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( ^ω^)ヴィップワースのようです
1名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:06:20 ID:zkfwVdHY0

この度、元居た住処での投稿が難しくなってきましたので、この板に引越します。
突然第五話から投下させて頂きますが、あまり気にしないでやって下さい。
過去話見てもイーヨって方は0話(1)〜(5)と、1〜4話、+α(幕間)が↓に

前スレ、( ^ω^)ブーン系小説板からの続きです(第一話〜第五話途中まで)
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/sports/37256/1307375951/

それ以前のスレはこちら↓
タイトル変更しました(過去ログ元:( ^ω^)達は冒険者のようです)
http://jbbs.livedoor.jp/sports/37256/storage/1297974150.html

2名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:09:18 ID:zkfwVdHY0

ヴィップ南西部一帯を覆い包む、広大な森があった。
肥沃な大地に恵まれ、数多くの動植物が生息する”カタンの森”は、
その土地の周辺に住まう人々に様々な恩恵をもたらすものだった。

だが───────時を遡ること、2年前。

「天から落ちてくる星を見た」

森の周辺の住人は、口々にそう呟いたという。

その夜、人々に恩恵をもたらす森は火事となり、赤く燃え広がった。
周辺の人々はすぐに総出でその消化にあたったが、森に残された傷跡は深いものだった。

魔術師学連などから調査員も派遣され、この森に火災が起きた原因も、日が経つにつれ見えてきた。
2年前に空から落ちてきたのは、ようやく”隕石”として断定された。

それが地上へ墜落した時に出来たものか、地表には巨大な衝突地形を形作っていたという。

3名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:10:25 ID:zkfwVdHY0

それが地上へ墜落した時に出来たものか、地表には巨大な衝突地形を形作っていたという。

だが、今や自然はわずか2年という歳月の間に、人々も驚くほどの回復力で瞬く間に緑を取り戻しつつある。
見た目には以前と変わらぬ森だが、少しずつ、少しずつ異変の兆候は起こり始めていた。


魔術師学連らの報告によれば、衝突地形の中心部には、僅かだけ残された隕石の破片があった。
そしてその鉱物の全体には、”小さな苔のようなもの”がびっしりと覆っていたという事だ────


───────────────


──────────


─────

4名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:12:14 ID:zkfwVdHY0

ブーン一向がアルバの村から戻って、三日ほどの月日が流れた。

高額な報酬を得たばかりで、しばらく全員の旅の資金には困らないだろう。
皆の疲れも癒えた今、そろそろ次の旅に出てもよい頃だ。

( ^ω^)「マスター!鳥腿炒め、もう一丁追加だお!」

爪'ー`)y-「親父よぉ、緋桜とかさ……たまに良い酒はねぇのか?」

今日も、”失われた楽園亭”には騒がしい二人の声が響き渡る。
忙しそうにしているマスターは、そのやかましさに時折頭に青筋を立てぴくぴくさせているが。

騎士団からの依頼、不死者の討伐を終えた彼らは旅先でまた新たな仲間を引き連れて戻ってきた。
数日前にこの宿を騒がせた渦中にある人物である、マスターも見覚えのある彼女を。

(´・ω・`)「さて、僕は少し二階で読書でもしてこようかな」

ξ゚⊿゚)ξ「あの、マスター。すいません……騒がしくして」

ツン=デ=レイン。荒々しい男達の姿も多いこの盛り場にあって、彼女の存在は紅一点だ。
ふわりと巻き上げられた金髪に、清楚さをたたえる白の修道服。

5名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:12:58 ID:zkfwVdHY0

彼らと共に旅歩く事を機に、捲らずとも歩けるようにと裾の丈は少しだけ詰めているが、
その清潔感には何ら代わりがなく、かわりに健康的な活発さも見られる。
彼女の容姿に惹かれてか、話し掛けてきたりする者も後を立たず、客引きにも貢献しつつある。

(’e’)「あぁ、いいんだいいんだ……ツンちゃんのせいじゃあねぇからな」

( ^ω^)「マスター?鳥腿……」

(’e’)「だがブーンにフォックス。こやかましいてめーらは駄目だ、少しは他の二人を見習いな」

爪'ー`)y-「そんな事言ったって、ここは酒を飲ます所じゃねーか」

(’e’)「俺はここを一人でふらっと訪れた冒険者が、卓で一人静かにグラスを傾ける―──そんな店を目指してるんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「それはお父さんの昔の夢でしょ? ───今この現状じゃ、もう無理じゃない」

と、横から姿を現したのはマスターの娘であり、また、この楽園亭の看板娘でもあるデレだ。

アルバの村から戻って来た際再びこの宿を訪れたツンは、デレと初めて挨拶を交わしたが、
名前に共通点があるという事から話が膨らみ、少しずつ親交を深めていた。

元々誰に対しても愛想の良いデレと、同姓に対しては気を使うタイプのツンだからか。
今では気の合う友人の一人になりつつあるようだ。

6名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:14:02 ID:zkfwVdHY0

ξ゚⊿゚)ξ「おかえり、買出し終わったの?デレ」

ζ(゚ー゚*ζ「あ……ツン!うん、今日はね、ちょっと遠くの市場まで足を伸ばしたんだ」

ξ゚⊿゚)ξ「そう。何か良い収穫はあった?」

ζ(゚ー゚*ζ「鮮魚が安かったんだ〜、だから今日は魚料理がオススメだよ?」

ξ^ー^)ξ「解った、夕食楽しみにしてる」

2階の寝室、窓際で飽くなき知識の研究に余念が無いショボンは、階下から伝わってくる
彼らの賑やかな声にふぅと鼻を鳴らしつつ、読書に集中しきれないで居た。

だが、そんな彼らとマスター達とのやりとりが大声で聞こえてくる度、笑みが零れる。
窓の外の眼下でヴィップの街中を歩く人たちの姿を眺めながら、ふと思った。

(´・ω・`)(自由の風に吹かれてというのも、案外悪くないものだね)

「早く、本当の自由に────」
ぽつりとそんな欲求が湧き出ては、また次の冒険への意欲も駆り立てられる。

7名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:15:14 ID:zkfwVdHY0

趣味や目的も違えど、なぜだか気の合う仲間たち一緒にいるのは、全員ともが苦には感じなかった。

彼らはきっと意識した事もないだろう。


幾度もの物語を経て、パーティーを結成したばかりの彼らブーン一行の絆。
漆黒の闇の中でこそ試されるその光が、輝きを強めていく為の道程は、まだこれからなのだ。


───────────────


──────────

─────

8名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:16:15 ID:zkfwVdHY0






   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             第5話

          「静寂の深緑」

9名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:17:00 ID:zkfwVdHY0

─────

──────────


───────────────


川 ゚ -゚)「………」

交易都市ヴィップの街中を颯爽と歩くのは、小剣をぶら下げるしなやかな細身の女性。
この界隈ではそれなりには顔の知られた冒険者、”クー=ルクレール”

そこいらの街娘が束になっても適わない彼女の美貌はそのままに、
街中を練り歩く彼女の表情には、陰りが見られた。

だが、それも当然といえば当然か。

完遂した依頼の裏に隠された真実を知る自分達を狙い、暗殺者の襲撃に遭ったばかり。
その最中で旅を共にした仲間とは離れ離れになり、街中を駆けずり回ったにも関わらず、今も行方知れず。

何より、彼女の目の前であっさりと人が人を殺す光景を、目の当たりにしてしまった。
初めて見る訳などではないが、やはり慣れたいなどとは思わないものだ。

10名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:18:13 ID:zkfwVdHY0

男の手口はあまりに手馴れ、そしてそこに何の感情も残さないものだった。
なぜ人はあんな事を出来るのだろうか、結果として自分を助けたのはその男だったが、
それでも有難い事だなどとは到底思わない。

”他人など、やはり信用できるものではない”

幼少の頃植えつけられた心の傷跡は、次第に周囲への疑念として、いつしか自らの心の中で強まっていた。

一応は旅の相棒であった”ギコ=ブレーメン”を探す為、あの後彼女はヴィップ各地で聞き込みを行った。
だが、どうしても行方は知れなかった彼の無事を、今は彼女自身、案じる事しか出来ないのだ。

剣技に関してはどがつく素人だったが、そう簡単に死にそうな男ではなかったと、言い聞かせた。

そうして、彼女はいつもの宿へと戻って来た。
”失われた楽園亭”だ。

この間は何事かの騒動に巻き込まれて店を閉めていたが、今日はいつも通り沢山の人の姿に溢れていた。
店の中央で卓を囲んでいた客の中には、いつもは見ない顔が4人。

11名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:19:13 ID:zkfwVdHY0

ξ゚⊿゚)ξ「そっかぁ、デレはまだヴィップから出た事ないんだ」

異彩を放つのは、修道服を纏う金髪の女性だった。
デレと仲むつまじく話しているが、「なぜこんな所に修道女が?」という疑問が掠める。


「よぉフォックス! …どうだ、今日も賭けカードとしゃれこまねぇか」

爪'ー`)y-「あぁ?またかよ……10戦10敗だってのに、お前さんも懲りないねぇ」

銀の長髪を後ろに結んだ、粗野で軽薄そうな男とも面識がない。
一見すると盗賊風の男だが、本職の彼らと比べてはまるっきり隙だらけに思える。


(´・ω・`)「そうだね。僕も魔術というものに関して造詣は深い方だと思っていたが、
       君の今の発言は、案外その真理へと踏み込んだものかも知れないな」

「わはは!冗談が過ぎらぁ、お前さんはよぉっ」

物静かで落ち着いた物腰の魔術師風の男は、知的なジョークを用いて自分とは対照的に粗野で荒々しい
冒険者の人間達を笑わせていた。数日前にどこかの街で目にした顔のような気がするが、思い出せない。

12名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:20:55 ID:zkfwVdHY0

(;^ω^)「げふぅっ……食べ過ぎて、もう動けないお」

最後に気になったのは、同じ席に着くその三人が外側の卓へ声をかけているのをよそに、
大量の食事を終えて、にやにやと満面の笑みをその顔に貼り付けている、少し体格の良い男だ。

薄汚れた格好をしているが、背に収めた剣は年季の入りようを思わせた。

ζ(゚ー゚*ζ「あっ……クー!この間はどうしてたの?」

川 ゚ -゚)「なに……ちょっとな」

ξ゚⊿゚)ξ「………?」

冒険者同士でパーティーが結成されたのなら、ましてやこのヴィップでクーが知らない訳はなかった。
だが、たまたま偶然が重なって行き違った一人と四人は、これまで面識がなかったのだ。

デレに対して少しそっけない態度で彼らの卓の横を通り過ぎると、クーは一直線にカウンターへと向かう。
一番端に腰掛けて足を組むと、手振りだけで注文。慣れ親しんだマスターは、彼女の好みも熟知しているのだ。

手練の動作でグラスに乳白色の液体を注ぐと、それを差し出すと共に切り出した。

13名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:22:34 ID:zkfwVdHY0

(’e’)「よう………デレが心配してたぞ。なんかあったんじゃないかって、な」

川 ゚ -゚)「話すと少し長くなる。また別の機会にしよう」

「それより」と前置きし、背中越しに彼らが座る卓の方へ一瞥して尋ねた。

川 ゚ -゚)「見ない顔だな、あの4人」

「……あぁ、あいつらな」
皿を荒いながら、一瞬間の抜けた表情をしたマスターが、手を拭いながら答えてくれた。

(’e’)「例のホラ……こないだ話した馬鹿があそこの二人。その仲間が、あの二人さ」

あぁ────忘れていたと、思わず手を叩いて納得した。
例の騎士団につっかかっていった、後先の事を考えない馬鹿な冒険者。

お陰でこの店もまた三日間も営業を差し止められる憂き目にあったのだった。
その事をクーがマスターに指摘するも、彼はさほど気にした風な口ぶりではなかった。

(’e’)「そう気にしちゃあいねぇさ。あれでなかなか悪い奴らじゃない」

14名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:23:41 ID:zkfwVdHY0

川 ゚ -゚)「………ふん」

横目で彼らの騒がしい様子を気にかけながら、鼻を鳴らした。

爪'ー`)y-「なぁ、デレちゃん……俺にもお酌してくれ」

ζ(゚ペ*ζ「お尻を撫で回すような人には、二度としてあげません」

爪;'ー`)y-「すまねぇ、ありゃ事故なんだ……人生最高に飲みが過ぎて、それで……」

ξ゚⊿゚)ξ「へぇ……あんたって、そんな不潔な事する人だったんだ。最低ね」

爪;'ー`)y-「そう言われると、心に来るものがあるぜ……おいブーン、何とか言ってやってくれ」

( ^ω^)「しつこい男はもっと嫌われるお?」

(´・ω・`)「違いない」

談笑をする彼らは、明るく能天気な日々を過ごしたいだけなのだろう。
ただ中身の無い冒険を繰り返し、自由を謳歌出来ればそれで─────

15名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:24:50 ID:zkfwVdHY0

時として大きな名声をもたらす職業であるだけに、目指す者は数知れず。
それでも、確たる目的や志を持たない者、蛮勇を振りかざして無謀を重ねる者など、すぐに消えていく。

もう随分といい歳の冒険者の中には、生活の糧と割り切っているものばかりだ。
彼らは自分達の身の丈を知り、引き際というものの線引きをしっかりと心得ている。
豊富な知識や経験、まだまだ自分などでは到達できない域に立つ者が多い。

だが、若く己の実力を過信する冒険者は、単なるパーティーのお荷物でしかない。
中途半端な気持ちで冒険へ勇み出るのはいいが、そういった彼らは周りを巻き込む。

だからこそ、”仲良しごっこ”のパーティーというものを、クー自身は拒んでいた。

場合によっては同じ依頼に飛びついた者を同行者として伴うが、互いに深入りはしない。
依頼を終えればそこで協力関係は終了。

そして信じるのは、自分だけ。

その彼女の姿には───いつか共に旅歩いた、一人の男が影として重なっている。
孤高の彼を探して、それを心のどこかで目標として、冒険者としてのクーは形作られている。

16名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:26:24 ID:zkfwVdHY0

川 ゚ -゚)「……どうでもいいさ」

そんな彼女だから、群れたがる冒険者達を好ましく思わなかった。
これまでずっと一人でやってきた彼女は、恐らくこれから先も自分の旅を誰かに委ねる事はないだろう。

しかし、なぜだかその彼らの姿に、様々な出来事が乖離しては上手く行かない自分の境遇とを重ねて、対比してしまう。

(’e’)「………なぁ」

普段から感情を面に出す事の少ないクーだが、彼女の態度から浮かない部分を察して、マスターが優しく声を掛けた。

(’e’)「ちっと人里を離れて、たまには雄大な大自然にでも囲まれてきちゃどうだい」

川 ゚ -゚)「?」

(’e’)「これさ」

取り出した一枚の依頼状を、マスターはクーへと手渡す。
それにざっと目を通してみると、内容は実に簡単なものだった。

”カタンの森”から採れる高級な薬草。
それがこのところ、依頼主が営む薬草屋の元へ届かないという。

17名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:28:01 ID:zkfwVdHY0

クーの記憶によれば2年前に大規模な火事が起こった森だったが、
今ではすっかり元の森の姿を取り戻しているらしい。

”薬草の採取”と、調査のために同行する”依頼者の護衛”が依頼内容だった。
もっとも、森の中での脅威と言ったら猛獣や、低級妖魔の類ぐらいのものだろうが。

川 ゚ -゚)「なぜ、私にこれを?」

(’e’)「なぁに、ずっと街に居たら息が詰まっちまうだろ。たまには緑に囲まれて新鮮な空気を吸ってきなよ」

川 ゚ -゚)(報酬50sp+出来高払い……ねぇ)

報酬額の心もとなさにしばし考え込むクーの元に、一人の少女が現れた。

从'ー'从「もしかして……依頼を受けてくれる冒険者の方ですか?」

川 ゚ -゚)「?」

気付けば、可憐でしとやかな一人の少女が、カウンターに掛けるクーの横に立っている。

18名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:29:16 ID:zkfwVdHY0

从'ー'从「あっ……初めまして、私……”サン=ワタナベ”って言います」

それを聞いて手元の依頼状の文末に目を落とすと、彼女が名乗ったのはそこにある依頼人の名だ。
珍しい名から、彼女がヒノモトの出身であろうという事を悟る。

その彼女の顔を見て、マスターは「あぁ」と思い出したように紹介してくれた。

(’e’)「昨日からウチの店に泊り込みで同行者を探しに来てるのよ。依頼者のお嬢さんだ」

川 ゚ -゚)「そうだったか。しかし……まだ決めるとは───」

そう言おうとしたクーの言葉を遮り、彼女は深々とお辞儀をしていた。
再び顔を上げた時には満面の笑みを覗かせ、白い歯を見せながらまくし立てる。

从'ー'从「ありがとうございますっ! ……私、冒険者って粗野な男の人だとばかり思ってたから、
     こんな綺麗で格好良い女性の方が同行してくれるなんて……嬉しいです」

この娘は何を言っているのだろう、と思いながら聞いていたクーだが、
最後の方の言葉に少しばかり頬を赤らめ、気を良くしてしまう。

川 ゚ -゚)「…なっ」

川*゚ -゚)「そ、そんな事もないがな……」

19名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:30:54 ID:zkfwVdHY0

从'ー'从「………それで。申し訳ないんですが、出来るだけ人数が多い方がいいんです」

川 ゚ -゚)「だから、まだ受けるとは──」

从'ー'从「でもでも! ……沢山薬草を持って帰って来られれば、それだけ報酬も多くお支払い出来るんです。
     だからあと4人ぐらい募集してから、カタンの森に向かいたいんですけど……」

川;゚ -゚)(………この娘)

このワタナベという少女はわざとはぐらかしているのか、それとも天然で人の話を聞かないタイプなのか。
会話の主導権を掴ませず、ひらりひらりと避けているという印象をクーに与えた。

从'ー'从「………」

クーが「依頼を受ける」、と折れるまで言葉を覆い被せようというのか、ワタナベは彼女の
次の言葉を、じぃっと上目遣いで瞳を覗き込みながら待っているようだった。

だが、そこへクーにとっていらぬ気を回したのがマスターだ。

(’e’)「4人か……なら、丁度いいのが居るぜ」

从'ー'从「本当ですか?」

20名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:31:10 ID:zrilxPXI0
きたあああああああああああああああああああ

21名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:32:48 ID:zkfwVdHY0

「おぉい、ブーン!」
それぞれに卓で盛り上がる面々に向けて、マスターが声を掛ける。
その声に振り向いたのは、先ほどクーが一瞥くれた冒険者達だ。

( ^ω^)「?」

川;゚ -゚)「お……おい」

席を立つとてくてくとこちらへと歩いてくる男から視線を背けながら、マスターに小声で訴える。
御免だ。あんな連中と組まされるくらいなら、依頼は受けない。

从'ー'从「………?」

しかし、小悪魔のような少女はそんな狼狽するクーの様子に一度だけ首を傾げると、
にこやかな笑みを向けて、投げかけようとしたその言葉を思いとどまらせた。

( ^ω^)「何かお?マスター」

(’e’)「お前さんがたもそろそろサボってないで、依頼にでも行ってきな」

川;゚ -゚)(………)

気が向かないのに、なし崩し的にマスターやこの依頼者の娘に乗せられてしまっている。
静かににこにこと依頼状を読む男の方から「ふむふむ」などと声が聞こえた。

225話全投下まで推定1時間半:2012/01/14(土) 05:33:49 ID:zkfwVdHY0

一人当たり50sp+歩合ならば、人数の多いパーティーならば悪い話ではないだろう。
だが、クーにとってはこんな能天気な新顔の冒険者達と組むのはやはり我慢ならない。

( ^ω^)「”カタンの森”……どんな所かは知らないけど、行ってもいいお?」

从^ー^从「ありがとうございますっ!」

(’e’)「んで……今回の依頼に同行するのがこのクー────」

川;゚ -゚)「勝手に決めてくれるな! ……私は行かないからな」

从'ー'从「えっ?」

川 ゚ -゚)「えっ」

マスターがブーンらにクーを紹介しようとしたところで、彼女の言葉に沈黙が流れる。
やがて、ワタナベという少女は泣き出しそうな表情を浮かべながら行った。

从' -'从「依頼……受けてくれるんじゃなかったんですか……?」

川;゚ -゚)「いや、だからまだ一言も受けるとは……」

( ^ω^)「おっおっ。依頼ならブーン達が引き受けるから、安心してくれお」

(’e’)「そうしてやんな。実家の薬草屋は今回の件で結構な痛手らしいからな」

23名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:34:43 ID:zkfwVdHY0

从'ー'从「ありがとうございます。……でも、あとお一人くらいの手が欲しいんです」

そう言って、ちらりと視線を向けた方向にはクーの顔。
意識的にそれから目を逸らしたが、構わずブーンがワタナベをたしなめる。

( ^ω^)「依頼に対して自信が無かったり、体調が悪かったりする事だってあるお。
       ブーン達は4人のパーティーだけどお、人見知りの人は入りづらいかも知れないお」

川#゚ -゚)ブチンッ

从'ー'从「はぁ……そんなもんでしょうか」

「自信が無いだの、人見知りだの?」

それは、15の時から5年も冒険を重ねてきた自分に対して向けられた言葉か。
このヴィップに居ついてさほど日も浅いであろう新参風情のその言葉に、クーは瞬時に血が昇った。

ついぞ口から飛び出した言葉は、酒盛りしてる全員の視線を集めるのに十分な声量だった。

24名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:35:42 ID:zkfwVdHY0

川#゚ -゚)「私は一向に構わんッ!!」

(;^ω^)ビクゥッ

从'ー'从「……じゃあ、決まりですね?」

川#゚ -゚)「あぁ、どこぞのあほ面を引っさげた冒険者気取りよりかは、お役に立ってやるさ!」

そう言いながら振り返ったクーの顔には怒りの色が浮かんでおり、その鬼の形相にブーンは気圧された。
それと同時に、恐らくは自分に向けられているその怒りの理由に考えあぐねるばかりだ。

(;^ω^)(な、なんでこの人怒ってるんだお……?)

(’e’)「まぁ、仲良くやんな。気張らないようにな、クー」

从'ー'从「よろしくお願いしますっ」

川 ゚ -゚)「………あぁ」

大見得を切った手前、一度出した言葉をひっこめる訳にもいかない。
後悔の念が押し寄せてくる中、グラスを満たす乳白色の液体を一気に飲み干す。

25名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:36:31 ID:zkfwVdHY0

音を立ててカウンターにグラスを叩き付け、余計なおせっかいをしたマスターを睨むが、
静かな笑みをたたえながら、洗い終えた皿を拭いているばかりだ。

(’e’)「お天道さんの下で、ゆっくり羽根でも伸ばしてきたらいいさ」

川 ゚ -゚)(はぁ………)

「やはりこの世はうまくいかぬ事ばかりだ」

クーは己の不運を嘆いては────呪った。


───────────────


──────────


─────

26名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:39:33 ID:zkfwVdHY0

────【カタンの森 道中】────


それから二日と半日、サン=ワタナベという少女の案内の下、冒険者達はカタンの森を目指し歩いていた。

「ブーン=フリオニールだお」

「クー=ルクレールだ」

最初から必要以上に多くを語らないクーに対し、ブーンらはこれまでの道中もどこかぎこちなさを感じていた。
冒険者としては珍しく女性である彼女に歩み寄ろうとしたツンも、そっけなく突き放される。

ξ゚⊿゚)ξ「あの、クー……さん?」

川 ゚ -゚)「なんだ?」

ξ゚⊿゚)ξ「女性の冒険者って、珍しいよね?」

川 ゚ -゚)「そんなに物珍しいか、私が」

ξ;゚⊿゚)ξ「いや、そういう意味じゃなくて……」

27名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:40:17 ID:zkfwVdHY0

川 ゚ -゚)「私には、お前の方がよほど珍しく見えるがな」

下から上までツンの服装をなめ上げてから指差したのは、ツンの衣服。
少しばかり丈を畳んだとは言え、おおよそ冒険をするに相応しいとは言いがたい、動きづらい修道服だ。

ξ゚⊿゚)ξ「……これは」

川 ゚ -゚)「そんな服装で森を探索できるというのか、甚だ疑問だな」

ξ゚⊿゚)ξ「っ………!」

外敵より自分の命を守る術を知らないツンは、この中でただ一人一般人の様な存在だ。

だが、その彼女を守るという使命をフィレンクトより課せられた3人が居てくれる。
その甘えがあったのかも知れないが、それでもツンにとっては────

(´・ω・`)「彼女にとっては、それが正装なんだ」

川 ゚ -゚)「?」

28名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:41:40 ID:zkfwVdHY0

ξ-⊿-)ξ(………ふぅ)

少しばかりかっとなって言い返してしまいそうになっていたツンだったが、
それを見越してか合間に割って入ったショボンの一言に救われ、気は紛れた。

爪'ー`)y-「なぁ、そうつんけんしなさんな」

川 ゚ -゚)「………」

爪'ー`)y-「お互い、今回は仕事仲間なんだ。仲良くやろうぜ」

いつの間にか隣を歩いていたフォックスが、クーに声を掛ける。
端麗ではあるが、軽薄さを醸し出してしまう彼の容姿が気に食わなかったのか。

川 ゚ -゚)「気安い」

爪'ー`)y-「へ?」

川 ゚ -゚)「私は、お前のような手合いは好きじゃない」

爪;'ー`)y-「たはは……手厳しい事で」

あるいは単に虫の居所が悪かっただけなのかも知れないが、彼もまた冷たくあしらわれた。
また、彼女に対して気を回そうとする面々をはっきりと拒絶するように、言い放つ。

29名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:42:40 ID:zkfwVdHY0

川 ゚ -゚)「私とお前達とは仕事仲間。それ以上でも、それ以下でも無い」

(´・ω・`)「………」

ξ゚⊿゚)ξ「………」

爪'ー`)y-(けっ)

間合いに気をつけろ、そういった意味合いの言葉を彼らに掛けた。
ワタナベのすぐ後ろを歩くブーンは、時折背後でのそのやり取りを気にかけて振り向く。

( ^ω^)「………」

从'ー'从(あの、ブーンさん)

( ^ω^)「?」

从'ー'从(何だか、雰囲気悪くないですか? ……私、ちょっと責任を感じてしまって)

少し強引な態度でクーに依頼を受けさせた彼女にも、冒険者同士の空気が伝わったのだろうか。
一抹の責任を感じて、ブーンへと耳打ちする。

30名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:43:52 ID:zkfwVdHY0

( ^ω^)「君が気にする事じゃないお………大丈夫、きっとその内仲良く慣れるお」

从'ー'从(そう……だといいんですけど)

ブーン自身にとっても、こうあって欲しいと願っての言葉。
共に旅を歩く以上、誰であろうとその仲間の事を少しずつでも知っていきたい。

経験においては自分達よりも勝るであろうクーだが、有事の際に自分達の事を
信頼してくれないようでは、対処できるものも出来なくなってしまう。

今は頑なに自分以外を拒絶するような彼女だが、帰りの道程の時には互いに笑い会えるような───
そうあれば良いという、ブーンによる希望的な観測だ。

从'ー'从「あっ───見えて来ましたよ」

( ^ω^)「おっおっ、着いたのかお?」

なだらかな上り坂の頂点を折り返すと、眼下には広く深い森が姿を現した。
聞いていた話では2年前に一度延焼してしまったという事だが、見る限りでは緑深く、
そんな事があったとは思わせない程の自然が群生している。

この分なら、野生の動物なども多く生息しているだろう。

31名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:44:53 ID:zkfwVdHY0

从'ー'从「森の近くに私の叔父の山小屋があるんです。まずはそこで休みませんか?」

ξ゚⊿゚)ξ「賛成……ちょっと、疲れちゃった」


───────────────


──────────


─────

32やっぱ正義ヒーローは熱いよなぁ:2012/01/14(土) 05:46:01 ID:zkfwVdHY0

─────【カタンの森前 山小屋】─────


从'ー'从「こんにちは」

「おぉ、サン!」

入るなり、久しぶりに出会う姪っ子の姿に喜びを露にするのは、彼女の叔父だ。
ぞろぞろと続いてくるブーン達冒険者の姿には驚いたようだったが。

( ^ω^)「お邪魔しますお」

「あんたたちは………?」

从'ー'从「叔父さん。私達、カタンの森の薬草を採りに来たんです」

彼女がそう告げると、「そうかそうか」と言いながら全員を奥へと招き入れてくれた。
全員が用意されていた椅子へと腰掛けると、空いていた一脚へ彼もまた腰を下ろす。

33「歩く」はもうなんか号泣:2012/01/14(土) 05:47:23 ID:zkfwVdHY0

「折角ここまで来たのにこんな事は言いたくないんだが……止した方がいい」

从'ー'从「え?」

その彼が姪へと告げたのは、意外な一言だった。

これまでの道中の労を労って「気をつけてな」と、心配の言葉でも掛けてから
送り出してくれるものだとばかり思っていたワタナベと同様に、冒険者らも一寸顔をしかめる。

「ここ数ヶ月、森に入った人間が立て続けに失踪してるんだ……あの森には、行かない方がいい」

( ^ω^)「………どういう、事ですかお?」

そう尋ねるブーンに対し、叔父はぽつりぽつり、神妙な面持ちで語ってくれた。
聞けば、あの森には今何らかの異変が起きているというのだ。

”森に入って失踪する”などといった事は、普通でもそう珍しい事ではない。

同じような景色ばかりが続く森の中で帰り道を見失い、遭難して彷徨う者は各地でいるだろう。
だが、その遭難者がここ数ヶ月、群を抜いてこの森で頻発しているというのだ。

例年と比べても、それは異様なほどの数だという。

34名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:48:23 ID:zkfwVdHY0

爪'ー`)y-「何か獣でも住み着いたんじゃねえか?」

「それは、森周辺に住む我々も考えたよ……」

実際に森の周辺の住人達の中から力のある者を選りすぐって、カタンの森内を捜索したのだという。
だが、野生動物が生息しているような痕跡は見られなかったらしい。

その数週間前には、魔術師学連の調査員達が再度この森を訪れている。
2年前に森へ墜落した隕石の調査を行っていた先遣隊、それからの伝書が途絶えた為に訪れたらしい。

(´・ω・`)「で───その調査員達とやらは?」

「………」

ショボンの問いかけに、ワタナベの叔父はゆっくりと首を左右に振った。
”見つからなかった”か”死んでいた”のどちらかであろうが、語る気力も無いと言った風だった。

恐らくは、この森周辺の住人達はそれに預かる恩恵によって暮らしている。
森へ立ち入る事が難しくなった事により、彼ら自身日々の生活にも頭を悩ましている事だろう。

35名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:49:19 ID:zkfwVdHY0

川 ゚ -゚)「やれやれ……では、依頼はどうなる?」

「わざわざ冒険者であるあんたらを雇ってここまで来たんだ……サンので足りない分は、私も出すよ」

从'ー'从「そんな……」

実家で薬草屋を営む彼女にとっては、実に痛烈な事実だ。

利益にも大きく関わってくるここの薬草を採れないのであれば、ここまで来た意味が無い。
大きく肩を落とす彼女の姿を冒険者達が見守る中、叔父が優しく声を掛けた。

「今夜一晩はウチに泊まって行ったらいい、勿論、冒険者さん達もな」

( ^ω^)「………お言葉に甘えさせてもらいますお」

気落ちする彼女には申し訳なかったが、どうやらそうするしかないらしい。
ブーン自身、森に生じている異変が果たしてどういうものなのか気にはなるが。

从'ー'从「すいませんでした……皆さん」

36名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:50:28 ID:zkfwVdHY0

ξ゚⊿゚)ξ「気にしないで。危険な目に遭うかも知れないなら、しょうがないわよ」

叔父の話を聞く内、気落ちするワタナベには悪いが、森へは行かないという事に合意した。
今日一日はここに泊めてもらい、明日一番でヴィップへと発とう。

そう決めてからは、面々は荷物を下ろして思い思いの時間を過ごした。

その日の晩は─────ワタナベと、その叔父が作ってくれた取れたての山菜料理に舌鼓を打った。

───────────────

──────────


─────


早朝、ブーン達の寝静まる部屋の扉を叩く音があった。

37名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:51:41 ID:zkfwVdHY0

その音にいち早く気付いたのは、昨晩全員の中で誰よりも早く睡眠をとったブーンだ。
寝ぼけた眼を擦りながら扉の向こうに声を掛けると、どうやらワタナベだ。

( ^ω^)「ん……どうしたお?こんな朝早くに」

从'ー'从「すいません、だけど……どうしても頼みたい事があって」

( ^ω^)「………」

ブーンのものと比べてはとても小さなその顔は、真剣そのものだった。
この時、その頼みごとというものに対し、恐らくは───と察しがついていたのだが。

从'ー'从「私、やっぱりあの森に行ってみたいんです。お願いします……報酬はきちんと────」

( ^ω^)「やっぱり、そうかお」

从'ー'从「え?」

38名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:53:08 ID:zkfwVdHY0

( ^ω^)「実は、ブーン達も森で何が起きているのか気にはなっていたんだお。
       だから、これはブーン達の為でもあるお」

从'ー'从「……っていう事は」

( ^ω^)「叔父さんには内緒にしておいた方がいいお。だけど、ブーン達には妖魔なんかから
       身を守る術もある……だから、森の中での君の安全は保障させてもらうお」

从'ー'从「ありがとうございますっ!」

( ^ω^)「皆が起きたら、ブーンから話しておくお」

結局の所、己の知的好奇心と、肩を落とす薬草屋の少女の姿に流されてしまった。
クーがどう言うかは解らなかったが、再び日が昇ったらカタンの森へ行く事を決めたのだった。

この緑深き場所にあって────やがて朝を告げる鳥達の歌は、何故だか聞こえなかったが。

───────────────


──────────

─────

39名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:55:51 ID:zkfwVdHY0

ワタナベとの約束通り、ブーンは部屋に戻ると陽も登らない内に、すでに目を覚ましていた面々に伝えた。
森に起きている異変には危険が潜んでいる事は間違いないが、自分もまた好奇心が勝ってしまっていると。

川 ゚ -゚)「私はどちらでもかまわん。元々乗り気ではなかった依頼だからな」

( ^ω^)「そうかお」

意外にも、今回同行したクーの方が調査に対して乗り気のように思われた。
三日近くの道程を経て仕事が頓挫するよりかは、多少の危険を承知で満額の報酬を受け取る事を選んだのだろう。

川 ゚ -゚)「だが、森に危険が潜んでいると解った以上、予定通り行うならば成功報酬についての交渉は行うべきだ」

( ^ω^)「交渉……吊り上げるって事かお?」

川 ゚ -゚)「当然だ。お前達だって、善意や施しのつもりで依頼をこなしている訳でもないだろう?
     予期せぬ危険が待ち受けているのならば、相応の報酬を受け取る権利がある」

( ^ω^)「なるほど、そういうものなのかお」

爪'ー`)y-「先輩冒険者の意見にも一理あるぜ。盗賊だって、伊達や酔狂だけでやっていける程甘くはねぇ」

40名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:56:49 ID:zkfwVdHY0

仲間たちもまた彼女の言葉を聞きながら頷き、納得している様子だ。
手引書には載ってなかった事柄だが、一人前の冒険者からすれば場面場面で臨機応変に立ち回り、
ある意味では”ずるさ”のようなものも身に着けていかねばいけないものらしい。

彼女自身の態度からは自分達を快く思っていないのを感じるブーンだったが、
こうした細かな配慮からは彼女には自分が見習うべき点が多いのだと感じていた。

ξ゚⊿゚)ξ「私は、皆の判断に従うわ」

(´・ω・`)「僕自身、学連の調査団が訪れたという事から、個人的な興味もある」

爪'ー`)y-「俺が居れば森で道に迷う事は……まぁないだろうさ。その点だけは保障する」

仲間にするならば、心強い面々が目の前にいる。
ゴブリン洞窟で孤独な戦いを強いられた初依頼の時には精神的にも追い詰められていたが、
彼らが一緒ならばゆとりを持って依頼に臨む事が出来るだろう。

気がつけば、いつの間にかブーンに主導権は委ねられていたようだった。

( ^ω^)「依頼者たっての希望でもあるからお、ね」

全員が起床して各員の出立の準備が整ったのを見計ったか、コンコンと部屋のドアが叩かれる。
ドアの向こうで、幼さを残した透き通るような声が響いた。

41名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 05:59:46 ID:zkfwVdHY0

「おはようございます」

ブーンが扉を開けると、変わらず穏やかな表情のワタナベがそこに居た。
その姿を目にするや、腕を組んで椅子に腰掛けていたクーがブーンと彼女との間に割って入る。

川 ゚ -゚)「異変が起きていると解っている森に入る以上、報酬には色を付けてくれるんだろうな?」

从'ー'从「あ……」

まだ10代も中頃といった少女に、クーはぐっと詰め寄る。
女性ながら、彼女に強く当たられれば、並の男でもたじろぐかも知れない。

そう危惧したブーンだったが、ワタナベはそのクーに言葉を返す。

从'ー'从「……という事は、皆さん薬草採りに付き合って下さるという事ですか?」

川 ゚ -゚)「報酬次第ではな」

从'ー'从「それなら、一人頭100sp……そうですね、計500spでどうでしょうか」

川 ゚ -゚)「………ふむ」

从'ー'从「どうでしょう……?」

42名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:00:37 ID:zkfwVdHY0

たかだか薬草採りの依頼で500sp、普通に考えるならば破格だ。
勿論それも頭数が居る分、より多くの採取が望めるからであろうが。

おずおずと室内の冒険者達の顔を見渡すワタナベだが、当初の倍額となった報酬には皆納得の様子だ。

爪'ー`)y-「異論はねぇ、ブーン。お前はどうだ?」

( ^ω^)「悪くないと思うお?」

川 ゚ -゚)「決まりだな。世話になったお前の叔父には、なんて告げるつもりだ?」

从'ー'从「……街へと帰る素振りを見せて、黙っていきましょう」

ξ゚⊿゚)ξ「いいの……?あなたの親戚の方、すごく心配してたけど」

从'ー'从「私だって背に腹は代えられません。ここまで来た以上、意地でもカタンの薬草を摘んで帰らないと」

どうやら、ワタナベの意思は固いようだ。
もしブーン達がワタナベとともに森へ向かうと知れば、引き止められるかも知れない。
その事実を隠してまで向かうという事は、実家の薬草屋もなかなかに逼迫した台所事情なのであろう。

43名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:02:31 ID:zkfwVdHY0

年端もいかぬ少女の口からいらぬ多くを語らせる前に、ブーンが皆に告げた。

( ^ω^)「今の森には何が起きてるかわからないお……十分に用心するお、皆?」

これにて、森行きの話は───────まとまった。


──────────────────

────────────


──────


从'ー'从「叔父さん、ありがとうございました」

「サン……それに皆さんも、気をつけてな!」

森と街への分岐路、そこへ行くまでに見送ってくれていたワタナベの叔父の姿は見えなくなった。
自分の身を案じる叔父に嘘をつきながらも、少女がそれを重荷にしている風でもなかった。

あと四半刻もこの道を進めば、カタンの森だ。
そして、冒険者達の仕事はここからようやく本番を迎える。

44名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:03:40 ID:zkfwVdHY0

(´・ω・`)「この広大な森だ……獣の一匹や二匹、歩いていても簡単に出くわすとも思えない」

ショボンの言葉に、ほぼ全員が頷いた。
獣や妖魔の類、そういったものとはまた異質な何かが、この森にはあるのだろうか。

自身の気を引き締める意味もあるのだろう、ブーンがワタナベに声を掛ける。

( ^ω^)「ブーン達は君に危険が及びそうな時、出来る限り守るつもりだけど……
       もしかしたら、それでも守りきれない時もあるかも知れないお」

从'ー'从「はい」

( ^ω^)「だから、もしそんな時が来たら依頼者の君だけでも……逃げるんだお?」

そんな会話を交わしているうち、森を飾り立てる木々は一段と多さを増していった。
─────どうやらこの辺りが唯一、人の手の入った入り口のような場所らしい。

そこで一旦は立ち止まった一同だったが、またすぐに何事も無い風に歩き始めた。

爪'ー`)y-「……ふぅん」

下を向いて歩きながら、そこらの地面を見渡しているフォックス。
ツンが怪訝な視線を投げかけていたのに気付き、彼女に説明する。

45名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:06:37 ID:zkfwVdHY0

爪'ー`)y-「どうやらここ一日二日の間に、先客が来てるようだぜ?」

川 ゚ -゚)「……分かるのか?」

爪'ー`)y-「あぁ、恐らくは二人組ぐらいだろうよ。僅かだが、足跡が森の中に続いてる」

(;^ω^)「ブーンには見えないお?」

爪'ー`)y-「まぁな、固い土だ。すぐに風にさらされて、見た目にはまっさらになっちまう……だが、間違いねぇ」

ξ゚⊿゚)ξ「へぇ、なんかアンタが言うと疑わしいけど……森の中でその人達に出くわしたら、
      注意を呼びかけてあげたほうが良いわね」

(´・ω・`)「その彼らが、生きていてくれればいいんだけどね」

ぞっとしない話だ。少し戻れば人里だというのに、自ら望んで森に入りわざわざ野宿をする人間も珍しい。
まして、フォックスが足跡を辿った感じでは帰り道にはそれが向いていないというのだ。

一日も二日も森に篭るなど、武芸の修行に身を置く者でもなければあり得ない話だろう。

46名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:07:39 ID:zkfwVdHY0

少女に先導されるまま、面々はその背後で常に気を張りながら森道を歩み続ける。
左右に木々が立ち並ぶだけの景色を抜けると、やがて彼らの視界には鮮やかな青が飛び込んで来た。

从'ー'从「この森は、中央にとても大きな湖があるんです」

そう話す彼女が指差した先には、陽光を浴びて煌く広大な湖が確かに見える。
緑に囲まれた森の中央、対岸にかすかに見える小屋の近くには、木船が浮かんでいるようだ。

この光景だけを見れば、とても穏やかな時間が流れているようなこの場所。
冒険者らにも、森の中に危険が潜んでいるかも知れないなどという様子は、微塵も感じられなかった。

森は─────とても静かだった。
そこらに寝転がって目を閉じれば、風にさらされてざわめく木々の音に、まどろんでしまいそうになる。

( ^ω^)「ここらで昼寝したら、気持ち良さそうだお」

ξ゚⊿゚)ξ「緊張感に欠けるわね……」

( ^ω^)「余裕があると言って欲しいお」

ブーンにそう苦言を漏らすツンの表情も、心なしか森に立ち入る以前より弛緩したように見える。

47名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:08:27 ID:zkfwVdHY0

実際に森に立ち入ってみて、全員が肩透かしを食らった印象だ。
この視界の開けた森の中で遭難者が続出しているという理由に、全く思い当たらないのだ。

从'ー'从「なんだか、気が抜けちゃいましたね?」

ワタナベの言葉通りかも知れない。
特に障害が立ちふさがるでもなく、一同の前には何の障害も現れず、どんどんと森の奥へと進んでゆく。

ふとクーは、”たまには自然に囲まれて新鮮な空気を吸って来い”などと言って自分を今回の依頼に
送り出したマスターの言葉を思い出すと共に、肩をすくめていた。

子供のお使いのような依頼ではあるが、都会育ちの彼女には確かにマスターの言うように良い気分転換になっていた。
最近自分の前で起きた嫌な出来事が少しばかり薄らいで行くのを感じ、言葉を口にする。

川 ゚ -゚)「どうやら、杞憂だったな」

そう呟く彼女の後ろでは、フォックスが周囲をつぶさに見渡している。

爪'ー`)y-(どうかねぇ……)

目印となる木などの自然物の配置や造形を眺めては、周囲の景色を頭に叩き込んでいるのだ。

48名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:09:13 ID:zkfwVdHY0

昼前で陽光が差し込む今ならば道に迷い遭難の憂き目に遭う事はおよそ縁遠い事ではあるが、
これが夕刻となれば、周辺の景色はがらりと色を変える。

何の事は無い岐路であっても、緑深い場所にあっては人の身の感覚などそれほど頼りにならないのだ。
それは暗さを増すにつれ、あるいは森の意思であるかのように旅人の感覚をミスリードへと誘う。

万が一の時が訪れないように。はたまたそれがやってきた時にも対応出来るよう、フォックスは
盗賊としての目利きを生かしてリスクブレイカーとしての役割を人知れず務めていた。

从'ー'从「なんだか、すんなり過ぎて怖いですね」

( ^ω^)「いつ何が起こるか解らないお、警戒だけは……」

川 ゚ -゚)「………ッ」

”がさっ”

言葉を言い掛けたブーンの左手の茂みが、一瞬ざわめいた気がした。
そしてそれは、決して彼だけの思い過ごしではなかったようだ。

从;'ー'从「えっ?」

爪'ー`)(………)

49名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:10:12 ID:zkfwVdHY0

ワタナベが突然歩みを止めた彼らの様子に振り返ると、全員が既に茂みの方へと身構えていた。
フォックスが口元を指で押さえて「声を出すな」と全員に合図する。

( ^ω^)(………何が、出るかお)

背の剣の柄に手をかけながら、茂みの奥からこちらへ近づいてこようとする気配に神経を研ぎ澄ます。
最初、風にさざめく程度だった音は次第に大きくなり、奥の方の木々を揺らしながら向かって来ているのだ。

ξ;゚⊿゚)ξ「な、何なのよ……?」

(´・ω・`)「僕らの背後へ」

从;'ー'从「は、はいっ」

こちらの声が聞こえたか、音の主の動きは一段と激しくなったようだ。

どうやら、それも複数。

(;^ω^)(────来るっ!)

鞘から刀身の七分程を抜き出していたブーンは、それを完全に抜き去ると上段に構えた。
茂みを抜けて飛び掛ってきたそこに、一瞬で振り下ろせるように。

50名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:11:25 ID:zkfwVdHY0

やがて、その"何か"が勢い良くこちら側へ飛び出してきたのをしっかりと確認する余裕も無く、
そのまま剣を振り下ろす──────そう、思った瞬間だった。

皿のようにひん剥かれた眼と、視線が合った。
それとほぼ同時に、ブーンの背後でクーが大声で叫んでくれたお陰であったかも知れない。

川#゚ -゚)「─────止せッ!!」

(; °ω°)「お……おぉッ!?」

「な、な、なんでぇッ!?」

どうにか、すんでの所で振り下ろしかけた剣の勢いを止める事が出来た。
ブーン自身もそうだが、相手の"人間"の驚き方たるや、凄まじい狼狽ぶりだった。

なにしろ、人の声を聞きつけて急ぎ茂みを抜けたところに、長剣を振り下ろそうとした男が
大上段で自分の頭を狙い済ましていたのだから。

爪'ー`)「どうやら、あんたらか」

森の入り口付近でフォックスが観察していた足跡の主は、どうやら見つかった。
この───目の前で尻餅を付いて驚きに竦んでいる、二人組の冒険者風の男達のようだ。

51名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:12:11 ID:zkfwVdHY0

───────────────


──────────


─────


「俺が、ラッツ。んで、こっちがボアードってんだ」

(;^ω^)「ブーンだお。さっきはその……すまなかったお」

互いに冒険者だと分かると、そこからはこれまでのいきさつを説明した。

ブーン達が薬草採りにこの場所を訪れたように、木こりの傍ら冒険者をしているボアードは、
盗賊風の男ラッツを引き連れて、カタンの森の質の良い木材を採取に来たのだという。

「いやぁ、参ったぜ。昨晩はこの物寂しい森で野宿する事になってよ、俺が焚き火をしようと
 したら……”山火事になったら大変だからやめとけ”なんてこいつに止められたのさ」

「俺は暗所が落ち着くのさ……昨日ここに着いた時には、もう夕刻でな。
 丈夫な樫の木の群生地を確認するだけにして、仕事は翌日の今日やる事にしたのさ」

爪'ー`)y-「んで、成果とやらは?」

52名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:13:24 ID:zkfwVdHY0

「それがな……俺とした事が、何度も来た森だってぇのに道に迷っちまったんだ」

「俺だって、迷うはずはねぇと思ったさ」

体格の良いボアードに同行する、蛇のように鋭い目をした男も言った。
そのラッツを見て、フォックスは一目で盗賊家業だという事が分かる。

洞察力などに長けていなければ務まらない職業だというのに、あろう事か森の出口すら見失ったというのだ。

「んで、お前さんがたはどっちから来たんだ?」

川 ゚ -゚)「一目で分かるほどの一本道だと思うのだがな……あっちだ」

そう言って、今しがた自分達が歩いて来た道を指差すクー。
だが、ボアードは困惑の表情を浮かべながら、首を傾げる。

「……っかしいな、さっきもこの辺りを通ったと思ったんだが、こんなに拓けた道じゃなかったはずだけどな……」

「………」

傍らで沈黙を守るラッツの表情にも、どうやらボアードと同じ疑問が浮かんでいるようだった。

53名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:14:19 ID:zkfwVdHY0

川 ゚ -゚)「ふぅ……」

( ^ω^)「じゃあ、そろそろブーン達は行くお」

彼らの様子に肩をすくめたクーの仕草を合図に、二人の冒険者に別れを告げる事にした。

「おう、色々すまんな。出口の場所も分かった事だし……俺たちも昨日確認した樫を切って帰るさ」

ξ゚ー゚)ξ「気をつけてね」

挨拶も程ほどに、きょとんとしていたワタナベに声を掛け、再び先導を頼んだ。

从'ー'从「私、突然何が起きたのかとびっくりしました……」

(;^ω^)「ブーンも驚いたお」

ξ゚⊿゚)ξ「ホント早とちりなのよ……大体あんたは────」

先ほどの出来事をツンに突っ込まれながら、ブーンがばつが悪そうに後ろ頭をさすっていた。

一端の冒険者でも無い修道女が、同じ稼業に身を置く者を罵倒している光景───
彼女にとっては、それが恐らく自分の事のように感じられたのだ。

それは、かつてから今に置いても憧れている人物がただ単に冒険者だったから、という理由なのかも知れないが。

54名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:15:18 ID:zkfwVdHY0

川 ゚ -゚)「どうだかな」

ξ゚⊿゚)ξ「────え?」

尚も言葉でブーンを攻め立てようとしたツンの言葉は、クーに遮られる。

川 ゚ -゚)「さっきは私が瞬時に相手が人だと見抜いて止めさせる事が出来た」

ξ゚⊿゚)ξ「……ええ」

川 ゚ -゚)「だが、もし仮にあの時飛び出してきたのが強力な妖魔だったら、お前はどうしていた?」

ξ゚⊿゚)ξ「どうって……何が?」

川 ゚ -゚)「そいつが剣を振り切れなかった時、お前の中に……勢いのままに襲い掛かってくる
     強力な妖魔と対峙するような覚悟はあったか?」

ξ;゚⊿゚)ξ「な、無いわよ!私には戦う力なんて……」

川 ゚ -゚)「なら、お飾りはお飾りらしくしていればいい」

ξ#゚⊿゚)ξ(………かっちーん)

55魔法道具面白いです:2012/01/14(土) 06:16:26 ID:zkfwVdHY0

川 ゚ -゚)「制止が間に合わず、あのまま冒険者の男の一人を斬り殺してしまっていたとしても、
     私には仕方の無い───合理的な判断だと思えるんだがな」

ξ゚⊿゚)ξ

川 ゚ -゚)「仲間を危険に晒すぐらいならば、時としてそういった切り捨ての判断も必要なのさ。
     ――――ま、所詮男の庇護を頼りにするだけのお嬢さんには、わからんだろうがな」

ξ゚⊿゚)ξ「何よ……あんたの言い方」

川 ゚ -゚)「………」

にらみ合う、女が二人。
猛獣をも怖気づかせてしまいそうなほどの雰囲気が二人の間を取り巻き、足を止めて睨み合いを始めた。

どうやら、クーのきつい言葉にさしものツンも相当頭に来ているようだ。
自分よりも頭一つ近くは身長も体格も良いクーに対し、一歩も引く様子を見せない。

爪;'ー`)y-(お、おいブーン……このままじゃ進めねぇ。後ろの二人なんとかしろ)

(;^ω^)(……それだけは、無理な相談だお)

(´・ω・`)(危うきには近寄らず……それが最善だと思うけどね)

56魔法道具面白いです:2012/01/14(土) 06:17:34 ID:zkfwVdHY0

男どもは震えているか気配を殺してやり過ごすばかりで、二人の間に介入する勇気など毛頭無かった。
だが、そこへ天からの助け舟を出してくれたのが、先頭を歩く少女の一声だ。

从'ー'从「あった……あの断崖の前に咲いているのが、"カタンの薬草"です!」

そこで初めてワタナベは年頃に合ったような明るい笑みを浮かべたかと思えば、小さく飛び跳ねる。
走っていく彼女の背中を追いかけるべく、背後でにらみ合う女性陣にブーンが消え入りそうな声で小さく促した。

(;^ω^)「ふ、二人共?や、薬草も見つかったみたいだし、その辺にしとくお……」

ξ゚⊿゚)ξ「はんッ………ほら、見つかったってさ?」

川 ゚ -゚)「………ふんッ」

辛うじて届いたブーンの声に応じて、二人はあからさまに不機嫌な表情で鼻を鳴らし、
互いに勢い良く視線を背けると、面倒臭そうにゆっくりと歩き出した。

いつの時代も女というものは強く、怖いものだ。
それを改めて実感しながら、一同はほっと胸を撫で下ろす。

57名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:18:31 ID:zkfwVdHY0

爪;'ー`)(……相性最悪だな、あの二人)

(´・ω・`)(あまり刺激しない方が身の為だよ?)

(;^ω^)(本当、心臓に悪いお………)

──────────────────


────────────

──────


从'ー'从「皆さん、ありがとうございますっ!」

一通り採取を終えた頃には、全員の麻袋には一杯に薬草が詰まっていた。
一般に出回る際には高級な薬草であるこれを加工すれば、様々な病にも効力のある薬も取り出せるのだ。
これほどの採取が出来れば、恐らくは困窮しているであろう彼女の家業には大助かりだ。

( ^ω^)「礼には及ばないお、当初の予定通りの依頼だからおね」

58仕事までに投下終わんない:2012/01/14(土) 06:19:39 ID:zkfwVdHY0

喜びを露にするワタナベだが、街に帰るまでは気が抜けない。
同行する依頼人をしっかりと護衛してやることも、今回の依頼には含まれているようなものだ。

爪'ー`)y-「随分と楽な依頼だったな」

ξ゚⊿゚)ξ「………まぁね」

川 ゚ -゚)「お前は居るだけだし、な」

ξ゚⊿゚)ξ「はぁ?……あんただって、別に大して仕事してる訳でもないじゃない」

(;^ω^)「ちょ、ツン……落ち着いて!ストップ、ストップ!」

依頼を終えたばかりだというのに敵意の篭った眼差しを向け合い、再び小競り合いを始める二人。
制止するブーンも神経をすり減らし、次第に手を揉みながらごまをするような格好になっていた。

そこへ、極力刺激しないようにと発言を控えていたショボンが言葉を発した。

59仕事までに投下終わんない:2012/01/14(土) 06:20:48 ID:zkfwVdHY0

(´・ω・`)「お嬢さん、あの小船が停泊している小屋には、誰かが滞在していたのかい?」

両手一杯に薬草を抱えて、それを嬉々として麻袋に詰めている少女の後姿に言葉を投げかけた。
そのショボンの指先が向く方向には、確かに木造の小屋の屋根が遠くに見える。

从'ー'从「あ、はい。何でも以前この森に調査に訪れた人達が使っていたみたいで」

(´・ω・`)「確かに滞在を続けて調査するならば、船で湖を対岸に渡った方が早いか……」

魔術師学連の調査団が訪れたというこの森には、何があるのか。
そして、その調査結果は上がっているのか、ショボンにはその点が気になっていた。

一度好奇心が沸けば、それを自分の目で見るまでは気になってしようがないという性分、
それはどうやらブーン達とも同じで、冒険者としてよくあるタイプの性格なのだろう。

(´・ω・`)「ちょっと確認してみたい事があるんだ。あの小屋に行ってきて構わないかな?」

( ^ω^)「まぁ採るものも採ったし、ブーン達はかまわないけどお……」

60仕事までに投下終わんない:2012/01/14(土) 06:21:38 ID:zkfwVdHY0

そう言って、クーの方へと振り向くブーン。
彼から向けられていた視線から言わんとしていた事を察知すると、短くクーが言い放った。

川 ゚ -゚)「私は構わん。だが、手短に頼むぞ」

(´・ω・`)「すまない、すぐに戻るよ」

爪'ー`)y-「それまで俺たちは、のどかな緑に囲まれて一服とでも洒落込みますか」

ブーン達に踵を返すと、盛り中央の湖のほとりにひっそりと佇む小屋へ、ショボンは一人消えていった。


───────────────

──────────


─────

61名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:22:43 ID:zkfwVdHY0

さほど古びてもいない小屋だ。恐らくつい最近まで人の出入りが多かったのだろう。

そこら中一面には書物や羊皮紙が投げ出され、乱雑な印象を受けた。
それも、何らかの聞きから逃れるために泡を食って飛び出した、というのなら頷けるが。

(´・ω・`)(これか……)

数冊の書物にまぎれて、そっけない室内の卓上に置かれた調査報告書らしきものを手に取る。
どうやら、この森に留まり何らかの経過を観察していた学連の諜報員の、手記だ。

ぱらぱらとページをめくっては、近い日付のものを探した。

(´・ω・`)(○月×日……これが、半年前か)

速読などお手のもののショボンにとっては、ただなんとなくページを捲っているだけで、
調査員が何の目的でこのカタンの森へ来訪し、調査していた事柄は何かまで、その全貌がすぐに読み取れた。

(´・ω・`)「数週間前は、これだね」

62名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:23:52 ID:zkfwVdHY0

『△月▲日 やはりこの森は静かで居心地が良い。温暖な気候で眠る時も快適だし、何より仲間たちと呑む
      夜のエールが一番の楽しみで、まるで調査が遊びみたいなものだ。

      しばらくここに滞在するのは、私個人まるで苦ではない』


(´・ω・`)「おやおや……」


数週間前まではまるで日記のような内容だったが、日付が最近に近づくにつれて、その内容は
だんだんと調査員としての本分を果たしているものになっていった。

ショボンも予想していた通り、このカタンの森へ2年前に降り注いだという隕石について調査報告だ。

「△月×日 隕石が落下した事が影響しているのか、この開けた視界の森で何故か道に迷う事例が増えた。
      どうやら磁場に何かしらの影響を及ぼし、それが感覚を狂わせているのだとは思うが……」

63名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:24:51 ID:zkfwVdHY0

何も変わった出来事の無い手記のページを、さらに捲り続ける。
そしてショボンの手は、あるページで止まった。

(´・ω・`)(………これは?)


『△月●日 今日は最悪の出来事が起こった。調査員の一人、カシェルの遺体が発見されたのだ。
      死因は外的な衝撃で、恐らくは胸を何かで強打されたものと思われる。

      気さくで、本当にいい奴だった……無くしたのは惜しいが、今は悲しんでばかりいる訳にもいかない。
      一体カシェルを殺したのが何者なのか、絶対に突き止めてやる』

どこか、楽観するようにして流し読んでいた手記の端に、物騒な文字が躍っていた。
調査員の一人が胸を強打され、殺されたというのだ。

一体────何に?


(´・ω・`)(続きを────)

クーやブーン達を待たせているが、どうやらこの調べものが終わるまで彼らには待っていてもらわなければならない

64名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:26:22 ID:zkfwVdHY0

未だこの森に潜んでいるであろう未知の危機をもたらす存在に対し、ぽっと火が灯された彼の好奇心。
それを識るべくして、ページを捲る手を止めさせようとは、決してしなかった。


『△月○日 一体どうなっているんだこの森は……頭がおかしくなりそうだ!!
      一昨日はルシオが、そして昨日はバドラックが遺体で発見された……残る調査員は、私を含め3人。

      皆の士気を見る限り、調査を続けるのも限界だ。学連には厳しく追及されるだろうが、
      事後報告でこの森から去る事に決めた。恐ろしいのだ、この虫の声一つ無い森に、我々の命を
      どこかで舌なめずりして狙っている、目に見えぬ"何か"が潜んでいる事が。

      また、それは本当に生き物なのかも分からない……まだ、誰も見た者は居ないのだ。』


(´・ω・`)(やはり、この森には何かが────)

65名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:27:39 ID:zkfwVdHY0

『追記 : 先ほどは遺体で発見されたと記したが、正確には全身の7割を致命的な大火傷に覆われた状態で
      発見されたバドラックの、最期の言葉をここに記しておこうと思う。

      その彼の言葉を聞いていた我々からすれば、彼は自分の意思で身を焼いたとしか思えないが───』




      『やってやったぜ 見たか 俺は他の奴とは違う   ……………燃えている。』


手記はそれきり何も書かれておらず、その謎めいた最期の言葉だけで締めくくられていた。
ゆっくりと両手でそれを閉じたショボンの手には、じっとりと嫌な汗が滲む。

66名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:29:28 ID:zkfwVdHY0

何とも言えぬ表情を浮かべながら、森の中にあって人一人に焼身自殺をさせてしまうほどの畏怖の対象を、思い浮かべる。
だが、当然ながらそんなものは妖魔ぐらいしか思い当たらず、何より逃げればよい話なのだ。

そう、逃げられる場所さえ────あれば。


(…… ……ぎゃああぁぁぁぁぁッッ…… ……)

(´・ω・`)「ッ!!」

思案に暮れていたショボンの耳に微かに届いたのは、どこかから響いた断末魔。
それが彼の背筋に電撃を放ち、弾き出されるようにして再び動き出したショボンは───ブーン達の元へと駆けた。

───────────────

──────────


─────

67名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:30:26 ID:zkfwVdHY0

「………ぎゃあぁぁぁぁぁぁッッ!!………」


(;^ω^)「!」

ξ;゚⊿゚)ξ「……何、今の声……!」


ブーン達にも、当然ながら耳に届いていた。
ショボンの向かった小屋の、更に奥の方から聞こえた、男のうめき声。

その声の主にも、大方の察しはついていた。

川 ゚ -゚)「今の声は……」

从'ー'从「今の悲鳴……もしかして、さっきの人達じゃないですか?」

爪'ー`)y-「───あぁ、多分な。さっき会った連中のどっちかさ」

今このカタンの森に訪れているのは、ブーンら冒険者5人と、依頼者の少女サン=ワタナベ。
それ以外の人物となると、やはり先ほど出会ったラッツとボアードとしか思えない。

川 ゚ -゚)「猛獣の類にでも、襲われたかな」

ξ゚⊿゚)ξ「そんな………ブーン!」

68名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:31:18 ID:zkfwVdHY0

ツンが言葉を掛ける前から、既にブーンは立ち上がっていた。
先ほどの悲鳴の上がった方へと助けに行くつもりなのだろう。

( ^ω^)「分かってるお、フォックス……一緒に来るお!」

爪;'ー`)y-「あー……へいへい、お前さんも物好きだぜ」

川 ゚ -゚)「私はこの場に残るぞ、まだショボンも戻らない」

ξ#゚⊿゚)ξ「(ムカッ)……じゃあ、私も行くわッ!」

どこか冷ややかな視線で彼らを見送るクーの横顔に一瞥し、ツンが走り出そうとした時、
その肩はクーによって掴み止められた。

川 ゚ -゚)「大人しく待っていろ……依頼者の少女がこの場に居るというのに、足並みが乱れ過ぎだ」

ξ#゚⊿゚)ξ「………ッ」

遺恨を残したままのお互いは、またもこの局面で睨み合う。
だが、今ばかりはそんな二人のやり取りに気を揉んでばかりいる訳にもいかぬだろう。

何しろ、人命が懸かっている可能性がある───それほどの悲鳴だったのだ。

69名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:32:20 ID:zkfwVdHY0

(;^ω^)「ツン、クーさんの言う事はもっともだお。ブーンとフォックスが帰ってくるまで待ってて欲しいお」

ξ#゚⊿゚)ξ「チッ……分かったわよ」

爪'ー`)y-「ったく、どーしてお前らもそう何にでも首突っ込んじまうかねぇ……」

川 ゚ -゚)「ま、安心しろ。しばらく待っても戻ってこなかったら、私は遠慮無しに彼女を連れて森を出る」

ξ#゚⊿゚)ξ「この………!」

爪'ー`)y-「あぁ、正しい判断だぜ。こちらとしてもな」

先ほども、今もクーが口にしたのは、仲間を冷静に切り捨てるかのような発言。
それに対してツンはまたも食って掛かりそうになったが、フォックスのフォローによって事なきを得た。

最悪の状況は、常に想定しておいて損は無い。
ただそれは時として、"仲間"というものを見捨てる事に対して割り切れるかどうかが枷となるのだが。


ワタナベとクー、そしてツンの女性三人だけを残して、ブーンにつられるようにフォックスも走り出した。

70名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:33:28 ID:zkfwVdHY0

───────────────

──────────


─────

声の聞こえた南西へとひた走ると、すぐに少し拓けた視界の場所に出た。
さきほどボアード達が言っていたように、丈夫な樫が群生している場所のようだ。

そしてすぐに目にしたのは─────その一本の木の前にうつ伏せに倒れている、一人の男の姿。

(;^ω^)「………大丈夫かおッ!」

爪;'ー`)「こりゃあ……」

力なく倒れている彼の身を抱き寄せると、やはりそれは青みがかった黒髪の男、ボアード。
もはや意識も完全に失われて、瞳は混濁している。

抱き寄せたその胸元は大きな衝撃に穿たれた痕跡があり、完全に胸を潰されていた。

爪'ー`)「即死だったんだろうぜ────恐らくは、な」

(; ω )「そんな……」

71名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:34:57 ID:zkfwVdHY0

道すがらで出会っただけでも、多少なりとも言葉を交わした同じ冒険者を、放ってなどおけなかった。
だからこそ助けたかったブーンに、フォックスは辛らつな事実だけを冷淡に述べた。

大きく肩を落としていたブーンだが、開ききったボアードの瞳を手で閉じてやると、
彼の亡骸をそっとその場へと横たえてから、ゆっくりと立ち上がった。

(; ω )「もう一人、居たはずだお……」

何故ボアードはこの場で死んでいたのか、そして一体、"誰"にどうやって殺されたのか。
湧き上がる疑問と共に、今この自分達の周りにもその危険が取り巻いているという事実に、戦慄を覚える。

爪'ー`)「……あぁ。今、来たようだぜ」

フォックスが親指を差した方向の茂みを揺らしながら、同じように悲鳴を聞きつけたのか、先ほどまで
一緒に行動していたラッツはようやく姿を現した。

自分達に目が合うよりも先に、相棒の変わり果てた姿を目の当たりにすると、彼は叫んだ。

「!?……ボアード、おいッ!」

72名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:35:53 ID:zkfwVdHY0

口と胸から血を流している彼へ駆け寄ると、ラッツもまたブーン同様の反応を示した。
彼が既に死んでいる事を確認すると、瞳を強く閉じこみながら、ゆっくりと首を左右へと振った。

「あんたら………何があった?」

爪'ー`)「そりゃあこっちが聞きてぇ」

(  ω )「ブーン達が悲鳴を聞きつけてここに着いた時には───もう………」

「そうか……」

だが、共に行動していたはずの彼が何故この場にいなかったのか、という事実。
それに端を発してか押し寄せる疑念が、ラッツに対して鋭い視線を送っていた。

自らを訝しむ視線に気づき、ラッツ口を開く。

「俺は……こいつが木を切り倒してる間に何か採取できる野草はねぇかと、探しに出てたんだ……」

爪'ー`)「少しの間か?」

「あぁ、ものの数分ってとこだろうよ……ほれ見ろ」

そう言ってラッツが指差した先には、木を切り倒そうとしていたのだろう。
先ほどまではボアードが手にしていたと見られる伐採用の斧が、木の中ほどにまで突きたてられたままだった。

73名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:36:48 ID:zkfwVdHY0

( ^ω^)「その最中に……どうしてボアードは……」

その手斧の柄を何気なく引き抜きながら、浮かぶ疑問を口にした。
木を切り倒している間に、しかも斧を突き立てた状態で。

どこから、誰に、どうやって狙われれば───────
丈夫な人間の肋骨を、こうまで粉々に砕く事が出来るのだろうか。

「人ぐらいの力じゃ、こんなこと………」

そうラッツが呟き、またブーンが見上げた先にはただ一本の太い木が聳え立つばかりだ。

爪'ー`)y-「わからねぇ……だが、やっぱりこの森はどこかおかしいぜ」

(;^ω^)「そうだおね、ツン達が心配だお」

先ほどまでは何の変哲も無い平和な光景が、瞬時に謎めいた危険な場所に感じられ、
残してきた面々もまた同じ目には遭ってやいないかという焦燥、頬には冷たい汗が伝う。

(;`ω´)「ラッツ、ボアードを連れて、一緒に森を出るお!」

「………あぁ、すまねぇな」

74名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:37:59 ID:zkfwVdHY0

ぼうっとボアードの顔を眺めていたラッツだったが、緩慢ながらブーンの言葉を受けると、動き出した。
ボアードの両肩をそれぞれブーンとラッツが抱きかかえるようにして、彼を森から運び出してやるのだ。

(;^ω^)「これは形見だけれど……悪いけど、置いていくお」

ラッツが手にしていた伐採用の斧を、再び同じ木に突き立て、それに背を向ける──────



────────そこから、静寂に包まれていた森は 途端にその色を変えた─────────




───────────────


──────────


─────

75名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:39:12 ID:zkfwVdHY0

ξ゚⊿゚)ξ(大丈夫かな……皆)

誰かの危機となれば、それが見ず知らずの他人でさえも例外ではない彼ら。
ツン自身が彼らと出会った時も、そうだった。

何にでも首を突っ込むとは良く言ったものだが、ツンもまた同じ種類の人間だ。
だからこそ彼らと共にこの場を飛び出して行きたかったのだが、それはこの隣に並び立つクーと、
たった少しの間でも一緒に居たくなかったからという理由も大きい。

川 ゚ -゚)「あと5分だけ待つ……それを過ぎれば、何かがあったということだ」

从;'ー'从「本当に、ブーンさん達を置いて行くんですか?」

ξ;゚⊿゚)ξ「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!あんたは冒険者が長いのか知らないけど……こちとら!」

だが、クーの言う事にもあながち道理が通っていないという訳でもない。

76名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:40:14 ID:zkfwVdHY0

依頼者と共に同行し、ましてや彼女はまだ14、15ぐらいの少女だ。
何か不測の事態が起きたとして、今この場に居る二人でまともに戦力となり得るのは、クーだけ。
適切な判断を行え、行動力においても人並み以上である彼女に反論するツンだが、その要望は聞き入れられない。

ξ゚⊿゚)ξ「あんた……さっきも言ってたけど、こういう事?同じ仲間を、切り捨てる判断って……」

川 ゚ -゚)「先ほど、あの銀髪の男達にも告げたはずだがな。本人達もそれを望み、了承は得ている」

ξ゚⊿゚)ξ「へぇ、随分と非情なのね─────自分が助かりたいからってワケ?」

川 ゚ -゚)「お前のように、個人の感情に振り回されたりはしないさ……私達が守ってやらなければ
     たちどころに妖魔の餌食になるような子供を置いて、あいつらは何をしている?」

ξ;゚⊿゚)ξ「でもさっきの悲鳴は、きっとただ事じゃない!もし助けが必要だったらどうするのよ!」

川 ゚ -゚)「それならば、きっとこの森にはやはり危険が潜んでいるという事だ。
     なおさら、こんな所でまごまごしている訳にはいかんだろう」

ξ#゚⊿゚)ξ「どうして……そんな風に割り切れるの!?同じ依頼の仲間じゃない!」

77名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:41:12 ID:zkfwVdHY0

川 ゚ -゚)「だからこそ───最小限に被害を留めるべきだ。そんなに待っていたかったら、お前はここに居るといい」

从;'ー'从「あ……あの二人とも……その、落ち着いて下さい」

おずおずと二人の間に挟まれおろおろとするのは、ワタナベ。

気丈で大人びているといえど、自分を護衛してくれるパーティーが分離してしまっている現状に、
ツンらをたしなめる彼女の表情にも、さすがに不安さが覗いた。

だがツンとクーの言い分にはどちらにも一理があり、根本的な部分では同じなのだ。

窮地に陥った仲間を思いやる気持ち。
また、より多くの仲間が助かるように苦渋を飲む決断。

それはどちらも仲間の事を想っての行動、考えであり、それほど大きくは違わない。
ツンの感情にまかせたきつい言葉に、さらに態度を硬化させてそれを跳ね除け続けるクー。

78名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:42:51 ID:zkfwVdHY0

そうした二人のやり取りをたしなめ続けてばかりいたワタナベが、突如覚えた違和感に周囲を見渡した。


从;'ー'从「………え?」


ざわ・・・

    ざわ・・・

        ざわ・・・



川 ゚ -゚)「………待て」

ξ゚⊿゚)ξ「何よ?」

鳥の鳴き声一つ聞こえなかった周囲が、途端にざわめきだす。
それは、自然の中にあるならば普通の事だ。

風があれば───木々は揺らぐのだから

79名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:43:35 ID:zkfwVdHY0

だが今は頬を撫で付けるような風はほとんど感じない、無風。

だのに──────驚くほど急激にざわめきだした"それ"。
それはまるで木々達が、舞いを踊るかのようだった。

从;'ー'从「ひっ……」

ξ;゚⊿゚)ξ「な、何なのよ……これ!」


              … キチキチキチキチキチ …
… ウケケケケ ……

         … ケタケタケタケタッ …


川;゚ -゚)「………」

次第に、不快な雑音がそこら中から奏でられ、怖気さに肌を泡立たせる。
音ではなく明らかに"声"として耳へと伝わるざわめきは、悪意に満ちていた。

周囲全方位を覆う全ての木々達が、足を地面から抜くような動作で根を抜いて"歩き出す"。
その光景はもはや、ハロウィーンの悪戯かと思い込んでしまいたくなるような悪夢だった。

80名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:44:45 ID:zkfwVdHY0

───────────────

──────────


─────

爪;'ー`)「なんだよこりゃあ……一体、どうなってやがる!?」

(;^ω^)「どうもこうも無いお……木が───”歩き出した”としかッ!」

「や、やべぇ、完全に囲まれちまってる……ひぃッ!」

ボアードの亡骸を運び出してやりたかったが、どうやらこの状況ではそうも行かない。
全方向から一斉に根を足代わりにして、木の化け物達が自分達の元へと向かって来るのだ。

いつの間にか、この場所まで来る時に通った道は2〜3本の木の化け物に塞がれている。
その幹には全て、裂け目のようにして出来た顔が現れて─────それが、笑っていた。


  … チキチキチキチキ …

           … ウケケケケケケケケ …

 … クキュキュキュキュキュ …

81名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:45:53 ID:zkfwVdHY0

ただの"木"が意思を持って、この自分達を嘲り笑っているとでもいうのか。

(; ω )「すまないお、ボアード」

ラッツと同様に、脇へと差し込んでいた腕を抜いて、その身をゆっくりと地面へと下ろした。
亡き彼に一言を告げると、代わりに、背中の鞘へと仕舞われていた長剣の柄を力強く握り込んだ。

(; ω )(君を連れて行けそうには……ないお)

  … ケタケタケタケタ …

 … イギギギィ ギッ …

奇怪な声色は、そこら中から聞こえる。
拓けた場所であったはずだが、その周囲にあったはずの樹木との距離は、既に目に見えて縮んでいる。

人間さながらの厭らしさを含んだ笑みは、自分達に向けられている。
屍鬼や妖魔ともまた違う未知なる敵は、まさか、この森全体とは。

爪;'ー`)「……この正面を真っ直ぐ突っ切れば、ツン達の場所に出るはずだ」

「う、後ろからも来てるぜぇッ!?」

ブーンの背後から迫る木の化け物の存在に気付き、ラッツが狼狽する。
これらが相手では、フォックス達の手持ちの武器では厳しいだろう。

82名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:47:09 ID:zkfwVdHY0

ブーンの背後から迫る木の化け物の存在に気付き、ラッツが狼狽する。
これらが相手では、フォックス達の手持ちの武器では厳しいだろう。

対抗できる手段があるとすれば、厚みのあるブーンの剣だけ。
枝一本叩き斬るだけならば難しい事ではないが、それも、太い樹木に大してはさして効果は望めない。

今では、空が赤くなっているかのようにすら錯覚してしまっている。
それはこの森を覆う周囲全体が、人間に敵意を向ける化け物だらけである事への危機感によるものだ。

全てでは無いにせよ、この森に生える樹木の大半が目の前に居る化け物と同じならば、
そしてその一つ一つが人一人を軽々と圧殺してしまう程の力を持っているとしたら────絶望的状況だ。

(;`ω´)「ふぅ、ふぅ……」

爪;'ー`)「いいか、落ち着いて…まずはツン達を助けるんだ。1、2の3で行くぞ」

… ケタケタケタケタッ …

目の前の、窪んだ眼窩の奥に不気味な眼光を光らせる一本、いや、一体に視線を走らせる。
器用に足元の根を這いずらせ、こちらへと近づいてきている。

こいつの左右を抜ければ、この場を走り抜けられる。

83名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:47:55 ID:zkfwVdHY0

爪;'ー`)「1……2の………」

「ひゃあぁぁぁぁぁッ!!」

(;`ω´)「! ラッツ、待つおッ」

フォックスの号令を待たずして走り出したラッツに、木の化け物の腕が振るわれる。
先ほどボアードを葬り去ったのは、恐らくこの太い幹から振るわれた一撃によるものだ。

「ひぃッ!」

脇を抜けきれず、すれ違いざまにしなるその豪腕が振り下ろされようとしていた。


(; °ω°)「おぉぉッ!」

”ごっ”

木と何かがぶつかりあう、鈍い音だけが周囲へと拡散した。

84名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:49:15 ID:zkfwVdHY0

(; °ω°)「………くッ」

ラッツを狙い済ました"人面樹"の一撃だったが、辛くも即座に前に出たブーンの剣が、それを正面から弾き返していた。
刃の腹で受ける格好になってしまったため、切り落とすまでには至らなかった。

だがそれでも、確実に"痛がって"いる。

「… ギギ、ギィィィィィ …」

無機物と有機物の中間のようなそれが、声を上げて仰け反る。
後ろで尻餅を付くラッツを守りながら、ブーンの目は数瞬だけその様子に奪われた。

目も口も付いているその姿に、昔おとぎ話で聞いた事のある森の妖精、エントやトレントを思い出していた。
だが、これは妖精などといった可愛げのあるものでは無い。

凶暴な表情を覗かせる彼らの姿は、人に仇なす凶悪な妖魔が木に乗り移ったかのようだ。

爪;'ー`)「ったく……お前さんも盗賊なら、窮地こそもっと冷静になりな」

号令を無視して飛び出したラッツを叱責しながら、フォックスが強引に立ち上がらせる。
ここでもたもたしている暇はない、自分達が襲われているように、ツンやショボン達の身も危ないのだ。

(;`ω´)(無事で居てくれお……皆!)

爪;'ー`)「急ぐぜッ!」

大木が怯んだ隙に、ブーン達はその脇を素早く抜ける。
一路ツン達の元へと向かい、駆けた。

85名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:50:34 ID:zkfwVdHY0

───────────────

──────────


─────


(´・ω・`)【 穿ち貫け 魔法の矢 】

 … ウォォォ …     

          … アァァァァァァ …

    … ギギギギギチィ …

数体の木の化け物の身体を、同時に光の矢が刺し貫いた。
それでも、活動を停止させるまでには至らない。

幾重にも折り重なった悲鳴が、生ぬるく感ぜられる風に乗って耳の中へぼう、と響く。
不快な感触に、ショボンは思わず手でその音を拭い去った。

86名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:51:30 ID:zkfwVdHY0

(´・ω・`)(……木は木らしく、ひとつ燃やしてでもやりたい所だが……)

小屋を出て、叫び声の方へと向かおうとした時、いつの間にか森には異変が取り巻いていた。
これまでひっそりと佇んでいた木々に足が生えてそこらを歩き回り、不気味な声は辺り一面に木霊している。

カタンの森の遭難者が激増した原因など、一度この現実を目の前にすれば考えるまでも無い。

(……いやあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!……)

(´・ω・`)(今の声は……!)

遠くに聞こえた悲鳴だが、しっかりとショボンの耳に届いた。
恐らくは残してきた仲間たちの声───助けに行かなければならない。

だが、正義感や仲間意識に従い行動するは易いが、この状況でその判断は命取りだ。

往路は既に木の化け物たちによって塞がれているのだ。
移動速度は人よりもはるかに遅い、だがその動きには共通の目的意識の為か、統率が取れている。

この人面樹達の目的は果たして何か、食うためか、殺すため?────同じ事だ。

87名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:52:27 ID:zkfwVdHY0

だが、化け物とはいえ体面を覆う表皮は木、そのものだった。

ゆえに魔法で火を放ってから安全な場所まで逃げる事が出来ればこの状況を打破できるであろうが、
パーティーから離れてしまった現状では、仲間たちをも炎に飲み込んでしまう可能性が高い。

好奇心のままにパーティーから離れ単独行動を取った己の浅はかさを、責める。
ツン達の叫び声から離れ、逆方向への後退を余儀なくされながら、ショボンは歯噛みした。

(´・ω・`)(もう……追ってはこないのか?)

背後の木の化け物たちの様子に何度か振り返りながら、目の前にはやがて小さな洞穴が飛び込んできた。
どうやら、ある程度の距離を取れば、彼らは各々の持ち場を離れすぎるという事は無いらしい。

だが、再び近場の木々が妖魔化する危険性を鑑みて、目の前の洞穴へと一旦身を隠した。

本来は自然の岩壁だった場所なのだろう。
人の手により岩を切り崩し、森の東西を行き来出来るようにしたのだ。

中はがらんどうとなっているが、片腕で抱えられそうなほどの小さな樽が何個か転がっていた。

88名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:54:42 ID:zkfwVdHY0

その中の一つ、転がった樽から漏れ出していた液体の臭いが洞穴中に充満し、鼻を突く。
その場に腰を下ろして、指でひとさじをすくい上げてみた。

液体の特性に気付くと、ショボンは一人無言で頷く。

(´・ω・`)(これは─────なるほど)

本当に最後の最後、ある手段としてこの上ない道具─────そう思った。
しかし、その前にはまずやるべき事があるのだ。

(´・ω・`)(先ほどの悲鳴、間違いなくツン達だった……)

ブーン達全員が一緒に行動してくれているのならば安心だが、あのような状況ではパニックに陥り、
全員が散り散りに解散して逃げている可能性がある。もしそうならば────最も危険だ。

ツンやクー達の元までは、そう離れた距離ではなかったはずだ。
だが、木々の化け物達が移動する事により、つい先ほどまでの土地勘は全く頼りにならない。

行く手を完全に塞がれて、最後囲まれてしまえば、もはや逃げ場は無い。

(´・ω・`)(一度、このまま洞穴を抜けて東から再び回り込む……それしかないか)

ツン達を救うために、洞穴の反対側へと抜けて、ショボンは再び動き出した。

89名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:55:54 ID:zkfwVdHY0

───────────────


──────────

─────

从;'ー'从「な、何なの……何なのよ……これぇッ」

森に隠されていた脅威、これだったのだ。
顔のある木の化け物達は、笑い声ともつかぬ気色の悪い音色の協奏曲を奏でる。

周囲の木はばきばきと音を鳴らせながら、次々にその異形を顕にしてゆく。
足元に伸びる背後の影では身を捩じらせながら、歓喜に踊っているように思えた。

まるで、彼女達の必死と恐怖を嘲り笑うかのように。

ξ;゚⊿゚)ξ(───ブーン……皆っ!)

ブーン達の消えて行った方向を遠くに眺めて一瞬躊躇したツンの肩を、クーが強引に手繰り寄せる。
この状況でまごまごしていれば、たちまちあの木々に行く手を遮られてしまう。

分断されたこの状況では、やはりクーに言われた通りだ。
ツン一人ではこんな危機から身を守る術を持たぬ、一人の女性だという事を痛感させられる。

90名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:57:16 ID:zkfwVdHY0

从;'ー'从「ど、どうすればっ」

ξ;゚⊿゚)ξ「………ッ」

ツンの道衣の袖をつかみ、うろたえる少女。
二人で顔を見合わせる中、彼女の恐怖はやがてツンにまで伝染しかけていた。

だが、この混沌の中にありながらも、しかとまだ強い意思を瞳に宿して道標となったのは、彼女。

川;゚ -゚)「……走るんだ。幸いにして動きは鈍い、脇を抜けて出口を目指す」

クーが二人に目配せを送ると、三人は同時にゆっくりと頷いた。
そして彼女の合図を機に、全員ともがその場からはじき出されるようにして走り出す。

… ギチギチ …

  … ギギ、ウェハ…ウェハハ …

川;゚ -゚)「離れずについてこい!」

一定の距離を保ってとり囲んでいた木達もまた、それに気付いて動き始めた。
器用に根を地面で這わせて伝い歩く光景だが、背後を確認してそれを目にする余裕もない。

91名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:58:30 ID:zkfwVdHY0

ξ;゚⊿゚)ξ「はっ、はぁっ……!」

自分達の置かれた状況をまるで把握できぬままに、悪夢で彩られた森の中を走り続ける。
目的地は森の外────だが、行く先々には顔を持つ木の化け物達が姿を潜めているのだ。

从;>ー<从「!? きゃぁッ」

川 ゚ -゚)「!!」

後方を走るワタナベの横合いから、突然目の前に向かって何かが振るわれた。
恐怖に思わず頭をかばいながらかがむ事で、偶然にもそれをかわす事が出来た。

ξ;゚⊿゚)ξ「ワタナベちゃん!」

だが頭のすぐ上を通過した、木の急襲が刻んだ恐怖は、計り知れなかった。
体つきの華奢な女でなくとも、今のを受ければただでは済まなかっただろう。

運良くそれを避けられたものの、恐怖からかワタナベはしゃがみ込んだまま動けずにいた。

膝が笑っている彼女では立ち上がる事もままならず、さらに悪いことに顔を上げた先では、
そのワタナベを見下ろしていた人面樹と、眼が合ってしまったのだ。

从;'ー'从「あ─────」

92名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 06:59:32 ID:zkfwVdHY0

眼窩の奥に自分を見下ろす光、そして幹が上下に引き裂かれて現れた、笑みを浮かべる口。
その異形と対峙してしまった少女には、恐怖に抗う術もなかった。

「ギギギ……ウェハ、ウェハ!!」

ぽつりと声を上げて、がちがちと歯が震える。
────────このままではただ喰われるのを待つばかり。

ξ;゚⊿゚)ξ「────早く、起き上がって!」

だが、そこへすぐさま引き返したツンが彼女の手を掴むと、再び立ち上がらせる。
その助けが、今を取り巻く悪夢のような現実へとワタナベを立ち返らせた。

从;'ー'从「ツンさ……ありが──」

ξ;゚⊿゚)ξ「いいから!走るのよッ」

ワタナベの背中を強く押し出して、その走りを促した。
二人へと振り返っていたクーが一瞬だけ安堵の表情を浮かべ、また先頭を走りながら叫ぶ。

川;゚ -゚)「気をつけろ!すぐ傍にまで近寄らないと、本物の木かそうでないか見極められん!」

93名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:00:25 ID:zkfwVdHY0

どうやら、このカタンの森の全ての木々が人面樹たちではない。
恐らくはクーの見立て通りであろう、中には一見して普通の樹木もある。
だが、それらの中には近づいた瞬間に、捕食者としての顔を浮かび上がらせるものもある。

森の出口まではそう遠くない場所にまで来たはずだ、森に入った時に過ぎた湖畔が左手に広がる。
だがここに来て、クーは歯噛みをしながら表情を歪めた。

川;゚ -゚)「ちぃッ!」

从;'ー'从「ど、どうしたんですか?」

道が、二手に枝分かれしているのだ。

片方は恐らく森の出口へと通ずる道。かなり地形が変わっているが、自分達が入ってきた方だ。
そしてもう片方は道を外れた、樹木の茂った森深くへと続くであろう道。

川;゚ -゚)(罠……だろうな)

歩いた記憶の中にある湖沿いの道には、今びっしりとその先を覆い隠す木々がひしめいている。
これまで以上に多くの木に妨げられている事から、恐らく"木々たち"は自分達を外へと逃がしたくないのだ。

遠目からには一見すると普通の樹木だが、踏み入れば瞬く間に全ての木々が化け物へと豹変するだろう。

94名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:01:48 ID:zkfwVdHY0

そして────もう一方は不自然なほどに開け放たれた、山林への道。
その中へ入って人里へと通じる道へと出られるかは、大きな賭けになるだろう。

この地の土地勘も持ち合わせていない上に、森の中では方向感覚を見失いやすい。
加えて、"動く木"にかかって本来あるべきはずの道を塞がれてしまっては、人の感覚など完全に狂わされる。

それでも、人里へと確実に繋がる出口の近くからであれば、森を抜けられる可能性もゼロではない。

ξ;゚⊿゚)ξ「確かにこの道だったと思ったけど……あれって」

川 ゚ -゚)「恐らくな、全てが木の化け物だろう」

从;'ー'从「道が、塞がれて……」

川 ゚ -゚)「あぁ、白々しいまでに堂々と森の出口を塞いでいる……近づけば、すぐさま叩き殺されるかもな」

从;'ー'从「それじゃどうしたら!?」

一介の町娘であるワタナベという少女にとっては、今がきっとこれまでで初めて味わう程の恐怖。
理不尽にもこの"非日常"へと落とし込まれた彼女の精神は、半狂乱で喚く一歩手前にまで追い込んでいた。

その姿は、呼吸を落ち着けながらも淡々と目の前の状況を分析するクーとはまるで対照的なものだ。

川 ゚ -゚)(───ふむ)

95名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:04:34 ID:zkfwVdHY0

ξ;゚⊿゚)ξ(私の聖術が役に立ちそうな相手でも……ない)

攻略の糸口は見つからない。しかし、同時にクーと共にこの場に居られて良かったと思う。
あの場でツンとワタナベの二人きりであれば、混乱のままに化け物たちの餌食となっていただろう。

先ほどまで口げんかしていた時の態度とは打って変わって、今では頼もしくも生還への道を
必死に探りあてようとするクーの瞳が、まだ二人に希望を与えてくれているのだ。

そして、その彼女が指で一つの方向を指し示した。

川 ゚ -゚)「────右だ、山林へと入り、そこから人里に抜ける道を探す」

ξ゚⊿゚)ξ「……本気?さっきの木の怪物がうようよいるわよ?」

川 ゚ -゚)「どの道退路は絶たれている。だからこれは、一つの賭けになるだろう」

从;'ー'从「もし……道が見つからなかったら?」

川 ゚ -゚)「その時は……三人仲良く、この森の養分になるだろうさ」

ξ;-⊿-)ξ「………ふぅ」

96名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:05:43 ID:zkfwVdHY0

クーの言葉に頭を垂れて大きくため息をついたツンだったが、再び顔を上げた時、
その少しばかりあきれたといった表情の中には、僅かな笑みを浮かべる余力も残っていた。

ξ;゚⊿゚)ξ「大したタマだわねあんたも……」

川 ゚ー゚)「ふっ、昔から言うだろう?女は度胸……だとな」

ξ゚⊿゚)ξ「────いいわ。乗ってやろうじゃない、その賭け」

从;'ー'从「ほ、本当にこの中を行くんですか?」

川 ゚ -゚)「あぁ。お前も依頼人なら、覚悟を決めろ」

ξ゚⊿゚)ξ「ワタナベちゃん───あなたも女なら、ここは腹を括るわよ!」

从;'ー'从「そっ……そんな理屈は無茶苦茶ですよぉ!」

ここに来て、初めて芽生えつつあった共通意識は"生還する事"
同じ苦難を共闘を経て乗り越えれば、それまでいがみ合っていた間柄にも何らかの仲間意識は芽生えるものだ。

今この場にいるツン達3人の団結力。
それがこの危機に瀕した今、ようやく高まりつつあった。

97名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:06:31 ID:zkfwVdHY0

川 ゚ -゚)「それじゃあ……行くぞッ!」

再びのクーの合図を機に、三人ともが走り出した。

逃げるため、ワタナベは両手一杯に抱えていた薬草は投げ捨てて、今では各人の鞄の中にあるのみだ。
ツンも、走る際に邪魔となるという事が実体験を通してよく理解できたために、修道服の裾を詰めている。

これは、仲間であるブーン達に置いていかれぬために。
そして、その彼らの足でまといにならぬ為にと、わざわざ自ら裁縫したものだった。

未だ動きにくい衣服ではあるが、その心がけが早速役に立っている。
両手を大きく振って全力で走る事に集中できているのも、この為だ。


  … ギ、ギギギィィ …

 … キチキチ キチキチキチキチキチ …

从;'ー'从「こっちにも!」

「やはり」といった感想しか出てこないが、走り去るうち次々と移ろい行く景色。
その視界の端々には、次々と妖魔化してゆく人面樹達の姿があった。

98名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:08:04 ID:zkfwVdHY0

川;゚ -゚)「だが……数はそれほどでもないぞ!」

クーの言う通り、緑が辺り一面中を包む場所にあって、想像していたよりもはるかに化け物の数は少ない。

人面樹は当然の事ながらいるが、ひっそりと佇む普段の姿の樹木も同じぐらいだ。
森の出口を塞いでいた中には、本来はこちらに群生していた樹木達も数多くあったのだろう。

この現状こそが、クーが勝算を見出して賭けに臨んだ理由でもあった。
ブーン達やショボンもこの異変に気付いているのなら、恐らく彼らも襲われているだろう。

その彼らや自分達を狙った人面樹達が、生い茂った獣道から逆に中央の湖畔沿いへと移動してきていると踏んだのだ。

ξ;゚⊿゚)ξ「これなら、行けるかも!」

小枝や身の丈ほどの葉っぱを手で払いのけながら、山林を奥へと進む。

ざわざわと木の葉を揺らしながら追走してくる気配は、すでに幾つもある。
それでも恐怖を押し殺しながら、ただ見えかけた光明を手繰り寄せるべく、前へ、前へと進む。

从;'ー'从「はぁっ……ふぅっ……!」

ξ;-⊿-)ξ「振り返りたくないわね……」

99名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:09:27 ID:zkfwVdHY0

段々と足場が悪く、木や葉に邪魔されて道が険しくなってきた。
自分達を追う人面樹達との距離も、次第に狭まりつつある。

思うように身動きが取れない険しい道を、じたばたと身を捩じらせながらどうにか進んでいく。
そのワタナベとツンの焦燥が、限界近くにまで達した時だった。

川;゚ -゚)「────先に、行け」

一度立ち止まったクーが、ツンとワタナベに告げる。
その彼女へ振り返った方には、ぎょろりとした人の目玉のような眼が窪みに収まった人面樹が、すぐ背後にまで迫る。

ξ;゚⊿゚)ξ「クー!?どうする気よっ」

川;゚ -゚)「少しだけ時間を稼ぐ。お前達は気にせず先へ進め!」

「ギチギチギチ」

威嚇するようなその怪音を意に解する事もなく、腰元の小剣をすら、と抜き出した。
そのまま人面樹へと立ちふさがり、力強く言い放った。

从;'ー'从「クーさん!?」

川;゚ -゚)「人里へと降りられる道を探すんだ!私も……すぐに行くさ!」

100名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:11:35 ID:zkfwVdHY0

クーがその言葉を最後まで言い終えるよりも早く、人面樹が無造作に伸ばしてきた腕。
それを掻い潜ると同時に、指の役割を果たしているであろう先端から枝分かれした小枝の数本へと剣を振るった。

「… ギアァァァッ …」

川#゚ -゚)「…・…せぇぇぇッ!」

切り落とされた小枝からは、血のように赤黒い樹液が噴き出させた。
その痛みと怒りに任せてか、人面樹が反射的に逆の太い腕を振るうも、すでにその場にクーの姿は無い。

果敢に化け物の懐へと踏み込みながら、胴体である幹へと勢いのままに剣を突きたてた。
その一連の動きは、まるで流水のようにしなやかでそれでいて、無駄の無い洗練された剣技だった。

「… !?ブギイィィィィ …」

从;'ー'从「……クーさん、すごい!」

そうして勇猛な彼女の姿をぼうっと見ていたワタナベの腕が、ツンによって引っつかまれた。
一瞬呆気に取られていた彼女だが、クーの背中に一瞥してから、また走りだす。

ξ;゚⊿゚)ξ「行くわよ、クーが時間を稼いでくれてる間に、アタシ達が突破口を見つけなくちゃ!」

从;'ー'从「は、はいッ!」

101名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:12:26 ID:zkfwVdHY0

「… ヴァアァァァァァッ! …」

川;゚ -゚)(チッ……もう限界か)

やはりこの剣だけで、そう簡単に倒せるような相手ではないらしい。

幾度か剣で斬り浴びせた後、怒りを露にする人面樹の後ろに、更に2〜3体の姿が見えた。
クーは小さく舌打ちしてから剣を素早く鞘へと収めると、殿を務めながらすぐにツン達を追う。

すると先頭で、何かに気付いたワタナベが悲痛な面持ちを浮かべ、精一杯の声量を搾り出しているのが映った。

从;ー 从「────だめ!」

ξ;゚⊿゚)ξ「何かあったの!?」

川 ゚ -゚)「………?」

頭を抱えながら、ワタナベはとうとうその場にしゃがみこんでしまった。
ツンが声を掛けると、おずおずと腕を上げて、その方向を指差した。

木々を掻き分けて、ツンが覗き見た先──────

ξ;゚⊿゚)ξ「────そんな」

102名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:13:16 ID:zkfwVdHY0

視界を沢山の樹木や緑葉に遮られて、これまで気付くことが出来なかった。
彼女達の眼前には、切り立った断崖が憎らしいほど高くそびえ立っていたのだという事に。

この道から人里へと出るのは────不可能だという事だ。

川;゚ -゚)「くっ………待て!壁沿いを伝っていけば、まだ……」

事態に気付いたクーだったが、まだ諦めてはいなかった。
別の進路をたどればあるいは可能性も残っているはずだ、と。

生存への諦めに絶望した様子のワタナベの傍で、その彼女を奮い立たせようとするツン。
すぐ後ろには数体の人面樹達が迫っており、もはや一秒たりともまごまごしてなどいられぬ状況だ。

遅れてその場へたどり着いたクーが、二人へ声を掛けようとしたその時だった。

川; - )「なんッ─────」

103名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:14:41 ID:zkfwVdHY0

突如としてクーの脛から下の自由は奪われ、そのまま地面へと倒れ伏してしまった。
少しだけ遅れて、その箇所へは鋭い痛みが訪れた。

"がちゃん"

がっしりとかみ合わさったような金属音。
それが聞こえた足元へと、直ぐに視線を向けた。

川;゚ -゚)(な……トラバサミ……だとッ!?)

