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( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )

1名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 19:46:34 ID:tFLjG.4M0
ラノベ祭り参加作品

2名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 19:47:25 ID:tFLjG.4M0





(*´_ゝ`)「旅に出るぞ!」







――と、兄者は言った。


.

3名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 19:48:37 ID:tFLjG.4M0





( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )





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4名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 19:49:27 ID:tFLjG.4M0




そのいち。 旅に出るぞと、兄者は言った



.

5名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 19:50:19 ID:tFLjG.4M0

世界とは、一面に広がる砂の大地だ。


東の果ての大国や、西にあるという国々ではまた違うという話だが、少なくとも彼の知る世界はそうだった。
一部の季節だけを除いて暑く乾燥する大地は、植物が生えることを邪魔し、人々が足を踏み入れることも許さない。
そんな環境の中でも人々は、限られた水場に集落や街を作り、家畜や農作物を育てて暮らしてきた。


( <_  )「――ああ」


彼が今いるのも、そんな街の一つ。
数十年前に彼の母親らによって開拓された、水辺の街。
流れるのは石くらいと言われた不毛の土地は、今では“流石”という名で呼ばれる交易の要となっている。


(´<_` )「平和だな」


そんな流石の街。その中でも一際大きく豪勢な屋敷の一角に、彼は横になっていた。

薄い緑の体に、猫のような獣の耳。丸い尾は衣服の影に隠れてその姿を見ることはできない。
このあたり独特のゆったりとした衣服は、ひと目で金がかかっているとわかる高級なもの。
吹き寄せるかすかな風にあわせて、青年の耳がぴくりと動く。

6名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 19:52:02 ID:tFLjG.4M0

年の頃は十代後半から二十代前半。
細いながらも、がっしりとした体格をしたこの青年の名前は、弟者=流石。
街と同じ名をした彼は、この街を切り開き実質的に支配する女傑、母者=流石の二人目の息子であった。


(´<_`*)「何事も起こらないというのは、いいものだな」


息を吸うのも苦しいくらい乾いた空気も、見渡す限りの砂も、この場所からは感じられない。
そんな場所で横になっていると、ここがどこなのか忘れてしまうようだ。
夕暮れまでここでこのまま一眠りしようか……


l从・∀・ノ!リ人「ちっちゃい兄者、みっけなのじゃ!」

(´<_` ;)「――ぐぇ」


……そんな彼の願いは長続きしなかった。
どこからか現れた彼の小さな妹が、青色の髪をたなびかせながら彼の体へと飛び込んできたからだ。
いくら体を鍛えようとも、人間一人の体重が不意にかけられればたまったものではない。
平静を装おうとするも失敗し、彼がうめき声をあげるのは仕方のない話であった。


l从・∀・*ノ!リ人「兄者ーちっちゃい兄者ー、今日こそはあそぶのじゃー!」

(´<_` ;)「だがしかし、こっちは久々の休日……」

l从・∀・#ノ!リ人「まえもそういって、あそんでくれなかったのじゃー。
         ちっちゃい兄者は妹者にイジワルなのじゃー」

7名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 19:54:04 ID:tFLjG.4M0

小さな妹――妹者の言葉に、弟者は小さくため息をついた。
確かにここ最近は、年に三度の大きな商隊が到着したところで、誰も彼もが忙しそうにしていた。
そんな中で一人取り残された、妹者が寂しい思いをするのは仕方のないことだった。


(´<_` )「……夕方までだぞ」

l从・∀・*ノ!リ人「ちっちゃい兄者だいすきー!!」


一人で取り残された時の寂しさを、弟者は誰よりも知っている。
だから、弟者は年の近い兄弟も、遊んでくれる子供もいないこの小さな妹に、思いの外甘かった。


(´<_` )「どうする?」

l从・∀・ノ!リ人「お庭がみたいのじゃー」


彼らの住む屋敷における庭といえば、屋敷の中心にある中庭一つしかない。
しかし、弟者とその双子の兄――兄者がイタズラに使って以来、彼らの父は子どもたちが庭に立ち入ることを禁止していた。


(´<_` ;)「いくら子どもだったとはいえ、貴重な泉に染料をばらまいたのはまずかったな」

l从・∀・ノ!リ人「?」

8名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 19:56:04 ID:tFLjG.4M0

少し迷った末に弟者は、露台に腰を据えることに決めた。
屋敷の二階にあたるこの場所からならば、中庭を見渡すこともできるし、何よりも風の通り道で涼しい。


l从・∀・*ノ!リ人「お花が咲いてるのじゃー」

(´<_` )「ふむ、あれはなんだろうな。父者ならば知っているのだろうが……」


露台に備え付けられていた椅子に腰を下ろす。
妹者はそんな弟者の様子を見ると、隣にある椅子……ではなく、彼の膝の上にちょこんと座りこんだ。


l从・∀・*ノ!リ人「えへへー」

(´<_` )「少しだけだぞ」

l从^∀^ノ!リ人「はーい」


いくら十に満たないとはいえ、街を背負って立つ家の娘にふさわしい行動ではない。
しかし、弟者は何事もなかったかのように妹者を見つめると、その頭をなではじめる。
堅苦しいのは母や姉に任せておけばいい。流石家の男は基本的にそんな脳天気なところがあった。


l从・∀・ノ!リ人「ちっちゃい兄者ー。もうすぐ何があるか知ってる?」

(´<_` )「ふむ。そうだな……。もうすぐといえば、豊穣祭だな」

9名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 19:58:04 ID:tFLjG.4M0

l从・へ・ノ!リ人「むー、そうじゃないのじゃー」

(´<_` )「そうか?」

l从・∀・ノ!リ人「ヒントは明日なのじゃー」

(´<_` )「明日。明日なら……」


妹者から出された問いに答えようとした瞬間、弟者よりもはるかに脳天気な声が辺りに響き渡った。
弟者によく似た――しかし、それよりもほんの少し高い声。
わざわざ確かめるまでもなく、弟者はその声の主を知っていた。


( ´_ゝ`)「弟者ぁあ、いるかぁぁぁぁあ!!!」

(´<_` )「ふむ、兄者か」


兄の姿を探して、弟者は周囲を見回す。
彼らが今いる露台にも、その奥に続く部屋の暗がりにも人の姿は見えない。
はて、どこにいるのだろう? と、思ったところで、手すりから身を乗り出し地上を覗きこんでいた妹者がうれしそうな声を上げた。


l从・∀・*ノ!リ人「おっきー兄者ぁー! こっちなのじゃー!」

(*´_ゝ`)ノシ「おお、愛しの妹者たんではないか。そっちに、弟者はいるか?」

l从・∀・*ノ!リ人「いるのじゃー」

10名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 19:58:18 ID:RtBXo7hM0
やたら壮大そうなのが来た
支援だ

11名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 19:59:32 ID:tFLjG.4M0

ちっちゃい兄者もはやくはやくーという妹の声に答え、地上を覗きこむ。
そこにあるのは、先程から二人が眺めていた中庭だ。
東方や西方から無節操に集めてきた植物が自由を謳歌し、花が咲き乱れ、中央には大きくはないものの泉がある。


(´<_` ;)「あ、兄者。そこは俺らや妹者は立入禁止……」

(*´_ゝ`)「よく聞こえんなー。どうしたー、弟者ぁー?」


彼らの父が丹精を込めて手入れしているこの庭は、実のところこの街で最高の贅を尽くした空間である。
水が金に勝ることもあるこの一帯で、食うのにもつかえない植物を育てようと思えば、そうなるのは当然のこと。
脳天気な二人の兄は、よりにもよって最高の金のかかった植物たちを踏み潰しそうな位置で堂々と立っていた。


(´<_`#)「そこからとっとと出ろ! この馬鹿兄者!!!」

(; ´_ゝ`)「え?」

(´<_`#)「母者に殺されたいのか!」

(; ´_ゝ`)「ちょ、おま」

( <_ ♯)「いいから、早く!」


弟者の言葉に兄者はきょときょとと辺りを見回す。
しばしの間、腑に落ちないという顔をしていたが、弟者の形相に不穏な事態を感じたのか徐々にその顔が曇り出す。

12名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 20:01:08 ID:tFLjG.4M0

(; ´_ゝ`)「ひょっとして、俺って今やばい?」

(´<_`#)「やばいも何も、お仕置きを覚悟するレベルな件」


うぇぇ、と情けない声を上げて後ずさった瞬間、兄者の足は不運にも白い可憐な花を踏みつけていた。
それに気づくと同時に、今度こそ兄者の顔は真っ青になった。


l从・∀・;ノ!リ人「あぁぁぁあああ」(´<_`; )


ヾ(; ゚_ゝ゚)ノシ「ひぃぃ、どうしよう。どうしよう、俺」

l从・∀・;ノ!リ人「とりあえず、こっちに来るのじゃー」

(; ゚_ゝ゚))「わ、わかった。そっちだなー」


兄者はそう言った後、不意に後ろを見て何事か呟いた後。
弟者と妹者の姿を見上げ、地面を蹴るとそのまま、


――飛んだ。


.

13名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 20:03:07 ID:tFLjG.4M0

当然の話だが、人は飛べない。


昔はそれが可能な魔法使いが多くいたというが、今では数えるほどしか存在しない。
道具があれば可能だとも言うが、それが可能な道具といえば魔法使い以上に貴重だった。


(; ´_ゝ`)「よし、と」

l从・∀・;ノ!リ人「お、おっきい兄者……」


建物の二階。
その場での跳躍では到底届かないはずの距離を“飛んだ”兄者は、手すりの上に足を置いた。
流れる冷や汗を拭いながら、何事もないかのように露台に降り立つと、兄者はようやくため息を付いた。


l从>∀<*ノ!リ人「すっごいのじゃー! 今のどうやってやったのじゃ?」

( *´_ゝ`)「いや、これか? 実はだなぁ」


( <_  )「……この」

( ´_ゝ`)「んー? 弟者、どうし」



バキッ(゚く_゚(#⊂(´<_`#)「くそ虫がぁぁぁぁ―――!!!」

14名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 20:05:03 ID:tFLjG.4M0

弟者の渾身の拳が、兄者の頬にめり込んだ。
手に伝わる感触に弟者は舌打ちをし――己の拳を避けた、真の相手を睨みつけた。


( ^ω^)


まるまると膨れた東方のまんじゅうのような頭。
兄者の頭と同じくらいか、それよりも少し小さいくらいの体躯。
白い体の背からは、硝子のような透明の羽がきらめいている。


( ^ω^)「……危ないところだったお」


人は空を飛べない。
それでも、人が空を飛ぼうとするならば、空を飛ぶことができる貴重な存在の手を借りるしかない。
そして、その貴重な存在は兄者の服の首元を掴んだまま、にへらと笑った。


(´<_`#)「……」

(#);_ゝ;)「弟者、お兄ちゃんは今とぉーっても痛いのだが」


⊂l从・∀・;ノ!リ人「い、いたいのいたいのとんでけーなのじゃ!」

15名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 20:06:12 ID:4uS7bkxE0
あの絵か支援

16名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 20:07:02 ID:tFLjG.4M0

(;^ω^)「アニジャぁー。毎度のことながら、この弟どうにかならないかお?
      ブーンは今、100年くらいごぶさただった命の危険を感じたお」

(#)´_ゝ`)「ああ、それはだなー」

(´<_` )「いいか、兄者。
      人間は普通、 空 を 飛 べ な い」


兄者が口を開き何か言うよりも早く、弟者は兄者に向けて口早に言い放った。
その言葉に兄者は眉をひそめると、自分の首元にいる生物ではなく弟に向けて不満気な声を上げる。


(;´_ゝ`)「うぇー、人を殴っといてつっこむのそっち? そっちなの?
      何かお兄ちゃん、イロイロとおどろきだわー」

(´<_` )「俺はそういうのは嫌いなんだ」

(;^ω^)「? そういうの?」


ブーンの問いかけに、弟者は答えなかった。
しまったと表情を歪め。それでも、次の瞬間には、何事もなかったかのようにもとの落ち着いた表情に戻った。


l从・∀・#ノ!リ人「もー、おっきい兄者もちっちゃい兄者もケンカしちゃめーなのじゃ!」


ヾ('A`)ノシ「そうだーそうだー!」

17名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 20:09:02 ID:tFLjG.4M0

(´<_` ;)「――くっ」


ヾ('A`)ノシ「とっとと謝れ、鬼畜弟ー!」

( ^ω^)「えっとおに……ちく……? 弟ー!
      ブーンたちだって生きてるんだおー!!!」

('A`)「このシスコン! ロリコン! ろくでなしぃー!!
   お前の母ちゃんゴリマッチョぉ!!」

(*^ω^)ノシ「そうだそうだぁー!!!」


ここぞとばかりに飛び回る、謎の生き物二匹。
白いほうの名前はブーン。新たに現れた、紫色でブーンよりさらに小柄なのはドクオ。
二匹はとある事情から黙りこむ弟者に向かって、せっせと暴言をあびせはじめた。


