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川 ゚ -゚) 少女は戦争犬と駆け抜けるようです

1 ◆K8iifs2jk6:2012/01/31(火) 00:43:16 ID:5aCCN7uY0

規制されたのでこっちで投下

まとめの文丸さん
ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/war_dog/war_dog.htm

待たせてすまない


    /||ミ 作戦領域に到達。ミッションを開始する。
   / ::::||  ̄ ̄∨ ̄ ̄
 /:::::::::::||_____
 |:::::::::::::::||        .||
 |:::::::::::::::||        .||
 |:::::::::::::::||         ガチャッ
 |:::::::::::::::||ハ,,_,ハ,    ..||
 |:::::::::::::::||・ω・ミ/^l ....||
 |:::::::::::::::||u~~~u;' |......||
 |:::::::::::::::||ω ・  ミ ...||
 |:::::::::::::::||[=]=|= つ ...||
 |:::::::::::::::||     ミ . ||
 |:::::::::::::::||    彡 ..||
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 |:::::::::::::::||''~''''∪ . . ..||
 \:::::::::::|| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

617名も無きAAのようです:2012/02/19(日) 00:49:24 ID:aDwk1fB.0
おつおつー

618名も無きAAのようです:2012/02/20(月) 05:47:33 ID:.ih8446.O
今、ドクオはどうなっているんだろうか

619名も無きAAのようです:2012/03/03(土) 23:11:06 ID:63AK.jg20
そろそろ生存報告がほしいな

620 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:17:30 ID:8j7naoAw0


閃光よ、閃光よ、カコログの虚無なる輝きを放つ刃よ。
兵士達を護る光となれ。

621 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:18:12 ID:8j7naoAw0


       川 ゚ -゚) 少女は戦争犬と駆け抜けるようです
  


            第十五話 少女の剣

622 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:19:09 ID:8j7naoAw0

******

6月15日 12時58分――――ダーウィン社の研究室の一室


川 ゚ -゚) 「そろそろ休憩も終わりだな。さて、作業に戻ろうか渡辺」

从'ー'从 「まだ2分残ってるから、それに合わせてタイムカードを……」

川 ゚ -゚) 「む……だが2分くらいいいじゃないか」

从'ー'从 「ほら、労働基準法とかで風当たりも強いだろうし、
      きっかりとっとかないと課長も上の人に怒られちゃうだろうしさ」

川 ゚ -゚) 「働いて、時間になったら切ればいいだろう」

从;'ー'从 「うわ、クーにゃんブラック。
      ただでさえ時間長いんだから、2分くらいちゃんと休もうよ」

川 ゚ -゚) 「明日は休みだろう? 今日びっしり働いて、明日休めばいいじゃないか」

从;'ー'从 「え〜……って、もう二分経っちゃったよ。
      早くカード切らないと」

机で向かい合って座っていた渡辺が、忙しない仕草で立ち上がる。

その小さな背中をゆっくり目で追っていくと、
特殊研究室の入口、門とでも言うべき堅牢な鋼鉄製ドアの傍に備えられた、
カードリーダーを操作してからカードを通していく。

623 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:19:51 ID:8j7naoAw0

******

6月15日 12時58分――――ダーウィン社の研究室の一室


川 ゚ -゚) 「そろそろ休憩も終わりだな。さて、作業に戻ろうか渡辺」

从'ー'从 「まだ2分残ってるから、それに合わせてタイムカードを……」

川 ゚ -゚) 「む……だが2分くらいいいじゃないか」

从'ー'从 「ほら、労働基準法とかで風当たりも強いだろうし、
      きっかりとっとかないと課長も上の人に怒られちゃうだろうしさ」

川 ゚ -゚) 「働いて、時間になったら切ればいいだろう」

从;'ー'从 「うわ、クーにゃんブラック。
      ただでさえ時間長いんだから、2分くらいちゃんと休もうよ」

川 ゚ -゚) 「明日は休みだろう? 今日びっしり働いて、明日休めばいいじゃないか」

从;'ー'从 「え〜……って、もう二分経っちゃったよ。
      早くカード切らないと」

机で向かい合って座っていた渡辺が、忙しない仕草で立ち上がる。

その小さな背中をゆっくり目で追っていくと、
特殊研究室の入口、門とでも言うべき堅牢な鋼鉄製ドアの傍に備えられた、
カードリーダーを操作してからカードを通していく。

624 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:20:34 ID:8j7naoAw0

从'ー'从 「はい、クーにゃんの番」

親切にも休憩時間のボタンを押してくれた渡辺は、
そっとカードリーダーから離れて笑みを作る。

川 ゚ -゚) 「すまんな」

カードを通すと、自動的に休憩終了の手続きがすみ、
休憩終了時間がそこに記された。

川 ゚ -゚) 「では、仕事に戻ろうか」

午前中に中断した作業を私達は再開していく。


私達の仕事―――

カコログ鉱山の調査から一週間と少しが経過した頃、
フォックス課長やデミタス技術士官へ企画書を送り、
会議を重ねることで、私の提案が採用されることとなった。

企画を塗り替えヒートブレードの製作を中止し、
新たにユニバーサルブレードを製作するという提案だ。

このユニバーサルブレード開発の馬鹿馬鹿しさを、
以前から知っていた課長は猛反対し説得は難しかったが、
カコログ粒子に賭けたか、私への信頼からか、
デミタスに話を通してみるとすんなりと了承を得ることが出来た。

625 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:21:19 ID:8j7naoAw0

軍刀が届く直前にそれが叶い、本当に良かった。
おかげで、こうしてすんなりとユニバーサルブレードの製作に当たれている。

研究室の一画にある、シリンダーに納められた刃こそがそれである。
大量のカコログ粒子が納められたその中では眩い光が放たれ、
中心には刃が一振り固定されていた。

単純ではあるが、この方法が一番カコログ粒子を軍刀に集めるのに適しているという判断だ。

川 ゚ -゚) 「渡辺、引き続きデータの記録を頼む。
      私はAIの製作を再開する」

从'ー'从 「了解〜」

軍刀にカコログ粒子を馴染ませる間、私達の仕事は物質のデータ化と記録、
刃の内に仕込むレーザーとそれで認識した対象の物質に、
最適な反物質を導き出すAIの製作に分かれていた。

