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(´・ω・`) ホムンクルスは生きるようです
1名も無きAAのようです:2011/11/29(火) 23:02:05 ID:kQM0QRhk0
錬金術によって生み出された、奇跡の種。

数多の研究と試行の結果から生み出されたそれの製造方法は不明。
作り出した術師は既にこの世にいない。

それから生まれる人の形を模した者は


──決して老いず

──決して衰えず

──決して死なず


己の存在理由を知るために、ただ生き続けている。

人はそれをホムンクルスと呼んだ。

2名も無きAAのようです:2011/11/29(火) 23:02:55 ID:kQM0QRhk0


1 ホムンクルスは戦うようです

3名も無きAAのようです:2011/11/29(火) 23:11:34 ID:kQM0QRhk0


(´・ω・`) 「ここはどこだ……?」

目が覚めたらベッドに寝ていた。
一体ここに来る前に僕は何をしていたのだろうか。

全く思い出せない。

部屋の中は綺麗に整頓されている。
家具類は少なく、持ち主を特定できそうなものは無い。

どこの家にも当たり前にあるものばかりだ。

身体を布団から起こそうと思ったけれども、力が入らなかった。
首だけを動かして窓の外を見る。

どうやら都市ではなく辺鄙な村のようだ。
耳を澄ませば、川の流れが聞こえてくる。

僕は、僕自身が誰なのか覚えていた。
だから、記憶喪失じゃないだろう。

(´・ω・`) 「ふむ……」

やはり動けないので、諦めて天井を見ていた。

暫くして、ノックとともに扉が開く。

4名も無きAAのようです:2011/11/29(火) 23:18:22 ID:CRhahRWA0
おう支援

5名も無きAAのようです:2011/11/29(火) 23:21:06 ID:kQM0QRhk0

('、`*川 「失礼します」

入ってきたのは妙齢の女性。
見た目で言えば、僕より二つ三つ年上だろうか。

年をとらない僕基準に考えても仕方ないか。
おそらく20と少しといった雰囲気を感じるけれども、
そういった年齢を予想するのはあまり得意じゃない。

(´・ω・`) 「どうして僕はここに?」

('、`*川 「うちの夫が山から連れて来たんです。どうやら倒れていたそうで……」

(´・ω・`) 「ああ……」

やっぱりか、といったところ。
また、腹をすかせて倒れてしまったようだ。

不死のホムンクルスと言えども、エネルギーがなくちゃ動けない。
家がない僕は、こうして倒れたことが何度もあった。

そのたびに、こうやって見ず知らずの人にお世話になっているわけだ。

(´・ω・`) (それにしても戦争が無くてよかった……)

('、`*川 「とりあえず、これでも食べてください」

6名も無きAAのようです:2011/11/29(火) 23:29:30 ID:kQM0QRhk0

(´・ω・`) 「ありがとうございます」

差し出された料理をゆっくりと口に運ぶ。
この家の料理は今までで三番目に美味しいかな、と失礼なことを考えていた。

('、`*川 「お口に合いますでしょうか?」

(´・ω・`) 「ええ、とても」

('、`*川 「それはよかったです……。ところで、どうして山の中に倒れていたんですか?」

その質問には答えられない。
何で山にいたのか僕にも思い出せないからだ。

(´・ω・`) 「旅の途中だったんですよ。食料を切らしてしまって」

('、`*川 「それはそれは、どうぞこんな料理でよければどんどん食べてください」

お言葉に甘えて、おかわりをいただくことにした。
なかなか僕好みの味付けであり、少しばかり旦那さんを羨ましく思ってしまう。

('、`*川 「これからはどうされるんですか?」

特に決めていなかったけれど、いつもと同じように答える。
どの道、僕にすることは他にないんだから。

(´・ω・`) 「旅を続けます」

7名も無きAAのようです:2011/11/29(火) 23:40:51 ID:kQM0QRhk0

('、`*川 「そうですか。どのようなところに行かれてきたのですか?」

見ず知らずの他人に対し、ここまでかまってくれるのも珍しい方だな。
食事の礼はどうせなにもできないのだから、せめて話くらいはするべきか。

(´・ω・`) 「余り大した所入ってません。都にはいくつか行きましたけれど。
       崖の上に立つ町や、堅牢な城などですかね」

('、`*川 「城ですか……私らには縁のない場所ですね……」

別段いい所でもなかったけどね、と付け加えるのはやめておいた。
他人の憧れをわざわざ壊すほど無粋じゃない。
ホムンクルスだって空気くらいよめる。

(´・ω・`) (しかもあの時は、掴まって強制連行だったからね……)

楽しむに楽しめない背景があったことは忘れておきたい。

('、`*川 「私も夫も、生まれも育ちもこの村ですから。
      そういう暮らしをしている方は憧れます」

(´・ω・`) 「ここは……いい村ですね」

お世辞では無かった。
多くの場所を見て回ってきたけど、ここほど安穏とした場所は無かった。
戦争で営みを破壊された村もあったし、疫病で全滅している村もあった。
領主に苦しい生活を強いられているところも。

8名も無きAAのようです:2011/11/29(火) 23:48:31 ID:kQM0QRhk0

('、`*川 「ええ。昔からずっと平和な村でした。これからも、きっと平和なんでしょう」

(´・ω・`) 「そうだといいですね……」

長い時を生きていた僕にとって、変化という存在は身近なものであった。
この女性はそうではないのだろう。
だから、、これからもずっと平和だと信じて疑わない。

人は変わる。

町は変わる。

国は変わる。

(´・ω・`) (それを知らないのは、幸せかもしれないな……)

(´・ω・`) 「ごちそうさまでした。何もお礼をできませんが、助けていただき本当にありがとうございました」

('、`*川 「いえいえ。もしよろしければ、ゆっくりしていってくださってもかまいませんよ」

(´・ω・`) 「それには及びません。旦那さんにもよろしくお願いします」

礼を言って立ち去ろうとしたところだった。
ガタン、とひときわ大きな音が聞こえ、熊と見間違えるような大男が入ってきた。

思わず腰の剣に手を伸ばしたが、その手は空を切る。

9名も無きAAのようです:2011/11/29(火) 23:54:55 ID:kQM0QRhk0

ミ,,゚Д゚彡 「がっはっは!! 目が覚めたか! 倒れていた時は死んでいるのかと思ったわ!」

村中に響いてるんじゃないかと思えるほどの大声で、男は話しかけてきた。
肩に担いでるのは巨大な斧。

(´・ω・`) (というか人間かよ……僕よりもずっと化物じみてるじゃないか)

('、`*川 「あら、御帰りなさい」

ミ,,゚Д゚彡 「飯はまだか!!」

('、`*川 「ごめんなさい、お客様が全部食べてしまわれたわ。
      今から作り直すし、ちょっとまっててくれる?」

ミ,,゚Д゚彡 「なにぃ!?」

獣のようにぎらつく瞳に睨まれる。
大男が一歩動いた時、僕は殺されるかと思った。
……死なないけれども

ミ,,゚Д゚彡 「あれを全部食ったのか! なかなかいい食いっぷりだ!!
       晩飯はあれだ、俺んとこでくっていけ坊主!」

坊主と呼ばれるほどの年でも見た目でもないつもりだったが、
この人に比べれば僕はまだまだ子供だろう。

10名も無きAAのようです:2011/11/30(水) 00:02:15 ID:MSPMHhSQ0

ミ,,゚Д゚彡 「晩飯は大量に頼む。あと酒も用意しておいてくれ」

('、`*川 「わかりました」

(;´・ω・`) 「いや、おいとますると……」

僕の抵抗は空しく終わった。
どの道、剣がなければ旅が続けられない。

ミ,,゚Д゚彡 「ああそうだ、お前さんの剣な、ちぃっと預からせてもらったぞ」

ほい、と軽く放り投げてくるそれは、何とかして受け取った。
旦那さんの方は割と常識人なのかもしれない。

ミ,,゚Д゚彡 「こんな大層な剣持って、どこからきたんでぇ」

(;´・ω・`) 「遠くからです……」

生まれ故郷の地名は覚えていない。
あの時は逃げるのに必死だったから。

ミ,,゚Д゚彡 「ほう……?」

まずはその大斧を置いていただきたい。
そんな物を持って見つめられるこちらの気にもなってほしい。

11名も無きAAのようです:2011/11/30(水) 00:04:16 ID:KX0oq9760
これはなかなか面白そうな

12名も無きAAのようです:2011/11/30(水) 00:09:55 ID:MSPMHhSQ0

ミ,,゚Д゚彡 「まぁいいや。今夜はうちに泊まっていきねぇ。ただし……」

ただでさえ鋭い眼光が一層鈍く光る。

ミ,,゚Д゚彡 「うちの嫁に手を出したら殺す」

(;´・ω・`) (出さないよ……)

そもそも、僕はどちらかといえば年下が好みだ。
とはいっても、ほとんどの人間は僕より年下なんだろうけど。

ミ,,゚Д゚彡 「んで、どこに行くんだ?」

(;´・ω・`) (だから早く斧を置いてくれ……)

僕の視線に気づいたんだろうか、大男は斧を床に────刺した。

(;´・ω・`) (それいいのかよ……?)

ミ,,゚Д゚彡 「どこに行くんだ?」

(;´・ω・`) 「決めてませんよ……風の向くまま気の向くままに進むだけです」

ミ,,゚Д゚彡 「がーっはっはっは!! 気に入った!!」

どうやらこの熊男に気に入られてしまったようだ。
まぁ食事にあずかれるのは素直にうれしいし、話し相手くらいにはなろう。

13名も無きAAのようです:2011/11/30(水) 00:17:47 ID:MSPMHhSQ0

大男は聞くよりも話す方が好きらしく、僕は聞き役に徹することになった。
九割が嫁自慢で、一割がこの村のことだった。

ちなみに、嫁の話を区切ったら張り手が飛んできた。
座っていたはずなのに、床に頭を打ち付けるとは……。

(;´・ω・`) (人間だったら死ぬだろ)

この村は自給自足で暮らしており、どこの領主にも属していないそうだ。
それ故に年貢もなく、不自由なく暮らしているらしい。

ミ,,゚Д゚彡 「俺の仕事は概ね狩りだな。他には力仕事とか」

(;´・ω・`) (でしょうね……)

いつの間にか夜になっていた。
どんだけ話が長いんだよこのおっさん……。

('、`*川 「食事ができましたよ」

女性の声が聞こえ、部屋を移動した。
机の上には所狭しと料理が並べられており、酒も大量に用意されている。

ミ,,゚Д゚彡 「さぁ、好きなだけ食ってくれ」

(´・ω・`) 「いただきます」

14名も無きAAのようです:2011/11/30(水) 00:29:25 ID:MSPMHhSQ0

(´・ω・`) 「明日の朝、出発します。ほんとにありがとうございました」

ミ,,゚Д゚彡 「おう、そうか」

男は瓶から直接酒を流し込んでいた。
見た目通りの大食感らしい。

('、`*川 「少ないですけど、どうぞ」

差し出されたのは携帯できる食料。
ありがたく受け取って、懐にしまう。

ミ,,゚Д゚彡 「まぁ、なんだ。いつでも遊びに来いよ」

(´・ω・`) 「ええ、また寄らせていただきます」

今までに同じ土地へ戻って来ようと思った事は無かったけれど、
食事もうまくで町も平和なここなら、たまに来てもいいかな、そう思った。

ミ*,,゚Д゚彡 「今度は子どもがいるかもな!! がっはっはっ!!!!」

('、`*川 「あなたったら……お客さんの前で……」

(´・ω・`) ショボーン

別に嫁が欲しいとか思わないけど。
ホムンクルスだからね……。

15名も無きAAのようです:2011/11/30(水) 00:30:56 ID:GXgEk4Ns0
支援やん

16名も無きAAのようです:2011/11/30(水) 00:46:25 ID:MSPMHhSQ0

結局朝まで酒を酌み交わすことになるとは……。
鼾もまた破格の大音響だな。
それでも平気で寝ている奥さんも奥さんだけれど。

(´・ω・`) 「さて、久々に楽しかったですよ……」

(´・ω・`) (僕は栄養摂取の構造が若干違うからどれだけ飲んでも酔うことは無いんだけどね)

別れを惜しむ気持ちはあるけれども、ずっと同じ地にいることは不幸しか呼ばない。
それは嫌と言うほどよくわかっていた。

(´・ω・`) (さようなら……)

音をたてないようにして家を出た。
あれだけ飲んでればすぐには起きないだろうけどね。

(´・ω・`) 「ん?」

朝日の向こうに何かが見える。

(´・ω・`) 「…………」

僕はすぐにそれが何か分かった。
馬に乗って武装している集団……俗に言う盗賊ってやつだ。

17名も無きAAのようです:2011/11/30(水) 00:47:36 ID:KynuTtyU0
shen

18名も無きAAのようです:2011/11/30(水) 00:49:24 ID:KX0oq9760
平和な地に盗賊か
どうなる…

19名も無きAAのようです:2011/11/30(水) 00:54:07 ID:MSPMHhSQ0

(´・ω・`) 「人数は……5……6人ってところか」

どこからかこの平和な村の噂を聞きつけて来たんだろう。
朝も早いし、村人も寝ているだろう。真っ直ぐにこちらへ向かってくる。

僕の後ろには一軒の家がある。
僕にとって少しだけ特別な家が。

その主は平時ならあんな集団ものともしないだろう。
今は酔いつぶれている。
ほかでもない、僕のせいで。

ならば、僕のすることは一つ。

(´・ω・`) 「ここは通せない」

馬をとめた彼らと相対する。
僕に気付いた盗賊たちはそれぞれの武器を手に取った。
どうやら話し合う余地は無いようだ。

<ヽ`∀´> 「そこをどくニダ、死にたくないのなら」

(´・ω・`) 「死んでもどかないよ。死なないけどね」

<ヽ`∀´> 「何を言ってるニダ!」

振り下ろされた剣は、僕にとって何ら驚異じゃない。

20名も無きAAのようです:2011/11/30(水) 01:02:33 ID:MSPMHhSQ0

<ヽ`∀´> 「!?」

(´・ω・`) 「この程度の実力なら、なんら脅威でもない」

僕は不死のホムンクルスだ。
どんだけ斬られようとも、刺されようとも、殴られようとも死なない。

(´・ω・`) 「でもっ! 痛いのは嫌なんだよねっ!」

軽く受け流し、反撃を試みる。

「親方っ!」

残念、僕の突きはぎりぎりで避けられたみたいだ。

<;ヽ`∀´> 「全員でやるニダ!」

ここからだな……。

右から来た男の剣が僕の右腕を跳ね飛ばした。
腹部に三回、そして多分後ろからも切られた。

留めと言わんばかりに、親方と呼ばれた男が僕の首を貫く。

<;ヽ`∀´> 「どうニダ……。さっさと盗んで次行くニダよ」

(メ ω `) 「          」

21名も無きAAのようです:2011/11/30(水) 01:12:58 ID:MSPMHhSQ0

<;ヽ`∀´> 「?」

ああ、喉を潰されてたんだった。
なんて言ったか聞こえないよね。

(メ ω・`) 「待てって言ったんだよ」

数秒のタイムラグで僕の身体は元通りになる。
斬り落とされた右腕は粒子となって再び僕の一部として。

(´・ω・`) 「その家に触るな」

<;ヽ`∀´> 「ひぃぃぃ!! 化物!! 化物ニダ!!」

人間なんて、こんなものだ。
これだけ見せたら、暫くは近寄ってこないだろう。

「殺せ!! 殺せぇ!!」

僕の予想は大きく外れた。
鋭い痛みを感じたけれど、目が見えないせいで確認ができない。

いや、目を斬られたのか、と痛みで気づいた。

どれだけ時間が立ったのだろうか。
復活した僕の目の前には疲れ果てて、怯えた盗賊たちがいた。

22名も無きAAのようです:2011/11/30(水) 01:21:48 ID:MSPMHhSQ0

<;ヽ`∀´> 「お前はなにニダ!? 何で死なないニダ!?」

(´・ω・`) 「ホムンクルスだよ」

僕は殺され続けていたんだろう。だから、気づかなかった。
脳まで破壊され続けていたから、時間の経つ感覚が欠如していたのだ。

ミ,,゚Д゚彡 「お前……」

(;´・ω・`) 「!?」

助けに来てくれた男の存在に。
その顔を見れば、全て見てしまったであろうことは容易に想像がつく。

<;ヽ`∀´> 「ヒィィィィ!!」

盗賊の男は仲間を引き連れて逃げて行った。
この場に残されたのは二人。

(´・ω・`) 「失礼します……」

軽く頭を下げて背を向けた。
かけるべき言葉などない。
人間ではない僕を人間が恐れるのは当たり前だからだ。

だけど違った。

ミ,,゚Д゚彡 「……また……」

23名も無きAAのようです:2011/11/30(水) 01:29:38 ID:MSPMHhSQ0

ミ,,゚Д゚彡 「また来い…………いつでもだ」

その男は言ってくれた。
こんな僕でも、また来ていいと。

今喋ったら、声が震えてしまうだろう。
だから僕は、立ち去りながら手を振った。

また来るよ、そう言った意味を込めて。

ミ,,゚Д゚彡 「ありがとうっ」

背に男の声を受けて。


人のために戦い、何度も傷ついてきた。

体も、心も。


たった一言で報われた気がした。
救われた気がした。
また来よう、そう心の中で誓って僕はこの村を去ることにした。


1 ホムンクルスは戦うようです  終了

24名も無きAAのようです:2011/11/30(水) 01:33:34 ID:MSPMHhSQ0

支援ありがとうございました。

この物語はながらにて行われております。


目次

>>2   1 ホムンクルスは戦うようです

25名も無きAAのようです:2011/11/30(水) 01:47:38 ID:xubX8mKY0
おもしろくなりそう 乙

26名も無きAAのようです:2011/11/30(水) 01:53:31 ID:GXgEk4Ns0
乙 続き待ってるよ



ニダーがフサにびびって逃げたように見え・・・

27名も無きAAのようです:2011/11/30(水) 03:09:53 ID:6ZvfMxU2O


これは期待

28名も無きAAのようです:2011/11/30(水) 08:29:31 ID:JdNPAzc.O


29名も無きAAのようです:2011/12/01(木) 07:41:46 ID:HknsixXc0



2 ホムンクルスは稼ぐようです

30名も無きAAのようです:2011/12/01(木) 07:48:58 ID:HknsixXc0

(´・ω・`) 「金がない……」

当たり前か。
道にぶっ倒れて気を失っていたけれども、目が覚めた時にお金が残っているほどイイ時代じゃない。

(´・ω・`) (どこかで稼ぐ必要があるな)

お金を稼ぐのは簡単だ。
僕にはおおよそ人の及びもつかない錬金術の知識がある。

できれば使いたくはないのだが、資金調達のためならば仕方ない。
ホムンクルスであってもエネルギーを必要とするんだから。

(´・ω・`) 「一番近い……町は……いい所があるじゃないか」

ローマの土を踏むのはこれが二度目になるな。

(´・ω・`) (あれから少しは変わっているのだろうか……)

あの場所の賑やかな喧騒は忘れられない。
後頭部が痛むけれども、関係ないか。

(´・ω・`) 「彼は元気にしているだろうか、いやしているのだろうな」

31名も無きAAのようです:2011/12/01(木) 07:55:36 ID:HknsixXc0

(´・ω・`) 「大体予想どおりかな」

三日三晩歩いてやっと城壁が見えてきた。
世界の中心とは名の通りに、ここいらの道はしっかりと舗装されていて歩きやすい。

後ろから来る馬車にさえ気をつけていればいいのだから。

(´・ω・`) 「まずは……いつもの場所かな」

僕が稼ぐのにローマによる理由はいくつもあるけれども、一番大きいのは友の存在だ。
僕が生み出してしまった罪の存在であるにもかかわらず、彼はとてもよくしてくれる。

「感謝してもし足りないくらいだ! あんたがいなけりゃ俺は生まれてなかった!」

彼はいつもそう言ってくれた。
久しぶりに見る友を思い浮かべると、嬉しくなってくる。

(´・ω・`) 「こんにちわ」

ローマに入るのに許可はいらない。
そんなことをしていたら、大量の物資が腐ってしまうこともあるからだ。

ここは365日いつでも騒がしい。

32名も無きAAのようです:2011/12/01(木) 08:02:02 ID:HknsixXc0

(´・ω・`) 「ふむ」

軽いノックを三回して扉を開けた。
中は昔訪ねた時と変わらない。

僕ですら用途の知らない実験器具が所狭しと並べられている。
それは所々怪しい煙を噴きだしていた。

毒々しい煙を払って奥に進むと、目当ての人物がソファーに寝ていた。

(´・ω・`) 「起きろよ、久しぶりに来たんだ」

声で僕だと気づいてくれたみたいだ。
大仰に立ち上がり、肩を抱き寄せてくる。

この厚かましさが、僕には心地いい。

( ^ω^) 「久しぶりだお! 元気にしてたかお?
       かれこれ35年ぶりかおね」

(´・ω・`) 「36年ぶりだね、ここに来るのは」

彼こそが僕の友人、兼兄弟。
奇跡の種から生まれた人にあらざるもの。

33名も無きAAのようです:2011/12/01(木) 08:11:12 ID:HknsixXc0

(´・ω・`) 「調子はどうだい?」

( ^ω^) 「いやね、最近思いついたんだお。仮面をつけて人前に出れば、年は見られなくなるお。
       だから、ずっとこの一か所で商売を続けることができるお」

彼、ブーンはホムンクルスだ。
僕が所在を明確に知っているただ一人の。

(´・ω・`) 「なるほど、それでもばれるんじゃないかい?」

( ^ω^) 「荒稼ぎをしてなきゃ目をつけられることもないお。
       ちゃんと、コレもしてるしね」

右手の親指と中指をくっつけて円を作る。
賄賂をあらわす彼の独自の動作だ。

( ^ω^) 「久しぶりに寄ってくれたんだお。まぁ、ゆっくりしてけお」

(´・ω・`) 「そうさせてもらうよ」

ブーンが入れてくれたコーヒーを啜りながら、僕はこの40年に届くほどの旅の話をした。
珍しく獣に襲われた話、海を見に行った話、人間と仲良くなった話。

そのどれもを楽しそうに聞いてくれるブーンは聞き上手なのだろうな。

34名も無きAAのようです:2011/12/01(木) 08:18:48 ID:HknsixXc0

( ^ω^) 「またいろんなところに行ったみたいだおね」

(´・ω・`) 「うん、色んなことが分かった。生きている意味も見つかるかもしれない」

僕が旅をする理由は自分の存在理由を知るためだ。
暗い研究室の中で、土塊から生み出された不死の僕の存在は、一体何なのだろうか。

( ^ω^) 「また顔が暗くなってるお? つまらないことを考えるなおー」

(´・ω・`) 「ああ……すまない。ところで、今は何をしているんだい?
       どうやら寝ていたみたいだけど」

僕らホムンクルスは睡眠を必要としない。
勿論、寝ることはできるけれども。

( ^ω^) 「ああ、面白いものを作ったんだお……ショボンもどうだお?」

ニヤニヤと降格を釣り上げるブーン。
そこで初めて、僕はコーヒーに細工をされたことを知った。

(´・ω+`) 「くそっ……覚えてろよ豚野郎!」

睡魔が襲ってくると言うのはこういうことなのかと僕は理解した。
意識は無理やり切られた。

35名も無きAAのようです:2011/12/01(木) 08:27:10 ID:HknsixXc0

(´・ω・`) 「ここは……」

真っ暗な場所に立っていた。
一切の光がなく、一寸先すら見えない。

(´・ω・`) 「夢……か……?」

不思議とここに来る前のことは明確に覚えている。
ブーンに怪しい薬を飲まされ、意識が途切れたのだ。

もしこれが眠っているということならば、ここは夢の世界と言うことになるだろう。
僕達ホムンクルスは夢見る存在ではないのに。

耳に響く不快な音は雨の音だろうか。
人間は情報の大部分を視力から得ていると言うが、
それは体の構造が基本的に同じホムンクルスにも当てはまる。

(´・ω・`) 「っ!」

爆音とともに一条の閃光が空を駆け抜けた。
たった一瞬の光が部屋の中を明るくさらけ出す。

(´・ω・`) 「はぁ……、まさかこの光景をまた見るとは……」

36名も無きAAのようです:2011/12/01(木) 08:32:29 ID:HknsixXc0

木張りの床は血液で真っ黒に染められ、ばらばらになった人間が散在している。
その中には子どもの骸もあった。

人形を両手に抱いたまま、頭部を失って絶命している。

(´・ω・`) 「帰ったら何回か殺してやらなきゃな」

どうせ殺しても死なないのだ。
傷もすぐに完治するのなら、少々は教育だろう。

決して、この死体のようになることはないのだから。

(´・ω・`) (僕は、予想以上に冷静だな……)

二度と見たくない、考えたくないと思っていた情景が目の前にあって、
未だ絶望という感情を抱いていない僕はなんなのだろうか。

ブーンが僕に飲ませたのは何なのだろうか。

(´・ω・`) 「普通に考えたら睡眠薬だろうけど、それじゃ説明がつかない」

夢の中で夢だと断言できる状態にあること。
これを明晰夢だと言うらしいけれど、これはその状態にぴったりだ。

(´・ω・`) 「明晰夢を見させる薬……ってところか」

37名も無きAAのようです:2011/12/01(木) 08:41:13 ID:HknsixXc0

(´・ω・`) 「薬の効果はどれくらいできれるのだろうか」

どれだけ僕は、ここにいなければならないのだろうか。
この光景を、もうすでに目に焼き付けているこの光景を、どれだけ眺めさせられるのだろうか。

(´・ω・`) 「いや、僕の夢なら、僕自身の力で終らせることができるはずだ。
       願わくば、一番幸せだったあのころの夢を……」

目を閉じ、願う。
その場に立っている自分を想像し、その匂いを、音を、空気を、思い出す。

(´・ω・`) (……っ!)

頬に感じた衝撃で僕は……目を覚ました。
目の前に豚が一匹、僕を覗きこんでいる。

そのニヤケ面の余りの気持ち悪さに、思わず右手を振り抜いていた。

(メ ゚ω゚) 「へぶっ!」

錐揉み上に吹っ飛んでいくブーンだが、それだけでは許せない。
夢の世界で誓った行為を実現に移すため、足元の重量のある金属棒を拾い上げた。

38名も無きAAのようです:2011/12/01(木) 08:46:32 ID:HknsixXc0

(メ ゚ω゚) 「まままままm、まてお! それは死ぬ! 間違いなく死ぬお!」

両手をあげて降参の意を示していたが、そんなものは関係ない。
僕は珍しく、怒っていたのだろうな。
知りうる限りで最も残虐な表情を張りつけ

(´゚ ω ゚`) 「死ね」

右手で持ちあげた棒を全力で振り下ろした。

(メ ゚ωメ) 「はぶんっ」

一撃目で脳が露出した。
成程、いい威力だ。

二撃目は肋骨を折るべく、胴体に叩きこんだ。

(メ ゚ωメ..,, 「っぶぇぇ」

三撃目はもう一度頭に。
殴って殴って、殴り続けた。


,....,;:。ω;∵。.,,

39名も無きAAのようです:2011/12/01(木) 08:47:24 ID:evZ4.uFE0
殺る気マンマンだな……
しえん

40名も無きAAのようです:2011/12/01(木) 08:54:59 ID:HknsixXc0

(´・ω・`) 「ふぅ……」

何とか落ち着きを取り戻した時、部屋は惨殺現場も吃驚なほど汚れていた。
飛び散った血液も、脳漿も、骨片も、全て粒子となり、ブーンを再構成する。

さながら時を巻き戻すかのように。

(; ^ω^) 「死ぬかと思ったお……」

(´・ω・`) 「何であんなものを飲ませた?」

(; ^ω^) 「いや、明晰夢を見れる薬を作ったのだけれど、自分だけが被験者だと心許なかったので」

謝る気はないようだった。

(´・ω・`) 「何の夢を見たんだ……?」

自分だけがあんな夢を見るのだろうか……。
同じホムンクルスのブーンはどんな夢を見たのか非常に気になった。

(//^ω^) 「内緒だおっ」

声に楽しげな響きが混ざっていたから、僕ほど悪い夢ではなかったのだろう。
腹が立ったので、右手の金属棒を再び持ち上げようとする。

それを察知してか、ブーンは夢の内容を話しだした。

41名も無きAAのようです:2011/12/01(木) 09:02:52 ID:HknsixXc0

(; ^ω^) 「その……女の娘と……ゴニョゴニョ……」

こいつはなんて俗物なのだろう。
僕と同じホムンクルスであるのに、その人生に迷いがない。

酒を飲み、飯はたらふく食べ、人と同じように生きている。
女を抱き、庶民と賭け事をする。

そんなブーンが、僕は羨ましいのだろう。
だから、つい金属棒を投げてしまった。

(  ゚ω^) 「何か言うことは?」

頭の左側を吹っ飛ばしてやるつもりだったのだが、どうやら加減を間違えたようだ。
僅かな傷跡をつけるだけであった。

(´・ω・`) 「ごめん、つい」

( ^ω^) 「ショボンは難しく考え過ぎなんだお。
       人間が楽しめる行為は僕達も楽しめるんだお。生憎、まだ子供はできていないけど。
       できるかどうかも、分からないけど」

いつか子育てをするのが僕の夢だお、とブーン嬉しそうに語った。

42名も無きAAのようです:2011/12/01(木) 09:09:58 ID:HknsixXc0

(´・ω・`) (いつか、僕も彼のように笑って暮らせるのだろうか……)

不安は、顔に出さないように押しとどめた。

(´・ω・`) 「で、話を変えるけど、今回寄ったのは資金調達だよ。たんまり稼いでるんだろう?
       少しくらい分けてくれてもいいんじゃないか?」

このままだとブーンの話を長々と聞く羽目になるだろうと思って、本題を提示した。

( ^ω^) 「んー構わないけど、条件があるお」

彼の居場所によったことは何度もあるけど、
常に無償で資金提供を続けてくれていたから、今回もそうだと思っていたんだけどな。

(´・ω・`) 「何?」

彼は僕よりもずっと優秀なホムンクルスだ。
長年の研究で僕よりもはるか高みにいる。
旅ばかりしている僕に役立てるようなことなどないと思ってた。

( ^ω^) 「この薬、売るの手伝ってくれお」

彼の提示した条件は、酷く簡単なものに思えた。

43名も無きAAのようです:2011/12/01(木) 09:14:47 ID:HknsixXc0

明晰夢を見る薬。
それを売ることなどブーン一人いれば十分ではないのか。
効力も、充分以上に体感した。

(´・ω・`) 「ああ……」

そこで気付いた。
この薬は飲まないと効力を発揮しない。
でも、飲んだものが必ずしも本当のことを言うとは思えない。

何もなかった、嘘つきが。

そう言われてしまえば、今後の商売にもかかわるわけだ。

(´・ω・`) 「で、何をすればいいの?」

( ^ω^) 「有り体に言えば、実演してほしいんだお」

そういうことか。
僕がブーンの薬を最初に買い、皆の前で飲む。
そうすれば、この薬の効力を信じるに違いない。

そして、この薬は正真正銘、明晰夢を見せる力がある。

( ^ω^) 「いつもの市場に行くお。この仮面をつけてくれお」

ブーンが投げてよこしたのは木彫りの面。
それを顔につけ、僕らは出発した。

44名も無きAAのようです:2011/12/01(木) 09:24:47 ID:HknsixXc0

( ^ω^)) 「ここだお」

ブーン声は仮面越しのせいでくぐもって聞こえる。
案内されたのは市場の中心。
小さな机と椅子がならべてあるだけの場所だった。

(´・ω・`)) 「こんなぼろいところが……?」

周りの商店は煌びやかな装飾が施されている。
これじゃあまるで貧乏店にしか見えない。

( ^ω^)) 「失礼だおね。錬金術師の店はここいらにたくさん並んでいるけれども、
        本物はブーンのところだけだお」

(´・ω・`)) 「ふぅん……」

確かに周りに見えるところで売っている商品はつまらないものばかりだ。
肌が潤うだとか、お金が増えるだとか、そんなつまらないものばかり。

( ^ω^)) 「じゃあ始めるお。 寄ってくるおー! 稀代の錬金術師!
        ブーンの夢見薬! 安いし買っていくおー」

ひとたびブーンが口を開けば、辺りには人だかりができた。
どうやらここらでも人気の錬金術師のようだ。
本物なのだから、当然だけれども。

45名も無きAAのようです:2011/12/01(木) 09:28:53 ID:HknsixXc0

( ^ω^)) 「この薬、なんと飲めば見たい夢が見れるようになるんだお!」

ブーンが箱から取り出したのは小さな瓶に詰められた琥珀色の液体。
同じものが、30ほど並んでいる。

( ^ω^)) 「じゃあ早速飲んでもらうお」

僕はその手から瓶を受け取り、一口だけ飲んだ。
全開と同じように、強烈な眠気がやってくる。

(´・ω+`)) 「よろし……く」

ブーンに体を預けるようにして座り込んだ。
意識は深海に溶けていく。

46名も無きAAのようです:2011/12/01(木) 09:34:45 ID:HknsixXc0

目が覚めたのはどの位経ってからだろうか。
客の様子を見ると、先程から変化していないからそう時間は立っていないのだろう。

( ^ω^)) 「何の夢を見たかお?」

ぼやけていた夢を思い出そうとする。

(´・ω・`)) 「空を……飛んでいた。次に、海を潜って魚と遊んでいたところで目が覚めた」

( ^ω^)) 「ということだお! みんな、買ってくれお!」

あちこちから声がかけられる。
瞬く間に完売してしまいそうな勢いだった。

「おうおうおう! 効果があるわけねーだろ!」

「夢の中のことなんて、いくらでも嘘つけるんじゃねーか!」

野次を飛ばしていたのは近隣の似非錬金術師の集団。
こちらに客を取られた腹いせをしてくる。

「みなさーん、そこの錬金術師は嘘をついているー。二人グルになっているからなー」

( ^ω^)) 「そ、そんなことないお! ちゃんと効力があるお!」

必死に抵抗するブーンだけど、人数が違いすぎる。

47名も無きAAのようです:2011/12/01(木) 09:40:01 ID:HknsixXc0

(´・ω・`)) 「ブーン、立場が悪いよ。明日にしよう。
       今日使ってくれた人が明日は味方になってくれるはずだ」

( ^ω^)) 「しょ、ショボンの言うとおりだお……。今日の販売はこれで終わりだお!
        明日も来るから、また買いに来てほしいお!」

購入できなかった人から罵声が飛んでくるけど、こればかりは仕方ない……。
効果を分かってくれる人がいれば、明日からも売れるはずだ。

家まで逃げるように帰ってきて、僕たちは椅子に倒れ込んだ。

( ^ω^)) 「予想してた通りだけど、いつもよりひどいお……」

うっとおしい面を投げ捨てる。

(´・ω・`) 「いつもあんな感じなのかい?」

( ^ω^) 「大体そうだお。あいつら、ブーンの販売の邪魔ばっかりするんだお……。
       自分達は碌なものも作れないのに」

(´・ω・`) 「ちなみに君、今まで何作ったの?」

48名も無きAAのようです:2011/12/01(木) 09:47:45 ID:HknsixXc0

( ^ω^) 「夢見薬だお。 後は胡椒の味がする魔法の粉、水が綺麗になる濾し機。他にもいろいろ作ったお?」

思わずため息が出てしまった。
ブーンのことだから、全て事実なのだろうけど、あまりにも胡散臭すぎる。

(´・ω・`) 「もっと現実に即したものを作りなよ……」

( ^ω^) 「錬金術はロマンだお。普通にできないことをするから面白いんだお!」

同じ錬金術師としてその言い分もわかる。
だが、現実的な道具に絞れば、あいつらも邪魔できないのにとは思う。

(´・ω・`) 「まぁいいや。さっさとお金ちょうだいよ」

( ^ω^) 「まだまだいっぱい残ってるおー」

ブーンが指差す先には、今日薬を運んだ箱が10以上積まれていた。
それを全部売りさばくとなれば、明日だけでは済まないだろう。

(´・ω・`) 「全部?」

( ^ω^) 「8割売れたら解放してやるお」

8割なら我慢しようか。
その日は夜まで販売戦略を相談し、僕らは寝ることにした。

内藤は薬を使っていたようだが、僕はやめておいた。

49名も無きAAのようです:2011/12/01(木) 09:54:06 ID:HknsixXc0

僕の予想は大いに外れた。
内藤と売り場に向かうと、そこには甲冑に身を包んだ数人の男が待っていた。

( ^ω^)) 「僕の売り場に何の用だお?」

「貴様か、この売り場の錬金術師は!」

「販売していた薬をすべて回収させてもらう!
強制的に人を眠りに落とす薬は危険すぎると判断された!」

(; ^ω^)) 「そんなっ! むちゃくちゃだおっ!」

(´・ω・`)) 「流石に酷すぎませんか?」

金属音と同時に僕らに槍が向けられた。
丁寧に磨かれたそれは人間ならばただの一刺しで殺しうるだろう。

「逆らうなよっ! 逆らえばこの場で処刑することも出来るのだ!」

騎士と言うのはどの場所でも傲慢なのだな。
大人しく従うか、と荷を下ろしたショボンだが、ブーンは驚くべき行動を取っていた。

(; ^ω^)) 「こ、これは研究の成果だお! 僕にはこれを売る権利があるお!」

箱を腹の下に抱え、うずくまって守るブーン。
上から騎士の蹴りが何度も振り下ろされる。

50名も無きAAのようです:2011/12/01(木) 10:03:44 ID:HknsixXc0

「さっさと、それを離せ!」

(; ^ω^)) 「嫌だおっ!」

周りで見ている連中は笑っているばかりで助けようともしない。
おそらく似非錬金術師が雇った人ごみで、中の様子が見えないようにされているのだろう。

「こいつっ……!」

騎士はその穂先を振りあげた。

(´・ω・`)) (まずいっ!)

ブーンがホムンクルスだとばれてしまえば、この先の商売は難しくなる。
最悪、捉えられて切り刻まれるのは分かっていた。

(; ^ω^)) 「ショボン!」

その声で斬られたのだと知った。
吹き出した血は赤く大地を濡らすが、それは一時的なもの。

僕の傷が回復していくことに、混乱の声が大きくなっていくのが分かる。

「化物めっ……!」

51名も無きAAのようです:2011/12/01(木) 10:06:37 ID:HknsixXc0

(´・ω・`) 「僕は……ホムンクルスだ。殺しても死なない。
       あんたの支配は受けないよ。僕は僕の生みの親である───様に従う!」

黙って見ていろ、とブーンにはアイコンタクトで伝える。

(; ^ω^)) 「…………」

(´・ω・`) 「行きずりの所を変な錬金術師に拾われたが、助かったよ。
       もう十分利用させてもらったからね。これは、せいぜいの恩返しさ」

ホムンクルスを作ることは禁止されている。
ブーンの安全と地位を守るには、こうするしか方法がなかったのだ。

「貴様っ! 誰に生み出されたっ!」

ほら、簡単に引っかかった。
騎士と言うのは頭の弱い奴が多い。
僕の……嫌いなタイプだ。


(´・ω・`) 「───様と言ったのさ。こんなゴミみたいな錬金術師にホムンクルスが作れるわけがないだろう」

「さぁ! 我等と一緒に王城まで来てもらおうか!」

またしばらく会えないかもな、ブーン。
元気で。

(´・ω・`) 「それは……断る!」

52名も無きAAのようです:2011/12/01(木) 10:15:08 ID:HknsixXc0

槍の間をくぐり抜け、全速力でローマ市街を駆け抜ける。
重装備をしている騎士なんかに後れを取るはずがない。

もともと長旅で鍛え抜かれている身体だ。

門をくぐり抜け、暫く走り続けた。

(;´・ω・`) 「はぁっ……はぁっ……」ここまでくればすぐには追いかけてこないか……
       身体が予想以上に重いな……」

お金は手に入らなかったけれど、まぁ問題ない。
ブーンの立場が守れたかどうかだけが気になる。

(;´・ω・`) 「また、時が経ってから見に来るかな……」

旅先は決めていないが、今までもずっとそうだった。
これからもきっとこうだろう。

それにしてもなぜこんなに体が重いのだろうか。
その原因は服にあった。

(;´・ω・`) 「馬鹿なのか賢いのか……」

大量の金貨が服の裏地に仕込まれている。
何かあった時のために、ブーンが用意してくれていたのだろうか。

姿見えぬ友に礼を言い、彼はローマを後にした。



2 ホムンクルスは稼ぐようです

53名も無きAAのようです:2011/12/01(木) 10:17:11 ID:HknsixXc0

支援ありがとうございました。
疲れたけれども、やっぱりながらは楽しい。
文章を生きたまま伝えられる気がする。
ミスが多いのはご愛嬌と言うことで。


目次

>>2   1 ホムンクルスは戦うようです
>>29  2 ホムンクルスは稼ぐようです

54名も無きAAのようです:2011/12/01(木) 10:31:23 ID:WPbd5HXs0

ショボンさんやっぱりカコイイな

55名も無きAAのようです:2011/12/01(木) 15:15:26 ID:f.SHBV4g0
面白いやん

56名も無きAAのようです:2011/12/01(木) 17:46:03 ID:.tlsKQv2O


ω・`最近では珍しい正統派ショボン

57名も無きAAのようです:2011/12/01(木) 20:47:10 ID:5KMLghqk0
夢見薬売ってくれよ…
しかしブーンもショボンもいい奴だ
面白かったおつおつ

58名も無きAAのようです:2011/12/01(木) 22:26:28 ID:h/xm2jXQO
面白いな
今後も期待!

59名も無きAAのようです:2011/12/01(木) 23:42:00 ID:kxTqlbJU0
イイネ
今後も期待

60名も無きAAのようです:2011/12/02(金) 00:15:13 ID:cO4JWOloO
引き込まれるわ面白い

61名も無きAAのようです:2011/12/02(金) 03:08:46 ID:J9cAFSBkO
サクサク読めて、続きが気になる作品だ 
違ってたらごめん、誰かの為の人?

62名も無きAAのようです:2011/12/02(金) 09:57:31 ID:qFOHwhYI0

>>61
違いますよー。


皆さん、レスありがとうございます。

今日の夜遅く(12:00前後)に投下できると思います。

63名も無きAAのようです:2011/12/02(金) 10:54:48 ID:qQat2VZI0
把握した

64名も無きAAのようです:2011/12/02(金) 22:56:22 ID:qFOHwhYI0

申し訳ないです。
24時からの用事ができたので、今から投下を始めます。

24時にいったん切りあげ、一時間ほどで戻ってくるかと思われます。

ながらなので、6〜7分に一レスくらいだと思います。

では、始めます。

65名も無きAAのようです:2011/12/02(金) 22:58:02 ID:qFOHwhYI0



3 ホムンクルスは抗うようです

66名も無きAAのようです:2011/12/02(金) 23:01:22 ID:qFOHwhYI0

(;´・ω・`) 「あーもうっ! しつこいっ!」

僕は今、逃げている。
何からって?


───人からだよ。

僕が恐れれるものはこの世に二つしかない、と信じたいね。
これ以上増えないでほしい。

一つは、孤独。

もうひとつは……


「待てえええええええええ、このホムンクルスがあああああ!!
ばらばらにして、臓器を一つずつ研究させて!
俺の研究手伝って!
この世の心理を教えて!

どこに逃げやがったあああああああ」

67名も無きAAのようです:2011/12/02(金) 23:03:52 ID:0Se6wFq.0
きてたっ!!
しえん

68名も無きAAのようです:2011/12/02(金) 23:08:42 ID:qFOHwhYI0

(;´・ω・`) 「はぁっ……はぁっ……」

(;´・ω・`) (どこにあんな体力があるんだよ……。
       ただのマッドサイエンティストじゃないのか?)

大木の陰に隠れて休む。
普段から大陸を移動し続けることで鍛えている僕が、
こうも易々と追いつめられると本当に人間か疑いたくなってくる。

「どぉ〜〜こにいるんだぁ〜〜い?」

足音はすぐ近くを通り過ぎて行った。

(;´・ω・`) (ふぅ……後はどうやってこの場所から逃げ出すかだけど……)

僕を囲う木々には特殊な紋が刻んである。
これは、錬金術師が好んで使う簡単な図形だ。

でもその効力は、思っていたよりもずっと優秀だった。
森に入った者を迷わせ、逃がせなくする錬金術。

そんなものは僕の知識には無い。


从 ゚∀从 「見ィ〜〜つけった!!」

69名も無きAAのようです:2011/12/02(金) 23:14:17 ID:qFOHwhYI0

(;´・ω・`) 「!?」

足音は確かに通り過ぎたはずだった。
それがなぜ、この人は僕の真後ろに立ってるんだ。

っていうか、僕の真後ろは確か木だったはずで……

え?

なんで?

从 ゚∀从 「諦めて俺の研究室に来てもらおうか」

腕を掴まれる。
見た目以上の力で握られているから、振り解けない。

(;´・ω・`) 「僕のホムンクルスとしての生き方はここで終わりか……無念……」

从 ゚∀从 「何言ってんだ? 殺しても死なないのがホムンクルスだろうが。
       とりあえず、自分で歩け。引きずるのは面倒だ」


白衣を着た女性はいい、そんなことを内藤が言っていたのを思い出した。
ああ走馬燈が見える……。

从 ゚∀从 「だから死なねーだろ」

70名も無きAAのようです:2011/12/02(金) 23:23:07 ID:qFOHwhYI0

从 ゚∀从 「ようこそ、ハインリッヒ博士の研究室へ」

髪はくすんだ灰色、服の上にはサイズの合わない白衣。
ハインリッヒと名乗った彼女は両手を広げて僕を研究室とやらに連れ込んだ。

(;´・ω・`) 「一体何の用だよ?」

僕を捕まえてこんなところに連れて来たんだ。
大体は予想できるけど。

从 ゚∀从 「テメーはホムンクルスだ、間違いないか?」

(;´・ω・`) 「そうだよ……」

ちなみに、僕は全身を横長の机に固定されて身動きが取れない。
抵抗する暇すらなかった。ほんとにこの人は人間なのか……。

从 ゚∀从 「すげーなぁ。構造はほとんど人と同じ。ちょっと失礼」

彼女がとりだしたのは銀色のナイフ。
切先がランプに照らされて鈍く光ってる。

(;´ ω `) 「っああああああああああああああ!」

僕の服をたくしあげると、いきなり腹部を切り開いた。
臓器を素手で弄られているのだろう。

とてつもない痛みと奇妙な感覚が全身を支配する。

71名も無きAAのようです:2011/12/02(金) 23:34:57 ID:qFOHwhYI0

从 ゚∀从 「ふむ、中身も人と変わらない。だけど人よりもずっとエネルギー効率がいいな。
       む……再生の力はどこから得ているんだ……?
       特別な器官はないし……ああなるほど。自然から得られるようにしてるのか。
       こんなの作れねーよ。どんだけ神サマとやらに喧嘩売ってんだ」

拷問が長く続かなかった。
身体の再生が終わると、痛みは嘘のように消える。

(;´・ω・`) 「なんてことするんだ……死ぬところだったじゃないか」

从 ゚∀从 「死なないけどな。お前を作ったのは誰だ? 高名な錬金術師なのか?」

(;´・ω・`) 「もう死んだ」

从 ゚∀从 「そうか。一度は会ってみたかったな」

遠い向こうを見る目は憧れなのだろうか。
錬金術師は他人の成果を奪い、嫉む存在だと思っていたけれど。

(´・ω・`) 「今度は僕が質問させてもらいますよ」

从 ゚∀从 「ああ、好きなだけ聞いてくれ。
       最近他の人間と話してないしな、質問に応えるのは大歓迎だ。
       ホムンクルスってことは錬金術の知識も多少あるだろうしな」

72名も無きAAのようです:2011/12/02(金) 23:41:05 ID:qFOHwhYI0

(´・ω・`) 「あなたはなぜ、僕を連れて来たんですか?」

从 ゚∀从 「勿論、ホムンクルスの存在を知りたかったからだ。
       テメーの存在は錬金術師の夢じゃねーか」

支配者たちはホムンクルスの存在を嫌い、作り出そうとすることすら禁止していると言うのに。
錬金術師は本当に愚かな存在だ。

あの人も……。

(´・ω・`) 「まぁ、そうですよね。僕がこの森から出られなかったのは?」

从 ゚∀从 「ああ、あれな。錬金術を土台にして、環境そのものに変化を加える。
       人や獣の五感を惑わすことができる。
       俺は【地金術】って言ってるけどな」

(´・ω・`) 「つまり弱虫に最適であると」

(;´・ω・`) 「やめてごめんなさい許して」

ハインは僕の頭の上に大槌を振りあげた。
あんなもので頭を潰されてたまるか……。
死なないとは言っても痛いんだよ……。

73名も無きAAのようです:2011/12/02(金) 23:46:50 ID:qFOHwhYI0

(´・ω・`) 「じゃあなたの力が異常に強いのもそれに関係が?」

从 ゚∀从 「半分正解だな。でもまーこっちも俺のオリジナルだ
       術者の血液に特殊な式を介在させることで、身体能力の向上を図ってる。
       【血金術】この二つが俺の研究の成果だ」

(´・ω・`) 「結論、よわ……」

最後まで言えなかった。
気づいた時には、頭のあった部分の机が完全に崩壊していた。

从 ゚∀从 「で、お願いがある。ホムンクルスの秘術、教えてくれないかな?」

(´・ω・`) 「知らない方が幸せですよ」

本心からだった。
満たされるのは、術師としての心だけだ。

生み出された僕らも、生み出したあの人も、その家族も。

(´・ω・`) 「興味本位で僕らを生み出させたりはしない」

从 ゚∀从 「……」

74名も無きAAのようです:2011/12/02(金) 23:53:34 ID:qFOHwhYI0

从 ゚∀从 「んーてめーが何か抱えているのはよく分かった。
       だけどな、俺もやる前からはいそーですかわかりましたってわけにはいかない」

(´・ω・`) 「プライド……ですか?」

从 ゚∀从 「俺は錬金術師として並大抵のレベルじゃない。それは分かってる」

その通りだろう。
ほとんどの錬金術師は、他人の模倣で満足してしまっている。
ごく僅かな金を得るだけで止まっているんだ。

それ以上を求めている術師はごく一握りだけ。
その点で言えば、オリジナル派生を生み出しているだけでも、
ハインは一流だ。

从 ゚∀从 「だがな、自分の身体を改造して、長生きしても未だにホムンクルスを生み出すことができない。
       人類の、人間の限界を超えることができてない」

从 ゚∀从 「だから頼むっ! 決して不幸にはさせねぇ!
       悪用もしねぇ! 俺にホムンクルス作成の秘術を教えてくれ」

言っていることをこの人間は守るだろう。
その真摯な目を見ればそのくらいは分かる。

だけど、それでも……

(´・ω・`) 「教えることは……できない」

75すいません、出てきます。:2011/12/03(土) 00:00:50 ID:Yr1wJzE.0

从 ゚∀从 「そうかよ……悪いが、俺に時間の余裕はそんなにねぇんだ。
       乱暴な手段を使わせてもらうぜ」

(´・ω・`) 「喋りませんよ……絶対にね」

痛みは苦しい。
それでも、僕らホムンクルスは人間よりもずっと痛みに強い。
心が強い。

何百年も生きていけるように、そう設計されている。
だから、何をされても喋らない。

不幸なホムンクルスは、僕らだけでいい。
そう思っていた。

从 ゚∀从 「がふっ……」

ハインは噴き出した血を白衣で拭う。
無理な人体の改変によって相当な負担が出ているのだろう。
そこまでして、なんで人間の神秘を知りたがるのか。

76名も無きAAのようです:2011/12/03(土) 04:03:30 ID:G1a4uxHgO
早く帰ってこーい

77寝てしまっていた……おはようございます:2011/12/03(土) 04:07:51 ID:Yr1wJzE.0

从;-∀从 「ふぅ……」

(´・ω・`) 「無理をしない方が……」

口を衝いて出た言葉は嘘じゃない。
この時点ではまだ、他人を心配するくらいの余裕があった。

从 -∀从 「悪いな……俺はどうしても知らなきゃならねぇ」

僕を縛りっていた机は、足側を下に傾けられる。
これでより部屋の中がよく見えるようになった。


乱雑に散らばった紙には、びっしりと計算式が書きこまれていた。
粉々になった実験器具が片づけられることなく散らばっている。

从 ゚∀从 「aqua regia 知ってるか?」

その存在を知らない錬金術師なんていないだろう。
金をも溶かす、王の水。

(´・ω・`) 「王水、ですか」

从 ゚∀从 「テメーの足元にあるガラスの入れ物の中にたまってるのがそれだ。
       後は想像にお任せするよ」

78名も無きAAのようです:2011/12/03(土) 04:17:33 ID:Yr1wJzE.0

緊縛が一瞬緩んだ。
身体がずるずると机をすべり落ちる。
次の瞬間に襲い来る激痛に向けた僕の覚悟は、吹き飛んだ。

(#´ ω ) 「ああああああああああああああああああああ
        ああああああああああああああああああああ
        ああああああああああああああああああああ」

足の指が形を無くし、骨までゆっくりと溶けていく。

从 ゚∀从  「俺の…存でいつも※められ──るんだ。
        無理せせせせず●せよ」

ハインの言葉の意味が理解できない。

(#´ ω ) 「ああああああああああああああああああああ
        ああああああああああああああああああああ
        ああああああああああああああああああああ」

足の先端の感覚はもうない。
そこに僕の足はないのだろう。

从 ゚∀从 「想像以上に頑固だな……」

ハインが僕を引っ張り上げたようだ。

足は既に修復し、直接的な痛みは無い。

79名も無きAAのようです:2011/12/03(土) 04:27:22 ID:Yr1wJzE.0

脳にガンガンと響く痛みは幻覚だ。
分かってはいても、耐えることは容易くない。

(#´ ω ) 「はぁっ……はぁっ……話しませんよ」

溶液は化学変化をして物質を溶かすから、溶かすことのできる総量は決まっている。
でもこの場合、僕の身体という不純物はこの世界から失われるから……。

从 ゚∀从 「この王水にずっと浸けててやることも出来るんだが。
       それをやってお前さんの精神がトんじまったら意味ないからな」

(#´ ω ) 「ああああああああああああああああああああ
        ああああああああああああああああああああ
        ああああああああああああああああああああ」

从 ゚∀从 「人間は継続的な痛みよりも、断続的な痛みに弱い。
       これは私の考えだけどな」

(#´ ω ) 「っあ…………」

从 ゚∀从 「痛みがない状態を頭で理解しちまうからだ。
       常に痛みがあれば存在しない『救い』に縋っちまう」

(#´ ω ) 「ああああああああああああああああああああ
        ああああああああああああああああああああ
        ああああああああああああああああああああ」

从 ゚∀从 「ホムンクルスはどうかな?」

80名も無きAAのようです:2011/12/03(土) 04:36:02 ID:Yr1wJzE.0

もう何度目だろうか。
修復と破壊を何度も何度も繰り返される。

目の前にはハインの言う『救い』があった。
ホムンクルスの秘密を喋ってしまえば、彼女はいとも容易く僕を逃がすだろう。

(#´ ω ) 「そ……れ……でも……無限の……不……幸と比……べれば」

生き続けることよりも苦しいことなんて、ない。
僕は、誰よりもそれを知っている。

从 ゚∀从 「……これでも喋らないか……。相当な精神力だなッゴフッ……」

何度目かの吐血。
白く綺麗だった衣は、汚れきっていた。

从;-∀从 「頼む……俺には時間がない……んだ」

人が倒れる音がした。
一定のリズムで繰り返されていた拷問は止まっている。

(#´・ω ) 「……?」

視界はぼやけているが、なんとか現状を理解した。
ハインは倒れたのだ。

81名も無きAAのようです:2011/12/03(土) 04:43:49 ID:Yr1wJzE.0

(´・ω・`) 「どうしてそこまで執拗に……」

右手の骨を折り、無理やり束縛から自由にする。
ホムンクルスの動きを真に止めようと思ったなら、
身体の全体を縛りあげなきゃいけない。

片手が自由になったところで、残りの拘束具を外した。

(´・ω・`) 「さようなら……」

血だまりの中にたたずむハインを置いて僕は研究室を出た。
はいって来た時の感覚で言えば、この森は大きくないはず。

(´・ω・`) (すぐに出れるか……?)

結果として、僕は研究室に戻ってきた。
ハインが倒れても森の術は消えておらず、独力での脱出は困難だと思ったからだ。

(´・ω・`) 「ハイン……起きてくれ……森から出るにはどうすればいい?」

頬を軽く叩き、意識を取り戻させる。

从;-∀从 「ああ……ここまでか……。俺の部屋にある鍵……を身につけてればすぐに出れるさ」

今の自分の状態を知り、諦めたのだろうか。
素直に森の抜け方を教えてくれた。

僕は研究室の奥にある扉を開けた。

82名も無きAAのようです:2011/12/03(土) 04:51:00 ID:Yr1wJzE.0

(´・ω・`) 「鍵……ね……」

おそらく鍵の形状をしているのではなく、
key としての役割を与えられたものが部屋の中にあるはずだ。

女性の部屋で探し物をするのは気がひけたが、
戸棚や机の引き出しをあさる。

そこで見つけたのは一冊の本だった。

(´・ω・`) 「これは……?」

普段の僕なら気にも留めなかったかもしれない。

ただの私物と割り切っていただろう。
でも今は、あれだけの拷問を与えられながらも、
ハインの行動原理を知りたいと思ってしまっていた。

そしてこれを見たらきっとわかるだろうとも確信していた。

だから鍵探しを諦め、椅子に座って表紙をめくった。

83名も無きAAのようです:2011/12/03(土) 04:58:53 ID:Yr1wJzE.0


パラパラと流し読みをする。


「今日は彼との結婚式がある」


「新婚生活がうまくいかない。料理の味で喧嘩をしてしまった」


「彼がイノシシを仕留めてきた。今夜は御馳走」


「娘が生まれた。大変だったけど、これからは家族三人で幸せに暮らそう」


「娘が初めて言葉を喋った。ママだった。ちょっぴり優越感」


「娘の額が熱い。夜遅くに、彼が医者のいる隣村まで連れて行った。不安で寝れない」


「娘が元気になって帰ってきた。何よりもうれしい」


「今日は5才の誕生日。お祝いの準備をしなきゃ」


書き連ねられているのは今の彼女と全く違う姿。
結婚し、子どもができ、幸せな家庭を築いていた。

何が彼女を変質させたのか。
それは次のページをめくってわかった。

84名も無きAAのようです:2011/12/03(土) 05:04:49 ID:Yr1wJzE.0

「彼が流行病にかかった。医者は治せな……
そんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんな」

ところどころ筆がにじみ、紙が皺っていた。


「近隣で一番有名な錬金術の先生のところへ行く。
そこでも治せないと言われた」


「苦しそうに呻いている……。助けてあげたいのに、私には何もできない」


「彼が死んだ……これからは娘と二人で生きていく」


日記はそこで終っていた。
おそらく娘も流行病で失ったのだろう。

だからこそ、ホムンクルスの秘術を求めた。
応用すれば、人を生き返らせることができると信じて。

机の上の小さな箱。
その中にあるのがこの森の鍵なんだろう。

(´・ω・`) 「骨……か」

小さな骨と大きな骨が一つずつ。

85名も無きAAのようです:2011/12/03(土) 05:14:09 ID:Yr1wJzE.0

(´・ω・`) 「……人間は愚かだ」

死者の魂は失われてしまっている。
ホムンクルスの秘術を駆使したって戻ってくることはない。

(´・ω・`) 「……」

ハインに与えられた苦痛は、もう忘れていた。

研究室に戻ってハインの体を持ち上げ、机の上に寝かせた。

(´・ω・`) 「せめて少しでも……」

最期に夢を見させてやりたかった。
愛する人のために、人の道から飛び出した女。
それは苦しい道だったに違いない。

だからこそ、報いてやりたかった。
それが自己満足だとしても。

簡単な延命治療で、彼女の苦痛を和らげる。

(´・ω・`) (ブーン、君の研究は役に立つかもしれない)

時間は無い。
それでも僕はやってみせる。

うろ覚えの術式を紙に写しだし、材料を用意する。
幸いにして優秀な術師であったハインの研究室には、
必要な物が全てあった。

86名も無きAAのようです:2011/12/03(土) 05:24:38 ID:Yr1wJzE.0

何度かの失敗を重ね、完成させるのに一週間もかかってしまった。

ハインはまだ、生きている。
おそらく、精神力だけで持ちこたえているんだろう。

(´・ω・`) 「ハイン…………これは僕のエゴだ。許してもらおうとは思わない」



琥珀色の液体を、ハインの喉に流し込んだ。
小さく喉が動き、液体は彼女に吸収される。


延命治療の苦しさに、歪んでいた顔の皺は取り除かれ、穏やかな顔で寝ていた。

心の支えを失った肉体は、じきに生命活動を停止するだろう。
それでも僕は、彼女を夢の世界に連れて行ってあげたかった。

せめて夢の中で、幸せであることを祈りつつ。

(´・ω・`) 「さようなら……」

森の術式の解明は終わっていた。
だから僕は二つの鍵を彼女の横に並べて家を出た。

87名も無きAAのようです:2011/12/03(土) 05:25:58 ID:Yr1wJzE.0


3 ホムンクルスは抗うようです  終了

88名も無きAAのようです:2011/12/03(土) 05:28:57 ID:Yr1wJzE.0

間があいてしまいすいません。
何とか終わりました……。
回を重ねるごとに長くなっている気がするのですが、きっと気のせいでしょう。

もし質問等ありましたら、書いていただければお答えします。

それでは、次回もまたすぐに。


目次

>>2   1 ホムンクルスは戦うようです
>>29  2 ホムンクルスは稼ぐようです
>>65  3 ホムンクルスは抗うようです

89名も無きAAのようです:2011/12/03(土) 05:43:39 ID:G1a4uxHgO
長くなってOKだよ

90名も無きAAのようです:2011/12/03(土) 08:55:40 ID:HhOMgQUs0
おっ、いいゾ〜これ

91名も無きAAのようです:2011/12/03(土) 09:18:34 ID:lSi.DR9k0


92名も無きAAのようです:2011/12/12(月) 17:23:45 ID:JA8mU53Y0




3 ホムンクルスは救うようです

93名も無きAAのようです:2011/12/12(月) 17:38:35 ID:JA8mU53Y0





4 ホムンクルスは救うようです

94名も無きAAのようです:2011/12/12(月) 17:39:41 ID:JA8mU53Y0


(´・ω・`) 「久々に来るな……」

僕は幾つかの山を抜け、やっとたどり着いた。
山の合間にある小さな村。

十年ほど前に来てから、どうなったのかが知りたかった。

(´・ω・`) 「顔を隠さないといけないな……」

僕を知っている人間はまだ生きているだろう。
顔を見られて騒がれるわけにはいかない。
持参した布を頭から被る。


目的さえ果たせればすぐに去るつもりだ。

背の低い樹木をくぐれば村の入り口のはずだ。
記憶の通り、背の低い柱が二つ地面にさっている。

(´・ω・`) 「倒れてるかと思ったけど、まだ立っていたか」

村は相変わらず寂れてる。
いつ人がいなくなってもおかしくない。

太陽が昇っているのに、人の姿が見えない理由はすぐに分かった。
入口から入ってますぐ進んだところに村人が集まっている。

95名も無きAAのようです:2011/12/12(月) 17:47:33 ID:JA8mU53Y0

そこにはこの村に無くてはならない自然のダムがあるはずだった。

(´・ω・`) (水が……)

かつて僕が来た時と全く同じ状況だった。

(´・ω・`) (なんのために僕が……)

以前訪ねた時も同じようにダムには水が無い。
できる限り水を手に入れる方法を教えて村を出たつもりだったのに、
それはどうやら実行されていないようだ。

(´・ω・`) (ってことは……)

村人をかき分けて奥まで進むと、そこには見覚えのある二人がいた。

一人はこの村の村長。
人間にしては恐ろしく長く生きている。

そして、もう一人は娘。
昔の面影が僅かに残っている。

(´・ω・`) 「やめろっ!」

僕は思わず声を張り上げてしまった。
村人全員の視線が突き刺さる。

96名も無きAAのようです:2011/12/12(月) 17:55:31 ID:JA8mU53Y0

/ ,' 3 「なんじゃ、ほまえは?」

l从・∀・ノ!リ人 「!?」

村人は皆、僕を訝しがるように見ている。
村の重要な儀式を、突然現れた見ず知らずのしかも怪しい恰好をした男に止められたのだ。
その反応は当然と言えた。

ただ一人を除いて。
村人のなかで、少女だけが僕の存在に気づいていた。

l从・∀・ノ!リ人 「ショボン先生……ですか?」

姿を明かすつもりはなかった。
ただ彼女が無事に生きていることを知りたかっただけだったのだ。

(´・ω・`) 「そうだよ」

でも、ばれてしまったのなら隠す必要はない。
そう判断して、僕は被っていた布を外した。

村人たちが動揺しているのが手に取るように分かる。
十年前に突然やってきた男が、その時と全く同じ顔で戻ってきたのだから。

(´-ω-`) 「まだ、こんなことをやっているのか」

僕はゆっくりと目を閉じて、過去を思い出す。
この村で、命を一つ救った時のことを。
小さな少女の、小さな笑顔を。

97名も無きAAのようです:2011/12/12(月) 18:09:41 ID:96btQqMUO
しえんしえん

98名も無きAAのようです:2011/12/12(月) 18:13:59 ID:JA8mU53Y0

■■■■■■■■十年前■■■■■■■■

(´・ω・`) 「おなか減ったな……」

たった一つ山を越えるつもりが、どうやら山岳地帯に迷い込んでしまったようだ。
行けども行けども緑しか見えなから、嫌になる。

食事はほとんどが果実や野草。
動物を調理する腕はあるけれども、捕まえる武器がない。

(´・ω・`) 「種火はあるんだけどな……」

旅をする錬金術師は意外と多い。
その土地の人に嫌われたり、領主に追い出されたりすることはよくある。

旅の必須アイテムは幾つかあるけれども、錬金術師ならば誰もが【種火】を持ち歩く。
特殊な液体を調合した後に、珪藻土に染み込ませたもの。
それに改良を加えて、威力を落としたのが種火だ。

旅先で火をつけるのに重宝する。

(´・ω・`) (でもま、調理するものがないと意味ないよね……)

足を引っ掛けて頭から地面に突っ伏してしまった。

(´・ω・`) (ん?)

顔に影がかかったのに気づいて見上げる。

99名も無きAAのようです:2011/12/12(月) 18:22:10 ID:JA8mU53Y0

l从・∀・ノ!リ人 「大丈夫……ですか?」

小さな少女が覗きこんでいた。
胸元が若干はだけ、僅かな膨らみを持つ柔肌が目に入った。

僕はあの豚とは違うので、それに見とれたりはしないが。
少し見えただけだ。少しだけ。

(´・ω・`) 「どうも、この辺に村でもあるのかい?」

l从・∀・ノ!リ人 「わからないのじゃ」

こんな山の中に十にも満たなそうな少女が一人歩いているのは驚きだった。
しかも、近くに村があるかどうかわからないという。

とりあえず、食料を持っているかどうか聞くべきか。
頭が働かない。

(´・ω・`) 「ところで、食べ物あるかい」

l从・∀・ノ!リ人 「ある……けど……」

少女の動きにつられて、その後ろを見る。
そこには巨大なイノシシが死んでいた。

100名も無きAAのようです:2011/12/12(月) 18:31:52 ID:JA8mU53Y0

(´・ω・`) 「君が殺したの……?」

少女が無手でイノシシを殺せるはずもない。
我ながら阿呆な質問だと思ったが、つい聞いてしまった。

l从・∀・ノ!リ人 「違うのじゃ。追いかけられて、木の上に登ったら、ぶつかって死んだのじゃ。
          でも生ではたべられん。 調理も出来ぬし」

なんとタイミングのいいことか。
僕は勝手ながら神様とやらに感謝することにした。

(´・ω・`) 「ああ……それなら僕に任せてくれないか」

腰から剣を引き抜き、イノシシの首に振り下ろす。
数十回の行為の末、首を落とすことに成功した。

次は内臓を引き出し、肉と骨を切り分けていく。
こういうことは何度もやっているから、それなりに得意だ。

l从・∀・ノ!リ人 「すごいのじゃ……」

(´・ω・`) 「さて、次は調理か」

血で汚れた両手を洗うために、荷物から蛇口を取り出す。
掌より少し大きいくらいの金属製の筒で、
片方は薄く広がっていて、反対側は丸くなっている。

これも錬金術師の旅の必需品。

101名も無きAAのようです:2011/12/12(月) 18:39:26 ID:JA8mU53Y0

大樹に切り傷をつけ、薄っぺらい方をそこにねじ込む。
水を呼ぶ特殊な金属を用いているから、木の水分を吸いだしてくれる。
ちょろちょろと流れ出る水で手を洗い、種火を使って火をおこす。

(´・ω・`) 「さて、焼き加減はどのくらいかな?」

l从・∀・ノ!リ人 「その水はどうなってるのじゃ? 教えてほしいのじゃ!」

僕の話は聞いてなくて、どうやら蛇口に夢中のようだ。
それもそうだろう。
こんな技術が山奥の国にあるわけがない。

(´・ω・`) 「その水、飲めるよ」

l从・∀・ノ!リ人 「飲んでもいいのか?」

(´・ω・`) 「勿論」

僕の蛇口はひときわ優れものだ。
出てくる水を可能な限り濾過し、そのまま飲めるようにしている。

他の錬金術師が作れば、木の中の水分が出てくるだけだ。
身体に毒な物を含んだままね。

l从・∀・ノ!リ人 「美味しいのじゃ」

102名も無きAAのようです:2011/12/12(月) 18:45:30 ID:JA8mU53Y0

l从・∀・ノ!リ人 「これさえあれば……村も……」

(´・ω・`) 「どうしたの?」

少女の声は小さすぎてうまく聞き取れなかった。
肉から滴る脂が火の中で弾ける。

外側はこんがり茶色に焼き、中まで火も十分に通す。

(´・ω・`) 「できたよ」

小さい目の欠片を少女に渡し、自分の分を取った。
齧ると中から肉汁がしみだしてくる。
臭みはなく、硬めの外側と中の柔らかな部分が絶妙に舌を刺激する。

(´・ω・`) 「うん、丁度いい焼き加減だ」

l从・∀・ノ!リ人 「こんなのおいしいの初めて食べたのじゃ!」

少女はびっくりするくらいよく食べた。

残っていた肉を燻製にするために、丁度いい木の枝と草を探す。
それらはすぐに見つかった。
準備を済ませ、少女に話しかけえる。

(´・ω・`) 「さて、君を村まで送っていこうと思うのだけれど」

l从・∀・ノ!リ人 「その必要はないのじゃ」

103名も無きAAのようです:2011/12/12(月) 18:55:54 ID:JA8mU53Y0

少女は頑なに僕の申し出を断る。
とはいえ、こんなところに置いていけるはずもなかった。

(´・ω・`) (埒が明かないな……)

(´・ω・`) 「君、名前は」

l从・∀・ノ!リ人 「イモジャと呼んでくれればいいのじゃ。お主は?」

(´・ω・`) 「僕はショボン。錬金術師のショボンだ」

そもそも錬金術を知っているとは思えなかったが、
何も言わないよりは分かり安いだろうと思ってつけ足した。

l从・∀・ノ!リ人 「れんきんじゅつし? よくわかんのじゃが、偉い人?」

(´・ω・`) 「まぁ、そんなものかな」

その解釈には甚だ問題があったが、その程度の理解で十分だった。
村まで送り届けた後には別れるのだ。

l从・∀・ノ!リ人 「じゃあ先生なのじゃ! ショボン先生!」

(´・ω・`) 「ははは……」

先生という言葉が出てきたことにむしろ驚いた。
山奥のコミュニティーに学校があるとは思えなかったからだ。

104名も無きAAのようです:2011/12/12(月) 19:02:10 ID:JA8mU53Y0

l从・∀・ノ!リ人 「先生、それが欲しいのじゃ」

イモジャが指差すのは僕特製の【蛇口】。

(´・ω・`) 「んーでも、これは僕の旅に必要だからな……。
      どうしてこれが欲しいの?」

l从・∀・ノ!リ人 「……村に、水が必要なのじゃ」

(´・ω・`) 「どういうこ……」

草むらをかき分ける音が聞こえてきた。
遠くから名前を呼んでいる声も。

(´・ω・`) 「呼ばれてるよね」

l从・∀・ノ!リ人 「……そうなのじゃ。イモジャは人柱じゃから。みんな探してるのじゃ」

(´・ω・`) 「どういうこと?」

下を向きながら少女は話す。

l从・∀・ノ!リ人 「……水がないのじゃ。水を神様にお願いするのに、イモジャを使うのじゃ
          誇らしいことじゃと、パパたママは泣いていたのじゃ」

105名も無きAAのようです:2011/12/12(月) 19:15:40 ID:JA8mU53Y0

隔離された村にはよくあることだ。
今まで何度も見てきた。

その時の理由が不作や災害などの違いはあるものの、
そういった儀式はどこでも行われていた。

何の解決策にもならないのに。

(´・ω・`) 「……村に、案内してくれないか?」

l从;∀;ノ!リ人 「死にたくないのじゃ! イモジャを連れて逃げてほしいのじゃ!」

(´・ω・`) 「それはできないよ。君は僕についてこれない。
       僕なら、君の村を変えることができるかもしれない」


「いたぞ!」


「捕まえろ!」


(´・ω・`) 「信じてくれ」

僕は、現れた男達に連れらて村に辿り着いた。
少女は隣で、ずっとすすり泣いていた。

106名も無きAAのようです:2011/12/12(月) 19:25:55 ID:JA8mU53Y0

/ ,' 3 「そのほとこはだれだ?」

「イモジャと一緒にいたので連れてきました。
先生様に用があるそうです」

なるほど、この村では年長者のことを先生と呼ぶのか。
それとも、長老の意で使っているのだろうか。
そんなことを考えながら、僕は年寄りと相対した。

(´・ω・`) 「初めまして。旅の錬金術師です」

/ ,' 3 「んほ?」

間の抜けた返事をする老人だが、村人たちが気づかないほど小さく反応した。
儀式が行われる背景には、二つの理由がある。

一つは、遥か昔から続いている例。
もう一つは、知識のある人間が悪用する例。

(´・ω・`) (後者だな)

錬金術師という言葉に反応した。
この村の誰もが首をかしげる中、この老人だけが。
僕の前では呆けたふりをしているのだろう。

目的は、おそらく……。

107名も無きAAのようです:2011/12/12(月) 19:35:09 ID:JA8mU53Y0

知識のある者が、人の命を使う儀式を行う理由などひとつしかない。


…………肉欲だ。


(´・ω・`) 「どうして人柱がいるのか、教えてもらえますか」

答えたのは長老の隣にいる男だった。

「雨が降らないんだ。見てくれ、ここに溜まっている水は底をつきはじめている」

(´・ω・`) 「なるほど……。それなら、私に任せてください。
      人柱など必要ありません。錬金術で解決できます」

村人たちがざわめくのが分かる。
錬金術の存在を知らない彼らは、
きっと僕を神に近しいものと勘違いするだろう。

(´・ω・`) (でも、それでいい。それでこの男の横暴は終わる)

必要なのは時間と労働力だ。

(´・ω・`) 「村の若い者を数人、そして一週間の時間を貰えませんか?」

この村は……イモジャは僕が救う。

108名も無きAAのようです:2011/12/12(月) 19:44:36 ID:JA8mU53Y0

水が逃げ出さず、集められる構造に。
自然のダムではそこまでできていない。

だからすぐに水が足りなくなる。
僕の錬金術と知識で、解決できる問題だ。


■■■■■■■■現在■■■■■■■■


そして僕は水の抜けにくいダムを完成させ、その翌日に雨が降った。
問題は全て解決されたはずだ。

それなのに……。

(´・ω・`) 「あなたは、どうしてここにいるんですか?」

この老人は追い出したはずだ。
悪事をばらし、村人たちに真実を告げ。

それがなぜ、年月が立って元通りになっている。
なぜ、イモジャがあの場にいる。

/ ,' 3 「ほっほ?」

/ ,' 3 「簡単ななこほ。村人たちが儂にもほめたのは、すぐにいなくなった神ほ代わり。
     長老ほしてのまほめ役」

109名も無きAAのようです:2011/12/12(月) 19:55:28 ID:JA8mU53Y0

l从・∀・ノ!リ人 「お久しぶりです……。先生がいなくなってしまい、やっぱり私達には長が必要だったのです。
          この人は村をおさめてくれました」

「そうだ。貴方とは違うんだよ!
知識だけを置いていったあなたとは!」

叫ぶのは村の住民たち。

「今までの全てを覆され、私達には縋るものが必要だった」

l从・∀・ノ!リ人 「今回の儀式は、真に雨を降らすために必要なのです。
          紛い物ではありません」

/ ,' 3 「そういうこほじゃ」

(´・ω・`) 「やめろっ……何のために僕は君を助けたんだ!」

荒巻の持つ刀が高々と掲げられる。
その真下には、座り込んだ少女。

立派に育った見目麗しき少女。

(´・ω・`) 「雨はそんなことじゃ降らないっ!」

浴びせられるのは罵倒。
雨は降ると信じてやまない村人達。

110名も無きAAのようです:2011/12/12(月) 20:10:34 ID:JA8mU53Y0

僕は少女の前に走り込み、振り降ろされた刀を体で受け止めた。

(;´・ω・`) 「っ……」

左肩から骨を砕き、肺を引き裂かれる。

(;´・ω・`) 「……ぼくが、悪かった。
       勝手にあなた達の慣習を破壊し、そのまま去ってしまった」

傷は、修復される。
元通りに。

(;´・ω・`) 「知識を授けただけで、自己満足してしまった。
        もう失敗はしない。今度は教え、そして導く」

/ ;,' 3 「なっ! 貴様! なにもほだ?」

(´・ω・`) 「僕は…………」

この村を救うには一つしか方法はない。
知識を正しく理解させ、歴史を教え、村を導く。


僕の時間はここでしばらくの間、費やされるだろう。
ただそれは、無限の前では一瞬にすぎない。


たった一人の少女を救うためには割の合わないことかもしれない。
だけど僕は…………人間を……この村の人を……救いたいと思ってしまった。
だから僕は、その一言を口にした。


(´・ω・`) 「……神だ」



4 ホムンクルスは救うようです  終了

111名も無きAAのようです:2011/12/12(月) 20:13:36 ID:JA8mU53Y0

お疲れさまでした。
若干かけ足になってしまった。

そして前回投下からこんなに間があくと思ってませんでした。
ごめんなさい。

支援ありがとうございました。
それでは、また。

>>2   1 ホムンクルスは戦うようです
>>29  2 ホムンクルスは稼ぐようです
>>65  3 ホムンクルスは抗うようです
>>93  4 ホムンクルスは救うようです

112名も無きAAのようです:2011/12/12(月) 20:33:37 ID:HDnsOhL60


113名も無きAAのようです:2011/12/12(月) 20:40:50 ID:2ynu3KAoO
ここからどうなるんだ…
乙!

114名も無きAAのようです:2011/12/12(月) 20:53:18 ID:3ZNl0W2o0


115名も無きAAのようです:2011/12/12(月) 21:15:59 ID:HWo8tTlk0


116名も無きAAのようです:2011/12/12(月) 21:47:16 ID:96btQqMUO
おつおつ
引き込まれるわ

117名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 09:45:32 ID:lsHJEv/k0
今年ももうすぐ終わりますね

来年が、皆さまにとってよい年でありますように

118名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 09:46:30 ID:lsHJEv/k0





5 ホムンクルスは治すようです

119名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 09:48:22 ID:lsHJEv/k0


僕は船に乗り海を跨いだ先にある大陸に足を踏み入れた。
その大陸には広大な砂漠と密林が広がっているそうだ。



技術が発展している北側の大陸と違い、南側は砂漠と密林が多くを占める未開の地だ。
とりあえず南端まで歩いてみるつもりで砂漠を縦断していた。



何日も砂漠を歩いていたら、正面からやってきた老婆に藪から棒に話しかけられた。
藪なんてものは一切見なかったけれど。



「お助け下さい、お助け下さい」

120名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 09:51:24 ID:lsHJEv/k0

(´・ω・`) 「これは……」

腕に抱えているのは生まれて間もないであろう子ども。

その肌には浅黒い斑点に覆われている。
息は浅く、額には汗の粒が張り付いていた。

よくよく見れば、襤褸切れから伸びた老婆の両腕にも同じような症状が出ていた。

(´・ω・`) 「どこから来られたのですか……?」

「ここから南にある小さな集落からです」

(´・ω・`) 「そんなところに村が?」

「ついぞさっきまではラクダがいたのですが、倒れてしまいました。
 どうか旅のお方、錬金術師と窺いますが、どうかこの子を助けて下さい」


こふっと小さな咳が一つ。
赤ん坊は腕の中で息を引き取ったようだ。


「そんな……っ……」

老女もまた血を吐いて倒れてしまった。

121名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 09:53:11 ID:lsHJEv/k0

(;´・ω・`) 「大丈夫ですか?」

話しかけても反応がないところを見るに、もう生きてはいまい。
一陣の風が老婆の身体を崩していく。
黒く変化した部分はひどく衝撃に弱いようだ。


(´・ω・`) 「こんな病気は見たことない……」

もし感染力の高い菌であるのなら、既に感染してしまったかもしれない。
果たしてこのホムンクルスの身体はいったいどうなるのか。
少なくとも風邪や他の病気にかかったことは無いけれども、どうなるかはわからない。


僕は好奇心と心配を半々に村へ向かうことにした。

(´・ω・`) 「とは言っても、南ってどの位行けばいいんだ……」

少なくとも、目の前は砂しか存在しない。
村があるとは到底思えないけれども、とりあえずは南に向かうとしよう。

(;´・ω・`) 「水は十分あるけれど……あっついなぁ……」

冷たい水が喉を潤してくれる。
今回、この砂漠行に当たって用意した特殊な水筒のおかげで、随分楽な旅路になってる。
気温が高いところでも、影響されることなく冷たさを保ってくれる代物。

122名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 09:54:22 ID:lsHJEv/k0

(´・ω・`) 「ふふふ……」


内藤と違って僕は実用的な物しか作らない主義なんだ。
これだって売りに出せば相当の金が稼げるに違いない。

一つ作るのにも相当な手間がいるから、売ろうとは思わないけどね。

(´・ω・`) 「これで三つめか」

大きな砂丘を跨ぐこと三つ。

(´・ω・`) 「あれか……」

小さなオアシスを中心にして集落があった。
簡易テントから察するに移動型部族なんだろう。

(´・ω・`) 「一体どうなっていることやら……」


生きた人間の空気がしない。
およそ生活痕は残ってないし、出歩いている人も見えない。


全滅も覚悟で村の一番で前にある家を覗いた。

123名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 09:55:09 ID:lsHJEv/k0

(´・ω・`) 「失礼します……」

悪臭漂うテントの中には真っ黒になった数人の死骸。
本来、死体が腐ればそこに蠅が湧くものだけれど、その様子はない。

(´・ω・`) 「これは酷いな」

乱雑に積まれた数十人分の死体と、元は人間であったであろう黒い山。
細かい炭の欠片にしか見えない。
おそらく二十人ほどの死体になるだろうな。

「誰だ?」

(´・ω・`) 「!!」

死体の山から声が聞こえた。
がさがさと動き、中からその声の主は姿を現した。

ともかく、生き残りがいるのはありがたい。
死体の山に埋もれていた相手を視認した時、驚き顎が外れるかと思った。



川 ゚ -゚) 「ショボン……」

(´・ω・`) 「クール……?」

124名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 09:55:55 ID:lsHJEv/k0


川 ゚ -゚) 「君とこんなところで会うとは思わなかった」

(´・ω・`) 「僕もだよ……」



無限を生きる僕は、同じく無限の人間と接することになる。
今日会った人間の、そのずっと先祖も知っているかもしれないし、
その子孫にも会うかもしれない。

世界が滅ぶまで、僕は新たに出会い続けるだろう。


その中で、ほんの少しだけ例外がいる。

僕の生み出した罪の生き物。

四人のホムンクルス達。

125名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 09:56:35 ID:lsHJEv/k0



怖くて

寂しくて。

僕は罪を形にしてしまった。
与えられた知識を用い、生み出してしまった。

最初の一人には、全ての知識を。
そして僕は自らの過ちを知った。

自らの命を断とうと、意識を寸断してしまった彼女を見て。

次に生み出した三人は完全な知識を与えることはしなかった。

それでも共に時を過ごすうちに内藤以外の彼らは僕を嫌い、姿を消してしまった。。
今はどこで何をしているのか知らない。

たたひとつ、死んではいないだろうということ以外は。


そして後一人。

あの忌々しい悪魔。
命以外の僕の全てを奪い取った男。

126名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 09:57:21 ID:lsHJEv/k0


川 ゚ -゚) 「変わらないな」

(´・ω・`) 「お互い様だろう」

川 ゚ -゚) 「そうでもないんだがな」

クールが持ちあげた腕は黒く、掲げられたそばから崩れていく。
血は一滴すら流れない。

(´・ω・`) 「それは……」

川 ゚ -゚) 「ああ……ホムンクルスが、病気になるとは、思わなかったか?」

(´・ω・`) 「何をしたんだ?」

彼女の会話を聞きとるのは苦労した。
喉も病に侵されているのか、一言喋るごとに間が空くからだ。

川 ゚ -゚) 「なぁに、ホムンクルスを殺す、研究だよ……」

(´・ω・`) 「……」

返す言葉がない。
彼女は僕と別れてからおよそ百数年の間、自らを殺し続けたと言うのか。

127名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 09:58:22 ID:lsHJEv/k0

(´・ω・`) 「……」

川 ゚ -゚) 「痛みは最初の、十年で慣れた。こうして、遊牧民族と一緒に、行動しているとな、
      色々珍しい場所にも行くからな。錬金術を対価に、養ってもらっていた。
      そこで開発したのが、この薬……いや病と言った方がいいだろうな」

クールは自重気味に呟いた。
彼女は自らを殺すために、一つの部族を全滅させてしまったことを知っている。

川 ゚ -゚) 「彼らを、殺すつもりはなかった。私は病が完成した時、静かにこの場所を離れた。
      小高い丘の上でそれを飲み、滅んでいくつもりだったのだ。
      私の身体は砂に埋もれ、この世の終わりまで見つからなかっただろう。それを……っ!」

苦しそうに息をする。

(´・ω・`) 「……」

川 ゚ -゚) 「……」

彼女が噛んだ下唇はぽろぽろと崩れていく。
涙が頬を伝って流れおちる。

川#゚ -゚) 「伝染しないように努力したつもりだった!」

あらん限りの叫び声は、彼女を壊した。

128名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 09:59:07 ID:lsHJEv/k0


川 ゚ -゚) 「君も終わりだな……ここで共に朽ちるのを待とうじゃないか」

(´・ω・`) 「……お断りするよ。僕はまだ、死ねない。それに……その病を後世に残すことは人間にとってどれ程の脅威か。
      それは分かっているだろう?」

川 ゚ -゚) 「……っ」

彼女とて人間を巻き込むのは本意ではないのだろう。
その時の自殺願望が勝っただけで、永遠に後悔し続けるに違いない。

川 ゚ -゚) 「勝手にやってくれ……私はこのまま朽ちていく。邪魔をしないでくれ」

目を瞑り眠ったように見えるクールを残し、僕は外の空気を吸った。
これが空気感染するのか、それ以外で感染するのか全く分からないせいでどうにも変な気がする。

(´・ω・`) 「さて、まずは探索かな……」

テントの数は意外と少ない。
一つずつ調べても大した手間にはならないだろう。

129名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 09:59:52 ID:lsHJEv/k0


(´・ω・`) 「ここは違う……ここも……ここも……」

それぞれに、ぼろぼろに崩れた死体が山と積んである。
まるで墓標のように、テントの下には死体が眠っていた。

中心にあるオアシスに密接した少し大きめのテント。
そこで僕は目当ての物を見つけた。

特殊な器具が所狭しと並べられている。
錬金術師の居所だ。

(´・ω・`) 「何を作ったのかを調べないといけないわけだけれど……きったないなぁ……」

よくよく考えてみれば、僕らの誰一人としてラボを綺麗にしている奴なんていなかったな。
ブーンはアレだし、クールもこの通り。
あいつに至っては……。

僕はそもそも研究所を持たないからなぁ……。

ざっと机の上を眺めるとすぐに見つけることができた。
こんなにもわかりやすく置いてあるとは思わなかったけど。

130名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 10:01:35 ID:lsHJEv/k0

(´・ω・`) 「ふむふむ……使ったのは鈍色サボテン、岩蠍。黒死病をベースにして……。
       粗方分かったな……。後はどうやって解毒するか、か」

細かいところはクールに直接聞かないと分からないだろう。

クールの眠るテントへの道すがら、ふと気配を感じて振り向いた。

「……」

一人の少年が立っていた。
腕は他の人と同じく患っていたが、随分とその範囲は狭かった。

(´・ω・`) 「君!」

「?」

首を横にかしげる。
どうやら言葉は通じるらしい。

(´・ω・`) 「……話せないのか……?」

コクリ、と頷いた。

(´・ω・`) 「ちょっと来てくれ……」

131名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 10:02:26 ID:lsHJEv/k0

腕を取り、病巣をよく調べる。
痛がるそぶりを見せないということは、もうすでに組織が死んでしまっているのだろうか。

(´・ω・`) 「後は、クールから聞き出すだけか」

錬金術は素材を的確な順番に調合することで、目的の効果を得る。
そこには術師の実力と意思が大きく関わってくる。

病巣のサンプルは嫌になるほどある。
だけど研究室で見つけた図には、肝心のことが書いてなかった。
クールが何を思い、どう考えて病原菌を作成したのか。

(´・ω・`) 「それさえ聞き出せれば、対為す調合はできるはずだ……」

「……」



(´・ω・`) 「クール! 生存者がいた!」

川 ゚ -゚) 「!?」

予想通り飛び起きてくれた。
その際に身体がばらばらに砕けて少年を酷く驚かせてしまったが。

132名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 10:03:09 ID:lsHJEv/k0

(´・ω・`) 「この少年を助けるためにも、手助けがいる」

川 ゚ -゚) 「だけど……」

(´・ω・`) 「いつまでもつかわからないんだ!
       調合にも時間がかかる」

何を迷う必要がある。
巻き込みたくなかった部族の生き残りだ。
助けないでどうする。

(´・ω・`) 「……」

川 ゚ -゚) 「…………メモをとる準備をしてくれ」

(´・ω・`) 「!」

クールの話は簡単だった。

調合で最も重視したのは持続性だということ。
どんな怪我でも完治してしまうホムンクルスの再生力は並大抵の毒では覆せない。

転移し増え続ける病巣の速度が再生を上回ることで死に続けることができる。

(´・ω・`) 「つまり……病原体の繁殖を抑えればいいわけか」

133名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 10:04:21 ID:lsHJEv/k0

川 ゚ -゚) 「感染源はおそらく、患部との接触によるものだ」

(´・ω・`) 「彼は一人で暮らしていたからな。感染が一番遅かったんじゃないか」

「…………」

(´・ω・`) 「君の研究所を借りるよ」

クール置いて飛び出した。
なにしろ時間がない。
既に少年を触ってしまった僕にも移っているに違いない。

クールのように動けなくなってしまえば、薬を作り出すことはできない。
何より早さが重要視される。

研究所にある素材を一つずつチェックする。
強い解毒効果は必要ない。
細菌の動きを緩めるだけでいい。

ただそれの酷く強力な奴を作らなければいけない。

少年の死んだ肌の細胞を純水に溶かし、少しだけかき混ぜる。
解毒作用を持つ月光草を潰して加え、煮沸する。

冷たい試験管の中に集まった水滴を人数分にとりわける。

─────三つの試験管に

134名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 10:05:06 ID:lsHJEv/k0

最後に、生き物の動きを鈍らせる成分を含んだ千年岩を粉末状にし加える。

(´・ω・`) 「よし……」

数日間月の光を浴びせ、調合を落ち着けさせることで完成する。

擬似的な月光を発生する月光石とともに暗室に放置した。
これで僕も、少年も……クールも助かるだろう。

ただ少年の場合は病巣を完全に取り除かなきゃいけない。
これは僕の仕事じゃない。


彼女がするべきことだ。

135名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 10:06:13 ID:lsHJEv/k0



(´・ω・`) 「できた」

三日という短い期間で薬は完成した。

少年の症状の進行は早く、半身に広がっていた。
すぐに薬を投与し、布を敷いた簡易ベッドで横になっていてもらう。

(´・ω・`) (それにしても恐ろしいものを作ったな……)

自由に扱える左手で薬を飲む。
実感はない。
確認する方法はただ一つ。

既に言うことをきかなくなっていた右腕を机に上に乗せ……

左手で刀を抜き、自分の右腕を斬りおとした。

……つもりだった。

(´・ω・`) 「いったっ!痛っ! これ無理! くそっ……」

136名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 10:07:19 ID:lsHJEv/k0

自分の力で斬り落とせないのなら仕方ない。
口と左手を使って、椅子に刀を縛り付けた。

(´・ω・`) 「ふー」

覚悟を決め机から飛び降りた。
右脇に刀が入り込むように。

(´・ω・`) 「うぎぎ……っ。はぁっ……はぁっ……」

勢いよく跳ねあがった右腕は地面に落ちると同時に分解していく。
もし、薬がうまく働いているのなら……ん?

