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( ^ω^)はペルソナ能力を与えられたようです
1
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/10/31(月) 21:25:21 ID:UvGid7pw0
どうしようかなーと考えた結果短いけど投下します
2
:
名も無きAAのようです
:2011/10/31(月) 21:26:22 ID:re327nns0
これは懐かしい
3
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/10/31(月) 21:28:15 ID:UvGid7pw0
まとめさま
7xさん
http://nanabatu.web.fc2.com/boon/boon_persona.html
自分とこ
http://iaiapersona.web.fc2.com/persona/persona_main.html
4
:
名も無きAAのようです
:2011/10/31(月) 21:28:28 ID:q9jEEhmYO
ずっと待ってました!!!!!!
投下の邪魔ごめんなさい
支援
5
:
名も無きAAのようです
:2011/10/31(月) 21:35:42 ID:UvGid7pw0
それを形容する言葉は数多く在るであろう。
黒、漆黒、影。十人十色が示す答えは、果たして一色だけであった。
それ程に、それは闇そのものであるという印象を与えていたのだ。
ξ; ⊿゚)ξ「……?」
身を抉るような自責と共に、ツンは強く願った。
今まさにブーンたちへ迫らんとするエクストを倒したい、と。
その直後だ。
最初にショボンらを呑み込んだ闇が、己を創りだしたはずのエクストを呑み込んだのだ。
体は勿論、影すらも。字の如く彼の全てを呑み込み、今は闇の球体だけがそこに在る。
(;^ω^)「……どうして……」
絞り出したブーンの第一声が、それだった。
何が、と問う者────いや、“問うことができる者”はいない。
彼と全く同じ言葉が、心に浮かんでしまっているからだ。
『どうして、エクストは闇に呑まれてしまったのだろうか』
ブーンは次の言葉を発することができなかった。
隣にいたミセリが、動いたからだった。
6
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/10/31(月) 21:38:01 ID:UvGid7pw0
ミセ*゚−゚)リ「ブーンさん、ツンさんを」
緊張を保ったままそう言った彼女の声に、ブーンは、はっと顔を上げ、
(;^ω^)「ツ、ツン!」
金縛りから解けたように、横たわるツンの元へと駆け出した。
ブーンの背を見、次にミセリは動かぬ闇の球体へと視線を戻す。
ミセ*゚−゚)リ(エクストが創り出した闇……どうして……)
少年の呟きと同じ言葉を、胸懐で重ね、
ミセ*゚−゚)リ(……いえ、まずはジョルジュさんたちを)
ミセ*゚−゚)リ(皆さんが受けた攻撃は、恐らく私がされたことと同じ、精神攻撃)
ミセ*゚−゚)リ(怪我などは負っていないはず……)
体には、と、一つの陰りを呟いた。
それを振り払うかのように、ミセリも足早にジョルジュらに近づいていく。
──自分は打ち破ったが、彼らはどうか──
四人が闇の中に居た時間は、ミセリたちよりも長い。
その間、ずっと彼らは見続けてしまっているはずだ。
──私と同じ、忌々しい、忘れ去りたい過去を──
ミセリはそれを思い、ぎ、と奥歯を噛み締める。
しかし、すぐに違うと思い直していた。
7
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/10/31(月) 21:40:01 ID:UvGid7pw0
ミセ*゚−゚)リ(……違う。私の場合は、忘れてはいけない過去)
見せられた、という一点だけが、未だ彼女に怒りを覚えさせていた。
その所為で、忘れ去りたいなどという言葉を付加してしまったのだ。
闇を打ち破ったあの時、彼女は言った筈だった。
過去を、乗り越えなければいけない、と。
つまりは必然的に、それは忘れてならない過去だ。
但し、ミセリが思った通り、それは自分のケースに限ったことだ。
ジョルジュらが闇の中で見たものは、まさしく忘れ去りたい過去であった。
彼女がそれを知るすべは、ただ一つ。
ミセ*゚−゚)リ「ジョルジュさん、ジョルジュさん!」
横たわるジョルジュの真横に膝をつき、呼びかける。
知ろうと思えば、彼らを起こし、何を見たかと問えば解るのだ。
もっとも、そんなことをするミセリではないのだが。
_
( ∀ )「…………」
問いかけに、眉毛すらぴくりとも動かない。
ミセリは彼の鼻の下へ指先を運び、呼吸を確認した。
一定のリズムで、生暖かい空気が指先をくすぐることを確認すると、
ミセ*゚−゚)リ(呼吸は安定してる……これなら大丈夫)
安堵の直後、彼女はジョルジュの上体を起こし、そのまま彼の背後へと移り、
ミセ*゚−゚)リ「喝!」
8
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/10/31(月) 21:41:43 ID:UvGid7pw0
_
ll
( ∀ )「ひゃるんっ」
突如発せられたミセリの大声に驚いたのか、妙な声と共に一瞬だけ全身を大きく震わせた。
彼女がしたことは声を出しただけではないのだが、効果は抜群だ。
ジョルジュは鳩に似た首の動きで、周囲をきょろきょろと見渡している。
ミセ*゚ー゚)リ「おはようございます、ジョルジュさん」
_
(;゚∀゚)「えっ、あっ、はい。おはようございます」
ミセ*゚−゚)リ「……具合はどうですか?」
_
( ゚∀゚)「バッチリです! 今すぐにでも戦えま……」
_
(;゚∀゚)「そ、そうだ、あの野郎は……」
ミセ*゚ー゚)リ「大丈夫です。今は楽にしていて下さい」
え、と戸惑いを見せたジョルジュから離れ、次に彼女はショボンに近づいていく。
残りのショボン、ドクオ、クーを、ジョルジュと同じ様に起こすためだ。
ミセリにそう言われた彼であったが、彼の記憶は戦闘開始寸前で途切れたまま。
意識が覚醒していくにつれ、ぷつりと切れる直前の出来事が鮮明に思い出されていく。
エクストの姿、自身を覆った闇、そして、
_
( ゚∀゚)「…………」
闇の中で、見た、もの。
9
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/10/31(月) 21:44:04 ID:UvGid7pw0
「おはようございます」、というミセリの言葉が、それが夢であったという感覚を強めさせた。
しかし、夢にしてはリアリティがありすぎた、とすぐに思い直す。
更に闇に覆われたという記憶が、何かしらの攻撃を受けたと彼に結論付ける。
ならば、あの敵はどうなったのか。
ミセリに問いたいことが次々と浮かび、最も知りたい事が、エクストの事だった。
(*'A`)「とぅっん」
悩むジョルジュを尻目に、ドクオが妙な声を上げて目を覚ます。
言わずもがな、ミセリが彼を起こしたようだ。
今は皆が起きるのを待つしかない、と、ジョルジュは一つ息を吐く。
_
( ゚∀゚)「……」
その後、彼の視線の先にはやはり、黒の球体が在った。
一体何が起きたのか。
ジョルジュがそれを知るのは、また少し後のことになりそうだ。
一方、
(;^ω^)「ツン! 大丈夫かお!?」
ジョルジュらの空白の時間を知るブーンは、
横たわるツンの傍まで駆け寄り、慌てふためいていた。
ξ;゚ー゚)ξ「ん……ちょっといろんなとこ、痛いかも」
(;^ω^)「ど、どこだお!? 立てるかお?」
10
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/10/31(月) 21:46:30 ID:UvGid7pw0
ξ;゚ー゚)ξ「すぐには無理みたい……でも、怪我はペルソナで治るから……」
(;^ω^)「そうだお! すぐに治すんだお!」
ξ;゚⊿゚)ξ「……まだちょっと使えないみたい。……んっと、大丈夫だから、落ち着いて?」
(;^ω^)「……ほんとに大丈夫なのかお?」
ξ;゚ー゚)ξ「うん……ありがとう」
おろおろとするブーンの手は、ツンに触れることをためらうように震えている。
中腰で、ピアノを弾くような体勢でだ。
きっと、すぐにでも抱き抱えたいのであろう。
ξ;*゚⊿゚)ξ(……いいのに……)
(;^ω^)「お?」
ξ;゚⊿゚)ξ「な、なんでもないから! なんでもないんだからっ!」
ツンは心で呟いたと思っていたが、残念ながらしっかりと声に出ていた。
力いっぱい否定した後、未だ挙動不審なブーンを見て、苦笑する。
それが、今の彼女にできる精一杯だった。
肉体的ダメージに加え、精神の消耗も激しい。ツンは疲弊しきっていた。
エクストが一体どうなったのかなど、考える余裕すらない。
今はブーンの顔を、瞳だけで見上げることしかできないのだ。
そして、暫くの後、ツンにも多少余裕が見え始め、
視界を広げればショボンたちが目を覚ましていることに気がついた。
11
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/10/31(月) 21:49:18 ID:UvGid7pw0
闇に呑まれた面々は、どうやら無事のようだ。
疲労は、実際に戦ったブーンたちの方が大きいだろう。
ツンの元へ、というミセリの言葉に頷き、漸く全員が揃った。
ミセ*゚−゚)リ「ツンさん、すみません。お待たせ致しました」
そう言ってツンに近寄ろうとしたミセリだった、が、
ミセ;゚−゚)リ「……ぅ」
踏み出した一歩目で、動きを止めてしまった。
止まってしまった、が正しい。
_
(;゚∀゚)「ミセリさん! 大丈夫ですか?」
ミセ;゚−゚)リ「……だいじょうぶ、です」
だが、その言葉はこの場にいる全員が強がりだと解るものだった。
川 ゚ -゚)「ミセリさん、私に任せてくれ」
治癒はクーのペルソナ、タレイアでも行うことができる。
すみません、と言ったミセリに頷いて、クーがツンに近づき、屈んだ。
川 ゚ -゚)『ディア』
女神、タレイアから発せられた柔らかな光が、横たわるツンを包み込む。
ミセリほどの即効性はないが、次第に、確実にツンの表情が和らいでいく。
川 ゚ -゚)「ツン、大丈夫か?」
12
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/10/31(月) 21:51:16 ID:UvGid7pw0
ξ゚ー゚)ξ「ありがとう……クー」
川 ゚ -゚)「いや。これくらいしかできなくてすまない」
クーたちはまだ、自分らが攻撃された後なにが起きたのかを説明されていない。