刀身に仕込んだそのAIが対象に対して最適であると判断した反物質に、
カコログ粒子が反応して変化する、という仕組みである。

人の望みに対応して変化をもたらせるというカコログ粒子の性質を利用し、
AIの判断を人の望みと"誤認"させることで変化を促す。

最初に思いついた時は夢物語のような話だったが、
単純なAIを組んで実験を行ってみたところ、それは成功に終わった。
私の仮説は立証され夢は夢で無くなったのだ。

今は実験用のAIとは比べ物にならないほど複雑なAIを組んでいるが、
不思議とその作業を辛いと思う事は無く、むしろ高揚する。

626 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:22:04 ID:8j7naoAw0

川 ゚ -゚) (楽しんでいるんだな、私は)

機械剣プロジェクトの初期案にあった最強の剣。
自らの夢想したそれが現実になるのだから、楽しくないはずなどない。
しかし私は、兵器を作ることに愉悦を覚える自分に抵抗を感じずにはいられなかった。

これは確実に人を殺すだろう。
だが確実に人を護るだろう。

既に決着のついたはずの戸惑いではあったのだが……。

川 ゚ -゚) (技術屋というのは、面倒臭い人種なのかもな)

ドクオも人を殺すことに戸惑いを感じたことはあるのだろうか?
私の作る武器が戦場に持ち込まれることで、私は間接的に人を殺す。
その武器で殺人を犯すドクオは迷うのだろうか……?

川 - -) (いや……あいつは、迷う暇などもないはずだ……)

自問自答し、やはり生きる世界が違ったのだな、と内心苦笑した。
そして、揺るぎ始めた覚悟と気持ちを戸惑う心に再びぶつけてやる。

627 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:22:48 ID:8j7naoAw0

川 ゚ -゚) (私は私なりの戦いをする。この武器が"彼ら"の救いとなることを信じて)

そうして、弛んだ集中力を引き締め直し、パソコンへ向かってAIの製作へ移っていく。
仕事に没頭していく私の頭に、他のことを考える余地はなかった。

ただ単純に、己の研究心と熱意をぶつけてやる。

そこには倫理にもとることで生まれる被虐的なナルシシズムなどは無く、
愉悦だけがあった。そうして働き続けていく。

从'ー'从 「クーにゃん、そろそろ上がろー」

川 ゚ -゚) 「ん? あぁ……」

ふと、渡辺の声に呼ばれて気付くと、既に終業の時間を迎えようとしていた。
機械剣に搭載するAIは、もう一日もあれば完成するだろう。
……そういえば、明日はシューに呼ばれていたな。

川 ゚ -゚) 「帰るか、渡辺」

从^ー^从 「うん、明日から二連休だもんね。早く帰って休もう」

川 ゚ -゚) 「あぁ、そうだな」

渡辺と他愛ない会話をしながら、私はタイムカードを切った。
オフィスにいるフォックス課長に報告をし、私達は更衣室へ向かっていく。
いつもの通り、平穏な一日である。

ただ、未だに"あいつ"の顔が頭から離れないだけで……。

628 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:23:28 ID:8j7naoAw0

川 ゚ -゚) 「……」

想う度に胸が軋んだ。吐き気もこみ上げてくる。
精神的な物からくるのだろうが、あの日からずっと倦怠感が抜けない。

从'ー'从 「……」

帰り道、いつもの如く途中まで隣を歩き続ける渡辺の顔が、
その時目につき、何故だか聞いてみたくなってしまった。

川 ゚ -゚) 「なぁ、渡辺」

从'ー'从 「ん? なーに?」

川 ゚ -゚) 「お前は、自分の恋人が突然いなくなったら、どうする?」

从;'ー'从 「え……それってどういう……」

川 ゚ -゚) 「いいから、教えてくれ、渡辺」

从;'ー'从 「教えてくれって言われても……どうしてそうなったのか、知りたいよね」

川 ゚ -゚) 「原因はわかっているんだ」

从'ー'从 「それは自分のせい?」

川 ゚ -゚) 「違う。もちろん、相手のせいでもない。
      そうだな、事故と言っていいかもしれない」

629 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:24:10 ID:8j7naoAw0

从'ー'从 「事故で、いなくなる……?」

川 ゚ -゚) 「仮定の話だと思ってくれ」

从;'ー'从 「そう言われてもなー……経験したことないし。
      外国に行ったら行方不明になっちゃったとか?」

川 ゚ -゚) 「じゃあ、そういう設定で頼む」

从'ー'从 「んー、それなら、捜しに行くよ」

川 ゚ -゚) 「捜しに行く? 仕事はどうするんだ?」

从'ー'从 「仕事も休暇貰うかなー。貰えないなら辞めてでもいくかも。
      その人が、本当に大切だっていうなら」

川 ゚ -゚) 「手がかりもないのにか? 素人に何が出来る。
      警察や探偵に任せたほうが、確実じゃないか?」

从'ー'从 「そりゃーそうだけど……自分が納得できないでしょう?」

川 ゚ -゚) 「自分……が……?」

从'ー'从 「うん。何も出来ないかもしれないけど、見つけられないかもしれないけど、
      そのままじっとしてるなんて、大切な人ほど気になってできないでしょう?」

川 ゚ -゚) 「それは、そうだな」

从'ー'从 「何より心配で、辛いしさ。
      だから無駄な結果に終わるとしても、私は捜しに行くよ」

630 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:25:16 ID:8j7naoAw0

川 ゚ -゚) 「そうか……」

从'ー'从 「お役に立てた?」

川 ゚ -゚) 「これは仮定の話だ。好奇心から聞いただけだ」

从'ー'从 「あれれー? そうだったのー?」

从'ー'从 「最近クーにゃんの様子おかしかったし、私としては納得だったんだけど?」

川 ゚ -゚) 「あぁ、何でも無いさ。だから気にするな」

从'ー'从 「何か……言えない事情でもあるの?」

川 ゚ -゚) 「そんなことはないさ……」

从'ー'从 「ふーん、そう。でも彼氏出来たんなら紹介して欲しいなー。
      一体どんな人なんだろー。きっとクーにゃんのお相手なんだから、
      カッコイイ人なんだろうなー。もうすっごい二枚目なの」

