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レス置き場

1名無しさん:2015/10/17(土) 21:32:49
規制時の代行や一時避難所としてご使用下さい

2 ◆hZIQlI5D/Q:2015/10/17(土) 21:34:37
テスト
とりあえず暫くはこちらにて進行をー

3リンネ ◆IgMoxdiK1Y:2015/10/17(土) 23:05:17
>「……君は、賢いんだな!びっくりしたよ!」
内藤は両腕を広げて寛容そうな態度でアップルに応えた。
ここでアップルが内藤に対して何を考えたかはあえて伏せておく。
それはアップルの核心に迫ることだし、今はその必要が無いからだ。
グリントガールは、笑顔にしか見えない得意げな顔を内藤に振りまくだけである。
>「けど……君は一つ、忘れてるぜ。その言葉は……シナ国製だ。信用性に欠けてるよ。だろ?」
『そうかしら?信用できる人間はシナ国にもいるわ。
 私は会ったことがないけれど、リンネから聞いたことがあるもの。
 なんでも、私達の心の研究をしてた人だとか』
>「それに……ニッポンじゃこうも言うんだ。言葉は身の文、心の使い……ってね。
 意味は……自分で調べた方が勉強になるかな。ねっ、グリントベイビーちゃん」
『きっと、そうね。
 わかったわ。今度調べておく。
 これからも一緒に勉強しましょう♪』
アップルは楽しそうに言った。
見ていて面白いと感じる事に関しては内藤と相思相愛のようだ。

内藤とのフランクな会話を終えたアップル・グリントガールは、
幾つものコンテナに分けて搬送されてきたドラゴニックキャノンを目で追った。
連邦が誇る特A級の決戦兵器である。
もしもリンネがそれを見たら、どうして我社に発注しなかったのかと悔しがるに違いない。
>「……かぁーっこいいー!なんだこれ!ちょっと社長もいい加減起きなよ!
> どうやって核を壊すのか気になってはいたけど、へぇー、こんなのまで用意してたのか、すごいな連邦!」
そう内藤が話しかけても返事がなかったので、
アップル・グリントガールは少し困った顔をしながら、こめかみ辺りをコツコツ叩いた。
『ノックしてもしも〜し?』
リンネから返事が返ってきた。
「・・・ちっがーう!私と妻は、互いに求め合い、互いに傷つけ合う関係だと、何回言えばわかるんだ!
 やりなおしだ!あぁ・・・妻ぁー!妻ぁー!・・・zzz」
盛大な寝言をぶちまけて、再び沈黙するリンネ。
『すみません、リンネは寝ているようです』
ただし、後にこれは狸寝入りだったことがわかる。
これがリンネ流の、自分のプライドを守ったまま、
この場をやり過ごすスマートなやり方だったらしい。
>『――C隊の武神隊。コイツを組み立てる。手を貸してくれ』
グリントガールは祈祷をすることにした。
『猫の眼(まなこ)と〜♪犬のお耳で〜♪あなたに〜♪ごあいさつ〜♪』
そうやって頭の上で手のひらをピコピコさせるグリントガールを、
さぞやA隊の精鋭達は邪魔に思ったに違いない。
リンネはますます起きづらくなり、すっかりタイミングを逸してしまった。

【少女祈祷中 NowLoading…】

4リンネ ◆IgMoxdiK1Y:2015/10/17(土) 23:06:05
「ちょっと待て!?だからってドラゴニックキャノン発射後まで時間を飛ばしていいのぉ!?」
炎の舌に舐められた地上は一掃され、核へと続く焦熱地獄の道が開ける。
過去世にどんな罪を背負ったのか知らないが、その焦熱地獄へ一柱の重武神が投下された。
リンネは中の人に興味は無いが、その武神“森の人”の事は知っていた。
それがきっと中佐が事前に通達していた、先陣をきる者なのであろう。
アップル・グリントガールの任務は彼のフォローである。

『・・・・・・・・・』
とは言うものの、グリントガールの足力では、即座に追いつけそうもなかった。
キラーチューンを使った猛ダッシュは、地面が舗装路だったからこそ可能だった荒業であったが、
ガラス化した現在の道では不可能な所業である。
自転車があれば・・・しかしあれは置いてきたし、すぐにパンクしそうである。
疾風のように飛んで行くゲイルブレイドを見送りつつ、グリントガールは徒歩で移動を開始した。