……待てよ。

(´・ω・`) (薬の作用は病巣の進行を緩めること……。
       もし血液に乗って全身に回っていたらどうすればいいんだ……?)

復活した右腕は正常だけれど、既に病魔が巣くっている可能性があるわけか……。

(´・ω・`) (嫌だなぁ……つまり身体を一回綺麗にしなきゃいけないわけだよな……)

あーあ。
完全に不安を拭うにはそれしか方法がないか。

病原菌を持ったまま旅を続けるわけにもいかないし。

137名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 10:09:16 ID:lsHJEv/k0

……テントの中ではできないな。
ラボから火種の元になる強力な爆発物を持ち出す。




(´・ω・`) 「……クール。行くよ」

無視するクール。
肩を掴んで引き起こそうとした結果、腕だけがとれてしまった。



川 ゚ -゚) 「…………」



(´・ω・`) 「…………」

今度は身体全体を抱えるように持ち上げる。

川#゚ -゚) 「何をする気だ!」

抵抗する力は赤ん坊よりも弱い。
そんな彼女の軽い体を集落から少し離れた場所まで運んだ。

138名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 10:10:14 ID:lsHJEv/k0

(´・ω・`) 「今から、君を助ける」

川;゚ -゚) 「頼む……やめてくれ……後生だ……」

(´・ω・`) 「生き残った少年には治療が必要だ。それはわかってるはずだよね?」

彼の両腕はもう使い物にはならないかもしれない。
それでも彼はまだ生きている。

川 ゚ -゚) 「それは……君がやってくれ。君ならできるはずだ」

眼をそらすクール。

(´・ω・`) 「逃げるなよ。自分の罪から逃げるな」

川 ゚ -゚) 「……君がそれを言うか……私達を生み出した君が!!
      君さえいなければ!! こうはならなかった!!!」

クールの言葉は僕の心に深く刺ささった棘を押し込む。
ぐりぐりと捩じり込む。



(´・ω・`) 「……僕のことは関係ない。今は君のことを話している。
       君は償わなければならない。僕がそうしようとするように」

139名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 10:11:35 ID:lsHJEv/k0



川 ゚ -゚) 「…………」


(´・ω・`) 「僕の旅は自分探しだ。否定はしない。でも、それだけじゃない。
       ホムンクルスを殺す方法もまた、僕は探し求め続けている。
       探し続けなければならない」


川 ゚ -゚) 「…………」

(´・ω・`) 「やるぞ……」

小さなかけらを思いっきり地面にたたきつけた。





次に僕が意識を取り戻した時、足元は深く抉れていた。

川 ゚ー゚) 「……無茶苦茶をする」

再生を終えたクールが話しかけてくる。
両腕は元の白さを取り戻しており、顔色も健康そのものだ。

140名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 10:14:11 ID:lsHJEv/k0

(´・ω・`) 「さって、暫くはここを離れられないか」



深くため息をつくクール。
その顔に笑みはない。

川 ゚ -゚) 「恨むからな……。私は絶対お前を許さない」

(´・ω・`) 「……ああ」

川 ゚ -゚) 「ただ、それはそれだ。あの少年を救うために力を貸してほしい」

クールが頭を下げるのを見たのは初めてかもしれない。
どの道、完治が確認できるまではここを離れるわけにはいかないのだ。

(´・ω・`) 「……わかった」

僕と彼女は集落で待つ少年の元に駆け戻った。

彼を助けるために。





5 ホムンクルスは治すようです  終了

141名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 10:16:53 ID:lsHJEv/k0

皆さま、よいお年を
来年にまた会いましょう(たぶん)

今回は書きだめで投下させていただきました
(時間が無かったので)




>>2   1 ホムンクルスは戦うようです
>>29  2 ホムンクルスは稼ぐようです
>>65  3 ホムンクルスは抗うようです
>>93  4 ホムンクルスは救うようです


>>118 5 ホムンクルスは治すようです

142名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 10:24:21 ID:efbI7GkwO
おつー

143名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 11:45:35 ID:ph10P6Kg0
乙です

144名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 15:08:49 ID:yH/O7sJs0
おつー

145名も無きAAのようです:2012/02/05(日) 03:25:51 ID:kctV/m8cO
来年って今さ!

146名も無きAAのようです:2012/02/29(水) 01:32:43 ID:M9TLP5.IO
新年と宣言しすでに二ヶ月か経過しました。

お待たせしてすいません。

もう数日待ってください。
後少しで投下できます。

147名も無きAAのようです:2012/02/29(水) 02:06:10 ID:KMJWdmIM0
忘れてたけど待ってた

148名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:20:51 ID:sHdSpc460






6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです

149名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:23:47 ID:sHdSpc460


遠くへ……。


真冬の地。
降り積もる雪。

僕は歩く。
ざくざくと、深く足跡を残して。

それらは白く塗りつぶされていく。
おぞましい出来事を覆い隠すかのように。


僕は歩く。
雪が過去を埋め尽くしてくれることを願いながら。


(´ ω `) 「はぁ……はぁ……」

吐く息は白銀の世界に溶けていく。

何も考えずに足を動かし続けてもう一週間になる。
普通の人間ならとっくに息絶えて、狼の餌食になっているはずだ。

ホムンクルスゆえに、生きていれるというのはなんという皮肉か。

150名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:24:55 ID:sHdSpc460

眼を閉じて倒れ込もうとするたびに凄惨な光景がまぶたの裏に流れる。
その度に前を見て進む。

(´ ω `) 「やめろ……やめてくれ……」

僅かに吹雪が緩やかになり、林の切れ目に尖塔が見える。
そこから洩れる暖かな光に心ひかれ、門を目指す。

四つの尖塔のある比較的新しい教会。
門は押すとゆっくりと開き、中には人の姿は無かった。

教会内は物音一つしない。
それなのに僕の頭の中は甲高い悲鳴が鳴り響いている。

(´ ω `) 「ああ……」

怨嗟の声が頭の中で響き続ける。

ホムンクルスは死んで逃げることが出来ない。
一時的に意識が失われるだけにすぎない。
そんなわずかな希望にすがって、教壇の前で首を切り裂いた。
微かに見えた、飛び散った血液は人間と同じ色だった。

151名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:28:55 ID:sHdSpc460

どれだけの時間がたったのか分からない。
極僅かかもしれないし、数百年と経過しているかもしれない。
世界が滅びていてくれたら、どれほど救われていただろうか。


そんな馬鹿なことを考える。

焦点があった視点の先には、なぜかまだ湯気をあげるスープが置いてあった。

脳が空腹を訴える。
小さな木製のスプーンを恐る恐る手に取り、料理を口に運ぶ。

さらさらとした舌触り。
食べやすい大きさの芋は中まで味がよくしみている。


視界がぼやける。
僕は泣いていた。

まるで、人のように。
殺しても死なない化け物のくせに。

嗚咽をあげながら。

152名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:30:12 ID:sHdSpc460

僕は家族を救うことが出来なかった。
大切な物をすべて失った。

なのにのうのうと生きている。

これからの途方もない命の行方を恐れている。
そんな自分が嫌で、涙が止まらない。

(´;ω;`) 「うっ……っ……ううっ……」

蹲ってひたすら泣いていた。
そんな事では何の解決にならないことは知っていたけれど。

「あの……大丈夫ですか?」

背中から掛けられた小さな声。
振り向けばそこに小柄な少女が立っていた。

ぶかぶかの服は所々に繕った跡がある。
この近辺に住んでいるのだろうか。

⌒*リ´・-・リ 「この辺の人じゃないですよね……生きてますか……?」

153名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:31:02 ID:sHdSpc460

見知らぬ人間が怖くは無いのだろうか。
いや、ここらは平和な土地柄なのかもしれない。

それにしては言語が乱雑な気もするけれど。

(´ ω `) 「スープは君が?」

⌒*リ´・-・リ 「はい。余り物ですけど」

(´・ω・`) 「……ありがとう。美味しかったよ」

ゆっくりと立ち上がる。
体の芯が凍っているのか、うまく動けない。

⌒*リ´・-・リ 「……よかったら、家に来ますか? 暖炉に薪をくべる仕事がありますよ?」

(´・ω・`) 「……いや、いいよ」

優しくされたら動けなくなりそうだった。
だから誘いを断り、出口に向かって歩く。

⌒*リ´・-・リ 「そう……ですか。でも、とてもじゃないけど動けないと思いますよ」

154名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:32:22 ID:sHdSpc460

扉を開けた瞬間、吹雪が舞いこんできた。
目の前が真っ白に染まり、前がほとんど見えない。

⌒*リ´・-・リ 「ね? 私の家はすぐそこですから」

(´・ω・`) 「いや、いい。これくらいで、いい」

これだけ吹雪けば、夏になるくらいまでは眠れるだろう。

⌒*リ´・-・リ 「え?」

驚く少女を余所に、豪雪の中に踏み出した。
慌てた様子で腕を掴まれる。

⌒*リ;´・-・リ 「ちょっ、ちょっと待ってください! 実はですね、家に帰れなくて困ってるんです」

(´・ω・`) 「どうやって来たんだよ……」

少女の小柄な体でこれだけの雪を掻き分けられるとも思えない。

⌒*リ´・-・リ 「家は、この教会のすぐ裏にあるんですけど、さっきは今ほどひどくなかったんです」

(´・ω・`)  「…………」

⌒*リ´・-・リ  「帰らないと凍え死んじゃいます」

(´・ω・`)  「……送っていくだけだから」

155名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:34:50 ID:sHdSpc460

貰ったスープの分くらいは恩返ししてもいいだろう。
少女の指示に従い、雪をかき分けていく。
教会の裏側に回るまでに随分な時間がかかった。

⌒*リ´・-・リ 「どうもありがとうございました」

(´・ω・`) 「ああ、それじゃ」

⌒*リ´・-・リ 「ちょっと待ってください。スープ代貰ってませんよ?」

(´・ω・`)  「……え?……有料なの?」

当然無一文。
金目のものなんて何一つ持ってなかった。

⌒*リ´・-・リ 「伊達に一人で生きてるわけじゃないです。
         いいじゃないですか。今夜くらい泊まって下さいよ」

(´・ω・`) 「……僕が乱暴するとは考えないのか?」

⌒*リ´・-・リ 「身を守る術くらい心得てますし、
         教会でうじうじ泣いてるような人がそんなことするとは思えません」

手を引かれるがままに家の中に入る。
広い部屋には所狭しと薪が重ねられていた。

(´・ω・`) 「広いな」

156名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:35:59 ID:sHdSpc460

⌒*リ´・-・リ 「一人暮らしですけど、このくらいは必要です。
         ああ、寝るのは地面で寝てください」

確かにベッドは一つしかなく、どう考えても二人が寝れるサイズではない。
それならば、少女が床をさすのは自然なことだと思うのだけれど。

(´・ω・`) (何故親指……)


結局、勢いに流されて一晩泊まることになった。

勢い流されてとは、我ながら体のいい言い訳だ。
ただ独りでいるのが寂しかった。

誰かに優しくしてもらいたかった。

⌒*リ´・-・リ 「夜中は暖炉の火が消えないよにしてくださいね。よろしく」

それだけ言うと彼女は布団にもぐってしまった。

火花を見つめて時間を過ごす。
たまに薪を放り投げ、またうとうととする。


・  ・  ・  ・  ・  ・

157名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:38:23 ID:sHdSpc460



(´ ω `) 「やめろっ……!」

真っ直ぐに伸ばした手は空を切った。

(;´・ω・`) 「はぁっ……はぁっ……」

嫌な汗で全身が不快感に苛まれる。
少女は起きてこない。

息するのが苦しい。
生きるのが苦しい。

悪夢のような光景が何度もフラッシュバックする。

一睡もすることが出来ずに朝を迎えた。
日が昇る頃に少女は目を覚まし、調理場に向かっていった。

窓から外を確認するが、相変わらず吹雪いているし、半分ほどが雪に埋もれている。
この調子では扉は開かないだろう。

⌒*リ´・-・リ 「どうぞ」

差し出されたのはパンとジャムを少し。

(´・ω・`) 「これも有料……?」

158名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:39:46 ID:sHdSpc460

⌒*リ´*・-・リ 「勿論です」

少女は笑顔で答える。
迷ったものの、それを受け取りかじる。

その後は無言で過ごした。
少女にとっては苦痛だったかもしれないが、
僕は話す気になれなかった。

少女は黙々と手作業で何かを編んでいる。

二日が経ち、


三日が過ぎ、


四日目についに僕は口を開いた。


(´・ω・`) 「……聞かないのか?」

少しだけ、少女に興味を持ったからだ。
暖かい寝床に、暖かいご飯を食べ、だいぶ落ち着いてきていたというのもあった。

⌒*リ´・-・リ 「何をです?」

159名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:43:26 ID:sHdSpc460

(´・ω・`) 「教会にいた理由」

少女から先に理由を聞かれていたら、にべもなく断ったかもしれない。

⌒*リ´・-・リ 「言いたくないのならそれでかまいません。
         雪が積もって家からでれませんから、話すことしかすることがありませんけどね」

(´・ω・`) 「……」

自分から話を持ち出したものの、話したくはなかった。
だから少女の優しさに甘えることにした。

(´・ω・`) 「この辺りはいつも吹雪いているのか?」

⌒*リ´・-・リ 「この時期はたいてい。例年だと、後一週間ほどは身動きとれませんよ」

話始めれば、聞きたいことは次から次へと出てきた。

(´・ω・`) 「……食料は?」

⌒*リ´・-・リ 「当然、足りませんよ。少しでも雪がおさまったら、手伝ってもらうことがあります」

もともと一人分しか用意されてなかったのだろう。
僕が予定外を引き起こしてしまったなら、その責任はとらなければならない。

(´・ω・`) 「それじゃあ、必要になったら声をかけて」

160名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:45:06 ID:sHdSpc460

久しぶりに話したことで少し疲れたので、再び壁にもたれた。
眠ることは出来ないけど、休むことくらいなら。

⌒*リ´・-・リ 「せっかくの話し相手だと思ったのに」

(´・ω・`) 「僕なんかと話してもつまらないよ」

⌒*リ´・-・リ 「つまらないかどうかは私が決めます。それに、家主の要望には答えるべきじゃない?」

会話を楽しむ余裕は残っていなかった。
それゆえ、少女の話を聞き相づちを打っていた。

それは夏の祭りの話だったり、教会を造るときの話だったり、僕にとって新鮮で、心惹かれる物だった。

以前は家から出ることすら許されていなかったのだから。
主の仕事を手伝い、その娘の話し相手をしていた。外の世界のことはそのときに聞いた物が大半だった。

⌒*リ´・-・リ 「どうして泣いてるの?」

指摘されて初めて気づいた。
ぼろぼろと大きな粒がこぼれていた。

(´;ω `) 「いや、なんでもない」

手の甲で拭い、平静を装った。

⌒*リ´・-・リ 「なんでもいいなら、それでいいけですけど。それでですね、その時叔父さんが―――――」

161名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:48:11 ID:sHdSpc460

よくもまぁ、話題が尽きないものだ。
この雪の中ただ一人で暮らしていたせいで、人恋しいかったのかもしれない。

それにしても、なぜこんなところに一人で暮らしているのだろうか。
独り立ちする年齢には見えない。
なら、何か事情があるのだろう。

⌒*リ´・-・リ 「……気になりますか?」

(´・ω・`) 「え?」

⌒*リ´・-・リ 「私のことです」

どうやら顔に出ていたらしい。
顔を上げると少女の真っ直ぐな視線とぶつかり、目を逸らして謝る。

(´・ω・`) 「……ごめん」

⌒*リ´・-・リ 「謝らないでください。気になるのは当然ですよね。
         それに、まだ自己紹介もしてませんでした」

胸に両手を重ね、ペコリと一礼をする。
ドレスを着て教会で会っていたなら、どこかの令嬢かと思わせるような、そんなお辞儀だった。
その動作が過去の少女と重なって、胸を締め付ける。

⌒*リ´・-・リ 「リルケット・リファリアと言います。この辺りの人はリリーやリリって呼びます。
         あなたの名前は?」

162名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:50:05 ID:sHdSpc460

僕の名前。
主人からいただいた大事な名前。

(´・ω・`) 「僕は……ショボン」

⌒*リ´・-・リ 「変わった名前ですね」

(´・ω・`) 「僕もそう思う」

何故こんな名前にしたのか主人に聞いたことがあった。
その時に笑いながら答えられたのを覚えている。

がっかりしたようなしょぼくれ顔だからだ、と。

⌒*リ´・-・リ 「私がここで暮らしている理由は聞かないでくださると助かります」

ぎこちない笑顔で言う。
問いただすつもりなんか無かった。
隠し事をしているのはお互い様だ。

⌒*リ´・-・リ 「それにしても、ひどい雪ですね」

窓はすでに覆い尽くされており、部屋の明かりは暖炉の火だけだった。

それからも、少女の話を聞きながら時間を過ごした。
たまに僕も話した。

過去を思い出すのはつらかったけれど、少女と話しているだけで少し楽になれたから。

163名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:51:44 ID:sHdSpc460

話疲れたのか少女は寝息を立て始めた。
毛布をしっかりとかけ、火の番をする。
一人の時間になると忽ち自問自答が始まる。

楽になることは主人に対する裏切りではないのか。

幸せに生きる権利なんてないのではないか。

今すぐにでも死ぬべきではないか

堂々巡りで答えなんて出ない。
ただの徒労だと分かっていても、考えることをやめることができなかった。

(´ ω `) 「…………僕はどうすれば」


・  ・  ・  ・  ・  ・


⌒*リ´・-・リ 「起きてください、雪がやんでますよ」

揺すられて目を覚ました。

(´・ω・`) 「……?」

164名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:54:39 ID:sHdSpc460

窓から差し込む太陽の光が目にささる。
うずたかく積もった雪は、溶けはじめていた。

⌒*リ´・-・リ 「随分と長いこと寝てましたね。寒くて目が覚めたじゃないですか」

彼女の指は暖炉を指している。

⌒*リ´・-・リ 「まぁ、いいですけど。二日も暖炉の番を任せたのは私ですし。
         無理をさせてしまいましたか?」

(´・ω・`) 「いや……ごめん」

⌒*リ´・-・リ 「いい天気なので、食料を補充しておきたいのですが」

(´・ω・`) 「ああ、わかった。どうすればいい?」

ゆっくりと立ち上がる。
全身の気だるさはなくなっていた。

⌒*リ´・-・リ 「それでは、行きましょうか。それを持ってきてください」


シャベルに見えるけれど、金属部分は先端だけだ。
幅がこうも広くては地面は掘れない……いや、雪を掘るのか。
それならば、全体的に軽く作られているのも納得できる。

165名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:55:36 ID:sHdSpc460

(´・ω・`) 「わかった」

少女が扉を押してもびくともしない。
積もった雪がまだ重しになっているのだろう。

⌒*リ´・-・リ 「仕方ありません。窓から出ますよ」

少女は窓を開け、雪の上に飛び出した。

⌒*リ´・-・リ 「早く来てください。ここからはあなたの仕事です」

同様に窓から外に出て、雪を踏み固める。
そこからはシャベルを使って雪を崩し、体を使って道を作る重労働だった。
僕が道を作っている間、少女は後ろで方向を指示している。

(´・ω・`) 「ふぅ……少しくらい手伝ってくれないかな」

ホムンクルスの命は無限でも、体力は有限だ。
回復力は人間よりも僅かに優れている程度。
当然、作業効率はどんどん落ちていく。

166名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:57:03 ID:sHdSpc460

⌒*リ´・-・リ 「あなたのせいで、この雪の中食料を取りに行くことになっているんですけどね。
         それに私はあなたよりずっと力作業では劣ります。まぁ、いいですよ。それをかしてくだ」

(´・ω・`) 「後どれくらい?」

確かに食料が足りなくなったのは僕のせいだ。
それに諦めるのは癪だったので、話を遮った。

⌒*リ´・-・リ 「まだまだですよ?」

数時間かけて雪を掘り続け、大きな木にぶつかった。
幹は大人数人でやっと囲めるほど太く、枝は高くまで伸びている。
この雪で倒れないのだから、余程丈夫なのだろう。

⌒*リ´・-・リ 「やっとここまで来ましたか。随分かかりましたね」

(;´・ω・`) 「はぁっ……はぁっ……よく、言うよ…」

ここまでずっとぶっ通しで作業していたのだ。少しくらい休ませて欲しい。

⌒*リ´・-・リ 「もう少しです。頑張ってください。この右奥にあるはずです」

言われるがままに道を作る。
疲労は限界に達していた。

⌒*リ´・-・リ 「この辺ですね。少し待ってください」

少女は屈んで、その小さな手で雪の下側を掘っていく。

167名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:58:29 ID:sHdSpc460

⌒*リ´・-・リ 「あった。ありました」

掘り出したのは袋。

⌒*リ´・-・リ 「中に野菜が入ってるんです。冬はこうやって保存するんですよ。
         全部持って行こうかなぁ……んー、うん。じゃあこれもってください。家に帰りましょう」

渡された袋を抱え、来た道を引き返す。
何の問題も起こらず、あっさり帰ってくることが出来た。
汗で冷え始めた体を、暖炉で暖める。

⌒*リ´・-・リ 「さて、これで完全に雪が溶けるまではもちそうです。お疲れさまでした。何か食べますか?」

(´・ω・`) 「いや……今はいいよ」

体を動かしてるうちは嫌なことを考えなくてすむのだから、悪くないかもしれない。
そんなことを考えていた。

⌒*リ´・-・リ 「もし、もしこれからどうされるのか決まっていないのでしたら……ここに住んでくださってもいいですよ」

(´・ω・`) 「考えさせてもらうよ」

168名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:02:46 ID:sHdSpc460


もし許されるのなら、少女と生きてみたいとすら思っていた。
あいつら以外の人間をも恨み続けることなんて、もとより僕には出来ないのだ。

僕は人間が好きだから。
それに、この娘はあいつらとは関係がない。

⌒*リ´・-・リ 「音楽は嫌いですか?」


音楽についての僕の知識は乏しい。

完璧な存在として説明されている文献が多いホムンクルスだけれど、僕はそうではない。
そもそも生まれながらにして森羅万象を知ると、精神に異常をきたしてしまうそうだ。
それに、人間社会にも適合できない。

実際にホムンクルスを作った僕の主人が言うのだから間違いないのだろう。
音楽や美術、人の心理、人間関係について自ら学ぶことで情緒が育まれ、心を得る。

⌒*リ´・-・リ 「あのー?」

(´・ω・`) 「ん……ああ……いや、そんなことはないけど」

考え事をしていたせいで反応が遅れ、間抜けな返事をしてしまった。

169名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:04:06 ID:sHdSpc460

(´・ω・`) 「昔のことを思い出してて。楽器の演奏が出来るの?」

⌒*リ´・-・リ 「少しだけですけど」

階段を上り、二階から持って降りてきたのは木で造られた横笛。
大事そうに抱えられたそれは随分古い物のように見える。
少女は二、三回音を調べるようにならす。

⌒*リ´・-・リ 「それでは」

鳥の囀りのような高い音から演奏は始まった。
短く区切った調子のリズムからゆったりとした長いリズムへ。
音域を全体的に下げ落ち着いた雰囲気を醸し出す。

(´-ω-`) 「……」

技術で言えば決して上手ではないのだろう。
たまに意図せぬ音を出してしまったであろうことが表情から読みとれた。
しかし、音楽として聞くのであれば、それは非常に心惹かれるものだった。

⌒*リ´・-・リ 「どうでしょうか……?」

恐る恐る尋ねてくる少女。

170名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:05:06 ID:sHdSpc460

(´・ω・`) 「とてもよかった」

それ以上に今の気持ちを表現する言葉を知らない。
それでも、少女には十二分に伝わったようだ。

⌒*リ´*・-・リ 「それはよかったです。では調子にのってもう一曲」

目を閉じて聴覚に身を任せる。
音楽が心に沁み込む。

少女は気の向くままに笛を吹き続ける。


・  ・  ・  ・  ・  ・


⌒*リ´・-・リ 「晩御飯ができましたよ」

揺さぶられて起こされた時、辺りはすっかり暗くなっていた。
窓からは月明かりが射しこんでいる。

(´・ω+`) 「ん……寝てたのか……」

⌒*リ´・-・リ 「それはもう、ぐっすり」

171名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:08:04 ID:sHdSpc460

机の上には二人分の食事が用意されていた。
切り分けられたチーズ。
一口サイズのパン。

瓶の中に入っているのは葡萄酒だろうか。
小さなグラスが二つ並べてある。

スープには今日取りに行った根野菜が豊富に使われていた。

⌒*リ´・-・リ 「神の恵みに感謝します」

少女が祈りが終わるのを待ってから、食事に手をつける。
神なんて信じちゃいないから、祈りはしない。

(´・ω・`) 「……おいしい」

⌒*リ´*・-・リ 「当然です」

僕と少女の生活はきっとこの日から本当の意味で始まった。

172名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:09:42 ID:sHdSpc460


季節が変わり雪が融け始めてからは、畑の手伝いをすることになった。

村長にも会い、挨拶もそこそこに僕が暫くこの村にとどまることにしたと話した。
陽気な老人で、少女のことをよろしく頼むと任されたが、
現状よろしく頼まれているのは僕の方だった。

(´・ω・`) 「何をすればいい?」

共同生活の一員として生きることに関して、僕は質問してばかりだった。
それなのに彼女は嫌な顔一つせずに教えてくれた。
僕の得意な錬金術は、道具がなければ毛ほどの役にも立たない。
こんな田舎の土地に道具があるはずもなかった。

⌒*リ´・-・リ 「……こうやって左手で押さえながら、そうそう」

朝は今まで少女が任されてきた仕事を習う。
それが終わった後は、割り当てられた畑を耕す。

「おーい! ショボン君、こっちも手伝ってくれないか?」

懸命に働いていたからか、村人達はすぐに僕を受け入れてくれた。

畑仕事を夜までやって、家に帰って葡萄酒を飲む。
そんな人間らしい生活も楽しかった。

173名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:11:13 ID:sHdSpc460

(´・ω・`) 「お疲れさま」

⌒*リ´・-・リ 「お疲れさまでした」

そうやって過ごしていた僕らの関係は、ただの同居人だった。
村人達ははやし立てていたけれど、当人達にそんな気はなかった。

それが大きく変わったのは季節が一回りしてから夏に入って少しした頃。

彼女との生活は一年と半年ほど経っていた。

いつも通りに僕は村から一番離れた山の麓で野菜の手入れをしていた時、
山から下りてきた巨大な熊とはち合わせになった。

持っていたのは小さな鎌一つ。
腹を空かせた熊をそのままに逃げることは出来なかった。
畑に居着いてしまえば、村人達に危害が加わるかもしれない。

それに、どうせ死にはしないのだ。
肝を据えて鎌を構えて対峙する。


熊が勢いよく飛び込んでくる。
一瞬の内に振り下ろされた一撃で、どうやら頭を吹き飛ばされたらしいことを回復してから理解した。
一方右手の鎌は熊の腕を軽くひっかいた程度の傷しか与えてないようだ。

:・;、・ω・`) (毛が邪魔して刃が通らない……)

174名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:12:42 ID:sHdSpc460

死んだフリをしたまま作戦を練る。
熊はゆっくりと僕に覆い被り、呑気に鼻を動かしていた。

(´・ω・`) (死肉だとでも思ってるんだろうな)

牙をむき出しにし、頭を食いちぎろうとした瞬間、鎌を目に向かって突き出した。
熊は悲鳴とともに後退する。

その隙につけ込んで、もう一太刀浴びせようと飛び込んだが、鋭い爪で横なぎにされ数秒間宙を舞った。

(#´-ω・`) 「がっ……ってえああああああああ」

腸が露わになっていた。
痛みで意識が飛びそうになるのを必死にこらえる。
治癒に時を要している間に、熊の方も落ち着きを取り戻したように見えた。

(#´・ω・`) 「もう一つの目玉も潰してやる」

完全回復を確認し、不自由な左目の側から懐に飛び込む。
コンマ数秒反応が遅れ、右腕の振り下ろしが襲ってくる。
それを紙一重で避け、残された目玉を潰して終わるはずだった。

⌒*リ;´・-・リ 「ショボンっ!!」

175名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:13:32 ID:sHdSpc460

その声に動きが僅かに鈍る。
必殺の攻撃と目潰しは同時に入った。

僕は彼女の前で……初めて死んだ。

⌒*リ´;-;リ 「ショボンっ……ショボンっ……」

怒り狂った熊を恐れず、彼女は僕の元へ一直線に走り来る。

⌒*リ´;-;リ 「そんな……嫌だよ……ショボンっ!」

(#´-ω・`) 「だい、じょうぶ、だから」

⌒*リ´;-;リ 「大丈夫なわけが、こんなに血も出て……」

そこまで言って気づいたようだ。
傷が余りにも浅いことに。

それも、驚異的な速度で治癒していることに。

「ショボンっ!大丈夫か?」

村の男達が熊に気づき武装して近づいてくる。
視力を失った熊に驚きつつも、複数人で槍を突き刺してとどめを刺す。

176名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:14:44 ID:sHdSpc460

「お前がやったんか?」

(´・ω・`) 「はい」

「怪我は?」

体中についていた血痕はすでに消えてなくなっていた。
服はボロボロになっているけれど、傷さえなければ大丈夫だろう。

(´・ω・`) 「ありません」

「そうか。今度からは無理をするなよ」

(´・ω・`) 「すいませんでした」

⌒*リ´・-・リ 「……ショボン、家に帰るよ」

彼女の一歩後ろを歩き、帰路についた。
家に着くまでの間、彼女は一言も口を利かなかった。

⌒*リ´・-・リ 「……どういうこと?」

てっきり化け物扱いされると思っていたから、家に帰ってきて最初の一言にひどく安心した。
もはや隠すことはかなわないと知り、正直に打ち明ける。

(´・ω・`) 「僕は……人間じゃない。ホムンクルスだ……」

177名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:16:30 ID:sHdSpc460

⌒*リ´・-・リ 「ホムン……クルス……?」

(´・ω・`) 「動いて喋って考えて……死なない、作り出された命」

簡潔に言えばそういうことだ。
細かい点だと体内構造も若干違うし、痛みという刺激に対する反応も鈍い。
だがそんなことは説明しても無駄だろう。

(´・ω・`) 「今まで騙しててごめん……」

知られてしまえば、もうここにはいれない。


去ろう。
彼女の元から。

いずれ村の人にも知られるかもしれない。
そうなれば、彼女たちの平穏な暮らしを乱してしまう。

⌒*リ´・-・リ 「私は……私は……」

(´・ω・`) 「さようなら。今までありがとう」


精いっぱいの感謝を籠めて、別れの言葉を告げる

178名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:17:40 ID:sHdSpc460

彼女のおかげで、過去を忘れることができた。

彼女のおかげで、生きていることができた。

だから、彼女のために去ろう。

⌒*リ´ - リ 「待ってっ……!」

反応する暇もなく、後ろから抱きとめられた。

⌒*リ´;-;リ 「別に……あなたが死なないだとか、作られただとか、そんなことはどうでもいい。
         私は、あなたと一緒にいたい。それでは駄目ですか……?」

(´-ω-`) 「リリ……」

⌒*リ´;-;リ 「初めて……」

(´・ω・`) 「え?」

⌒*リ´;-;リ 「初めてちゃんと名前呼んでくれたね……。
         村の人にも分かってもらえるように努力するから……。
         だから……これからも、一緒にいてください」

枯れてしまったと思っていた涙が、とめどなく溢れて来ていた。

(´;ω;`) 「うん……っ。うん……っ」

何も答えることができず、ただひたすらと頷いていた。

179名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:21:30 ID:sHdSpc460







6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです  End

             ↓

7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです

180名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:27:49 ID:jWEMM4Uk0
乙。面白い

181名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:30:07 ID:sHdSpc460

>>2   1 ホムンクルスは戦うようです
>>29  2 ホムンクルスは稼ぐようです
>>65  3 ホムンクルスは抗うようです
>>93  4 ホムンクルスは救うようです
>>118 5 ホムンクルスは治すようです


>>148 6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです



今回は過去の話になります。
書きたい話を書きたい順に書いていたらこんなわけのわからない順番に……。
簡単な順番を書いていくことにします。


ホムンクルス生誕
   ↑
   ↓
6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです
   ↑
   |
   |
   ↓
1 ホムンクルスは戦うようです
   ↑
   ↓
2 ホムンクルスは稼ぐようです
   ↑
   ↓
3 ホムンクルスは抗うようです
   ↑
   ↓
4 ホムンクルスは救うようです
   ↑
   ↓
5 ホムンクルスは治すようです

182名も無きAAのようです:2012/03/03(土) 07:09:19 ID:Xz0hmNawO
いつの間にか続き来てた 
この後のリリとの離別から心を失していくのか

183名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:21:22 ID:RpSgo5Fo0







7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです

184名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:22:20 ID:lJ2in0Fc0
きたか!

185名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:22:22 ID:RpSgo5Fo0



僕は彼女にすべてを話した。

優しかった家族のこと。
残虐で、許し難い事件のこと。

話し終わった後、彼女も教えてくれた。その凄惨な過去を。


⌒*リ´・-・リ 「私の生まれは、もう気づいていると思います。それなりの良家でした。
         父は教会の牧師、母はそれなりに土地を持った家の一人娘でした」

⌒*リ´・-・リ 「父も母もとても優しくしてくださったのを覚えています」

彼女の住んでいた地域は聞いたことがあった。
宗教戦争でその地に住んでいた人は残らず殺されたと、そう風の噂で耳にしていた。

⌒*リ´・-・リ 「それは突然でした。朝方に村を異国の軍隊が襲ってきたのです」

⌒*リ´・-・リ 「ですが、私の家は傷一つつくことはありませんでした。
         なぜなら父は異国の軍隊の進撃を知っていたので、家族の命と引き替えに、村を売っていましたから」

⌒*リ´・-・リ 「それから1ヶ月は毎日が豪勢な生活でした。
         父が何をしたのかは私にも分かっていましたが、命が助かったことに素直に喜んでいました。
         それほど村人達は酷い目にあわされていたのです」

186名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:23:17 ID:RpSgo5Fo0

⌒*リ´・-・リ 「男達はほとんどが家族の前で見せしめに殺され、残りは家畜同様の奴隷として扱われました。
         若い女は何十人もの兵士に乱暴され、拷問され、玩具のように捨てられました」


⌒*リ´・-・リ 「私の家族だけが平和に暮らしていたのです。しかしその生活もすぐに終わりました。
         元々私たちの信仰していた宗教が、討伐軍を送ってきたのです。
         異国の兵はあっと言う間に打ち負かされ、逃げていきました」


⌒*リ´・-・リ 「その日からは地獄でした。父と母は私の目の前で拷問されました。
         私自身は二人が死んだ後にいたぶる予定だと聞きました」


⌒*リ´・-・リ 「どのくらいたったのか分かりませんが、一週間よりはずっと長かったと思います。
         父が先に死にました。今から思うと村人の怒りは直接敵を導いた父に強く向かっていたからなのでしょうね。
         母はその後も苦しめられました」

⌒*リ´・-・リ 「父が殺された3日後の夜、母も息絶えました。
         いよいよ私も、あの少女達のようにボロボロにされるのだと思い、牢の隅でおびえていました」


⌒*リ´・-・リ 「しばらくして鍵の開く音がし、私は鼻息を荒くした一人の男に力ずくで地面に押さえつけられました。
         そこで必死の抵抗をし、なんとか逃げ出すことが出来ました。
         鍵番が独断で来たおかげで助かりました」

187名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:24:00 ID:RpSgo5Fo0

⌒*リ´・-・リ 「そこからは覚えていません。ただひたすらに走り、逃げ続けました。
         気づいたときにはこの村のベッドで寝かされていました」


⌒*リ´・-・リ 「持って来れたのは、普段から肌身話さず大事にしていた、父の手作りの笛だけです」


⌒*リ´・-・リ 「……これが私の話です。……嫌いになりましたか?」


心配そうに尋ねてくる彼女に頭を振った。

(´・ω・`) 「そんなことはない」


話が終わった時、太陽は沈み空には星が輝いていた。
僕らは狭いベッドに手を繋いで並んで眠った。

(僕たちはきっと、お互いの傷をなめあいながら生きていくのだろう)

意識がとぎれるほんの少し前にそんなことを考えた。

188名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:25:04 ID:RpSgo5Fo0


僕はまず、村長に事実を話した。僕がホムンクルスで錬金術師だということを。
ちゃんと理解してくれたかどうかは怪しかったけれど。

僕たちは僕の正体を隠さないことに決めた。
これだけ小さな村であれば外部との接触もほとんどないだろうし、隠したままでバレたときの方が困ると考えたからだ。

仲のよい村人から順々に。
皆は一様に驚いていたけれど、受け入れてくれた。
ひと月もしない内に、村人の中で僕の真実を知らない者はいなくなった。

危ない仕事を積極的に引き受け、村のために働いた。
唯一困ることと言えば、衣服が破けてしまうと戻らないといったことぐらいだ。

順風満帆な生活だった。


それが崩れたのは、僕は彼女に出会ってから三年近く経ったある秋の日。


・  ・  ・  ・  ・  ・


一人の兵士が僕たちの村を訪れた。
戦争で用いる長槍を携え、馬に跨って。

男は自らを素性を明かさず、村中の人間を集めるように指示した。

189名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:26:22 ID:RpSgo5Fo0

「今すぐだ! 早くしろ!」

程なくして僕たちは一カ所に集められた。

(´・ω・`) 「!」

他の村人が不審がる中、僕はすぐに男の目的を知る。
その黒い鎧に輝く銀色の蛇の文様。
この世で僕が最も憎む対象を身に纏っていた。

「集まってもらったのは他でもない、みなに協力してほしいことがあるのだ」

(´・ω・`) 「……」

「とある男を捜している。危険な化け物だ。
 そいつは人の形をしているが、怪我はすぐに治り、殺しても死なない。心当たりのある者はいるか?」

空気が一瞬で張りつめた。誰もが僕のことを想像したのだろう。
しかし、誰一人として口を割らなかった。

「隠して特をすることはない。知っているのなら速やかに告げよ。もし正しい情報を提供すれば、金一袋をやる」

じゃらじゃらと見せつけるように巾着を振る。
それでも、声を上げる者はいなかった。

190名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:27:53 ID:RpSgo5Fo0

「ふむ……二、三日この村の入り口にいる。話をする気になったのなら来い」

それだけ言って、歩いていった。僕はその背に襲いかからないように、全神経を集中させなければならなかった。

⌒*リ;´・-・リ (ショボンっ……)

(;´・ω・`) (分かってる)

村人たちは各自の仕事に戻り、僕らはいったん家に帰ることにした。

⌒*リ´・-・リ 「あれって……」

(´・ω・`) 「間違いない。嗅ぎつけてきたんだ」

部屋の中には液体の入ったフラスコと、数種類の粉末が置いたままにしてある。
行商から怪しまれない程度に購入していた物だ。
村に対する恩返しにと、時間を見つけては研究をしていた。

ここから足がついたのかもしれないと歯噛みする。

⌒*リ´・-・リ 「どうすれば……」

リリと僕は全く逆のことを考えているだろう。

(´・ω・`) (どうすれば、村人に危害が加わらない?)

191名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:29:58 ID:RpSgo5Fo0

粉末は一部を残して、全て暖炉に放り込む。
フラスコも同様にし、錬金術の証拠隠滅をはかる。

(´・ω・`) 「……」

入り口で待つと言っていた辺り、確信に近い何かを持っているのだろう。変な誤魔化しはきかない。
疑いたくはないが、密告者の可能性も考えられる。

(´・ω・`) 「リリ、僕はここから離れる。君たちは脅されていただけだと言うんだ。いいね?」

⌒*リ´・-・リ 「そんなっ! みんなで考えれば解決案だって……!」

(´・ω・`) 「そんな時間はないし、あいつらはそんなに優しくない。軍隊を送って皆殺しにしていないのが不思議なくらいだ」

あいつならその程度の行為に何の躊躇いもないだろう。
それだけはなんとしても避けなければならない。

⌒*リ´・-・リ 「それなら私も行きます!」

(´・ω・`) 「無理だ! どこまで逃げればいいのか分からない、厳しい道のりになる。君の安全を保障できない」

⌒*リ´・-・リ 「ここにいても同じことですよね。そういう人に狙われているということは理解しているつもりです」


確かに村に残っても安全とは言い難いのは事実だ。

192名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:30:57 ID:RpSgo5Fo0

説得を試みるが、リリは強情だった。
彼女は一度決めたら譲ってくれない。
強い光を秘めた、覚悟の眼差しと目が合う。

(´・ω・`) 「ああもうっ! 後で泣き言を言うなよっ!」

⌒*リ´・-・リ 「逃避なら私の方が先輩なんですから」

(´・ω・`) 「実行は夜だ。南西側に向かうよ。港を目指す」

無事に逃げ切るために、頭を回転させる。

(´・ω・`) 「冬にかかるとまずい。服はたくさん着て」

⌒*リ´・-・リ 「食べ物は?」

(´・ω・`) 「少な目でいい。この辺の土地は豊かだし、食べる物はあるはずだ」

ホムンクルスの知識があれば、食用可能かどうかを悩む必要はない。

護身用の剣を身につけ、後に使うための金貨を十分に用意する。
最後に、錬金術で作った粉末をこぼれないようにしっかりと包み、腰紐に結びつけた。

さぁ、荷造りはすませた。
後は出発するだけだ。

193名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:31:55 ID:RpSgo5Fo0

日が落ちるまではまだ少し時間がある。

(´・ω・`) 「……別れの手紙を書こうか」

村人に直接合うのは危険すぎる。
それなら別れの手紙を書けばいい。
何も言わずに去るのは、庇ってくれたみんなに対して、余りに薄情だ。

ではまずは私が、とリリは筆を手に取りすらすらと綴っていく。


⌒*リ´;-;リ 「村長、私が初めてこの村に来たときのことを覚えていますか? 
         ぼろぼろになっていた私に温かいスープをくださいましたね。
         その時の味はつい昨日のことのように覚えています。


         力仕事の出来ない私に仕事をくださいましたね。
         最初に作った編み物はうまくできず、とても見苦しい物でした。それでも、それを買ってくださいましたね。
         何度も何度も丁寧に教えてくださいましたね。おかげさまで、随分とましな物も作れるようになってきました。


         一人で生活するための空き家を作ってくださったのも村長ですよね?
         年頃であった私に気をつかってくださったのは嬉しかったのですが、私は村長と暮らしていたかったです。
         実の孫のように可愛がってくれてありがとうございました。


         私には大事な人が出来ました。


         その人の行く道がどれほど過酷であろうと、隣に寄り添って支えてあげたいと思う人が。
         今の私があるのはひとえに、村長と村の皆さんのおかげです。本当にありがとうございました。
         旅立つ勝手を許して下さい。いつかまた、この地に帰ってきたいと思います。それでは、さようなら」


リリは瞳を潤ませながら、しかし一滴も手紙に零すことなく書き終えた。

194名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:32:53 ID:RpSgo5Fo0

僕も筆を手に取った。
少し考えてから書き始める。


(´;ω;`) 「この村の人々にはとても感謝しています。人ではない僕が、人間のように過ごすことが出来ました。
       厭うことなく、嫌うことなく、恐れることなく、接してくれた皆さんの優しさが、僕は大好きです。
       僕のせいで皆さんに迷惑がかかることを許して下さい。リリと出会えて、皆さんと暮らせて、幸せでした。


       いつか必ず、このご恩は返します。どうか、彼らには脅されていたと言ってください。
       そして、この手紙は燃やして捨てて下さい。それでは、さようなら」


僕の書いた部分は、所々滲んでしまった。
手紙はまとめて筒状にして結んだ。

空はいつの間にか暗くなってきていた。

(´-ω-`) 「急ごう。今夜は月も星もない今の内に離れて、距離を置いてからランタンを使うよ」

⌒*リ´・-・リ 「わかりました」

僕たちは身を屈めて曇り空の下を走った。
途中、村長の家の中に手紙を投げ入れ、振り返ることなく走り続けた。

村から丘二つ離れたところで、太陽の残光は完全に消え失せた。

ランタンに火を灯して掲げる。
小さな明かりに照らされ、街道がうっすらと浮かび上がった。

195ごめんなさいーご飯行ってきますー:2012/03/08(木) 21:34:29 ID:RpSgo5Fo0

(´・ω・`) 「ひとまずはこれを辿る。明日の朝までに距離を稼いでおきたい」

⌒*リ´・-・リ 「大丈夫。心配しないで」

二人で並んで行く。
道は舗装されていて、体力を温存できる。

一言も言葉を交わさず、数時間は歩いていた。
本人の言うとおり、リリにへばった様子はなく、黙々とついてきていた。

(´・ω・`) 「ここだ」

西側に向かって延びる道から細い通りが西南西にある分かれ道に着いた。
今日の目標である林の小道はこの通りの先にある。

この移動がばれ、追っ手が来ていたらのなら、戦闘も覚悟していた。
まだ気づかれていないのだろうか、追われている気配はなかった。

しかし万事うまくいっているわけではなかった。
リリが僕の後ろを歩くようになり始めたのだ。

(´・ω・`) 「大丈夫?」

⌒*リ;´・-・リ 「はい、まだ、大丈夫、です」

196もどりましたー:2012/03/08(木) 21:52:59 ID:RpSgo5Fo0

そう答える彼女はやはり、しんどそうだった。
休む間もなく歩き続けているし、もう夜も遅い。
疲労は当たり前だろう。

(´・ω・`) 「後少しだから、頑張って」

少なくとも林道までは行かなければ、いざというときに姿を隠せない。

⌒*リ;´・-・リ 「頑張り、ます」

ペースを少し落とし、彼女の歩幅に合わせた。

それからしばらく歩いて、ようやく林道の頭にたどり着いた。わき道にそれ、木の陰に座り込む。
リリはすぐに眠りに落ちた。
僕は彼女が体を休ませられるように、自らの衣服をクッションとして体の下に置いた。

(´・ω・`) (ひとまずはうまくいったか……?)

僕は寝るわけにはいかず、今後の計画を頭の中で練り直す。
この逃避行がより完全な物になるように。

考え事をしている間に、太陽が姿を現した。
睡眠時間は充分ではないだろうが、もう移動しなければならない。

(´・ω・`) 「リリ、起きて」

⌒*リ´ -・リ 「……ショボン?」

197名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:53:57 ID:RpSgo5Fo0

怠そうに起きあがるリリを見て心が痛んだが、仕方のないことだと言い聞かせた。

(´・ω・`) 「あの山を越えれば、村が一つある。うまくすれば馬が手に入るかもしれない」

⌒*リ´・-・リ 「行きましょう……」

昨日よりもゆっくりのペースで、山を目指す。
夕方までに何度も休憩し、やっと半分を踏破した。

当初の予定より大分遅れていたが、リリを責めることは出来ない。
食事はまともではないし、睡眠時間も短い。
人間の女性としてはむしろよく耐えている方だろう。

⌒*リ´・-・リ 「ごめんなさい、ショボン」

僕が難しい顔をしているのが見えたのか、リリは弱々しい言葉を口にした。

(´・ω・`) 「問題ないよ。僕たちがいないことに気づいたとしても、奴は街道を進むと見て間違いない。
       それならば時間はまだ十分にある」

安心させるつもりだった言葉なのに、その言葉は冷たく響いた。

⌒*リ´・-・リ 「もう、歩けるよ」

198名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:54:54 ID:OGhVRyUAO
ご飯終わったかな 
 
過去編おもろいな、支援

199名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:54:57 ID:RpSgo5Fo0

リリは立ち上がった瞬間、前のめり倒れた。
慌てて体を受け止める。

(;´・ω・`) 「リリっ!」

⌒*リ´ - リ 「ごめんなさい……ごめんなさい……」

その日の夜も、木の陰で一晩を明かした。
翌日になるとリリは元気を取り戻し、予想以上に距離をかせげた。

細い林道は深い森へと続いていく。この山を越えれば、村が一つあるが、
山越えはそう簡単ではない。人通りも少ないため、草木は茂り放題だ。

姿を隠すのにはちょうどいいけれど、体力を必要以上に消費するだろう。

⌒*リ´・-・リ 「行きましょうか」

覚悟を決めたように、リリは呟いた。

(´・ω・`) 「うん」

草をかき分け、日の光が届かない山に足を踏みいれた。
僕が前を歩き、後ろからリリが着いてくる。

道は次第に上り坂になっていく。
どのくらい登っただろうか。

ちょうどいい高さの岩を見つけ、そこに座り込む。

200名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:55:49 ID:RpSgo5Fo0

(´・ω・`) 「リリ、少し待ってて。食べ物を探してくるから」

⌒*リ´・-・リ 「わかりました。気をつけて下さいね」

彼女の手を優しく握り、付近の探索へ出発する。

奥に進んですぐに見つけた背の高い木の果実は、甘くて腹も膨れる。
対して栄養がないのが難点だが、疲れているリリには丁度いいだろう。
木に登ってよく熟れた実をとる。

そして予想通り、この一帯には喉の渇きを潤すのにはもってこいの植物が生えていた。
人差し指ほどの長さの茎から細い毛が無数に生えているそれは、茎に多量の水分を含ませる性質がある。
根を千切れば、そこから水を吸うことができる。

数十の実と一握りの束を手に、リリのもとに戻った。

(;´・ω・`) 「遅くなってごめん」

⌒*リ´・-・リ 「たいして経っていませんから、謝らないでください」

二人で食事をし、長めの休憩をとった。
自然の音が心地いい。耳を澄まして聞き込んでいると、リリは微笑みながら服の内側から何かを取り出した。

⌒*リ´・-・リ 「持ってきてしまいました」

201名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:56:44 ID:RpSgo5Fo0

その手に持つのは、大事な手作り笛。
そっと唇にあて、息を吹き込む。

虫のさざめき、風に揺れる葉の音と一緒に彼女は奏でる。
音楽の終わりと同時に彼女は立ち上がった。

⌒*リ´・-・リ 「さて、歩きますよ」

(´・ω・`) 「また、聴かせてくれ」

⌒*リ´・-・リ 「無事に逃げ切れたなら、いくらでも」

日が沈んだとき、僕らは山の中腹にたどり着いた。
何年も放置されたような木製の台が並んでいる。


(´・ω・`) 「今日はここで休もうか」

強度を調べてから台に座る。
気が抜けたのか、リリはすぐにうとうとし始めた。

(´・ω・`) 「横になって」

⌒*リ´ - リ 「ショボン……はぜんぜん……寝てない……のに」

(´・ω・`) 「大丈夫。僕のことは気にしないでいいから」

リリは元気に振る舞っているが、日に日に疲れを増していた。早急にくつろげる場所が必要だった。

(´・ω・`) (だけど山越えには早くて後二日。この調子だと恐らく三日はかかるだろう)

202名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:58:00 ID:RpSgo5Fo0

それに、いつまでもここが安心とは限らない。
向こうの町で罠を張られている可能性もあった。

リリの寝顔を見ながら、彼女に最も負担が少ない形を考える。
しかし、山を出るまでは歩かざるを得ない。

(´・ω・`) (村に来た男から馬を奪っておけばよかった。そうすれば追っ手までの時間も稼げるし、リリも楽だったはずだ)

自分の手筈の悪さに腹が立つ。彼女を辛い目にあわせているのは他でもない、この僕だった。

(´・ω・`) (後三日は……耐えてもらうしかないのか)

見張りをして睡眠時間を殆どとっていないせいか、頭が重い。
寝るまいと思っていたが、結局、朝日と同時に目が覚めた。
焦ってリリの安全を確認する。

⌒*リ;´・-・リ 「はぁっ……はぁっ……」

体調を崩しているのは一目瞭然だった。
呼吸は荒く、額には多量の汗をかいている。

(;´・ω・`) 「リリ、大丈夫かい?」

⌒*リ;´・-・リ 「はぁっ……はい……なんとか……」

返事をするのもやっとな状態。とても歩けるとは思えない。

(´・ω・`) 「少し待ってて」

寝たままの彼女を放っておくのは気が引けたが、少しでも楽にしてやりたかった。
昨日採った植物を再び集め、破いた袖を十分に湿らす。
それをリリの額にのせた。

203名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:59:12 ID:RpSgo5Fo0

⌒*リ´・-・リ 「あり……がとう」

(´・ω・`) 「ごめん……僕が無理をさせたから……」

⌒*リ´・-・リ 「気に……しないで」

リリには薬が必要だ。
症状を緩和するための薬を作る錬金術は、今は使えない。

(´・ω・`) (器具も材料もなければ、僕は何も出来ない……)

唯一ホムンクルスでよかったと思える点が、この錬金術の知識なのに、使いたいときに使えない。
そんな知識に一体何の意味があるのか。

⌒*リ;´ - リ 「うぅ……」

(´・ω・`) (っ……! 今は悔しがってる時じゃない)

自分でどうにか出来ないならば、山を越えて町に薬を買いに行くしか方法がない。
彼女をおいて離れることは出来ない。

ならば解決策は一つ。

(´・ω・`) 「リリ、ごめん。揺れるよ」

204あうあうあー^q^:2012/03/08(木) 22:02:30 ID:RpSgo5Fo0

⌒*リ;´・-・リ 「うん……」

彼女を背に負う。
その体は驚くほど軽い。

出来るだけ衝撃が無いように気を配りながら進む。

(´・ω・`) (町まで我慢してくれ……)

いかに軽いとは言え、同じ距離を歩くのにかかる時間は倍になった。
苦しむ彼女を背に、夜通し歩き続ける。


・  ・  ・  ・  ・  ・


三日間軽い休憩を何度か挟むだけで歩き続け、三日目の夜、ついに倒れた。
精神よりも先に肉体に限界がきてしまったようだ。

顔の向きだけ変えて、隣に倒れているリリの方を向く。

リリの病状は悪くなるばかりで、回復の兆候は見えない。

(;´・ω・`) 「くそっ……」

山の終わりはまだ暫く先ある。

(;´・ω・`) (考えろ……考えろ……)

今から少し休み、一人で村に向かったとして、果たして間に合うかどうか……。

(;´・ω・`) (少しでも病状を抑える方法を……この近辺には何がある……? 今の僕には何が出来る……?)

205名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:03:38 ID:RpSgo5Fo0

ふと、腰に結んだ袋を思い出した。
そこにあるのは、錬金術で生み出した唯一の物質。
村人への恩返しに使う予定だったそれは、優秀な肥料だ。

一振りで瞬時に植物を成長させることが出来るほど強力な。

肥料は、栄養価の素になる。
リリの病状は疲労と栄養不足が原因だろうから、片方を取り除いてやれば少しはマシになるはずだ。

(´・ω・`) (当然、直接人間には使えない。だけど……)

解決方法は簡単だ。
今までなぜ気づかなかったのか分からないほどに。

手に力を込めて起きあがり、リリを寝かせたまま、来た道を戻る。
充分に離れ安全を確認したところで、袋から粉を一摘み取り出し振りまく。

すぐに植物は成長し始めた。
夏にしか実を成らせない木も、普段は大きくならない木も、肥料を得て、それを栄養価に昇華させる。

(´・ω・`) (よしっ)

この山がこれほどの多様性を有していなければ、難しかったかもしれない。
熟れた果実を収穫し、リリが食べられるように、細かくする。

206名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:04:41 ID:RpSgo5Fo0

(´・ω・`) 「リリ、口を開けて」

⌒*リ;´・-・リ 「ぁ…………」

取れたての野菜を口へ運ぶ。
リリに噛む力はほとんどなかったが、必死に飲み込む。

⌒*リ;´・-・リ 「ぉぃし……」

苦痛に歪み、泥に汚れた笑顔は痛々しい。
僕は無理に笑い返し、彼女の食事を手伝った。

⌒*リ;´・-・リ 「ぉ腹………ぃっぱ……」

食べれたのは普段の三分の一にも満たなかったが、ここ数日では一番食べてくれた。


・  ・  ・  ・  ・  ・


その後は僕らは地べたに寝て休んでいた。
危険だとか考えている余裕はなく、丸一日ゆったりと横になっていた。

食べ物のおかげが、リリの様子は見違える程良くなった。
少なくとも、楽に喋れるほどには。

⌒*リ´・-・リ 「ショボン、ごめんね。迷惑かけて」

(´・ω・`) 「僕の方こそごめん。無理していたのに気づいてあげられなくて」

僕らはお互いに謝り、笑い合った。

207名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:05:33 ID:RpSgo5Fo0

(´・ω・`) 「さ、そろそろ行こうか」

僕の体力は回復していたから、栄養たっぷりの野菜と果実を少しずつ持ち、リリを背負った。
幾分重くなった気がする。
それを彼女に言うと怒られた。

⌒*リ´・-・リ 「女の子にはもっと優しい言い方をしてくれないと困ります」

(´・ω・`) 「良い意味で言ったんだけど」

⌒*リ´・-・リ 「良い意味でもです」

納得はいかなかったけども、話を切り上げることにした。
無駄に体力を使って、また倒れる展開だけは避けたい。

(´・ω・`) 「やっとか……」

さらに二日経ってから、山を抜けることが出来た。
町はもう目に見えるところにあった。

(´・ω・`) 「リリ、後少しだよ」

⌒*リ;´・-・リ 「うん……」

二日間の強行軍が彼女の病状を悪化させていた。
早く町で薬を手に入れなければならない。

森から出て姿が隠せないことは、もう恐れてはいなかった。

208名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:06:26 ID:RpSgo5Fo0

町に入り、薬屋を探す。
僕の住んでいた町よりはずっと大きく、探すのに多少苦労した。

「へぇ、どうも」

(´・ω・`) 「熱の薬はあるか」

「こちらです」

店主から薬を受け取り、金貨を払った。
次に探したのは宿屋だ。

リリも僕もあまりにも汚く、これでは目立ちすぎる。
宿屋はすぐに見つかった。
もともと交通の要所にある町として広がったために、そういう施設は多いようだ。

(´・ω・`) 「二人部屋を頼む」

「先払いでよろしいでしょうか?」

(´・ω・`) 「構わない。服を二人分、あとお湯を沸かして持ってきてくれ。タオルと一緒に」

「畏まりました」

金貨を握らせ、部屋にあがった。
リリをベッドに寝かせる。

209名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:07:49 ID:RpSgo5Fo0

⌒*リ´・-・リ 「無事についてよかったです」

(´・ω・`) 「そうだね。さぁ、まずは薬を飲んで」

グラスの水と粉薬を渡す。
それを飲み終えるのと同時に部屋の戸が叩かれた。

「湯と服を持ってきました」

(´・ω・`) 「ありがとう、入ってくれ」

子供が入るくらいの大きさの入れ物にたっぷりと湯が入っており、宿の従業員が複数人で運んできた。

「それではごゆっくり」

扉がしまったのを確認して、湯に用意されていたタオルを浸した。

(´・ω・`) 「さて、リリいいかな?」

⌒*リ´・-・リ 「えっ? えっ?」

子どものように混乱している。
何をされるのか理解していないようだ。

(´・ω・`) 「お互いどろどろだし、リリ動けないでしょ?」

⌒*リ´//-/リ 「〜〜〜〜〜っ!!」

210名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:08:36 ID:RpSgo5Fo0

やっとわかってくれたようだ。

⌒*リ´//-/リ 「ちょっ、ちょっと待って下さい。まだ心の準備が」

(´・ω・`) 「はーい、時間切れー」

彼女の服を脱がせ、全身を暖かいタオルで丁寧に拭いていく。
汗と泥を取り除くと、綺麗な白い肌が現れた。

(´・ω・`) 「はい、終わり」

服を着せ終え、今度は自分の汚れを落としにかかった。

(´・ω・`) 「ふーすっきりした」

使い終わった湯を廊下に運び、ベッドに横になった。
作業が終わっても、リリはリンゴの様に顔を真っ赤にしたまま、口を利いてくれなかった。


「食事をお持ちしました」

僕らの沈黙は宿屋の主によって破られた。
もうそんな時間になっていたのかと驚きつつ、許可を出す。

(´・ω・`) 「ああ、入ってくれ」

211名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:09:40 ID:RpSgo5Fo0

「どうぞ。食べ終わりましたら、扉の外に出しておいてください」

出された食事は豪勢だった。
久しぶりの肉に思わず涎が出てくる。

当然ホムンクルスでもうまいものはうまい。

(´・ω・`) 「食べようか」

⌒*リ´・-・リ 「はい……」

リリの祈りが終わるのを待ってから食事を食べる。
僕らはやっと日常に帰ってこれた。

(´・ω・`) 「おいしいね」

⌒*リ´・-・リ 「はい……」

ちゃんと話してくれないのは寂しくもあったし、
照れたままはい、としか答えないリリに少し悪戯心が湧いてきた。

(´・ω・`) 「綺麗な体だったから大丈夫だよ。気にしないで」

⌒*リ´//-/リ 「〜〜〜〜〜〜〜っ!?」

ますます喋らなくなってしまった。

(´・ω・`) 「ごめんごめん。ちょっとからかっただけだから」

⌒*リ´//-/リ 「ややや、やめてください……」

212名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:10:34 ID:RpSgo5Fo0

(´・ω・`) 「ああそうだ、明日からの予定なんだけど、この町もすぐに離れた方がいいと思う。
       馬を調達して、さらに西に向かうよ。馬は乗れる?」

唐突にまじめな話題に戻す。
若干動揺しているものの、しっかりと話についてきてくれた。

⌒*リ´・-・リ 「はい、大丈夫です」

(´・ω・`) 「わかった。朝になったら、二頭貰ってくるから、ここで待ってて」


・  ・  ・  ・  ・  ・


朝の町は交易地といえども、まだ静まり返っている。
厩舎に行き、馬二頭を買うのには苦労はしなかった。
十分な量の金貨があったからだ。

宿に引き返す途中、数人の騎士の姿を見かけ、家の陰に隠れる。
そいつらは間違いなく、あの男とその仲間だ。

213名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:11:28 ID:RpSgo5Fo0

「なかなか現れんな。林の小道は調べたのか?」

「今調べている途中ですが、人が通った後はあるようです」

「ふむ、宿は全部当たったのか」

「いえ、まだです。なにぶん数も多いので。ですが、薬屋の主人からそれらしい男を見たと言う話を聞きました」

「だったら、さっさと探し出せっ!」

会話は其処で終わり、馬の駆ける音が遠ざかっていく。
宿を総当たりされたら見つかるのは時間の問題だ。

(´・ω・`) (急ぐか……)

真っ直ぐ宿に向かい、リリが無事でいるのを見て一安心する。

(´・ω・`) 「リリ、町を出るよ。準備は?」

リリの熱は下がり、すっかり元気を取り戻していた。

⌒*リ´・-・リ 「もうできてます」

(´・ω・`) 「よし、行こう」

214名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:13:28 ID:RpSgo5Fo0

西へ頭を向け馬を疾駆させる。
この先にあるのは港町。
そこから船に乗って逃げれば、そうそう追ってはこれないはずだ。

(;´・ω・`) 「っ!?」

安心して気が抜けた瞬間、左腕に激痛が走った。

⌒*リ;´・-・リ 「ショボンっ!」

(#´・ω・`) 「くそっ!」

リリの叫びを聞きながら、自分の馬から飛び降り体をリリの後ろに投げ出す。

「がっ!」

計五本の弓矢が全身を貫く。
地面に激しく叩きつけられた痛みを無視し、すぐに起きあがった。
リリに逃げるよう急かす。

(#´・ω・`) 「走れっ! 後で追いつく!」

⌒*リ;´・-・リ 「でもっ!」

(#´・ω・`) 「いいから行け!」

215名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:14:26 ID:RpSgo5Fo0

体に刺さった矢を一本ずつ乱雑に抜いていく。
すぐに五人の騎士に囲まれた。

「女を捕まえてこい」

二人が円陣を崩しリリの後を追う。
それを横目に、男達の隙を窺っていた。

「久しぶりだなぁ、ショボンよ」

(#´・ω・`) 「……」

黒い鎧に銀の蛇。
多くを知っているわけではないが、この男はよく覚えていた。
一番最初に僕の主人を襲った男だ。

「まぁいい。我らと共に来てもらおう」

(´・ω・`) 「断る」

「ならば力づくで連れて行くまでよ」

三人が同時に槍を突き出す。

216名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:16:48 ID:RpSgo5Fo0

(´・ω・`) 「ホムンクルス相手に接近戦とは脳無しか?」

相手の攻撃と同時に一人の懐に飛び込む。
右腕を槍の一撃で斬りおとされながら、左で抜いた剣で首を叩き斬った。

「がっ……?」

男は目を見開き崩れ落ちる。

(#´・ω・`) 「ぐっ……」

背中から異物か体の中に侵入してくるのを感じる。
胸から二本の槍が飛び出していた。

「やっ……」

(´・ω・`) 「てないよ」

左腕を大きく振りかぶり、刀を投擲する。
真っ直ぐに喉を貫き、絶命に至らせる。

「ぎっ……!」

(#´・ω・`) 「があああああああああああああ」

まだ生きている騎士の槍を掴み、全力で体を捻る。
体中の細胞がぶちぶちと千切れる音をさせながら。

217名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:18:12 ID:RpSgo5Fo0

「なっ?」

男はバランスを崩して落馬した。

(´・ω・`) 「悪いが時間がない」

リリを追いかけなくてはならない。
体から引き抜いた槍を男に向ける。

「待て。女の命がどうなってもいいのか?」

(;´・ω・`) 「っ!?」

振り向けば、首元に剣を突き付けられたリリがいた。
その後ろには追いかけた二人だけではなく、五人に増えていた。

⌒*リ´・-・リ 「ショボン、ごめんなさい……」

「喋るな。武器を捨て隊長から離れてもらおう」

(´・ω・`) 「くそっ……」

「ふ……ふ……よくやった……。こいつを縛れ!」

身動きが取れないほどに上半身が固定される。
リリを見ると、怪我はないようで一安心する。

「女は縛って捨て置け」

⌒*リ;´・-・リ 「ショボンっ!」

(;´・ω・`) 「リリっ」

218名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:18:54 ID:RpSgo5Fo0


馬にのるように促される。
逆らって彼女に害が及ぶのは避けたかった。

僕を乗せ、男達は道を引き返す。
少し離れたところで、急に動きを止めた。

「ああそうだ」

隊長格の男は不気味な笑い顔を僕に向けてくる。

「我らに逆らうとどうなるか、教えてやるのを忘れていたな」

リーダー格の男が顎で指示し、それに合わせて一人の男が弓に矢を番える。
その先には両手を縛られたままのリリ。

「やめろっ! 頼む! やめてくれっ!」

「やれ」

219名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:22:25 ID:RpSgo5Fo0

ギリギリと引き締められた弦の音が消えた。

「リリ──────っ!!」

スローモーションのように弓矢は進んでいく。
時が止まったかと思えるほど、ゆっくりと。
けれども着実に。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


⌒*リ´・-・リ 「この辺の人じゃないですよね……生きてますか……?」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


⌒*リ´・-・リ 「リルケット・リファリアと言います。この辺りの人はリリーやリリって呼びます。
         あなたの名前は?」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


⌒*リ´;-;リ 「別に……あなたが死なないだとか、作られただとか、そんなことはどうでもいい。
         私は、あなたと一緒にいたい。それでは駄目ですか……?」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

⌒*リ´ - リ 「ショボン……」


矢は、リリを射抜き、彼女はゆっくりと倒れた。
倒れたまま、起きあがることは無かった。

(#´ ω `) 「あ……あ……」

220名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:24:54 ID:RpSgo5Fo0

(#´ ω `) 「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

「黙れっ!」

叫ぶことしかできなかった。
殴られても、蹴られても、喉が張り裂けてしまうほどに。

「行くぞ」

激痛とともに、意識を失った。


・  ・  ・  ・  ・  ・


「ふん、大した化け物でもなかったな」

意識を取り戻したときは既に夜になっていた。
男たちは山沿いにある街道で野宿をしていた。

「気づいたか化け物?」

僕は身動ぎをしようとして、痛みで動くのをやめた。
両手は重ねられて、墓標のごとく一本の剣が突き刺さっている。
両の足はふくらはぎと太股に一本ずつ、計四本が突き刺さっていた。

221名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:29:46 ID:RpSgo5Fo0

「死なないってのは面白ぇなぁ!」

地面に転がっている酒瓶の数からして相当呑んでいるようだ。
溢れんばかりの憎悪は逆に冷静に考えさせてくれるのだろうか。

僕がすることはただ一つだけだった。

「何か言えよ! あぁん?」

二、三発顔を殴られた。
それでも反応を見せなかった僕に腹を立てたのだろう。
腰から長剣を抜きはなつ。

「反応しねぇと斬っちまうぞ? 必要以上に傷つけるなとは言われてるけどな、
みんな寝てんだ。関係ねぇや」

そうか。
こいつは見張り役か。

それなら都合がいい。

(´・ω・`) 「ホムンクルスを」

「ん?」

222名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:34:42 ID:RpSgo5Fo0

僕の言葉に興味を持ち、耳を近づけてくる。

(´・ω・`) 「ホムンクルスを生け捕りにしたければ、方法をよく考えるべきだったな」

両手を思いっきり引き抜く。
手のひらが半分になるが瞬時に再生する。

「なっ!?」

地面に突き刺さった剣を抜き、不用意に近づいていた男の首を深く切り裂いた。
喉から赤い泡が膨れ上がっては弾け、しばらくして男は動かなくなった。

(´・ω・`) 「ぐっ……」

今度は両足を切り落として自由になる。
火の消えかかった焚き火の近くには男が四人。
順番に喉を切り裂いていく。

(´・ω・`) 「おい、起きろ」

リーダー格の男は殺す前に話しておきたかった。

「なんだ……ん……!?」

屈み込む僕の姿を見て剣に手を伸ばすが、その腕をはね飛ばす。

「ぎゃああああ腕! 腕が!」

223名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:35:47 ID:RpSgo5Fo0

(´・ω・`) 「黙れ」

喉元に切っ先を突きつける。
それだけで静かになった。

「なんで……なんでリリを殺した……」

「は、はん。ただの気まぐれだ。
なに、乱暴するよりはずっとマシだろうが。むしろ感謝あ」

(#´・ω・`) 「もう喋るな」

口の中に剣を突き刺した。
脳幹を破壊して地面に届く。

男達の馬に乗り、全力疾走で西に向かう。
移動距離から考えて、気を失ってから一日と経っていないはずだ。
彼女の亡骸を放置したままに出来るわけがなかった。

日の出の前、空が白み始めた頃にリリが倒れていた場所に戻ってきた。
そこには血痕だけが残されていて、彼女の体はなかった。

(どこだ……どこにいる……?)

ここにいないのなら、町の中に運び込まれたに違いない。

(最も可能性が高いのは教会だ)

大きい町だが、中には一つしか教会はなく、そこに向かった。
入り口に馬を結び、中に入る。そこには白いベッドが置いてあった。

224名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:37:22 ID:RpSgo5Fo0

⌒*リ´ - リ 「ショ……ボン……?」

(´;ω;`) 「リリ……?……リリ!」

リリはまだ生きていた。
矢は抜かれ、適切な治療が施されていた。

⌒*リ´ - リ 「よか……った……最期……会え……」

(´;ω;`) 「馬鹿なこと言うな! 僕が必ず助ける!」

僕らの話し声が聞こえたのか、奥から牧師が出てきた。

「彼女のお知り合いの方ですか?」

(´;ω;`) 「はい」

「昨日彼女を見つけ、医師に診てもらったのですが、傷が深すぎて……一日生きているだけで奇跡です」

(´;ω;`) 「見つけて下さってありがとうございました」

彼が見つけてくれなければ、もう話すことは出来なかった。
でも、リリはまだ生きている。
医師が匙を投げても、錬金術師はフラスコを投げない。

僕には彼女を救う力があるはずだ。

225名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:40:32 ID:RpSgo5Fo0

(´;ω;`) 「もう少し、リリを見ていてあげて下さい」

「ですが……」

(´;ω;`) 「お願いします。すぐに戻ってきますから。
        リリ、もう少しだけ待っていて」

⌒*リ´ - リ 「うん……」 

僕は教会を飛び出し、薬屋に向かった。
途中フラスコを数個購入する。

(´-ω-`) (リリの傷は深い……人間の治癒力で治る範囲を超えている。
       それならば……僕は罪を犯そう。彼女に恨まれるかもしれない。それでも、僕は彼女に生きていてほしい。)

宿の一室を借り、作業場を作る。

強力な肥料は生命の源に。
千年生きる蝉の粉末と、渦を巻く海牛のエキス。その他はこのくらい大きい交易都市なら手に入る。
必要な素材は多くない。
難しいのはコンマ以下の誤差も許されない調合。

本来は数年かかる物を、たった数時間で完成させなければならない。
それも、最難関の錬金術を。

(…………)

226名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:42:57 ID:RpSgo5Fo0

慎重に薬品を加えていく。
最後に僕の血液を混ぜることで、僕と同等の知識を得る。


・  ・  ・  ・  ・  ・

・  ・  ・  ・

・  ・


(´・ω・`) 「できた……!」


血のように赤い液体金属。

多くの錬金術師が夢見、破れていった伝説の存在。

たった一滴で無限の富と永遠の命を与えると謂われる。

たった一滴で神を貶める罪の結晶。

(´・ω・`) 「賢者の金属……」

ひとたび体内に摂取すれば、それは血液に溶け、後戻りすることはできない。



教会に駆け戻り、瀕死の彼女の横に立つ。

(´ ω `) 「僕の弱さを許してほしい……」

僕は祈るように、罪の塊を彼女の傷口に垂らした。

227名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:51:12 ID:RpSgo5Fo0








7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです  End

             ↓

8 ホムンクルスと少女のようです

228名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:52:34 ID:RpSgo5Fo0
>>2   1 ホムンクルスは戦うようです
>>29  2 ホムンクルスは稼ぐようです
>>65  3 ホムンクルスは抗うようです
>>93  4 ホムンクルスは救うようです
>>118 5 ホムンクルスは治すようです
>>148 6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです


>>183 7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです



ホムンクルス生誕
   ↑
   ↓
6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです
7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです
   ↑
   |
   |
   ↓
1 ホムンクルスは戦うようです
   ↑
   ↓
2 ホムンクルスは稼ぐようです
   ↑
   ↓
3 ホムンクルスは抗うようです
   ↑
   ↓
4 ホムンクルスは救うようです
   ↑
   ↓
5 ホムンクルスは治すようです

229名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 23:01:36 ID:Bzuqdees0
乙!!
だができればハッピーエンドがいいなぁ

230名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 23:13:48 ID:OGhVRyUAO
(´・ω・`)にも幸せな時はあったんだな 
 
辛酸は倍以上になってふりかかってるけど 
 
この部分を導入部にしてもよかったのではと思った 
 
誤爆にはニヤニヤしたよ

231名も無きAAのようです:2012/03/09(金) 00:03:22 ID:2ZR/Cwwo0

いいね……この欝味!

232名も無きAAのようです:2012/03/09(金) 05:20:40 ID:mjoLTn5M0


233名も無きAAのようです:2012/03/09(金) 07:45:46 ID:wB86gofQO
今回も面白かった!
次も期待して待ってる

234名も無きAAのようです:2012/03/09(金) 10:13:13 ID:sG0f0pooO
リリが生きててよかったあああ!
次回が待ち遠しいぜ

235名も無きAAのようです:2012/03/09(金) 11:47:12 ID:Wy7Gd04EO
総合での大胆な宣伝を見たので読みにきました

236名も無きAAのようです:2012/03/09(金) 18:56:23 ID:DkqYqukcC
次回が待ち遠しい…気になりすぎる

237名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 07:30:53 ID:MF5Ab8Nw0
あげ、

238名も無きAAのようです:2012/03/23(金) 19:20:41 ID:rAamw76s0
最高

239名も無きAAのようです:2012/03/25(日) 20:27:31 ID:1OV8BHv60
http://the99mmikd.blog.fc2.com/blog-entry-8.html

まとめさせていただきました
要望等あればお願いします

240名も無きAAのようです:2012/03/29(木) 12:23:54 ID:jr8KYjZ60
>>239

!!

ありがとうございます!!

厚かましいお願いですが、できれば目次からもサブタイトルが見えるようにしていただけますか?
後、投下報告って必要ですかね?

