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【TRPG】ブレイブ&モンスターズ!

1 ◆jTxzZlBhXo:2017/12/29(金) 00:43:24
――「ブレイブ&モンスターズ!」とは?


遡ること二年前、某大手ゲーム会社からリリースされたスマートフォン向けソーシャルゲーム。
リリース直後から国内外で絶大な支持を集め、その人気は社会現象にまで発展した。

ゲーム内容は、位置情報によって現れる様々なモンスターを捕まえ、育成し、広大な世界を冒険する本格RPGの体を成しながら、
対人戦の要素も取り入れており、その駆け引きの奥深さなどは、まるで戦略ゲームのようだとも言われている。
プレイヤーは「スペルカード」や「ユニットカード」から構成される、20枚のデッキを互いに用意。
それらを自在に駆使して、パートナーモンスターをサポートしながら、熱いアクティブタイムバトルを制するのだ!

世界中に存在する、数多のライバル達と出会い、闘い、進化する――
それこそが、ブレイブ&モンスターズ! 通称「ブレモン」なのである!!


そして、あの日――それは虚構(ゲーム)から、真実(リアル)へと姿を変えた。


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ジャンル:スマホゲーム×異世界ファンタジー
コンセプト:スマホゲームの世界に転移して大冒険!
期間(目安):特になし
GM:なし
決定リール:マナーを守った上で可
○日ルール:一週間
版権・越境:なし
敵役参加:あり
避難所の有無:なし

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401赤城真一 ◆jTxzZlBhXo:2018/11/30(金) 19:41:26
建物を支えていた〈防風林(グレートプレーンズ)〉の消失によって、崩落を始めるカジノ。
藁人形を通してみのりから指示を受けた真一は、直ぐ様グラドの背に乗って飛翔し、カジノの倒壊に巻き込まれないよう離脱していた。
そして、上空から眼下に視線を向けると、無残にも砕け散った瓦礫を吹き飛ばして、その中からライフエイクが姿を現す。
だが、スーツが破けて顕になったライフエイクの肉体は、人間のそれではなかった。

>「フフフ……。フハハハハハハハハハ……!」

>「そうだ。そうだとも、異世界の客人よ。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』よ。
 このときを幾とせ待ちわびただろう。王女をこの地上に引きずり出すための、『万斛の猛者の血』が集うときを!
 人の命を捨て、人ならぬ者と化し……この地に根を張って幾星霜! 待った、待ったぞ! ハハハハハ―――」

合成魔獣――“縫合者(スーチャー)”。
数多のモンスターの身体を集め、人の形に縫い合わせた化物。それこそがライフエイクの正体だったのだ。
彼が元からそのように作られたのか、或いは永劫の時を生きるため、自ら自分の身体に手を加えたのかは分からない。
しかし、人の姿をしていたライフエイクが、あれだけの力を持っていた理由には合点がいった。

>「私は“彼女”に用がある。そのために、長い長い年月を待ち続けたのだ。
 諸君には、我が大願の礎となって頂こう――死にたくなければ戦うことだ。
 戦うことで万斛の猛者の血は蓄積され、私の開いた門と彼女のいる海底とが繋がれる。
 もし、私の望みを挫く方法があるとするなら……それは諸君らが無抵抗のまま死ぬ、という選択肢のみだが。
 その気はないのだろう? その、ちっぽけなお嬢さんの命程度でも大騒ぎしていた君たちなのだからな」

正体を表したライフエイクは、更にその真意までを明らかにする。
奴の狙いは、遥か遠い昔――最愛の男に裏切られ、絶望を抱いて海に沈んだメロウの王女を、冥府の底から引きずり上げること。
そして、彼女の持つ尋常ならざる魔力を利用し、再びこの地でミドガルズオルムを喚び出させることに他ならなかった。
真一は闘技場で出会った少年から語り聞かされた、人魚姫の伝承を思い返す。
メルトが死の淵で見た光景――かつて、王女を裏切った張本人こそライフエイクであるという話が事実ならば、有ろう事かこいつはもう一度あの悲劇の再現を試みようとしているのだ。
真一は腹の底から怒りが込み上げてくるの感じ、長剣を握る右手に力が入る。

「ハッ……何を言ってやがる。その問題には、第三の選択肢があるだろうが。
 これ以上無駄な血は流さず、人魚姫を喚び出させる前に、テメーをここで秒殺すれば終わる話だ」

そんな真一の挑発を受けたライフエイクは、尚も余裕気な笑みを浮かべながら、左手を動かして手招きの仕草を見せる。

「――――やって見給えよ。できるものならば、だがね」

そのライフエイクの返答が、戦いの再開を告げる合図となった。

402赤城真一 ◆jTxzZlBhXo:2018/11/30(金) 19:42:42
上空から滑り落ちるように急降下したグラドは、落下の勢いのままにドラゴンブレスを撃ち放つ。
不意打ちにも近いタイミングで繰り出された砲火は、ライフエイクを直撃した――かと思われたが、敵の身体は水の結界に覆われ、一切のダメージを負っていなかった。
――〈水王城(アクアキャッスル)〉と呼ばれる、水属性の上級防御魔法だ。
縫合者(スーチャー)であるライフエイクは、身体に縫い合わせたモンスターの数だけ、その固有スキルを行使することができる。
つまり、ブレモンの攻略情報という絶大なアドバンテージを持っているプレイヤーたちでさえ、敵が一体どんな魔法を使うのか予想できないというわけだ。

「――――〈三叉槍(トリアイナ)〉」

ライフエイクが一言詠唱を呟くと、今度は彼を覆っていた水の城が形状を変え、三本の巨大な槍となってグラドを襲う。
グラドの機動力を以てしても、この猛攻を全て躱すことはできない……一瞬の攻防の中でそう判断を下した真一は、〈火炎推進(アフターバーナー〉のスペルで無理矢理グラドのスピードを底上げし、その場から緊急離脱して難を逃れる。
しかし、三叉槍が回避されることも、ライフエイクの計算の内だった。
こちらの機動を完全に読み切っていたライフエイクは、〈幻影の足捌き(ファントムステップ)〉で先回りし、既にグラドの直上へと飛び上がっていた。

「死角を取ったぞ。かの赤竜といえど、背後からの攻撃は防ぎ切れまい」

空中戦に於いて、より高い位置を取った者が有利というのは大常識だ。
更に加え、完全にこちらの虚を突いたタイミングで浴びせられる死角からの強襲。
ライフエイクは会心の手応えを感じつつ、両手に握った刀を唐竹割りに打ち下ろす。
――その剣戟を、グラドは全く視認することができなかった。
だが、元よりこちらは人竜一体。相棒の弱点をカバーし合うのが、真一とグラドの真骨頂である。
グラドの背に跨っていた真一は、長剣を頭上へと振り抜き、逆風の太刀でライフエイクの一閃を受け止めた。

「……死角がどうしたって?」

真一がニヤリと笑うのに対し、その視線の先でライフエイクが歯噛みをする。
そして、続けざまにグラドが身を翻し、自らの尾を鞭の様にしならせてライフエイクを打ち据えた。
地上へと叩き付けられたライフエイクは、何とか空中で体勢を整え、両足から地を踏み締めることに成功する。
しかし、敵が着地時に見せたその隙を“彼女”だけは見逃さなかった。

「虚構展開――――ッ!!」

そう詠唱を唱えながら躍り出たのは、十三階梯の継承者が一人――虚構のエカテリーナだった。
先程まで黒竜の姿で飛び回っていた彼女は、今度は銀狼の姿へと変貌し、風さえも上回る疾さで大地を駆け抜ける。
流石のライフエイクもその速度には対応できず、瞬く間に彼我の距離を詰めたエカテリーナは、自慢の牙を敵の肘に突き立て、そのまま左腕を食い千切った。

「離れろ、エカテリーナ! 行くぜ――〈大爆発(ビッグバン)〉!!」

そして、敵の間隙を突くことに長けているのは、この男も全く同様であった。
流れるようなエカテリーナとの連携でライフエイクの左腕を落とし、今を好機と見定めた真一は、手札の中でも最大火力のスペルを切る。
まるで太陽と見紛うような大火球が落ち、今度こそライフエイクをまともに直撃した。

まさかレイド級である縫合者(スーチャー)を、これしきの攻撃で討ち果たせたとは思っていない。
だが――充分な手応えはあった。大火球によって巻き起こった爆風と粉塵が晴れるのを待ち、真一は油断なく上空からフィールドに視線を巡らせる。

403ライフエイク ◆jTxzZlBhXo:2018/11/30(金) 19:44:12
事ここに至るまで、ライフエイクの誤算は幾つかあった。

その中でも、特に大きな誤算は“ブレイブ”と呼ばれる少年たちの戦闘力を侮っていたことだ。
ガンダラでの戦いぶりを聞き及んでいたが故に、充分な警戒はしていたつもりだった。
そのため、わざわざデュエラーズ・ヘヴン・トーナメントに招くという面倒な方策を取り、彼奴らが得意とするチームプレイを封じ込めて各個撃破を試みたのだ。
だが、まさかライフエイクの懐刀――ヴァンパイア・ロードであるレアル=オリジンが、一騎打ちで敗北することは想定できなかった。
それどころか、数多の窮地を乗り越えてこの場まで辿り着き、こうして自分を追い詰めるまでに至っている。

しかしながら――それでもまだ、ライフエイクには僅かばかりの余裕が残されていた。
その理由は、切ることさえできれば全てを覆すことのできる“ジョーカー”をこちらが握っていることだ。
本来はレアル=オリジンがトーナメントで多くの血を集め、もっと早くに召喚条件を達成する予定だったのだが、こうなってしまっては仕方ない。
最悪の場合、一度この戦いから離脱して、別の場所で生贄を集め直すという手段もある。
逃走のためのスペルは幾らでも用意があるし、逃げ切るだけならば何の問題もない。
何もここで自分が無茶をしてまで、五人のブレイブを相手にする必要などないのだ。

結局のところ、ライフエイクは全てが自分の手の上で動くゲームだと思っていた。
そして、それこそが彼にとって最大の誤算だった。

シナリオを影で操る黒幕。盤上で駒を動かすプレイヤー。勝つと分かっているギャンブルの胴元。
最後の最後まで、ライフエイクは自分がそういった存在であることを微塵も疑わなかった。
――だから、夢にも思わなかったであろう。
まさか、深淵の盃を満たす最後の一滴が、他ならぬ自分自身の流した血になるなんて――


「――――この時を待っていたよ、ライフエイク」


悪魔の声が、響き渡った。
その直後、ライフエイクの心臓は、背後から突き出された射干玉の穂先に貫かれる。
そして、今まさにライフエイクを穿った槍を握る少年は、肩ほどまで伸びたブロンドの髪を靡かせながら、くすりと魔性の笑みを浮かべた。

「ま、ま……さか……貴……様……」

ライフエイクは苦痛と驚愕に瞳孔を限界まで開きながら、声にならない悲鳴を上げて、背後を振り返る。
――自分の身体を刺し貫いたその人物を、ライフエイクは知っていた。
何故ならば“彼ら”こそがライフエイクにブレイブたちの情報を提供していた、此度の計画の協力者だったからだ。
一体どうして……と、思考を巡らせようとするが、脳に送られる筈の血流は既に遮断され、ライフエイクは急速に目の前が暗くなっていくのを感じた。

「何をそんなに驚いているんだい、ライフエイク?
 “この物語”は、他でもない君が始めた悲恋のストーリーじゃないか。
 ならばこそ、こうして彼女が眠る棺を開く際には、君の死を以て完結を迎えるのが一番美しい筋書きだとは思わないかい?」

少年の言葉は、もう殆どライフエイクの耳には届いていなかった。
ライフエイクは力なく崩れ落ち、そのまま前のめりに倒れ伏せる。
彼が最後に見たのは、自分の姿を見下ろす少年の笑みと、深海の様に蒼い双眸だった。
今まで数多のギャンブルを勝ち抜き、あらゆるポーカーフェイスを見破ってきたライフエイクだったが、その表情からは一切の感情さえ読み取ることができなかった。

404赤城真一 ◆jTxzZlBhXo:2018/11/30(金) 19:46:52
「あいつは……!?」

〈大爆発(ビッグバン)〉によって巻き起こった粉塵が晴れ、ようやく視界が開けた時、真一は信じ難い光景を目撃した。
それは、先程まで対峙していたライフエイクが、何処からともなく現れた少年の手で、背後から刺し貫かれていた姿だった。
そして、その少年は――闘技場で真一と出会い、人魚姫の悲劇譚を語り聞かせた人物に相違ない。
少年は魔術師の様に漆黒のローブを纏い、右手にはライフエイクの心臓を穿った黒い長槍を握っている。
――だが、何よりも驚愕したのは、その左手に持った5インチ程のディスプレイ。
それは、ブレイブと呼ばれる真一たちが所有するのと同じ――“魔法の板”に他ならなかった。

事態は何も飲み込めなかったが、それでも真一は自分の直感に従い、あの少年を止めなければならないと判断した。
そして、今まさにグラドの背を叩いて飛び出そうとした時――

「召喚(フォーアラードゥング)――――〈堕天使(ゲファレナー・エンゲル)〉」

――その真一の動きを、少年の一声が先んじて制した。
突如として生じる発光現象。そして、その中から現れ、真一の行く手を阻む一匹のモンスター。
それは、真一たちが誰よりもよく知っている〈召喚(サモン)〉のコマンドと全く同様のものであった。

「……そう焦るなよ。君たちには、これから紡がれる人魚姫の第二章を、特等席で見せてあげようというのだからさ」

少年が召喚したのは〈堕天使(フォーリン・エンジェル)〉という名の、悪魔型モンスターだった。
頭部に生えた黄金の二本角と、背には十二枚の黒い翼。
右手に光り輝く槍を携え、その姿は悪魔でありながら神々しさを感じるような美貌を宿していた。

堕天使はガチャ産でありながら、レイド級にも比肩するスペックを有するモンスターであり、希少価値は真一のレッドドラゴンにも勝る程だ。
ブレモンを始めて日の浅い真一は知らなかったが、少年と堕天使の組み合わせを見て、なゆたたち他のプレイヤーはピンと来るものがあったかもしれない。
少年の正体は――現実世界で開催された、昨年度のブレモン世界大会の覇者であった。
――名前はミハエル・シュヴァルツァー。
堕天使の性能を活かしたビートダウン系の戦法を好んで用いるプレイヤーであり、その端麗な容姿と派手な戦闘スタイルとが相まって、国内外を問わず多数のブレモンプレイヤーから支持を集めている。
ブレモンに精通している人間ならば“金獅子”だとか“ミュンヘンの貴公子”など、大仰な愛称で呼ばれる彼のことを熟知していてもおかしくはないだろう。

「さあ、今ここに深淵の盃は満たされた。万斛の猛者の血を供物とし、冥府の扉を叩くとしよう。
 目覚めるが良い、人魚族の王女――――“マリーディア”よ」

そして、遂に復活の時は来たる。
ミハエルの呼び掛けによって展開された魔法陣――それは、明神たちがオフィスで見た“境界門”と同種の物であったが、その門が秘めたる魔力と、禍々しさは次元が違う。
門の中からは、無数の亡者たちの声が聞こえてきた。
それは、現世に解き放たれた獣の歓喜か。或いは、憎悪に囚われた人の恩讐か。
思わず耳を塞ぎたくなるような地獄の合唱を伴い、数え切れないほどの魂が黒い魔力に姿を変えて、門の外へと解き放たれる。
そして、それらの中心部でただ一人――両手を地について項垂れる女の姿があった。

405赤城真一 ◆jTxzZlBhXo:2018/11/30(金) 19:50:48
海のように波打つ青い髪と、真珠のように整った美貌を持ち、腰から下は魚の尾ヒレの形をした女。
メロウの王女――マリーディア。
境界門を通して再び現世に喚び出された彼女が最初に見たのは、かつて誰よりも愛した男の亡骸だった。
自らの献身を裏切り、愛の言葉を嘯いて、我が故郷まで滅ぼしたその男のことを、マリーディアは死してなお現世に囚われ続けるほどに憎んでいた。
百度殺しても足りないほどに憎み、憎しみ続け――だが、哀れな彼女はそれでも愛を忘れることができなかった。

マリーディアは啼泣し、言葉にならない声を吐き出すみたいに悲鳴をあげた。
――その叫び声は、まるで歌のように聞こえた。
愛する者を喪った女が、愛を知らない男のために紡ぐ絶望の歌。
彼女の旋律は哀しくも美しく、空気を震わせて聞く者全ての胸に哀愁を伝える。
そして、それは伝承で語り継がれているように――昏き底から一匹の“化物”を喚ぶ力を宿していた。
その時、港の方から砲撃のように激しい破壊音が響き渡る。
次いで聞こえるのは、押し寄せる怒涛の波音と、恐怖に怯える群衆の悲鳴。
そして、海面から首を出した“それ”の姿を目にして、真一は思わず言葉を失った。

それは、全身を蒼き鱗で覆われた大蛇。
終焉を告げる、黄昏の日の尖兵。
幾百、幾千の暴威を踏み潰す暴威。
幾千、幾万の悪意を喰らい尽くす悪意。
彼の者の名は――――世界蛇“ミドガルズオルム”。

「あははははっ! あれが、終末を齎す世界蛇の姿か。
 凄いね、大したものじゃないか。こうして実際に目にしてみると、あの迫力は到底口伝できるような代物ではないと感じるよ。
 “悪魔の種子”の力を以てしても制することができるかどうか……少しばかり楽しみだね」

ミドガルズオルムを喚び出したマリーディアは、全ての魔力を失い力尽きて、その身をとあるアイテムに変えていた。
透明の小瓶に入った青い液体。“人魚の泪”という名で通称される万能の霊薬を拾い上げながら、ミハエルは子供のように楽しそうな笑い声をあげた。

「……テメーは一体、何が目的でこんなことをしやがる」

真一には、この男の思考が全く理解できなかった。
ギリッ……と奥歯を噛み締め、心の底から吐き気を催す邪悪を見るかのように、ミハエルへと侮蔑の視線を向ける。

「言っただろう、シンイチ君?
 知恵を持った全ての生命は、訳もなく戦いたがっているのさ。
 かつて背負った原罪の咎を贖うために、自らの本能の赴くままに。
 だからこそ、僕は一切の意味も目的も持たず、ただ戦うために戦おう。
 つまり、僕の行動に敢えて理由を述べるとするならば――それは、エデンの園で、アダムとイヴが林檎を食べたからさ」

「……イカレてるぜ、テメーは」

真一は闘技場で自分が感じた気配は、やはり間違いではなかったと確信する。
この男は、間違いなく駆逐せねばならない“敵”なのだ。
――しかしながら、状況は既に最悪だった。
敵はあのタイラントにも匹敵するか、或いはそれ以上の力を持つであろう超レイド級のモンスター。
更にそれを駆るのは、この世界で初めて敵として対峙した、世界最強のブレモンプレイヤーだ。

「さあ、諸君。ようやく舞台の準備は整った。――――戦争を始めるとしようじゃないか」

ミハエルは嗤い、両手を広げて高らかと頭上に掲げる。
その仕草とタイミングを同じくして、ミドガルズオルムはリバティウム全体が震えるような怒号を天へと解き放った。



【ミハエルの奇襲によってライフエイク死亡。
 遂に復活したミドガルズオルム&ミハエルとのボス戦開始】

406明神 ◆9EasXbvg42:2018/12/10(月) 01:36:30
真ちゃん、なゆたちゃん、エカテリーナと攻防を繰り広げながらも、俺から視線を外すことはない。
てめえが百戦錬磨のギャンブラーなら、俺は海千山千のレスバトラー。
フォーラムでの魔を喰い魔に喰われるクズ共の蠱毒を生き抜いてきた俺の論圧()を舐めんじゃねえぞ。
読み読みなんだよてめぇの考えてることなんざよぉ。