川 ゚ -゚) 「仮定の話と言ったはずだ」

そう言い切るが、渡辺といつも別れる交差点が見えてくると、
少し考え直してから「だが」と付け加えた。

631 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:26:00 ID:8j7naoAw0

从'ー'从 「だが……?」

川 ゚ -゚) 「ありがとう、助かった。
      時が来れば彼にお前を紹介しようと思う」

告げると同時に私はアパートへと足早に向かっていく。

从^ー^从 「なんだ、いるんでしょうやっぱり!」

渡辺の声が背後から聞こえてきて、振り返らぬまま彼女へと手を振って応えた。
私自身に、そしてトソンに否定された想いを、
渡辺も抱いたのだと思うと少し楽になった気がした。

……今の依頼を終えたら。

例え、それが無駄に終わったとしても、
遅すぎたのだとしても――――――私はドクオを捜したい。

帰宅した私はその想いで胸が一杯になり、ひとまずベッドで横になる。

強すぎる想いに、身体は疲労してしまっていたのか、
布団に吸い込まれていくかのように、そのまま眠りへと落ちて行ってしまった。

632 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:26:40 ID:8j7naoAw0

******

6月16日 7時40分――――素直クール宅


重たい瞼が薄っすらと開いていくと、朝陽に目を眩まされてしまう。

おぼろな視界は徐々に鮮明さを増していき、
鈍った脳は昨夜帰宅と共に眠ってしまった為、カーテンを閉め忘れたことを思い出させる。

そして同時に、今日は休日であることも脳は思い出した。
   _,,_
州レつ -)レ 「ん〜〜〜」

そうであればこのまま目を覚ます必要は無く、
まだ眠ろうとする身体は手を伸ばしてカーテンを締めていく。

これで陽射しが部屋に入り込むこともなく、快適な睡眠がとれることだろう。

しかし、私を起こそうとする何者かの意思が働いているのか、
枕許に置いてあったケータイが耳障りな電子音を響かせた。
苛立ち混じりにそれを手に取りアラームを止めるが、
   _,,_
州レつ -)レ 「ぬぅ……シューからメールか」

新着Eメールの表示が目に止まり、開いていく。
昨晩、私が帰宅してから少し経った後にメールが届いていたらしい。

633 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:27:38 ID:8j7naoAw0

       『クー姉、先週の約束覚えてる?
        明日の20時にご飯食べに行こうね。
        ミルナと迎えに行くから、待っててよ』

州レ - -)レ 「あぁ……明日か……いや今日か。
       20時……まだ眠れるな……」

思考は絞り出したような声で漏れ出ていった。
酷いガラガラ声だ。もしかしたら体調が優れないのかもしれない。
いやに身体と頭が重く感じて、手足の感覚も希薄だ。

宙に浮かんでいるように実感が無い。

いかんな、意識はしていなかったのだが、
仕事の過労が溜まっているのかもしれないな。

具体的には従妹になるのだが、可愛い妹分の恋人を交えた会食だ。
私の粗相で彼のシューへの評価が下がっては困る。

体調を万全にする為にも、今は休んでおくか……。

そう思いつつケータイを閉じて枕許に再び置くと、瞼を閉じる。
すると、睡魔が一挙に押し寄せてきて、まさに落ちると言う表現の如く
私は再び眠りへと落ちていった。

634 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:28:48 ID:8j7naoAw0

******

??? ?????――――――????


白亜。

どこまでも白く、見渡す限り白が続いている。
ただひたすらに白で、上下左右の感覚の無い空間。

その中心に自分がいた。
立っているのではない。
そこに存在しているだけだ。

ふと足元を見てみると自分はたしかに地に足を着けていたが、
その下を見通す事が出来、気の遠くなるほどにまで空間は続いていることがわかる。
床と呼べるものも無く、壁と呼べるものも無い。

限りの無い空間だ。
無限。

カコログ鉱山の最奥部にあった、あの場所にここは似ていた。

安寧で、安穏でいて、それ故に虚無。
その点については全く同じと言っていい。
だがこの場所にはどことなく不気味な空気が流れている。

常に視線を浴びせられ、監視されているような、嫌な気持ちだ。

635 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:29:50 ID:8j7naoAw0

不快感を覚えると間もなく、

爪゚ー゚)

女が"降りてきた"。

元より上も下もわからないこの空間で、落下ではなく、
この女は確実に自らの意思で私の頭上から現れた。

爪゚ー゚)「やっと見つけた」

ボブカットに整えられたダークブラウンのブロンド。
細い毛は短くサラサラとしており、美しい。
髪にも目を奪われるが、何よりもサファイアのような瞳が特徴的だ。

カコログ鉱山の調査の際に着用した、作業用スーツが白い肌を包んでおり、
色素の薄い唇が柔らかな笑みを浮かべると言葉を紡いでいく。

爪゚ー゚)「貴女にこうして会える日がくるとは……。
     とても楽しみにしていたのよ?」

川 ゚ -゚) 「お前は、誰だ?」

素朴な疑問を口にする。
彼女の言葉の持つ、謎には触れずに。

爪゚ー゚)「ジィ=G=バレンタイン。貴女と同じ、チャネラーよ」

ジィは左手を胸に当てると、演技じみた手振りをして語る。

636 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:30:30 ID:8j7naoAw0

爪゚ー゚)「チャネラーの中でもESPとPKに優れたチャネラー。
     こうして他人の人の頭の中に入り込んだりすることが出来るの。
     他にも色々出来るけど、それは秘密っていうことでお願いするわ」