これからもよろしくお願いします。

241名も無きAAのようです:2012/03/29(木) 12:30:59 ID:DGZxdD4.0
>>240
こちらこそアドバイスありがとうございます!
目次からもサブタイトルを見れるようにしておきます
投下報告はこちらの方で確認しますので大丈夫です

242名も無きAAのようです:2012/04/04(水) 17:54:39 ID:gTGDbUCQ0
報告。

次の投下はお祭りに合わせて4月18日にします。

盛り上がるといいですね。

243名も無きAAのようです:2012/04/04(水) 17:58:50 ID:oFjfLRHw0
wktkして待ってます

244名も無きAAのようです:2012/04/18(水) 21:39:59 ID:fb1RS63U0
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1334752769/

一応誘導はっときますね

245名も無きAAのようです:2012/04/19(木) 10:19:15 ID:lvNlMSaA0


絶望の淵にあったホムンクルスを救ったのは一人の少女。

ある事件をきっかけに、少女もまた不死の存在となる。

二人の物語は永遠に続くはずだった…………。


ホムンクルスは生きるようです


──少女編最終話





8 ホムンクルスと少女のようです



二人の愛の行方は────

246名も無きAAのようです:2012/04/19(木) 10:20:03 ID:lvNlMSaA0



リリの傷口から体内に染み込み、その定義が彼女の体を変質させていく。
見た目は変わらないまま。


傷口は完全に消えたとき、リリの顔に血の気が戻った。

(;´・ω・`) 「リリ?」

僕の呼びかけに応えるかのように、彼女は目を開けた。

⌒*リ´- -リ 「ショ……ボン? 私は……?」

「あ、あ、有り得ない……。奇跡だ!」

(´;ω;`) 「奇跡じゃ……ありません。……錬金術です」

リリの手がゆっくりと傷口に触れた。
そこにはもう、何もない。

万能に見える錬金術も、死者を元通りに生き返らせることはできない。

(´ ω `) (リリを生かしてくださったことを感謝します)

247名も無きAAのようです:2012/04/19(木) 10:21:49 ID:lvNlMSaA0



⌒*リ´- -リ 「……助けてくれたんだね。ありがとう」

(´;ω;`) 「当たり前だ」

リリの手を強く握った。
もう二度と手放さないと、決意して。

⌒*リ´ v リ 「……これで、私もショボンも同じだね」

既に彼女は"知っている"
自分がもはや人間ではないと言うことを。

殺しても死なず、朽ちゆくことのない存在だと。

知った上での、優しい微笑み。
ただそれだけで許された気がした。

(´・ω・`) 「……行こう。ここに長居は出来ない」



⌒*リ´*・-・リ 「……はい」

248名も無きAAのようです:2012/04/19(木) 10:23:10 ID:lvNlMSaA0


ベッドから起きあがったリリに寄り添って支え、教会を出る。
腰を抜かした司祭はそのまま置いてきた。

馬は一頭しかいないが、しばらくは急ぐ必要もないだろう。

自由気ままな旅が楽しめるはずだ。

(´・ω・`) 「当初の予定通り、港へ向かおう。そこから先は、またその時に考えればいい」

⌒*リ´*・-・リ 「ショボンと一緒なら、どこまででも」



・  ・  ・  ・  ・  ・

249名も無きAAのようです:2012/04/19(木) 10:28:32 ID:lvNlMSaA0




僕らは二人で、世界中を旅した。いろんな国を見て回った。いろんな出来事があった。

数万人が住む都市で商売をして、数百人もいない村で暮らした。


錬金術を用いて人助けをし、知識を授けて平和に一役買った。


神と崇められて、悪魔と罵られながら。


幸せだった。
二人で笑って、泣いて、生きて。


(´・ω・`) 「…………君と一緒でよかった」



⌒*リ´ v リ 「私もだよ」

250名も無きAAのようです:2012/04/19(木) 10:30:50 ID:lvNlMSaA0



気づいたのはいつ頃だったか。
100年は経っていなかったと思う。

リリの様子が少しおかしいことに気づく。。
僕の前では明るく振る舞っていたけれど、何かを隠しているのは明らかだった。

だから彼女に直接聞いた。
どんなに悪いことだろうと、一人で背負わす訳にはいかなかった。

(´・ω・`) 「リリ。言いたいことがあるのなら、言ってくれ」

⌒*リ´・-・リ 「……。ショボン……。
        なんでも……ないよ」

(´・ω・`) 「隠すなよ」

⌒*リ#´・-・リ 「何でもないったら!」

リリは答えてくれなかった。
それどころか、こんなに怒らせてしまったのは数年ぶりのことだ。

251名も無きAAのようです:2012/04/19(木) 10:35:15 ID:lvNlMSaA0


(´-ω-`) 「……ごめん」

⌒*リ´- -リ 「私こそごめん……」

微妙な空気が僕らを包む。
お互いの距離感を測りかねていた。

強引にでも聞くべきなのか、そうでないのか、僕にはわからない。

(´-ω-`) (いつからだったかなぁ……)

最初の数年は喧嘩なんて一度もなかった。
一緒に過ごす年数が二桁になるころに何回か喧嘩をした。

つまらないことだったけど。
長く一緒にいるから、お互いのことはよく知っている。

だからこそ、違和感を感じる。
僕のことじゃなく、自分のことで悩んでいるのだと。
そう確信できるものが、心の中で渦巻いてる。

(´-ω-`) (でも、どうすれば……)

252名も無きAAのようです:2012/04/19(木) 10:36:42 ID:lvNlMSaA0


僕らが出会った村よりも、ずっとずっと南西にある小さな漁港。
ここで過ごし始めてもう20年にもなる。

⌒*リ´ - リ 「……ちょっと……出掛けてくるね」

それだけ言うと、リリは外に歩いていった。
外はまだ明るいし、心配はいらないだろう。

(´・ω・`) 「ふぅ……」

思わずため息が漏れる。


思い当たることがないわけではない。
一年365日ほとんど一緒にいるのだ。

むしろ喧嘩の理由が無い方がおかしい。

(´・ω・`) (寂しいのかな……)

253名も無きAAのようです:2012/04/19(木) 10:39:38 ID:lvNlMSaA0
]


最初の頃はずっと一緒に暮らしていた。
錬金術を使ってお金を稼ぎながら。

二人でどちらがより売れるか競い合ったり、共同で新しいものを作ったり。

彼女はホムンクルスの僕には無いアイデアで錬金術を行っていた。

リリにとって新鮮だった錬金術は、数年もすればつまらないものになった。
それから僕らは世界中を旅行した。

先人達の偉大な歴史を見て回った。
リリにも純粋に旅行として楽しんでもらえたと思う。

それでもやっぱり定住意欲の方が強くて、旅行先に何度か住み着いた。
だけど十数年が限界だった。

年をとらない僕らは、年数がたてばたつほど怪しまれる。
今住んでいるこの地だって、しばらく住めば離れなければならない。

最近、僕は食べ物の調達によく狩りに出掛けている。
リリは家の近くで野菜を作っていることが多く、そのせいかもしれない。

(´・ω・`) (寂しさを紛らわす方法か……)

254名も無きAAのようです:2012/04/19(木) 10:41:31 ID:lvNlMSaA0
]


椅子から立ち上がって、家の外に出た。

雲一つない真っ青な空に、まだ雪の解けていない白い峰。
まるで自然の美しさが今この景色に凝縮されているかのようだ。
牛は暢気に草をはみ、羊は少し長い昼寝を楽しんでいる。

少し歩いた先にリリはいた。
大樹に寄り添って座っている。













聞き覚えのあるメロディが、風にのって届く。

僕の、一番好きな調べ。

255名も無きAAのようです:2012/04/19(木) 10:46:55 ID:lvNlMSaA0
]



春の陽のように優しく

雪解け水のせせらぎのように心地よい


立ち止まって耳を傾けていた。


パキ


演奏は歪な音で中断された。

⌒*リ´ - リ 「…………」

(´・ω・`) 「…………リリ」

リリの胸には二つに割れた横笛が抱かれていた。

256名も無きAAのようです:2012/04/19(木) 10:50:50 ID:lvNlMSaA0


⌒*リ´ - リ 「仕方ありません……いずれ朽ちてしまうものです。
        形を変えないものなどないのですから……」

(´・ω・`) 「まだ、直るかもしれない」

⌒*リ´・-・リ 「いえ、いいんです。もう、充分です。休ませてあげましょう」


(´・ω・`) 「……僕が新しいのをプレゼントするよ。
      上手に作れる自信はないけれど……。
      錬金術じゃなくて、僕の手で」

⌒*リ´*・v・リ 「ありがとうございます」

(´・ω・`) 「家に帰ろう」

僕らは並んで家に帰った。
壊れてしまったリリの横笛は、大事にしまい込んだ。

257名も無きAAのようです:2012/04/19(木) 10:52:45 ID:lvNlMSaA0
]



(´・ω・`) 「リリ、あのさ…………子どもを作ろうか」

⌒*リ´・-・リ 「!?」

⌒*リ´//-/リ 「あ、あああああ、あの……そういうのは……ですね……えっと……」

動揺して真っ赤になるリリ。
慌てすぎてて舌が回ってない。

⌒*リ´//-/リ 「えーあーそのーえーでも……うん……」

(´・ω・`) 「まぁ落ち着いてよ。別に今すぐどうのこうのってわけじゃないし」

⌒*リ´//-/リ 「ま、まだ昼なんだから当たり前です!」

論点がずれていた。
リリが落ち着くのを待ち、それから話を進める。

(´・ω・`) 「僕は君を寂しがらせてるんじゃないかって。
      子どもがいれば、そんなことはないんじゃないかな」

⌒*リ´・-・リ 「……」

(´・ω・`) 「人間と同じように子供を作ることはできないけれど、僕なら……」

258名も無きAAのようです:2012/04/19(木) 10:54:31 ID:lvNlMSaA0
]


黙っていたリリはゆっくりと口を開いた。


⌒*リ´・-・リ 「その子供は、人間ですか? それとも、ホムンクルスですか?」

その静かな質問の答えを、僕はもっていなかった。
ただ彼女のことだけを考えていた僕には、答えることができなかった。


⌒*リ´・-・リ 「人間の子どもを私達が育てた時、大きくなったその子は何を思うでしょうか。
        親が不老不死の人外だと知って、その子はまだ自分が人間だと信じられるでしょうか」

(´-ω-`) 「………………」



⌒*リ´・-・リ 「ホムンクルスの子どもは一生子供のままです。もし、大人になるとしても彼もまた不老不死なわけですよね。
        私は、ショボンの言うとおり寂しいと感じています。
        友人もいない、家族もいない、愛する人とたった二人でいるには、あまりにも長すぎる時間を過ごしてきました」



違う、とは言えない。
彼女の言うことは正しい。
そして、その言葉は僕を苦しめる。

259名も無きAAのようです:2012/04/19(木) 11:01:18 ID:lvNlMSaA0
]


(´-ω-`) 「………………」

⌒*リ´・-・リ 「でも、だからと言って、私は、自分のエゴのためにそのような存在を生み出すことを良しとしません。
        ショボンの心遣いはとても嬉しいです」


窓から差し込む陽光を眺めつつ、リリは口を開いた。




⌒*リ´・-・リ 「……怖いのです」

⌒*リ´・-・リ 「死ぬことのない私たちは、いつまで生きればよいのですか?」

(´-ω-`) 「…………」

⌒*リ´・-・リ 「人が死に絶え、植物が腐り落ち、世界が滅んだら、私たちはどうなるのでしょう」


⌒*リ´・-・リ 「この数十年は、この考えが頭から離れません」

だから、僕の心遣いは嬉しかった、と。

(´・ω・`) 「それは……」

続ける言葉もないのに、声を発してしまった。

260名も無きAAのようです:2012/04/19(木) 11:05:39 ID:lvNlMSaA0


(´・ω・`) 「……リリは……」

⌒*リ´・-・リ 「ショボンを責めているわけではないです。
        むしろ死んでいたはずの私にこれほどまでに多くの幸せを下さって、とても感謝しています」

⌒*リ´・-・リ 「私がいなければ、ショボンは一人で生きていくことになってしまいますから。
        ただ少し、そう少しだけ、疲れてしまったのかもしれません」

今になってようやく気づいた。


リリは人間の心を持つホムンクルスだ。
人の心は数百年を生きるようにはできていない。
長生きすることを想定して作られた僕とは、決定的に、絶望的に違う。

今はまだ『少し疲れた』程度かもしれない。でも、いずれは……。

深く沈んだ僕の表情を見て、リリは言った。

261名も無きAAのようです:2012/04/19(木) 11:11:06 ID:lvNlMSaA0
]


⌒*リ´*・-・リ 「心配しないで下さい。そうそう簡単に負けたりしませんから」

(´ ω `) 「うん……」

ただ頷き返すことしかできなかった。

リリの心を人間の時そのままに残したのは、彼女の心に干渉したくなかったからだ。
僕によって強く作りかえられた心は、果たしてリリのものなのか。
そういう疑問を持ちたくなかった。

だから、彼女の精神には何も施さなかった。
それが今のこの状況を作り出している。

何が正しくて、何が間違っているのかわからなくなってしまった。
静かに泣いていた僕を、彼女は優しく抱きしめてくれた。



・  ・  ・  ・  ・  ・

262名も無きAAのようです:2012/04/19(木) 11:26:20 ID:lvNlMSaA0



⌒*リ´*・-・リ




⌒*リ´・-・リ




⌒*リ´ - リ




 リノ´ -川

263名も無きAAのようです:2012/04/19(木) 12:20:57 ID:lvNlMSaA0


・  ・  ・  ・  ・  ・



僕とリリはただひたすらに生きた。

そこに神様が願いを聞いてくれて幸せになる奇跡はなく、
悪魔と戦って生きる意味を知るような物語もない。

平凡で、それ故に平和な百数十年だった。
長い年月で得たものは、両手では持ちきれないほどの思い出。
それとは逆に、リリの心は少しずつ磨耗していった。



 リノ´ -川 「ごめんなさい、ショボン……」



一番聞きたくなかった言葉が容赦なく鼓膜を震わせる。

ただぼーっと指をくわえて見ていたわけではない。
心の劣化を防ぐ研究を、元へ戻す研究を続けてきた。

264名も無きAAのようです:2012/04/19(木) 12:23:00 ID:lvNlMSaA0
]


ついぞ答えを見つけることはできなかった。
いずれの手段をとるにしろ、彼女の性格を手付かずで残すことができないのだ。
心とは性格そのものだと言うことを、理解した。

(;´・ω・`) 「頼む! もう少しだけっ!」

そう言ってリリを引き留めた。
何度も。何度も。

265名も無きAAのようです:2012/04/19(木) 12:25:30 ID:lvNlMSaA0












 リノ´ -川 「…………ごめんなさい」










.

266名も無きAAのようです:2012/04/19(木) 12:31:57 ID:lvNlMSaA0


研究に疲れて寝ていた僕が、そのことに気づいたのは、次の日の朝だった。

(´-ω-`) 「リリ……?」

扉が強く叩かれる音で目を覚ました。

(´+ω-`) 「ん……」

普段ならリリが対応するはずだが、姿が見えない。
仕方なく机から起きあがり、来訪者を迎え入れた。

「ショボン様、リリ様が……」

村人の尋常でない様子から、リリの身に何か起きたのだと悟る。

(#´・ω・`) 「何があった!?」

まどろみから一瞬で覚めた。
語気を荒くして問う。

「リリ様が……川に」

(;´・ω・`) 「っ! どこだっ! 案内しろっ!」

267名も無きAAのようです:2012/04/19(木) 12:32:56 ID:lvNlMSaA0
]


連れてこられたのは、村に流れ込む大きな川。
流れは早く、リリの姿は見あたらない。

(;´・ω・`) 「いつの話だ?」

「つい先程です。一人ふらふらと歩いてこられて……」

(;´・ω・`) 「リリっ……くそっ……リリぃっ!!」

叫んでも返事はない。
水の流れる音だけが、聞こえていた。

(;´・ω・`) 「しばらく家を空ける。村の者にも伝えといてくれ」

「わかりました」

河口へは遠く、この辺りはかなりの深さがある。
おまけに急流ともなれば、川底を調べるのは不可能だ。

(;´・ω・`) (どこから探せば……)

家に戻って旅支度を整える。
必要なものはまとめて革袋へ放り込んだ。

そこで一枚の紙切れが目に付いた。
手に取って見てみると、リリの字で書かれた手紙だった。

268名も無きAAのようです:2012/04/19(木) 12:34:43 ID:lvNlMSaA0












「ショボンへ。あなたに救ってもらったこの命を、無駄にしてしまうことを許して下さい。とても幸せでした。さようなら」











.

269名も無きAAのようです:2012/04/19(木) 12:48:47 ID:lvNlMSaA0
]






(´;ω;`) 「っ…………」

涙が止まらなかった。
短い手紙には、リリの苦労が一言も書かれていなかった。
彼女は、僕を気遣ってくれたのだ。
エゴで彼女を苦しめた僕を。

罵詈雑言で埋め尽くされていてもおかしくなかった。
呪いの言葉を残されても自業自得だ。

それなのに彼女は……。

(´・ω・`) (探さなきゃ……こんな終わり方は駄目だ……)

ホムンクルスの命を終わらせる方法なんてわからない。
それでも、リリが本当に死を望むなら、見つけなきゃならない。
水底で眠るのは一時的な逃避だ。数百年後、数千年後にさらにひどいことになるかもしれないのだから。

(´・ω・`) (必ず見つける。見つけて、二人で最善な道を探すんだ。
       それがもし離れ離れになってしまうことだとしても。僕が逃げてはいけない)

270名も無きAAのようです:2012/04/19(木) 13:12:09 ID:lvNlMSaA0


手紙も袋の中にしまい込み、まずは川下へ向かって歩くことにした。
人の体は浮くものだし、どこかで引っかかっているかもしれないからだ。
乾季になれば、少しは水の量が減る。それまでの凡そ三カ月は川の周辺を調べるしかない。

数百キロの途方もない道のりも、リリを想えば容易かった。

(´・ω・`) (見つけて、今度こそリリを救う)

彼女が、彼女らしく生きていけるように。
彼女が、彼女らしく死ねるように。



僕は……もう逃げない。

271名も無きAAのようです:2012/04/19(木) 13:41:57 ID:lvNlMSaA0



日の出ている間は、ひたすら川下に向かって歩いた。
下降にある港町まで二週間かけて歩いたけれど、リリの持ち物一つ見つけることすらできなかった。

港町で聞き込みをする。

海に流れ込む河口は人を運ぶだけの勢いも、深さもない。
ここまで流れ着いていれば、誰かが気づくはずだ。

(´・ω・`) 「すいません、普段町で見ない女の子を知りませんか? 
       リルケット・リファリアという名前なのですが」

「いや。交易都市だからなぁ。人の出入りも激しいし、それだけの情報じゃわからない」

(´・ω・`) 「そうですか……ありがとうございました」

(´・ω・`) 「すいません、あの……」


「いや、知らない」

「知らんなぁ」

「わからん」

272名も無きAAのようです:2012/04/19(木) 14:49:46 ID:lvNlMSaA0


聞き込みの成果はゼロだった。
リリの姿形を表現できる手段がなければ、当たり前かもしれない。
かといって絵が描けるわけでもない。
状況は最悪だった。

(´・ω・`) (しばらく、ここで暮らすか……)

いつ彼女が流れ着くかわからない。
焦って何往復もするよりは、このほうが良いはずだ。

用意していた金銀をもってギルドに建築の依頼をする。
中心部から離れた、河口を見下ろせる丘の上に小さな小屋を建ててもらうことにした。

完成するまでの一週間は宿屋に泊まり、朝から晩まで河口を眺めて過ごした。

「ショボンさん、でしたっけ。注文通りの家を完成させました」

きっちり一週間後、職人が報告しに来た。
残りの代金を払い、あらかじめ予約していた錬金術の道具店へ向かう。
錬金術師が広く知られていないこの時代に、こうした店を見つけることができたのは運が良かった。

273名も無きAAのようです:2012/04/19(木) 14:58:59 ID:lvNlMSaA0


(´・ω・`) 「フラスコを10、試験管を12、固定具を2、ランプを2、用意できてますか?」

「ああ、新しい研究所を作る人だったけな。全部できとるよ」

(´・ω・`) 「ありがとうございます」

「サービスにフラスコと試験管二つずつ増やしといたから。また利用してくれよ」

(´・ω・`) 「はい、そうさせていただきます」

両手いっぱいの器具を抱えつつ、家に帰った。
全てを使いやすいように並べて一息つく。
ふと、西側の窓から河口を見下ろす。

川で水遊びをしている子どもたちが目に入った。
覚悟を決めて手元の器具に目線を映す。

(´・ω・`) 「ホムンクルスの研究を一からしよう……」

僕はホムンクルス、ひいては賢者の金属について知らないことはないだろう。
だが、今ある知識だけでは足りない。
リリを見つけたときのために、全てを知っておかなければならない。



・  ・  ・  ・  ・  ・

274名も無きAAのようです:2012/04/19(木) 15:01:17 ID:lvNlMSaA0
]




数十年の年月はあっという間だった。
一匹の兎を検体として百を越える実験をし、千を越える種類の薬品を投与した。


その何一つとして有効な結果は得られなかった。

調べれば調べるほど、ホムンクルスの不死性は完璧な論理の上に組みあがっていた。

(´・ω・`) 「くそっ……」

書きあげた式を破り捨てる。
これもうまくいかなかった。

未だリリを見つけることも出来ていない。
一年に一度、彼女が身を投げた村まで川を遡っていが、手掛かりはない。

リリは記憶を失ってどこか別の場所で生きてるんじゃないだろうか。
どこかで、一人苦しんでいるのではないだろうか。

そんな考えが浮かんでは消えていく。

ここにいれば彼女が見つかる、そう信じていた。
でももう、それすら信じられない。

港町に長居し過ぎたせいで、僕の名もだいぶ知られてしまっている。
ここも安全ではない。

275名も無きAAのようです:2012/04/19(木) 15:02:02 ID:lvNlMSaA0
(´・ω・`) (世界中を巡って、不死の解決の手段を探す)

流通する品は限られている。
ここにいたままでは手に入らない素材は山ほどあるし、知らない植物も旅の途中で多く見て来た。
それならば、新しい発見を求めて。

(´・ω・`) (世界を歩き、リリの痕跡を見つける)

それが、僕の今すべきことだ。


でもその前に、やることがある。

ここに僕がいた証を残そう。
リリの手掛かりになるように。

(´・ω・`) (ただ彷徨うのではなく、帰ってこれるように)

買ってきた塗料で家の壁に大きく文字を書く。
ここが、僕の家だとわかるように。


Death is only the begining except for Us

276名も無きAAのようです:2012/04/19(木) 15:03:55 ID:lvNlMSaA0


そして家を守るための仕組みを作った。
家を中心に二重の黒線を描き、そこに錬金術を組み込む。

それは人間の意識を逸らす。
定期的に帰って来なければならないが、これで家は残されるはずだ。


(´・ω・`) 「ふぅ…………」

勢いつけて起きあがり、机の上の紙を全て暖炉に放り込んだ。
実験道具に残っていた研究素材も全て。

炎の色は夜のように黒く、紫の煙を出して燃え上がる。

最後に机の上に丁寧に横笛を置いた。
砕けてしまった、彼女の最も大切な物。

欠片を繋ぎ合わせ、接着した。
別れてしまった僕らが再び出会えるように願いを込めて。




最後に一度だけ振り返り、家を出発した。

277名も無きAAのようです:2012/04/19(木) 15:04:57 ID:lvNlMSaA0









8 ホムンクルスと少女のようです  End

             

9          NEXT

278名も無きAAのようです:2012/04/20(金) 00:11:20 ID:pAaOR/kY0
おつ

279名も無きAAのようです:2012/04/20(金) 00:56:29 ID:ZcRvi6WU0
おつ

280名も無きAAのようです:2012/04/20(金) 20:51:45 ID:Jl3zMMgs0
乙面白かった

281!ninja:2012/04/22(日) 01:16:10 ID:bv6bonas0


282名も無きAAのようです:2012/04/24(火) 11:19:38 ID:htuCzBwE0
お突き合い

283名も無きAAのようです:2012/04/24(火) 11:22:06 ID:htuCzBwE0
ミス 乙

284名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 18:26:59 ID:fUqXUNps0








9 ホムンクルスは迷うようです

285名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 18:29:53 ID:fUqXUNps0

鉱石の研究がしたくて、ある鉱山の町で働くことを決めた。
小さな町で、掘り出される鉱石の量は決して多くない。

それでもこの町に決めたのは、多彩な鉱石が取れると聞いたからだ。
一つの場所にいながらにして、いくつもの研究ができるのはありがたい。

鉱山に入らないこと、南の森に入らないこと。
二つの約束を条件に、村人たちは快く僕を迎えてくれた。

「ショボンさん、今日の分です」

(´・ω・`)「ああ、いつもご苦労様です」


夕方ごろになると、毎日村の代表が訪ねてくる。
運ばれてきたのは大小様々、色も形も全く異なる鉱石。
僕の仕事は価値の異なるものを別にし、適正な価格で販売できるようにすること。

286名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 18:31:31 ID:fUqXUNps0

僕が来るまでは、全て一括で売っていたと言うのだから驚きだ。
中には非常に稀な鉱石もあるのに。


そのおかげもあって、村人たちの生活は目に見えて向上した。
僕もわりといい暮らしをさせてもらっている。

(´・ω・`)「今日はいつもよりいい石が採れてますね」

「そうですか、それはよかった」

(´・ω・`)「ふむ……」


一番多い鉄鉱石を別の入れ物に取り分ける。
そこからは細かい鉱石を全部分類していく。


金、銀は環境の変化に強いから、そのままでも問題ないが、
錬金術に使われる鉱石は、効力を保つのに特殊な処置が必要な物も多い。

287名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 18:32:25 ID:fUqXUNps0

例えば、月光石。
これは可能な限り日の光が当たらない場所に保存する必要がある。

火石は水の中に入れて置かなければ危ない。

(´・ω・`)「……これは」

「どうしたんですか?」

薄緑色に発光する爪の先程度の小さな石。
あまりにも希少なため、その存在すら疑っている錬金術師もいる。

(´・ω・`)「時鉱」

僕ですら現物を見たのは二回目。


「じ……こう……?」

288名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 18:33:22 ID:fUqXUNps0

(´・ω・`)「錬金術には必ず守らなければならない手順があります。
      その最も重要なファクターである、"時"をある程度操作できる貴重な石です

「はぁ……高いんでしょうか?」

(´・ω・`)「売れば人生を三度遊んで暮らせるでしょうね」

「!?」

(´・ω・`)「これを譲って……いや買わせてもらえないだろうか」

研究材料として欲しいというのもあった。
が、これほど貴重な物を売れば、村の知名度が上がりすぎてしまう恐れがある。

「村の者に相談してみないとわかりませんが……。
 ショボンさんでしたら皆、賛成するのではないでしょうか」

(´・ω・`)「聞いておいてくれると助かります」

「わかりました」

男は種類ごとに分けた鉱石を持って出て行った。

289名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 18:35:13 ID:fUqXUNps0

(´・ω・`)(こんなに気がはやるのは久しぶりだな……)

時鉱に関しての研究はほとんど行われていない。

時を操るということ。
もしかしたら、そう思ってしまう。

無限の時を生きるホムンクルスに、作用することはできるのでは、と。

やりかけの研究も放置し、男が返ってくるのを待つ。

「ショボンさん、村の皆で話し合った結果、これは差し上げることにしました」

(´・ω・`)「いや、流石に……。すぐには払えないけれど、お金を払わせてもらいますよ」

「ショボンさんのおかげで、この村の暮らしはよくなりました。
 もしこの村に来ていただけなければ、私達は今も貧しい暮らしをしていたはずです。
 この村に価値をくださったのですから、そのお礼と言うことです」

(´・ω・`)「……ありがとう」

290名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 18:36:31 ID:fUqXUNps0

「これからもよろしくお願いします」

(´・ω・`)「そうさせてもらいますね」

時鉱を受け取って試験管の中にしまい、純水を注ぐ。
確か、空気と触れていると小さくなっていく、とあったはずだ。

本当かどうかは知らないが、消えてなくなってしまっては余りにも惜しい。

「それでは、失礼します」

(´・ω・`)「皆に礼を伝えといてください」

自分で行くのが筋だろうが、今は研究室を離れる気にはなれなかった。
頭の中に浮かんでくるいくつものアイデア。
その中のどれを実行するべきか考える。

(´・ω・`)(実験に使うべきか、研究するべきか)

欠片は非常に小さい。
思い浮かんだアイデアをすべて実行することは、到底できないだろう。

291名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 18:39:14 ID:fUqXUNps0

(´・ω・`)(今度は自分で掘ってもいいな)

時鉱みたいな鉱石が掘り出されるのであれば、採掘が難しい鉱石類があってもおかしくはない。

この村の鉱山は自然に空いた洞穴を奥まで進んだ先にある。
通常の横穴を掘り進めていく方式ではないため、大人でも自由に出入りできるのが特徴だ。

(´・ω・`)(……おかしい。これだけの好条件の鉱山がどうして誰にも狙われない?)

鉱山のある村はただでさえ盗賊や、強欲な領主の被害を受けやすい。
れがどうだ。
確かに利益が少ないとは言え、ここまで平和なものだろうか。

(´・ω・`)(……明日聞いてみればいいだろう)

残っていた鉱石群を仕分けしていく。
他に貴重な鉱石を見つけられなかったが、眠気が出てくるまでの丁度いい時間潰しにはなった。

実験中の器具の火を消し、時鉱の用途を考えながらうつらうつらしていた。


ガタン

292名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 18:40:40 ID:fUqXUNps0


明け方に物音で目が覚めた。
視界のピントが合うまで、寝たふりを続ける。

(  )「どれだ……」

研究室を荒らしているのは村の若い男。
貪欲な目つきをした覇気のない姿が目に入り、よく覚えていた。

(  )「くそ……」

沢山の鉱石が並んだ棚を一つずつ調べていた。

(´・ω・`)「何を探してる?」

(;'A`)「ッ!?」

僕の声を聞くやいなや、逃げ去ろうとするが、素早く扉との間に立ちふさがる。

('A`)「出せよ。何やらとかいう鉱石」

293名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 18:43:39 ID:fUqXUNps0

何かを取り出す動作が見えた。
僅かに光ったのはおそらく小型のナイフ。
家の中で、脅し目的だとすれば十分な効力がある。

相手が僕でなければ、だが。

(´・ω・`)「時鉱か。君が手に入れたところでどうする?」

('A`)「決まってる。売って親父の病を治す薬を買う」

(´・ω・`)「……。二つ、言いたいことがある」

(;'A`)「時鉱の場所だけ言えば十分だ」

彼は追いつめられているのが自分だと、よく理解しているはずだ。
額に流れる汗も、震える手も、怯えたような瞳も、彼の良心が呵責しているからだろう。

だから僕は言う。

(´・ω・`)「無駄なことはやめろ」

294名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 18:46:26 ID:fUqXUNps0

(#'A`)「うるせぇっ!」

相当焦ってもいたのだろう。
緊迫した時間に耐えられなくなった彼は、ナイフを僕の胸に突き立てた。
温かい血液が心臓の律動に合わせて噴き出す。

(;'A`)「はぁっ…………っぁ……」

(´・ω・`)「たった二言で十分だったのに、君が手間を増やしたんだからな」

(;'A`)「なん……で……」

ゆっくりと後ずさりする青年。
その顔にはありありと恐怖が浮かんでいた。

(´・ω・`)「僕はホムンクルスだ」

(;'A`)「…………」

(´・ω・`)「分からないよな……。不老不死の化け物さ。
      人間に害為すことはないからそんなに、怯えるなよ」

295名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 18:48:25 ID:fUqXUNps0

胸に刺さったままのナイフを投げ捨てる。
傷口は瞬時に治癒する。

(´・ω・`)「服が直らないのは欠点だな。今度はそういう錬金術を考えてみるかな……」


(;'A`)「ば、化け物っ!!」

やっと思考が追いついたのか、青年が反応を示す。

(´・ω・`)「自分で言っといてなんだけど、何度言われても慣れないなぁ」

化け物、か。
人間から見たらやっぱりそうなんだろう。

(´・ω・`)「それに、時鉱は売れないよ。高価すぎるんだ。使えるのは錬金術師だけだしね。
      長々と説明させたんだ。どうしてこんなことをしたのか、話を聞かせてもらうよ」

('A`)「…………」

(´・ω・`)「黙ってちゃ分からない。それに、僕は怒ってるわけでもない」

296名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 18:51:35 ID:fUqXUNps0

('A`)「父親が……病気なんだ……」

震えた声。
その理由は、僕という人外の前にいるからというだけではないだろう。

(´・ω・`)「それはもう聞いた」

('A`)「治すために薬がいる。だけど高すぎて買えないんだ」

(´・ω・`)「なんだ、そんなことか」

(#'A`)「そんなことだとッ!」

最初から言ってくれればもっと話は簡単だったはずだ。
そう思うと、ついそっけない態度をとってしまった。

青年の怒りはもっともだ。

(´・ω・`)「家に連れていってくれ」

(#'A`)「その必要がどこにある! お前は医者じゃないはずだ!」

297名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 18:55:12 ID:fUqXUNps0

(´・ω・`)「ああ、医者じゃない」

(#'A`)「それならっ!」

(´・ω・`)「僕が錬金術師だからだ」

とまぁ格好良くは決まらず、その後もしばらく説明に時を要した。
錬金術師にも研究分野があり、僕はほとんど一人で行うことができるということ。
特に人体へ影響を与える錬金術を得意としていることなどを聞かせた。

わかったようなわからないような顔をしながら、青年は家を出た。

(´・ω・`)(ついてこいってことか……)

無言で歩く青年の後を追う。

('A`)「ここだ」

(´・ω・`)「失礼します」

鉱山の入り口のすぐ近くに立っている一軒の小屋。
彼の話によると、採掘者を管理する仕事もしているようだ。

298名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 18:55:57 ID:fUqXUNps0

(´・ω・`)「なぜ管理する必要が?」

('A`)「この洞穴には村人しか入ってはいけないことになってる。
    かつて三度近くの領主の兵士たちが洞穴に入っていき、三度とも全員が病で死んだ」

(´・ω・`)(なるほどね……)

('A`)「それ以来、父親が常に見張りをしているんだが、この前一人の男が無許可で入っていった。
    男を止めるために後を追った父親も病に苦しんでるわけだ」

(´・ω・`)「村人だけが入ったときは何もないのか?」

('A`)「何も」

ベッドに伏せっている男は体中に紫の斑点が浮かんでいる。
村人に特殊な抗体があると言うよりは、村人以外が入ったときに何かがあると見るべきだな。

(´・ω・`)「これは……鉱山毒の一種だ」

('A`)「治せるよな?」

(´・ω・`)「かなり進行しているが、幸い摂取量が少なそうだ。
      今から薬を調合しても十二分に間に合う」

299名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 18:57:40 ID:fUqXUNps0

('A`)「調合……?」

(´・ω・`)「錬金術を行う、という言い方以外にも、
      薬品であれば調合、まじないであれば制作、いろんな表現がある」

('A`)「……よろしく頼……お願いします」

(´・ω・`)「ああ。すぐに帰って調合を始める。ここにいて父親を励ましてやれ」

彼を残し、研究所に戻ってきた。
青年の前ではああ言ったものの、猶予はそれほどない。
机の上を手で払い、じゃまな物は全て端にどける。

本来なら鉱毒の解毒には原因の鉱物を特定する作業が最初に必要とされるが、
今回の場合、幸いにしてその必要はない。
体中に紫の斑点が浮かびあがる症状を引き起こす物質。

300名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 19:01:20 ID:fUqXUNps0


【紫珀】


様々な昆虫の死骸が高圧・高温に、長い年月さらされ続けることで出来上がる宝石の一種。
一度に大量に摂取すれば死に至る強毒性の鉱物だ。
ごく微量でも、高熱などの症状が出て立って歩くこともできなくなるほどの毒性を発揮する。

(´・ω・`)(だけど紫珀は粉末状態じゃなければ、人間が摂取するとは考え辛い。
      どうも嫌な予感がする……)

紫珀の毒を取り除くためには、例外を除いて非常に高価な薬が必要になる。
その例外が錬金術師だ。

保存してあった【兎草】を瓶から取り出し、鼻に沁みる匂いがでてくるまで擦り潰す。
これは簡単な毒物であれば解毒できるし、多様な地域で手に入るから使い勝手がよい。

複数の薬品を加えることで効果を最大限まで高めることができ、
その状態であれば紫珀の毒を解くことができる。

301名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 19:02:32 ID:fUqXUNps0

最低限の時間で済むように、的確に加熱を加える。
通常は放置しているような時間も、そばに立ってひと時も目を離さない。

混ぜる方法も寸分の狂いなく行う。

(;´・ω・`)(よし、こんなものか)

透明な液体が入ったフラスコを持ち上げて、何度も左右に振る。
これで泡立たなければ、錬金術として成功している。

(´・ω・`)(……できた)

運ぶための小瓶に入れて蓋を閉め、先ほどの青年の家へと走った。

('A`)「……早かったな」

(´・ω・`)「ずっと起きてたのか?」

('A`)「…………ああ」

眼の下に隈ができていた。
心配で眠れなかったのだろう。

302名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 19:03:26 ID:fUqXUNps0

集中して作業をしていたせいで気付かなかったが、
調合を始めてからすでに一日と少しが経過してた。

手に持っていた薬を何度かに分けて飲ませる。
険しかった顔はすぐに緩み、苦しむうめき声は静かな寝息に変わった。

('A`)「……ありがとう。どうお礼をすればいいか……」

(´・ω・`)「お礼、か。それなら頼みがあるんだが」

('A`)「何でも言ってくれ」

(´・ω・`)「鉱山の洞穴に入らせて欲しい」

('A`)「それは駄目だ」

どんな例外も存在しないかのように、
悩む間すら見せず、即座に断られた。

(´・ω・`)「……僕が死なない化け者だということは知っているはずだが」

('A`)「それでもだ。あの中は慣れない者が行くには危険すぎる。
    深さのわからない竪穴がそこらじゅうにあるし、道は迷路のように複雑だからだ」

303名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 19:04:31 ID:fUqXUNps0

(´・ω・`)「……またしばらくしたら親父さんの容体を診に来る」

首を横に振る男の意思は固そうだ。
今は我慢して別の機会を待ったほうがいいだろう。
そう僕は判断し、一言だけ言い残して青年の家を後にした。



・  ・  ・  ・  ・  ・



家に帰ってから汚れた机の上を片付ける。
余分にできた薬を、一応小瓶に動かす。

夜の闇にまぎれて洞穴に忍び込もうかと思ったが、やめておいた。
それよりも有毒物質の話が気になり、ベッドに座り自問自答する。

答えの予測はできていたが、それをより確実にするために。

304名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 19:05:23 ID:fUqXUNps0

(´・ω・`)(……鉱山で有毒物質が発生することは珍しくないが、しかし……)

話を聞くに、普段から常時漏れているというわけではないようだ。

人の出入りに反応する程度のことならよくあるだろう。
呼吸による酸素量の変化や、発汗による洞窟内の気温、湿度の変化。

つまり生き物それ自体に反応することは稀ではない。
だが、どうやって村人とそうでない人間を判断しているのか。

自然の仕組みがこうまで完璧に機能する確率は限りなくゼロに近い。

では人為だと仮定しよう。
錬金術だとどうか。
設置型の錬金術ではやはり、そこまで細かい差は判別できないと考えられる。

狩りに僕が作るとしたらどうだろう。
村人の服、話し声、探索ルートなどを引き金にするだろうが、
これだけでは完全な罠を仕掛けることはできない。

(´・ω・`)(……つまり)

残る選択肢は一つに限られた。

305名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 19:08:58 ID:fUqXUNps0

(´・ω・`)(村人が意図的に毒を発生させている、と考えるのが自然だ)

おそらくはあの青年が独断で。
父親が関わっている可能性は低いだろう。

(´・ω・`)(……今なら看病で手が離せないだろうな)

あの薬さえ摂ってしまえば、命に別条はないはずだ。
元通りまで回復するには時間がかかるかもしれないが。

父親想いの青年には悪いけれど、錬金術師としての性分は止められない。

最小限の荷物( といっても、採取用試験管を数本程度もっただけだが )
を整え、ランプを片手に鉱山へ向かう。
狭い道を抜け、開けた先に青年の家が見えたところでランプに布をかぶせた。
曇り空ゆえに光はほとんどなく、手さぐりでゆっくりと進んでいく。

洞穴の中に入ったことを肌で感じ、灯りを戻す。

(´・ω・`)(……美しいな)

狭くなっている入口の内壁付近はランプの光を受け、雑多な色に輝いていた。
ここにも多くの資源が眠っているのだろうが、夜に入っていない村人は気付いてないのかもしれない。

306名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 19:09:51 ID:fUqXUNps0

もしくは、むやみに入口を広げていないという可能性もある。
一度に多くの人間が入れないようにするのは、非常に賢いやり方だ。

仮に近くで戦争があったとしても、入り口を塞いでしまうだけで生き延びることができるだろう。

足音を殺すように奥へと進む。
枝分かれしている道を選ぶときは常に右側を選んで進んだ。

置き石や印による侵入痕を残すのはよくないと考えたからだ。

(´・ω・`)(……迷った)

何度目かの三叉路を右に曲がった時からおかしいとは思っていたんだ。
洞穴内は明らかに立体的な迷路構造になっていた。

壁や天井はどこも同じに見え、入り口がどちら側にあるかすらもわからない。
感覚的には若干低い所にいるだろうと予想できるだけだ。

(´・ω・`)(……どうするかな)

307名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 19:11:08 ID:fUqXUNps0

翌日になって村人が採掘に来るのを待ってもいい。
だけど青年が村人に黙っていた場合、村の安全を守るためとはいえ、
少なくない人を殺した、という行動が明るみに出てしまう恐れがある。

それでは僕の望むところではない。


ゴリゴリ


(´・ω・`)(ん……?)

最初は自分の足音かと思ったが違う。
何かをすり潰すような音。
小さな明かりに照らされて輝く粉末が、僕に向かって流れてくる。

(´・ω・`)(見られてたのか……)

風下にいる僕は後ろの暗闇に逃げるしかなかった。
少々吸った程度ではどうもならないだろうが、大量に吸い込むとまずいかもしれない。

308名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 19:12:38 ID:fUqXUNps0

踵を返して洞窟内を走る。

紫珀は水分に弱く、湿るとその毒性をほとんど発揮できない。
ひんやりとした洞窟内を長く漂うことはないはずだ。

(´・ω・`)「なっ!?」

歩きやすいようにある程度整えられていた足元の岩盤が、
急に水分を含む柔らかいものに変わった。

それに足を取られて、受け身も取れずに背中から倒れた。

(;´・ω・`)(っ……。水分……いきなりだな……)

手から離れて転がって行ったランプの灯は消えていた。
完全な暗闇の中では自分の掌も見えない。

(;´・ω・`)(まずったな……)

右手を壁につけながらゆっくりと歩く。
足元の土はどんどん柔らかくなっている。



('A`)「……」

309名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 19:14:19 ID:fUqXUNps0


バリ、と嫌な音が響いた。
足元を見降ろす動作がゆっくりになる。

(´・ω・`)「……」

慎重に来た道を引き返そうとした時、
一際大きな音とともに、僕の体は重力にとらわれた。


(´・ω・`)「!?」


足場を失った僕は、微細な光に包まれるように落ちていく。
落ちながらにして、先ほどよりもこの地下世界のほうが"明るい"のだと気づく。

落下は一瞬だった。

大きな音を立てて僕が落ちたのは、地下水のたまり場のようなところ。
深さは腰ぐらいまであり、怪我は一つもなかった。

水を手で掬うと、星屑が浮いているようにも見える。

(´・ω・`)(光ってるのは……星藻か……)

310名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 19:17:45 ID:fUqXUNps0

水分中の成分を使って発光する珍しい藻だ。
これのおかげで、今の状況が把握できる。

(#´・ω・`)「来るなっ!」

頭上で僅かに聞こえた水の音。
それ僕の声を聞いて動きを止めた。

声はよく響く。

返事はない。


(  )「……なんで入った」

上から降ってくる声は僕を非難する。
それは間違いなくあの青年のものだろう。

(´・ω・`)「……知らないものを知りたい。見えないものを見たい。
      錬金術師はそういう生き物だ……黙って入ったのは申し訳ないとは思ってるよ」

(  )「……あんたには感謝してるよ。でも……っ……!?」

声が途切れ、代わりに大きな水飛沫が上がった。
綺麗だと見とれる余裕はなかったが。

311名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 19:21:04 ID:fUqXUNps0

(;´・ω・`)「おいっ!?」

青年の体を水面へと引き上げる。
その皮膚には小さな紫色の斑点が浮いていた。

(´・ω・`)「紫珀なんか削ったりするからだ」

(;'A`)「……風向きは……十分に……げほっ……げほっ……理解し……ていた」

(´・ω・`)「だからと言ってリスクが高すぎる」

(;'A`)「……はっ……俺の……命で村が……守れれば……安いもん……だろ」

(´・ω・`)「……絶対に助ける……」

(;'A`)「……無理だ……ろ……。俺ですら……ここを……知らない」

上に空いているはずの穴は見えない。
段差も梯子もなく、そこから戻るのは不可能だ。

ひとまず、水位の浅いところを探し、彼の身体を横にした。
全身水に浸かったおかげで、毒の浸食は進んでいないが、相当量吸い込んでいることが分かる。
可能な限り早く処置しなければ命が危ない。

312名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 19:24:43 ID:fUqXUNps0

(´・ω・`)「本当にここはどこか知らないのか?」

( A )「……知ら……ない」

下に落ちたのだから、上に行くのが常識だろう。
それに、ここに水が溜まっているということは、
もし下に向かえる道があったとしても、ここより下は水没していると予測できる。

焦るな。
状況を整理すれば、脱出手段が思い浮かぶかもしれない。

僕と青年は上から落ちてきた。この場所にあるのは、水、星藻。
星藻は水中でしか生まれず、成長しても水中から出ることはない植物のはずだ。

辺りを見回しながら考える。

(´・ω・`)(ではなぜ、壁にまで星藻が群生している……?)

一部分ではなく、おそらく僕らが落ちてきた穴を除き、この空間全体に星藻はりついている。

この場所は全て水没していたのではないか。
壁に取り残された星藻は、上から滴るわずかな水分で生き残ってきたのだろう。
つまり、今のこの水位まで水が抜けた場所があるのではないかと推測できる。

それも、最近。
壁についた星藻の量の変化から、大きなひび割れによる大量排水が行われたのだと結論を出せる。

313名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 19:25:49 ID:fUqXUNps0

(´・ω・`)「動くなよ」

そう言って壁沿いに空間内を歩く。
右手で壁を確かめながら。

(´・ω・`)「あった……」

歩き始めて数分でひび割れを見つけることが出来た。
中にも星藻がびっしりと張り付いており、光には不自由しない。

(´・ω・`)「行くぞ……」

('A`)「……置いて……行けよ」

青年は拒否したが、腕を持って立たせる。

(´・ω・`)「そうはいかない。君を巻き込んだのは僕の責任だ」

('A`)「…………」

ひび割れは予想以上に大きく、二人が並んで通る幅は十分にあった。
中にまで星藻が群生しており、灯りには不自由しない。

火の消えたランプの容器に星藻を詰め込んでいたが、今はその必要もなさそうだ。

314名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 19:26:43 ID:fUqXUNps0

(´・ω・`)「……」

道は奥へと続いていた。
行き止まり出ないのはありがたいことだが、同時に懸念が一つ。

(´・ω・`)(下り、か……)

('A`)「どう……した……?」

考え込む顔を見られたのか、
苦しそうに呻きつつ男が尋てくる。

(´・ω・`)「上から落ちてきて、下に進んでいる。
      ……僕らが落ちる前にいたところは、村からどれくらいの高さにある?」

('A`)「……わか……らん……大人、ひとり分、ぐらい……だろ」

(´・ω・`)「ということは、すでに町の下か」

(´・ω・`)(僕の知る限り町の中に地下へ進む道はなかった……。
      これはまずい……)

ほとんど男を抱えるようにしながら、前に進みながら考える。
水は一体どこに流れて消えたのか。

315名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 19:27:24 ID:fUqXUNps0

ここの標高が海面下であれば、水が残っているはず。
もしくは、地下のさらに大きな空洞につながっているかのどちらかだ。

このどちらかであれば、隣にいる彼は助けられない……。

(´・ω・`)(星藻もだいぶ減ってきたが……先に光があるな……)

数分前にいた所では壁中に張り付いていたが、今はまばらになってきている。
それでも暗闇にならないのは、横穴内を照らす明りがずっと前の方から来ているからだ。

鋭い岩があるかもしれず、常に足元と目の前に気を配るのを忘れない。

(´・ω・`)「……すごいな」

割れ目に入って小一時間ほど経っただろうか。

目の前が急に開けた。
少し前から、光を感じてはいたが、
二、三度角を曲がったことで、それらはより強烈に存在感を露わにする。

僕らが立っていたその場所は、足元が途切れていた。
目下にはドーム状の広大な空間が広がっていて、
大小異なる様々な鉱石が、天井から降り注ぐように生えている。

316名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 19:28:40 ID:fUqXUNps0

僕らはその横壁にできた、細い裂け目から覗いているにすぎなかった。

下には群青色に輝く水面。
星藻の光が水に溶けている物質を反射しているのだろう。

(´・ω・`)「こんな場所が存在したなんて……」

あまりにも美しく、幻想的な光景に言葉を失う。
まだしばらく眺めていたかったが、男の苦しそうな息で現実に引き戻される。

(;´・ω・`)「まずいな……」

すでに意識はなく、体中の力が抜けている。
かなり危険な状態だ。

天井に見える鉱石の中に解毒成分を含むものはあるが、それには手が届かない。

(;´・ω・`)(どうする…………ん……?)

気のせいではない。
確認のために、何度も鼻をすする。

317名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 19:30:03 ID:fUqXUNps0

(´・ω・`)(これは……)

微かな臭い。
僕以外の誰かであったら気付かないほど。

僅かに鼻に突く刺激臭。
肌がピリピリする感覚。
それらから、特に人体に作用する形式のものだと判断できる。

(´・ω・`)(錬金術痕か……?)

何千、何万回も試行を繰り返してきたからこそ。


近くの壁を叩きながら来た道を後戻りする。
音が変わったのは、一つ目の角を曲がってすぐの場所。

(´・ω・`)(ここだ……)

青年を壁にもたれかけさせ、両手を使って仕掛けを探す。
膝の高さに、丁度手を入れるように作られた穴があった。

隙間に手を入れてひくと、何かが噛みあう音がして壁が僅かに凹んだ。
壁全体に体重をかけると、ゆっくりと動いていく。

318名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 19:45:09 ID:fUqXUNps0
壁を最後まで押し切ると、細い道が一本現れた。
先ほどよりも、より強い臭いがする。

(´・ω・`)(なんだここは……?)

星藻で照らすと、予想通り錬金術師の研究所だった。
蝋燭に火を点け、室内を見回す。

長いロープに結ばれた小さな容器。
小型の望遠鏡。
実験道具が幾種類もあった。

(´・ω・`)(……ここなら、もしかすると……)

錬金術師は様々な素材や物質を研究するため、
自身の研究所に強力な解毒薬を置いてあることが多い。

紫珀の毒を緩和することができる素材を、乱雑に並べられた試験管の中に見つけた。
臭いを嗅ぎ、僅かに舌につけ、二つの感覚でその液体を確認する。
見たところ、そこまで古くはない。

319名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 19:46:15 ID:fUqXUNps0

(´・ω・`)「これを飲め」

予想と異なり、かなり効果の低いものだが、考えている暇はない。
青年の口を無理やり開け、流し込む。

('A`)「ごほっ……ごほっ……」

(´・ω・`)「大丈夫か?」

('A`)「……っほ……。おかげさまで……」

彼は目に涙を浮かべながら咽込んでいる。

(´・ω・`)「歩くぞ」

研究所から奥に向かって、道は伸びていた。

('A`)「あ……ああ」

一人で立ち上がることはできないにしても、男の顔色はずいぶん良くなっていた。
足元に散らばった資料を避けながら歩く。

(´・ω・`)(……また来ればいいか)

320名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 19:47:22 ID:fUqXUNps0

気になるものは多くあったが、青年は完治したわけではない。
一時的に毒の効果を押し留めているだけで、時間がたてば先ほどのように動けなくなってしまう。

(´・ω・`)「……人の住んでた跡がある。おそらくは外に通じているはずだ」

('A`)「わかった……」

道は非常に狭く、二人並ぶのは困難だった。
仕方なく、青年には背にもたれかかるようにして歩いてもらう。

(´・ω・`)「頑張れ……もうすぐ外に出る……」

一時間近く上り坂を歩き続けた。
緑の臭い、日の光が僕らを迎えてくれる。

そこは村の近くにある森の中だった。
木の間から、高い鉱山が北側に見える。

村人達との約束を思い出す。

「鉱山」と「南の森」には絶対に入らないでください。

僕らの出てきた穴は、人工的に掘られたものには見えない。
おそらく最奥まで行った、ある錬金術師があの場所に気付いたのだろう。

321名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 19:48:41 ID:fUqXUNps0

そして、村人たちに口止めか何かをし、不思議な場所を独占して研究していた。

(´・ω・`)(……だが、森に入らなくなったのはかなり昔のはずだ……
      研究室の状態と時代が合わない……)

気になる点はいくつかあったが、調べるのは後回しだ。

(´・ω・`)「村まではすぐだ。あと少し歩けるか?」

('A`)「ああ……」



・  ・  ・  ・  ・  ・



村にたどりついた僕は、青年に解毒薬を飲ませた。
そして家に送った後、再びこの穴の前に戻ってきていた。

322名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 19:49:43 ID:fUqXUNps0

(´・ω・`)(……何を研究していたんだ?)

研究室の中に残っているのは走り書きされたメモや、僅かな試料。
それだけでは、何をしていたのか見当もつかない。

結局わかったのは、かなりやり手の錬金術師だということだけ。
それ以上の探索を諦め、僕はその場所を有効利用させてもらうことにした。

迷っている最中に見つけたあの場所は、
錬金術師の僕にとって非常に興味深い。

(´・ω・`)(新しい発見でもあればいいな……)

どうやら僕がこの村に滞在する期間は伸びそうだ。

323名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 19:51:44 ID:fUqXUNps0









9 ホムンクルスは迷うようです  End

324名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 20:01:08 ID:fUqXUNps0

>>2   1 ホムンクルスは戦うようです
>>29  2 ホムンクルスは稼ぐようです
>>65  3 ホムンクルスは抗うようです
>>93  4 ホムンクルスは救うようです
>>118 5 ホムンクルスは治すようです
>>148 6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです
>>183 7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです
>>245 8 ホムンクルスと少女のようです


>>284 9 ホムンクルスは迷うようです


【時系列】

ホムンクルス生誕
   ↑
   ↓
6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです
7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです
8 ホムンクルスと少女のようです
   ↑
   |
   |
   ↓
1 ホムンクルスは戦うようです
   │
2 ホムンクルスは稼ぐようです
   │
3 ホムンクルスは抗うようです
   │
4 ホムンクルスは救うようです
   │
5 ホムンクルスは治すようです
   │
9 ホムンクルスは迷うようです

325名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 20:04:47 ID:fUqXUNps0

迷ったのですが、こちらで。

創作板の「感想&絵スレ」に投下していただいた作品絵ありがとうございました。
保存させていただきました。

それでは失礼します。

326名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 20:11:23 ID:mz3z.mJ60
乙~ーーーー

327名も無きAAのようです:2012/05/15(火) 20:31:48 ID:OL7bmSrg0


328名も無きAAのようです:2012/05/16(水) 09:42:29 ID:YZbhgGbMO

錬金術の素材や効果が出てくるたびにわくわくするわ

329名も無きAAのようです:2012/05/18(金) 08:46:45 ID:Ix5doFeE0
おもしれぇ

330名も無きAAのようです:2012/05/28(月) 22:22:53 ID:dgipNCRg0
どんどん面白くなってくな。

331名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 22:12:33 ID:VTAp.yLc0
落としてしまった...すまぬ...すまぬ...

332名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 22:20:52 ID:4kPy.HnoO
(´・ω・`)ごめんね、22:10に書き込もうとしたんだよ 
(´・ω・`)もうこのスレには書き込み出来ませんだった

333名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 22:21:24 ID:wzCO0IB60
いえ、お気になさらないでください。
食事放置が原因ですから。

こちらこそすいません。
申し訳ありませんが、再び最初からの投下となります。

334名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 22:57:34 ID:wzCO0IB60


錬金術師が集まって暮らす集落がある。
そこは、特別な錬金術が施されていることにより、一般の人は近付くことすらできない。
さらに秘密を護るため、何年かごとに移転している。

また新たな場所に移ったと風の噂で聞き、少し寄ってみることにしていた。
その道すがら、一つの村で僕はある少年と出会った。



ホムンクルスは生きるようです


      【戦争編】

335名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 22:58:26 ID:wzCO0IB60










10 ホムンクルスと動乱の徴候

336名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:02:34 ID:wzCO0IB60



( ・ー・) 「ねぇ! ちょっと待ってよ、旅のお兄さん」

(´・ω・`) 「ん?」

澄んだ湖に隣接する小さな村。
そこで食糧を補給するために、馬を下りて歩いていると、
いきなり後ろから声をかけられた。

振り返ってみれば、背丈は僕の半分ほどの少年が立っている。

田舎にしては身なりは裕福で、
領主直系、もしくはそれに類する立場の子と思われた。

それなら邪険に扱うと面倒があるかもしれない。
領主に嫌われれば、その土地の出入りが面倒になる。
そう思い最低限の応対だけですませようとした。

(´・ω・`) 「そうだけど、どうかしたの?」

( ・ー・) 「丁度暇なんだ、遊び相手になってよ」


見ず知らずの大人に良くそんなことが言えるものだと、少し感心した。

337名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:04:06 ID:wzCO0IB60

(´・ω・`) 「悪いけど、僕は暇じゃないんだ。友達と遊べばいいじゃないか」

( ・ー・) 「……友達いないんだもの」

(;´・ω・`) 「……」

( ・ー・) 「友達いないよ!」

(´-ω-`) 「はぁ……繰り返さなくていいよ……」

この町に滞在する予定はない。
ちょっとした食料を手に入れれば、すぐに旅立つつもりだ。

(´・ω・`) 「……ちょっとおいで」

だから走って逃げてもいいのだが、やはり目立つ行動はしたくない。
それならば、と彼を手招きしてすぐ近くに見える湖まで並んで歩く。


( ・ー・) 「ねぇ、なんで旅をしてるの? 何歳? どこから来たの?」

ほんの少しの距離なのに質問が矢継ぎ早に飛んでくる。
何から答えようか考えてしまう。

338名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:07:21 ID:wzCO0IB60

(´・ω・`) 「……研究をしてる」

少し悩んで口を開いた。

( ・ー・) 「何の?」

(´・ω・`) 「いろんなモノ。この世の全て」

( ・ー・) 「……そんなの、わかるわけないじゃん」

さっきまでの子供らしさをよそに、はっきりと断言する。
その視線には強い意志が見えた。

( ・ー・) 「世界に存在するものは、人間の寿命じゃ到底解き明かせないよね。
       数が多すぎるもん」

(´・ω・`) 「……そうかもしれない。それでも、僕は世界を旅する
       無限にある情報の中から、自分の知りたいことを見つけるために」

実際には僕には無限の時間があるのだから、もしかしたら可能かもしれない。
が、そんな例外中の例外を出す意味もなし。

(´・ω・`) (考え方のしっかりした子だな)

339名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:08:24 ID:wzCO0IB60

金持ちの家の子供はたくさんの本を読んでいることが多いし、
知識はそれなりに持っているだろう。

でもこれは、子供が持つべき知識じゃないように思える。
世界の仕組みなんてものは、もっと大人になってから知ればいい。
まぁ、これは唯のつまらない感想だ。

( ・ー・) 「それで、何で湖の前まで来たの?」

(´・ω・`) 「ああ、それは……」

水辺の傍には三つ葉の小さな草が群生していて、さながら緑のカーペットの様だ。
葉は薄い緑色で水滴のような形をしており、茎の長さは大人の人差し指くらいほどしかない。

(´・ω・`) 「この草はふつう三つ葉のものだ。だけど、稀に四つ葉のものがあり、
       それを見つけると幸せになれる、という言い伝えが昔からある」

( ・ー・) 「……それを一緒に探すの?」

(´・ω・`) 「いや、違う。僕は忙しいと言ったよね。だからこれは勝負だ。
       僕がこの町を離れる前に四つ葉を見つけたら君の勝ち、少し一緒に遊んであげよう。
       そうでなければ、僕の勝ち。僕はこの村からすぐに出ていく」

(*・ー・) 「……わかった!」

340名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:10:46 ID:wzCO0IB60

(´・ω・`) 「ああ、それと見つけたら、ここから見えるあの宿屋に来てくれ」

煙を立ち昇らせている大きな宿屋を指さす。
勿論泊まるつもりはなく、ただの時間稼ぎだ。

それに、どうせ見つけることは出来ないだろう。
本来三つ葉しか持たないこの雑草は、特殊な状況下でしか四つ葉にならない。

日当たりが悪く、水が汚いなど、生存環境が過酷であること。
それが条件となって生態を変化させる。

日が十分にあたり、広さもあり、水も綺麗で流れがないこの場所は、
湖の周りを全て探し続けても見つからないかもしれない。

(´・ω・`) (悪いね少年……)

(´・ω・`) 「それじゃ、頑張ってくれ」

(*・ー・) 「うん、また後でね」

立ち去る前に、一度だけ少年を振り返った。
彼は座り込んだまま湖を向き、足元の雑草を一つずつ探していない。
その光景を訝しがりながらも、僕は宿屋の方角へ歩き始めた。

341名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:12:01 ID:wzCO0IB60

町の中心部に来てみると、あらゆるところに様々な装飾が施されていた。
広場には木の枝が整然と詰まれており、何らかの準備をしていることは間違いない。

(´・ω・`) (祭りか。この時期にやってるとは……ずいぶん珍しいな)

祭りといえばやはり収穫祭だろう。
秋にはどこの地域でも行われ、小さな村でもそれなりの盛り上がりを見せる。

夏にも当然祭りはあるが、やはり夏野菜の実るころだ。
初夏に行われる祭りなどめったにない。

「……旅の人かい? フェスタへようこそ」

忙しそうに準備する女性は、それだけ声をかけると去って行った。
家の軒下に均等に水の入った桶を並べているのは、この地域独特のやり方だろう。

(´・ω・`) 「フェスタ……か……」

342名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:13:04 ID:wzCO0IB60

そういう行事をやっているなら、ただ通り過ぎるのももったいない。
急ぐ旅をしているわけではないし、少しくらい参加してもいいか。

用意から見ても今日が本番の様だし、長く続くものでもない。

と、自分の中で言い訳をするのは……やはり少年のことが気になっているからか。
見つからないはずの四つ葉を探し続けさせることが、
僕に似ているからかもしれない。

なんてことはない。
自分でそうさせておきながら少し後悔していた。

四つ葉を見つけて宿屋を尋ねた時、そこに僕がいないと知ったらどう思うだろうか。

(´・ω・`) (後で少しくらい遊んでやるか……)

お人よしだな、そう心の中で苦笑しながら中心部へ向かって歩いていく。

「よく来てくれたね」

「楽しんでいってくれ」

343名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:14:02 ID:wzCO0IB60

すれ違う人たちはみな楽しそうに声をかけては通り過ぎていく。
僕は少し話を聞きたいのだが、誰も彼も忙くしていて話しかける余裕がない。

(´・ω・`) (どうするかなぁ……)

ふらふらと、彷徨うように歩いていた。
と、突然背中に衝撃を受けた。

(´・ω・`) 「……?」

重さを感じて振り向くと、何人もの子供たちが突っかかってきていた。

「旅の人っ!」

「お兄ちゃん、旅の話してー」

「どこから来たの? ねぇ、どこから来たの?」

次々と投げかけられる質問。
そのどれから答えようか考えていたら、子供たちの世話役であるらしき女性が出てきた。

「す、すいませんっ。ご迷惑をおかけしまして」

(´・ω・`) 「いえ、気にしないでください。
       こちらとしても少々聞きたい話がありますので、子供への話が終わった後にでも」

344名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:16:47 ID:wzCO0IB60

「いいんでしょうか……?」

女性は遠慮するように逡巡していたが、やがて決心したように頭を下げた。

「よろしくお願いします」

こちらも応えるように頭を下げる。
子供たちは飛び上がりながら喜んでいた。

「何の話かなー?」

「ドラゴンがいいー」

そんなものと戦っていては命がいくつあっても足りないな。
もちろん、ストックは必要以上にあるわけだけど。

(´・ω・`) 「それなら、先ほどの少年も……」

「……えっと、」

彼女は少し困ったような顔をする。
それで、なんとなく事情を察した。

345名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:18:24 ID:wzCO0IB60

(´・ω・`) 「……何か不都合が?」

子供たちに聞こえないように話す。
少し驚いたようだが、女性は二度頷いた。

「彼は……モララルド君は……、一人でいることが多いんです。
 あまり他の子供たちと遊ぼうとはしませんし、
 嫌がらせも少しあると聞いています」

(´・ω・`) 「ふむ……」

お節介をすべきかどうか。
子供たちは僕らの話に気づいていないのか、一軒の家に走って入って行った。

「ここで、祭りの準備中は子供を預かっているんです。どうぞ」

女性が扉を開けたまま中へ案内してくれる。
大きな部屋が一つあるだけで、他に何もない。

子供たちは外で遊べず、暇を持て余していたのだろう。
それで窓から見えた僕に声をかけに来たわけだ。

346名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:23:45 ID:wzCO0IB60

(´・ω・`) 「さぁて、じゃあ何の話から始めようか」

「お姫様のはなしー」

「魔物の話だろっ」

「面白いのお願い!」

それぞれが求める話は別々で、それにそんなに子供がはしゃげるような話があるわけでもない。
血と泥にまみれて戦うような、そういった生き方をしてきた僕は、
常にかっこよくあり続ける物語の主人公とは違う。

それでも、そういった話を望んでいるのだろう。
子供たちの目は期待に輝いていた。

その期待にこたえるためには、少々の脚色をする必要があるな。
ありのままよりも、そちらの方がきっと面白い。

(´・ω・`) 「……これはあるときの話だ。僕が……」

部屋の中はときに笑いで満たされ、ときに息の飲む音が聞こえるほど静かになる。
あまり得意ではない僕の語りに、誰もが熱心に耳を傾けてくれた。

347名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:24:59 ID:wzCO0IB60

感受性の高い子供たちは、僕の言葉に踊らされるように、心象に風景を描いていく。
こうやって話して聞かせるのは、意外と楽しいものだと思った。
また、彼にも聞かせてやりたかった、とも。

彼は、それは無理です。そんな怪物がいたら人間滅んでますから、
とでも言うだろうか。

(´・ω・`) (……あとで声をかけてみるか)

三つの話を聞かせ終わった時、子供達は目を擦り始めていた。
ちょうど昼寝をする時間になったのだろう。

「どうもありがとうございました。子供たちもとても喜んでいましたし」

(´・ω・`) 「いや、このくらいのことでしたら。こちらも聞きたいことがあるのですが」

「私に答えられることでしたら」

床の上で静かな寝息をかきながら眠っている子供たち全員に毛布をかけ終わった後、
疑問に思ってたことを彼女に聞いた。

348名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:26:10 ID:wzCO0IB60

(´・ω・`) 「この祭りは一体何のために……?」

「それは確かに気になるでしょうね。
 古来より、私たちは生贄を捧げてきたのです」

(´・ω・`) 「生贄……?」

物騒な話だ。
この言葉をいい意味で聞いたことなど、長い人生のなかで一度もない。

「ええ、怖い話ですよね。も、もちろん今はやってませんよ?」

彼女があせって弁明したのは僕の顔を見たからだろう。
僕は表情を取り繕いながら続きを促す。

(´・ω・`) 「ということは、その名残ですか?」

「はい。昔はあまり恵まれてなかったんですね、この辺は。
 特に初夏の災害がひどかったんです。大雨や、乾燥、日照り、
 様々なことに苦しめられてきたようです。
 ですから、夏の収穫の前、実りくれたことへの感謝として」

(´・ω・`) 「なるほどね……」

349名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:27:21 ID:wzCO0IB60

「今でも形式だけ残って、この時期にやってるんです」

(´・ω・`) 「それでは、もうひとつ」

今はどちらかといえばこっちの方が気になっている。
町はずれの道でであった少年。
確か名前は……

(´・ω・`) 「えっと……モラルド君でしたっけ……?」

「モララルド君ですね」

(´・ω・`) 「どうして彼は独りでいるのですか?」

「彼は……すいません、私はよく知らないんです。昔から一人で遊んでますし、
 他の子とあんまり話そうとしません。
 それで、一度無理やり授業に参加させた時、彼は文を読むのを酷く苦にしていました」

(´・ω・`) 「読むのが……?」

350名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:28:24 ID:wzCO0IB60

「それで、他の子たちがからかって……それからなお寄りつかなくなりました。
 私もかなり嫌われちゃって……」

(´・ω・`) 「なるほど……」

あれほど聡そうな子が読みを苦手……か……。

(´・ω・`) 「ありがとうございました」

「いえ、それでは失礼します」

(´・ω・`) (祭りの内容も聞けたし、湖に行くか)

他の子供たちと同じように扱ってやるべきだろう。
祭りに参加しようと決めたから、時間はまだあるはずだ。

彼はまだ湖で四つ葉を探しているだろう。
そう思って来た道を戻ろうとした時、後ろから服をつかまれた。

(´・ω・`) 「……?」

(;・ー・) 「やっと見つけたよ」

少年の手には確かに四つ葉の草が握られている。

351名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:29:47 ID:wzCO0IB60

(;・ー・) 「宿屋にいなかったね」

文句を言うように唇を尖らしていた。
走って僕を探したのだろう、肩で息をしている

(´・ω・`) 「ああ、ごめん……」

( ・ー・) 「別にいいよー。約束通り遊んでくれれば」

そういう約束だったな、と思いつつも考える。
一体、どうやって見つけたのか。
湖畔に生えている可能性もゼロではないが……

(´・ω・`) 「どうやって見つけたんだ?」

( ・ー・) 「普通に見つけたよ? 
       なんで三つ葉が四つ葉になるのか考えてたら時間が過ぎてて……」

(´・ω・`) (普通に……か、まぁ無いわけじゃないしな)

それに、今はもう遊んでやるのを避ける理由はない。
むしろ他の子にしたのと同じだけの労力は割いてやるつもりだ。

352名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:31:28 ID:wzCO0IB60

(´・ω・`) 「じゃあ……約束だ。何をして遊ぶ?」

( ・ー・) 「うん。錬金術ごっこ」

(´・ω・`) 「錬金術ごっこ?」

子供たちと遊ぶことは多いが、そのような単語を耳にしたのは初めてだ。
とはいえまぁ、内容は大体想像できる。

( ・ー・) 「必要な道具は家にあるから、うちまで来てー」

(´・ω・`) 「わかった、君の家まで案内してくれ」

少年の歩幅に合わせ、後ろについていく。
どことなく嬉しそうなステップを踏んでいるのは、久し振りに他人と遊べるからだろうか。

( ・ー・) 「〜〜♪」

(´・ω・`) (あれか……豪邸だが……この地域の領主だろうか……)

353名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:32:59 ID:wzCO0IB60

丘を下って見えたのは横一列に長く続く塀。
かつての戦争の名残だろうか、ところどころは崩れたまま放置されている。
その先に見えるのは二階建ての横長な屋敷。

正面から見える窓は玄関の横に、合わせて十二。
一部屋に二つだとしても左右に三つずつ部屋があることになる。

( ・ー・) 「あそこが家だよ」

(´・ω・`) 「大きいね」

( ・ー・) 「大きいだけだよー。今はほとんどの部屋を使ってないし」

何かがあったのだろう。
それくらいは簡単に察せた。
だからというわけでもないか

(´・ω・`) 「隠していたわけじゃないけど、僕も錬金術師のはしくれだからね
      君の研究室、結構楽しみにしているんだ」

(*・ー・) 「! ほんとっ!?」

飛び上がるように喜ぶ少年。
家に向かう速度が上がり駆け足気味になる。

354名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:34:00 ID:wzCO0IB60

(*・ー・) 「本物の錬金術師なんだー」

本物の、か。
昔と比べて錬金術師を名乗る人間も増えてきた。
それをいいことに詐欺を働く者もいる。

(´・ω・`) 「……錬金術師がどういうものか知っているのか?」

( ・ー・) 「……あんまり詳しくは知らない。調べようにも記録が残ってないんだ
       少なくとも200年くらい前には最古の錬金術師集団がいたってことくらい。
       今の形として錬金術が有名になったのは100年くらい前だって聞いてる」

どうだろうか。僕でいえば300年くらい前にはもういた気がする。
正直、自分の年齢など覚えていられない。


(´・ω・`) 「詳しいね。たぶん、そこらの似非錬金術師よりはずっと歴史を知っている」

( ・ー・) 「父さんが昔教えてくれたんだ。今から行く場所もその書斎だよ。
       残ってた本は少なかったけど、そこから勉強したんだ」


(´・ω・`) 「独学か……どうしてそこまで錬金術に拘るんだ?」

( ・ー・) 「それしか、ないから。僕が父さんを知ることができるのは錬金術を通してだけ」

355名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:34:50 ID:wzCO0IB60

子供がそう簡単に錬金術について理解できるはずもない。
血のにじむような、相当の努力があったのだろう。
他の友達と遊ぶ時間も犠牲にして、それでも父に近づこうと努力した。

( ・ー・) 「ここだよ」

家の錠は開いていて、中に人がいる気配はない。
入ってそのまま右にまっすぐ進む。

玄関が南向きだから、おそらく研究室は北側にあるだろう。
日当たりなどを均等にしなければ、試料の比較なども難しいからだ。

予想通り、少しして左に曲がる。
奥まった場所にある部屋は鍵が閉まっていた。

( ・ー・) 「どうぞ」

独特のにおいが部屋の中に充満していて、
実験器具が丁寧に並べてある。
古いものだが、きちんと手入れされていた。

(´・ω・`) 「この部屋は……」

見ただけでわかる。これは"本物"の部屋だ。
だから、つい言葉にしてしまった。

356名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:36:35 ID:wzCO0IB60

(´・ω・`) 「君のお父さんは本物の錬金術師だったようだね」

( ・ー・) 「? 当然だよ」

その反応に苦笑する。
少年からすれば、それは特別なことではないのだから。

(´・ω・`) 「いや、ごめん。変なことを言ったね」

( ・ー・) 「さ、今日は持ってきた四つ葉を使うよ」

行われる作業はまだ子供のものだ。
小さな手で一生懸命にフラスコを水で満たしていく。

それを火にかけながら、三つ葉を細かく千切り、
沸騰した水の中に沈めてかき混ぜる。

(*・ー・) 「よっし」

四つ葉には、錬金術の素材として利用する方法がある。
でも僕は黙って少年の指示に従う。

357名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:37:57 ID:wzCO0IB60

ここでは、彼が術師で僕は助手だ。
三つ葉のカスをとり、残った水分に四つ葉を浮かべる。

室内にあった何種類かの液体を混ぜ合わせた後、
30分ほど放置し、少年は満足したようだ。

(*・ー・) 「できたっ……ありがとう」

(´・ω・`) 「どういたしまして」

その一言出たのは、既に日も落ちた時間。
部屋の窓から外の様子を伺うが、月が陰っているのかほとんど見えない。

( ・ー・) 「うちに泊ってよ。部屋もあるし、ご飯も作ってもらうから」

(´・ω・`) 「そうさせてもらおうかな」

断る意味はないだろう。
今から宿屋に行っても晩御飯は出ないだろうしね。

「ぼっちゃま、ご飯はどうされますか」

タイミング良く、部屋のノック音と女性の声が聞こえる。

( ・ー・) 「二人分お願い。一人分は大人の人の量で」

「畏まりました」

358名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:39:08 ID:wzCO0IB60

( ・ー・) 「それじゃ、来て。食事をするのは別の部屋だから」

少年は後片付けを終え、部屋の鍵を閉めた。
廊下を右に曲がり玄関まで戻ってきた後、北側にある両開きの扉をあける。

白のテーブルクロスが敷かれた長い机からは、
暖かい料理の匂いが漂ってくる。

「今夜はお祭りですが、どうされますか?」

( ・ー・) 「お兄さん、お祭り行く?」

(´・ω・`) 「出来れば少し見ていきたいと思ってる」

「それでしたら、ご飯を食べた後に出られるとちょうどよろしいかと」

湯気をあげるスープは香草と兎肉の贅沢なものだ。
机の真ん中には、綺麗な焦げ目のついたチキンが置いてあり、
見た目でどの料理も手が込んでいるのがわかる。

( ・ー・) 「わかった。じゃあ、ご飯を食べてから行こうか」

359名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:40:30 ID:wzCO0IB60

大広間の長テーブルで僕らは話しながら食事をとった。
内容はそのほとんどが錬金術に関するもので、僕は少年の質問に答える。

小一時間で食事が終わった。
少年が準備するのを待ち、二人で祭りに向かう。

(*・ー・) 「うわぁっ……!」

町中の道の真ん中に松明が掲げられ、中心の広場では家よりも高い炎が上がっていた。
男たちは火を絶やさぬように次々と薪を放り込んでいく。

(´・ω・`) 「凄いな……」

( ・ー・) 「これを一晩中燃やし続けるんだよ。
       食べ物や飲み物は近くの家の人がみんな用意しているから、頼めばもらえるけど」

(´・ω・`) 「さっきおいしいのを食べたから、今日はもういいかな。
      そうして各家庭の料理を比べるの?」

( ・ー・) 「正解! みんなで投票するんだー。今年は食べないから参加しないけど」

あっちこっちで顔を火照らした大人たちが大騒ぎをしている。
子供達と一緒になって炎の周りを駆け回っていた。

360名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:41:18 ID:wzCO0IB60

(´・ω・`) (ん…………?)

祭りの雰囲気にそぐわない男達が、村人に声をかけていた。
何かを尋ねているようだが、ここからでは聞こえない。

人影は明らかに武装している。
もしかしたら僕を探しているのかもしれない。

(´・ω・`) 「……さて、帰ろうか?」

( ・ー・) 「もう?」

恨まれるようなことをした覚えは…………色々とあるし、
荒事になって、祭りを壊してしまう前にこの場を去るべきだ。
顔を隠すように、彼らに背を向けた。

(´・ω・`) 「いいものは見れたし、長居しても仕方ないからね」

(*・ー・) 「わかったー。あ、これ甘いっ」

近くの家のフルーツを食べていたモララルドと一緒に家に帰った。

361名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:42:20 ID:wzCO0IB60

・  ・  ・  ・  ・  ・



帰宅した後、僕は用意された部屋のベッドに座っていた。
壁にある本棚には紙の束が乱雑に積まれている。

(´・ω・`) (下の研究室とは別に、資料を溜めこむ部屋だろうか)

悪いと思いながらも、好奇心に勝てず紙束を手に取る。
その中に一つだけ、特殊な装丁の本が目に入った。


──錬金術師の歴史


……?

本に書いてある文字は左右を逆にした鏡文字だったからだ。

( ・ー・) 「ちょっといいかな」

362名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:43:21 ID:wzCO0IB60

ノック音とともに少年が入ってきた。
気付かれないように紙を本棚に戻そうかとも思ったけど、やめておいた。

( ・ー・) 「ああ、それ」

こちらの手にあったものに気づいたのだろう。
少し寂しそうな光が少年の目に見えた。

( ・ー・) 「それは、父さんが残してくれた本。僕のために」

それを聞いて女性の話を思い出した。

この子は文章を読むのが苦手なんじゃない。
読字障害なのか。

(´・ω・`) 「それで、鏡写しの本か」

( ・ー・) 「うん……錬金術で治そうと研究してくれてたんだけど……」

読字障害は人間の中でも最も複雑な脳に関する障害だ。
少なくとも今の錬金術では、完全に治療するのは不可能なはずだ。

( ・ー・) 「僕のためにずっと研究をしててくれたんだけど、それが近くの領主様に見つかって……。
      連れていかれてから……帰ってきてない」

(´・ω・`) (…………)

363名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:44:26 ID:wzCO0IB60

錬金術を悪魔の業だと信じている輩は少なくない。
人体に有害な物質を作り出すことも出来れば、強力な武器を作ることも可能だからだ。
戦争にその力を用い、領土を広げようと画策する奴らは、
自領土内にいる術師にそのような研究を無理強いする。

利用価値があるとして生かされていればまだいい。
酷いところだと、錬金術を異端として迫害している地域もある。


(´・ω・`) (両親がいないのに、これほどの屋敷を保てている理由はそれか……)

( ・ー・) 「母さんも一緒に出て行った……。だから今は一人で暮らしてるんだ
        ご飯はメイドさんが作ってくれるから」

(´・ω・`) 「出て行ってから一度も帰ってきてないのか?」

( ・ー・) 「うん……」

(´・ω・`) 「出て行ったのはいつ頃になる?」

( ・ー・) 「2年くらい前かな」

町の中に戦禍の跡がないのは、まだ戦争をしていないからか。
それとも……

364名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:45:23 ID:wzCO0IB60

( ・ー・) 「それでね、あの……錬金術の話をして欲しい」

少年が話題を変えるのに合わせる。

解決すれば必ず彼のためになるわけじゃない。
余計なことをするべきじゃなかった、そう思うのは避けたかった。

(´・ω・`) 「具体的には、どんな話がいい?」

一口に錬金術と言っても、素材になる動植物及び鉱石の話、
作業する行程の話、使用する器具や道具、具体的調合例など多岐にわたる。

( ・ー・) 「実際に錬金術で作ったものの話が知りたいかな」

ま、予想通り。
それが一番面白いだろう。

(´・ω・`) 「例えば……これか。危ないから少し離れてろ」

持ち歩いている荷物の中から、種火を取り出す。
三叉の燭台の真ん中に灯っている火を吹き消した。

( ・ー・) 「?」

365名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:46:52 ID:wzCO0IB60

二つの火種で蝋燭の芯を挟むように叩く。
パチッという音とともに火がはね、真ん中の火は元通りになる。

(;・ー・) 「!? え?」

(´・ω・`) 「まぁ、火打石があれば別にいらないといえばいらないんだけどね。
      これの利点は、力の加減で火力が調節できること。
      火打石なんかよりもずっと火を点けやすいんだ」

(´・ω・`) 「他にも、今の時期だとこれなんかも有用だ」

荷物から取り出したのは、冷土と呼ばれる粘性の高い粘土のようなもの。
水分中の温度を吸い取って、中に閉じ込めることができる。

使用した後に空気中に放置すれば、発熱し中に取り込んだ温度を廃棄する。
劣化するまで何度でも使えるから、冷たい飲み物が欲しい時に有用だ。

(´・ω・`) 「土だとは言うけど、水に入れたらそのまま沈む。
       変な成分が溶け出すわけでもないし、慣れたら便利だな」

(*・ー・) 「これが本当の錬金術……すごい……」

366名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:48:16 ID:wzCO0IB60

残された資料を見て、自分なりにいろいろ試していたんだろうな。
それでうまくいくほど錬金術は簡単じゃない。
実際にその成果を目にする機会など無かったはずだ。

(*・ー・) 「触ってもいい?」

(´・ω・`) 「これなら別に危なくもないし、いいかな」

手のひらに直接乗せてやる。

(*・ー・) 「冷たい……」

少年は重さや感触を直に触って楽しんでいた。
余裕があればあげてもいいのだが、残念ながら今はそれしかない。

(´・ω・`) (……もう夜も遅いな)

まだまだ話は尽きないが、子供はもう寝た方がいい時間だ。

(´・ω・`) 「さて、そろそろ自分の部屋に戻れ」

(;・ー・) 「でもっ……」

367名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:49:00 ID:wzCO0IB60

(´・ω・`) 「明日にまた話せばいいだろ?」

( ・ー・) 「……わかった。おやすみ」

(´・ω・`) 「うん」

彼が部屋を出ていった後、本棚の資料を読み始める。
他の錬金術師の研究を知る機会なんてほとんどないし、いい機会だ。
普通は自分の利益を優先して、公表しないからな。

僕だって本当に都合のいい道具は量産されたくないから黙ってるしね……。

(´・ω・`) (どうせ大した物はないだろうな)

そう思っても、手と目を動かし続ける。
研究は、主に視覚情報についてだった。
息子の読字障害のためだろう。

左右逆に読んでしまう彼の障害を取り除く手段が、いくつも書き込まれている。

だが、いくつかの研究に途中経過が書かれたままで終わっていた。
これは少年の父が研究途中で連れ去られたからだろうな。

368名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:50:17 ID:wzCO0IB60
(´・ω・`) 「ふぅ……」

ベッドに潜って寝ようかと思った時、玄関の方から話し声が聞こえてきた。
かなり大きな声で話しているのか、部屋の中まで響いてくる。

「子供はどこにいる」

「どなたですか」

「いいから子供を出せ」

「申し訳ありません」

( e ) 「煩いですね、あなた」

「かはっ」


 「きゃあああああああああああああああ」



(;´・ω・`) 「ッ!?」

369名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:51:39 ID:wzCO0IB60

( e ) 「お静かに」

悲鳴は長く続かなかった。

突然のことに焦りながらも、手元にある剣を抜き玄関まで走った。

(;´・ω・`) 「……!」

玄関の絨毯は真っ赤に汚れていた。
女性は胸を貫かれ絶命している。

(#´・ω・`) 「何をしている!」

(’e’) 「誰でしょう? 確かここには男性はいなかったはずですが」

血に汚れた刀を持っていたのは、薄汚れたローブを頭からかぶった小柄な男。
腰紐にぶら下がっているのは、蓋の閉まった試験管。
男は、おそらく錬金術師だ。

(#´・ω・`) 「どういうつもりだ?」

真っ赤な汚れはゆっくりとその範囲を広げていく。
警戒しながらも辺りを見回す。

370名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:53:17 ID:wzCO0IB60

倒れているのはメイドの恰好をした二人の女性。
二人とも地に蹲り、息をしていない。

子供の体がそこにないことに少し安心している僕がいた。

(’e’) 「何、子供さえ出せば悪いようにはしません」

(#´・ω・`) 「……誰の命令で動いている?」

(’e’) 「言うと思っているのですか?」

侵入者は三人。
二人は重装備で身の丈ほどの長槍を構え、
話をしている男は、血に濡れたサーベルを床に引きずっている。

先ほど祭りの場所で見た男で間違いない。

(´・ω・`) (目的は僕ではなく、モララルドだったか……)

対するこちらは、常に持ち歩いている古い剣だけ。

(’e’) 「怪我をしたくなければ、少年を差し出しなさい」

371名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:53:58 ID:wzCO0IB60
(;・ー・) 「うわあああああああああ」

(;´・ω・`) 「っ!」

音に目が覚めたのか、部屋から出てきた少年が腰を抜かしている。
そちらに走った男の前に立ちふさがり、牽制に刀を向ける。

(’e’) 「あくまで邪魔をするというわけですか」

(´・ω・`) 「人が死ぬのを黙って見過ごせる性質じゃないんでね」

腰紐に下げた蓋つき小瓶を取り出すのが見えた。
相手の意識がそちらに向くのを肌で感じ取り、その隙を狙う。

(#´・ω・`) 「っあ!!」

(;’e’) 「!?」

一歩を踏みこみ、振り上げた刀を袈裟懸けに振り下ろす。
それは受け止められたが、剣先を下にし相手の刃に添わすように滑らせ、
体の向きを横に変える。
それだけで、片手を腰にやっている男はバランスを失う。

前かがみになった上半身を狙い、剣の面を向けて全力で振り上げた。

372名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:55:30 ID:wzCO0IB60

(;´・ω・`) 「!」

金属音が鳴り、一撃が受け止められたことを悟る。
とっさに数歩下がった。
一瞬前に体があった場所をもう一本の槍が貫いている。

(;´・ω・`) 「ふぅ……」

(’e’) 「なかなかの実力ですが、三人を相手にするのはしんどいでしょう?」

後ろにいた槍使いも見ているだけではないということか。

(#´・ω・`) 「逃げろっ!」

(;・ー・) 「でもっ!」

(#´・ω・`) 「早く行けっ」

(’e’) 「そうはさせません」

(;´・ω・`) 「っ!」

小瓶の中の液体が振り撒かれた。
咄嗟に少年を庇うため両の手を広げる。

373名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:56:47 ID:wzCO0IB60
(;´+ω-`) 「……?」

急に足元がふらついて立っていられなくなった。
視界が歪み、平衡感覚を失う。

(;´+ω-`) 「何を……した?」

(’e’) 「二、三度目を擦ってみたらわかるはずです」

言われたとおりに、目を擦って前を見る。
今までとは、その言葉通り180度違う世界があった。

(;´+ω-`) 「これは……っ」

剣を地面に突き立てて体を支えなければ立っていられない。
視覚から得られる情報が上下左右反転している。

(;´+ω-`) 「くそっ……視界が……」

(’e’) 「そういうことです。いやはや錬金術は実に面白い。
     といっても、これを受けて立ち上がることができるとは驚きです」

374名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:57:37 ID:wzCO0IB60

 「貴公、それでは戦えんだろう」

 「諦めるがよい」

(;´+ω-`) 「そうはっ……いかないな……」

(;・ー・) 「逃げてよっ! その人たちは僕が目的なんだ!
      旅のお兄さんは関係ない! それなのに命をかけるなんておかしいよ!」

言うね……。
確かに僕らは今日会った仲で、深い繋がりもない。
だからと言って目の前の危機を放っておくなんてことはできない。

(;´+ω-`) 「君を守るのは……僕の勝手だ」

(;・ー・) 「……っ!」

(’e’) 「そうですか……では死になさい」

男からの指示を受け、二人の重騎士が槍を僕に向ける
彼らの言うとおり、おそらく攻撃は避けれない。

それならば──

375名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 23:59:05 ID:wzCO0IB60

突き出される二つの先端。
覚悟を決めて、一歩踏み込んだ。

 「なっ!?」

 「にっ!?」

(;´メω-`) 「ぐっ!!!!」

両の目に穂先を突き込まれ、一瞬だけ意識が途切れた。
そのまま体は重力にひかれ、地面に向かって倒れる。

(;・ー・) 「お兄さん!?」

(’e’) 「……バランスを崩しましたか。哀れな……。ガキを捕まえなさい」

が、その破壊も一瞬で治癒する。
両手をつき、反動を受け止めて体を持ち上げる。

(´・ω・`) 「待て」

僕の声を聞いて、驚愕し、目を見開いている男の前に剣を突き付けた。

 「なんだこいつ……っ!」

 「化け物っ!」

376名も無きAAのようです:2012/06/09(土) 00:00:04 ID:m/L1nWJE0

(´・ω・`) 「……ああ、紹介が遅れたね。ホムンクルスのショボンだ」

(;’e’) 「ホムン……クルス……ですか……っ!!
     やはり噂は本当だったのですね……」

とっさに繰り出される三度目の突きは当たらない。
眼球を破壊し再生することで、既に謎の薬の効果は切れている。

(´・ω・`) 「少し聞きたいことがある。答えてくれれば、殺しはしない」

二本の槍を身を削りながらかわし、右手の剣を喉元の隙間に差し込んだ。
左手も同じように首元を抑える。

勿論、左手に人を殺すほどの力はない。
だが、二人の重騎士の動きは止まる。

(´・ω・`) 「誰の差し金だ」

(’e’) 「……言うわけがないでしょう」

(´・ω・`) 「ならもう一つ聞く、なぜ少年を狙う?」

どうも嫌な予感がする。
身をもって浴びたあの薬は、並大抵の術師に作れるようなものじゃないはずだ。

おそらく、組織として動いている集団がある……。
あんなものを作って、一体何をするつもりか。

377名も無きAAのようです:2012/06/09(土) 00:01:43 ID:m/L1nWJE0

(’e’) 「我が主様がお求めだからですよ……それよりもあなた。
    こちら側に来ませんか?
    我が主様であれば、あなたに最高の価値を与えてくださるでしょう」

僕が重騎士の相手をすることで、剣先から逃れた男は余裕が生まれたのだろう。
言葉は震えていたが、それは恐怖だけではないはずだ。

未だ僕の"親"以外の錬金術師が"ホムンクルス"を作ったなどと聞いたことはない。
錬金術師にとって、"ホムンクルス"は夢見るほどの存在。

(´・ω・`) 「必要ない。僕は自分の好きなようにする。
       それに……人に害為す研究を手伝うつもりは毛頭ない」

(’e’) 「残念ですね……今回は引き上げるましょう。ですが逃げ切れると思わないでください。
     我々を生かして帰したことを後悔させてあげましょう」

面倒なことになったな。
それなりに大きな組織が、彼らの後ろにいるのは明らかだ。

(´・ω・`) (……少し遠出をする必要があるか)