>『はっ!テメーの出番はないかもだぜ霊長類!!
> なぜならこのおれ、ロジスティクス=ギーガー空尉が一番槍であの核をぶち壊すからなあああああっ!!』
その宣言と共に、時々飛んでくる敵の砲弾に苦戦しながら前進するグリントガールを尻目に、
ロジーの乗るヒューガが核を目がけて一直線に飛んで行く。
「行け!ロジー!やっちまえ!」
リンネは思わずそう叫んでいた。
ロジーにはずいぶんと不快な思いもさせられたが、
同時にリンネは自分が彼に好意を抱いていることも自覚していた。
それはホモセクシャルな意味での好意ではなく、
彼の持つ若いということが美徳であることをまるで隠そうともしない情熱に惹かれるのであろう。

ロジーは間違いなく核を砲撃で破壊するだろうと信じたが、
思わぬ伏兵にそれが阻まれてしまう。
つがいのサムライ型武神がマグナムブレスの弾丸を切り裂いてしまったのだ。
「あれは九六式か?零式が実用化された今では旧式だが・・・簡単ではなさそうだな」
>「……あぁ、もう!六角ちゃん!ベイビーちゃん!「辻褄合わせ」は任せたからな!」
そう叫んで内藤のドラゴンナイトは飛び出して行った。
核の破壊が失敗した今、ヒューガは極めて危険な状態にある。
すぐにフォローに向かえるのは、同じ機龍であるフレイアのワイバーンと、
武神らしからぬ足力をもったこのドラゴンナイトだけだろう。
「だぁああああああああ!っ、りゃあ!!」
ほぼ同時に六角のアレスもフォローを開始する。
>『……私ならば、あの数の滅びの軍勢相手であれば4分程の時間を稼げます』
>『……その間に、アレックスさん、グリントガールAI、カイさん……動いても構わないと思ってくださった方は、
> 申し訳ないのですが私単機を残して先行部隊を援護に行き、撤退の補助か核の破壊を実行してください……どうぞ宜しくお願いします』
「撤退だなんてとんでもない!すぐに前線に援護に行く!
 今が核を破壊する絶好のチャンスなんだ!」
リンネは六角に無線でそう答えた。
「桔梗君、君が笑うまでは、簡単には死なせないぞ」

5リンネ ◆IgMoxdiK1Y:2015/10/17(土) 23:07:05
少し先で、まるで幼虫のように地面を匍匐前進で移動する白い武神が見えて来た。
カイの乗る、満身創痍のシュヴァリアーである。
そんなシュヴァリアーをグリントガールがひょいと小脇に抱えて持ち去った。
その体格差はまるで大人と子供であったので、造作もなかった。
『兄弟というのは良いものです。愛でてよし、食べてよし』
「こらー!一人でお世話できないのにそんなの拾ってくるんじゃない!」
グリントガールは砲撃の合間を縫ってビルの影に隠れる。
『ところで、さっき女の声が聞こえたわね。
 一体誰なの?』
グリントガールは修羅場モードのままリペアツールを起動した。
しかし、リペアツールは本能モードの出力に合わせた状態で使うように調整されている。
その証拠にアップルが取り出したリューターは、
初めて歯医者に連れてこられた子供のトラウマとなる例のアレみたいな
キュイーンという甲高い音をやたらと響かせている。
内蔵モーターの回転数が高すぎるのだ。
「待て、アップル。シュヴァリアーの体を穴だらけのチーズにするつもりか?
 それに、まずは“森の人”の支援が先だ」
グリントガールは、修羅場モードへ変形した時と逆の手順、
つまり各部の装甲がスライドして関節部や肌(?)を覆うようにスライドし、
少女の顔も赤い十字が描かれた仮面の下に隠れた。
『メインシステム、本能モードを起動します。
 リンネ様のご帰還を歓迎いたします』
内藤のドラゴンナイトの陽動が功を奏したのか、地上への砲撃が止んだ。
その隙に、リンネ・グリントガールは核へと続く道へと躍り出た。