だが、ミセリの疲弊具合とツンの状態を見るに、激しい戦いがあったことは充分に分かる。
すまないと謝罪したクー以外の者たちも、参戦できなかったことを申し訳ないと思っていた。
(´・ω・`)「ブーン、一体何があったの?」
(;^ω^)「お……僕もなんて言ったらいいか……」
何があったか、と問われたブーンの頭に、エクストが突如闇に呑まれたことが浮かんだ。
彼も混乱している。咄嗟に出た言葉は、ショボンの意図とは離れた答えだった。
ショボンはそれを冷静に処理する。
(´・ω・`)「質問が悪かったみたいだね。僕たちが攻撃を受けた後、どうなった?」
( ^ω^)「モミアゲ男と戦って……その最中にいきなり、あの、ショボンたちを襲った黒いのが……」
ミセリとクー以外の視線が、闇の球体に集う。
謎の闇は未だそこに在り続け、沈黙していた。
それを見つめたまま、ショボンが続ける。
(´・ω・`)「モミアゲ……確か、エクスト、と言っていたね」
( ^ω^)「そうだったおね。ハンパなく強かったけど、あれのお陰でなんとかなったお」
(´・ω・`)「あれのお陰って、どういうこと?」
13
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/10/31(月) 21:54:54 ID:UvGid7pw0
_
( ゚∀゚)「てか、あの野郎はどうなったんだ? 倒したってことか?」
(;^ω^)「いや、あの黒いのがいきなり動いて……」
ジョルジュ、とショボンが制し、
(´・ω・`)「ブーンも混乱してるみたいだ。一つずつ訊こう」
_
( ゚∀゚)「あー……わりぃ」
(;^ω^)「ごめんお……」
と言ったものの、彼は順に尋ねられたとしても、説明できる自信が全くなかった。
あの時ブーンは、皆を閉じ込め、更にツンを傷つけたエクストに対し激昂していた。
ただでさえ周囲を見る余裕がなかったのだ。仕方が無いと言える。
そして、淡く求めた助け舟が、意外なほど早く現れた。
ミセ*゚ー゚)リ「私が説明します」
(´・ω・`)「ミセリさん……大丈夫なんですか?」
ミセ*゚ー゚)リ「はい。少し落ち着きました」
_
( ゚∀゚)「無理しちゃいけないぜ?」
ミセ*゚ー゚)リ「大丈夫です。ジョルジュさん、ありがとうございます」
_
(*゚∀゚)「い、いいって」
14
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/10/31(月) 21:57:12 ID:UvGid7pw0
ミセリは優しく微笑んだ後、皆から少し距離を置き、静かに説明を始めた。
その時には、ツンも体を起こせるまでに回復していた。
ミセ*゚−゚)リ「……強かったです。恐ろしく」
エクストの事を言っている。
ブーンとツンは戦いのさなかを思い出し、少しだけ顔を歪ませた。
二人の胸に浮く想いは、悔しさであった。
ツンは負傷し、戦線離脱を余儀無くされた。
ブーンは、あのまま戦えば恐らく負けていたと、認めてしまっていた。
冷静になった今だからこそ、より強く理解してしまっている。
悔しさは、当然と言えよう。
説明を続けるミセリは、二人の心境に気がついていた。
しかし、彼女はそれについて何も語らない。
────戦いは、まだ終わっていないのだから。
( ^ω^)はペルソナ能力を与えられたようです
第二十二話 『黒きトラペゾヘドロン──後編──』
15
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/10/31(月) 21:59:15 ID:UvGid7pw0
※
もう一つの戦いは、未だ終わっていない。
期せずして、はたまた宿命だったのか。
かつての親友同士の戦いは、まだ、続いている。
( ´∀`)「…………」
決意を胸に、障壁となった友を倒すために。
その、友の姿は、漆黒のペルソナが立ち塞がりモナーからは視認できない。
<::::::::::>「…………」
アサピーの支配を以て顕現せし、魔王アザゼル。
ペルソナ使いが自らのペルソナに乗っ取られることは、決して少ないことではない。
モナーはそんな人間を、今までに多く見てきた。
そのどれもが、ペルソナを扱うに心が未熟であることが原因であった。
彼は神主という職業の裏で、その“手”の問題を解決することがある。
俗に除霊と言われているが、職業柄そのような問題を抱えた者、
或いは身内といった第三者から相談されることが多いのだ。
その“一般的な除霊”の中に、ペルソナ関係の件が紛れていたりする。
一つ、二つと問題を解決していくことで、“裏”の仕事が増えていったのだ。
ともあれ、モナーにとって専門分野であると言っても過言ではない。
ペルソナの暴走を止めるには、ペルソナを屈服させる以外に解決策はない。
文字通り、実力行使ということだ。
16
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/10/31(月) 22:01:21 ID:UvGid7pw0
( ´_ゝ`)「……しかし、珍しいな」
(´<_` )「なにがだ?」
対峙しているモナーとアザゼルを、モナーの少し後方で見つめるのは流石兄弟だ。
アザゼルの隙を窺いながら、声のトーンを落とし兄者が言う。
( ´_ゝ`)「どうやらあの眼鏡は、ペルソナが暴走しているようだが……」
眼鏡とはアサピーのことだ。
二人の戦いに入り込む余地なしと判断した彼らは、冷静に状況を把握することに努めていた。
兄者の言葉に、やや間を置いて、
(´<_` )「覚醒したばかり、とも思えないな……神主もあのペルソナを知っていたようだ」
( ´_ゝ`)「流石だな、弟者」
兄者が言わんとしていることはこうだ。
ペルソナに目覚めたばかりの状態で、心が未熟、つまり自身の許容を超えた場合。
術者の意識を乗っ取り、暴走してしまう。
その、暴走に至るまでの時間は、ほぼゼロと言っても良いのだ。
( ´_ゝ`)「突如ペルソナがランクアップしたというセンも、外れだ」
(´<_` )「それならば、神主が“アレ”を知っているわけがない」
(´<_` )「……兄者の時は、ランクアップしてすぐに暴走したからな……」
( ´_ゝ`)「てへっ☆」
17
:
名も無きAAのようです
:2011/10/31(月) 22:03:22 ID:0UV743Rg0
三国志でラジオばっかりしてて結局逃亡したペルソナさんじゃないですか!
18
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/10/31(月) 22:03:52 ID:UvGid7pw0
気を取りなおして、
( ´_ゝ`)「まぁ、俺たちの知らない例外があるのかもしれんが……」
(´<_` )「あれほど強力なペルソナだ。そう考えるのが妥当だろう」
( ´_ゝ`)「うむ……完全に術者から独立しているようだしな……」
(´<_` )「狡猾な魔王だ。術者を乗っ取る機を窺っていたのか……」
それとも、
( ´_ゝ`)「それとも……何か、“切っ掛け”があった、か」
二人の推測はそこで終わる。
原因が分かったとしても状況を打破できるわけではないのだが、
単純にペルソナ使いとしての興味本位が、それを考えさせていた。
アザゼル顕現の“切っ掛け”を与えたのはモララーであったが、流石にそこまでは辿りつけない。
魔王に問うても、自尊心の高いアザゼルはそれを認めないであろう。
流石兄弟にとっても、専門としてきたモナーにとっても非常に稀なケースであり、
モナーにとり────同時に、最悪のケースと言える。
強力なアザゼルを屈服させることができるかどうか。
それに関して、モナーは特に問題にしていなかった。
できるかどうかではない。
しなくてはならぬのだ。
19
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/10/31(月) 22:05:40 ID:UvGid7pw0
睨み合う、モナーとアザゼル。
高まる緊張と集中力が、モナーに時の歩みすらも遅く感じさせている。
( ´_ゝ`)「最後の衝突から、そろそろ五分か……」
呟きの、直後────
────それは、突如として起きていた。
(´<_`;)「ッ!」
咄嗟に身構えたのは、弟者だけではなかった。
兄者も驚きを浮かべた表情で、弟者と同調したように体勢を変えている。
注視は怠っていない。だからこそ、戸惑いを見せていた。
(;´_ゝ`)「翼が……増えた……」
二対四枚の翼が、アザゼルの背にあった。
しかし、いつの間にか更に二枚、翼が増えている。
ただ、それだけだ。
その程度のことなのに、兄者は確認するように呟いてしまっていた。
(´<_`;)「……」
20
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/10/31(月) 22:10:24 ID:UvGid7pw0
弟者が僅かに動いたことを、兄者は視界の端に捉えた。
その動きで、兄者は自分自身も一歩後退っていたことに気がつく。
気圧された理由は、決して外見の変化にではなく。
確かに、翼が増えたことで黒のシルエットは肥大化しているのだが、
(;´_ゝ`)(一瞬、巨大化したと錯覚するほどの……)
(´<_`;)(……冗談じゃないぞ……ついさっきまでよりも、更に……)
質量以外のものが、確実に増している。
足下から這い上がり、粘り、絡みつくのは威圧感。
その場に居るだけで、力が増したと認識できる程に。
しかし。
(;´_ゝ`)「ッ!」
威圧を、切り裂く、
(# ´∀`)『ビシャモンテン!』
翠緑の武神。
モナーの覇気に呼応し、ビシャモンテンが駆ける。
21
:
名も無きAAのようです
:2011/10/31(月) 22:14:20 ID:77a1ax6c0
ペルソナァ!
22
:
名も無きAAのようです
:2011/10/31(月) 22:19:30 ID:UvGid7pw0
ここまでです
この板はスレが残るっていうことを利用して、一定の周期で投下しようかなと
一ヶ月以上かけてこれしか書けなくなってる自分に驚いたけど、またぼちぼちやっていきます
次の投下は15日、但し9レス以下なら今月中
勿論、一話書ききることができれば余裕のある日に投下します
23
:
名も無きAAのようです
:2011/10/31(月) 22:19:35 ID:gesZVKlUO
おおおっ!!ペルソナの人復活か!
待ってたよー
24
:
名も無きAAのようです
:2011/10/31(月) 22:23:59 ID:q9jEEhmYO
>>22
乙です!!
ずっと待ってるんだからね!!!
25
:
名も無きAAのようです
:2011/10/31(月) 22:27:58 ID:eyyqelCsO
ペルソナ!?ペルソナじゃないか!