クーの足首へと錆びかけた歯をめり込ませ、完全に歩行の自由を奪っている。

それは、かつて狩猟などを生業とする者達にこの森で使われていたであろう、鉄のトラバサミ。
本来ならば肉食の獣へと仕掛ける罠であるそれが、運悪くこの場に取り残されてしまっていた。

それがクーの足首へと力強く噛みついたのだ。
目の前には断崖、背後からは化け物が迫ってきているという最悪の状況下で。

川;゚ -゚)「あ……くそッ、くそぉッ!」

大型の肉食獣用の罠なのか。
膝を畳んで引き寄せ、両手で口をこじ開けようと全力を込めるも、僅かに緩むばかりだ。
一刻を争う状況で、致命的なトラップに引っかかってしまったクーの顔が、苦痛や焦燥に歪む。

104名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:15:44 ID:zkfwVdHY0

──── …ギギィ… ――――

奇怪な影は、地を舐めるクーのすぐ傍にまで伸びて来ていた。
いくら力を込めようとも、女性の柔腕では到底こじ開けられるような物にないらしい。

ξ;゚⊿゚)ξ「クーッ!」

川; - )「あ……あぁ……」

うつ伏せで地面を殴りつけた後、力なく仰向けに寝転がるクー。

泡を食って自由を奪われたクーの元へとたどり着いたツンだが、彼女の足に食い込む罠を見て、血の気が引く。
食い込んだ場所からは衣服に薄ら血が滲んでおり、立ち上がるのさえ困難な状況なのだと、解ってしまった。

川; - )「まさか……こんな所で、とはな」

これまで道を指し示してくれていたクーが、初めて諦めにも似た言葉を口にした。

ξ;゚⊿゚)ξ「大丈夫よ!背負ってあげるから、早くこの場所から───」

川; - )「私がこの足ではもう───無理だ」

ξ;゚⊿゚)ξ「何言ってんの!肩を貸すだけでも、まだ───」

川; - )「……お前達だけでも、逃げろ」

105名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:16:28 ID:zkfwVdHY0

そのクーを必死に鼓舞するツンの言葉も、届かない。
この一刻一秒を争う事態の中で歩行不能に陥った事実は、既に彼女に絶望を認識させていた。

川; - )「いい、戻れ……どうにか、さっきの場所まで」

ξ;゚⊿゚)ξ「ブーン達だってまだ無事かも知れないんだから、皆と合流すればなんとか───」

川#゚ -゚)「───うるさいッ!!解れ!」

ξ゚⊿゚)ξ「……ッ」

問答をしている余裕など無いのだ。
この一言で、クーの言わんとしている事をツンは理解しただろう。

『仲間を危険に晒すぐらいならば、時としてそういった切り捨ての判断も必要なのさ』

先ほどツンに告げた言葉、その状況こそが、"今"なのだ。
このまま全滅するくらいならば、一人だけでも逃げ延びる事が出来れば、きっとそれこそが上策だ。

まさか、自分がこんな立場になってみるなどとは思いもしなかったが────

川 - )「………行け、あいつらと」

106名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:19:46 ID:zkfwVdHY0

自分はこの身動きのままならぬ状況で、生きたままあの人面樹達に食われるのであろうか。
身体全体に微かな震えが来たが、それが大きくなってツンに悟られる前にと自分を見捨てるよう促した。

ξ ⊿ )ξ「――――解ったわ」

川 - )「………」

すっくと静かに立ち上がったツンの姿は、すぐにクーの視界から消えた。

そう、それでいい。

己の生死が懸かった状況だというにも関わらず、あまりにも冷静な指示を下せた自分に、少しばかり驚きだ。

思い返してみれば、自分の人生はいつも誰かに置いてけぼりにされてばかりだった。
たとえそんな事ばかりでも、女だてらに周囲の男に負けないぐらい一人でも強く生きてやろうと思った。

父や母の死───あれからが自分の不運の始まりだったのだろうか。
悲哀に打ちひしがれていた自分に手を差し伸べ、再び生きる力を与えてくれた"彼"も、いつか自分の元を去った。

いつもたった一人。孤独という名の暗い牢獄へと、囲繞されていたのだ。
この不運はもしかすると、自分がこの世に生まれ落ちた時から、既に約束されていたのだろうか。

107名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:20:57 ID:zkfwVdHY0

──── … ギギッ ギィィッ … ────

化け物の声が、さらに近くに聞こえる。
それと同時に、これまで強い自分を保ってきたクーの心の外殻は、剥がれ落ちようとしていた。

川; - )「……はぁッ、はぁ……」

呼吸は上ずり、次第に周囲の音もぼぅ、と遠くに聞こえる。
これから訪れる死の恐怖を遮断する為に、五感が鈍くなってでもいるのだろうか。

もう目も開けていたくなかったから、思わず顔を塞ごうとした時だった。
ふと─────足元でもぞもぞと違和感を覚え、飛び上がるように身を起こす。


川;゚ -゚)(────なんッ)


「動かないでッ!!」

108名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:21:40 ID:zkfwVdHY0

川;゚ -゚)「………お前、どうして………」

クーの脚にがっしりと食い込んだトラバサミ。
その口をこじ開けようと、真っ赤な顔で立ち膝しているツンの姿が、そこにはあった。

小鼻を膨らせながら一心に全力を込めているその指先からは、既に手首を伝う程に血が滲んでいた。
修道服の袖を紅に染めながらも、それでもその手を緩めようとはしない。

ξ;゚⊿゚)ξ「私が神に仕える信徒であろうが、今はそんな事はどうでもいいわ……」

川;゚ -゚)「馬鹿者め、早く逃げるんだ!」

困惑するクーの視界に、いよいよ三体ほどの人面樹の姿が見えた。
だが、ツンはそちらには目もくれず、クーの脚にかかるトラップを解こうとしている。

事の次第に気づいた彼女達の前方に座り込むワタナベも、ようやく正気に立ち返り叫んだ。

从;'ー'从「あ……ツンさん! 後ろ、逃げて下さぁいッ!!」

その言葉にも、ツンが動じる様子はなかった。
ただがむしゃらに、自身の指に食い込む鋭利な鉄の痛みに時折顔をしかめながらも、その場を動こうとしない。

ξ;゚⊿゚)ξ「私の目の前で助けられるかも知れない人をよ……」

川;゚ -゚)「もう……いい」

ξ;゚⊿゚)ξ「ふぅッ……この私が、諦められる訳……ないじゃない!」

109名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:22:23 ID:zkfwVdHY0

川; - )「どうしてッ!」

ξ;゚⊿゚)ξ「………今は聖職者だからとか関係ない。そんなの、"アタシがイヤだから"ッ!」

川;゚ -゚)「────!」

有無を言わさぬツンの剣幕に、さしものクーも一瞬たじろいだ。

伊達や酔狂で出来る事ではないのだ、ましてやこんな場面で。
拾えるかも知れない自分の命を、他人の命を救うために投げ出す事など。

ツンの、決して諦めようとしない姿に。
クーはこの時、心を揺さぶられる何かを感じていた。

川;゚ -゚)「その手……」

ξ;-⊿-)ξ「いっ、つつ……」

痛みに一瞬手を離したツンの手のひらを見て、制止しようとするクーの言葉が詰まった。
尖った部分に構わずに指を掛け力を込めていた為か、手のひらはもはや血だらけだ。

それでも再度、閉じた口を両手でがっしと握り締め、諦めるつもりなどないとばかりに、叫ぶ。

110名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:23:25 ID:zkfwVdHY0

ξ;゚⊿゚)ξ「─────ワタナベちゃん!お願い、手を貸して!」

だが、もはやツン達の背後に迫る人面樹に恐れをなしたワタナベは、その場から尻餅をついたまま動けない。
半開きに開いた口はカラカラに乾き、ワタナベはただただ救いを口にする事しか出来ずにいた。

从;'ー'从「あ………あ……神、様……」

──── … ウェハハ、ギチギチ … ────

ξ#゚⊿゚)ξ「ふんぬッ!ふんっ!」

川;゚ -゚)「もう……いいんだ」

ξ# ⊿ )ξ「くっ……!」

川;゚ -゚)「私を見捨てて──────お前達だけでも、逃げてくれ」

ξ; ⊿ )ξ「………聞こえない、わよ」

川;゚ー゚)「”ありがとう”………な」

ξ;⊿ )ξ「そんな言葉……聞きたくない」

111名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:24:09 ID:zkfwVdHY0

    … グフフフフフフ …
            … ギヒヒ …

       … チキチキチキチキ …

静かな木々のざわめきに入り混じって聞こえる、あざ笑う声。
ツンの背後に、もはや悪夢は覆いかぶさろうとしていた。

ξ;⊿ )ξ「……………なんなのよ、もう」

必死に誰かを救おうとする彼女の心にも、とうとう影が落ちようとしている。
諦めようとしている────心が折れ掛けてしまっていた。

ξ;⊿ )ξ「女の子ほっぽり出して、一体どこをほっつき歩いてるんだっつーの……」

しかし脳裏には、あの能天気な面々の顔が一瞬過ぎる。
これが走馬灯というものだとすれば、憎たらしい事この上の無い最期だ。

だから、こんな形での旅の終わりは絶対に認めない。

諦めを認識しそうになった間際、ツンは半ば無意識に、最後の望みを託してその名を口にした。
喉の奥が震えて、そこから血を吐き出しそうになるほどの大声量で。

ξ; ⊿ )ξ「─────ブウゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーンッ!!」

そのツンの叫びにかぶさって、どこかから声が聞こえた気がした。

112あと100レス以上:2012/01/14(土) 07:25:07 ID:zkfwVdHY0

───( 我が前に立ち塞がる敵 其はその一切を 業火の元に滅せよ)───

ツンの背後に迫った人面樹の一体が、ギリギリと幹をしならせて腕を大きく振りかぶる。
直後、それを彼女の頭部へと叩きつけようと、狙いを済まして振り下ろそうとした、瞬間だった。

…… ギチギ……ブッグゥ ……

突如、人面樹の胴体部分の幹が、中心部分から丸々と赤みを帯びてゆく。

ξ゚⊿゚)ξ「─────!」

川 ゚ -゚)「………これは!」

─────────「【炎の玉】!」

”どむっ”

瞬間、辺りを赤い閃光が照らした。

胴体部分が紅蓮の赤熱を帯びたのが見えたかと思えば、即座にその身が爆散していた。
遅れて吹き荒れる熱風はツンやクーらの衣服をはためかせ、やがて過ぎ去る。

ξ;-⊿-)ξ「きゃっ!」

川; - )「なっ……!」

113あと100レス以上:2012/01/14(土) 07:25:49 ID:zkfwVdHY0

気がつけば今度は、上空へと吹き飛ばされた燃え盛る粉々の木片。
それらがぼとぼとと周囲へ飛散し、ツンとクーは腕を頭上に交差させて身を庇う中で─────

悠々とこちらへ向けて歩を進めてくる──────それは、見慣れた男の一人だった。

「どうやら、ご指名は僕ではなかったか……悪い事をしたね」

ξ゚⊿゚)ξ「………あ」

(´・ω・`)「遅くなって、すまない」

今ではただの木っ端と化してしまった人面樹の背後から現れたのは、頼れる魔術師。
かざしていた手を下ろすと、悪戯っぽく口元で微笑んだ彼の姿に、ツンは思わずにやけて言葉を返した。

ξ゚ー゚)ξ「えぇ、随分待たせたものね?」

川;゚ -゚)「油断するな、まだ───!」

(´・ω・`)「解ってるさ。だが、後はお手並み拝見といこうか」

ショボンの左右に居た人面樹が、一斉にそちらへ振り返った瞬間だった。
林の中を素早く疾駆する"何か"が、急速にこの場へと近づいて来る。

それは、獣のような咆哮を上げながら。

114もうそろそろ活動限界:2012/01/14(土) 07:26:53 ID:zkfwVdHY0

「─────おぉぉぉぉぉッ!─────」

… グ、ギギ? …

ショボンへと注意が向いていた人面樹の一体は、砲弾のようなその速力にまるで対処できなかった。
目前まで迫るや否や、既に飛び掛りざまに振り下ろされていた一刀は、右腕を軽々と両断する。

… ギィィィィィッ! …

ξ゚⊿゚)ξ「ブーン!」

(# °ω°)「……はあぁぁぁぁぁーッ!!」

次いで、二の太刀はその悲鳴が耳に入るよりも早く繰り出された。
大振りの横薙ぎは、全力を以ってその幹の中心へと叩きつけられる。

ごつ、と重厚な音が地を揺らす程の重さで打ち鳴らされた。

肉厚の刃は目視困難なほどの速力を得ると、幹を繋ぐ大部分の繊維を一瞬にして削いだのだ。
おおよそ4割ほど奥深くまで差し込まれて止まった長剣の刃を強引に引き抜くと、今度は反転しつつ
それを反対側の幹の表皮へと叩きつける。

初撃の逆位置からの、更なる強烈な打ち込み。

… グギャギャッ! ギギッ …

(;`ω´)「お………おぉぉぉッ!」

115もうそろそろ活動限界:2012/01/14(土) 07:27:37 ID:zkfwVdHY0

柄に力を込めるほどに不気味な呻きを漏らすその人面樹に身体ごと刃を寄せて、そのまま剣を振りぬいた。
掛かっていた負荷が弛緩すると同時に、幹の上体部分はふわりと一瞬中空に舞う。

左右から身を削ぎ取られて両断された人面樹が倒れると同時に、もう一体がブーンに襲い掛かろうとしていた。

「あらよっっと!」

だがそこへ、木々でひしめく林の中を縫うように飛来したのは二振りのナイフ。
"すとっ"と音がしたかと思えば、それはほぼ同時に人面樹の眼の奥へ突き立てられる。

爪'ー`)「熱くなり過ぎだぜ、ブーン」

… グオォッ…ギキ …

眼球を潰された事により、その一体は完全に狙うべき標的を見失った。
右往左往としているそこへ、身体ごとぶちかます強力な刺突が、ブーンにより放たれる。

(#`ω´)「ッらぁ!」

大きく開いた空洞となっている口内に差し込まれた長剣の切っ先は、そのまま反対側へまで突き抜けた。
眼前で響き渡る人面樹のくぐもった断末魔は、剣の柄を押し込むブーンの手におぞましい感触を残したが。

それでも、気にも留めずに顔部分に足をかけると、思い切り蹴飛ばしながら剣を引き抜く事で倒木させた。

116もうそろそろ活動限界:2012/01/14(土) 07:28:36 ID:zkfwVdHY0

(;`ω´)「───ふぅ、いっちょ上がりだお、ね」

川 ゚ -゚)「お前たち……!」

「すげぇ……すげぇな!お前さんがた!」

3人から遅れてやってきていたラッツが、ブーン達の一連の戦闘を目の当たりにし、感嘆を漏らした。
たまたまこの森に居合わせた同業者に、これほどの手練たちが混じっていたなどとは思わなかっただろう。

爪'ー`)「ヒーローは遅れて現れる、ってな……さて、この場は退散と行こうぜ」

川 ゚ -゚)「………」

ツン達二人の前に差し伸べられたフォックスの手は宙ぶらりんのままだ。
その時クーの瞳は、フォックスの手を取る事なく、俯きながら、肩は震わすツンへと向いていた。

ξ ⊿ )ξ「─────のよ」

爪'ー`)「ん?」

顔を覗き込もうとしたフォックスの顎に、拳が突き刺さる。

爪; ー )「へぶしッ!」

ξ#゚⊿゚)ξ「来るのが遅いっつってんのよ!このあほんだらぁッ!」

117もうそろそろ活動限界:2012/01/14(土) 07:29:36 ID:zkfwVdHY0

痛快な一撃をもらってよろめいたフォックスが、理不尽なツンの怒りに対して言い返そうとした。
が、唇をわなわなと震わせながら頬に光るものを伝わせている表情に、ぐっと言葉を飲み込む。

爪#'ー`)「このじゃじゃ馬っ!?いきなり何────」

ξ ⊿ )ξ「本当に……怖かったんだから……」

だが、すぐに袖で顔を拭ったツンの様子を見ながら、フォックスは気付く。
クーのトラップを力づくでこじ開けようとした時の傷で、両手を血に染めていた様子に。

爪;'ー`)「おい、大丈夫かよ?クーも脚……」

川 - )「………すまん。私の注意不足で────」

(; °ω°)「ツン……!怪我、してるのかお!?」

ξ;-⊿-)ξ「あいたた!……まぁいいのよ、かすり傷だし」

すぐに血相を変えて傍らにしゃがみ込む二人をよそに、ツンは気丈に振舞った。
クーのせいで自分が怪我をしたなどと思われては、二人が煩いだろうと思っての事だった。

だが、出会った時から無茶をしてばっかりの自分を、毎度カバーしてくれるだけはある。
仲間以外には冷たい人間などでは、なかったようだ。

川 ゚ -゚)「!」

118もうそろそろ活動限界:2012/01/14(土) 07:30:30 ID:zkfwVdHY0

(;`ω´)「ふんぬぅぅぅぅッ」

いつの間にやらクーの足元に掛かった罠を取り外すべく、ブーンが両腕に力を込めていた。
ツンが必死に解除しようとしたそれは、さすがの力馬鹿にかかっては呆気なく閉じていた口を開く。
そのままトラバサミを草むらへと投げ捨て、ブーンはゆっくりと立ち上がる。

川 ゚ -゚)「あ……」

( ^ω^)「ふぅ……クーも、大事がなくて良かったお」

爪'ー`)「とはいえ、結構な深手だろ?もし嫌じゃなければ、肩でもお貸しするぜ」

川 - )「………仲間を危険に遭わせ、その上怪我まで………」

( ^ω^)

爪'ー`)y-

俯きながら、ぽつりと謝罪の言葉を口にしたクーを前に、二人は一度顔を見合わせた。
やがて、その彼女の顔の前に手を差し出したのは、ブーンだ。

( ^ω^)「違うお」

川 ゚ -゚)「……何が、違うんだ」

119もうそろそろ活動限界:2012/01/14(土) 07:31:18 ID:zkfwVdHY0

( ^ω^)「こういう時には、”ありがとう”の一言でいいんだお」

爪'ー`)y-「そういうこった。ツン達がまだ生きてる事に、こっちこそ礼を言わせてもらわなくちゃな」

川;゚ -゚)「あ………」

屈託無く笑みを浮かべながら、自分に向けて差し出された手のひら。
それを取るのが若干気恥ずかしくて、浮かした肘は宙を一瞬漂っていた。

そのクーを後押ししたのは、ツンの一言だった。

ξ゚⊿゚)ξ「どうしたのさ?」

川;゚ -゚)「私は……大きな口を叩きながら───いざお前の仲間の彼らが来るまで、何も出来なかった」

ξ゚⊿゚)ξ「………」

川; - )「お前まで巻き添えにしようとした私に、そんな助けを受ける義理など───」

ξ゚⊿゚)ξ「やれやれ……」

ため息めかしに肩をすくめたツンだったが、彼女もまたクーに手を差し伸べる。
そして、優しげな笑みを浮かべながら彼女に問いかけるのだ。

120もうそろそろ活動限界:2012/01/14(土) 07:32:48 ID:zkfwVdHY0

ξ゚ー゚)ξ「私達、今は────”仲間”じゃない」

川 ゚ -゚)「!」

ξ゚ー゚)ξ「死ぬ目を押し付けられるのは御免だけれど、それでも、それを分かち合えるなら───」

川 ゚ -゚)「………」

ξ゚ー゚)ξ「クーがいなかったら、私とワタナベちゃんなんてとっくに天に召されてましたー……なんてね」

川 ゚ -゚)「─────ありがとう」

言いながら、差し出されたツンの右手をそっと握りながら、クーは立ち上がった。
その背後では、自身の握手を放置されたショックに固まっていたブーンが、フォックスに笑われていた。

(; ω )「ぐ、ぬぅ……」

爪'ー`)y-「はいフラれました〜……残念だったな」

川;゚ -゚)「あ、すまん」

気恥ずかしそうにしながら腕を引っ込め、歯噛みしながらそっぽを向いたブーン。
それを気にかけようとするクーだったが、奥からワタナベを連れて現れたショボンの方へ、全員が振り返った。

121もうそろそろ活動限界:2012/01/14(土) 07:34:04 ID:zkfwVdHY0

(´・ω・`)「取り込み中のところすまないが、彼女も無事だ」

从'ー'从「……ようやく、落ち着きました。皆さん、本当にありがとうございます」

ξ゚ー゚)ξ「ありがと、ショボン。お互い無事で何よりだわ」

「さて」と前置きして、一度周囲を見渡したショボンが咳払いをしてから告げる。

(´・ω・`)「これから、どうしたものかな」

爪'ー`)y-「勿論、脱出するんだろ?」

このカタンの森全体が、妖魔の類と化した人面樹が跋扈する領域。
ボアードが他愛なく葬り去られていたのを見る限り、束になってかかってこられてはひとたまりもない。

だが、そうしない理由について考えた結果、ショボンは所感を述べた。

(´・ω・`)「この森には───野生動物が居ない」

从'ー'从「それ、私も気になってました。鳥の声一つ聞こえないなんて、おかしい……」

( ^ω^)「あいつらに食べられてしまったのかも知れないお」

爪'ー`)y-「あり得なくはねぇ。いつからこの森がこうなっちまったのかは知らねぇけど」

122もうそろそろ活動限界:2012/01/14(土) 07:35:20 ID:zkfwVdHY0

川 ゚ -゚)「────2年前」

ξ゚⊿゚)ξ「?」

从'ー'从「あ………」

ぽつりとクーが漏らした言葉に、ワタナベが思い出したように反応した。
腕組みをしながら話を聞いていたラッツにも、思い当たる事があるようだ。

「────もしかして、あれか」

川 ゚ -゚)「そうだ2年前にこの森で、空から降り注いだ隕石が目撃された」

从'ー'从「確か……大規模な山火事になっちゃったんですよね。その時は実家の薬草屋も大変でした」

川 ゚ -゚)「あぁ、見る影もないほどに焼き尽くされたと噂には聞いている」

(´・ω・`)「それが、2年前だって?」

「馬鹿な」とでも言いたげなショボンが言いたい事には、この顔ぶれの中では勘の鋭いフォックスが気付いた。
ほぼ全焼に近い状態にまで焼け焦げた森が、たった2年そこらで今のような状態にまで復活できるはずがないのだ。

123名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:36:13 ID:zkfwVdHY0

爪'ー`)y-「気持ちの悪ぃ話だぜ───その隕石、化け物の種でも積んでたんじゃねぇか?」

川 ゚ -゚)「疑うべきだったな。この現状を見る限り、この場に居る誰もがその説を信じるだろう」

从'ー'从「木が……化け物になったんですね」

ワタナベが口にしたおとぎ話は、実際にこの森で起こっているのだ。

鳥の歌も、動物の声も聞こえないのは、みんなあの木に喰われてしまったから。
旅人を食らう森は、自分達がやってくるのを口を開けて待っていた。

森全体が化け物────単純にして、寒気がするような事実だ。

川 ゚ -゚)「ここに来る時、森の入り口の前を通ったか?」

爪'ー`)y-「お前も気付いてたか?……あぁ、残念ながら木で埋め尽くされてたぜ」

( ^ω^)「接近しなきゃ通れない……けど、あれ全部を相手にするのは……」

(´・ω・`)「恐らく僕らを閉じ込めて弱らせる───それから喰うのが、奴らの手口だろう」

124名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:37:12 ID:zkfwVdHY0

「おいおい……勘弁してくれよぉ」

黙り込んだ全員の顔を覗き込んで、泣きそうな顔をしたラッツが弱音を漏らす。
皆が考え込む中で、その中には共通の認識を持つものが何人かいるのだが、今ひとつ踏み出せずにいた。

なぜならば、”賭け”の代償は”死”となり得るからだ。
誰でも思いつきそうな案ではあるが、その巨大なリスクが付きまとう故に悩む面々に対し、軽く口に出したのはツン。
浅はかさゆえか、はたまた、それが勇気なのかは分からないが。

ξ゚⊿゚)ξ「……燃やしちゃえば、いいんじゃない?」

(´・ω・`)「………」

(;^ω^)「燃やすって、この森全体を……かお?」

このカタンの森周辺に住み暮らす人々にとっては、命の源泉である森だった。
だが、森に入って帰らぬ者が後を絶たぬ現状、その真相が発覚したこの森を、このままにしておくわけにもいかない。
本来ならば騎士団などに総出で仕事をしてもらうべきだが、外部に出られない以上、自分達でどうにかするしかない。

だが、閉じ込められた現状で森に火を放つという行為は、自分達の首を自分達で絞める事と同義だ。

125名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:37:52 ID:zkfwVdHY0

爪'ー`)y-「……ま、それっきゃねぇかもなぁ。動物がいねぇ、つーことは、ここにゃ食い物もねぇ」

从;'ー'从「それじゃ、早く出なきゃ……!」

(´・ω・`)「あぁ、長期戦になればなるほど疲弊して、脱出の可能性が減る事になる」

川 ゚ -゚)「私も、ここまで来て断崖ぶつかった瞬間に、森を全焼させるしか無いと考えた」

(;^ω^)「でも、もし森に火を放ったら……ブーン達はどうなるお?」

爪'ー`)y-「そうさなぁ……まぁ仲良く、丸焦げだろうさ」

ξ゚⊿゚)ξ「ん〜……ダメ、か」

「じょ、冗談じゃねぇやッ!!」

黙って話しを聞いていたラッツが、素っ頓狂な叫び声を上げて一同の意見を明確に拒絶した。
5人の冒険者達の間では、人面樹にやられるよりも焼死による自殺を選ぶ、といった旨の会話がなされているのだ。

126名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:38:43 ID:zkfwVdHY0

地面にどっかと座り込んで、真正面から反対意見をぶつけるラッツだったが、それをたしなめたのはショボン。

(´・ω・`)「そう、悲観したものではないよ。抜け道は必ずどこかにある」

爪'ー`)y-「ま、問題も無くはねぇがな」

「問題は……ありすぎだぜ」

爪'ー`)y-「まず第一に、ショボン。お前さん一人の魔法で、この森丸焼きに出来るか?」

(´・ω・`)「たとえ"爆炎の法"級の威力を放つにしろ、風向きや場所、延焼に最適な条件が揃わなければ不可能だ」

川 ゚ -゚)「そして問題は、火を放った後に我々はどうするか……だ」

(´・ω・`)「そこだね。何の考えも無しに火を放っては、山を丸焼きにされて逃げ惑う小鹿も同じだ」

( ^ω^)「何か、打つ手は?」

(´・ω・`)「そうだね─────だが詳しい話しをする前に、まずは……場所を変えようか」

127名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:39:39 ID:zkfwVdHY0

────ざわ   

    …… キヒヒ ……

        ざわ────

気付けば、随分と長くこの場に立ち止まり話し込んでしまっていた。
その自分達の周辺に、またも風に乗って流れてくる嫌な声と、不愉快な気配が近づきつつあるのを感じる。

( ^ω^)「また……来ようってのかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「立てる?クー」

川 ゚ -゚)「あぁ、それほどの傷ではないようだ」

爪'ー`)「大丈夫かい、肩を貸すぜ?」

そう言って手を貸そうとしたフォックスだったが、遠慮がちに軽く首を振ると、細腕をツンの首へと回した。
一瞬どきっとしながらも、ツンもまたクーの腕を自然体のままに受け入れる。

川 ゚ -゚)「いや……こっちでいい」

128名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:40:26 ID:zkfwVdHY0

从*'ー'从「きゃっ、見せ付けてくれますねぇお二人とも〜」

ξ*゚⊿゚)ξ「ちょっ、そんなんじゃ無いわよ」

(;`ω´)(ふぅむ………)

合流前の別れ際、最後に見た二人の様子は罵声を激しく交し合う険悪なものだったはずだ。
だが、今の二人からはそんな雰囲気が微塵も感じ取れない事に、板ばさみで胃を痛める想いだったブーンは、
どこか符に落ちないものを禁じえなかった。

(´・ω・`)「さて、それじゃあ────」

川 ゚ -゚)「ちょっと、待ってくれないか」

どさ、と足元に置いた布袋をごそごそと漁り、クーが何かを取り出した。
その手に握られていたのは、包帯と薬草だ。

川 ゚ -゚)「手を出せ」

ξ゚⊿゚)ξ「え?」

129名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:41:11 ID:zkfwVdHY0

川 ゚ -゚)「………少し、痛むぞ」

手のひらを上に向けて差し出させると、クーは手にした薬草をツンの手にすり込み始めた。
手練の動作で両手ともの消毒までも終えると、これまた手馴れた様子で包帯を巻いて行く。
トラップをこじ開けようとして負った負傷部分の治療は、そうして瞬く間に終えられた。

ξ*゚⊿゚)ξ「あっ……ありがと!」

川 ゚ -゚)「お互い様さ」

从*'ー'从(………素敵)

その場に居合わせた少女ワタナベには、二人の真後ろに爛漫と咲き誇る大量の白百合が見えていたようだ。
最も、それは本人の趣味嗜好に伴って都合良く頭の中で形作られた、妄想の類ではあるが。

(;`ω´)(うーん?……うーん)

爪'ー`)「置いてくぜ!ブーン!」

一体この短時間であの険悪だった二者の間に何があったのか。
未だ納得のいかないブーンがいくら頭を悩ませても、女同士の友情というものは理解できなかった。

130名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:42:08 ID:zkfwVdHY0

───────────────

──────────


─────

先導するショボンに続いて、一向は再び森道を奥へ、奥へとひた走る。

川;゚ -゚)(やはり、私の怪我のせいで遅れを取ってしまっているか…)

クーの足の怪我を庇っているために、どうしても速度は出ない。
それゆえに、行く先では人面樹達とは幾度も戦闘を強いられそうになっていた。
極力それを回避しながらここまでやってきたが、一本道となればそういう訳にもいかないだろう。

「どうする、行く手を塞がれちまったぜッ!?」

爪'ー`)「面倒くさそうな奴だな」

そうして、冒険者たちの眼前には今も一体の人面樹が居た。
今まで対峙した奴に比べ、非常に太い幹を有している、単眼の固体だ。

131名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:43:41 ID:zkfwVdHY0

┃#w(;(●);)w#┃「ギギ…ギィ…」

巨体を有するという事は、力も、頑強さも他より優れているという事に他ならない。
様子を伺っているのか、ブーン達の行く手に立ちふさがり、不気味な静けさをたたえて佇んでいた。

(´・ω・`)「だけど、ここは通らなければならない」

先頭に立つショボンが、手を顔の前にかざして詠唱の準備に入る。
やがてその隣に並び立ったブーンが、一言を発した。

( ^ω^)「倒すお」

長剣を手に、ゆっくりと歩み出たブーンの所作は、目まぐるしく瞳を動かす人面樹に凝視されていた。
ぎぎ、と無機質な声を上げているが、そこから動植物としての生気は一切感じられない。
感情も無く、ただ自分達を捕食するという行動原理に従うだけなのだろう。

感情がない分、妖魔以上に性質の悪い存在かも知れない、と思った。

┃#w(;(●);)w#┃「────ギョォッ!」

(;^ω^)「!」

132名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:44:30 ID:zkfwVdHY0

人面樹に対し、ブーンが考えと共に剣を構えた時だった。
その左手を模る枝が消えた────────否、急激にしなった。

そこから頭が全身に命令を行き渡らせるのは、電撃的に早かった。
咄嗟に剣の腹を気配が向かってくる方向へと合わせ、難を逃れる。

”ごぎんッ”

鋭く、重い打撃音は手骨にまで響く。
それが、しっかりと握り締めていた柄から剣全体へ、大きな衝撃を伝わらせた。
音が聞こえるまでの間、自分が攻撃を受けた事にも気付かぬ程の速度。

(;`ω´)「────くッ!?」

して、その威力も並大抵ではない。
打たれた一瞬、面々の中では一番の体格を誇るブーンの身体が、側方へとふわりと浮いた。
腕部である枝を鞭のようにしならせて叩きつける打撃は、その図体とは一見見合わぬ速度だ。
これで頭や胸を打たれれば、先だって命を落としてしまったボアードの二の舞となるであろう。

(´・ω・`)【我────魔────】

ブーンが一合で顔に冷や汗を浮かべた様子に、ショボンは即座に魔法詠唱の態勢に入っていた。
だが、人面樹の更なる一撃が、続けざまにブーンの頭部へと振り下ろされる。

ξ;゚⊿゚)ξ「ブーンッ!?」

133名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:45:28 ID:zkfwVdHY0

┃#w(;(●);)w#┃「ギュオォォーーーッ!!」

(;`ω´)「……く、うッ!」

再び、目の前で火花が散るかのような破裂音。

それと同時に頭上で構えていた剣が、顔のすぐ傍にまで一息で押し込まれた。
膝ががくりと地に着きそうになるほどの膂力────だが、二撃までをどうにか耐えた。

(´・ω・`)「離れろ!ブーン!」

(;^ω^)「───ッ!」

「魔法の矢」、ショボンの口からそう言霊が紡がれると、彼の手先から放たれた光の帯は収束して、人面樹の身を貫いてゆく。
咄嗟の呼びかけで危険を察知し、素早く横手の茂みへと転がり込んでいなければ、ブーン自身も危ない距離だった。

動きを止めたその様子に、「決まった」と、誰もが思い浮かべた事だろう。
だが、次の瞬間には苦虫を噛み潰すような表情で、皆一様に歯を食いしばっていた。

┃#w(;(●);)w#┃「──────ギギ、ギィィィィィイーッ!!」

止まらない────それどころか、ますます凶暴さを増してしまったようだ。

「お、おい、やべぇ!こっち来るぞ!」

(´・ω・`)「…………もう一撃放つには、際どい」

134名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:46:28 ID:zkfwVdHY0

ラッツが叫びを上げる中、再び全員の間には緊張が走る。
向こう側が見える程の穴が幹を射抜いているというのに、怯む様子もない。
逆鱗に触れたか、腕を振り回しながらそのままショボン達の方へと前進してきたのだ。

爪;'ー`)y-「ちっ、ブーンが前衛にいねぇと、こうも脆いもんかね」

そう言って顔をしかめながら、胸元から数本のナイフを手にとり、前へと歩み出る。
このパーティーで人外を倒す力となり得るのは、強度を持つブーンの剣か、ショボンによる強力な魔法ぐらいなもの。

だが、その二人を抜きにすれば、対人殺傷力しか持たないフォックスが前線に出るのは、無謀だった。

(´・ω・`)「少しだけでいい、時間を稼いでくれないか」

爪;'ー`)y-「────ったく!とんだ貧乏くじだ!」

そういい残し、フォックスは人面樹の前へと躍り出る。
そのまま、狂ったように両の腕を縦横無尽に撫で付ける懐へと、素早く入り込んでいった。

フォックスが飛び出していった後、彼らの最後尾に控えるワタナベらは、それを不安げな表情で見守る。

从;'ー'从「あ……だ、大丈夫なんですか?皆さん……」

135名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:47:24 ID:zkfwVdHY0

川;゚ -゚)「ちっ。私も、この脚さえ万全ならばな───」

ξ゚⊿゚)ξ(………)

何気ないそのクーの一言を、ツンは思慮深く聞いていた。

今この場に居る自分は、彼らのように戦える力は持っていない。
だが、不死者を浄化したり、呪いの類を解呪する事が出来る”奇跡の力”があるのだ。
的を絞り、それをもっと小規模な範囲で扱える事は出来ないだろうかと考えている内に、ふと閃いた事があった。

ξ゚⊿゚)ξ(試してみる価値はある……か)

確かに、何もやらないよりは、遥かにいいだろう。
肩を貸していたクーの足元へとしゃがみこみ、彼女が受けた裂傷の部位へと手を伸ばしてみた。

川;゚ -゚)「お、おい。こんな時に、どうした!」

ξ-⊿-)ξ「………」

そして、祈りの力を両の掌へと込めると、そっとまぶたを閉じこんだ。
この力を身につけた時の事、ショボンの身から魔を取り去り、彼の命を救った時の事を思い出しながら。

(癒しの力にも─────なり得るはず)

──────────────────

────────────


──────

136名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:48:28 ID:zkfwVdHY0

┃#w(;(●);)w#┃「ギョオオォォォォォォォォッーーーッ!」

半狂乱に不気味な声を上げている。
どうやら狙い済まして腕を振るっている訳でもないらしい。

それならば、いくらでもかわしようはあった。

爪#'ー`)「このッ……木偶がッ!」

次々と襲い来る攻撃だが、身にかすらせる事さえ無く、その全てを避け続ける。
そして、時折大きく空いた懐へ向けて手元のナイフを投擲するが、やはり効果は薄いようだ。

襲い来る横薙ぎの一撃は大きく身を反らせて、瞬く間に眼前を過ぎ去ってゆく。
それではかわせないものには、瞬時に身を伏して難を逃れた。

当たってこそいないが、顔や頭上を過ぎてゆく攻撃の余波が起こす風圧から、致死の威力だと分かる。
それでも適度な距離を保つ事と、彼の動体視力と身体能力にかかっては、回避不可能なほどではない。

(# `ω´)「おおおぉぉッ!!」

もはや知覚の範疇から外れていたブーンが、斜向かいの背後から満を持して斬りかかる。
全力を込めたはずのそれだが、太く硬い幹の薄皮を砕き、僅かに幹の内側を露出させただけだ。

137名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:49:28 ID:zkfwVdHY0

背後からの奇襲に気付くと、人面樹の荒れ狂う鞭打は後方にまで及び、さらに攻撃範囲が広がった。
反撃を免れるために後方へと飛びのいて、ブーンが再び距離を取る。

(;`ω´)「マジ……かお!?」

爪'ー`)「ブーン、背後からじゃキツいぜ!お前の剣で、こいつの顔面部位を狙うっきゃねぇ!」

体格によって、個体差というものはあるらしい。
弱点と言えるような弱点は、恐らくこの人面樹に限ってはむき出しとなっている一つの瞳ぐらいだろう。
これまで何体か遭遇したそこらの並のものと比べても、ふた回りほどはあろうかという太さ。

当然その体躯が持ち合わせる耐久力や殺傷力という点は、推して知るべきであろう。

爪'ー`)「とは言え……近づけそうにゃあねぇかッ!」

┃#w(;(●);)w#┃「ギュアァォォッ」

爪;'ー`)「っとぉ……」

足元をなぎ払う一撃を、後方へと跳躍。
だが、着地の際に重心を崩し、一瞬よろめいてしまったのだ。

そのフォックスの肩が、詠唱も半ばだったショボンの胸元へとぶつかった。

(;´・ω・`)「魔法の───……くッ」

138名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:50:12 ID:zkfwVdHY0

ショボンはまだ冷静だった。フォックス越しにそのまま指先から魔法を放つ。
それでも、詠唱の終わりで逸れてしまった狙いまでは、修正する事が出来なかったのだ。

フォックスの顔のすぐ近くで放たれた光の矢、今度は的に当たる事すらなかった。
光弾は人面樹という狙いから逸れ、明後日の方向へと突き抜け、消えていった。

爪;'ー`)「わりぃ」

苦い表情で、目の前の敵を見据えたまま、辛うじてショボンにそう告げた。
だが、ミスを省みるような時間は、与えてくれそうにない。

┃#w(;(●);)w#┃「ゴオオォォォアァァァアァッー!」

奇怪な怒号と共に、さらに振り下ろされる一撃。

爪#'ー`)「危……ねぇッ!」

(´・ω・`)「!」

”ずんっ”

フォックスの咄嗟の機転、それがショボンの身を突き飛ばした事が幸いした。
刹那遅れて、二人の立っていた場所の地面は人面樹の打撃が地面を大きく穿つ。

139名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:51:12 ID:zkfwVdHY0

そうして、敵の左右へと分かたれたショボンとフォックス。
三方向から取り囲んでいる状況ではあるが、その位置関係がまるで良くないのだ。
敵を隔てた後方に位置するブーンとの距離が、遥か遠いものに感ぜられる程に。

フォックスと違いショボンの魔法は有効な武器となり得るが、絶対的に”詠唱”という溜めが必要となる。
ブーンがいくら背後から切り込んでも致命打にはならず、気を引いてくれる事もままならないのだ。

かと言って、この化け物にはフォックスの持つ小振りなナイフでは、致命傷にはなり得ない。

(;`ω´)「ふぅッ!」

再度、危険を承知でブーンが後方から表皮へと斬り込むも、わずかばかりの切れ込みを入れるに留まった。

爪;'ー`)「……んなろぉ……」

なおも凶悪な威力の枝を振り乱して猛りながら、じりじりと距離を詰めてくる。
懐にまで接近し、露出している眼球や口内を刺し貫く事が出来れば打倒が可能かも知れなかった。

しかし、一撃入れては素早く回避に回るのがやっとのブーンのように、
フォックスもまた回避に専念するのがやっとなのだ。

それでも、今は手持ちの札で目の前の敵と正面から戦わざるを得ない。
今や大きくひらけてしまった人面樹の前方には、依頼人のワタナベや、負傷しているクーがいるのだ。

从;'ー'从「あ……に、逃げないと!」

140名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:52:03 ID:zkfwVdHY0

(´・ω・`)「3人とも下がれ!大きく距離を保つんだ!」

そう声を荒げた視線の先には、ブーン達の苦戦に息を呑むワタナベの姿。

(´・ω・`)「こんな傍じゃ、流石に詠唱には集中できそうにない」

爪;'ー`)「しゃあねえ………もう一度俺が囮になる。その間にでっかいのを一発頼むぜ」

「きゃあぁぁぁぁーッ!?」

背中に聞こえるのは、助けを懇願するような突然の悲鳴。
後方のワタナベのものだった。考えたくはない、冷や汗がにじみ出る。

最悪の展開、その光景がちらりと三人の脳裏を過ぎった。
焦燥、忘却の彼方へと一瞬飛ばされてしまっていた意識。

だが、それから目を背けてしまっては、どの道状況を打破する事も出来ない。
覚悟を決めて下唇を噛みながら振り返ったブーンらの目に、光景が飛び込んできた。

(;`ω´)「ツン達の……方からも!」

爪;'ー`)「ちくしょう、追ってきてやがったか!」

ワタナベ達の後方から、追いかけてきた一体の人面樹が迫っていたのだ。

141名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:53:10 ID:zkfwVdHY0

この一体に、時間をかけすぎた。
ただでさえてこずっているというのに、この場の戦力を分散させ、
前と後ろを同時に攻略しなければならない状況に陥ってしまった。

それに、後方のツン達の中に、戦えるメンバーは居ないのだ。

(´・ω・`)「一撃で仕留めて、すぐに戻る」

爪;'ー`)「……任した」

ブーンとフォックスの二人で、どうにかこの大木を食い止める。
その間にショボンが背後の一体を始末する────現状、それしかない。

从;'ー'从「いや……来ないでッ!!」

ワタナベの悲鳴が、前衛で戦う二人の焦燥感をさらに煽る。
彼女らに迫っている人面樹は、ショボン一人に任せるしかない。

┃#w(;(●);)w#┃「ギギィ……」

前門の虎、後門の狼。

この巨大な人面樹には、並の打ち込みでは聞かない。
ただでさえ攻めあぐねているという状況にあって、ツン達にまで追いすがる敵がいる。

沈着冷静なショボンですら、内心には緊張の糸が最大にまで張り詰めていた。

だが─────その時。

142名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:54:04 ID:zkfwVdHY0

「ツン達の方は、任せたぞ!」

(´・ω・`)「!」

一陣の風────そう錯覚するほどに疾く、軽やかに。
ショボンがツン達の元にたどり着いた時、そこから一人が入れ違いに駆け出していった。

すれ違いざまに横顔を一瞬目で追う事しかできなかったが、クー以外にいないだろう。

裂傷を追った足の怪我を押して、ブーン達の助勢に入ろうというのか。
頑強さに加えて、一撃で人間の頭部を潰せてしまいそうな剛力を備えた相手だ。
負傷した足を庇いながらでは、簡単に餌食とされてしまいかねない。

そうやってクーの身を案じたショボンが振り向き、彼女の背中を目で追った。
そこには既に、人面樹に斬りかかろうと小剣を腰から抜き出して疾駆する、彼女の姿。

一言かけようとしたが、軽やかな身のこなしは、怪我を押して戦列に加わろうとする者のそれではない。
目の当たりにしたショボンは、クーに向かって掛けようとした制止の言葉それらを、ぐっと飲み下した。

(´・ω・`)(無茶をしている、という風でもなさそうか……ならばここは───)

今は、クーに任せるしかない。

あの頑強さだ、決定打を浴びせられるのは恐らく自分の魔法しかないだろう。
こちらを片付けるまでの間、せめて注意だけでも引いてくれればこの上ない。

143名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:54:55 ID:zkfwVdHY0

一瞬で思考を巡らせ、答えを導き出すと、目の前からはツンとワタナベがそのショボンの元へ、
追いすがる人面樹から逃れるようにして走りよってきた。

从;'ー'从「ショボンさん……クーさんが!」

(´・ω・`)「解っているさ。二人とも、僕の後ろに下がっていてくれ」

ξ;゚⊿゚)ξ「前は、手強い相手のようね」

「ギギギ……ギヒヒィッ!」

二人を背へと庇うと、眼前の人面樹の前に手をかざす。

(´・ω・`)「二人とも僕の外套の端を掴むのはいいが、体当たりだけはしないでくれ」

ξ;゚⊿゚)ξ「何よそれ?」

(´・ω・`)「さっきは邪魔が入ったんでね───」

「はぁぁーッ!」

背に、クーの気迫の篭った叫びが伝わる。
さっさとこちらを片付けて、自分も助太刀に参じなければならない。

だが今は、ただ精神を集中させて目の前の敵に魔力をぶつけるだけだ。

ξ゚⊿゚)ξ「来るわよッ!」

(´・ω・`)「けど、今度は外さないさ」

144名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:56:21 ID:zkfwVdHY0

───────────────

──────────

─────

爪;'ー`)「馬鹿、来るんじゃねぇ!」

気配に気付いたフォックスが振り返ってクーへと叫ぶ。
だが、彼女はただ一点─────目の前にそびえる大木だけを見据えていた。

川 ゚ -゚)(───なめてくれるなよ)

そう、物心ついた時より冒険者として育ってきた自分を、嘗めるな。
生き抜くために身につけた術、手に幾度も血豆を作って独学で励んできた剣技を。

敵は、妖魔化した樹木。
それならば、人に害を為すだけの存在が相手ならば、遠慮はいらない。

(;^ω^)「クーさん!?こいつは手強いお、来ちゃダメだおッ!」

川 ゚ -゚)「大人しく見てなど────」

┃#w(;(●);)w#┃「ッ……ギィィィィーッ!」

自分の元へと掛けてくる気配に気付き、人面樹はクー目掛けて枝を振り下ろしていた。
だが強力なその鞭を、風のあおりを食う木の葉の様に、走りながら軌道修正し、かわす。

川#゚ -゚)「────いられん性質なのでなッ!」

145名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:57:09 ID:zkfwVdHY0

一連の流れのままに、腰元から抜き出した小剣をそのまま人面樹の眼へと突き刺した。
入りは浅かったが、逆手で持った剣の柄の底面を、掌で力強く押し込むと、ずぐんと嫌な音を立てて、
さらに奥深くへと刺し込まれてゆく。

┃#w(;(*);)w#┃「ギャッ………ギョオォォォォォォォォーーーッ!??」

川#゚ -゚)「はぁぁッ!」

突き刺した剣の柄を力強く掴み、眼球の内部を引っ掻き回すように、乱暴に剣を動かす。

そうしてぐりぐりと傷口を押し広げられる苦痛に、自分の懐へは伸ばせず決して届かない攻撃を、
近くの地面へ向けて狂ったように繰り返していた。地面が次々に抉られ、砂埃が舞い上がる。

新たな攻め手、クーの登場によって完全に人面樹の不意を突いた。
劇的に向かった風向きは、もはや勝利へと吹いている。

呆気にとられて一瞬立ち尽くしていたブーンに、状況を理解したフォックスが大声で名を呼ぶ。

爪'ー`)「マジか…………ブーンッ!」

(;^ω^)「今、だおねッ!」

┃#w(;(*);)w#┃「ギャッ、ギギギィィッ!!」

川;゚ -゚)「早くしろッ!」

完全に歩みを止めた今が、絶好の好機だった。

146名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:58:12 ID:zkfwVdHY0

(# °ω°)「んおおぉぉぉ…………」

背後に立ち、首の後ろにまで剣を大きく振りかぶると、低く唸りながら力を溜め込む。
先ほどは意にも介される事のなかった、全力の一撃の構えだ。

だが今度は防御を考えず、ただ一点を攻撃する事のみに全力を傾けられる。

(# °ω°)「おおおぉぉぉぉッ!!」

溜め込んだ力を、一気に解き放つ。
肩から肘、肘から手首、そして手首から腰。
身体中に次々と伝達させて生み出した大きな回転力を、手先の剣へと込め、ぶち込んだ。

┃#w(;(*);)w#┃「────ギョッ!」

軽い音を立てて表皮を砕いた後、剣は幹へと重く切り込んだ。
驚いたようにかん高い奇声を上げた人面樹が、枝全体をばさりと大きく振るわせる。

どうやら、今度はダメージが浸透したようだ。

(#^ω^)「もういっちょうッ!!」

直後、再び力を溜め込んで、同じ箇所を狙い済ました剣の打ち込みを加える。
傷口から外側へ向けて広く外皮が剥がれ落ちると、更に奥深くへと剣が入り込み、幹に亀裂が入った。

147名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 07:59:14 ID:zkfwVdHY0

爪'ー`)「クー!そいつから離れろッ!」

川;゚ー゚)「ふん、ようやくお役御免か───」

フォックスの呼びかけで即座に剣を引き抜くと、後方へと飛びのいた。
そうしてクーの目に飛び込んできた光景は、まるで木こりが木を伐採する瞬間のような場面。

人の四、五人分も胴回りのある大木は、ブーンの剣によって今まさに倒れようとしていた。

(#^ω^)「効かないなら─────」

どっしりと腰を落として広く歩幅を取ると、腰の後ろで剣を構える。
裂帛の気合をその一撃に込め、溜めた力を爆発させるように、横一文字に大きく剣を薙ぐ。

全力を込めた渾身の────────必殺を念じた、会心の一撃。

(#`ω´)「……効くまでやってやるおぉッ!!」

三撃目となる打ち込み、重い破壊音が足元の地面へまで伝わる。
そしてブーンの気迫があたりの樹木へと跳ね返り木霊すると────やがて再び訪れる、静寂。

次にはびきびきと、亀裂を形作る音が鳴り響いてきた。

148活動限界まで@30分:2012/01/14(土) 08:00:13 ID:zkfwVdHY0

┃#w(;(○);)w#┃「ガ───ギ──ゴ」

大きく刻み込まれた傷口、太い幹の7割ほどまで抉り穿った剣を引き抜く。
ばさばさと音を立てながら、幹の上半分が大きく傾いた。

剣につけられた裂け目に沿って自重に耐え切れず傾き、ゆっくりと倒木してゆく。

(;`ω´)「………ふぅぅぅっ」

「いっちょう、あがりだお」
そうブーンが呟くと同時、轟音と共に土煙を巻き上げながら、巨木はついに地面へと倒れ伏した。

肩で息をするブーンをよそに、フォックスが右腕を目の前で小さく掲げる。

爪'ー`)「よっしゃ────良くやったぜ!」

川 ゚ -゚)「喜ぶのは早いぞ。すぐにあいつを援護にいってやらないと……!」

(;^ω^)「そ、そうだったお!」

クーの言う”あいつ”というのは、ショボンの事であろう。
勝利を喜ぶ暇などない、この森には、敵は無限のようにそこら中に居るのだ。

三人が再び奮い立ち、勇みショボンへの助太刀に向かおうとした、その時だった。

149活動限界まで@30分:2012/01/14(土) 08:03:43 ID:zkfwVdHY0

(´・ω・`)「お見事だったね、クーさん、ブーン」

从;'ー'从「ほっ……どうにか、皆無事ですね」

ξ゚⊿゚)ξ「こっちはこっちで、ド派手に片付いたわ」

悠然とこちらへ歩いてきたショボン、その隣にはワタナベとツンの二人も居る。
ひとまずの危機は、どうにか切り抜ける事が出来たらしい。

爪'ー`)「必死こいて注意引いた俺への労いはなしか?」

(´・ω・`)「……気にはしてないんだけど、誰かさんが僕の手元を狂わせなければ、もう少し楽な戦いだったね」

爪;'ー`)「んぐっ」

先ほどのミスを指摘されてたじろぐフォックスに構わず、ブーンがクーへと詰め寄る。

( ^ω^)「クーさんのお陰で、大助かりだったお!」

川 ゚ -゚)「まぁ……これで少しは借りを返せただろう」

(´・ω・`)「足の怪我は大丈夫なのかい?」

川 ゚ -゚)「あぁ、万全だ」

150活動限界まで@30分:2012/01/14(土) 08:04:52 ID:zkfwVdHY0

ξ゚⊿゚)ξ「あー、こほんっ」

わざとらしい咳払いに気付くと、クーが彼女の方へと振り向き言った。

川 ゚ -゚)「それについては……ツンのお陰でな」

そう言って、怪我をしていた足元の衣服の裾をまくり、露出した足首を皆に見せた。
裾の一部は裂けているものの、その下の素肌には傷など影も形も無かった。

爪'ー`)「へぇ……どういう手品だ?」

ξ゚⊿゚)ξ「”聖ラウンジの奇蹟”の、正しい使い道の一つよ」

川 ゚ -゚)「私自身も驚いたがな……ツンが手をかざすと、傷が”治っていった”んだ」

(;^ω^)「そ、そんな事まで出来るのかお!?ツンってば!」

(´・ω・`)「細胞の再生───修復だって?」

ξ゚⊿゚)ξ「とても小さなものだったけど、ヤルオ神からの言葉が届いたの」

───────────────


──────────

─────

151活動限界まで@30分:2012/01/14(土) 08:05:38 ID:zkfwVdHY0


       ____
     /      \
   / ─    ─ \
  /   (●)  (●)   \
  |      (__人__)    | ──これは”癒身の法”……そう名付けた、奇蹟の一つ──
  \     ` ⌒´     /



       ____
     /⌒  ⌒\
   /( ●)  (●)\
  /::::::⌒(__人__)⌒::::: \  ──いつも話し相手に不自由してるから、またいつでも祈りを飛ばしてくれお!──
  |     |r┬-|     |
  \      `ー'´     /


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─────

152活動限界まで@30分:2012/01/14(土) 08:07:10 ID:zkfwVdHY0

ξ゚⊿^)ξ「”癒身の法”っていう一言しか届かなかったけど、効果はご覧の通りよ」

(´・ω・`)「毎度驚かされるよ、ツン───大陸の大多数が聖ラウンジ信仰なのも、頷ける」

( ^ω^)「やっぱり、君は大した娘さんだお」

ξ*゚⊿゚)ξ「えっへん」

爪'ー`)「馬鹿、褒めすぎるなブーン」

川 ゚ -゚)「………」

先ほどからある疑念が引っかかり、それがクーの胸中でつかえていた。

今しがたのショボンの言葉の中にもあった────確かに、そうなのだろう。
戦闘で過ぎ去った高揚感の後に、えも言われぬ感情が訪れ、複雑な表情を浮かべる。

ξ゚⊿゚)ξ「?……どうしたの、クー」

胸を張るツンの顔を覗き見ていたクーだが、自分の考えを悟られぬよう紛らわし、俯く。

川 - )「────いや、なんでもない」

心の中で起こるせめぎ合いは、いつの間にか彼女の表情を曇らせていたようだ。
それらをひた隠すため、クーは目線をツンから逸らした。

隠そうとも、決して消せぬ感情ではあるが。

153活動限界まで@30分:2012/01/14(土) 08:08:41 ID:zkfwVdHY0

(´・ω・`)「─────さて、目的の場所はすぐそこさ」

再び出立を促すショボンの案内の元、冒険者一向は先を急いだ─────


───────────────

──────────


─────

154活動限界まで@30分:2012/01/14(土) 08:09:24 ID:zkfwVdHY0


怪樹達の群を抜け、湖畔沿いの道にぽっかりと口の開いた洞穴。
そこは、迫る人面樹を凌ぐため、ショボンが一度立ち寄った場所だった。

(´・ω・`)「ここを通っておいて良かった」

じめりとした湿気は、肌にまとわりついてくるようだ。

爪'ー`)「どこに連れてくるのかと来てみりゃあ……何の事はねぇ、緑から逃れる為の休憩所ってか?」

( ^ω^)「なんつーか……ニオうおね」

川 ゚ -゚)「これは……」

爪'ー`)「───ははん、なるほどな」

155活動限界まで@30分:2012/01/14(土) 08:10:43 ID:zkfwVdHY0

煙草を取り出し口にくわえたフォックスが、足元に転がる樽から地面へと染み込んでいる液体を見て、
火打ち石で着火しようとしていた手を止めた。

「お、おい!お前さんがた……まさか本当に───!」

(´・ω・`)「そう、油さ。こいつをそこらじゅうへと振りまいてから、この森に火を放つ」

ξ゚⊿゚)ξ「!」

冷静に言ってのけるショボンの言葉に、もはや一同から忘れられかけていたラッツが騒ぎ立てる。
どう考えても冷静ではない一言を、さらりと口にした彼に対して。

「はッ!……お笑いだぜ、苦心の末ここまでやってきた挙句、やっぱり森に火を放ちます、だぁ?」

(;^ω^)「心配だという点については、ブーンも同調するお」

「心配どころじゃねぇ、全部燃え尽きた後にゃあ焼死体が7つ発見されるだけだぜ!?」

从;'ー'从「そうですよっ、大体───どこに逃げるんですか!?」

ξ゚⊿゚)ξ「逃げ場のアテはあるの?ショボン」

(´・ω・`)「無いよ」

156活動限界まで@20分:2012/01/14(土) 08:11:40 ID:zkfwVdHY0

( ^ω^)

爪'ー`)

ξ゚⊿゚)ξ

「………」

その一瞬、洞穴の中に居た面々の表情は一様に冷たく凍りついた。
完全に場の時が止まったのを見計らってから、ショボンは白々しく言い放つ。

(´・ω・`)「冗談。確実な安全性の面では、という意味さ」

爪'ー`)「……次からは止してくれ、本当に心臓が止まる奴だっているかも知れないからな」

(´・ω・`)「───だけど、君たちの誰かも、この一つの可能性に気付いているはずだ」

「どうしろってんだよ!地中に穴ぐらでも掘って、そこに埋まってりゃあいいのか?」

(*^ω^)「おっ!それはいい考えかも知れないおっ!?」

爪'ー`)「お前は黙ってろ」

ξ-⊿-)ξ「う〜む……」

川 ゚ -゚)「この場所に居ても、油が染み込んでいるこの地質では引火の可能性が極めて高いな」

(´・ω・`)(……すぐにたどり着く答えだと思ったのは、ひょっとすると僕だけなのか)

腕組みをしながら長考に入った面々の様子に、ショボンはがくりと首を傾げた。
どうにか考えをひねり出そうとしていた彼らの沈黙を破ったのは、ワタナベだった。

157活動限界まで@20分:2012/01/14(土) 08:12:28 ID:zkfwVdHY0

从'ー'从「みず、湖…………あっ!」

川 ゚ -゚)「!」

(´・ω・`)「………そう、船だ」

ショボンが思い描いていた、そしてワタナベが連想あそびの要領でたどり着いた答えは────”湖上”

幸いにもこのカタンの森には中央部分に大きな丸型の湖が存在している。
そしてこの場にいる冒険者たちの大半が、この森に足を踏み入れた時、湖上に浮かぶ木船を見かけたのだ。

この怪樹ひしめくカタンの森からの唯一の脱出経路は、森の外にあらず。
森の中、すなわち湖の上に浮かべる船の上にあったのだ。

(*^ω^)「そ────その手があったかぁぁーーーッ!」

全く思い当たらなかったその答えに、とても大きく感銘を受けて叫ぶブーン。
だが、それにはどうしても一つだけ問題点が残されてしまうのだ。

爪'ー`)「確かにそりゃあ………安全とは言えねぇな」

(´・ω・`)「………」

ξ゚⊿゚)ξ「名案だと思うけど、どうしてよ?」

爪'ー`)「考えてもみろよ……ひぃ、ふぅ────今この場にゃ、何人居るんだ?」

ξ;゚⊿゚)ξ「あ………」

158活動限界まで@20分:2012/01/14(土) 08:13:50 ID:zkfwVdHY0

「子供は数に入れねぇでも────大人が、6人も……」

ここで、再び一同は沈黙した。

小さな木船ならば3、4人がせいぜいのはずだ。
チャンスは一度、そこで全員が船に乗っかり岸からある程度の距離を離れなければならない。

明らかに定員を大幅に超えてしまうのだ、すぐに沈没してしまう事もありうる。

(´・ω・`)「森に立ち込める熱風で、気流に引き寄せられる可能性もある。岸からは少しでも離れたい」

爪'ー`)「万が一沈没したとして、俺やクーならなんとかならぁな……けど」

ξ;゚⊿゚)ξ「私やワタナベちゃんは正直……ずっと立ち泳ぎしてる自信なんて欠片も無いわ」

(;^ω^)「ブーンも……具足や胸当て……ごてごて重い装備ばっかりだお」

爪'ー`)「まぁ、沈んだら溺れるわな」

(´・ω・`)「外してもらうしかない、か」

(;^ω^)「だけどだけど!この子たちはもはやブーンの旅の相棒で、ちゃんと名前も────」

ξ゚⊿゚)ξ「何馬鹿な事言ってんの。あんたが一番重いんだから、そこは譲りなさいよ」

159活動限界まで@20分:2012/01/14(土) 08:15:28 ID:zkfwVdHY0

从;'ー'从「ブーンさん……お願いします」

川 ゚ -゚)「ま、少しでも全員の生存率を上げる上での必須事項だろうな」

(;^ω^)「ぐぬぬぅ……」

女子供の説得に負け、ブーンは泣きそうな表情を顔に貼り付けながら、具足や胸当ての紐を自ら解いていく。
衣服とともに、最後に残ったのは身体に麻糸で巻きつけた、鞘に納まる剣だけだ。

(#^ω^)「べらんめぇ!こいつでどうだおッ!」

(´・ω・`)「すまないね、ブーン」

ξ゚⊿゚)ξ「あ………その背中の剣だって、重いんじゃない?」

( ^ω^)

ξ;゚⊿゚)ξ「あ、ごめん……ダメだった?」

表情は同じだが、その一言に少しだけ雰囲気の変わったブーンに、ツンが少したじろいだ。

( ^ω^)「この剣だけは、譲れんお」

背の剣の柄を一度握りながら言うと、すぐにいつもの雰囲気に戻ったが。

ξ゚⊿゚)ξ(大事なもの、なんだ)

川 ゚ -゚)「で────その作戦、決行はいつだ?」

160活動限界まで@15分:2012/01/14(土) 08:16:41 ID:zkfwVdHY0

(´・ω・`)「勿論、早いに越した事はない───皆の心の準備は?」

川 ゚ -゚)「私はいつでもいいが……こんな森とは、早いとこおさらばしたいのでな」

爪'ー`)「俺もだ。動くんなら分担だろ。準備は出来てるぜ?」

(´・ω・`)「こき使うようですまないが、これで貸し借り無しにさせてもらうよ───」

「わーったよ」
と、ショボンの台詞にそっぽを向いて一寸子憎たらしい表情を浮かべたフォックスだったが、
どうやら彼は自分の役割を理解しているらしい。

(´・ω・`)「ブーンとフォックスは、この森の東西に分かれてここにある油を撒いてきてくれ」

「なら、俺も手伝わせてもらうぜ!何もしねぇで助かるのは、癪だからな」

(´・ω・`)「ありがとう。ではラッツ、君は北側を頼む」

( ^ω^)「ショボンはツン達とここに残って、この洞窟を見張ってるのがいいおね」

从'ー'从「あ!見張りぐらいなら私だって手伝えます!」

(´・ω・`)「助かる。それじゃあ君は東側の出口を見張って、何かあったらすぐ反対側の僕へと知らせてくれ」

161活動限界まで@15分:2012/01/14(土) 08:18:05 ID:zkfwVdHY0

良い雰囲気だった。

てきぱきと役割分担が決まっていき、それを担う面々の瞳には、不安を塗りつぶす程の強い光が宿っている。
「畜生、意地でも助かってやるからな」と言いながら、ラッツは自分の頬をぴしゃり張っていたが、
恐らくその心中は、この場にいる誰もがそう頑なに思っている事だろう。

この森に住まう怪樹らを倒して、生き残る。
もちろんそれも─────全員でだ。

(´・ω・`)「よし、十分な休憩時間だったね。始めるとしようか」

ξ;゚⊿゚)ξ「あ、あの〜……」

川 ゚ -゚)「私たちは、どうすればいい?」

完全に出遅れたツンが、弱弱しい声を出しながらそろそろと挙手する。
だが、非力なツンに対し”油樽を担いで走り回れ”などとと無茶な事は、当然言える訳もない。

(´・ω・`)「ツンは……クーさんと共に安全なこの場所で待っていてくれ」

ξ-⊿-)ξ「そう、わかったわ(ほっ……)」

(´・ω・`)「クーさんは───」

( ^ω^)「いいんだお、元はと言えばブーンがこの森に行こうと誘ってしまったせいだお」

川 ゚ -゚)「ま……確かに依頼の危険度は大幅に跳ね上がったが」

162活動限界まで@15分:2012/01/14(土) 08:19:09 ID:zkfwVdHY0

(;^ω^)「随分迷惑もかけたし、道中で危険な目に合わせちゃったおね……」

ξ゚⊿゚)ξ「まぁ、旅のお共は道連れって言うじゃない、確か」

( ^ω^)「───迷惑ついでで申し訳ないんだけどお、どうかここで、ツン達の事を守って欲しいお」

川 ゚ -゚)「ふむ、それは腕を見込まれての事かな?」

( ^ω^)「そういう事ですお、先輩冒険者殿」

川 ゚ー゚)「ふっ……わかった。任せてくれ────無事を祈るぞ」

( ^ω^)「!……ありがとだお」

爪'ー`)(ほぉ……こうしてしおらしくしてれば────なるほど、うぅん……悪くないねぇ……)

ξ゚⊿゚)ξ「何じろじろ見てんのよ、アンタは」

役割を果たす自信が無く名乗り出られなかったツンとは違い、クーは手伝う意思が十分にあった。
が、小気味良く連携して脱出の算段を整えてゆくブーンらの様子をずっと見ていて、機を逃しただけ。

目を奪われていたのだという自覚は、彼女にはなかった。

163活動限界まで@15分:2012/01/14(土) 08:20:15 ID:zkfwVdHY0

今までクー自身は毛嫌いしていたはずの、”パーティー”という冒険者の集まり。
だがその認識は、今彼女の中で確実にがらりと変わろうとしていた。

いつの時代も同族で殺し合いばかりしているのは、人間の他には妖魔ぐらいなものだ。
だがそれとは逆に互いを助け合い、同じ希望を胸に抱きながら困難へと立ち向かってゆく者もあった。

ブーン達の、真剣みの中におふざけなどを交えつつも、皆の気持ちが一つになるさまは────

( ^ω^)「よっしゃ、どっちが先に帰ってこれるか競争だお!フォックス!」

爪'ー`)「けっ、なめんじゃねぇよ。俺が狐なら、お前さんはどん亀だぜ」

(´・ω・`)「二人共下らない小競り合いはいいから、役割だけは果たして帰ってきてくれよ?」

ξ゚⊿゚)ξ「危なくなったら、すぐに引き返してね……」

川 ゚ -゚)(これが冒険者………”仲間”、か─────)

そうして─────人間不信の一面を持つクーの心を、少しだけ氷解させるに至った。

──────────────

──────────

─────

164活動限界まで@10分:2012/01/14(土) 08:22:09 ID:zkfwVdHY0

勇み駆け出していった、ブーン、フォックス、ラッツの三名。
残った者のうち、ショボンとワタナベは両の出入り口の見張りへと付いている。

クーと二人、どことなく気まずい空間に取り残されたと思っているのはツンの方だろうか。

川 ゚ -゚)(………)

ξ゚⊿゚)ξ(うぅん……何話せばいいのかしら。さっきはすごく険悪だったし)

何とはなしに、人3人が横に並んでせいぜいといった洞窟内の中央部分で、端と端で対面し腰を下ろす二人。
会話を切り出そうかと思案にあぐねているツンの方を、クーは時折ちらと覗き見る。

川 ゚ -゚)(………尋ねて、いいものか)

ξ゚⊿゚)ξ(あ、何か見てるわ……もしかして、まだ向こうはこっちの事恨んでたりして)

川 ゚ -゚)(いや………やはり、やめておこう)

ξ;-⊿-)ξ(あー、ダメ。お互い押し黙っちゃって気まずい。何か話し振らないと)

気まずさに後押しされるようにして、ツンは質問をクーへと投げかける。

ξ゚⊿゚)ξ「あ、あのっ……クーってさ───どこからヴィップへ来たの?」

川 ゚ -゚)(―────ッ)

165活動限界まで@10分:2012/01/14(土) 08:23:01 ID:zkfwVdHY0

たまたま思いついた、何気ない質問をツンはぶつける。
しかしそれは、お互いにとって最悪、正しく引き金だったのだ。

顔を伏せ、小さな声でクーはぽつりとだけ返した。

川 - )「私の生まれはな………ロアリアだ」

ξ゚⊿゚)ξ「そっか………ロアリ─────」

言いかけて、その瞬間に気付いた。
脳天から背中にかけてを、雷に打たれたようにしながら、ハッと思い出す。

昔、父が聞かせてくれた話が次々と頭の中へと流れ込んで来ては、鼓動が大きく高鳴った。

ξ;゚⊿゚)ξ(権力に溺れて、罪も無い街の人々の多くを無慈悲な刑に処した、イスト審問官の………!)

川 ゚ -゚)「………その様子だと気付いたか。お前も、聖ラウンジの人間なのだろう?」

ξ;゚⊿゚)ξ「あ────」

川 ゚ -゚)「私の家族も、クソッたれの聖ラウンジの被害者さ。何の負い目も無い父と母は、殺された」

ξ; ⊿ )ξ「そん……な……」

自分の信仰する道の名を貶められても、何も反論する事など出来ない。
ただ、クーの強い瞳から顔を背けて、俯く事しか。

166活動限界まで@10分:2012/01/14(土) 08:24:03 ID:zkfwVdHY0

だが、何か言葉を返せば、怒気を荒げて剣を突きつけていたかも知れないと、クーは思う。
確かに恩人ではある、が、どうしても心の底では”両親を亡き者にした一味の一人”という印象は、拭えない。

もはや世間一般の人間達からは忘れさられ、当の聖ラウンジ教徒らの頭からも風化してしまっている事実。
だが、事実は事実として、確かにクーの心に大きな深手を残しながら、愛した両親を奪い去ったのだ。

それら全てを踏まえた上でなお、クーは表情の平静を装う。
自身の身体の内側で、何か黒くどろどろとしたものがうごめいているような不快を感じてはいるが。

どうにか言葉を捻りだそうとしているツンの様子が、クーの目にはこの上なくもどかしい様子に映る。
謝罪、憐憫、同情────いずれにしろ、そんな言葉をラウンジ信徒から聞いても不快が増すばかりだ。

ξ;⊿ )ξ「私……」

川 ゚ -゚)(………ふん)

そんなツンの様子に急速に興が醒めたか、クーが会話を切り上げようとしたその時だった。
ようやく言葉が紡がれたツンの口からは、彼女にとっては驚きの言葉が聞かされる。

ξ;⊿ )ξ「私は────その当時司教だったアルト=デ=レインの娘、ツン=デ=レイン……」

川 ゚ -゚)「ッ!」

167活動限界まで@10分:2012/01/14(土) 08:24:57 ID:zkfwVdHY0

ツンが明かした本性は、恐らくクー自身が最も憎むべき存在の一人でもあるかも知れない。
暴走が過熱し、ロアリアの地に悲劇を振りまいた異端審問団を派遣したのは、当時最も権力を有していた、
司教であるツンの父親に他ならない。

尤も、様々な事象が重なり、全ての責任が父にあったとは言えないが、その一旦は担っているはずだ。
憎むべき相手の娘─────憎まれるべき相手とが、やがて視線を上げて瞳を見つめあう。

ξ゚⊿゚)ξ「………聞かせて欲しい。クーの、ご両親のお名前」

川 ゚ -゚)「………何の義理で」

ここで、クーは腰の剣に手をかけられるような体勢を取りながら、ツンの前に立ち上がった。
彼女の言葉は、出来る事ならばこのまま触れて欲しくなかった部分を逆撫でして、憎悪を滾らせた。

ξ゚⊿゚)ξ「祈らせて欲しいの───クーのご両親の、御霊に」

川#゚ -゚)「言葉に気を付けろよ……私の父と母の名を、汚そうというのか?」

ξ-⊿-)ξ「ダメ………だよね」

川#゚ -゚)「───お断りだッ!お前に、私の何が解るッ!?」

理性は残っているが、今やツンの言葉のどれもが、クーの激情に油を注ぐものでしかない。
とうとう剣を抜いてぴゅんと振るうと、その切っ先をぴたりとツンの鼻先へ突きつけた。

168活動限界まで@10分:2012/01/14(土) 08:26:05 ID:zkfwVdHY0

川#゚ -゚)「……お前たちラウンジの信徒がしたことを、私は決して忘れる事など出来んのだ」

ξ-⊿-)ξ(……………)

クーに斬る気が無いのを、悟った訳でもない。
しかしながらツンは、怖気づく様子も見せずにその場に膝を着くと、すぅ、と目の前で手を組み、額を合わせた。

川 ゚ -゚)「………何の真似だ」

ξ-⊿-)ξ「いつの日か─────ご両親の名前、教えて」

川#゚ -゚)「ッ……まだ言うか!」

ξ゚⊿゚)ξ「それまでは、祈らせてもらう。毎晩、名も知らないクーのご両親に、様々な想いを届ける為に」

川#゚ -゚)「………」

ξ゚⊿゚)ξ「私は───この先もずっと祈りの旅を続けるから」

自分の想いを、はっきりと口にして伝える。
彼女にとっての旅は、祈りの旅。それを繰り返す中で、彼女が背負うものは確実に重みを増してゆくものだ。

クーの両親のように非業の死を遂げた人間ばかりでもない、他教徒や分派の宗教戦争の犠牲者。
果ては行き倒れのまま死んだ旅人に、蛆のたかる名も無き亡骸まで。

それら全て、自分の目に映る限り。
今にも声に聞こえてきそうな死者の怨嗟に対しても耳を傾け、迷える魂達に慈しみの祈りを届ける。

ツンの中で、クーに言った言葉に偽りは無い。
だからこうして、これからも彼女が旅を続ける理由はひとつひとつ増えてゆくのだろう。

169活動限界まで@10分:2012/01/14(土) 08:26:46 ID:zkfwVdHY0

ξ゚⊿゚)ξ「私たちの過ちで、クーのご両親のように想いを残してこの世を去ってしまった人々の為に」

川 ゚ -゚)「………想いを残して去ったと、何故わかる?」

一層真剣みを帯びたツンの表情、そして力強い瞳が、彼女の揺ぎ無い信念を物語る。
クーが静かに話を聞く内、いつしか抜き出していた剣も鞘へと収められていた。

ξ゚⊿゚)ξ「それは、クーが今でもご両親の事を想うのと一緒よ───。
     親というのは、自分がいつどんな状況でも、子供である私たちを気に掛けてくれているから」

川 ゚ -゚)「………」

そうして、クーは再び元々座していた場所に腰をすとんと下ろした。
そっぽを向いて頬杖を付くと、また最初の時のように黙り込む。

ξ-⊿-)ξ(……………)

白けた様子のクーを一度だけ見やると、今度は瞳を閉じて、ツンは祈りを捧げ始める。
恐らくは、話しの中にあったクー自身の”名も知らぬ両親”に向けて、であろうが。

川 ゚ - )(ふん────堂に入ってるものだ)

片目を閉じ、横目だけでクーが一度だけ伺ったツンの姿は、心の中でだけ子憎たらしい言葉を吐いたクーの
目に、そう思わせるだけの風格は持ち合わせていたらしい─────

170活動限界まで@10分:2012/01/14(土) 08:27:34 ID:zkfwVdHY0

そうして訪れたしばらくの沈黙を長く感じたクーが、小さく声をかける。

川 ゚ -゚)「………なぁ」

腹の虫も、何だか方々へと散ってしまったようだ。
今になってツンの境遇、立場を何も考えずに一方的に責め立てた自分に、少しだけ負い目を感じる。
「済まなかった」などと、一言だけでも謝ろうとしたのだが、声が聞こえていない事に気付いた。

ξ-⊿-)ξ(………)

クーの前に居るのは、祈りを形にする事の出来る力を持った娘。奇跡そのものような存在だろう。
そんなものを身につける事が出来たのはどうしてかと、彼女の顔を覗き込みながら考えていた。
他人の声も届かぬほどの集中力、信仰に裏打ちされた強い意志の力なのか。

あるいは──────

川 ゚ -゚)(そんな力があるのなら───本当に私の両親に届けてしまいそうだな。直接の、言葉を)

ξ゚⊿゚)ξ「………」

様々な思案を巡らしている内、どうやらツンが祈りを終えたらしい。
それと同時に、これまで静けさを保っていた洞穴の中に、聞き覚えのある声が反響し、靴音も響いた。

「みんな、とにかく集まってくれおッ!」

171活動限界まで@10分:2012/01/14(土) 08:28:22 ID:zkfwVdHY0

川 ゚ -゚)「どうやら、終わったようだな」

ξ゚⊿゚)ξ「えぇ……ところで脱出した後、クーはまたヴィップに?」

川 ゚ -゚)「ん?そうだが……それより今は急ぐぞ」

ξ-⊿-)ξ「分かった────いつか、また教えてもらいに行くから」

川 ゚ -゚)「両親の名の話か?」

「ええ」

「ま、教えちゃやらんがな」

そんな言葉を交わしあいながら、ブーンの声がした東側の入り口へと歩いていく。
その彼女らの後ろからは、西側入り口で見張りをしていたとワタナベと共にフォックスも戻って来ていた。

爪'ー`)「よぉ、お二人さん」

ξ゚⊿゚)ξ「フォックス!」

川 ゚ -゚)「戻ったか」

爪'ー`)「今、外はちっとばかしまずい感じになってるぜ───どうやら、ブーンの奴の方もだ」

「おぉい!急がねぇとやべぇんだッ!」

172Shigoto Overtime:2012/01/14(土) 08:29:22 ID:zkfwVdHY0

どうやら、ラッツもブーン達と一緒だ。
小走りで彼らの元へ向かうと、まず息を切らせたブーンが出迎えてくれた。

(;^ω^)「はひぃ……ぶふぅ……あーしんど。とにかく、聞いてくれお!」

(´・ω・`)「何があったんだい?まさか、船が使用不能に───」

爪'ー`)「いや、違う。連中に”俺たちの動きを感づかれた”……そうだろ?」

(;^ω^)「その通りだお!」

从'ー'从「感づかれた……って、見張ってた私は何も───」

皆が顔を見合わせる内、全員がある異変に気付いた。
「しぃっ」っと言った誰かの合図で全員が黙り、耳を澄ます。

         ──ギギ── 

  ――ギギィ──             
                    ――イギッ グギギッ── 


      ──ギヒヒィ――

173Shigoto Overtime:2012/01/14(土) 08:30:22 ID:zkfwVdHY0

不快な音色の主は、遠くから徐々にこちらへと近づき、次第にその音量も増して感じられる。
それも、一つや二つではない。妖樹の声が幾重にも重なり合い、それらが奏でる協奏曲。

ブーン達が油を撒き散らして、自分たちを燃やし尽くそうとしている動きに気付いたというのだ。
ここ一番で、最大のチャンスでもあり、最大のピンチが訪れた。

(´・ω・`)「以前ここで、調査団の一人が焼身自殺を遂げたという調査があった」

爪'ー`)「そいつぁ、まぁ普通に考えてあいつらに襲われたからなんだろうなぁ」

(´・ω・`)「油を燃やす道具と知り、知恵を付けた───というべきか。やはり、火を恐れている」

( `ω´)「だったら後はどうにか突っ切って………船まで向かうだけだお!」

恐らく木船のある小屋に行くまで、幾度も妖樹の群れが立ち向かってくるだろう事を覚悟した。
もはや、一刻の猶予もない。森中の人面樹が共鳴し、ブーンたちの退路を絶とうとしている。

もはや脱出などではなく───互いの存亡を賭けた戦闘なのだ。
自分たちが火を放ち、全焼するまでの間を湖上で無事に居られるか否かが本当の勝負となる。


「行くおぉぉぉーッ!!」

ブーンの咆哮が、妖樹たちの協奏曲に負けじと森を木霊し────それが合図となった。

174Shigoto Overtime:2012/01/14(土) 08:31:08 ID:zkfwVdHY0

───────────────

──────────

────────

─────

―──





爪'ー`)「くれてやるよッ!」

同時に素早く数本のナイフを眼球へと打ち込み、視界の自由を奪って無力化する。
それだけで十分な相手だった。

すぐに全員を導くと、次の障害が立ちふさがる。

爪'ー`)「ショボンの旦那よぉ、こいつは任したぜ!」

だが、走りながらという悪条件の中でも集中を曲げずに詠唱を行っていたショボンがその前に出る。
そして彼が一言、二言を呟くと、次の瞬間には人面樹を木っ端微塵に吹き飛ばしていた。

(´・ω・`)【───炎の玉!】

ξ;>⊿<)ξ「わっ……ぷ!破片飛んで来るんだけど……」

再び視界が拓けた時、その先にいる二体に向かってブーンとクーが同時に斬り込んでいた。

175Shigoto Overtime:2012/01/14(土) 08:31:52 ID:zkfwVdHY0

(´・ω・`)「二人共!そいつらを切り抜ければ小屋はもう目の前だッ!」

( `ω´)「分かったお………クーさんッ!!」

川 ゚ -゚)「あぁ、来るぞッ!」

「ギシャアァァァァッ!!」

最後の抵抗、と言ったところだろう。
せき止めて二匹の内の右の一体が、奇声と共に枝を横へとなぎ払った。

”がぎっ”

(;`ω´)「お前たちの攻撃は……ブーンにでもまるっとお見通しできる程に単純なんだおッ!」

勢いのあるその攻撃を剣の刃部分で受け止める。
なまじ威力があるばかりに、剣が食い込んだ枝の先端はそのまま寸断され、どこかへと飛んでいった。

その隙を突いて、跳躍。
飛び込みながら大きく身体ごと反らせて溜め込んだ力を、そのまま中空で斬撃へ変えて解き放った。

”バギャァッ”

斬るというよりも、粉砕したというのが正しい表現だった。
顔面を突き抜けた剣の先端は、向こう側へと貫通するほどの威力。

(;`ω´)「……よっしゃぁッ!」

176Shigoto Overtime:2012/01/14(土) 08:32:36 ID:zkfwVdHY0

一方の、クーが受け持つ左手の固体は、足元を払うようにして枝を地面すれすれを伝わせていた。

「ギギ……ギィィィーッ!!」

川 ゚ -゚)「そんな単調な攻撃、倍は早くても当たらんさッ!」

前方へと宙返り、悠々とその横なぎを避けながら接近する。
さっきの戦いから学習しておいた、至近距離にまで密着すれば攻撃を繰り出す事が出来ないという
身体構造の特徴を、すぐに戦闘へと活かす。

眼球のある位置こそ違うものの、基本は同じだ───その人の頭ほども大きな眼の中心へ向け、剣を穿つ。

「……シャギャァァァァッ!!」

痛みに枝をのた打ち回らせている所を、今度は剣を一度引きぬいてから、もう一度別の場所へと突き刺した。
さらに大きな叫びを上げて暴れるかと思いきや、意外にも奇声は止み、側面の茂みへと自ら倒れてゆく。

川 ゚ -゚)「ニブそうだが……痛覚は一応あるようだな。二度刺しは効いたか」

立ちふさがる障害を取り除きながら走り続け、ようやくたどり着く事ができた。
小屋のすぐ近くに、ぽかりと浮かんでいる木船────あれだ。

(;`ω´)「あった───あれだおッ!!」

何の変哲も無い木を切り出して叩き上げただけのこの船が、この悪夢の幕引きとなる。
凶暴で気色の悪い人面樹たちばかりを相手にしていたせいか、心なしか素材以上に輝く、希望の箱舟に見えた。

177Shigoto Overtime:2012/01/14(土) 08:33:21 ID:zkfwVdHY0

「お嬢ちゃん達が先だ!さっさと飛びのんな!」

从;'ー'从「……はいッ!」

ξ;゚⊿゚)ξ「ありがとう、ラッツさん!」

(´・ω・`)「よし……いいぞ、ここで火を放つ!」

爪'ー`)y-「任せな、俺もこの貴重な煙草を1本だけ無駄にして、火ぃつけてやるぜ」

(;`ω´)「………フォックス、もうナイフが無いなら下がってるお」

爪'ー`)y-「そういう訳にもいくめぇ。お前さんとショボンだけにオイシイとこはやれねぇのさ」

(´・ω・`)(邪魔だな……)

「さぁ、姉御の番だぜ!」

押し寄せる妖樹の波の前に立ちふさがるのは、たった三人の男。
ラッツに順番を急かされて船へと乗せられるクーだったが、彼らの背中に後ろ髪を引かれる思いがあった。

川 ゚ -゚)(成功………するのか?)

178Shigoto Overtime:2012/01/14(土) 08:34:05 ID:zkfwVdHY0

ξ-⊿-)ξ「ヤルオ=ダパートよ……これより船旅に出る我らに、どうか主のご加護を賜らん事を────」

不安や恐怖、彼らとてそれは感じているはずだ。
もちろん、それはこれからその策に乗っかかるクー自身にも。

( ^ω^)

爪'ー`)y-

(´・ω・`)

だが、こちらの視線に気付いて大きく頷いた三人の表情には「絶対に上手くいく」
そう思わせんばかりの自信が漲り、なぜだかこちらまでそんな気分にさせられる。

船に乗り込む時にクーが覗き見たツンの表情にも、期待や信頼のようなものが伺える。

ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫よ────きっと」

後ろから追いすがる幾つもの人面樹たちの気配を探りながら、ショボンが満を持して詠唱に取り掛かった。
火を放つまでの間を湖上で揺られる4人には、その彼らの背中をただ見ている事しか出来ない。

川 ゚ -゚)「なぜ、そう言える?」

ξ゚⊿゚)ξ「今回みたいな事は初めてじゃないし、それに────」

ξ゚ー゚)ξ「信じられる”仲間”だからかな?」

川 ゚ -゚)(………)

湖上を大きく波立たせ、水面を激しく揺らすほどの揺らす突風が巻き起こった。
ショボンの魔法により、何もかも消し炭にしてしまいそうなほどの紅蓮が顕現した。

179Shigoto Overtime:2012/01/14(土) 08:34:49 ID:zkfwVdHY0

爪;'ー`)「くっ!こいつぁまた遠慮のねぇ火加減で……」

(;`ω´)「皆、炎を直接視てはいけないおッ!」

(´・ω・`)【 ───────爆炎の法ッ 】

巻き起こる風は炎にさらされた為に次第に熱を帯び、次には吹き荒れる熱風と化した。

教会の時よりも威力を抑えてはあるが、ショボンの”爆炎の法”が徐々に大きな火柱を形作り、
こちらへ迫ってきていた妖樹の群れへと唸りを上げながら、炎でなめ尽くしてゆく。

「や、やべぇぞこりゃあッ!」

从; ー 从「ブーンさんたち……早くッ!」

迫っていた妖樹達の織り成す断末魔は、さながら不気味な森の管弦楽団。
だが、それは次第に轟々と燃え盛る焔の竜巻に巻き込まれては、消えてゆく。

(´-ω-`)「───ちゃんと延焼するかどうか確認しておきたいが……フォックス!!」

爪;ー )「馬鹿野郎ッ、それどこじゃねぇよ!目が焼け爛れるっつの!」

(; ω )「あっづぅ!こりゃあかんお……」

そこらの木が炎と煙に巻き込まれては、ばたばたとゆっくりと倒れてゆく。
腕で顔を庇いながらブーンが一度だけ目にした光景は、もはや見渡す限りを焦土と化していくさまだった。

「もう十分だろう、早く乗れ!」

誰が言ったか聞き取れる余裕はなかった。
すぐに三人は炎が広がってゆく森に背を向け、一目散に船へと飛び込む。

180Shigoto Overtime:2012/01/14(土) 08:35:32 ID:zkfwVdHY0

(; °ω°)「おっ、おうふッ!?」

爪;'ー`)「ちぃ……やっぱ重すぎる!」

(´・ω・`)「傾いて船に水が入らないよう、皆でバランスを取り合うんだ!」

恨めしく断末魔の協奏曲を響かせる炎の森を離れるべく、船を繋ぎとめていたロープを断ち切る。
船が沈まぬ様に気をつけながらゆっくりとオールで湖畔へと漕ぎ出し、少しずつ景色は遠くなってゆく。

そして湖の中央部分にまで辿りつく時には、首を捻ってどこを見渡しても、火に閉ざされた同じ光景ばかり。
妖樹達の声は次第に黒い煙にまかれながら、その鳴りを潜めていった。

( ^ω^)「終わったお、ね」

川 ゚ -゚)「まさか……本当に上手く行くとはな」

遠目に映る光景を────全員がただ見つめていた。
これほどの数がいたのか、とぞっとしてしまう程の人面樹達の群れが、熱さにもがき苦しみ、
まるで舞い踊るかのようにじたばたと枝をくねらせ身を捩っては、倒れていく姿。

ワタナベが言った。

从'ー'从「森が─────哭いてる」

幻想的でもあり、不気味な光景に皆が目を奪われていた。
人に害なす妖魔の木、それをこうして一網打尽に出来たというのに、何故だか奇妙な感傷も去来する。

181Shigoto Overtime:2012/01/14(土) 08:36:15 ID:zkfwVdHY0

ξ゚⊿゚)ξ「どうして……こんな森になってしまったんでしょうね」

爪'ー`)y-「森に落ちた隕石が原因だってぇのにしろ……よっぽど人間様に鬱憤でも溜まってたのかね」

从'ー'从「もう、カタンの薬草は取れないのかな」

野生動物の声は、聞こえない。
空へと羽ばたき逃げていく、鳥たちの姿も無い。

そうなってしまった真相を知るのは、今まさに炎に朽ちていくカタンの森自身だけ。
あるいは、これまで人間達に切り倒され、利用され続けてきた木々たちの怒りだったのかも知れないが。

(´・ω・`)「今……誰か漕いでいるか?」

唐突に、ショボンが錯覚のような違和感を覚えた。

(;^ω^)「おっ、何だお!?」

爪'ー`)y-「待てよ、待て待て……まさか、岸に引き寄せられてるのか!?」

ξ;゚⊿゚)ξ「このままあの炎に巻き込まれたら……皆、必死で漕いで!」

从;'ー'从「大変……ど、どうしてっ?」

(;^ω^)「きっとあの森の仕返しだおね!」

皆が混乱する中、クーが黒煙を吸い込んでいく空を見上げて、ある事に気づいた。

川 ゚ -゚)「気流か……!熱風が空へと巻き上げられ、読めぬ風が吹き荒れ始めたぞッ」

182Shigoto Overtime:2012/01/14(土) 08:36:56 ID:zkfwVdHY0

「まずいぜ、クソッたれぇッ!」

ブーンらが必死にオールを漕ぐも、それに反発かのように強い風が吹き荒れ、船を押し流そうとする。
このまま炎に包まれた岸へと吸い寄せられてしまえば火や煙に撒かれてお仕舞いだ。

(;´・ω・`)「くッ……船が傾く。皆、掴まれ!」

(; °ω°)「ふおぉぉぉッ、全力でも間に合わんおぉぉッ」

必死の形相でオールを漕ぎ続けるブーンとラッツを、鼓舞して、皆が叫ぶ。
てんやわんやの船の上で、しかしツンは静かにただ一人、祈り始めた。

ξ-⊿-)ξ(どうか皆を……無事に───)

爪;ー )「ゴホッ、ガハッ……!煙で───」

「やべ、やべぇ……皆、意識が……」

(; ω )「皆───気を、しっかり……するんだお……」

燃え盛る森から立ち込める煙が、次第に皆の意識を失わせてゆく。
眠るようにして倒れていく皆を激励しながら、過度な運動による呼吸で煙を吸い込んでしまったブーンも、
そのうちぷっつりと意識が途切れて、船上で倒れ伏した。

183Shigoto Overtime:2012/01/14(土) 08:37:43 ID:zkfwVdHY0

後に残るのは、ツンとクーだけだが、意識があるのはクーだけだ。
ツンの方はというと、恐らく手を組み瞳を閉じ込んだまま、意識を失っている。

ξ ⊿ )ξ

川;゚ -゚)(もう───駄目か?)

岸まであとわずか、このまま下手をすれば全員が船ごと炎に巻き込まれてしまう。
覚悟を決めなければ─────そう、クーが思った時だった。

今まで岸へと押し流されていた風の流れが、ぴたりと止んだ気がした。
すると今度は、再び岸から押し戻されるようにして、船が湖上へ流されてゆく。

川; - )(いや、どうやら……良い風が吹いてきた)

ツイている、と思った。上手くいけば全員が生還できるだろう。

「もしかしたら、神の起こした奇蹟というやつなのかも知れないが」
そう考えたところで、クーの意識もついに白みゆく。

やがては、ぷっつりと目の前の光景が途切れた────


───────────────

──────────


─────

一週間後

184Shigoto Overtime:2012/01/14(土) 08:38:26 ID:zkfwVdHY0

───【交易都市ヴィップ 失われた楽園亭】───


いつも賑わいを見せる宿の中でも、マスターとの再会への歓喜からか、
周囲のパーティーよりも一層大声で騒ぐ一団の姿が、ブーン一行だ。

思わぬ依頼を、命からがら終えて戻って来たブーンたちだが、
彼らを出迎えてくれたマスターは、やはりいつもと変わらぬ場所でグラスを磨きながら、出迎えてくれた。

帰れる場所があるというのは、やはりいいものだ。

( ^ω^)「なんだか、一年ぐらいもマスターに会ってない気分だったお!」

(’e’)「俺としては平和な日々だったがな……何なら一年ぐらい旅に出てこいよ」

爪'ー`)y-「おっさんの俺たちに対する風当たりも相変わらずで、なんだか安心したぜ」

軽口を叩きながら、マスターの作ってくれたじゃがいものスープを一口、二口と啜っては、また談笑。
カウンター席に腰掛けているのは、ブーン達パーティーの他には、クーの姿もあった。

川 ゚ -゚)「ところで、何か私に言う事はないのかな?」

少し冷ややかなクーの視線は、マスターへと向けられた。
その視線から目を逸らすようにしてそっぽを向くと、今度は皿洗いに逃げた。

クーには気分転換がてら渡した簡単な依頼のつもりだった───

それがまさか、大きな森一つを全焼させるような羽目になるとは思わなかったのだろう。
流石に少しだけ、マスターもばつが悪いらしい。

(’e’)「まぁ、なんだ……良い経験になったんじゃないか?」

185Shigoto Overtime:2012/01/14(土) 08:39:09 ID:zkfwVdHY0

川 ゚ -゚)「いい事なんて無かったさ、費用対効果が見合わない……とんだ依頼だった」

(’e’)「そう言いなさんな、お詫びに一週間ぐらいの食事はサービスさせてもらうさ」

川 ゚ -゚)「当然の権利として受け取っておく」

それでもまだ不満そうな表情ではあるが、一応の納得はしたようだ。
と、そこへカウンターで思い思いに談笑している彼らの背中へ、嬉しさを滲ませた声が掛けられる。

从'ー'从「皆さん!良かった……すぐに見つかって」

(´・ω・`)「やぁ、久しぶり……でもないか。お互いに災難だったね」

从'ー'从「はい。でも、不幸中の幸いです───まさか、全員が鎮火した後の岸辺にたどり着けるなんて」


───ブーン達が意識を失ったあとの話だ。

焼き尽くされて焦土と化したカタンの森に、ワタナベの叔父ら付近の住民が見回りに来ていた。
そこで、岸に辿りついた船の上でブーンらが発見され、彼らに救出されたという訳だ。

ワタナベは心身の消耗が激しく、手当てが終わった後もいつまでも目が覚めなかった為、
ブーン達は置手紙をしてワタナベの叔父に身柄を託し、一日早くヴィップへの帰路に着いたのだった。

186Shigoto Overtime:2012/01/14(土) 08:40:00 ID:zkfwVdHY0

从'ー'从「あっ……これ、報酬です!」

( ^ω^)「ありがたく……って、こんなに。いいのかお?」

从'ー'从「皆さんには大変な依頼をさせちゃいましたから……お父さん叩いて、奮発してもらいました」

( ^ω^)「700spも……ありがとうだお、ワタナベちゃん」

从'ー'从「今度カタンの薬草を取りに行く時は、また皆さんにお願いしようと思います」

(´・ω・`)「────森があの状態では、しばらくは難しいだろうね」

爪'ー`)y-「この間みたいな事があるなら、俺は正直ご遠慮願いたいぜ」

ξ゚⊿゚)ξ「いたいけな子供の頼みを無碍に断るなんて、最低ね」

ツンがフォックスの頭を握りこぶしで小突いている最中、ワタナベが麻袋から何かをごそごそと取り出す。
小さな掌にわずかばかりの量盛られたそれは、何かの植物の種のようだった。

( ^ω^)「これは?」

从'ー'从「……カタンの薬草の、種なんです。これを毎年、あの森に植えに行こうと思います」

187Shigoto Overtime:2012/01/14(土) 08:41:07 ID:zkfwVdHY0

(´・ω・`)「確か、カタンの薬草は育ちづらい品種だ。手間は掛かるはずだよ」

ξ゚⊿゚)ξ「確かに、あの森を燃やしてしまったのは……私たちだからね」

从'ー'从「……でも、今回の件で思ったんです。自然を利用するだけ利用してるばかりで、
     それであのカタンの森の木たちも、怒っていたんじゃないかなって」

( ^ω^)「木は、人の生活に無くてはならない存在だおもね」

从'ー'从「だから、日ごろ切り倒してばかりいる彼らが育つ手伝いを私たちもしてあげる事で、
     もう今回みたいな事は起こらないかも……って、子供みたいですよね、私」

ξ゚ー゚)ξ「いいえ、立派な考え方だと思うわ」

从*'ー'从「そ、そうですかね?」

( ^ω^)「そうだおね。けど……ラッツの事だけは残念でならないお……」

ブーンが山小屋で手当てをされていた時に、そこにラッツの姿は無かった。
誰もその話に触れようとしない点から、無念にも彼だけは命を落としてしまったのだと理解したのだ。

一緒に助かろうとした彼の事を想い────ブーンは俯きがちに、心底残念そうにそう呟く。

从'ー'从「え?」

( ^ω^)「え?」

188Shigoto Overtime:2012/01/14(土) 08:41:48 ID:zkfwVdHY0

爪'ー`)y-「何言ってんだブーン……って、お前も最後まで昏睡してたから、知らなかったんだな」

(;^ω^)「ど、どういう事だお?」

ξ゚⊿゚)ξ「あの人、私たちより先に山小屋を出て行ったのよ」

(´・ω・`)「そういえば、知らないのはブーンだけだったね。死んだと勘違いを?」

(;^ω^)「だ、だって……誰も教えてくれなかったお……」

爪'ー`)y-「相棒は失っちまったけど、まだ冒険者を続けるんだと───お前にもよろしく伝えて……って」

ξ゚⊿゚)ξ「あんたが忘れてたんじゃない!」

爪'ー`)y-「……ま、細かい事は気にするなよ、とにかく全員助かったんだ」

( ^ω^)「そうかお───でも、良かったお。全員が無事に戻ってこれたんだおね」

川 ゚ -゚)「………」

クーにとっては、こんな大所帯に招かれる経験は少なかった。
仕事仲間以上として踏み込んだ関係───ツンの言った本当の意味での”仲間”というのは、今も居ない。

だが、屈託の無い笑みで喜びを分かち合おうとする彼らブーン達の関係に、少し心が揺れ動くものを感じていた。

189Shigoto Overtime:2012/01/14(土) 08:42:36 ID:zkfwVdHY0

(’e’)「そういや、クー…。正式に、こいつらとパーティー組むのか?」

( ^ω^)「………!」

どこかにやにやと笑みを浮かべたような、マスターの表情。
なんだかそれに反発したくなった───という訳でもないが、それを否定する。

川 ゚ -゚)「いや……一人が、気楽でな」

爪;ー)y(……パーティーに入ったら口説き放題だったのによ……)

( ´ω`)「……あ、フォックス。煙草落としたお」

(’e’)「なんだ、そうか?こいつらと居ると結構新鮮だとは思うがな」

川 ゚ -゚)「自分の組む相手は、自分で決めるさ」

(’e’)(………まだまだかね)

それだけ聞くと、ため息をつきながらまた踵を返し、皿洗いへと戻った。
マスターの親心から、今回クーとブーン達を組ませたという意図は、誰に知られる事も無い。
彼からしてみれば人間嫌いの荒療治になると思ったが、そう簡単なものではなかった。

カウンターを叩いて何やら悔しがっているような様子のフォックスや、
彼女の加入を心待ちにしていたのを裏切られる結果となり、不服そうな表情のブーンはさておき。

ふと、クーが何気なく視線を上げると、そこでツンと目が合った。

190Shigoto Overtime:2012/01/14(土) 08:43:19 ID:zkfwVdHY0

ξ゚⊿゚)ξ「………」

川 ゚ -゚)「………」

冒険者としての素質を否定する訳ではないが、ツンとはひと悶着もあった。

彼らのパーティーにクーが加入するとなれば、またいざこざが起こる事だってあるだろう。
互いに微妙な立ち位置ではあるが、過去の遺恨を捨て去る事など出来ない。

ツン自身が直接は無関係だというのが頭の中では整理出来ているにも関わらず、
憎しみの感情というものは、理屈抜きにかなぐり捨てる事など出来ない。

それが、親の仇に近しい存在であったのならば、尚更の事だ。

ξ゚⊿゚)ξ(────いつか)

191Shigoto Overtime:2012/01/14(土) 08:45:26 ID:zkfwVdHY0

じっと見つめるツンの瞳から先に視線を逸らしたのは、クー。
何か言いたげな彼女の口から、誘い言葉でも飛び出してくるのではないかと思ったが、それはなかった。

自分が彼らと行動を共にすることになったのなら、彼女はどう思うのであろうか。
そんな事を考えている内に、ふと─────

騒がしい彼らの隣に座っているのが、何だか自然な事のような感覚を覚えた。
これまでパーティーに加入し、共に旅をするなどという事を考えた事もない、クーだったが。

川 ゚ -゚)(私は─────)

育ての親となってくれたあの彼がこの場に居たのならば、それについてどう言うであろう。
ツンの言っていた”いつか”という日が訪れる時が来るのかどうかなど、自分自身にも解らない。

だが、クーの心の奥底には確かに────ほのかな葛藤が芽生えた日であった。

192名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:47:13 ID:zkfwVdHY0



   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             第5話

           「静寂の深緑」


             ―了―

193名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 08:48:05 ID:zkfwVdHY0
文章が長い!くどい!仕事いってきます!