俺は弱い。戦闘能力ってものさしなら、ライフエイクの足元に及びもしないだろう。
普通なら放っておいても何ら問題のない、路傍の石のような存在。
だが、そんな矮小で脆弱で、風前の羽虫に過ぎない俺を、奴は無視することができない。
そういう立ち回りを、俺はしている。

この世のすべてを見透かしたような、超然とした態度を崩さないライフエイク。
全知全能を気取った奴にも、たったひとつだけ知らないことがある。
死者の蘇生。心臓が完全に停止し、生命反応の失せた肉体に、再び命を宿す手段。
それは明確に、俺たちだけが知りうるこの世界のブラックボックスだ。

俺はあえて奴の眼前に身を晒し、死者蘇生という手札を公開した。
ライフエイクに興味を抱かせ、情報源となる俺自身を意識させるためだ。

ライフエイクは死者の蘇生の方法を、知りたがっている。
そのために、俺を逃がすわけにはいかない。
拘束するにせよ、殺すにせよ、真ちゃん達の猛攻を掻い潜って俺に攻撃を仕掛ける必要がある。
激しい攻防のさなかでも残し続けてきた奴の余裕、集中力のリソースを、俺の存在が奪う。
ライフエイクは未だに余裕ぶったツラしてやがるが、実際のところ手一杯になってるはずだ。

余裕がなくなれば、奴の警戒網にも綻びが生まれる。
こちらの仕掛ける搦め手が、通りやすくなる。
そして、この僅かな意識の間隙、すなわち『隙』を最大限活かすことのできる奴を、俺は知っていた。

>「はいはい〜そこまで〜 ライフエイクはん、あんたさんなんでまだこんなところで戦ってはるのン?」

大理石の床を割り、戦場に突如として林立した巨木。
石油王のカード――確かフィールドを変化させる『防風林』のユニットだ。
木立の壁で両雄を阻み、戦闘を強制的に中断させた石油王は、木々の向こうから静かに姿を現す。
その表情からは、さっきまでの焦りや怒りは消え失せていた。こっちも完全復活ってわけだ。

>「聞いた話によると、うちら異邦の魔物使いはアルフヘイム、ニブヘイム両陣営から随分と買われてるそうやないの
 うちらの知らんところで争奪戦繰り広げられてそうな勢いなくらいになぁ」

いつものゆったりとした口調で放たれる言葉は、俺にとっても初耳なものばかりだった。
『万斛の猛者の血と、幽き乙女の泪が水の都を濡らす時、昏き底に眠りし“海の怒り”は解き放たれる』。
なんだそりゃ、ブレモン本編じゃそんな言い伝え聞いたことねえぞ。
万斛の猛者の血も、乙女の泪も、トーナメントと『人魚の泪』に関連するワードってのは分かる。
でも、海の怒りって何だよ。やべー奴のニオイをヒシヒシと感じるんですけど!

石油王が訥々と語る一方で、俺はポケットの中でスマホに指を滑らせていた。
この停滞を作り出したのは、石油王だ。あの女が、あの策士が、ただ推理を披露するだけとは思わない。
案の定、身体にひっついていた藁人形がカジノから離れるよう呟いた。

「サモン・ヤマシタ!」

俺の側に出現した革鎧が、俺を小脇に抱えて跳躍する。
同時、『防風林』が解除されて、木々に支えられていたカジノが一気に崩落した。
俺を担いだヤマシタが安全圏に着地すると同時、ポヨリンさんに包まれたなゆたちゃんも戻ってくる。
真ちゃんはレッドラに跨って空に逃れ、メルト――しめじちゃんは、なんか知らない奴に掴まれていた。

「うおっ、よく見たらイクビューじゃねえか。誰か捕獲したのこいつ」

煌めく月光の麗人、通称イクビューはブレモンに登場する人型レイド級モンスターだ。
トーナメント組と合流した時からなんか居るなぁと思ってたけどそれどころじゃなかったからね。
完璧スルー決め込んでたけどなんでこいつ仲間みたいな感じでここにいるの……?
どっからPOPしたんだよ……リバティウムでエンカウントして良い敵じゃねえだろこいつ。

407明神 ◆9EasXbvg42:2018/12/10(月) 01:37:04
「やあ、お初にお目にかかる。君が"明神"だね?ガンダラの弟から話は聞いているよ」

「あ?弟……?マスターのことか?あんたマスターのお姉ちゃんなの?知らねえ裏設定だ……」

「ふふ。積もる話もあろうが、今はまだ楽しくお喋りしている場合ではないだろう?
 この一件が片付いたら、心ゆくまでこの邂逅を祝そう。近くに良い店を知っているんだ」

「るせぇ、コミュ強特有の雑な仕切り方すんな。……しめじちゃん、大丈夫か?」

お姉ちゃんにふん掴まれて退避を果たしたしめじちゃんは、グロッキー状態だ。
病み上がりどころか死に上がりのところに加速度で振り回されりゃこうもなる。
とはいえ、しめじちゃんは目を回しながらも無事なようだった。

>「……あ、あの。今のうちに言っておきたい事がありまして。
 これは本当に妄言で、私としても信じがたいので、信じて頂かなくてもいいのですが
 あの白服ヤクザ――――ライフエイクは、この『儀式』で、人魚を呼び戻そうとしているのではないでしょうか?」

「人魚……?しめじちゃん、なにか知ってるのか?」

青白い顔のまま、しめじちゃんは臨死体験のさなかに見てきたことを語った。
遠い昔、一人の青年が人魚の姫と睦み合い、しかし裏切りによって彼女を地獄に叩き落とした。
そのクソゴミカスカスうんち野郎があのライフエイクで、奴はもう一度人魚に会おうとしている。
しめじちゃんの言う通り、それは何の担保もない単なる妄言に過ぎないのかもしれない。
だが、石油王から聞いた言い伝えと、しめじちゃんの語った内容には、奇妙な符合がある。

彼女の言葉には真実味と信憑性があると、少なくともなゆたちゃんは判断したらしい。
俺も同感だった。

>「つまり……しめちゃんはその、人魚姫の恋人? がライフエイクだって言いたいの?

「するってぇとアレか?ライフエイクの野郎は、大昔の元カノとヨリと戻そうとしてるってことか。
 自分から裏切って殺したくせに、死人を足蹴にするためだけに蘇らせようってか。
 反吐の出るクソ野郎だな。その事実だけで、ぶっ飛ばす理由におつりがくるぜ」

それで『海の怒り』か。
ははーん。だんだんパズルのピースが揃ってきたぞ。
ライフエイクが何をやらかそうとしてやがるのか、おぼろげながらも見えてきた。
クソが。どこまで人を虚仮にすりゃ気が済むんだ。人間も、人魚も、てめえの玩具じゃねえぞ。

>「フフフ……。フハハハハハハハハハ……!」

そのとき、地の底から響くような哄笑と共に、瓦礫をはねのけてライフエイクが姿を現した。
流石に生き埋めでそのまま死んでくれってのは虫が良すぎる話だったらしい。
無傷ってわけではない。高そうな白スーツは見るも無残なボロ布だ。
ただ、白日の下に晒された奴の素肌は、人間のそれではなかった。

>「そうだ。そうだとも、異世界の客人よ。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』よ。
 このときを幾とせ待ちわびただろう。王女をこの地上に引きずり出すための、『万斛の猛者の血』が集うときを!
 人の命を捨て、人ならぬ者と化し……この地に根を張って幾星霜! 待った、待ったぞ! ハハハハハ―――」

>「……ス……。『縫合者(スーチャー)』……!」

「おいおい。おいおいおいおいおい……」

俺は言葉が出なかった。ライフエイクの様相を目の当たりにしたら誰だってそうなる。
奴の肉体は、数えるのも馬鹿らしいくらいに多種多様な生き物をパッチワークのように継ぎ接ぎしてあった。
ドラゴンの鱗、人狼の毛皮、オーガの筋肉に、リビングアーマーの装甲。
それぞれのモンスターの特性をひとつの肉体に融合させた、外法魔術の到達点。

408明神 ◆9EasXbvg42:2018/12/10(月) 01:37:55
『縫合者(スーチャー)』。
それは、ブレモン本編において終盤の大ボスとして立ちはだかる、レイド級モンスターの名だ。
ローウェルの弟子が生涯をかけて開発した術法を、ライフエイクはその身に宿していた。

「どうなってんだ、『縫合者』はローウェルの死後に作り上げられたモンスターだろ。
 ローウェルの生きてるこの時間軸じゃ絶対に生まれるはずのない存在……」

いや。ゲームの方のアルフヘイムと時間軸が連続してないのは確かめたばかりだ。
たとえ過去編であっても、本編で実装済みのモンスターが出現するのはあり得ないことじゃあない。
それに、『縫合者』の技術を十三階梯とはまったく別の奴が開発してたっておかしくはないのだ。

時系列の不整合は、今更問題にはならない。
そんなことよりもずっとずっとやべえのは、奴がブレモン終盤に出てくるレイド級ってことだ。

同じ『レイド級』というカテゴリの中でも、当然ながら強弱の序列はある。
レベルキャップ解放前、例えば推奨レベル100のレイド級と、レベル150のレイド級とじゃ、天と地ほどの差があるのだ。
低レベル帯……いわゆる旧レイドのモンスターなら、レベル差の暴力でソロでも狩れる。
具体的にはベルゼブブやバルログなんかは、ゴッドポヨリンさんの敵じゃあないだろう。
多分俺でも手持ちのスペルを全部吐き出せばどうにか倒せる程度のHPだ。

だが、縫合者は違う。奴は最近のパッチで実装されたばかりの、最新レイドコンテンツだ。
推奨攻略人数は8人以上。もちろん、カンストまでレベルを上げて鍛え込んだ8人で、ようやく倒せる難易度だ。
対して俺たちはまともな戦力が3人、エカテリーナとお姉ちゃんを含めても5人。
ろくに太刀打ちできるような相手じゃない。全体攻撃で即死するのがオチだろう。

>「姑息な悪口でわざわざヘイトを稼がなくたって、戦ってやるわよ……たっぷりとね!」

絶望的な戦力差を目の当たりにして、しかしなゆたちゃんの戦意は折れなかった。
マジ?戦うの?強気な姿勢は結構だけど、流石にそりゃ無理ゲーが過ぎんだろ。
案の定というかなんというか、やっぱ最後の最後に暴走すんのはこいつだよなぁ……

――俺は、そんな風に斜に構えてた自分の発想を、恥じることになる。
なゆたちゃんの戦意は、ゲーマーとしての挑戦心や、まして意地なんかじゃなかった。

>「アンタはしめちゃんを殺そうとした。あんなにも頑張った明神さんを、みのりさんを嗤った。
 わたしの仲間をバカにした! それだけで、もうアンタをボコボコにする理由には充分すぎる!」

「そうか……そうだよな」

勝てない相手に直面して、俺は何をビビってんだ。
縫合者?最新のレイド級?ステータス差?そんなもんは、この場から逃げ出す理由になんかなりはしない。
初めから決めてたろ。あいつは絶対に一発ぶん殴るって。
なゆたちゃんの言葉で、俺はようやくそれを思い出した。

>「ハッ……何を言ってやがる。その問題には、第三の選択肢があるだろうが。
 これ以上無駄な血は流さず、人魚姫を喚び出させる前に、テメーをここで秒殺すれば終わる話だ」

真ちゃんの煽り文句に俺も乗っかる。

「てめえの目論見なんざ知るかよ、ライフエイク。一人で気持ちよく演説打ってんじゃねえぞ。
 よくも……よくもしめじちゃんを刺しやがったな。俺の大事な友達を、殺しやがったな。
 その不細工なツラがまともに見れるようになるまでぶん殴ってやるから覚悟しとけ」

>「行くわよ、みんな!
 コイツをぶちのめして――みんなで! トンカツパーティーするって約束したんだから!」

「ああ!美味しくメシを食うための、腹ごなしの運動といこうじゃねえか!」

誰に合図をされたでもなく、俺たちは同時にライフエイク目掛けて吶喊した。
俺はスマホを手繰り、カードプールからスペルを切る。
『黎明の剣(トワイライトエッジ)』。攻撃力上昇バフを真ちゃんに行使し、ヤマシタと共に右翼を駆ける。

409明神 ◆9EasXbvg42:2018/12/10(月) 01:38:27
縫合者は素体となった複数のモンスターの性質を宿した魔物だ。
今、奴の体内では魔物共が肉体の主導権を争い合っている。
その時『表』に出てくるモンスターの属性によって、使う攻撃や弱点となる属性が変化するって仕組みだ。

こいつを攻略するには、使う魔法から弱点属性を推察してこちらの攻撃属性を変えるか、
どの属性にも安定してダメージを与えられる無属性攻撃にバフをかけて叩き込むのが定石。
つまり、レベルを上げて物理で殴る脳筋戦法がわりかし効果的だ。
俺は無属性で火力の高い攻撃手段がないから、弱点属性を探るほかない。

いま、ライフエイクは真ちゃんの攻撃を『水王城』で防いだ。
つまり『表』に出てるのは水属性のセイレーンかリヴァイアサンあたりだ。
土属性か雷属性の攻撃なら大ダメージを与えられる。

「ヤマシタ、『ライトニングブラスト』」

ヤマシタは鎧の中から杖を抜き出し、弓と持ち変える。
軽くて丈夫な革鎧は魔術師にとっても装備可能な防具だ。
したがって、リビングレザーアーマーは、魔術系のスキルを行使できる。
ヤマシタが無言で詠唱した魔術が発動し、杖先から紫電が迸ってライフエイクを穿った。

……HP全然減らないんですけお!
やべえな、弱点がどうとか以前に、単純にステータスの差がありすぎる。
たとえ弱点補正で威力が倍になろうが、1ダメージが2ダメージになるだけじゃねえか。
こりゃ火力は期待できそうにねえな。攻め方を変えるか。

>「……死角がどうしたって?」

一方、上空からの奇襲に端を発する真ちゃんの攻防はライフエイクを追い込みつつあった。
レッドラに叩き落とされたところを、エカテリーナの容赦ない着地狩り。
自身を銀狼へと変じたエカテリーナの牙が、ライフエイクの左腕を断ち落とした。
そこへ間髪入れずに『大爆発』。爆炎がライフエイクを包み、あたりは砂煙に包まれる。

「……やったか?」

こういうこと言うとすぐ生存フラグがどーのとか言い出す奴がいるけど、でもしょうがねえよ。
今こうして自分が当事者になってみて、言いたくなる気持ちがよくわかった。
そりゃ言っちゃうよ、「やったか?」って。ほとんどお祈りみてえなもんなんだよ。
確殺コンボがこの上なく決まったんだぜ、これでやれてなきゃ嘘だろ。

やがて爆煙が晴れる。
フラグが回収されるか否か、煙の向こうに結果がある。
カードの裏面は既に決まっていて、それを今からめくるのだ。

「やってる……!?」

やってた。
果たしてライフエイクは、地面に縫い付けられたまま絶命していた。
ビックバンで粉微塵になったわけじゃない。奴は、五体満足のまま死んでいた。
トドメとなったのは、ライフエイクの胸を貫く黒い槍。
それを握るのは、真っ黒なローブを着た、真ちゃんと同じくらいの歳の少年。

>「あいつは……!?」

真ちゃんが何かに気づいたように零すが、俺には何がなんだかわからなかった。
何が起こった。あいつは何だ。どうやってこの戦場に介入してきた?
あたり一帯は更地になってて、身を隠せるような遮蔽物はどこにもなかった。
いやそれ以前に、ライフエイクがいたのは『大爆発』の爆心地だぞ?
あの大火力スペルの渦中で、ライフエイクの心臓を正確に貫いたってのか?

410明神 ◆9EasXbvg42:2018/12/10(月) 01:38:56
……ふと、乱入者が片手に持った物に目が行った。
スマホと言うには大きく、ノーパソと言うには薄くて小さな、板状の物体。
それは、ある意味では俺たちの持つスマホと同じ機能を備えた電子機器。

「タブレット、だと……?つまり奴は、俺たちと同じ――」

>「召喚(フォーアラードゥング)――――〈堕天使(ゲファレナー・エンゲル)〉」

――異邦の魔物使い(ブレイブ)。
俺たちのように、アルフヘイムに降り立った、ブレイブ&モンスターズのプレイヤーだ。
フォーアラードゥングってのは確か、ドイツかどっかの言葉で『召喚』を意味する言葉だったはず。
むべなるかな、タブレットの発光と共に、少年の傍らにモンスターが出現した。
主に傅く『堕天使』は、性懲りもなく突撃していった真ちゃんを阻むように前へ出る。

>「……そう焦るなよ。君たちには、これから紡がれる人魚姫の第二章を、特等席で見せてあげようというのだからさ」
>「さあ、今ここに深淵の盃は満たされた。万斛の猛者の血を供物とし、冥府の扉を叩くとしよう。
 目覚めるが良い、人魚族の王女――――“マリーディア”よ」

謎のブレイブがそう声を掛けると、奴の背後に巨大な魔法陣が展開する。
『境界門』だ。アルフヘイムとニブルヘイムを繋ぐ、人ならざる者の通り道。
カジノにあった者とは魔力の桁が違うその門から、夥しい数の"なにか"が這い出てくる。
破裂寸前の水風船に小さな穴を開けたかのように。門の内側で膨らんだ圧力が、解き放たれる。
そしてその中に、貞子みたいなポーズで現界する女の姿があった。

「マリーディア……しめじちゃん、君が見た人魚姫ってのは、あいつか?」

マリーディアはライフエイクの亡骸をその目に収め、空を震わすように慟哭した。
それは弔いの鐘であり、同時に海の底に眠る怪物を呼び起こす、号令でもあった。
港の方から怒号じみた悲鳴が聞こえる。
目を向ければ、海から巨大な化け物が姿を現し、天目掛けて咆哮を上げる。

ライフエイクの目論見のすべてがたった今終わり、もっと絶望的な何かが、始まった。
ミドガルズオルム。人魚の女王がかつて裏切られた憎しみから呼び起こした『海の怒り』。
そして、ライフエイクがまどろっこしい儀式の果てに手に入れようとしていたモノ。
その正体は、ガンダラの山奥に眠っていたタイラントと同等以上の力を持つ、レイド級を越えたモンスターだ。

>「さあ、諸君。ようやく舞台の準備は整った。――――戦争を始めるとしようじゃないか」

心底愉快そうに声を上げる少年。俺はようやくそこで、状況に理解が追いついてきた。
同時にふつふつとこみ上げてくるものがある。ライフエイクに向けていた、行き場をなくした怒りだ。

「人の頭の上で意味分かんねえこと抜かすなよクソガキ。なげえ御託は終わったか?
 まずそもそも誰だよてめーは。いきなり現れて好き勝手言ってんじゃあねえぞ」

ブラフだ。俺はこいつを知ってる。
ブレモンを多少なりとも"真っ当に"齧ったことのあるプレイヤーなら知らない奴はいないだろう。
こいつは、ミハエル・シュヴァルツァーは、ブレモン世界大会の現王者だ。
ワールドワイドで展開されているブレモンの、掛け値なしに世界最強のプレイヤー。
世界に1000万人はいるすべてのプレイヤーの、頂点に立つ男だ。