川;゚ -゚) 「ESP……PK……?」

聞き慣れない単語ではあるが、聞いたことはあった。
しかし、それは"ありえないこと"なのだ。

爪゚ー゚)「えぇ、超感覚的知覚と念動力。私は、それが使える」

今まで否定し続けてきた物を、この女は持っていると一切の偽りが無いと言うように語る。
後ろめたさを感じさせない言葉ではあるが――――

川;゚ -゚) 「そんな物があるわけがないだろう」

爪゚ー゚)「あるわけがない? どうしてそんなことが言えるの?」

川 ゚ -゚) 「手を触れずに物を動かし、相手の思考を読む?
      そんなことが出来るはずがない。あんな物は、手品だ」

爪゚ー゚)「そう……じゃあ貴女はここが、何なのか説明出来るかしら?」

川 ゚ -゚) 「……」

沈黙。

周囲を見渡しつつ、一時思考の世界に入り込んでみるものの、
この白としか説明しようのない場所を表現する言葉が見つからず、
何の情報も得られなかったが故の沈黙だった。

637 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:31:16 ID:8j7naoAw0

爪゚ー゚)「お答えは?」

川 ゚ -゚) 「……説明はできん。わからん」

爪゚ー゚)「正解を教えても?」

川 ゚ -゚) 「頼む」

しかし、ジィの口から語られる"正解"とは、
私が信じられるような物ではないのだろうと、予測は出来ていた。

爪゚ー゚)「ここは、貴女の心象風景。何となく気付いてはいたと思うんだけど」

川;゚ -゚) 「心象風景……?」

爪゚ー゚)「そう、ここは貴女の心の中の世界。現実では無いけど、貴女はここにいる。
     貴女の中にだけ存在する世界。誰も入り込むことは出来ず精神により生み出された物。
     そして私もここにいる。貴女の心に刻まれたこの世界に」

川;゚ -゚) 「心に……刻まれた?」

それは可笑しい。

心に深く、深く刻まれた風景ならば……。

638 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:32:18 ID:8j7naoAw0

   【フラッシュバック】
廃墟/火炎/轟音/銃声/閃光/粉塵/兵士の死体/
銃弾に倒れる兵士/燃える故郷/倒壊した通い慣れたスーパー/
戦争犬達/子犬と呼ばれた少年兵/行く手を阻む兵士/地獄へ叩き込まれていく/
手を引く子犬=戦争犬/衝撃/廃屋でとる休息/暴風/キノコ雲/迫りくる工作員達/
幼心に恐怖を植えつける魔の手/安寧をもたらす小さな救いの手/傷を負う少年/
彼に死を与える敵の手/敵に死を与える私の手=魔の手/最後の一人/対峙する女と少年/
突如として私を襲う弾丸/少年の肩が私を突き飛ばしていく/失われる左目/倒れる両者/
血だまりを作った少年の身体/訪れる喪失への恐怖/立ち上がる少年/
その手にはコルトパイソン=ハインさんの形見=御守り/


川;- -) (思い出したくもないが、これが私の心象風景ではないのか?)

爪゚ー゚)「貴女の心に刻まれたものはそれじゃあないのよ」

川;゚ -゚) 「……それ、とは?」

爪゚ー゚)「十年前のカラマロスDNの光景じゃあないわ」

川;゚ -゚) 「何故だ!? 何故私の思い浮かべたものが……」

爪^ー^)「ふふ、これで信じてくれたかしら?」

笑みを作ったジィの言葉に、はっ、とさせられ、

川;゚ -゚) 「まさか、本当にESPが使えるとでも?」

爪゚ー゚)「貴女の心象風景に入り込んだ時点で、気付いてくれると嬉しかったんだけどね」

639 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:33:19 ID:8j7naoAw0

川;゚ -゚) 「信じるしか、ないようだな……。
      ここが心象風景だというのなら、現実の私は今どうなっているんだ?」

爪゚ー゚)「眠っているわ。それはもう、深い眠りに落ちているはずよ。
     夢の中、そう捉えてくれたらわかりやすいかもね」

川;゚ -゚) 「夢……これほど意識がはっきりしていて、
      体感もあるというのに、これが夢だと言うのか?」

爪゚ー゚)「夢でなければ、私達が出会う事もなかったでしょうね。
     私達だからこそ、こうして出会い対話することが出来るの」

爪゚ー゚)「私達の持つそれぞれの世界の中で、こうしてね」

川;゚ -゚) 「"私達"? それぞれの……世界?」

爪゚ー゚)「そう、私達チャネラーの精神の世界。
     こんなこと"人間"には出来ないわ。
     私達の出会いだからこそ、こういうことが出来た」

川;゚ -゚) 「私にはこんなことは出来ない。これは、お前によるものだ」

爪゚ー゚)「確かに私のチャネラーとしての能力というのもあるわ。でも……」

爪゚ー゚)「これほど覚醒しきったチャネラー同士の出会いを、貴女は経験したことがなかった。
     これがチャネラーの"出会い"なのよ? "会話"なのよ?
     目覚ましい覚醒を遂げているのに、貴女はその使い方を知らなさすぎる」

爪゚ー゚)「"人間"という殻を破りきれずにいる、成長した雛。それが貴女」

640 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:34:01 ID:8j7naoAw0

川;゚ -゚) 「これがチャネラーの真の能力だとでも?」

爪゚ー゚)「えぇ、そう。その通り。チャネラーとは本来"チャンネルを繋ぐ者"。
     個々人のチャンネルに個々人が行き来し、
     他者を深く理解し他者との繋がりを繋げられる者、それこそが"チャネラー"」

川;゚ -゚) 「そんな馬鹿な話があるか! そんな物が認められるか!!」     
爪゚ー゚) 「そんな馬鹿な話があるか! そんな物が認められるか!!」

私の言葉が全く同じタイミングで、全く同じニュアンスで、
一寸の狂いなく同時に放たれた。

Σ川;゚ -゚) 「私はそんな物では……なっ!?」
 爪゚ー゚) 「私はそんな物ではない! 」

繋がる言葉を、あまりの驚きに止めてしまうが……。

爪゚ー゚)「私がそんな得体のしれない物の筈があるか。
     私は人間だ、そんな気持ちの悪い生物などではない」
川;- -)(私がそんな得体のしれない物の筈があるか。
     私は人間だ、そんな気持ちの悪い生物などではない)

この女、何故私の言葉を読めた?

