「まぁ待ちなよ。
     情報が幾つか手に入ったんだ、それを君にも共有してもらいたい」

(=゚д゚)「……教えてもらうラギ」

(´・ω・`)「手帳とペンは?」

(=゚д゚)「捨てたラギ」

ショボンは溜息を吐いて、自らの手帳を開いてトラギコに見せた。
ページには部屋の見取り図と入った際の状況などが子細に記されており、写真も挟まっていた。
窓は開いていたがドアは閉まっていて、そのことは同伴したオーナーが確認している。
鍵はベッドの下にあり、遺書は鏡台の上に置かれていた、とのことだ。

遺書の内容を撮影した写真を見て、トラギコはショボンに尋ねた。

(=゚д゚)「恨んで自殺、ってことは男か女かは分からないラギね」

(´・ω・`)「ホテルの人間は全員調べたが、彼女の事を知っている人はいなかった」

クリアファイルに入った二種類の用紙を見る。
一つは、日ごとに分けられたチェックインの確認票だった。
昨日、仏よりも遅くにチェックインした人物はいない。
もう一つは、それらをまとめた書類だった。

(´・ω・`)「全員集めて個別に話を聞いたが、やはり駄目だった。
     そんな人間、聞いたこともないってさ」

(=゚д゚)「オアシズからも泊まりに来てる奴がいるラギね」

(´・ω・`)「休憩のためだよ。
      まぁ、その人たちがいるから僕が出張ることになったんだけどね。
      オアシズ付けの探偵だからね」

(=゚д゚)「ふーん」

141 名も無きAAのようです :2013/08/20(火) 22:19:23 ID:S.muFcjM0
興味がない話だったので適当に聞き流しながら、リストの名前を頭に入れた。
恨みがあろうがなかろうが、どうでもよかった。

(=゚д゚)「調べる意味、あるラギか?」

(´・ω・`)「自殺した原因を作った人間を許せないからね」

(=゚д゚)「ま、好きにしてくれラギ」

書類と手帳を返そうとすると、ショボンは軽く首を横に振った。

(´・ω・`)「それは警察に渡すことにするよ。
      その手帳のカバーだけ返してくれるかな? 中は新品だから気にしなくていい」

(=゚д゚)「ありがたくもらっておくラギ」

黒皮のカバーを返し、トラギコは女性が泊まっていた部屋に向かった。
手袋をしてドアを開けると、ひんやりとした潮風が勢いよく吹き付けてきた。
風通しは良好、見通しも抜群だ。
鏡台に置かれていたという遺書はすでに片付けられており、遺留品は何も残されていない。

開かれたままの扉からテラスに出て、眼下の様子を窺う。
切り立った崖の上にあるだけあって、その光景は迫力満点だった。
侵食を受けて針山のように尖った岩場が真下に広がり、その先には激しくうねる海がある。
海面に突き出した岩の付近には渦巻きも確認でき、意識があったとしても間違いなく溺死するだけの潮流があった。







部屋に戻り、改めて遺留品を探したが、結局、ホテルで得た収穫はショボンの手帳ぐらいだった。







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Ammo→Re!!のようです
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                                       Ammo for Reasoning!!編
                                      第一章【breeze-潮風-】 了
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142 名も無きAAのようです :2013/08/20(火) 22:20:19 ID:S.muFcjM0
                           【用語集】



【土地・都市】
・オセアン……湾岸都市。貿易の拠点として栄えている。
・フィリカ……南寄りの街。強い日差しと亜熱帯の気候、果物が名物。
・シャルラ……極寒の地にある“氷結の街”。面積で言うなら世界最大。
 ┗ヴォルコスグラード区→分割統治がされたシャルラの区画の名前。
・イルトリア……世界最強の軍事都市。
・サマリー……南にある紛争が頻繁に起こる街。
・フォレスタ……森、森、森。“魔女の住む森”として地元近隣の人間に恐れられている。
・クロジング……フォレスタに隣接する田舎町。被服の町として有名。
・ニクラメン……海上都市。海上と海底に街を持つ。
・ポートエレン……ワインと貿易の街。
・ティンカーベル……通称“鐘の音街”。ポートエレンから北に進んだ場所にある島々で構成された街。
・ジュスティア……正義の街。スリーピースと呼ばれる三重の壁に囲まれている。警察の本部がある。
・オアシズ……船上都市。豪華客船でありながらも街として機能している。



【用語】
・棺桶……軍用の強化外骨格の呼称。大きさによってランクがA〜Cと分けられている。中には規格外の大きさのものもある。
       起動するには、音声によるコード入力が基本となっている。開発は各国の軍で行われ、企業も参入していた。
       ほぼ全ての棺桶は、第三次世界大戦で使用されたものを発掘し、現代の技術で復元して使用している。
       未使用品も稀に見つかる。戦闘補助以外を目的に設計された物も存在する。
・コンセプト・シリーズ……単一の目的に特化して設計された非量産型の棺桶。
・レリジョン・シリーズ……宗教団体が設計、開発した棺桶の事。えらく金が掛かっており、秘匿性に優れている。
・ガバメント・シリーズ……政府が開発した棺桶。高性能であり、量産はされなかった。
・名持ち……少数だけ生産された高性能な棺桶の事。
・ダット……高性能化したパソコンの呼び名。
・耳付き……獣の耳と尻尾をもつ人間の事。並の人間以上に発達した運動能力と身体能力を持つ。
世間からは疎まれて差別されており、奴隷として売られるのが基本である。
・ニューソク……核発電設備のこと。
・ティンバーランド……黄金の大樹をシンボルマークとする組織。規模、目的、構成にいたるまですべてが謎。過去にデレシアが二回潰したことのある組織。

143 名も無きAAのようです :2013/08/20(火) 22:22:44 ID:S.muFcjM0
これにて投下は終了となります

質問、指摘、感想などあれば幸いです

144 名も無きAAのようです :2013/08/20(火) 22:23:57 ID:wYnpdAyk0
支援

145 名も無きAAのようです :2013/08/20(火) 22:30:20 ID:wYnpdAyk0
支援打ってたら終わってた。
乙 続き待ってる。

146 名も無きAAのようです :2013/08/20(火) 23:28:48 ID:psUevbKwO
既読だったけどつい読んでしまった 
 
撮影・音響・……のIDはいつのIDなの投下時のとは違うみたいだけど

147 名も無きAAのようです :2013/09/26(木) 21:47:13 ID:W2H0TbLI0
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You must keep thinking.
考え続けなければならない。

Do not believe, hope and wish.
信じることも、望むことも願うことも許されない。

Understand waiting for the miracle is the most foolish thing in this world.
奇跡を待つ事こそが世界で最も愚かな行為だと理解しろ。

The miracle is just a coincidence.
奇跡など、単なる偶然に過ぎないのだから。

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              |ミ|        _lニニニニニニニl_        |ミ|
              |ミ|      _」二二二二二二L_     |ミ|
              |ミ|    _」二二二二二二二二L    |ミ|
               ‥…━━ August 4th AM11:40 ━━…‥
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オアシズでは船内への銃火器の持ち込みは勿論だが、軍用強化外骨格――棺桶――の持ち込みも禁止されている。
当然、乗船時にはあらゆる武器を個人用コンテナに預ける必要がある。
武器の持ち込みを許可してしまえば、逃げ場のない海上で何千人規模の人質を取ったシージャックを認めることになる。
そのため、船内では厳格な審査によってその人間性を認められた警備員だけが、銃器の携帯を許可されていて、棺桶の使用もまた同様だった。

乗船の手順は、まず金属探知機のゲートを潜って体に金属が無いことを確かめてから、最後に、購入したチケットを使って船内に進む二重チェックだ。
一人が検査を終えてオアシズへの乗船を完了するまでに要する時間は、平均で一分。
厚く白い塗装がされた橋を使って乗船を待つ列の中に、その旅人の姿があった。
ローブで肢体を包み、豪奢な金髪と蒼穹色の碧眼を持つデレシアは、風に靡く金髪を押さえ、空を見上げた。

いい天気だ、とデレシアは胸を高鳴らせていた。
風に吹かれて蠢くように形を変え、流れていく黒雲と、幻想的な濃淡。
一瞬だけ夏の暑さを忘れさせる、冷たい空気を含んだ風。
デレシアの好きな天気だった。

晴天も好きだし、夏の入道雲と蒼穹の組み合わせは涙ぐむほど好きだ。
空模様に止まらず、この世界の天候、事象、とにかくあらゆるものが好きだった。
最近のお気に入りは、彼女の後ろに立つ赤髪と瑠璃色の瞳を持つ女性、ヒート・オロラ・レッドウィングと、彼女に肩車をされている耳付きの――獣の耳と尻尾を持つ――少年、ブーンだ。
二人と出会ったのは湾岸都市オセアンで、共に一つの事件に関わった仲だ。

148 名も無きAAのようです :2013/09/26(木) 21:47:57 ID:W2H0TbLI0
ヒートは現代では珍しく、耳付きと呼ばれる人種を差別しない。
差別は優位性に立ちたがる人間の弱さの裏返しであり、それをしない彼女は芯から強いのだとよく分かる。
元殺し屋で、彼女ほどの性格の持ち主が不毛な殺し屋になった理由は、想像できなかった。
ブーンを見る時の目が時々寂しげに陰る原因もまだ分からないが、旅を続けていく過程でそれらが分かるかもしれない。

この時代の旅で出会った人間の中で、ブーンは最も気に入っている。
何が、と問われて答えるのは非常に難しい。
彼の持つ魅力、としか答えようがない。
その魅力と云う一言の中には複数の意味が込められていて、丹念に一つ一つ答えるには最低でも一時間は必要だ。

デレシアは、これまで続けてきた果てしない旅は彼に逢うためのものだったとさえ感じ始めている。
これまでに類を見ない将来性と成長速度、そして、邪気の欠片もない無垢な瞳に見つめられる度、彼の可能性を確かめたくなる。
悪い癖であることは理解している。
しかし、彼にはその可能性を見せてもらわなければならないし、是非とも見せてもらいたい。

この先、旅の途中で遭遇する争い事はその激しさを増す事だろう。
ティンバーランドが動き出すということは、そういうことだ。
ならば、多少強引なことをしてでもブーンの成長を促し、変わりゆく世界に対応出来るだけの力を付けさせなければならない。
彼は自分自身の口で、強くなりたいと言った。

その言葉が本心であることは疑いようもなく、受け入れるしかなかった。
多くの人間を見て、多くの人間と関わり、誰よりも長く世界を見てきたデレシアは、ブーンに魅了されていた。
彼が望んだのは平和でも普遍でもなく、力と進歩だった。
その選択は、この時代に最もふさわしい物。

彼はこの時代を生きるに相応しい人物なのだ。

(;∪´ω`)

ζ(゚ー゚*ζ「ブーンちゃん、大丈夫よ」

これから迎える身体検査を前に緊張しているブーンを見上げ、デレシアは優しく、語りかけるように落ち着かせる。
列が動き、階段を二段上がったところでまた止まる。
ブーツの爪先が踏みしめるたび、滑り止め加工のされた金属製の階段からは、軽い音が鳴った。

ノパ⊿゚)「にしても、こんだけでけぇ船をどうやって動かしてるんだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「太陽光と波力、後は風力発電ね。
      海水発電装置も実験的にだけど、使っているわ」

太陽光を初めとする自然の力による発電は、ある時期から著しく進歩した。
従来の発電方法の数倍の発電量が生み出せるのだが、設備費用は数十倍に跳ね上がった。
途上国での使用が期待されたが、その価格故に一部の国で少数だけ採用され、オアシズにもその設備が導入されている。
巨体を生かした発電設備だけで航行中の電力を全て補うことが出来るよう設計されているのだが、それでも、万が一と云う場合がある。

船倉に大容量のバッテリーを備蓄していたとしても、常時七千人、最大九千人が生活をしていく中で、底を突いてしまう危険性は常にあった。
そこで発案されたのが、海水発電装置の導入である。
海水の塩分濃度の違いを利用した発電装置は、巨大な球体の装置がアンカーのようにして船尾から海に伸びており、停泊中は勿論だが、航行中も発電されるという優れもの。
船体の復元よりも、この装置の復元に最も時間が費やされ、現在では世界で唯一オアシズだけがこの装置の復元に成功している。

149 名も無きAAのようです :2013/09/26(木) 21:48:53 ID:W2H0TbLI0
今はまだ実験的な使用で公にはされていないが、本格的に稼働するのは、後十年以内だと言われている。
海水発電装置について熟知しているデレシアは、実用段階に至るまでは後百年以上かかると予想している。
現代の技術は、所詮は過去の技術の復元に要する技術であり、つまるところ模倣でしかなく、進歩は望めない。
それを我が物として進歩するには、過去に頼らずに自分達の足で進む他なかった。

ノパ⊿゚)「海水から発電、ねぇ……」

(∪´ω`)「はつでん、って、なんですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「電気って分かる?
      ほら、ライトとかを光らせたり、バイクを動かしたりする力の事なんだけど」

小さく頷くブーンの顔からは、緊張は消えていた。
知識に対して貪欲な年頃である彼にとって、疑問は食事と睡眠に並ぶ欲求の一つだ。

ζ(゚ー゚*ζ「電気を作るための動きを、発電、っていうの」

(*∪´ω`)゛「おー、それって、どうやるんですか?」

ここから先の説明も出来るのだが、それには時間が足りない。
部屋に入ってからゆっくりと科学の勉強と共に、発電の仕組みについて説明した方が飲み込みやすいだろう。

ζ(゚ー゚*ζ「後でお部屋に入って一緒にお勉強した時に教えてあげるわ。
       いい?」

(*∪´ω`)゛「はい、です!」

そんなやり取りをしていると、荷物検査の順番が回ってきた。
白く、丸みを帯びた背の高い金属探知機のゲート前には二人の黒服が立っており、手には籠、腰にはグロック19を提げてデレシアを迎えた。
ゲートの表面は艶やかで、光沢を帯びている。

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(■_>■)「済みませんが、そちらの棺桶をお預かりさせていただきます。
      航行中の使用・鑑賞・接触は一切できませんので、あらかじめご了承ください。
      金属を身に付けていれば、そちらを出してください」

ζ(゚ー゚*ζ「はい、どうぞ」

対強化外骨格用強化外骨格“レオン”を預け、ローブの下から懐中時計を取り出し、籠に入れる。

150 名も無きAAのようです :2013/09/26(木) 21:49:43 ID:W2H0TbLI0
ζ(゚、゚*ζ「ベルトはいいかしら?」

カーキ色のローブをたくし上げてベルトの金具部分を見せると、黒服の男は僅かに動揺した。
直ぐに動揺を抑え込んだ動きは、働き始めてから十二、三年といったところか。

(■_>■)「……はい、これでしたら大丈夫です」

ベルトの形状からそこに武器を隠せないことを確認し、男はデレシアをゲートへと案内した。
ゲートの脇にはいつでもグロックを手に出来るよう、両腕を腰の傍に構える男が立っている。
オアシズ内でテロ行為を行うものがあれば、即座に射殺出来るという警告の意味も込めた、実用的な看板の役割を持った男だ。
鳥居の様に構えるゲートは三つ。

それぞれ異なった方式で金属を検知し、センサーを掻い潜って武器を持ち込もうとする輩を見つけ出すための装置だ。
こうした装備のおかげもあり、オアシズではこれまでに一度もシージャックが起こったことがない。
起こそうと試みた人間ならいたが、契約している警備会社の人間によって、被害が出る前に射殺されている。
外部の人間を雇うことで様々な責任と手間を省くだけでなく、機密情報を一定の水準で守ることが出来る。

仮に、オアシズの警備員として十年以上勤続した人間がいたとすると、その人間が明日裏切らないとは誰にも断言できない。
十年以上も働いていれば、オアシズの構造上のセキュリティホールを見つけたり、その他の機密情報を知ったりする機会がある。
そうした人間から情報を買ったり、忠誠心を買ったりしようと画策する人間はいくらでもいる。
その万が一に備えて、オアシズでは警備員を外部企業から雇い入れているのである。

探偵に関しても同じで、定期的に人員を入れ替えており、人物の特定ができないようにも工夫されている。
それだけの工夫がある中、デレシアは武器を持ち込むことに成功していた。
両脇のデザートイーグルに、後ろ腰のソウド・オフ・ショットガンだ。
どれだけ高性能なセンサーが相手でも、デレシアはそれを欺く術を持っていた。

しかしながら、デレシアはオアシズで事を起こすつもりは一切ない。
デレシアとヒートで出した結論としては、ブーンにはこの船旅を楽しんでもらいたいというものだった。
ティンカーベルまでは一週間ほどの旅になる。
その間に、彼の教育と訓練を行い、ティンカーベルで出会うであろうティンバーランドの構成員との争いに備える。

涼しい顔をしたまま金属探知のゲートを悠然と通り抜け、デレシアは検査の済んだ懐中時計を受け取って、オアシズへの乗船を許可された。

(;∪´ω`)「お……」

続いては、ブーンの順番だった。
耳を不自然に見せないための帽子は、検査の際に強い効果を発揮する。
後は、不審な動きをしなければ難なく突破出来るはずだ。
ヒートの肩から降り、デレシアと同じようにゲート前で検査を受ける。

(;∪´ω`)

(■_>■)「僕、何か金属の……鉄の物を持っていないかな?」

(;∪´ω`)「いえ……もってません」

(■_>■)「分かった。 それじゃあ、そこの道をまっすぐに進んでくれるかい」

151 名も無きAAのようです :2013/09/26(木) 21:51:13 ID:W2H0TbLI0
案内に従い、ブーンはゲートを潜る。
センサーがブーンの体から金属を検知することはなく、何事もなくデレシアの元に辿り着いた。
その顔には安堵の色が浮かんでいた。

ζ(゚ー゚*ζ「ね、大丈夫だったでしょう?」

(∪´ω`)゛

ノパー゚)「じゃ、あたしもそっちに行かせてもらうよ」

拳銃を持っているのは、ヒートも同じだった。
ヒートの持つベレッタM93Rには、折り畳み式フォアグリップの代わりに鋭利な刃が取り付けられており、一目で殺しに特化した武器だと分かる。
そんな代物がここで発見されれば、乗船拒否も有り得る。
しかし、ヒートは余裕の表情を浮かべていた。

(■_>■)「金属の物は?」

ノパ⊿゚)「生憎、チタンよりも固い心以外は持ち合わせがないんでね」

(■_>■)「ローブの下には何もありませんか?」

ノパ⊿゚)「ほらよ」

ローブを捲り上げ、脇の下や腰に武器が無いことを見せつける。
それを確認すると男は、頷き、手でゲートの方へ案内した。

(■_>■)「問題ありませんね」

この時、男がもっと注意深くヒートの身体検査をしていれば、背中に隠された二挺の拳銃に気がついただろう。
だが現実は、三重の探知機という精神的な死角によって見逃してしまった。
ゲートは沈黙を守り続け、異常を知らせることはなかった。

(■_>■)「次の方、どうぞ」

ヒートの後ろに並んでいた人物がゲートを潜ろうとした時、服に使われていた小さな金属が探知機に反応し、止められた。
その日、オアシズが誇る探知機を突破して武器を船内に持ち込んだのはデレシアとヒートの二人だけだった。

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三三三三三三三三三三三 ..|\\蒜蒜\\.三三三三三三三三三三三三三..|\\
               ‥…━━ August 4th AM11:45 ━━…‥
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正午十五分前、嵐が近づいていた。
雲は海のうねりを思わせる黒雲になり、海風は冷えた空気を市場に運び、人々の足をその場から遠ざけた。
今や建物の外に出ているのは、船を波止場にしっかりと固定しようとする若い一人の船主だけ。
その船主ですら、縄を固定し終えるとすぐにバイクで走り去ってしまった。

152 名も無きAAのようです :2013/09/26(木) 21:51:57 ID:W2H0TbLI0
嵐の近づく中、全てが揺さぶられていた。
ただひとつ、巨大な船舶を除いては。
白い巨体は確かに船の形をしているが、それはあまりにも現実離れした大きさだった。
街一つが船の中に入っていることを考えれば有り得るが、船としては遠近感を失いかねないほどの大きさと存在感を放っている。

大型と言われるフェリーでさえ小舟に思え、漁船など玩具にしか見えない。
壁を纏った船舶、あるいは、海上の壁その物。
それは船舶にして船上都市。
その名は、オアシズ。

「それで刑事殿、何か進展は?」

その喫茶店はコクリコホテルから更に坂を上った場所にあり、客は二人しかいなかった。
割れんばかりに震える薄い窓ガラスの向こうに見える巨大な船影を見下ろしながら思案していた男は、その問いを無視した。
近くを通り過ぎようとしていたウェイターを手で呼び止め、二杯目になるアイリッシュコーヒーを注文した。
ウェイターはいい顔をしなかった。

男は先ほどからアイリッシュコーヒーだけを注文し、更にはその席の雨戸を閉めさせなかったからだ。
雨戸だけでなく、店も閉めたいと思っていたが、頬に二本の傷を持つ男がそれをさせなかった。
懐でちらつくベレッタM8000は、彼よりも雄弁だったのである。

(=゚д゚)「……おい、ウェイター。
   アイリッシュコーヒー大盛り」

白髪の多くなったブロンドの髪は短く刈り揃えられ、剣呑な雰囲気を漂わせる黒い瞳は窓の外に向けられたまま。
トラギコ・マウンテンライトは四十六年の人生の中で、あれほど巨大な船に乗ったことがなかった。
この船に乗ることが出来るのは金持ちか、船の上で生まれたオアシズの住人しかいない。
彼が追っているデレシア一行は高い確率でオアシズに乗り込むはずであり、何か尻尾を見せないかどうかを見るためにも、彼はそれを追いたかった。

三十分前に警察本部に電話して金を要求したが、予想通り即却下された。
勘で動くことを良しとせず、明確な証拠がなくてはオアシズの乗車券分の金を出すことは出来ない、と。
第一、デレシア達――彼女の名は伏せてあった――がオセアンで起きた事件の主犯である証拠はないのだ。
トラギコの勘を頼りに動いてくれた試しはないが、それによって彼が解決した事件の実例を前にしても彼の勘を認めた試しもない。

代わりに言い渡されたのが、ポートエレンで起こった自殺者を追い込んだ人物の特定と逮捕だった。
まさか、難事件解決に特化して設立された部署からわざわざオセアンまで出向き、その関係者を追ってここまできて、自殺の捜査をすることになるとは思いもしなかった。
能無しが多い職場だけに、トラギコの苛立ちはより一層募った。
特に、目の前でドリンクバーのメロンソーダを飲みながらフライドポテトを摘まむ若い検死官の無能ぶりには、頭痛さえ覚える。

警察が人手不足になったと聞いたことはないのに、どうしてこんな若者を雇ったのだろうか。
事件解決の経験がないのならば、それは、この土地がジュスティアに近いために治安が良すぎる為だろう。
無論、事件が起きないことが一番だが、事件が起きなければこうして役立たずの警官ばかりが増えるのだ。

(=゚д゚)「なーんも」

ショボン・パドローネから受け取った資料は、手帳も含めて全て警察に提出済みだ。
必要な情報は全て頭の中に入っている。
手帳やペンが必要なのは記者であって、警察ではない。
それが、警察で働き続けて分かったことだ。

153 名も無きAAのようです :2013/09/26(木) 21:53:09 ID:W2H0TbLI0
クリス・パープルトンについて分かる情報は何も見つからなかった。
分かったことは、彼女が薬で意識を朦朧とさせながら百フィートの高さから海に飛び込み、溺死したということぐらいだ。
遺書もある。
残っている作業は、死因の明確化だけだ。

手元に置かれたアイリッシュコーヒーを一口飲み、溜息を吐く。

(=゚д゚)「で、死因は何だったんだ?
    いいか、どんな細かなことでも報告するラギよ」

慌てて机の上に伏せておいていたホチキス止めの用紙を手に取り、検死官は報告した。

「あ、はい。
溺死でしたが、体内から検出された海水の量が通常よりも少なかった、ってだけです。
海水の成分は間違いなくあの近海のものでした」

あまり実りのある答えではなかったが、おかげでこの一件はだいぶ落ち着く。
残りは本部の人間か、この若者に任せてデレシア一行を追う算段を立てなければならない。
荷物に紛れて密航でもするか、身分を偽って侵入するか。
どちらも現実的に可能だが、今後の刑事生活に支障が出るので最後の手段として取っておくことにしてある。

(=゚д゚)「ふーん、ご苦労さん」

トラギコはそれを適当に聞き流している訳ではなかったが、検死官は不満そうな表情を浮かべていた。
今の情報で揃った断片を並べて、一つの絵を作り上げたのだが、不自然なまでに容易に完成したことに不満と不信があった。
その理由は幾つかあったが、それを裏付けるものがなかった。
決定的な証拠だけが欠如しているのだと、感覚で理解していた。

以前にも味わったことのある感覚だ。
となると、このまま捜査を続行しても収穫は得られそうもない。
別の方向に意識を向け、再度捜査を行う必要がある。
思考の迷路を探索するため、トラギコは瞼を降ろして腕を組んだ。

「刑事殿、寝るなら自分はもう持ち場に戻りますからね」

クリス・パープルトンが死んだのは明朝一時、発見されたのは六時半。
その差は五時間半。
ホテルへのチェックインは十一時三十八分。
死亡推定時刻の一時間半前である。

ただし、彼女がチェックインをした姿を誰も目撃していない。
立ち入ったのはショボンと支配人の二人で、部屋に鍵が掛かっていた事や窓が開いていたことの証言は一致している。
遺書は部屋に残されており、死に至った経緯が書かれていた。
それの筆跡とチェックイン時のサインは一致しており、同一人物の物と確定された。

ホテルに滞在していた七十一名の内、明朝一時半に寄港したオアシズからの客は三名。
彼らとクリスとの接点は見つけられず、彼女の死には関与していないと判断するしかない。
すでに彼らはオアシズに戻っていて、トラギコが手出しできない場所にいる。
ショボンの心配は杞憂に終わったと云う訳だ。

154 名も無きAAのようです :2013/09/26(木) 21:55:08 ID:W2H0TbLI0
死体には暴行の跡はなく、漂う内に岩で切った細かな擦り傷から、崖の上から飛び降りたと推測される。
大量の薬物を摂取して意識を朦朧とさせ、恐怖心を和らげてから飛び降り、そして溺死した。
ここまでが、簡単な概要だ。
トラギコの頭の中では、その様子がイメージとして浮かび、何度も再現される。

情報を繋いで景色を作り、証拠を紡いで概要を整える。
あまりにも綺麗すぎる。
その光景ははっきりと思い描けるが、だからこそ不自然に思えるのだ。
自殺の現場はいつでもあらゆる影響を受け、決して綺麗にはならない。

それは数多くの現場を見てきたから分かる直感だった。
その時、窓ガラスに大粒の雨がぶつかる音が聞こえた。
雨は瞬く間に豪雨となり、ガラスは砂利でも当たっているかのような音を出し始める。
雨粒が強風にあおられ、世界が白くぼやけて見える。

一つの可能性が浮かんだのは、オアシズが出航を告げる汽笛を鳴らした時の事だった。

(;=゚д゚)「……」

可能性は次第に疑念となり、確信に近づいていく。
そして確信が疑念を氷解させ、真相を浮かび上がらせる。
これは自殺ではない。
これは――

(#=゚д゚)「おい若造……って、帰りやがった!!」

机の上に金を叩きつけるように置くと同時に、雷が世界を真っ白に照らし、巨大な雷鳴が窓を震わせた。

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\ 丶 ヾ 丶v \ ヽ \\ \. 丶 丶丶 \丶 ヽ \ \丶. .、 ヽ
ヾ丶\ 、\ヽ 、丶\ \丶丶 丶丶 \丶 ヽ \ \丶/,,;;;;/ ,,,...
 ヽ 、ヾ 、ゞ ヾ丶 ゝ丶\ ゝヽ丶ヽ ゝヽ 、ゞ ヾ丶 ゝ/,,,;;;/  册册
 ヽ \ 丶\丶ヽ\ 丶  ヽ ヾ ゞ\ヽ ゝヽ丶丶 、/___/  _,. 册册
                ‥…━━ August 4th PM 12:06 ━━…‥
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喫茶店から一歩外に出ると、雷鳴と強風、そして滝のような雨がトラギコを歓迎した。
空は黒く濁り、青空は一片も残されていない。
発光と金属を引き裂くような音に続く爆音、冷たい風。
嵐がポートエレン上空を覆い、不気味な世界に染め上げていた。

誰一人屋外に出ていない。
長く続く石畳の坂の上で、トラギコは周囲を見渡した。
駐車されていたオフロードバイクに目をつけ、それに跨る。
キーの差込口を外し、その下から出てきた配線の一本を選んで引き千切り、配線同士を何度か合わせると、エンジンが力強く震えた。

邪魔な前髪を後ろに漉き上げ、口元の水滴を払う。
払い落とした水滴の代わりに、また新たな雨水が顔を濡らす。

155 名も無きAAのようです :2013/09/26(木) 21:55:57 ID:W2H0TbLI0
(;=゚д゚)「ぷはっ……!!
    くっそ、誰だか知らねぇが、やってくれるラギ!!」

トラギコはアクセルを捻り、坂道を下り始める。
眼下の荒れる海を悠然と進み始めたオアシズが完全に港を離れるまで、五分は掛かる。
それまでに追いつき、乗り込まなければこの“事件”は解決しない。

――これは自殺ではなく、殺人なのだ。

(#=゚д゚)「くっそ!! くそがぁ!!」

雨で滑りやすくなっている坂道をバイクで駆け降りるトラギコは、遠ざかるオアシズに悪態を吐いた。
住宅地を抜け、人気のなくなった市場へ侵入し、埠頭から離れたオアシズを目の当たりにした。
バイクを乗り捨て、トラギコは己の迂闊さ、そして浅墓さを呪う。
一体、デレシアに出会ってからどれだけ自分は浅はかな行動をしてきたのだろうか。

彼女のおかげでどれだけ気付かされることが生まれたのだろうか。
今度ばかりはあの女に頼らずとも気付けたことがある。
これは彼の専門だ。
自殺に見せかけた事件など、これまで何度も経験してきた。

しかし、今度の事件はその中でも特上の部類。
その巧妙さ。
その狡猾さ。
素人の犯行ではない。

詳しいトリックはまだ分からないが、自殺に見せかけた殺人を行い、トラギコを欺いてのけた。
目的は恐らく、時間稼ぎ。
そう。
オアシズ出航までの時間稼ぎが、犯人の狙いだったのだ。

だとするならば、犯人はオアシズに乗船していることになる。
被害者、クリス・パープルトンはポートエレンで殺害されたのではなく、オアシズで殺害された後に投棄されたに過ぎない。
投棄の第一目的は捜査のかく乱。
警察の聖地と言い換えてもいいジュスティア現地警察をオアシズに乗船させないための、巧妙な仕掛け。

それすらも装っているという可能性は、ない。
全てを語ったのは、死体だった。
仮にあの部屋から飛び降りたのならば、必ずあるはずのものが欠けているのだ。





それは――




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156 名も無きAAのようです :2013/09/26(木) 21:59:00 ID:W2H0TbLI0
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Ammo→Re!!のようです
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‥…━━ August 4th PM 12:00 ━━…‥

分厚い扉が鈍い音を立てて背後で閉まる。
自動的にバルブが回転して完全に扉がロックされると、そこが全くの別世界に繋がる通路であることが分かった。
床には灰色の絨毯が敷かれ、壁にはつなぎ目一つない。
幅十フィート、高さ十五フィート、長さ五十ヤードの通路の天井は全体が白く発光しており、薄暗さはなかったが息苦しさはあった。

通路の奥にはサングラスと黒のスーツ、そしてH&K MP5K短機関銃で武装した男が二人立っていた。
扉の傍に腰ほどの高さがある譜面台のような物があり、細い支柱の先には青白く輝く薄い液晶画面が付いている。
液晶画面にはカードを画面に触れさせるようにと指示文が表示されていた。
偽装カードを使われることを防ぐための、最後の検問所だ。

(■_>■)「カードをこちらに」

ζ(゚ー゚*ζ「はい」

画面にカードをかざすと、扉上部が緑色に光った。
続けてブーンがかざすと黄色に、ヒートの時には青色に変わった。
これは、予約している人間が全て揃っていることを確認するための仕掛けで、乗船券購入の際に申請した人間が揃わなければ別室に案内され、揃うまでそこで待機することになる。
ここまでするのは、団体客に成りすまして船で悪事を働かれないようにと云う狙いがある。

(■_>■)「ありがとうございます。
      ようこそ、オアシズへ」

男が画面に掌を押し当ててから恭しく一礼すると、空気が漏れる音と共に扉が勢いよく沈んだ。
その先には、世界最大の豪華客船オアシズの絢爛豪華な内装が待っていた。

(*∪´ω`)「おー!」

ノパ⊿゚)「……おぉ!」

そこは、街があった。
大きく切り抜かれた継ぎ目のないガラスの天井の向こうには、生き物のように蠢き、水面のように揺蕩う黒雲が浮かんでいた。
躓かないように鏡面加工された特殊素材のレンガを敷き詰めた床にはゴミ一つなく、隅々まで清掃が行き届いている。
飲食店などが適度な間隔を空けて立ち並び、楕円形の吹き抜けの上に架かる幅広の橋には木製のベンチと、鮮やかな緑色の葉を茂らせる観葉植物が置かれていた。

157 名も無きAAのようです :2013/09/26(木) 22:01:04 ID:W2H0TbLI0
オアシズ内の橋にはそれぞれ名前が与えられていて、各地区の通りにも同じ名前が与えられている。
例えば、ヴィヴィオ橋に繋がっている場所であれば、ヴィヴィオ・ブリュッケンシュトラーセ(ヴィヴィオ橋通り)、と言った具合だ。
船首を上に船内を左右に分け、左の通路をリンクスシュトラーセ(リンクス通り)、右の通路をレヒツシュトラーセ(レヒツ通り)として、それぞれの位置を説明する際に使用する。
機関室や保管庫のある船底は数百ものブロックで管理され、主要空間は五ブロックに分かれてブロックごとに統治されている。

また、オアシズでは居住と店の区画をあえて明確に分けていない。
ここに住む人間の多くは店を構えており、店自体が彼らの家となっている。
極稀に、隠居した人間が部屋を買い取って別荘のように使ったりしている場合があるが、その場所もどこかに集中している訳ではない。
密集することによって妙な疎外感を味あわせたくないという、船の経営者にして市長であるリッチー・マニーの方針だった。

観光客用の部屋に関しても、少しずつ分けて建てられているため、船内の至る所には案内図がある。
面白いことに、全ての建物は天井から離れており、それぞれが屋根を持って並んでいた。
三角屋根から水平な屋根、果ては一階から更に上まで伸びる高層ビルまで種類は様々だ。
圧迫感のない空間づくりを目指した設計は、客からも住民からも好評だった。

そこで工夫されているのが、各階の配置だ。
段々畑のように一階層ごとにずれることで、見上げれば必ず空が視界に入る設計をしている。
上の階に行く毎に面積は狭まるが、店の種類を階ごとに整理することで対処している。
最上階からの眺めは壮観で、上空から山街を見下ろしているように見え、逆に、一階からは山を見上げているような構図となる。

デレシア達がいる場所はオアシズの第四ブロック十階、レヒツ通り。
外からの入り口となる階であるために、エントランスセクション、と呼ばれている。
その為、人の出入りが最も多く、最も賑わいを見せる場所だ。
人が往来し、ベンチに腰かけて和む姿は地上の街と何一つ違わない。

ノパ⊿゚)「すげぇな、こりゃ」

ζ(゚ー゚*ζ「驚くのはまだまだこれからよ。
      とりあえず、お部屋に行きましょう」

デレシア達はブーンを真ん中に横並びに歩き始める。
幅の広い歩道ですれ違う人々は、ブーンの事を奇異の目で見ることはなかった。
逆に、若い女性たちの口からは思わず、可愛らしい、と声が漏れるほどの評判だった。
これまでに味わったことのない感覚に怯えるブーンだったが、その姿は彼女達にとっては一層可愛く見える演出にしかなっていなかった。

(;∪´ω`)「デレシアさん、なんでぼく、あんなめでみられてるんですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「それはね、ブーンちゃんが可愛いからよ」

(;∪´ω`)「お?」

一行の部屋は、第四ブロック十八階のロイヤルロフトスイート802号室だった。
最高級の部屋を取ったのには訳があった。
ブーンに贅沢をさせるためではなく、ブーンの望みを叶えやすくするためだ。
船内にはスポーツジムや射撃場があるが、この部屋には小さいながらもそれらが備え付けられている。

特に、シューティングレンジがあるのは魅力的だ。
実弾は撃てないが、同様の反動が生じるペイント弾を発砲出来る。
デレシアは、ブーンに銃の扱いを教えるつもりだった。
銃はこの世界で最も平等な力で、老若男女問わず銃爪さえ引ければ相手を殺せる武器だ。

158 名も無きAAのようです :2013/09/26(木) 22:06:19 ID:W2H0TbLI0
近い将来、ブーンはそれを使う必要に迫られることだろう。
ならば早い段階でその使い方と恐ろしさ、そして手にするべき銃を知るべきだ。
人目に付かず、尚且つ気兼ねなくレクチャーできる空間が欲しかったのである。
エレベーターに乗り込み、部屋に向かった。

(∪´ω`)「どんなおへやなんですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうねぇ……
      すごいお部屋だから、楽しみにしててね」

(*∪´ω`)「おっおっおー! たのしみですお!」

十八階に着き、吹き抜けの手摺沿いに部屋のある場所まで徒歩で移動する。
服屋や小物屋などの娯楽系の店が多く並び、店の前では客がショウウィンドウの中に置かれた商品を眺めていた。
802の部屋――というよりも家――は、第五ブロックとの境、レヒツ通りと交差するヴィラ橋通りにあった。
同じロイヤルロフトスイートの部屋が立ち並び、全部で十部屋が軒を連ねている。

建物は周辺の建物から浮かないように地味な配色がされ、外見はお世辞にも豪華なものとは言えない。
一見してただの二階建ての民家なのだが、これでも部屋なのである。

ζ(゚ー゚*ζ「ここが、私達のお部屋よ」

ノパ⊿゚)「家だろ、これ」

ζ(゚ー゚*ζ「いいえ、お部屋よ」

デレシアは部屋のドアノブにカードをかざしてロックを解除し、部屋の扉を開く。
ベージュ色で統一された内装に驚くよりも先に、その広さにヒートとブーンは驚いていた。
玄関は三人が入ってもまだ余裕があり、はいってすぐ目に入るのが、白いレースのカーテンが掛けられた海と空が一望出来る巨大な窓。
入ってすぐ右手側には階段があり、二階があることが分かる。

ノハ;゚⊿゚)σ「なぁ、これってやっぱりい……」

(*∪´ω`)「すごいお! ひろいお! おっきいお!」

怪我のことなど忘れて、ブーンはデレシアの手を取って興奮していた。
この反応に、デレシアは驚いていた。
ここまで喜ばれるとは思っておらず、ここまで素直に自分の感情を表現できていることが何よりも嬉しかった。
恥ずかしがり屋のブーンも、彼女達の前ではだいぶ素直になれるようだ。

後は、人前でどれだけ堂々と出来るかだ。
三人は靴を脱いで、部屋に上がった。
フローリングの床はワックスで磨かれていて鏡のように輝き、ガラスのテーブルの上には果物の乗った籠が置かれている。
その傍の臙脂色のソファーはビロード地で作られており、一目で高級品だと分かる仕上がりをしていた。

シューティングレンジと運動部屋は二階にあり、寝室や台所、その他の設備は一階に揃っている。
トイレと風呂場は独立しており、台所は全て電気で動く物を使っている。
電子コンロに電子レンジ、冷蔵庫、冷凍庫、洗濯機、そして乾燥機。
一般家庭の年収二年分に匹敵する電化製品が惜しげもなく置かれ、航行中は自由にこれらを使うことが出来る。

159 名も無きAAのようです :2013/09/26(木) 22:08:07 ID:W2H0TbLI0
近い将来、ブーンはそれを使う必要に迫られることだろう。
ならば早い段階でその使い方と恐ろしさ、そして手にするべき銃を知るべきだ。
人目に付かず、尚且つ気兼ねなくレクチャーできる空間が欲しかったのである。
エレベーターに乗り込み、部屋に向かった。

(∪´ω`)「どんなおへやなんですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうねぇ……
      すごいお部屋だから、楽しみにしててね」

(*∪´ω`)「おっおっおー! たのしみですお!」

十八階に着き、吹き抜けの手摺沿いに部屋のある場所まで徒歩で移動する。
服屋や小物屋などの娯楽系の店が多く並び、店の前では客がショウウィンドウの中に置かれた商品を眺めていた。
802の部屋――というよりも家――は、第五ブロックとの境、レヒツ通りと交差するヴィラ橋通りにあった。
同じロイヤルロフトスイートの部屋が立ち並び、全部で十部屋が軒を連ねている。

建物は周辺の建物から浮かないように地味な配色がされ、外見はお世辞にも豪華なものとは言えない。
一見してただの二階建ての民家なのだが、これでも部屋なのである。

ζ(゚ー゚*ζ「ここが、私達のお部屋よ」

ノパ⊿゚)「家だろ、これ」

ζ(゚ー゚*ζ「いいえ、お部屋よ」

デレシアは部屋のドアノブにカードをかざしてロックを解除し、部屋の扉を開く。
ベージュ色で統一された内装に驚くよりも先に、その広さにヒートとブーンは驚いていた。
玄関は三人が入ってもまだ余裕があり、はいってすぐ目に入るのが、白いレースのカーテンが掛けられた海と空が一望出来る巨大な窓。
入ってすぐ右手側には階段があり、二階があることが分かる。

ノハ;゚⊿゚)σ「なぁ、これってやっぱりい……」

(*∪´ω`)「すごいお! ひろいお! おっきいお!」

怪我のことなど忘れて、ブーンはデレシアの手を取って興奮していた。
この反応に、デレシアは驚いていた。
ここまで喜ばれるとは思っておらず、ここまで素直に自分の感情を表現できていることが何よりも嬉しかった。
恥ずかしがり屋のブーンも、彼女達の前ではだいぶ素直になれるようだ。

後は、人前でどれだけ堂々と出来るかだ。
三人は靴を脱いで、部屋に上がった。
フローリングの床はワックスで磨かれていて鏡のように輝き、ガラスのテーブルの上には果物の乗った籠が置かれている。
その傍の臙脂色のソファーはビロード地で作られており、一目で高級品だと分かる仕上がりをしていた。

シューティングレンジと運動部屋は二階にあり、寝室や台所、その他の設備は一階に揃っている。
トイレと風呂場は独立しており、台所は全て電気で動く物を使っている。
電子コンロに電子レンジ、冷蔵庫、冷凍庫、洗濯機、そして乾燥機。
一般家庭の年収二年分に匹敵する電化製品が惜しげもなく置かれ、航行中は自由にこれらを使うことが出来る。

160 名も無きAAのようです :2013/09/26(木) 22:09:31 ID:W2H0TbLI0
ζ(゚ー゚*ζ「はい、じゃあここで注意点ね。
      このお部屋に入るには、ドアノブにこのカードをかざすだけでいいんだけど、お部屋を出る時には勝手に鍵が閉まっちゃうの。
      だから、お部屋を出る時には必ずカードを持っておいてね」

人差し指と中指で挟んだカードを動かして、ブーンとヒートにこの船でのルールを説明する。

(*∪´ω`)゛「はいですお!」

ノパ⊿゚)「りょーかい。
    で、この後どうする?」

ζ(゚ー゚*ζ「まずはお昼ご飯にしましょうか。
      この船の中にある全部のお店での支払いは、このカードを出すだけでいいわ」

要は、全ての面倒事はこのカード一枚で片付けられるということである。
支払から入退室、劇場への入場もこれ一枚で可能だ。
逆を言えば、このカードを紛失した時が最も面倒な時である。
再発行までには様々な質問を受け、再発行費として多額の費用を請求される。

盗難にあいでもすれば、不正使用される恐れがある。
高級品の購入や、部屋への侵入もこれ一枚だ。
オアシズもその点を考えており、各ブロックの間にカードをかざすパネルがある。
そこで使用すれば、当然履歴が残るわけで、カードの追跡が可能となるのだ。

無くさないのが一番だが、これだけ広い船内でこの薄いカード一枚を紛失するのは簡単だ。
後でブーンに首から下げられるパスケースを買い与え、肌身離さないように指導する予定である。

(*∪´ω`)゛「カード、だして、つかう……」

ζ(゚ー゚*ζ「そう、後は、失くさないってこと」

(*∪´ω`)゛「わかりましたお!」

ノパー゚)「昼飯はどうする?」

ζ(゚、゚*ζ「前に乗った時から大分時間が経ってるから、お店の事情はよく分からないのよねー。
      ま、ブーンちゃんのお鼻に任せましょうか」

(∪´ω`)「へ?」

ζ(゚ー゚*ζ「美味しそうなお店、ブーンちゃんが選んでね」

ブーンの鼻先をつん、と指でつつく。
首を傾げ、ブーンは少しの間考え、理解した。

(∪´ω`)「いいんですか?」

ブーンの目線に合わせて膝を屈め、デレシアは満面の笑みで言った。

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、もちろんよ」

161 名も無きAAのようです :2013/09/26(木) 22:11:30 ID:W2H0TbLI0
その時、空が白に染まり、同時に爆音に近い、生木が引き裂かれるような音が空から響き渡った。
意外なことにブーンはその音に全く怯えた様子を見せず、デレシアの目を見て笑顔を浮かべていた。
窓を大きな雨粒が叩き、直ぐに大雨が世界を白に染める。
嵐がポートエレンに到達し、豪雨と雷の洗礼を浴びせ始めた。

上方から汽笛の重厚な音が鳴り響く。
出航の時だ。
鉄琴をリズムよく叩く音の後、船全体に年老いた男性の柔らかな声が響いた。

『本日はオアシズにご乗船いただき、誠にありがとうございます。
これより本船は、定刻通りティンカーベルに向かいます。
嵐の影響で予定到着日時は不定となります。
それでは、よき旅を』

船が僅かに振動し、ポートエレンが遠ざかる。
長い船旅が、始まった瞬間であった。

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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Reasoning!!編

                    それでは、よき旅を。
                  第二章【departure-出航-】
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               ‥…━━ August 4th PM 12:06 ━━…‥

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オアシズ第四ブロック十八階、そこはファッションや装飾品の店が多く並ぶ階となっている。
十階とは異なり、高級店ばかりが店を出しているために客があまりいないとのことだった。
嵐によって薄暗くなった船内は日中にもかかわらず、夕暮れ時のような暗さとなっていた。
店から漏れる明かりが空の明るさをはねのけ、雨音を跫音と喧騒が迎え撃つ。

人の跫音と雨音の違いが曖昧になる中、ブーンは音でも見かけでもなく、匂いを頼りに動いていた。
体の節々はまだ痛むが、空腹に比べれば何という事はない。
デレシアとヒートに頼まれたのは、いい匂いのする店を探すということ。
匂いは下から上に向けて漂ってくるので、ブーンはそれらの匂いを記憶して、これだと思うものを辿ればいいだけだった。

今追っているのは、香ばしく、そして甘さの混じった匂いだった。

(∪´ω`)「こっち、ですお」

ノパー゚)「どんな匂いがするんだ?」

162 名も無きAAのようです :2013/09/26(木) 22:13:32 ID:W2H0TbLI0
(∪´ω`)「いいにおいですお」

ヒートの手を引いて、ブーンは匂いの元へと急ぎ足で向かう。
急ぎ足なのはブーンだけで、ヒートもデレシアもいつも通りの歩調で歩いていた。
歩幅が違うことに気付かないまま、ブーンは二人を導く。
匂いは、下からしていた。

具体的な距離までは分からないが、まだ下なのは分かる。
エレベーターではなくエスカレーターを使い、三人はどんどん下に降りて行く。
九階に来てから、匂いが濃くなった。
恐らく、この階層にある。

人の目はもう気にならなくなっていた。
これまで、人と会うと必ず耳を見られた。
今は、眼を見られていることが分かっている。
全てはデレシアからもらった帽子のおかげだった。

怯えて行動する必要がないという事実は、ブーンの行動を大胆にしていた。

(*∪´ω`)スンスン

匂いを追って進んでいくと、その正体が見えてきた。
店と店との間の隙間に一時的に店を構えている、いわゆる出店が匂いの発生源だった。
出店の看板には『ギョウザ』と書かれている。
これだけいい匂いをさせていながら、客は全くいない。

というか、一人もいない。

( `ハ´)「……」

長い黒髪をオールバックにして、後頭部で三つ編みにした細い切れ長の目を持つ男。
黒いエプロンの下には黒い半袖のポロシャツを着ていて、黒の似合う男だった。
年齢は若く、三十代手前のように見える。
屋台の店主は不機嫌極まりない顔をしながら、鉄板の上で何かを焼いていた。

これがギョウザ、というものなのだろうか。

(∪´ω`)

( `ハ´)

面白くなさそうな顔のまま、店主はとろみの付いた水を鉄板に流し込む。
水が一瞬で沸騰し蒸発する音に、ブーンは驚いた。
その音と湯気に道行く人は目を向けるが、足を止めない。
男の作業を興味深そうに見ているのは、ブーンだけだった。

細い目が、ブーンに向けられた。

( `ハ´)「……何アルか?」

163 名も無きAAのようです :2013/09/26(木) 22:14:16 ID:W2H0TbLI0
(;∪´ω`)「お……あの、いいにおいが……したので……」

( `ハ´)「匂いがして、どうして私の事を見ているアル。
     見ていても愉快なことはしていないアルよ」

(;∪´ω`)「えと……」

男の言葉は威圧的だが、声には威圧感はなかった。
只管に、無関心。
奇妙な男だと、ブーンは思った。
言葉だけを見ればブーンに対して好意的ではないが、声を聞く限りだと、彼はただ疑問を口にしているだけなのだ。

(;∪´ω`)「つくるの、みていたかったんです……お」

オセアンでは厨房の裏――正確には裏口から出たところ――から調理の様子を見ていた。
その為、調理に関して、ブーンは少しばかり心得があった。
あくまでも見識だけの話だが。
それでも、調理を見るのは好きだった。

( `ハ´)「……好きにすればいいアル」

男はそれだけ言って、調理を再開した。
しかし、男の手元を見ることが出来ない。
背伸びをしても届かず、ブーンは何度かジャンプした。
材料の詰まったショーケースのせいで、何も見えなかった。

ノパー゚)「ったく、しょうがねぇな。
    そらよっ!」

(*∪´ω`)「お!」

ひょい、とヒートがブーンの腋に手を入れて持ち上げた。
それまで見えなかった男の手元が、やっと見えた。
黒い鉄板の上には、それと同じ大きさの蓋が乗っていて、その下で何かが焼かれている。
そこから香ばしい香りが漂っていることは紛れもない事実であり、ブーンはこれから何が現れるのか、期待に胸を膨らませた。

ブーンに一瞬だけ目を向けた男は、皿を片手に鉄の蓋を持ち上げ、そこにフライ返しを差し込んで何度が前後させる。
フライ返しにちょうど乗る大きさの“何か”を長方形の紙皿に乗せ、男はそれをショーケースの上に合計三つ並べて置いた。
そこで初めて、男の腕が筋肉質であることが分かった。
細かな傷の上に、更に大きな傷。

ただの出店の店主とは考えにくかった。

( `ハ´)「食えアル」

割り箸を皿の上に乗せ、男はそれだけ言った。
目は、ブーンをまっすぐに見ていた。

ノパ⊿゚)「ありがとさん。
    お代は?」

164 名も無きAAのようです :2013/09/26(木) 22:17:30 ID:W2H0TbLI0
一瞬だけヒートを見た男は、感情のこもっていない声で答える。

( `ハ´)「……いらないアル。
     美味かったらまた来い。
     その時は、お代をもらうアルよ」

(*∪´ω`)「あ、ありがとうございますお」

( `ハ´)「気にする必要はないアル。
     とにかく、冷めない内に食うアル」

店の隣にあった席に移動して、ブーンはギョーザなるものをよく観察した。
三日月形のそれを箸で摘まむ限りだと、表面は固く、中は柔らかい。
香りで判断するに、中には肉と野菜が詰まっているようだ。
肉を包む黄金色の焦げ目の付いた皮にはヒダが付いており、その理由は分からない。

ζ(゚ー゚*ζ「いただきます」

ノパー゚)「いただきます、っと」

(∪´ω`)「いただきますお」

一口で食べられる大きさだが、小さく分けて食べなければ内臓への負担が掛かるので駄目だ、とデレシアに言われていた。
箸をギョーザに突き立てると、肉汁が染み出してきた。
立ち上る湯気からは肉の甘い匂いがする。
二つに分け、それを口に運ぶ。

最初に感じたのは香ばしく甘い匂いだった。
舌の上に乗った熱い塊を細かく噛み砕くたび、野菜の水分と肉汁の混じった、旨味を凝縮した液体がギョーザを包む。
皮は滑らかで、そして柔らかく弾力があり、甘い。
サクサクとした食感の焦げ目を噛むたびに苦みを感じるが、それが豚肉と野菜が作り出す甘さを際立てる。

野菜が生み出すシャキシャキとした歯応え。
舌先に感じる独特の甘味から、キャベツは分かる。
もう一つ、キャベツに紛れるようにして入っているのは白菜で、みじん切りにされているのはタマネギだ。
オセアンではいずれも芯の部分をよく食べていたので、その味は――名前はペニサスに教えてもらったので――知っていた。

何度も口から空気を含みいれて口内を冷まそうとするが、なかなか冷めない。
固形だったギョーザが口の中で液体になってから、ブーンはやっと飲み込んだ。
思わず満足した溜息が漏れる。

(*∪´ω`)「ほふー」

ζ(゚ー゚*ζ「……あら、美味しい!」

ノパー゚)「ビールが欲しくなる味だな」

( `ハ´)「ビールは一杯一ドル、餃子は一皿三ドル。
     ……次からは覚えておくアルよ」

165 名も無きAAのようです :2013/09/26(木) 22:19:41 ID:W2H0TbLI0
いつの間にか、ジョッキを三つ持った店主が席の横に現れていた。
大ジョッキに並々と入れたビールをデレシアとヒートの前に置き、ブーンの前には茶色い液体が注がれたジョッキを置いた。
嗅いだことのない匂いだったが、紅茶の匂いにどことなく似ている。

( `ハ´)「麦茶アル」

(∪´ω`)「あ、ありがとうございますお。
      ぎ、ギョーザ、おいしいです」

( `ハ´)「いいから、飲むアル。
     それと、ギョーザじゃなくて餃子、アル」

それだけ言い残し、店主は店に戻って餃子を焼き始めた。
ブーンは言われた通り、ジョッキを両手で持って麦茶を飲む。
仄かに甘い香りがするが、味は複雑な物だった。
紅茶に近い渋みと甘み、しかしさっぱりとした後味は紅茶にはない。

口内の油を洗い流すというよりも、中和する感じは餃子とよく合う。
二口目の餃子を食べて気付いたのは、熱さも美味さの一つの要素となっている事だった。
入っている食材で分かるのは、キャベツ、タマネギ、白菜と豚肉、そしてもう一種類。
苦みと甘みを併せ持つ、独特の香りを持つ平たい野菜だ。

飲み込んでから、ブーンはデレシアに訊くことにした。

(∪´ω`)「デレシアさん、これはなんていうやさいなんですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「これはね、ニラ、っていうのよ」

(∪´ω`)゛「ニラ……お」

時間を掛けて五つあった餃子を平らげ、けふ、と小さくげっぷをする。
ヒートに食事中はげっぷをしては駄目だと軽く指摘され、紙ナプキンで口元を拭ってもらった。
満腹と言わないまでも、満足のいく食事だった。

(*∪´ω`)「おー……おいしかったですおー」

ζ(゚ー゚*ζ「それじゃあ、お店の人にちゃんとお礼を言わないとね」

(*∪´ω`)「お」

食べ終えた皿を一つにまとめて、ブーンは店主の元に歩いていく。
店主は何も言わなかったが、目線をブーンに向けていた。

(*∪´ω`)「ごちそうさまでしたお」

( `ハ´)「……また来てもいいアルよ」

店主が手渡した袋には、パック詰めされた餃子がこれでもかと入っていた。

(∪´ω`)「お?」

166 名も無きAAのようです :2013/09/26(木) 22:20:23 ID:W2H0TbLI0
( `ハ´)「……焼きすぎただけアル」

と言っても、男の渡した餃子は先ほど焼いたばかりの物。
男はそれ以上何も言わず、再び餃子を焼き始めた。

( `ハ´)「……」

(∪´ω`)「……お。
      ぼく、ブーンっていいます」

( `ハ´)「……シナー・クラークス」

デレシア達も礼を言って、店を後にした。
シナーが餃子を焼く音が背後から聞こえてくるが、客が寄ってきている様子はなかった。

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部屋に戻るまでの間に、デレシアは雑貨屋に寄りたかった。
雑貨屋で首から下げるタイプのパスケースを買い、ブーンに与えようと考えているからだ。

ζ(゚ー゚*ζ「ちょっと雑貨屋に寄りましょう」

ノパ⊿゚)「だな。ブーンにパスケースを買ってやりたかったんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「私もそれを買おうとしてたのよ」

大量の餃子が詰まった袋を大事そうに両手で持ちながら、ブーンはデレシアとヒートに挟まれて歩く。
ローブの下で尻尾が嬉しそうに揺れている。

(*∪´ω`)「ぎょーざ、ギョウザ、餃子!」

正直、出店での一件は意外だった。
ブーンが特定の人種を魅了する力を持っているのは分かっていたが、シナーと名乗った店主が魅了されるとは思わなかった。
腕の傷が物語るのは、彼が戦いに身を投じているということだ。
あの無愛想な部分と人を寄せ付けない野犬のような雰囲気さえ直せれば、店は上手くいくだろう。

三階上にある第二ブロック十二階、ヤザッカー橋通り。
そこには雑貨屋が多く店を構える通りで、高級店から格安店まで種類も豊富だ。

ζ(゚ー゚*ζ「私が買ってくるから、二人ともここで待ってて」

167 名も無きAAのようです :2013/09/26(木) 22:21:39 ID:W2H0TbLI0
橋の上のベンチに二人を座らせ、デレシアは一人雑貨屋に足を運んだ。
選んだ店は全ての商品が一ドル均一と云う格安店で、店内には所狭しと様々な雑貨が置かれている。
小物入れコーナーでパスケースと財布を手にし、レジで支払いを済ませた。
店を出たデレシアの前に一人の男が現れたのは、偶然ではなかった。

九階で餃子を食べている時から視線を感じていたし、ヒート達を置いて雑貨屋に来た時もその視線は背中で感じていた。
後を付けられていることは、ヒートも分かっていただろう。
だから、二手に分かれて対処することにしても、彼女は素直にそれを受け入れたのだ。

£°ゞ°)「どうも、御嬢さん」

胸ポケットにモノクルを挟んだ皺一つないスーツの下には、糊の効いたボタンダウンのワイシャツ。
深紅色のネクタイを止めるのは、金色の薔薇をあしらった悪趣味なタイピン。
圧倒的な存在感を出している右腕の金色の腕時計に、鏡のように磨かれたウィングチップの茶色い革靴。
鼻の下に生える髭は綺麗に整えられ、櫛の通された黒髪は左右に流し、目尻の垂れた碧眼がデレシアをまっすぐに見据えている。

身なりからして、このブロックを任されている上位の階級を持つ人間だろう。

ζ(゚ー゚*ζ「こんにちは。 何か用かしら?」

£°ゞ°)「失礼、あまりにもお美しかったので、つい。
      何かお困りなことはございますか?
      何分、この街は広くて複雑でしょうから、もしよろしければお手伝いしますよ」

ζ(゚ー゚*ζ「そうねぇ、今はないわ」

£°ゞ°)「では、何かありましたらこちらまでご連絡いただければ」

懐から銀色の名刺ケースを取りだして、そこから高級用紙に印刷された名詞を差し出した。
オアシズ第二ブロック責任者、オットー・リロースミス。
ロミスは右手を出して、握手を求めた。
腕時計を見せつけるための動作であることは、見え透いていた。

£°ゞ°)「ロミスとお呼びください」

ζ(゚ー゚*ζ「ありがとう、ロミスさん。
      私急いでるから、またいつか」

握手を交わしてからロミスの横を通り過ぎ、デレシアは橋の上で待っている二人の元に急いだ。
面倒な手合いとは、かかわった時間だけ面倒になる。
様子を見ていたヒートが、ブーンに知られないように状況を確認してくる。

ノパ⊿゚)「どうだった?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、問題なく見つかったわ。
       ブーンちゃん、カードを出して」

パスケースを袋から出して、ブーンの首にかける。

ζ(゚ー゚*ζ「で、ここにカードを入れるの」

168 名も無きAAのようです :2013/09/26(木) 22:22:45 ID:W2H0TbLI0
(∪´ω`)「お……!」

これで、カードを落として失くすことはないだろう。
ハードタイプのケースなので、多少乱暴に扱っても簡単には折れない。

ζ(゚ー゚*ζ「さ、戻りましょう。
      ブーンちゃん、お勉強しましょうか」

(*∪´ω`)゛「お! おべんきょうするお!」

最寄りのエレベーターを使って十八階まで上がり、部屋に戻るまでの間、彼女達をつける者はいなかった。

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部屋に戻ってから、デレシアはブーンをシューティングレンジに連れて行った。
シューティングレンジは天井から床まで、全て剥き出しのコンクリートで作られていた。
同時に二人が使用できるようになっており、壁のラックには十種類の拳銃がかけられている。
全て実銃と同じ重量、材料だが、発射できるのはペイント弾だけだ。

ζ(゚ー゚*ζ「ブーンちゃん、強くなりたいって言ったわよね?」

(∪´ω`)「はい、ですお」

ζ(゚ー゚*ζ「でもね、いきなり人は強くなれないの。
      ブーンちゃん、耳を押さえて」

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ラックから艶消しのされた黒いM92Fを取って、デレシアは所定の位置に立った。
的が出現するのとほぼ同時に、デレシアの指は銃爪を引き、銃が火を噴く。
薬莢が床を叩くよりも早く、ペイント弾は的の真ん中に命中していた。
レンジ内に、銃声が木霊する。

ブーンが耳から手を離してから、デレシアは言った。

169 名も無きAAのようです :2013/09/26(木) 22:24:06 ID:W2H0TbLI0
ζ(゚ー゚*ζ「だから、力を使えるようにならないとね」

ブーンが望むのは、力だ。
それは理不尽に立ち向かう力であり、不条理を否定するための力でもある。
銃は、彼の望みを叶えるに足る道具だ。

(∪´ω`)「じゅう」

ζ(゚ー゚*ζ「そうよ。 今のブーンちゃんが手に入れられる力は、これが一番早いの」

(∪´ω`)「お」

ノパ⊿゚)「まずは知るところから始めようか。
    そら、これを付けな」

道具の入った棚を物色していたヒートが、イヤーパッドをブーンの頭から被せた。
聴力が人以上に優れているブーンに何度も銃声を聞かせるのは、拷問にも等しい。
音が反響しやすい施設だけに、イヤーパッドは必須だ。

ζ(゚ー゚*ζ「まずは銃の説明をするわ」

レンジ台の上に拳銃を置いて、デレシアは分解しながら銃の説明を始めた。

ζ(゚ー゚*ζ「いい、よく見てよく覚えるのよ。
       これが撃鉄、これが銃爪。
       ここが遊底で、こっちが安全装置。
       銃把のところに付いているこのボタンを押すと、弾倉が落ちるの」

(∪´ω`)゛

ζ(゚ー゚*ζ「銃爪に指をかけるのは、照準が合ってから。
      それまでは駄目よ。
      銃を相手に渡す時には、必ず遊底を掴んで、安全装置をかけてから、銃口を相手に向けないようにして渡すの。
      もちろん、撃鉄が起きていないことを確認するのよ」

次に弾倉から実包を取り出して、真鍮の輝きを放つそれをブーンの手に渡す。
先端に込められているのは黄色に塗られた特殊弾頭。
ペイント弾とは言っても、火薬を使って発射するわけだから当たれば痛みがある。
銃に関する仕組みの説明を終え、デレシアは銃を組み立てた。

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、試しに撃ってみましょうか」

ベレッタを握らせ、ブーンをレンジに立たせる。
デレシアの見よう見まねで構えるブーンの後ろから手を添えて、構えを安定させる。
両手で握らせ、銃を固定させる。

ζ(゚ー゚*ζ「的の真ん中を見ないの。
       自分の指の延長線上に狙いたい物が来るようにするの」

170 名も無きAAのようです :2013/09/26(木) 22:25:26 ID:W2H0TbLI0
ブーンの体は、僅かなブレを完全に抑えていた。
目的遂行のために意志を鋼にし、体を順応させている。
ダブルカラムの弾倉を咥え込む銃把は、ブーンの小さな手には余る大きさだ。
銃爪に辛うじて指が届いているといった状態で、本番でこの銃は使えない。

となると、銃把を削ってやる必要がある。

ζ(゚ー゚*ζ「ゆっくり息を吸って……倍の時間を掛けてゆっくり吐いて。
      ……そこで止めて。
      今の状態を体で覚えるの」

しばしの静寂。
銃は微動だにせず、ブーンは瞬きもしない。
ブーンからゆっくり体を離して、枷を解く。
補助を失っても、ブーンの体は動かない。

ζ(゚ー゚*ζ「銃爪をゆっくりと、絞るように引いて」

一拍。
そして、銃声。
五重円の内側から数えて三本目の円にペイント弾が黄色い印を付け、遊底が後退して薬室に新たな実包を送り込み、空薬莢が宙を舞う。
薬莢が地面を転がり落ちる音、硝煙の香りがシューティングレンジに揺蕩った。

ζ(゚ー゚*ζ「あら、すごいじゃない!」

驚くべきは、反動を完全にコントロール下に置いた射撃にあった。
発砲の際の力の抜き方は、理に適ったそれだ。
彼のオリジナルではなく、模倣された型なのは明らかだった。
その型には、覚えがあった。

――悠久の時を経て完成させた、デレシアの型だ。

ノパー゚)「初めてにしてはいい腕だぞ、ブーン」

(∪´ω`)゛「……お!」

デレシアの補助がない中で出した成果は、想像以上だった。
もっと小型の拳銃を使わせれば、更なる成果が得られそうだ。
ブーンが当てた的までの距離。
約五十ヤード。

このシューティングレンジの最長の的であった。

(∪´ω`)「あ」

ζ(゚ー゚*ζ「どうしたの?」

(∪´ω`)「あの、あとでおしえてほしいことがあるんですけど……
      ……いいですか?」

171 名も無きAAのようです :2013/09/26(木) 22:26:45 ID:W2H0TbLI0
それにいいえと答えられるほど、デレシアもヒートも非情ではなかった。

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オットー・リロースミスは右手に残る感触に酔い痴れ、興奮していた。
これまで、多くのパーティーに参加してきたが、あれほど美しい女性と会ったのは初めてだった。
仕草、立ち振る舞い、何もかもが完成された美によって構成された美しさの化身だった。
オアシズでブロック長を任されてから、女に困ったことはない。

その彼が自室で一人の女性を想って性的に興奮している姿を見れば、彼を知る誰もが驚くに違いない。
彼女に会ってから、右手は他に何も触れていない。
つまり、右手には彼女が残っていると考えられる。
そこまで浅ましい考えに至っていることの異常性に、ロミスは気付けなかった。

指先に残る彼女の味を堪能したい衝動は、彼の理性が焼き切れていることを意味している。
女性の体を舐めることが彼の趣味であることは、彼と性的な接触を持った人しか知り得ない秘密である。
彼は、部屋の鍵が掛かっていることを確認してから、自らの指を舐めた。
塩気の中に、僅かな甘味を感じる。

この味の一部は、あの女性の物だ。
そう考えた途端、彼の陰茎が大きく膨らんだ。
直に舐めて、その体の細部に至るまでを味わいたかった。
どんな味がするのだろうか。

どんな声で喘いで、どんな声で愛を囁くのだろうか。
最近味わった女の体の味など、もう忘れてしまった。
行きずりの女だ。
名前も、顔も、もう思い出せない。

あの女性の前では、あらゆる女性が霞んで見える。
今、ロミスが求めているのは黄金色の髪と蒼穹色の瞳を持つあの女性の体だけだった。
他の女の体など、オナホールにしか思えない。
掌が彼の唾液で隙間なく濡れた頃には、ロミスは平常心を取り戻していた。

常に紳士であれ。
それが、ロミスの信条だ。
性欲に流されないように考えを固め、今後は己の目標のために動くことに決めた。
そう。

コクリコホテルで見かけたその瞬間から、ロミスはあの女性に一目惚れをしていたのだから。

172 名も無きAAのようです :2013/09/26(木) 22:27:30 ID:W2H0TbLI0
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シナー・クラークスは孤独に餃子を焼いていた。
客はまだ来ていないので、作るだけ赤字になる。
それでも、餃子を焼いていた。
餃子を焼くことに使命感はなかった。

ただ、手持無沙汰になるのが嫌なだけだった。
幼少期は両親の経営する料理店で中華料理、と呼ばれる料理を学んだ。
何故中華と云う名前なのかと訊いたことがある。
かつてあった世界最大の人口を持つ土地から、その名を取っていると聞いた。

シナーは餃子をパックに詰め、ショーケースの上に積んだ。
もう十五個目だった。
客は来なかった。
売り上げがまた赤字になる。

餃子の味には自信があった。
商才には自信がなかった。
自分が客受けしない容姿と性格であることはよく理解していた。
自分は根っからの戦争屋で、屋台の店主には向いていないのだ。

溜息を吐く代わりに、シナーは電子コンロのスイッチを切った。
そろそろ、意地を張るのをやめて部屋に戻ろう。
そう、決めた。

「あ、あの……」

( `ハ´)「ん?」

声変りをしていないその中性的な声は、ショーケースの下から聞こえてきた。
聞いた記憶のある声だ。

( `ハ´)「ブーンアルか?」

ショーケースの向こうを覗き込むと、そこには毛糸の帽子を被ったブーンがいた。
紙袋を両手で大事そうに持つ彼は、シナーの目をまっすぐに見つめ返して頷く。

(∪´ω`)゛

( `ハ´)「何の用アルか?」

173 名も無きAAのようです :2013/09/26(木) 22:29:01 ID:W2H0TbLI0
(∪´ω`)「あの、これ……」

紙袋を差し出されたので、シナーはそれを受け取った。
中を開けて覗き込むと、小麦色のクッキーが入っていた。
形はかなり大きく、シナーの手の平ほどの大きさがある。
でかい。

( `ハ´)「……でかいアルね」

でかすぎだ。
これを作った料理人の気持ちが分からない。

(;∪´ω`)「……ごめんなさい、ですお」

( `ハ´)「? なんで謝るアルか?」

(;∪´ω`)「あの……それ……ぼくが、つくったから」

シナーは、ブーンの態度の理由を理解した。
このクッキーは、ブーンが感謝の気持ちを表すために作ったのだ。
ならば、でかくて結構。

( `ハ´)「……料理は初めてだったアルか?」

(;∪´ω`)「はい……です」

( `ハ´)っ○「ふむ……」

一枚だけ取出し、シナーは改めてクッキーを見る。
やはりでかい。
形はどうにか円形だが、とにかくでかい。
匂いを嗅ぐ限り、シンプルなバタークッキーの様だ。

大口を開けて、クッキーに齧りつく。

( `ハ´)「む……」

硬い。
並のクッキーの硬さではない。
堅焼きクッキーと云うレベルではない。
石でも食べているような硬さだ。

(;∪´ω`)「お……」

不安そうな目で見られ、シナーは焦った。
不味いと思っていると思われているのだろう。
いや、不味いのではない。
逆に、美味い。

(;`ハ´)「むぐぐ……!!」

174 名も無きAAのようです :2013/09/26(木) 22:29:53 ID:W2H0TbLI0
こうして齧っている間に舌で感じるクッキーの控えめな甘味とバターの風味は、売られているものと遜色ない。
しかし硬い。
兎に角硬い。

:;(#`益´);:「ふんぐぐぐっ……!!」

犬歯でやっと噛み砕くことに成功し、シナーはそれをどうにか咀嚼する。
ここまで顎が疲れる食べ物は生まれて初めてだ。
唾液でクッキーがふやけたおかげで、奥歯で細かく噛み砕けた。
こうなると、噛み応えがあって美味いクッキーだ。

飲み下してから、シナーは感想を言った。

(;`ハ´)「……美味いアル」

(*∪´ω`)「お……」

( `ハ´)「クッキー、ご馳走様アル」

シナーは売り上げを入れる袋と紙袋を手に、そこから逃げるように立ち去った。
これ以上その場にいると、らしくないことをしてしまうと判断したからだ。
思わず伸ばそうとした手は、彼の頭を撫でるためのものだった。
何故、出会って数時間しか経っていない少年の頭を撫でて褒めてやらなければならないのか。

――きっと、コクリコホテルで癒したはずの疲労が、まだ残っているに違いないのだと、シナーは己の気持ちを否定した。

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その人物は、部屋に戻ってから、銃の手入れを始めた。
ジュスティアの警察がオアシズに乗船していないことは確認済みだ。
それは、計画通りに物事が進行していることを意味していた。
全ては順調。

死体は無事にその役目を果たしたというわけだ。
刑事であるトラギコが現れた時は流石に肝を冷やしたが、彼の仕事熱心さと真面目さが仇となった。
いや、仇ではない。
その人物にとって、トラギコの出現は好ましいハプニングだった。

ジュスティアから警官が来る代わりにトラギコで済んだのだから。
こうして事件は事故となり、自殺へと変わった。
一瞬だけでも十分だった。
事件として処理されず、自殺として処理されることによって余計な駒が舞台に上がることは防がれた。

175 名も無きAAのようです :2013/09/26(木) 22:32:12 ID:W2H0TbLI0
舞台は常に徹底して整えられていなければならない。
不要な役者は退場させ、不要な展開は潰すべきなのだ。
しかし、この船に邪魔になるかもしれない一行が乗り込んでいることが分かってしまった。
金髪碧眼の女性を筆頭とする旅の一行は、出来れば潰しておいた方がいいだろう。

コクリコホテルで目にした瞬間から、胸に飛来した思いがある。
彼女達は、危険だ、と。
これまでに理屈に基づいて行動してきたのだが、今回ばかりは、勘を頼りに動くべきだと判断するほどだ。
それほどまでに、彼女達からは危険な香りがした。

三人で旅をしているのであれば、少しずつ削るべきだ。
まず削るべきは、当然、最も非力な存在。
つまり、毛糸の帽子を被った黒髪の少年から、消していかなければならない。
残念だが、この後に控えているシナリオから即時退場させなければ。

ブーンとかいう少年は、彼女達を釣る餌として今日にでも死んでもらおう。

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Ammo→Re!!のようです
                                Ammo for Reasoning!! 編 第二章 了
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176 名も無きAAのようです :2013/09/26(木) 23:26:46 ID:5PpPx1GAO
£°ゞ°)、長編作品出演二作目だな

177 名も無きAAのようです :2013/09/26(木) 23:28:02 ID:2gCEYnEo0
今読み終わった
乙!

178 名も無きAAのようです :2013/09/26(木) 23:41:06 ID:mmWDPWeU0
しなーかわいい

179 sage :2013/09/26(木) 23:47:58 ID:pezSR3Ro0
おつおつ

180 名も無きAAのようです :2013/09/26(木) 23:49:34 ID:0iRE9QvY0

おもしろい。
思惑と策謀が渦巻くオアシズでこれから何が起こるのだろう。

181 名も無きAAのようです :2013/09/27(金) 02:58:38 ID:uRNkBWRY0
あんたの作品群の食事描写は殺人的に引き込まれるんだよ
もはやテロだよ
だから今後ももっと作中で描いて下さいオナシャス!!

182 名も無きAAのようです :2013/10/26(土) 01:39:02 ID:prs2vRVI0
ブログの方にも書きましたが、明日の夜VIPに投下しますよ

183 名も無きAAのようです :2013/10/26(土) 01:42:54 ID:/cd5jtTkO
全裸待機

184 名も無きAAのようです :2013/10/26(土) 02:03:56 ID:rLVhRxVw0
ヒュー!

185 名も無きAAのようです :2013/10/26(土) 07:50:09 ID:jNYw28f.O
>>183 風邪引くなよ

186 名も無きAAのようです :2013/10/26(土) 08:07:01 ID:y2/KM46k0
半裸待機(下)

187 名も無きAAのようです :2013/10/26(土) 15:39:41 ID:Aq25olnAC
書き込み時間が微妙だな、今日の夜なのか明日の日曜の夜なのか

188 名も無きAAのようです :2013/10/26(土) 15:56:16 ID:o9XNxWIE0
すみません、今夜投下をします!!