( ´_ゝ`)「確かに、母者はゴリマッチョだな」

l从・∀・;ノ!リ人「おっきい兄者……?」


一方、殴られた兄者といえばけろりとした顔で、弟と二匹の攻防を眺めている。
そんな、兄の姿を妹者は首をかしげながら見つめた。

18名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 20:11:02 ID:tFLjG.4M0

(*'A`)「弟者ちゃんの根性悪ぅー!! 冷血ぅー! ひとでなしぃー!!」

(*^ω^)「性格が曲がっていてよー」

(´<_`;)「……っ」


(*'A`)「お前の兄ちゃん〜」


二匹の悪口攻勢は止まらない。
普段からの鬱憤を晴らそうとばかりに、弟者の周りを飛び回りはやしたてる。


(;^ω^)「お?」

(*'∀`)「鏡に落ちやんのぉぉお!!!
     ほんとに人かよぉwwwwwwwww」


( ;゚_ゝ゚)「それ、俺ぇぇぇぇぇぇえええええええええ!!!!」


Σl从・∀・;ノ!リ人「 ! 」

19名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 20:13:02 ID:tFLjG.4M0

「逆鱗に触れる」という言葉を、ご存知だろうか。
東方のことわざなのだが、知らなかったら「堪忍袋の緒が切れる」や、「腹に据えかねる」という言葉に変えてもいい。


(´<_` )


――要するに、弟者は激怒していた。
表情にはこれっぽっちも出ていないが、そういう時の人間とは大概恐ろしいものだ。


(;´_ゝ`)「えーと、弟者さん?」

(´<_` )「……」


弟者の腕が翻ったのが、ほんの一瞬の出来事。
人にできる限界をはるかに超えた速度で拳はうなり、ドクオの背に広がる二対の羽のうち一枚をむしりとった。
バランスを崩したドクオの首らしき箇所を、弟者は渾身の力で握る。


(゚A゚)「ひっ」


(´<_` )「前言を撤回するか、このまま消滅するか。好きな方を選べ。
      忌々しいことだが、お前たちは兄者のお気に入りだからな。猶予くらいは与えてやる」

20名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 20:15:01 ID:tFLjG.4M0


(;´_ゝ`)「ドクオぉぉーー!!! 死ぬなぁぁぁ!!!!」

( ;゚ω゚)「謝るお!!! もうめっちゃ謝るしかないぉおおお!!!」

(;゚A゚)「ごごご、ごめご、ご、ごめんなさ」


弟者の行動により、一気に張り詰めた空気。
誰もが息を呑む、緊迫した一瞬。


(´<_` )「お前らみたいな存在は、全て死ねばいい」


その空気は――



l从・∀・;ノ!リ人「えーと、兄者たちはダレとお話してるのじゃ?」


――わりと、あっさり壊れた。

21名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 20:17:01 ID:tFLjG.4M0

l从・∀・ノ!リ人「えーと、妹者には見えないけど、ここにはせーれいさんってやつがいてー。
        おっきい兄者と、ちっちゃい兄者は、そのせーれいさんとケンカしてるのじゃ?」

(;´_ゝ`)「……はい、そうです」


それからしばらく後。兄者と弟者それに、二匹の精霊だった生き物たちは、妹者の前に正座をさせられていた。
たとえ小さくても妹者はこの街では絶対的な力を持つ母者の娘。脳天気なところのある男二人が叶うはずもない。


(;'A`)「なあ、ブーン。ちゃんと羽ひっついてるか?」

( ^ω^)「おー、もう大丈夫だお!」

(;'A`)「なんかもう、50年ぶりくらいにこれは死ぬって思ったわ」

(;^ω^)「本当にヒヤヒヤするおねー。
      これ精霊じゃなきゃ死んでたわー的なアレだお」


ちなみにこれは余談だが、精霊――ジンとも呼ばれるこの生き物たちは、人や動物とは異なる超自然的な生き物たちのことだ。
兄者や弟者のように見える人もいるし、妹者のように見えない人もいる。そんな魔法や、神秘に近い存在である。


l从・∀・ノ!リ人「ちっちゃい兄者はせーれいさんにごめんなさいするのじゃー」

(´<_` )「やだ」

22名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 20:19:19 ID:tFLjG.4M0

l从・∀・;ノ!リ人「えーと、じゃあせーれいさんがゴメンナサイしたなら、ちっちゃい兄者もあやまるのじゃ」

(´<_` )「謝罪をする必要が微塵も感じられない」

l从・〜・;ノ!リ人「むー!」


一方、妹者は二人の兄を正座させたところまではよかったものの、ケンカの仲裁に苦心していた。
それというのもこの下の兄が、かたくなに精霊たちに謝罪することを拒否していたからだ。
実際に何があったかは見えなかったけれど、下の兄は「しょーめつ」とか「ころす」とかひどいことを言っていたのだから、謝ったほうがいいのではないか。
彼女は幼いなりに真剣に考え、一生懸命事態に収拾をつけようと頑張っていた。


( ;´_ゝ`)「あー、ごめんなさい! そもそも不用意にブーンの力を借りた俺が、悪かった。
       ……ほら、俺が謝ったから妹者も、弟者も、ドクオも、ブーンも、もういいだろ?
       っていうか、もういいってことにしてください、お願いします!」


そんな状況に流石にいたたまれなくなったのか、口を挟んだのは兄者だった。
年長者だからしっかりしようということらしいが、口調や態度に威厳がないことだけが少々残念だった。


l从・へ・ノ!リ人「……」(´<_`#)


( ´_ゝ`)「ほれー、そんな顔しないー」

(´<_` )「……」


( ´_ゝ`)「弟者」


(´<_` )「……すまなかった、兄者。それに、妹者も」

23名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 20:21:45 ID:tFLjG.4M0

( ´_ゝ`)「はい。よくできました〜」


弟者が一応謝罪の姿勢を見せたことで、場の空気が少し和らかくなる。
とはいえ、事態をややこしくしないために黙ってはいるものの兄者の内心は複雑ではあった。


(;´_ゝ`).。oO(肝心のドクオたちにこれっぽっちも謝ってないのガナー。
        まあ、そもそもやりすぎてたのはアイツらだったんだけどなー)


l从・−・ノ!リ人「みんなは、本当にそれでいいのじゃ?」

(;'A`)「正直やりすぎたと思ってるので、これで勘弁してほしい。スマンカッタ」

(;^ω^)「う〜、ブーンも調子にのりすぎてたお。ごめんなさい」


一方、妹者は弟者の言葉に「むむむ」と眉を寄せていた。
なんだか納得行かないが、下の兄は謝っているらしい。では、「せーれいさん」はどうなのだろうか?
怒っている? それとも、泣いている? いろいろと妹者は考えるが、精霊を見ることが出来ない彼女にはよくわからない。


( ´_ゝ`)「二人ともそれでいいとさ。あいつらも謝ってる」

l从・∀・ノ!リ人「なら、それでいいのじゃー」


――妹者の言葉によって、弟者と精霊たちの小競り合いはなんとか幕を下ろした。
というよりも、無理やり幕を下ろすことにした。
彼らにとって平和というものは何よりも大切なものである。

24名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 20:24:00 ID:tFLjG.4M0

――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――


流石の街では、建物の中のほうが過ごしやすい。
それは、一歩でも外に出れば、とてもではないがやっていけないほど暑いという意味でもある。
というわけで、彼ら一同は移動するわけでもなく、ダラダラと過ごしていた。

ちなみに、先ほど兄者が踏みつけた花の件については、皆あえて考えないことにしている。


l从・∀・ノ!リ人「そういえば、おっきい兄者は何でちっちゃい兄者をさがしてたのじゃー?」


そんな一時の中で、妹者はふと気づいた。
先ほどまでいろいろありすぎて忘れていたが、そもそも上の兄は、下の兄に話したいことがあったのではないかと。


(´<_` )「そういえば、そうだな」

(*´_ゝ`)「おお、そうだったそうだった」


兄者は妹者のその言葉に、もったいぶった様子で腕を組み、うんうんと頷いた。
それから、妹者、ブーン、ドクオの姿を見回し、弟者の顔をじっと見つめる。
困惑の表情を浮かべはじめた弟者に向かって、指を突きつけ――


(*´_ゝ`)「旅に出るぞ!」



――と、兄者は言った。

.

25名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 20:27:32 ID:tFLjG.4M0

(´<_` )「は?」

ヽ(*´_ゝ`)ノ「だーかーらー、旅に出るぞぉー弟者ぁー」


兄者の唐突な発言に、弟者は一瞬言葉を失った。
街の中ならいいが、周囲は一面の砂が広がる世界。
砂漠をこえようとするならばそれなりの準備が必要だというのに、近所に買い物に出かけるような気楽さで兄者は言い切った。


l从・∀・*ノ!リ人「たのしそうなのじゃ。妹者もいっしょにいくのじゃ!」

( ´_ゝ`)「これはだな男同士の危険な旅。
      妹者たんを危険に晒すことなど俺には出来ないっ……というわけで、妹者はお留守番なー」


( ^ω^)タビ デスッテヨ、オクサン   マア、ステキ('A`)


l从・д・ノ!リ人「じゃあ、ダメなのじゃー。
        ちっちゃい兄者は夕方まで妹者と遊ぶって言ってくれたのじゃ!」

( ´_ゝ`)「明日、俺と弟者で遊んでやるから、今日は我慢してくれ」


その言葉に、妹者は少しの間首をかしげた。
それから「むー」と小さく唸り声を上げ、その後ぱっと笑顔を浮かべた。


l从・∀・*ノ!リ人「ほんとなのじゃ? 約束はぜったいやぶっちゃダメなのじゃよ!」

( *´_ゝ`)「この兄に任せろ」


l从^ー^ノ!リ人「じゃあ、今日はガマンするのじゃ」


.

26名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 20:29:01 ID:tFLjG.4M0

(´<_`; )「おい。時に兄者よ落ち着け」


兄者と妹者の話はまとまった。
そうなると、焦り出すのが弟者である。
そもそも旅に出るというのが唐突だし、それに兄者の話では翌日には屋敷に帰り着いていることになっている。


(´<_` )「旅に出るとは、そもそもどこにだ?」

(*´_ゝ`)「よくぞ聞いてくれたな、弟者たん。
       我らが向かうのはここから西、神秘あふれるソーサク遺跡だ!」


兄者が告げたのは、流石の街から西へと向かった先にある遺跡の名前である。
街からも見る事のできるこの遺跡は、よほど天候が悪くない限り半日もあれば確かに行き来できる場所にあった。


(´<_` )「ふむ、なるほど。それで、その遺跡には何をしに?」


(;´_ゝ`)「――えっ?」

(´<_`;)「――えっ?」

l从・∀・;ノ!リ人「――えっ?」

.

27名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 20:31:11 ID:tFLjG.4M0

('A`)「なんていうか兄妹だな。反応が全員同じだ」

( ^ω^)「うーん、遺跡かぁ。ドクオは暇かお?」

(;'A`)「――えっ?」


同じ反応で驚きを示す一同の中で、一番最初に我に返ったのは弟者だった。
自分とほぼ同じ顔の兄の顔を見上げ、やがて何を言っても無駄だと思ったのか小さくため息をついた。


(´<_`;)「……流石だな、兄者」

(;´_ゝ`)て「ちょ、おま、今すごく俺のこと馬鹿にしただろ。
       それは俺がかっこいいことした時にだけ使っていい言葉で、馬鹿にする時には使うなとあれほど」

(´<_` )「だがしかし、あれだけ旅に出るとはしゃいでいて、何も考えてないとは」

(;´_ゝ`)「いや、ちゃんと考えてるぞ!」

(´<_` )「……」


弟者の疑わしげな視線に、兄者は視線をさまよわせる。
それを妹者は興味津々といった様子で眺め、弟者は冷たい表情で兄を見つめた。


(;´_ゝ`)「そうだ、魔法石板だ!
      あそこの遺跡には魔法石板にぴったりの材質の石が転がっていると、ギコ者が言っていたぞ!」

.