次に言おうとしていたことが、思っていたことが、
奴の口から吐き出されていってしまう。

641 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:34:42 ID:8j7naoAw0

……やめてくれ。

爪゚ー゚)「私は人間だ、人間でしかない、人間で充分だ。
     私の"心"に入ってくるな、私の心は私の物だ! 入ってくるなッ!!」
川;- -)(私は人間だ、人間でしかない、人間で充分だ。
     私の"心"に入ってくるな、私の心は私の物だ! 入ってくるなッ!!」

やめ爪゚ー゚)「やめろ……」

川 ゚ -゚) 「ッ!?」

爪゚ー゚)「ドクオ、生きているのか? 死なないでくれ。生きているのなら教えてくれ。
     置いていって欲しくなかった。寂しいよ、一人にしないで。心配だ。
     約束したのに……嘘吐きめ。何故私を避けるような真似をする。置いていくなよ。力強く抱いて……」

川#゚ -゚) 「やめろやめろ! 黙っていろ! 言葉にするな!!」

爪゚ー゚)「……ちょっと意地が悪かったかしら?
     でも、こうやって貴女の想いを理解してあげることも出来る。
     あの高岡ハインリッヒの弟子にも、こんなことが出来たとしたら素敵じゃない?」

川;゚ -゚) 「……」

違う、私はあいつのことを理解した。
あいつも私を理解してくれた。
その上で二人で約束したんだ。

そんな能力など。チャネラーではなくとも……。

642 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:36:08 ID:8j7naoAw0

爪゚ー゚)「貴女は、恐れているだけよ。自分の知らないものが、わからない物が怖いだけ。
     私だって、初めは怖かったわ。でも"あの人"が教えてくれたから、
     あの人を私が理解出来たから今は全く怖くないの」

やはり気持ちが悪い。

身体の内側をこの女の手が隅々まで探っていっているようで、
自分の過去や胸に秘めた想いまでもが覗かれているようだった。

川 ゚ -゚) 「あの人……?」

だが、代わりに僅かではあるがジィの想いが覗けてきて、
"あの人"と呼ぶ者への信頼や親しみが感じ取れてくる。

膨大な記憶が、感情が、情報が私へと流れ込み、その姿までもが――――

jl|   ノ|

……白の長髪に、雪のような肌。


――――彼女の記憶から朧げながらも見えてくる。

血に染まったように赤い瞳孔は世界全体を見透かしているみたいで、
何もかもを"わかってしまった"とでも言いたげな、
とてつもなく高圧的であり澄んでいる。

背丈は私と同じくらいで、その名は……。

643 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:37:14 ID:8j7naoAw0

      「そいつから離れろ!!」


川;゚ -゚) 「はっ!?」

引きずり込まれていた。
この場合そう言う表現が正しいだろう。

爪゚∀゚)「……あら、時間切れかしら?」

私にわざと情報を与え、"あの人"を覗かせて自身のチャンネルに引き込ませた張本人は、
楽しんでいたゲームが終わり、余韻に浸っているような笑みを浮かべてそう言った。
銃弾がその笑顔を吹っ飛ばすと散り散りになった脳が宙を舞う。

遅れてやってきた銃声のほうへと振り返ると、

( A ) 「……」

そこには、かつて私を護った少年兵が、

いや―――――

从 ゚∀从 「そうだよ、だから出ていけ。
      こいつの防衛本能はお前を拒絶する」

少年だと思っていた姿はぐにゃりと歪むと、
黒の短髪を癖のある白のざんばら髪へと変貌させ、
灼熱を想わせる赤き瞳孔をジィへ突きさすかのように向けた。

644 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:38:04 ID:8j7naoAw0

少年兵の師が持っていた形見であり、御守りであったコルトパイソンは今、
本来の持ち主の元へと戻り、右手で保持されてジィを狙う。

硝煙の漂う銃口は次に胴へと狙いを定め、

从 ゚∀从 「消えな、悪夢」

刹那にも満たない間を以って残弾全てを吐き出していった。

速すぎる速射に銃声は重なってほぼ一つにしか聞こえず、
.357マグナム弾の410ft-lbsを誇る破壊力が五発分叩き込まれ、
胴を爆ぜさせ肢体は引き裂かれていった。

バラバラになったジィは底の見えぬ白の世界へと落下していき、やがて見えなくなる。
彼女の身体があった位置には血の球が浮遊していて、
この世界に白以外の色が生まれた。

川;゚ -゚) 「ハイン……さん?」

从 ゚∀从 「よう、クーちゃん。ドクオじゃなくて残念だったか?」

川;゚ -゚) 「いえ……そんなこと……」

从 ゚∀从 「まぁ、当然か。しゃあねぇな」

苦笑を浮かべたハインさんはそっと近寄ってきて、
私の首の後ろに両腕をまわすと胸へと抱き寄せる。

645 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:38:47 ID:8j7naoAw0

川;゚ -゚) 「あ、あの……」

頬に女性らしい豊かな膨らみがあたった。
かと思えばその柔らかみは徐々に失われていき、
たくましい胸板へと変貌していく。

川 ゚ -゚) 「お前……」

この感触には覚えがあった。

たった一度だけ、あの夜だけに味わう事のできた強靭さ。
雄々しく頼りがいのある彼の温もり。

後頭部に当てた手が強く胸へと押しつけていき、
顔を上げることはかなわなかったが、
それだけで私はこの男が誰なのか理解することが出来た。

     「待たせたな……」

川 - -) 「……遅いよ。あまりにも、遅すぎる」

     「すまん」

川 - -) 「だが、お前は必ず私を助けてくれる。
     あの時そうしてくれたように、どんなに遅れたとしても、必ず。
     そうだろう、戦争犬?」

     「残念だが、俺は戦争犬ではない。戦争犬でもあるが、違う」

646 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:39:31 ID:8j7naoAw0

川 ゚ -゚) 「どういうことだ?」

     「ここはどこだと思っている? ここはお前の心象風景。
      深層意識。だから、ここにはお前の自己防衛本能も存在している。
      ジィの進入は和解を目的としたものだが、お前はそれを拒んだ」