(;・ー・) 「…………」

378名も無きAAのようです:2012/06/09(土) 00:03:41 ID:m/L1nWJE0

少年は転んだまま起き上がっていなかった。
安心からか、それとも恐れからかは僕にはわからない。

(´・ω・`) 「それじゃ、迷惑をかけるようだから、僕はもう出ていく」

立ち去ることが、少年にとって一番いい。
僕と一緒にいたって何も得することはないし、
むしろ損することばかりだと思う。

(´・ω・`) 「後……ここは離れたほうがいいよ。しばらくどこかに匿ってもらうんだ」

( ・ー・) 「なら……なら、一緒に行きたい」

(;´・ω・`) 「え……?」

なぜ僕と一緒に来たがるんだ。
意味がわからない。

( ・ー・) 「……匿ってもらえるところなんて、ないよ」

(;´・ω・`) 「事情を話せば、町の人間に頼めるだろう?」

379名も無きAAのようです:2012/06/09(土) 00:04:30 ID:m/L1nWJE0

人間は好きだし、子供だって嫌いじゃない。
だけど、一緒に旅なんてできるわけがないだろう。

( ・ー・) 「お願いっ」

(´・ω・`) 「……君の安全を保障できないし、旅するというのは想像しているよりもずっと厳しいよ」

野宿は当たり前、食べ物も楽には手に入らないし、
寒さや暑さに耐え、雨に打たれることもある。

それに、余計なトラブルに巻き込まれることも多い。
今回の様に。

(´・ω・`) 「それに、僕が人間じゃないってわかっているのか?」

( ・ー・) 「知ってるよ、ホムンクルスのことも少しだけ」

(´・ω・`) 「それなら何で……」

( ・ー・) 「僕がそうしたいんだ。錬金術を覚えて、いつか父さんを迎えに行く」

この惨状を見て、それでもまだ僕についてくるというのか。

380名も無きAAのようです:2012/06/09(土) 00:06:05 ID:m/L1nWJE0

( ・ー・) 「連れて行ってくれないなら、ずっとここにいる」

(´・ω・`) 「あいつ等が来ればどこに連れて行かれるかわからないよ」

( ・ー・) 「それでも別にいい」

(´・ω・`) 「…………」

( ・ー・) 「…………」

にらみ合いは数分続いた。
先に折れたのは僕。

(´-ω-`) 「わかった……近くの教会がある街までだ。それでいいか?」

(*・ー・) 「ありがとうっ!」

(´-ω-`) (はぁ……。お願いにはどうも弱いな……)

長い人生で断るようなことは何度もあったけど、
"お願い"されて断ったことってほとんどないな、そういえば。
こんなんじゃ苦労するというか、現に苦労しているわけだけど。

381名も無きAAのようです:2012/06/09(土) 00:08:47 ID:m/L1nWJE0

人間と旅をするのは……あの時以来だな。

(´・ω・`) 「……じゃあ、もう寝るんだ。僕は彼女らを弔ってくるから」

( ・ー・) 「……置いていかないよね」

(´・ω・`) 「約束する。後、地面を掘る道具はどこにある?」

( ・ー・) 「表の小屋にあるよ。……おやすみ」

部屋に戻った少年を確認し、死体の傍にかがみこむ。
一人ずつ、丁重に玄関から外に運び出した。

部屋から持ってきた明りをかざし、埋葬にちょうどよさそうな場所を探す。
足元に蝋燭を立て、土を掘り返していく。

あまり浅ければ獣に掘り返されてしまうかもしれない。

(´・ω・`) (本当なら、彼女達も家族に帰してあげたい……)

382名も無きAAのようです:2012/06/09(土) 00:09:44 ID:m/L1nWJE0

それは、亡くなった二人の家族すら危機にさらすことになる。
屋敷に来た彼らは、そのくらいのことは平気でするだろう。

ならば、ここに眠らせてあげた方がいい。

(´・ω・`) (何百年生きても、自己満足の考え方は変わらないな……)

なぜモララルドを狙って来たのか。
おそらく、彼の父親が関係しているのだろう。

考え事をしながら全身を動かし、穴を深く、広くしていく。
十分な場所を確保できた時、二人の亡骸を横に並べて寝かせた。

せめて、一人で寂しくないように。

土を上から被せ、石を墓標と置く。


(´・ω・`) 「…………」

383名も無きAAのようです:2012/06/09(土) 00:10:35 ID:m/L1nWJE0


明日は朝早く出たほうがいい。
いつまでも感傷に浸っているべきではないのはわかっていた。

それでも、なかなか屋敷に足が向かない。



(´・ω・`) 「……寝よう」

言葉にして決心をする。
燭台を持ち上げ、部屋に戻った。



・  ・  ・  ・  ・  ・



(´・ω・`) 「起きろ」

384名も無きAAのようです:2012/06/09(土) 00:12:32 ID:m/L1nWJE0

ベッドに潜ってから3時間ほどだろうか。
モララルドの部屋に行って、叩き起こした。

太陽が東の空を照らし始めている。

( -ー-) 「んー……なに?」

(´・ω・`) 「何じゃない、置いて行くぞ。最低限必要な荷物だけ持って、表に出てこい」

掛け布を取り払い、少年は飛び起きる。

昨日のこと思い出して目も覚めたか。

(;・ー・) 「すぐ、すぐ行く」

(´・ω・`) 「ところで、馬はあるか? 徒歩だと相当歩くことになるよ」

( ・ー・) 「裏戸から出てすぐのところに厩舎がある。
      ……メイドさんが…………手入れをしてくれていたはず」

(´・ω・`) 「そうか……。なら、少しは楽に移動できるだろう。向かう先は南の都市だ」

385名も無きAAのようです:2012/06/09(土) 00:15:06 ID:m/L1nWJE0

( ・ー・) 「準備できたよ」

体に見合ったサイズの小さな布袋。
外套は少し大きめで踵まであるが、質はいいものだ。

(´・ω・`) 「よし、行くか」

( ・ー・) 「うん」

(´・ω・`) 「ところで、ずっと聞きたかったんだけど、
       なぜ、ああも早く四つ葉を見つけられたんだ?」

(*・ー・) 「ああ、あれ。最初から持ってたんだ。お兄さんと会う前に見つけてね」

(´・ω・`) 「…………ふっ」

予想外の答えに思わず笑みがこぼれる。

(´・ω・`) 「そう言えば。僕の名前はショボンだ。そう呼んでくれ」

僕は手綱を引き、進路を南に向けた。
自分の前にモララルドを乗せてから荷物を確かめる。

( ・ー・) 「よろしく、ショボン」

(´・ω・`) 「ああ」

短く返事をして、馬を走らせた。

386名も無きAAのようです:2012/06/09(土) 00:16:03 ID:xKy9WrdM0
VIPの方ログで読んで気になって来てみたらこんな良作だったとは
世界観がたまらん

387名も無きAAのようです:2012/06/09(土) 09:01:15 ID:v0FlVTQwO
(´・ω・`)おはようの支援だよ

388名も無きAAのようです:2012/06/09(土) 10:25:20 ID:m/L1nWJE0











10 ホムンクルスと動乱の徴候  End

389名も無きAAのようです:2012/06/09(土) 10:28:54 ID:m/L1nWJE0

>>2   1 ホムンクルスは戦うようです
>>29  2 ホムンクルスは稼ぐようです
>>65  3 ホムンクルスは抗うようです
>>93  4 ホムンクルスは救うようです
>>118 5 ホムンクルスは治すようです
>>148 6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです
>>183 7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです
>>245 8 ホムンクルスと少女のようです
>>284 9 ホムンクルスは迷うようです


>>334 10 ホムンクルスと動乱の徴候



【時系列】

ホムンクルス生誕
   ↑
   ↓
6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです
7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです   
8 ホムンクルスと少女のようです
   ↑
   |
   |
   ↓
1 ホムンクルスは戦うようです
   │
2 ホムンクルスは稼ぐようです
   │
3 ホムンクルスは抗うようです
   │
4 ホムンクルスは救うようです
   │
5 ホムンクルスは治すようです
   │
9 ホムンクルスは迷うようです
    |
10 ホムンクルスと動乱の徴候

390名も無きAAのようです:2012/06/09(土) 10:33:33 ID:m/L1nWJE0

昨日は変な終わり方をしてすいませんでした。
私の気のせいでなければ、執筆ペースが上がっているので、
次の投下もすぐにできると思います。

今回VIPで投下したのは特に理由はありませんが、
最近創作板の投下が多いので、VIPで投下して「ようです」スレの宣伝になればなーと思った次第です。

今後もVIP投下→創作板投下を少しの間続けてみますので、よろしくお願いします。


それでは失礼します。

391名も無きAAのようです:2012/06/09(土) 12:49:09 ID:1Dk.lQZA0
おつおつ

392名も無きAAのようです:2012/06/13(水) 10:07:39 ID:AXBIK71g0
時系列は一番新しいのか。
乙。うまいなー。面白かった

393名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 13:26:40 ID:x1F3PxLs0












11 ホムンクルスと幽居の聚落

394名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 13:28:16 ID:x1F3PxLs0


「ねぇー」

「ねぇってばー」


(;・ー・) 「まだー?」

背中にかけられる声を無視しながら、森の中を馬をひいて進む。
鬱蒼と茂った木々が邪魔で、歩くのにも苦労する。

(´・ω・`) (山奥に里を置くのはいつものことだが……今回はまた随分辺鄙なとこだな……)

僕らが向かっているのは、錬金術師達の隠れ里。
普通の人はその存在すら知らないし、知っていたとしても決して近寄ることはできない。

(;・ー・) 「ねぇーまだー?」

森に入って既に3時間くらいが経過している。
モララルドの文句はだんだんと間隔が短くなってきていた。


そろそろだと思うんだが……。

395名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 13:29:43 ID:x1F3PxLs0


(´・ω・`) 「見えたよ」

(*・ー・) 「どれ……?」

坂を登りきったところに見える、一本の奇妙な形をした大樹の切り株を指さす。
太さは大人三人がようやく囲えるほどなのに対して、高さは子供と同じくらいしかない。

( ・ー・) 「ショボン! ただの木だよ?」

モララルドが駆け足で登っていき、幹を周回してから僕を呼ぶ。

当たり前だ。
入口がそれとすぐにわかるようでは、里を隠す意味がない。

(´・ω・`) 「これは僕ら錬金術師だけが入り方を知ってる特殊な扉だよ」

荷物袋から取り出したのは一枚の紙切れ。
ここに入るのに必要になるため、あらかじめ用意しておいたものだ。

( ・ー・) 「それは何?」

(´・ω・`) 「わかりやすく言うなら、鍵かな」

396名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 13:32:32 ID:x1F3PxLs0


表面には特殊な文字の羅列と記号が書き込んである。
それを幹の中心に置いた。

(;・ー・) 「!?」

それはゆっくりと水に沈むように幹に吸い込まれた。
数秒も待たずに、木の年輪の中心部から波紋が広がっていく。
それと同時に黒い穴が広がっていき、下へ降りる階段が表れた。


(*・ー・) 「すごい……これも錬金術なの?」

(´・ω・`) 「そうだけど、かなり特殊なものだよ。僕でも再現できないだろうね」

(*・ー・) 「降りてもいい?」

よじ登り、暗がりに向かう階段を見降ろして言った。
足を滑らせさえしなければ、別に普通の階段と一緒だ。

(´・ω・`) 「走るなよ。落ちたら怪我するから」

(*・ー・) 「はいはい、わかってるってー」

それだけ答えるとすぐに駆け下りていく。
ため息をつきつつ後を追った。

397名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 13:38:21 ID:x1F3PxLs0


表面には特殊な文字の羅列と記号が書き込んである。
それを幹の中心に置いた。

(;・ー・) 「!?」

それはゆっくりと水に沈むように幹に吸い込まれた。
数秒も待たずに、木の年輪の中心部から波紋が広がっていく。
それと同時に黒い穴が広がっていき、下へ降りる階段が表れた。


(*・ー・) 「すごい……これも錬金術なの?」

(´・ω・`) 「そうだけど、かなり特殊なものだよ。僕でも再現できないだろうね」

(*・ー・) 「降りてもいい?」

よじ登り、暗がりに向かう階段を見降ろして言った。
足を滑らせさえしなければ、別に普通の階段と一緒だ。

(´・ω・`) 「走るなよ。落ちたら怪我するから」

(*・ー・) 「はいはい、わかってるってー」

それだけ答えるとすぐに駆け下りていく。
ため息をつきつつ後を追った。

398ミスった……:2012/06/16(土) 13:39:05 ID:x1F3PxLs0

馬の手綱は近くの木に結んでおく。
近くに姿は見えないが、以前来た時、世話係からそうするように言われていた。

長くも短くもない階段を降り切ると、目の前に突然開けた土地が現れ、
人々の暮らす音が聞こえてきた。
いくつもの家屋が丁寧な扇状に広がり、階段下からだと幾本もの道が見える。

(*・ー・) 「うわーっ」

モララルドは少し先で足を止めて感嘆の声を出していた。
初めて訪れた先がここでは少々刺激が強すぎるかもしれないが、
いい思い出になるだろう。

(´・ω・`) 「僕から離れるなよ。迷子になっても知らないからな」

(*・ー・) 「うん! でも、どうなってるの? なんで森の下に村があるの?
        なんでなんで?」

始めてみた時は僕もそれなりに驚いた。
モララルドがここまで興奮するのもわかる。

399名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 13:39:54 ID:x1F3PxLs0

(´・ω・`) 「ここは森の中だよ。さっきいた場所と同じね」

( ・ー・) 「え?」

(´・ω・`) 「別に地下に降りてたりするわけじゃないんだよね。
       異界に移動してるわけでもない」

(´ ・ー・) 「わかりやすく説明してよー」

(´・ω・`) 「里の外側に背の高い木が見えるだろ? あれが外界との結界を担ってる。
       外から見れば、ここはずっと森が続いてるようにしか見えない」

人避けの錬金術もかかっていると聞くし、
侵入者対策は万全ってところかな。

(*・ー・) 「すげー。これからどうするの?」

(´・ω・`) 「これといって用があるわけじゃないけど、まずはいつもの所にでも行くかな」

隠れ里には何度か来たことがあるが、そのほとんどの目的は情報の収集と整理だ。
毎年何百、何千の新しい素材や、効果が見つけられ、
その中でも公開された情報はここに集められている。

400名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 13:43:00 ID:x1F3PxLs0

僕ですら知らない錬金術に関する知識が、ここにはある。

(´・ω・`) 「どこにあるかな……」

情報量の多さゆえに、その場所は誰にでもわかるような地図には書いてない。
錬金術は知識の結晶であり、悪用されることを防がねばならないからだ。

( ^ω^) 「あれ? ショボン! ショボンじゃないかお」

聴き慣れた声に僕の名前が呼れる。
向こうから手を振りながら走ってくるのは……ブーンか。

(´・ω・`) 「君か……こんなところで何をしてるんだよ」

( ^ω^) 「ショボンこそ、ってその子は?」

ブーンが僕の後ろにいたモララルドに気が付く。
僕の知り合いということに興味を持ったのか、後ろからこちらの様子をうかがっていた。

401名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 13:48:37 ID:4nXJLwR.0
ブーンひさびさに登場か

402名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 13:49:19 ID:x1F3PxLs0

(´・ω・`) 「モララルド、こいつはブーン」

(; ・ー・) 「よ、よろしくお願いします」

緊張しているのか……僕の時はそんな様子は欠片もなかったのに。
まぁ、太ってる人間はそれだけで威圧感があるし、
子供なら恐れるのも仕方ないか。

( ^ω^) 「ブーンって言うお、よろしくだお」

にやにやと下品な笑いをしながら、耳打ちをしてくるブーン。
内容は予想できたが、最後まで聞いてやってから判断を下してやってもいい。

( ^ω^) 「ショボンにそんな趣味があったとは知らなかったお」

(´・ω・`) 「……」

(; ^ω^) 「あ、ちょっとタンマ! それはやばいお」

403名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 13:50:38 ID:x1F3PxLs0

錬金術師の里と言えど、僕らのことを知っている人間は極僅かだ。
隠れ家と共に移動する術師は世代交代で変わっていくし、
客人もまた長くは留まらないからだ。


取りあえず抜き身の剣を鞘にしまう。

( ^ω^) 「で、実際はどうなんだお? 弟子かお?」

(*・ー・) 「はい! そうです!」

(´-ω-`) 「勝手なことを言うな……。弟子にした覚えはない」

油断も隙もない奴だ。
ここまで来るたびの間も、延々と錬金術の話をさせられた。

( ^ω^) 「そういえば……最近、ちょっと騒がしいことになってるお。知ってるかお?」

(´・ω・`) 「いや……何があったんだ?」

( ^ω^) 「錬金術師の集団失踪だお。それに加えていやーな噂話もあるお。
       戦争をするための武器を製造しているって話も……」

404名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 13:51:58 ID:x1F3PxLs0

……戦争か。
人間は本当に学ばないな。
資料に残っているだけでも、千年以上前から人は争っている。

その度に国は衰退し、民は疲弊するというのに。
長い目で見れば損失でしかない。

そんな長期間も見れるものがいないからこそ、戦争はなくならないのだろうが。

( ^ω^) 「どうも、今回はやばそうだおー」

(´・ω・`) 「やばいって……また抽象的な……」

( ^ω^) 「錬金術を使って戦争を企んでるらしいお。
       戦闘に特化した特殊な装備なんかを作ってるらしいお」


( ・ー・) 「戦闘に特化したって、そんなことできるんですか?
        錬金術は科学ですよね?」

モララルドが口を挟んでくる。
気になったことは聞かずにいれないのだろう。
僕もそれはよくわかるので、叱責しにくい。

邪魔者扱いするのではなく、丁寧に説明してやることにした。

405名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 13:53:25 ID:x1F3PxLs0

(´・ω・`) 「そうだ。モララルドの言うように、錬金術はれっきとした科学であり、
       そして技術でもある。
       戦いに転用しようと思えば、いくらでもできるだろうね」

( ^ω^) 「錬金術は抽象性を扱うことはできないお。
       なんでも切れるナイフ、絶対に砕かれない盾、なんてのがそうだお」

ふむふむ、と頷きながら真剣なまなざしで話を聞いている。
ブーンも説明好きのきらいがあり、こうなると止まらない。

( ^ω^) 「でも、逆に言えば、モノによるけれど、具体性は付与できるんだお。
       折れにくい刃や、軽くて堅い盾みたいなね」

( ・ー・) 「でも、それだとそこまで大した戦力にはならないですよね?」

(´・ω・`) 「そうだ。やっかいなのは、対軍錬金術という錬金術の一分野だ。
       僕は嫌いだし必要ないと思ってるから、その手の研究はしたことがないけれど」

( ・ー・) 「対……軍……?」

406名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 13:56:04 ID:x1F3PxLs0

来る途中に話していてわかったことだが、モララルドは情報の整理が異様に早い。
複数の情報をたった一度聞くだけで理解してしまう。

(´・ω・`) 「戦場に敵にだけ見える煙が蔓延したらどうなると思う?」

( ・ー・) 「……連携が取れなくて……混乱する?」

(´・ω・`) 「そうだ、そういう、多数に対して効果を持つ錬金術の中で、
       特に戦争用に生み出されたものを対軍錬金術と呼ぶ」

( ^ω^) 「対軍錬金術を研究している錬金術師はほとんどいないお。
       それは、錬金術は平和の礎であり、人々の生活を豊かにするもの、
       という大前提を破ることになるからだお」

そう。それ故に対軍錬金術は禁術の一つに数えられる。
それらに関する情報も少なく、術師の一人二人程度では実践に使えるまで至らないだろう。

( ・ー・) 「でも、相当難しいですよね? 特定の人にだけ影響を与えるなんて」

( ^ω^) 「そうだお、だから普通はちょっと強い武器、くらいしか使われないお。
       今回は、何人かの錬金術師が共同で錬金術を開発してるかもしれないから、
       厄介なんだお」

407名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 13:57:52 ID:x1F3PxLs0

(´・ω・`) 「で、首謀者はわかってるのか?」

( ^ω^) 「セント領主家がその隠れ蓑だと言われてるお」

セント領主家といえば、海に面した高い崖の上に城を持つ昔からの名家だ。
領民からの信頼も高かったはずだが……。

(´・ω・`) 「理由は?」

( ^ω^) 「まだわかんないお。今調べてるはずだけど」

( ・ー・) 「もし、その人たちが戦争をする準備をしていたら、どうするんですか?」

( ^ω^) 「近くに住む錬金術師と騎士教会が共同で対応するお。
       この二つ、今は物凄く仲が悪いんだけど、
       こういうときには協力する協定が昔からあるんだお」


騎士教会と錬金術師は考え方が真逆だからな……。

騎士は錬金術師を引きこもりと嘲り、
錬金術師は騎士を馬鹿と笑う。

408名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 13:59:02 ID:x1F3PxLs0

(´・ω・`) 「ま、なんにせよ僕らには関係のない話だ」

( ^ω^) 「だおだお。さ、帰って研究の続きでもするお」

(´・ω・`) 「なんだ、もう帰るのか? 久し振りに会ったんだ、話くらいしようじゃないか」

とはいえ、数年ぶりぐらいだろうか。
今までと比べるとはるかに短い期間だ。

( ^ω^) 「んーじゃあ、店でも取って待っとくお。
       用が済んだら酒屋"蜂の巣"にでも来てくれお」

(´・ω・`) 「そうする。モララルド、君はどうする? 
       僕についてきてもいいけど、面白くないと思うよ」

( ・ー・) 「んーいや、ショボンについていくよ」

できればブーンと話していてほしかったのだが、そううまくはいかないか。
久し振りにあの人に会わなきゃいけないからなぁ……。

409名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 13:59:42 ID:x1F3PxLs0

ここに始めて来るまで想像すらしなかった。


僕より長く存在している"個"があるなんて。

(´・ω・`) 「ともあれ、最初に向かうのは錬金術師の知恵の結晶、"大罪館"だ」



・  ・  ・  ・  ・  ・

410名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:00:51 ID:x1F3PxLs0

(´・ω・`) 「お邪魔するよ」

息の詰まるような埃のにおい。
中に日の射さない暗い館は"大罪館"と呼ばれ、
里の術師によって選ばれた一人の司書が管理している。


無数にある錬金術の情報を管理しているただ一つの場所であり、
寿命の短い人間の錬金術師は重宝しているようだ。

「お初お目にかかります。ショボン様ですね?」

(´・ω・`) 「そうだけど、どうして名前を?」

「先代から話を伺っております。
 この書庫の半分はショボン様が見つけられたと言っても過言でないと」

(´・ω・`) 「それは過言だと思うが……」

「第十三代目、書庫番です。以後お見知りおきを」

床まで届く長い髪の女性は、軽く頭を下げた。
応えるようにこちらも挨拶する。

411名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:02:48 ID:x1F3PxLs0

(´・ω・`) 「まずは蓄積を頼む」

( ・ー・) 「蓄積ってなんですか?」

(´・ω・`) 「僕の持ってきた情報を受け取ってくれ、ということだよ。
       書庫番の実力にもよるけれども、そんなに時間はかからないはず」

僕は公表してもかまわない情報を書き写した紙の束を差し出した。
書庫番の娘はそれを受け取り、次々とチェックを入れていく。

「こちらの兎草の新用途、老化の抑制という項目ですが、
 書庫AJ−163 兎草の項目、老化の促進と矛盾します」

(´・ω・`) 「ああ、それか。兎草の持つ本来の用途は毒消し、
       細胞活性化による回復、老化の抑制だ。
       だけど、極度の低温など限定条件下で老化を促進するということが分かった」

「了承しました」

412名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:04:58 ID:x1F3PxLs0

「次に、斑鉱の有効利用法、食べるとうまい、ですが
 何かほかに書き方はなかったのでしょうか」

(´・ω・`) 「ああ……食べるとうまいんだが、
       吸収に時間がかかるからなかなか次のものが食べられない。
       腹が重たくなる不快感がある。それも明記しといてくれ」

「はい」

(´・ω・`) 「そのくらいかな?」

「ええ、確認完了がされ次第、書庫に追加させていただきます。
 いつも貴重な情報ありがとうございました」

(´・ω・`) 「いや、別に気にしないでくれ」

(*・ー・) 「ここにはどのくらいの情報があるんですか?」

(;´・ω・`) 「おい、こらっ」

こちらの話が終わったと見るや、すぐに質問を始める。
多少驚いだ様だが、書庫番は仕事を全うする。

413名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:07:50 ID:x1F3PxLs0

「現在、素材、約8460万種、用途、約3億2119万種ほどあります。
 その全てを管理するのが私たち書庫番の役目です」

( ・ー・) 「ということは、どこにどの情報があるのかすぐにわかるの?」

「わからなければ、書庫番にはなれません」

これには流石のモララルドも驚いたようだ。
理解力はかなり高いが記憶力は並以上ぐらいだからな。

書庫番の連中は錬金術で脳みそをいじっているのだが、それは教えないでおこう。

「ショボン様が子連れだとは知りませんでした」

(;´・ω・`) 「いや、違うから……」

「そうなのですか、それは失礼しました」

(´・ω・`) 「書庫番も冗談を言うのか……」

確か先々代の書庫番の爺は、頑固で必要最低限しかしゃべらない人だった。
先代の書庫番も厳格なおっさんだったな。

414名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:14:23 ID:x1F3PxLs0

「何のことでしょう……?」

(´・ω・`) 「まぁいいよ。それじゃあ失礼する」

「良いお旅を」

(´・ω・`) 「うん」

僕らは大罪館を後にした。
気が進まないけれども、行かざるを得ない。

隠れ里の最奥にある建物の中に"その人"はいる。

部屋が一つしかない、小さな掘立小屋のようにも見えるそれは、
ここで最も偉い人物がいる場所とは到底思えない。


 「ひっさしぶり〜」


真っ赤なカーテンをくぐろうか悩んでいたところで、向こうから声をかけられた。
息をするのも苦しいほど、煙が充満している。

僕は最後の抵抗を諦め、奥に進んだ。

415名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:16:22 ID:x1F3PxLs0

部屋の中央には複雑な円形陣と、小さな台があり、
その上には掌よりも大きいくらいの水晶玉が置いてある。

声はそこから直接響いてくる。


始まりの錬金術師

水晶の魂

神の声


人はみな自分勝手に彼女を呼ぶ。



从'ー'从 「ワタナベクスだよー、はじめましてモララルド君」

(; ・ー・) 「え!? え!?」

416名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:17:53 ID:x1F3PxLs0

驚くのも無理はない。
この水晶玉……いや、この人は近くにいる人間の心ならよむことができるのだから。
僕も初めて会ったときは正直、何かの仕掛けを疑ったものだ。


僕よりも長生きしている"個"が存在しているなんて


从'ー'从 「ふふ……ショボン君も随分音沙汰なかったねー」

(´・ω・`) 「……すいません、忙しかったもので」

从'ー'从 「ふーん……研究でー?」

やりにくいなぁ。
聞きたいことだけ教えてくれればいいのに。


从'ー'从 「でも駄目ー。ワタちゃんも暇だからねっ☆」

(´・ω・`) (…………)

417名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:19:58 ID:x1F3PxLs0

頬がひきつる。
こんな水晶玉ぶっ壊してもいいのだが、ちょっと僕の力ではどうしようもない。
無造作に置いてあるように見えるが、
僕レベルの錬金術師が数人、72時間程度ぶっ通しで攻略しななければ、
傷一つつけることはできないだろう。


(; ・ー・) 「えっと、わたなべくすさん?」

从'ー'从 「ワタちゃんでいいよー」

( ・ー・) 「ワタさんはどうして僕の名前を知っていたのですか?」

从'ー'从 「あれ? ショボン君に教えてもらってないの?」

ああ、教えてないよ。
話してみればすぐにわかることだからね。

从'ー'从 「私はねー近くにいる人の心が読めるんだー」

( ・ー・) 「えっ!?」

从'ー'从 「ふふーん、そしてなんと初代錬金術師でもあるのです!」

(´・ω・`) 「そんなことはどうでもいいので、本題に入らせてもらえないですかね」

418名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:20:50 ID:x1F3PxLs0
从'ー'从 「若い子の疑問に答えるのは大人の仕事だよ、ショボン君」

さいですか。
それならどうぞ続けてください。

( ・ー・) 「初代ってことは500歳くらいですか?」

从;'ー'从 「…………ッ!」

さすが子供。人の聞かれたくないところをずけずけと。
まぁこの場合良くやったと褒めてやりたい。
そしておそらくだけど、もっと高齢だろうな。

視線の無いはずの水晶から嫌な雰囲気を感じるが気のせいだろう。

从;'ー'从「じ……18歳!」

(´・ω・`) 「…………」

( ・ー・) 「…………」



从;'ー'从「…………」

419名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:21:57 ID:x1F3PxLs0

从'ー'从「で、ショボン君何の用?」

まさかそのまま流すとは……、精神力も流石ですね。
伊達に歳を食っているわけではないらしい。

从#'ー'从「な ん の よ う ?」

(´・ω・`) 「先ほどブーンから聞いたのですが、どうも妙な動きをしている領主がいるようです。
       出来れば巻き込まれたくないので、今後荒れそうな地域を教えてもらえませんか」

从'ー'从 「ワタちゃんの未来予知はそんなに的確じゃないからなー。
       まぁ、セント領主家の辺りはあまり近寄らないほうがいいよ」

初代は自分の精神を個の水晶玉に宿らせる過程で、
様々な錬金術を用いて自らの能力を強化している。

その内の一つに未来予知があるのだが、
やはりいつも通り役に立ちそうもなかった。

(´・ω・`) (ほとんど"勘"みたいなものだしなぁ……)

从'ー'从 「まぁ、セント領主家が何かしているのは確かなようだし、
       早めに対処しとくよー」

420名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:23:34 ID:x1F3PxLs0

(´・ω・`) 「よろしくお願いします。
       さて、用も済んだしブーンと待ち合わせしてる場所に帰るよ」

( ・ー・) 「はーい」

从'ー'从 「ああそうだ、ショボン君。未来に妙な闇が見えるよ。十分に注意してね」

(´・ω・`) 「……気をつけますよ」

部屋を後にして向かう先は蜂の巣。
ここの里で一番有名な酒処だ。

酒は文句なしに美味しいし、料理もかなりいいものを出してくれる。
その中身は錬金術だらけの加工料理だから、嫌う人も多いようだけど。

僕やブーンみたいなのは、うまい食べ物であれば調理法なんて気にしないしなぁ。

(*・ー・) 「蜂の巣ってどんなところ?」

(´・ω・`) 「どんなって、普通の店かな。
       別に隠れ里だからって変な場所ばっかりじゃないからな」

目を輝かせても無駄だ。
残念ながら本当に普通の店だからな。

421名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:26:19 ID:x1F3PxLs0

さっき行った二つが飛びぬけて変わった場所なだけで。

(´・ω・`) 「ここだ」

木造のそれは自然に溶け込むように建っている。
玄関には"蜂の巣"と書かれた看板が飾ってあり、
中からは食事の音と楽しそうな会話が聞こえてくる。

(´・ω・`) 「ブーンは……と」

カウンター席の真ん中に堂々と座っていた。
隣に腰掛けて注文を頼む。

ブーンはもう何杯かの葡萄酒を飲んでいた。
机の上には空になったグラスがいくつも並んでいる。

( ^ω^) 「遅いおー」

(´・ω・`) 「まぁ、そういうな。いろいろと時間がかかったからね。
       君と違って僕はいろんな研究をしているし」

( ^ω^) 「僕だってそれなりに研究してるお? 
        この前は飲んだら服が脱ぎたくなる薬も作ったし、
        臭いを嗅いでいる間の記憶を次の日に忘れてしまうお香もあるお?」

(´・ω・`) 「碌な目的につかってなさそうだな……」

422名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:27:35 ID:x1F3PxLs0

相変わらず女の子を手籠めにする研究ばっかりかこいつ……。
というか、そろそろ捕まれ。
騎士教会で異端審問されたほうがいいんじゃないか。

( ・ー・) 「ショボンとブーンさんはどういう関係なんですか?」

(´・ω・`) 「腐れ縁ってやつかな……同じホムンクルスだし」

(; ・ー・) 「えっ!?」

( ^ω^) 「そうだおー。もうかれこれ何百年か生きてるお」

周りの話声がきゅうに小さくなった気がする。
興味をもたれるのはあまり好きではないが、仕方のないことか。

(´・ω・`) 「初代と話してきたよ」

( ^ω^) 「あの人は相変わらずだったお?」

(´・ω・`) 「ブーンの話も割と信憑性が高そうだってことがわかった。
       セント領主家が何かしてるらしいって」

423名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:29:36 ID:x1F3PxLs0

( ^ω^) 「他にも色々と厄介なことが動きがあるみたいだお。
        さっき聞いた話だけどね」

(*・ー・) 「あ、これ美味しいっ!」

モララルドが食べてるのは魚のミンチに特殊な味付けをして、パンで挟んだものだ。
味付けの中身はとてもじゃないが聞いたら食べれなくなるだろうな。

(´・ω・`) 「好きなだけ食べたらいいよ」

(*・ー・) 「うんっ!」

( ^ω^) 「人喰い教会だとか、首切り連続殺人だとか」

(´・ω・`) 「物騒なことになってきてるなぁ……。しばらく海でも渡って別の土地に行こうかなぁ」

モララルドをどこかの教会に預け、一人になってからになるけど。

( ^ω^) 「だから、しばらくは武器を持ち歩いた方がいいお。
       普通の剣じゃなくてそれなりに仕組みのあるものだお」

(´・ω・`) 「とは言ってもなぁ……」

424名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:31:07 ID:x1F3PxLs0

僕が持つのは身を護るための剣だ。
錬金術を用いた殺傷力の強化なんかしたくない。

( ^ω^) 「気持ちはわかるお。僕も錬金術を戦いには使いたくないから。
       でも話を聞いといて損はないと思うお」

(´・ω・`) 「そんなものかなぁ……」

(*・ー・) 「おじさん、これおかわり」

「はいよっ!」

まだ食べるのかこいつは……。
僕よりも食べてる量が多いぞ。

(´・ω・`) 「で、誰に話を聞くんだ? 一応それだけ聞いとくことにする」

( ^ω^) 「近くに住んでるやつだと……ああ、あの人がお勧めだお」

(´・ω・`)( ・ー・) 「誰?」

( ^ω^) 「ショボンはもっと錬金術師のネットワークを有効利用するべきだお。
       年に二回出される名鑑とか購読すればいいのに……」

425名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:32:24 ID:x1F3PxLs0

今年の大発明一覧とか、便箋交換彼女募集とか、
くだらないことをやっているあれか……。
一度買ってみたけどそれっきりだな。

(´・ω・`) 「旅をしてるから毎回手に入れるのも面倒だしね……」

( ^ω^) 「まぁそんなのはどうでもいいお。
       数年前くらいから、あっちこっちの戦場で戦ってる男がいたんだお。
       それくらいなら別に気にしないんだけど、その男が鍛冶錬金術師だって話を聞いて、
       確かめに会いに行ったんだお」

引きこもり錬金術師がわざわざ出て行ったんだな。
珍しいこともあるもんだ。

(´・ω・`) 「それで?」

( ^ω^) 「あんまり詳しくは教えてもらえなかったけど、
       鍛冶錬金術の応用と、自らの異国風剣術を掛け合わせて戦ってるらしいお」

426名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:34:35 ID:x1F3PxLs0

( ・ー・) 「その人どのくらい強いんですか?」

( ^ω^) 「どのくらいって言っても……んー……。
       相当強かったお? 十数人の騎士程度なら相手にならなかったから」

(´・ω・`) 「ブーン……お前……」

どおりでわざわざ研究室から出てたわけだ。
さてはまた何かやらかして騎士教会の連中に追われてたに違いない。

(; ^ω^) 「いや、違うお? その時は女の子に何かしたわけじゃないお?」

(´・ω・`) 「で、その彼が近くにいるってわけね。機会があったら会ってみるよ」

他にもいくつかの情報を交換する。
長く話すつもりはなかったけれど、気がつけば日が落ちて夜になっていた。

(´・ω・`) 「そろそろ宿に行く?」

長話に付き合いきれなくなったモララルドは席で舟をこいでいる。

( ^ω^) 「そうするかお」

427名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:36:08 ID:x1F3PxLs0

小さい体を背負って蜂の巣を出た。
里のあちこちに生えている木には明かりが灯され、
狭い道を照らしている。

(´・ω・`) 「ブーンは明日からどうするつもりだ?」

( ^ω^) 「決めてないおー。適当なところで研究でもしようかなーって。
       拠点を決めるためにもしばらくここにいるんじゃないかお?」

(´・ω・`) 「あーそれなら、こいつ預かってよ」

背に乗せたモララルドを軽く揺らす。
こいつにとっても、腰を落ち着けて錬金術の勉強ができるのなら、
きっと喜ぶはずだ。

( ^ω^) 「んー僕は別にいいお? でも、その子が嫌がるんなら駄目だお。
       女の子だったら確定だったんだけどね」

(´・ω・`) 「女の子ならそもそも君に預けようとは思わない」

( ^ω^) 「……。まぁ、その子が起きたら聞いてみればいいお」

428名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:38:26 ID:x1F3PxLs0

ブーンに預けるにしても、どこかの教会に預けるにしても、
それ以降二度と会うことはないだろうな……。
モララルドは嫌がるかもしれないが、僕はもう……そういう生き方しかできない。

部屋の借り受けをブーンに任せ、今後のことを考える。

(´・ω・`) (初代の言っていた闇とはなんだろうか)

僕がセント領主家を避けるとするならば、そこでの争いは起きないはずだ。
あの適当な占いを気にするのもあほらしいが……。

先日も少年を狙ったセント領主家の襲撃に巻き込まれた。
それならば、僕の意思とは関係なく物事が進んでいくということか……?

( ^ω^) 「部屋とれたお、ショボン。……ショボン?」

(´・ω・`) 「ああ、ごめん。それじゃあ、また明日」

( ^ω^) 「考え事のしすぎはよくないお? それじゃ、おやすみだおー」

429名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:39:57 ID:x1F3PxLs0

ブーンは考えなさすぎだと思うが、素直に受け取っておく。
部屋はベッドが二つ並んでおり、最低限の家具だけが置かれていた。

そのうちのひとつにモララルドを寝かせ、自分も旅の道具を置く。
剣だけはすぐ手の届くところに立てかけた。

(´・ω・`) 「……何もなければいんだが」

窓の外から、夏独特のにおいをした涼しい風が吹き込んでくる。
里が森の中にあるだけのことはあり、虫の鳴き声も盛んだ。

ゆっくりと目を瞑り睡眠を取ろうとした瞬間、鐘の音が響いた。
ベッドから飛び起き、剣を構えて扉と窓を交互に注視する。

(; ^ω^) 「ショボン!」

ブーンが隣の部屋から駆け込んできた。
手には彼の槍が握られている。

(#´・ω・`) 「わかってる! ここは任せた!」

430名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:40:58 ID:x1F3PxLs0

窓を開けて外に飛び出した。
カンカンと何度も打ち鳴らされる鐘の音は、侵入者の襲撃を意味するもの。

ここの警戒網を潜って来るなんて俄かには信じられない。
が、襲撃があったのは事実。

(´・ω・`) (狙いはなんだ……?)

ここにあり、ここにしかないものを頭の中でリストアップしていく。
初代は短時間でどうにかするのは不可能だ。
ならば、ここで狙われているのはおそらく────

(´・ω・`) (大罪館!!)

裏道を全速力で走り、大罪館に駆けつけた。
入口の前に数人の死体が地面に打ち捨てられている。

深い緑色のローブを頭から被った三人の人物。
ローブはモララルドの屋敷を襲ったあの男と同じものだ。
その中で一番大柄な影が、髪の長い女性を抱いていた。

(;´・ω・`) (書庫番ッ!)

431名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:44:08 ID:x1F3PxLs0

(#´・ω・`) 「くそっ……! 書庫番を離してもらおうか」

(   ) 「ショボン……っ?」

(;´・ω・`) 「なっ!?」

「行くぞ、人が集まる前に」

(   ) 「ああ」

(;´・ω・`) 「待…………て……っ!?」

叫び前に出たときに、突然首筋に冷たい何かを感じた。
そのまま地面にたたきつけられて、僕は意識を分断された。



・  ・  ・  ・  ・  ・



,

432名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:45:35 ID:x1F3PxLs0


「……ボン」


「……ョボン!」


(#^ω^) 「ショボン!」

(´・ω・`) 「……ここは?」

( ^ω^) 「やっと目を覚ましたかお。大罪館の司書室だお。
       ホムンクルスだってあんまり知られないほうがいいと思ったから、
       悪いけど移動させてもらったお」

部屋の中には何もなく、僕が横になっている場所も床の上だ。
堅い床に全身をあずけているせいで、背中が痛む。

(´・ω・`) 「今何時だ?」

( ^ω^) 「ショボンが出て行ってから一時間くらいしか経ってないお。
       心配になって出てきたら、大罪館の前で倒れてたんだお」

433名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:46:39 ID:x1F3PxLs0

(´・ω・`) 「そうか……。襲撃者を見つけて……名前を呼ばれた。
       奴らのうちの一人が……僕の名前を知っていた」

( ^ω^) 「顔は見たのかお?」

(´・ω・`) 「いや、見えなかった」

( ^ω^) 「これ……何かわかるかお?」

ブーンの掌にあったのは小さな銀のナイフ。
おそらく、僕の首筋に打ち込まれたものだろう。

( ^ω^) 「頸椎に刺さったままになってたお。
       もしかしたらだけど……こういう攻撃を受けることで、
       僕らの回復に時間がかかると知ってた可能性があるお」

ホムンクルスは不死だ。
煮ても焼かれても、刺されても斬られても、絶対に死なないと断言できる。

だけど、体の再生にかかる時間は状況によって異なる。
切り傷や打ち身程度ならほぼ一瞬のうちに、
腕や足などが欠損すれば、少しの時間で再構成される。

434名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:47:49 ID:x1F3PxLs0

(´・ω・`) (ホムンクルスの……唯一の弱点と言えるかもしれない点……)

脳や頸椎などを破壊された場合、治癒にかかる時間は長くなる。
体内に異物が残されていた場合はなおさらだ。

僕は今回、このケースの攻撃を受けたのか。
それも意図して攻撃された可能性がある……ね。

(´・ω・`) 「……敵は?」

( ^ω^) 「不明だお。誰一人捉えられず、こちらの犠牲は死者11名。行方不明者1名」

(´・ω・`) 「書庫番か……」

( ^ω^) 「今、捜索してるけど……たぶん連れ去られたお」

彼女を担いでいたのを見たし、間違いない。
その膨大な知識を利用するために拉致したのか。

この隠れ里に入るための錬金術師がいて、
それでいて攫ってまで書庫番の知識を必要とするのは……

435名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:49:10 ID:x1F3PxLs0

(´・ω・`) 「セント領主家か……」

( ^ω^) 「おそらくそうだお……」

ゆっくりと立ち上がる。
全身の動きを試し、問題がないと確認した。

(´・ω・`) 「初代の所に行く。……モララルドは?」

( ^ω^) 「見張りをつけて寝かせてるお」

(´・ω・`) 「助かる」

初代の館には数名の見張りが立っていた。
その誰もが、見たことのない形状の武器を持っている。

( ^ω^) (あれだお……武器の錬金術付加)

(´・ω・`) (大層な武器だな……)

(´・ω・`) 「初代錬金術師、ワタナベクス様と話をするために来た」

「あなた方のお名前は? 今は緊急時により無名のものを通すことはできないので」

436名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:49:59 ID:x1F3PxLs0


从'ー'从 「んー。ショボン君にブーンちゃんいらっしゃいー」

ブーンが何か言いかけた時、屋敷の中から声が響いてきた。
見張りが驚き制止しようとしたようだが、無視して奥に進む。

(´・ω・`) 「どういうことでしょうか?」

从'ー'从 「いやーショボン君、勘がいいから困っちゃう」

( ^ω^) 「どういうことか聞いてるんですお」

从'ー'从 「んー……もうわかってると思うけど、十三代ちゃんが攫われちゃったのね。
       実行犯はセント領主家おかかえの錬金術師かなー」

こんな状況でも相変わらずこの人は自分のペースを崩さない。
もしくは全て知っていたのかもしれないと、そう思うほどに。

それならば、なぜ対策を打たなかったのかという話になるが。

(´・ω・`) 「それで、どうされるつもりですか?」

从'ー'从 「あれ? ショボン君、巻き込まれたくないんでしょー。
       聞いても仕方のないことだよ。大丈夫、大丈夫なんとかするから」



(´・ω・`) 「…………」

437名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:51:15 ID:x1F3PxLs0

(#^ω^) 「わかりましたお。では、僕は僕の勝手でやらせてもらいますお」

(´・ω・`) 「ブーン……?」

怒りながら外に出ていくブーン。
ほんとにこいつは……すぐに怒ったり、悲しんだり、喜んだり。

後を追って、宿屋に向かうブーンの横に並んだ。

(´・ω・`) 「勝手にやるって、何をするんだ?」

( ^ω^) 「これから考えるとこだお。セント領主家の居城を一撃で海の藻屑に変えてやるお……」

(´・ω・`) 「……無茶苦茶だな」

ブーンならそのくらいのことは実行できるだろう。
怒りのままに逆襲をするのでは、僕らが行動する意味がないから止めるけれども。

(´・ω・`) 「他にも連れ去られた人がいたらどうするんだよ……」

( ^ω^) 「その時はまた別の方法を考えるお」

438名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:52:58 ID:x1F3PxLs0

なら僕も勝手に行動するとしよう。
すべて終わった後に得られるのが、徒労だけだとしても。


歴史に名が残るわけでもない。

人々に感謝されるわけでもない。


未然の戦争を防ぐというのは、そういうことだ。




それに……僕の名前を知っていたのも気になる。

(´・ω・`) (モララルドの屋敷を襲った男もホムンクルスの存在を知っていた。
       目立つようなことはしていないんだがな……)

439名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:55:32 ID:x1F3PxLs0

( ^ω^) 「ショボンはこれからどうするんだお?」

(´・ω・`) 「十三代書庫番の無事を確認するために後を追うつもりだ。
       その後、セント領主家の領地に向かう」

場所はわかっている。乗り込むのは簡単だが、まずは現状を調べるのが先だ。
彼らの研究はどこまで進んでいて、一体何を目的にしているのか。

( ^ω^) 「一人でかお? やめといた方がいいと思うお……」

(´・ω・`) 「正面から乗り込んだりはしないよ。色々と調査でもやってみようと思う。
       危険な旅になるだろうから、モララルドは置いていきたい」

( ^ω^) 「僕は構わんお」

宿にある自分の部屋から旅用の荷物をまとめた。
モララルドは静かに寝ている。

(´・ω・`) 「それと、夜中でも空いている店を知ってるか?」

( ^ω^) 「んー……出口近くの”森の妖精”ならたぶんやってるお。
        しっかりと準備していけお」

440名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:56:57 ID:x1F3PxLs0

(´・ω・`) 「ああ……助かった。それじゃあ、また連絡する」

森の妖精は、錬金術師に関連するものはすべて取り扱っている店だった。
様々な道具や素材、調合マニュアルまで置いてある。

深夜にも関わらず、三階まである建物の全てに灯がついていた。

(´・ω・`) 「失礼、店主はいますか」

「ワシだ。……欲しいものがあるならさっさと言え」

カウンターの奥から出てきたのは、杖をつきながら歩く老人。
腰はほぼ直角に曲がり、顔に刻まれた皺は深く表情が読みにくい。

(´・ω・`) 「そうですね……」

今の僕に必要なものは何だろうか。
ざっと頭の中で状況を整理する。

(´・ω・`) 「夢宿り木の白液果、凝固蝋、そうだなぁ……」

「どちらもある。他にいるもんは?」

441名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:57:38 ID:4nXJLwR.0
おもしれー

442名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 14:58:39 ID:x1F3PxLs0

(´・ω・`) 「純化溶剤、腐食虫の粉末、活力草……ありますか?」

「腐食虫か……珍しいものだが、うちに無いものは無い。今全部用意する」

(´・ω・`) 「お願いします」

待つこと数分で、頼んだものが全て運びやすい形で並べられた。
それを全て旅の袋に詰め、代金を支払う。

値段は張ったが、装備としては十分なものが手に入った。
旅の途中で錬金術を用いながら、必要な品を創り出せばよい。

(´・ω・`) (行くか……)

里の出口は入り口とは真逆の方向にあり、一方通行となっている。
いったん出れば、再び入るために入口の木まで戻らなければならない。
面倒な仕組みだが、僕ら旅行者にとっては都合いい。

出るときは森外れに続く一本道に出れるのだから、非常に便利だ。

(´・ω・`) 「ふぅ……」

里の端にある扉は一見普通のものと変わらない。
ドアを押して開け、小屋の中に一歩を踏み出した。

443名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 15:00:54 ID:x1F3PxLs0


・  ・  ・  ・  ・  ・



蝋燭の灯が一本だけ小屋の中を照らしていた。
後ろを見ればそこには普通の扉があるだけだ。

その向こうは壁があるように見え、こちら側からはどこにも繋がっていないと勘違いさせる。
実際は何もなく、強引に抜けようと思えば抜けられるのだが。

ルールを守らなければ錬金術が綻び、
里の人間に迷惑をかけてしまう。

(´・ω・`) 「……ん?」

再び扉が向こうから開く。
他の利用者だろうと、特に気にせず、小屋から出るための扉に手をかける。

「ショボン!」

444名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 15:02:20 ID:x1F3PxLs0


聞き覚えのある声を聞いて振り向くと、
眠そうに眼を擦りながら出てくる少年の姿があった。



(;´・ω・`) 「……は?」


( -  -) 「おいてかない……で」


それだけ言うとゆっくりと体が傾いていく。
近寄ってその体を受け止めた。

モララルドは僕の腕の中で、安心しきった顔を浮かべて静かに眠っていた。

445名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 15:04:49 ID:x1F3PxLs0












11 ホムンクルスと幽居の聚落  End

446名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 15:08:01 ID:x1F3PxLs0


>>2   1 ホムンクルスは戦うようです
>>29  2 ホムンクルスは稼ぐようです
>>65  3 ホムンクルスは抗うようです
>>93  4 ホムンクルスは救うようです
>>118 5 ホムンクルスは治すようです
>>148 6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです
>>183 7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです
>>245 8 ホムンクルスと少女のようです
>>284 9 ホムンクルスは迷うようです
>>334 10 ホムンクルスと動乱の徴候


>>393 11 ホムンクルスと幽居の聚落


【時系列】

ホムンクルス生誕
   ↑
   ↓
6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです
7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです   
8 ホムンクルスと少女のようです
   ↑
   |
   |
   ↓
1 ホムンクルスは戦うようです
   │
2 ホムンクルスは稼ぐようです
   │
3 ホムンクルスは抗うようです
   │
4 ホムンクルスは救うようです
   │
5 ホムンクルスは治すようです
   │
9 ホムンクルスは迷うようです
    |
10 ホムンクルスと動乱の徴候
    |
11 ホムンクルスと幽居の聚落

447名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 15:08:13 ID:4nXJLwR.0
おつ
次も待ってる

448名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 15:18:16 ID:x1F3PxLs0

次の投下は来週になると思います。

以下はちょっとした補足ですね。

449名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 15:28:36 ID:x1F3PxLs0

【錬金術派生】


古代錬金術
 |
 ├────────────┐
 |                  │
近代西洋錬金術     近代東洋錬金術
 │  
 ├ 対軍錬金術 
 │
 ├ 鍛冶錬金術 
 │
 ├
 │
 ├
 │
 ├

450名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 15:33:41 ID:x1F3PxLs0


【素材一覧】


・月光草 月明かりの下に生える黄色い花を咲かせる草。
       解毒や気つけなど様々な用途に用いられる。
・兎草  二本の葉が兎の耳のように地面から生えている草。
       多様な地域で群生しており、生命力は非常に強い。
・星藻  水の中に生息する藻の一種。
       常に光を発している。
・夢宿り木  強力な睡眠作用を持つ宿り木。
         宿主の一切の成長を止めてしまうため名付けられた。
・夢宿り木の白液果  夢宿り木の成分の中でも、最も強力なのがこれ。
               皮膚からすら体内に侵入する。
・活力草 食べると力漲る草。
       人だけではなく、素材の効力を強めたりするのにも使われる。

・月光石 月明かりを発する石。
       太陽光にあたらない場所で保存する必要がある。
・火石  紅く熱を持つ石。
      水の中に保存しなければ、火を噴き危険。
・時鉱  薄緑色に光る鉱石。
      いまだ多くが謎に包まれた物質。
・紫珀  様々な昆虫の死骸が高温高圧にさらされてできたもの。
      透明な紫色で、猛毒を持つ。

・千年蝉 その名の通り千年生きるらしい。
       ちなみに999年は土の中で暮らしている。
・渦を巻く海牛  渦巻いた体を持つ海牛。
            永続と永遠の象徴で、作用や効果を持続させる。
・腐食虫 金属を腐らせて食べる虫。
       とある森の奥深くに金属片を置き捕まえる。

・冷土  水分中の熱を吸収する粘土のようなもの。
       空気中に放置すると、ゆっくりと排熱する。
・凝固蝋 液体の物質を固体にしたいときに用いる。
       持ち運びしやすくなるため、旅人の錬金術師に重宝される。
・純化溶剤  物質の効力を限定するのに用いる。
         複数の効果を持つ物質でも、一つの効果だけを取り出せる。

451名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 15:35:58 ID:x1F3PxLs0

錬金術一覧

・夢見薬 明晰夢を見ることができる。
・種火  火を点けることができる。
・蛇口  水分を植物から取り出すことができる
・賢者の金属 体内に摂取すれば不老不死の存在になる。

452名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 19:42:56 ID:16xEqR3E0
おつ。

453名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 20:27:37 ID:sPkOll3I0


454名も無きAAのようです:2012/06/17(日) 00:22:58 ID:OmkNPMssO
ログ速で読んだんだけど、ここに書いていいよね 
 
言った通り投下間隔短くなってる 
 
また来週待ってる、モララルドの今後が気になる

455名も無きAAのようです:2012/06/23(土) 21:13:14 ID:Z3g3NcMg0
>>454
ありがとうございます。

ここには自由に書き込んでいただいて構いません。

乙や感想でさらに書きためがはかどりますから。
それでは、また明日には投下しなおします。

ttp://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1340445444/
(一応投下URL)

456名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:04:02 ID:19kRDolY0












12 ホムンクルスと異質の傭兵

457名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:05:36 ID:19kRDolY0


(;´・ω・`) 「なんだよこれ……」

(; ー ) 「うう……っ」

吐き気を催すほどの死臭が、村全体を包んでいる。

荒れ果てたその場所は、この世の光景とは思えない。

人間の死体が、あちこちに腐ったまま放置され、家屋は好き放題に荒れている。

獣に食い荒らされて人の形状をしていない死体や、
白骨化してしまっているものまであった。

それら全てに共通して言えることは、既に死んでから日数が経過しているということくらいだ。

そして何軒かの家に入ってみて、わかったことがある。
ここには人の生活痕が数カ月から数年分存在しない。

つまり、少なくとも数カ月は人が生きていなかったことになる。

458名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:11:00 ID:19kRDolY0

(;´・ω・`) (それに……)

死臭の中に混じって、錬金術の残滓を肌に感じる。
それも、とても馴染みのある錬金術だ。

この村で行われていた研究は、おそらく不死を目的とした錬金術。
僕を生み出した錬金術師、そして僕と彼女しか知らないはずの秘術。

村の外側を囲むように柵があったのを思い出す。

(;´・ω・`) 「これじゃあまるで……実験場だ」

(; ・ー・) 「どういうことなの……ショボン……?」

(;´・ω・`) 「わからない……ここで何が起きたんだ……」

459名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:16:29 ID:19kRDolY0

僕らは教会のある村を目指していた。
勝手についてきたとはいえ、
やはりモララルドと一緒にセント領主家に近寄るのは避けたかったからだ。

道中で見つけた村はどこも教会を持たず、やっと見つけたのがここだ。
高い教会は遠くからでもよく見えていた。

それなのに……。

その足元にある村は生存者のいない廃村だった。
それも……明らかに人為的な原因がある。

今更ながらに思う。
この地に建つ教会にしては大きすぎる、と。

教会とは人のために造られるものであり、人なくして教会はあり得ない。
故に、教会の大きさは通常、その地域に住まう人々の人数と比例する。


にも拘らず、並ぶ家の向こうに見えるのは、教会というよりも城に近い。

460名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:18:30 ID:19kRDolY0

(;´・ω・`) (どうするべきだ……)

おそらくはあそこで実験が行われていたはずだ。
中に入ればそれなりの情報は得られるかもしれないが、
まだ人がいた場合、モララルドの身に危険が及ぶ。

出来れば中を調べておきたい。
もしセント領主家が実験を行っていたのならば、
その研究内容を知ることができるかもしれないからだ。

仮にそうでなかったとしても、これだけの大規模な殺人は当然騎士教会に報告する必要がある。

(; ・ー・) 「ショボン、あれ何?」

モララルドが小さな音をたてて震えていた樽に近づいていく。
家の隅に置かれたそれは、中から揺さぶられているように見える。

(;´・ω・`) 「おい待て……っ!」

制止をかける前に、倒れた樽からは小型犬が飛び出してきた。
一瞬心が緩むが、すぐに違和感に気づく。

顎は大きく開いており、目に生気がない。
そして、牙と爪は本来の大きさの倍近くもある。

(;´・ω・`) (まずいっ……)

461名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:19:49 ID:19kRDolY0

小さな眼球に映るのは間違いなく"食欲"だ。
一匹と一人の間に入ろうと、体を動かしながら剣を抜く。

(; ・ー・) 「ひっ……」

驚いて動けないモララルドと僕の間には、およそ三歩の距離がある。
獰猛な野犬は既に両の前足をそろえ、とびかかる準備ができていた。

(;´・ω・`) (間に合わない……っ!)

後悔の念が心の底から押し寄せてくる。
やはり連れてくるべきではなかった、と。

凄惨な光景を覚悟し、それでもまだ諦めずに剣を振り上げていた。


飛び上がった野犬は胴体部で両断された。
だけど、それは僕の剣ではなく、家の中から現れた男の刀によるものだ。


(;´・ω・`) 「……ッ!?」

ゆっくりと刀を仕舞い、大笑いする大男がそこにいた。

462名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:22:01 ID:19kRDolY0

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「かっはっは。危なかったな少年!」
 
身につけている鎧には厚みはあるものの、動きを邪魔しないデザインがなされている。
黒を基調とした色に唐草の文様が書き込まれているそれは、
教会に属する正規の騎士のものではない。

腰に結んでいる武器も、手に持っている武器も、
どちらもこの地方では生産すらされていないものであることから、
正規軍というわけでもなさそうだ。

白髪の混ざる長い頭髪を全て後ろに流し、一本に纏めている。
顎鬚を蓄え、太い腕は年による衰えを感じさせない。

(;´・ω・`) 「どなたですか……?」

警戒を解かず、剣を握ったまま問う。
先ほどの腕を見ても、かなりの実力者なのは間違いない。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「何、ただの年寄りだよ。38歳だ、青年」

(´・ω・`) 「……その剣、この辺りの国のものではないですね?
       東洋のものと造形が似ています」

463名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:23:45 ID:19kRDolY0

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「よく知ってるなぁ。その通り、これは東洋の武器だ」

昔一度だけ、はるか東方へ旅したことがある。
その時に東の果ての国で侍と呼ばれた男達が身に着けていたのとよく似ていた。

(; ・ー・) 「あ、ありがとうございました」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「気にするな」

(´・ω・`) 「どうしてこの町に来られたんですか?」

敵ではないことを確認できたため、剣を鞘に納める。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「騎士教会からの依頼だ。
        ここいらで怪しげな儀式が行われてるから調べてこいってな」

(´・ω・`) 「騎士教会が? 在籍の騎士はどうしたのですか?」

何か問題が発生した時、騎士教会が武力をもって解決に当たることがある。
小さなところで数十人、大きなところになると数百人は所属していて、
他の人間に解決されることをよしとしていない。

自分たちこそが平和の担い手だと信じている連中が、
誰かに解決を託すとは考えられない。

464名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:25:03 ID:19kRDolY0
〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「ん……それがな……十人が先遣隊として出てから一週間。
        音沙汰がなくてな、様子見も兼ねて俺が選ばれたってわけよ」

(´・ω・`) 「騎士が十人も……ですか……」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「そういうこった、お前さんがたも命を無駄にしたくないなら、ここから離れた方がいい」

(; ・ー・) 「どうするの、ショボン?」

(´・ω・`) (…………)

僕一人でモララルドの身を守りながら奥に進むのは難しいな。
だけど、ここでの情報は得ておきたい。

今後役に立つだろうし、モララルドを別の町に預けてくるだけの時間は無い。

465名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:26:41 ID:19kRDolY0

(´・ω・`) 「僕は錬金術師です。
       この村では異様な錬金術が行われているようですから、調べるつもりです。
       騎士教会から解決を依頼されたあなたと共闘できると思いますが……」

ものは試しだ。
無理なら、諦めるほかない。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「なんだぁ、青年、錬金術師か。ならまぁ共闘できるだろうな。
        だが、子連れでこの町の異変を解決しに来たのか?
        そんなふざけた錬金術師がいるとはなぁ……」

(;´・ω・`) 「……訳ありなんですよ。
        ですから、危ないと思ったらこちらはすぐにひかせてもらいますよ。
        それまで行動を共にしていただきたいのです」
 
〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「別にかまわない。ただ自分の身は自分で守ってくれよな」

大口を叩くだけのことはあり、この男の腕は相当だ。
一緒に行動していれば安全性もかなり高くなる。

(´・ω・`) 「部屋の中で何をされてたのですか?」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「何ってよ、後ろから声が聞こえてくるから、敵かと思って待ち伏せしてた」

466名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:28:24 ID:19kRDolY0

(´・ω・`) 「なるほど……それで今からはどうされる予定ですか?」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「正面から教会に向かうまでだ。俺は不器用だからな。
        さっきみたいな獣ぐらいなら怖いものはねぇ」

獣は餓えていれば人を襲う。それは自然の摂理だ。
だが、さっきの獣はいったいなんだ。

鋭い牙も、強靭な爪も、
明らかに常軌を逸している。

本来野生の獣に備わっているものよりも、ずっと殺傷力に優れていた。
まるで、長い年月をかけてより人を襲いやすいように進化したかのように。

無論、そんなことはありえない。
一代で体の構造を変化させる哺乳類なんていないからだ。

(´・ω・`) 「モララルド……僕から離れるなよ」

緩んだ気持ちを引き締めなおす。
ここから先は甘い気持ちで進まないほうがいい。

(; ・ー・) 「うん……」

467名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:29:12 ID:19kRDolY0

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「それじゃあ行くぜ」

男を先頭にして僕とモララルドが後に続いた。
家の隙間や、散乱したごみ屑に注意を払いつつ教会に向かって進む。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「……おい、こいつを見ろ。専門家としてどう思うよ」

指さした先にあったのは、建物の影に倒れていた人間の死体。
その手の甲から掌二つ分ほどの長さのある、黒く鋭利な獣の爪が生えていた。



(;´・ω・`) 「……ここの教会の連中は禁忌を犯したのか」

(; ・ー・) 「禁忌?」

(´・ω・`) 「錬金術は万能であると言われているがゆえに、
       研究してはならないとする分野が存在してる。
       その内の一つは、隠れ里でも言った"対軍錬金術"だ」

悪用される可能性が高いため、分野としての研究を禁じられた。
そしてもう一つが─────

468名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:30:12 ID:19kRDolY0

(´・ω・`) 「人体禁術。人の体に対して錬金術を用いる一形態」

(; ・ー・) 「え? じゃあ、父さんの研究も禁忌だったの?」

(´・ω・`) 「いや……違う。人体禁術は医療錬金術を除いたものだ。
       定義が不明瞭なため、みな避けて通る。
       そのため医療錬金術師は非常に数が少ない」

この二つの研究は、構想や実験が見つかった瞬間に牢獄に繋がれる。
それほど危険な錬金術なのだ。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「青年、若いのによく勉強してるな」

実は全く若くないのだが、その説明は不要だろう。
無駄な混乱を引き起こすことは避けたい。

(´・ω・`) 「……接合部が完全に合一している。
       子供の時から体の一部としてあった可能性が高いですね」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「っち……。ここは人体実験場ってことか……」

探せばまだまだ異変のある死体が出てくるだろう。

469名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:31:29 ID:19kRDolY0

(´・ω・`) 「少し、死体の状態を調べてみませんか。それだけでも多くのことが分かると思います」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「ふむ、確かにそうだろうな。では手分けをして探そうか。
        青年と少年はあちらを、俺はこっちを探してくる」

僕らは二手に分かれて、小道に入る。
倒れている死体に近寄り一つずつ確かめていく。
教会に近づくほど、身体的特徴の変化が明らかになってきていた。

(´・ω・`) 「…………」

どす黒く変色した皮膚の女は、家屋に上半身が埋まっていた。
剣の鞘で叩くと、強い衝撃が腕にかえってくる。

(´・ω・`) 「堅いな……」

おそらく、この剣と僕の力では断てないだろう。
骨格はどうなっているのだろうか。

(´・ω・`) (皮膚だけを硬化したのか、それとも骨の構成も代わっているのか)

なんにせよまともな研究ではないのは確かだ。
この女も、おそらく苦しんだ末に死んだのだろう。

470名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:32:38 ID:19kRDolY0

(; ・ー・) 「ショボン、あれ……」

モララルドが見つけたのは這うように動いている黒い塊。
それが体毛に覆われた人間だと気付くのに少し時間がかかった。

「ゴロ……ジ……テ……」

喉の奥底から声をひねり出しながら、
ゆっくりと、こちらに近づいてくる。

「ッロ……ジ……テ……」

長く伸びすぎた体毛が邪魔で、食事すらまともに行えなかったはずだ。
ずるずると、体よりも重いはずの毛を全身を引きずりながら前に進む。

(´-ω-`) 「今……楽にしてやる……」

腰紐に結び付けた薬品を手に取った。
隠れ里で手に入れたこれは、皮膚から吸収され、数滴で人間を昏睡状態に陥らせる。
数分で効果は切れるが、今はそれだけあれば十分。

471名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:33:47 ID:19kRDolY0

(; ・ー・) 「助けられないの?」

(´-ω-`) 「……無理だ」

全身の体毛が伸びているから、切り落とせばいいという単純な問題ではない。
体組織を根本からいじられなければ、ああいう風にはならない。

壊すのは簡単だが、戻すのは難しい。
だからこそ人体禁術は"禁忌"なのだから。

(´・ω・`) 「摂取した栄養が体毛の成長に使われている。体の中はボロボロのはずだ」

(; ・ー・) 「そんな……」

「アリ……ガ……ト……」

試験管を横にし、液体を上からかける。
震えていたような動きが完全に止まった。

(´・ω・`) 「……せめて寝ている間、安らかに」

優しく、剣を振り下ろした。
赤い血だまりが、じんわりと広がっていく。
この薬の効果は強力だ。痛みもなく、眠っている間に逝けるだろう……。

472名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:35:31 ID:19kRDolY0

(´・ω・`) 「……戻ろう。生きている人間がいたということは、
       実験はまだ行われているかもしれない」

(  ー ) 「うん…………」

合流地点にある瓦礫の上に、男は座って待っていた。
足元には人間だったと思えるものの一部が転がっている。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「おお、遅かったな。そっちはどうだった?」

(´・ω・`) 「それなり……ですよ。
       生きた人間を見かけました。研究はつい最近まで続いていた恐れがあります」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「そうか……俺も何体か持ってきた。
        こいつらも見てくれ。俺はこういうのはどうも苦手でな。
        できるだけわかりやすい部分を持ってきたつもりだ」

473名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:36:26 ID:19kRDolY0

血管が太く、異常なほどに浮かび上がった右腕。

一度に大量の血液を全身に運ぶことができるようになり、
もし筋肉と骨格が同様に変化していたならば、人間本来の倍程度の力が発揮できるだろう。

それはもはや、人ではなく獣と言った方がいいかもしれない。

それだけではない。

(´・ω・`) (これは……肋骨か?)

緩やかに曲がった一本の骨は牙のようにも見える。
通常の人間のものよりもはるかに太く、軽い。

たたき割られた表面から見ると、中が空洞になっているわけではないことがわかる。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「そいつは、俺の刀でも苦労したぜ。欠けるかと思うほどにな」

(´・ω・`) 「これは……太ももですか?」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「そうだ。筋繊維の数が普通の人間の比じゃない。
        実際に動いているのを見たわけじゃないが……、相当速いぞ、おそらく」

474名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:37:45 ID:19kRDolY0

人々の肉体は全て異なる方向へ錬金術を用いて"深化"されている。
だけど、今回見つけた死体には一つの共通点がある。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「気づいたか……青年? 人の形を失っているものが一つないんだな」

(´・ω・`) 「恐らくですが、人のまま人を超えるそういったことを研究しているんでしょう。
       それならばある程度の賛同者が集まることは理解できます」

(; ・ー・) 「……どうするの、ショボン?」

出来れば、教会に入って中も調べたいところだが……。



〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「……引き際を誤ったな青年」

(;´・ω・`) 「……ッ!」

いつの間にか、僕らを囲うようにローブを着た人影が現れていた。
侍は自らの腰に結んだ内の一本の刃を静かに抜く。

475名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:38:42 ID:19kRDolY0


「動かないでいただきたい。我らは争うために来たのではありません」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「そいつはぁ、どうだか。
        そんなに殺気を出されてたら、こちらも対応せざるをえないなぁ」

「騎士教会から派遣されてきた木偶では役に立たなかったのでね……」

ローブの男達は合わせて10人。
走って抜けるのなら一度に4人ほどを相手にするだけで済む。

(´・ω・`) 「一体彼らに何をした」

「別に何もしていませんよ、彼らが少し……弱すぎただけです」

(;´・ω・`) 「……ッ!」

「我らの長きにわたった研究もそろそろ完成へと近づいてきました。
 そのテストをさせていただいただけですよ」

話しながらも突破のタイミングを窺う。

「ああ、それでは少年は預かっておきましょう。怪我をさせてもつまらないですしね」

(;´・ω・`) 「何を……」

476名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 21:39:55 ID:19kRDolY0

言っているんだ、とは続けられなかった。
そもそも、僕がこの一連の流れに巻き込まれたのは、
最初にモララルドが狙われているのを助けたからだ。

僕がモララルドをここに連れてきた時点で、
彼らの狙いは、研究の成果の試用だけではなくなっている。

「あなたは今の状況を理解していない。
 単に囲まれているだけではないのですよ?」

「ああ、別に人質にする気はありません。
 思う存分戦ってください、その"結果"が知りたいのですから」

(; ・ー・) 「ショボンと離れたくないっ!」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「やつらは見たところ錬金術師だろう? 斬るのは簡単だ。
        少年を行かせておけ。護りながらでは戦えんかもしれん」

(;´・ω・`) 「くそっ……すまない、モララルド。少し……離れていろ」

侍の言う通りだ。
護ろうと躍起になって、それでモララルドを傷つけてしまっては意味が無い。

背を押し、囲いの外側へ行くように指示する。
一人の男がモララルドの腕をつかむが、それだけだ。
先程の言葉に嘘はなく、傷つけるつもりはないようで安心する。

477名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:25:08 ID:19kRDolY0

(; ・ー・) 「ショボンッ!」

「うるさい、寝てろ」

(; ー ) 「うっ……」

何かを嗅がされたモララルドは、その場で力なく座り込んだ。

(#´・ω・`) 「モララルドッ!」

「安心しろ、気絶させただけだ」

モララルドは男にもたれるように意識を失っている。
そちらへ近づこうとした一歩は、止めざるを得なかった。

(#´・ω・`) 「!?」

大きな音とともに、一軒の家の壁に穴が開く。
土煙を振り払うように現れたのは、銀色の装束を身にまとった銀髪痩躯の男。

見た目は人間と変わらないが、明らかに錬金術の恩恵を受けている。

両腕には刀身の細い剣が握られている。
レイピアと呼ばれる、刺突攻撃を主とする武器だ。

478名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:26:10 ID:19kRDolY0

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「ほう……つまりあの段階までは成功してるということか?」

余裕をもった声が前に立つ侍の背中から聞こえる。
まるで観察はこちらの役目だと言わんばかりだ。

(´・ω・`) 「……レイピアなんてまともに武器で受ければ折れます。何かあると思ってください。
       それに、身に付けているのは鎧ではなく、ただの服です。こちらにもご注意を」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「なんだ、意外とありきたりの分析しかできんなぁ」

(´・ω・`) 「それだけ普通の見た目だということです」

一歩踏み込みが見えた。
その直後に、侍が刀を振り抜いていた。

(;´・ω・`) 「なっ!?」

相手の動きが全く見えなかった。
十数歩分の距離を一瞬で詰められ、それに対して侍が牽制に刀を振るったのだ。
その行動がなければ、僕の胸に剣が突き刺さっていただろう。

(;´・ω・`) (戦闘能力が無いと思われてるな……)

銀装の男は同じ地点まで戻り、そこで動いていない。
その目は侍を注視している。

479名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:28:26 ID:19kRDolY0

1対1の戦闘でも常に相手の裏をかくように戦って来た。
人間を超えた化け物と正面から相対するのは、僕では役不足だ。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「なんだぁ、意外と大したことないな青年」

(;´・ω・`) 「申し訳ないです、僕は錬金術師ですから」

普通の人間よりはずっと動ける自信がある。
だけど肉を切らせて骨を断つ戦いをしてきた僕にとって、
スピードのある相手は天敵のようなものだ。

それも人間の限界を超えるような速さともなれば、なおさら。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「それなら、しばらく見とけ」

銀髪の男は力強く一歩を踏みこみ、袈裟懸けに切りおろした。
それを受けることはせず、身を引いて避ける。

「ァガァ……ッ!」

意味不明な言葉とは裏腹に丁寧な突きを胸元に繰り出す。
意識はあるように思えるが、どうだろうか。

敵味方の区別はついているだろうから、その程度の知識は残っている……か。

480名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:30:19 ID:19kRDolY0


二度


三度


両手から繰り出される鋭い突きは、恐ろしく早い。
にもかかわらず、侍は体を揺らすだけで剣先から逃れる。

大型の刀を持つ侍は、それを振るう隙が無いのか、若干押されているように見えた。

「ギィ……」

口の端を歪める、銀髪の男。
それに対して、侍は表情を変えない。

鋭い攻撃を受け流し、弾き、逸らす。

(´・ω・`) (様子見か……?)

敵のレイピアには何の変化も見えない。
ただの剣だったのかと思いかけた時、相手が動きを大きく変えた。

両手の突き攻撃が当たらないと判断したのか、
大きく振り上げ、侍を切りつける。

481名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:31:34 ID:19kRDolY0

侍は確かにその攻撃を避けたはずだ。
それなのに、鎧にいくつもの筋状の傷が入った。

即座に剣の持つ効果を判断する。
金属の一撃であれば、鎧は音を立てる。
それが無かったということは……

(;´・ω・`) 「斬撃が風を巻き込んでます!
        一回の攻撃に約二、三回の斬撃が含まれているはずです!」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「おう」

振り下ろしに紛れて、油断を誘うための突きが繰り出された。

「グガァッ……!」

その刀身を侍は指で掴んだ

(;´・ω・`) 「なっ!?」

482名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:32:22 ID:19kRDolY0

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「ふっ……!」

「グァ……?」

パキン

綺麗な音を立てて、レイピアは真っ二つに折れた。

(;´・ω・`) 「嘘っ!?」

「なに……ッ!」

「ほう……」

観客となっていた集団からすら、感嘆の声が漏れる。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「少し期待してたんだがなぁ、人間の……その先。この程度では話にならんな」

そのまま右手一本で刀を振り下ろした。
腕を伸ばしきっていた敵の男に、その刀筋を避ける術はない。
肩口から刃が侵入し、そのまま右脇下へと抜けて行った。

483名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:33:23 ID:19kRDolY0


「ギィァ…………ア゙ア゙ァァ……」


断末魔の叫び声さえ、あげさせることはなかった。
男は真っ赤な血を噴き出し、その場に崩れ落ちる。


「……想像以上だ」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「確かに堅く、速い。だが、この程度ではまだ相手にならんな。
        少年を返してもらおうか」

「それはできない相談だな」

「さてまぁ、仕方ありませんな。我らの研究成果が甘かったということです」

(´・ω・`) 「随分と余裕なようだけど、あなたがたをそのまま逃がすとお思いですか?」

人数の上ではこちらが圧倒的に不利だが、
実力の差は先ほど示された。
それに、錬金術師でまともに戦えるやつがいるとは思えない。

484名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:34:31 ID:19kRDolY0


「さてさて、どうしましょうか」

「研究資料の処分は終わっている」

「それでは、御機嫌よう」

10人が一斉に何かを投げつけてきた。
体にあたりそうなものを、剣で弾く。

(;´・ω・`) 「しまっ……!」

その瞬間に猛烈な勢いで白い煙を吐き出し始めた。
一呼吸のうちに視界が真っ白に覆われていく。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「動くなっ!!」

直前に気付いたのか、近づいてきた侍の手によって地面にたたきつけられた。
煙が晴れたのは数分後。
その場には四人の男が残っていた。

485名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:35:26 ID:19kRDolY0

それぞれが実験体だったのだろう。
異常に太い腕、鋭い爪、獣のような脚。

体の各部が統一感無く変化している。

(;´・ω・`) 「やられましたね……」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「まずはこいつらを片付けてからだ」

「アァー……ア……」

「グギギg……g……」

さっきの個体よりは明らかに知能が低そうに見える。
これが薬による弊害なら、未だ薬を恐れる必要はない……か。

(´・ω・`) 「二人任せてください」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「いや、一体だけ任せよう」

(´・ω・`) 「……わかりました」

足の遅そうな一体に目をつけ、そちらに向かう。
その分両腕が発達しているが、僕にはちょうどいい。

486名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:36:17 ID:19kRDolY0

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「それじゃあ……よろしく頼むよ」

三人も押しつけるのは気がひけたが、先ほどの動きを見ればこのくらい大丈夫なはずだ。
全身がより人間の形に近い先程の銀髪の男の方が、より完成形に近い。
人型を外れているこの四人は実験段階の産物か。

先の男と比べれば、戦力は格段に落ちているだろう。

だからこそ、この四人が逃げるための時間稼ぎに当てられた。

(´・ω・`) 「……かかってきなよ」

人間をやめて、感覚が鋭くなったのか安易に襲ってはこない。
それは正しい判断だろう。


(´・ω・`) 「っと」

頭の真上から振り下ろされた右腕は、地面を砕いた。
数歩下がって避けつつ、敵の状態を観察する。

(´・ω・`) (皮膚は裂け、骨が見えているのに痛みは感じないのか……?)

487名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:37:06 ID:19kRDolY0

試しに剣を振り下ろしてみたが、腕の筋肉に阻まれ浅い傷しかつかなかった。

(´・ω・`) 「狙うなら……頭か……」

もしくは筋肉の薄い足でもいいが、両腕の攻撃を避けるよりは頭の方がいい。

「…………ッ!!!」

必殺の一撃を何度も避ける。
腕や脇腹などに一時的な負傷はするが、戦闘不能にならないように動く。

(´・ω・`) 「ふっ!」

振り下ろした攻撃はやはり腕に防がれた。

(;´・ω・`) (埒が明かない……少しリスクを冒すか……)

両腕の攻撃による衝撃を覚悟し、踏み込んだ。

「…………ァ?」

が、腕が振り下ろされることはなかった。
男の頭が肩から転がり落ちてくる。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「危ないなぁ。見ていたんだが、思わず手を出してしまった」

488名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:39:32 ID:19kRDolY0

(´・ω・`) 「どうも……」

男の側には、無残な三つの死体が転がっていた。

一つや二つではない、無数の切り傷。
それが、男の実力を物語っていた。


(;´・ω・`) 「くそ……僕のせいで……モララルドが……」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「しっかりしろ、奴らの本拠地のことが教会に残っとるかもしれん。
        さっきの様子を見ても、すぐに何かするようには思えんしな
        今できることをするぞ」

その必要はないだろう。
あのローブは隠れ里を襲い、モララルドを狙った男達と同じもの。
セント領主家がこの件にも関わっているのは明らかだ。

だけど、まだ知りたいことがある。
彼らの研究内容そのものだ。


(´・ω・`) 「ええ、教会に行きましょう」

489名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:40:33 ID:19kRDolY0

それでも開けることはできるだろう、と思わせるのがこの人の異常なところだ。
だけどまぁ……もっと賢くあける方法があるなら、それを使わない手はない。

荷物から取り出したのは【 滲み腐液 】を固めたもの。
細い円柱状のそれは、ペンのように白い線を引くことができる。

扉の右端に、人が通れる大きさの白い枠を描く。
地面を一辺として、残りを白い線の三辺とする長方形だ

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「なんだそれは。錬金術……だよな……? 見たことも聞いたこともねぇ」

(´・ω・`) 「当然ですよ、僕のオリジナルですから」

数分待ち、剣の柄を白い線に重ねて思いっきり削り取った。
白線の表面はバターのように柔らかくなっていて、簡単に抉ることができる。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「ほう……」

(´・ω・`) 「このくらいの厚さの鉄板だと五度くらいですね」

その動作を繰り返すこと五回。
予想通り剣の柄は金属の扉を貫通した。

後はその長方形を正面から蹴り飛ばすことで、その部分だけが内側に倒れ込んだ。

490>>489はミスです。:2012/06/25(月) 22:41:15 ID:19kRDolY0

残った情報を探すために教会に行く。
"処分した"とは言っていたが、あの不気味な男を倒されることは想像以上だ、とも言っていた。
それならば、逃げるための準備はされてなかったのかもしれない。

それに、情報は資料から得られるものではない。
これだけ大きな教会だということは、それ相応の役割があったはず。

例えば監禁するための牢屋。

例えば実験するための密室。

その一つ一つから小さな手がかりを積み上げていき、
必要な答えを予測することも不可能ではない。

教会まではすぐに着いた。
流石に町中には何の仕掛けも歩起こされていない。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「開いてないな」

巨大な金属の扉は、中から閂が下ろされているのだろう。
侍が押しても引いてもビクともしない。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「どうするよ、青年。なんなら開くまで蹴り続けてもいいが?」

(´・ω・`) 「いえ、任せてください」

491名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:42:04 ID:19kRDolY0

それでも開けることはできるだろう、と思わせるのがこの人の異常なところだ。
だけどまぁ……もっと賢くあける方法があるなら、それを使わない手はない。

荷物から取り出したのは【 滲み腐液 】を固めたもの。
細い円柱状のそれは、ペンのように白い線を引くことができる。

扉の右端に、人が通れる大きさの白い枠を描く。
地面を一辺として、残りを白い線の三辺とする長方形だ

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「なんだそれは。錬金術……だよな……? 見たことも聞いたこともねぇ」

(´・ω・`) 「当然ですよ、僕のオリジナルですから」

数分待ち、剣の柄を白い線に重ねて思いっきり削り取った。
白線の表面はバターのように柔らかくなっていて、簡単に抉ることができる。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「ほう……」

(´・ω・`) 「このくらいの厚さの鉄板だと五度くらいですね」

その動作を繰り返すこと五回。
予想通り剣の柄は金属の扉を貫通した。

後はその長方形を正面から蹴り飛ばすことで、その部分だけが内側に倒れ込んだ。

492名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:42:54 ID:19kRDolY0

(´・ω・`) 「簡単にいえば金属を食べる虫の成分を用いて、柔らかくしているんです。
        特殊な金属でない場合にはかなり役に立ちます」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「ふむ……便利なものだなぁ……」

(´・ω・`) 「行きましょう」

扉にあけた穴を潜り、教会の中に一歩踏み込む。
ステンドグラスを通して差し込む光が、教会内を仄かに照らしていた。

中は吹き抜けになっていて、入口から何列も長椅子が並び、一番奥に教壇がある。
それが一般的な教会の造りだ。

それを想像して中に入った僕らは驚かされた。
長椅子はすべて撤去され、いくつもの柱が二階や三階の位置に部屋を支えていた。

それらは木の枠や階段、橋でつながれている。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「まるで迷路だなぁ……こんな複雑なものを良く作ったもんだ」

(´・ω・`) 「必要に応じて作り足して言ったんでしょう。
       探索には手間がかかりそうですね……」

493名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:44:41 ID:19kRDolY0

正面の仮組みされた階段に足をかける。
体重をかけ、強度を確かめた。

(´・ω・`) 「二人程度なら問題なさそうですね、一緒に来ますか?」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「勿論だ。拙者は細かい作業には疎いからな。戦いになれば任せてくれ」

二階の高さにある、階段を上ってすぐの部屋は、ただの物置だった。
錬金術で用いるような貴重な素材が、山と積まれている。
一応いくつかの箱をひっくり返してみたが、特に変わったものはない。

扉の無い部屋を出て、隣の正方形の足場に移動する。
ここは壁すらなく、踊り場のような場所だろうか。

(´・ω・`) 「規則性が無さそうに見えますが……。一体何の用途に作られたのでしょう」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「下を見ろ、青年。入り口の扉を上から見やすい場所になってる。
        監視と、迎撃かな。ちょっと失礼」

左手を木の床に当てて隅まで歩いてく。
何をしているのか分からず、無言で見守っていた。

494名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:45:33 ID:19kRDolY0

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「ふむ、すこーし人の気配を感じるな。やっぱり中に誰かいると見る」

(´・ω・`) 「そうですか。捕まえることはできますか?」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「やってみないとわからないが、たぶん無理だろうな。
        この狭い足場では満足に力をふるうこともできんし、相手が慣れているなら尚更だ」

この空中にある迷路のような部屋の数々は、一本道で繋がっているわけではない。
今日来たばかりの僕らを出し抜く方法などいくらでもあろう。

それならば、地道に、できるだけ早く、手がかりを探すまでだ。

踊り場からさらに階段をのぼって、上の構造物へ移動する。
三階に当たるこの場所は、教会の内壁まで足場が敷き詰められていた。

ここは地上からは全く見えない。
だからだろうか、錬金術の研究痕が多く残っている。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「おい、こいつはぁ……実験体を拘束していた牢じゃないのか、青年」

侍の調べていた場所は、金属の棒で天井まで囲われた空間。
床一面を黒く染めているのはおそらく血痕だ。

495名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:46:25 ID:19kRDolY0

砕かれたガラス製の容器の欠片が無数に散らばっていて、
紙が積み重ねられ、炭になっていた。

(´・ω・`) 「暖かい……先程処分したばかりのようですね」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「やはり残っていたか。どうだ、何か見つけられそうか?」

(´・ω・`) 「いえ……燃え残りはほとんど読めません。
       かろうじて人体禁術のデータが読み取れるくらいでしょうか」

最初に研究されていたのは不老不死だった。
どれだけ期間を重ねようとも、一歩も完成には近づかないため、
彼らは目標を変えた。

"死なない"研究から"殺せない"研究へと。

これにはその一部が載っている。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「ほとんど読めないが……とんでもないことをしていたのはわかったな」

(´・ω・`) 「ええ……それも、多くの人を犠牲にしたうえに、です」

496名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:47:13 ID:19kRDolY0

個人で人を越えようとするならば、僕は憤ったりはしない。
かつて"血金術"として自らの肉体を変質させた女性がいた。

彼女のように、自分を実験体とし、変化の全てを受け入れているのなら、
わざわざ騎士教会に報告を入れたりすることもない。

一錬金術師として、興味があることを試したいという気持ちはよくわかるからだ。

だが、こいつらは違う。

無関係な人々を無理やり実験台にし、人としての人生を奪って来た。
それだけは許せない。

必死に資料を読んでいると


カタン


と、何かが倒れる音出した。

音のした方向には木箱が積まれているだけで、誰もいない。

497名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:48:01 ID:19kRDolY0

(#´・ω・`) 「……誰だっ!?」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「ああ、そんな所にいたんかな」

侍が一つずつ、木箱の蓋を取り外していく。
最後の一つを開けた時、中から銀の刃が突き出された。

勿論、その程度の攻撃が当たるはずもなく、
侍は何事もなく深緑のローブを着た少女を樽から取り出した。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「こんな娘が今回の事件の首謀者の一人たぁ、……驚いたな」

(´・ω・`) 「いえ……ただの少女ではなさそうです」

ローブの裾から見える両には、複雑な文様が浮かび上がっていた。
心臓の鼓動と合わさっているのだろうか、脈打つ力の流れを感じる。

「離せよい! 離せったら!」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「逃げたらどうなるかわかってるんだろうな?」

そう言って、侍は掴んでいた襟を離した。
今の脅しが効いたのか、少女はそのままへたり込む。

「…………」

498名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:49:03 ID:19kRDolY0

(´・ω・`) 「その腕……錬金術だよね? それもたぶん……医療系で複雑なものだ」

「殺すなら殺せっ! 何も喋らないからな!」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「と言ってるが、どうする? 拷問はあまり得意な分野じゃないからな。
        殺してしまうかもしれん」

三本の刀のうち、一番刃が短い刀の柄に手をかける。
柄に巻かれた細紐を解き、静かに抜かれた刀身は、親指ほどの長さしかなかった。

断ち割られたかのように刃は終わっていて、切っ先がない。

「っ……!」

(´・ω・`) 「待ってください」

人を切ることを目的としていないはずの刀なのに、
背筋の凍るような異様な雰囲気が滲み出ていた。

使わせてはまずい、そう思わせるほどに。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「別に青年が話を聞き出せるのなら、拙者はどっちでもいいがな」

499名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:50:09 ID:19kRDolY0

(´・ω・`) 「拷問までする必要はないですし……この娘からある程度のことが分かりますから」

「!?」


(´・ω・`) 「ちょっとごめんね」

「離せっ!」

すぐにひきはがされたが、掌で少女の片手を触ることができた。
生きた人間の温もりはそこにはなく、冷たい肉の感触があるだけだ。

ならばやはり、両腕に刻まれた文様は神経接続だろう。

(´・ω・`) 「病気で動かなくなった腕を、錬金術で補助しているようです。
        ……なぜ、セント領主家は人体に関する錬金術師の専門家を集めている?」

「言わないったら!」

(´・ω・`) 「そうか……。この実験の首謀者もセント領主家で間違いないですね」

「……っ! 騙したなっ!」

500名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:50:52 ID:19kRDolY0

簡単なひっかけに気づかないということは、精神面では普通の少女か。
ならば、両腕を治してくれていた術師に付き従っていたと考えるのが妥当だ。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「やはりセント領主家かぁ……そろそろ本格的に手を打たんといかんなぁ
        で、その少女はどうする」

(´・ω・`) 「放っておきますよ。彼女には錬金術の知識はなさそうです。
        おそらく、この場所の後片付けに使わされただけでしょう」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「捨て駒……か……こんな少女を使うとは……やりきれんな……」

「ッ! ジェイはそんなことしない! 迎えに来てくれるって約束したんだから!」

涙をこぼしながら少女は叫ぶ。
それをきいてやる必要はない。

(´・ω・`) 「上に……行きましょう。ここに隠れていたということは、
       ここから先の資料は残されている可能性があります」

僕は次に向かう場所を意図的に声に出した。
それに反応し、僅かに少女の肩が震える。
上の部屋にはまだ何かありそうだ。


〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「よし、行くか」

501名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:51:47 ID:19kRDolY0


少女をその場に残し、僕らはさらに奥へと階段を上った。
屋根裏のような、天井とのわずかな隙間に、数枚の紙が無造作に置いてある。

中身は手紙だった。


   「    不死の研究をする必要はもうない。
       そちらに医療錬金術の専門家を何人か送った。
       彼らの知識を利用し、人体の強化を研究せよ。
       必要であれば、支援は惜しまない。連絡を密にせよ        JJ  」
    

   「    経過報告を見た。
       研究が進んでいるようで安心している。
       こちらで少々厄介な事件が発生した。
       前々から噂になっていた不死のホムンクルスと接触したようだ。
       さらに騎士教会にも我々の動きが怪しまれつつある。
       例の薬を可能な限り早く完成させろ                  JJ  」


   「    薬の効果を確認させてもらった。
       最低限の使用効果はあるようだが、
       さらに強力なものをより短時間で作れるようにしろ。
       戦争は間近に迫っている。                       JJ  」


三通とも「 JJ 」というサインが文末を飾っていた。
思い浮かぶのは、先ほど少女が口にしたジェイという名の錬金術師。

502名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:52:36 ID:19kRDolY0

が、それではこちらに送られてきた手紙に書かれている意味がわからない。
文面から見ても、この教会ではなくセント領主家の城にいるはずだ。

(´・ω・`) (別人か……?)