だけど、そんなことは俺の知ったことじゃねえ。
ただ一つ言えるのは、こいつが神様気取りのどうしようもないクソガキだってことだけだ。

「異世界でクソくだらねぇテロに走るほど、世界チャンピオンの座は退屈だったのか?
 戦いがしたけりゃニブルヘイムにでも行けや。民間人虐殺して悦に浸るのがてめえの言う戦争かよ。
 ガキの自己表現に付き合ってるほど俺たちゃ暇じゃねえんだ」

俺は性懲りもなく煽りをぶちかましながら、発動待機状態のスペルをプレイした。
『迷霧(ラビリンスミスト)』――俺たちを包み込むように、濃い霧が発生する。

411明神 ◆9EasXbvg42:2018/12/10(月) 01:39:29
「おら、逃げるぞ。……良いから黙ってついてこい、俺に考えがある」

迷霧で覆われたカジノ周辺から、俺たちは裏路地へと逃げ込んだ。
ここ一週間の探索と、バルゴスからの情報で、俺は入り組んだ裏路地の地理を頭に叩き込んである。
通風孔や抜け道をうまく使えば、ミハエルの視線から逃れることは難しくないだろう。
……まぁ、路地ごと一気に薙ぎ払われたらその時点でアウトなんですけどね、初見さん。

裏路地は大混乱に陥っていた。
港に出現した大怪物から逃げ惑う人々で大通りは混雑し、近道を求めて裏路地にも人が入り込んでいる。
裏路地を縄張りにしているアウトロー達も、この時ばかりは住民を逃がす手助けをしていた。

路地から空を見上げると、リバティウム衛兵団の旗を立てた小型飛空艇が港へと飛んでいく。
遠距離から大砲を撃ち込んでいたが、ミドガルズオルムの放つ水流に撃ち落とされて通りへ落下した。
阿鼻叫喚になる地上の避難民。美しき水の都リバティウムは、今や地獄を切り取ったような有様だ。

「クソ……大砲じゃ歯が立たねえってのか。なんつうもんを喚び出しやがる。
 ざっと見積もってもタイラントレベルの超レイド級……ガンダラであれを起こしたのも、あいつか?」

路地を構成する屋根の上から港の方を確認して、俺は頭を抱えたくなった。
街の反対側にいても姿を確認できるだろう、途方もない巨大さ。
ミドガルズオルムは、最初に衛兵団を撃墜したあとは、天を仰いで咆哮を上げるばかりだ。
ミハエルは『制することができるかどうか』と言っていた。
つまり、まだ完全に制御下におけたってわけじゃないんだろう。

「冗談じゃねえ。ガンダラに続いてリバティウムでも超レイド級かよ。奇跡は二度も起きねえぞ。
 装甲張った飛空艇でも一撃で墜落する攻撃力、かすりでもすれば即海の藻屑だ。
 とっととここから逃げて陸路でキングヒル目指すのが一番オススメの選択肢だな」

タイラントの時のようにはいかない。
あの時は、既にHPが相当減った状態で、しかも弱点が露わになっていた。
だがミドガルズオルムは召喚されたてほやほやで、どこ狙えば良いかも分からない。
ついでに言えば、俺たち自身がライフエイクとの戦いで相当消耗してるってのもある。

「だけど……ここで俺たちが逃げれば、奴は際限なくリバティウムを破壊し尽くすだろう。
 ローウェルのジジイからのおつかいも失敗で、ここでクエストは断絶だ。
 俺たちが元の世界に帰るにせよ、ここに残るにせよ、アレをそのままにはしておけねえ。
 タイラントの時とは違って、俺たちにとっても明確な実害がある」
 
お腹が痛くなってきた……。
逃げ出すのはきっと簡単だ。自分の命を守るだけなら、どうとでもやりようはある。
これから大量に出るであろう死人に目を瞑れば、平穏無事に明日を迎えられるはずだ。
でも、それじゃ多分、この溜飲は下せない。
ライフエイクの目論見は完膚なきまでに叩きのめす。そう決めた。

412明神 ◆9EasXbvg42:2018/12/10(月) 01:39:44
「だから、どうにかしよう。倒せなくても、できることをしよう。
 時間を稼げば、他の十三階梯共が駆けつけていい感じになんとかしてくれるかもしれねえ。
 それに、大昔に一度目覚めたってことは、その時封印する手段があったってことだ。
 ……このままあのドイツ野郎にやりたい放題させとくのも癪だしな」

俺はスマホを手繰って、所持スペルのリキャスト状況を他の連中に見せた。
手札の秘匿とか言ってる場合じゃねえし、俺の場合は手札が知られてもさして問題はない。
そういうデッキの組み方をしている。

「まずは現状確認だ。スペルはどれだけ残ってる?トーナメントで使った分のリキャは回ってねえだろ。
 俺は拘束スペルが4枚、妨害スペルが5、攻撃に使えるのは3だ。
 ただあのクラスの巨体に拘束がまともに効くかは分からねえ。火力に関しちゃ問題外だ」

それから――俺は真ちゃんの方に向き直った。

「あのミハエルとかいうガキ、お前とどっかで会ってるみたいな言い草だったな。
 タイラントの時みたいな白昼夢とかでも良い。あいつについて知ってること、全部話せ。
 ……一人で先走るのは、もうなしだぜ」

現状、真ちゃんは俺たちよりも情報面で一歩先にいる。
こいつの謎フラッシュバックになにか有用な情報があるならそれがベスト。
使えるものは何でも活用すべきだ。

「あの超レイド級に対してつけ入る隙があるとすれば、ミハエル自身ミドガルズオルムを制御しきってねえことだ。
 タイラントみたく目覚めたばっかで判断能力がないのか、『捕獲』がまだできていないのか。
 いずれにせよ、戦闘になればミハエルからミドガルズオルムになんらかのアクションを起こすはずだ。
 その隙を狙って、奴のタブレットを奪うなり破壊するなりすれば、ワンチャンあるかもしれねえ」

問題は、首尾よくミハエルからタブレットを取り上げられても、制御を失ったミドガルズオルムが暴走する可能性があることか。
だから、タブレットは破壊でなく回収して、アンサモンの操作をこっちで行う必要がある。

「狙撃は俺がやる。ヤマシタのオートエイムに命中バフをかければまず外さねえ。
 あとは……狙撃の護衛と、ミドガルズオルムを引きつける役、誰か手を挙げる奴はいるか?」


【超レイド攻略前の作戦会議フェーズ
 明神の提案:ミドガルズオルムを引き付け、隙を見つけてミハエルのタブレットを狙撃】

413五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2018/12/14(金) 21:15:14
戦いは最終局面を迎えようとしている
体勢を整えライフエイクとの決戦
だがその中においてみのりは違和感と共に一つの可能性を感じていた

カジノを崩壊させ一度戦いを止めたのは、ライフエイクを倒さない為であった
儀式は【万斛の猛者の血】が必要であり、その猛者はライフエイク自身も含まれている可能性が高いから
それどころか戦闘行為自体が当てはまる危険性すらあるからだ

しかしシメジからもたらされた情報により、儀式は二段階に分かれている可能性が出てきた
すなわち、【万斛の猛者の血】により伝承の人魚の女王を呼び出し、【人魚の泪】がリバティウムに流れた時点でミドガルズオルム……おそらくは超レイド級モンスターが出現する、というものだ

その違和感が確信に変わったのは瓦礫から現れたライフエイクの言葉
>私は“彼女”に用がある。そのために、長い長い年月を待ち続けたのだ。
>このときを幾とせ待ちわびただろう。王女をこの地上に引きずり出すための
これらの言葉であった

ライフエイクは人魚の泪が水の都を濡らした後に出現するミドガルズオルムについては一切言及していない
あくまで女王を、彼女を呼び出すことを目的としている口ぶりなのだから

なゆたの言うように【人魚の泪】獲得を目的としている自分たちとライフエイクの到達点は同じだ
問題はそのあと如何にミドガルズオルムが出現しないようにするか、という事に焦点が移るのだ
ならば戦いようもまた変わってくるというもの

>その気はないのだろう? その、ちっぽけなお嬢さんの命程度でも大騒ぎしていた君たちなのだからな」
「当たり前ですえ?命の大きさは関係性によって変わりますよってなぁ
あんたはんにとってはちっぽけな命でも、うちらにとっては限りなく大きなものや
同じようにあんたさんにとって大切な命はうちらにとっては限りなく小さなものやぁ云う事、忘れへんでおくれやすえ?」

ライフエイクの言葉に笑っていない目の笑みと共に返しながら、周囲にも話を伝える

「ベルゼブブの時にちょっとそうやったんやけど、知性の高いモンスターにヘイト獲得によるタゲ取り固定はあんまり効果あらへんようなんやね
本能的なヘイトより、感情的な憎しみや戦術の方が優先されるんやろねえ
まあつまりはアレは十分な知性を持っていて対MOBというより対人戦て感じでタゲ取りはあまり意味があらひんぽいんやわ〜
ほやから隙を見つけて物理的に絡みついて動きを封じるからイシュタルごと攻撃したてえな」

みのりに残されたスペルカードは少なく、縫合者(スーチャー)相手となると使えるカードはさらに制限される
フィールド属性を操作してもそれに合わせられては逆効果になるからだ
更にヘイト取りによるタゲ取りが効果ない以上、できる事はこのくらいしかないのだから

414五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2018/12/14(金) 21:17:27
だが、実のところ、みのりの取って重要なのはそこではない
いかにしてライフエイクを無力化した状態で儀式の第一段階【万斛の猛者の血】を揃え人魚を呼び出すか

伝承故に事実関係がどういったものかをそこから導き出すのは危険である
ライフエイクの目的がミドガルズオルムではなく人魚の女王【彼女】であるならば尚更、だ

故に人魚の制御の為にも生かしたまま【万斛の猛者の血】を揃える事が好ましい
この場でライフエイクが直々に戦っているのはおそらくあと一人二人の命で完成するはず
となると、いつ誰を殺すか……という話になるのだから
みのりにとって、命とは大小もあり順位付けができるものなのだから

勿論自分の考えが支持されるとは思っていない
故にあくまで戦闘中の犠牲であるように見せかける必要もあるのだ
みのりは左のペンギン袖の中で二台目のスマホを秘かに用意していた

先陣を切ったのは真一とエカテリーナ
二人がライフエイクに攻撃を加えるさまをみのりは漏らさずに見つめていた
一瞬のスキを突きイシュタルを突っ込ませるために

そのチャンスは真一の〈大爆発(ビッグバン)〉が炸裂した直後
絨毯上になったイシュタルが地を這いその爆心地へと滑りよる

爆炎が晴れたところで標的の足元に辿り着いたイシュタルは、そのタイミングを待っていたみのりは愛染赤糸(イクタマヨリヒメ)を発動させる直前に、それを見た
ライフエイクが背後から槍で貫かれる姿を
金髪碧眼の少年が槍でライフエイクを貫く姿を
そしてその金髪碧眼の少年の顔を


戦闘開始直後に戦闘の相手が倒された事
それによりみのりの考えていた戦闘プランが全て崩れた事
その相手が同じ異邦の魔獣使いである事
その顔と召喚された堕天使(ゲファレナー・エンゲル)によりそれが“金獅子”ミハエル・シュヴァルツァーである事
そして何より、異邦の地にて貴重な同じ飛ばされた人間と出会えたにもかかわらず言い知れぬ不安感を覚えた事


これらが交じり合い、数瞬の空白が生まれみのりは硬直してしまっていた
故にミハエルが魔法陣を展開し門を開いた時の対処が遅れた

ミハエルの言葉が正しければ出現したのは目的の人魚の女王
ライフエイクが殺されている以上、即座に確保しなければいけなかったにもかかわらず、だ

とはいえ、たとえ迅速に対処できたとしてもミハエルの言動から考えれば堕天使に阻止されていたであろう
>「さあ、諸君。ようやく舞台の準備は整った。――――戦争を始めるとしようじゃないか」
その言葉は海面から首を出してミドガルズオルムの圧倒的存在感が、そして言葉から感じられる狂気が強力に裏打ちをしていた


その事態を正確に把握し、的確な対処をとったのは明神であった
ミハエルに怒声を叩きつけながらも『迷霧(ラビリンスミスト)』を発動
態度とは裏腹な行動にみのりは感嘆の笑みを浮かべながらイシュタルをエカテリーナに飛び移らせる
真一に張り付いた藁人形からエカテリーナに一言「真ちゃんをお願いしますえ」と声をかけ走り出した

ミハエルと対峙した様子、タイラントの件を思えば暴走しかねない真一の撤退をエカテリーナに任せたのだ
ミドガルズオルムの出現、異邦の魔獣使いと深くかかわるローウェルの弟子であればミハエルの事も知っているかもしれない
状況を鑑みれば体勢を立て直す旨は伝わるであろう
その思惑を汲み取ってか、エカテリーナはミハエルを一瞥し虚構展開し真一とグラドを飲み込み虚空へと消えていった

415五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2018/12/14(金) 21:20:04
明神の後につき入り組んだ裏路地を駆けていく
ミドガルズオルムは猛り咆哮し、町は大混乱の坩堝と化している
だがそれもつかの間、伝承の通りだとすればすぐにも混乱の坩堝は阿鼻と叫喚の渦と化し一夜にして洗われ更地となるだろう

そんな中で開かれる作戦会議
それぞれの状態を確認作業に入るが、あえてみのりは状態を明かさず
「ほならうちがミドガルズオルムを抑えますわ〜
さっき言った通り、うちは対人戦よりああいったモンスター相手の方が力発揮できるよってな
勿論一人では無理やからこのお二人にご助力願いたいわー」
そういって目くばせする先は『十三階梯の継承者』が一人、"虚構"のエカテリーナ。
そして、『煌めく月光の麗人(イクリップスビューティー)』ステッラ・ポラーレであった

「お二人の力借りられれば意外とこっちの方がはよ終わるかもしれへんし、そうでなくてもやりようがあるよってなぁ」

レイドボスには即死攻撃は無効化という特性がついている
故にポラーレの『蜂のように刺す(モータル・スティング)』が通用するかどうかは不透明なところではあるが、軽く笑いを交えながら話すみのりはそれを承知の上でミドガルズオルムの抑えを申し出ているように話す
そしてそのまましゃがみ込みしめじと目線を合わせ、言葉を続ける

「それでしめじちゃんな、ポラーレのお姉さんはうちが借りてしまうし、このどさくさに紛れて逃げえな
あの金獅子さんはうちらと同じブレイブなんやわ、それも世界一の
多分真ちゃんとなゆちゃんが二人がかりでもまともに戦ったら勝てへん
隙を作るのがせいぜいやろし、守られへんし次は生き返れるとも限られんやしで、列車に戻っとき?な?」

ブレモンプレイヤー1000万人の頂点は伊達ではない
そのプレイ動画はみのりも何度も見ており、トッププレイヤーとの戦いにおいても派手な演出を優先させ尚且つ圧倒的にかつ戦術は目に焼き付いている
更にライフエイクの心臓をその手で貫く程にこの世界に、この世界の戦いに慣れ、言い知れぬ不安感を掻き立てさせるオーラ
今まで幾度も「勝てない」という判断を覆してきた真一達の事を考えても、もはやこの先どうなるかわからないのだから

「まあそれで、金獅子さん実物初めて見たけど、随分と拗らせているような御仁やったねえ
やる気満々で話しても埒が明かんように見えたけど……
ただ、金獅子さんがやった事は、うちらがやろうとしていた事そのものなんよね
その点は手間が省けたゆう事はあっても怒って敵対するようなはずやろ?
それを踏まえたうえで真ちゃんには思うところあるみたいやからうちも聞いときたいわぁ」

みのり自身もミハエルに対し言い知れぬ不安を感じていた
故に真一がミハエルを見た途端にタイラントに見せた時と同じような敵意をむき出しにした真意を聞いておきたかったのだった

【超レイド攻略前の作戦会議フェーズ
ミドガルズオルムを抑える役を買って出る
ポラーレとエスカリーテに協力要請
しめじに避難勧告
真一に真意を問う】

416佐藤メルト ◆tUpvQvGPos:2018/12/24(月) 16:59:25
>「フフフ……。フハハハハハハハハハ……!」

>「……ス……『縫合者(スーチャー)』……!」
>「どうなってんだ、『縫合者』はローウェルの死後に作り上げられたモンスターだろ。
>ローウェルの生きてるこの時間軸じゃ絶対に生まれるはずのない存在……」

「……『そんな事ある筈が無い』という思い込みを突く事は有効な戦略ですが、流石にこれは予想外です」

哄笑と共に瓦礫を潜り現れたライフエイク。
建造物の崩壊を受けて傷を負ってはいるものの、傷は浅く、戦闘には何の支障もない様だ。
その頑強さは恐るべきものであるが、しかしこれまでの戦いを見る限り、さもありなんと納得できる範囲のものでもある。
本当に驚くべきは、その容貌。
瓦礫によってはぎ取られたスーツの下に存在している、数多のモンスターを継ぎ合わせた様な異形の肉体。
複数の魔物を人工的に融合させたキメラというモンスターがいるが、ライフエイクの体を構成するモンスターの数と質はそれを遥かに上回る。
レイドボス級の魔物さえ縫い合わせ、己が一部とした外法の到達点が一つ。
その名を『縫合者(スーチャー)』。
ブレイブ&モンスターズのストーリー終盤において立ちはだかる強大なボスの名である。
当然、その強さは有象無象のレイドボスを凌駕しており、このリバティウムに現れるモンスターでは相手にならない程に、強い。

(しかも、白服ヤクザは正気を保っています。ストーリー上の『縫合者(スーチャー)』は、縫い合わされた魔物の怨嗟と適合不全による拒絶反応の激痛で発狂していたというのに……!)