「中佐、さっきはずいぶんと痛めつけてくれたじゃないか」
リンネは、さきほどサウスウィンドが自分を
テイルハンマーで吹き飛ばした事を思い出させるために嫌味を言う。
「これはちょっとしたお礼だよ。なぁに、遠慮せずに受け取ってくれ」
地上から、まるでハンマー投げでもするように、
グリントガールが体ごと回転しつつキラーチューンをブーメランのようにして、
空にいるゲイルブレイドに向けて放り投げた。
と同時に、ゲイルブレイドに無線でとあるイメージが送信される。
それはゲイルブレイドがテイルハンマーで、
キラーチューンをサムライ型武神に向けて打ち返す絵だ。
砲弾を切断できる刀を持つとは言え、砲弾と違い、
超硬合金製の刃を持つキラーチューンを容易くは斬れないだろう。
もしも外れても(というかおそらくそうなるが)、
サムライ型武神が自分のアドバンテージとなる
俊敏さを殺すようなその武器を使おうとするとは考えにくい。
ならば、グリントガールが両手で扱うそれも、
“森の人”であれば片手で扱える手頃な鈍器や盾となるだろう。
無論キラーチューンをチェーンソーとして起動するには出力と規格の問題から不可能であるが、
はなから無いよりはマシである。

6リンネ ◆IgMoxdiK1Y:2015/10/17(土) 23:08:11
「さて、次は君だ。私のギャラは高いが今日は破格だ。
 どこが感じるか素直に教えてごらん?」
リンネ・グリントガールはシュヴァリアーの修理を開始した。
「痛かったら右手を上げてくれ。痛くなかったら右手を上げてくれ」
誤字ではなくて、要するに四の五の言わずに治療させろ、という意味である。
なぜならリンネは急いでいるからだ。
早く内藤と六角を正しい意味で楽にしてあげるために、
最前線で核の破壊をフォローしなくてはならない。
だからシュヴァリアーの治療も、最低限の機動力と攻撃力の回復にとどまるだろう。
「しかし私は妥協しない・・・ん?間違ったかな・・・?
 だが問題無い。私は天才だ」
ちなみに、ナノマシンは使っていない。

シュヴァリアーの修理をひとまず切り上げたリンネ・グリントガールは、
核へと続く道の、左右のビルの影に交互に移動しながら前線へと近づく。
サムライ型武神との戦闘領域へ入ったリンネ・グリントガールは、
最寄りのビルの影から彼らの様子をうかがうと、再び隠れた。
「よし、次は・・・石破天驚ストナーサンシャインだ」
『そんな装備はありません』
「無ければ、作る。それがエンジニアだ。
 あのドラゴニックキャノンに負けるわけにはいかない。
 なぜならば、私はBCインダストリー2代目代表取締役社長、リンネ=シーナだからだ」
そう言うやリンネ・グリントガールは、リペアツールを使って何やら左腕に細工を始めた。

【キラーチューンを滅びの軍勢に向けてシュウウウウウットゥ!超!エキサイティィィンッ!】
【愛をとりもどせ】

7GM ◆hZIQlI5D/Q:2015/10/24(土) 16:54:14
「チッ、やっぱそう簡単にゃ行かせてくれねェか!」

高速の機動で機龍をまた一つ切り裂き、眼前の敵を見る

――500m
ゲイルブレイドにとっては静止状態からでも5秒で詰めることが出来る距離であり、本来ならばないも同然の距離
それが、酷く遠い

(テイルハンマーなら核も叩けるが・・・流石にサムライすり抜けるのは厳しいなァ)

故に――ロジーの突出も、さしたる問題ではないと判断
武神ならまだしも、空中で三次元機動を取れる機龍を包囲して身動きが取れないようにする・・・というのは、少々難しい
ましてや、この付近に配備されているのは武神隊だ――旧式の砲撃装備をかわせないようでは、『天才』などと呼ばれはしないだろう

だから、それを援護するようにフレイアと内藤が出てきたところで、一瞬思考が固まった

「今は仲良しごっこやヒーローごっこしてる状況じゃねえんだがなぁ・・・」
『仕方ないでしょう、中佐。それより現状どうするかが先決かと』

すでにフォローのために六角が遅滞作戦を開始している
ただ、機龍乗りたるアレックスにとって見れば、それはロジーのためというよりは内藤のためのものに見える

「――西と東は?」
『西方面隊がよくやってくれてますね。敵機龍の半数以上を引き付けているようです』
『東側は――大型武装の準備中との情報が』
「よし、それに合わせて仕掛けるぞ――思考加速、30秒よこせ」
『Jud――ご存分に.』