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「青年、これからどうするつもりだ?」

彼らの研究内容の十分な証拠は手に入れた。
後は本拠地に乗り込み、全ての元凶を捕らえてしまいさえすればいい。

(´・ω・`) 「そうですね……一旦、どこかで錬金術の準備をしたいと考えています。
       そのあとに、セント領主家にいる首謀者を狙うつもりです」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「……そんな簡単だとは思えないがな。さっき逃げて行った10人の錬金術師、
        人体強化の薬を摂取させられた兵士、純粋な人間の兵力、
        セント領主家は徹底的に襲撃に備えているだろうな」

(´・ω・`) 「わかってますよ……でも、やらなければなりません。
       このままにしておけば、やがて数百人どころではない犠牲が出ます」

もし、セント領主家が他領主に対して戦争を仕掛けたらどうなるか。
この辺りでも有力貴族であるセント領主家の武力は、周辺諸侯を敵に回しても余りある。

さらに、錬金術の力を用いた戦略を展開すれば、瞬く間に戦火は広がるはずだ。

503名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:53:22 ID:19kRDolY0

それに危機感を覚え、遠方の力ある領主達は、錬金術を戦に用いようとするはず。
そうなってしまえば、大陸全土が戦乱に巻き込まれる可能性すら出てくる。
それだけは避けなければならない。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「あのなぁ……全部一人で背負い込もうとするなよ、青年。
        拙者だってなぁ、まぁ領地の境界の小競り合いに参加して金を稼いでるが、
        大規模な戦争はもちろん反対だからな。協力できる立場にいるじゃないか」

(´・ω・`) 「この戦いは……圧倒的不利な状況のものです。
       その途中で命を落とすかもしれない。
       無関係のあなたを巻き込むわけにはいきません」

この男がどれだけ斬りあいに強かろうと、
どれほどの力と技術を持っていようと、百の敵、千の武器相手には為す術もない。

一度死ねばそこで終わる人生なのだから。

だけど僕は違う。

諦めさえしなければ、何度でも戦える。
失敗しても犠牲にすらなることはない。

ならば捨て石としては上等じゃないか。

僕が時間を稼ぎ、その間に他の者が万全の準備を持って相対する。

504名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:54:10 ID:19kRDolY0

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「なぁ、青年。人を信じるのは、そんなに難しいか?
        青年は他人を守ってるつもりかもしれないが、
        そうやって守られただけの人間が強くなれるのか?
        自分が傷つけばそれで終わりだと、本当にそう思っているのか」

(´・ω・`) 「…………」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「拙者とは初対面だからなぁ、信じろと言っても難しいだろう。
        だけどな、俺だって戦争は止めたい。
        拙者に協力させてくれよ」

それなりに役に立つぜ、と彼は言った。

僕は人間としてではなくホムンクルスとして生きてきた。
人と共に戦うのではなく、人を守ろうと戦って来た。

それは……間違っていたのか?

わからない。
あの時こうしていたら──その仮定に答えはないからだ。

(´・ω・`) 「わかりました……。僕が一人で戦うと言う理由をお見せします」

505名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:55:06 ID:19kRDolY0

こうでもしなければ、この男は共に戦うことを諦めないだろう。
人と共に戦う、か。

それができるかどうか、僕は考える必要がある。

でも今回は、やはり僕一人でするべきだ。

剣を引き抜き、逆手に持って、左胸部に思いっきり突き刺した。
筋肉を引き裂き、心臓を貫き、背中から刀身が生える。

〔; !゚ Ⅱ゚!〕 「なっ!?」

(;´-ω・`) 「ゴフッ……これが……理由……です……」

力任せに引き抜いた。
飛び散る鮮血は、音を立てて床を汚す。

(;´-ω・`) 「……僕は……不死のホムンクルスです。
        死ぬことがないのですから、今回の役にうってつけというわけです」

話し終わるころには、傷は完全にふさがっている。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「……ほう……さすがに驚いたぞ、青年。噂には聞いたことがあったが、実在したとはな。
        確かに、青年にとってそこらの人間は命を持っているだけで邪魔だと言うのは理解した。
        だが…………」

506名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:55:47 ID:19kRDolY0

侍は、最も短い刀を再び鞘から取り出した。
刀身の無いそれは、やはり不気味な様相を呈している。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「っふ」

僕の腕に向かって刀が振り下ろされた。
刃物が通る感覚こそなかったが、一瞬後に僕は斬られたことを知った。

(#´ ω `) 「ッ!? あああああっ!!」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「痛みは感じるではないか。人が死ぬほどの痛みを受けても、死ぬことはない。
        それは……とても辛いと……拙者はそう思う」

(´ ω `) 「……ッ……ァ……ハッ……」

痛みは、実際に斬られた時と同じようにすぐにひいていった。
感覚は元通りになり、思った通りに指先は動く。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「……拙者も共に戦う理由を提示しよう。
        遥か東の地から父母に連れられてこの地に参った。
        心衛門、武士でござる。こちらではハートクラフトと名乗っているが。
        旅の地で知った錬金術を礎に、自らの刀剣に工夫を施している」

507名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:56:30 ID:19kRDolY0

(;´・ω・`) 「では、あなたが、異国の刀鍛冶……今のは……」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「知っていたか、青年。
        鍛冶錬金術の担い手をさせてもらっている。
        先程の武器は拙者の最高傑作である三本の内一本」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「”夢現”。
        人を傷つけずして、痛みを与える刀だ。
        これで切られれば、たいていの人間は二、三日動けない。
        ホムンクルスには、やはり大して効果はないか」

太刀筋が無いがゆえに、防ぐこともできない必殺の刃。
自身も受けることができないから、相当の遣い手でなければ使えないはずだ。

およそ数十年前辺りから現れ始めた鍛冶錬金術。
特殊な技能ゆえ、担い手は医療錬金術同様、非常に少ない。

これほどまでに恐ろしいものができるのか。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕  「どうだ、これでもまだついてくるなと言うか?」

(´・ω・`) 「……わかりました」

侍の実力は僕が思っていたよりもさらに数段上だった。
自分の命を自分で守れる実力は持っている。
これでもう、断る理由はない。

508名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:57:10 ID:19kRDolY0

(´-ω-`) 「協力をお願いします」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「最初からそう言っていれば話は早かったのになぁ。
        拙者の工房がある場所へ行こうか。
        セント領主家の本拠地、セントショルジアト城に近づくことにもなるしな」

それならば是非もない。
書庫番やモララルドのことも気になるし、早めに行動するに越したことはない。

(´・ω・`) 「では、案内をお願いします」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「かっはっは! いい顔になった! さあ行こう、拙者の工房へ。
        おっと、青年の名前を聞いていなかったな」

(´・ω・`) 「僕はショボンと言います」



〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「改めて、よろしくだな、ショボン」

509名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:58:07 ID:19kRDolY0











12 ホムンクルスと異質の傭兵  End

510名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 22:59:25 ID:19kRDolY0

>>2   1 ホムンクルスは戦うようです
>>29  2 ホムンクルスは稼ぐようです
>>65  3 ホムンクルスは抗うようです
>>93  4 ホムンクルスは救うようです
>>118 5 ホムンクルスは治すようです
>>148 6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです
>>183 7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです
>>245 8 ホムンクルスと少女のようです
>>284 9 ホムンクルスは迷うようです
>>334 10 ホムンクルスと動乱の徴候
>>393 11 ホムンクルスと幽居の聚落


>>456 12 ホムンクルスと異質の傭兵


【時系列】

ホムンクルス生誕
   ↑
   ↓
6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです
7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです   
8 ホムンクルスと少女のようです
   ↑
   |
   |
   ↓
1 ホムンクルスは戦うようです
   │
2 ホムンクルスは稼ぐようです
   │
3 ホムンクルスは抗うようです
   │
4 ホムンクルスは救うようです
   │
5 ホムンクルスは治すようです
   │
9 ホムンクルスは迷うようです
    |
10 ホムンクルスと動乱の徴候
    |
11 ホムンクルスと幽居の聚落

511名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 23:05:13 ID:19kRDolY0

【錬金術派生】


古代錬金術
 |
 ├────────────┐
 |                  │
近代西洋錬金術     近代東洋錬金術
   │  
   ├ 対軍錬金術 
   │
   ├ 鍛冶錬金術 
   │
   ├ 医療錬金術
   │   │
   |   ├ 人体禁術
   │
   ├

>>450 【素材一覧】

>>451 【錬金術一覧】

512名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 23:20:05 ID:M/qs5uEAO
(´・ω・`)こっちにも来てた、ゴメンねもう既読なんだ

513名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 23:23:22 ID:19kRDolY0
>>512
いえ、お気になさらず。
自分用的なところもありますし

514名も無きAAのようです:2012/06/25(月) 23:24:26 ID:S6LQdFt20
おつ
今後もこっちにも投下してくれるとありがたい

515名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 03:09:04 ID:nc3zebNYO
ω・`)このショボンは最近じゃ珍しい正統派ショボンだね

516名も無きAAのようです:2012/06/27(水) 07:07:31 ID:CfCJF9JQ0
今まで見て無かったんだが、凄く面白いね
vipの方は基本見ないから、今後もこっちにも投下してもらえると嬉しい
次を楽しみにしてるよー!

517名も無きAAのようです:2012/06/27(水) 09:35:42 ID:kDgZV1bcO
科学もあったんだこの世界

518名も無きAAのようです:2012/07/01(日) 00:34:32 ID:hYHp/DMwO
VIPで見てたけど残念、続きはこちらで読ませてもらうよ

519518:2012/07/01(日) 07:17:13 ID:hYHp/DMwO
VIPのほう最後まで投下出来てたんだ 
最後のほう出来なかったものと勘違いしてた

520名も無きAAのようです:2012/07/27(金) 15:15:46 ID:BjJbSSzo0
待ってるぜ。

521名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 02:27:42 ID:tQSEKf.g0
俺もさ。

522名も無きAAのようです:2012/08/15(水) 01:56:33 ID:L6CpHLMQO
(´・ω・`)そろそろ働かないといけないような気が!

523名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:35:57 ID:jSy2jBLEO
待ってる

524名も無きAAのようです:2012/11/11(日) 02:14:41 ID:3cgwvXn20
続きが読みたいの

525名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 19:29:56 ID:BKkRiilc0












13 ホムンクルスと同盟の条件

526名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 19:32:22 ID:BKkRiilc0

セント領主家の東側にあたる、クナド領主家。
領地は狭く、暮らしている民のほとんどは農民である。

領主のクナド氏が錬金術を用いて改良した、
新種の野菜や麦を育てることで暮らしていた。

交易のために整備された場所に、侍の工房はあるそうだ。
そこで今後の策を練るため、僕らは広い道を歩いていた。

(´・ω・`) 「いい所ですね」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「そうだろう? かなり気に入っている。傭兵として色々な領主に雇われてきたが、
        この土地にだけは刀を向けたことがない」

(´・ω・`) 「工房まではあとどのくらいですか?」

廃村にあった教会を発って既に五日。
最も近い村まで徒歩で歩き、そこから馬を使ったが予想以上に時間がかかっていた。
一頭だけ連れていた馬は、教会の町に入ろうとすると暴れて手に負えなかったため、
逃がしてしまっていたからだ。

無理をしてでも近くに繋いでおければよかった。
男二人ではスピードは出せないだろうけど、徒歩よりはずっと早い。

527名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 19:34:47 ID:BKkRiilc0

歩いている間も戦争の準備がされていると思うと、焦りが生まれてくる。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「落ちつけ、青年。戦争はまだ起こらないよ。
        セント領主家が兵を集めるためには、それなりに時間が必要だからな」

侍はそんな気持ちを簡単に見抜いてくる。
傭兵というのは、こうも鋭いものなのか。

(´・ω・`) 「僕らも準備が必要です。兵を起こされたら二人では戦えませんし」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「騎士教会には予め連絡をしてある。教会に行く前にな」

(´・ω・`) 「実際戦争になったら勝てると思いますか?」

騎士教会の戦力は各地に散らばっているせいで、大きいとはいえない。
錬金術師との共同戦線はそれを補って余りあるはずだ。

だけど、大規模な戦争を経験したことのない騎士も多く、
実際の所、どうなのだろうか。

僕自身も戦争に関しての知識は本で読んだ程度しかない。
役に立つかどうか危ういところだ。

528名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 19:38:12 ID:BKkRiilc0

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「厳しいだろうな。普通の人間相手の戦争ならばともかく、
        あの状態の戦士に勝てるとは思えない」

あの状態とは、三日前に教会で戦った狂戦士達のこと。
錬金術による細胞の活性化、変化、強化を受けていた。

(´・ω・`) 「あの状態で連携が取れるのだとすれば相当厄介ですね」

教会での四人……いや、四体は協力するようなそぶりは見せていなった。
現段階では、力を与える代わりに思考力を奪うのではないかと予測している。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「あくまで、騎士だけだったらの話だ。
        実際の戦争は、傭兵や各領地の正規兵も参加するだろうし、
        天候や地形、戦術にもよって変わってくる。
        少し、この辺の話をしようか」


北側が海に面したセント領主家の周りは様々な国家に囲まれている。

と、ハートクラフトは話を始めた。

529名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 19:41:17 ID:BKkRiilc0

東の北側は小さなクナド領主家。
面積でいえばセント領主家の5分の1ほど。
常備軍はおらず、領内の安全維持は騎士教会から派遣された百余名が行っている。


東の南側にはオラト領主家。
クナド領主家と同じ大きさ程度しかなく、同様に農耕が盛んだ。
昔は同じ国だったこともあり、交流は盛んに行われている。


南に面するのはセント領主家ほどではないが、それなりに大きいグラント王侯領。
王侯貴族が暮らす由緒正しき土地で、周囲の国の中では最も大きい常備軍を誇る。

そのさらに南は深い森と、いくつもの山に遮られて交流がほとんどない。


西に集まっているのが、数十年前に圧制から解放されたクルラシア自治区。
今はほとんど分裂してしまい、各地域や村単位で存続している。
代表者達が集まって何とか国としてまとまっているってところだ。


(´・ω・`) 「それならば、他国と協力して、セント領主家を抑え込むのがいいですね」

大雑把ではあったが、おかげでこの辺りの国の状況を知ることができた。
隠れ里で調べてくればよかったのだが、そこまで気が回らなかった。

530名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 19:43:27 ID:BKkRiilc0

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「そうだろうな。海に面したあの国は逃げ道もない。
        拙者はこの後、協力を求めに行くつもりだが……」

(´・ω・`) 「協力を求めるのは他の兵士にさせて、直接城に行くべきでは?」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「戦争の同盟を申し入れるのに、そこらの人間をやるのでは信頼に欠ける。
        それにな、王侯領は自分達だけで戦えると信じている。
        彼らは拙者達の協力を断るつもりで話を進めるはずだ」

グラント王侯領の頭の固い貴族達は、
錬金術を忌避し領内での錬金術を禁じている。

それでは、セント領主家の軍に対抗できないだろう。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「彼らの目を覚まさせてやり、同盟を組まなければならない」

以前、僕は何の気なしに使った錬金術で、数週間を牢に繋がれることになった。
その時に軽く暴れたのもあり、できれば行きたくない。
僕を覚えているものはもういないだろうけど。

531名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 19:47:32 ID:BKkRiilc0

(´・ω・`) 「だったら、僕一人で……」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「いや、それは駄目だ。その話はもうしたはずだぞ」

(´・ω・`) 「僕にどうしろと言うんですか……」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「拙者と一緒に三国を回り、同盟を作る」

(´・ω・`) 「そんな時間があるのですか? モララルドを早く助けないと……」

王侯領の貴族達と交渉できる余地があるとは思わないし、
クルラシアは自由な民の集まりで、各地域の代表による合議制のはずだ。

解放を指揮した女性が絶対的権力を持っているとの噂もあるが、
所詮噂の域を出ない。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「セントショルジアト城には兵も詰めている。
        普通に正面から行くことは不可能だよ、青年」

(´・ω・`) 「わかっていますが……」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「いいか? 同盟成立後、クルラシアからセント領主家に向かう。
        その頃には恐らく兵力が集中されているだろう。
        海沿いにあるセントショルジアト城からは兵力が離れるはずだ。
        その隙に乗り込み、領主を捕らえればいい」

532名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 19:52:04 ID:BKkRiilc0

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「ああ、見えてきたぞ」

話に夢中になっていたせいか気付かなかった。
いくつもの野営用テントが並び、せわしなく馬と人が行き来している。
クナド領内で最も活気のある場所だそうだ。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「ここが俺の工房」

中心部だけは一時凌ぎではない建物があった。
その中の一つで、看板の掲げられていた家の扉を開けた。

どうやら鍵すら閉めていないらしい。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「なに、盗むような人間はいない。
        それに……」

(*゚ー゚) 「あ、おかえりなさいお師匠様」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「見張りを置いてある」

奥から出てきたのは一人の少女だった。
腰には体格に合わない大きな剣をぶら下げている。

(*゚ー゚) 「お客様ですか?」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「ああ、この青年と話がある。奥の部屋を使うがいいか?」

(*゚ー゚) 「ええ、綺麗にしていますので。ごゆっくりどうぞ」

533名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 19:57:15 ID:BKkRiilc0

案内されたのは、工房と繋がっている生活空間だろう。
味気ないテーブルが一つと、椅子が四脚。
二階に上がる階段が部屋の奥にあった。

少女は火のついた暖炉から、お湯を持ってきて茶を入れている。

(´・ω・`) 「少し……意外でした」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「少女一人に留守番をさせてたことか? それとも弟子が少女だったことか?」

(´・ω・`) 「両方です」

職人と呼ばれる人間は、疑り深く頑固だというイメージがあった。
僕が長い間旅をしてきた間にできた経験則だ。

この男には、それが何一つ当てはまらない。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「んーまぁ、こうみえてしぃの腕はいいからな。錬金術も、剣も。
        結構楽しいもんだぜ、後進の育成。青年ならわかると思うが」

それはモララルドのことを言っているのだろうか……。
彼は僕の弟子ではなかったが、そうは見えただろう。

534名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 19:58:47 ID:BKkRiilc0

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「おっと……まぁあの少年を助けるためにも、俺達にはやらなきゃいけないことがある」

(´・ω・`) 「……ええ」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「これがこのあたりの地図だ」

セント領主家の城がある海に面する所は、切り立った崖の上だ。
これは事前の情報通り。

セント領主家とクルラシア自治領の間には大きな川が流れている。
他はほとんどが平坦な地で、特に障害はない。

グラント王侯領のさらに南は巨大な山脈によって切り離されている。
同じ大陸内とはいえ、行き来している人間はほとんどいないだろう。

(*゚ー゚) 「お師匠様、お手紙が届いています」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「ああ、…………ほう!」

中身を流し読みし、こちらに便箋を投げてよこした。
汚い字で非常に読みにくい。

535名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 20:02:22 ID:BKkRiilc0

(´・ω・`) 「セント……領土内に……動き……あり……?」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「秘密裏に兵士募集。配分されている武器に異変なし、だと」

(´・ω・`) 「あなたは……教会に行く前から調査を?」

いや、この男は何も知らずに騎士教会から派遣されてきたはずだ。
予め密偵を送れるわけがない。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「ああいや……これは、錬金術師からの連絡だ。
        騎士教会からの依頼があったと同時に、隠れ里から連絡が届いた。
        セント領主家の動きに注意しておけ、ってな」

(´・ω・`) (そんなことをするのは……初代か……)

まるで引き合されたかのようだ。
この騒動すら、全てが初代の掌の上な気がしてきた。

流石にそれはあり得ないか……。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「まぁ、そういうわけで、動きが大々的になるまではまだ余裕がある。
        どうだ、拙者の案に乗ってくれるか?」

(´・ω・`) 「……わかりました」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「まずは、クナド様に話をしに行く。すぐ近くに住んでいるからな、ついてこい」

536名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 20:12:39 ID:BKkRiilc0

思わず飲みかけのお茶を吹きこぼしてしまった。
差し出された布で口周りを拭きながら言う。

(;´・ω・`) 「初対面の僕を連れていくのですか!? それじゃあ話がしにくいでしょう?」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「クナド様はそんな狭量な男ではない。それにな、青年が来た方が早いと思うぞ」

(´・ω・`) 「……わかりました、では行きましょうか」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「しぃ! また留守を頼む。じきに戻るが」

(*゚ー゚) 「はい、お師匠様。お気をつけて行ってらっしゃいませ」

クナド領主がいるという屋敷は予想以上に近かった。
何せ侍の工房と同じ中央広場に面していたからだ。

屋敷はとても小さく、少し金がある者であれば建てられるほどの大きさしかない。
モララルドの家の半分もなかった。

(´・ω・`) 「ここが……?」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「ああ、入るぞ」

537名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 20:15:38 ID:eDkP3RtYO
久しぶりだな、待ってたよ 
支援

538名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 20:37:11 ID:RQuE7q6sO
おひさ

539名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 20:57:18 ID:/YzXbpXUO
きたー

540名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 21:17:18 ID:BKkRiilc0

侍は二度のノックをするだけで返答も聞かず中に入っていく。
玄関で待っているわけにはいかず、その後に続いた。

クナ ゚-ド 「久し振りじゃのぉ、ハートクラフト」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「クナド様もお元気なようですね」

クナ ゚-ド 「いやぁ……最近は腰が言うことをきかなくなってきてなぁ。
       様はつけんでよい。して、後ろの男はだれじゃ?」

(´・ω・`) 「お初お目にかかります、錬金術師のショボンと言う者です」

一人この場で浮いている空気を感じつつも、片膝を立てて頭を下げた。
領主に対する挨拶はどの国でもこれで、文句を言われたことはほとんどない。

クナ ゚-ド 「おいおい、頭なんか下げるなよ。堅苦しくせんでよい。錬金術師! これはまた! 
       いい客を連れてきてくれたものじゃ、」

(;´・ω・`) 「はい…………」

かつて会ってきた領主達とは似ても似つかない。
この土地で、僕の価値観は二度も大きく破壊された。

541名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 21:19:13 ID:BKkRiilc0

クナ ゚-ド 「どのような研究をしておるのじゃ?」

(´・ω・`) 「ほとんどです。ほぼすべての分野の錬金術を修めています」

胡散臭い話だが、事実なのでしょうがない。
この言葉を信じない支配者たちに、今まで何度実演をさせられたか。

クナ ゚-ド 「ほう! ほう! それでは作物に関する錬金術も知っているということか?」

(´・ω・`) 「はい、ある程度は」

クナ ゚-ド 「それはいい! 是非話を聞かせてほしいものじゃ」

そういえば、領主もまた錬金術師だったということを思い出す。
この人は、きっと惜しむことなく自分の研究をさらしてきたのだろう。
警備の緩やかなところを見ても、民衆に支持されているに違いない。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「それなのですが、またの機会にしていただきたいのです」

クナ ゚-ド 「なぜじゃ?」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「セント領主家が戦争の準備をしているとの情報を得ました。
        今より、周辺国オラト、グラント、クルラシアの三国に同盟を結びに行きたいと思います」

542名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 21:25:12 ID:BKkRiilc0

クナ ゚-ド 「その情報は確かなのじゃな?」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「間違いありません」

クナ ゚-ド 「ならばに任せる。儂にできるせめてものこととして、親書を用意する。少し待て」

侍は領主より相当の信頼を得ているのだ。
だからこそ、話はこれほどまでに進む。

出来過ぎた偶然だが、おかげで僕は助かった。
ならば、この運の良さを享受すればいい。

クナ ゚-ド 「これでよいか?」

手渡されたのは三枚の手紙。
親書だという証拠に、王印で封をされている。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「ありがとうございます。それでは行ってきます」

クナ ゚-ド 「うむ、気をつけていくように。こちらもできることはさせてもらう」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「それでは」

(´・ω・`) 「失礼します」

僕らは領主の前から退出した。
一つ扉を開ければ、すぐ日の光を浴びることになる。

543名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 21:27:07 ID:BKkRiilc0

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「準備は整った。それでは一旦工房に帰って物を取りに行く。
        何か必要なものがあれば青年、やるが。
        この先武器が必要になってくるだろうからな、一本くらいなら好きなのをやろう」

(´・ω・`) 「いえ……特には」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「遠慮しなくてもいいが……まぁ要らんと言うならいらんのだろう」

侍は工房の奥へと進み、旅の支度を整えていた。
剣こそいらないが、僕もいくつかしておくべきことがある。

(´・ω・`) 「えっと……しいちゃん? 便りを書きたいんだけれど」

(*゚ー゚) 「しぃって呼んでください。そちらの方が慣れてますので。
      急ぎの手紙ですか?」

(´・ω・`) 「いや、届けばいい、くらいかな」

(*゚ー゚) 「それでしたら、私に預けてください。
      本職の方にお渡ししておきます」

国境を超える手紙のやり取りは、それを専門に配達する職業がある。
理論上は、お金を払えばどこまでも届けてくれることになっているが……。

544名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 21:29:26 ID:BKkRiilc0

(´・ω・`) 「隠れ里には届くのかな?」

(*゚ー゚) 「うーん……ちょっとわからないです」

それもそうか。
錬金術師しか入れないのだから、一般の配達人では無理だろう。

(*゚ー゚) 「あ、でも、錬金術師でも手の空いている方はいるでしょうし、お願いしておきますよ」

(´・ω・`) 「それは助かる。これは代金ね。お釣りが出たら貰っておいていいよ」

足りないことが無いように、かなり多めに渡す。
それを受け取ってしぃは随分驚いていた。
普段はお金の管理をしていないのだろう。

(;゚ー゚) 「こ、こんなにもらえません。半分でも足りると思います……」

(´・ω・`) 「気にしないで。気持ちの分も入ってるから」

(*゚ー゚) 「ありがとうございますっ!」

(´・ω・`) 「紙とペンはあるかい?」

545名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 21:30:51 ID:BKkRiilc0

しぃに渡された紙に思いついたことを書き込んでいく。
手紙と言うよりは定時連絡になるだろうけど、それでも構わないだろう。

僕の言いたいことは伝わるはずだ。

   「  ブーンへ 

      鍛冶錬金術師の人と合流することに成功した。
      二人でオラト、グラント、クルラシアの三国を周り、
      オラトを含む四国同盟を成立させることに決まった。
      鍛冶錬金術師の話によると、セントの兵配備はまだ始まったばかりで、
      時間はあるとのことだ。配給されている武装も通常のものらしい。
      最悪の時は頼んだよ。それじゃあ、また。
                                                    」

(´・ω・`) 「それじゃ、これをお願い」

(*゚ー゚) 「はい、確かにお預かりいたしました」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「ショボン、準備はできたか?」

奥から出てきたハートクラフトは装備を少し変えていた。
それに加えて、布でまかれた長物を持っている。

546名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 21:34:14 ID:BKkRiilc0

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「ん、これか」

そちらを見ていることに気付かれた。
戦うには大きすぎるが、それ以外の用途があるとも思えない。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「まぁ、あとで教えてやる。
        それより出発しようか。時間があるとはいえ無駄にするのは惜しいしな。
        ああそうだ、それとしぃ」

(*゚ー゚) 「はい、お師匠様」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「彼らに連絡を取っておいてくれ。もしからしたら力を借りることになるかもしれん」

(´・ω・`) 「彼らとは?」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「傭兵仲間のことだ。戦争が起こるかもしれないんだ。
        備えておくに越したことはない。さぁ、行こうか」

(´・ω・`) 「はい」

後は馬を手に入れるだけだ。
安くはないが、毎回馬を買っては捨て置いているので、だんだん感覚が鈍ってきた。

(´・ω・`) (何かあっては逃がしてばっかりだからなぁ……)

547名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 21:36:26 ID:BKkRiilc0

そろそろお気に入りの馬でも連れてみようか。
錬金術で肉体強化を施して……。

人体禁術はあくまで人間に対してだけだから、問題はないだろう。
もっとも、考えてみるだけで実行する気はさらさらないが。

体の大きな哺乳類となると、やはり抵抗を感じる。

(´・ω・`) 「さぁ、買いますか」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「かっはっは、金を工房に忘れてきた。後で返すから済まんが出しといてくれ」

傭兵業でかなり稼いでいるはずだ。
その言葉に嘘はないだろうし、馬二頭程度の出費なら大した問題ではない。

厩舎で馬を二頭買い、町の外に向かって走る。

(´・ω・`) 「向かう先は?」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「オラト領主家だ」

地図を思い出しながら、整備された広い街道を並走する。
このまま道沿いに進めば、オラト領に入ることができたはずだ。

548名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 21:38:52 ID:BKkRiilc0


〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「領主がいるのはちょうどクナドとグラントの間ぐらいだ。
        馬で飛ばせば一日ほどで着く」

(´・ω・`) 「急ぎましょう……」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「馬をつぶさない程度に、だ」

僕らはオラト領に向けて風のように馬を走らせた。



・  ・  ・  ・  ・  ・

549名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 21:42:19 ID:BKkRiilc0

ただひたすらに南進していた。
半日ほどの時間が経ち、日が落ちて行く。
月夜は明るく、障害物もないためまだ進めるはずだ。
そんなことを考えていると、一歩前をいく侍から声がかけられた。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「そろそろオラト領に入る。先程簡単な説明をしたが、もう少し詳しく話しておく。
        こことクナドは元は同じ国だった。
        別れた原因はある日の喧嘩だったそうだ」

(´・ω・`) 「領主の相続でもめたのですか?」

よくある話だ。優秀な兄弟を持ち上げようとした家臣団がいたり、
愚者を祭り上げて都合よく支配しようとしたり。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「いや、父と母の喧嘩だ。父は優しい兄に、母は賢い弟にそれぞれ領土を継がせようとした。
        家臣団も両者に分かれて内乱直前までいったそうだ。
        そこで弟が分割統治を提案し、兄がそれを承諾した」

(´・ω・`) 「それは……不運な兄弟でしたね」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「今では仲を戻しているが、国としてうまくまとまっているのでそのままにしているそうだ。
        おそらく、協力を申し出るのは容易いことだと思うが……」

国境だと言われた場所は、柵一つすらなく、境界線だとは俄かに思えない。
国としての雰囲気も同質なものを感じる。

550名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 21:43:51 ID:BKkRiilc0
(´・ω・`) 「領主の居場所まではどのくらいですか?」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「もう少し走れば小さな城が見えてくるはず」

昼間に飛ばしたおかげで、予定よりも早くつくことができそうだ。
話をできるのは早い方がいい。

(´・ω・`) 「謁見は翌朝になりますか?」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「いや、夜にはできると思う。弟も高名な錬金術師でな、研究内容は金属関係だ」

(´・ω・`) 「金属ですか。兄が品種を改良し弟が道具を作る。
       なかなか息のそろった兄弟ですね」

行き来の自由にできる国境は、交流を容易にし、お互いを発展させる。
二つの国に分かれたままであれば、競争を煽れるだろうし、
意外といい統治のしかたなのかもしれない。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「あれが城だ」

小高い丘の上に小さな古城と、その周りに城下町と呼べる程度の家が広がっている。
元は戦争の拠点だったのか、朽ちた高い外壁が残っていた。

城の周りには篝火が焚かれ、警備の兵もいるようだ。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「……クナド国からの遣いだ!」

大声で兵の注目を集める。
そうすることで、敵と味方の区別をつけているのだろう。

551名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 21:45:47 ID:BKkRiilc0

「お久しぶりです、ハートクラフト様」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「ああ、オラト様に話が合って来た。通してもらえるか?」

「ええ、すぐに」

そのまま街の中に通された。
寝静まった家の間を、馬を降りて歩く。

城下では、許可を得たもの以外馬に乗ることを禁止しているそうだ。
城門に着いた時、そこで先程の男が待っていた。

「お会いくださるそうです。どうぞ、そのまま中にお進みください」

ゆっくりと、城門が開かれていく。
金属の錬金術を研究しているとの話通り、門は見たことのない素材でできている。

大まかな予測はつくが、黙っていた方がいいだろうな。
余計なことをいって機嫌を損ねるわけにはいかない。

正面階段を上って、そこに飾りたてのされていない玉座があった
そこにクナド王と重なる容姿の老人が座っている。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「お久しぶりです、オラト様」

オラ ゚-ト 「よく来てくれた、今日は何の用だ?」

552名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 21:46:49 ID:BKkRiilc0

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「少々込み入ったお話になるので、人払いをお願いしたいのですが」

オラ ゚-ト 「よい、下がれ」

家臣団は不平のひとつも言わず、奥の部屋に下がっていった。
それだけ信頼が厚い領主なのだろう。

ハートクラフトに対する信頼も言わずもがな。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「セント領主家が侵略戦争を起こすつもりのようです」

オラ ゚-ト 「ほう……その情報はどこから?」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「ここにいる錬金術師が証明できます」

オラ ゚-ト 「其の方か」

クナド王と違い喋り方には重みがある。
厳しさではなく、見定めている、といった感じか。

(´・ω・`) 「お初お目にかかります。錬金術師のショボンと言います」

オラ ゚-ト 「ふむ……どの分野を研究している?」

(´・ω・`) 「広範囲にわたって研究しています。特定の分野に傾倒しているわけではありません。
       必要でしたら、お見せいたしますが」

553名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 21:48:17 ID:BKkRiilc0

オラ ゚-ト 「……よい。セント領主家との話を聞かせよ」

それは面倒はなくていい。
僕は事件の概要を簡潔に伝えた。

オラ ゚-ト 「ふむ……信じよう。して、同盟か」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「はい、こちらがクナド様からの親書になります。どうでしょうか?」

侍が差し出した親書を受け取る。
一目見ただけで、内容を理解したようて、手紙は隅の机の上に置かれた。

オラ ゚-ト 「確かに兄上の文字だ。……結論から言うと、同盟の話を受けてもよい。
       だが、条件がある」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「条件ですか?」

オラ ゚-ト 「もしセント領主家が本気なら、我々二国だけではいとも容易く負けてしまう。
       一つ目はグラント王侯領、クルラシア自治区とも協定を結ぶこと。
       二つ目は勝利した際、セント領主家の領地を王侯領が支配せぬこと」

(´・ω・`) 「それは……」

かなり厳しい条件になる。
戦勝国は敗戦国の領地を支配することが常道だ。

同盟があれば、協議により国境を策定する。
それを与えるななどとは無茶だ。

554名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 21:51:13 ID:BKkRiilc0

オラ ゚-ト 「それが納得できぬのなら、同盟はなかったこととする。
       我々はセント領主家と組み、グラント王侯領を侵攻する」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「わかりました……おって書簡で連絡させていただきます」

オラ ゚-ト 「うむ、これでもお主をたてておることはわかっておろう。
       今日はもう遅い。城内で休んでいくがよい」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「ありがとうございます」

オラト領主が二度、手を叩いた。
近くで待機していたのだろうか、現れた家臣の一人に客室へ案内された。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「ふむ……」

(´・ω・`) 「どうしてオラト領主はあのような条件を出したのですか?」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「ああ、話をしていなかったな。すまない。
        オラト国とグラント国は国境で小競り合いをしている。
        拙者も何度か参戦したことはあるがな」

なるほど……。
となるとこの同盟の鍵はグラント王侯領というわけか。

555名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 21:52:20 ID:BKkRiilc0

オラトへの侵攻を止めてもらい、なおかつ同盟を結ばなければいけない。
難しい説得になるだろう。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「クナドは陰ながらオラトを支援しているが、やはり大国。
        この国は徐々に疲弊してきている」

(´・ω・`) 「王侯領を説得する方法はあるのですか?」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「無いことは……無い……が、運次第だろうな。
        それがこれだ」

白い布にくるまれた細長い荷物を指さした。
クナドを出る前に、工房で準備していたものだろう。

(´・ω・`) 「なんですか、これ」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「見てみるか?」

ハートクラフトは細紐をほどき、布を取り払う。
中から現れたのは、古めかしい槍。

長さは両手を上に伸ばした僕よりわずかに長く、
柄には精巧な彫刻が彫ってあった。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「グラント王侯領は、宗教国だ。そのために、錬金術が嫌われている。
        この武器を神代のものとして献上し、一時の協力を取り付けるつもりだ」

556名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 21:55:50 ID:BKkRiilc0

金属の錆び具合や、刃が欠けているところまでよく再現したものだ。
数百年前のものだと言われても、違和感は感じない。

(´・ω・`) 「確かに、並の錬金術師では気づかないでしょうね。
       ただでさえあの国に錬金術師はいませんし。
       ですが、それだけで騙せるでしょうか?」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「ただ見かけだけでは駄目だろうな。だから、こいつには一工夫してある。
        持ってみろ」

渡された槍を持ってみると、すぐにわかった。

(´・ω・`) (……軽い)

これほどの長さがあるのに、その重さは短い木の棒ぐらいではないだろうか。
そして、欠けているはずの刃の切れ味は全く衰えていない。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「振ってみてくれ」

言われたとおりに穂先を上下に軽く振る。
それによって、室内の空気が僅かに揺らいだ。

(´・ω・`) 「……?」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「別に当たらなければ構わない。もっと思いっきり振ってみてくれ」

557名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 21:56:41 ID:BKkRiilc0

上段まで振りかぶり、地面寸前まで振り下ろした。
その瞬間、室内に突風が吹き荒れる。

埃が舞い上がり、窓は激しく揺れた。
逃げ場のなかった風の塊が、室内を好きなだけ暴れる。

それが収まるのに数秒もかかった。

(;´・ω・`) 「…………」

〔; !゚ Ⅱ゚!〕 「ふむ……室内で使うものではなかったな」

説明してくれれば、わざわざ実演するまでもなかったんじゃないか。
そうすれば部屋が荒れることはなく、片づけをする必要もなかった。

散らばった備品を元の場所に戻しながら思う。

この槍は振った速度に応じて風を巻き起こすのか。
その力に殺傷力はないが、普通の武器の範疇を逸している、それで十分。

教会にいた銀髪の男のレイピアは、同じような力を持ってはいたが、その”鋭さ”が重要視されていた。
これは、より大きな出力を持つようにと造られているのだろう。

信仰心の篤いグラント王侯領の人間には、神の奇跡に映って見えるはずだ。


これが"鍛冶錬金術"というものか……。

558名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 21:59:24 ID:BKkRiilc0

(´・ω・`) 「これでも、加減しているんですよね?」

クナドと仲がよいオラトに敵対するグラント王侯領。
その国に戦力となる武器を差し出すわけにはいかないだろうから。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「いや、まぁ……突き詰めたが、
        風圧を維持したまま人を傷つけるだけの鋭さは生み出せなかった。
        もっと大きくて重い武器なら可能だろうがな」

(´・ω・`) 「あなたがセント領主家の人間でなくてよかったですよ……」

人体を強化し、本来以上の力を生み出す薬。
それによって生み出された人外に、この男の武器が与えられていれば、
戦争を防ぐことも難しかったかもしれない。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「拙者はクナドの人間だからなぁ。セントには協力せん。
        まぁ、機会があれば他の武器も見せよう」

(´・ω・`) 「あなたから学ぶことは多くありそうですね」

559名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:01:23 ID:BKkRiilc0

錬金術の知識はほとんどすべて知っていると思っていた。
少なくとも、見ればどのようなものかはわかるほどには。

この侍の"鍛冶錬金術"は、僕にも全く仕組みがわからない。
本質を教えてもらえるとは思わないが、少しくらいなら答えてくれるだろう。

この戦いが終われば、男の工房に入り浸るのも悪くない。

(´・ω・`) 「後はちょうどよい伝説などがあればいいのですが……」

グラント王侯領の人間が信じる宗教にも、様々な逸話があろう。
それと同じ能力を持っていれば、信じてもらえる可能性が高くなるはずだ。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「ん? それなら当然ある。当たり前だ。神話をもとにして作らねば意味がない」

(´・ω・`) 「そうなんですか? 僕は聞いたことがありませんけど……」

グラント王侯領の国教はこの大陸では数少ないものだ。
それが気になって昔侵入したのだが。

560名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:23:19 ID:T9Ej4MrA0
どうした

561名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:24:00 ID:BKkRiilc0

神は人々の中に隠れて生活しており、その暮らしを見守っている。
それゆえ、他者を苦しめる行為をしてはならない。

神は天上から全てを見降ろし、その暮らしを見守っている。
それゆえ、人の目がないからといって悪い行いをしてはならない。

永遠に存在するのは神だけであり、神こそが絶対的な規範である。
その領域を侵すものがあれば、全てを剥奪される。


たしか、そんな教義だった気がする。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「大まかにはあっている。同教徒には決して武力を用いず、異教徒は打ち滅ぼしてよい、
        としている自分勝手な宗教だ。
        そしてその中の逸話の一つにな、同教徒の戦になろうとした時、
        それを止めた神がいた、というものがある。
        空から両軍の間に落ちてきた槍は、雲り空を一瞬で晴れ渡らせた、とな」

(´・ω・`) 「なるほど……」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「名を"雲居抜き"と呼ばれる武器は、空の雲と同時に人々の不満を払ったとされる」

その伝説が真実にしろ、創られたものにしろ、
風を生み出すこの武器の能力は、それに近いものがある。

562失礼、食事してました:2012/11/26(月) 22:25:47 ID:BKkRiilc0

(´・ω・`) 「教えていただきありがとうございます」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「なに、知っておいてくれた方がいい。さて、明日も早いぞ
        今日はもう寝ておけ」

(´・ω・`) 「そうですね」

僕らは床に着いた。
隣からはすぐに寝息が聞こえてくる。

グラント王侯領のことを考えていたが、頭の中の情報を整理できた程度で、
特に何も思いつくことはない。
僕は諦めて目を閉じた。



・  ・  ・  ・  ・  ・

563名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:26:51 ID:BKkRiilc0

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「それでは行ってまいります」

オラ ゚-ト 「うむ、良い答えを期待しておる」

朝、僕らはオラト領主に挨拶をし、城を出発した。

小雨の降る静かな朝だった。


昼頃には本格的に降り始め、僕らは休憩を余儀なくされる。
道中にあった村で雨宿りをしていた。

(´・ω・`) 「なかなかやみそうにありませんね」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「なかなか降らないが、振り始めると長い、そんな雨だからな。
        長い時で一週間は振り続ける。
        しばらく様子を見て、変わり無いようであれば雨の中を行くしかない」

「旅のお客様ですか? もしや、グラント王侯領へ?」

(´・ω・`) 「はい、そうですけど」

軽い食事をとっている時に、店主が話しかけてきた。
僕の返答を聞いた後、彼は顔を歪めた。

564名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:29:02 ID:BKkRiilc0

この辺りはまだオラト領なのだから、それも仕方のないことか。
そう思っていたが、面倒な事実を知ることになる。

「オラトとグラントの国境は、今多くの兵が集まっています。
 旅の方でもそこを抜けるのは難しいかと思いますが……」

(´・ω・`) 「兵が?」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「グラントが侵略の準備をしているってことか」

「はい。今までのような小競り合いではなく、本格的な進行をするつもりのようです。
 私らもそろそろ避難をしようかと考えています」

店主の話によると、およそ100人の部隊が最低でも15用意されているらしい。
1500人もの戦力に攻められては、オラト城を護りきれるかどうか……。

同盟の交渉が行われる前にオラトが陥落してしまっては意味がない。

(´・ω・`) 「厳しいですね……」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「前回、100人隊を3つほど、30人ほどの傭兵部隊で蹴散らしたのがまずかったな。
        今回はあちらも本気の様だ」

(;´・ω・`) 「……よく勝てましたね」

十分の一の戦力で野戦を行えば、普通は全滅する。
それを生き残るどころか、追い払ったのだと言うのだから脅威だ。

565名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:32:03 ID:BKkRiilc0

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「傭兵達には勿論、拙者の武器を使わせたがな。
        仲のいい者には個人的に用意しているし。
        相手の司令官の戦略が悪かったのも大きい。
        兵が混乱して陣の組み替えもできてなかったからな……そうなるように仕向けたんだが」

(´・ω・`) 「僕らはすぐに出たほうがいいんじゃないでしょうか」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「そのようだ。クナドを出るとき、念のため傭兵達に連絡をしておいたが……。
        間に合うかどうかわからないし、交渉をする上では戦わないほうがいい」

(´・ω・`) 「そうですね。情報ありがとうございます、店主も気をつけてください」

「ええ、旅のお方も」

礼代わりに多めに金貨を置いていく。
オラトで貰ったコートを頭から被り、馬を走らせる。

目指す国境まではまだ距離がある。
だがそれは、相手にとっても同じことだ。

歩兵が主な部隊では進行速度が遅くなるし、人数が多ければそれだけで軍は鈍重になる。

まだ僕らに利があった。

566名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:37:12 ID:BKkRiilc0

無言で草原を駆け抜ける。
地平線の先は雨で見えない。

焦るあまり、つい強く手綱を引いてしまう。
後ろから侍に声を掛けられて、そのことに気付いた。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「まだ時間はかかる、あまり急ぎ過ぎるなショボン」

(;´・ω・`) 「ええ……わかってます……」

地面の悪い雨の中では馬の体力消耗も激しくなる。
もし馬を失うことになれば、取り返しがつかない。

少しだけペースを落とし、侍と並ぶ。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「そろそろ着くはずだ」

グラント領にはまだかかるはずだ。
何処に、と聞き返そうと思ったが、すぐに理解した。

地平線上に突然現れた黒い壁。

等間隔で高い塔が空に伸びている。

オラト領の防衛ラインだ。

567名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:37:52 ID:BKkRiilc0

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「ここまで押し込まれていたのか……」

地図で見たオラトとグラントの国境はまだまだ先にある。
それなのに、ここの防壁では兵士たちが慌ただしく動き回っている。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「である、オラト領主、オラト ・ ヴィナ氏の命によりグラント領に向かっている
        道を開けてくれ!」

侍を見た兵士たちの顔が次々と変化していく。
暗く絶望していた表情が僅かな微笑みに変わる。

ハートクラフトは期待に応えるように何度か手をあげて挨拶をしていた。
防衛壁の前まで来て、門を開けるように指示する。

意外にも返ってきた答えはNOであった。

なぜか、そう問いただす手間は省けた。
壁の向こうから、いくつもの足音が大地を揺らしている。

敵は目前まで来ていたのだ。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「いい、開けろ! 二人が通った後は閉めて二度と開けなくていい」

「ですが、ハートクラフト様。すぐそこに敵が迫っています!」

568名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:38:36 ID:BKkRiilc0

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「わかって言っている! 頼む、一瞬でもいいから開けてくれ」

将軍は躊躇っていたが、の勢いに押され門に人が通れるだけの隙間を開けてくれた。
僕らはその間を通り抜け、敵陣へとまっすぐに進んでいく。

背後で鉄の合わさる音がした。

逃げ道はない。

今は、速く前に進むだけだ。


軍隊が、黒い塊となって列をなしていた。
僕らの登場に多少の動揺が見える。

その隙を突くように、傭兵は戦場に響き渡る声で叫んだ。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「グラント王侯領の指揮官と話がしたい!
        オラト国及びクナド国の代表として、傭兵ハートクラフトが二騎で来た!」

続けて言う。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「この地域の、ひいては大陸の未来に関わる内容である!
        偉大なるグラント王侯領の指揮官様にお知らせしたい!」

569名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:39:23 ID:BKkRiilc0

「通せ!」


低い、大地を揺るがすような声が返ってきた。
目の前の軍隊が二つに割れ、奥への道を作り出す。

僕らはその間を抜け、一つの陣に辿り着いた。

「話を聞かせて貰おうか、傭兵」

そこにいたのは、侍よりもさらに二周り大きい男。
手には巨大な斧を持っている。

何かあればすぐに対応できるよう、僕らを囲う十数人の部下は槍を構えていた。
その猛獣の口の中で、敵意がないことを示すため、僕らは馬を下りる。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「まずは、通していただきありがとうございます」

「前口上はいい。時間稼ぎとみればすぐに攻めるぞ」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「はい。それでは単刀直入に。セント領主家が侵略の準備をしています。
        今、二国で争っているべきではなく、共に戦うべきです」

570名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:40:04 ID:BKkRiilc0

「ふん、セント領主家のことえお我が国が知らんと思ったか?
 傭兵、その程度のことであったと言うならば帰れ。正々堂々と戦ってやろう」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「……セント領主家は錬金術の禁忌を犯し、戦力を───」

「錬金術! その名をもう一度口にしてみろ。今この場で貴様の胸に風穴をあけてやる」

指揮官は最初から話を聞くつもりが無いようだ。
これでは説得に入ることすらできない。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「申し訳ありません……それでは、こちらを。私がとある場所で見つけたものです」

侍は、持参した白い包みを差し出した。
それは部下の手に渡され、指揮官のもとに届く。

ゆっくりと包帯が解かれていき、その全容が明らかになる。

「これは……」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「以前、貴国の傭兵として戦った時に聞きました話から察するに、
        それは大事なものではないでしょうか?」

「……確かに、聖書に書かれた神代の武器に造詣が似ているが……しかし……。
 これをどこで見つけた」

571名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:40:54 ID:BKkRiilc0

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「はい、オラト国から南に下って山二つを超えました森の中に。
        それが地面に突き刺さっていました」

このあたりの話は全て侍の創作だ。
事前に地図の中から、最も適した場所を選んである。

用意してきた話は、そうそう綻びはしないはずだ。

それならば、これは十分に伝説として通じるはずだと、
男の次の一言を聞くまで、僕はそう思っていた。


「なぜ……なぜ"雲居抜き"が二本もある」


〔; !゚ Ⅱ゚!〕 (;´・ω・`) 「!!」


「……これは私だけでは判断できぬ。傭兵、王城までついてこい。
 その間、開戦は待ってやる」

僕らは平静を装い、頭を下げた。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「ありがとうございます」

572名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:41:38 ID:BKkRiilc0

「その男は何者だ」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「我が傭兵仲間の腕きき、元セント領主家の兵、ショボンです。
        私の護衛に連れてまいりました。
        彼も城へ連れて行ってよろしいでしょうか?」

「構わん、たった二人で暴れようとは思うなよ」

当初の予定とは違ったが、戦争は一時的に止まり、
僕らはグラント王侯領の城に行くことになった。

うまくいっているはずなのに、どうしてか嫌な予感がする。
あまり当てにはならないが、気をつけるに越したことはない。

僕は腰の薬品をさり気なく確認し、指揮官を待つ。


しばらくして、指揮官は数十人の護衛と一緒に馬に乗って現れた。

「それでは我が王城"アルグラント"に案内しよう」

573名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:42:20 ID:BKkRiilc0

彼らに連れられて、馬を走らせること五日。
僕らは巨大な城塞都市に来ていた。

人よりも数倍高い塀で、都市全体が囲まれている。
灰色の城塞とは対照的に、城は光り輝くような白色。
十二の尖塔を持ち、四の別棟を擁するグラント領最大の城。



"アルグラント"



グラントの全てを統べるという意味に相応しい建物だ。


「王に失礼のないように。必要なものはすべて部屋の中にある」

城の中に通され、身なりを整えるように言われた。
用意された部屋の中で、僕らは旅の汚れを落とし、
この国特有のゆったりとしたローブを着る。

白を基調とし、金色の刺繍がそで口についているこれは、
客人用のものだろうか。

(´・ω・`) (以前来た時は招かれざる客だったからな……)

574名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:43:17 ID:BKkRiilc0

「準備はできたか?」

小一時間ほど経ってから、男は戻ってきた。

「貴様らは王の質問に答えよ。余計な事を話せば命はないと思え」

男が前に、その数歩後ろに僕らが続く形で謁見がかなった。

玉座の間には、百人ほどの重騎士兵が四列で両側に並び立っている。
剣を抜こうものなら一瞬で叩き斬られるだろう。

その中を僕らは前に進み、王座の前に傅いた。

「面をあげよ」

玉座に座っているのはまだ若い青年だった。
二十と少しほどだろうか。

紅いマントと、白の王冠が短い金髪によく似合っている。

「グラント軍第三指揮官、大位貴族ソラリス ・ ナハカルア。
 お前にはオラト攻略を命じたはずだ。それがなぜ、ここにいる?」

575名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:44:01 ID:BKkRiilc0

「はっ、我が王。先の戦で我らに与した傭兵が、"雲居抜き"を持ってまいりました」

「"雲居抜き"だと? 見間違いではなかろうな?」

「見たところかなり古く、私には判断しかねますので、王城へ持ち帰った次第であります」

男は自らの手に持ってきた槍を王に向けて差し出した。
近くに待機していた重騎士の一人が、それを受け取り、王に届ける。

「ふん……なるほど、よくできている」

王はそれを立ち上がって掴み、二、三度振りまわした。
その度に玉座の間を突風が吹きぬけて行く。

待機していた重臣達は驚きの声を洩らす。
当然だ。この僕ですら見たことはないものなのだから。

「そこの傭兵。正直に答えよ。これはどこで見つけた?」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「オラト領から南に山二つを超えた森の中にありました」

先日司令官にしたのと同じ話を繰り返す。
王は口を挟むことなく、それを黙って聞いていた。

「面白い……実に面白いものだが……残念だ、その二人は牢に閉じ込めておけ!」

576名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:45:21 ID:BKkRiilc0

(;´・ω・`) 「なっ!?」

「非常によくできた偽物だ。どうやって作ったのかは知らんがな」

僕らが持ってきた槍を床に落とし、王は腰から長剣を抜く。
それは鍔が無く、剣と言うにはあまりに不格好だ。

そして柄の中心に向かって、振り下ろした。


甲高い金属音がして、贋作は真っ二つに折れた。
まるで閉じ込められていものが逃げだすかのように、強い風が吹き荒れる。

それが収まった時に王は言った。

「雲居抜きは槍だと、聖書には記述されている。だがな、長い年月の末に槍は壊れたのだ。
 柄の部分が根元から折れ、今は槍としては機能していない」

王がこちらに見せた剣は、柄の底が割れていた。

「わかるか? 何代もグラント王に引き継がれてきたこれこそが、"雲居抜き"なのだ」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「私の見つけたものは、偽物だったのですか。
        大変なご迷惑をおかけして申し訳ありません」

すぐに取り繕うように侍が答えた。
驚き、何も言えなかった僕と違い、彼はこの可能性すら考えていたのかもしれない。

577名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:46:15 ID:BKkRiilc0

「……戦争を遅らせた罪は、お前が我が国の傭兵として戦ってくれるのなら不問にしよう」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「申し訳ございませんが、それは無理なお話です。
        セント領主家が戦争をするつもりでいるため、今ここで戦力を使うべきではないかと」

「判断するのは俺だ。だが、セント領主家が兵を集中し始めたのは知っている。
 東側に向けて、な」

(;´・ω・`) (東……弱者から狙う気か……。
        くそっ……クナドが危険だ……オラトも挟撃される恐れがある……)

状況は最悪と言っていい。
僕らはこの城に閉じ込められて動けず、
今にもグラント国の攻撃が始まろうとしている。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「それでは王、この国がセント国に滅ぼされてもよいと?」

侍がとった手段は挑発だった。
怒りを隠しもせず、王は答える。

「戯言を。何をもってあのような国に我が国が滅ぼされると言うか」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「セント領主家の戦力は確かに貴国より小さいでしょう。
        ですが、兵は恐ろしく強い。一人一人が、私が苦戦するほどの力を持っています」

578名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:47:25 ID:BKkRiilc0

ほんの少しだけ、王の表情が変わった。
怒りから、疑問へと興味が移ったのだ。
それはハートクラフトの、傭兵の力を知ってるからだろう。

「……それはどう証明する?」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「オラトをさらに北東に向かった地に一つの教会があります。
        その場所での惨状を見ていただければ」

「ならぬ。そこに着くまでに時間がかかりすぎる」

話を区切られ、侍は沈黙した。
もうこれで、僕らには打つ手が無い。

どうやってこの場から脱出しようか考えていた時、
突然、腕を斬り落とされた。

(#´ ω `) 「がぁぁぁっ!?」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「この男はかつてセント領主家の一兵士でした。今は拙者の部下にしていますが。
        見ていただければわかるように、人間を通り越した力を持っています。
        彼らは異様な術を使い、兵達に力を与えていました。
        殺すには、首を刎ねる以外にありません」

「なっ!?」



(#´ ω `) 「ってええええ……」

579名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:48:27 ID:BKkRiilc0

その場にいる人間が全員息をのんだのがわかる。
僕だって予想外のことで危うく言及しかけた。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「どうでしょう、まずはセント領主家を撃ち滅ぼす同盟を」

「……確かに、その男のような敵がいれば脅威だ。
 よい、戦争の勝利後、セント領主家の土地の80%をグラントのものとするのなら、
 同盟してやらないこともない」

多少どころか相当強引であったけれど、同盟の話を引き出すことには成功した。
問題はここからだ。
どう考えても、土地を得ないように説得するのは無理に思える。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「セント領主家は独立させ、一つの国として維持させていきたいと考えています」

「ならん。戦いは我ら主導で行い、勝利後の配分は譲れぬ」

(´・ω・`) 「それならば、南への道を作るお手伝いをいたします。
       それでどうでしょうか」

「貴様……黙れ! 王の御前である……」

「よい、続けよ」

(´・ω・`) 「はい」

グラント王侯領がなぜ東を目指して国を拡大するのか。
思い出したことがある。

580名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:49:23 ID:BKkRiilc0

グラント国の最南端は高い山々に塞がれ、活路が無い。
西はクルラシア自治区となっており、不安定ながらも、
領土は広大、人口もグラント国よりずっと多い。

戦争になれば両国が疲弊するのは目に見えている。

だからこその東。

領地の小さいクナド、オラト両国しかなく、だがしかし技術は一流。
少ない犠牲で最大の効果を得ることができる。
そのさらに東は国の無い状態だ。

そこまでを治めれば、今以上の大国となることができる。

(´・ω・`) 「南側には、大地がずっと続いています。
       貴国の領土拡大にはちょうど良いかと」

「かの山脈に穴でもあけると言うのか?」

予想通り、話に乗ってきた。
南の山が開ければ、大陸の南側に進行することができると考えているのだろう。

実際はグラントよりも数段大きい国があり、道など作ろうものなら、
この北方の地は逆に侵略されてしまうかもしれないが。

581名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:50:57 ID:BKkRiilc0

「面白い。もしそれができるのなら、小さな北の地などいらぬ。
 それをどうやって証明する?」

さて、どうする。
話には出してみたものの、南に抜ける道を作ることはできるだろうか。
少なくとも、できると思わせなければ同盟は無かったことになる。

「言うてみよ」

僕は自らの知識を総動員する。

得意の錬金術を用いることはできない。
天変地異でも起きない限り変化するはずもない山々を、どうやって抜けるのか。

(´・ω・`) 「南の山脈を抜けれない理由は、高い山ではなく、深い森に原因があります。
       植物の成長が異様に早く、伐採してもなかなか進みません」

「そうだ。我が国土で受け止めるだけで手一杯である」

(´・ω・`) 「クナド国では、植物の研究が日夜なされています。
       その知識を用いれば、植物の侵食を止めることはできるでしょう。
       オラト国では、金属の研究が発達しています。
       木々の伐採に有用なものをもっているはずです」

「それでは、最後の山脈はどうする?」

582名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:51:56 ID:BKkRiilc0

それが問題だ。
高くはないとはいえ、自然の要塞に穴を開けるのは到底不可能。

(´・ω・`) 「山々の間を通るように道を作ります。
       そのための素材はクルラシア自治区から輸入すればいいでしょう。
       最短経路は僕らが調べることを約束いたします」

地図にあったクルラシア自治区はいくつも鉱山を所持しており、
道を作るために必要なものは揃うはずだ。

緑生い茂る未開の地でも、岩で荒れた隘路でも僕なら抜けていけるはずだ。
時間はかかっても、最短経路を見つけることができる。

「悪くない……。だが、それならば我が国がクナドとオラト両国を取り込んでしまってからでもいいな」

(´・ω・`) 「侵略国に対して、クルラシア自治区が貿易を行うとお考えですか?」

ここは賭けになる。
グラント国王が、どれほど南に行きたいか。
それにかかってくる。

国王が声を発するまで、僕の言葉からおよそ数分かかった。

583名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:54:31 ID:BKkRiilc0

「いいだろう、クナド、オラト両国と同盟を結ぶ。
 ただし、クルラシア自治区を必ず同盟に入れろ。
 それが無理であった場合、これを破棄し、両国に侵略を開始する」

(´・ω・`) 「ありがとうございます」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「全力を尽くします」

「連絡は……10日以内とする。結果を出して俺に応えろ」

僕らは王との約束を交わし、王城を後にした。
目指すはクルラシア自治国。


行きにかかる時間はおよそ五日。
連絡する時間を考えれば、ギリギリだ。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「行くぞ、クルラシアにな」



何とか形だけの同盟を作り上げ、ついに最後の国に向かうことになった。
必ず成功させなければならない。

心に灯をともし、グラント王侯領を出発した。

584名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:55:13 ID:BKkRiilc0













13 ホムンクルスと同盟の条件  End

585名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:00:41 ID:BKkRiilc0
>>2   1 ホムンクルスは戦うようです
>>29  2 ホムンクルスは稼ぐようです
>>65  3 ホムンクルスは抗うようです
>>93  4 ホムンクルスは救うようです
>>118 5 ホムンクルスは治すようです
>>148 6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです
>>183 7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです
>>245 8 ホムンクルスと少女のようです
>>284 9 ホムンクルスは迷うようです
>>334 10 ホムンクルスと動乱の徴候
>>393 11 ホムンクルスと幽居の聚落
>>456 12 ホムンクルスと異質の傭兵

>>525 13 ホムンクルスと同盟の条件



【時系列】

ホムンクルス生誕
   ↑
   ↓
6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです
7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです   
8 ホムンクルスと少女のようです
   ↑
   |
   |
   ↓
1 ホムンクルスは戦うようです
   │
2 ホムンクルスは稼ぐようです
   │
3 ホムンクルスは抗うようです
   │
4 ホムンクルスは救うようです
   │
5 ホムンクルスは治すようです
   │
9 ホムンクルスは迷うようです
    |
10 ホムンクルスと動乱の徴候
    |
11 ホムンクルスと幽居の聚落
    │
12 ホムンクルスと異質の傭兵
    │
13 ホムンクルスと同盟の条件

586名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:18:17 ID:3hRdbfqY0
おつ
どうなるかドキドキだな

587名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:24:32 ID:BKkRiilc0
まずは、大変遅れてすいませんでした。
多少の問題が片付き、時間ができてきました。

この13話は既にVIPでは投下していましたが、「続きを書くぞ」という意思表示です。

ペースは緩やかになると思いますが、どうか見守ってやってください。
投下に対するモチベーションが低下気味なので、一回の投下もとぎれとぎれになるかもしれません。
どうかよろしくお願いします。

588名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:45:58 ID:Yfm5P4/s0
ひっさしぶりに高揚感を覚えた
次も期待せざるをえない

589名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:50:31 ID:eDkP3RtYO
そうだったな、なんか一度読んだ気がしてた

590名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 16:15:54 ID:Z5p0eZbkO

次回も楽しみに待ってます

591名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 21:56:31 ID:0JLcaolk0
おっつ
待ってたからとてもうれしい

592名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 00:35:34 ID:RXB4LSrUO
ω・`)乙。がんばれショボン

593名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 15:47:41 ID:hQS6vEk20
乙!
楽しみにしてる!

594名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 22:11:56 ID:ObhY/NtQ0
vipのやつは見てないから有難いわ
次を超楽しみにしとく!

595名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 22:16:58 ID:wkn7qhfA0












14 ホムンクルスと深夜の邂逅

596名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 22:17:42 ID:wkn7qhfA0

日夜馬を駆けさせ、途中の村で馬を交換し、また走ると日々が続いた。
本来なら五日かかる道を、たった三日の強行軍でクルラシア国内に辿り着く。

グラント王侯領との国境には、低い柵が長々と続いている。
繰り返された領土戦の末、暫定的にひかれたものが今でも残っているからだ。
沈む夕日に照らされて柵の影は長くのびていた。

これなら期限には間に合う。
そう信じるだけの時間的余裕はできていたが、それでも不安は拭えなかった。

そしてそれは、見事に的中する。
国内最東端にある村から、村人たちが長い列を作って西に向かっていた。
村の中では男達が鎧を着て集まっている。

(;´・ω・`) 「なぜ……」

僕らはこれからクルラシア自治国と同盟を結ぶ予定なのだ。
セント領主家の侵略準備の話を知っていたとは思えない。

狂戦士たちを生み出す実験は、クナドよりさらに東の教会で行われていたし、
例えその話がクルラシアに入ってきていたとしても、それがセント領主家とは繋がらないはずだ。

597名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 22:19:18 ID:wkn7qhfA0

だけど国内が未だ荒れているクルラシア国に、他国を攻めるだけの力があるとは思えない。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「ふむ……聞いてみればいい」

僕らは進行方向を曲げ、村の中に入っていく。
兵士たちは僕らに驚き、武器を構えたが、
ハートクラフトは躊躇うことなく、武装した住人に話しかけた。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「なぜ戦の準備をしている?」

「……旅の人か? クルラシアは現在、自治領になっているのは知っているだろう?
 昔この領土を治めていた君主が今再び攻めてこようとしているらしい」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「以前の王家は滅んだと言う風に聞いているが」

「息子が一人、逃げのびて生きていたようだ。
 そして西の国と手を組み、この地方の再統治を目指している」

クルラシアのさらに西と言えば、ネールラントか。
領土の広さでいえば同じくらいであるが、兵の錬度は桁違いなはず。
寄せ集めの軍隊では対抗できないだろう。

(´-ω-`) 「……このタイミングか」

598名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 22:20:36 ID:wkn7qhfA0

悪い、とも良い、とも言えない。
一つは、クルラシア国が西側と向き合うために、背後の安全を確保する必要がある。
そのために、僕らの目指している同盟は比較的容易に受けてもらえるだろう。

だが、西側に戦力を割くため、セント領主家の攻略に兵を十分に出せない。
さらにもし万が一、クルラシア全土がネールラントの支配下になってしまえば、
この地が一気に混乱に陥ってしまう。

領土拡大を目指すグラント、ネールラントの二国が正面からぶつかれば、
大量の血が流れることは免れない。
それに加えて、セント領主家と言う曲者までいる。

そうなってしまえば、大陸北部全土に戦火が広がってしまう。

どこかで……小さな戦いの内に止めなければ……。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「まずは同盟を結ぶのが先決だ、青年。
        議会はどこに居を構えている?」

「西に三日と少しほど道を行ったところにある都市に、議会場がある」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「そうか、助かった」

599名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 22:21:40 ID:wkn7qhfA0

三日……か。
今からではどう考えても間に合わない。

(´・ω・`) (どうすればいい……。いっそのこと、了承の旨だけをオラト、グラント両国に送るか……?)

失敗すれば、両国の信頼を失い、大戦争を引き起こす引き金になる。
だが、このままでは何もできずに終わってしまう。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「苦しいな……協力は得られないだろうが、同盟は結べるはずだ。
       後はどうやって議会の決定と思わせるか……」

(´・ω・`) 「議会の決定だと何か印でもあるんですか?」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「認証印がある。それがなければグラント王も信じてはくれないだろうな」

認証印だけが別の地にあるとは考えづらい。
複数個存在しているだろうが、所持しているのは各代表くらいだろうか。

各地にいる代表が一人一個持っていればことはすぐに済むのはずだったのだが……。
それだけ大事なものがいくつもあるわけがない。
代表の内でも限られた人間しか持っていないだろう。

600名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 22:23:09 ID:wkn7qhfA0

(;´・ω・`) 「どうしましょうか」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「この地区の代表を探そう。代表の宿舎が近くにあるはずだ」

戦争の準備で忙しいとはいえ、代表が直接前線で戦うとは考えにくい。
どちらかと言うと、兵糧や防衛戦略など、指揮系統の役目を果たすのが普通だ。
それならば、どこかの建物にいる可能性が高い。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「すまない、この地区の代表はどこにいるのだろうか?」

再び住民を捕まえて話しかける。
酷く迷惑そうにしていたが、質問には答えてくれた。

「……今は代表会議に出発している。今頃は議会場にいるのではないだろうか」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「……何度も済まない」

「他に質問は? 何度も声を掛けられては迷惑だ……」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「ああ、ありがとう」

601名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 22:25:09 ID:wkn7qhfA0

男は走り去って行った。
結局、ここには同盟を結べるほどの人物がいないとこだけがわかった。

(´・ω・`) 「期限は……厳しいですね……」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「ああ……」

(´・ω・`) 「とりあえず、グラント王に便りを送り、議会場に向かうしかないように思えますが……」

僅かな可能性に縋るしかない。
王の気まぐれで、期限が延びる可能性に。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「まだ一日の余裕がある。すぐに手紙を書く必要はない……が、どうするか」

しばしの無言の後、覚悟を決めたかのようにハートクラフトは口を開いた。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「別行動をしよう」

(´・ω・`) 「別行動……ですか?」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「ショボンはこのまま議会場に向かえ。
        拙者は引き返し、オラト国境で犠牲を最低限に抑えながら時間を稼ぐ」

602名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 22:26:33 ID:wkn7qhfA0

確かにクルラシアとの同盟は他の二国と違い、
ハートクラフトの信頼に頼る必要はない。

余程のことが無い限り、僕でもすんなりと結べるはずだ。

(;´・ω・`) 「危険すぎます」

だが、一旦戦争が始まってしまえば、
仮に同盟成立の書を届けたとしてもグラント国が手を引くかどうかはわからないし、
オラト国が同盟に加盟したままでいてくれるかも不明だ。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「それしか手が無いだろう。他に案があるなら聞くが」

(´-ω-`) 「…………」

ハートクラフトの言うとおりだ。
他に方法はない。
それでセント領主家の周りの混乱は最低限で防げるはずだ。

(´・ω・`) 「では……ネールラントはどうしましょうか」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「それは……うむ……」

603名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 22:27:29 ID:wkn7qhfA0

クルラシア自治区だけではどう考えても対抗できない。
侵略を完遂させるのにひと月もいらないだろう。

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「……それはショボン、任せる」

(;´・ω・`) 「え?」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「ああ、それとな。これを持っていけ」

手渡されたのは見た目に反してやけに重たい革袋。
口紐をほどくと、中には銀色の粉が入っていた。

(´・ω・`) 「これは……?」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「青色砥粉っていってな……拙者が考えた即興鍛冶錬金術だ」

(´・ω・`) 「即興……?」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「剣に付着すると、青色砥粉の場合、その鋭さを極限まで高めてくれる。
        その分、剣の寿命も縮まるから多用はできないがな」

604名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 22:28:49 ID:wkn7qhfA0

(´・ω・`) 「ありがとうございます」

〔 !゚ Ⅱ゚!〕 「ではっ! 良い案がでたら連絡をよこそう!」

それだけ言うとハートクラフトは来た道を引き返し始めた。
腰に革袋を結んでいた僕が声をかける間もなく、夜の中に消えて行った。

(;´・ω・`)「嘘だろ……?」

後に残された僕は考えることも忘れ立ち尽くしていた。
数分後、おそらくそのくらいだろうとは思うが、
我に返り、今後のことについて計画を立てる。

(´・ω・`) (まずは、クルラシアを同盟に引き込むことだ。
       可能ならば、戦力を割いてほしいところだが、おそらく不可能だろう)

目指すべき議会場はこのまま西に向かったところにある。
正確な場所は聞いていないが、道沿いというなら簡単だ。

605名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 22:30:11 ID:wkn7qhfA0

(´・ω・`) 「行くか……」

気持ちを入れなおし、馬の頭を西に向ける。
うっすらと見える道を頼りに、議会場を目指す。

ただひたすらにまっすぐに続いている道だ。
途中、細い道が幾つも枝分かれしては闇向こうに消えて行く。

これらは小さな集落に続いているものだ。
こういう道を見ると寄り道をしてしまいたくなるが、今はその気持ちを抑える。

(´・ω・`) (ん……?)

ずっと静かだった世界に、小さな音が生まれた。
前に進むごとに、それはだんだん大きくなってくる。

(´・ω・`) 「水の音……」

セント領主家とクルラシア自治区を区切っているザクス川だ。
海からほぼ真南に伸びているそれは、グラント王侯領とセント領主家の境界付近で南西へと曲がっていく。
それに今ぶつかったところだろう。

606名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 22:31:15 ID:wkn7qhfA0

道が整備されているように、重厚な橋が向こう岸へ延びていた。
流れは急で水量は多い。

先日の雨は、南の方でかなりふったのだろう。

(´・ω・`) 「そろそろ休むかい?」

橋を渡ってさらに数時間ほど走った。
跨っている馬の吐息が荒くなり、動きが少し遅くなってきていた。

話しかけてもこたえてはくれないけど、速度を緩め飛び降りると
安堵したかのように体を震わせた。

道の端で休憩していると、何回か早馬が駆けて行くのが見えた。
広大な領土の戦力を結集するための連絡をとっているところだろうか。

彼らの馬は普通の馬と違い速く走ることに長けている。
体力もあり、二周りほどサイズも大きいのだが、
大抵の国が連絡用に数頭所持しているだけで、個人で所有しているものは見たことが無い。

おそらくは錬金術でないかと疑っているが、調べる機会は今のところ持てていない。

(´・ω・`) 「…………さて、行こうか」

607名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 22:33:14 ID:wkn7qhfA0

嫌な考えが浮かんでは消えて行くが、それを振り払って立ち上がる。
草を食んでいた馬を呼び戻し、さらに西を目指した。



・  ・  ・  ・  ・  ・



クルラシア領内に入ってからさらに二日目の夜が明け、
いくつかの村を横目に通り過ぎたころ、一際大きな集落が見えてきた。
そこは幾重もの石壁に囲まれた大都市で、アルグラントに匹敵するだけの大きさがあった。
外側には綺麗に区画整備された畑が広がっている。

(´・ω・`) 「ついたか……」

初めて訪れるそこは、都市全体が立体的な迷路のように特徴的な構造をしていた。
中心部に向かって段々に高くなっているで、一番高いところに見える大きな建物が議会場だろう。
薄く広がった丸い屋根は、門をくぐる前のここからでもよく見える。

夜通し走り続けたせいか、かなりの疲労感を感じるが休んでる暇はない。
すぐにでも代表たちと同盟の協議に入らなければ。

608名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 22:34:54 ID:wkn7qhfA0

各地の代表が集まるだけのことはあり、町の外にはそれなりの人数が警備に当てられていた。

僕は隠れることもなく、堂々と道を歩いていく。
すぐに兵が来て、槍を向けて取り囲まれる。

「何者だ?」

(´・ω・`) 「……クナド領主国、オラト領主国、グラント王侯領からの使いです。
       クルラシア自治区の代表者たちに危急のお伝えがあってきました」

「今は代表会議中であるため、余所者を入れることはできない」

(´・ω・`) 「この地方の今後にかかわる重要な問題です。クナド領主様からの親書もあります」

旅行用に携帯している袋から取り出したのは、ハートクラフトから預かっていた親書。
王印が見えるように掲げる。

「……確認させてもらう。しばらく待て」

隊長らしき男の合図で、何人かが町の中に向かって走っていた。
指揮系統もできたばかりなのだろうか。
親書の確認で手間取るとは思ってもいなかった。

609名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 22:36:45 ID:wkn7qhfA0

これでは騎士教会の力を借りても、ネールラントに勝つのはかなり難しいのではないだろうか。

「我が国はネールラントの侵略に抵抗するために厳戒態勢が敷かれている。
 すまないが、もうしばらくここで待ってていてほしい」

(´・ω・`) 「出来るだけ早く頼みます」

「仮に許可が下りたとしても何人か見張りをつけることになる。
 先日来た旅の男が町の中で騒ぎを起こしたのでな。悪く思わないでくれ」

(´・ω・`) 「構いませんよ」

いつの時代であろうと他人に迷惑をかける人間はいるものだ。
一人のせいでその他大勢が損をする。
腹立たしくはあるがどうすることもできない。

(´・ω・`) 「何があったんですか?」

「町の娘を妙な術で誑かしてな。今は牢に繋いでいる。
 本人は無罪だとわめいているが、大代表様がお決めになられることだ」

(´・ω・`) 「なるほど……」

610名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 22:40:04 ID:wkn7qhfA0

そういった輩は望んで旅をしているのではなく、
自国で罪を犯し、国を追い出されて旅人となって仕方なくといったことが多い。

旅をするのは大変だ。
食糧や寝床の確保、旅の資金を手に入れること。
体力や精神力だって並み以上になければならない。

どれ一つ能力に欠けても、道中で行き倒れてしまうだろう。

しかし、旅先でも同じようなことを繰り返すとは……。

「戻ってきたようだ」

青年が息を整えながらこちらまで走ってくる。
随分しんどそうだが、議会場までの距離はそう遠くないはずだ。

連絡役すら適当に選ばれてるのだろうか。
クルラシアの今後が心配になってくる。

「今お会いすることはできないようですが、夜でしたら可能とのことです。
 何人か、護衛をつけてお迎えしろと」

「わかった。待たせてすまない。窮屈だとは思うが、何人かと行動を共にしてもらう。
 彼らに町を案内させよう」

(´・ω・`) 「ありがとうございます」

611名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 22:42:12 ID:wkn7qhfA0

町の中には入れるようだが、夜まで待たないとダメか……。
だけど、状況は悪くない。
これなら今日中に協定が結べるだろう。
帰りには国家専用の駿馬を使わせてもらえば、グラント王侯領への連絡はギリギリ間に合いそうだ。

男達に連れられて、町の中に入った。
この国独特の家並びが僕を出迎える。

(´・ω・`) 「どうしてこんな複雑な建設方法をしているのですか?」

「戦争になった時に大群に攻め込めないよう、主要な道路と言うものを作らない構造なんです。
 こちらは地の利を生かしたゲリラ戦法と、高所からの狙撃ができるからです」

細い道を右に左に曲がっては、少しずつ中心に近づいていく。
一人で歩いていれば、すぐに迷子になるなるだろう。

「夜まで宿で待たれますか?」

(´・ω・`) 「いや……」

立体的に作られた構造の町は、歩いているだけでも楽しそうだ。
日が落ちるまではまだだいぶ時間がある。宿に泊まって待つのではもったいない。

(´・ω・`) 「議会場はもとは王城だったのですか?」

612名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 22:43:50 ID:wkn7qhfA0

町の中からはたまにしか見えないが、歩いているといくつかの尖塔が立っていることに気づいた。
ただの議会場であれば、そのような飾りをつける必要はない。

「ええ。二十数年前まで王族が住んでいました。
 今では各地の代表の滞在中の拠り所として、
 そして民の憩いの場として利用されています」

(´・ω・`) 「なるほど……」

「議会場には入れませんが、庭園でしたらご案内できますよ?」

庭園に興味が無いわけではないが、それよりもやることがある。
町の中を少し歩いただけで観光は十分だ。

夜までの時間を無駄にしないためにも、今後の戦略を立てないと。

(´・ω・`) 「うーん……それもいいんだけど……尖塔には登れますか?
       あと、この辺の地図、戦力図が欲しいのですが」

「戦力図……ですか? それは旅の方には見せられないと思うのですが……。
 尖塔でしたら登れますよ。東西南北の四つの内どれがいいでしょうか」

(´・ω・`) 「それでしたら、地図を。それから西の尖塔でお願いします」

613名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 22:45:13 ID:wkn7qhfA0

この町はクルラシア全体で見ても東側に位置している。
尖塔に上ったところでネールラントが見えるわけではないけれど、
この向こうに敵がいる、そういった意識は無駄ではないと思う。

セント領主家に対抗するための案は考えつくしたが、想定外の事態が進行していた。
対策を打たなければ、戦況は全部ひっくり返る。
ネールラントに対抗するための手段、セント領主家包囲網に必要な騎士、軍隊の最低数、
クルラシア自治区の戦力計算、錬金術の効果予測、敵進行予想ルート。

為すべきことは多い。

(´・ω・`) 「では、よろしく頼みます」

護衛のうち一人が地図を取りに行き、残りの二人と僕は尖塔に向かった。
階段を上ったり下りたりしながらも、ゆっくりと目的地に近づいていく。

余所者の僕からすると、やはり遠回りをしているようにも感じるけど、
これが最短ルートなんだろうな。
やっと尖塔の足元に辿りつき、狭い入り口をくぐって中に入る。

足場の不安定な螺旋状の長い階段を上り、頂上に出た。
縁に柵がしてあるだけで、開放的な空間になっている。

614名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 22:46:43 ID:wkn7qhfA0

真ん中に円形の机が置かれ、その周りには椅子が六脚。
おそらくは、夜会用であろう燭台が、机の中心と天井を支える四つの支柱を飾っている。

(´・ω・`) 「地図を机の上に広げてください」

先程別れた一人が複数の紙の束を持って階段を上ってくるのを待ち、
燭台を隅に避けて机いっぱいに資料を広げてもらった。
最も大きな一枚はクルラシアの領土図。

クルラシア自治区中心部"議会場"と呼ばれているようだが、
ここを中心にクルラシア全土、そして一部隣国の集落が綿密に書き込まれている。

各地の人口データが書き込まれた小さい紙を手に、対応する場に駒を置いていく。
兵士の数と人口は大抵の場合において比例している。
これで大まかな戦力は把握できた。

(´・ω・`) 「かなり手の込んだ地図ですね」

615名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 22:48:20 ID:wkn7qhfA0

地形が驚くほど精密に描かれている。
ここまで細かいのなら、正確性を疑う必要はなさそうだ。

「ええ、大代表が自ら製作されたものです。今後必要になるだろうから、と」

(´・ω・`) 「……随分、先見の明が御有りの様ですね。これに書き込みはしてもいいですか?」

「はい、写本は数多くありますので、こちらは差し上げます」

この辺りの地域の騎士総数はいくらだったか……。
クナド領主家に百余名、オラト領主家に同数。
グラント王侯領に三百ほど、セント領主家にはいなかったはずだ。

クルラシア自治区に五百ほど、全部でおよそ千と少しか。
地図に覚えている限りの人数と配置を書き込んでいく。

(´・ω・`) (全員を招集している時間はおそらくないな……)

セント領主家包囲網では騎士教会の協力は仰げるだろうが、
ネールラントの侵略に対する防衛はどうだろう。

616名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 22:50:21 ID:wkn7qhfA0

騎士教会は国家間の争いには関与しないように決められている。
一つの国についてしまえば、その国が無くなった時に同時に消滅してしまう恐れがあるからだ。

このあたりのような田舎の地方では、安全維持のために派遣されているため、
その場合、彼らは国を守るために一定の力を貸してくれることにはなっているが……。

期待できない戦力を考えるのはよそう。
今ある力で何とか持ちこたえる方法を考えないと……。


(´・ω・`) (防衛ラインを引くならここか)

クルラシア領内を縦断するもう一つのセーン川、ザクス川に比べて水量が少ない分、幅が広い。
流水は錬金術を拡散させるのに便利だし、セーン川の西側の地は急な上り坂になっている。
遙か昔に作られた城壁も未だ残っているようだし、防衛拠点として申し分ない。
寡兵でもそれなりに持ちこたえられるはずだ。

さて……ここまではこの国の人間によって考えられているはずだ。

同じ土台にたったところで、僕がすべき、僕ができることを考える。
つまりは錬金術による作戦の提言。

617名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 22:52:55 ID:wkn7qhfA0

煙幕などによる侵攻の妨害や、派手な効果を持つものによる陽動、脅し。
直接被害を与えるものでなければ、騎士教会も錬金術の使用も大目に見てくれるだろう。

(´・ω・`) 「戦争に参加できる錬金術師はどのくらいいますか?」

ダメ元で聞いてみる。
国に仕えている錬金術師は、そういない。
自由な研究を妨げられることもあるし、今回みたいに戦争に協力しなければならないからだ。
だからこそ、その情報は秘匿されていてしかるべきだ。

「すいません……」

(´・ω・`) 「ああ、いや大丈夫です」

その反面、安定した収入を得られる。
クルラシアほどの大国であれば、全くいないということはないだろう。

さて、クルラシア自治区のことはこのくらいか。

セント領主家の方はどうするかな………。

千人規模の騎士教会軍は左右挟撃させるしかない。
グラント王侯領正規軍と連携がとれるはずもないし、四国の騎士を集めるには時間がない。
東側はハートクラフトとその傭兵に騎士を足せば持ちこたえられるはずだ。西側が手薄になるかもしれないが……。

618名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 22:54:46 ID:wkn7qhfA0

(´・ω・`) (…………)

ふと、心の隅に引っかかるものがあった。
単純だからこそ、今まで忘れていたこと。

このタイミングでのネールラント進行。ただの偶然だろうか。
もし、セント領主家がネールラントと組んでいたらどうなる……?