189 名も無きAAのようです :2013/10/26(土) 22:52:39 ID:y2/KM46k0
wktk

190 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 20:08:50 ID:bxfQ0Rt.0
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       ///// ‐ _.,.. ‐''":/
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      / '     /:::::::/´ヽ
     ///    /::::, '-、  ノ
    【覚悟なき者は今を変えられず、力なき者は何も変えられない】
   ./ /    /:::::::ゝ'"  ノ
   ./     /::::::i´、ノ ,/ヽ
  ///  /, /::::::::`ァ‐'"  ,.ノ         ――イルトリアの諺
  ///  ///::::::::::,へ、,. イ

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┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻

それは、筆から染み出る墨の濃淡色の空だった。
夏だというのに冷たい風が吹きすさび、大粒の雨が真横に吹き付け、唸り声を上げる。
北から南に吹いていた風が西に傾いたかと思えば、東に切り替わる。
風に翻弄される雨粒が互いにぶつかり、弾け、雲の下の景色は白んで見えた。

なだらかな勾配に沿って敷き詰められた石畳の溝を、泥の混じった茶色い水が流れ落ち、小さな川を思わせる。
その水は坂を下り、街を通り、海へと流れ込んだ。
海面は水しぶきで白く泡立ち、防波堤に打ち付けられ細かく砕けた海水が強風に煽られて街に降り注ぐ。
嵐に耐え凌ぐ柳のようなポートエレンと比べて、船上都市オアシズは島の様にどっしりと構えて嵐を迎えた。

世界最大の客船にして船上都市オアシズの船長、ラヘッジ・ストームブリンガーには、一つのジンクスがあった。
嵐の運び手という名が示す通り、高い確率で彼の航行には嵐が付いて回ると云うものだ。
着任当初、同僚からはその名をよくからかれたものだが、今では冗談では済まされないほどの確率で、彼と嵐は親密な関係になっていた。
酷い時には、狂ったレーダーのせいで運悪くバミューダトライアングルの近くを通り過ぎたこともあった。

バミューダトライアングルとは、プエルトリコ島、フロイデルタ島、そしてバミューダ島を結んだ三角形の海域の呼び名である。
その周囲は常に大嵐と濃霧が停滞し、海底から生える剣山のような岩礁があらゆる船の船底を貫く危険な場所だ。
人魚に幽霊船、ヒトガタなど船乗りに語り継がれている伝承は多くあるが、その中でもバミューダトライアングルは数少ない真実の一つだ。
船乗りでその名を知らぬ者はおらず、畏れぬ者も、またその海域より内側を見て生き残った者は誰一人いない。

今から溯ること七世紀前、その海域で五隻の漁船が船だけを残して消えた。
この奇怪な事件が公になって以降、バミューダトライアングルの傍を通るだけでも、船乗り達は怯え竦んだ。
その二か月後、伝説としか思えないその現象を解明しようとした二十五の調査船が、やはり、船だけを残して洋上を漂っているのを発見された。
無線が途絶える前、船員と交わした会話に変わった様子はなかったと当時の記録にある。

これがきっかけとなり、伝説は真実として世界中に広まった。
霧の中には未発見の街があって、船員全員が拉致されたのだと大々的に発表した大学教授もいた。
が、その説があり得ないことは誰もが分かっていた。
現代を語る上では欠かせない太古の人間が残した膨大な情報には、そのような街は載っていないのだ。

191 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 20:09:35 ID:bxfQ0Rt.0
あらゆる知識も知恵も、世界で最初に発掘、復元された“ザ・ブック”と名付けられたデジタル・アーカイブ・トランスアクターが現代に与えてくれた。
偉大な恩恵は生物の情報ではなく、発掘された太古の技術の修復方法が載っていた事だった。
ダットのおかげで、この世界に未知があるとすれば、深海生物ぐらいとなっている。
ところが、バミューダトライアングルについてはダットにも載っていない、全く未知の情報なのだ。

記載がないこともなかったが、眉唾物な異次元説や、宇宙人説などの風説だけ。
未知の存在というだけで脅威なのだが、バミューダトライアングルについてはそれだけでは終わらなかった。
バミューダトライアングルの正確な位置については、実のところ、あまり分かっていないのだ。
過去確認された現場が、プエルトリコ、フロイデルタ、バミューダ島を結んだ三角形の海域だっただけで、第一回の調査船団失踪以降、同じ現象は確認されていないのだ。

二回目となる調査船団が現場に到着した時には、そこには、船の残骸しかなかった。
岩だらけの小島への上陸が試みられるも、船は乗組員と共に海の藻屑と化したのだと、簡単に推測された。
やはり生存者はおらず、残された船の残骸がかなり細かな破片となって海面を漂っているだけだった。
こうして、霧の有無に関わらず、バミューダトライアングルには近づいてはならないということが船乗り共通の認識の一つとなったのである。

ラヘッジは三段になっている操舵室の最上段から、強化ガラスの向こうを見た。
黒雲から降り注ぐ雨粒は雨粒として視認できず、線としてしか確認できない。
海面は白く泡立ち、空は今にも落ちてきそうだ。
水平線の向こうが時折、雷光で白く輝く。

間もなく、その光が音を伴ってオアシズの直上に到達するだろう。

「ヨセフ、蓄電針を上げろ。 それから……」

「アイ、キャプテン。 ホットウィスキーは後でディアナが持ってくるそうです」

ヨセフ・ガガーリンは飲み込みが早く、勇気も持ち合わせている船員だった。
落雷を蓄える機能を備えた避雷の役割を持つバルーンは、ラヘッジの言葉よりも早く上空に向けて射出されていた。
直後、空が白に染まり、雷光が暗闇を全て照らし出した。
だが。

だがしかし、空の果てに一瞬だけ見えた極小のビル群に気付いた人間は、誰もいなかった。

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      |ーi|:lll|l                     |三l三|       |iil :liii| |=i=i=i=i=|
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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Reasoning!!編
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耳付きと呼ばれて蔑まれ、痛みが日常と化していた時のことは、今でも鮮明に思い出せる。
最初は理不尽だと思っていた時もあった。
しかし、ほどなくしてそれが当たり前のことであると認識した時、理不尽と云う名前の感情は消えた。
残ったのは、痛みと理由の分からない悲しみだけだった。

192 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 20:10:59 ID:bxfQ0Rt.0
それが当たり前でなくなったのは、四日前の七月三十一日の事。
デレシアと出会い、そして、力が全てを変える様を目の当たりにした日の事だ。
あの日を境に、ブーンは知ることとなる。
世界は、力によって変えることが出来るのだと。

彼女は多くの事をブーンに与え、そして教えてくれた。
言葉、常識、知識、見識。
これまで閉ざされていた情報が濁流となって、ブーンの乾いた知識欲を潤した。
知識欲は満たされることなく、増加する一方だ。

デレシアとヒート・オロラ・レッドウィングは、その知識欲に対して十分すぎるほど答えてくれている。
欲望を満たしてくれることを抜きにしても、ブーンは二人の事を大いに好いていた。
感情に名前があることを教えてくれたのも、まだ知らなかった感情を与えてくれたのも、彼女達だった。

(∪´ω`)

“お礼”、という言葉は知っていた。
意味も、使い時も。
それを教えてくれたのは、ペニサス・ノースフェイスという老婆だった。
今はもう、ペニサスに会うことも教えを乞うことも出来ないが、彼女はブーンにとって初めての“先生”であることは不変の事実だ。

“お使い”、という言葉はデレシアが教えてくれた。
銃の使い方を教わった後、シナー・クラークスにお礼をしたいと、デレシアとヒートに言い出したのがきっかけで知った言葉だ。
彼は特に理由もなく、ブーン達に餃子を無償で提供してくれた。
人が無償で行動するその背景には何かしらの理由があるものだと思っているが、彼の行動からはその狙いが見えなかった。

純粋に、餃子をブーン達に渡したかったかのような、そんな気さえする。
しかし、貰うだけという関係は、どうにも心苦しかった。
何かお礼がしたい、とブーンが思うのは自然な流れであった。
お礼には気持ちを込めて、とはヒートの言葉だった。

単純なお礼なら、何か高額な品物、もしくは同価値の品物を買えばいいだけの話だ。
それにはデレシアも同意した。
あれだけ美味な餃子をご馳走になったのだから、こちらも、それに答えなければならない。
料理人が喜ぶお礼とは、金やお礼ではなく、美味い料理だとデレシアは補足した。

そこで、ブーンは料理をすることになった。
初めてでも美味しく作れる料理、そして、相手が食べる時間帯を考慮した結果、クッキーになった。
クッキーを作るのは勿論だが、料理を作ること自体、ブーンにとっては初めての事だった。
料理が如何なるものか、それが如何に難しく、如何に人を感動させるかは分かっている。

やることを決めたブーンの行動は素早かった。
デレシア達と共に、スーパーマーケットに出向き、必要な食材を購入。
エプロンを付け、二人に手ほどきを受けながら、丹精込めて生地を仕込んだ。
生地をこねる中、デレシアはブーンに重要な事――料理の秘訣――教えてくれた。

料理は愛情である、と。

193 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 20:11:51 ID:bxfQ0Rt.0
愛情とは何か、とブーンは尋ねた。
愛情と云う名が示す通り、そこには愛があるのだと考えたのだ。
ペニサスから出された課題である“愛の意味を知る”ことに、一歩近づけるのではないかと。
デレシアが返したのは、微笑だけで、言葉ではなかった。

生地をオーブンに入れ、時間が来るまでの間、ブーンは銃の使い方を改めて教わった。
銃の構造は大凡であるが理解し、使い方はよく分かった。
壁にあった銃の名称は全て記憶し、その特徴はヒートが簡潔に説明してくれた。
興味をそそったのは、グロック、という名の拳銃だった。

撃鉄がなく、撃針がある。
トリガーに凝らされた技巧。
名の後ろに付く数字によって変化する特色とサイズは、拳銃の可能性を大きく広げた。
だが、興味はあったが好きにはなれなかった。

フルオートでの発砲が可能なモデルがあると言うのも聞いたし、小型のモデルもあることも聞いた。
しかし、これは人の命を奪うための道具だ。
その道具がこんな簡潔な形をしている点が、どうしてもブーンは好きになれなかった。
撃鉄を起こす動作は覚悟を決めるための瞬間であり、最後の警告でもあると認識している。

それが欠けた拳銃は、どうしても使いたくなかった。
結局のところ、気に入る銃は見つからなかった。
ワルサーという拳銃を試し終えた時に、オーブンがクッキーの仕上がりを知らせた。
出来上がった不格好なクッキーを試食してみると、とても甘く、美味しく焼けていた。

ヒートはクッキーを食べるのに苦労していたが、とても美味しそうに食べてくれた。
ブーンはそれが嬉しかった。
無力な自分が、初めて、ヒートを笑顔にできた。
ただただ、それが嬉しかった。

出来上がったばかりのクッキーを袋に詰めて、ブーンはシナーにそれを届けようとした時、デレシアが言ったのだ。
“せかっくだから、一人でお使いに行ってみましょう”、と。
斯くして、ブーンは初めてのお使いに行くこととなり、緊張と期待を入り混じらせた気持ちでシナーにクッキーを届けたのであった。
彼の反応に満足したブーンは、エスカレーターで来た道を戻る途中だった。

その人物に出会ったのは、そんな、胸が暖かな気持ちになっている時の事。

(;∪´ω`)「……っ」

第一印象は、冷徹な男だった。
漂う冷ややかな雰囲気は人とは異なり、兵器のそれに近い。
オールバックにした夜色の髪に、皺一つ見当たらない漆黒のジャケット。
両眉から両頬付近まで伸びるのは、獣の爪でつけられたような深い切創。

その下にある黄金瞳は、金貨のようなその輝きを失わず、そこにある。
しかし、その瞳が見つめる先にあるのは百戦錬磨の剛の者ではなく、案内図の映された電子看板だった。
腕を組みながら何度も看板の文字を、眼を細めながら睨みつけては首を傾げ、唸り声に似た小さな声を喉の奥から発している。
ジャケットを下から押し上げる筋骨隆々とした体つきは、見かけ倒しではなく、機能的かつ実戦的な作りをしていることが一目で分かる。

194 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 20:13:28 ID:bxfQ0Rt.0
掌と顔に皺のように刻まれた古傷。
特に、拳の傷は傷の上に傷を重ね、より強固な皮膚が出来上がっている。
身の丈はデレシアよりも頭一つ分大きく、体重は倍近くありそうだった。
歳は六十代、もしくは七十代前半だろう。

( ФωФ)「……」

分かることが三つある。
一つは、この初老の男性は只者ではない事。
もう一つは、この男性は困っている――具体的に言えば、道に迷っている――事だ。
そして最後に、この男性は人を殺したことがある、と言う事だ。

(´ФωФ)「……むぅっ」

しかし、その雰囲気から誰も声をかけようとはせず、逆に距離を置いている有様だ。
以前までのブーンなら、恐れをなしてデレシア達の元に帰っていただろう。
今は以前とは違う。
声をかけてみようかと思案できるほどに、ブーンは行動的な思考が出来るように進歩していた。

だが怖い物は怖い。
出来れば、知らぬふりをして素通りしたいところだ。
それでも、ブーンは五ヤードの距離から動かずに様子を窺っていた。

( ФωФ)「……おい、そこの小僧」

視線に気づいた男が、視線を看板から外さず、ブーンに問う。
無言で逃げる道もあった。
適当にはぐらかす、もしくは走って逃げる手段もあった。
男の声が雄弁に逃亡を禁じなければ、の話だが。

その重低の声は嗄れ、獣の唸り声に似ていた。
年老いた獣の王。
そんな印象が、直ぐに頭に浮かんだ。

( ФωФ)「道案内をしてくれないか?」

(;∪´ω`)「え?」

( ФωФ)「……見えんのだ。
       看板の字が」

ブーンには看板の字が良く見える。
しかし、文字を読むとなると話は別だった。
文字列の中には読める字もあれば、読めない字もあった。
そんな状態で道案内となると、共に迷う可能性が高い。

男の声は優しげでも、恐ろしげでもない。
一歩扱いを間違えれば無言で襲い掛かってくる獣を思わせるだけだ。

(;∪´ω`)「お……おぅ……」

195 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 20:15:51 ID:bxfQ0Rt.0
( ФωФ)「そのために、そこで見ていたのではないのか?
       なぁ? 仔犬の様に怯えずとも、吾輩は襲ったりはせん」

意外な言葉がかけられた。
自分で理解できていなかった部分を解説された気分だった。
男の言う通り、逃げようと思えば逃げられた場面で、ブーンは立ち止まって見ていた。

( ФωФ)「傍観ではなく、介入の機会を窺っていたのだろう。
       で、どうするね?」

傷だらけのゴツゴツとした武骨な手が、自然に差し出される。
男はもう、何も喋ろうとはしなかった。
無言のまま、その黄金瞳が静かにブーンを見据えるだけ。
小走りで近づき、ブーンは、男の手を握った。

その手は、力強くブーンの手を握り返した。

( ФωФ)「吾輩はロマネスク・オールデン・スモークジャンパー。
       ロマネスクと呼んでもいいが、ロマと呼べ。
       近しい者は皆そう呼ぶ」

(∪´ω`)゛「ブーン、です。 ロマさん」

ロマネスク・O・スモークジャンパーとの出会いは、荒れ狂う海の上、船上都市オアシズの第四ブロック十階、レヒツ・ダイナモ通り。
八月四日の、嵐の日の事であった。

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           _,,-―'' ̄        /⌒,! /⌒,)       \__. \   ヽii! 丶圭圭圭:::::::i!i!i::::::::::::
                   Y }i!{ノ_/ }i!{/ /"`ヽ _  \ \ i   |   第三章【curse -禍-】
                  _,,―'''∟___Y.}i!{ /./i!  / \\.. \λ !  .| 圭|:::::::i!i!!i!::圭圭:::::::::::::
           ,,,-―'''       / }i!{ //}i!{ //゙`) \l   | `┘ |i!i! |圭:ii!:::::::::::::::::::::::::::::::
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デレシアは久しぶりに頭を使って一つの物事を考えていた。
テーブルを挟んで向かいに座るヒート・オロラ・レッドウィングも、同様に頭をひねっていた。

ζ(゚、゚*ζ「コルトは論外。 グロックは気に入っていなかったわ」

ノパ⊿゚)「ワルサーもマカロフ系も駄目だったな。
    でも、複列弾倉は必要だからなぁ」

196 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 20:17:36 ID:bxfQ0Rt.0
議題は、ブーンの使用する銃についてだった。
シューティングレンジで一通り銃を使って、その感想をブーンに聞いた結果から最適な銃を割り出そうとしているのだが、これが難しかった。
小型で弾数が多く、シンプルな構造で弾の調達が容易な9mmを使用する銃。
選択肢が狭まる一方で、心配も増えてくる。

銃を使わずに物事が解決できれば、どれだけ世の中は平和になるだろうか。
それが実現不可能だからこそ、今、この時代になっているのだというのに。
ブーンは人を殺したことがない。
状況にもよるが、人を殺す時、人間は体を震わせることが多い。

恐怖か、それとも無理矢理に奮い立たせた覚悟と抑え込んだ恐怖に震わせるのかは分からない。
逆に、歓喜に打ち震えるのかもしれない。
だが、相手を殺したと理解した瞬間、体が震えるのだ。
その震えの原因のほとんどを占めるのは後悔の念で、殺さずに解決できたかもしれないという、無意味な思考の迷路に足を踏み入れる場合が多い。

ブーンの年齢でそれを経験すると、後の人生観に大きな影響が出てきてしまう。
その点を、二人は心配していた。
最初の得物をライフルではなく拳銃にしたのは、殺す相手の顔を必ず確認させるためだった。
殺すという行為から目をそらさず、正面から向き合ってほしいという願いからだ。

かと言ってナイフを使うには力がいるし、格闘術を使うには知識や技術、なにより体格の問題がある。
話し合いは平行線のまま進み、結論は出ず仕舞いだった。
代わりに議題は、ブーンのお使いに変わった。

ζ(゚ー゚*ζ「そういえば、ブーンちゃん、ちゃんとクッキー渡せたかしら?」

ノパー゚)「ブーンなら大丈夫だろ」

デレシアが仕込んだ“初めてのお使い”は、シナー・クラークスへのお礼だった。
ブーン自身が言い出したことだけに、デレシアもヒートも大いに喜んだ。
それは紛れもなく成長であり、進歩であった。
対人恐怖症に近いものを持っていたブーンが、自ら他人に関わろうとしているのだ。

これを応援しなくて、何がブーンの保護者か。

ノパ⊿゚)「今更だけど、あいつはすげぇよ。
    なぁ、デレシア。 ブーンは将来どうなると思う?」

その問い。
その答え。
それは、誰にも分からない。
分からないが、判ることがある。

ζ(゚ー゚*ζ「大物になるわ。 間違いなく。
      気付いているでしょう?
      あの子の魅力が、私達のような人種にとってどれだけ眩しい物か」

ノパ⊿゚)「……あぁ」

197 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 20:18:20 ID:bxfQ0Rt.0
やはり、デレシアの思った通りだ。
ヒートはブーンの魅力に気付いている一方で、もう一つ、何かに惹かれている。
恋ではない。
もっと、ヒートの胸を締め付けるような何かだ。

ブーンの話をする時。
ブーンの姿を見る時。
ヒートは、ほんの一瞬だけ陰った笑顔を作るのだ。
それは羨望にも見える、愁いを帯びた笑顔だ。

その笑顔の種類を、デレシアは知っている。
心の底から欲し、心の底から求めた、決して手の届かないものを目の当たりにしている表情だ。
それより先に進みたい気持ちと、進むことが出来ないと理解しているのである。
ブーンがヒートにとってのそれに当たるのならば、彼女の殺し屋としての過去と深い繋がりがあると考えられた。

ノパ⊿゚)「さて、ブーンが上手いことお使いが出来たか、見に行くか?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね。 昔なら、カメラを持って追いかける人たちがいたんだけどね」

ノパ⊿゚)「なんだそりゃ? 聞いたことねぇよ」

ζ(゚ー゚*ζ「昔の話よ」

布同士が擦れ合う音一つさせずに、デレシアはゆっくりと席を立つ。
ヒートも席を立ち、デレシアのローブを指さした。

ノパ⊿゚)「ところで、どういう理屈で銃が検査に引っかからなかったんだ?」

ローブの下には五十口径の自動拳銃デザートイーグルと、水平二連式のショットガンが二挺ずつある。
無論、予備の弾も隠されていた。

ζ(゚ー゚*ζ「ちょっとしたコツがあるのよ。
      あの手の機械は頭でっかちだからね」

三重のチェックを突破するのは容易ではない。
コツで突破できるものなら、今頃、オアシズは海賊船に変わっていることだろう。
秘密は、特殊繊維で編まれたローブにあった。
“アブテックス”は、ペニサス・ノースフェイスが復元した、太古の遺産だ。

防刃、防弾、防寒、防熱、防水、防氷など、あの時代で実現できる全てを注ぎ込んだ繊維だ。
勿論、あらゆる金属探知機を欺くための工夫もされている。
生産されたアブテックスは僅かに一着のみという現実を、ペニサスは克服して見せた。
彼女は、デレシアが見た中でも狙撃の腕と被服の腕に関して、十指に入る才能を持っていた。

ノパ⊿゚)「ほぉー、つまり……ローブに秘密があるわけだな」

流石。
この言葉だけで、正答までたどり着けた。
やはりヒートは優秀だ。

198 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 20:20:13 ID:bxfQ0Rt.0
ζ(゚ー゚*ζ「さっすが、察しがいいわね」

素直に、だが、短く賛辞の言葉を送る。
これだけも、賢い彼女ならばデレシアの真意は伝わることだろう。
恥ずかしげに笑んで、ヒートはそれを受け入れた。
ヒートはローブを脱いで、黒いシャツにジャケット、そしてスラックス姿になる。

デレシアはローブを着たままで、部屋を出た。
部屋の外は、まだ大人しさが残っている。
嵐の日のオアシズで最も賑わうのは、一階の繁華街だ。
オアシズの本当の顔を見るなら、そこが一番だ。

今頃は、十階のダイナモ通りにいるだろうかと、デレシアはふと思った。

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ブーンが人と手を繋ぐのは初めてではない。
デレシアとも、ヒートとも、ペニサスとも、手を繋いだ。
手を繋ぐという行為が持つ意味はよく分からないが、手を繋ぐのは好きだった。
ロマネスクと手を繋いだ瞬間、ブーンは彼女達に似た感覚を手にすることとなる。

手を通じて温もりが体に流れ込み、それまで背中に感じていた不安感が取り除かれたような気がした。
安心感に近い物が、ロマネスクの手を通じてブーンの心に染み込んできた。
見かけは恐ろしいが、中身はとても優しそうだ。
デレシア達とは真逆だが、その中身はとても似ている。

ロマネスクよりも半歩前を行き、障害物や人とぶつからないよう、しっかりと誘導する。
だから、話しかける時は自然と振り返る形となっていた。

(∪´ω`)「リンゴ」

( ФωФ)「ゴリラ。 動物だ。
       筋骨隆々で、意外と優しい」

(∪´ω`)「ラッコ」

( ФωФ)「コアラ。 これも動物だ。
       毒のあるユーカリという木の葉を食べる、ほのぼのとした奴だ。
       子に自らの糞を食わせて、毒に対する耐性を付けさせる習性がある」

199 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 20:22:20 ID:bxfQ0Rt.0
(∪´ω`)「ラッパ」

( ФωФ)「パセリ。 オムライスなどの付け合せ、というか彩要素だ。
       だが、口の中をさっぱりさせる役割を持っている。
       料理に出た時には必ず食え」

思わず、その名前がミセリ・エクスプローラーに似ているとブーンは思った。
今、ミセリはどこで何をしているのだろうか。
嵐の中でも笑顔でいる彼女の顔が、一瞬だけ脳裏をよぎった。

(∪´ω`)゛「はいですお。 リンゴ」

しりとりをやろうと提案したのは、ブーンだった。
自分があまり言葉を知らないことを口にしたのは、ロマネスクが、どこかミセリに似た雰囲気をしていたからだ。
柔軟さの中の豪健な気性。
それは、ペニサスやギコも持ち合わせていたかなり独特の雰囲気だ。

ロマネスクは快くブーンの提案を受け入れ、しりとりに付き合ってくれた。

( ФωФ)「って、ええい!
       ループしているではないか!」

(∪´ω`)「お?」

( ФωФ)「しりとりでは、一度使った語は使ってはならんのだ。
       でなくては、繰り返しになってしまうだろ」

ミセリとのしりとりで、極力同じ言葉を使わない、というルールがあったのを思い出した。
その理由を、今やっと理解することが出来た。
もしロマネスクがまた“ゴリラ”と続けると、しりとりは延々と続いてしまう。
それを避けるためのルールだったのだ。

( ФωФ)「ゴーヤ。 苦い、が美味い。
       チャンプルーにすると食いやすいぞ」

(∪´ω`)「やー」

( ФωФ)「何?」

(∪´ω`)「やー」

( ФωФ)「拒否していても分からん」

(;∪´ω`)「やー」

( ФωФ)「まさか、矢の事か」

(∪´ω`)゛

200 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 20:23:49 ID:bxfQ0Rt.0
( ФωФ)「や、か。 発音は短く、や、だ。
       野球。 ボールとバットを使ったスポーツだ」

ロマネスクの泊まっている部屋までの道のりは遠く、正直な所、ブーンはよく分かっていなかった。
彼から頼まれたのは、第一ブロックまで送り届けてほしいということだけで、部屋まではそこからどうにかするそうだ。
看板に表示されている数字と名前を頼りに道を進み、第一ブロックを目指す。
自分が無知故に、道のりは分からないことだらけだ。

だが悪い気はしなかった。
知らないことはその場、もしくは後で教えてもらうことが出来たからだ。
自分の無知を知り、それを満たすことはこの上なく気分のいい体験だった。
しりとりはそれをより簡単に実現してくれた。

(∪´ω`)「うき」

( ФωФ)「キャタピラ。 無限軌道とも呼ばれるものだ。
       戦車などの脚に使われている。 履帯を壊されると動けなくなるのが弱点だ」

ロマネスクは単語ごとに解説を入れてくれるが、それでも分からない言葉が時々出てくることがある。
キャタピラだとか無限軌道だとか、戦車だとか履帯だとか言われても、さっぱりだ。
しかし、彼との会話は楽しかった。

(∪´ω`)「ライチ」

( ФωФ)「チーズ。 乳製品で、色々な種類がある。
       わざとカビを生えさせるものまであるぞ」

カビの生えた食べ物を口にしたことは何度もある。
その場合、全てではないが、高い確率で腹を下した。
緑色だったり青色だったりしたが、白い綿埃のようなものもあった。
体でカビが有害だと学んだブーンにとって、わざとカビを生やす人間の思惑が全く分からない。

(∪´ω`)「ズッキーニ」

( ФωФ)「ニンニク。 匂いが独特で、よく料理の付け合せや香りづけに使われる。
       オリーブオイルと塩でホイル焼きにしただけでも、十分美味い」

気が付くと、街灯の様に立つ縦長の看板と、その下の地面に第二ブロックと書かれた場所に着いた。
ここが第三ブロックとの境界線であることは、一目で分かった。
第二ブロックと書かれた地面の上を通過すると、一瞬だけ、その文字が青く発光する。

(∪´ω`)「クリ」

( ФωФ)「リンゴパイ。 リンゴをスライスしたものをパイにしたものだ。
       一般的には甘酸っぱい。 紅茶と一緒に食べると、シナモンの香りと甘みがふんわりと広がって美味いぞ」

(*∪´ω`)、ジュルリ

201 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 20:25:37 ID:bxfQ0Rt.0
リンゴパイ。
その響きは、ブーンの好奇心を刺激した。
ただでさえ美味しいリンゴを、更にパイにする。
シナモンが何かは分からないが、とにかく甘いのだろう。

(∪´ω`)「イルトリア」

どこかの街の名前である以外、詳しくは知らない。
しかし、意味が分からなくとも言葉を口にすればいいのがしりとりだ。
一瞬だけロマネスクは考え込み、外を指さして言った。

( ФωФ)「雨」

(∪´ω`)「め」

( ФωФ)「芽」

(;∪´ω`)「あれ?」

同じ言葉をロマネスクが口にしたと指摘しようとしたブーンに、ロマネスクは指を二本立て、それを己の目に向けた。

( ФωФ)「残念だが、貴様が言ったのはこの目で、吾輩は植物の芽だ。
       覚えておけ、ブーン。
       一つの単語が一つの意味しか持たぬことはない。
       それは、単語に限らず、あらゆる事象に対して言えることだ」

にやり、と不敵な笑みを浮かべるロマネスク。
難しいことは分からないが、何となくだが、分かった気がする。
銃の見方と同じだ。
使えば武器となるが、相手が使えば凶器となる。

(∪´ω`)゛「じゅうとおなじ、ですか?」

( ФωФ)「ほぅ、理解が早いな。
       そうだ。
       銃もそうだが、人間も同じなのだ。
       例えば今この場で、貴様を襲う者があれば、吾輩は貴様の味方となろう。

       しかしそれは、襲撃者からすれば吾輩は敵となる。
       不思議な物だろう?
       吾輩は敵でもあり味方でもあるのだ」

(*∪´ω`)゛

しりとりを再開し、二人は第一ブロックを目指した。
道中、しりとりを中断して寄り道をすることになった。
アイスクリームの入ったリヤカーを引く男が二人の横を通り過ぎようとした時に、ロマネスクが立ち止まったのだ。

( ФωФ)「少し休憩だ。
       アイスを食うぞ」

202 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 20:27:10 ID:bxfQ0Rt.0
(*∪´ω`)「お!!」

( ФωФ)「何味が好きだ?」

(*∪´ω`)「リンゴ!!」

( ФωФ)「いいだろう。 ただし、夕食前だから、一番小さい奴だ。
       おい、アイス屋」

呼び止められたアイスクリーム屋は、二人の前に戻ってリヤカーを降ろした。
リヤカーの上に乗ったガラス張りの冷凍ケースの中にある色とりどりのアイスを見て、ブーンは小さく歓声を上げた。
最初はそれを微笑ましく見ていた店員だが、ロマネスクの顔を見て表情を強張らせた。
帽子を目深に被り直して、ロマネスクと目線を合わせないようにする。

( ФωФ)「おい」

('゚l'゚)「は、はい!!」

( ФωФ)「リンゴとチョコミントを一つずつ。
       ミニカップだ」

何度も頷いて、店員は小さなカップにアイスを乗せた。
ブーンの手の平に収まるほど小さなアイスが手渡され、ロマネスクが一括で支払いを済ませた。
乳白色のアイスにはプラスチックのスプーンが刺さっているだけだ。
しかし、アイスの表面から顔を覗かせている黄金色の角切りリンゴが魅力的だった。

( ФωФ)「代金は吾輩が払う。
       その代わり、少し吾輩と話をしないか?
       貴様は面白い」

(∪´ω`)゛

勿論だった。
橋の上にあったベンチに腰掛け、早速アイスを食べ始める。
アイスクリーム屋はリヤカーを引いて、そのまま橋を渡って別の場所に向かった。

(∪´ω`)「いただきます」

( ФωФ)「その言葉、どこで学んだ?」

(∪´ω`)「お? えっと……」

デレシアの名を出すべきか否か迷っていると、ロマネスクが一人納得した。

( ФωФ)「恩人にでも教わったのだろうな」

(∪´ω`)゛

( ФωФ)「いい人か?」

203 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 20:29:41 ID:bxfQ0Rt.0
(∪´ω`)゛

( ФωФ)「言葉の意味は聞いたか?」

(∪´ω`)゛

( ФωФ)「いい言葉だから、忘れるでないぞ。
       ブーン、良き師を持ったな」

(∪´ω`)「し?」

( ФωФ)「先生という意味だ」

ブーンはロマネスクの距離の置き方が好きだった。
深く追求されないので、気兼ねなく話すことが出来る。
自分が耳付きだとばれれば、きっと、こうはいかないだろう。

( ФωФ)「あぁいかん、アイスが溶けるぞ」

(;∪´ω`)「すこしとけちゃってるお……」

( ФωФ)「液体になる前に食え、今が一番美味いぞ」

スプーン一杯にアイスを掬い、口に運ぶ。
リンゴの香りと甘みが口の中いっぱいに広がる。
とろりとしたアイスは舌の上で溶けた。
果肉を舌で探り取って奥歯で噛み砕き、飲み下す。

(*∪´ω`)「おいしいですお」

( ФωФ)「こっちも食ってみろ」

強烈なミントの香りがするアイスをロマネスクのスプーンから食べる。
口の中がすっきりとする甘さだった。
鼻を突き抜ける爽快な香りがいい。

( ФωФ)「ふはは、美味いだろう!!」

(∪´ω`)「うまー?」

( ФωФ)「そうだ、うまうまだ」

(*∪´ω`)「うまうまですお」

それから、二人は会話を楽しんだ。
例えば煮込み料理の話だったり、アイスの作り方だったり。
発電の仕組みとか、嵐の話だとか。
ブーンの知らないことをロマネスクが教えて、ロマネスクが聞きたいことをブーンが答えるといった具合だ。

話題が次第にブーンの悩み相談へと変わっても、ロマネスクは嫌な顔一つしなかった。

204 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 20:31:50 ID:bxfQ0Rt.0
( ФωФ)「――ほほぅ、強くなりたいのか」

(∪´ω`)゛

( ФωФ)「では根本的なことを問おう。
       強さとは何だ?」

(∪´ω`)「……ぉ」

強さの定義。
ブーンの中で、それはとても移ろいやすい物だった。
それらをまとめて言えば、己を貫き通すことこそが強さ。
守ることも、防ぐことも、妨げることも、抗うことも。

全ては、力なのだ。
頭の良さであったり、腕力の具合だったりもする。
デレシア、ヒート、ペニサス、ミセリ、トソン、そしてギコも強いと言える。
それらをまとめて、ブーンは少ない語彙で言葉にしなければならない。

(∪´ω`)「じぶんがじぶんでいること、ですか?」

考えた末に出した言葉に対して、ロマネスクは感心した風に声を上げた。

( ФωФ)「これはまた、随分と哲学的な答えだな。
       己を通す事、それもまた強さだ。
       ではそれをするために必要な物はなんだ?」

(∪´ω`)「ちから、です」

( ФωФ)「いいぞ、正解だ。
       知っての通り、今、この世界は力が全てを変える。
       ならば、己を他者に無理やり変えられないために使えるのは、力だけだ。
       では、続けて訊こう。

       力とは?」

(;∪´ω`)「まだ、わからないですお」

( ФωФ)「それを知らねば、お前の言う強くなりたい、という願いは叶わんぞ」

確かに、その通りだ。
力の正体が分からなければ、強くなりようがない。
強くなるということは、力があるということ。
では、その力とは?

溶けたアイスを食べながら考えたが、答えは、すぐに出そうもない。

( ФωФ)「悩め。 悩むことは抗うことだ。
       そして、抗うことは良いことだ」

205 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 20:33:45 ID:bxfQ0Rt.0
大きな掌がブーンの頭に乗せられた。
思わず体が強張る。
デレシアの編んでくれた帽子が取れでもしたら、耳付きであることが分かってしまう。
優しい掌が拳となってブーンの横面を殴りつけることは、十分にあり得る。

ロマネスクの右手が乱暴に頭を撫でる。
荒っぽいが、とても、気持ちがよかった。

( ФωФ)「どれだけ抗っても分からない時には――」

不意に、ロマネスクが言葉を途中で切った。
頭から手を降ろし、困惑するブーンを見下ろす。
その目つきは、とても優しげだった。
だが、厳しい目をしていた。

(∪´ω`)「お?」

( ФωФ)「――ブーンよ、案内はここまででよい。
       後はどうにかする。
お前の師の所に行け」

(;∪´ω`)「あの、ぼく……なにか……」

( ФωФ)「いいや、貴様が原因ではない。
       ブーンよ、今日はおかげで助けられた。
       この事は、生涯忘れん」

気遣うような口調でそう言って、ロマネスクはブーンに目線を合わせる。
黄金色の瞳が、ブーンの心の底まで見透かすようにじっと、静かに見つめる。

( ФωФ)「ではまた会おう。 我が友よ」

ごつごつとした右手が差し伸べられ、ブーンはそれを自然に握った。
手を繋いでいた時よりも強い力で握られ、ブーンも力強く握り返す。

(∪´ω`)゛「あの……ロマさん」

( ФωФ)「なんだ?」

(*∪´ω`)「また、おはなし、してくれますか?」

( ФωФ)「当たり前だ」

名残惜しいが、デレシア達と早く合流したい気持ちもあった。
デレシアとロマネスク。
この二人が出会ったら、一体、どうなるのだろうか。
似た雰囲気同士、意気投合するかもしれない。

或いは――

206 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 20:35:07 ID:bxfQ0Rt.0
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                ‥…━━ August 4th PM18:07 ━━…‥
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遠ざかる小さな背中は、無防備そのものだった。
人混みに紛れる前に、ゆっくりとベンチから立ち上がる。
お人好しだと、よく分かった。
これならば、労せずに殺すことが出来そうだ。

しかし、油断は禁物だ。
あの子供、ブーンの身辺にはデレシアとヒートと云う、並ならぬ存在がいる。
あくまでも、ブーンは餌だ。
餌としての役割を果たす前に気付かれては、元も子もない。

これまでに鍛えてきた勘が、彼女達の勘の鋭さを教える。
慎重に。
慎重に、事を進めなければ勘付かれてしまうだろう。
殺人は繊細な仕事なのだ。

芸術的かつ伝統的に行われてこそ、仕事となる。
自然な足取りでブーンの背中を追う。
買い物客を装いつつ、常に視界の一端に捉えるよう心がける。
先ほどの遭遇で彼の歩調は把握している。

今はその細かな情報を手に入れ、確実に殺せる時間、場所、機会を探るのが最善。
さしあたって、部屋の場所と行動パターンの把握だ。
ここに来たばかりの子供がどのようなものに興味を持ち、行動するのかが分かれば、誘い出すのも殺すのも難しくはない。
後は殺し方をいくつか考えて、準備をしておけば、ポートエレンでクリス・パープルトンのように滞りなく殺人は遂行される。

縊り殺すか。
絞め殺すか。
殴り殺すか。
打ち殺すか。

轢き殺すか。
撃ち殺すか。
刺し殺すか。
刻み殺すか。

焼き殺すか。
燻り殺すか。
弄り殺すか。
犯し殺すか。

207 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 20:37:10 ID:bxfQ0Rt.0
考えただけで、興奮が止まらない。
嗚呼。
勿論、殺す前にたっぷりとその体を味わう事を忘れてはならない。
死を前にした人間の味は、この世界で最も美味な珍味なのだ。

彼の涙の味はきっと美味なのだろう。
彼の血の味はきっと美味なのだろう。
彼の汗の味はきっと美味なのだろう。
彼の死の味はきっと美味なのだろう。

彼の恐怖の味はきっと、最高の媚薬になるだろう。
泣き叫んでくれるか。
命乞いをしてくれるか。
それとも、なけなしの勇気で抵抗してくれるか。

抵抗は歓迎すべき調味料だ。
それを力で無理やりねじ伏せ、血に塗れながら犯す時は最高の気分になる。
無力さを思い知らせ、優越感に浸れる。
心が折れる瞬間こそ、最も愛してやまない人間の一面だ。

尾行がばれないように一旦橋を渡ってリンクスシュトラーセに移り、そこから軽く駆け出した。
彼がやってきたのが第三ブロックであることは分かっている。
なら、宿泊先はそこにある。
それさえ分かっていれば、追跡は簡単だ。

スーツの胸ポケットから香水の小瓶を取り出して、腕時計の付いていない方の右手首に一吹きする。
手首同士を擦り合わせて匂いを馴染ませ、それを首元にも擦る。
身だしなみと香りは、人の第一印象を決める。
接触の折にこちらには好印象を持ってもらわなければ。

デレシア達と初めて会った時にこちら側が与えた印象は、あまりよくなかった。
高圧的で、警戒心を与えるようなものだった。
それを払拭しなければ、再接触の際にも警戒されてしまう。
そうならないために、幾つか手を打たせてもらおう。

まずは一手目。

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208 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 20:38:16 ID:bxfQ0Rt.0
自分の部屋に戻る途中、ブーンは項の毛が逆立っているような気がして、落ち着かなかった。
誰かが自分を見ている。
そんな気がしていた。
何百、何千人が一つの空間で過ごしているのだから、誰かが自分を見ていることは十分あるだろう。

耳が疑われたのだろうか?
いや、そんなはずはない。
デレシアの帽子を被ってから今まで、一度も疑われていないのだ。
では何故?

急に不安になったブーンは、目の前の人混みの隙間を見て、走り抜けられる道を探した。
夕食時が近づいているからか、人の数は多く、互いの間隔は七インチ程度。
このままでは、走ることは出来なさそうだ。
誰かが見ているのならば、無防備な姿を晒すことになる道の端に寄るのは間違いだ。

ならばと、ブーンはジグザグに動くことにした。
周囲の人間の間に隠れるように移動しながら、視線から逃れようとする。
だが、視線はブーンから離れそうにない。
間違いなく、自分は誰かに追われている。

理由は分からない。
分かるのは、今は気付かれないように逃げることが最善の手であること。
ブーンは考えた。
人混みの中に紛れているはずのブーンを見られるということは、自分は相手の視界にいるということ。

背後にいるのか。
これだけの人混みの中で追跡できるとなると、かなり近くにいるはずだ。
跫音だらけで、どれがブーンを追っている人間の物なのか判別できない。
匂いも、声も、全てがぐちゃぐちゃだ。

混沌とした中からブーンに対して敵意を持つ者を特定するのは、不可能だった。
心臓の真後ろに刃を突き立てられているような心地だ。
どうすればいい。
この場合、考えられる手は立ち止まらないことだ。

立ち止まってしまえば、もう、逃げられない。
呼吸が荒くなりかけた、その時だった。

「おや、どうしたんだい?」

左肩に手が乗せられる直前、ブーンは反射的に振り返りつつ、半歩後ずさった。

£°ゞ°)「おっと、驚かせてしまったかな?」

:;(;∪´ω`);:「お……」

香水の匂いが強くする男だった。
見たことはない。
髭と服装が特徴的だが、何よりも特徴的なのはその雰囲気だった。
甘い香りをさせた毒虫。

209 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 20:39:07 ID:bxfQ0Rt.0
それが、その男に対するブーンの第一印象だった。
話す必要性がないと判断できたのは、男から好意的な匂いがしなかったからだ。
言葉は好意的だろうが、それが向けられている相手はブーンではない。
誰か別の人間に対してのアプローチだと分かる。

人を利用する人間の態度。
ブーンは、直ぐに踵を返してその場を立ち去ることにした。
このままでは捕まってしまうのは明らかであり、ブーンがなりふり構わず走り出すのは必然であった。

£°ゞ°)「あっ、ちょっと待ちたまえ!!」

男はブーンの後を追ってきた。
木が床を叩く特徴的な跫音、呼吸音、匂い。
全て覚えた。
距離と速度も分かる。

これだけの混雑具合なら、ブーンの方が有利だ。
だが男は諦めずに追ってくる。
どこかで振り切らなければ。
誰かに助けを求めるという選択肢は、ブーンには選べない。

£°ゞ°)「君、ブーン君だろう?!
      君の落し物を拾ったんだ!!
      頼むよ、止まってくれ!!」

名を呼ばれた。
目的を告げられた。
そして、立ち止まって振り返ってしまった。
左肩を乱暴に掴まれて、ブーンは逃げられなくなった。

(;∪´ω`)「お、おとしもの?」

£°ゞ°)「あぁ、これ、君のだろう」

男はスーツに手を突っ込んで、そこから何かを取り出そうとする。
一歩後ろに下がろうとするも、肩を掴んだ手が離れない。
最悪の状況を変えたのは、ブーンの背後から現れた新たな人物の一言だった。

「ロミスさん、子供相手に何をしているんですか?
それも、こんな夕食時に」

左腕に巻いた銀色の時計から顔を上げた男の顔と声に、ブーンは覚えがある。

£°ゞ°)「ショボン君か」

(´・ω・`)「声がしたと思えば、どうしたんです、これは?」

£°ゞ°)「落し物をしたので、届けようと思ってね」

210 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 20:40:04 ID:bxfQ0Rt.0
特徴的な垂れ眉と攻撃性を隠した穏やかな声。
やはり、そうだった。
コクリコ・ホテルで出会った、ショボン・パドローネとかいう人物だ。

(´・ω・`)「やぁ、ブーン君。
     早い再会で何よりだ」

:;(;∪´ω`);:「……」

警戒を解くつもりはなかった。
二人とも、ブーンにとっては初見に等しい。
素性も性格も分からない。
慎重に発言と行動を選ばなければ、危害を加えられるかもしれない。

(´・ω・`)「ほら、ロミスさん。
      この子、怯えている。
      手を離してあげなさい」

£°ゞ°)「あ、いや、脅かすつもりはなかったんだが……
      済まないことをしたね」

言われた通り、ロミスはブーンの肩から手を離した。
捕まれた部分が少し痛い。

(´・ω・`)「で、落し物っていうのは?」

£°ゞ°)「……それが、どうやらスリにあったみたいでね。
      ここにない」

(´・ω・`)「物は?」

£°ゞ°)「さぁ、袋に入っていたから分からないな」

ロミスの手が離れ、意識が会話に向いた隙を、ブーンは逃さなかった。
ショボンの脚を掴んでそれを軸に背中側に回り込み、ブーンは全力で走った。

£°ゞ°)「あっ!!」

(;´・ω・`)「むっ!?」

その俊敏性は二人を欺き、ブーンは人混みに紛れ、その場を逃げ去ることが出来た。
背後から聞こえてくる二人の声に意識を集中させた。

「で、ロミスさん、本当に落し物が?」

「ほ、本当だとも。
それより、ショボン君。
君こそどうしてこんなところに?」

211 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 20:42:08 ID:bxfQ0Rt.0
「私の仕事はご存知でしょう?
なら、どこにいても不思議じゃない。
逆に私から質問です。
貴方こそ、どうしてここに?」

「ブロックの責任者が自分のブロックを回っておかしい事があるかな?」

「いいえ、別に。
そうだ、その落し物とやら、私が探しますよ」

「いや、君の手を借りなくても……」

「スリってことは、この船では犯罪です。
なら、私の管轄です。
袋の特徴と、あの子の部屋番号を教えてください。
後で見つかった時に届けるので」

「む…… そ、そこまで言うなら。
袋は……そう、グレーだった。
私の拳ほどの大きさで、重さは二百グラムぐらいだ。
部屋はロイヤルロフトスイート801だ」

「ほぅ……分かりました。
それと、一つ質問をいいですか?」

「なんだね?」

「どうして、部屋番号まで記憶しているのですか?
いくら貴方でも、全乗客の顔と部屋番号を記憶しているとは思えない」

「偶然だよ。 あの子供の保護者と話す機会があってね。
その時に聞いたんだ」

「そうですか。
なら――」

会話は第二ブロックを通過するまで聞き取ることが出来たが、その先を聞くことはなかった。

ζ(゚ー゚*ζ「あら、ブーンちゃん!!」

ノパー゚)「おかえり、ブーン!!」

(*∪´ω`)「お!!」

心強い二人を目の当たりにした瞬間に、ブーンの不安や恐れ、あの男二人に対する興味は消え去ったのだから。
二人はブーンを抱き上げ、人目を憚らずに抱きしめ、頬ずりをして、頭を撫でた。
それはとても心地よく、とても気持ち良かった。
二人の鼓動を、温もりを、優しさを感じられたからだ。

自分の顔の筋肉が緩んで、緊張が溶けて無くなっていくのがよく分かる。

212 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 20:44:35 ID:bxfQ0Rt.0
ζ(^ー^*ζ「初めてのお使い、一人でちゃんとできたのね!!」

ノハ*^ー^)「偉いぞ、ブーン!!」

でも。
二人に褒められたことの方が、一番心が温かくなった。
こんなにたくさん自分の事を話したいと思ったのは、久しぶりだった。
シナーとの話や、ロマネスクとの話。

勿論、先ほどの二人の話も含めて、だ。
だけど。
だけど、自分の話よりも先に言いたいことがあった。
何よりも先に、二人に言いたい言葉があった。

(*∪^ω^)「ただいま……!!」

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         {  :| {/_ノ,,ィ'=ニ-''゙_ ,.ィ'jノ  ;i l\:::::::::ヽ:::ヘ
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               ‥…━━ August 4th PM19:21 ━━…‥
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初物には祝いがつきものだ。
ブーンが初めてのお使いを成功させたとあって、デレシアは彼に何か祝いをしたかった。
何か食べたい物や、欲しい物はないかと尋ねたところ、ブーンはこう答えた。

(*∪´ω`)「デレシアさんとヒートさんのごはんがたべたいです」

ノパ⊿゚)「あたしらの料理でいいのか?
    この船なら、もっと美味い料理があるぞ」

目を輝かせながら、ブーンは首を横に振った。

(*∪´ω`)゛「ふたりのつくったごはんがたべたいです」

ζ(゚ー゚*ζ「あら、嬉しい事言ってくれるじゃない。
       どんな料理が食べたいのかしら?」

(*∪´ω`)「リンゴパイ!!」

即答だった。
どこかで仕入れた言葉であることは疑いようもなく、それが何であるかを理解しているのは間違いなかった。
お使いの最中に新しい出会いがあったらしい。

ζ(゚ー゚*ζ「他には何を食べたいの?」

213 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 20:45:52 ID:bxfQ0Rt.0
(;∪´ω`)「えっと……」

ノパー゚)「ピザなんてどうだ?」

(∪´ω`)「ピザ……?」

ノパ⊿゚)「薄いパンみたいなのに、トマトソースとトマトを乗っけて、チーズをまぶすんだ。
     あたしは、その上にフレッシュバジルを散らすんだけど、これがけっこう美味いんだよ。
     リンゴパイと違って作りは単純だけど、あたしは好きだ」

(*∪´ω`)「……たべたいですお」

斯くして、三人は第二ブロック一階にあるスーパーマーケットに向かうこととなった。
手近なところにあったエレベーターで一階に下りる途中、二人はブーンが何者かに追いかけられたことを聞かされる。
無事で何よりだったが、一連の流れを聞くと、解せないことだらけだった。
最も不可解なのが、目的だ。

誘拐目的か、それとも別の目的か。
船内の治安は必ずしも絶対に安全だと断言はできない。
ここは街であり、観光船ではない。
身代金や金品を所持している観光客を狙う輩が船内にいるのは、揺るぎのない事実であった。

その為に探偵と警察が雇い入れられ、街中で目を光らせているのだ。
ロミスと接触したブーンを救ったのは、コクリコ・ホテルにいたショボンだという。
あの男は確かに、オアシズの探偵だと言っていた。
事前に面識があったから助けられたと考えるべきだろう。

不可解なのは、ロミスの行動だ。
ブーンの名を呼び、捕まえようとした。
デレシアに向けて色目を使っていたのは分かるが、ブーンを利用しようとしたのなら、痛い目にあわせなければならない。
追跡者がロミスだという確証はないと、最後にブーンは言った。

その意見に、デレシアは同意した。
その理由として挙げられるのが、わざわざ声をかけたことにある。
本当にブーンを攫おうとしたのなら声をかけるはずがないし、人が大勢いる中で実行に移すはずがない。
あれだけ執拗にブーンを追っていた人間の行動にしては、あまりにも辻褄が合わない。

まだブーンを追っている可能性は十分に在り得た。
三人だけのエレベーター内で、デレシアは内心で深い溜息を吐いた。
ここに来て、またトラブルである。
これだから旅は素晴らしいのだ。

しかし、退屈しないのはいいが、ブーンが巻き込まれるのは感心しない。
一方で、これを成長のいい機会だと考えられる。
船内で起き始めている小さな企み。
悦んで迎え撃つとしよう。

214 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 20:48:14 ID:bxfQ0Rt.0
エレベーターの扉が開いて最初に聞こえてきたのは、雑踏の中で奏でられる喧噪だった。
オアシズの一階は、この船が街であることを再認識するのに十分な景色を見せてくれる。
遥か頭上のガラス張りの天井から見える黒雲。
視界の両脇に山なりになって聳え立ち、奇怪な谷の底を髣髴とさせる。

そして、谷の底は明るかった。
片側一車線の船内車両専用の道路が船首から船尾にかけて走り、その上に小さな橋が架けられている。
床は弾力性のあるアスファルト色のタータンが敷き詰められ、歩行者の安全を考えた設計となっている。
最上階まで聳え立つビルの根元もここにあり、人が最も多く集中する階でもある。

街中は黄昏時の活気に満ち、微弱な揺れがなければここが洋上だと忘れてしまうほどだ。
また、オアシズの住民の多くが暮らしているのが、この一階だ。
生活に必要な品のほとんど全て、例えば食料品や衣料品、生活嗜好品がここで揃えられる。
床に直接書かれた案内を辿れば、大型スーパーマーケットに到着するのは簡単だった。

陸と比べて鮮度が悪く物価が高いのは仕方がなかったが、オアシズで栽培された野菜は鮮度と価格が標準的な物となっている。
オアシズ産の野菜は屋内で育てられているため、虫がつかず、色と味が薄く種類が少ないのが特徴だ。
美味いか不味いかで言えば、不味い物に分類される。
その為、デレシアがブーンのために買ったのは、ポートエレンで入荷したばかりの青果だった。

最終的に購入したのはリンゴやトマト、完熟トマトソースの缶詰にピザの生地、そして酒などだ。
やっと固形物を食べられるとあって、ブーンは大喜びだった。
自動扉を潜って店内から出てきたデレシアとブーンは両手に買い物袋を下げ、ヒートは大きなボストンバックを持っていた。
袋の中には、数日分の食材と雑貨品が詰まっている。

ノパ⊿゚)「結構買ったな」

ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫よ、育ちざかりがいるんだから。
      ね、ブーンちゃん」

袋一杯のリンゴを手に持つブーンが、笑顔で応じた。

(*∪´ω`)「お!」

船内車両は道路に埋められた回路を辿って、定められた道を走行するように出来ている。
車間は一定距離を保ち、人が飛び出してもセンサーが車両を停止させる。
使用の際にはオアシズ乗船の際に受け取ったカードをかざし、使用者をシステムに登録するだけでいい。
荷物を運ぶにはこの上なく便利な乗り物だが、広い道路のある一階でしか使用出来ない。

スーパーマーケットの目の前に停められたセダン型の車両に近づき、カードをドアに押し当てた。
ドアに沿って付けられた青色のLEDが仄かに発光し、使用可能な状態になったことを知らせる。

ζ(゚ー゚*ζ「車に乗りましょう」

この荷物の量ならば使うまでもないが、追跡者を試して情報を収集することにしたのだ。
ヒートにも知らせなかったのは、万が一にも悟られないようにするためだ。
この行動によって一体何が動くのか。
それを観察する必要がある。

ζ(゚ー゚*ζ「折角だから、少し遠回りして帰りましょうか」

215 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 20:48:54 ID:bxfQ0Rt.0
全員が乗り込んだのを確認してから、デレシアはアクセルを踏み込んで第四ブロックに向けて車を走らせた。
彼女達を付け狙う人間がいるのであれば、これに対して何かしらの対応をするはずだ。
追うか、それとも彼女達の部屋の近くに移動するか。
それによって、相手の狙いと技量が分かる。

追ってくるのであれば急を要し、待ち伏せをされるのであれば急を要していないということだ。
バックミラーを見て様子を窺うが、怪しげな動きを見せた者はいない。
数は単体である可能性が高い。
そして、相手は確実に目的を遂行するために危険を冒す真似をしない。

(*∪´ω`)「しずかではやいですお」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、動力は電池だからね」

ノパ⊿゚)「電池が切れるとどうなるんだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「オートドライブに切り替わって、近くの停車所に停まるわ。
       もちろん、電池が切れる前にね」

第四ブロックの半ばまで走ったが、追跡者はいなかった。
となると、部屋の付近で待ち伏せている可能性がある。
ならば、手を打ってみるとしよう。
相手が賢ければ、デレシアの手に引っかかるはずだ。

車から降りた三人は、店舗の間に設置されたエレベーターに乗った。
エレベーターを使って十八階まで上がる中、デレシアは策を実行に移した。

ζ(゚ー゚*ζ「ヒートちゃん、ブーンちゃんの荷物をよろしく」

ノパ⊿゚)「あいよ」

ζ(゚ー゚*ζ「ブーンちゃん、少しの間、大人しくしててね」

(∪´ω`)゛

理由を察したのか、ブーンは何も言わずに頷き、デレシアの指示通りにした。
扉が静かに開くと、そこにはデレシアとヒートの二人しかなく、ブーンの姿は消えていた。
部屋までの道のりは徒歩で約七分。
その間、デレシアは周囲にさり気なく目を配って警戒を怠らなかった。

ζ(゚、゚*ζ「……」

視線は、複数感知することが出来た。
興味からくるものの中に混じって、観察するそれがあった。
数は、二つ。
尾行者は現段階ではいない。

216 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 20:50:19 ID:bxfQ0Rt.0
部屋に向かう道を変え、橋を三度渡っては戻るという動きをしても、尾行はなかった。
なるほど。
となると、デレシアの動きを追っている訳ではなさそうだ。
今追っているのは、ブーンの居場所だけらしい。

ここから先、知られてはならないのは、ブーンの居場所だ。
居場所を知ろうとしているとなると、後になって襲ってくる可能性が高い。
迎撃することは容易だが、どんな手を使ってくるか。
何せ、相手の目的はあくまでもデレシアの立てた仮説に過ぎず、真相ではないのだ。

デレシアが選んだ手は、相手が賢いと仮定した際に有効な物だった。
相手が賢ければ、勝手に裏を読み、勝手に読み違えてくれる。
逆を言えば、相手が愚かであれば通用しない手だった。
三十分近く店に寄ったりして時間を潰し、途中でヒートと別れ、時間をずらして帰宅することにした。

これで、デレシアの手は仕上がった。
後は相手の出方次第だ。
先に部屋に戻ったのはデレシア。
その後、十二分の間を開けて何食わぬ顔でヒートが部屋に戻った。

ζ(゚ー゚*ζ「はい、よくできました。
      いいわよ、ブーンちゃん」

(∪´ω`)「ぷはっ」

ヒートのボストンバックがもぞもぞと動き、毛糸の帽子を被ったブーンの頭が現れた。
今回利用したのは、ボストンバックだった。
非常に単純な手だが、エレベーターから降りてきた人間の数が減っていた場合、二つの可能性を考える。
一つは、見つからない場所に隠したか。

もう一つは、安全な場所に移動させたか、だ。
答えが単純であればあるだけ、賢い人間はその回頭に疑いを持つ。
つまり、エレベーターのダクトを使ってブーンをどこか安全な場所に移動させた、と考えるだろう。
そこに加えて、デレシアは相手をかく乱するような動きを取り、誘導性のある二つの可能性を与えた。

じっくりと腰を据えて考えるだけの余裕は、相手にはない。
デレシアには確信に近い物があった。
相手は、こちらが宿泊している部屋の位置を正確には知らないのだと。
知っていれば、ブーンを付ける必要はない。

第五ブロックのこの階層にあることまでは調べたのだろうが、そこから先が曖昧なのだろう。
相手に誤った選択をさせるための後押しとして、デレシアはヒートと別行動を取るということをした。
こうして、相手は全くヒントのない中でデレシアかヒート、もしくはブーンを探さなければならない状況に陥ったのだ。
デレシアとヒートが別行動を取ることで混乱を誘発し、別の場所からブーンを逃がすという算段を立てている、と錯覚するのは時間の問題だった。

相手の思考を先読みした手だが、相手がデレシアの思った通りの賢さを持っていなければ、これは失敗に終わっただろう。
部屋に入るまでに時間を空けて、それが成功したことが確認できた。
オートロックの上にチェーンを掛け、万が一の侵入を防ぐ。

(*∪´ω`)「お、ヒートさんありがとうございますお」

217 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 20:52:20 ID:bxfQ0Rt.0
自分を運んでくれたヒートの目を見て、ブーンは礼を言った。

ζ(゚ー゚*ζ「コアラみたいに運んでもよかったかもね」

ノパー゚)「そりゃいいアイディアだけど、もっと安全な時にしたいもんだ」

(∪´ω`)「お……たしか、ユーカリをたべるとうぶつ、ですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「あら? ブーンちゃん、コアラの事知ってるの?」

これは驚きだ。
コアラはオストレリアでしか見ることが出来ない貴重な動物だ。
後は、一部の動物園ぐらいだろう。

(∪´ω`)゛「おしえて、もらいました」

どうやら、初めてのお使いは思った以上に面白い経験となったようだ。
しかし、ブーンは思った以上に積極的な性格に成長してくれた。
見知らぬ場所で見知らぬ人間と交流を深め、そこから知識を得たことは喜ばしいことだ。
毛糸の帽子を頭から取ってやり、乱れた髪を手櫛で整えてやる。

(*∪´ω`)「お」

ローブを脱ぎ、黒のポロシャツの上にエプロンを付け、髪をゴムで束ねる。
シャツの袖を捲っていたヒートも髪を束ね、デレシアの隣に並ぶ。
二人は石鹸で手を洗い、買ってきた食材をキッチンに並べ、調理の準備をする。

ζ(゚ー゚*ζ「どんな人が教えてくれたの?」

デレシアとヒートの間に立って手を洗うブーンは、デレシアの目を見て答えた。

(∪´ω`)「えーと……
      こわくて、おおきくて、ごつごつしてて……
      めのうえにきずがあって、きんいろのめをした……
      ……おじい……おじさん?」

ノハ;゚⊿゚)「聞く限りじゃ、優しさから程遠い外見のおっさんだな……
     よく話せたな」

手渡したタオルで手を拭きながら、今度はヒートを見て、ブーンは答える。

(∪´ω`)「でもでも、しりとりしてくれましたお。
      アイスもかってくれたし……」

ブーンがいい人だと言うのなら、そうなのだろう。
人に蔑まれて生きてきた彼がそう感じるのだから、まず間違いはない。
彼は人の本質を察して接することが出来る人間だ。

ζ(゚ー゚*ζ「その人にまた会えるといいわね」

218 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 20:54:03 ID:bxfQ0Rt.0
(*∪´ω`)「はいですお!」

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――してやられた。
こちらの追跡に気付き、エレベーターのダクトに逃げたものだと思っていたら、そうではなかった。
見事に部屋に逃げ込まれた。
部屋番号は把握しているが、セキュリティは高く、侵入は容易ではない。

今日中に手を出そうと思っていたのに、これでは失敗だ。
深追いせず、ここで打ち止めにしておくべきか。
否。
この自分を出し抜いたのだ、必ず後で障害になる。

障害は取り除かれなければならない。
本日中の殺害は無理かもしれない。
相手を部屋から誘い出す材料がない。
部屋にガスを流し込むという荒業もあるが、相手の部屋にはガスがない。

家電は全て電気で動くため、事故死に見せかけることが出来ない。
それも見越して手を打たれ、翻弄されたのだ。
嗚呼、本当にいい日だ。
今日は最高の日だ。

デレシアとの出会った記念日だ。
好敵手と呼べる存在と、久しく出会っていなかった。
いいだろう。
ブーンを殺し、あの女の悲痛な叫びと愁いの表情に期待させてもらおう。

この航海中、何が何でもブーンを殺してやろう。
こちらの計画を阻害される前に、あの三人を殺せればいい。
殺した死体は部屋に保管し、たっぷりと味わってやる。
死を冒涜し、背徳に悦しよう。

これこそが生。
これこそが世界。
力が全てを動かす時代にのみ許された、最高の快楽だ。
簡易な舞台で済ませようとしたこちらの失態だ。

219 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 20:55:24 ID:bxfQ0Rt.0
ならば。
盛大な舞台、深淵な陰謀、膨大な謎で歓迎しよう。
今宵この時この瞬間、このオアシズは、豪華な舞台へとその姿を変える。
即ち、このオアシズ全てを巻き込んだ謎解きの舞台を整えるのだ。

早速、手始めに殺す相手を物色し始めるが、すぐに却下する。
そんないい加減な人選では、デレシアを満足させられない。
となれば、オアシズの中でも地位ある人間を殺すべきだ。

――航行中ずっと絡み付く不穏な影を演出するには、それが最善の手だ。

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               同時刻 【ジュスティア-正義の都-にて】
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嵐の影響は、正義の都として知られるジュスティアにも及んでいた。
特殊合金で作られた巨大な三重の壁、スリーピースによって保護された都市はごくわずかの明かりだけを残し、黒い風景に同化しつつある。
つい三十分ほど前に発生した大停電が復旧するまでの間、緊急編成されたジュスティア軍の炊事・救助隊が灯す明かりだけが、街唯一の光でもあった。
自家発電設備を持つ裕福な家庭を除いた全世帯が、ジュスティア軍によって辛うじて文明的な生活を保っていた。

各軍事施設では人が手薄になりつつあったが、残った兵士たちは軍用強化外骨格をレインコートの上に背負って警備に当たっていた。
鍔の上を滑るように流れ落ちる雨水は彼らの顔を濡らさなかったが、正面から吹き付ける風と雨粒がシャワーのように濡らしている。
睫に付いた水滴を何度も拭うも、鋼鉄の柵が塞ぐブランケット支部の正面搬入口を警備するジェイソン・ブライアン二等兵は、コルトM4カービンアサルトライフルの銃把を握り直すことをしなかった。
安全装置のセレクターには常に親指が触れている。

</`゚l`゚)「……」

同じく搬入口を警備する一等兵ジェームズ・ブライアンはジェイソンの兄だ。
大型車両が車列を組んで迫ってきているのを見て、ジェームズは雨音と同等の声で尋ねた。

</'゚l'゚)「ジェイソン、搬入の予定はあったか?!」

</`゚l`゚)「ないな!!」

セレクターをフルオート射撃に切り替え、二人は身構える。
銀色の大型トラックが巨大なコンテナを牽引して三台、いや、四台続けてやってきた。
この時間帯に荷物の取引はないはずだ。
ジェイソンたちの目の前で停車したトラックの運転席から、レインコートを着た男が降りる。

ハイビームのせいで影だけが浮かび上がり、人相が分からない。
左手で目を庇いながら、運転手に呼びかける。

</`゚l`゚)「誰だ?!」

(<:: ゚ー゚::>)「ピク支部からの救援物資です!!」

220 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 20:56:53 ID:bxfQ0Rt.0
それは、若い女の声だった。
スリーピースの最も外側、市街地から最も離れたピク支部には多くの資材が保管されている。
自家発電装置は勿論、仮設住宅を設置するための機材もある。
ブランケット支部に資材が届けば、街の主要部以外にも救援に駆けつけることが出来る。

ピク支部の司令官の早急な対応には驚きを隠せない。
しかし、機材の置場があるかどうかは兵站庫の管理をしている人間に聞くしかない。
更に、本隊に連絡を取って今機材を必要としている地域を把握しなければならなかった。
場所によっては、直接現場に届けた方が速い場合があるからだ。

</'゚l'゚)「ありがたいが、とにかくハイビームを止めてくれ!!
    今確認するから、待っててくれ!!」

(<:: ゚ー゚::>)「これは失礼しました!!」

女が運転席に向けて手で指示を出すと、強烈な閃光を放っていたライトが消え、残光が瞼の奥に映る。
何度か瞬きをして、焼き付いた光を消し去る。
声が聞き取りづらいのか、女は二人に近づく。
グレーのレインコートの胸元には、所属を示すIDカードがぶら下がっている。

名は、アレックス・バーバーリ。
階級は二等兵だった。
ジェイソンはインカムに向かって確認の連絡を取ろうとするが、砂嵐だらけで無線が機能していない。
嵐の影響で無線がいかれたのか。

</'゚l'゚)「駄目だ、通じない」

</`゚l`゚)「……こっちもだ」

二機同時に壊れることなど有り得るのだろうか。
防水仕様で、海水に三時間浸しても壊れない物なのだ。
同時に壊れることは考えにくかった。
となれば、原因として在り得るのは電波障害か。

(<:: ゚ー゚::>)「どうしますか?!」

指示を待たずに独断、出来るだけ救援が被らないように指示するしかない。
ジェイソンは頭の中の地図を使い、救援が必要とされている場所を考えた。

</'゚l'゚)「では、ジョック通りの噴水前で本部を設置してくれ!!」

全ての基地から最も離れた場所にあるジョック通りなら、指示にミスは起らないはずだ。

(<:: ゚ー゚::>)「いえ、こちらに置くべきです!!」

</'゚l'゚)「何故だ?!」

(<:: ゚ー゚::>)「ジョック通りにはもう二台向かっております!!」

221 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 20:58:34 ID:bxfQ0Rt.0
ジョック通りへ向かっているのであれば、仕方がない。
一旦無線が回復するまで待ち、指示を仰ごう。
ジェームズと目で見合わせ、頷き合う。

</`゚l`゚)「よし、なら中に持って行ってくれ!!
     場所は分かるか?!」

(<:: ゚ー゚::>)「分かりますとも!!」

大人の腕ほどの太さがある鋼鉄の柱で作られた柵を、手で開く。

</`゚l`゚)「よし!! さぁ、行ってくれ!!」

(<:: ゚ー゚::>)「感謝します!! あ、一応、荷を確認してください!!」

うっかりしていた。
どのような相手であれ、荷は確認するのが規定だ。
二人は運転手に続いて駆け足でトラックの後ろに回り込み、開かれた扉の向こうを見た。

</'゚l'゚)「ん?」

</`゚l`゚)「あ!?」

二人を待っていたのは、五つのサプレッサーと五発の銃弾だった。
死体が仰向けに倒れるより早く二つの手が伸びてきて、二つの胸倉を掴んでコンテナの中に引きこんだ。
トラックは何事もなかったかのように基地内に入り込み、先頭の一台から軍服の上にレインコートを着た男二人が降り、入り口に立った。
その動作は一度も停車することなく、流れるように行われた。

彼らは気付くべきだったのだ。
停電が計画的に起こったということ。
ピク支部が壊滅していること。
そして、至近距離にいる二人の無線が通じなかったことが、有り得ないことであることに、もっと早くに気付くべきだったのだ。

</'゚l'゚)「異常なし」

</`゚l`゚)「異常なし」








――流れ出た血は、雨に流されて消えて行った。




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222 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 20:59:37 ID:bxfQ0Rt.0
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To be continued...
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223 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 21:00:27 ID:bxfQ0Rt.0
今回の投下はこれにて終了となります。

質問、指摘、感想などあれば幸いです。

224 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 21:08:02 ID:pZGfjE360
面白かった

225 こんにちは :2013/10/27(日) 21:23:17 ID:D2rhlIjE0
こんにちは

http://138.cm/cc

http://138.cm/cd

http://138.cm/ce

http://138.cm/cf

http://138.cm/cg

226 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 21:30:41 ID:CDGix..k0
大好きだ


227 名も無きAAのようです :2013/10/27(日) 23:39:01 ID:04wfyga2C
昨日あんだけ時間かかったのにこっちでやると早いな 
猿がないとはいえ、一時間もかからないとは

228 名も無きAAのようです :2013/10/28(月) 01:38:42 ID:lBIrMSYA0
こっちで投下すると便利っちゃ便利だけど
何かこう……湖と川的な……、ごめんやっぱり上手く言えん

229 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 10:26:14 ID:g8BJJxhk0
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Now, it's show time.
お楽しみの時間だ。

Hey, the detectives.
なぁ、探偵さん達よ。

You have been waiting for this moment for a long time, haven't you?
この瞬間を待っていたんだろう?