194名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 11:41:25 ID:zrilxPXI0
乙 まだクー参加は無しか 
仕事頑張れえ

195名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 19:08:42 ID:oEOh36nkO
いつの間に引っ越し終わってた 
ここに書いて意味ないかもしれないけど 
小説板の続きは164からだよ

196名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:34:32 ID:i4cbEstM0

夕暮れ頃のその街は、どこまでも暁色に染まっていた。
その周辺を歩くのは、ほとんど毎日が死と隣り合わせの境遇の者たち。

─────ここは城壁都市、バルグミュラー。

この街を拠点とする彼らは、日々を戦いに明け暮れ、来る日も来る日も同じことを繰り返す。
武具の手入れをして、酒をあおり、やる事が無くなれば、眠る。
そうして目が覚めれば、また自分の戦場へと赴くのだ。

今日のような夕暮れ時には、都市の外周部を囲う赤レンガの城壁と相まって、
まるで血が染み付いたかのように街中を一色に染め上げる。

未だにオーガなどが群生する北の地────ブルムシュタイン地方。
その未開の地との国境沿いに位置する城壁都市の門を、今日も一人潜り抜ける男。

返り血で染まった身体のそこかしこには、多数の裂傷を負っている。
だが、巨躯を誇るこの男にとってはかすり傷程度なのか、気に留める様子もない。

大きな鉄柵の城門の前に立ち、一度だけ城壁の上に立つ門番の方を見やる。

/ ゚、。 /「………」

197名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:35:16 ID:i4cbEstM0

門番はいつものように彼の見慣れた姿を見るや、ゆっくりと城壁の上から開門した。
その流れは、いつからかこの街の常として繰り返されてきた。

一昨日は8人、昨日は5人。
そして今日は──────6人、だったか。

国境沿いの妖魔退治、それに繰り出した傭兵たちの人数だ。

彼と共に戦いへと赴く者達が数あれど、彼が請け負う依頼は全て困難を極めるものばかり。
それゆえに、帰って来るのは彼だけ────これは、いつもと同じ光景なのだ。

腕が立つというのは動かしがたい事実だが、彼と肩を並べて戦地へ赴いた者で、
彼と共に帰って来た事のある者は、これまででも指折り数える程しかいない。

その武勇を実際に目の当たりにした者は、口々にその強さを称えると共に、
冷たい鉄仮面が覆う瞳の奥のさらなる冷たい眼光に、不吉さを禁じえないという。

今日、国境にもっとも近い場所に位置するオーガの住む洞窟へと彼含む6人の傭兵が出立した。

その中で、名を上げる事ばかりに躍起になっていた一人の
若者が居たのを、城壁の上に立つ門番は思い出していた。

「死んだか───あの若造」

しかし、城壁をくぐる彼の姿がそこに無いのを確認するや、
守衛は兜の緒を締めなおしながら、すぐにその回想を頭の中から振り払うようにした。

198名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:36:11 ID:i4cbEstM0

城壁の守衛連中に視線を送る事も無く、目と口だけが露出した鉄仮面を被る男は、
いつものようにただ一人無言で城門を通り抜け、バルグミュラーへと帰還する。

「あいつですか……」

「あぁ、どれだけ凶暴な妖魔退治に出てもな、いつもあいつだけは帰って来るんだ」

「あんな両手斧を片手で振るうんですか……ゴブリンどもの首なんか、一狩りでしょうね」

「ま、外部の人間に頼らざるを得ない俺達にとっちゃ、頼りになる奴だがな」

/ ゚、。 /

”ダイオード=バランサック”

その武勇は散発的なものではあるが、10年以上も前から大陸のあちらこちらで
各地の傭兵たちの間に知れ渡っているという。

彼の噂には、いつも死の匂いが付き纏う。

ふらと立ち寄ったある村に山賊の一味が居た時には、たった一人で皆殺しにした。
またある時には、領主同士の小競り合いが巻き起こした小規模な戦争に傭兵として参加し、
30人以上もの武装した騎士達と渡り合い、圧倒的不利な状況を彼一人の力で跳ね除けたという。

199名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:37:16 ID:i4cbEstM0

彼が相手どる敵には、妖魔や人間という分別など無い。
ただ、日常の殆ど全てを戦いに身を置き代えながら、常に危険な依頼内容を請け負っては、
今日のようにたとえ最後に残ったたった一人でも、必ず生還を果たすという。

彼を外から見ている者達は、彼の事をいつしか、”死神のような存在”と呼んだ。
だが、彼に助けられた村の者達や、共に仕事をする仲間内では”英雄”と称える者もいる。

────それらの雑言も、彼の耳に届く事はないのだろうが。

目の前で散る命を目の当たりにし続けて尚、彼は戦いに身を置く。
まるで”自らの死を”望んでいるかのように、命を懸け続ける。

その理由が寡黙な彼本人の口から語られる事は、生涯無いのだろう。

/ ゚、。 /「……………」

今日も、彼は生きて再び城壁都市へと足を踏み入れる。
沈み行く夕日へ一度振り返ると、それが見えなくなるまで眺めていた。

決して忘れる事の出来ない、己の胸で燻る過ぎし日のかがり火が───
また明日の戦場に立とうとするダイオード自身の身体を、突き動かすのだ。

200名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:38:44 ID:i4cbEstM0


   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             幕間

          「壁を越えて(1)」

201名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:39:50 ID:i4cbEstM0

18年前

─── 山林の村 【オーカム】───


/ ゚、。 /「もう、行ってしまうのか」

逞しい二の腕に子供一人を軽々とぶら下げながら、ダイオードは
引き止めるようにして尋ねた。

「そうよ、最近は忙しいの」

人の三倍も五倍も働く木こりとして、仲間内では頼もしい存在だ。

幼い頃から見よう見まねで斧を振るっている内に、このオーカムの村の労働組合の
親方に見込まれ、子供ながらに恵まれた体格を生かして働かせてもらっていた。

大人顔負けの怪力だった彼がそうして毎日斧を振るっている内、15の時にはすでに
組合の親方も目を剥く程の逞しさで、名実ともに村一番の木こりとなっていた。

やがて18の時には村一番の美女であったミリアと恋に落ち、今ではこうして子宝にも恵まれた。

仕事を終えて疲れた彼に、いつも太陽のような笑顔を向けてくれるのが、息子のシリウスだ。
力強い男に育って欲しいとの希望を込めた名だが、ミリアは「貴方の息子だというだけで十分よ」笑った。

202名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:40:41 ID:i4cbEstM0

ここ最近になってオーカムは村の拡大を目標に掲げ、親方達は村長と相談した上で、
一番優秀な木こりのダイオードを、作業の最前線に立てられた山奥の掘建て小屋へと送り出した。

いつも一人で寝泊りをして、毎日朝から夕方までは村の木こり達が助けに来るという訳だ。
だから、こうして村から歩いて一刻程もある場所へ、妻と息子が毎日遊びに来る。
ダイオード自身も、それを毎日の楽しみとしていた。

/ ゚、。 /「たまには、ゆっくりと泊まっていったらいい」

その夫の言葉に、ミリアは少しだけ困ったような笑みを浮かべる。

彼女自身も夫と息子三人での時を共に過ごしたかったが、器量が良く働き者の彼女は、
村の寝たきりの老人達の面倒などを任されて、日々見て回っているのだ。

彼女の帰りが遅くなれば、村ではちょっとした騒ぎになってしまうだろう。

また、この山小屋はまだ立ち上がる事も出来ない幼いシリウスの面倒を見るには、
あまりに何も無かった。子供を寝かせるには、少しばかり程遠い環境だ。

「ごめんなさい……でも、今度は見回りのお休みをもらってくるわ」

/ ゚、。 /「……そうか。残念だが、仕方ない」

203名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:41:26 ID:i4cbEstM0

帰り際、最後に息子と妻へと腕を伸ばして抱擁を交わすと、彼女達の帰り道を途中まで見送る。
───この仕事が終われば村へと戻って、妻子と過ごしながらのんびりと仕事が出来るのだ。

/ ゚、。 /(もうひとふん張り……しなければな)


今日も彼女達から元気をもらった。
こうしてまた明日からも仕事に励む活力が、沸いてくるのだ。


仕事は大変なものだったが、ミリア達のおかげで満ち足りた日々を得た。
力仕事しか能のない自分が今のような幸せを掴めた事に、ダイオードは喜びを噛み締めていた。


しかしある日─────悲劇は起こる。

204名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:42:22 ID:i4cbEstM0

「ダイオード、急いで村に戻ってこいっ!……せがれが……大変だ!」

/ ゚、。 /「………っ!」

息を呑む知らせは、息子の危篤を知らせるものだった。

村から彼へそれを伝える為にやってきた木こり仲間をすぐに追い越すと、
10里を一晩で駆け抜けるほどの鬼気迫る勢いで、彼はオーカム村への帰路を急いだ。

聞けば、昨日の晩を境に顔や身体に斑点が浮かび、高熱に生死の境を彷徨っているという。
力強い子に育ってくれという願いは込めたが、自分のように身体が強い子ではなかった。

流行病に、あてられてしまったのだ。

/;゚、。 /(─────シリウスッ!)

更に不幸な事に、この小さな村には人の病を見れるような人間はいない。
もしいたとしても、それはここから一晩もかかる場所にある、山ふもとの街医者ぐらいなものだ。

いざとなれば息子を抱えて、その道程を3刻で駆け抜けてみせる。
たとえ自分の心臓が破裂してでも────どうか、それまで。

────────────

────────


────

205名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:43:13 ID:i4cbEstM0

身体にじっとりと汗を滲ませながら自分の家へとたどり着くと、何に構うこともなしに
ミリア達村人と、息子の眠る寝室の扉を勢いよく開いた。

/;゚、。 /「ミリアッ!………シリウスは────」

「────あなた」

彼の必死の祈りと覚悟は───届かなかった。

泣き晴らした表情のミリアの様子に、悟ってしまう。
よろめくようにして歩きながら、病床に苦しむ小さな彼のベッドへと向かい、その顔を覗き込んだ。

「シリウスが……私達の子が……あぁ────!」

ダイオードの大きな手が、青白いシリウスの小さな頬をなぞる。
まだ、息子の身体は少しだけ暖かいのだ───けれどその目に、生気は宿っていなかった。

これまで保ってきたミリアの気丈は、直面した息子の死の前に崩れた。
床へと倒れ込みながら咽び泣く彼女の姿は、目を背けたい程に残酷な現実を実感させる。

/ 、  /「許してくれ……シリウス……」

目の前が、真っ暗になってしまっている。
走ってきた直後だというのに、身体を流れ落ちる汗が冷水のように冷たい。

それでもどうにか震える手で抱きかかえた息子の身体。

──────やはりまだ、ほのかに暖かかった。

206名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:44:10 ID:i4cbEstM0

─────────

──────


───


それから、しばらくの日が経った。

シリウスの葬儀を終えてから数日は、食事が喉を通らなかったミリア同様に、
ダイオードが自慢の怪力で大木を切り倒す光景は、一度も見られなかった。

「ずっと、ミリアの傍に居たい」そう親方へと告げたダイオードだったが、どうやら
今自分のしている仕事はとても重要なもので、苦い顔をしながらも「まだ斧を握ってくれ」と返された。

辛い出来事の後だというのに一緒に居られない歯痒さ、そして死にたくなるような悲しみが、
夜分になると居ても立っても居られなくなる程にあふれ出し、すぐさま飛び出して行きたかった。

「あなた、お疲れ様」

/ ゚、。 /「───ミリア」

だが、どうやら辛い現実を乗り越えていち早く日常へと戻ろうとしたのは、ミリアが先だった。

207名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:44:52 ID:i4cbEstM0

自らの腹を痛めて産んだ息子がこの世を去った現実は、どれほどに深いのだろうか。
だが、気丈な彼女の事だ。自分に気をつかわせまいとしてか笑顔を作る彼女の姿が愛しくも、悲しすぎる。

出迎えて一番に彼女を強く抱きとめると、そのまま二人言葉も交わさず長い時間を過ごした。


/ ゚、。 /「無理をしないでくれ……この大きな悲しみは、二人で分け合うんだ」

「ええ……今は辛いけど───あの子の残してくれた思い出は、ずっと私達の中で───」


─────────


──────


───


ミリアが訪れた翌日から、ダイオードは再び斧を手に取るようになった。

208名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:45:56 ID:i4cbEstM0

ミリアが訪れた翌日から、ダイオードは再び斧を手に取るようになった。

小気味よい音を立てて木を切り倒すと、それを縛り、たった一人の力で引っ張ってゆく。
そこで余分な枝を切り倒し全体を切り整えると、さらに細かく断ち割り、資材の山を築く。

そうして一本分の作業を終えると、また次の木を切り倒し、日が暮れるまでの間を黙々と明け暮れる。

だけど─────それからまた、しばらくミリアが訪れる事がなかった。

だが、それはお互いが再び日常を取り戻す為の時間だ、と自分に言い聞かせた。
今は何も考えずに仕事へと打ち込むことで、少しでも早く悲しみが過ぎ去るのを待っていた。

今日も、切り株へと腰掛けて流れる汗を拭っていた時だ。

「あなた。今日も、ご精が出ますね」

/ ゚、。 /「来てくれたか!―――いち早く、君の元へ帰れるようにとな」

大きめのバスケットに手作りの食事を持って現れたミリアの肩へ、すぐに腕を回そうとした。

「────あっ」

/ ゚、。 /「…………?」

209名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:46:48 ID:i4cbEstM0

彼女の肩へと伸ばそうとしたダイオードの手は、少しだけ強い力で払われた。
いつもは自分が抱きとめようとしても、微塵も返される素振りは無かった。

嫌がって、いる?

伸ばした手を宙にぶらさげたまま、伏し目がちに彼女の表情を伺った。
そこへ取り繕うようにしてひねり出された言葉に、少しだけ違和感を覚える。

「───ご、ごめんなさい!私、今日は汗ばんでいるから……恥ずかしくって……」

/ ゚、。 /「……そう、なのか」

「そんな事は、気にしない」
そう言って、構わず彼女を腕の中に抱き寄せるのは簡単な事だったが、少しだけ
拒んでいるような様子が雰囲気から伺え、無理強いをする事はしなかった。

そして、小屋の中で彼女の村での話や、ダイオードの仕事の状況などをあらかた話し終えると、
これまでより少しだけ素っ気無い様子で、ミリアは村へと戻っていった。


───その晩、寝床にて天井を眺めていたダイオードは、ふとある事を思いつく。

210名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:47:33 ID:i4cbEstM0

/ ゚、。 /(自分が辛い状況だというのに……日がな周囲を気遣ってばかりいるミリアも大変だ───)

/ ゚、。 /(───これまで、ずっと休み無しで働いてきた)

/ ゚、。 /(一日ぐらい仕事を放り出して、ミリアの傍に居てやろうか───)

/ 、  /(そうだな……それが、いい。突然帰ってビックリさせて───きっと、驚くぞ)

/ 、  /(───もう、眠ろうか)


─────────

──────


───



その数日後。

211名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:48:20 ID:i4cbEstM0

結局根が真面目なダイオードはその日の分の仕事を投げ出す事なく、朝早くに起きてから
全力で仕事を前倒して一仕事を終えると、夕暮れ過ぎになってから久方ぶりの自分の家の帰路へと着いた。

オーカムの村へと帰り着く頃には、すでにあたりは暗く、出歩く人の影は無かった。
自宅の明かりも、窓から灯されてはいなかった。

/ ゚、。 /(きっと、彼女も疲れているんだろう)

そう気遣い、突然驚かせる作戦はやめにした。
しずかに部屋へと入り、翌朝ベッドで彼女が目を覚ますのを待つ事としよう─────

そう思って、そうっと家の扉を開けて彼が部屋に入ろうとした時、何かが聞こえた。

扉越しに寝室から聞こえる声は───ミリアの。

(────あっ、いや………)

(……へへッ、今日も綺麗だぜぇ?ミリアぁ)

/ ゚、。 /(─────ッ)

────思わず、言葉を失った。

寝室から聞こえてくる声はミリアと────別の男のものだった。

212名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:49:11 ID:i4cbEstM0

自分が居ぬ間に寂しさを紛らわす為に、彼女は別の男に抱かれていたというのか?

確かに夫婦だというのに、我が子を失った悲しみの傷を、二人で慰めあう事も出来ぬ距離にあった。
そればかりか、本来彼女を支える立場にあった自分が、仕事ばかりに感けて彼女に目を向けてやらなかったのだ。

それが、彼女をそうさせてしまったのか────

頭の中が白むような現実に立ちすくみ、そして戸惑う。
しかして己の罪悪感が弱気の虫を誘い込み、このドアの先へ踏み込む勇気が出せずにいた。

だが、ドアの奥からかすかに聞こえてくる声を聞いている内、まるで身体の中心は
火が灯されたかのように熱くなり、扉の取っ手を掴む手には、握りつぶしてしまいそうに力が篭る。

(あ──や、止めて!)

(ふっ、本当はっ、寂しいんだろっ?……自分の旦那はっ……ずぅ〜っとっ、家を空けてるしな)

(くっ───あぁぁぁぁ───)

213名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:49:55 ID:i4cbEstM0

(うっく……大人しく良い子にしてりゃあ、あいつもすぐに戻してやるさ───)

(いやぁッ───あなたッ!)

/ 、  /「──────ッッ!!」


”バァンッ”

彼女は、拒んでいる。

それが瞬時に理解出来る程の、その泣き声交じりの悲鳴を聞いた時、ダイオードの体中の血流は
ふつふつと沸き立ち、怒りに任せて反射的に寝室の中へと飛び込んだ。

/# 、  /「………ミリアァッ!!」

「!?」

その戸を破る程の音に、二人共がびくりと身を震わせてこちらへと振り返った。

そこには、あんぐりと口を空けて驚愕の表情を浮かべる、男の姿。
窓の外から漏れる明かりに照らされたその顔は、良く見知ったものだった。

「だ、ダイオード………」

214名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:50:43 ID:i4cbEstM0

自分を信頼し───これまで仕事を任せて皆を束ねていた、親方。
その男は今、だらしない腹を丸出しにしながら、衣服の乱れたミリアの上に跨っているのだ。

全てを理解した。

その光景を目にした時、何を口にするよりも先に、怒りを露にするでもなしに。
ただ─────「殺したい」という思いが自分の頭の中全てを支配していた。

「あ、あなた………いやぁッ!見ないでッ!」

/ ゚、。 /「ミリア────」

「ち、違うんだダイオード!こ……これには、ワケがあってよぅ」

可哀想に、ミリア。

この親方は、私達の最愛の息子の死で悲しみに暮れるミリアの弱った心に、漬け込んだのだ。
その夫である自分に悟られぬよう、この身を村へと戻そうとしなかったのも、この為か。

今までの彼への信頼は瞬く間に音を立てると、その全てが崩れ落ちた。

後に残ったのは、こんな男の近くにミリアを置いていた自分の愚かさへの怒り。
そして、嫌がる彼女に乱暴をしていたこの醜悪な豚への─────殺意だけだった。

215名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:51:48 ID:i4cbEstM0

”豚の股間”には、すぐさま踏み潰したくなるような嫌悪を醸す汚物がぶら下っている。

/ 、  /「済まない………ミリア」

助けてやれなくて、そして、気付いてやれなくて。
声を押し殺した悲痛な呻きを、掌の奥から漏らす彼女の肩を、そっと抱き寄せようと思った。

「聞いてくれ、ダイ────」

/ ゚、。 /「………オオォォォッ!!」

「…ひっぐッ!?」

その最中に言葉を発した”豚”の喉首を片手で締め上げると、そのまま持ち上げる。
「これが己の部を弁えない、しつけのなっちゃいない豚の面か」と、侮蔑の眼差しで表情を覗き込む。
今まで自分に仕事を教えてくれた、面倒見の良い親方は死んだのだ。

今ここに居るのは、殺してしまっても何の差し支えも無い、家畜同然の存在。

「ぐっおッ……ぶぐぅっ、ゆ、ゆるじでぐで……ダイオード……!」

おかしいことに、どうやらこの”豚”は人様の言葉を理解しているらしい。
自分の恩人と同じ声で喋られるその不快さが耐えられずに、すぐに殺す事にした。

216名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:52:45 ID:i4cbEstM0

”バゴンッ”

喉首を締め上げたまま、勢い良く手近な本棚へと叩き付けた。
一度などでは当然足らない、二度、三度、四度──────何度も。

「あぐぁッ!?……あ、まッ」

/ ゚、。 /「─────殺してやる」

「あ、あなたぁ……止めて……私はいいからッ!」

あぁ────明るく清楚で、純粋な、ひた向きな彼女の心を。
今なお、自分の身を弄んだこの醜い豚をも庇おうとする彼女の優しさを。

亭主の居ない隙を突いて、土足で踏みにじったのは────この男だ。

数日前に訪れた際のミリアが、自分の手を振り払った理由がようやく分かった。
この男に辱められ、貶められた彼女は、この自分に対して負い目を感じてしまっていたのだ。

恥じるべき、身の程を弁えるべきなのは────この”豚”の方だというのに。

「だ、だずげ────で」

217名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:53:33 ID:i4cbEstM0

「……あなたぁぁぁッ!だめッ!」

ミリアが自分を殺人者にすまいと、制止してくれる────しかし、もう自分自身を止められなかった。

彼女の気持ちを考えれば考えるほどに、こいつの鬼畜にも劣る所業を許す事など出来ない。
こんなに仕事ばかりに明け暮れて、家庭を放っぽりだしている自分などに申し訳なさを感じては、
毎晩辛い日々を過ごしてきた事が、容易に想像出来る。

「ぐぎ……ぎ」

どうした、振り払ってみろ。
生まれてからの人生の殆どを山で過ごし、逞しく作り上げてきた肉体ではなかったのか。
それならば、この若輩の腕を跳ね除けてみろ─────でなければ、死ぬだけだ。

こいつの身体をバラバラにしてやろうか。いや、生温い。

頭骨を粉微塵にして、脳みそを握りつぶした後で、抉り出した腸を刻んで、
身体を一文字に裂いて、汚らしいいちもつを口の中へ詰め込み、何十回とそこへ斧を振るってやる。

だが、だめだ────この怒りには、それでも物足りない。
粉々に、出来る限り残忍な方法は無いものかと、男の首を更に強く締め上げながら考えていた。

218名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:54:52 ID:i4cbEstM0

身体の内から湧き上がって来るこの赤黒い塊のような憎悪が、自分を悪鬼へと変貌させている。
感情という物はとうの昔に彼方へと消え失せ、ただ目の前の男を惨殺したい欲求だけが─────

「……やめてえぇぇぇぇーーーッ!!」

/ ゚、。 /「………ッ」

悲鳴にも近い叫びは、喉から血を吐き出すようにして紡ぎだされた、心からの懇願だった。

そのミリアの叫びは、殺意が彩ったような自分の視界を、正常な場所へと引き戻す。
どうやらまだ、人としての心は残っていたらしい。

この男の顔しか目に入ってなかったが、ふと気がつけば、騒ぎを聞きつけた村の青年数人が、
5人がかりで自分を止めようと身体を押さえつけていたようだった。

振りほどく事は容易だったが、無関係の彼らにまで危害を加えるだけ事は、
涙ながらにこちらを見つめていたミリアの瞳が阻止してくれた。

「ダイオード………こりゃあ……」

/ ゚、。 /「見ての通りだ………殺そうとした」

「ッ!……そりゃあ、そりゃあいけねぇよ!」

/ ゚、。 /「そう、なのか?」

219名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:55:45 ID:i4cbEstM0

状況から見て事情を察した様子の青年達が、少しずつ言葉を選ぶようにして問いかける。
暴力を振るったダイオードは咎められるべき立場にあるが、その心情を酌んでくれてはいるのだ。

「あんた……見損なったぜ!」

一人の青年が、頭から血を流して失神している男の顔に、唾を吐きかけながら言う。

「───すまねぇ。あんたが悪いんじゃあ、ないんだが」

/ ゚、。 /「───分かってるさ」

村の掟だ、どんな理由があろうとも、無抵抗の相手に対して暴力を振るったのだ。
妻の身を守るためだったとはいえ、自分は確かに育ての親を殺そうとした。

3日か5日は、村の土牢に押し込められる事になるだろう。

「……ごめんなさい、う……ひっぐ……」

青年達に引かれて行く前に、ダイオードは妻の身を優しく抱き寄せた。
小さく震えながらか細くすすり泣く彼女の声を、髪を撫でながら優しく自分の胸へと押し込めた。

/ 、  /「いいんだ……」

220名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:56:31 ID:i4cbEstM0

悪いのは彼女を近くに置いていなかった自分のせいだと、ダイオードは己を咎める。
それ以上の言葉は掛けず、胸の中の彼女が泣きやむまでの間を、ずっとそうしていた。

この時、もっと違う言葉を掛けていれば。
あるいは、もっと沢山の愛情を伝えていれば─────

──────あのような事には、ならなかったのかも知れない。



───────────────


──────────


─────


その後、ダイオードは村長と対面した。
そうして顔によりいっそう深いしわを刻みながら考え込んだ後、やはり三日を拘留される事となった。

同じように木こりの親方も牢へと入れられているが、相当に重い裁量が下されたらしい。
掟というしがらみの手前、村長自身にとってもダイオードを拘束するのは苦渋の決断だったようだが。

221名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:57:24 ID:i4cbEstM0

/ ゚、。 /(ミリアに……会いたい)

土牢に入れられている間中、ダイオードは気の抜けたような表情で空想に耽りながら過ごした。

次に彼女に会った時、なんと言葉をかけよう。
謝るべきは、こちらの方なのだ、なのに彼女はこんな自分に申し訳なく思ってしまっている。
あんな現場に自分が居合わせてしまったのだ。

彼女にしてみれば、絶対に見られたくない状況を、絶対に見せたくない相手に見せてしまった。
その自分に対する負い目から、あの明るい彼女が塞ぎ込んでしまう様子など、見たくない。

あと二日、あと一日────とても長く感じる、拘置。
ここから出て彼女に出会ったら、とにかく思いの丈をぶつけよう。

仕事など放り出して、この村を抜け出してしまえばいい。
これからは、ずっと君の傍に居ると告げよう─────


─────しかして、その想いが叶う事はなかったのだ。



─────

──────────


───────────────

222名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:58:33 ID:i4cbEstM0

拘留帰還を終え、すぐさま自宅へと舞い戻ったダイオードの前には、信じようもない現実が待ち受けていた。

/ ゚、。 /「ミリ─────あ…………?」

「………」

彼女が、夫の帰りを出迎えてくれる事はなかった。
それは、今後もう二度と────無くなってしまった。

我が子を失い、最愛の男性に最悪の痴態を目撃された彼女は、自ら命を絶っていた。
────思えば、ただでさえシリウスを失って日も浅い彼女の心はずたずただったのだろう。

そこへあの豚に漬け込まれた恥辱によって傷を押し広げられ、この愚かな亭主は、最悪の場面に居合わせた。
長らく一緒の時間を満足に過ごす事の出来なかった夫婦の間に出来た溝を埋める時は、もう与えられないのだ。

/ ;、; /「────ア  ア  ァ  ァ ァ ァ ァァッ─────」

天井に括りつけられた縄にぶら下げられた彼女の身を、すぐに抱き寄せた。
線の細い彼女の身が折れてしまいそうな程強く、力を込めて彼女の亡骸を抱きしめる。

声にならない声が、そして涙が溢れ出し────堰を切った感情が怒涛のように自分の頭を打ち付ける。
どうしてこんな事になってしまったのか、なぜ彼女が命を絶たなければならなかったのか。

223名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 05:59:55 ID:i4cbEstM0

/ ;、; /「ッ……ミリアッ!ミリアぁ……愛してる……愛してるんだ……」

数百回もお互いの間で交わした、愛の言葉。
二人で共に生きていこうと決めたあの日にも、彼女へと投げかけた台詞だ。

だが、冷たくなってしまった彼女の耳に、もはやこの言葉が届く事はないのだ。

傍らにあった遺書の存在に気付くと、涙や鼻水をぼたぼたと雨雫のように垂らしながら、
ぶるぶると震える手でその羊皮紙の端を掴んだ。

「 いつまでも、純粋で素朴な貴方の傍に居たかった。
  けれど、私は汚れてしまった───もう、貴方の妻で居る資格はありません。

  私の身勝手で先立つ不幸を、どうかお許し下さい。
  シリウスと一緒に、貴方をいつまでも見守っています。

  ……どうか、私たちの分まで幸せになって下さい────
                             ―ミリア─   」

/ ;、; /「お前が……お前達が居なくて……私一人で生きる意味なんて……ッ!!」


──────(……ぅうわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッーーー!!)──────


一人の男の吼え声が、天高らかに響き渡ったこの日。
それは───オーカム村を血みどろに染めた、一人の人鬼が産声を上げた日であった。

224名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 06:00:59 ID:i4cbEstM0

───────────────


──────────

─────


/;゚、。;/「ミリアぁ………シリ……ウス………はぁ、はぁ」


オーカム村を後にしたダイオードの全身は、至る所が返り血の紅に彩られていた。
─────村の土牢にあと1年は拘留される予定だった木こりの親方の頭は、この血染めの斧で断ち割った。

幾度も幾度も脳漿を飛び散らせ、後から駆けつけてきた若者達はその光景に小便を漏らし、
反吐を吐いてすぐに逃げ出していったようだった。

何人かが自分の前に立ちふさがり、止めに入った記憶がおぼろげにある。
だが、自分が今こうしているという事は、恐らくその彼らには気の毒な事をしてしまっただろう。

自分の前に立ちふさがり、何やかやと咎め立てて向かって来ていた内の、何人を殺したのかも曖昧だ。
誰も自分を追ってはこない今、ミリアを両腕で抱えながら、ただただ当て所なく歩いていた。

道中、腕の中のミリアに何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も声を掛けた。
だけど、やっぱり自分の言葉は彼女には届いていないのだ。

いつの間にか日はとっぷりと暮れ、夜の帳が下りた山の中を、ただ彷徨っていた。

225名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 06:01:48 ID:i4cbEstM0

/;゚、。;/「彼女の───墓を………掘らなくては……な……」

そうだ、村の共同墓地へと埋葬されているシリウスも、後から掘り起こして連れてこなくては。
この場所に、この名も無き場所に二人の墓を作らなくては。

─────そして、自分もこの場所で死ぬのだ。

そうすればまた、今度はずっとミリアとシリウスと共に居られる事が出来るではないか。
もはや生きる意味を見失い、彼の頭の中には、死ぬ事だけが植えつけられていた。

/; 、 ;/(そうだ……ここで、この場所でミリア達と一緒に死ねれば……)

傍らの樹木にミリアの亡骸を座らせて、手斧を返して土を掘り出していく。
丹精を込めて、顔に掛かった返り血が目に入るのも気にせず、木を軽々と伐採出来る腕力をもって、
ミリアとシリウス─────そして自分のための墓穴を掘り出していく。

その彼の背後で、唐突に───気持ちの悪い風が吹いた気がした。

「……Grrrrrrrrr……」

/;゚、。;/「………」

226名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 06:02:33 ID:i4cbEstM0

そこにいたのは、並の男どもの体躯より遥かに勝る自分の目線の高さでも、その胸元までしか映らぬ巨大さ。
馬鹿げた腕脚の太さは、人間の胴体程もありそうな化け物だった。

見上げた先に、そいつと眼が合う。

「Grhaaaaaaaaaaaaッッ!!」

/;゚、。;/「はぐれ鬼、か」

彼らは人を喰らい、その皮や頭骨を自らの装飾にあしらうという。
非常に高い身体能力持ち、多少の武装を帯びた人間など、軽がると縊り殺してしまう。

討伐には騎士団が派遣される程のレベルの脅威を振りまく存在───鬼(オーガ)がそこに居た。
ダイオードが全身に纏う血の芳しさを、嗅ぎ付けて。

並の冒険者ならば、相対してしまえば即座に逃走を図るのが普通だ。
だが、今のダイオードにとっては都合の良い相手だったのだ。

────自分に、死を与えてくれる相手ならば。

227名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 06:03:50 ID:i4cbEstM0

だが、捕食の相手を見下ろし見定めるオーガに対して、驚く程に心の中は平静だった。

/;゚、。;/「………殺してくれるのか?お前が」

「Grrrr………Guhooooooooooooッ!!」

/; 、 ;/「………ッ!」

言葉を発した瞬間、ダイオードよりも更なる巨体を誇るオーガの手が、即座に首へと伸びる。
自分がミリアを辱めた豚の首を締め上げた時と、同じだ。

鋭く太い爪が、首筋へと赤い筋を伝わらせてゆく。

/;゚、。;/(死ねるのか………これ、で)

「Grrrrr………?」

無抵抗のまま死にゆこうとしている男が、よほど珍しいか。
ダイオードの顔をじろじろと眺めては、徐々に首へ爪を食い込ませる力を、強めていく。

/; 、 ;/(ミリア………シリウス……今、傍に……)

───────────────


──────────


─────

228名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 06:05:05 ID:i4cbEstM0

─────次第に遠ざかっていく意識の中で、声が聞こえた気がした─────


(……あなた……ッ)

/; 、 ;/「………あ、ミ、リ……」

その声は、最愛の女性、ミリアのもの。


(……だぁ、だ……)

/; 、 ;/「シ……リウ………?」

その声は、まだ満足に言葉も喋れなかった、シリウスのものだ。


「どうか、私達の分まで────幸せになって」

最後に聞こえたその声は、ミリアが遺書へと書きとめた言葉だった。


─────

──────────


───────────────

229名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 06:06:16 ID:i4cbEstM0

/ ;、; /「……ぬ─────うおぉぉぉぉぉぉーッ!!」

「Grrッ!!?」

一体、どこから出てきた力なのかは分からない。
ただ、その声に応ずるようにしたのだ─────

ダイオードは、自分の倍以上も太いオーガの腕を、無我夢中の内に両手で全力で締め上げた。
突然の抵抗に意表を突かれたオーガは、その予想外に秘められた力に驚き、手を離したのだろう。

地面に降り立った次の瞬間、ダイオードは傍らに転がる手斧を手に取ると、オーガに飛び掛る。
斧に対して腕を振り上げて敢行したその防御姿勢を、肘から先の片腕ごと切り裂いた。

「……Gyhaaaaaaaaaaaaッ!?」

/ ;、; /「───があぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

次いで、絶叫するオーガの脇腹を目掛けて斧を振るうと、臓物の一部ごと肉をごっそりと抉り取る。
激痛に身をよじりながら絶叫するオーガが、血の滴る斧を手にしたダイオードの前に、かしづくようにひざまづく。

オーガにとってみれば、本来ならば食い物でしかない矮小な存在、ただ一人の人間に対して。

230名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 06:07:01 ID:i4cbEstM0

/; 、 ;/「────どうした、私を殺してみろ………お前は"鬼"なんだろう!?」

腹と腕から多量の血を流すオーガは、そのたった二撃の斧を受けて、たちどころに戦意を喪失した。
だが、頭の中で確かに響いた声の前に感情が高ぶったダイオードは、止まらない。

/; 、 ;/「なぁ……オーガ……。お前は、私に死に場所を与えてくれるんじゃないのか!?」

「Gyo、AGHaaaaaaaッ……!」

最後の力を振り絞ったのか、倒れ込むようにしながら伸ばしたのは、残った左腕。

その指先に生える鋭利な爪が、ダイオードの顔の肉を深く切り裂いた。
当のダイオード本人は、仁王立ちのままにそれを受けながらも。

地面に大きな血溜まりを作りながら、徐々にオーガは息絶えていった。
温い返り血の暖かみと、自分の顔への深い爪痕を残して──────

/;w、 #;/「………お前が鬼なら、私も────鬼、か」

求めていた死に場所は────ここではなかったのか。

231名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 06:08:00 ID:i4cbEstM0

冷たい風が火照った傷口を撫でつけると、高ぶっていた感情は少しずつ過ぎ去り、
周囲にはオーガの死体が増えた意外、何ら変わらぬ景色に戻っていた。

後に訪れた感情は。落胆。
それも、ひどく様々な感情が暴力的なまでに入り混じったものだった。

死を覚悟していた自分の元に聞こえてきたのは、やはり彼女の声だったのだろうか。

振り向くと、自然にミリアの亡骸が視界に入る。
その唇は、死して今となっても艶やかなものだった。
まるで、今にも自分へ語り掛けてくれそうな程に。

/;w、 #;/「……………っ」

静かに横たわるミリアの口元へ、ダイオードはそっと口付けた。

それは、今生の別れの。
そして、いつかの再会を誓って。

/;w、 #;/(君は、残酷な言葉を私に残した……)

232名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 06:09:01 ID:i4cbEstM0

「────生きて。私達の分まで────」

一瞬、撫で付ける風の音に紛れ、物言わぬはずの彼女がそう言った気がした。

だが、最愛の妻と息子を失った自分は、もはや心も空っぽの、歩く死人。
この世に生きる意味も、未練も、微塵も感じていなかった。

だが彼にそう決意をさせたのは、やはり愛した女性が残した言葉────

/;w、 #;/(だから、今はまだ二人の元へ行くのは、止めておくよ)

「けれど、いつかかならず─────」

風の声にかき消されたその言葉は、彼女達に届いていたのだろうか。
その肩に手斧だけを担ぐと、そのままダイオードは何処かへと消えていった。





 ───その5年後。巷の傭兵達の間では、どこからかやってきた

         ”鉄面の死神”の名が噂されるようになったという───

233名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 06:11:38 ID:i4cbEstM0


   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

              幕間

          「壁を越えて(1)」

234名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 06:13:08 ID:i4cbEstM0

─――――─――――─――――

─――――─――――

仕事を終え、いつもの安宿の貸部屋で眠りにつこうとしていたダイオードに声が掛けられる。
確か城壁都市の守衛の一人───名前までは、覚えていないが。

「ダイオード。あんたの腕を見込んで、良い話を持ってきたぜ」

/ ゚、。 /「………敵は?」

「あ、あぁ……まぁ妖魔さ、妖魔……その、オーガだ」

オーガがダイオードに死に場所を与えてくれない事など、もはや十分過ぎる程に知っている。
わざわざ自分あてというぐらいだから、もっと素晴らしい相手をあてがってくれるかと思ったのだ。

期待を裏切られた彼は内心、またいつものように落胆していた。
話を紡ごうとする守衛に背を向け、行こうとした時だった。

「あー、待った!確かに次の依頼はオーガなんだが、数が未知数なんだよ」

/ ゚、。 /「………で?」

235名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 06:14:52 ID:i4cbEstM0

「その……なんだ、恐らくは10匹以上のオーガが居てだな。相当危険なんだが……」

/ ゚、。 /「………」

「ま、こう言っちゃなんだが、こいつぁあんた達の実力を見る為の前哨戦さ。
 実はこっちのボスと水面下で、どえれぇデカイ話を進めてる野郎がヴィップにいてな……」

男の話に、もはや興味を失い掛けていたダイオードだが、一応は聞いておく事にした。
最後まで聞いて、またも落胆してしまう事は────目に見えているようなものだが。

「で、そいつがめっぽう剣の腕が立つってぇ巷の噂でよ、まぁウチのボスとしてはそいつが持ってきた話に
 結構乗り気みたいだ……まぁ、実際にそいつが口だけ野郎じゃないとこを見たいんだろうな」

/ ゚、。 /「………名は」

「あー、確か、ジョルジョだか……ジョルジュ……だっけな」

───風の噂に、一度ぐらいは聞いた事はあったか。
剣技の腕に優れながらも、自分のように傭兵などではなく、自由気ままに冒険者をしている男だと。

期待もせずに聞いていた話だが、その男の名を聞いて、ふと興味が沸いた。

236名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 06:15:45 ID:i4cbEstM0

/ ゚、。 /「そのオーガ退治とやらを済ませた後は………どうなる?」

「………あぁ、こいつぁあんまり周囲に言いふらさねぇでくれよ……皆、出兵前に戦意喪失しちまうからな」

勿体をつけたような守衛の様子に焦れて、再度ダイオードが質問を切り出す。

/ ゚、。 /「………敵は?」

守衛はあたりをキョロキョロと見渡して、自分達の会話を聞いている人間が居ないか確認した。
そうして生唾を飲み込むと、ようやくダイオードに耳打ちするようにして伝えてきた。

「それがな……………"龍"ってぇハナシだ─────」

/ ゚、。 /「…………」


それを聞いたダイオードが、口元を大きく歪ませたのは────鉄仮面の奥。
この時、彼の心に歓喜が訪れていた事など、守衛は知る由も無いだろう。

237名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 06:17:03 ID:i4cbEstM0


   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

              幕間

           「壁を越えて(1)」


             ―続―

238名も無きAAのようです:2012/01/16(月) 19:05:46 ID:kIsY/b3s0
しばらく創作板きてなかったら、これが来てるとは…!
続き読めてめちゃくちゃ嬉しいわ

239名も無きAAのようです:2012/01/17(火) 00:49:04 ID:rb4XK6d.0
あぁぁぁ、レスありがたいけど、アルファのネタバレが怖くてチェックしに来るのがこえぇよぉ

じっくりと何度も見返して、久々に読者として側の楽しみを味わえそうだー。

240名も無きAAのようです:2012/01/17(火) 03:06:00 ID:rb4XK6d.0
あーもう、アルファ最高だった。
まとめサイトを見て二度美味しい。合作もう一度見返してこよう

241名も無きAAのようです:2012/01/18(水) 04:09:07 ID:PHTBJajc0
うおおおきてるしよむし!

242名も無きAAのようです:2012/01/19(木) 01:57:33 ID:yBvX85qk0

ダイオードちゃん悲しすぎる

243名も無きAAのようです:2012/01/19(木) 02:18:36 ID:9aHRJvTc0
つづきカマカマ!

244名も無きAAのようです:2012/01/21(土) 15:13:35 ID:eADFQ6TsO
移転乙
凄腕の冒険者と龍の戦い…wktk!

245名も無きAAのようです:2012/01/21(土) 22:44:25 ID:Q0OPmeZ60

街の灯りが落ち、もう人一人も通らない街頭の中央で、夜風を肩で切りながら靴音を響かせる。

身に纏う外套がはためく音だけが耳へと届く。
ふと彼が寂しげな夜空を見上げれば、丁度月明かりを、黒雲が覆いつくしている所だ。

彼の足音が止まったと同時。
頬を撫で付けていた風もまた、止んだ。

そうしてその場に立ち止まると、背中越しに告げるようにぼそりと呟いた。

('A`)「……面倒くせぇ、出てこいよ」

闇に紛れるような濃紺の外套、羽織っていたそのフードをずり下ろしながら。

(………)

隠せていたつもりかは知らないが、先ほどから感じていた気配に向けた、その言葉。
自分の一挙手一投足を物陰に隠れながら尾行し、監視していたのだろう。

246名も無きAAのようです:2012/01/21(土) 22:45:06 ID:Q0OPmeZ60

だが、殺気には敏感な自分の事だ。
敵意を持った視線には、酒場を出た時からずっと気付いていた。

そして後方、左右それぞれの暗い路地奥から、4人の男達が姿を現す。
少し間を置いて、前方に詰まれた木箱の陰からも、さらに一人の男が音も無く姿を現した。

( ∵)「……」

('A`)「あちゃ……読み違えたな。4人だけだと思ったが」

現れた5人は、皆同じ質素な仮面を身に着けた細身の男達だ。
その表情は決して伺い知る事が出来ないが、目的自体は想像に易い。

暗殺者達は己を殺し、心を殺し、そしてただ指令のままに他者を殺す存在だ。
その仮面の奥同様、操り人形のように動く彼らの顔には、一様に無表情が張り付いているだけだろう。

247名も無きAAのようです:2012/01/21(土) 22:45:49 ID:Q0OPmeZ60

そんな自分はというと、己が身を置く暗殺者ギルドの長に牙を剥いた事実が明るみとなり、
早速こうして追っ手としての彼らを差し向けられているという訳だが。

( ∵)「手筈通りにやれば問題ない」

( ∵)「……囲む」

静かに命令伝達を交わしながら散開すると、仮面達はそれぞれどこかからナイフを取り出した。

逆手に持ち、喉首を狙いに来ている者。
順手に持ち、刺突の機を伺っている者。

5本の銀刃が照り返す光が、時折輝きを放つ。
首を捻り見渡せば、自分は男達の殺気をこの一身に浴びていた。

('A`)「準備は出来たのか?」

ただ数の暴力に任せているという訳でないのはよく理解している。
より隙なく、効率的に刃を振るいながら、連携して対象の殺害に当たるのが常なのだ。

248名も無きAAのようです:2012/01/21(土) 22:46:29 ID:Q0OPmeZ60

だが、たとえ数を繰り出しても、自分にそれが通用する見込みは薄いという自負がある。

( ∵)「この人数を前にしても物怖じしない度量は認めるさ……」

( ∵)「だがドクオ、アンタはここで死ぬんだ」

('A`)「その声、デヴィッドか」

( ∵)「………」

('A`)「お前さん、俺とは歳も近かったよな。正直気が進まねぇよ」

('A`)「でも、まぁ……やるってんならしゃあねぇか」

( ∵)「……それが遺言でいいんだな」

( ∵)「───やれ」

('A`)「きな……」

全神経を、鋭敏に研ぎ澄ます。
感覚を、致命打を避ける為だけに集中させる。

249名も無きAAのようです:2012/01/21(土) 22:47:14 ID:Q0OPmeZ60

正面の奥で指示した仮面の号令と共に、前から一人、後方から一人が同時に飛び込んで来た。
それを眼と耳、そして焼け付くようにヒリついた肌から感じ取ると、素早く外套を放り投げる。

前方へ向けて、勢い良く。

('A`)「そら、やるよ」

( ∵)「ちっ!」

正面の一人にばさりと被せられ、一瞬の目くらましとしては十分な効果が得られた。
すぐに踵を返すと背後から迫るナイフへと向き合い、伸ばしてくる腕に対し、半身に軸を逸らした。

その腕を無造作にがしりと手のひらで掴み取ると、そのままの勢いに逆らわず、
受け流すように全身ごとを引き寄せる。

手首を固定して刃を向けさせた方向には、投げつけた外套を払いのけて
再び立ち直ってこちらへと突っ込んで来ていた仮面の一人が居た。

( ∵)「…なっ、あが!」

250名も無きAAのようです:2012/01/21(土) 22:48:00 ID:Q0OPmeZ60

('A`)「一人を囲む時、同士討ちには十分な注意を払った方がいいぜ?」

( ∵)「くそッ………う!?」

引き寄せた一人のナイフに味方の鎖骨下を突かせると、引き戻そうとした男の腹には、
逆の手で掴んでいた大振りのククリナイフの柄が、しかと根元まで刺し込まれていた。

更に強く力を込めて湾曲した凶器が押し込まれると、ナイフを落とし、腹を押さえて地面へと崩れ落ちる。
血の付着したククリを引き抜く動作を、そのまま前方の一人に対しての肘鉄とした。

胸元を抉ったダメージは浅かった。
またすぐに立ち上がるだろうが、一対多ではシビアな優先順位を守らなければ、死に直結する。

( ∵)「ふッ」

左翼からのナイフが空を切り裂く。

上半身の加重だけでそれをかわした返り際に、ククリでその腕をそぎ落とそうとするも、
わずかに肉を裂くか裂かないか程度に、小さく腕を畳んで細かく繰り出された攻撃だった。
そのため、即手痛い反撃を食らわせてやる事は出来なかった。

251名も無きAAのようです:2012/01/21(土) 22:48:45 ID:Q0OPmeZ60

('A`)「慎重なのは結構だがな……」

だが、それでは駄目だ。
そんな薄皮一枚剥げるかも分からない攻撃では、一撃で確実に死を与える事など叶わない。

( ∵)「うっ、わぁ!」

('A`)「時に大胆に攻めるのも、重要だぜ」

大きくその男の元へと踏み込む。
近すぎる、という程の距離までを、一息に。

途端に構えを崩してがむしゃらな大振りを見舞ってくるあたりは、まだ染まりきっていない。
恐らくはまだ、人を殺める事に対して良心の呵責に苛まれているであろうレベルの素人、という印象だ。

振るわれるナイフの軌道を冷静に見切り、首を沈めながら更に飛び込んだ。

( ∵)「ぅぼご……ぶッ」

252名も無きAAのようです:2012/01/21(土) 22:49:34 ID:Q0OPmeZ60

踏み込みを終えると同時に、ククリナイフの刃を喉首に沿って斜めに振り上げる動作も、完了していた。
何が起こったのか、と少し上に視線を傾けていた仮面の口から、つぅ、と血の雫が伝い落ちる。

粘り気のある血のあぶくの音を、より耳の近くで取り感じながら、
その男の衣服を引き掴んで回り込むようにして、素早く立ち位置を入れ替える。

( ∵)「……ッ」

('A`)「……よッっと!」

( ∵)「くそッ!?」

('A`)「ったく……忠告してやったろ?」

両腕を後ろ手に押さえつけて張られた胸に、すぐ背後まで迫っていた二本のナイフが同時に突き立つ。
実にすんでの所で、たたらを踏みながら血泡を噴出す男の身体を盾として、逃れた。

その追撃に即死だった仮面の背中をとん、と押し出してやると、一人は左へと身をかわした。
だが、もう一人はその身を抱きかかえるようにして両腕の自由を自ら投げ出してしまったのだ。

253名も無きAAのようです:2012/01/21(土) 22:50:21 ID:Q0OPmeZ60

仲間の重みを抱きとめさせながら、同時に前に出ていた。
ククリナイフの握りを空中で逆手持ち替えると、腕を大きく振るい、遠心力を持たせる。
死体の壁越しに、そのまま向こう側に居る男の首辺りの空間を、を横側から刺し貫いた。

短く呻いた悲鳴を聞いている最中、最初に外套を投げつけた一人が脇腹を狙っていた。
ククリナイフを首から抜く動作をしてしまえば、その刺突を避けるタイミングは失われる。

だから、未だ首に刺し込まれたままの自分の獲物を、そのまま破棄した。

( ∵)「──うあぁぁぁッ!!」

('A`)「……気を付けろ」

予備のナイフはあるにはあるが、胸元から取り出しているのでは遅い。
だが、素手の状態になってしまった今でも、幾分か余裕を感じていた。

絶叫しながら突っ込んでくる男の仮面の裏側は、必死の形相に歪んでいる事だろう。
何の捻りも無く、ただ片腕だけを大きく前方へと突き出した、腹部への一撃。

───駄目なのだ、そんな正直な攻撃では。

254名も無きAAのようです:2012/01/21(土) 22:51:27 ID:Q0OPmeZ60

('A`)「気を付けろよ、お前」

そうだ、精々気を付けてくれ。

この身体に浴びた血の量と同じだけ、殺しに使う体捌きもまた染み込んでいるのだ。
故に自分の周りでだけはこんな今でも何故だか、ゆっくりと時が流れているようにすら感じられる。

( ∵)「死───」

ナイフの刃先が腹を刺し貫く瞬間に、左手で手首を払いのける。
足を一歩前に踏み出すと、それからは勝手に身体が動き、後の動作を円滑にこなしてゆく。

('A`)「こいつは俺の……」

相手の肘関節に左手を潜り込ませて、くの字に折り込ませる。
そうして後は、ぶらりと浮いた柄を握る手の底面を、右手で相手の胸元へと押し込んでやるだけだ。

極々自然に、その一連の動作は相手の刃物の先端を、相手自身の心臓へと向かわせた。

( ∵)「───ねぇぇぇッ!」

('A`)「得意技なんだ」

そう言って自分の胸元へと視線を落としたであろう男は、理解出来ていたであろうか。
自分が相手を殺すために振るった刃が、そのまま自分へと跳ね返されたという現実が。

255名も無きAAのようです:2012/01/21(土) 22:52:22 ID:Q0OPmeZ60

('A`)「ガキの頃からのな」

( ∵)「………………ぁ、え?」

('A`)「……さてと」

未だ現実を認識しきれていない男の意識はすぐにぷっつりと切れ、静かに前のめりに崩れ落ちた。

男の最期を確認するでもなく、同じように地べたを舐める死体の首からククリを引き抜くと、
緩慢な歩調で最後に残された一人の前まで歩き出し、血を吸ったククリを彼の前にちらつかせる。

その凶暴な刃の先端を指で弄ぶその横顔は、どこか昔を愛しむように。

('A`)「逃げても、いいんだぜ」

最後に一人残された仮面は、どこか彼の事を知っていた風でもある。

ドクオという男が、闇の中でこそ輝く牙を持つ捕食者だという事を。
他より図抜けた殺しの術を己が身に宿す、夜の狩人であった過去を。

率いてきた4人の部下の屍を背に佇むドクオに相対し、それらを今になって再認識した。

256名も無きAAのようです:2012/01/21(土) 22:53:09 ID:Q0OPmeZ60

( ∵)「………ッ」

見逃してやる───ドクオはそう言った。
だが、故あって情をかけられた最後の仮面は、その言葉を受けながらも刃を構える。

彼ら暗殺者をどの道待ち受けているのは、死。

安寧な日々など訪れない。
あるのは唐突な死か、裁きによる死か。

組織の飼い犬としての身分から開放される時が来るとすれば、その時だけだ。

('A`)「ま──同じ事だろうけどよ……」

組織によって粛清されるか、目の前の男に挑んで散るか。
生まれも育ちもずっぷりとドブ沼に肩を沈めて来た者達に、今更選べる道など無いのだ。

ドクオにデヴィッドと呼ばれた暗殺者は、それでも気迫を高め、挑んでいった。
かつて名を教えた相手が───決して自らが及ばぬ力の持ち主だと知りながらも。

('A`)「せめて、楽に逝かせてやるさ」

257名も無きAAのようです:2012/01/21(土) 22:54:24 ID:Q0OPmeZ60


   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             第6話

          「溢れ出す悪」

258名も無きAAのようです:2012/01/21(土) 22:59:13 ID:Q0OPmeZ60
40秒規制が思いの他しんどいので、ある程度溜まった端から投下したいと思います。
どうせサボるから次はいつに投下するとか言わないようにする。

日を置いて、思い出した頃にmy自慰を見たって下せぇ

259名も無きAAのようです:2012/01/21(土) 23:20:35 ID:RO3dZHFA0
待ってます

260名も無きAAのようです:2012/01/22(日) 03:39:33 ID:P6X2MZY2O
これは最初の方の話読んで一気に読みたいと思う話だったから読まずに待ってるんだ!
だから完結するのを待ってます><

261名も無きAAのようです:2012/01/22(日) 21:05:21 ID:RKMooKKYO
毎度ながら安心安定のクオリティ

262名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 05:44:17 ID:ggfTaHMo0
── 交易都市ヴィップ 円卓騎士団兵舎内──


ヴィップ市内の北部、艶やかな花の装飾があしらわれた門を抜けると、すぐにその建物は見える。

どっしりと構える正方形の建物の中央部分には、高所から見ると穏やかな緑の中庭が広がる。
急な任務にも即座に対応できるよう、東西南北に四箇所の出入り口が備え付けられていた。

昼下がりの休憩時間前になると、いつもこの場所の中庭へ姿を見せる者がいる。
団長である、フィレンクトだ。

(‘_L’)「ふっ、はっ!」

ヴィップのみならず、その周辺の領土の治安を堅持する為に日夜活動する、円卓騎士団。
聖ラウンジ教の信望者達の中から組織された彼らは、その十字架の名に恥じぬ活躍を日夜こなしている。

前団長であった父───”セシル=エルメネジルド”

彼は2年ほど前に、体力的な衰えを理由に一線を退いた。
長年に渡りヴィップの繁栄に功績をもたらして来た彼は、息子を後継にと抜擢する。

263名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 05:45:11 ID:ggfTaHMo0

親子2代での叙勲とはなったが、その当時、親の七光りだなどと揶揄する輩は一人としていなかった。

正義感の強い人柄であるフィレンクトの重きは、この発展を続けるヴィップの街にも決して少ないとは
いえない貧困層、または、中流階級の層への尊重にある事から、彼への支持者も多いのだ。

誉れ高い父、そして周囲からの重圧をも跳ね除けて。
今では歴史ある円卓騎士団中で、決してその名に恥じぬ働きをしていた。

人の身の丈を遥かに超える長尺の槍、”剛槍クーゲル・シュライバー”をいとも容易く扱えるのは、
書類業務の傍らでも日々の鍛錬を決して怠る事が無いから、というだけでもない。

槍術においての自己の非凡な才覚を、熱心な努力によって叩き上げて来たのだ。

(‘_L’)「せぇいッ!」

エルメネジルド代々からの家宝であるクーゲル・シュライバーを訓練に使う事は稀だが、
代わりにその負荷へと耐えうる力をつけるため、鍛冶職人に鉄を鋳造して作らせた特別な道具を使っている。

264名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 05:45:56 ID:ggfTaHMo0

芯となる鉄棒の先端に大きな鉄球がくっついているが、その芯はしなる事も無いほどに太い。

その為重量は青年男性が辛うじて両手で持ち上げられるかどうかといったものだが、
フィレンクトはいとも容易く片手で背中へと回し、軽々と取り回すのだ。

そうして、仮想敵を相手にも気勢を上げて、ただ一点の虚空を突く。
突き出し終えた後にその場所でぴたりと静止した槍の先端は、軸がぶれる様子など微塵も無い。

(‘_L’)「……と、この辺にしておきましょう」

彼の”演舞”が行われる昼下がり、時には後学の為にと遠巻きから眺める騎士見習いも居る。
しかしそんな者達も、彼の槍さばきに見惚れている間に気付くのだ。

このフィレンクトの域に達する事など、果たして、自らに出来るのだろうかと。

他地方の武芸者などからは”神槍”と字される事もあるのだが、本人はそれを迷惑がっていた。
それというのも、過去に一度余所で開かれた武術大会の祭典において、優勝を掻っ攫ってしまった事があるからだ。

だが───人より優れた名誉や、数多の武勲よりも彼が欲するものはただ一つ。

265名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 05:46:40 ID:ggfTaHMo0

(‘_L’)(またも、陰惨な光景でしたね……)

フィレンクトがこよなく愛するものは”平和”だった。

だから彼にとって、住民や街の治安を守るという今のこの職務は、天職のようなものだ。
この交易都市ヴィップという、環境に恵まれているという要因こそあれど───

大陸のどこかでは、今も領主による圧制に苦しみ、多大な税を搾取されている民もある。
ただ生まれが人と違うというだけで、他者を省みない非道な行いをする領主も多いのだ。
一部の貴族達の薄汚れたそんな部分を知りながら、それに対して自分が何かしてやれる訳でもない。

だからこそせめて、この”目に見える平和”だけでも守りたいという意思が、彼には備わっている。

(‘_L’)(暗殺者同士の仲違い?……しかし、単独犯とも考え難い)

(‘_L’)(全く、最近は物騒になって来ましたね。この街も……)

(‘_L’)(望みは薄いですが、ひとまずは情報収集を続けなければ)

今日のように何か考え事をしながら振る槍は、どうにも重かった。
だから訓練を早々に切り上げると、顔に薄ら滲んだ汗を拭き取りながら中庭を後にする。

266名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 05:47:39 ID:ggfTaHMo0

この頃、ヴィップ領の内外での事件が目に余る。

今朝も住民からの知らせを聞き付けて市場へと駆けつけると、無残に横たわる5人の死体が転がっていた。
傍らに顔を隠す仮面がそれぞれ落ちていた事から、ある標的を追っていた暗殺者達だと推察出来たが、
そこから先はいつも迷宮入りだ。

暗殺者ギルドの息は、この街にも確実にかかっている。

それなのに、常に末端を使って情報伝達を行う彼らを束ねる長は、いつも特定する事が出来ない。
騎士団による捜索が自らに及んでいるという事実に僅かでも触れられれば、途端にその後の道筋は途絶える。

だが───別件で追っている死霊術師の件もある。
この街に足跡を残している暗殺者ギルドの連中だけを追っている訳にも行かないのだ。

町へと放った部下達の報告を待つため、まずは自室にて書類を片付ける事にした。
雑念に駆られながら槍を振るうよりかは、無心でこなしていける仕事の方が、今日は楽に感じる。

(‘_L’)「やれやれ……」

267名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 05:48:47 ID:ggfTaHMo0

領主御自らの指名と言えど、ただでさえ100人以上もの直属の部下を抱える自分に対して、
一部内政にも加わって欲しいと、仕事を預けられている身分なのだ。

無下に断る訳にもいかず引き受けた結果が、自室の机上に積み重ねられた承認待ちの書類の束だ。
体よく仕事を押し付けられてしまった、と思った。

(‘_L’)(そういえば……)

何気なく、陽が差し込む窓際に立てかけられた額縁が目に入った。
少しだけキャンバスは日に焼け、当時描かれた時の色彩は、鮮やかさのいくつかを失ってしまっているが。

7年ほど前に聖都ラウンジを訪れた際に、ツンからもらった自分の肖像画だ。

型に囚われない斬新な手法と色使いには、天才と呼ばれる画家連中も舌を巻くだろう。
子供の落書きなどと断じてしまえばそれまでだが、フィレンクトの心は当時この一枚に揺り動かされた。

268名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 05:50:02 ID:ggfTaHMo0

ある時、任務により窃盗団のアジトに踏み込んだ時、
予想以上に抵抗を見せた男の一人を、不可抗力で殺してしまった。

初めての人殺しを味わい塞ぎ込んでいた当時の自分には、父や仲間の励ましも届かなかった。
定期報告としてラウンジに帰った時、必ずといっていいほどお話をせがむツンの純真さが辛く、
何故だか罪を咎められそうで避けようと思った。

だが、いつもより覇気の無い顔を覗きこんで、彼女は後ろ手に隠していたこの肖像画を渡してくれたのだ。
───その時、止め処なく頬を伝った熱いものの感触は、確かに覚えている。

「 (^ _く^) 」







(‘_L’)(良くやっているようですね、彼らとは)

269名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 05:50:46 ID:ggfTaHMo0

優秀な冒険者をこれまでも多数排出している老舗の冒険者宿、失われた楽園亭。
そのマスターが見込んだあのブーン一行というのは、なかなかに優秀なようだ。

つい先日は、死霊術者によって屍鬼の災厄に見舞われた村を解放した。
本来ならば自分達騎士団が出張らなければいけなかった案件だが、彼らはそれ以後の犠牲者を留めた。
手放しに喜んでやりたい所だが、ツンを危険な目に巻き込んだのもある為、評価は相殺しておく事にした。

今の心配事は、あのお調子者連中と常日頃を一緒に行動し、彼女がその毒気に染まってしまわないかだけだ。
肩首をほぐしながら、少しばかりそんな物思いに耽っていた時だった。

「団長、ご報告が」

扉を二度叩く音。
フィレンクトが声を掛けるよりも先に、急く様子で部下の一人が部屋へと入ってきた。

「件の、火災の起きたカタンの森から7名の生存者が発見されたという事です!」

(‘_L’)「そうですか……して、その身元は」

「はっ、薬草売りの少女が1名と、冒険者が6名……で、ですね……なんとその中には───」

270名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 05:51:37 ID:ggfTaHMo0

(;‘_L’)「───間違い、無いのですね?」

「……はっ!」







「失礼致します」

報告の兵が部屋から去った後、フィレンクトはどさりと背中を椅子にもたれかけた。
天井を見上げながら、事件の連続で少しばかり頭痛が苛んできた眉間を、揉み解す。

(;‘_L’)(ツン様……今度は一体何をやってらっしゃるんです……)

ヴィップから4日程の道程にある、カタンの森。
突然の大規模な火事は、おおよそ火災から一日足らずで森を焼き尽くしたそうだ。

その森の中から発見された冒険者の中に、ツンが居たという報告。
無事ではあるようだが、またしてもあのにやけ顔の冒険者を絞ってやりたい衝動に駆られた。
しかし、今は仕事を幾つも抱えている手前、そうしてやる事は出来ないのだが。

271名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 05:52:22 ID:ggfTaHMo0

(‘_L’)(………)

またしても、廊下の向こうで靴音が聞こえた。

「団長、事件です!」

(#‘_L’)「───えぇい!やってられますか、こんなもの!」

それを聞いた瞬間、書類の束を放り捨てて椅子から立ち上がった。
突如見せられたフィレンクトの只ならぬ剣幕に、部下は戸惑いを見せる。

「……ど、どうかされたので?」

(#‘_L’)「………いえ、報告の詳細は歩きながら聞きましょう。行きますよ」

「は……はっ!」

人々を、そしてその彼らが住み暮らす街の平和を預かる身分として。
円卓騎士団長、フィレンクトの日常は───かくも忙しい。

272名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 05:54:18 ID:ggfTaHMo0

─── 【旧ラウンジ聖教】大聖堂───


東の地、ロアリアで生まれた彼らの種は、自らを弾圧しようとする各地での強い風にさらされて、
いつしかこの北西の土地”グラシーク”へと移り住むようになった。

ヴィップからおよそ10日間ほどもある険しい山肌と断崖に囲まれたこの場所には、
日頃行商人でさえも訪れる者はほとんど居ないほどの生活観の希薄さが漂う。

荒れ果てた荒野に岸壁を積み上げたような、険しく緑に乏しい山の中腹に、彼ら信者達の聖堂が奉られた。
その聖堂の最奥で、薄布の向こうで影が形作る人影と、膝まづく一人の騎士の姿があった。

(贄が必要なのだ、もっと、沢山の)

(=[::|::|::]=)

(今は影に溶け込むような日々を暮らす我々だが……日の目を見る日は近い)

(=[::|::|::]=)「………はっ」

(それも、そなた達の働き───ひいては、聖教への信仰が試されるものだが)

(よもや迷いは……無いであろうな?)

273名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 05:55:44 ID:ggfTaHMo0

(=[::|::|::]=)「この剣に、誓って」

旧ラウンジ聖教の剣───”御堂聖騎士団”
その団長である彼が誓いを立てている相手が、現在までの旧ラウンジ聖教を打ち立てた者だ。
彼ら旧ラウンジ聖教が信望する神、その神と唯一対話出来るのが、この薄布一枚向こうに居る司教。

かつてロアリアを舞台に発展するかと思われた、宗教戦争の激化があった。

その種火をもたらしたのが、当時聖ラウンジに属したイスト=シェラザール審問官だった。
過激な彼のやり口は、聖ラウンジを離れ無数に分派してゆく、その種を生み出す事になった。
今こうして御堂の騎士と対話している司教もまた、その一人なのである。

”救いをもたらすのは、人ではない”
”救いをもたらすのは神だが、ただ求めるばかりでは、決して救われない”

”人が家畜を殺して食すのは、業”
”だが、人が人を殺めるのは、悪”

274名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 05:57:05 ID:ggfTaHMo0

”悪たる人間には、救いの手など差し伸べられるべきではない”
”寧ろ選ばれたる我ら以外の者達など、滅びの道を辿るべきなのだ─────”

終末的な思想が、彼ら信徒達の頭を支配していた。
それらが崇高だと、心底疑いの欠片も残さぬ程に心酔させる程に。

なぜならば、彼らにとっての”神”は───

(=[::|::|::]=)「………」







部屋を出た後、御堂の騎士は己の兜を脱いでその脇に抱えた。
視線を床へと落としながら廊下を渡る彼の表情には、少し陰りが見られる。

団長であるその彼の姿を目に留めた一人の若者が、向こう側から駆け寄ってきた。

「団長、いかがされました?」

275名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 05:58:07 ID:ggfTaHMo0

「………」

曇った表情に、心配そうな面持ちで覗き込む部下。
こうした司教との対話は、月に三度はある。

それ以外は聖堂を抜け出し、聖教の活動資金を稼ぐ一環として傭兵まがいの事をやっていられる。
その方が部下達も、そして自分もまた───一抹の充足感を得られるのだ。

だが、司教直々に彼らに下される勅命に対してだけは、その限りではない。
しばし押し黙っていた御堂の団長は、少しだけ申し訳無さそうに口を開いた。

(´・_ゝ・`)「今度、お前達の手を汚してもらう事になるかも知れん」

「団長、司教と一体どんな話を」

(´・_ゝ・`)「………詳細は以後、追って伝える。良く身体を休めておくんだな」

部下の言葉を遮るようにしてそれだけ言うと、困惑した表情の部下をその場に残し、また歩き出した。
自らの手だけならば、いい───汚れ仕事に手を染めるのが、この自分だけならば。

こんな仕事が騎士としての本分であるはずがないのだ。
”民間人を数人攫って来い”

276名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 06:00:12 ID:ggfTaHMo0

遠まわしではあるが、司教はそう自分へと伝えたのだ。
その後の人々がどうなるかなど、考えるまでも無い事だった。
”生贄”とされた人々は、死ぬ事になるだろう。

(´・_ゝ・`)(まだ若いあいつらには……駄目だ)

頬や目元辺りには、彼が数多の戦地を渡り歩いてきた、歴戦の傷を感じさせる。
彼ら自身もそう思っているように、主に仕える騎士というよりは、手練の傭兵そのものの風格だった。

”デミタス=エンポリオ”

数年前までは、確かに彼は傭兵だった。

十名足らずの仲間を率いて各地を渡り歩いてきた彼らは、負け知らずの兵だったはずだ。
だがある日の戦場、正騎士団を相手に大敗した戦いで殿を任された彼の傭兵団は、彼を残して壊滅したという。

そのデミタスは今、旧ラウンジ聖教の敵に仇名す剣として存在していた。
本当に心の底から聖教を信望している者は、彼ら御堂聖騎士団の中にはいない。

277名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 06:01:26 ID:ggfTaHMo0

ある者は団長であるデミタスの強さや、そして彼の部下思いの人柄に憧れて。
またある者は騎士の身分でありながら、傭兵同様粗雑に振舞える環境に満足している者達が多い。
皆、どこへ行ってもつまはじき者とされてしまう、俗世間には馴染めない男達ばかりだった。

(´・_ゝ・`)(信頼の置ける部下を数名だけ率いて───だな)

(´・_ゝ・`)(………こんなのが正しいとは、思わん)

一度は失い、再び手に入れたものがある。
それを手放すのが、それが壊れてしまうのが怖かった。

多数の部下を預かる人間となってからは、ふと、何かの拍子で傭兵時代の事が思い出される。
戦勝の晩に、大きな松明を囲んで皆で酒を酌み交わした、あの日常。

そして、それら全てを失い、自分だけがおめおめと雨の降りしきる泥沼を這いずった、あの日。

(´・_ゝ・`)(今はまだ……飼い慣らされる犬で居てやる)

278名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 06:04:13 ID:ggfTaHMo0

生贄を捧げているなどと他教の人間に知られれば、即座に旧ラウンジ聖教は糾弾されるだろう。
しかし、司教の思惑や他の聖教の事など、自分達にとってはどうでも良かった。

今は自分達の住み暮らす生き場所を守る為、甘んじて手を汚す。
血で真っ赤に染まった泥に、顔まで埋まって敵軍が去るのを待っていた自分だ、汚れ仕事は慣れている。

だから、進んで手を血に染めてやろう。

(´・_ゝ・`)(精々手際よくやってやるさ。悪趣味な貴様らの崇める、神様とやらの為にな)

御堂聖騎士団の中でも、この事実はデミタスだけにしか知らされていなかった。

司教の話に寄れば、幹部連中にだけ話しているこの事実を知ると、皆が口々に謁見を賜りたがるという。
他の信仰を捨ててまで、熱狂的に崇める信徒達が多いという理由の一つが、恐らくこれなのだろう。

事実は事実として───

今、旧ラウンジ聖教にとっての”神”は、この大陸に実存しているのだ。

279名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 06:05:31 ID:ggfTaHMo0
あと3人分ぐらいのやつ書いて6話はやめにしようかの

280名も無きAAのようです:2012/01/25(水) 07:10:36 ID:9BGEZ1iQ0
今からお仕事帰ってきたら読みますう!

281名も無きAAのようです:2012/02/07(火) 15:12:07 ID:kFGJSfVs0
ζ(゚ー゚*ζまってるよ

282名も無きAAのようです:2012/02/13(月) 22:48:27 ID:LQD.4FPY0
ふむ

283名も無きAAのようです:2012/02/15(水) 03:57:30 ID:0R/Ya8Uw0
さて、Skyrimも一段落してファンタジー分を補給できたし、今日からまたちまちま書いていきますわ。

284名も無きAAのようです:2012/02/15(水) 19:17:48 ID:hAdzImOE0
待ちくたびれたぜ

285名も無きAAのようです:2012/02/21(火) 02:20:09 ID:1/AA7wew0
やったー

286名も無きAAのようです:2012/02/21(火) 03:37:15 ID:LaK6wLfwO
明後日からの連休使ってのんべんだらりと書きますので少々お待ちをば
書きたい話思い付いたから次はそれにする

287名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 06:47:00 ID:Z7R9XywM0
─大陸東部 ロアリアより中東─


この場所は、ヴィップを行き交う商人達が手にする地図にすら、おぼろげにしか載っていない。

かつて気の触れてしまった一人の若者により多数が犠牲となった、今では打ち捨てられた村だ。
表向きにはただの廃村でしかないが、事情を知る一部の者達はその場所に近づく事さえしなかった。

なぜならばこの場所は、日陰に身を潜めて決して社会の表舞台に立つ事は無い者達が、根城とする場所だからだ。

その存在を知る大体の者は、政において自らの地位を保持するための道具として彼らに仕事を依頼する。
”標的とする人物をこの世から抹消して欲しい”という旨のそれを。

組織に対して大きな富をもたらす相手にならば、彼らはするすると蛇のように首元へと寄り添ってくる。
その相互関係には絶対の緘口令が敷かれ、禁を破れば依頼者とて命を奪われるのだ。

だが、その存在を捨て置かない正騎士団達が捜査の手を伸ばせば、瞬く間にその足跡を絶つ。
その為存在自体は多くの者達に薄々は周知されながらも、未だ組織としての全貌は未知だった。

288名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 06:48:29 ID:Z7R9XywM0
( ∵)「………」

狭苦しい廃屋と化した家屋の中で、仮面を着けた数人の男達は一言も交わさず刃を砥石へと滑らせる。
静かな空間の中で断続的に聞こえる金研ぎ音と相まって、その光景は異様とも言える。

どこか鈍色に思わせる煌きのナイフは、彼らに取っての命であった。
実際に有事の際には生命に直結する商売道具でもある為、その手入れは欠かすことの出来ない日課だ。

毎日、毎晩を人を殺める鍛錬や、実践の為に費やす。

そうした”夜”の中で自らは己が衣服や身体を血で染め、いずれは人間らしさの一切を捨て去る。
そうしなければ、この場所で生きていく事は出来ないからだ。

人は、自分一人の人生の重みを背負うのですら精一杯だ。
ましてやそこへ、自らが殺した人間に対して哀れみや情を差し挟んでしまっていては、
いずれは自分の背に次々と降り積もってゆく人の人生が、罪の重みが心を壊してゆく。

だからこそ彼らは、組織から逃れられぬ運命を悟ったある時から、自分という精神の存在を殺すのだ。
それは誰に言われるでもなく、自己防衛の本能として。

”暗殺者ギルド”という名───いつからか俗称として、そう呼ばれるようになった。

289名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 06:49:33 ID:Z7R9XywM0

一定の地位を持つもの達からは政治的、宗教的戦略の道具として。
またある時は、購い切れない憎悪を晴らすために彼ら暗殺者ギルドは利用される。

ただ下される使命の元に人を殺す彼らは、もはや彼ら自身も、生ける屍と言えるかも知れない。

「よぉ」

表情を仮面に覆い隠して黙々と刃を研ぎ続ける彼らの背に、能天気とも思える
ぐらいに軽い声色で、挨拶が投げかけられた。

「相変わらずカビくせぇ部屋だぜ……っとぉ、この壁とか、腐ってんじゃねぇかぁ?」

壁をこつこつと拳で叩くその男は、派手な髪型が特徴的だ。
前髪を後ろでまとめ、前へとはみ出たもみあげ。

老朽化した家屋の壁を拳でこつこつと叩くこの男こそが、彼ら暗殺者にとっての、長。

( ∵)「………っ」

男が現れた事に気付くと、ナイフの刃を研いでいた全員が手を止め、彼の方へ向け膝をついた。
皆が一様に頭を垂れて、ただ静かに次の彼の言葉を待った。

290名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 06:50:20 ID:Z7R9XywM0

<_プー゚)フ

”エクスト=プラズマン”

脈々と受け継がれて来たその呼び名を、今この時代は彼が持っていた。
死の執行者としての頂点に立つ者に対しては、畏敬を込めてこう呼ばれるのだ。

”黒き手”と。

<_プー゚)フ「さて………報告はどうなってる?」

手近な椅子の一脚を手繰り寄せて、どっかとそれに腰掛けてから言った。
少し震えたような口調で、エクストの眼前に膝まづく仮面の一人が答える。

事実、このエクストという男に対して恐怖の念があるのだろう。

( ∵)「……標的ドクオとは、ヴィップにて5人が接近。その後、連絡は途絶えています」

<_プー゚)フ「なーるほどなぁ」

ふんふんと腕組みをしてから立ち上がると、何か考え込むようにして室内に舞う塵を見上げる。

291名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 06:51:09 ID:Z7R9XywM0

だが、それも数秒の事だったろう。
再び部下達の方へ向き直った時、目が合った部下の一人は体を強張らせた。

赤色に殺気の込められた、瞳。

<_プー゚)フ「あぁ、そうか───」

( ∵)「………!」

ふるふると首を横に振る者も居るが、口答えなど許される訳もないのだ。
ただ彼の怒りが収まるまで、ひたすらになされるがままに堪えなければならない。

( ∵)「あヴぉッ!」

突然硬いブーツの爪先で顔面を蹴り飛ばされた一人が、壁際まで吹き飛ぶ。
痛みに身悶える暇もなく、床を踏みならしながらすぐに近づいて来たエクストのかかとが、
仮面越しに口へと突っ込まれた。

<_プー゚)フ「───よぉ〜く、出来ましたって!褒めてッ、やらねぇとなぁッ!」

( ∵)「ぶ……うっごッ!」

292名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 06:52:51 ID:Z7R9XywM0

一発だけでは飽き足らず、壁に背をもたれてうな垂れる部下の顔へ、何度も踏みつける。
二度目の蹴りで男の仮面は割れ落ち、三度目の蹴りでみしりと鈍い骨の音が響いた。
既に気絶している男の顔面へさらに三発ほどの蹴りを見舞うと、かしづく他の部下達へと向き直った。

<_プー゚)フ「俺の道具共が、聞いて呆れるぜ」

あまりに理不尽で、暴力的な振る舞い。
更にはどんなに口汚い罵りの言葉を浴びせかけられても、ただ耐える事しか出来なかった。
エクスト本人が言うように、部下である彼らはもはや道具として扱われ、絶対の忠誠を誓う存在。

皆が幼少の頃より天涯孤独となってしまった孤児や、攫われ、あるいは拾われてこれまでを生きてきた。
そうして組織の輪の中で過ごす以上、逆らうという考えが生まれる事すら無いだけの、”教育”も受けている。

<_プー゚)フ「……ったくよぉ。全員で刺し違えるぐらいの気概を見せてみやがれ」

足裏に付着した鼻血を床に擦りつけて拭いながら、そう言った。

彼の暴力が向けられる時には、そこに感情を押し出した前兆のようなものはまるで無い。
あるいは怒ってすらいないつもりなのかもしれないが、どこにもつかみ所の無い性分は、余計に畏怖を振りまく。

彼自身も多くの人間の命を奪う内に頭のネジが外れ、人格が破綻したのだと囁く者もあった。

293名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 06:53:51 ID:Z7R9XywM0

だが、今のように暴力だけで済んだならば、まだ幸運な方かも知れない。
以前に目を潰されて帰ってきた部下は、言伝を言い終えた直後に殺されたのだから。

<_プー゚)フ「で、あの馬鹿野郎はどこに向かった?」

( ∵)「……交戦の後、奴がどこへ行方を眩ましたかは……」

<_プー゚)フ「使えねぇなぁ。どいつもこいつも」

肩をすくませ、深いため息を苦笑交じりの表情に滲ませながら、部下達へ言葉を吐き捨てる。
そのまま背を向け、家屋を出て行こうとした時、ドアの前に足を止めた。

<_プー゚)フ「───そうだな。あの馬鹿への追手は今まで通り、各街に二人ずつでいい」

( ∵)「と、言いますと?」

<_プー゚)フ「いつだっけなぁ……ドクオの野郎に目ぇ潰されて、わざわざ伝言しに来た馬鹿が言ってたろ」

( ∵)「確か……”借りを返す”と」

<_プー゚)フ「どうせ、また顔見せやがるさ……何しろ、この俺の首狙ってんだろうからよ」

294名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 06:55:08 ID:Z7R9XywM0

そう言って振り向いたエクストの口元には、ぞくりとするような笑みが伺えた。
彼からしてみれば、道具でしかない自分の飼い犬に手を噛まれている状況。

しかし、それは屈辱と共に、長らく組織の長として君臨してきたエクストに対し、ある感情をもたらしたのだ。

それは、”歓喜”。

人を殺めるという禁忌を犯す事に対してすら退屈するまでに、麻痺していた日常。
だが、彼にとってはあまりに新鮮な事だった。

自らの”道具”が長たる自分に歯向かい、この命を狙いに来ているという事が。

( ∵)「わざわざ、向こうから殺されに戻ってくる……と?」

<_プー゚)フ「───ハンッ……」

自分の心中を把握し切れていないであろう部下達に一瞥くれると、
大した興味も無い、といった様子で背を向け、その場を立ち去る。

295名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 06:56:58 ID:Z7R9XywM0







<_プー゚)フ(ま、解る訳ねぇか───そんなタマ、お前らの中にゃあいねぇだろうからな)

これまで、自分の寝首を掻こうとする者が一人も居なかった訳でもない。
しかし、夜襲を察知して一度自分が刃を取ると、どれも命乞いするか逃亡を図る者ばかりだった。

だが、既に組織の目が届く範囲から逃げ仰せつつあるにも関わらず、今度の逃亡者は違ったのだ。

<_プー゚)フ(だが、感じるぜ……確実にドクオの野郎は、隙を伺っていやがる)

<_プー゚)フ(生意気にも、この俺を殺す機をな───)

再びドクオは自分の元に姿を現すだろう。
そして、自分にはその確信に至る根拠があった。

296名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 06:58:34 ID:Z7R9XywM0

ドクオか、はたまたもう一人───どちらを暗殺者として拾うか選択を迫った時の出来事だろう。
今になってドクオがその時の復讐を遂げようという思いに駆られたのか、経緯は定かではない。

ただ、長らく”黒き手”の名を掴もうという者が現れなかった昨今、理由はどうあれ”親殺し”を
体現しようという存在が現れた事は、久方ぶりに己の血が沸き立つ思いだったのだ。

自分の存在に最も近しい男であったドクオには、幼き頃のエクスト自身の面影が重なる節も見られた。
だからこそ、この二人が組織の頂点を巡って争う殺し合いは、本来必然であるべきはずなのだ。

この自分が二十手前でかつての”親”を殺し、長となり得たように。

「ちったぁ、楽しめそうだ」

”黒き手”のエクストは、一人上機嫌に鼻歌を口ずさむ。
互いに殺意を持って臨む、いつかの邂逅を待ち望みながら───

─――

─――――

ー─―――――――

297名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 06:59:45 ID:Z7R9XywM0

───大陸 某所───


( <●><●>)「地図は、もう頼りになりませんね」

街道を外れてもう随分と歩いた場所、広大な緑が覆い隠すその場所の更に奥───
そのまた先に、恐らくは男の目的地とする場所はあった。

爛々と輝く丸く大きな瞳だけをフードから覗かせていた。
彼の黒い外套の端には、昼であっても闇を引きつれそぞろ歩いているような異質さを覚える。
単に人を殺めるだけでは飽き足らず、その亡骸や魂を弄ぶ”死霊術師”は、皆そうなのかも知れないが。

”ベルベット=ミラーズ”は、交易都市ヴィップでは第一級のお尋ね者だった。

幼き頃より勤勉で負けず嫌いの面も強かった彼は、魔術師学校へ主席での入学を果たす。
学連も一目を置く存在であった事は確かで、賢者の塔に招きいれられる将来も、あるにはあったはずだ。
だが彼は、それまで積み上げてきた名声を全て捨てて、ある一つの分野へとのめり込んだのだ。

死者の存在を弄ぶ絶対の禁忌、”死霊術”の道へと。

( <●><●>)「フフ、臭いますね……わかっています。この道、なのでしょう?」

298名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 07:01:05 ID:Z7R9XywM0

死者を従えるという事には、彼にとっては何物にも代え難い征服感を得られた。
その者がこれまで築いてきた全て、その存在自体を死して尚も、自分だけの為に服従させる事が出来る。

最高に昂ぶるような絶世の美女も、数々の戦争で武勲を挙げた猛々しい英雄でさえも。

ネクロマンシーの術をある程度身につけた頃には、彼には周囲の全てが下らない存在に感じられた。
所詮は血と肉の詰まった袋───人間を見る目は、全て”研究材料”と捉えるようになっていったのだ。

そして、倒錯した欲望は彼の中で、性質の悪い誇大妄想と共に膨らんでいった。
全ての死者を従える事が出来るのならば、思うさまの理想郷を創り上げる事が可能なのだと。
”王”たる自分は玉座へ、そして決して逆らう事の無い兵を従え、”死者の王国”を造り上げる。

これから向かっている場所は、その生誕の地にこれ以上無いという程、打ってつけだった。

( <●><●>)「それにしても……本当にこんな山深くにまだ村があるとは、驚きです」

299名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 07:03:18 ID:Z7R9XywM0

───オッサム───

今の大陸暦が数えられるよりも、遥か以前の事と言われている。

魔術という概念が今現在大陸に住み暮らす人々に周知されるよりも以前から、魔法国家は存在した。
時の王は古代より魔法を持ちて戦って他国の侵攻を退け、絶対的な力とカリスマを誇示していたという。

その古代魔法国家はやがて王の死と共にその存在を闇へと葬られ、今では都市自体が広大な墓石となり、
冷たい石壁に囲われた地下迷宮としてその痕跡を残しているという。

当時から王の名を冠した付近の村も、極少数の村人を残して未だ存在しているのだ。
現に、彼の眼前にはクワを手に畑を耕す中年の姿が映っていた。

自分の存在に気付いていない村人への対応をどうしようか、ベルベットははた、と考える。

( <●><●>)(ふむ……全て材料としてしまいたい所ですが、情報も必要ですね)

300名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 07:04:04 ID:Z7R9XywM0

幸いにして、小ぢんまりとした酒場もあるようだった。
盛り場は好きではないが、無理を言えば部屋の一つも借りられるだろう。
手持ちの銀貨を渡しても、どうせ後からどうとでもする事が出来る。

だからまずは、冒険者風を装って情報を仕入れておく事に決めた。

( <●><●>)「ご精が出ますねご主人。実は、お聞きしたい事があるのですが───」

自分の風貌を足元まで眺め、なにやら訝しむ様子だった。
存在自体が何の取り柄も無い農民風情が、自分にそんな視線を向けるのは恐れ多い事だ。

だが、これも”王の墓”へ繋がる第一歩。
まずは面を取り繕い、足がかりが出来ればこんな村人達はばらばらの玩具にしてしまえばいい。

301名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 07:05:31 ID:Z7R9XywM0

古代魔法国家オッサムを導いたという、”王の霊魂”を現世にて従える事が出来たなら、
このベルベット=ミラーズに土を舐めさせたあの口の減らない魔術師も、自分を恐れる他ないだろう。

命乞いをさせた上で惨殺し、その身も魂も陵辱し尽くしてやらねば収まらない。
だがこの憎悪は、自らの理想を為した後でのお楽しみとして取っておくのだ。

その時が、楽しみでならない。

( <●><●>)(クク……フードを被っていて正解でした。にやつきが、収まりません)

( <●><●>)(古代国家を魔法で導いた、王を従える)

(───そんな事を考え付くのは、きっと私ぐらいです。神をも恐れぬ、とでも言いましょうか───)

302名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 07:06:41 ID:Z7R9XywM0







己を賞賛しながら、内心悦に浸るばかりのベルベットは最後まで気付かなかっただろう。
足音が聞こえない程度の距離から、ずっと背後を着いていた人間が居た事など。

( …… …… …… )

以前ショボン=アーリータイムズに揶揄されたように、彼の知覚が閉ざされていた訳ではない。

その存在が彼の目からは見えぬように、巧みな魔術により隠匿されていたのだ。
光を屈曲させて存在を秘匿する───高度な隠蔽魔法は、この男を初めとしてもたらされたもの。

(ふぅん)

303名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 07:08:18 ID:Z7R9XywM0

最初、彼の姿を道端で見かけたのは偶然だったのだ。
何とは無しに目で追っていた彼は、自分の目指す道程と全く同じ道順を歩んでいた。

だが、彼がこの場所まで辿りつく運びとなった今、確信を得た。
恐らくは自分と同類の男であろうという念は抱いていたが、まさか求める物まで同じとは思わなかった。

しかし、その使い方まで自分と同じとは限らないのだが─────

村の中へと消えたベルベットの背を見届けると、彼は自らの隠匿魔法を解いた。
人目に着く事を避け、村の全貌が見渡せる位置にまで移動してから、木陰に紛れて。

( ・∀・)(正直、疲れたね)

”モララー=マクベイン”は、交易都市ヴィップにおいて、今や超一級のお尋ね者だった。

304名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 07:09:37 ID:Z7R9XywM0

賢者の塔から放たれた暗部の刺客三人をも殺害し、今なお逃亡者の身分。
それまでは将来的に、魔術師としての頂点であるアークメイジの地位の芽もあっただろう。
だが、今は死霊術師としての側面が明るみとなり、余罪も多分に見られているはずだ。

ただ、それらがまるで”下界”で繰り広げられている出来事のように錯覚する程に興味が無い為か、
自分の首に懸けられている1000spという現在の賞金の額面すら、彼自身も知らなかった。

ショボン=アーリータイムズによって発覚した、死霊術師としての自分。
自らも追われる身となった今は、最初のように彼を嘲笑う事など出来ない。

勘の良い老害が放った監視の目を始末した事により、今頃は彼の冤罪が明らかとなっているかも知れない。
しかし、あの老いぼれの考えそうな事だ。

そう簡単には彼への疑いを晴らすつもりも無いだろう。
寧ろ、ショボン=アーリータイムズが自分を追っているのなら、それはそれで面白いと思えた。

( ・∀・)「好敵手という存在には───為り得ないだろうけどね」

305名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 07:11:48 ID:Z7R9XywM0

自分の研究の発覚を許したのは、そろそろ頃合だとも思っていたからだ。

今では、死神と同一視される存在───レイスですらをも従える自信がある。
だが、常に高みを目指し続ける自分には、それでもまだ物足りないのだ。

更なる高位の存在こそが、この自分には相応しい。
かつて、オッサムという名を冠した古代魔法国家の王────その魔導死霊(リッチ)こそが。

戦乱の波に呑まれて消えていった国の墓ならば、さぞ強大なる怨嗟が渦巻く力場に巡り会えるだろう。
既に読破したが、一人の著者が残した”死をくぐる門”は、嘘偽りもなく感銘を受けるだけの内容だった。

数多の血肉の犠牲を払った上で、肉体を媒介として死神を降霊させる。
そんなもの、今の世では到底受け入れられるようなものではない。

だが、もしその実験が成功を収めていたのならば───果たしてどういう結果になったのか。
その行き着く先に、極めて興味を惹かれたのがきっかけだった。

306名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 07:14:21 ID:Z7R9XywM0

こと魔術的分野において不得意な物など何一つ無い自分にならば、恐らくは可能なのだ。
自らの力量が足りずに散っていった、かの死霊術師の崇高なる理想を遂げる事が。

志を同じくする先客の魔術師には、死ぬまでの間を道中の道案内を頼むとしよう。
彼の力量など、背後を着けるの自分の存在にも気付けぬ愚鈍さの時点で知れているのだから。
後々の扱いは、手駒の一つ程度としては丁度良さそうだった。

より高次の存在を己が身に宿したその時、果たして人は─────

( ・∀・)(どうなってしまうの、だろうね)

手のひらには、久しく震える事の無かった胸の鼓動が、少しだけ早まる感触を感じる。
─────答えには、もう確実に近い所まで来ていた。

─――――

─――――─――――


─――――─――――─――――

307名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 07:16:25 ID:Z7R9XywM0





   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             第6話

           「溢れ出す悪」


             ―了―

308名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 07:38:53 ID:Z7R9XywM0

ここで蛇足のレベル帯説明

【LV1〜3】
 駆け出しの冒険者レベル。一般的な村人の中での力自慢などが、おおよそ2〜3に当たる。
 大陸を歩く冒険者の大半はこの位に位置し、蛮勇を振りかざす者の多くは、命を落とす。

 実力相当……動物:熊 妖魔:ゴブリン、オーク、コボルド

【LV4〜6】
 命の危機に瀕する修羅場を潜り抜けた経験のある、生存術を多少なりとも身に着けてきた者達。
 この辺りから命の危険を伴う職業に身を置く者の一部は、小規模な組織であればそこで頭を張れる。
 下級妖魔と戦ってもまず命を落とす心配はない、一人前と呼ばれる者たち。

 実力相当……吸血鬼:レッサーヴァンパイア、妖魔:オーガ

【LV7〜8】
 数々の修羅場を潜り抜け、相応の実力を身につけた者達。
 大陸諸国を見渡しても一握りしか存在しない、知と武勇に恵まれた者達。
 宮廷魔術師や大盗賊団の長、歴戦の死線を潜り抜けた高名な傭兵などがこれに当たる。

 実力相当……妖魔:オーガ、吸血鬼:ヴァンパイア、死霊:レイス

309名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 07:41:58 ID:Z7R9XywM0

【LV9〜10】
 その道においてある種の境地に到達した、極々一握りの者達。
 この辺になってくれば一線を退き、かつての仲間たちを引き連れて趣味で旅歩く者もいるが、
 現役ともなれば伝説的な英知や、武勇の持ち主。大陸全土に知れ渡る名は、騎士団からのスカウトも後を絶たない。

 実力相当……龍族:ドラゴン(若龍)、吸血鬼:ヴァンパイアロード、魔道死霊:リッチ


【LV11〜】
 曰く「英雄」、曰く「伝説」として、末永く後世にまで語り継がれる者達。
 その彼らのいずれも噂を知った人々が目にする事は無く、波乱に満ちた冒険の果て命を落としたか、
 あるいはまた風のように、誰にも知られぬまま次の冒険を求めて旅立っている。

 参考……LV15〜LV20…龍族:エンシェントドラゴン(齢300年〜500年以上)

310名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 07:44:34 ID:Z7R9XywM0

【ブーン=フリオニール】 推定LV2〜4

( ^ω^) 腕力、耐久力に優れた生まれながらの戦士

【田舎育ち 猪突猛進、進取派、楽観的、陽気、お人好し、無欲、誠実、秩序派、鈍感、粗野】

【ショボン=アーリータイムズ(ストレートバーボン)】推定LV3〜5

(´・ω・`) 類稀な知性を持つ天才型

【都会育ち、厚き信仰、冷静沈着、利己的、好奇心旺盛、繊細、謙虚、お人良し、高貴の出、勤勉、上品】

【クー=ルクレール】推定LV3〜5

川 ゚ -゚) 智に裏付けされた実力

【秀麗、都会育ち、不心得者、冷静沈着、好奇心旺盛、悲観的、ひねくれ者、高貴の出、秩序派、神経質】

【ツン=デ=レイン】推定LV1〜3

ξ゚⊿゚)ξ 凡庸なる暮らしの中で培われた強い意志

【秀麗、都会育ち、厚き信仰、献身的、保守派、高慢、繊細、ひねくれ者、誠実、無欲、秩序派、粗野、愛に生きる】

【グレイ=フォックス】推定LV2〜4

爪'ー`)y- あらゆる分野をそつなくこなす機敏さ

【秀麗、不心得者、冷静沈着、粗野、進取派、誠実、無欲、愛に生きる】

311名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 07:47:18 ID:IpNDnIDwO
明日ぐらいかなと予想してたがはずれた 
今から読む、投下ガンガレ

312名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 08:00:12 ID:Z7R9XywM0
蛇足終了
>>311
とりあえずブラックコーヒーの効力が続く限り今の内に書きやす。
次は脇役の話だけど、投下は明日かも

313名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 08:47:01 ID:1QsY3D3A0


314名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 17:37:22 ID:zD24tmVgO
ソードワールドPRGだな

315名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 20:31:20 ID:Z7R9XywM0

( メ,-Д-)「………ん」

ヴィップの街を走るいくつもの路地、その中の細い小道の先の袋小路に、彼は倒れていた。
まだ夜も空けきっていないほどの暗さだというのに、耳障りな鳥の鳴き声で目が覚めた。

( メ,゚Д゚)「もう、朝かよ……ゴルァ」

目を覚ますなり、自分がこれまで謎の集団と交戦し、クーを逃がす囮として街中を
駆けずり回っていた事を、鮮烈に思い出した。

( メ;゚Д゚)「ハッ……クーは、どうなった……?」

あれから自分がどうしたのか、寝ぼけ気味の頭では思い出すのに時間がかかる。
最初から順序立てて思い返し、それを記憶の底から拾い集めようと頭に手を添えて顔をしかめた。


その断片たちを繋ぎ合わせるようにして、思い返してみる───


───────────────

──────────


─────

316名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 20:32:00 ID:Z7R9XywM0







多くの注意が自分に向き、敵の目を引き付けられるかと思ったのは、とんだ誤算だった。
女だてらに剣を上手く扱えていたクーの元に、半数が残ってしまった。

人と剣を合わせた事など、まだ自分が物心つく前の、父親が生きていた時の記憶の中だけ。
それも、木の枝を振るって父がそれを受け止めるだけの、お遊びだ。

ゴブリンなどの妖魔を相手取って倒した事は何度もあるが、人を斬った事などない。
クーの事よりも、自分の心配をするべきだったのかも知れないなどと、少しばかり後悔していた。

( ,;゚Д゚)「……ッハッ………ハァッ!」

(……周り込め……隣の路地から……)

背後で、声がする。
夜に静まった街中を、複数の足音が追いかけてくる。

317名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 20:33:10 ID:Z7R9XywM0

三人に囲い込まれては追いつかれるのも時間の問題────
ならば剣を振り回して応戦と行きたい所であったが、生憎と多数の水脈のように走る
狭い路地に身を潜り込ませたのが災いしてしまった。

こんな場所では前方に振り下ろす事ぐらいしか出来ず、まったく小回りが利かない。

仮にやり合えば、向こうの所持している短刀であっさりと喉首を掻っ切られて終わってしまうだろう。
今は、逃げるしかないのだ─────

歯をぎりりと食いしばりながら、必死に手足を動かし続ける。
重い革鎧が邪魔だ、こんな事ならあの場でクーの力を借りて戦っていれば────

( ,;゚Д゚)(………女に助けてもらうなんざ、情けねぇ事できっか!)