正気を保った『縫合者(スーチャー)』……それはつまり、ランダムではなく己の意志で多数のスペルを使い分けて来る存在であるという事。
即ち、上位の『プレイヤー』に匹敵する戦力である可能性を有している事を意味している。
掌に浮かんだ汗を拭いながら、メルトは警戒を最大限に高め、明神の後ろに半身を隠しつつライフエイクを待ち受ける。
そして、そんなメルトを気に掛ける様子も無く、ライフエイクは尊大な態度を崩さず口を開く。

>「私は“彼女”に用がある。そのために、長い長い年月を待ち続けたのだ。
>諸君には、我が大願の礎となって頂こう――死にたくなければ戦うことだ。
>戦うことで万斛の猛者の血は蓄積され、私の開いた門と彼女のいる海底とが繋がれる。
>もし、私の望みを挫く方法があるとするなら……それは諸君らが無抵抗のまま死ぬ、という選択肢のみだが。
>その気はないのだろう? その、ちっぽけなお嬢さんの命程度でも大騒ぎしていた君たちなのだからな」

「っ……」

あけすけな挑発。だが、メルト、その言葉に反論が出来ない。
……恐怖だ。一度は自身を殺したライフエイクへの恐怖が口を噤ませ、足を震わせる。
彼女は思わず一歩、後ろへと下がり

417佐藤メルト ◆tUpvQvGPos:2018/12/24(月) 17:00:13
>「ハッ……何を言ってやがる。その問題には、第三の選択肢があるだろうが。
>これ以上無駄な血は流さず、人魚姫を喚び出させる前に、テメーをここで秒殺すれば終わる話だ」
>「当たり前ですえ?命の大きさは関係性によって変わりますよってなぁ
>あんたはんにとってはちっぽけな命でも、うちらにとっては限りなく大きなものや
>同じようにあんたさんにとって大切な命はうちらにとっては限りなく小さなものやぁ云う事、忘れへんでおくれやすえ?」
>「てめえの目論見なんざ知るかよ、ライフエイク。一人で気持ちよく演説打ってんじゃねえぞ。
>よくも……よくもしめじちゃんを刺しやがったな。俺の大事な友達を、殺しやがったな。
 その不細工なツラがまともに見れるようになるまでぶん殴ってやるから覚悟しとけ」

真一、みのり、明神

>「アンタが伝承のご当人だっていうなら、アンタに弄ばれた人魚姫のぶんまで殴り倒してやるだけよ!
>さあ――覚悟はいい? ライフエイク! アンタの最後のギャンブルを始めましょうか――!!」

そして、なゆた。

彼等、彼女等の強い言葉が。強い意志が。強い感情が。
誰かの為に怒る事が出来る――――そんな、当たり前のようで当たり前ではない善性が、メルトの震えを止めた。

>「いいだろう。ならば諸君は自らの全てをベットしたまえ。
>諸君らから全てを奪い――私は。私の目的を遂げさせてもらう!」

「……上等です。刺された私の痛みと恨みは、貴方の破産で埋め合わせて貰います」

そして、水の街にて異邦の勇者達と享楽の支配者との決戦の火蓋は切って落とされたのである。


> 「ヤマシタ、『ライトニングブラスト』」
>「――――〈三叉槍(トリアイナ)〉」
> 「虚構展開――――ッ!!」
>「離れろ、エカテリーナ! 行くぜ――〈大爆発(ビッグバン)〉!!」


メルトの眼前で、大規模スペルの打ち合いが始まった。
ライフエイクが予備動作すらなく水槍を撃ち放てば、真一は火炎推進(アフターバーナー〉のスペルを用いる事でグラドの限界速度を超過した回避を行う。
明神はその隙を突きライフエイクの弱点属性を突く事で気を逸らしつつ僅かとはいえHPを削る。
そのダメージを無視しつつライフエイクは真一の挙動を読み、背後からの急襲を試み……だが、第二戦力たる真一自身の機転により迎撃される。
そして、エカテリーナは銀狼へと変じライフエイクの腕を食い千切り、発生した致命的な隙を逃すことなく〈大爆発(ビッグバン)〉のスペルが叩き込まれる。
撃ち合い、読み合い、騙し合い。
ストーリー上の魔物相手とは違う。知略と戦略をぶつけ合うこの戦闘は、プレイヤー対プレイヤーの戦闘に酷似していた。

>「……やったか?」
「いいえ、『縫合者(スーチャー)』の耐久力と性質なら、おそらくは生存しています」

土煙に覆われた視界。
その先に居るであろうライフエイクに備え、メルトは『生存戦略』のスペルをいつでも起動できるように構える。
それほどに警戒をしていたが故だろうか。その声は、メルトの耳に確かに届いた。


>「――――この時を待っていたよ、ライフエイク」

418佐藤メルト ◆tUpvQvGPos:2018/12/24(月) 17:00:37
戦場と化しているこの場にそぐわぬ、鈴の様に透明な声。
その声を聞いた瞬間……メルトは、直感的に感じた。
それは――――『悪意』。
先程、ライフエイクに刺殺された時と良く似た……しかし、彼の黒い悪意とは異なる、言うなれば『白い悪意』。
言い知れぬ不安に追い立てられるように、ゾウショクを前に出すメルト。

やがて、周囲を覆っていた土煙が風で晴れると、其処には……倒れ伏すライフエイクと、その傍に立つ黒いローブを着込んだ少年の姿。

>「あいつは……!?」
>「タブレット、だと……?つまり奴は、俺たちと同じ――」

真一と明神の双方から驚愕の声が上がる。
前者は少年の事を知っているが故、そして後者は――――少年が手に持つタブレットから、『プレイヤー』である事を推察したが故。

>「召喚(フォーアラードゥング)――――〈堕天使(ゲファレナー・エンゲル)〉」
>「……そう焦るなよ。君たちには、これから紡がれる人魚姫の第二章を、特等席で見せてあげようというのだからさ」

そして、周囲の警戒や驚愕を受ける張本人たる少年は明神の推察が事実である事を裏付ける様に、魔物を『召喚』した。
召喚された魔物名は、堕天使(ゲファレナー・エンゲル)……少年の容貌と、堕天使。

「……ミハエル・シュヴァルツァー……?」

ブレイブ&モンスターズを齧った事の有る人間であれば多くが知っているだろう情報に、ここに来てメルトは思い至る。
そう。眼前に立つ少年は、ブレイブ&モンスターズにおける現王者。即ち、世界最強のプレイヤー。
そのミハエルの登場に誰もが困惑している最中、ミハエルは楽しげな様子で言葉を発する。

>「さあ、今ここに深淵の盃は満たされた。万斛の猛者の血を供物とし、冥府の扉を叩くとしよう。
>目覚めるが良い、人魚族の王女――――“マリーディア”よ」

そして――――言葉と共に『境界門』が開かれた。
カジノに存在していたものとは規模が違う、巨大な門。その中から現れるのは、無数の異形。
だが……その異形の群れの中で、一つだけメルトの見知った人影があった。

>「マリーディア……しめじちゃん、君が見た人魚姫ってのは、あいつか?」
「……そう、です。あの人です」

眼前に現れ――――ライフエイクの亡骸に縋り付き慟哭を上げているその人物は、確かにメルトが死の夢の中で見た女性と同一人物であった。
不気味ではあるが、あまりに悲壮な様子にメルトは声をかけようとし、その直後……海から現れた怪物の咆哮に動きを止めた。
振り返り見れば、そこには巨大な……全てを飲み込まんばかりに巨大な怪物の姿。
その姿を、メルトは知っている。観た事が有る。
海に顕現した怪物は、その怪物の名は

『ミドガルズオルム』

即ち、過去に国を滅ぼした最悪の化生だ。

419佐藤メルト ◆tUpvQvGPos:2018/12/24(月) 17:01:05
>「さあ、諸君。ようやく舞台の準備は整った。――――戦争を始めるとしようじゃないか」
>「人の頭の上で意味分かんねえこと抜かすなよクソガキ。なげえ御託は終わったか?
>まずそもそも誰だよてめーは。いきなり現れて好き勝手言ってんじゃあねえぞ」

心底楽しそうに、謳う様に語るミハエルと、消え去った人魚の女王、荒れ狂うミズガルズオルム。
それらの状況と異様に呑まれかけたメルトであったが、明神の罵倒により我に返る。
そして同時に……メルトの心にある感情が沸いてきた。
だが、今はそれをミハエルにぶつける時では無い。大事なのは、それを忘れない事。

>「おら、逃げるぞ。……良いから黙ってついてこい、俺に考えがある」
「はい。流石にアレと真正面からぶつかるのは愚策すぎます」

明神の『迷霧(ラビリンスミスト)』に紛れ、メルトはその場から逃走する。
全ては時間を稼ぐ為……この状況においては、正面突破など愚策も愚策
求められるのは、綿密な戦略だ。
恐らく、明神はその事を理解しているのだろう。また一つ、明神への評価を高めつつメルトは街を駆ける。

420佐藤メルト ◆tUpvQvGPos:2018/12/24(月) 17:01:38
>「さあ、諸君。ようやく舞台の準備は整った。――――戦争を始めるとしようじゃないか」
>「人の頭の上で意味分かんねえこと抜かすなよクソガキ。なげえ御託は終わったか?
>まずそもそも誰だよてめーは。いきなり現れて好き勝手言ってんじゃあねえぞ」

心底楽しそうに、謳う様に語るミハエルと、消え去った人魚の女王、荒れ狂うミズガルズオルム。
それらの状況と異様に呑まれかけたメルトであったが、明神の罵倒により我に返る。
そして同時に……メルトの心にある感情が沸いてきた。
だが、今はそれをミハエルにぶつける時では無い。大事なのは、それを忘れない事。

>「おら、逃げるぞ。……良いから黙ってついてこい、俺に考えがある」
「はい。流石にアレと真正面からぶつかるのは愚策すぎます」

明神の『迷霧(ラビリンスミスト)』に紛れ、メルトはその場から逃走する。
全ては時間を稼ぐ為……この状況においては、正面突破など愚策も愚策
求められるのは、綿密な戦略だ。
恐らく、明神はその事を理解しているのだろう。また一つ、明神への評価を高めつつメルトは街を駆ける。

421佐藤メルト ◆tUpvQvGPos:2018/12/24(月) 17:01:59
それは、メルトに対する撤退の勧め。
……考えてみれば、当然であろう。現状、メルトはただの足手まといだ。
モンスターは弱く、スペルの構成も脆弱。挙句に、真一の様に本人が戦える訳でもない。
今までは状況からパーティに寄生していたが、それぞれが命懸けのこの状況では、余計な荷物は死因になりかねない。
言葉を受けた直後こそ困惑したが、メルトは年齢に沿わない思考を有している……故に、小さくぎこちない笑みを作り口を開く。

「わかりました……けれど、出来る事はやっておきたいと思います。
 なので、逃げる途中で『戦場跡地』のスペルで街の人達を追い立てて、街から逃がしてみようと思いますが、良いでしょうか……?」

しおらしい返事。いかにも初心者で、いかにも純朴な子供の様な返事だ。
だから当然――――メルトの内心は言葉とは異なっている。

悪質プレイヤーの獲物を横殴りし、ドロップアイテムを奪うような存在。
自身の知らないルールの穴を用いて、自身を嵌めようとする存在。
自信に溢れ、人から愛され、才能に恵まれた存在。

それらは全て、メルトが嫌悪する人間だ。
故にメルトはミハエルに一矢報いる事を画策する。これは、悪質プレイヤーなりの復讐だ。
世界最強がどうしたというのか。表舞台での絶対強者を舞台の外で闇討ちするのが自身の在り方。
自信が奪うのは構わない――――けれど、自身から奪った者には、相応の損失を。

ポケットに仕舞った【狂化狂集剤(スタンピート・ドラッグ)】。
ガンダラで入手した、プレイヤーが入手できないイベント専用アイテムを確認し、真一の話を聞きつつメルトは脳裏で戦略を練り上げる

422佐藤メルト ◆tUpvQvGPos:2018/12/24(月) 20:47:11
>「まずは現状確認だ。スペルはどれだけ残ってる?トーナメントで使った分のリキャは回ってねえだろ。
>俺は拘束スペルが4枚、妨害スペルが5、攻撃に使えるのは3だ。
>ただあのクラスの巨体に拘束がまともに効くかは分からねえ。火力に関しちゃ問題外だ」

「私は……」

始まった作戦会議。その中でスペル確認を求められたメルトは、一瞬躊躇いつつも言葉を紡ぐ。

「状態異常付与が1つ、行動阻害スペルが2つ、状態異常耐性弱体スペルが1つ、回復スペルが2つです……すみません。攻撃に使える物は一つも持っていません」

手札を晒しつつ、謝罪するメルト。
彼女の持つスペルとユニットカードは、ほぼ全てがレア度コモンのカード。
挙句に仕様はプレイヤーへの嫌がらせに特化している。恐らく、ミズガルズオルムに対しては役に立つ事は無いだろう。
唯一「勇者の軌跡」というスペルカードは強力だが……このカードは、ブレイブ&モンスターズにおいて、そもそも実装されていない。
つまり、非合法の手段を用いて入手しているカードだ。ギリギリまで使用も存在を明かすつもりは無いらしい。
最も、蘇生時にスマホを確認されている為、他の面々には承知されてしまっている可能性もあるのだが……死んでいたメルトにはそれは与り知らぬ事だ。

>「狙撃は俺がやる。ヤマシタのオートエイムに命中バフをかければまず外さねえ。
>あとは……狙撃の護衛と、ミドガルズオルムを引きつける役、誰か手を挙げる奴はいるか?」
>「ほならうちがミドガルズオルムを抑えますわ〜
>さっき言った通り、うちは対人戦よりああいったモンスター相手の方が力発揮できるよってな
>勿論一人では無理やからこのお二人にご助力願いたいわー」

そしてどうやら、作戦はミハエルのタブレットを潰す方向で動き始めたらしい。
明神の立てた戦略と、みのりが担うと宣言したミドガルズオルムの引きつけ。
この状況において、メルトは自身がどう動くか思考を巡らせていたのだが、そんなメルトにみのりが声を掛ける。

>「それでしめじちゃんな、ポラーレのお姉さんはうちが借りてしまうし、このどさくさに紛れて逃げえな
>あの金獅子さんはうちらと同じブレイブなんやわ、それも世界一の
>多分真ちゃんとなゆちゃんが二人がかりでもまともに戦ったら勝てへん
>隙を作るのがせいぜいやろし、守られへんし次は生き返れるとも限られんやしで、列車に戻っとき?な?」

「え?」

それは、メルトに対する撤退の勧め。
……考えてみれば、当然であろう。現状、メルトはただの足手まといだ。
モンスターは弱く、スペルの構成も脆弱。挙句に、真一の様に本人が戦える訳でもない。
今までは状況からパーティに寄生していたが、それぞれが命懸けのこの状況では、余計な荷物は死因になりかねない。
言葉を受けた直後こそ困惑したが、メルトは年齢に沿わない思考を有している……故に、小さくぎこちない笑みを作り口を開く。

「わかりました……けれど、出来る事はやっておきたいと思います。
 なので、逃げる途中で『戦場跡地』のスペルで街の人達を追い立てて、街から逃がしてみようと思いますが、良いでしょうか……?」

しおらしい返事。いかにも初心者で、いかにも純朴な子供の様な返事だ。
だから当然――――メルトの内心は言葉とは異なっている。

悪質プレイヤーの獲物を横殴りし、ドロップアイテムを奪うような存在。
自身の知らないルールの穴を用いて、自身を嵌めようとする存在。
自信に溢れ、人から愛され、才能に恵まれた存在。

それらは全て、メルトが嫌悪する人間だ。
故にメルトはミハエルに一矢報いる事を画策する。これは、悪質プレイヤーなりの復讐だ。
世界最強がどうしたというのか。表舞台での絶対強者を舞台の外で闇討ちするのが自身の在り方。
自信が奪うのは構わない――――けれど、自身から奪った者には、相応の損失を。

ポケットに仕舞った【狂化狂集剤(スタンピート・ドラッグ)】。
ガンダラで入手した、プレイヤーが入手できないイベント専用アイテムを確認し、真一の話を聞きつつメルトは脳裏で戦略を練り上げる、

423崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2018/12/27(木) 16:33:31
「金獅子……ですって……!?」

まったく唐突に、なんの前触れもなく現れては怨敵ライフエイクを殺害した少年の姿を見て、なゆたは瞠目した。

ミハエル・シュヴァルツァー。
世界的人気を誇る覇権ゲー『ブレイブ&モンスターズ』の頂点に立つ者。
金獅子、ミュンヘンの貴公子などと呼ばれる彼のことを、なゆたもブレモンプレイヤーとして当然のように知悉している。
過去数回行われ、我こそ最強との絶対の自信を誇る各国のトッププレイヤー、廃課金者、プロゲーマーが出場した世界大会。
その何れもで圧倒的な強さを見せて優勝した彼の顔と名前を、よもや間違えるなどということはあり得ない。

そのミハエルが、なぜこのアルフヘイムにいるのか。なぜリバティウムにいるのか。
なぜ、自分たちの敵として立ちはだかっているのか――

その全てに対して、なゆたは何らの理解に到達することもできなかった。

>さあ、諸君。ようやく舞台の準備は整った。――――戦争を始めるとしようじゃないか

ミハエルが大きく両手を広げる。その姿はまるで、これから演奏を始めようとする指揮者(コンダクター)のようだ。
実際、ミハエルは奏でるつもりなのだろう。
人々の悲鳴を。阿鼻と叫喚を。
嘆きを、怒りを。蘇った伝説の魔物の咆哮を。――破滅の音楽を。

ミハエルが何の目的でそれをしようとしているのかも分からない。正常な人間の思考としては度を越えている。
だが、彼が冗談や酔狂でそんなことをしようとしているのではない、ということだけは、どうにか理解できた。

>おら、逃げるぞ。……良いから黙ってついてこい、俺に考えがある

明神がスペルを発動させ、一行は路地裏にいったん退避した。
背後では派手な砲撃の音や、人々の逃げ惑う声。建物が破壊される轟音が鳴り響いている。

世界蛇ミドガルズオルム――通常のボスキャラであるレイド級モンスターをはるかに超越した、超レイド級。
もはや天災にも等しいその暴威を前に、リバティウムが瞬く間に瓦礫と変わってゆく。

>まずは現状確認だ。スペルはどれだけ残ってる?トーナメントで使った分のリキャは回ってねえだろ。

「ゴッドポヨリンは使えない……わたしが『分裂』のスペルカードを使いきっちゃったから。
 どのみちあの超レイド級には効かないだろうけど。今は、ベストコンディションの三分の一ってところかな……」

スマホを手繰り、手持ちのスペルを確認する。
ポラーレとの戦いで、主なカードは使用してしまっている。リキャストするのは最低でも明日の話だろう。
つまり――なゆたとポヨリンは戦いにはまるで役に立たない、ということだ。
手向かったところで、敵とさえ認識されず跳ね返されるのがオチだろう。

>あの超レイド級に対してつけ入る隙があるとすれば、ミハエル自身ミドガルズオルムを制御しきってねえことだ。
>その隙を狙って、奴のタブレットを奪うなり破壊するなりすれば、ワンチャンあるかもしれねえ
>あとは……狙撃の護衛と、ミドガルズオルムを引きつける役、誰か手を挙げる奴はいるか?

「…………」

明神が作戦の提案をするのを、なゆたは黙して聞いた。
確かに、現状ミドガルズオルムは見境なく暴れているだけのように見える。
とすれば、明神の言う通りミハエルの持つタブレットさえ奪ってしまえば、何とかなる……のかもしれない。
狙撃の護衛は難しい。元々なゆたのデッキは防御向けではないバリバリのアタッカーである。
それはみのりの方が相応しいだろう、と思う。実際にみのりがその役目に立候補した。
残る役目は囮だが、それもできるとは言えない。何せスペルカードが足りないし、囮とは何よりも目立つ必要がある。
蟻のような小ささのなゆたとポヨリンがミドガルズオルムの足許をうろついたとしても、一顧だにされないだろう。
現状、なゆたに出来ることは何もなかった。せいぜいがリバティウム住民の避難誘導くらいか。

だが、なゆたが沈黙していた理由は護衛や囮の役に立てないから――ということだけではなかった。

424崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2018/12/27(木) 16:38:22
>お二人の力借りられれば意外とこっちの方がはよ終わるかもしれへんし、そうでなくてもやりようがあるよってなぁ

「ううむ……私の『蜂のように刺す(モータル・スティング)』は必殺にして極美の攻撃だが、さすがに自信はないな。
 サイズが違いすぎる。試してはみるがね。
 本来諸君とは正式な契約を結んでいないから、モンスターとして君たちの指示を受けることは御免蒙るが――。
 共闘ということならいいだろう。弟から君たちのことを頼まれているということもある。
 ここで君たちを死なせて、涙に暮れる弟を慰める方が私にとっては骨だ」

そう言って、ポラーレはばちーん!と長い睫毛とメイクに彩られた片目をウインクさせた。快く手を貸すと言っている。
エカテリーナも同様に協力を快諾するだろう。どのみち、どうにかしなければならない相手だ。野放しにはできない。

>それでしめじちゃんな、ポラーレのお姉さんはうちが借りてしまうし、このどさくさに紛れて逃げえな
>わかりました……けれど、出来る事はやっておきたいと思います。
 なので、逃げる途中で『戦場跡地』のスペルで街の人達を追い立てて、街から逃がしてみようと思いますが、良いでしょうか……?

