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lw´‐ _‐ノvシュルレアケーキのようです- 1 :名も無きAAのようです:2012/07/07(土) 20:44:26 ID:2BDj2qDg0
- 中編ですー
よろしくおねがいします
- 2 :名も無きAAのようです:2012/07/07(土) 20:49:13 ID:z5C71yv20
- はいですー
- 3 :名も無きAAのようです:2012/07/07(土) 20:51:40 ID:lOZFg2Zg0
- 第一話「あーす」
町は依然、カニが音も立てずに砂糖雫を落とす時と等しく、月下のまま静寂であった。
書物の呪いは、人々から万物の創生を飲み干し、数多のフルーツは実のまま腐ってゆく。
古来から伝わる秘法をイワシの死体に宿し、私たちは沈む時をこのまま楽しむことにした。
夜は正方形であり、私たちの頭上の底を緩やかに天体が廻ってゆく。
lw´‐ _‐ノv「匂いに慣れることを、順応というんだって」
(゚、゚トソン「そうですか」
(#゚;;-゚)「お空、きれい……」
lw´‐ _‐ノv「そのうち、この景色にも慣れてしまうのかな」
(゚、゚トソン「そうですね」
(#゚;;-゚)「お星さま、きれい……」
- 4 :名も無きAAのようです:2012/07/07(土) 20:52:49 ID:lOZFg2Zg0
-
でぃは俯きながら星を睨み、トソンは上着のフードを被ったり脱いだりしていた。
あるいは術の放つ異臭に耐え難い様子であったが、二人の血管は浮き出ていない。
lw´‐ _‐ノv「見えることを、撫で撫でしてあげたいね」
(#゚;;-゚)「うん」
(゚、゚トソン「ええ。ですが僕は早くも飽きつつありますよ」
lw´‐ _‐ノv「まさか……」
一体誰がたなびく徒し煙や、太陽に抵抗する窓ガラスを見慣れるというのだろう?
自然と目が見開いて心を満たす光景の多くを、いつか蔑むようになるのは誰だというのだろう?
それは、私たち自身に他ならない。
やがて目にした何もかもが、微かに空いた指の隙間からさらさらと零れ落ちてしまう。
キッチンテーブルの上に綺麗に食器だけを並べ、ほこりが砂として積もってゆくのだ。
- 5 :名も無きAAのようです:2012/07/07(土) 20:53:43 ID:lOZFg2Zg0
-
(#゚;;-゚)「私は何も見たくはないのに」
(#゚;;-゚)「それでも見ていたい」
文字が読めないほど紙焼けした本は、自己を肯定するのが困難だ。
でぃは交わしたそばから離れ、離れたと思うと交わしてゆく。
lw´‐ _‐ノv「うん」
(゚、゚トソン「……」
何も気にする必要はないよと言っても、それは内側に鱗を残すだけだ。
矛盾を内包した木箱は自分で壊さなければ、幾度となく生産されてゆく。
いつかテラスに置いたままのサングラスは、何かの暗示のように太陽に溶けていった。
飲みかけのジャムコーヒーの味を苦くさせたのは、その記憶に過ぎない。
- 6 :名も無きAAのようです:2012/07/07(土) 20:54:28 ID:lOZFg2Zg0
-
(゚、゚トソン「少し、歩きましょうか」
(゚、゚トソン「時間の彼方まで、まだ猶予はありますよ」
lw´‐ _‐ノv「いいよ」
lw´‐ _‐ノv「でぃは?」
(#゚;;-゚)「……空が見えるなら」
私たちが眠ることや起きること、それらを何も気にしないなら物音はしないはずだった。
私は夏のあたたかい風であり、その一歩を踏み出す。
lw´‐ _‐ノv「よっと……」
ふわり、とも聞こえなかった。
でぃもトソンも同じく、見えないほどに風であった。
- 7 :名も無きAAのようです:2012/07/07(土) 20:55:27 ID:lOZFg2Zg0
-
lw´‐ _‐ノv「なんとなく子供のころを思い出した」
(#゚;;-゚)「そういうこともある……」
(゚、゚トソン「ええ」
前を行く二人の肩越しに、細菌や揮発した建物の芳香が明滅してゆく。
ネオンめいた星々と香る光の流動に、彼女たちは何を思うのだろう。
(゚、゚トソン「キリン見たことあります?」
(#゚;;-゚)「あるよ」
(゚、゚トソン「あんなに背が高いと、肩こりそうですよね」
(#゚;;-゚)「そうかな」
lw´‐ _‐ノv「……」
- 8 :名も無きAAのようです:2012/07/07(土) 20:56:14 ID:lOZFg2Zg0
-
フレアスカートと、膝までのクロップドパンツ。
そこから覗く二種類のふくらはぎが、道々に蚕の半影を作り出す。
でぃのアーモンド形のふくらはぎは、天然が保つあの不透明さだった。
それに比べてキルギス産の細いタバコは、バターで炒めて色を付けるべきだと思う。
lw´‐ _‐ノv「トソン嬢は不健康?」
(#゚;;-゚)「うん」
(゚、゚;トソン「あなたたちが何故、僕の体を知りうるのですか?」
lw´‐ _‐ノv「配色学に基づいて」
(#゚;;-゚)「痩せすぎだから」
(゚、゚;トソン「はぁ……」
- 9 :名も無きAAのようです:2012/07/07(土) 21:04:45 ID:u6u00BgA0
-
町が長い行列を終え、入り江から遠洋へとかすかに変化の兆しを見せる。
もともと感情の少ない場所は、先の見えない洞窟のようにほの暗い。
秘法以前は何処も彼処も、無関心を装う亡霊が俯いて行き来していた。
仮に耐え切れぬ不平を誰かが叫ぼうとも、足音が鳴らす拍手以外は何も聞こえやしない。
そして異質者が去ってから、彼らはヒソヒソ声で喋るのだろう。
从 ∀从「……キチガイでしたの?」
( 、 *川「分かりませんわ」
( 、 *川「それよりあのお店、リニューアルしたみたいですわよ」
从 ∀从「あら、知らなかったわ……」
そんな会話が容易に想像出来る街路だった。
- 10 :名も無きAAのようです:2012/07/07(土) 21:05:42 ID:u6u00BgA0
-
無人の大通りをふらふら進み、私たちはふと、雑貨屋の前で足を止めた。
立て看板に記された、「耳栓あります」という文字が目を引いたのだった。
(゚、゚トソン「……耳栓あります」
lw´‐ _‐ノv「アイマスクもあります」
(゚、゚トソン「盆栽あります」
lw´‐ _‐ノv「ロバもいます」
(゚、゚トソン「それは……、どうでしょう?」
(#゚;;-゚)「盆栽も無いと思う……」
窓に沿って並べられた紅茶の缶やがらくた品は、思い思いの果てを満喫している。
けれど木製のドアの向こうからは、やはり凝縮された闇が染み出していた。
- 11 :名も無きAAのようです:2012/07/07(土) 21:06:34 ID:u6u00BgA0
-
lw´‐ _‐ノv「入ってみる?」
(゚、゚トソン「ええ、面白そうですね」
(#゚;;-゚)「……」
でぃは星との別れを名残惜しそうにしていたが、自分でそれを認めたくないのだろう。
コクンと頷くと、先頭を切ってドアに手を掛ける。
引き潮が群青や細砂を連れて行き、湿った衣類の音階を並ばせた。
店内は、サモア諸島が逆さまに吊るされていて奥まで見渡せない。
また、古びたコウモリが、所狭しと棚やテーブルに腰掛けている。
果たして現実と私たち、どちらが逆さなのか分からなくなりそうだ。
けれど誠実さが時として自己欺瞞となるように、私たちが常に正しくいられるわけではない。
- 12 :名も無きAAのようです:2012/07/07(土) 21:07:24 ID:u6u00BgA0
-
(゚、゚トソン「よく見かける品々ばかりですね」
(#゚;;-゚)「うん……」
lw´‐ _‐ノv「これは何だろう?」
(゚、゚トソン「そっと触れてみましょう」
トソンが円錐形の倒錯した何かに手を伸ばした、そのときだった。
ピアノを力一杯に叩き鳴らしたような音が、奥の方から響いた。
lw´‐ _‐ノv「でぃちゃん今の音、なんだろう?」
(#゚;;-゚)「愚見だけど……、誰かいる?」
(゚、゚トソン「ちがいますよ、そんなわけありません」
(#゚;;-゚)「はっきりそう決まってはいない」
(゚、゚トソン「なかへ向かってみます?」
(#゚;;-゚)「いいよ」
lw´‐ _‐ノv「よし……」
- 13 :名も無きAAのようです:2012/07/07(土) 21:08:12 ID:u6u00BgA0
-
縮尺されたポリネシアや緑黄の箒の隙間を、頭を低くして奥へと移動する。
衣類の横に熱帯魚のエサ、その下の棚に灰皿と、乱雑な歓迎会が私たちを迎えた。
どこかで見慣れた品々も、配置の不安定さからか新鮮に感じる。
都での生活に疲れ果てた召使いは、嗚咽と共に健全な身体に帰ってゆく。
lw´‐ _‐ノv「お弁当箱がこんなところに」
(#゚;;-゚)「綺麗なペンダント……」
(゚、゚トソン「耳栓は一体どこにあるのでしょうね」
年代物のレジが置かれたカウンターを通り、布で仕切られた内側へ進んだ。
そこには、これから棚に並ぶであろう商品も、生活のかけらも何も無かった。
六畳ほどのまっさらな空間に、二階へと続く階段が伸びている。
ただ、その鉄製の階段は上段の何段かを残して、あとは崩れていた。
- 14 :名も無きAAのようです:2012/07/07(土) 21:09:13 ID:u6u00BgA0
-
lw´‐ _‐ノv「これは……」
(゚、゚トソン「ああ、分かりました」
(゚、゚トソン「僕たちが聞いたのは、朽ちた階段の落ちた音でしょうね」
(#゚;;-゚)「……かもしれない」
lw´‐ _‐ノv「……」
けれどその推測はどうも外れていたらしい。先の音が、もう一度鳴った。
その不快な音は崩れた階段の先、二階から響いている。
(#゚;;-゚)「はずれ」
(゚、゚トソン「むむっ……、どうも上から聞こえますね」
(#゚;;-゚)「そうみたい」
lw´‐ _‐ノv「うん」
- 15 :名も無きAAのようです:2012/07/07(土) 21:19:33 ID:TAZs8yP.0
-
意識を耳に集中していた私は、いつしかエスカルゴを煮ていた。
殻から取り出して内臓を除いたエスカルゴを、薬味の効いたブイヨンで煮る。
とろ火に掛けた鍋がコトコトと音を立て、豊かな風味が広がる。
カグイユのブイヨンが完成しても鍋は音を立て続け、私は困惑した。
闇雲に現れた幻は鏡であり、その曇った表面が吐息によってあらわになる。
lw;´‐ _‐ノv「違う、外で雨が降ってる……」
(゚、゚;トソン「えっ? 気付きませんでした」
(#゚;;-゚)「溶ける魚……」
(゚、゚;トソン「早く戻らないと」
lw´‐ _‐ノv「うん」
(#゚;;-゚)「……」
- 16 :名も無きAAのようです:2012/07/07(土) 21:20:22 ID:TAZs8yP.0
-
絶対的な来訪者が無条件を示すのは、歯車が彼らの側にあるためだった。
妖艶がぞっとする善意を、割れた蛍光灯を後ろ手に隠したまま薄ら笑いを浮かべる。
秘法を宿したイワシは感覚を泳げるが、酸性雨には弱い。
魚が溶けてしまえば、私たちはこの奇異世界から永遠に帰れなくなってしまう。
(゚、゚トソン「気になりますが、音の正体は今度ということで」
(#゚;;-゚)「残念……」
lw´‐ _‐ノv「行こう」
(゚、゚トソン「ええ」
急いで雑貨屋を出ると、空は苔むした墨のような雲で覆われていた。
けれど私たちが屋外で目にしたのは、眩しいほどの光だった。
雨の一粒一粒が、ピンクやブルーと自在に輝きを放っている。
- 17 :名も無きAAのようです:2012/07/07(土) 21:21:19 ID:TAZs8yP.0
-
水滴を浴びて七色にきらめく立体と化した建物、溶け合った絵の具の発光する水溜り。
思わぬ光景に、私たちは息を止めて呆然とする。
lw´‐ _‐ノv「……」
(#゚;;-゚)「……」
(゚、゚;トソン「……なんて世界なんでしょう」
でぃは空を見上げて泣いていた。顔に落ちた雨粒が、涙の跡で薄くなる。
どしゃぶりの虹に感動したのか、星が隠されたせいなのか、私には分からなかった。
(゚、゚トソン「何時までもこうしていられませんね……」
lw;´‐ _‐ノv「もう溶けかかってるかも」
(#゚;;-゚)「走るのか」
(゚、゚トソン「ええ、そうしましょう!」
- 18 :名も無きAAのようです:2012/07/07(土) 21:22:21 ID:TAZs8yP.0
-
不慣れな光雨のなかを私たちは走り出した。
大通りをぬけた先の広場へ、魚が溶けきるまでに辿りつかなくてはならない。
雨はしだいに強くなっている。
一歩進むたびに全身が重くなる、呼吸が激しくなる。
今にでも腕の振りを止めて、足を動かすのをやめて、立ち止まりたくなる。
小さな悲鳴が聞こえて振り返ると、でぃが足を滑らせて倒れていた。
lw´‐ _‐ノv「でぃちゃん!」
(# ;;- )「いいから……、早く……」
(゚、゚;トソン「イワシが溶けてしまいます! 行きましょう!」
lw;´‐ _‐ノv「え? う、うん……」
- 19 :名も無きAAのようです:2012/07/07(土) 21:23:13 ID:TAZs8yP.0
-
私たちは流れる大気などではなかった。
泥のような体で走る、乾いた土のように脆い逃走者だった。
もしも秘法が無ければ、これが単なる日常ならば、きっともう諦めていただろう。
何か救いがあるかも知れないという、微かな希望にすがっているだけだった。
けれど人生が思うようにいかないのは、どこにいても同じだった。
広場に着いたとき、確かにマンホールの上に置いたイワシはもう消えていた。
(゚、゚;トソン「……」
lw;´‐ _‐ノv「……」
(゚、゚;トソン「一生、ここから……」
lw;´‐ _‐ノv「な、なんとかなるよ」
(゚、゚;トソン「……だと、いいんですが」
- 20 :名も無きAAのようです:2012/07/07(土) 21:24:19 ID:TAZs8yP.0
-
苦しそうな顔をしながら、でぃが私たちに追いついた。
とっくにわかっていたのだろう、彼女は何も聞こうとしない。
lw´‐ _‐ノv「でぃちゃん……、だめだった」
(#゚;;-゚)「はは……、あはは……」
(゚、゚;トソン「……」
注意深く行動していれば、こんなことにはならなかった。
地面から数十センチ上を、無数のピアノ線が張りめぐらされている。
私たちはそれと知らずに、帰るための靴を八つ裂きにしてしまったのだろう。
この先どうしたらいいのか、私たちは何も分からない。
どうすることも出来ない世界に、ポツンと取り残されてしまった。
やたらカラフルな雨にずぶ濡れになりながら、ぼんやりとその場にたたずむ。
- 21 :名も無きAAのようです:2012/07/07(土) 21:25:29 ID:TAZs8yP.0
-
lw´‐ _‐ノv「……」
(゚、゚トソン「……」
(#゚;;-゚)「……」
心は不安で溢れているのに、どうして景色はこんなに綺麗なのだろう。
降りしきる一滴一滴が七彩に輝くなか、私は気付く。
lw´‐ _‐ノv「ああ、景色がやがて腐ってゆくのは」
lw´‐ _‐ノv「いつまでも前に進まなければならないからだ」
(#゚;;-゚)「……うん」
(゚、゚;トソン「ええ……」
第一話おわり
づく続くつ
- 22 :名も無きAAのようです:2012/07/07(土) 21:32:24 ID:g7p0aOWY0
-
ネットの調子が悪いので、ID変わりまくりですごめんなさい
今度は酉をつけるか携帯か、何かしらの対策をします
遅筆なので、次回は三週間後で勘弁してください
ごめんなさい!