28名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 20:33:16 ID:tFLjG.4M0

石板魔法と言うものがある。
それは今より魔法がはるかに発達していた時代に作られた、石板を媒介とした魔法の一種のことである。
この魔法が優れているのは、魔法が使えない人間でも石板に刻まれた文字列をなぞるだけで効果を発揮できるという点である。
魔力を込められた石板は魔法石板と呼ばれ、便利な道具として日常生活にも使われることも多かった。


(´<_` )「魔法……石板……」

(;´_ゝ`)「そ、そう! 人によってはかなりの高値で買ってくれるんだぞ。
      決して、俺が興味津々というわけではなくてだな……」

(´<_`#)「兄者は、俺が……」


l从・∀・*ノ!リ人「わー、妹者も見たいのじゃ!
         それをつかえば新しいまほーせきばんとかも作れちゃうのじゃ?」


弟者が言おうとした言葉を遮って、妹者がはしゃいだ声を上げる。
魔法に触れることがほとんどない彼女にとって、魔法という言葉や不思議な現象は興味を惹かれるものだった。
一方、話を邪魔された弟者は顔をしかめ、不機嫌な表情になっている。


(;´_ゝ`)「そそそ、そう。魔法使いにお願いすれば、なんかすっごーい魔法とかも刻んでもらえるぞ。
      でも、あくまでも売るんだからな。魔法石板にぴったりっていっても、魔力こめなきゃただの石だし」

(´<_` )「その言葉は確かか?」

(;´_ゝ`)「……はい」


兄者の言葉に、弟者は黙り込んだ。
その場にいた妹者が飽きてあくびをはじめるほど長い時間沈黙した後で、弟者はようやく口を開く。

.

29名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 20:35:07 ID:tFLjG.4M0

(´<_` )「まったく。兄者のことだから、俺が行かないって言っても一人で行くだろう。
      それなら、俺がついていったほうがまだマシということじゃないか」

( ´_ゝ`)「……ということは」


これ以上ないくらいに眉をしかめて、弟者はうなずく。
その反応に、兄者と妹者と、なぜかブーンが歓声をあげた。


l从・∀・*ノ!リ人「兄者、やったのじゃ!」

(*^ω^)「おめでとうだお、アニジャ!」


(*´_ゝ`)「よーし、弟者も妹者もブーンもみんな愛してる!
       そういうことなら、お兄ちゃんはりきっちゃうぞー!」


兄者はその場でくるくると回り彼なりに喜びを表現すると、露台の石造りの手すりによいしょっとよじ登った。
そこから、屋敷の壁に囲まれ、四角く見える空を見上げた。


( ´_ゝ`)∩「よーし、ちょっと待ってろよぉ」


そう言うないなや、兄者は指を口元に当てる。
そのままおもいっきり息を吸うと、指笛を吹き鳴らした。

.

30名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 20:37:01 ID:tFLjG.4M0


甲高い音が空へと流れていく。
音は辺りに響き、そして消えるだけの――はずだった。


(*^ω^)「おお、ひさびさに見たお」

('A`;)「でもなー、あれって人に懐くもんか?」


はじめに反応したのは、人とは感覚の違う精霊二匹。
これから起こる何かをすっかり理解した様子で、二匹は空を眺めてはじめた。


( ´_ゝ`)「ふむ。来たようだな」

(´<_`; )「――おい、ちょっと待て」


次に反応したのは双子の兄弟。
二人の見上げる空には何者かの影が落ち、その影の姿はだんだんと近づきはじめた。
やがて、唸るような羽音が聞こえるようになり、その影の姿がはっきりと見て取れるようになる。


l从・∀・ノ!リ人「わー」


l从・∀・*ノ!リ人「――竜なのじゃ!」


彼らの前に降り立った巨大な影。
それは神話の時代から存在するといわれる巨大な生物。竜――ドラゴンであった。


.

31名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 20:39:34 ID:tFLjG.4M0

夕暮れ時の雲のように桃色に色づく鱗。
その体躯は蜥蜴に似ているが、背に広がる翼と、どっしりとした下半身が違う生物であることを告げている。
強く猛々しい体の中で、黄金色の瞳はだけは大きく愛嬌のあるものであった。


( *´_ゝ`)「よしよーし、ピンクたんはかわいいでちゅねー」


(Σ*Οw)⊂(´く_`* )ナデナデ


災いをもたらす凶暴な生き物とも、神に近い神聖な生き物とも言われる竜。
そんな生物に対し、兄者は慣れた様子で話しかけると、鱗におおわれた頭をなで回す。


(*^ω^)「すっげーお」

(;'∀`)「竜相手でも平然としてるとかw あいつ、ホント人間かよ」



(Σ Οw)   ⊂l从・∀・;ノ!リ人 ソー


(Σ*Οw)⊂l从・∀・*ノ!リ人カワイイ ノジャー


妹者も兄に続いて、竜におそるおそる手を触れた。
ゴツゴツとした鱗の感触に、彼女は顔を赤く染めて笑顔を見せた。

 _,
(´<_`;)「……」


.

32名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 20:41:18 ID:tFLjG.4M0

( ´_ゝ`)「よし、じゃあ頼むわ。妹者もお留守番よろしくなー」

(Σ Οw))コクコク


Σl从・∀・;ノ!リ人「わ、わかったのじゃー!」


妹者が竜を撫でるのをしばし見守った後、兄者はその巨大な生物の背に「よっ」と掛け声をかけ、乗り移った。
人間が一生のうちに一度見れるかどうかといわれる竜。そして、その上にのり笑う兄の姿。
弟者は体が震えが走るのを必死で隠しながら、じっと兄の姿を見上げる。


(*^ω^)「せっかくだから、ブーンたちもついてくお!」

(;'A`)「ちょw オレも強制参加かよ」


兄者を乗せて今にも羽ばたこうとする竜。ついでにブンブンと飛び回る精霊二匹。
目の前に広がるのは、これ以上ないくらいの非日常。


( ´_ゝ`)「弟者、お前もはやく来い」


( <_ ; )「俺は……」

.

33名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 20:43:29 ID:tFLjG.4M0


( <_ ; )「……」

( ´_ゝ`)「――母者曰く、『人よ旅に出よ。まずはそれからだ』とさ」

( ^ω^)「お?」


黙りこみ微動だにしなくなった弟に向けて、兄者は言った。
その言葉に弟者は顔をあげ、しばしの沈黙のあとにようやく口を開いた。


(´<_`; )「……正確には、『ゴロゴロするくらいならどっか行ってこい。そこにいたら邪魔だよ!』だ」

l从・∀・ノ!リ人「あー! おっきい兄者、まちがってるのじゃー」

(;´_ゝ`)「あるぇー?!」


おかしいなーと、首をひねる兄者。その姿は、なんてことはない、いつもの兄者だ。
それを見ているうちに、弟者は自然に笑い出していた。

(´<_` )「まったく、兄者は」

(*´_ゝ`)「ふっふっふっ。流石だろ?」

(´<_` )「どこがだ、ド阿呆」

.

34名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 20:45:29 ID:tFLjG.4M0


夏の出歩くことすら出来ない季節も過ぎ去り、それでも暑さを失わない秋。
天気は土埃がわずかに舞っているものの、晴天。
穏やかな風が吹くこの日――。


( ´_ゝ`)「まあ、いろいろあったが……」


砂漠の一角。
オアシスの麓にひろがる、流れる石の名を持つ街。
夕焼け雲色の竜の上には一人の青年と、精霊二匹の姿。



(*´_ゝ`)つ 「さあ、行こう」


そして、兄者は双子の片割れに向かって、手を差し伸べた――。



.

35名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 20:46:19 ID:tFLjG.4M0



http://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/11.jpg



.

36名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 20:47:03 ID:tFLjG.4M0


そのいち。 旅に出るぞと、兄者は言った




        おしまい

.

37名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 20:49:12 ID:tFLjG.4M0
短いけど、投下ここまで。

本当は最後まで書きたかったけど、とてもじゃないけど書き終わらなかったので、連載という形にさせていただきました。
どうしても一目惚れしたイラストを使いたかった。第一話だけでもお祭りに参加できて、とても満足している。

絵師さん。すごく綺麗で魅力的なイラストをありがとうございました!

38名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 21:05:53 ID:dZrc75jo0
おつ

39名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 22:13:04 ID:rNdU5biMO
楽しそう おつ

40名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 00:03:03 ID:hliUgFqA0
絵使ってくださってありがとうございますううう!!
今後兄弟がどうなっていくのかとても楽しみな…!
そしてピンクたんの顔文字かわいいw

真顔でぶちぎれ弟者が大好きなので、一部漫画にしてみましたありがとうございました…!!
http://vippic.mine.nu/up/img/vp99701.jpg

41名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 00:16:06 ID:M9WoOtSM0
うわわわ、ありがとうございました!

続きはちょっと時間がかかりますが、無事完成させます

42名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 01:08:27 ID:OarO2FXUO
乙!
兄弟がわちゃわちゃしてる作品っていいな
続き楽しみにしてるよー!


>>18のドクオの一言で弟者がなんで切れてるのかわからない…
読解力なくてすまん……

43名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 01:10:22 ID:mrJ1IDpQ0
>>42
伏線かブラコンか好きな方を選んで待ってればいいよ

44名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 21:19:56 ID:gq2xLt0M0
旅に出ないってずっと言ってたやつだなwww
続き待ってるよ!

45名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 22:12:18 ID:M9WoOtSM0
たくさんの乙ありがとうございました
あと質問があったので少しお返事

>>42
>>43さんの言うとおり、伏線・ブラコン・ついカッとなったなどお好きなものを選んで下さい

>>44
なぜわかったし

46名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 16:27:21 ID:J2WA92hQ0
完成までに時間がかかりそうなので、gdgdな感じで第二話を投下していきたいと思います。
55レスくらい

47名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 16:30:33 ID:J2WA92hQ0


( ´_ゝ`)「……と、楽しく旅立つつもりだったんだけどな」


視界に広がるのは一面の乾いた大地。
その中で見えるものといったらところどころに転がっている大岩か、元は何だったかわからない白骨ぐらい。
植物の姿なんてものは、街を出てからはほとんど見ることができなかった。


('A`)「ですよねー」

( ^ω^)「お? ブーンはこれはこれで楽しいお」



そのような大地を進むのは竜ではなく――二匹のラクダであった。



(´<_`#)「何を言う、あんなもんに乗るなんて死んでもゴメンだ。
       よりにもよって竜だぞ。ドラゴンだ! まったく、油断も隙もない」

( ;´_ゝ`)「うん。弟者たんのことだから、正直こうなる気はしてた」


.

48名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 16:31:17 ID:J2WA92hQ0





( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )




.

49名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 16:31:58 ID:J2WA92hQ0




そのに。  旅をするには準備が必要である



.

50名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 16:32:57 ID:J2WA92hQ0


(*´_ゝ`)つ 「さあ、行こう」


流石邸の一角。
双子の片割れに向かってさしだされた、兄者の手。
それは、


バキッ(゚く_゚(#⊂(´<_`#)「――って、そんなことで誤魔化されるか!」


Σl从・∀・;ノ!リ人「お、おっきい兄者ぁぁぁぁ!!!」

(Σ Οw)て !


弟者の鉄拳によって、見事になかったことになった。
竜の背を足場にした、まさに電光石火の一撃。
そのまま休むこと無く兄者の襟首を掴むと、弟者は兄者を竜の上から露台へと強引に引きずり下ろす。


(´<_`#)「そもそも、竜なんてどこで拾ってきたんだ! さっさと捨ててきなさい!!」

(#)´_ゝ`)「き、今日だけで二度も殴られた件について」


(;^ω^)「ど、どんまいだお!」

+('∀`)b

.

51名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 16:34:09 ID:J2WA92hQ0

(Σ;Οw) ……


(´<_`#)「いい加減みょうちくりんな生物やら、バケモンやらを拾ってくるのをやめろ。
      兄者が変なもん連れてくるたびに追い払らわなきゃならない、こっちの身にもなってみろ!」

(#)´_ゝ`)「そんなに変なものをひろってきた覚えは……」


兄者の言葉に、弟者はまずブーン、次にドクオ、最後に竜に向かって指を突きつけた。
弟者の表情は鬼気迫るものがあり、兄者の顔からは冷や汗が伝った。


(´<_` )「そこにいる羽虫二匹。それに、さっきまで兄者が乗っていた竜。」


( ´ω`)「羽虫……」('A`)

(´<_`#)「それから、魚人や、ランプの魔人なんてのもあったな。
       勝手に動き回る黒い影。翼の生えた獣。頭と体と足がいろんな生物のつぎはぎなんてやつもいた」

l从・∀・ノ!リ人「お空をとぶ犬さんなら見たことがあるのじゃー」

(-<_-#)「小人に、半透明の人間に、しゃべる植物だの蛇だの。
      鶏と蛇が合体した化物に連れさらわれそうになったこともあったよな」


ひたすら並び立てられる過去の悪行やら偉業やら思い出に、流石の兄者も黙り込んだ。
それでも、弟者の言葉は止まる勢いを見せない。

.