ついぞ漏れそうになるその弱音を、負けん気で発奮させてかき消す。

それは、彼の安い意地だった。

318名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 20:33:52 ID:Z7R9XywM0

冒険者としても、剣士としても中途半端。才能が無いのは感じていた。
だが、窮地においても虚勢を張る事は、自らが憧れを抱き志した、父と同じ道を歩む上で欠かせない事なのだ。

父のように、どれだけ強大な敵にも立ち向かっていけるだけの、
そして他者を助ける為にこそ剣を振るう事の出来る剣士にとっての、美学。

( ,,゚Д゚)「!!」

やがて、目の前には高くそびえる壁。
三方を住居の裏手に囲まれた、袋小路に追い詰められてしまった。

少し視線を落とせば、薄布を被った浮浪者がそこに寝転がっている。

( ,;゚Д゚)「………ちっ」

振り返った先の退路は、当然ながら三人の仮面の男に塞がれている。

( ∵)「終わりだな」

だが、やるだけの事はやってやる。

319名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 20:34:44 ID:Z7R9XywM0

この場所で振るう事の出来ない剣を使う事は、もはや諦めた。
拳を固く握り締めて、力強く顎を貫いてやる。

狭い路地へと追いやられた今のギコに残された手段は、結局の所それしかない。

頬を自ら張り、己を奮い立たせる。
自分の心臓を狙う三人の男の凶刃の恐怖から、片時も目を背けぬ為。

( ,#゚Д゚)「来るなら……来てみやがれゴルァッ!」

( ∵)「………」

その叫びに反応して、仮面の一人が刃を低く構えた時だった。
ギコの足元あたりから、なにやら掛けられた毛布の向こうにくぐもった声が聞こえた。

「んぁ……なんだぁ?」

それはこの状況において、あまりに間の抜けた声だった。
本来ならばその男は、目を覚ますべきではなかった。

そうであったら、ギコのように命を狙われる恐れも無かったのだ。

320名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 20:35:29 ID:Z7R9XywM0

だが、むくりと起き上がった彼もまた、仮面の男達───暗殺者の姿をその目で見てしまったのだ。
  _
( ゚∀゚)「……っるせぇなぁ」

( ,,゚Д゚)「………」

寝床の傍らには剣や麻袋などの装備が置かれている。
一見冒険者風に見えた彼から、すぐに視線を暗殺者へと戻す。

巻き込む訳には行かない───だが、こっちの心労など露知らず、
呑気にも男は声を掛けてくる。
  _
( ゚∀゚)「おー、そこのお前。こいつぁ何の騒ぎだ?」

短刀を構える男が自分の目の前に三人も横に広がっているというのに、彼には
危機感という意識がなかったらしい。

冷や汗を流すギコとは対照的に、その場で欠伸の一つでもしてしまいそうな気の緩みようだ。

( ,;゚Д゚)「だぁ……うっせぇな!黙っててくんねぇか、あんたもやられるかも知んねぇんだぞ!」
  _
( ゚∀゚)「へ?」

321名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 20:36:26 ID:Z7R9XywM0

( ∵)「ご名答」

銀色の刃をちらつかせる男が、三人。
月明かりに薄っすらとだけ照らされた彼らは、皆同じような面を被っていた。
  _
( ゚∀゚)「………なるほど」

状況説明は、一目だけで終わったようだ。
のほほんとしたものだ、こちらは神経をすり減らして冷や汗を垂らしているというのに。

( ,;゚Д゚)「くそがッ───おい!そこの浮浪者のおっさん!」
  _
(;゚∀゚)「あん!?」

( ,;゚Д゚)「あんた、俺がこいつら相手してる間に、どうにかして逃げろ!」

( ∵)「おい、聞いたか?」

( ∵)「……フッ、馬鹿が」

( ,;゚Д゚)(相手が三人ってだけでもキツいのに……人一人庇いながらなんて、余計過ぎるぜ)

322名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 20:37:18 ID:Z7R9XywM0

やはり、窮地においては妙な正義感が顔を覗かせてしまう。
龍にも恐れずに立ち向かっていった傭兵である、父への憧れが故だろう。

だがその息子である自分が、たった三人の賊から浮浪者一人守れなくては父の名を汚す事になる。

活路を───見出さなくては。

頬を伝った汗の一滴が、また地面へとぽたりと落ちた時だった。
  _
( ゚∀゚)「……ったくよぉ、近頃の若造は」

( ,,゚Д゚)「!?………あんた……何のつもりだッ、下がっ───」
  _
( ゚∀゚)「あー、わーったわーった!まぁ見てろっての」

いつの間にやら、のそのそと起き上がってきたその男は、ギコの前へと出た。
男の前には、向けられる銀刃が、三本。

( ∵)「……死にな」

( ,,゚Д゚)「!!」

323名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 20:37:59 ID:Z7R9XywM0

  _
( ゚∀゚)「………」

ギコが庇いに入るよりも早く、仮面の男の一人は突きを繰り出していた。
自分の前に立つ男の胸元へと向けて。

他者が目の前で刺されようとする光景に、思わず大声を上げそうになった。

───だが、そうはならなかったのだ。
  _
( ゚∀゚)「ほっ」

代わりに目の前で繰り広げられた光景は、ギコの想像の遥か斜め上を行くものだった。
実に緩慢にすら思える動きであったが、それは、単に無駄がそぎ落とされたが為なのだろう。

( ∵)「───ッがか!?」

( ,;゚Д゚)「な………」

確かにナイフを突き出してきたはずの仮面の男は、次の瞬間には前方へ吹き飛んでいた。
実に、人一人分程度の高さくらいの中空にて、男の身体は弧を描く。

324名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 20:38:49 ID:Z7R9XywM0

左手で刃物の切っ先の軌道を逸らしたのと同時に、右の手は背中を反らせて顎を拳で突き上げたに過ぎない。

まるで、ゆるやかにさえ感じられる程の時の流れの中で────
たったそれだけの事で、やがて地面へと墜落していった仮面の一人が、
しばらくの間立ち上がる事など出来ないであろうという程の威力を感じさせる。

どしゃり、と地面へ落とされた男は、案の定その一発で昏倒したようだった。
  _
( ゚∀゚)「───そら、どうした。こちとら丸腰だぜ?」

( ∵)「………な」

残る仮面達が、一瞬だけ顔を見合わせた。
それはそうだろう、ただの一瞬で味方の一人が素手で宙を泳がされたのだ。
当のギコですら目の前に立つ男の持つ身体能力は、得体の知れぬものだった。

( ∵)「ちっ……怯むな」
  _
( ゚∀゚)「来ねぇなら────」

( ,,゚Д゚)(───低い!)

ギコだけでなく、一瞬たじろいだ仮面達の視認速度を凌駕していた。
前に突き出した両腕と共に頭を下げると、気がついた時には左の一人の懐へと潜っていた。

325名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 20:39:36 ID:Z7R9XywM0

( ∵)「な……くッ!!」

辛うじて反応してか、もはやその場所にいない虚像に対してナイフを振るった。
だが、そんな反応速度では腹下から聞こえる声の主の打撃を、避ける手立てはない。
  _
( ゚∀゚)「────ほれ、こっちから行くぜ」

”ぱかんっ”

( ∵)「んぬむぐゥッ」

またしても、大の男一人が軽々と宙を舞う。
あまりに間の抜けたような音が同時に聞こえたが、恐らく顎の骨くらいは砕けたはずだ。

片腕に支えられた天を突くような肘打ちが、的確かつ豪快に決まったのだった。

( ∵)「う、嘘────だろ……」
  _
( ゚∀゚)「もうちっと身体鍛えとけ、使いっ端どもめ」

( ,;゚Д゚)(な───なんなんだよ、このオッサン………)

326名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 20:40:32 ID:Z7R9XywM0

素手のギコ自身の3倍、いや、5倍以上は強いのではないかという程に冗談めいた強さだった。
刃物を帯びている敵を相手取りながら、怯むどころか、余裕綽々でぶっ飛ばしている。

身長差で言えばギコの頭一つ分ぐらいも小柄な身長にも関わらず、馬鹿力はその比ではない。
この身体のどこにそんな力が秘められているのか、まるで理解できない。

( ∵)「な……なんなんだ、お前ぇッ!?」
  _
( ゚∀゚)「はは。通りすがりの、冒険者ってなぁ」

そう、あっけらかんと笑う男の実力に、仮面はもはや完全に狼狽している。
双方の力量差は、ギコの瞳からにも明らかなものだ。

だが、元は自分に降りかかった火の粉なのだ。
無関係の他人にばかり任せておく訳にもいかぬだろう。

呆気に取られながらその立ち回りを見ていたギコは、そこでふと正気に立ち返った。

( ,;゚Д゚)(………俺も、こうしちゃいられねぇ!)

327名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 20:41:53 ID:Z7R9XywM0

( ,#゚Д゚)「うぉぉッ……加勢するぜぇッ!」
  _
(;゚∀゚)「お……馬鹿ッ」

最後の一人を叩きのめすため、ギコもまた拳を振り上げて立ち向かった先───
男によって繰り出された裏拳が、既に仮面の刺客を叩きのめしていた場面だった。

( ,, Д )「───うぉッ!?」

男の顎を打ち抜いた後、それでもなお衰えない衝撃は、こちらへ向いていた。
そのまま、絶妙のタイミングで突っ込んでいったギコの顔面を、男の拳が不運にも捉える。

恐らく事故という他ないのだろうが、それにより両膝の力は一瞬にしてがくりと抜け落ちた。
夜だというのに目の前には白い火花がちらつき、そのまま意識は白へと吸い込まれていく。

( ,, Д )(あ────)

鼻血を噴出しながら冷たい地面に倒れ伏したギコの耳には、辛うじて彼の最後の言葉が届いた。

(……あっちゃ〜……)

─――――─――――─――――


─――――─――――

─――――

328名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 20:43:21 ID:Z7R9XywM0



   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             幕間

          「壁を越えて(2)」

329名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 20:59:22 ID:Z7R9XywM0

──────15年以上前──────

陽光の日差しが暖かな、作物の収穫をすぐ直前に控えた、ある春の日だった。
その日、少年が住み暮らしているフランタンの村の広場では、白銀の甲冑に身を包む、
数十人もの騎士達の姿があった。

フランタンの領主、ディクセン=ベルモンドが抱える騎士団だ。

数は50人以上にも登るが、彼らディクセンの従者は生まれも育ちも
良いものばかり。その為、他の領主や町の住民からは、坊ちゃん騎士団と
囃し立てられる事も少なくない。

事実、戦闘の経験が豊富な者などもこの中では僅か半数といった具合だ。

( |::||::|)「村の衆、村の衆!聞くがいい!」

( ゚∀゚)「ねーちゃんねーちゃん、あいつら何なんだ?」

川 ゚∀゚)「この村の領主さんの騎士団さ」

330名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 21:00:04 ID:Z7R9XywM0

幼き日の、”ジョルジュ=ブレストル”少年。
そしてその姉、五つ年上の”ホルス=ブレストル”の二人は、その光景を物珍しげに眺めていた。

( ゚∀゚)「へー?何するんだー?」

二人が住み暮らすこのフランタン村へディクセン騎士団が訪れたのは、早朝の事だった。

しばらくの間広場で滞在していた彼らだったが、やがてディクセンの団長は村長の家を訪れた。
そうして今こうして、昼下がりに村の住民全員を広場へと集めて、何かを伝えようとしているのだ。

日頃人が訪れる事も少ないこの村に現れた騎士の一団に対し、住民達は既に興味深々だ。

( |::||::|)「4日ほど────前の事だったか」

ある時、住民達を前にした騎士の一人が、唐突に切り出した。

331名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 21:01:09 ID:Z7R9XywM0

( |::||::|)「領主ディクセン様の元へ届いた、貴公ら村人の数人からの報せは、
        山頂の洞窟にて、”ドラゴン”の姿を見たというものだった」

おずおずと見物人の中から一人の中年が姿を見せると、
へこへことその騎士に対して受け答えをした。

「へ、へぇ……あっしのとこの悪たれたガキの話なんでさぁ」

「なんでも悪たれの話だと、昔っから村のもんは誰一人
 立ち寄っちゃならねぇって言われてる……山上の洞窟で見たって話です」

( |::||::|)「ふむ、しかし何せ子供の見た事だ。見間違いなどの可能性の方が遥かに大きい…」

大仰な仕草で首を捻る騎士の姿。
だが、その次に放った一言に、どよどよと村中がざわついた。

( |::||::|)「だが、寛大なるディクセン様は、そんな貴公らの不確かな情報にあっても、
        騎士団を総動員して山狩りをせよとの命を我らに授けた!」

332名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 21:01:55 ID:Z7R9XywM0

( |::||::|)「情報によれば、漆黒の表皮に真紅の邪眼。数少ない竜という存在の中で、
        その外見から、かの”邪竜ファフニール”だという事への信憑性は高い!」

その名を聞くやいなや、村人全員がざわめき、動揺は瞬く間に広まった。
自分たちの村のすぐ近くに、伝説的存在である”竜”が存在していると告げられたからだ。

これまで相対した者で、実際にそこから生還した者はほとんど居ない。
歳を重ねる程に、力と共に狡猾さも兼ね備えていくという。

悠久の時を生きる存在─────”ドラゴン”

人間ごとぎでは、逆立ちしても決してその偉大な力には勝てようはずもない。
それゆえ、その存在を知る者からすれば”人は竜に関わってはならない”という
事を触れ回る人間が、大陸中にはそこいらで数多く見られる。

中でも”ファフニール”は、大陸中に一際その名が知れ渡っている存在だ。。
齢にして500年以上もの時を過ごし、既に人語を解しているとも言われている。

333名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 21:03:10 ID:Z7R9XywM0

川;゚∀゚)「竜……ファフニール?冗談でしょ……?」

( ゚∀゚)「はふにーるって、ドラゴンの事かー?」

川;゚∀゚)「……そうさ。とってもおっかなくてね、アンタなんか一口なんだから」

( ゚∀゚)「ホントかよ!見てみたいなー」

曰く、物語の紡ぎ手、ドラゴン。
その存在を称える者の中には、神の使いとして崇める者もいた。

だが、たとえ人語を解する龍と言えども、その存在は人間などよりも高い次元に位置する。
絶対的な力を有するが故に誇り高く、傲慢な生き物なのだ。

人間などに懐柔される事など決して無く、食物連鎖の頂点として君臨し続けるだけ。
だが、それを倒そうという者達はいつの時代にも存在するのだ。

それは龍と同じように驕り昂ぶった、知性を持つ人間という生き物の、性であった。

村人たちのどよめきもひとしきり納まった頃、騎士団のリーダーは
最後にこほんと咳払いをしてから剣を掲げ、叫んだ。

334名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 21:07:39 ID:Z7R9XywM0

( |::||::|)「故に、いざ行かん!我々ディクセン騎士団はこれより、
      ”邪竜ファフニール”討伐の為に出立せり!」

(……オォ──オオォッ!……)

騎士団長のその叫びに呼応して、騎士団の面々は剣を天高く掲げた。

その姿に、民衆の大半には歓声を上げる者も居たが、その一方で
明らかな不満を孕んだ表情で、それを蔑していた者も少なからずあった。

気勢を高める騎士の一団の中にあって、正規としてではない鎧に身を包むのは、恐らく傭兵。
”坊ちゃん騎士団”の中で実際に戦力の中核を為すのは、彼らだろう。

ミ,,゚Д゚彡「………」

安い賃金で、命を自ら危険に晒す彼らもまた、ジョルジュの姉、ホルスと同様に
その騎士団の乱痴気騒ぎを、どこか侮蔑の眼差しで退屈そうに眺めていた。

川;゚∀゚)「はんっ、最初から来なくて結構なのにさ」

( ゚∀゚)「なんでだねーちゃん?なんかあいつらカッコいいじゃん」

川 ゚∀゚)「……あいつらはね、一つでも多く手柄を立てて、他の領主や
    人々から脚光を浴びたい、もっと富と名声が欲しいってだけなのさ」

335名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 21:08:26 ID:Z7R9XywM0

川 ゚∀゚)「古くからしきたりを守って来たあたい達の村に、そんな事の為に
     土足であがり込むっていうんだから……良い気はしないね」

おおむね、それはホルスの言う通りだった。

より多くの名声を、より高い地位を望む力ある貴族達。
大義名分を掲げては、その実狙いは別の所にある。

当然ながら、高名なる龍を討伐したとあっては自分達にとってのその見返りは多大なるものだからだ。

「頑張ってくれー!騎士様たちよー!」

「ドラゴンを倒したら、俺達にも見せてくだせぇよー!」

声援を送る一部の村民達に大手を振って、やがて山頂を目指した騎士団は出立した。

336名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 21:09:32 ID:Z7R9XywM0

川 ゚∀゚)「───もしドラゴンが寝息をかいてたとしてさ。それで、 あいつらが
     討伐にしくじったら、あたしらどうなっちまうんだろうね……?」

村中でこの時それを危惧していたのは、彼女だけだった。

( ゚∀゚)「?」

幼いジョルジュ少年が姉のその様子に気づく事はなかったが。

そして、聡明にして勘の良い彼女のその想いは、やがては現実のものとなる─────

─――――─――――─――――

─――――─――――


─――――

337名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 22:22:12 ID:fQjwdIkc0
続きが気になるねぇ

338名も無きAAのようです:2012/02/24(金) 04:15:29 ID:GMHlc/rM0

───月も隠れた、深夜だった。

結局、夕刻になっても、ディクセン騎士団らが麓の村へと戻ってくる事はなかった。

だからだろうか、何故だか胸騒ぎがして寝付けぬホルスは、寝室に
ジョルジュ一人だけを残して、夜風を浴びるために外へと出てきたのだ。

川 ゚∀゚)(────風が)

自分が不安を抱えているからなのか、いつもは清清しい山々を吹き抜ける夜風が、
この日は何故だか生ぬるく、身体に纏わりついてくるような印象を受けたのは。

もう、戻ろう。

そう思って再び家へと入っていこうとした時、僅かに耳に届く音があった。
───がちゃがちゃと金属が触れ合う音、それも行進しているかのように。

川 ゚∀゚)「……何だい、この音……」

339名も無きAAのようです:2012/02/24(金) 04:16:48 ID:GMHlc/rM0

その瞬間、ピンと来た。
もう夜半もとっくに過ぎた今になって、ディクセン騎士団が戻ってきたのだ。

その成果を確認すべく、ホルスは音の聞こえる方へと駆け出した。

やがて────山頂へと続く山道。
その木陰から次々と姿を現したのは、やはり多数の人影のようだった。

その彼らに駆け寄ったホルスだったが、明らかな異変に、すぐに気付いた。

「ウァ…ウゥ…」

そこかしこから、うめき声は風に乗った呪詛のようにして耳へと流れてくる。
皆が、瀕死の重傷を負っている事が理解できた。

村内へと辿りついた騎士達は、着くや否や皆一様にばたばたと地面へと倒れこんでいく。
月を隠していた雲が流され、月光がほのかに照らしたその光景に、ホルスは絶句した。

340名も無きAAのようです:2012/02/24(金) 04:17:50 ID:GMHlc/rM0

川;゚∀゚)「───ッ」

(,,];:',;( #)「……たす……たす、け……」

こちらへと手を伸ばすのは、昼間に広場で皆を炊きつけていた騎士団長。
荘厳な作りの甲冑に守られていたその姿は、今や無残なまでに変わり果てていた。
顔面や体躯を覆う甲冑は所々ひしゃげ、露出した顔面は2倍程に膨れ上がっていた。

身体を頑強に守るはずの甲冑は、前面部だけが根こそぎを欠損している。
剣の打ち込みすらを弾くほどのそれが、まるで乳油のようにめくれ上がり、
胸部が露出していた。それも、脈々と鼓動する臓物が、あばらの隙間から覗く程にだ。

川; ∀ )「───こんな」

川;゚∀゚)「………ダメ、だったのかいアンタら……」

(,,];:',;( #)「………」

341名も無きAAのようです:2012/02/24(金) 04:18:36 ID:GMHlc/rM0

だが、その問いかけに、もはや騎士が返答する事はなかった。
最期の間際にはひゅうひゅうと喉から空気が漏れ、
助けを求める言葉すら、発する事ができなかったようだ。

「ねぇ……答えなよ」

そう呟いてから、暗闇に慣れてきた目を周囲へと凝らしてみる。

そこに広がっていたのは、ほうぼうの体でどうにか村へとたどり着き、
惨たらしい姿で次々と力尽きて行く、騎士団の成れの果ての光景だった。

急速に訪れた自身の震えが、全身へと伝わってゆく。
目の前の光景に加えて、これまで山頂にて沈黙を保って来たであろう”龍”への恐怖。
その現実が露になった今となって、彼女の心はどん底にまで落とし込まれた。

川; ∀ )「ど、どうすれば………いいんだい」

刺激してしまったのだ。
考えるまでも無く分かる事だが、今やディクセン騎士団は敗れた。

342名も無きAAのようです:2012/02/24(金) 04:19:24 ID:GMHlc/rM0

だとすれば、次に逆上した龍は、ふもとに位置する自分達の村をも襲ってくるのではないか?
生きていれば彼女の問いかけに応えてくれたであろう者達は、もはや誰一人として返事をしない。

だが、その彼女に対してうめき声ではなく、突如声が掛けられた。

「逃げ……ろ……」

川;゚∀゚)「!?」

声の方へと振り返った彼女の瞳に映ったのは、満身創痍の状態で腹の傷口を押さえた男。
確か、昼間に村の広場で見た傭兵らしき一人だった。

ミメ;゚Д゚彡「……早く、この村から逃げるんだ、嬢ちゃん───騎士団は……壊滅した」

薄々は理解出来ていた事だが、男の口から改めてそれを聞かされても、まだ実感が沸かない。
そこら中に騎士や傭兵達の無残な成れの果てが転がる光景は、まるで夢の中の出来事のようにも思える。

343名も無きAAのようです:2012/02/24(金) 04:20:17 ID:GMHlc/rM0

胸を締め付ける不安は膨れ上がり、もはや居てもたってもいられなかった。
傭兵に対して、やり場の無い悲痛な思いをぶちまける。

川;゚∀゚)「そんな───あたし達は……この村はどうなるんだい!?」

ミメ;-Д-彡「───すま、ねぇ……俺ともあろう者が……ヤツの片眼一つも……奪えなか───」

川; ∀ )(………酷い、傷)

どさりとその場に崩れ落ちた傭兵の腹部には、深く切り裂かれた痕跡が生々しく刻まれている。
出血量からしても、意識を失って当然の怪我の具合だ。

「……るっせぇなぁ、こんな夜分によぉ」

「おい……こりゃあ一体、何の騒ぎだよ……」

騒ぎを聞きつけたか、ようやく村人達の何人かは起き上がり、外の様子を確認しに出てきた。
そして、この異変に対して眉間に皺を寄せながら、深刻な状況だという事をようやく理解したようだ。

344名も無きAAのようです:2012/02/24(金) 04:21:21 ID:GMHlc/rM0

川;∀ )「見ての通りさ───こいつらは、本物の龍を怒らせちまったんだ」

「ひぃっ……な、なんてこった……こりゃあ!?」



────────ずしん。



その時、夜の闇に黒く染まった山の一つが、地響きを鳴らした。

「ひゃあぁッ、な、なんだいッ!?」

山上の方を見上げれば、それは確かに動いていた。
ゆっくりと、一歩一歩を踏みしめてこちらへ近づいているのだ。

川; ∀ )(どうして……こんな事になっちまったんだい)

ミメ;-Д-彡「……逃げ……ろ……」

345名も無きAAのようです:2012/02/24(金) 04:22:19 ID:GMHlc/rM0

────────ずしん。



騎士達の亡骸にもたれながらうわ言のように呟く傭兵の声は、もはや村人の誰にも届かない。
皆は恐慌状態へと陥り、ただ混乱のままに慌てふためくばかりだ。

だが、錯乱した村人達は、やがて全員が息を呑む。


川;゚∀゚)(─────ッ)

─────見られている。           ・・
即座にそう感じたホルスが山の方を見上げた先に、それと目があった。

346名も無きAAのようです:2012/02/24(金) 04:23:14 ID:GMHlc/rM0



                           ,   .  .  .  .,
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川; ∀ )(ファ────)

347名も無きAAのようです:2012/02/24(金) 04:24:54 ID:GMHlc/rM0

山上から自分達村人を見下ろすその二つの瞳は、血よりも深い赤色をしていた。

瞬時に全身の筋肉が硬直し、視線を逸らすことすらもかなわない。
口の中はからからに渇き、かすれる喉からは、言葉を捻り出す事も出来ない。

圧倒的な恐怖は、これから自分達に”確実な死”が訪れるのだという諦念を、心の奥深くにまで植えつけた。


あまりにも───

人が龍を倒すなどという事は、あまりにも愚かしい考えだったのだ。



「……あ、ぅ、ぁ………」


誰一人として逃げ出す事も、言葉を発する事も出来ずにいた。

348名も無きAAのようです:2012/02/24(金) 04:26:21 ID:GMHlc/rM0

川; ∀ )(この村は………終わり、だよ)

龍の逆鱗に触れてしまったのだ。
浅ましい人間の思惑が、このような事態を招いてしまった。

こうなる事さえ解っていれば、あの時騎士団に対して、
自分が村の大人たちを説得して、村を上げて反対してさえいれば───正しく、悔恨の極みだ。

近づく地鳴りは、更に大きく感じられていた。
村の広場を見下ろせる位置にまで来ると、どうやらその歩みを止まった。

龍は大きなあぎとを広げると、外気を口の中いっぱいに取り込んでいるようだ。

349名も無きAAのようです:2012/02/24(金) 04:28:04 ID:GMHlc/rM0

川 ∀ )(ジョルジュ────)

今思うのは───これまで慎ましく暮らしてきた自分の血を分けた弟の心配だ。
物心つく前から寄り添って生きてきた、自分の分身であるその子の無事だけ。

ファフニールとやら、この村の中で大暴れするのは構わない。
だが、今もあの子が眠る自分達の小さな平屋だけは狙ってくれるなと、心の中で哀願した。


直後、大きく膨れ上がった龍の口内からは、全てをなめ尽くす紅蓮が吐き出され────


やがて─────若きホルスの命は村人達と共に、熱く燃え盛る業火の中へ囲繞されていった。

─――――─――――─――――

─――――─――――


─――――

350名も無きAAのようです:2012/02/24(金) 04:30:15 ID:GMHlc/rM0
初めてAA書いてみたけど、結構簡単なんすねぃ
これならかるーい挿絵チックな事も出来そうで夢がひろがりんぐ。

それでは続きはあとちょいなので、また近々。

351名も無きAAのようです:2012/02/24(金) 06:50:54 ID:mjn5PsRAO
何という時間に… 
全然暮間じゃないじゃないか 
続き待ってる

352351:2012/02/24(金) 09:49:48 ID:mjn5PsRAO
暮間× 
幕間○

353名も無きAAのようです:2012/02/24(金) 11:28:17 ID:GMHlc/rM0
私作者だけど、「ばっかん」とか読んでた時期が私にもありました……

354名も無きAAのようです:2012/02/24(金) 14:53:56 ID:zth0P1KE0
ば、ばくま…

355名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:28:28 ID:9VaQZ8Gs0

(────ジョルジュ────)


( ゚∀゚)「……ねえ、ちゃん?」

夢の中で、姉が自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。
ゆっくりと目を覚ましたジョルジュは、そこでまず家の景観が変わっている事に気づく。

(;゚∀゚)「え……?」

屋根が無くなっていた。
そこから大きく吹き抜けた空は、まだ薄暗い。

家の外壁のそこら中にも穴が開いており、何かが燃えているような焦げ臭さが鼻を突く。

自分を取り巻くいつもの日常とは明らかに違うという事を、子供心に察する。
だが、理解の及ばないジョルジュは”火事か何か”だと思い、飛び起きた。

いつもは隣で眠っているはずの、姉の身を案じて。

356名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:29:12 ID:9VaQZ8Gs0

(;゚∀゚)「たいへんだ!」

しかし、幼いジョルジュには気付けるはずもなかった。

天災にも等しい事象は、自分が想い描くような生温いものなどではない事など。
自分一人だけを除いて、今や村人は誰一人として生きていないという事実など。

すぐにベッドから飛び降りたジョルジュは、裸足のままに外へと駆け出した。
 
(;゚∀゚)「ねえちゃん───ねえちゃぁんッ!」

大声で叫びながら、ドアを開ける。
次の瞬間、少年の瞳に飛び込んできたのは、彼の理解の及ばぬ光景だった。

「自分は見知らぬ場所にいるんだろうか?」
幼い彼に、そう思わせてしまうように。

( ゚∀゚)「………え?」

357名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:30:39 ID:9VaQZ8Gs0

いつも村の子供達と走り回っていたはずの広場は、無茶苦茶に荒れ果てていた。
あたり一面に、大きな黒い炭のようなモノが転がり、地面は掘り返されたようにして所々が抉られている。

殆どの村人の家屋が大きく崩壊し、火に巻かれて全焼している。
中には、まだ炎がぷすぷすと燻っている家もあった。

自分の故郷が、育ってきた村が───見渡す限りの焦土となっている光景に、ジョルジュは愕然とした。

いつも一緒に遊んでいる悪友のロメオの家も、姉に内緒でよく肩叩きの駄賃をくれたジルおばさんの家も、
長い顎鬚が自慢の村長さんの家も、姉の友達のシエラ姉さんの家も、美味しい葡萄酒を作っているカイト兄さんの商店も。

ジョルジュの見知った日常は、彼の目に映る限りの全てが───在りし日の色彩を失っていた。

( ゚∀゚)「なん……で……」

ふらふらと、よろめく足取りで広場を歩き出す。
そこで何かに足を躓き、前のめりに転んだ。

点在する黒い塊に足が掛かったのだ。

358名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:31:26 ID:9VaQZ8Gs0

(;゚∀゚)「───ひぃっ!」

それに良く目を凝らしてみると、人の原型を留めている事に気付いてしまった。
手も、足も、顔にはあんぐりと開いた口もついている。

それが村の人の誰かまでは分からない、ただ、恐ろしくて。
ジョルジュは恐怖に声を震わせながら、その場からすぐに逃げ出した。

そこらに転がる黒い炭のような炭が、全て村人だったものだという事に気付いてからは、
半狂乱になって叫びながら、ジョルジュは村の中を駆けずり回った。

(; ∀ )「───ちゃんッ……はぁっ、ねえちゃあああぁぁぁあんッ!」

視界に映る全ては、骸、廃墟、骸。
自分がどれだけ喚こうが、助けに来てくれる大人は誰一人居なかった。

359名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:32:17 ID:9VaQZ8Gs0







走り回る内、村の中を一周はしただろうか。
どこにも生きている人の気配は無く、やがて再び村の広場へとたどり着いた。

(; ∀ )「はぁ……ふぅ……」

諦めが、少年である彼の心を徐々に蝕んでいた。


やがて───目にする。


( ゚∀゚)

360名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:33:16 ID:9VaQZ8Gs0

見知った人の面影は、確かに重なったのだ。
広場の中心に膝を突く、その黒い亡骸に。



川#\%&#



それでも、呼びかける。

(ホルスねえちゃん)


だが、声は出なかった。
胸に何かがこみ上げてきては張り裂けそうで、掠れる程の声も出せなかった。

361名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:34:12 ID:9VaQZ8Gs0

諦めはより色濃く、絶望へと変わる。
この世でたった一人の肉親の亡骸を抱きとめながら───

( ;∀;)「ひっ……うっぐ……ね、ねぇちゃん……ねえちゃん」

まだ自分の心の奥に根付いていた微かな希望すらを断たれた少年は、崩れ落ちる。
怒涛の如く押し寄せる悲哀、喪失感、孤独───それらの感情に、胸を貫かれて。

信じたくない、信じられない。
血を分けた姉の変わり果てた姿に、ほおずりしながらむせび泣いた。
止め処なく流れる涙は、体中の水分が全て枯れ果ててしまいそうな程に。

嗚咽は、いつまでも止まなかった。

( ;∀;)「はぁ、ねえ──ちゃ、うっぐ」

362名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:35:05 ID:9VaQZ8Gs0

その姉の亡骸を抱くジョルジュの頭上に、突如黒い影が覆う。

何かが自分の背後に降り立った、と感じて振り向いたのは、そこへ
ずしん、と大きく何かが地を揺るがす音がしたからだ。

( ;∀;)「!!」

振り返った先に、そびえる大きな黒い壁。
最初はそう錯覚したのだ。

363名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:36:24 ID:9VaQZ8Gs0


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364名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:37:27 ID:9VaQZ8Gs0

だが、さらに視線を上に上げて見ると、そこで目が合った。
対をなす血の赤────”邪眼”が、ジョルジュを見下ろしていた。

手も、足も、口も、全てが巨大だった。
漆黒の体表には黒光りした金属のような堅牢な鱗が覆う。
大きな口は、人間一人など易々と丸飲みしてしまうであろう。

昨日言っていた、姉の言葉が思い返される。

『そうさ。とってもおっかなくてね、アンタなんか一口なんだから』

そしてようやく察した。

今、自分を見下ろしている奴こそが、この村を滅茶苦茶にしたのだと。
これこそが”ドラゴン”と呼ばれる、恐ろしい生き物なのだという事を。

( ;∀;)(………)

365名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:39:43 ID:9VaQZ8Gs0

ただ、無言で見つめあっていた。
声も出なかったのは、恐怖か、諦めか───あるいはその両方。
生物としての本能が、強大過ぎる危機に際してその活動を止めたのだ。

「逃げなければ」という気持ちも湧き上がらない。
この時、ジョルジュは幼心に諦めを自ら選択していたのだ。

だが──────そこへ。

「待ち……やがれ」

どうやら、まだ生きている人間が居たのだ。
ふらふらと、折れた剣を杖代わりにして歩いてきた一人の男は、二人の対角上に現れた。

ミメ#゚Д゚彡「───”ファフニール”ゥッ!!………死に損ないは、まだここにいるぞぉッ!」

( ;∀;)「………?」

366名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:41:21 ID:9VaQZ8Gs0

見れば、どうやら昨日広場に居た騎士団に雇われた、傭兵の一人だった。
全身に痛ましい程の重傷を受けた彼が、この窮地を打破出来るなどとは、子供心にも思えないだろう。

だが、それでも彼は、自分よりも遥かに強大な存在である龍へ叫ぶ。

ミメ#゚Д゚彡「どうした、俺はまだ生きてるぜッ!?……貴様に一太刀くれてやった、憎きこの俺がなぁッ!」

彼は、守ろうとしていたのだ。
最後に残った幼い村人の一人である、ジョルジュを。

「もう、いいよ」

そんな彼に対して、心の奥底を抉られたジョルジュはそう言葉を
投げかけようとも思ったが、どうやらたったそれだけの気力すらも残されていなかった。

367名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:42:39 ID:9VaQZ8Gs0

だが、尚も彼は”ファフニール”と呼んだ龍に対して語りかける。
ジョルジュの目の前に居るその龍は、彼の方へ首だけ振り向いていた。

たとえ傭兵である彼が怪我人でなくとも、殺そうと思えば一瞬であろう。

ミメ#゚Д゚彡「もう十分だろう、化け物……人の言葉が解るんなら、聞きやがれ」

ミメ#゚Д゚彡「馬鹿なディクセンの騎士団は、俺一人を残してみんな死んじまったさ……
      村一つ滅ぼすのも朝飯前の貴様に、二度と手を出す奴などいないだろう」

ミメ#゚Д゚彡「だから───今日の所は失せろ、最後に俺を殺して、気を晴らせばいい」


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368名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:43:52 ID:9VaQZ8Gs0

ミメ#゚Д゚彡「………」


男は、自分を捕らえる黒龍の邪眼にも、たじろぐ事なく睨み返していた。

龍の放つ圧倒的な重圧、威圧感。
それらを真っ向から受けながらも怯まずにいられるのは、彼もまた生存を諦めているからだろう。

そうして、命を懸けた睨み合いはしばらくの間続いた。

(  ∀ )(………)

重苦しい無言の最中、もうすぐ朝日が昇ろうとしている。
来たるべき絶望の時に備えて、ジョルジュは再度姉の亡骸へと寄り添い、抱きしめる。


───(………フン)───


ミメ;゚Д゚彡「………!」

369名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:44:41 ID:9VaQZ8Gs0

どこから出した声なのか、確かに龍は一言、人のような語調で短く言葉を漏らした。
悠久の時を生きる古龍ともなれば人の言葉を話す、というのは本当のようだ。

それには流石に、男も驚いたようである。

ミメ;-Д-彡「う……っく」

唐突に、龍は背に生えた大きな黒い羽根を広げた。
ばさりと音を立てたそれだけで、大きな風が生まれる。

剣を杖代わりにする彼が、一歩退いてしまう程に。
ばさばさとはためく翼は浮力を生み、徐々にその巨体を浮き上がらせる。

おとぎ話で聞くのと、それを目の前にするのとでは大きな違いだ。

空を飛び、火を噴く。
強大なる龍の力を象徴する枢軸の一つである”翼”という要素が織り成す迫力に、
さしもの傭兵は息を飲んでその光景を見つめていた。

ミメ;゚Д゚彡(………助かった、のか?)

370名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:45:56 ID:9VaQZ8Gs0

既に手の届きようもない程の高さにまで上り詰めた時、
龍は翼を翻したかと思えば瞬く間、どこかの空へと消えていった───

( ゚∀゚)(………)

頬に涙の跡を残したジョルジュもまた同様に、充血した瞳でそれを見送った。
自分の故郷を滅ぼし、全ての日常を大切な人と共に跡形も無い程に壊した、その相手を。

しかして、龍の脅威が去ったあとも、この悪夢から醒める訳ではなかった。
傍らにある姉の亡骸が生き返る訳でも、焼き尽くされ、壊しつくされた村が元通りになる訳でも無い。

深く、心にまで残された傷跡は、少年の心に一つの芽を植えつけた。

(  ∀ )「………なんで」

ミメ;-Д-彡「生きてて、良かっ───たな」

ジョルジュの元にまで歩み寄ろうとした傭兵だったが、恐らくはこれまでが虚勢だったのだ。
気の抜けてしまった今となっては、再び傷の痛みが襲ってか、がくりと彼の膝を崩れさせた。

371名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:46:45 ID:9VaQZ8Gs0

ミメ;-Д-彡「坊主……きっと……お前自身も、そう、思える日が──」

彼なりに、哀れな少年の胸中を案じたつもりだったのだろう。
地に倒れ伏した彼は、そのまま意識を失った。

そうしてこの日─────地図上からフランタンの村は消えた。

( ;∀ )「……あ」

( つ∀)「ッくぅ…………」

幼き少年が最後に流す涙と、その叫びと共に。

(  ∀ )「───ぐ、うぅ………うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァーーーッ!!」


─────

──────────


───────────────

372名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:48:09 ID:9VaQZ8Gs0

その直ぐに後、遠征中であったヴィップの円卓騎士団が騒ぎを聞きつけ、駆けつけた。
陰惨な状況であった村から生存者を捜索する為の陣頭指揮を執ったのが、当時の団長”セシル=エルメネジルド”

ヴィクセン側ただ一人の生存者であった傭兵、”フッサール=ブレーメン”の証言により、
フランタンの村を壊滅にまで追いやったのがドラゴンだという断定がなされ、それと同時に、
これまで多くの人々から噂されてきた”邪龍ファフニール”の脅威が明らかとなる。

邪龍が長らく住処としていた洞穴の奥には、ヴィクセン騎士団との交戦の痕跡が見られたが、
フッサールが斬って落としたという、邪龍の尾部の僅か先端部分の他に残されていたのは、
喰い散らかされたようにして一面を埋め尽くしていた、惨たらしいヴィクセンの騎士の死体ばかりだった。

元々、これは彼らから仕掛けた戦だった。
その結果もたらされたのが、100人近くにも及ぶ犠牲者を出した、一つの村の滅亡。

その後、多数の権力達はヴィクセンを一斉に糾弾した。
やがて自身でも道義的責任を大変重く見ていたヴィクセンは、自ら地位を退いたという。


───あの出来事から数年を経たジョルジュは、風の噂でその結末までをも耳にしていた。

373名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:49:22 ID:9VaQZ8Gs0

───あの出来事から数年を経たジョルジュは、風の噂でその結末までをも耳にしていた。


この時の彼は、冒険者の道を歩み始めてから、既に一線級の活躍を見せていた。

ある日立ち寄った町では、あの時自分を助けてくれた傭兵のフッサールが、
当時の傷が元となり、若くして直ぐにこの世から去っていたという事も知った。

この旅は、その彼の弔いにもなるだろう。

「龍を殺す男の名前にしては、尊大さが足らない」という自己解釈で、
元々の名前に継ぎ足した”ジョルジュ=レーゲンブレストル”を名乗りながら各所を旅していた。

いずれ、かの龍を倒す為の力を蓄えるために。

374名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:51:06 ID:9VaQZ8Gs0

喪失感と共に齎された絶望はやがて、少年の心に憎しみの種を産み落とした。
その憎しみが復讐心の芽を発芽させ、彼自身を戦士へと変貌させるだけの、決意を抱かせたのだ。

研鑽を、積むのだ。
ただ一つの、復讐の為に。
  _
( ゚∀゚)(殺してやるぜ、ファフニール)

強くあらねば、ならない。
何者にも、負けない程に。
  _
( ゚∀゚)(他の誰でもねぇ───この、俺が)


─────この生涯を費やして、貴様を葬る為だけに─────

375名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:52:33 ID:9VaQZ8Gs0
───────────────

──────────


─────


「おっさん───おい、おっさん!」

  _
( -∀-)「ん……あ」

呼びかける声が、意識を呼び覚まさせた。
どうやら肩を掴んで揺り動かされている。

満足のゆく睡眠を取れなかった事もあり、自分が昏倒させた
男の様子を見ながら寝てしまっていたのだ。

376名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:53:16 ID:9VaQZ8Gs0

「しまった」と、思う。
これがもし敵意のある相手であれば、今頃寝ている間に殺されていた。
もしそんな事になったら、悔しくてあの世で歯噛みしてしまうだろう。

瞼を開くと、声の主と目が合った。

( ,,゚Д゚)「お、起きたか……おっさん!俺が気を失ってる間に、何があったんだ?」
  _
( ゚∀゚)「……おっさんおっさんって───うっせぇなぁこのガキめ」

( ,,゚Д゚)「俺より年上なのは確かだろ?それより、聞きたい事がある」
  _
( ゚∀゚)「あぁ───今朝方のお面野郎共の事か」

( ,,゚Д゚)「そうだ!俺と───もう一人の連れがあいつらに追われて……」
  _
( ゚∀゚)「お前さんがおねんねしてる間に治安隊どもに突き出しといたぜ───
     どうやら、向こうも忙しそうだったけどな」

377名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:56:09 ID:9VaQZ8Gs0

のそりと動き出したジョルジュは、傍らに置かれた麻袋をあさり始めた。
取り外して置いていた具足や篭手を取り付け、こなれた動作で緒を結んでゆく。

この場から旅立つための身支度だ。
昨晩こんな路地裏で寝ていたのは、いつもは休業などしない楽園亭が閉まっていたせい。
夜分に予期せぬ運動をしてしまったために若干疲労が抜けきらないが、予定は動かせない。

( ,,゚Д゚)「あのお面の奴ら、他にも捕まったのか?」
  _
( ゚∀゚)「ちげぇよ、治安隊の奴らの話からすると、もっと悲惨だ。
     二人ぐらいが死んでたとよ、斬りつけられてな」

( ,;゚Д゚)「な………そ、その中に女は居なかったか!?」
  _
( ゚∀゚)「いんや?お面被った男が二人だとよ。他にも争ったっぽいけどな」

378名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:57:34 ID:9VaQZ8Gs0

( ,;-Д-)「───そうか、無事なら良かった……クーの奴」
  _
( ゚∀゚)(あれ、なんか………こいつ)

誰かの名前を出して安堵のため息を漏らした男の顔が、何故だか記憶の端に引っかかる。
どこかで会った事のある男に、よく似た顔であるように思えてならない。

しかし、余計な事で時間は食ってしまったが、これから待ち合わせの予定がある為、
この場でもたもたしている訳には行かなかった。

安堵する男の横で手早く荷物を纏め上げると、引き上げる準備を整えた。
  _
( ゚∀゚)「お前追っかけてたあれ、暗殺者ギルドの奴らだろ?」

( ,;゚Д゚)「ゲッ……あの、蛇のようにしつこくて残忍っていう、あれか!?」
  _
( ゚∀゚)「……そんな事にも気付かなかったのかよ。ま、何があったかは聞かねぇけど、
     精々危ない橋は渡らねーようにしな」

( ,;-Д-)(しばらく大人しくしとくか……)

379名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:58:30 ID:9VaQZ8Gs0

( ,,゚Д゚)「あ、そういやまだ昨日の礼を言ってなかったぜ、助かったよ───あんた、名前は?」
  _
( ゚∀゚)「ったく、最近の新参どもは礼儀がなってねぇな。目上には、まず自分から名乗るもんだぜ?」
  _
( ゚∀゚)「これからちっとばかし遠出するってぇのに、無駄な体力使って助けてやったのによぉ、ほんっと────」

( ,,-Д-)(へいへい……)

( ,,゚Д゚)「あ〜、”ギコ=ブレーメン”ってんだ。改めて、礼を言うぜ」
  _
( ゚∀゚)「────!」


その名を聞いた時、目の前の若輩の顔に、確かにある人物の面影が重なった。
───ー道理で、どこかで会ったかのように錯覚する訳だと、内心深く納得できた。

380名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 10:59:35 ID:9VaQZ8Gs0

驚いたのは、奇妙な縁にだ。
数奇な運命の巡り合わせというものを、少しだけ信じた。

( ,,゚Д゚)「?」
  _
( ゚∀゚)「………」

思わず動きを止めてギコの顔を覗きこんでいたジョルジュの様子に対して、
一方で目の前のギコは首を捻りながら、それに怪訝な表情を浮かべた。

無理も無い、おぼろげな記憶の1コマに残っている彼と───
やはりというべきか、見れば見るほど瓜二つだったのだから。

( ,,゚Д゚)「どうしたんだよ」
  _
( ゚∀゚)「俺は”ジョルジュ=レーゲンブレストル”だ………ところでお前、親父さんは居るのか?」

381名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 11:00:59 ID:9VaQZ8Gs0

本来、実力の低い駆け出しの冒険者などには自分からは名乗らない主義なのがジョルジュだ。
どうせ季節の移り変わる頃には廃業するか、旅の途中で死んでいたりするだろう、という思いから、
他人に名前を教える事に意味なんて無いと思っていたから。

しかし、この時ばかりは事情が違った─────

( ,,゚Д゚)「ん、俺の親父か?かつて龍に挑んで………って、あぁ」

( ,,-Д-)「そうか、そんな事言われても信じられねぇよな」
  _
( ゚∀゚)「………いや」

”ギコ=ブレーメン”には、自分の名前を教える資格がある。
それはかつて、自分にとっての恩人の息子であるという理由からだ。

382名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 11:01:42 ID:9VaQZ8Gs0

( ,,゚Д゚)「へ?普段は聞く耳持ってくれる奴いないけどよ……信じてくれんのか?」

そのギコからどこか間の抜けた感じを受けたのは否めないが、切り出してみようと思った。
────彼が冒険者をする理由というのが、自分と同じなのかどうかを。
  _
( ゚∀゚)「………あぁ。それより、お前さ───」

”邪龍ファフニール”の喉元に剣を突き立てる資格を持つ男は、この世に自分一人だけではなかった。



「親父の仇───討ちたくねぇか?」

383名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 11:02:56 ID:9VaQZ8Gs0



   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

              幕間

           「壁を越えて(2)」


             ―続―

384名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 12:42:12 ID:t2J4s42.0
wktkが加速する

385名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 15:38:50 ID:Q2/qWFDw0
初めて読んだけど、おもしろいな
小説板を漁る作業に入るぜ

386名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 16:18:02 ID:d.O0Rgn2O
>>385
新規読者get!ktkr!

387名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 18:43:24 ID:k3/5FmLM0
面白いけど話しの途中で日数おかないで欲しいよぉ…ふえぇ…

388名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 20:05:20 ID:9VaQZ8Gs0
>>387
それに関しては全く、私のやる気スイッチの不徳が致す所。
上がらないモチベーションを上げるために途中で投下してしまう時は
これまでsage侵攻して来たんですが、それがこの頃調子こいてageてたんで…
ちょっと、今後はその点気をつけたいと思います。

389名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 20:35:18 ID:PqVMXc/kO
熱い展開だ
ギコはどこまでのし上がれるかな

390名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 20:53:27 ID:fqK.1CdU0
>>387
俺は別にいいと思うけどな 読みたい気持ちがはやってしまうけど
おもしろいよコレ最高におもしろい

391名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 22:39:41 ID:6kRtrNBoO
幕間にしては熱くて面白すぎる 
あっ、面白いのを責めているんじゃないよ 
投下乙でした

392名も無きAAのようです:2012/02/28(火) 07:07:17 ID:DQhtPJOU0
最初の投下からおもしろそうと思ってたけとそれ以上に期待してしまう作品です。
これから楽しみにしてますね

393名も無きAAのようです:2012/02/28(火) 21:45:18 ID:rAQaGKN60
ありがてぇありがてぇ
お陰さまでボルテージがオビンビンだぜ!
次回はブーンのソロのお話を書く予定です

394名も無きAAのようです:2012/02/29(水) 16:50:39 ID:hXDkb4uE0
まってます

395名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 01:35:54 ID:xrkFux52O
作者のモチベ上がってなによりだ 
これで初期の頃みたく間をあけないで 
サクサクと投下してくれたら嬉しくてパ○ツ脱ぐ

396名も無きAAのようです:2012/03/13(火) 18:57:12 ID:bmdWuJRc0
( ^ω^)あげちゃるけん

397名も無きAAのようです:2012/03/13(火) 21:44:16 ID:ofOAqzgE0
>>396 ぶは。じゃあ途中までsageで

398名も無きAAのようです:2012/03/13(火) 21:46:47 ID:ofOAqzgE0

人間は───”心”という不確かな概念を抱く、唯一の生き物である。

尤も、確かにそこらの虫や鼠に感情があるとも思い難いが、人間と同格以上の存在であれば持ち合わせているだろう。
皆が皆それを尊重しているという訳ではないが、宗教など、思想家達にとっては核と言える部分だ。

決して目では見ることの出来ないそれは、非常に抽象的かつ、多義に渡る性質を持つ───
そんな曖昧な存在である心とは、この人体のどこに存在しているのかと、ふと考える時がある。

腕や足、ましてや指や目玉などにはあり得ないだろう。
心臓。物語の話であれば悪くないが、所詮は人体を形作る器官の一つに過ぎない。

ヒトに様々な感情をもたらす心とは、脳髄こそが司っているのだ。

この世に生を受けてから、住み暮らす環境によって各々の人格が形成されてゆく。
その人格ごとの当人の感受、受け取り方の違いや脳へと渡される情報いかんによっては、
ヒトは喜び、怒り、哀しみ、楽しむ────反射のようなもの。

それらが時に爆発したりするのは、”ひずみ”のようなものに過ぎない。
私自身は心というものをそうやって割り切り、そんな漠然としたものには流されないようにしている。

だが、人を形成する要素の一つに────もう一つだけ理解に苦しむものがある。
これは、その在り処をはっきりと解明するには至っていない。

心と似通った性質の”魂”というものだ。

399名も無きAAのようです:2012/03/13(火) 21:48:32 ID:ofOAqzgE0

志、信念、はたまた決してぶれぬその人間自身の、”芯”のようなものとして扱われる時がある。
私個人としては、”心”などという抽象的なものに比べ、よほどその存在を信じる事が出来る。

なぜならこちらは人間一人一人が持つとされる精神力や、生命力が関わってくる力と考えられる。
そうでなければ、”死後”に人が無意識下で発現、実体化させ得る精神的存在。

目に見えぬのは心と同じだが、魔術によっての統制、制御が可能でもある霊的なものだ。

この世に過去、拭い去れぬ怨嗟や憎悪を残して死んだ者達は、不死者として彷徨い歩く事がある。
戦争や虐殺などが行われた事のある不浄の土地では、とりわけその可能性も高いという。
この事から言えるのは、死後、魂はこの世から消滅するのが道理であり、常である。

だが、時としてその魂は何らかの理由でこの世から消え去る事が出来ず、時に死者の肉体へと入り込む。
”霊魂”と呼ばれるそれ自体が、実体として人々の前に姿を見せる場合もあるのだ。

それならば────魔術を以ってして死者や生者を御す事も可能なのではないか?

というのは、この大陸を蝕むように住み暮らしている我々人間の思い上がりであろうか。
結局の所、今の世の中ではまだ、人間ごときでは知り得ない事実ばかりなのだが。

400名も無きAAのようです:2012/03/13(火) 21:50:37 ID:ofOAqzgE0


それでも、私はいずれ識りたいと思う。

日々膨らんで止まない、疑問の先々にある答えの全てを。
この好奇心を押さえつけながら知識の探求を続ける事で、いつかそれらの殆どを
この目に、耳にしてやがて自らの肉として───必ずや報われる日が来るだろう。

私の理想とするその日が来るまで、私はきっと止まらない。


大陸暦 876年
───”モララー=マクベイン、当時6歳の手記より───



   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             第7話

           「魂の価値」

401名も無きAAのようです:2012/03/13(火) 21:51:51 ID:ofOAqzgE0


爪'ー`)y-「お休みだぁ?」

休日というもの────

冒険に明け暮れて疲れた身体を、じっくりと癒せる時間。
それはそれは、素晴らしいものだ。

次の依頼に向けて相談したり、結束を深める為に談笑したりという時間が多く、
パーティーを組んで行動している冒険者達ほど、個人でのその時間は限られている。

それでも、余暇に気分転換を図るという事は重要だ。
心にゆとりが無い状態で団体行動をすれば、チームワークに支障が生じたりもする。

それを案じての今度の休日は、ショボンの提案によるものだった。

(´・ω・`)「僕の調べごとには、個人の方が動きやすい事もあってね」

爪'ー`)y-「んなもん……大賛成だぜ」

ζ(゚ー゚*ζ「皆さん、どこかへ行かれるんですか?」

そのデレの問いかけに、フォックスは姿勢を正して応える。

爪' -`)y-「俺はどこにもいかねぇよ、デレちゃん。今夜も部屋の鍵は開けとく……だから」

402名も無きAAのようです:2012/03/13(火) 21:53:21 ID:ofOAqzgE0


(’e’#)(あの野郎……またデレに下らねぇ事を……)

いつものようにマスターがカウンターから飛ばす抑止力である視線を無視し、
デレを口説く体勢に入っていたフォックスだったが、呆れ顔で言い放ったツンの一言が、
フォックスの意識的に締めていた表情を、まただらりと弛緩させた。

ξ-⊿-)ξ「ふ〜……馬鹿ねぇ。デレはこの後、私とお買い物に行くんだから」

ζ(゚ー^*ζ「そういう事なんです。ごめんなさい……フォックスさん?」

爪;'ー`)y-「何だよ!結局俺とブーンは、いつも通りにここで呑むしかねぇじゃねぇか!」

(;^ω^)「見慣れた光景だお……全然休日って感じがしないおね」

「酒だ酒だ!酒持ってこい!」
楽園亭の看板娘であるデレに受け流され、かわされ続ける事もゆうに数十を数えるフォックスが
管を巻いてはマスターにまた厳しい視線を向けられる中、ショボンは皆が座す元から席を立った。

ξ゚⊿゚)ξ「例の、ショボンを嵌めたっていう魔術師を探しに行くの?」

どうやら既に出立の準備を終えていたらしい。
腰に小さな麻袋を結び、外套を羽織っただけのショボンにツンが声をかけた。

403名も無きAAのようです:2012/03/13(火) 21:54:12 ID:ofOAqzgE0


(´・ω・`)「あぁ、ちょっとした聞き込みと、手がかりを探しにね」

( ^ω^)「アラマキって人からもらった猶予は半年だけ……だったおね?」

(´・ω・`)「そうさ。まごまごしてはいられないが、そうでなければ十分な時間だけどね」

ξ゚⊿゚)ξ「その……モララーっていう魔術師の懸賞金、1000spに上がったそうよ」

(´・ω・`)「彼は自己を対象とした隠蔽魔術の始祖だ───まぁ、山をいくつ狩っても見つからないだろうね」

ショボンは「骨が折れるよ」とばかりに肩をすくませて身じろぎした。
彼自身が天才と認める程の存在と聞かされていたモララーという男、それを捕まえなければ
自らが投獄され、あるいは裁かれてしまうかも知れないショボンの境遇を案じ、ツンはが心配そうな瞳を投げかける。

(´・ω・`)「大丈夫、目星まではつかないが、情報を集めればいずれたどり着けるさ」

ξ゚⊿゚)ξ「どうして?」

404名も無きAAのようです:2012/03/13(火) 21:55:27 ID:ofOAqzgE0

(´・ω・`)「恐らく人の多い場所には現れないはずだ───自らの罪を認めています、と言っているように
       自分への監視を始末したという事は、今は何らかの目的意識を持って動いていると思う」

(´・ω・`)「その目的が何か……それを突き止める事が出来れば、彼が透明の衣を纏っていたとしても
      関係は無い。いずれ、必ず行き当たる事が出来るはずだよ」

爪'ー`)y-「理論派なお前さんが物事を決め付けてかかるとは、意外だな」

(´・ω・`)「確証はあるさ。彼は───モララーは、僕と良く似ている」

見送る面々に対してそうにやりと微笑むと、後ろ手に手を小さく振りながら宿を出て行った。







ξ゚⊿゚)ξ「さて、と……私達も行こうかしらね」

ζ(゚ー゚*ζ「うん!」

(;^ω^)「えぇぇ……フォックスと二人っきりなんてつまんないお」

爪'ー`)y-「俺だってお前と対面しながら酒飲むのなんて飽き飽きだよ」

405名も無きAAのようです:2012/03/13(火) 21:56:10 ID:ofOAqzgE0


(;^ω^)「街に出るなら、ブーンも連れていってくれお……」

許しを請うかのようなブーンの視線に、女性陣は二人顔を見合すが、
すぐに彼女達からは悪戯そうな微笑みが返ってきた。

ξ゚ー゚)ξ「どうしても……っていうならいいわよ」

( ^ω^)「本当かおっ」

爪'ー`)y-「何!?……じゃあ、俺も──」

ζ(゚ー゚*ζ「二人で見に行くのは、婦人服ですけどね〜」

(;^ω^)「ほえ?」

ξ*゚⊿゚)ξ「それにしても意外ねぇ……ブーンなんかが、淑女の美の嗜みの場に興味があるなんて」

ζ(゚ー゚*ζ「ふふ、狙いはお店に訪れるご婦人じゃないでしょうね?」

爪;'ー`)y-「ちっ、なんだよ……」

406名も無きAAのようです:2012/03/13(火) 21:57:09 ID:ofOAqzgE0


(;^ω^)「はぁ……やっぱり、大人しくしてる事にするお……」

ξ゚ー゚)ξ「そうそう、帰りにお土産買って来て上げるから、大人しくあたし達の帰りを待ってなさい」

ζ(゚ー゚*ζ「それじゃ、行って来ます」

(’e’)「おう、気をつけてな!」

( ´ω`)「ばいばいだお」

どうやら旅歩くようになるまでのこれまで、日頃から外出する事もままならなかった
ツンにとってはこの交易都市をじっくりとぶらつくのはかなり楽しみであったようだ。
同年代の同性という友人も出来、彼女にとっては充実した休息となるだろう。

付いていけば退屈凌ぎになるだろうと思ったブーンの期待は、無残にも裏切られたが。

407名も無きAAのようです:2012/03/13(火) 21:57:52 ID:ofOAqzgE0


きゃぴ きゃぴ

ξ*゚ー゚)ξ「あたし”感情的な巨乳”の新作を見に行きたいなー!」

きゃぴ きゃぴ

ζ(゚ー^*ζ「いいね、付き合う!私は”西の木のヴィヴィアン”の新作を狙ってるんだ〜」

ξ*゚ー゚)ξ「ダイアンの小指”作とかも持っときたいわぁ〜」

もはや彼女達には打ち捨てられた男二人の存在など眼中には無く、興味があるのは
交易都市ヴィップが誇る有名な匠達が手がける被服、その流行の最先端の方であった。

(;^ω^)「………」

爪'ー`)y-「やっぱりブーンと俺が二人……こんな所に取り残されるのがオチだったか」

(’e’#)「おいフォックス、そんなに俺の店が嫌ならいつでも出てっていいんだぞ」

爪'ー`)y-「はぁ───白けた」

408名も無きAAのようです:2012/03/13(火) 21:58:36 ID:ofOAqzgE0

彼女達が居なくなり、まだ日も高い内から酒も飲める気分ではなかったフォックスは
そう言って席を立つと、宿の部屋を取っている二階へと上がって行こうとしていた。

どうやら彼の休日の過ごし方は、その性格が現れているようだ。

爪'ー`)「寝るわ」

(;^ω^)「おっ、おーん……」

確かに、それ以上の”楽”が無いとは、良く囁かれる事ではあるのだが────








( ^ω^)「……暇、だおね」

こんなことなら、朝の内から一人でもこなせる依頼を確保しておくべきだった。

409名も無きAAのようです:2012/03/13(火) 22:00:00 ID:ofOAqzgE0

大抵の場合は一人の依頼は日銭を稼ぐ冒険者達にとっても難度の低い物が多く、また人気も高い。
その為、今となっては数日の期間が必要となる依頼ばかりが多く、今日中にこなせそうな手軽な物は残っていなかった。

やはり今日の所は、大人しくしているしかなさそうだ。

(’e’)「ま……たまにはそんな日があってもいいだろう」

大半の冒険者が出払ってマスターもまた暇をしていたのか、珍しく彼の方から語り掛けてきた。

(’e’)「そういや、お前さんだけ聞いてなかったな」

( ^ω^)「?」

(’e’)「”理由”だよ───冒険者になった、ワケってやつをさ」

( ^ω^)「そういえば……まだ皆にも話してなかったかお」

410名も無きAAのようです:2012/03/13(火) 22:01:05 ID:ofOAqzgE0

「そうだおね〜、どこから話すべきかお……」
腕組みをしながら、椅子の背もたれに体重を預ける。
うーん、うーんと思案にあぐねながら紡ぐ言葉を選んでいる時───悲劇が起きた。

「───おっ」

ブーンが椅子ごと身体を後方へと傾けるうち、使い込まれた楽園亭の椅子の後ろ脚の二本ともが、折れた。

老朽化したぼろを使っていたというだけでもない、並の青年男性としては恵まれた体格の部類であるブーンの
荷重を支えるには、細めの丸足ではいかんせん頼りなかったのだ。

(; °ω°)「おぉう!?」

身体全体が後方へと投げ出される、一瞬の浮遊感。
マスターの表情を見つめていたはずの視線は次第に上へ、上へとぶれながら───

(’e’;)「あっ、おい!?」

411名も無きAAのようです:2012/03/13(火) 22:02:13 ID:ofOAqzgE0



”どすん”


(; ω )「ぎゃぷッ!」

そうして天井を見上げる頃には、激しい轟音と共に目の前に飛び出る星々。

一瞬白んだ目の前だったが───次第に意識は、闇に深く沈んでいった。



暗く、深淵のほとりにまで。


─────

──────────


───────────────

412名も無きAAのようです:2012/03/13(火) 22:05:45 ID:ofOAqzgE0

やる気はあるがいかんせん時間がない…
今日はここまでで。

413名も無きAAのようです:2012/03/13(火) 22:48:43 ID:w69Ezd9kO
今投下に気づいた、いまから読む 
 
>>396は凄いな投下があるってわかってたみたい

414名も無きAAのようです:2012/03/13(火) 23:02:12 ID:w69Ezd9kO
もう読み終わってしまった 
 
今日はちょっと物足りないよ 
 
続き待ってる

415名も無きAAのようです:2012/03/14(水) 01:02:42 ID:bKYC.TwwO
おつ、待ってる

>>407
ツンのファッションはピンダイ系と考えてよろしいか

416名も無きAAのようです:2012/03/14(水) 03:16:43 ID:y1w/yFjQ0
ぬおおお来てるじゃないか!
思わずageてしまったんだけど、sage進行推奨なんですかね
あんまりあげない方がいい?
他の人にも読んでもらいたいし、下の方にあると気付きにくくて

417名も無きAAのようです:2012/03/14(水) 03:36:42 ID:7mthBIvcO
スレ浮上してるのに反応してつい投下してしまいました。
ぶつ切りの途中半端で投下してる今のような状況だとサゲのがいいかな〜と。
でも丸々一話書きためる辛抱がない自分の駄目な部分が悪いんで、お願いレベルですーん

あと、ツンが狙ってる服はカワイイ系です

418名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:06:58 ID:TzUuvxoQ0

(   ω )「ここ……どこ、だお」

そう呟いたはずの声は、頭の中でだけ響くように感じる。
抱いた錯覚に困惑すると共に、ようやく意識が覚醒しつつあった。

(   ω )「あ……おっ、おっ?」

暗い、とても暗い場所に居た。
首を振って視線を動かしても何一つ見える事が無いのだが、何故だか自分の手や足だけは確認できる。
そして、物音一つしない静けさだけが包むこの奇妙な空間に、えも言われぬ恐怖を感じていた。

全身が、薄ぼんやりとした白い光に覆われているのは、見間違いではなさそうだった。

(; °ω°)「一体……何なんだお……ブーンは────あ!」

ようやく思いだした、自分は失われた楽園亭で暇な時間を過ごしていたのだ。
そこで無様にも自分の不注意から後頭部をしたたかに打ち付け、今に至る。

恐る恐る手を伸ばしてみたその場所には今や、痛みも感覚も無い。
自分の肉体を触っているような感じが、まるでしないのだ。

419名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:08:52 ID:TzUuvxoQ0

(;`ω´)「どう、どうしてだおッ!?」

自らが置かれた立場が、まるで理解出来ない。
何故だか不快感ばかりに襲われるこの場所から一刻も早く立ち去りたくて、焦燥の波が押し寄せる。
しかし、足を動かそうとも自分の身体までもが不自由で、上手く歩けているような気がしない。

息を大きく吸い込み、大声で仲間たちの名を呼ぼうとした時、暗がりから声がした。

(……随分と往生際が悪いんだな……)

(;^ω^)「……ッ」

方向感覚も曖昧なこの空間にあって、咄嗟にその声がする方へと向き直った。
暗闇の向こうに潜む相手に対して大声で叫んでも良かったのだが、それはやめておいた。
まず、自分の現状すらも把握出来ない今、その相手が敵であろうと下手に刺激は出来ない。

ゆっくりと、気取られぬように左足を一歩ずらして、半身の体勢を作った。

420名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:09:43 ID:TzUuvxoQ0

(;`ω´)(そうかお……剣は……)

自分の得物は、どうやら楽園亭のカウンター下に立てかけたままだ。
この空間が相手の庭だとしたら、今やこの自分は丸腰の餌でしかない。

そうはならなかったが、内心には頬を冷たい汗が伝う程の思いだった。

(……そう、怖がらなくてもいいぜ)

(;`ω´)「……!?」

自分の心中を覗き込むかのような台詞が投げかけられたかと思えば、声の主はどうやら姿を現した。
その声の主の風貌には、それまで以上の警戒心を抱かざるを得なかったが。

(; °ω°)「!?」

ふと、一瞬で自分の背後へと回りこんだその気配へ勢いをつけて振り向いた所で、目が合った。
今のブーンのように全身の表面を淡い光が覆っている────愕然としたのは、その声の主の顔を見てしまったからだ。

421名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:10:51 ID:TzUuvxoQ0

( ●..● )(よぉ)

人間では───ない?

すぐにそういった思考が頭を巡ったのは、彼が表情を持たない骸骨であったからだ。
髑髏を模った仮面でも付けているのかと勘ぐって凝視するも、そうではない。

黒い装束に身を包む骸骨といえば────何だった?
そう、自分が子供の時分に、村の仲間達とで話題に上った事もあるはずだ。

視線を下ろせばその手には、人の胴体を両断出来そうなほどの一振りの大鎌が握られていた。

(;`ω´)(────”レイス”、かお!)

多くの血を流し、深い怨嗟を残した土地などに渦巻く、死を振りまく脅威。
中には強力な魔力を宿すものもいるという、それだ。

致命的なのは帯刀していない事だが、仮に刃を振るったとしても、
それで物理的に致命傷を与える事が出来るだろうか。

怨念や何かの塊だとすれば、肉体を持たないお化けのような存在のはずなのだ。
だとするならば、恐らく今の自分一人でどうにかなるような相手ではないと悟る。

422名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:11:50 ID:TzUuvxoQ0

無意識に後ずさろうとした所で、また頭の中に直接声が聞こえた。

( ●..● )(そう怖がるな。確かにお前の考える存在には似ちゃいるが……違う)

(;`ω´)(!………ブーンの考えを)

( ●..● )(下界じゃ似たモノ同士で通ってるみたいだがな、俺は務めを果たす為にここに居る)

目の前で語り掛けてくる、得体の知れぬ骸骨。
何故か無闇に湧き上がって来る不安、そして、不自由極まりないこの状況にあっても。

それでもブーンは、まだ自覚できずにいたのだ。

( ●..● )(この場所じゃ、お前がいくら足掻こうがどうする事もできないさ)

(; °ω°)「な……何をッ」

423名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:12:41 ID:TzUuvxoQ0

( ●..● )(………ニブい奴だな。見て解らないのか────”俺は死神”だぞ)

(; ω )「………」

それを聞いて、心臓が踊りだすような衝撃を受けたブーンが、思わず自分の胸元に手をやる。
ほぼ確信してしまっている、その最悪の知らせを少しでも払拭したかったから。

胸の鼓動、肌の温かみ───それらを実感するために、半ば無意識の行動だったのだ。

だが、そこでブーンは気付いてしまった。

(; ω )「おっ───」

胸の鼓動が脈打つ感覚など、そこには感じる事が出来なかった。
呆然と立ちすくむブーンの胸に、強烈に叩きつけられるのは、純然たる事実。

真冬に冷水を頭から被せられたとしても、こうはならないだろう。

( ●..● )(ようやくか……もう”死んでる”んだよ、お前さんは)

424名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:13:31 ID:TzUuvxoQ0

(  ω )「………死んだ?」

( ●..● )(そうだ)

「ブーンが、かお?」

それをはっきりと自分でも認識した時、落胆や喪失感よりもこみ上げてきたものがある。
声には出さないまでも、いつの間にかそれは表情に出ていたようだ。

( ●..● )(………面白いのか、自分の”死”が)

( ^ω^)「……おっおっ───とんだ、お笑いぐさだお」

”死神”と名乗る骸骨の声に気付けば、ブーンの頬はまだ普段のように緩んでいた。
─────あまりに突拍子もない現実に、笑いがこみ上げてきたのだ。

そして、冒険者として活動を始めて間もない自分がこれから上昇していこうという道半ば、
そこに来て、椅子から倒れて頭を強く打って死んでしまうなど、良い話の種だ。

仲間にも聞かせてやりたいとは思っても、それもかなわない事なのか。

425名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:14:29 ID:TzUuvxoQ0

(;^ω^)「……はぁ」

本物の死神なんかが目の前に居るとなれば、諦める他ない。
寧ろ、彼が突きつけてきた真実に沿って潔く死を受け入れる事しか出来ない。

”腹を括った”とばかりに、隠そうともせず大きなため息を吐きながら、
ブーンはその場にどっかとあぐらをかいて座り込んだ。

(;^ω^)「せっかくツンにフォックス、ショボン達とも仲間になれたのに……本当に情けないお」

( ●..● )(………)

(;^ω^)「あ!元はと言えば、マスターのせいだったお!」

(#`ω´)「手入れの行き届いて無い椅子に座ったブーンにマスターが変な質問したのがいけなかったんだお!」

死神が人の言葉で喋るとは思わなかったが、彼の言葉が本当ならば、
自分はもう二度と仲間の元に、楽園亭にも帰る事が出来ない。

それを考えればやはり、ぽつぽつと沸いて出てくるのは、悔いや未練。

426名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:15:27 ID:TzUuvxoQ0

過去を振り返る事や、悔いを残すという感情。
それらを完全に捨て去る事など、他の誰であっても出来ない事だろう。
少なくとも人間には、恐らく決して出来ない。

ついぞ、死神を前に愚痴が過熱しかけた時だった。
ただ押し黙って窪んだ眼窩からこちらを見下ろしているような死神が、囁く。

( ●..● )(ま、ひとまず落ち着いて俺の話を聞けよ)

(;`ω´)「………ブーンを生き返らせてくれるんなら、いくらでも落ち着いてやるお」

( ●..● )(あー、それなんだがな……)

死神はブーンから視線を逸らすようにして、少しだけ言葉を濁す様子を見せた。
そして、思わず彼のすぐ傍に詰め寄ってしまいたくなる程の話が、そこで飛び出したのだ。

( ●..● )(お前さんの肉体はまだ、生きてる───正確に言えば、まだ”死ぬ定めにない”とでも言おうか)

(; °ω°)「なんとぉぉーッ!?」

427名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:16:27 ID:TzUuvxoQ0

( ●..● )(俺の仕事は下界に残る肉体と、この世を訪れた魂とを繋ぐ一本の線、”魂の緒”を断ち切る事にある)

( ●..● )(死んじまった後に、下界にそいつらが化けて出ないようにな。まぁ、これには例外もあるんだが……)

(;^ω^)「あ、あんたはブーンのそれを、これから刈るつもりかお!?」

( ●..● )(その予定だったさ───だが、ちょっとばかりこちらにも込み入った事情があってね)

おとぎ話の物語で聞いた通り。
やはり死神とは、死者の魂を扱う存在のようだ。

人や妖魔といった生物を超越した高位の存在であろう彼だが、
ブーンの頭の中へと語りかける時のその話し方は、どこか人間臭い一面が垣間見られた。

( ●..● )(お前さん、どうやら生前は対価を貰って仕事をする───冒険者ってやつだったらしいな)

428名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:17:15 ID:TzUuvxoQ0

(;^ω^)「そんな事までお見通しなんだおね……確かに、ブーンは冒険者だお。今も」

( ●..● )(生前の話だけどな………もし生き返ったとしても、また冒険者をやりたいのか?)

(;^ω^)「そんなの、当たり前だお!」

( ●..● )(ふぅん……)

そう言った後、しばらく死神は黙り込んだ。

理由までは追求してこないが、もしかしたら自分の必死さが伝わったのでは、とブーンは思う。
人の生死を弄べるのだ、ひょっとすると心の中まで読む事が出来てもおかしくはない。

( ●..● )(なら、取引をしないか?)

(;^ω^)「取引………?」

( ●..● )(そうだ)

429名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:18:12 ID:TzUuvxoQ0

こくりと頷くような仕草を死神が見せた瞬間、景色が吸い込まれるようにして、周囲の暗闇が晴れていく。
やがて物語の場面が移り変わったようなそこは、森を抜けたある村の入り口のようだった。

(;^ω^)「も、戻って来たのかお!?」

( ●..● )(お前さんがそうなるかどうかは、俺の話を聞いてからの働き次第さ)

燦々と降り注ぐ陽光、だが、やはりこの身体には体温が無い。
自分の手や足を周囲の景色と対比して見てみれば、ぼんやりと透き通っているようでもある。

( ●..● )(お前は今、肉体を離れた魂としての存在だ。ものを見たりする事は出来るが、全てに感覚は無い)

( ●..● )(今こうして目に映る下界に対して干渉する事も出来なくはないが、無茶をすれば魂に”キズ”が付きかねん)

( ●..● )(そうすれば”魂の緒”は断ち切られ、もはやお前は自分の肉体に戻る事が出来なくなるという訳さ)

430名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:19:08 ID:TzUuvxoQ0

( ^ω^)「……自分の置かれた現状は大体把握できたお───なら、ブーンはどうしたらいいお?」

( ●..● )(───話を聞く気があるらしいな)

( ^ω^)「その代わり、騙しや裏切りは無しだお。それを約束するなら、あんたの頼みを聞いてやるお」

( ●..● )(ふん、さすが冒険者。交渉はお手の物か?)

( ^ω^)「生憎と、ブーンはそれは少し苦手だけどおね」

( ●..● )(なら……お前という男の魂が報酬の、商談に入ろう)


そこから─────またも場面は、移り変わった。








431名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:19:54 ID:TzUuvxoQ0

次の景色は、恐らくこれまで入り口の前で立っていた村の、内部。
村人の一人の住む家屋の一室だろう、木造で味わいのあるインテリアが置かれ、部屋の中央には暖炉が備えてある。

そこで聞かされた死神の話は、なんだかこの大陸のどこにでもあるような話だった。

( ●..● )(もうすぐ死ぬ定めにある男が、この家の男だ───名を、”イームズ”と言う)

( ^ω^)「ふむふむ」

話にある彼は、周りの誰にもひた隠しにしながらも、すでに病魔が全身に巣食っているというのだ。
ある日”魂の緒”を刈り取る為に彼の元へ訪れたこの死神だったが、イームズには何故か彼の姿が見えていたという。

そして、「ある目的が叶うまでは、自分の魂を刈り取る事に対して猶予をくれ」
そういった旨の事を死神である自分に対し、必死で頼み込んできたという。

432名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:21:11 ID:TzUuvxoQ0

( ●..● )(まぁ……なんだ、俺も何人もの魂を刈り取って来たワケだが、そんな奴は初めてでな)

( ^ω^)「それから、その人の頼みを聞いたという訳かお?」

( ●..● )(察しがいいな。勿論、死神である俺に私情なんて無いが……死を拒む奴の魂を無理に刈り取れば、
      最悪自縛霊としてこの地に悪意を持つ存在として留まっちまう、なんて危険性もある)

( ●..● )(だから、その男の要望を聞いてから魂を刈り取る事にしたのさ)

( ^ω^)「それは一体、何なんだお?」

( ●..● )(人の親なら誰でも抱く感情なんだろうぜ……”娘が心配”なんだと)

村長であるそのイームズには、一人の娘がいたのだ。
直接の血の繋がりはないが、しっかりと愛情を注いできた父と共に、順風に生きていた彼女。

幼き頃にイームズによって拾われたというその”マリエル”には、二人の婚約者の候補がいるという。

433名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:22:22 ID:TzUuvxoQ0

( ●..● )(マリエルは、二人の幼馴染がいる。同じパン屋で働く”テッド”と、この村の村長の息子”スコット”だ)

気の弱い青年であったテッド、そして村の有力者の息子であったスコットとは、
マリエルが物心つく頃から三人ともがずっと仲が良く、子供の頃から毎日遊んでいたようだ。

( ^ω^)「そこに、何か問題があるのかお?」

( ●..● )(……っと。そこから先は、当人の口から聞かせてもらうとしようか)

死神とブーンが立つその部屋のドアが、かちゃりと開いた。
部屋に入ってきたのは、白髪に精悍な顔つきを称えた、初老の紳士と言った印象の男性だった。

(^・_v・^)「………やぁ、来ていたのか」

( ^ω^)「!………この人っ」

( ●..● )(あぁ。こいつが話にあった、イームズだ)

434名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:23:37 ID:TzUuvxoQ0

死神が話した通り、どうやら今は魂だけの存在であるはずの自分の方を見て声を発した事に、ブーンは驚いた。
この世のものとは思えない光景を目の前にしながらも、彼は驚く素振りも見せずにいつものようにソファへ腰掛けた。

(^・_v・^)「目を患っていてね。姿がよく見えないんだが……その、隣に居るのは誰なんだい?」

( ●..● )(あぁ、こいつは生前冒険者をしていてな。お前の要望を叶えるに相応しい人材だろ?)

(^・_v・^)「冒険者───あなたが?」

(;^ω^)「今はこんな姿だけどお……ご紹介に預かった冒険者の、ブーン=フリオニールですお」

(^・_v・^)「そうですか……私は、イームズ=バーキンと言います」

(^・_v・^)「………」

( ●..● )(………)

435名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:24:38 ID:TzUuvxoQ0

自己紹介をした後、イームズはじぃっと死神の方を見据えた。
全身が病魔に冒されているという話の通り、もう目もよく見えてはいないのだろうが、力強さまでは失っていないようだ。

(^・_v・^)「ブーンさん、といいましたか───私の願いを、聞いて下さいますか?」

( ^ω^)「何なりと。今の僕は、その為にここに立っていますお」

(^・_v・^)「では……恥を偲んで、お頼みしたい事があるのです」

そう言って、またもイームズはちらりと死神の方へ顔を向けた。
それに対して無言でこくりとだけ頷いたのは、「マリエルの事は話した」という合図だろうか。

(^・_v・^)「私はもうすぐこの世を去ります。頼みたい事というのは、娘のマリエルの事です」

( ^ω^)「幼馴染が二人居る、という所までは聞いたお」

(^・_v・^)「そのマリエルを拾った私の………まずは、過去をお話します」

ごほん、と一度咳払いをすると、イームズは白色が混じった力の篭った瞳を、ブーンへと向けた。

436名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:27:05 ID:TzUuvxoQ0

(^・_v・^)「私は、かつて一人の暗殺者でした」

( ^ω^)「………」

(^・_v・^)「罪も無い人を殺め、組織の飼い犬としてただ冷徹な人殺しとして過ごす毎日を送っていました」

(^・_v・^)「その私に、ある日組織から指令が下ったのです。”組織から逃亡を図った男の一人を殺せ”、と」

(^・_v・^)「その男……”ゼフ”は、組織に入ってからの辛い日々を過ごす上で苦楽を共にしてきた、親友でした」

(^・_v・^)「しかしながら残忍な男であった当時の暗殺者を束ねる首領の命令には逆らえず、
       私は親友であったゼフを殺す為の、任に着いたのです」

( ^ω^)(酷い話、だおね)

過去を悔やんでいるというその心中が、その表情からはありありと伺う事が出来る。
恐らくイームズは、その後彼を殺したのだという事も予想がついていた。

437名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:28:06 ID:TzUuvxoQ0

(^・_v・^)「私はゼフを追い……そして、私の短刀は確かに彼に致命傷を与えました。
       私が躊躇を見せながらも決して抵抗する事のなかったゼフは、何かを庇っている様子でした」

(^・_v・^)「それが、一人の女性との間に生まれた赤子───そう、マリエルだったのです」

( ^ω^)「………!」

( ●..● )(………そういう事さ、この男が”自分の娘”の将来を、特段憂う理由って奴はな)

(^・_v・^)「……ゼフは最期の瞬間まで、娘であるマリエルだけは殺さないでくれと───私に懇願したのです」

(^・_v・^)「親友であった者同士の情け───私はその彼の頼みを受ける事にしました。
       何よりも、彼が息絶えた後にあどけない笑みを浮かべたマリエルの表情が、私にそうさせました」

(^・_v・^)「あの子が当時の私に、非情のアサシンであった私の感情を、取り戻させてくれました……
       同時に罪の意識が溢れ、胸元にマリエルを抱えた私の目から、涙が止まりませんでした」

438名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:29:15 ID:TzUuvxoQ0

(^・_v・^)「ですが、その赤子を組織のアジトへと連れ帰っても、育てる事など許されない。
       ――――だから私もまた、ゼフ同様に組織の証である短刀を捨て、マリエルを連れて逃げたのです」

( ^ω^)「……お二人の関係は、良く解りましたお」

(^・_v・^)「組織の刺客の目を逃れながら逃げた先が、この村でした───今にして思えば、幸運です」

(^・_v・^)「私は仕事を手に入れ、ゼフの忘れ形見であるマリエルを育てる為、必死に働きました。
       ………彼女の過去、本当の自分の父を殺した私の話など、当然出来るはずもありませんでしたが」

( ●..● )(ま、当たり前だがな)

( ^ω^)「あんた、ちょっと黙ってるお」

イームズから聞かされた壮絶な過去に茶々を入れた死神に一言注意を入れ、ブーンはまた依頼の話に戻った。

439名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:30:16 ID:TzUuvxoQ0

過去に人を殺めていた彼は、確かに悪人であろう。ただの悪党であれば依頼を聞いてやるつもりもないが、
自分の立場を抜きにしても、そのイームズの依頼を聞いてやりたいと、ブーンはこの時思っていたのだ。

話を聞いた今になっても、裁かれるべき悪人というのとはどうにも思えなかった。
親友すらも手にかけた暗殺者であった彼だが、最後の最後には赤子の笑顔に心動かされ、良心が打ち勝ったのだから。

(^・_v・^)「……はじめの内は、酷く苦痛の毎日でした。彼女が私に微笑みかける度、
       父親であるゼフを殺したという私の罪を、咎められているような気がして」

(^・_v・^)「ですが、本当の父親のように私を慕ってくれる彼女を、いつしか私は本当に愛し始める事が出来たのです」

( ^ω^)「イームズさんが───本当の父親だと思えるぐらいに頑張ったから、だおね?」

(^・_v・^)「………決して許される事の無い罪を背負った、私ですがね」

440名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:31:21 ID:TzUuvxoQ0

( ●..● )(そのゼフとかいう奴も、案外悪く思ってないかも知れんぜ?)

( ^ω^)「言う通りかも知れないお、ね」

(^・_v・^)「そして、話の本題はここからなのです───マリエルの婚約者としての候補が、今二人居ます」

( ^ω^)「パン屋のテッドと、村長の息子のスコットだおね?」

(^・_v・^)「えぇ。二人ともよく話した事はありますが、実に良い青年達です。
       ―――その彼らの内どちらかと、マリエルは共に将来を歩んで欲しい……そう、思っているのです」

( ^ω^)「それで……イームズさんの悩みとやらは、どういった事柄だお?」

(^・_v・^)「マリエルも今、成熟した女性としての途上にある微妙な年齢です。
       同じパン屋で働くテッドとは良い仲にあるようですが、スコットも彼女に好意を寄せている―――」

441名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:32:18 ID:TzUuvxoQ0

(^・_v・^)「私自身は、やはり本当の親ではないからでしょうか。彼女の本当の気持ちというものを、
       情け無い話ですが伺い知る事が出来ないのです」

それは恐らく、自身の過去を悔やむイームズが己を責めすぎているという事もあるだろう。
きっと本当の親であっても、微妙な時期にある若い娘を扱うのは、どこの家庭でも非情に繊細さが要求される事柄だ。

( ●..● )(ようやく、本題に入れるな)

(^・_v・^)「長い話になって済まない───そう、ブーンさんに頼みたい事というのは、マリエルの本当の気持ち。
       すなわち、”テッドとスコットのどちらが彼女の婚約者に相応しいのか”」

( ^ω^)「───それを、見極めてもらいたいという事だおね?」

(^・_v・^)「そういう事になります。私がこの世を去れば、自惚れにはなりますが、彼女は悲観にくれるでしょう。
       そのマリエルを傍らで支えてくれる存在こそが、彼女の次の人生には必要なのです」

442名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 04:34:07 ID:TzUuvxoQ0

(^・_v・^)「幸いにも、二人とも才ある若者だ……気弱だが奥底には熱いものを持つテッドは、
       腕の良いパン職人として有名です。大きな町へ行けば、名のあるパン屋が開けるでしょう」

( ●..● )(そして───村長の息子であるスコットは指導力もあり、聡明で勇気あり、優しい心根の男だ。
      次にこの村の村長を継げば、必ずや発展に貢献できる逸材で、包容力もある……だったな?)

( ^ω^)「なるほど……難しい問題かも知れんおね」

自分の過去を知らぬ、一人の少女。
自分の過去を悔やみ、少女を守ってきた男。

もうすぐ娘の元を去るその男の願いは、少女が次に歩むべき道を照らし出す、どちらかの道しるべを選ぶ事だ。
人の家庭に口を出す趣味はないが────今は自分の命も懸っている。

報酬は、”生き返る事”

( ^ω^)「その依頼……引き受けたお!」

どの道断るつもりもなかったが、力強いブーンのその一言で、
難しい顔を浮かべていたイームズの表情が、幾分か明るいものになったように感じられた。

(^・_v・^)「……ありがとうございます、ブーンさん───死神も」

( ●..● )(………仕事さ)

───まずは情報収集からだ、取り掛かるとしよう。

443名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 06:22:40 ID:08eABimE0
ブッツリ・・・

444名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 07:32:58 ID:EYekN9sgO
寝落ち? 
とりあえず④

445名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 12:44:10 ID:nTvZ46PoO
ぶつ切り投下すまそ。三時間ではこれしか書けなかった
今回はあんまおもんないかもしれないけど、あと半分ぐらいで終わりっす
次の次ぐらいに力いれて書きたいお話があるので、頑張りやす

446名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 13:06:29 ID:n5lKeawA0
待ってます

447名も無きAAのようです:2012/03/16(金) 20:52:07 ID:EYekN9sgO
次も期待してる

448名も無きAAのようです:2012/03/31(土) 18:55:35 ID:gyTyeEAM0
このシナリオ好きなんだよね
期待

449名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 15:36:37 ID:QIfJHTTE0
>>448
元ネタを知っている人に逆に驚いた。
ZERO様作成のCWシナリオ「魂の色」を宣伝しときやす。あれ名作、これ劣化版ね
今日中に残り投下しやすね〜

チラ裏だけどドラクエの素晴らしいラストを見て逆に自信喪失したわw
魔法があるようですや魔法道具屋さんもみんな設定が練られててヤバイw
なので今後はふいんきファンタジーで頑張ります。ふいんき

450名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:12:48 ID:QIfJHTTE0
投下長丁場になりそうなのでちとageます。すんません

451名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:15:27 ID:QIfJHTTE0

───────────────

──────────


─────


真っ黒な世界に吸い込まれるようにして、再びブーンの身は、その外に吐き出される。
最初は戸惑ったが、こうして景色が移ろうのにもそろそろ慣れてきた。

まずはマリエルと、その婚約者候補二人の様子を観察しておく必要がある。
その旨を死神に伝えると、こうして非常に手際良く本人達の元へと案内してくれたのだ。

父親であるイームズには自分たちの姿が見えていたようなので、もしや、と危惧したものの、
どうやら井戸端で他の婦人達と他愛無い会話をしている彼女の視線は、こちらに気づきもしていないようだ。

ノルマ゚ー)「丁度お店の備蓄が切れちゃってたんで、助かりました」

「いえいえ、いいのよ。困った時はお互い様だから」

ノルマ^ー)「ありがとう。それじゃあまた、ジェニファーさん!」

452名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:16:10 ID:QIfJHTTE0

そう言って駆けていった活発な娘の後姿を見送った後、
ブーンの後ろで死神が言った。

( ●..● )(あれが、マリエルだ)

( ^ω^)「ふむ」

はきはきとものが言え、嫌味なところもなさそうな好印象の娘だ。
確かに彼女が自分の娘だったとしたら、その相手が気になってしまうのも無理からぬ事。

マリエルが去った後、広場の婦人達からは”裏の事情”も聞くことが出来た。

「大変ねぇ……イームズさんとこの娘さん」

「そうよ、近頃外にも出てこないし、かと思えばもの凄く顔色が悪いじゃない?」

「もう、長くないんじゃないかっていう話よ……」

「可哀相にねぇ───ねぇ、そういえば彼女、パン屋のテッドと結婚するのかしら?」

「あら?羨ましい話だけど、私はあの凛々しいスコットって子があの娘を好きなんだと思ってたわよ」

453名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:17:18 ID:QIfJHTTE0

「テッドなんて駄目だわ、あんなおどおどした目つきの子……スコットの方がいいわよ!」

「それにしてもあの娘、毎日健気にお父さんの看病をしてて偉いわ……是非ウチの嫁になって欲しいとこだけど、ねぇ?」

どうやら、村人達の間でもイームズの病状は何となくは伝わっているようだ。
その彼の魂を奪う為に現れた死神が今この場に立っていると知れば、どんなに驚くだろう。

姿が見えないというのは良い利点だ。
今この場に居ない事をいい事に好き勝手喋る人々の話を、気付かれずに聞くことが出来る。
だが、その婦人達から得られる情報で有力なものはなかった。


( ●..● )(下らない話だ……次、行くぞ)

( ^ω^)「わかったお」

元々、こうした人間達の噂話にすら興味は無いのだろう。
死神に促されるままに、また場面は広場から、今度は豪壮な一室へと移り変わる。







454名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:18:14 ID:QIfJHTTE0

イームズの家よりも広く、またそこかしこが格調高い造り。
味わい深く質の良いインテリアの数々は、有力者の家である事を思わせた。

( ^ω^)「村長の───息子の家かお」

( ●..● )(あぁ。次はお前の依頼主がご要望の、男どもの品定めだ)

あまり気の進まない話ではあるが、依頼とあればどんな事でも取り組まなければならない。
薬草の採取や浮気調査、たとえ”そんなもの”、と揶揄されるような内容であっても、
それに誇りを持って達成に努力する冒険者達だって、大陸には居るのだ。

とは言え、未だかつてこの世とあの世の狭間で死神と共に依頼に取り組む冒険者など、自分一人だろう。
そう考えると、何だか奇妙な高揚感があった。

もうすぐ、当人の一人が現れるのだろうか。
考えを巡らせている間に、部屋のドアが開けられる。

( -川-)「……なぁ、お前ももう良い歳だ」

髭を蓄えた中年の男性の後に続き部屋に入ってきたのは、栗色の明るい髪色が特徴的な、
利発そうな若者だった───恐らく、彼が村長の息子、スコットであろう。

455名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:19:15 ID:QIfJHTTE0

ノ∫^・_ゝ)「父さん……その話は止してくれと」

父の話を遮りたい、とばかりに苦い表情を浮かべるスコットだったが、
折られそうになった話の腰を逃すまい、と父親は彼に向けて続ける。

( -川-)「私はな、スコット。この村を、そして何よりもお前の為を思って言っているんだ」

ノ∫^-_ゝ)「分かってるさ……僕だって、もう子供じゃない」

( -川-)「それなら、マリエルがお前とテッドの間で複雑に揺れ動いているという事も、分かるな?」

ノ∫^・_ゝ)「それは……」

( ^ω^)(………)

霊体であるブーンらの声は、この場にいる彼らには聞こえないはずだ。
しかしながら、口を開くことなく固唾を呑んで彼らの話を盗み聞いていた。

マリエル、スコット、テッド。
幼馴染として育ってきた彼らの間には、この村の将来などと言った
”大人の事情”というものも、少なからず見え隠れしているようだ。

456名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:20:19 ID:QIfJHTTE0

若い力───それはとても重要なもので、一度失えば取り返す事の出来ないものだ。
この聡明そうな青年スコットが、ブーンの目からも容姿麗しい女性であるマリエルをもらい受ければ、
彼自身は家庭を、そして住み暮らす場所の発展の為により一層の力も入ろうというもの。

だが、既に村長である父親からは、後継者として見定められているのだろう。
どうやら、当人同士の恋愛感情などと言ったものだけでは割り切れない事情が潜むようだ。

三人の本当の気持ちというものを、どうにかして割り出さなければこの三角関係は解消できそうに無い。

ノ∫^-_ゝ)「それも分かってるさ───けど、僕にはマリエルには、テッドの方が相応しいと思うんだ」

( -川-)「スコット……テッドも大事な友人の一人だろうが、彼は一介のパン屋だ。彼女には、お前のような──」

そう父親が言葉を紡ごうとしたところで、スコットは多少語気を荒げて言い放つ。

ノ∫^#・_ゝ)「……父さん!僕の友達の事だけは悪く言わないでくれ!」

(;^ω^)(ふむ………絵に書いたような、善人だおね)

( ●..● )(だろ)

457名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:21:10 ID:QIfJHTTE0

容姿も端麗で、将来性もある恵まれた若者だった。

この厳格そうな父親の元で、他者を導く立場としての自分を形作っていったのだろう。
短い会話から察するには、恐らく指導力もしっかりと備わっているはずだ。

性格も良いとなれば、正しく非の打ち所が無い青年ではある。
しかしながら彼は、どうにもマリエルの件に関しては引き気味のようだ。

( -川-)「しかし、テッドは近く村を出るそうじゃないか―――マリエルが、彼に着いて行ってもいいと?」

ノ∫^-_ゝ)「………テッドは、本当に腕の良い職人だ。彼の腕なら、きっとヴィップに行っても通用するさ」

( ^ω^)(ふむ)

それから、父と子二人の間に流れた沈黙。
その間に立つブーンは、深く頷きながら佇む。


( ^ω^)(スコットは自分の立場と友人の手前、マリエルに気持ちを伝えられずにいるんだお)

458名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:22:27 ID:QIfJHTTE0

マリエル本人の気持ちを確認する前にすべき事で、一つの収穫だった。
後は───彼、スコットも羨む仲にあるテッドの気持ちというものは、どうなのだろうか。

盗み聞きをしているようで気後れはするが、どうやら彼らの会話の中から十分な情報を得る事が出来た。
スコットはマリエルの事を想ってはいるが、”立場”というものに縛られている。

だが、パン屋のテッドはそうではなく、この村から旅立って行こうとしているようだ。
この村に残るか、それとも村の外へと出るか───マリエルが選び得る道は、二つに一つのようだ。

考え事を止めて顔を上げると、死神はすでに次の現場へ行く準備を整えていたようだ。

死神が手に携える、大鎌の柄の部分。
その底で地面をとん、と一突きすると、またも風景は暗転した。

( ●..● )(さて、最後の当事者に会いに行こうか)

( ^ω^)(もう一人の婚約者候補、テッドだおね)

視界に映る全てが黒に塗りつぶされていく間を、ブーンは彼に何気なく尋ねてみる。

459名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:23:34 ID:QIfJHTTE0

( ^ω^)(あのスコットって青年……友人に気を使って、ってところかおね?)

( ●..● )(どうだかな。俺には、お前らのような人間的な感情は解らんよ)

( ^ω^)(……イームズさんの事も、単なる仕事の為って事かお?)

( ●..● )(当たり前だろうが)

( ^ω^)(そうは思えなかったけどおね───アンタは死神かも知れないけど、なんか、いい人そうだお)

( ●..● )(人の死期に訪れ、その魂を刈り取る”死神”が、か………?)