それと、「秘法」と「溶ける魚」という単語は、
『秘法十七』、『シュルレアリスト宣言:溶ける魚』(どちらもアンドレ・ブルトン著)
からとりました。
(どちらもアマゾンでお買い求めできます)
お話しの内容はもちろんオリジナルですが、
無意識的になんらかの影響を受けているかもしれません
意図してパクッたりはしてないことをご了承ください
展開予想とか嬉しい派なので、じゃんじゃんやってくれたら嬉しいです
(だけど当たっても、展開変えたりしないでそのまま強行します)
次回、第二話「リタイア」
それでは〜
- 23 :名も無きAAのようです:2012/07/07(土) 22:17:33 ID:xijnVwzA0
- おつですー
- 24 :名も無きAAのようです:2012/07/07(土) 23:06:30 ID:YfjxTjtE0
- 乙乙
とりあえずID変わる前に酉つけとこうぜ
- 25 : ◆/YZJU6uQTw:2012/07/07(土) 23:30:21 ID:SFwQiKpcO
- 乙ありがとうございます!
頑張ります!
酉なしで投下するかもですが、酉つかうときはこれで!
(携帯からですが、投下予告したのと端末固定番号が一緒です
なにか困ったときは、面倒掛けちゃいますが管理人に見てもらえれば分かると思いますー
では!
- 26 :名も無きAAのようです:2012/07/08(日) 11:40:11 ID:BGfmuafI0
- このあと類推によってソゴル師一行と共に非ユークリッド的帰り道を探し出すのですねわかりますん
オートマティックにズバズバ書いていくことを要求するニダ!
- 27 :名も無きAAのようです:2012/07/25(水) 23:58:44 ID:MjdwKOww0
- マダァ-? (・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン
- 28 :名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 17:37:49 ID:qzpyE9p2O
- 期待されてる方がいましたら申し訳ありません
現在2話目が私事情で7割ほどしか書けておらず、今日は間に合いません
今週の木曜か金曜に投下します
3週間後と予告したにも関わらず遅れることを、残念に思います
ごめんなさい
- 29 :名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 21:30:47 ID:DRaDJ3Dg0
- ,... --、_,、
,r:::::::::::::::::::::::::::::-..、
i:'::::::;;;;;;;;;;;;;;:::::::::::::::::::::ヽ
./:::::r'  ̄"ヾ:::::::::::ヽ
7:::i' l::::::::::::::l
i::::l --、 、.:---、 ;!::::::::::::::i
.Vイコ'7 ヾiラヽ、 .l:::::::::::::'、
l. i' 、 レ-''i:::;:!
.! ー..‐ '、 ' /::r 余裕ある時でいいのよ
l ,___ .!ノ'"
! ´ー- ...::' !
ヽ´ ...:::::: l:.、
/:i.`ヽ:::::::::::::: /.!::::ヽ、
,..-':::'::::::;:::、 ヽ __ / .!:::、::::::::`
::::::::::::::::::::::ヽ イ:::;) l::::::::::::::::::
::::::::::::::::::::::::::.、 r:‐! i:::::::::::::::::::
- 30 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 01:28:29 ID:DwcszMKk0
- おら木曜になったぞはやく投下しろはやく
- 31 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 22:55:53 ID:Uf.4sFOUO
- まだ、金曜日があるだろ
- 32 :名も無きAAのようです:2012/08/03(金) 19:56:36 ID:8dzeO.lE0
- 第二話「リタイア」
秘法のイワシは溶けてしまい、ここから元の世界に帰る手立てを失った。
しとしと降るのはまばゆく光る雨粒だが、心のなかはどうしようもなく暗かった。
普段見ることのない断面は、想像もしない異質な夢のようだった。
何も起こっていないのに、地面が揺れているように感じる。
(#゚;;-゚)「……ここから」
lw´‐ _‐ノv「うん」
(#゚;;-゚)「ここから、出られる方法がある」
lw´‐ _‐ノv「ほんとうに? どうやって?」
- 33 :名も無きAAのようです:2012/08/03(金) 19:57:39 ID:8dzeO.lE0
-
(゚、゚トソン「ちょっと待ってください」
(゚、゚;トソン「それって、まさか、……そういうことじゃないですよね?」
lw´‐ _‐ノv「えっ」
(#゚;;-゚)「……」
虚無主義の私たちは、神様がいないことをなんとも思わない。
けれど、自分自身の存在すら亡くすことに、果たして耐えられるだろうか。
永久に続く怨恨が肉を彫刻するように、私たちの時間もまた限られている。
出口の無い迷宮から逃れる道は、今のところ一つしかなかった。
(゚、゚;トソン「冗談は止してください」
(#゚;;-゚)「そんなに冗談でもない」
- 34 :名も無きAAのようです:2012/08/03(金) 19:58:49 ID:8dzeO.lE0
-
lw´‐ _‐ノv「落ち着いて考えよう」
(゚、゚トソン「そうですよ、しっかりしてください」
(#゚;;-゚)「……」
lw;´‐ _‐ノv「でぃちゃん、諦めたらだめだよ……」
そう言うものの、建設的なアイデアは何一つ思い浮かばない。
私たちは、ただ無駄に決断を先延ばししているのだろうか?
盲目のオゾン層は、何を頼りにパリ祭への道を閉ざしたのだろう。
田舎者の私たちは地図すら持たずに道に迷い、もはやどこにも進めない。
どこかの磁石に頼るあてもなく、砂鉄は雨に埋もれて錆びてゆく。
空を飛び回る嫉妬が、遥か上空から失敗を見下ろしてせせら笑う。
- 35 :名も無きAAのようです:2012/08/03(金) 20:00:14 ID:8dzeO.lE0
-
その磁場から私たちを引き離したのは、トソンの比較的まともな提案だった。
(゚、゚トソン「……とりあえず、どこか屋内に入りましょう」
(゚、゚トソン「夏とはいえ、風邪をひいてしまいます」
lw´‐ _‐ノv「うん……」
(#゚;;-゚)「……」
私たちは、スーパーマーケットで一夜を過ごすことにした。
スーパー荒巻は二階建ての大型小売店で、一階に食料品、二階には衣類や家具と大抵の日用品は揃っている。
この雨のなかでは経年劣化が目立つ外観も、ラスベガスのカジノ街にすら劣らない。
- 36 :名も無きAAのようです:2012/08/03(金) 20:01:07 ID:8dzeO.lE0
-
lw´‐ _‐ノv「誰もいないと、スーパーはこんな物音がするんだ……」
(#゚;;-゚)「卵、冷えてる」
(゚、゚トソン「ええ、電気は通っているみたいですね」
(#゚;;-゚)「うん」
店内の照明は落ちていたが、ガラス戸から差し込む雨と衣服に染み込んだそれのため、中の様子は一応分かる。
濡れた靴によって残された足跡が光るのを眺める。
(゚、゚トソン「事務室かどこかで、まず明かりをつけましょう」
lw´‐ _‐ノv「分かった」
冷蔵ケースのうなる低音があちこちで重なりあって、おかしなベースラインを奏でている。
バーコードの縦線もよろめきそうな旋律だったが、真夜中のスーパーはどこもこうなのかもしれない。
- 37 :名も無きAAのようです:2012/08/03(金) 20:02:03 ID:8dzeO.lE0
-
(゚、゚トソン「シリアルもありますし、しばらくは安心ですね」
(#゚;;-゚)「なんでもあるのに、どうしてシリアル?」
lw´‐ _‐ノv「うん、お米もステーキ肉もあるよ」
(゚、゚トソン「むむっ、長期的な見通しで言っただけです」
(゚、゚トソン「……そう言うなら、僕は一番高価なワインを開けますからね」
日々のフライパンは、息が詰まるようなネズミの色に染まり、誰しもその裏面を見たくはない。
そこにあるのは二通りの救い方と、一つの無視であり、時折洗うことが最も適切な選択だ。
トソンは一見、冷静で感情に乏しく見えるが、三人の中のムードメーカーであった。
彼女の言葉はしばしば私たちを和ませ、気持ちに余裕を持たせる。
- 38 :名も無きAAのようです:2012/08/03(金) 20:03:12 ID:8dzeO.lE0
-
lw´‐ _‐ノv「だけど勝手に商品をとっていいのかな……」
(#゚;;-゚)「だめだよ」
lw´‐ _‐ノv「そう、……だよね」
(゚、゚トソン「……あの、ゾンビ映画見たことあります?」
lw´‐ _‐ノv「……」
(#゚;;-゚)「……」
(゚、゚トソン「……」
つまり、私たちはゾンビで、ここにある食品は人間ということだろうか。
手足の生えたスイカや白菜が慣れない歩行で逃げ惑い、頭のなかで私はそれを追う。
トソンの例えはいまいち難解だったが、私たちは無言で頷き合い、それぞれ夜食となるものをカゴに詰めた。
- 39 :名も無きAAのようです:2012/08/03(金) 20:04:18 ID:8dzeO.lE0
-
死んだふりの鮮魚を横目に事務室に押し入り、店全体の照明をつける。
菓子パンを入れたカゴを机に置くと、濡れた服を着替えるべく私たちは二階へ向かった。
衣類のコーナーは専門店ほど種類はないものの、季節柄のものは一通り揃っていた。
口に含んだチョコを舌で溶かしつつ、何を着ようか物色する。
(゚、゚トソン「あの、シュー」
lw´‐ _‐ノv「うん?」
(゚、゚トソン「さっそく着替えますので、あっちの方見ててください」
lw´‐ _‐ノv「どれを着るか、もう決めたの?」
(゚、゚トソン「ええ、僕はそんなにこだわらないので」
- 40 :名も無きAAのようです:2012/08/03(金) 20:05:36 ID:8dzeO.lE0
-
見るとトソンは、グレーのギンガムチェックのシャツと、ベージュのカーゴパンツを手にしていた。
なかなかのボーイッシュな選択に、思わず笑みがこぼれる。
lw´‐ _‐ノv「キャスケットの帽子が似合いそう」
(゚、゚トソン「ですから、そっちのほう……」
lw´‐ _‐ノv「あれ? でぃちゃんは?」
(゚、゚トソン「そういえば……」
何が起こるか分からないことを、つい失念していた。
沸騰した不安は試験管を曇らせ、すぐさま沈黙の硫黄に様変わりする。
Tシャツの掛かったハンガーラックの向こうから、カーテンの擦れる音が聞こえた。
慌ててそちらの方を見ると、足音とともにすっかり着替えたでぃが現れた。
- 41 :名も無きAAのようです:2012/08/03(金) 20:06:44 ID:8dzeO.lE0
-
lw´‐ _‐ノv「良かった……」
(#゚;;-゚)「着替えた」
(゚、゚トソン「試着室あったんですね……」
(#゚;;-゚)「タオル、そこに棚にある」
(゚、゚トソン「ありがとう、シューも早く選んでくださいね」
そう言ってトソンは試着室の方へ向かっていく。
lw´‐ _‐ノv「気を付けてね」
(゚、゚トソン「へ? 覗き見する人なんて、シューぐらいしかいませんよ」
どうも話しが食い違っていたが、私の考えすぎなのかもしれない。
- 42 :名も無きAAのようです:2012/08/03(金) 20:07:33 ID:8dzeO.lE0
-
濡れた髪をタオルで拭きながら、でぃがそばに近づいた。
薄い青のワンピースは彼女によく似合っていて、どこで見つけたのか新しいサンダルまで身に着けている。
lw´‐ _‐ノv「プールから出たあとみたい」
(#゚;;-゚)「うん。ここだと少し肌寒いけど」
lw´‐ _‐ノv「戻ったら泳ぎに行こう……」
サイダーの透明な泡を、ガードレールのカーブに沿って見つけてゆく。
私も適当にTシャツと動きやすそうなハーフパンツを選び、その場で着替えた。
(゚、゚トソン「さて」
(゚、゚トソン「服も着替えて、心機一転といったところでしょうか」
(#゚;;-゚)「……」
lw´‐ _‐ノv「よ、よし!」
- 43 :名も無きAAのようです:2012/08/03(金) 20:08:52 ID:8dzeO.lE0
-
(゚、゚トソン「でぃ、これから弱音を吐くのは、お互い止めませんか」
(#゚;;-゚)「……」
lw´‐ _‐ノv「……」
(#゚;;-゚)「約束は出来ないけど、……分かった」
(゚、゚トソン「ええ。なにがあろうと帰る方法を見つけましょう」
(#゚;;-゚)「……うん」
(゚、゚トソン「僕はまだ、現世に未練たらたらなんですからね……」
絵に描いた宝石も、その対比である現実も、好きな歌を口ずさむことに変わりはない。
私たちにとって大切だったのは、まさにそのことに気付くことだった。
- 44 :名も無きAAのようです:2012/08/03(金) 20:09:48 ID:8dzeO.lE0
-
錆びた錠前はさらさらと風に崩れ、箱の中からすっかり忘れていた気持ちが飛び出してくる。
前に進み続けろ、という景色の意思は、目をつぶったまま歩いていては果たされないのだ。
lw´‐ _‐ノv「思い詰めて」
lw´‐ _‐ノv「苦しまなくてもいいことで、苦しんでたような」
(#゚;;-゚)「理性的に考えると、そうだったのかもしれない」
lw´‐ _‐ノv「無事に帰れるよ、きっと」
(゚、゚トソン「願わくはそうありたいですね」
事務室に戻ってこれからのことを話しているうちに、疲れきっていた私たちはいつしか眠りについた。
- 45 :名も無きAAのようです:2012/08/03(金) 20:10:32 ID:8dzeO.lE0
-
(゚、゚トソン「起きてください、シュー」
(#゚;;-゚)「朝だよ」
lw´‐ _‐ノv「う、うん? あ、おはよう……」
(#゚;;-゚)「おはよ」
(゚、゚トソン「先ほど外を見てきたら、綺麗に晴れていましたよ」
起きるのが一番遅かったのは、どうやら私らしい。時計を見ると、もう開店時刻を過ぎている。
机の上には朝食の名残と思しきお皿と、コーンフレークに牛乳パック、蓋の開いたヨーグルトが載っていた。
密かに早く起床して、新品の炊飯器で炊いたご飯を二人に振舞おうと思っていたのだが叶わなかった。
仕方なく、イチゴ味のシリアルに牛乳をかけて食べる。
- 46 :名も無きAAのようです:2012/08/03(金) 20:11:35 ID:8dzeO.lE0
-
lw´‐ _‐ノv「これはこれで、うん……」
(゚、゚トソン「それでですね、驚いてください、シュー」
lw´‐ _‐ノv「んっ? ……んん!?」
(゚、゚トソン「まだ早いです」
lw´‐ _‐ノv「うん……」
(#゚;;-゚)「……」
(゚、゚トソン「変わったことがあるんです」
花が咲く代わりに、猫じゃらしの生えた木が声を掛ける。
起きた者に目覚まし時計は要らないことを、彼らは知らない。
道路のくぼみには昨日の雨がいくらか残っており、太陽と一緒に輝いている。
トソンの言っていたことは、スーパーを出てすぐに分かった。
- 47 :名も無きAAのようです:2012/08/03(金) 20:12:24 ID:8dzeO.lE0
-
必ず私たちの視界のどこか一ヶ所が、そこだけ光を吸収しているかのごとく暗くなっていた。
ビルの何階かが、他の階に比べて明確に別の黒みを帯びていたり、少し歩くと道路の一角が暗くなっていた。
lw´‐ _‐ノv「遮るものは何もないのに、どうしてだろう?」
(#゚;;-゚)「染み出た」
lw;´‐ _‐ノv「な、何が?」
(#゚;;-゚)「……」
lw;´‐ _‐ノv「……」
19世紀のある監獄は収容所が円形に建てられ、その中央に監視塔が立っていたという。
囚人部屋は絶えず照らされ、逆に監視塔は暗いため、受刑者はいつどんな人に見られているのか分からない。
私はその逸話を思い出し、目の前の部分的な暗闇が、まるでそこから何かに監視されているようで不気味だった。
その何の影でもない暗闇に、トソンが近づいていく。
- 48 :名も無きAAのようです:2012/08/03(金) 20:13:10 ID:8dzeO.lE0
-
lw;´‐ _‐ノv「あ、危ないよ」
(゚、゚トソン「いえ、見ていてください」
道路の端の暗がりに、トソンが足を踏み込もうとした時だった。
その場が急に光を取り戻し、暗闇の空間は道の先に移っていった。
lw´‐ _‐ノv「どういうこと?」
(゚、゚トソン「道しるべですよ、この先にきっと出口があるはずです」
(゚、゚トソン「追っていきましょう」
(#゚;;-゚)「いいよ」
- 49 :名も無きAAのようです:2012/08/03(金) 20:13:58 ID:8dzeO.lE0
-
lw´‐ _‐ノv「うーん……」
陰鬱そうな暗闇が道しるべというのは、どうなのだろうか。
たどり着く先は、あるいは悪意の巣窟かもしれない。
けれど私は、目の前の景色を、つまり自分がどこにいるのかを楽しむことに決めたのだ。
これが先に進むための兆しなら、追わない手はない。
lw´‐ _‐ノv「よし! 分かった」
(゚、゚トソン「決まりですね、いざ出口へ!」
(#゚;;-゚)「うん」
第二話おわり
づく続くつ
- 50 :名も無きAAのようです:2012/08/03(金) 20:16:32 ID:8dzeO.lE0
- >>26
そうそう、ペラダンの結晶を探しながら……って、未完じゃないですかー!