川 ゚ -゚) 「自己防衛本能か……お前は、その映し身というわけなんだな」

     「そうだ。本来お前の心の内にあるものだ。
      お前を護る物として心に刻まれた存在。
      どうだ、自分の心を見るなんて、気持ちの悪いものだろ」

川 ゚ -゚) 「あぁ……気味の悪い物だよ」

     「でも、それは間違いなくクーのものだよ。
      ジィの口にしたクーの寂しさや不安は確かにお前自身のものだ。
      "俺"への憤りも、な」

川 ゚ -゚) 「……認めたくないものだな。私は、彼の身を案じているだけだというのに」

     「それもまた事実だ。だがな、人間の心は一筋縄ではないんだよ。
      だから気に病む必要も無いんだよ」

優しい声で、優しい言葉を紡いでいく"彼"は、
更に私の顔を胸板へ強く抱きしめていくと、
頭頂部からうなじへとかけて、ゆっくり撫ぜていく。

その掌からは心地の良い"彼"の温もりが感じられた。

647 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:40:22 ID:8j7naoAw0

が、

川 - -) 「……もういいよ、お前は私の防衛本能にすぎないのだから。
     こうしていることで、自分を慰めるつもりはないよ」

     「これも、自己を護る為に必要な行為ではあると思うんだけどな」

結局この男は私の作り出した物にしかすぎず、私自身だ。
複雑に絡み合い素直クールという人格を形成する一つの心。
こうしていても、結局"彼"が慰めてくれているわけではない。

川 ゚ -゚) 「だが……ありがとう」

離れていく体温が恋しかったが、自分自身を慰めるつもりはない。
だが己の役割を全うした彼に、安らぎをもらったのは確かだ。
だから自分であることはわかっていながらも、礼を述べずにはいられなかった。

从 ゚∀从 「どういたしまして」

力の象徴として最もふさわしいハインさんへ、
"彼"から"彼女"へと変貌したのは、恐らく私を外的刺激から護る為、
当然の行為なのだろう。

从 ゚∀从 「出てくるのが遅れて、すまなかった。
      何か、重要な情報を盗み見られていなりゃればいいが」

川 ゚ -゚) 「ハインさんは、よくやってくれましたよ。
      それに、そう危惧する必要もありません」

648 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:41:40 ID:8j7naoAw0

从 ゚∀从 「酷く、動揺させられていたように見えたがな」

川 ゚ -゚) 「えぇ、それは事実です。ですが……」

言葉を溜め、私は思考を始める。
心を落ち着かせ、記憶を辿り、情報をまとめていく。

从 ゚∀从 「ですが?」

すると、ハインさんの姿をした"私"は、
絶妙なタイミングで問いを投げかけてくれる。

あまりにも完璧すぎる間に、ここが本当に自分の精神世界であることを、
改めて思い知らされた。

川 ゚ー゚) 「得たものも、ありますから」

口を開いた途端、にやけが止められなくなった。
ジィのどこまでが演技で、どこまでが本気だったのかはわからない。

だが、得られたものはたしかにあった。

649 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:42:22 ID:8j7naoAw0

和解とは繋がることである。

ジィが先程のように繋がってきた際、
私の想いや過去を覗けたように、私にも彼女のことが"見えた"のだ。

それは、記憶から"あの人"と呼ばれる者の姿が見えてきたのと同じ原理で、

川 ゚ー゚) 「チャネラーとは何であるのか、その答えを」

この真っ白で虚無な世界は私のその一言と、

从 ゚ー从 「そうだ。その姿勢で良いんだ。
      そのまま走り続けろよ、元少女」

ハインさんの笑みと共に、徐々に色を失い暗転して消えていった。

650 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:43:49 ID:8j7naoAw0

******

6月16日 19時48分――――素直クールの住むアパート


目覚めるとそこは暗闇だった。

つい先ほどまで見ていた世界とは違い、黒に塗り固められている。
次第に暗順応していく目はようやく家具を映しだしていき、
ここが自分の部屋だということがわかった。

時刻を見てみれば、半日近く眠っていたらしい。
しかし頭はやけにすっきりとしていて、のしかかるダルさは解消されていた。

そして高揚感が湧き出てくる。

何かを得たと言う達成感からくる高揚が。

川 ゚ -゚) 「得たぞ、可笑しな体験をしたが、これは確証のある情報だ。
      嘘のような情報の得かただが、とっても納得のいく情報だ」

……お前に話せば冗談だろう、と言われてしまいそうだが。

私がチャネラーであるからこそ確信できる。
そう、チャネラーとは―――――

……カコログ粒子を被爆し望む進化を遂げた者。
カコログ村の住民がカラマロスDNに移送されて、
そのままチャネラーへと成っていったというのなら納得できる。

651 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:44:41 ID:8j7naoAw0

かつて、シャキンと呼ばれた案内所の工作員はこう語っていた。

(` ω ´) 「まず、"チャネラー"と呼ばれる存在から話そう。
        チャネラーという人間がいるのだが、彼等は人間の遺伝情報によって制限された、
        身体能力や知的能力を解放することが出来、
        通常の人間よりも遥かに優れた潜在能力をもつ先天的な優性人種だ」

遺伝子の、人間としてのリミッターを解除する要因。
それがカコログであるのだ。
先天的、というのはカコログに適応出来るか否か、個人差があるということだろう。

何となくそうではないのか、と考えてはいたが、
ジィのESPによる干渉から情報を手にしたことで確信となった。

そしてそれが本当ならば、恐らく……。
恐らくは、ハインさんは人類史上最初のチャネラーなのだろう。

"最強の兵士"と呼ばれたあの女性の存在は、案内所にチャネラーとして認知されていた。
チャネラーの出現は、カコログ鉱山の爆発事故が端を発していたのだ。
こう考えれば全ての辻褄が合う、そんな気がする。