ハートクラフトの実力はセント領内にも届いているはずだ。
少なくとも教会に出てきてたレベルの狂戦士達であれば、彼には及ばない。

となると、どうする?

619名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 22:56:31 ID:wkn7qhfA0








        「きっ!急襲────ッ?!」

620名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 22:58:04 ID:wkn7qhfA0

けたたましく鳴り響く鐘は時間を告げる音ではない。
周りにいた男達の顔がひきつることで確信した。

(#´・ω・`) 「……どっちから!?」

周りにいる護衛達の顔色は一瞬で真っ青に染まった。
それだけの意味が、この鐘には込められている。

「……り……両方……です」

(;´・ω・`) 「くっ……」

どうしてセント領主家だけを見てしまっていたのか……。
なぜ挟撃の可能性を考えられなかった……。

自分を責めるその問いには決して答えが出ないことはもう知っている。
ホムンクルスであっても全てを知り、予測することなんてできやしない。

なら、今出来ることはなんだ?

621名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 23:00:02 ID:wkn7qhfA0

まずは東側の敵を受け止めることが急務だ。
クルラシアの兵では狂戦士達を受け止められない。

(;´・ω・`) 「僕は東の戦線に行く。代表会議に少しだけ時間をもらってくれ!」

「ですが……っ!」

階段を飛び降りながら叫ぶ。
この期に及んで見張りの兵も突然の状況に迷っているようだが、
彼の答えが出るまで待っている余裕はない。

(#´・ω・`) 「悪いが……もう四の五を言ってられる状況じゃない」

彼らを置き去りにして、議会場に向けて直線距離を走った。
屋根の上を跳び、着地の衝撃で両足の骨を何度か折りながら。
逃げ惑う市民に逆行し、議会場の扉を蹴り開けた。

「誰だっ!?」

驚く代表達とその同行者達。横にいた私兵に武器を向けられるが、構っているだけ時間の無駄だ。

恐らくは大代表であろう、上座に座ったローブの女の前に親書を叩きつけた。

深く被ったローブのせいで顔は見えない。
だが、かなり驚いていることは仕草でわかった。

622名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 23:03:37 ID:wkn7qhfA0

(#´・ω・`) 「これに返答を、可能な限り早く。それじゃ、失礼する」

無礼と罵る声を背中に受けて、議会場を飛び出した。
町の外に至る道は簡単だ。中心部が一番高くなっている構造故に、
行きたい方向に向かって飛び降りていくだけだ。

(メ´・ω・`) 「っ…………」


最後の屋根を飛び降りて、無理矢理着地した。
肋骨が何本か内蔵に突き刺さったようだが、大したことはない。
幸い見張りは僕には気づいてないし、誰も騒いでいない。

厩舎に繋いでいた馬を解いて戦線へと駆けた。
このまま飛ばせば、日が落ち切る前には戦場に着くはずだ。



・  ・  ・  ・  ・  ・

623名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 23:04:57 ID:wkn7qhfA0

(´・ω・`) 「ふぅっ…………」

向かってくるのは数体。どれも完成した錬金術による強化兵士だろう。
僕の存在に気づいていても、むやみに飛びかかって来る者は一人としていない。

赤く照らされた戦場には、百を超える死骸が横たわっていた。
その姿は様々で、兵装を身に纏った若者から、老婆のものまで、
全て深く傷つけられていた。

僅かに残り抵抗していた兵士達も、満身創痍で一人、また一人やられていく。

(#´・ω・`) 「生きている者はいったん下がれ!」

援軍を期待した彼らの目は一瞬で絶望に変わった。
僕の一言でタガが外れたのか、武器を捨てて逃げ始めた。

(´・ω・`) 「5、6……7体か」

正直、一般の軍隊でなくてよかった。
そう思いながら剣を抜き、刀身に腰の粉末をかけた。
鋼の鈍色が、ゆっくりと青白い光に変化していく。

その効果が一体どれほどのものなのか、剣を振るうまでは考えてすらいなかった。

624名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 23:06:44 ID:wkn7qhfA0

(#´・ω・`) 「行くぞっ!」

七体の兵の目標が僕に変わったのを感じる。それに怯むことなく敵兵の中心に飛び込んだ。

最初に狙ったのは、もっとも鈍重そうな狂戦士。
両腕に強化が行われている力だけを振り回すタイプだ。

その硬い胸板をやすやすと引き裂き、心臓を一撃で貫いた。

「ギィァ?」

(;´・ω・`) 「え?」

戦闘中だと言うのに一瞬だけ動きが止まってしまう。
後ろからの接近を感じ、驚いている脳をそのまま置いて行動に移した。
胸板を足場に空中で後ろに回転し、飛びかかってきた、二体目の頭を叩き割った。

(#´・ω・`) 「残り5ッ!」

他の者は今までとは違う相手に力任せの突撃をやめる。

625名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 23:08:36 ID:wkn7qhfA0

そのおかげもあって僕はハートクラフトがくれた”青色砥粉”の威力を理解した。
驚くべきその性能を。

一呼吸の間があって二匹が同時に襲いかかってくる。
前方右から、後方左から。

(´・ω・`) 「無駄だよ」

左後ろからの斬撃を避けず、右前の化け物の両足を落とし、低くなった首をはねた。
背中に激痛が走るが、それを無視して強引に体を動かす。

(メ´・ω・`) 「っぅ……」

体に入ったままの腕の形をした刃を反転しながら跳ね上げるように切り飛ばし、
一歩前に出て胸を横に切り裂く。

(´・ω・`) 「さぁ……後3だ」

肩に刺さったままの刃を抜いて放る。

626名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 23:10:35 ID:wkn7qhfA0

「グギギギギg……」

未だ実力差が理解できない狂戦士が一匹。それ真正面から斬り殺し、残り二。

一歩僕が進むごとに、残った二匹は二歩下がる。

(´・ω・`) 「退け」

話しかけた言葉の意味がわかるかどうかは知らない。
だが狂戦士はジリジリと後ろに下がり、背を向けて逃げ始めた。

(;´-ω-`) 「……ふぅっ」

うまくいった。

引き下がった二匹はどちらも速度重視の狂戦士だ。
同時に相手にするのは厳しい。
無理に戦うよりは、それなりの装備を整えてからにしたかった。
それに、これで時間稼ぎの役割は十分に果たしただろう。

627名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 23:12:45 ID:wkn7qhfA0

(´-ω-`) 「無茶苦茶だ……」

たった七匹。
いくら状況が悪かったとはいえ、これだけ圧倒的なものか。

東に見える空には複数の黒い煙が立ち上っている。
その数およそ五つ。もう暗くなってきてるのもあり、遠くまで見通せない。
最低でもそれだけの村が襲われたってことになる。

「おい、あんた……軍の人間……じゃねぇよな?」

(´・ω・`) 「それよりも……こいつらは……」

「あんたすげぇな……村の兵士たちがまったくかなわなかったのに……」

「その剣には魔法でもかかってんのかンね?」

「いやぁー強いなぁ……どこの国の人だい?」

気づけば、生き残った男達が集まってきていた。
皆ボロボロだが、ある程度の元気は取り戻している。
矢継ぎ早に話しかけられ質問する間を与えてもらえない。

628名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 23:14:41 ID:wkn7qhfA0

仕方が無いので適当な受け答えをしつつ、後のことを考える。
先に逃げた村人たちを追わせるべきか、それともこの場の防衛にするべきか。
先程と同数の敵が、僕の戦い方を学習していれば今回ほどうまくはいかない。

(´・ω・`) 「……増援はどのくらいで届くと思う?」

「わからんが……夜が明けるころには無理だ。
 戦争の準備すらまともにできていなかったのだからな……」

だとすると、西側、ネールラント側もかなりまずいことになっているかもしれない。
こちらの第一陣は何とか退けたようだが、例の狂戦士はあとどのくらいいるのだろうか。
仮に数百人規模でいるのだとすれば、正直歯が立たない。

だが、それだけいるのなら先程の様な攻め方はしてこないはずだ。
最前線で敵戦力を蹴散らし、被害を拡大させ混乱させる。
次に人間との混合部隊による物資の回収や、残党処理など。

(´・ω・`) 「……気を抜くな。……次が来る」

開けた穴を通るのは速い方がいい。
時間をかければかけるほど相手の防衛体制が整うのだから。

629名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 23:16:01 ID:wkn7qhfA0

(´・ω・`) (つまり……この夜に第二陣は進行してくるはずだ。
       逃げ帰った二匹で嫌でも察しが付くはずだ。この先に奴らを殺せる敵がいると。
       それで少しでも侵略速度に遅れが出てくれればいいが……)

「次が来るとは?」

(´・ω・`) 「……ああいうことだ」

僕の指さす先に引っ張られるように顔を動かす男達。
そこに揺らめく小さな炎がいくつも浮かび上がる。
綺麗な列を作りながら、加速度的に増えていく。


「うわぁぁぁぁ」


「に、逃げろっ!」

630名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 23:18:05 ID:wkn7qhfA0








「逃げるな!!!!!!」

631名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 23:20:03 ID:wkn7qhfA0


戦場に凛と響き渡る、夜の闇の冷たさにも負けない澄んだ声。
逃げようとしていた兵士たちは皆、立ち止り声のした方を向く。

「大代表!」

「クルラシア様!」

その場にいる誰もが驚いていた。
クルラシア自治区の代表を纏める存在に。

最前線に来るはずの無いはずのその姿に。

だけど……その場で一番驚いたのは僕だと断言できる。
数百年の人生の中でさえ何度もない。





川 ゚ -゚) 「久しいな……ショボン」

632名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 23:21:02 ID:wkn7qhfA0




(´・ω・`) 「………………クール?」



川 ゚ -゚) 「話は後にしてもらえるか?」

(´・ω・`) 「そうしよう」

敵の大群はすぐそこまで来ている。
錬金術師でもある彼女が来たのは想定外だが、それでも焼け石に水か。

川 ゚ -゚) 「ショボン! 手伝ってくれ!」

彼女の馬に結ばれた二つの瓶。
後ろには十頭を超える馬がそれぞれ限界いっぱいまで同じような瓶を抱えている。

(´・ω・`) 「白泡雲かっ!」

それだけの液体が必要かつ、今この場でできる対策。
その答えはそう沢山はない。

633名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 23:23:04 ID:wkn7qhfA0

川 ゚ -゚) 「皆、下がれ……」

そう言われ、男達は敵の軍隊と距離をとるようになだらかな斜面を走っていく。
それを見届けた後、僕らはこの辺りで最も土地が沈んでいるところで立ち止った。

(´・ω・`) 「準備がいいな……」

川 ゚ -゚) 「伊達に長生きはしていないさ」

瓶に入った白濁色のゼリー状の物質は、特殊な素材と反応することで、
一瞬にしてその体積を何万倍にもする。
その様相はさながら地上にある雲のようになるため、白泡雲と呼ばれている。

瓶を一か所に集め、叩き割っていく。
瓶に使われている素材について聞きたいこともあるが、そんなのは後だ。

(´・ω・`) 「僕がやる。下がって」

川 ゚ -゚) 「任せる」

634名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 23:25:39 ID:wkn7qhfA0

投げてよこされた袋に入ってるのは、弾力草の花弁の粉末と膨張草の茎の粉末を混ぜたものだろう。
クールと味方の兵士たちが十分に距離をとったのを確認してから、それを白泡雲に振りかけた。

瞬きする間もなく視界が真っ白に染まり、圧倒的弾力を全身に感じる。
すぐに立っていられなくなり、白泡雲に押されながら地面を転がっていた。

激しい嘔吐感に襲われながらも、ぐるぐると世界が回転しているのを感じる。
平衡感覚すら回復する体でなければ、とっくに吐瀉物にまみれてるだろう。

(´ ω `) 「はぁっ……はぁっ……っうぷ……」

体感にして数分、実際には数十秒の出来事からやっと解放される。
ゆっくりと立ち上がり、耳を澄ます。

金属のぶつかる音に向かって、雲の中を走っていく。
何度か躓き転びながらも、雲の外に出ることができた。

川 ゚ -゚) 「御苦労様」

剣と柄を打ち鳴らして居場所を知らせていたクールは、その動作をやめた。
服に張り付いた白泡雲を振り落とし、問う。

(´・ω・`) 「ああ、それで……君がここにいる理由を話してもらおうか」

川 ゚ -゚) 「向こうに場所を用意してある」

635名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 23:28:44 ID:wkn7qhfA0

振りかえると、白い雲の向こうで敵の軍隊が往生しているのが見える。
白泡雲は水分の蒸発で姿を小さくしていく。
二、三日すれば進行可能な大きさまで縮まるはずだ。

もしくは、左右どちらかに迂回する方法もあるが……。

川 ゚ -゚) 「両端にも最低限の準備はしてある。二日もあれば本軍が間に合うはず」

(´・ω・`) 「そうか、君がいうのならそうだろうな」

大きな蝋燭が机の真ん中に一本だけ灯っている簡素なテーブルに案内された。
炎は時折吹く風にゆったりと揺らめきながら、もう一人の男を照らしていた。

(´・ω・`) 「……」

僕らに気づいた男は立ち上がって間抜けなにやけ顔を見せた。

( ^ω^) 「びっくりしたお?」

(´・ω・`) 「ブーン、お前か……。久しぶりの再会を祝してる時間くらいはあるか。
       取りあえずどうしてこうなったのか現状を説明してくれ」

636名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 23:29:58 ID:wkn7qhfA0

用意されていた椅子に座る。
ちなみに、クールの椅子はなぜか肘掛け付きの豪華な椅子だったが、
ブーンのは木を組んだだけの粗末なものだった。僕のはその中間くらいか。
そんなことは気にしてないのか最初に話し始めたのはブーンだ。

( ^ω^) 「ショボンと別れた後、僕はセント領主家に直接向かったんだお。
       どんな状態にあるか見ておこうと思って。
       城の防備は全然甘かったお。少し様子を見るつもりでかなり近づいたんだけど……
       人間じゃない化け物に襲われたんだお」

(´・ω・`) 「……錬金術で肉体改造された兵士達か」

( ^ω^) 「そうだお……。たった数人だったけど、とても僕の装備じゃ突破できないと思ったから……。
       そのまま領地を突っ切ってクルラシアまで来たんだお。
       ショボンがどこにいるかは分からなかったけど、セント領主家の位置を考えると、
       周辺国家で同盟を結ぶのがいいと、そう考えるはずだからだお」

一人で何とかしようと思っていたんだが……ハートクラフトのおかげだな、こうして会えたのは。
ブーンの協力は期待してたけど、直接出てくるのは予想外だった。

637名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 23:32:24 ID:wkn7qhfA0

川 ゚ -゚) 「私がネールラントに対する防衛網を構築していた時、つまらない知らせが入った。
      町の少女にいたずらしていた旅の錬金術師を捕まえたとな」

(´・ω・`) 「…………」

(; ^ω^) 「…………」

こんな状況にもなって普段と全く行動が変わらないとはむしろ恐れ入る。
それこそが時間の流れないホムンクルスであること、なのかもしれないが……。

( ^ω^) 「それは誇張だお! 甘い飴をあげて話をしてただけだお!」

川 ゚ -゚) 「で、錬金術師なら協力を頼もうと会いにいった結果がこれだった。
      それなりに驚いたよ」

( ^ω^) 「ブーンの方が驚いたお。死にたがりのクールがまさか領主の真似事してるなんて」

川 ゚ -゚) 「ふん……」

最後にクールと会ったのは砂漠でのことだったか。
それからどうなったのかは一切知らなかったし、正直生きているとは思わなかった。

(´・ω・`) 「クルラシアとは……そういうことか」

638名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 23:34:25 ID:wkn7qhfA0

川 ゚ -゚) 「君と別れてから、私はやっぱり死ぬ方法を探し続けているよ。
      今でもね。ただ……旅の道中で旧セダンタ王国を通り過ぎた時、
      色々とあってな」

( ^ω^) 「男……?」

ニヤニヤしてるブーンは後で二、三回死ぬだろうが僕には関係ない。
この感じは懐かしいような、嬉しいような。
あと一人そろえば、昔みたいに過ごせるだろうか。

(´-ω-`) (いや……)

心の中で自問自答する。
どうせ数年もすれば新鮮味も薄れ、またばらばらになるだろな。
それに、あいつはもう……。

川 ゚ -゚) 「さて」

遥か昔の思い出を偲んでいるうちに、ブーンが復活した。
かなり話がそれたので本筋に戻す。

(´・ω・`) 「それで、ネールラントとの戦線はどうなってる?」

川 ゚ -゚) 「そちらは問題ない。地図を見ていたそうだが、おおむね君の予想通りだ。
      既に侵攻に対しては準備していたからな」

639名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 23:36:01 ID:wkn7qhfA0

( ^ω^) 「さすがクールだお」

そうだな。
他国でいきなり少女に手を出す奴とは違う。

( ^ω^) 「ぐぅ……」

(´・ω・`) 「どのくらい持ち堪えられる?」

川 ゚ -゚) 「持ち堪える? その必要はない。
      追い返して見せるさ、と言いたいところだが……。
      セント領主家とネールラントの挟撃はかなりやっかいだ。
      両方の戦線を支えるだけの戦力も物資もない」

(´・ω・`) 「グラントとクナド、オラトの三国ですぐにセント領主家への共同攻略を開始させる」

グラント王侯領の正規軍は強力だが、すぐには進撃できないだろうな。
クナド、オラトの兵とハートクラフト、騎士を主力にしてセント領主家の戦力を東に集めるしかない。

左右両端に兵を振ったところで、南のグラントが一気にセントショルジアトを襲撃する。

640名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 23:38:02 ID:wkn7qhfA0

( ^ω^) 「待つお。本城周辺の敵はさっきショボンが戦った兵士だったお。
       グラント軍で叶うかお?」

川 ゚ -゚) 「こちらもセント領主家の兵をどこまで受け止められるか……。
      既に軍の多くは西側の対ネールラント戦に集結させてある」

(´・ω・`) 「……よし、わかった。
       僕はブーンとセントショルジアト城に向かう。僕らだったら例の兵士と戦える。
       できるだけ早く行きたい理由もあるしね」

モララルドが連れ去られてから相当の日数が立つ。
出来るのなら、今すぐにでも助けに行きたい。

(; ^ω^) 「え……? 僕もかお?」

川 ゚ -゚) 「こちらの戦線はもって七日だ。それまでに頼むぞ」

(´・ω・`) 「全部終わったら、なんで君がこんなことしてるのか教えてくれよ」

川 ゚ -゚) 「ああ……。それと……これを持っていけ」

クールは両腰に着けていた一対の双剣を机に並べた。
長さは掌から肘までくらいであり、施されている装飾は寸分たがわず同じものだ。

641名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 23:39:49 ID:wkn7qhfA0

(´・ω・`) 「これは……?」

川 ゚ -゚) 「私の知り合いが譲ってくれたものだ。君に貸しておく。後で返してくれ。
      それなりには役に立つ」

一目見るだけでは何の変哲もない双剣だ。
おそらくは鍛冶錬金術だろうが、妙な雰囲気を感じる。
鞘から出した刃は触れるだけで切れそうな鋭利さを持ちながら、それ対する危機感と言うものを感じない。

川 ゚ -゚) 「この剣で切られた傷の痛みは感じず、血も出ない。
      人間相手にはまぁ、さしたる効果もないが、失血死やショック死を防げる分、
      君にはちょうどいいだろう?」

そう言われても、やはり鍛冶錬金術を人間に使うのは躊躇われる。

川 ゚ -゚) 「それにな、この剣による傷は単純な医療錬金術で回復可能だ。
      ただし、その度合いは傷を受けてからの時間経過による」

心臓を貫いた場合の一週間ほどが最低回復ラインだと彼女は言う。
両手両足程度なら、おそらく半年ほどは持つ、と。

(´・ω・`) 「それなら……受け取っておくことにするよ」

642名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 23:41:41 ID:wkn7qhfA0

人を殺すための錬金術じゃなく、人を生かすための錬金術。
これなら断ることもないか。
何かしらの役に立つかもしれない。

川 ゚ -゚) 「本来はホムンクルスのような再生系の相手を想定したものだ。
      ……私たちホムンクルスに”痛み”がある理由を考えたことは?」

彼女は問うてくる。

(´・ω・`) 「……”痛み”を受けることが他者の”痛み”を知ることになり、
       より人間に近しい存在となることができるからだと考えている」

( ^ω^) 「”痛み”は快楽のもとだお。僕らは嫌でも長生きをするために、
       その生に快楽が無くてはならない。”痛み”は楽しい人生のために重要なファクターなんだお」

川 ゚ -゚) 「私たちが”痛み”を感じるのはなぜか。
      ”痛み”こそが再生のための鍵になっているんじゃないか。それが私の得た答えだった」

彼女は自らの腕を片方の剣で切り落とした。
腕の無い不快感に顔を曇らせるのもわずか、再生する腕を見せながら説明を続ける。

643名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 23:44:36 ID:wkn7qhfA0

川 ゚ -゚) 「まぁ、結果は駄目だった。再生にかかる時間は倍以上だが、どの道元通りになる。
      ”痛み”は私たちの再生を担う一端でしかなかった」

クールの腕が生えてくるのにかかった時間は確かに長い。
僕らの……ホムンクルスの再生速度よりはずっと遅い。

川 ゚ -゚) 「この剣の鍛冶錬金術は【痛みを与えず、傷を与えず、生体を破壊し、その治癒を阻害する】ことだ。
      この剣でホムンクルスは殺せない。
      が、それ以外の再生力が高いだけの生き物には有効だ」

再生力を削ぐことができる剣。
痛みを与えず、必要であれば治すことが可能である剣。
これからの戦いにこれほど有用な武器はない。

(´・ω・`) 「……ありがとう」

( ^ω^) 「僕には何かないのかお?」

川 ゚ -゚) 「勿論ある。これを持っていけ」

ブーンに手渡ししたのは木製の四角い容器。
隅から一本の紐が垂れている。

644名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 23:45:45 ID:wkn7qhfA0

( ^ω^) 「これは……?」

川 ゚ -゚) 「爆弾だ。いざという時に使え。ひもを引っ張ったら爆発する」

(; ^ω^) 「自爆しろってことかお!?」

ホムンクルスにその武器はある意味最強装備だ。
ただ一つ、複数個持ち運べないと言う難点を除いては。

(´・ω・`) 「それじゃ、僕らは行くよ」

白泡雲を避けるために北上してから東進しなきゃいけない。
距離だけでいえばそれほど時間がかかるとは思えないけど、
道中で何があるかわからない。

川 ゚ -゚) 「ああ、気をつけてくれ」

一対の双剣を両腰に結び付け、席を立った。
ブーンは大事そうに爆弾を袋にしまっている。
それはそうだろう。不用意な扱いで爆発させられては堪らない。

645名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 23:49:50 ID:wkn7qhfA0

立ち上がった僕らは別れの言葉を告げようとしたが、そこに何者かの声が割り込んだ。





「ん〜! 珍しい顔ぶれだねぇ!」





その声は闇の向こうから聞こえてきた。

僕は預かった双剣をすぐに抜く。
ブーンは背負った長槍を構え、クールは腰の長剣に手をかけた。

相変わらず……人を馬鹿にしたようなしゃべり方をする。




(´・ω・`) 「……ジョルジュ」

646名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 23:51:04 ID:wkn7qhfA0












14 ホムンクルスと深夜の邂逅  End

647名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 23:52:48 ID:PQi2Avk20


648名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 23:52:56 ID:wkn7qhfA0
>>2   1 ホムンクルスは戦うようです
>>29  2 ホムンクルスは稼ぐようです
>>65  3 ホムンクルスは抗うようです
>>93  4 ホムンクルスは救うようです
>>118 5 ホムンクルスは治すようです
>>148 6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです
>>183 7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです
>>245 8 ホムンクルスと少女のようです
>>284 9 ホムンクルスは迷うようです
>>334 10 ホムンクルスと動乱の徴候
>>393 11 ホムンクルスと幽居の聚落
>>456 12 ホムンクルスと異質の傭兵
>>525 13 ホムンクルスと同盟の条件

>>595 14 ホムンクルスと深夜の邂逅


【時系列】

ホムンクルス生誕
   ↑
   ↓
6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです
7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです   
8 ホムンクルスと少女のようです
   ↑
   |
   |
   ↓
1 ホムンクルスは戦うようです
   │
2 ホムンクルスは稼ぐようです
   │
3 ホムンクルスは抗うようです
   │
4 ホムンクルスは救うようです
   │
5 ホムンクルスは治すようです
   │
9 ホムンクルスは迷うようです
    |
10 ホムンクルスと動乱の徴候
    |
11 ホムンクルスと幽居の聚落
    │
12 ホムンクルスと異質の傭兵
    │
13 ホムンクルスと同盟の条件
    │
14 ホムンクルスと深夜の邂逅

649名も無きAAのようです:2012/11/30(金) 00:02:46 ID:.eG3y/VQ0
おつ

650名も無きAAのようです:2012/11/30(金) 00:19:46 ID:315q9VWsO
乙っ!!

651名も無きAAのようです:2012/11/30(金) 01:51:16 ID:eK65.LSs0
おつ!

652名も無きAAのようです:2012/11/30(金) 12:58:27 ID:yawwSl0cO
おつ!

653名も無きAAのようです:2012/11/30(金) 13:45:52 ID:EoVq67CI0
おつ
続きが気になるぜ

654名も無きAAのようです:2012/11/30(金) 14:21:28 ID:UTiUCOHk0
おつ
ついに4人揃うのか・・・!

655名も無きAAのようです:2012/11/30(金) 17:26:45 ID:u3CHfhDUO
やはり捕まってたのはブーンさんだったか。



656名も無きAAのようです:2012/11/30(金) 17:28:24 ID:AtFW.ubA0
おっつ!

657名も無きAAのようです:2012/12/01(土) 19:22:28 ID:HGTe/afo0
乙!
ついにか…!

658名も無きAAのようです:2012/12/02(日) 03:08:19 ID:U5645VLMO
ω・`)乙。このショボンはいい。正統派ショボン。

659名も無きAAのようです:2012/12/19(水) 22:08:54 ID:U./ztnQc0
^ω^)チラッ

660名も無きAAのようです:2012/12/19(水) 22:18:05 ID:dWTyvpXA0
一応の書き込みテスト

661名も無きAAのようです:2012/12/22(土) 18:35:42 ID:eWtmEy/oO
あのさぁ・・・

662名も無きAAのようです:2013/01/26(土) 04:27:55 ID:D/DjXcuQO
ω・`)マダカナー

663名も無きAAのようです:2013/04/22(月) 22:23:27 ID:zEt5gCM20
そろそろ来てもいいのよー

664名も無きAAのようです:2013/04/28(日) 21:08:00 ID:5AKsOjpo0
本当にごめんなさい
パソコンぶっ壊れて一話分取り出せなくなりました……
まだしばらくかかります……

665名も無きAAのようです:2013/04/28(日) 21:45:13 ID:SXkHwkx20
真剣に乙
ゆっくりでいい。待ってるから

666名も無きAAのようです:2013/04/28(日) 22:29:59 ID:ko.D47mU0
ドンマイ。気長に舞っとく

667名も無きAAのようです:2013/04/28(日) 23:33:04 ID:ORnX26ZgO
生存報告乙

668名も無きAAのようです:2013/04/28(日) 23:39:08 ID:4LwNYyio0
生きてたみたいで良かった

669名も無きAAのようです:2013/08/19(月) 04:50:10 ID:o8T4dfIQ0
1話消えるとかモチベも下がるわな…
がんばってくれー

670名も無きAAのようです:2013/09/18(水) 16:59:05 ID:5HGp8FU20
よし追いついた
これからも期待してるぞ

671名も無きAAのようです:2014/01/25(土) 23:19:11 ID:0BTq7Z4U0
待ってるぜ

672名も無きAAのようです:2014/04/06(日) 23:38:17 ID:X82MSgcI0
もう1年以上か

673名も無きAAのようです:2014/05/01(木) 00:56:56 ID:PDlFqhX60
まだかなー

674名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 17:47:08 ID:p.SCWTXA0
待ってる

675名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 23:41:43 ID:D8yyfTQc0
( ^ω^)出先で不審者扱いされたお

676名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 23:42:54 ID:D8yyfTQc0
すまん誤爆した吊ってくる
続き楽しみにしてます

677名も無きAAのようです:2014/06/02(月) 01:48:33 ID:zssCs7c20
>>675
ちょwww内藤スレ住人ハケーンwww

678名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 21:27:19 ID:Qo48Hvr20












15 ホムンクルスと城郭の結末

679名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 21:32:41 ID:Qo48Hvr20



ひねり出したような声は本当に僕のものだったのか。
それに返すかのように、両手を横に広げながら近寄ってくる。
馴れ馴れしい動作は昔と変わらない。
  _
( ゚∀゚) 「久しぶりだなぁ……クールちゃん、ブーンくん……それにショボンよぉ……。
      いや、ショボンはこの前会ってんな」

(´・ω・`) 「あぁ……顔を見るのは、全く久しぶりだよ……ジョルジュ」

僕の頸椎にナイフを差し込んだ男は誰だったのか、今わかった。
深い緑色のローブが、机の蝋燭の明かりに照らされて浮かび上がる。

この可能性を考えなかったわけではない。
だが、想定する意味はないと無意識化で感じていたのだろう。
敵に錬金術師の集団がいるのならば、そこにジョルジュがいたとしても対策はほとんど変わらないからだ。

680名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 21:34:22 ID:Qo48Hvr20

それでも、実際に顔を合わせることになると手に汗がにじんでくる。

僕が生み出した四人の不老不死者達。
人ならざる存在であるホムンクルス。

全く同時に生み出したこの三人は、長い年月を経て散り散りになった。

クールとブーンは自分達の意思で、己の求めるものを得るために。


だが、ジョルジュは違う。

僕は…………彼を追い出した。


  _
( ゚∀゚) 「あの日のことは一度も忘れたことがねぇ……ショボン。
      血がつながってないとはいえ、生みの親に捨てられたんだからよぉ」

681名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 21:43:37 ID:Qo48Hvr20

川#゚ -゚) 「ふざけるなッ! お前……自分のしたことを忘れたとは言わせないぞ……!」
  _
( ゚∀゚) 「あぁ? まだ根に持ってんのかよ……何百年前の話だ?
      いや……人のことは言えねぇか……」


僕が彼らを生み出した時、それぞれの性格に極々小さな"偏り"を与えた。
生み出したホムンクルス達が、感情の「違い」を理解しやすいように。
自らと異なる存在である他者を認識しやすいように。


ブーンには"楽しさ"を

──── ブーンと共に過ごすことが、僕らの寛ぎとなるように


クールには"哀しみ"を

──── クールを支えてあげることが、僕らの繋がりとなるように


ジョルジュには"怒り"を

──── ジョルジュと話し合うことが、僕らの節制となるように

682名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 21:44:25 ID:Qo48Hvr20


それは、ふつうの人間より、ほんの少しだけ、本人次第で無くなるほどの小さな差だった。
それと同時に、彼らにとって、全てが"与えられたモノ"とならないよう、
何物にも代えがたい"個"の意思には、不必要な改変を加えなかった。

言うなれば、彼らの精神は"二卵性双生児"のようなものだ。
全く同じタイミングで生まれたが、微妙な素材の差により、体格や性格に違いができた。
理想通りの性格と見た目のホムンクルスを生み出すことは、僕にはできないし、やるつもりもない。

彼ら自身が、生まれた瞬間に己のことを理解し、
僕の与えた"偏り"を自らの道として選んでくれた。

そして僕は、彼らと「喜び」を持って暮らしていこうと、そう決めた。



だが、全てうまくはいかなかった。
彼の……ジョルジュの知識欲は強すぎ、その怒りを抑制することをよしとせず、
思うがままに行動していた。

683名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 21:49:17 ID:Qo48Hvr20

最初はしつこく教えを請うだけだった……。
そのうち僕に隠れて、幾度も生体実験をするようになった。
時に自分の体を使い、時に野生の生物を使い。


ついにその事件は起こった。

彼は人体実験に手を出し……それを知った僕は彼を見捨てた。
激しく雪の降る日に……ブーンとクールを連れだし彼の前から姿を消した。
共に生活することで、これ以上、僕の知識が知られるのを恐れたからだ。

完全なホムンクルスを生み出す方法は、永久に失われるべきなのだから。
一時の寂しさに負けたとはいえ、それ以後の数百年それだけは頑なに守ってきた。

不老不死の錬金術が世の中に溢れていないところをみると、あの男もまた知識を隠しているのだろう。

  _
( ゚∀゚) 「ネールラントから帰ってみれば……まぁ珍しい顔ぶれじゃねぇか。
      ついでに挨拶でもと思って寄ってみたんだがよ。全然攻め切れてねぇな……あいつら」

(#´・ω・`) 「あの狂戦士達は……お前がやったのか?」

684名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 21:51:09 ID:OPtb6AXc0
待ってたぜ

685名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 21:52:13 ID:Qo48Hvr20

  _
( ゚∀゚) 「ん〜? や、薬を作ったのはオレじゃねぇよ。ある程度意見はしたけどなぁ……。
      結局あんなできそこないだ。ほんとは意識も知能もそのままにする予定だったんだぜ?
      嫌がる兵士に薬を無理やり与えなきゃいけなくなっちまったのは、まぁ予定が狂ったな」

(#^ω^) 「ジョルジュ……セント領主家、ネールラント、今回の事態はお前が主犯かお!?」

  _
( ゚∀゚) 「まぁ、半分くらいはな。ほんとお前らみてる世界がせめぇ……。
      一生そうやって地べたはいつくばってろ」

(#´・ω・`) 「どういうことだっ!?」
  _
( ゚∀゚) 「くひひっ……自分で考えな。そうだ、面白いものを見せてやるよ」

そう言って、何かを飲み込んだジョルジュ。

数秒の後に、突然蹲って苦しみ始めた。
骨が歪み、皮膚が裂ける音と共に、ジョルジュの輪郭が内側から弾けて変化していく。

686名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 21:56:11 ID:Qo48Hvr20

  _
(  ∀ ) 「ぐぅぅぅ…………」



(;´・ω・`) 川;゚ -゚) (; ^ω^) 「!?」






   _
彡 ゚∀゚ミ 「ルルルルルゥ……。セイゼイ……ムダニ……アガケ」
 


それは人間の大きさをした獣だった。
毛は頭部にしか生えておらず、皮膚は内から破れ血管が浮き出ている。
膨れ上がった両足と両手の筋肉は、四足歩行の獣そのものだ。

牙は無く、爪も小さい。
それでも、それは間違いなく"狼"だった。

687名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 21:59:31 ID:Qo48Hvr20

ジョルジュであった狼は高く強く吠えると、僕らを置き去りにし白泡雲の中をまっすぐ突っ切っていった。

(; ^ω^) 「なんなんだお……あれ……」

(;´・ω・`) 「何かを飲み込んでいたようにも見えたが」

川;゚ -゚) 「あれについては今考えても仕方ないだろう。
      予想はできるが、その先には何があるのかわからない。
      セントショルジアト城に行くんなら、どうせすぐに会うことになるさ」

わからないことの対策なんてうてやしない。
実際に対峙するときになってから考えればいいだろう。

(; ^ω^) 「その時まで放っておいても大丈夫かお?」

(´・ω・`) 「問題ないな。彼たった一人で出来ることは、そう多くはない。
       そんなことより、だ。確認するぞ、ブーン。
       目的は十三代書庫番とモララルドの救出。
       そして侵略戦争の終結だ」

688名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 22:05:57 ID:Qo48Hvr20

( ^ω^) 「わかってるお」

川 ゚ -゚) 「っと、忘れていた。これを用意してきたんだ。
      道中で役に立つかもしれない。持って行ってくれ」

渡された二つの袋には錬金術を用いた品が複数個入っていた。
夢宿り木の白液果、星藻、手のひらサイズの小型ナイフ、強靭な細い糸、矢と弓。
あまりにも準備万端なそれらは、あらかじめ用意されていたとしか思えない。

いや、用意していたのだろうな。
クールのことだ。おそらく、ネールラント戦で用いようとしていたものの一部だろう。
どれも錬金術によって強化されている。

川 ゚ -゚) 「効能はこれだ」

渡された小さな紙切れを一読してから返す。
一言二言の説明しかなかったが、それで十分だ。

川 ゚ -゚) 「……頼んだぞ」

(´・ω・`) 「ああ」

( ^ω^) 「任せるお!」

689名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 22:08:58 ID:kxqh4PCoO
ω・)支援

690名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 22:22:01 ID:Qo48Hvr20

川 ゚ -゚) 「グラント王侯領、そしてクナド、オラトの両国にはすぐに知らせを送る。
      同盟の話は私がやっておくから心配しないでくれ」

(´・ω・`) 「ハートクラフトという大男がオラト側国境にいる。
       彼も力を貸してくれるはずだ」

川 ゚ -゚) 「わかった。あまり無茶はするなよ」

片手をあげてクールに応え、僕らは北を目指して馬を走らせた。
右手には白雲の海が闇夜に揺らいでいる。


急ごう。モララルドと書庫番が心配だ。



・  ・  ・  ・  ・  ・

691名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 22:25:45 ID:Qo48Hvr20


(´・ω・`) 「何人いる……?」

( -ω^) 「んー待ってくれお……ひーふー……二十二……だと思うお」

長い筒を片目で覗きながら、ブーンは答える。
どうやら彼が作り出したらしい特殊な望遠機器だと聞いたが、
この朝靄の中で、本当に遥か向こうまで見えてるのだろうか……。

(´・ω・`) 「多いな……が、まぁ無理な数じゃあないか……。
       動きが速そうなのは?」

( -ω^) 「どういうのが該当するお?」

(´・ω・`) 「脚部に極端に筋力が偏っている狂戦士を探してくれ」

( -ω^) 「んー」

何度か望遠機器を左右に往復させるブーン。

( -ω^) 「十六……だお」

……一六人は多すぎる。
城の警護に普通の軍隊を置いていない理由がこれか。

692名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 22:26:45 ID:BS9s7036O
よく帰ってきてくれた

693名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 22:28:43 ID:Qo48Hvr20

確かに、あれらならお互いのフォローにもすぐ迎えるし、
鈍重なパワー型と比べ、広域の防備に適している。

おそらく、城内には腕力強化型がいるんじゃないだろうか。
狭い場所でこそ、彼らはその本領を発揮できる。

(; ^ω^) 「これ……きつくないかお?」

(´・ω・`) 「ちょっと考えさせてくれ……」

この中をまっすぐ向かうのは無理ではないが……ほぼ不可能か。
全員を相手にしなきゃいけないだろうし、勝てたとしてもその後はよろしくないだろう。

相手は僕らの存在に気づくだろうし、記録を抹消し逃避を図るか、
軍隊を用いて相対するかどちらかだろう。

ホムンクルスは不死ではあるが、弱点は少なくない。
物量に支えられた長期戦になれば、いずれは追い詰められてしまう。

( ^ω^) 「城の場所が厄介だお……」

694名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 22:31:22 ID:kxqh4PCoO
ω・)ショボン達は死なないだけで強くはないよね

695名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 22:34:15 ID:Qo48Hvr20

僕らは城のちょうど西南西、生い茂った草の中に並んで転がっていた。
ここから先には、ごろごろと大きな岩がいくつもある荒れ地になっている。
隠れる場所は多いが、慎重を期す越したことはない。

馬は少し離れたところで、杭に繋いで置いてきた。
万が一も考え、強く引っ張れば紐はほどけるようにしてある。

城に至る道は、僕らが隠れている場所から見える、まっすぐのびている道だけだ。
それは海に近づくにつれてだんだんと細くなっていく。

セントショルジアト城は、海の上に突出した崖にあるせいで、
見晴らしは良く、忍び込むことは難しそうだが……。


(´・ω・`) 「まぁ、待て……いい案がある」

( ^ω^) 「いい案?」

(´・ω・`) 「ああ、僕らにしかできない秘密の道だ。
       取りあえずついてこい」

696名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 22:36:15 ID:Qo48Hvr20

ゆっくりと起き上がり、全身の砂を落とす。
荷物の中から、クールにもらった細くて丈夫な糸を取り出した。

( ^ω^) 「?」

(´・ω・`) 「これを腕に結んでみてくれ」

ブーンに一端を渡し、絡まないように注意を払いながらもう一端を自分に結んだ。
その間も海に向かって歩くのをやめない。
何事かと考えながら、ブーンは後ろについてくる。

崖の端まで来ると、激しく打ち付ける波の音が足元から聞こえる。

この辺の下はもう海になっている。
長い年月をかけて、抉られるように絶壁が削れているからだ。

( ^ω^) 「で、どうするんだお?」

(´・ω・`) 「悪いな……」

とりあえず形だけでも誤っておく。
そうして崖に向かって、ブーンを蹴り飛ばした。

697名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 22:37:41 ID:Qo48Hvr20









「あああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ..............」






叫び声は次第に小さくなっていき、海に落ちる音に消えた。

10秒ちょうど数え終わった頃、下から叫び声が聞こえてきた。
温厚なブーンにしては相当怒っている。

……当たり前だが。

698名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 22:43:49 ID:Qo48Hvr20

(´・ω・`) 「あ、回復した?」

ここから見える海面には大小さまざまな岩がとげのように突き出ており、とても無事では済まない。
ブーンの服もあちこちが破けていた。

(#^ω^) 「ショボオオオォォォンン!!!!」

(´・ω・`) 「落ちつけよ、そこから城の下あたりを見てくれ。
       僕の感が外れてなければ、なにか錬金術に関係しそうなものがあるはずだ」

ブーンの声にかき消されないように叫び返す。
これだけの距離があれば、城の周りを護っている強化兵たちには、聞こえないだろう。

(#^ω^) 「……ちょっと待つお」

望遠機器を取り出して城の方を向くブーン。

(#^ω^) 「あったお……。何があるかまではわからないけど、
        確実に錬金術が施されてる岩壁が見えるお」

(´・ω・`) 「予想通りだな。今に僕もそっちに行くさ。
       糸はほどかずに持っとけよ」

深呼吸して、一息に飛び込んだ。
風を切る高揚感と、落下していく恐怖がぐるぐると混ざり合い、何を考えているのか分からなくなる。


気づいた時には、少し大きめの岩の上に寝ていた。

699名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 22:55:26 ID:KJQ7PBZk0
おいマジかよホムンクルスきてる

700名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 22:55:54 ID:Qo48Hvr20

(#^ω^) 「ちゃんと説明してくれお」

(´・ω・`) 「ん……ああ……この場所は上からは見えない。絶好の侵入経路だろ?」

( ^ω^) 「……そういうのは先に言ってくれたらよかったのにお」

(´・ω・`) 「先に言ったら飛び降りたか?」

いくら回復するとはいえ、痛いものは痛い。
自分を褒めるわけではないが、これだけの高さを飛び込むのは、
いくらホムンクルスとはいえ覚悟がいる。

(; ^ω^) 「飛び込んだお……たぶん……」

(´・ω・`) 「まぁいい、行くぞ」

波の勢いは強い。泳いで行くのにしても、油断していたらすぐに沖合まで引っ張られてしまう。
僕とブーンは何かあった時のために、片方が海を泳ぎ、もう片方は岩で待つことにした。
泳いでいる方が溺れれば、もう片方が引っ張ることで救うことができる。

交互に泳ぎ、セントショルジアト城の足元に近づいていく。
城の裏はすぐに崖になっていて、見張りはいなかった。
崖の下にも敵の姿は見えない。
それも当然だ。こんなところを通れるのは僕らをおいて他にいない。

701名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 22:57:59 ID:7zbdlGn20
支援

702名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 22:59:57 ID:Qo48Hvr20

(´・ω・`) 「侵入したら、ブーンはモララルドと十三代書庫番を探せ。僕は城主を探す。
    場合によっては……殺すしかないこともある。わかってくれ……」

(  -ω-) 「………………」

三人のホムンクルスの人間に対する気持ちの違いは、その性格に起因する。

"楽しさ"のブーンは人間を好み

"哀しみ"のクールは人間に無関心で

"怒り"のジョルジュは人間を嫌っていた。

僕とブーンの違いは、妥協をするかしないかだ。


…………僕は殺す。
その一人が、万人を超える他の人間の害悪となるならば、躊躇うことなく殺す。
その一人が、僕の知り合いを傷つけ苦しめるのなら、同じように傷つけたいと思う。


でもブーンは違う。

ブーンは殺さない。
人間が好きだからというだけではない。
殺さないことが、自分を人間としているための一線なのだから。

ホムンクルスでありながら、人間であろうとするブーン。
その彼自身の考え方を否定するつもりはないが、今回は傍観するわけにはいかない。

703名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 23:11:50 ID:Qo48Hvr20

( ^ω^) 「…………その時になってみないと、どうもわからんお」

(´・ω・`) 「納得してもらうしかないよ。……さて、もう少しだ。行こうか」

それからはしばらく無言で進んだ。
交互に泳ぎ、岩の上で休み、目的地の真下に辿りつくまでそれほど時間はかからなかった。

朝方には晴れていた空だが、ゆっくりと僕らの立っている場所が影に覆われ始めた。
厚く、広く、黒い雲が流れてきている。

(´・ω・`) 「激しい雨が降りそうだな」

( ^ω^) 「そうなる前にとっとと解決するお」

(´・ω・`) 「ああ、そうだな」

( ^ω^) 「……で、どうやって登るんだお?」

僕らの目の間にあるのは90度を優に超える断崖絶壁。
何千年もかけて削られた岸壁は、荒々しくも滑らかで素手では登れそうにない。

704名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 23:16:57 ID:Qo48Hvr20

(´・ω・`) 「んー……いやさ、予想が外れたと言うかなんというか」

( ^ω^) 「言い訳があるなら聞くお」

(´・ω・`) 「セントショルジアト城は防衛拠点としてはかなり不安定なんだ。
       狭まった岸壁の突出したところに立っている以上、
       正面から物量によって攻撃された場合、自分達に逃げる場所が無いからね」

民衆の暴動でも起きようものなら、ひとたまりもないだろう。
この場所に城を建設した当時の王族が、それを考えなかったほどの馬鹿だとしても、
何世代もの間、はたしてそのままにしておくだろうか。

( ^ω^) 「つまり、抜け道があると?」

(´・ω・`) 「さっきブーンに確認してもらって、
       錬金術の仕掛けがあるとほとんど確信したんだけど……。
       もっとわかりやすいものだと少し甘く見てたかな」

城の足元に近づきながら探していたが、そのような場所は見当たらなかった。
逃げるための簡単な小道すらない。
錬金術の痕跡は所々にあるのだが、どれも抜け道を示唆しているものではなかった。


( ^ω^) 「ところでショボン……これ見つからなかったらどうなるお?」

(´・ω・`) 「来た時みたいに戻って、崖が低くなるところまでひたすら泳がないとね……」

(; ^ω^) 「冗談じゃねーお……」

705名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 23:19:58 ID:Qo48Hvr20

本当に冗談じゃない。
この辺一帯は全て崖になっていて、とてもじゃないが登れないだろう。
崖が低くなるのは数キロ以上も先だ。
その労力を考えると気が遠くなる。

( ^ω^) 「水面の下はどうだお?」

(´・ω・`) 「そこに抜け道があったとして、どうやって逃げだす気だ?」

( ^ω^) 「干潮の時に……」

(´・ω・`) 「その時しか逃げれない逃げ道を作る意味はないだろ」

いや……そうか。
今はほとんど干潮に近い時間のはずだ。
壁面に残る海水の痕はそれを示している。

潮の満ち引きに関係なく、脱出経路がふさがれず、
なおかつ侵入者に見つかりにくいのは……。

(´・ω・`) 「ふむ……」

自分の身長二つ三つ分くらいか。
上を見上げると、自然に削られた岸壁としては不自然な場所があった。

錬金術師の僕らにしか気づけないような小さなものだが、間違いない。

706名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 23:26:11 ID:Qo48Hvr20

( ^ω^) 「あそこに扉っぽいものには、どうやって入るんだお?」

(´・ω・`) 「登れるか?」

( ^ω^) 「無理だお」

そうだろうな……。かといってあそこから階段が下りてくるとは思えない。
それではここに隠し扉がありますと言っているようなものだからだ。

おそらく扉の向こうに縄梯子のようなものがあるはずだ。

(´・ω・`) 「仕方ない……多少手荒ではあるが」

袋から"青色砥粉"を取り出し、剣にかける。
刀身が青白く光り始めたのを確認し、岩壁を刺し貫く。
そこを支点として、クールに借りた双剣をさらに上に突き立てる。
こんな用途に使ってしまったことは心の中で謝ればいいか……。

三つの足場を利用して、扉と思しき場所に手が届いた。
クールの刀を足場にして岩壁にもたれ、最初に刺した刀をブーンに投げてもらうことで、
なんとか扉へのアプローチをする。

707名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 23:28:13 ID:Qo48Hvr20

( ^ω^) 「体が重くて登れんのだけど……」

(´・ω・`) 「痩せろよ……」

( ^ω^) 「この体型は愛嬌があるって女の子に好かれるんだお」

扉のちょうど真ん中あたりに刀を突き刺した。
壁を貫通した感触から、中に空間があることは間違いない。

(´・ω・`) 「さて、どうしたものか」

普通に切り開けてもいいが、何が仕掛けられているかわかったもんじゃない。
木っ端微塵になることに抵抗はないが、敵に見つかりたくはない。

( ^ω^) 「ショボーン! 横から開けるのはどうだお?」

横から岩壁を掘っていくのは、青色砥粉の消費が激し過ぎる。
城内での戦闘も考えると、あまり無駄遣いはしたくない。

( ^ω^) 「しょうがない……これでも使えお」

708名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 23:33:13 ID:Qo48Hvr20

ブーンの背負っていた長槍が、僕のすぐ真横に突き刺さった。
軽く投げただけに見えたが、堅い岩壁に突き刺さるのは鍛冶錬金術の効能か。

( ^ω^) 「それの鍛冶錬金術は"溶解"だお。
       速度や質量というエネルギーを溶かすことに変換するお」

(´・ω・`) 「随分また……」

ただの人間相手にするには凶悪過ぎる武器だ。
今回のような人外を相手にするのでさえ、躊躇うほどに。

( ^ω^) 「まぁ、その説明は今度するお。
        結局ただの副産物でできちゃっただけだし、生体には効かないお」

(´・ω・`) 「……何のために作ったのかわかった気がするよ」

おおよそ、碌でもない目的のために作ったのだろうが、
役に立つものであることにかわりはない。

扉の中心にブーンの槍を使って風穴を開ける。
そこから星藻を流し込み、中の様子を確認した。
狭い通路が光に照らされて浮かび上がる。

(´・ω・`) 「よし、なにも仕掛けられてないみたいだ。少し待ってろ」

709名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 23:37:15 ID:Qo48Hvr20

扉の隙間に青色砥粉をかけた剣を差し込み、なぞるように動かす。
何度か往復した後蹴飛ばすと、ゆっくりと奥に倒れた

奥にまっすぐ進み、少し行ったところで左に曲がる。
そこには小舟と縄梯子が丁寧に折りたたんであった。
縄梯子の強度を確認して、下に蹴り飛ばす。

(´・ω・`) 「登ってこい」

( ^ω^) 「助かったお」

(´・ω・`) 「もし何かあったら……これでモララルドと書庫番を連れて逃げてくれ」

( ^ω^) 「……わかったお」

明かりもない足元を手さぐりで奥に進む。
星藻を使って照らすのもいいが、どこからか見られているかわからない。
通路は人間が通れるだけのギリギリの広さしかなく、
何十年も使われた様子は無い。

710名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 23:40:50 ID:Qo48Hvr20

(´・ω・`) 「誰もいなそうだ」

(; ^ω^) 「ふぅっ……」

(´・ω・`) 「流石に運動不足じゃないか?」

(; ^ω^) 「ブーンは……インテリア系だお。
        室内に……こもって研究……してるのが……ブーンのやり方だお」

(´・ω・`) 「そんなことはどうでもいい。遅れずについてこい」

息を荒げているブーンを引き連れ、通路の奥へ進む。
どこに繋がっているかわからないため、何が起きても対応できるように、
両手にはクールから預かった双剣を抜き身で構えていた。

つづら折りになっていて、上り坂になっている通路は、しばらくして広い空間に出た。

申し訳程度の明かりで照らされていて、いくつもの穴がここに繋がっている。
それぞれが城内の主要な箇所につながっているのだろう。

(; ^ω^) 「……困ったお」

(´・ω・`) 「どれがどこに繋がっているのか見当もつかないな」

711名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 23:47:03 ID:D/cJDmP60
ホムンクルスきてた!
支援

712名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 23:49:13 ID:BS9s7036O
もっと続き読みたい、支援

713名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 23:52:00 ID:Qo48Hvr20

穴の大きさは全て同じで、その数は全部で9個もある。
モララルドと書庫番が城内のどこにいるのかもわからないし、
全ての通路をしらみつぶしに探す意味はない。

( ^ω^) 「別行動するお」

(´・ω・`) 「ああ、そうしようか」

( ^ω^) 「一人で大丈夫かお?」

城内で実際に相手になるのは、ジョルジュぐらいだろう。
教会で会った錬金術師たちが戦えるとは思えない。
王を見つけて捕えるくらいなら、うまくいくはずだ。

( ^ω^) 「……気をつけるお」

(´・ω・`) 「ブーンもね」

僕は来た道のすぐ隣にある通路に入った。
方向的にはここが玉座の裏に通じている可能性が一番高い。
玉座はエントランスやダンスホールのさらに奥に設けるのが普通だからな。

714名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 23:52:32 ID:kzYnCS1I0
しえんぬ

715名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 23:52:50 ID:Qo48Hvr20

(´・ω・`) (ブーン……モララルドと書庫番を頼むぞ……)

モララルドと書庫番が捕まってからもうかなりの時間が経過している。
ひどい扱いを受けていなければいいのだが……。

通路は階段になっていて、真っ直ぐ上にのびていた。
登りきった先にあったのは錆びついた小さな扉。

耳を澄ませてみるが、向こう側から物音は聞こえない。
扉をゆっくりと押すと、金属が悲鳴を上げながら開く。

(´・ω・`) (……うるさいな)

諦めて青色砥粉で接続部の金具を破壊し、部屋に出た。
木枠の扉は元のように抜け道にはめ込んでおく。

そこは物置のような小さな部屋で、いくつかの木箱が重ねておいてあるだけだった。
床は湿っていて、歩くたびに小さな音が跳ねる。

(´・ω・`) (何もない……はずれか)

城内の見取り図すらない状況では、下手に動くわけにはいかない。
まずは城の構造を知らなければ。

716名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 23:53:58 ID:Qo48Hvr20

木箱の中身には乾燥させた食糧や調味料、金貨、そして短剣などの武器が入っていた。
逃げる時には、ここに置いてある最低限の必需品を持って逃げるのか。
食糧の状態も良く、定期的に入れ替えが行われていると予想できる。

(´・ω・`) (随分と周到なことだ……)

攻城されることを想定していたのか、それとも普段から入れ替えをしているのか。
少しだけ食べ物を拝借し、部屋を出る。
どうやら突きあたりにある部屋らしく、薄暗い廊下には人影はない。

(´・ω・`) (これじゃ動きづらいことこの上ないな……)

話声や物音が聞こえないと言うことは、城の中でもはずれにあるということか。
もしくは戦争の準備をしているせいで城内にほとんど人がいないのか。

最悪、狂戦士達しかいないという可能性もあるな。
廊下の角に背をつけて奥を覗くが、そこにも誰もいない。
一本道がひたすら続いており、近くには全く部屋が無い。

(´・ω・`) (……騒がしいな)

三つ目の角を左に曲がったところで上の方から騒ぎが聞こえてきた。
ブーンが見つかったのだろうか、剣戟の音が響く。

717名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 23:57:48 ID:Qo48Hvr20

(´・ω・`) (あー……ブーン……頑張れよ……)


「侵入者だッ」


「捕まえろ!!」


「殺せ! 殺せ!」


乱暴な叫び声が聞こえるが、普通に話していると言うことは、ただの兵士だろう。
その程度であればブーンは別に苦労はしない。

(´・ω・`) 「おかげでこっちの仕事がやりやすくなるな」

ブーンが目立てば城内の兵はそちらに注目する。
よもやもう一人が侵入しているなんて考えに至る者は、ごく少数だろう。

ドタバタと足元での騒ぎは収まる気配が無い。
手間取っていると言うよりは、逃げていると言った感じだが……。

718名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 23:58:48 ID:sGhpOwOg0
これリアルタイムか!支援

719名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 00:06:14 ID:.Qy3EogM0

(´・ω・`) 「上を目指すのがいいか」

城の基本的な構造は時代によってほとんど統一されているが、
王室の位置などはどの時代でも変わらず、高いところにある。
このセントショルジアト城も例外ではないだろう。

奥に進んでいき、階段はすぐに見つかった。
どうやら僕が今まで通ってきた通路も普段は隠されているのだろう。
三十二段の階段を登りきって、その先にある扉は、厳重にふさがれていた。

(´・ω・`) (……誰かいるな)

明らかな金属音はおそらく鎧の継ぎ目の擦れる音。
荒い息遣いが漏れ聞こえる。
話声こそしないもののこの奥に誰かがいるのは確実だ。

耳を扉に寄せ、中の様子を探る。獣のような低い唸り声が、雷のように響いている。
人間にはあり得ない何かを引きずる音が、部屋の中を往復するように動いていた。

(´・ω・`) (狂戦士か……)

その数はおそらく一体。
足音から察するに体の大きさは僕の二倍以上はあるだろう。

(´・ω・`) (ん…………?)

部屋の中の足音が突然止まった。
疑問に思う間もなく、爆発音と共に、一瞬意識が途切れた。

720名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 00:06:58 ID:.Qy3EogM0


(;´メω-`) 「ぐっ……あああああっ…………」



何が起きたのか理解したのは、全身を襲った激痛が収まってからだった。
粉々になった木製のドアと、その向こうに立つ巨大な化け物。
神話に語られるような姿をしたそいつは、巨大な瞳で僕を見下ろしていた。

闘牛のような太く短い二本の角。
熊のように太く毛深い両腕。

(;´・ω・`) 「っ……」

721名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 00:10:31 ID:.Qy3EogM0

背骨が折れた衝撃か、体を持ち上げる力が出ない。
両の腕には僕の身長ほどもある巨大な拳。
上半身は筋肉の鎧の上を、さらに鎖帷子で覆っている。



「ヴァアアアアアアア」



あらゆる部位が人間としての原形をとどめていない。
異常に発達した耳と目……鼻はほとんど頭に埋もれてしまっている。

立って歩くことすらままならないのか、両足は地面に投げ出されている。

(;´・ω・`) 「なんてことを……」

自我なんてないのだろう。
ただ、物音と動きに対して反応するだけの化け物。

現に僕が吹き飛ばされたまま動かないでいると、もう興味を失っている。
この部屋に、誰も近づかないこの場所に隠されていたのか。

錬金術での度重なる肉体改造で、完全に精神が崩壊してしまっている。

722名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 00:12:32 ID:.Qy3EogM0
投下の途中ですがすいません。
予定時間を超えてしまったので、明日夜、続きを投下させてください。
申し訳ないです……。

723名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 00:31:22 ID:lL7A9ggU0
リアルに「えっ」て声出た
もう帰ってこないと思ってた超嬉しい

続きも待ってますおつ!

724名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 00:35:09 ID:ubFv5UI6O
そうか、明日じゃなく今晩だと思うがまたな

725名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 00:37:25 ID:YprKXUvQ0
おつおつ

726名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 00:59:57 ID:C5614uwg0
おおおおお…乙!
戻ってきてくれてありがとう

727名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 22:20:06 ID:.Qy3EogM0


(´-ω-`) 「…………」

壁から這い出た時に、細かい瓦礫が音を立てて落ちる。
それに化け物が反応する。

もはや僕が彼に何をしてやれることはない。
ただの障害物として、排除するのみ。


「グゥオオォオオオオオオオ」


殴りかかってきた右拳に刀を突き刺す。
だが、それを気にも留めず、壁にたたきつけられた。

(メ´・ω `) 「ごふっ……」

今の一撃で内臓が潰れて、肋骨が砕けたか。
あまりの威力に意識が飛びかかったが、握った柄は離さない。
剣が折れなかったのは行幸。

肌の硬度は人間とさして変わらない。
骨は想像よりもずっと柔らかいようだ。
これなら、青色砥粉を使うまでもない。

728名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 22:24:59 ID:.Qy3EogM0


(#´・ω・`) 「はあああああああああああああああああああああっ!」

化け物が手を引いた時に隙間ができる。
潰れた内蔵の回復は待たずに、手の上に飛び乗った。

右手に持った刀を下に向けて化け物の腕から肩まで切り裂く。
だが、もはや痛みすらないのか、化け物は動きを緩めない。

傷からは白い泡が吹き出しながら、自己修復をしている。

(;´・ω・`) 「ぐっ……」

左拳に跳ね飛ばされた。
蠅を払うかのような単調な動きだが、重く、動きは速い。
図体の大きさがあるにも拘らず、だ。

両肩だけは筋肉の質と量が違うのか。

(メ´・ω・`) 「ッ痛……」

729名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 22:31:34 ID:.Qy3EogM0

一撃で致命的な破壊を与えるか、それとも……。

両手で腰から抜いたのはクールの双剣。
肉も骨も全てを断ち切らない、断絶の剣。

(´・ω・`) 「こいつは……一味違うぞ」



言ってもどうせわかりはしない。


「グコォォォォ」


両腕を用いた破壊的な、だけど単純な殴打のみ。
こいつが閉じ込められていた理由はそれだ。
機動力もなければ、協調性も、戦略を理解する脳みそもない。

こんなものは、山で落ちてくる岩石と変わらない。
ただの自然災害だ。ホムンクルスに対する戦略的価値は、ゼロに等しい。

730名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 22:36:17 ID:lL7A9ggU0
支援

731名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 22:39:02 ID:.Qy3EogM0

再び振り下ろされる拳。
先程と全く同じ軌跡を描くその攻撃を、紙一重で避け、手首に深々と刀を突き刺す。

左拳での攻撃を右拳を飛び越えることで避ける。
その際に突き刺したままの剣を体に合わせて引き、
右手首の上半分をえぐり取るように刃を動かした。

(´・ω・`) 「安らかに眠れ」

右手に力が入らなくなった化け物は、自重を支えきれず前に倒れこむ。
腕に飛び乗り首を二度、両手の剣を交互に振って大きく切った。

起き上がろうともがく間に、背中から心臓に至るまで、剣を二本とも根元まで差し込んだ。
数秒後、化け物は動きを完全に止めた。

(´・ω・`) 「……死んでるわけじゃなさそうだな」

心臓の鼓動は完全に止まっているようだが、"死"そのものではないのか、
体には温もりが消えず残っている。

(´・ω・`) 「よくわからない武器だ……」

素直な感想が口から出る。
誰かが答えてくれるわけではない。

732名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 22:43:13 ID:.Qy3EogM0

心臓を貫いたような感触は腕に残っているのに、破壊が為されたわけではない。
これが錬金術で治せるらしいが……。
恐ろしいほどに複雑な錬金術だろうな。
この時代に存在している錬金術師がこれほどのものを錬成できるとは思えない。

(´-ω-`) 「ふぅ……まぁいいか……」

これだけ騒いだのに人一人来ない。
それだけ普段から騒がしい場所なのだろうか。

もしくは誰も近づきたくないだけかもしれないが。
そもそもこいつを倒されることは想定されてないだろう。

傷だらけの鋼鉄の扉は、やはり反対側から抑えられていた。

(´・ω・`) 「これは……錬金術か」

青色砥粉を使用しても、おそらく弾かれるであろう程の硬度。
錬金術でなければこのようなものは作れない。

(´・ω・`) 「さて、どうするか……」

来た道を除けば、この部屋にある出入り口は鉄の扉だけ。
無理やりこじ開けることもできないわけではないが、相当な時間かかりそうだ。

733名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 22:44:35 ID:.Qy3EogM0

ここに来るまでに分かれ道はひとつもなかった。
最初の地下広間まで戻るか、別の道を探すかのどちらか。
確実なのは地下広間まで戻る選択肢だろうが……。

(´・ω・`) 「ん……?」

ふと、部屋の構造が気になった。
何かが引っかかる。
部屋自体は化け物がある程度暴れられるように、決して狭くない。

食事は……?

排泄は……?

そうだ。部屋があまりにも綺麗すぎる。
いや……傷やひびや汚れはあちこちについている。だが、生活痕が無い。
化け物であっても素体が人間であれば、最低限の食事や排泄は必要だ。

それに……どうやってこの巨体をこの場所に閉じ込めた……?

壁の強度も、扉ほどではないにせよ相当なものだ。
僕が通ってきた木製の扉は破壊されたが、その枠は小さなヒビが入るだけにとどまっている。
鋼鉄の扉も、半壊している扉も、どちらも化け物が通るには明らかに小さすぎる。
この巨体は、それら以外の場所から運ばれた……。

734名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 22:47:15 ID:.Qy3EogM0


(´・ω・`) 「上か……」


違和感を感じたのは部屋の広さ。
四方の幅に比べて、天井がずっと高い。
それに、足元が若干傾いていることに気づいた。

鋼の剣に青色砥粉を振り、高く放り投げる。
甲高い音がして、恐らくは隠蔽用の錬金術が壊れた。


現れたのは格子の填められた大きな窓。
あそこから"餌"が投げ入れられ、水を流すことで汚れを落としていたのか。
となると今まで歩いてきた場所はかなり汚かったわけか…………。

まぁいい。

この化け物は上の窓から落とされた。
つまり上の部屋はどこか別の場所に通じているわけだ。

問題はどうやって上まで登るか……か。

735名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 22:53:00 ID:.Qy3EogM0

ジャンプした程度じゃ到底届かないし、持っているもので使えそうなのは細い糸くらいか。

(´・ω・`) 「あー……」

あまりよくない方法を思いついた。
だけど躊躇っている時間がもったいない。

横に倒れたままの化け物の肩の骨を一つ切り落とす。
真ん中に穴をあけたそれを糸に結び、

(´・ω・`) 「よっと」

天井の格子に向かって投げ、三回目でひっかけることに成功した。
軽く引っ張ると、鉄格子が外れ、梯子が下りてくる。

(;´・ω・`) 「ふぅ…………」

梯子を登ってきたのは殺風景な小部屋。
武骨な木製の扉があるだけだ。
天井までは随分高かったが、今はどのくらいの高さだろうか。
登りきったところで、休憩をしようと、腰を下ろした瞬間、目の前の扉が開いた。


「飯を持ってき……誰だっ!?」

(;´・ω・`) 「っ!」

脱力していたせいで、動作が遅れる。
腰に下げた剣を抜く前に、首元に冷たい金属が当たっていた。

736名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 22:56:34 ID:.Qy3EogM0

鍔は細かい銀の装飾がなされ、よく手入れされている。
城内ではそれなりの階級の人間だろう。

なにより狂戦士化していないということがその証明だ。

「何者だ?どうしてここにいる……モール殺したのは……お前か?」

下で倒れている化け物のことを言っているのだろう。
青年の顔から血の気が引いていく。

(´・ω・`) 「あれはなんだ……」

「あれじゃない……モールって名前があった」

(#´・ω・`) 「名前? あんな化け物を閉じ込めてペットにでもしたつもりか!
        あれの元になったのは人間だぞ!」

「知ってるさ! ……知ってる。どこからか連れてこられた子供だった……・。
 だから、こうして誰も与えたがらない食事を持ってきてるんだろうが。
 いや……そんなことはお前に関係ない。お前は一体誰だ? なぜここにいる?」

心臓が止まったかと思った。
それとは逆に、全身は一際強くなった血流を感じる。

737名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 22:58:18 ID:.Qy3EogM0

(;´・ω・`) 「子供の名前は?」

「は?」

(#´・ω・`) 「下の化け物になった子供の名前を聞いている」

「知らん……質問しているのは俺の方だ」

喉元に押しつけられた刃に、少し力が入ったのを感じる。
正直、切られるのは別にかまわないが……。

(´-ω-`) 「……錬金術師のショボンだ」

「ショボン……悪いが牢まで来てもらう。先程も鼠が入り込んだようだからな。
 今この国は戦争中だ。盗みに入るのにはタイミングが悪かったな」

(´-ω-`) 「……知ってるよ」

「なっ?」

僅かに切っ先が緩んだ刀を右手で掴み、思いっきり引く。
青年はバランスを崩し、僕の指先から血が飛び散った。

(´・ω・`) 「君の主のところまで案内してくれるか?」

738名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 23:03:21 ID:.Qy3EogM0

立場は逆転した。
前のめりになって両手をついている青年に、
左手で抜いた僕の剣が当たる。


「ッ…………」

(´・ω・`) 「君に用はない。が、城の中が全く分からなくて苦心していたところなんだ」

「断る。賊に教えることはない」

下にいる怪物の存在が僕に倒されたことを知っていても、頷かないか。
若者にしては見上げた忠誠心だ。

(´・ω・`) 「君を殺すことに躊躇いはない。玉座への道を教えろと言っている」

冷酷に聞こえるように、可能な限り冷めた目で青年を見つめる。
殺すつもりなど毛頭ないけれど、こうでも言わなければ言うことはきかないだろう。

「………………せ」

(´・ω・`) 「なに?」

「殺すなら殺せ。俺はセント領主様に忠誠を誓った。あの人が今何をしているかは知っている。
 知っているが、それがどんな事であろうと俺は領主様についていくだけだ」

739名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 23:07:50 ID:.Qy3EogM0

(´・ω・`) 「……………」

(´-ω-`) 「はぁ………わかった。もういい。君には聞かない」

ここまで脅しても無駄なら、もうやめだ。
自力で玉座を探しても、そこまで大した手間にはならないだろう。
殺意を収めて剣を鞘にしまった。

腰が抜けたのか、青年は口を開けたまま放心状態になっている。

(´・ω・`) 「どいてくれ」

声をかけたことで立ち直ったのか、青年は、僕を睨みつけ扉を背にしたまま動かない。
僕の指の怪我が治っていることにはまだ気づいていないのか、
それともただ強情なだけの馬鹿なのか。


僕に剣を向けたまま動かない。

740名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 23:11:05 ID:.Qy3EogM0


「行かせるわけにはいかな(#´・ω・`) 「黙れ」

(´・ω・`) 「君がセント領主のことをどう思おうが関係ない。
       重要なのはセント領主家が錬金術を悪用して、戦争を始めたということだけだ」

「それがどうし……」

(´・ω・`) 「君たちのやっている研究は危険すぎるんだよ。
       無茶な実験で自分達だけ勝手に滅びるんなら、残念だとは思うけど手出しはしない。
       他国を攻め、赤の他人を犠牲にし、無関係の人間を殺す。
       それは許せない」

「許せない?神になったつもりかよ!」


ゆっくりと右手を開いて見せた。
刀身を握って、引っ張った手を。
それは、傷つき、血が流れているはずの手。


「!」


(´・ω・`) 「確かに僕は神じゃない。僕にこの戦争を止める権利はないかもしれない。
       だけど、僕の意思で止めに来た。
       君達に捕まった知り合いのために、多くの人が暮らすこの地方の人のために」

741名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 23:13:43 ID:.Qy3EogM0

「化け……物……」

(´・ω・`) 「久しぶりに言われて実感したよ。どんなに似ていても、やっぱり僕は人間じゃない。
       だけど……いや、だからこそ、人間を守りたいと思うんだよ……かけがえのない命をね……。
       どいてくれるか?」

青年にもう抵抗する気力は残っていないようだった。
腰を落として屈み、俯いたまま動かない。

それは"肯定"ではないだろう。
だからと言って通るのを躊躇ったりはしない。

(´・ω・`) 「……セント領主だって、できれば殺したくはない。
       何事もないまま話が終わることを望んでいるよ」

間違いなくそう簡単には終わらないだろうが、せめてもの慰めの言葉として置いていく。

(´・ω・`) (…………ふぅ)

扉の先は同じような部屋。
ただし、その部屋の床に格子は無かったが。

狭く曲がった廊下といくつかの扉を通って、僕は現在地をやっと理解した。
先程まで騒がしかったはずの城内は、いつの間にか不気味なほど静まりかえっている。

742名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 23:16:09 ID:.Qy3EogM0


────────── エントランス。


巨大なシャンデリアに飾られた豪華な場所──だったのだろう。


趣味の悪い白銀の鎧が無数に並ぶ大広間には、
まるで台風が過ぎ去ったあとかのように荒れていた。

いくつかの鎧は無残に溶け、砕けたまま放置されている。
高級そうな真っ赤な絨毯は所々破れ、散らばっていた。

僕が出てきたのはエントランスに繋がる二階通路の一番端、
扉は大きな絵で覆われていて、こちら側に至る道を隠していた。

(´・ω・`) (ブーンか……)

鎧の溶け方は尋常じゃない。
これだけの破壊を容易く行うことができるのは、ブーンの長槍くらいだろう。

なぜか敵の姿はなく、人の気配すら感じない。
人通りの多いエントランスを無人にして、
なおかつ罠を仕掛けるメリットは少ないが……。

僕らの襲撃が想定外のものだったとしても、
ブーンが見つかった後ですら警戒されていないのはおかしい。

743名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 23:19:19 ID:.Qy3EogM0


エントランスから二階に伸びた幅広の階段は三叉にわかれている。
二つはこの二階の両側に、一番大きな真ん中の一つは三階へ。

そこにある両開き扉は、金属製で派手な彫刻に飾られている。
あれだけの鋼鉄を加工するには相当の技術がいるはずだが、
セント領主家が製鉄技術に優れているという話は聞いていない。

それならば、錬金術で加工したものだろう。

なにか仕掛けがあると考えた方がいいだろうな。

覚悟を決めて、二階から階段を中央に向かう。
三階へあがるための一歩目を踏み出した時、部屋の中で一つの音がなった。




そちらに振り向いたときにはもう、遅かった。


飛んできた"何か"が僕の腹を貫き、縫い付けるかのごとく階段に突き刺っていた。

744名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 23:23:22 ID:.Qy3EogM0



(メ;´・ω・`) 「ぐうぅぅうぅ…………」



「来ると思ってたぜぇ、ショボン。ブーンくんには逃げられちまったけどな」


無理に体をひねって声の方に向く。
腹の傷は拡がったそばから回復する。
真後ろ、一階のど真ん中にジョルジュは立っていた。

(;´・ω・`) 「なっ……!?」

隠れる場所など何一つなかったし、人の気配は感じなかった。
錬金術を用いて隠れていたのなら、少しはそれを感じてもおかしくないはずだ。
  _
( ゚∀゚) 「驚いてるな。待ってたかいがあったぜ」

クールの前で会った時とは違う。
明らかに戦闘用の装備で固めていた。

返り血だろうか。
黒ずんだぼろ布のようなローブを被り、投擲用の細い槍が彼の周りに突き刺さっている。
僕の腹を貫いているのと全く同じものだ。

745名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 23:25:40 ID:.Qy3EogM0


青色砥粉を振った剣で、槍の真ん中を切り落とし磔から抜け出す。
ジョルジュは邪魔をすることなく、ただ見ていただけだった。

(´・ω・`) 「どうして人間を庇う?」

ジョルジュにとって人間はただの研究対象でしかなかったはずだ。
少なくとも僕らと別れるまでは。
あれから数えられないほどの年月が過ぎたが、それがジョルジュを変えたとは思えない。

だから問うた。
重要なことでないのならわざわざ隠しはしない、と思う。
  _
( ゚∀゚) 「ちょっとした時間稼ぎだよ。頼まれたんでな」

(´・ω・`) 「は?」
  _
( ゚∀゚) 「もうすぐなんだと。オレの目標はある程度達成されてる。
      錬金術師の爺の目的が終わったら、オレがこの地の問題は全部綺麗に片づける。
      それでいいじゃねぇか」

746名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 23:29:46 ID:.Qy3EogM0

(´・ω・`) 「……お前の言う"片づける"の意味は、僕の考えとは真逆だと思うが?」
  _
( ゚∀゚) 「そうだろうな、人間嫌いのオレと人間好きのショボンじゃあ、
      何をやっても結果は逆になるだろうさ」

つまり、ジョルジュはこう言いたいわけだ。
"研究が終われば、この地を滅ぼす"と。

(´・ω・`) 「黙って見過ごすわけにはいかないのは、言わなくてもわかるだろ?」
  _
( ゚∀゚) 「…………まぁ、そうなるか。いいよ、昔の恨みもあるし、無理やり黙らせるまで……よっ!」

言葉の終わりと同時に、槍の一本を地面から抜くジョルジュ。
投げられた槍の速度は、想像の範疇から外れていた。

(;´・ω・`) 「っ!」

なんとか飛来した槍を跳ね上げる。
槍は天井に突き刺さったまま、落ちてこない。
  _
( ゚∀゚) 「最軽量の金属で作った投げ槍だ。反応できさえすれば弾かれちまうのは問題だがな」

(;´・ω・`) 「鍛冶錬金術は……そんなに簡単なもんじゃないだろ……」

747名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 23:35:35 ID:.Qy3EogM0
  _
( ゚∀゚) 「ショボンも持ってるじゃねぇか。腰のそれ、だろ?
      どっちの技術が上か試してみるか?」

僕のはただの借り物であって、理論の欠片も知らないんだがな。
他に鍛冶錬金術を使ってる人間は一人しか見たことが無いし、
ハートクラフトの腕前が全体でどれほどなのかはわからない。

これだってどれほどの効果があるのか……。
だけど今はこれに頼るしかない。
  _
( ゚∀゚) 「いくぜっ」

一気に距離を詰めてきたジョルジュの武器は、赤と青で対照的な装飾をされたダガーナイフ。
形こそ一般的なものと大差ないが、先ほどの自信から、
相当な効果を有しているであろうことは想像に難くない。

(;´・ω・`) 「っ!」

クールから預かった双剣を抜く。
青色砥粉は戦闘中に幾度も使うことはできないし、
双剣はホムンクルスにも一定の効果があることは間違いない。

748名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 23:37:23 ID:.Qy3EogM0

初撃でジョルジュの右ダガーと僕の左剣が交差した。
ぶつけた側はそのままに逆の手を振りおろす。

三、四、五回と剣戟が続く。
質量で勝っているはずにも拘らず、同じように弾かれる。
  _
( ゚∀゚) 「このくらいで驚くなよ。見た目以上に重いんだぜ」


一瞬の後に交差した剣。
僕の右剣はジョルジュの頬を裂き、ダガーは僕の腕を掠った。

(メ´・ω・`) 「!?」

切られた右手の異常な痛みに、思わず数歩飛び下がる。
電気で痺れかたように、指が動かない。
ジョルジュは槍の刺さっている場所にまで戻っていた。
  _
( ゚∀゚) 「面白ぇだろ?」

腕の傷は紫色に変化していた。
まるで凍傷でも起こしたかのように。

斬られたのは青色のダガーか……。

(´・ω・`) 「冷凍剣とでも言えばいいのか?」
  _
( ゚∀゚) 「名前はつけてねぇよ。まぁそういうこった」

749名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 23:38:34 ID:.Qy3EogM0

つまり反対側の左手に持っている赤のダガーの効能は、熱か。
ブーンの"溶解する槍"のように速度や質量を使っているようには見えない。

ということは、ダガー自体に氷と炎の力が内蔵されている可能性が高いな。

(´・ω・`) 「器用な武器だな」
  _
( ゚∀゚) 「そっちもな。ショボンのそれ、欲しいぜ。再生力を削り取る剣か。
      それは俺にはまだ作れねぇな……」

回復がわずかに遅い頬の傷を抑えながら言った。
とはいえ、数秒もすれば跡形もなくなる。

武器の性能ではこちらの方が優秀のようだが……。
  _
( ゚∀゚) 「ほっ! とっ!」

間をあければ、二本、三本の槍が連続して飛んでくる。
右手、左手と順に使って弾く。

750名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 23:41:39 ID:.Qy3EogM0

(;´・ω・`) 「くそっ」

腰に結んだ小型のナイフが唯一の投擲武器だが、確実に当てる自信はない。
だが、この武器では致命傷を与えることはできない。
  _
( ゚∀゚) 「こいつも改良の余地ありだな」

最後の一本をジョルジュが構えた。
一か八か。

(´・ω・`) 「ふっ!」 

両手の双剣をその場に突き刺し、十枚の小型のナイフを投げた。
ジョルジュの槍に三枚のナイフが弾かれ、一枚だけが腕に突き刺さった。
残りはバラバラの方向に飛んでいく。
慣れない投擲は、しかしおもったよりうまくいった。

  _
( ゚∀゚) 「普通のナイフ……じゃねぇけど……毒でもない……か。
      一体何のつもりだったんだ?」

(メ´ ω・`) 「ごほっ……」 

こんな短期間で二回も串刺しにされるとはね。
だけど…………。

751名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 23:42:53 ID:.Qy3EogM0
  _
( ゚∀゚) 「さっきの光る粉も見せてほしいんだ。もっかい使ってくれよ」

たった数度剣を交わしただけでわかった。

僕らの勝負はつきそうにない。
それはジョルジュもよくわかっていたようだ。

かといって、説得でジョルジュが諦める可能性は当然ゼロだ。。
  _
( ゚∀゚) 「もう諦めたのか?」

(´・ω・`) 「僕は扉の向こうに通してもらわないと困るんだ」
  _
( ゚∀゚) 「それなら、全てが終わるまで戦い続けるか。
      それもまた面白ぇかもな」

(´・ω・`) 「…………」
  _
( ゚∀゚) 「お互いに手詰まりだな。ま、オレは膠着状態の方が望ましいが……。
      あぁ、心配しなくていい。別に部下を集めようなんて思っちゃいねぇ。
      あいつらには、ここには来るなと、くぎを刺しておいたからな」

752名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 23:44:06 ID:.Qy3EogM0

(´・ω・`) 「お気づかいどうも」
  _
( ゚∀゚) 「ただこうして立ってるだけじゃ暇だな。昔の話でもしようか
      俺がお前に捨てられた後の話だ、ショボン」

唐突にジョルジュは話し始めた。
本当にただの暇つぶしかもしれないし、僕に言いたいことがあったのかもしれない。
ダガーは両の手に握ったまま、警戒を緩めた様子はない。
  _
( ゚∀゚) 「オレが捨たれたという事実にはすぐ気付いたさ。
      帰った家には人の声もなく、温かさの欠片すらなかった。
      いずれこうなるであろうことは予想してたが、それよりは早かったな。
      体も頭も大人そのものだ。一人で生きていくのに不便なことはそうなかったぜ」

(´・ω・`) 「ペラペラしゃべってると舌をかむぞ」

  _
( ゚∀゚) 「何を言って……!」

音も立てずに天井から落ちてきたのは、巨大なガラスの塊。
シャンデリアと呼ばれる吊り下げ型の照明器具。
  _
(  ∀ ) 「ぎっ……」

それがジョルジュを頭から押しつぶし、意識を奪う。
全身の骨が砕かれ、真っ赤な血液と肉片が飛び散る。

が、それも一瞬ですぐにジョルジュの体は再生を始める。
無残に破壊された人体が再生するのを見るのは、気持ちいものではないな。

753名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 23:46:40 ID:.Qy3EogM0


ジョルジュの握っていた青いダガーを脊髄に叩き込んで、楔のように地面に打ち込んだ。
それはいとも容易く喉を貫通し、刀身が床にまで達する。

(´・ω・`) 「しばらくそのままでいてもらうよ」

これですぐには動けない。
再生しようにも、ダガーの冷凍能力がそれを阻害する。

能力の原理はわからないが、温度を奪う"何か"がダガーに用いられているに違いない。
それが反応しなくなるまで、……どのくらいかかるかわからないが、時間稼ぎにはなる。

(´・ω・`) 「さて、行くか」

幅広の階段を三階まで真っ直ぐ登る。
鉄の扉は、押すだけで簡単に開いた。

大きな音を立てて、ゆっくりと動く。
城内にいる兵士達は、まだ現れない。

それがジョルジュのせいなのか、それとも他に理由があってなのかは分からないが。


「ああ、やっぱりきたか。ジョルジュから話は聞いていたよ」

754名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 23:49:38 ID:.Qy3EogM0


大部屋は玉座までの赤い絨毯があるだけの質素なもの。
金銀宝石の装飾は一つもなく、武器を携えた兵士もいない。
そこには狂戦士達の姿も見えなかった。

たった二人。

寂れた玉座に腰掛け、ローブを目深に被った男と

薄汚れたローブを着た錬金術師の男。

明かりの落ちた部屋で、僕は二人に出迎えられた。
まるで、旧友に対するそれのように。

僕が何をしに来たか、それを知らないはずなどない。
稲光が不気味に部屋を照らす。

数秒の後に爆音。
静かな王室を揺るがすかのように響く。





天気は……ついに崩れたようだ。

755名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 23:52:35 ID:.Qy3EogM0

(’e’) 「お久しぶりですね、ホムンクルスの青年」

そんなことはまるで意に介さないかのように、かつて見た錬金術師の男は言った。
その男が片手をあげると、玉座の間の入り口が上から降りてきた鉄格子で閉ざされた。

(´・ω・`) 「僕が来るのはわかってたと?」

逃げ道はふさがれたが、ほかに仕掛けがあるようにも思えない。
少なくとも、この部屋の中には。

(’e’) 「ジョルジュという錬金術師も意外と使えませんね
     あれほど大見得を切って出て行ったのに。
      ……まぁいいでしょう、十分な研究結果は得ることができました」

(´・ω・`) 「話し合いで解決できるとは思っていないが……。
        ……軍を撤退させろ。錬金術による人体強化の研究もやめてもらおう」

(’e’) 「あなた自身がわかっているようですが、それにこたえるつもりはありませんよ。
     我々の研究は既に佳境に入っています。
     錬金術による究極の生物を作り出すという、ね」

756名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 23:53:32 ID:.Qy3EogM0

(´・ω・`) (究極の生物……?)