(変わってんな、冒険者ってのは)

そう言った彼の髑髏をたたえた表情は伺い知る事が出来ないが───
この時ブーンは、少しだけ死神が笑っていたような気がした。







460名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:24:28 ID:QIfJHTTE0

たどり着いた先は、村の広場に面した店先だった。
商品の並んだ陳列棚には、様々な種類のパンが並んでいる。

( ^ω^)「お?」

小さな店ではあるが、対面した客からは作業が見渡せるようになっている。
若い彼ら二人が熱心に仕事に励むさまは、恐らく客にしてみれば好印象を受けるだろう。

(・く_・川「マリエル、そこの香草を取ってくれない?」

ノルマ゚ー)「うん」

ブーンは今、テッドが営むパン屋の前に立っていた。

阿吽の呼吸で黙々とパン生地をこねるテッドの傍ら、マリエルがその補佐をしているようだ。
スコットと比べればお世辞にも美青年とは言いがたいが、そのパン作りの腕は評判の通りなのだろう。

マリエルから渡された香草を素早く鉢の中で擦ると、ペースト状のそれを生地と混ぜ合わせていく。
手練の動作で淀みなく商品作りをしていく彼の姿は、一人の職人の風格を感じさせた。

小麦粉まみれになりながらも、額に汗して一生懸命に生地を練っている。

461名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:25:28 ID:QIfJHTTE0

( ^ω^)(うまそうなパンだおね)

( ●..● )(今のお前はものも食べられないけどな)

焼きたてのそれらのふうわりとした香りを感じる事が出来ないのは、
今の自分が霊体である事から、五感の一部を閉ざされている為か。

だが、嗅覚を感じ取る事が出来なくても、思わず手に取ってしまいたくなる───そんなパンばかりだ。

( ^ω^)(んん〜)

(・く_・;川「よい……しょっと」

ノルマ゚ー)「これ、オーブンに入れればいいんだよね」

(^く_^;川「ありがとう、マリエル。助かるよ」

ノルマ゚ー)「いつもの事だから、気にしないの」

手馴れた動作で生地をオーブンへと入れていくマリエルは、そう言って笑った。

462名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:26:17 ID:QIfJHTTE0

どうやら、いつもこの場所に来て手伝いをしているのだろう。
それを考えると、傍目からには実にお似合いの二人にも思える。

一通りの作業を終えたマリエルは、無心で作業するテッドの背に立っていた。
彼女がその背中に投げかけた言葉に、テッドの手が一瞬止まる。

ノルマ ー)「そういえば……さ、噂話で聞いたんだけど、”ヴィップに行く”って話───本当なの?」

(・く_・;川「………」

( ^ω^)(………)

恐らく、この話がマリエルの身の振り方に関して大きく関わってくる中心部分だ。
しばし押し黙ったテッドの様子を、マリエル同様にブーンも固唾を飲んで見守る。

(・く_・川「───実はね、ヴィップに住んでいる叔父に呼ばれたんだ。
      僕の腕を見込んで、店を手伝ってもらいたい、って」

ノルマ ー)「………そっか」

463名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:27:23 ID:QIfJHTTE0

(・く_・川「ゆくゆくは僕に店を任せたいと言われたんだ。だけど……僕は───」

ノルマ゚ー)「テッドなら、きっとヴィップでも十分に通用するよ」

(・く_・;川「………けれど、ヴィップにはマリエルが居ない」

ノルマ ー)「テッドだって、いつか自分のお店を持ちたかったでしょう?」

(・く_・;川「でも、マリエルが居ないんなら、僕がそこでパンを作る理由なんて───ッ」

テッドがそこで少し声を荒げて振り返った所で、マリエルは彼から表情を隠すようにして背を向ける。
震える声色からだけでも十分に解ろうというものだが、ブーンからは彼女の目に煌くものが見えた。

ノルマ ー)「ごめん、私………お父さんに花を持って行ってあげなきゃ!」

そう言って作業場を飛び出して行こうとするマリエル。
それを呼び止めようとして上げたテッドの右手は、そのまま下ろされた。

464名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:28:16 ID:QIfJHTTE0

そうして、誰も居なくなってしまった店先で、テッドは一人途方に暮れる。

( く_ 川「僕は、どうしたらいいんだ……」

ぷるぷると拳を震わせ、下唇を噛み締めている彼の様子を黙って眺めていた死神が、
そのテッドに対して苦言を漏らした。

( ●..● )(優柔不断な奴だな。こっちがイラついてくるぜ)

( ^ω^)「………違うお」

死神が言う通り、確かにさっきのやり取りからは彼の理想にどっちつかずの印象を受ける。
自分であったら、本当に愛している女性にならばたとえ自信が無くても「付いて来てくれ」と頼み込む所だ。

だが───彼はマリエルの境遇を良く理解した上で、ヴィップ行きに踏み出せずにいるのだろうと思えた。

( ^ω^)「イームズさんの身体は、病に冒されているお」

( ●..● )(それがどうした?)

465名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:29:11 ID:QIfJHTTE0

( ^ω^)「そんな彼女が父親を置いて行く事など出来ない事に対して、悩んでいるのだと思うお」

( ●..● )(………なるほどな)

気弱だという事は、より人の心の痛みにも敏感になる。
だからこそ自分自身がされて嫌な事をしないようにと、他者に対しても優しくなれるのだ。
しかし、それがかえって相手を傷つけてしまう場合もある。

今回のように、マリエルが少なからず好意を寄せているテッドにそうされてしまっては。

少しため息混じりではあるが、死神もブーンの言葉の説得力に納得したようだ。
互いに顔を見合わせ頷くと、作業台に両手を突いて悩むテッドに背を向けた。

人間の感情など理解出来ないと自分で言っていた死神だったが、
間を置いて、少しだけ饒舌に喋りはじめた。

( ●..● )(長い事死神やってるとよ。だんだん”思いやり”だとかそんな感情すら、無くなっちまうんだ)

466名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:30:09 ID:QIfJHTTE0

( ^ω^)「……へ?あんたは、最初から死神なんじゃないのかお?」

( ●..● )(違ぇよ。俺たちはどいつも、かつてはお前らみたいな普通の人間だった)

(;^ω^)「元人間、なのかお!?」

( ●..● )「まぁな。何の因果かこんな仕事をやっちゃいるが……
       生前の名や記憶なんざ、ここじゃあ何の意味も持たねぇんだ」

そう言った口の悪い死神の表情は、色も体温も感じられない、骸骨。

自分のような人間などとは違い、きっと永遠にも近い時を、彼はこうして過ごすのだろう。
そうであったら、やはり人間らしさなど───いずれは欠片も残さず失くしてしまうかもしれない。
話し方などから察するに、彼にはまだそれが残っているようには思えるが。

とにかく、これで一通りの当事者と会って状況はおぼろげながら見えて来た。

467名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:31:08 ID:QIfJHTTE0

イームズの娘マリエルは、確かに二人の青年の間で揺れ動いている。

その一人である村長の息子スコットは、テッドにマリエルを譲ろうとしているようだった。
いずれ村を発つテッドが、彼女を伴って行く事こそを願っているのだろうか。
愛情よりも、彼の場合は友情が打ち勝ったと言う所だろう。

そのマリエルはやはりテッドに惹かれており、彼の夢である自分の店を持つ事を応援したいようだ。
だが、彼女自身はたとえ彼を愛していても、村を離れる事など出来ないであろう。
なぜならば、病で弱った父親のイームズを一人この村に置いて旅立つ事など、出来ないからだ。

そうして、テッドもまた彼女のそうした事情を汲んでやった上で、悩んでいるのだ。
若く将来もあるが、まだ幼さの抜け切れていない青年だった。
大事な人と離れ離れになってまでやり遂げる夢に価値があるのか、答えを見出せずに居る。

468名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:31:53 ID:QIfJHTTE0

また、場面は移り変わって行く。
その最中、ブーンの考えは口を突いて出ていた。

( ^ω^)「彼女にとっての幸せって……一体何なのかお、ね」

( ●..● )(………お前さんにゃ、そいつが分かるのか?)

問いで返された死神の言葉に、また腕組みをして考える。

マリエルにとっての幸せ───変わらない日常をこれまでも、そしてこれからも大事な人達と過ごす事。
はたまた、夢に想いを馳せ新天地へと旅立ち、新たなる人生の一歩を踏み出す事なのであろうか。

─────しかし。

469名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:32:56 ID:QIfJHTTE0

( ^ω^)「───分からないお」

( ●..● )(なんだそりゃ)

茶化す死神の言葉にも、ブーンは続ける。

( ^ω^)「ブーンはマリエルじゃないから、分かるはずが無いんだお。
       何が彼女にとっての”本当の幸せ”で、何が彼女にとっての”不幸せ”かなんて」

( ●..● )(………まぁ、確かにな。だが、それじゃ依頼はどうなる?)

自分の魂が、命が懸っているこの依頼、決して失敗する訳には行かない。

だが、彼ら若者が上手く行くような道筋は、見えた気がしていた。
それら全ての答えを知っているのはブーンでも、彼ら三人でも無い。

恐らくは、”彼”が答えを出してくれる事だろう。

( ^ω^)「一旦、イームズさんの所に今日の出来事を報告しに戻らないかお?」

470名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:33:59 ID:QIfJHTTE0

( ●..● )(あぁ、わかっ────)

───と、そこで死神の所作が時が止まったかのように静止する。

言葉を言い掛けて死神がまた大鎌の柄で地面を突こうとしたところだったが、死神の意識は
ブーンの背後の虚空にあるようだった。

気付いたブーンがその方向へ振り返ると、闇の中に、彼ら以外のもう一つの影が躍っていた。

そしてそれは、こちらを見下ろしていたのだ。

( ▲,,▲)(……あァン?)

( ^ω^)「………!」

そこに居たのは、また別の死神のようだった。

471名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:35:07 ID:QIfJHTTE0

背格好こそ違えど、鎌を携えながらぼろの黒い外套で身を包んでいる姿に、一目でぴんと来た。
何よりも、今は身体から抜け出た霊体であるはずのブーン達を認識している事が一番の理由だ。

( ▲,,▲)(オイオイ、説明しろや───なーんでこんな場所に”生霊”が居やがる?)

( ●..● )(………フン。俺の仕事の”相棒”、ってところだ)

( ^ω^)(………)

また人間臭い台詞を吐いた彼の様子を気にかけながら、決して相手に警戒を与えない程度に
ブーンは片足の半歩だけを後ろに広げた。その口調から、必ずしも自分自身の存在を快く思っていない
死神も居るのだと、この場所に来たとき以来の不安を覚えたからだ。

だが、どうやら死神同士の立場はほぼ対等にあるようだった。

472名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:36:08 ID:QIfJHTTE0

( ▲,,▲)(はァ?何寝ボケた事言ってやがんだよ……肉体を離れてるなら、霊脈を断っちまえ)

( ●..● )(黙ってろ。この男の魂をどうするかなんざ、俺の自由だろうが)

(;^ω^)「いやいや……一応、僕の魂なんだけどおね……」

自分の頭の上を飛び越えて、随分と物騒な会話が繰り広げられている。
やはり新たに現れた死神は、今の自分の立場に対してあまり良い印象を持っていないようだ。

( ▲,,▲)(おめぇよォ……死神としての本分を履き違えてんじゃねぇか?頭、ダイジョーブですかァっ?)

( ●..● )(貴様こそ、俺の縄張りでチョロチョロするんじゃねぇ。いいか……俺の仕事の邪魔だけはするな)

( ▲,,▲)(………アァ!?)

473名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:36:59 ID:QIfJHTTE0

( ●..● )(てめぇなんざ、バルグミュラーの命知らずの馬鹿傭兵共の周りを飛び回ってるのがお似合いだぜ)

( ▲,,▲)(同じ言葉を返してやるよ……くれぐれも、俺の仕事の邪魔をするな)

( ●..● )(───とっとと俺の縄張りから失せやがれ、”ハイエナ野郎”)

( ▲,,▲)(………チッ)

最後にこちらに一瞥くれて、目つきの悪い髑髏はブーン達の元から何処かへと去っていったようだ。
死神同士の険悪な争いに巻き込まれて、二度と肉体に戻れないような惨事になるのではないかとひやひやしたが。

( ^ω^)「やっぱ、あれも死神なのかお?」

( ●..● )(まぁな。近頃俺のシマで随分勝手放題してくれてやがる、クソヤローだ)

(;^ω^)(死神の世界にも、同僚とのトラブルとかがあるんだおねぇ……)

474名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:37:59 ID:QIfJHTTE0

( ●..● )(奴はまだ死期でも無い生者の霊脈───魂の緒ってやつな。それを、下界に干渉して
       強引に切り離すような奴さ。言ってみりゃ、死神界の人殺しってな)

(;^ω^)「危ない奴なんだおね───アンタが一緒で、ブーンは助かったお」

( ●..● )(何、別に礼を言われる筋合いはねぇ……まずは、目の前の仕事を片付けようや)

( ^ω^)「イームズさんの所だおね」

( ●..● )(あぁ………)

( ^ω^)「?」

そこで一寸考え込んだ死神の顔を覗き込むと、顎に手をやりながら
先ほど言い争っていた別の死神が消えていった方向を眺めていた。

( ●..● )(ちと、気になる事がある)

( ^ω^)「何かお?」

475名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:38:44 ID:QIfJHTTE0

( ●..● )(悪いが、イームズの家に行くのは後回しだ───あいつがここらに現れたという事は、
       もしかするとこの村で”事故に見せかけて”死期を早められる村人が出る可能性がある)

( ^ω^)「っ!」

( ●..● )(その狙いが、俺たちの依頼人に関係する人物でなけりゃあいいんだがな───)

( ^ω^)「それなら早く……奴を追うんだお!」

( ●..● )(解ってる)

また杖のように鎌の柄を一突きすると、波紋のように景色の波が広がり
また別の場所へと意識は流されていった。







476名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:39:27 ID:QIfJHTTE0

たどり着いた先は、少し村から外れた場所のようだった。
川の上には崖が割れるように広がり、その間には小さな花畑が広がっている。

そこで花を摘んでいた、少女の後姿があった。

ノルマ゚ー)「えぇっと……これくらいでいいかな」

先ほどテッドのパン屋から飛び出していった、マリエルだ。
病気のイームズにでも渡す花を、摘んでいるのだろう。

( ^ω^)(ここに出た、という事は───もしかして)

( ●..● )(解らんが、嫌な予感がしてな)

ブーンと死神はぐるりと辺りを見渡したが、
そこに先ほどの死神の姿は見受けられなかった。

だが、気を抜く事は出来ない。

477名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:40:15 ID:QIfJHTTE0

自分の依頼人の娘であるマリエルが万が一命を落とすような事になっては、
誰よりも悲哀に暮れるであろうイームズに対して、申し訳が立たない。
彼女の周辺で危険が起きないか、つぶさに観察していたブーン達。

そこへ、ある人物が現れた。

ノ∫^・_ゝ)「やぁマリエル。花を摘んでいたのか」

ノルマ゚ー)「あ、スコット……うん!お父さんに、あげようと思って」

ノ∫^・_ゝ)「それは、何て花だい?」

ノルマ゚ー)「”蓮華草”よ。この花、お父さんの古い友達が好きだった花なんだって」

ノルマ゚ー)「花言葉は───ええと、何だったかな……」

ノ∫^・_ゝ)「……そうか。お父さんの病気、治るといいね」

ノルマ ー)「……うん」

478名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:41:13 ID:QIfJHTTE0

ノ∫^・_ゝ)「………」

それきり押し黙ったスコットは、凛とした表情で彼女の瞳を見据えた。
すぅ、と大きく息を吸い込むと、何かを決意したかのように彼女に尋ねる。

ノ∫^・_ゝ)「テッドから、聞いたんだね」

ノルマ゚ー)「ヴィップで、叔父さんの手伝いをするっていう話?」

ノ∫^・_ゝ)「あぁ、そうだ」

どうやら、スコットもまた彼女の身を案じているようだ。
聡明である彼にはこの後の事も見通せているのかも知れない。

父の病気が決して治癒する事はなく、もうすぐ彼女一人が取り残されてしまうのだという事を。

ノルマ゚ー)「でも……私には関係ないよ」

ノ∫^・_ゝ)「本当に?」

479名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:42:18 ID:QIfJHTTE0

ノルマ゚ -)「どうして、そんな事を聞くの?」

ノ∫^-_ゝ)「………」


( ^ω^)「………」

( ●..● )(───!)


それまで固唾を飲んで二人の会話を見守っていた死神が、そこで何かに気付いた。
彼女達の頭上、切立った崖上からぱらぱらと降り注ぐ石の飛沫があった。

( ▲,,▲)

先ほどの死神が、崖上でほくそえんでいる様子であった。
どこから持ってきたのか、その傍らには大きな岩があり、あと一押しもすれば崖下へと転落するだろう。

─────狙いは、この二人のどちらかだ。

480名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:43:26 ID:QIfJHTTE0

( ●..● )(あそこだ───野郎ッ!!)

(;`ω´)「まずいおッ!?」


二人に危機を知らせなければならない。
だが、こちらの声は届かないし、突き飛ばしたぐらいでは避けられぬ程の大きさだ。

どうすれば────奴の邪魔を、直接出来れば。

ブーンがその考えに至るのと、同時だった。

( ●..● )(奴の場所に飛ぶぞ!あいつをブッ倒す!)

(;`ω´)(それしか……ないおね!)








481名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:44:17 ID:QIfJHTTE0

( ▲,,▲)(るーんららぁっと)

上機嫌で鼻歌を歌う死神、その真後ろに、ブーンは一瞬で移動してきた。
この手に武器を持たない以上、素手で殴り倒してやる他ない。

心配なのは、仮にも”神”と名を冠する存在に攻撃して、自分は無事現世に帰れるのかという事だが。

( `ω´)「………そこまでだお!」

( ▲,,▲)(あぁン?)

( ●..● )(言ったはずだぜ───俺の邪魔はするなとな!)

(#)▲,,▲)(ぶごッ!?)

ブーンよりも先に動いた死神の拳が、その頬を打ち抜いた。
霊体同士であればこうして干渉しあう事が出来るのだろうか。

( ●..● )(お前も一発お見舞いしてやれ!)

自分の攻撃が通ずるか不安を残したが、その一言に後押しされて飛び出した。

(;`ω´)「ええい───もう知らんおッ!」

482名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:45:14 ID:QIfJHTTE0

(▲,,▲(#)(うげぇッ!)

今度は逆の頬に向けて、ブーンが思い切って振りかぶった拳が命中する。
殴った感触はまるで布切れを叩いたように感触の薄いものだったが、確かに通じたようだ。

二人から殴られた死神は、へなへなとその場に座り込むようにして崩れてゆく。
その様子を見届けてから、ブーンは急ぎ崖側の大岩を両腕に抱え留めた。

(;^ω^)「間一髪、だったおね」

大岩の横から下の様子を覗くと、まだマリエル達は会話していた。
こんなものがこの高所から落とされれば、丁度二人共が潰れてしまっていただろう。

(;`ω´)「んぎ……ぎぃ」

今後も悲劇が起こらないようにと、大岩が転落しないよう崖から引き離しておいた。

( ^ω^)「ふぅ──これで、大丈夫そうだお」

(;▲,,▲)(て、てめぇら……よく、も)

483名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:45:59 ID:QIfJHTTE0

( ●..● )(どうだ、もう2,3発も欲しいか?)

(;▲,,▲)(く……こんな事をして───人間ごときが!)

(;^ω^)(………)

よろよろと立ち上がった死神の恨みがましげな視線が二人に向けられたが、
飄々とその言葉を受け流す仲間の死神とは立場の違うブーンは、内心良い気分では無い。

彼もまた死神であるという事は、自分の魂の緒を刈り取る事の出来る存在にあるのだ。
その不安を見透かしたかのように、仕事仲間である死神はブーンにだけ伝わるような小声で言った。

( ●..● )(心配すんな、俺が居る以上、お前に手は出させねぇよ)

( ^ω^)(……助かるお)

484名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:46:52 ID:QIfJHTTE0

( ●..● )(―――とっとと失せろ。二度と俺達の前に姿を現すなよ)

(#▲,,▲)(……覚えてやがれ)

月並みな悪党の台詞を吐き捨ててから、二人を最後まで睨みつけていた死神の姿は、
やがて風景に溶け込むようにしてすぅっと目の前から消えた。

また現れた時の事を考えると素直に喜べないが、とにかくこれで、障害は取り除かれた。
人の恋路の邪魔をする奴は、馬に蹴られてなんとやらだ。

( ●..● )(さて、後は………)

( ^ω^)(二人の成り行きを、見守るとするおね)







485名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:47:56 ID:QIfJHTTE0

ノ∫^・_ゝ)「テッドがヴィップに行くというのなら、君も彼について行くべきだ」

ノルマ゚ -)「そんな……お父さんを、置いていける訳ないじゃない!」

崖下では、まだ二人が会話を交わしていた。
優しくたしなめるような口調のスコットだが、その言葉は彼女にとって辛らつなものだ。
自分の中で押し留めているであろう感情が、彼の言葉が引き金に爆発する。

ノルマ゚ -)「私が居なくなったら、お父さんは一人でこの村に取り残されるのよ!
     身体を患っているのに……スコット───あなたが、看病してくれるっていうの!?」

ノ∫^-_ゝ)「───構わない」

ノルマ゚ -)「ッ!」

それは、マリエルにしてみれば意地悪めいた言葉だったろう。
死期が近づいて、本来ならばもはやこの世にいないはずのイームズ。
その彼を、傍らで看病してくれるのか、などと。

だが、その言葉に対して当然のように言ってのけたスコットの言葉が、
逡巡すれば言葉を追い討ちしていたであろうマリエルが、言葉を詰まらせる。

486名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:49:04 ID:QIfJHTTE0

ノルマ -)「どうして……そんな事を、言うの」

ノ∫^-_ゝ)「僕はね、マリエル───”君にとっての幸せ”が、一番大事だと思ってるんだ」

ノルマ -)「………」

ノ∫^-_ゝ)「もちろん、君とテッドがお互いを想ってるという事も知ってるさ………
      そしてこれは恐らく───君のお父さんもまた同じ気持ちなんだと思う」

ノルマ -)「だって……私が居なくなっちゃったら……お父さん、たった一人で……」

健気な故に、この世でたった一人の父親の事を想うが故に、
少女は自分の気持ちに従う事が出来ずにいた。

スコットが仮に自分の気持ちに良い意味でも悪い意味でも正直で、
堪え性に欠けるような青年であれば、こうはならなかったはずだ。

だが、自分を殺して他者を思いやる事の出来る青年である彼の言葉に、
マリエルの気持ちは、今確実に揺れ動いていた。

彼女自身は一体どうするべきなのか───道しるべは、もう行き先を照らしている。

487名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:50:03 ID:QIfJHTTE0

( ^ω^)(アカン……ほろりときそうだお)

( ●..● )(親を想う子の愛情に───ってか?)

( ^ω^)(けれど、二人の想いはすれ違ってしまっていたんだお)

( ●..● )(……お前さんの依頼は、どうやらひとりでに上手くいきそうだな)

( ^ω^)(そう、だおね)

死神の言葉通り、ブーンもまたそう考えていた。
三者が居れば楽観的とも思われるかも知れないが、当人達の気持ちはこれまでの間
ほんの少しすれ違っていただけで、きっと最初から上手くいくようになっていたのだ。

488名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:51:16 ID:QIfJHTTE0

ノ∫^・_ゝ)「テッドも、君やお父さんの事を思っているから着いて来いと言えずにいるのさ。
      友達の僕には分かる───彼が誰より、君の事を愛しているとね」

ノルマ -)「でも、私……どうすれば……」

ノ∫^-_ゝ)「それを、君のお父さんはもう悟っていると思う。
     ───だから、今夜皆を交えて話し合おう。今後の事について、ね」

そう言って、花畑の中でうな垂れる彼女の肩に優しく手を置いて、スコットはじっと瞳を見つめた。

その彼らに背を向けて、ブーンと死神はまたどこかの空───暗い空間へと移動していた。
スコットの言った今夜、若者達を取り巻く複雑な感情の交差は取り払われるだろう。

( ●..● )(夜まで、少し意識を休めろ。霊体とはいえ、活動し過ぎると、
       肉体に戻る時に支障が生じるかも知れん)

(;^ω^)「それ、先に言って欲しかったお」

489名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:52:09 ID:QIfJHTTE0

( ●..● )(ま、今んとこは大丈夫だと思うがな……とにかく、休んでおけ)

( ^ω^)「なら……そうさせてもらうかおね」

彼の言葉に従うまま、ブーンは瞳を閉じた。
やがて、完全な闇の中へと、意識はまどろんでいった。



───────────────



──────────

─────



〜その頃 交易都市ヴィップ〜


ζ(゚ー゚*ζ「いっぱい買っちゃったね〜」

490名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:52:53 ID:QIfJHTTE0

ξ*゚⊿゚)ξ「私、こんなに自由にお買い物したの久しぶりだわ!」

興奮気味に鼻息を荒げるツンが、両手一杯にいくつも抱えた紙袋を重そうにぶら下げていた。
ヴィップの商業区域にある、高級デザイナーによるショップが立ち並ぶ店々をはしごして、
人生で初めてのウィンドウショッピングを楽しんでいたのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「このフリフリのやつ、可愛いよね〜」

ξ゚⊿゚)ξ「うーん、迷ったんだけどね。どちらかといえば、デレに似合うんじゃない?」

ζ(゚ー゚*ζ「どうかなぁ……あ、でも私の買ったこの2ピースも、そういえばツンに似合うかも」

ξ゚ー゚)ξ「あ、分かった。貸し借りすればいいじゃない、お互いに、体型もぴったりでしょ?」

ζ(゚ー^*ζ「それもいいね!」

491名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:55:01 ID:QIfJHTTE0

ふとツンがウィンドウを見渡した先、面白い物を見つけたように指さした。
どれどれ、と近づいたデレがそれを見た瞬間、二人はお互いに顔を見合わせて笑みをこぼす。

ξ*゚⊿゚)ξ「ぷっ。何これ、”KIKKOU”だって……だっさ!」

ζ(^ー^*ζ「あはは、そんな事言ったらデザイナーの人に悪いよぉ」

ξ*゚⊿゚)ξ「デザインったって……こんなもん、荒縄で身体縛ってるだけじゃない!」

ζ(゚ー゚*ζ「でもまぁ、確かに……何考えて作ったんだろうね」

ξ゚⊿゚)ξ「どれどれ……”このKIKKOUは、素材からして厳選した荒縄を使用し……”」

ζ(^ー^*ζ「あはっ、厳選した荒縄って何!?」

二人が物珍しげに笑いあう後ろでは、一人の細身の青年が通り過ぎる。
気取られぬよう、気恥ずかしそうにしながら。

(;-_-)(くそ………カッコ良いと、思っていたのに………)

その胸元は、亀甲のように結ばれた荒縄が括りつけられていた。

492名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:56:22 ID:QIfJHTTE0

─────

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───────────────


( ●..● )(おい、起きろ)

( ´ω`)「にゃむ……もう、朝かお?」

( ●..● )(馬鹿言ってんじゃねぇよ、もう夜だ)

(;`ω´)「はうッ!」

目覚めると、そこはやはり暗闇だった。
スコット達がそろそろ話し合いを始めるであろう現場に、立ち会わなければならない。

何故だか、悔しいような夢を見たような気がした。

493名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:56:29 ID:D8fSoqqA0
おお支援!まってたぞ

494名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:57:08 ID:QIfJHTTE0
>>493
ξ゚⊿゚)ξ「ガイアが……囁いてる……」

495名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:58:04 ID:QIfJHTTE0

( ●..● )(どれ、もうぼちぼち全員が集まってるはずだ。行くぞ)

( ^ω^)「おっおっ、分かったお」

暗闇から溶け込んでくる景色には、一度見覚えがある。
確かここに来てから一番最初に訪れた、依頼人であるイームズの家だ。

彼が揺られるように腰掛けるロッキングチェアが置かれた広間には、もう全員が集まっていた。

496名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 19:59:17 ID:QIfJHTTE0

村長の息子、スコット。

ノ∫^・_ゝ)

青年達の想いの渦中にある村娘、マリエル。

ノルマ゚ -)

腕の良いパン職人、テッド。

(・く_・川

そして、ブーン達にマリエルの婚約者候補を見極めるよう依頼した、イームズ。

(^・_v・^)(………)

( ^ω^)(………)

彼だけは、この場に現れた見えないはずのブーンと死神の二人に対し、一度だけ視線を送って会釈した。
周囲の若者達からはほとんど気付かれない程度だったが、見逃さなかったブーンは、それに返す。

497名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:00:25 ID:QIfJHTTE0

状況をいまいち理解出来ていないのであろうか、テッドがおずおずとスコットに尋ねた。

(・く_・川「スコット。この──皆を集めての話というのは……」

ノ∫^・_ゝ)「これは、君の問題でもある。まず聞く、テッド───君は、マリエルの事が好きか?」

(・く_・;川「そ───」

ノルマ -)「………」

(^・_v・^)「………教えてくれないか、テッド。大事な事なんだ」

皆が見守る中、少しだけ自分の本心を吐き出す事を躊躇ったテッドだったが、
促したイームズの言葉と表情の中に、真剣さを感じ取ったか、すぅ、と息を吸い込むと、
彼もまた真剣そのものの顔つきで、自信を持って言い放った。

498名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:01:46 ID:QIfJHTTE0

(・く_・川「───好きです。マリエルの、事が」

ノ∫^-_ゝ)「………その言葉が、聞きたかった」

ノルマ -)「………」

(^・_v・^)「良く言ってくれたね。ここにいるスコットが、君が自分に気を使ってしまって
       マリエルに気持ちを伝えられずにいる事を、気に掛けていたんだ」

イームズの言葉に、スコットもまたこくりと頷いた。
それはマリエルにとっても喜ばしい言葉かも知れないが、今この場では粛々と受け止めているようだ。

(・く_・川「スコット……」

ノ∫^・_ゝ)「君が、本当は彼女と共にヴィップへ行きたいというのは分かってるんだ。
      そろそろ、その本当の気持ちを教えて欲しい」

(-く_-川「………それは」

499名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:03:00 ID:QIfJHTTE0

ノルマ -)「私の事なんて、気にしなくてもいい───だけど」

ノルマ゚ー)「いつか、私に教えてくれたじゃない。”世界一のパン職人になるのが夢なんだ”って」

ノルマ゚ -)「その夢を……ヴィップで店を出すのを、諦めるの?」

(-く_-;川「だ、だけどっ!」

このまま行くと、彼らの話は堂々巡りで問いの答えに行き着く事はないだろう。
そろそろか、と小声で呟くと、イームズは重い腰を上げ、テッドの傍らに立った。

(^・_v・^)「テッド、君は───何よりも、私に気を使っているんだろう?」

(-く_-;川「そんな……そんな事は……」

(^・_v・^)「嘘をついて騙そうとしなくていい、自分の気持ちを、ね」

ノルマ゚ -)「………お父さん」

そう言って、マリエルとテッドの肩を抱き寄せて、交互にその表情を見やった。
それは、決して彼らの本心を責めるようなものではなく、それどころか慈愛の込められた瞳だった。

500名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:04:32 ID:QIfJHTTE0

(^・_v・^)「マリエル。お前だって夢を諦めてしまうのかい?
       ―――テッドを”世界一のパン屋を支える”という夢を───」

ノルマ゚ -)「………でも……私は、お父さんを一人置いてなんてッ」

心が張り裂けんばかりの悲痛を込めた彼女の叫びは、優しい父の言葉に押し留められた。
父親の腕の中へと抱き寄せられたマリエルの瞳からは、つぅと光るものが伝う。

(^-_v-^)「すまない……そして、今までありがとう───マリエル」

( く_ 川「………イームズ、さん」

ノルマ; -)「………嫌、いや……だよ」

(^・_v・^)「二人共、私の事なら心配要らないさ。私は、今生きている事が奇跡なんだ」

( ●..● )(………まぁな)

そう言って、イームズはくい、と指をブーン達の方へと指した。
彼らからしてみればそこは何も無い空間だろうが、確かにこの場にはブーンと、そして死神が立っている。

501名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:05:23 ID:QIfJHTTE0

(^・_v・^)「実は、もうとっくに来ていた迎えも、そこで待たせていてね───」

ノ∫^・_ゝ)「イームズさん……後の事は、心配要らないと思います」

(^・_v・^)「スコット。今後は村を切り盛りする立場だが、無茶をしない程度に頑張ってくれよ?」

ノ∫^-_ゝ)「そのお言葉、しかと心に留めておきます──」

(^・_v・^)「あぁ……そして、テッド」

(・く_・川「───はい!」

はっきりと返事をして、ぴんと背筋を伸ばしたテッドの表情には、普段の気弱さが面影も見られなかった。
イームズの言葉に後押しされて、どうやら彼も決意の固まった───そんな表情だ。

502名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:06:33 ID:QIfJHTTE0

(^・_v・^)「マリエルの事を悲しませたら……承知しないぞ」

(・く_・;川「はッ、はひっ!お、お任せをッ!」

元暗殺者だというのは伊達ではないらしい。
娘を預ける親としては憎き相手でもある若者に、凄みを効かせて圧力をかけた。
たじろぎながら、それでもしっかりと返事をしたテッドに、最後には白い歯を見せたが。

(^・_v・^)「マリエルの事は……任せたよ」

ノルマ; -)「お父さん……どこにも行かないで……!私は……ここに───」

(^-_v-^)「嬉しいよ……マリエル。そして、今まで───ありがとう」

最期の力で、マリエルは抱き寄せたイームズの腕からは、次第に力が失われていく。
それがマリエルからは分かったのだろう、泣き叫びながら、父に呼びかけた。

(・く_・;川「イームズさんッ!」

ノ∫^;・_ゝ)「早くッ!医者を……!」

503名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:07:30 ID:QIfJHTTE0

(^-_v-^)「二人共、もういいんだ……私には、長すぎる時が与えられた」

ノルマ; -)「駄目ッ!死んじゃ嫌よ!お父さん───!」

(^-_v-^)「三人とも……雲の上から応援しているよ………そろそろ、お迎えだ───」

イームズの身体からは薄らと白いもやのようなものが漏れ出し、それが彼自身の姿を形作っていく。
身体から生命力が抜け出すかのようなそれは、人の魂というものなのだろうか。

( ●..● )(………やるぞ、イームズ)

( ^ω^)「これは───」

これまで沈黙を保ってきた死神が、背にある大鎌の柄を掴むと、イームズの前に振りかぶる。
もやがイームズそのものを形作ると同時に、彼の肉体は地面へと倒れ込んでいった。

亡骸となってしまったそれに群がり、泣き叫ぶ若者達の姿を尻目に、イームズが礼を述べる。

504名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:08:10 ID:QIfJHTTE0

(^・_v・^)(ブーンさん。どうやら、上手く事が運んでくれそうです───ありがとうございました)

( ^ω^)「いや……多分ブーンは、礼を言われる立場には無いお」

( ^ω^)「三人が同じ思いを抱いていたからこそ、この答えに行き着くまで遠回りしてしまったんだお」

(^・_v・^)(自惚れになりますが……そうかも知れませんね)

( ●..● )(そうだな───お前に気を使いすぎてたんだよ、あいつらは)

( ^ω^)「けど……きっと、そんな優しさを持ってるあの若者達なら、後の事は心配いらないお」

(^・_v・^)「実は、私もそう思っているんです」

そう言って、屈託無い笑みを浮かべたイームズの表情は、この世に何の未練も残さず、
全力で人生を生き抜いたであろう証の深い皺だけが、笑顔の中に刻まれていた。

間を見計らっていたのか、死神が問いかける。

505名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:09:02 ID:QIfJHTTE0

( ●..● )(随分と待たせてくれたが、もう……いいな?)

(^・_v・^)(それなんだが、最期にもう一つだけ我侭を聞いてはくれないか?)

( ●..● )(……ったく)

(^・_v・^)(村の裏手の墓地だ……一人、墓参りを済ませておきたい相手が居てね)

( ^ω^)「ブーンも、見届けさせてもらうお」







506名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:10:20 ID:QIfJHTTE0

村の裏手、ひっそりと花畑の中央に佇むようにして、そこには小さな碑石が立っていた。
どこか見覚えのある花は、確か昼間にマリエルが崖下で摘んでいた、蓮華草だ。

(^・_v・^)(ここだ……すまないが、もう少しだけ待っていてくれるか)

( ^ω^)「勿論ですお」

( ●..● )(まぁいいけどよぉ……全く、人間ってのは面倒くせぇ生き物だぜ)

一仕事終えて開放的な気分になっているのか、死神が饒舌に悪たれていた。
「まぁまぁ」とブーンがたしなめる横では、その小さな碑石に対して、イームズが目を閉じて両手を合わせる。

(^-_v-^)(本当に………難しいものだよ。父親というのは)

そう言って立ち上がったイームズが、死神の方へと振り返り、両手を広げた。

「やってくれ」という合図であろう。

(^・_v・^)(だが、我ながら良い人生を歩めたと───自分を褒めてやりたい)

507名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:12:44 ID:QIfJHTTE0

( ●..● )(………もう、言い残す事はないな?)

(^・_v・^)(あぁ、待たせて悪かったな────”ゼフ”)

( ^ω^)「………!」

その名は、イームズが今しがた手を合わせていた碑石に書かれていたものと、同じだった。

( ●..● )(………)

イームズの前に鎌を振りかぶっていた死神の動きが、ぴたりと止まる。
依頼人である彼自身の口から聞いたその名が、今この場で飛び出た事に驚いたが、納得する事は出来た。

それは、妙に人間臭い死神の、垣間見る事は叶わない表情や言葉の端から。

508名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:13:46 ID:QIfJHTTE0

( ●..● )(いつから気付いてた?)

(^・_v・^)(最初にお前が私の前に現れた時からだよ……びっくりさせてやろうと思ってね)

( ●..● )(ふん……お前らしいぜ。まぁ俺としては、こうして仕返しが出来て嬉しい限りだ)

(^・_v・^)(私としても───最後に死神を務めてくれる相手が、お前で良かったさ)

( ●..● )(………口約束なんぞを律儀に守ってくれやがって───ご苦労なこった)

(^・_v・^)(それはそれは、大変な毎日の連続だったさ)

( ^ω^)「………」

そこには、死神と人間同士、何の衒いもなかった。
こ憎たらしげに───しかし仲睦まじく対話しているイームズの表情には、
長らく会う事の無かった旧友へと向けるような、そんな笑顔が滲み出ている。

それは恐らく、髑髏が覆い隠す仮面の奥にある、死神の表情にも見て取れるようだった。

509名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:14:51 ID:QIfJHTTE0

( ^ω^)「さよならだお、イームズさん」

(^-_v-^)(えぇ………今度、お礼に伺いますよ)

( ●..● )(今度こそ、行くぞ)

死神の鎌は、景色をも歪ませながら、触れる物全てを切り裂くような鋭利さで振るわれた。
魂の緒、今のでそれを刈り取ったのだろうか。

( ^ω^)「化けて出るのは、勘弁して欲しいおね」

(^・_v・^)「………ありがとう、ございました」

ブーンの最後の言葉は、彼に届いたようではあるが。

( ^ω^)(さようなら、だお)

天へと登ってゆくイームズの魂に別れを告げていると、
ブーンの身を、急速に引き寄せられるような衝撃が襲った。

( ●..● )(お前さんももう用済みだ───じゃあな)

(; °ω°)「おっ……ふおぉぉぉッ!?」

そう言った死神がブーンに手をかざした瞬間、目の前の景色は見る見る遠ざかってゆく。
依頼の約束はどうなったのだろうか───もしかして、騙された?

510名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:16:04 ID:QIfJHTTE0

───────────────



──────────

─────

やがて真っ暗な空間へと飛ばされたブーンにそんな疑問が過ぎた時、声が聞こえた。

(心配すんな……このまま現世に飛ばしてやる)

(; °ω°)「び、びっくりさせんなお!」

このまま死神に裏切られてあの世に飛ばされたら、恨んでも恨みきれない所だ。
───現世では果たしてどれだけの時間が経っているのだろうか、皆心配しているだろう。

急に生き返ってびっくりさせてやろうか、そんな事を考えて、にやにやしてしまう。

511名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:16:47 ID:QIfJHTTE0

「……げ……も……よ」

( ^ω^)「ん?」

暗闇をたゆたうブーンの耳に、微かに聞こえた声。
それに耳を澄ましてみると、今度ははっきりとそう聞こえた。

「逃げられると、思うなよォッ!?」

(;^ω^)「なッ!」

(#▲,,▲)(───待ちやがれぇぇぇーーーッ!)

それは、昼間自分達に殴られた、あの性質の悪い死神だった。
後ろを振り返ると、ゆっくりと引き寄せられていくような自分とは対照的に、
ものすごい速度でこちらに向かって迫ってくる。

その手には、大きな鎌が携えられていた───────

(; °ω°)(……やっべぇお!)

512名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:17:43 ID:QIfJHTTE0

とてつもなくまずい状況だった。
今の自分では、あの鎌をこの身体に一振りされてしまえば、
今度は死者として向こう側に引き寄せられてしまうだろう。

しかして、丸腰である今のブーンには、それから身を守る術などなかった。

(;`ω´)(くそッ!あと少しって所なのに………どうしたらいいお)

「”ったく……こんなこったろうと思ってたぜ”」

不意に、頭の中にここ最近で最も聞き慣れた声が聞こえた。
すぐにピンと来たブーンは、その名を叫ぶ。

(;^ω^)「!───あんた、ゼフかお!?」

513名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:19:29 ID:QIfJHTTE0

「”その名で呼ぶんじゃねぇよ───いいか、よく聞け。最後に手助けしてやる”」

(;^ω^)「丸腰じゃ、どうする事も出来ないおッ!」

「”だから……よく聞けっての。お前が普段使ってる得物を想像しな───そいつを、この場に具現化してやる”」

(;`ω´)「………!」

(#▲,,▲)(うらぁぁぁぁぁぁッ!!)

目の前には、鎌を持って迫る死神。
だが、その光景に集中力を途切れさせてしまえば終わりだ。

「生きて帰る」
それを心に刻みながら、相棒の死神の言葉を信じて、ただ実行した。

―──間もなく、一瞬目の前の死神が怯む程の輝きを放ちながら、愛剣が目の前の宙空へと顕現する。
父が唯一つブーンへと遺した、龍の彫刻が施された長剣が。

514名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:20:47 ID:QIfJHTTE0

「”成功したようだな……だが、干渉してやれるのはここまでだ、生き返りたいなら、後は自分で何とかしな”」

(#`ω´)「───ふおおおおぉぉぉぉーーーッ!!」

(#▲,,▲)(なッ……てめぇッ!!)

その柄を両手で掴んでから、眼前までに迫っていた死神に斬撃を放つまでには、一秒もかからなかった。
生と死とを分かつ、闇が支配する空間の中で────剣と鎌とがぶつかり合って火花を散らす。

完全に意表を突かれたか、死神の鎌はブーンの打ち込みをどうにか堪えると、身ごと背後の空間へと後退する。

(;`ω´)「良いタイミングだったお!”相棒”!」

「”まぁな。だが───気を付けろ、その鎌に斬られれば、お前の魂はこっちに堕ちちまう”」

(;`ω´)「この不安定さでは、難しい注文だおね……」

515名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:22:42 ID:QIfJHTTE0

「”チッ……時間切れか───いいか、”声”に───”」

(;`ω´)「声に……!?何だってお───」

それきり、相棒の声は途絶えてしまった。
どうやら手助けできる限界が来てしまったのだろう。

だが、勝ち目ゼロからの状態からは、随分と分が良くなったものだ。
この状況ならば、どうにか打ち破ってみせる。

(ケヒャアァァァァァッ!!)

(;^ω^)(消え────)

そこで、一瞬目の前で鎌を振りかぶった死神の姿が、眼前から完全に失せた。
認めたくもない事実だが、忘れていた───目の前のこいつは、仮にも死神なのだ。

516名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:23:48 ID:QIfJHTTE0

じっと剣を構えながら、全方位へ向けてただ神経を張り巡らせる。
だが、いつまで経っても視界にその姿は映らない。

いつ、どこから斬られるか分かったものではない。
ただ一撃触れられただけで、自分は死人になってしまうのだ。

たゆたう空間の中で、波のように流されてゆく感覚もいつしか無くなっていた。

(;^ω^)(どうすれば、いいお───!)

「”………”」

強く念じても、相棒の力はもはや此処までは届かないのだろう。
彼の言葉通り、あとはこの状況を一人でなんとかするしかないのだ。

(;^ω^)(そういえば、”声”って……)

死神が最後に言っていたその言葉を鮮烈に思い出したのは、微かに耳に届いた、懐かしい声のお陰だった。

517名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:25:01 ID:QIfJHTTE0


「”馬鹿ッ……ブーンッ!”」

ξ゚⊿゚)ξ



(;^ω^)「───ツンッ!?」

”がきんっ”

(;▲,,▲)(……なにィッ!?)

背後へと迫っていた死神の鎌を咄嗟に打ち返す事が出来たのは、自分の名を呼ぶ
”声”の方へと振り返ったお陰だった。

( ^ω^)「……どうやら、行き先が分かったお」

耳を澄ましてみれば、次第に自分を呼びかける声たちは大きくなっていく。

518名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:26:11 ID:QIfJHTTE0


「”おいおい……洒落にもならんぜ、酒場で頭打って人生終了なんざよぉ”」

爪'ー`)y-



( ^ω^)「……フォックス、今に面白い酒飲み話のタネを持って帰ってやるから、待ってるお!」

(#▲,,▲)(死神様を相手に───人間なんぞがァッ!!)

人間よりも高位の存在だと驕り高ぶった死神なのだろう。
こちらを侮ってくれているならば、あながち怖い存在でもないな、と思えてきた。

何よりも、仲間がすぐ近くで待ってくれているからだろうか。頼もしい限りだ。
頭を狙った横なぎの一撃を、軽く肩をすくめながら首を傾けかわす。

519名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:27:24 ID:QIfJHTTE0


「”僕にもお手上げだ……後は、本人の生命力に託す他ない……”」

(´・ω・`)



( ^ω^)「ショボン!すぐにびっくりさせて、いつものクールな表情を引き剥がしてやるからおね!」

再び、自分の身体は波に押されるようにして流され始めた。
死神の背後、遠くには微かに煌いている光が見える。

( ^ω^)「仲間が呼んでるんだお───もう、お前なんか怖くないお」

(#▲,,▲)(ナマ言いやがって……おっ死ね!うるあぁぁぁぁッ!!)

荒ぶった感情のままに繰り出された、理性もくそも無い打ち込みへの対処は簡単だった。
真上から肩口へと振り下ろされた鎌を、かっちりと背に待ち受けた剣で受け止める。

520名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:28:44 ID:QIfJHTTE0

(#`ω´)「邪魔だお───そこを、退くおおおぉぉぉーーーッ!!」

(;▲,,▲)(ッんな、アホなぁッ!?)

生憎と、馬鹿力だけは取り柄なのだ。
鎌を受け止めた勢いを、押し返させる事もさせずにそのまま倍の力で返した。

(;`ω´)「────おおおぉぉッ!!」

( △,,△)(………あッ………がぁゥッ)



───背から真正面へと描いた弧月は、間の抜けた声で叫んだ死神の身体をそのまま引き裂きながら。

    ブーンの身は、程なくして光の向こうへと吸い寄せられていった──────


───────────────


──────────


─────

521名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:30:35 ID:QIfJHTTE0

───交易都市ヴィップ 【失われた楽園亭』───


どうやら、現世のヴィップでは四日間もの時間が経過していたらしい。

ξ;⊿;)ξ「………えっ?」

今では断片的な記憶しか思い出す事が出来ないが、どうやらあの光に吸い込まれたあとの自分は、
肉体に戻ってからの二日間を眠って過ごしていたらしい。

(´・ω・`)「………確認しておくけど、ゾンビという訳ではないだろうね?」

途中、完全に呼吸の止まっていた自分だったが、パーティーの仲間たちの頼みでマスターが一室のベッドに
ずっと寝かせてくれていたらしい─────魂が生きているのに、肉体がもし葬られたらなどと考えると、冷や汗ものだ。

爪'ー`)y-「よしッ……生き返ったか。なぁに───お前が息を吹き返す方に、100sp賭けてたのさ」

522名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:31:51 ID:QIfJHTTE0

急に生き返って驚かせてやろうと考えていた作戦があったが────
それは、喜んでくれた仲間たちや、自分の為に涙してくれたツンらの手前、胸にしまっておく事にした。

( ^ω^)「………んお?」

ベッドから起き上がった時、胸元に違和感を感じて毛布を取り払った。
すると、酒場のカウンターに立てかけておいたはずの自分の剣が、寄り添うようにして置かれていた。

今にしても思えば、あの死神が助けてくれたという事実の証なのだろうか。

─────

──────────


───────────────

523名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:32:43 ID:QIfJHTTE0

それから更に、数日が経ち、そろそろ次の冒険に行く話がパーティー内で話されていた時だった。
一度死んで死神の元を訪れていた、などというブーンの熱弁は一笑に附され、新たな談笑のタネにされていた。

楽園亭の扉が開いて、誰かが宿に入って来たことなどにも気付かず、ブーンはなおも真実を訴える。

(;`ω´)「だ・か・らぁッ!その───マリエルって娘さんの親父さんが!」

爪'ー`)y-「……もう飽きたっつーの、その作り話」

(´・ω・`)「僕としては興味を惹かれるけどね」

ξ゚⊿゚)ξ「けど、死神がいい人だなんて、斬新だとは思うわよ?」

いくら熱く語ろうとも、彼らにはまるで取り合ってもらえなかった。
確かに、これほど微細に渡って説明出来てしまうなどと、逆に現実味に欠けるかも分からない。
「大陸ではまだ聞いた事の無い作り話だな」などと、心外な評価を得てしまっていた。

524名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:34:16 ID:QIfJHTTE0

ひときわ煩いそんなパーティーの席を尻目に、カウンターでグラスを磨く
マスターの元に、楽園亭を訪れた一人の少女が話しかけた。

(’e’)「ん?……いらっしゃい……あぁ、そうだが」

(’e’)「悪いことは言わんが……ん?そうか……それなら」

(’e’)「……あれだよ、お嬢さん」

ノルマ ー)「───!」







(;`ω´)「どわからぁあぁッ!そのッ、マリエルって娘がだおね!?」

525名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:35:41 ID:QIfJHTTE0

叫びすぎて声を枯らしたブーンが咳払いをしていると、マスターがカウンターから叫んだ。
その言葉に、ブーンを相手にしていなかったパーティーの面々の動きが、一瞬止まる。

(’e’)「おーい、ブーン!マリエルって娘さんがお前に用事だとよ!」

爪;'ー`)y-「……んあっ!?」

(´・ω・`)「────こいつは」

ξ;゚⊿゚)ξ「驚いた、わね────」

(;^ω^)「………へっ?」

ノルマ゚ー)「………!」

何よりも、一番その事に驚いたのはブーンであった。
こちらに気付いてから、ぺこりと頭を下げた彼女は、確かにあの時のマリエルだ。

とは言え、向こうからしてみれば初対面であるのだが───

526名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:36:54 ID:QIfJHTTE0

ノルマ゚ー)「えと、ブーンさん……ですよね?」

(;^ω^)「そ、そうだけどお……なんで、ブーンの事を知ってるお?」

ノルマ゚ー)「父の日記にあったんです───生前、ブーンさんのお世話になったって」

( ^ω^)「そういう事だったかお………」

聞くまでも無い問いで、もしかしたら彼女を傷つけてしまうかもしれない。
だがここは、聞いておかぬほうが不自然に取られかねないから、あえて尋ねておいた。

( ^ω^)「その……という事は、イームズさんは」

ノルマ ー)「……先日、病でこの世を……」

( ^ω^)「……辛い事を、聞いたお」

やはり、まだ若い娘だ。
大切な人を失った傷跡は、そう簡単に癒えるようなものではないだろう。

だが、次の瞬間顔を上げた彼女の表情には、そんな悲しさばかりではなかった。

527名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:38:02 ID:QIfJHTTE0

ノルマ゚ー)「でも、私その分───精一杯生きるって決めたんです!」

ノルマ^ー)「夢を見て生きて、元気に明るく過ごして───それが、父さんの一番の願いだっていうから!」

( ^ω^)「……おっおっ!そうだお、イームズさんも、きっとそれを望んでいるお!」

ノルマ゚ー)「はい───それで、これ。父から預かってきたんです」

( ^ω^)「おっ?」

彼女の手から受け取った麻袋は二つ。
芳しい香りを放つパンと、若干の銀貨が詰まったものだった。

その袋の口を留める麻紐の端には、それぞれ一輪の花が結わえられていた。

528名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:39:59 ID:QIfJHTTE0

ノルマ゚ー)「父が、この150spをブーンさんに渡してくれって。父の荷物を片付けている時に、出てきたんです」

( ^ω^)(………イームズさん)

ノルマ^ー)「本当は300sp渡す予定だったけど、”ブーンさんは何もしてないから報酬半額だ”……って」

( ^ω^)(ズコーーーーッ!)

ノルマ゚ー)「あと、もう一つは私の主人と、この街で開くパン屋の新商品なんです。気に入ったら、店にも来て下さいね!」

( ^ω^)「ありがとうだお───美味しく頂かせてもらうお」

ノルマ^ー)「……っ、それじゃ、私はこれで!」

「やっぱり、何の憂いも必要なかったようだお、イームズさん」
心の中で、今この瞬間も彼女の姿を見守っているであろう彼に、心の声を投げかけた。

彼女は、彼女たちはこの町で明るく、そして強く生きていくだろう。

529名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:41:17 ID:QIfJHTTE0

去り際に彼女は一度振り返ると、またブーンがぎょっとするような問いを投げかける。

ノルマ゚ー)「あのっ、ブーンさん……私たち、どこかで会った事ありません?」

(;^ω^)「むふッ!?ぶひっ……そ、そうだったかおねぇ?」

ノルマ-ー)「思い違いかな?───なんだか、そんな気がして……」

( ^ω^)「………案外、どこかですれ違ってるかも知れないお」

ノルマ゚ー)「そっかぁ。でも、この街にいる以上───また会いましょうね!」

( ^ω^)「うん───また、会おうお」

元気に大手を振って宿を後にしていく彼女の後ろ姿をいつまでも見守っていたブーンの肩を、
これまでの話をあんぐりと口を開けながら呆気に取られて聞いていたパーティーの面々が、つんと叩いた。

530名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:42:39 ID:QIfJHTTE0

爪;'ー`)y-「お、おい……ブーンよぉ」

(´・ω・`)「会話の端々から、ブーンの言っていた人物の名前が聞こえたね」

ξ;゚⊿゚)ξ「ま、まさかあんた───本当に死んでたの?!」

(*^ω^)「―──おっおっ、だから言ったお!少しは驚いたかお!?」

得意げにするブーンの様子に、また面々は少し白けてしまうが、
たまたま彼らの席の横を通りすぎた仕事中のデレが、ブーンが手にする麻袋の留め紐に気付いた。

ζ(゚ー゚*ζ「あ、その花………この辺りじゃあまり咲かないんですよ?」

( ^ω^)「……おっ?」

ζ(゚ー゚*ζ「”蓮華草”って、ほのかな薄紫色が綺麗ですよね」

「花言葉は───何だったかなぁ」

531名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:43:40 ID:QIfJHTTE0






   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             第7話

           「魂の価値」

532名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:45:02 ID:QIfJHTTE0



「あっ……思い出しました!」




──────「蓮華草」



           花言葉は─────




───────”私の幸福”―――――――

533名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:47:16 ID:QIfJHTTE0



   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

              第7話

            「魂の価値」


             ―了―

534名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:47:38 ID:el8S.Jqc0

面白かったです

535名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:52:04 ID:D8fSoqqA0
乙! 7話もおわりか
やっぱりシリアスさと、ある種のお茶らけた感じがうまく調和していていいね
さぁ、芸さんにまとめてほしいと叫ぶがいい

536名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:52:49 ID:QIfJHTTE0
これでやっと今後は三話ぐらい連続で書きたいものが書けるZE★
ぶつ切り投下さーせんしたッ

537名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 20:57:35 ID:QIfJHTTE0
>>535
悔しいけど……マトメテ欲しいビクンビクンッ

まぁ一週間おきに「ヴィップワース 感想」でググっちゃうようなアレな子なんで、
もし、億万が一纏められたりしちゃったりしたら失禁脱糞は元より、発狂しちゃうかも知れませんが。
幕間含め話数もぼちぼち溜まってきたかな?という所ですので、もし纏められたら嬉ションですね。

538名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 21:15:42 ID:RwwoNbksO
きてたのか


539名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 22:00:10 ID:ThQ1Gw8sO

せっかくのソロなのにいいとこなしだなwww
そこがブーンらしいのかもしれんが

540名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 22:13:06 ID:RuyzMnZYO
新着投下来てた 
 
誰も>>537のレスは芸さんの掲示板には貼るなよ 
 

あの人はここを必ず見てくれてるはずだ

541名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 22:40:12 ID:QIfJHTTE0
>>540
私女だけど、投下し終えた時の作者は一種の躁状態だから、
確かに見せない方がいいかもね。

542名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 23:56:12 ID:QIfJHTTE0

黒く広大に広がる森を、虫達の協奏曲が木霊する。
最初は耳障りだとも思ったが、今では何だか聞きなれたものだ。

あれから、この森に入ってから───一体何日経った?

この決して手の届かぬ頭上で────まるで己をあざ笑うかのように
煌々と満ち満ちた月を目にする夜は、あれから幾度目を数えている?

大丈夫。

だが、しかし、きっと今夜こそは、大丈夫だ───

睨みつけるようにして月の光を凝視している内、言いようの無い不安が押し寄せる。
それでも、今夜こそは何としてでも己の培ってきた精神力で押さえつけてみせ 意識が飛

543名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 23:57:04 ID:QIfJHTTE0




   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             幕間

           「遠吠え」

544名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 23:58:11 ID:QIfJHTTE0

思考がどこかへと跳躍したと認識した瞬間には、決まってこうして
目の前の光景が、いつの間にか数秒前のはずの記憶から移り変わっている。

その惨劇が、最初はただの悪夢で、実際には起こりえない現実だと認識していた。

今にして思えば───あまりに甘い。

「ぎゃ………ッ」

短い悲鳴を残して、一人の腕がもげた。
いや、どうやら腕ごと上半身の大半を抉ったようだった。

どくどくと大量の血を噴出させながら、冒険者の一人は倒れる。
そのままゆっくりと歩みを進める獣の前に抗う術無く、メキ、と音を立てて首を齧られた。

骨を噛み砕き、肉を味わう咀嚼音が、彼らにも届いているのだろう。

545名も無きAAのようです:2012/04/06(金) 23:59:27 ID:QIfJHTTE0

「ひッ」

瞬時に一人が戦闘不能となり、もはや戦意を失ったか───
いや、かと思えば、まだ一人の冒険者はやる気のようだ。

相対するケダモノに向け、しっかりと剣を構えている。

(やめろ)

それは、あまりに無謀だった。
そんな事をするよりも、10割の力全てを闘争よりも逃走へと費やす方が賢明なのだ。

(逃げろ)

少しでも可能性のある方を、彼らに選んでもらいたかったのは本心だ。
だが、無常にも獣の爪牙は、容赦なく的確に、迅速にその冒険者の戦闘意欲と共に、生命力を削いだ。

546名も無きAAのようです:2012/04/07(土) 00:00:38 ID:dR6SjzjQ0

まるで、戯れるかのような獣の動作一つが、人間一人に対し、致命的な欠損を肉体に負わせていく。

「な、なんだ!こいつッ!」

(嗚呼、皮肉なものだな)

目の前の旅人は、獰猛極まりない獣に襲われる最中、無意識なのか意識的なのか、両手を前へ出した。
言葉の通じない獣に対して助けを乞おうと差し出されたであろうその腕は、すぐさま噛み千切られる。

「ひぃぃ……ぎゃああっぁぁぁぁぁぁっ!」

それを冷静に、無感情で目の前の光景を見過ごしている自分が、どうしようもなく許せない。
まるで自分には全く関係が無いかのように、その自分の目の前で、何一つ非の無い旅人が喰らわれているのだ。

それが行われているのは、獣としての食の本能だろう。

それでも、助けなければ───

547名も無きAAのようです:2012/04/07(土) 00:01:47 ID:dR6SjzjQ0

だが、たゆまぬ鍛錬の元に鍛え抜かれてきたはずの身体は、石のように動かない。
いや───そもそも、自分の肉体はそこに存在しているのだろうか?

かつて、誰より闘争を好み、そして誰より強くなる事を望んだ。
その肉体は、何故か地に根を張ってしまったように、意思に呼応する事はなかった。

「来るな……来るなぁぁぁぁーッ!」

(───止め『グルオオォォォォォッ!』ォーッッ───)

若者は恐らく三人でこの山を訪れていたのだろう。
仲間が一人ずつ、腸を撒き散らしながら助けを求めて息絶えてゆく様は、
彼らに取ってはいかに絶望的で、言いようもない凄惨さをもたらすのだろう。

数秒前に、誰かが耳元で叫んだような気がした。

548名も無きAAのようです:2012/04/07(土) 00:03:02 ID:dR6SjzjQ0

この”飢え”という名の衝動を、否定したい自分が居た気がする。
だけど、自分が誰だか、今は、この瞬間だけは解りたくない。
自分が何であったかも、それすらも。

「じヴんとは────ナんダ?」

背筋に怖気が伝う程の声量で、はっきりと耳元でそれが聞こえた。
命に対して分別など持たぬ、ただ己の欲求に従い続けるだけのケダモノの声が。

そのケダモノの前に、打ち消されてしまっている。

ミタジマ流の、師父の、兄弟子たちの、弟分たちと───!
これまでしのぎを削って鍛錬に明け暮れ、身に着けてきた技も!力も!心も!

全てが。

549名も無きAAのようです:2012/04/07(土) 00:04:17 ID:dR6SjzjQ0

かつて血反吐に塗れて習得したはずの奥義が、自身の精神力の奥底に住まう黄金の蛇ですらが。
この魔力を帯びた獣による束縛から、己を解き放ってくれる事が出来ずに居た。

(応えてくれ───”螺旋の蛇”───俺の叫びに───)

(そうだ、俺はミ『グふフふふ……』アガのはずだッ)

当てつけるかのように、厭らしい事極まりない下卑た笑いが返される。

この手に手刀を繰り出せる自由が与えられているのならば、耳を捥ぎ取ってしまいたい。
先ほどから叫んでいるはずの声は己の内へと押し留められて、汚らわしい悪意に満ちた言葉だけが。

────そしていずれ、その声は自分の喉から発されているのだと気付く。

550名も無きAAのようです:2012/04/07(土) 00:05:06 ID:dR6SjzjQ0

「おレは………ナんだ」

(俺は、こんなケ『コれが、ヲまエの望ンだ姿ダ』にはなりたくない──!)


─────

──────────


───────────────




やがて、全てが終わった。

551名も無きAAのようです:2012/04/07(土) 00:06:24 ID:dR6SjzjQ0

今宵の犠牲者は、この森に立ち入ったのは三人の冒険者達だった。
皆が剣を持ち、そこらの妖魔程度ならば軽々と追い払えたはずだ。

だが、今夜は違った。
今夜の月は、違ったのだ。

丸々と満ちた月は、夜空に煌々と輝きながら、ただ佇む。
この輝きの下に照らし出される度に、このケダモノは俺の内から這い出ると、暴れだすのだ。

再び己が俺自身を取り戻した時には、消えかけた松明がぼんやりと照らすのは、無残な肉塊が転がる光景。

それ見てまたぷるぷると拳を、唇を震わせながら三人の旅人の人生を終わらせてしまった事実を認識すると、
またいつもと同じように、決まって俺はその場へと倒れこみ、突っ伏す。

この夜は───初めてではない。

552名も無きAAのようです:2012/04/07(土) 00:07:29 ID:dR6SjzjQ0

最初の内は一人、その次は五人、その次は───何人か、思い出す事が出来ない。
数日前には口の中に髪の毛が絡みついているのに気付き、凄まじい嘔吐感で死骸の全てを吐き出した。

───だが、今日になってはそれがないのだ。
次第に、人としての感覚から遠ざかっていってしまっているのだろうか。

欲求に打ち勝つ事の出来なかった自分の弱さ、脆さに涙した事も確かにあった。
それも、二つくらい前の夜からは一筋の涙すらも流れてはこなくなったが。

孤高に行き、そして孤独のまま死んで行く。

そう、心に決めていたはずの自分の信念は、今では言いようも無い程に歪みきっていた。
己がその最期を看取ったはずの獣の獣心と、それを増幅させる月の魔力の下で。

553名も無きAAのようです:2012/04/07(土) 00:09:05 ID:dR6SjzjQ0

あるいは、俺の深層心理には芽生えていた暗い部分は。
闘争に明け暮れてきた俺の本質は───こんなもの、だったのか。

こんな、浅ましい─────ヒトが恋しい、肉が。

(人ヲ喰イタイ人ヲ血ヲ肉ヲ『黙れ───黙れえぇぇぇぇぇぇッ!!』喰ワセロ肉ヲモット血ヲ人ノ)

「お前は……俺は!ミル『違ウな。ヲまエはオれだシ、オれはヲまエだ』ガのはずだぁぁぁッ!!」

人としての意識が、高潔であったはずの精神が。
次第におぞましく、汚らわしい獣のそれへと、塗りつぶされてゆくのが分かる。

死のう───自ら命を絶てば、己は人間のままで逝けるのだから。
幾度そう思った事か、自分の喉下へ手刀を突き出そうとも、獣にそれは阻止された。

554名も無きAAのようです:2012/04/07(土) 00:10:14 ID:dR6SjzjQ0

命の危機に至ろうという時点で、自らの生に浅ましいケダモノはそれを察知し、這い出して来る。
だからこそ、もう自分はやがて誰かに殺されるまで、あるいはこの森で孤独に飢え死ぬまでを過ごすしかない。

やはり今日も、自ら命を絶とうとする意志は、搦めとられていた。


(───うあぁぁぁあああああああああぁぁぁッ!!────)


抑圧を跳ね除けるかのように、喜───憎悪を、怒りを、楽し──哀しみを、満腹ダ。

血を吐き出すように、魂を引き絞るようにして叫んでいるはずのこの声は。
森へ木霊してやがて戻ってくるこの耳には、獣の遠吠えにしか聞こえなかった。

555名も無きAAのようです:2012/04/07(土) 00:11:28 ID:dR6SjzjQ0

(────死にたい───)

俺がそう叫んでいるのが、この声を耳にした人々には、伝わってくれているだろうか。
これまで身を守る術を磨いてきた自分が、今では、己を殺してくれる存在こそを望んでいる。

(───この皮肉を、誰か笑ってくれ───)

────己自身の力だけは、もはや月の魔力の前に打ちひしがれる他ないのだ。

それでも、心の奥底で覆い隠すようにしてきた、最後の希望だけは残っている。
決して、月の獣には気取られぬように、悟られぬようにと、残してきた。


己が、人間としての、最後の理性。

556名も無きAAのようです:2012/04/07(土) 00:12:50 ID:dR6SjzjQ0



川゚-゚)



在りし日の少女の面影が、自分を慕ってくれた彼女との思い出が。
どうにか俺自身の理性を、まだ人間のものへと繋ぎとめているのだ。


(;゚д (”クー”……お前が………)



それを、大切に両腕で抱き抱えるようにして───

557名も無きAAのようです:2012/04/07(土) 00:13:29 ID:8/F.vCDM0
連続投下か いいね

558名も無きAAのようです:2012/04/07(土) 00:14:48 ID:dR6SjzjQ0






ミ ゚(叉)(───喰い……タイ………)




(────誰か、俺を殺してくれ───)



強すぎたその獣の遠吠えには、訴えかける意味があった。
それを聞いた人々に知られぬ事など、決してなかったが。

559名も無きAAのようです:2012/04/07(土) 00:15:52 ID:dR6SjzjQ0



   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

              幕間

             「遠吠え」


             ―了―

560名も無きAAのようです:2012/04/07(土) 00:18:39 ID:8/F.vCDM0
え?ミ、ミルナ?


561名も無きAAのようです:2012/04/07(土) 00:28:24 ID:dR6SjzjQ0
>>560
この話の前編にあたる幕間「月を抱く獣」の続編でした。
今夜はファビョッて恥ずかしいので寝ます。

562名も無きAAのようです:2012/04/07(土) 06:05:32 ID:NCs6LG.6O
七話が来て油断してたら続きが来てた 
 
今読みおえた

563名も無きAAのようです:2012/04/09(月) 01:23:29 ID:xEwgjE/Y0


   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             幕間

         「愚かさの歴史」

564名も無きAAのようです:2012/04/09(月) 01:24:28 ID:xEwgjE/Y0

この大陸に住み暮らす一部のヒノモト人の中で、今でも伝説と語り継がれる人物が、かつて居た。

大陸民達にとっては得体の知れぬ信仰だとして、当時より畏怖の眼差しを向けられていた、”ブッ教”
だが、それを心棒とする敬虐なブッ教徒達の間には、時として”聖ラウンジの奇蹟”と同じように
正しく”東洋の神秘”と呼ぶほか無い、奇跡を起こし得る術の数々を扱える者も居た。

やがて大陸との交易が始まり、移民船の発着が盛んになってからは、ヒノモト人の多くもまた
様々な夢を馳せて広大な大陸へと移住していったのだが、ブッ教徒達の大半は生まれながらのヒノモトの地で
残りの生涯を費やし、ブッ教徒としての道を極める為に過ごしていった。

だが、”東洋の神秘”を身につけた者達の中でも一際に一目を置かれていた、その彼だけは違ったのだ。

「どこに居ようとも、俺自身には何の変わりも無い」

「広大な地へ飛び込み、挑戦し───新たな風をブッ教に吹き入れてやる」

565名も無きAAのようです:2012/04/09(月) 01:25:34 ID:xEwgjE/Y0

”ティーサン=ビンセンツィオ”

ヒノモトに居た頃の名と同じであるかは不詳だが、少なくとも大陸に来てからは、
ずっとその名を名乗っていた。それはもしかすると、彼自身が考えた仮の名前であるかも知れない。

( T)「破あぁぁぁぁぁぁぁーーーッ!!」

保守的で穏健派なブッ教徒達の中では特に型破りな男であったが、多くの信望を寄せていた。
何ものにも囚われない奔放な彼の振る舞いは、時に大陸民達から奇異の目で見られる事もあったが。

その彼の”禍払いの力”は、当時のブッ教徒達の中でも他に比肩する者がいない程に強力で、
現役の聖ラウンジ司祭ですらが手に余す程の怨嗟深き強力な悪霊退治に乗り出しては、
彼に助っ人を頼んだ冒険者達の羨望を集める日々が続いていた。

「すげぇ………これだけの亡者どもを、一瞬で……」

566名も無きAAのようです:2012/04/09(月) 01:26:23 ID:xEwgjE/Y0

( T)「───ふっ、やれやれ。ちょっとばかり肩肘張りすぎたか………明日の依頼は、やんぴだな」

「な、なぁティーサン!どうしたらアンタみたいになれるんだ?」

( T)「……そうだな────”困難”という壁の前に、立ち止まらない事……かな」

「これが噂に名高い、”東洋の神秘”ってやつか……」

「ティーサン!アンタさえ良ければ、是非俺達の正式な仲間に───」

( T)「それも─────いや」

言いかけて、小さく首を振ったティーサンが、彼自身に助っ人を依頼した面々に言い放った。
そして既に、ティーサンはそんな彼らに背を向けながら、歩き出していた。

567名も無きAAのようです:2012/04/09(月) 01:27:03 ID:xEwgjE/Y0

( T)「悪いが………まだまだ、退治しなくちゃいけない奴らを待たせてるんでな」

次に自分を必要とする者達の元へと───恐らくは待ち受けているであろう、更に強力な怪異達の元へ向けて。

( T)「この辺りは昔暴虐な領主による大規模な虐殺があった場所だ……
     死霊どもに身体を明け渡してやらないよう、気を付けろよ───」

颯爽と去って行く彼の背を見送りながら、決まって皆が────こう口を揃えるのだった。

「………”寺生まれって、すげぇな”………」


───────────────


──────────


─────

568名も無きAAのようです:2012/04/09(月) 01:27:47 ID:xEwgjE/Y0

大陸で数々の依頼をこなす傍ら、不浄な地に縛られた哀れな霊魂を、彼は救い続けた。
それは、ティーサンが大陸の地に降り立ってから、実に十数年の時が流れるまでの間を。


そして、晩秋。


「困難という壁の前に、立ち止まるな」

これまでもそう口にしてきたティーサンの前には、今─────
恐らく生涯で初めてと言っても良い程の困難が、立ちはだかっていた。


「あ……ティ、ティー………さ……」

( T)「キンバリーッ!?、マッケンジーッ!?」

569名も無きAAのようです:2012/04/09(月) 01:28:34 ID:xEwgjE/Y0

地下迷宮と化した、失われた古代魔法国家の墓の中に、ティーサンは数名の冒険者達と共に飛び込んでいた。
そしてその最も奥深き場所では、まさにティーサンの目の前で惨劇が繰り広げられる。

これまで他者を助ける事にこそ、その一点に生涯の大半を費やしてきたティーサンにとっては、
仲間たちが次々と倒れて行く光景を見せつけられるというのは、自らをも許しがたい光景だった。

口では救いを求めながらも、”王”の魔力にあてられ、次々と不死者へと変貌を遂げゆく仲間たち。
強烈な魔法によって命を落とした所に、死霊術によってその亡骸を辱められていったのだ。

もはや瞳に光を灯さない仲間達の姿は、ティーサンの拳を怒りで打ち振るわせた。

( T)「──────二人共………今、そこから”助け出してやる”からな」

(………さて、これで残るはお前一人だ───”東洋の奇術師”………)

570名も無きAAのようです:2012/04/09(月) 01:31:05 ID:xEwgjE/Y0

数多の亡者を束ねる”不死者の王”が、暗く、低い声で言葉を投げかける。
王は死して尚も、並の魔術師を束で当てても蹴散らせるだけの、強大な魔力を有していた。
恐らく力という一点においては、ティーサンもまたこの時、王には及んでいなかったはずだ。

─────それでも。

( T)「許してくれ、とは言わないぞ……二人共────破ぁぁッ!!」

ティーサンの術によって、仲間だった二人の不死者の肉体が、砂塵と化して消え行く。
やがて不死者となってしまった仲間の姿がこの場から完全に消え失せるのを見届けてから、
鋭い眼光を不死者の王へと向けながら、拳を固く握り締めて顔を上げた。

その細めた目の奥には、少しばかりの哀愁を漂わせて。

( T)「これでまた、死ねない理由が一つ増えたな────」

571名も無きAAのようです:2012/04/09(月) 01:31:59 ID:xEwgjE/Y0

(………お前の術は、なかなかに面白い。興味が沸いた、歯応えの無かった先の二人と、違ってな………)


( T)「………」


ティーサンはその言葉を、怒りの感情と共に己の胸に刻み込む。
憎悪に身を任せるのは、確かに簡単だ─────

だが、激昂してがむしゃらに攻め立てた所で、崩せるような壁では無いのだ。
だからこそ喚き散らしたい欲求を抑えて、怒りの感情をも、それすらも。

この場での勝利への執念だけを追求する、その為の力へと、換えた。


( T)「”オッサム王”─────いや、”オサム”よ」

572名も無きAAのようです:2012/04/09(月) 01:32:46 ID:xEwgjE/Y0

(………人間如きが軽々しく我が御名を口にするなど、万死を以っても購えぬ罪ぞ………)

( T)「貴様こそ、後悔するんだな………この俺を───”本気で怒らせちまった事”を」

(………来るがいい、存分に………)

(#T)「………亡国の王よ───自らの愚かさが招いた滅びの歴史と共に、再び眠りにつくがいいッ!」




─────「破あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーッッッ!!」─────










573名も無きAAのようです:2012/04/09(月) 01:33:38 ID:xEwgjE/Y0

その後、王国の跡地であった付近の村に災厄を振り巻いていた王の呪いから、人々は解き放たれた。

”ティーサン=ビンセンツィオ”

その名を知る者は少ないが、少なくともこの大陸の歴史の中の一つに、彼の名は確かに刻まれている。

古代魔法国家オッサム────その王の魔道死霊を封じた碑石は、
王国の跡地である村の中心部にひっそりと佇み、今ではその存在は忘れ去られようとしていた。

その後のティーサンの消息を知る者は、一人としていない。
王を封じると共に力尽き、彼の英霊は地下迷宮の奥深くに亡骸と共に眠っているのか────
一時期彼を知る人々の間に囁かれた噂話では、そのような説も駆け巡っていた。

しかし、決して一箇所には留まらない彼の事だ。
あるいは、この地の人々の安堵を見届けてから────また見知らぬ地へと旅立ったのかも知れないが。

574名も無きAAのようです:2012/04/09(月) 01:34:44 ID:xEwgjE/Y0

ティーサンと、そして命を賭した仲間たちとが作り上げた、今日までのこの地の安寧。

それは、長かったか、短かったか。
長い歴史から見れば、それこそ一瞬の瞬きであるかも分からない。

だがその平穏な日々は─────今、再び崩されようとしていた。



( <●><●>)(これは───また………難解、ですね)


暗き思想を持つ、一人の魔術師の手によって。


( <●><●>)(ですが、この私にかかればこの程度の封印式の解呪など)

575名も無きAAのようです:2012/04/09(月) 01:35:43 ID:xEwgjE/Y0

村を訪れたよそ者である彼は、夜も更けた頃合を見計らって、
ひっそりと宿を抜け出すと今、その場所に居た。

かつて封じられたオッサム王の霊魂が眠るという、その石碑の前に。

ある分野においては、彼もまた非凡な才を持ち合わせる術者であったのだ。
何よりも己の思想を追求したが故に、世間からは見放され、今では世を忍ぶ立場となっているが。

( <●><●>)(……ふふっ……もうすぐ)

石碑に何度か手をぺたぺたと触れながら、小さな松明を灯りにして一つ一つ、
その封印式の形を目で追う。瞳を輝かせながら、恍惚とした表情を浮かべて。

彼の探し求めるものは、醜く歪んだ欲望と言えるだろう。
”遍く不死者達を従える”───そしてそんな世界の、王たらんとするのだから。

576名も無きAAのようです:2012/04/09(月) 01:36:25 ID:xEwgjE/Y0

( <●><●>)「─────?」

不意に、魔術師は微かな違和感を覚えて振り返る。
ちらちらと辺りに視線を這わせたが、ひっそりと佇む寂しい村の景観の他には、何も変わりはない。
一寸首を傾げたのは、何か釈然としないものを感じたからなのだろうか。

少し周囲への警戒を強めてからまた封印式の解読作業に戻った彼だったが、それは違和感などではなかった。

(………愚鈍な事だ)

誰も居合わせないはずの広場には─────
その実、彼の後姿をはっきりと捉えている、二つの瞳が光っていたのだ。

そして、彼もまた崇高に歪んだ理想の持ち主であった。
かつて稀代の天才魔術師との呼び声もありながら、その一切をかなぐり捨てて。

577名も無きAAのようです:2012/04/09(月) 01:37:45 ID:xEwgjE/Y0

( ・∀・)(未だに気付く片鱗すら見せないとは。始末するのは……まだ、早いか)

誰もが、二度と気付く事もなかったはずだった。
たとえそれが、普段から目の前にあるものであっても。
一つのきっかけさえなければ、そのはずだったのだ。

歴史の闇に葬られた、遺物。
偶然にも互いを見知らぬ魔術師達は、時を同じくして二人共がそれを求めていた。
決して触れてはならないものに─────いや、だからこそ、なのかも知れないが。

幾年、幾百年もの歴史の中で、常に人は過ちを起こしては、それを省み続けて来た。
その正と負の連鎖はこれまでも存在し続け、これからも存在し続けるだろう。

禁忌を冒すという事にこそ、人の過ちの歴史があるのだから。

578名も無きAAのようです:2012/04/09(月) 01:41:39 ID:xEwgjE/Y0



   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

              幕間

           「愚かさの歴史」


             ―了―


.

579名も無きAAのようです:2012/04/09(月) 01:50:09 ID:GwXnw6as0


580名も無きAAのようです:2012/04/10(火) 03:45:28 ID:0gso.myIO
また続き来てた、次は本編だな

581名も無きAAのようです:2012/04/10(火) 19:31:38 ID:1PDi6Zn60
>>580
うす、没シナリオが勿体無かったので。
なるべく早く投下したいですが、次は本編いきやす。

582名も無きAAのようです:2012/04/17(火) 00:40:48 ID:uCceaObc0
くっそー、24kbしか書けてねぇぜ。
間に合わんか……

583名も無きAAのようです:2012/04/21(土) 05:15:36 ID:2NoC6JgAO
どうやら18日には間に合わなかったみたいだな

584名も無きAAのようです:2012/04/21(土) 21:55:02 ID:zn18SUNs0
>>583
悔しながら…祭りに無理に合わせるとあまり良くない形での投下になりそうでしたので。
明日の日付が変わる前には投下できればなーとか。

585名も無きAAのようです:2012/04/25(水) 22:17:59 ID:WL6rGXRc0



───交易都市南西部 サウスパックの町───



(;'A`)「……ハッ、ァッ……」

べったりと頬に塗られた血の温かみが、額に浮き出た汗の感触と共に沸き上がってくる。
急速に脈打つ心拍を諫めるべく、ゆっくりと大きく、肩で呼吸をしながら天を仰いだ。

瞳を閉じると、ようやく呼吸が落ち着き始めてきたようだ。

( ∵)

ふと、足元の血溜まりに転がるナイフの傍に倒れ込む、3人の亡骸に視線を落とした。

(;'A`)(まさか……昼の街中で襲われるとは思っても見なかったぜ)

586名も無きAAのようです:2012/04/25(水) 22:19:01 ID:WL6rGXRc0

肩がすれ違うその一瞬、振るわれるナイフへの反応が少しでも遅れていれば、
今こうして呼吸をしている自分はこの場に居なかっただろう。

刺客の存在に気付き、人目につく事を避ける為にこの路地裏へと逃げ込んだのが罠だったのだ。
待ち受けと背後からの奇襲に加え、狭い場所で三人もの敵を始末するのには、多少骨が折れた。

流石に無傷という訳にもいかず、刺客たちの手荷物を漁ってはみたが、
案の定、僅かな銀貨の他に余分な物は、一つとして持ち合わせていなかった。
暗殺に失敗した時、万が一自分の身元を明かすような事があってはならない為だ。

('A`)「……はぁ」

薄らと群青の衣服の脇下が裂かれ、その下からは血の滲む素肌が露出している。
傷口が熱を持ってじんじんと響くような苦痛を与えてくるが、これには耐えるしかない。
幸いにして、止血しなければ命に関わるような怪我でもないのだから。

それよりも、今は先にすべき事があるのだ。

587名も無きAAのようです:2012/04/25(水) 22:23:06 ID:WL6rGXRc0

恐らくこの刺客達が連絡に戻らない事が知れれば、また付近を探りに来るはずだ。
そうなる前に早い所町を抜けて、死角となりそうな宿営場所を見つけておかねば。

出来ればその道中で薬草の類でも手に入れて、
この憂鬱な気分にさせてくれる傷口も手当てしてやりたい所だ。

('A`)(大きく南西の村々を迂回して、と思ったが……張り巡らせてやがるな)

ドクオ本人の考えと動きは、彼が今付け狙う対象に感づかれていたのだ。
幼年期の尤も多感な時期に、自らを優秀な人殺しとして育てるために従事させたかつての主。
”黒き手”と称えられたエクストに、なまじ尤も近しい存在として行動していたが為に。

各町々に、恐らく数人ずつの捜索役を置いて、それぞれに連携を持たせているのだろう。
このサウスパックの町からの連絡が途絶えた事が知れれば、恐らく次にドクオが現れるであろう
場所には、更に強固な布陣が敷かれる事になるはずだ。

588名も無きAAのようです:2012/04/25(水) 22:24:04 ID:WL6rGXRc0

('A`)「正々堂々、宣戦布告しておいてやったんだ───ま、気付いて当然だわな」

その一員として、長く身を置いてきた暗殺者ギルド。
普通の神経ならば、一度足抜けしたのならば決して組織の目が届かぬ場所へと逃げようとするはずだ。

だがドクオはまさに、真っ向切って一度は歯向かった彼らの只中へ、舞い戻ろうとしていた。
長であるエクスト=プラズマンの命を、自らの贖罪の為にと捧げるため────

組織を敵に回す決意をしたあの時の自分を、たまにふと振り返る───

故郷の酒の味にやられて、考えが飛躍し過ぎていたのだろうか。
あるいはしたり顔で御託を並べた、あの生意気なこそ泥の言葉に引き上げられてしまったのかも知れない。
酔っ払った勢いで、暗殺者の長への鉄の誓いを破るなどという話は、大層な笑い話にも思えるが。

589名も無きAAのようです:2012/04/25(水) 22:25:16 ID:WL6rGXRc0

完全に呼吸が落ち着いた所で立ち上がり、足早に路地を去ろうとした時、一人の少女と目が合った。

「あ───その、傷」

('A`)「………!」

衣服の端が切り裂かれているのに目を留めた少女は、そっとドクオの傷に手を出そうとした。

以前までの自分ならば、自分の背に転がる死体を見られる事を恐れ、すぐさま少女の口を塞ぎ、
否応なしにその首元にナイフの刃を突き立てていた事だろう。

しかし、何か言葉を言いかけた少女をその場に残して、視線を合わせる事もせずに立ち去った。
その背中に視線を送っていたであろう少女が、路地裏に転がる死体に気付いて絶叫したのは、ややあっての事だ。

「───ひっ、いっ……きゃああぁぁぁぁぁッ」

590名も無きAAのようです:2012/04/25(水) 22:29:13 ID:WL6rGXRc0

その場に集まってくる人ごみの群をかき分けながら、ドクオは静かな笑みをその口元に浮かべる。

もう、”自分に向かってくる敵以外を殺さなくて良い”という解放感が、彼に妙な昂揚を齎していた。
決して殺しを重ねる事への愉悦などではないが───それでも、楽しみなのだ。

エクストの元へ近づくにつれ、自らを囲繞しているこの心の牢獄から、解放されていくような気がして。

彼を知る第三者が今のドクオの姿を見ていれば、その行動原理にこんな印象を受けるだろう。
「あいつはもう、殺す事にも、手を血で染める事にも疲れていたんだろう」と。
他者からすれば、今の彼は確かに自分の死に場所を捜し求める歩く死人にしか映らない。

しかし、今のドクオを突き動かすものは、ただ一つの執念なのだ。

591名も無きAAのようです:2012/04/25(水) 22:29:55 ID:WL6rGXRc0

('A`)(……でぃ……エクスト……待ってろ)

記憶の墓場から掘り返された、闇に身をやつす前の自分の、忘れ形見。

狂気の色が混じった茜色の原風景は、最近になって時たま脳裏を掠める。
あの時この手に染み付いた感触を拭う事など、二度と出来はしない。

育ての親であるエクストを殺す、それ以外の事では。

その為にこそ───贖罪の為にこそ。
自分の命を取っておいている理由は、そんな極めて単純なものだ。
ドクオ本人以外には、到底理解されようもないが。

ゆっくりとではあるが、確実にドクオの足は────エクストの元へと近づきつつあった。

592名も無きAAのようです:2012/04/25(水) 22:31:04 ID:WL6rGXRc0
───────────────


──────────

─────





 ヴィップワース第8話




─────

──────────


───────────────

593名も無きAAのようです:2012/04/25(水) 22:31:50 ID:WL6rGXRc0

(;^ω^)「───ツン!そいつから離れるおッ!」

ξ; ⊿ )ξ「……ッ」


ツンが、それに手を触れようとした時だった。

一瞬の輝きを放ったのは、純然たる野性を残した獣の牙。
それが、開けられた口元で妖しい殺気を孕んでいたのに気付いたブーンが、一も二も無く駆け出す。

「ぐるるるる」

ブーンの声と、その動きが、反射的に獣の野性を突き動かしたのかも知れなかった。
恐らく彼にしてみれば尤も避けたいはずの事態だが、やがてそれは目の前で巻き起こった。

「……きゃッ」

小さく聞こえたツンの悲鳴が、ブーンの激情を駆り立てる。

594名も無きAAのようです:2012/04/25(水) 22:32:37 ID:WL6rGXRc0

見れば獣の牙は、ツンの手の甲へと突き立てられていたのだ。
決して離さず、”このまま噛み砕いてやる!”とばかりに。

(#^ω^)「───ツンッ!?」

ξ;゚⊿゚)ξ「………!」

間に合わなかった。
少しだけ、駆け出すのが遅れてしまったのだ。

柔肌の表面を喰い破ってしまった獣の牙がもたらす痛みか、ツンは血の流れる己の手を、
まるで自分の身体とは思えないという風に傍観していた。

気付くのが少しでも早ければ────彼女から離れてしまっていたブーンは、
そうやって悔やむ感情さえも後方へと置き去りにして、ただツンの元へと駆けた。

「わおぉぉぉんっ」

595名も無きAAのようです:2012/04/25(水) 22:33:23 ID:WL6rGXRc0

ツンの手へ齧り付いた事への満足感からか、獣が吼える。
そうして、気力も削がれて無抵抗のままのツンへと、再び獣の牙が───

ξ ⊿ )ξ

(#^ω^)「───やめるおぉぉぉーッ!」

だが、ブーンがそう叫んだその時、ツンの後ろにはいつの間にか一人の男の姿。

爪'ー`)「……おいたは、そこまでにしときな」

獣の腹あたりへ手を差し入れると、その身体をひょい、と軽く持ち上げる。
そのまま自身の腕の中へと抱え込むと、手のひらの裏でそいつの喉あたりを撫ぜた。

(;^ω^)「……ふぅ。サンキューだお、フォックス」

爪'ー`)「おーおー、こんなに怖がっちゃって。可哀相になぁ」

596名も無きAAのようです:2012/04/25(水) 22:37:35 ID:WL6rGXRc0

▼#・ェ・▼「……ワフゥッ、ワンッ!」

その、小さく耳の垂れた白い”犬”を抱える彼の元へ、
少しだけ息を切らせた様子のブーンが駆け寄った。

────これにて、依頼は完了だ。

ブーン達は元々、依頼をこなす為に目的地へと向かっている最中だったのだ。
その道すがらで一人の男に泣きつかれて渋々請け負ったのが、この「飼い犬探し」の依頼。

犬を散歩させている最中、突然野原で走り出して行方が知れなくなった、というのが事の経緯だ。

突発で舞い込んできたもので、労力に対する見返りを考え眉間にしわを寄せるブーンらを放って、
困り果てた飼い主を見るに見かねたツンが割って入ると、強引に聞き役として受諾してしまったため、
こうして彼らにとっては不本意ながらも、道中でまた予期せぬ仕事をしてしまう羽目になった。

597名も無きAAのようです:2012/04/25(水) 22:38:53 ID:WL6rGXRc0

(´・ω・`)「終わったようだね」

三人の姿を尻目に近くの木陰で悠然と読書をしていたショボンは、
依頼内容を済ませた事を確認すると、ぱたりと読んでいた書物を閉じて立ち上がる。

衣服の端に付いた雑草を払っている彼のすました表情に、ブーンが突っ込みを入れた。

(;^ω^)「いやいや……手伝えお。ショボン」

(´・ω・`)「僕は君たちより体力もないし……有事の際の為に温存しておくのが賢明かと、ね」
       ───それより、彼女から君に話がありそうだけど?」

ξ#゚⊿゚)ξ「………ブーン」

(;^ω^)「へ?」

恨みの篭った眼差しが向けられていた事にブーンが気づくと、ツンはゆらりと立ち上がる。
自身の手の甲に出来た真新しい噛み傷をブーンの前に見せ付けては、その表情に激情を浮かべた。

598名も無きAAのようです:2012/04/25(水) 23:13:57 ID:WL6rGXRc0

ξ#゚⊿゚)ξ「───いきなり大声上げんじゃないわよ!死にゃあしないってのに!」

(;^ω^)「ぶ、ブーンはツンの身を案じて………」

ξ#゚⊿゚)ξ「折角私の手元に懐いて来てたのに、アンタがこの子を驚かすから───これ!この傷!」

(;´ω`)「う……ご、ごめんだお」

爪'ー`)(うんうん、そうだな……怖いよな、あの姉ちゃんな)

▼*・ェ・▼「キャンッ」

ξ#゚⊿゚)ξ「何か言った!?」

爪'ー`)「いいや?」

599名も無きAAのようです:2012/04/25(水) 23:18:39 ID:WL6rGXRc0

「──おぉ、パス……!パスカル……見つけてくれましたか!」

不意に、そんな一同の後方───内輪揉めを繰り広げる二人の様子を傍目に、遠くから呼ぶ声がした。
フォックスがそれに応えると、息も絶え絶えになりながら依頼人が駆け寄って来る。

爪'ー`)「それ、お前のご主人様だぞ?」

▼*・ェ・▼「ワンッ ワンッ」

最後に犬の頭をくしゃくしゃに撫でてから、フォックスは抱えた子犬を地面へ下ろすと
一直線に駆け出して行こうとする犬の尻を押しやって、飼い主の元へと放った。

「あぁ、ありがとうございます。冒険者の方々!」

爪'ー`)「お安い御用さ。こいつぁ、まぁ手間賃代わりにもらっとくよ」

剥き出しの銀貨、報酬である30spをフォックスの掌に握らせると、
依頼主は面々に対して何度も頭を下げて感謝を述べた。

600名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 00:33:27 ID:ShYYLLxE0

爪'ー`)「これを機会に、今後困った事があったら”失われた楽園亭”のフォックス一行まで頼むぜ」

「凄腕の冒険者パーティーだって、噂を広めといてくれよ」
冗談めかしにそう言って、ぺこぺこと頭を垂れながら帰路へと着く依頼人の背中を見送る。
踵を返しブーン達の方へ振り返ると、そこではまだツンによる叱責が行われていた。

ξ#゚⊿゚)ξ「ホンットに……レディに対してなってないわねアンタは。男なんて別に傷だらけでもいいけどさ、
      乙女の柔肌ばっかりはそういう訳にいかないのよ───分かる!?」

(;´ω`)「…仰る通りですお…」

爪'ー`)「まだやってらぁ。疲れないのかねぇ……」

(´・ω・`)「寧ろ、見ているこっちが疲れる気さえするよ」

その後、また旅路を歩き始めた一同だったが、フォックスとショボンの後方では暫くもの間、
ツンに残された怒りの残滓がブーンへと向けられ、きつい罵りの言葉と共に彼を打ち据えていた。

601名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 00:38:41 ID:ShYYLLxE0

───────────────


──────────


─────



今回の依頼の発端は、半日ほど前の朝にまで遡る。


───【交易都市ヴィップ 失われた楽園亭】───


( ^ω^)「あー……よく、寝たお」

曇天の空模様ではあるが、雲間から差し込む僅かな西日が、寝覚めを誘った。
身体を伸ばしながら大きな欠伸をすると、窓の下では早くも宿を出入りする同業者達の姿が見える。

602名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 00:39:49 ID:ShYYLLxE0

ブーンにとってはとんだ休日となってしまった、先の四日間が空けた。
ようやく今日からは、また全員でパーティーとして動いて行けるという日が訪れたのだ。

思えばこの頃は巻き込まれるような形での”思わぬ依頼”ばかりだと、
仲間内では前日までにもよく卓を囲んで話していた。

様々な人間の思惑が絡んだ黒い事件の背景などには、確かに予期せぬトラブルも付き物ではあろう。
けれどこの面々の行く先々で死霊や妖魔の類に出くわすのは、単純なツキの無さが原因かも知れない。

こんこん、と、不意に部屋の戸を叩く音があった。

( ^ω^)「……おっ?」

「入るわよ」

ブーンが返事をする間もなく、扉を開けると同時に声の主は部屋へと入って来た。
もちろん身構えるまでも無い、気の知れた相手だ。

603名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 00:42:15 ID:ShYYLLxE0

ξ゚⊿゚)ξ「……不用心ねぇ。ちゃんと鍵かけときなさいよ」

( ^ω^)「おはようだお、ツン」

ξ゚⊿゚)ξ「おはよう───って、今日はブーンにしては早い方ね。久しぶりに朝の挨拶交わした気がする」

( ^ω^)「こないだ沢山寝すぎたからだお。そいつはもう言わないでくれお……それより」

ξ゚ー゚)ξ「冒険に出たくてうずうずしてる、って顔ね?」

(*^ω^)「おっおっ。そうだお、今日はどんな依頼が来てるのかおねぇ?」

ベッドから飛び上がるようにして身を起こすと、ようやくブーンは荷物の点検を始めた。
自室の扉に背中をもたれて腕を組むツンと会話を交わす傍ら、今日からの依頼へ向けて旅支度を整えてゆく。

604名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 00:43:05 ID:ShYYLLxE0

ξ゚ー゚)ξ「今日は結構依頼が多いみたいよ。さっきからフォックスとショボンが選んでるけど、
      もしかしたらもう二人が決めちゃってるかもね」

(  °ω°)「なぬッ!?」

ξ///)ξ「ちょっ……!」

「そいつはイカンおッ」と叫ぶや否や、猛烈な勢いで寝巻きを脱ぎだしたブーンは、
ツンの目も憚らずに、麻で編み込まれた衣服へと素早く着替えを終えた。

駆け出してツンを扉の横へと押しやると、そのままけたたましく階段を駆け下りて行く。

(リーダーの僕を差し置いてぇぇぇ───)

悲鳴交じりなその声は、一人残されたツンの耳には遠く聞こえた。

ξ-⊿-)ξ「全く……子供みたいね」

605名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 00:44:13 ID:ShYYLLxE0

その場で肩をすくめたツンがブーンの部屋を立ち去ろうとした時、
ベッドの傍の机に置かれた、一枚の手紙が目に留まった。

ξ゚⊿゚)ξ「うん?」

つい、悪いとは思いつつも、やけに気に懸かったのだった。
大雑把で能天気と言う他無い冒険者のブーンがこんなまめな事をしてまで、宛てる相手の事が。

ξ゚⊿゚)ξ(………)

心の中で彼とヤルオ神に対し謝りながらも、封筒からはみ出たその便箋の
端を掴むと、ツンはちらりと手紙の内容を盗み見た。

それには、随分と改まった丁寧な言葉がしたためられている印象を受ける。

差出人と宛名は書かれていなかったが、角ばって所々の文字の大きさがまばらな
この雑な筆跡は、恐らくブーン本人が書き込んだものであろうと思われる。

ξ゚⊿゚)ξ(誰に宛てた手紙……なのかしら)

606名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 00:45:23 ID:ShYYLLxE0

まだ書いている途中なのか、あるいは書き損じたのかはわからないが、文章は途中で途切れていた。

一方的な語り口調で自らの近況を告げる文の中には、時に相手の身体を気遣うような言葉も見られる。
久しく会っていない人物へ向けての友情か、あるいは愛情なのか。

どちらにせよ、その手紙には、何かしらの想いを込めてしたためられた手紙のように感じられた。

ξ;゚⊿゚)ξ「……うー、ごめん」

普段は繊細さなど微塵も感じられないブーンの立ち振る舞いであったが、彼もまた
ショボンやフォックス、あるいは自分と同じように───何か背負ったものがあるのではないか。

そう思ってからは手紙を盗み見た事に対しての罪悪感が沸き起こり、誰に聞かれるでも無く呟くと、
元あった机の上の封筒の中へ、ツンはそっとその手紙を戻した。

ξ゚⊿゚)ξ「私も、準備しとかなきゃね」


これは、また別の話なのだが─────

607名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 00:46:10 ID:ShYYLLxE0

────この手紙が宛名の本人の元へと届く事は、決して無い。


たとえそこに、宛名が記されていたとしても。
たとえ差出人の名に、ブーンの名前が書き加えられていたにしてもだ。

それはツンにも、そしてこの手紙をしたためたブーン自身もが知らぬ事実なのだ。








608名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 00:46:55 ID:ShYYLLxE0

どたどたと階段を下りての開口一番が、この有様だ。

(;`ω´)「フォックス!ショボン!……このリーダーを差し置いて、良い度胸してるお!」

客こそ少ないが、まだ出立前の冒険者なども待機している1階の酒場にて喚いた。
そのブーンの方を見て、客たちは「またか」というような表情を浮かべるあたりは、
そろそろこの楽園亭でも、彼らの顔は慣れ親しんだものになりつつあるようだ。

爪'ー`)y-「あぁん?いつお前がリーダーに就任したんだよ」

(´・ω・`)「僕たちで候補は絞っておいたさ。後は、いつも的確な判断を下してくれる
       このパーティーのリーダー殿に預けるとしよう」

売り言葉に買い言葉の二人だが、どうやらいくつかの依頼を拾い上げておいてくれたようだ。
突発で依頼が張り出される事もあるが、一日の内ではこの早朝一番に届く依頼が最も数多いのだ。

609名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 00:49:41 ID:ShYYLLxE0

寝坊などという失態で、朝一番の美味しい依頼を逃すような事はあってはならないが、
ブーン自身は野営中に見張り交代の番が巡って来ても寝こけるぐらいなので、本人にとっては大助かりだ。

マスターが仕込みの作業をしている対面で、二人が拾っておいた数枚の依頼状を並べた。

( ^ω^)「ふぅ……焦ったお。どれどれ?」

爪'ー`)y-「俺のオススメはこいつだな、”地下洞穴の財宝探し”」

(´・ω・`)「依頼とは名ばかりで、単なる労働要員として駆り出される光景が浮かぶよ」

( ^ω^)「……うーん、他のは何かお?」

爪'ー`)y-「ロマンのねぇ連中だぜ……ったく」

(´・ω・`)「これはどうだい。”古代墓地に眠る失われた石版”」

610名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 00:50:48 ID:ShYYLLxE0

( ^ω^)「石版?これも何かのお宝なのかお?」

(´・ω・`)「古に使われていたという、力を持つ言霊を記した石版が隠されているらしい」

爪'ー`)y-「なんかよ……また湿っぽい場所で不死者どもとやりあうのは、しばらくは御免だぜ?」

(´・ω・`)「ま、個人的な興味本位だ。却下されるとは思っていたよ」

( ^ω^)「うーん……いまいちそそられる依頼がないおね」

思ったよりは良さげな依頼がない事に、ふぅ、とブーンは鼻息を鳴らした。
今はツンを入れて4人の大所帯となっているのだ。

加えて、予期しえぬ危険な依頼に巻き込まれながらも、無事に終えた実績もある。
一人の時には命の危険という事が掠めて考えられなかったが、今は試してみたくもあった。

611名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 00:51:33 ID:ShYYLLxE0

( ^ω^)「多少、難度の高めの依頼はどうかおね?」

(´・ω・`)「まぁ僕らは良しとしてもだ。ツンを同伴している事を忘れちゃいけないよ、ブーン」

( ^ω^)「……だおね」

フォックスが、また壁面の依頼状を覗きに席を立つ。

爪'ー`)y-「高めねぇ───」

爪;'ー`)y-「うぉッ」

( ^ω^)「?」

何やら一際大きくでかでかと張り出された一枚の依頼に、釘付けになっていた。
それを壁から引っぺがすと、見せびらかすようにしながら持ってきた。

612名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 00:54:48 ID:ShYYLLxE0

爪'ー`)「ま、見てみろよ」

そしてまず、目に飛び込んできた報酬の額に、我が目を疑う。

(;^ω^)「さ……3000sp!?」

(´・ω・`)「それはまた───家でも買えそうな報酬額だね」

(;^ω^)「一体何をしたらこんなバカ高い報酬がもらえるんだお?」

依頼状を手に取って、そこに書かれた文字へ視線を走らせる。
法外な報酬には驚いたが、どうやらそれも頷ける内容のようだ。

(´・ω・`)「どんな内容なんだい?」

爪'ー`)「おっ、お前さんも少しは興味が沸いたか」

(´・ω・`)「もちろん、内容次第だけどね」

613名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 00:57:24 ID:ShYYLLxE0

爪'ー`)y-「───どうだ?ブーン」

( ^ω^)「……おっ」

尚も、食い入るようにして書状の中身を確認していたブーンが、
一言をぽつりと呟くと、そこで言葉を詰まらせた。

( ^ω^)「場所が”マドマギアの街”、討伐対象は───」

( ^ω^)「………!」

依頼内容の最後の下りまでを読み終えたブーンの指に、かすかに力が篭った。
その彼の様子に、フォックスが茶化すようにへらへらと笑いながら言った。

爪'ー`)y-「びびったろ」

(´・ω・`)「………何なんだい?」

( ^ω^)「”吸血鬼”」

614名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 01:06:28 ID:ShYYLLxE0

(´・ω・`)「!」

それを聞いたショボンが、ブーンの手からその紙を引っ手繰るように手に取った。

内心驚きを隠せなかったブーン同様に、ショボンもまた真剣な面持ちで
依頼の内容を確認し終えると、天井を見上げて大きく息を吐きだす。

”ヴァンパイア”

数百年にも渡ってこの大陸のどこかに存在し続け、列強の不死者たちの中でもそれは数少ない。
一見すれば人間同様である肉体も、そして自我をも持ち合わせている。

朽ちる事の無い肉体、その生命力をもたらす源は、長きに渡って人間の生き血を吸い続けるからだという。
その力は人間など比べるべくも無く、強力な魔力を帯びる固体も存在するというのが、語り継がれる噂だ。

( ^ω^)「実際に見た事はないけどお……人間の生き血を吸うっていうあれ、だおね?」

(´・ω・`)「そう、ヴァンパイアとも呼ばれているね」

爪'ー`)y-「そんぐらいは、俺もガキの時分から知ってたさ。
     まぁそん時ゃ、童話に毛が生えたような眉唾もんの噂話の類と思ってたけどな」

615名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 01:07:47 ID:ShYYLLxE0

( ^ω^)「正直、それはブーンもだおね」

爪'ー`)y-「けどよ───」

(´・ω・`)「信憑性に足るだけの報酬額を見る限り、その考えを改めさせられる事になりそうだよ?」

普段はこのような機会、滅多にないだろう。
報酬額もそうだが、想像上の生物とも思われる事がしばしばの、ヴァンパイアを拝める依頼など。

三人ともが深みのある表情を浮かべながら、一枚の依頼状に書かれたその内容を凝視していた。
やがて、一仕事を終えたマスターが彼らの前のカウンターに手を着いて、諭すような表情を浮かべていた。

(’e’)「その依頼か……やめといた方が、無難だがな」

爪'ー`)y-「おぅ親父。その口ぶりだと、何か情報持ってんのか?」

(’e’)「まぁな───そこにある”マドマギア”っつぅ街からは、ここ数年ちょくちょく似た様な依頼が来る」

616名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 01:08:42 ID:ShYYLLxE0

(´・ω・`)「この書面によると街の人々は吸血鬼の支配下に置かれているみたいだけど………
       そんな事が、ここ数年おきにですって?」

(’e’)「まぁ、そこにあるような吸血鬼騒ぎは初めてだが……妖魔や屍鬼どもに襲われて、
     街を占拠される、なんつぅ事はこれまでにもしばしばだったな」

( ^ω^)「一体その街に何があって、そんな事になってしまったんだお?」

(’e’)「さぁな……昔はのどかな田舎町だと聞いていたが。とにかく、お薦めはせんよ」

爪'ー`)y-「危ないヤマだって言いてぇのか?」

(’e’)「おうとも。少なくとも、お前らのような半人前にはな」

(;^ω^)「ちょ、マスター……そんな事」

(´・ω・`)「それは言えてるかもね」

(’e’)「ほれブーンよ、ちったぁ賢明なショボンを見習いな」

617名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 01:20:58 ID:ShYYLLxE0

「ショボンまで、何を言うおっ!」
マスターの指摘と、パーティー内の仲間の弱気とも取れる発言。
それがブーンの負けん気をほんの少し逆撫でさせてしまっていた。

だが、その言葉を事実として受け入れている冷静なブーン自身も、確かにいる。
マスター本人や、周囲の同業者達が心から自分を一人前と認めてくれるような
冒険者になれるのは、恐らくまだまだ先の事だろう、とは。

それでも、いずれは大きな壁をひとつ越え、ふたつ越えして───
自分の力を信じる事が出来るだけの、一端の冒険者として大成しなければならない。

これは、大陸を渡り歩く冒険者達の誰しもが思う事ではあろう。
ただ燻って終えるだけの冒険者稼業ならば、この道を志す事などなかったからだ。

(´・ω・`)「僕らの業界でも、何度かその名で賑わった事はあるけどね。
       ブーン───ヴァンパイアは確かに実在し、そしてそれにも種類がいるんだ」

(’e’)「その通り」

618名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 01:21:54 ID:ShYYLLxE0

( ^ω^)「ゴブリンと、ゴブリンシャーマンみたいなもんかお?」

(´・ω・`)「単純な固体としての強さを比べるならば、段違いだろうけどね」

そう前置きして、ショボンがこの依頼から遠ざけようとするマスターに同調するようにして、
ブーンを諭すためにヴァンパイアの脅威を少しずつ説明していく。

(´・ω・`)「まず、最下級で言えばだけど───ヴァンパイアに血を吸われ、吸血鬼と化した人間や生物。
       これをレッサー種と言って……固体別の力で見れば、そこらの妖魔と代わり映えしないだろう」

爪'ー`)y-「でもよ、自分で仲間を増やす事も出来るんじゃなかったか?」

(´・ω・`)「ご名答さ。レッサー・ヴァンパイアの脅威としては、自ら血を吸った人間を同じ存在に出来る。
       繁殖力、いや感染力というべきか───それが第一なのかな」

( ^ω^)「………おっお」

619名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 01:25:15 ID:ShYYLLxE0

魔術師というものの博識さに感嘆しながら、ブーンはショボンの講釈に聞き入る。
幼少の頃よりずっと頭に知識を詰め込んできているのだろう、棒切れを振るって駆け回っていたばかりの
時代を過ごした自分などとは、頭の出来からして違うのだと思った。

(´・ω・`)「だけど、レッサー種を自分の意のままに操る事が出来る”純血”のヴァンパイアなら難題だ。
       その多数のレッサーを従えながら、身体能力は人間を凌駕し、魔法すら扱う」

(´・ω・`)「実体を持たない相手とも言われているが、もっとも厄介な事に、
       奴らは”死なない”んだ───並大抵の事ではね」

爪'ー`)y-「並の不死者よか、相当に厄介なお相手ってこったな」

( ^ω^)「話を聞く限りじゃ、多少斬ったぐらいで倒れてくれそうな相手には確かに思えないお」

(´・ω・`)「僕の魔法も効く相手かどうか……試してみたくはあるけどね」

(’e’)「よく陽の光や十字架、果てはニンニクが弱点だとか囁かれる事はあるがな───
     実際のとこ、この大陸においてそうやって吸血鬼を倒した、なんて話は聞いたこたぁねぇ」

620名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 01:26:21 ID:ShYYLLxE0

( ^ω^)「そう……かお……」

まだまだ、自分たちには絶対的に経験が足りない。
いつか酒場で出会った、”龍を倒す”などという想いを掲げていた熟練の冒険者であれば、
もしかすると未知の脅威である吸血鬼をも跳ね除けるかも知れない。

しかし今の自分達には、やってみない事にはわからないのだ。
やはりこの依頼を諦めるべきか───ブーン自身にもそんな考えが沸いてきた頃だった。

ξ゚⊿゚)ξ「───お待たせ!」

( ^ω^)「お、遅かったおね」

ξ゚⊿゚)ξ「あ、うん……ちょっと準備に手間取っちゃってね。で、依頼は決まったの?」

( ^ω^)「いや……」

言いかけたブーンの手元の依頼状を、ツンが「どれどれ」と覗き込んで来た。
”吸血鬼討伐依頼”という依頼内容の文字までをも追えているはずだが、それに
さほど驚くような様子も見せずに眺めている。

621名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 01:30:58 ID:ShYYLLxE0

ξ゚⊿゚)ξ「……ふむふむ。吸血鬼に支配された街……かぁ」

(’e’)「ツンちゃん、この依頼はこいつらにお薦めしねぇ。別の依頼にしとくんだな」

ξ゚⊿゚)ξ「え?」

爪'ー`)y-「ま、それも仕方ねぇかもなぁ」

(´・ω・`)(フォックス)

ちら、とツンの方を見ながらその台詞を吐いたフォックスに、ショボンが小声で注意を流す。

その考えが、名声や栄誉を求める多くの冒険者パーティーと同じならば、ブーン達はこの場で
すぐにこの依頼を決めていたはずだ。

( ^ω^)「この依頼は……やめにしようお」

ξ゚⊿゚)ξ「………」

622ねむい:2012/04/26(木) 01:34:20 ID:ShYYLLxE0

少しだけ揺れ動いていたブーンの決心も、マスターの言葉の方へと傾いたようだ。
何よりも、命の危険を孕む依頼へと踏み切れぬ理由は、やはり伴うツンの存在にあるからだ。

円卓騎士団のフィレンクトからは、ツンを危険から守るようにと念を押されていた。

その禁が破られるような事になっては、あの怪力に加えて大仰な槍で串刺しにされかねない。

勿論それだけが理由という訳でもなかった。

聖ラウンジの奇跡、”聖術”を扱える以外はそこらに居るような非力な女性と同じなのだ。
そのツンを、危険が待ち受けていると分かっている依頼に伴うなど────

ξ゚⊿゚)ξ「何言ってんの?───ブーン」

( ^ω^)「……おっ?」

そう考えて口に出した己の考えは、ブーンが気を揉んでいる理由の大元である
当の本人、ツンの口から棄却された。

623ねむい:2012/04/26(木) 01:35:45 ID:ShYYLLxE0

ξ゚⊿゚)ξ「この街の人たち……吸血鬼に怯えて暮らしてるんでしょ?
      もう、既に何人も犠牲になってるかも知れないじゃない!?」

(´-ω-`)(……始まったか)

(;^ω^)「そっ、……え?」

ブーンが彼女の言葉に忘れていた事を思い返すと同時に────ショボンは少し俯いた。
ツンはこの場にいる誰よりも、困っている人間を見過ごす事など出来ない性格だったのを思い出した。

そして、それらに祈り救いをもたらす事こそが彼女の信仰の道であり、
”聖術”を持つ彼女は、さらに直接それに干渉しようとする。

確かにこれまでも、何人かがツンに命を救われたという実績こそあれど。

ξ゚⊿゚)ξ「どうしてそんな人たちを見過ごそうとするのよ!危険だから?」

(;^ω^)「見過ごすとは言い方がよろしくないお!ブーンはただ、ツンを───」

624ねむい:2012/04/26(木) 01:37:47 ID:ShYYLLxE0

爪'ー`)(ブーン!)