おかえり!!
26
:
名も無きAAのようです
:2011/10/31(月) 22:29:00 ID:re327nns0
おつおつ
楽しみが1つ増えた
27
:
名も無きAAのようです
:2011/11/01(火) 09:53:24 ID:vljoxgIg0
ラジオに出てる時間を執筆に回したら一話くらいすぐ書けたよね?
28
:
名も無きAAのようです
:2011/11/01(火) 18:19:39 ID:EeVkQ2uMO
合作で投下ないのはアルファだけになったな
29
:
名も無きAAのようです
:2011/11/01(火) 20:34:14 ID:6G1QSG3Q0
だからなんだよ
30
:
名も無きAAのようです
:2011/11/01(火) 21:22:18 ID:JWof1kpg0
>>29
待ってるんだよ
言わせんな恥ずかしい
31
:
名も無きAAのようです
:2011/11/01(火) 22:29:07 ID:959WcawA0
え?
退魔きたの?
32
:
名も無きAAのようです
:2011/11/01(火) 23:04:41 ID:KavdwqA20
エスカルゴに最新話あるよ
33
:
名も無きAAのようです
:2011/11/02(水) 13:15:40 ID:I2T68.5s0
復活したのか
乙
34
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/07(月) 00:14:22 ID:LY9oL2Io0
温かい言葉、煽り、ありがとうございます
投下したんだなぁと実感がわきました
10レス以上達成したので15日の投下が確定しました
まだ一週間と少しありますけど、一話書き切るのは厳しそうなので、
次も中途半端になりそうですがよろしくお願いします
次回分は今回分よりも多いです
35
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/08(火) 19:43:06 ID:.E4ZxMvQ0
15日に予定が入ってしまったので10日の夜に投下します
36
:
名も無きAAのようです
:2011/11/09(水) 19:52:02 ID:r.KM8OFI0
なんだ、失踪から帰ってきたのか
37
:
名も無きAAのようです
:2011/11/09(水) 21:26:07 ID:ZPefGbVkO
本物かよwwwwwお茶こぼしたじゃないか
とりあえず乙、読み返してくる
38
:
名も無きAAのようです
:2011/11/09(水) 23:50:59 ID:Iww2SqLgO
まだかな
39
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/10(木) 20:49:32 ID:94JPCBgE0
投下します
>>20
の続きからです
40
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/10(木) 20:51:06 ID:94JPCBgE0
自身の背丈をも凌駕する三叉の長戟、三叉戟を携え、それを握り絞る。
その先端は刺突、次点で斬撃に特化した武器だ。
但し、ビシャモンテンが振るう場合は、柄すらも凶悪な鈍器へと変貌する。
並の悪魔なら、叩き潰されるどころか、“柄”で“両断”されてしまうであろう。
且つ、今のモナーの精神状態は極めて高い位置にある。
ペルソナの力は即ち、意思の強さ、堅牢なる心に直結するのだ。
疾駆の勢いを乗せ、三叉戟を振りかぶり、鬼の形相でアザゼル目掛け振り下ろす。
<::::::::::>「…………!」
アザゼルはそれを、片腕で受け止めた。
回避ではなく防御をとった理由は、魔王の慢心に他ならない。
先ほどの衝突で黒衣を斬られたことで、確かにアザゼルは認識を改めていた。
だからこそ翼を増やし、“完全”な姿へと近づかせ、更に力を高めていたのだ。
それにより、モナーの攻撃を受け止めたのだが、自尊心は二度とも砕かれる結果となる。
防御に回している腕は今、片腕だけではなく、両腕になっていた。
赤黒い皮膚をさらけ出し、頭上で“X”の形に両腕を交差させ、受け止めている。
武神はそれ以上押せず、引けず。
魔王も押せず、受け流せず。
異なる神話の、神と魔王が交錯する画は、全くの、互角。
第三者がその画だけを見たならば、だが。
モナーは知っている。
ブーンたちに、はっきりと告げたのだから。
41
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/10(木) 20:53:22 ID:94JPCBgE0
( ´∀`)「…………」
あの時は、アサピーもまだ味方であった。
そのアサピーも、モナーと同じことを話している。
アサピーはこう言った。
──私では、モララーを倒すことができません──
モナーはこう言った。
──私たちは、もう成長することができません──
共通していることは、己の限界を理解しているということだ。
今でこそ、モナーとアザゼルの力は拮抗している。
しかし、このまま戦えばどうなるか、彼にはそれが明確に見えてしまっているのだ。
魔王、アザゼル。
神話では六対十二枚の翼を持つと言われている。
変化を経て、それでも今は三対六翼でしかない。
“完全”には程遠い。
“完全体”のアザゼルが神話通りの姿をしているのかは、モナーは知らないが、
実際に翼が増えたことで力が増している現状を見れば、深読みせずとも辿り着く。
モナーは、アザゼルが今以上の実力を秘めていることを、充分に理解している。
かつてモナーは一度だけ、“魔王”と呼ばれる悪魔と交戦したことがある。
彼は当時の仲間たちと協力し、勝利することができた。
それが、今はたった一人────
モナーの打算では、流石兄弟は戦力に含まれていない。
急造の連携では、逆効果と判断した為だった。
42
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/10(木) 20:55:05 ID:94JPCBgE0
それに、二人には託したことがある。
動くのであれば、今しかない。
( ´_ゝ`)「行くぞ、弟者!」
(´<_` )「了解だ、兄者!」
拮抗状態を保った、今が好機。
モナーの攻撃は、この瞬間を生み出すために行われたのだ。
図面上は通路だが、部屋と呼んでも差し支えのない広い空間。
その中央に、ビシャモンテンとアザゼル。
流石兄弟たちから見て、その後方にアサピーが立っている。
更に後方、突き当たり、重く閉ざされた電子ロック式の扉があった。
流石兄弟の思惑では、あの向こうに所長室があり、叩くべき敵がいると言う。
隙をつき、あの部屋へ侵入することが、二人がモナーに託されたことだ。
“今”、と判断した流石兄弟が、同時に飛び出した。
モナーの視線は動かない。アザゼルも動こうとしない。
組み合った互いの敵を、ただ一点だけを睨んでいた。
警戒しながら、流石兄弟はアサピーの真横を通過する。
アザゼルと同じく、彼も、
( ´_ゝ`)(……完全に抜け殻、か)
微動だにしなかった。
かくして二人は、拍子抜けする程にあっさりと目標である扉に辿り着く。
扉の前で顔だけを互いに向けて、一度、小さく頷いた。
43
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/10(木) 20:58:40 ID:94JPCBgE0
頷き、全く同じタイミングでまばたきをした後、兄者は扉側を向き、弟者は逆方向を向いた。
電子ロック解除役と、見張り役に別れたのだ。
一瞬目を合わせただけで、だ。流石と言える。
モナーを含めた三名では、モナーの懸念通り力を発揮できないであろうが、
純粋に流石兄弟二人だけであれば、その力は加算ではなく乗算される。
極論を言ってしまえば、モナーも、兄者らも、互いが足手まといと言うことだ。
但し、流石兄弟にとっての“足手まとい”という意味合いは、少し違ってくる。
( ´_ゝ`)「所長室なら特別なロックがされていると思ったが……どうやら普通に使えるようだ」
電子パネルを操作し、入室PASS入力画面まで辿り着いた兄者が、そう言った。
関係者に配布されている入室コードは、所長室でも問題なく使用することができるようだ。
慣れた手つきで電子パネルに指を滑らせつつ、
( ´_ゝ`)「ま、開かなかったらペルソナでこじ開ければいいんだがな」
(´<_` )「また、プライドだけが傷つくかもしれないけどな」
研究所突入時のやり取りを皮肉る弟者。
そこまで言った後、弟者は未だ拮抗状態にあるモナーとアザゼルを見切り、
下方から徐々に口を開けていく扉へと向いた。
弟者の立ち位置は、兄者のやや斜め後方。
いつでも兄者をサポートできる位置に立っている。
そう、二人はこの先にエクストがいると思っているのだ。
扉が完全に開ききると、大人二人が並んで歩けるほどの通路が現れた。
蛍光灯に照らされた通路の壁には、大小様々な絵がいくつも飾られている。
描かれているものは、全てが不気味な悪魔の絵だった。
44
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/10(木) 21:00:09 ID:94JPCBgE0
絵が漂わせる、侵入者を拒否しているような不穏な雰囲気の中を二人が進む。
警戒している為に、平常よりも歩く速さは若干遅い。
兄者も弟者も、視線は三十メートルほど先にある扉だけを見ていた。