The pitiful person who is killed by me will appear.
私に殺される哀れな奴が現れるのを。

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その人物は静かに、そして素早く行動を開始していた。
不思議なことに、足元を飾るソールの厚い八インチの黒い軍靴は跫音一つ立てていない。
全身を包むゆったりとした服の下には、一挺の拳銃と二本のナイフ、そしてサプレッサーが隠されている。
その気になればいつでも誰かを殺せる状態にあった。

だが今の目的は殺害ではなかった。
観察、そして評定だった。
しかしながら、屋内に入られると詳細な観察のしようがない。
まぁ、目視しなくとも中の様子を探ることは出来るのだが。

夜の街の様相を呈したオアシズの船内に点在する明かりの届かぬ暗闇。
監視カメラの死角を滑るように移動するその姿は、狩りをする獣の様だった。
実際、その人物が放つ気配は狩りの最中に獣が発するそれと同じで、気配すら悟らせぬ極薄の刃の様。
自然と、気分が高揚していた。

賑やかな夜だった。
雨粒が船体を叩きつけ、波飛沫と暴風が空を舞う様子が聞き取れる。
遠くからはヴァイオリンとバグパイプの奏でる幻想的な音が聞こえ、酒場独特の焦げたような匂いが届く。
笑み一つ浮かべず、その人物はただ目的を果たすために歩き続けた。

目指すは、第四ブロック十八階にあるスイートロフトルーム。
部屋番号は覚えている。
802号室だ。
そこに、今回の対象者がいる。

獣のようなその人物は、道中の喫茶店でコーヒーのラージサイズを頼み、室内の音が聞こえる物陰に身を顰め、タンブラーから一口飲んだ。
鼻を突き抜けるコーヒーの豊かな香り。
舌先に感じる苦みと甘い砂糖の味。
内心でその味に満足しながらも、表情には変化を見せない。

230 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 10:26:55 ID:g8BJJxhk0
コーヒーの美味い不味いはよく分からない。
ただ苦いだけの飲み物という認識が強いが、眠気と空腹をごまかせるのも確かだ。
目深に被った黒い中折れ帽子の下から世界を睨みつける深紅色の鋭い眼差しは、802号室に向けられていた。
そして、聴覚に神経を集中させ、室内の様子を窺う。

人の動き、会話。
それら全てを耳に入れ、これから彼らが夕食を食べることを理解した。
どうやら、今晩はトマトとバジルが主役のマルゲリータピザのようだ。
美味そうな匂いに、今夜の夕食はピザにしようと心に固く誓った。

あの少年も美味そうだが、それにしても、本当に美味そうな匂いを漂わせるピザだ。

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                ‥…━━ August 4th PM20:35 ━━…‥
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少し遅めの夕食を知らせたのは、オーブンが焼き上がりを知らせる鐘の音だった。
厚手の生地で作られた鍋つかみでオーブンの扉を開くと、黄昏色の窯の中から小麦色の生地に赤黒いトマトソースが乗ったピザが顔を出す。
白いエプロンを身に付け、肩まで伸ばした赤髪と瑠璃色の瞳を持つ女性が作ったピザは、具材はトマトとチーズ、そしてフレッシュバジルだけと云うシンプルなもので、焼き上がりは色味に欠ける。
しかし、取り出したばかりのピザの上にフレッシュバジルを乗せると、途端に鮮やかな物に変わった。

立ち上る豊かなトマトの香りがバジルの爽やかな香りを際立たせ、こんがりと焼けた生地とチーズが食欲をそそる。
大皿に乗せられてすぐに食卓に並んだのは二枚のピザと、モッツアレラチーズとトマトにオリーブを垂らしたサラダだ。
それを始めて目の当たりにした垂れ目の少年は、眼を輝かせ、くるりと丸まった尻尾を千切れんばかりの勢いで左右に振った。
それは意図してではなく、感情の高ぶりによって自然とそうなってしまうものだった。

その少年は人でありながら、犬の耳と尻尾を持つ、耳付きと呼ばれる人種だった。
サラサラとした黒髪と、深海色の瞳を持つ少年の名はブーン。
それを見て得意げに胸を張る赤髪の料理人、ヒート・オロラ・レッドウィングは、“レオン”の名で多くの重鎮を震え上がらせた元殺し屋だった。
今彼女が浮かべる笑みは、殺し屋だったころには想像もできないほど柔和で、蕩け落ちそうなものだった。

まるで、一人の少女が恋を知った時に浮かべるような、温かな笑顔だ。
それに続いて現れた碧眼の女性もまたヒートと同様にエプロンをして、自慢のウェーブがかった金髪を一つに縛っていた。
デレシアというその旅人は、ブーンに名を与え、旅に同伴させた張本人だ。
彼女なくしてブーンに自由はなく、ヒートとの出会いも、その他全ての出会いもなかった。

デレシアはその手に白ワインのボトルを持って現れ、それぞれの席の前にグラスを置いた。

ζ(゚ー゚*ζ「今日は特別。 ブーンちゃんにも少しだけ飲ませてあげるわ」

(*∪´ω`)「お……!!」

231 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 10:27:37 ID:g8BJJxhk0
ノパ⊿゚)「でもよ、この前は一杯でコテンってなっただろ?」

取り皿を置きながら、ヒートがそう尋ねる。

ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫よ、薄めるから」

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.       i::::::.ヽ__ノ::::::::::::::::::*::::: ヲ::::::.ヽ__ノ..::::::!
       ',Θ:::::::::£::::::::ヰ::::::::::ヱ:::::::::......::Θ::/
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専用のローラーでピザを八等分し、ヒートは真っ先にそれをブーンの皿に乗せた。
生地の上で溶けてトマトソースと絡み合ったチーズが伸びて千切れて、別の一片の上に落ちる。
デレシアとヒートの間の席に座ったブーンは、そのピザを見て笑顔を浮かべる。

ノパー゚)「よし、食っていいぞ!」

(*∪´ω`)「お? まちますお」

ノパ⊿゚)「待つって、何を?」

(*∪´ω`)「みんなでいっしょに、たべたいんですお」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね。 食事は皆で一緒の方が美味しいものね。
      じゃあ、冷めない内に取り分けましょうか」

すかさず、ヒートとデレシアはピザを皿に取り分け、ワインをグラスに注いで食事の準備を整えた。
全員が席に着いてから、三人は声を揃えて言った。

ノパー゚)(*∪´ω`)ζ(゚ー゚*ζ『いただきます』

大きな口を開けて、ブーンはピザを食んだ。
途端にその眼が喜びに輝き、尻尾が左右に揺れる。
最初に舌が感じ取ったのは、チーズに覆われた、濃密に凝縮されたトマトの酸味と甘みが作り出す風味豊かなソースの味。
ピザの生地と合わさってもなお中和しきれぬ甘酸っぱさ。

その味の秘密は、ヒートが買った完熟トマトの缶詰にある。
味が自然に凝縮されたそのトマトを缶に詰め、長期保存を可能とした缶詰の技術のなせる業だ。
口の中のチーズと混ざり合い、酸味を和らげる。
厚みのある生地が熱いソースと混ざる中、瑞々しい一片のトマトが舌の上で踊る。

それは新鮮なトマトをぶつ切りにしたものだ。
新鮮さを殺さないために、ヒートは焼いている途中でトマトを乗せたのだ。
その説明は受けていたが、トマトから溢れる甘酸っぱい液体との組み合わせはこのピザの神髄だとよく理解した。
トマトと生地の織り成す味の調和に感動する中、フレッシュバジルがブーンの意表を突いた。

232 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 10:28:19 ID:g8BJJxhk0
苦みよりも香りの高さに驚いた。
そのままでも十分に香りが強かったのだが、噛んでからの香りはより一生強烈だ。
トマト一色だった口内に新鮮な緑の香りが浮かび上がる。
よく噛んでから嚥下して、次の一口を頬張る。

二口目は、一口目とは違った味わいがあった。
複雑だった味が酸味の強い物になり、トマトの甘さはどこかへ消えた。
しかし、味の複雑さを思い出させるのはフレッシュバジルだ。
独特の香りと苦みによってトマトの味を甦らせ、ブーンの舌を唸らせた。

一切れ食べ終えてから、ブーンはグラスに注がれていた薄めた白ワインを飲んだ。
それはとても薄く、味は希薄だった。
しかし、二口、三口と飲むと味と香りが濃くなり、全身がほんわりとした何かに包まれた。
筋肉が弛緩し、気分が良くなる。

続いて、モッツアレラチーズとトマトのサラダにフォークを伸ばした。
ヒートに言われたのは、必ずチーズとトマトは一緒に一口で食べるということだった。
フォークの先にあったトマトの硬い皮を貫いて、柔らかなチーズに先端が突き刺さる。
チーズにオリーブオイルをからめて、ブーンはそれを口に運んだ。

何とも言えぬ食感。
オリーブの甘味にトマトの風味が移っただけに思われたが、チーズの仄かな香りと味が全ての味を一つに統合する。
味が一つになったことにより、少し塩気があるのが分かった。
粒々としたトマトの種がプチプチとした歯応えを生み出し、種の周りを包むジェル状の物が舌を楽しませる。

そしてこれがまた、ワインによく合う。
ワインを飲むたびにトマトの風味が鼻から抜けて、気持ちが落ち着く。

(*∪´ω`)「おふー」

ノパー゚)「美味いか?」

(*∪´ω`)「はい!」

ノパー゚)「次はピザとサラダを一緒に食ってみな。
    こうやって……ほれ」

一口サイズに切ったピザの上にモッツアレラチーズを乗せ、その上にトマト、最後にフレッシュバジルを添えた。

ノパー゚)つ△「あーん」

(*∪´ω`)「んぁー……む」

ノパー゚)「って、おいおい、あたしの指まで食べるつもりか?」

ピザごとヒートの指を口に含んでしまったブーンは、慌てて体を後ろに引いた。
怪我をさせては事だ。
気を取り直してヒートの手から食べさせてもらったピザを噛んだ途端、ブーンは目を大きく見開いて驚きと喜びを顔に出した。
温かいピザと冷たいサラダ。

233 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 10:29:00 ID:g8BJJxhk0
この二つが織り成す味は、先ほどまで自分が食べていた物とはまるで違う。
トマトから染み出す酸味のある汁がモッツアレラチーズと混ざったかと思うと、その下に隠れていた温いチーズとピザ、更にはモッツアレラチーズに潜んでいたオリーブの香り。
あらゆる味が混然一体となり、ブーンの鼻腔を内部から優しく犯す。
今感じ取れる香りは、新鮮なトマト――否、オリーブやバジルなどの複雑な香りだけだ。

全ては一瞬の事だったが、その体験は素晴らしい物だった。
次第に鼻がヒートとデレシアの香りを認識し、料理全体の香り、部屋の匂いを識別する。

ζ(゚ー゚*ζ「お世辞抜きに美味しいわ。
       どこで習ったの?」

ノパ⊿゚)「水の都の飯屋で少しだけバイトしてたんだ。
    やることやるまでに、時間があったからね」

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突然ヒートは失笑し、ワインを一口飲んだ。

ノパー゚)「そこの親父がよ、ピザを女に作らせたくねぇ、ってよく言ってたんだ。
    女は料理を運ぶかデザートを作ってろってね。
    その理由ってのが、女に作らせるとピザを薄く作るからだ、って。
    ピザを薄く作るには技術がいるんだが、女はあっという間にそのコツを掴んで、より上を目指したがって、極薄のピザを作っちまう。

    つまりそうなると、親父が好きな薄すぎず厚すぎない、丁度いい厚みのピザが作れないんだそうだ。
    話を聞くと、お上さんがそうだったらしい。
    お上さんが薄い方が美味いんだ、って言い張って極限まで薄くしたら、ある日、具の重さで生地の底が抜けちまうような物が出来上がった。
    もちろん、そんな物は売り物にならねぇ。

    だったら、女に果物を薄く切らせた方が店のためになる、って考えに至ったらしい」

ζ(゚ー゚*ζ「道理で美味しいわけね。 そうそう、ブーンちゃん。
      ワインを飲んだ後は、鼻で息を出してみるのよ。
      そうすれば、食材とお酒の香りがよく分かるの」

頷いて、ブーンは新たにピザを手に取り、一口食べ、咀嚼し、ワインを飲んだ。
言われた通りに鼻から息を抜くと、確かに、先ほどまでとは全然違う後味になった。
白ワインの甘い香り、若干の渋み、トマトの酸味と旨味、バジルの青々しさ。
それらが一瞬で鼻腔を抜けて体外に出ていく感覚は、生まれて初めてのことだ。

234 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 10:29:42 ID:g8BJJxhk0
酒の力の偉大さを始めて認識することが出来た。
以前に飲んだ時は、ただ、猛烈な睡魔に襲われてそのまま眠りに落ちてしまった。
あの時に飲んだ酒の味などは忘れたが、今飲んだ酒の味と香りは、確かに覚えた。

(*∪´ω`)「うまうまですお」

ノハ;゚⊿゚)「……そんな言葉、どこで覚えたんだ?」

(*∪´ω`)「ロマさんにおしえてもらいましたお。
       おっきくて、かたくって、こわくて、つよそうなひとですお」

ノハ;゚⊿゚)「やっぱ、その話を聞く限りじゃあそのおっさんがそんな言葉を使うとは思えねぇな……」

ζ(゚ー゚*ζ「でも、いい人だってブーンちゃんが言うならそうなのよ。 ね、ブーンちゃん?」

顔は怖いし、声も怖いし、人を殺したことがあるだろうし、筋肉は隆々としている。
きっと素手で人の骨を折るぐらい容易いだろう。
でも確かに、いい人なのだ。
誤解されそうな姿をしているが、ロマネスクは、いい人の匂いがしたのだ。

(*∪´ω`)「お!」

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                      Ammo→Re!!のようです
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                ‥…━━ August 4th PM21:49 ━━…‥

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白く雄々しく揺るがぬ姿はまるで、聖書に描かれる箱舟のような姿だった。
冷たい雨風が白い巨船を殴りつけるが、フィンスタビライザーシステムと云う対波浪用のシステムが、その巨体のバランスを保っているのだ。
木造船を粉砕し得る威力を持つ荒波に船体は傾くが、船内は傾かず、自己顕示欲の強いバーテンダーがグラスの淵一杯にまで注いだカクテルが零れ落ちもしない。
そのカクテルをありがたそうに、満足げに飲む若い女性はグラスに付いた口紅をふき取ったが、カウンターに零したカクテルは拭き取らなかった。

一方で、隣接する居酒屋では気取るようなことをせずに安酒を飲み、心行くまで酔う客達で賑わっている。
こちらでは酒を零すことが粋なサービスとしてしっかりと機能しており、バーとの違いはそこにあった。
朱塗りの升に置かれたグラスから溢れた酒は升に溜まり、規定の量より多く飲めるとあって客からの評判はいい。
それで出される酒は、米から作られた甘い香りと果実のような甘味を持つもので、日本酒と呼ばれるものだった。

235 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 10:31:51 ID:g8BJJxhk0
魚料理とよく合うと評判だが、その製造工程の手間と必要な環境の問題で、二種類のグレードに別れて販売されていた。
一つは純粋に米だけで作られた甲種、そしてもう一つが醸造アルコールを足した乙種だ。
無論後者の方が安上がりで、前者の方が美味い。
――アルコールさえ摂取できれば幸せな呑兵衛達には、どちらでもいいのだが。

そこから船首に向かって七件先に行くと、変わったコンセプトの店がある。
酒と料理の提供がされる点では他の酒場と変わらない。
しかし、店内は歌と音楽で溢れかえっていた。
歌い手は店側が用意したものではなく、客自身だ。

コーラスバー、と呼ばれる新しい種類の酒場だ。
酒を飲んで上機嫌となった客同士で肩を組み、好き勝手に全員が合唱するスタイルだ。
ストレス解消と見知らぬ人との出会いを求めて、今日も多くの客が足を運んでいる。
嵐の中、それに耐え凌いで過ごす人間は、その船には一人もいなかった。

明るさと喧騒を失わぬ船の名は、オアシズ。
世界最大の客船にして世界最大の船上都市。
最大収容人数九千人と云う現代の技術力だけでは存在し得ない巨体を動かすのは、自然エネルギーを最大限利用した発電設備。
それは、華やかさとは無縁の場所に立ち並んでいた。

船倉は薄暗く、鉄臭のする空気は淀んで生温かった。
常客から預かった荷物を補完する大型のコンテナが第一ブロックから第三ブロックの半ばまで積まれ、残りの半分が発電設備で埋まっている。
発電装置から発生する熱で湿った空気が漂うその一角に、装置を管理するための詰所があった。
詰所には常時三人がおり、計器の異常や使用状況を監視している。

もっぱら、彼らは船倉内の警戒を行う一方で、ポーカーかチェスで交代までの時間を潰している。
その日、八月四日の夜もいつもと変わらぬゲームが繰り広げられていた。
今日はビールを賭けたチェスで、当直のハワード・ブリュッケンが圧倒的優位な状況だった。
逆転は不可能な状況。

ハワードの駒にはクィーンが二つ、そしてビショップ、ルーク共に健在。
対して本日の敗北者であるオルェイ・マッケバッカスはクィーンとルークを失い、キングとポーン、そしてナイトがあるだけ。
勿論、奇跡など起ころうはずもなく、その状況に陥ってから三分後には決着がついてエビスビールはハワードの手に落ちた。
オルェイがとっておきの酒を賭けて、もう一度、どうしてもと懇願するのでハワードはそれに応じた。

天啓的な博打狂い。
それが、ハワードからオルェイに対する印象だった。

「とっておきの酒って、なんだ?」

「ウォッカだ、それも、ラシャ産の上物」

これには乗らざるを得ない。
ハワードは賭け事も好きだが、ウォッカはもっと好きだ。
二割ほど減ったラベルのない透明の瓶を卓上の隅に乗せ、改めてチェスを始めた。
結果は変わらず、ハワードの圧勝だった。

「悪いな、こいつはもらってくぜ」

「待てよハワード、今度は俺とやろうぜ」

236 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 10:33:59 ID:g8BJJxhk0
背後から現れたのは、見たことのあるような顔の中年男性だった。
どこで会ったのか、まるで思い出せない。
しかし、面識があるのだろうか、やけに親しげだ。
胸元のネームプレートには、ジャック・ヒューストンとあった。

「ジャック、悪いけどもう今日は遠慮しておくよ」

「そう言うなって、一勝負だけさ。
勿論、直ぐに終わる奴だ。
財布を出してくれないか?」

言われるがままに、ハワードは皮製の長財布を取り出した。
ジャックも同時に黒皮の長財布を取出し、机の上に置いた。
付き合いが悪い奴とは、言われたくなかった。

「互いに財布の中にはいくら入っているか、ストーカーでもない限り分からない。
だよな?」

「ああ」

「俺の財布とあんたの財布、どっちの方が、物が多く入っているかどうか。
それで勝負しよう。
もちろん、あんたが決めていい。
財布を持つのもありだが、中を見るのは答え合わせの時だけだ」

この賭け。
運が物を言うが、よく考えれば、洞察力が勝敗にかかわってくる。
言うなればハワードが相手の財布の中身を当てさえすれば、絶対に負けないのだ。
いかにしてそれをするかが、勝敗のカギだ。

自分の財布の中にはカードが七枚。
十ドル硬貨が三枚と五ドル硬貨が一枚。
合計数は十一。
相手の財布を持ち上げると、ちょっとした重みを感じる。

恐らく、硬貨が五枚はある。
では、カードはどうだろうか。
あるのか、それともないのか。
最低でも一枚はあるはずだ。

そう。
この船で使うカードキーだ。
となると、見積もって最低でも六。
他にカードが入っていれば、当然、十一という数を超える。

考えなければならない。
この重量に騙されずに、真実を見抜かなければならない。
偽りの重みを見抜き、正解を導けば、この勝負に勝てる。
――ハワードは、一つの策を思いついた。

237 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 10:34:40 ID:g8BJJxhk0
「俺が勝ったら、幾らくれるんだ?」

「五十ドルでどうだ?」

「……いいぞ。 なら、俺も同じだけ賭ける」

重要なキーワードを手に入れた。
五十ドルを払うには、最低でも硬貨が五枚はいる。
しかしこれは、十ドル硬貨五枚の重みではない。
もう何枚か、余計な硬貨が含まれている重みだった。

ここからは、直感と云う名の推理をする必要がある。
最低で六。
感じ取る限りでは、十はあるはずだ。
ハワードは決断した。

「俺の方が少ない」

「へぇ、それじゃあ答え合わせと行こうか。
互いに互いの財布を見よう。
そうでなきゃ、違反があっても分からないだろ?
品物は机の上に出して確認し合う。

それでいいか?」

「勿論だ」

ジャックの財布の中身を空けて、ハワードは笑みを隠せなかった。
カードが八枚。
硬貨入れに見積もった最低数と足せば、十三となる。
勝った。

「悪いけどジャック、俺の勝ちだ」

「ちっ、しかたねぇ……
そっから五十ドルもってけよ」

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     / ―'´ノ , '´ /  人
   /    !」/      ノ
―<    _ ┴' 、      イ
   レ '´      ヽ   r┘
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小銭入れを開くと、十ドル硬貨が二枚と五ドル硬貨が八枚も入っていた。
硬貨を必要枚数分取ってから、それをジャックに見せる。

「確かに、五十ドルいただいていくぜ」

「あぁ、ほらよ」

238 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 10:35:36 ID:g8BJJxhk0
机の上に出していたカードなどを全てしまってから、ジャックが悔しそうな表情で財布を返す。
彼もまた賭け好きな人間なのだろう。
しかし、賭け好きが賭けの天才とは限らない。
底なしの魅力に引き込まれ、そのままゆっくりと腐って行く賭け好きもいる。

そんな人間が少しでも幸せを感じるのなら、これぐらいの授業料は安いと思ってもらおう。
博打好きは馬鹿が多い。
それが、本日の賭けを通じてハワードが改めて認識した事だった。

「お先に」

「お疲れさん」

少しの仮眠を取ってから、また仕事が待っている。
ハワードは二種類の酒を手に、満足そうな足取りで自室に向かったのであった。

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            |\|  \          ,          /  | /|/
                ∨ ∧  "             "   ∧ ∨
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                i,  ̄ ̄ ̄>  _   < ̄ ̄ ̄ ,i
                ‥…━━ August 4th PM22:05 ━━…‥
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気が狂うほど愛おしい、とヒート・オロラ・レッドウィングは純粋に思った。
風呂から上がって体を拭いて髪を乾かし、寝間着を着て、そして同じ布団で抱き合って眠る。
それが愛おしい存在であれば、この時間を至福と言わずにはいられない。
性交をせずとも、こうして触れ合うだけでも心は十二分に気持ちよくなる。

腕の中で安らかな寝顔を浮かべ、小さな寝息を立てる姿には何度も飽きることなく胸を締め付けられる。
小さな手足が無意識の内に自分を頼って抱きしめてくれる。
信頼と愛情の証。
この瞬間を永遠の物に出来るのならば、悪魔と呼ばれる存在に成り果てても構わないと本気で思える。

瞼を降ろし、ヒートはブーンの体温を感じる安らぎの中、ゆっくりと微睡む。
これだけで、十分。
この気持ちを与えてくれるだけで、命を懸けて守るに値する存在だと、心から言える。
自らを修羅に貶め、他者を殺め、その命を凌辱し、多くの悲しみと怒りを目の当たりにしてきたヒートを発狂させないだけで、十分なのだ。

銃弾が小さな穴を空けて食らった残骸、死体。
喉元を切り裂いた時に銃剣が見せた一陣の赤い輝き。
声にならない言葉で呟く死に際の本心。
眼を見開いて涙を流す死体。

家族だけはと懇願する男の目の前で妻を絞殺した時の、男が浮かべたその表情。
あらゆる増悪を込めて吐き出された恨みの言葉。
山積みになった死体から立ち上る悪臭。
手に残る、人を殺した感覚。

239 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 10:36:21 ID:g8BJJxhk0
毎夜ヒートを襲っては心を蝕んでいたそれが途絶えたのは、ブーンと出会ってからだった。
この少年が類稀なる才能を持っていることは、一目で分かった。
彼女の様な存在を惹きつけ、癒し、時には導いてくれるカリスマ性。
膝を突いて頭を垂れて何もかもを投げ打ってでも手に入れたいと思えるその存在感こそが、ブーンの才能そのものだ。

(*∪-ω-)Zzz

ノハ´ー`)

微睡みの中、ヒートは自分に言い聞かせる。
これ以上は望んではいけないのだと。
ブーンは、ブーンなのだから。
それ以外の存在になることは、決して、無いのだと。

(*∪-ω-)「お……」

だが。
この甘美な時間を味わうことは許される。
長い足でブーンの下半身をそっと押さえ、背中に回した手にさり気なく力を込めた。
嗚呼。

――本当に、愛おしい。
護り、慈しみ、育み、見届けたいと思わせる存在などこの世にそう幾つもない。
ヒートが見てきた世界の中で、ブーン以外にそう云った存在と出会った試しがない。
この先、彼以外に出会えるとは到底思えなかった。

丸まった尻尾。
垂れた耳。
櫛を嘲笑う艶やかで絹のような黒髪。
垂れた眉毛と深海色の瞳。

それら全てはヒートの中の保護欲を掻き立て、ますますブーンの魅力に引きずり込む要素だ。
それでもいい。
この際、ブーンの人生を最前列で見届けられるなら、それだっていい。
ヒートに残された燃えカスのような人生がそのためにあるのだとしても、一向に構わない。

炎は灰に。
灰は塵に。
塵は砂に。
砂は風に。

そうして消えるだけの人生だと思っていた。
だけど。
違ったのだ。
変えてくれたのだ。

他ならぬ、ブーンの存在が。

240 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 10:37:43 ID:g8BJJxhk0
彼自身が何かをしたわけではない。
説得や、ありがたい言葉をくれたわけでもない。
存在そのものが、彼女にとっての救いだったのだ。
ブーンに関わるだけで救われる。

そう、思えたのだ。
非情、無情の殺し屋だった女が。
たった一人の少年に、人生を救われたのだ。
偶然の産物なのかもしれないが、確かに、絶対零度の心の芯を温め溶かしたのは、このブーンただ一人。

彼を守り、彼を見守り、彼を導き。
彼の成長を見届けれられるのであれば、死んでもいい。
自然の摂理として、彼より先に逝くのは構わない。
ただ、見送れるだけでいいのだ。

見送ることは、全ての保護者、そして教育者の悲願だ。
最も悲しいことはそれを奪い取られることであり、そしてその機会を失うことにある。
ヒートは殺し屋になって以来、初めて恐れを感じていた。
この温もりを腕の中から失い、そして遠ざかる彼の背中を見送る瞬間が幻になることが怖かった。

己の命よりも大切な存在で、恩人。
そして、最愛の弟にして我が子。
何よりも愛しい彼の寝息を耳にしながら。
そっと、静かに。

ヒートもまた、眠りの中に――

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  rニニニニニヲt、
 ノ         ヽ
 |    ☆     |
 |   ヱ ビ ス  |
 |           |
 |           |
  寸ニニニニニニイ
                ‥…━━ August 4th PM22:38 ━━…‥
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酒を飲んだ後の風呂。
そして風呂あがりのビール。
これがこの上なく美味い。
体中の水分を吹き飛ばす美味さだ。

エビスビールの濃厚な味と香りは、ハワード・ブリュッケンの好みの味だ。
薄い味と香りのビールを飲むぐらいなら、大人しくミネラルウォーターか醸造アルコールでも飲んでいればいいと云うのが、ハワードの持論だ。
ふた口に分けてビールを飲み干し、ハワードは大袈裟に感嘆の声を上げた。
仕事で疲れ、風呂で火照った体によく冷えたビールはたまらない。

241 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 10:38:44 ID:g8BJJxhk0
この快感は性交以上の感動がある。
炭酸が喉を落ちていく感覚もそうだし、それが腹の中から体内の五臓六腑に染み渡る感覚も好きだ。
約五時間後に控えた仕事のことも、これを思えば苦ではない。
缶の底に残った最後の一滴を飲んでから、ハワードはベッドに仰向けに倒れこんだ。

その瞬間に、異変に気付いた。
奇妙な感覚だった。
意識ははっきりとしているし、思考はよく回る。
しかし、体が全く動かない。

体を動かすために必要な神経の全てがショートしているような感覚で、いつものように手足を動かそうとしても反応しなかった。
自分の体が言うことを聞かない感覚に、ハワードは自分が何かしらの病気を発症した事よりも、毒を摂取してしまったという可能性に目を向けた。
瞬きも、呼吸も出来る。
だが、鼻から下の筋肉が全て麻痺しているかのように動かないのである。

何者かがハワードに一服盛ったのだ。
一体どの段階で?
部屋に帰ってから飲んだ酒、あるいは口にした料理、空調を通じて毒を流し込まれた可能性もゼロではない。
考えても埒が明かない。

今言えることは、これは彼の生活の流れを知っている者の犯行だ。
仕事のシフト、生活リズム。
親しい人間にも自分の一日の行動を話したことがないにもかかわらず、見事にしてやられた。
では理由は?

神経毒を用いて、何を狙う。
金か。
情報か。
それとも、嫌がらせか。

何にしても、早計だったとしか思えない。
この部屋にはオートロックとチェーンのセキュリティがある。
部屋にさえ上げなければ、体の自由の問題はどうと云うことではない。
連れ去るにしても、部屋を物色するにしても、まずはそのセキュリティの突破が前提となる。

それに、相手が自分をすぐに殺そうと考えていないのは、毒の効果から明らかだ。
本当に殺すつもりであれば、猛毒を盛ればいい。
毒が効き目を失うまでどれだけ時間がかかるか分からないが、しばらくこうしていれば大丈夫。
日頃ハワードが心がけていたのが、部屋に戻ると同時に施錠を確認し、それからチェーンロックをかけることなのだ。

――玄関から聞こえてきた跫音が、その甘い考えを打ち砕いた。

素早く記憶を巡り、セキュリティカードを机の上に確実に置いたことを確認する。
道中で取られたわけではない。
では、どうのようにして侵入したのか。
音もなく、存在を悟らせることなく、どうやって。

242 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 10:39:58 ID:g8BJJxhk0
ありえない。
聞き間違いだ。
外から聞こえてきた音に違いないと思い込もうとするも、跫音は近づいてくる。
絨毯を踏みしめる跫音は不規則に変化し、性別、体重を悟らせない。

甘い香りがエアコンの風に乗って届く。
ついに、侵入者がその姿を表した。
寝室の扉がそっと開かれ、そこには、黒衣のローブを頭から被り、白い仮面で顔を隠した人物がいた。
右手には赤と黒で塗装された、折り畳み式ボルトカッターが握られている。

チェーンを断ち切るには、この上なく好都合な代物だ。
あれでチェーンを切ったのであれば、音がするはずだが、そんな音は聞こえていない。

( ∵)

白い仮面には三つの穴が穿たれていた。
眼に当たる部分が二つと、口の部分に一つ。
それはデザインに過ぎず、実用的なデザインではなかった。
だが人間の恐怖を助長する点においては、実用的なデザインだった。

或いは、ジュスティアの機装兵団の様に銃弾から顔を守るためのマスクなのかもしれないが、今、その仮面はハワードに恐怖しか与えなかった。
錬磨であるハワードが怯えるのには、十分すぎる理由があった。
答えは、ここに至るまでの周到性だ。
毒の効果が現れる時間を見計らっての行動。

音一つ立てずに侵入する経路の確立。
今日一日のハワードの行動が、この侵入者の手のひらの上で回っていたと言っても過言ではないのだ。
明らかに、素人ではない。
何を狙って、こんな回りくどい真似をするのか。

仮面が静かにハワードを見下ろす。
目線は分からない。
何を見て、何を考えているのか。
全ては仮面の下。

( ∵)

フードの下から腕が伸び、ハワードの左手を取った。
触られている感覚がない。
弄ぶような動きの手には、黒い皮の手袋が嵌めてある。
軽い動作で手首の骨が折られたのは、一瞬の事。

痛みはなく、ただ、呆然とした。
赤黒く変色した手首をそっと離し、次にその手は両足首を掴んで持ち上げた。
そのまま折りたたむような動作で、両膝、股関節を破壊した。
骨の折れる音が生々しく、恐怖に顔を顰めようとするが、顔の筋肉は動かず、激しく瞬きをするだけしか今の彼には出来なかった。

最後に彼が見たのは、ボルトカッターの先端が両眼にゆっくりと突き立てられ、激痛の中で視界が赤から黒に変わる絶望的な光景だった。

243 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 10:41:24 ID:g8BJJxhk0
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  { ィ'' ̄ ̄´.}}}   `' ̄ ̄´`.}
  ゝ     ノ}}        ,ノ
  ヘヘr‐‐''(イ{/  ヽ ‐‐ァ'//
.   ヘヘミヽ、,,ノ、,,ィ、_,/ //      Ammo→Re!!のようです
    ヘヘ\-=''─ゞ==''´,//
     ヽミミ`ヽrrrr  / /          Ammo
      ヽ  〈||||〉  /              for
        \ Y/ /                 Reasoning!!編
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                ‥…━━ August 5th AM04:35 ━━…‥

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“フォアローゼス”というバーで探偵会議が開かれたのは、八月五日午前四時半を過ぎた段階だった。
オアシズで働く探偵総勢四百五十人。
その全員が、緊急の要請に対して即座に応じ、素顔を隠すためにガイ・フォークスの仮面を付けていた。
店内を照らす照明は蝋燭が一本だけ。

完全なる匿名による完全なる捜査。
それが、探偵たちに念を押して守らせているオアシズの鉄則だ。
探偵たちは互いの素性を知らない。
知らないからこそ保たれる秘匿性。

その為の仮面だ。
探偵たる彼らは変装を得意とするため、ここで交わされる口調や声色はあてにならない。
時には偶然にして同僚の正体を知る者もいるが、それを口外するものはいなかった。
彼らを束ねる探偵長は“ホビット”と呼ばれる小柄な人物で、事件の概要をしわがれた声――それが作られた物か地声なのかは分からない――で説明し始めた。

(<・>L<・>)「被害者は第三ブロック在住ハワード・ブリュッケン。 船倉の総合警備担当者。
       時期主任として目されていた男。
       妻も子もなく、誰かから恨みを買うような人物でないことは裏付け済み。
       ……さて、どう思うね、諸君?」

普段、探偵が召集されることはない。
オアシズ内には警察が常駐しており、日常的な揉め事は彼らが解決してくれる。
探偵の仕事は何かと言えば、そう言った事件が起きるのを未然に防ぎ、難解な場合には介入することだ。
此度の事件は、警察の力だけでは解決が難しいと判断されただけでなく、探偵全体を動員するほどの事態だということを、全員が理解していた。

(<>L<>)「殺害方法、時刻、発見場所、発見者、発見時間の提示を希望」

(<・>L<・>)「良い指摘だ。
       射殺、午前零時あたり、被害者宅――3002号室――浴室にて、同僚バステルノア・フィリッポスが午前四時に発見、通報。
       彼が部屋を訪れたのは仕事の時間になっても被害者が応じず、その性格上不審に思ってのことだそうだ。
       部屋のキーは第三ブロック長であるノリハ・サークルコンマ氏立会いの下開錠され、近くに居合わせた探偵と室内に入った」

244 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 10:42:34 ID:g8BJJxhk0
(<>L<>)「射殺?」

その単語に、仮面の下から次々と驚きの声が上がる。
無理もない。
オアシズ内で銃を常時携帯できるのは、警備担当者、警察、もしくは探偵だけなのだ。
それ以外は許可がない限り携帯ができず、許可されるのは一握りの人間のみ。

(<・>L<・>)「……現場の画像を見てもらおう」

言葉と共に壁に映し出された一枚の画像は、数百体の死体を目の当たりにしてきた探偵たちでさえも、思わず目を逸らしてしまう、惨たらしいものだった。
現場となった浴室のベージュ色の壁は汚れ一つカビ一つなく、よく掃除が行き届いているのが分かる。
ただ、浴槽の中だけはそうでは無かった。
まず目に付くのは、鮮血の赤。

そして、異形。
本来であれば湯が張られるはずの浴槽には、その代わりに赤黒い血が張られている。
そして、己の血に汚れ、血の気を失った白い体が腰までそこに浸かっていた。
あらぬ方向に曲げられた四肢は内出血を起こしていて、折られたのだと一目で分かる。

天を仰ぐような形で硬直した頭部。
絶望と恐怖に歪むでもなく、感情の一切が見えない不自然な表情を浮かべる顔は、その半分が赤黒い血で汚れている。
大きく開いた口の中には舌がなく、血で満たされていた。
目尻にある深い切傷が両目を繋ぎ、大型の刃物でそこを傷つけたのだと分かる。

眼窩にあるはずの両目は見るも無残に損傷し、眼球から漏れだした液体が血と混じって涙の様に頬を伝って筋を作っていた。
両腕は首の前で結ばれ、背中側に曲げられた両足は首の後ろを通ってその結び目の中に入っている。
右の米神に空いた穴が一つ。
穴の向こうには浴室の壁が覗いていた。

猟奇殺人、と言う言葉が誰からともなく発せられた。

(<・>L<・>)「死因は右側頭部から侵入し、左側頭部から抜け出た銃弾による脳の著しい損傷。
       意見を」

(<>L<>)「この大量の血はどこから?」

外傷に比べて血の量が異常だ。
それは当然の疑問だった。

(<・>L<・>)「両足の付け根に深い切創があった。
       両眼の傷、切断された舌の切断面と幅が一致している。
       また、チェーンの切断面とも一致していることから、ボルトカッターの類が使用されたのだと思われる。
       ご丁寧に栓をしてまで、血の風呂を作りたかったようだな」

(<>L<>)「鍵の開錠は、どのようにして?」

チェーンを切断する前提として、扉が開いている事が必要だ。
カードによって開閉する扉を開くとなると、その方法は二つしかない。
一つは己のカードを使うこと。
そしてもう一つは、船内に六枚だけ存在するマスターキーを使用することだ。

245 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 10:43:36 ID:g8BJJxhk0
現場からは彼の部屋のカードが発見されており、他の人間の指紋は検出されていない。

(<・>L<・>)「……被害者発見の際に使用された以外に、もう一つのマスターキーの使用履歴が残されていた」

動揺が波紋の様に探偵たちの間に広がる。
マスターキーの所有者は六名。
各ブロック長五名、そして市長であるリッチー・マニー。
犯人は、彼らの中にいる。

(<・>L<・>)「次のスライドを」

写真が凄惨な現場から、容疑者六名の顔写真に切り替わった。
顔写真の隣にはそれぞれの事件発生時間の状況が記されており、一目で状況が分かるようになっている。
事件発覚から三十分弱でここまで調べ上げたのは、彼ら探偵たちだった。

ノ゚レ_゚*州 ノレベルト・シュー。 第一ブロック長。
事件発生当日:昨日から行方が分からなくなっている。現在行方を追っている。
目撃証言:なし。
被害者との接点:ほぼなし。

£°ゞ°) オットー・リロースミス。 第二ブロック長。
事件発生当日:前日二十二時から翌日三時まで第二ブロックにある酒場にいた。
目撃証言:有。
被害者との接点:ほぼなし。

ノリパ .゚) ノリハ・サークルコンマ。 第三ブロック長。
事件発生当日:事件発生予想時刻二時間前には自室に戻り、睡眠を取る。
目撃証言:なし。 部屋の入退室記録と証言は一致している。
被害者の接点:被害者との交流がたびたび目撃されており、本人も認めている。

W,,゚Д゚W クサギコ・フォースカインド。 第四ブロック長。
事件発生当日:事件発生予想時刻三時間前後は友人とカジノにいた。
目撃証言:なし。 友人は事件当時の記憶が不鮮明。
被害者との接点:ギャンブルで度々金を借りていた。

マト#>Д<)メ マトリクス・マトリョーシカ。 第五ブロック長。
事件発生当日:第五ブロック責任職会議に参加。
目撃証言:多数。
目撃者との接点:なし。

¥・∀・¥ リッチー・マニー。 オアシズ市長。
事件発生当日:自室にいたと証言。
目撃証言:なし。
目撃者との接点:なし。

(<>L<>)「キーの使用者情報は?」

オアシズで使用される全てのカードキーには所有者情報が割り振られており、誰がどこを通ったのか、直ぐに分かるようになっている。
つまり、最後に使用されていたマスターキーの所有者さえ分かれば事件は大きく進展する。

246 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 10:44:52 ID:g8BJJxhk0
(<・>L<・>)「ノレベルト・シューの物だ。
       最終使用履歴は、彼女のカードだった」

(<>L<>)「カメラは?」

(<・>L<・>)「昨夜から被害者の部屋がある第三ブロックのカメラが全て停止していることが分かった。
       つまり、犯行時刻の映像は一つも残されていない」

第三ブロックのカメラを停止させるには、それなりの立場が必要となる。
昨晩被害者がいた詰所からもその操作は可能だが、変わった目撃証言はない。
勿論、ノレベルトの目撃証言は昨日の朝から途絶えている。
計画的な犯行だ。

探偵たちは足跡を消されたことを悔やむより、足跡に繋がる物を探すことに気持ちを切り替える。

(<>L<>)「死体にヒントがあるかもしれない。
      “ドクター・ストレンジラブ”、報告を聞かせてくれ」

渾名を呼ばれたのは、解剖学の世界的権威であるクルウ・ストレイトアウトという女性の医者だ。
細身で長身の三十代半ばの女性は黒いシャツに黒いスカート、ピンストライプの黒いスラックスに、白いジャケット、そして白い赤いネクタイをだらしなく締めた格好をしていた。
櫛の通った長い黒髪を気だるげに指先で弄びながら、浅黒い肌の女性は返答した。

川 ゚ 々゚)「体からアルコールと一緒に、微量の神経毒が検出されたわ。
      天然ものじゃなくて、人工の毒ね。
      即効性じゃないから、計画的に盛られたのね。
      神経を麻痺させる一種の麻酔みたいなもので、身動きを奪うにはこの上なく好都合なやつ。

      ただ、残ってた眼球の乾き具合を見ると、瞬きは出来ていたみたいよ。
      そうそう、後は殺され方だけど、最初に足の付け根二カ所を切ってから頭を十インチぐらいの距離から撃たれているわ。
      銃弾は九ミリパラベラム弾。
      発砲音は確認されていないから、まぁ、サプレッサーを使用したんでしょうね。

      このヨガみたいなポーズは、死後に取らされているわ」

人呼んで異常な愛情者、“ドクター・ストレンジラブ”。
クルウは死体を弄ることが半ば趣味で、それを職にした人物だ。
死体に残されたわずかな異常や変化はことごとく彼女の目に留まり、三時間もあれば詳細な解剖結果が出来上がる。
渾名の由来は、切り刻むことなく死体から詳細な情報を手に入れるのに必要な物は、と尋ねられた際に、愛情と答えたことにある。

彼女の解剖部屋からは夜な夜な嬌声が聞こえるとか、死体の陰茎を弄んでいるだとか、色々な噂が流れているが、一つ確実なことがある。
如何に凄惨な殺され方をした死体でも、彼女がそこから情報を取り逃すということはないということだ。

(<>L<>)「……おいちょっと待ってくれ。
      なら、被害者は浴槽で殺されたことになるのか?」

現場の写真を見ていた男が、恐る恐る尋ねた。
その意図を全員が理解したのは、十二秒後。

(<>L<>)「……弾痕は、いや、銃弾はどこに?」

247 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 10:45:42 ID:g8BJJxhk0
川 ゚ 々゚)「頭の中にはなかったわよ。
      口径に対して脳味噌の減り具合が多すぎるから、多分体内で弾が広がるように工夫された物ね」

(<>L<>)「反対側から飛び出た脳味噌は現場に落ちてたか?」

川 ゚ 々゚)「いいえ、お風呂には糞尿と血だけ。
      後は、そうねぇ……
      見ての通り、両手足がぐちゃぐちゃに折られているわね。
      手首と足首の位置に、痣が残されていたけど、手の大きさの特定はできなかったわ。

      三十分お話して分かったのは、こんなものよ」

それからクルウによる考察を含めた死体の詳細が語られ、探偵たちは肉料理に対しての見方が変わるぐらいに情報を仕入れた。
酒も食事もない会議は二時間にも及び、共有すべき情報は全て全員の耳に届けられた。
話しも終わり、自然な流れて退席しようとした探偵たちを、“ホビット”が呼び止める。

(<・>L<・>)「待ってくれ、最後に一つ。
       これは全員が把握しておいてほしい。
       ……現在行方を追っているノレベルトだが、彼女は元探偵“フェイス・オフ”だ。
       なお、この事件は一切他言無用とする」

店内は静まり返る。
ホビットの一言が意味するところを、全員が理解した何よりの証だった。
フェイス・オフの名を知らぬ探偵は、この業界にはいない。
それが意味するのは――

――容疑者、全乗客九千人。

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             /    ,,r'"彡三三。ヽ っ。つ っ。つ
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                ‥…━━ August 4th AM06:45 ━━…‥
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八月四日。
荒れ狂う海の上を悠然と進む世界最大の豪華客船にして船上都市であるオアシズは、未だ嵐を抜け出せずにいた。
海面に最も近い一階の部屋の窓からは、飛沫を上げて荒れる海の様子がよく見える。
カーテンの向こうは暗闇だったが、その向こうで波がガラスを叩きつけていることはよくわかった。

ショボン・パドローネは自室に戻ってベッドに腰掛け、ぬるい缶コーヒーを一口飲んで、溜息を吐きたい衝動を強引に抑えた。
なんともまぁ、面倒くさいことになったものだ。
手の込んだ計画殺人。
犯人は尚も逃亡中故に、総員で捜索に当たらなければならない。

248 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 10:46:30 ID:g8BJJxhk0
期日は言わずもがな、ティンカーベル到着までの間。
それまでの間に、行方不明者にして最重要参考人、そして容疑者であるノレベルト・シューを見つけなければならない。
恐らく見つからない可能性の方が高いだろう。
相手は元探偵。

“フェイス・オフ”という探偵は変装の天才として知られており、発見が困難を極めることは必至。
また同時に、射撃の腕、探偵としての知識量も高く、それが元でブロック長になったと言っても過言ではない。
つまり、当てずっぽうや勘では決して見つけ得ることは叶わない。
彼女は、こちらの思考の三手先を読んで動く人間だ。

こうして騒ぎになるということは、つまり、これもまた彼女の思考の中。
天才的な推理力は、言い換えれば天才的な犯罪者の素質と言える。
何が彼女を猟奇殺人鬼に変えたのか。
それは、この事件の最後に分かることだろう。

まず調べなければならないのが、彼女の動向だ。
昨日明朝から行方を晦ましたのならば、最後に彼女がいた場所を突き止め、そこをスタート地点にしなければならない。
新しい情報は逐一探偵たちで共有されるが、この第一歩は誰もが行き着く場所。
ならば、ここがスタートではない。

彼女の人格を思い出す。
慎重な性格の持ち主が、どうしてこうも目立つ事件を起こしたのか。
遊んでいるのだ。
悪戯とジャズを愛する彼女らしいやり方だ。

常々、彼女は探偵と云う職業に対して若干冷めた意見を持っていた。
探偵とは秘密を暴き立て、そして辱める職業。
警察のなりそこない。
正義感の残滓、独善の結晶とまで言っていた。

彼女が仕掛けた偽りを掻い潜り、真実へ辿り着かなければ、更に凄惨な事件と被害者が出る。
ショボンは思考した。
事件捜査の第一歩は、間違いなく、彼女の捜索ではない。
それは他の探偵の仕事だ。

彼がしなければならないのは、現場の検証。
そして、聞き込み調査だ。
自然を装って聞き込んでいては、埒が明かない。
左腕に巻いた古臭く傷だらけの時計を確認して、ショボンは深く溜息を吐いてから重い腰を上げた。

(´・ω・`)「……まずは朝飯、だな」

クローゼットの中にあった皺のない最後のスーツを着て、皺だらけの革靴を履いて部屋を後にした。

249 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 10:47:28 ID:g8BJJxhk0
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   `ー───‐'"      `''ー─-----------─一''
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朝食を取る店はいつも同じだ。
同じメニュー。
同じ座席。
同じ店員。

ショボンが座席に着くと同時に、店員はいつもと同じセットをトレイに乗せて目の前に置いた。
胡椒のかかったベーコンエッグ二枚に、ボウル一杯に盛られた胡瓜多めのサラダ、バターを乗せたトーストが三枚。
クルトンが七つ浮かぶコンソメスープとブルーベリージャムのヨーグルト、そしてラムの香りを漂わせる紅茶。
これが、ショボンの朝食だ。

湯気の立ち上る朝食はこの上ないご馳走だ。
ベーコンエッグの白身にフォークを突き刺し、半熟で焼き上げられ黄身にナイフを突き立て、半分に切る。
とろり、とオレンジに近い色をした黄身が白い皿に広がる。
白身とベーコンを一口サイズに切り分け、黄身を絡めて口に運んだ。

甘い。
不自然な甘さではない。
そして何より美味い。
柔らかで舌触りのいい白身と香ばしく焼かれたベーコン、そして胡椒の香りが一つになってたまらない。

二口食べてから、スープをすする。
コンソメの風味が寝起きの頭と胃袋に染み渡る。
塩気が食道を通って胃袋に落ち、じわりと体内に吸収されるのがよく分かる。
徹夜明けの体が内部から入れ替わるような、素晴らしい感覚だ。

濃い味のスープが染みる前のこんがりとしたクルトンを二つ口にして、その独特の食感を楽しむ。
残りは染みてからのお楽しみだ。
バターが溶けてパンの表面に広がり始めたトーストを大きな口で食べる。
鼻から抜けるバターの風味、そして焼きたてのパンの豊かな甘い香り。

舌で若干の塩味を感じながら、パンの甘味を鼻で感じ取る。
そしてコンソメスープを一口飲む。
このままパンをスープに浸して食べるのもいいが、それはコックへの冒涜になる。
それぞれの料理は完成された味をしており、味を変えるのは惜しい。

一旦口の中の物を飲み下し、フォークを取ってサラダに手を付ける。
胡瓜を多めに頼んだのは、その食感がレタスと非常に相性がいいからだ。
ドレッシングは勿論、シソとぽん酢を合わせたノンオイルのもの。
このドレッシングは思い入れが深い物だった。

250 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 10:48:18 ID:g8BJJxhk0
警察時代、何度か山を徒歩で越えることがあった。
その際、生の野菜を食べる際にはこれを使ったものだ。
さっぱりとしていて、後味が残らない。
尚且つ、一ドル以下で買えるとあって、独身の警官の家には必ずと言っていいほどこれがあった。

この味を感じるたび、ショボンは己が経験してきた数多くの事件を思い出す。
誘拐事件や殺人事件、自殺にテロに猟奇殺人。
解決できなかった事件はただの一つもなく、逃げ出した事件もまた、一つもない。
それがショボンの自慢であり、誇りだった。

今回の一件。
ショボンはこれまで以上に力を注いで挑むつもりだ。
相手の力量など知らない。
そんなことは、どうでもいいのだ。

重要なのはどれだけこちらのペースで事を進められるか、だ。
警官から今の職になってよかったことは、これに尽きる。
誰かの思惑で変えてきた事を、自分の意志に従って変えられる。
だから、今の仕事は天職だと胸を張って言える。

サラダを食べ終え、パン、スープを順に胃袋に収める。
舌鼓を打ちながら、ショボンはいそいそと朝食を平らげ、独特の食感のするヨーグルトで締める。
最後にラム入りの紅茶を啜り、微量のアルコールに気持ちを落ち着かせた。
卓上にあった蜂蜜を一匙足して風味と味を変え、二杯目を飲む。
元々甘い香りのするラムだが、そこに蜂蜜を足すことでより一層その甘味が強調される。

豊かなサトウキビの甘味に、蜂蜜の甘味。
それは甘露と言う他ない味わいだった。
この後の捜査では、四六時中頭を動かさなければならない。
睡眠不足という言い訳が通じるほど、探偵は優しい仕事ではない。

面倒事をいち早く消化し、次なる舞台に進むことがショボンの切実な願いだった。
口元を拭い、ショボンは席を立つ。
まず調べなければならないのは、現場だ。
死人が語る情報もあれば、現場が語る情報もある。

食堂から現場までは徒歩で二十分の距離にある。
しかし、ショボンはレンタルサイクルを利用しており、探偵割引――という名の無料レンタル――で借りたマウンテンバイクを使えば、七分で着く。
店を出てすぐ目の前に停めていた自転車にまたがり、ショボンはゆっくりとペダルをこぎ始めた。
人の間を潜り抜けるように進み、現場となった第三ブロックに向かう。

道中、顔見知りと軽く挨拶を交わして、何事もないかのように装う。
この狭く小さな船内で殺人、それも猟奇殺人が起こったとなればパニックは必至だ。
慎重な言動が求められる中、ショボンは現場の保持状況が気になった。
警官が下手に手を出せば、ろくでも無い事に成りかねない。

ペダルをこぐ足に少し力を加え、若干ではあるが速度を速めた。
この事件を解くカギを失っては事だ。
それだけは絶対に阻止しなければならない。
現場こそ、事件解決の鍵なのだ。

251 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 10:49:19 ID:g8BJJxhk0
特に、今回のような奇妙な事件となればなおさらだ。
異常な時ほど、死体と現場にその痕跡が残る。
今回で言えば、消えた弾丸がそれにあたる。
頭を貫通したはずの銃弾はおろか、弾痕さえ発見できなかったことは奇妙以内の何物でもない。

それ故に面白いのだ。
これを解くことは、即ち、真実と呼ばれる“事実”への第一歩となる。
さて。
どのような展開になるのか、非常に楽しみだ。

ショボンは口元に笑みを浮かべながら、現場へ急いだ。

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現場となった第三ブロック一階にある被害者の部屋に入ると、そこには群青色の制服を着た鑑識課の人間が三人。
そして、クルウ・ストレイトアウトの姿があった。
血と糞尿の混じった異臭が漂う部屋に、ショボンは眉を顰めた。
ショボンに向けて白い使い捨てマスクを差し出しながら、クルウは愛想笑いを浮かべた。

川 ゚ 々゚)「お早いご到着ね、探偵さん」

(´・ω・`)「遅いよ。 現役ならここで朝食を取りながら捜査していたけど、この匂いでもう駄目だね。
     で、何か分かった?」

マスクを受け取り、それを口に当てる。

川 ゚ 々゚)「あれから分かったのは、被害者が殺される一時間前には食事を取っていたってこと。
      胃の中の残り物を見てね。
      どうやら毒は、お酒の中に入っていたみたいよ」

(´・□・`)「ほお。 その酒は被害者が買ったのか?」

フローリングの床にはエビスビールの空き缶とウォッカの空き瓶が転がっている。

川 ゚ 々゚)「それを調べるのは私じゃないわよ」

252 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 10:50:11 ID:g8BJJxhk0
にんまりと、口の端を上げて浮かべる狂気じみたクルウの笑顔。
彼女の笑顔を見るのは、死体の前以来だ。
手帳の一ページ目に酒についての情報を殴り書き、現場の様子を窺う。
後で指紋を採取する必要がありそうだ。

(´・口・`)「本当に、どこにも弾痕がないのかい?」

川 ゚ 々゚)「部屋の中をくまなく探したのよ? 彼らがね」

考えられる可能性は二つある。
一つはまだ発見されていないだけで、部屋のどこかに弾痕がある。
弾痕の傍には必ず血があるはずだ。
貫通した弾丸と共に噴出した脳漿が見つかれば、殺害時の状況が分かる。

もう一つの可能性。
それは、部屋の外で殺された可能性だ。
嵐の中、部屋の窓から外に出てそこで射殺。
そうすれば、例えサプレッサーがなくとも銃声はごまかせる。

(´・口・`)「鑑識さん。 窓際を調べてくれ。
      濡れているか、湿っているか、塩分反応は?」

ショボンが選択したのは、外に向けて銃を発砲した可能性だ。
被害者が無抵抗である以上、どのような事でも可能だが、ここでの目的は可能性の一つを潰すことだ。
銃弾が荒れ狂う海の中となっては、調べようがない。
そうでない可能性を知りたいがゆえに、ショボンは難しい可能性の方から選んだのである。

(HнH)「うーん……ないですねぇ」

安心した。
これで、余計なものが見つかりでもしたら、捜査は難航。
この事件が迷宮入りしてしまう可能性があった。
となると、弾痕はこの部屋のどこかにある。

それを探して、この事件を進展させなければならない。

(´・□・`)「ふぅむ……」

川 ゚ 々゚)「何か分かった? 偽りを見破る警視さん?」

偽りを見破る警視。
偽り殺しの警視。
偽り崩しの警視。
現役当時は色々な渾名があったが、今ではそれは過去の物。

クルウと出会ったのはそんな過去の話だ。
今は、ただのオアシズ付きの探偵に過ぎない。

253 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 10:51:04 ID:g8BJJxhk0
(´・□・`)「今はただの探偵だよ。
     分かったのはね、クルウ。
     この事件は、まだこれから続くだろう、ってことだね」

川 ゚ 々゚)「へぇ? そりゃまたどうして?」

(´・□・`)「僕がそう願っているからさ。 いいかい?
      これだけ大規模な探偵を動員させる事件が、これ一つで終わるとは思えない。
      何せ相手は変装の達人、“フェイス・オフ”だ。
      こうして話している相手ですら、容易には信じられないときたもんだ。

      なら、まだ続くに決まっている。
      そうでなければ、僕が困る」

そうとも。
困るのだ。
この事件が一回だけのものだと考え、油断してはならない。
相手はフェイス・オフ。

探偵の中でも伝説級の変装の達人。
一度乗客達の中に紛れ込んだら、探すのは骨だ。
せっかくの招待状だ。
それを受け取る側は、礼節を持ってそれを手にする義務がある。

これは探偵たちに対する招待状。
日頃生ぬるい仕事に飽き飽きしている彼らに、その醍醐味を思い出させるための粋な計らいだ。
それが一度だけで終わってもらっては、意味が無いのだ。
このショボン・パドローネはまだ、満足していないのだ。

――至近距離からの発砲、更にはサプレッサーを付けた状態でとなれば、被害者の体を固定できるような場所が必要だ。
相手は毒で体が動けないため、立て掛ける、と言った状態が理想だ。
逆に、床に置いても成立する。
死体は浴槽にあり、足を先に切られている事を考えると、大量の血痕が残る必要があった。

それすらもない。
それはあまりにも不自然だ。
いや、血を隠すなら血の中。
つまり、浴槽で射殺されたと考えれば不思議ではない。

貫通する先に硬い物を用意しておけば、弾痕となって現場に残ることはない。
そこまでして弾痕を隠す意味とは?

(´・□・`)「この事件を解くカギは、銃弾にあるみたいだね」

254 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 10:52:11 ID:g8BJJxhk0
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Ammo→Re!!のようです
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│  ========= ∧ ノ \ ノ _〕        ヽ
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                                        Ammo for Reasoning!!編
                ‥…━━ August 4th AM09:07 ━━…‥
                                        第四章【murder -殺人-】


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リンゴジュース五百ミリリットル、それとリンゴを二つ、トマトがいっぱいのサラダとトースト三枚の朝食を済ませた後、ブーンはノートに単語の書き取りを行っていた。
かれこれもう、一時間になる。

(∪´ω`)φ″

言葉を幾つも書き綴り、そして、それを自分の物にできる感覚が気持ちいい。
動詞、名詞、副詞、形容詞、接続詞、それぞれの言葉に与えられた別の言葉の意味を理解してからは、新しい単語の吸収が良い。
普段使っている言葉は形を変えて、様々な使い方をされている。
一体どこの誰が文字を発明したのか、ブーンは気になった。

(∪´ω`)「デレシアさん、だれがもじをつくったんですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「うーんと昔の人よ。
      それこそ、私が生まれるよりもずっとずっと前ね」

デレシアでも知らないことなら、きっと、この世界の誰も知らないのだろう。
ブーンは気を取り直して、文字を書き始めた。

(∪´ω`)φ″コリコリ

以前までは出来なかったことが出来る感覚。
その自覚はこの上ない自信へと繋がった。
店で働かされていた時は文字を読めなかった。
しかし、今なら読める。

先ほどからブーンがノートに写しているのは辞書の内容だった。
これは、デレシアから教わった文字をより実用的に見るための訓練だった。
一ページ目に書かれた単語の意味が分からなかったとしても、その意味が、別の言葉で書いてある。
そちらの方が簡単に書かれているが、分からなかったとしても、更にまた調べればいいだけだ。

ζ(゚ー゚*ζ「少し息抜きしましょうか、ブーンちゃん」

255 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 10:52:51 ID:iafD9GJA0
お、リアルタイム遭遇

支援

256 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 10:53:26 ID:g8BJJxhk0
(∪´ω`)「お」

本当はもう少しだけやりたかったが、デレシアにそう言われれば断れない。
代わりに、デレシアはノートの上に色とりどりの四角い物体を置いた。

ζ(゚ー゚*ζ「はい、これ」

ノパー゚)「へぇ、懐かしいな。
    ルービックキューブか」

風呂から出て湿った髪の毛をタオルで乾かしながら、ブーンの背中側からそれを覗き込んだ。
石鹸のいい香りがヒートの全身から漂っている。
ブーンはヒートの風呂上がりの香りが好きだった。

(∪´ω`)「お、これ、なんですか?」

とりあえず、まずはそれだった。
小さな正方形がびっしりと、一面に九つ。
色が六種類あるそれが何であるか、全く見当がつかない。

ζ(゚ー゚*ζ「これはね、こうやってくるくると回して……
      こうするものよ」

約五秒。
ばらばらだったはずの立方体の面が、全て、同じ色で統一されていた。

ζ(゚ー゚*ζ「立方体パズルってものよ」

ノハ;゚⊿゚)「……はえぇ」

ζ(゚ー゚*ζ「偶然よ」

と言いながら、デレシアは素早くパズルの面をばらばらにした。

(*∪´ω`)「おー!」

早速、ブーンも見よう見まねで面を動かしていく。
詳しい理屈などは分からないが、とにかく、直感に従って面を動かす事一分後。
見事、デレシアと同じように面を揃えることが出来た。

(*∪´ω`)ノ■「できましたお!」

ノハ*^ー^)「すごいぞ、ブーン!!」

ζ(^ー^*ζ「ほんと、あっという間じゃないの!!」

二人に同時に褒められながら抱きしめられ、ブーンは気恥ずかしかった。
獣の尻尾は激しく振れ、喜びを隠せない。
なんだかよく分からなかったが、ブーンは二人にされるがままとなった。
それはとても、気持ちのいいことだった。

257 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 10:54:08 ID:g8BJJxhk0
――この時。
ブーン以外の二人は、彼の持つ別の才能の片鱗に気付いた。
しかしそれが確信に変わったのは、もう少し後の事なのであった。

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           _ -=<ハ
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        ,イ 、    '    `=―r―、  ̄)
   _,_-_'-、_ `ヽ、-r―-、___ヽ, ィ-‐<´ノ
 ̄´   `ヽミ-   f`ヽ.i `ヽ. `ト、――ァ′
        i/  /l',` l`Y  ', !.',-―'
       ノ/ " l   しKニ .l ノl、
   _, -イ---‐イ  l   〃 八ハ
  ´       l!       /   ノ
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          ',        /
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                ‥…━━ August 4th AM09:46 ━━…‥
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この短時間で、早くも捜査は暗礁に乗り上げてしまった。
探偵たちの必死の捜査で明らかになった事件の概要を、ショボン・パドローネは手帳に纏めた。
殺害時刻、昨夜二十三時から明朝二十四時半までの間。
現場には被害者以外の指紋は残されておらず、これと言って犯人につながる証拠は見つからなかった。

探偵が敵に回っているとなると、探偵たちの動きや弱みも必然的に分かるというもの。
厄介な人物が敵に回っていると認識せざるを得ない。
この事件は今後も続く。
最も簡単なはずの一回目の惨劇で、この進捗だ。

とてもではないが、これから先の事件に対応できるだけの余力は今の探偵組合にはない。
ならば、このショボンが進めてやるしかない。
事態進展のために全力を出す。
悪い気はしない。

警察での経験を活かすのは、いつだって快感なのだ。

(´・ω・`)「……」

川 ゚ 々゚)「怖い顔して、どうしたの?」

(´・ω・`)「何故、犯人は銃弾を隠そうとしているのだろうか?」

川 ゚ 々゚)「さぁ? 潔癖症で完璧主義のA型の人だとか?」

258 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 10:55:10 ID:g8BJJxhk0
(´・ω・`)「完璧主義なら、死体を海に投げ捨てて遺書でも残すよ。
     だけど今回は違う。
     彼女、つまり第一容疑者のフェイス・オフは完璧主義にも拘らず、死体と消えた銃弾という謎を残した。
     これは紛れも無く、彼女からの招待状だよ。

     招待状だよ、招待状。
     四百五十人の探偵を相手に、招待状と来たもんだ。
     なめられてるんだよ、僕たちは。
     この招待、中指を立てて受け入れようじゃないか」

気が付けば、ショボンは声を荒げていた。
まるで演説でもするかのように。
まるで喜劇を演じる役者の様に。
この事件に関わる一人として、絶対に、この事件を迷宮入りにするわけにはいかない。

その為には、彼女、即ちクルウ・ストレイトアウトの協力が必要不可欠なのだ。
現場になければ死体にある。
死体は多くを語る。
その声を聞くことが出来るのは、この船には“ドクター・ストレンジラブ”以外にいない。

彼女を本気にさせれば、新たな情報が絶対に出てくるはずなのだ。
フェイス・オフからの招待状を解き明かし、探偵たちは次のステージに進まなければならない。
そのための一歩目は、このショボンが先導する。

(´・ω・`)「クルウ君、僕に手を貸してくれないか?」

川 ゚ 々゚)「……見くびらないで。 私が何年、あんたに手を貸してきたと思ってるの?
     変人奇人異人呼ばわりされたあたしにこうして天職を与えてくれたあんたの頼みを、あたしが断るとでも?」

(´・ω・`)「恩に着るよ、クルウ」

川 ゚ 々゚)「で、具体的に私は何を手伝えばいいの?」

(´・ω・`)「通訳だ」

そう。
この世界で、彼女以上に死体と言葉を交わせる人間はいない。

(´・ω・`)「銃弾の出て行った先。
     それを聞いてほしい。
     鑑識くん、風呂場は誰がなんと言おうと、現状維持だ。
     血を流すことも、物を動かすことも、だ」

(HнH)「了解です」

(´・ω・`)「さ、クルウ」

川 ゚ 々゚)「ベッドルームで聞きましょう」

259 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 10:56:04 ID:g8BJJxhk0
これこそが、この事件の影を暴く第一歩。
ショボンとクルウは部屋に鑑識班の人間を残して、死体が保管されている船倉に向かった。
船倉までは、各ブロックにあるエレベーターにあるカードリーダーに、権限の与えられたカードキーをかざすことで行けるようになる。
二人だけのエレベーターは、途中で止まることなく真っすぐに船倉へと降りていった。

湿った空気の通路を進み、白い蛍光灯が照らす部屋に入る。
エタノール臭、そして微量の鉄臭。
白を基調とした清潔そのものの部屋には目立った調度品はなく、書類の乗った机と椅子、そしてベッドが一つだけ。
部屋の左手には厳重なセキュリティに守られた、クルウの趣味の部屋がある。

数百体の死体が眠る、死体安置所だ。
オアシズは船だ。
水葬にせず土葬を望む家族のために保管しているのもあれば、無縁仏故に一年間保管し、海に還すものもある。
そして、ここはそんな死体を保管する唯一の場所なのである。

全ての死体にはナンバリングがされ、いつどこでどのように死亡し、どのような処置がされたのか。
それら全てが、このオアシズが持つダットに集約され、管理されている。
クルウの場合、ダットを使わずとも死体の情報を記憶しているので、余計な手間が省ける。
案内されるまま、一定の温度を保つように設計されている死体安置所に足を踏み入れた。

蛍光灯が薄緑色の床と白い壁を照らし、部屋の真ん中にあるスチール製の机に乗ったそれを照らしだしている。
その上に、黒い死体袋に収められた物が置かれていた。
死体を挟んで向かい側に並び、クルウがチャックを下ろす。

川 ゚ 々゚)「防腐加工済みだから、まだ変化はしていないはずよ」

(´・ω・`)「蛆が湧いてないことを祈るばかりだよ」

袋の中から出てきたのは、写真で見た通りの惨たらしい死体だった。
早速、クルウが見せてくれたのは右の米神。
つまり、銃弾が侵入した箇所だった。
血で固まった髪の毛をどかしてよく観察してみると、火傷の痕が見られる。

至近距離から発砲された証拠だ。

(´・ω・`)「他には何かないのか?」

川 ゚ 々゚)「傷口を見たけど、特には」

(´・ω・`)「反対側は?」

川 ゚ 々゚)「はい」

被害者の頭を反対側に向けて、血に汚れた傷口を見せた。
確かに、脳みその多くがどこかに消え、乾いた血が顔半分に付着している。
更に、複雑に折りたたまれた四肢を見る。
左半身が血に濡れている。

不自然だ。

260 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 10:56:49 ID:g8BJJxhk0
(´・ω・`)「何かに体ごと頭を押し付けた状態で撃っているね。
     固定された何かの上。
     ……そうか、風呂場か」

始まりはそこだ。
少し推理すれば、分かることだった。
まず、この被害者は両足の付け根を切断されてから殺害された。
ならば、風呂場以外の何処かに大量の血がなければならない。

部屋の中で唯一血が発見されたのは、浴槽だ。
では、浴槽でどのように殺害したか。
それも、考えれば分かることだ。
頭部を固定しつつ、銃弾を隠せる場所は浴槽の中にある。

それは、風呂の排水口だ。
排水口に銃弾の出口を持ってくれば、脳みそと銃弾を隠すことができる。
被害者の頭を排水口に押し付けていた証拠が、この左半身についた血だ。
クルウが言っていた通り、足の付根を切断してから頭を撃ったのならば、必ず血溜まりの中でそれは行われる。

大量の血が流れる浴槽で押し倒し、頭を撃ったのだ。

(´・ω・`)「現場に戻る。
     クルウ、あの風呂場の排水口はどこにつながっている?」

川 ゚ 々゚)「下水処理施設。
      残念だけど、汚水はもう処分されてるわ」

(´・ω・`)「まだ消え去ったわけじゃないさ」

真実は必ず残されている。
諦めない限り、そう簡単に消えはしない。
銃弾さえ見つかれば、必ず道は開ける意気込んで現場に戻ろうとしたショボン。
そしてそれを見送ろうとしたクルウ。

両者が立ち止まってスピーカーに目を向けたのは、同時だった。

『――あーあー、テステス。
オアシズの皆様、この館内放送は聞こえていますでしょうか?』

機械音声。
機械の力を使って変換させ、身元の特定を不可能にする装置。
そんな物、一般人は持っていない。
そして、館内放送をかける立場の人間が故意に使うものでもない。

『ははっ、驚いてる驚いてる。
なら、聞こえているみたいだね』

261 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 10:57:56 ID:g8BJJxhk0
このアクセント。
この口調。
間違いなく、フェイス・オフのそれだ。
そしてそれを知るものは探偵だけであり、この放送が探偵全体への挑戦だと分かった。

ショボンは急いで駆け出し、一階の大通りに向かった。

『昨夜……あぁ、違うね。
正確に言えば今朝かな。
この船で、殺人事件が起こったんだ』

一階が近づくごとに、ショボンの心臓は動悸した。
これが何を引き起こすのか。
それは、火を見るよりも明らかだ。
船内全体を恐怖させ、探偵全体を敵にする。

大混乱は、どうあっても避けられない事態だった。
探偵たちが必死になって食い止めようとした事態を、この放送が引き起こす。
一階に上がり、そこから交通量の多い大通りに出ると、目の前に巨大モニターがあった。
高く聳え立つビルの壁面に設置されたそれは、普段は広告やニュースを流すものなのだが、今はガイ・フォークスの仮面が映っていた。

船内放映のジャック。
次に何が起こるのかを想像して、ショボンは思わず体を震わせた。

『四肢を折られて、目を潰されて、頭を吹っ飛ばされたんだ。 こんな感じにね』

次の瞬間。
画面が切り替わり、ハワード・ブリュッケンの死体が映し出された。
極めて解像度の高いカメラで撮影されたその画像は、当然、モザイク処理などは一切されていない。
脳みそが飛び出て、血の風呂に浸かる奇妙な肉の塊。

一瞬の出来事に、人間の死について経験と認識の浅い誰もが目を疑い、誰もが現実を直視しようとはしなかった。
あまりにも唐突過ぎたため、脳がそれを現実として処理していいものかどうか判断を迷ったのだ。
何の前触れもない、突然の非現実。
次の一言が、これを現実として認識する必要性を人々に与えた。

『そして、これは始まりに過ぎない。
私はまだ君たちと同じ船の中。
次は誰か、楽しみだね』

半瞬の静寂があった。
そして、悲鳴があちらこちらから上がった。

(´・ω・`)「……やられた」

――捜査も、何もかもが振り出しに戻った瞬間だった。

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                ‥…━━ August 4th AM10:13 ━━…‥
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262 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 10:59:00 ID:g8BJJxhk0
殺人現場の映像が流れた瞬間、視界内にいた探偵達が驚きの表情を浮かべる顔が観察できた。
実に面白い表情をしていた。
意気がって集まって解決できると思い上がっていた連中の思惑をくじくことほど、面白いことはない。
所詮は素人集団。

千人集まろうが関係ない。
思考で一歩先を行く人間に、敵うはずがない。
折角の推理ごっこのところ申し訳ないが、こうしてやったほうが、もっと有意義な時間になる。
すなわち、乗客全員が恐怖に慄き、誰もが疑心暗鬼になる状態。

この緊張感がたまらないのだ。
大規模になればなるほど、この空気はその旨みを増す。
一昔前はホテルなど、とても小さな領域でのみ見られたこの現象を、街一つを利用して引き起こす。
こんな贅沢、普通は経験できない。

オアシズが船だからこそ出来る演出だ。
この演出は、世界中にいる全ての探偵達が憧れ、焦がれ、そして求めた物。
つまり、彼らが最も力を出さざるを得ない状況なのだ。
これは夢。

そう。
彼らにとっての、夢なのだ。
その夢が叶ったことに気づくのに、そう時間はかからないだろう。
勘のいい探偵はもう気づいているはずだ。

自分が興奮していることに。
これまでで最も胸を高鳴らせ、最も生き甲斐を感じていることに。
探偵だからこそ分かる、この旨味。
抗う術はない。

彼らが探偵であれば、それは絶対だ。
この舞台。
容易に崩すことはできない。
偽りを虚無に還すと言われる名探偵でさえ、例外ではない。

これだけの混乱の中、デレシアは果たして冷静でいられるだろうか。
昨夜は見事にしてやられたが、今回はそうはいかない。
逃してなるものか。
ブーンを恐怖の中に陥れ、そして、屠る。

彼の最期の味を堪能し、それから残った二人を殺す。
そうして、不安要素を全て排除した後に計画の核心部を実行に移すだけだ。
つまり言い換えれば、この騒動は全てあの少年のために用意したものなのだ。
この惨劇はまだまだ続けなければならない。

あの少年を殺す、その瞬間までは。

263 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 10:59:50 ID:g8BJJxhk0
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    トヽ.-''´:.:.:::::::.:.:.:.::::::::::::::.ソノl
     l `` ー====-―´´ / ‐- 、
    |              ゝ!─、 l
      !              ノ、_j j
                ‥…━━ August 4th AM09:43 ━━…‥
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大型モニターで惨状が映し出される三十分前。
ブーン達は第二ブロックにある大型マーケット内にあるカフェで茶を飲んでいた。
食後の散歩を兼ねた街の見学。
街を通じて人との対話力を身につけさせるための、デレシアの図らいだった。

――と言うのは建前で、本当の目的は追跡者の目的を知ることだった。
もちろん、対話力を養うことを蔑ろにしているわけではない。
彼の成長には必要な工程だし、それは人間として身につけておくべきことだ。
部屋の中に閉じこもっていても、見えるのは壁ぐらいなのだから。

人間と接することが苦手なブーンを外に連れ出し、より多くの人の目に触れさせる。
そうすることで、彼は人の目を気にすることがこれまでよりも少なくなり、より自由に世界を見ることができるようになる。
人間的な成長を望める機会を逃す訳にはいかない。

(∪´ω`)φ″「こーひー、こうちゃ、あかわいん。
         おー……すていん?
         やむちゃろーで、めっちゃうまかろーお……お?」

ノートとペンさえあれば、そこがブーンの勉強の場となる。
今彼にやらせているのは、目についたものの単語を書かせることだ。
早速彼が書いているのは、この店のメニュー表。
きっちりとレイアウトまで似せて書き写し、なおかつ字体まで似せている。

案外細かい性格をしている。

ノパ⊿゚)「そうそう。 コーヒーのスペルは間違えやすいから気をつけろよ」

アイスコーヒーに浮かんでいた氷は全て溶け、味も香りも薄まっていたが、ヒート・オロラ・レッドウィングは気にも止めていなかった。
デレシアも自分で注文した飲み物にはほとんど手を付けず、ブーンが単語を書く様子を見守りつつ、周囲の気配を探っていた。
不穏な気配は感じ取れないが、不快な気配は感じ取れる。
ブーンもそれに気づいたのか、顔を上げて、その方向に目を向けた。

£°ゞ°)「おや、奇遇ですねお嬢さん」

ベージュのジャケットに赤いネクタイ。
金色の薔薇が付いたタイピン、そして過度なまでの香水。
左右に分けた黒髪と、目尻の垂れた碧眼がその高慢な性格を表している。
右腕にはめた金色の腕時計を見せつけるために、わざとらしく大げさな仕草で時間を確認する。

264 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 11:00:42 ID:g8BJJxhk0
今、このタイミングで時間を確認する必要はない。
己の財力を見せつけるための演技でしかない。
男の名はオットー・リロースミス。
第二ブロックを統治するブロック長だ。

三人が座るテラス席の傍に立ち、ブーンの手元を覗きこむ。

£°ゞ°)「ほぉ、勉強中だったのか」

(∪´ω`)゛

£°ゞ°)「単語の書き取りとは、偉いじゃないか。
      しかし君は真似して書くのが上手いなぁ」

感心した風な態度をしているが、その目はブーンからデレシアにチラチラと向けられている。
ブーンに興味を示している自分に興味を示してほしいという現れに、デレシアは呆れ果てた。
ここまで単純で猿のような人間はそう滅多に見られない。
害悪になるには貧弱だし、そこまでの悪人ではないというのがこれまた嫌な部分だった。

使いようによっては便利な人間だが、興味が一ミクロンもない以上、関わり合いになるのは時間の無駄であり、デレシアは時間を無駄にしない主義だった。
クロスワードパズルでもやらせて、ブーンの学力向上と語彙力の向上を考える方がよっぽど有意義だ。

£°ゞ°)「どれ、私の勉強にも手を貸してくれないかな?」

机の上にロミスが置いたのは、スウドクと呼ばれる数字のパズルだった。
縦横ともに九の倍数のマス目があり、そこに数字を当てはめるというシンプルなもの。
しかし、難しいのはその数字が被さらないように空欄を埋める作業で、時間潰しと推理力を鍛えるにはいい道具だ。

£°ゞ°)「このページなんだが、さっぱりでね。
      どうだろう、できるか――」

縦横五十四マス。
難易度は中級といったところか。

(∪´ω`)φ″

ルールは聞いていなかった。
ページを見たのは一瞬だった。
後はただ、数字を書くだけだった。
ブーンが取った行動は、見て、そして書く。

この二つだけだ。

(∪´ω`)「これで、いいんですか?」

£;°ゞ°)「な?」

265 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 11:01:22 ID:g8BJJxhk0
ロミスとしてはからかうつもりで見せた問題だったのだろう。
軽はずみな行動だったが、しかし、それが思わぬ結果を導いた。
ルール説明もなく、ただ見せられた数字の羅列。
そこから法則性を見出し、そして一瞬で解いたのである。

ロミスが我が目を疑うのも当然だ。
数字を見ただけで全てを理解する子供など、そう滅多なことでは見られない。

ζ(゚ー゚*ζ「すごいじゃない、ブーンちゃん!
      全問正解よ」

ノハ*^ー^)「偉いぞ!!」

(*∪´ω`)「えへへ……」

照れ笑いを浮かべるブーンの頭を、ヒートが撫でる。
傍らで見守っていたデレシアは、温かさを欠いた笑顔をロミスに向け、礼を言った。

ζ(゚ー゚*ζ「どうもありがとう。
      さ、ブロック長のお仕事に戻ってください」

£°ゞ°)「……そうさせていただきましょう」

スウドクの本を持って、引きつった笑いを浮かべながらロミスはいそいそと退場した。
それから三十分後。
悲鳴のした方向に目を向け、デレシア一行もその事件を知ることとなった。
ただし、三人が全員感じたのは恐怖ではなかった。

――それは、純粋な興味だった。

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                ‥…━━ August 4th AM10:30 ━━…‥
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一日に二回も探偵会議が開かれることは、異例中の異例だった。
探偵達が約六時間で集めた全ての情報、そして推理を共有して挑む必要があったからだ。
これは形式的な物ではなく、突発的に行われた会議の為にほとんどの人間が仮面をつけていなかった。
重い空気の漂うフォアローゼスの店内は緊張感に満ち、焦りのようなものもあった。

最初に口火を切ったのは、ノレベルト・シューの弟子と呼ばれた長身痩躯の若い男、コーヒー色の肌が特徴的なセヤカーテ・クドゥ。
クドゥは黒革の手帳を一瞥してから、全体に向けて声を発した。

「被害者の体に残されていた手形。
大きさは一般の成人男性よりもでかかった。
つまり、犯人は相当な力を持つ人間、もしくは強化外骨格、即ち“棺桶”を使用した可能性が非常に高い」

“ドクター・ストレンジラブ”が彼の横で頷く。
最重要人物であるノレベルト・シュー“フェイス・オフ”、もしくは犯人が内部犯である可能性が高いことが認識された瞬間だった。
もともと、死体がおかしな形に折り曲げられていた時点では、腕力に物を言わせた犯行だと思われていた。
しかし、そうなれば犯人の体躯はノレベルト・シューからかけ離れ、新たな容疑者を探さなければならない。

266 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 11:02:18 ID:g8BJJxhk0
彼女の体躯問題を解決するのは、“棺桶”だった。
そして全ての武器――“棺桶”を含む――は全て乗船時に預けられ、倉庫に格納される。
その倉庫を開けることが出来るのは預けた本人のカードキーだけ。
オアシズの警備を担当している人間に銃が貸与されていることは周知の事実だが、“棺桶”となると話は別だ。

分厚い鋼鉄の扉と厳重な警備システムに守られた武器庫。
そこに保管された“棺桶”を使用できるのは、権限の与えられたカードを持つ内部の人間だけなのだ。
更に、その権限を持つのは警備担当者を含んだ、ブロックの安全を担当する者達だ。
探偵でさえ与えられていない権限を行使して秘密裏に“棺桶”を運べるのは、内部の人間を除いて他にいない。

「武器庫の使用履歴を確認したが、ハワード・ブリュッケンの物が最後に残されていた。
犯人につながる情報はなかった」

クドゥの発言に食いついたのは、ショボン・パドローネ。

(´・ω・`)「目撃情報は?」

「ない……と、言いたいところだが、二つあった。
一つは大きな荷物を運ぶハワードの姿、その後に見慣れぬ清掃員が船倉に向かい、これまた大きな荷物を運ぶ姿が見られた。
しかし、両者ともに白だ」

(´・ω・`)「理由は?」

「ハワードに関しては忘れ物を取りに戻った事が確認されている。
カードの使用時間と照らし合わせても辻褄が合う。
後者は時間だ。 清掃員は午前二時に目撃されている」

なるほど、とショボンは頷く。
完全に無関係とは言いがたいが、その清掃員の情報を記憶しておくことにした。
手に入れた目撃情報は、犯人の特定には繋がらないだろう。

(´・ω・`)「銃弾のことだが、まだ見つかっていないのかい?」

警察に所属する鑑識の代表者が答える。

(HнH)「はい。 ですが、微量ながら硝煙反応を浴槽で確認しました。
     おそらく、銃弾はその先にあります」

「銃弾?」

(´・ω・`)「死体から発見されていないんですよ。
     奇妙だと思いませんか? あれだけ凄惨な現場で、あるはずのものがない。
     もしやと思って、浴槽の排水口を調べさせたんです。
     ビンゴだった」

訝しげに眉を顰めるクドゥ。

「そんな不確かな物に時間を割くのか?
なら、ノレベルト・シューを探した方が……」

267 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 11:03:00 ID:g8BJJxhk0
(´・ω・`)「おいおい、それはないだろう。
     探偵っていうのは一つの証拠から真実を引きずり出すのが仕事。
     この銃弾が彼女につながるんだよ」

「……そうか、線条痕か!!」

現代で使用されているほとんどの銃には、その銃身内にライフリングと呼ばれる螺旋状の溝がある。
発砲の際に銃弾が安定して飛ぶことを目的に発明されたそれは、同時に、銃にある物を与えた。
銃弾に刻まれる溝。
それは、銃の指紋とも呼ばれる一丁毎に違う溝だった。

オアシズが所有する全ての銃は線条痕の登録が済まされており、つまり、銃弾さえ見つかればそこから線条痕を調べて殺害に使われた銃の持ち主の特定が出来るのだ。

(´・ω・`)「だから探すんだ。
      例え偽りと汚物にまみれた小さな証拠でも、そこから真実を探すのが僕らだ。
      それが探偵じゃないのか?」

ショボンの一言に、その場の全員が深く同意した。
時間的な猶予がなく、決定的な証拠もない。
それは全員の認識だ。

(´・ω・`)「……挑んでやろうじゃないか。
     この偽りに、僕達探偵のプライドを懸けて」

店の扉を押し開け、ショボンが宣言する。

(´・ω・`)「さぁ、真実を語る銃弾探しの始まりだ」

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                ‥…━━ August 4th AM11:15 ━━…‥
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探偵達は予定通りに動き始めた。
驚くほど単純な集まりだ。
こちらの意のままに動くその様子は、意思を持った操り人形そのもの。
自らの意思で動いていると錯覚し、勘違いした哀れな道化だ。

斯くして探偵達の目は一発の銃弾に向けられたわけだが、そんな物を追ったところで辿り着くのはこちらの用意した真実だ。
そしてその真実が辿り着いた先にあるのは、更なる謎。
もちろん、その謎もこちらが用意したものだ。
確かにあの銃弾を追えば、こちらに辿り着くことも可能だ。

268 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 11:03:56 ID:g8BJJxhk0
しかし、その頃にはこちらの目的は達成されている。
だが。
もしもこの謎が解ける者があれば、ぜひともお目にかかりたい。
複雑に張り巡らせたこの大掛かりな謎。

この船にいる探偵達に果たして解けるだろうか。
あの様子を見る限りでは、不可能だ。
そして。
そして何より。

“武装した”人間がこうして警備兵詰め所に侵入している点で、最早止められる者はいないのだが。

『そして願わくは、朽ち果て潰えたこの名も無き躰が、国家の礎とならん事を』

完全に気を抜いていた警備兵達の中心で口にしたのは、軍用第三世代強化外骨格、通称“棺桶”の起動コード。
最も現存するBクラスの傑作軍用強化外骨格、“ジョン・ドゥ”。
その機能性、そして汎用性は傑作機の名に相応しい。

('゚l'゚)「な、な?!」

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕

ダットサイトとサプレッサーを取り付けたH&K HK417を肩付けに構える。
この間、十二秒。
装着に十秒、そして構えと照準に二秒。
棺桶の使用期間にラグがあった為か、少しだけ腕が鈍っている。

しかし、この警備体制ならば問題はない。
銃口の先、ダットサイトの赤い点が重なる先にいる男の手には傑作突撃銃カラシニコフ。
だが銃把を握って人差し指がトリガーガードにかけられており、安全装置も掛かっている。
更に、十分間の観察の末、誰一人として対棺桶用の武器を持っていなかった。

銃弾も通常の規格通りで、この装甲を短時間で貫通できるものではない。
予め手は打ってある。
後は銃爪を引いて殺すだけだ。

(`゚l`゚)「こ、こいつは……?!」

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕

一人目はカラシニコフの安全措置を解除する間もなく頭を吹っ飛ばされ、隣にいた二人目は肺を撃ち抜いた。
そして、時速百マイルに達する脚力を駆使して前方へ疾駆。
握り固めた左拳を振りかざし、その速度と硬度のみで三人目の肋骨を粉砕し、背骨を破砕する。
その推進力を活かし、人が密集している二時の方角に一躍し、飛び蹴りで四人目の顔面を踏み潰した。

着地し、薙ぎ払うように片手でライフルを撃つ。
急所に当たらずとも、防弾チョッキを身に着けていない人間を行動不能にするには十分だ。
血を撒き散らしながら倒れる男たちの悲鳴と真鍮製の薬莢が地面を叩く音が、一つの音楽となる。
三十発入りの弾倉が一つ空になり、人差し指で弾倉を落とす。

269 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 11:05:27 ID:g8BJJxhk0
(●ム●) 「奴は弾切れだ!!」

コルトを構えると同時に男は発泡した。
狙いはジョン・ドゥの中で最も装甲の薄いヘルメットだ。
自分ならそうするし、マニュアルにもそう書かれている。
だから、左足を軸に回転しつつ体を低く屈めて弾を避け、新たな弾倉をチェストリグから取り出し、装填した。

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『エイムサポート、オン』

音声コントロールを使用し、カメラと腕部サポートを連動させる。
あまり知られていないが、ジョン・ドゥを始めとする多くの棺桶にはカメラが捉えた動的物体に対して自動的に狙いを付ける機能が備わっている。
個体差はあるが、ジョン・ドゥは最長で連続二時間の使用が可能だ。
狙いが定まり次第、ただ銃爪を引くだけで弾は最適な方向に飛んで行く。

これだけ人間が一箇所に集まっている時には、自ら狙うよりもよっぽど効率がいい。
まして相手は豆鉄砲しか持っていないのだ。

(-゚ぺ-)「CQ、CQ!!」

一手目。
無線の封鎖。

(::゚,J,゚::)「退避して武器庫に!!」

二手目。
各出入口の封鎖。
もちろん、ライフルの収納されているロッカーもだ。
これで、この詰め所は“詰み”だ。

どうしようもないと理解した時、彼らの顔から滲みだす絶望の味がよく分かる。
銃弾を涼しい顔で受けながら、カメラをライフルの銃身下部に取り付け、今の状態を船内に伝える。
ここからが面白いのだ。

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『お楽しみの時間だ。
      なぁ、探偵さん達よ。
      この瞬間を待っていたんだろう?
      私に殺される哀れな奴が現れるのを』

たった一発の銃弾を躍起になって探す彼らに、ささやかなプレゼントだ。
死体に残す百二十発以上の銃弾。
それが撃ち込まれる様まで見せてやる特典付き。
是非とも堪能してもらいたいものだ。

そして、疾走した。
拳銃で立ち向かってくる男たちをひとりずつ撃ち殺し、武器を捨てて逃げる者は追いかけて拳足で殺した。
極力丁寧な撮影を心がけ、一発で殺す事のないように悲鳴を重要視して仕事を続行する。
血が派手に吹き出すように、肉片が飛び散るように急所を外して撃つ。

足を撃たれて転倒していた男の傍に屈んで、じっとその目を見る。

270 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 11:06:12 ID:g8BJJxhk0
(::゚,J,゚::)「や、やめ……!!」

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『……家族は?』

(::゚,J,゚::)「む、娘と妻が」

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『そうか』

下顎を掴み、握り潰す。
その様子はばっちりとカメラが撮っている。
血と肉を吹き出しながら、男が悲鳴を上げて悶絶する。

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『訊いただけだ』

踵で下腹部を踏み潰し、より大きな悲鳴を上げさせた。
この様子を見て、そろそろ警備隊達が大挙して押し寄せてくることだろう。
しかし、捕まえることはおろか、辿り着くこともできない。
こちらが戯れに打った程度の手を読めない人間には、不可能なのだ。

惜しいが時間がもうない。
生き残った人間を追って、一撃で殺し始める。
脳、心臓。
まるでゲームのようで、面白みにかける殺しだ。

殺しとは命を奪う行為。
ゲームであってはならない。
もっと高尚で、もっと素晴らしい禁忌なのだ。

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『では、次の配信を待つといい。
      さようなら、探偵諸君』

詰め所に居合わせた不運な三十二名は、こうして、たった一人の棺桶持ちによって殺されたのである。
この場から離脱するために振り返り、視認し、硬直し、認識し、歓喜し、そして失笑した。


(∪´ω`)「お?」


――ここに到達できる人間は即ち、こちらが待ち望んだ人物に他ならないのだ。


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ー――――――´:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::',:::::::::::::::::::::::::::To be continued!!
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271 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 11:06:53 ID:g8BJJxhk0
支援ありがとうございました!!
これにて第四章の投下は終了となります。

質問、指摘、感想などあれば幸いです。

272 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 11:29:56 ID:yUrVNBOI0
おお……乙乙!