何らかの違和感を感じる。
なぜジョルジュは兵を使わなかった……?
時間稼ぎをするならば、自らが相手するよりもずっと効率がいい。

究極の生物。
ジョルジュは本当にそんなものを目指していただろうか。

(´・ω・`) 「話が見えないな」

(’e’) 「これから死ぬあなたには関係の無い話です。
     ですが、そうですね。私達の当初の目的はホムンクルスを作り出すことでした。
     この案を持ってきたのはジョルジュと言う錬金術師。およそ30年ほど前のことでしょうか。

三十年前か……。
僕がまだ南方にいたころだ。

757名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 23:55:05 ID:.Qy3EogM0

(’e’) 「ジョルジュは未だホムンクルスに拘っているようですが、
     私たちは早々に見切りをつけました。不老不死は……あまりにも遠すぎました」

(´・ω・`) 「そうだろうな。ホムンクルスがそんな簡単に生み出せるわけが無い」

(’e’) 「……あなたに言われるとなんとも憤りを感じますが……まぁいいでしょう。
     後でゆっくりと聞かせてもらいます」



何の能力もない普通の剣を鞘から抜き、構える。
今はジョルジュのことなど関係ない。

目の前の相手を何とかするのが先だ。

(’e’) 「ふふふ……ホムンクルスは記憶力が弱いのですか?」

男が取り出したのは液体の入った小瓶。
黒い靄がその中でゆらゆらと揺れている。

(´・ω・`) 「……」

758名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 23:56:44 ID:.Qy3EogM0

(’e’) 「あなたが以前受けた薬を改良したものです。
     その効果は身をもって体感していただきましょう」

指の間からするりと落ちた小瓶は、小さな音を立てて割れた。
黒い靄は空気と反応したのか、白い霧のようになって玉座の間を一瞬で埋め尽くす。
錬金術師の男も、玉座に座っていたローブの男も、見えなくなった。

(;´・ω・`) 「っ!」

咄嗟に両眼を覆う。
だが、その行動には意味が無かった。

(’e’) 「前回は液体でしたから、直接相手の眼球に作用させる必要がありました。
     ですが、今回は気体ですから防ぐことはできません」

向こうからはこちらの姿は見えているのだろうか。

(;´-ω-`) 「そう、みたい、だな……」

(’e’) 「ふふふ……強がっていられるのも今のうちです。
    前回のように上下左右反転させるような遊びではありません。
    あなたのもがき苦しむさまが見えないのは残念ですがね」

確かにその通りだった。
世界が、吐き気を催すほどにうねっている。

759名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 23:58:37 ID:.Qy3EogM0

(;´・ω-`) 「うぐぐ……」

いびつな迷路に迷い込んだような視界と、頭の中を直接混ぜられるかのような頭痛。
煙の向こうから男の声がくぐもって聞こえる。

(’e’) 「っと、ホムンクルスの再生力を甘く見てはいけませんね。
    すぐにとどめを刺してあげましょう」


足音がゆっくりと近づいてくる。
相手からは僕の姿が完璧にとらえられていない。
それなら……


(´ ω `) 「……考えていたさ」

(’e’) 「は?」

(´-ω・`) 「ホムンクルスである僕を封じ込める方法を考えているだろうことは。
       それが五感を揺るがすものであるだろうということは」

760名も無きAAのようです:2014/08/23(土) 00:03:12 ID:rx7LRW/M0

(’e’) 「……強がりを! 現にあなたは何も対策が打ててはいないではないですか!」

五感に作用する錬金術は強力だ。
それぞれに影響を与える方法は無数にあり、生半可な対策では意味が無い。
なおかつ、攻撃を受けた後に対処することは不可能に近い。

逆に自らの術に対する防御は容易い。
この錬金術師も、座して待つ男も、なんらかの対抗手段を用いているはずだ。

(´・ω・`) 「だけど簡単だ。本当に簡単なことなんだ」

(;’e’) 「うっ!???」

男がうめき声をあげる。
どうやらうまくいったらしい。

知識において錬金術師が、いやホムンクルスが劣ることなどありえない。
無数にある原因に対処することよりも、なお簡易な手段。
より強力な効果で上書きしてしまうこと。

(´・ω・`) 「……夢宿り木の白液果。あなたも錬金術師の端くれなら、知っているんじゃないか。
       強力な睡眠作用を持つこの素材は、
       特定の条件で摂取することで非常に強力な、精神や神経の働きを落ち着ける薬にもなる」

761名も無きAAのようです:2014/08/23(土) 00:08:22 ID:rx7LRW/M0


即ちそれは、多量の塩分と同時摂取すること。
城の地下で見つけた食糧庫には、大量の保存食が蓄えられていた。
その中にはもちろん、人間の生活に最も重要な塩もあった。

(;’e’) 「いつの間に……」

(´・ω・`) 「自分達が影響を受けないのなら、視界をふさいでしまったのは明らかな失敗だな。
       そして、今、あなたの首に巻きついているのは、ただの糸じゃない」

視界が正常に落ち着いてすぐ、僕は矢を射た。
一本目の矢に結び付けられている糸は、地面に垂らしたままにしておく。
部屋全体に蔓延する煙で、男の目は足元にむかない。

そして、錬金術師が糸を踏み越えたのを確認して、二の矢を男の左奥、天井に向けて放つ。
二つ目の矢に糸は固定せず、穴に通しておくだけでよかった。
手元に残った糸を引けば、即席の首吊り仕掛けになる。

(;’e’) 「はっ……はぁっ……い……息が……」

(´・ω・`) 「このまま強く引けば、あなたの首を落とすことも容易い」

(;’e’) 「た、頼む……たす……け」

(´・ω・`) 「自分勝手に多くの人の命を奪い、これからも同じようにしようとしている。
       そんな男を野放しにしておくほど、僕は楽観主義じゃあない」

762名も無きAAのようです:2014/08/23(土) 00:09:32 ID:rx7LRW/M0

ほんの少し、指の力を強めた。
首を吊るされた錬金術師は、すぐに意識を失った。

その時はじめて、玉座に座った男が口を開いたように思う。
もしかしたら、ずっと前からつぶやいていたのかもしれないが、
少なくとも、内容がはっきりと聞き取れたのはその時が最初だった。


「無事……私の……息子……彼は……あれは……元気……無事……」


一つ一つの言葉を、ゆっくりと吐き出していく。
その羅列から、その男が誰なのかがすぐに察しがついた。

(´・ω・`) 「モララルドの……父君ですか?」

「モララルド……元気……モララル、ド……そう……モラ……」

会話は成立しない。
彼は、ただ、人の存在を感じて言葉を紡いでるだけだった。

763名も無きAAのようです:2014/08/23(土) 00:10:14 ID:rx7LRW/M0

(´・ω・`) 「……帰りましょう、モララルドが心配しています」

肩にそっと手をかけた瞬間



(´・ω・`) 「…………え?」



その男は、真っ赤な血の塊を吐き出し、それ以上何かを口にすることはなかった。
ゆっくりと、人形が倒れるかのように、椅子から転がり落ちる。


真っ赤な血に汚れた僕は、聞き慣れた声に名前を呼ばれて振り返る。
部屋の入り口、その鉄格子の向こうに十三代目らしき女性を背負ったブーンがいた。

そして、僕のすぐ後ろに一人立っていたのは、少年。

764名も無きAAのようです:2014/08/23(土) 00:12:14 ID:rx7LRW/M0


(;・ー・) 「…………父……さ……ん……?」


問いかけに答えるものはいない。


(; ー ) 「…………」


少年は、ゆっくりと歩み寄る。
最後にあった時から変わり果てているであろう、父の骸に。

765名も無きAAのようです:2014/08/23(土) 00:13:33 ID:rx7LRW/M0








(#^ω^) 「ショボン!! 後ろだお!!!!」



ブーンの叫び声で現実に引き戻される。
だが、遅かった。


意識を取り戻した錬金術師の持った刀が、僕を貫いていた。
腹から、喉まで、引き裂かれる。

回復を待ってはくれない。
膝をついた僕は、襟を捕まれはるか後方へと投げられたのだろう。

全身に激しい衝撃を受け、窓ガラスを枠ごと破壊しながら。
身体が止まったのは、バルコニーの欄干にぶつかったからか。

(´ ω `)  「ぐ……ふっ……」

766名も無きAAのようです:2014/08/23(土) 00:18:42 ID:rx7LRW/M0


(’e’) 「おお、なんと非常な。罪のない男を殺すなど」



……何を言っている?


(’e’) 「やはりホムンクルス。人間とは異なる化け物。
     退治せねばなるまい」



……僕は何もしていない

反論をしようにも、引き裂かれた喉から息が漏れるだけだった。
冷たい雨が、体の芯まで染み込んでくる。


(’e’) 「捉えるのはあっちのトロそうなほうだけでいいか。
     いざとなればジョルジュを利用しても構わないしな」


(’e’) 「さらばだ、ホムンクルスよ」



視界が真っ白に染まり、世界を揺らすような雷鳴が轟いた。
身体は浮遊感を得て、意識は遠ざかっていく。





宙に投げ出された僕が最後に見たのは、光なき双眸で冷たく見下ろしている少年の姿だった。

767名も無きAAのようです:2014/08/23(土) 00:19:57 ID:rx7LRW/M0











15 ホムンクルスと城郭の結末  End

768名も無きAAのようです:2014/08/23(土) 00:21:49 ID:rx7LRW/M0
>>2   1 ホムンクルスは戦うようです
>>29  2 ホムンクルスは稼ぐようです
>>65  3 ホムンクルスは抗うようです
>>93  4 ホムンクルスは救うようです
>>118 5 ホムンクルスは治すようです
>>148 6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです
>>183 7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです
>>245 8 ホムンクルスと少女のようです
>>284 9 ホムンクルスは迷うようです
>>334 10 ホムンクルスと動乱の徴候
>>393 11 ホムンクルスと幽居の聚落
>>456 12 ホムンクルスと異質の傭兵
>>525 13 ホムンクルスと同盟の条件
>>595 14 ホムンクルスと深夜の邂逅

>>678 15 ホムンクルスと城郭の結末


【時系列】

ホムンクルス生誕
   ↑
   ↓
6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです
7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです   
8 ホムンクルスと少女のようです
   ↑
   |
   |
   ↓
1 ホムンクルスは戦うようです
   │
2 ホムンクルスは稼ぐようです
   │
3 ホムンクルスは抗うようです
   │
4 ホムンクルスは救うようです
   │
5 ホムンクルスは治すようです
   │
9 ホムンクルスは迷うようです
    |
10 ホムンクルスと動乱の徴候
11 ホムンクルスと幽居の聚落
12 ホムンクルスと異質の傭兵
13 ホムンクルスと同盟の条件
14 ホムンクルスと深夜の邂逅
15 ホムンクルスと城郭の結末

769名も無きAAのようです:2014/08/23(土) 00:25:22 ID:BVPFpfa.0
乙!!相変わらず引き込まれる文章です!!

770名も無きAAのようです:2014/08/23(土) 00:27:12 ID:j0WPNEpE0

どうなるんだこれ…

771名も無きAAのようです:2014/08/23(土) 01:18:19 ID:MfxRgF6Y0
最後の最後で…おつ

772名も無きAAのようです:2014/08/23(土) 10:14:42 ID:HDjqgDms0

これ最後の一節はショボンの主観であって
モララルドがそう思ってるとは限らないんじゃね?
ショボンの方が信頼得てるだろうし

773名も無きAAのようです:2014/08/23(土) 21:43:56 ID:rx7LRW/M0

支援・乙ありがとうございました。

何一つ連絡せずにすいませんでした。
もしよかったら、今後ともよろしくお願いします。

774名も無きAAのようです:2014/08/23(土) 22:19:43 ID:K5.hiZGEC
>>773 
読むほうは続きが読めたら幸せなんだよ、続きなるべく早くたのむよ

775名も無きAAのようです:2014/08/23(土) 22:27:45 ID:sCo1zHVA0

投下が遅くなってても待つから定期的に生存報告があると嬉しい
戻ってこないかもしれない作品を待つのが一番辛い

776名も無きAAのようです:2014/08/24(日) 00:39:44 ID:jxB7qTDw0
乙!!!
来てくれて嬉しい!!
本当に大好きなんだ!!

777名も無きAAのようです:2014/08/24(日) 01:53:02 ID:rV7iMT5A0

今日一気読みした
文章とかシナリオの構成とかうまくて引き込まれる
参考にさせてもらうわ

778名も無きAAのようです:2014/08/24(日) 14:39:04 ID:swJVGZWk0
ホムンクルスきてた!!
大好きな話!乙!

779名も無きAAのようです:2014/09/08(月) 19:53:49 ID:OSuiGLR20

四ヶ月ほどネット環境が遠ざかることになってしまい、投下が難しいかもしれません。

書き溜めと生存報告はしますので、申し訳ありませんが、再度投下できるようになるまでお待ちください。

現在
16話 執筆中1072行14400文字

780名も無きAAのようです:2014/09/08(月) 20:42:33 ID:WxTZ676U0
気長に待っとるよ

781名も無きAAのようです:2014/09/25(木) 00:18:04 ID:3.2ka6Co0
16話1400行19000字にて、ひとまず完成をしましたので、生存報告とさせていただきます。
引き続き17話の書き溜めにうつります。

お待たせして申し訳ありません。

782名も無きAAのようです:2014/09/25(木) 00:22:25 ID:oFSd591A0
ほいな

783名も無きAAのようです:2014/09/25(木) 01:59:24 ID:y.EDm9hU0
やったぁ!
楽しみに待ってます!

784名も無きAAのようです:2014/09/29(月) 07:53:18 ID:h7xZL3oE0
おい戻ってきてるじゃねえか!
今から読み直してくる

785名も無きAAのようです:2014/09/29(月) 21:15:56 ID:7IW5JCCY0
まってるよ〜

786名も無きAAのようです:2014/09/30(火) 13:17:16 ID:ZL/2telg0
待ってる待ってる待ってる

787名も無きAAのようです:2014/10/14(火) 00:21:08 ID:P99Nyo860
他ツールにて書き溜め進行度を報告していますが、一応こちらにも。
16話 完成
17話 85% 推敲と、AA貼り付けのみ
18話 60% 本文書き溜め中

皆さんの書き込みを見るたびにモチベがあがります。ありがとうございます。今回も書き溜めの報告しかできずにすいません。

788名も無きAAのようです:2014/10/14(火) 01:15:01 ID:1cLgXU6g0
こっちもwktkが高まっていくんだぜ
楽しみにしてる

789名も無きAAのようです:2014/10/21(火) 22:54:54 ID:hD3HUJtQO
面白い
まとめで読んだけど時系列がいまいち分かりにくいなぁと思ってたら、本スレにはちゃんとあったのねww
次も期待

790名も無きAAのようです:2014/11/20(木) 23:38:49 ID:OsGm64BI0
16話 完成
17話 完成
18話 85%
19話 85%
20話 70%

進捗具合です。
今回も生存報告のみで申し訳ない。
投下まで後一ヶ月ほどお待ちください……。

791名も無きAAのようです:2014/11/20(木) 23:40:17 ID:VqV4W5z.0
何か月でも待つぜ
その分楽しみが増える

792名も無きAAのようです:2014/11/21(金) 16:52:35 ID:3J98GqIA0
じゃあ俺は何年でも待とう

793名も無きAAのようです:2014/12/02(火) 21:04:10 ID:5Ahnj.xwO
ならば某は命在る限り待とうぞ

794名も無きAAのようです:2014/12/04(木) 13:18:14 ID:Com3ttc60
複数話同時進行させるんだね
そうしたほうが展開とか意識できるのかな
効率良さそう

795名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 20:12:00 ID:C56dhqLk0
>>794
時間的余裕があるときだけですけどね。時系列や伏線、ストーリーを把握する上では効率がいいのですが……
正直、いつまでたっても完成しないのでしんどくなってきます。

796名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 20:12:57 ID:HCxd0eRM0
ファイ

797名も無きAAのようです:2015/01/15(木) 23:10:58 ID:UkXuhbLU0
宣言の日からさらに約一月ほど経過していて申し訳ない。

16〜21話まで(各40〜50レス)ほとんどできているので、
痕は細かい調整と加筆訂正を加えたらおしまいです。

来月くらいから順次投下していけると思いますので、よろしくお願いします。
細かい日程等は完成後また報告しにまいります。

それでは、また後ほど。

798名も無きAAのようです:2015/01/15(木) 23:28:22 ID:yiF13zpM0
待つ!

799名も無きAAのようです:2015/01/16(金) 07:08:53 ID:UQXL/1860
待つわよ!

800名も無きAAのようです:2015/01/26(月) 00:06:07 ID:NjEjwmfQ0

18話 ホムンクルスは試すようです

19話〜21話 戦争編 【後編】

体力に余裕があれば、一日二話以上投下しようと思いますので、よろしくお願いします。


2月1日 から、順次投下開始!

801名も無きAAのようです:2015/01/26(月) 00:07:20 ID:NjEjwmfQ0

おっと、話数のミスなので、一応訂正

16話 ホムンクルスは試すようです
17話〜21話 戦争編 【後編です】

すいません

802名も無きAAのようです:2015/01/26(月) 01:15:39 ID:VA59zZPg0
わっふる!!

803名も無きAAのようです:2015/01/26(月) 01:56:03 ID:fQk3VuFw0
ktkr

804名も無きAAのようです:2015/01/26(月) 21:31:55 ID:3lrlOkN6O
もうすぐか
久しぶりに1話から読み直しておこうかね

805名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 13:03:58 ID:r7qD9sG60












16 ホムンクルスは試すようです

806名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 13:05:49 ID:r7qD9sG60

旅の途中にあった酒場で静かに飲んでいたら、隣の話し声が聞こえてきた。
周りを警戒してか、かすれるような小さな声に、僕はつい耳を澄ます。



古代錬金術の遺産が発掘された、と。



男は確かにそう言った。


錬金術師の間では、もはや一種の神話となっている古代錬金術。

海を渡り、山を越え、複数の地域に跨がり発見されるそれらは、
現代錬金術では、到底再現できないものばかり。

それらは僕が生まれた時代、つまり現在史実として残っている錬金術の最初期と思われる頃よりも、
なお古い時代に作られていたのではないかと考えられている。
出土する時代、錬成された物質の効果は様々でありながら、必ず一つの共通点があった。

807名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 13:07:48 ID:r7qD9sG60

石で作られた匣に入っていること。
今まで見つけられた匣の数は知らないが、いくつかは錬金術師の集落にある大罪館で保管されている。
ワタナベクスの許可がなければ鍵の解除に取り組むことすらできない。

故に、術師の間で話に上がる古代錬金術の物質は、個人で解錠されたものだけだ。
僕の記憶にあるもので、たった二つ。噂で聞いたことがあるものをあわせても、二桁にはならない。

それほど貴重なものであるからして、隠し持っている術師もいるだろう。

酒場には仕事を終わらせて帰ってきた者たちが、浴びるように酒をあおっていた。
葡萄酒、ラム酒、ビール。アルコールは一様にして体の疲れを忘れさせてくれる。
酔っ払いの声に紛れるようにして、男達は続ける。

「俺の生まれではな、ずっと前から奇妙な噂があった」

「喋る猫の話か?」

「ああそうだ。人間の言葉を理解する猫は財宝への道案内をしてくれる。
 お前らには何度か話をしたことがあったな」

808名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 13:09:15 ID:r7qD9sG60

「それがどうした?」

彼は僕が聞いていることに気付いていない。

「この前、山で迷った奴が猫を見つけてな。後をつけたら洞窟を見つけたらしい。
 そこには、不思議な台座と、光る匣、それに、こいつがたくさん散らばっていた。
 匣はそいつが持って行っちまったが、これならそこらじゅうにある」

「高く売れるのか?」

「わからんが、錬金術師の親父が言うには古代錬金術関連だそうだ」

古代錬金術の情報を、これほど早く手に入れることができた僕は、運が良かったのかもしれない。
そう思った直後、それは訂正しなければならないと知った。

男が手に持っていた真っ赤な鉱物を見て。

(;´・ω・`) 「おい!!! それを捨てっ……」

喧騒で溢れていた酒場は,、それを上回る爆音と共に木っ端微塵に吹き飛んだ。
そこにいた多くの人間は血と肉の塊になり、僕は壁際に打ち付けられた。




(メ´-ω・`) 「くそっ……」

809名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 13:11:16 ID:r7qD9sG60

飲みかけだったグラスは手元になく、
壁に飾られたワインボトルは、全て床に落ちて砕けている。
洒落た蝋燭立ても、木のテーブルも、跡形の残っているものはほとんどない。

(;´・ω・`) 「逃げるしかないか……」

爆心地から離れた所から聞こえるのは、直撃を免れた者達のうめき声。
出来るなら生存者の手当てをしてやりたいが、
こんな状況で無傷なまま見つかれば、神か悪魔か、ろくな扱いをうけない。

爆破事件の犯人として、磔にされるのはごめんだ。

幸いにして建物の崩壊には至っておらず、裏口の扉は残っていた。
騒ぎを聞きつけてすぐに人が集まってくるはずだ。
煙が晴れる前に、僕はその場所を離れた。

(´・ω・`) (正確な採掘場所を聞き損ねたな……)


男は血のように赤い塊を手に握っていた。
ある程度の錬金術の知識があれば、それが如何に危険なものかを察知できたはずだが……。
無知な男はその品を古代錬金術と信じていた。

810名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 13:12:14 ID:r7qD9sG60

古代錬金術は、その貴重さゆえ非常に高く売れる。
一晩で一山の財産を築くことができる夢のような存在だ。

ただし、高価で貴重なものであるということは、同時に危険と隣り合わせということでもある。
今回のように、命に係わることも少なくない。

男が持っていた鉱石は、砂漠で採取され、見た目は赤黒く、石のようにも見える。
しかし、温度が上がっていくごとに、ゆっくりと純度の高い赤色に変化していき、
ある一定の温度以上といくつかの条件が重なると、急激に気化する鉱物。

気化すれば、熱と反応し大爆発を引き起こす。
その結果、酒場は吹き飛び多くの人間が死んだ。

男はそんな危険なものが大量にあると言っていた。
それらを放置していて同じ過ちが繰り返されてしまうことは阻止したい。
件の古代錬金術への興味もある。

(´・ω・`) 「しゃべる猫、か」

唯一残されたヒントは、言葉の端にあった妙な話。
噂になっているなら、探しようはあるはずだ。

811名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 13:13:37 ID:r7qD9sG60

三方を山に囲まれ、山の先の集落との中継地として発展してきたため、
この街は地域の中ではかなり大きい部類に入る。
そのため、夜中でも月明かりがあれば、人通りは少なくない。
酒場やサロンのような情報交換ができる場所もある。

(´-ω-`) (地道な聞きみか作業か……)

溜息をつき、別に酒場に向かった。



・  ・  ・  ・  ・  ・



幸いにして、噂の出所はすぐにたどることができた。
近辺では有名な話らしく、北方へ山を三つ超えたところが、その地だそうだ。

街はずれの廃墟を借り、旅の準備を整える。
荒れ放題になっていた屋敷は、人を雇いなんとか住めるように掃除をしてもらう。
ついでに、必要な錬金術の素材と道具をいくつか揃えた。

812名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 13:14:29 ID:r7qD9sG60

(´-ω-`) (どんなものがいいだろうか……)

男の話を信じるのなら、古代錬金術は既に所有者がいるだろう。
ならば交渉に応じてくれた場合、それと交換できるようなものを用意しなければならない。
所有者にとって価値の高いと思われるもの。

純金は外せないが、それ以外にも何か用意しておくべきだろう。
山中の村で喜ばれるものといえば、新鮮な魚介類だが……無理か。

この街から海は遠く、生の魚自体がほとんど流通していない。
仕入れルートをつくったところで、そのうち権力者に握りつぶされるのがおちだ。

ならば、生産性の高い食物でどうだろうか。
少ない土地でより多く実る植物は、交渉材料になりうる。

(´・ω・`) (それじゃあ……うーん)

必要な素材は多くある。
街で購入できるものはいいが、そうでないものは採取しにいかなければ。

813名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 13:17:29 ID:r7qD9sG60

何はともあれ、まずは錬金術の店に行かなければならない。
内陸の主要地であるだけあって、錬金術関連の情報や店舗は充実していた。
すっかり馴染みになってしまった店を尋ねると、
僕に気付いた店主が愛想のよい顔をして声をかけてきた。

「やあ、ショボンさん。今日も何か探しものかい?」

(´・ω・`) 「はい、そうです。一夜蔦と深海茸の胞子、後は……檻鶴の血液」

「ちょっと待っててな……あー檻鶴の血液は切らしてるな、すまない」

(´・ω・`) 「いえ、でしたら大丈夫です。代わりに……焔蝙蝠の番と生きた千年蝉の幼虫は?」

「それだったら両方あるよ」

(´・ω・`) 「いくらになります?」

「サービスさせてもらってこのくらいだ」

店主が出してきた伝票分を金貨で支払い、礼を言って店を出た。
家に帰ってきてから、すぐに錬成の下準備を始める。

814名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 13:19:43 ID:r7qD9sG60

一夜蔦は細かく刻んで、水に漬けておく。
透明だった液体が濃い緑色になったら、専用の紙でろ過する。
一夜蔦は、一晩で森を埋め尽くすほど成長力が強い。
反面、日の光の中では三日ももたないほどの脆弱性を併せ持つ。

(´・ω・`) (その成分は根菜に与えると爆発的な影響を及ぼす)

それだけでは一年もしないうちに土が枯れてしまい意味がない。
栄養分と成長をコントロールすることが重要になってくる。

深海茸の胞子は真珠のように白く小さな球体。
時期になれば、海に浮かび入り江を埋め尽くす。
そのまま海を漂い、そのうち沈んで新たな茸となるが、
栄養価が高すぎるため、ほとんどは外海に出る前に魚の餌になってしまう。

胞子はすり潰して、乾燥させる。
そうすることで地面に撒きやすくなり、栄養分が偏らない。


焔蝙蝠は皮を剥ぎ、肉を切り出す。
十分に熱した後、細かく刻み千年蝉の幼虫の餌にすればいい。

土を食べて生きている幼虫は、栄養のあるものであれば何でも食べる。
一週間ほど放置して、肉を食べた後の幼虫からエキスを絞る。
それは一夜蔦と混ぜてから小瓶に入れて保存した。

815名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 13:20:43 ID:r7qD9sG60

ジャガイモの種芋とアーモンドの苗木を用意して、錬成を施した後、荷の中に詰め込む。
噂を聞いてからすでに二週間は経っているが、あれから新たな爆発騒ぎは聞いていない。
とすれば、この情報はまだ他の錬金術師や盗掘者の耳には入っていないのだろう。

(´・ω・`) (さて、出発するか)

街の端は山の裾に隣接しているため、街を出るとすぐに山道になる。
だが道中は思ったより整備されていて、三日ほどで目的地にたどり着くことができた。

長閑な田舎といえば聞こえはいいが、実際にはほとんど人が住んでいないのが一目でわかる。
山の中腹に見える家々は、全部を数えても百ほどしかない。

(´・ω・`) 「すいません、この町で不思議なものが見つかったと聞いたのですが」

近くで畑作業をしていた老婆に聞くと、指をさして教えてくれた。

「不思議なもの……はぁ……。そういえば、あすこの家のもんが何か見つけたと喜んでおったのぉ」

小さな村であれば噂話はすぐに広がる。
警戒心の薄い村人たちは、話をすれば大抵のことは教えてくれるし
親切で人がいい。

これが都市だったとすれば、目的の家を虱潰しに自分で探し当てなければならない。

816名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 13:22:47 ID:r7qD9sG60

(´・ω・`) 「ありがとうございます」

畑を横切り、急な坂道を下り、なんとか家の前にたどり着く。
玄関を叩くと、不健康そうな青年が迎えてくれた。
肌は青白く、頬は痩せこけている。
病気ではなさそうだが、ひどく怠そうな顔をしていた。

「なにか……? 親父なら出かけてますが」

(´・ω・`) 「古代錬金術についてお聞きしたいことが」

青年の警戒色が強まる。
空気が張り詰めたように重たくなった。

「……帰ってくれ」

足を挟んで扉が閉じられるのを無理やり止める。

(´・ω・`) 「待ってください。私は錬金術師のショボンというものです。
       あなたが手に入れた古代錬金術の産物。ぜひ売って頂きたいのです」

「……」

817名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 13:25:15 ID:r7qD9sG60

不快そうな顔を隠そうとしないが、僕が武器を持っていないことがわかると、
話ができるだけの隙間は開けてくれた。

(´・ω・`) 「どうも」

「金があるようには見えないが」

百聞は一見に如かず。
見せて証明するのが一番早い。

(´・ω・`) 「これは錬金術で創り出した液体です。これをアーモンドの苗にかけると……」

男の家から少し離れた地面に軽く植えた苗は、小瓶に入った液体を与えると強く根を張る。
地中の養分を吸収する準備ができた後、あらかじめ用意していた白い粉を一つまみ与える。
深海茸の胞子は、アーモンドが成長するための養分となった。

「!!!」

幹はすぐに人間よりも高くなり、立派な果実を実らせた。
実を一つ千切り、薄い果肉を二つに割けば、
中から十分な大きさに成長したアーモンドが出てくる。

818名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 13:30:43 ID:r7qD9sG60

(´・ω・`) 「これが食用であることも証明した方がいいですか?」

「……錬金術師というのは本当のようだな。
 売れるかどうかは親父と相談しないとわからないが、話くらいはしよう。あがってくれ」

(´・ω・`) 「失礼します」

家の中にはベッドが一つ。干草がまとめておいてあるだけの簡単なものだった。
テーブルの周りに手作りの椅子が三つ。
そのうちの一つは長いこと使われていないように見える。

「そこに座ってくれ」

勧められた椅子に腰かけ、話題を切り出す。

(´・ω・`) 「それで、見つけた古代錬金術とはどのようなものでした?」

男はゆっくりと話始めた。

819名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 13:31:23 ID:r7qD9sG60

発掘された石の箱は、どのような仕掛けが施されているのだろうか。
村一番の力自慢ですら、傷一つ付けることができなかった。

両手で持てるくらいの大きさ。
重さは、見た目通り。

蓋に当たるであろう部分には三つの窪み。

表面には、幾重にも文様が刻み込まれていて、
それぞれが極僅かながら、色分けされている。
赤、青、黄、の三色が、それぞれの窪みから複雑に匣の全周を彩っているそうだ。

手に入れた青年の父親は、当初開けようと試みたものの、
すぐに諦めることになった。

それも当然だろう。
おおよそ彼らが思いつく方法では、その匣は決して開けることができない。

「こんな感じだ。本当に古代錬金術のもので間違いないのか?」

(´・ω・`) 「ええ、ほぼ間違いないでしょう」

気づかれないように部屋を見回したが、匣は見つけられなかった。
質素な部屋の中で、隠し場所はそう多くはないはずだが。

820名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 13:32:46 ID:r7qD9sG60

「それで、いくら支払ってくれる?」

(´・ω・`) 「拳の大きさ程度の金塊と、知恵と技術でお支払いしたいと思います」

「知恵と技術……?」

金だけで支払うことも容易だが、大量の金は彼らの生活を脅かしかねない。
誰もが簡単に使えることができるものより、用途は決まっていても、
持ち主しか利用できないもののほうがずっといいはずだと僕は考えた。

(´・ω・`) 「お話のお礼と言っては何ですが、あなたの役に立つものを差し上げます」

包みから取り出したのは見た目は普通のものと変わらない種芋。
但し、錬金術によって、数十倍、数百倍の成長速度を与えている。

「種芋なら、十分足りている」

表にあった畑には多くの野菜が植えられているのが見えた。
だが、あれらを管理するのは大変だろう。
その点、多少の難はあるが、この種芋であれば大抵の問題は解決できる。

821名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 13:33:50 ID:r7qD9sG60

(´・ω・`) 「この種芋は一度土に埋めれば、およそ十年間は毎年収穫ができると思います。
       もちろん、栄養だけは土に巻いてもらう必要がありますけれど」

「それを信じろというのは、あまりにも荒唐無稽だな」

(´・ω・`) 「ですので、これを埋めさせてください。
       最初の一度だけ、三日後に収穫出来るようにします」

疑われるのは仕方ない。
たいして錬金術を知らない人間からすれば、神の奇跡を起こします、と言われているようなものだから。
いや、知っていても信じてもらえないな……。

自分で言うのもなんだが、ここまで完成された錬金術には、人の寿命では到底たどり着けない。
無限の研究時間を有しているからこその成果だ。

「はぁ……それなら……」

(´・ω・`) 「では、畑をお借りします」

立ち上がり、家の外に出る。
男はゆっくりと後ろをついてきた。

「このあたりなら埋めてもあっても構わない。
 ちょうど土を休ませていたからな」

822名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 13:36:32 ID:r7qD9sG60

(´・ω・`) 「どうも」

種芋はナイフで半分に切り、間隔をあけて二つを埋めた。
養分は少し多めにしておこう。
小指の大きさほどの薬瓶を二本、埋め終わった種芋の上に突き刺す。
その後、一握りの白い粉を振りかける。

(´・ω・`) 「三日後、またお伺いします」

「三日待たないといけないのか。錬金術とやらで明日にすればいいではないか」

三日でも早すぎるくらいだ。
植物を無理やり成長させるなんてことは、
非常に不安定な橋の上を駆け抜けさせるようなものだ。

少しバランスが狂ってしまうだけで、
この辺り一面の植物が過剰に成長し、樹海と変えてしまいかねない。
勿論、そうはならないように十分な予防策はとっているけれど。

823名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 13:40:31 ID:r7qD9sG60

(´・ω・`) 「三日ほどがちょうどいいんです、今回の場合は」

「……まぁ、わかりました」

(´・ω・`) 「それでは、失礼します」

「この闇夜の中で帰るのか?」

ああそうか、今宵は新月か。空を見上げて、初めてそのことに気付いた。
付近が明るかったのは、村の風習か松明がいくつか掲げてあったからだ。
曇り空のせいで星明かりはほとんどないが、逆にその方が都合がいい。

(´・ω・`) 「ええ、色々としなければならないことがあるので」

持参したランプに明かりを灯す。
足元に気を付けながら山を下りないと。

(´・ω・`) 「そういえば、どこで石匣を見つけたかを教えてもらってもいいですか?」

「道なりに山を下っていけば途中、分かれ道にぶつかるはずだ。
 左に行けば、親父らが採掘をしていた場所に向かっていく。
 ただ、夜に向かうのは……」

(´・ω・`) 「心配していただいてありがとうございます。
       でも大丈夫ですよ」

824名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 13:47:08 ID:r7qD9sG60

「……気をつけて」

言葉に手振りだけで応え、山道に足を踏み入れた。
暗闇から森の息遣いを感じる。
昆虫の鳴き声と、風に揺れた枝葉は森を全体を生き物としてしているかのようだ。

(;´・ω・`) 「っと、危ない危ない……おっ……」

ランプに照らされた足元でに蠢く影を見つけて足を止めた。
道をゆっくり横断していたのは、紐のように細く長い蛇。
その見た目通り、非常に弱く、踏んでしまえばそこから千切れてしまう。
頭さえ無事であれば元通りになるが、千切れる度に一回り太くなる。

個体によっては、頭は小指ほどの大きさでありながら、全身は人間の腕よりも太くなるらしい。
そこまで成長してしまうと、食事可能なの量と体の維持に必要なエネルギーとのバランスが崩壊し、
長くは生きられない。

(´・ω・`) 「蛇頭龍尾。珍しい奴がいるな。
       やっぱり、古代錬金術に関係してるのかなぁ……」

錬金術が施された物質は、往々にして存在するだけで他に影響を与えることがある。
例え術師が意図していなくても。

825名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 13:50:13 ID:r7qD9sG60

(´・ω・`) 「捕まえるか」

こいつの頭は錬金術の素材になる。
身体もこれだけ細いなら、まだ数回程度しか再生していない。

(´・ω・`) 「細い身体は貴重なんだ。無駄にはしないよ」

一撃で頭を切り落とす。
尾の側は血を吹き不出しながらのたうち回っているが、すぐに動かなくなる。
小粒のような赤い瞳が恨みがましくこちらを見ているような気がするのは、僕の勝手な思い込みだろう。
頭はそのまま、尾は丸めて袋に入れる。

夜が明けるまでに、匣が埋められていた場所につくだろうか。

地図はなく、土地勘は無いに等しい。
一晩彷徨い歩くことになるかもしれないことも覚悟しておく。

(´・ω・`) (道案内でも頼めばよかったなぁ……)

826名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 13:50:57 ID:r7qD9sG60

生い茂る木々。
一人歩いていれば、闇に吸い込まれていくかのよう。

「……ゥゥ」
 
ちょうど分かれ道に差し掛かったころ、虫の音にまじって、唸り声が聞こえてきた。
外套の裏に隠していた小型のナイフを構え、足音をたてないよう慎重に声のする方に近づく。
茂みに蹲っていた小さな影に振り下ろした。



柔らかな肉を抉り、硬い骨を砕く手ごたえは、なかった。

「危ないのぉ」

草木の奥から聞こえた人の声にナイフを握りなおす。

(´・ω・`) 「誰だ!」

「人に名を尋ねるのであれば、自ら名乗るのが礼儀ではないか?」

返事は、至極まともなもので、気が緩むのを意識して抑えなければならなかった。

827名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 13:51:45 ID:r7qD9sG60

(´・ω・`) 「ショボン。錬金術師のショボンだ」

「人間のような受け答えをするのじゃな、化け物よ」

(;´・ω・`) 「!?」

僕の手元の灯りは、森の中で唯一の光。
相手からは僕の姿が見えているだろう。

それ故、僕が人間であると判断を下したのなら理解できる。
なぜ人間でないとわかった。
場合によっては看過できない。

「なぜ、ぬしのことがわかったのか、不思議そうな顔をしているな」

(;´・ω・`) 「……」

「そう構えずともよい。わらわもまた、ぬしと同じじゃからじゃよ」

828名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 13:53:30 ID:r7qD9sG60



同じ………………。



まさか………………。


茂みから出てきたのは、薄汚れた白猫。


 ∧  
(゚、。`フ 「驚いたか?」


(;´・ω・`) 「猫……?……喋ってる……!?」

噂は所詮噂だと、猫が人語を解するわけがないと思っていたが……。
ああ、僕はついに頭がおかしくなってしまったのか。
終わりのない世界を彷徨い続けている日々もこれまで。
脳の機能に限界が来てしまったのだろう。

829名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 13:58:00 ID:r7qD9sG60
 ∧  
(゚、。`フ 「ぬしよ、わらわは既に数百年生きておる。
       唯、見た目だけで猫と呼ぶのはやめてもらいたいの」

さよなら、リリ。死んで星の一部になったとしても、きっと僕らまた会えるよなね
それとも、もう待ってくれているのかい。
すぐにそっちに行くよ。
 ∧  
(゚、。`フ 「…………聞いておるか?」

人間のように不快そうな顔を浮かべる。
やっと現実を飲み込んだ僕は、返事をするのがやっとだった。

(´-ω・`) 「ああ、聞いてるよ」

猫が自然にしゃべるようになるなんてことはあり得ない。
例え百年経とうが千年経とうが。
ならば考えられる原因は一つ。
 ∧  
(゚、。`フ 「ふむ、まぁよい。このような夜遅くに何をしている?」

830名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 13:58:48 ID:r7qD9sG60

(´・ω・`) 「古代錬金術の発掘品が見つかった場所に行こうと思って……」

何を馬鹿正直に答えているんだ、僕は。
相手はよくわからない猫もどきだぞ。
 ∧  
(゚、。`フ 「失礼なことを考えているのぉ。まぁ、それも仕方ないことか。
       どのくらいまで想像しとるんかわからんが、わらわはもとはただの猫じゃった。
       暢気にの、野山を駆け回っておった。
       その時によくわからない人間につかまっての、意識を失うた。
       それから気づけば、何年生きても死なぬ。ついぞ今に至る」

(´・ω・`) 「不老不死……」
 ∧  
(゚、。`フ 「不死ではないと思うぞ。試したことはないがの。
       怪我の治りはさほど変わらんかったように思う。
       長く生きておったら、いつの間にか人の言葉を理解し、語るようにもなっておった」

(´・ω・`) 「その人間が、錬金術師だったということか?」
 ∧  
(゚、。`フ 「知らぬ。当時のことなどとうに忘れたわ」

831名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 14:00:35 ID:r7qD9sG60


遥か昔、僕は動物を使ってホムンクルスを殺す研究をしていたことがあったが、
あれはたしか兎だったはずだし、結局完璧な不老不死とはならず死んでしまった。

(´・ω・`) 「動物に賢者の金属を与えても、なぜか不老不死にはならなかった」
 ∧  
(゚、。`フ 「ところで、頭の良いわらわはいつも暇を持て余しておる。
       ぬしの行く先まで同行してもいいかの?」

(´・ω・`) 「僕としては、道案内がいれば助かるけれど……」
 ∧  
(゚、。`フ 「ここら一帯であれば、知らないことはないの。
       ぬしが目指しているなんじゃ、錬金術のなんたらかが見つかった場所なら、
       ここから数刻歩いた先にある」
 
(´・ω・`) 「なんでそんなことまで知っている?」
 ∧  
(゚、。`フ 「さっき暇じゃと言うたぞ? 人が出入りしとる場所なら大抵知っておる。
       あやつら、甘い鳴き声で近寄ればいくらでも飯をくれるからの」

じゃが、毛は触らせないのがわらわのプライドじゃ、と猫は続けた。
高貴なんだか、下賤なんだか。
この身勝手さは間違いなく猫の習性だな。

(´-ω-`) 「はぁ……」

832名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 14:01:26 ID:r7qD9sG60

放っておいたらいくらでも喋りそうだ。
 ∧  
(゚、。`フ 「さぁこっちじゃ。遅れぬようについて来るがよい」

長い尾をゆらゆらと揺らして歩く後ろ姿は、同種のそれと大差ない。
この一匹だけが特別な理由は、外面には見つけられなかった。



・  ・  ・  ・  ・  ・


 
 ∧  
(゚、。`フ 「それで、それで」

(´・ω・`) 「偽物の壺はほとんど失われてしまったよ」

まるで幼い子供のように、はしゃぐ猫。
さんざん話しておきながら、疲れたのか、今度はこちらに話せという。
我儘な態度と口調は金持ち屋敷の令嬢を彷彿とさせる。

833名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 14:02:16 ID:r7qD9sG60

(´・ω・`) (本当に、猫……なんだよな……)
 ∧  
(゚、。`フ 「なるほどのぉ……。錬金術師とはただの人間なのじゃな。
       わらわはそういう種族じゃと思っておった」

(´・ω・`) 「……錬金術師は神や、まして悪魔でもない。ただの人間だよ」

僕らを除いては。
その言葉は口に出す前に溶けて消えた。
理解してほしいわけじゃない。
 ∧  
(゚、。`フ「ところで、ぬしの正体は一体何なんじゃ?
      人のようでひとでなし。わらわは何故か知っているような気もする。
      じゃが、会ったことはないはずじゃな」

(´・ω・`) 「出会ったことはない。
       喋る猫のことをさすがに忘れたりしないさ」

僕よりなお不思議な存在であるこの獣に、隠すほどのことでもないか。

834名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 14:06:01 ID:r7qD9sG60

(´・ω・`) 「僕は…………ホムンクルス。人のカタチをした不老不死」

老いず、衰えず、死なず、悠久の時を生き続ける。
人に造られ、人を超えた存在。
 ∧  
(゚、。`フ「なるほどの。同じにおいがしたのはそのせいやもしれぬな。
      どれくらい生きておるのじゃ?」

(´・ω・`) 「正確には覚えてないよ。数百年は間違いがないけどね」
 ∧  
(-、_`フ 「ッ……」

突如足を止め、黙り込む。

(´・ω・`) 「どうした?」
 ∧  
(-、。`フ 「少し頭が痛んだだけじゃ。気にするほどではない」

(´・ω・`) 「ところで、そろそろ名前を教えてくれ。不便なんだよ」
 ∧  
(゚、。`フ 「名はない、というかあったようにも思うが忘れた。
       好きなように呼ぶがよい」

835名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 14:07:13 ID:r7qD9sG60

頭痛は収まったのか、再び猫は足を進める。
いつの間にか右手は崖になっていた。
眼下の木々には、所々橙色の柔らかい光が見える。

星蜂の巣か。
食べる獲物の種類で巣の色と性質が異なる蜂。

暖色系であれば攻撃的な肉食、寒色系であれば穏やかな草食であることから、
狩人や旅人には必須の情報だ。

(´-ω-`) 「うーん……それなら」
 ∧  
(゚、。`フ 「む、でぃ……うむ、でぃと呼ぶのじゃ」

人がせっかく考えていたというのに、その答えも聞く前に自分で決めたのか。
まぁいいさ……。

(´・ω・`) 「それで、でぃ。件の場所まではあとどのくらいだ」
 ∧  
(゚、。`フ 「もうじきつ……ふにゃ」

836名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 14:08:05 ID:r7qD9sG60

間抜けな声で鳴き、両足をバタバタと動かして暴れまわる。
だが、次第に動きが小さくなっていく。
ついに動けなくなったのか、恨みがましそうに顔だけをこっちに向けた。
 ∧  
(゚、。`フ 「見てないで助けるのじゃ」

(´・ω・`) 「ああ、怠け蜘蛛の巣か」

粘着性が強く、一本一本が強靭な巣は、大型の動物や鳥類ですら捕まえてしまう。
ただ、普段は巣の近くの穴で寝ていることが多く、
数か月も捕まえた獲物を放置することがある。
 ∧  
(-、。`フ 「にゃ、にゃにをする気……」

(´・ω・`) 「我慢しろよ」

水筒の中身を全部ひっくり返す。
 ∧  
(+、_`フ 「…………」

小刻みに震えて、水滴を飛ばす。身体中に張り付いていた粘着性の糸は、力なく垂れた。
怠け蜘蛛の巣は、水に濡れていると粘着力が極端に弱くなる。
それでも残っている糸は取ってやった。

837名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 14:10:23 ID:r7qD9sG60

(´・ω・`) 「さて、もう近いんだったな」

恨みがましい眼で睨んでくる猫を横目に、茂みをかき分けると、
急に目の前が開けた山の斜面になっていた。
そこだけは植物の緑が一切無く、灰と黒の色だけが照らし出される。
地面が裂けているのかと錯覚するほど、山の腹には巨大な入り口が開いている。


不気味な横穴に、でぃは躊躇わず潜っていった。

(;´・ω・`) 「おい、待てよ」

「早く来るのじゃ。でないとおいていくぞ」

でぃの後ろ姿はもう見えない。
少し掲げた手元の灯りは、裂け目に吸い込まれていく。
足元はわずかに湿っているて、ひんやりと冷たい空気が吹き込んでいる。
滑らないように注意しながら、後を追って中に入った。

(´・ω・`) 「どのくらいの広さがあるんだ?」

問いかける声は反響して、方向感覚を狂わせる。

838名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 14:13:08 ID:r7qD9sG60
 ∧  
(゚、。`フ 「黙ってついて来るのじゃ」

ふと、足元から目をそらして、前を確認した時、
想像だにしていなかった光景が飛び込んできた。


照らされた壁に見える地層は、幾万年もの積み重ねによって出来上がっていることが一目見て分かった。
洞窟の中、光が届く限界まで、連綿と続いていく。
燃えるような赤土、脆い灰、硬い土砂、金属、骨……。

それぞれが数百年の時代の変化の象徴であり、
その断面図はめったに見ることができないもの。

ここまで美しく、かつ大規模なものは僕ですら初めて見た。
言葉に表すことはできないほどの衝撃。
口をついて出てきたのは、言い訳のような言葉だけだった。

(;´・ω・`) 「ただの……洞窟かと……」
 ∧  
(゚、。`フ「なんじゃ、着いて来んから戻ってきてみれば」

(;´・ω・`) 「すまない…………」

839名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 14:13:56 ID:r7qD9sG60
 ∧  
(゚、。`フ 「初めてこの洞窟見た人は皆一様に感動するが、主のようになったのは初めてじゃな。
       唯の地層がどれほどのものじゃ。馳走なら飛びつくのも吝かではないが……」

(´・ω・`) 「ははは、そうだな」
 ∧  
(゚、。`フ 「……まぁよい。この道を下まで降りれば、すぐに祭壇がある。
       その上に飾られておった」

下り道は随分と長かったように思う。
所々、罠のように空いている穴を飛び越え、周り、下りていく。
採掘のために造られたのだろうか、塗装された木製の足場は比較的新しいようにも見える。

(´・ω・`) 「これが祭壇か」

祭壇というには、あまりにも質素な石の台。
窪みは二つあり、一つは四角、もう片方は丸型をしている。
 ∧  
(゚、。`フ 「四角の方に入ってあったやつを人が持って行った。
       丸には何が入ってあったか知らんの。
       わらわが気づいたときには、既になかったように思う」

(´・ω・`) 「四角い匣と対称もしくは相関関係にあるものだと思う。
       もし双方ともに古代錬金術の品であれば、ね」

840名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 14:14:48 ID:r7qD9sG60
 ∧  
(゚、。`フ 「わらわにはわからん、隅の方でゆっくりしておる。
       好きなだけ探索するがよい。ただし、地面にあいた穴に落ちるなよ。
       深さがどれくらいあるのかもわからないのじゃから」

(´・ω・`) 「気を付けるよ」

長方形の台座の周りは石を削り取っただけの簡素なもの。
仕掛けがなされているようには見えない。

(´-ω-`) (そういえば……)

古代錬金術は二種類の方法で隠されている、と言うことをワタナベクスから聞いたことを思い出す。
一つは様々な罠が仕掛けられている道を突破すること。もう一つは古代錬金術の隠された入れ物を開けること。

前者は人海戦術によって手に入れることが可能だけれど、
後者は錬金術によって封をされた匣の中に入っているため、
手段を特定できない限り、永遠に開けることができないという。

「これが解錠のための鍵か……?」

台座の中心に描かれた複雑な紋様。
その中には見知った錬金術の式と、匣を開けるためのものだろうか、文字が彫られてある。
匣と同じ場所に鍵が隠されているのは、何か理由あってのことだろうか……。

841名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 14:15:29 ID:r7qD9sG60
 ∧  
(゚、。`フ 「で、何かわかったのかの?」

(´・ω・`) 「少しは。時間さえかければ、封を解くことはできると思う」
 ∧  
(゚、。`フ 「ふむ、大層な自信じゃな。他には?」

(´・ω・`) 「僕が生まれるより前に、これだけの仕掛けを考えた錬金術師がいたということ、かな」

これだけの頭脳と技術があれば、世界を支配することすら容易かっただろう。
滅ぼすことも然り。
 ∧ 
(゚、。`フ 「それほどかの?
       そこまですごいものには思えないんじゃが」

(´・ω・`) 「もし、この錬金術師が悪意しか持ち合わせていなければ、世界はとうに滅びてるよ」

いったい、これほどの錬金術をどうやって身に付けたのか。
先行くものなどなかったはずなのに。

(´・ω・`) (それとも、錬金術は一度途絶えたのか?)

842名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 14:17:27 ID:r7qD9sG60

現存する錬金術よりも、さらに高度な古代錬金術。
その力が存分に発揮されていれば、世界はもっと発展していたはずだ。

だが、実際には錬金術というものが認知されはじめたのは僕が生まれた頃の話。

何らかの理由があって、以前の錬金術師は、自らの知識を封印した。
もしくは、錬金術を継承する方法が完全に失われてしまった。
そう考えるのは論理の飛躍だろうか。

ただ単に一人の優れた錬金術師がいただけかもしれない。
 ∧ 
(゚、。`フ 「なんじゃ、不躾にじろじろ見て」

それじゃあ、この猫は?
古代錬金術の番人というわけではなさそうだし……。
秘密を守るうえで、喋る獣ほど都合の悪いものはない。
……考えてもわからないことばかりだ。

(´・ω・`) 「取り敢えず、解錠の方法を探すとしよう」
 ∧  
(゚、。`フ 「変なやつじゃな」

(´・ω・`) 「全部写し終わった。麓に降りて、準備をしなきゃ」

必要な素材は採取しなきゃいけない。
調合にも時間がかかる。
六日後に匣を手に入れたとして、開けるのには一週間以上かかるだろう。

843名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 14:22:22 ID:r7qD9sG60

(´・ω・`) 「でぃはどうする?」
 ∧  
(゚、。`フ 「どうせ暇なのじゃから、ぬしの苦悩する様でも見て楽しむことにするかの」

(´・ω・`) 「ずいぶん性格の悪い猫だな。まぁいい。帰るぞ」

一人と一匹で来た道を引き返す。
洞窟から外に出たときは、朝陽がゆっくりと顔を出したところだった。



・  ・  ・  ・  ・  ・



六日後、再び青年を尋ねると、見事なジャガイモ畑が出来上がっていた。

「ちょうど親父も帰ってきてる。あんたの話を聞きたいそうだ」

(´・ω・`) 「わかりました」

844名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 14:23:14 ID:r7qD9sG60

畑で芋を収穫していた青年。
血色は多少良くなっているものの、足取りは頼りない。

家に招かれると、ベッドには体格のいい男が座っていた。
肌は黒く、背は低いのに腕の太さは僕の二倍はあろうかというほど。
青年と親子だとは信じられない。

いかにも鉱夫だと思える姿形をした男は、


右足が、無かった。


「お前がロニーの……息子の言っていた錬金術師か」

(´・ω・`) 「ショボンです。息子さんから話は聞いていると思いますが……」

「ああ、聞いている。俺の見つけたものを買いたいそうだな。
 見ての通り、俺はもうカタワだ。まともに働けやしねぇ。
 息子も昔から体が弱くてな。正直、これからの生活に困っていたところだ」

足の傷跡は、まだ新しい。
包帯には血止めの錬金術が施されている。
街で処方してもらったのだろうか。

845名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 14:27:44 ID:r7qD9sG60

(´・ω・`) 「足は、もしかして……」

「錬金術師ならわかるんだろうな。例の鉱石にやられちまった。小さい欠片だったから命は助かったがな。
 さて、同情されても仕方ねぇ。商売の話をしようや」

(´・ω・`) 「古代錬金術の品を譲っていただきたい。対価は金塊と食糧でどうでしょうか」

「おい、持って来い」

父親から声をかけられた青年は戸惑っていた。

「だけど親父……」

「この錬金術師はうちの前に芋を植えてくれたんだろ?
 少なくとも、話が通じなければ力づくで、って人間じゃない」

「わかったよ……」

暖炉の底から渋々取り出したのは、昼の陽の中でも、微かに光っていることが分かる黒い匣。
三日前に説明を聞いた通りのものだった。

846名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 14:29:01 ID:r7qD9sG60

「で、こいつは本当に古代錬金術なのか?」

(´・ω・`) 「見せてもらってもいいですか?」

「構わねぇ」

顎で青年に合図する。
僕は受け取り、素材を確かめながら調べる。

匣は冷たく、ずっしり重い。
蓋は固定されているというよりは、匣と一体化しているといった感じか。

過去に聞いたことがある特徴と一致する。

(´・ω・`) 「間違いなく、これは古代錬金術によるものだと思います」

「そうか、それは僥倖。で具体的にはどの位支払ってくれるんだ?
 わかってると思うが俺らにとっちゃ生命線なんだ」

(´・ω・`) 「金塊はこれを」

持ってきたのは手のひらくらいの純金板、数十枚。
一枚で金貨およそ三十枚ほどの価値があるだろう。
金貨は場所をとるし、大量に保有するのは面倒が多い。
そう考えて用意したものだ。

847名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 14:36:00 ID:r7qD9sG60

「こいつは、本物だな……」

僕が持ってきたうちの一枚を手に取り、重さを確かめていた。
たったそれだけで見抜けるのは、鉱夫としての長年の経験か。

「これなら物々交換に使えるか。で、食料というのは、表のオリーブとジャガイモか?」

(´・ω・`) 「いえ、オリーブの方は毎年普通に実を作るだけですが、
       芋は、この袋に入った粒をまいてやる必要があります。一袋で一年分、計二十袋。
       撒くだけで今のように大量にできます」

「俄かには信じられねぇが、表の様子を見る限りじゃあ嘘は言ってねぇな」

(´・ω・`) 「気を付けていただきたいのは、年に何度も袋を撒かないこと。
       土が痩せ細り、うまく育たなくなる恐れがあります」

「そうか…………。二十年……俺はそこまで生きはしないだろうが、息子のことを考えるとな。
 見ての通り、こいつは体が弱い。ジャガイモの収穫すら覚束ない。
 金と食糧、あんたの持ってきたもんで大体満足だが、なんとかもう一つ。
 息子の助けになるようなものを錬金術で作ってはくれないか?」

848名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 14:36:55 ID:r7qD9sG60

(´・ω・`) 「お気持ちはわかりますが……」

病気が原因であるなら、それを取り除いてやれば身体は次第に良くなる。
だけど生まれつきの身体の弱さを治そうとすることは、人体禁術にあたる。

出来ないことはないが、後遺症が出る可能性もあるため、長く面倒を見てあげなければならない。
そこまでの時間を割くことはできない。

「無理を言ったな……。まぁ、これだけの芋と金があれば、物々交換でやっていけるだろう。
 こいつを持って行ってくれ」

手渡された古代錬金術の匣。
両手に収まるだけの大きさしかないそれは、探求心を強く刺激する。
自分ですら解けないかもしれない難題が、
自分ですら考えたこともない錬金術が、
この小さな匣に入っているかもしれないと思うと、胸が躍る。

(´・ω・`) 「ありがとうございます」

「なに、麓で売ろうと思ったんだがな、どうにも錬金術についてわからん。
 買い叩かれるような気がしてな、交渉を蹴ってきたところだ。
 俺らには全く価値のわからねぇものに、なんでこれだけの大金を支払う?」

849名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 14:37:47 ID:r7qD9sG60

(´・ω・`) 「僕ら錬金術師は未知を解き明かすことが大好きな生き物なんですよ。
       まだ見たことのないものを見たい、聞いたことないものを聞きたい、知らないものを知りたい」

「わっかんねぇなぁ……」

(´・ω・`) 「だと思います。では、この匣はいただきます。本当にありがとうございました」

「ああ、せいぜい中身があんたの役に立つものであることを祈っとくよ」

(´・ω・`) 「それでは、失礼します」

荷物の中に匣をしまったせいだろうか。
来た時よりもずっと重く感じられた。



・  ・  ・  ・  ・  ・



 ∧ 
(゚、。`フ「やっと帰ってきおったか」

850名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 14:42:09 ID:r7qD9sG60

研究用の机の上で丸まっているのは、世にも不思議な喋る猫。
自らをでぃと名乗ったが、その名前すらもあやふやだという。

(´・ω・`) 「……勝手に居座っておいて、よくそんなでかい口が叩けるな」

ふあぁ、と欠伸をしながら半目で睨んでくる動作は、他の同族と全く同じだ。
 ∧ 
(゚、。`フ「で、成果は?」

(´-ω-`) 「はぁ……これだよ……」

取り出した匣は、今も薄く光っている。
 ∧ 
(゚、。`フ「ふむふむ、なんとなく懐かしいような感じじゃな。で、中はどうなっておった?」

(´・ω・`) 「まだ開けてないから、なんとも。
       これからいろいろ試してみるのさ」
 ∧ 
(゚、。`フ「開けられるかどうかは、主の力量かの。
      なんとも頼りない……」

(´・ω・`) 「好き放題言いやがって。まぁ、おとなしく見てろ。
       まずはこの暗号を解読する」

メモを広げる。
書き写してきたのは、祭壇の間にあった文章。

851名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 14:43:13 ID:r7qD9sG60



満たせ盃 英知を注げ

暗き油は許されぬ
眼を逸らす 闇夜を払ってみせてみよ

臭き滴は許されぬ
葉を枯らす 汚濁を拭ってみせてみよ

硬き涙は許されぬ
地を揺らす 堅固を奪ってみせてみよ

我が試すは其の知識 得難き物はなし

全てが揃いし主なれば 忘れしことも思い出さん

852名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 15:12:02 ID:r7qD9sG60
 ∧ 
(゚、。`フ「訳が分からぬ……」

(´・ω・`) 「錬金術師じゃなければわからないさ。解読自体はその辺のやつでもできる。
       だけど、解錠するのは無理だな」
 ∧ 
(゚、。`フ「なぜ断言できる?」

(´・ω・`) 「僕の知る限り、これらの錬金術を完成させた実例がない。
       さらに言えば、実用性がほとんどなくて誰も研究していない分野でもある」
 ∧ 
(゚、。`フ「なるほどのぉ。つまりこの匣の製作者は、
      今この時代、遥かな未来においても、
      この錬金術は研究されておらぬと予想しておったわけじゃな」

(´・ω・`) 「少なくともこの匣を完成させた術師は、これらの錬金術が行えただろうと思うよ。
       その経験から、簡単ではないだろうことも知っていたんじゃないかな」
 ∧ 
(゚、。`フ「で、ぬしにはそれらが出来るのか?」

(´・ω・`) 「やってみせるさ」

853名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 15:14:56 ID:r7qD9sG60

まずは三つの素材を手に入れなければならないが、
苦労することはない。

我が試すは其の知識 得難き物はありもせぬ

その言葉通り、素材はどこでも簡単に手に入れることができる。
さしあたっては、いつのも店に行くとしよう。



・  ・  ・  ・  ・  ・



(´・ω・`) 「ただいま」
 ∧ 
(゚、。`フ 「遅かったにゃ」

(´・ω・`) 「メインの三つ以外に、何がいるかわからないからね。
       それに、当分ひきこもっての研究になる。保存食は用意しとかないと。
       ……用意しすぎたかもしれないけど」

両手に握った袋をとりあえず床の上に置く。
結構な重さに悲鳴を上げていた両肩の痺れは、すぐに治った。

854名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 15:16:33 ID:r7qD9sG60
 ∧ 
(゚、。`フ 「で、何を買ってきたんじゃ?」

(´・ω・`) 「えーっと、乾燥肉、野菜、木の実……」
 ∧
(゚、。`フ 「ちがうちがう! 主の言っておった三つの品のことじゃ」

(´・ω・`) 「ああ、見た方が分かりやすいかな」

ガラスの容器は三つ。
そのどれもが厳重に密閉してある。

万一こぼれでもしたら、他の錬金術素材を汚染してしまうか、
周囲に甚大な被害を与えてしまう。

855名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 15:20:27 ID:r7qD9sG60

ひとつは≪月呑み湖の泥≫

ふよふよと湖の中に浮かんでいる暗黒の球体。採取も保存も簡単で、容器の中に湖から掬って入れるだけ。
泥と呼ばれてはいるものの、その実態は不明。
光を飲み込んでしまったような黒き物体は、今だ正確に観測できた者がいない。
その黒さは世界の終わりをも飲み込んでしまうという伝承すらある。


ふたつめは≪溜まり樹海の瓢箪≫

深く円形に沈んだ巨大な窪み地。生い茂る木々は光を遮り、
入り込むものすべてを栄養として成長する巨大な────樹海────。
その名に恥じない、巨大な森の端に育つ卵のような瓢箪。
その森ですら許容できない不要物をその実に宿し、太陽の光と熱でゆっくりと浄化する役割を持っている。


みっつめは≪燃ゆる乾荒原の珊瑚≫

古代錬金術が置かれていた祭壇の周りに散らばっていた鉱石。
あれは、侵入者除けのためだけではない。
匣の解錠に必要な素材だった。

856名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 15:23:35 ID:r7qD9sG60
 ∧ 
(゚、。`フ 「ふーむ、わらわには初めて見るものばかりじゃ……」

(´・ω・`) 「とりあえず、≪泥≫から始める」

容器から出した暗い泥は固体と液体との中間ほどの感触。
指で突けばふるふると揺れる。

(´・ω・`) 「求められているのは、≪泥≫から液体にすること」

───闇夜を払ってみせてみよ

(´・ω・`) 「それも透明な、ね」
 ∧ 
(゚、。`フ 「時間がかかるのか?」

(´・ω・`) 「基本的にはトライアンドエラー。一つずつ試していくしかない……」
 ∧ 
(゚、。`フ 「何年かかることやら……」

(;´・ω・`) 「自分でもわからないんだけどさ、この錬金術の手順。
        何故か覚えている、いや思い出したといったほうが近いかも」

手段さえわかれば、誰でも実行できるような簡易な錬金術。
この匣を開けるためにに必要とされていたのは、発想の柔軟性。

857名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 15:24:24 ID:r7qD9sG60

(´・ω・`) (僕が生まれてから、この素材で、この手順で、錬金術を試したことはない)

ならばなぜ、僕はこの手段が間違いでないと知っていて、確信しているのか。

答えは一つしかない。
僕を創り出した錬金術師。
僕にすべてを与えてくれた主人が、この錬金術に関する知識も与えたのだ。


何か理由あってのことだろうけど、今の僕には皆目見当がつかない。


≪泥≫、≪瓢箪≫、≪珊瑚≫

そのすべてに対する錬金術を、細部にいたるまで明確に理解している。
だからこそ、そのために必要な素材はすべて集めておくことができた。

858名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 15:29:27 ID:r7qD9sG60

≪月呑み湖の泥≫は水銀の中に沈める。
数分経ってから取り出せば、それは表面を銀色に覆われた団子状態になっている。
木箱の中に≪泥≫を入れた後、その銀色の塊が見えなくなるまで、
すり潰した動物の骨を隙間なく詰めたら、高温に熱した窯の中に放り込む。

待ってる間に、≪溜まり樹海の瓢箪≫の錬金術をする。
≪瓢箪≫のヘタに小さな穴をあければ、
涙が溢れるような強い刺激臭と、黒い煙がゆっくりと出てくる。
絶えず立ち昇る煙を逃がさないよう、穴から凝固蝋を流し込む。

≪瓢箪≫の中が一杯になったのを確認してから、容器に貯めておいた水の中で冷やす。
これも時間がたつまで、次の工程に移れない。

≪燃ゆる乾荒原の珊瑚≫は熱に強く、鉄より硬い。
にも拘らず非常に不安定で、変化を起こしやすい素材でもある。

(´・ω・`) (液化させるためには、珊瑚礁に生える岩喰い仙人掌の根元に埋めるだけでいい。
  時間が経てば、自然と仙人掌が成長し、成分が吸収される。
  以前の成長剤を使えば、時間は短縮できるだろう)
 ∧ 
(゚、。`フ 「……ふみゃぁーお。ブツブツ一人で何を言ってるんじゃ。
       わらわには何がなんだかさっぱりじゃ」

859名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 15:30:39 ID:r7qD9sG60

(´・ω・`) 「僕にも分らない……。一度もしたことないし、
       記憶にもないはずの錬金術の手法が、頭の中に浮かんでくる。
       匣自体も普通のものではないかもしれない」
 ∧ 
(゚、。`フ 「ふーむ、わらわは随分長い間、じゃと思うが、
       その匣をみても触ってもなにも感じぬがの」

(´・ω・`) 「村にいた親子も変わった様子がなかったよ。
       僕の気のせいかもしれないけど……」
 ∧ 
(゚、。`フ 「そういえば、一つだけ。その中にはわらわに関係のあるものが入っておるかもしれぬ」

(´・ω・`) 「関係のあるもの?」
 ∧ 
(゚、。`フ 「どうも匣の中身の存在が感じられるような時があるのじゃ。
       遠くに離れていると、定期的に呼ばれているような……」

(´・ω・`) 「なるほど……でぃはあの匣の守猫ってところか。
       役に立ちそうもないけど……」
 ∧ 
(゚、。`フ 「むっ……まぁ開けてみればわかることじゃ。さっさとせい」

(´・ω・`) 「わかってるさ」

860名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 15:31:34 ID:r7qD9sG60

ほぼ十日を費やし、錬金術の工程は前半分ほど終わった。
残りに取り組むには、一月ほど寝かせて待たなければいけない。
 ∧ 
(゚、。`フ 「鬼が出るか蛇が出るか、楽しみじゃの」

(´・ω・`) 「出来ればもっといいものが欲しいね」
 ∧ 
(゚、。`フ 「古代の錬金術師がわざわざ封印するほどのものじゃぞ?
       そうなれば悪鬼悪霊の類に決まっとる」

(´・ω・`) 「にしては、ずいぶん余裕じゃないか」

ふん、とつまらなそうな鼻息をつくでぃ。
 ∧ 
(゚、。`フ 「煽りがいがないの」

(´・ω・`) 「危険なものが封じられてるのだとすれば、開封の仕方を残したりはしないからね。
       素人に悪用されてしまったら困るほどの錬金術。
       もしくは、それに類する素材や技術であって、後の世に必要になると考えられているもの」
 ∧ 
(゚、。`フ 「随分と限定的で希望的観測じゃな」

861名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 15:33:02 ID:r7qD9sG60

(´・ω・`) 「今ある情報から、今後の結果を予想する楽しみは錬金術師として当然だろ。
       さらに言えば、中に入っているのがのちの世に残すべきものだとすれば、
       それは役に立つものでないはずがない……と思う」

そうであってほしい、という願望だ。
実際のところ何が入っているかは、ほとんど予想がつかない。

(´・ω・`) 「さて、残りの素材を準備して待つとしよう」
 ∧ 
(゚、。`フ 「何か手伝えることでもあるかの?」

(´・ω・`) 「特にないよ。好きに時間をつぶしてくれ」
 ∧ 
(゚、。`フ 「それなら、ここで見ておることにするか」

窓の下、月の光が差し込む棚の上に、でぃは横になる。
こうしてみると、ただの野良猫そのものだな。
憎まれ口さえ叩かなければ、少しは心癒されたものを……。

(´・ω・`) (必要な素材は……と)

862名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 15:34:22 ID:r7qD9sG60

メモに書き残しておく。
今日は朝から通しで錬金術をしてきたせいか、少し疲れた。
酒でも飲みながら休憩をしよう。

足りなかったものは明日揃えに行けばいい。

買ってきたばかりのお酒は、少々値が張るこだわりの品だ。
普段あまり飲まないから、店主に進めてもらったものをそのまま売ってもらった。
栓を抜けば甘酸っぱい香りが部屋の中にひろがる。

濃い紫色の液体を一口あおる。
喉を過ぎるのはひんやりとした程よい甘味。
アルコールの度数は高すぎることもなく、飲みやすい。

気持ちのいいほろ酔い気分を感じながら、瞼を閉じた。



・  ・  ・  ・  ・  ・



(´・ω・`) 「さて、開けるよ?」
 ∧ 
(゚、。`フ 「長いこと待ったかいがあるかの」

863名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 15:41:26 ID:r7qD9sG60

準備をはじめてからおおよそ一月半。
錬金術もすべて終わり、目の前には三つの小瓶がある。

光を飲み込む≪月呑み湖の泥≫は透明な液体に。

草を枯らす≪溜まり樹海の瓢箪≫は無臭の液体に。

鉄より硬く危険な≪燃ゆる乾荒原の珊瑚≫は無害な液体に。



匣の上部にある窪みは三つ。


珊瑚を

瓢箪を

泥を

それぞれ液化したものを注ぐ。

864名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 15:42:35 ID:r7qD9sG60


液体と反応し、光が箱の全周を走っていく。
光の線が絡み合い混じり合い、一瞬だけ強く明滅した。

カチリ、と小さな音と共に光の溝にそって匣は解体された。
 ∧ 
(゚、。`フ 「!!!」

中に入っていたのは金色の鈴。
細いが丈夫そうな紐に二つ括り付けられている。
もっとよく見ようと手を伸ばしたとき、隣で見ていた猫に静止がかけられた。
 ∧ 
(゚、。`フ 「触るのは待て」

(´・ω・`) 「どうしてだ?」
 ∧ 
(゚、。`フ 「ぬしが匣を開けたとき、わらわは全てを思い出したからじゃ。
       その鈴が一体どういうものであるかも、の」

鈴と僕の間を遮るようにでぃは机の上にたった。

(´・ω・`) 「それは触っちゃいけない理由と関係があるのか?」
 ∧ 
(゚、。`フ 「触る前に見極めなければならぬ。ぬしにこの鈴を持つ資格があるかどうか」

865名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 15:45:53 ID:r7qD9sG60

でぃの声は真面目そのもので、思わず言うことを聞いてしまうほどの迫力があった。
無理を通して鈴を掴むのは簡単だが、話を聞いてからでも遅くない。

 ∧ 
(゚、。`フ 「まずは、わらわの本当の名を名乗っっておくべきか
       わらわの名は ディートリンデ・クリンゲル。番人の一人じゃ」

(´・ω・`) 「番人?」
 ∧ 
(゚、。`フ 「わらわ達は、古代錬金術の中でも、特に危険な可能性を秘めたものを護っておる」

(´・ω・`) 「それなら、僕が鍵を解除するのを黙って見ていたのはなぜだ?」
 ∧ 
(゚、。`フ 「この鍵を開けることができる者ならば、話す価値があると判断されるからじゃ。
       匣が開けられたとき、わらわの記憶も蘇るようになっておった。
       ここにあるのは【想起の鈴】」
     
(´・ω・`) 「それだけで番人をつけることが必要なほど重要なものとは思えないが」
 ∧ 
(゚、。`フ 「話は最後まで聞け。【想起の鈴】はわらわの存在が近くにあれば、
       自らと血の繋がる祖先の過去まで知ることができるようになる。
       それは、つまり」

つまり、人間の脳では処理しきれない情報が強制的に叩き込まれるということ。
よくて人生の意味に絶望し無気力になる程度、最悪の場合は廃人になると、でぃは言った。
 ∧ 
(゚、。`フ 「自らのもの以外の過去のことなぞ、今を生きる上で知る必要はない。
       知れば苦しみ、怒り、後悔し、虚無に陥るだけじゃ」

866名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 15:49:28 ID:r7qD9sG60

(´・ω・`) 「ではなぜ、この鈴は存在しているのですか?」
 ∧ 
(゚、。`フ 「わらわの友人はの、これが必要になることがあるかもしれぬ、そう考えたのじゃ。
       まだ、彼奴が心配したような事態は起きておらぬのじゃろうが、
       その片鱗は見えておる」

(´・ω・`) 「片鱗とは?」
 ∧ 
(゚、。`フ 「錬金術の大衆化じゃ。多くの者が知るほど、より多くの可能性が生まれる。
       善意のあるものが利用すれば発展し、悪意のあるものが利用すれば、世に禍を齎す」

人間一人の知識や知恵は限られているし、後の世代に伝えられる情報も多くはない。
直列の情報伝達は人間の不得意分野であるのと逆に、
並列のそれは想像をはるかに超える。
 ∧ 
(゚、。`フ 「自身のために、そして未来の世界のために。
       ……そんな彼女にわらわ達は力を貸すことにしたのじゃ」

(;´・ω・`) 「………………」

話が壮大すぎてついていけない。
つまり、古代錬金術師は錬金術が悪用された時の対策のために、
錬金術の遺品を残し、わざわざ見張り番を残したというのか。

867名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 16:01:14 ID:r7qD9sG60
 ∧ 
(゚、。`フ 「もっとも彼女が憂いていたのは、自分自身じゃったがな……」

(´・ω・`) 「?」
 ∧ 
(゚、。`フ 「まぁよい。匣はぬしによって開けれらた。
       錬金術の腕前は証明され、鈴を手にする一つの関門は突破したわけじゃ。
       あとは、わらわの選択じゃが……特別悪意を感じることもなし、
       鈴はぬしの好きにするがよい。わらわはそれがどこにあろうと見つけ出すことができるしの」

(´・ω・`) 「僕がこれを破壊するとか思わないのか?」
 ∧ 
(゚、。`フ 「好きにするがよい。壊せるものならの」

皮肉たっぷりに笑った猫は、開いた窓から外を眺める。
遠くを見る瞳に映るのは、いったい何だろうか。
 ∧ 
(゚、。`フ 「さて、そろそろお別れじゃ」

(;´・ω・`) 「ま、待て、まだ聞きたいことがある。
       アニジャとオトジャという二人の番人のことは知っているか?」
 ∧ 
(゚、。`フ 「懐かしい名じゃ……あやつらとも会ったことが有るのか」

868名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 16:05:33 ID:r7qD9sG60

(´・ω・`) 「数十年前にね」

その時は古代錬金術師にかかわる詳しい話は教えてもらえなかった。
ただ僕らの目的が一致し、そのために協力してもらっていただけだ。
あの二人は今も恐らく、クールの下にいるのではなかろうか。
 ∧ 
(゚、。`フ 「ふっ……番人のうち二人も会っておるのか。
       ぬしはこれから大変なことに巻き込まれるかもわからぬな」

(´・ω・`) 「それはどういう……?」

 ∧ 
(゚、。`フ 「知らぬ方がよいということもある。それにの、時が来ればわかること。
       鈴を持つということは、そういうことじゃ。
       匣が開けられる者の手に渡ったということも……の」

それだけ言い残すと、でぃ家の外に飛び降りた。
後を追うように外を見れば、小さな後ろ姿は長い尾を揺らしながら駆けていく。
すぐに山間に入り込み、言葉を話す奇妙な猫は見えなくなった。

(´・ω・`) 「なんだったんだ……」

唐突に現れ、何も説明せぬまま僕の前から姿を消した猫。
彼女の残した不吉な言葉だけが、僕の胸に残って渦巻いていた。

869名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 16:08:16 ID:r7qD9sG60

振り返り、匣の中にあった鈴を手に取ると、
透き通った鈴の音が部屋の中に響き渡った。



────────────────────────────────







────────────────────────────────



(´・ω・`) (今何かが……あったような……)

瞬きするほどの間、意識を失っていたように感じる。
記憶が僅かに途切れたような違和感。

(´・ω・`) 「原因はこの鈴か……?」

片手の上に乗せた鈴は、親指の爪ほどの大きさが二つ。
赤い紐で一括りにされている。

よくよく見れば、匣の裏側には言葉が彫ってあった。
それは、解錠した者へのメッセージなのだろう。

870名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 16:10:30 ID:r7qD9sG60













想起の鈴

記憶のカギを持つ者よ
汝の血の導きが、混迷する世に光明を齎さんことを

871名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 16:35:29 ID:MbKYKDMs0
来てたんだー久しぶり
今から読みます

872名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 18:44:06 ID:oSyZB6sg0
終わりかな?乙カレサマー!

アーイイ…ファンタジーな感じの錬金術アイテムスゴくイイ…

873名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 18:59:12 ID:r7qD9sG60


錬金術の鈴は失くさないよう、旅行用の荷袋に仕舞う。
匣を開けるために用意した素材は、適切な場所に片付けておけばいい。
普通の人間には全く価値のないものばかりだ。

もうこの地に用はない。


(´・ω・`) 「さて、出掛けようか」


扉には鍵もせず、僕はまだ訪れたことのない土地を目指して家を後にした。

874名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 19:00:57 ID:r7qD9sG60













16 ホムンクルスは試すようです  End

875名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 19:02:10 ID:r7qD9sG60
>>2   1 ホムンクルスは戦うようです
>>29  2 ホムンクルスは稼ぐようです
>>65  3 ホムンクルスは抗うようです
>>93  4 ホムンクルスは救うようです
>>118 5 ホムンクルスは治すようです
>>148 6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです
>>183 7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです
>>245 8 ホムンクルスと少女のようです
>>284 9 ホムンクルスは迷うようです
>>334 10 ホムンクルスと動乱の徴候
>>393 11 ホムンクルスと幽居の聚落
>>456 12 ホムンクルスと異質の傭兵
>>525 13 ホムンクルスと同盟の条件
>>595 14 ホムンクルスと深夜の邂逅

>>678 15 ホムンクルスと城郭の結末


【時系列】

ホムンクルス生誕
   ↑
   ↓
6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです
7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです   
8 ホムンクルスと少女のようです
   ↑
   |
   |
   ↓
1 ホムンクルスは戦うようです
   │
2 ホムンクルスは稼ぐようです
   │
3 ホムンクルスは抗うようです
   │
4 ホムンクルスは救うようです
   │
5 ホムンクルスは治すようです
   │
9 ホムンクルスは迷うようです
    |
10 ホムンクルスと動乱の徴候
11 ホムンクルスと幽居の聚落
12 ホムンクルスと異質の傭兵
13 ホムンクルスと同盟の条件
14 ホムンクルスと深夜の邂逅
15 ホムンクルスと城郭の結末


876名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 19:04:18 ID:r7qD9sG60
>>2   1 ホムンクルスは戦うようです
>>29  2 ホムンクルスは稼ぐようです
>>65  3 ホムンクルスは抗うようです
>>93  4 ホムンクルスは救うようです
>>118 5 ホムンクルスは治すようです
>>148 6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです
>>183 7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです
>>245 8 ホムンクルスと少女のようです
>>284 9 ホムンクルスは迷うようです
>>334 10 ホムンクルスと動乱の徴候
>>393 11 ホムンクルスと幽居の聚落
>>456 12 ホムンクルスと異質の傭兵
>>525 13 ホムンクルスと同盟の条件
>>595 14 ホムンクルスと深夜の邂逅
>>678 15 ホムンクルスと城郭の結末

>>805 16 ホムンクルスは試すようです

877名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 19:05:06 ID:r7qD9sG60


【時系列】

ホムンクルス生誕
   ↑
   ↓
6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです
7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです   
8 ホムンクルスと少女のようです
   ↑
   |
   |
   ↓
1 ホムンクルスは戦うようです
   │
2 ホムンクルスは稼ぐようです
   │
3 ホムンクルスは抗うようです
   │
4 ホムンクルスは救うようです
   │
5 ホムンクルスは治すようです
   │
9 ホムンクルスは迷うようです
    |
10 ホムンクルスと動乱の徴候
11 ホムンクルスと幽居の聚落
12 ホムンクルスと異質の傭兵
13 ホムンクルスと同盟の条件
14 ホムンクルスと深夜の邂逅
15 ホムンクルスと城郭の結末
    │
    │
  戦争編・後編
    │
    │
16 ホムンクルスは試すようです

878名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 19:07:42 ID:r7qD9sG60
すいません、最後の最後で寝落ちしてしまいました……


その後の時系列纏めも途中で貼ってしまうわ、散々でした。


投下は久しぶりだったので、すいません。
それでは、2/1にまたお会いしましょう。

879名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 21:54:13 ID:oN4QxSVY0
おつおつ
待ってたやで!

880名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 21:54:52 ID:9pLC.6iA0
すぐじゃないか!
もう胸のときめきが止まらない!!!

881名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 22:08:14 ID:IdmIV/VA0
おつんこ

882名も無きAAのようです:2015/01/29(木) 23:05:50 ID:NxqF2uIo0
おつでした!
次回も楽しみだ

883名も無きAAのようです:2015/01/30(金) 18:44:18 ID:LGRamdrUO
ω・`)乙。いつ見てもこのショボンは正統派ショボンだな。

884名も無きAAのようです:2015/01/31(土) 18:23:08 ID:SQWdKyDQO
明日か!
何時ぐらいにくるのかなwktk

885名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 00:44:14 ID:.mVDc3Vo0

・一夜蔦 栄養のある土と日の光の当たらない湿気た森の中で自生している。
      他に類を見ない成長速度を持つが、ちょっとした環境の変化ですぐに枯れてしまう。

・深海茸 海底に生える茸。波の静かな入り江に群生し、夜になると薄く発光する。
      不定形なカサ部分には毒があり、人間が摂取すると数日間は痺れて動けない。

・深海茸の胞子 夏の夜になると、海面を埋め尽くす白く柔らかな球。
           栄養価が高いため、外洋に流れ出ると魚の餌になってしまう。

・檻鶴 翼を開くと縦に格子状の模様がある純白の鶴。非常に臆病で、
    長命と言われる鶴の中で最も寿命が短く、産まれてから移動する距離が狭い。

・檻鶴の血液 摂取すると、成長が制限される黒い血液。
         生きている檻鶴から採血しなければならないため、手に入れることは難しい。

・焔蝙蝠 燃えるように真っ赤な蝙蝠。子供の手ほどの大きさしかないが、
      数百数千の群れを作り、極稀に人を襲うこともある。

・千年蝉の幼虫 栄養のあるものであれば、どんなものでも食してしまう頑強な歯と顎を持つ。
           食べたものによって身体の組成を変化させることができる。

・蛇頭龍尾 頭さえ無事であれば、体を何度でも作り直すことができる生命力が強い蛇。
        千切れるたびに一回り太くなるため、主な死因は栄養失調である。

・怠け蜘蛛 巣を張って獲物がかかるのを待っている巨大蜘蛛。
        動きは緩慢で、餌がかかってもなかなか現れない。別名を昼行燈蜘蛛とも言う。

・月呑み湖の泥 月呑み湖に浮かんでいる暗黒の球体。
          ふわふわと柔らかいが、どのような物質であるのか未だ解明されていない。

・溜まり樹海の瓢箪 中がとんでもなく臭い瓢箪。食べることもできるが、味は……。
              主な使用用途は山道を行くときの動物避けである。

・燃ゆる乾荒原の珊瑚 珊瑚という名がつけられてはいるが、その実は赤黒い鉱石である。
               非常に危険なもので、保存方法を間違えれば爆発してしまう。

・岩喰い仙人掌 岩の上に生える小粒の仙人掌。
           これに埋め尽くされた岩は少しずつ小さくなり、いつの間にかなくなってしまう。

錬金術一覧

・想起の鈴 番人(ディートリンデ・クリンゲル)がいるところで使用すると、自らの血筋を辿って記憶を得ることができる古代錬金術の遺品。


16話 追加分です

886名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 09:37:37 ID:2jFD.IRQ0
説明見たとき瓢箪これ絶対に猛毒とかなんだろうなーと思ってたら喰えるの!?

アイテムの解説良いよね

887名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 13:03:41 ID:.mVDc3Vo0


静かに、しかし確実に広まっていた錬金術の闇。
病魔のように世界各地をゆっくりと悪意に染めていく。




ホムンクルスは生きるようです


      【戦争編・後編】

888名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 13:05:44 ID:.mVDc3Vo0



(´-ω-`) 「う…………」

身体を起こそうとしても、力が入らない。
眩しい日差しが、指すら動かせずに寝ている目にささる。

何度も瞬きを繰り返して、強い光に眼を慣らす。
その間に黒い影がいくつも空を横切っていく。
それが見たことない種類の海鳥だとわかるまで、しばらくかかった。

ここはいったいどこだろうか。
立ち上がろうとしても、体には力が入らない。

全身を投げ出したまま、動かせる場所だけに意識を向けて、状況確認をする。

ゆっくりと視線を横に向ければ、痩せ細った腕がそこにあった。

力を入れると、今度は指先が少し震える。
腕は、すぐに修復されてあるべき姿に戻り、
握っていた欠片が、柔らかな砂の上に落ちた。

(´・ω・`) 「ここは……?」

889名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 13:07:30 ID:.mVDc3Vo0

寄せては返す波の音。鼻をつく潮の香。ざらつく柔らかい地面。
僕が横になっているのは人気のない砂浜で、
下半身がずぶ濡れになっていることに気付くまで少しの時間を要した。

全身の筋肉が硬直しているのか、動こうという意識に身体がついて来ない。
心と体が分離してしまっているかのように。
ホムンクルスの不死性は完全無欠なものであるが、回復性には小さな欠陥がある。

僕の意識そのものが存在の根本にあるせいか、今までも何回か同じようなことがあった。
空腹で倒れた時は、一晩ほど動けなくなる。
状況によっては意識を失ってしまうこともあった。

だが、今は空腹だけが原因ではない。おそらくは、長い間波にのまれていたせいだろう。
呼吸ができないことで全身の機能が著しく低下し、海中では再生も思うように進まなかった。
そのため、筋肉の動かし方を忘れてしまっていたのかもしれない。
陸に打ち上げられてからどれだけの時間が経過したのかわからないが、今はもう身体が再生しきっている。

それよりも、問題は別にある。
自分がなぜ、この場所に横たわっているのか思い出せないことだ。

890名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 13:09:38 ID:.mVDc3Vo0


…………怖い。


心臓が激しく脈を打つ。
その度に、全身の温度が下がっていくようにも感じる。


今は一体いつなのか。
最後におぼえている時間からどれだけ過ぎているのか。


人間は、未だ存在しているのか。


(´ ω `) 「……」

海を漂っている間に、人類は滅びてしまっていないだろか。
この場所から見えるのは、岩礁によって海流の荒れた海だけ。


人の営みが感じられるものは何一つ────ない。

891名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 13:11:18 ID:.mVDc3Vo0


(´ ω `) 「っ……」

両腕に力を入れ、上体を起こす。
各関節の動きを確認しながら、少しずつ動く。
最初は這うようにして、次第に全身の筋肉に意志がいきわたる。
両足を体の前にひきつけ、四つ足で波に濡れない場所にまで移動した。

(;´-ω・`) 「はぁ……はぁっ…………っふー……」

大きな溜息を一つ。
今はまだわずか数歩の距離を進むのがやっとだ。

海沿いに並ぶ樹木の一つに身を預け、目の前に広がる光景を考える。


光り輝く水平線は、視界の中心で一直線に空と混じり合っている。
どうやらこちら側に陸地はないようだ。

892名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 13:13:37 ID:.mVDc3Vo0

(´・ω・`) 「あれは……岩礁亀か」

岩のように巨大な姿を持つ亀。
海中に空気を送ることができる苔が群生している浅瀬でしか生存できない種族で、
大きすぎる躰で、動くのは年に数回ほど。
その度に潮流が変わり、それが原因で自ら滅びてしまうことすらある希少な生き物。

錬金術の知識は失っていないことで、少なからず冷静さを取り戻せた。
どうやら、僕が忘れているらしいのは、この身に起きた直近の出来事。
こうして誰も人がいない島に、流されてきた理由。

空を見上げて考えても、その答えは見つからなかった。


(´-ω-`) 「………………」

僕は、他に何を忘れてしまって、何を覚えているのだろうか。
昔のことは、一つとして忘れていないようにも思えるけれど、
言いようのない不安に駆られて、一つ一つ確認していく。

893名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 13:15:33 ID:.mVDc3Vo0

僕はホムンクルスのショボン。
主人から永遠の命を与えられた不死の生き物。

ある女性を探して旅をしている。
彼女もまた僕と同じ不老不死のホムンクルス。
ただ僕と違い、彼女は人間がベースとなっている。

過去のことは覚えていた。
大切な記憶は、今でもすぐに思いだせる。

……大陸に戻らなければいけない。
僕にはやるべきことがある。大切な女性を見つけ出すという目的がある。
こんな辺境の島でのんびりとしていることはできない。

(´-ω・`) 「ぐっ……」

立ち上がろうとしたとき、腰に妙な引っ掛かりを覚えた。

(´・ω・`) (……双剣なんて持っていたか?)