52名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 16:37:25 ID:J2WA92hQ0

(;'A`)「お前さんはどんな人生を歩んでるんだ……」

(*´_ゝ`)「えへっ☆彡」

( ^ω^)「ないわー」


(´<_`#)「おい、兄者。俺の話は終わってないぞ」


というか、そもそも黙らないと弟者がすごい剣幕で怒るのだ。
こうなっては兄者も下手なことを口を出せない。


(´<_`#)「そもそも、生態すらよくわかってない生物に乗って砂漠を越えようという発想が理解できない。
      こいつの餌は何か知ってるのか? 一日に飲む水の量は? そもそも、ちゃんと遺跡まで飛べるのか?
      途中で逃げられたり、食われでもしたらどうするつもりなんだ、兄者は」

( ;´_ゝ`)「……まあ、そのあたりは勘?
      ほら、ピンクたんは人の言葉もわかるお利口さんだからきっとなんとか」

(Σ`Οw) エッヘン


兄者の返答に、弟者の眉が不機嫌そうに吊り上がる。
一方、兄者の言葉を理解したのか、竜はどこか誇らしげに唸り声をあげた。

.

53名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 16:40:08 ID:J2WA92hQ0

(´<_`#)「勘でどうにかなってたまるか。そんなもん却下だ、却下!!!」

(;´_ゝ`)「ぅぇー」


そして、その勢いのままに弟者は竜へと向き直る。
相手は人一人は軽く飲み込めてしまいそうな巨大な生物。それなのに、弟者の表情に怯む様子はこれっぽっちもない。


(´<_`#)「ピンクたんだか何だかしらないが、お前もさっさと帰れ!」

(Σ Οw) エー

(´<_`#)「言うことを聞きなさい!」


不満そうに唸る竜に向けて、弟者は一喝する。
その子どもを怒る保護者さながらの態度に、竜の首がしょんぼりと下る。

        
λ(Σ´Οw)λ  ハーイ

(´<_` )「ふむ。わかればいいのだ」


(;´_ゝ`)て「おおぅ、なぜかピンクたんが説得されてるぅー!!」

l从・∀・;ノ!リ人「ちっちゃい兄者。すごいのじゃー」

(;'A`)「奴はバケモノか……」

.

54名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 16:41:05 ID:J2WA92hQ0





λ(Σ*Οw)λ バイバーイ


l从・∀・*ノ!リ人「またくるのじゃー」

( ^ω^)ノシ「ばいばーいだお」


青い空に浮かぶ、夕焼け色の鱗をした竜。
災いをもたらす凶暴な生き物とも、神に近い神聖な生き物とも言われる生物が空へと帰っていく。
その背に兄弟たちの姿はない。
それでも文句をいう事もなく帰っていく竜の姿は、まさに人が言葉もわかるお利口さんというにふさわしいものだった。


(;´_ゝ`)「ああ、俺のピンクたん……」

('A`)「……こうして、全てが終わった……か」

(;´_ゝ`)「そもそも、始まってすらいなかったというのに……」


兄者は、飛び去っていく竜を「あーあ」と見送る。
しかし、いまさらどうにもならないことを悟り、やけになったのか兄者は露台の床にごろんと寝転んだ。


( ´_ゝ`)「弟者のアホー、馬鹿、おたんこなす」

.

55名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 16:42:12 ID:J2WA92hQ0








( ´_ゝ`)「弟のくせに生意気だぞー」







( ´_ゝ`)「アホ者ー!!」








.

56名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 16:43:02 ID:0B4fuHtA0
おお!待ってたぞ!!
支援!!

57名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 16:43:18 ID:J2WA92hQ0

( -_ゝ-)「それか……ら……」


いくら声を上げても、弟者から反論の声は聞こえてこない。
そのことに調子に乗って弟者のイジワル―などと文句を並び立てるうちに、兄者の瞼は徐々に重くなっていく。
そういえば、昨日は何時に寝たっけ? なんてことを考える間もなく、兄者の意識はどんどんと薄れていく。


(;^ω^)「おーい、アニジャー! ブーンたちを放置して寝るなおー」

('A`)「こりゃ、何言っても無駄だぞ」


耳元でなにやら声が聞こえるが、今の兄者には何と言っているのか聞き取ることができない。
今度こそ完全に意識が消え……兄者はそのまま眠りに落ちる。


( -_ゝ-)「……」


……それから少しして、何かがバサリと掛けられる感触に、兄者は目を覚ました。
一体何だ? と手にとって見ると、それは縁に細やかな刺繍がされた薄紫の飾り布である。


( ´_ゝ`)「――ん?」


首をひねりながら視線を上へと向けると、弟者が呆れたような表情をしていた。
そして、その横では色とりどりの何かを抱えた妹者がじっと兄者の表情を見つめている。

.

58名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 16:45:11 ID:J2WA92hQ0

(´<_` )「おい。兄者は旅に出るんだろう?
      まさか、そのまま寝てしまうつもりではあるまいな」

l从・∀・ノ!リ人「というか、もう寝てたのじゃー」


弟者は薄紫のフードつきのマントを羽織り、腰には日頃から愛用している曲刀を下げている。
よく見れば、いつの間にやら身につけているのも部屋着ではなく、外出用のものになっている。
一方、妹者の服装は先ほどまでと変わらなかったが、その手に飾り布や金の留め具などを抱えていた。


(´<_` )「ほれ、出かける気なら日除けの準備くらいはしろ。外は暑いぞ」

ol从・∀・ノ!リ人o「おっきい兄者のお出かけ用の荷物を持ってきたのじゃー」

(*´_ゝ`)「なんと! 持つべきは家族だな」


先程まで文句を言って寝こけていたのが嘘のように、兄者はあわてて身支度を整えはじめる。
先ほど掛けられた飾り布は耳を出せるようにして被り、妹者が持ってきてくれた金具で止める。
腰に飾り布をいくつも巻き、ついでに他人の目から見えない位置に財布やら、いざという時の薬の入った袋やらを固定する。


l从・∀・*ノ!リ人「できたのじゃー」

( ´_ゝ`)b「よし、我ながらかっこいい」


愛らしい妹の言葉に、薄い水色の耳をぴくりと動かしながら兄者は満足そうに頷く。
本当は弟者くらい身長があればもう少しは格好がつくのにと思っているのだが、兄のプライド故にそれは口にしなかった。

.

59名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 16:46:05 ID:J2WA92hQ0

(´<_` )「どこがだ」

( ´_ゝ`)「弟者。その発言は鏡を見てから言おうか」


兄者と弟者は双子の兄弟である。
体の色や、身長、体つきなど違うところはあるものの、彼ら二人の容姿は驚くほど似ている。
今でこそ間違える人間はほぼいなくなったものの。体つきがほとんど同じだった幼い頃は、家族でも間違えるほどであった。


(´<_` )「生憎、鏡と名のつくものは嫌いなんでな」

(;´_ゝ`)「えー、あー、そういう意味で言ったわけじゃないんだけどなー」

l从>∀<ノ!リ人「おっきい兄者とちっちゃい兄者はにてるから、おっきい兄者がかっこよくないならちっちゃい兄者も」

l从・∀・;ノ!リ人「……って、あれ? おっきい兄者にそっくりなちっちゃい兄者は、でもちっちゃい兄者でー」


( ´_ゝ`)「時に妹者よ、落ち着け」(´<_` )


おきっきい兄者とちっちゃい兄者がという言葉が混ざって混乱し始めた妹に向かって、兄弟は同じタイミングで言い放つ。
その内容も一字一句まるっきりそのままで、妹者はその場でクスクスと笑い始めた。


l从・∀・*ノ!リ人「はーい! ちゃんとおちつくのじゃー」

(*´_ゝ`)「うむ。妹者たんは流石だなー」

dl从>∀<*ノ!リ人「流石なのじゃー!」

60名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 16:48:11 ID:J2WA92hQ0


(´<_` )「――そろそろ、行くか」


兄妹たちがひとしきり笑い終えた後、弟者はふと話を切り出した。
それを聞いた兄者は、身支度を確認するとふむと頷く。


( ´_ゝ`)「そうだな。早いこと出発しないと、明日までに帰れるかどうかわからんしな。
      時に弟者、西の遺跡までは、歩くとどれだけかかったかな」

l从・∀・ノ!リ人「けっこうかかりそうなのじゃー」

(;´_ゝ`)「やっぱ、歩きだと大変そうだな。
      あれぐらいの距離なら、流石に遭難しないと信じたいところだが」


ソーサク遺跡までの距離を頭の中で考える。
遺跡にいる知り合い――ギコの話では、軽装でもわりあいなんとかなるという話ではあった。
砂嵐に遭遇したり、盗賊や魔物に出会うなんてよほど不運でない限り、体力のある男なら困ることはないはずだ。


(´<_` )「二人とも何を言っている? まずは乗り物と、水の調達だろ」

(;´_ゝ`)「いや、乗り物って。ピンクたん、もう帰っちゃったし」


兄者の言葉に弟者は表情を崩すと、笑い出す。
「本気で歩くつもりだったのか」とひとしきり笑い終わった後に、弟者は当然の様に言ってのけた。


(´<_` )「――砂漠といえば、ラクダだろう?」

l从・ワ・ノ!リ人「なるほど、なのじゃー」

.

61名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 16:49:32 ID:J2WA92hQ0

――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――


屋敷から二人が足を向けた先は、街の外れにある広場だった。


l从・∀・*ノ!リ人「いってらっしゃいなのじゃー」


妹者は先ほどの約束通り、屋敷で留守番をしている。
兄者が中庭の植物を踏んだ件については妹者に口止めしたが。それがバレるのは残念ながら時間の問題だろう。
そんな不安はさておいて、兄者と弟者は広場へと向かっていた。


(;´_ゝ`)「やっぱ、暑いなー」

(´<_` )「砂漠はこんなものじゃない件。
      とりあえずは、ツンのところか。あそこならいろいろと用立てしてもらえるはず……」


砂漠の位置するこの街では、早朝と夕暮れからが人の動き出す時間である。
太陽に照らされる昼間は暑すぎて、外を出歩く人間自体が少ない。
だから、広場であったとしても露天が立ち並ぶのは普通、早朝や夕暮れだ。


( ´_ゝ`)「というか、そもそも店なんて開いてるのか?」

.

62名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 16:50:44 ID:J2WA92hQ0

朝の涼しさも薄れ、夕暮れの訪れを今か今かと待ちわびる昼前。
普段ならばこの時間は夕暮れからの商いに備えてほとんどの露天が店を閉めている。
しかし、閑散としているはずの広場は、今日に限っては多くの露天と喧騒で満ち溢れていた。


(;^ω^)「うぉ、ニンゲンがいっぱいいるおー。暑くないのかお?」

('A`)「あー、妙に異国のやつの姿が多いな」


金の髪に白い薄衣をまとった女。黒い髪に黄色い肌をして東方独特の衣装をまとった男。
ターバンをまとった髭面の男や。長い尾に動物の耳を生やした猫のような姿の人。
見た目も、服装も全く違う男女が思い思いに品物をひろげ、それを見るために多くの人が集まっていた。


( `ハ´)「東の果ての大国。大都で使われる香辛料アルよー
     西の方では金一粒と同じ価値のある一品。早いもの勝ちアルねー」

J( 'ー`)し「カーチャン手作りの焼きたて小麦粉パンだよー」

( ゚∋゚)「ヤキトリ クエ」


広場は太陽だけでなく、人の発する熱気に満ちている。
パンや肉の焼ける臭いや、花や香水。それに香辛料や家畜の香りが混ざり合う。
誰も彼もが酔っ払ったかのように辺りを歩き、売り買いの声をあげる。


……そんな人ごみの中を、どこかで見たことがある生物が二匹飛び回っていた。
.