みのりがメルトにも避難勧告を行う。
当然だ、何せメルトは先程まで死んでいたのだから。体力だって充分に戻っていないだろうし、彼女にできることはない。
尤も、なにもできないのは自分だって同じだ。であるなら、いっそメルトを保護して一緒に列車に戻るべきなのかもしれない。
足手まといにならない――それが非戦闘員にできる、唯一にして最高のサポートなのだから。

>それを踏まえたうえで真ちゃんには思うところあるみたいやからうちも聞いときたいわぁ

みのりが真一に問う。それは、少し前に明神が真一に対して告げた問いとほとんど同じだった。
そして、なゆたもそれに同意する。
自分たちがミハエルに会うのはここが初めてだったが、真一だけは先んじて彼に会っていたかのような反応を見せていたからだ。
だとすれば。ふたりの間にはどんな因縁があるのか?それを聞いておかない限り、こちらも対策の取りようがない。

「……真ちゃん」

小さく呟く。今は、真一が短慮を起こさず冷静に事態の収拾に務め、情報を開示してくれることを願うのみだ。

真一の話を聞き、なんとか事情を理解して、なゆたは改めて頭の中で状況を整理する。
ミハエルは恐らく、ずっと前から自分たち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を監視していたのだろう。
そして、一網打尽に撃滅する機会を窺っていた。自らの敵として。

――わたしたちは、アルフヘイムの『王』に召喚された。でも彼は違う……?
――彼はニヴルヘイムの何者かによって、この世界に召喚されたってこと? だからアルフヘイム破壊のために行動している?
  
真一からの情報を聞いてなお、不確定で不明な要素が多すぎる。なゆたは右手を顎先に添え、俯いて眉を顰めた。
ひとつ言えることは、ミハエルはこのまま矛を収めはしないだろうということ。リバティウムを破壊し尽くすだろうということ。
ここで踏ん張らなくては――自分たちは死ぬ、ということ。

ならば。

――どうすれば、ミドガルズオルムを鎮めることができるの……?

パーティーの皆が皆、対ミドガルズオルムの方策を模索する中、なゆたもまた頭をフル回転させてあらゆる可能性を探った。

ミハエルの説得――不可能。
ガチンコの殴り合いでミドガルズオルムを制す――不可能。
援軍――期待薄。仮に来たところで返り討ちに遭い、被害が増す確率高し。
諦めて逃げる――論外。

なんとか知恵を絞って、ミドガルズオルムを戦い以外の方法で鎮めなければならない。
そう。撃破するでなく、封印するでなく。
あの超レイド級モンスターを『鎮める』方法を。

425崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2018/12/27(木) 16:43:32
なゆたの心の中で、ずっとずっと引っかかっていることがある。
それは『人魚の泪』の根幹にかかわること。悲劇の御伽噺の中では語られることのなかったこと。

『メロウの王女は、なぜ泣いた?』

その一点が、御伽噺を聞いた瞬間からずっとなゆたの胸に棘のように突き刺さっている。
普通に解釈すれば、王女は愛を誓い合ったはずの青年に裏切られたことに対して絶望し、怒り、慟哭したのであろう。
その尽きせぬ憤怒が、怨嗟が、結果として世界蛇の降臨を招いた。そう考えるのが普通だ。
しかし。

――本当にそう? 彼女は……怒りや憎しみで涙を流したの?

なゆたには、それがどうにも腑に落ちない。
メロウの王女は心優しい女性だった。どんな種族も互いに理解し合い、手を取り合い、愛し合えると信じて疑わなかった。
侵略の脅威におびやかされても、決して希望を捨てなかった。愛し合い、認め合い、理解し合うことを願った。
王国が滅びても。最後のひとりになっても。

そんな王女が、最後の最後に自らの信念を捨てるだろうか?
愛は幻想だった。融和など空言だった。自分のしてきたことは全くの無意味だった、世界は絶望で満ちていると――
そう、思うだろうか。
もちろん、なゆたには王女の気持ちなど分からない。ただ想像するだけだ。
実際にはその通りだったのかもしれない。心から愛したはずの、分かり合えたはずの恋人の姿を敵の陣中に見出し。
裏切られた、と憎悪の念に身を焦がしながら死んでいったのかもしれない。王女の気持ちは、王女本人にしか分からない。

けれども。……それでも。

――違う。

なゆたは、そう断言した。
絶望はしただろう。慟哭もしただろう。その悲しみはいかなる海溝よりも深く、どんな高峰よりも高かったはず。
けれど。『悲しみには種類がある』。
憤怒や怨嗟の念によって励起された悲しみでなく、きっと王女の悲しみは――

『自らの愛が足りなかった。愛する彼を過ちの道から救い出すことができなかった』

そんな、自責の念から導き出された悲しみだったのではないか――と、なゆたは思った。
なゆたがそんな理解の方向に至ったのには、理由がある。
それはとれもなおさず『なゆたにもそういう経験があるから』だった。

かつて真一が不良としてケンカに明け暮れていた頃、なゆたはそんな真一を更生させようとずいぶん骨を折った。
真一につっけんどんで素っ気ない態度を取られても、決して諦めなかった。鬱陶しいくらい付き纏った。
自分が胸襟を開いて話し合えば、きっと真ちゃんはわかってくれる。ケンカもやめてくれる。
昔みたいに仲良くできる――そう信じて疑わなかったから。

尤も、そんななゆたの献身はことごとく空振りに終わり、僧侶である父に『あの年頃の男の子はそういうもんだ』と諭され。
父の助言に従ってほんの少しだけ距離を取ると、真一はいつの間にか不良を卒業して元に戻っていたのだが。

もちろん、なゆたの体験がそのままメロウの王女に当てはまるということはないだろう。
その証拠に、御伽噺の中の王女はライフエイクへの説得を試みることなく自害してしまっている。
だが、なゆたはこれだけは誓って断言できるのだ。

『一度裏切られたくらいでダメになってしまうほど、恋ってものはヤワじゃない』と――。

メロウの王女がミドガルズオルムを召喚してしまったのは、彼女の意思によるものではないとなゆたは考える。
ミドガルズオルム召喚のトリガーはあくまで王女の魔力でしかなく、それが解放されるプロセスなどは関係ないのだ。
だとするなら。望まぬ召喚によって狂乱を強いられているミドガルズオルムがミハエルに従わないのは当然と言えよう。

426崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2018/12/27(木) 16:45:52
また、ライフエイクについても謎がある。
みのりが内心で気付いたように、またなゆたもその違和感に気付いていた。
ライフエイクはミドガルズオルムの召喚に関しては、ただの一言も言及していない。
まるで、ミドガルズオルムのことなど最初から知らないか――『そんなものに興味はないとでも思っているかのように』。
そうだ。
ライフエイクの望みは、あくまでもメロウの王女。かつて愛し合い、自ら裏切った恋人との邂逅にあったからである。
で、あるならば。ミハエルが味方であるはずのライフエイクを殺害したのも説明がつく。
ミハエルの目的はミドガルズオルム復活とアルフヘイムの破壊にあったが、ライフエイクはあくまで王女との再会が目的。
両者の目論み、そしてその到達点には明らかなズレがある。
だからこそミハエルは最後の万斛の猛者としてライフエイクを選び、用済みになった者の排除と計画の成立を成し遂げたのだ。

メルトの指摘通り、ゲームのイベント内で接敵する『縫合者(スーチャー)』は正気を失い、発狂していた。
縫い合わされた魔物の怨嗟と、適合不全による拒絶反応。
それらが齎す激痛はいとも簡単に本体の理性を、人格を、ありとあらゆるパーソナリティを揮発させてしまう……はずである。
だというのに、ライフエイクは正気を保っていた。しかも、現実が御伽噺に代わるほどの長い年月を。
それは、まさに常人には想像さえつかない強固な意志力。精神力の賜物ではなかったのか?

ライフエイクにそれほど長い間正気を保たせた、その意志の源とは何か?
それもまた王女の気持ちと同様に想像するしかなかったが、なゆたにはひとつ心当たりがあった。

人の命を捨て、人ならぬモンスターになってまで、ライフエイクが追い求めたこと。
想像を絶する激痛に抗いながら、長い長い年月を待ち続けた、その真意。
それがもし、なゆたの想像する通りのものだったとしたら――。

「……みんな。わたしに考えがある。力を貸してくれる……?
 うまくいけば、ミドガルズオルムを鎮められる。金獅子の鼻を明かしてやれる。すべてが丸く収まる……。
 そして――きっと。わたしたちは『それをするためにここにいる』んだ」

決然とした表情で、なゆたはパーティー全員の顔を見回した。
ミドガルズオルムを力で打倒することはできない。明神が最初に考えた作戦通り、ミハエルからタブレットを奪う必要がある。
従って最初は明神に巧くその作戦を為遂げてもらわなければならない。
自分の作戦は、その先。ミドガルズオルムにどう対処するか?という点に主眼が置かれていた。
世界一のプレイヤーであるミハエルに制御できないものが、自分たちにできるとは到底思えない。
よしんば制御できたとしても、王女の嘆きの具現であるミドガルズオルムを通常のモンスターとして使役なんてできなかった。
それは文字通り、王女に永劫の慟哭を強いる行為だからである。
また、これまで通り王女を海底に還したとしても、それは根本的な解決にはならない。
王女が海底で哭き続ける限り、いつまたミハエルのような邪悪な目論みを企てる者が出ないとも限らない。
メロウの王女の悲恋に関する伝承は、尽きせぬ哀しみは、ここで終止符を打たなければならないのだ。

なゆたは仲間たちから視線を外すと、

「ポヨリン!」

そう、鋭く呼んだ。

『ぽ、ぽよよっ……!ぽよ〜っ!』

やや離れた場所からポヨリンの声がする。見ればポヨリンは何かをずるずると引きずり、こちらに運ぼうとしている最中だった。
それは、ミハエルによって心臓を貫かれたライフエイクの亡骸。
ポヨリンはなゆたの作戦によって、いち早くライフエイクの亡骸を回収しに行っていたのだ。
なゆたは仲間たちに自分の考えを手短に説明した。

「人魚姫の泪が憎悪や怒りによるものじゃなく、あくまでも愛によるものなら。
 ライフエイクが人の姿を捨ててまで求めたものが、人魚姫との再会にあるのなら。
 活路はそこにある……シンプルな話よ。わたしたちはただ『ふたりを会わせてあげればいい』――!」

とはいえ人魚姫は人魚の泪に変わってしまったし、ライフエイクは死んでいる。
再会も何もあったものではない――が。

427崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2018/12/27(木) 16:50:21
「ライフエイクが『縫合者(スーチャー)』でよかったわ。グロいしキモいし、全然わたしの趣味じゃないけど。
 でも――わたしでも簡単に生き返らせられるから」

なゆたはそう言うとライフエイクの亡骸を一瞥し、スマホをタップした。
そして『高回復(ハイヒーリング)』のスペルを切る。
ライフエイクの肉体が淡い治癒の光に包まれ、ミハエルによって開けられた胸の大穴が塞がってゆく。
普通なら、肉体の欠損を復元させたところで一旦死んだ者が生き返ることはない。
しかし、ライフエイクは『縫合者(スーチャー)』。
複数体の魔物の肉を、命を繋ぎ合わせ、人外の生命を獲得したレイドボスであった。

『縫合者(スーチャー)』は繋ぎ合わせた魔物の数だけ固有スキルを行使できる。
そして、ゲーム内ではvs『縫合者(スーチャー)』戦の際、プレイヤーはその身体にある複数のターゲットを選択し攻撃するのだ。
つまり――

ライフエイクの命は、ひとつではない。

「……がはッ!」

傷がすっかり塞がると、それまでぴくりとも動かなかったライフエイクの肉体が僅かに震える。
やがてライフエイクは苦しげに一度血を吐くと、うっすら目を開けた。

「……どういう……ことだ……?」

穴の開いていたはずの胸に触れ、上体を起こしたライフエイクが呟く。
なゆたは腕組みしてリバティウムの支配者を見下ろした。

「アンタのことはムカつくし、しめちゃんを一度は殺した敵だし。絶対に許してなんてやらないけど。
 でもね……それじゃ何の解決にもならないから。第一、アンタの恋人が悲しいって泣いてるから。
 だから。……アンタの望み、叶えてあげる。王女さまに会いたいんでしょ? そのために、何千年も過ごしてきたんでしょ?」

「……なんだと? 正気かね……? 私は君たちの敵だぞ? 君たちの命など顧みもしない。
 目的のためには手段を選ばない男だぞ……?」

ライフエイクが怪訝な視線を向ける。
この水の都で気の遠くなる年月を過ごし、カジノの胴元として権謀術数の中に身を置いてきた男だ。
なゆたの行動が理解できないというのも無理からぬ話だろう。
だが、そんなことはなゆたには関係ない。びっ、と右手の人差し指でミハエルとミドガルズオルムの方を指差す。

「うっさい! つべこべ言うな! さあ、王女さまはあっちよ。金獅子の手の中で、王女さまが待ってる。
 会いに行きなさい――そして、言いたいこと全部。ぶちまけてきなさい!
 その上で、アンタがまだ王女さまを泣かせるなら。そのときこそ、全身全霊でアンタをぶん殴る!!」

なゆたは叫んだ。
そして、パーティーの皆にもできる限りライフエイクがミハエルへと到達する手助けをしてほしい、と頼む。

「わたしのしてることは間違ってるかもしれない。致命的な過ちなのかもしれない。
 でも……ごめん。わたしはそれをしたいんだ。人魚姫の涙を、止めてあげたいんだ。
 みんな、お願い……力を貸して!
 ポヨリン、いくわよ!」

『ぽよっ!』

スマホをタップし、残り少ないカードを選ぶ。ポヨリンが魔力の煌めきを帯びる。
ミハエルの身は、彼に守護天使の如く寄り添う『堕天使(ゲファレナー・エンゲル)』が守っている。
ライフエイクがミハエルに到達し、その手の中の『人魚の泪』を奪取するのは至難の技であろう。
だが、なゆたはそれが成されることを信じた。当然、それは可能であるべきと思った。


なぜならば――


悪者の手の中に囚われた王女というものは、古今東西。恋人の手によって取り戻されなかったことがないからである。


【ライフエイクを蘇生させ、無理矢理味方に。王女との再会によるミドガルズオルムの沈静を画策】

428名無しさん:2019/01/09(水) 21:50:14
>「うっさい! つべこべ言うな! さあ、王女さまはあっちよ。金獅子の手の中で、王女さまが待ってる。
 会いに行きなさい――そして、言いたいこと全部。ぶちまけてきなさい!
 その上で、アンタがまだ王女さまを泣かせるなら。そのときこそ、全身全霊でアンタをぶん殴る!!」

なゆたの啖呵を聞いたライフエイクは吹っ切れたようにふっと笑った。

「いや、全く違うはずなのにどこかアイツに似ていると思ってな」

彼は、かつてとある大国の王子だった。
幾星霜もの年月の果てに今では姿も忘れてしまった何者かに、言葉巧みに騙されたのだ。
曰く、メロウの国がその強大な魔力を用いての地上の侵攻を企んでいる
自分を匿ったのは、地上の情報を引き出すための策略だった――
誓い合った愛も偽りで、ただ篭絡されて騙されていただけなのだと。
潰さなければ潰される――そう思い込まされた彼は、苦悩の末にメロウの国の侵略を決めた。
王女の慟哭を聞き、自らが正体知れぬ悪意の罠にはまったのだと気付いた時には、何もかも遅すぎた。
その時彼は決意した。どんなに長い時がかかろうと、どんな手段を使ってでも王女と再会すると。
人の身を捨て《縫合者(スーチャー)》となり、狂気に堕ちてもその目的だけは決して忘れることは無かった――
そして今。まんまとミハエルに利用され、またしても同じ過ちを繰り返してしまった。
しかし以前と違うことは、今回はまだ挽回できるかもしれないということだ。
自らの目的のために容赦なく踏み躙ったにも拘わらず、それでも尚手助けしてくれる酔狂者がいるのだから。

「ミハエル――貴様の好きなようにはさせない!」

ライフエイクはミハエルを睨み据え、一歩一歩歩みを進めていく。

「ふふっ、あははははは!  予想外の展開だ!
僕の考えた筋書きとは違うがこれはこれで面白いじゃないか!
いいだろう、止めてみたまえ。出来るものならね!
――〈堕天使(ゲファレナー・エンゲル)〉! 全力で相手をして差し上げろ!」

ミハエルは余裕綽綽な態度で〈堕天使(ゲファレナー・エンゲル)〉にライフエイクの阻止を命じた。

429カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/01/21(月) 23:40:33
【キャラクターテンプレ】

名前: 美空 風羽(みそら かざは)→カザハ
年齢: 気分は永遠の17歳→マジで外見17歳
性別: 女→少年型
身長: 165→165
体重:標準→風の妖精なのでとても軽い
スリーサイズ:標準→少し細身
種族: 人間→シルヴェストル(風の妖精族)
職業: 窓際会社員→異邦の魔物使い?
性格: 地球では冴えない陰キャラだったがこの世界で秘めたる愛や勇気を開花させていく……のか!?
特技: 弟を尻に敷くこと(色んな意味で)
容姿の特徴・風貌: 少し尖った耳に薄緑色のセミショートヘアー、いかにもな風魔法使いっぽい服装
簡単なキャラ解説:
地球では地味で冴えないオタ会社員で、両親は2年ほど前に謎の失踪を遂げ、実家で弟と二人暮らしをしていた。
スマホゲームは管轄外だったが、世界的プレモンプレイヤーの謎の失踪のネットニュースを見て
弟と一緒に興味本位でダウンロードしたところ、起動した瞬間にトラックが自宅に突っ込んできた。
その拍子に二人揃って異世界転移。
何故かその際に種族まで変わり、少年型のシルヴェストル(風の妖精)となっていた。
ついでに少しばかりの戦闘能力も得たようで、弟(下記)の背に騎乗し一体となって戦う戦闘スタイルを取る。
尚、地球での生死は不明。

【パートナーモンスター】

ニックネーム:カケル(人間だった頃の名前は美空 翔(みそら かける))
モンスター名: ユニサス
特技・能力: 高速飛行・風の攻撃魔法と低威力の回復魔法が使用可能・角と蹄を使った近接戦も少々
容姿の特徴・風貌: 角と翼の生えた白馬 つまりユニコーン+ペガサス
簡単なキャラ解説:
就職に失敗し姉宅(実家)の自宅警備員兼家政夫を務めていた弟。
この度の異世界転移で人型ですらない種族になってしまった上に姉のパートナーモンスター扱いに。
姉には元から尻に敷かれていたが文字通りの意味でも尻に敷かれる羽目になってしまった。
テレパシーのようなもので姉とは意思疎通ができる。