常に旅を共にしてきたのは、一振りの剣だったはずだが、
手にした双剣は身に覚えがない。

894名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 13:16:41 ID:.mVDc3Vo0

鞘は金で覆われており、所々に水晶や翡翠などを用いているが、
残念なことに、長く塩水に浸っていたせいか刀身はあちこち錆びてしまっている。

錬金術によるものなのは明らかだが、どういう効果があるのだろう。
剣の鍔には、濁った珠が埋め込まれており、時折蠢いてるようにも見えた。
単に光の当たり方だけかもしれないが……。

海岸には流木と海藻の他には何もない。
島内を探して脱出の手段か役に立つ道具を探さなければ……。

(´・ω・`) 「よし……」

樹に手をつき立ち上がる。
砂は足を取られて歩きにくいが、岩場に比べれば幾分ましか。
荒波で削られた鋭い岩礁を、裸足で歩くのは遠慮したい。

数時間かけて移動と休憩を繰り返しながら、
島の外周に沿って歩いていると、いくつかのことが分かった。

島の中心部には数百本の樹木と植物が群生しており、
少しなら食用の実がなっているということ。

895名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 13:18:38 ID:.mVDc3Vo0

島を覆うように岩礁亀が点在しているせいで、複雑な海流が島を護っている。
西側、つまり僕が最初に倒れていたのと逆側には、遠くに島の影が見えた。

漁船が何艘か浮かんでいるのはわかるが、小指の爪ほどの大きさ。
声や動きでは気付いてもらえそうにない。

恐らくだが、複雑すぎるこの島の海流に阻まれて、この付近の海では漁ができないのだろう。

島を一周してわかった一番重要なことは、まだ生きている人間がいるということ。
意識がないうちに数千、数万の時が過ぎ去っていました、ということが有り得たが、
舟の形も最後に記憶がある時とそう変わっていない。
百年単位で過ぎ去ってしまったということはなさそうで一息つく。

(´-ω-`) 「よかった……」

安心で膝が崩れ、柔らかい地面の上に横になった。
人のいない世界で生きていくなんて考えただけで、気が狂いそうになる。
もっとも、後伸ばししているだけでいつかは取り組まなくてはならない課題だが。

これで問題はただひとつに絞られた。
この島をどうやって脱出するか。

896名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 13:19:57 ID:.mVDc3Vo0

当然泳いでいける距離ではないし、舟を作ろうにも道具がなく、
島に根を張る植物の強度では、荒波を抜けることはかなわない。

それならば、外洋を航海して来る人々とコンタクトをとるしかないが、
此方側に来ることが有るだろうか。

定期便などが近くを通るまで待っているだけじゃなくて、向こうから見える合図を送らなければ。
生えている樹はそこまで高くないが、細く柔らかい。
手持ちの錆びた双剣で十分に切り倒せる。
明確に数が減っていれば物好きが様子を見に来るかもしれない。

明日から取り掛かろう。
今日はまだ本調子ではないし、急いだところで何か変わるわけでもない。

指先から腕に、徐々に力をいれていく。
戦闘を想定して体をひねり剣をふるう。
動いているうちに、上半身と下半身の感覚を取り戻していく。

身体全体をほぐすように、負荷をかけては休憩を繰り返していた。
陽が沈むころには、体力も回復してほぼ普段の状態に戻る。

897名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 13:21:25 ID:.mVDc3Vo0

ベッドはないが、寄せ集めた草で寝床を作り一晩を明かした。
波は静かに寄せては返し、岩礁亀が二、三度震えたくらいで、夜は終わる。

朝、打ち上げられた漣栄螺が波の音を囁きながら海に帰っていく。
意識を取り戻してから二日目を迎えた。

(´・ω・`) 「さて、もう一度島を回ってみるか」

目を覚ましてからの体調は頗る良かった。
昨日はほとんど見なかった島の中心を探索する。

生えている植物は主に数十種類。
その中でも二つ、文献ですら見たことがない植物があった。

背が低く、一本の細い幹から枝分かれをしている。
葉は手のひらほどあり、形は様々。
特徴的なのはその色で、植物には珍しい白色。

味は……苦く芯が口の中に残る。
食べられないことはなさそうだが、生食には向いていない。

898名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 13:22:37 ID:.mVDc3Vo0

二つ目は小さな黄色い花。
花弁の部分のみが地面から出ていて、葉と茎がない。
根はグループ単位で共通しているようだ。
蜜は甘いにおいがするけれど、おそらく人間には毒だ。
他の植物には食い散らかされた後が見えるけれど、この植物だけは虫すら齧っていない。

(´・ω・`) (あれ……?)

二度目に島を一周して気づいた違和感。
その大元を調べるように島の外周から内側に向かって歩いていく。
海の青、砂の白、草の緑、土の黒。
変化していく色を見て、それは確信に変わった。

(´・ω・`) 「この島は……人工的に作られたのか……?」

気づいてみれば、なぜ昨日のうちにわからなかったのかが不思議なくらいだ。
島の外周は歪であるが、そこから内側に向かって存在している"層"の間隔はどの場所でも同じ。

最も外側には砂浜。
次に主に雑草などの背が低い植物。
中心部には間もそこそこに細い樹が立ち並び、中心点から数百歩分は円形の黒い地面が広がっている。
そうしてみた時、この島の中心と言える場所に人工物があることに気付いた。
枯れ草に埋まっていて、注意して探さなければ見逃してしまうだろう。

899名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 13:26:39 ID:.mVDc3Vo0

石に削られた文字は、風化してしまってほとんど原型がない。
かろうじて読めたのは、ネムルの三文字。

(´・ω・`) (これは墓だ)

名前の部分に当たるところは五列もあり、一人ではなく複数人のためのもの。
台座が砕けてしまったせいで、その上に立っていた石もまた、倒れて埋もれてしまったようだ。

だがなぜかわからない。
墓を作るのは、誰かが悼むため。
それは当たり前だ。

しかし、墓を作るためだけに島を用意できる人間がどれだけいる?
人が容易に侵入できないよう岩礁亀を無数に住まわせ、
海の浸食にすら耐えれるような設計がなされている。

(´・ω・`) (なんだろ?)

墓の下、土をどけると厚い鉄板がひかれていた。
取っ手がついてあり、体重をかけて引っ張ってみるとどうやら動きそうだ。

900名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 13:27:51 ID:.mVDc3Vo0

軽く祈り、墓の台座も隅へ避けた。
鉄板をずらしてみると、人が下りれるだけの広さがある階段が続いている。

地下に向かう階段には、明かりの類いはなく、なんの道具も持っていない状態で降りていくのは躊躇われた。
人工の島にある墓、その下に存在している地下通路。
壁の材質は岩。島の地盤と同じものだろう。

(´・ω・`) 「あー」

目の前にぽっかりと口を開けた入口。
興味は多大にある。
素手だろうが裸足だろうが、そんなことは関係ないほどには。

僕を迷わせていたのは、装備の不足よりもむしろ、気持ち的なものだった。
奥から漂ってくる錬金術独特の雰囲気。
いつも肌で感じるそれが、今回は特に強い嫌悪感を感じる。
人間的好奇心を押さえ込むほどの動物的危機感。

地下への入口は、鉄の蓋を引っ張って閉めた。
少なくとも、今すぐ降りるのはやめておく。
島を見回れば、もう少しあの先を予想できるものが見つかるはずだと。

901名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 13:29:01 ID:.mVDc3Vo0

倒れた墓を元通りに立てる。

(;´・ω・`) 「っ!!」

墓石の後ろ側に彫られていたのは、もっとも憎悪すべき証。
数字の"はち"の形に象られた蛇。
長年の劣化で銀の装飾はほとんど剥げていたが、
すべての幸せを僕から奪っていった、忘れることのできない忌々しい存在がそこにあった。

(´-ω-`) (ここに、その死体が?)

頭は冷静だった。
だけど、島をもう一度探索するなど悠長なことをする必要はないと決断を下していた。

墓石を蹴倒し、再び地下への道を曝す。
確かめるように一歩を踏み下ろしたが、ひんやりとした感覚が足の裏にひろがるだけ。
二歩、三歩、進むがなにかが動いた様子はない。
そもそも、外から侵入されることは考慮していないのかもしれない。

地下に降りていく道は暗く、背中の光も自分で遮ってしまい足元すらほとんど見えない。
ただ、知りたい。
ここに何があるのかを。
その意思だけが足を進ませる。

902名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 13:32:34 ID:.mVDc3Vo0

階段が終った時、入口の光は手のひらよりも小さくなっていた。
ただ、全くの暗闇ではなく、いくつかの錬金術とおぼしき装置が薄暗く照らしている。
まっすぐ廊下が続き、扉をあければ、一つの空間に出た。
暗さに慣れた目が、痛みを訴える。

何処からか、油と空気の供給があるのだろう、幾つものランプが静かに室内を照らしていた。

墓所。
そう呼ぶのがふさわしいだろう。
並んだ棺桶は数十もある。
その一つ一つに名前と蛇の印が彫られている。
地上のものと違い風化していなかったが、そこに見知った名前はなかった。

(´・ω・`) (奥に何かある)

部屋の最奥、もう一つの扉を開けると、墓所よりも大分狭い場所に繋がっている。
入った途端、その部屋の足元が不安定であることに気付いた。
柔らかく温かみのある地面。墓所の部屋の足場とは異なり、程よい弾力で踏んだ部分がわずかに沈む。
中心には、古びた机。壁にはたくさんの紙束が無造作に突っ込まれている。

903名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 13:35:24 ID:.mVDc3Vo0


そのうちのいくつかを手に取って中身を読む。
書いてあったのは背筋が凍るような実験の数々。
その結果が詳細に書かれている。


───


≪オーバーサイズ・プロジェクト≫


実験の目標 : 生体の巨大化。

生物にはその骨格や強度に適したサイズがある。
その限界を超えた場合、自身の重量や動きに耐えられず、自壊すると予想されていた。
現実はその通りになり、幾つかの工夫を要した。
錬金術による骨格や筋力の強化。
この実験で得られた経験値は、今後役に立つことが有るかもしれない。

904名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 13:38:02 ID:.mVDc3Vo0

第一の実験……兎草、その他植物
兎草の肥大化には苦労なく成功した。
だが、本来兎草が持ちうる強い生命力が失われてしまった。
濁った水や、虫食いなどの僅かなストレスで枯れてしまう。
食用の種類であれば、大きくするだけ味や食感を損なった。
植物の巨大化は簡単ではあったが、メリットは得難い。


第二の実験……蟻
植物の錬金術が安定してくるようになり、次の段階に移行することにした。
つまり、生物である。
植物と比べて構造が非常に複雑であるため、巨大化は困難を極めた。
数年の試行錯誤により、ついに我々は巨大な蟻を生み出すことに成功した。
しかし、暴れる蟻を抑え込むことができず、殺処分を行う。


第三の実験……人間
当初は、巨大蟻の暴走により死んだ人間の死体を利用。
その後、生存する個体でないと不可能だという意見に纏まり、
奴隷を購入。実験を続けた。
その殆どすべては失敗。
唯一の成功も、知能は衰え、人間としての記憶も失ってしまった。
ただ動く大きな肉の塊となり、しばらくは"飼って"みることにした。

素体その後の記録は、別の冊子に記す。

905名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 13:47:26 ID:.mVDc3Vo0


≪リーンフォースドソルジャー・プロジェクト≫


戦争において最も恐ろしいのは、死をも恐れぬ軍隊である。
我々の目的にはそれが必要不可欠である。

結論から言うと我々の集大成をして、強化兵士を創り出すことはかなわなかった。
数十年以上の経験と知識を持つ錬金術師が、複数人集まったにも拘らず、
結果は同じであった。

だがある日、謎の男が我々に協力を申し出てきた。
男が創り出そうとしていたのは、不老不死の存在だという。
それを我らは笑ったが、気にした風はなくただ無償での協力を申し出てくるだけだった。
これ幸いと男によって持ち込まれた知識と技術を活用し、ようやく我々は強化兵士への足掛かりをつかんだ。

骨格の強化、変化はもとより、
より俊敏な体格へ、より強大な筋肉へ、
志願した兵士は少なく、奴隷で補充せざるを得なかった。

906名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 13:48:29 ID:.mVDc3Vo0

無数の失敗を経て、我々はついに成功に至った。
人間の意識を失わず、強化兵士へと肉体を昇華させる。
ただ、それには貴重な素材が必要なため、数をそろえることができなかった。

より手に入りやすい素材と簡易な錬金術による同様の効果を求めて試行錯誤するも、上手くいかず。
さらに悪いことに、成功した個体も病に侵され一桁にまで減ってしまった。

今後も継続して研究していくが、望みは薄い。


その後の数ページは破かれており、読むことはできなかった。
手に取った冊子を机の上に投げる。

この研究は一端に過ぎない。
奴らは、影に隠れて実験し続けいたのだ。

残虐な錬金術を。
人を苦しめ、世を狂わす錬金術を。

907名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 13:53:08 ID:.mVDc3Vo0

(´・ω・`) 「……!」

本棚の一番上、未だ埋まり切っていないそこは最新の研究が保管されているのだろうか。
そこに見つけた背表紙を見て、手に取らずにはいられなかった。


───


≪ホムンクルス・プロジェクト≫


紙は新しく、つい最近まで利用されていた形跡がある。
見開きには、こう書かれていた。


不老不死の研究データ

モララルド著

908名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 13:57:02 ID:.mVDc3Vo0

瞬間、頭が痛む。
濁流のように脳裏を過ぎ去っていく光景。
その最後に見えたのは、僕を見下ろす少年の瞳。


(;´・ω・`) 「モララルド!」

誰もいない部屋で叫んでしまう。

忘れていた記憶は、かつての少年の名前を引き金に明確に思い出す。

同時に、自分の愚かさも。
あの時、敵の錬金術師の命を奪っていれば、こんなことにはならなかった。

失ったものは大きく、得られたものは何もない。

覚悟していたはずだった。
最悪の結果を防ぐために、人の命を奪うことを。
戦争だと自分に納得させ、より多くを護るために。

だけど失敗した。
モララルドの父親は、刺激にたいして発生する毒物を盛られていたのだろう。
最初から助かる見込みはなく、僕らを追い詰める罠として利用されていた。
奴らの目的はホムンクルス。

909名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 13:59:15 ID:.mVDc3Vo0

男の言葉を疑わないのであれば、僕らを捕まえて解剖なり実験なりするつもりだったのだろう。

そして……モララルド

幼いながらモララルドの知識には目を見張るものがあった。
父親が有望な錬金術師であったこともあり、狙われていてもおかしくはない。

人食い教会で連れ去られた後、彼はどうしていたのだろうか。

視線を本に戻す。
字体は崩れていて読みにくい。
けれどホムンクルスに対する考察は目を見張るものがあった。
一つ、疑問が生まれる。

まだ幼さの残る少年に、錬金術の実験結果を詳細に書き残すことができるかどうか。
答えは否。
つまり、僕が崖から落ちて意識を失ってから、
数年間もしくは数十年間の時間が経過しているのは間違いないと言うこと。

(;´-ω-`) (はぁ……)

910名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 14:00:31 ID:.mVDc3Vo0

思ったよりも時間が経過していないのではと、安堵している自分がいた。
人間にとっての十年は長い期間に違いないが。
それこそ、何かを変えてしまうには十分なほど。

モララルドは、僕のことをどう思っているだろうか。
ふと、不安が心をよぎる。

いや、考えるのはやめよう。
彼のことを想像したところで、問題が解決するわけじゃない。

落ち着かない気持ちを手元の冊子に無理矢理向ける。

錬金術の里襲撃と十三代目書庫番の拉致に関しても伝聞形式で書かれていた。
達成不可能と思われる目標と、騎士協会からの圧力、
様々な要素から実験に協力する錬金術師が不足していたのだ。
だからリスクを冒した。錬金術師に対する挑発ともとれる里の襲撃を行った。

結果に関しては書いていなかったが、あまりうまくはいかなかったのだろう。


何がしばらくすれば脱出できる、だ。
随分と暢気なことを考えていた。
僕は一刻も早く大陸に戻らなければならない。

911名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 14:03:07 ID:.mVDc3Vo0

戦争は今どうなっているのか。
もう終わったのか、それとも……。

深呼吸をひとつ。心臓の鼓動が全身に響き渡る。早鐘を打っていた脈動は、ゆっくりと落ち着いていく。
気持ちだけが逸っても、事態は好転しない。
落ち着いて対処していかなければ、過去の二の轍を踏んでしまいかねない。

ブーンは無事なのだろうか……。

書庫番を背負っていた姿は思い出せる。
その後、ブーンは逃げおおせたのか。

モララルド著、と書いてある書物をもう一度手に取る。
書いてある内容は、不老不死に関するものであり、ホムンクルスに対する実験結果などは見当たらない。
本棚にある冊子もすべて目を通す。

仮にブーンたちが捕らえられていて、実験材料とされていたなら、ここにその資料がないのはおかしい。
本の多くはいまだ空白のページであり、書き足す余地は大いにあるにも関わらず、新しい冊子を作るだろうか?
考えられる可能性としては、今現在進行形で研究をしている場合くらいだろう。

912名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 14:04:52 ID:.mVDc3Vo0

はっきりしたことがある。
ここは研究資料の保管場所であり、奴らにとって重要な場所であるということ。

これらの研究書は百害あって一理ない。
人間を傷つける錬金術の実験結果など不要。

(´・ω・`) 「処分させてもらうよ」

個人的な憤りがないわけではない。
それだけではなく、これらの情報を放置しておくのは危険だと判断した。

明かりに一束の羊皮紙を近づける。
火はすぐに燃え移り、煌々と火の粉を散らすそれを本棚に投げた。

保管場所として利用されていたせいもあってか、湿気は少なく、炎が壁面をなめはじめた。
赤く彩られた壁面は、焦げ臭い煙を室内に吐き出していく。

(;´・ω・`) 「!?」

地面が大きく震え、斜めに傾いた。
部屋に入った時から足元に伝わる振動の間隔が、少しずつ早くなっていく。

913名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 14:05:39 ID:.mVDc3Vo0

(;´・ω・`) 「何が……?」

本棚が崩れ、火は部屋中に拡がっていく。

煙から逃げるように棺桶の並ぶ部屋に戻ってみれば、
先程の振動で隅に寄せ集められたように散らばっていた。
固定されていなかった蓋が外れ、バラバラに骸が混ざり合っている。
途轍もない惨状の部屋に、長居することはなかった。

尚も揺れは大きくなり、低い唸り声が空間を満たす。
両手を使い階段を何とかして登り終えると、海が激しく泡立っていた。
それは恐らく、海底の苔に含有されている空気が一斉に放出されたために起きている現象。

それに呼応して、周囲の岩礁亀が目を覚ました。
無数の渦と複雑な海流に囲まれた島は、その周囲を彼らの移動によってさらに激しくかき回される。

一際強く、足元が動いて島は大きく傾いた。

(;´・ω・`) 「なっ!?」

くぐもった声の理由は、水中で発せられていたため。
地下にある部屋の床の感覚が、妙に生々しかったのは、生物の上だったから。

914名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 14:10:17 ID:.mVDc3Vo0

(;´・ω・`) 「でかい……」

荒れ狂う海を二つに分けるように、それは現れた。

黒ずんだ太く長い深緑色の首。
灰色がかった人間ほどもある巨大な瞳。
神話で語られる海に住む化け物と比べても遜色ない、通常の岩礁亀の数十倍はある巨大な生物。


その頭は長く、空を劈く叫び声をあげ、再び水中へとその頭を隠した。

足場の揺れは収まり、近くの岩礁亀も次第に動きをやめていく。
うってかわって静寂が訪れた。

地下にあったオーバーサイズプロジェクトの内容を思い出す
岩礁亀が実験材料に使用された挙句、
利用方法も見つからず、島に偽装させ、書物の保管庫としていたのだろう。

だが、連中に助けられたことも一つ。
これだけ派手に動いたんだ。
もし、本当に奴らに関係があれば数日もしない内に様子を見に来る。
その舟を奪って脱出すればいい。
早くブーンやクールと合流しなければ……。

915名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 14:15:34 ID:.mVDc3Vo0

乱れた海流は、なかなか収まらず、その日中海を荒らしていた。

(´-ω-`) 「お腹へったな……」

一段落つくと、疲れと空腹が押し寄せてきた。
意識が戻ってからもう二日も経っているし、その間何一つ口にしていない。

食用の実を集めに島内を散策する。
先程暴れたせいもあって、海水があちこちに貯まっている。
巨大岩礁亀が今以上に深いところへ沈まなかったのは幸いだった。

海底に潜ってみなければわからないが、こいつや他の亀も足場が制限されているのだろう。
そうすることで無闇やたらと移動されることも防げる。

野苺をいくつか採って、西側の島が見える場所に向かう。

今日も海上を漁に勤しむ者達がいる。
昨日よりも、広い範囲に広がってはいるものの、こちらとの距離はむしろ遠くなっているようにも見える。

916名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 14:17:39 ID:.mVDc3Vo0

それも当然か。
ただでさえ危険な海域だ。
向こうの島からもこちらで何かあったことくらいはわかっただろう。

昔、東の国で教えてもらった言葉をふと、思い出した。

君子危うきに近寄らず、だったか。
海の危うさをよく知っている男達が、わざわざ近づいてくることもない。

野苺の味は悪く、量も十分とは言えないが、腹は満たされた。
後は焦った訪問者を待つだけだ。



・  ・  ・  ・  ・  ・

917名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 14:20:10 ID:.mVDc3Vo0

五日後の夜、見慣れない装備で身を固めた男達が上陸してきた。
思ったよりは遅かったのは、準備のためだろうか。
全身を覆うローブの背中には、銀の刺繍。その形は蛇。

代表格の一人がなにか話している。
警戒しているのか、声は小さく、闇夜のせいで口許は見えない。

話し終えたのか、男が片手をあげたのを合図に、それぞれが武器を構え、こちらへ向かってくる。
島の中心に近いところで伏せていた僕の姿は、まだ見つかっていない。

( ノAヽ) 「くまなく探せ、生きている人間がいれば殺しても構わない!」

「はっ!」

警告のつもりか、最後の言葉だけは島中に響いた。

彼ら一様に片手で明かりを持ち、もう片方に武器を携え、侵入者の形跡を探している。
ゆっくり、一歩ずつ慎重に歩く。
わずかな痕跡すら見逃さまいと。

918名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 14:21:32 ID:.mVDc3Vo0

伏せっている僕の心音は少しずつ音を強める。
見つからないように心を落ち着かせるように自分に言い聞かせ、息を潜めて待つ。
鼓動を小さくするために、静かに深い呼吸を繰り返す。


「ノーネさん! こっちです!!」


僕から後十歩の距離にまで近づいたとき、後ろの方で男が声をあげた。

その声に息が止まる。


「扉が!」

目の前の男は、その声に反応しすぐさま駆けて行った。
僕の真横を通りすぎ、島の中心部へ。
開けっぱなしにされた、秘密扉の元へ光が集まる。
まるで甘い蜜に群がる蜂のように。

919名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 14:22:23 ID:.mVDc3Vo0

( ノAヽ) 「二人はここに残れ。他の者は私について中に向かう。警戒を怠るな」

「了解しました!」

明かりが一つずつ、島の中に消えていく。
残ったのは二つ。
ふらふらと、不規則に周囲を照らしていたが、すぐにそれも動かなくなった。

音をたてないように起き上がり、見張りの背後で双剣を構える。

狙うのは喉。
致命の一撃であり、中に降りていった連中に気づかれることもない。

小型のナイフの方が適しているが、贅沢を言ってはいられない。

(´・ω・`) 「ふっ」

「っ!!」

(;´・ω・`)  「なっ」

錆びついた剣には、かつての錬金術の欠片すら残っていなかった。
傷を与えない斬撃は存在せず、男は喉元から大量の血を吹きだしながら倒れた。
まだ意識があるのか、指先が震えている。

920名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 14:45:10 ID:.mVDc3Vo0

「きさっ!!」

(;´-ω-`) 「くそっ」 

咄嗟の判断であったが、声をあげられる前に喉を貫いた。
殺すつもりはなかったと、そんな言い訳は許されない。

二度目に剣をふるったときの結果は明らかだったのだから。
殺さなければ、殺されていた。
そんなことはわかっていても、自分なら……そう考えてしまう。

(´-ω-`) 「……」

考えに時間を使うだけ、リスクが増えていく。
僕は当初の予定通り扉を閉め、もう動かない二人をその上に乗せた。
中からはまだ声は聞こえてこない。

今のうちに奴らの舟を頂くとしよう。
泥に汚れて黒く不気味に輝く明かりを拝借し、海岸に走る。
舟は二隻。
どちらも同じ作りで、一人でも動かすことはできそうだ。

921名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 14:46:09 ID:.mVDc3Vo0


自分の使わない舟の底にいくつかの穴を開けておく。
そうこうしているうちに、鉄のぶつかり合う音が聞こえてきだした。
連中が罠にはめられたことに気づいたのだろうが、もう遅い。

両手で力一杯櫂を動かす。
複雑な海流は、この数日間で十分観察した。
決められた流れに乗れば、漕がずとも島から離れることができる。

口汚い罵り声が島から聞こえてくる。
既に脱出用の海流に乗った僕は明かりを消していた。
彼らからはどうあがいても僕の姿は見つけられない。

舟は波にぶつかっては揺れる。

(´-ω-`) 「眠り心地は相当悪そうだな」

922名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 14:47:37 ID:.mVDc3Vo0

しかし、こんなにもうまくいくとは正直思ってもいなかった。
一つだけ除いて……。


三日間で僕が仕掛けたのは単純な仕掛け。
島の中心から少し離れ、かつ海岸からも一番遠い茂みに、
一人潜れるだけの穴を堀り、植物を丁寧に埋め直した。

人が来るとすれば、行動が目立たない夜であろうことは容易に予想できたし、
その人数は多くても四人ほどだと考えていた。

大所帯になれば統制がとれにくいし、この島の存在は末端の兵士たちにあまり知られたくないはずだからだ。
万が一のことも考え、舟は二隻。
一人で動かせる小型の舟は四人乗るのが精一杯。

まさか八人も来るとは思っていなかったが、それが逆に功を奏した。

島の中心部、お墓の下の地下通路はあえて分かりやすいように荒らしておく。
せっかちな一人が叫んだおかげで、皆の意識がそちらに削がれた。

後は地上に残った見張りを始末し、地下に蓋をするだけだ。

波の音も眠りについたかのような静かな海で、一人漂う。

日が昇るまでは、まだ時間がかかる。
ゆっくり考える時間はありそうだ。

923名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 14:58:50 ID:.mVDc3Vo0













17 ホムンクルスと絶海の孤島  End

924名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 15:13:16 ID:GgGQoqA60
おつんこ

925名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 15:19:00 ID:.mVDc3Vo0
>>2   1 ホムンクルスは戦うようです
>>29  2 ホムンクルスは稼ぐようです
>>65  3 ホムンクルスは抗うようです
>>93  4 ホムンクルスは救うようです
>>118 5 ホムンクルスは治すようです
>>148 6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです
>>183 7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです
>>245 8 ホムンクルスと少女のようです
>>284 9 ホムンクルスは迷うようです
>>334 10 ホムンクルスと動乱の徴候
>>393 11 ホムンクルスと幽居の聚落
>>456 12 ホムンクルスと異質の傭兵
>>525 13 ホムンクルスと同盟の条件
>>595 14 ホムンクルスと深夜の邂逅
>>678 15 ホムンクルスと城郭の結末
>>805 16 ホムンクルスは試すようです

>>887 17 ホムンクルスと絶海の孤島

926名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 15:49:53 ID:/XQ9p3rM0
おつんつん

927名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 15:59:47 ID:.mVDc3Vo0
【時系列】

ホムンクルス生誕
   ↑
   ↓
6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです
7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです   
8 ホムンクルスと少女のようです
   ↑
   |
   |
   ↓
1 ホムンクルスは戦うようです
   │
2 ホムンクルスは稼ぐようです
   │
3 ホムンクルスは抗うようです
   │
4 ホムンクルスは救うようです
   │
5 ホムンクルスは治すようです
   │
9 ホムンクルスは迷うようです
   |
10 ホムンクルスと動乱の徴候 戦争編・前編
11 ホムンクルスと幽居の聚落
12 ホムンクルスと異質の傭兵
13 ホムンクルスと同盟の条件
14 ホムンクルスと深夜の邂逅
15 ホムンクルスと城郭の結末

17 ホムンクルスと絶海の孤島 戦争編・後編
    │
    │
16 ホムンクルスは試すようです

928名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 16:42:01 ID:YCD7Mw0.O
面白い(∪^ω^)ぺろぺろ

929名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 18:30:58 ID:.mVDc3Vo0












16 ホムンクルスと怨嗟の渦動

930名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 18:31:45 ID:.mVDc3Vo0












18 ホムンクルスと怨嗟の渦動

931名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 18:33:13 ID:.mVDc3Vo0

(´-ω-`) 「ふぁぁ……っててて……」

狭く堅い船の上で寝ていれば、身体が痛むのは当然か。
上半身だけを軽く動かし、こりをとる。

まだ島には遠いが、朝早い男たちそれぞれが漁に向けて舟を出している。
もう見つかっているだろうか。

たった一隻の舟で、誰も訪れない島の方角から現れたら、彼らは訝しがるだろう。
上手く言い含める理由については、何も思い浮かばない。

(´-ω・`) 「うーん……」

しばらく考えていたが、説得は無意味だと諦めることにした。
今の僕に怪しまれない要素がない。

装飾は美しい剣を携えているのに、服はボロボロでほとんど着ていないようなものだし。
身体中汚れていて、潮臭く、どう見ても浮浪者よりもひどい。
へたをすれば盗人扱い。
騎士協会へ連行されてしまえば、身動きがとりづらくなるな。

932名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 18:35:41 ID:.mVDc3Vo0

それに、僕が生きているということは知られないほうがいい。
ホムンクルスが死なない存在であるのは奴らにとって周知の事実だが、
海に落ちればどうなるか、殺し続ければどうなるか、それは僕らしか知らない。

ブーンがもし捕まっていなければ、という仮定の話にはなってしまうが。

島の沿岸が近づいてきて、櫂を動かす手にも力が入る。
すれ違う漁師達は皆一様に、片手をあげて挨拶をしてくる。
それに軽く答えながら、その間を通り抜けていく。

(´・ω・`) (上陸した後は、すぐに情報を集めよう……)

浅瀬にはいくつもの桟橋が並び、主たる船の帰還を待っている。
もう少しすれば、彼らは漁を終えて帰ってくる。

邪魔にならないよう、乗ってきた小舟は隅に寄せておく。
流されてしまってもいいのだから、別につなぐ必要もない。

舟を放置して島内に足を踏み入れる。
これだけ大きい島であれば、錬金術の店があるはずだ。
大抵は客に対して必要以上を聞かないため、さほど怪しまれることなく情報も手に入れられる。

「待ってえええい!!!」

(メ´゚ω゚`) 「ふぐっ……」

933名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 18:36:42 ID:.mVDc3Vo0

声が聞こえたかと思うと、後ろからの強烈な衝撃で前方に倒れた。
体が浮くくらいの威力を背中にくらって、僕は前に突っ伏したまま動けない。

(メ´-ω+`) (普通の人間だったら背骨にひびが入るぞ……)

「あり? 大丈夫?」

動かない僕に、少女はゆっくりと近づいて来る。
流石にやりすぎたと、反省してくれていればいいが。

(´-ω-`) 「盛大な歓迎をありがとう」

皮肉交じりに答える。
起き上がって体についた砂をはらう。

ハソ ゚−゚リ 「大丈夫ならいいか、さて金を払ってくれ」

この島ではこんな年端もいかない少女による強奪が日常的に行われているのかと危惧したが、
それは僕の勘違いだった。

934名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 18:37:40 ID:.mVDc3Vo0

ハソ ゚−゚リ 「桟橋!使用料!だぞ!」

(´・ω・`) 「ああ……でも僕、使ってないし」

舟を指させば、波に持って行かれそうになっている。

ハソ ;゚−゚リ 「う……でも、ここに上陸したら人、皆から貰えと……」

(´・ω・`) 「この場所に?」

足元を指さしながら問う。
きめ細かい砂浜は、流木や海藻などが一つも落ちていない。
景観を美しく保つために掃除がなされているのだろうか。
使用料というのは、その維持費かもしれない。

ハソ ゚−゚リ 「そうだぞ」

(´・ω・`) 「では、向こうに回ればいいか?」

次に指をさしたのは、水辺と陸地の区別がつかない雨林が生えている場所。
上陸するには不適切だが、お金は銅貨一枚すらない。
払いたくないのではなく、今の僕では払えないのだから。

935名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 18:38:35 ID:.mVDc3Vo0

ハソ ;゚−゚リ 「うぅ……」

困る少女。
別に好きで困らせているわけでもないので、解決策を提案してやる。

(´・ω・`) 「正直に言うとね、僕は今お金がないんだ」

ハソ ;゚−゚リ 「え……? き、騎士協会に連絡しなきゃ……」

(;´・ω・`) 「待って待って待って!」

まさか、無賃上陸がそこまで大事になるのか。
騎士に捕まってしまえば、説明できないことが多すぎてどうなることやら。
最悪の場合、異端審問にかけられててしまう。

(´・ω・`) (逃げるか……?)

いや、それでは事を荒げてしまうだけで解決にはならない。

ハソ ;゚−゚リ 「何考えてるの……? まさか……」

936名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 18:39:50 ID:.mVDc3Vo0

少女の視線が腰へと移る。
正確には、双剣へと。

沈黙は、状況を悪くしていくだけか。

(´-ω-`) 「わかった、金は支払う」

ハソ ;゚−゚リ 「でもさっき、お金がないって」

(´・ω・`) 「稼ぐから、少し待ってくれないか」

ハソ ;゚−゚リ 「それは……」

無理な提案だと思う。
だけど、なんとかしてこの場を切り抜けなければ。

( ´W`) 「困ってるのかのぉ?」

唐突に僕と少女の間に、思わぬ第三者が介入してきた。
腰は曲がり、杖なしでは歩けなさそうな細い身体。
顎鬚は頭髪と同じように白く、首元までほどの長さがある老人が立っていた。

937名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 18:43:17 ID:.mVDc3Vo0

指に嵌めているのは、珍しい鉱石の指輪。
錬金術師でなければ、価値が分からないはずのもの。

ハソ ;゚−゚リ 「あの、この人、お金持ってなくって。どうしよおじいちゃん」

( ´W`) 「ふむ、私が払っておこう。その代わり、話を聞かせてくれるかね?
      年寄りの楽しみは、もうそういったことしか残っておらんからの」

老人は、懐から取り出した銀貨を少女に渡し、手を振って合図した。
持ち場に戻りなさい、そう優しく告げて。

(´・ω・`) 「ありがとうございました」

後ろから声をかけた。
歩く老人は、振り向くこともなく声だけを返してくる。

( ´W`) 「なに、散歩がてらに浜まで来てみたが非常に良い出会いができた。
      錬金術師なのだろう?」

(´・ω・`) 「御慧眼、恐れ入ります」

938名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 18:44:11 ID:.mVDc3Vo0

( ´W`) 「ほっほっほ。そう年寄りをからかうものではないよ。
      腰に結んでおるその剣からは、只ならぬ力を感じる。
      君の錬金術ではあるまい?」

(´・ω・`) 「どうしてそれが……?」

確かに、持ち歩いている双剣はクールからの借り物。
今回ほとんどすべての持ち物をなくしてしまった中で、唯一残っていたものだ。
自分のものではないからこそ、手元にあって本当に良かった。

( ´W`) 「長生きをしてるとの、色々な感覚が衰えてくるのを感じるのだが、
      逆に洗練されていくものもある」

もし本当だとすれば、衰えない僕にわからない感覚。
人間にそのような能力があるとは聞いたことがないけれど……。

( ´W`) 「今、私の言葉を疑ったかい?
      君は顔に出やすいようだからよくわかる」

ほっほっほ、と老人は声を出して笑う。
僕の方がずっと長く生きているはずだが、会話は手玉に取られている。

939名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 18:47:17 ID:.mVDc3Vo0

(;´・ω・`) 「すいません……」

( ´W`) 「おっと、責めているわけではない。君はあの小舟でこの島に来たのか?」

本当のことを言っていいものか。
返答に悩んでいると、老人は続ける。

( ´W`) 「おそらく違うだろう。この国は二つの島を領地としているが、
      君が来た方向には、遠く離れた大陸しかない。若いころは何度も旅行したものだが、
      どうもここ数年は不安定だと聞いている」

(´・ω・`) 「その話は……」

( ´W`) 「それにあの小舟では、大陸からは来れまい?
      見た所食料も積んでいない……。さて、あまり聞かれると困るようであるし、
      着いたよ」

港からの距離はさほどなく、畑に囲まれた小さな家。
特徴的なのは煉瓦で組まれた煙突で、付近の家々よりも大きく長い。
家の隣には、倉庫が隣接されている。
錬金術を行うための部屋だろうか。小さい窓がいくつかあるだけだ。

940名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 18:48:49 ID:.mVDc3Vo0

( ´W`) 「さて、中に入ってくれ。何分年寄りと子供で暮らしているのでね、
      もてなしはできないが」

部屋の中には机や椅子などの調度品が二人分。
床も丁寧に掃除されており、庶民の暮らしには思えない。

( ´W`) 「何から聞いたものかな……。それともまずは君の疑問に答えてあげる方が先かな?」

(´・ω・`) 「助かります」

( ´W`) 「私の知っていることであれば、なんでも答えよう」

(´・ω・`) 「それじゃあ……今は……何年でしょうか」
 
一番気になるっていた質問をする。
僕の不安を知ってか知らずか、老人は大きく息を吸ってはいた。
その大げさな所作は驚きを隠しているようにも見える。

( ´W`) 「……年だよ」

(´・ω・`) 「そう……ですか……」

計算すると僕は二十一年もの間、海を漂っていたのだ。
波にのまれ沈み、体の再生で浮かび上がることを繰り返し。
呼吸ができずに、意識を取り戻すことなく。

941名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 18:50:45 ID:.mVDc3Vo0

(´・ω・`) 「もう一つ、お聞きしたいことがあります」

( ´W`) 「なんだね?」

(´・ω・`) 「セント領主家、ご存知ですか?」

( ´W`) 「……ふー。やはりそのことか。
      何も持たず、向こうの方角から来たとなればそのことしかなかろう」

老人の反応は、予想すらしていなかったものだった。
どうやってかはわからないが、僕が問う前から彼は僕のことを知っていたのだ。

感覚が鋭敏になったから、では説明しきれない。
静寂を破ったのは、大きくため息をついた老人。

( ´W`) 「今から十四年前、私もまだ現役の錬金術師として錬成を行っていた。
      この島の環境を整え、人々がより暮らしやすくなるように。
      息子とその嫁も、一緒に暮らしていた。
      だが、ある日銀色の蛇をあしらった鎧を身に着けた男が私らの前に現れた」

(´・ω・`) 「銀色の……蛇……」

942名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 18:52:47 ID:.mVDc3Vo0

( ´W`) 「覚えがあるか?
      男は、夜中うちを尋ねてきて、こういった男を探している。
      見つけたら必ずセント領主様に連絡しろ、と。
      それだけ言うと、家にカードを置いて去って行った」

何の変哲もないカードで、表には島内の連絡先。
裏には銀色の蛇の紋章とセントジョンーズという名が書き込まれていたそうだ。

(´・ω・`) 「そのカードは今も?」

( ´W`) 「持っておらぬよ。不気味なものでな、とっくに捨ててしまった。
      数年後、私は息子を事故で失った。
      そのショックで奥さんもあの子を産んだ時にな……」

(´・ω・`) 「事故?」

( ´W`) 「船に乗って隣の島に移動していた息子は、酒に酔って海に落ちた、とそう聞いている。
      だが、息子は日頃から全く酒を飲まなかった。
      どうにも引っかかってな……。自分で調べてみたよ」

943名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 18:55:51 ID:.mVDc3Vo0

その船に乗り合わせていた他の人間を調べ、話を聞いた老人は真実を知った。
息子の死は事故ではなかったことを。

( ´W`) 「息子もまた錬金術師だった。それもとびきり優秀な、の。
      だからだろうな、あの集団に仲間になるよう誘われていた。
      私たちには心配をかけまいと黙っていたようだが……」

(´・ω・`) 「断り続けた結果、ですか」

( ´W`) 「痺れを切らしたのだろうな、息子を無理やり連れ去ろうと、
      夜の甲板の宴でちょっとした諍いがあったようだ。
      その日の夜、息子は消えた。海に落とされたのではないか、と教えてくれたよ
      だから忘れていなかった。あの時見せられた君の似顔絵。
      この前あった岩礁亀の鳴き声以来、毎日港に行っては待っていた。
      まさか、追われていた本人だとは思わなかったがね」

(´-ω-`) 「それで……」

昔からやり口が変わっていないな。
他人のことなど考えもしない奴らは、手段を選ばない。

944名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 18:58:21 ID:.mVDc3Vo0

(´・ω・`) 「銀の蛇を身に着けているのは……ある一つの目的を持った錬金術集団なんです」

( ´W`) 「調べたが、私にはその尾さえ掴むことはできなかったよ……。
      奥さんと、その時もういるとわかっていた孫を残し、私が危険を冒すわけにもいかなかった」

(´・ω・`) 「奴らは不老不死を求めて、数百年にも及ぶ危険な研究をしています。
       動物や人間を実験台にすることなどなんとも思わずに」

( ´W`) 「そうだったのか……。息子が死んでからしばらくして、セント領主家のうわさを聞いたよ。
      近隣諸国に戦争を仕掛けているとな。
      人間ではない兵士達を連れたセントに対し、他国は必死の抵抗をしたと聞いている」

(´・ω・`) 「どうなったのですか?」

( ´W`) 「セント領主家が……戦争に負けた。
      今その領土は、誰も支配していない空白の土地になっている」

大きい溜息が出る。
問題がすべて解決したわけではないが、胸のつかえが一つおりた。

945名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 19:00:22 ID:.mVDc3Vo0

ブーンやクールは無事なのか。
セント領主家を隠れ蓑にしていた錬金術師たちはどこに消えたのか。
知りたいことはまだ山ほどあるが、それはこの老人に聞いてもわかりはしない。
可能な限りはやく、大陸に戻って調べる必要がある。

(´・ω・`) 「そうですか、色々と教えてもらって、どうもありがとうございます」

( ´W`) 「それでは私の質問にも答えてくれるかな?」

(´・ω・`) 「勿論です」

桟橋での料金、そして今の話を教えてくれた分。
その借りは返しておきたい。
僕の知っていることで、老人が納得してくれればいいが。

( ´W`) 「なぜ、君は彼らに探されていたその時の姿のままなのかね?」

確信をつくような質問。
年を取って衰えてるというのが信じられないほどに力強いその瞳は、まっすぐに僕を見つめる。
半端な誤魔化しや嘘は何の意味もないだろう。
老人は秘密を言いふらすほど愚かには見えないし、正直に答えることにした。

946名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 19:04:27 ID:.mVDc3Vo0

(´・ω・`) 「…………それは、僕自身が不老不死であるからです」

( ´W`) 「やはりそうか……。それで色々と納得がいく。君を探していた理由も。
      それで君は、これからどうするんだね?」

(´・ω・`) 「大陸に戻ります」

( ´W`) 「……残念ながら、それは不可能だ」

(;´・ω・`) 「なっ」

( ´W`) 「この国は古来より、大陸側との貿易をしておったのだが、その相手国がセント領主家だったのだよ
      現在、セント領主国との関係は崩壊したままで、クルラシア自治区も未だ戦争状態。
      月に一度の定期便が出ているが、君のような見ず知らずの人間は乗船できないだろうね」

大陸までの距離は、泳いではもちろん、少人数用の小舟では無理だ。
貿易用の大型船に乗り込もうと考えていたが、それも出来ないとなると移動手段がない。

( ´W`) 「君が乗れるよう、私が便宜を図ってあげよう」

(;´・ω・`) 「本当ですか?」

見た所有力者であるこの老人には、それを実現できるだけの力はあるだろう。
だが、そうそういい話があるわけがない。

947名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 19:06:02 ID:.mVDc3Vo0

( ´W`) 「ただし、条件がある」

(´・ω・`) 「……なんでしょうか」

( ´W`) 「私の息子の敵をとってはくれないだろうか」

それは予想通りの、かなり面倒な申し出だった。
十数年前の出来事を、そこまで詳細に覚えている人間はいないだろうし、
いたとしても、南の岩礁亀に置き去りにしてきているかもしれない。

(´・ω・`) 「わかりました」

だけど、受けるしかない。
たとえ嘘をつく結果に終わったとしても、島から出るために手段を選んではいられない。

( ´W`) 「ありがたい。今日はここに泊まっていきなさい。
      まだほかにも知りたいことは多くある。君と錬金術の話を、ね」

白い髭の影から、わずかに揺れた唇が見えた。
老人は子供のような目で笑う。

(´・ω・`) 「……お付き合いしますよ」

948名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 19:07:29 ID:.mVDc3Vo0



・  ・  ・  ・  ・  ・



ハソ ゚ー゚リ 「ただいまっ!」

勢いよく扉を開けて飛び込んできたのは、港の番をしていた少女。
肩から掛けた袋には、硬貨が見え隠れしている。

( ´W`) 「危なくはないよ、漁師達が皆で見守ってくれているからね」

僕の考えを先読みしたかのように、老人、名前はシェイブ・ホワイトというらしい、が言った。

( ´W`) 「皆が協力してくれるおかげで、私もだいぶ助かっている」

ハソ ゚−゚リ 「おじいちゃんのおかげだ、ってみんな言ってるぞ」

( ´W`) 「私は何もしていないよ。ナタリーいい子にしているから、みんな心配してくれるんだよ」

ハソ ゚ー゚リ 「えへへへ」

949名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 19:08:52 ID:.mVDc3Vo0

屈託なく笑う少女に、その境遇は隠れて見えない。
このあたりの住民が彼らに協力的なのは、同情してのことだけではないだろうことが見て取れる。

ハソ ;゚−゚リ 「っ! 無賃上陸の人……」

(´・ω・`) 「僕にはショボンっていう名前がある」

ハソ ;゚−゚リ 「う……ショボンはおじいちゃんと何を話していたの?」

( ´W`) 「ナタリーの話だよ。今日はショボンさんが泊まっていくから、その準備をしなきゃね」

元気な声で返事し、さっそく料理を始めた。
その年で料理をこなすことを素直に称賛すると、少女は顔を背けて作業に集中するふりをした。

(´・ω・`) 「すごいな、ご飯も作っているのか」

ハソ ゚ー゚リ 「べ、べつに大したことじゃないよ」

少女は慣れた手つきで下拵えをしていく。
島国だけあって、新鮮な魚が食卓に並びそうだ。

950名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 19:14:44 ID:.mVDc3Vo0

( ´W`) 「魚は嫌いかね?」

(´・ω・`) 「ああ、すいません。そういうことではなくて」

僕の視線が勘違いさせてしまったようだ。
魚を見ていたのは確かだが、気になっていたのはその種類。

錬金術の素材としても役に立つその魚は、たしか淡水魚だったはずだ。
周囲が海に囲まれているこの場所にも、湖があるのだろうか。
疑問に思い、聞いてみることにする。

( ´W`) 「ああ、結構あるよ。君はこの島をどの位だと考えているのか知らないが、
      大陸沿岸のセント領主家よりも数倍は大きい」

(;´・ω・`) 「そんなにも!?」

海を渡ったことは幾度もあり、島を訪れたことも少なくない。
ただ、そのどこも集落が点在している程度であり、
この島のように発展していることもなく、錬金術の存在が知られている方が稀だった。

951名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 19:20:04 ID:.mVDc3Vo0

ハソ ゚ー゚リ 「この国は大きいんだぞ!」

( ´W`) 「正確には、統一されているわけではないがね」

(´・ω・`) 「戦争とか、そういったことは……」

( ´W`) 「昔、私が生まれる前にはあったみたいだが、今は小さな争いすらおこらない。
      資源も土地も限られているため、みなで分け合って、という考え方が浸透している」

確かに、大陸と比べれば島国は様々な点で劣る。
それが逆に住む人の心を豊かにしているのかもしれない。
今朝見た港町の人々を思い出して、そう思った。

ハソ ゚ー゚リ 「出来たよ」

小麦粉を魚にまぶし、薄い油で焼き上げた魚と、野菜の付け合わせが、
一枚の大皿に乗って机に運ばれてくる。

952名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 19:22:32 ID:.mVDc3Vo0

こんがりきつね色に焼けた魚は、香りづけもされていて食欲をそそる。

(´・ω・`) 「美味しいな……」

新鮮な魚は海の近くでなければ食べられない。
今までいたのは内陸国であったし、
ましてやまともに食べたのはもはや数十年前だったことを除いても、
魚貝類を使った少女の料理は特別おいしいものであった。

( ´W`) 「小さいころからずっと料理をしているからな。
      ナタリーの味は近所でも評判だ」

ハソ ゚ー゚リ 「もっと褒めてくれてもいいよ?」

自慢げに両腕を組む少女。
味にはよほどの自信があるのだろう。

おいしいよ、ともう一度繰り返して伝える。
少女は満面の笑みで自身も食事に取り掛かった。

( ´W`) 「明日は頼むよ」

953名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 19:23:21 ID:.mVDc3Vo0

夜中、寝るために研究室を貸してもらうことになった。
藁をひいて簡単な寝床としたものだが、海底の岩礁よりはずっといい。

扉を閉めるとき、老人が静かに言った。
その言葉の意味は考えるまでもなく、ただどのような手段をとるべきか、それを決めかねていた。



・  ・  ・  ・  ・  ・



カードは失われていたが、シェイブ老人はその住所を覚えていた。
彼の家から三日、馬車に揺られてたどり着いたのは大きな街。
僕がいた南の大陸と同じ石造りの家は、質素な色彩を基調としていて派手さはない。

教えてもらった場所を訪れると、小さく古びた教会があった。
唯一目を引くのは、鮮やかなステンドグラスの大きな円形窓。
金色の装飾で彩られた扉は、新品のように磨かれている。

954名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 19:25:03 ID:.mVDc3Vo0

(´・ω・`) (ここが……?)

疑問を禁じ得なかった。
銀の蛇は、戦争に負けてセント領主家を失ったはずだ。
それは国家規模の財源から横流しできなくなったことも意味する。

それがどうして、これだけの規模の教会を改築する財力を持っている?

「答えは簡単だよ、ホムンクルス」

(;´・ω・`) 「誰だっ!?」

「覚えていないかね?」

(;´・ω・`) 「っ!?」

拙い継ぎ接ぎだらけで、薄汚れた深緑のローブ。
顔に刻まれたシワは、二十一年前よりも深く一目では同一人物だと気づけなかった。

「久しぶりの再開に立ち話は無粋だろう。入りたまえ。茶くらいはだせる」

(´・ω・`) 「まさかまだ生きているとはね……セント領主!」

('e') 「……さすがに気づいたか。その名前はもうやめてくれ。
     我が国は滅びたのだよ。あなたとその仲間たちに破れてね」

955名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 19:26:49 ID:.mVDc3Vo0

蝶番が高い音をあげて、門は開く。
暗闇に待ち受けるのは、罠ではないのか。
躊躇っていると、元領主は僕を待たずに教会に消えた。

(;´-ω・`) (ついてくるかは、自由にしろと言うことか)

幸いクールの双剣は持ってきてはいる。
荒事になっても乗りきれる自信はある。
だが、そうはなはならない予感がした。
元領主には当時あった刺々しい雰囲気はなく、ただの年寄と何ら変わらない弱々しさすら垣間見えた。

とはいえ、かつて僕らを罠にはめた狡猾さが残っているかもわからない。
僕は気の緩みをただし、教会に踏み込んだ。

ステンドグラスからとれる光は少なく、足元が見える程度の明かりしかない。
信徒たちだろうか、想像していたよりも人は多く、それぞれが静かに神に祈っていた。

「こちらへどうぞ」

通された小部屋は、質素だがどこか落ち着く空間。
勧められた椅子は、教会には不釣り合いな一人掛け用のもの。
室内の調度品は時代も材質もバラバラで統一感がない。

956名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 19:28:38 ID:.mVDc3Vo0

(’e’) 「入ってくると思っていたよ。
     さて、何から話したものか。君にとってはついこの前の出来事かもしれないが、
     私にとって二十年はあまりに長い期間だった」

(´-ω-`) 「僕は目覚めてからさほど時間がたっていない。
       お前のことは昨日のように覚えているし、許すつもりもない」

(’e’) 「赦しを乞うつもりはない。私もあのときは必死だったのだ」

(´・ω・`) 「それで、何のために僕を招き入れた?」

(’e’) 「今、セント領主家がどうなっているか知っているか?」

(´・ω・`) 「誰も統治していない空白の国じゃないのか」

(’e’) 「そうだ、国としてはもはや機能していない。
     住んでいた民衆は、そのほとんどが他国に逃れてしまっている。
     だからこそセントショルジアト城は未だ奴らの根城となっている」

領主も人民もいない国で、果たして何をしているのか。
その答えは、元領主が接触してきた理由だろう。
僕は彼が再び口を開くまで待った。

長い沈黙。
信徒たちの囁く祈りの声だけが漏れ聞こえてくる。

957名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 19:31:58 ID:.mVDc3Vo0

(’e’) 「今は、あなたの連れてきた少年が指揮を執っている」

(;´・ω・`) 「え?」

年齢的には、中年に差し掛かる頃合いだろうか。
無事に生きていれば、そのくらいの年になっているとは思っていた。

もしかしたら、洗脳されていいように利用されているかもしれない。
そうは考えたが、現実は最悪の予想をさらに下回った。

(’e’) 「あなたの連れていた少年は、錬金術師としては破格の天才だった。
     あなたを恨むように仕向けてからというもの、昼夜を問わず勉強し、五年で我々のレベルに追い付いた。
     しかし、その時には戦争はほとんど終結していたよ。我々の敗北という結果でね」

(´-ω-`) 「モララルドが……」

(’e’) 「そしてその一年後、あなたを陥れてから六年後、私は国を去った。
     セントとは我が国の代名詞のようなものだ。我が国の領主は皆、この名を与えられる。
     St.jones
     自身の目的のために何百人も殺した私が、聖人とは片腹痛いがな」

元領主は自嘲気味に笑った。
こんな屑に利用され、殺された人間達はさぞ浮かばれないだろう。

958名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 19:34:09 ID:.mVDc3Vo0

(’e’) 「老い、衰え、先の行き止まりが見えている中、私が考えたことは何だと思う?
     いや、ホムンクルスのあなたにはわからないだろうな。
     人生の清算だよ。自分が始めたことは、自分で終わらせたい。
     しかしそのための力がない」

(#´・ω・`) 「自分勝手な……」

(’e’) 「はっは……年を取れば何事にも興味がなくなる、そう思っていたが実際は違った。
     私の研究、強化兵士の研究は失敗に終わったのだ。
     大人しく手を引こうと思っていたのに、その研究をかってに引き継いだ天才がいた」

(#´・ω・`) 「それがモララルドってことか。悪いが、僕はお前の都合よく動くことはない」

(’e’) 「いえ、あなたは私の目的をかなえますよ。必ず、ね。私は、人体強化の研究が失敗に終わった、
     その事実が欲しいだけです。その結果を得るためならあなたが欲しい状況も差し上げましょう。
     どうです? あなたの求めるものと何か違いがありますか?」

反論することはできない。
当面の目標はモララルドを救出することであったし、
本人が禁術の研究に勤しんでいるのであれば、阻止するつもりだ。
そのための情報提供を厭わないというのであれば、確かに僕にとってもいい話だ。
元領主の話を全面的に信用するのであれば、だが。

(’e’) 「随分と疑っているな」

959名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 19:35:10 ID:.mVDc3Vo0

考え込んでいると、領主が温かい紅茶をカップに入れて差し出してきた。
どうやら部屋の中に備え付けにされている錬金術の器具を用いて作ったようだ。

お茶には口をつけず、思考に戻る。
嘘をついているのだとすれば、罠が仕掛けられている、か。
大陸側の港に待ち伏せされていれば、それは話を聞こうと聞かまいと同じ。
出会ってしまった瞬間に、どうせ向こうには連絡がなされている。

この男を信じるのはどうかしている。
組織に属する人間だ。何をしでかすかわからない。
今の時代に関する情報は、大陸を渡ってからクルラシア自治国に向かえばおそらく手に入る。

(’e’) 「一つ、約束をしよう」

(´・ω・`) 「なんだ」

(’e’) 「この教会はアルギュール・フィズィの隠れた資金源の一つだ。
     維持管理費の名目で信徒から徴収した金銭の大部分を、未だに大陸側に送金している。
     その流れを止めよう」

(´-ω・`) 「そんなことをすれば、お前は」

(-e-) 「言っただろう、長く生きることに興味はない。
     私の目的は一つしかなく、それが達成されるのであれば他のすべてを失っても構わない」

960名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 19:36:38 ID:.mVDc3Vo0

(´・ω・`) 「………………」

どうせ代わりがたてられるだけであろうが、それでも一時的な影響は与えられるかもしれない。
話を聞くだけなら、別に損はないはずだ。

(´-ω-`) 「わかった、お前の知っていること全部話せ」

(’e’) 「やっと聞く気になったか……悪いようにはならないはずなんだがな、まぁいい」

あなたを海に叩き落とした日のことから話そうか。
一錬金術師を騙っていた元領主はそう語り始めた。

あの日、僕とブーンが城に攻め入ることは予想されていなかった。
そもそも、ホムンクルスは僕一人だとジョルジュに教えられていたせいで、
戦闘の準備には時間がかかるとよんでいたのだ。

ジョーンズがわざわざリスクを負って多方面に同時展開したのには理由があった。
一つに、ジョルジュがネールラントとの同盟の話を持ってきたこと。
クルラシア自治国は周辺国家の中で最大規模、人口もセント領主家よりもずっと多く、
その国と戦争して勝つためには、疲弊している当時を於いてなかった。

結果はクルラシア大代表の大軍錬金術に嵌り、戦線の均衡を余儀なくされる。
ジョルジュが同盟を結んだネールラントもまた同様に動けずにいた。
そのため、西側戦線は完全に膠着してしまい、兵力の下手な移動が出来なくなってしまう。

961名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 19:38:00 ID:.mVDc3Vo0

クナド・オラト両国は常備軍の規模も小さく、すぐにつぶせるかと思いきや、
噂に違わぬ傭兵の男とその一団が、強化兵士相手に獅子奮迅の活躍。
犠牲を出しながらも、百を超える兵士たちを退けることに成功した。

そのまま、傭兵部隊とグラント王侯領との同時侵攻。
それに対し、西側の戦力を薄くすることにより防衛線を引き下げたジョーンズ。
ジョルジュはその状況に呆れ、国を出ていったそうだ。

当たり前のことだが、彼らには戦争の知識が圧倒的に足りていなかった。
より強力な兵隊とより多い人数で戦えば、
必ず勝利するとすら声高々に主張している錬金術師もいたそうだ。

追い詰められたセント領主家はとある策を実行し、なんとか生き長らえることができた。

そして戦争が拮抗して二年が経つ。
クラト・オラト両国、そしてグラント王侯領もまた、
セント領主家に対する致命的な攻略方法が思いつかなかったようだ。
クルラシア自治区は東側を警戒しつつも、ネールラントとの戦争に力を傾けていく。

四国同盟により、陸路を完全に封鎖されてしまったセント領主家は、
年月が経つほど如実にその力を衰えさせていった。
アルギュール・フィズィの支援により、辛うじて研究体制を整えていたセント領主家。

962名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 19:39:30 ID:.mVDc3Vo0

セントショルジアト城に閉じこもった錬金術師達は、逆転の一手を打つために研究をし続けた。
まともな政が行われず、困窮にあえぐ領民たちは流れるように他国へ逃走する。

戦争が始まってから四年と八か月、ジョーンズはその日のことを正確に覚えていた。
全く進歩しない強化兵士の研究。
食料は足りなくなり、仲間内で揉め事がよく起こるようになった。
そんな中、わずかな資源で奇跡的に完成した一滴の薬。

彼らはそれを≪戦女神の涙≫と呼んだ。
長年の研究をついに完成系まで持っていった。
実際のところ薬は未完成だったわけだが、これで戦況を打開できると最後の宴が催された。

クナド、オラト両国とセント領主家が国土を交える地。
そこに集結したジョーンズら錬金術師と、
アルギュール・フィズィからの使者。

薬を飲んだのは、一人の少女。
大病を患い、寿命も残りわずかと宣言されていた。
身体のあちこちに人体禁術を施し、辛うじて生きているような状態。

彼女が選ばれたのは必然だった。
度重なる錬金術による耐性の上昇。
命すら、もう幾許か。
かなりの副作用が予想されたため、錬金術師たちは誰一人飲もうとはしなかった。

963名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 19:41:19 ID:.mVDc3Vo0

ただ一人反対していた男は、仲間の手によって城に閉じ込められていた。
実験開始から一週間ほどが経った頃、
牢屋にある食料は底をつき、男は爪を齧って生きながらえていた。
同じく城に残された少年は、自らの知識を高めることにのみ心血を注ぐ。
閉じ込められている年寄りには興味を欠片もよこさない。

帰ってきたのはたった一人。
アルギュール・フィズィの使者のみだった。
全身がぼろ雑巾のように乱れ、息も絶え絶え。

ジョーンズの前まで歩いて来ると、負けた、その一言だけ発しその場で絶命した。
その男が持っていた武器と錬成品で牢をこじ開け、ジョーンズは脱出した。

城内の蓄えを適当に持ち出し、馬をかけさせる。
実験の場所は聞いていた。その地点に向かえば、何が起きたかわかるはずだった。

その場に残っていたのは、惨殺された死体。
数多の屍が打ち捨てられていた。
見知った顔もあれば、そうではない兵士達の姿もある。
バラバラになった肢体と、どす黒く変色した大量の血液。

この世の地獄と形容してもまだ生易しい。

964名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 19:45:03 ID:.mVDc3Vo0

その場において息をしていたのは、たった一人。
最期までジョーンズ達の計画を阻んだ男がいるだけだった。

変わり果てた娘の姿をそこに見て、ジョーンズはアルギュール・フィズィを抜けようとした。
勿論、教団も優秀な錬金術師をそう簡単に抜けさせるわけにもいかず、
妥協案として、彼を北の島であるこの地のまとめ役とした。



(’e’) 「信じてくれるかな」

(´-ω-`) 「多少は、ね」

ジョーンズの話には論理的整合性がある。
咄嗟の作り話ではここまでうまくはいかない。

かといって、全てを信じるのは危険。

(´・ω・`) 「いくつか質問がある」

(’e’) 「答えよう」

965名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 19:46:10 ID:.mVDc3Vo0

(´・ω・`) 「ブーンは、僕と一緒にいた太ったホムンクルスはどうなった」

(’e’) 「逃げられたよ」

無事と言わないのは、現在はわからないという意味か。
彼が無事だということは、書庫番も恐らくは助けられただろう。

(´・ω・`) 「ではもう一つ、ここから三日ほど言った港町に、
       ホワイトという錬金術師の老人が住んでいる。
       知っているか?」

(-e-) 「……ああ、知っている」

これまでのやり取りで初めて、ジョーンズが答えに窮したように見えた。
気を使ってやる様な仲ではない。
僕は淡々と質問を続ける。

(´・ω・`) 「彼の息子が船から落ちて亡くなる直前、お前の仲間たちと言い争いがあった。違うか?」

(’e’) 「私は直接見たわけではない。ただ、セントにおいて失敗したせいで、
     アルギュール・フィズィはそれなりの痛手を被った。
     その補充をしようと躍起になっていた頃の話だ。
     ある有能な錬金術師が港に住んでいると聞き、数人が教団へ加入させるために説得に向かった」

966名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 19:47:51 ID:.mVDc3Vo0

(´・ω・`) 「それがホワイト一家の錬金術師」

(’e’) 「話はすぐに終わったようだ。ホワイト氏の息子は考える間もなく入団を拒否した。
     その一カ月後、私はある報告を受けた。
     大陸に向かう船の上で、逆上した教団の男が錬金術師を殺してしまった、とね」

(´・ω・`) 「その男は今でも教団に属しているのか?」

(’e’) 「当時下っ端だった男は、今では幹部にまで上り詰めている。
     おそらく彼は教団内に強力なコネがあるのだろう。何故か名前の登録が存在しない。
     皆、好きに呼んでいるが、たいていはNO NAMEからとってノーネと呼ばれている」

(;´・ω・`) 「!!!」

僕が島に置き去りにしてきた教団の信徒。
その中にいたリーダー格の男は確かにその名を呼ばれていた。

(´・ω・`) 「今はどこにいる」

(’e’) 「……岩礁亀の調査に出ている」

(´・ω・`) 「それは、資料庫のことか?」

(;'e') 「なっ!?」

今度はジョーンズが驚く番だった。

967名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 19:48:50 ID:.mVDc3Vo0

(´・ω・`) 「僕が最初に目を覚ましたのが、あの島だった。
       地下にある資料も見せてもらった。そして、ノーネといったか。
       その男は確かに島に来た」

(;’e’) 「……ノーネと他の信徒はどうした?」

(´・ω・`) 「僕だけが脱出してきた。運が良ければまだ生きているかもな」

あれから何日か過ぎた。食料は木の実でも何でもあるだろうが、飲み水は不足しているだろう。
助けに行くのであれば、今すぐ向かって間に合うかどうか。

(’e’) 「ノーネが本当に教団内にコネを持っているとすれば、厄介なことになるぞ」

(´・ω・`) 「昔の教団と比べれば訳はない。規模は大きくなったけど、それだけ有象無象が増えた」

平気で人を騙し、脅し、痛めつけ、殺す。
おおよそ想像できる人間のすべての尊厳を奪っていた連中だ。
仲間内ですら秩序などなく、あるのは暴力と恐怖による不文律のみ。
気づかず一線を踏み越えてしまえば、二度と日の光は浴びれない。
人の皮を被った悪魔の巣窟。

そして、その教団を今現在でも支えているであろう男。
主人を裏切り、あまつさえ手をかけた。

968名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 19:50:32 ID:.mVDc3Vo0

(´-ω-`) 「最後に一つ聞きたい」

(’e’) 「なんだ」

(´・ω・`) 「ワカッテマス。ワカッテマス・フォン・ホーエンハイムの居場所を知っているか?」

(’e’) 「不老の錬金術師……。名前だけは聞いたことが有るが、今どこにいて何をしているのか。
     それを知っている人間は教団の中でも一握りだけだろう」

(´-ω-`) 「そうか……」

残念ではないと言えば嘘にはなるが、
国一つ纏めている者に対しても自らの情報はほとんど明かしていないその慎重さは、
昔から何一つ変わらない。すぐに居場所がつかめるとは思っていなかった。

話は終わり、黙って席を立つ。
一口分も減らないまま、紅茶は冷めてしまった。

(’e’) 「別に報告はいらん。この場所にいればいやでも結果を知ることになるだろう。
     私が生きているうちに耳にすることが有れば、約束は果たそう」

969名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 19:51:27 ID:.mVDc3Vo0

(´-ω-`) 「好きにしろ。僕はただ僕の目的を果たすだけだ」

教会の中には数人。
未だ熱心に拝み続けている。

それを横目に、外に出た。
湿った空気で肺の中を入れ替える。
教会内の埃っぽい空気よりはましだ。

(´・ω・`) 「面倒だが……一度岩礁亀地帯に戻るか」

シェイブ老人の頼み事は、思ったよりも簡単に達成できそうだ。



・  ・  ・  ・  ・  ・



( ´W`) 「そうか……」

アルギュール・フィズィの協会を後にして、再び老人宅を尋ねた。
ナタリーはやはり出払っており、室内には老人が一人座っている。
その対面に座し、自分の聞いてきたことを必要な部分のみ話す。

970名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 19:53:11 ID:.mVDc3Vo0

(´・ω・`) 「敵の居場所はわかりました、シェイブさん。どうしますか?」

老人の息子の敵である男は、放っておいてもいずれ死ぬ。

( ´W`) 「報いを受けておるわけか」

(´・ω・`) 「ええ」

( ´W`) 「十数年経とうと、この恨みが褪せることはない。
      出来るのならば、目の前で同じ目にあわせてやりたいとすら思う……。
      よく調べてくれた。有難う」

(´・ω・`) 「いえ……」

実際に僕がしたことと言えば、往復一週間程度の旅だけ。
シェイブ老人本人が向かったところで、教えてもらえなかっただろうが、
僕が直接足を使って調べたわけではない。
礼を言われるのは、なにか違う気がする。

( ´W`) 「これはただのお願いなのだが、その男。ノーネに私の言葉を伝えてくれないか?
      船の出航まではまだ半月ほどある」

971名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 19:55:37 ID:.mVDc3Vo0

(´・ω・`) 「一応聞きましょう」


( ´W`) 「私の息子、アラン・ホワイトを君は覚えているだろうか。
      今君の身に訪れている理不尽は、その時の罪が返ってきたのだ。
      生まれるはずの娘を見れなかった我が息子の後悔を、君が想像できるかはわからない。
      ただ、君を恨む者がいたということ。
      君は事故で死ぬのではなく、人に恨まれて死ぬのだと知ってていてほしい」

男たちが生きているかどうかはわからないし、
話を聞いてくれるかどうかもまた、不明。

(´・ω・`) 「伝えるかどうかはわかりませんよ」

だからこそ老人に伝えた。
定期便まで日数があっても、危険を冒し岩礁亀に戻る必要はない。
他に時間を潰す方法なんていくらでもある。

( ´W`) 「構わないよ」

老人の答えを聞き、彼の家を後にした。
港に向かうと、僕が乗ってきた舟が丁寧に結んであった。

972名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 19:56:41 ID:.mVDc3Vo0

日陰で休んでいるナタリーを見つけ、軽く手を挙げてあいさつする。
少女もこちらに気付き、小さく手を振ってくれた。
大樹にもたれ掛り、眼をこすりながら欠伸をしている。

固く結ばれた紐を解く。
海までの距離はそう遠くなく、一人で押していけば十分だ。

(´-ω-`) 「何やってるんだろうなぁ……」

どうも自分自身ががぶれている気がする。
人間同士の争いに首を突っ込み、一時は自らの記憶を失った。
そのせいだろうか。
自分の信念や、立ち位置が揺らいでしまっている。

昔の僕ならばどうしただろうか。
銀の蛇に所属している者であれば、殺すことに躊躇いはなかった。
それは私怨という考え方と、大衆のためという信念が根本にあったからだ。

973名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 19:57:41 ID:.mVDc3Vo0

尽きることない寿命を持つ僕は、長い年月で教団への興味を薄れさせてきた。
教団に属する個人とぶつかることは何度かあったが、
今回のように教団そのものと本格的に敵対したのは主人の件以来僅か数度目。

久々生まれてくる感情をうまくコントロールできず、判断を誤ったようにも感じる。
いや、現在進行形で間違い続けてるかもしれない。

島に置き去りにしてきた中に、一般人の信徒がいたというジョーンズの話。
その真偽は、行ってみなければわからない。


行くべきか、行かざるべきか

自らの欲望の為に、全てを投げ捨てた男がいた。
巻き込まれ、犠牲になる者がいた。
そういう人間を救いたいと、願ったホムンクルスがいた。

974名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 19:58:27 ID:.mVDc3Vo0

(;´-ω-`) 「っ!」

頭の中を痛みが奔る。
思い出そうとした記憶そのものが、触れられるのを拒否したかのように。
それでも、一つの答えは導き出せた。
座って悩み続けるなんて、僕らしくもないということを。
物事の真偽は、自分の腕で、自分の足で確かめる。

それが錬金術師。

それがホムンクルスである僕のやり方。

舟を力いっぱい海に向かって押す。
砂浜を滑り、勢いに任せて飛び乗った。
岩礁亀地帯を目指し、大きく櫂を動かす。


波に逆らい、舟は進む。
急いで向かっても二日程度はかかる。

(; ´W`) 「待ちなさい!!」

下半身まで海につかりながら、シェイブ老人が追いかけてきた。
櫂を動かす手を止め、身を乗り出す。

975名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 20:00:36 ID:.mVDc3Vo0

(´・ω・`) 「どうしたんです」

(; ´W`) 「食料と、それから錬成品だ。持っていきなさい。役に立つかもしれない」

舟に投げ入れられたのは、大きな麻袋。
中には一目でよくわからないものまで入っていた。

(´-ω-`) 「ありがとうございます」

(; ´W`) 「なに、気にしなくていい。無事戻ってきて来るように」

(´・ω・`) 「ええ、大丈夫です」

僕は僕自身をやっと思い出した。
やるべきこともはっきりしている。
それなら迷うことはもうない。老人に礼と別れを告げ、再び舟を動かし始めた。

976名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 20:02:00 ID:.mVDc3Vo0


・  ・  ・  ・  ・  ・



( メAヽ) 「まさか、引き返してくるとは。一体どんな心変りがあった?」

(#´・ω・`) 「…………お前っ!!」

一人の男が砂浜にある大きめの岩に腰かけていた。
他に人影は……ない。

( メAヽ) 「っち。五月蠅い。傷に響く」

フードから除く顔の横には大きな切り傷。
固まった血液は黒ずみ、膿んでいる。

( ノAヽ) 「人が多けりゃ、それだけ消費する。貴様が残してくれた土産は少なかったんでね」

錬金術師がいるわけじゃない。だけど、少し調べれば知らなくても気づけたはずだ。
この島には緊急時のために、ある程度の仕掛けが為されていることに。
食用の実がなる草に、水分を多量に含む樹。
それらに全く気付くことなく……・

977名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 20:04:11 ID:.mVDc3Vo0

(#´・ω・`) 「殺したのか……」

( メAヽ) 「向こうで眠ってる。さて、俺には抵抗する体力はない。どうする?」

(#´・ω・`) 「一つ伝えておかなきゃいけないことがある。」

怒りに支配されないように両手を強く握りながら、
シェイブ老人の言葉を、抑揚もつけずにそのまま伝えた。
手紙のほうがまだ幾分気持ちが伝わっただろう。

( メAヽ) 「はぁー……。あの時の錬金術師か」

男は緩慢な動作で葉巻を取り出して咥えた。
どうやら火をつける道具を持っていないようで、こちらに確認するように視線を向けてくる。
黙って首を振ると、葉巻を指に挟み口を開いた。

( メAヽ) 「ジョーンズ司教に話を聞いたのか?」

(´・ω・`) 「そうだ」

( メAヽ) 「あの人にこの話を伝えたのは俺だ。あんたの言うことは、何一つ間違っていない。
        さ、どうにでもしてくれ。抵抗する気力はない」

978名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 20:05:27 ID:.mVDc3Vo0

(´・ω・`) 「僕はお前は殺さない。本島に連れ帰って然るべき罰を受けてもらう」

例え何人殺したとしても、それを裁くのは僕ではない。
自分を過信して、首を深く突っ込み続けた結果失敗した。
同じことは繰り返さない。

( メAヽ) 「てめぇが殺した二人を除いて、残りはみんな俺が殺してんだが、
        ……なんでそんなすました顔してやがる。
        お前は特別か、ああ? 人を殺しても許されるとでも?」

(´-ω-`) 「人を殺して、許されるわけがない。
       だけど……」

命を狙われて、その敵を助けてやるほどお人よしじゃない。

( メAヽ) 「てめぇも、俺も同じってことさ」

(´-ω-`) 「そうかもしれないな。それでも僕はアルギュール・フィズィを許しはしないし、
       それに所属していれる人間が、こちらを脅かすのであれば容赦はしない。
       そう"決めて"僕はここにいる」

979名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 20:06:07 ID:.mVDc3Vo0

( メAヽ) 「はっ……」

島の中心には七つの死体が放置されていた。
そのほとんどが激しく傷んでいる。。

一人ずつ、順番に運び海に流していく。
力が抜けている状態の人間の体は重く、手間取ってしまった。
島国では死者を海に還す地域もある。
形だけのものではあるが、せめて彼らが安らかに眠れるように。

(´・ω・`) 「来い、帰るぞ」

( メAヽ) 「帰って死刑になるくらいなら、俺はここで死ぬ」

(;´・ω・`) 「何を言って……!!」

ノーネの動きは俊敏だった。
止める間もなく、足元に転がった刀で自らの腹を真横に断ち切った。
迸る鮮血と、それに比例して湿っていく砂。

980名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 20:07:20 ID:.mVDc3Vo0

(;´・ω・`) 「自殺なんて……」

( メAヽ) 「俺の……したい、は……この……しま……に……」

息も絶え絶えに呟いた一つの希望が、ノーネの最期の言葉となった。

(´-ω-`) 「…………」

ノーネの手によって行われた虐殺は、僕が原因でもある。
名もなきこの島で、八つもの命が失われた。

僕の選択が間違っていたとは思わない。
島に来た教団に命を狙われて、放っておけばおそらく本島でも同じことが起きていた。

アルギュール・フィズィ
 銀 の 蛇

最近になって動きが露骨になってきている。
以前であれば、裏方を演じ歴史の表舞台に現れることはなかった。
それがこの数十年で国を乗っ取り、戦争までも引き起こした理由。

(´・ω・`) (何が目的だ……)

981名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 20:08:15 ID:.mVDc3Vo0

銀の蛇が発足したのはあの事件の後。

不老不死の錬金術を欲した男は、あろうことか自らの師を手にかけた。
そこまでしても、手に入れたのは目的の半分。

不老となった男は、完全なる不死を求め、
ホムンクルスであり、亡き主人のすべての知識を受け継いだ僕を執拗に狙ってきた。
その度に返り討ちにし、教団は次第に勢力を弱めていく。
機を見計らって僕は主人とその家族の仇をとるために教団に潜り込んだ。

教団が弱体化しているとはいえ、不老不死という餌に踊らされた地方の有力者達の支援を受けていた。

僕は一人。
対する相手は、周辺国の協力を得た万の軍勢。

騙し、奪い、謀り、欺き、誑かした。
血で血を洗う戦、裏切り、背後からの不意打ち。
おおよそ汚いと思われるすべての手段を用い、僕は男と再会した。

982名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 20:10:07 ID:.mVDc3Vo0


教団の創始者、ワカッテマスを後一太刀というところまで追い詰め……そして敗れた。
その時のことは詳しく覚えていないが、海に落ちて意識を失ったのはそれが最初だった。

それからというもの、教団は直接僕を狙ってくることがなくなり、
僕もまた教団の本体を見失ってしまった。
教団の活動は歴史の裏側に潜んでしまい、今に至るまで、教団の本拠地は見つけられていない。
手足である小さな研究施設はいくつか破壊したが、その影響はたいして出ていなかったのだろう。



死体をあさる肉食の海鳥が、島の上空を旋回している。
その甲高い鳴き声は青空に響き渡った。


(´-ω-`) 「眠れ……」

表面上の言葉だけだが、無いよりはましかもしれない。

そう言い残して島を後にした。
波が荒く、思うように進まない。
本島に戻れたのは、出発してから五日後のことだった。



・  ・  ・  ・  ・  ・

983名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 20:11:13 ID:.mVDc3Vo0

事の顛末をシェイブ老人に伝えると、手のひらサイズの薄い板をくれた。
そこには複雑な図形が書き込まれている。
半分に割った二つの欠片を合わせることで乗船確認とするらしい。

( ´W`) 「これがあれば船に乗れるよう手配しておいた」

(´・ω・`) 「ありがとうございます」

( ´W`) 「乗船日時は一週間後の早朝、板をもって東港で一番大きい船に向かいなさい。
      東港への道は馬車に乗っていれば、間違えることはないだろう」

(´・ω・`) 「大陸まではどのくらいかかるのですか?」

( ´W`) 「沿岸沿いを進み、早くて三週間。風の影響にもよるが一月かかることはないだろう」

相手方の港は、セント領主家とクルラシア自治区の境界線上。
荷卸しの場として整備されていた港は、先の戦争で被害を受けたものの、
今はもう以前の姿を取り戻しているらしい。

( ´W`) 「錬金術の準備があるなら、私の研究室から持っていきなさい。
      もう長いこと放置していたから、使えるものはないかもしれないが……」

984名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 20:12:27 ID:.mVDc3Vo0

有難く好意に甘えることにした。
使い古された実験器具、乱雑に式が書き込まれた机。
鼻をつくような錬金術独特のにおい。窓が小さいせいで息苦しく感じるが、懐かしいとも思える。
埃が積もり、灰が降ったように見える使研究室には、保存のきく素材だけが残っていた。
いくつかめぼしい物だけど袋に詰めておく。

(´・ω・`) (研究内容に関する書物がないな)

部屋の有様は、実験途中で放置されていたようにも見えるが、
本棚には一冊も見つからない。
かといって外から見た時の研究室は隠し書庫がある構造ではない。

( ´W`) 「私の研究が知りたかったかね?」

(´・ω・`) 「あ、いや、その……すいませんでした」

研究結果は錬金術師にとって命よりも大事なものだ。
それを無粋にも詮索してしまったことを詫びる。

985名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 20:13:07 ID:.mVDc3Vo0

( ´W`) 「構わないよ。安全な航海のため、そして漁業のための錬金術。
   これからの旅で、君も直接目にすることが有るだろうな」

(´・ω・`) 「成程……」

港町に住む錬金術師として、皆に慕われていたのも納得できる。
その研究結果は惜しみなく住民に還元されていた。

(´・ω・`) 「これで十分です。少し島内を見て回りたいので、そろそろ出発します」

旅支度を整えるのに、老人は力を貸してくれた。
おかげで不慮の事態に備えることができる。

馬車はまだ出ているだろうか。
今日の便がなければ、歩いてもいいな……。

(´・ω・`) 「それでは」

( ´W`) 「機会があれば、また」

短い挨拶を交わし、僕らは別れた。
扉を閉じた後、中から漏れ聞こえてきたのは老人の小さな呟き。




( W ) 「自ら命を絶つとは……卑怯者め……」

986名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 20:13:53 ID:.mVDc3Vo0













18 ホムンクルスと怨嗟の渦動  End

987名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 20:14:57 ID:.mVDc3Vo0
>>2   1 ホムンクルスは戦うようです
>>29  2 ホムンクルスは稼ぐようです
>>65  3 ホムンクルスは抗うようです
>>93  4 ホムンクルスは救うようです
>>118 5 ホムンクルスは治すようです
>>148 6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです
>>183 7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです
>>245 8 ホムンクルスと少女のようです
>>284 9 ホムンクルスは迷うようです
>>334 10 ホムンクルスと動乱の徴候
>>393 11 ホムンクルスと幽居の聚落
>>456 12 ホムンクルスと異質の傭兵
>>525 13 ホムンクルスと同盟の条件
>>595 14 ホムンクルスと深夜の邂逅
>>678 15 ホムンクルスと城郭の結末
>>805 16 ホムンクルスは試すようです
>>887 17 ホムンクルスと絶海の孤島

>>930 18 ホムンクルスと怨嗟の渦動

988名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 20:15:54 ID:.mVDc3Vo0
【時系列】

ホムンクルス生誕
   ↑
   ↓
6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです
7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです   
8 ホムンクルスと少女のようです
   ↑
   |
   |
   ↓
1 ホムンクルスは戦うようです
   │
2 ホムンクルスは稼ぐようです
   │
3 ホムンクルスは抗うようです
   │
4 ホムンクルスは救うようです
   │
5 ホムンクルスは治すようです
   │
9 ホムンクルスは迷うようです
   |
10 ホムンクルスと動乱の徴候 戦争編・前編
11 ホムンクルスと幽居の聚落
12 ホムンクルスと異質の傭兵
13 ホムンクルスと同盟の条件
14 ホムンクルスと深夜の邂逅
15 ホムンクルスと城郭の結末

17 ホムンクルスと絶海の孤島 戦争編・後編
18 ホムンクルスと怨嗟の渦動
    │
    │
16 ホムンクルスは試すようです

989名も無きAAのようです:2015/02/01(日) 23:25:11 ID:XRW/eyoo0
すごい続きがきになる
おつ

990名も無きAAのようです:2015/02/02(月) 00:07:29 ID:wkEh3UHc0
今回もおもろい
おつおつ

991名も無きAAのようです:2015/02/02(月) 00:37:21 ID:XEdsLlYoO
ω・)いつみてもこの作品のショボンは正統派ショボンだな。ず~~~~~~っとブレないw

992名も無きAAのようです:2015/02/02(月) 00:54:26 ID:zf4AEkW.0
>>991
その「正統派ショボン」とかいうお前にしか伝わらない概念なんなの
あと半コテで何回も同じレスする荒らし行為やめた方が良いよ
アク禁になるかもしれないから

993名も無きAAのようです:2015/02/02(月) 01:37:53 ID:XEdsLlYoO
>>992
荒らしのつもりはないが、そうとられると嫌なので自重しよう

994名も無きAAのようです:2015/02/02(月) 02:54:22 ID:7MVCFzog0
本当に波乱万丈
次回も楽しみ

995名も無きAAのようです:2015/02/02(月) 12:10:26 ID:w7oMkeNA0

いつも楽しませてもらってます

996名も無きAAのようです:2015/02/02(月) 13:16:23 ID:9oa1wEJ60
おつ!面白い!

997名も無きAAのようです:2015/02/03(火) 01:31:30 ID:/dsUQYpk0
2011年から始まってたんだな
こう振り返ると一つの大作の流れをゆっくり楽しんでるってことかあ

998名も無きAAのようです:2015/02/04(水) 13:52:38 ID:SNr7lldwO
次回が待ち遠しいでござる

999名も無きAAのようです:2015/02/04(水) 22:00:04 ID:6o6TiaUo0
1000ならこの作品は超大作に

1000名も無きAAのようです:2015/02/04(水) 22:23:46 ID:1x8wy2RM0
1000ならこの作品は小説化

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