8GM ◆hZIQlI5D/Q:2015/10/24(土) 16:54:48

「六角、2分で十分だ。パダウィ、早速で悪いが右をしとめろ。左は俺が狩る」
「いいかァ、そこの馬鹿3人!道を空けてやるから突っ込め、敵より速くだ!」
「数で劣ってンのに遅効なんてやってる場合じゃねェんだよ!」

――確かに、ここまでは進軍できている。ただし、消耗を省みない強引な進行で――だ
数と機体の質で劣っている以上、ゆっくりとした進軍ではそれこそ囲まれて潰される
そのあたりの判断が甘いのは、やはり戦術的な目が育っていないということかと一人結論付けつつ、全身の加速器を起動する

>「中佐、さっきはずいぶんと痛めつけてくれたじゃないか」
>「これはちょっとしたお礼だよ。なぁに、遠慮せずに受け取ってくれ」

「ハ、悪いな社長、丁寧なのは苦手でな!」
そう軽口を返しながら、急降下

「ゲイリー、――始めろ!」
『Jud!ロジカルリミッター、解除。フル・アクセラレーション――アクティブ!』
尾の端でキラーチェーンのスリングを引っ掛けながら、一気にサムライ型武神に迫る
――無論、本来ならば、達成できないはずの行為
それを実現するのは、一つの技術だ

そもそも、機龍の処理速度が武神に劣る最大の理由は、「人の脳が耐えられないから」である
感覚器そのものはむしろ機龍のほうが良質なものを積んでいることが多い
だが、機械と一体化し、機械の処理能力を使うことが出来る武神と違い、人の脳に外部的に情報を伝達することしか出来ない機龍では、脳への負荷が大きすぎる
故に、機龍の処理能力は武神のそれより意図的に落とされている――しかし
――もしも。その負荷に耐えられるだけの脳を持つ人間が、いるのならば
――もしも。人と意識を共にし、負荷の一部を肩代わりすることが出来るAIがいるのならば

その答えが、ゲイルブレイドであり、ゲイリーであり、――アレックスだ
30秒。それが、アレックスが武神の処理速度を得られる、ギリギリの時間だ
今のアレックスには、世界のすべてがゆっくりと動いて見える――故に、武神の専売特許である「見切り」も、たやすく行える

そうして引っ掛けたキラーチェーンと共に、まっすぐにサムライ型武神へと突撃を敢行
ギリギリの位置で機体を跳ね上げ、尾の動きでキラーチェーンを放つ
同時、閃く二線
連動して放たれた双子の斬撃が、キラーチェーンを弾き――破壊するに至らない

9GM ◆hZIQlI5D/Q:2015/10/24(土) 16:55:31

弾かれたキラーチェーンは、バダウィの「森の人」のほうへと弾かれる
そして、アレックスはさらに動く
使い捨てブースターに火を入れ、全身を振り回す
鋭角部から水蒸気の尾を引きながら、驚くほど小さくロール
身を捻り、真横から一閃
ただそれだけで、残心状態の侍が二つに分かたれ――尾の一撃に散らされる
片割れが慌てた動きで振り向き、構える――つまりは、後ろに無防備な姿をさらす
そしてサムライの意識が外れたということはつまり――『核』は、無防備

さらに――東の空から、光の「斬撃」が核へと飛び込んでくる
それを放ったのは、先の天使型に近しい、だがより攻撃的なフォルムを持つ純白の武神――総司令の機体
ドラゴニックカノンの一撃と同じく、その斬撃は光に阻まれる
だが――ここで、三方に分かれた部隊のうち、二つが合流する
東側の部隊も、やはり満身創痍。だが、総司令直々の指揮ということもあり、士気は非常に高い

――決めるなら、今しかないだろう

【隊長の本気、そして合流】
【絶好のチャンス到来】

10カイ ◆xMZSJ.LKvw:2015/10/28(水) 17:46:38
【セントエルモの非道(Ⅰ)】


『兄弟というのは良いものです。愛でてよし、食べてよし』

《……ええ。兄弟姉妹というものは非常に興味深い存在です。イルカほどではありませんが》

『こらー!一人でお世話できないのにそんなの拾ってくるんじゃない!』

《アップル……貴女とリンネの間で、どのような取り決めが交わされているのかは知りませんが、
 シュヴァリアーの回収を優先してしまって良いのですか? ルールは大事です。
 ルールを曲げてしまっては、それは最早ルールではありません――
 ――それは最早、ただの曲ったモノです》