【使用デッキ】

・スペルカード
「真空刃(エアリアルスラッシュ)」×2 ……対象に向かって真空刃を放つ。
「竜巻大旋風(ウィンドストーム)」×2 ……竜巻を発生させて攻撃。
「俊足(ヘイスト)」×2 ……対象の移動速度・素早さを飛躍的に向上させる。
「自由の翼(フライト)」×2 ……物にかけた場合、浮遊させて意のままに動かす。
敵にかけた場合、相手の抵抗を破れば同上。味方にかけた場合は対象に飛行能力を与える。
「瞬間移動(ブリンク)」×2 …… 対象を瞬間的に風と化すことで近距離感を瞬間移動。
「烈風の加護(エアリアルエンチャント)」×2 ……対象の体にかけた場合は風の防壁を纏わせる。
武器や爪にかけた場合は風属性の攻撃力強化。
「風の防壁(ミサイルプロテクション)」×1……飛び道具による攻撃を防ぐ防壁を展開
「癒しのそよ風(ヒールブリーズ)」×1 …… 一定時間中味方全体の傷を少しずつ癒し続ける。
「癒しの旋風(ヒールウィンド)」×1 ……味方全体の傷を癒やす。
「浄化の風(ピュリフィウィンド)」×1 ……味方全体の状態異常を治す。

・ユニットカード
「風精王の被造物(エアリアルウェポン)」×3 ……風の魔力で出来た部防具を生成する。
「風渡る始原の草原(エアリアルフィールド)」×1……フィールドが風属性に変化する。
「鳥はともだち(バードアタック)」×1……大量の空飛ぶモンスターを召喚し突撃させて攻撃

430カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/01/21(月) 23:41:47
阿鼻叫喚のリバティウム。
逃げ惑う群衆の中に、一人の少年がいた。といっても人間ではない。
薄緑色の髪に少し尖った耳――アルフヘイムに存在する種族の一つ、風の妖精シルヴェストルだ。

「あれは世界蛇”ミドガルズオルム”……伝説は本当だったのじゃ!
もうこの街はおしまいじゃぁあああああ!」

やたらと説明臭い台詞で絶望している爺さんを尻目に、少年はどさくさに紛れて、
どういう原理か翼生えた白馬を召喚し、飛び乗る。

「早く逃げるよ!」

しかし、白馬の方は飛び立つ様子はない。

《……戦わなくて良いのですか?》

「アホか! あんなんと戦ったら死んじゃうじゃん! もう死んでるかもしれないけど!」

《姉さん、小学生のころの将来の夢が勇者でしたよね。
16歳の誕生日に親から伝説の剣を渡されて実は代々続く勇者の一族であることが明かされて
魔王を倒す旅に出るんだって言ってましたよね》

「黒歴史を掘り起こすんじゃねぇ!」

《その心配は無用です。私の声、姉さん以外には聞こえませんから》

普段ならそれはそれで一人で馬と会話している危ない人に見えるだろうが、
尤も、この状況では誰も他人のことを気にしている余裕はないのでどちらにしろその心配は無用だ。
一人と一匹が押し問答をしているうちに、この辺でこいつらの境遇を説明しておこう。
一言で言うとブレモンを起動した瞬間に家にトラックが突っ込んできて気付いたらこの世界にいた。
ついでに種族も変わっていて弟に至っては人型ですらなくなっていた。
普通は異世界転生ものといったら最初に神様的なやつが出てきて説明してくれるものだが、そういう説明は一切無く。
右も左も分からずフラフラしていたところにナビゲーター妖精みたいな奴が現れて
リバティウムに行って”異邦の魔物使い”の一行に合流するように、と無責任なアドバイスだけしてどこかに去っていった。
行く宛ても無いのでとりあえずその言葉に従いリバティウムに来てなんとなくトーナメントを観戦していたところ、見つけたのだった。
スマホを操作しモンスターと共に戦う少年と少女――”異邦の魔物使い”。
探して声でもかけようかと思っていたところでカジノの方で爆発が起こり、有耶無耶のうちにトーナメントは中止。
更には海から巨大な化け物が現れて今に至るという訳だ。

431カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/01/21(月) 23:42:55
「その魔法の板……そなた、もしや異邦の魔物使い(ブレイブ)ではないか?
どうか我らをお助けくだされ……!」

押し問答をしているうちに、説明臭い台詞で絶望していた爺さんが気付かなくていいことに気付いてしまった。
シルヴェストルのローブ状の裾から除く腕に取り付けた”魔法の板”に目ざとく目を付ける。
周囲の人もその言葉に反応し、引くに引けない状況となった。

「異邦の魔物使いだって……!? 伝説は本当だったんだ!」
「すっごく強いんでしょ!?」

「え、いや、まあ……それほどでも……あるかな!?」

幼き日、いつか勇者になるんだと目を輝かせていた少女は、
ヤンキーやギャルが支配する地球社会に揉まれるうちにいつしか陰キャラになり果てた――
ついに幼き日の夢を叶えるチャンスが巡ってきたのだ!

《――いつ勇者になる?》

「今でしょ! 〈俊足(ヘイスト〉!」

自分達に速度強化のスペルをかけ、常識を超えた高速飛行を可能とする。
風の妖精を乗せた純白の天馬――逃げ惑う人々の目には、それはいかにも絵になる光景に映ったことだろう。
純白の翼をはためかせ、超高速でミドガルズオルムの前を横切る。
そして街とは逆の海の方で滞空し――

「〈竜巻大旋風(ウィンドストーム〉!」

渦巻く真空刃の攻撃スペルをぶち込む。
並のモンスターの大群なら一瞬で吹き散らす大規模攻撃だ。
しかしそれも、ミドガルズオルムの固い鱗の前では意味を成さない――否、確かに効果はあった。
大蛇が街の方への攻撃をやめ、彼らを見据える。
今まで街の方へ向けて撃っていた水流を矢継ぎ早に狙い撃ちで放ってきた。

「おんぎょおおおおおおおおおお!? 避けて避けてマジで避けて!」

《言われなくてもやってます!》

最初一瞬ちょっと期待できそうな絵面に見えたのは気のせいだったのだろう、全く絵にならない光景となった。
〈俊足(ヘイスト〉の効果で間一髪のところで避け続けるが、ついにそれも限界がくる。
水流が容赦なく彼らを撃ち抜いた――と思われたが。

「危ねぇええええ! 〈瞬間移動(ブリンク)〉間一髪!」

ほんの僅かにずれた場所にいた。攻撃が当たる瞬間に瞬間移動のスペルを発動したのだ。

とはいえ、〈瞬間移動(ブリンク)〉が使えるのもあと一回。このままではジリ貧だ。

「ああ弟よ、今のポク達、最高に勇者だよね!」

《うん、無謀ともいうけどね! 夢がかなって良かったね!》

不吉なことに、この世には陰キャラがいきなり輝いたら死亡フラグというジンクスが存在するのだ。
旗をへし折ってくれる者を求む。切実に。

432embers ◆5WH73DXszU:2019/01/25(金) 23:30:39
【キャラクターテンプレ】

名前:■■■■/(プレイヤーネーム:■■■■)
   “燃え残り”エンバース(embers)
年齢:不明
性別:男
身長:178cm
体重:20kg
スリーサイズ:燃え落ち、欠けている
種族:“燃え残り”エンバース(embers)
職業:無職
性格:疲れ果て、もう何も失いたくない
特技:生存
容姿の特徴・風貌:燃え残り、辛うじて五体満足な人体/チェーンメイル/ボロ布同然のローブ
簡単なキャラ解説:
2年ほど前にアルフヘイムに転移。しかし召喚された地はいかなる因果か、当時ゲーム内に断片的なデータのみが存在するだけだった未実装エリア。
共に転移した仲間達となんとか攻略を進めていくも、最終的にルート選択に失敗。
仲間を全員失い、挙げ句旅路の果てに運命の行き止まり――シナリオの結末に辿り着いてしまい、自らも死を選んだ。
――はずだったが、どういう訳かモンスターとして蘇ってしまい、その後は故あってリバティウムを訪ねていた。

なお彼が冒険した『光輝く国ムスペルヘイム』は、実際のブレモンには滅びた後の『闇溜まり』として実装されている。

“燃え残り”は闇溜まりに出現するモンスターの種族名。基本的には炎耐性持ちのアンデッドのようなもの。

【パートナーモンスター】

ニックネーム:フラウ
モンスター名:メルテッド・W
特技・能力:伸縮可能な肉体による剣技/体力、防御力の高いぶよぶよの体/再生能力
容姿の特徴・風貌:白い人型の生物が溶けて、ゲル状に成り果てたモノ
簡単なキャラ解説:
強烈な呪いの炎によって溶けて、しかし生き残ってしまったモンスターの成れの果て。
本来の姿は騎士竜ホワイトナイツナイト。
白夜の騎士と名付けられた美貌は見る影もないが、
ユニットとしてはリーチが長く、かつ高耐久とまとまった性能。

【使用デッキ】
・スペルカード
「握り締めた薔薇(ルーザー・ローズ)」×2 ……対象に特殊バフ『残り火』を付与する
「奪えぬ心(ルーザー・ルーツ)」×2 ……対象に特殊バフ『内なる大火』を付与する
「蓋のない落とし穴(ルーザー・ルート)」×2 ……フィールドを縦断、または横断する大穴を生成する。落下すると炎属性の継続ダメージを受ける
「見え透いた負け筋(ルーザー・ルール)」×2 ……対象に特殊バフ『被虐の宿命』を付与する
「奮起(リバーン)」×2 ……対象のHPを中程度回復する
「死に場所探り(ネバーダイ)」×2 ……味方全体に時間経過によって減少していく特殊HPを付与する
「縋り付き燃ゆる敗者の腕(ジョイント・スーサイド)」×1 ……対象の味方ユニットを中心に長時間燃え続ける炎を発生させる
「縫い留められし怨念(ドント・エスケープ)」×2 ……指定地点を中心に長時間燃え続ける広範囲の炎を発生させる
「牙?く負け犬(ダブルタスク)」×1 ……使用した瞬間もう一度行動が可能になる。また一定時間スペルが2連続で使用出来る

・ユニットカード
「道見失いし敗者の剣(ダークナイト)」×1 ……柄以外が見えない剣を生成する。
「抱かば掻き消える儚き陽炎(ロスト・グッド・エンド)」×1 ……炎属性の味方ユニットを4体召喚する。ユニットは短時間で消滅する
「破壊されるべき光輝の炉(イビル・サン)×1 ……指定地点に巨大な炉を落下させる。炉は一定以上のダメージを受けるか、時間経過により大爆発を起こす
「魂香る禁忌の炉(レベルアッパー)」×1 ……指定地点に巨大な竃を落下させ、対象を閉じ込め継続ダメージを与える
                        対象が内部で死亡した場合、任意のユニットに特殊バフ『レベルアップ!』を付与する

433embers ◆5WH73DXszU:2019/01/25(金) 23:31:41
「……ここまで来て、これかよ」

紅々と燃える炎を抱えた、石造りの巨大な焼却炉。
その中に身を投げる/炎が絶えぬよう未来永劫その傍らに在り続ける。
それだけが今の■■■■に残された、たった二つの選択肢。

「俺は……俺達は……ただ元の世界に帰りたかっただけだ」

世界地図の最東端/光輝く国ムスペルスヘイム――ブレイブ&モンスターには存在しなかったはずの国。
未実装のエリアとイベント――その渦中に放り込まれ、それでも必死に生き抜いてきた。
だが結局失わずに済んだのは己の命だけだった。

確実に分かっている事――どちらのルートを選ぼうと、もう望んだエンディングには辿り着けない。
ここが結末なのだ。物語はもう修復不可能。
待っているのはバッドエンド/デッドエンド――その二つだけ。

「なのに、なんでこうなった」

焼成炉の中で、かたり、と鳴る音。
ついさっき炎の中に身を投げていった先客――その骨が熱に歪む音。
炉を覗き込む――見えるのは嘲り笑うように口元を歪めた髑髏。
怒りに任せて炉に叩きつけられる拳。
先客は容易く崩れ落ち――炎の底へと消えた。

「……お前の言う通りになんて、なってやるかよ」

覚悟を決めた/あるいは全てを諦めた――それ故の、迷いのない声。
擦り切れだらけの学生服から取り出される、ひび割れたスマートフォン。
そして血塗れの右手で画面をタップ。

「これはもうゲームじゃない。だからこの物語のエンディングは、俺が決めるんだ」

液晶画面から溢れる燐光/描き出されていく人型の輪郭。
この世界に迷い込んで以来、ずっと共に歩んできた無二の相棒。
純白の甲殻を身に纏った騎士のごとき竜――ホワイトナイツナイト。

「フラウ」

■■■■は相棒の名を呼ぶ/液晶画面をもう一度タップ――ありったけのスキルを発動。

「やっちまえ」

鞭のようにしなる刃の右腕――瞬きの内に放たれる二十の剣閃。
切り刻まれる焼却炉/瞬間溢れ返る太陽のごとき炎。

434embers ◆5WH73DXszU:2019/01/25(金) 23:32:03
否、違う。ごときではない。
それはまさしくこの国の太陽だったのだ。
命を薪に炎を育み、豊穣と繁栄を、そしてその裏に闇を生み続けてきた太陽。

それは■■■■が冒険の終わりに求めていた物ではなかった。
一体どこで間違えたのか、元の世界へ戻るルートには入れなかった。
一緒に帰りたかった者達も既に一人もいなくなった。

今更この国の為に薪になってやれるほど■■■■はお人好しではなかった。
だが呪われた炎の傍らで未来永劫、新たに送り込まれてくる『薪』を焚べ続ける火夫。
そんなものに成り果てるのも御免だった。

故に――選んだのは予定調和の外側。
これがゲームであって欲しいくらい悲惨な、現実だからこそ選べた選択肢。

国中へと溢れていく太陽の炎。
邪悪な太陽の恩恵を受け続けた国/積み上げられた罪――全てが燃えていく。

「……熱いだろ、フラウ。一足先に、休んでくれ」

慣れた手付きでスマホを操作/相棒をアンサモン。
名残を惜しむように頬に触れた白い左手が、淡い光に逆戻りして消失。

一人きりになると、■■■■はその場に膝から崩れ落ちる。
そして相棒が宿るスマホと、仲間達の遺品を秘めた鞄――それらを抱きしめるように丸くなる。
それきり、動かなくなった。

「……疲れた」

呟き、物語の終わりに望んだのは一刻も早く燃え尽きて、消えてしまいたい。
それだけだった。

435embers ◆5WH73DXszU:2019/01/25(金) 23:33:10
     
     
     
だが――その望みは叶わなかった。
最初に感じたのは息苦しさ。
水中ではない、自分は地中に埋まっている――そんな事を考える余裕はなかった。
ただ恐ろしいほどの閉塞感から逃れたい。
その一心で藻掻き、地の底から這い出た。
瞬間襲いかかる、視界を灼く眩い光/頬を撫でる風/潮の匂い/空気の味/波の音。
永い間眠り続けていた五感が悲鳴を上げる。
悲鳴を上げて虫のよう丸まり、頭を抱え、感覚の嵐が治まるのを待つ。

それからなんとか人心地ついて――■■■■は理解した。
自分は生き返った/あるいは生き残った。
瞬時に紡ぎ出される次の思考――もう一度死のう。

しかし、それはすぐには実行出来なかった。
立ち上がりざま、足元でかしゃんと響く音。

視線を下へ――燃え残っていたのは自分だけではなかった。
呪われた炎の中で最後まで離さなかった物。
相棒が宿っていたスマートフォン/旅を共にした皆の形見。

それらを目にした時、欲が出たのだ。
最後はバッドエンドだった――だが確かに楽しかった旅路の残滓が、この世界に残り続けて欲しいと。

壊れているとは言え魔法の板に、異世界からの漂流物。
美術館/商人/魔法学者/貴族/王家――大切に扱ってくれるだろう候補はいくらでもある。
そう考えて、■■■■は歩き出した。

まずは街を目指さなくては――大きな街がいい。
――商業の街リバティウムなら、この遺品の価値が分かる者もいるだろう、と。

436embers ◆5WH73DXszU:2019/01/25(金) 23:38:39
そして今――■■■■は辿り着いたリバティウムで、阿鼻叫喚に囲まれていた。
前触れもなく海から現れた怪物――ミドガルズオルム。
その顎門から放たれたブレスが、瞬きの間にリバティウムを縦断。

飛空艇の墜落する音/建物の崩れ落ちる音/逃げ惑う人々の悲鳴。
それらに囲まれて――■■■■は駆け出した。

「……駄目だ。こいつらを道連れには、出来ない」

ミドガルズオルムとは正反対の方向へ。
決して手放さぬよう両手でしかと握りしめるのは、肩にかけた革鞄の帯。

かつて異世界の旅路を共にした友の、そしてそれ以上だった者の形見。
あんな化物に殺されてしまえば、それらは己の肉体もろとも粉々にされる。
皆がこの世界にいた証が完全に失われる。
そんな事は認められない。

せめて誰か、信用出来る者に鞄を預けなければ。
その一心で■■■■は駆ける。
だがついこないだ蘇ったばかりの、天涯孤独のモンスターがそう都合よく、そんな人間を見つけられる訳もない。

そんな事は分かっていた。
それでも誰かいないかと■■■■は走り――しかし不意に足を止めた。
声が聞こえたのだ――逃げ惑う人々の流れから外れた路地裏から。

女子供/老人/怪我人/重病人――大穴で恐ろしく図太い神経を持った火事場泥棒。
いずれにしても見過ごす事は出来なかった。

「おい、アンタ達。こんなところで何してる。さっさと逃げないと……」

路地裏に踏み込んだ■■■■が再び足を止めて、今度は言葉も失った。
年若い少女が手にした魔法の板――スマートフォンを目にした瞬間に。

「……ブレイブ?」

437embers ◆5WH73DXszU:2019/01/25(金) 23:39:22
しかし困惑は一瞬。

「今すぐ逃げるんだ。あんな奴の相手をする必要はない。
 逃げて、元の世界に帰る方法を探すんだ。物語に深く踏み込めば、帰れなくなるぞ」

■■■■はすぐに眼の前の少女の肩を両手で掴んだ。

「ゲームの登場人物は、画面から飛び出してこないものだ。そうだろう?
 だけど丁度良かった。君達になら安心してこれを預けられる。役に立つかは分からないが……」

肩から鞄を外して一方的に話を進める■■■■は、しかしふと気付いた。
現在地は路地裏/少女は見るからに未成年/一方で自分は――年齢不詳の無職。
加えて己の外見――歩くぼろぼろの焼死体。
それらの情報を包括的に見て考えると――自分は今、限りなく不審な人物であると。

「……あー、いや、勘違いしないでくれ。俺は怪しい者じゃない。
 通りすがりの……えーと……元、ブレイブなんだ。
 名前は……今はちょっと思い出せないけど……」

慌てて弁解を連ねる焼死体もどき――しかし信用度を稼げている気がしない。
なんなら余計に墓穴を掘り進んでいる気すらする。
ひとまず少女から手を離すべきだが、焦るあまりそんな簡単な事が思いつけない。

リバティウムに突如として現れた超レイド級モンスター、ミドガルズオルム。
それとは全く関係ない薄暗い路地裏で、何もかもを失った敗北者の冒険が――再開する前に終わろうとしていた。

438明神 ◆9EasXbvg42:2019/01/28(月) 00:50:51
逃げ惑う人々の怒号と悲鳴、それをかき消すようなミドガルズオルムの咆哮。
空襲を受けた激戦区みたいな混乱を背景に、俺たちの作戦会議は続く。

レイド戦ってのは80割が参加者の募集と打ち合わせフェーズだ。
戦闘が始まれば細かい相談をしてる暇なんかないし、臨機応変にも限界がある。
お互いに何が出来て何が出来ないのか、どのタイミングでどんな支援が必要なのか。
コミュ障お断りのハイパー陽キャ向けコンテンツ、それが高難度レイドなのだ。

俺と石油王の問に、真ちゃんはミハエルについて知ってるだけの情報を述べた。
ミハエルと真ちゃんはトーナメントの会場で一回、遭遇している。
その時はまだお互い世間話を交わしただけらしかったが、真ちゃんはこの時点でミハエルを"敵"と認識していた。
タイラントの時と同じだ。こいつはどういうわけか、アルフヘイムに害なす者を嗅ぎ分ける鼻を持ってる。

それが世界を救う為にブレイブに与えられた加護なのか、真ちゃんがナチュラルに持ってる第六感なのか。
今はどっちだって良い。少なくともタイラントの件で、そいつが信じるに値うるものだってことは分かった。

「俺たちがアルフヘイムの使徒なら、あの野郎はニブルヘイムの使徒ってわけか?
 解せねえな、プレイヤーなら全員アルフヘイム側の存在なんじゃねえのか。
 召喚者によって陣営が変わる?2つの勢力に分かれて争う大規模PvPってところか。
 クソゲーがぁ、パッチノートに書いとけっつったろこういうことはよ……」

ほんと運営さんのそういうとこ良くないと思いますよ俺は!
後のプレイに大きく影響与えるような情報を伏せてんじゃねえよ!
これ課金コンテンツだったら返金騒動モノだかんな!?