遅くなりそうですが、ちゃんと完結させますよー
>>29
ブルトンのAAがあるなんて、思いもしませんでした!
ありがとうございます、燃えてきました!
ほんとに遅くなってごめんなさい!
次はもう少し早く投下できると思います、8月の中旬に!
次回、第三話「ガレオン船」
では〜
- 51 :名も無きAAのようです:2012/08/03(金) 20:22:04 ID:pLAhJ8Po0
- 乙
シュルレアリスムってのはよくわからないけど好きな雰囲気だ
- 52 :名も無きAAのようです:2012/08/03(金) 20:24:40 ID:/E/DuzJM0
- うっわああああああああああいきたあああ乙
- 53 :名も無きAAのようです:2012/08/04(土) 15:21:48 ID:D46sB4EgO
- 来てたか乙
新作の中で一番好きだ
- 54 :名も無きAAのようです:2012/08/04(土) 20:19:17 ID:OgRJ04vs0
- パノプティコンおつですー
- 55 :名も無きAAのようです:2012/08/15(水) 09:04:52 ID:Gu3RPPOo0
- はよはよ
- 56 :名も無きAAのようです:2012/08/20(月) 18:31:45 ID:DaWj8TU20
- ソワソワ (・∀・ )っ| 凵
- 57 :名も無きAAのようです:2012/08/24(金) 14:26:15 ID:iTvlWr/gO
- あさっての日曜日に投下します
毎回遅れてごめんなさい……
- 58 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 01:03:16 ID:7HB7a.PE0
- おらおら逃げんじゃねーぞおら
無理のないペースで書けやおら
- 59 :名も無きAAのようです:2012/08/28(火) 23:46:15 ID:qItfcp0g0
- ねぎねぎ
- 60 :名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 04:20:02 ID:xHo7SSSQ0
- 第三話「ガレオン船」
今日生まれた木々の芽は、明日になればパルプに分解されて紙切れになる。
生命はうさぎの跳躍で春を飛び越え、地面は鮮やかな花々で途方に暮れた。
それに比べて、水中の庭園の住人は遥かに長生きだ。
彼らに憧れた背泳ぎで、海の秘密を知ろうとすれば、サメも敬意を示してそれを見守る。
太陽に向かって幾度も腕を振り上げても、海と空の青さに挟まれたまま。
それでも先へ進む決意は堅く、揺るがない。
私たちが手を伸ばす先にあるのは、太陽とは正反対の存在だ。
いつまでも手が届かないことだけが、よく似ていた。
(゚、゚トソン「ありました?」
lw´‐ _‐ノv「うーん……」
(#゚;;-゚)「あ、木の横」
- 61 :名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 04:21:37 ID:xHo7SSSQ0
-
街路樹の隣の空間が、そこだけ日が暮れたように暗くなっている。
でぃが染みと呼ぶその暗闇は、快晴の空の下であまりに胡散臭い。
夜に飽和した影が染み出たのなら、地の光はどこまで常識をとりなすのだろう。
私たちは歩く染み消しスプレーとして、今のところは確かに前進していた。
(゚、゚トソン「次はどこが暗くなるか当てましょう」
(#゚;;-゚)「じゃあ、電線のとこ」
(゚、゚トソン「僕はあの花壇だと思いますね」
lw´‐ _‐ノv「地中海」
(゚、゚;トソン「遠すぎますよ、地球一周する気ですか……」
ケヤキの枝葉がもたらす正当な木陰の横、光に露出した暗闇に三人で近づく。
暗闇に入るか入らないかのところでそこは明るくなり、次は交差点の中央で色がくすんだ。
するべきことが見つかれば、あとは気楽なものだった。
踏み込もうとすると移動する染みを、のんびりと追っていく。
- 62 :名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 04:22:29 ID:xHo7SSSQ0
-
lw´‐ _‐ノv「私もサンダルにすればよかったかな」
(#゚;;-゚)「涼しいよ」
(゚、゚トソン「スーパーからまだ離れていませんし、戻ります?」
でぃに加えてトソンも、スーパーで濡れた靴をサンダルに履き替えていた。
私はお気に入りのこのスニーカーを置いていく気になれず、湿ったまま履いている。
夏の晴天と湿気た靴の組み合わせは、せいろのなかの小籠包のように蒸した。
lw´‐ _‐ノv「ん……」
それでも立ち止まって自分の靴を眺めると、やはり愛着を感じる。
ガムテープで貼り付けたように足に馴染んでいることや、靴紐の長さが好きだった。
lw´‐ _‐ノv「この靴は持って帰る」
(゚、゚トソン「……そうですか、すぐ乾きますよ」
lw´‐ _‐ノv「うん」
- 63 :名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 04:23:25 ID:xHo7SSSQ0
-
(#゚;;-゚)「何か、忘れてる気がする……」
でぃが独り言のようにそう言うと、私も何か喉に引っ掛かるものを感じた。
ノックする渦巻きの周縁は、乱雲に適量のオイルを加えた類似が増して通れない。
lw´‐ _‐ノv「私もそんな気がする、なんだろう?」
(#゚;;-゚)「わからない……」
(゚、゚トソン「まあ、そのうち思い出しますよ」
(#゚;;-゚)「……」
トソンの意見に肯いて、あまり深く考えずに再度歩き始めた。
喉に刺さった小骨は、散歩中に自然に抜けることもあるだろう。
太陽はやがて高く昇り、私の肌は紫外線によって充分にビタミンを生成したことだろう。
こんな日にアンダルシア州の犬は、彼らの主人のようにシェリーを飲むのだろうか。
- 64 :名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 04:24:19 ID:xHo7SSSQ0
-
(゚、゚トソン「果物育てたことあります?」
(#゚;;-゚)「ないよ」
(゚、゚トソン「肥料に砂糖を混ぜておけば、もっと甘くなりそうですよね」
(#゚;;-゚)「そうかな」
前を歩く二人の会話も、どこか明るさを取り戻しているように思えた。
私たちは暗闇に導かれて大通りを左に曲がり、しばらくそのまま直進した。
成長するコルクは、阻害を意のままに受け付けない。
小学校の校庭を通り抜け、住宅街に差し掛かったときだった。
(#゚;;-゚)「向こうに人がいる」
lw´‐ _‐ノv「……うん」
(゚、゚;トソン「何故、人が……」
五十メートルほど離れた教会前の駐車場に、五、六人ほどの男女が立っていた。
どうやら中心にいる男が何かを話していて、周りはそれを聞いているらしい。
- 65 :名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 04:25:32 ID:xHo7SSSQ0
-
役所仕込みの面倒な手続きを終えなければ、こちら側へはたどり着けないはずだった。
私たち以外の人が、どうしてここにいるのだろうか。
(゚、゚トソン「話しかけてみましょう」
lw´‐ _‐ノv「よ、よし……」
近づいてみると、彼らは季節も場所もちぐはぐな格好をしている。
首にマフラーを巻いた、髪の長い少女に私は話しかけてみた。
lw´‐ _‐ノv「あのー」
川 ゚ -゚)「……」
lw´‐ _‐ノv「もしもし」
川 ゚ -゚)「……やっぱりそうだ」
lw´‐ _‐ノv「……」
ここにいる誰もが、私たちの呼びかけに応じない。
無視しているというより、彼らは男の話に、極端に集中しているように見える。
- 66 :名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 04:26:51 ID:xHo7SSSQ0
-
真ん中の男は身振りを交えて、大きな声で喋り続ける。
山脈のエコーは次々と空港へ降り立ち、浅ましい福音を拒んでいた。
( ・∀・)「そうして我々は、自らの内奥へ循環する」
( ФωФ)「うむ、まさにそうである!」
( ・∀・)「セーフティが一体どこにある? 誰がそこで待つ?」
(,,゚Д゚)「いいぞ……、言ってやれ!」
( ・∀・)「危機の鎖は解き放たれ、羊のように平穏は過去の柵を越えた」
( ・∀・)「四十一年、探してきたが」
( ・∀・)「十三編の詩がもたらす安堵には、何物も敵わなかった」
男の演説に耳を傾けるも、何を話しているのかまるで分からない。
そこにあったのは、混乱というより間の抜けた感覚だった。
(#゚;;-゚)「……」
lw´‐ _‐ノv「……」
- 67 :名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 04:27:51 ID:xHo7SSSQ0
-
(゚、゚トソン「……行きましょう、ここにいても何も得られません」
lw´‐ _‐ノv「うん」
暗闇は視界の隅で待っている。
恐らくここに案内したのではないだろう、私たちは足を運ぶ。
舌下で伝わる昏睡は芝居を知れど、誰も心までは見通せない。
もう一度振り返って見た彼らの表情は、どこまでも真剣だった。
lw´‐ _‐ノv「……」
(#゚;;-゚)「人がいた」
(゚、゚トソン「ええ、けれどどうして……」
lw´‐ _‐ノv「……うん」
(゚、゚トソン「あるいは、あの方々も秘法を……」
lw´‐ _‐ノv「……」
- 68 :名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 04:30:47 ID:xHo7SSSQ0
-
立ち並んだマンションを左に進み、影はまだ前方へと向かう。
私たちは思い思いの考えに浸り、その果てを模索していた。
衣装ケースのパズルのように、道路沿いのポストや木々の配置が頭に染みる。
暗闇を追って再度左折したとき、私は目の前の並木道に違和感を覚えた。
衣装ケースのパズルのように、道路沿いのポストや木々の配置が頭に染みてゆく。
lw;´‐ _‐ノv「まさか……」
煙草屋の横の小さな道を抜けた先に、何があるのか私は知っている。
もうここまで来てしまったら、通りを歩く足取りを止められはしない。
煙草屋の横の小さな道を抜けた先に何があるのか、私は胸が痛むくらいよく知っていた。
道の先で、輝く雨の魔法が解けて表に見えるのは、みすぼらしい外観のあのスーパーだった。
lw;´‐ _‐ノv「……」
(゚、゚;トソン「そんな……」
(#゚;;-゚)「……スーパー荒巻」
始めから一歩も前には進んでいなかった。
私たちは暗闇にあちらこちらへ連れ回され、結局スーパーの前まで引き戻されたのだった。
- 69 :名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 04:31:55 ID:xHo7SSSQ0
-
晴天の下の暗闇は、やはり出口へと向かう道しるべではなかった。
(゚、゚;トソン「僕があれを追おうなんて言ったせいです」
( 、 トソン「……ごめんなさい」
lw;´‐ _‐ノv「違うよ、何も状況は変わってないよ」
lw´‐ _‐ノv「ね、でぃちゃん」
(#゚;;-゚)「そう、気にしてない」
( 、 トソン「……」
(#゚;;-゚)「……」
lw;´‐ _‐ノv「……」
(#゚;;-゚)「これから、どうする」
lw´‐ _‐ノv「うん……」
- 70 :名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 04:33:45 ID:xHo7SSSQ0
-
相変わらず空は晴れ渡り、立ち止まれば汗もすぐに乾いてゆく。
考えてみると、私たちはお昼も食べずに歩き続けてきた。
昼食の提案を思いついたけれど、言えるような空気ではなさそうだ。
見るとトソンは、ガーンという擬態語がそのまま浮き出てきそうなくらい落ち込んでいる。
lw´‐ _‐ノv「……」
私は頭の半分を地面にしっかりと残し、もう半分を想像に置いて周りを眺めた。
その辺に潜んでいた擬態語が、顕わになって空気に浮かんでくる。
街路樹の葉はサラサラと風に揺れ、でぃは近くにポツンと立っている。
目を閉じると、文字となって見えた光景が、今度は振動になり耳に伝わる。
サラサラと音を立てて崩れる砂の城のなか、でぃがいた辺りでポツンと水滴が垂れる。
そしてトソンのそばで、ピアノが大きく叩き鳴らされた。
lw´‐ _‐ノv(あれっ?)