『ところで、さっき女の声が聞こえたわね。 一体誰なの?』

《……言わば、顔が見えない文通相手の"ご近所さん"でしょうか。
 通信係の犠牲が不要であるという点では、やや異なるのですが》

『待て、アップル。シュヴァリアーの体を穴だらけのチーズにするつもりか?
 それに、まずは“森の人”の支援が先だ』

『…――カイ機AI……あなたの搭乗者の症状には少し覚えがあります。
 ……搭乗者に彼の心臓の鼓動と寸分違わないタイミングで微弱な電気的刺激を送ってください
 ……合一の過剰化から来る意識の混濁であれば気付け程度の程度の効果がある事が、イザナ正統皇国の実験では判明していました』

《私は"シュヴァリアーのAI"ではありません。厳密には"カイのANRI"です、キキョウ。
 その呼称を今後も使い続ける事を拒否する訳ではありません。しかし、私には……》

『中佐、さっきはずいぶんと痛めつけてくれたじゃないか
 これはちょっとしたお礼だよ。なぁに、遠慮せずに受け取ってくれ』

《……いずれ貴女が舌を噛みそうに思えてならない》

『ハ、悪いな社長、丁寧なのは苦手でな!』

《シュヴァリアーには、搭乗者に内部から"電気的刺激"を与える為の機構が搭載されてないのです。
 ですから仮に、斯かる状況を想定して予め"この補給物資"を手配していたのだとすれば――――》


盾裏にギアアップされた電磁警棒を伸長させず逆手に持ち、騎士の胸を打つ。
一度目は電撃のボリュームを絞り、微弱ながらも確かに鼓動する心音に寄り添う様に。
二撃目は情け容赦の一切存在しない最大ボリュームで、日頃の不満を抉り込む様に殴り付けた。


《――――ふう。見事な慧眼でした、アレックス》


そして三度、傭兵の意志が再び戦場に帰って来た。

11カイ ◆xMZSJ.LKvw:2015/10/28(水) 17:48:01
【セントエルモの非道(Ⅱ)】

「また、このパターンかっ! ―――アンリ、状況は」

《現在、アレックス、ロジスティクス、フレイア、マハティールが前線を支えています。
 やや離れた位置では、先程からリュウキとキキョウが単独で雑兵の分断と囮を》

「マハティール……誰だ? 九人兄弟の末っ子か?」

《SSIUのマハティール・バダウィ中尉、家族構成は不明です。
 アップルとリンネが、この場に私達を輸送しました。
 おそらく、何か思惑があっての事でしょう》

「了解だ……けど、フォワードとバックスが入れ替わっちまった事情が分からないな」

《貴方は、この状況をどう考えているのですか?》

「俺は――――みんなを信じてる、それだけだ」

《私とて、そう簡単に皆が討たれるとは思っていません。無傷でも済まないでしょうが。
 この戦いには決戦兵器も出ている……ここで後退して敵部隊の再展開を許せば無駄撃ちに終わります。
 もしそうなれば、独断専行を選んだ者達の騎士としての名誉は深く傷付く事でしょう。それは死よりも残酷な仕打ちだ》

「軍人だったら、その決戦兵器とやらで作り出した全軍突撃のチャンスを必ずモノにする義務がある。
 だけど……今の俺は傭兵だ。みんなが、それぞれの"戦う理由"を優先したって構いはしない。
 問題視すべきなのは、今回の報酬額が機体修理費で吹き飛びかけてるって現状の方だ」

《この期に及んで貴方は未だ、そのようなコトを……。
 金、金、金! 騎士として恥ずかしくないのですか!》

「だったら、傭兵稼業のついでに世界も守ってみせるさ。
 ―――あの"核"を放っておいて本当に世界が滅んじまったら、
 俺に報酬を支払ってくれる雇い主が、誰も居なくなっちまうんだからな」