( ´_ゝ`)(……相変わらず悪趣味な絵だな)
(´<_` )(本当にあの“力狂”のエクストが飾ったのだろうか……)
しかしどうしても、二人の視界の端には醜い悪魔が写り込んでしまう。
巨大な肉塊に無数の目が描かれただけのものや、無数の触手が生えた肉、
かと思えば、一般的に見て悪魔と判別できる容姿が描かれていたりと、様々だ。
その多種多様な絵の全てに、タイトルと思しき文字が外枠のプレートに綴られている。
流石兄弟が不気味さを感じている最大の理由が、それだ。
二人は初見こそ、絵の異様さに異を感じていたのだったが、
それを見た後は絵の存在など消え去るほどに、二人は“心を握られ”た。
今二人が視線を固定しているのは、絵ではなく、タイトルを見ない為だ。
この空間に入ると思い出してしまうがために、今の嫌悪感がある。
文字だけで、ペルソナ使いの二人にそこまでの畏怖を与えるもの。
飾られている全ての絵が、同一のタイトル。
プレートに綴られた文字は────……
『Nyarlathotep』
古の、旧支配者の名であった。
45
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/10(木) 21:01:51 ID:94JPCBgE0
神話を知る者であれば、異なる絵にも成る程と頷いたであろうが、
流石兄弟にとってそれどころの話ではなかった。
常人の非日常を日常とするペルソナ使いにとって、神話とは薄氷隔てた現実に他ならない。
生誕、発祥、知覚情報などの類は、人間の界隈で語られている伝承通りであるかどうか、
それは当の悪魔のみ知り得る事柄ではあるが、大概がいわゆる“伝説”通りの姿をしている。
兄者と弟者も、覚醒した後は自身のペルソナがどのような悪魔であるか、神話を追った過去を持つ。
調べた結果は、限りなくそれ──神話──に近い姿をしていたのだ。
そして、“Nyarlathotep”
神話により名や外見が変わる神、悪魔は多くいる。
モナーのビシャモンテンがそうだが、文化や言語の違いで名称が変わる場合もある。
だが、“Nyarlathotep”ほどの名、姿を持つ悪魔は果たして存在するだろうか。
敢えて異なる絵を並べているのは、神話上の“彼”を視覚的に表現しているのであろう。
そういった様々な要素が、“Nyarlathotep”という言霊を際立たせ、
流石兄弟に畏怖を与えているのだった。
( ´_ゝ`)「弟者、開けるぞ」
一つ前の扉よりも、動きは早かった。
所長室の入り口に着くと、たった五秒ほどで解錠作業を終えていた。
後方に立つ弟者も、「あぁ」と最小限の返事で相槌を打つ。
( ´_ゝ`)「エクストの気配はないが……気を付けろよ」
言い、電子パネルのEnterを叩くと、兄者は少しだけ扉から離れた。
46
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/10(木) 21:03:23 ID:94JPCBgE0
所長室の扉は、一つ前の扉よりも小さい。
扉から一歩後退った兄者が動きを止める頃には、所長室内部が晒されていた。
正面に構えるのは壁に設置されている巨大なモニター一つ。
室内の証明はそのモニターが流す映像の明かりだけだ。
その、頼りない明かりに照らされている一人の人物に、兄者の目が止まった。
( ´_ゝ`)「なかなかそそられる光景じゃないか」
从;゚∀从「……ぶっ殺すぞ……」
両手足を縛られ、無造作に床に寝かされていた、ハインリッヒ高岡。
囚われの姫は、兄者の声に殺害予告で応答した。
もっとも、ハインリッヒは未だ流石兄弟のことを敵と認識しているままであるし、
兄者の言葉も悪役を匂わせることこの上なかったので、仕方がない。
(´<_` )「やはり、エクストはいないか」
言いながら弟者が入室すると、研究室の扉が自動で閉まった。
気配を感じなかった通りエクストはいない。
流石兄弟は知らぬことだが、彼は今、ブーンらと戦っているはずだ。
(´<_` )「兄者……どう思う?」
( ´_ゝ`)「ここにいないのは意外だったが……まさか、小僧たちの所か?」
(´<_` )「そうかもしれんな」
( ´_ゝ`)「ふむ……そうだとすると、少しヤバイ状況か……」
47
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/10(木) 21:04:51 ID:94JPCBgE0
二人は小声で、ハインリッヒに届かぬ声で話している。
从;゚∀从「なんだお前ら、アタシを牢屋にでも閉じ込めにきたのか?」
無力である自身への苛立ちが、矛先を流石兄弟に向けたようだ。
怒りが今の彼女から冷静さを失わせている。
初めてショボンらに出会った時の彼女ならば、そんな台詞を吐かなかったであろう。
( ´_ゝ`)「あー、違う違う。今はお前らの味方だ」
从;゚∀从「……味方?」
(´<_` )「俺たちはお前を助けにきたんだよ。まぁ、別に信じなくてもいいが」
从;゚∀从「…………」
味方と名乗る二人を前にして、彼女の脳が思考することを思い出させた。
理性が苛立ちを上回ったのだ。
一度そうなると、明晰な頭脳を持つ彼女は理解が早い。
从 ゚∀从「……なるほど。エクストは侵入者が十人って言ってたな……。お前らのことか」
ハインリッヒはブーンとツンにまだ会っていない。
だが、ジョルジュから二人のことを聞いていた。
神社で会ったミセリと、ブーンとツン、そして流石兄弟を合わせれば十人に到達する。
モショは頭数に入れられていないだろう、とも推測していた。
危険な上、この場所にトラウマを持つ彼女を連れてくるとも思えないし、
エクストならば“一匹”と表現するはずだと考えたからだ。
48
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/10(木) 21:06:09 ID:94JPCBgE0
从 ゚∀从(まぁ……だからっていきなり信用はできねーが)
ハインリッヒにとり、流石兄弟は数時間前まで完全に敵だったのだから、当然だ。
津阿都神社に現れたのも流石兄弟だということに、確信を持っている。
信用、或いはそれに近づく判断材料は、まだ足りなかった。
从 ゚∀从「拉致しといて助けにきたって……おかしいだろ」
彼女の言葉に、兄者と弟者が二人揃って眉をひそめた。
モニターの明かりのみの密室では、ハインリッヒはそれに気付くことができない。
もっとも二人は、“おかしい”という指摘に動揺を見せたわけではない。
神社で不覚をとったことを、思い出したからだ。
実際、ハインリッヒを拉致したのはエクストであったのだが、
流石兄弟すらも誰が現れたのか、までは知らないのだ。
不意をつかれた、とは言っても、赤い影としか認識できなかったことが自負心を深く傷つけ、
それを思い出し、不快な表情を浮かべたということだった。
( ´_ゝ`)「あれは俺たちじゃない」
从 ゚∀从「……?」
突如変わった兄者の声色に、今度はハインリッヒが眉をひそめた。
( ´_ゝ`)「誰かも知らん。多分、エクストじゃないかとは思っている」
(´<_` )「だから俺たちは、借りを返しに来ただけだ。お前はそのついで、だな」
( ´_ゝ`)「そういうことだ」
49
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/10(木) 21:07:59 ID:94JPCBgE0
从 ゚∀从(……こいつら……本気で言ってるみたいだな……)
( ´_ゝ`)(しかし……小僧たちと関わってから借りができてばかりだな……)
(´<_` )(あいつらは疫病神か何かか……)
( ´_ゝ`)(ここでエクストを倒し、『なんだと』要員から脱出するつもりだったのだが……)
真意が見えた流石兄弟の言葉を聞き、ハインリッヒは決断する。
どの道、彼女には訪れた者に従うしか道はないのだ。
誰に抗おうとも、力で屈服させられることが、目に見えている。
从 ゚∀从「……わかった。じゃあ、この手錠を外してくれ」
( ´_ゝ`)「OK、なんとなく残念だが、動けないのも面倒だ」
从;゚∀从「変態が……変なとこ触るなよ」
(´<_` )「大丈夫だ。兄者にそこまでの度胸はない」
(; ´_ゝ`)「おだまりっ!」
一喝し、兄者はハインリッヒの両手足に掛けられた手錠を、カストルでもって破壊する。
ペルソナを向けられた時、彼女は少し動揺したが、敵意がないことに気がついていた。
自由を与えた一連の動作が、期せずしてハインリッヒに信用も与えたようだ。
从 ゚∀从「ふー……ありがとな」
床に座り込み、ややあってから礼を述べた。
数時間に及ぶ緊縛は、一般人である彼女には苦痛だったようで、
すぐに立ち上がることは不可能であった。
50
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/10(木) 21:12:14 ID:94JPCBgE0
( ´_ゝ`)「エクストに会ってないか?」
兄者の問いに、ハインリッヒは立ち上がろうと両腕に力を込めると、
(´<_` )「そのままでいい。楽にしてろ」
从 ゚∀从「ッ……すまん」
从;゚∀从(なんか調子狂うな……こんな奴らだっけか……?)
まぁ、と一つ咳払いをして、
从 ゚∀从「さっきまでいたぜ、エクストは」
( ´_ゝ`)「入れ違いか……」
(´<_` )「どこに行ったかわかるか?」
从 ゚∀从「いきなり消えちまったからな……絶対、とは言えねぇが……」
( ´_ゝ`)(消えた……?)