63名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 16:52:04 ID:J2WA92hQ0


(;´_ゝ`)⊂(´<_`#)「兄者。 な ぜ あ い つ ら が い る」


兄者の薄水色の耳をおもいっきり引っ張りながら、弟者は言った。
人目を気にしてかその声はひそめられていたが、その視線は思いっきりブーンとドクオを向いている。


(;´_ゝ`)「いや、俺に言われても……」

(´<_`#)「ピンクたん?とやらと一緒に帰ったんじゃなかったのか」

(;´_ゝ`)「確かに、気づいたらいつの間にかいなくなってたけどさー」


そして、そんな双子の姿を二匹の生物。もとい、精霊は見逃すはずがなかった。
ブーンは両手を広げた姿勢で。ドクオはフラフラと上下に飛びながら、兄弟たちの元へと飛んできた。


⊂二( ^ω^)二⊃「さっきぶりだおー」

('A`)ノシ


(*´_ゝ`)ノシ       「……」(´<_`#)

.

64名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 16:52:49 ID:J2WA92hQ0

( ´_ゝ`)「お前ら、さっきは何で消えたん?」


ブーンたちが現れるなり不機嫌になる弟者をとりあえず置いておいて、兄者は二匹の精霊に話しかける。
宙にむけて突然話し始めた兄者の姿に、通行人の何人かがぎょっとした顔つきになるがそれもすぐに止んだ。


( ^ω^)「おー、それはつまんなさそうだったからだお」

( ´_ゝ`)「なんで?」

(;'A`)「こいつ……こっちを無視して、いきなり寝だしたこと忘れてるぞ」
  _,
( ^ω^)「オトジャは話しかけても相手してくれないから、つまらんかったお」

('A`)「竜も帰っちまったしな」


兄者はちらりと弟者の姿を見る。
彼は先ほどまでと同じ不機嫌そのものの表情でそっぽを向き、一言もしゃべる気配がない。
話しかけてきたブーンやドクオたちに対しても、こんな態度だったのだろう。
――確かに、いくら話しかけてもこれでは、確かにつまらんよなと兄者は苦笑いを浮かべる。


( ´_ゝ`)「いやー、正直スマンカッタ。
      弟者たんはあれでも寂しがりやで甘えんぼさんな、いいやつなのだ。
      お前さんたちも傷ついたり、イラついたり、腹が立ったりしたと思うが、許してやってくれ」

.

65名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 16:56:28 ID:J2WA92hQ0

兄者が言い放った言葉は、周囲に沈黙を落とした。
ドクオは羽を動かすことを忘れ地面に落ちかけ、ブーンは笑顔のまま首をひねる。
弟者はというとぎょっとした顔をして、兄者たち一同に視線を戻していた。


(;'A`)て「寂しがりやで甘えんぼって誰だよ! 妹か? あのかわいい妹ちゃんのことだよな?!
      ――っていうか、弟はない、マジでない。真剣にない!!!
      お前、頭は大丈夫か? 目はいかれてないか?」

(´<_`#)

(;゚A゚)て「って、めっちや睨まれてる。俺ら絶対、睨まれてるー!!
     お前があることないこと適当に言うから、あの弟絶対怒ってるぅ」

(;´_ゝ`)「お、弟者よ。時に、落ちつけ!」


( ^ω^)「……ドクオ。イラついたり、腹が立つってなんだったかお?」

('A`)「へ?」


大はしゃぎする一同の中で、ブーンは首をひねったまま不思議そうに言った。
ふざけたところの一切ない。純粋な声で、ブーンは疑問を口にしていく。


(;^ω^)「んー。寂しいは、まだ何となくわかるんだけど。
      もうそのへんのやつはすっかり、わかんねーですお」

('A`)「あー、弟の方の顔見とけ。多分、それだ」

(*^ω^)「おっおっ。なるほどだおー」

.

66名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 16:57:34 ID:J2WA92hQ0

(;´_ゝ`)「?」

(´<_` )「アレは俺たちとは全く違う生き物だ。
      俺たちにわかることが、あいつらにもわかるとは限らない。いい加減理解しろ」


ブーンとドクオのやり取りを前にして、今度は兄者が首をひねる。
兄者の無言の疑問に答えたのは、ずっと黙り込んでいた弟者だった。


( ´_ゝ`)「そうかなぁ。おんなじだと思うんだがな〜」

( ^ω^)「まあ、オトジャのいうことも正しいと思うお」


小さい体で腕を広げながらブーンは言う。
ブーンが飛び回るたびに、羽がキラキラと光りを放つ。
それを見えているものがいるのか、「あれ、見ろよ」という声がどこかから聞こえる。


( ^ω^)「寿命ってのがないと、娯楽ぐらいしか楽しみがなくなってくるっていうか。
      それ以外の感情なんてもんは、だんだん磨耗してくるもんだお」


精霊の姿を見ることができるものは、限られる。
その精霊が見える人間の中においても、精霊たちの声まで聞くことができる者というのは、そう多くないらしい。
先程からブーンやドクオが騒ぎ立てているのに、それほど大騒ぎにならないのはそのためだ。

.

67名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 16:59:11 ID:J2WA92hQ0

( ^ω^)「ぶっちゃけ。楽しいか楽しくないかくらいしか感情残ってないですおー」

( ´_ゝ`)「そう、なのか?」


ブーンの言葉に兄者の耳がしょんぼりと垂れ下がるのを、弟者は見た。
弟者はこれまでの経験から、このような時の兄者はろくでもないことを考えていると判断する。
それこそ兄者のことだから、「ブーンに感情を思い出させてあげよう」などと言い出しかねないと、弟者は考え、


(´<_` )「おい、兄者」


⊂二二(*^ω^))二⊃「だから、早く遊びに行くおー!」


(;'A`)て「これはひどい」

(;´_ゝ`)て「俺の心配を返せ!」


(´<_`#)「……」


余計なことなんて考えなければよかったと後悔した。

.

68名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:00:02 ID:J2WA92hQ0

('A`)「それで、どうしてここはこんなに賑やかなんだ?」


少し早い昼飯とばかりに屋台に並べられた肉の串や、香辛料を利かせた汁物。
それから、いたるところに積み上げられた果物の数々を物珍しそうに眺めながら、ドクオは呟いた。
屋台の食料の数々に兄者の腹がなるが、腹が減るという感情に疎いドクオは気づかなかった


(;´_ゝ`)「え? よりにもよって俺に聞いちゃう、それ?
      いつもならこの時間だと、このへんはなんもないんだが」

J( 'ー`)し「はい。ありがとうねぇ」


空腹を我慢できなかったのだろう。
目についた屋台でパンを買っていた兄者は、マヌケな声を上げながら傍らの弟者の姿を見る。


( ´_ゝ`)「時に弟者。どうして、こんなお祭り騒ぎなのか三行で頼む。
      あと、このパンうまいぞ。弟者も食え」

(´<_` )「年に三度の大商隊到来
      大市
      なぜ、兄者が知らないか小一時間問いたい」

( ´_ゝ`)「ふむ。実質、二言で説明されたが問題ない」


モグモグ(´<_` )

.

69名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:01:49 ID:J2WA92hQ0

('A`)「いや、一番最後も聞いてやれよ。何で知らないんだよ、お前」

(;´_ゝ`)て「いや、街全体が死ぬほど賑やかなのは知ってたよ。知ってたよ、一応。
       でもさー。何か母者がやたらと天気見ろ星見ろってうるさいから俺も忙しくて」


パンにかじりつきながら、兄者は答える。
まだ熱々のパンはもっちりとした小麦の味がして、ほんのりと甘い。
先程までかなり苛立った顔をしていた弟者も、「うまいな」と小さくつぶやいた後はおとなしく食事に精を出している。


( ^ω^)「天気?」

(*´_ゝ`)「聞いて驚け、俺の特技の一つだ!
      この兄者。星読みと、天気の予測については外したことないもんねー」

(´<_` )「というか、それしか働こうとしない件について。
      こっちは酔っぱらいだ、警護だ、タチの悪い商人だので引っ張り回されているというのに」

(;´_ゝ`)て


弟者は街の治安を担当する組織、自警団の一員としてあちらこちらに引っ張り出されている。
一方の兄者はといえば、母者が押し付けてくる天候やら、星の動きやら、風向きやらを見るだけという、気楽な生活である。


( ^ω^)「アニジャは働いてないのかお?」

.

70名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:02:57 ID:J2WA92hQ0

( ;´_ゝ`)「えっとぉー、今は大きな商隊が来ているからなー。年に数度のお祭り騒ぎってやつ?
      人もモノもいっぱい到着していて、母者や姉者の商売もウハウハってやつだ」


('A`)「それは、ついさっき弟者が(´<_` )「虫に呼ばれる名は無い」


(;'A`)「本当にお前、俺らに辛辣すぎない?!」

(´<_` )「……」


('A`) ムシ デスカ

( ^ω^)ノ ムシ ダケニ


人ごみをかき分けながら一同は進む。
途中で、妙な声が上がるのはブーンやドクオの姿を見たものだろう。
彼らのような生き物はめったにいない。そのため、見える人間にはとにかく目立つ。


(゚A゚* )「ニダやん、あそこ! ほら精霊がいはる!」

<ヽ`∀´>「?」

(゚A゚* )「わー、珍し。すごいわー」

.

71名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:03:58 ID:J2WA92hQ0

(´<_` )「ほら兄者。よそ見してないでさっさと進め。
      このままでは、ソーサク遺跡につく前に日が暮れてしまうぞ」

(;´_ゝ`)「ちょっとくらいは、いいじゃないか」


( ゚∋゚)「オマチ」


(*´_ゝ`)つ―{}@{}@{}- 「ほれ、香辛料たっぷりクックルの串焼き」


モグモグ(´<_` )「……これもうまいな」


(;^ω^)「ブーンも食べたいおー」

('A`)「いや、オレらは飯食えないし」


ブーンたち精霊に限らず、ほとんど同じ顔である双子の容姿は目立つ。
“流石”の街の実質的な元締めである母者の息子であることから、彼ら双子はある程度は顔も知られている。


< `∀´>「んー?」

<*`∀´>「のーちゃんお手柄ニダ! あそにいるアイツらすっげー金持ちニダ!」


そして何より、彼らの着ている服は一目見てわかるほどに高価である。
そんな二人連れが、精霊を連れて広場を歩いている。それで目立たないはずがなかった。

.

72名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:05:29 ID:J2WA92hQ0

<*ヽ`∀´>ホルホルホル

(゚A゚; )「に、ニダやんあかんよ!」

┌<ヽ`∀´>┘「こうなったら気炎万丈意気揚々、行くニダよ!」


そうであるから、彼ら双子や、妹者は、性質のよからぬ者に目をつけられることが多い。
大抵の者は母者や、彼ら兄妹の長姉である姉者の報復を恐れて近づかないが、そうでないものもたまにはいる。
そして、先程から声を上げているこの男もみるから性質のよくない男の一人であった。


(´<_` )「今、妙な声が聞こえなかったか、兄者?」


食べ終えた串焼きの串を捨てながら声を上げた弟者は、眉を寄せた。
いつもならば、すぐ返ってくるはずの返事がなかなか返ってこない。
ブーンたちとの会話にでも夢中になっているのだろうかと視線を辺りに向けるのだが、兄者の姿は見えない。


(´<_` )「……兄者?」

( ・∀・)「おー! 流石のところのお坊ちゃんじゃないか! 今日も、悪徳商人の取締りか?」


かわりに声をかけてきた男が一人。
黄色い毛並みに黒い瞳をした猫のようなこの男は、細工職人をしているモララーだ。
ちょうど店を出していたところらしく、彼の立つ屋台には彼が作ったと思われる装飾品が所狭しと並べられていた。

.

73名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:06:41 ID:J2WA92hQ0

(´<_` )「モララーか。兄者の姿を見かけなかったか?」

( ・∀・)「んー、気づかなかったけどそこらへんにいるんじゃないかい。砂漠じゃないんだから、すぐに合流できるさ。
      せっかくだし、僕んところで買っていくといいんだからな!」

(´<_` )「ふむ。装飾品か……」


モララーの声に、弟者は売り物を眺める。
金や銀で作られたきらびやかな首輪や腕輪。
シャラシャラと音がなるように作られた首飾り。目立つところに置かれた耳飾りには、大きなルビーが嵌めこまれている。

それらの飾りを見るうちに、彼の脳裏に妹との会話がよぎる。


      l从・∀・ノ!リ人「ちっちゃい兄者ー。もうすぐ何があるか知ってる?」


      l从・∀・ノ!リ人「ヒントは明日なのじゃー」


弟者の膝の上に座り、なにやらご機嫌な様子だった妹者。
あのときの会話は兄者の登場によりうやむやになってしまったが、そういえば明日は……


( ;・∀・)「いつも堅物の坊ちゃんにしては、妙にノリがいいな。
      何? 意中の女の子でもできたか?」

(´<_` )「明日は、妹者の誕生日なんだ」


そう。妹者の誕生日である。
ここ最近は多忙だったこともあり、まだ誕生日の贈り物の用意ができていなかったことを弟者は思い出す。

.