(;^ω^)「あ……いや」

ξ゚⊿゚)ξ「私……?私が、何よ?」

今度は、フォックスが直接考えを口に出そうとしたブーンを制止した。

「な、なんでもないお」と、たじろぎながら言葉を濁したブーンの様子は訝しまれたが、
たとえツンの安全を考えての事であっても、それを口に出せば彼女は傷つくだろう。

自分達の重荷でしかない、などという考えを持って、パーティーを抜けると言うかも知れない。

爪'ー`)(ま……このお嬢様はそんなタマでもねぇだろうけどな)

ξ-⊿-)ξ「と・に・か・くっ!……この依頼は受けます!はい決定!」

爪;'ー`)(ほらな)

625ねむい:2012/04/26(木) 01:43:40 ID:ShYYLLxE0

(;`ω´)「だッ、駄目だお!……それは、リーダー権限で却下させてもらうお!」

(´・ω・`)(粘るね、ブーン)

ξ#゚⊿゚)ξイラッ

(’e’)「……ふぅ」

ブーン達が織り成すいざこざに対して、マスターは黙してただ見守っていた。
強固な石のようなツンの考えに、口出しはしない構えのようだ。

その彼らの先行きを案じて、カウンターの中で深い溜息をついてはいたが。

ξ-⊿-)ξ「ふぅ」

なおも食い下がろうとするブーンだったが、そこで一旦冷静になったのはツンだ。
怒りに身を任せて罵声の嵐が飛び交うかと身構えた一同の前に、彼女はふふんと鼻を鳴らした。

そして腕組みをしながら、こう言うのだ。

626ねむい:2012/04/26(木) 01:49:37 ID:ShYYLLxE0

ξ゚⊿゚)ξ「なるほどね……怖いんだ?」

(;`ω´)「こ、怖い事はないお?」

ξ゚ー゚)ξ「それは嘘よ……吸血鬼が怖くて、自分じゃ街の人を助けられないって……
      まるで、顔に書いてあるみたいよ?」


(# ω )プチッ


ξ゚⊿゚)ξ「怖いんでしょ?吸血鬼が。ま───あたしはへっちゃらだけどね!」

ブーンの理性に、その一言が止めを刺した。

(#`ω´)「……ブーンは、吸血鬼なんか怖くなんかないおぉッ!」

「………」

酒場中に響くほどの声量が、一瞬の静寂を誘う。

(’e’)「あーあ」

627名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 04:08:54 ID:bGbZ4us.O
いいところで…… 
続き書き終わってるだろうから 
起きたらなるべく早く投下希望

628名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 22:30:57 ID:xndtth3E0
おつ
毎度毎度楽しみだ

629寝落ちすんません:2012/04/26(木) 23:06:01 ID:ShYYLLxE0

皆”何事か”とブーン達の席の方へ視線を集中したが、何の事はない。
パーティー内でのいざこざだという事に気付くと、また宿内の空気は賑わいへと溶け込んでいった。

ξ゚⊿゚)ξ「………よしッ、じゃあ決定ね?」

(;`ω´)「そんなの、望むとこ………ハッ!?」

小さく握りこぶしを作ったツンの姿は、彼女の勝利宣言だろう。
挑発に負けてしまったブーンには、今更それに抗うのもみっともなく思えた。

そして、諦める事にしたのだ。

(;^ω^)「……すまんお」

爪'ー`)y-「バカ」

(´・ω・`)(結局、こうなるのか)

630名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:07:02 ID:ShYYLLxE0

ξ゚⊿゚)ξ「マスター。この依頼、私たちが請け負います」

彼女を危険から遠ざけようという思いは、無残にも打ち砕かれる事になってしまった。
今度フィレンクトと顔を合わせる時には、そろそろまた首を絞められる事になりそうだ。

ぴっしりと背筋を伸ばして、ツンはマスターの前に”吸血鬼討伐”の依頼状を差し出す。

(’e’)「……解った。いいかい、無茶だけはするなよ?」

ξ゚ー゚)ξ「ええ、解ってます」

爪'ー`)(このお嬢様……本当に解ってると思うか?)

( ^ω^)(無茶をするのは、僕たちなんだけどおね)

(´・ω・`)(そういう事を言うのは野暮ってものさ)

かくして、吸血鬼に支配された”マドマギア”の街へ行く事が決定づけられる。
それはツン自身に振り回されるようにしての事ではあったが、これで腹を括れた。

631名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:07:43 ID:ShYYLLxE0

初めて全員が本腰を入れて請け負う依頼となるだろう。
恐らくは力を団結しなければ、乗り越えられないほどの。

( ^ω^)「でも───」

相対した事の無い、未知なる脅威である吸血鬼の姿形を想像しながら、鼓動は早まる。

爪'ー`)y-「あん?」

( ^ω^)「やっぱり、楽しみでもあるお」

その大きな壁を、仲間と共に乗り越えた時の達成感は如何ばかりか。
そしてその経験が、一体どれほど冒険者としての自分を高みへ引き上げてくれるのか。

早くも、そんな事を考えてしまう程に期待していた。


───────────────


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─────

632名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:08:37 ID:ShYYLLxE0

それらやり取りが、半日前の朝方だった。

陽も傾いてきた今は、”マドマギアの街”へ向けてひたすら足を動かした。
途中一度だけ休憩を挟んだだけだが、ヴィップから目的地へと繋がる道はそう楽ではない。

(´・ω・`)「地図で見るとそう遠くは無いんだが───やはり山を迂回しなければならない」

( ^ω^)「吸血鬼に支配された街……果たして、どんな惨状なんだおね」

爪'ー`)y-「想像したくもねぇ、そんなぐらいに決まってるさ」

ξ゚⊿゚)ξ「けど……ヴィップから二日も無い場所に、そんな街があっただなんて」

でこぼことしたあぜ道ばかりが続き、体力の無いツンには過酷か、とも一同は思ったが、
どうやらこの依頼を受けると決めた彼女本人はある種責任感を持っているのだろう。
途中の道程を、一度として”疲れた”だのという台詞を口にする事はなかった。

自らを殺して、他者を優先するという彼女の姿勢には、やはり頭が下がるものがある。

633名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:09:21 ID:ShYYLLxE0

(´・ω・`)「所で……最悪の場合街にはレッサー・ヴァンパイアがひしめいている事もあり得る。
       もしマドマギアの街中がそんな状況だったとして、対策は考え付くかい?」

( ^ω^)「………」

ξ゚⊿゚)ξ「………」

ブーンにとっては少しだけ耳が痛くなるような、ショボンの問いかけ。
”小細工抜きでぶった斬る”という単純さで押し通れるような状況なら、こんな報酬額にはないだろう。

蛮勇を振りかざして、ツンはこの依頼を決めたのだ。
そんな彼女にそんな考えは浮かばないだろう───皆が内心、そう思っていた。

だが、以外にもツンの口からは、自信に満ちた返答がなされる。

ξ゚⊿゚)ξ「あるわ───私のこの”聖術”が、きっと力になれると思う」

634名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:10:04 ID:ShYYLLxE0

(´・ω・`)「なるほどね」

そう言って立ち止まった彼女が、力強く胸の辺りでまた拳を握る。
何の考えも無しに、ブーン達の庇護だけを頼りにしてこの依頼を選んだ訳ではないのだろう。

”自分だって、やれるのだ”
そう言いたげなだけの気概が、彼女の表情からは見て取れた。

爪'ー`)「へっ。まぁ頼りにしてらぁ」

ξ゚⊿゚)ξ「………うん」

弧憎たらしげな笑みを浮かべながら頭だけを彼女の方へと振り返ったフォックスに、ツンがこくり頷く。

あながちそれは、軽薄なフォックスにしては珍しく、上辺だけの言葉でもない。
以前に不死者達がひしめく村で、ツンが空に向かって顕現させた、巨大な光の十字架───

不死者を浄化し得るだけの力をもたらす彼女の祈りは、確たる力となるはずだ。

635名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:10:45 ID:ShYYLLxE0

( ^ω^)「山が見えてきたおね」

(´・ω・`)「あぁ、この脇を抜けて行けば───目的地までは近い」

眼前に聳える山には、暗い雲がかかっていた。

山の天候は荒れやすい。
雨粒に打たれる前に、できれば今日の内には越えておきたいところだ。

爪'ー`)「はてさて……雲行きが怪しいねぇ」

( ^ω^)「やるだけ、やってみようお」

(´・ω・`)「正直、この4人で戦力として十分とは言えないだろう」

爪'ー`)「ま、勝てねぇと悟ったら脱兎の如く逃げりゃいいさ」

( ^ω^)「確かに……視野に入れた方が、いいかも知れないおね」

ξ゚⊿゚)ξ「………そういえばさ、クーさんも誘えば……良かったかも」

(;^ω^)「───おッ!」

636名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:11:43 ID:ShYYLLxE0

【 川 ゚ -゚) 】


ツンの言葉に、「忘れていた」という表情がブーンに浮かんだ。
彼女の言うとおり、共に危機を乗り越えた間柄だ、頼りになってくれただろう。

しかしクーとブーンらは、あれからしばらく楽園亭で顔を合わせる機会に恵まれなかった。

爪'ー`)「出発を急いたのは誰だったかな」

(´・ω・`)「確か、このパーティーのリーダーだったような気がするが」

(;^ω^)「おぅふ」

ξ゚⊿゚)ξ「………」

会話の言いだしっぺであるツンの表情が、野山の雲同様に少しだけ翳った。

誘った所で彼女が、クー=ルクレールが同行してくれたとは限らない。
寧ろ申し出た所で、きっぱりと拒否されたかも知れないのだ。

637名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:12:27 ID:ShYYLLxE0

───彼女は、ツンと聖ラウンジに対し、決して良い感情を抱いていないのだから。

両親の仇である聖ラウンジを憎むクーだが、その道に殉じようとするツンが、
また彼女と共に旅立ちたかったのは、それでも、本当の想いだったが。

クーの身上と、自分の心情。
それを考えるとツンには複雑な想いは去来するが、今この場でそんな考えが
浮かんでしまうのは、この沈んだ天候と彼女自身の身体を蝕む疲労のせいもあるのだろう。

ξ゚⊿゚)ξ「………さぁ、越えちゃいましょう!」

極力それを仲間には気遣わせないよう、ツンはなるべく声を張って言い放った。


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─────

638名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:13:14 ID:ShYYLLxE0

今日という日にはブーン一行同様に───とても騒がしい朝を迎えた一人の少女が居た。

ブーン達が依頼の事で揉めていたのと、ほぼ同時刻。



────交易都市ヴィップ【 円卓騎士団 兵舎 】────


こつ、こつ

(おはようございます)

ノハ ⊿ )スゥ...スゥ...

自室の扉を叩く音にも気付かず、その呼びかけに応じる事は無く、彼女は寝こけていた。
朝を迎えた彼ら円卓騎士団は、既に今いる全員が中庭に集まり調練に励んでいるというのに。

639名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:13:56 ID:ShYYLLxE0

「………」

こんっ こんっ


ノハ ⊿ )ンゴォ...


(もう、とっくに朝ですよ)

だんっ だんっ

扉一枚を隔てても聞こえる彼女の寝息に、そして起きる気配の無い彼女に対し、
朝を告げながら起床を促す、扉を叩く彼の手には次第に力が込められてゆく。

(………)

640名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:14:40 ID:ShYYLLxE0

ノハ ⊿ )ン!...ムニャ...

ドンッ ドンッ


「起きなさい!」

ダンッ ダンッ


ノハ ⊿ )ン...ゴォォ...

ゴンッ ゴンッ


「───ここを開けなさい!」


ガンッ! ゴンッ! ドウッ! バガッ!

ベキッ! ゲシッ! メキッ! ミシッ!

641名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:15:43 ID:ShYYLLxE0


ノハ ⊿ )「……むにゃ……何か、うるさいぞぉ……」

ガゴンッ! ドガンッ! ズッギャァッ!
メシッ! ビキビキッ! メメタァッ!


「開けなさいと、言っているのです───”ヒート”ッ!!」


ノハ;-⊿゚)「────ん、おおぅッ!?」

半覚醒状態だった意識の中、聞こえるのは断続的に打ち鳴らされる、破壊音のような扉を叩く音。
そして、はっきりと怒気を孕んで自分の名を呼ぶその声に、一気に彼女は覚醒した。

642名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:16:27 ID:ShYYLLxE0

ノハ;゚⊿゚)「あわわ、まさか……ね、寝過ごしたあぁぁぁぁぁぁぁーーーッ!?」

「………ようやく、お目覚めですか?」

ノハ; ⊿ )「!」

”バッ!”

強靭な足腰を持つ小動物のように、これまで寝ていたベッドから一瞬で跳躍した。
冷ややかな殺気すらも漂わせる扉の向こうの声の主を、これ以上待たせてはならないと。

すぐに自室の扉の鍵を開錠すると、同時に扉はゆっくりと開け放たれた。

( ^_L^ )「………おはよう、ございます」

643名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:17:20 ID:ShYYLLxE0

ノハ;゚⊿゚)「お、おぉ、おはようござい……ましゅ」

彼女には、よくよく理解出来ているのだ。
この笑顔は嘘偽りの作り物だと───その表情の下に眠る、悪鬼羅刹の本当の顔が。

不気味なほどのこの笑顔から放たれる殺気に、背筋には冷たい汗が伝う。

( ^_L^ )「よく眠れましたか?………貴女以外の全員は、今頃中庭でみな調練に励んでいますよ?」

ノハ; ⊿ )スッ..,スミマセンデシ...

威圧感のあまり、彼女の喉からは掠れたような声しか出ない。
表面上は穏やかに聞き返すフィレンクトだが、その額には一本、また一本と青筋が浮かび立つ。

( ^_L^ )「え?」

644名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:18:30 ID:ShYYLLxE0

ノハ; ⊿ )「あの、その……す、すみませ──」

(#‘_L’)「………あぁ〜ん……?聞こえんなぁぁぁーーー!?」

途端、彼の表情は怒りに歪んだ。
もはや、全力で謝って許してもらうという道しか、彼女には残されていない。

ノハ;゚⊿゚)「も───申し訳ございませんでしたぁッ!………フィレンクト団長殿おぉぉぉぉぉぉぉーーーッ!!!」

(#‘_L’)「全く………たるんどるわぁぁぁぁぁぁぁーーーッ!!」

ピン、と背筋を伸ばして直立すると、天井をぶち抜いて届かせる程の声量で叫ぶ彼女。
それをこうして叱責するフィレンクトの怒声とが、中庭で鍛錬に勤しんでいる他の団員達の失笑を誘うのだ。

「おい、またやってるぞ……団長たち」

「懲りないよなぁ、あいつも」

これは、円卓騎士団の朝の一幕の中で、もはや恒例化しつつある光景の一つであった。

645名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:19:12 ID:ShYYLLxE0







(‘_L’)「ヒート、貴女もそろそろ、他の後発の団員達の見本となっていかねばならないのです」

ノハ; ⊿ )「うぅ………仰る通りです……」

(‘_L’)「こんな事で皆の失笑を買っていては、そんな立場は決して務まりません」

ノハ; ⊿ )「はひ……耳が……痛いです」

中庭で行われていた朝の調練は既に終了し、団員達は各自持ち場へと散らばっていった。
フィレンクトにこうして懇々と説教を受けるのは、もう彼女に取っては幾度目なのか。

646名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:20:00 ID:ShYYLLxE0

それでも、フィレンクトが部下である彼女を見放す事はなかった。
朝に弱く翌日に支障をきたすという欠点はあれど、彼女は日頃からそれを補う程の働きを見せる。

こうして間々寝坊してしまうのは、一日の終わりにはいつも全ての体力を
使い果たしてしまい、ぐっすりと眠りについてしまうというのが理由の一つなのだが。

玉に傷、こうしたミスが彼女への評価を相殺しているものの、それは決して低いものなどではない。

常に集中力を以って、一つの物事に対し全力を賭してぶち当たる。
それがフィレンクトの”懐刀”とも呼ばれる彼女────”ヒート=ローゼンタール”

(‘_L’)「……貴女が本気になれば、これぐらいの事は改善出来るはずです───以後は、重々気を付けなさい」

ノハ; ⊿ )ズビバセンデシタ...

647名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:20:41 ID:ShYYLLxE0

こと剣においては、贔屓抜きに彼女の腕は他の団員達と比べても群を抜いているという。
こうしてフィレンクトの説教を受けている時の姿からは、それも形無しだが。

( -_L- )「では………今日はこのぐらいにしておきましょう」

ノハ;゚⊿゚)(……やっと、おわた……)

終始姿勢を正しながらフィレンクトの話を聞いていた彼女が、
そこで今日初めて足を楽にして、安堵の溜息を漏らす事が許された。

部屋を去る、と思われたフィレンクトだったが、まだ話は続くようだった。

(‘_L’)「調練が終わったら、と思ったのですがね───」

ノパ⊿゚)「?」

648名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:21:30 ID:ShYYLLxE0

少し首を傾げて迷うような仕草をしながら、
フィレンクトは彼女にかける言葉を選んでいるようでもあった。

(‘_L’)「これは命令というよりも……貴女への”お願い”なのですが……」

ノパ⊿゚)「───はいっ!何なりと!」

自らに対して与えられた指令を、必ず全うする。
使命感を炎のように燃やす少女は、いつ何時であっても、そうはっきりと受け答える。

吸血鬼討伐の依頼に向かい出立した、”失われた楽園亭”のブーン一行とほぼ同じ頃。
彼らを取り巻く事態は、水面下にてひっそりと───知られぬ所で動き出していたのだ。


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649名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 23:24:22 ID:ShYYLLxE0
この辺でちと一旦切ります。翌朝までには全部投下し切れたらと思います

650名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 06:46:32 ID:sdS3i5YMO
今日は完全に熟睡中みたいだな

651名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 12:58:30 ID:.tzphm0k0

ブーン一行がマドマギアの街へと赴いた、翌朝。

彼らは途中に一度の野宿を挟んで、吸血鬼の支配するその街へ、辿り着いていた。

ξ゚⊿゚)ξ「………着いたわね」

(´・ω・`)「ああ」

爪'ー`)y-「………」

( ^ω^)「ここが───”マドマギアの街”……」

市街へと続く入り口の前に立つ彼らの中で、ブーンがまず一歩を踏み出す。

街の中に足を踏み入れると、一瞬にしてその瘴気が肌へとまとわり付く。
この街に暮らす民であったはずの者達は、今では視線もろくに定まらぬ瞳で、
ふらふらと血を求めて彷徨い、こちらの存在に気付くと、一斉にその視線が向けられる。

652名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 12:59:32 ID:.tzphm0k0

かつて多くの人々で賑わっていたはずの商店街もどこへやら、濃霧が全体を包む寂しげな街の景観は、
もはや吸血鬼の支配のもとに不死者の楽園と化し、訪れる生者の美酒たる血液を待ちうける、死の街。

そして、王たる吸血鬼が根城とする古城へと続く道へは、
数多の亡霊や不死者が溢れ、ブーン達冒険者の行く手を遮るのだ。

たとえ吸血鬼の元へたどり着けたとしても、決して命の保障はない。
恐らくは、死闘に次ぐ死闘を重ねる───その覚悟を、しておかなければ。

マドマギアの街の状況は、そんなにも絶望的な────


そう、そのはずだったのだ。
少なくとも、ブーン達4人の頭の中に描かれた”想像の光景”の中では。

653名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:00:15 ID:.tzphm0k0

( ^ω^)「それが……一体、これはどういう事だお………」

ξ゚⊿゚)ξ「どう、って……」

爪'ー`)「この状況、どう見るよ」

(´・ω・`)「どう、って……」

(;^ω^)「この街は───どうなってるんだお!?」

そう叫んだブーン達の目の前には、大きく街の目印となる看板が立てられていた。

”ようこそ、吸血鬼に支配された街 マドマギアへ!”

”おいでませ!冒険者大歓迎!”

一歩街へと足を踏み入れれば、その街の様子はブーン達の思い描いていたものとは
遥か斜め上空へまで、と言っても差し支えの無いほどに、予想からかけ離れていたものだった。

654名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:00:56 ID:.tzphm0k0

肌がひり付くような緊張感も、街中を覆い包む瘴気など、そんな暗い影は一切無い。

「いらっしゃい!吸血鬼退治にはニンニクが有効だよぉ!」

「おっと、そこのあんたら、冒険者か!お薦めの武器があるんだよ、見ていかないか?」

「マドマギア名物、吸血鬼まんじゅうはいらんかね〜!」

寧ろ、自分達の他にもぽつぽつと見受けられる冒険者達に対して
商いをして回る人々が織り成す、清潔な活気こそがこの街には溢れているのだ。

(;^ω^)「ハッ───そうかお、人々は実は皆吸血鬼に操られて……」

ξ゚⊿゚)ξ「そう……見える?」

爪'ー`)y-「いんや、全然」

655名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:02:03 ID:.tzphm0k0

ヴィップに比べたら俄然小さな街ではあるが、中央区には確かにそれらしき”古城”が佇む。
その城へと繋がる道には不死者の類では無く、商人たちの露天が軒を連ねているのが異質だが。

だが、まずはこの依頼主であるこの町長に顔合わせしておく必要があるだろう。
このらんちき騒ぎの理由を尋ねて、一刻も早く現状を把握しておくべきだった。

「さぁさぁ、吸血鬼の弱点を突くならこの十字架の装飾が施された銀剣だ!
 今なら50sp追加で、持ち主の名前を刻印するサービス付きさぁっ!」

(´・ω・`)「しかし、これではまるでお祭り騒ぎだね」

爪'ー`)y-「あの依頼は何かの間違いだったんじゃねぇかと思えて来たぜ」

「業物の銀ナイフが、お値段なんと一本50sp! よぉ、そこの兄さんどうだい?」

爪'ー`)y-「お……このナイフ、いいじゃん」

この街へ向かう道中での緊張感も、いつの間にやら消え去っていた。
ツンが言っていたように、吸血鬼の脅威に怯える様子の住民など、どこにいるというのか。

656名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:02:57 ID:.tzphm0k0

(´・ω・`)「もはや観光気分だね、フォックス」

爪'ー`)y-「───思わず買っちまったぜ。俺のナイフコレクションにまた一つ、だ」

(;^ω^)「はぁ……とにかく、町長の家を探すんだお」

ξ;゚⊿゚)ξ「そうね。まぁ、思ってたより平和そうで何よりだけれど……」

そこで、一同は各自散開して情報を集める事にした。
まずは依頼人である町長の家を探し当て、吸血鬼に関する事を聞きだすのだ。

(´・ω・`)「じゃあ、半刻後にこの場所で落ち合おう」

( ^ω^)「わかったお」

爪'ー`)y-「俺はこの町の同業者を訪ねて、情報を漁ってくる───ツンは」

657名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:04:19 ID:.tzphm0k0

ξ゚⊿゚)ξ「町長の家を探せ、っていうのね。子供じゃないわ、それぐらいは出来るわよ」

(´・ω・`)「このお祭り騒ぎ一色の雰囲気は確かに異常だが……仮にも吸血鬼に支配された街と謳ってる」

( ^ω^)「解ってるおショボン。ツンには、ブーンが護衛につくからお」

(´・ω・`)「任せたよ。僕もフォックスとは別に情報収集につくよ」

ξ゚ー゚)ξ「それじゃあ、また後でね」

入り口前の広場で吹き出る噴水の前、そこで面々は互いに手を振りながら別れた。








658名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:05:05 ID:.tzphm0k0

ショボンはまず、吸血鬼に支配されたこの街というものの実体を、その真偽を探る聞き込みだ。

(´・ω・`)「そこの方」

「おや、冒険者さんか。何だい?」

(´・ω・`)「おかしな事を尋ねるようですが、この街には、本物の吸血鬼が?」

「あぁ───ま、俺はこの街の住民じゃないんだが、そう、らしい」

(´・ω・`)「……”らしい”?」

あからさまに訝しげな視線を送るショボンの表情に慌てた露天商の男が、すぐに言葉を付け足す。

「あ、まぁ冒険者達以外じゃ、まだ誰もそいつに直接遭った奴は居ないんだよ」

(´・ω・`)「という事は、やはりこの街のどこかに吸血鬼は実在する、と?」

659名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:06:02 ID:.tzphm0k0

「どこかって───あそこさ」

(´・ω・`)「………」

そう言って男が指差したのは、やはり嫌でも目に付いた。
街の中央に一際高く目立つ建造物、あの古城だ。

あの場所から、この街全体を支配しているというのか。

「吸血鬼はもうず〜っとあそこに篭ってるんだが、もう数え切れないぐらいの
 冒険者が返り討ちにあってんだ。あんたらももし行くなら、精々気を付けた方がいい」

(´・ω・`)「! その彼らは……やはり、死んで……?」

「いやぁ、それがさ」

(´・ω・`)「?」

660名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:06:51 ID:.tzphm0k0

「どいつもボロボロにされてはいるんだが……必ず生きて帰ってくるんだよ、全員が」

(´・ω・`)「はぁ?」

素っ頓狂な声を漏らしたショボンの反応こそ、当然のものだ。
伝承や噂話に名高い人の血を啜る怪物が、自分の城に乗り込んできた敵を殺さないというのだ。
それに、敗れた冒険者達は血を吸われ、レッサーヴァンパイアにさせられたという訳でもない。

そのような不自然は、話を聞くだけでも到底納得できるものではないだろう。

「そうだよ。まだ、この街で冒険者が死んだって噂は一度も聞かないね」

(´・ω・`)(事実………なのか?)

ひとまずは、他にも地元民らからも情報を得る必要がある。
だが、商人ばかりがひしめくこのマドマギアの街では、それは非常に探し辛いが。

661名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:07:35 ID:.tzphm0k0






爪'ー`)「邪魔するぜ」

盛り場には、決まって情報が集まってくるものだ。
本当に価値ある情報は、タダで手に入るものなどではない。

「………」

それを知るフォックスは、一見の客である自分へ向けられる訝しげな視線を受け流しながら、
まずはカウンターに着くと、一杯の酒を注文した。

爪'ー`)y-「”古城の吸血鬼について”、だ」

「………10spだな」

無愛想にフォックスの元に酒を出すと、腕組みしてカウンター内に佇むマスターが、そう呟いた。

662名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:08:25 ID:.tzphm0k0

爪'ー`)y-「ったく、高ぇ酒だぜ」

ぼやきながらも、胸元から取り出したそれら銀貨をカウンターの上に転がし、
酒場のマスターの方へと手で押しやった。

「ま───いいだろう。何から話す?」

自分に差し出された銀貨の枚数を目で確認すると、一杯の酒を差し出しながら鼻を鳴らした。
一見の客に対して怪しむ態度が、ようやく少しばかり軟化したようだ。

爪'ー`)y-「そうだな───吸血鬼とやらの特徴について、聞いておこうか」

「………あぁ、それなら古城からボロ雑巾みてぇになって帰って来た奴らが、口々に言ってたよ」

爪'ー`)y-「どういう相手だ?」

「そいつぁ、”魔法”を使うらしい。こちらの攻撃はまるで当たらず、一方的にやられるんだとさ」

663名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:09:15 ID:.tzphm0k0

爪'ー`)y-「魔法、ねぇ……」

それならば、と思わずショボンの顔が思い浮かばれた。

そういえば、フォックスがこの酒場に辿り着くまでに小耳に挟んだ情報の一つに、
安心した事があったのだ────まだ、吸血鬼に挑んで殺された冒険者は居ない、という事だ。

爪'ー`)y-(はてさて、それが何を意味するか……だ)

彼らに取っては餌であろう人間に対し、殺意の無い吸血鬼などどこの世界に存在するのか。
もしそんなものが居るのなら、それは”本当に吸血鬼なのか?”───と。

「他に聞きたい事は?」

マスターのその言葉に、フォックスはその考えを直接伝えてみた。

爪'ー`)y-「マスターよ。吸血鬼なんて、本当にこの街に居るのか?」

664名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:10:30 ID:.tzphm0k0

吸血鬼など、実の所は存在していないのではないだろうかと。
こんな安穏とした雰囲気が覆うこの街は、そうでなければ説明がつかない。

「どうだかな……だが、挑んだ奴らはどいつも口を揃えてる」

爪'ー`)y-「何だってんだ?」

「吸血鬼の瞳は血と同じ赤色で、大層色白な肌の色をしてるらしいぜ」

爪'ー`)y-「ほぉ」

「それに……この街には手練の奴らも何人か滞在してるが、時々感じるらしい。
 ───この街に居ると時々、何かに押しつぶされるような重苦しさがあるんだってよ」

爪'ー`)y-(………)

これ以上の有益な情報は無さそうだった。
事の真相は、結局自分達の目で確かめるしかないのだ。

一口も口を付けなかった酒で満たされたグラスをそのままに、フォックスは席を立つ。

665名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:12:50 ID:.tzphm0k0








〜その頃〜

目の前に山盛りに盛られた東洋の茶菓子に舌鼓を打つ、騎士の姿があった。

久方ぶりにたった一人で遠出した為に、彼女は舞い上がってしまっていたのかも知れない。
様々な露天が並び賑わう町並みの中で、芳しい香りが漂うこの茶屋へと自然に引き寄せらた。

ノパー゚)「ん……んまい!旨いぞ、この吸血鬼まんじゅうッ!」

「ありがとうございますっ。ささ、たんと召し上がって下さいよ騎士様!」

ノパ⊿゚)「それに焼印も可愛いし!」

ノハ*゚⊿゚)「おぉッ!こっちの餡は何が詰まってるんだ!?」

ノパ〜゚)「んむ……むぐ……」

ノハ; 〜 )「ッ!!?」

ノハ; ⊿ )「ゲフンッゲフッ……の、喉が詰まっ────み、みッ、ず………!」

「お客さん!?……ちょっと、オイ水だ、水持ってこいッ!」

その膨大な量の甘味の前に、女騎士ヒートの意識は、闇の中へ引きずり込まれた。

666名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:14:24 ID:.tzphm0k0







ξ;゚⊿゚)ξ「本当に……2,3質問するだけでもいいんです!」

一方のブーン達は、商人たちに聞き込みを行いながら町長の家を見つけた、という所だ。

だが、そこでは一つの問題に直面したのだ。
吸血鬼に支配された街などと到底思えない、街の賑わい。

古城に近づく前にまずは当事者から詳細を、と考えていた。

(;^ω^)「ここまで来て……依頼主に会えないなんて、どういう事だお!?」

ブーン達が声を荒げているのは、その家の扉の前に背を持たれながら
冷ややかな表情を浮かべる、長身の男に向けられた言葉だ。

二人の言葉を聞き流すその男は、ただ静かに腕を組んでいるばかりだ。

667名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:15:58 ID:.tzphm0k0

(´<_` )「……悪いが、誰が来ようとも町長にはお目通りかなわん。
       この吸血鬼騒動の最中、彼は病床に伏せっているんだ」

説明を求めても、男は淡々とした言葉でそう言うばかり。
ブーン達の言葉に決して感情を荒げる事もなく、表情には感情すら希薄に思えた。

細身ではあるがブーン以上の長身で、感情の起伏に乏しそうな彼からは、
決して口には出せないものの、冷淡な男という印象を受けざるを得なかった。

ξ゚⊿゚)ξ「あなたは、縁者の方?」

(´<_` )「違うよお嬢さん。俺た……俺は、単なる用心棒として雇われただけの冒険者さ」

ξ゚⊿゚)ξ「用心棒って……どうして町長はあなたみたいな人を雇ってるのよ?」

(´<_` )「さぁな。こんな時勢だから……だろうさ」

ξ゚⊿゚)ξ「………」

668名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:16:58 ID:.tzphm0k0

( ^ω^)「吸血鬼は依頼の通り本当にこのマドマギアに居て、街に災厄を振りまいているんだおね?」

(´<_` )「あぁ、確かに古城に居る。だが……災厄か」

「死人は出ていないし……どうだかな」
街を賑わす目下一番の話題である、吸血鬼の話についてはあまり触れようとしない。

どこか不都合になる会話を避けているのではないか、という雰囲気を感じたツンが
続けて追求しようとしたところで、熱くなったブーンがその冒険者に対して語調を強めた。

(;^ω^)「この街にこれだけの冒険者を集めている以上、当事者本人による説明の責任があると思うがお!?」

(´<_` )「………わからん奴だな」

ξ;-⊿-)ξ(駄目ね、これは)

なおも食い下がろうとするブーンの肩に、ツンがそっと手を置いた。

669名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:17:42 ID:.tzphm0k0

ξ゚⊿゚)ξ「行きましょう、ブーン」

(´<_` )「すまないが、そうしてくれ」

(;^ω^)「くっ……話にならんお!」

ξ゚⊿゚)ξ「───行きましょう」

(´<_` )(………)

悔しさが収まらない様子のブーンが去り際に一瞥をくれたが、
やはり変わらぬ無表情のまま、男はその扉の前に腕組みして佇むばかりだった。







冒険者がこなしていく仕事の依頼において、事前情報というものは極めて重要なものだ。

それを依頼主が提供してくれないというのだから、あとは自分達の足を使う他ない。
幸いにしてショボンとフォックスが別働隊として情報を集めてくれているはずだ。

670名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:19:02 ID:.tzphm0k0

今回の依頼に関しての違和感は、当然のように感じていた。

ξ゚⊿゚)ξ「なんだか、おかしいと思わない?」

( ^ω^)「……そうだお。依頼を投げっぱなして、訪問者は門前払いなんて、絶対におかしいお」

何、裏があるのではないか、そんな疑念が嫌でも沸き上がる。
ちらほらとこの街に見かける冒険者パーティー達の姿は、ブーン達の他にも
10や20は下らないのではないかという程だ。

その彼らもまた高額の報酬に釣られてか、訳もわからぬままに吸血鬼に挑んでいるのだろうか。
あちらこちらでは武具も売られており、装備を整えてこれから挑むのでは、という光景だ。

そうこうしていると、待ち合わせ場所である噴水の縁に腰掛けているフォックスの姿があった。
遠目からは少し伏目がちな表情から察するに、さほどの収穫は見込めなかったのだろうか。

爪'ー`)y-「よぉ、お二人さん。町長には会えたのか?」

671名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:19:56 ID:.tzphm0k0

ξ-⊿-)ξ「………」

ツンがその言葉にふるふる、と2度首を小さく振った。
それよりもブーンとツンのやるせない表情から、その結果は伝わっていたようだ。

爪'ー`)y-「何があった?」

( ^ω^)「愛想の無い冒険者が家の前に居てだおね……
       町長は今病床に伏せっているから、の一点張りだったお」

爪'ー`)y-「はっ倒して押し入れば良かったじゃねぇか」

(;^ω^)「さすがに同業者……ましてや一応は依頼人の雇った相手にそこまではできんお」

(´・ω・`)「待たせたようだね」

そこへ、フォックス同様に情報収集へと回っていたショボンが戻る。

672名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:21:36 ID:.tzphm0k0

爪'ー`)y-「ショボン、目新しい情報はあったか?」

(´・ω・`)「恐らく、ギルドづてに情報を仕入れられる君ほどのものはないだろう」

爪'ー`)y-「俺も大して変わりゃしねぇと思うぜ……?」

そして、フォックスとショボンは拾い上げてきた情報の全てを他の二人にも伝えた。
言った通り、ショボンとフォックスの仕入れてきた情報の殆どは似通ったものだったが。

ξ゚⊿゚)ξ「……死者は、出ていない?」

( ^ω^)「なのに、吸血鬼に支配された街だっていうのかお?」

(´・ω・`)「あの街の中央区画の古城で、冒険者を待ち受けている───それだけは、確かのようだ」

爪'ー`)y-「で、肝心の冒険者に泣き付くべき立場の被害者、町長さんは姿を見せねぇってんだ」

673名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:22:23 ID:.tzphm0k0

何か、この件には裏がある。
そう思って当然とも言えるべき状況だろう。

しかし、ここまで来て手ぶらで帰る訳にも行かない。

( ^ω^)「行ってみるしか、ないおね」

覆い隠された事実は───自分の目で確かめるしかないのが冒険者だ。

爪'ー`)y-「まぁ、そいつを倒しゃ3000spもらえんだろ?……死ぬリスクがねぇなら、いいと思うぜ俺は」

(´・ω・`)「確かにね。僕も、吸血鬼の実物というものには興味が惹かれる」

ξ゚⊿゚)ξ「───見て、あれ」

街の中央にそびえる古城へと向かう途中、城へ続く一本道の両脇には、様々な露天が軒を連ねる。
商店街のような活気が生み出されているなか、城へと出入りする冒険者達の姿があった。

674名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:23:26 ID:.tzphm0k0

「くそッ」

城から出てきた腕を負傷したと思しき一人が、仲間に付き添われながら悔しそうに唇を噛み締めていた。
古城の主に挑み、敗れ去ったのだろうという事は一目見て解った。

( ^ω^)「………負けた、のかお?」

「………あぁ、口惜しい事だがな」

「俺達もそれなりに自信はあったんだが」

肩を落として立ち尽くす彼らを気遣いながら、質問をぶつけてみた。

爪'ー`)y-「強いのか?その───吸血鬼、とやらは」

「悔しいが、歯が立たなかったよ」

(´・ω・`)「やはりその吸血鬼は、魔法を?」

「わからねぇ……だが、攻撃が殆ど当たらねぇんだ。あいつは」

675名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:24:19 ID:.tzphm0k0

「濃い霧で目晦ましされて、一方的にやられたよ……あんたらも、気をつけな」

(´・ω・`)(ふむ)

( ^ω^)「───貴重な情報、ありがとうだお」

見れば、皆剣を手にしている三人の冒険者達。
それゆえに、相手の魔法に対して応じる手段がなかったのであろう。

しかしながら、こちらには魔術師も。
また不死者を浄化する奇跡の業を持つ少女もいる。
魔法を使う相手であろうとも、渡り合える可能性は無くもない。

立ち並ぶ露天の喧騒を抜け出し、やがて一同は古城の正門に構える大きな木扉の前に立った。
無理もないが、心なしかこの扉の奥から、とても禍々しい気配が伝わってくるように感じられる。

676名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:25:41 ID:.tzphm0k0

( ^ω^)「この扉を抜けたら……直ぐに戦闘になるかも知れないお」

爪'ー`)「吸血鬼の弱点って謳ってたけどよ、露天で何か買っとかなくて良かったのか?」

(´・ω・`)「……”弱点”と言われている十字架やニンニクなどは、単なる言い伝えさ。
       確かめた事のある人物は極少数だろうが、僕ら魔術師達の意見では、そんなものに効力は無いとされている」

ξ゚⊿゚)ξ「そこで、私の出番って訳ね」

(´・ω・`)「ああ。吸血鬼も不死者の一つに数えられる存在だ───不浄な者に対抗する力なら、恐らく通用するだろう」

( ^ω^)「……頼りにしてるお、ツン」

ξ;゚ー゚)ξ「ちょっと、緊張するような事言わないでよ」

爪'ー`)「………」

677名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:26:35 ID:.tzphm0k0

見れば、ツンの小さな肩はふるふると小刻みに震えていた。
聖術を身につける司教の娘とはいえ、やはり未知なる脅威、それとの戦闘には少なからず怯えているようだ。

( ^ω^)「二人とも───」

(´・ω・`)「解ってるさ、君の言いたい事は」

ブーンが、二人の仲間に目配せを送っていた。

ξ;゚⊿゚)ξ(ふぅ……私にやれる事は一つしかない)

それに気付いたフォックスとショボンは、呼吸を落ち着かせようとするツンの方を
ちらりと覗き込むと、ブーンの視線に対して無言で頷いた。

もしかすると唯一の対抗策となり得るツンを、この三人で守るのだと。

( ^ω^)「皆準備はいいかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「……行きましょう」

678名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:27:34 ID:.tzphm0k0

「───行くお!」

両方の腕を力強く扉に押し付けると、木扉はさほどの抵抗もなく呆気なく開いた。

そのまま脇に視線を散らす事もなく、ブーン達は一直線に駆け出す。
古めかしい外観からは想像もつかぬほど、アンティーク調の内装は豪華なものだ。

吸血鬼はどこにいるのか、そんな考えを巡らせる事もなく───既に戦闘に突入する体勢に入っていた。

(#^ω^)「出てこいお───吸血鬼ッ!」

すでに背の鞘に納まった剣の柄に、ブーンは片手を掛けていた。
彼の叫び声が木霊した入り口の大広間を抜けると、すぐに目の前には螺旋階段が飛び込んできた。

(´・ω・`)「階上……上がって来いとでもいいたげだね」

爪'ー`)「待て」

階段の前に全員を立ち止まらせたフォックスが、注意深く観察眼を走らせた。
情報にはないが、一応は罠の類がないかを確かめているのだ。

679名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:28:17 ID:.tzphm0k0

爪'ー`)「何の仕掛けもねぇ……ってこたぁ、誘ってんだ。どうやら余裕かましてるな、吸血鬼とやら」

ξ;゚⊿゚)ξ「この階段を上がった先にいるのね」

今や、吸血鬼の居城に土足で足を踏み入れているのだ。
相対して殺された冒険者はいないという話だが、それを甘えとしてはならない。

絶対に殺されないと限った話ではないのだ。
集中力を高め、勝利する事に対しての士気を高く持っていなければ、無残な結果が待っているだろう。

(;^ω^)「皆、気をつけるんだお」

言いながら、まず階段に一歩足をかけたブーンに対し、階上から声が掛けられる。

「───またか」

680名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:29:16 ID:.tzphm0k0

ξ;゚⊿゚)ξ「!?」

ブーン一行全員の身体が、一瞬緊張に強張った。
そしてすぐに視線が注がれた先には、階段の踊り場で影の中に立つ、人影。

从 ∀从


(;^ω^)「─────お前が、吸血鬼かお!」


ブーンの問いかけに、影の中の人物は無言で歩み出た。


爪;'ー`)「………あん?」


その姿を目の当たりにしたフォックスが、怪訝な表情を浮かべた理由は一つだ───


从 ゚∀从「あー……ようこそいらっしゃいましたぁ、冒険者ご一行様ぁー」

だらしなくそう言って、手を前に組みながらぺこりと頭を垂れたのだ。
─────フリルがそこかしこに施された奇抜な衣装を纏った、そのメイド風の女性が。

681名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:30:40 ID:.tzphm0k0

(;^ω^)「……へ?」

从 -∀从「えーっと、この度は我が主の居城にご足労頂きー────」

(´・ω・`)「ちょっと、待ってくれないか」

从 ゚∀从「誠に───って、あん?」

面倒くさそうな口調で話す従者と思しきそのメイドの言葉を、とりあえず一旦遮った。
すぐに戦闘が待ち受けていると覚悟していた一同は、とんだ肩透かしを受けて動揺を隠せない。

ξ;゚⊿゚)ξ「あの……貴女は?」

从 ゚∀从「見てわかんねーかな。メイド」

(;^ω^)「メイド………?」

从 ゚∀从「そ、メイド」

爪'ー`)「………」

682名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:31:56 ID:.tzphm0k0

一同にしばし無言の間が訪れた後、彼女は名乗った。

从 ゚∀从「あ、名前は”ハイン”ってんだ」







よく彼女の姿に目を凝らしてみれば、肩ほどまでの長さの滑らかな黒髪と、その瞳は同じ色だ。
色白ではあるが、吸血鬼に咬まれたというような不自然な肌の色でも無かった。

从 -∀从「あぁ、もうやんなっちまうよ……今日はあんたらでもう20組目だぜ?」

ハインと名乗ったそのフリフリのメイドは、肩や首をこきこきと鳴らしながら愚痴をこぼし出した。

(;^ω^)「まさか吸血鬼の城に来て、人間のメイドに出迎えられるとは思ってもみなかったお」

683名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:32:52 ID:.tzphm0k0

(´・ω・`)「従者を雇っているとは頷けるにしても……君は」

「命を脅かされ、仕方なしに仕えているようには見えない」
という風な質問をぶつけようとしたショボンに、彼女は軽く言い放った。

从 ゚∀从「もち仕事さぁ。お・し・ご・と」

ξ゚⊿゚)ξ「吸血鬼が人間を雇っている……って訳?」

从 ゚∀从「あぁ、まぁそうだ───あたしの場合は趣味半分ってとこだけどな」

(;^ω^)「───ふぅ」

(´・ω・`)「君の趣味には悪いけど、我々はそのご主人様を倒させて頂くつもりなんだが……」

从 ゚∀从「あぁ、構いやしないさ」

爪;'ー`)「なーんか調子狂うぜ………」

684名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:33:52 ID:.tzphm0k0

「じゃあ」とそのメイドに声を掛けて脇をすり抜けようとした所を、両腕でせき止められた。

从 ゚∀从「ほい」

そして、”出せ”と言わんばかりに一同の前に掌をひらひら躍らせる。

(;^ω^)「あの……」

頭の上に浮かぶ疑問符の答えは、すぐに出る。

从 ゚∀从「通るんだろ?───入場料、一人50spだ」

ξ゚⊿゚)ξ「はい?」

4人で200sp─────そんな事は問題などではない。

依頼で訪れたこの場所へは、街を賑わす吸血鬼騒ぎに終止符を打ちに来たのだ。
そのつもりであった冒険者一同は、それに挑むのに金銭を要求されるというのだから、たまげた。

685名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:34:43 ID:.tzphm0k0

(;^ω^)「そんな話は聞いてないお!」

从 ゚∀从「まぁ、人様の城に入るんだからよ」

爪'ー`)「強引に通っちまうってのは、駄目か?」

从 ゚∀从「当たり前だ。んな事許せば、あたしが怒られちまうからな」

ξ;-⊿-)ξ「本当───どうなってるのよ……」

全員が、ツン同様に深い溜息をつきたい心境だ。
とはいえ、ここで「通せ」「通せない」と押し問答をしていても始まらない。
吸血鬼に仕えているとはいえ、人間である従者に乱暴を働く訳にも行かなかった。

爪'ー`)「あー、もう面倒くせぇな……ブーン、渡してやれよ」

(;^ω^)「け、けど200spといったら大金だし──ブーンの初依頼の報酬と同じ額だお!」

686名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:35:54 ID:.tzphm0k0

(´・ω・`)「仕方ないさ、ブーン。吸血鬼を倒したあとに、町長を捕まえて返してもらえばいい」

从 ゚∀从「ま、そいつができりゃあ苦労はしねぇんだろうけどな」

(;^ω^)「ぐぬぬ……!」

必ず倒してやる───吸血鬼。
その強い想いを新たにしながら、虎の子の銀貨200枚を、泣く泣くブーンは手渡した。

从 ゚∀从「ひー……ふー……ん。確かに」

(;^ω^)「通らせて、もらうお」

从 ゚∀从「───それではどうぞお通り下さい、冒険者ご一行さまぁ」

気だるいような声でそう背中に投げかけるハインの言葉に後押しされながら、
ようやくブーン一行はハインの横を通り抜けて、先へと進む。

687名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:36:51 ID:.tzphm0k0

从 -∀从「……ま、頑張んな」

「────ふ、わぁあ〜あ」
ブーン一行の姿を見送り届けた後に、ハインは一つ大きな欠伸をこしらえた。







気を取り直したブーン一行は、少しずつ緊張感を取り戻していた。
思わぬ障害が立ちはだかったが、どうやら今度こそ本命の元へと辿り着けそうだ。

螺旋階段を登り切ると現れたのが、この重そうな鉄扉だ。

ξ゚⊿゚)ξ「今度こそ───ね」

688名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:37:48 ID:.tzphm0k0

(´・ω・`)「戦意を少しでも削ぐのが目的なのかな、あれは」

爪'ー`)「まぁどうでもいいけどよ、準備は出来てんのか?」

妙な邪魔にあって調子を崩していないかと案じたフォックスがブーンの横顔を覗き込んだが、
どうやら変に気負ったりしてもいないようだった。

先ほどのハインとの問答が緊張感を解してくれるような、良い清涼剤になったのかも知れない。

( ^ω^)「……大丈夫だお」

ブーンが全員に視線を送った後、扉の前に立って一歩下がった。
少し腰を落として半身になると、左に出した前足を起点に強烈な蹴りを扉へとぶちかます。

”ばごんっ”

階下にまで響き渡るような音を上げて扉が開け放たれた瞬間に、一同は室内へとなだれ込む。

689名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:39:20 ID:.tzphm0k0

(#^ω^)「出て来るお吸血鬼───この200spの恨みは……デカいおッ!」

爪'ー`)(まだ気にしてんのかよ)

広い室内だった。
こざっぱりとして、余計な物など何一つ置かれていない執務室─────

ブーン達の視線の先にあるのは、ぽつんと置かれた机の上でペンを走らせる、一人の女性の姿だけだ。

( ^ω^)「……お前が」

「懲りもせずに────また冒険者が来たか」

ブーンが言葉を言いかけた所で、漆黒の外套を羽織った彼女は、ペンを置いた。
そして腰掛けた椅子から静かに立ち上がると、机の前まで歩き、ブーン達へ面と向かった。

('、` 川「───ようこそ、我が居城へ」

690名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:40:22 ID:.tzphm0k0

透き通るような透明感のある声は、人のそれとは変わりない。
外見だけで言えばツンとさほど歳も変わらず見えるが、肌はほのかに青白く、何よりも真紅の瞳が異質だ。
同じように際立った赤を放つ口元には、血を好むその性質を感じさせた。

ξ;゚⊿゚)ξ「現れたわね……ッ!」

爪'ー`)「へぇ。吸血鬼が女とは思わなかったぜ」

('、` 川「精々、歓迎しようじゃないか。この”ペニサス=バレンシュタイン”が」

(´・ω・`)「………」

言って、黒の外套をはためかせながら大仰な仕草を見せる”女”の吸血鬼。
4人の敵を相手にしても一切怯む様子も見せないのは、やはり人外の力を持つ者のなせる余裕か。

( ^ω^)「お前に直接恨みはないけど───倒させてもらうお」

('、` 川「出来るものならば……やってみるが良かろう?」

691名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:41:50 ID:.tzphm0k0

あくまで表情にも平静を保った、余裕の佇まい。
ブーン達がどう打って出てくるかを、探っているかのようだった。

ξ#゚⊿゚)ξ「………」

( `ω´)「まずは正面から、ブーンが行くお」

爪'ー`)「───あぁ」

(´・ω・`)「隙を見て、”魔法の矢”で貫く」

ブーンが正面に刀身を傾かせて剣を構え、フォックスは二振りのナイフを指先に掴んだ。
ペニサスと名乗った吸血鬼の前に立った三人は、ツンを遮るようにしてそれぞれに身構える。

('、` 川「ほう? 魔術師が居るか……」

(´・ω・`)「生憎と」

ショボンもまた、両の掌の間に見えないものを抱えこむようにして、詠唱の準備に入っている。

692名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:43:21 ID:.tzphm0k0

(#`ω´)「───いっくおぉぉぉぉッ!」

真正面を切って吸血鬼の元へと駆け出したブーンの左右に、
それぞれフォックスとショボンがツンから離れすぎないように散らばった。

その彼らに信頼を預けて、ツンもまた”聖術”を解き放つ祈りを始めていた。

ξ-⊿-)ξ(───”ヤルオ=ダパート”の名において───)

が、4人を待ち受ける吸血鬼が、腕とともにばさりと大きくその外套を翻した時、異変が起きる。

( 、 川「”来るがいい!”」

( `ω´)「!?」

吸血鬼がそう口にした瞬間、瞬時に広い室内には深い霧が立ち込めていく。
部屋の四隅、隙間という隙間から、どこかから発生したそれが入り込み、冒険者達の視界を奪う。

693名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:44:48 ID:.tzphm0k0

吸血鬼を三方から覆い包むように拾っていた三人は、突然の濃霧に足を止めた。
既に、お互いの顔の目視も困難なほどに室内全体を覆い隠しつつあるのだ。

互いに離れすぎては、各個撃破の格好の的となってしまう。

爪'ー`)「………ツンッ!後ろに下がって、入ってきた扉を開けろ!」

ξ;゚⊿゚)ξ「わかったわっ!」

(´・ω・`)「退けっ、下がるんだ、ブーンッ!」

(;`ω´)「くっ……何なんだお、この霧は!」

即座にフォックスが霧を払うべく、大声でツンに促した。
ブーンも一旦足を止め、寄り集まるようにしての後退を余儀なくされる。

もはや、一同の正面に立っていたはずの吸血鬼の姿も捉えられない。
距離感すら危うく、飛び出したはずの3人は逆に部屋の後方へまで押しやられていた。

694名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:45:43 ID:.tzphm0k0

ξ;゚⊿゚)ξ「……駄目、開かない!」

この部屋と廊下とを隔てる鉄扉が、今ではびくともしなかった。
一度立ち入った敵を逃がさない為の仕掛けがなされているのだろう。

「はははははッ!どうした───逃げ惑え、そして怯えるがいいッ!」

(;`ω´)「ショボンッ!」

部屋中に響き渡る高らかな吸血鬼の笑い声───しかし、霧に阻まれてそれとの彼我差を図る事が出来ない。

扉を室外へと追いやって物理的に霧を晴らす事も不可能。
だが、もしこの霧が魔的なものだとすれば、対処出来るのはこの中で彼一人しかいない。

(´-ω-`)【見えぬ生命の脈動 我が瞼の裏に 色を以ってその輝きを知らしめよ】

【───生命探知の法───】

ショボンが瞳を閉じているのすら今のブーン達には把握出来ていなかったが、彼は静かにそう呟いた。

695名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:46:41 ID:.tzphm0k0

そして、再び冷ややかな吸血鬼の声が室内に響き渡る。

「頃合だな───そろそろ始めようか、この余興を」

(;`ω´)「!……そこかおッ」

その居所が掴めぬままに、ブーンが反射的に声の聞こえた方向へと剣を振るった。
しかし刃先へと伝わる感触は、空を裂くものだけだ。

爪;'ー`)「ちッ、無事かツン!?」

ξ;゚⊿゚)ξ「ええ、今はまだね!」

それぞれが霧の向こうを見据えながら、いつの間にか三人はツンを囲みながら小さな輪となっていた。

('、` 川「どうした?───余を倒すのではなかったか?」

(;`ω´)「!」

突然、ブーンの正面に濃霧に遮られながらぼんやりと吸血鬼の姿が映り込んだ。
のこのこと姿を現したその敵に大きく踏み込むと、気合と共に縦に断ち割る一閃を見舞った。

696名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:49:34 ID:.tzphm0k0

”がぎっ”

(; °ω°)「ぬおぉッ!?」

しかし、またも手ごたえは得られない。
目の前に姿があるというのに、剣は振るわれる威力のままに床を叩き付けただけだ。
予想に反した結果が、身体を持っていかれるような浮遊感をもたらし、よろめいた。


ξ;゚⊿゚)ξ「ブーン、気をつけて!」

('、` 川「フフン……それが全力か?」

(;`ω´)「───フ、ゥッ!」

顔を上げた先に、またも蜃気楼のように霧の中に映り込む吸血鬼。
振るった横薙ぎも、やはりその刃が届く事はなかった。

('、` 川「ほら、どうした」

ξ゚⊿゚)ξ「!」

('、` 川「姿を現してやったというのに」

爪;'ー`)「………冗談かよ」

697名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:50:18 ID:.tzphm0k0


            ('、` 川                    ('、` 川

('、` 川                     ('、` 川

       ───「まるで、攻撃が当たらぬではないか」───

  ('、` 川          ('、` 川
                             ('、` 川

          ('、` 川


(;`ω´)(幻覚を───見せられているのかお!?)

気付けば、霧の中のそこら中に吸血鬼、ペニサスの姿が映り込んでいる。
ブーン達を嘲うかのような言葉が紡がれると、全てのその蜃気楼が、同じように口を動かすのだ。

698名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:51:28 ID:.tzphm0k0

”こちらの攻撃がまるで当たらない”

敗れた冒険者達が口にしていたのは、この状況だったのだ。
本体はこの部屋のどこかにいるはずだが、目の前に映る幻影が視覚を惑わせる。

弄ばれているかのような現状を打破する手立てが、見えてこない。
ブーンの額から流れた冷たい汗が地面へと、頬を伝い落ちた。

('、` 川「………そぅら」

ξ;゚⊿゚)ξ「どうしろっての……これ───きゃッ!?」

突如、吸血鬼の幻影がブーン達を指差した次の瞬間、室内のどこかで光が瞬いた。
そちらへ視線をやると、”球状の光”───そう思しき形状と認識できた。

だが、それは凄まじい速度で既にこちらへと向かっていた。

”ぱんっ”

699名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:52:20 ID:.tzphm0k0

「……うおぉッ!?」

形を為した光がブーン達の方と飛来した直後、何かが軽く弾けるような音と共に、一人の苦痛が叫ばれる。

爪;'ー`)「ア……ッチィな───畜生が!」

フォックスが、肩膝を付いて肩を庇っていた。
霧の中から放たれた光が、フォックスの身体へと浴びせられ、炸裂したのだ。

光の弾に当てられた部分の衣服が破れ、薄らと血の滲み出る素肌が覗かせた。

(;`ω´)「大丈夫かお、フォックス!?」

爪;'ー`)「死ぬほどじゃねぇがな───痛ぇぞ」

言っている内に、また光が瞬いた。
再び、球状の光が目視不可能な程の速度で飛来すると、僅かに半身を反らして対応したブーンの
右胸を掠めるようにして直撃したその光が、爆散する。

”ぱんっ”

700名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:53:25 ID:.tzphm0k0

(; ω )「く……おッ!」

皮の胸当てにそれが当たったのは幸いだった。
だが、味わった事の無い魔力がもたらす衝撃とその熱に、たたらを踏んだ。

爪;'ー`)「───今光ったのは部屋の東側だ。俺の時は西側だった」

(;^ω^)「く……一発ごとに、この広い部屋中を移動してるのかお!」

('、` 川「どうした?───余は、こんな近くに居るというのに」

狡猾極まりない───人間以上の性能をその身に有しているというのに、
このペニサスの戦い方は、そう吐き捨てたくなる他無い戦い方だ。

あるいは、こちらの戦意を徐々に削ぎ、いたぶるだけが目的なのかも知れないが。

(;`ω´)「ツンッ!………むぉッ────”聖術”だお!」

ξ;゚⊿゚)ξ「───ええ!」

ツンに言葉を掛けている最中にも、ブーンがまた光弾をその身に受けた。

701名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:54:27 ID:.tzphm0k0

濃霧に囚われたこの場所は、今やブーン達にとっての檻だ。

吸血鬼からすれば、好き勝手にこちらを攻撃できる格好の場所であろうが、
何らかの行動を起こさなければ、このまま戦闘不能にまで陥ってしまうだろう。

(;^ω^)「また───時間稼ぎするんだお、フォックス!」

爪;'ー`)「仕方ねぇ……どわちッ!」

ツンが聖術発動までの祈りを捧げる中、フォックスとブーンはその両脇を固めた。
光弾がツンの命を脅かすような事や、その祈りに雑念を挟み込ませるような事があってはならない。

ξ-⊿-)ξ(───一【この邪にして不浄なるものを 消し去る力を与え賜わん事を】────)

”ぱんっ”

(; ω )「ぐはッ」

ξ;-⊿-)ξ(───ッ!)

702名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:55:54 ID:.tzphm0k0

”ぱんっ”

爪;'ー`)「うおぉッ!?くそったれ───ショボン、何してやがんだッ!?」

既に、二人には数発の光の弾丸が叩きつけられている。
一発ごとに身体にはその傷跡が刻まれ、戦意というものを、少しずつ痛みが蝕んでゆく。

(´-ω-`)「………」

その彼等から少し離れた場所で、瞳を閉じたショボンは何かを感じ取るように、
探り当てるようにしながら、両の腕を胸の前でゆらめかせていた。

('、` 川「そら、そらそら───どうした?やはり人間風情では、手も足も出ないかぁッ?」

ペニサスの幻影が、またもそんなブーン達を嘲う。

それでも、剣が届かずどこにいるかも解らない相手に対して今出来る事は、
ツンの祈りを妨げる事の無いように、彼女を庇う事しかない。

ξ;-⊿-)ξ(───【勇敢なるかの者達の 助けとならん事を その為の力を……】───)

703名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:57:00 ID:.tzphm0k0

爪; ー )「うがぁッ!……同じ箇所に当てんじゃねぇ!てめぇッ!」

ξ;゚⊿゚)ξ(力を────!)

俯きながら祈りを念じていたツンが、突然ばっと顔を振り上げた。
表情には、明らかな動揺を貼り付けて。


ξ;゚⊿゚)ξ「───駄目ッ」

”ぱぁんっ”

爪;'ー`)「うがッ!………ツン!?」

「どうしてッ!?」
そう叫びでもしたそうに、ツンがわなわなと口元を振るわせる。

ξ;゚⊿゚)ξ「届かないの───ヤルオ神に、祈りが……!」

”ぱんっ” ”ぱぱんっ”

704名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:57:48 ID:.tzphm0k0

泣き出しそうな彼女の表情に振り返る事もできず、ブーンは腕を交差させて光弾を凌ぐのが精一杯だった。

(; ω )「もう一度───もう一度、だおッ!」

ξ;-⊿-)ξ「………くッ」

頼みの綱であったはずの聖術が発動せず、攻略の糸口はまるで見えない。
───全員の心が焦燥に囚われかけた、その時だ。


(´-ω-`)「視えた………!」


未だ瞳を閉じたままのショボンが、そう囁いた。

(;^ω^)「ショボン」

705名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:58:50 ID:.tzphm0k0

(´-ω-`)「そこらの幻覚に惑わされては駄目だ───この部屋には、僕ら以外に”二人”が居る」

ξ;゚⊿゚)ξ「吸血鬼……以外にも?」

爪;'ー`)「やれやれ……もっと早くよこせよ、その情報」

この濃霧の中にあって、恐らくショボンは全員の中で誰より現状を把握していた。
たとえ瞳を閉じていても、彼の”探知魔術”によって、生命の動きがショボン一人だけには視えるのだ。

(´-ω-`)「ブーン、左から光弾が来る」

(;`ω´)「!………うおッ───とぉッ」

ショボンの言葉にブーンが身構えた瞬間、その方向から光弾が飛来した。
大まかではあるが、予めその情報を渡されたブーンは、どうにか身体を反らしてその直撃を避ける。

爪;'ー`)「へっ、じゃあそろそろお楽しみの種明かしを頼むぜ、ショボンさんよ!」

706名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 13:59:32 ID:.tzphm0k0

(´-ω-`)「この霧を発生させているのは恐らく魔法によるもの………そして、その術者は───」

(´・ω・`)「僕たちの───”真上”だ」

('、` 川「………なッ」

一瞬、蜃気楼の吸血鬼が狼狽したような声を上げた。

( ^ω^)「そこ……かお!?」

ショボンの言葉に見上げた先にあるのは、何の変哲も無い天井。
人二人分ほどの高さはあるそこを目掛けて、ショボンの言葉を信じたブーンが跳躍した。

突き刺す、そうイメージして剣を天井へと振り上げる。

”がしゃあぁんッ”

707名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:00:50 ID:.tzphm0k0

( ^ω^)「!」

だが、感じた柄への手ごたえは呆気のないものだった。
あっさりと剣が貫通すると、ぱりぱりと音を立ててこれまで”天井”だった破片が降り注ぐ。

(ひえぇッ!?)

階上で、この濃霧を発生させていたと思しき”人”の声が聞こえた。
頭から降り注ぐ破片の飛まつを腕で庇いながら、霧が少しずつ薄らいでいくのが感じられる。

(´・ω・`)「目を庇って、三人とも!」

ξ;-⊿-)ξ「あた、あだだ!」

爪;'ー`)「こりゃあ……硝子か!」

(´・ω・`)「そうだ───恐らく隠蔽魔術の一種……」

708名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:01:50 ID:.tzphm0k0

(´・ω・`)「肉厚の硝子を張り巡らせて天井と偽装した場所に、予め
       この濃霧を生み出す為の術者を配置しておいたんだろうさ」

ξ゚⊿゚)ξ「術者って……」

(´・ω・`)「当然、魔術師である人間だろう」

本来の天井には、もっと高さがあったのだ。

ブーンが剣を突き立てた部分から開いた風穴に霧が流れ込む事によって、濃霧だったそれは
映し出していた吸血鬼の姿を、今ではぼんやりとだけ映る薄もやのように変えていく。

.:'、`;川「く……こんな───バカなッ!」

( ^ω^)「全く、とんだ吸血鬼だお。どうやら……からくりが見えてきたおねッ!」
                ・ ・ ・
種が破られた今、どうやら吸血鬼は明らかにうろたえている。

709名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:04:42 ID:.tzphm0k0

やがて、ガラス張りの天井には少しずつ亀裂が広がり、音を立てて大きな破片が崩れ落ちた。
───一際大きなものに見えたのは、それは人影だったからだ。

「……ぐッおぅッ!!」

爪'ー`)「おー、こりゃあ痛ぇな」

べちゃりと音を立てて、濃霧を発生させていた術者が顔面から地面へと落下してきたのだ。
当然、割れた硝子の破片がひしめく地面に落ちたものだから、その顔中は傷だらけであった。

(メ;´_ゝ`)「な………な……何が、起こった?」

ξ゚⊿゚)ξ「ッ───あなた、町長の家の前にいた……!」

(メ;´_ゝ`)「……はい?」

710名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:05:29 ID:.tzphm0k0

(;^ω^)「なるほど………この吸血鬼騒動、町長とやらもグル……ってことかお」

('、`;川「………」

(メ;´_ゝ`)「へ?え?何、どういう状況これ……まさか、見破られたのかペニ────」

('、`;川「───だ、黙ってろ!”人間の従者”ッ!」

(´・ω・`)「もうサル芝居は二度と通用しないよ、ペニサスさん───と仰ったか」

('、`;川「くっ……」

”人間の”という部分にわざと力を込めて言い放ったが、その不自然さは見過ごせなかった。
まだ、”あくまで自分は吸血鬼だ”とでも言いたげな表情をしていたが。

どうやら、このマドマギアを賑わす”吸血鬼騒動”の真相が見えつつある。

711名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:06:36 ID:.tzphm0k0

( ^ω^)「さーて……姿が見えれば、こっちのものだお」

あちこちを傷だらけにはされたが、未だ命に別状のあるダメージではない。
剣を構えたブーンが、悠々と吸血鬼・ペニサスの元へと近づいてゆく。

先には、痛めた全身をさすりつつ刺さった硝子片を抜いている、術者の男。
その背後で、ペニサスはたじろぎながらじりじりと後ずさっていた。

爪'ー`)「おいおい、仮にも吸血鬼(笑)だぜブーン……全力でかからねぇと」

('、`;川「うっ……くぅッ」

(メ;´_ゝ`)「……あ、解ったぞ!───いわゆる”まずい状況”だろ、これ?」

ξ#゚⊿゚)ξ「ぬけぬけと……よくもさっきは騙してくれたわね」

(メ;´_ゝ`)「え………何?俺、君とは初対面だと思うんだけど……」

712名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:08:20 ID:.tzphm0k0

形勢は、もはや一挙に逆転していた───部屋の隅の机にまで押しやられたペニサス。
そしてその前に小さく膝を抱えながら丸まる術者である男を、ブーン達は皆で取り囲んでいた。

ξ゚⊿゚)ξ「さぁて、どうカタをつけてくれようかしらね」

(メ;´_ゝ`)「いや……マジで、時に落ち着けって……本当に!マジで初対面だからッ
      ”私と貴方は前世で会っている”とかそういうアレだったら本当に勘弁して欲しい」

ξ#゚⊿゚)ξイラッ「こいつ……こんな感じの奴だったかしら」

( ^ω^)「一つ尋ねるけどお───ペニサス。あなたは、本当に吸血鬼なのかお?」

('、`;川「………そ、そうだ!」

爪'ー`)y-「ヴァンパイアって、随分とコスい戦い方するんだな……一つ勉強になったぜ」

('、`;川「ま……魔法ぐらい……あんなもの……!」

713名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:10:05 ID:.tzphm0k0

(´・ω・`)「ふぅ───本物の吸血鬼なら仕方ないね。倒させてもらうけど、いいかな?」

('、`;川「あ──ぐぅ……そ、それは……!」

(メ;´_ゝ`)「…………」

もはや戦意を失っている彼女達を、まるで小馬鹿にするような口調でショボンが言い放った。
これまでの道中、ブーン達が激戦を覚悟して此処まで来たその代償を、彼女達にも払ってもらわなければならない。

悪戯な心が、全員の中に芽生えていた。

( ^ω^)「ところで、吸血鬼を倒したっていう証はどうしたらいいかおねぇ?」

(´・ω・`)「そうだね……首でも刎ねて、持っていけばいいんじゃないかな?」

( 、 ;川「───ひっ!」

( ^ω^)「……やっぱりそうだおね、それが一般的だお」

爪'ー`)y-(くっく……悪い奴だな、ショボン)

ξ゚−゚)ξ(あぁ……なんか、こんな自分も居たのね)

714名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:11:15 ID:.tzphm0k0

ブーン一行は、少しだけこの状況を楽しんでいた。
この”偽りの吸血鬼”が、自分達の言葉に狼狽している、その様子に。

( ^ω^)「さて……覚悟してもらおうかお」

(´・ω・`)「そんなものは必要ないさ。吸血鬼は類稀なる生命力を持つ───生首になっても、言葉を喋るかも知れない」

爪'ー`)y-「おーっと、そりゃあちっと俺は見たくねぇ光景だな」

ξ゚ー゚)ξ「私も……目背けとこっと」

(メ;´_ゝ`)「ペニサス……今まで、ありがとうな」

ξ゚⊿゚)ξ「喋んな、お前」

(メ;´_ゝ`)「痛っ!?ちょっ、俺───今明らかに年下の娘さんに平手打ちされたんだけどッ!?」

715名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:13:25 ID:.tzphm0k0

( ^ω^)ジー「………」

(´・ω・`)ジー「………」

爪'ー`)y-プカー「………」

ξ゚⊿゚)ξジトー「………」

(メ;´_ゝ`)(マジ、これ謝った方が良くないか?)

('、`;川「む……うぐ、ぐぅ……」

吸血鬼騒動の真相──―その”自白”を待ち、
一同が冷ややかな笑みをペニサスに浴びせている─────その時だった。

716名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:14:18 ID:.tzphm0k0


「───待ってくれ!」


( ^ω^)「………っ」

背後から聞こえたその声に振り向くと、閉ざされていたはずの鉄扉を開け放して、一人の男の姿。
その顔を見て全員が一瞬驚き、思わず二度見してしまった。

(´<_` )「……その辺で、勘弁してやってくれないか」

ξ゚⊿゚)ξ「!」

先ほど、町長の家の前に立ちふさがっていた、あの冒険者の姿がそこにあった。
ツンの足元で小さく丸まっている男の顔と、その彼が瓜二つな事に驚き、見比べてしまう程だ。

(メ;´_ゝ`)「……弟者!?」

('、`;川「オトヒム!?………な、なんでここに居るのよッ!」

717名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:16:05 ID:.tzphm0k0

(;^ω^)「おとう……と?」

(´<_` )「………ああ」

こくりと頷くと、つかつかとブーン達の前へと歩み出て、彼は控えめに頭を垂れた。
恐らくは、この件に関しての謝罪のつもりだろう。

(´<_` )「すまなかった……そこの彼女、ペニサスは───多分あんた達にも知られている通り、本当は”人間”だ」

(´・ω・`)「………」

爪'ー`)y-「まぁ、途中から知ってたけどよ」

彼女からすれば予想外の人物による真相の暴露に、ペニサスが慌てふためく。
それでも、もはや収束へと向かっているこの状況が彼女にとって好転する事はないだろう。

('、`;川「何を言い出すの!オトヒムッ!」

(メ;´_ゝ`)「弟者………ッ」

(´<_` )「もう十分だろう、ペニサス。こんな状況に陥っても依頼主の名を明かさないプロ根性は流石だが」

718名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:16:58 ID:.tzphm0k0

('、`;川「ぐぬぅ────ッ」

「………ここまで、か」
そう呟くと、ようやく観念した、というような表情のペニサスが、
今のような事態を引き起こした経緯について、ぽつりぽつりと真相を語り始めた。







黒い外套の端で顔や身体に満遍なく塗布された白粉を拭ったペニサスの顔には、やはり人間の血色が戻った。
瞳に丁度良くはめられていた極々薄い、赤みを帯びた硝子玉を取り外すと、そこには薄茶色の瞳も隠されていたようだ。

('、`*川「……最初は、軽い悪戯心のつもりだったんだけどね」

719名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:17:35 ID:sdS3i5YMO
久々の本編、ちょっとシリアスさがないが 
これはこれで面白いな 
起床を待ってたかいがあったよ

720名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:23:03 ID:.tzphm0k0

(´・ω・`)「ペニサス……本当の名は、”ペニサス=ジラルディーニ”と言ったか。一度聞き覚えはあったよ」

('、`*川「そうよ……よくご存知で。私も、以前は賢者の塔に出入りを許された魔術師の一人だった」

('、`*川「最初から、貴方があのショボン=アーリータイムズだったなんて知ってたら───」

(´・ω・`)「全力で倒しに来た、かい?」

('、`*川「……ううん、正直貴方クラスにはかなわないって思うし───最初から、こうしてたかもね」

魔術の研究に行き詰っていたペニサスは、一時期このマドマギアに滞在していた。
それが3年ほど前で、当時は行き交う商人の数も少なく、寂れた田舎町だったという。

721>>719シリアスはもうちょいまってね:2012/04/27(金) 14:24:03 ID:.tzphm0k0

凋落してゆくわが町に対し、町興しに危機感を募らせていた今の町長が、そんな彼女に目をつけたのだ。
ゆったりとした彼女だけの研究室を与え、稼ぎの一部を対価としてペニサスに与えた。

以前から何度も噂話の流言で冒険者を釣ろうとしていた町長は、失敗を重ねていたのだという。

それが今回、”吸血鬼に支配された町”を演じる上で、魔術師としては腕の立つ方である彼女は適役となり得た。
高額報酬で多数の冒険者を大陸各地から募りながら、そこに集まる商人達が商いをする事で、街は賑わいを見せたのだ。

('、`*川「私もさぁ……衣装とか身に着けていざ吸血鬼の演技し始めたら、結構ノリノリだったワケよ」

ξ゚⊿゚)ξ「でも……倒されたらっていう事は、考えなかったの?」

(´<_` )「そうならないよう、町長から依頼されてペニサスにあてがわれ、これまでフォローしてきたのが俺たちだ」

(メ;´_ゝ`)「そう───この俺”サスガ=アニエス”と……弟の”サスガ=オトヒム”がな」

722名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:25:32 ID:.tzphm0k0

('、`*川「ま、やってくるのはこれまで大抵二流三流の冒険者ばかり……剣を振るうしか戦法を知らない奴らだったし」

(;^ω^)「ちょっと心に刺さるお、その言葉」

('、`*川「ごめんごめん───でもまぁ、あんた達の連帯感は大したものよ。この仕掛けが、見破られるとはね」

(メ;´_ゝ`)「あぁなったら、殆どの冒険者パーティーが纏まり無く散らばって逃げ惑ったからな」

「腕の良い魔術師が敵だと、本当に厄介よね」
そう言って、ペニサスはショボンの方へ少しだけ悔しそうに笑みを浮かべた。

(´<_` )「さて───悪事の片棒を担いだ俺たちの罪は明白だが……」

(メ;´_ゝ`)「その俺たちを、一体どうするつもりかな?」

ξ゚⊿゚)ξ「弟さんが神妙にしてんのに、兄貴が踏ん反りかえってんじゃないわよ」

(メ;´_ゝ`)「痛ッ……あぁッ!そこ、ガラスとか刺さってるからマジでやめてッ!」

723名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:26:19 ID:.tzphm0k0

( ^ω^)「ふむ………」

彼等への処遇は、自分達だけでは決めかねる問題だ。

騎士団にこの事実を通報すれば、恐らく町長はもとより彼等自身もタダでは済まぬだろう。
しかして、この多数の商人を集めた騒動が収束すれば、一つの街の存亡にも関わる。

('、`*川「ちなみに……私はもうやめるわ、吸血鬼役───懲りたわね、正直」

疲れたような表情を浮かべるペニサス、彼女もまた、少なからず良心が咎める部分があったのだろう。
その彼女に呼応するように、オトヒムもこの件に関して手を引く事を口にした。

(´<_` )「俺もさ───また暫くの間、兄弟で依頼をこなしながら各地を転々としようと思う」

爪'ー`)y-「俺はあんたらがどうなろうと知ったこっちゃねぇが……」

(´・ω・`)「ブーン。一応は君がリーダーだ……決めるといい」

724名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:28:04 ID:.tzphm0k0

ξ゚⊿゚)ξ(話してみると例外を除いて案外悪い人たちじゃなさそうだけど───円卓騎士団に知れたら大事ね)

あのフィレンクト団長の事だ。
吸血鬼を騙って甘い汁を啜っていた町長も、一役買っていた彼等もまた、三日や四日の尋問では済まない。

それらを踏まえたうえで、ブーンは意を決したようだった。

( ^ω^)「───帰るお」

('、`*川「へ?」

( ^ω^)「あんた達がこの街から手を引くなら、ブーン達も町長を問い詰める理由は無くなるお」

爪;'ー`)y-「おいおい……仮にも銀貨3000の依頼の条件を満たしたんだ───金品ぐらいは要求しても……」

( ^ω^)「今後の事を考えると……それも気が引けるおね」

(メ;´_ゝ`)「まぁ、俺たちが居なくなれば……この街はまた昔ながらの冴えない田舎町に逆戻りだろうな」

725名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:28:58 ID:.tzphm0k0

('、`*川「ま、私もマドマギアを出る際に”吸血鬼騒動は捏造でした”、って流布しておくつもりだし」

(´<_` )「元の木阿弥……信頼を失い、前以上に寂しい街になるだろうな───だが、俺たちへの制裁はどうする?」

ξ゚⊿゚)ξ「私としては───冒険者以外で吸血鬼に苦しめられた人が居ない以上、あまり口を出すつもりはないけど」

( ^ω^)「今は───ブーンにも考えつかんお。ツンの言うとおりだと思うお。
       確かに労力は惜しいけど、ペニサス達は町長に従ったまでの事だし……このまま街を出るつもりだお」

(´<_`;)「……おいおい、それじゃ」

(メ*´_ゝ`)「やったぞ弟者よ!俺たち、お咎めナシだってさ!」

ξ#゚⊿゚)ξ「アンタは反省が足らないみたいだからどうしようかしらね?」

(メ;´_ゝ`)「……海よりも深き所にて、猛省している所存です」

爪'ー`)y-(ったく、甘ぇ奴だぜ……町長を脅かしゃあいくらでも……)

(´・ω・`)(彼の美徳の一つと考えてあげよう、フォックス)

爪'ー`)y-(しゃあねぇ、か)

726名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:29:58 ID:.tzphm0k0







3人ほど面子の増えた冒険者集団は、七人で古城を後にする。
去り際、螺旋階段に座り込んでいたペニサスとすれ違い、一言をかけておいた。

( ^ω^)「終わったお」

从 ゚∀从「───おろ?」

('、`*川「今までお世話になったわ、ハインちゃん」

状況を飲み込めぬままのメイドであったが、彼女に別れを告げて古城を出た後、
どうやらペニサスら3人はその足で直接町長の家に赴き、決別を宣言しに行ったようだった。

報酬がない事にぶうたれていたフォックスだったが、彼等との別れ際に口止めを兼ねた
迷惑料をオトヒムから渡され、どうにか溜飲を下げたようだ。

(´<_` )「あんた達のリーダーの意図ではないかも知れんが……古城への入場料に、少しばかり上乗せしておいた」

( ´_ゝ`)「粋だな、弟者」

727名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:30:48 ID:.tzphm0k0

爪'ー`)「へっ。まぁ、吸血鬼討伐の対価としては少ねぇが、有難くもらっとくさ」

('、`*川「色々と迷惑かけたわ、本当」

ξ゚⊿゚)ξ「自称リーダーがいいって言ってるんだから、もう、いいのよ」

('、`*川「仲いいんだ、君たち?」

ξ゚ー゚)ξ「ふふ……まぁまぁ、ね」

('、`*川「ま、私もサスガ兄弟とはこの街に来て仲良くなったし──明日の朝には一緒に発つつもりよ」

ξ゚ー゚)ξ「こっちは、町長の恨みを買って住民総出で袋叩きに遭う恐れがあるから、少し休んで夜出発だってさ」

('、`*川「……そっか。ま、またどこかで会う事があったら、その時はよろしく頼むわね」

ξ゚ー゚)ξ「───こちらこそ!」

728名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:31:40 ID:.tzphm0k0

(´・ω・`)「二人共、傷の具合はもう大丈夫かい?」

( ^ω^)「おっおっ!さっきツンにしてもらった”癒身の法”でバッチリだお」

爪'ー`)y-「まぁ、元々が軽い火傷みてーなもんだしなぁ」

( ´_ゝ`)「あんたらの連れてる娘さん、本当に凄い力を持ってるんだな」

ツンが聖術を用いて傷を癒したのは、ブーンとフォックスだけではなかった。
顔面にガラス片が突き刺さり血まみれだった、アニエス───サスガ兄弟の兄者もだ。

( ´_ゝ`)「死に体の俺に対しての、あの容赦ない暴力───正しく情け無用の残虐ファイターそのものだ」

爪'ー`)y-「まぁな、あいつをあれだけ怒らせて平気な顔してるお前さんも大したもんだが」

( ´_ゝ`)「ま、それは流石───」

ξ゚⊿゚)ξ「きこえとんぞ」

「!?───ギバーーーーーップッ!!」

729名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:32:33 ID:.tzphm0k0

”吸血鬼討伐の依頼”、本当ならば、銀貨3000spに値する依頼だった。
だが、結局の所得られたものは、新たな冒険者の友人だけだ。

ブーン達は街の入り口付近でそうして彼らと触れ合うと、いずれ廃れるであろうマドマギアに憐憫の情を送りつつ、
そしてサスガ兄弟とペニサス=ジラルディーニに小さく手を振って、暮れなずむ夕焼けの中、マドマギアを発った。

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────────────


──────




〜そして〜


忘れ去られていた人物が、ここに一人。

ノパ⊿゚)クワッ

730名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:35:18 ID:.tzphm0k0

「おぉッ……良かった、お目覚めになられたか!意識が戻らないから死んでしまったかと……」

饅頭屋の店主は、付きっ切りで彼女を看ていたのだ。

今になって目を覚ましたヒートが、状況を把握しようと辺りを見回す。
だが、その窓の外から見える明るさは、もう昼間のものではない。

ノパ⊿゚)「……寝てた」

「ね、寝てたんですか?饅頭が喉に詰まって気を失ってたのかと───」

ノハ;゚⊿゚)「はッ!”ツン様警護の任”がッ………しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーッ!!!」

「ひえっ」

主人が驚くような声量で叫ぶと、傍らに置かれていた剣を掴み、素早くベッドから飛び跳ねる。
そのままどこかへと走り去って行ってしまった───と、思いきや、戻ってきて一言だけ告げた。

731名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:36:05 ID:.tzphm0k0

ノハ;゚⊿゚)「そ、そうだ───忘れてた。饅頭、ご馳走様でした」

「……あっそういえば、まだ吸血鬼饅頭48個分の代金───」

「また来るからッ、その時にしてくれぇぇぇぇぇッ!」

”食い逃げ”と叫びながら裸足で追いかける主人の奮闘も空しく、時既にヒートは何処かへと走り去っていた。
───この事件の後から、彼女の称号”朝寝坊の騎士”に加えて、新たに”食い逃げの騎士”が冠される事となる。


──────

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732名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:36:51 ID:.tzphm0k0




   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             第8話

           「血界の盟主」

733名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:38:05 ID:.tzphm0k0

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──────

夜の帳が下りた。

もう、すぐにでも適度な野営場所を探さねばなるまい。
完全に陽が没した今になって、やはりマドマギアに一日滞在すれば良かった、と後悔が出る。

ξ゚⊿゚)ξ「ごめん。ちょっと……疲れちゃったかも」

( ^ω^)「そろそろ、ここらで休むとするかお?」

爪'ー`)「そうだな───ま、お姫様にゃ荷が重い。見張りは俺ら三人でこなすとするか」

(´・ω・`)「ツンも聖術による疲労もあるだろうし、それがいいね」

734名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:39:13 ID:.tzphm0k0

そこらの枯れ木を拾い集め、それにショボンが短い詠唱で起こした小さな炎の魔法で、火を灯した

( ^ω^)「ショボンがいると、火起しが楽でいいおね」

(´・ω・`)「無尽蔵に出せる技じゃないんだ……たまに、で頼むよ」

ぱちぱちと飛び散る火の粉が、少しずつ疲れの溜まった身体を眠りへ引きずり込もうとする中、
何か───気配を感じたツンが、無数に立ち並ぶ木々の方へと振り向いた。


そして、唐突にそれは訪れる。

735名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:39:54 ID:.tzphm0k0



────ぞくり。




ξ゚⊿゚)ξ「………な、に」

( ^ω^)「どうしたお?ツン」

視界の届く範囲、その方向には誰も居ない。
だが、ツンと同じ方向へ首を向けている内に────彼らもまた、唐突に身を震わせた。

爪'ー`)「………」

フォックスが、音も立てずに静かに立ち上がると、無言のままに胸元からナイフを取り出す。

736名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:40:47 ID:.tzphm0k0

この場に居合わせる全員ともが、同時に感じているのだ。
首筋から背中へと伝わる、意味も解らずに肌が泡立つようなおぞましさを。

(;^ω^)「───誰だお!」

ブーンが叫んだのは、眺める木の影の端に、何者かの動きがはっきりと捉えられたからだ。

ξ;゚⊿゚)ξ「誰か……居るの?」

まるで、恐る恐る声を掛けたツンの問いに答えるようにして───
その影はゆっくりと、ブーン達が起こした灯りの元へと姿を現した。


从 ゚∀从「よっ」



ξ゚⊿゚)ξ「!」

737名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:41:42 ID:.tzphm0k0

静かにそこに佇んでいた彼女は、軽くブーン達に向けて右手を上げた。
見れば、昼間に古城で通行を管理していた、あのメイドだ。

(´・ω・`)「君は………」

昼間見た時と違う点と言えば、今はメイド服を脱いで黒の外套を纏っているぐらいだ。

(;^ω^)「───びっくりしたお!確か……”ハイン”?」

从 -∀从「あぁ……クビんなっちまったよ……ペニサス達があんたらに負けてから、な」

(;^ω^)「やっぱり、そうなったかお───悪い事したお」

从 ゚∀从「ま、気にしなくてもいいぜ」

ξ;゚⊿゚)ξ「………」

ハインの姿を認めてから、ツンは一言も発しようとはしなかった。

おかしい。

738名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:42:47 ID:.tzphm0k0

目の前の彼女は恐らく、何かが決定的に狂っている。
そこに居るのは、確かに見知った顔のメイドであるはずなのに。

だのに───攻撃的に肌を突き刺してくるようなこの不快感と、冷や汗が収まる気配は今も無い。

その身に纏う異質な雰囲気自体が、とても禍々しいものに感じられた。
存在自体にそう感じてしまうというならば───それは、人間などよりももっと高位の存在。

(;´・ω・`)(! なん……だ、この、心臓を握られているような───)