从 ゚∀从「予想は言える。ジョルジュたちの所だろうな」
(´<_` )(やはりそうか……小僧たちも、上手く侵入できていたか)
( ´_ゝ`)「なぜ小僧たちもきていることを知っているんだ?」
从 ゚∀从「さっき言っただろ、エクストが十人って言ってたって」
从 ゚∀从「それがなくても、あいつらのことはそこのモニターで見てたんだよ」
51
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/10(木) 21:13:03 ID:94JPCBgE0
三名の視線が大きなモニターに集中する。
( ´_ゝ`)「なるほど、監視か。エクストは暫くここでそれを見ていた、と」
(´<_` )「俺たちは映らなかったのか?」
从 ゚∀从「いや、モナーはわかったが、お前らはよく見えなかっただけ」
( ´_ゝ`)「ふむ……しかし、そうか……」
从 ゚∀从「どうした?」
何かを思考し始めた兄者に言い、ハインリッヒはゆっくりと立ち上がる。
痺れていた四肢の関節は、やっと自由を取り戻したようだ。
誰もいない通路の映像を流すモニターを見つめ、三者は続ける。
( ´_ゝ`)「ここからの脱出、急がねばならんようだ」
(´<_` )「小僧たちでは、エクストに勝てないだろう」
从;゚∀从「……やっぱエクストは強いのか?」
( ´_ゝ`)「ああ、強いな」
从;゚∀从「人数差があっても無理か?」
(´<_` )「無理だろうな。ペルソナ戦において、大人数ほど有利というのは間違いだ」
从;゚∀从「そっか……モナーはどうしたんだ?」
52
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/10(木) 21:16:28 ID:94JPCBgE0
ハインリッヒの問いの後、一呼吸分、会話が途切れた。
流石兄弟の視線が、モニターからハインリッヒへと移動する。
二人のやや前方にいる彼女は、それに気づいていない。
( ´_ゝ`)「……神主はまだ戦っている」
从;゚∀从「そうなのか?」
( ´_ゝ`)「この部屋の、先でな」
そこで、ハインリッヒは振り返る。
ただ、視線は流石兄弟と交わらなかった。
彼女は二人の後方、部屋の出入り口を見ている。
( ´_ゝ`)「ここを出ると、少し長い通路がある。そこを抜けた大広間で、戦っている」
从;゚∀从「あそこか……。その、加勢とかしなくて……いいのか?」
( ´_ゝ`)「……さっき弟者が言っていたことと同じだ。俺たちが居ても……意味はない」
(´<_` )「相手は強い。相当にな。認めたくないが……俺たちがいても邪魔なだけだ」
兄者が言おうとしかけ、咄嗟に違う言葉にした台詞を、弟者が言い切った。
意図的に発言したと、兄者は気がついている。
当然、
( ´_ゝ`)(……わかってるさ……そんなことは……)
弟者が込めた意図にも、気がついていた。
53
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/10(木) 21:18:25 ID:94JPCBgE0
モナーと流石兄弟にかかる、“足手まとい”の意味の違いが、これだった。
連携が取りづらい、というのはただの建前だ。
実際は、自分たちが足手まといだということが明白なのだ。
弟者はそれを認めている。
兄者はそれを拒んでいる。
まがりなりにもペルソナ使いとして歩んできた道。
決して緩やかではなく、死を感じた場面も多々あった。
これまでに培ってきた経験が、高き矜持を造り上げている。
流石兄弟の“それ”は、ブーンらの比ではない。
だからこそ、兄者は勝敗に拘ってしまうのだ。
“負けず嫌い”の一言では、済まされぬほどに。
( ´_ゝ`)(不甲斐ない……最近の俺たちは、その言葉につきる……)
障害に躓いたことは、過去にもあった。
その都度、弟者がたしなめ、現実を突きつけた。
納得……いや、頭を切り替えることが、出来ていた。
(´<_` )(……今回は、重症、か)
今までは。
不甲斐ないという一念が、兄者の頭を支配している。
割り切ることができず、切り替えることができず、開き直ることもできなく。
ただ、悔しさと情けなさが、彼の脳で増殖し続けていた。
しかし────
54
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/10(木) 21:19:56 ID:94JPCBgE0
────兄者はまだ、気づいていない。
何故に、ここまで引きずってしまっているのか、理解できていない。
覚醒したばかりの高校生に負けたから。
二人がかりで女デビルサマナーに紙一重で勝利したから。
エクストになすすべ無く倒されたから。
兄者自身が最近経験した大きな戦い・勝敗の中に、固執の解はない。
解はないが、“切っ掛け”があった。
兄者はまだ、気づけない。
まだそれに、気付くことができない。
从 ゚∀从「ああっ!」
弟者の台詞を最後に、時にして十数秒の沈黙を突如、ハインリッヒが打ち破った。
弾けた声と同じ様に、弾む動作でモニターに近づいていく。
(´<_` )「どうした?」
从 ゚∀从「監視カメラはそこら中にある。ジョルジュたちを追えるかもしれねぇ!」
(´<_` )「なるほど……そのモニターでだな」
从 ゚∀从「そうだ。カメラを切り替えていけば、きっとどこかで写るはずだ」
(´<_` )「……というか、何故俺たちが小僧たちの居場所を知らないと分かったんだ?」
从 ゚∀从「簡単だろ」
モニターを見、操作パネルを操作しながら彼女は続ける。
55
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/10(木) 21:21:32 ID:94JPCBgE0
从 ゚∀从「エクストがここにいないなら、お前らはすぐここから戻るはずだろ」
从 ゚∀从「急がねばならん、なんて言葉は、あいつらのいる場所を知ってたら言えないはずだ」
从 ゚∀从「“急がなきゃいけないのに次の一手を迷ってる”」
(´<_` )「…………」
从 ゚∀从「だからアタシは、お前らもジョルジュたちの居場所を知らないと判断した、ってことだ」
(´<_` )「ふむ……そうか」
こいつはこいつで切り替えの早い奴だ、と、弟者が感想を頭で述べた。
兄者は黙って、ハインリッヒの思考と同じ様に切り替わるモニターを見つめている。
程無くして、
从 ゚∀从「ッ! いたぞ!」
(´<_` )「!」
映しだされたモニターの映像は、建物の二階ほどの高さから見下ろした印象だった。
真下に、ではなく、奥を見渡すような視界で映像が流れている。
(´<_` )「やけに鮮明に見えるな……さすが最先端企業VIP、と言った所か」
从;゚∀从「ここか……なるほど、さすが最重要区域だ。設置カメラも上等だな」
( ´_ゝ`)「ここはなんだ? こんなとこは知らんぞ」
事態に進展があったことを知ると、兄者も思考を切り替えた。
黙っていたのは思考していた事もあったのだが、
自分がそうしていても弟者が対応してくれることを知っていたからだ。
56
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/10(木) 21:23:03 ID:94JPCBgE0
从 ゚∀从「奥の馬鹿でかい、塔みたいな機械、わかるか?」
( ´_ゝ`)「……知らん、初見だ」
从 ゚∀从「あれがこの研究所の中枢、“Amduscias”だ」
(´<_` )「! あれが“アムドゥスキアス”か……」
( ´_ゝ`)「……そうか。悪魔を呼び寄せる装置。話には聞いていたが……」
────“アムドゥスキアス”────
ハインリッヒがショボンらと初対面した時に言っていた、悪魔を呼ぶ装置。
悪魔にしか聴こえぬ“歌声”を発し、この場に呼び寄せてしまうという。
その後、悪魔をどうするかは、ハインリッヒすらも知らない。
从;゚∀从「手前にいるのが……ミセリ、と……」
( ´_ゝ`)「ブーンと呼ばれていたガキだな」
(´<_` )「奥に誰か倒れているな……制服からして女のようだ」
从;゚∀从「ジョルジュたちはどこに……」
( ´_ゝ`)「わからん。わからんが……あの黒いのはなんだ……?」
エクストが黒きトラペゾヘドロンで創りだした、闇の球体。
ジョルジュらはその中に閉じ込められている。
そうとは知らぬ彼らではあったが、
(; ´_ゝ`)「……見ているだけで強烈な禍々しさを感じる……なんだ、あれは」
ペルソナ──異能の力を持つが故に、
この世ならざるものであると、痛烈に感じ取っていた。
57
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/10(木) 21:25:08 ID:94JPCBgE0
ハインリッヒは、
从;゚∀从「わかんねぇ……アタシも初めて見る」
と、物体そのものの感想のみにとどまった。
ペルソナ使い以外の者では、やはり畏怖を感じないようだ。
(´<_` )「……しかし、一触即発……戦いは架橋、といったところか……」
三名が見る状況は、ツンがエクストに弾き飛ばされた直後、
その間に回復したブーン、そしてミセリが、エクストと対峙した瞬間だ。
弟者の読み通り、戦いは終局を迎えようとしている。
この次に、起きることは。
(; ´_ゝ`)「!!」
(´<_` ;)「な……!?」
从;゚∀从「おい! どうなってんだ!?」
訪れた、混乱。
謎と異を感じた黒の球体が突如動き出し、エクストを呑み込んだ。
映像のブーンらは動いていない。それを見ている三人は動けない。
从;゚∀从「……!? アイツらがなにかやったのか?」
(´<_` ;)「いや……そんな挙動は見せなかった」
(; ´_ゝ`)(一瞬だが……あの球体を見た時と同じ波動が、強くなった……)
58
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/10(木) 21:27:09 ID:94JPCBgE0
この事態、当のブーンらにも原因が分からぬように、
見ていただけの三者に解るわけがなかった。
流石兄弟のペルソナ使いとしての経験が、ブーンらよりも上でも、だ。
小さき箱、“黒きトラペゾヘドロン”
エクストですら、試用段階にすぎない。
デレに箱を渡したダイオードも、全容は知りえない。
箱の、真の意味を知る者は、人ではたった一人。
VIP社長、モララー、ただ一人。
そして、人以外でそれを知る者が、“在る”
(; ´_ゝ`)「……ニャルラ、トホテプ……」
(´<_` ;)「ッ!!」
兄者の呟きは、意思と無関係に吐き出された。
画面を通し、闇から受けた印象と、現在の部屋へ至る通路の絵たち。
流石兄弟がその二つから感じた“異”は、酷似していた。
同じだ、と兄者が直感した時、頭に浮かんだあの名が、口から溢れたのであった。
(´<_` ;)「……兄者」
平時の弟者ならば、ごくごく普通のことだった。
兄者と思考が一致する、兄者が今何を考えているか、理解できる。
勿論、万事がそうであるとは限らず、分からない時もあるのだが。
同一の思考をしていたこと自体は、特に珍しいことではない。
だが、今回に限り、兄者が紡いだ“言霊”に、弟者は驚きを隠せなかった。
59
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/10(木) 21:29:00 ID:94JPCBgE0
今、モニターを見ているのはハインリッヒと兄者だけだ。
弟者は驚嘆と同時に兄者の方を向いている。
少しの沈黙後、ハインリッヒが、
从;゚∀从「全くわけがわからねぇが……ジョルジュたちは無事みたいだ」
と、実況したことで、弟者もモニターに再度、注目した。
映像では、ブーンがツンの元へと走り去り、ミセリがクーを起こしている。
ひとまずの彼らの無事に、安堵できているのはハインリッヒだけであった。
その後しばらく、彼女も口を閉ざして映像を見守る。
倒れていた者、全員が起き上がり、ツンの元へと集まっている。
この場面、ミセリが皆に状況を説明している箇所だ。
沈黙の中、動きがない映像を見続けると、やはり、
( ´_ゝ`)「……あそこは、ここから近いのか?」
必然的に、誰かが痺れを切らして口を開く。
もし、映像の部屋まで一本道だとしたら、ブーンらが移動しても合流することができる。
そんな意図も含ませて、兄者はハインリッヒに問うた。
从 ゚∀从「いや、あそこは最下層、ここは地下一階だからな……ちっと時間かかるな」
( ´_ゝ`)「そうか……」
(´<_` )「目的を果たしたことを伝えねば、ここからの脱出もままならんな……」
从 ゚∀从「目的?」
60
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/10(木) 21:30:47 ID:94JPCBgE0
きょとんとした表情でそう言った彼女に、流石兄弟も揃ってきょとんとしてしまった。
次に、あぁ、と合点がいった顔に変わり、
( ´_ゝ`)「俺たちは、お前を救出する為にきたんだよ」
(´<_` )「最初に、助けにきたと言っただろう?」
从;゚∀从「そ、そうなのか……? いや、助けにきたってのは覚えてるけど……」
動揺したハインリッヒは、改めて思考する。
何故モナーたちは、この研究所に現れたのか。
盲点であったが、最初にそう考えなかったのは、現れたのが流石兄弟だったからだ。
从;゚∀从(エクストもアタシを助けにきたようだって言ってたが……ほんとに……)
その後に、彼女はエクストに“誘き寄せるための餌だ”と言われた。
あの言葉はただの挑発だと捉え、それらしき言葉を選んだだけだと認識していたのだ。
狼狽する自分を嘲笑している、と。
それに、
从;゚∀从(モナーたちとは、昨日会ったばかりなのに……)
なのに。過ごした時間は、二十四時間にも満たないのに。
危険を冒して、自分を助けに来てくれている。
彼女にはそれが、信じられぬことであり、驚嘆であり、馬鹿らしくもあり、
从; ∀从(……とんだお人好したちだ……)
感激でも、あった。
61
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/10(木) 21:33:18 ID:94JPCBgE0
信頼とは、永き時の積み重ねを必要とする。
基本的に、一朝一夕で得られるものではない。
短時間で手に入れた信頼など、一方的なものばかりだ。
彼女は違った。
流石兄弟に目的を告げられてから今に至るたった十秒で、
ハインリッヒは様々な感情を受け、永き時に勝る濃密な十秒を過ごした。
モナーたちの行動、彼女への信頼なくしては有り得ぬこと。
从; ∀从(アタシは……そんな人間なんかじゃ……)
そして、十数秒後に背負ったものは、自責の念。
欺瞞だらけの自分は、他人にそこまで信頼される価値などない。
それが、ここまで信頼“されてしまっている”現状。
ハインリッヒに、感情の波がまたも押し寄せている。
だが今回は、全てが“罪”だと認識できるものばかりだった。
( ´_ゝ`)「……?」
(´<_` )「おい、どうした?」
先ほどまでと様子が違うハインリッヒに、流石兄弟が違和を感じ、弟者が問うと、
从;゚∀从「全部……話さなきゃ……あいつらに……!」
見えるのは、焦燥感。しかし言葉には、決意を乗せ。
兄者も弟者も、一体なんのことだか分からず、またもきょとんとした表情だ。
そんな二人を構わず、いや、いる者と思わず、彼女はモニターを凝視していた。
62
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/10(木) 21:37:58 ID:94JPCBgE0
今回はここまでです
次の投下は20日にしてみます
書き溜めが9レス以下だったら月末に……
何かあればお願いします〜
63
:
名も無きAAのようです
:2011/11/10(木) 22:06:44 ID:wheJKwVYO
流石兄弟は貧乏籤引きっぱなしだな
乙
64
:
名も無きAAのようです
:2011/11/10(木) 22:09:18 ID:ZzvPk9oE0
乙でした!!