12カイ ◆xMZSJ.LKvw:2015/10/28(水) 17:49:14
【セントエルモの非道(Ⅲ)】

『さて、次は君だ。私のギャラは高いが今日は破格だ。 どこが感じるか素直に教えてごらん?』

《戻ったのですねアップル、リンネ。なるほど……私達を回収したのは機体修理の為でしたか》

「そういうコトだったら……実は、さっきから何故か全身に耐えがたい激痛を感じてたんだ。
 例えるなら、まるで焼けた鉄板の上を歩かされた後にスタンガンでも食らったみたいに」

『痛かったら右手を上げてくれ。痛くなかったら右手を上げてくれ』

「ドクター、痛みと物理的不具合で右手を上げるコトすら出来ない場合は、どうすればいい?」

《……リンネ、苦労を掛けます。先ずは、右半身から熱変形した可動装甲のリペアを。
 やや難度の高いオペレーションになりますが、不可能ならばパージでも構いません》

『しかし私は妥協しない・・・』

《カイ、貴方の覚える違和感には、相応の深い事情があるのです……不可抗力と言ってもいい》

「シーナ社長、悪いけどついでに脚部バランサーの調整も頼む……その事情ってのは何だ?」

《ええ。キキョウ曰く―――『電気ショック療法で意識が回復するのではないか』と》

『ん?間違ったかな・・・?』

「なん…だと?」

『だが問題無い。私は天才だ』

《私もリンネの見解を支持します。
 カイには栄光あるハイランダー騎士の血が流れているのです。
 その血が多少、うっかり体外にまで流出したところで問題は無いと言えるでしょう》

「……一体、お前らの血は何色なんだっ!?」

13カイ ◆xMZSJ.LKvw:2015/10/28(水) 17:52:39
【グライディング・グラディエイター(Ⅰ)】

『六角、2分で十分だ。パダウィ、早速で悪いが右をしとめろ。左は俺が狩る』

「サウスウィンド中佐……いや、隊長! 俺にも"命令"してくれっ!
 一緒に来いって命令してくれるなら、覚悟が決められる。
 あんたの命令なら、何も怖くないんだ――』

『いいかァ、そこの馬鹿3人!道を空けてやるから突っ込め、敵より速くだ!』

「――なんだとっ!? "バカ三人"は余計だっ!?」

『数で劣ってンのに遅効なんてやってる場合じゃねェんだよ!』

《……!! これは好都合ですよ、カイ。今のアレックスの言葉、最後まで聞こえましたね?
 先に指示されていた陣形配置、即ち――『カイとフレイアは後方支援に回れ』――
 との命令は、これを以って完全に上書きされたと解釈できます》

「そうなのか? そういうコトでいいんだなっ!? ……フィールドを展開するぞ、アンリ!」

《しかし、機体をフィールドで覆えるだけのラグナ粒子量など、もう残されては――》

「――いや"それでいい"んだ。おそらく……"この量で足りる"」

ラグナ粒子の薄い被膜がライオットシールドの表面をコーティングする。
裏向きで地面へと投げ出したシールドに、シュヴァリアーが飛び乗った。

「摩擦をマイナスすればボード……いや、エアホッケーの円盤(パック)と同じ要領だ」

フィールドが操作する斥力に加えて、高熱の地表から立ち上る僅かな上昇気流さえも利用し――
――ライオットシールドは今、即席のグラヴィティ・リフレクション・ボードと化した。
片膝と片手を着いた姿勢でバランスと重心を確認、足裏を固定する。

《知識に無い競技ですが、概要は察しました。
 私はシュヴァリアーの出力調整に集中しましょう。
 カイ、姿勢制御は貴方だけが頼りです―――ブースト!》

「……ああ。任せておいてくれ、アンリ。
 その代わり、クッション・レールは使えないぜ?
 ―――さっき大佐が全部、吹き飛ばしちまったからな!」

シュヴァリアーは、物理機構スラスターを備えていない。
ラグナ・ジェットが全方位に対してバーニアに相当する推力を発揮する。
方向の異なる短時噴射を小刻みに繰り返し、白騎士は敵機の間を文字通りに滑り抜けた。