爪;'ー`)「………気付いたか?ショボン」

そんな彼らの様子に触れる事もなく、ハインは一方的に話し始めた。

从 ゚∀从「いやぁ、あの常勝無配を築いてきたペニサスをよく倒したよなぁ」

739名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:44:38 ID:.tzphm0k0

(;^ω^)「たまたま……あとは、ショボンの活躍、だお(何、だお……?)」

从 ゚∀从「ま、吸血鬼目当てに来てた奴ぁごまんといるが、俺が見た中では……お前らが一番だった」

今この場に立ち込めているのが、どす黒い殺気という事に気付くまでは、時間がかかってしまっていた。

しかし、どうやらツンの目には彼女の姿がブーン達とは違う風に映っていたらしい。
彼らの後ろで立ち上がり、いつでも聖術を使えるだけの体勢を身構えていた。

从 ゚∀从「あぁ、そうさ……そうだよ。一番────”そそられた”」

ξ;゚⊿゚)ξ「違う……ッ」

昼間古城で面倒臭そうな態度を取っていた、あのやる気の無いメイドとは違う。

ましてや───”人”ですらない。

740名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:46:03 ID:.tzphm0k0

(;^ω^)「………!!」

仲間たちが既に臨戦態勢に入っていたのが視界の端に入り、ブーンも怖気の正体を認識した。
気取られぬよう、話しながらも静かに剣の柄へと手を伸ばす。

爪;'ー`)「おめぇ────何もんだよ」

从 ゚∀从「いやぁ、長らく人間観察が趣味だったけどよ……やっぱり身体を動かさない生活は退屈で駄目だね」

問いかけるフォックスがナイフを構える態勢は、もはや敵と見なしている相手へのそれだ。
吸血鬼に扮したペニサスを、初めて前にした時ですらこれほどまでの危機感は覚えなかった。

相対しているだけで、生命の危機を感じる───などとは。

从 ゚∀从「なぁ……ところであの街にさ。吸血鬼、探しに来たんだろ」

(;^ω^)「………それが」

ごくりと、生唾を飲み込んでからハインに言葉を返した。

741名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:48:25 ID:.tzphm0k0

彼女は極々普通に話すようにして、まるで世間話をするようにして言葉を紡ぐ。
その彼女に対しては、武器を持つ二人が既に彼女へとそれを向けて構えているというのに。

それを認識しながらも、一切会話の中でそれに触れる事もない事こそが、彼女の異常さを際立たせる。

从 -∀从「教えてやるよ、ヴァンパイアにも色々居るんだぜ?古株んなったら……エルダーとか呼ばれんだ」

(´・ω・`)「君は………何が言いたい?」

从 ゚∀从「あぁ、悪ぃ悪ぃ。ちっとばかし興味が沸いちまっただけなんだよ、お前さん方にさ」

そう、あっけらかんと笑う彼女の悪戯な笑みは───
表情や仕草だけ人間そのものである彼女の姿は。

まるでとてつもない化け物が、外見だけを扮しているようにしか感じられない。

(;^ω^)(ま、さか……とは、思うがお)

742名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:51:04 ID:.tzphm0k0

ふと、ブーンが昼間会った時とは違う彼女の瞳の色に感づいた。
今見ても限りなく黒に近く見えるのは、それがとても深い赤色だからか。

从 ゚∀从「そうそう、”始祖”って……知ってるか」

爪;'ー`)「何の話だ」

(;´・ω・`)「………なッ!」

ハインのその問いかけに、ショボンが驚きの声を上げた。
普段の彼の様子から察するに、それが決して大げさではない事も知っている。

从 ゚∀从「なぁ、知ってる?」

(;^ω^)「………ショボン」

(;´・ω・`)「エルダーら純血種と呼ばれる者達ですら……それは片方から受け継がれた血だけ───」

743名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:54:53 ID:.tzphm0k0

(;´・ω・`)「 片方か、もしくは更にその半分には人間の血が混じり……”真の純血種”など存在し得ない。
        だが───たとえそれですら騎士団を壊滅させかねない存在だ……」

ξ;゚⊿゚)ξ「………」

(;´・ω・`)「”始祖”と呼ばれるのは……”ロード・ヴァンパイア”は───
        その名の通り吸血鬼を生み出した大本の存在。いわば、それこそが純血種」

(;´・ω・`)「より色濃き───吸血鬼としての本当の血を持ち、今では大陸から既に
        滅び去ったとされてきた、”伝説的な存在の不死者”だ────」

緊張に震える声で紡いだショボンの言葉の意味が、そして自分達の身体が訴える
この生物としての本能的危機感の理由に、合点がいった。


从 ゚∀从「おぉっ。お前頭いいな───正解!」

744名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:56:03 ID:.tzphm0k0

爪;'ー`)「そいつが、何だってんだ」

从 ゚∀从「こん中でもわりかし頭キレそうな奴だけど……はぐらかしてんのか?───お前」

爪;'ー`)「………ッ」

いつもは軽口を叩き返すであろうフォックスが、それに言い返す事もできない。
強烈に浴びせかけられ続けている殺気に入り混じった威圧感に、呑まれていたのだ。

从 ゚∀从「昼間名乗ったのは”偽名”なんだよ───悪かった」

(;^ω^)(いざとなったら……)

(;´・ω・`)(解ってる)

この森ごとを焼き払ってでも討つか───それが出来なければ、死ぬ気で逃げおおせるしかない。
その算段を、互いに目配せを送って意思疎通をしておいた。

745名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 14:58:56 ID:.tzphm0k0

从 ゚∀从「本当の名はな……”エルンスト=ハインリッヒ”ってんだ───なぁ、そこのお前?」

(;´ ω `)「………」

指差されたショボンが、やはり、という表情を浮かべる。
決して知りたくはないような、そんな事実でしかないという風に。

恐怖、今のショボンの表情に貼りつくものは、その一言に尽きる。

从 ゚∀从「そぉッ!知っての通りさ………”始祖”って呼ばれた事も、あはは……あったっけなぁッ!」

”エルンスト=ハインリッヒ”は、そう言ってのけた。
ショボンはその名を知っていたからこそ、戦慄したのだ。

一国の国軍をも滅ぼし得る程の強大な力を有した、歴史に名を記す始祖たるヴァンパイアの名だ。

───そいつが放つ言葉は、普通の人間にしてみれば単なる死刑宣告のようなものだった。

746名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 15:04:54 ID:.tzphm0k0

从 ゚∀从「退屈してたんだ───楽しませてくれよ、お前らが」

彼女の頭上に、どこからか現れた数多の蝙蝠達が羽ばたいてきた。
近くで火を炊いているというのに、まるで、主の元へ縋るようにして。

(;^ω^)「……話し合いでは、駄目なのかお」

从 ゚∀从「応じられねぇ………ならさ。命を投げ打って、俺を討つっきゃ───ねぇよなぁ!?」

「あはは………あはははははは」

ξ;゚⊿゚)ξ

爪;゚ー`)

(;´・ω・`)

(; ω )


「───見せてくれよ……もう、昂ぶって止められねぇ───」

”彼女”と”彼ら”とを隔てる死線が、はっきりと目に見えるようだった。

超えても、超えられても───死ぬ。

747名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 15:06:11 ID:.tzphm0k0
ここでぶった斬って、お支払いに行って参ります……

748名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 15:26:25 ID:iP8bOLVU0
いってらっしゃい

749名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 15:26:25 ID:iP8bOLVU0
いってらっしゃい

750名も無きAAのようです:2012/04/27(金) 18:50:41 ID:sdS3i5YMO
またいいところで…… 
今日中に続きはよ

751名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 01:01:39 ID:u.yqq6NY0
ごめんね、昨日中は無理でした。今から加筆改修作業に入ります

752名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 06:08:28 ID:u.yqq6NY0

───────────────

──────────


─────


マドマギアの街と交易都市ヴィップを結ぶ山道を駆ける、一人の騎士の姿があった。
小さな身体からは想像も出来ないほど、爆発的な速度で黒い木々が立ち並ぶ夜の景色が過ぎ去ってゆく。

自分に与えられた任を思い返しながら、奥歯を噛み締めて後悔していた。
昨日もフィレンクトに渇を入れられたばかりだというのに、またも同じような愚を繰り返してしまったと。


『ツン……さまの、警護??』


『そうです』


ノハ;゚⊿゚)「──はぁっ、はぁっ──」

753名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 06:09:38 ID:u.yqq6NY0


『ななな、きゅ、”吸血鬼”がいるのですかッ!?』

『それが本当であれば……私自ら出向いているのですがね』


『確か、昔からあの街の怪物騒ぎは流言だって……』

『ええ。ですが今回はただ───何か嫌な予感がする、とでも言いましょうか』


ノハ;-⊿-)「くっそぉぉッ!あるまじき失態だっ!」


目を離した隙にツン達が既にマドマギアを発っているとは思わなかった。
再び彼女達に追いつくべく、今はただ全力で夜を駆け抜ける。


ノハ;゚⊿゚)「───待っててくれぇぇぇぇ、ツーーーーーンッ!」


─────

──────────


───────────────

754名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 06:10:52 ID:u.yqq6NY0

(;`ω´)(はぁ……、はぁ……)

小さな炎の中にくべられた、焚き木。
その灯火が生み出す光と影だけが、ブーン達とハインリッヒとを隔てていた。

絶望的な戦力差である向こう側とこちら側との、超えてはならない境界線だ。

獰猛な肉食動物に出くわした時の対処のように、片時も視線を逸らさずに睨み合って、
もうどれほどの時間が経ったのだろうか。

今や、全ての感覚は麻痺していた。

先に目を背ければ───隙を見せてしまえば、たちどころに殺される。
そんな負の映像しか、頭の中には浮かんでこないのだ。


从 ゚∀从「……どうした?遠慮しなくてイイぜ、全員でかかってこいよ」

755名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 06:12:05 ID:u.yqq6NY0

焦れたハインリッヒが、掌を上に向けて差し出し、こちらへ手招きしている。
だが、そこへ飛び込むのは勇猛でも、果敢でもなんでもない。

この状況において、相手との力量を図る事も出来ないというのならば、そいつは冒険者失格だ。

(;´・ω・`)(詠唱の隙が───)

こうして見詰め合っているだけで、体力が根こそぎ削られているような気がした。
背中や首筋から汗は自然と滲むが、全身は恐ろしく冷え切っている。

生きた心地がしない、というのはこういう事なのか。

爪;'ー`)(動けよ……クソッタレ)

背を向けて一目散に退散する───不可能だ。

隙が見当たらないどころか、目の前の”始祖”がその気になれば、
いつでも瞬時に自分達の内の数人を殺してしまえると、その雰囲気が伝えるようだ。

756名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 06:13:09 ID:u.yqq6NY0

確かに、ブーン一行は吸血鬼退治の依頼にやって来た。
まさかそこで出くわしたのが、その中でも”最強”の奴だとは───誰が予想できたか。

ξ;゚⊿゚)ξ(どう……しよう……)

ブーン達は、たとえ真相を暴露された町長の恨みを買おうとも、マドマギアに泊まるべきだった。
そうであったら、もう少しだけ逃げるための余力があっただろう。

普通の冒険者と比べても、ましてや一般の男性と比べても体力自体が劣るツン。
その心中は、あまりに切ないものだった。

長旅と依頼による疲れで───逃げ切れる体力も、その自信も全く無いのだ。

肌を突き刺す空気から、もはや人間が勝てるような存在でない事は仲間は知っているだろう。
逃げを決め込むとすれば、足が遅く体力の無い自分が真っ先に追いつかれ、殺される。

これから先も自分の人生が続いていく、そんな道筋など見えなかった。

757名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 06:14:15 ID:u.yqq6NY0

从 ゚∀从「こねぇのか────」


(;`ω´)「………」


何度も似たような台詞を言っていたハインリッヒの語気が、少しだけ荒くなったように感じられる。
ただそれだけの事で、心臓を鷲づかみにする力を強められたかのように、緊張が跳ね上がった。


从 ゚∀从「つまんねぇぞ?───なぁ、どうした?」


(;`ω´)「………フゥッ」


満足させろ、そう言っているのだ。
何を以って、そこらに掃いて捨てるほど居るような自分達が、そいつに見初められたというのか。

ただ恐怖に駆られるばかりで、そいつの言葉の意味など理解しようとさえ思えない。

758名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 06:15:39 ID:u.yqq6NY0

爪;'ー`)(どうにか……隙を作るっきゃねぇ)

フォックスが作れる隙、恐らく人間に対しては有効なものだ。
だが、彼が得物とするナイフは、”人間以上”の存在に対しての致命打など与えられない。

全神経を集中させ、どうにかして相手の眼を狙いすまして投げ放っても、刹那のものだ。

(;´・ω・`)(威力、そして詠唱の短さとの兼ね合いが重要だ───段階的に、隙を作るしか)

冷え切ってしまっている頭、だが、まだ働いてくれている。
倒す為の策など”無い”が、逃げ切る為の策ならば、まだ成功率は高い。

フォックスか、もしくはブーンが詠唱の為の隙を生み出してくれたならば、
その合間を縫ってショボンは出来るだけ早く、出来るだけ強力な魔法を浴びせかける。

このパーティー内で最大の火力を持つ彼の攻撃、それで怯ませる事が出来なければ、逃走など最初から無理な話だ。
成功率は───高所に張られた限りなく細い糸の上を、素足で渡るようなものに感じられるが。

759名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 06:16:35 ID:u.yqq6NY0

ξ; ⊿ )ξ(私……)

ツンは、何も考える事が出来なかった。

魔術師同様に、祈りによる”聖術”を力とする彼女もまた致命的に時間がかかる。
そして、それが必ずしも予期した結果に結びつくとは限らない。

不死者を浄化する力が、”最強の不死者”に通用するとは、彼女自身にも信じる事が出来ずにいた。
この中で、一番のお荷物なのは自分なのだと、こんな死ぬか生きるかの瀬戸際になって───

その想いが、彼女をせめぎ立てる。


从 ゚∀从「じゃあさぁ、こっちから……行かせてもらうぜ」

言って、ハインリッヒが「つまらない」といった表情で、一歩を踏み出した。
ただそれだけの事に、全員の間には戦慄が走る。

760名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 06:17:39 ID:u.yqq6NY0

(; ω )「フゥッ……フゥゥッ……!」

力強く呼吸する事、それは、自分が今生きているという事を実感する為だ。

剣を前方にて構えながら、体内では、知られる事もなく密やかに拍子を刻んでいた。
─────意を決して、斬りかかる為の覚悟を決めるまでの時間を。


从 ゚∀从「さーって。こん中で……一番楽しませてくれそうなのは誰だろうなぁ」

(;´・ω・`)「………」

从 -∀从「お前もいいケドさぁ……」

爪;'ー`)「………」

从 ゚∀从「ナイフ?―――お前は、てんで駄目だな……次ッ」

ξ; ⊿ )ξ

761名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 06:18:32 ID:u.yqq6NY0

从 ゚∀从「女────へぇッ、お前、”聖術”使うのかよ」

ξ;゚⊿゚)ξ「!?」

从 ゚∀从「はははッ……”どうして”ってかぁ?」

从 -∀从「俺も昔はそいつに苦しめられたクチでさぁ───なんか、分かんのよ」

(´・ω・`)「………!」

その言葉をショボンは聞き逃さなかった。
もしくはわざとヒントを与えているのかも知れないとさえ思えたが、それでも。

この中で、ツンの術こそが恐らく尤もこいつに対して有効だというのは、一同の持てる唯一の武器。
だが、ロード・ヴァンパイアが告げる一言に、その希望は粉々に打ち砕かれる。

762名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 06:20:03 ID:u.yqq6NY0

从 ゚∀从「ってワケで……女ぁ。お前から、殺しとこうか────」

ξ; ⊿ )ξ


絶望そのものが告げた。
”お前たちの拠り所を壊す”と。


刹那、大気が鳴動する。

「………うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーッッッ!!!」


(´・ω・`)「──な」

爪;'ー`)「ブーッ……!」

763名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 06:20:59 ID:u.yqq6NY0

(#゚ ω゚ )

己を奮い立たせるための、腹の底から搾り出した咆哮。
ハインリッヒの元に集っていた無数の蝙蝠達が、空へと羽ばたいて行く。

从 ゚∀从「────嬉しいねぇ……」

ぺろり、”始祖”の顔からは、そう舌なめずりするような音が聞こえてきそうだ。

それが自分の意思だったのか、ブーンにも掴めていない。
だだ、何か熱い感情が、その熱が自らの身体を突き動かしたか、あるいは引っ張った。

怒りと恐怖とが入り混じる感情の狭間、その先に踏み出せば生か死かを分かつ。
そう知っていても、今こうして自分が駆け出していなければ、このまま終わってしまうと思った。

ξ;゚⊿゚)ξ「───ブーンっ」

仲間たちの声は、彼を後押しする為のものではない。
”やめろ”と、引き止める為のもの。

けれど既に走り出していたブーンの耳に、そんな声は届かない。

764名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 06:23:14 ID:u.yqq6NY0

(#゚ ω゚ )「………ぅぉぉぉぁぁるああああぁぁぁぁぁぁーーーッ!」

超えてはならない、互いの間に張り巡らされた死線を、超えた。

从 ゚∀从「……来いよぉ」

上段から一気呵成に落とした剣には、渾身の力を込めた。
踏み込みの踵が、土を大きく抉り返すほどに。

ブーンほどの体格があれば、厚みのある剣であれば並の妖魔など一刀だ。
ただ、この時ばかりが相手が最悪と言って差し支えなかった。

繰り出した必倒の斬撃は、かすり傷を与える事すらかなわない。

(;゚ ω゚ )「───おぉ……ッ」


从 ゚∀从

765名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 06:24:37 ID:u.yqq6NY0

肉厚の長剣、その刀身の先端部分はハインリッヒの左手の中にある。
「何が起きた?」
それを認識する間も与えられないままに、掴まれた刃身ごとそのままぐい、と引き寄せられる。

从 ゚∀从「ほれ、よく狙えよ。胴体斜めに、真っ二つにしちまえば……”再生”までに時間が掛かるぜ?」

(;゚ ω゚ )「ぐっ、ぬッ……くぅッ!」

引き寄せた刀身をそのまま自分の肩付近に引き寄せると、そこを剣でぽんぽん、と二度叩いた。
手から剣を引き剥がそうと必死に柄に力を込めるも、大岩に同化してしまったようにびくともしない。

光景を目の当たりにしてしまった仲間の顔にも、蒼白の色が浮かぶ。

从 ゚∀从「その必死さに免じて離してやるよ───じゃあ、もう一度だ」

そう言って、ハインリッヒが掌に収まった刀身への力を緩めた。

(; ω )「はぁッ」

766名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 06:25:38 ID:u.yqq6NY0

その瞬間に全力を込めて、捕えられた剣を引き抜く。
だが、それが出来たのはあくまで向こうの気まぐれだ。

まるで無造作に引っつかむようにして、全力で放った打ち込みを”掴んだ”のだ。
その事実を認識出来た瞬間、悟ってしまった。

─────”戦い”にすら、なるような相手ではないという事を。


爪;'ー`)「───ブーンッ……!」

ナイフを手に、フォックスもまた仲間の奮闘に押し出されるようにして身体を前に出していた。


「……来るなおッ!!」


背中越しに、その場へ仲間を引き留めたのは、ブーンの叫びだ。

767名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 06:27:46 ID:u.yqq6NY0

从 ゚∀从「……あぁん?」

(;゚ ω゚ )「───ブーンが……ブーンがこいつを抑えこんでいる間に───」


爪;'ー`)「………!」

やめろ、その先は口にするなと───仲間たちはそう叫びたかったはずだ。
だが、既にブーンはその覚悟を、硬く己の剣へと結び付けていた。

(#゚ ω゚ )「みんな────みんな、死ぬ気で逃げてくれおぉッ!!」

ξ;゚⊿゚)ξ

(;´・ω・`)「よせッ!」


またも斬り掛かっていく彼の背中には、やはり仲間達の声は届かなかった。

768名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 06:34:14 ID:u.yqq6NY0


   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             第8話

          「血界の盟主(1)」


             -続-



从 -∀从「おやぁ……遊びももう、終わりが近づいてきたかな?」

爪;゚ー )「ナメてんじゃねぇぞ───この、腐れ女が」


ξ; ⊿ )ξ「どう、しよう……ブーン、が……」

「───ブーンが、息をしてないのッ───」

逼迫した状況に、絶望を告げる彼女の痛ましい叫びが、仲間たちに更なる緊張をもたらす。


(;´・ω・`)「く………ッ!」

从 ゚∀从「はは──あははぁッ!どーするよぉ……お仲間、死んじゃったってさァ」

爪#゚ー゚)「テメェが、先に死にやがれ」

769名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 06:37:09 ID:u.yqq6NY0
長くなり過ぎたので分ける事にします……むねん。

770名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 08:57:58 ID:2jWHzvjEO
読ませてもらうほうも無念だが 
ここはただ耐えて待つのみである

771名も無きAAのようです:2012/04/28(土) 23:10:20 ID:N51DLsfM0
wktk

772名も無きAAのようです:2012/05/01(火) 06:10:26 ID:oBgBhKXM0
うふっ。酔っ払った勢いでド下手なな自作品の絵をペイントで書いちゃったけどうpの仕方がわからんちん。
まぁいいやー

773名も無きAAのようです:2012/05/01(火) 06:14:24 ID:oBgBhKXM0

今ではこの大陸に存在していない場所の話になる。

彼女はかつて、広大な自らの城を住処としていた。
そこへ篭って数十年、数百年もの変わらぬ日常を過ごす内に────
次第に溜まり溜まった鬱憤は、悠久の時を生きる彼女自身を飽きさせてしまっていた。

ノ人゚∀人「………つまんねぇ」

ある日、定期的に女の供物を捧げて来ていた近隣の村からの使い、それを干乾びさせる事で鬱憤を晴らすと、
そのまま自らにかしづいていた従者達の血をも吸い上げ、やがて彼女は下界へ降りる事にしたのだ。

そうして城を後にしてから、幾夜かを旅歩いた。
丁度、その頃だったか。

彼女はこの時、自分がこの世に生まれた意味すら見出せずに居たのだ。
生まれ落ちた時から、脆弱な人間から”神の力”と崇められ、恐れられる力を持った自分自身を。
囁く血の誘惑、”始祖”として存在している自分の生きる意味は、如何なるものなのだろうかと。

774名も無きAAのようです:2012/05/01(火) 06:17:06 ID:oBgBhKXM0

そんな事を考えながら、風に吹かれながらただ歩いた。
けれど、大陸各地を気ままに旅歩きながらも、その目が移す風景は新鮮なものではなかった。
自分の中に疑問の答えが見つからない事が、どうしようもなくまた鬱憤を募らせる。

そんな中での、ある日の情景だった─────


とある国境間での、小国同士の小競り合い。
やがて過熱したそれは、数百人もの命を散らせる大規模な戦へと移り変わっていった。
彼女がこうしてここに辿り着いた時には、戦はどちらかの勝利で決着が付いていたようだが。

ふと見渡せば、一面を覆う赤黒い土は、殺し合う人間達が流した血や汗の染み込んだものだ。
その戦地の土を踏みしめながら、人間というモノの習性から何かを習おうとしていた。

ノ人゚∀人「勿体ない」

775名も無きAAのようです:2012/05/01(火) 06:18:12 ID:oBgBhKXM0

戦いとは本来、同じ位階に居るもの同士では起こらない。
あまりにも力の差が明確に隔てられていた場合は、強者は弱者を見逃し、
そして弱者は強者へと媚びへつらって、より存えようとするだろう。

しかし、宗教や思想───そういったものが絡んできたとき、人はその箍を外してしまうのだ。

国の存亡、同じ種での殺し合い。
そんなものが、この百年以上に渡って何度繰り返されてきた事か。
従者らからの話す言葉などからは耳にした事があれど、今こうして実際を目にするのは初めての事だ。

何故人は同属である互いを憎しみ、争うのだろうか。
”自身と同じ種”など持たぬ、原点にして頂点である彼女だからこそ、真剣に考えた。

出ない答えに焦れた彼女が抱いた人への認識は、一言で片付けられるものだ。

ノ人゚∀人「……馬鹿なのか?人間は」

776名も無きAAのようです:2012/05/01(火) 06:19:30 ID:oBgBhKXM0

「う……た、すけてく………れ…」

ふと、その声に視線を落とした。
そこにはもうすぐ亡骸と呼ばれるであろう、一人の男。

その兵士は姿形を人間だと認識して、彼女に声をかけたのだった。
だが、その相手は自分以下の存在などに、さして興味がそそられないのだろう。

”ぐしゃ”

ノ人゚∀人「………」

男の頭を一息に踏み潰すと、また何事も無かったかのように彼女戦地跡を渡り歩く。

また、暫く歩いた─────やがて。
真っ直ぐに前を見据える彼女の前方にはその時、戦勝を喜び合う傭兵の一団があったのだ。

戦地の離れに陣営を構えるは、片腕や片足を失った者達。
それぞれが武勇を語らいながら、酒盛りをしていた時───その中の一人が彼女に気付いた。


「───おい、見ろ。戦場の女神様が、俺たちに女まで遣わしてくれたようだぜ」

777名も無きAAのようです:2012/05/01(火) 06:21:00 ID:oBgBhKXM0

ノ人゚∀人「………」

何人かが身を乗り出して、にやにやと口元を歪めながら彼女に近づいてゆく。
戦勝の喜び、集団であるという安心感、そして酒こそが彼ら傭兵達の五感を鈍らせていた。
普段の自分達ならば、恐らくはまだ何人かがそれに気付くことが出来ただろうに。

決して触れてはならない、人知を超えた力の人外の恐ろしさに。

「女の一人旅は危険だぜぇ……俺たちが守ってやらぁ」

ノ人-∀人

下卑た笑みを浮かべながら、彼女の胸や肩へと手を触れようと、一人が近づいた。

「………べッ」

そして───その首が、飛ぶ。

778名も無きAAのようです:2012/05/01(火) 06:22:02 ID:oBgBhKXM0

ノ人゚∀人「こんなに脆いからか……?誰彼構わず、種を撒きたがるのは」

手指と爪の先に付いた男の血を、また戦場の土へ古い落とした。
そこで、ようやく彼らは事の重大性に気づいたのだ。

あまりにも遅すぎた、判断の過ちに。

「人間じゃ……こいつッ、人間じゃねぇぞぉッ!!」

ノ人゚∀人「数だけが頼みか」

未だ傭兵団の全体が事態を把握していた訳ではなかったが、
それでも一人が殺される光景を見た数人が、剣を抜いて彼女を取り囲んだ。

近隣の一部では伝承に囁かれていた夜の女王───”エルンスト=ハインリッヒ”とは知る由もなく。

「てめぇ、よくも仲間をッ!」

779名も無きAAのようです:2012/05/01(火) 06:23:00 ID:oBgBhKXM0

ノ人゚∀人「………?」

”仲間”というのは、彼女にとっては理解の及ばぬ言葉だ。
それを言った男の剣の打ち込みは届かなかった。

男の胸へと伸ばした鋭利な爪が、指の根元までずぶりと突き刺さる方が早かったからだ。

「ぐ……あッ、ふっ」

「ベイルの兄貴ッ……!?てめぇぇぇぇッ!!」

ノ人゚∀人「……なんだ」

「お頭に知らせろ!念の為人数を集めとくんだッ」

ノ人゚∀人「なんなんだ?」

「殺せ!気を付けろよッ、こいつ半端じゃなく速ぇぞッ」

ノ人゚∀人「なんで────」

「死にやがれッ!!たぁぁぁぁぁーーーッ」

780名も無きAAのようです:2012/05/01(火) 06:23:55 ID:oBgBhKXM0

”どうして、お前達は、怒っている?”


ハインリッヒはその新たに生まれた人間達への疑問に、首を捻る。
同じ種で殺し合いを行いながらも、それが殺される事でこうして憤慨する者もいるのだ。

自分よりも脆弱で、平伏す他無い存在にしか出会う機会の無かった彼女だからこそ、生まれた疑問だった。








ノ人;゚∀人「随分と……梃子摺らせて……くれたな……」

781名も無きAAのようです:2012/05/01(火) 06:25:16 ID:oBgBhKXM0

戦地から先に引き上げた100人超の正規兵がもしこの場に残っていれば、まだ勝負はわからなかっただろう。
だが、歴戦とはいえ人外の力に触れたことの無い統率の取れていない傭兵らなど、彼女にとっては赤子のようだった。

「やめ……やめて、くれ………」

50人以上の亡骸が、折り重なるようにそこら中に散らばっていた。

驚異的な再生能力を持つ彼女であっても、一度に4本以上もの剣が体内を貫通したのは、かなりの脅威だった。
身体を染める紅は返り血がほとんどといっても、初めてといってもいいほどの疲労感が、彼女を苛んでいた。

”どしゅっ”

最後の一人は───絶望に涙し、命乞いをしていた。

ノ人;゚∀人「終わった……か」

人間ごときに、随分と時間を食ったものだ。
目には止まって見えるような遅い斬撃も、随分とこの身に受けてしまった。

782名も無きAAのようです:2012/05/01(火) 06:26:35 ID:oBgBhKXM0

けれども戦地にありながら、その戦勝を収めた一つの傭兵団の全員を滅ぼした時、妙な達成感が生まれたのだ。
同時に───命を脅かされる危機が去った後、高ぶっていた己の熱がすぅっと冷めていくような、虚無感も。

この感覚は、何なのだ。

ノ人;゚∀人「悪くは───ない」

何の目的も示される事の無い己の”生”に、この戦いが知らしめてくれた。

つまらぬ日常に乾いていた自分の心が、潤っていく感覚を。
死の危機感を与えられる事で、初めて知る事が出来た己の極限を。

ノ人゚∀人「いや、寧ろ……」

この時、自分の生の意味への迷いは消え去った。
”闘争”こそが、自らに生きる実感を与えてくれるものなのだと。

「イイな────それも、たまらなく」

そして、”エルンスト=ハインリッヒ”は夜空へ向けて響かせた。
生あるものが誰一人として居なくなってしまった、宵闇の中で。

────”新たに生を受けた”自分との対面に、その歓喜を。


──────────────────


────────────


──────

783名も無きAAのようです:2012/05/01(火) 06:27:45 ID:oBgBhKXM0





   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             第8話

          「血界の盟主(2)」

784名も無きAAのようです:2012/05/01(火) 06:28:27 ID:oBgBhKXM0

─────


──────────


───────────────



”ずぐんっ”


从 ゚∀从「────ぁハン」

骨ごと肉を断つような鈍い音を立てて、剣は奇しくも先ほどハインリッヒが示した場所に入り込んだ。

(;`ω´)「!」

更に力を込めて肩口から胸に向け、徐々に刀身を押し込む。
だが、苦痛を浮かべるどころか、斬り付けた場所から少しずつ、傷口が元通り塞がっているのだ。

785名も無きAAのようです:2012/05/01(火) 06:29:13 ID:oBgBhKXM0

胸の中央ほどにまで押し入った刀身は、そこで勢いが止められた。
後の傷口は瞬時に塞がり、胸を剣が貫通しているにも関わらず、それはまるで体内に取り込まれているかのようだった。

自身を貫く剣の刀身を眺めながら、それを掴み取ったハインリッヒが呟く。

从 ゚∀从「この剣……叩き折っちまうか?」

(#゚ ω゚ )「だおぉッ…!!」

いくら力を込めた所で、抜き取れないのは承知だ。
だから、逆に前に出て片手を柄から離すと、拳で顔面を狙い済まして殴りつけた。

”ぱしっ”

从 ゚∀从「で、お次はどうするんだ?」

(;゚ ω゚ )「───くっ」

軽く差し出したような掌だけで、それも受け止められた。
考える間もなく、次の動作は自然に身体が行っていた───

手を引っ込めると同時、柄を掴む左手を起点に、右の前蹴りを繰り出す。

786名も無きAAのようです:2012/05/01(火) 06:31:26 ID:oBgBhKXM0

”がしっ”

从 ゚∀从「……まさか、こんなもんなのか?」

(;`ω´)「おッ、ぐ」

───捕まれた。

その気になれば一息に足先が肉塊にされるのではと錯覚する程の力が、込められる。
痛みに顔を引きつらせるこの時のブーンには、やはりこの化け物に勝てる気など、髪の毛一本程も思えなかった。









爪;'ー`)「───走れぇッ!」

ブーンがハインリッヒへ斬り込んで行った直後に、フォックスはツンの背中を押しやりながら叫んだ。

ξ;゚⊿゚)ξ「でも!!」

787名も無きAAのようです:2012/05/01(火) 08:46:01 ID:Fj7eUWZkO
時間が空いてるが今次レスを書いてるんだろう 
 
誰も寝てしまったなんて思ってないよ 
 
④だ

788名も無きAAのようです:2012/05/01(火) 19:15:44 ID:9ufP/we6O
すまぬ、すまぬ・・・資料作りに追われ、さらにボーリング大会などのくそイベントに巻き込まれ時間が取られてしまった。
もう少しお待ちを

789名も無きAAのようです:2012/05/22(火) 05:29:25 ID:0Xq.J7WQ0
すまないがあげさせて頂こう

790名も無きAAのようです:2012/05/23(水) 00:06:23 ID:sB0Hyx3kO
ω・`;)すごい展開だな…。なんとなくハインがヴァンパイアだとは思ってたけど。

ω・`;)いきなり強すぎだろ…

791名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 22:19:11 ID:lrNtO44E0
これ読んでそういえば吸血鬼と戦うルートやってなかったーと思い立って戦いに行ったけど強すぎワロス

ブーンたちがどう乗り越えるのか期待。

792名も無きAAのようです:2012/05/25(金) 21:29:53 ID:Dm6daRGg0
>>790-791
そう、この展開は原作ありきなので自分のあれではないのです。
親族に不幸があったりと忙殺されているのですが、必ず続きを投下しますので。

793名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 01:23:18 ID:1ENFozGI0

走ろうにも、この身体全体が重い。
それは疲労からのものではなく、唐突に現れた吸血鬼。

そのハインリッヒの注意を一手に引き受けようと、その場に留まったブーンに後ろ髪を引かれての事だ。
だが、彼の方へと振り返ろうとしたツンの肩は、がっしりとショボンに掴まれた。

(;´・ω・`)「この場を少しでも離れろ、ツン!」

ξ;゚⊿゚)ξ「ブーンを置いてなんて行ける訳が────」

爪;'ー`)「馬鹿野郎が……わかんねぇのか!?」

聞き分けないツンに対し、フォックスの語調は多分に苛立ちを孕んでいた。
今この場で問答をしている時間などない。

ブーンが一人で引き受けようとしているその相手は、
伝承に伝えられる程の、極めて人間離れした怪物なのだ。

ロード・ヴァンパイアを一人で倒せる人間がこの世に存在すれば、
それは恐らく伝説として歴史にその名を刻むであろう、本物の英雄であろう。

だが、現実にそんな人間が存在するなどという話は、未だかつて聞いたこともなかった。

794名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 01:24:03 ID:1ENFozGI0

(;´・ω・`)「勝てる相手なんかじゃない───それでも」

ショボンが言葉を言いかけた所で、フォックスがブーンの方へ向いた。
そして、背中越しにツンへと叫ぶ。

(;´・ω・`)「命を懸けているんだ、彼は」

ξ;゚⊿゚)ξ「それなら……」

”それならば、自分も”

ツンが口にしようとした言葉を遮るように、ショボンとフォックスは彼女に背を向けた。
余裕すら垣間見せながらブーンの打ち込みを凌いでいたハインリッヒの方へと向き直ると、肩越しに叫んだ。

爪;'ー`)「いいか! ツン、お前は少しでもこの場所から離れろ……一秒でも早く、遠くにな!」

ξ;゚⊿゚)ξ「フォックス達はどうするつもりよ!?」

(;´・ω・`)「………」

爪;'ー`)「俺たちが、ブーンを死なせねぇさ───」

795名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 01:26:03 ID:1ENFozGI0

(;´・ω・`)「数日経っても───楽園亭に僕らが戻らなかったら、今日の事実をフィレンクト団長に伝えてくれ」

ξ;-⊿-)ξ「………」

心情は違えど、そこで”嫌だ”、とは言えないツンだった。
昼間の依頼の疲労は、身体に重く圧し掛かっている。

ハインリッヒに宣告された言葉───真っ先に目を付けられているのは自分なのだ。
それを守ろうとした仲間を危険な目に逢わせるよりかは、この場を離れる方が幾分かマシなのだろう。

そう自分を納得させるしかないツンに、フォックスがいつもの笑みを投げかけた。

爪;'ー`)「ま、どうにかやりあってみるさ」

できる限り戦闘の場からツンを遠ざけてそれだけ告げると、二人はブーンの元へと舞い戻って行く。
その彼らの背中を見送る事しか、今の彼女に出来る事は無い。

ξ; ⊿ )ξ「くっ……」

「やはりこんな時、自分は足手まといでしかないのか」

俯き、一度だけちらりと彼らへ振り返ると、夜の闇の中を走り出した。








796名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 01:27:03 ID:1ENFozGI0

(; ω )「───おッ………がはぁッ!?」

ブーンの身が軽々と持ち上がると、ふわり宙を浮いた彼の身体は、剣ごとそこらの木へと叩きつけられていた。
全身の痛みを庇う余裕すらなく、すぐに立ち上がり再び剣を構えるが、瞳の焦点は未だ合わない。

从 ゚∀从「結構頑丈そうだな、お前」

(;`ω´)「……くッ────」

从 ゚∀从「だけどなぁ、それだけじゃ俺を楽しませるには……物足りないワケよ」

ブーンの構えなど、この”超越者”の前には何ら危機感を感じさせるものではない。

悠々と両手を開きながら一歩ずつ、無造作に距離を詰めるハインリッヒ。
それに対してのブーンは、弄ばれている事に怒りを感じる余裕すらなく、じりじりと後退りするのが精一杯だ。

しかし、まだ闘志までは萎えきっていない。

(; ω )「お前は、何が目的なんだお」

从 ゚∀从「あん?」

797名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 01:27:56 ID:1ENFozGI0

(#`ω´)「いきなりブーン達の前に現れて……お前の望みは何だおッ!?」

从 -∀从「………やれやれ」

(;゚ ω゚ )「!」

一拍を置いて、彼我の距離が瞬時に詰められた。

从 ゚∀从「御託を並べる暇があるなら、一振りでも多く打ち込んでこい─────よぉッ!!」

(;゚ ω゚ )「……おぉぉッ!」

”ざすっ”

顔面へと向かってくる風切り音から逃れるようにして、膝を畳んで腰を落とす。
刹那反応が遅れていれば直撃していただろう、ブーンの背の樹木を易々と穿つほどの、鋭い爪による貫き手が。

从 ゚∀从「かわすか」

(;`ω´)「ッ───ふッ!!」

まだ樹木に指先を突き立てている、それを理解したブーンは束の間の一瞬思案して、反撃に撃って出る。
頭上の腕を掻い潜りながらハインリッヒの左方へ回り込むと、間髪いれずに振り下ろしを見舞った。

”ずどん”

798名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 01:29:16 ID:1ENFozGI0

从 ゚∀从「やるじゃん?」

(;`ω´)(……こいつ……!)

剣に伝わった感触は確かなものだ。
目視で確認してみると、確かに樹木へと突き立った腕は、肘辺りから断ち斬ってまだ残っている。

片腕を落としたというのに人間のように血は噴き出ず、動じた様子も無い。
寧ろそれに一瞬の動揺を得てしまったブーンの隙こそが、命取りだった。

从 ゚∀从「じゃあ、反撃といくか」

無造作に、ハインリッヒは木を突き刺した右腕の先端の指先付近を掴むと、胴から離れたその腕を引き抜く。
左手で自分の右手をぶら下げる姿には、やはり常識が通用するような化け物では無いという事を実感させる。

自分の斬られた腕を手にしながら、ゆっくりと振りかぶるような所作をしていた。
異様な光景に立ちすくむブーンには、それが何をしようとしているのか理解しかねていたのだが───

理解の及ばぬその一連の動作が何を意図してのものか、次の瞬間には身をもって知る。

从 -∀从「そぉー………ら」

(; ω )(腕をッ)

799名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 01:30:22 ID:1ENFozGI0

从 ゚∀从「────よっとぉッ!!」

胴体から斬り離した身体の一部分を、鈍器のように薙ぎ振るったのだ────

(;゚ ω゚ )「ぐ、がっはぁッ!?」

気付いた時には、胸元目掛けて激しい衝撃が叩き込まれていた。
みし、びきびき、と伝わる不快な音階と共に、鈍い重さと鋭い痛みを胸部全体へと走らせる。
勢いに逆らう事も出来ず、ブーンの全身は後方へ翻りながら宙へと投げ出されていた。

そのまま地面へ墜落してゆくブーンのさまを見届けると、ハインリッヒは一度口笛を鳴らした。

从 ゚∀从「今の、気ぃ失ってもおかしかないんだけどなぁ……」

(; ω )「───ゴホッ……ガ───ハ……ッ!」

地べたを甞めさせられたブーンは、呼吸を阻害される程の痛みにむせながら、立ち上がれない。

まるで弄ぶかのように少しずつ、力を出し惜しむようにしてブーンを痛めつけているのだ。
動けずにいるブーンの元へ追撃に出ようと、ハインリッヒはなおも悠然と歩を進めようとする。

が、その進路を塞いだのは────それぞれ左右から飛び出たフォックスとショボンだ。

爪;'ー`)「褒めてるつもりかよ、それ」

800名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 01:31:27 ID:1ENFozGI0

从 ゚∀从「あん?」

(´・ω・`)(果たして、どこまで通じるか……)

从 ゚∀从「……退けよ。俺ぁ今、そいつと遊んでるんだ」

(´・ω・`)「悪いが、彼を殺させる訳には行かないんでね」

爪;'ー`)「その通り。出来ねぇ相談だ」

从#゚∀从「あぁ、そうかい」

あからさまに殺気を入り混じらせた苛立ちが、幼ささえも感じさせる彼女の表情に滲む。
その彼女から片時も視線を反らせる事なく対峙する二人の脈拍は、自然と早まっていた。

爪;'ー`)(フゥッ、フゥッ)

フォックスが、身体の内に刻む。

もう、すぐにでも致死の威力を秘めた圧倒的な暴力が降り注がれるであろう事を予期し、
それに全身を対応させられるだけのとてつもなく小刻みな拍子を、神経を限界まで張り詰めながら。

801名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 01:34:58 ID:1ENFozGI0

从 ゚∀从「……じゃあ、死んじまいな」

(;´・ω・`)(ッ!)

5歩の距離が、瞬き一度の間に詰められた。

黒い外套をばさ、とはためかせながら襲い来る姿は恐怖そのもので、
それはさながら、地に沿って飛翔するかのよう。

今やフォックスの胸下に居るハインの手は、既に彼の首を掻っ切る為の軌道を描いていた。

爪;'ー`)「───フッ!」

見た目にはか弱き、白く小さなハインの掌。
しかしてそれは、屈強な男が振るう業物の刀剣の威力にも勝る。

回避困難、一撃必倒のそれを、フォックスは纏めた後ろ髪を振り乱しながら胸を逸らすと、辛うじて避けた。

802名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 01:35:39 ID:1ENFozGI0

从 ゚∀从「……何?」

言いながらも、次いでハインリッヒは逆の手で突き刺すようにしてフォックスの腹部へと伸ばした。
それにもフォックスは背後へ一歩飛びのき、風を唸らせる致命打から逃れた。

爪;'ー`)「……うらァッ!」

手刀の突きをかわされるや否や、そのまま身体を突っ込ませるようにして掌を広げ、今度は掴みに来た。
頑強なブーンの肉体でさえもが吹けば飛ぶように扱われる怪力にかかれば、捕まってしまえば命は無い。

だが、衣服を掴もうと伸ばされたその手を振り払うようにして、手にしたナイフを振るいつつ側面へと逃れた。

从 ゚∀从「痛ぇなぁ」

爪;'ー`)「フゥッ───フゥッ────」

闇の中から自身を捉えるハインリッヒの双眸と、視線が合った。
見れば、斬り付けられた掌をぺろりと一度、舌で舐め上げているようだった。
そうして、指のまたに沿って大きく裂かれた箇所が瞬時に”再生”していく。

防戦一方───しかし完全なジリ貧となってしまえば、死。
だからたとえ命の危険を冒してでも、今は反撃こそが肝要だった。

爪;'ー`)(今だぜ!)

803名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 01:37:06 ID:1ENFozGI0

(´・ω・`)【 穿て、魔法の矢ッ 】

脇へと目配せを送ったフォックスの視線の先で、既にショボンが詠唱を終えていた。
闇夜を照らす光の束が幾重にも折り重なって矢となり、ハインの身体の中心へと収束する。

”ばすッ ばすッ ばす”

从 -∀从「あ〜〜〜………痛ぇ」

(;´・ω・`)(───そうだろうさ)

爪;'ー`)「……化けもんが」

人間ならば確実にその機能を停止するであろう箇所を、数発もの魔法の矢が貫いた筈だ。
しかしそれは、不死者の女王にとって、児戯にも等しい効力でしかないのだろうが。

だが、それでも四肢を貫けば時間稼ぎにはなり得る。
息つく間もなく再びショボンが”魔法の矢”の詠唱を始めた時、ハインリッヒの注意は今度は彼へと向いた。

从 ゚∀从「こんなもんか?魔術師」

804名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 01:38:14 ID:1ENFozGI0

(;´・ω・`)(絶やすな、集中を───)

身の危険を知らせる怖気が、身体の内から湧き上がってくる。
それを押さえつけるようにしながら、仲間を信じて詠唱へと入った。

从 -∀从「昔だったらなぁ……お前程度の魔術師なんざ───」

ショボンの元へとハインリッヒが一歩踏み出そうとした時、その背に再びブーンが突っかける。

(#゚ ω゚ )「だ───お───おぉッ!!」

从 ゚∀;,「奇襲か」

当たれば脳天を易々とかち割るだけの重厚な質量が、勢い良く背後から振り下ろされた。

”ず だんッ”

(´・ω・`)「ちぃッ!」

だが、ブーンの剣はハインリッヒの身体に刺し入れられる事はなく、ただ地面だけを抉った。
ほぼ同時に、ショボンの指先から放たれた魔法の矢も、空しく光の尾を引きながら彼方へと過ぎ去る。

消えた。

805名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 01:41:43 ID:1ENFozGI0

”何事か”と確認する間もなく、ブーン達の視界は一瞬にして一面の黒に染め上げられていた。

突然どこかから湧き出してきては、時折顔に当たる不快な黒の群れ。
それらを振り払いながら後退すると、現状をようやく把握する。

ハインリッヒの身体の質量が、まるで中空へと溶け込んでいくかのように。
彼女が立っていた場所から方々へと飛び去るのは、無数の物体────否、生物。

(;`ω´)「………コウ、モリ!?」

「”あははァッ────驚いたか?”」

既にハインリッヒの肉体は形を為していなかったはずだ。

身体全体が無数に飛び交う蝙蝠の群れへと変貌を遂げると、それら全てが黒い闇夜の景色に紛れた。
しかし姿形は無くとも、蝙蝠達が翼をはためかせる音と共に、嘲笑うようなハインリッヒの声は確かに聞こえるのだ。

そこら中から聞こえているようにも、すぐ耳元で囁いていると錯覚してしまうように、女王の囁きは闇夜を木霊する。

爪;'ー`)「吸血鬼様は蝙蝠変化まで出来んのか!?」

(;´・ω・`)「”擬態”のようなものだ………蝙蝠を、その依り代として!」

806名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 01:43:04 ID:1ENFozGI0

(;`ω´)「皆ッ、外側を向いて───円陣を組むおッ!」

「”はははは………”」

密やかな笑い声と、数多の蝙蝠たちの羽音とが、不気味な程の静けさにさらなる非日常を添える。
ブーンの号令通り、三人は背中を寄せ合って少しずつ小さな円となってゆく。

ゆっくりと旋回しながら、6つの瞳で木々に止まる蝙蝠達に鋭い視線を走らせた。

(;´・ω・`)「気を付けるんだ。奴は、どこからでも僕達を襲える」

羽音以外はひっそりと静まった森の静寂の中で、三人は息を呑む。

ふと、数匹の蝙蝠達がこちらへ羽ばたいて来るのが確認できた。
武器や手で払い落とそうと思えば簡単だったが、今は毛ほどの隙も見せたくはなかった。

しかし、それがブーン達の犯した間違いだった。

この夜を支配する不死の吸血女王は、蝙蝠を自らの依り代と化す。
実体を持ちながら、同時に無形の存在ともなり得るハインリッヒは、それら全ての
蝙蝠達の眼を使って、至る所からブーン達の隙を伺う事さえ可能。

ハインリッヒからすれば、自らの掌の上で命を踊らせているようなものなのだった。

807名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 01:43:57 ID:1ENFozGI0

「………ご名答」

(;´・ω・`)「!?」

すぐ背後で聞こえた声に、ショボンは思わず呼吸を止められた。
背中を向け合わせる三人の中央に、急速に寄り集まって来ていた蝙蝠達が既に”主”の姿を形作りつつあったのだ。

从 ゚∀;,

そして、”突き刺す”とばかりに尖らせた五本の指を、肩よりも後ろへ振りかぶって───
その狙いは、がらあきの背を見せるショボンへと向けられていた。

爪;'ー`)「ショッ……!」

(;´ ω `)(しまっ─────)



从 ゚∀从「まず、一人」

808名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 01:45:58 ID:1ENFozGI0

フォックスが振り向いた時、もうハインリッヒは突きを繰り出していた。
樹木をも易々と貫く威にかかっては、防具を身につけないショボンの絶命は免れない。

爪; ー )(クソがッ!!)

だが───間に合わない。
武器を振るって攻撃を中断させるにも、今は遅すぎた。

(;゚ ω゚ )「……やめ、るおぉぉぉぉッ!」

”どんっ”

(´・ω・`)「ッ!?」

だから、それに気付いて飛び出そうとしたブーンの頭の中には、
”己の身を挺する”という愚直な考えしか、思いつかなかったのだろうか。

あるいは考えようともせずに、ただ、仲間の為に。



”ドシュッ”

809名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 01:47:06 ID:1ENFozGI0

一際重たく、そして鋭い音が響いた。
直後に、冷たく、恐ろしいほどの静寂を誘い込む。

使いでもある蝙蝠達が見守る中、やがてハインリッヒが呟いた。

从 ゚∀从「……興醒め、だな」

その言葉を皮切りに、凍結させられていた二人の時間は取り戻された。
フォックスとショボンの視線は、すぐにブーンへと向けて注がれる。

爪;'ー`)「ブーンッ!!」

(;´・ω・`)「────そん、な」

ショボンを突き飛ばすようにして入れ替わったブーンの背中からは、
ぬらぬらと赤い血に塗れたハインリッヒの指先────腹部を、貫かれているのだ。

(; ω )「………ぉ」

810名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 02:42:57 ID:1ENFozGI0

从 -∀从「まぁ、お前ももう10年………ってとこだったなぁ」

消え入りそうな声で一度だけ呻いたブーンの表情から視線を逸らすと、
ハインリッヒは真っ赤に染め上げられたその手を、ゆっくりと引き抜く。

そして、ブーンの全身からはまるで糸の切れた操り人形のように、全ての力が失われた。

(;´・ω・`)「くッ────ブーンッ!!」

地面へ倒れ込むと、そのブーンの腹辺りからは少しずつ大きな血溜まりが作られていく。

”明らかに致命傷”だと理解したショボンは、悲痛な叫びを絞り出しながら駆け寄った。
自らを庇って、自らが受けるはずだったハインリッヒの攻撃を受けたブーンの元へ。

「しっかり……しっかりしてくれッ!」

この時ばかりは、ショボンは窮地においての氷の冴えを失っていた。
感情的にブーンの身体を揺さぶる彼の傍には、すぐハインリッヒが立っているというのに。

ハインリッヒはその光景をつまらなそうに見つめると、軽く首を振った。


从 -∀从「おやぁ……遊びももう、終わりが近づいてきたかな?」

811名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 02:44:51 ID:1ENFozGI0

興味の対象であった相手の生命が今まさに終わろうという所で、ハインリッヒは少し冷めた様子だった。

だが、対照的に───その彼女の言葉が、同時に熱を生んだのだ。


爪 - )「………黙れよ」


見た目には軽い男にも思える銀髪の盗賊は、その実、誰よりも仲間の事を想いやる男。

その彼の仲間が倒された光景と、そして好き勝手を振舞う目の前の化け物に対しては、
普段は外に出そうとしないフォックスの”柄にも無い”部分へと、怒りの熱が滾っていた。

从 ゚∀从「まぁ、心配すんな、お前らもすぐ───」



「黙れっ……ッてんだろうがよぉッ!!」

一際大きな怒声に、木々に留まる蝙蝠達の多くが飛び立つと、ハインリッヒの言葉を遮った。

812名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 02:47:36 ID:1ENFozGI0

爪#゚ー゚)「人間サマを……ナメてんじゃねぇぞ───この、腐れ女が」


从 ゚∀从「……ほぉ?」

爪#゚ー゚)「ブーンは死なせねぇ───だが、テメェは別だぜ」

从 -∀从「はンッ、無理だな。お前ら人間は脆い……こいつはもう助からねぇさ」

爪;゚ー )「………ッ!」

解りきった事実を憎々しい口調で告げるハインリッヒの言葉に、音を立てて歯軋りする。

だが、まだブーンが助かる道は残されているはずなのだ。
先に行ったツンを頼って、彼女の聖術”癒身の法”を施術してやれれば。

その為には何としても、手持ちのカードだけでロードヴァンパイアを倒さなければならないが。

爪#゚ー゚)「テメェが、先に死にやがれ」

813名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 02:48:46 ID:1ENFozGI0

从 ゚∀从「ま、ちょっとはお前にも興味が沸いたぜ……楽しませてくれんだろうな?」

巨大な敵意を持つが故に、そして死の淵にしがみつく仲間を助けたい一心故に、
いつも人当たりの良い彼にはおおよそ似つかわしくない、粗暴な言葉を吐き出させた。

爪#゚ー゚)「………殺す」

銀色の刃を二振り手にすると、果敢に飛び込んだ。
自らに、そして眼前で手招きするハインリッヒに対し、言い聞かせるようにしながら。

「あぁ、そうさ────殺してやる」


───────────────


──────────


─────

814名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 03:00:57 ID:1ENFozGI0
明後日休みなので、今晩何も予定無くて書き切る事できたら投下すますわー。
おやすむ

815名も無きAAのようです:2012/06/01(金) 12:16:03 ID:AGweCFs.O
いつの間にか続ききてた 
ハイン強すぎる、4人は勝てるのか?

816終わんね;;だら投下すまそ:2012/06/03(日) 02:07:34 ID:di75YbrU0

「はぁっ───はぁっ………!」

更けた夜の、黒くそびえる木々が立ち並ぶ景色が、背後へと流れて行く。

必死に息を切らせて走るが、疲労困憊の身体では思うように距離も稼げない。
何より、仲間たちに流されるまま彼らをあの場に残したという後ろめたさが、彼女の足を鈍らせている。

自分でも気付かない内に、視界は滲んでいた。

ξ;⊿;)ξ「………はぁっ………私───最低」

ショボンやフォックス言葉の言わんとする事は理解できた。

だがそれでも、同じ冒険者パーティーとしての仲間だったではないか。
たとえ敵わなくても、あの場に残り自分も一緒に戦うべきだったのではないか?

ショボンとフォックスとの別れ際、ほんの少しでも「助かった」というような思いを
今、自身の心の中で抱いてしまっていた事が、いいようもない程の罪悪感をもたらす。

同時に、その心根に深く焼き付けられた、彼女への恐怖に当てられていた。

817終わんね;;だら投下すまそ:2012/06/03(日) 02:09:23 ID:di75YbrU0

─────『女ぁ。お前から、殺しとこうか』

エルンスト=ハインリッヒ。
素性を隠していたのだ、昼間の古城で出会った時には。

吸血鬼に深く詳しい訳ではないツンでも、その名だけは知っていた。
冗談のような史実を作り上げた、悪名高い城主にして、吸血鬼。

200年以上前から存在し、今に至るまで2000人以上もの人々が彼女に命を奪われたと聞き及ぶ。
だがそのハインリッヒも50数年前を最後に、一度は確かに歴史から姿を消したはずだった。

その最悪の吸血女王と、まさか旅の最中対峙する事になるなどと、予想もつくはずがない。

ξ;⊿ )ξ(………怖い)

ハインリッヒの殺気にあてられた一瞬で、全身が萎縮するかのような感覚に囚われた。
それは、今でもこの足が震えるほどに────

ツンは走る足を止めて、とうとう突っ伏すように屈み込んでしまった。
僧服の袖で目元を拭うが、走る中で風を受けて乾いた涙の痕跡までは消えない。

818終わんね;;だら投下すまそ:2012/06/03(日) 02:10:16 ID:di75YbrU0

ξ ⊿ )ξ「────こわ、い?」

再び顔を上げた時、自分が心の中で呟いたその一言で、思考が施錠された。

確かに、恐ろしい。
人間からはどれほどの力を持っているか、想像もつかない相手だ。

だが今この時、そんな怪物を相手に戦っているのは───誰だった?
誰しもが恐ろしくて尻込みしてしまうような吸血鬼を、仲間を逃がす為に一人で引き受けようとしたのは、誰だったのか。

そして今、そんな彼らの助けとなるべきなのは、誰なのか。

『みんな、死ぬ気で逃げてくれおぉッ!』

『俺たちが、ブーンを死なせねぇさ……』

『この場を少しでも離れろ、ツン!』

ξ-⊿-)ξ(………)

現に今、戦っているのであろう。

819終わんね;;だら投下すまそ:2012/06/03(日) 02:11:29 ID:di75YbrU0

仲間達の奮闘を思い浮かべてみると、命を脅かされる事への恐怖は、少しばかり和らいだ気がした。
ゆっくりと立ち上がると、振り返り、これまで走ってきた道の先を見やる。

ξ゚⊿゚)ξ「私って……馬鹿ね」

たとえ今という時を生きながらえたとしても、束の間の安堵を得た後は、きっと一生後悔する事になる。

もし仮に────彼らが万が一あのハインリッヒを撃退したとしても、その窮地に居合わせなかった
自分など、彼らに対してこれからずっと後ろめたさ、罪悪感を背負い続けなければならないのだ。

─────そんなもの、”仲間”だなんて言えるものか。

ξ゚⊿゚)ξ「ごめん、皆………!」

「今すぐ、行くから!」



迷いは、晴れた。

820終わんね;;だら投下すまそ:2012/06/03(日) 02:12:14 ID:di75YbrU0

やはり、自分は彼らの力とならなければならない。
不浄な者に対抗する為の力ならば、恐らく彼らよりも自分の方が勝っているのだから。

先ほどまでの自分を省みる時間など無い───今はただ、間に合ってくれ、と。
そうと決めたら、気持ちの面で負けていたさっきまでの自分の身体の疲労など、忘れてしまっていた。

僧服の裾を腰元に縛りつけると、再び彼らの元へと駆けようとしたその時───激しい衝撃をその身に受ける。


「ぅぉぉぉぉぉおおおおおおおおぉぉぉぉぉーーーッ!?」


”どんっ”

ξ゚⊿゚)ξ「………え?」

突如背中に強烈な大砲がぶちかまされたかのように、気付けばツンの身体は前方へと投げ出されていた。
地面が顔の前に迫った時、咄嗟に腕と肘で辛うじて受身を取る。

ξ;⊿ )ξ「え、あ……───ぐえぇッ」

821終わんね;;だら投下すまそ:2012/06/03(日) 02:13:21 ID:di75YbrU0

「でぇぇぇぇぇぇぇッ」

「何かが突っ込んできた?」
それを確認すべく倒れ附した後に立ち上がろうとした直後、遠慮のない重みが身体に圧し掛かる。

まさかハインリッヒがもう自分を追ってきたというのか───内心冷や汗を浮かべる思いだったが、違った。

ξ;-⊿-)ξ「あい……ったぁ……」

「……す、すまんッ!!まさかこんな夜に人が山道を歩いているとは────」

ξ;゚⊿゚)ξ「………」

あえて口にはしなかったが、それはツンの言いたい台詞でもあった。
かなり驚きはしたが、どうやら立ち上がらせようと手を差し出している辺り、悪い人物ではない。

体格は良いが、細い身体付き───肩や胸には、銀色の軽甲冑を纏っている。
ツンが怪訝な視線を向けた事に気づいたか、後ろで一つに纏めた緋色の前髪をふぁさ、と
かき上げると、はにかんで再度ツンへと手を差し伸べてきた。

同性である彼女のいでたちは、どうやら騎士であるようだった。

822終わんね;;だら投下すまそ:2012/06/03(日) 02:14:30 ID:di75YbrU0

ノハ;^⊿^)「大丈夫か?こんな夜更けに女の一人歩きは、危険だぞ?」

ξ;゚⊿゚)ξ「あ、ありがとう───って、ごめん、私……それどころじゃ───」

ノパ⊿゚)「………ん?」

ξ゚⊿゚)ξ「………?」

礼もそこそこに、すぐにでもブーン達の元へと駆け出そうとした所で、互いが顔を見合わせた後に静止した。
彼女の顔は、どこかで見た覚えがある─────記憶の引っ掛かりの正体を、甲冑に刻まれた紋章が呼び覚ます。

六角に囲われた聖十字───円卓騎士団。

ξ゚⊿゚)ξ「! 貴女────」

それが分かった時、ピンと来た。

ノパ⊿゚)「……!? あぁぁぁぁぁぁぁーーーッ!」

ξ;゚⊿゚)ξビクッ

823終わんね;;だら投下すまそ:2012/06/03(日) 02:15:48 ID:di75YbrU0

どうやら、彼女もまたツンの顔を見て何かを思い出したようだ。
大きな声量に一瞬たじろいだが、次に彼女はその場にかしづき、頭を垂れた。

事態を飲み込めぬツンに、甲冑の少女は構うことなく続けた。

ノハ;-⊿-)「やっと……追いついた」

ξ゚⊿゚)ξ「追いついたって……貴女は───」

ノハ-⊿-)「非礼をお詫びします。アルト=デ=レイン司教のご息女、ツン様とお見受けしましたが……」

ノパ⊿゚)「相違、ありませんか?」

そう言って片膝を付きながらツンの顔を覗き込む彼女の瞳は、とても力強い。
夜分であっても艶やかな煌きを放つ髪色と同じく、燃えるような情熱を秘めた緋色の瞳だった。

ξ゚⊿゚)ξ「えぇ………貴女は、”ヒーやん”は、どうしてここに?」

ノパ⊿゚)「!?」

ツンの言葉に、彼女は一瞬驚いたような表情を浮かべていた。

824終わんね;;だら投下すまそ:2012/06/03(日) 02:16:43 ID:di75YbrU0

「そうかそうか───覚えてて、くれてたかぁ……!」

照れくさそうに頭を掻きながら立ち上がると、ツンの正面へ向き直って力強く言い放つ。

ノパ⊿゚)「円卓騎士団長フィレンクト=エルメネジルドの命により、交易都市ヴィップより馳せ参じました!
     ”ヒート=ローゼンタール”────これより、再びツン=デ=レイン様警護の任に就きますッ!」

ξ゚⊿゚)ξ「!」

ノパ⊿^)「……久しぶりだなっ、ツン!」


こんな暗い場所であっても、空気を明るくしてしまうような───そんな変わらぬ元気の良さ。
そしていやらしさを少しも感じさせない屈託の無い微笑みが、彼女との思い出を急速に思い出させた。

「……ヒート!」

彼女が円卓騎士団に入るまでの間を、聖教都市ラウンジで共に過ごした、ひと時の幼少期が。


──────


────────────



──────────────────

825終わんね;;だら投下すまそ:2012/06/03(日) 02:17:50 ID:di75YbrU0

ξ゚0゚)ξ「フィレンクト様ー、その子、だぁれ?」

(‘_L’)「ツン様にもご紹介しようと思いましてね。ヒート、ご挨拶なさい?」

ノパ-゚)「うん。ヒートっていうんだ、よろしくな、ツン!」

(;‘_L’)「これっ……仮にも将来円卓騎士団に入りたいという娘が……」

ξ゚-^)ξ「別にいーよ、フィレンクト様」

ノハ^-^)「おぉ、フィレンクトさまのおはなしどおりだな〜」

ξ゚-゚)ξ「?」

ノパ-^)「まるでおにんぎょうさんみたいだな、ツンって」

ξ* -)ξ「えっ」

ノハ^-^)「あはは、あかくなったぞ!かわいいなぁ、ツンは」

(;‘_L’)「こらっ、ヒート……」

826終わんね;;だら投下すまそ:2012/06/03(日) 02:18:40 ID:di75YbrU0








大聖堂を見上げるようにして、二人はよく外の原っぱに寝そべりながら様々な話をした。
過ごした時間こそ短かったが、彼女との思い出はツンにとっては今でも大切なものだったのだ。

息の詰まるような籠の中の鳥の自分に、同性で歳の近いヒートはよく顔を出しては話を聞いてくれた。


「ツンは、やっぱりいつかお父さんの後を継ぐのか?」

「私は……別に望んでないんだ、それ」


「それは……どうしてだ?」

「だって、私はお父さんみたいにはなれないし……本当の娘じゃないから……皆が噂する」


「皆……、か」

「………ヒーやんは、どうするの?」

827終わんね;;だら投下すまそ:2012/06/03(日) 02:19:51 ID:di75YbrU0

「そうだな、ますます円卓騎士団に入りたい気持ちが、強まった」

「?」


「私が騎士団に入ってエラくなったら、もう誰にもツンの噂話なんてさせないからな!」

「ヒーやん………」


「それでもって、ツンや人々が危ない目に遭った時は、私が盾になってやるさっ」

「フィレンクト様の受け売りでしょ、それ」


「ちっ、違うぞ!円卓騎士として持つべき心得だっ」

「あはは……でも、嬉しいかも」


心地よい陽光の下で、風が誘った沈黙の後、彼女はツンにぽつりと呟いた。
いずれその時が来るだろうと、彼女自身もまた気付いていたが。


「言ってなかったけど……来年からしばらくは、こうしてツンに会えなくなるんだ……」

828終わんね;;だら投下すまそ:2012/06/03(日) 02:20:45 ID:di75YbrU0

「! ─────ヴィップに、行くんだね………適正試験、やっぱり受かってたんだ?」


「……すまん、ツン」

「フィレンクト様はよく”ヒートの実力は騎士見習い補佐代理”とか言ってたけど……
 実は、陰では”彼女には素養があるのです”とか言ってたのよ?」


「ぬ、ぬわにぃぃぃっ!初耳だぞ、それは!?」

「知らぬはヒートばかりなり、ね」








間もなく、ヒート=ローゼンタールは騎士見習いとして円卓騎士団へと入団。
そしてその2年後、正式に叙勲を果たしたとツンは風の噂に聞き及ぶ。

その彼女と再会したのは、ツンにとって実に6年ぶりの事だった─────

───────────────


──────────


─────

829終わんね;;だら投下すまそ:2012/06/03(日) 02:21:49 ID:di75YbrU0

その彼女が、今目の前に居る。

しばらく会わないうちに女性にしては随分と背が伸びたようで、ツンよりも頭一つ飛びぬけていた。
フィレンクトが言っていた通り、体格の面でも騎士としての素養があったのだろうか。

ノパ⊿^)「大きくなったな、ツン」

ξ* ー )ξ「ヒートこそ………ね」

旧友との再会に様々な想いが去来しては、話したいことが山ほど浮かんでくる。

だが─────今は。

ノパ⊿゚)「ところでツン、今は一人なのか?………冒険者仲間は、どうした?」

ξ ⊿ )ξ「────ヒート」

ノパ⊿゚)「………?」

彼女の顔を見て安堵し、ほんの一瞬意識から消えていた。
仲間が今───とてつもない化け物の脅威にさらされているのだという事を。

830終わんね;;だら投下すまそ:2012/06/03(日) 02:25:03 ID:di75YbrU0

ξ ⊿ )ξ「お願い───力を、貸して欲しいの」

ノパ⊿゚)「………何か、あったんだな?」

震えたような唇で、痛切なまでに一言一言悲哀と焦燥が込められたツンの顔色に、
ヒートはすぐに何かを感じ取った様子だった。

近寄ったツンの肩を両手で掴むと、その表情を覗き込む。

ξ;゚⊿゚)ξ「ブーン達が……仲間が、危ないの!」

ノパ⊿゚)「そうだったか……任せろ」

ξ;-⊿-)ξ「っ! でも、相手は吸血鬼で………それもっ────」

ノパ⊿゚)「分かった!先導してくれ!」

ヒートの即答に戸惑うツンが、恐る恐る彼女の表情を伺いながら尋ねるが、毅然としたものだ。
迷い一つなく、爛々とした瞳で真っ直ぐにツンの方を見据えていた。

ξ;゚⊿゚)ξ「その………始祖、なんだよ?」

831終わんね;;だら投下すまそ:2012/06/03(日) 02:26:19 ID:di75YbrU0

ノパ⊿゚)「そいつはまた──手強そうだな」

渋るともなく二つ返事でツンの頼みを引き受けるヒートの様子には、
途方も無く危険な頼み事をしているはずのツンの方が逆に困惑してしまう。

まさか騎士団で4年以上過ごしているヒートが、始祖吸血鬼の脅威を知らぬわけはあるまい。
それでも「早く案内してくれ」とばかりにツンの視線を受けながら道の先に立った彼女の背に、叫ぶ。

ξ;゚⊿゚)ξ「ヒート!……死んじゃうかも、知れないんだよ!?」

言葉を投げかけた後、彼女はゆっくりと振り向いて───またツンの両肩にその手を置いた。
優しく、けれどやはりその瞳には、生命力に満ち溢れた力が篭められていた。

ノパ⊿゚)「ツン───いつか、私は言ったよな」

ξ;゚⊿゚)ξ「?」

ノパー゚)「”ツンや人々が危ない時は、私が盾になってやる”───と」

ξ゚⊿゚)ξ「!」

お互いに、その時の言葉を忘れた事など無かったのだ。
今のツンにとっては、いかにそのヒートの言葉がいかに頼もしく、そして力強いことか。

832また次回;;:2012/06/03(日) 02:28:26 ID:di75YbrU0

昔の約束というものが少しだけ気恥ずかしくて、心の中でだけ言った。
”ありがとう”の一言を、義理堅く情熱的な彼女に対して。

ノパ⊿゚)「さぁ、お前の仲間の所に行くぞ!」

ξ* ⊿ )ξ「………うんっ」

ヒートがツンの手を引くと、すぐに二人は走り出した。
来た道を駆け抜け、窮地に立たされた仲間たちの元へ辿り着くべく。

ノパ⊿゚)(しかし───本当に、手強い相手だな……!)

昔よりも一回りも二周りも大きな背中を見せながら走るヒートの後姿は、
まるでツンの不安だとかの負の感情を一手に背負ってくれているようだった。

一人では心細さしか感じなかった夜の山道の景色が、彼女と一緒ならば心強い。

心の中でツンは、強く想っていた。
残して来てしまった彼らに対し、「遅くなってごめん」と。


ξ;゚⊿゚)ξ(無事でいなさいよ……アンタ達!)

強力な助っ人を連れて───すぐに戻るから、と。

833名も無きAAのようです:2012/06/03(日) 03:53:01 ID:4dwxbI7oO
もう終了してた、朝方5時頃の予想はしてたんだが 
 
ちょっと予想より時間が早かった

834名も無きAAのようです:2012/06/03(日) 12:15:59 ID:4MY3MlEYO
次の投下でスレ埋める勢いでラストまで投下しますわ〜
すまそん

835名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:22:45 ID:Zi6LRdjw0

─────

──────────


───────────────


「うぉッらぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

仲間を倒された事による怒りが、叫びが。
そのフォックスの声は、木々の合間を縫って山道の森に木霊する。

が、一点に殺意を篭めて投擲した投げナイフは、いとも容易くハインリッヒの手の甲にはね退けられた。
空しく音を立てて地面へと転がったそれに視線を落とす事はせず、反撃に備えて再度距離を取る。

一見隙だらけのハインリッヒがまた手招きするも、懐に飛び込むのは愚策という他無い。

从 ゚∀从「はぁ。芸がねぇなぁ、お前」

爪#'ー`)「うるせぇよ」

836名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:23:37 ID:Zi6LRdjw0

顔は怒りに火照っているが、フォックスは頭の片隅にまだ冷静さを残している。
危険を顧みず近距離で肉弾戦を仕掛けるには、いささか無謀すぎる相手なのだ。

それは、パーティーの中でも一番の屈強さと膂力を誇るブーンとの立会いから理解出来た。
恐らくハインリッヒがその気になれば、掴まれた人間の四肢を捥ぎ取るなど、造作もない。

考えたくはない事だが、最悪を想定するならば、それ程の力があるのは確実な相手。

爪#゚⊿゚)「………ショボンッ!いつまでそうしてんだッ!?」

それに対して勝算は無いのだ。
仲間の助けをなくしては、決して。

今も夥しい量の血を流すブーンの傍らでうな垂れていたショボンに、語気を強めて促した。

(;´・ω・`)「………フォックス」

爪#゚⊿゚)「ショボくれてる場合じゃねぇぞ。俺たちでこいつをぶっ倒さねぇと、本当にブーンが死んじまう……!」

(;´・ω・`)(皮肉にも、頼みの綱は彼女か)

837名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:24:30 ID:Zi6LRdjw0

この場から遠ざけたツンの聖術の力以外に、最早ブーンが助かる道は無い。
ハインリッヒを撃退したところで、近隣の村や街までは安く見積もっても四半日は覚悟しなければならない。

ブーンが受けた傷口の治療は、今すぐにでもこの場で施さなければならない程の火急を要している。

(´ ω `)(すまない……ブーン)

(  ω )

深手に意識を失うブーンの顔からは、更に血色が失われつつある。
だが、今の彼にかけてやれる言葉はないのだ。

自らが受けた恩義に対しては、行動で示さなければならない────

(´・ω・`)「───最大火力を作り出す!その間を、何としても食い止めてくれ……フォックス!」

庇ってくれた仲間が瀕死に喘ぐ姿は見ていられないが、このままめそめそとして
いずれ全てが取り戻せなくなったら、きっと後悔だけでは足りない。

それに気付いて立ち直ったショボンが、フォックスに毅然と言い放った。
その言葉に、にやりとフォックスが笑う。

爪#'ー`)「……一辺倒な戦法だが、現状それしかねぇな」

838名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:25:13 ID:Zi6LRdjw0

「なら───無茶な注文にも、どうにか応えてやるさ」
詠唱の構えに入ったショボンに背中で語り掛けるように、フォックスは一歩ハインリッヒへにじり寄った。
両の手に逆手に携えたナイフを固く握り締めて、一歩───また一歩と。

近距離にて斬り付ける、接近戦の構えだった。

从 ゚∀从「おいおい……本当にそのナイフでやり合うつもりかよ?」

「はンッ」と鼻で笑いを付け足しながら、対峙するフォックスとショボンの真剣な表情を蔑した。
まるで他人事のように、冗談だろうとでも言いたげな表情の緩みようだ。

”始祖”と”人”とではあまりに隔絶的なその力の差、ハインリッヒの優越は崩れない。

爪# ー )(ちんけなナイフで殺せるはずもねぇ───が、考えろ……)

圧倒的な身体能力、生命力の差は覆す事の出来ない種としての力の差。
付け入る隙があるとすれば、完全に自分を殺す事など出来ないと侮る相手が突く”意表”

その意表を突く事が出来るだけの材料が、どうにかして欲しかった。

爪# ⊿ )(吸血鬼……弱点……大蒜、日の光………)

十字架やニンニク。おとぎ話では彼ら吸血鬼が恐れるとされるそれらも、
所詮はどれも伝承の中で自然と付け足された話の尾ひれだ。

839名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:26:07 ID:Zi6LRdjw0

その動きに注視しながら思案していたフォックスの思考は、
膠着した状態に焦れて悠然と歩き出したハインリッヒの動きに、中断される。

从 ゚∀从「俺を目の前にして、心ここにあらずってか」

大仰に両の腕を開きながら、にやにやと笑みを浮かべながら、ゆっくりとフォックスへ近づく。

あと二歩でハインリッヒの間合い。
それを肌に感じたフォックスが、先手を打って前へと出る。

爪#'ー`)「……シッ!」

从 ゚∀从「はッ」

リーチではやや勝るはず、そう踏んだ上で首筋を斬りつけようと右のナイフを振るうが、
その刃が届くよりも先にフォックスの腹部を掠めたのは、後手にも関わらずハインリッヒの鋭爪。

爪;'ー`)「つッ───!」

840名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:27:04 ID:Zi6LRdjw0

あと一歩でも踏み込む領域を見誤っていれば、臓物を撒き散らしていたかも知れない。
熱いような痛みと、背筋に冷たい汗を垂らした一撃は、衣服と共に皮膚の薄皮を裂いていた。

再度距離を保つために後退するも、ハインリッヒの前進は止まらない。

从 ゚∀从「ほーら……」

爪;'⊿`)(くッ)

逆の手で天を射抜くような突き上げの一撃。
上体ごと顎を仰け反らせて避けた指先の爪が、またも掠めたのは顎先。

「まずい」

そう思って回避に全力を傾けるが、フォックスの反応を楽しむかのようなハインリッヒの攻撃は、
彼のあせりを読み取ったかのように、途端に苛烈さを極める。

从 ゚∀从「ほらほらァッ!」

爪;⊿゚)(………!)

薙ぐような大振り。
上体を仰け反ったまま後方へ倒れこむ意識で回避に専念したフォックスの判断は正解だ。

そのまま地面へ片手を付くと、飛び返りながら後方へと翻る。

841名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:28:12 ID:Zi6LRdjw0

从 ゚∀从「逃げてばっかりじゃあ────」

爪#゚⊿゚)「! ……調子に乗るんじゃねぇッ!」

体勢を立て直している中、更なる速度で追撃にかかるハインリッヒを眼前に認識すると、
離さず手に持っていたナイフの一振りを、叩き込むようにして投げつけた。

それには、どうにか彼女の追撃を留める程の効力しかもたらさなかったが。

从 ゚∀从「……ッと!」

爪;゚⊿゚)(マジ、かよ)

顔の付近に手をかざすようにして、狙い済まして放ったナイフは二本の指だけで中空に留められていた。

从 ゚∀从「どうやって投げてんだ?これ」

そう言ってまじまじとナイフの刃先を眺めると、投げ返すような所作を見せて振りかぶる。
フォックスから視線を外したその背後に、魔法の詠唱を行うショボンの姿を認めて。

(´-ω-`)

从 ゚∀从「こんな感じかねぇ………返してやるぜ。これ」

爪# ゚⊿)「───てめぇッ!!」

次の瞬間────ハインリッヒの手元のナイフは、風を唸らせながら放たれた。

842名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:29:20 ID:Zi6LRdjw0








フォックスには、またも損な役回りを強いてしまった。
辛くもハインリッヒの攻撃を避け続ける彼を目の前にしながら、それでも精神を研ぎ澄ませる。

(´・ω・`)(”炎の玉”、”爆炎の法”………それでも、足りない)

レッサー種であれば、それら魔法であれば倒せるだろうという自負はあった。
しかし、不死身を誇る始祖に対してそれでは足りないのだ。

(´-ω-`)(ならば編み出せるか?……この、土壇場で)

今必要なのは、その始祖を脅かす程に強大な魔法。

自分だけの魔法を未だ持たぬショボンだったが、今はその壁を乗り越えなければならない局面を迎えていた。
モララー=マクベインが自己透過の隠蔽魔術を編み出したように、対吸血鬼用の威力を秘めた魔法を。

賢者の塔に身を置いていた頃から、ショボンはモララーと比較させられる事が多かった。
先人が作り上げた高等魔法”炎の玉”ですらを易々と扱う事が出来る───だけど、それだけ。

自らで魔法を”創り上げ”なければ。
それを為し得なければ、モララーを超える事など出来ない。

何より、このロード・ヴァンパイア────ハインリッヒを倒すには至らないだろう。

843名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:30:24 ID:Zi6LRdjw0

(´・ω・`)(違う───要るのは、今)

炎の精霊、サラマンダーと契約したのが実に6歳の頃。
それが今や、炎の精霊王”エフリート”の寵愛を受けるまでになった。

”出来るはずだ”

心のどこかでモララーに対して、負けを認めてしまっていたのだ。
今、その弱音を叩きだし、吸血鬼を葬った上で───その事実を揺ぎ無い自信としよう。

炎を御するショボンの心もまた、滾るハインリッヒへの怒りと、
ブーンを救う事への執念の炎となって、燃え盛っていた。

気を許すと叫び出してしまいそうな口元から、少しずつ搾り出すように言葉を紡ぐ。

(´-ω-`)【 ……解せよ 示威と恩恵を齎さん その炎の理を 】

感じるままに、言霊を呟いた。
自分自身の存在を、消えない巨大な炎の中へと没入させるようにして。

その”意思”と同調するかのよう───深く、意識を沈み込ませる。

844名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:31:28 ID:Zi6LRdjw0

(´-ω-`)【 深淵の者共よ聞け 炎統べる我が赤き意思 その怒りを 】


ここでエルンスト=ハインリッヒを葬るという事。

それは恐らく、これまで命を奪われてきた多くの人々の遺志でもあろう。
声無き叫びをも力へと借り受け換えて、彼女の身をこの場にて、もはや再生不可能な程の灰燼とするのだ。


(´-ω-`)【 そして其は 断罪の業火に囚われながら 汝が過ちを戒めよ 】


荒ぶる感情を炎の流れに乗せて、語調にも力を篭めた。
尊い命を食い物にする、不遜な吸血鬼へ与える裁きの言霊を紡ぎだす口元で。


(´-ω-`)【 その身幾度容失っても 決して赦されざる怒り 】


(´・ω・`)【 それら生命の炎に、戦け 】

うねる炎の流れを、そしてその熱さが己の心の中でさえ感じ取れていた。
怒りの感情が引き上げてくれている───「これならば、いける」

手ごたえを確信して瞳を開くと、ハインリッヒが丁度こちらへナイフを投げつけようとしていた。

845名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:32:22 ID:Zi6LRdjw0








”ギンッ”


爪;ー )(………)

尋常じゃない速度で投げ振るい返されたナイフは、見えていた訳ではなかった。
ショボンの詠唱を阻まれてしまえば、もはや打てる手が一つ残らず潰えてしまう。

半ば己の身を挺するつもりで、半身を捻りながらその方向へとナイフを振るっただけに過ぎない。
辛うじて弾く事が出来た───それを理解するのにもやや時間が掛かるほどに、心の余裕など無かった。

从 ゚∀从「あちゃあ」

わざとらしく肩をすくめて気落ちするような所作を見せるハインリッヒに、言い放つ。

爪;'ー`)「どこ見てやがんだ………テメェの相手は俺だぜ?」

846名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:33:12 ID:Zi6LRdjw0

今手に持つナイフは一本、残りの投げナイフはもう無いはずだった。
だが胸元に手を差し入れてまさぐると、手馴れないその感触がある事に気付く。

最後の一本───昼間、マドマギアの露天で買ったナイフの存在に。

爪;゚ー゚)(………!)

从 ゚∀从「へっ」

微かに顔色の変わったそのフォックスの様子を知ってか知らずか、ハインリッヒがにたり、と厭らしく嘲った。

从 ゚∀从「所であと何本出てくるんだ?その、チャチな玩具は」

爪;'ー`)「……さてな」

从 -∀从「正直、道化の方が向いてるぜお前よぉ」

爪; ー )「嬉しくも何ともねぇな」

右手には投擲用のナイフが握られているが、急所と言える急所も無い相手だ。
刺せば死んでくれる人間が敵ならば、どれほど楽だったろうかと、苦虫を噛み潰す。

847名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:34:41 ID:Zi6LRdjw0

何度刺し貫こうとも再生するであろう不死身に加えて、
この暗い景色に溶け込みながら高速で接近するナイフの軌道さえ視えているのだ。

ショボンの詠唱の間を持たせるには、再度接近戦しかない。

それには不向きな、柄を持たない投擲ナイフを一度握り締めた。
だがフォックスはそれを力なく地面へと放ると───捨てる。

从 ゚∀从「あぁン?」

からころと転がるそれに視線を落とすと、”理解が出来ない”という風な表情がハインリッヒの顔に滲んだ。

从 ゚∀从「そうか………命乞いねぇ」

爪 ー )「───違ぇよ、タコ」

从 ゚∀从「?」

そして、最後の一本を胸元から取り出す。
マドマギアの露天で売られていた、その煌びやかに装飾の施された”銀の短剣”を。

「ま、お代は見てのお帰りだぜ───」

848名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:35:43 ID:Zi6LRdjw0

フォックスの姿が風に揺らいだかと思われた直後、その場から前へと飛び出した。
鈍色を照り返す銀の刃が、一筋の迷いも無くハインリッヒの喉へと振るわれる。

从 ゚∀从「笑わせるんじゃねえよ、ニンゲン」

蝙蝠化しようともせず、その前に突き出した手で、ハインリッヒはそれを掴み取る気だ。
無造作に、自らの喉首を狙い済ますナイフを。

从 ゚∀从「見えるんだよ、そんぐれぇ」

爪# ー )(ナメんじゃねぇぞ、クソ吸血鬼)

己の身体能力に大層な自信を持っているのだろう。
確かに、史実によれば四桁とも言われている犠牲者の血を吸ってきたハインリッヒは、
人間には到達する事の出来ない領域にまで発達した、常軌を逸した筋力と反射神経を備える。

数百年にも渡り衰えなど知らぬであろうその彼女の肉体は、
恐らくこんな正直な突きは、まともに喰らってくれはしないはずだ。

ならば、と─────試みる。

カード博打を好み、それに連戦連勝を重ねるフォックスでも、この時ばかりは賭けの成功を祈りながら。

849名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:36:59 ID:Zi6LRdjw0


爪; ー )(試してみるだけの価値はッ───)



('A`)


頭の中を過ぎたのは、相対する相手に死の恐怖を思わせながらも、
どこか気の抜けたような表情だった、あの男の顔。


爪#゚⊿)「………あらぁなぁッ!!」

一度はデルタが受けるのを目の当たりにした、暗殺者の”業”。
記憶の中にある彼の動きを、再現するようにして────

首筋を狙い済ました一打を放ったはずのフォックス。
だがその彼の手にナイフが握られていない事に、ハインリッヒはようやく気付いた。

从 ゚∀从「な───ッ」


────暗殺の、一撃。

850名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:38:21 ID:Zi6LRdjw0

左手で繰り出したはずの刺突が止められる直前、投げ渡すようにして逆手へと持ち替えたナイフは、
ハインリッヒの右の脇腹を突き刺し、ナイフの刀身を摘もうとしたその手に、空だけを掴ませた。

致命的な打撃にこそならなかったが、一瞬だけハインリッヒは、確かに呆気に取られていたのだ。

爪;'ー`)(浅ぇ、か)

さながら、予測も出来ぬ方向から第三の手が伸びるかのような攻撃。
その意識外の攻撃が、ようやくまともな手傷を与えたのだった。

从 ∀从「………ってぇな」

吸血鬼の弱点───十字架、心臓に杭、大蒜。
噂話に囁かれる効果の無いそれらの中にも、実際に効力を発揮する物はあったのだ。

それが、この”銀”のナイフ。

恐らくは清めもしておらず、”銀加工仕上げ”の見た目以外は、機能的には単なる粗悪品。
それでも、”吸血鬼を傷付けられるのは銀の剣以外に無い”という噂は、おとぎ話にも聞かれる程。
実際に今こうして、少なからず効果を発揮したのだ。

銀のナイフが突き立てられたハインの脇腹からは、ジュウ、と血が煮立つような音。
だが少しだけその顔に苦痛を浮かべたのを見届けて、フォックスは手ごたえを確信する。

851名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:39:14 ID:Zi6LRdjw0

爪;゚⊿)「見えたぜ、テメェの弱点」

从#゚∀从「……うるせぇな」

衣服を掴んで引き寄せようとしたハインリッヒの手を、ぱん、と払いのけて距離を取る。
刺された腹の傷口へと視線を落としたのを見計らって駆け出し、再度突きを繰り出した。

しかし、当たらない。

从 ∀;, 「今のは、ちょっとだけムカついたぜ?」

爪#゚⊿)「クソ───野郎がぁぁぁーッ!!」

再び刃を突き立てたと思われた一瞬、そこでハインリッヒは蝙蝠へと姿を変え、フォックスの背後へと回り込んだ。

しかし、それをも読みに入れていたフォックスは、後ろ手に逆手で構えたナイフを、
そのまま身を翻す勢いのままに背後へと全力で振るう。

”ずんッ”

爪#; ⊿)

从 ゚∀从「ハッ。甘ぇ甘ぇ」

フォックスの呼吸が、一瞬止まった。

852名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:40:28 ID:Zi6LRdjw0

狙いを引き絞る程の余裕も無く繰り出されたその一撃は、僅かにハインの顔を反れている。
腕が伸びきった所で大きくがら空きとなってしまっていた脇腹に、尋常ならざる速度で繰り出された
その拳が、深々とめり込んでいた。

爪#; ⊿)「がっ………ハッ……ァ」

内臓を吐き出しそうになる。
一瞬で冷や汗が顔全体に滲むと、痛みに目玉がぐりんと裏返りかけた。
がくがくと不安定になった膝には、もはや力が─────

思考が巡らず、意識が途絶えかけたその時。

ξ;゚⊿゚)ξ「……フォックスッ!!」

爪; ー)(ツ………)

戻ってきたのか───だが、好都合だと。
背中に聞こえたその声に、にやりと笑った。

たまらず闇に呑まれそうになった彼の意識を、ツンの叫びがどうにか繋ぎとめた。
身体が崩れ落ちる寸前、どうにか足を前へと投げ出して地面を踏みつけ、体重を支える。

爪;゚⊿`)「……き───うっぷ……効いたぜ、この……野郎ォ」

853名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:41:27 ID:Zi6LRdjw0

だが、深刻に身体へと刻み込まれたダメージは、すぐに反撃を行えるようなものではない。
例えるならば、唸りを上げた鉄柱が自身の脇腹を貫いたような、重く鋭いものだ。

それでもなお倒れなかったフォックスの姿に、ハインリッヒの表情が愉悦に歪む。

从 ゚∀从「……イイね。想像してたよりも───遥かにイイよ」


────「お前達はさァッ!!───アハハ、アハハハハハッ!」────


ヒートとツンが辿り着いた時には、対峙する二人の中央で狂笑を上げる黒衣の少女の姿があった。

ノパ⊿゚)「……こいつかッ」

ξ;゚⊿゚)ξ「………ッ」

闘争を、心の底から愉しんでいる。
命の重さ、そんな倫理観など、この吸血鬼に取っては紙切れ一枚の価値も無い戯言だ。

姿形は似通っていても、人間とは決して相容れない化け物。
蝙蝠達がざわめく森の中で、その闇の主は狂ったように嘲っていた。

854名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:42:39 ID:Zi6LRdjw0

从 ゚∀从「……ところでそこのお前。さっきから何かと思えば───召喚魔術?エフリートか」

(´・ω・`)「………」

从 -∀从「50年程前だったか───俺に挑んだ魔術師で、確か一人お前みたいなだんまりのが居たよ」

(´・ω・`)「その魔術師は」

从 ゚∀从「あぁ、首を引っこ抜いてやったさ……最後は無様に命乞いなんかしやがったからな」

(´-ω-`)「………」

この戦いそのものに、歓喜を感じているのだろうか。
少し饒舌になり始めたハインリッヒの言葉に再び瞼を閉じると、それを胸に刻んだ。

(´・ω・`)「なら───その魔術師の怒りも、この魔法に乗せて放つとしようか」

从 ゚∀从「おっ?来るかぁ!?」

くい、と人差し指を引いて挑発するハインリッヒに向けて、最後の詠唱を終えた。

855名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:43:54 ID:Zi6LRdjw0

(´・ω・`)【 君の最期に手向けるのは ただ一言 "燃え尽きろ" 】

ショボンの周りでだけ、急速に大気の流れが速まっていく。
同時にそれらが熱を帯びて発火すると、もはや近づくのも困難な荒れ狂う炎の乱気流と化した。

まるで昼間のような明るさが、暗いこの森を炎で照らし上げる。

ノパ⊿゚)(離れろ───ツンッ!)

ξ;-⊿-)ξ(きゃッ)

今まさにショボンのを取り巻く炎の帯がハインリッヒへと襲いかかろうと場面を見届けて、
フォックスは立っているのもやっとだった、という風にその場にどっしりと尻を突く。

爪;'ー`)(ブチかませ、ショボン)

ショボンの背から四方を取り囲むようにして伸びる炎は、意思を持っているかのようにうねりを伴った。

(´-ω-`)(魔法名は、そうだな───)

(´・ω・`)【 "炎流焔舞"………とでも名付けようか】

从 ゚∀从「!」

856名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 18:45:25 ID:Zi6LRdjw0

伸びた炎が扇状に取り囲うと、ハインリッヒの周囲の大気すらをも灼く。
もはや蝙蝠化して飛び去ろうにも、どこにも退路など残されていなかった。

回避は不可能───全方位から襲い来る炎が、徐々にハインリッヒの身を焼いていく。

从; ∀从「な───あッ!?」

自分の身に燃え移った炎に身をばたつかせるが、それ以上に苦痛を伴わせているのは、呼吸だろう。
炎の牢獄に囚われたハインリッヒの周囲の空気は全て焼かれ、息をするのもままならない。

自らの喉首を押さえながら、炎の中で苦痛に喘いで揺らめく彼女の姿は───まるで舞いを踊っているかのようだ。

「……ぐあぁッ!……あぁぁぁァァーッ!」

(´-ω-`)「─────Hitze ende」

爪;'ー`)(何決め顔してやがんだ……あいつ)

思わずフォックスからはそんな笑みも漏れる程に、勝利を確信できた一撃だった。
───いつまでも消える事の無いその炎に踵を返して、ショボンが振り向く。

心配そうに自分の顔を覗き込む、ツン達の方へと。
その表情には、一つの事をやり遂げた一抹の充足感を垣間見せて。

だがその瞳は、すぐに真剣味を帯びた。

(´・ω・`)「ツン……頼む」

857名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 20:58:12 ID:Zi6LRdjw0
ちと外出(ハードセックス)、日付が変わる前にはなんとか

858名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 22:46:50 ID:4uGAjX6M0
待ってますよ

859名も無きAAのようです:2012/06/06(水) 23:58:16 ID:Zi6LRdjw0

ξ゚⊿゚)ξ「………!」

(  ω )

ショボンの見据える方向には、血溜まりの中に倒れるブーンの姿があった。

(´・ω・`)「彼を、助けてくれ………!」

ξ;゚⊿゚)ξ(ブーン!!)

言葉が耳に届くよりも先にツンはブーンの元へと駆け寄って行った。
小さな背中のその彼女の双肩に、今は大事なパーティーの仲間の命が託されている。

しかし、それにはあまりに時間が経ちすぎていた。
間に合うだろうかという半信半疑さは拭えず、愚直に
ブーンが助かる道を信じきるという事など、難しい。

(´ ω `)(………)

会心の魔法は、見事ハインリッヒへと叩き込まれた。
しかしこれまで重圧にも感じていた”自分だけの魔法”を創り上げた事への達成感は、その表情には無い。

860名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:00:26 ID:e92H5ZPE0

そんな気落ちした様子のショボンの肩に手を置き、ヒートが声を投げかけた。

ノパ⊿゚)「仲間なんだろ?……助かるといいんだが」

(´・ω・`)「えぇ……ところで、貴女は?」

ノパ⊿゚)「話は後にしよう。だが冒険者、確か私は”始祖”だと聞いていたんだが?」

(´・ω・`)「終わりました、今しがたね」

ノハ ⊿ )「………あれが」

ショボンが指差した方向には、今なお閉ざされた炎の中で頭を抱え、のたうち苦しむ黒い影。
苦痛を訴える悲鳴が、次第に絶叫へと変わりつつあった。

人メ%∀从「あぐぅぅ────ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁ───ぁ……」

ノパ⊿゚)「………」

いつまでも耳に残りそうな不快な声がする火中から視線を外すと、それをツンへと移す。

861名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:01:11 ID:e92H5ZPE0

彼女は、泣き出しそうな表情で必死に腕の中のブーンに言葉を投げかけていた。
傷の具合を見ようと仰向けに抱き起こそうとした彼の身体からは完全に血の気が失われており、
掌がべっとりと拭った血の量に、ツンの顔からもさぁっと血の気が引いていく。

ξ; ⊿ )ξ「ブーン………駄目、死んじゃ………」

(´・ω・`)「ツン!早く聖術の癒しを、ブーンに………!」

ショボンの言葉にこくりと頷くと、血がついているのにも構わずにツンは手を組み交わした。
瞳を閉じ、今はこの場にて唯一ブーンを助け得る聖術、”癒身の法”を施そうとして。

「う……ぎ、があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーッ!!」

”ばぁんっ”

が────突如響いた轟音と叫びに身を震わせ、ツンの祈りの手が止まった。


爪; ー )「………!」

ノパ⊿゚)「何っ!?」

(´・ω・`)(何、だと………!)

862名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:02:12 ID:e92H5ZPE0

燃え盛っていた炎が消えると、再び辺りは静寂と闇に包まれる。
白だか黒だかも分からない煙を吸い込んでは吐き出しながら、ふらふらとその奥から姿を現した。

人メ%∀从「ブッ、はぁぁぁぁ────こ、ろ………」

黒衣は所々素肌が露出する程にただのぼろと化し、全身の至る所は炎に炙られ皮膚が剥がれ落ちている。
それだけの重度の傷を与えても尚、倒し切るには至らなかったのだ────

煙を吐き出しながら、ハインリッヒが掠れる喉で呟く。

从メ%∀从「げふンッ───うばく……しゃべれえぇ」

(;´・ω・`)(あの炎を……大気を糧に燻り続ける炎を、掻き消したというのか…!?)