川 ゚ -゚) (母さんに、ヒート叔母さんに、やはり私の両親の出生や出会いについて、
      聞かなくてはならないな。もしどちらかがカコログ村の出身であれば、この推論は結論となる)

忙しくて電話も……いや、軍刀"空海"の製作に没頭してしまった私は、
完全に義理の母へ電話するのを忘れてしまっていたのだ。

たぶん、今しなくてはまた後回しにしてしまう可能性を考慮し、
すぐさまケータイを手に取った。

652 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:45:50 ID:8j7naoAw0

だが、丁度その時着信が入り、画面を見てみると非通知のようであったが、
一先ずボタンを操作して繋いでみると……。

( ゚д゚ ) 『もしもし、ミルナです。お義姉さんですか?』

川 ゚ -゚) 「あぁ、ミルンか……どうした?」

( ゚д゚ ) 『失礼かと思いましたが連絡を取りやすくするために、
      シューから番号を教えて貰いました。急なお電話申し訳ありません』

川 ゚ -゚) 「いや、構わん。それで?」

( ゚д゚ ) 『今お義姉さんの家にお迎えにあがるところです。
      もう5、6分で到着するでしょう。支度をお忘れなく』

ミルナの言葉を聞き、ふと目覚まし時計のほうを見てみると、
もう19時50分を過ぎようとしていた。

川 ゚ -゚) 「……了解だ」

寝癖を直し、顔を洗っておかねば。
目ヤニのついた顔で食事の席につき、シューに恥をかかせたくは無い。
少々焦りを覚えながら応えるとミルナは簡潔に挨拶を済ませ、通話を切った。

切れるや否や、私はすぐさま寝癖直しのスプレーを髪に掛け、
慌ててドライヤーを強にして熱風を浴びせて行き、
洗面所に駆けこむと顔を洗っていく。

先程まで考えていたことは約束の為にうやむやにして、
今は妹とその恋人との会食のことだけに私は意識を向けていた。

653 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:46:34 ID:8j7naoAw0

顔を拭きおえ、いつものスーツに着替えると、
馴れない化粧をするべきか迷っている間にインターフォンが鳴り響く。

川 ゚ -゚) 「……はぁ」

シューに恥をかかせたくない、自分の過去について知りたい。
己の大志と家族を天秤にかけてみても、そう割り切れるものではないのだが、
私の意思は非常に曖昧であるように思えた。

   『今のままの生活はおそらく長くは続かないだろう』

そう言ってドクオの提案である、他国での隠居生活のことを思い返すと、
だから私はあの時即答してやれなかったのだろう、と少し後悔をした。

しかし、それは単に家族のことだけではなく、仕事や、
彼と会えなくなってしまうなど、様々な要因が絡み合った結果の戸惑いであったのだが、
意思が定まっていないことは否定できなかった。

川 ゚ -゚) (定まっていない……? いや……)

自答に対して否定するも、もう考えている時間はない。
玄関のドアに手を掛けると同時に頭を切り替えていく。

そして、

( ゚д゚ ) 「こんばんは、お義姉さん。
      路駐してきてしまったので、少し急いでください」

ドアを開けると、その先に立っていた、
テーラードジャケットに、青いデニムを履いたミルナが口を開く。

654 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:47:18 ID:8j7naoAw0

川 ゚ -゚) 「駐車場ないもんな、やはり少し不便だな」

私は玄関から出るとドアに施錠を施すと、
アパートの敷地外の歩道脇に停められた黒いレバロンへ向かう。

( ゚д゚ ) 「えぇ、お義姉さんは車は買わないのですか?」

川 ゚ -゚) 「一応、学生時代に免許は取ったのだが、今は必要に感じないな」

( ゚д゚ ) 「そうですか。通勤に便利ではありませんか?」

川 ゚ -゚) 「歩いていける。大した距離じゃない上に、普段運転しないから、
      自分で運転するのは少し怖いんだ。会社の所用でたまにするがな」

話している内にレバロンの助手席をミルナが開くと、
搭乗を促すように手を差し出した。

川 ゚ -゚) 「む、シューはどうした?」

( ゚д゚ ) 「シューは先に店へ向かいました。予約を忘れていたとかで、
      席を確保する為に先へ向かうのだと」

川 ゚ -゚) 「そうか。アイツは少しボサっとしているところが昔からあったが、
      今も変わらないんだな」

シートに座るとミルナがドアを閉め、ほどなくして運転席に彼は座る。

655 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:48:10 ID:8j7naoAw0

( ゚д゚ ) 「発車しますよ」

言葉と共にシートが少し震え、エンジンの呻りが耳に届く。

次いでミルナがアクセルを徐々に踏み込んでいくと、ゆっくり車は動き出す。
速度は安全運転で、ハンドルも緩やかに切っており心地良く感じられる。

男性と二人で車に乗るなど滅多になく、ミルナが運転する姿はドクオのそれと重なった。
友人に借りたらしいスポーツ車を乗りこなし、同乗者を安心させるような、
衝撃の少ない運転を彼もしていたのだ。

戦場で鍛えぬかれた故に彼の技術は磨かれた為、
安全運転など彼にとっては容易であったのだろう。

川 ゚ -゚) 「……」

( ゚д゚ ) 「お義姉さん」

川 ゚ -゚) 「ん?」

ふと、感傷に浸っている自分にミルナの声で気付かされた。

( ゚д゚ ) 「運転が怖いなら、誰かに運転して貰えばいいんじゃないですか?」

川 ゚ -゚) 「そんな相手がいるのなら、苦労はしないさ」

レバロンは街中を走っていき、ビルが視界の端へ流れていく。
夜を彩る都会の輝きは、その中にいれば雑多な灯でしかないが、
遠くから眺めるには美しいものに思えるだろう。

656 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:48:51 ID:8j7naoAw0

……アイツと夜景を見るようなロマンを味わってもみたかったな。
ミルナの言葉は私を更に感傷へ浸らせてしまう。

( ゚д゚ ) 「お義姉さん、恋人がいるんじゃ……?」

川 ゚ -゚) 「いや、いないよ。出来てもいないさ」

夜景は徐々に離れて行き、高速道路が目に入ってきた。
街の外れにある、静かな店……か。
シューの選んだ店と言うのは一体どんな店なのだろうか。

( ゚д゚ ) 「良い人がいるとシューから聞いたのですが」

川 ゚ -゚) 「この前、アイツは独り身の私をからかっていただろう?」

( ゚д゚ ) 「あれは貴女に俺を自慢したかったのでしょう……可笑しいな……」

ミルナはハンドルを握りながら小首をかしげてしまう。
何か、合点がいかないことでもあるのだろうか?