- 71 :名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 04:34:55 ID:xHo7SSSQ0
-
私は今の音を想像のなかではなく、確かにどこかで聞いたことがある。
想像と現実がキャラメルのように混ざり合い、その温度差が火気となって渦巻く。
やがて一連の執念が、ぼやけていたマネキンに代わって変化するイメージを形象していった。
lw´‐ _‐ノv「あっ、思い出した!」
(#゚;;-゚)「どうした」
lw´‐ _‐ノv「忘れていたこと、見つかった」
(゚、゚トソン「えっ?」
lw´‐ _‐ノv「……」
トソンも顔を上げ、でぃと一緒にこちらを見つめる。
私の考えがこれからを決めることになると思うと、少し言い辛い。
lw´‐ _‐ノv「雑貨屋で聞こえた音の正体、まだ確かめてなかった」
(#゚;;-゚)「ああ、そうだった」
(゚、゚トソン「そういえば……、そうでしたね」
- 72 :名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 04:36:28 ID:xHo7SSSQ0
-
紙の袋に詰めた装飾を、引き離す合図を待つ必要はなかった。
底には穴があいていて、鍵は自然と満たされるらしい。
「耳栓あります」の雑貨屋まで、ここから歩いて三十分も掛からない。
けれど、私たちの歩調はのろのろとしたもので、到着にはまだ掛かりそうだった。
もしも雑貨屋に何の手がかりも無ければ、再びあてのない振り出しに戻ることになる。
トソンもでぃも口にしないが、同じことを思っているようだった。
許されるのであれば、明日はどこかの屋上でゆっくりと座っていたい。
歩き続けて、すこし疲れているのかもしれない。
(゚、゚トソン「……ここでしたか」
(#゚;;-゚)「うん」
lw´‐ _‐ノv「耳栓あるかな」
(゚、゚トソン「この看板、詐称かもしれませんよ」
lw´‐ _‐ノv「うん。耳栓があると思うと、つい入りたくなる」
(#゚;;-゚)「……」
冗談を言いながら、北欧風のお洒落なドアを開けた。
- 73 :名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 04:37:41 ID:xHo7SSSQ0
-
(゚、゚トソン「あの音は聞こえませんね」
lw´‐ _‐ノv「うん」
店内は、特に何も変わっていないようだった。
普遍の島が逆さに雑貨が並び、空はその真下に置かれていた。
(#゚;;-゚)「……あ、階段直ってる」
店奥のすっきりとした部屋の、二階へと続く崩れていた階段は、でぃの言った通り直っていた。
見たところ、明らかに素人の修理によるものだった。
折れた手すり同士がロープで縛られ、やっとのことで階段の形をしている。
(#゚;;-゚)「上がろう」
lw´‐ _‐ノv「壊れないかな、これ」
(゚、゚トソン「僕が先に行きましょう、一番軽いですし。……不健康でしたっけ?」
そう言うとトソンは、軽やかに階段を上がってゆく。
彼女に続いて私も、微かに揺れるステップに足を掛けた。
- 74 :名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 04:39:00 ID:xHo7SSSQ0
-
階段を上がって短い廊下を抜けると、すぐに小さな部屋に行き着いた。
部屋の端で、ボサボサの髪をした猫背の男が椅子に座っている。
lw´‐ _‐ノv「こ、こんにちは……」
<_プー゚)フ「……おや、こんにちは」
<_プー゚)フ「僕はエクスト、いらっしゃい」
階段下の何もない空間とは対照的に、ここには安心するような生活感があった。
簡単に挨拶と名前を述べて、私たちは勝手に入った非礼を詫びる。
(゚、゚トソン「すみません、勝手に入ってしまって」
<_プー゚)フ「いや、構わないさ。それより、秘法を使ってきたんだね」
(゚、゚トソン「ええ、そうですが、……あなたは?」
<_プー゚)フ「僕? 僕はここの店主だよ」
(゚、゚;トソン「ええと、そういうことではなくて」
<_プー゚)フ「あれ? 誰も何も持っていないようだけど」
- 75 :名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 04:40:18 ID:xHo7SSSQ0
-
<_プー゚)フ「帰り道はちゃんと用意してあるのかな?」
(゚、゚トソン「あ……、それが無くしてしまったんです」
<_プー゚)フ「無くした?」
(゚、゚トソン「不注意で雨に濡れて、溶けてしまって」
(#゚;;-゚)「そう、イワシに秘法を宿してた」
「ふーん」と彼は、何を思っているのか分からない相づちを打った。
それからテーブルの上にあったグラスを口に運び、中の何かを静かに飲んでから言った。
<_プー゚)フ「ダムに行くといい」
lw´‐ _‐ノv「ダム?」
<_プー゚)フ「溶けた魚は、蒸発して雲になって、また水辺に帰るから」
- 76 :名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 04:41:18 ID:xHo7SSSQ0
-
(゚、゚;トソン「よく意味が……、それにこの辺にダムなんて……」
<_プー゚)フ「形が無ければ、解釈されるままに解かれるものなんだ」
(#゚;;-゚)「……は?」
<_プー゚)フ「そうだ、魚のエサを下で売ってたはず。取ってきなよ」
半ば強引に諭され、私たちは階段を下りて再び一階に向かった。
エクストという人の話は、どこか浮ついて一向に要領を得ない。
ひとまず落ち着いて二人と話をしたかったが、まだ先になりそうだった。
(゚、゚トソン「魚のエサなんてあります?」
(#゚;;-゚)「見つからない。売り切れだった、って言おう」
lw´‐ _‐ノv「どこかで見かけたような……」
品物でいっぱいの狭い通路をキョロキョロと眺め、お目当ての品を探す。
灰皿と古い雑誌の置かれた棚の上に、鮮やかな魚の描かれた缶が並んでいた。
そういえば、私はこれを目にした覚えがあった。昨日のことなのに、やたら懐かしい。
- 77 :名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 04:42:06 ID:xHo7SSSQ0
-
lw´‐ _‐ノv「熱帯魚のエサだけど、あった」
(#゚;;-゚)「ん、それでいいと思う」
(゚、゚トソン「イワシって熱帯魚でしたっけ?」
(#゚;;-゚)「そもそもあれは死んでたし、溶けてる」
lw´‐ _‐ノv「……」
もうここには存在しない、死んだ魚のエサ。
考えてみるとおかしくて、私はこっそりと笑う。
あの魚は雲になって、どこかのダムで私たちを待っているらしい。
エサの入った缶を見つめていると何故か、不思議と全て起こりうるような気がした。
- 78 :名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 04:43:17 ID:xHo7SSSQ0
-
(゚、゚トソン「では、戻りますか」
lw´‐ _‐ノv「よし!」
店の奥に戻り、崩れないか足元をしっかりと確かめながら、再び階段を上がる。
すると、銀色をした鉄製の階段は、一歩上るごとに色を失って、灰色に変化していった。
階段を踏み込んだ時の軽やかな反発も無くなり、ふとももへの負担が増してゆく。
いつの間にか階段は厚いコンクリートになり、どこからか風も吹いてくる。
(゚、゚;トソン「シュー、前を見てください」
lw´‐ _‐ノv「えっ?」
ふと顔を上げると、そこはさっきまでいた雑貨屋の二階ではなかった。
楕円形をしたコンクリートの巨大な壁と、その壁の内側で湖のように静かなたくさんの水。
目を細めると、帆を張った船が水辺の中央辺りに見える。
目の前にあったのは、大きなダムだった。
第三話おわり
づく続くつ
- 79 :名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 04:46:02 ID:xHo7SSSQ0
- >>58
ありがとう、逃亡はしない心意気です!
乙とかとても嬉しいです、ありがとうございます!
遅れました、ごめんなさい(毎回すみません)
なんだかんだ遅刻するので、次回は九月中に、しか言えません……
感の良い皆さんならお気づきの通り、
残すところ二話です、全五話です
よければ、最後までよろしくおねがいします〜
次回、第四話「ともだち」
では〜
- 80 :名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 04:49:12 ID:xHo7SSSQ0
- ついでに栞を貼っておきますね!
第一話「あーす」
>>3-21
第二話「リタイア」
>>32-49
第三話「ガレオン船」
>>60-78
- 81 :名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 04:52:45 ID:rSOCCMcI0
- こんな時間におつですー
- 82 :名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 06:33:53 ID:2EBYaJmM0
- おぉつ!
- 83 :名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 13:55:52 ID:VGM3CFCE0
- 全然分かんないし何にも気づけないけど三話が一番好きだなあ
次も楽しみにしてる
乙でした
- 84 :<^ω^;削除>:<^ω^;削除>
- <^ω^;削除>
- 85 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:35:19 ID:CxPKpde20
- ( ^ω^) ……
- 86 :名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 23:59:08 ID:UGC0NCQE0
- おいあの
- 87 :名も無きAAのようです:2012/10/12(金) 19:32:57 ID:lrekHYy.0
- 最近は総合短編よく書いてるねぇ
- 88 :名も無きAAのようです:2012/10/12(金) 23:56:12 ID:rYqcWiTk0
- ぎゃあああ赤面です、わかるものなんですか……
ごめんね、現行はできるだけいいものにしたいとプレッシャーでちょっとあれで、
気軽に書ける総合短編に流れてました
10月の21日に投下します、
音沙汰もなくそんなことをしていて、申し訳ありませんでした……
- 89 :名も無きAAのようです:2012/10/13(土) 11:06:37 ID:G0YjMhHEO
- そういうのもいいんでないかい
ただゲームと違ってレベルあげしようとすると際限ないから
その時できる最高のもの頼むよ
- 90 :名も無きAAのようです:2012/10/21(日) 21:35:39 ID:MYLWahKQ0
- 間に合いませんでした
ごめんなさい
- 91 :名も無きAAのようです:2012/10/23(火) 01:01:03 ID:M3BTh5620
- だが待つお
- 92 :名も無きAAのようです:2012/10/23(火) 12:11:25 ID:5U8UZdVoO
- 私待つお
- 93 :名も無きAAのようです:2012/11/13(火) 22:13:29 ID:ihAO159I0
- いつまでも松尾
- 94 :名も無きAAのようです:2012/11/22(木) 17:45:43 ID:gFfc2eMs0
- まってるよ〜
- 95 :名も無きAAのようです:2012/12/13(木) 18:00:34 ID:nzY10L4k0
- たとえ来ずとも待ち続けるぞ
- 96 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 18:11:33 ID:5jhPY4S.0
- マダー
- 97 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:49:12 ID:OSOvWE.o0
- 第四話「ともだち」
沈黙が私たちを見捨てたりしないのは、誰も物理から法則を奪えないためだ。
単位や公式は不特定多数のなかの一人として、私たちの雑踏に、葛藤に、至る所に紛れ込んでいる。
彼らの視線に耐えるために、自然と声は張り付く。
それはやがて強固になって洪水の地下室を覆い、いつからか私は誰かの目を見て話せない。
街が一つ入りそうなほど大きなダムと、そこになみなみと注がれた水。
その圧倒的な水量を支える、コンクリート製の堤防の上に私たちは立っていた。
(゚、゚トソン「……」
(#゚;;-゚)「……」
lw*´‐ _‐ノv「ははは……」
思わず私は笑ってしまった。
どうして笑っているのか、私は自分でそれが分からなかった。
- 98 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:50:09 ID:OSOvWE.o0
-
ふと考えれば、私たちは自由に悲しくなったり嬉しくなったりはできない。
向かい合った物事に応じて、そのつど不可避である気分に投げ込まれてゆく。
気分と私は切っても切れない関係にあるらしい。
(#゚;;-゚)「遠くに船が見える」
(゚、゚;トソン「ええ、どうしてこんなところに」
lw´‐ _‐ノv「うん」
(゚、゚トソン「一応、こちらに向かってきているみたいですが……」
ここから鉛が賛否を呼べば、両手を銀で編んだ波が立ち、微かに揺れた。
水平線に混ぜ込んだ鈴が冷めるのを、ただ火を青ざめた対象として冷静に観測する。
ダムの中央辺りに浮かぶ帆船は、少しずつ鮮明に見えてくる。
ひとまず、私たちは近づきつつある船の到着を待つことにした。
- 99 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:50:55 ID:1yap1v5Y0
- ケーキきてたぁぁぁ!!