そして身体を丸めるようにしながら自分の頭を押さえつけると、また夜空に向けて狂った笑いを響かせた。



从メ%∀从「あは───アーッハッハッハ、アハハハハハハハハハハハハハハハハァァァァァァーッッッ!!」

863名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:03:11 ID:e92H5ZPE0

(´・ω・`)「構うな、ツンッ!今はブーンの治療を───!」

ξ;゚⊿゚)ξ「! ……分かったわ!」

爪; ー )「クソが………!」

从メメ-∀从「あ〜あ─────」

ブーンの傍らに座り込むツンを庇って、ショボンとフォックスが前に出た。
未だふらつく足取りのフォックスと、直ぐには第二撃を繰り出せないショボンとではあまりに危機的状況だ。

从メ゚∀从「お前たちは最高に面白かったよ───そんで、最高にムカついた」

爪;'ー`)「もう一丁あいつにかまして来るぜ……」

(;´・ω・`)「駄目だ、この間合いでは───」

生半可な火力では無かったはずだ───だが、それでもハインリッヒは言葉を紡ぎながら、
見る間に少しずつ、その身体に受けた重度の火傷を修復させていく。

从 ゚∀从「だからよぉ………そろそろ、殺すぜ?」

864名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:04:45 ID:e92H5ZPE0

やがて、纏っていた衣装がぼろきれとなった以外は、最初の頃となんら変わらぬその姿を取り戻していた。
万策尽きたか───もはやそんな表情を浮かべていたショボンとフォックスの目の前を遮ったのは、彼女。

爪'ー`)「………!」

ノパ⊿゚)「やれるもんなら───やってみろ」

円卓騎士団、フィレンクトの懐刀と呼ばれる彼女。
その緋色の髪と瞳を持つ彼女に、銀色の甲冑が良く映えた。

その彼女が怖気づく事など微塵も見せず、真っ直ぐにハインリッヒの瞳を睨み返した。

从 ゚∀从「また変なのが沸いたな。俺の言葉を聞いてたかよ?………もう、遊びは入れねぇぞ」

ノパ⊿゚)「貴様こそ────滅び急ぐか、吸血鬼」

从 ゚∀从「人間の女如きが……この俺にそれを出来るとでも?」

ノパ⊿゚)「人外など、この剣が切り捨てる」

从 -∀从「へッ……お前みたいな気丈な女が、小便漏らして命乞いするのが好きなんだよ……」

ノパ⊿゚)「………!」

从#゚∀从「────ねぇぇぇぇッ!!」

865名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:06:03 ID:e92H5ZPE0

当たれば人間の頭など弾け飛んでしまうような、遠慮の無い一撃が空を切り裂いた。
空間そのものを抉り取るかのような掌打に、毛髪を掠らせながらも深く屈み込み、ヒートは逃れる。

振り切った腕の反対側へとすかさず回り込むと、流れるような動作でそのまま銀色の剣閃が描かれた。

”ざしゅッ”

从 ゚∀从「………!」

ノパ⊿゚)「命乞いするのは、お前の方なんじゃないのか?」

ぼとり、とその場に落ちたのはハインリッヒの右腕。
そしてその切断面からは、音を立てて血が中空へと吸い込まれているかのように煙と消えて行く。
恐らくハインリッヒは、直ぐにはその傷を再生する事は出来ないであろう。

ノパ⊿゚)「我が剣は、円卓騎士団より授かり洗礼が施された……聖銀の剣ッ!」

从#゚∀从「お………あぁぁぁぁぁぁッ!」

身体ごと黒衣を翻しながら独楽の様に回転し、今度は逆の手を薙ぎ振るう。
それをかわしながら再び腕を叩き落そうとしたヒートの剣先が、一瞬迷いを感じて止まった。

見れば、攻撃を仕掛けようとしていたハインリッヒの腕も、ぴたりとその動きを止めている。
逆にヒートからの攻撃を待ち構え、そこからの打ち落としを狙っていたのだ。

从 ゚∀从「ばぁ。よく気付いたな」

866名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:07:03 ID:e92H5ZPE0

ノパ⊿゚)(狙いは───剣かッ!)

刀身を掴まれて叩き折られるかしてしまえば、洗礼を施した剣と言えど、たちどころに効力を失ってしまうだろう。
速やかにその場から退き、脱兎のごとく距離を取る。








怯む事なくハインリッヒと渡り合うその彼女の姿を、フォックス達が見守っていた。

爪;'ー`)「どこの姐さんかは知らねぇが───やってくれるじゃねぇか!」

(´・ω・`)「フォックス、君は何かあったらツンを。僕は、彼女の助けとなろう」

見下ろしたツンの背は、小刻みに震えているようでもあった。
少し離れた所で命の奪い合いが行われているというのに、それでも集中して祈りを念じる。

しかし、その彼女の表情には次第に焦りの色が浮かんでいるようでもあったが。

ξ;-⊿-)ξ(どうか───彼に慈悲を、再び立つ為の力を、お与え下さい……)

867名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:08:41 ID:e92H5ZPE0

もはや生命力が失われたブーンの身体───
傷は癒えども、彼の意識が戻って来る気配は無かった。

(  ω )

ξ;-⊿-)ξ(………ブーン)








躍動する、黒と銀。
真紅の瞳と緋色の瞳とが、闇の中で目に見えぬ火花を散らせる。


从 ゚∀从「───ハァァッ!」

ノハ;-⊿゚)「くッ………!」

人間の跳躍力ではない。
瞬時にして眼下にまで躍り出ると、関節が壊れているのではないか、と
思うほどに不自然な体勢から、鋭い爪先で突き刺すように蹴り上げて来た。

ヒートの甲冑の左肩部分が、消し飛ぶようにして彼方へと弾き飛ばされる。

868名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:09:31 ID:e92H5ZPE0

ノハ#゚⊿゚)「ぬんッ!!」

痛みに一瞬肩から下の感覚を失いかけるが、続けざまに接近していたハインリッヒの顔面に
剣の柄の底面をぶちかまして、その勢いを留めた。

面食らったハインリッヒが口元の血を拭う間に、また2、3歩の距離を取る。

从#゚∀从「オイオイ……お前も、面白ぇじゃんかよ」

ノパ⊿゚)「フン」

从#゚∀从「お前ら全員、下僕にしてやってもいいかな、と今では思うぜ………褒めてんだ」

ノパ⊿゚)「汚らわしい吸血鬼の言いなりになるくらいなら───私は死を選ぶがなッ!」

从#゚∀;,「ハハッ、イイ威勢だぜ」

ノパ⊿゚)「!?」

ハインリッヒの肉体が、蝙蝠達の羽音を立てながら闇に溶け込んでいく。
擬態し、完全にハインリッヒの姿を見失ってしまった彼女に、フォックスが叫んだ。

869名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:11:16 ID:e92H5ZPE0

爪;'ー`)「気を付けろッ!全方位……すぐ背後からでも襲ってくるぜッ!」

ノパ⊿゚)「! ………承知したッ」

フォックスもまた、辺りをつぶさに警戒した。
今や死に体な自分とツン達では、ハインリッヒにかかればあまりに無防備な標的だ。

しかし、恐らく彼女の狙いはヒート───ハインリッヒの興は、完全に女騎士へと注がれているだろうと思えた。

”ぞくっ”

ノハ;゚⊿゚)「……くッ」

背後に感じた蝙蝠の気配に、素早く前に出て距離を取ると振り返った。
だが、向き直った先にはハインリッヒの姿は無い。

爪;'ー`)「後ろだッ!姐さんッ!」

だが、ヒートは背後で実体化したハインリッヒの気配に気付けなかった。
耳元で囁かれるのは、残忍な性格からは想像もつかない程に、甘い囁き。

「つかまえた」

870名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:11:58 ID:e92H5ZPE0

ノハ; ⊿ )「!?」

身体を硬直させて虚空を見据えていたヒートの頬に、ひやりと冷たい手が触れる。
抵抗しようと思った一瞬、剣を持つ右手に覆い被せるにして脚を絡ませ、動きを封じられる。

人間の力ではどうしようも無いほどの圧力で、身体を拘束された。

从 ゚∀从「それじゃあ……いただきます」

”かぁッ”と口を開くと、鋭い牙をそこへ覗かせて───ヒートの首筋に齧り付こうと、顔を寄せた。

ノハ; ⊿ )「やめろぉぉぉぉぉぉーーーッ!」

その牙に血を吸われてしまえば、人間はその意のままに扱われる不死者の下僕と成り下がる。
必死に拒むヒートの叫びが虚しく響き渡るが、もはや振りほどく事も出来ない。

【 魔力の羊歯よ 絡み付き かの者の動きを封じよ 】

しかし、背に聞こえたその言葉に、ハインリッヒの動きが止まる。

从 ゚∀从「……チッ」

(´・ω・`)【 縛鎖の法────! 】

871名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:13:04 ID:e92H5ZPE0

その言葉を皮切りに、ハインリッヒの周囲の地面から這い出るようにして、無数の紫の蔦が伸びた。
それらがハインリッヒの脚元へと絡みつくと、少しずつ上半身へと伝っていき、その動きを縛り付ける。

首筋に限りなく牙が届きそうな、そのすんでのところで、ヒートは束縛を脱した。

ノハ;゚⊿゚)「助かったぞ……冒険者!」

(´・ω・`)「礼には及ばない───だが、すぐに解かれるだろう」

从#゚∀从「解ってんじゃねぇか」

ショボンに顔だけ向き直ると、明らかな憎悪を滲ませる。
彼の炎に身を焼かれ、そして今度は吸血鬼に取って性愛行動にも等しい”血を吸う”場面を邪魔されたのだ。

その眼には、ただただ殺気を孕んでいた。

ノパ⊿゚)「さて……幕引きだ」

从#゚∀从「…………」

持って数十秒程度───それでも、その間ハインリッヒは肉体の自由を奪われた無防備なのだ。

さらに魔力の蔦が拘束を強め、ハインリッヒの肉体が縮こまっていく中。
ヒートが銀剣を構えると、”機”とばかりに、その切っ先を鼻先へと突きつける。

872名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:14:22 ID:e92H5ZPE0

ノハ#゚⊿゚)「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーッ!!」

微かに抵抗しているようでもあったが、その束縛が解かれるよりも先に、ヒートは
ハインリッヒの首筋目掛けて、銀剣にて弧を奔らせた。


”たんッ”


「………」


ノハ-⊿-)「あの世で────貴様が殺して来た人々に詫び続けるがいい」

刃先に付着した、沸騰しては煙と消えていくその血を剣から振るい落とす。
名も知らない赤毛の騎士が、始祖吸血鬼エルンストの首を、銀の剣にて断ち斬ったのだった。

騎士が持つ清めた銀の剣ならば、吸血鬼の弱点を突く武器としてはこの上ない。
今度こそ勝利を確信したフォックスが、喜びを声にした。

爪;'ー`)「やり……やがった!」

873名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:15:14 ID:e92H5ZPE0

呆気ない程間の抜けた音を立てて、胴から切り離されたハインリッヒの首。
ごとり、と転がったその口元には、驚いたような断末魔が浮かんでいる。

首を失ったハインリッヒの胴体からも力が失われ、やがて前のめりにゆっくりと倒れ伏せた。

”どさっ”

(´・ω・`)(まだまだ僕も力不足か……本当なら、さっきので勝てるはずだったな)

そんな中、ハインリッヒの身体をしばし眺めていたショボンの耳に、涙交じりのツンの声。
見ればブーンの傍らで、彼女は咽ぶようにして顔を押さえているようであった。

まさか────間に合わなかった?

(;´・ω・`)「……ツン!」

ξ; ⊿ )ξ「どう、しよう……ブーン、が……傷は治ってる、はずなのに………!」

そんな彼女に駆け寄り声を掛けようとして、ショボンの脚は止まった。

ノハ;゚⊿゚)「馬鹿な……ッ!?」

874名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:16:24 ID:e92H5ZPE0

ヒートが驚きの声を上げたのは、気のせいなどではないだろう。

転がっていたハインリッヒの頭部。
───それの口元が、にやりと吊り上がっている。

从 ゚∀从

首と胴を聖銀の剣で分かたれてさえ───ハインリッヒは、死んでなどいないのだ。
なぜなら、先ほどまでは正面を見据えていたはずのその瞳が、今では確かにヒートを射抜いている。

それに気付いた時、場に居た全員の時間が凍てついたかのように止まった。
逼迫した状況下の彼らの耳に、更なる絶望を告げるツンの痛ましい叫びが────緊張を齎す。

ξ;⊿;)ξ「───ブーンが、息をしてないのッ!」

爪;'ー`)「……ッ!?」

内側から搾り出したようなツンの叫びと同時に、事態は急転直下で動き出した。

从 ゚∀从「ばぁッ!死んだと……思ったか!?」

ノハ;゚⊿゚)「───うおぉぉぉぉぉッ!」

875名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:17:49 ID:e92H5ZPE0

嘲り笑うハインリッヒの頭部からは、まだ憎々しい余裕を吐き出す余力を感じさせた。
ならば───今度は細切れの肉片に、もしくは粉みじんの肉の塊に変えてやる。

そして剣を振り下ろそうとしたヒートだったが、突如何かに首を掴まれた。

ノハ;-⊿゚)「か───ふぅッ!?」

背後から、とてつもない力で喉を押え付けられている。
誰も居ないはずの方向から、なぜ?

それから逃れようと背後に肘打ちを見舞って、空を切ってから気付いた。
後ろには、誰も立ってなどいない。

切断したはずのハインリッヒの右手首が、背後から自分の首を締め付けているのだと。

(;´・ω・`)「動くな!」

「………」

事態を把握したショボンが”魔法の矢”を放とうと詠唱に入ろうとした所で、先手を打たれた。
”がばっ”と突然起き上がったハインリッヒの胴体部分が、側面からそのショボンの身体を殴りつけたのだ。

”ぼきんッ みしッ ぽきッ”

876名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:19:17 ID:e92H5ZPE0

(;´ ω `)「あが────はッ、ぁ……!」

風に吹かれる柳のように吹き飛ばされたショボンの身は、そのまま近場の木々へと叩き付けられると、
したたかに頭を打ち付けて、それきり立ち上がれなくなってしまった。

ハインリッヒの生首が、そんな光景を見ながら哂う。

从 ゚∀从「勝ちを確信してたか?───そんな奴らほど、こうなっちまえば脆い脆い……」

爪#'⊿`)「ショボンッ!?………てめぇぇぇぇッ!」

怒りのままに斬りかかっていったフォックスの突きは体捌きに受け流される。

だが、頭と右手を失っている相手に対し、付け入れる隙はいくらでもある───そんな驕りがあったかも知れない。
そうして再度ナイフを振るおうとした間際になって、脇腹に受けた攻撃の痛みが走り、致命的な隙を作ってしまった。

刹那、意識は混濁する。

”パァンッ”

「………」

爪; ー )(────あ………)

877名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:21:24 ID:e92H5ZPE0

从 ゚∀从「痛快だぜぇ……なぁ銀髪?」

腕の力だけで放たれた左拳が顎を射抜くと、そのまま全身の力が失われ───為すがままに身体は宙を舞っていた。

次に目を開く事が出来たのは、どうしてだかわからなかった。

あるいは、地面に落ちた衝撃を身体に受けるまで気を失っていたのかも知れない。
しかし大の字に天を仰ぐ身体を必死に横ばいにして、最後に残されたツンへ伝えようとした。

爪;ー )(お前、だけで───も……逃げ……ろ………)

重い瞼を必死に抉じ開けて、意識を確保しようとする。

何重にも重なって焦点がぶれるその薄目に見えたのは、
自分の首を拾い上げたハインリッヒがツンの元へと近づいていく場面だった。

そこで、フォックスの意識は薄れて───途絶える。

ノハ;-⊿-)「う……ぐッ────」

必死に抵抗するヒートの体力も徐々に奪われ、ついには自らの剣を地面へ落としていた。
未だ辛うじて意識こそ保っているものの、このまま絞め続けられれば意識は闇に飲まれる。

878名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:22:38 ID:e92H5ZPE0

ツンへと近づいていくハインリッヒは、拾い上げた首を切断面にあてると、既に再生を終えていた。

从 ゚∀从「あと少しだけそうしてな……すぐ、終わるからよ」

締め付けられている首への力を弱めようと抵抗するのがやっとで、そう言い残して
自分の前を素通りしてゆくハインリッヒに、一発お見舞いしてやる事も出来なかった。

拘束を解いたところで、まともに戦える人間はもはや自分一人。
最後に残されたツンには、戦う力などないのだから。

その絶望を覆せるだけの奇跡を────この時ヒートは懇願した。

ノハ; ⊿ )(ツ────ンッ……!)







逃れられぬ死の足音が、ゆっくりと近づいてくるのが耳に聞こえた。
次々と倒されていく仲間を尻目に、彼はまるで眠っているかのようにツンの呼びかけには応えない。

(  ω )

ξ ⊿ )ξ「いい加減、起きてよ……」

879名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:24:16 ID:e92H5ZPE0

”癒身の法”は、確かに貫かれたはずのブーンの腹の傷を癒した。
だが、その身に生命力が残されていなければ、それは意味を為さない行為なのだ。

从 ゚∀从「結局最後になっちまったな、女ァ」

ξ#;⊿;)ξ「………」

そのツンの様子を上から覗き込むようにして、ハインリッヒが近づいていた。
鼻先が触れ合う程の距離にあって、ツンは滲む視界の中で、それでも彼女を睨みつける。

从 ゚∀从「気丈だねぇ、お前さんも───流石は聖女様……てか?」

ξ#;⊿;)ξ(ショボン、フォックス……ヒート……)

从 ゚∀从「大丈夫だ。お前さんの仲間も、直ぐに送ってやるさ───」

冷たいハインリッヒの指がツンの喉へと触れると、そのまま強い力に引き寄せられる。

ξ; ⊿ )ξ(………ブーン………)

从 -∀从「だが、まぁお前の仲間は……この俺を随分と楽しませてくれた。
     ───その礼に、最期に言葉を言い残させてやるよ」

ξ; ⊿ )ξ「………う、して」

そう言って少しだけ首元への力を緩めたハインリッヒが、ぽつり呟いたそのツンの言葉に、耳を欹てた。

880名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:25:59 ID:e92H5ZPE0

ξ#;⊿;)ξ「────どうしてッ」

从 ゚∀从「………」

様々な思いが、彼女の頭の中を交錯していた。
それを一言で口にしようとしても息は詰まり、そんな疑問の言葉しか出てこない。

どうして、ブーンが生き返らないのか。
瀕死の仲間たちを助けるには、どんな聖術を用いれば良いというのか。
そして───目の前で笑う、人に仇なす不死者を倒すには────どうすれば。

頭がこんがらがって、どんな祈りをヤルオ神に届ければ”全てに対して奇跡を起こせるのか”。
気の利いた言葉など考え付かず、ただ必死に縋り、願った。

ありったけの、感情全てを押し込んで。

ξ;⊿;)ξ「”全部”………全部どうにかしてよッ!ブーンや皆を助けて、こいつをぶっ倒してよッ!」




─────その叫びの直後、天から光の支柱が降り注いだ。

881名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:27:22 ID:e92H5ZPE0

从;゚∀从「ぐあぁッ!?」

不死者に対して異常な熱をもたらしながら、その光の中にたゆたうツンの身体を中心として、暖かな十字の光を模る。
祈りを懇願した彼女の意識は、どうやら全ての願いを口にした時点で、緊張と興奮のあまり失われていたようであったが。

しかし奇跡は、確かにツンの願い通り───”全て”に対して救いを齎そうとしていた。

从;゚∀从「───てめッ……!?」

即座に腕を離したハインリッヒが再び近寄ろうとするも、もはやそれは不可能だった。
この世にとって不浄な不死者の存在では、この聖なる力には何人たりとも触れる事すら敵わない。

十字の光からは更に大きな光が生まれ、ハインリッヒにとっては不可侵な領域が更に広げられてゆく。

从; ∀从「オッ───オォォォォォォーーーッ!」

たまらず後退していなければ、恐らく200年以上も生きながらえて来た彼女の肉体は、
その光の前に塵一つも残らないぐらいに消し飛ばされていただろう。

そんなハインリッヒの様子を尻目に、横たわるブーンの身体を、柔らかな光が包んでいた。

(  ω )

微かに彼の指先が動いた事には、誰も気づく事はなかったが。

882名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:28:02 ID:e92H5ZPE0
─────

──────────


───────────────


意識の無い夢現のツンの身を、儚げな光が覆い包む────
白き世界。そこでは、ヤルオ神の声がツンの頭の中に静かに響き渡った。





       ____
     /      \
   / ─    ─ \
  /   (●)  (●)   \
  |      (__人__)    | ──”勇敢なる仲間には、神の慈愛を”──
  \     ` ⌒´     /

883名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:28:45 ID:e92H5ZPE0


       ____
     /      \
   / ─    ─ \
  /   (●)  (●)   \
  |      (__人__)    | ──”悪しき敵には───聖なる光を”──
  \     ` ⌒´     /










       ____
     /⌒  ⌒\
   /( ●)  (●)\
  /::::::⌒(__人__)⌒::::: \  ──これこそ”聖域の法”だお!──
  |     |r┬-|     |
  \      `ー'´     /

884名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 00:30:16 ID:e92H5ZPE0

ξ ⊿ )ξ(………ありがとう、ヤルオ神様)



一瞬の対話の中でツンはその奇跡に、心からの礼を述べる。
やはりそれには、神様らしからぬ反応が返ってきたが。


”どういたしましてだおっ”


───────────────


──────────


─────



─――ツンが白い光が覆う世界で、神と対話している間を。

その一方で、ブーンは黒く閉ざされた世界で、死神と対話していた───

885名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 01:21:08 ID:e92H5ZPE0

( ●..● )(オイオイ……何でまた来てんだぁ?)


まさか再会するとは思わなかった。迷惑そうにそう告げたのは、ついこの間の”死神”。
しばしこちらを見つめていた彼だったが、やがて納得したように何もない空を見上げて言った。

( ●..● )(………そうか、お前さん───死んだのか)

やはり人間臭い死神だ。少しだけその事実に気落ちしたような雰囲気を滲ませている。
否定してやりたいが、おぼろげな最後の瞬間を思い返す限り、きっとそれこそが真実なのだろう。

(だけど まだ……)

自分は殺されてしまったのだ。
しかしその相手、ハインリッヒと───フォックスやショボンはまだ、戦っているのだろうか。

そしてツンは────無事なのだろうか。

886名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 01:22:14 ID:e92H5ZPE0

( ●..● )(でも……ま、そういう事なら仕方がねぇか。お前さんの魂、この俺が看取ってやる)

有難いやら悲しいやら─────

全力で遠慮してやろうにもあの時とは違って、何故だか言葉を交わす事は出来ない。
魂の緒とやらが、肉体から離れかかってでもいるのだろうか。

深い重力に飲み込まれてしまっているような自分の身に───その時、ふわりと浮くような感覚を得た。

死神が、鎌を取り出そうとした手を止める。



( ●..● )(いや………待ちな)


黒い世界に、死神がそう言って見上げた先で黒く閉ざされた天井からは───微かに光が差し込んだ。

887名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 01:23:19 ID:e92H5ZPE0

ぼんやりとだが、その合間から聞こえてくる微かな声が、この耳にまだ、届いたのだ。

(全部……全部なんとかしてよッ!)

(ツ────────)

( ●..● )(あの嬢ちゃん、お前のコレか?――――ま、ともあれ……)

彼女は、呼んでくれているのだ。
あの世から、この世に来てしまった情けない自分を。

ならばその彼女の呼び声に応えて───助けになってやらなければならない。


その意思を込めると、やがて暗く沈んでいたはずの自分の身体は、
急速に引き戻されるような感覚を得て───


( ●..● )(お前さん、やっぱりまだ”死ぬ定めじゃねぇ”みてぇだぜ?)

888名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 01:24:13 ID:e92H5ZPE0

(………その、ようだおね)


( ●..● ) (ったく……悪運の強ぇ野郎だ)

(次に来たら、今度こそ魂を刈り取ってやるからな)
光に導かれるままこの世界を去る間際、死神は最後にそんなようなことをぼやいていたようだった。

(サンキューだお、ゼフ……!)








─────

──────────


───────────────


从 ゚∀从「………驚いたぜ」

889名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 02:14:25 ID:/5yz48O.O
支援

890名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 02:20:17 ID:e92H5ZPE0
ぶふっ……エピローグまではもうちょいなんだぜ

891名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 02:21:27 ID:e92H5ZPE0

(  ω )「………」

ツンの呼び起こした奇跡”聖域の法”は、そう長く効力を発揮する事はなかった。
だが、ハインリッヒにとって不可侵の領域にあったブーンの身は、対照的に生命の光に癒されて───

再び両の脚で立ち上がると、全ての精神力を放出し尽くしたツンの身を、こうして両手で抱きかかえていた。


( ^ω^)(………ツン、ありがとうだお)


ξ ⊿ )ξ


( ^ω^)(フォックスに、ショボン……そして見知らぬ人)

爪 - ) (´ ω `) ノハ; ⊿ )



(  ω )(─────本当に)

892名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 02:22:32 ID:e92H5ZPE0

ハインリッヒの背後で倒れる、傷つき、意識を失った仲間たち。
その彼らに心で感謝を述べてから、抱きかかえていたツンをそっと後ろに横たえた。

ゆらり、と構えを取ったそのブーンの後ろには、まるで静かな闘志が満ちるかのように。
さっき立ち合った時のように、気負うだけの彼ではなく───ただ、その瞳は静かにハインリッヒを見据えていた。

从 ゚∀从「聖術で息を吹き返したか………やっぱり、お前が一番ソソるぜ」

( ^ω^)「……終わりしようお、ハインリッヒ」

从 ゚∀从「はは───さっきまで死んでた奴の台詞かぁ?けどまぁ、そいつぁ楽しみだな」

( ^ω^)「ブーンは、こんな戦いしたくなんかないお───けど……」

从 ゚∀从「はんッ」

(#^ω^)「仲間を傷つけられた事実に対して……ブーンは絶対にお前を許す事は出来ないおッ!」

”すぅ”と息を吸って、勢いよく剣を抜き出すと────堰き止めていた闘志が、再び溢れ出す。
そんな彼に背を向けて、ハインリッヒは近くで気を失っていたヒートの傍らに転がる自分の右手を拾い上げた。

893名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 02:23:44 ID:e92H5ZPE0

从 ゚∀从「イイぜ、お前───惚れちゃいそうだ」

振り返ると、既に切断面に当てた右手の再生は終えていた。
鋭爪を持つ両の手を左右へと投げ出すと、それが全力の構えだった。

(#^ω^)「”ブーン=フリオニール”………お前を倒す、最初で最後の男の名だお」

从 -∀从「ヘッ───最初ではねぇがな……」

从 ゚∀从「あはッ、なら……お前こそ死んでも俺の名前を一生忘れんじゃねぇぞ」


(#^ω^)「……おおおぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

从*゚∀从「この───”エルンスト=ハインリッヒ”様の名をよぉぉぉッ!」


歓喜────その感情は、ハインリッヒの表情からありありと伺える程に、滲んでいた。

894名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 02:24:52 ID:e92H5ZPE0

二度目にして、恐らくは最後となる戦い。
3人がかりでさえ一方的に全滅させられかけたロード・ヴァンパイアと、たった一人で。

だが───今のブーンの身体に漲る力。
それは決して、自分一人の力だけではない事を知っていた。

だからこそ、負ける気がしないのだ。

从*゚∀从「死ぃぃぃぃッ!!」

(メ;^ω^)「────くッ」

真正面から自らの殺気を浴びせても何ら怯む事の無い、ブーンとの戦い。
それはハインリッヒの闘争本能という炎に、良からぬ形で油を注いでしまったのかも知れない。

頬を掠めた爪、その指先ごとついた返り血を口の中で味わい、狂悦に頬を緩ませた。

从*゚∀从「どうしてだ!?―――さっきより、全然イイ線イッてるじゃん、お前……よぉッ!」

895名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 02:27:00 ID:e92H5ZPE0

(メメ;^ω^)「……ハァッ!!」

辛うじて避けた攻撃にも、一振りごとにブーンの身は傷付けられていく。
しかし───それでも今の彼の闘志が挫かれる事など、無い。

从*゚∀从「あフンッ……!」

全力で振るった縦斬り。
だが、あえてそれを迎え入れるかのように受けたハインリッヒの肉体に、刀身が引き込まれた。
一度同じような状況に陥った時は、確か情けをかけられてしまったなと思い出す。

今度は、そんな感情を挟み込む余地すら与えてはやらないが。

(メメ#`ω´)「────うッるあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

从* ∀从「ぶ……ふァッ」

ハインリッヒに受け止めさせる事もさせず、鉄槌のようなブーンの拳がその顔に突き刺さった。
たたらを踏みながら何歩か退いたハインリッヒの身体から、強引に剣を引き抜く。

896名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 02:28:34 ID:e92H5ZPE0


从*゚∀从「はぁッ!……なんでだ、お前───これが、本当のお前の実力なのか?」

(メメ^ω^)「………」


ハインリッヒが驚くのも無理はないだろう。
自分自身でさえ、内心驚いているのだから。


ここに立っているのがさっきまでの自分だったら、きっと同じ結果に終わっていた。
しかし、充実している気力と、腹の底から湧き上がって来るこの力は───自分の物などではない。

(メメ^ω^)「……違うお」

从*゚∀从「なら、何だってんだッ────!?」

(メメ;^ω^)「はッ、……おぉッ!」

百年以上も昔───戦勝を喜び合う傭兵団を相手に大立ち回りを繰り広げた時から、
今こうして”闘い”というものに至上の喜びを感じるハインリッヒは誕生した。

从*゚∀从(………わからねぇ、人間の……この力だけが)

897名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 02:29:51 ID:e92H5ZPE0

終わる事の無い自分の生がとても虚しく思えた彼女は、その時魅せられてしまったのだ。
お互いの生命を懸けて散らすその一瞬の火花の中にこそ───自らの生命が輝く、その瞬間に。

それこそが───彼女にとっての”鼓動”であり、
ある意味では、”生”と”死”への執着なのだった。

そして今感じているこのブーン=フリオニールへの違和感は、全員が一丸となって
全滅をも厭わずに死力を尽くして来たあの傭兵たちに感じた感覚に、良く似ていた。

初めての”死を連想”した時の、あの闘いに。
そして、ある冒険者と戦った時の、あの興奮にも。

从*゚∀从「なぁ、お前の力の根源は───何なのか教えろよ」

(メメ;^ω^)「はぁッ………はぁッ……」

幾ら太刀傷を負わせても、瞬時に回復してしまう。
今の所は互角に渡り合うブーンだったが、やがて疲労に蝕まれれば綻びが生まれる。

今のままでは、決定打が足りない。

898名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 02:32:21 ID:e92H5ZPE0

从 ゚∀从「!?」

”ドッ”

(メメ;^ω^)「───!」

そのブーンの足元の地面に突き刺さったのは、一振りの剣。
神々しいまでの銀色を放つその剣は、ハインリッヒの遥か後方で膝を突く、女騎士が投げてよこしたものだった。

ノハ#゚⊿゚)「それを使え!冒険者───不死者に効力を発揮する、聖なる清めが施された剣だ!」

(メメ^ω^)「!」

ノパ⊿゚)「私がそれを使うより───なんだか、お前の方が頼れる気がするからなッ!」

从 ゚∀从「……また水差しやがって」

言いながらも、ハインリッヒが目の前のブーンに対して仕掛ける素振りは見せない。
まるで”使え”とでも言いたげに、目が訴えているようだった。

899名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 02:34:00 ID:e92H5ZPE0

从 ゚∀从「どうした、拾わねぇのか?」

(メメ ω )「………ありがたく、使わせてもらうとするお」

そう言ってブーンの一挙手を眺めていたハインリッヒの表情が、強張った。
無論、銀剣を使うのならば、元から使っていた長剣は手放すだろうと、当たり前の考えを抱いていたからだ。

しかしブーンは、右手に長大な剣の柄を掴みながらも、左手で地面に刺さった銀剣の柄を引き抜いたのだ。

从 ゚∀从「……正気か?」

(メメ^ω^)「───至って」

片手では支えきれぬほどの重量、その重さに従うままに刃先を地面へと着けた。
そして長剣の柄を逆手に掴むと、正位置に掴んだ銀剣の刃とを交差させ、構えとした。

土壇場での、二刀。



(メメ^ω^)「決めてやるお、こいつで」

900名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 02:35:59 ID:e92H5ZPE0

从 -∀从「ハッ……お前、やっぱり面白ぇな」


持てる力の全てをそれら二振りの剣に託して、全霊を呼び覚ます。
裂帛の気迫を込めた叫びが、地面にすら伝染して砂粒が震えた。


(メメ; ω )「………おああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーッ!!!!!」



一見、むやみやたらと振り回すだけの攻撃が来ると踏んでいたハインリッヒの読みは、外れる。
疾駆するブーンの勢いは、その身だけでも十分敵を吹き飛ばす程の威を伴っていた。

从*゚∀从「アハッ。受け切れたら、俺の勝ちってこったなぁッ!?」

長剣の先端を地面に伝わせながら、やがて互いに、間合いへと踏み込んだ。

”ずんっ”

土の地面が沈み込む程、ブーンは強く地面を蹴り出すと────
その力を、そのまま剣を振り上げる為の力と換えた。

そして、自慢の長剣を片腕だけで支えながら、全力を以ってして斬り上げる。

901名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 02:38:28 ID:e92H5ZPE0

从 ゚∀从「お……!」

その勢いを上から抑えこもうとしたハインリッヒの片腕が、寸断された。
さらにもう一本の腕の中ほどにまで刃が食い込んだが、そこで長剣の勢いは押し留められる。

しかし、ブーンが繰り出した一連の攻撃は、それだけに留まらなかったのだ。
まだ、もう一本の剣が残されている。

(メメ;゚ ω゚ )「………シィィィッ!!」

───大陸には、多種多様な武器を扱う流派や、外敵に身を備える為の剣術は、今も無数にあった。

ただ一点に立ち合いでの強さだけを求めて鍛錬に明け暮れる者も数あれど、それでも。
ある種の極致に至るまで、たゆまぬ研鑽を積んだ者達でさえ、その一握りしか体得出来ぬ技もある。

中でも────遠くヒノモトの地から大陸にて伝わった”渋沢流剣術”では、
その奥義はこう呼ばれていたのだった。


─────”双狼牙”────と。

902名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 03:11:12 ID:dyIXGo16O
某スレ見て投下知ったよ 
今回は頑張ってるみたいだな 
支援

903名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 03:14:19 ID:/5yz48O.O
支援

904ありがてぇありがてぇ:2012/06/07(木) 03:18:18 ID:e92H5ZPE0

達人だけが扱えると囁かれるそれは、返す刀で二度の斬撃を見舞う、目にも留まらぬ必中の奥義。
まるで対をなす猛獣の連撃が、瞬き一つの間に浴びせられるかのような強烈な剣技にて、敵を仕留めるのだ。

本来ならば一振りの剣だけを用いる技ではあるのだが────しかし、偶然にして。

小回りの利かない長大な剣を持つブーンは、それを補うもう一つの剣を得た事で、
本来地力では到底実現不可能なはずのそれを、今この瞬間だけは為しえた。

それが、かの渋沢流では最高の剣士だけが体得出来ると言われている奥義だとは、知らぬまでも。

从;゚∀从「───な、にぃッ!?」


言うなれば───”我流・双狼牙”


誰かに付いて剣を学んだ事の無い彼をこの一瞬を境地へと引き上げたのは、
ただ”負けない為”────その一点に彩られた、執念だけだった。

从;゚∀从「か───はぁッ!?」

(メメ#^ω^)「お────おぉッ────おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーッッッ!!!」

905もう少しだけ続きます:2012/06/07(木) 03:20:23 ID:e92H5ZPE0

審判の銀剣が、ヒート=ローゼンタールの剣が、ハインリッヒの首筋に振り落とされた。

斬り上げと同時にやってくる閃光のような振り下ろしの一撃は、
さすがのロード・ヴァンパイアもお目にかかった事はないのだろう。
浅くは無い傷と、そしてそれに手傷を負わされた驚愕が、ハインリッヒの膝を地に着かせた。

从#゚∀从(ぐ、ぬぅぅぅぅッ)

肩口から首筋へと入り込んだ剣は、斜めに身体の反対側へと抜けようとしている。
洗礼を受けた銀剣に受けた傷を瞬時に再生させる事は、ハインリッヒにも不可能だ。

だが、その刀身を体内で留めてしまえれば、それで勝負は決まる。
全身に力を篭めて、徐々に押し入ろうとしている刀身の力に、逆らった。

───やがて、剣に篭められていた力がぴたりと止められる。


从*゚∀从「───へっ、これで俺の………」

(メメ^ω^)

从;゚∀从「ッ!?」

906もう少しだけ続きます:2012/06/07(木) 03:21:20 ID:e92H5ZPE0

またしても、死の火中の中から自らの生を拾い上げた────

ハインリッヒがその歓喜の元にブーンを葬ろうと顔を上げた矢先、
すぐ近くに穏やかな彼の表情があった事に、驚きを露にする。

何か底の知れない力が彼の背後で沸きあがって来ているような錯覚。
ハインリッヒは知らぬまでも───それは”恐怖”と呼ばれる感情だった。

(メメ^ω^)「ハインリッヒ……二つほど、教えてやるお」

从;゚∀从(な……んだ)


とくん。

今も切り裂かれている彼女の臓物のどれかが、ブーンの言葉に反応した。
そして確信した───やはりこの男の強さの源は、あの傭兵団達と良く似ている。

その錬度こそあの時の連中の比ではないが、確かに。

907もう少しだけ続きます:2012/06/07(木) 03:22:16 ID:e92H5ZPE0

(メメ^ω^)「ひとつ」


从;゚∀从「あ……ぅ」


(メメ^ω^)「───お前が”本当の実力”だとのたまった今のブーンの力は、仲間たちのお陰だお」


从;゚∀从「なか、ま?」


(メメ^ω^)「………」


ハインの表情に向けて、ブーンはこくりと頷いた。

互いを想い、互いを支えあう。そして自らを犠牲にしてでも助け合える程の
”絆”があったからこそ、ハインリッヒはブーン達を。

”失われた楽園亭のブーン一行”の面々の誰一人すらをも、殺す事が出来なかったのだ。

908もう少しだけ続きます:2012/06/07(木) 03:23:10 ID:e92H5ZPE0

本当ならば、自分一人だけが死んでいたはずの戦い。
だけどおせっかいな連中は、一度は死んでいた自分の目すらをも覚まさせた。

見渡せば、全力を出し切った上で彼女に倒された仲間たちの姿。
───その彼ら全員の想いを背負ってまで、負ける訳にはいかない。

ハインリッヒに言葉の真意が理解出来たかはわからなかったが、ブーンはさらに続けた。


(メメ^ω^)「そして………ふたつ」

从;゚∀从「………」

ブーンの言葉の真意を今も計ろうとするハインリッヒは、
抵抗を見せる事も無く、もはや説き伏せられるようにしてなすがままだった。

投げかけられた最後の言葉とともに、ブーンが持つ銀剣の柄には、再び力が篭められる。


(メメ#^ω^)「ブーンは───馬鹿力だけが取り得なんだおぉぉぉぉぉッ!!」

909もう少しだけ続きます:2012/06/07(木) 03:26:46 ID:e92H5ZPE0

从; ∀从「……アガッ……ア……ハァッ───!?」

身体の中心部で勢いを阻まれていた剣は、ハインリッヒの身を斜斬りに、
左の首筋から右の胴体部分にかけて───完全に斬り抜けた。

从; ∀从(お……れが───一度ならず、二度までも人間に負ける……なんざ)

想像を絶する苦痛に叫びを上げるよりも先に、白目を向いた。
そのままハインリッヒの意識は遠のいて───やがて、深淵の彼方にまで。

(……あり得、ねぇ……)


久方ぶりの敗北感は彼女にとっては実に数十───いや、十数年ぶりの、事だっただろうか。

─────

──────────


───────────────

910名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 04:02:40 ID:FVkayLxAO
ω・`;)ほんとに勝ってしまうなんて…

911もう少しだけ続きます:2012/06/07(木) 04:34:36 ID:e92H5ZPE0

長い夜が、明けつつあった。
山道はもう、ここからは下り坂に入る。

(メメ^ω^)「……ふぅ」

背負ったツンが立てる寝息を肩に感じながら、
まだ彼女を起こさぬようにと気を使って、一歩ずつを踏みしめる。

ξ ⊿ )ξ

ノパ⊿゚)「大丈夫か?後でツンに癒してもらわないと、その傷は長引くぞ」

(;´・ω・`)「全く、情けないよ……今後は、自分の身体も鍛えなくてはね」

爪'ー`)「まぁ、いいんじゃねぇか?お前は今の……その、軟弱なままでもよ」

(;´・ω・`)「………」

ノパ⊿゚)「………どれ?」

ショボンに肩を貸すヒートが、不意にフォックスの腹を指で突付くと、
大げさな仕草で痛みを訴えながら飛びのいた。

爪;ー )「ギャッ!……触るんじゃねぇよ、そこッ!」

ノハ^⊿^)「人に軟弱だとか言っておきながら……ははは」

(´・ω・`)「ふっ───しかし、まぁ……よく戦ってくれたよ」

912もう少しだけ続きます:2012/06/07(木) 04:35:26 ID:e92H5ZPE0

爪'ー`)「まぁな!見てたか?俺があの瞬間ハインリッヒの野郎を出し抜いて───」

ξ-⊿-)ξ「皆の事を言ってるのよ、馬鹿」

爪;'ー`)「へっ……」

(メメ;^ω^)「ツン……?起きてたのかお」

ξ゚ー゚)ξ「勿論、”皆”の中にあんたは入ってるけどね。フォックス」

爪'ー`)「……臭ぇ」

ξ#゚⊿゚)ξ「はぁッ!?」

(メメ;^ω^)「ちょッ、ブーンの背中で暴れないでくれお……」

ノパ⊿゚)「相変わらず元気なようで──安心したぞ、ツン」

ξ゚⊿゚)ξ「うん……私も────それより」

ノパ⊿゚)「うん?」

ξ*-⊿-)ξ「その───ありがとう、ね。助けて……くれて」

913もう少しだけ続きます:2012/06/07(木) 04:37:14 ID:e92H5ZPE0

ノハ^⊿゚)「ははは!そんな事気にするな───フィレンクト様の命令が無くても、たとえ嫌と言っても守ってやるさ!」

ξ*゚⊿゚)ξ「ふふっ」

肌寒くも、暖かな陽光が照らし出す街並みの一つに、ここ最近では一番馴染みの深い景色が広がる。

(メメ^ω^)「朝日が出てきたお────ヴィップまでは、もうすぐだおね」

最初は自分達の成長をこそ思って選んだ依頼だったが、その実は虚構に塗れた街の実体を垣間見た。
しかし結果としてハインリッヒという戦いに魅入られた吸血鬼に絡まれて、それを打ち破る事が出来た。

今にして思えば、命がある事自体が奇跡と言う他無い。
が、仲間と力を合わせる事で、そんな脅威にも立ち向かえたのだ。

そんな充足感が、冒険者としての己の殻を一つ───破ってくれたような気がする。

疲労感や痛み───皆が皆、体中ぼろぼろになりながらも。
それでも、互いに生き残った喜びを分かち合えるのは、良いものだ。

突き詰めていけば、対等に並び立つ存在を持たず、孤独の究極にあったあの吸血鬼は、
たとえ一人であっても、そんな喜びを得たかっただけなのかも知れない。

悠久の時を生きる者にしてみれば、今を精一杯生きるだけの人間のその一瞬の価値は、到底解らないだろう。

914もう少しだけ続きます:2012/06/07(木) 04:38:37 ID:e92H5ZPE0

三日後。


──交易都市ヴィップ 失われた楽園亭──


(’e’)「傷の具合はもういいのか?お前ら」

( ^ω^)「ブーンは全然へっちゃらだおッ!」

(´・ω・`)「ま、寧ろ軟弱なはずの僕が一番被害が大きいんだけどね」

爪'ー`)y-「それでも、ツンの聖術のお陰でマシにはなったろ?」

(´・ω・`)「あばらの骨が5本ほど粉々になってたんだがね──医者も舌を巻いていたよ」

(’e’)「んで、ツンちゃんよ。ヒート嬢とは、あれきり会ってねぇのか?」

ξ;゚⊿゚)ξ「それが……しばらく会えないの」








915もう少しだけ続きます:2012/06/07(木) 04:39:40 ID:e92H5ZPE0

(*‘_L’)『よくやってくれましたねッ!あのエルンストを相手に、よくぞツン様を守り抜きました!』





(;‘_L’)「ヒート……一応何かの間違いかとは思いますが、マドマギアの街で食い逃げをした女の騎士がいるとか……」





(#゚_L゚ )「……あまつさえ、あれだけ目を離してはならないと言っていたのに───ツン様の動向を見失っていたですと!?」








ξ;-⊿-)ξ「相当カンカンだったみたい……今彼女、絶賛強化遠征中よ」

(’e’)「堅物だからな───バルグミュラーにでも送られたかも知れん」

916もう少しだけ続きます:2012/06/07(木) 04:40:45 ID:e92H5ZPE0

爪'ー`)y-「さぁて……フォックス様は暫く腹に響く鈍痛で依頼に出れねぇし……酒でも飲むかね」

(´・ω・`)「昼間っからかい?」

( ^ω^)「おっおっ……たまには、オツなものだお」

ξ゚⊿゚)ξ「あんたらは年がら年中飲んでるような気がするわよ」

(’e’)「しゃあねぇ……傷が癒えるまでは、ツケで飲ませといてやる」

(;^ω^)「えっ?昨晩とか、”生還を祝して”とか、あれ驕りじゃないのかお!?」

(’e’)「あたりめぇだ。何千spも持ってるんだ、もっと俺の店に金を落としやがれ」

爪;'ー`)y-「いや、親父……だからそれは誤解だっつぅの。実際は儲けなんてこれっぽっちもねぇさ!」

(’e’)「けッ、信じられっか」

917もう少しだけ続きます:2012/06/07(木) 04:41:26 ID:e92H5ZPE0

ζ(゚ー゚*ζ「いらっしゃいませ!」

「儲けた」「儲けてない」の言い合いが熾烈さを極めつつある中、また一人の客が
デレに見送られながら、酒場の中へと足を踏み入れた。

つかつかと靴音を鳴らしながら、その足は一直線にある人物の方向へと向かっていた。


(;^ω^)「本当に大変だったお……ニセの依頼は掴まされるし、
       帰ろうと思ったらあんな吸血鬼に出会うしで───」


(’e’)「ん?……いらっしゃい」


その時、マスターの視線がブーンの背後に立つ人物へと投げかけられた。
そして”彼女”はするすると両の手を席に座るブーンの首へと廻して────囁く。

「うふ……誰のハナシ、してるのさ?」

918もう少しだけ続きます:2012/06/07(木) 04:44:27 ID:e92H5ZPE0

(*^ω^)「………おっ?」

それは確か───乳と呼ばれるものだった。

「柔らかく───豊満でー───幸せな。
 それはまさしく、”巨乳”だった」(※参考文献:「狂乳戦士」の一文より抜粋)


紛れも無い、紛う筈の無い、たわわに実った桃の果実の感触が───今、両方ともが背中に宿っている。
柔らかなその感触と、全身から放たれている甘美な香りは、眠りにすら誘いかねない。

恐らくは自らも知らぬ所で、始祖吸血鬼エルンスト=ハインリッヒを撃退したとの噂が
ヴィップの街を駆け巡って、こうしてその英傑の寵愛を求めて美女が馳せ参じた次第なのだろう。

顔を見なくても分かる───この乳の感触からいけば、それにも間違いはないのだと。

「ねぇ、誰のハナシ〜?」

919もう少しだけ続きます:2012/06/07(木) 05:29:14 ID:e92H5ZPE0

ξ;゚⊿゚)ξ

爪'⊿`)y-

(´ ω `)

( ^ω^)「?」

一様に驚愕している面々の顔を眺めて、”どれほどの美女が尋ねてきたのか”と、
期待に胸を膨らませながら、キメ顔で振り向く。

( `ω´)「ふふ……よくぞ聞いてくれたお───今、名だたる吸血鬼ハインリッヒを倒した話を───」


从*゚∀从「俺のハナシぃ?」

( `ω´)

920もう少しだけ続きます:2012/06/07(木) 05:29:58 ID:e92H5ZPE0

ガタッ

爪;'⊿`)

ガタッ

(´ ω `)「きっ……騎士団を」

ガタッ

ξ;゚⊿゚)ξ「……ぶ、ブーン!何とかしなさいよッ!」

彼らの驚きの理由が、今分かった。
わざわざ昼間の宿屋にまで、復讐の為に乗り込んできたというのか。

だが、分からないのは───何故目の前の彼女は、薄らと頬を赤らめているのかという事だ。

从*゚∀从「な、なぁなぁ……俺のハナシ、してたのかぁ?」

(; ω )「………な、ななな、なんであqwせdrftgyふじこ!!」

921もう少しだけ続きます:2012/06/07(木) 05:31:15 ID:e92H5ZPE0

酒場の中では緩やかな時間が流れる中、ブーン達の席の周りでだけは阿鼻叫喚だった。

(;´・ω・`)「騎士団を呼べぇぇぇッーー!」

爪;'⊿`)「きゅっ、吸血鬼が出────むぐぅッ!?」

大声でそれを客たちに知らせようとしたフォックスの頬が”きゅっ”と締め上げられると、
ハインリッヒは顔を近づけ、そこには殺意に満ちた苛立ちを篭めて低い声で言い聞かせた。

从#゚∀从「……何だって?もう一度言ってみろよ、殺すけどな」

爪;ー )フルフル

静かに首を振ったフォックスは、腰が抜けたかのようにすとんと席へと落ちた。
それから振り返ったハインリッヒがブーンへ向ける表情は、恋する乙女のそれなのだろうか。

从*゚∀从「久しぶりだぜ、ブーン!憶えてくれてたかぁ?」

もしかすると───考えたくはないが、ひょっとして────

(;`ω´)「あの───本日は、どういったご用件で……?」

922もう少しだけ続きます:2012/06/07(木) 05:32:29 ID:e92H5ZPE0

从*゚∀从「そんなに畏まるなよ───あれだけヤリあった仲じゃん……もっと砕けていこうぜ?」

瞬間、胃液が逆流しそうになった。

ζ( ー *ζ(うわ、最低)

という汚いものを見るようなデレの目つきが、彼女が脇を通り過ぎる最中で突き刺さる。

そして何より、後から知った話では2000人もの人々の生き血を吸ってきたこの吸血鬼に、
この自分が見初められてしまったという事実が告げられたからだ。

从*゚∀从「───惚れた」

(;゚ ω゚ )

(´・ω・`)

ξ;⊿ )ξ「さ、さて……私は買出しにでも───」

爪;'⊿`)y-

923もう少しだけ続きます:2012/06/07(木) 05:33:22 ID:e92H5ZPE0

「可哀相に……」
「居た堪れない……」

そんな憐憫の視線を投げかける仲間たち、あるいは、そ知らぬ振りすらしていた。
だがその彼女の思いは、どうやらブーン達が考えるように───性的な意味合いではなかったらしい。

从 ゚∀从「いや、まぁしかし……探したぜ。俺を倒す程の冒険者だ───
     どれだけ高名なパーティーかと思ったが、それほど名は売れてねぇみたいじゃん?」

(;`ω´)「ハッ……それは、その私どもと致しましても──まっこと、恐悦至極……」

从 -∀从「ヘッ。ビビるこたぁねぇ、お前さんは、この俺を倒したんだからよ」

「んで、まぁ今日は───単なる挨拶よ」

(;`ω´)「そ、そうでござい───ハッ!?……そうだっ、たかお」

从 ゚∀从「10年後」

(;^ω^)「お?」

「惚れたって言ったろ、お前の強さに」

それはやはり、死刑宣告だったのだろうか。
今から10年も経てば、恐らく普通であれば体力のピークはとうに過ぎている。

しかし彼女は、さらに己を磨きぬいた上での自分と────

924もう少しだけ続きます:2012/06/07(木) 05:34:32 ID:e92H5ZPE0

从*゚∀从「もう一度───殺し合うんだ。その時は、どっちが立ってるかな……!」

(  ω )オボォェ

嫌悪感に、吐き気を催す。

そう───その時の自分と、再戦を果たしたいと申し出ているのだ。

「10年後にお前を殺す」と言っているかのような彼女の台詞だが、
しかしそれに関して重要なのはやはり”闘って争う”という点らしい。

彼女らしいと言えばそうなのかも知れないが、この場で暴れられては手が付けられない。
泣く泣く瞳を輝かせる彼女───200才を越えるハインリッヒの申し出を、受け入れた。

少しばかり涙目だったが、また勝つ事が出来れば問題はない───と思いたい。

それまでの間に、彼女は自分とその仲間を歯牙にかけようというつもりはないのだろうか。
もしもそうであったら、少しは幸いだが。


从 -∀从「さて───見知った顔が居て面倒になってもアレだし……そろそろ帰るわ」

925もう少しだけ続きます:2012/06/07(木) 05:35:27 ID:e92H5ZPE0

( ^ω^)「ま……まぁ気をつけて、だお」

从*゚∀从「次に会う時は───そうさな、”ハイン”とでも、気軽に呼びな」

( ^ω^)「は、はい」


「────またな」

手を振って去って行った彼女の背を見送った後に、ブーンにはふと疑問が生まれた。


(;^ω^)「はぁ……これは、吸血鬼との友情が芽生えたとでも解釈すれば、いいのかお?」

やりきれない表情を見せるブーンの心中を汲み取ってやろうにも、
彼が10年後に約束させられた不運には、いかなる励ましも役に立たない。

ξ;゚⊿゚)ξ「ん……まぁ」

(´・ω・`)「そう思えるなら、そうなんだと思うよ」

爪;'ー`)y-「あ、あぁ。お前の中じゃな」

926もう少しだけ続きます:2012/06/07(木) 05:52:07 ID:e92H5ZPE0

(’e’)「その……かける言葉が見当たらねぇんだが……ご愁傷さん」

そう言って差し出された、並々とグラスに注がれたエールは、
マスターがブーンに対して哀悼の意味を込めた一杯だろうか。

( ^ω^)「マスター」

(’e’)「……何だ?」

( ^ω^)「今夜は、潰れてもいいかお?」

(’e’)「あぁ───ツケは効かねぇが、な……」

(  ω )「そうかお……」

深く沈んだブーンの表情だったが、どうやらそこで吹っ切れた。
さっきまでのは悪い夢だったのだ───それなら、飲んで忘れてしまおうと。

(#^ω^)「それなら───ありったけ、エール持って来てくれお!!」

爪'ー`)y-「付き合うぜ、相棒」

927もう少しだけ続きます:2012/06/07(木) 05:53:05 ID:e92H5ZPE0

ξ;゚⊿゚)ξ「まぁ今日に限ってはうるさくは言わないけど……飲み過ぎるんじゃないわよ」

酒を飲んで一時の現実を計ろうとしたブーンだったが、
楽園亭の中で配られている号外の見出しには、消せない現実だけが綴られていた。


(´・ω・`)「10年後のブーンに───乾杯」

───「行方を眩ましていたあの吸血鬼エルンスト=ハインリッヒ、ヴィップの冒険者に撃退される!?」───






   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             第8話

          「血界の盟主(2)」

928もう少しだけ続きます:2012/06/07(木) 06:01:36 ID:e92H5ZPE0


───交易都市ヴィップより、遥か北西の地 【グラシーク】―――



「……な、なんだあ、あんた達ッ……!」

(  ▲)「………」


狼狽する旅人の一人は、恐らく商人なのだろう。
”旧ラウンジ聖教”の者達に取っての聖地、”エルシャダイ”へと向かう山道の中腹で、
彼はその不運に巻き込まれようとしていた。

旅人である彼の前に、突然フードを目深に被った5人ほどの男達が現れたのだ。

「か、金なら無いが……好きなだけ持って行ってくれ……」

野盗の類───男達の雰囲気から、旅人は瞬時にそう判断した。
対処を間違えば、恐らくは自らの命が危うき事を、肌で感じ取ったのだ。

929もう少しだけ続きます:2012/06/07(木) 06:02:29 ID:e92H5ZPE0

これから売りさばくつもりだったのであろう商品群が詰まった麻袋を、どさりと彼らの前に下ろした。
彼らが山賊の類であるならば、この旅人の判断は確かに賢明なものだ。

しかし、彼らの目的は物や金になど無い───それが、この男に取っての不運。

(  ▲)「………いらんな」

一際大きな体躯を誇る男がぽつりとそう漏らすと、それが合図かのように、
男の大きな背中の左右からは素早く二人の人影が躍り出る。

「───たッ、助け───むグッ」

助けを求める間もなかった。
一人に口を押さえられ、背後に回ったもう一人からは後頭部を硬い何かで打ちつけられる。
なす術も無く意識を奪われると、前にぐらりと倒れかけた男の身体は左右から抱え込まれ、
そのままフードの一味の一人の肩に担がれた。

実に手馴れたものだ。
鮮やかな手際に加えて、日が沈みかけた今のような夕刻ならば、目撃者はまず存在し得ない。

誰一人として、この哀れな旅人がこの場所で拉致された事に考えが及ぶ事は無いだろう。

930もう少しだけ続きます:2012/06/07(木) 06:03:18 ID:e92H5ZPE0


(  ▲)「……馬車に乗った商人の一団が、まだ他にもここを通るという情報が入っています。
      今日はこの辺で引き上げませんか?────”団長”」


巨躯の男の背後、恐らくは部下であろう男がそう言った。
団長と呼ばれた男はそれに若干の不快感を表情へと入り混じらせながら、自身のフードを払う。

その所作からは、こうして素顔を隠して行っている自分達の行為への嫌悪感をも、覗かせる。

「この任に着いている時だけは、そう呼ぶなと言った筈だ」

事実、好き好んでこんな汚れ仕事を請け負っている訳ではないのだ。
彼らの本分は民衆にとっての、”旧ラウンジ聖教徒”達にとっての盾であり、剣であるべきなのだから。

(  ▲)「ハッ……申し訳ありません」

(´・_ゝ・`)「いい。本来謝るのは………俺の方なのだからな」

旧ラウンジ聖教の剣──────”御堂聖騎士団”
ただ下される指令のままに職務を全うし、自分たちに定められた敵を滅する。

”異端”か、もしくは”それ以外か”を。

そこに差し挟まれる個人的な感情。
彼らの思う善にも、悪にも何の分別も持たない。

931もう少しだけ続きます:2012/06/07(木) 06:04:02 ID:e92H5ZPE0

彼らの志がどこに根付いていようとも、忠誠を誓う主君に対し、誠実であり続けるしかないのだ。
たとえこうして、騎士の本分とはかけ離れた汚れ仕事に手を染める事があろうとも。

(  ▲)「しかし我々は、一体いつまでこんな」

途中まで言いかけて口をつぐんだ一人の騎士が、どうにか己の内に言葉を押し留める。

民を、そして自らの誇りこそを守るべき存在である自分たち御堂聖騎士団が、
命令とはいえ罪も無い人間を攫う────それは、結果的にはただの人殺しも同じなのだ。

彼らにも解っている。
こうして拉致した人々が、二度と生きて戻る事など無いのだという事を。

日暮れが近い───曇天の空模様こそが、今の彼らの心境には似合いだろうか。

「雨、か────」

ふと空を仰げば、頬にぽつり、冷たい雨粒の一つが弾けた。

(´ _ゝ `)(堪えろ)

932もう少しだけ続きます:2012/06/07(木) 06:04:59 ID:e92H5ZPE0

”いつまで、こんな非道に手を染めなければいけないのか”
そう言おうとした部下が言葉を飲み下したのは、この場の中で誰よりもそれを思い、
心の底からもう嫌だと───そう、叫びたいはずの男がここに居たからだ。

自ら騎士の名を汚す蛮行にして、愚行。
己が尊厳を貶める事に手を貸す、屈辱。

────御堂聖騎士団長”デミタス=エンポリオ”は、しかしそれに歯を食いしばって耐えた。

(´・_ゝ・`)(どれほど俺達御堂が犬のように扱われても……最後まで泥を引っ被るのは、俺一人でいい)

それは、自分自身を守りたい訳でも、ましてや騎士としての矜持を守りたい訳でも無い。
ただ、今のような立場でなければどこへ行っても爪弾き者にされてしまうような部下達が、
彼ら自身と、その生きる場所を守り続けられれば、それだけで良かったのだ。

(´・_ゝ・`)(今のこんな俺を見たら───”お前たち”は、きっと笑うだろうな)

かつてデミタス自身が率いた傭兵団────
その面影を、彼らにも重ねていたのかも知れない。

当時を知る者は、彼一人を残して皆が既にこの世を去っていた。

933もう少しだけ続きます:2012/06/07(木) 06:06:26 ID:e92H5ZPE0

(´・_ゝ・`)(自分らの居場所を守るなどと……あの時、お前らに出来もしなかった事なんぞを───)

汚泥が口に入るのも厭わず、仲間や敵の血の温かみを身体中に感じながら戦い、
そして仲間を─────彼の全てを失った戦が、かつてあった。

「あの時ほどの地獄は、もう二度とない」
今ではそう思える当時があるからこそ、これからの自分たちがある。
誰に何を指図されようとも、たとえ悪魔に心を売り渡したとしてもだ。

デミタスに課せられた心の十字架が、その重みが彼の二の足に力を与える。

今日もこの供物となる男を、”現存する神”へと捧げるべく───彼らは帰途に着く。

(´・_ゝ・`)(全く、笑わせる)

その嘲笑は、しかしその自分へ対してだけのものでもない。
自らをその掌に躍らせる、より大きな意思である”旧聖教”の幹部連中に対してのものだ。

(´・_ゝ・`)(”龍”が─────”神”だと?……ふん)


「そんなものを崇める俺達こそが───”真の邪教”ではないか」

934おわた:2012/06/07(木) 06:07:10 ID:e92H5ZPE0




   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             第8話

          「血界の盟主(2)」


             -了-

935名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 06:12:30 ID:e92H5ZPE0

えぇ、ダレ具合の半端ない8話でございましたが、どうにか終わりました。
言い回しがくどかったり、適当な設定にそろそろ綻びが出てきている感があります。

ノッてこないと一切進まない性分でございますので、途中からはながらで後日談に遊びも
入れさせて頂きました。いささか悪ノリが過ぎた気もしてますが。

次行くとしたら本編はまた長編になりそうなんで、ひっそりと幕間の話を書き溜めます。
途中支援くれた皆様、ありがとうございました〜。

936名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 06:23:45 ID:e92H5ZPE0
ついでに前スレ(ブーン系小説板)からのタイトルリスト。
そろそろ題材とさせて頂いたCardwirthシナリオ様も明記させて頂きます。

第0話(1)「出会いの酒場」
第0話(2)「怒りを胸に刻んで」
第0話(3)「力無きゆえに」
第0話(4)「誰が為の祈り」
第0話(5)「行く手の空は、灰色で」

第1話 「名のあるゴブリン」(元シナリオ:ゴブリンの洞窟)
第2話 「栄枯と盛衰」
第3話 「日陰者の下克上」
第4話 「正しき怒りと、切なる慈悲と(1)」
第4話 「正しき怒りと、切なる慈悲と(2)」

幕間 「月を抱く獣」(元シナリオ:狼の親子)

↑ここまで小説板
↓ここから創作板

第5話 「静寂の深緑」(元シナリオ:鳥の歌が聞こえない)

幕間 「壁を越えて(1)」

第6話 「溢れ出す悪」

幕間 「壁を越えて(2)」

第7話 「魂の価値」(元シナリオ:魂の色)

幕間 「遠吠え」 
幕間 「愚かさの歴史」

第8話 「血界の盟主(1)」(元シナリオ:ジェーンとニンニクと不死の女王と)
第8話 「血界の盟主(2)」(元シナリオ:ジェーンとニンニクと不死の女王と)

一話一話区切っていれば8話の2で20話目だったのね……なんか損した気分。

937名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 06:29:12 ID:JHXJxT.60
おっつおっつ

938名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 06:38:22 ID:dyIXGo16O
\(^o^)/←オワタ 
 
10年後の( ^ω^)の人生オワタ 
始祖って頑丈すぎる、復活早すぎ 
 
 
(´・ω・`)vs( ・∀・)はまだかな 
でもこの場面ということは最終話だろうから 
あまりすぐには来て欲しくない気もしないこともない 
久々の長時間投下お疲れでした

939名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 08:32:24 ID:aAF.ZUGw0


940名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 18:52:19 ID:FVkayLxAO
ω・`)お疲れでした。ハインチートwww


ω・`)ハインのキャラクターと吸血鬼の配役がよかったです。準レギュラーくらいででてこないかなw



ω・`)ブーンの喋り方がwwwww

941名も無きAAのようです:2012/06/07(木) 23:47:01 ID:e92H5ZPE0
あざすあざすww
>>938
ラスト付近の話にはなるかも解りません

>>940
いつとは言えないですが、再登場予定ですー

942名も無きAAのようです:2012/06/10(日) 21:26:12 ID:qGknsu0E0
(やっぱ量より質だよな……悪の華超おもれぇ。)

943名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 00:08:28 ID:mdK0uiGI0


薬草に、毒消しのコカの葉。

一際効果の高い急場を凌ぐためのカタンで取れた高級薬草、こいつはとっておきだ。
衝撃を与えないよう気を遣って、小瓶の中で冷却水に沈めた火晶石も持って行く。

それら冒険に必要な道具を手馴れた手付きで選別しながら詰めていくと、すぐに大きな麻袋は満たされた。


( ФωФ)「ふむ、こんなもんであろう」


それはまだ、ブーンがこの世に生を受けるよりも前の話だった。


流浪の冒険者、”ロマネスク=フリオニール”
一部の人々からは未だに英雄との呼び声高い彼の、人には知られぬ物語────

944名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 00:11:47 ID:mdK0uiGI0




   ( ^ω^)ヴィップワースのようです
          累計20話記念

             幕間

         「語り継ぐもの(1)」


.

945名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 00:12:54 ID:mdK0uiGI0

( ФωФ)「長い旅になるかも知れないのである」

「えぇ、その頃には───」


身支度を整えた彼は、共に連れ立ってやれない妻の腹を優しくさすりながら言った。


( ФωФ)「息子がもうじき生まれるというのに、不甲斐ない父親よな……」

「ううん、そんな事ないわ……だって」

( ФωФ)「?」

「もうこの子ったら、お腹の中で暴れてるのよ───あなたと一緒に冒険に出たいって、言ってるみたい」


妻が口にするのは、男である彼には決して共有できない感覚。
両親共が居ないのであれば不憫な事だが、しかし母親さえ傍らにいればいい、と思った。

946名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 00:14:39 ID:mdK0uiGI0

必ず我が子の顔を見に帰って来る。
そうして約束の口づけを軽く交わした後に、去り際を名残惜しそうに振り返った。


( ФωФ)「………どうか、身体に障る事だけはするのでないぞ」

「……えぇ。あなたも、お気をつけて」

( ФωФ)「じゃあ、行ってくるのである」

「いってらっしゃい、あなた」


大陸西部、その山あいの奥まった場所でひっそりと暮らす人々。
サルダの村───それが、素朴な冒険者”ロマネスク=フリオニール”の生まれ故郷でもあった。

彼は村人の誰に対しても優しく労わり、だが一方では、不正や悪を許さない───そんな正義感を宿す人柄。

947名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 00:17:27 ID:mdK0uiGI0

村人は皆同い年であっても包容力や決断力のあるロマネスクを誰よりも頼りとし、彼に言い寄る娘も多かった。

だが、彼は幼い頃から向かいの家に住んでいた、一つだけ年上の女性に惹かれた。
外の椅子に腰掛けては、いつも決まった時間に本を読む彼女の表情。

その穏やかな横顔に見入っていたロマネスクに、彼女はいつもにこやかな笑みを返してくれた。
ある日思い立って彼女に想いを告げると───やがて二人は、恋仲へと落ちたのだ。

直に、息子も生まれる。
今彼女のお腹は、目にも分かる程大きくなっていた。

だがそんな妻と息子を置いてまで、ロマネスクはこうして旅立たなければいけなかった。

純朴な生活を送っていた彼に取って、選ぶ依頼はどれも高額なものはないが、生活にはなんら問題ない。
手際の良さだけでなく、時に外敵と対峙した時にも恵まれた体格から、それら万難を難無く排した。

派手さは無いが、無欲ゆえに知られていなかった彼の力だが、この時はある人物からそれが必要とされていたのだった。

948名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 00:18:37 ID:mdK0uiGI0


ロマネスクがサルダを出立して、それからおおよそ六日が過ぎた。


──交易都市ヴィップ──


豪壮な造りの中庭を抜けて、厳粛な雰囲気が漂う円卓騎士団本営の会議室へと通される。
その名の通り、広大な部屋の中には団員数十名が腰掛けられるだけの、大きな円卓が鎮座していた。

('_L')「団長共々、お待ちしておりました」

( ФωФ)「倅か……」

「よく来てくれたな、ロマネスク」

( ФωФ)「お前の頼みでなければ、来なかったである」

「……無茶を言って、すまなかったな」

949名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 00:19:42 ID:mdK0uiGI0

”セシル=エルメネジルド”

時の円卓騎士団長である彼にこうして対等に口を利ける男は、当時の領主にしても数少ない。
それほどの輝かしい功績をこの交易都市にもたらしてきた彼は、ロマネスクとは旧知の仲にあった。

旅の途中突然の病魔に蝕まれたセシルを、ロマネスクが一晩を背負って近隣の街医者へと送り届けた、というのが縁らしい。
だが、素朴な冒険者であるはずの彼がこうして一目を置かれるのは、それだけが理由ではなかった。

決して高名という訳ではない───だが彼の助言、そして行動は、
時として困難に直面するこの円卓騎士団の中に、これまでの間確かな実績を残してきたのだ。

それゆえ団員の間では、”謎の実力者”、”西の冒険者”などと二つ名に囁かれる事もあった。


そうして、今回もセシルら円卓騎士団が抱えた問題が、ロマネスクにも伝えられる。

950名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 00:20:53 ID:mdK0uiGI0


( ФωФ)「────若竜」


「そう、どうやらヒガン鍾乳洞のどこかに巣食っているらしいのだ」


龍と言えば、翼を持ち、火を噴く。
伝説の中に生きる存在とまで称えられる力を持つ、悠久の存在。

セシルの話によれば、齢数十程度のその若龍が北方のヒガン洞穴を抜けた先の地下鍾乳洞から、
度々飛び立つ姿があったという目撃証言があり、それが近隣の村人達から寄せられていたらしい。


( '_L')「ならば、すぐに討伐隊を編成しましょう!父上、私も出ます!」

「急くなフィレンクト───そしてここでは、団長と呼べと言ったはずだ」

951名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 00:21:40 ID:mdK0uiGI0

(;'_L')「あ……はッ、申し訳ございません!ですが……」

再び息子を叱りつけようとしたセシルを遮って、ロマネスクが代わりに彼を諭した。

( ФωФ)「勇むのは良いがな……倅よ」

(;'_L')「はっ!」

( ФωФ)「龍との戦いは、国を挙げての戦争となんら変わらぬ規模のものになる」

( ФωФ)「それに一体……どれほどの犠牲を伴うか、想像は付くのであるか?」

( '_L')「!……それは……恐らく、計り知れないと思います……」

( ФωФ)「そう───龍との戦いに命を落とせば、残された家族とて悲しむのであるぞ?」

( _L )「!」

952名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 00:22:34 ID:mdK0uiGI0

('_L')「……軽率にして、出すぎた発言───心より、恥じるべきものとします」

( ФωФ)「ふふん。良いのである、その歳にしてそんな言葉を口に出来る辺り
       ───将来はセシルが隠居しても安心であるな?」


「……すまんな、ロマネスク」


内心には、セシルの息子フィレンクトの出来の良さに、ロマネスクも驚きを隠せなかった。
齢10やそこらの子供が国を想うが故に勇み、そして親しい誰かを失う事への痛みも重々理解出来ている。

”ブーン”と名付ける予定のまだ顔も分からない我が子は、これほどまでに立派に育ってくれるだろうかと、
もしくれなかったら、その時成長したフィレンクトに会わせる顔がないな、などと思いながら、頭をぽりぽりと掻いた。

953名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 00:23:44 ID:mdK0uiGI0

( ФωФ)「さて───討伐隊を編成するのも反対ではないのであるが……」

「あぁ。若竜の生息数が分からなければ、それに対する手を打つのも難しい」

( '_L')「まずは、調査が必要という訳ですね?」

( ФωФ)「その通り……それに何名を割くのか、誰を送るのか、の二つが次の議題であるな」

「若竜が何度も飛び立っているとなれば、恐らくはそこを巣としていると考えるのが妥当だが……」

( ФωФ)「繁殖期───などといった事も、考えられる事は出来るのではないか?」

(;'_L')「繁殖するのですか……!我々の街からほど近い、あの北方の鍾乳洞で……」

( ФωФ)「ま、まだそうと決まった訳ではないのであるが────どうする?」

「む………」

いつの間にか会議の流れを、その主導権を握っていたロマネスクが、セシルに問うた。
恐らく彼が、ロマネスク一人に対してその大役を預けるであろうという事も見据えた上で。

954名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 00:24:45 ID:mdK0uiGI0

( '_L')「団長……ここはやはり少数の精鋭を……!」

( ФωФ)(やはり倅は好判断であるな)

「それならば───一人適役が居る」

( '_L')「それは、誰です?」

「ロマネスク、頼めるか?」

( ФωФ)「ま、頼まれてやるのである」

(;'_L')「ロ、ロマネスク殿一人をそんな危険な目に遭わせるなどと、父上!」

「………」

(;'_L')「あ、す、すいません……団長」

父の厳しい視線が冷たくフィレンクトを打ち据える中、ロマネスクはあっけらかんとしたものだ。

955名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 00:25:33 ID:mdK0uiGI0

( ФωФ)「ま、倅よ。その気持ちだけ、ありがたく受け取っておくのである」

「ロマネスクの実力を見くびるな───彼の資質は、今の騎士団の中でも誰より秀でている」

(;ФωФ)「それは買い被りであるぞ」

「彼を目標としろ───フィレンクト」

('_L')「……ハッ!団長!」


父であるセシルの言葉に身を身を固くしたフィレンクトが見つめる視線を、
ロマネスクは照れくさそうに受け流しながら、またぽりぽりと顎を掻いていた。

─────

──────────


───────────────





──冒険者宿 失われた楽園亭───

956名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 00:31:25 ID:mdK0uiGI0

( ФωФ)「邪魔するのである」

( ゚∋゚)「………」


ロマネスク自身、幼い頃から何度か父に連れられてこの交易都市に来た事はある。
その頃にはまだこれほど栄えては居なかったが、まだまだこの場所には沢山の人が集まってくるだろうと思う。

何故ならば大陸の中央部に位置し、道行く者たちにとっては非常に利便性の高い街だからだ。
そのヴィップの中でも、古参の冒険者が集まるこの宿の店主はとても人当たりが良く、繁盛している。

今日宿の店番を任されているのは、まだ若い息子のようだ。
父親とは対照的にとても寡黙な青年ではあるが、年齢に見合わぬ実に良い体格をしている。

席に着くなり、まずは一杯のエールが振舞われた。


( ФωФ)(龍───か)

957名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 00:32:47 ID:mdK0uiGI0

子供の頃は、その孤高の存在に憧れたものだ。
学者たちによれば、この大陸で生まれて成竜にまでなれるのは、年に一やニとも囁かれている。

それゆえ絶滅の危機に瀕していると聞いた事はあったが、所詮は人間の勝手な解釈だ。

”竜”は今もどこかでひっそりと人間には知られる事も無く生まれては───
やがて人の力など及ばぬ存在、”龍”へと成長していくのだと思う。

ロマネスクは、そんな龍というものの存在が今でも嫌いでは無かった。


不意に、声がする。

「おう、チビ!そんな粗末なもんブラ下げてどこ行こうってんだ?」

( ФωФ)「……?」


振り返れば「がはは」と指を刺して笑う冒険者の前に、青年というには未だ幼い子供が居た。

958名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 00:37:23 ID:mdK0uiGI0

(#゚∀゚)「うるせぇな、俺はチビじゃねぇ!」


髭を蓄えた荒くれ者の冒険者の前であっても、少年は怯む事なく言葉を返す。

綺麗とはいえない身なりに背負っているのは、太い木の枝を切り出したかのような、木剣だろうか。
依頼が張り出された壁の前に立つ少年の視界を遮りながら、酒の入った冒険者は彼の額を軽く小突いた。

「ここはお前みてぇなガキが来るとこじゃねぇ。酒も頼めないんなら大人しく家に帰ぇんな、小僧」

(#゚∀゚)「ガキでもねぇ! それに────」

( ФωФ)「………」

視線を送っていたロマネスクが、酒に顔を赤くしたその男を止めようか、
そう思案して席を立とうとしていた時に、少年が叫んだ。

(# ∀ )「……家なんか、ねぇよ!」

また大声で笑おうとした冒険者の表情が、少年の言葉にぴたりと動きを止めた。

959名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 00:38:33 ID:mdK0uiGI0

「あぁ、そうかい」

なら好きにしな、とでも言うように、山子のような冒険者は彼をからかうのを止め、
2階の寝室へと階段を軋ませながら上がって行った。

(  ∀ )「……くっ、ちくしょうっ」

( ゚∋゚)「………」

店主の息子は少しだけ不憫そうに、肩を落としてその場に悔し涙を零した少年へと視線を送っていた。


( ФωФ)「葡萄酒を、一杯」

戦災孤児か、はたまた両親共が山賊にでも襲われたか。
今の世ではそう珍しい事ではないが───彼のようにたった一人で生きていこうとするのは、至難の業だろう。

人は”龍”のように誰にも頼らず生きていける程、孤独に強い生き物ではないのだから。

960名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 00:39:58 ID:mdK0uiGI0

( ゚∋゚)「………」

マスターがグラスに注いでくれた紫草の根の色に似た液体。
それを受け取ると、ロマネスクはそのグラスをカウンターの縁へとつぅっと滑らせた。

目元を拭っていた少年に、声を掛ける。

( ФωФ)「飲め、坊主」

(;゚∀゚)「……?」

( ФωФ)「こういう所ではな、まずは依頼を選ぶ前に酒を注文するのが慣わしだ」

( ゚∀゚)「そう、なのか……」

住める家も無く、恐らくは頼れる人もいない中を、少年は一人で必死に生きようとしているのだろう。
ロマネスク自身も誰かの人生を背負ってやれる程に広い懐ではないが、こうして手助けぐらいはしてやろうと思った。

冒険者を志そうとしている、その道ではまだ新緑の若葉のような少年に対して。

961名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 00:41:43 ID:mdK0uiGI0

( ゚∀゚)「でも俺……金はない」

( ФωФ)「ふんっ、見くびるな。坊主に奢ってやれるぐらいの蓄えはあるのである」

そういうと、小汚い身なりの少年はおずおずとカウンターに着くと、グラスの端に口を付ける。
見れば、セシルの倅のフィレンクトとさほど歳も変わらぬような横顔だった。

彼が置かれた境遇は、誰かの庇護を受けるそれと比べては、非常に酷なものなのだろうが。

( ФωФ)「やってみろ。まろやかな口当たりで、坊主にも飲みやすいはずであるぞ?」

( ゚∀゚)「………ふーん」

ふんふん、と匂いを嗅いだ後。
少年は思い切ってそれを一気に口の中に流し込んだ。


(;ФωФ)「あっ、こら……」

ごっきゅっごっきゅっ

962名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 00:43:05 ID:mdK0uiGI0

”たんっ”


( *゚∀゚)「───ぷハァッ!美味い、これ美味いな!」

( ゚∋゚)「……ふっ」

先ほどまでのしょぼくれ具合はどこへやら。
あるいは、長旅に乾いた喉が潤いで満たされたのか。

途端に年の頃にあった反応が返ってきて、マスターの息子がぽつりと笑みを漏らした。

( ФωФ)「さ、お前にあった依頼をそこから選ぶといい」

そう言うと、少年は壁面へと振り返ってから、一度考え込んだ。
やがてゆっくりと口を開いた少年の口から、奇妙な縁が口にされた。

( *゚∀゚)「………俺、龍を倒したい」

( ФωФ)「………ほう」

蛮勇、自らの身の丈を知らず、地位や名誉への欲に駆られるままの冒険者。
そんな風に育っていく者達も多いが、どうやら少年は聡明だった。

963名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 00:44:42 ID:mdK0uiGI0

( * ∀ )「けど、今の俺じゃ絶対無理なんだ───おっさん。今の俺に出来る依頼って、どんなのかな?」

(;ФωФ)「おっさ……」

( ゚∋゚)「───くくッ」

マスターの息子がまた笑った。
見れば笑いを堪えているようだった。

腑には落ちないが、自分に多少の信頼を寄せて疑問を投げかけた少年に対して言葉を返す。


( ФωФ)「薬草取りの依頼なんかが、良いのであるな」

( * ∀ )「………」


席を立ちながら言ったロマネスクの姿を目で追いながら、少年はまた壁面へと目をやった。

964名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 00:46:46 ID:mdK0uiGI0

しばらくは日銭を稼ぎながらのその日暮らしが続くであろう。
だが、命の危険を冒すような依頼はまだ早い。

大望を持つならば、しっかりと基本を押さえながら、地道に実力を付けていかなければ。

誰にも手を付けられていなかったのだろうその紙には、薄らと埃が溜まっていた。
”足を悪くして近場の薬草を取りに行けない”という旨の依頼状を、そのまま少年に預ける。


( ФωФ)「名うての冒険者になろうと思えば、近道などないのであるぞ?」

(  ∀ )「………ありがと、おっさん」


その手に依頼状を握り締めると、安堵感からか席から崩れ落ちそうになった少年の身を、はしっと支える。
この楽園亭に辿り着くまでに、相当の疲労で神経も張り詰めていたのだろう。

そこへ来て一気飲みした葡萄酒が、少年を眠りへと誘ったようだ。

965名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 00:48:44 ID:mdK0uiGI0

ひょい、と少年を抱き上げると、その姿に笑いを堪えるマスターの息子に声を掛ける。

( ФωФ)「明日にでも、良かったら口利きしてやって欲しいのである」

( ゚∋゚)「……いいさ。今客は皆出払ってる───空いてる部屋に寝かせてやりな」

( ФωФ)「……だそうだ。感謝するのであるぞ、坊主」


自分もいささか歳を取ったのだろうか。
はたまた、子を持つ親としての父性というものなのだろうか。

深入りしてしまう自分の性分を反省しながら、まだ幼い寝顔に声を掛けた。


(  ∀ )クー クー


明日、自分はいつものように依頼へと発つ。
少年の寝顔が眼に焼きつき、どうやら今夜は故郷へ残して来た妻の顔が夢にまで出そうだ。

966名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 00:50:20 ID:mdK0uiGI0

少年に広い背中を貸して2階の宿へ運ぶ最中、少年はうわ言のように呟いた。


「ん……ねぇ、ちゃん……」

( ФωФ)「………」


龍を倒したいという少年の夢は、仇討ちなのであろうか。
常に歴史の影でひっそりと生きてきた龍への想いは、きっと人の数だけあろう。


憎むもの、憧れるもの。
恐怖するもの、称えるもの。


この大陸の長い歴史を語り継げるだけの寿命を宿す彼ら龍族は、
時に神聖な護り手でありながら、時に無慈悲な破壊者でもある。

自分がこれから向かう先で出会う龍はそのどちらだろうかと。


────ロマネスクは、ふと考えていた。

967名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 00:50:57 ID:bpwwREeoO
ω・`)支援

968名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 00:52:28 ID:mdK0uiGI0




   ( ^ω^)ヴィップワースのようです
          累計20話記念

             幕間

         「語り継ぐもの(1)」


             -続-


.

969名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 01:16:36 ID:mdK0uiGI0
次回も幕間「壁を越えて(3)」となりやす。
このスレはそろそろ過去ログにでも放り込めばいいのかな。
おやすみなさい

970名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 04:17:14 ID:mdK0uiGI0

答えは、明日の早朝にまでという事だった。

ただ一つ懸念していた暗殺者達に襲われたクーの安否も、衛兵達に聞く限りでは大丈夫そうだ。

( ,,゚Д゚)「待たせたかい」

実際にクーとは顔を合わせて話をしたかったが、急ぐ旅らしい。
あの女の事だ、心配してくれているという自惚れもないが、一応あの日の宿の店主には言伝を頼んでおいた。

ヴィップで使い走りの依頼をこなしているよりは、よほど刺激的な道程になるだろう。

父の仇討ちを思えば、息子の俺がそんな不謹慎な想いを抱いてはいけないのだろうが、
この男はこれまでの自分の瞳が映していた退屈な景色を、全て叩き壊すほどの鮮烈さを放ちながら現れた。

事実、父との記憶も少ない自分には、龍に倒された父親の話などあまり実感が沸かなかった。
だけどこの男と話した時、思わされたのだ───彼の後ろに、着いて行きたいと。

  _
( ゚∀゚)「遅ぇよ、馬鹿」

971名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 04:18:06 ID:mdK0uiGI0

ヴィップの北門。
交易都市から北部バルグミュラーへと続く桟橋の上で、俺たちは落ち合った。
男の背で頭を出す朝日が、新たな旅立ちの訪れを告げるようだった。

バルグミュラーは未開の地が多く、未だに凶悪な妖魔どもがうろうろしている。

人間と妖魔とが織り成す、互いの領分の削りあい。
境界線で人間側が根城とする砦には、自分の命を切り売りする猛者どもがひしめいていると聞く。

その中の一人に自分も名を連ねるというのだから、否が応でも胸は高鳴る。


( ,,゚Д゚)「すまねぇ。野暮用を済ませてた」

  _
( ゚∀゚)「ま、いい。道中で今後の事を話す───今は、行くぞ」


( ,,゚Д゚)「あぁ、分かった」


会話はそれだけだったが、俺は内心胸を震わせていた。
俺より少し背の低い───だけどとても大きな背を見せて前を歩く、この男との旅に。

ジョルジュの誘いに乗った自分の、この”邪龍討伐の旅”に。

972名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 04:19:01 ID:mdK0uiGI0




   ( ^ω^)ヴィップワースのようです


             幕間

         「壁を越えて(3)」



.

973名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 04:20:27 ID:mdK0uiGI0

─交易都市ヴィップ 悠久の時の流れ亭─


  _
( -∀-)「………とまぁ、そんなお話よ」


( ,;゚Д゚)「それが───親父の最期、だったか」
  _
( ゚∀゚)「厳密には、その時の傷が元でその後に……お前の親父さんは死んだんだがな」

今まで知る事も、その術もなかった。

傭兵であった父親がディクセン騎士団の戦列に加わって実際にやりあったという相手の
ドラゴンが、かの悪名高い”邪龍ファフニール”であったという事実など。

思い起こしてみれば、父の形見でもある己の”竜刀・邪尾”
その刀身を後ろから覆うように施された堅鱗の装飾は、漆黒に染められたそれだった。

おぼろげな父の顔が急激に頭の中で思い出されると、ギコ=ブレーメンは少しだけ誇らしそうな表情をした。
瞬く間に三人の暗殺者を徒手空拳で倒して退けた、目の前のジョルジュ=レーゲンブレストルに向けて。
  _
( ゚∀゚)「しかし、お前も思わねぇか」

974名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 04:22:37 ID:mdK0uiGI0

( ,,゚Д゚)「………何をだ?」

グラスを傾けながら、ジョルジュがギコを指差して言った。
  _
( ゚∀゚)「奇妙な縁をだ。確かに大陸で人が大勢集まる場所っつったらこのヴィップだがよ」

( ,,゚Д゚)「あぁ」
  _
( ゚∀゚)「それにしちゃあ、あいつに全てを奪われたこの俺と、あいつと戦った男の息子のお前が
     今こうして同じ場所に居るのを思うと───大陸も案外狭ぇな、ってな」

( ,,-Д-)「……そうかも、知れねぇ」

大陸に住み暮らす人々の数は、数千万とも言われている。
人種も様々で、未だに言語を持たない部族だって僻地の片田舎には居るのだ。

星の数ほど人々が住み暮らすこの大陸で、たった一つの共通点を持つ二人の冒険者。
それがまるで因果に導かれるようにして出会った事に、二人は少しばかり感嘆を漏らしていた。

  _
( ゚∀゚)「俺は明朝ヴィップを発つ」

975名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 04:23:53 ID:mdK0uiGI0

( ,,゚Д゚)「どこへ───」
  _
( -∀-)「城壁都市バルグミュラーだ。そこで、顔合わせしねぇといけねぇ奴が居る」

( ,;゚Д゚)「あの国境の危険地帯に……まさか、そこにファフニールがいるのか?」
  _
( ゚∀゚)「違ぇな」

身を乗り出してジョルジュの話に耳を傾けるギコに、ジョルジュは顔を近づけた。
多少人目を憚るようにして、そして小声で囁く。
  _
( ゚∀゚)「……だが、でけぇヤマになる───これまでにねぇ、な」

( ,,゚Д゚)「どういう事だ?」
  _
( -∀-)「こいつぁ勘だがな、ファフニールは人知未踏の地になんかにゃあいねぇ」

( ,,゚Д゚)「はっ、そんなとんでもねぇ化け物が、どこに隠れる? まさか──誰かに飼われてるとでも言うのかい?」

976名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 04:25:14 ID:mdK0uiGI0

  _
( ゚∀゚)「───その通りだ」

( ,;゚Д゚)「ハァ!?」

あからさまに大声を上げたギコの鼻先に、「しっ」と立てた人差し指が当てられた。
ジョルジュの言う通りだとすれば、それはとんでもない事実だろう。
  _
( ゚∀゚)「まだ疑ってる段階だ……確かではねぇ。だが”邪龍”を崇めてる奴らはどこかに居るってぇ話だ」

( ,;゚Д゚)「龍の化け物を───崇めるだって?」

もしそんな集団がいれば、それは正気の沙汰ではない。
にわかには信じがたい事実を淡々と口にするジョルジュの言葉に、ギコは驚きを隠せなかった。

「馬鹿げてる……ッ」
そう口にしたギコに相槌を打つように、彼は腕を組みながら頷いた。
  _
( ゚∀゚)「そうだ。馬鹿げてやがる───だからそんな馬鹿共は、ぶっ飛ばしてやらねぇと」

977名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 04:26:32 ID:mdK0uiGI0

( ,,゚Д゚)「アンタは……何を考えてんだ」
  _
( ゚∀゚)「………」

どうという事も無い、という風に話すジョルジュの存在は、ギコからはとても異質に思えた。
確かに歴戦を潜り抜けてきた屈強の冒険者、という認識は彼の佇まいから感じさせられる。

だが、彼からはそれ以上に───ギコの目の前の在り来たりな日常を、全て吹き飛ばしてしまうように。
爽快で、生命力に満ち溢れた、人間の強さというものを感じさせてくれる、そんな雰囲気を感じさせた。
  _
( ゚∀゚)「バルグミュラーでの依頼が重要になる。事が終われば……俺はそこの命知らずの兵隊共を借りれるのさ」

( ,,゚Д゚)「戦争でもおっ始めるつもりかよ?」
  _
( ゚∀゚)「まぁ、似たようなもんだ。ファフニールを匿ってる奴らの存在が
     どっかで暴かれれば、俺はそいつらを率いてヤツの寝床に雪崩れ込む」

( ,;゚Д゚)「本気、かよ」
  _
( ゚∀゚)「あぁ───どこの誰が、止めようともな」

( ,,゚Д゚)「しかし………アンタ一人に、そんな事が出来るとは思えねぇ」
  _
( -∀-)「分かってねぇな、若造」

978名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 04:28:39 ID:mdK0uiGI0

「───ふぅ」
呆れるような仕草で溜息をついたあとに、彼はまた力強い焔の色を宿す瞳を見開いた。
口に出された言葉は力強く、そこには一筋の迷いすら無い彼自身の覚悟をも感じさせた。
  _
( ゚∀゚)「出来るか、じゃねぇ………”やるのさ”」

( ,;゚Д゚)「………!」
  _
( ゚∀゚)「俺ぁ、やり遂げる。ファフニールの野郎の喉元に剣をぶち込んでやる。
     その為だけに、今まで血反吐を吐いたりもしてきたんだからな」

( ,;-Д-)「アンタは………」

「本物の、馬鹿だよ」
そう言いかけたが、真っ直ぐに自分を射抜く眼差しに気圧され、それきり口をつぐんで目を伏せた。

ギコがジョルジュから視線を逸らせてしまったのは、自身も冒険者という職でこれまでをやってきて、
それでも彼のようにただ一心の思いを、自分の力を信じる上で目指して掴む”夢”を。

曖昧ながらも、誰もが当たり前のように描く”未来への想い”を抱くことが出来なかった自分への負い目に感じた。

979名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 04:30:18 ID:mdK0uiGI0

( ,;-Д-)(くそ───)

思い起こせば、冒険者となってのこれまでを、ただ中途半端に生きてきた。

自分を産んでくれた父の仇が、のうのうと今もこの大陸に生きているというのに。
それをヘラヘラと───憎しみという感情すら、満足に抱けてはいなかったのだ。

だからこそ、この男の視線に打たれると、自分が恥ずかしく思えてしまう。
瑣末な技術の事ではなく、この男自身の”人間としての強さ”の光に、その輝きの前に。

( ,,゚Д゚)「アンタは……今まで、どれだけの修羅場を潜り抜けたんだ?」
  _
( ゚∀゚)「はっ。武勇伝を聞きてぇってか? 腐るほどあるぜ」

次に口を開いたギコは、投げかけるはずだった言葉を取りやめた。
会話を交わす内に湧き上がってきた単純なジョルジュ自身への興味に変えた。

  _
( ゚∀゚)「あー、ありゃいつだっけ。いざとなると出てこねぇな」

( ,,゚Д゚)「?」

980名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 04:32:46 ID:mdK0uiGI0

  _
( -∀-)「エルン……何たらっつぅ、なんでも結構有名な吸血鬼に因縁つけられたな。俺は知らなかったけどよ」

( ,,゚Д゚)「吸血鬼かよ!一匹でも騎士団が手こずるっつぅ……あれだろ」
  _
( ゚∀゚)「あぁ、まぁ何だ──ーただただ、疲れたな。何しろ何べんぶった斬っても死んでくれやがらねぇ」

( ,,゚Д゚)「そりゃ、そこらの妖魔と比べたらクソ強い部類だろうさ」
  _
( ゚∀゚)「んで、最後には面倒だったから、胴体はす斬りにぶった斬って逃げたさ───まぁ、
     その時ゃこっちもまだガキだったからな。何か手心加えてたみてぇだったが、あの女」

( ,,゚Д゚)「ヘッ、勝っちまったのかよ!」
  _
( ゚∀゚)「でなきゃ今ここにいねぇだろ、馬鹿────完勝よ」

酒のせいもあるのだろうか。
あるいは、自らとの奇妙な縁があるおかげか。

最初は無愛想で気難しそうだとばかり思っていたジョルジュが饒舌に語る姿に、瞳を奪われる。
何故だか、”もっと彼を知りたい”とさえ思う自分があることに気付いた。

981名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 04:34:03 ID:mdK0uiGI0

気付かぬ内に、ギコは引き寄せられていたのだ────
ジョルジュという、これから大きな嵐を巻き起こすであろう男の魅力に。

いつの間にか、夜が更けるまで酒盛りは続いていた。
その後もいくつかの武勇伝を聞いては、ギコが感嘆する流れが次第に出来ていたある時、
今度はジョルジュの方からギコに言葉が投げかけられる。

  _
( ゚∀゚)「んで───お前はどうなんだよ?」

( ,,゚Д゚)「ん、あ?」
  _
( ゚∀゚)「さっきの話だ。”やるのか、やらねぇのか”」

( ,,゚Д゚)「………」

期待と、予感を抱いていた。

燻っていたこれまでの自分が変わるべき転機と言っていい。
鬱屈した気分の何もかもが、この男にかかれば吹き飛んでしまうような。

賭けない理由はない。

982名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 04:35:27 ID:mdK0uiGI0

「───やるさ、やってやる」

自らの燻った弱い火も、この男が胸の内で燃え上がらせる炎に投じれば、また
希望を抱いて生きられる、より強い炎となれる。


─────

──────────


───────────────





────そう思ったからこそギコは今、こうして彼の背を歩いていた────


( ,,゚Д゚)「………」

983名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 04:36:34 ID:mdK0uiGI0

  _
( ゚∀゚)「………所でよ」

( ,,゚Д゚)「ん?」


不意に振り返ったジョルジュが、手に掴む地図に指を伝わせるギコに言い寄った。
その顔には、厳しく責め立てるような険しい剣幕を滲ませて。

  _
( #゚∀゚)「いつの間にかルート外れてんじゃねぇのか、これ!?」

( ,;゚Д゚)「あ……本当だ。やべぇ」
  _
( #゚∀゚)「やべぇ、じゃねぇこの野郎!道案内もロクに出来ねぇのか……何年冒険者やってやがる!」


「たはは……」

額に汗を滲ませながら、突き出した掌の指を二本だけ折り曲げて数を模る。
そのギコから地図を引っ手繰ると、またジョルジュが大声を上げた。

984名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 04:38:48 ID:mdK0uiGI0

  _
(;゚∀゚)「───だあぁッ、一刻も前から道順外れてんじゃねぇか!どういう見方してんだこの馬鹿っ!」

( ,;-Д-)「いや〜、悪い悪い」



「しくじったぜ、お前を誘っちまった俺は、もしかすると人生最大の大へまをやらかしたかも知れねぇ」

          「まぁ、今にその認識を変えてやるさ」


急いで山道を駆け戻りながら、乱れる息の中でそうして憎まれ口を叩き合う。
それはジョルジュに取っても新鮮だったが、何より───ギコにとっては鮮烈な。

985名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 04:42:25 ID:mdK0uiGI0

  _
(;゚∀゚)「チッ……無駄な体力使わせやがって」

( ,;゚Д゚)「はぁっ、だからっ、悪かったっての!」
  _
(;゚∀゚)「そんなんで、化け物とやり合えんのかよ?」

( ,;゚Д゚)「ま───自信はねぇさ」
  _
(;゚∀゚)「偉そうに言うんじゃねぇ!」


「仕方ねぇ。道中でお前を叩き直してってやるさ」

「げっ!あんまし……無茶はさせんなよ?」


少しずつヴィップの街から遠くなっていく彼らの背中。

それを照らす陽光と、そして空の景色。
それらはきっと、新たな旅立ちに心を躍らせているギコの心情を表しているのだ。

まるで、嵐が過ぎ去った後のように晴れ渡った、雲一つ無い快晴が。

986名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 04:44:47 ID:mdK0uiGI0



   ( ^ω^)ヴィップワースのようです


             幕間

         「壁を越えて(3)」


            -続-



.

987名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 04:55:02 ID:mdK0uiGI0

爪'ー`)y-「なぁ」

( ^ω^)「何かお」

爪'ー`)y-「欲しいよなぁ、あれ」

( ^ω^)「?」

爪'ー`)y-「頭が”ま”で始まって……」

( ^ω^)「ほう」

爪'ー`)y-「ケツに”め”が来る……三文字の、あれがさ」

( ^ω^)「………正直に言うと」

爪'ー`)y-「あぁ」

(  ω )「なんであの時ネガティブな発言をしたのか、と思うおね……」

爪'ー`)y-「悔やむぐらいならするなってんだ」

(  ω )「そうだおねぇ……」

(´・ω・`)「また板汚しかい?」

988名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 05:02:15 ID:mdK0uiGI0

爪'ー`)y-「お前らに俺たちの気持ちは分からんさ……」

ξ゚⊿゚)ξ「もうじきこのスレは用済みになるからって、あまりメタ的な事はしない事ね」

(´・ω・`)「そうだ。作者は投下する機械―――それこそが、あるべき姿」

(  ω )「………コーヒー飲みすぎて、眠れなくてハイだから仕方ないお」

ξ゚⊿゚)ξ「もしこんなスレが人目に晒されたらどうするのよ!?」

爪'ー`)y-「そん時ゃそん時だ───作者が情緒不安定だとか、言い逃れすりゃいい」

(´・ω・`)「たかだか10レスぽっちの投下しかしてない癖に?そいつは驚きだね」

ξ゚⊿゚)ξ「私は……AAに喋らせてるこういう流れも非常にキモいと思うわ」

(  ω )「重々承知してるお」

989名も無きAAのようです:2012/06/12(火) 05:04:47 ID:mdK0uiGI0
必死でsageながら、寝ます

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