相変わらずハードで乾いた世界観だぜ……!

273 名も無きAAのようです :2013/12/25(水) 16:54:35 ID:VyCGuNf60

続きが気になる。

274 名も無きAAのようです :2013/12/26(木) 04:19:37 ID:m6YEK1iw0
おもしれえええええ
続き待ってます!

275 名も無きAAのようです :2013/12/26(木) 12:07:53 ID:Eqoud4hYC
乙!面白い

>>249ここから先って八月五日じゃね?

276 名も無きAAのようです :2013/12/26(木) 14:22:55 ID:aAlQUdM60
>>275
あばば、コピペ後に修正するのを忘れていました……

指摘ありがとうございます!

277 名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 20:20:04 ID:hjR6dxGkC
>>275 
おまいさんの注意力すげぇな、おまいさんと作者に乙だ

278 名も無きAAのようです :2014/01/03(金) 23:59:01 ID:zwsyZcUs0
明日1/4土曜日にVIPでお会いしましょう!!

279 名も無きAAのようです :2014/01/04(土) 00:17:21 ID:PfLhb4WcC
( ^ω^)はあくしたお

280 名も無きAAのようです :2014/01/04(土) 00:23:29 ID:gwIhLpN.0
お待ちしてます!

282 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 14:05:45 ID:EyqHPYFQ0
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死と云うものは、突然として訪れる。
The death, it comes suddenly.

どれだけ幸福な人生であっても、どれだけ不幸な人生であっても。
How delightful or hopeless life.

それは必ず訪れるのだ。
It must come.

少年よ、今がその時だ。
Now, boy, it is time to dead.

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┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻

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 ヽ 、ヾ 、ゞ ヾ丶 ゝ丶\ ゝヽ丶ヽ ゝヽ 、ゞ ヾ丶 ゝ/,,,;;;/  册册
 ヽ \ 丶\丶ヽ\ 丶  ヽ ヾ ゞ\ヽ ゝヽ丶丶 、/___/  _,. 册册
\ 丶 \ ヾ 丶丶\、 丶丶ヽ \  \丶 ヽ \/ /| _,.-r'| | 册册
ヾ丶\ 丶 ヽ丶 丶 \ヾ \ヽ \  \丶 ヽ/ / ,..| | | | | | 册册
 ヽ 、ヾ \ 丶 ヾ丶\ \ \ ヽ\\丶ヽ/'~T.,./|川 j_l,.r-'¨ 卅卅i_,
                ‥…━━ August 5th AM11:19 ━━…‥
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

八月五日、午前十一時十九分。
前夜から猛威を振るい始めた大型台風“ジャクリーヌ”は、今、その勢力が最高潮に達していた。
海岸線に近い場所に自生していた木々はその風圧に耐え切れずに薙ぎ倒され、防風性に劣る建築物は屋根を失い、最悪の場合は家屋が根こそぎ吹き飛ぶ例もあった。
海面は波飛沫で白く濁り、海水は海底の砂利が舞い上がって透明度を失っていた。

空は黒雲に覆われ、夜のように暗い。
強風で飛び散った雨が視界を薄ぼんやりとさせている。
山のように高く突き上げられた波濤は、うねりを伴って海岸線に押し寄せる。
だがその景色は恐ろしいものではなく、神聖さに近い雰囲気を漂わせているのは、自然が圧倒的な力で創り出したものだからだろう。

何時の時代、どの場所でも圧倒的な力というものは感動的なのだ。
例えば金属すら両断し得る刀。
例えば高威力を誇る一挺の拳銃。
例えば、世界終焉の歯車を回した軍用強化外骨格もまた然りである。

力は美しさだ、とは強盗に銃で殺された二十一世紀の芸術家ミッシェルド・ノーストラダマスが生前に残した言葉である。
ならば、この大自然の猛威に対して悠然と構える船もまた美しく見えるのは、当然であった。
人類の英知を結集させた船上都市オアシズは嵐の中で唯一、波に対して屈することなくその役割を果たしている船だった。
大波に船首を殴られても、船舷を蹴り飛ばされても、船内は快適な環境を保っている。

しかし。
船内は決して快適な空気ではなかった。
その原因は第五ブロック一階レヒツ・ポリツァシュトラーセ、警備員詰め所から配信された映像だ。
それは、三つの不穏を船内に残した。

283 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 14:07:44 ID:EyqHPYFQ0
一つは、オアシズの警備の要を突破できる実力者がいるということ。
もう一つ、その実力者は容赦なく人を殺すことが出来るということ。
そして最後に、その人物は武器と兵器を使用する人物であるということ。
この三つの不穏が合わさり、一つの答えを導き出す。

即ち、己の身を武器なしで守らなければならないということ。
他人を疑い、己を守る。
安全は失われ、今や、船は殺人鬼の同席するパーティ会場と化した。
次は誰だと人々が疑心暗鬼になる中、警備員詰め所で変化があった。

突如として、船外につながる扉が開かれたのだ。
扉からは雨、風、そして海水が勢い良く入り込み、部屋の中に満ちていた鉄臭と硝煙の香りを吹き飛ばす。
そして――




――小さな影が船から放り出され、荒波の中に小さな飛沫を立てて落ちて、沈んで消えた。



















              ┌───────────────┐
              │                        │
              │    ┌─────────┐    │
              └──┼─────────┼──┘
            これは、力が世界を変える時代の物語。
                    └─┼─────┼─┘
                  └─────┘
                   ┌───┐
                   └───┘
                     ┌─┐
                     └─┘
                      □

284 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 14:08:53 ID:EyqHPYFQ0
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二二| ̄ ̄ ̄ ̄|二二二二二| ̄ ̄ ̄ ̄|二二二|
                ‥…━━ August 5th AM10:15 ━━…‥
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船上都市オアシズ。
世界最大の客船の中に一つの街を内包する、常識破りの都市である。
全部で五つのブロックに分けて統治され、各ブロックにはブロック長と呼ばれる責任者がいる。
彼らの選定方法は秘密とされているが、それぞれが優れた能力の持ち主であることは認知されている。

一階から最上階、つまり二十階まで吹き抜けた作りは船であることを忘れさせ、現代の街並みの中でも先進的な物をしている。
復元された太古の技術のおかげで船内はほとんど揺れないため、船酔いの心配もない。
地上にある街よりも狭いが、嵐の中でもこの快適さを保っているため、この船を訪れる観光客の数が減らないのも納得だ。
強化ガラス製の天窓の向こうには黒雲が蠢き、大粒の雨が降り注いでいる様子がよく見えるのだが、今はベージュ色のシャッターによって閉じられている。

第二ブロック一階、大型マーケット“ニーベ”。
八階まで突き抜けるように聳えるそのビルの中には、生活品、嗜好品、飲食店、更に一階にはスーパーマーケットまでもが入っている。
歩道沿いに設けられたカフェのテラス席には、まばらに人が座っている。
三人で座っている一組を除いたら、それ以外の席の人間は皆青ざめた顔をしていて、中には嘔吐して席を汚した人間もいた。

その原因は、二階から吊り下げられた薄型モニターに映し出された映像だった。
血の気のない体が血の風呂に浮かび、両手足は歪に折り曲げられ、両目は無残にも切り潰されていた。
米神には小さな穴が開いていて、だらしなく開かれた口には舌がなく、血が溜まっている。
阿鼻叫喚の中にあっても、映像は消えることなく映し出され続けていた。

風呂場で惨殺された男の映像が流されて間もなく、カーキ色のローブに身を包み、ベージュ色のニット帽を被る黒髪の少年は首を小さく傾げた。
今もモニターに映っている映像に関しての感想は気持ち悪い、の一言だけだが、どうしてそれをわざわざ広めるようなことをするのかが解せなかった。
人間の手足はあそこまで動かせるものだと感心する一方で、やはり、その目的が理解できない。
気にしても仕方のないことだとは分かるが、気になってしまう。

犬の耳と尻尾、そして獣の感覚を持つ少年の名前はブーンと云う。

(∪´ω`)「おー?」

先ほど解いたパズルや問題よりも、正直なところ、こちらの問題の方が気になって仕方がない。
難しい問題であればあるほど、ブーンは興味をそそられた。
答えは予め用意されていない上に、出題者は変人と来たものだ。
その答えが分かったところで知識の一つにでもなるかと言えば、きっと、ならないだろう。

世の中には変な人間もいるという認識を改めてするぐらいだろう。
それでも、気になる。
何を思ってこのような事をして、何を狙ってこんな奇行を取るのか。
それを知りたい。

285 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 14:11:23 ID:EyqHPYFQ0
興味を持ったのは、どうやら自分だけではないことをブーンは理解した。
肩まで伸びて外側に向けて跳ねた赤髪と、夜明け前の瑠璃色をした瞳を持つヒート・オロラ・レッドウィング。
そして、豪奢な金髪と透き通ったスカイブルーの瞳を持つデレシアの顔には、明らかな興味の色が浮かんでいたのだ。
両者ともに好奇に目を輝かせ、口元に薄らと笑みを浮かべている。

二人のこの表情は、何度か見たことがある。
戦闘の前や、不快な人物を目の当たりにした時に浮かべるものだ。
どうしてそれが、この時に表出したのだろうか。
そんなことを思いながら、ブーンは二人の顔を眺めていた。

ζ(゚ー゚*ζ「ヒートちゃん、どう思う?」

静かな声で、デレシアが隣のヒートに問う。

ノパ⊿゚)「まず、恨みの犯行、ってわけじゃ無さそうだ。
    殺し方が綺麗すぎる」

(∪´ω`)「きれい?」

ノパ⊿゚)「あぁ、本当に恨みがあるのならあんな殺し方はしない。
    こんな度胸があって“本当に”恨みがあれば、もっと手が込んでるはずだ。
    徹底的に辱めるのが一般的だが、これの場合は見せかけだ。
    半端なんだよ」

(∪´ω`)゛

ノパ⊿゚)「次に、これは愉快犯じゃない。
    頭のいい奴が考えた仕事だ。
    持ち込みが不可能なはずの銃を使ってるだろう?
    ありえる可能性は二つ。

    内部の人間か、相当頭の切れる奴が持ち込んだか、だ」

なるほど。
ヒートの説明は分かりやすく、そして納得の行くものだった。
しかし、自分はいきなりここまで考えが及ばなかった。

ζ(゚ー゚*ζ「それと、殺しが目的かどうかも怪しいわね」

(∪´ω`)「?」

ζ(゚ー゚*ζ「殺すのなら、わざわざ相手に警戒させるようなことはしないわよ。
      この映像で何をしたかったのかといえば、きっと、恐怖を伝染させることでしょうね。
      恐怖が蔓延すると、人の思考の六割近くに影響が出るの。
      それが致命的な隙になって、決定的な好機につながるのよ」

殺しという手段を使って隙を作り、その隙に何かをする。
確かにそれなら、殺しが目的ではないことになる。
二人の話を聞いて、ブーンはそれがこの上なく面白く、魅力的に感じた。
思考して答えを導き出す過程が、数学や語学とは全く異なる。

286 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 14:12:48 ID:EyqHPYFQ0
面白い、と純粋に思った。

ζ(゚ー゚*ζ「ブーンちゃん、こう云う風に物を考えるの好きなの?」

(∪´ω`)゛

ノパー゚)「そりゃ奇遇だ。
    あたしらも、こう云うのが大好きなんだよ。
    何せ、潰し甲斐があるからな」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね。
      それじゃあせっかくだから、ブーンちゃん、考え方のお勉強をしましょうか」

ペンを一本手に取り、デレシアがブーンのノートに綺麗な筆記体で文字を書き並べる。
風呂、そして銃と云う単語だ。

ζ(゚ー゚*ζ「今回はこの二つから推理してみましょう。
       ヒートちゃん、今回使用された銃の口径は分かる?」

ノパ⊿゚)「九ミリ口径かそれ以下だ。
    後はそうだな……音が聞こえてればこうなる前に動きがあっただろうから、サプレッサーも使っただろうよ。
    ただ、妙なことがある。
    確かに九ミリでサプレッサーを使えば威力は落ちるが、頭をぶち抜くには十分だ。

    だけど何で、反対側に弾痕はおろかオミソが出てないのかが気になるな」

(∪´ω`)゛

ノパ⊿゚)「つまり、だ。
     犯人は銃弾が回収できる、もしくは隠せる場所でこの被害者を殺したことになる。
     それだけ用意周到な計画なんだろうな。
     じゃあ、それをした理由と場所っていうのは?

     ってところからスタートかな?」

ζ(゚ー゚*ζ「正解。 ブーンちゃん、今の流れは分かる?」

(∪´ω`)゛

一見すれば、ただの射殺体だ。
だが、奇妙に加工された死体の中には、不自然な点が隠されていた。
ではその不自然な点が生じた理由というのは何か、というところを考える必要がある。
それが綻びであるかどうかは、答えが分かってから、ということになる。

そして答えが出たところで、それがまた次の鍵になるのだ。
考え方としては、先ほどオットー・リロースミスが持ってきたスウドクに似ている。

ζ(゚ー゚*ζ「これが銃についての考え方。
      次はお風呂ね。
      気になるところはある?」

287 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 14:14:14 ID:EyqHPYFQ0
(∪´ω`)「どうして、ちでいっぱいなんですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「あれを見た限りだと、下半身の付け根に深い切創があるはずよ。
      付け根を切ると血がたくさん出るの。
      この死体の体重は多分七十キロぐらいだから、五リットルぐらいね」

(∪´ω`)゛

改めて死体の映像に目を向ける。
付け根の部分は血に沈んで見えないが、腋の下や首に切創が見当たらない。
おそらく、デレシアの推理が正しいのだろう。
そこで続けて考えたのが、犯行の手順だ。

足を切ってから撃たれたか、それとも、撃たれてから足を切られたか。

(∪´ω`)「なら、あのひとはうたれるまえに、あしをきられたんですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「そう、きっとそれが正解よ。
      血風呂になる前、つまり排水口が開いている時に左半身が血に汚れるだけの出血をしている状況。
      となると、下半身からの大量出血以外には考えにくいわね。
      つまり、撃たれたのは浴室で、下半身に傷を負ってからと考えるのが自然よ。

      そして左半身を血に濡らしながら撃つとなると、それはもう、浴槽の床しかないのよ。
      撃たれた後でも血風呂になっているってことは、浴槽に穴がないってこと。
      なら、穴が開いても問題が起こらない場所で撃ったってことね」

(*∪´ω`)「はいすいこうのうえ、ですか?」

ζ(^ー^*ζ「正解」

次に考えるべきものが分かった。
何故排水口の上で撃ったのかだ。

ノパ⊿゚)「これは知識の問題になるんだが、ブーン、覚えておくといい。
    銃には二種類あって、ライフリングっていう螺旋状の溝があるものと、無い物だ。
    基本的に、現代で使われている銃にはライフリングって云うのがある。
    ライフリングが施されている銃を撃つと、銃弾に溝ができる。

    それが人間の指紋と同じ役割を果たすんだ」

(∪´ω`)「だれがうったのかがわかるんですか?」

ノパ⊿゚)「その通り。 ただ、銃の登録をしている場合に限るけどな。
    だけど、ここオアシズでは銃は乗船時に回収される。
    常時運べるのは警察、警備員、ブロック長、そして探偵だ。
    その銃は登録されているから、銃弾さえ見つかれば、誰の銃から撃たれたのかが分かるって寸法だ」

犯人は特定を恐れて、銃弾を排水口の向こうに隠した。
理に適っているが、解せないことがあった。

288 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 14:15:32 ID:EyqHPYFQ0
(∪´ω`)「……どうして、わざわざうったんですか?」

ζ(^ー^*ζ「……ブーンちゃん、その通りよ。
       失血死だけで事足りるのに、それを後回しにして身元特定につながる銃を使った。
       これは当然、不自然なことなの。 つまり、銃弾は囮。
       それを考えても、誰がやったのかは分からないでしょうね」

(*∪´ω`)「お」

ノハ^ー^)「えらいぞ、ブーン」

ぐしゃぐしゃと、ヒートが頭を撫でてくれる。
こそばゆい気持ちよさに、ブーンは目を細めてそれを受け入れた。
何より、自分の考えが肯定されたことに、ブーンは喜んでいた。
物心ついた時から、自分の考えを口にしようものなら半殺しにされ、それを話すのが億劫になっていたのだ。

しかし、デレシアとヒートは違う。
彼女たちは決してこちらを否定することはない。
理由は分からないままだが、二人はとてもよくしてくれる。
ローブの下の尻尾は抑えようもなく、喜びを甘受して激しく揺れた。

ζ(゚ー゚*ζ「なら、この死体から何かを考えるのが間違いだってことは分かるかしら?」

頭を撫でられながら、ブーンは首肯する。

ζ(゚ー゚*ζ「ここで本当に考えるべきは、あの放送の真意よ」

どうしてあのような映像を流したのか。
その意図はなにか。
それを探れば、次に何をするかが分かる。
次に何をするかが分かれば、誰が何をするのかが分かると云う流れだ。

ζ(゚ー゚*ζ「さ、次は何をするか、考えてみましょうか」

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289 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 14:18:01 ID:EyqHPYFQ0
探偵にも多くの人種がいる。
事件を憎む者。
事件を望む者。
そして、事件を愛する者など、多種多様だ。

オアシズに乗り合わせている四百五十人の探偵達の中でも、特に異色の探偵がいる。
“三銃士”の名で通る三つ子の探偵、サイタマ兄弟だ。
常に三人で行動を共にし、三人で発言し、三人で思考し、三人で事件を解決する。
そのチームワークの良さは他に比類がなく、探偵長である“ホビット”からも一目置かれている存在だ。

長男、サイタマ・アイン。
次男、サイタマ・ツヴァイ。
三男、サイタマ・ドライ。
ソフトモヒカンにした黒い短髪に、ブラウンの瞳、そしてハスキーな声が彼ら共通の特徴だ。

顔つきは幼く、実年齢も若い。
だが、解決してきた事件の数と質を考えると、只者ではないことがよく分かる。
オアシズに来る前はジュスティアでの仕事も経験しており、その実力は折り紙つきだ。
モニターに映し出された死体の映像がまだ消えていないのを見て、三人はすぐに相談を始めた。

(∩゜∀( ゜∀゜ )∀゜∩)『……ぁ……ぅ……ょ……ゅ……っ』

今最も求められている行動を三人で考え導き出したのは、一分後の事だった。
映像を流すために必要な権限。
それを持ち得るのはブロック長、もしくは映像管理をしている部署の重役だけ。
全ブロックでこの映像が流されているのだとしたら、かなり上位の権限を持った人間の犯行だ。

そんな人間でも、映像を流すために行かなければならない場所。
第一ブロック船倉内にある放送管理室だ。
サイタマ兄弟は懐の拳銃の安全装置が外れていることを確認してから、走って移動した。
幸いなことに彼らは第一ブロック三階で聞き込みを行っていたため、すぐに放送管理室に到着することができた。

管理室前には警備員が一人立っていて、扉が内側から施錠されていて開けることができないと報告した。

(∩゜∀( ゜∀゜ )∀゜∩)『予備の鍵は?』

「マスターキーならあります」

と言って、警備員は銃身の短いポンプアクション式のショットガン、レミントンM870を掲げた。
つまり、鍵はなく、力技で開けるしかないということだ。
白手袋をはめて、三人は扉の前で素早く位置取りをする。
次男、三男が扉の左右。

そして長男が扉の正面に立つ。
懐のベレッタM92を手にし、アインは扉を蹴破った。
打ち合わせも合図もなかったが、タイミングはいつも通り完璧で、動きは俊敏で正確だった。

(∩゜∀( ゜∀゜ )∀゜∩)『フリーズ(動くな)!!』

290 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 14:20:12 ID:EyqHPYFQ0
左右、そして正面の三方向に銃口を向け、誰もいない室内に声だけが虚しく響く。
防音仕様の壁に囲まれた部屋には、映像管理用のダットが五台、マイクなどの放送機器が乗った机と回転椅子が二脚あるだけだ。
ダットには例の映像が映っており、間違いなく、この部屋が使われたことが分かる。

「どうですか?」

(∩゜∀( ゜∀゜ )∀゜∩)『逃げられました』

次男が回転椅子の上に手をやり、温もりを確かめる。
犯人が座っていたとすれば、どれだけ前にここにいたのかがおおよそ分かる。
温かければまだ遠くには行っておらず、冷えていれば座っていない、もしくは早い段階で逃亡したことが分かるのだ。
次男のツヴァイは首を横に振った。

(∩゜∀( ゜∀゜ )∀゜∩)『くそっ』

五台のダットの電源を切り、映像を止める。
すぐに、もともと流されていたコマーシャルが何事もなかったかのように流れ始めた。

「ですが、犯人には近づけたのでしょう?」

(∩゜∀( ゜∀゜ )∀゜∩)『そうですね。 ひょっとしたら、どこかに指紋があるかもしれない』

応援が来るまでの間に、可能な限りの証拠を集めなければならない。
証拠は鮮度が命だ。
少しでも時が経過してしまうと、変化してしまう物が残されていないとは言い切れないのだ。
ドライが手帳とペンを取り出し、ツヴァイが指紋採取用の道具を取り出す。

アインは現場に変わった部分がないかどうかを探すため、ペンライトを取り出した。
彼らにしてみればごく自然な動きだった。
事件の度に行う、いわば染み付いた習性だった。
それが、状況を悪化させた。

警備員が後ろ手で扉を閉め、ショットガンの銃口を三人に向けているとは、直ぐに気付けなかったのだ。
最初にそれに気付いたのは、ツヴァイだった。
それからドライ、そしてアインへとその感覚は瞬時につながる。
彼らの強みである連携力の賜物だ。

それが発揮されたのは幸いだったが、遅すぎた。
初弾は統率者であるアインの胸部を直撃した。
その瞬間、彼の脳裏をかつて学生時代に経験した野良ボクシングの一戦が過る。
一オンスのグローブで行った殴り合いの際に胸部に打ち込まれた、ヘヴィ級ボクサーの右ストレート。

それよりも遥かに大きな衝撃に、アインは一瞬で気を失った。
長兄の窮地にドライ、ツヴァイは拳銃による銃撃戦よりも肉弾戦による制圧を狙った。
ポンプアクション式のショットガンならば、一発毎に隙ができる。
その判断は間違っていなかった。

291 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 14:21:35 ID:EyqHPYFQ0
例外として、そう判断するようにショットガンを選択した人間が相手なら、その対応は過ちだった。
連携力こそが強みである三兄弟の内、リーダーを失った二人ではあるが、連携力が失われることはなかった。
次男ツヴァイは道具を投げつけ、三男ドライはペンを逆手に持ち直して姿勢を低く駆け出す。
ポンプアクションによって、半透明のプラスチック製の薬莢が排莢される。

埼玉兄弟にとって、その瞬間を逃すわけには行かなかった。
ここで装填作業を完了させてしまえば、もう一発撃つ隙を与えることになる。
与えられた時間は一秒未満。
一度手前に引いたチューブを元の位置に戻すまでのごく僅かな時間だ。

指紋採取道具によって接近する時間を得たドライは素早く銃身の内側に入り込み、ペン先を警備員の肩に振り下ろす。
が、ペン先が肩に刺さるより先に頭の下から銃声と共に衝撃。
そしてドライの視界は暗転する。
接近を予期していた相手はチューブを戻しつつ、ショットガンを胸に掲げるように構え直し、対処したのだ。

脳を激しく揺さぶられたドライは力なく崩れ落ち、残されたツヴァイは懐に戻したベレッタに手を伸ばした。
一連の流れはほんの三秒の中で行われていたにもかかわらず、彼の反応は早かった。
互いの思考を理解できる三つ子でなければ、最初の一発で全てが終わったことだろう。
警備員が次弾を装填するよりも、ツヴァイがベレッタを構える方が早い。

しかし、警備員がショットガンを投げてくる方が早かった。
木製の銃把が頭を掠め、軽い脳震盪を起こす。
掠めただけでこの威力。
何という腕力だろうか。

驚きに冷や汗が吹き出た直後、ドライは顔面に硬い靴底の感触を味わい、意識を失った。
この間、実に五秒の出来事であった。
床に落ちたゴム弾と薬莢を拾い上げ、警備員は埼玉兄弟の懐を弄り、カードキーとベレッタを手にした。
予め部屋に置いておいた粘着テープを使って三人を縛り上げ、口にテープを貼り付ける。

銃声も、ポンプアクションの音も、室外には届いていない。
この警備員はそれを狙って、この防音施設に誘い込んだのだから。

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デレシア一行は第四ブロック十八階にある自室に戻り、リビングで装備を整えていた。
これから先、誰が何に巻き込まれるか分からない。
そのため、何が起こってもいいように準備をする必要があった。
懐に大口径の自動拳銃デザートイーグルを二挺忍び込ませ、腰の後ろには水平二連式ソウドオフショットガンを同じく二挺。

292 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 14:23:31 ID:EyqHPYFQ0
拳銃の弾倉に込めた弾種は棺桶相手にも通用するように作られた特殊な物を用意し、ショットガンにはスラッグ弾を装填してある。
いつ殺し合いが起きても対処できる装備。
これが、デレシアにとっての通常装備だった。
ただ、いつもと違うのが、装備の一つ一つをブーンに説明しながら準備をしている点だった。

ヒート・オロラ・レッドウィングの装備についても同様で、デレシアのそれと比較しながら説明が行われていた。

ζ(゚ー゚*ζ「これが、デザートイーグルって云う銃。
      で、こっちがベレッタM93R。
      弾倉を見てみると分かるんだけど、何が違うか分かる?」

(∪´ω`)゛「ヒートさんのほうは、たまがずれてはいってます」

ζ(゚ー゚*ζ「正解。 これがシングルカラム、そしてダブルカラムと呼ばれる構造よ。
      こうしてずらして弾を入れると、普通よりもたくさん入るの。
      だけど逆に、銃把を見てみると分かるけど、ずれた分だけ太くなるの」

二人は黒塗りの拳銃を腋の下のホルスターにしまう。
奇しくも二挺拳銃の二人。
ブーンは、そこに目をつけた。

(∪´ω`)「どうしてにちょうなんですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「火力が二倍になるからっていうのと、二方向に同時に攻撃ができるからよ。
      ただ、欠点もあるわ」

ノパ⊿゚)「装填作業が少し手間になるんだが、そこは慣れだ。
    ただ、練習と実戦は違うから、あまりオススメはしないぞ。
    まずは確実な射撃と照準だ」

(∪´ω`)゛

ζ(゚ー゚*ζ「で、これがショットガン。
      銃身を切り詰めた物は、ソウドオフって呼ぶわ。
      基本的にライフリングがないから色んな弾種が撃てるけど、精度はあまりよくないの。
      だけど、近距離では威力が大きくて、散弾を使えば広範囲に攻撃が出来るわ」

腰のホルスターにショットガンを納め、ローブで全身を覆う。
金属探知機と人目から銃を隠すためだ。
ブーンの服と靴を整えてやり、ローブのシワを伸ばす。
デレシアが編んだ毛糸の帽子を一度外して、滑らかな黒髪を撫でてやる。

(*∪´ω`)「おー」

ζ(゚ー゚*ζ「外に出なければ、この帽子は外していていいわよ」

(∪´ω`)゛

293 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 14:24:35 ID:EyqHPYFQ0
帽子を大事そうに胸に抱くブーンの頬に手を添え、ピンクがかった頬に軽く口づけをする。
それを見たヒートも、反対側の頬に軽い口づけをした。
ヒートとデレシアの間に頬を赤く染めたブーンを座らせてから、話し合いが始まった。

ζ(゚ー゚*ζ「さて、私達の船旅を台無しにしようとしている輩を探しましょう。
      乗客に恐怖を与えて、次に何を狙うか。
      それを読まないと、この馬鹿の好き放題にされるわ」

ノパ⊿゚)「あの映像から考えるのは少し大変だと思うけどな」

ζ(゚ー゚*ζ「効果的に恐怖を与えるのが目的であれば、十分な情報よ。
       今頃探偵も警察も動いているでしょうから、私達は彼らがしない行動をしなければならないわ」

(∪´ω`)「どうしてですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「それぐらい、読まれているからよ。
      行動の一歩先ではなく、三歩先を読まないと出し抜くのは難しいわ」

道具の調達。
殺人の実行。
いずれもオアシズ船内で簡単にできる事ではない。
二歩先ですら読まれていると考えるべきだ。

ノパ⊿゚)「となると、だ。
     特定の人物を狙っていないのなら、もっと恐怖を与える行動をするかもしれないな。
     死体一つだけじゃ、インパクトに欠ける」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね。 となると、インパクトのある殺し方。
      一度に大量の死体をこさえることでしょうね。
      だけど一般人に対しての警戒は探偵や警察も考えているでしょうから、そこの線は薄い」

探偵も馬鹿ではない。
オアシズに乗り合わせている探偵は四百五十人。
各ブロックに九十人の計算だ。
全二十階からなる一ブロック一フロアには、四人から五人がいることになる。

仮に一般人に対する虐殺行為が行われようものなら、すぐにでも対応され、最悪の場合には計画が破綻する。
そんな淡い計画であるはずがない。
それを見越した上での挑戦なのだ。

ノパ⊿゚)「なら、船の従業員。
    探偵、警察、警備員、店員らを殺すだろうな」

ζ(゚ー゚*ζ「その中で最も効果が期待されるのは?」

(∪´ω`)「けいびいん、ですか?」

ζ(^ー^*ζ「正解。 犯人が銃を扱えるのなら、警備員を相手にすることも考えられるわ。
       更に、乗客を守る立場の人間が殺されれば、そのインパクトは計り知れない。
       まさに、相手の理想的な対象よね」

294 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 14:28:34 ID:EyqHPYFQ0
ノパ⊿゚)「だけど、腕に自身があっても警備員を相手にするのは難しいだろ?」

ζ(゚ー゚*ζ「おそらく、だけど犯人は棺桶持ちよ。
      死体の加工を人の力でやるなら、相当な筋肉バカになるわ。
      だけどそれは現実的ではないから、棺桶を使ったと考えるべきね」

人の関節を折り曲げて結ぶとなると、体にはもっと痣ができているはずだ。
だが、死体の映像には痣が最低限しかなかった。

ノパ⊿゚)「じゃあ、犯人はこの船の関係者か?」

ζ(゚ー゚*ζ「他人の部屋に入るのだって容易じゃないんだから、そう考えるのが普通よ。
       以上を踏まえて、次に事が起こる場所は警備員詰め所、ってところかしらね」

そして、三人は部屋を出て第五ブロック一階レヒツ・ポリツァシュトラーセに向かった。

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各ブロックに一つずつある警備員詰め所には、出入口が二箇所ある。
しかし、船内に通じる出入口は一箇所しか設けられていない。
出入口を最低限の数に絞ることで、警備の穴を減らすという目的だった。
もう一箇所は船外に通じるもので、航行中はあまり使われることはない。

第五ブロック、レヒツ・ポリツァシュトラーセにある小さな鉄製の扉を専用の錠で開けて階段を降りた先に、それはある。
ライフル弾にも耐え得る強化ガラス製の自動扉で仕切られた先は蛍光灯で白く照らされ、約五十ヤード続く廊下の突き当りに一つ、その途中に左右三つずつの部屋の扉が見て取れる。
ガラス戸の前にはカードと顔認証を行う液晶パネルが一枚と、その両隣に武装した屈強な警備員が二人。
認証システムと警備員。

この二つを越えて初めて、警備員詰め所への侵入が可能となる。

(`゚l`゚) ('゚l'゚)

必要なのは警備員の目を欺き、権限の与えられたカード、そして所有者の顔情報を使って扉を開くことだ。
カラシニコフで武装した男二人の検問を欺いて突破するのは、理想論過ぎる。
また、カードの偽装をこの短時間で行うのは無理だ。
では、どのようにして詰め所に入ればいいのだろうか。

295 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 14:30:22 ID:EyqHPYFQ0
方法は二つある。
偽るか、それとも力尽くか。
デレシアが取ったのは、後者だった。
彼女にとって、検問を突破することは困難ではないし、難題でもなかった。

ひどく簡単で、二手で終わらせられる程度のものだ。
まず、検問所に立っている人間を無力化することろから始まる。
暗闇から音もなく笑顔で近づき、第一声はこうだ。

ζ(゚ー゚*ζ「こんにちは」

突如として現れた人物を視認する間を与えず、二人の腹部にレバーブロー。
以上二手をもって、検問は突破となる。
記憶すら残らない早業。
音を立てないようにその場に倒れさせる。

男の懐からカードを取り出し、それをパネルに乗せた。
続いて顔認識を要求する画面が出るが、そこは倒れた男の襟を掴みあげて画面に認識させ、突破する。
ガラスの扉が左右に開き、詰め所への道が開かれた。
実に十三秒の出来事である。

デレシアに手招きされ、階段に隠れていたヒートとブーンが姿を現す。

ノハ;゚⊿゚)「相変わらず反則級に早えな」

ζ(゚ー゚*ζ「相手が遅いだけよ」

倒れた二人のカラシニコフから弾倉を取り外し、棹桿操作を行って薬室内に送り込まれていた弾丸を取り出し、弾倉を元に戻す。
万が一意識を取り戻しても、撃たれることを防ぐための手段だ。
三人は堂々と正面から警備員詰め所に足を踏み入れた。
そして、最初に異変に気付いたのはブーンだった。

(∪´ω`)「お……?」

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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Reasoning!!編
          il  i、                   !,'丿' /| !
           !  \   マ' ¬、      U   '´! _,.イ
                丶     丿        ,ィ´:ア/
                    \        , ‐'´ レ'T´
                  丶 _,.. - '´     ヒ─-、
                                        第五章【austerity-荘厳-】
                ‥…━━ August 5th AM11:14 ━━…‥
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次にデレシア、そしてヒートもそれに気付く。
詰め所に漂う空気。
それは、感覚の問題だった。

296 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 14:31:47 ID:EyqHPYFQ0
ζ(゚、゚*ζ「……あら」

ノパ⊿゚)「……」

(∪´ω`)「お」

剣呑な空気。
これから何かが起こる前兆。
黒雲を見て嵐を想起するような感覚だ。
人の命の奪い合いが起こる前の空気だ。

鉄火場に長い間浸かっていたデレシア、そしてヒートが気付くのは当然だった。
ブーンは人一倍感覚が鋭く、また、デレシア達と旅を続けていく中で培った感覚は彼女たちを凌ぎ、先んじて危険を察知した。
無言で、デレシアとヒートは拳銃を取り出し、戦闘態勢に入る。

ζ(゚、゚*ζ「……」

武器庫、そしてロッカー室と札の下げられた扉を開けようとするも、施錠されている。
普段は施錠しないはずなのに、何故施錠されているのか。
普通ではない事態が起こっていると考えるべきだ。
廊下の突き当たりにある詰め所の扉の両脇にデレシアとヒートが張り付き、ブーンはヒートの後ろに隠れた。

ノパ⊿゚)「何か聞こえるか?」

人間の耳には届かない音も、ブーンなら聞き取ることが出来る。
今この詰め所で何が起きているのか、それを探るためにヒートはブーンに訊いた。

(∪´ω`)「お……ざわざわしてて……おひるはコーンビーフで、ばんごはんはコーンとビーフ……
      ……そしてねがわくは、くちはてついえた、このなもなきからだが、こっかのいしずえとならんことを?」

ノハ;゚⊿゚)「……ジョン・ドゥの起動コード!」

ζ(゚、゚*ζ「扉から離れて!」

ヒートはブーンを庇いながら、デレシアは扉の向こうを睨めつけながら、素早くその場を飛び退いた。
直後、扉の向こうから銃声と悲鳴が溢れてくる。

ζ(゚、゚*ζ「ビンゴね。 しかも、棺桶を使ってる。
      多分、無線と扉の鍵もやられているわね」

用意周到な相手だ、それぐらいの根回しはしているだろう。
武器もおそらく、ここの武器庫から調達したに違いない。
証拠を残さず、死体を残す手口。
油断ならない相手だ。

ζ(゚、゚*ζ「ちょっと鍵を開けてくるわ。
      ヒートちゃん、その間に何か棺桶相手に使える武器か、中に入る道を探して。
      ブーンちゃんはそこで待っててね」

297 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 14:33:10 ID:EyqHPYFQ0
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       八{\  从\ ' ' ''       '      '' ' '////  ノ } /
           \_                       //厶イ  !
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               } ヽ}〕> _       < ,ノ 〈
                ‥…━━ August 5th AM11:16 ━━…‥
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ブーンは一人、扉の前でその向こうから聞こえてくる音に耳を傾けていた。
今の自分にできることは殆ど無い。
武器を探すことも、状況を一変させることも。
扉に銃弾が当たる音が時折するが、厚みのある扉が破れそうな音はしない。

鋼鉄の扉を塞いでいるのは、電子錠だった。
何桁かのパスワードを入力することで開くもので、正しいパスワードを知らなければ開けることはできない。
試しに適当にボタンを押してみるも、当然、扉は固く閉ざされたままだ。
ブーンは思考した。

今の自分に何が出来るのか。
どうしたら、この中に入ることが出来るのか。
床にも天井にも、中に通じていそうなものはない。
とにかく、デレシアの言った通りにその場で待つことにした。

少しずつ、悲鳴が減り、銃声も聞こえなくなってくる。
中で何が起こっているのか。
概ねの予想はついていた。
棺桶を装着した人間が、警備員たちを殺しているのだ。

棺桶の恐ろしさは知っている。
生身の人間であれに立ち向かえるのは、デレシアとトソン・エディバウアーしか知らない。
あのヒートでさえ、棺桶を使って初めて戦えているぐらいだ。
自分には、どうしようもない相手なのだ。

――声が、完全に途切れた。

扉の隙間から漏れ出る血と硝煙の匂いに、ブーンは何も感じなかった。
人が撃たれて死んだ。
それだけだ。
この世界ではよくあること。

力が全てを変える時代なのだ。
文句があれば力で変えるしかない。
ブーンには力がなかった。
だから、何も変えられなかった。

しかし、デレシアには力があった。
だから、ブーンの人生そのものを変えた。
ごく当たり前の話だ。
そしてデレシアとヒートは、それを当たり前のようにやってのけてしまう。

298 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 14:33:50 ID:EyqHPYFQ0
そんな二人が羨ましく、大好きだった。
強く優しい二人。
色々なことを教えてくれる二人。
二人と過ごす時間が、これまでの人生で一番好きな時だった。

(∪´ω`)「お?」

思いに耽っていると、突如として目の前の扉が開いた。
デレシアが解除したのだろう。
扉の向こうには、血溜まりと死体、空薬莢が転がっていた。
そして――

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕

――離れた距離から自分を見つめる、血に汚れた巨体がいた。
それは、棺桶と呼ばれる兵器だった。
行動の選択肢は二つあると、瞬時に気付いた。
逃げるか、それとも命乞いをするか、だ。

後者は一瞬で否定され、ブーンは逃げるという選択肢を選んだ。
当然だ。
武器もなければ技量もない自分が、あの棺桶と相対できるなど夢物語もいいところ。
思考は驚くほど冷静で、体は自然に動き、すぐに入り口から遠ざかろうとする。

が。

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『やぁ』

(;∪´ω`)「お?!」

ライフルを投げ捨てて圧倒的な速力で接近した棺桶――ジョン・ドゥ――はブーンの襟首を掴み、左腕で羽交い締めにした。
実際にブーンができた行動は、振り返って二歩進むだけ。
ジョン・ドゥの腕部に付着したまだ温かい、ぬるりとした血が頬に付く感触が、気持ち悪かった。
両足をばたつかせても、鋼鉄の装甲を蹴るだけで、大した抵抗にならない。

機械で変換された気味の悪い声が、ブーンの耳元で囁く。
甘ったるい、不快な匂いが装甲の隙間から漂う。

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『ふふふ、捕まえた』

(;∪´ω`)「は、はなしてください!!」

異変を察知したヒートがすぐに現れ、両手の拳銃の銃口をジョン・ドゥに向ける。
ジョン・ドゥは右手に持った拳銃を、ブーンの顎の下に押し当てた。
両者の距離、約十フィート。

ノハ#゚⊿゚)「手前!!」

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『おおっと』

299 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 14:35:00 ID:EyqHPYFQ0
ヒートの目には怒りの色が浮かび、銃爪にかけた指はいつそれを引いてもおかしくない状態だ。
それは、このジョン・ドゥの下にいる人間も同じだった。
奇しくもデレシアに説明してもらった拳銃、コルト・ガバメント。
四十五口径の銃で、威力は非常に大きい。

撃たれれば間違いなく、即死だ。

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『……ほぉ、その銃、まさかお前が“レオン”か』

ヒートの持つ二挺のM93R。
銃身下に銃剣が取り付けられた特徴的なシルエットは、彼女が凄腕の殺し屋“レオン”であることを雄弁に物語る。

ノハ#゚⊿゚)「……」

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『だが、棺桶にその銃弾は通用しない。
      こちらがブーンの頭を吹っ飛ばす前に、正確に目を撃ち抜きでもしない限りね。
      なら、こうすればどうかな?』

顔を守るように持ち上げられると、ヒートが口を真一文に結んだ。
銃を構えて動かないヒートの後ろから、感情の一切を消したデレシアが現れた。
今、彼女が怒っているのだと一目で分かった。
しかもその怒りようは、これまでにブーンが見たこともない程強いものだった。

ζ(゚、゚*ζ「……」

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『おめでとう。 君たちのグループが一着だ。
      嗚呼、しかし探偵達は本当に情けないな。
      この程度の謎、謎ですらないだろうに。
      君たちには簡単すぎたかな?』

ζ(゚、゚*ζ「その子を離しなさい」

これ以上の問答は無用とばかりに、デレシアのデザートイーグルが向けられる。
ジョン・ドゥは慌てた様子も見せない。
あの銃が、棺桶の装甲を容易に撃ち抜く事を知らないのだ。
その気になれば、デレシアは今この瞬間に決着を着けることが出来る。

しかし。
他ならぬ自分のせいで、デレシアは銃爪を引けないのだ。

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『やはり、私の思った通りだ。
      君たちは優秀だった』

一歩ずつ後退するジョン・ドゥ。
一歩ずつ接近するデレシアとヒート。
この状況が、ブーンは悔しかった。
また、力不足のせいで二人に迷惑をかけてしまった。

300 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 14:36:32 ID:EyqHPYFQ0
強くなりたいと願ったばかりなのに。
それなのに、今の自分はどうだ。
こうして捕まり、二人の足枷になっている。
情けなさで涙が込み上げてきた。

ζ(゚ー゚*ζ「ブーンちゃん、泣かないの。
      男の子でしょう? こういう時は笑うのよ」

(∪;ω;)「お」

デレシアは笑顔を浮かべ、ブーンに優しくそう言った。
恐怖に強ばっていた体が、一瞬で楽になった。
心から体全体が溶けそうになるほど、その言葉は体の中心部に響いた。

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『ははは!! いいやりとりだ。
      次は何をしてくれるんだい?』

ζ(^ー^*ζ「絶対に大丈夫だから、ね?」

(∪;ω;)゛

頷く。
諦めてはいけない。
どんな状況であっても、諦めた途端にそこで終わりだ。
微笑むデレシアを、怒ってくれるヒートを、これ以上悲しませてはいけない。

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『残念だが、ここで退場の時間だ』

壁際まで後退したジョン・ドゥが、後ろ足でその背後にあった扉を蹴破る。
猛烈な風と雨、そして波が二人を容赦なく濡らす。
背中から襲ってくる波が、今にも海中に引きずり込もうとしている。
急いで、この棺桶持ちの行動の真意を考えた。

逃走経路の確保。
強風がもたらす銃弾への多大な影響。

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『死と云うものは、突然として訪れる。
      どれだけ幸福な人生であっても、どれだけ不幸な人生であっても。
      それは必ず訪れるのだ。
      少年よ、今がその時だ』

ブーンは思い出した。
昨日、デレシアとヒートから教わった、銃の知識を。
今、ジョン・ドゥの手にあるコルト・ガバメントという銃についても聞いていた。
デレシア曰く、歴史と信頼のある自己顕示欲の塊だそうだ。

四十五口径の威力は高く、それの直撃を受ければタフな人間でも倒れざるを得ない程だという。
独自の機構を備えたコルト・ガバメント使い方、癖を丁寧に教えてもらった事を思い出す。
反動、威力、重さ、弾の逸れ具合。
それを体に当てられた時の痛み以外は、教わっていた。

301 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 14:37:22 ID:EyqHPYFQ0
――当然、その弱点についての説明も覚えている。

自ら銃に顎を思い切り押し付ける。
コルト・ガバメントもそうだが、多くの拳銃には弱点がある。
銃身を押されるとそれに合わせてスライドが後退し、ハンマーがピンを叩けなくなるのだ。
ということは、発砲ができないということ。

これで、一瞬だが時間稼ぎが出来る。
デレシアなら。
ヒートなら。
この時間を、最大限有効活用してくれるに違いないと信じ、ブーンは賭けに出た。

(#∪´ω`)「お!」

ζ(゚ー゚*ζ「正解!」

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『む?!』

ブーンは賭けに勝った。
命を使って作り出した時間。
銃口を離して改めて銃爪を引くコンマ一秒に満たない時間さえ、デレシアは与えなかった。
待ち構えていたデレシアの銃が火を吹き、獰猛な弾丸はブーンの顎に下にあったコルト・ガバメントの銃把を、指ごと砕く。

もう一挺が放った弾は、ジョン・ドゥの左腕を食い千切ろうとしたが、風雨によって弾道が逸れ、肩の装甲を吹き飛ばしただけだった。
物凄い重力を体に感じたかと思うと、次の瞬間、体が拘束から開放されて宙を舞っていた。
全身を打ち付ける大粒の雨。
頬を殴りつける強烈な風。

何が起きたのか、一瞬、理解できなかった。

ζ(゚−゚ ζ「ブーンちゃん!!」

ノハ;゚⊿゚)「ブーン!!」

耳に届いたのは、二人の悲痛な声。
視界の端に映ったのは、走り去るジョン・ドゥの姿。
続いて両眼は、蠢く黒雲と、時折白く発光する空を捉えた。
遂に耳はうねる波の音と雨音だけを拾い上げ、それ以外の音は何も聞こえなくなった。

海に向かって放り投げられたのだと理解した時には、もう、海中だった。
一瞬で口と鼻から海水が入り、息苦しさに思い切り肺の中の酸素を塩辛い海水と一緒に吐き出す。
かろうじて開かれた目にはただ、底なしの暗い海底が映る。
夏だというのに海水温度は低く、フォレスタの湖よりも冷たかった。

両手両足を動かして、海面に浮上する。

(;∪´ω`)「ぷはっ!!」

302 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 14:38:23 ID:EyqHPYFQ0
息を吸ったその直後、黒い波が顔面を叩き、再び海中へ引き戻される。
浮こうとするだけでも精一杯だ。
また海面に顔を出した時、周囲の景色に恐怖と感動を覚えた。
それは、絶景だった。

海面が下から突き上げられ、山となって谷を作り、その山が消えては生まれていく。
空は暗く、海はもっと暗い。
今まで見たことのある穏やかな海から一変して、荒々しく、恐ろしい怪物のように見える。
ブーンは体が水ごと一気に持ち上げられたり下げられたりする感覚に困惑しながらも、波と一体になって見る圧倒的な景色に、魅了されていた。

確かに怖かった。
溺れ死ぬのは苦しいだろうし、サメに食われるのは痛いだろう。
恐怖を知っても尚、感動だけは心から消せなかった。
あれほど巨大なオアシズが、この波の中ではとても小さな存在に見えるのだ。

確かに恐ろしかった。
このまま一人で死ぬのは寂しいし、これで世界を見納めになると思うと、とても悔しい。
悔やんでも尚、見惚れる事を止められなかった。
それほどまでに海は大きく、厳しく、驚くほど平等なのだ。

波に運ばれ、ブーンの体がオアシズから離れていく。
自然の猛威の中、オアシズは蜘蛛の巣様な白い航跡を残して悠々と進む。
船から漏れ出る明かりは幻想的で、とても遠い存在である事を実感させた。
大きな波が背中側から押し寄せ、ブーンはオアシズの吃水線から船の中ほどまでの高さに持ち上げられ、船外の人影まで見る事が出来た。

そして、ゆっくりと降ろされ、激しい横波がブーンの頭を殴りつけ、海中に沈める。
息をするのが辛かった。
目を開けるのが辛かった。
海流に翻弄され、手足で藻掻いてもそれは抵抗と呼ぶには非力すぎた。

思い出せ。
思い出せと、ブーンは自分に言い聞かせる。
例え非力だとしても、諦めてはいけない。
力を込めることがいつも解決の道を開くとは限らない。

ヒートと湖で泳いだ時のことを思い出す。
力を抜いて、浮くことに専念する。
何度も波を被りながらも、ブーンは力を抜くことに徹した。

(;∪´ω`)「おっ……」

荒波の上に漂うことに成功し、オアシズに目を向ける。
船尾が遠ざかる。
自力で泳いで到達するのは不可能だ。
このまま浮いて生き延びるのも不可能だろう。

後は、生きている間の時間をどう使うか、だ。
急激に体が落ちる感覚があって、気がつけば、波の谷間にいた。
見上げた空のほとんどが、四方に聳え立った波に覆われていた。
感動のあまり、呼吸を忘れた。

303 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 14:39:10 ID:EyqHPYFQ0
――滝と化した波に飲み込まれ、ブーンは海に沈んだ。

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正義の都と呼ばれる都市、ジュスティア。
世界中に点在する警察の本部がある街であり、現在進行形で騎士道が街で通じる場所だ。
ポートエレンの隣にあるその街で起こった停電は復旧し、今、やっと落ち着きを取り戻したところだった。
警察署の捜査担当課以外は、だが。

そこには黒のスーツとグレーのワイシャツ姿の虎がいた。
黒い瞳は硝煙で燻した重鉄を思わせ、僅かに残ったブロンド混じりの白髪には潤いはなく、短くオールバックにしてまとめている。
年老いても尚爪牙の鋭さを失わぬ“虎”と呼ばれる刑事だ。
懐にベレッタM8000、そして足元には銀色のアタッシュケース。

警察関係者なら、その容姿を見ただけで彼がトラギコ・マウンテンライトであると気付くだろう。
一度喰らいついたら離さない、獰猛な性格。
彼の辞書には諦めと妥協という文字はない。

(=゚д゚)「だから言ってるだろうが!! 俺も連れてくラギ!!」

会議室に置かれている木製の円卓を叩き、トラギコは対面して座る年上の男にそう主張した。
手元のコーヒーカップの中身がはねて、机にシミを付けた。
対して男は、溜息を吐きながら、眼鏡の縁を指で持ち上げて答える。

(::゚,J,゚::)「トラギコ君、何度も言うが、この事件は君の管轄外なんだ。
     それよりポートエレンの報告書、オセアンの報告書はまだかね?
     それ以前の事件についても、勝手に君が解決したものが……」

(=゚д゚)「少なくとも前者二つの事件は、このオアシズの事件につながっている可能性がでかいラギ」

そもそも、こうして気の進まないジュスティアの警察本部に足を運んだのは、ポートエレンの事件を話しに来たのが発端だった。
それを話そうとした途端、この分からず屋のストーンヘッド氏に捕まり、会議室に連れ込まれたのだ。
今朝来て早速これだ。
不毛だった。

(::゚,J,゚::)「あと、領収書の件だね」

(;=゚д゚)「ぐっ……」

だから本部は嫌いなのだ、とトラギコは喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
ここで口論になっても時間の浪費にしかならない。
警察本部にいるのは石頭の人間ばかりで、現場主義ではないのだ。
何が正義の都だ、とトラギコは大勢の前で声を荒らげたことがある。

304 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 14:40:26 ID:EyqHPYFQ0
十五年前、ジャーゲンでのことだ。
それ以来風当たりは強くなり、回される仕事は片田舎の屑みたいな仕事だけ。
オセアンではトラギコのことを支持してくれる同僚のお陰で関われたが、それがなければもっと下らない仕事を与えられていただろう。
せっかく手に入れた歯応えのある、生涯をかけて挑める仕事なのだ、ここで手放す訳にはいかない。

(::゚,J,゚::)「明らかに飲み屋の領収書がたくさんあるんだよね。
     これについては?」

確かに経費は多めに使っているが、全て必要経費だ。
張り込みや情報収集。
待ち合わせなどに店を使うのは当たり前だ。
大人になれば酒場に行くのもまた、当然だろうに。

(;=゚д゚)「糞細けぇやつラギねぇ……」

(::゚,J,゚::)「なんだって?」

(=゚д゚)「経理の仕事ラギよ、それを決めるのは」

(::゚,J,゚::)「……何でかね、経理の人は君の領収書を認めちゃうんだよね。
     それじゃあ組織としてはねぇ、何というか、困るんだよね」

(=゚д゚)「人望の問題ラギ」

経理にいる人間とはよく飲みに行った間柄だ。
トラギコが経費を無駄遣いしていないこと、そしてそれが事件解決に繋がっていることを知っているのだ。
机の上で書類整理の仕事をしている業種の人間には分からないだろう。

(::゚,J,゚::)「それに今回の一件は、“ゲイツ”に任せることになってるんだ」

(=゚д゚)「あんな戦闘集団じゃ、離婚問題だって解決できないラギ」

“ゲイツ”は高速戦闘艇を乗り回し、海賊の駆逐や人質救出に駆り出される、海軍の強襲専門部隊だ。
海軍の中でも好戦的な人間を集めた部隊で、荒事の解決にはうってつけだ。
だが、今回の場合。
オアシズから入った緊急連絡の内容を聞いた限りだと、相手は知能犯だ。

犯人と対峙できればあるいは意味があるだろうが、彼らに犯人を探すことは絶対に無理だ。
ゲイツは所詮戦うための部隊。
推理、捜査をする集団ではない。
なら、トラギコが直接乗り込んで事件を解決し、ついでにデレシア一行の動向を探った方が有意義というもの。

デレシア一行の件は自分一人のものだと決めているので、他に荒らされたくはない。
万が一ゲイツに悟られでもすれば、横取りされるかもしれない。
そんなことになれば、背中から彼らを撃ちたくなってしまう。
どうしても、トラギコはオアシズに行く必要があったのだ。

(=゚д゚)「一人ぐらいいいだろ?」

(::゚,J,゚::)「分からん男だね、君は」

305 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 14:42:30 ID:EyqHPYFQ0
(=゚д゚)「どうしても駄目ラギ?」

(::゚,J,゚::)「どうしても、だ」

(=゚д゚)「……ふーん、分かったラギ」

話していても埒が明かない。
トラギコは諦めた風に溜息を吐いてから、アタッシュケースを手に席を立った。

(=゚д゚)「俺は俺の流儀でいかせてもらうラギ」

静かに扉を閉めると、警官たちが不審そうな目でトラギコを、いや、会議室を見ていた。
部屋でのやりとりが気になっていたのだろう。
声が筒抜けだったようだ。

(=゚д゚)「手前ら、仕事しろラギ」

凄んだ声でそう言うと、蜘蛛の子を散らすように持ち場に戻った。
出てすぐのところに置かれていたコートスタンドからレインコートを乱暴にとって、警察署を後にした。
署の前に待たせていたヒヨコ色のタクシーに乗り込み、行き先を告げる。

(=゚д゚)「……キャメルストリート536」

嵐の中、船は出せない。
となると、ゲイツが出航するタイミングを掴むのが難しい。
どのタイミングで出るのかは、上官が決めることだ。
事態の深刻さを考えれば、待機する時間は短めのはず。

そのために必要なのは、情報収集だ。
船を動かす決定権を持つ人間を見つけるところから始めなければならない。
となると、軍人御用達の店に行く必要がある。

(=゚д゚)「……運ちゃん、料金はチップ込みで警察署に請求書を送っておいてくれラギ」

運転手は心得たとばかりに、アクセルを踏み込んだ。

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306 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 14:44:08 ID:EyqHPYFQ0
最後の一人は、サプレッサーで減らされた銃声よりも小さな悲鳴を上げて死んだ。
“ゲイツ”はジュスティアの海軍の中でも荒療治が得意だと聞いていただけに、がっかりだった。
まぁ、棺桶を装備した人間に勝てるとも思えないが、歯応えは見せて欲しいところだった。
船の格納庫に転がる死体は全部で四十二。

オアシズで起こった事件解決に向けて出発準備を行っていた兵士達だ。

<=ΘwΘ=>『クリア』

特殊強襲部隊“テラコッタ”。
組織にいる人間の私兵で、全員が“ハムナプトラ”と云う棺桶を使用する集団だ。
総数は五十名だが、個々の実力は棺桶持ちが十人束になっても勝てない程だと言う。
それが誇張表現でないことは、作戦に参加した三機の棺桶持ちが証明してくれた。

ハムナプトラの優れた点は、現場での取り回しの良さだ。
道具を使わずに各部位のパーツを換装することが可能で、組み合わせを変えることで遠近の戦闘スタイルに適応させられる。
ジョン・ドゥなどの場合は専用の工具と知識がいるが、こちらはそれもいらない。
代わりに、装甲が若干薄く、軽いことが特徴だ。

<=ΘwΘ=>『同志キュート、殲滅致しました』

櫛の通っていないボサボサの金髪に濁った碧眼を持つ女性はテラコッタの報告を聞いて、わざとらしく肩をすくめて見せた。

o川*゚ー゚)o「なぁんだ、呆気ないの」

そう言ったのは、キュート・ウルヴァリン。
棺桶持ちでありながら、この強襲作戦では棺桶を使わずに参加することに拘っていた。
拳銃とナイフを使った戦闘方法は豹の様にしなやかで素早かった。
何を考えているのか分からない人物だが、腕は確かだ。

( ゚∋゚)「ふん、つまらん」

その隣で腕を組んでいる角刈りの大男はクックル・タンカーブーツ。
彼の手には三十連マガジンを装填した、サプレッサー付きのグロック18が握られている。
図体に恥じぬ頑丈さとパンチ力を持つ男だが、上から目線の態度が気に入らなかった。
ワタナベ・ビルケンシュトックはショートカットの茶髪を左手で漉き上げ、一息ついた。

从'ー'从「仕方ないですよぉ、実戦経験が少ないんですからぁ。
     それに、見せ物としてはよかったですよぉ」

嵐と停電に乗じてジュスティア内にテラコッタが侵入し、この格納庫を目指してトラックで移動。
ワタナベ達は潜水艦で同じ場所を目指し、両側から一気に襲い掛かったのだ。
ジュスティア内にこちらの人間が潜伏するための作戦。
これが、“四歩目”。

三週間と云う期限を残しつつの完遂だ。
“五歩目”はこれに続く形で遂行され、そのまま続々と計画は連鎖してく。
流石は組織の幹部達だ。
元軍人のクックルはさておいて、キュートは自然体で人を殺す。

307 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 14:46:54 ID:EyqHPYFQ0
そんな彼女直々のオファーだからこそ、この組織、ティンバーランドに参加したのだ。
まぁ大義名分だとかその辺はどうでもいいのだが。

o川*゚ー゚)o「ねぇワタナベ、折角だからオアシズの旅に行く?」

从'ー'从「私、オアシズ乗った事ないんで、是非乗りたいです」

( ゚∋゚)「おい。 どうして私が勘定に入っていない?」

从'ー'从「あ? 手前はここにいろよ、鳥頭」

(#゚∋゚)「ちょうどいい機会だ、ここで――」

o川*゚ー゚)o「はいはい。 同志クックル、君は私の監視役だろ?
       となると、私も君も、オアシズには乗れないわけだ」

从'ー'从「それぐらい分からないのぉ? 馬鹿ねぇ」

(#゚∋゚)「っ……言わせておけば、この女郎っ……!!」

何時かのタイミングで、このクックルはワタナベに銃口を向ける日が来るだろう。
この男は驚くほど器が小さい。
その時は喜んで殺させてもらおう。

从'ー'从「で、こいつらの上官はどこにいるんですか?」

o川*゚ー゚)o「キャメルストリートの536だ。
       今頃そこで、昼食の真っ最中だろうさ」

ワタナベはあえてクックルを一瞥して、格納庫から嵐の中に出て行った。

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キャメルストリートは警察本部から西に行った、非常にみすぼらしい通りだ。
そこにある536と云う店は、軍人たちの溜まり場として連日賑わいを見せている。
特に最近では、この嵐の影響で起こった事故を処理するので大忙しの軍人たちが集まり、互いに励まし合い、健闘を称え合っていた。
店の前にヒヨコ色のタクシーが停車し、中からトラギコ・マウンテンライトが姿を見せた。

(=゚д゚)「請求書の件、よろしくラギ」

308 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 14:48:51 ID:EyqHPYFQ0
店に向かいながら、トラギコはそんな言葉を運転手にかけたが、タクシーは彼を降ろすなり走り去っていた。
木製の扉。
ひび割れ、内側から照らされる薄汚れたプラスチック製の看板。
埃を被ったショウウィンドウ内の食品サンプル。

それらを見て懐かしい気持ちになりながら、トラギコは店の扉に手を伸ばした。
ほぼ同時に横から伸びてきた色白の女の指を見て、一瞬手を止める。

从'ー'从「あらぁ? 刑事さん?」

内側と外側に向けて跳ねたショートカットの茶髪と、鳶色の瞳。
忘れるはずがない。
それは、ニクラメンで会った女。
快楽殺人者、ワタナベ・ビルケンシュトックに間違いなかった。

(;=゚д゚)「は?!」

从'ー'从「ハロー、刑事さん」

仮にもここは正義の都と呼ばれる場所。
そこにこの快楽殺人者がいるとは、一体何事だろうか。

(;=゚д゚)「な、何で手前がここにいるラギ?!」

从'ー'从「ランチタイムだもの、普通でしょ?」

(;=゚д゚)「……そうラギか」

いや、そうではない。
優雅にランチを済ませたいのなら、ここではなく大通りのロイヤルフュージストリートにでも行けばいい。
そこの方が美味い店がある。
ここは不味い。

正直に言うと、とても不味い。
若い頃は先輩に連れて来てもらったが、ここの店は料理の味付けは塩か酢しかないのだ。
伝統的なジュスティア料理の味だが、やはり、不味い物は不味い。
懐かしさに浸るために来たわけではなく、単にここにいるであろう、海軍の男に用があるだけなのだ。

(=゚д゚)「……」

从'ー'从「……?」

この女が何を考えているのかは分からないが、野放しにしておけばそれこそ何をするか分からない。

(=゚д゚)「……飯でも食うか?」

从'ー'从「喜んで」

トラギコが扉を開き、店内へ。
従業員が人数を聞きに来たのを見て、トラギコはまず言った。

309 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 14:50:02 ID:EyqHPYFQ0
(=゚д゚)「タオル一人前と、一番奥の禁煙席を二人分」

笑顔で席に案内される途中、他の席に目を配り、軍人を見定める。
海軍の特徴は浅黒い肌とネイビーブルーの軍服だ。
見る限り、五十人近くいる客の中に海軍の人間は二十人いた。
しかもそれぞれ席が離れていると云う問題まであったが、階級章を確認すればそれは解決できそうだった。

作戦の指揮を任される人間がまさか私服でここにいるはずがないし、となれば、二十分の一の確立で当てればいい。
要求通り一番奥の席に案内され、トラギコは壁側に座った。
直ぐに店員がタオルを店の奥から持ってきて、トラギコに渡す。

(=゚д゚)「おい」

从'ー'从「ん?」

ワタナベの頭にタオルを乗せ、ぐしゃぐしゃと拭き始める。
この女に風邪を引かれでもしたら面倒だ。
後、ほんの少しの嫌がらせでもあったのだが、予想と違ってワタナベは嫌がらなかった。
タオルから手を離して、後は自分でやらせることにした。

(=゚д゚)「ジュスティアの飯は食ったことあるラギか?」

从'ー'从「ううん」

(=゚д゚)「なら勝手に頼むラギよ」

从'ー'从「どおぞぉ」

(=゚д゚)「おい、マカロニグラタンとホットウィスキー二人分」

この店で唯一まともな味をしているのが、マカロニグラタンだ。
むしろ不味く作りようがない物で、酒のつまみにも最適な一品である。
無言のまま、置かれていたおしぼりで手を拭く。
料理が出てくるよりも先に、酒が来た。

从'ー'从「はい」

ガラスコップを掲げて、ワタナベが言った。

(=゚д゚)「は?」

从'ー'从「乾杯、しないの?」

(=゚д゚)「あぁ、ほいよ」

自分のグラスを軽くぶつけて、一口飲む。
安い酒の味がする。
ブレンデッドウィスキーを使ったのだろう。
大方、シーバス・リーガル辺だろうが、トラギコはその手の混ざった味のする酒が嫌いだった。

310 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 14:50:56 ID:EyqHPYFQ0
从'ー'从「美味しいわぁ」

(=゚д゚)「そうか?」

从'ー'从「刑事さんと飲むからかしらねぇ」

(;=゚д゚)「もう酔ってるラギか」

从'ー'从「刑事さんの好きなお酒って何なのぉ?」

(=゚д゚)「俺は、そうラギねぇ……ジェイムソンかカネマラか……あぁ、アードベッグも好きラギよ。
    シングルモルトウイスキーが一番ラギね。
    お前は普段何を飲んでるラギ?」

从'ー'从「何でも飲むわよぉ。
     でも、今日からはシングルモルトのウィスキーにするわぁ」

影響されやすい年頃なのだろう。
まだ十代のあどけなさが残る二十代前半の女性なら、当然だろうか。

从'ー'从「で、刑事さんはどうしてこんなところに?」

(=゚д゚)「それは俺の台詞ラギ。
    まさか、またここで“ヤる”つもりラギか?」

从'ー'从「ううん。 私はここで“ヤる”つもりはないわよぉ」

(=゚д゚)「ふーん。 観光でもないなら、何でこんなところに?」

从'ー'从「仕事。 刑事さんと同じ、仕事よぉ」

(=゚д゚)「……仕事?」

从'ー'从「次は刑事さんの番」

(=゚д゚)「人探しラギ」

熱々のグラタンが二人の前に置かれ、会話はそこで中断された。

(=゚д゚)「まぁ、食え。
    食べないと――」

从'ー'从「――食べないと強く生きられないぞ、でしょう?
     分かってるわよぉ」

自分の台詞を先に言われて、トラギコは複雑な気持ちになった。
快楽殺人者だが、この女には色々と引っかかる部分がある。
今このタイミング、例えば彼女が食べ始めたタイミングで殺そうと思えば殺せる。
そうすれば社会から屑が一人減る。

311 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 14:52:46 ID:EyqHPYFQ0
それが警察の仕事だ。
しかし、そうする気が全く起きなかった。
同情しているわけでも、好意を寄せているわけでもない。
どうしてか、この女だけはそう簡単に殺そうとは思えなかったのだ。

随分昔から知っている間柄のような、そんな心境になってしまう。

(=゚д゚)「けっ、小憎たらしい奴」

スプーンを使ってグラタンを黙々と食べながら、トラギコは店から海軍の人間が出ないかどうかを監査する。
音もなく、ワタナベの手がトラギコの口元に伸びた。
気付いた時にはもう遅く、紙ナプキンがトラギコの口の端に付いたグラタンソースを拭い始める。

(;=゚д゚)「何のつもりラギ?!」

从'ー'从「さっき人の頭ぐしゃぐしゃしたじゃない?
     そのお返し」

(;=゚д゚)「ちっ」

倍の人生を生きている自分が、こんな小娘に世話になるつもりはない。
トラギコはその手から逃れ、掻っ込むようにグラタンを胃袋に収めた。
トラギコがそうであるように、ワタナベもまた、トラギコを殺そうと思えば殺せる立場にあるのだった。
ここはもう、殺す殺されるの事を考えずに、食事だけに集中すべきだ。

从'ー'从「汚ぁい」

(=゚д゚)「うるせ」

懐から財布を出して机の上に銀貨を一枚置いて、席を立つ。

从'ー'从「もう終わり? もう少しお話ししないのぉ?」

(=゚д゚)「また後でな」

店から出ようとする一人の海兵の背中を追う。
男の肩に手を乗せ、トラギコは警察バッジを見せた。
一瞬怪訝そうな顔をした男も、そのバッジを見てすぐに納得した顔になる。

(=゚д゚)「トラギコ・マウンテンライト刑事だ。
    この中でオアシズの件を担当している人間は誰ラギ?」

「そこに座っているホプキンス少佐です」

指をさした方向には、モヒカン頭の中年男性がいた。
声を聞いてか、ホプキンスはトラギコの方を見た。

(=゚д゚)「どうも」

312 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 14:53:26 ID:EyqHPYFQ0
そのままホプキンスに向かっていくと、彼は席から立ち上がって握手を求めた。
トラギコはそれに応じ、軽く握手をした。

「警察の方が、私に何か御用ですか?」

浅黒く日焼けした肌には細かな傷や大きな傷があり、鼻は少し曲がっていた。
年齢的にはトラギコと同じか、三歳ほど下だろう。
身長はトラギコよりも拳一つ分高い。

(=゚д゚)「オアシズの件だが、あれに俺も行く事になった。
    いつ行くラギ?」

「そんな話は聞いていないですが、どなたの決定ですか?」

(=゚д゚)「俺ラギ」

「悪いですが、それは受け入れられません」

(=゚д゚)「脳筋野郎だけじゃ、あの山は片付けられないって言ったほうがいいラギか?」

「……刑事さん、口の聞き方には気をつけた方がいいですよ。
海兵は少し血気盛んでしてね」

店内の海兵たちの会話が止み、トラギコに視線が集中する。
好意的なものは一つもなかった。
丁寧な言葉遣いだが、要するに、これ以上口を突っ込むなと言っているのだ。
なるほど、やはり脳筋野郎である。

(=゚д゚)「なら訊くが、この件はどう説明を受けているラギ?
    制圧が目的じゃないのは分かっているラギ?」

「もちろん。 乗客全員を調べれば、すぐに済みます。
抵抗されても問題はありません」

(=゚д゚)「阿呆ラギね。 それで済むなら、とっくに解決してるラギ。
    俺の力を貸してやるって言ってるんだ、大人しく受けるラギ」

「……ふぅ、刑事さん、あなたも変わり者ですね。
ですが、その気概は気に入りました。
実に海兵らしい。
どうですか? このジャン二等兵と少し遊んでみて、もし勝てれば参加を秘密裏に認めるというのでは」

ホプキンスの隣には二十代の若者がいた。
スキンヘッドにした頭に、海兵のタトゥー。
首の太さ、そして発達した胸筋。
トラギコに向けるのは、腕っぷしに自信のある若者の眼だ。

(=゚д゚)「瞬殺してやるラギ」

313 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 14:55:42 ID:EyqHPYFQ0
敵意に満ちた視線をくれながら、若者は立ち上がり、トラギコを見下ろした。
頭二つ分は身長差がある。

「では、ここでは何ですから店の裏で――」

(=゚д゚)「――いいや、ここで終わりラギ」

その瞬間に、勝負は決した。
油断し切っていた若者の顎に、左ジャブを一発。
脳震盪を起こしたジャン二等兵は力なく席に腰を下ろし、涎を垂らして項垂れた。

(=゚д゚)「な?」

「……いいでしょう、刑事さん。
今晩九時に、格納庫P26番に来てください」

こうしてトラギコは、オアシズに向かうための道を手に入れることが出来た。
後は時間まで装備を整えれば、完璧だ。
この時、トラギコはワタナベが自分に向けている視線に気付くことが出来なかった。
席に戻り、ホットウィスキーの残りを飲もうとグラスを持ち上げた。

(=゚д゚)「……俺の分、減ってないラギか?」

从'ー'从「天使のわけまえって知ってるぅ?」

(;=゚д゚)「手前、自分の分を先に飲めラギ!」

やはりこの女、酔っているのではないだろうか。
普通、そんなことを笑顔で報告する奴はいない。
そんなことを思いながら、トラギコは残ったウィスキーを一気に飲んだ。
心なしか、先ほどよりも甘い香りがした。

(=゚д゚)「じゃあな」

从'ー'从「じゃあまたねぇ」

店を出たトラギコは、向かいにあったビジネスホテルに入って行った。
そして。
やはり、気付くことが出来なかった。
自分に向けられるワタナベの視線。








そして、彼女が浮かべる笑顔の真意を――

314 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 14:56:22 ID:EyqHPYFQ0
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    ヽ.::::: /:::/::/:{ ::::::: 从. Nノ _こ         "" !:::/〈
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    (/ .jノ⌒)ノ:リ:〈::ノ!   ` i ∨ヽ、_ _(::::( ノ:::(
                ‥…━━ August 5th PM12:37 ━━…‥
To be continued...
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315 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 14:57:17 ID:EyqHPYFQ0
これにて第五章の投下は終了となります。

質問、指摘、感想などあれば幸いです。

316 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 17:20:10 ID:FXxO7pEEO
2レス目の影はそういうことだったのか

317 名も無きAAのようです :2014/01/05(日) 20:13:06 ID:V.V3HQu2O
乙、目の離せない展開だ

318 名も無きAAのようです :2014/02/11(火) 20:10:47 ID:1gkL/Ud60
――音。
蛇腹が蠢き奏でる、ピアノアコーディオンの音色だ。
水を掻いて進む船と川波の音だ。
子供がはしゃぎ笑う、幸せな家族の音だ。

大きな川が何本も市内を走り、水と人とが共生する街。
赤レンガ造りの建物が作り出す歴史ある雰囲気と、情緒を残す街並み。
水の都、ヴィンスに漂う空気は柔らかく、初夏を感じさせた。
これは記憶の中の情景だと、彼女はすぐに気付いた。