- 100 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:51:00 ID:OSOvWE.o0
-
(゚、゚トソン「それにしても、一体どうなっているのでしょう」
(#゚;;-゚)「何もわからないけど、悪くない」
(゚、゚トソン「少し状況を整理してみませんか?」
lw´‐ _‐ノv「うん。……ええっと、雑貨屋さんにいたんだよね?」
私は半ば確かめるようにそう答えた。
緑や黄の蛍光色に、小さな針が唯一のオブジェとして足を組む。
気になって後ろを振り返ると、上ってきた階段はあるものの屋内にはつながっていない。
下の方にはダムの事務所らしき建物があるだけで、その先は一本の道路と森が続いている。
(#゚;;-゚)「そう」
(#゚;;-゚)「それで熱帯魚のエサを見つけた」
(#゚;;-゚)「階段を上った」
(#゚;;-゚)「ダムに」
最後まで言うのが面倒になったのか、でぃの言葉は途中で途切れた。
けれども飾りのない分かりやすい説明で、私はでぃのこういうところが嫌いではなかった。
- 101 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:52:05 ID:OSOvWE.o0
-
(゚、゚トソン「ですが、僕はまるでこの状況を理解していません」
lw´‐ _‐ノv「足もとを見ながら階段を上ってたけど」
lw´‐ _‐ノv「前を見たらもうダムだったよ」
(#゚;;-゚)「同じ」
(゚、゚トソン「……階段を上る、ある種の運動」
(゚、゚トソン「そして気付けば、僕たちはこの状況に巻き込まれていました」
(゚、゚トソン「……」
(#゚;;-゚)「……」
lw´‐ _‐ノv「……うん?」
(゚、゚トソン「僕たちは、あるいは本当に存在しているのでしょうか?」
- 102 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:53:18 ID:OSOvWE.o0
-
トソンのこの言葉を皮切りに、私たちの井戸端哲学談義が始まった。
強い風がダムの水面を揺らし、夏の日差しを浴びる私たちをいくらか心地よくさせる。
目の前の井戸はバケツで水を何杯汲んでも有り余り、時間もまだありそうだ。
lw´‐ _‐ノv「二人とも見えてるし、ちゃんと存在してるよ」
(゚、゚トソン「ですが幽霊も見えますよ。ほら、心霊写真とか」
(#゚;;-゚)「思う、ゆえになんとか」
(゚、゚トソン「ううむ……、確かにそれはそうですが」
(゚、゚トソン「では、思うところの僕たちとは一体なんでしょう……」
lw´‐ _‐ノv「私とは誰であるか、ということ?」
(#゚;;-゚)「……」
(゚、゚;トソン「ちょっと待ってください。自分でも混乱してきました」
類推の山々を築いては崩し、頭の中の海辺には無数の砂山が乱雑し始める。
- 103 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:54:10 ID:mAHcnwbI0
- 来たか支援
- 104 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:54:19 ID:OSOvWE.o0
-
lw´‐ _‐ノv(……)
私は自分の目で、ゴミや漂流物の散乱した汚れた海しか見たことがない。
ダムいっぱいの青く透明な水はあまりにも綺麗で、ここが完璧な海と錯覚しそうになる。
どこまでも沈んでゆけそうなダムの海。
本当にこの場所に、溶けた魚は戻ってきているのだろうか。
(゚、゚トソン「シューはどう思います?」
lw´‐ _‐ノv「ん……」
名前を呼ばれて、私は少しぼんやりしていたことに気がついた。
聞いていなかったというのも悪く思い、曖昧に答える。
lw;´‐ _‐ノv「えっと、新しい種類のジョークっぽい、……かな」
(゚、゚*トソン「冗談ですか。それは面白い見方ですね」
(#゚;;-゚)「うん、確かに」
未定義の白線に唇が触れるとき、ハンカチに包んだ月は痙攣しそっと腕を掴むのだろう。
何故だか和やかな雰囲気に覆われ、私はホッとした。
- 105 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:54:30 ID:5jhPY4S.0
- きた!支援
- 106 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:55:26 ID:OSOvWE.o0
-
(#゚;;-゚)「ガレオン船だ」
lw´‐ _‐ノv「ガレオン船?」
時間とともに日差しも幾分落ち着いてきたらしい。
もう船はすぐ目の前にまで来ていて、細部までよく分かる。
(#゚;;-゚)「うん」
(゚、゚トソン「歴史の教科書に載ってましたね」
lw´‐ _‐ノv「うーん、そうだっけ……」
木製であろう船は、複数のマストに真っ白い帆が何枚も張られている。
ロープが複雑に交差していて、まるで蜘蛛の巣みたいだ。
船体は細長く巨大で、何故だかダムの海にはよく似合っているように思える。
それにしても私たちは、なんて距離やサイズの合った中で生活しているのだろう。
きっと大きな器でお茶を飲もうとすれば、少しの震えで口元を濡らしてしまう。
目の前の広いダムと大きな船は、私にそんなことを考えさせた。
- 107 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:56:30 ID:OSOvWE.o0
-
(゚、゚トソン「いよいよ着きますよ」
lw´‐ _‐ノv「うん」
ガレオン船が静かにダムの岸に到着した。
三本のマスト横の滑車が人もいないのに回り出し、不思議なことに帆は自動で下ろされた。
それから甲板に男が現れ、ダムの堤防と船に渡し板の橋を掛けた。
彼は、演劇のような派手な動きでおじぎをして言った。
('A`)「えー……、ようこそ瞬間号へ」
(゚、゚トソン「……」
(#゚;;-゚)「……」
lw´‐ _‐ノv「……」
ダイヤモンドと塩の輝きは同等であり、ベランダは泳いだ粒子の隙間と変わりはない。
疲労によってふいにした水曜日は、しばしばアルミの落ち葉が幻覚となった。
- 108 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:58:46 ID:OSOvWE.o0
-
男はつばの折れ曲がった真っ赤な帽子、ポロシャツにジーンズというおかしな格好をしている。
私は、駐車場で出会ったちぐはぐな服装の集団を思い出した。
(;'A`)「いや、ちょっと……。船を待ってたんじゃないのか」
(゚、゚;トソン「えっと、何故そう思うんです? ダム見学かもしれませんよ?」
('A`)「何故って、そりゃあ、あんたたちがここにいて俺が船乗りだからさ」
('A`)「ダム見学でも、ダム清掃に来たわけでもないだろう?」
(゚、゚トソン「そうですけど……」
トソンは、困ったような顔をしながら私とでぃの方をふり向いた。
船を待つには待っていたが、乗るべきなのかはまるで検討もつかない。
煮え切らない私たちの態度を見かねたのか、男はため息をついて言った。
('A`)「いいから、乗りな。お連れの方が待ってるよ」
(#゚;;-゚)「……連れ?」
- 109 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:59:46 ID:OSOvWE.o0
-
船の甲板へと目をやると、誰かがこちらに手を振っている。
寝ぼけた髪に猫背の男、雑貨屋の店主エクストだった。
ギシギシと音を立てる板を私たちは不安げに渡り、船に乗り込む。
見た目に反してデッキの上は、ボートや縄、木箱などが置かれていて意外と狭い。
('A`)「俺のことはキャプテン・ドクオと呼んでくれ」
(゚、゚;トソン「え、ええ……」
キャプテン・ドクオと名乗るその男は、いわゆる船乗りのイメージとは間逆だった。
痩せた体つきをしていて、どこか繊細そうな雰囲気を漂わせている。
私たちも名を名乗ると、彼は風変わりなことを訊ねた。
('A`)「そうかい。ところで、君たちはほかにも名前があるのかい?」
lw´‐ _‐ノv「ほかにも?」
('A`)「ああ、マトンだとかビタミンだとかさ」
lw´‐ _‐ノv「……」
(゚、゚;トソン「……あります?」
(#゚;;-゚)「ない」
- 110 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 20:00:40 ID:OSOvWE.o0
-
('A`)「……なけりゃ、ないでいいよ。そこの段差に気を付けて」
(゚、゚;トソン「ええ……、どうもありがとう」
<_プー゚)フ「やあ。先に着いていたから、一往復してたよ」
メインマストの隣にいたエクストに近づくと、彼はなかなか気長なことを話した。
とにかく私たちを待っていたらしいことが伝わり、私は黙っておじぎをした。
(゚、゚トソン「あの、この船はどこに向かうのですか?」
('A`)「どこって、彼岸だよ。向こう岸」
<_プー゚)フ「ダムの反対側さ。一時間も掛からなかったよ」
論理的な白血球は自らを犠牲にして、エレベーターに閉じ込めた魂を支援する。
いい匂いのする液体思考はオーダーメイドの美しさを締めつけ、また追究した。
('A`)「では、到着までの間、どうぞごゆっくり」
- 111 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 20:01:29 ID:OSOvWE.o0
-
('A`)「あー、白い羽の老鳥がピーピーエスと歌うから〜」
('A`)「俺にはここがちょうどいい〜……」
絶えず引退する演奏には、アジサイの過度の彩りと対極の優しさがある。
どこか寂しい調子の歌を口ずさみながら、キャプテンは船内へと降りていった。
しばらくして帆が勝手に上がり、船は動き出した。
水面が白い波を立て飛沫となって、船のふちへぶつかってゆく。
(#゚;;-゚)「それは何?」
<_プー゚)フ「これかい? キツネ貝だよ」
エクストが持っていたのは、褐色の線が縦に並んだ手のひらほどの貝だった。
毛のない白いキツネらしきものが、口の開いた貝のなかに横たわっている。
(゚、゚;トソン「なかなかグロテスクな貝、ですね……」
<_プー゚)フ「船長からもらったんだ。美味しいらしい」
(゚、゚;トソン「そうですか、またの機会に……」
お腹は減っていたけれど、私もあまり食べたいとは思えない見た目だった。
貝から視線を逸らすと、木箱の上に醤油のビンが見える。まさかそれで食べるのだろうか。
- 112 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 20:02:55 ID:OSOvWE.o0
-
<_プー゚)フ「さて、色々と聞きたいことがあるんじゃないかな」
(゚、゚トソン「もちろんありますとも! 一体全体、ここは何なのですか!?」
<_プー゚)フ「うん、どう言えばいいのかな……」
lw´‐ _‐ノv「……」
(#゚;;-゚)「……」
<_プー゚)フ「僕らは自らの常識に頼って生きているけど」
<_プー゚)フ「この世界は、僕らを頼りにしてるんだよ」
<_プー゚)フ「つまり僕らがここに持ち込んだものが、この世界全てなんだ」
(#゚;;-゚)「具体的にどういうこと?」
<_プー゚)フ「そうだ、いい例がある。ちょっとした昔話なんだけど……」
長い話になると思ったのか、そばの樽の上にでぃは腰を掛けた。
一体どんな話なのか興味をそそられた私とトソンは、その場で彼の言葉を待つ。
予想通り彼はキツネ貝に醤油をかけ、それを口にするとゆっくり話し始めた。
<_プー゚)フ「秘法をスコップに宿して、ワタナベはこの世界にたどり着いた」
- 113 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 20:04:09 ID:OSOvWE.o0
-
<_プー゚)フ「ある日、彼女は植物の苗木を植える老人に出会ったんだ……」
彼女はガーデニングが好きだったから、老人に何を植えたのか話しかけた。
从 ー 从「おじいさん、こんにちは。何を植えているの?」
爪 ー )y‐「ん? ああ、これかい? ネコヤナギだよ」
ワタナベは、まだ若い葉の眩しい苗と老人の庭を眺めた。
ネコヤナギは乾燥した土に適していないことを、彼女は知っていた。
背の曲がったそのお年寄りに、ワタナベはネコヤナギの育て方を熱心に説明した。
なによりここで人に出会うのは初めてだったし、元々彼女は人が良かった。
老人は最後まで話しを聞いてから、にっこりと笑って言った。
爪 ー )y‐「どうやら、ここに来てからあまり日が経ってないようだね」
爪 ー )y‐「明日にもう一度、いらっしゃい」
- 114 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 20:06:26 ID:OSOvWE.o0
-
翌日になって彼女が再びそこを訪れると、雪のような花穂が真夏の庭を彩っていた。
彼女の背丈ほどもなかったネコヤナギが、一晩で見上げる高さまで育ち、咲き乱れている。
ワタナベはショックを受け、また同時に感動して、永遠にこの世界にいようとさえ思った。
彼女は老人に感謝を告げてそこを去り、何をするか決めた。
それからただひたすら、ワタナベは何年も何十年も鏡を見ずに過ごした。
<_プー゚)フ「……毎分毎秒ごとに、僕らは年老いてゆく」
<_プー゚)フ「その中で歳をとらないことを常識だと思い込み続けるなんて、相当なジレンマだよね」
<_プー゚)フ「それでも彼女はそれを成し遂げ、僕らはここにいる限り、歳をとらなくなったんだ」
(゚、゚;トソン「はい? なんて言いました?」
lw´‐ _‐ノv「歳をとらない……」
<_プー゚)フ「そうさ、人は誰も歳をとらない」
紙一重の終結した叫び、円盤となりつつある孤独の浮上が散乱する。
止まるように倒れるスクリーンに、無限の土の現象が前後左右に顔を剥いでゆく。
エクストの話しを聞いているうちに、私はだんだんと嬉しくなってきた。
この世界のことが少し分かった気がする。
- 115 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 20:07:35 ID:OSOvWE.o0
-
駐車場で演説をしていた人とその周囲にいた聴衆は、気が変になっていたのではなかった。
彼らは恐らく、彼らなりの方法でこの世界を変えようとしていたのだ。
そしてそれは可能らしい。
目の前の空気やダムの水が可能性のかけらに思え、気のせいか輝いて見える。
<_プー゚)フ「想いや感情、誤った知識、あらゆるものがここに持ち込まれてくる」
<_プー゚)フ「それが君たちの歩く道や、この貝のようになるんだよ」
(゚、゚;トソン「……信じられません」
<_プー゚)フ「ほら、何もない場所に影があるだろう? あれも誰かが持ち込んだ品物さ」
lw´‐ _‐ノv「えっ?」
エクストが指し示す方向には、私たちが追いかけていたあの暗闇があった。
視界の片隅にちょこんと入るあの染みも、ここまで来ていたらしい。
<_プー゚)フ「この世界から出るには二通りの方法がある」
<_プー゚)フ「宿した秘法を開放するか、持ち込んだものを返すかさ」
<_プー゚)フ「じゃあ、僕はこの貝がらを置きに船内へ戻るよ」
(゚、゚;トソン「ええ……」
- 116 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 20:09:38 ID:OSOvWE.o0
-
今の話しについて考え込んでいるらしく、トソンはむずかしい顔をして遠くを見ている。
でぃの考えを聞いてみようと彼女の座っていた所を振り向くと、でぃは樽から立ち上がっていた。
(#゚;;-゚)「……そっか」
lw´‐ _‐ノv「どうしたの?」
(#゚;;-゚)「分かった」
(#゚;;-゚)「あの染みは、私なんだ」
そう言うやいなや、でぃは落ち着いた足取りで船尾へと歩き出す。
(゚、゚トソン「でぃ……?」
そのとき私ははっきりと見た。
遠ざかってばかりだったあの暗闇がでぃの方へと向かってくるのを。
円形の暗闇は水面から船の上へと移動し、でぃも暗闇へ進んでゆく。
すぐにでぃは、黒い影にすっぽりと覆われて見えなくなった。
影はしだいに薄れて消えてゆく。
そこにでぃの姿はなかった。
- 117 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 20:11:02 ID:OSOvWE.o0
-
lw;´‐ _‐ノv「でぃちゃん!」
(゚、゚;トソン「……」
亀のいる場所へとアキレスは走れど、あの長生きの爬虫類はさらにその向こうまで進んでいる。
追い越そうと全力で地を駆けても、永遠に彼は亀に辿り着けない。
でぃが染みと呼ぶ闇は、このパラドックスのたとえに似ていた。
私とトソンは半分呆気にとられ、それでも半分納得していた。
暗闇とでぃのパラドックスは、何かに気付いた彼女によってあっさりと幕が降ろされたらしい。
でぃは自分のなかの矛盾したものを捕らえ、それに向き合ったに違いない。
おそらく彼女は、無事にもとの世界に帰れたのだろう。
そう思わなければ、私はデッキの上で立ってすらいられなかった。
(゚、゚トソン「……あの」
lw´‐ _‐ノv「……」
- 118 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 20:11:52 ID:OSOvWE.o0
-
(゚、゚トソン「実は僕、動物園に行ったことがないんです」
lw´‐ _‐ノv「……一度も?」
(゚、゚トソン「ええ。もしかしたらそのことで、僕が持ち込んだものがあるのかも……」
lw´‐ _‐ノv「まさか……」
(゚、゚トソン「ですよね」
lw´‐ _‐ノv「……」
(゚、゚トソン「僕たちもすぐに帰りますからね、シュー」
lw´‐ _‐ノv「トソ……」
トソンの話しが本当なのか冗談なのか、私はよく分からなかった。
けれど彼女は彼女なりに、落ち込んだ雰囲気を変えようとしていたらしい。
そのおかげか、心細くなった気持ちが少し軽くなったのを感じる。
ぽつりと感謝を述べると、トソンは首をふって言った。
- 119 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 20:12:58 ID:OSOvWE.o0
-
(゚、゚トソン「そうだ、シュー。熱帯魚のエサをまいてみましょう」
lw´‐ _‐ノv「うん」
トソンにそう言われるまで、持ってきたエサの缶のことをすっかり忘れていた。
ガレオン船は風を受け、既にダムの中央辺りまで来ている。
腰の高さほどの船の手すりから下を覗くと、水面は五、六メートル先のところにある。
私は熱帯魚の缶からフタを外し、何度か缶を振った。
茶色いふりかけのようなエサは風に流され、後方へと落ちてゆく。
やがて船が立てる波に巻き込まれ、見えなくなった。
(゚、゚トソン「……」
lw´‐ _‐ノv「……」
(゚、゚トソン「イワシ、現れませんね」
lw´‐ _‐ノv「うん……」
- 120 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 20:14:14 ID:OSOvWE.o0
-
どこからかイワシが現れないか、じっと水の上を眺める。
しばらくしてトソンは興味を失ったのか、何かブツブツ呟きながら船の上を歩き始めた。
次第に私は、海を引き裂く船の呼吸に耳を傾けた。
いつからだろう、カーテンの折り目を数え始めたのは。
空に挟まる畑を乗せた電灯は歌に鳴り、心臓は淡々と深々と揺れる。
解体された地底の軌道に乗れば、モノクロの物置は名前も思い出せない。
幸運とはすれ違うだけなのだよ、と歳月は虚偽の掲示だらけのなかで力強く主張した。
(゚、゚トソン「シュー、分かりました。出口なんてありません!」
(゚、゚トソン「なぜならここは……」
何かを言いかけたトソンの声が背後から聞こえた。
熱帯魚のエサの缶を手すりに置いて、私は後ろを振り返る。
lw´‐ _‐ノv「どうし……、あれっ」
- 121 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 20:15:34 ID:OSOvWE.o0
-
いるはずの姿がそこにない。確かに声はすぐ後ろで聞こえたのに。
焦点の合わない船の上の景色、マストや木箱だとかがぼんやりと目に映る。
lw;´‐ _‐ノv「えっ?」
lw´‐ _‐ノv「……」
はみ出すワニを迎え撃つ空砲を、見たことがあっただろうか。
何から溢れているのかさえ分からないのだ、きっと見たことはないのだろう。
きらきらした視界の生地が残されている分、最悪の状況ではない。
分からないということは終わりではなく、私にはまだ何かを選択できるということだ。
妖精の距離は開かれ、きっと今新しい秩序に達する。
lw´‐ _‐ノv「トソ、でぃちゃん……」
気付けば私は、船の上で一人だった。
第四話おわり
づく続くつ
- 122 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 20:18:10 ID:OSOvWE.o0
- ごめんなさい!