74名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:10:05 ID:J2WA92hQ0

( ・∀・)「女の子って、妹か。
      いつまでも、妹にかまけてないで嫁さんの一人や二人や三人でも作ったらどうなんだ。
      その点、お前さんの兄貴は優秀だぞ〜。この前も、踊り子さんに声かけて見事に振られてたからな」

(´<_` )「人妻や婚礼の決まった令嬢に手を出した挙句、殺されかけたお前にだけは言われたくない。
      ……というか、そんなことをしていたのか兄者は」

( ・∀・)「女っていうのは、障害がある方が燃えていいんだよね。
      ちなみに、お前の兄貴。お前ん所の御用商人の子を、食事に誘って断られてたよ」


( ・∀・)「ははは」(´<_` )


ひと通り心あたたまるようで全く温まらない会話を交わした後で、モララーはうんと頷いた。
モララーは屋台に並べられた商品のうち比較的細工がおとなしめで、軽そうな商品を手に取り、眉をしかめる。


( -∀・)「んー。でも、妹かー。あの子はちびっちゃいからうちの売り物だとちょっとなぁ。
      どうせなら、もっとかわいらしいもんのほうがいいと思うからな」

(´<_` )「もっとかわいらしいものか?」


弟者はモララーの言葉に商品を見つめなおす。
確かに彼の言うとおり、妹者にはこういった派手なものよりも、かわいらしいもののほうがいいのかもしれない。
かわいらしいものといったら何だろう?
異国の鳥、猫。リボン。装飾の施された綺麗な布――そこまで考えて、弟者はふと思い出す。


       l从・∀・*ノ!リ人「お花が咲いてるのじゃー」



そうだ。花はどうだろうか。
これだけ店がやっているのだから、屋敷にはない異国の花も売られているに違いない。

.

75名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:12:58 ID:J2WA92hQ0

(´<_` )「帰りにでも、買うか」

(*・∀・)「で、妹はそれでいいとして。なんか買って行かないの?
       この腕輪なんて会心の出来で、坊ちゃんの姉上にも気に入ってもらえると」

(´<_`;)「確かに姉者なら……」

(*゚∀゚)「兄ちゃんジャマー!!!」


(´<_` )*゚∀゚) て ドンッ


モララーによる呼び込みに引きこまれていた弟者は、割り込んできた少年の姿に我に返った。
擦り切れた服を着た、裸足の少年。赤い毛並みの体からは、細長い猫のような尾が緊張したように上を向いている。
その少年の腕を――、弟者は渾身の力を込めて掴んだ。


(#゚∀゚)「いってー、なにやってんだよこのオッサン!」

(´<_` )「ついてきてもらおうか」


毛並みを逆立てて荒っぽい声を上げる少年に、弟者は腕を掴んだままで答える。
少年は腕をふり「離せ」と意思表示してきたが、弟者はそれを無視する。


(#゚∀゚)「はなせー、はなせよぉー!!!」

( ;・∀・)「おい、お坊ちゃん。急にどうした」


慌てて仲裁に入ろうとするモララーに、弟者は屋台の商品に顎を向け首を動かす。
その行動にモララーは、きょとんとした表情になる。

.

76名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:14:17 ID:J2WA92hQ0

(´<_` )「そこの首飾りの数を数えてみろ」


( ・∀・)て     Σ(;゚∀゚)⊂(´<_` )


弟者がそう口で指摘すると、モララーはようやくしまったという表情を見せる。
普段は職人をしているモララーは、商売だけで暮らしている者と比べるとどうにもこういう状況にはうとい。
首飾りの数をあわてて数えはじめ、その数が二つか三つほど足りなくなっていることに、モララーはようやく気づいた。


(; -∀-)「あー、助かったわ。
      休みみたいなのにわざわざ仕事をしてくださって、ありがたいばかりで」

(;゚∀゚)「うぅ」


ガジッ(#゚皿⊂(´<_` )


弟者の腕から離れようと、歯を剥きだして弟者に向かう少年。
弟者はそれを特にかまえることもなく避けると、少年の腕をひねりあっさりとその小柄な体を拘束する。


(*;∀;)「ううっ」

(´<_` )「こっちはこれが本業だからな。泣き落としなんてしようとするだけ無駄だ」


表情を歪め涙を流し出しはじめた少年の拘束されていない方の手を、弟者は強引に開かせる。
そこにはモララーが丹誠込めて作った首飾りが三つ。汗でベタベタになった状態で握られていた。

.

77名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:16:52 ID:J2WA92hQ0

(*;∀;)「おれはヤダって言ったのに、親方が……」

(#・∀・)「三つもガメておいて、よく言えるな」


少年は泣きながら何事か言っているが、弟者は拘束の手を緩めないまま周囲を見回す。
白や赤など色とりどりの衣装で歩いている人々の中から、黒色で全身を固めた男を見つけ、声をあげる。


(´<_` )「おい、そこの。……なんだ、モナーさんか」

( ´∀`)「はいはい、モナーさんですモナ」


黒い飾り布に、黒い装束。この街において全身を覆う黒の装束は、自警団の一員であることを表す。
弟者が呼び止めたこの男も自警団員であると同時に、弟者の仕事仲間であった。


( ´∀`)「今日は休みだって言うのに、どうしたモナ?」

(´<_` )「こそ泥の現行犯。後は頼んだ」

( ´∀`)ノ「あー、任せるモナ」


少年とモララーの相手をモナーに任せ、弟者はそのまま歩き出す。
モララーの「ありがとなー」の声に軽く手を上げて返すと、あたりを見回し兄者の姿を探す。


(#゚∀゚)「はーなーせー、クソたぬきー!」

( #´∀`)「ぶ ち こ ろ さ れ た い か、小 僧」


あの少年のようなこそ泥や、荒っぽい男たちが増えるのも、大商隊が訪れるこの時期ならではのことである。
少年の処遇については、モナーや他の団員たちかどうにかしてくれることだろう。
弟者は小さくため息をつくと、モララーに軽く手を振り別れを告げた。

7877訂正:2013/01/01(火) 17:17:45 ID:J2WA92hQ0
(*;∀;)「おれはヤダって言ったのに、親方が……」

(#・∀・)「三つもガメておいて、よく言えるな」


少年は泣きながら何事か言っているが、弟者は拘束の手を緩めないまま周囲を見回す。
白や赤など色とりどりの衣装で歩いている人々の中から、黒色で全身を固めた男を見つけ、声をあげる。


(´<_` )「おい、そこの。……なんだ、モナーさんか」

( ´∀`)「はいはい、モナーさんですモナ」


黒い飾り布に、黒い装束。この街において全身を覆う黒の装束は、自警団の一員であることを表す。
弟者が呼び止めたこの男も自警団員であると同時に、弟者の仕事仲間であった。


( ´∀`)「今日は休みだって言うのに、どうしたモナ?」

(´<_` )「こそ泥の現行犯。後は頼んだ」

( ´∀`)ノ「あー、任せるモナ」


少年とモララーの相手をモナーに任せ、弟者はそのまま歩き出す。
モララーの「ありがとなー」の声に軽く手を上げて返すと、あたりを見回し兄者の姿を探す。


(#゚∀゚)「はーなーせー、クソたぬきー!」

( #´∀`)「ぶ ち こ ろ さ れ た い か、小 僧」


あの少年のようなこそ泥や、荒っぽい男たちが増えるのも、大商隊が訪れるこの時期ならではのことである。
少年の処遇については、モナーや他の団員たちかどうにかしてくれることだろう。

79名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:18:45 ID:J2WA92hQ0





(´<_`; )「それにしても、兄者はどこだ」


装飾品、壺、水、野菜、家畜、煙草、香……立ち並ぶ屋台の中に兄者の姿は見えない。
弟者の脳裏に一瞬、このまま帰ってしまおうかという考えが浮かんだが、そういうわけにはいかない。
人ごみをすり抜け、兄者の声が――この際、ブーンやドクオでも構わない――聞こえないか、弟者は懸命に耳を澄ます。


(´・ω・`)「精霊様だ。うわー、ありがたいなぁ」
  _
( ゚∀゚)「精霊って、ホントかよ。なーなー、何処にいるんだよ!」

(´・ω・`)「ほらあそこ、白いのと紫の」
 _
(;゚∀゚)「えー、そんなのみえねーし」

                                      从'ー'从「なんでもー、精霊様がーいるんだってぇー」

                                      ('、`*川「ご利益、あるかもっ!」



そして、弟者の耳は――精霊について噂する声を捉えた。
慌てて声の主を確認すると、その視線をたどる。
精霊はあまり人前には姿を現さない。そんな精霊が二匹、しかも白いのと紫のといえば……

.

80名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:19:44 ID:J2WA92hQ0

( <_ ;)「――見つけた!」


広場の中に立てられた、紫と黒を基調とした色の小さなテント。
その前に並べられた長机を眺める、見覚えのある薄水色の獣の耳。
その周りをブンブンと飛び回る白と紫の影も見えるが。弟者はそれについてはあえて無視をすることにした。


(*´_ゝ`)「おお、弟者じゃないか。もうラクダは手に入れたのか?」

(´<_` )「それよりも前に、兄者が行方不明になった件。
      ……ん? それは」


弟者は兄者が目にしている長机の上に目を移す。
赤や黒で模様が織り込まれた敷き布の上に並べられているそれは、黒く光沢を放つ石板たちだ。
その石板を見た瞬間。弟者の顔が、苦虫を一度に十匹ほど噛んだようなる。

机の上に並べられているのは――魔力と呪文を刻み込んだ魔力石板。
比較的新しいものであるようだが、模造品ではなくちゃんと魔力を吹きこまれた本物であるようだ。
それは、兄者が興味津々で眺めていることからもわかる。


ヾ(*^ω^)ノシ「オトジャー! オトジャだおー!」

(*´_ゝ`)「見てみろ、弟者! 魔法石板2枚組、ついさっき買ったんだがこれすごいぞ。
       旅に便利な魔法を刻んであるので、どんな状況でも安心です――だってさ!」

(´<_`#)「買 っ た の か 。いますぐ返品しようか、兄者。
      そもそも魔法石板の素材を取りに行くといったのは兄者だぞ。ここで石板を買ってどうする」

.

81名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:20:43 ID:J2WA92hQ0

(*^ω^)ノ「オトジャも一緒に見るおー」

(;´_ゝ`)「弟者は相変わらずそういうのが嫌いだなぁ。
      そもそも石板の材料と、魔法石板じゃ別物なんですー。ほらー、いいだろー、文明の利器ー。
      水袋を持ち歩かなくてもコップ一杯の水が出せるし、マッチ一本分の火力で火おこし楽々なのだが」

(;'A`)「コップ一杯にマッチ一本とか……、威力しょっぺぇ」


弟者の形相に冷や汗を書きながら、それでも理解を得ようとする兄者。
しかし、弟者の表情は相変わらずの不機嫌そのもので、兄者の言葉を聞く気配すら見えない。


( ´ω`)「また、オトジャに無視されたお」

('A`)ドンマイ


(´<_`#)「……兄者」

( ;´_ゝ`)「えーと、俺は旅をするには準備が必要であると思うんだけどなぁ……」


弟者は弱々しく声を上げる兄者を見ると、笑みを浮かべ言った。


(´<_` )「商品は返すから、金を返してもらえるか」


ジタ∩( ;_ゝ;)⊃バタ「やだやだ返品やだー」

.