これは彼女の心象風景。
彼女自身が記憶する、六年前のヴィンスでの記憶。
始まりの記憶。
“レオン”になる前の記憶だ。

歳の離れた幼い弟が笑う。
父親が豪快に笑う。
普段は滅多に笑わない母親が笑う。
嬉しくて自分も笑う。

笑顔があふれる、幸せの絶頂の光景だ。
世界が平和だと信じていた時の光景だ。
失ったものの光景だ。
そして、絶望と復讐の象徴の光景だ。

化粧室に席を立つ母親。
見送る父親。
見送る弟。
見送る自分。

ピザが冷めるのも、時間が経つのも忘れて話をした。
酒で上機嫌になった父親と話をした。
離乳食で汚れた弟の口元を拭った。
そして、音――

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瓦礫と死体。
それだけが事件現場に残された時。
死者は、パズルのピースとなる。
遺族は、ピースの欠けたパズルを眺めることとなる。

パズルを完結させ得るのは、決して揺るがぬ信念の持ち主のみ。

                            ――A.G.クィンシー著・『怒れる男』より抜粋

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319 名も無きAAのようです :2014/02/11(火) 20:11:45 ID:1gkL/Ud60
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    |      |┃○─毛 ;;r、__;;;;l L ( <;;;|  / ノ ノゝ ソ ー r ─ -フ┃|      |
    |      |┃彡=二(´`ノ‐─/ヽヒ==〆::〔〕─┌ ヽ/ム√レ┃|      |
    |      |┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛|      |
    |      |                                    |      |
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──|___|──── / ̄ ̄ ̄ヽ───´ ̄ ̄ ̄ヽ,─────|___|──
              / l|||||]         (('=')) ヽ,
              | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ |
              |                   |
                ‥…━━ August 5th AM11:20 ━━…‥
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

その部屋は、豪華絢爛と云う言葉が最も似合う、金のかかった部屋だった。
壁にかけられた色彩豊かな絵画は三世紀前の作品で、五百万ドルの値が付いたもの。
食器棚に並ぶ皿やティーカップはどれも超が付くほどの高級品。
部屋にある机と椅子は全てマホガニー製で、一流の家具職人が手間暇かけて手作りした逸品だ。

天井から釣り下がる、星屑のような煌めきを放つシャンデリア。
鏡のように磨き上げられた床一面のフローリング。
柔らかなソファと、踏み慣らされ落ち着いた色合いになった絨毯。
部屋の隅々まで漂うのは、薔薇から作られた貴重な芳香剤の香り。

部屋の主が腰掛ける黒い皮張りのプレジデントチェアは、どれだけ凭れかかっても軋み一つ上げない。
金色の髪を頭の横でカールさせて束ねた独特の髪型は、世界最大の豪華客船を支配する彼のトレードマーク。
彼の薄緑色の瞳は立ち上るフォートナム・アンド・メイソンの湯気を纏っても、瞬き一つせず、水面を静かに見つめている。
豪華な調度品で飾った室内に、長い静寂があった。

時計の秒針の音が妙に大きく聞こえる、痛い程の沈黙があった。
沈黙を破り船上都市オアシズ市長、リッチー・マニーは英断を下した。

¥・∀・¥「……ハザードレベル5を発令。 今すぐに。 異議は一切受け付けない」

生まれながらに大富豪の子息として金には一切の不自由なく育ち、大祖父から受け継いだ市長の椅子に座った彼。
彼は、鼻持ちならない性格の持ち主だった。
彼は、世間知らずの大富豪だった。
だが彼は、無責任でも馬鹿でもなかった。

金の力を生まれた時から目にしてきて、その偉大さと尊さを知っていた。
金が恋人同士の絆を壊し、家族を壊し、命を奪い、夢を叶える瞬間を何度も目の当たりにした。
そして、金で買えないものがこの世の中にはあることを知っていた。
彼は一個人の人間としては無能かもしれないが、市長としては決して無能ではなかった。

市長として彼が発令したハザードレベル5。
それは、これまでオアシズ内で一度も発令されたことのない最も高いレベルの警報。
前代未聞の事態を前にした人間の多くは二の足を踏んで決断を誤るが、マニーはそれを恐れなかった。
そんなことに対して恐れた経験がないのだ。

320 名も無きAAのようです :2014/02/11(火) 20:15:14 ID:1gkL/Ud60
故に、決断には無駄な躊躇がなかった。
彼の下で働く人間たちは、彼の性格をよく知っていた。
鼻持ちならない性格をした、世間知らずの男。
しかし、大胆さが要求される状況で、決断のタイミングは誤らない男。

だからこそ彼は部下に信頼され、その頼りない部分を補おうとする部下に恵まれていた。
今回の決断も、事件発生から五分後に下されたものだった。
市長室でその言葉を聞いたブロック長達が、前代未聞の警報発令に対し、落ち着き払った態度で、それぞれの権限において部下に命じた。

('゚L'゚)「第一ブロック、作業開始!」

第一ブロック長ノレベルト・シュー代行、ライトン・ブリックマン。
優れた推理力と変装能力を持つノレベルトの代わりとして、最も信頼の置ける部下に無線で指示を出した彼は、誰よりも規律を重んじる人間だ。
ブロック長としての仕事など、ほとんど経験はなかった。
だが、彼は今、自分が行動するべきであることを分かっていた。

£°ゞ°)「第二ブロック、作業開始!!」

第二ブロック長、オットー・リロースミス。
相手の心理を揺さぶる交渉能力と企画力を持つ彼は、唯一同等と認める友人であり部下である男に無線で指示を出し、第二ブロックの安全性の証明を急いだ。
スーツに乱れはなく、ネクタイも、タイピンも、いつもと同じように整っていた。
だが、その目には怒りの色が浮かんでいた。

ノリパ .゚)「第三ブロック、作業開始!!!」

第三ブロック長、ノリハ・サークルコンマ。
天才的な人心掌握術とカリスマ性で信頼を獲得した彼女は、右腕とも呼べる人物に無線で指示を出し、第三ブロックの安全確保を急がせた。
ウェーブをかけたセミロングの髪を手櫛で整えた時、彼女の黒いジャケットの下に銃把がちらついた。
それは、彼女の覚悟の現れだった。

W,,゚Д゚W「第四ブロック、作業開始!!!!」

第四ブロック長、クサギコ・フォースカインド。
人の心を動かす話術と演説能力で圧倒的な指示を得ている彼は、副ブロック長に無線で指示を出し、第四ブロックの信頼を取り戻しにかかった。
独裁的な性格と言われることが多い彼だが、言動は常に一貫している。
ブロックにいる全て人の平穏こそが、彼の最優先目標なのだ。

マト#>Д<)メ「第五ブロック、作業開始!!!!!」

第五ブロック長、マトリクス・マトリョーシカ。
行動力に基づく人望でブロックを束ねる彼女は、無線機に向かって力強く指示し、第五ブロックの信頼に応じた。
彼女は最も無能なブロック長だと言われることがある。
しかし、彼女の行動力は常に部下を惹きつけ、指示は常に最速で部下の間で共有された。

四人のブロック長とブロック長代行者によって命令された作業。
それは、前例のない速度で実行された。
各ブロックの間に設置された特殊防壁が作動し、床から分厚い扉がせり上がって天井に接続され、ブロック間を物理的に区切る。
一階の道路も、その境界線上から防壁が浮上し、大きな吹き抜けだけを残して各ブロックは他ブロックへの移動手段を失った。

321 名も無きAAのようです :2014/02/11(火) 20:18:28 ID:1gkL/Ud60
第一段階はこれで終了。
続いて、第二段階へと移行する。
その合図を担当するのは、市長の役目。
咳払い一つせずに、マニーはマイクに向かって声を発した。

¥・∀・¥「皆様、私、市長のリッチー・マニーと申します。
      乗客の皆様、大変ご不便をお掛けしますが、皆様の安全を確保するためにご協力願います。
      尚、この緊急時中に生じる全ての費用は私が負担します。
      どうか、ご理解願いたい」

その言葉と同時に、各ブロックで第二、第三段階への移行が始まった。
ガイ・フォークスのマスク顔を隠し、H&K MP7を肩にかけた探偵達がそれぞれの配置につき始めたのだ。
紺色の制服とライフルを持った警官、警備員たちも同じく現れ、ブロックを封鎖した扉の前に立つ。
物々しい雰囲気のまま、次の放送が入る。

(<・>L<・>)「乗客の皆様、及びに住人の皆様。
       私、オアシズ付き探偵の探偵長、“ホビット”と申します。
       これより十五分以内にお部屋にお戻りください。
       十五分後に室外にいる場合は、先ほど発生した容疑者として確保、拘留させていただきます」

艦内放送を通じて、全ての場所に探偵長“ホビット”の声が届けられる。
放送に従って、各従業員たちが動揺する人々を誘導し、自分の部屋へと帰す。
危機的な状況にもかかわらず反抗する人間もいたが、銃口の前にその反抗は屁にも劣った。
賑わっていた通りから人が消え、船内から喧騒が消えた。

第二段階、乗客乗員住人の拘留による安全の確保。
第三段階、武装制限を解除された探偵、警察、警備員による各ブロックの警備。
全ては順序立て、かつ正確に行わなければならなかった。
月に一度の訓練の成果が見事に実ったことを、マニーは心から感謝した。

船内は刑務所さながらの光景と化すが、まだこれで終わりではない。
警備員達が配置に付いたことを確認してから丁度十五分後、マニーは次の放送を入れた。

¥・∀・¥「ご協力感謝いたします。
      では、改めて放送を入れますので、それまでの間、皆様は自室にて待機していてください」

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       /  /:|  |      |          ||    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄      |ニニニニニ:::::
   ;:゙ /  / :::|  |      |          ||    ;;:':    ..,,;;;;;.    |ニニニニ::
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                ‥…━━ August 5th AM11:48 ━━…‥
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鉛弾で体重を増やして血液を失った死体が次々と運び込まれた死体安置所は、吐き気がするほどの鉄臭で満ちていた。
常備していたスチール製のベッドは全て使われ、喫茶店から借りた木製の丸机にも遺体が乗せられていた。
薄緑色のリノリウムの床には血溜まりが広がり、一部は乾いてひび割れていた。
全ての遺体は、警備員詰め所から運び出されたもので、ただの一体も医務室に運ばれることはなかった。

322 名も無きAAのようです :2014/02/11(火) 20:19:29 ID:1gkL/Ud60
急所を失い、血を失った彼らが蘇生することは絶対に有り得ないと一目で分かる惨状だったからだ。
中には顔を失い、身元の判別が難しい者までいた。
遺族でさえ、その死体に残された特徴を見るまでは分からないほどだった。
運良く身につけていた身分証明を兼ねたカードがあれば、例え顔を失っていようとも遺族がいくら否定しようともその人物の特定は可能となった。

死体が放つ悪臭と陰惨な光景は、長い間苦楽を共にした同僚も見るに耐えない物だった。
遺体を運んできた彼らは涙が乾く前に、リッチー・マニーの指示に従って行動せざるを得なかったが、それはある意味で救いだった。
同僚の死体から逃げる自分を誰かに見せずに済んだのだから。
だが死体を前にしても動じない人物が一人だけいた。

死者の女王と呼ばれ、恐れられ、そして死の国に住まう者が切望する存在。
“ドクター・ストレンジラブ”こと、クルウ・ストレイトアウトだ。
彼女は死体が運び込まれてからすぐに損傷の少ない物から検査を始め、不要な解剖はせずに、身元の判明と銃弾の回収に尽くしていた。
文句一つ、不満一つもらさずに。

顔のない男の入った死体袋のジッパーをそっと閉じたショボン・パドローネは、右手を思い切り壁に叩きつけた。
砕けた人差し指の骨が肉を割き、皮膚を突き破って甲から飛び出した。
激痛だった。
しかし、それ以上に心が痛かった。

いくら銃弾を採取したところで、それから犯人に結びつくものは何一つとして見つからないことを知っているからだ。
遺体の数以上に遺族がいて、理不尽な出来事に憤り、涙している事を知っているからだ。
探偵達が総出で犯人を追っているのに一向に成果が出ないからだ。
何より、自分の予想と異なった展開になったからだ。

川 ゚ 々゚)「なぁに? 何で荒れてるの?」

(´・ω・`)「……どうして」

川 ゚ 々゚)「?」

(´・ω・`)「どうして、探偵はこうも無力なんだ」

犯人の思った通りに翻弄され、オアシズはこの有り様だ。
最終的にはマニーにハザードレベル5を発令させてしまう事態に発展したことは、探偵と警察の無力さを物語る。
今頃は第一ブロックで第四段階を始めるための準備が行われているだろう。
今回、マニーが下した決断は間違いなく英断に分類されるものだ。

自らオアシズが危険な状態にある事を認めることになり、信頼は前例にないほど急落しかねない。
それを恐れずにこの決断を出来るのは、かなりの度胸が必要になる。
彼にはそれがあった。
彼がいなければ、犯人の思う壺だっただろう。

(´・ω・`)「すまない、クルウ。
      僕はまた……」

クルウは振り向かなかった。
淡々と死体に触れてそこから幾つもの証拠を探し続けている。

323 名も無きAAのようです :2014/02/11(火) 20:20:25 ID:1gkL/Ud60
川 ゚ 々゚)「謝って死者が蘇るなら、誰も悲しまないんでしょうね。
      そして、誰も感謝しない世界になるんでしょうね。
      ……絶対に、犯人を捕まえなさいよ。
      偽りをどうにかしてくれるんでしょう?」

ショボンは何も言わず、医務室に向かうことにした。
自分の不注意とはいえ、利き手を負傷してしまったことは今後に関わる。
親指以外の指の骨が折れているが、己の行動に悔いはない。
何もしないよりかは、遥かに気分がいい。

(#´・ω・`)「くそっ……!!」

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                ‥…━━ August 5th AM11:53 ━━…‥
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

市長室には二人の男がいた。
部下たちが指示に従って慌ただしく最後の準備を進める中、市長リッチー・マニーは椅子の背もたれに脱力しきった様子で寄りかかっている。
表情こそ変わらないが、心中は穏やかではなかった。

¥・∀・¥「……なぁ、ラヘッジ」

「は」

マニーの隣でマニュアルの束に目を通していた船長ラヘッジ・ストームブリンガーは、目を向けもせずに答えた。
彼が普段着用する船長の象徴とも言える装飾付きの制帽は、マニーの卓上にあった。
二人は仕事仲間であるとともに、オアシズで生まれ育った同級生だった。

¥・∀・¥「私が市長を降りたら、次は君が――」

「市長、同い年の人間として言わせていただきますが、私はあなたが大嫌いです。
正直、第一印象は最悪。
金持ちの息子がいきなり船の権利を全て手に入れて、欲望のままに好き勝手……してくれれば、もっと嫌いになれたのに。
なのにあなたは、この船のためを思って好き勝手していた。

金を船の改築や従業員の教育に使い、挙句は安全確保のためのコンセプト・シリーズの棺桶の購入に充てた。
それだけの金があれば、女でも酒でも、別の町の一つでも買えたのに、そうしなかった。
皆が本気で嫌いになれないあなたが、私は嫌いなんですよ。
だから、皆が嫌いな傲慢な市長でいてください。

悪いですが、私はそれ以外の市長の命令には従いませんよ、マニー」

実に十年以上ぶりに友人として名前を呼ばれたことに、マニーは涙を抑えられなかった。
生まれたのが大金持ちの市長の息子というだけで嫌われていれることは、幼少時代から知っていた。
だからこの職に就くよりも前に自分なりに考えて、より市長らしくあろうと務めてきた。
これまでの行いが間違っていなかったと認識できたその言葉は、何よりも嬉しい言葉だった。

そして、自分の傍に友人と呼べる人間がいたことに感謝した。

324 名も無きAAのようです :2014/02/11(火) 20:21:07 ID:1gkL/Ud60
「それに、私は市長なんて柄じゃない。
弱音を吐くなんて、一体どうしたんです?」

熱くなった目頭から、熱い液体が流れ落ちる。
忘れかけていた感覚。
友情の尊さを思い知らされ、マニーは落涙した。

¥う∀・¥「……いや、弱音なんて吐いていないぞ。
      市長の職務を知らない人間に引き継ぎもなしで任せるはずがないだろう?
      大金を使ったこともない凡人に、何が出来る?
      何も出来ないさ。

      次は君が……そう、次は君が……
      次の市長に、金の使い方を教えてやってくれ」

「ははっ、私が教えられるのは、美味い料理と酒を安く出す店を教えるぐらいですよ」

ハンカチで涙を拭き取り、マニーは一息ついた。
これ以上、弱気になってはいけない。
自分の決断に自信をもつのだ。
自分の決断は誤りではないと言い聞かせ、それを絶対のものとして意識する。

賽は投げられた。
投げたのは自分。
故に、後悔はない。
一つ深呼吸し、マニーは気持ちを切り替えた。

¥・∀・¥「ラヘッジ・ストームブリンガー」

「はっ」

今度の呼びかけに対して、ラヘッジは先ほどまでのような砕けた態度ではなく、船長としての威厳を身に纏ってまっすぐにマニーの目を見た。
今ここにいるのは、一人の船長と市長。
指示をする者とされる者の関係だ。

¥・∀・¥「嵐を抜けるまでにかかる最短時間は?」

「後二時間もあれば抜けてみせます。
ただし、蓄電池を半分使うので、嵐を抜け出たところでエンジンを切ります。
航海の日数が長引きますがよろしいですか?」

¥・∀・¥「その間、乗客に払う金なら気にするな。
      ジュスティアの警察に連絡をして、事件の早期解決を図ることにした。
      海軍を投入してくれるそうだ。
      逆に、船が止まるほうが好都合なんだ」

「了解しました。
では、フルスロットルで嵐より脱し、停船します。
ああそれと、市長」

325 名も無きAAのようです :2014/02/11(火) 20:21:49 ID:1gkL/Ud60
机上から制帽を取って被り、ラヘッジは意味ありげな笑みを浮かべる。

¥・∀・¥「なんだ?」

「船内に音楽が足りませんな」

¥・∀・¥「君の権限で、相応しい曲を流してくれ。
      頼んだよ、ラヘッジ」

ラヘッジは完璧な敬礼をして、部屋を出て行った。
後に一人残されたマニーは、机の中から拳銃を取り出し、久しぶりの銃把の感触を味わった。
これを使う時はそう遠くないかもしれないと思うと、指先が少し震えた。
殺されるかもしれないと云う恐怖は、確かに彼にもあった。

間もなく、スピーカーから女性の歌声が小さく聞こえてきた。
若い頃からマニーがファンの歌手だった。
友人の心遣いに感謝しつつ、マニーは次の放送の準備を始めた。
マイクの前で軽く咳払いをしてから、スイッチを入れる。

¥・∀・¥「お待たせいたしました。
      これより、ハザードレベル5について説明をさせていただきます。
      これは従来、外的、もしくは内的な脅威によってシージャックが行われる、もしくは行われた際に発令されるものです。
      先ほど起こった警備員詰め所の襲撃を受けて、私は市長として、このハザードレベル5を発令いたしました」

声は震えていない。
しかし、胸が震えていた。
緊張など、らしくない。
自分は傲慢で自分勝手な、厭味ったらしい金持ちなのだ。

それを演じることぐらい、訳無い事だ。

¥・∀・¥「皆様のいる部屋の扉は、お手元にあるカードキー以外では開けられません。
      マスターキーの権限も先ほど無効化致しました。
      皆様の安全を害する人間が外部から侵入する経路を断つことが目的です。
      しかし、皆様が外出する権限もまた、同時に無効化致しました。

      ブロックごとに、ドアが開閉する時間を設定し、こちらの権限でそれを実行いたします。
      他ブロックへの移動は一切、何があろうとも出来ません」

素早くブロックを封鎖したのは、シージャック犯を閉じ込めることと、安全を確保する二つの目的がある。
危険を五つに分断して対処する、それこそが各ブロック封鎖の意図だ。
部屋の封鎖の件も同様だ。
シージャック犯がマスターキーを手に入れた場合を考え、部屋を開けられる人間を限定するのだ。

各自が独立した安全な領域にいることが、シージャックに対抗する絶対的な手段と考えた結果だった。
そうしてから、侵入者、不審者に対処するために要所に武装した人間が配置して、驚異の除去を行うのである。
彼らにはアサルトライフルだけでなく、この世界で最も強力な兵器である棺桶を使用させる。
使われる棺桶は二種類。

326 名も無きAAのようです :2014/02/11(火) 20:22:32 ID:1gkL/Ud60
ジョン・ドゥ、そしてソルダット。
どちらも傑作機の名に相応しい性能を有するもので、使用者を限定しないよう、音声認識システムがオフにされている。
つまり、キーコードさえ知っていれば誰でも使用が可能なのだ。
しかし。

これだけでは、足りない。
シージャックに対して抵抗するためには、もう一か所、武装しなければならない部分があるのだ。

¥・∀・¥「これより、第一ブロックから順に皆様からお預かりした武器、棺桶を返却いたします。
      オアシズは絶対安全とは言えぬ状況下になった為、皆様の命は皆様の手で守っていただきたく思います。
      残念ですが、武器のレンタルは行っておりません。
      また、同じタイミングで皆様に三食分の食事をお渡しさせていただきます」

武器の返却。
本来、武器を回収していたのはシージャックを避けるためだったが、起こってしまった以上、それは無効となる。
シージャック犯にしてみれば、預かった武器類は宝の山になる。
宝の山が犯人の手で汚れる前に、持ち主の手に返し、本来の目的を果たしてもらう方が遥かにマシだし、警備員のいない場所での迎撃も可能となる。

力が世界を変える時代。
ならば、武器が世界を変えるのも当然。

¥・∀・¥「……最後に。
      これは市長として、また、一人の男としての言葉として聞いて下さい。
      全ての責任は、この私、リッチー・マニーにあります。
      恨み、怒り、悲しみ、その矛先は全てこの私に向けてください」

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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Reasoning!!編
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                               ,.-‐ ニ   _,. -‐'´
                               /   '' 、`丶、
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              __,. -―  ´ / / /       /` _ノ第六章【resolution-決断-】

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327 名も無きAAのようです :2014/02/11(火) 20:23:26 ID:1gkL/Ud60
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                ‥…━━ August 5th PM13:50 ━━…‥
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リッチー・マニーと云う人物を過小評価していた。
もう少し用心深く、もう少し繊細な人間だと思っていた。
だが違った。
考えていたよりも大胆な人間だったのだ。

探偵を使ってちまちま探す作戦を潔く諦め、最終手段とも言えるレベル5の発令に踏み切った。
これでは余計な警戒心を与えるだけでなく、デレシア達と接触する機会を失ってしまう。
ブーンを始末したところまでは良かったが、ここに来て予想外の展開だ。
次の計画までの時間がそうないことを知っている身としては、どうにかしなければならない。

マスターキーが使用できないことは大きい。
どうにかして、デレシアとヒートを始末するのだ。
と、なると。
最早こちらの美意識やらは置いておき、猛毒と云う原始的な方法で攻めるしかない。

懐に隠し持つ毒のアンプルセットを使い、二人を毒殺する方法を考える。
一つは全ての食事に直接混入させる方法。
もう一つは、食器の一部に毒を塗る方法。
最後は、傷口から毒を体内に侵入させる方法だ。

どれを選んでもいいが、兎に角、近づかないことには殺しようがない。
苛立ちばかりが蓄積される。
計画をスムーズに進行させるのに必要な行動を考えつくために、一度、深呼吸をした。
探偵、警察、警備員を欺いてデレシア達の部屋に接近するには、どうすればいいか。

必要なのは権限だと一瞬で辿り着いた。
権限さえあれば、二人の部屋に近づける。
そこに運ばれる料理に毒を盛れば、直接会わずに殺害が可能だ。
これで行動計画に目処がついた。

二人がいるのは第三ブロック十八階。
対してこちらがいるのは第二ブロック七階。
第二ブロックで有効な権限は、向こうでは使えない。
ならば、人目につかずに第三ブロックに侵入し、目的を果たす方法を考えればいいのだ。

――いや、違う。

328 名も無きAAのようです :2014/02/11(火) 20:24:17 ID:1gkL/Ud60
前例のない事態なのだから、その方法が失敗する可能性もある。
調べる必要があるのは、食事の提供方法からだ。
武器の返却に立ち会えないのはいいとしても、食事がどのようにして提供されるかがまだ分かっていない。
マニュアルには船側から食事が振る舞われるとあるが、それが手作りなのか、それとも既製品なのかが定かではない。

三食まとめて渡すということは、手作りの可能性は限りなく低い。
既成品だとしたら缶詰かもしれないし、パック詰めされた弁当形式かもしれない。
マニーは必要な場面で用心深さを発揮するに違いない。
犯人が船にいる以上、安全が保証されている食事を出すはずだ。

となると、加工のしにくい缶詰が理想的。
船の中にあるスーパーマーケットや食料品を取り扱っている店から持ってくるかもしれないし、非常食として常備している物が出されるかもしれない。
腹立たしいが、マニーの判断は英断と評価するに値する。
ジュスティアの海軍が介入する前に舞台を整える必要が有るため、残された時間は十二時間ほどだろうか。

チャンスは一度だけ。
何も毒にこだわらなくても別の方法もあるが、確実性が欲しいのだ。
探偵達よりも聡明な二人を確実に殺す、確かな方法が。
焦らずに方法を考え、答えを出せばいい。

二人を屠れる方法を模索しながら、その人物は職務にあたっていた。

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  ___
  l |l l
  l |l l
  l |l レ'""`、
 └t'´   l l
   l    l l_..._
   r'"二ニつL /
   ', V'" ̄二つ
   ヽ/ /  ノ〉
    L / / /
                ‥…━━ August 5th PM15:20 ━━…‥
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第三ブロック長ノリハ・サークルコンマは一階にあるブロック長室の書斎で、オイルライターの蓋を開いては閉じて、考え事に耽っていた。
犯人と目される第一ブロック長、ノレベルト・シューの目的をひたすらに考えていたのだ。
何故ハワード・ブリュッケンを惨殺し、警備員詰め所を襲い、その様子を流したのか。
よくある復讐が理由ではないだろうと、ノリハは考える。

復讐なら、事態が大きくなる前に片付けているだろう。
わざわざ映像を流す必要はどこにもないはずだ。
目的は映像を流し、その先にあるものだろう。
混沌を愛する迷惑極まりない思想犯か、それとも別の目的を持った人間なのか。

ノリハはノレベルトとは仲がよく、彼女がこんな下らないことに時間を割く人物だとはとても考えられなかった。
最後に会った時、彼女はいつもと変わらない様子だったが、少しだけ浮ついていたような気もする。
慣れない化粧までしていたから、当時の様子をよく覚えていた。
異性に会うような、そんな感じだ。

329 名も無きAAのようです :2014/02/11(火) 20:25:50 ID:1gkL/Ud60
だが探偵としての生活が長すぎて、混乱と恐怖を愛する人間と化した可能性はゼロではない。
そう考え始めると、可能性は次から次へと溢れ出た。
可能性に思考を制限されることほど愚かなことはない。
頭を振って、湧き上がる可能性を一度消した。

ブロック長として、ノリハはこの事件解決の補助をする義務があった。
リーダーとは、率先して困難に挑むもの。
困難とは、考えて挑むもの。

ノリパ .゚)「……むむ」

とは言っても、ヒントは無いに等しい。
限りなくゼロに近い数字から、一を出さなければならないと思うと、それは最早彼女の技量を超えていた。
犯人の思惑よりもまず考えなければならないのは、犯人の居場所だ。
これ以上の被害者を増やさないためにも、今も船の何処かにいる犯人を捕らえなければと云う思いが彼女を苛んだ。

折角、マニーが整えてくれた舞台なのだから、それを活用しない手はない。
第三ブロックとしての方針は決まっている。
極力危険から遠ざかった位置で静観し、機会を伺って介入する。
では、他のブロックはどうだろうか。

犯人の特定と捕獲を急ぐブロックがあるとしたら、間違いなく第一ブロックだ。
最重要人物として今も負われているノレベルト・シューが統治していたブロックだけに、彼女の部下たちはプレッシャーに感じているはずだ。
襲われた“三銃士”は、犯人の顔を見て生きている数少ない人間だが、その顔が変装したものだと考えると、証言の力は弱い。
確かにノレベルトは変装が得意だが、戦闘技術に関しては中の中、といったぐらいのはずだ。

射撃と肉弾戦を駆使した戦い方は探偵試験では必要とされていないし、ノレベルトは体を使うのは苦手だとよく言っていた。
それを考えると、らしくない襲い方だった。
彼女が犯人ではない可能性も確かにあるが、彼女でなければ、一体、誰が犯人なのだろうか。
そうして時間が経つのを待っていると、机上に設置された無線機から、第二ブロック長オットー・リロースミスの声が聞こえた。

£°ゞ°)『お待たせしました、第二ブロック配給・返却完了しました』

ノリパ .゚)「ご苦労さまです。 これより第三ブロックも作業を開始します」

ジャケットを正して、席を立つ。
今は可能な限り乗客に顔を見せて、安心させることに努めることが彼女の義務だと考えを改めたのだった。

330 名も無きAAのようです :2014/02/11(火) 20:26:30 ID:1gkL/Ud60
だが探偵としての生活が長すぎて、混乱と恐怖を愛する人間と化した可能性はゼロではない。
そう考え始めると、可能性は次から次へと溢れ出た。
可能性に思考を制限されることほど愚かなことはない。
頭を振って、湧き上がる可能性を一度消した。

ブロック長として、ノリハはこの事件解決の補助をする義務があった。
リーダーとは、率先して困難に挑むもの。
困難とは、考えて挑むもの。

ノリパ .゚)「……むむ」

とは言っても、ヒントは無いに等しい。
限りなくゼロに近い数字から、一を出さなければならないと思うと、それは最早彼女の技量を超えていた。
犯人の思惑よりもまず考えなければならないのは、犯人の居場所だ。
これ以上の被害者を増やさないためにも、今も船の何処かにいる犯人を捕らえなければと云う思いが彼女を苛んだ。

折角、マニーが整えてくれた舞台なのだから、それを活用しない手はない。
第三ブロックとしての方針は決まっている。
極力危険から遠ざかった位置で静観し、機会を伺って介入する。
では、他のブロックはどうだろうか。

犯人の特定と捕獲を急ぐブロックがあるとしたら、間違いなく第一ブロックだ。
最重要人物として今も負われているノレベルト・シューが統治していたブロックだけに、彼女の部下たちはプレッシャーに感じているはずだ。
襲われた“三銃士”は、犯人の顔を見て生きている数少ない人間だが、その顔が変装したものだと考えると、証言の力は弱い。
確かにノレベルトは変装が得意だが、戦闘技術に関しては中の中、といったぐらいのはずだ。

射撃と肉弾戦を駆使した戦い方は探偵試験では必要とされていないし、ノレベルトは体を使うのは苦手だとよく言っていた。
それを考えると、らしくない襲い方だった。
彼女が犯人ではない可能性も確かにあるが、彼女でなければ、一体、誰が犯人なのだろうか。
そうして時間が経つのを待っていると、机上に設置された無線機から、第二ブロック長オットー・リロースミスの声が聞こえた。

£°ゞ°)『お待たせしました、第二ブロック配給・返却完了しました』

ノリパ .゚)「ご苦労さまです。 これより第三ブロックも作業を開始します」

ジャケットを正して、席を立つ。
今は可能な限り乗客に顔を見せて、安心させることに努めることが彼女の義務だと考えを改めたのだった。

331 名も無きAAのようです :2014/02/11(火) 20:27:49 ID:1gkL/Ud60
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. /       .:..:..:.:|  ‥…━━ August 5th PM16:46 ━━…‥
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

一人の女性が、ベッドで苦しそうに寝返りを打った。
丹念に鍛え上げられ、贅肉を削いで引き絞られた健康的な肉付きの四肢。
古傷の上に真新しい傷を重ねた色白の肌には汗が滲み、毛並みのいい赤茶色の髪は湿って乱れていた。
整った顔は苦痛に歪み、泣き喚くように嗚咽を上げながらうなされていた。

ヒート・オロラ・レッドウィングは悪夢で目を覚ました。
全身が汗で濡れ、顔は涙でべたついていた。
最低の目覚めだった。
最悪の気分だった。

汗で額に張り付いた髪を後ろに流し、そのまま頭を押さえる。
腫れぼったい目をこすり、まだ残っている涙を拭い取る。
いつの間にか着せられていた寝間着は汗で濡れ、肌に張り付いていた。
膝にはタオルケットが一枚だけかけられていた。

ノハ;゚⊿゚)「……くそっ」

救えなかった過去。
変えられなかった現実。
それを思い知らされる夢だった。
ここ最近は見ることはなかったが、どうしてまた見たのか、ヒートには心当たりがあった。

また救えなかったからだ。
実行犯には逃げられ、一矢報いることも出来なかった憤り。
しかも、今回は手が出せた状況で救えなかった。
守ると決めたのに、それを果たせなかった。

ブーンが海に投げ捨てられた直後、ヒートは海に飛び込もうとした。
だが、デレシアがそれを止めた。
肩に痣が残るほど強い力で。
嵐の中でもはっきりと聞き取れる声で。

ζ(゚−゚ ζ『自殺したいなら、別の機会に一人でしなさい』

332 名も無きAAのようです :2014/02/11(火) 20:28:39 ID:1gkL/Ud60
そしてヒートの視界はブラックアウトし、今に至るというわけだ。
おそらく、デレシアがヒートを気絶させてここまで運んだのだろう。
そうでなければ、ヒートは確実に海に飛び込んでいた。
そして溺れ死んでいただろう。

どのようにして気絶させられたかは分からないが、痛みは残っていなかった。

ζ(゚ー゚*ζ「起きた?」

傍でリンゴの皮を剥いていたデレシアが、そう声をかけてきた。
うなされる様子を見られていたのが、少しだけ恥ずかしく感じた。

ノハ;゚⊿゚)「……あぁ」

ζ(゚ー゚*ζ「リンゴ、食べる?」

蜜のたっぷりと入ったリンゴが皿に綺麗に盛られている。
ブーンの好きな種類のリンゴだ。
彼は硬く、噛み応えのある食べ物が好きだった。

ノパ⊿゚)「もらうよ」

一口で食べられる大きさに切られたそれを食べ、思考を冷やす。
リンゴは甘く、よく冷えていた。

ζ(゚ー゚*ζ「さて、ブーンちゃんのことだけど」

ノパ⊿゚)「……おう」

覚悟を決め、二人はブーンの話を始めた。
復讐の話を。

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   |.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: l:.:.:.:.:.:|.:.: /L_..|: : : : | |.:.:.:| .:..:.:.:.:.:.:.:./ |.:.:.:.:/ ヽ.:|.:.:.:.:.:.
   |.:.:.:.:.:.:.:.:|.:.:.:.:.:.:.:.:. |.:.:/ | `丁ニー-ミ、.|_..:.:.:.:.:..: /、,,|_/-‐一 ニ  ̄
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                ‥…━━ August 5th PM16:57 ━━…‥
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

話が終わり、ヒートは改めてデレシアの恐ろしさを知った。
用意周到さ、聡明さ、そして容赦のなさ。
何が今の彼女を形作り、彼女を育て上げたのか。
彼女がどのような人生を送ってきたのか、ヒートには想像も出来ない。

333 名も無きAAのようです :2014/02/11(火) 20:29:29 ID:1gkL/Ud60
時折見せる仕草は十代の少女のそれだし、碧眼の奥でちらつく深遠な雰囲気は老いた獣のそれに近い。
戦闘能力は人間離れしていて、警察の執行部や凄腕の殺し屋が束になっても勝てないことを如実に語っている。
銃の使い方はもちろんだが、肉弾戦も達人の域にある。
二十代半ばにしか見えない彼女の容姿の中に詰まった謎は、深海よりも深淵に近い。

デレシアによって犯人が明らかにされた時、ヒートはその推理力に感服した。
そして犯人が判明したからこそ、悟られずに進める復讐の計画が必要だった。

ζ(゚ー゚*ζ「今後の方針としては、さっき話した通りよ」

ノパ⊿゚)「りょーかい。 で、あたしが寝てる間に何があったんだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「はい、これ」

そう言って渡されたのは薄いマニュアルだった。
きちんと付箋が張られていて、ヒートはそのページを見た。
ハザードレベル5の項目に蛍光ペンで線が引かれている。

ノパ⊿゚)「……へぇ、市長もやるねぇ」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね。 先代の市長よりも優秀よ」

その時、訪問者を告げるベルが鳴った。
ヒートは咄嗟に自分の銃を探した。
布団の中を探すが、銃がない。

ζ(゚ー゚*ζ「枕の下」

ノパ⊿゚)「ありがとよ」

枕の下に手をやると、触り慣れた柔らかい皮の感触。
タオルケットを胸元まで引き寄せ、ホルスターに入った二挺の銃をその下に隠す。
カーキ色のローブを着たデレシアが玄関に向かい、インターホンに出た。

ζ(゚ー゚*ζ「オアシズの職員の方?」

返ってきたのは、女性の声だった。

「はい、お食事とお預かりした棺桶を返却に」

デレシアは扉を開き、職員を出迎えた。
食事の乗った網棚と青色のコンテナを牽引する電気自動車の前に、ベッドから窓に反射した姿を見る限りで三人。
スーツとアサルトライフルの男。
同じ装備と服装をして、仮面を被った人物。

そして、第三ブロック長ノリハ・サークルコンマだった。

ノリパ .゚)「このたびは本当にご迷惑をお掛けして……」

334 名も無きAAのようです :2014/02/11(火) 20:30:16 ID:1gkL/Ud60
多忙だろうに、客の前に出てきて謝罪をするとは何とも殊勝な心がけだ。
流石に、ブロック長として任命されただけあって、責任感と覚悟がある人物の様だ。

ζ(゚ー゚*ζ「ご苦労さまです。 お気になさらないでください、やった人間が悪いだけのことですから」

ノリパ .゚)「こちら、本日の昼食、夕食、明日の朝食の合計三食分となります。
     飲み物については、冷蔵庫の中に入っている物を無料でお飲みいただけます。
     どうしても足りない場合は、大変申し訳ありませんが水道水で我慢して下さい」

三人分の食事が入った大きなクーラーボックスを受取り、それを足元に置く。
仮面の男がコンテナから、黒塗りの運搬用コンテナを運び出し、コンテナの下部に内蔵された車輪を使って部屋の前に持ってきた。
ヒートの使用するAクラスの棺桶“レオン”だ。

ノリパ .゚)「確かにお返しいたします」

ζ(゚ー゚*ζ「確かに受け取ったわ」

ノリパ .゚)「それと、こちら。
     第一ブロックのお客様からお預かりしてきました。
     黒髪の、若い女性の方からです。
     もし心当たりがないのでしたら、こちらで保管いたしますが」

ペーパーバックサイズの封筒だ。
中身は手紙だろうか。

ζ(゚ー゚*ζ「あら、わざわざありがとう。
      受け取らせていただくわ。
      あぁ、そうだ。
      マニーさんにこう伝えておいてもらえるかしら?

      “マカロニ四本食いの癖はもう直ったのか?”って」

ノリパ .゚)「はぁ、かしこまりました」

棺桶とクーラーボックスを室内に入れたデレシアは、改めてノリハ達に一礼して、扉を閉めた。
オートロックが作動し、デレシアがチェーンを掛ける音が聞こえた。

ζ(゚ー゚*ζ「ヒートちゃん、棺桶返ってきたわよ」

ノパ⊿゚)「おう。 ところで、四本食いって何の話だ?」

ζ(゚ー゚*ζ「マニーは昔、マカロニが料理に出るとフォークの先っちょに、四本突き刺して食べていたの。
      だから四本食い」

ノハ;゚⊿゚)「……やっぱ、あれか、知り合いなのか?」

ここまで来たらもう驚かない。
デレシアの交友関係は老若男女を問わず幅広い。
となれば、オアシズの現市長と知り合いでもなんら疑問はないのである。

335 名も無きAAのようです :2014/02/11(火) 20:32:01 ID:1gkL/Ud60
ζ(゚ー゚*ζ「まぁね。 ただ、あの言葉がマニーの耳に入れば私達の計画が動かせるわ。
      いつまでもやられっぱなしじゃ、性に合わないもの」

ヒートは改めて、デレシアの恐ろしさを認識したのであった。

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           .ヘ  /       ヘ /   \
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                ‥…━━ August 5th PM21:01 ━━…‥
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正義の都、ジュスティアは依然として嵐の中にあったが、その勢力は弱まっていた。
嵐が最も勢力を増した時でさえ、海軍の持つ格納庫中に収められた船を動かすことは出来なかった。
P26と書かれた格納庫にある、最新鋭の高速戦闘艇“マリンシェパード”五隻の船の前に整列する海上用戦闘服に身を包んだ男四十二名は皆、沈黙を守っている。
そしてそんな男達の前に立つ男、カーリー・ホプキンス少佐が彼らの指揮官だ。

肩から袖に走る赤と白のラインは、指揮官用の戦闘服の証拠。
それは敵の注意を上官に集中させるための工夫だ。
ジュスティア軍人は死を恐れない代わりに、仲間の死を恐れる。
戦場で最初に死ぬのは最も優しい人間である、と云う言葉を掲げる軍ならではの工夫と言える。

「諸君、これより状況を開始する」

上官の声に男達は敬礼で返し、無言の内に船に乗り込む。
電気で駆動する船のエンジン音は静かで、五隻集まっても外の音よりも静かだった。
しかし、それよりも静かに動く男達よりも、更に静かな男が一人いた。
ホプキンスは最前の船に乗り、操舵室の下にある船室にいる先客に一言声をかけた。

「刑事さん、もう引けませんよ?」

船室で腕を組んで毛布に包まっていた男は顔を向け、上機嫌そうに返答する。
この男こそ、格納庫内で最も静かな男。
トラギコ・マウンテンライトである。

(=゚д゚)「誰が気遣ってくれって言ったラギ?
    あぁそれと、キッチン借りてるラギよ」

この戦闘艇の船室は思いのほか広めに作られている。
壁と天井は防弾に優れた軽量合金製。
床は柔らかな素材で作られ、簡易キッチンにトイレ、作り付けの二段ベッドが四つある。
十人の使用を前提に作られただけあり、広さは申し分ない。

トラギコの乗る船には彼とホプキンスを含めて九人の海兵がいた。

「お好きにどうぞ。 ただ、しばらくの間は揺れますよ」

336 名も無きAAのようです :2014/02/11(火) 20:33:34 ID:1gkL/Ud60
(=゚д゚)「お湯がありゃあ十分ラギ」

船が発進する前に、トラギコはヤカンに水を注いで電子コンロに乗せてスイッチを入れていた。
荒波にもまれる中で沸騰させれば、船内はシュールな地獄絵図と化す。
トラギコが船内に持ち込んだのは、五百ミリリットルの液体を入れることの出来る魔法瓶が一つ。
銀色のアタッシュケース――携帯に特化した強化外骨格――の二つだった。

後の物は身に付けており、船に置くことはしなかった。
嵐でどこかに行っては事だからだ。
湯を沸かすトラギコに、黒い目出し帽を被った兵士が問う。

(::0::0::)「何を作るんですか?」

(=゚д゚)「あ? 興味あるのか?」

(::0::0::)「えぇ」

(=゚д゚)「味噌汁って知ってるか?」

彼の言葉に首を傾げた男は、近くにいた仲間を見る。
しかし首を横に振るだけだ。
同じようにして男達で奇妙なリレーが行われるも、結局、誰も首を縦に振らなかった。
驚くべきことに、ホプキンスも知らなかった。

ここにはジュスティア料理が美味いと信じている舌の狂った奴しかいないのだと考えると、頭痛がしてきた。

(;=゚д゚)「……じゃあ、少しだけ分けてやるよ。
    お湯が沸くまで待つラギ」

情けない話だ。
だからジュスティアは嫌いなのだ。
外部の事件に関わる中で一番の恩恵は、やはり食事なのだと実感させられる。
週に一度は酢と塩味以外の料理を味わう機会を義務化すべきだと、本気で思う。

船が静かに動き出した。
前方の様子は船室からでは分からない。
音と揺れ。
この二つを頼りに現状を推測するしかない。

先頭を行く船が大きく持ち上がり、そして下がった。
波だ。
となると、格納庫の扉が開いたのだろう。
徐々に船が進む感覚を得て、トラギコは嵐の中に船が飛び出したのだと理解した。

心配事は沈没よりも湯が飛び散らないか、という点にあった。
幸い、湯気はすぐに上がってくれたので、それは杞憂に終わった。
コンロのスイッチを切り、湯を魔法瓶に注ぐ。
必要な分の湯しか沸かさなかったから、余って二次災害を呼ぶこともない。

337 名も無きAAのようです :2014/02/11(火) 20:34:51 ID:1gkL/Ud60
ヤカンを元あった場所に戻し、トラギコは魔法瓶に蓋をする。
そして、何度が上下に振って中をよく混ぜる。

(::0::0::)「何をしているんで?」

(=゚д゚)「ジュスティア人には一生分からんことラギ」

後は小腹が空くのを待つだけだ。
船の揺れがひどくなる前に、トラギコは魔法瓶を抱えて毛布に包まり、ベッドの一段目に寝転んで背を向けた。
起きていても得られる情報はたかが知れている。
瞼を降ろし、トラギコは誰とは特定せずに質問をした。

(=-д-)「おー、到着予定は?」

(::0::0::)「三時間後を予定しています」

(=-д-)「あいよ」

(::::0::0::)「……寝るのか?」

先ほどまで会話していたのとは別の人間だ。
随分と若い声だ。
どことなく中性的な声をしている。
ジュスティアの人手不足もここまで深刻化したと考えるべきか、それとも、ジュスティアの若い人間もかなり優秀になったと考えるべきなのか。

判断に困る。

(=-д-)「なんだ? 一緒に寝るラギか?」

(::::0::0::)「そうしよう。 誰も邪魔するなよ」

有無を言わせず、その若者はトラギコと同じベッドに入ってきた。
トラギコの包まっていた毛布に無理矢理手足を侵入させ、手足を密着させて来る。

(;= д ) ゚ ゚「フォッ?!」

驚いて変な声が出る。
偶然乗り合わせた同性愛者が周囲に構わず襲ってくるなど、人生の可能性に入れていなかった。
が、背中に感じた感触を認識して状況認識を改める。
こいつは、女だ。

ホプキンスの嫌がらせだろう。
こんな手を使って意趣返しをしてくるとは、ジュスティア軍人もつまらない物になり下がったものだ。
ここでトラギコが動揺してはじき返そうものなら、それを見て笑いの種にするつもりだろう。
そうはいかない。

こちらは伊達に幾つもの修羅場を潜ってはいない。
追いすがる美女はいなかったし、結婚を迫る女もいなかったが、女性経験はゼロではない。
この程度で動揺を見せては、後で恥になる。
黙殺を決め込み、トラギコは一時間の仮眠を取ることにした。

338 名も無きAAのようです :2014/02/11(火) 20:35:36 ID:1gkL/Ud60
だが、決して油断だけはしないように努めた。
例えばその手が懐の拳銃に伸びたり。
例えばその手が魔法瓶に伸びたり。
例えば、その手が“あの鍵”に伸びたりしない様。

トラギコは瞼を降ろしてはいたが、眠りには落ちなかった。

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    ./ /./ `゚´ | // トi―イ! // {ミリソ} / ./
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                ‥…━━ August 5th PM21:57 ━━…‥
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突然差し入れられた箱には、銀紙に包まれた楕円形のチョコレートと共に小さな手紙が入っていた。
手紙には、この状況下でも落ち着いて行動していこう、と云う旨が書かれている。
チョコレートを摂取して気を休めろ、と云うことなのだろう。
どこの誰だか知らないが、ありがたくそれを食べることにした。

ただ食べるだけでは味気がないので、紅茶を淹れる準備を始めた。
ポットに茶葉を三杯入れ、沸騰したミネラルウォーターを注ぐ。
直ぐに赤茶色が染み出るが、まだまだだ。
蓋をしたポットを放置し、カップに湯を入れ、しばし待つ。

後は風呂に入っている相方を待つばかり。
何の気なしに窓の外に目をやると、穏やかな水面に浮かぶ半月が目に入った。
船は無事に嵐を抜け出たのだ。
これで、状況は前よりも遥かに良くなった。

嵐の中では、逃げようにも逃げられない。
事態の好転は望ましいことだった。
風呂の扉が開いた音がした。
どうやら、風呂から出てきたようだ。

湯冷めをしない内に夜の茶会と洒落込もう。
カップの湯を捨てて、そこに紅茶を注ぐ。
二人分の紅茶をテーブルに乗せて、その中央にもらったチョコレートを置いた。
見てくれは悪いが、まぁ、いいだろう。

寝巻き姿の相方が向かい側に座り、船旅の安全を願って乾杯をした。
紅茶を一口啜ると、腹の底から安堵の息が漏れる。
続いて、銀紙を剥いてチョコレートを一口で口の中に入れる。
ほろ苦い風味が気分を――

339 名も無きAAのようです :2014/02/11(火) 20:36:51 ID:1gkL/Ud60
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               {三三三三三三三カ
           Y⌒,ー=======孑ヘ、
          八_/          _j_}
          /¨/三三三三三三三爿
            / ,仁三三三三三三三カ
.           / /|三三三三三三三三{|
                ‥…━━ August 5th PM22:15 ━━…‥
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乗り合わせた海兵たちの会話から有益な情報は何一つ、手に入らなかった。
少しは話すのかと思えば、会話一つない有様だ。
背中に張り付いた海兵を引き剥がし、トラギコ・マウンテンライトはベッドから出る。
この一時間弱で波に揺られることに体が慣れたおかげで、船酔いにはならなそうだ。

壁に背を付けて、トラギコは魔法瓶の蓋を開けた。
温かい蒸気と共に、味噌のいい香りが立ち上る。
その香りに気付いたのか、隣にいた男が興味深そうに中を覗き込む。

(=゚д゚)「美味そうだろ?」

(::0::0::)「本当に美味しそうな匂いですね。
     これは何の匂いなんですか?」

(=゚д゚)「へっへー、これが味噌って調味料の匂いラギ」

船室で休んでいた男達が、ぞろぞろとトラギコの周りに集まってくる。
皆口々にこの香りを絶賛している。
いい傾向だ。
塩と酢以外の味が世界にあることを教えてやらなければ。

(=゚д゚)「ま、飲んでみろラギ」

この魔法瓶の蓋は、カップにもなる。
そこに揺れで零れ落ちない量を注ぎ、隣の男に手渡した。
男はマスクを鼻までめくり上げ、息で冷ましながら一口飲む。

(::0::0::)「……すずっあぁぁ……ぁふぅっ……」

感想を口にせずとも、何と感じたのかはその声だけで分かった。
二口目を飲み、三口目を飲もうとする男の手から、別の男が奪って飲む。
後ろからのそりと起き上った例の少女も同じようにして味噌汁の列に加わった。
そして次々に味噌汁が飲まれ、トラギコが注いだ分は船室にいた人間だけで無くなった。

操舵室にいるホプキンスともう一人の海兵には後で持っていくだけの余裕がなさそうだったので、トラギコはキッチンの戸棚から紙コップを拝借し、そこに注いだ。
今回の味噌汁はインスタントの味噌汁を使ったため、非常に質素だ。
薄く小さな豆腐が少々と平べったい万能ネギ、それとワカメ。
しかしトラギコの一工夫によって、乾燥ワカメが増量され、厚く切った歯応えのあるネギがたっぷりと入っていた。

340 名も無きAAのようです :2014/02/11(火) 20:37:56 ID:1gkL/Ud60
数ある味噌汁の具の中で、トラギコはネギが好きだ。
最も簡単で、そして最も歯応えがあって健康にいいからである。
後は油揚げが入っていれば文句はないのだが、生憎、ジュスティアのスーパーマーケットでは品切れだった。
インスタント味噌汁が置いてある店舗は一店だけという恐るべき状況を、トラギコは知っていた。

夜の九時に嵐の中オアシズを追って出発したとして、追いつくにはどれだけ早くとも四時間は必要だ。
そうすると、船内で小腹が空くのは予想できる。
ジュスティア軍人がよもや夜食を用意してくれるなど期待しておらず、トラギコは自主的に用意することにしたのだった。
水筒に袋二つ分のインスタント味噌汁を入れておき、そこに刻んだネギを入れておくだけ完成だ。

(=゚д゚)っ凵「これ、上に持って行ってほしいラギ」

(::0::0::)「了解」

少しだけ乗車賃のつもりで具を多めに注いでやり、それを操舵室に持って行かせた。
トラギコの元に戻ってきた蓋に味噌汁を注ぎ、早速一口飲む。
寝起きの口、喉、胃袋にじわりと広がりながら下って行く熟成された塩味と独特の風味。
舌の上に感じる小さなネギの存在と、鼻から抜けていく汁に染み出た具材と味噌の芳醇な香り。

もう一口啜る。
大きなネギが幾つか口の中に入った。
甘口の味噌がネギによく合う。
シャキシャキとした噛み応えのそれを堪能しながら汁を啜り、汁を吸ったネギの風味と辛みと若干の甘みを楽しむ。

具の袋を豆腐にしたのも正解だった。
小さいがこれも汁をよく吸い込んで良い食感になる。
勿論、増量したワカメも忘れてはならない。
絶妙な塩味を付け加えるだけでなく汁全体に豊かな香りを付け足す存在だ。

一息つき、トラギコは水筒を回した。
水筒の壁面に張り付いていたワカメが剥がれ、具が汁の中心に寄る。
そこをすかさず啜る。
大量の具が一度に口に収まり、贅沢な食べ応えに舌鼓を打つ。

味噌汁のいいところは夏場で失われがちな塩分を取れる点と、疲れた体を癒す点にある。
働く男には何ともありがたい料理なのだ。
残った汁を飲み干そうとした時、物欲しげな目で見る海兵がいた。
先ほどの少女だ。

(::::0::0::)「なぁ」

(=゚д゚)「あん?」

(::::0::0::)「それ、もっとくれないか?
      実は晩飯を食べ損ねてさ」

(=゚д゚)「……海兵なのに、か?」

341 名も無きAAのようです :2014/02/11(火) 20:39:13 ID:1gkL/Ud60
妙だ。
海兵と云うよりも軍には食堂がある。
オートミールなど食欲を減退させるラインナップで兵士からは不評だが、基地内で訓練後や出動前に食事が出来る場所はそこしかない。
こいつは出動前にもかかわらず、食堂に行かなかったと言っているのだ。

いつまた食べられるか分からない職をしている自覚がないのか。
それを認識させてやるために、トラギコはわざと聞こえるように鼻で笑って味噌汁を飲むことにした。

(=゚д゚)「あああ!! うめぇ」

(::::0::0::)「……くっ」

マスクの下から悔しそうな声が聞こえた。
いい気味だ。
からかい甲斐のある反応だった。

(=゚д゚)「いいか若造、覚えとけ。
    俺らみたいな職業はな、いつ食えなくなるか分からねぇラギ。
    だから、食える時に食わなかった手前がいけねぇラギ」

(::::0::0::)「知ってる」

(=゚д゚)「なら、今がその時だってのも分かるラギか?」

(::::0::0::)「分かってる。 分かった上での頼みだ。
      正直言うと、空腹なわけじゃないんだ。
      世辞抜きに、あんたの味噌汁は美味い。
      だからもっと飲みたいんだ」

ジュスティア人にしては珍しく正直だ。
総じて矜持の高い彼らは、自分達の料理以外をあまり受け入れないし認めない。
正直は良いことだ。
裏を読んだりする面倒を省いてくれる。

(=゚д゚)「そらどうも。 だけど俺はシェフじゃないラギ。
    ……次からは手前で作れ。
    そんなに難しい料理じゃねぇラギ」

ずい、と水筒を差し出す。

(=゚д゚)「フォークを使って食うといいラギ。
    そうすりゃ、ネギもワカメも残さないで済む」

342 名も無きAAのようです :2014/02/11(火) 20:40:49 ID:1gkL/Ud60
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      i                ノ、__
      !              r'´ヽ `':,
      /              l !__i |   ',
     ノ               i   .i, ,  ヽ
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  <,. -─‐-- 、,,   ,. --─- 、,/    !     i
                ‥…━━ August 6th AM00:37 ━━…‥
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リッチー・マニーは提出された報告書を見て、サインをするために手にした十五年間使用してきた万年筆を折ってしまった。
愛着ある一本だったが、今はその感傷に浸るどころではない。
新たに若い女性二人が犠牲となった。
それも、毒殺だ。

¥;・∀・¥「どういう事だ、これは?」

声は怒りに震えている。
探偵は、警備員は、そこまで無能なのか。
自分が過大評価しているだけで、その実、張子の虎以下なのだろうか。

¥;・∀・¥「説明してくれ、第三ブロック長ノリハ・サークルコンマ。
       君の考えが私によく伝わるようにだ」

ノリハ;゚ .゚)「はっ、そこの部屋の食事には異常ありませんでした。
     ですが、検出された毒物は我々の提供外の食事、チョコレートに含まれていました」

¥;・∀・¥「チョコ?」

確かに、報告書にはそのように記されている。
チョコレートの表面に塗られたヒ素が死に直結していると書かれているが、こちらではチョコレートの提供などしていない。
提供した食事は安全性第一に考えて選ばれ、毒が混入されればすぐにでも分かる仕組みだ。
それを逸脱した食品が提供された理由とは。

ノリハ;゚ .゚)「はい、そちらの部屋に届けてほしいと頼まれまして」

¥#・∀・¥「この緊急事態に、よくもそんな願いを聞けたもんだ!!」

流石のマニーも、その緊張感の無さに呆れかえり、そして激怒した。
ノリハ・サークルコンマはこんな無能だったのか。
食品以外ならまだしも、食品を渡すとは危機感がなさすぎる。

ノリハ;゚ .゚)「それが……」

¥・∀・¥「……なんだ」

ノリパ .゚)「警備員に頼まれたのです、警備中の」

343 名も無きAAのようです :2014/02/11(火) 20:42:28 ID:1gkL/Ud60
¥;・∀・¥「警備員……だと……?」

客同士なら愚か極まりない判断だが、警備員が頼むとなると、話がこじれる。
その警備員が特定の客に対して毒を持ったと云う事になる。
ならば、計画性のある殺人だ。
この状況で殺人をする人間となると、どう考えても、一連の事件を起こした犯人に結び付く。

こちらの懐の奥深くに潜りこまれている。
背筋に寒気が走った。

ノリハ;゚ .゚)「はい。 第二ブロック七階にいたソルフェージュ・ランブランという男が、第二ブロック長の依頼で受け取った、と言って……
     カードも所持していて、スキャンしたら実在の人物であることも分かりましたので……」

マニーはすぐに視線を隣のオットー・リロースミスに向ける。
作業中に誤って負傷したという右手には、真新しい包帯が巻かれている。
彼は微塵の動揺も見せず、首を横に振った。

£°ゞ°)「全く存じません。
      ……そもそも、そのような男、警備員の中に本当にいるのですか?
      データを改ざんしたとか」

¥・∀・¥「“ホビット”、報告しろ」

仮面をつけたままの探偵長“ホビット”は、小さな体をより一層小さく萎縮させた。
哀れだとは思わない。
マニーはこの男にそれなりの報酬を払っているのだ。
オアシズで起こった事件を何一つとして解決していないこの男の処遇を、今ここで決めても何ら問題ではない。

(<・>L<・>)「はっ、そのソルフェージュ・ランブランという男、確かにおります。
       ですが事件後、トイレに行くと言って姿を消しており――」

¥・∀・¥「捜索中、と」

(<・>L<・>)「情けない話ですが。
       しかし、これで犯人が第三ブロックにいることが分かりました」

¥・∀・¥「……情けないを通り越して糞くらえだ」

マニーはこれ以上、ホビットの顔を見たくなかった。
秘匿性を保つための仮面が、道化のそれにしか見えないのだ。
この男にかかれば左耳に付けたインカムでさえ、ただのアクセサリー以下の価値しかもたない。
書類に目を落としはするが、それを読むだけの気力が今はない。

(<・>L<・>)「……いくつか、ご報告があります」

¥・∀・¥「あ?」

(<・>L<・>)「まずはたった今入った情報です。
       消えた銃弾が発見され、線条痕の検査もできました」

344 名も無きAAのようです :2014/02/11(火) 20:43:11 ID:1gkL/Ud60
¥・∀・¥「誰の銃だったんだ?」

(<・>L<・>)「第一ブロック長、ノレベルト・シューの銃から発射された物であると断定しました」

やはり、としか言えない。
それだけに、その答えが出たところでマニーは感動も関心もしなかった。
そんなちっぽけな事を追う暇があるのだと、思わず表情に出して呆れたぐらいだ。

(<・>L<・>)「続いて、水中作業用強化外骨格が一機盗まれていることが分かりました。
       種類はBクラスの“ディープ・ブルー”。
       タイミングから考えると、犯人が逃亡用に奪取したと思われます」

¥・∀・¥「保管場所は?」

(<・>L<・>)「襲撃された詰所です。
       ロッカー室と武器庫の鍵が開錠されていました。
       残されていた入室履歴を見ると、部屋への侵入と武器庫の開錠にはサイタマ兄弟のカードが使用されています。
       ただ、奇妙な点が」

苛立ちを表に出さないように努め、マニーは続きを待った。

(<・>L<・>)「一度、武器庫とロッカー室は施錠されています。 もちろん、サイタマ兄弟のカードで。
       ですがその後、もう一度開けられた履歴がありました。
       その際の開錠にはカードが使われておらず、開いた、と云う履歴だけが残されていたのです」

¥・∀・¥「つまり、要約すると?」

(<・>L<・>)「襲撃犯とは別の人間が、事件後にあの場にいた可能性が非常に高いのです。
       単独犯ではないと――」

そこで、マニーの堪忍袋の緒が切れた。
今、目の前で述べたことは推理ですらない。
この男は報告しただけだ。
進展も望めない情報を口にしただけ。

手の中で砕けた万年筆をホビットの仮面に投げつけた。

¥#・∀・¥「それがどうした!? だからどうした!?
       貴様は探偵だろう!!
       少しは頭を使って、この事件をどうにかしようとは思わないのか!?
       盗まれた物云々よりも、犯人の居場所と目的を考えられないのか!?

       警備員の中に紛れている犯人を捜そうとはしないのか!?」

(<・>L<・>)「現在、優秀な探偵が全力で捜査に当たっています。
       今しばらくお待ちください」

¥#・∀・¥「お前が言うんだ、さぞかし優秀なんだろうな。
       期待しすぎて心臓発作を起こしそうだよまったく!!
       全員さっさと持ち場に戻れ!!」

345 名も無きAAのようです :2014/02/11(火) 20:43:41 ID:DFRLEcIUC
おお、来てる!

支援

346 名も無きAAのようです :2014/02/11(火) 20:43:55 ID:1gkL/Ud60
手を振って報告に集まった人間とブロック長を持ち場に帰す。
このまま彼らといたら、冗談でなくストレスで心臓がどうにかなりそうだ。
激昂するマニーの前に、残った者が一人いた。
第二ブロック長のノリハだ。

¥#・∀・¥「なんだ?」

ノリパ .゚)「……お客様からご伝言です。
     “マカロニ四本食いの癖は直ったのか”、と」

その言葉に、マニーは一瞬怒りを忘れた。
ラヘッジですら知らない、マニーの過去。
幼少期によく叱られた四本食いの癖の事を知っているのは、父と母、そしてある人物だけだ。

¥;・∀・¥「いいか、よく思い出して答えてくれ。
       その客は、どんな人だった?」

ノリパ .゚)「とても綺麗な金髪の女性でしたが」

間違いない。
マニーの知る人物の特徴と一致している。

¥;・∀・¥「その人はどこにいる?」

ただならぬ雰囲気に、ノリハは少し気圧されながらも答えた。

ノリパ .゚)「事件のあった第三ブロック801号室の隣、802号室です」

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  {::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/ ハ,'iヽ
`ヽ ゝ:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/   y::,'::/
::::::/:ヽ::::::::::::::::::::::::::; _______::::::::::::::::ヽ___/:::レ′
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                ‥…━━ August 6th AM00:58 ━━…‥
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その人物は痛む右手を押さえ、部屋に向かって歩いていた。
負傷したのが右手で幸いだった。
周囲には事故でと説明したが、誤魔化せなくなるのも時間の問題だろう。
現場に居合わせた者の口をいつまでも塞げるとは思えない。

全ては自分の油断が招いた結果だった。
大丈夫だろうと思い上がり、警戒をおろそかにした結果がこれだ。
彼はどうにかして、この問題を解決しなければならなかった。
これは自分の責任だ。

(,,゚,_ア゚)「お疲れ様です、具合はいかがですか?」

347 名も無きAAのようです :2014/02/11(火) 20:45:00 ID:1gkL/Ud60
道中、知り合いが声をかけてきた。
考え事が顔に出ないように努め、返事をする。

「少し痛むが、大丈夫だ。
利き手じゃなくてよかったよ」

(,,゚,_ア゚)「何かお手伝いできることがあれば、何でも――」

「じゃあ、今君が受けている指示を全力で果たしてくれ。
それが、一番の手伝いだよ」

それは本音だ。
彼らが全力で職務に当たってくれれば、それだけこちらの負担が減る。
負担が減った分、密かに動くだけの時間が得られる。
その後、道々で警戒している部下達に軽く労いの言葉をかけつつ、部屋に戻った。

部屋の扉を閉め、チェーンを掛け、飲料用冷蔵庫に足を向けた。
飲み物が詰まった冷蔵庫からよく冷えたコーラの瓶を取出し、歯で蓋を開ける。
刺激の強い液体を一気に飲み干し、気分をリフレッシュさせる。
夜は明け、嵐を抜けはしたがまだ状況は悪いままだ。

ここから状況を一変させるには、相手の出方と思惑を理解しておく必要がある。
眠気を抑えきれずに、瞼を降ろす。
人差し指と親指で鼻の付け根を押さえ、疲労が目に来ていることを自覚した。
それを誤魔化すために、新たなコーラを取り出して一口飲む。

キッチンに瓶を置き、冷凍庫から袋に入ったミートソーススパゲッティを電子レンジに入れ、温める。
食事をする時間があれば、もっとまともな物を食べたかった。
冷凍食品は総じて不味くもなければ美味くもないのだ。
電子レンジが低い唸りをあげる中、スーツを脱いでハンガーにかけ、ホルスターを机の上に置く。

服装には気を遣わなければならない。
どれだけ忙しくても、スーツの皺は心の皺だと云う考えが彼の中にある以上、それを蔑ろには出来ないのだ。
下着一枚になり、凝り固まった体を伸ばす。
右手の傷が痛む。

この傷を負わせた者に相応の報いを与えることを誓う。


£#°ゞ°)「……許さんぞ、絶対に!!」


第三ブロック長オットー・リロースミスはそう口にして、左拳で壁を殴りつけたのだった。


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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Reasoning!!編 第六章 了
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348 名も無きAAのようです :2014/02/11(火) 20:46:45 ID:1gkL/Ud60
これにて第六章は終了となります。
支援ありがとうございました。

質問、指摘、感想などあれば幸いです。











































※現在作成中のゲームのイメージとなります。
もしよろしければご覧ください。
ttp://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1480.jpg

349 名も無きAAのようです :2014/02/11(火) 21:37:30 ID:hYH9FeTkC
昨日のVIPのやつの再投下だと思ってたら、VIPで19:00からやってたのね

350 名も無きAAのようです :2014/02/12(水) 00:46:03 ID:EHL1CFagO
デレシアさん無双、期待してます

351 名も無きAAのようです :2014/02/12(水) 09:26:39 ID:KDMuJ5WkC
乙!

ブーンどうなった?

352 名も無きAAのようです :2014/02/13(木) 03:43:37 ID:1rYal672O
第二章一話目の女教師とノリハのAAが被ってる

353 名も無きAAのようです :2014/02/15(土) 19:11:12 ID:gXHG1F2I0


ブーンの耳は垂れてるのか 何故か猫みたいなのを想像していた

354 名も無きAAのようです :2014/03/01(土) 23:47:35 ID:0W69t5vI0
明日3/2日曜日にVIPでお会いしましょう!

355 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 19:36:26 ID:Dz5RW/cY0
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Words to words. Voice to voice.
言葉と言葉。 声と声。

Eye to eye. Hand to hand. Skin to skin.
目と目。 手と手。 肌と肌。

Heart to heart.
心と心。

How can I convey my passionate feeling to my darling?
私の熱い想いを如何にして、最愛の貴方に伝えられるのだろうか?

                                     Cynthia・Penisus・Claudia
                                     シンシア・P・クラウディア

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┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻

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            _/⌒ ̄⌒`´ ̄`〜ヽ'ー--、
           _/      ιυっ ̄~つyへつ
         /    フっιつ人´ / /つυ^っへ  っっ
       /   /つつ。o/ / / /  ^つっへυっつ
      _/     〉o°o。   。 / /  /°>つっっっつっっ
     /      \γ、。 o 。 /o。/ /つっっつっつ
__/           `⌒ヽっ/ 。/  / っつ) っつっつ
=/     っっ       τ-っつつっ、。|    つ  っつつつ
                 ‥…━━ August 5th AM11:35 ━━…‥
  つつっιつ) ⌒つっ)   っつっつ。 °|  °           o 。
  っつっo °。 υつ っ つっυ。o。°| ° °           °。
 っ\\っoっ。  °° つ。°°。o。o。\o。° 。°°。
  つっつ _o°°。 ° ° 。o/⌒\。 o\°°o  。
 )へ)つ\///`ー、_ ° °。_/    \°。\。 。°°
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荒れ狂う海。
嵐にかき回され、海底深くに沈殿していた泥が舞い上がり、晴天時には黒に近い群青色をしていた海は、今や墨汁の色になっていた。
一度落ちれば決して助からないことが、一目で理解できる色合い。
その海に浮き沈みする一人の少年がいた。

彼には犬の耳があり、尻尾があった。
彼の名は、ブーンと言う。
ファーストネームでも、ファミリーネームでもない、ただのブーン。
恩人に貰った名前を、彼はとても大切に思っていた。

(;∪´ω`)「げっ、げほ……」

356 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 19:37:09 ID:Dz5RW/cY0
鼻から入った海水を吐き出し、一度息を吸っては、直ぐに海中に姿を消してしまう。
彼の視線の遥か先には巨大な船があった。
世界最大の豪華客船にして船上都市であるオアシズ。
そこから放り出された彼は、波に頭を掴んで海に引きずり込まれても尚諦めず、ひたすらに同じ行動を繰り返していた。

即ち、生きるための行動だ。
大粒の雨で霞む視界の先に見える小さくか細くなりつつある明かりを頼りに、彼は船を目指していた。
海面がどれだけ荒れていても、海中ではそれほど大きな揺れはない。
海岸近くや浅瀬でもない限り、海面よりも海中の方が安全だ。

そのことにブーンが気付いたのは、感動するほどの高波に飲まれた時だ。
暗い海中では体が左右に揺さぶられる程度の影響しかなく、波に殴られるよりも遥かに楽だったのである。
ヒート・オロラ・レッドウィングに泳ぎを教わり、デレシアに水を習ったおかげでこの状況でも苦も無く泳ぐことが出来た。
濁った海中で目を開けることは流石に難しく、天候の影響もあり海中から目標を目視することは不可能だった。

そこで酸素を取り入れることと目標の方角を確認するために、海面に顔を出していたのだ。
しかし、船はみるみる遠ざかるばかりで、到達は絶望的だった。
だが。
だがそれでも彼は泳いだ。

無理を承知でブーンは泳ぎ、抗っていた。
心が折れそうになる度に、これまでに出会った人の声が聞こえてきた。
女性も、男性も、本人の口から聞いたことのない言葉を喋るのだ。
代わる代わる、ブーンの耳元で、脳の奥で、何度も同じような言葉が木霊する。

――諦めるな、と。

その言葉が幻聴であることは分かっている。
そんなことは、知っている。
諦めたらそこで何もかもが終わることも承知している。
だからブーンは抗っているのだ。

水は怖くなかった。
溺れて死ぬことは嫌ではなかった。
怖いのは諦める事だった。
嫌なのは諦めて死ぬことだった。

(;∪´ω`)「ぷはっ……!!」

不意に、何かの気配を感じた。
何か、静かな気配が近づいてきている。
それは、前方の海中から感じ取れた。
一定の距離を保ち、こちらの動向を観察しているような、その気配。

海中から、何かがこちらを見ている。
恐ろしいという思いもあったが、それで怖気づくわけにもいかなかった。
息を吸い込んで海中に潜り、腕を動かし、足を動かして泳ぐ。
が、突如として体が一気に力を失った。

357 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 19:38:18 ID:Dz5RW/cY0
四肢の付け根から力が染み出したかのように抜け落ち、言うことを聞かない。
全力で泳ぎ続けたことによる影響と体が冷えていることが原因だと、その時になって気が付いた。
浮上するだけの体力もなく、成す術もない。
軽いパニックに陥り、ブーンは残り少ない酸素を全て吐き出してしまう。

最後の力を振り絞って吐き出した言葉は泡となって、海に溶けて消えた。

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|  |  | |::::::::::::::::::::::::::::::::::‥…━━ August 6th AM01:07 ━━…‥
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厳戒態勢のオアシズ内は寝静まり、極めて小さな音量で流されるクラシック音楽が優雅さを演出している。
普段なら夜通し営業している居酒屋も、この時ばかりはシャッターを下ろさざるを得ない。
特に警備が厳重になっているのは、第三ブロックだった。
他のブロックの警備を行っていた人間を密かに移動させ、そこにいるとされている犯人の捜索を行っているためだ。

トイレ、排気口、人が隠れられる空間を虱潰しに探し、警備員同士の検査も同時に行われていた。
犯人の最有力候補であるノレベルト・シューは変装の達人にして、元探偵。
一連の犯行と逃亡手段が全て誰かに化けて行われていることから、まずは身内を疑うことになった。
変装を見抜くためにカードと顔の確認が行われ、第三ブロックで捜査に当たる全員が間違いなく本人であることが証明されている。

五分前、第三ブロックにオアシズ市長リッチー・マニーが足を踏み入れていた。
だが、彼は決して人目に付かないように気を付けていた。
第三ブロック長、ノリハ・サークルコンマに協力してもらい、返却予定の衣装ダンスの中に隠れて移動していた。
無事に目的の部屋まで運ばせ、そこでノリハと別れた。

部屋の主が荷物の封を切り、マニーに声をかけてきた。
それを合図に荷物から出て、その人物の顔を見るや否や、マニーは頭を垂れ、敬意を表した。
三十年以上の時を経ても、増すのは老いではなく美ばかり。
豪奢な金髪を持つ旅人、デレシアはそんな彼を静かに見つめている。

¥・∀・¥「お久しぶりです、デレシアさん」

ζ(゚ー゚*ζ「久しぶりね、マニー」

彼女が放つ慈母の様な雰囲気に、思わず屈してしまいそうになる。
だが今の彼には立場がある。
今の彼には目的がある。
マニーは再会の感動に浸るのを堪え、訪問の意図を明らかにした。

¥・∀・¥「現在、犯人はこのブロックに閉じ込めているそうです。
      ですが、一体誰が犯人なのか、皆目見当も付かなくて……」

358 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 19:39:38 ID:Dz5RW/cY0
ζ(゚、゚*ζ「私の方で見当は付いているけど、確たる証拠がまだないのよ。
      それに、目的が分かっていない以上、迂闊な手出しは身を亡ぼすわ。
      先手を打たなければこの相手、潰せないわよ」

流石はデレシアだ。
限られた情報をこの短時間で分析し、もう犯人の目星をつけている。
彼女の助けになるようにと持ってきた資料を、マニーは衣装ダンスから取り出す。
厚さにして一インチ。

彼女の存在を聞いてから急いで纏めたものだ。
全ての細かな情報も洩れなく書き記し、事件解決の手がかりになればと思って作ったのである。
クリップで挟んであるのは、現場や証拠品、全関係者の写真だ。

¥・∀・¥「こちら側で手に入れている情報を書類に纏めてきました。
      何かの役に立ててください」

ζ(゚ー゚*ζ「……私に、事件をどうにかしてほしいの?」

マニーは頷いた。
その通りだった。
正直、探偵達は信用できない。
警備員も、警察も、だ。

糞の山の中から銃弾一発を見つけただけで喜ぶ輩が、この事件の全体像を見ることなど出来るはずがない。
そして、信頼できるのは船長のラヘッジ・ストームブリンガーだけだ。
しかし彼には事件を解決に導く技量はない。
だがデレシアなら。

デレシアなら、その両方をどうにか出来るだけの力がある。

¥・∀・¥「この船の探偵も警備員も、このままでは事件を解決出来るとは思えません。
      ジュスティアの警察も呼びましたが、彼らにもどうにもできないでしょう……
      この船の乗客を守るためなら、私は土下座でもなんでもします。
      デレシアさん、どうかご協力をお願いいたします」

マニーは深々と頭を下げた。
正直に言うと、万策尽きたのだ。
犯人が投じた事件で生じた波紋はあまりにも大きく、それは船と云う小さな街を滅茶苦茶にした。
最早、誰かに頼るしかなかった。

デレシアは沈黙したが、彼女の息遣いに続いて紙を捲る音が静かに聞こえる。
一分もしない内に、その音が止んだ。

ζ(゚、゚*ζ「……なら、まずやることがあるわ」

デレシアの声が、頭上から響いた。
顔を上げて、彼女の表情を窺う。

¥・∀・¥「とは?」

359 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 19:40:29 ID:Dz5RW/cY0
ζ(゚ー゚*ζ「警察が到着してから、ハザードレベル5を限定的に解除する準備よ」

耳を疑った。
折角全乗客の安全を確保したと思ったら、それを解除しろと言う。
デレシアの真意を聞こうと身を乗り出したところで、デレシアが人差し指を立ててそれを彼女の唇に当てた。
慌てて、開きかけた口を閉じる。

黙れ、と云う意味だ。

ζ(゚ー゚*ζ「限定的、と言ったでしょう?
      解除するのはこのブロックだけの話」

¥;・∀・¥「ですが、どうしてこのブロックだけを解除するのですか?
      それと教えていただきたいのですが、探偵長“ホビット”は、犯人は第三ブロックにいる、と言っていました。
      しかし、犯人は第二ブロックにいたことが確認されているのですから……」

その点は、マニーが不思議に思っていたところだ。
探偵長の“ホビット”は、犯人が第三ブロックにいる、と言っていた。
第二ブロックにいた犯人がどうして第三ブロックで、と疑問に感じていたのだ。
今は彼の指示で第三ブロックには探偵と警備員が集まっているが、マニーは未だにその意味が分からないでいる。

彼からは何の説明もなかったが、デレシアはマニーの顔を見て理解してくれたのか、手短に説明してくれた。

ζ(゚ー゚*ζ「殺しをしくじったからよ。
      今回のような犯人は、一度しくじったら絶対に同じ手は使わないわ。
      遠隔地から殺人を画策するよりも、確実に対象を殺すために、このブロックに潜りこむはずよ。
      本来殺そうとした対象は私達だったから、もうここに潜りこんでいると考えるべきでしょう?」

デレシアが注目しているのは犯人の性質だった。
確かに、ここに至るまで犯人は何一つ決定的な証拠を残すことなく来ている。
その犯人がしくじったとなれば、事は重大だ。
犯人が初めて犯した失態なのだ。

緻密に計算されたであろう計画の唯一の綻び。
その修復のために犯人が動くのは、想像するに難くない。
そうなると、あるものが必須となる。
犯人が殺す予定だったのはデレシア達だった、と言い切れる材料だ。

それがなければ、デレシアの言葉はただの都合のいい解釈でしかない。

¥;・∀・¥「デレシアさん達が標的だった、と断言できる理由と云うのは?」

ζ(゚ー゚*ζ「毒殺の前に、私達、犯人に会っているのよ。
      犯人がわざわざ、自分の犯行を見た人間を野放しにすると思う?
      ましてや怪我まで負わされたんじゃ、ねぇ?」

マニーは背筋に氷を突っ込まれた気分がした。
これまでに手にした初めての情報だった。
犯人と遭遇した初めての人物。
それは、目撃情報と言っていい物だ。

360 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 19:41:28 ID:Dz5RW/cY0
¥;・∀・¥「い、一体、何時に?」

ζ(゚ー゚*ζ「警備員詰所の襲撃の際よ。
      次はあそこに来るだろうと予想して向かったら、ビンゴだったってわけ。
      まぁ、ジョン・ドゥとボイスチェンジャーを使っていたから性別は分からないけどね」

それで合点がいった。
ホビットの報告にあった武器庫の件は、デレシアが関係していたのだ。

¥;・∀・¥「デレシアさんでも仕留めそこなったんですか」

ζ(゚、゚*ζ「ま、そうね。 私だって無敵なわけじゃないわよ」

マニーの中で、デレシアの武力は絶対だ。
棺桶持ちの一個師団だろうが大隊だろうが、彼女の前には赤子に等しい。
その彼女の力を前に生き延びる人間がいる事は、驚きとしか言えない。
どのような手を使ったにせよ、後で彼女に殺されることだけは確実だろう。

ζ(゚ー゚*ζ「それに加えて、殺しの手段が今までと違ったことね。
      今までは直接手を下して来たのに、それをしなかった。
      それはね、私が面と向かっての戦闘では確実に殺せない可能性があると判断したからよ。
      ある意味で完璧主義者の犯人だからこそ、連続して同じ方法を取らなかったの。

      私との戦闘で負傷させられたことを考えて、安全な手を選んだのでしょうね。
      それでも失敗したとなると、今まで通り、直接殺しに来ると考えたの。
      でも実際のところは、私の勘が九割五分よ」

¥;・∀・¥「いえ、デレシアさんの勘ならばまず間違いはないはず。
      ですが、どうしてそのことを探偵長が知り得たのでしょうか?
      今の話では、犯人とデレシアさん達が対峙した、という情報を知っていない限りはそこに到達できないはずです」

ζ(゚、゚*ζ「多分だけど、探偵長は犯人が逃げ込む先としてここを推理したのかもしれないわね。
      第二ブロックで姿が見られている以上は、そこにいつまでもいるはずがない。
      だとすれば、これまでの行動を鑑みて、最も混乱が生じている第三ブロックに逃げ込んでいる、って具合にね。
      だから、念押しの意味を込めて警備員を第三ブロックに集めたのね」

デレシアとは違う方法で、あの男は犯人の居場所を突き止めたということだ。
思わず感情的になって罵倒したが、やはり、探偵長をしているだけある。
推理を断言の域にまで持って行った彼の力を、再評価せざるを得ない。
だが、だからこそデレシアの提案で理解できない点がある。

犯人がこのブロックにいるのなら、それこそ、ここを厳重に封鎖すればいい。
それを解除するということは、犯人にとって格好の狩場を作ることになる。
好きに移動して、好きに人と接触できるのだ。
それだけでなく、どこかに逃げるかもしれない。

報告書にある通り、水中作業用の棺桶が一機奪われているのだ。
海に逃げられたら、追い様がない。
然るべき報いを与える事が、市長としての義務だ。

361 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 19:44:32 ID:Dz5RW/cY0
¥・∀・¥「ですが、やはり犯人がいるのであれば、それこそ解除は――」

ζ(゚ー゚*ζ「人の動きが制限されるほど、犯人にとっては有利な状況になるのよ。
       このブロックで人が動くことが、逆に犯人にとって行動を制限することになるの。
       自由ゆえの不自由ってやつよ」

¥・∀・¥「他の乗客への影響を考えると危険では?」

ζ(゚ー゚*ζ「一度失敗した人間はね、臆病になるか大胆になるかなの。
      この事件の犯人は、前者でしょうね。
      これから先、無駄な動きはしないで機会を待つはずよ」

そして、デレシアはにこやかな表情を浮かべてマニーの返事を待った。
この指示に従うか否かで、乗客達の命が大きく左右される。
偽りに満ちた、この忌々しい事件。
その解決に向けた対抗策の指揮を、いや、全権をデレシアに任せるべきなのだろうか。

答えは決まっている。
だからこそ、ここに来たのだ。
彼女の判断を疑ってはいけない。
真実に辿り着きたいのであれば、デレシアに従うべきなのだ。

それは幼少期に実感した事。
自然の摂理の様に当たり前で、当然の事なのだと、幼少期の自分にさえ理解できたことなのである。
嵐を消し去ることが不可能なように。
大地震を止めることが出来ないように。

¥・∀・¥「デレシアさん、どうか、この事件を終わらせていただけませんか?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、いいわ。
       それと、マニー」

¥・∀・¥「はい」

ζ(゚ー゚*ζ「探偵長も気付いているはずだけど、犯人は上層部の情報を知り得る人間よ」

それはつまり、犯人は外部ではなく身内の人間。
マニーに近しい人間が犯人だと云うことを意味していた。

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362 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 19:45:18 ID:Dz5RW/cY0
ブロック長全員が会議室に呼び出され、その場に揃うまでには二十三分の時間を要した。
これはデレシアが予想した範囲内の時間だった。
円卓を囲んで座る五人のブロック長達を前に、マニーはデレシアからの言葉を反芻していた。
彼女からは話し方一つ、仕草一つに至るまで、事細かな指示を受けていた。

その通りにすればどうなるのかも、デレシアは言っていた。
ただ、彼女は計画の詳細を話さなかった。
マニーはただ彼女の指示に従って動くだけで、後は彼女自身の裁量で動くとの事。
それでいい。

仮に犯人がマニーを捕まえて拷問したとしても、情報が漏れることはない。
情報の秘匿性を高めるための手段だ。
だからこちらは、彼女の意志通りに立ち振る舞えばいい。
この船に平穏が戻るのであれば、それでもいい。

¥・∀・¥「よく集まってくれた」

五人は表情一つ変えない。
ここでデレシアに言われたのは、彼らの表情、態度の変化の観察だった。
それによって今の精神状態が分かるそうだ。
ひょっとしたら、この中に犯人がいるかもしれない。

¥・∀・¥「今から四時間後、第三ブロックに全ブロック長は集合してくれ。
      そして、それから五分後の七時五分、第三ブロックのハザードレベル5を解除する」

£;°ゞ°)「し、正気ですか?!」

¥・∀・¥「あぁ、正気だとも。
      では訊くがね、第二ブロック長オットー・リロースミス。
      正気とはなんだ?
      正気なら、この事件は解決できているのではないかね?