65
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/20(日) 00:32:54 ID:kJTXNQo60
今夜投下します
66
:
名も無きAAのようです
:2011/11/20(日) 14:24:57 ID:9l1QRUC6O
楽しみにしてるよ〜
アルファと退魔が地震後投下なしだな。
こんな時だから本当に投下は嬉しい。
67
:
名も無きAAのようです
:2011/11/20(日) 17:56:48 ID:JT9/D2pEO
>>66
大麻は投下あったよ
68
:
名も無きAAのようです
:2011/11/20(日) 20:32:45 ID:VHKJgs9w0
アルファは2年後くらいには来るんじゃねぇかな
69
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/20(日) 21:15:03 ID:kJTXNQo60
>>61
の続きを投下します
70
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/20(日) 21:16:30 ID:kJTXNQo60
从;゚∀从「……?」
まるで、彼女の決意に同調したかのように、ブーンらに動きがあった。
ミセリを中心にして、他の者たちが彼女を囲む形になっている。
( ´_ゝ`)「……なんだ?」
(´<_` )「なにかを始めるようだが……」
流石兄弟も身を乗り出し、モニターを注視する。
しかし、見続けることは叶わなかった。
(; ´_ゝ`)「ッ!!」
(´<_` ;)「これは……!?」
从;゚∀从「うおっ!?」
爆音、と呼ぶに相応しい激しい音、そして揺れが、部屋全体を駆け抜けた。
ハインリッヒは椅子の背もたれに掴まり、倒れないように体勢を維持している。
狼狽える彼女をよそに、流石兄弟は同時に後方へ振り返っていた。
(; ´_ゝ`)「この“波動”……モナー……まさか!」
(´<_` ;)「小僧たちを待つ時間はないようだな……」
常人であるハインリッヒは音と振動だけを感じた。
ペルソナ使いである二人は、それ以外にもう一つのものを、感じ取っていた。
“異”なる力の、強き波動を。
71
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/20(日) 21:19:54 ID:kJTXNQo60
(; ´_ゝ`)「……行くぞ」
意を、決して。
たったの三文字を、搾り出す。
覚悟を決めるしかないと、兄者は腹をくくっている。
(´<_` ;)「高岡、お前はとにかく逃げることだけを考えろ」
从;゚∀从「ど、どういうこ……まさか、モナーになんかあったのか!?」
モニターとは逆方向の扉を睨む流石兄弟。
その様子が示唆しているものに、ハインリッヒが気がついた。
二人は彼女に何も言わない。
『嫌な予感がする』『わからないが、強大な力を感じた』
敢えて口を開いたのなら、そのような台詞を口にしたであろう。
確実性も具体性も、一切ない。
だから二人は、黙っているままなのだ。
これ以上、心を揺さぶる胸騒ぎを、膨れ上がらせない為に。
(; ´_ゝ`)「ここにいたら、俺たちは袋の鼠だ」
と、切り出し、
(; ´_ゝ`)「モナーと合流し、ここから脱出する。小僧たちはその後だ」
高鳴る心拍に比例して、早口で告げた。
兄者は焦っている、と気づけたのは弟者だけだ。
そして勿論、弟者自身も焦燥していた。
72
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/20(日) 21:20:45 ID:kJTXNQo60
三名の視線は、もはや扉から外れることがない。
だから、“それ”には、誰も気が付かなかった。
兄者も、弟者も、ハインリッヒも。
誰も、気づけずにいた────
────モニターに、“誰の姿も映っていない”ことに。
(; ´_ゝ`)「……行くぞ」
同じ言葉を、改めて。
一度目は、意思表示。
今回の二度目は、決行するために。
誰一人、振り向くことがなく、三名は異様な通路へと、再び、進んでいった。
73
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/20(日) 21:23:05 ID:kJTXNQo60
※
(´・ω・`)「……そうですか。ありがとうございます。ミセリさん」
時間は、まだハインリッヒらが映像を見ていた頃。
空白の時間に何が起きていたのか、というミセリの説明が終わり、
それに対して、ショボンが礼を述べていた。
(´・ω・`)「なるほど、ブーンが混乱するのも無理はないね」
(;^ω^)「だお?」
_
( ゚∀゚)「なるほど、さっぱりわからん」
('A`)「エクストは……自滅した、ってことか?」
(´・ω・`)「結果だけを見れば自滅だけど、経緯がおかしすぎるよ」
ミセ*゚−゚)リ(そう……エクストの最後の表情……驚いていたのは明らか……)
闇に呑まれる瞬間までを見ていたミセリには、それが解る。
エクストにとっても、全く計算外であったことが。
ξ;゚⊿゚)ξ「あの……いいかな?」
(;^ω^)「ツン……大丈夫なのかお?」
ξ゚ー゚)ξ「うん。クーのおかげで怪我は治ったわ」
74
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/20(日) 21:25:09 ID:kJTXNQo60
ありがとう、とクーに告げると、皆を一瞥し、
ξ゚⊿゚)ξ「どこから話せばいいかな……えっと」
ξ゚⊿゚)ξ「……エクストにやられちゃった時、すごく悔しかったの」
ミセ*゚−゚)リ(……?)
_
( ゚∀゚)「そりゃそうだろ……俺だって悔しいし」
ξ゚⊿゚)ξ「だよね? それで、吹き飛ばされて倒れてた間ね……」
ξ゚⊿゚)ξ「ずっと、悔しい、倒したかったって、考えてたの」
(´・ω・`)「……」
ξ゚⊿゚)ξ「でも、体に力が入らなくて……ペルソナも呼べなくて……」
ξ゚⊿゚)ξ「倒れたまま、腕を伸ばしたら……」
_
( ゚∀゚)「伸ばしたら?」
ξ;゚⊿゚)ξ「…………」
ツンの右手、人差し指が、微かに曲がった。
恐れるように、拒否するように。
そこでツンは、何故だろうと疑問を抱いた。
皆は言葉の続きを待っている、が、どうしてもそれが頭に粘り付いている。
75
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/20(日) 21:28:16 ID:kJTXNQo60
ξ;゚⊿゚)ξ(……どうして……)
指に残る、感触。
あの時は、意識が朦朧としていたはずだった。
なのに彼女は、今、確かに触れたと、記憶している。
ξ;゚⊿゚)ξ「……っ」
固く、冷たく、黒き箱に。
ミセ;゚−゚)リ「ッ! ツンさん……っ!」
なぜ────
ξ;゚⊿゚)ξ「きゃあっ!!」
────今、“その箱を手に持っている”のか。
(;^ω^)「ツン!?」
ブーンが名を呼ぶ直前、無機質な音がたっていた。
硬いものが硬い床に落ち、互いをぶつけた時に生じる音が、していた。
音の主に、皆が注目する。
この場に居る全員が見覚えのあるものが、あった。
視線の先では、ツンが驚き、思わず手から離した箱が、鎮座していた。
76
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/20(日) 21:30:57 ID:kJTXNQo60
黒き、トラペゾヘドロン。
光沢を帯びた小さき箱は、今この場で最も存在感に満ち溢れている。
一同の目を奪い、惹きつけ、頑なに外れさせようとしない。
ツンは胸の前で右手の甲を左手で握りしめ、怯えた表情で箱を見つめている。
彼女が声を上げた時こそ、ブーンはツンの名を呼んでみせたが、
彼も示し合わせたように、小さき箱から視線を外せずにいた。
誰もが、気付いている。
ツンは最初、こんな箱を持っていなかったことに。
では何故、この箱は彼女の手から転がり落ちたのか。
一同が戦慄と共に思考しているのが、それだった。
そして、辿り着く答えもまた、同じ。
(´・ω・`)(……箱が……独りでに動いた……)
物理的に有り得ぬ、解。
この解では経過を証明できないが、そうとしか考えられないのだ。
彼らが“なぜだ”、と思考した瞬間に頭を縛られ、解を導き心を縛られた。
時が過ぎれば過ぎるほど、彼らの戦慄は増していった。
ξ;゚⊿゚)ξ(……)
ただ、恐怖に駆られる者。
_
(; ゚∀゚)(……)
一度は解に辿り着いたものの、
77
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/20(日) 21:33:38 ID:kJTXNQo60
川;゚ -゚)(……)
否定し、思考のループに陥る者。
(;´・ω・)(……)
恐怖を紛らわせようと、更なる思慮に潜る者。
悩めば悩むほどに、黒きトラペゾヘドロンから目を離す事を忘れていく。
だが、
ミセ;゚−゚)リ(……ぅ)
抗うことのできた者が、一人いた。
ミセ;゚−゚)リ「皆さん! だめです!」
エクストが放った闇から最も早く脱出した、ミセリだった。
これ以上箱を見続けてはいけないと、一声目から声を荒げて、
ミセ;゚−゚)リ「見てはいけません! “また惹きこまれてしまいます”!」
(;^ω^)「ッ!!」
ミセリ──現実──の声に、皆が体を一瞬震わせた。
その後、頭を振る、周囲を見渡す、ミセリを見る、などの行動に移り、
ミセ*゚−゚)リ「あの闇を生み出したものです……気をつけて下さい」
危険な物だと、ミセリに再認識を促され、出来る限り箱が視界に入らぬよう振舞った。
突如ツンの手に現れたこと、意識を奪われたことが重なり、ミセリに対し異を唱える者はいない。
78
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/20(日) 21:37:25 ID:kJTXNQo60
ミセ*゚−゚)リ(……これは……一体……)
一人、箱に歩み寄り、白衣の袖口からハンカチを取り出して箱を覆う。
視覚的に見えなくすることで、少しは場が鎮まればと思っての行動だった。
功を奏したのか、一同の緊張がため息と共に放出され、幾分か表情が和らいでいる。
顔を見合わせて首を傾げたり、話しだす者、そして、
(´・ω・`)(……フィレモンが言っていた箱……まさか、あれのことなのか……?)