82名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:21:34 ID:J2WA92hQ0

(´<_` )「返品が無理ならば、この石板を引き取ってくれ」


大袈裟に手足を振り抵抗の姿勢を見せる兄者に、弟者はさわやかな笑顔のままで追い打ちをかける。
そして、兄者の手から石板を奪い去ると、それをそのままテントの前に立つ店主へと突きつける。
弟の暴挙に、兄者は天を仰ぎ号泣を始めた。


( ;_ゝ;)「弟者の悪鬼――!!!」


アベシ(゚く_゚(#⊂(´<_`#)ウルサイ


(;'A`)「本日、三度目ー」

(;^ω^)「痛そうだお……」


容赦なく、自分よりも少し小さな兄の姿を殴る弟一人。
ドクオやブーンにとってこの光景はそろそろ見慣れはじめたものになってきていた。
ある意味では平和なこの光景を、――遮る声があった。


川 ゚ -゚)「こっちも商売なんだから、《そんなことされては困る》」

( <_ ∩)「――っ」


凛とした女の声――、その言葉が響くのとほぼ同時に弟者は自分の耳をふさいだ。
言葉の中に紛れ込んだ音の羅列に舌打ちしながら、弟者は声の主の姿を確認する。

.

83名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:23:01 ID:J2WA92hQ0

川 ゚ -゚)「ふむ。精霊を連れているだけあって、やはり鋭いな」


そう言ったのは、先程からずっと兄弟のやり取りを見せつけられていた店主だった。
テントの前に立った彼女は、濃紺色のヴェールを被り、顔の半ばを隠している。
薄布の向こうに隠された肌は透けるように白く、布の合間からかろうじて見える瞳は漆黒の空の色。

素顔を隠されていても、その美しさが容易に想像できる女だった。
しかし、彼女の美しさも今の弟者の目には映らない。


( ;´_ゝ`)「おい、弟者。大丈夫か?」

(´<_`∩)「……暗示とは御大層な」


先ほどの言葉に紛れていた音。それは魔法だった。
弟者は魔法を使う際に行使される力、魔力を――奇妙な音と、体を走る妙な感覚として感じとる。
そして、それが聞こえたということは、この女は魔法使いだということだ。


川 ゚ ー゚)「なに。挨拶のようなものだよ。そんなに大したものじゃなかったし、実害もないだろう?
     商売には熱心なほうではないが、こうやって邪魔ばかりされるのも面白くはないのでね」

( ^ω^)「確かにつまらないのはよくないお」

(;'A`)ノシ「おいブーン。今はちょっと黙っておけ」


彼女の首元や手首には、古い宝石の嵌めこまれた銀の装飾品。
注意してみればその飾り一つ一つにも魔力が込められているのがわかる。
そして、それをちらつかせながら、女は口元だけを微かにあげた。

弟者はそれを「これ以上こちらの機嫌を損ねるようならば、実力行使をいとわない」という意味だと判断する。

.

84名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:23:55 ID:J2WA92hQ0

(´<_` )「……」

川 ゚ -゚)「今度はだんまりか。まあ、いいだろう。
     先ほどから君たちが騒いでいる件だが、断らせてもらう。
     私はそこの彼と金銭でもって正式に契約を交わした。それについて、君にあれこれ言われる覚えはない」


弟者と店主との間で、空気が凍っていく。
一触即発の雰囲気は、本日二度目。あの時と同じように、弟者の顔から表情が失せていくのを兄者は見た。
ヴェールを被った女と身なりのいい男の険悪な空気に、通りを歩く通行人が一人、二人と足を止めていく。


( ;´_ゝ`)つ⊆#⊇「弟者弟者! ついさっき買ったなんか珍しい菓子だぞぉー!!」

(;'A`)「ちょ、いくらなんでもそれでどうにかするのは無理だろ!
    お前も羽むしられるぞ、羽! いや、羽はないか。何か羽的なものがむしられるぞ」


(´<_` )「……」


コレデモクラエー( ´_ゝ`)つ⊆#⊇(´<_`; )


そして、そんな険悪な空気の中に突撃する男が一人。
兄者は懐から取り出した菓子を弟者の口に突っ込むと、弟に向けて一喝した。


∩(#´_ゝ`)∩「お前ばっかり美人のおねーさんと話してずるいぞ!」

.

85名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:25:27 ID:0B4fuHtA0
こういう兄弟良いな

86名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:26:07 ID:J2WA92hQ0

(;'A`)て「ちょ、お前この状況を止めるんじゃないのかよ!」


あんまりといえばあんまりな一喝に、思わずツッコミを入れるドクオ。
一方、一喝を入れられた当人の弟者は、口に入れられた菓子を眺め、


⊆#⊇(´<_` )モグ


(;゚A゚)「って、弟者が食ったー! なんで?!」

( ´_ゝ`)b「弟者くんはあれでいて食べ物が大好きなのだよ」


(´<_`; )「……マズイんだが」

( ´_ゝ`)「いや、外国のって大体そんな感じの味じゃん。慣れだよ、慣れ」


とりあえず、おとなしく菓子を食べ始めた弟者にドクオと兄者はほっとする。
もうひとりの方はどうだろうと、兄者とドクオが店主の様子を見ると、


( ^ω^)「ブーンはドクオに言われた通り、ちゃんと黙っているお」

川 ゚ -゚)「別にしゃべってもいいんだぞ」

(*^ω^)「ほんと?」


川*゚ -゚) フフフ       (^ω^*)


こちらはこちらでなぜか落ち着いていた。

.

87名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:28:45 ID:J2WA92hQ0

川 ゚ -゚)「お前の相方は、しょっぱいなんて言っていたが、私の石板は本当はスゴイんだぞー。
     コップ一杯とか、マッチ一本とか言っていたが、あれは魔力を込めない場合だけだからな。
     それなりの術者が魔力を込めて使えば、本当にもうすごいんだからなー」

( ^ω^)「ほうほう。そうですかおー」

川;゚ -゚)「私はもう頑張って魔力を込めて作っているというのに、最近の客はみんなひどいんだ。
     自分に魔法の素養が無いのを棚に上げて、しょぼいだの高いだのと。
     もう人間というやつはどうしてああなんだ。そこの男なんて金はいらないから、石板を回収しろときた」

( ^ω^)「そうなんですかおー」


店主とブーンはいつの間にかいつの間にか意気投合していた。
というか、店主の愚痴を一方的にブーンが聞かされている。
突然ブーンのいる虚空に向けて話し始めた店主の姿に、足を止めていた通行人の大半がそそくさと逃げ出す。
ブーンの見えない人間にとって、店主の姿は完全に頭が大変なことになっている女。逃げるのも仕方がないことだろう。


(´<_` )「……だから問題なんだ」

(;´_ゝ`)「そんなに不味かった、あの菓子?」

モグモグ(´<_` )「いや、これはこれでアリのような気がしてきた」


('A`)「そんなにうまいもんかね、食べ物ってやつは」


弟者はおとなしく菓子を食べ続けている。
どうやら、弟者と魔法使いの店主が互いに争うという最悪の状況はなんとか回避されたようである。

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88名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:30:23 ID:J2WA92hQ0

川 ゚ -゚)「まあ何が言いたいのかというと、お前も兄なら弟のワガママくらい聞いてやれということだ。
     お前はどうやら魔法が嫌いなようだが、それと弟は関係ないことだろう?」


散々ブーンに向けて愚痴をこぼした後に、店主は言った。
その様子は理知的で、先程まで愚痴をこぼしていたようにはとても見えない。


(´<_` )「残念ながら、弟は俺だ。
      さっきからワガママいっているのが俺の兄だ」

川 ゚ ー゚)「そうか。私には、お前のほうが年上に見えたんだがな」


間違いを指摘されながらも、あくまでも余裕なその声に、弟者は一瞬言葉を失う。
が、それに猛烈に反応した人物が一人いた。


\(#´_ゝ`)/「どうみても俺が兄だろうに。名前にもちゃんと“兄”って入ってるぞ。
         ちょっとばかり、弟者のほうが背が高いからって、高いからって!!!」

('A`)「敗北者乙」


ヾ(♯`_ゝ´)ノ ムキー


(♯`_ゝ´)「俺だってあと二年もたてば身長だって伸びるもん!」

(;'A`)「もんとか言うな、気持ち悪い」

┌(♯`_ゝ´)┘「気持ち悪いとはなんだー!!」


手をバタバタさせて、抗議の意志をしめす馬鹿が一人。
その様子はとてもじゃないが、弟者よりも年長者である様には見えなかった。

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89名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:31:24 ID:J2WA92hQ0

('A`)「そもそも、どう考えてもお前より弟のほうがしっかりしているだろ」

( ´ω`)キレトトキハ オトジャノホウガ コワインデスケドネー


ドクオのさらなる追い打ちに、兄者はとうとう泣きはじめる。
その仕種はあまりにも大袈裟で、お世辞にも本気で泣いているとはとても思えないものだ。


( ;_ゝ;)「お前らは、俺の敵か? 敵なのか?」

( ^ω^)「でも、ブーンはそんなアニジャが好きですお」

( ´_ゝ`)「だが断るっ!」

(;^ω^)「ひどいおー!」


はしゃぐ兄者とブーンの二人。
そんな二人の姿を弟者がぼんやりと眺めていることに気づき、ドクオは声をかける。


(´<_` )「……」

('A`)「どした?」

(´<_` )「羽虫が人間に話しかけるな」

(;'A`)て「辛辣っ!」


川 ゚ -゚)「やれやれ。よくもまあ、飽きないものだな。
     いつまでもここで揉められては困るし、一つ提案がしたいのだが……」


一同の様子を呆れ半分で見守っていた店主は、手首にはめた腕輪に手をやるとそっと口を開いた――

.

90名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:32:43 ID:J2WA92hQ0

――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――


(*´_ゝ`)ノ[]「ふふーん。やったぞ、やった。
         やっぱ、魔法石板はいいよな。文明の利器って本当に素晴らしい〜」


店主とのやり取りの末、魔法石版二枚組は、無事兄者の手に渡ることになった。
兄者は大喜びで石板を抱えて跳びまわるが、その喜びはそう長くは続かなかった。


[]⊂(´<_` )「ほい、没収」

( ;゚_ゝ゚)て「弟者さん、それはあんまりじゃありませんかー!!
       どうか、ご慈悲をー。このお兄ちゃんにご慈悲をぉぉ!!!」

[]⊂(´<_` )「慈悲なら既に十分すぎるほど与えている件について」


('A`)「もうあきらめろよ」

( ^ω^)「ですおねー」


兄者が手にしていた石板はあっさりと弟者の手に渡り、彼が肩から下げていた鞄の中に放り込まれる。
いたるところに装飾の施された豪奢な鞄は、それなりの大きさのある石板二枚でもしっかりと収納する。
そして、鞄は弟者が手にしたまま。兄者に渡される気配は微塵もない。


(;´_ゝ`)「ぐぬぬぬ。まさか強制的に没収してくるとは……」

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91名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:34:26 ID:J2WA92hQ0

(´<_` )「はしゃぐのはいいが、そろそろ到着するぞ」


人ごみをかき分けて、広場を進んだ一番奥。
街を取り囲む城壁に一番近い場所にある建物へ視線を向けて、弟者は言った。
日干し煉瓦を石灰で固めたこの地方特有の建物。そこは、兄者も見覚えがある場所だった。


(*´_ゝ`)「おお、ツン者とデレ者の店ではないか!」

(´<_` )「そう。兄者が食事に誘って見事に断られた、な」

(;´_ゝ`)て「え? 何で知ってるの?!」


その建物は“流石”の街で最も信用のある、ツン=デレ商会のものだ。
ツン=デレ商会は流石邸の御用商人をつとめており、現在の店主である姉妹は兄弟にとって古くからの知り合いであった。
春から店主が代替わりしその規模は縮小したものの、流石の街では知らないものはない店である。


ξ゚⊿゚)ξ「――あら、どうしたの?」


弟者が入り口をくぐると声をかけてきたのは、姉妹の姉であるツンであった。
透けるような白い肌に、絹のような金糸の髪。
西の生まれの者の特徴を持ったこの娘は、兄弟の姿を見ると営業用の笑みを消し、打ち解けた様子で話しかけてきた。

姉妹の中でもツンは先代である父に連れられて幼い頃から流石邸に出入りしていたため、双子たちとは特に親しい。
そのため彼女が兄弟に対し、敬語やかしこまった態度をとることは稀だ。

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92名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:36:48 ID:J2WA92hQ0

(´<_` )「ラクダを二頭、それから水を丸一日分用立ててくれないか」

ξ-⊿-)ξ「アンタの家なら、わざわざ金なんて出さなくてもいくらでもあるでしょうか」

(´<_` )「家にあるのは母者のものだからな。兄者の道楽で引っ張り出すわけにはいかんさ」


弟者とツンは手慣れた調子で、交渉を進めていく。
そうなると自然と兄者やブーンたち一同は、次第にすることがなくなってくる。
はじめは床に敷いていある絨毯や、壁に飾ってある張り紙を見ていたが、やがてはそれにも飽きた様だった。