      ならば、我々は正気と言えるのか?」

£;°ゞ°)「ですが……」

¥・∀・¥「第三ブロック長ノリハ・サークルコンマ、答えろ。
      君は正気か?」

高圧的。
そして自信に満ち、一片の揺らぎも見せない喋り口調。
それがデレシアに要求された芝居だった。
一歩違えば気の触れた市長だが、上手くいけばカリスマ色を出せるとのことだ。

ノリパ .゚)「はい」

¥・∀・¥「質問よりも先に、話を聞いてもらおうか。
      これより我々オアシズ上層部は、反撃に転じる。
      全警備員、探偵を重装備で再配置。
      棺桶による完全武装を徹底しろ」

363 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 19:46:07 ID:Dz5RW/cY0
W,,゚Д゚W「ですが、どうやって反撃を? 犯人の位置はまだ把握できていないのでしょう?」

¥・∀・¥「方法は機密事項だ。 例え君らであっても、教えられない。
      だが、警備員が完全装備で待ち構えている場において、無謀をやらかす相手ではないことは分かるだろう?」

これ以上の会話はデレシアには指示されていない。
なのでこれ以上、マニーは言葉を発しなかった。
ブロック長達は、この沈黙の裏を読んで行動しないほど無能ではない。
無言で席を立ち、それぞれのブロックに戻る。

予定されている時間に怒る事態に備えて、各々の準備を行うためだ。
彼らが従順で助かった。
誰もいなくなった会議室で、力尽きたように椅子に腰を下ろす。
これで、反撃の手は回り始めた。

後はデレシアに任せるしかない。
無能な市長は、こんな時にも無力だ。
しかし、手は打った。
手を打つための手配はした。

それだけで、十分だ。
これ以上、自分にできることはそうない。
デレシアの思惑を邪魔しないようにするだけだ。

¥・∀・¥「……無力だな、私は」

分かっていたつもりだった。
無能で、無力な市長だと。
しかし無責任で無謀な市長ではない。
それを実感する機会は度々あったが、ここまで強く実感したのは初めてだった。

自信を持つのだ。
根拠のない自信でも。
自分の力でない自信でも。
行動に移し、状況を変えたことに対して自信を持つのだ。

¥つ∀;¥「本当に……私は……」

途方もない脱力感に押し潰されそうだ。
本当に、無力だ。
何をやっても成し遂げられない。
何をするにしても、他者の助けなしでは何もできない。

虚しい。
それがとても虚しい。
それがあまりにも虚しい。
ただ、虚しい。

364 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 19:47:12 ID:Dz5RW/cY0
こうして座っているだけで、何もできない自分が情けない。
金でどうにも出来ないことの一つに、他人の強い思惑がある。
いくら金を積んでも、こればかりはどうにもならない。
どうにかなるのなら、全財産を差し出してもいい。

¥つ∀-¥「だが……」

だが。

¥-∀-¥「だが」

だが!

¥#・∀・¥「だが!!」

だが、デレシアの協力が得られた以上、こちらの戦力は犯人を遥かに上回った。
彼女がいれば、少なくとも武力と知力で敗北はない。
これで迎え撃てる。
これで立ち向かえる。

¥#・∀・¥「次は、こちらの番だ!!」

いざとなれば、高額で購入した“キングシリーズ”の棺桶を使って自ら戦線に立つ覚悟もある。
一方的にやられる時間は終わりを告げた。
無力な市長には牙も爪もないが、反撃が出来ないわけではない。
彼以外の誰かの牙と爪を使えば、返り討ちにも出来るのだ。

今は、力が世界を動かす時代なのだから―――

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                    Ammo→Re!!のようです
                    Ammo for Reasoning!!編
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                 ‥…━━ August 6th AM04:33 ━━…‥

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痛み、苦しみの混濁の中、夢のような物を見ていた気がする。
だがその記憶はもうない。
波に揺られる中、見ていたのはきっと、悲しい夢だったに違いない。
そうでなければ、胸に残るこの痛みは何なのだろうか。

365 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 19:48:10 ID:Dz5RW/cY0
寒気がする。
ひどい寒気だ。
体の芯から冷えて、手足が震えている。
嫌な記憶が蘇る感覚が、ぞわりと足元から這い上がってきた。

見世物小屋での記憶だ。
首輪を嵌められて、鎖でつながれて、外に置き去りにされている自分だ。
ぼろきれ一枚と、ひび割れた皿に乗る腐った食べ物。
あれは、パンだったのかもしれない。

そうして、時間になると鎖を引っ張られてテントの中に連れて行かれた。
好奇の視線と軽蔑の声。
それを全身に受けて感じたのは、言いようのない嫌悪感だった。
それに慣れたのは一週間、だっただろうか。

ある日、大きな図体の男に別の小さなテントに連れて行かれた時のことを覚えている。
見世物小屋の記憶の中で、それが一番の苦痛だった。
鉄の塊が飛んできたり、汚い言葉や蔑む眼差しを向けられたりするなら、まだ耐えられた。
しかし、それにはどうしても耐えられなかったのだ。

初めてその痛みを味わった時のことはよく覚えている。
首輪に繋がった鎖を引かれ、汗臭く、毛むくじゃらの大男にその部屋に連れて行かれた。
ベッドの上に投げ出され、いつもとは違う気配に、身を震わせた。
抵抗は考えなかった。

『大人しくしてな』

頭を黴臭い枕に押し付けられ、視界を奪われた。
そのまま服を脱がされ、空いた手で太腿を触られた。
気色が悪かった。
全身に鳥肌が立った。

その手が尻に伸び、尻尾を掴んだ。
毛が何本か抜けた。
何をされるのか、全く分からなかった。
尻尾を引っ張って尻が持ち上げられ、肛門に少しだけ濡れた指が突っ込まれた。

(∪;ω;)『ひっ?!』

指が上下に動き、奥へ奥へと突き進んできた。
強制的に排泄させられ続けているような、不快な感覚だった。

(∪;ω;)『あっ、あぅぁ?!』

『へへへ、いい声で泣いてくれよ』

指が引き抜かれ、別の何かが押し当てられた。
男の手が頭から退かされた時、ブーンは意図せずして見てしまう。
毛むくじゃらの男の股間に生えた、自分の手首ほどの太さもある陰茎が肛門に突き付けられているのを。

366 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 19:49:26 ID:Dz5RW/cY0
(∪;ω;)『ら、らに……?』

『いいねぇ、その顔!!』

反射的と云うか、本能的にブーンは逃げようとした。
自由な両手で前に這って進むが、鎖を引かれてずるずると戻される。

(∪;ω;)『や、やぁ……』

『よーく味わいな!!』

そして、激痛が走った。

(∪;ω;)『ひぎっ!!』

肛門に陰茎を突っ込まれ、何度も出し入れされた。
腸が裏返るかと思うほど乱暴で、気遣いなど当然なかった。
あまりの痛さに、声を上げて泣いた。
そんな姿を見て一層興奮した男は直腸に体液を出し、汚れた陰茎を無理やり咥えさせられ、舐めさせられた。

その際、喉の奥がどうのとか言っていたような気がする。
それから月に二回は、男に乱暴され、どうすれば早く終わらせられるのかだけを学習し、何も考えないようにした。
兎に角痛く、気持ち悪かったが、その後にはシャワーを浴びることが許された。
時間が過ぎ、心が灰色になるのが感じられたが、次第にそれもなくなった。

心が壊れるのを防ぐために脳が感覚を麻痺させたのだと、今にして思う。
寒さに体を震わせて、雨晒しになって、体調を壊して、そして一年が経って。
どうして自分がここに来たのかの理由も忘れて、日々を過ごした。
やがて、船に乗せられ、オセアンに着いて――

――それから、体が徐々に暖かくなってきた。
何故だろうか。
嗚呼。
そうだ。

オセアンで、デレシアと会ったからだ。
枯れ果てたはずの涙を、知らなかったはずの人の優しさを与えてくれた人。
そして彼女と会った最初の夜、教えてくれた人の温もり。
今感じているのは、それに非常によく似た温もりだった。

冷え切った体が最初にその温もりを感知した時、火傷をするかと錯覚した。
柔らかい感覚が体を包み、温めてくれている。
それは実体のある温かみだった。
流動的な熱を肌と肉の内側に閉じ込めた温かさ。

人の体。
これは、人の素肌から伝わる体温だ。
自分以外の誰かが、自らの体温でブーンの体を温めているのだ。
それに、匂いがする。

367 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 19:50:31 ID:Dz5RW/cY0
甘い匂い。
優しい匂い。
肺に取り込んだ途端に眠気を誘う、安心できる匂い。
知らない誰かの匂いだ。

命の恩人であり、ブーンに全てを与えてくれた人、デレシア。
湾岸都市オセアンで共に旅をすることになった、ヒート・オロラ・レッドウィング。
海上都市ニクラメンで出会った初めての友達、ミセリ・エクスプローラー。
彼女のボディガード、トソン・エディ・バウアー。

初めての先生、ペニサス・ノースフェイス。
彼女の教え子、ギコ・カスケードレンジ。
刑事、トラギコ・マウンテンライト。
船上都市オアシズで友人となった、ロマネスク・オールデン・スモークジャンパー。

美味い餃子を作るシナー・クラークス。
探偵、ショボン・パドローネ。
第二ブロック長、オットー・リロースミス。
その誰でもない。

初めて会う人の匂いだ。
初めてなのに、とても気持ちのいい匂いがする。
優しい匂いだ。
優しくて強い人の匂いだ。

心地いい。
細い指が背中に回され、力強い足がブーンの脚に絡みつく。
躊躇いながらも、その腕の中に納まり、冷えた体が温まるのをただ感じ続ける。
足の指先から、手の指先まで、じわじわと温もりが広がっていく。

体が溶けて、その温もりと一体になる感覚。
穏やかな感覚の海の中を漂う。
それは、ヒートと泳いだ湖を思い出させた。
あの時、湖は冷たかった。

周りは穏やかで、静かで、木々のざわめきが僅かにあるだけ。
その中で湖に漂っていた時、自分と云うものを忘れかけた。
見上げた先には木々に縁取りされた空があって、力を入れなくてもそこにいる事ができた。
さざ波の音に混じって聞こえたヒートの息遣いは、安心感を与えてくれた。

今聞こえるのは、血潮と鼓動、そして知らない人の呼吸音。
嫌な思いも、嫌な過去も、一時とは言えそれを忘れさせてくれる不思議な音。
皮の一部が硬くなった指が背中を擦り、後頭部を撫でる。
この指の感触も、感じる気持ちも、デレシア達にそっくりだ。

抱き寄せられた先に、弾力のある柔らかい肌。
瑞々しく艶やかで滑らかな肌は、触れているだけで気持ちいい。
唇に触れる少し硬い突起物から感じる、若干の甘さと塩気。
それは女性の胸だった。

368 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 19:51:15 ID:Dz5RW/cY0
知らない女性の胸は柔らかく、上質な枕の様だ。
何度か目を覚まそうと思ったが、体は、瞼を開かせようとはしなかった。

「まだ寝ていなさい」

と、聞こえた声。
それは女性の声だった。
ヒートに似た力強い口調だが、力強さが違う。
デレシアの声に秘められた強さを思わせる、静かな強さ。

それが放つ雰囲気はトソン、ペニサス、ギコ、そしてロマネスクに限りなく近い。
言葉の通りに体が従い、瞼は張り付いたかのように動かない。
不思議と警戒心は働いていなかった。

(*∪-ω-)「お……」

「そうだ。 今はそれでいい」

そうしてまた、夢を見る。
黒い空間の夢。
そこには色はなかった。
だから、黒い空間だと思った。

他には何もなかったが、春の陽だまりの様な温もりがあった。
それだけだった。
それだけの夢だった。
それだけで幸せな夢だった。

声が聞こえた。
それは聞き慣れた声だった。

『ブーンちゃん、今すぐに選びなさい』

オセアンで聞いた声だった。
オセアンの地下で聞いた声だった。
生きることを選ぶきっかけとなった声だった。
何もなかった空間に、その声を聞いた時の映像が浮かぶ。

アメリア・ブルックリン・C・マートに羽交い絞めにされ、交渉の材料にされた時。
地下に造られた巨大な空洞。
そこに聳え立つ巨大な棺桶。
確か、ハート・ロッカーの名で呼ばれていた棺桶だ。

巨大なキャタピラに、両椀と両腕の強力な火器。
その武骨な兵器に悠然と立ち向かう、ヒートが駆る禍々しい爪と杭打機を持つ黒い棺桶。
打倒されるヒート。
爆風に巻き込まれてからの記憶がない。

されるがまま、足手纏いになろうとしていた時。
その声が聞こえたことは覚えている。

369 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 19:52:18 ID:Dz5RW/cY0
『何もしないで死ぬか、抗って生きるか』

そして選んだ。
戦って生き延びた。
それを決断させた言葉は、デレシアがくれたものだった。
今があるのはそのおかげだ。

何度も足手纏いになりながらも、デレシア達は見捨てなかった。
失敗を笑顔で許してくれて、だけど、それを正してくれた。
今回もまた、自分のせいで二人に迷惑をかけてしまったことが悔しかった。
確かに抗うことは出来た。

しかし、それだけだった。
自分は海に投げ出され――

(;∪´ω`)そ「お?!」

――自分の状況が異質なものであることをようやく理解した。
デレシアでもヒートでもない誰か。
その誰かの胸に抱かれて温まっているのは、何故か。
依然としてその女性の両手両足はブーンを抱き寄せたまま。

瞼を開くと、そこには女性の白い肌があった。
キメの細かな肌は若い女性特有の物で、小振りな胸に顔が埋まっている状態だった。
今まで気付かなかったが、女性の体温だけでなく、一枚だけかけられたタオルケットもブーンの体を温めていた。
頭を動かして、ほっそりとした体で自分を抱いている人物の顔を見る。

初めて見る女性だった。
鋭い眼光を放つ深紅色の瞳は氷の様に冷ややかで、半月から少しだけ膨らんだような形をした大きな眼。
その目尻は弓なりに弧を描いて垂れ下がり、慈しみの眼差しでブーンを見つめている。
少しだけ波打つ、限りなく黒に近い灰色の髪は短く、艶やかだ。

笑みの形を浮かべる唇は薄らとしたピンク色で、瑞々しく輝いていた。

!ヽ, __ ,/{
リi、゚ー ゚イ`!「寝てていいと言ったのだが……」

そして、女性の頭部には獣の耳がついていた。
先端部が尖った耳は鋼鉄を思わせる濃厚な黒に、僅かな群青色が混ざった短い毛に覆われ、髪の毛とは色合いが若干違う。
犬の耳ではない。
それは写真でしか見たことがないが、狼の耳に間違いなかった。

リi、゚ー ゚イ`!「まぁ、いいだろう。 おはよう、ブーン」

名前を知られている。
何故。

(;∪´ω`)「お、おはようございます」

リi、゚ー ゚イ`!「怖がらなくていい。 私は君に危害を加えるつもりはない」

370 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 19:53:18 ID:Dz5RW/cY0
女性はそう言って、両手足を使ってブーンを再び胸に抱き寄せた。
抵抗すると云う選択肢は頭に浮かばない。

リi、゚ー ゚イ`!「私はロウガ・ウォルフスキン。
       ロウガと呼んでくれればいい」

胸の間からロウガを見上げながら、ブーンはその名を呼んだ。

(∪´ω`)「ロウガさん?」

リi、゚ー ゚イ`!「そうだ」

(∪´ω`)「ロウガさん、きいてもいいですか?」

リi、゚ー ゚イ`!「答えられる範囲でなら」

(∪´ω`)「あの、どうしてぼくはたすかったんですか?」

まずは、その疑問だった。
荒れ狂う海に落ちて、力尽きて、沈んだはずだ。
その状況から偶然助かるなど、有り得るはずがない。
ブーンとて、現実と非現実の区別はつく。

リi、゚ー ゚イ`!「私が、海に落ちた君を助けた。
      主に頼まれたのでね」

(∪´ω`)「あるじ?」

主君。
支配者。
飼い主。
マスター。

ロウガの言う主とは、彼女にとっての何なのだろうか。

リi、゚ー ゚イ`!「そうだ。 我々の王にして恩師、師匠にして父、恩人にして家族。
      それこそが、我らの主だ。
      その主が君を必ず助けろと命じたので、助けさせてもらった。
      悪いが、君が気を失うまで観察していた。

      そうしなければ、私まで巻き込まれかねない状況だったからね」

どうやら難しい関係の様だ。
詳しく話を聞いてもよく分からないだろうと考え、ブーンはとにかく礼を言うことにした。

(∪´ω`)「お……ありがとう、ございました……」

リi、゚ー ゚イ`!「礼には及ばない。 いい運動になった」

371 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 19:54:04 ID:Dz5RW/cY0
海中で感じ取った視線は、ロウガの物だったらしい。
しかし、ブーンに追いつくならまだしも、あの距離から船まで、どうやって追いついたのかが理解できない。
何かしらの方法があったのだろうが、それがどうしても気になった。

(∪´ω`)「どうやって、ふねにおいついたんですか?」

リi、゚ー ゚イ`!「ふふ、気になるか?」

その時、ロウガが浮かべた表情はデレシア達に質問をした時に返ってくるそれに、とてもよく似ていた。

リi、゚ー ゚イ`!「強化外骨格を知っているだろう?
      用途に合わせて様々な種類が開発され、そして現代に復元されている。
      その中には、水中用の棺桶も数多くあり、深海潜水用、水陸両用、水中作業用などが存在する。
      いずれも水中で長時間の作業と優れた機動性を発揮できる。

      私が使ったのは、ディープ・ブルーと云う棺桶だ」

棺桶の種類については少しだけ、デレシアとペニサスから教えてもらったことがある。
一日もいられなかったが、フォレスタで受けた特別授業の一つだ。
特に、デレシアからはペニサス以上の知識を教わった。
棺桶とは、軍用第七世代強化外骨格、開発コード名“カスケット”の事を指し示す俗称。

俗称の由来は運搬用コンテナが棺桶に似ている事などから来ており、それは音声コードの入力によって起動する。
使用者をコンテナ内に収容し、内包された外骨格の装着を速やかに行う。
単一の目的のために設計された唯一無二の棺桶を、“コンセプト・シリーズ”。
宗教団体が開発した物を“レリジョン・シリーズ”、政府と呼ばれる組織が開発した物を“ガバメント・シリーズ”と呼ぶ。

優れた性能を有し、少数だけ製造された棺桶は総じて“名持ち”の棺桶と呼ばれる。
ロウガの言葉で新たに覚えたのは、水中での行動に特化した棺桶が存在するという情報だ。

(∪´ω`)「お……」

助けてくれた人物の名前と、その手段を知った。
他に、自分が知るべき情報を考える。

リi、゚ー ゚イ`!「さて、今君が知るべき情報を教えてあげよう。
      今、このオアシズ内は最高レベルの厳戒態勢、ハザードレベル5となった。
      君が海に落ちた直後にだ。
      最低でも後二時間は、この部屋からできることはできない。

      ブロック間の移動は厳禁、運よくこのブロック内を出歩けたとしても、二時間だけ」

(;∪´ω`)「お」

自力で思いついたこと以上の情報を、全て言われた。
その情報を元に次の思考へと繋げるが、直ぐにロウガに先を言われてしまう。

372 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 19:54:51 ID:Dz5RW/cY0
リi、゚ー ゚イ`!「そしてここは第一ブロックの一階。
      断っておくが、君の部屋まで誰にも見つからずに移動することは無理だ。
      焦ることはない。
      今は出来る範囲で出来ることをすればいい」

(∪´ω`)「できること?」

リi、゚ー ゚イ`!「君は強くなりたいのだろう?
      ならこの時間を使って学べばいい。
      どうする?」

(;∪´ω`)「つよくなるべんきょうしたいですお……
       でも、ぼくあたまよくないから……だれかにおしえてもらわないと……」

リi、゚ー ゚イ`!「大丈夫。
      私が、君に、教えてあげよう」

そして、ブーンの体がふわりと持ち上がった。
タオルケットがベッドの上に落ちる。
ロウガの腰には、耳と同じ毛色をした毛並みのいい狼の尻尾が生えていた。
一糸纏わぬ姿のロウガに抱きかかえられ、ブーンは自然と彼女を見上げる形となる。

リi、゚ー ゚イ`!「まずは、風呂だ。
      その次に食事。
      戦い方はそれからだ」

(;∪´ω`)「じ、じぶんであるけますお」

リi、゚ー ゚イ`!「子供は遠慮をするものではない。
      甘えるのは子供の特権。
      そして、保護者は子供に甘えられる特権があるのだよ」

そう言い切られ、ブーンは風呂場に連れて行かれた。
風呂場からは新しい湯の匂いがする。
脱衣所を通って、二人は浴室へ。
白い浴槽には湯がなみなみと張られている。

風呂椅子と風呂桶が一つずつ、浴槽に立てかけられている。
ロウガは足の指で器用に椅子と桶を摘まんで、それを置き直した。
ブーンを椅子に座らせた後、シャワーからお湯を出してその温度を手で確認している。

(∪´ω`)「あの、じぶんで……」

リi、゚ー ゚イ`!「自分でやるか? なら、力でそうしてみるといい」

勝てる気がしなかった。
実力を見ることなく、それを体験するまでもなく、理解できるからだ。
匂いが違うのだ。
この女性の立ち振る舞いは、デレシアやヒートのそれに近い。

373 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 19:55:40 ID:Dz5RW/cY0
(;∪´ω`)「……おねがいしますお」

リi、^ー ^イ`!「それでいい」

頭の先からシャワーで湯を浴びせられ、体全体を濡らされる。
お湯はちょうどいい温度だった。
頭の先から足の指先までロウガに洗ってもらい、代わりに、ブーンはロウガの頭と背中を洗った。
この行為が互いの距離を縮める一種の儀式だと分かったのは、つい最近の事。

湯船に入ろうとした時、それをロウガが制止した。

リi、゚ー ゚イ`!「一緒に入ろう。 いい音が聴けるから」

そう言われ、再びブーンはロウガに抱き上げられる。
二人揃って湯船に浸かると、湯が勢いよく浴槽から溢れだした。
その音は確かに、いい音だった。
湯の中で解放され、ブーンはロウガの背中にもたれかかる様に姿勢を直された。

(*∪´ω`)「ほー」

リi、゚ー ゚イ`!「ふぅ……
      な? いい音だとは思わないか?」

(*∪´ω`)゛「いいおとですお……」

ロウガの鼓動を背中で、息遣いを首で、優しさを体全体から感じ取った。
疲れた体を癒す様に、湯船に浸かること十五分弱。
すっかり温まったブーンは、ロウガを見た。

リi、゚ー ゚イ`!「それじゃ、そろそろ出ようか」

風呂から上がる際、ロウガはその尻尾だけを左右に勢いよく振り、水を飛ばした。
ブーンもそれを真似したが、ロウガほど勢いよくは水を飛ばせなかった。
壁と床に付着した毛をシャワーで洗い流してから、二人は脱衣所に進んだ。
洗面台の前に積まれていた柔らかく、ふわりとした白いバスタオルで髪を拭かれ、体を拭かれる。

尻尾も念入りに拭かれた。
用意されていた新しい下着と服に着替え、風呂場を出る。

(*∪´ω`)「おー、さっぱりしましたお」

リi、゚ー ゚イ`!「なら、次は食事だ。
      昨夜君達が食べたピザには劣るが、口に合えば幸いだ」

374 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 19:56:25 ID:Dz5RW/cY0
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                                  { {   ツ爪笊ミ从从气ミ, /}
            -‐ ´ ̄ ̄ ̄ ̄`  - 、         ヾ 、 笊从圦从从彡イ//
          ,  ´               `ヽ、     ヽ\,彡'ミ三ニ彡'//
.        /  , -‐===ァ=-、    __      \     \ ̄ ̄ ̄ ̄./
     /    i! : : : : ,'' '; ,,'   ,ィ'´ヾ:ヽ     ヽ      ` ̄ ̄ ̄´
                    Ammo→Re!!のようです
    /     i!: : : : ,' ; ; ;   : : : :   vヘ       ',
.  /     / : : : :,'   ,.': : : : : : : :   ヾヘ       i        / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\
.  ,'     / : : : :,', ;  ,' : : : :  : :   vヘ.      }       /  ,....:.:.:.:.:.:.:.:.:.:...、 ヽ
  i       / : : : :,' , , ,' : : : : : : : : : :  ヾヘ    i        ! /.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.ヽ ',
  {    /, -==-.<   ,'  : :  : :   : : : :   _,}:.i!   ,'    Ammo for Reasoning!!編
  {     ヽ、: : : : , >t'  : : : : : :     , -‐: :´: :ノ  /    第七章【drifter -漂流者-】

                 ‥…━━ August 6th AM05:02 ━━…‥

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

鰯の刺身とガーリックトースト、砂糖がたっぷりと入った紅茶の朝食は、大満足だった。
刺身の鮮度は良く、紅茶は甘くて美味かった。
食後には歯応えのある甘いリンゴが丸ごと一つ出てきて、ブーンは思わず喜んだ。
その食事に毒が混入されている可能性など、微塵も考えなかった。

その後、戦い方を学ぶ前に改めて服を着替えることとなり、ブーンは上下黒のジャージ。
ロウガは髪を後ろで一つに結い、黒のスパッツにタンクトップ姿となった。
着替えを済ませたブーンとロウガは、その部屋に備え付けられた特別な部屋にいた。
天井から釣り下がる二つのサンドバッグに、ロープに囲まれた小さなリングが一つ。

大きな一枚の鏡に、鉄アレイやダンベルが置かれた部屋。
ここはトレーニングルームだと、ロウガから説明を受けた。

リi、゚ー ゚イ`!「さて、これから私が言うことを全て体に覚えさせるんだ」

(∪´ω`)゛

ロウガの後ろに付いて、ブーンは部屋を眺めながらゆっくりと進む。
サンドバッグの前で立ち止まると、ロウガが振り向き右手の指を三本立てた。

リi、゚ー ゚イ`!「戦闘には三種類ある。
      近・中・遠距離だ。
      全ての距離において使用可能な武器は、現代では銃火器に限られる。
      現実的な話をすれば、銃は剣よりも遥かに強い」

その口調はとても早く、難しく聞こえたが、不思議とすんなりと心に染み込んできた。

リi、゚ー ゚イ`!「だが、日常生活において発生する戦闘の割合のほとんどを占めるのは、近距離だ。
      誰よりも早い攻撃こそが、戦闘で優位に立つ秘訣だ。
      先手必勝、と言う。
      近距離に限定して言えば、銃や刃物よりも早い攻撃方法がある」

375 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 19:57:43 ID:Dz5RW/cY0
瞬きする間もなく、ロウガの拳がブーンの左の頬に当てられた。
いや、気付いた時には既に当てられていた後だ。
油断していたと言えばその通りだが、攻撃の気配、予備動作すら気が付かなかった。

リi、゚ー ゚イ`!「それが、これだ」

(∪´ω`)「てあし、ですか?」

リi、゚ー ゚イ`!「そうだ。 拳足、徒手とも言う。
      これを鍛え上げ、練り上げ、洗練すれば、立派な武器になる。
      特に、私達の様な人間が本気で使えば、相手を一撃で殺すことが出来る力を持つ。
      現実問題、常時、武器を手の中に収めている人間――例えば安全装置を外して初弾を薬室に装填し、撃鉄が起こされ銃爪に指がかけられた状態の銃を持つ奴――はそういない。

      それを考えれば、近距離でこれほど理に適った武器はないんだ」

頬から拳が離され、ロウガはサンドバッグに向き合った。
先ほどまでブーンの頬に当てていた拳をサンドバッグに押し当てる。

リi、゚ー ゚イ`!「使い方は様々だ。 例えば、超近距離。
       この距離になると、銃は使えない。
       ナイフも抜くには近すぎる」

ロウガが拳に力を入れたかと思うと、サンドバッグが天井まで跳ね上がった。
踏み込みもなしに見せた芸当。
理屈は、感覚的にだが分かる。
力の入れ方が、ブーンの知るそれとは異なるのだ。

リi、゚ー ゚イ`!「これを腹にお見舞いすれば、内臓を潰すことが出来る。
      いきなり君にこのパンチを繰り出せとは言わないが、将来的にはこれ以上を期待するよ」

(∪´ω`)゛

リi、゚ー ゚イ`!「続いて、蹴り。
      基礎を固めれば、こんな風にできる」

綺麗な半円を描いて放たれた回し蹴り。
その直撃を受けたサンドバッグは、文字通り吹き飛んで壁にぶつかり、床に落ちた。

(;∪´ω`)「えぇぇ……」

その威力が人間離れしている事が一目で分かる蹴りだった。
直撃を受けた人間が即死することは、容易に想像できる蹴りだった。

リi、゚ー ゚イ`!「全ては一歩から始まる。
      踏み出さなければ到達できないのは当然。
      やり始めもしないで無理と口にするのは簡単。
      だが、やり抜くことはそれよりも遥かに難しい。

      君なら、後者を選ぶと私は分かっている」

376 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 19:58:55 ID:Dz5RW/cY0
その通りだった。
頷く代わりに、ブーンは質問をした。

(∪´ω`)「なにをすれば、いいんですか?」

リi、゚ー ゚イ`!「まずは基本だ。 君の様な人間の我武者羅な姿は嫌いではないが、今は時間がない。
      私が見せる通りにやってみなさい」

ロウガは先ほどまでと違い、僅かに左足を動かして重心を移動させた。
重心の移動に伴い、体が沈む。
両腕はまだ拳を作っていない。
どちらの腕が動くのか、まだ分からない。

そして――

(∪´ω`)そ「お?!」

――拳が、一瞬でその場所を変えた。
かのように見えた。
ブーンの動体視力を上回る速度で放たれた拳。

リi、゚ー ゚イ`!「基本はこれだ。
      攻撃を悟らせるようなテレフォンパンチは論外。
      また、型に拘るのも論外だ。
      どのような状況下でも出来る攻撃が、打撃戦では最も好まれる。

      そこのサンドバッグに、今のパンチをしてみなさい」

とりあえずは実践あるのみ。
言われた通り、サンドバッグの前に立つ。
肩から力を抜いて、拳を突き出すイメージをする。
そして、右の拳を撃ち抜くように突き出した。

サンドバッグにめり込んだ初めての拳。
ロウガの様に動きはしなかったが、サンドバッグは確かに揺らいだ。
不格好で貧弱なパンチだった。
腕を組んでそれを見ていたロウガは少し考え、口を開いた。

リi、゚ー ゚イ`!「ふむ…… 打撃に必要な筋力を鍛えながら、基本を体に染みつけようか」

(∪´ω`)゛「わかりました、ロウガさん」

リi、゚ー ゚イ`!「いい返事だ。 だが、そうだな……」

頷いたブーンの眼を真っ直ぐに見つめながら、ロウガは微笑を浮かべて言った。

リi、゚ー ゚イ`!「私のことは、師匠と呼ぶがいい」

377 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 19:59:37 ID:Dz5RW/cY0
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              ,彳ノ::::::川人゙乂::ノ′  `ゞ=イ´//:リ::::::ソヾヽ、
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378 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 20:36:48 ID:7xi15QlEO
主はだれなんだろう、気になるな

379 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 20:59:37 ID:Dz5RW/cY0
オアシズの船長、ラヘッジ・ストームブリンガーは操舵室から見える外の景色に胸をなでおろした。
引き千切られた綿のような形をしている紫色の雲。
雲に覆われた水平線の果てを染める、濃厚なオレンジ色の光。
世界最大の豪華客船オアシズは、無事に嵐を抜け出たのだ。

朝日を見た瞬間、操舵室は安堵のため息で溢れかえった。
流石の船長も、それに参加せざるを得なかった。
船は沈没も難破もせず、ここまで来ることが出来た。
それだけでも上出来だ。

「全エンジン停止、蓄電モードに移行。
ヨセフ、航行設定を波力推進に切り替えろ。
操舵はグスタフ、お前に任せる。
キース、エル、レーダーと無線機に注意しろ。

ジュスティア軍の船影を確認したら、すぐに交信するんだ」

ヨセフ・ガガーリンが無線機を使って、エンジン室に指示を出す。
操舵輪から離れたラヘッジに変わり、グスタフ・スタンフィールドがその場所に着く。
ヘッドセットを装着してレーダーを凝視するキース・バレル、そしてエル・マリンが親指を立てた片腕を上げた。
細かな指示は彼ら自身が考えて下す。

このメンバーだからこそ、あの嵐を切り抜けられた。
経験を積んだ者達でなければ、殺人鬼の策略にはまってまともな判断が出来なくなっていただろう。

「……皆、ご苦労だった。
ディアナ、ここにいる全員に今すぐ、ホットコーヒーを……」

「船長、何年一緒だと思っているんですか?」

380 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 21:00:23 ID:Dz5RW/cY0
白いカップとポットを積んだカートを押しながら、ディアナ・カンジンスキーが操舵室に入ってきた。
流石だ。
きっと、あのポットの中のコーヒーには砂糖がたっぷりと入っているに違いない。
一人一人の席を回って、コーヒーを注いで回る彼女の姿は給仕ではない。

立派な、一人の船員の姿だ。

「さて、後は軍隊の到着を待つだけ、か」

自力で事件解決に協力できれば、どれだけよかったことか。
船長として、船の安全と平和を願うのは当然だ。
そしてそれを他力本願にしたくなかった。
しかし現実問題、彼には優れた推理力も洞察力もなく、事件解決に助力できることは何一つない。

悔しいが、事実だ。
精々彼に出来るのは、こうして船を安全に航行させ、軍を招き入れることぐらいだ。
それを果たしさえすれば、彼は義務を全うした事になる。

「なんだか、スッキリしないな……」

自分の前に置かれたコーヒーの水面を見つめる。
それを掴もうと手を伸ばした時、キースとエルの声が前方から聞こえてきた。
少し油断していたため、カップを倒して中身を全て床に零してしまう。
幸いなことにカップは割れず、誰にも気付かれていない。

「いかんっ……」

381 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 21:03:53 ID:Dz5RW/cY0
嫌な予感がする。
予感とは、微細な情報の蓄積による推理だと、ラヘッジは考えている。
これまでに起こった事件の数々。
船内で感じ取れる微妙な空気の変化。

それらを統合して、ラヘッジはこの後何かが起こるのではないか、と考えた。
予想した。
予期した。
覚悟した。

船長になって以来、一度も使ったことのない腰のベレッタが、急に頼もしく感じられた。
傷の少ない黒いベレッタM92F。
装弾数十七発。
護身用にも戦闘用にも適した自動拳銃。

これを使う機会が、訪れるかもしれない。
ラヘッジは外れてほしい予感を胸に抱きつつ、床に零したコーヒーにハンカチを多い被せた。

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             }二二二二≠´     x≪////≫─ 、
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     ≠    __ .斗r弋え ヘ==彳ゞ'′ 八  V/| {   / ̄≧=‐-}
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382 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 21:07:16 ID:Dz5RW/cY0
潮風は冷たかった。
まだ嵐の余韻が残った海上を漂う香りを肺に取り込み、レインコートの裾を風に棚引かせ、片手で帽子を押さえる男は口の端を吊り上げた。
なるほど、いい匂いだと男は唸った。
足元のスーツケースに染みついた匂いと同じ匂いがする。

これは事件の匂いだ。
トラギコ・マウンテンライトは視線の先に捉えた巨大船舶を前に、胸を高鳴らせた。
同時に、残虐な笑みを浮かべた。
嵐の中の船と云う逃げ場の限定された空間での犯行は、絶対に自分だけは大丈夫だと云う犯人の自信の表れ。

それが気に入らない。
どれだけ念入りな計画だろうと、必ず噛みつける箇所がある。
偽りに満ちた事件だとしても、絶対に糸口はあるのだ。
トラギコはそれを知っている。

少なくとも、今の警察の中では誰よりもそれを知っていると言っても過言ではない。
だからこそ断言できる。
この事件、デレシアの手に手錠をかけるまでのいい暇潰しになるだろう、と。

(::0::0::)「トラギコ・マウンテンライト刑事、乗船準備整いました」

(=゚д゚)「おう。 おいホプキンス、まだ誰も乗船させるな」

同じ船に乗り合わせているカーリー・ホプキンスは、不機嫌そうな顔でトラギコを見た。
それはそうだ。
この隊は、彼の部下達で構成されている。
その指揮を執るのは彼であり、トラギコではない。

383 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 21:11:35 ID:Dz5RW/cY0
それに、彼らから見ればトラギコは余所者だ。
例え同じ街の組織の人間であっても、軍と警察は慣れ合っている訳ではない。
根本的な部分はほとんど同じだが、上司が違えば中身も考え方も違うのだ。
無理を言って乗せてもらったトラギコに指示をされるのは、ホプキンスとしては不愉快の極みだろう。

まして、相手は誇りに対する意識の高い軍人。
この発言をした段階で殴り掛かられてもおかしくはなかった。

「刑事さん、この隊の指揮権は……」

だが、それが何なのであろうか。
トラギコには関係ない。
これは事件であり、事件を解決するのは警察。
そして、今この船にいる警察官は自分だけだ。

揉め事、争いごとの解決には慣れているだろうが、軍人は事件の解決には慣れていない。
事件が起こるとしたら、戦地で起こる程度の糞つまらない略奪だとか、強姦程度だ。
そんなもの、事件の内に入らない。
犯人は決まり切っており、捕まえるのも見つけるのも、判決を下すのもあっという間だ。

それは、事件に関しては素人と同じであることを意味しているのだ。

(=゚д゚)「素人は黙ってな。 事件現場ってのは、ベッドの上の女と同じラギ。
    繊細で、直ぐに機嫌を損ねて最悪の場合は何もかもを滅茶苦茶にして帰るラギ。
    いいか、ここの市長が作った密閉状態を無駄にするもしないも、俺ら次第ラギ。
    まずは状況の詳細な把握を全体で共有してから、船に乗るラギ。

    おいそこの」

384 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 21:15:20 ID:Dz5RW/cY0
(::0::0::)「はっ。 既に全船に無線で通達してあります。
     通達内容は、犯人は銃器を所持し、棺桶を使用。
     また、犯人は変装を得意とし、戦闘経験は豊富。
     現在入っている情報によれば、第三ブロック内にいる可能性が最も濃厚であると伝えてあります」

(=゚д゚)「上出来ラギ。
    俺達が入る場所を一か所に限定するラギ。
    見取り図はあるラギか?」

(::0::0::)「こちらに」

紙に印刷された見取り図を広げ、直ぐに決断を下す。

(=゚д゚)「……第三ブロック一階にある右舷の非常口を使うラギ」

第三ブロック以外から入った場合、船側の作り上げた閉鎖的な空間を台無しにすることになる。
ならば第三ブロックからの乗船が理想的だ。
また、一階から入ることによって船の全体像を思い描ける。

「……そうしましょう」

ホプキンスは苦虫を潰したような顔をしていた。
だが、それはトラギコの言葉が正しいことを理解している何よりの証拠。
彼は馬鹿な指揮官ではない。
感情に流され、無謀な指示をする類の人間ではなかった。

捜査開始前に仲間から死人を出さずに済んだ。
これで彼が矜持に拘る屑の類だったら、迷わずに懐のベレッタM8000が火を噴いて彼の脳味噌を海に撒き散らしていただろう。

385 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 21:19:09 ID:Dz5RW/cY0
(=゚д゚)「お前らの指揮権は、当然、そこのホプキンスが持っているラギ。
    だけどな、事件の指揮権はこの俺の物ラギ。
    そこだけはっきりさせておくラギよ」

念押ししてから、船尾に仁王立ちになったトラギコは操舵室に声をかけた。

(=゚д゚)「行け、右舷ラギ」

ジュスティアから出発した船団を引き連れ、巨大な船に右側からゆっくりと近づいていく。
徐々に巨大な船舶はその大きさを現実的な物へと変え、トラギコは威圧感に興奮を覚える。
何と、何と大きいのだろうか。
糞を閉じ込めるために作られたジュスティアの誇る三重防壁“スリーピース”など、比較にならないほどの威圧感だ。

真横に来ると、視線を真上に向けても視界に収めきれない。
巨大な建築物を見ると、トラギコはどうしても胸が高鳴ってしまう。
それは一種の趣味や趣向に近いものだ。
感動とは違う。

純粋な興奮だ。

(=゚д゚)「……よし、乗船準備が整い次第、無線で連絡を入れるラギ」

操舵室の男に指で指示を出すと、男は頷いて無線機を手にした。
訓練されているだけあって、行動が早くて好感が持てる。

(::0::0::)「刑事殿、一ついいですか?」

隣にいた男が、尋ねてきた。

(::0::0::)「そのアタッシュケースの中身は?」

386 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 21:23:03 ID:Dz5RW/cY0
(=゚д゚)「手前は、デートの度に女のカバンの中身を聞くラギか?」

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その人物は、コーヒーの香りの混じった深い溜息を吐いた。
部屋に戻ることが許され、計画の修正案を考える時間が得られた。
流石に、厳戒態勢で他人の目がある中では、集中力を十分に発揮することは難しい。
簡単に朝食を済ませ、ベッドの上に倒れて考え込んでいた。

あまりいい気分はしなかった。
僅かな油断が、全てを台無しにしてしまったのだ。
定められている時間がある中で、予定通りに舞台を揃えられなかったことは恥だ。
そしてこれは、計画が失敗に至る可能性が生じたことを意味する。

387 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 21:26:57 ID:Dz5RW/cY0
第一に、リッチー・マニーを過小評価していたことが、それに繋がった。
彼に対する評価を改め、残された数少ない時間で場を仕切り直すことが必要だ。
第二に、デレシア一行の力を甘く見ていた。
彼女達は、自分の手に負いきれないかもしれない。

しかし、まだ修正は可能だ。
自分の一声が持つ力が健在な内は、それは夢ではない。
不用意な行動を避けて、必要な行動を――

『乗客の皆様、私はオアシズ船長、リッチー・マニーです』

――マニーの声が、頭上のスピーカーから聞こえてきた。

『お客様に幾つかお知らせがあります。
現在、本船は嵐を抜け、蓄電のために風力のみで航行しております。
ティンカーベルへの到着は、予定よりも大幅に遅れる見込みです。
これにより生じる料金は、当方で全額負担いたします。

船内でのお買い物にかかる料金もまた、同様となります。
詳しくは、お部屋に備え付けられているマニュアルの百六十五ページをご参照ください。
そして、先ほど発令いたしましたハザードレベル5ですが、一部ブロックにて限定的に解除いたします。
それに合わせて、待機していたジュスティア海軍の応援がもう間もなく乗船を開始いたします』

遂に、来た。
世界に散る警察の大元。
正義の執行者を語る、正義の模倣者。
ジュスティア軍の介入は、予定通りの動きだ。

388 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 21:30:13 ID:Dz5RW/cY0
だが、聞き間違いか何かだろうか。
“鉄壁”に匹敵するハザードレベル5の限定解除。
それは、この警備態勢にわざと穴を空ける行為だ。
船に穴が開けばその箇所から浸水するように、その穴は攻め手側にとって恰好の突破口となる。

罠だ。
間違いなく。
マニーと云う男は、ここまで大胆な男だったのか。
この事件を引き起こした犯人に対して挑戦するだけの自信があるのか。

誰かに入れ知恵された可能性が濃厚だ。
彼一人の決断ではない。
デレシアが手を貸したのだろうか。
いや、まさか。

見ず知らずの人間に対して最も警戒心を抱いている時であろうに、デレシアと接触するなど、不可能だ。
何はともあれ、これは好奇だ。
愚か也リッチー・マニー。
大方、第三ブロック以外を解放するのだろうが――

『重ねてご連絡いたします。
今回警戒を解除するのは、第三ブロックだけにいたします』

「馬鹿なっ?!」

思わず、口に出して驚きを露わにする。
探偵たちも、犯人は第三ブロックに追い込んだと信じているのに、よりによって、真逆。
犯人がいるとされている第三ブロックだけを解放する。
それは、考え方としては虎の入った檻を開けるのに等しい。

389 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 21:33:12 ID:Dz5RW/cY0
何を考えているのか。
こちらがその誘いに乗るのを躊躇うとでも思っているのだろうか。
だとしたら、愚かの極みだ。
この船を救うための唯一の手段、この自分に対抗できるただ一人の存在を屠る機会を、見逃す手はない。

デレシア達さえ消せば、この船は完全にこちらの意のままに動く。
その為なら、デレシアを殺すために生じるリスクなど、軽い物だ。
今度は焦らずに、デレシア達を殺す。
時間が限られているのが残念極まりないが、今日は手を出さないでおこう。

まだ時間はある。
状況が落ち着き、水底が見えるぐらいに事態が収縮してから動いても、まだ間に合う。
枕元に置いていた電話が、低い電子音を立てて鳴り出した。

「……何か?」

次に電話口から聞こえてきた言葉は、またしてもその人物を興奮させた。
欠けていたパズルのピースを見つけた気分だった。

「そうか、分かった。
すぐに行く」

ようやく、この第三ブロックだけを解放した理由が理解できた。
要するに相手が求めたのは、犯行現場の限定だ。
殺人をコントロール下に置き、そこで犯人の動きを捉え、封じる。
統制された殺人事件、と云う訳だ。

390 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 21:37:18 ID:Dz5RW/cY0
実に理に適った方法だ。
全員を檻に入れたままでは犯人は見つからない。
誰が人の皮を被った虎かを見破るには、虎にとって都合のいい状況を用意し、観察することが有効だ。
虎からすれば餌場に放たれたわけだが、この餌場には罠が多すぎて逆に手出しを躊躇わざるを得ない。

どうやら、オアシズ内にも切れ者がいるようだ。
だが、こちらの想像の域を越えるほどではない。
これを逆手に取ればデレシアを殺すのは難しくない。
全ては。

そう、全てはこちらの思うまま。

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      rfニ、ヽ
      l。 。 f9i
      t≦_ノゝ、            ,,....,,,,__        ,rrテ≡==-、
      `ブ´,,:: -- ::、       ,r''"''''''ヽ:::`ヽ.     (〃彡三ミミ::`ヽ
      ,rニュf::r-‐t::::::::ヽ     f´,,..、 r"::::::::::i      /"~´   i三ミ::::i,
     /,,, Y.. -‐ ヾ::::::::l      ノ゙ f・=  7:::::::::::l.    f:、 ‐-:、 (ミミ:::::::l
      ム゚゙゙' く、'゚`  ゙'"):::l    ヽ''    ゙'⌒リ:ノ    ノ゚ヲ ''・=  リ::r-、リ
     l=,,;;:. l=、  ..::" ,)ヽ、   j⌒    ト'"fノ     l (-、ヽ'"   ゙'´ノ),)
    /`ゝ-''^ヽ''"  ,/: : : :\  ヽ、: : : '" ノ^i,     lィー-、    ノ-イ
    /rf´ i′  ,f^ヽノ:,. - - 、 ヽ,,. -テ) ,/  `ヽ、   t_゙゙   _,,.. :: "  l、
                 ‥…━━ August 6th AM07:01 ━━…‥
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そこに揃った面々の肩書、素性を知る者がいれば、間違いなくその場から何かしらの理由をつけて立ち去った事だろう。
オアシズ側からの出席者は、五つのブロックを統治する五人のブロック長。
船に常駐している警察、探偵の代表合わせて十四名。
船長、そして市長の合計二十一名。

391 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 21:40:12 ID:Dz5RW/cY0
それに合わせて、つい先ほど乗船したジュスティアからの応援部隊代表者二名。
錚々たる代表者達が集められたのは、第三ブロック一階にある大会議室だった。
赤い絨毯が敷き詰められ、部屋全体を照らすのは天井一面の薄型照明器具。
全員が椅子に座ることなく、壁にかけられたスクリーンを注視していた。

やがて、光がゆっくりと消されて部屋が暗闇に染まり始めた。
スクリーンだけが光を浴びる中、一枚の写真が映し出される。
それは、この事件の最初の被害者ハワード・ブリュッケンの死体の写真だった。
軍人としてその席にいたカーリー・ホプキンスは、思わず口元を押さえた。

その隣で紅茶の注がれたマグカップを手にする男、刑事トラギコ・マウンテンライトは左眉を持ち上げた。
一目で事件現場の矛盾点に気が付いたのである。
風呂場での殺人では、基本的に証拠を洗い流すことを目的としている。
しかし、これは安いカモフラージュを目的としていた。

狙いは、銃弾の隠ぺいだ。
頭部に穴があり、壁には汚れがない。
貫通したはずの銃弾による傷も汚れもないのは、明らかに異常だ。
その異常が意味するものは、銃弾が持つ重要性。

それを補足する情報として、使用された銃が現在行方不明となっている第一ブロック長、ノレベルト・シューの物であることが断定されたと付け加えられた。
この死体の写真と映像が船内で流されたのは、八月五日の午前十時十三分。
それから間もなく、サイタマ兄弟と呼ばれる探偵が襲撃を受け、そこで奪われた鍵を使って警備員詰所で虐殺が起こる。
犯人が棺桶を使用し、また、水中作業用の棺桶が奪われたことも告知される。

使用された棺桶はジョン・ドゥ。
奪われたのは、ディープ・ブルー。
いずれも珍しくない棺桶だが、武器を使わずとも人を縊り殺せる代物だ。
ディープ・ブルーは陸上での戦闘に向かない。

392 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 21:43:30 ID:Dz5RW/cY0
逃走用のために奪取したのだと考えられる。
昨日午前十一時二十分、この船で最も危険度が高い状況でのみ発令されるハザードレベル5によって、船全体が厳戒態勢となる。
そして、厳戒態勢にもかかわらず、昨夜十時頃に女性二人が毒殺された。
犯人が警備員に扮し、変装技術が非常に高いことが確認されている。

最重要人物にして容疑者は、ノレベルト・シュー。
彼女の行方は、今なお捜索中である。
用意されていた全てのスライドを流し終えてから、探偵長“ホビット”は一同を見た。

(<・>L<・>)「……以上が現時刻までに起こった事件の概要となります。
       この時点で、何か質問は?」

このプレゼンテーションで大まかな事が分かった。
トラギコは他の人間の下らない質問で時間を失う前に、事件の核心に触れた。

(=゚д゚)「クリス・パープルトンと云う乗客はこの船にいるラギか?」

ポートエレンで発見された溺死体。
トラギコの推理が正しければ、あの死体はこの船の乗客だ。
船から落とされて溺死したのではなく、船で殺されて遺棄されたものだ。
それが丁度コクリコ・ホテルまで流れ着いたのである。

タイミングから考えて恐らくそれは、計画された動きだったはずだ。
何を目的としたのかは、まだ分からない。
しかし、トラギコはクリス殺害の犯人がこの船に乗っていること。
そしてそれがこの事件の犯人と繋がっていることを、確信した。

(<・>L<・>)「……いいえ、そのような人物は名簿にありません」

393 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 21:47:02 ID:Dz5RW/cY0
背の小さな男の隣でしきりにトラギコに視線を送っていたショボン・パドローネが、それに反応した。
彼も、ポートエレンの事件に関わっている人物だ。

(´・ω・`)「トラギコ君、どうして――」

(=゚д゚)「……いいや、気にしなくていいラギ。
    ただの好奇心ラギよ」

¥・∀・¥「それでは、集まってもらった理由を話そう。
      皆には、この第三ブロック内に常駐して、犯人を確保してほしい。
      生きたまま、だ」

その言葉に食いついたのは、意外にも、ショボンだった。

(´・ω・`)「市長、お言葉ですが、生け捕りは困難かと」

¥・∀・¥「それは何故だ?」

(´・ω・`)「第一に、犯人が武装している事。
     第二に、棺桶を所有する人間を生捕るなど、あまりにも理想論過ぎます。
     それにですね、第三ブロックの開放などあまりも軽率過ぎです」

ショボンの言うことは理に適っている。
生け捕りをするには、まず、相手よりも戦力で上回っている必要がある。
そして何より、その機会を手に入れられるかどうかが重要だ。
出会った瞬間に攻撃されでもしたら、反撃をするのが人である。

394 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 21:49:14 ID:Dz5RW/cY0
殺す気で攻撃をしなければ、絶対に勝てない。
ましてや、こちらが生け捕りを狙っていることが判明すれば、それを犯人に利用されて被害が拡大する一方だ。
躊躇せずに殺すのが望ましい。
第三ブロック解放についてはまだ情報が少ないため、何とも言えない。

¥・∀・¥「ショボン君、だったね。
      いいかい、よく聞いてくれ」

マニーは一つ咳払いをしてから言った。

¥・∀・¥「無能は黙って指示に従えばいいんだよ」

(;´・ω・`)「っ……!?」

その部屋の誰も、もう、これ以上の質問をしなかった。
彼の発言に呆れたからではない。
彼らは、自覚せざるを得なかったのだ。
ここまで人が集まらなければ、犯人に太刀打ちできない現実を。

そして、トラギコ達が来るまでの間、犯人に翻弄され続けたことを正当化できなかったのだ。
トラギコはマニーをただの無能な金持ちでは無い事を、その発言から察した。
同時に、今の言葉は本当に“彼自身の言葉”なのか、とも思った。
経験上、誰かに対して攻撃的な言葉を口にする際には、口元に特徴が現れるはずだ。

少しだけ、彼の喋り方に違和感を覚えたのだが、あまり深くは考えないことにした。
今トラギコが探すべきは、この船に乗っている彼の宿敵。
金髪碧眼の流浪の旅人。
湾岸都市オセアンを事実上の崩壊へと導いたと考えられる、素性不明の女。

395 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 21:51:58 ID:Dz5RW/cY0
彼女について分かっているのは、デレシアという名前だけ。
彼女がこの事件を引き起こしたとは考えられないが、カギを握っていると、勘が告げている。
最優先事項は事件の解決だが、デレシアとの合流も考えに入れておく必要がある。

(=゚д゚)「なぁ市長、俺はこう考えているラギ。
    恰好だけのくっだらねぇ会議より、現場を歩いて調べる方が時間を無駄にしないって」

¥・∀・¥「全くもって同感だよ、えーと……」

(=゚д゚)「トラギコ・マウンテンライト、トラギコと呼べばいいラギ。
    じゃあ俺は適当に散策するラギ、後は好きにしてくれや」

市長は、馬鹿ではない。
それが分かっただけで収穫だ。

(=゚д゚)「邪魔だけは、してくれるなよ」

アタッシュケースを持って、トラギコはその陰気くさい部屋を出て行った。

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                 ‥…━━ August 6th AM07:05 ━━…‥
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396 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 21:54:29 ID:Dz5RW/cY0
その光景を目にした時、思わず、観光で訪れたアルカトラズ島の監獄での出来事を思い出した。
脱獄不可能と言わしめたアルカトラズ刑務所の跡地。
観光の目玉とも言える監獄体験の時に起こった、一つの事件、事故。
当時の情景の懐かしさに、デレシアは思わず頬を緩ませた。

鉄格子の代わりに開いたのは装飾された扉。
現れた人々の顔に浮かぶのは安堵と疑問の色が入り混じった、歓喜と恐怖の表情は同じ。
籠から出された鳥が外の世界を恐れるような、そんな感じもまた同じだ。
それはそうだ。

実際、彼らを待つのは殺人鬼。
飼い慣らされた鳥にとっての自然と同じなのだ。
気の毒だとは思うが、自分自身を守ることが必要とされている時代だと云うことは、生まれた時から教わっているはずだ。
幸いなことに、彼らは武器を手にしている。

昔とは違い、銃を携帯することに誰も躊躇をしない。
平和主義だとか、共存だとか抜かす阿呆はとうの昔に絶滅した。
だが不幸なことは、彼らが怯える対象にあった。
彼らに危害を加え得る存在には、偏執がある。

それも、異常な類の。
デレシアはこの狩場で、犯人の目的と偏執を探らなければならない。
判断材料が極めて少ないため、相手が動きやすい場を作り出しでもしないとパズルのピースが揃わないのだ。
パズルのピースを強引に引き出せれば重畳。

次の被害者が出たとしたら、それは残念なことだ。
犯人が早計で、浅はかだと分かってしまうからだ。
出来ればそうであってほしくない。
ブーンを海に放り、デレシアを怒らせた人間が、ただの精神異常者であっては困るのだ。

397 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 21:57:56 ID:Dz5RW/cY0
ζ(゚、゚*ζ「……さて、と。 ヒート、私達も動くわよ。
      用意は?」

すっかり人気のなくなった第三ブロック一階にある大会議室。
その出口から姿を現したのは、カーキ色のローブで身を固めたデレシア。
彼女の腋の下に吊るされたホルスターと、腰のホルスターには銃が収められている。
腋の下の二挺は、傷だらけの黒のデザートイーグル。

装填されているのは、マンストッピングパワーに優れたホローポイント弾。
腰のソウドオフショットガンには、対棺桶用の大口径のスラッグ弾が詰まっている。
予備の弾も弾倉もローブの下にある。
正面切っての戦闘だろうと、左右を挟まれての攻撃だろうと、切り抜けられる。

この準備は大げさとは思わない。
デレシアの推測では、この殺人劇は序章。
全体の注目をこれに集めるための茶番劇に過ぎない。
ならば、その茶番劇に全力で付き合う人間を宛がい、こちらはこちらで、準備をすればいい。

敵がそれに気付いたとしても、反応することは難しい。
反応すれば、それはデレシアの推測を肯定することになるのだ。

ノパ⊿゚)「いつでも。 で、あたしが合流する協力者ってのはどんな奴なんだ?」

ヒート・オロラ・レッドウィングは、ダークグレーのシャツに黒のジャケット、そして下はスラックスと云う姿だ。
堅気の格好とは言えないが、動きやすさとカモフラージュのアレンジはデレシアのそれよりも遥かに高い。
防弾・防刃の服装ではないが、その代わりに、彼女の背中には棺桶がある。
Aクラスのコンセプト・シリーズ、対強化外骨格用強化外骨格“レオン”が。

ζ(゚、゚*ζ「そうねぇ……」

398 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 22:00:27 ID:Dz5RW/cY0
さて、協力者の事をどう語ろうか。
湾曲表現は好まない。
特に、親しい人間に対する隠し事は好きになれなかった。
だが迂闊にその人物の情報を公開するべきでないことは、この状況では明らかだ。

デレシアの見立てでは、犯人はあの会議室にいた人間の中にいる。
それが変装をしているにしろ、していないにしろ、だ。
となれば、今こうしている間にもどこかでデレシア達を監視しているかもしれない。
一先ず、真実を一つだけ教えることにした。











     ζ(゚ー゚*ζ「ちょっとだけ不器用な、私の親友よ」











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                           ___________|\
‥…━━ August 6th AM07:15 ━━…‥[|[||  To Be Continued....!    >
                            ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|/

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399 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 22:20:16 ID:Dz5RW/cY0
これにて第七章の投下は以上となります

質問、指摘、感想などあれば幸いです。

400 名も無きAAのようです :2014/03/03(月) 22:57:11 ID:eNVGNUmcC
途中まで流し読みしてたよ、後編の投下がまさか今日だとは思ってなかった 
主とか犯人の影とか色々盛り上がってきた、主と犯人誰だろ

401 名も無きAAのようです :2014/03/04(火) 00:15:13 ID:9tBCDAyEO
VIPのログ読んできた、こっちを先にしたんだな

402 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 00:47:12 ID:ykRLbvVU0
Ammo→Re!!のようです
Ammo for Reasoning!!編 第八章

3/29 夜 VIPにて投下します!!

ttp://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1511.jpg

403 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 00:56:16 ID:.SyG0gmY0
よしきた

404 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 01:52:00 ID:OUCATiFQC
( ^ω^)はあくしたお

405 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 20:09:37 ID:ykRLbvVU0
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In the flame if you hide a tree.
木を隠すなら炎の中。

In the water if you hide the flame.
炎を隠すなら水の中。

In the rain if you hide the water.
水を隠すなら雨の中。

In the storm if Hide rain.
雨を隠すなら嵐の中。

- Now, if you hide the mystery?
――では、謎を隠すなら?

                                  The last examination of detective
                                          【探偵試験最終問題】

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┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻

406 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 20:14:50 ID:ykRLbvVU0
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.     ,.- 、
     i|三li:.. ,..-- 、       ,..-- 、
     i|三liミil三三|ヽ       .;|三三|i        _____
     i|三liミi|三三|iiii|;..     ;;i|三三|i==lニニニl=i|____
_二二二二lミi|三三|iiii|iil    ;;ii|三三|i ェェェェェェi|┌┌┌┌
==========i|三三|iiii|ii|    |iii|三三|i ェェェェェェi|┌┌┌┌
==========i|三三|iiii|ii|    |iii|三三|i ェェェェェェi|┌┌┌┌
==========i|三三|iiiiレ     キ.|三三|i ェェェェェェi|┌┌┌┌
==l⌒l=====i|三三レ'     .'i|三三|i ェェ.il==li ェi| ┌──
           ‥…━━ August 6th AM08:06 In the 3rd block ━━…‥
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

それは希望と恐怖が混在した、矛盾した空気だった。
蜂蜜とワインビネガーをあえたピクルスのような、気持ちの悪い空気だ。
すれ違う人間の顔に浮かぶ表情は、釈放された直後の犯罪者のそれに近い。
何度も間近で見た光景と感じ取った空気に、理由はすぐに分かった。

自由に対して、不安を持っている状態。
周囲を気にしながら歩き、目に入る娯楽と呼ばれる物に身を委ねたいのだろうが、その一歩が踏み出せないのだ。
彼らは今、自由に対してわずかな恐怖を感じているのだ。
あらゆる自由には少なからず危険が潜んでいることに気付いた、と言い換えてもいいだろう。

安全が約束されている不自由に限り、不自由は精神安定剤に転じる。
今回の事件は、それをより強く人々に認識させることとなった。
突如として起きた連続殺人を深刻に捉えたオアシズ上層部は最高レベルの警報、ハザードレベル5を発令。
全ブロックでは特定の時間帯のみ外出が許され、他ブロックへの移動は禁止とされた。

407 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 20:20:43 ID:ykRLbvVU0
それがオアシズで与えられた不自由、そして安全の正体だ。
そして、安全が確認されたことをきっかけに、第三ブロックの人間だけが自由を得た。
だが、ショウウィンドウを眺める目も、アイスクリームの屋台に向ける視線も、全てが疑念の色を帯びている。
あれだけの犯行をしておきながら、依然として捕まらない犯人を相手に翻弄される警察と探偵。

彼らの仕事ぶりを見れば、疑心暗鬼になるのも無理はない。
彼らの懐や腰で出番を待つ銃が、何よりの証拠だ。
それでいい。
安全だと言われたとしても、武器の携帯は基本的にするべきだ。

腕力を気にせずに自分の身を守るためには、銃は最高の物だ。
通りすがりの中には稀に棺桶――軍用第三世代強化外骨格――を背負った者もおり、中には大型のCクラスを運んでいる者までいた。
常識的に考えると、棺桶は基本的にサイズが大きければ大きいほど、強力な武装と装甲を持つ傾向にある。
が、サイズが大きければ強いと言う訳でもない。

サイズ差はあくまでも装甲の厚みと攻撃力の問題であって、後は棺桶持ちの技量次第だ。
中にはAクラスでCクラスの棺桶を圧倒するものもある。
要は使い方一つ。
世間に出回っている武器と何一つ変わらない。

使い方さえ分かれば、老若男女、誰でも人を殺すことの出来る武器は人類の偉大な発明だ。
しかし、この張りつめた状態とその発明品の組み合わせはあまり好ましくない。
武器を持った人間は常に緊張の糸を張り巡らせており、それが僅かな刺激で切れることもある。
乗客の誰か一人が始めれば、それはすぐに飛び火して船内で殺し合いが始まる。

そうなれば、犯人が直接手を下さなくとも大量の死人が船に溢れかえる。
人の精神は案外脆く、ちょっとした拍子ですぐに理性のブレーキが壊れる事を、トラギコ・マウンテンライトはよく知っている。
誘拐された少女が犯人に恋をすることもあるし、普段は紳士的な行動がどうのとか言っている人間が、災害現場で我先にと駆け出すこともある。
被災した街で暴動が起こり、強姦事件が多発するのはそう云う訳だ。

408 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 20:25:57 ID:ykRLbvVU0
恐らくそれが起きないでいられるのは、市長がこのブロックに警備員と探偵達を集中させたからだろう。
秩序を守る存在が大量に集まれば、人は自ずとそれに従う。
第三ブロック解放は早計な気がしないでもないが、やり方は間違えていない。
流石に市長として働いているだけあって、大胆な行動力と計画力がある。

一人先に乗船したトラギコは、第三ブロック一階の歩道を歩きながら周囲を観察していた。
活気と呼んでいいのか分からない微妙な空気の漂う第三ブロックの天井を見上げ、溜息を吐く。
ビル群から青空を見上げているよりもずっと狭苦しい場所だが、いい船だと思う。
不可能なのは知っているが、出来れば、平時の時にこの船に乗り合わせていたかった。

これだけの豪華客船に乗っておきながら、仕事のせいでその醍醐味を味わえないのは高級料理をガラス越しに眺めるようなもの。
今のトラギコが少しでもオアシズでの生活を楽しむには、方法は一つしかない。
早急にこの事件を解決することだ。
そうすれば、トラギコは船が次の場所に着くまでの間、ゆっくりと船旅を楽しめる。

普段から経費削減を言われ、領収書の中身にまで文句を言われる毎日の中、これぐらいの贅沢を楽しんでも罰は当たらない。
平均的な警察官の半分以下の年休しかないために、旅行などしたことがない。
給料は安いし過酷な労働環境だが、それでも、トラギコはこの仕事が天職だと心から言えるほど大好きだった。
事件、特に難事件が大好物だからだ。

女や洒落た趣味なんかよりも、よほど魅力的で有意義な時間が約束される。
人を殺して自分だけ助かろうと思い、足りない脳味噌を必死に回転させて考え付いたトリックの数々。
丁寧に積み重ねられたそれは、高級料理の調理工程によく似ている。
下ごしらえをする様に計画を組み上げ、ソースを作る様に環境に合わせて計画を調整し、食材を刻む様に人を殺し、盛り付けるように事後処理をする。

そうして最後に召し上がれ、と云う訳だ。
トラギコが楽しみなのは惨たらしい死を遂げた人間の末路を見る事ではなく、犯人の思いを踏み躙ることだ。
愚かな思惑を打ち砕き、真実と呼ばれる事件の真相を知ることはこの上ない快感だ。
希少な珍味が比喩し難い味を持っているのと同じように、難事件は希少価値の高い馳走、あるいは極上の蒸留酒だ。

409 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 20:30:08 ID:ykRLbvVU0
それに遭遇できれば、三年は気持ちの良いまま過ごせる。
その点で言えば、デレシアに出会ってからは感謝の気持ちが絶えない。
彼女を追えば、必ず歯応えのある獲物にありつけた。
オセアンから始まり、フォレスタ、クロジング、ニクラメンでも楽しませてもらった。

これまでに数千人の犯罪者と数万人の人間を見てきたからこそ、断言できる。
デレシアは別格の人間だ。
トラギコが生きている間に彼女の代わりは見つからないし、彼女を越える人間は現れない。
その姿を一度見失ってしまえば、彼女の足取りを掴むのは困難を極めるだろう。

今回は偶然にも彼女の足跡を辿れたが、次に見逃したらもう見つけられないかもしれない。
デレシアに対する思いを募らせながらも、トラギコはオアシズで起きた事件解決に向けて意識を集中させていた。
当然のことだが、複雑な仕掛けを施した事件を相手にするのは初めてではない。
だからこそ分かる。

今回は、タイミングを逃してはならないと。
食べ頃がある事件なのだと、概要を聞いただけで分かった。
まず、被害者に共通点が無い事が理由の一つだ。
大抵の犯人は凶器や殺し方に共通点があるものだが、この事件では全てがばらばらだ。

第一被害者ハワード・ブリュッケンの丹念な殺しに比べて、第二の現場となった警備員詰所では虐殺に近く、第三被害者に至っては毒殺だ。
この違いにこそ意味があると、トラギコは考える。
犯人の狙いは、誰かを殺すことだ。
殺す過程に快楽を感じるためではなく、人が混乱している様子を楽しむことでもない。

殺すことで得られる利益が目的の可能性が非常に高い。
無論、それを装っている可能性もある。
疑えば疑うほど事件を必要以上に複雑に感じる時があるが、そんな時、トラギコは常に自分の直観に従ってきた。

(=゚д゚)「……ん?」

410 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 20:36:12 ID:ykRLbvVU0
不意に、トラギコの鼻が香ばしい香りを嗅ぎつけた。
どこからか漂ってくる、料理の匂い。
肉、小麦粉を油できつね色になるまで焼いたような香りだ。
ここまで濃厚に漂うということは、換気扇を備えている店舗型ではありえない。

屋台だ。
どこかの屋台が、この犯罪的に美味そうな匂いを漂わせているのだ。
途端に、猛烈な空腹に襲われた。
一度意識してしまうと、もう我慢できない。

切なそうに腹が音を立て、自己主張をする有様だ。
味噌汁と紅茶だけしか胃袋に入っていないことを思い出し、懐から古びた財布を取り出して中身を確認する。
細かい硬貨を合わせて、七十五ドル。

(=゚д゚)「……いけるか?」

ハザードレベル5の発令に伴い、乗客はオアシズでの飲食は無料と言われている。
だから金の心配はしていないが、万が一の場合がある。
そもそも招かれてもいない客として乗っている身分に、それが適応されるかどうかも分かっていないのだ。
訊きそびれた自分が悪いのだが、あの場の空気では流石にそんな事を口に出せない。

匂いを辿って歩を進め、第三ブロックの中央に位置する公園にある噴水の前に、それらしい屋台の一団を見つけた。
一団は別々の料理をその場で調理し、陳列し、販売している。
アイスクリーム、焼きそば、クレープなどだ。
客はそこそこ来ているが、一か所だけ奇妙な隙間があった。

これだけの芳香を漂わせている店にだけ、客が一人も寄りついていないのだ。

( `ハ´)

411 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 20:40:21 ID:ykRLbvVU0
店主は特徴的な細目で、黒い髪を前髪ごと後ろに流して一つに束ねた髪型をしていた。
顔だけを見ればやせ形に思われそうだが、黒い半袖のシャツから覗く筋肉が只者では無い事を物語る。
首の太さも、格闘技を経験している者に共通しているそれだった。
放つ雰囲気は鋭く、堅気の世界で生きている人間で無い事は明らかだ。

(=゚д゚)「おい兄ちゃん」

( `ハ´)「……何か用アルか」

見た通りの無愛想だ。
見た目の通り、声にも若さが聞き取れる。
三十代前半か二十代後半。

(=゚д゚)「それ、何ラギ?」

( `ハ´)「餃子」

一言で会話が終了した。
素晴らしい。
店主とはこれでいいのだ。
飯屋は寡黙が一番。

不要な会話をする店主は嫌いだった。

(=゚д゚)「焼き立てを二つ、それとビールを大ジョッキで」

( `ハ´)「七百ドル」

(;=゚д゚)「あぁん?! 手前、ここに一つ三ドル、ビールは一ドルって書いてあるラギ!!」

412 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 20:46:38 ID:ykRLbvVU0
思わず冷静さを欠いた反応をしてしまったトラギコに対し、店主は冷笑を浮かべて答えた。

( `ハ´)「じゃあ七ドル」

(#=゚д゚)「俺を馬鹿にしてるラギか?」

( `ハ´)「冗談アル」

この店主、無愛想ではない。
人間性に問題があるのだ。
冗談にしてもセンスの欠片すらない。
本心から冗談で済ませようと思うなら、それなりの反応があるはず。

なのに、冷笑とは何事だろうか。

(#=゚д゚)「七ドルだな?」

( `ハ´)「……」

財布から七ドルを出そうとしたが、細かい金がなかった。
そしてそこで気が付いた。
船内での買い物は、全て乗船券を兼ねたカードで済ませる事になっている。
当たり前の話だが、トラギコは乗船券を所持していない。