またも思考する者がいた。
ショボンの予測には、ミセリも同時に辿りついていた。
ミセリが、ハンカチで覆われたままの箱に、恐る恐る指を伸ばす。
ミセ;゚−゚)リ(……)
触れた。
ミセ*゚−゚)リ(……何も起こらない……)
何も起こらないし、箱は確かに薄布の下に在る。
闇は生まれない。瞬間移動もしない。
箱は限りなく、箱のままであった。
(´・ω・`)「ミセリさん」
ミセ*゚−゚)リ「はい」
屈み、箱に触れていたミセリの隣にショボンも屈みこみ、名を呼んだ。
危険だ、と、注意を促そうとしているようには見えない、という印象をミセリは受ける。
ショボンの瞳に彼女が見た色は、“興味”の色だった。
79
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/20(日) 21:40:08 ID:kJTXNQo60
(´・ω・`)「その箱が多分、フィレモンが破壊しろと言っていた箱……じゃないかな」
ミセ*゚−゚)リ「! ……恐らく、そうだと思います」
“フィレモン”という名に、皆の視線が二人に注がれた。
侵入時に使用したエレベーターの途中で、ここにいる全員がフィレモンと会っている。
“彼”の名と、箱を破壊する、という二つの言葉は、皆も記憶していることだ。
川 ゚ -゚)「エクストはそれを使ってあの闇を創ったようだが……」
その時の事を、糸を辿るよう思い出し、
川 ゚ -゚)「……そんな状態でも得体の知れないナニカを感じる……」
川 ゚ -゚)「フィレモンが言っていた物でないとしても、破壊するにこしたことはないと思う」
_
( ゚∀゚)「だな。ついでにこの部屋にある気持ち悪ぃもんも、片っ端からぶっ壊そうぜ」
彼らがエクストと戦った位置は、“アムドゥスキアス”の少し手前。
この部屋に入った時こそ、一同は悪魔の標本じみた物に驚いていたが、
“アムドゥスキアス”周辺は障害物がなく、奇しくも戦いに適した箇所であった。
だが、視界を僅かに動かせば正常性の欠片もない異形の標本が飛び込んでくる。
(´・ω・`)「いやいやジョルジュ……それはだめだって」
_
( ゚∀゚)「なんで?」
(´・ω・`)「僕らはただでさえ不法侵入してるんだよ。
器物破損までしたら、それこそ警察まで敵に回しちゃうじゃないか」
80
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/20(日) 21:42:16 ID:kJTXNQo60
_
(;゚∀゚)「あー……それはめんどくせぇ」
(´・ω・`)「でしょ?」
川 ゚ -゚)「いっそ警察を呼んでこれを見せてやりたい」
(´・ω・`)「うん。でも信用はしてくれないだろうね」
川 ゚ -゚)「だろうな。この悪魔たちが見えるかどうかも怪しい」
それはそれとして、と続き、
川 ゚ -゚)「ツン」
ξ゚⊿゚)ξ「あ、うん?」
川 ゚ -゚)「箱のせいで途切れたが、話の続きを聞きたい」
('A`)「伸ばしたら……で終わったよな?」
ξ;゚⊿゚)ξ「う、うん……」
( ^ω^)「ツン? 大丈夫かお?」
ξ;゚⊿゚)ξ「えっ? 大丈夫よ、大丈夫」
鈍感男の思わぬ言動に、ツンは少し焦ってしまった。
下手な咳払いの真似をした後、
ξ゚⊿゚)ξ「……指先が、触れたの。箱に」
81
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/20(日) 21:43:45 ID:kJTXNQo60
(´・ω・`)(……)
ミセ*゚−゚)リ(……)
_
( ゚∀゚)「で?」
ξ゚⊿゚)ξ「で、そしたらあの闇が動き出して、エクストを呑み込んだの」
ジョルジュとドクオが顔を見合わせ、なんとも言えない表情を浮かべる。
酷似したのは表情だけでなく、
_
( ゚∀゚)「……偶然だろ?」
('A`)「……偶然じゃないか?」
ツンに言い放った言葉も、同じものだった。
偶然だと指摘された彼女であったが、表情に変化はない。
そう話したツン自身が、関連性に欠けていると思っていたからだ。
しかし、
(´・ω・`)「……いや、僕には偶然に思えない」
ξ゚⊿゚)ξ「……?」
(´・ω・`)「あの箱に、何らかの力があるっていうことは、皆分かってると思う」
(´・ω・`)「それも、とても大きな力……僕らの常識が通用しないような、ね」
反論はない。
ショボンが言った通りの、得体の知れない力を体感した後では、できないが正しい。
82
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/20(日) 21:46:45 ID:kJTXNQo60
今回はここまでです
次で22話終了します(予定)
投下は30日に
遅筆な上に一話が長くてごめんなさい
83
:
名も無きAAのようです
:2011/11/20(日) 21:55:46 ID:Bx9AQRUw0
お疲れ様でした!良かったです
84
:
名も無きAAのようです
:2011/11/20(日) 22:31:02 ID:LBo/rbPk0
モナーが心配…乙でした
85
:
名も無きAAのようです
:2011/11/20(日) 23:29:07 ID:C3WfRTKIO
乙
ツンの方が不安だわ
今まであんまり目立たなかったし
86
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/27(日) 17:01:17 ID:Lre2WSNQ0
今夜21時頃に投下します
今回はちょっと長くて、22話が終わります
87
:
名も無きAAのようです
:2011/11/27(日) 18:41:00 ID:djNxbJV.O
ペルソナさんだ!ちょうどまとめ読んできたとこなんだよ
21時待ってるよガンバレ
88
:
名も無きAAのようです
:2011/11/27(日) 20:41:01 ID:LNiV8kUU0
おー結構サクサク投下してるなー
また失踪しなければいいけど
89
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/27(日) 21:11:12 ID:Lre2WSNQ0
>>81
からの続きです
90
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/27(日) 21:12:51 ID:Lre2WSNQ0
(´・ω・`)「単純に力が暴走しただけなのかも知れないけど……」
(´・ω・`)「ツンが切っ掛けになったのは、間違いない気がするんだ」
確証は皆無。
彼は己の予感だけでそう言っている。
('A`)「まぁ……不思議な箱だしな……」
だが、実際にそう言われると、たしかにこの箱ならば或いは、と思わされる。
ξ゚⊿゚)ξ「……で……」
ミセ*゚−゚)リ「ツンさん?」
ξ゚⊿゚)ξ「……まるで……」
ξ゚⊿゚)ξ「エクストを倒したいっていう、願いを叶えてくれたみたい……」
ミセ*゚−゚)リ「!!」
(´・ω・`)(そうか……そういう考え方も……)
川 ゚ -゚)「……それが本当だとしたら……」
ξ;゚⊿゚)ξ「え、いや、ただそんな気がしただけで……」
(´・ω・`)「試してみよう」
直後、視線が一斉にショボンに集う。
91
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/27(日) 21:14:50 ID:Lre2WSNQ0
(;^ω^)「危なくないかお……?」
驚きと憂慮を含めた顔をするのは、そう言ったブーン以外の者たちも同じだ。
“見た”だけで心を握られたような感覚を受け、実際に意識を奪われた。
そんなものに“触れる”というのだから、彼らの表情はもっともだ。
しかし、ただ一人。
ショボンと同じ無表情の者がいる。
ミセ*゚−゚)リ「試してみる価値はあると思います」
ミセリだった。
川 ゚ -゚)「……大丈夫なのか?」
ミセ*゚−゚)リ「わかりません」
_
(;゚∀゚)「わかりませんって……」
(´・ω・`)「多分大丈夫だよ」
(;'A`)「多分って……」
ミセ*゚ー゚)リ「ツンさんが大丈夫でしたから」
ξ;゚⊿゚)ξ「それはそうですけど……」
ミセ*゚ー゚)リ「ただし、試すのは私です」
_
(;゚∀゚)「ッ!? いやいや、危ないって! 俺がやる!」
92
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/27(日) 21:15:56 ID:Lre2WSNQ0
ミセ*゚ー゚)リ「それはダメです」
_
(;゚∀゚)「ミセリさんもダメだって!」
ミセ*゚−゚)リ「ジョルジュさん」
笑みを消し、ジョルジュを正面から見据えて、
ミセ*゚−゚)リ「もし、万が一またあの闇に取り込まれることがあったら……
私たちでは助けられません」
(´・ω・`)(…………)
_
(;゚∀゚)「それはミセリさんでも同じ……」
ミセ*゚−゚)リ「いえ、私はあの闇から抜け出しましたから、同じことが起きても大丈夫です」
でも、と言い、
ミセ*゚−゚)リ「自分の力で抜け出せない方では、ダメです」
彼女の言葉と視線が、ジョルジュの体を射抜いていった。
彼女らしからぬ台詞に、ジョルジュは何も言えなくなってしまっている。
川 ゚ -゚)(ハッキリ言うな……)
(´・ω・`)(多分……僕らにも向けて言ってるんだ……)
('A`)(俺たちは実力不足、ってことか……)
93
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/27(日) 21:21:01 ID:Lre2WSNQ0