待っててくれてありがとう……
1月中は厳しそうなので来月になると思います
出来るだけ早く投下できるようがんばります
しおりは最後のときにまとめて貼りますね!
次回、最終話「ウチ」
- 123 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 20:21:03 ID:5jhPY4S.0
- 乙乙
次も待ってる!
- 124 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 20:26:31 ID:cYUW0N8U0
- 乙
待っててよかった
- 125 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 20:42:06 ID:cLD2b.Zk0
- いつまでもまつ!
- 126 :名も無きAAのようです:2013/01/04(金) 10:18:37 ID:IWLA8ONg0
- 相変わらず素敵な文章だ
- 127 :名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 22:59:20 ID:mSoSJd6c0
- 乙
よく分からないけど読んでて気持ちいい
最終話待ってる
- 128 :名も無きAAのようです:2013/04/06(土) 14:27:43 ID:5rnLT8MA0
- ( ^ω^)……
- 129 :名も無きAAのようです:2013/04/20(土) 08:47:55 ID:hl./U.XU0
- (´・ω・`)待ってるよ
- 130 :名も無きAAのようです:2013/09/05(木) 01:30:55 ID:eNuLUf1o0
- 小説板の頃からずっとファンです
無理せんで、でも帰ってきてくれると嬉しいなーって
- 131 :名も無きAAのようです:2013/10/19(土) 22:00:17 ID:TvxhjDLo0
- 長い間本当にすみませんでした……
途中までですが、最終話を投下します
>>130
ありがとう、ありがとう……
- 132 :名も無きAAのようです:2013/10/19(土) 22:02:46 ID:TvxhjDLo0
- 最終話「ウチ」
空洞の人形に注がれた砂漠。
工事現場の空白に、すっと入り込んだ漆黒。
微生物のダンス、太陽の冷たさ、生物の進化。
距離が近すぎて、私たちはそれらにまるで気付けない。
オレンジ色のまばゆい光線を発しながら都市に現れる、スペクトラム石黄樹林。
夏の匂いがする夕方に石黄樹林が誕生しては、人々の瞳に宿ってゆく。
けれど等しく距離が狂うまで、誰もが知らずにその木陰を通り過ぎてゆく。
トソンもでぃも消えてしまい、私は二人の大切さを改めて思い知る。
恐ろしく静かな爬虫類が馬に乗って笑い、私は一切の距離を失った。
- 133 :名も無きAAのようです:2013/10/19(土) 22:04:29 ID:TvxhjDLo0
-
lw´‐ _‐ノv「……」
船は時々静かに揺れて、また安定を取り戻し、ダムの水面を騒がせる。
私はどうすればいいのか分からずに、甲板の上で立ちすくんでいた。
物事はいつも勝手にやってきて、知らずに去ってゆく。
何かが始まらないかなと、呆然と私はそれを待っている。
けれどいつまで待っても何も変わらない。
船上から見える遠くの丘や山々が、ゆっくり右へと押し流されてゆくだけだった。
天文学者の計算は、皮膚に染み込んだまま乾くことなく肥大する。
エマク・バキアの揺らめく記憶が囁きかけるところに俗悪はない。
このまま待っていてもどうしようもない。
エクストの助言を求め、私は彼のいる船内へと向かった。
- 134 :名も無きAAのようです:2013/10/19(土) 22:05:57 ID:TvxhjDLo0
-
<_プー゚)フ「どうやら友達は行ってしまったようだね」
lw´‐ _‐ノv「……」
雑貨屋の店主は、開口一番そう言った。
船内に通じる扉を開けたすぐそこで、彼は貝の模様を眺めている。
ランプで照らされた廊下の端には、モップなどの掃除道具が立てかけられている。
その先にはまた木製の扉があり、私は牛の胃の中にいるような気分だった。
lw´‐ _‐ノv「私には、わかりません」
<_プー゚)フ「……」
lw´‐ _‐ノv「……どうしたらいいのですか」
<_プー゚)フ「……」
どうすることも出来ない歯がゆさを私は、思い切って口にした。
答えはなかなか返ってこない。
視線を貝に向けたままの彼は、あるいはそれをお店に陳列しようか考えているのかもしれない。
- 135 :名も無きAAのようです:2013/10/19(土) 22:07:26 ID:TvxhjDLo0
-
lw´‐ _‐ノv「……あの」
<_プー゚)フ「太陽はもうすぐ傾き始め」
<_プー゚)フ「船は彼岸に到着する」
lw´‐ _‐ノv「はい」
<_プー゚)フ「一つ、ゲームをしよう」
lw´‐ _‐ノv「……」
lw´‐ _‐ノv「えっ」
私はゲームと聞いて、すごろくで遊んでいる光景を頭に描く。
小さな白いさいころを指先からこぼして、人形に見立てた石ころを三マス進める。
到着したピンク色のマス目には、細かな字で何か文字が書いてある。
- 136 :名も無きAAのようです:2013/10/19(土) 22:08:02 ID:PYINzIIw0
- 支援
- 137 :名も無きAAのようです:2013/10/19(土) 22:09:17 ID:TvxhjDLo0
-
ココナッツの内側をひっかきまわす四本足の羽は、努めて飼い主に従順だ。
身に降りかかる白昼夢を力ない指で除いては、桜の散る灯篭が尾を引く。
<_プー゚)フ「ゲームと言っても、占いのようなものなんだ」
lw´‐ _‐ノv「……」
一マス先へ、あるいは一回休み。
行く末を、書いてあったことを確かめる前に、すごろくはどこかへと消えていった。
大抵どこかへ消え去ってゆくものは、ショートブーツに安全な実用性を模索している。
小麦の収容所が照らす一抹の隠蔽は瓦礫を伝い降り、一滴の市街となった。
lw´‐ _‐ノv「占い?」
<_プー゚)フ「僕にとっては一種のゲームで、君からすれば今後を占うものになる」
lw´‐ _‐ノv「すごろくに似てる」
<_プー゚)フ「うん?」
lw´‐ _‐ノv「あっ。何でもない、です」
- 138 :名も無きAAのようです:2013/10/19(土) 22:11:26 ID:TvxhjDLo0
-
<_プー゚)フ「続けるよ。僕はさっき、この貝殻の模様を見ていたんだ」
lw´‐ _‐ノv「お店に飾ったり……」
<_プー゚)フ「それは考えてなかったなあ」
そう言いながらエクストは貝殻を左手にのせ、私の目の前に差し出した。
あの白いキツネが横たわっていた貝殻だ。
貝殻をよく見る前に、すぐに彼は反対の手のひらで覆い隠した。
<_プー゚)フ「線の模様は何本入っていたかな」
lw´‐ _‐ノv「……模様」
<_プー゚)フ「さあ、当ててみて」
貝殻には赤茶の線が縦に並んでいた。
何本だったかまでは分からない。
- 139 :名も無きAAのようです:2013/10/19(土) 22:12:51 ID:TvxhjDLo0
-
十本か二十本、あるいはもっと多いのかもしれない。
私はどの数字にも確信が持てず、しばらく考え込む。
拠り所のない考えに身を寄せて真剣に悩んでも、何も決まらない。
欠けた奥歯で剥がれ掛けの切手を噛み、疫病の舞踏会に逃げ込む。
鉛色の数列が夕空に芽吹くのを、私は童話の天国で見つけた。
lw´‐ _‐ノv「……」
ふと突然、赤茶色の痩せた土に生える、ぺんぺん草が脳裏に浮かんだ。
酔ったムカデのように緑の足を散り散りに広げ、無数の顔は太陽の光りを浴びている。
考えれば考えるほど、ぺんぺん草のイメージが頭から離れない。
そのうちぺんぺん草は荒野をひしめき、私の頭の中は緑色でいっぱいになる。
目に優しい脳裏の片隅で、私は必死に抵抗する。
確かに貝殻には線の模様があって、そんなはずはないのだ。
lw´‐ _‐ノv「……十四本」
- 140 :名も無きAAのようです:2013/10/19(土) 22:14:15 ID:k1GTIAvg0
- おお来てた、支援
- 141 :名も無きAAのようです:2013/10/19(土) 22:14:29 ID:TvxhjDLo0
-
<_プー゚)フ「分かった。確かめてみよう」
lw´‐ _‐ノv「……」
<_プー゚)フ「……」
エクストは、貝をじっと興味深そうに見つめていた。
こちらからはよく見えず、私は模様を覗き込もうと顔を寄せる。
すると彼は、貝殻をよれよれのカーディガンのポケットにしまいこんでしまった。
<_プー゚)フ「さてと、僕はやっぱり店に戻るよ」
lw´‐ _‐ノv「えっと」
lw´‐ _‐ノv「占いはどうでした」
<_プー゚)フ「……うん。君の自由に進んだらいいさ」
<_プー゚)フ「きっと大丈夫だから」
- 142 :名も無きAAのようです:2013/10/19(土) 22:16:34 ID:TvxhjDLo0
-
lw´‐ _‐ノv「……」
エクストの態度は、どこかそっけないものになっていた。
まるでゲームに負けて拗ねた子どもみたいだ。
もしかすると貝殻の模様は、ちょうど十四本だったのかもしれない。
果たして適当に答えた数で良かったのだろうか。
占いはまったくもって謎だった。
とにかく私は、大丈夫らしい。
感謝を伝えると、彼は笑って言った。
<_プー゚)フ「君の言う通り、この貝殻をお店に飾ることにしたよ」
lw´‐ _‐ノv「はい」
<_プー゚)フ「この世界から出る方法はもう教えたよね」
私が何か言おうとしたとき、エクストの背後の扉が音を立てて開いた。
ドクオ船長が扉の向こうから顔を出して言う。
- 143 :名も無きAAのようです:2013/10/19(土) 22:18:17 ID:TvxhjDLo0
-
('A`)「お客様方。ここにいたのか」
<_プー゚)フ「ああ、船長さん。キツネ貝美味しかったよ」
('A`)「ここでしか採れないからな。そりゃ美味いさ」
<_プー゚)フ「良かったら、貝殻は貰ってもいいかな」
('A`)「おう、欲しけりゃ幾らでもあるぞ」
<_プー゚)フ「ありがとう。だけどこれだけで十分」
lw´‐ _‐ノv「……」
('A`)「そうそう。本船、瞬間号は彼岸に定刻通り到着した」
<_プー゚)フ「悪いけど、僕は此岸に戻るよ。乗せてって」
('A`)「一向に構わないが、ずいぶんと自由な方だね」
lw´‐ _‐ノv「あの……」
('A`)「ああ、ご乗船ありがとうございました」
<_プー゚)フ「じゃあ、元気で」
- 144 :名も無きAAのようです:2013/10/19(土) 22:20:12 ID:TvxhjDLo0
-
一人でデッキに戻ると、確かにガレオン船は岸辺に到着していた。
いつの間にか帆は下ろされ、渡し板が船と岸をつないでいる。
lw´‐ _‐ノv「……」
彼岸と言えど、ダムは円を成している。
戻ろうと思えば、その堤防を歩いて反対側まで戻ってゆける。
いったいどこからが彼岸で、どこまでが此岸なのだろう。
熱帯に生息する菌類の一種のように、明確な区分など存在しないのかもしれない。
船を降りようと渡し板に向かって甲板を進むと、背後から足音がこちらへ迫ってきた。
振り返ると、船長が慌てた表情をして、レシートか何かを持った腕を振っている。
(;'A`)「お客さん、ちょっと待った!」
lw´‐ _‐ノv「ええと。運賃ですか?」
('A`)「いや、金なんていらないよ」
lw´‐ _‐ノv「じゃあ……」
- 145 :名も無きAAのようです:2013/10/19(土) 22:21:45 ID:TvxhjDLo0
-
船に何か忘れ物をしたのかもしれない。
けれど持ち物といえば、熱帯魚のエサの青い缶ぐらいのものだ。
ここから帰るための一つの希望を、私はしっかりとこの手に握っている。
('A`)「久々の乗客だから、すっかり忘れていたよ」
('A`)「次回使えるコーヒーのサービス券だ」
lw´‐ _‐ノv「次回……」
受け取ったサービス券には、「有効期限:いつまでも」と記載されている。
照りつける太陽に、私は今コーヒーを貰いたかったが、券はとっておくことにした。
ハーフパンツのポケットにしまい込み、再びこれから進む道を見つめる。
ダムのこちら側には長い階段はなく、二、三の段差を降りればすぐ道になっている。
船とダムを繋ぐ頼り気のない薄い板の上に、景色を見ながらゆっくりとあがる。
最後に私は、ふと思ったことを船長に聞いた。
- 146 :名も無きAAのようです:2013/10/19(土) 22:23:53 ID:TvxhjDLo0
-
lw´‐ _‐ノv「この船の名前」
lw´‐ _‐ノv「どうして瞬間号っていうんですか」
('A`)「……船は、道と道が行き交う瞬間だからさ」
('A`)「言わばこの船の乗客は皆、瞬間の門をくぐるんだ」
胸を張って自信たっぷりに彼はそう言うものの、私はどこか違和感を覚えた。
借り物のレコードをなぞる針のように、浮ついてしっくりこない。
lw´‐ _‐ノv「……ありがとう」
('A`)ノシ「ああ。またのご乗船を!」
コンクリートの堤防に足がかかり、何気なく立ち止まる。
ダムを運行する船を降りた私は、一人見知らぬ土地にいる。
そのとき船長がぽつんと呟いた独り言が、私の耳に細く届いていた。
('A`)「……だけど、どうしてだか」
('A`)「前は別の名前があった気がするんだよなあ……」
- 147 :名も無きAAのようです:2013/10/19(土) 22:26:00 ID:TvxhjDLo0
-
ガレオン船は汽笛もなく静かに発船し、彼岸をゆっくりと離れてゆく。
ついさっきまで街中にいたのにすっかり一変した光景を、私はひしひしと眺めた。
木々が立ち並ぶ深い森が一帯を占め、ダムを除けばほかには何もない。
かろうじてダムと森の合間に、二車線の道路がどこまでも伸びていた。
景色の意思を尊重する私は、とにかく道を歩いてゆくことにする。
lw´‐ _‐ノv「……」
lw´‐ _‐ノv「田舎だなあ……」
左手にはダム、右手には落石防止の格子状の壁が続いていた。
落石防止の壁面から、木々の緑の葉がところかまわず溢れている。
距離を置いて列をなす電柱や街灯が、数少ないアクセントだ。
震える空気十一時から同四時までの、勝ち負けのない旅行。
ルートビア絵画、ルートビア世紀、ルートビア海岸の殉教。
平坦で寂しい道を歩きながら思う。
私は、どこへ向かっているのだろう。
- 148 :名も無きAAのようです:2013/10/19(土) 22:27:40 ID:TvxhjDLo0
-
lw´‐ _‐ノv「この道は、違う」
lw´‐ _‐ノv「そんな気がする……」
占いによれば私は、私の自由に進んでいい。
やがて落石防止の壁が途絶えたとき、私は躊躇なく森へと入った。
森の中はいくらか気温も低く、ひんやりとして快適だ。
それでも喉は渇いていたし、夏であることに変わりはない。