まさか。
この店主。
こちらが非正規の客であることを察して、試したのだろうか。
オアシズに乗るには乗船券が必須。

413 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 20:50:07 ID:ykRLbvVU0
その乗船券を持っていない人間となると、この船にとっては歓迎しない存在だ。
つまり、サービスを提供してもしなくてもいいだけでなく、怪しまれて然る存在でもある。
非常時の際に部外者を疑うな、と言う方が無理だ。
そしてこの店主は、トラギコが非正規の乗客であることを見抜いているに違いなかった。

トラギコが乗船券を持っていない人間であることに気付いたからこそ、いきなり金を請求したのがその証拠だ。
店員としてあるべき姿としては、カードの提示もしくは無料である旨を伝えるのが道理。
自分の推理に絶対の自信を持っていなければできない会話だったのだ。
恐ろしいほどの観察眼だ。

警察にぜひ欲しい人材である。
それに、この船での食事が七ドルで済むのであれば、安いぐらいだ。

(;=゚д゚)「……っ、ぐぬ」

( `ハ´)「……」

財布から十ドル硬貨を取出し、店主に差し出す。
釣りを出されない可能性を考え、トラギコは最後に一つ付け加える。

(;=゚д゚)「ビールを特大ジョッキにしてくれ」

これで丁度十ドルだ。

( `ハ´)「……」

店主は無言のまま顎でカウンターを指した。
そこに硬貨を置けという意味だ。
トラギコは渋々それに従い、金を置いた。
男は鉄板の上で焼いていた餃子をパックに詰め、カウンターの上に積み重ねていたパックの上に乗せた。

414 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 20:54:58 ID:ykRLbvVU0
それを取ろうとした時、男が鉄製のヘラでその手を制した。
疾い。
これがナイフだったら、トラギコの手首から先は地面とハイタッチしていたはずだ。
油断していたと云うのは言い訳にしかならない。

戦闘の技量で言えば、トラギコを上回っている。
この男、一体何者なのだ。

(;=゚д゚)「何のつもりラギ?」

( `ハ´)「焼き立て注文したアル」

そう言うと、男は新たな餃子を鉄板の上に並べて焼き始めた。

(=゚д゚)「……そうかい」

意外と律儀な性格をしているようだ。
仕方なしに待つ事になったトラギコは、噴水の傍にある木製のベンチに腰掛けた。
背中から聞こえる噴水の音を無視し、トラギコは意識を男に集中させる。
男の動作を改めて観察してみると、屋台経験は短いという印象を受けた。

接客態度もそうだが、全体的に、慣れている様子がないのだ。
まだどこか不慣れな動き。
餃子を焼くことには慣れていても、売ることには慣れていない。
怪しい。

容疑者の一人として、トラギコは頭の中に男の人相を記憶した。

(=゚д゚)「んや?」

415 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 20:56:11 ID:0Q/bTnb.0
Ammo→Re!!のようです
http://hayabusa5.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1396091199/
支援するならこっちもな
まあ自分は規制中の身なんだが

416 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 20:59:34 ID:ykRLbvVU0
項の毛が、ピリリと反応を示した。
何かよくない物が近くにある、もしくは起ころうとしている。
視線を周囲の物陰に向け、索敵を行う。
約五十ヤード先、トラギコの正面に、それはいた。

その体躯はずっしりとした岩石を思わせ、手と顔に刻まれた皺と傷はその人生の壮絶さを雄弁に物語る。
楽な人生。
ぬるま湯の生活。
平和な暮らし。

明らかに、そう云ったものとは無縁の人間の体だ。
上瞼から下瞼にかけて走る大きな傷は、鋭利な刃物とは真逆の物でつけられたに違いない。
開かれた黄金瞳は純金よりも鈍く、月よりも優しく、宝石よりも輝く獣のそれに酷似している。
皺のない白いボタンダウンのシャツの上に羽織る黒のジャケット。

首の太さ、そして耳の形は格闘技を経験した人間独特のもの。
後ろに撫でつけたオールバックの黒髪。
歳は六十代後半。
一目で、人を殺したことのある人間だと断言できる姿をしていた。

( ФωФ)「……」

(;=゚д゚)

男のした行動は、ただ、トラギコの前を歩いただけ。
それも、五十ヤードは離れた場所を悠然と歩いているだけだ。
それだけで、トラギコは呼吸を止めてしまっていた。
あの男の前では迂闊な言動が命取りとなると、断言できる。

417 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 21:01:55 ID:mFxhbgFI0
主要な人物が揃ってきたな。
支援

418 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 21:02:30 ID:ykRLbvVU0
一瞬の事だったが、トラギコはすぐさまその男を容疑者の二人目として、人相を記憶。
すぐさま男を尾行することにした。
ベンチから立ち上がり、屋台の前を小走りに横切る。
極力近寄りたくないが、この際仕方がなかった。

悟られないギリギリの距離を保ち、そこから監視するしかない。
いきなり尋問などしようものなら、縊り殺されるかもしれないからだ。
あれは猛獣の類だ。

( `ハ´)「どこ行くアル?」

屋台を通り過ぎた辺りで、トラギコの背中に無愛想な声がかけられた。

(=゚д゚)「手前にゃ関係ねぇラギ」

( `ハ´)「それ駄目アル。
     お金貰ったら、私は商品渡す義務有ル。
     行かせないアルよ」

どうしてこう、変な所でこの男は義理堅いのだろうか。
普通の屋台の人間なら、ただで金を手に入れたと喜ぶところだ。
横目で先ほどの男を探すが、もう、視界の中にはいない。

(=゚д゚)「……後どれぐらいかかるラギ?」

( `ハ´)「三分」

(=゚д゚)、「ちっ、分かったラギ」

419 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 21:05:45 ID:ykRLbvVU0
今更追ったところで、男を見つけられる確証はない。
どうせ、男の移動できる範囲は第三ブロックに限られているのだ。
トラギコは観念してベンチに戻り、餃子を待つことにした。
丁度近くを通りがかった新聞販売員のカートから、世界規模の情報を載せている“モーニングスター新聞”を一部引き抜いた。

一昨日、つまり八月四日の日付だった。
新聞の一面を飾っているのは、やはり、まだニクラメンが地図上から消えてなくなったことについてだ。
世界中からトレジャーハンターギルドが集まり、海底に沈んだ街から金品を引き上げ、時折死体も引き上げているとのことだ。
死体を引き上げているのは善意だと主張しているらしいが、遺族からの感謝料を目的にしているのだろう。

ニクラメンの名を聞くと、ワタナベ・ビルケンシュトックや、ギコ・カスケードレンジと出会った時の記憶が蘇る。
不完全燃焼の謎だけを残した事件は、結局、海の底だ。
あの時に会った彼らとは、また会うような気がする。
出来ればワタナベとはもう出会いたくないが。

紙面を捲り、二面に掲載されている世界情勢を見る。
西の土地にある三つの街が合併し、一つの大きな街となった事が二面全てを使って書かれていた。
カルデとコルフィ、そしてファーム。
それぞれの位置関係が書かれた地図を見ると、新たな街の大きさはオセアンの二倍ほどになる。

かなり大きな街だ。
元々、三つの街はコーヒーの産地として有名だったが、これを機に世界屈指のコーヒーの街になるのは間違いない。
誕生した街の名は、“カルディコルフィファーム”。
そして、市長は内藤財団とあった。

それは異例の事ではなかった。
企業が街を支配し、市長として機能した前例は幾つかある。
ただし、一つとして成功した例はない。
企業内での権力争いと不景気の影響をもろに受けるため、長持ちしないのだ。

420 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 21:09:40 ID:ykRLbvVU0
だが、内藤財団の経営力と経済力は世界随一だ。
オセアン復興に着手した事も含めて考えると、世界各地の街を統治し、更なる事業拡大を狙っているのだろう。
記者の意見ではオセアンでの実権を手に入れたことに伴い、コーヒーの安価な輸出入を可能にし、利益を上げるのではないだろうか、とのことだった。
確かに、カルディコルフィファームは海から遠くはないが、どちらかと云えば山に囲まれた盆地にある。

三つの街を一つにしたことで、港に最も近い街にコーヒー豆を集めて一度に送り出せる。
陸運にかかるコストが安上がりで済むため、それもまた利益につながる。
陸路を通じて港に運び、そこから船で東のオセアンに向かう。
港も船も全てが自社の物であるため、格安で高価なコーヒー豆の取引が出来るのだ。

西側で盛んな貴金属市場に手を付け始めているとの噂が本当だとすれば、近い内に貴金属の取引にも手を出すだろう。
経営者は慎ましく貪欲であれ、とは企業の依頼でトラギコが逮捕した会計管理者の言葉だ。
新聞を畳み、それを膝の上に乗せる。
トラギコは振り返り、噴水の真ん中に立つ巨大な時計を見上げる。

店主の言葉から、三分が過ぎようとしていた。

(=゚д゚)「……」

屋台の男と、先ほどの人相の悪い男を除くと、現在手元にある疑わしい人間は五人いる。
第一ブロック長、ノレベルト・シュー。
第二ブロック長、オットー・リロースミス。
第三ブロック長、ノリハ・サークルコンマ。

探偵長“ホビット”。
市長、リッチー・マニー。
彼らの内、誰かがこの事件の鍵を握っているはずだ。

( `ハ´)「お待ちど」

421 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 21:17:54 ID:ykRLbvVU0
(;=゚д゚)「のっ! お、おう」

視線を戻した先にいた店主の手には、餃子の入ったスチロール製トレイが二つと、ビールの特大ジョッキがあった。
それを受け取ると、店主は屋台に戻った。
気を取り直してから、トラギコはまず餃子を食すことにした。
手元から立ち上る湯気と香りが食欲を刺激してやまない。

ベンチの傍らにジョッキとトレイを一つ置き、もう一つのトレイを膝の上に置く。
トレイに添えられていた割り箸を口で咥えて、二つに分ける。
一つのトレイに五つの餃子が乗っており、調味料は一切見当たらない。
そのままの味で勝負をしているらしい。

半月型の餃子を箸で一つ摘まんで口に運び、一口で食べる。
火傷しそうなほど熱い汁が、中から溢れた。
野菜と肉から出た汁の味は熱すぎてよく分からないが、美味いのは確かだ。
空気を口の中に取り入れて冷ましながら、餃子を咀嚼する。

肉汁の甘い香りと濃厚なニラの香りが鼻から抜け出る。
口の中が火傷しないように、すかさずビールを口に含む。

(*=>д<)。゚「くぅあっ!!」

そして、トラギコは腹から湧き上がる食欲に身を任せ、次の餃子に箸を伸ばしたのであった。
トラギコは予期することが出来なかった。
この後に起こる事態を。
この時は、まだ。

422 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 21:25:50 ID:ykRLbvVU0
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    ,′    {   | / {_厶ニ,_ー|   /./  ‐}_厶ミ,_ ∨ }  |      | \
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           ‥…━━ August 6th AM10:30 In the 1st block ━━…‥
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全身が心地よい疲労感に満たされていた。
打撃に必要な筋肉を意識的に鍛えるためにサンドバッグを相手に繰り出した拳は、五千以上。
その後に行った腕立て伏せ数百回などによって、腕に力が入らない。
また、蹴り技の取得に伴う脚力の向上とトレーニングで、足腰は別物のように動かなかった。

甘い毒を注入されたように痺れて動かない四肢。
リングの上に汗だくで大の字に倒れ、荒い呼吸をしながらも、達成感に笑顔が浮かぶ。
垂れた犬の耳と丸まった犬の尻尾を持つ少年は、自分を見下ろす女性の肌に汗一つ浮かんでいないことに気付いた。
自分と全く同じトレーニングを横でこなしていたのに、と驚く。

微笑を浮かべる女性には狼の耳と尻尾があり、慈母の様な柔らかな感情を湛えた深紅色の瞳は、少年の深海色の瞳の奥を見つめていた。
気恥ずかしそうに笑顔を浮かべた少年はブーン。
それを無言で見つめる二十代半ばと思われる女性は、ロウガ・ウォルフスキン。

!ヽ, __ ,/{
リi、゚ー ゚イ`!「どうだ? 流石に、もう動けないだろう?」

(∪´ω`)「はい、ししょー」

423 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 21:35:51 ID:ykRLbvVU0
リi、^ー ^イ`!「ならば風呂にしよう。 筋肉をほぐし、次の鍛錬に備えようか」

(∪´ω`)「ししょー、でも、ぼくうごけなさそうです」

この状態では、風呂場まで這っていくのも難しい。
指の力だけで這うにも、手は拳を形作ったまま開かない。

リi、゚ー ゚イ`!「ん? 私が君を運べば何も問題はないだろう。
      さ、行くぞ」

有無を言う間もなく抱きかかえられ、風呂場に連れて行かれた。
早朝の時と同じように汗を洗い流した後、湯船の中でロウガにマッサージを教わった。
ロウガに背中を預け、肩越しに彼女の手がブーンの太腿や脹脛をもみほぐした。

リi、゚ー ゚イ`!「次からは自分でやるんだ、いいな?」

(*∪´ω`)「わかりました、ししょー」

体を後ろから押さえつけるロウガの手は力強かった。
腕から足まで愛撫するように撫でさすり、指圧するロウガの指は優しい。
筋肉が緩和し、力が徐々に回復する感覚が湧き上がる。
緊張から解き放たれ、瞼がゆっくりと落ちる。

トレーニングの最中、幾つかもらったアドバイスを思い出す。
踏み込みは静かに、だが力を込めるタイミングを誤らない。
拳は常に固く握る必要はなく、最もリラックスした状態で維持。
衝撃の際にのみ拳を形成し、速度を意識して抉りこむようにして打ち込む。

424 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 21:42:06 ID:mdABcWrY0
支援
初リアルタイム!
ブーンかわいい!

425 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 21:44:12 ID:ykRLbvVU0
そうすれば、素早い攻撃が可能となる。
殴り合いの喧嘩に発展する前の先制攻撃としては、十分な威力があるとのことだ。
鼻先を狙うか顎の先端を狙うのが効果的で、先手を打つのであれば腹部。
大の男が敵となれば、金的を狙うのもありだそうだ。

これまでのパンチと、今のパンチは明らかに形、そして威力が違っている。
それが自覚できるレベルにまで変わった。
向上した、と言った方がいいだろう。
更に、護身に必要な技まで教えてもらえたことで、それを実際に使ってみたいという初めての欲求が生まれていた。

リi、゚ー ゚イ`!「筋は悪くない。 後は、実戦での経験だ。
      人を殴ったり、殺したりした経験は?」

(∪´ω`)「……ありませんお、ししょー」

まともに殴ったことも蹴ったこともない。
強いて言うなら、腕を噛み千切ったぐらいだ。

リi、゚ー ゚イ`!「だろうね。 そんな雰囲気をしている。
       覚えておきなさい。 誰かを傷つけて自分を守る時は、遅かれ早かれ必ず来る。
       この世界を生きていくのなら、これは避けて通れない道だ。
       その時が来たら、何があっても躊躇ってはいけない。

       しかし君は怖いほどに優しすぎるから、躊躇ってしまうかもしれないな。
       それがいいんだがね」

(∪´ω`)゛「お?」

リi、゚ー ゚イ`!「さ、汗を流したら次は戦い方を身に付けよう」

426 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 21:52:56 ID:ykRLbvVU0
(∪´ω`)゛「はいですお、ししょー」

そう返事をすると、耳元でロウガが嬉しそうな声色で囁いた。

リi、゚ー ゚イ`!「……ふふふ。 素直で大変よろしい」

(∪´ω`)「あの、ししょー?」

リi、゚ー ゚イ`!「ん?」

(∪´ω`)「あるじさんって、いまはどこにいるんですか?」

解放されているのは第三ブロックだけであることから、ロウガが主と呼ぶ人物はこの部屋の中にいるはずだ。
だが、まだ一度もその姿を見ていない。
むしろ、存在自体を感知していない。

リi、゚ー ゚イ`!「あぁ、主ならこのブロックにいない。
      主は第三ブロックにいる」

ロウガから得た情報を元に考えると、主と呼ばれる人物はハザードレベル5が発令されてから部屋を出て行った事になる。
ハザードレベル5はブロックだけでなく、部屋の扉までも完全に封鎖するもので、部屋への出入りは自由には出来ない。
また、そうなる前にブロック中の人間を部屋に戻させたとも言っていたので、一度はこの部屋にいたはずなのだ。
だがしかし主が第三ブロックにいるには、二つの方法がある。

一つは、ハザードレベル5が発令される前に第三ブロックにいて、発令後もそこに隠れていたか。
もう一つは、外出許可が下りている時間帯にブロック間の移動をしたか、だ。
どちらか一つに可能性を絞った質問をすると、答えてもらえないかもしれない。
ブーンはどちらでも答えられるよう質問を考え、口にした。

(∪´ω`)「どうやったんですか?」

427 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 21:57:50 ID:ykRLbvVU0
リi、゚ー ゚イ`!「ふふ、方法は主にしか分からないさ。
      私が命じられたのは君をこの部屋で持て成し、そして鍛えることだ」

どうしてそのような命令をロウガにしたのか、ブーンは分からなかった。
ひょっとすると、ブーンの知る人物なのかもしれない。
無駄だとは思うが、一応、ブーンは尋ねることにした。

(∪´ω`)「ししょー、あるじさんのなまえって……」

リi、゚ー ゚イ`!「隠す必要はないと言われたが、教えない方が君のためかもしれないな」

(∪´ω`)、「お……」

リi、゚ー ゚イ`!「教えてもいいが、条件がある」

(*∪´ω`)「じょーけん?」

リi、゚ー ゚イ`!「風呂上がりに一試合、実戦訓練をしよう。
      そこで私に触ることができれば、教えてあげよう」

思わず、尻尾が揺れるのが分かった。
戦える。
そして、勝てば知らないことを知ることが出来る。
それは何よりも嬉しい提案だった。

リi、゚ー ゚イ`!「おいおい、くすぐったいな。
      喜ぶのは、試合で勝ってからだ」

(∪´ω`)「お」

428 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 22:04:28 ID:ykRLbvVU0
リi、゚ー ゚イ`!「さ、出よう」

そして、二人は風呂から上がって新しい服に着替えた。
冷蔵庫でよく冷やされた水をグラス一杯飲み、体から失われた水分を補給する。
その後、ブーンには瓶に入った牛乳が与えられた。
成長盛りの子供は牛乳をもっと飲むべきだ、とロウガに言われてブーンは瓶三本分を飲んだ。

ロウガからの指摘で、風呂上がりに柔らかくなった手足の爪を切ると、とてもさっぱりとした気分になった。
それから、ロウガはタンクトップとスパッツ、ブーンは半袖のシャツとズボンに着替え、再びトレーニングルームに移動した。
リングの上に上がり、柔軟体操を行う。
多少は緩和されたが、まだ四肢は重りをつけているかのように鈍い。

拳を痛めないようにと、ロウガが巻いてくれたテーピングはいい具合だ。
二人とも靴は履かずに、素足の状態だった。

リi、゚ー ゚イ`!「さて、ブーン。 実戦では、常に万全の状態で戦いが始まることは稀だ。
      油断、疲労、精神的疲労など様々な要因が付き纏う。
      例えば今、君は精神的に少々の不安があり、体力的にはかなりの負担が掛かっている。
      その状態でも戦えるよう、今から私と一戦する。

      ルールはシンプルに、何でもありだ。
      殴るのも蹴るのも頭突きも、好きに使っていい。
      私はハンデとして両腕を使わないが、私の使うゴム製のナイフに触れれば君の負け。
      君が勝つには、私の足以外に触れればいい。

      ……始めようか」

429 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 22:15:11 ID:ykRLbvVU0
突如として始まった訓練。
ブーンの体は合図とほぼ同時に動いた。
その理由はおそらく、ロウガから発せられる雰囲気だろう。
殺気に限りなく近い闘気。

僅かな油断が大怪我を招くことが一瞬で分かった。
関節の鈍い痛みと疲労感を取り去ることは無理だが、ロウガに教わった事を意識しながら動くことは可能だった。
まずはリラックスし、攻撃を読ませない。
そして、近接戦闘では動き続けることが重要だとも教わった。

初手としてブーンが選んだのは、バックステップ。
距離を置こうと動いたブーンだったが、ロウガはたった二歩踏み出すだけで、それを無意味にした。
両腕を胸の前で組み、自然体でブーンのすぐ目の前にいる。
触れれば勝ちという勝負。

勝ちを欲するあまり、ブーンの体が動いてしまった。
腕よりも離れた距離に攻撃できる左回し蹴りを放つ。
その蹴りを、ロウガは一歩も動かずに右足の裏で止めた。
これが勝ちを意味しないのは分かっている。

ブーンの攻撃は防がれたのだ。
身を守る術の基本を体に叩き込まれたブーンは、その状態がロウガによるテストなのだと気付いた。
足の裏で防がれた攻撃に対して、ブーンは前に進んだ。
両手が塞がっている以上、上半身への攻撃は当たりやすいはずだ。

前蹴りを放とうとした瞬間、ブーンは天井を見ていた。
何が起こったのか理解する間もなく、リングの上に背中を強打する。

430 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 22:19:06 ID:ykRLbvVU0
リi、゚ー ゚イ`!「遅い。 君の攻撃は全て私が教えたものだ。
      私にそう簡単に通じるはずがないだろう?
      攻撃に工夫するか、速度を上げるんだ」

攻撃に合わせた足払いだ。
攻撃が形になる瞬間こそ、打撃戦で人間が最も油断する時だとロウガは言っていた。
それがこの事だと、やっと理解した。
まだナイフを使われていないことを考えると、これでも手加減されている。

しかし気になるのはナイフの使い方だ。
両手を使わないのに、どうやってナイフを使うのだろうか。

リi、゚ー ゚イ`!「まだ訓練は終わっていないぞ」

(;∪´ω`)「はい!」

起き上がり、ブーンは再びロウガに向かって行った。

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           ‥…━━ August 6th AM11:20 In the 3rd block ━━…‥
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431 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 22:27:39 ID:ykRLbvVU0
ベッドの上に腰掛けてから、何もしないまま時間が経過していた。
脇に置かれた小さな机の上には、冷めたコーヒーと無線機。
そして、一挺の拳銃。
腕時計の秒針が立てる音が、やけに大きく聞こえる。

左腕の時計を見た時、時刻は十一時二十分丁度だった。
とうとう、残り五分となった。
全てが動き出すまでに出来ることはやった。
しかし足りなかった。

殺すはずのデレシアは見つからず、その手段も同様だ。
マニーとデレシアによって、計画が一部計画通りでなくなってしまった。
他の者にとっては些細な事だろうが、小さな見逃し、些細な失敗が取り返しのつかない事態に発展する。
それを知らない人間が多いが、それに甘えるわけにはいかない。

こうなったら、デレシアを殺すタイミングをずらすか、諦めるしかない。
元々、こちらがいらぬ用心のために殺そうとしていたのだ。
警戒だけさせておくのも一つの策と言える。
デレシア達の注意が別方向に向いているだけでも、成功だ。

全ては一つの瞬間のために用意した下地。
不要とも言える演劇、目を欺くための茶番劇。
それがこの船で起こした全ての事件の正体だ。
茶番劇と言える簡単な事件ですら気付けなかった探偵たちには、それすらも分からないだろう。

情けない。
本当に、情けない。
彼らが愛して止まない物を。
彼らが期待して止まない物を用意してやったというのに、誰も食い付かなかった。

432 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 22:32:57 ID:ykRLbvVU0
触れる事すらできず、眺めているだけで終わった。
これが情けなくて、何と言うのだろう。
何のための探偵だ。
凡人には解決できない事件に対して真っ向から、そして全身全霊を持って取り組むのが彼らのはずだ。

それは幻想だったというのか。
それは妄想だったというのか。
それは幻影だったというのか。
やはりこれが現実だというのか。

まだ初心が残されていたあの頃に受けた探偵試験の最終問題で、彼らは胸を張って答えたはずだ。
木を隠すなら炎の中。
炎を隠すなら水の中。
水を隠すなら雨の中。

雨を隠すなら嵐の中。
そして、謎を隠すなら謎の中、と。
事件の中に事件を潜ませ、目を欺くことは初歩の技術。
あらゆる事件は、基本的な技術にそれなりの工夫を施して姿を変えているにすぎないという意味だ。

憤りに高ぶり、感情が溢れだす。
彼らは知らない。
知らないまま、この事件は幕を下ろす。
誰にも解かれないまま、事件は闇の中。

誰にも解いて欲しくないと思う反面、誰かに解いて欲しいと云う期待。
それは、正義の味方と云う幻想を抱く子供の様なものだ。
この世界に正義を語ることの出来る者は、まだ表れていない。
未来永劫続く平和を謳うことは簡単だが、この世界を動かすだけの力がなければ、何も変わらない。

433 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 22:41:54 ID:ykRLbvVU0
それを知っている。
それを知っているからこそ、この手を犯罪に染め、血で汚し、快楽として享受するまでになったのだ。
それでも果たしたい目的があった。
目的のためなら、例え意に反することでも実行に移せる。

机に置かれていた拳銃の弾倉を抜いて、残弾を確認。
遊底を軽く引いて薬室に弾が装填されていることを確認し、懐に収める。
道化は道化らしく、最後までその役を果たす。
それが、自分の仕事。

胸を痛めながらも、ブーンを殺したのはそのためだ。
小さな少年だった。
勇敢な少年だった。
愚かな少年だった。

あのような少年が世界に増えればいい。
そうすれば、世界は今よりももっと綺麗になる。
無線機が五回、定められたリズムを刻んで電波を受信した。
これが合図。

全ての準備が整い、計画通りに舞台が動き始める合図だ。
重い腰を上げ、所定の位置に向かう。
玄関の扉に手を伸ばした時、いつもの癖が出てしまう。
念には念を、の癖だ。

完璧にこなしたとしても、確認をせずにはいられない癖。

「ふむ」

434 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 22:46:45 ID:PTMHtc9s0


〜夕凪パクリこと暗黒騎士ガイアが書いた駄作スレッド〜

( ^ω^)ブーン系小説なんてもう全然興味ないようですね
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1394970858/

総レス91中、投下レス数34
1レス投下するごとに1.67の読者レスが付く計算

宣伝も何もせずこんなネガティブなスレタイでここまでレスを稼ぐ
夕凪パクリのガイアはこれくらいのことをながら投下で簡単にやってのけるわけだ



支援!頑張って投下してくれ!
歯車さん!夕凪パクリなんかに負けるなよ!

投下レスに対して1~2のレス数が夕凪パクリのガイアに勝つ目安だからな!
夕凪パクリを許すな!本当のブーン系小説の力で叩きのめそう!

435 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 22:47:39 ID:ykRLbvVU0
踵を返して、ベッドの下に隠した死体を覗き込む。
息を吹き返していないかどうか、改めて調べる必要がありそうだ。
服を掴んで引きずり出すと、そこには完璧な絞殺体があった。
顔には鬱血、首元には内出血の痕。

一旦気絶させてから、風呂場で縄を使って絞殺したため、汚物は部屋の中にはない。
服も着替えさせてあるし、息もしていない。
確かに、死んでいる。
死んではいるが、先月起こった事件を思い出す。

死亡が確認された死刑囚が息を吹き返し、再び処刑されたと云う事件。
デレシアに使うはずだった毒薬のアンプルを懐から取出し、死体の口に含ませた。
これで、確実に死ぬ。

「……君は義務を果たした。
安らかに眠るといい」

そう言い残して、部屋から出て行った。

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   (⌒ 、    .. . ... :. .:.:.:.: .: .... ..:.:.:.:..       .:.:.:.. ..  .. .... .:.:.:...
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436 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 22:59:55 ID:ykRLbvVU0
朝日が雲の隙間から顔を覗かせ、洋上に浮かぶ巨大豪華客船を照らし出してからもう大分経つ。
白い巨体が乱反射する海面に浮かぶ姿は、鏡の上にできた影の様だった。
自然の光が船内に注ぎ込んでから、人々の心中には安堵が芽生え始めた。
嵐の中と晴天の中とでは、人の心境は大きく変わる。

それまで偽りの青空を映し出していた天井のモニターが引き込み、一枚張りの大きなガラス越しに本物の青空を覗かせた。
だがその青空を頭上に見上げられる人間は、第三ブロックにいる者に限られた。
それは、船のほぼ全てを操作することの出来る操舵室も例外ではなかった。

「……ん?」

それでも、船首である第一ブロックにある操舵室からの展望は非常にいい。
乗組員から言わせれば、オアシズで最も眺めのいい場所は間違いなく操舵室だ。
二十階建てのオアシズの七階に位置する操舵室でレーダーを睨みつけていたキース・バレルは、隣にいるエル・マリンを見た。
異変に気が付いたのは、彼だけではなかった。

レーダーに映る小さな船影に気付いたのは、オアシズの船長、ラヘッジ・ストームブリンガーも同じだった。
舵輪の備え付けられた船長専用の座席には、レーダーを含んだコンソールが備わっている。
前方から距離を縮めてくるそれは、ジュスティアの物ではない。
ジュスティアは後方にあり、前方から来る船など連絡がなかった。

キースは慌てて現在地と海図とを見比べ、海賊の多発する場所との距離を測る。
ラヘッジも計算を行い、海賊の活動範囲外にいる事を確認した。
この場所で海賊に出くわすのは奇妙だ。

「船長、前方より船影が七つ接近中。
本船を目指しているものと思われます」

437 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 23:02:22 ID:ykRLbvVU0
報告をしながらも、キースは決してレーダーから目を離そうとしない。
船影の大きさからすると、中型の漁船ほどの物だ。
移動速度もその程度だ。
ラヘッジはその報告とレーダー図を見て、眉を顰めた。

漁船だとしてもタイミングと合わせて考えると、明らかに不自然だった。
嵐の通り道から、わざわざ嵐を追って来る船はいない。
漁師が嵐の後に漁をするのもまたおかしい。

「ヨセフ、警備員達に通達しろ。
海賊の可能性が高い」

無線係であるヨセフ・ガガーリンが頷き、無線機を所有している全員に発信する。

「全職員に報告します。 十時から二時までの方角から、合計で七隻の船が接近中。
海賊の可能性もあります。
それぞれ所定の位置に着き、対処してください」

「キース、電池はどうだ?」

「残り三十パーセント。
エンジンに回しても、生活電力との関係ですぐに停船してしまいます」

こうして報告している間にも、船影はオアシズを取り囲むように移動を開始している。
たった七隻。
しかし、こちらは動かぬ島と化した巨大船舶。
状況で言えば、決して有利とは言えなかった。

438 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 23:03:50 ID:eSFRjzoU0
紫煙

439 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 23:07:32 ID:ykRLbvVU0
万が一相手が海賊だった場合、オアシズへ侵入を試みるだろう。
船内へ通じる非常用階段を使えば、それは可能だ。
だが彼らにとって、今はタイミングが悪かったとしか言えない。
船外、そして船内に通じる扉はことごとくロックがかけられている。

それを解除できるのは市長であるリッチー・マニーの生体データだけだ。
まだ海賊と決まったわけではないが、用心するに越したことはなかった。
船は配置に着いたのか、速度を落とした。
やはり、オアシズの進路を封鎖する形だ。

七隻はオアシズから約三百ヤードの地点で扇形に展開して、こちらの様子を見ているようだ。
事態の深刻さを察知したラヘッジは、すぐに指示を出した。

「各員に通達。 不明船は包囲陣形で停止。
攻撃に備え――」

「――ひぐっ!?」

誰かの狼狽えた声が聞こえたと思った次の瞬間、操舵室は地獄絵図と化した。
悲鳴と共に椅子から転げ落ちた船員たちは、頭髪を毟り取り、喉を掻き毟りながら、口から血の泡を吐いて痙攣した。
ボタンを押すことも、放送を入れることも、レーダーを確認することも出来ないまま、彼らはやがて動かなくなる。
唯一無事なのは、ラヘッジだけだった。

「毒かっ……!!」

いつ、どのタイミングで毒が盛られたのか。
答えはすぐに出た。
ディアナ・カンジンスキーが皆に振舞ったコーヒーだ。
ラヘッジだけがあれを口にしていない。

440 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 23:15:20 ID:ykRLbvVU0
死んでいる人間との違いは、それしかなかった。
即効性だと怪しまれるために、わざと遅延して効果が表れる毒を使ったのだ。
白目を剥いて地面に転がっているディアナを見ると、彼女が盛ったのではないことが分かる。
別の段階でコーヒーに毒が混入され、操舵室に運び込まれた。

タイミングの良さを考えると、本来であればあの海賊たちは密かに乗船する予定だったはずだ。
内通者がいる。
その内通者が何者なのか、ラヘッジはすぐに気付いた。
連続殺人犯こそが、海賊の一味。

警戒の目を船外ではなく船内に向けさせ、レーダーを管理している操舵室を無効化し、侵入を容易にする算段だったのだろう。
だが偶然の産物によって、それが破算となった。
ラヘッジはその場に止まることが危険だと理解した。
緊急放送用のマイクを掴み、無線を持っている全員に向かってラヘッジは叫んだ。

「コードブラック、コードブラック!!」

コードブラック。
外敵から攻撃を受けたことを意味する、ハザードレベル5に直結する緊急コードだ。
犯人の狙いは、オアシズのシージャック。
彼らの失敗は、この船に乗り合わせているジュスティア軍の存在と既に発令されているハザードレベル5だ。

しかし、船外から中に入ることが出来ないのと同じく、船内から船外に出ることは出来ない。
また、警備のほぼ全ては第三ブロックに集中しており、彼らが迎撃に向かうことも出来ない。
迎撃するためには、第三ブロックから船外に通じる全ての出入り口のロックの解除が必要だ。
その権限を持っているのは市長であるマニーだけ。

ベレッタの安全装置を解除し、操舵室から脱出しようと出口に顔を向ける。
無線を聞いていたジュスティア軍の兵士二名が、操舵室に入ってきたところだった。
運がいい。

441 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 23:21:58 ID:ykRLbvVU0
(::0::0::)「何事ですか?!
     これはひどい……」

「あぁ、犯人と海賊はグルだ。
海賊の侵入を手助けするのが犯人の目的だったんだ」

(::0::0::)「なるほど。 船の動かし方は?」

流石は兵士だ。
この状況でも狼狽えずに、必要な行動をしている。

「これがマニュアルだ」

船を動かせる人間のほとんどがいなくなった以上、彼らの力を借りるしかない。
ラヘッジは机の引き出しから、分厚い本を取出し、手渡した。

「まずは市長を探して、ロックを解除してもらわないと」

(::0::0::)「今、同志たちが探しています」

「あぁ、頼む」

(::0::0::)『一度は死んだが、天国がどんなだか聞きたいか?』

男の口から出た言葉を聞いてから、ラヘッジは時間の流れがとてもゆっくりとしたものに感じた。
その時間の中、彼の思考は自然と逆算してその言葉の意味を理解しようとした。
言葉の意味は質問だったが、本質は違う。
それは紛れもなく、軍用第三世代強化外骨格の機動解除用のコードだった。

442 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 23:23:50 ID:fLkpWRZo0
支援

443 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 23:24:58 ID:mFxhbgFI0
支援

444 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 23:31:00 ID:ykRLbvVU0
声の前には、視覚情報もあった。
彼らは棺桶を背負っていた。
サイズはBクラス。
その前には、距離の疑問があった。

第三ブロックからここまで来るには、マニーの力がいる。
無線で緊急事態を告げてから、五分も経っていない。
事前にこちらを目指していたとしか思えない。
つまり、こうなる前に許可を得て移動していたのだ。

逆算が終了し、現実の世界に引き戻されるまでには一秒弱。
目の前にいる兵士の拳が鼻面に吸い込まれ、床に倒れる。
その背後には、強化外骨格を装着し終えた男の姿が。

「い、一体お前たちは!?」

上体を起こしながら、ラヘッジは問うた。
犯人だけでなく、ジュスティア軍人までもが加担する事件。
目的、そして正体は何なのか。
それが全く分からない。

ラヘッジを殴り倒した男は、腰から拳銃を抜いて答える。

(::0::0::)「我々ですか? 勇敢な、そして優秀な船長殿。
     我らの上官に代わり、お答えしましょう」

拳銃の銃口を向けながら、男は誇らしげな声で言った。

(::0::0::)「我々は――」

445 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 23:38:35 ID:ykRLbvVU0
銃声、衝撃。
そして暗転。
終ぞ、ラヘッジは男の言葉を聞くことが出来なかった。
例え聞いていたとしても、それは彼の頭には残らなかっただろう。

その言葉を記憶した脳髄が床に飛散してしまっては、何の意味もないのだから。

(::0::0::)「操舵室制圧」

難なく操舵室を占拠し終えた男は、ラヘッジが使っていた物とは異なる周波数の無線を使って、仲間達にそう呼びかけた。

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Ammo→Re!!のようです

                                         Ammo for Reasoning!!編

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二二ニニ_____|
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  し ニ=  `ー-'′  (  ‥…━━ August 6th AM11:28 In the 3rd block ━━…‥
     ヽ__ノノ_冫‐ `i
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446 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 23:43:43 ID:ykRLbvVU0
コードブラック、という言葉を無線で聞いた瞬間、ジュスティア海軍所属強襲部隊“ゲイツ”の指揮官、カーリー・ホプキンスは気持ちを戦闘用のそれに切り替えた。
船に危機が迫っている。
正直、この船で起きたという殺人事件については手を拱いていたというか、何も考え付くことがなかったので丁度良かった。
こうやって分かりやすい形で危機が迫ってくれると、手出しが楽だ。

室内戦を想定して改造されたコルトM4は銃身を限界まで切り詰め、銃床を伸縮式の物に変え、更に既存のバレルを交換して対棺桶用の弾を発砲できるようにされている。
ダットサイト、そしてアングルドフォアグリップによって中距離での射撃制度も上げている。
貫通力の高い銃弾が装填済みで、棺桶だけで無く、固い装甲や障害物に対しても有効だ。
漁船程度の大きさなら、エンジンを狙えば動きを止められる。

オアシズを取り囲むほどの相手なら、間違いなく棺桶を持っているはずだ。
棺桶には棺桶だ。
背負っている運搬用コンテナの中には強襲作戦に特化したAクラスの棺桶、“キーボーイ”が入っており、当然、ホプキンス用の改修が施されている。
停船中を好機と考えたのだろうが、海賊たちは自ら進んでライオンの檻に入ってこようとしているだけだ。

檻に触れる前に殺す。
ジュスティア軍の力を見せつけるいい機会だ。
力を見せつければ、犯人も怖気づいてこれ以上の犯行を考え直すだろう。
海賊の騒ぎを解決すれば、一先ず仕事をしたことにはなる。

一連の事件解決に関してはトラギコ・マウンテンライト刑事と探偵たちに任せた方がいい。
となれば、行動あるのみだ。
まず必要なのは、先制攻撃。
先制攻撃に必要なのは、位置に着くことだ。

海賊船に対して攻撃を与えるためには、第三ブロックから外に出る必要がある。
その為にはマニーの許可が必要だ。
全体会議以降姿を消してしまったマニーに向かい、ホプキンスは無線で呼びかけた。

447 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 23:51:16 ID:ykRLbvVU0
「市長、こちらホプキンス少佐です。
海賊の迎撃のために、船外への移動許可をいただきたい」

すると、無線機から帰ってきたのは第三ブロック長、ノリハ・サークルコンマの声だった。

ノリパ .゚)『すでに船外に出るための扉は開閉されています。
     お急ぎください!』

対応が早い。
目の前では、従業員たちが乗客達にすぐに部屋に戻る様に指示を出している。
これで、安心して戦える。
ホプキンスは海兵たちの無線に向かって、指示を出した。

「賊を排除するぞ。 ヴァルとラルは操舵室に行き、敵船の位置を報告。
残った者はスリーマンセルで行動し、船外から賊を攻撃。
ジンターとギュスターヴは私と共に屋上から外に出て、全体を指揮する。
状況開始、後れを取るな!!」

そして、ホプキンスは駆けた。
緊急時に動けるようにと十階にいたのが幸いだった。
エレベーターに乗り込み、屋上行きのボタンを押す。
体が軽く持ち上がる感覚の中、ストラップで肩に掛けていたライフルを確認する。

弾、状態、バッテリー。
全て万全だ。
ダットサイトの電源を入れ、安全装置を解除してから棹桿操作をして薬室に一発送り込み、いつでも戦闘が可能な状態にする。
ストックを伸ばし、フォアグリップの穴に指を入れてしっかりと持つ。

448 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 23:56:05 ID:ykRLbvVU0
屋上に到着する前に、ホプキンスはライフルを前方に構えた。
扉がゆっくりと開くと、その隙間から強い潮風が顔に吹き付けた。
眩しいほどの青空には雲一つ浮かんでいない。
波の音と風の音が涼しげだ。

夏の暑さを含んだ空気にも、ホプキンスは眉ひとつ動かさない。
銃口の先には、鮮やかな人工芝が敷かれていて、運動場を思わせた。
慎重に歩を進め、船外に足を踏み出す。

「……まだ来てないのか」

部下達がまだ来ていないことに少し落胆したが、ホプキンスはそれならばと、まずは海賊船を確認することにした。
船の縁まで姿勢を低くして移動し、左舷の高い柵から下を見下ろす。
確かに、灰色の船が囲むようにいる。
まだ何もアクションを起こしていないのを見ると、要求や侵入方法を考えているのかもしれない。

(::0::0::)「少佐殿!!」

「ん? お前は――」

声に反応して振り返るも、ホプキンスはその声の主がジンターやギュスターヴで無いと分かった。
一体誰の声だろうか。

(::0::0::)「攻撃です!!」

その声が無線機からも同時に聞こえたかと思うと、背後から連続して銃声が鳴り響いた。
海兵はホプキンスの襟首を掴んで、一気に引きずり倒した。

「うぉっ?!」

449 名も無きAAのようです :2014/03/29(土) 23:58:58 ID:ykRLbvVU0
(::0::0::)「こ、こいつら……うわぁっ!?」

屋上の至る所から次々と銃声が響き、悲鳴が風に乗って届いてくる。
しかし、目の前にいる男は倒れないどころか、撃たれた気配すらない。
遊んでいるのか。

(::0::0::)「し、少佐!? 大変だ、ホプキンス少佐が殺された……
     本部、聞こえるか? “ゲイツ”は全滅……全滅だ……
     あ、あっ……やめっ……!!」

何を。
何を、言っているのだろう。
まだ自分は生きている。
ただ、倒されただけだ。

周囲では銃声が響いて、悲鳴がするだけだ。
誰も死んでなどいない。
何がどうなっているのだ。

(::0::0::)「……では、さようなら、少佐」

銃声が、ホプキンスのちっぽけな疑問と意識を脳髄ごと吹き飛ばした。
コードブラックを耳にしてから、僅か六分の出来事だった。
物言わぬ死体の傍に立つ男は、無線機に向かって淡々と報告した。

(::0::0::)「屋上制圧」

450 名も無きAAのようです :2014/03/30(日) 00:02:33 ID:46mCtulo0
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最終的な変更点はわずかだった。
気にしないといけないことは、侵入口の数が五分の一となり、館内の五分の一しか制圧できない点ぐらいだ。
最優先目標は変わらず、市長のリッチー・マニーの確保。
海賊船は両舷に分散し、所定の位置に付く。

左舷に六隻、右舷に一隻。
船長が乗る指令艇一隻が第三ブロックの警備員詰所前でエンジンを切り、船首に取り付けた捕鯨砲を喫水線よりも上の壁を狙って撃ち込んだ。
クジラの巨体をも貫通する銛はオアシズの壁を貫き、海賊船とワイヤーで繋がった。
捕鯨砲のスイッチを入れてワイヤーを巻き取り、海賊船をオアシズに密着させて停船させた。

見上げると、途方もなく巨大な船なのだと再認識させられる。
進入口が一階とは言っても、実際は喫水線の上にあるわけではない。
喫水線の約五十フィート上にせり出す形で設けられた踊り場がある。
そこが非常口の出口となっており、そこまでは垂直に伸びる梯子を上って行く事になる。

非常口前には転落防止用の鉄柵に囲まれた広い踊り場があり、巨大な非常階段がそこから壁伝いに屋上まで伸びている。
この階段を使えば、各階への移動が簡単に行える。
立派な装備で身を固めた部下達が甲板から梯子を使ってオアシズを登っていく様子を、ストローハット海賊団船長、マンキーデー・ラフィングは満足げに見ていた。
これまで彼らが狙った中で最大級、否、世界中の海賊達も決して成功しなかった世界最大の豪華客船への海賊行為。

451 名も無きAAのようです :2014/03/30(日) 00:06:28 ID:46mCtulo0
海賊の王を夢見て幾星霜。
ラフィングの夢が成就するのも、そう遠くなさそうだ。
彼らは、ラフィングが海賊を志してから直に集めた同じ夢を持つ仲間。
皆、防弾ベストと個人防衛火器であるP90、そしてBクラスの棺桶で武装している。

海賊の装備としては現代的かつ高価な物ばかりだ。
部下には話していないが、今回の件には出資者がいる。
ラフィングは出資者の指示したことをやれば、後はオアシズをどうしてもいいと約束を取り交わしている。
無論、そんな約束を守る必要はないが、今後とも是非ビジネスを続けたい相手であるため、今はまだ裏切らない。

彼自身も船から梯子に飛び移り、胸の高鳴りを感じた。
この大きな獲物を彼らが好きにできると云うのは、金持ちの美女を好きにしていいのと同義だ。
出資者からの指示は一つ。
市長を捕らえて指定の場所で引き渡すだけ。

楽な仕事だ。
梯子を上り終えると、部下達が非常口である水密扉の前で待機していた。
入り口で指示を待つ部下達に、ラフィングはハンドサインで合図し、待機を命じた。
左舷が各階に散る中、右舷の彼らは一か所から侵入し、第三ブロック唯一の詰所を制圧することを狙いにしている。

つまり左舷は陽動、右舷が本隊だ。
事は慎重に、かつ確実に行う必要がある。
まだ誰にも気づかれていないことは分かっているが、焦って事を仕損じるわけにはいかない。
左舷が侵入し、船内の注意がそちらに向いた頃合いに詰所を襲えば容易に制圧が出来るが、タイミングを誤れば警備員の残る部屋に入ることになってしまう。

無線が三度、無言の合図を受信した。
二度、無言で無線を送り、こちらも合図を出す。

(::0::0::)「ゴー」

452 名も無きAAのようです :2014/03/30(日) 00:10:47 ID:46mCtulo0
ここから先は害虫駆除に似た動きをするだけだ。
短い合図を受け、先頭に立つ男が水密扉に付いたハンドルを回し、ゆっくりと押し開く。
そして、空いた隙間から一気に二人が侵入した。
海賊団切っての命知らず、ブロックリンとジンサだ。

声を立てずに侵入した彼らがまず中の安全確保と偵察を行い、その後で残りが入る作戦だ。

(::0::0::)「クリア!」

一発の銃声を聞くことなく、クリア、の声を先に聞くこととなった。
銃を構えながら船内に入る男達の最後尾に、船長であるラフィングは余裕の表情で付いた。
広々とした警備員詰所には、誰もいなかった。
多少は反撃を予期していたのだが、どうやら、全員出払った後のようだ。

拍子抜けではあるが、戦闘が避けられたのは良い事だ。
構えていた銃を下に降ろし、指をトリガーガードに乗せる。
胸の無線機を取り出して、専用の周波数に合わせて状況を報告する。

(::0::0::)「第三ブロック警備員詰所、制圧したぞ」

453 名も無きAAのようです :2014/03/30(日) 00:14:30 ID:46mCtulo0
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           ‥…━━ August 6th AM11:40 In the 3rd block ━━…‥
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制圧の報告後、ラフィングたちはこの詰所を念入りに調べた。
爆破物などの危険や、罠である可能性を考えたのだ。
考え過ぎだったようだ。
楽な仕事だ。

今日はいい日だ。
仕事が円滑に進めば、それだけ時間が有効活用できる。
その分金も手に入るし、好きなことに時間を使える。
例えば、海賊業の旨味の一つ。

(::0::0::)「よし、まずは人質だ。
     若い女、それと子供を選んで連れてこい。
     ここを一旦、我々の拠点にするぞ」

人質は儲かる。
世界中、どこでもそれは通じる。
生かしておけば金が入るかもしれないし、売っても金になる。
特に、女子供は高値で売れる。

454 名も無きAAのようです :2014/03/30(日) 00:20:36 ID:46mCtulo0
連れ帰って彼らの慰み者になってもらってもいいし、いいこと尽くしだ。
中でも、ラフィングが好むのは女児だ。
美人になる素質を漂わせる、六歳ぐらいの女児が最もいい。
子供の中でも、女児は特に恐怖に屈しやすいからだ。

邪悪な笑い声を上げながら、男達が続々と詰所から出て行き、居住区へと進んでいく。
ラフィングと男二人が詰所に残り、部下が連れてくる人質を待つことにした。
ナイフ使いのババロア・ジロー、そして狙撃の天才ソイップは煙草を咥えて余裕の表情を浮かべている。

「――ひきゅっ?!」

悲鳴が、どこかで上がったような気がした。
周囲を見渡すが、ラフィング以外にそれに気付いた様子がない。
気のせいだろうか。

「――あぱっ!」

否。

「どうっ!?」

これは。

「みけっ!」

気のせいなどではない。

「てゅっ!?」

「うがあああああ!!」

455 名も無きAAのようです :2014/03/30(日) 00:27:30 ID:46mCtulo0
「誰だてめ――」

間違いなく、悲鳴だ。
サンドバッグを殴るような鈍い音――サプレッサーで抑えてはいるが、紛れもなく銃声だ――の後に悲鳴が上がっている。
そして、フロンキーの悲鳴を最後に銃声が止んだ。
ラフィングは叫んだ。

それは命を奪われたコニー・ビロンやニトー・チョップー達のための叫びではない。
自分自身の身を守るための叫びだ。

(::0::0::)『夢と希望が我らの糧。我ら、正義と平和の大樹也!!』

謎の襲撃者がすぐにでもここに攻め込んでくる可能性を考慮して、咄嗟に棺桶を装着した。
それが幸運だった。
コンテナに取り込まれる一瞬前に、目の間でババロアとソイップの頭が一部吹き飛び、コンテナの蓋に銃弾が当たる音を聞いたのだ。
防弾性に優れたコンテナの中では装着を終えるまでの間、外の音がほとんど聞こえてこない。

ただ、何者かがラフィングたちを殺そうとしているのは分かった。

「早く、早くっ……!!」

残り三秒。
着々と、彼の体に合わせて強化外骨格が取り付けられているのが分かる。
この暗闇から外に出れば、襲撃者を返り討ちにできる。
早く敵を殺したい一心で、ラフィングは乾く唇を舐めた。

残り二秒。
誰の気配もしない。
ラフィングが棺桶を使おうとしているのを見て、怖気づいたのだろうか。
今更許しを請われようが、絶対に許さない。

456 名も無きAAのようです :2014/03/30(日) 00:32:23 ID:46mCtulo0
そして、時間になった。
コンテナが開き、強化外骨格で全身を固めたラフィングが一歩を踏み出す。

〔欒゚[::|::]゚〕『どこだ、どこにいる……』

銃を構えて、周囲にそれを向ける。
それ以上、足を踏み出せない。
否、踏み出さないでいる。
少なくともこの位置にいれば、背中はコンテナが護ってくれる。

三方向に意識を集中させていればいい。
仲間達を皆殺しにして逃げたのか。
いや、それはない。
この部屋に、まだいる。

どこかでこちらの様子を見ている。
ラフィングは、試されているのだ。
これまでに感じたことのない緊張感に、ラフィングはたまらず呟く。


〔欒゚[::|::]゚〕『くっ……何が、何が目的だ……』












                      声が、聞こえた。















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457 名も無きAAのようです :2014/03/30(日) 00:37:39 ID:46mCtulo0
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                   I want love or death. That's it.
              『あたしが欲しいのは愛か死か、それだけだ』


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458 名も無きAAのようです :2014/03/30(日) 00:40:03 ID:aWwOaI.IO
遂に来たか

459 名も無きAAのようです :2014/03/30(日) 00:40:36 ID:2ZM1rNTEC
こっちにも支援

460 名も無きAAのようです :2014/03/30(日) 00:45:12 ID:46mCtulo0
それは女性の声だった。
それは美しい声だった。
それは歌うように紡がれた言葉だった。
声が聞こえてから振り返ろうとするまでの間は、僅か三秒。

命取りとなる三秒だった。
だがそれに、ラフィングが気付くことはない。
背後から電磁誘導で射出された杭がコンテナを貫通し、彼の後頭部から顔を貫いたのだから。

【+ 〔欒゚[●ル>フ。゚ ・ ィ゚

強化外骨格を運搬するためのコンテナは、そう簡単な事では破損しない。
棺桶はその装着時間が最も無防備であるため、それを補うためにコンテナはかなり堅牢な作りをしている。
状況によっては遮蔽物としても使用することが可能なそれに対して、棺桶持ちは絶大な信頼を置いている。
勿論、使用頻度によっては強度が落ちて徹甲弾に貫かれる例もあるが、普通はコンテナごと急所を破壊されるなど、夢にも思わない。

ラフィングも例外ではなかった。
声が聞こえてから彼はまず、左右の確認を行った。
これで一秒半を消費した。
残された一秒半で彼が判断したのは、背後にいると分かった人間への対処方法だ。

彼が選んだのは、コンテナを相手側に蹴り飛ばして機先を制すことだった。
だがそれは、コンテナが後ろにある限り、背中から攻撃されることは有りえないと云う感覚があったからだ。
棺桶持ちだけが持つ、無意識の内に芽生えた油断。
襲撃者は、そのことを熟知し、その油断を容赦なく狙った。

しかしラフィングの考えは間違いではない。
長年に渡る戦闘を経験して理解した、コンテナの強度に対する信頼。
室内と云う状況を合わせて考えれば、彼の動きは模範的だった。
普通なら、それで対処できる。

461 名も無きAAのようです :2014/03/30(日) 00:55:03 ID:46mCtulo0
相手が普通なら、の場合だが。
杭が引き抜かれると、死体はその重みで背後に倒れ、再びコンテナの中に納まった。
文字通りの棺桶となったそれの上に足を乗せ、襲撃者は杭打機を振って血を振り落とした。
それは、単一の目的のために開発された対強化外骨格用強化外骨格、“レオン”に相違なかった。



となれば、それを駆る迎撃者は――





ノハ<、:::|::,》「さぁ、お仕置きの時間だ」





――ヒート・オロラ・レッドウィング、ただ一人なのである。

462 名も無きAAのようです :2014/03/30(日) 00:57:35 ID:46mCtulo0
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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Reasoning!!編
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                                       第八章【intercept-迎撃-】
                                         To be continued...!!
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463 名も無きAAのようです :2014/03/30(日) 01:01:29 ID:oitFW0.w0
読んでる支援

464 名も無きAAのようです :2014/03/30(日) 01:05:42 ID:46mCtulo0
支援ありがとうございました!
これにて本日の投下は終了となります。

質問、指摘、感想などあれば幸いです。

465 名も無きAAのようです :2014/03/30(日) 01:10:51 ID:FaWtvpoc0
お疲れ様です。
迎撃開始、という事で次回が既に楽しみです。
さっそくブーンが練習の成果をみせる事になるのかなー。楽しみです!

で、ひとつ質問なんですが海賊の名前は、ワン○ースの麦わら帽子被った海賊からとったんでしょうか?w

466 名も無きAAのようです :2014/03/30(日) 01:15:16 ID:46mCtulo0
>>465
はい、その通りです。
例の海賊団から参加してもらって退場してもらいました。

467 名も無きAAのようです :2014/03/30(日) 01:15:54 ID:oitFW0.w0

おもしろい
前話であたらしい棺桶のキングシリーズってのが出てきたけど、棺桶の国別のカラーリングとかあったりしますか?

468 名も無きAAのようです :2014/03/30(日) 01:19:11 ID:46mCtulo0
>>467
その国らしい、っていう漠然としたイメージですね。
銃と同じで状況に合わせてカラーリング出来るって設定です。

469 名も無きAAのようです :2014/04/05(土) 21:40:28 ID:kPK7OpXE0
棺桶が第三世代だったり第七世代だったりするのってなんか意味あるのかな?棺桶によって世代が違う物もあるってこと?

470 名も無きAAのようです :2014/04/05(土) 23:11:57 ID:MD5blfwY0
>>469
そこに気付くとはやりますね。
そのことについては後々作品内で語る予定ですが、
第三世代と第七世代を使っている人間の共通点なんか気にしていただけるといいかと思います。

471 名も無きAAのようです :2014/04/06(日) 17:48:25 ID:l6wHcDow0
めっちゃ気になるなそれwww

読み返そうか

472 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 14:04:04 ID:WhlWnops0
今晩VIPでお会いしましょう

473 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 15:43:07 ID:OUFh8imE0

待ってる

474 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 17:08:04 ID:jfPlWyBM0
うお来るのかwktk!

475 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 20:18:08 ID:WhlWnops0
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If giving is the love, killing means the love.
与えることが愛ならば、殺すことも愛なのだろう。

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476 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 20:19:02 ID:WhlWnops0
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          !.ニ'.           _,,....,_   〈ニニ/ヽ
        '.ニ,' , - '''' ‐ 、   〃 ,. 斗 ヽ  マy'ム !'.
          '.ニ! / `゙_ー-_..,_',u、ji!‐'´-‐ 。ァ }}‐'´l! 〉ヽl !
         マ {{ ゝ-‐゚ ´.}!⌒!、 `¨¨´ .〃  l!'  У
            'ム、     〃.!   ー-‐ '    ノ´
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海上を我が物顔で荒らし回るストローハット海賊団に所属する彼らは、嵐を愛していた。
自らの蛮行を嵐に例える同業者がいたが、彼らは嵐ではなかった。
人間がいくら徒党を組んで強力な装備を手に入れたところで、本物の嵐になることも、それ以上の存在になることも出来ないのだ。
嵐を自称する海賊団と対峙した時、ストローハット海賊団は容赦なく敵船を攻撃し、海に沈めてきた。

確かに、猛烈な弾幕と攻撃を嵐に例えたくなる気持ちも分からないでもないが、所詮は人間の技。
弾雨は豪雨には敵わず、砲声は雷鳴にも劣った。
RPG-7の一撃で喫水線に穴を空けただけで沈む船の脆さは、嵐の豪健さと比べることが無礼なほどだった。
人間は嵐を始めとした自然現象には絶対に勝てない。

勝てないが、利用することは出来る。
人の不幸を糧に生きる人間ならば分かることだが、嵐とは、被害だけをもたらすものではない。
要は捉え方と動き方だ。
確かに、嵐はあらゆるものを根こそぎ吹き飛ばし、何事もなかったかのように青空と瓦礫の山をそこに残す。

同時に、何の労力も割かずに人間に対して精神的、肉体的なダメージを与えるものでもある。
嵐によって壊滅的な打撃を受けた街には崩れた家が多々見受けられるが、その下から価値のある家電を容易に掘り出すことが出来る。
また、家族と離れ離れになって途方に暮れた子供を手に入れる絶好の機会でもある。
言わば、無欲な暴虐者の後ろに付き従うハイエナとして、嵐を利用するのだ。

477 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 20:20:35 ID:WhlWnops0
海賊の中にはその行為が卑怯だと言う者もいるが、それは間違いだ。
要は、人が手を下すかどうかの問題であり、無駄な労働をするか否かと云う違いしかないのだ。
あくまでもこちらは自然災害の猛威によって打撃を受けた街から利益を得ているだけであり、被害者から金を巻き上げる警察と大差ない。
どちらも人の不幸を商売にしているのであって、誰もが幸せな世界なら、どの商売も成り立たずに消え去るだろう。

それが成り立つということは、これは商売として成立しているということだ。
悔しければ真似すればいい。
腹立つならば真似すればいい。
咎めるなら止めて見せればいい。

電池を使い果たして動きのとれない豪華客船もまた、彼らが幸せになるためには不幸になってもらう対象でしかない。
そうなってもらう予定だった、と言うべきだろう。
一カ月も前から計画されたオアシズ襲撃計画。
それは、非常にシンプルかつ大胆な内容だった。

孤立した船で起こる連続殺人事件とその内容のエスカレート。
全ての注意がそこに向けられている隙に彼らが乗船し、目的を達成するという流れだ。
それを達成するための最大の障害が、オアシズに搭載された高性能なレーダーだ。
一般の船舶に積まれているそれとは違い、海底の形状は勿論だが、接近してくる影の速度や種類までも詳細に分かる代物だ。

レーダーの無効化と云う問題の解決は、協力者が請け負った。
事件解決を目的にジュスティアから派遣される兵に混じり、オアシズ内に潜入。
既に船に潜伏している人間と協力し、内部からレーダーを無効化すると言うのだ。
絵空事の様に思えた作戦は、だがしかし、現実化した。

計画通りに各階に二人一組で散った海賊達の中で、第三ブロック三階の船外に設置された非常扉を開いたのは、ガイモン・グリーンヘッド、そしてパール・シールだ。
ストローハット海賊団の戦闘員である二人は素早くクリアリングを行い、船内に通じる最後の非常扉の前で待機し、仲間に合図を送った。
合図は無線機の通話ボタンを一定間隔で数回押すことで伝わり、声を使わないので敵に聞かれる心配がない方法を取っている。
その合図からすぐに応答が来た。

478 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 20:24:15 ID:WhlWnops0
攻撃を実行せよ、とのことだ。
水密扉のハンドルをパールが回し、ガイモンが扉の向こうに銃を向けて待機する。
慎重に開かれた扉の向こうには、写真や噂で聞いた通りの街が広がっていた。
これまでに多くの船を見てきた彼らにとって、それは常識を変える光景だった。

世界最大の船上都市として機能しているだけはある。
飲食店は勿論、その他娯楽施設、住居までが船に収まっている。
ある意味で混沌としていて、またある意味では整然とした景色。
あまりにも現実離れした光景に、一瞬言葉を失ってしまう。

胸の無線機から警備員詰所を制圧したとの報告が音声で入り、あまりの呆気なさに驚きを隠せなかった。
世界最大の船上都市の警備は、ここまで脆かったのだ。
本当は、熾烈な戦闘を期待していたのだが、それは期待のし過ぎだったようだ。
彼らの役目は搖動。

警備員詰所が空になるまでの間、注意を惹きつける役割を担っていたのだが、その必要はなくなってしまった。
危険を承知でそれを受けたのは、危険を楽しむためだった。
銃撃戦の中で自分が生きているという実感と、相手の人生を終わらせることに快感を覚えたかったからだ。
だが、素早く展開された作戦がオアシズを陥落させるのに有効だったという結果は、素直に受け入れるべきだ。

例え撃ち合いが行われなくとも、仕事は果たす。
それがプロと云うものだ。
気を取り直して、意識を整える。

「クリア。 パール、行くぞ」

「あいよ、ガイモン。 目標は市長だ」

479 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 20:27:07 ID:WhlWnops0
ガイモンが角から足を踏み出した瞬間、視界の端に黒い何かを捉えた。
積み重ねた経験と勘が、彼の体に対して後退を命じた。
一瞬でもその行動が遅れていたら、彼の首に特注の空気穴が出来ていただろう。
堰を切ったように銃声が連続して響き、目の前を銃弾が通り過ぎる。

ガイモンは、この呆気のない制圧が罠であることを瞬時に理解した。
どこかで何かがずれたのだ。
噛み合うべき歯車が、噛み合わなかった。

待ち伏せされていたということは、つまり、初動の際に綻びがあったのだ。
協力者側の失態で、接近が知られていた可能性が非常に高い。
今すぐに計画の変更をしなければ、多くの死人が出て作戦そのものが破綻する。
無線機を胸から取出すが、本体に空いた銃痕を見てそれを地面に叩きつけた。

パールは無線機の代わりに防弾プレートを入れる男。
これで、本隊に連絡が取れなくなった。

「ガイモン、大丈夫か?!」

「大丈夫だが、やつら待ち伏せしてやがった!
情報と違うぞ!」

「本隊に連絡は?」

「駄目だ、無線機が撃たれた!
この調子だと、他の連中も危ない!」

あちらこちらで響く銃声が、第三ブロック全体で同じことが起こっている事を物語る。
接近してくる複数の跫音が耳に届き、ガイモンはパールに言葉をかけた。

480 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 20:29:58 ID:WhlWnops0
「ここは俺達で切り抜けて、他の連中と合流しよう!
俺達ならやれる!」

銃弾は曲がり角を削り取り、弾雨によって二人をそこに釘付けにした。
背中には出口、正面はT字の道だ。
あまり待ってもいられない。
反対方面の道に陣取られて狙撃でもされたら、ひとたまりもない。
逃げるという選択もあるが、今は進む方が賢明だ。

襲い掛かった以上、後退は悪戯に被害を出しただけという結果だけを残す。
地の利は相手にあるが、来る方向さえ分かれば対応は出来る。
ダットサイトとレーザーサイトを装着した個人防衛火器P90を肩付けに構え、パールは壁を背に付けた。

「よし、やってやろうぜ!」

「おい、パール! 壁にっ……!!」

屋内の銃撃戦の中で忘れてしまいがちなのが、壁に近づくという愚行だ。
木製ならいざしらず、鉄製の床と壁が周囲にある状況では跳弾の危険性が高まる。
特に、壁に近い位置にいると跳弾を受けやすくなる。
その為、室内戦、特に廊下のような狭い場所での戦闘では壁から離れて真ん中に位置取る事が基本とされている。

しかし、パールの性格上、それは難しい話だった。
彼は臆病故に、防弾チョッキを重ね着するほどの慎重な性格をしている。
そのため、一方向を安全な状態にしようと壁を利用したのだ。
それが、失敗だった。

「おぷっ!」

481 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 20:33:12 ID:WhlWnops0
運悪く跳弾した銃弾は、何の防御もない彼の頭を直撃してその命を奪った。
銃弾の飛んできた先を確認し、ガイモンは姿勢を低くしてパールの死体の傍に近寄って彼の銃を手に取った。
悲しいことだが、彼の利口さが足りなかったがために起きた事態だ。
いちいち悲しんでなどいられない。

近接戦闘が予想されるため、両手に銃を構える。
数の不利を補うには、弾の数と命中精度が必要だ。
呼吸を止め、跫音と銃弾の飛んでくる方向と、その逆方向に銃口を向けて敵を待つ。
正面にはまだ敵の姿が見えないため、備えはしない。

数は複数だが、十人以下だ。
そこまで多くはない。
殺り甲斐がある。
一つ、簡易な罠を使うことにした。

「ぐおっ、ぐっ……い、あがぁっ……!?」

偽りの悲鳴。
偽りの悶絶。
致命傷を負っていると勘違いをして、勇み足でやってくるかもしれない。
十回に七回は成功したこと、実績のある罠だ。

そして、その時が来た。
クリアリングのために角から僅かに覗いた銃身。
次に出てくるのが人の顔か小型の鏡かで、対応が変わってくる。
呼吸を止め、相手の動きを待つ。

482 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 20:37:37 ID:WhlWnops0
左の曲がり角から僅かに現れたのは男の顔。
それが、発端となった。
銃爪を引いて銃弾の雨を浴びせると、名も知らぬ男の顔が砕け散った。
床の上でのた打ち回り悲鳴を上げる男に、右手のP90で弾を浴びせる。

その時間を契機と見た新たな男が姿を見せるが、左手の銃が火を噴いてその勇気を凌辱する。
胸に弾丸を受けた男は正面から殴られたように後ろに倒れる。
防弾チョッキを着ていたのだろうが、こちらの銃弾はそれを貫通する。
殺した男達の武装はいずれも拳銃だった。

つまり、警備員の可能性が低い。
正規の警備員は、アサルトライフルで武装しているはずだ。
警備員以外で武装していてもおかしくないのは、探偵だけだ。
敵は総出で迎え撃とうとしているのだが、妙なところで詰めが甘い。

マニュアルでしか対処したことのない事態だから慣れていないのだろう。
だが情況的に、決してこちらが有利なわけではない。
楽観的な行動は禁物だ。
切り札を使う時だと、ガイモンは心を決めた。

『そして望むは、傷つき倒れたこの名も無き躰が、国家に繁栄をもたらさん事を』

背負った軍用第三世代強化外骨格、通称“棺桶”の解除コードを静かに口にして、ガイモンは鎧を身に纏う。
銃撃戦で命を失うのはまっぴらだ。
生身で殺し合いをするのはガンマンのすること。
棺桶を持っているのならば、躊躇わずに使うべきなのである。

483 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 20:42:32 ID:WhlWnops0
コンテナの中から姿を現したのは、Bクラスの傑作機として名高いジョン・ドゥの軽量型モデル、ジェーン・ドゥ。
基本的な運動性能を損なうことなく、軽量化に伴う機動力を有する機体だ。
カメラを光学モードから熱源探知モードに切り替え、曲がり角の向こうにある僅かな熱を感知し、可視化する。
敵は三人。

全員生身。
楽勝だ。
両手にP90を構え、ガイモンは角から姿を現した。

〔Ⅱ゚[::|::]゚〕『ばぁ!』

(+゚べ゚+)「ひっ!?」

二挺の弾倉を使い切るまで撃ち続け、三人の頭を瞬く間にミンチにする。
カメラを光学モードに変更し、男達の姿を確認する。
スーツを着ている男もいれば、シャツにジーンズとラフな格好をした男もいた。
だが、得物は拳銃で統一されている。

〔Ⅱ゚[::|::]゚〕『……探偵?』

何故、ここに警備員を配置しなかったのだろうか。
何故、装備を整えて配置されていないのか。
ただの捨て駒として考え、最低限の武装だけさせたのだろうか。
いや、有り得ない。

味方を犠牲にする戦法を取るような状況ではないはずだ。
彼らからすれば、船内のあらゆる箇所が要所。
一か所たりとも通過させてはならない状況なのだ。
考えられる可能性としては、要点を別の場所に定めて――

484 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 20:47:01 ID:WhlWnops0
『名も無き私は知っている。人類最後の日まで、銃が世界から消えない事を』

背後から聞こえたのは、ジョン・ドゥと比較される傑作機、ソルダットの解除コードだった。
棺桶同士の戦い。
興奮に、全身に鳥肌が立つのが分かった。
振り返ると、十三ヤードの位置に仁王立ちになる者がいた。

武骨な鎧は堅牢な装甲の証。
表面に負った浅い傷は経験値と技量の証明。
そして漂わせる雰囲気は、棺桶持ちの実力。

([∴-〓-]『海賊風情が乗っていい船じゃないんだよ、オアシズは』

歳を重ねた男の声。
これは期待が出来そうだった。

〔Ⅱ゚[::|::]゚〕『……楽しめそうだ』

対峙する男は鋼鉄の拳を打ち合わせて、言った。

([∴-〓-]『来なよ、若造』

駆け出したのは同時。
速度はほぼ互角の時速五十マイル。
銃弾よりも肉弾戦による戦闘が望ましい距離と速度だ。
P90を手放し、両の拳を握りしめ、ガイモンは右ストレートを相手の頭部に打ち込む。

485 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 20:51:36 ID:WhlWnops0
相手はそれを左手で払い飛ばし、頭突きを放つ。
狙われたのはこちらの顔。
ジェーン・ドゥの同型機は皆、他の場所と比べて顔面前部の装甲が弱い。
その弱点を潰しに来た一瞬の中、ガイモンは仰け反ることでそれをギリギリで回避した。

両者共に速度を生かした攻撃だったが、共に外れた。
残された結果としては、互いの胸部がぶつかり合っただけ。
鈍い音と強い衝撃。
一瞬だけカメラが乱れるが、問題はない。

距離はゼロ。
完全に密着した状態になり、ガイモンは戦術を一瞬で立てた。
引き剥がしてから、再び肉弾戦に持ち込む。
その戦術を、即行動に移す。

〔Ⅱ゚[::|::]゚〕『せあっ!!』

バックステップと同時に前蹴りで距離を離し、五ヤードの位置に付く。
相手も同じようにして距離を開け、十五ヤードは離れた。
仕切り直すなら今だ。

([∴-〓-]『君の役割はここまでだ』

そう言うと、ソルダットは股間の前に取り付けられた鞘から大振りの高周波ナイフを右手で抜き放ち、空中で逆手に構えた。
高周波の小さく甲高い音が、ガイモンを興奮させる。
彼も左腰の鞘からナイフを抜いて右手で構え、切っ先を相手に向ける。
じりじりと距離を詰めつつ、手の中でナイフを弄ぶ。

486 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 20:56:40 ID:WhlWnops0
高周波ナイフを使えば、棺桶の装甲を切断することが出来る。
狙うなら関節部か急所。
先に仕掛けたのはガイモンだった。
突き殺すためにナイフを構えながらの突進。

リーチを考えても、相手にできるのは払い除けるか横にずれてからの反撃だけだ。
ならば、勝てる。
肉薄するこちらの様子を見ても、相手は静かに立ったままだ。
喉元目掛けてナイフを突き出し、必殺を狙う。

([∴-〓-]『甘い』

逆手に構えた状態から、ソルダットはそのナイフを腰の位置から低い位置に投擲してきた。
加速した状態と距離、そして構えから、それを回避したり弾き飛ばしたりするのはまず無理だった。
意識の全てがナイフの飛んでいく先に向けられた一瞬。
それが、ソルダットの狙いだった。

ナイフは回転しながらガイモンの右膝に突き刺さり、バランスを崩させた。
その一撃で精密さを要求される攻撃から集中力が削がれ、命中率は絶望的な物となった。
回避行動一つなく攻撃は鋼鉄の仮面を僅かに掠るだけに止まり、お礼に繰り出された巨大な握り拳が左胸を直撃する。

〔Ⅱ゚[::|::]゚〕『ぐおっ!?』

装甲越しに浴びせられた凄まじい衝撃は、銃弾の比ではない。
心臓が一瞬止まり、意識が飛ぶ。
前屈みになったところに合わせた肘蹴りが顔を襲う。
装甲越しの攻撃に、顔面の骨が砕けるのが分かった。

([∴-〓-]『せっかくもらったおもちゃも、使いこなせなければ意味ないのさ』

487 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 20:59:11 ID:WhlWnops0
後頭部を両手で掴まれ、男は肘蹴りを何度も顔に浴びせてくる。
装甲が変形して顔に食い込み、攻撃の度に激痛が走る。
肘蹴りの最中、頭を掴む手が徐々に時計回りに力を込めていることに気付けなかった。

([∴-〓-]『さよなら』

首が一回転する直前に聞いたその声は、恐ろしいほどに優しげだった。


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Ammo→Re!!のようです

Ammo for Reasoning!!編

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488 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 21:01:26 ID:WhlWnops0
撃ち合いは第三ブロックの各階で起こっていた。
特に熾烈さを極めていたのは、一階だった。
待ち伏せしていた状況にも関わらず、僅か三分で死傷者五名。
逆に、仕留められたのは一人だけ。

短時間の間に住民を室内に避難させていたからよかったものの、オアシズ側の受けた被害は大きすぎた。
警備員の意識は高いが、戦闘経験が浅いのが問題だ。
撃ち合いになる前に棺桶を使うべきなのだが、彼らはどうしてか棺桶を使おうとしない。
そのせいで、棺桶持ちが銃弾に倒れるという情けない状態になっている。

あれは恐らく、自分自身の生存本能とは別の意志に従っているのだろう。
そうでなければ、ただの自殺志願者だ。
対等な武力での応戦という戦い方には、覚えがある。
正義の都として名を知らしめる、ジュスティアの軍人が最も好む戦法だ。

生まれついての馬鹿か、馬鹿な命令に従う馬鹿なのか。
どちらにしても、オアシズ側の受ける被害は大きなものとなるのは間違いない。

(=゚д゚)「あーあ、信じらんねぇラギ」

公園のベンチの下で冷めた餃子と炭酸の抜けたビールに舌鼓を打つトラギコ・マウンテンライトは、目の前で起こる殺し合いを見て嘆きの溜息を吐いた。
野球観戦よりもつまらないし、観劇よりも退屈だ。
どちらもトラギコには気付いていないのか無関心なのか、構ってくれない。
構われても面倒だが、何もないのは少しつまらない。

かと言って自ら進み出て参戦する気はない。
立ち上がった瞬間に両陣営から撃たれるか、流れ弾に殺されるのがオチだ。
脇に置いたアタッシュケースが既に三発も弾を防いでいるのがその証拠だ。
冷めてしまった餃子を一口で頬張り、甘味と塩気が口の中に広がってきた辺りでビールを飲む。

489 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 21:07:31 ID:WhlWnops0
食べ辛い上に飲み辛いが、それでも摂取する。
アルコールの魅力である酔いも全くないが、それでも胃に収める。
それというのも、空腹では戦うに戦えないし思考が上手く回らないからだ。
それにしても、この餃子は美味い。

結局あれから、五回も餃子を買うことになり、ビールは七回も買ってしまった。
領収書をもらうことが出来たので、後で費用として警察本部に請求できる。

(=゚д゚)「……ったく」

正直な所、トラギコはまだこの襲撃に対してあまり危機感を抱いていなかった。
海賊の質は下の上。
装備は上の上だ。
不釣り合いな装備が意味するのは、彼らが何者かの支援を受けていると云うことだ。

それは、フォレスタとオセアンで起こった事件に似ていた。
民間人がインテリアとして家に飾っておくには高級すぎる棺桶、銃器。
この事件も、それに限りなく近い何かが関係しているはずだ。
ならばこのような小事が目的のはずがない。

茶番だ。
別の目的があるに違いない。
それをどこかの段階で見極め、突き止め、叩き潰せば後手に回って悔しい思いをしないで済む。
今は時間が経過して相手の目的が浮き上がるまで、じっとしているのが得策だ。

ベンチの下で優雅なランチを満喫しているのは、部屋に閉じ込められて身動きが取れなくなるという事態を避けるため。
そして、宿泊している部屋がないためだ。

(=゚д゚)「お」

490 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 21:11:11 ID:WhlWnops0
新たな餃子を箸で摘まみ上げた時、目の前で戦闘を繰り広げていた海賊たちの動きに変化が現れた。
遮蔽物として屋台に身を隠しながら銃撃していた海賊たちは、銃弾が飛んでくる方向に背中を向け始めたのである。
棺桶の使用前によく見られる動作だ。
注意、深く次の言葉を待つ。

背負っている棺桶のサイズはBクラス。
屋内戦で強力なそれだ。
問題となるのはその種類だ。
現存する棺桶は数百種類を優に超え、その性能は多種多様。

全方位にベアリング弾を発射できる危険極まりない物もあれば、荷物運搬に使われる支援型の物もある。
耳を澄ませてコードを聞き取ると、それは聞いたことのないコードだった。