14カイ ◆xMZSJ.LKvw:2015/10/28(水) 17:54:35
【グライディング・グラディエイター(Ⅱ)】

《進路、視界、共に問題ありません。再加速を!
 マハティールが双子の護衛機に向かっている様です。
 一機はアレックスが対応していますが、あの戦闘機動は……》

「……ああ。俺だったら、また流れ星を見る羽目になっちまってるトコだ」

《おそらく、先に倒された方が弟機ですね……兄機(あにき)より優れた弟機など存在しません》

「だったら、後は"核(マザー)"まで一直線って訳だ! アンリ、威力を落とさずに撃てる本数は」

《射撃精度に目を瞑れば六本、必中させるのであれば四本が限度です》

「上等だ……先ずは五番と六番を使う! ホーミング・モードで護衛機へ!」

機体背面のショート・スタビライザーが、歪んだジョイントを破砕しながら展開する。
異音を伴って強制開放されたスリットから、溢れ出した翠緑の淡光が空に零れた。

《了解。ブリュンヒルデ―――R-LINK、ダブル・コンタクト》

〓┣━【○】[VSH:Brünnhilde]─╂─[VARLCURIE-System]━┫〓
┏┛
┣━【●】[VST/01:Waltraute]─╂─[EAW-KS/R Blade Gun Bit]━┫
┣━【●】[VST/02:Siegrune]─╂─[EAW-KS/L Blade Gun Bit]━┫
┣━【●】[VST/03:Gerhilde]─╂─[EAW-SB/R Blade Gun Bit]━┫
┣━【●】[VST/04:Grimgerde]─╂─[EAW-SB/L Blade Gun Bit]━┫
┣━【○】[VST/05:Ortlinde]⇔[EAW-AD/R Blade Gun Bit]━┫
┣━【○】[VST/06:Helmwige]⇔[EAW-AD/L Blade Gun Bit]━┫
┣━【●】[VST/07:Schwertleite]─╂─[EAW-GSX Long Buster Sword Rifle]━┫
┗━【-】[VST/08:Rossweisse]━┫┣━[EADU-VGW High Mobility Flight Unit]━┫

《ターゲット・ロック! オルトリンデ、ヘルムヴィーゲ、共に反応良好です》

「―――聞こえるか、ゴリラ武神!
 そっちに"猫じゃらし"を二本、放り込む。
 ……連携してサムライタイプの片割れをやるぞ!」

機体後方へとパージされた二本の剣が、投げ出された宙空で燐光を増した。
二基それぞれが独立して回転、姿勢制御を行って白騎士の航跡を追従する。

「行けっ! "アサルトダガー"! こっちはゴリラ武神の援護射撃だ、牽制になりさえすればいい」

さらに加速した騎士が、白き弾丸の如く"森の人"を背後から追い抜く。
その場に置き去りにされたアサルトダガーは、銃口となる剣先を右手の九六式へと向けた。
目標と一定距離――"剣の間合い"の一歩外――を維持する空中機動で、全方位から散発的な射撃を繰り返す。

「核(ヤツ)には三番と四番を同時に撃ち込んでやる……"ソードブレイカー"セット!!」

二本一対のロング・スタビライザーが基底接続部を支点に180度の可動。
腰部左右から機体前面に突き出し伸長。二本のドライバーとなる。
展開したグリップを握り、騎士は物理トリガーに指を掛けた。

《……インサイト! 目標は固定された巨大構造体です。この至近距離なら――――》

「――――外しはしない! ……貫けえっ! "ソードブレイカー"!!」

剣峰に深いセレート構造を有した片刃の双剣による狙撃が光学障壁を一点突破し、黒核の装甲を貫通。
その軌跡を追って到達したソニック・ブームの衝撃は障壁を僅かに減衰させるに留まる。
同時に、侵徹したブレードが先端からのラグナ粒子砲零距離射撃を見舞った。

15カイ ◆xMZSJ.LKvw:2015/10/28(水) 17:57:38
【グライディング・グラディエイター(Ⅲ)】

《ラグナエンジン、ダウン……目標は未だ健在、光学障壁も完全消滅には至っていません》

「ソードブレイカーが完全に入ったのに……急制動だアンリ、この位置は不味いぞ!」

《無理を言わないでください、カイ。今のシュヴァリアーは急に止まれません》

「まさか、ラグナ粒子を使い切ったのか! ぶつかるぞっ!?」

《―――"この量で足りる"と判断したのは貴方だ!》

最高速度で黒核へと直進する騎士には、進路変更の手段など残っていない。
衝突寸前でライオットシールドのテール側に重心移動、ノーズを跳ね上げる。

「うおおおおおっ! カットバック――」

光学障壁に乗り上げ垂直上昇した勢いに任せて縦回転を強行。
左手でシールドのサイドエッジを掴み、右腕で全身のバランスを取る。
前傾姿勢で重心を移動。天地が逆転し機体の真上に来たシールドの中心へ。
回転の進行に合わせてノーズ側へと重心を移行。下降しながらエッジを使ってターン。