('A`)「お前ん家、金持ちなのか?」

(;´_ゝ`)「それは否定できんが。ぶっちゃけ自由に大金を使えるのは、母者と姉者だけな件について」

( ^ω^)「そういえばハハジャってアニジャのカーチャンかお?」

( ´_ゝ`)「おお、そうだ。母者は強くて怖くておっかないんだ。
      ちなみに、姉者っていうのは俺たちの姉ちゃん。あと、うちには父者っていうトーチャンが……」

('A`)「妹ちゃんの名前は妹者だったよな。安直というかなんというか……」

ヽ(#´_ゝ`)ノ「妹者っていったら最高に可愛い名前だろうが!」


とうとう雑談を始めだした兄者に対して、ツンはぎょっとした表情になる。
精霊を見ることの出来ない彼女は交渉を中断し、やや怯えたような目で弟者の姿を見上げる。


ξ;゚⊿゚)ξ「……兄者は、何と話してるの?」


(´<_` )「いつもの病気だ。気にするな」

ξ゚⊿゚)ξ「なるほど。いつもの、アレね」


(;´_ゝ`)「ちょ、勝手に人を病人扱いするなし!」

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93名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:38:02 ID:J2WA92hQ0

弟者とツンはそれから少し会話をした後、無事に交渉を成立させた。
ツンは手元の帳面に書き込みをしながら、兄者たち一同に向けて裏口を指さす。


ξ゚⊿゚)ξ「アンタたちがラクダを選んでる間、こっちは荷物の方の準備をしておくわ」


(*´_ゝ`)ノ「頼むぞ、ツン者」

⊂二( ^ω^)二⊃「ブーンも行くおー」

('A`)「そっちは何があるんだ」


そうツンが言うやいなや、兄者と他二匹の姿はもう裏口に向け走り出している。
一人置いていかれた形になった弟者は、ツンに向けて「すまないな」と、小さく苦笑を浮かべる。


ξ゚⊿゚)ξ「あっちにはデレがいるから、兄者があんまり好き放題するようなら頼むわね」


好き勝手に動きまわる兄者をどうにかしようとするためには、下手に止めるよりも弟者に任せたほうがいい。
長年の付き合いからツンがそう判断して告げると、弟者は慣れきった様子で片手を振って答えた。
が、手振りで答えを返す時の弟者は大抵「めんどくさい」と思っている――と、いうことがわかるため、ツンの表情は渋くなっていく。


ξ#゚⊿゚)ξ「く れ ぐ れ も 頼 む わ ね」

(´<_` )「そう怒るな。……そういえば、ツン。兄者に夕飯を誘われたというのはお前か?」

ξ# ⊿ )ξ「デレよ。だから、好き放題するようならってわざわざアンタに頼んでるのよ。
       それに兄者も兄者よ。まったく、こんなうら若い乙女を無視するなんて、ひどいと思わない?
       その場に私がいたら、きっちり姉妹二人分の夕飯代を払わせてやったのに」

(´<_`;)「……それはすまんかった」

.

94名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:39:55 ID:J2WA92hQ0

怒り心頭のツンをなだめつつ、弟者は裏口の木戸を開けた。
ツン=デレ商会の裏手は、ラクダやヤギなどの家畜を一時的につないだり、資材の置く場所として使われている。
木々がいたるところに植えられ、家畜の鳴き声くらいしか聞こえないそこは、広場と建物一つ分しか離れていないとは思えない。


(´<_` )「さてと」


弟者は、周囲を見回す。
広場とは違いそれほど広くもなく、警備のために数人がうろついているくらいで人も多くない。
そんな環境なので、兄者の姿はすぐに見つかる。


( ´_ゝ`)「よし、君に決めた!」

ζ(゚ー゚*ζ「この子はスカルチノフっていうんですよ。
       頭はちょっとよくないけど、とってもいい子なんですよぉー」

( ^ω^)「オトジャのはどうするんだお?」

('A`)「そこのぶっさいくで貧弱そうなやつにしようぜ」

( ^ω^)「ドクオにそっく('A`)「やっぱなしで」


ラクダがたちが並ぶ金網で作られた柵。その向こうにいるのは見慣れた、兄者と精霊に二匹の姿。
そして、その隣にいるのは先程まで話していたツンとよく似た、金糸の髪をした可愛らしい娘。
ツンとは違い柔らかな表情を浮かべたこの娘は、ツンの妹であるデレだった。

彼女は薄茶色の体毛を持つラクダの体を臆することもなく撫でながら、兄者と話している。
撫でられている方の獣はといえば、起きているのか寝ているのかさっぱりわからない顔つきで独特の声をあげた。

.

95名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:41:58 ID:J2WA92hQ0

(´<_` )「兄者」

( ´_ゝ`)「おお、弟者! 弟者はこいつなー」


弟者が声をかけると、兄者は10頭ばかりいるラクダの中から一頭を指さした。
デレが撫でているラクダよりも少しだけ小さい、やはり起きているのか寝ているのかさっぱりわからない顔つきのラクダである。


ζ(゚ー゚*ζ「この子はバルケンちゃんです。
       気性はちょっと荒いけど、とっても賢いんですよー」

(´<_`;)「というか、コイツで本当に大丈夫なのか?」


ラクダはもともと気性の荒い動物だから、おとなしいにこしたことはない。
だが、しかしいくらおとなしいといっても、この半分寝ているようなラクダに乗れるのかと問われれば不安になるのが人情だろう。


ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃんが選んだラクダですから、大丈夫です!」

( ^ω^)「おねーちゃんって誰だお?」

('A`)「んー、受付にいた性格がキツそうな姉ちゃんじゃね?」


ζ(゚、゚;ζ「ん? 今、お姉ちゃんの悪口が聞こえませんでしたか?」

.

96名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:44:05 ID:J2WA92hQ0

(*´_ゝ`)「ふっふっふっ、デレ者。それはイタズラな精霊さんの仕業さ☆」

ζ(゚、゚ ζ「気色悪いです、兄者さん」


真実を口にしたにもかかわらず、デレに真顔で「気色悪いです」と言い切られてしまった兄者の顔に、涙が浮かぶ。
その光景を見て、弟者は「兄者がデレに好き放題するのでは?」と心配していたツンをはじめて気の毒に思った。
姉の心、妹は知らず。姉が心配をしなくとも、妹は兄者を泣かせる程度にはしたたかである。


( ;_ゝ;)「ひどいやい、ひどいやい……」

(ヽ´ω`)「……気色悪い」

('A`)「俺らの存在は、兄者ごと完全に否定されたな」


たった一言で見事に落ち込む兄者他二匹の姿を見て、弟者も流石に気の毒となった。
話を変えようかと辺りを見回し、弟者はラクダについて話をすることにした。


(´<_` )「時に、デレ。
      この半分寝かかってるようなのではなくて、もう少ししっかりとしたやつはいないのか」

ζ(^ー^*ζ「いますけど。そういう子はかなりお高いですよー。
        兄者さんから聞きましたけど、ちょっとお出かけするだけなんですよねー。
        でも、どうせなら西のお貴族様が乗るような子に手を出してみますか? 商会としては大歓迎ですよー」

(´<_` )「……さて、兄者。ラクダは決まったからそろそろ出発しようか」


妹とはしたたかである。
弟者は家で待っている愛らしい妹が、このように成長を遂げないことを祈るのみであった。

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97名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:45:36 ID:J2WA92hQ0

(*´_ゝ`)「よーし、いい子いい子ー」

(;'A`)て「噛んだ! この動物、絶対オレを食おうとしてる!」

( ^ω^)「ドクオは食べもんじゃないおー。
      食べ物っていうのはきっと、もっとおいしいものなんだお」


ラクダを決めたことをデレに告げると、それからほどなくしてツンが荷車を引いて店から現れた。
荷車にはラクダにつけるための鞍や手綱、それから先ほど弟者が注文していた水袋などが乗せられている。


ξ゚⊿゚)ξ「デレ? 兄者に何にもされてない? 大丈夫だった?」

ζ(゚ー゚;ζ「もー、兄者さんは変な人だけど別になんにもないよー」


( ;_ゝ;)「……デレ者」

('A`)「元気だせよ」

( ^ω^)「おっおっ、アニジャはさっきから泣いたり笑ったり楽しそうだお」


デレの何気ない一言に兄者がまた涙を滲ませる。
しかし、二度目となると話を変えるのも少々面倒であるので、弟者はツンとの会話を進めることにした。

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98名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:47:13 ID:J2WA92hQ0

(´<_` )「ツンは随分とデレに甘いんだな」

ξ;゚⊿゚)ξて「……アンタがそれをいや、なんでもない。
        えっと、そうね。出発はいつ? すぐに出るなら今から鞍をつけちゃうけど」

(*´_ゝ`)ノ「今すぐで頼むぞ、ツン者!」

(´<_` )「……と、いうことらしい」


言いながら弟者は、ツンの手に慣れた手つきで金貨を2枚落とす。
ツンはその金貨の質をざっと確かめると、何事か考える仕種をした。


ξ-⊿゚)ξ「んー。この額なら食料もつけておくわ。多めにね。
      行き先は何処? 裏の方にある出入り口も使っていいわよ」

(´<_` )「それは助かる。ソーサク遺跡まで行くつもりでな」

ξ゚⊿゚)ξ「あら、珍しいわね」


そう言いながらも、ツンはラクダを座らせると、デレとともに手早く鞍をつけ、鞭と荷物の用意をしていく。
この春、父の跡を継いだ娘たちは、そつなく仕事をこなしていく。
そして、それからさほどたたないうちに、ラクダには鞍と水。それに食料品がつまれていた。


ξ゚⊿゚)ξ「はい、できたわよ」

(´<_` )「すまない」

ξ-⊿゚)ξ「こっちも商売なんだから、気にしないで」

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99名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:48:42 ID:J2WA92hQ0

(;´_ゝ`)「うおっ、早くないかツン者?」

ξ-⊿-)ξ「このくらい当然でしょ」


肩でもこったのか、腰に手をやり首を左右に伸ばしながらツンは言う。
女らしさの欠片もない行動だけれども、彼女は流石家の娘や息子の前では常にこうであった。


ζ(゚ー゚*ζ「ふふ。兄者さんや弟者さんの前だから、お姉ちゃんも見栄はっちゃってるんですよー」

ξ#゚⊿゚)ξ「デレぇー!!」

ζ(゚、゚*ζ「それじゃあ、兄者さんと弟者さんを送ってきますねー」


デレは姉をからかいながら、ラクダの手綱を取ると兄者と弟者にそれぞれ手渡す。
弟者が手綱を引くとつながれたラクダは、面倒そうな表情で首を動かした。
とりあえず、いきなり暴れることは無さそうだと判断すると、弟者はラクダの首を指でかいてやる。


ζ(^ー^*ζ「じゃあ、ついてきてくださいねー」

ξ゚⊿゚)ξ「気をつけて行ってくるのよー」


(*´_ゝ`)「おお、じゃあ行ってくるぞ!」

(´<_` )「世話になった」


( ^ω^)ノシ  ('A`)ノ

.

100名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:49:33 ID:J2WA92hQ0

ラクダにつけられた手綱を引き、一同はデレの後に続く。
柵から出てさらに先に進むと、街を取り囲む城壁へと突き当たる。
そのまま、デレの誘導にしたがって少し歩くと、やがて城壁に備え付けられた木製の扉が見え始めた。


从 ゚∀从「おー、弟者。兄貴なんて引き連れてどうした?
      今日は、ガキ捕まえたって話だし、休みにしてはやけに働くじゃないか。」

(;^Д^)「は、は、ハインさん。弟者さんたちの周りに何か変、変なのがー!!」

从#゚∀从「あ゙あ゙? 何もいないじゃねーか。
      いい加減にしろよ、このへなちょこ野郎が」


( ´ω`)「変なの……」            ('A`)イイカゲン ナレロ


扉といっても、馬車一頭ならばかろうじて通れるという大きさはある。
そして、それを守るようにうろついているのは、そろいの黒衣を纏った自警団たちだ。
弟者は仕事仲間たちの姿に、適当に手をふって返す。


( ´_ゝ`)「弟者、ここは?」

(´<_` )「関係者用出入り口ってやつだ。こいつらは、今日の警備担当」


从 ゚∀从∩「どうもー、ハインちゃんでーす」

( ^Д^)「お、お疲れ様です!」

.


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