『夢と希望が我らの糧。我ら、正義と平和の大樹也!!』

現れたのは純白の強化外骨格。
しかし、その型をトラギコは良く知っていた。
ジョン・ドゥだ。
塗装と解除コードを除けば、一般的なそれと同じ。

〔欒゚[::|::]゚〕『市長はどこだ!!』

やっと、海賊が目的の一部を口にした。
彼らは市長を探している。
目的は分からないが、とにかく、彼らは市長をどうにかしたいそうだ。

『今日は今までで一番長い一日になる!!』

警備員側から帰ってきた言葉は、トゥエンティー・フォーの起動コードだ。

491 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 21:15:52 ID:WhlWnops0
〔::‥:‥〕『誰が答えるか!!』

六つのカメラと武骨な装甲を備えた巨人が、ジョン・ドゥに突進した。
良い選択だ。
トゥエンティー・フォーの装甲は堅牢で、今の海賊が持つ装備では止められない。
独自の装備を持たない体なら、肉弾戦が最も賢い。

〔欒゚[::|::]゚〕『マジかよ糞っ!!』

機体の性能差による不利に気付いたのか高周波ナイフを抜き放ち、ジョン・ドゥ三機が屋台の影から散開した。
すると、その内の一機がトラギコのすぐ目の前に着地し、銃を撃ち始めた。
そのせいで視界のほとんどが覆われ、落ちてくる薬莢ぐらいしか見えない。
そのことに対して、トラギコは憤りを感じはしなかった。

鋼鉄の脚がトラギコの餃子を踏み潰していることについては別だ。

(=゚д゚)「……!!」

〔欒゚[::|::]゚〕『くそっ、クリス!!』

目の前の脚が地面を踏み砕いて消えたかと思うと、今度はトゥエンティー・フォーの脚が現れ、ジョン・ドゥを追い始めた。
開けた視界に、頭部が背中とくっついたジョン・ドゥが転がっていた。
トゥエンティー・フォーにやられたのだろう。
だがしかし、トラギコにとって最も衝撃的だったのは、潰された餃子だった。

(=゚д゚)「俺の餃子……」

大切に食べていた餃子が、これで無くなった。
ビールは餃子の量に合わせて残していたが、餃子だけがない。
残ったビールを一気に飲み干し、トラギコは殺意を込めて呟いた。

492 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 21:19:21 ID:WhlWnops0
(#=゚д゚)「……俺の餃子ぁ」

アタッシュケースを左手で掴み、右手で懐からベレッタM8000を取り出す。
安全装置を解除し、歯で遊底を引いて薬室を確認する。
対棺桶用の徹甲弾が装填されていた。
この公園にいる海賊の数は二人。

使用している棺桶はジョン・ドゥ。
今は公園で追いかけっこの真っ最中だ。
トラギコは銃を懐に戻して、ベンチの下から這い出た。
立ち上がってスーツの埃を払落すと、左側から声がした。

〔欒゚[::|::]゚〕『民間人?』

(=゚д゚)「あぁ?」

顔を声の方に向けると、白いジョン・ドゥがいた。
周囲の確認はしていたから、恐らくはもう一機のジョン・ドゥの援護に行こうとしてどこからか姿を現したのだろう。

〔欒゚[::|::]゚〕『丁度いい、人質に――』

男の敗因は三つあった。
一つは銃口が地面を向いていた事。
もう一つはトラギコが民間人だと勘違いした事。
そして最後は、捕獲と殺害と云う両者の思惑の違いによる、速さの違いだ。

初夜を迎える生娘を扱うような自然で滑らかな手の動きで、トラギコM8000を構えてジョン・ドゥの頭部に狙いを定めていた。
銃爪を引くまでには躊躇いはなく、照準は精確だった。
口を覆うマスクを貫通した銃弾は使用者の脳幹を破壊した。

493 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 21:22:20 ID:WhlWnops0
(=゚д゚)「何が丁度いいラギ?」

いくら棺桶に身を包んでいても、心に贅肉を纏っていては意味がない。
銃声を聞いて、ジョン・ドゥを纏った警備員の視線と銃口がトラギコに向けられる。

〔欒゚[::|::]゚〕『手前よくもケディを!!』

つい先ほどまでトゥエンティー・フォーを追っていたジョン・ドゥ――餃子を踏んだ男――が、途端にトラギコに標的を変えた。
一時停止の後の方向転換。
距離は目測で二百ヤード。
得物は高周波ナイフだけ。

こちらまでの到達予想時間は三秒。
速度なら、こちらが勝る。

(=゚д゚)『これが俺の天職なんだよ!!』

アタッシュケースを放りながら口にした言葉は、彼の切り札を呼び起こすそれ。
即ち、緊急時の近接戦闘特化型、Aクラスのコンセプト・シリーズ、“ブリッツ”の起動コードだ。
左手に持つアタッシュケースが展開し、機械籠手と高周波刀が現れる。
しかし、悠長に両腕に付けている時間はない。

そこでトラギコは、空中で開いたアタッシュケースに収まる籠手に左手を叩きつけ、強引に装着した。
そして高周波刀を掴むと同時にスイッチを入れ、左の下段から右上段に向けて斬り上げる。
それは盲斬りではない。
幾度も棺桶相手に近接戦闘を挑んできた経験が教える、正確無比な一閃だったのだ。

〔欒゚[::|::]゚〕『きゅ……っ?!』

494 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 21:27:01 ID:WhlWnops0
左の腋から侵入した刃は左腕を切り落とし、その手が握っていたナイフごと地面に落下する。
刃はジョン・ドゥの首元の堅牢な装甲を前にしても止まることなく、喉元を切り裂いた。
ほぼ同時に、トラギコの右腕は万が一に備えて銃爪を引いて銃弾を放っており、男の胸部を貫いていた。
コンマ一秒を争う殺し合いは、経験値と覚悟の差でトラギコに軍配が上がった。

悲鳴すら上げられずに、トラギコの隣を通り過ぎたジョン・ドゥの使用者は噴水の淵に躓いて頭から水に突っ込んだ。

(=゚д゚)「……この俺相手にどこまでやれるか、試してみるラギか?」

銃口を向けてくる警備員に対して、トラギコは血に濡れた刃とM8000の銃口、そして殺意にぎらつく鋭い眼光を向けてそう言ったのであった。

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           ‥…━━ August 6th AM11:50 In the 3rd block ━━…‥
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第三ブロック全体の指揮を任せられたのは、ブロック長であるノリハ・サークルコンマではなかった。
彼女は優秀であるが故に、他のブロック長と共に別の場所に退避をしており、そこから戦況を把握して海賊たちを退けるための策を練る役に回っていた。
では、誰が指揮を執ることになったのかと言えば、オアシズ付きの探偵の中でもずば抜けた推理力を持つ男、ショボン・パドローネその人である。
市長であるリッチー・マニーは彼を直々に任命し、侵入を試みる海賊に対する布陣をすぐに考えさせた。

495 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 21:30:34 ID:WhlWnops0
最初は困惑した様子を見せた物の、ショボンはすぐに頭を働かせ、職員の配置について思考を巡らせた。
最も激しい戦闘が予想されるのは、最も侵入が早い一階だ。
そこでショボンは一階に対して最優先で人を割くことを決め、戦闘経験の豊富な人材を優先してそこに配置した。
警備員のほぼ全員が、一階に集結することになったのはそのためだ。

各階での迎撃には、戦闘経験が浅い探偵たちを配置。
それは、被害を最小化して、海賊たちに打撃を与えるという戦術に乗っ取って考えられたものだった。
強力な銃は優先して警備員に回し、探偵達には強襲を可能にするために拳銃のみの携帯を命じた。
あえて私服姿に扮することで、海賊の眼を欺くことを狙ったのである。

それが成功だったか失敗だったかは、まだ分からない。
結果は最後まで立って武器を手にしていた人間の立場によって変わる。
恐らくは、ショボンの側が勝つ事だろう。
その為には、万全の態勢で海賊たちを排除し、然るべき報いを受けてもらう必要があった。

([∴-〓-]『各フロア、状況を知らせろ』

雑魚を片付けた感慨にふけることなく、三階から無線連絡を入れて状況の確認を行う。

『七階、クリア』

『十一階、クリア』

真っ先に連絡を寄越したのは、その二つのフロアだった。
それ以降、順調にショボンの望む結果が返ってきて、最終的には最上階から二階までの連絡が届いた。
しかし、一階からは連絡がなかった。
連絡の代わりに聞こえる銃声が、その答えだ。

496 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 21:34:38 ID:WhlWnops0
それでいい。
これもまた、予定の内だ。
そう簡単に状況が好転するはずがない。
ここからが本番だ。

([∴-〓-]『……各員、一階に向かうんだ。
      残党を蹴散らすぞ』

合図と共に、ショボンはその場から右舷と左舷にかけて架かる橋に急行し、眼下を確認してから手摺を乗り越えて一階に飛び降りた。
胃を持ち上げるような浮遊感の後、ショボンの鋼鉄の脚はほぼ同じ強度を持つ金属を踏み潰した。
彼の落下を受け止めたのは、海賊が身に纏うジョン・ドゥだった。
左足は肩に、右足はその頭上に。

([∴-〓-]『済まない、手加減の仕方が分からなかったんだ』

〔欒゚[::|::]゚〕『ごぷっ……』

〔欒゚[::|::]゚〕『何?!』

如何に頑強な装甲でも、それを支えて運用するのが人間である以上、限界がある。
頸部に対する攻撃はBクラスの棺桶相手には有効な手段であり、格闘に長けた棺桶が一撃で相手を殺す際に選ぶ部位でもある。
踏み殺された棺桶から離れ、ショボンはセンサーを使って周囲に残る戦闘の跡を見た。
薬莢の転がる数と死体の数とが合っていない。

まだ膠着状態なのだ。
殺したばかりの男の隣にいたジョン・ドゥが、数歩後退って怒声を浴びせた。

〔欒゚[::|::]゚〕『こ、この野郎!!』

([∴-〓-]『来なよ、海賊』

497 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 21:40:37 ID:WhlWnops0
ショボンは殺し合いの途中で交わされる無駄な会話を好まない。
最低限の発言だけをしてから、襲い掛かる。
距離は互いの拳がぶつかるほどの近距離。
言い換えれば、先手必勝の距離だ。

先に攻撃を当てたのは、ショボンだった。
使ったのは足。
それにより、ジョン・ドゥの右膝関節が砕け、バランスを奪う。
ふらついた顔面に、右アッパー。

仰け反ったところで、ショボンは男の後ろに回り込み、両手を組んでハンマーの様に後頭部を振り下ろした。
それが決定打となった。
叩きつけられるようにして地面に倒れ、ショボンは無線に呼びかけた。

([∴-〓-]『残党がまだいるぞ。 分散して対処するんだ。
      市長の場所はまだ分からないのか?』

ショボンの問いかけに対して、答える者はいなかった。
誰か周囲にいないかと見渡したショボンの眼に、ある人物の姿が映った。

([∴-〓-]『……ブロック長?』

レインコートの様な物で顔を隠した第二ブロック長、オットー・リロースミスが足早に建物の影を移動しているのを見つけた。
そこでショボンの脳裏に、ある疑問が浮かんだ。
この状況下で、果たして、市長は勿論だが各ブロック長はどのような動きを取っているのであろうか。

498 肘蹴りは「膝蹴り」の誤植です。すみませんでした :2014/04/29(火) 21:47:54 ID:WhlWnops0
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座席数は百十三。
最大同時収容人数、五百六十五人。
オットー・リロースミスを除いた全ブロック長は、オアシズで最も広いレストランでコーヒーと山盛りのドーナッツを前に沈痛な表情をしていた。
今、船で起きていることのほとんどは情報として彼らの耳に入っているが、彼らから現場に指示が飛ぶことはない。

彼らが滞在している第三ブロックに店を構える “ヒュージ”では海賊襲撃前に、徹底した洗浄作業――盗聴器の発見と除去――が行われた後だった。
更に、強力な妨害電波によってあらゆる通信機器が機能しない状況を作り出すことによって、その空間を安全な物とした。
その指揮を執ったのは、第四ブロック長クサギコ・フォースカインドだった。
日頃から船内のこういった店の洗浄作業を得意とする彼の部下は、何の疑問も持たずにヒュージでの作業を行った。

実を言うと、それを指示したクサギコ自身もこの店がまさか、彼らブロック長の砦となるとは想像していなかった。
第三ブロック長ノリハ・サークルコンマを通じてリッチー・マニーから受けた命令は、ただシンプルに、日頃の作業の一環としてレストランの洗浄を行え、だった。
クサギコは多少の焦りを感じていたものの、それを表に出すほど経験は浅くない。
逆に、経験の少ない人間に対して気を遣うぐらいの余裕はあった。

白いテーブルクロスの敷かれたテーブルに置かれたドーナッツの載った皿を指さし、クサギコは対面して座る男に声をかけた。

W,,゚Д゚W「なぁ、ライトン。 ここのドーナッツは美味いのか?」

第一ブロック長代行、ライトン・ブリックマンは三杯目のエスプレッソを飲みながら、どうにか笑顔を浮かべた。

499 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 21:50:35 ID:WhlWnops0
('゚l'゚)「えぇ、まぁ。 警察の方がよく来るみたいです」

W,,゚Д゚W「さっきから誰も食べないんだが、それはどういう訳だろうな」

('゚l'゚)「食欲がわかないのかも」

本当は、クサギコにも分かっている。
手を付けたがらないのは毒を恐れているから。
コーヒーを飲むのは、それに毒が盛られている可能性が低いからである。
恐らく、この部屋に居合わせる十五人の海軍が銃を持って出入り口の前に立っているのも、食欲減退の一役を担っているだろう。

マト#>Д<)メ「せっかくなのだから、食べればいいのに。
       美味しいですよ」

第五ブロック長、マトリクス・マトリョーシカ。
彼女は自ら率先して行動を起こすという信念に基づいて行動しており、ドーナッツを食べる唯一の人物だ。
ストロベリーチョコレートのドーナッツを食べながらも、彼女は思考を巡らせているに違いなかった。
それは、この場にいるブロック長全員に言えることだ。

種類は違うがそれぞれがコーヒーを摂取してカフェインで気分を高揚させ、角砂糖で糖分を脳に送り込んでいるのだ。
現に、ライトンの飲むエスプレッソには角砂糖が三つ入っている。
事実上、この部屋に閉じ込められた彼らにできるのは、事態の推移に伴う最善の策を練ることだけだ。
最善の策とは、彼らの行動によって船全体が動いて海賊を撃退できる策に他ならない。

そのような策、あればとうに浮かんでいる。
とどのつまり、彼らに策は浮かばなかった。

マト#>Д<)メ「それより、ロミス……いや、リロースミスはどこに?」

500 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 21:55:15 ID:WhlWnops0
W,,゚Д゚W「分からない。 それに、市長もだ。
     市長がいなければ、ここの扉も開かない。
     全く分からないことだらけで、頭がどうにかなりそうだ」

(::0::0::)「ブロック長」

四人のブロック長が、唐突に声をかけてきた男に目を向けた。
鋭い眼光の男は、深刻そうな口調で報告した。

(::0::0::)「こちらのレストランも、敵の手に落ちました」

W,,゚Д゚W「なんだと?!
     電気系統でもやられたのか? それとも、壁に穴を空けて?
     手段は何だ?」

意味の分からない報告に対して、クサギコは冷静に対処した。
良いにしろ悪いにしろ、大きな動きがあった。
まずは情報を手に入れるところからクサギコは始めた。

(::0::0::)「我々の手によってです」

W,,゚Д゚W「……何?」

マト#>Д<)メ「何の冗談ですか?」

冗談では無い事を示す様に、銃で武装した男五人がテーブルを囲む。

(::0::0::)「我々の話し合いで決まったのです。
     無線機も使えず、外にも出られない。
     ならば、各ブロックの権限を持つあなた方を我々の支配下に置き、然る後に……」

501 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 21:57:32 ID:OUFh8imE0
支援

502 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 21:58:38 ID:WhlWnops0
W,,゚Д゚W「ジュスティア軍の決定か?」

所詮は利害関係で結びついていた街同士。
オアシズをジュスティアの一つとして奪い取ろうと思うなら、今が絶好のタイミングだ。
ならば、海賊を寄越したのもジュスティアと云う事になる。
初めから、全てが仕組まれていたのか。

正義の都のジュスティアが、こんな汚い手を使うとは、とても考えられなかった。

(::0::0::)「我々はジュスティアの所属などではありません。
     さ、マニー氏の居場所に関する情報と、あなた達の持つカードをお渡しください。
     そうすれば、直ぐに終わります」

ノリハ;゚ .゚)「例えカードがあったところで、この部屋から出ることは出来ませんよ。
     それに、私達は市長の居場所を知りません」

(::0::0::)「そうですか」

男はそう言って、自らの体を使って背後からノリハの体をテーブルの上に押さえつけ、右腕を掴んでドーナッツの載る皿の上に叩きつけた。
抵抗を試みるも、男の力と体重を払い除けるには、彼女の力はか細すぎた。
クサギコたちは咄嗟に立ち上がってそれを止めさせようとするが、周囲を取り囲む男達が銃口を向けてきたため、椅子に座り直すしかなかった。
どう考えても、このまま見ているしかできない。

ここで勇ましく抵抗しようものなら、その人間が殺されるのは明らかだ。
例え目の前でノリハが強姦されたとしても、黙って見ている他ないのだ。
しかし強姦が目的ではないのは分かる。
ノリハを押さえつける男は、空いた左手で腰の軍用ナイフを抜いて、ノリハの右手に突き付けたのだ。

目的は尋問。
要求は情報。

503 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 22:01:12 ID:WhlWnops0
(::0::0::)「第三ブロック長、もう一度訊きます。
     市長はどこに?」

ノリハ;゚ .゚)「し、知りません!」

(::0::0::)「もう少し素直になりましょう」

ナイフの切っ先がノリハの白い肌に食い込み、小さな赤い点が浮かび上がる。

(::0::0::)「無駄な手間と痛み、どちらがお望みですか?」

ノリハ;゚ .゚)「……」

男は残念そうに溜息を吐き、ナイフを手の甲から親指の付け根に合わせた。

(::0::0::)「……では、親指からにしましょうか」

――その時だった。
巨大な銃声が響き渡り、ノリハにナイフを突きつけていた男の顔がなくなったのは。
顔を失った男はノリハに乗りかかり、首から溢れ出る赤黒い血で白いテーブルクロスを赤く汚した。

(::0::0::)「どこだ!?」

マトマトの背後で狼狽を露わにした男に、新たな銃弾が撃ち込まれる。
着弾したのは、胸だった。
クサギコはその瞬間の事を、後にこう語る。

504 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 22:04:44 ID:WhlWnops0
W,,゚Д゚W『賊は確かに防弾チョッキを着ていました。 えぇ、確かです。
     でも銃声とほぼ同時に、マトリクス・マトリョーシカの背後にいた男の胸部がなくなっていたんです。
     銃弾に詳しいわけではありませんが、あれは徹甲弾の類で無い事は確かです。
     私が見た中で、最も恐ろしい銃弾でした』

胸に空いた大穴を呆けたように眺める男は、続けて放たれた銃弾によって顔を失った。
男は勢いよく後ろに吹き飛び、そこにあったテーブルの上に大の字になって落下した。

(::0::0::)「誰だ!! そこにいるのは!!」

銃声の方向――キッチンの奥――に、男達の視線が集中する。
釣られて、クサギコ他全ての人間の視線もそこに向けられる。
そこにいたのは、この血生臭い場所には似つかわしくない人物だった。
血よりも、赤いバラが似合う人物だった。

収穫前の小麦を連想させる黄金の髪は、毛先に向かうにつれて凪いだ水面の様にウェーブしていた。
肌は透き通るように白く、完璧な彫像のように傷一つ、欠点一つ見つからない。
髪と同じ色をした長い睫は、瞬きの度に花が咲くようなイメージを連想させた。
優しげに垂れた目尻と、薄らと笑みを浮かべる桜の花びらのような薄い桃色の唇は瑞々しく、妖艶な印象を与えた。

くっきりとした大きなスカイブルーの瞳は、あまりに美しく、宝石のように輝いている。
カーキ色のローブで全身を包み、足元を飾る武骨なスエードのデザートブーツは、長い時間履き慣らされていることが一目で分かった。
堂々とした足取りにも関わらず、跫音は全く聞こえない。
両手に持つ漆黒の大型自動拳銃の銃口からは、彼女の体に纏わりつくように硝煙が漂う。

キッチンの奥から歩み出たのは、二挺の拳銃を構える若い女性。
彼女の背後にある調理台の上には、倒れて身動き一つしない人間の姿があった。
得体の知れない恐怖が、その場にいる全員に伝染した。
女性の姿を見ていないノリハでさえ、後に新聞社のインタビューに対してその瞬間をこう述懐している。

505 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 22:07:54 ID:WhlWnops0
ノリパ .゚)『何か、こう、絶対に勝てない何かがそこにいることは分かりました。
    子供の頃に親に抱く感情というのでしょうか。 とにかく、あんな感覚はこれまでに味わったことがありませんでした』

賊が一斉に銃口をその女性に向ける。
銃爪に指をかけてはいるが、引こうとはしない。
否、引けないのだとクサギコは理解した。
恐怖か、或いは別の目的があったのかは分からないが、兎に角、その瞬間に銃爪を引ける人間はこの世の中にいないことだけは分かった。

そのことを、第五ブロック長のマトマトはこう表現した。

マト#>Д<)メ『どれだけ力のある人間でも、海中で二十メートル級のホホジロザメに出会ったら、逃げるとか戦うとか以前に、呆然とするかしかないでしょう?
       それと同じで、どうしようもない、何をしても無駄だって感じでしたね』

銃爪を引く代わりに、男は口を開く。

(::0::0::)「誰だ、貴様!!」

男は震える声で問うた。
正体不明の敵。
実力不詳の怨敵。
分かっているのは、その女性が恐怖を忘れさせるほどに美しいということだけ。

ζ(゚ー゚*ζ「ただの乗客で、貴方達の宿敵よ」

訛りのない完璧な発音、濁りのない甘美な美声、そして、聞き間違い様のない宣戦布告の言葉。
一対十二。
数の差は歴然としていた。
だがしかし、戦力の差が数の差と同じとは限らないと、その場に居合わせたブロック長達は後に知ることとなる。

これが後に言う、“オアシズの厄日”の大きな転換点であった。

506 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 22:11:05 ID:WhlWnops0
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Ammo→Re!!のようです                         Ammo for Reasoning!!編
                     第九章【order-命令-】

           ‥…━━ August 6th PM12:05 In the 3rd block ━━…‥

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ここまでは、デレシアの予想通りだった。
被害者の殺害方法とタイミングの不自然さが、この連続殺人犯の持つ疑問点だった。
殺人犯には大なり小なり、その目的がある。
連続殺人犯ともなれば、私怨か金か、或いは快楽と目的を狭めて犯人の正体を把握することが出来る。

探偵たちが推理を進める中で、デレシアは真逆の発想をしていた。
犯人の思惑は、その疑問点が全てを有耶無耶にしてしまうことだと考えたのだ。
ただの私怨であれば、警備員詰所を襲撃する必要はないし、映像を流す意味もない。
金が目的であれば、恐喝をした方がいい。

507 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 22:14:11 ID:WhlWnops0
快楽を求めての犯行であれば、何も船上で行う必要はないし、警備員達を敵に回す必要もない。
つまり、見せかけだけの事件にしかデレシアは感じることが出来なかったのだ。
彼女が考えた通り、犯人の目的が陽動だとするならば、別の方向に目を向けなければならない。
デレシアは全員が犯人の次の目的と云う一点を見ている中、犯人の最終目的を見ていた。

その結果、デレシアは外部からの攻撃があると結論付けた。
そうした場合、真っ先に狙われるのは市長であるリッチー・マニーだ。
彼が生きている限り、彼は鍵になる。
この船の出入り口を全て封鎖しても、彼がいればそれを突破することが可能だ。

ハザードレベル5の発令は犯人側にとっては誤算だっただろう。
その誤算を帳消しにするためには、どうしても船の出入り口を開く必要があった。
入り口が開かなければ、オアシズは海上の城となる。
もしもデレシアが犯人ならば、真っ先にマニーを手に入れようと新たな事件を起こす。

そこで、敵に滅茶苦茶に食い千切られるよりも先に、自ら第三ブロックだけを解放することを選んだ。
侵入箇所を一か所に絞ることで、敵の攻撃に対して迎撃と準備が可能となるからである。
マニーの次に狙われるのは、どう考えてもブロック長達だ。
彼らは彼らで、様々な権限を持っているため、人質として非常に役立つ。

その為に、デレシアはマニーを別の場所に移動させてブロック長らを一か所に集めることにした。
敵が攻め入る、その最前線に。
マニーの姿が見当たらないとなると、犯人はブロック長を狙う。
この状況下でブロック長に対して意識を向ける人間が、犯人一味の可能性が非常に高いのだ。

犯人に関わる人間を一機に炙り出す事を狙った結果、その下準備の用意周到さに呆れ返った。
ジュスティア海軍の船と指揮官、そして軍服と装備で乗船した者達のほとんどが、ジュスティアの人間ではなかった。
指揮官は真っ先に殺され、残った四十一名は皆、犯人の仲間だった。
つまり、ジュスティア内部にまでその手を伸ばして工作をするだけの技術と人間を持つ組織が、犯人の背後にはある。

508 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 22:17:14 ID:WhlWnops0
――まずは目の前にいる“石ころ”を払い除けるべく、デレシアは意識を戦闘に集中させることにした。
ここまで予想通りであれば、後のことは万事上手くいく。
今日中にこの海賊もどきたちは片付けられるだろう。

(::0::0::)「宿敵? 宿敵だと? 笑わせてくれる……!!」

男達が持つ武器は、コルトM4のカービンモデルだった。
弾倉の中身は三十。
薬室内と合わせても最大で三十一発の計算だ。
十二人分なので、三百七十二発。

何一つ、ただの一瞬たりとも、臆するに値しない戦力だ。
背負った棺桶を使用するだけの肝っ玉があれば、それなりに楽しめそうだ。

(::0::0::)「殺せ」

鳴り響く銃声。
デレシアは銃弾から逃れるために、キッチンに舞い戻った。
鉛弾がステンレス製のシンクや食器棚を破壊し、甲高い音が響く。
ガスの様な引火性の強い物は調理に使われていないため、引火する心配はない。

ただ、軽量化を重要視した調理器具は防弾性に乏しい。
貫通の度合いを見ると、フルメタルジャケットや対棺桶用徹甲弾ではない。
通常のライフル弾だ。
跳弾にだけ気を付ければいい。

シンク下の収納スペースを開いて、そこから各種刃物を抜き取る。
相手はプロだ。
下手に近づいてくるような真似はしないだろうが、二、三人の斥候は寄越すだろう。
判断材料は銃声の影に聞こえる跫音だ。

509 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 22:20:19 ID:WhlWnops0
左のデザートイーグルを腋のホルスターに戻し、果物ナイフを一本摘まむ。
応戦の一発をシンク越しに放つと、悲鳴が聞こえた。
ブロック長には当たったのであれば、それは彼らの危機意識が低いだけだ。
マニーは無力な市長だが、無能ではない。

その辺りの管理が出来る人間をブロック長の座に据えているはずだ。
ここで死ぬなら自己管理不足だし、弾に当たるならその程度だ。
仮に被弾した場合、通常の生活に復帰するのは難しい。
現在、デザートイーグルの弾倉に入っているのは歴史上最も悪質なマンストッピングパワーを持つホローポイント弾、“INF(訳注:父の名において)”と名付けられた銃弾だ。

家庭用に販売されたワンショット・ストッパーの究極系と言えるこの銃弾の弾頭は、四つに別れた鋭利な爪が蕾のように一つに集まって形成されている。
花弁に例えられる弾頭の一つ一つには横に走る四本の切れ込み線が入れられ、先端は貫通力を高めるための加工がされた銀色をしている。
特殊な加工技術を用いて作られた弾頭は硬質な物に対しては貫通し、人体の様な柔らかな物質になると途端に凶悪な力を発揮する。
防弾着ですら喰い千切って開花する凶暴な弾頭は人体に入り込むと細かく散り、肉と内臓を吹き飛ばす性質を持っている。

発表から三日で販売禁止、即時回収、単純所持禁止となっただけあってかなりの力を持っていた。
相手が棺桶を使用しなければ、かなりの打撃を与えられる代物だ。
デレシアは右手で相手の動きと位置を推測し、銃口だけを出して牽制射撃を行った。
発砲できる弾数が七発に対し、デレシアは銃爪を六回引いた。

銃を引き戻し、右手中指で空になった弾倉を排出しつつ、一瞬だけ体を出して左手でナイフを投擲した。
左手の攻撃は右手とは異なり、計算に基づき必殺を狙った攻撃だった。
空中で回転しながら飛んで行ったナイフは、接近していた男の首元に突き刺さり、致命傷を与えた。
喉仏を貫いた包丁を抜き取ろうと男は反射的に手を伸ばすが、それは無駄に終わった。

ゴボゴボと声にならない呻き声を漏らしながら、男はその場に倒れる。
一瞬だけ確認した敵の配置は、見事だった。
斥候に出したのは二人。
その二人が排除されたことで、敵はデレシアの戦力を再計算し、テーブルを倒して楯にしながら少しずつ前進して来ている。

510 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 22:23:54 ID:WhlWnops0
牽制射撃を行いながらこちらの出方を見るつもりだろう。
弾薬と兵力差で言えば、それがいい。
しかし、見誤っている。
デレシアの戦力は、少なくとも彼らを遥かに凌駕している。

銃声の合間に聞こえた、ピンを抜く音。
手榴弾を使われると厄介だ。
素早く弾倉を交換し、通常の弾に切り替えた。
電子コンロの上からフライパンを手に取り、デレシアは半身を出して銃撃した。

案の定、手榴弾が放物線を描いて飛んできた。
それに対してデレシアはフライパンを投げて対処した。
空中でフライパンに打ち返された手榴弾は、使用者の元に帰った。

(::0::0::)「にげっ!!」

爆音が声をかき消した。

ζ(゚ー゚*ζ「あら、けっこう上手くいったわね」

両手にデザートイーグルを構え直して、デレシアはキッチンから飛び出した。
飽きるほど聞かされた銃声から、もう相手の位置ははっきりと分かっている。
両の弾倉が空になるまで撃ちまくり、テーブルを貫通してその向こうにいた男達を殺していく。
これだけ場を盛り上げたのだ。

そろそろ、背負っている棺桶を使う頃合いだろう。
銃弾を躱しながら、大きなテーブルの傍に転がり込む。
分厚い木で作られた二十人掛けのテーブルをひっくり返し、それを楯にしてデレシアは相手の出方を待った。

(::0::0::)『一度は死んだが、天国がどんなだか聞きたいか?』

511 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 22:26:24 ID:WhlWnops0
なるほど。
汎用型の“ハムナプトラ”だ。
軽量化と速戦的なことに特化した棺桶だが決定打に欠ける代物だ。
開発当初から言われてきた棺桶らしからぬ装甲の薄さは、大量生産を容易にするための苦肉の策だった。

棺桶の開発ではどうしても金属などの資源が必要になる。
戦時中では棺桶の性能よりも生産の速さが喜ばれた。
アジアの大国がその生産力を世に知らしめ、尚且つ巨大な国土を守るために作り出した棺桶。
棺桶と云うよりもミイラ。

戦闘中に期待できるのは運動能力の強化と、大量の弾薬の携帯ぐらいだ。
それが、ハムナプトラの特性だ。
銃声が止み、男の声がホール全体に響き渡った。

<=ΘwΘ=>『その強さと豪胆さに敬意を表して、棺桶でお相手仕ろう』

堂々と物陰から姿を現した男に対し、デレシアはソウドオフショットガンを向け、銃爪を引いた。
対棺桶用のスラッグ弾がヘルメットを貫通し、男の脳味噌を後ろに吹き飛ばした。
例えトゥエンティー・フォーの装甲でも貫通できる代物だ。
紙の様な装甲では、防げない。

デレシアの銃の恐ろしさに気付いたのか、男達は何も言わずにその場から散った。
弾の雨をデレシアに浴びせるが、テーブルがそれを阻む。
デザートイーグルの弾倉を交換し、対棺桶用のものにする。
両手に銃を構えた状態でテーブルを乗り越え、デレシアは正面から迎え撃つことにした。

時折彼女のローブの裾を銃弾が捉えるが、その先に彼女の体はない。
このローブの構造は実に理に適っている。
余裕がある作りをしているために動きを邪魔することはなく、弾も止められる。
通常弾であれば、それこそダメージはあるが貫通はしない。

512 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 22:31:50 ID:WhlWnops0
倒れたテーブルの上を跳躍し、相手を翻弄する。
残党は七人。
宙返りをして弾を躱しざまに発射した銃弾は、男二人の頭に命中し、息の根を止めた。
新たなテーブルの影に姿勢を低くした状態で着地すると、一機が駆け寄ってくるのが騒々しい跫音で分かった。

近接戦闘なら勝てると思ったのか。
愚かな。
音の方向を見もせずに銃だけを向け、銃爪を引く。
恐らく、当たったのは胸部だ。

派手な音を立てて転がり、デレシアが背にする机にぶつかって止まった。
残りは四人。

<=ΘwΘ=>『こいつ、ただの女じゃないぞ!!』

ζ(゚ー゚*ζ「ただの女なんていないのよ」

無礼な発言をした男の声の方向に、三発放つ。
残り三人。
ホールもだいぶ静かになってきた。
弾倉を交換し、ゆっくりと立ち上がる。

腹から声を出して、相手の矜持を突く言葉を発した。

ζ(゚ー゚*ζ「この世界にいるのは、弱い女か、強い女だけよ」

デレシアは意識を集中させた。
次に何が起こるかを知っているからだ。
この状況下で身を晒せば、間違いなく銃弾が飛んでくる。
今は、そうしてもらわなければ困るのだ。

513 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 22:34:08 ID:WhlWnops0
膠着状態になれば、ブロック長達が人質になる可能性が出てくる。
ブロック長は優秀な人材だ。
今後、オアシズが復興していく上では欠かせない。
この状況で身を晒すのは、一気に大部分を削られたことによって相手の戦意が喪失して、膠着状態になることを避けるための手だ。

焦った相手はデレシアに対して攻撃を仕掛けてくることだろう。
そうなれば、位置が分かる。
位置が分かれば殺せる。
そして、敵は全員デレシアに対して殺意と敵意をむき出しにして銃撃をしてきた。

実に単純だ。
冷静に銃口の向いているその先を確認して上体を逸らして弾を避け、三発撃って彼らの夢を終わらせた。

ζ(゚、゚*ζ「……」

殺し合いの最中、デレシアは考えていたことがあった。
彼らはジュスティアへの潜入を成功させている。
それは事実だ。
では、何故ジュスティアなのだろうか。

そこに意味がある。
残った屑共の始末は、それを考えながらいいだろう。
そして、犯人を追いつめるための手を進めておけば、ティンカーベルまでの間はのんびりと過ごせる。
全ては有意義な旅のために。

残った海賊を処分しに行くために、デレシアは店の正面玄関に足を向けた。

514 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 22:38:41 ID:OUFh8imE0
読んでる支援

515 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 22:39:12 ID:WhlWnops0
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                  `ー、 ヽ ´  ゙̄`ヽ ゙̄、
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           ‥…━━ August 6th PM12:27 In the 1st block ━━…‥
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船内で小規模な戦争が起きる中、オアシズの住民達は皆、部屋でそれぞれの時間を過ごしていた。
海賊に襲われるのではと恐慌を来して訳の分からない神に祈りだす者、酒を飲んで泥酔する者、歌い出す者までいた。
多くの乗客がいたが、トレーニングをしている客は二人だけしかいなかった。
一人は妙齢の女性で、もう一人は少年だ。

女性はその身の細さからは想像もできない力強い蹴り技で、少年を追いつめていた。
足が空を切る音に気圧されながらも少年は果敢に立ち向かい、その小さな拳を打ち込むタイミングを見計らっている。
二人はロープの張られたリングの上にいた。
双方の顔に浮かぶ表情には、険悪な色は混じっていない。

これは喧嘩ではなく訓練。
実戦に近い闘気を放ちながらも、殺意は必要のない戦いなのだ。
とは言うものの、少年と女性の間には圧倒的な戦闘力の差がある。
果たして戦いと呼べるものなのかは、結果を見るまでは分からない。

女性が手加減をしていることは明らかだった。
放つ雰囲気から、その気になれば一瞬で終わらせられるだけの力を持っている事が伝わる程の人物だ。
速攻で勝負を終わらせないのは、少年の実力を測って鍛えることが目的だからだ。
その為に、両腕を使わないというハンデと特別なルールまで与えた。

516 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 22:41:24 ID:WhlWnops0
勝敗を決定する条件はゴム製のナイフが少年の体に触れるか、少年が女性の足以外に触れるか、だった。
代わりに女性は、華麗な足技の数々を披露した。
上下左右、拳以上の攻撃範囲と攻撃力、そして速度が少年に新たな攻撃の幅を教えた。
更に少年を驚愕させたのは、黒いゴムで作られたナイフが女性の背中から現れ、それを足の指で掴んだ瞬間だ。

ナイフを足で使うなど、聞いたことも見たこともなかった。
驚愕する暇もなく、ナイフの切っ先は疾風の様な速さで少年の心臓の上に構えられた。
動くことすらできなかった。
ほんの数ミリだけ離れた位置で静止するナイフに、少年は瞬きを忘れた。

女性は何も言わずに両腕を小さな胸の前で組み、深紅色の瞳で眼前にいる少年をじっと見つめている。
凛とした気高さを持つ女性だった。
限りなく黒に近い灰色の髪を持つ女性には、獣の耳と尻尾があった。
狼の耳と尻尾だ。

右足を上げて立つロウガ・ウォルフスキンと名乗った女性は、俊敏で軽快な動きを一時間以上も続けていたが、汗一つかいていない。
彼女は右足の指を器用に使ってゴム製のナイフを掴んでいた。
気を取り直し、少年は後退を選んだ。
それから、ロウガはまるで披露するかのようにナイフを縦横無尽に振るった。

刃渡りの小さいナイフだったが、彼女の長い脚と合わさると槍にも薙刀にもなった。
辛うじてそれを避けるが、とても反撃の隙を窺うどころではない。
攻撃の軌跡を見切ることすらできない。
それだけの攻撃にもかかわらず、ロウガは呼吸を乱す気配を見せない。

対して、垂れた犬の耳と尻尾を持つ少年は肩で息をして、ナイフの届かない距離を保つだけで精一杯だった。
顎の先から汗がリングに落ち、染みを作る。
軽い気持ちではなかった。
必要量の覚悟をもって挑んだとしても勝てない相手だということは、重々承知している。

517 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 22:43:14 ID:WhlWnops0
防戦では勝てず、捨て身の攻撃で勝てる相手ではない。
これまで多くの争いを見てきた経験が、そう教えた。
だから少年は、必要以上の覚悟を用意してロウガとの戦闘訓練に臨んだ。
戦術も戦略もないが、兎に角、相手の動きについていこうと必死になった。

何度も攻撃を仕掛けても、拳は掠りもしなかった。
逆に、カウンターの回し蹴りが何度も少年の前髪を撫でた。
どうにかその攻撃を避け、気が付けば攻撃の主導権は完全に相手の手にあった。

!ヽ, __ ,/{
リi、゚ー ゚イ`!「ま、歳の割にはよくやった方だ」

ロウガがそんな感想を口にする。
まだ終わっていないと、少年は答えた。
それを聞いたロウガは嬉しそうに口元を緩め、容赦なくナイフによる斬撃を再開した。
少年は三十秒にも満たない休憩を終え、その場から飛び退く。

横薙ぎの一撃は、少年の顎に溜まっていた汗の一滴を切り払った。
もう一歩距離を開けようとした時、少年は気付いた。
自らがリングの隅に追い詰められていることに。
背中にロープの存在を感じ、後退が出来ないことを悟る。

左右か正面の、三面にしか活路は見いだせない。
足元を払うような一撃が、気休めにもならない状況把握を強制的に終わらせた。
それを飛んで回避し、続けて反射的にしゃがんだ。
相手は剛の者だ、攻撃の間は最小であるはずなのだ。

518 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 22:45:24 ID:WhlWnops0
案の定、少年の上半身がそれまであった場所をナイフが通過する。
しゃがんだ状態を好機と捉え、少年は左手でロウガの脚を掴んで道を確保し、前に進んだ。
片足ならば、蹴りは繰り出せない。
ナイフは今や、少年の背後。

引き戻すまでの時間とこちらの拳がロウガの腹部を捉える時間を考えれば、こちらが有利だ。
これ以上細かな計算をしている時間はない。
点と点を線で結ぶ最短の攻撃を足元から放った。

リi、゚ー ゚イ`!「良い判断だ」

ロウガは片足を支えに思いきり仰け反り、ブーンの拳は空振りに終わった。
信じがたいバランス感覚を発揮し、ロウガはそれを回避したのだ。
否、耳付きと呼ばれる人種ならばそれは容易な芸当。
自分にもできる技だ。

拳が空を切った瞬間、少年は背後からの強い力でロウガに引き寄せられた。
その正体はナイフを掴んでいる右足だ。
誘い込まれたのだと分かった時には、もう遅い。
右足のナイフはしっかりと背中に当てられており、ロウガの勝利であることを物語る。

にこりと笑みを浮かべながらロウガはわざと背中から倒れ、少年を両足でしっかりと取り押さえる。
痛くはなかった。
ロウガの硬い腹筋が、クッションとなってくれたのだ。
完敗だった。

リi、゚ー ゚イ`!「動きは悪くない。 私が言うんだ、自信をもっていいぞ。
      さ、シャワーをして汗を流そう。
      そうしたら、お昼ご飯を食べて少し外の空気を吸いに行こうか」

519 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 22:57:48 ID:WhlWnops0
.




(;∪´ω`)「はい、ししょー!」






少年の名はブーン。
まだ成長途中の、小さな旅人である。






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                  これは、愛に満ちた旅の物語。

                      To be continued!!
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520 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 22:59:28 ID:WhlWnops0
支援ありがとうございました。

これにて本日の投下は終了となります。
なお、今回の文章中に出てきた

「肘蹴り」なる人体法則を無視した攻撃ですが、「膝蹴り」の誤植です。
脳内変換をよろしくお願いいたします。

何か質問、指摘、感想などあれば幸いです。

521 名も無きAAのようです :2014/04/29(火) 23:01:52 ID:OUFh8imE0
乙!

522 名も無きAAのようです :2014/05/01(木) 06:54:48 ID:2gN2ptKo0
おつおつ

523 名も無きAAのようです :2014/05/02(金) 02:14:32 ID:l7E4RSJIO

ソルダットはジョンより近接戦闘が得意な感じ?
戦闘シーン見る限り機動力は上なイメージだ

524 名も無きAAのようです :2014/05/02(金) 15:06:10 ID:XF86ORx.0
>>523
機動力に関しては使い手次第ですが、装甲の硬さはソルダットの方が上です。
ただ、ジョン・ドゥの方は細かな動きが得意です。

銃で言うなら、ソルダットがAK47 ジョン・ドゥがM4 ってなイメージです。

525 名も無きAAのようです :2014/05/02(金) 16:48:34 ID:VClSPi2Y0
肘蹴りワロタ

526 名も無きAAのようです :2014/05/02(金) 18:33:51 ID:Rt4.YV/k0
トゥエンティ・フォーの見た目がレジスチル以外想像出来ない

527 名も無きAAのようです :2014/05/02(金) 22:12:54 ID:XF86ORx.0
>>526
トゥエンティー・フォーのイメージはこんな感じです。
どう見てもレジギガスです、本当にありがとうございました。

ttp://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1527.jpg

528 名も無きAAのようです :2014/05/03(土) 08:07:35 ID:i6kjlbHQ0
>>527
やだ…イケメン要塞…

529 名も無きAAのようです :2014/05/31(土) 23:05:13 ID:jTQ.wdNkO
やっぱおもすれーな

530 名も無きAAのようです :2014/06/01(日) 18:53:17 ID:CXsdzfUM0
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Do you have the fucking evidences?
証拠は持った?

Fucking conviction?
確信は?

Fucking confidence?
自信は?

Can you begin to fucking reasoning now?
クソッタレな推理は始められそう?

So, foolish detectives, it is ShowTime!!
では愚かな探偵諸君、ショータイムだ!!

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531 名も無きAAのようです :2014/06/01(日) 18:55:22 ID:CXsdzfUM0
嵐が過ぎ去ったその海域は、赤子の肌を撫でるような優しい風が吹いていた。
猛烈な嵐が上空から連れてきた冷気が潮の香りと混ざり合って、海上は優しい夏の香りがしていた。
蒼穹を映す群青の水面は、乱反射を繰り返して煌めきを放つ。
穏やかな波の中、一隻の船がその巨体を海に浮かべていた。

象牙の様な白い肌の船は、雄々しくも上品な雰囲気が漂っている。
一見すると体を休める鯨のようだが、船内は穏やかな状況ではなかった。
その巨大な船の名は、オアシズ。
世界最大の豪華客船にして、世界最高の船上都市である。

船には街がまるまる一つ収まっていた。
集合住宅、飲食店、果ては風俗店。
大型のプールやスケート場、コンサートホールまでもが設けられている。
巨大な発電設備によって船の電力は全て賄われ、不自由のない船旅が約束されていた。

最高水準の安全性と設備を持つその街で、大きな事件が起こった。
全ての始まりは、八月四日に起きた無差別連続殺人事件だ。
船員の殺害から始まり、警備員詰所の襲撃、民間人の毒殺。
そして、海賊団による襲撃事件。

“オアシズの厄日”と呼ばれる一連の事件は、大きく二つの枠組みで構成されていた。
連続殺人事件と、海賊襲撃事件だ。
一つ目の事件は未だに解決をしておらず、犯人の見当も付いていない。
二つ目の事件が起こった時、オアシズに常駐する探偵たちは全てがその瞬間のために仕組まれた物であることに気が付いた。

そして今、二つ目の事件が解決に向けて大きな動きを見せていた。
事前に第二の事件を予期した人間が指示した迎撃策が、その効果を発揮し始めたのである。
意図的に入り口を解放し、敵の行動を制限したのだ。
簡単な奇襲になるはずだった海賊たちは一つのブロックにその戦力を集中させられ、大打撃を受けた。

532 名も無きAAのようです :2014/06/01(日) 18:58:06 ID:CXsdzfUM0
勿論、オアシズ側も無傷では済んでいない。
迎撃に参加した探偵、警備員の三割が死傷した。
オアシズ側の迎撃作戦は、決して賭けではなかった。
立案者は多少の被害が出てもオアシズが勝てるように、この作戦を立てた。

作戦の核となる迎撃は時間との勝負であると同時に、連携力の勝負でもあった。
船全体がその作戦を理解して、命を失う覚悟が出来るかどうかに全てがかかっていた。
それは杞憂だった。
オアシズの乗組員たちは勇敢で、愚直だった。

命を落としかねない作戦に対して不服を言わずに、果敢に戦って死んでいった。
被害者の中には船内に家族がいる者もいた。
激しい攻防によって、双方共に甚大な被害を被ったのは一階だった。
熾烈を極める殺し合いは、血で血を洗う争いへと変貌し、美しい彫刻の施された噴水を破壊し、水を赤く染めた。

流血の成果として事件は今、終息に向けて着実に進んでいた。

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     ‥…━━ August 6th PM13:26 on the 5th floor, in the 3rd block ━━…‥
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ノハ<、:::|::,》『これで終わりだ、海賊』

533 名も無きAAのようです :2014/06/01(日) 18:59:37 ID:CXsdzfUM0
その女性は五階にいた。
全身を黒の軍用強化外骨格――通称“棺桶”――に包み、その顔は透過性のあるスカイブルーのヘッド・マウント・ディスプレイが覆い隠していた。
細身の体に似つかわしくない巨大な左手には、悪魔的な造形をした鉤爪が付いている。
そして、右手に装着された巨大な杭打機は傑作強化外骨格ジョン・ドゥの心臓部を打ち抜いていた。

女性はジョン・ドゥから杭を引き抜いて、血を振り落とした。
ねっとりとした赤黒い血が、薬莢の転がる地面に花を咲かせて彩る。
地面には同じようにして一撃で胸の急所を破壊されたジョン・ドゥがもう一体、転がっていた。
強い芯を感じさせる声の女性の駆る棺桶は、最小単位であるAクラスの物だ。

サイズの差を物ともせずに海賊たちを翻弄できたのは、彼女の技量と棺桶の性能の差だった。
彼女のそれは、量産型の棺桶とは設計思想がまるで違う。
単一の目的のために特化して作られた棺桶は、“コンセプト・シリーズ”と呼ばれる物だった。
そして彼女が使う棺桶は“対強化外骨格用強化外骨格”であり、この世界にある棺桶の天敵だった。

殺し屋 “レオン”の渾名でマフィアたちを恐怖の底に叩き落とした女性は、戦闘終了を確認してから棺桶を脱いだ。
汗で額に付いた髪の毛を振りながら現れたのは、凛とした目鼻立ち、瑠璃色の大きな瞳を持つ二十代半ばの女性だった。
小柄ながらもその体に搭載した筋肉の質は決して男に引けを取らず、激情のままに磨き上げた技は体格差、性別差を無意味にする。
経験と実践に基づいて構築された心と体の強さは、オアシズに乗り込んだどの海賊よりも上だった。

棺桶を運搬用コンテナに収めてそれを背負った女性の名は、ヒート・オロラ・レッドウィング。
共に旅をする小さな耳付きの少年に別の影を重ねる、元殺し屋の旅人である。



ノパ⊿゚)「さて、愚かな夢の結末を見に行くか」



.

534 名も無きAAのようです :2014/06/01(日) 19:08:10 ID:CXsdzfUM0
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     ‥…━━ August 6th PM13:27 on the 1st floor, in the 3rd block ━━…‥
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(=゚д゚)「けっ」

その男は一階にいた。
皺だらけのスーツに、返り血で赤い斑の付いたワイシャツ。
両手は機械仕掛けの籠手に覆われ、右手には甲高い音を立てる高周波刀が握られている。
対強化外骨格用近接戦闘特化型“ブリッツ”は、棺桶の堅牢な装甲を容易く切り裂くために作られた物だ。

男が左手に持つのは、対棺桶用の徹甲弾が装填されたベレッタM8000。
最後に切り倒した海賊の米神にその狙いを定め、銃爪を引いて確実に息の根を止めた。
これで、彼の周囲にいた海賊たちは全滅した事になる。
戦闘経験はあるらしかったが、彼からしたら話にならないレベルだった。

男にとっては他愛のない相手と云うだけで、オアシズの人間からしたら苦戦する相手だった。
優れた棺桶の有無以前に、オアシズ側の兵隊は戦い方が綺麗すぎる。
もっと卑怯であるべきだ。
相手が非武装であろうと何であろうと、敵対の意志を示した以上は優位な状態で戦うのが自然だ。

それが互いの生存をかけての殺し合いならば、尚更だ。
弱い者が先に死ぬのが自然の摂理だ。
生き残りたいのであれば、最善を尽くして相手を殺す手段を考え付く必要がある。
共に海賊討伐をしていた探偵たちが周辺の探索を行い始めたのを確認し、高周波刀のスイッチを切りって男はそれをアタッシュケース型のコンテナに収めた。

535 名も無きAAのようです :2014/06/01(日) 19:10:31 ID:CXsdzfUM0
男の名はトラギコ・マウンテンライト。
生涯で最も興奮する事件を解決するために、とある旅人を追う刑事である。

(=゚д゚)「歯応えがねぇ連中ラギ」

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         У          _/  ) / |
        〈/ 、ノ- 、 ==x  |     ノ   、
     ‥…━━ August 6th PM13:28 on the 1st floor, in the 3rd block ━━…‥
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(´・ω・`)「……これで一階、クリアだ」

地面に伏せるその男もまた、激戦地である一階にいた。
同僚の探偵達と喫茶店前に机と椅子で組んだバリケードの間から、その瞬間が来るのを待っていた。
建物の影に隠れている海賊が、プレッシャーに耐えかねて逃げ出す瞬間を見計らっているのだ。
そして、その時が来た。

電池切れになった棺桶を捨てて走り出した海賊の後頭部を撃って、一発で仕留めた。
膝から先がなくなったかのように力なく倒れ、海賊はそれきり動かなくなった。
脳幹を撃ち抜き、あらゆる行動を無に帰した。
その銃声を最後に、一階から銃声が消えた。

悲鳴も怒号もない。
あるのは硝煙と血の濃厚な香り。
海賊襲撃から約一時間での幕引きだ。
想定よりも早い幕引きだった。

536 名も無きAAのようです :2014/06/01(日) 19:14:50 ID:CXsdzfUM0
それと云うのも、事前の対応があったからだ。
市長であるリッチー・マニーからの指示がなければ、こうはいかなかった。
オアシズ側の死傷者は五割を超えたことだろう。
彼の英断で、多くの人間が命を救われた。

冷静に事件の分析と結果の確認を行う男の名は、ショボン・パドローネ。
オアシズで起こった事件を担当する、熟練の探偵である。

(´・ω・`)「……さて、市長はどこだ?」

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               ‥…━━ August 6th PM13:30 ━━…‥
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八月六日。
午後一時三十分。
船上都市オアシズを襲った海賊たちは文字通り一人残らず全滅し、船に取りついていた海賊船は全て斬り離された。
勇敢な船員たちの活躍により、オアシズはシージャックの危機を脱したのである。

後に“オアシズの厄日”と呼ばれるこの事件は、全部で三部構成であった。
第一部、連続殺人事件の発生。
第二部、海賊襲撃事件の発生と解決。
そして、最終部。

537 名も無きAAのようです :2014/06/01(日) 19:19:07 ID:CXsdzfUM0
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―――“オアシズの厄日”そのものの解決である。


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Ammo→Re!!のようです
     ‥…━━ August 6th PM13:41 on the 1st floor, in the 1st block ━━…‥
                                        Ammo for Reasoning!!編

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危機が去った事を知らせるアナウンスが入ると、船内は歓声に包まれた。
それから、全てが逆転した。
第三ブロック以外の全てのブロックが解放され、乗客たちは抑圧された鬱憤を晴らす様に酒を飲み、食事を楽しんだ。
事件を一種のエンタテインメントのように楽しみ、酒場は海賊の話題で持ち切りとなった。

客の中には、この事件で犠牲になった海賊以外の人に対して黙祷を捧げ、涙を流す人もいた。
その間、船員たちは第三ブロックに転がる死体を袋に詰め、血を洗い流す作業を黙々とこなしていた。
クルウ・ストレイトアウトが取り仕切る死体安置所は死体で溢れかえり、ショボン・パドローネの提案でやむなく海賊の死体を海に投棄した。
警備員と探偵の人数が大幅に削れたことへの対処は、当日中に各ブロック長で話し合いの場を設けることとなった。

そう云った事後処理などの影響でしばらくの間は、第三ブロックを通ることは出来ない。
第一ブロックと第二ブロック。
第四ブロックと第五ブロック。
当面は、これらのブロック間の移動が頻繁に行われるだろう。

538 名も無きAAのようです :2014/06/01(日) 19:23:41 ID:CXsdzfUM0
行こうと思えば、屋上まで上がってそこから第三ブロック以外に自由に行くことが出来る。
既に好奇心旺盛な客達はそうやって移動をしているそうで、確かに言われてみれば、他とは違う興奮の仕方をしている人間がいる。
観察するべきポイントは、彼らの目と口だ。
目が何か目的の物を探している風でもなく、忙しなく動いたり、緩みそうな口元を無理矢理引き締めていたりと、観察し甲斐があった。

他人の不幸は蜜の味と云う言葉は、幸不幸は表裏一体であることを意味しているのだそうだ。
誰かが不幸になれば、それによって幸福になる人間がいる。
なるほど、その通りだ。
人は他人の不幸を前にして、やっと幸福を感じられるのだ。

海賊たちも、その考えでオアシズを襲ったのだ。
極端な話をすれば、狩りや釣りと同じ。
生きるために行動を起こしただけに過ぎない。
ただ奇妙なのは、彼らが持つ武器や兵器が似つかわしくないほど高価であること。

――と、オアシズ内で今起こっている事態について、つば広の黒い中折れ帽子を目深に被る女性は隣を歩く少年に向けて話した。
限りなく黒に近い灰色の髪は肩まで伸び、毛先に行くにつれて軽くウェーブしている。
深紅の瞳は影の中でも鋭く光り、周囲の細かな部分を注意深く観察していた。
女性は夏だというのに、黒いスーツとシャツ、糊の効いたスラックスの上に、同じく黒のロングコートを着ていた。

帽子とコートの下には、狼の耳と尻尾が隠れている。
いわゆる、耳付きと呼ばれる人種だ。
だが女性がそれを隠すのは、羞恥心やコンプレックスのためではない。
自らの容姿について多くを語らないが、それだけは断言できる。

この女性、ロウガ・ウォルフスキンは自らの容姿を誇りにしているのだ。
今の服装には意味があるのだと、手を繋いでいるだけで聞かずとも分かる。

リi、゚ー ゚イ`!「この事件、ブーンはどう考える?」

539 名も無きAAのようです :2014/06/01(日) 19:32:00 ID:CXsdzfUM0
ロウガは左手の先にいる少年に目を向け、意見を聞いた。
踝まである大きなカーキ色のローブに身を包み、ベージュ色のニット帽を被る少年は、ブーンと云う名を持っている。
彼はロウガと同じく獣の耳と尻尾を衣服の下に隠す、小さな旅人だ。
質問に対し、ブーンは素直な考えを口にした。

(∪´ω`)「ししょー、まだおわってないとおもいます」

確かに、海賊の撃退は完了した。
それが犯人の狙いなら、阻止できたことになる。
目論見は破綻した。
だがそれだけだ。

オアシズ内にいる内通者がまだ捕まっていない以上は、事件は終わっていないということだ。
事件の終了が犯人の確保を意味するならば、まだ終わっていない。
犯人が生きている限り、いつまた再起を図るか分からない。

リi、゚ー ゚イ`!「その通りだ。 では、それが分かっている状況で我々にできることは何だ?」

(∪´ω`)「はんにんをさがすこと、ですか?」

リi、゚ー ゚イ`!「惜しい。 それも楽しいが、それは主たちに任せることになっていてね。
      我々が探すのは、犯人の目的だ」

確かに、ブーンは犯人が引き起こした事件にそこまで関わることが出来ていない。
海に投げ捨てられて以降、事件の概要は人伝にしか聞いていないのだ。
船内で誰がどのような動きをしているか、それが観測できていない以上、犯人に目星を付けることは出来ない。
最前線で事件と向き合っている人間こそが適任なのである。

(∪´ω`)「……あるじさんが?」

540 名も無きAAのようです :2014/06/01(日) 19:36:29 ID:CXsdzfUM0
リi、゚ー ゚イ`!「あぁ、そうだ」

それ以上、ロウガは“主”について話すそぶりを見せなかった。
午前中に行った実戦訓練でブーンが負けたから仕方がない。
そういう約束だった。
主について聞くことは諦め、ブーンは自分達がやることを考えた。

犯人の目的を探す。
それは、犯人との接点が少ないからこそ可能な行動だった。
この事件を引き起こした犯人は愚かではない。
ならば、その真の目的についてそう簡単に表に出すはずがない。

ロウガの言葉がそのまま答えになっていた。
犯人の目的を探すという言葉は、海賊の襲撃が真の目的では無いと考えていると云うことだ。
ブーン達にできることは、高い位置から状況を見て犯人の真意を探ること。
事件から離れていなければできない動きだ。

これはこれで難しそうだが、ロウガが一緒ならば大丈夫だろう。

リi、゚ー ゚イ`!「そのためにも、まずは船全体を見て回ろう。
      幸い、ここは第一ブロック。 すなわち、船首側だ。
      大きな魚の頭にいるわけだ。 さ、食後の散歩を続けようか」

541 名も無きAAのようです :2014/06/01(日) 19:39:30 ID:CXsdzfUM0
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   / ,ノ:::;';';';';';';';';'/  /ヽ、二ニ-イ   ヾT ¨´ ,/;';';::`、. \';';';';';';';';';';〈::...
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     ‥…━━ August 6th PM13:41 on the 1st floor, in the 1st block ━━…‥
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第一ブロック一階はお祭り騒ぎとなっていた。
喫茶店や居酒屋が階を無視して出店を開き、それまで感じていた恐怖を忘れるように賑わう。
商売よりも乗客の心の傷を癒すために、全ての店が料金を取らなかった。
市長であるリッチー・マニーの配慮で、ハザードレベル5発令中と同様の処置が施されるとのことだった。

ロウガは屋台の一つに足を向け、“たこ焼き”なるものを購入した。
湯気の立ち上る丸いそれは、ソースとマヨネーズがたっぷりとかかっている。
食欲をそそる香りだ。
爪楊枝を刺して一つとり、ブーンに差し出した。

リi、゚ー ゚イ`!「食べてみなさい」

(∪´ω`)「お!」

542 名も無きAAのようです :2014/06/01(日) 19:45:26 ID:CXsdzfUM0
空気を口に含みながら咀嚼する。
とろりと蕩けた中身で上顎が火傷したのが分かったが、ソースの香りが生地と合わさり、中に隠れていた大きなブツ切りのタコを噛んだ時、それは気にならなくなった。
熱くて蕩けて香ばしい。
歯応えもある。

甘じょっぱいソースと生地の組み合わせの美味さもさることながら、一口サイズなのが嬉しい。
これならいくつでも食べられそうだ。

(*∪´ω`)「ほふほふ」

リi、゚ー ゚イ`!「ふむ、幸いなことに、このたこ焼きが目的ではなさそうだな」

ロウガも一つ食べて、残りをブーンに手渡した。
薄い紙で作られた船の様な奇妙な器に盛られたたこ焼きは、残り四つだった。
屋台から十ヤード離れる頃には、全て胃袋に収まっていた。
ゴミ箱にそれを入れて、二人は移動を続ける。

向かうのは、船首方向だ。

(∪´ω`)「どうしてこっちなんですか、ししょー」

リi、゚ー ゚イ`!「船を掌握したいなら、まずは操舵室か船尾のスクリューを狙う。
      で、最も近い場所が操舵室だからこちらに向かうんだ。
      最高レベルの厳戒態勢が敷かれているだろうけどね」

それでもそこを目指すというのだから、ロウガは自分の腕に相当の自信があるらしい。
まだ彼女が他の人間と戦う様子を見ていないため、その実力は分からない。
ブーンはこれまでに多くの戦う人間を見てきた。
ロウガの放つ雰囲気はブーンに自由を与えてくれた人に近いが、どことなく不思議な親近感がある。

543 名も無きAAのようです :2014/06/01(日) 19:49:48 ID:CXsdzfUM0
その為に、安心して素性も知らない彼女と共に行動が出来た。
命の恩人であるデレシアがお守りにくれたニット帽も、常に守られているような気がして、気に入っていた。
ロウガの足取りは早く、一歩が大きい。
彼女が歩いているのに対して、ブーンは小走りで付いていかなければならなかった。

リi、゚ー ゚イ`!「ふむ、甘い物も食べたいな。
       ひょっとしたら、犯人はこれが目的かもしれないぞ」

いきなりそう言って、ロウガはリンゴ飴と書かれた屋台に足を運んだ。
ブーンの拳程の大きさがあるリンゴを飴で覆ったお菓子だった。
ロウガはそれを二つ買った。

リi、゚ー ゚イ`!「食べるのは後だ」

エレベーターまで行き、それに乗って七階を目指した。
二人きりのエレベーター内で、ロウガが手短に言った。

リi、゚ー ゚イ`!「我々がやるのは、情報の入手、そして報告だ。
      手に入れた情報は逐一報告し、共有する。
      戦いにおいて情報の共有は重要な鍵を意味する」

(∪´ω`)「はい、ししょー。
      でも、どうやってじょーほーを?」

操舵室に入るのは不可能だろう。
それなのに、どのようにして情報を入手するのか。

リi、゚ー ゚イ`!「ふふ、我々にしかできない方法だよ。
       エレベーターが七階に到着できるということは、封鎖されているのは出入り口だけのはずだ。
       なら、入らないで情報を知ればいい」

544 名も無きAAのようです :2014/06/01(日) 19:58:37 ID:CXsdzfUM0
(∪´ω`)゛「お?」

ロウガの答えはよく分からなかった。
再び聞こうとしたが、その前にエレベーターが七階に到着した。
二人は無言のまま操舵室に近づき、五十ヤード離れた場所にある橋に設置されたベンチに腰掛けた。
操舵室の扉の前には銃を持った制服姿の男が二人立っている。

リi、゚ー ゚イ`!「リンゴは好きだろう? 私も好きなんだ」

状況に相応しくない質問をされ、ブーンは彼女の意図があるのだろうと考え、頷いた。
リンゴ飴を渡され、ブーンはとりあえずそれを舐め始めた。
ロウガは視線を前に固定したまま、質問をしてきた。

リi、゚ー ゚イ`!「さて、ブーン。 何が見える?」

視界に入っているのは壁と操舵室に続く扉。
武装した男が二人。
それぐらいだ。

(∪´ω`)「とびらと、おとこのひとがふたり、あとライフルです」

リi、゚ー ゚イ`!「そうだな。 ライフルで武装しているということは、その向こうに行かせたくないということだ。
      向こう側には操舵室がある。
      さて、操舵室がどんな状況か知りたいとは思わないか?」

(∪´ω`)゛「しりたいです」

545 名も無きAAのようです :2014/06/01(日) 19:58:50 ID:avS9kZEw0
支援

546 名も無きAAのようです :2014/06/01(日) 20:01:15 ID:CXsdzfUM0
それを知るために、こうしてここに来たことは分かっている。
犯人の目的の手がかりを掴むには、船全体の状況が分かっていた方がいい。
仮に犯人が操舵室を狙っているとしたら、あるいは、騒ぎに乗じて既に操舵室を襲っていたとしたら。
船が置かれている状況は、限りなく最悪と云う事になる。

だが、情報を手に入れるための方法が思いつかなかった。
距離は離れているし、中に入るための出入り口には警備がいる。

リi、゚ー ゚イ`!「封鎖は船長の独断だそうだ。
       これ以上、シージャックの危険を船に与えるわけにはいかないから、誰も入れない、という理屈らしい。
       しかしそれが真実かどうか、中で何が起きているのかを確かめる必要がある。
       会話が聞ければ僥倖だ。

       では方法は?」

(;∪´ω`)「ちからずくですか?」

ブーンの答えに、ロウガは小さく笑った。

リi、゚ー ゚イ`!「ふふ、急いでいる時ならそれも有りだが、私はそれを好かない。
      あそこの二人、年齢は?」

(;∪´ω`)「え、えっと……さんじゅっさいぐらい、ですか?」

リi、゚ー ゚イ`!「正解だ。 三十代前半だろうな。
      その判断材料は?」

(;∪´ω`)「かん、です」

547 名も無きAAのようです :2014/06/01(日) 20:04:56 ID:CXsdzfUM0
リi、゚ー ゚イ`!「いいや、違うぞ。 ブーン、君は感じ取って計算したんだよ。
      彼らの顔に刻まれた皺、匂い、呼吸音を。
      それらの情報から彼らの年齢を考え付いたが、それを勘と考えたんだ。
      勘と云うのはつまるところ、無意識下での計算だ」

(∪´ω`)「そうなんですか?」

リi、゚ー ゚イ`!「そうなのさ。
       加えて、我々には普通の人間よりも遥かに優れた耳があり、鼻があり、目がある。
       ならば、この距離で操舵室の情報を入手するのは不可能ではない」

だが限りなく不可能だ。
今の自分に、果たしてその様な芸当が出来るのだろうか。
そう考えているのが分かったのか、ロウガはまっすぐに目を見つめて言い切った。

リi、゚ー ゚イ`!「意識と訓練の問題だ。 まずは聴覚情報。
      耳に意識を集中させろ。 扉の向こうに入り込む様にイメージするんだ。
      難しければ、目を閉じろ」

言われた通り、ブーンは目を閉じて耳に意識を集中させた。
様々な音の情報が聞こえる中、前方の音だけを選別する。
思えば、日常生活の中で無意識の内に音を選別するようになっていた。
そうしなければ、うるさすぎて眠ることもできなかったのだ。

音の情報が形となって、不鮮明な映像を瞼に浮かべさせた。
人の息遣いと跫音が位置と姿、性別、体重、精神状態を教える。
反響する跫音が建物の壁と柱の位置を教える。
次第に、操舵室の前に立つ男達の姿が浮かんできた。

548 名も無きAAのようです :2014/06/01(日) 20:08:50 ID:CXsdzfUM0
その先に、三人分の息遣い。
それ以上は聞こえない。
それでも確かに内部の情報が手に入った。

リi、゚ー ゚イ`!「さぁ、次は嗅覚情報だ。
       これが出来るようになれば、今後の人生でかなり役立つ。
       一階から立ち上ってくる匂いは飲食店のそれだ。
       それと混じった匂いの中から、明らかに飲食系の物ではないものを探し出せ」

ロウガの香り。
リンゴの香り。
誰かが残した匂いのきつい香水。
その中から、血の匂いを嗅ぎ取った。

(∪´ω`)「ししょー、ちのにおいがしました」

リi、゚ー ゚イ`!「上出来だ。 つまり、血が流れるはずのないブロックで血が流れている。
      それが意味するのは?」

(∪´ω`)「きづかれないように、ちをながすことがおこった?」

リi、゚ー ゚イ`!「そうだ。 操舵室から漂う匂いかは分からないが、少なくともこの階層で血が流れた。
      それも少量じゃない。 操舵室が襲われたとの情報は聞いていないが、これは知っておいた方がいいな」

自分でも驚きだった。
扉を開けずに部屋の中の状況を知るなど不可能だと考えていた。
だが、自分には出来ることがあった。
無力ではないのだ。

549 名も無きAAのようです :2014/06/01(日) 20:12:32 ID:CXsdzfUM0
リi、゚ー ゚イ`!「これが、我々の持つ力さ。
      ここではこれ以上の情報を得るのは難しいだろう。
      さ、裏付けだ」

ロウガに促され、二人は操舵室前に向かった。
警備に立っている男二人が、すぐにその視線と注意を二人に対して向けた。
近づくにつれて、血の匂いがより鮮明になってきた。
血の発生源は紛れもなく、操舵室だ。

そして、警備している二人からも血の匂いがした。
操舵室前を通過して、エレベーターに乗る。
エレベーターで屋上へ行く途中、ロウガから再び問いがあった。

リi、゚ー ゚イ`!「どうだった?」

(∪´ω`)「あのふたりからも、ちのにおいがしました」

リi、゚ー ゚イ`!「奇妙な話だ。 第一ブロックでは銃撃戦が起こっていないのに、警備員が血の匂いをさせている。
       さぁ、これはどう云うことだろうか」

ロウガは先ほどから幾度もブーンに質問をして、答えるのをじっと待っている。
この奇妙なやり取りは、ペニサス・ノースフェイスの授業形式にとてもよく似ていた。

(∪´ω`)「けがをしたんじゃなくて、けがをさせた?」

リi、゚ー ゚イ`!「その可能性が高い。 いずれにしても、あの二人が血の匂いをさせているのは事実だ。
      屋上に行き、別の情報を収集しよう」

550 名も無きAAのようです :2014/06/01(日) 20:16:31 ID:CXsdzfUM0
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          ‥…━━ August 6th PM14:04 on the penthouse━━…‥
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人工芝の敷かれた屋上に白いパラソルを広げ、その下に並ぶ白い椅子に深々と腰掛けて酒を片手に海を眺める人がまばらにいるだけだった。
警備員が二人、銃と棺桶を持って待機している。
この場所はどこのブロックにも属さないために、封鎖はされていない。
主に飲み物の屋台が出店していて、よく冷えた酒やジュースが振舞われていた。

柔らかな潮風が運ぶ夏の空気は涼しかった。
日差しは強く、果てしなく続く青空の眩しさに目を細めた。
一面に広がる大海原。
水平線の果てに浮かぶ大きな入道雲に心を奪われ、その先に向かって歩いてみたいと云う気持ちが生まれる。

今、自分は旅の途中。
あの水平線の向こうに行くことも、出来るかもしれない。
正面から吹いてくる冷たい潮風はローブの中にも入り込み、ブーンの体を冷やしてくれる。
少し肌寒く感じるほど、風は冷ややかだった。

日差しの強さと風の冷たさのアンバランスさが、気持ちよかった。

リi、゚ー ゚イ`!「良い風だ。 さて、ここでは匂いを元に何かを見つけるのは期待できない」

質問される前に、ブーンは自分の思う正解を口にする。

551 名も無きAAのようです :2014/06/01(日) 20:19:53 ID:CXsdzfUM0
(∪´ω`)「かぜと、うみのにおいがあるからです」

屋上は先ほどと比べて環境が大きく違う。
風が強く、匂いが分散してしまっている。
尚且つ、潮風と云う海の匂いの運び手がいるために、弱い匂いはたちどころに上書きされてしまうのだ。

リi、゚ー ゚イ`!「いいぞ、その調子だ。 では、何を頼りにするべきだと思う?」

(∪´ω`)「め、ですか?」

リi、゚ー ゚イ`!「そうだな。 まぁ、折角だから飲み物でも飲んで観察するとしようか」

手近な屋台でロウガはミントジュレップ――砕いた氷をぎっしりと詰めたミントの香りがするカクテル――を注文し、ブーンにはオレンジジュースを頼んだ。
ストローの刺さった大きなグラスを持って、二人はフェンス沿いの席に腰掛けた。
勧められるままにジュースを飲み始める。
オレンジの独特の甘味と酸味、そして果肉の食感が美味しかった。

リi、゚ー ゚イ`!「うむ、美味い。
       しかし、もう少しミントの風味が欲しいところだ」

特に慌てる様子もなく、ロウガは優雅にストローでカクテルを飲む。
その目線は、ブーンと同じく空に向けられていた。
ロウガも、あの入道雲に想いを馳せているのだろうか。
胸を締め付けられるような、この奇妙な感覚に胸を痛めているのだろうか。

ここではないどこか。
自分の知らないどこか。
誰も見たことのないどこか。
世界の果てを知りたいと、そう思っているのだろうか。

552 名も無きAAのようです :2014/06/01(日) 20:24:09 ID:CXsdzfUM0
ゆっくりと三口飲んだところで、ロウガはゆっくりとブーンに目を向けた。
深紅の瞳の奥に宿る光は、何を考えているのかを悟らせない。
だが優しげだった。
言葉よりも雄弁に、ロウガの眼は多くを語る。

今、ブーンは試されているのだと。

リi、゚ー ゚イ`!「講義の続きだ。 先ほどは聴覚と嗅覚を使った情報収集だが、今回は視覚だ。
      今、見るべき物は?」

ブーンは考えた。
目の前には多くの情報があるが、犯人の目的に直結する情報は砂浜で砂鉄を探すようなものだ。
情報を絞る必要がある。
絞った上で、観察すべき対象を決めるのだ。

(∪´ω`)「ひと……じゃないです。
      じめんとか、ですか?」

そう答えを出した理由は、情報が持つ鮮度の問題だ。
海賊襲撃の際、この屋上は閉鎖されていた。
警備員がいたかもしれないし、海賊がいたかもしれない。
ならば、何かしらの情報が残るとしたらそれは地面などの構造物に限られる。

流動的な人間を観察しても、成果はまず得られないだろうと考えたのだ。

リi、゚ー ゚イ`!「……その通りだ、ブーン。
      取り分け、警備員の近くだ。
      彼らが動いていないことに気付いたか?」

二人の警備員は、左舷の縁一か所に固まって立っていた。

553 名も無きAAのようです :2014/06/01(日) 20:29:49 ID:CXsdzfUM0
(∪´ω`)「お?」

リi、゚ー ゚イ`!「では、今から三分間様子を観察するといい。
      いいか、足元だ。
      警備員は動いてその場所の安全を保つのが仕事だと、頭に入れておきなさい。
      動こうとする人間は、目の次に足を動かす」

言われた通り、ブーンは警備員の足元に注意を向けた。
オレンジジュースを飲みながら。
潮風に耳を傾けながら。
注意深く、足元を観察した。

三分の間、彼らはただの一ミリたりとも足を動かそうとはしなかった。
動くつもりがまるでない。

(∪´ω`)「うごきたくないだけかもしれませんお」

リi、゚ー ゚イ`!「緊急事態において動きたくない理由は、怠惰ではない。
      そこに人を近寄らせたくないからだ」

警備員の後ろには、転落防止用の柵が後ろにあるだけだ。
何故、そこに近寄らせたくないのか。

リi、゚ー ゚イ`!「さて、人工芝の形状は見ての通り入り組んでいる。
       一度汚れてしまえば、短時間で掃除をするのは困難だ」

目を凝らして警備員の足元を見る。
人工芝の影に、赤黒い染みを見つけた。
ここで戦闘があったことを意味する証拠だ。
だがそれを隠す意味は何だ。

554 名も無きAAのようです :2014/06/01(日) 20:33:21 ID:CXsdzfUM0
リi、゚ー ゚イ`!「ふふ、なるほどね。
      ブーン、ここで少し待っていなさい。
      私は報告と、少し確認することがある」

ブーンの頭を軽く撫でて、ロウガは席を立った。
柵から覗き込んでその下にある何かを確認し、反対側も同様に確認。
それから、船首部分から船尾に向かって大きな歩調で進んで行った。
言われた通りにそこで待つことにしたブーンは、引き続き観察を続けることにした。

ただし、今度は目ではなく耳を使うことにした。
観察していることを悟られないように、視線は空と海に。

(∪´ω`)「お?」

その時。
ブーンは水平線の彼方に浮かぶ入道雲の向こう。
果てしなく続くその先に、極小のビル群を見たような気がした。

(∪´ω`)「……?」

瞬きをした次の瞬間、それは消えた。
どうやら、パラソルの下で男が読んでいる本の表紙がビルだったために、勘違いをしたらしい。

リi、゚ー ゚イ`!「お待たせした。
      確認ついでに主に話をしておいた。
      これで、我々が手に入れた情報が向こうで役立つだろう」

主とは何者なのだろうか。
犯人の目的も気になるが、今のブーンには、そちらの方が興味深かった。

555 名も無きAAのようです :2014/06/01(日) 20:37:12 ID:CXsdzfUM0
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      ト,:::::::ハ                      ‘f  ム-イハ ィ乍ハ  ぃぐ/ミ=-}.ィ=-}
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     ‥…━━ August 6th PM14:15 on the 1st floor, in the 3rd block ━━…‥
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第三ブロックの復旧作業はまだ続いていた。
主に死体処理が大きな障害となっていて、探偵と警備員はその作業に駆り出されていた。
ショボン・パドローネは作業補助を得意とする強化外骨格“マハトマ”を装着し、海賊の死体を運んでいた。
人間の腕力だけで作業をしていては時間が掛かる上に、腰に負担が掛かるからだ。

マハトマはレリジョン・シリーズと呼ばれる軍用強化外骨格で、戦闘向きではない