何も明らかになっちゃいねえけど、少なくとも待ってたって事態は好転しないってことは分かった。
ミハエルは明確にリバティウムの、ひいてはアルフヘイムの破壊を目的に動いてる。
仮にミドガルズオルムをどうにか出来ても、奴を野放しにしてる限り同じことが続くだろう。
それこそ、タイラントをぶっ倒しても今こうやってミドやんが暴れてる現状のように。

>「ほならうちがミドガルズオルムを抑えますわ〜
 さっき言った通り、うちは対人戦よりああいったモンスター相手の方が力発揮できるよってな
 勿論一人では無理やからこのお二人にご助力願いたいわー」

ミド公のタゲ取りに石油王が手を挙げた。
異論はない。というか石油王の他にあのクラスの敵の引き付けなんざ出来る奴はいない。
タンクの仕事は本職に任せるのが一番だろう。

「頼んだ。あいつの火力マジでやべえから無理だけはすんなよ。
 さっきはこの街を守るとか青臭ぇこと言ったが、第一に優先すべきはあんた自身と、俺たちの人命だ」

純粋にヘイト稼ぎと防御に徹するなら、属性的に有利の取れるカカシはそうそう落ちはしないだろう。
それでも、単純なステータスの差でゴリ押しされれば耐えきれるかどうかは未知数。
多分このパーティで一番危険に晒されるのは石油王だし、奴もそれは承知の上で立候補してる。
お姉ちゃんとエカテリーナには死んでもこいつを守ってもらわなきゃならねえな。

「待て、何故妾がさらっと作戦に組み込まれている……?
 あの詐術師には個人的な借りがあればこそ、ここまで共闘はした。
 だが妾にはこれ以上貴様らに手を貸す理由などなかろう」

狼からいつの間にか人型に戻ったエカテリーナが今更不平を垂れやがった。
何なんこいつ……空気を読めよ空気をよ。そんなんだからおじいちゃんに怒られんねんぞ。

「カテ公さぁ……なんでこの土壇場でそういうこと言うの?野良ボスのお姉ちゃんですら仲間面してんじゃん。
 なっ、乗りかかった船じゃねえか、このままいい感じになし崩しで力貸せよ。どうせ暇だろ?」

「暇ではない。妾は断じて暇人ではない。カテ公とは何だ、そのような呼び名を赦した覚えはない」

439明神 ◆9EasXbvg42:2019/01/28(月) 00:51:57
ふえぇ……めんどくさいよぉ……。
そういやこいつそういうキャラだったわ。働くのにいちいち理由求めるタイプの奴だったわ。
なぁなぁで共闘してくれたマルグリット君ってマジで(都合の)良い奴だなぁ。

「カテ公じゃ不満か?じゃあこういうのはどうだ。
 ――俺は、お前の本当の名前を知ってるぜ」

「…………!!」

カテ公の背筋が硬直し、帽子の向こうの双眸が僅かに見開かれた。
"虚構"のエカテリーナ。真名を失いし者。
変幻自在を繰り返すうちに真実を忘れ、いつしか虚構だけで形作られた存在。

実装分のメインシナリオをクリアしてる俺は、奴の未来を知っている。
その末路も。そして、エカテリーナが生涯を費やして取り戻そうとした、本来の名前も。

「お前が存在の全てを虚構に溶かして消滅する前に、お前の真名を教えてやる。
 それでどうだ?お前がこれまで自分探しにかけてきた時間を思えば、断然お得な取引だろ」

「貴様、何故それを……いや、何をどこまで知っている?」

「マルグリットから聞いてねえのか。俺たちゃ"神の御手"、この世界のことは割となんでも知ってんだよ」

エカテリーナは再び、虚構を見抜くその両眼で俺を睨み据えた。
そして、俺の言葉に偽りがないと理解したのか、自分の肩を浅く抱いて一歩下がった。
ウソ発見器持ってる奴が相手だと交渉がスムーズで助かるわ。腹の探り合いとかクソだるいからね☆

「交渉成立だな、お前の持ち場はあっちね。対価は示したんだ、給料分は働けよ」

>「それでしめじちゃんな、ポラーレのお姉さんはうちが借りてしまうし、このどさくさに紛れて逃げえな
 あの金獅子さんはうちらと同じブレイブなんやわ、それも世界一の
 多分真ちゃんとなゆちゃんが二人がかりでもまともに戦ったら勝てへん
 隙を作るのがせいぜいやろし、守られへんし次は生き返れるとも限られんやしで、列車に戻っとき?な?」

二人の手駒を従えた石油王は、戦場に赴く前にしめじちゃんに声をかけた。
俺も何か声をかけようとして、でも何も言えなかった。
しめじちゃんに避難を促す言葉はウソになる。俺は彼女に逃げて欲しいとは思っちゃいないからだ。

ここがどんなに危険でも、命の保障がないのだとしても。
俺はしめじちゃんに、傍に居て欲しかった。合理的な理由なんか一つもない、単なる感情論だ。

正直、ミドガルズオルムは恐ろしい。ミハエルも行動原理がサイコパスじみててマジで怖い。
煽り文句でどうにか自分を鼓舞しちゃいるけど、吹けば飛ぶような強がりでしかない。
俺は実際のところ臆病なパンピーだから、重責と危険に晒されてとんずらしないとは言い切れなかった。
俺のことが信用ならないのは俺が一番よく知ってるからな。

だけど、しめじちゃんが後ろに居てくれるなら、少なくとも俺は一人で逃げ出したりしない。
もうあんな思いは御免だ。絶対に、今度こそ、しめじちゃんを死なせない。
ヘタレでビビリな俺にも、それだけは確かな意志として胸の裡にあった。

>「わかりました……けれど、出来る事はやっておきたいと思います。
 なので、逃げる途中で『戦場跡地』のスペルで街の人達を追い立てて、
 街から逃がしてみようと思いますが、良いでしょうか……?」

だから、しめじちゃんが撤退を遅らせる提案をした時、俺は内心嬉しかった。
口に出しちゃうとマジで情けない話になるから言わなかったけれど。

「俺はそっちの方が助かる。ミハエルの野郎はリバティウムの住民なんか虫ほどにも感じちゃいねえ。
 流れ弾が直撃しても寝覚めが悪いし、奴が住民を人質に取らないとも限らねえからな。
 不確定要素はなるたけ排除しておくべきだ。しめじちゃん、住民の避難誘導は任せて良いか」

440明神 ◆9EasXbvg42:2019/01/28(月) 00:52:37
それに……俺はもう知っている。
しめじちゃんが、佐藤メルトが、『守られて右往左往するだけの弱者』なんかじゃないってことを。
彼女はおそらく、単なる正義感から避難誘導に立候補したわけではあるまい。
今この段階じゃなんとも推測しかねるが、戦場に留まるのには何か別の狙いがあるはずだ。
しめじちゃんが近くに居てくれるのは、純粋に、心強かった。

「あとは……なゆたちゃん、君はどうする」

沈黙を保ち続けるなゆたちゃんに、俺は水を向けた。
さっきの現状確認では、彼女はトーナメントでほとんどのスペルを吐き出したと言っていた。
パーティのメイン戦力、頼みの綱のゴッドポヨリンさんは明日までログインしてこない。
如何に趣味ビルドでガチガチに鍛えたと言っても、スライムじゃミハエルの堕天使に太刀打ち出来ないだろう。

戦術や鍛錬じゃどうにも出来ない『レア度差』という隔たりが、このクソゲーには存在する。
まぁそれをどうにかしやがったのがモンデンキントとかいうスーパースライム馬鹿なんだけど、
その薫陶を受けたなゆたちゃんと言えどもスペルなしの素殴りじゃ限界はある。

>「……みんな。わたしに考えがある。力を貸してくれる……?
 うまくいけば、ミドガルズオルムを鎮められる。金獅子の鼻を明かしてやれる。すべてが丸く収まる……。
 そして――きっと。わたしたちは『それをするためにここにいる』んだ」

何事か思案し続けていたなゆたちゃんは、不意に俺たちを見回して口を開いた。
まるで、長い数式の果てに回答を導き出したかのような、確信めいた口調だった。

「急になんだよ。何を思いついたってんだよなゆたちゃん。
 あの怒り狂って暴れてるミドやんを、なだめすかして穏便にお帰りいただける方法があるってのか?
 ……フカシじゃねえだろうな。ありゃ二三発ぶん殴って止まるようなもんじゃねえぞ」

>「ポヨリン!」

なゆたちゃんは返答の代わりに自分のパートナーを呼んだ。
どこに行ってたのかポヨリンさんはズルズル何かを引きずりつつ駆け寄ってくる。
いやこれマジで何よ?なんかすげえグチャミソのボロ雑巾みたいだけど……。

「ってお前、これ!ポヨリンさんが咥えてんの、ライフエイクの死体じゃねーか!」

辛うじて五体っぽい原型をとどめている肉塊は、よく見たらライフエイクだった。
ミハエルに叩き潰された挙げ句、ミドやん復活の余波でズタズタになった死体。
ポヨリンさんはそれをなゆたちゃんの前に放り出す。

>「人魚姫の泪が憎悪や怒りによるものじゃなく、あくまでも愛によるものなら。
 ライフエイクが人の姿を捨ててまで求めたものが、人魚姫との再会にあるのなら。
 活路はそこにある……シンプルな話よ。わたしたちはただ『ふたりを会わせてあげればいい』――!」

「ちょ、ちょっと待て!お前一体何するつもり――」

>「ライフエイクが『縫合者(スーチャー)』でよかったわ。グロいしキモいし、全然わたしの趣味じゃないけど。
 でも――わたしでも簡単に生き返らせられるから」

俺が制止するより早く、なゆたちゃんはスマホを手繰った。
スペルが発動――『高回復』の光がライフエイクの死体を包み込み、傷を癒やしていく。
やがて、機能を停止していたライフエイクの肉体が、命を取り戻した。

縫合者は、いくつもの魔物を融合させて造り上げたキメラ系統の最上位モンスター。
つまり複数の命を身体に宿しているということであり、その全てを潰さなければ完全な死は訪れない。
ゲーム上ではHPを0にしさえすれば全部の命を殺すことが出来たが……ここは微妙に仕様の異なる世界。
ミハエルによって貫かれた"以外"の命は、未だ健在だった。

441明神 ◆9EasXbvg42:2019/01/28(月) 00:53:23
>「……がはッ!」
>「……どういう……ことだ……?」

回復が完了し、気道に溜まった血を吐き出すと、ライフエイクは目を白黒させながら周りを見回した。
いやホントにどういうことだよ!せっかく死んだこいつを蘇生するとか何考えてんだなゆたちゃん!

>「アンタのことはムカつくし、しめちゃんを一度は殺した敵だし。絶対に許してなんてやらないけど。
 でもね……それじゃ何の解決にもならないから。第一、アンタの恋人が悲しいって泣いてるから。
 だから。……アンタの望み、叶えてあげる。王女さまに会いたいんでしょ? そのために、何千年も過ごしてきたんでしょ?」

未だ状況を理解出来ていないライフエイクと俺をよそに、なゆたちゃんは頭上から言葉の洪水をぶつけた。
そして俺もようやく脳みそが追いついてきた。なゆたちゃんが、これから何をしようとしているのか。
――ライフエイクに、何をさせようとしているのか。

ミドガルズオルムを目覚めさせたのは、ライフエイクでもミハエルでもない。
『人魚の泪』の主、マリーディアその人だ。
絶望と哀しみによって溢れた泪が呼び水となって、"海の怒り"はこの世界に解き放たれた。

さらに元をたどって何故、マリーディアは泣いたのか。
それは、クソ女たらしのライフエイクと離れ離れになった、別離の哀しみ。
あの人魚姫は裏切られてなお、ライフエイクを想い、求めて泪を流している。

そして――ライフエイクもまた、人魚との邂逅を望んでいた。
奴が求めていたのは『ミドガルズオルム』ではなく、『人魚の泪』。
俺が煽り代わりに提示した"死者の蘇生"に、少なからず執着していた理由。
全ては、はじめから一本の線で繋がっていたのだ。

なゆたちゃんは、言わばガスの元栓を締めようとしている。
ミドガルズオルムを現界させている魔力の供給源、『人魚の泪』。
人魚の泪が発生する原因となった、マリーディアの哀しみ。
マリーディアに哀しみをもたらした、ライフエイクとの別離。

上流の上流、根本の根本を為すその問題さえ解決すれば、ミドガルズオルムがこの世に存在する理由はなくなる。
あの超レイド級を、戦うことなく再び海の底に鎮めることが、できる。

442明神 ◆9EasXbvg42:2019/01/28(月) 00:53:54
「自分が何やろうとしてるか分かってんのか、なゆたちゃん」

言いたいことは分かる。頭では理解出来る。
だけどそれは、散々煮え湯を飲まされたライフエイクさえも、救ってやるってことだ。
奴がこれまでしてきたことを思えば、おいそれと賛同することは、俺には出来なかった。

「こいつは、ライフエイクは!しめじちゃんを殺したんだぞ。俺たちを陥れようとしたんだぞ。
 そして今、裏切り者の分際で、昔の元カノに再会しようとしていやがる。
 どの面下げてマリーディアに会うつもりか知らねえし、知りたくもねえ。
 これまで散々他人の人生を弄んできた奴が、今更幸せになろうなんて虫が良すぎるだろ」

ミハエルの乱入で消化不良になっていたライフエイクへの怒りが、今になって腹の中で燃えている。
わかってる。これが最善だ。ライフエイクの協力なしに、ミドガルズオルムを再封印なんて出来っこない。

「織姫と彦星じゃねえんだぞ。いい年こいた男女の逢い引きを、俺たちが手助けしてやるってのか?
 クソ野郎とバカ女の、云百年越しの傍迷惑な恋物語を、今さら大団円で終わらせようってのか?
 そんなの――」

だから、俺がこいつを助けるに値する、理由付けが必要だった。

「――すげえ面白そうじゃん。やってやろうぜ」

俺はもしかしたら、とんでもない選択ミスをしたのかもしれない。
とっとと逃げればいいのに、訳の分からん仕事を背負い込んで自縄自縛に陥ってるのかもしれない。

だけど、どこまで行っても、結局俺はゲーマーなのだ。
未完結のシナリオがあるのなら、最後まで見届けたくなっちまう、そういう習性の動物だ。
そして俺は、そういう自分が……嫌いじゃなかった。

 ◆ ◆ ◆

443明神 ◆9EasXbvg42:2019/01/28(月) 00:54:23
さて、方針はこれで決まった。
石油王とNPC二人はミドガルズオルムのタゲを取って街の被害の防止。
しめじちゃんは撤収しつつ住民の避難の高速化と誘導。
なゆたちゃんはライフエイクと一緒にミハエルから人魚の泪を奪う。
そして俺は、ミハエルの手元を狙撃してタブレットの奪取だ。

俺が直面している課題はふたつ。

一つは、今しがた戦闘画面で確認したけど、やはりというかミハエルは防御障壁を張ってやがる。
あんだけ大っぴらに姿見せてんだから狙撃に対する警戒は当然と言えば当然だ。
ヤマシタの攻撃力じゃ、バフかけてもミハエルの障壁は突破出来ないだろう。
ただまぁこれに関しては、どうにかする方法は既に考えてある。

もう一つは――ミハエルが従えているパートナー、『堕天使』だ。
奴の傍をつきっきりで護衛しているあのモンスターが居る限り、矢は障壁にすら届くことなく撃墜される。
制空権を完全に取られている以上、狙撃はまず不可能と考えていいだろう。

堕天使(フォーリンエンジェル)。
ガチャ産モンスターの中でも数えるほどしか居ない最高レアに君臨する、排出確率0.001%の"宝くじ"だ。
その性能は単独でレイド級に匹敵し、そこにスペルが加わればもはや手の付けようもない。
同じ悪魔族のバフォメットが10匹で襲いかかっても、上空からの爆撃で消し飛ばされるだろう。
広範囲・高火力の遠距離攻撃に加え、接近戦でもベルゼブブを瞬殺するデタラメぶりだ。

いやマジでさぁ、開発はバカなんじゃねえの……?
なんぼなんでもこんなクソふざけたスペックのモンスターを対人ゲーに実装すんなよ。
ゲームバランスの崩壊どころじゃねぇだろこれ。戦術要素ゼロじゃん?
そらミハエル君も世界チャンピオンになるわ。あいつ事故って死なねーかな。

「なゆたちゃん、とにかくどうにかして堕天使を抑え込んでくれ。
 倒せはしなくても、あの六枚羽根を破壊して飛行不能にすれば、制空権は取り戻せる。
 奴がこの空を明け渡したときが、俺の狙撃チャンスだ」

手の中にあるスマホを手繰り、ブレモンのアプリを一旦バックグラウンドにして待受画面を表示。
幸いにもスマホは、ブレモン以外の機能も一応使えるみたいだ。
つっても、圏外になってるから写真やら動画みたいなオフライン環境で動くアプリしか利用できないが。
その中にある俺の目当ては、『周回用.apk』というタイトルのアプリデータだ。

周回要素の強いゲームには大抵、自動で操作して周回や狩りを行う外部ソフトウェアがある。
いわゆるBotやマクロと呼ばれるソフトだ。もちろん規約違反だし、使用がバレればBANは免れない。
一回BANされてから封印してたけど、まぁこの世界からアカウント停止を食らうことはあるまい。

俺はマクロが十全に動作することを確認してから、ブレモンアプリをバックグラウンドから呼び戻した。
これで準備は整った。あとは堕天使さえどうにか出来れば、あのクソガキからタブレットを取り上げられる。
俺は仲間たちを見回した。なゆたちゃんは既に臨戦態勢だ。