lw´‐ _‐ノv「無理を言ってでも」
lw´‐ _‐ノv「コーヒーをもらえば良かったかな」
lw´‐ _‐ノv「……」
鋭利な草の茂みを掻き分け、並んだ樹木の柱に近づいては離れる。
上を見上げれば、木の葉が重なり合って様々な緑色が空を隠している。
深緑、ビリジアン、若草色、影となる部分は黒い波のようだ。
- 149 :名も無きAAのようです:2013/10/19(土) 22:29:45 ID:TvxhjDLo0
-
しばらく歩いたところで、少し休憩することにした。
大きな木に背をもたれて、私は木陰に座り込んだ。
木の根に座ったまま足を前に伸ばす。
それまで運んでいた私の重みから解放され、つま先と太ももは楽になった。
lw´‐ _‐ノv「……」
全身の力を抜いて、目を閉じる。
まどろんだ森の、混ぜ合わせた匂いする。
斑の卵が包み隠した歌を、雲の見出した穏やかな枯れ葉が願う。
漠然とした分子の震えが、数千の裂け目に触れて正される。
鉄錆の義務ははるかに多く、とうとう夕暮れは貧血を起こした。
その間にも、新鮮なスポンジはバターと共に炒められるのを待っていた。
lw´‐ _‐ノv「……」
全身がくたくたに疲れている。
お腹も空いて喉も渇き、頭もうまく回っていない気がする。
- 150 :名も無きAAのようです:2013/10/19(土) 22:31:21 ID:TvxhjDLo0
-
lw´‐ _‐ノv「でぃちゃん、トソン嬢……」
lw´‐ _‐ノv「今頃、どうしてるんだろう」
ふいに私は船の上で感じた大きな喪失感を思い出した。
それは、残しておいたケーキが勘違いだったときのものではない。
私はフォークも冷蔵庫も、丸ごと全て無くしてしまったのだ。
lw´‐ _‐ノv「……」
lw´‐ _ ;ノv「……」
lw´; _ ;ノv「あ、れ……?」
胸が誰かに締め付けられ、涙がとまらない。
喉は変わらず、日焼けしたタオルのように渇いている。
それでも涙がこぼれるなんて、なんておかしいのだろう。
手足や頭は隅々まで疲れて重く、家具が散らかった廃墟のようだ。
それでも私の内側は空白で、鉛筆一つ落ちていない。
自分で自分の背中を押す気で、気丈にやってきたつもりだった。
けれどでぃもトソンもいなければ、始めからそんな気にはなれなかった。
- 151 :名も無きAAのようです:2013/10/19(土) 22:33:18 ID:TvxhjDLo0
-
lw´つ_ ;ノv「……」
lw´‐ _‐ノv「……」
lw´‐ _‐ノv「……よし」
私は再び立ち上がって歩き出す。
いつまでもこうしているわけにはいかない。
多かれ少なかれ私は、先へと進む運動なのだ。
足もとはふらふらとおぼつかない。
疲れとともに、いくらか重力まで地面に置いてきてしまったらしい。
木の枝や尖った石が私の靴を困らせ、彼の困惑が体に伝わる。
草花や木の幹、オレンジに染まりつつある空が、ゆらゆらと視界を流れてゆく。
lw´‐ _‐ノv「……」
しばらく進んだところで、森に並行していた道路の方に建物が見えた。
そちらに向かって私は進路を変える。
今や私の渇きは深刻なほどだった。
唇や喉の水気は失われ、息をするのも大変だ。
- 152 :名も無きAAのようです:2013/10/19(土) 22:35:12 ID:TvxhjDLo0
-
lw´‐ _‐ノv「……」
建物の敷地が見えはじめ、長方形の何かが敷地内に置かれているのが分かる。
あれは飲み物の自動販売機かもしれない。
私は財布を握り締め、森を抜け、光る機械へと駆け寄る。
近づくにつれて、あの縦長の販売機がよく見えてきた。
私たちは薄くて暗い非点で、ささやかな贈り物のために踊り散らす。
夕食に出たメッセージによれば、苦もなく意図は気持ちを示し解く。
滅んだ会話のしっぽを掴み、よく振り回してチケットを吐き出させる。
思考と精神が飛行機のヒステリーを迎え入れ、いずれ信頼の痕跡となったとき。
瞑想的な酸素の底からステップを、ステップを。
lw´‐ _‐ノv「……ああ」
lw´‐ _‐ノv「そっか」
機械の箱に並んでいたのは、飲料ではなく煙草だった。
- 153 :名も無きAAのようです:2013/10/19(土) 22:37:07 ID:TvxhjDLo0
-
lw´‐ _‐ノv「……」
lw´‐ _‐ノv「……けど、まあ」
lw´‐ _‐ノv「よし!」
期待に対して、意外なほど私は落ち込んだ気持ちにはならなかった。
もうすでに、十分なほど沈んだからかもしれない。
目の前の建物を見つめて思う。
ビルの中になら、きっと飲み物があるはずだ。
入り口は自動ドアになっていて、その先にオレンジ色の敷物が見える。
ふらふらと私は、透明のガラスに向かって近づく。
羽ばたく音が聞こえ振り返ると、敷地のフェンスにハトが止まっている。
羽ばたく音にまた振り返ると、敷地のフェンスにハトはいなかった。
- 154 :名も無きAAのようです:2013/10/19(土) 22:41:50 ID:TvxhjDLo0
-
ここまで、です。
次回で完結のつもりですが、いつになるか……
(今年中には)
ほんとにありがとうございました
- 155 :名も無きAAのようです:2013/10/19(土) 22:50:18 ID:PYINzIIw0
- 乙乙
いつまでも待ってるよ
- 156 :名も無きAAのようです:2013/10/19(土) 22:51:52 ID:vCz8sBmc0
- 乙乙!
この雰囲気大好きだ
時間かかっても良いさ、次楽しみに待ってる
- 157 :名も無きAAのようです:2013/10/20(日) 02:46:23 ID:h1GtjVsw0
- 乙乙
リズムあって読みごこちの良い地の文だ
- 158 :名も無きAAのようです:2013/10/21(月) 11:38:46 ID:HFTfZJbc0
- おつ
- 159 :名も無きAAのようです:2014/02/26(水) 13:53:13 ID:zxsGIlhQ0
- ハゲタスの真下に居るせいでlw´‐ _‐ノvが酷いことになっとる
- 160 :名も無きAAのようです:2014/02/27(木) 00:49:59 ID:FBBoglNwO
- >>159
おまえ普段からレスするネタ探す目線でいるだろ
- 161 :名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 22:03:42 ID:9OELxKyg0
-
lw´‐ _‐ノv「ごめんください」
自動ドアは、開いたままだ。
奥の受付らしきところまでオレンジ色の絨毯が続いているも、その先には誰もいない。
急にドアが閉まるかもしれないと考えながら、ビル内に足を踏み入れる。
自動ドアは、開いたまま動く様子がない。
lw´‐ _‐ノv「……」
敷物は歩いている心地がしないほど、ふわふわとしている。
気になってまた振り返って見ても、ドアはやはり閉まってない。
lw´‐ _‐ノv「……」
lw´‐ _‐ノv「そもそも」
lw´‐ _‐ノv「ドアじゃないのかもしれない……」
だとしたら、開いたままの入り口とはいったい何なのだろう。
つけっぱなしのテレビやコーヒーの中心、雑多なイメージが頭に浮かぶ。
震えからなる温もりを手渡す頃には、柴犬が挫折していることをきっかけに認めた。
甲高い過去は、目に飛び込むトランプタワーの崩壊なのだ。
- 162 :名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 22:05:44 ID:9OELxKyg0
-
エントランスは明かりが足りないらしく、少し薄暗い。
見上げると天井はかなり高く、並んだペンダントライトが遠くでぼんやりと光っている。
左奥には観葉植物が並び、受付の右側には止まったままのエスカレーターがある。
どちらも長い年月、誰も手入れをしていないような印象を受けた。
私は、受付らしきカウンターの前で立ち止まった。
深夜の鏡の前のように、物音一つしない。
lw´‐ _‐ノv「……」
受付の左側に置かれた観葉植物が、ふと視界の隅で動いたように感じた。
見ると、枝葉の陰に隠れたスペースに、誰かが座っている。
群青色の作業着を着た人が、フロアに金属性の器具を広げて眺めていた。
器具は、扇風機の羽や聴診器のような形をしていて、何に使うのか私にはまるで分からなかった。
lw´‐ _‐ノv「……あの」
( <●><●>)「……」
- 163 :名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 22:07:35 ID:9OELxKyg0
-
lw´‐ _‐ノv「この辺に、自動販売機はありませんか?」
( <●><●>)「……」
彼は返事をせず床の上の器具を眺めたまま、受付のカウンターを指差した。
「御用の方はベルを鳴らしてください」と書かれたボードと、小さなベルが端の方に置いてある。
lw´‐ _‐ノv「あっ……」
lw´‐ _‐ノv「ありがとうございます」
( <●><●>)「……」
私の言葉に、無言の作業員は心なし頷いたかのように見えた。
しばらく使われていないのか、銀色のベルの上には埃が積もっている。
ベル中央の突起を押し込むも、鳴らした感触がまるでない。
何度か試してみても、突起が弱々しくへこむだけで、全く手ごたえがなかった。
作業員に適当な器具を借りて、ベルを弾いてみようか考えていたときだった。
lw´‐ _‐ノv「……」
lw´‐ _‐ノv(扇風機の羽みたいなのが、ちょうどよさそう……)
突然、風船の弾ける破裂音が左の方から聞こえた。
それからすぐに機械の作動音が続く。エスカレーターが動き出したらしい。
- 164 :名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 22:09:22 ID:9OELxKyg0
-
lw´‐ _‐ノv「……」
エスカレーターは、驚くほど垂直に下の階へと続いている。
もしも段差を踏み外してしまえば、私は永遠に落下してしまうような気がした。
誰も受付に来る様子はなく、エスカレーターが作動したこと以外は何も変わらない。
恐らく何かが待つ下のフロアへ、私自身が向かわなくてはならないのだろう。
厳かな夜の模擬審判が始まる前に、プラットフォームで待つスーツはリスと呼ばれる。
酒席の救済は筋肉質で、彼らが齧るにはやや透過しすぎていた。
リスの義父は白い小石なのだから、旅路もまたカシューナッツと同様に優先されるのだろう。
柔らかな対話と弾き語りと穴に、電子メールのうねりが濡れた足跡へと受け継がれてゆく。
私たちは護符のボタンを信じ、悲痛なグラスを片手に掲げて、焼けた両眼のプラタナスを築く。
それでもリスはやはり、ほころんだ暖炉のどんぐりを注文するのだった。
私はその傾斜の急なエスカレーターに乗り、やや汚れた手すりを掴んだ。
地下鉄のホームを思い出させるような、生温い風が下から吹き抜けてゆく。
どこかで聞いたことのあるクラシック音楽が、下のフロアから流れている。
乾いた木を熱帯夜で塗りつぶし、抜け落ちた三つ耳の微かな強引さを感じる。
- 165 :名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 22:11:36 ID:9OELxKyg0
-
ヴァイオリンの音色がだんだんと大きくなり、私は思わず財布を持つ手に力が入る。
二度目の主題を迎え、曲が盛り上がり始めたところでフロアに着いた。
フロアの一角には丸テーブルとイスが配置され、その奥にお店らしき敷居がある。
店前に近づいてみると、二段の冷蔵ショーケースがあり、その中にはケーキが並んでいた。
音楽は、お店の中から漏れているらしい。
開いたままの入り口には、「パティスリー・ハロー」と書かれた看板がある。
店内に踏み入れるとすぐに、奥にいたコック服姿の女の人と目が合った。
lw´‐ _‐ノv「あの」
ハハ ロ -ロ)ハ「……ん、そうそう! 六時からバイトの子ですね」
lw´‐ _‐ノv「えっ、違っ」
ハハ ロ -ロ)ハ「ちょうど今から、新しく出すケーキの試食をするところなんです」
- 166 :名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 22:13:21 ID:9OELxKyg0
-
(´<_` )「自己紹介はあとでいいから」
ハハ ロ -ロ)ハ「ええ」
(´<_` )「とりあえずこっちにきて座りなよ」
ハハ ロ -ロ)ハ「そうしましょう」
清潔そうなシャツにエプロンをかけた男の人が、「こちらへ」と言って私の背中を押す。
そのままお店の中を通り、奥の調理場まで案内された。
中央のステンレス製の作業台の前に、いくつか丸イスが用意されている。
眼鏡を掛けたコックさんに促され、私は真ん中のイスに座る。
ハハ ロ -ロ)ハ「ちょっと待っていてくださいね」
ハハ ロ -ロ)ハ「先にこれ、はい、どうぞ」
にっこりと微笑みながら、女の人が銀色のフォークを私に差し出した。
私は掴んだままだった財布を膝の上に置き、フォークを受け取る。
- 167 :名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 22:15:22 ID:9OELxKyg0
-
渡されたフォークは、やけにしなやかだった。
若い枝木のようによく曲がり、質感も柔らかく、どこかおかしい。
lw´‐ _‐ノv「……」
見慣れないケーキ屋さんの厨房を、キョロキョロと見わたす。
部屋中のところどころに、赤色の点線が見えることに気付いた。
シンクから三段仕様のオーブン、横置きの冷蔵庫、至るところに歪な点線が走っている。
突然好むサーカスは虚脱した教室であり、異彩の棘の病院が落ち着きと微笑を売る。
(´<_` )「さてさて、パティシエは暇だったかな?」
ハハ ロ -ロ)ハ「よく気付きましたね。ケーキを用意している最中ですよ」
(´<_` )「うん、じゃあ俺は何か飲み物でも」
ハハ ロ -ロ)ハ「なら、あまり甘くないものにしてね。ケーキの味が分からなくなりますから」
(´<_` )「ラッシーにしよう」
冷蔵庫が閉まる音とともに、「そんなの置いてないでしょ」という声が返ってきた。
すぐに女の人は、お皿に乗ったケーキを三つ一緒に、器用に運んできた。
- 168 :名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 22:16:44 ID:9OELxKyg0
-
ハハ ロ -ロ)ハ「それでは、よく味わってくださいね」
(´<_` )「いただきます」
lw´‐ _‐ノv「……」
軽く頭を下げてから、私は黙ってケーキを口に運ぶ。
飲み物はどうしたんだろう、私の頭はそれくらいしか考えていなかった。
はるか彼方から、底知らぬ変数に寄せられたラクダの進化を浮き彫りにした。
場合によっては哀愁が、剥がれた皮脂と刃物の一瞬が挙げられる。
(´<_` )「うん、これは美味しいね」
lw´‐ _‐ノv「……はい」