川 ゚ -゚) 「何か納得できないのか?」

( ゚д゚ ) 「えぇ、俺は確かに聞いたんですよ」

( ゚д゚ ) 「貴女には"高岡ドクオ"っていう良い人がいるって」

川;゚ -゚) 「……ッ!?」

ドクオの名前を出されて私が戸惑ったその瞬間、
ミルナはジャケットの内ポケットから取り出した銃を向けた。

657 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:50:28 ID:8j7naoAw0

ハンドルは右手で、サプレッサーの付いたハンドガンを左手で構え、
引き金が瞬きの間に倒された。

川;゚ -゚) 「ぐっ……」

咄嗟に身を動かし、致命傷を避けようとするが、
右肩に違和感を覚えそこを覗いてみると、ダーツの矢のようなものが突き刺さっていた。
痛みは何故か無いのだが、そこだけ感覚が鈍くなっている感覚がある。

……毒?……いや……。

( ゚д゚ ) 「安心しろ、そいつは麻酔だ。身体に害はない。
      もっとも半日は眠りこけることになるだろうが……」

川;゚ -゚) 「貴様……」

( ゚д゚ ) 「"鮫島"はお前に尋ねたいことが山ほど出来てしまった。
      もはや猶予はない。同行願うぞ、素直クール」

瞼は重く、身体の感覚は鈍くなっていく。
窓から外を窺い、シートベルトを外してそのまま飛び出そうとするが、
ドアはロックされてしまっていた。

658 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:52:45 ID:8j7naoAw0

車は街からどんどん外れて行き、そのまま高速道路に進もうとしている。
が、観念するにはまだ早い。

川#゚ -゚) 「――――ッ!」

叫びを上げた―――つもりだが、声はでていないのかもしれない。
渾身の力を込めた―――筈だが拳に重みは乗っていないのかもしれない。
しかし、確かに私はミルナに殴りかかる。

朦朧とした意識の中、振るった拳がミルナの左手に弾かれ、
乗りだした身から左の手を繰り出してハンドルを奪おうとするも、
それすら防がれてしまい反撃を左頬に受けた。

川; -) 「ッ!?」

ベルトの外れた身はドアに叩きつけられ、
頭に衝撃を受けたことで意識は更に削り取られてしまう。

( ゚д゚ ) 「――――――」

ミルナが何事か口走ったが、もはや頭に入ってはこない。
残る力を全力で振り絞り、再びミルナへ攻撃を仕掛けようとしても、
身体はもう応えてはくれなかった。

川; -) (すまない、ドクオ……せっかく、お前が護ってくれていたのに……)

こんなことで、そう内心に毒づき、敗北を噛みしめていった。
車はカーブして高速の入り口へ向かおうとしている。

659 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:53:31 ID:8j7naoAw0

( ゚д゚ ) 「……」

ハンドルを切るミルナに表情は無く、片耳を抑えて何か独りごとを呟いていた。

……その途端。

(;゚д゚ ) 「―――――」

車内が揺れた。
いや、回転しているようだ。
閉ざされかけた視界が回り続けている。

車体はスピンし続けていくと何かにぶつかったのか、
一際大きな衝撃に襲われると、

(;゚д゚ ) 「―――――」

危機迫る表情をしたミルナは思いきりアクセルを踏み込むも、
もはやレバロンが動くことは無く、足を離すと同時、
ドアを開いて俊敏な動きで車外へ飛び出していく。

その後、幾度か銃声らしき物が聞こえてきたが、私の身体は限界を迎えたようだ。

瞼が完全に落ちてしまった。物音は何も聞こえなくなり、
状況はどうなっているのか探ろうとしても、五感は遮断されていた。

660 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:54:50 ID:8j7naoAw0

川 - -) 「……」

もはや運を天に任せるのみ。

……願わくば、ドクオに味方する者達であらんことを。

私は敵の手に落ちぬことだけを願い、意識を闇へ落とす。

すると、浮遊感と温もりを得た。

次に感じた物は、

    「待たせたな」

懐かしい声と温もりだった。

待ち望んでいた者に抱き上げられ、私の胸を満たしたのは安堵と幸福だ。
姿を見ることは叶わなかったが、瞳から涙が零れ出てくるのがわかった。

川 ; -;) 「……あぁ」

約束した通り、私はずっと待ち続けていたぞ―――?

それを口に出す事は出来なかったが、彼にしがみつくこの腕が、
私の気持ちを伝えてくれることを願うばかりだ。

661 ◆K8iifs2jk6:2012/04/18(水) 21:57:58 ID:8j7naoAw0

投下遅れて申し訳ありませんでした
タッグバトルとか他にも書いてるものが今あって
実生活も忙しくなってきたので、戦争犬の次の投下はかなり先になりそうです

VIPに代理投下してくださった方、ありがとうございました
他にも、支援してくださった方、待っていてくださった方々にも感謝です

662名も無きAAのようです:2012/04/18(水) 23:57:10 ID:hi383i2g0
おつ
待ってる

663名も無きAAのようです:2012/04/19(木) 17:44:42 ID:uRMLoK7U0
待ってた、乙

665名も無きAAのようです:2014/03/09(日) 22:33:53 ID:8RLOuBzM0
最後のレスが<削除>だと新規でスレッド取得する際にログ破損になっちまうから書き込ませてもらうよ

666名も無きAAのようです:2015/03/28(土) 23:14:09 ID:DZdIFMdk0
わたしまーつーわー


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