「よし、作戦は頭に入ったな。ライフエイク君が告りに行くの、手伝ってやろうぜ」

いざ出陣、と意気込み新たに声をかけたその時、不意に隣から声が聞こえた。

>「おい、アンタ達。こんなところで何してる。さっさと逃げないと……」

この路地裏は既に住民が逃げ去った地区にあるから、俺たち以外にここへ足を踏み入れる者が居るはずもない。
何事かと振り向けば、ぶすぶすと煙を吹く焼死体と目(?)が合った。
死体ではあるが、自立歩行し、こちらへ向かってくる……つまり、アンデッドだ。

「うおおおおっ!?なんだお前っ!ヤマシタ――」

迫りくるアンデッドを咄嗟に排除せんと俺はスマホを手繰る。
だが、召喚ボタンをタップする寸前に、アンデッドの呟いた声が耳に届いた。

444明神 ◆9EasXbvg42:2019/01/28(月) 00:54:50
>「……ブレイブ?」

「……何だと?」

このアンデッド、見た目からするに後半のマップ"闇溜まり"に出現する『燃え残り』。
俺たちが構えたスマホを見て、確かに『ブレイブ』と言った。
この世界でブレイブがどのくらい知名度のある存在なのか不明だが、少なくとも、認知と会話を行う知能がある。
単なるバグ湧きのエネミーじゃないってことだ。

>「今すぐ逃げるんだ。あんな奴の相手をする必要はない。
 逃げて、元の世界に帰る方法を探すんだ。物語に深く踏み込めば、帰れなくなるぞ」
>「ゲームの登場人物は、画面から飛び出してこないものだ。そうだろう?
 だけど丁度良かった。君達になら安心してこれを預けられる。役に立つかは分からないが……」

燃え残りはなゆたちゃんの肩を掴んでまくし立てる。
逃げろと、何かを受け取れと、早口で喋る。
俺はその両腕を払い除けて、なゆたちゃんとの間に立った。炭化した皮膚っぽい何かがパラパラと宙を舞った。
こえーよ。ブレモンはホラーゲーじゃないんですよ。

「ちょっと待てや!唐突に意味深なこと言いながら話を進めんじゃねえ!
 まずお前は何なんだよ、ミドやんの犠牲者がもうアンデッドになったのか?
 燃え残りってこんな平和な地域にポップするモンスターじゃねえだろ」

問いかけつつも、俺にはなんとなくこいつが何なのか分かってしまった。
元の世界。ゲーム。このアルフヘイムでそんな用語を口にする奴はそう多くはない。
つまり……

>「……あー、いや、勘違いしないでくれ。俺は怪しい者じゃない。
 通りすがりの……えーと……元、ブレイブなんだ。名前は……今はちょっと思い出せないけど……」

ブレイブ。この世界に放り込まれた、俺たちと同じ境遇の持ち主。
いやでも、"元"って何だよ。そんでなんでブレイブ様が焼死体になってその辺彷徨いてんだよ。
アンデッド化したブレイブなら俺の友達にも一人居るけどさぁ。

「とにかくなゆたちゃんから離れろや!お前死んでから鏡で自分のツラ見たことねーのか?
 火葬場から直接こっちの世界に転移したってんならそれはもうご愁傷様だがよ」

登場と言い、言動と言い、なんもかんもが急過ぎるわ。
ほんで後生大事そうに抱えてるそのカバン、何入ってんだそれ。

「その荷物、別に誰かに預けんでもインベントリにしまっときゃ良いだろ。
 スマホないの?"元"ブレイブっつったが、スマホぶっ壊しでもしたのか」

ブレイブをブレイブたらしめる証、『魔法の板』ことスマートフォンは、そうそう壊れるもんじゃない。
何らかの魔法的な保護が働いているのか、少なくとも落としたくらいじゃビクともしなかった。
試掘洞潜ってる時に何度か高い位置から地面に直撃しちゃったけど、それでも傷ひとつついちゃいない。
多分システム的に破壊不可能オブジェクトとして扱われるんだろう。

「あんたが何者なのかすげえ気になるけどよ、ぶっちゃけ今は新キャラ登場でワイキャイやってる場合じゃねえんだ。
 あの化物をどうにかする方法はそこの女子高生がもう思いついた。準備も覚悟も完了してる。
 ローウェルのジジイのおつかいも終わらせなきゃならねえ。つまりなぁ……」

俺は燃え残りの肩を掴み返して言った。

「逃げろじゃねえんだよ。おめーが逃げんだよ!」

445明神 ◆9EasXbvg42:2019/01/28(月) 00:56:43
掴んだ肩の感触は、死体のくせになんか生暖かった。
燃え残りを解放して、しめじちゃんに声をかける。

「しめじちゃん、撤収ついでの避難誘導にこいつも連れてってくれねえか。
 四の五の言いやがったら捕獲してゾウショクの後輩にでもしちまえ――」

闖入者の処断を速やかに済ませた俺は、ミドやんの様子を確認する為に上空を振り仰いだ。
視界を横断するように、何かが空を駆けていくのが見えた。

「何だありゃ!?」

いやホントに、何だありゃとしか言いようがなかった。
ミドガルズオルムへまっしぐらに吶喊していく飛行物体は、よく見りゃ羽の生えた馬。
飛空艇より遥かに高速で飛翔する馬には、小柄な子供っぽいのがひっついていた。

「リバティウム衛兵団の二次隊か?いやでも、あれ人間じゃねえよな……」

馬と乗り手はミドやんの背後、つまり海側へと回り込む。
そして、ミドやん目掛けて魔法を放った。

>「〈竜巻大旋風(ウィンドストーム〉!」

乗り手から射出された、真空刃のつむじ風。
それはミドガルズオルムの背中に直撃し――ダメージはごくわずか。
しかし、街へ散発的に攻撃を繰り出していたミドやんの目が、初めて海側へと向いた。
ヘイトを取ったのだ。

>「おんぎょおおおおおおおおおお!? 避けて避けてマジで避けて!」

イラついたミドやんが水ビームをやたらめったら撃ちまくる。
馬と子供は空中を機敏に移動してビームを避けまくるが、ジリ貧には違いなかった。

「やべえ、変な奴がいきなり来て横殴りしやがった!あいつこのままじゃ撃ち落とされて死ぬぞ!
 ……石油王!」

俺は一言、石油王を呼ぶ。こいつならそれで十分意図を理解して動いてくれるだろう。
まぁ意図もなにも、タゲ取り早くしてやくめでしょってだけなんですけど。
最後に、俺はなゆたちゃんに声をかけた。

「さてなゆたちゃん、俺たちもライフエイクの恋バナを邪魔するクソ堕天使を、叩き落としに行くとしようぜ」

謎の死んでる系ブレイブに、これまた謎の馬と子供。
邪悪なおっさんとメンヘラ人魚姫の、海と時間を隔てた恋の行方。
戦場は加速度的に混沌さを増して、俺はSANチェックに失敗しそうだ。

だけど、こんなこと言ってる場合じゃ全然ないし、すげえ不謹慎ではあるけれど。
カジノから追い詰められっぱなしだった俺は、今さらなんだか楽しくなってきた。
ずっと忘れていた感覚を、ようやく思い出した。

シナリオを水増しするかのように飽和するキャラクター達。
次から次へと定食のようにお出しされる、イベントとレイドバトル。
マジで節操のない、コンテンツのサラダボウル。
世界観の整合性なんてまるで考えちゃいない、思いつきで実装されるストーリー。

そうだよな。そうだったよな。

――ブレイブ&モンスターズは、こういうゲームだ!

446明神 ◆9EasXbvg42:2019/01/28(月) 00:56:58
【バトル開始
 
 ミハエル&堕天使:ライフエイクwithなゆたちゃんと交戦開始。現状狙撃は不可能
         堕天使の羽を破壊することで飛行能力を奪えば狙撃が可能に
 
 リバティウム市街:しめじちゃんに避難住民の誘導を依頼。
          突如現れた燃え残り(エンバース)の保護も頼む

 ミドガルズオルム:石油王にヘイト固定を依頼。
          カザハ君が死にそうなので保護してあげて】

447五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/01/31(木) 22:45:45
混乱の波が広がっていく中、路地裏での作戦会議で徐々に練りあがっていく行動方針
エカテリーナとの交渉を成立させ協力を取り付けた明神にみのりが礼を述べ

「ありがとさんね、おかげで目途がついたわ
まあ、ダメやっても3ターンは持たせるよってな
それ以降は危なくなったらうちは逃げるし、それまでにお願いするわ〜」

礼と共に作戦概要も打ち合わせをしておく
打ち合わせの最初の戦力分析の際にスマホを見せなかったが、しめじ蘇生の為に殆どのカードを使い切ってしまっている事は既に知られているであろう
イシュタルがいかに耐久特化のモンスターと言えども、回復支援が入らない状態で超レイド級モンスターの相手は出来はしない
1ターンキルを免れるのが精いっぱいではあるが、それでもみのりの目には勝算が映っていた


話がまとまったところで、しめじがみのりの避難勧告を了承
ここに至りて子供扱いされた事に反発されることもありうると思っていただけに胸をなでおろした

「ええ子やわ、わかってくれてありがとさんな。
町中混乱しているやろし、踏みつぶされんように気ぃつけてや」
と表向きの言葉をかけた後はそっと耳元で呟く
「いざとなったら、周りの人間盾にしてでも逃げるんやで?」

みのりはしめじを何の力もない子供とは思っていない
だがそれでも戦場から排除し逃げるように促した
それはしめじの長所が正面戦闘ではなく混乱時に煌めく機転だとみているからだ
……いや、違う……やはり逃がしたのはしめじに死んで欲しくないという気持ちが高かったのであろう

みのりは人の重さに大小も順位もつけられる
しめじが助かるためならば見ず知らずの人間の犠牲も許容することができるのだから


練りあがっていく戦略になゆたが大きな石を投げかける
それはライフエイクの復活
そもそものライフエイクの目的は人魚の姫との再会
そして人形の姫はライフエイクの死を突きつけられ絶望しミドガルズオルムを呼び出す事になった

この反応は両者がいまだに想いあっていた証左に他ならない
のであれば、再会を果たさせミドガルズオルムを鎮めようというものだ
しかしこの作戦には大きな問題がある

堕天使を操る金獅子から人魚の泪というアイテム化した人魚の姫を奪還する必要があるのだから
そして何より、ライフエイクを味方として共に戦うというものだ
戦力として考えれば『縫合者(スーチャー)』はこの上なく強力であり、おそらく個の戦闘力で言えばこの中で誰よりも強い
金獅子と戦うにおいてなくてはならない戦力ともいえるだろうが、策略を巡らせしめじを殺し、あらゆる犠牲をいとわず儀式を執り行った張本人である

思うところは多いだろうが、明神は折り合いをつけたようだ
だが、みのりは違う
明神やしめじに向けた笑みを湛えたまま、目だけは汚い汚物を見るかのような冷たい眼差しをライフエイクに向けていた


みのりはライフエイクの目的がミドガルズオルム召喚ではなく、人魚の姫との再会、そして邂逅である事は気づいていた
だからこそ、言ったのだ

>同じようにあんたさんにとって大切な命はうちらにとっては限りなく小さなものやぁ云う事、忘れへんでおくれやすえ?」
と。そして、一同に宣言しておいたのだ

>金獅子さんがやった事は、うちらがやろうとしていた事そのものなんよね
>その点は手間が省けた
と。包み隠さず言えば金獅子がやったことは、そのままみのりがやろうとしていた事でもあったのだ
『縫合者(スーチャー)』とは数多くの魔物の肉体を無理矢理繋ぎ合わせた状態であり、縫い合わされた魔物の怨嗟と適合不全による拒絶反応は発狂に値する苦痛である
それでもなお正気を保っていられるのは人魚姫との再会という一つの想いがあったからだ
そこまではなゆたと同じ読みだったが、そこから導き出される結論は真逆

目の前で人魚の姫の首を落とし唯一のよりどころを崩してやろうと思っていた
ライフエイクにとって大切な命であってもみのりにとっては意趣返しの為の命でしかないのだから

それらの言葉をすべて呑み込み、沈黙をもって了承の意思表示をするのであった

448五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/01/31(木) 22:46:20
話はまとまり、いよいよ、という時になって思いがけない乱入者
それは“燃え残り”エンバース
本来の出現地域でないモンスターではあるが、問題はそれではない

その焼死体の口から【元ブレイブ】という言葉が出た事だ

そうなると出現地域でないこのリバティウムに出現した事に意味が出てくる
のだが、残念だがそれに思いを巡らせている時間もない

ミドガルズオルムに向かい飛翔していくユニサス
その上に乗るのは良く見えなかったが風の精霊だろうか?
〈竜巻大旋風(ウィンドストーム〉を発動させ攻撃するのだがダメージを与えられた様子もなく、ミドガルズオルムのヘイトを煽るだけのようだった

「はぁ〜せわしないけどしゃあないねえ
真ちゃん、なゆちゃん、しめじちゃん明神のお兄さん、お気ばりやすえ〜
ほならエカテリーナはん、ポラーレはん、あんじょうよろしゅうに」

明神に促されみのりが声をかける
と共に真一、なゆた、しめじ、明神、そして狙撃手たるヤマシタに藁人形が張り付いた
本来ならば親機の藁人形は自分が持ち、自分の身を守るとともに藁人形を持たせたメンバーの情報把握をしていたのだが、事ここに至ってはそうもいっていられないのだから仕方がない

そしてエカテリーナの虚構のローブに包まれ、ポラーレと共にその場から姿を消した


みのりたち三人が現れたのは遥か上空
ミドガルズオルムの頭上であった

「それでは策を聞かせてもらおうか?」

エカテリーナの言葉にみのりは答える

「エカテリーナはんはミドガルズオルムを中心に虚構結界を張っていただきましてぇ
ポラーレはんはミドガルズオルムに蜂のように刺す(モータル・スティング)お願いしますわ〜
上手くすればそれで終わりますでおすし」

「そなた……わらわの虚構結界の事まで……ブレイブというのは真に割と何でも知っておるようだな
だがならば知っておろうが虚構結界を構築すれば……」

虚構結界
それはエカテリーナの大規模空間魔法の一つで、その身を空間そのものに変じさせるものである
ストーリーモード終盤で訪れる【虚数の迷宮】は迷宮自体がエカテリーナであったというものなのだ
迷宮の中心部に深紅の宝玉が存在し、そこに到達することで迷宮化が解除され再会できるのだ

虚構結界を張る事で内部に接触するには複雑な迷路を踏破せねばらならず、内部から出るにしても強力な結界により弾かれる
こうすることで金獅子のミドガルズオルムとの接触を防ぎ、リバティウムの衛兵団の無駄な犠牲を増やさない効果があるし、流れ弾で周囲に被害も及ばない
ミドガルズオルムを閉じ込める為に利用するのだが、欠点もある
エカテリーナ自身が空間化するために、他の一切の行動がとれずサポートが期待できない
という事と、中心にある深紅の宝玉を破壊されれば結界が解かれてしまう

ミドガルズオルム程の巨体を包み込む結界となれば、外装はともかく内部は巨大な空間にならざる得ず、深紅の宝玉も容易く攻撃にさらされてしまうという事だ
もっとも、宝玉を守ったとしてもミドガルズオルムの攻撃力ならば結界を内部から食い破るのにさほど時間は要さないであろう


「まあ、色々問題はあるけど、まずはミドガルズオルムを隔離するのが先決やし、ちょうどええ具合に足場もあるようやしねえ
それではお二方、頼みますえ〜」

そういいながらみのりは落下していく
その落ちる先には逃げ惑うユニサスの背中があった

449五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/01/31(木) 22:47:15
落ちていくみのりを見送りながら、ポラーレとエカテリーナは顔を見合わせ肩を竦めた
二人で一息ついた後、それぞれの顔が引き締まりリバティウムの港の一角は巨大な赤黒い繭に包まれるのであった
ミドガルズオルムを覆い隠すように出現した繭の表面には幾層もの魔法陣が展開され、侵入はおろか内部の様子を見る事すら阻んでいた

その内部では、突如として降ってきたみのりがカザハの背後に、カケルのお尻に衝撃と共に落下着地を果たしたのであった
軌道調整したイシュタルをクッションにしたとは言えみのりにも相応の衝撃があったようで、カザハに抱き着いたまま数秒の間を置く必要があった

「は、はぁ〜い。突然お邪魔してごめんえ〜
ミドガルズオルムを抑えに来たんやけど、うち空飛べへんし便乗させてらもいに来たんよ
うちは五穀みのり、異邦の魔物使い(ブレイブ)よ
シルヴェストルとユニサスのコンビって絵になってええよねえ、お姉さん好きよ〜
あ、攻撃来るから避けてね」

突如と降ってきたみのりの衝撃でカケルの高度がガクッと落ちるのも気にせず自己紹介
勿論そんな状態をミドガルズオルムが見逃すわけもなく強烈な水弾を放ってくる
それを避けてもらいながら、結界を張り外部から遮断した旨を伝える
逆に言えば、結界内部から逃げ出すこともできない、という事も

しばし逃げ回っていたのだが、唐突にポラーレが眼前に現れ空中に制止
「残念だが……」
言葉ではなく突き出されるレイピアはボロボロに刃毀れしていた

ブレモンの世界ではポラーレの蜂のように刺す(モータル・スティング)に三度傷つけられたものは必ず死ぬ
耐性やHPの方など関係なく、問答無用で死ぬのだ
が、それはあくまで三度「傷つけられたら」の話である
〈竜巻大旋風(ウィンドストーム〉でも傷一つつかなかったミドガルズオルムの防御力は、ポラーレの攻撃力では文字通り傷一つつかなかったのであろう

「ここまでは想定通りという顔をしておるが、ここからどうするのじゃ?」

空間からエカテリーナの声が響く

「ほうやねえ、3ターンは持たせると云ってもうたし
ポラーレはん、エカテリーナはんの深紅の宝玉を蝶のように舞う(バタフライ・エフェクト)で守ったってくださいな
結界は抑えの要ですよってなぁ」

「わかった、が……何か策があるのかな」

ポラーレの問いにみのりの笑みは徐々に狂暴なものに変貌し、愉悦をこらえきれないように言葉が溢れ出す
仲間たちの前では決して見せない表情、声、そして……力!
このためにエカテリーナを結界にして目隠しを作ったといっても過言ではないのだから

「そらもう……力づくですわっ!!!」

クッション代わりになっていたイシュタルが形を取り戻し、その中心から禍々しい魔力が溢れ出した
その魔力は熱風と熱砂となって吹き荒む
それは徐々に大きくなり、結界内を満たす大砂嵐となりミドガルズオルムを襲う
暴風に乗った砂はグラインダーのようにあらゆるものを削る凶器となるのだ

「イシュタルの周りは台風の目みたいなもんで安全やから安心してえな
それでな、あんた風の妖精やろ?
うちの砂嵐に風を上乗せしてくれたら助かるんやけど?」

カザハに協力を求める笑顔は柔和なものに戻ろうとしていたが、端々に凶暴さが漏れ出ているままであった

【虚構結界でミドガルズオルムを物理的、視覚的に隔離】
【強引にカザハ&カケルに相席同乗】
【巨大砂嵐を発生させてミドガルズオルムの動きを封じる】

450名無しさん:2019/02/03(日) 15:51:23
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