実のところ、ケーキの味はよく分からなかった。
湿った毛布を口に含んでいるようで、味そのものが感じられない。
ハハ ロ -ロ)ハ「飾りつけは、林檎のラペですよ」
ハハ ロ -ロ)ハ「……子ウサギをすりおろしたものは、果たして平和といえるのでしょうか」
- 169 :名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 22:18:01 ID:9OELxKyg0
-
(´<_` )「香りもケーキの一部だからね」
(´<_` )「……だけど皮の項目を辞書で引くと、生き蜘蛛とあるんだよ」
lw;´‐ _‐ノv「いやいや、どうしてですか」
思ったことがそのまま、つい口に出てしまった。
何故彼らは、そんな脈絡のないことを言ったのだろう。
lw;´‐ _‐ノv「どうしてそんな……」
lw´‐ _‐ノv「……えっ?」
ふと感じた疑問が、波打ちながら全身に広がってゆく。
ここで一体、私は何をしているのだろう。
吹きこぼれたシュークルートの専門店に憧れる孤独の欠片が露出する。
形式的なキッチンの仕組みすら傾き出し、鋭敏な発作が密生している。
私は、丸イスから立ち上がる。
軽い眩暈を感じ、目の前が一気に暗転する。
黒い波がゆっくりと引いてゆくと、辺りの光景は一変していた。
- 170 :名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 22:20:32 ID:9OELxKyg0
-
lw´‐ _‐ノv「……」
lw´‐ _‐ノv「ああ……」
視界に映るもの全てが、鉄色とオレンジ色で構成された無限の点描画だった。
どこか懐かしい絵画に取り囲まれた私は、ただそれに圧倒されていた。
ひんやりとした風が、絵画を静かに揺らす。
瞬間の声を借りた、精神の装丁を見た。
当惑を追い続けた、顔の集うポスターを信じた。
やがてその光景は、木々の葉の隙間から漏れた夕焼けへと変わってゆく。
地面との距離の近さに、私はまだ何かに座っていることに気付いた。
後ろを振り向くと、木に背中をもたれかかっていた。
いつしか私は、疲れて森の中で眠っていたらしい。
膝の上にあったのは財布ではなく、あの熱帯魚のエサの青い缶だった。
- 171 :名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 22:22:11 ID:9OELxKyg0
-
lw´‐ _‐ノv「……」
lw´‐ _‐ノv「夢、だったんだ……」
パティスリー・ハローの新作ケーキは、通りで味がなかったのだろう。
思えば私は、そもそも何のケーキを食べていたのかすら定かではなかった。
夢が色あせてゆくのにしたがって、しだいに私は冷静さを取り戻す。
夢の中でも味覚が正常だったことに、なぜだか誇らしい気持ちだ。
lw´‐ _‐ノv「……そっか」
lw´‐ _‐ノv「何もかも存在していて」
紛れもなくここは今、私の現実だ。
辺りに立ち込めているのは、むせ返るほどの現実だ。
ところどころ湿った土、折れた木の枝、何千枚もの風に揺れる葉。
色や匂いがそこらじゅうに散らばり、触れれば認識のリズムが生まれる。
- 172 :名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 22:24:09 ID:9OELxKyg0
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来たときに降っていた雨は虹色で、ダムには船が浮いている。
不思議で信じられないような光景の連続ばかりだった。
けれど、もともと現実はそういうものなのだ。
近すぎる日常を、私は小走りで駆け続けて曖昧にしていた。
lw´‐ _‐ノv「……何より」
lw´‐ _‐ノv「私はとても喉が渇いていて」
lw´‐ _‐ノv「……」
lw´‐ _‐ノv「炭酸飲料がすごく飲みたい……」
そもそも私たちは、世界に飛び込み続けているのだ。
現実をいくらうろついても、どこにも出口など存在しない。
lw´‐ _‐ノv「……」
- 173 :名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 22:25:29 ID:9OELxKyg0
-
色彩と熱を引き連れて、夕日はもう沈みかけている。
今度こそ私は立ち上がり、もう一度どこかへと歩き始めた。
開けないお弁当箱を背負っている気分だ。
疲弊した全身は重く、喉の渇きと同じくお腹も減っていた。
lw´‐ _‐ノv「ん?」
lw´‐ _‐ノv「何かある……」
木々の隙間の向こうに、白い無数の光が浮かんでいるのがかすかに見える。
景色の意思が、目的地を私に示してくれたらしい。
あの白い光を目印に、しばらく進むことに決める。
ほんの少しだけ、お弁当箱は軽くなった気がした。
夏の夕暮れの森を、しっかりと歩きながら私は考える。
今まで想像や空想の延長に、重要な手がかりのきっかけを見出していた。
思えば私は、考えるという選択をしばしば怠っていたのかもしれない。
記憶を丁寧に辿ってゆき、ほつれて絡まった糸口を探す。
lw´‐ _‐ノv「……」
- 174 :名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 22:27:34 ID:9OELxKyg0
-
――おはよ。
――染み出た。
――肥料に砂糖を混ぜておけば、もっと甘くなりそうですよね。
――そして気付けば、僕たちはこの状況に巻き込まれていました。
――この世界は、僕らを頼りにしてるんだよ。
――そうだ、シュー。熱帯魚のエサをまいてみましょう。
lw´; _ ;ノv「……」
でぃやトソンの何気ない言葉を、私は何故こんな時にも思い出してしまうのだろう。
おかげで涙が溢れ、目の前はまた滲んだ絵画の世界だ。
めそめそと泣いている場合でないことは分かっていた。
静かに揺らぐ光景を、日焼けした全ての断片を、必死に私は組み合わせてゆく。
- 175 :名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 22:29:49 ID:9OELxKyg0
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lw´; _ ;ノv「……」
lw´つ_ ;ノv「……」
影を掻き分けた芝生の上から二段目、つり革の空き缶と騒ぎの間。
私は手の甲で涙を拭い、浮かんだ一つの仮説について考え始めた。
ここではきっと、言葉によって、思考によって、あらゆる可能性が未来に投げかけられる。
私自身が、気がつけば未来に巻き込まれているように。
そして生まれた可能性は、何の躊躇もなく実現してしまうのだ。
ふと私は、ガレオン船での貝殻の占いを思い出した。
あの時エクストは、キツネ貝に記された線の本数を私に問い掛けた。
私は適当な数を答えたのだけれど、その実、頭の中はぺんぺん草でいっぱいだった。
lw´‐ _‐ノv「……あっ」
lw´‐ _‐ノv「ぺんぺん草だ……」
結果を見たエクストがどうして拗ねた様子だったのか、今となっては腑に落ちる。
線の数が合っていたからではなく、模様は線からぺんぺん草へと変わっていたのだろう。
- 176 :名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 22:31:28 ID:9OELxKyg0
-
lw´‐ _‐ノv「……」
lw´‐ _‐ノv「なら……」
――宿した秘法を開放するか、持ち込んだものを返すか。
エクストが言った、ここから出る方法。
つまりそれは現実を変えるか、自分を変えるかということではないだろうか。
時にそれらは、ダムの此岸と彼岸のように境界線が曖昧だ。
lw´‐ _‐ノv「私が持ち込んだもの……」
lw´‐ _‐ノv「……」
それはきっと、虚無的な考え方だ。
叫びを讃える希望と、悪意の失望が入り混じる空想を、何度でも見た気がした。
- 177 :名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 22:33:33 ID:9OELxKyg0
-
同じことが起きれば、何かが変わる。
そのことを夢見て私は、ぽかぽかと浮いた日々を過ごしていた。
間違っているのかそうではないのか、白黒はっきりさせる気は今はない。
ただ私は、長い間共にしてきた考えに、初めて気が付いただけだった。
lw´‐ _‐ノv「それに、もう……」
lw;´‐ _‐ノv(私はもう、疲れた)
大きく葉を広げた木の先で視界が開き、私は立ち止まる。
景色の意思が導いた先にあったのは、真っ白な枝を持つ木だった。
ふさふさの白い繭に似た花穂が、枝に満開に咲いている。
まるで木の上にだけ、雪が降り積もったみたいだ。
初めて見たにも関わらず、私にはそれが何なのかすぐに分かった。
lw´‐ _‐ノv(……きっと、ネコヤナギだ)
lw´‐ _‐ノv「こんなところに咲いて」
これまで見たどんな光景よりも綺麗だった。
しばらく私はネコヤナギを見つめ、それから何度か深呼吸をした。
- 178 :名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 22:35:21 ID:9OELxKyg0
-
これから私がすることに、いくらか躊躇いを感じる。
それでも決心し、掴んでいた熱帯魚のエサの缶を見つめる。
lw´‐ _‐ノv(……)
缶に描かれたグッピー、小川を泳ぐ鯉、ヒラメやメダカ。
ブラックバスの柔軟な筋肉、えら呼吸をするフナ、華麗な尾びれのサケ。
ぺんぺん草がひしめいたように、様々な魚のイメージを頭の中で泳がせる。
どうしようもなく魚でいっぱいになるまでには、それほど時間は掛からなかった。
lw´‐ _‐ノv(集まれ、川の仲間たち……)
lw´‐ _‐ノv(……)
生物の気配を感じた瞬間、上空をたくさんの魚が飛翔していた。
群れを成して飛ぶ渡り鳥のように、魚群は風の流れに乗ってどこかへ向かう。
まだ濡れたままのウロコが光り、一面に飛び散った水滴が霧のように舞った。
時々かまぼこや赤い切り身が泳いでゆくのを見かけ、私は苦々しくも笑った。
- 179 :名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 22:36:56 ID:9OELxKyg0
-
lw´‐ _‐ノv「……」
よく鳴くミミズが潜り込んだ先は、名誉ではなく精錬された銀だった。
柔らかな秘密を一掻きする度に、エキナセアの花弁がさらさらと空から零れてゆく。
風に吹かれ夕日の光りを鮮やかに受け止め、空一面が優しい記憶のように輝く。
地面に雨の名残の小さな水溜りを見つけ、私はそこに熱帯魚のエサを撒いた。
しばらくして一匹の魚が群れから離れ、優雅にこちらへと泳いでくる。
目が赤く濁った、雨に溶けていったあのイワシだった。
lw´‐ _‐ノv「今までどこに行ってたの」
lw´‐ _‐ノv「……おかえり」
現実はいつも一方通行だ。
通り過ぎる知らない町に、少し寂しさも感じる。
虹色の雨、スーパーでの一夜、でぃと暗闇。
雑貨屋の店主、路上の革命家たち、それにガレオン船とダム。
- 180 :名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 22:37:55 ID:9OELxKyg0
-
思い返せば、それらはたった一日の出来事だった。
あらゆる速度が私を越えて、困ったような顔で笑っていたのも昨日のことだ。
驚かせる素敵な風景が、ここにはまだ数多とあるのだろう。
けれど私は、そこに手を加えて壊してしまいかねない。
この現実に、驚く何もかもが存在すると知っただけで充分だった。
lw´‐ _‐ノv「さようなら、それに……」
- 181 :名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 22:39:23 ID:9OELxKyg0
-
そう呟いてから私は気付いた。
わざわざ口にしなくとも、考えればきっと伝わるのだろう。
それは不思議と暖かい気分だった。
lw´‐ _‐ノv「……」
小さな自然のダムで泳ぐ、死んだイワシへと手を伸ばす。
この世界に表立った縦の並びが、この世界へと伝わるように。
りわ終わり
- 182 :名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 22:41:59 ID:9OELxKyg0
-
第一話「あーす」
>>3-21
第二話「リタイア」
>>32-49
第三話「ガレオン船」
>>60-78
第四話「ともだち」
>>97-121
第五話「ウチ」
>>132-181
- 183 :名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 22:47:35 ID:9OELxKyg0
-
以上で、「lw´‐ _‐ノvシュルレアケーキのようです」は完結です
逃亡に逃亡を重ね、こんなにかかってしまいました
毎回お話が終わったあとのコメントを眺め、感謝とすまぬすまぬ……、という気持ちでいっぱいでした
読んでくださった皆様、まとめてくださったまとぶん様、逃亡を重ねた2年間、最後まで投下することのできた創作板様
私一人だったら完結しなかったと思います、みなさんのおかげでやってこれたとひしひしと感じます
本当にありがとうございました!
あとヒラメは、シューの中では川の生き物です
- 184 :名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 22:53:25 ID:rviXp9io0
- 乙
創作板をぼんやり眺めてる時にこのスレに出会って、それから眠るのも忘れて既投下のレスを読み耽ったのがつい最近のことみたいに感じられる
台詞回しも地の文もひとつひとつの言葉選びも、この作品を構成するあらゆるものが大好きだ
完結おめでとうございます、次回作の予定なんかがあればうれしい
本当にお疲れ様でした
- 185 :名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 23:25:26 ID:9OELxKyg0
- >>184
ありがとう、ありがとう!
しばらくは色々読んだりして、それからまたほのぼのなんかを書いたりする予定です
またいつか、こんなのもするつもりなので、そのときはまた機会があれば読んでくれたらと思います
- 186 :名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 23:45:01 ID:hHpw5E6M0
- 後ろから殴られるみたいに映像に異常が加わっていく感覚が好きだった
完結乙、読み返します
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