ミセ*゚−゚)リ「……だから」
次は、笑顔で、
ミセ*゚ー゚)リ「皆さん、乗り越えて下さい」
何を、とは言わなかった。
ミセリは気付いている。
自分が悪夢を見せられたように、ジョルジュらも同じ悪夢を見たのだと。
川 ゚ -゚)(…………)
ミセリは知っている。
乗り越えた先で得られるものを。
彼女もモナーの意思を理解し、ブーンらの成長を望んでいるのだ。
そして、彼女は気づいていない。
モナーの期待は、ミセリ自身にもかかっているということに。
共にブーンらを導く為、ではなく。
ミセリの“力”にも、モナーは大きな期待を寄せている。
しかし、彼はその気配を決して掴ませない。
“藤堂美芹”という少女の事を、よく理解しているからだ。
彼女はモナーに絶大な信頼を寄せている。
もし、美芹の成長を望んでいる事を知られてしまえば、、
彼女は全身全霊を以てそれに応えようとしてしまう。
それではいけない。伸び代を殺してしまう。
“才”は誰かの為にではなく、自分の為に使うものだ。
それが、モナーが美芹に求めているものだった。
94
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/27(日) 21:23:59 ID:Lre2WSNQ0
現に、
ミセ*゚−゚)リ「……」
彼女は今、布に包まれた黒きトラペゾヘドロンを手に取り、皆の先頭に立っている。
モナーの思想、ブーンらの道を創るという目的の為に。
期待されている、と認識してしまえば、より率先してこういった行動を取ることになる。
あくまで推測であるのだが、モナーは確信し、同時に危惧している。
それが、全てだった。
気丈に振舞ってはいる、が、彼女もまだ少女なのだ。
乗り越えなくてはいけないものが、美芹にもある。
勿論、彼らも。
(´・ω・`)(…………)
_
( ゚∀゚)(…………)
('A`)(…………)
川 ゚ -゚)(…………)
闇の中で再現された悪夢が、胸懐に根を張るトラウマを引き出した。
乗り越えろ、と美芹は言っていたのだが、具体的にどうすることで克服できるのか、
それが彼らにはわからない。
ここ数日はともかく、今までごく普通に生活を送っていたのだから、
ある意味、既に乗り越えているのではないのか、という解釈もできる。
だが、それで良しとするならば、美芹は乗り越えろなどと言わない。
95
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/27(日) 21:25:03 ID:Lre2WSNQ0
今は、解らずとも良いのだ。
いずれその時が、やってくるのだから。
ただ────
( ^ω^)「ところで、どうやってそれを使うんだお?」
────ブーンだけは、あの中で悪夢を見ていない。
ミセ*゚−゚)リ「わかりません……。ですが、ツンさんの話を聞いた限りでは……」
ミセ*゚ー゚)リ「なんとなく、予想がつきます」
ξ;゚⊿゚)ξ「どうするんだろう……?」
ミセ*゚ー゚)リ「言ってみれば、“念じる”、でしょうか」
強き願いを込め、箱に呼びかけること。
噛み砕いて言えば、美芹の一言で納まる。
そして彼女の予想は、的を射ている。
エクストも、ダイオードも、デレも、同じ手法を用いて箱を使っていた。
( ^ω^)「何をお願いするんだお?」
ミセ*゚ー゚)リ「そうですね……」
ミセ*゚ー゚)リ「“高岡さんの場所まで連れて行け”、というのはどうでしょう?」
_
( ゚∀゚)「そういえばハインを助けにきてたんだった……」
96
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/27(日) 21:26:10 ID:Lre2WSNQ0
ミセ;゚−゚)リ「ジョルジュさん……」
_
(;゚∀゚)「いやほら、色々あったし……」
(´・ω・`)「僕もそれでいいと思います」
('A`)「もっと大きなことでもいいんじゃないか? VIPを潰せとか……」
( ^ω^)「せっかくだし、試してみるのもいいと思うお」
(´・ω・`)「いや、それは多分無理だと思う」
('A`)「? なんでだ?」
ショボンがドクオを見て、
(´・ω・`)「エクストが僕らに……精神攻撃という回りくどいことをしたからさ」
_
( ゚∀゚)「それが?」
(´・ω・`)「僕らを消すつもりなら、それこそ“消せ”とか“殺せ”で済む話でしょ」
(´・ω・`)「でもそれをしなかった。他に理由があるかもしれないけど、
多分、箱でできることに何かしらの制限があるんだと思う」
('A`)「なるほど……」
(´・ω・`)「だから移動だけなら丁度いいと思う。目的でもあるんだし」
(´・ω・`)「それに、箱はVIPが作った物だから。
自分たちに不都合なことを叶えさせるようにできてない、とも思う」
97
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/27(日) 21:28:46 ID:Lre2WSNQ0
川 ゚ -゚)「それなら、私たちがハインを助けるのも不都合にならないか?」
(´・ω・`)「……どうだろうね」
必ずしもそうではない、とショボンは考えている。
前回と今回の侵入、防ごうと思えばいくらでもできたはずだ。
それこそ、入り口のエレベーターを止めるだけで事は済む。
(´・ω・`)(敢えて僕らが侵入しやすいようにしてあった。そう思えてならない)
川 ゚ -゚)「……?」
(´・ω・`)(まるで、僕らを使って何かを試すように……)
試す対象が“箱”なのか、“自分たち”なのか、どちらかはわからないが、
(´・ω・`)(僕らだとしたら……ハインさんを救出しても、不都合ということにはならない)
この状況を潜り抜けることができるかどうか、を試しているとしたら。
可能であれ不可能であれ、VIPにとって計算内と言うことだ。
(´・ω・`)「まぁ、試す価値はあるでしょ?」
川 ゚ -゚)「……そうだな」
ミセ*゚ー゚)リ「では皆さん、私の周りに集まって下さい」
美芹の指示に、ブーンらは素直に応じる。
彼女に近づく、つまり箱に近づくという行為に、少しの躊躇いを見せつつも、
美芹を中心にした円陣が、組みあがった。
98
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/27(日) 21:29:50 ID:Lre2WSNQ0
ミセ*゚ー゚)リ「念の為に、私に触れていて下さい」
言われ、白衣の袖、肩に各々が手を伸ばす。
彼女の正面に立つ、
_
(;゚∀゚)(えーと……)
ジョルジュは、なかなか手が伸びない。
ミセ*゚−゚)リ「ジョルジュさん?」
_
(;゚∀゚)「いや、どこに触ろうかなって」
川 ゚ -゚)「言い方に問題があると思う」
ξ゚⊿゚)ξ「おまわりさんこいつです」
_
(;゚∀゚)「いやまて、断じて誤解だ」
ミセ*゚ー゚)リ(……?)
川 ゚ -゚)「ジョルジュ、私と代われ。私がそこに立とう」
_
(;゚∀゚)「だから! 変な考えはねーって!」
ミセ*゚−゚)リ(変な?)
ξ゚⊿゚)ξ「すけべ。」
ミセ*゚−゚)リ「……あ」
_
( ゚∀゚)「へっ?」
ミセ*///)リ「ぅ……」
99
:
◆iAiA/QCRIM
:2011/11/27(日) 21:31:32 ID:Lre2WSNQ0
擬音が見えそうな程に分かりやすく、美芹が顔を赤く染めていく。
それを見てジョルジュは思考停止に陥ったのだが、
(´・ω・`)「もうちょっとこう……緊張感をさ……」
ミセ;゚−゚)リ(……はっ)
ショボンの声に、美芹が正気に戻った。
ミセ*゚−゚)リ「んっ! んっ!」
似合わぬ咳払いをし、
ミセ*゚−゚)リ「さぁ、行きましょう。ハインさんを助けないと」
_
( ゚∀゚)「あっ」
無表情で、ジョルジュの手を掴んだ。
ジョルジュは固まったままであった。
ミセ*゚−゚)リ「皆さん、目を閉じて下さい。箱を見ないように……」
誰もが、箱への興味より恐怖の方が勝っている。
ショボンも辛うじてだが、そうだ。
美芹以外の全員が、目を閉じた。
ミセ*゚−゚)リ「────いきます」
そして、美芹自身も目を閉じた。
右手に佇む黒き箱は、もう布に覆われていない。
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◆iAiA/QCRIM
:2011/11/27(日) 21:33:39 ID:Lre2WSNQ0
ミセ* − )リ(私たちを……高岡さんの所へ……!)
強く、強く念じる。
ハインリッヒの顔を思い浮かべ、この人物の元へ、頼む、と。
箱に変化は、見られない。
ミセ* − )リ(……お願い……!)
更に願いを込め、強固に、心で叫びを上げる。
ミセ* − )リ(────……)
そのまま一分が過ぎ、二分が過ぎた。
瞑想を日常的に行なっている彼女には、苦ではない。
だが、ペルソナを除き一般人であるブーンらには、とてつもなく長い時間に感じられていた。
( -ω-)(まだかお……? やっぱり無理なんじゃ……)
(-A-)(……そう都合よくいかないよな)
そうなると生まれるのが雑念だ。
もとより肯定的であったショボンですら、
上手くいかないかも知れないという懐疑が心の隅にある。
ミセ; − )リ(…………)
美芹には、雑念も疑念もない。
しかし、何も起こらない。
たっぷりと三分が過ぎた頃。
それが、突然訪れた。
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