「――ドロップターン!! からの……360度サイドスピン(サブロク)だあああっ!」

着地動作と並行し、肩をかぶせて上半身を捻り込む。180度のスピン。
重心移動した逆脚が軸となり、さらに180度シールドを回して停止した。

《くっ……何をやっているのです、カイ!》

「ここまで来て出合い頭の交通事故で死んでたまるかっ!?
 今はエアバッグも使えない状態なんだ、こうするしか……」

《……私は、そういう意味で問うたのではありません。
 ハイランダーの騎士が、このような見苦しい猫背で――》

「――"この姿勢を維持"するんだっ! アンリ!」

刹那、一条の烈光がシュヴァリアーの頭上を掠め過ぎ去り、黒核の障壁へと打ち込まれた。

「こっちが小型機じゃなかったら、今ので首から上が無くなってたな……やれやれだ」

《これほどの砲撃……いえ、斬撃を繰り出せる機体が? 飛来した方位は―――》


「―――ああ、東方面部隊の合流だ」

16マハティール ◆dJhD86tKpI:2015/10/31(土) 14:13:08
ドラゴニックカノンによってこじ開けられた前線。
それを拡大し、維持するためにバダウィは最前面に出る。
(穴を閉じるために滅びの軍勢は必ず廃墟群から飛び出してくるはず)
(そうなれば後は各個撃破しつつ前進、核まで取り付けばこちらのものだ!)
合一化によって加速された思考の中でそう結論を出すと、同じ部隊からと思われる通信が入ってきた。

>「…資料にあった方ですね、こちらフレイア=レシタール一等兵です」

>「よろしくマハティール君。僕は内藤=ハイウィンド=隆輝だ。
> しかし……君も中々間のいい奴だな!上手い事クライマックスに駆け付けて……」

>「……増援了解しました……イザナ正統皇国所属、六角 桔梗准尉です」

こちらの通信に答えて、自己紹介をしてくれる面々。
彼らの愛機は流れてくるデータから察するに、かなり疲弊している。
やはりここは自分が前線となるしかない、とバダウィは改めて考え、前線を張る覚悟を決めた。

…そのはずだったのだが。

>『はっ!テメーの出番はないかもだぜ霊長類!!
> なぜならこのおれ、ロジスティクス=ギーガー空尉が一番槍であの核をぶち壊すからなあああああっ!!』

罵倒と叫び声を挙げながら、"森の人"の頭上を一匹の機龍が駆ける。
最前線となるはずの武神の頭上をあっさり越え、機龍に搭載された二門の主砲が核へと吸い込まれていく。
直撃すれば痛手を与えられるであろうその一撃は、届くことはなかった。
突然飛び出てきた二機の武神が何か手を動かしたかと思うと、砲弾が突然四散したからだ。
二機の武神はそのままこちらに立ちはだかるかのように、こちらを睨み、動かない。

「斬ったのか!剣で!?」

視覚センサが今の光景を必死に解析し、バダウィにゆっくりとだが今起こったことを伝える。
何かしらの近接武器を超高速で振り抜き、砲弾を叩き切った。
あの一撃が"森の人"に直撃した場合、関節部分であれば切断される。
 (いわゆる近接特化型か!ギーガー空尉には届かないけど、こちらには十分な脅威!)
 (門番ってわけか…!)

17マハティール ◆dJhD86tKpI:2015/10/31(土) 14:13:49
その武神ともう少しで交戦可能距離というところで、隊長から通信が入った。

>「六角、2分で十分だ。パダウィ、早速で悪いが右をしとめろ。左は俺が狩る」

「了解!散弾砲で二機ともまとめて――」

直後、隊長機によって左の武神はあっさりと切断され、右の武神はこちらに背を向けた。
そして味方が使っていたであろうチェーンソーがこちらに転がってくる。

「…機龍の動きに残像が見えるなんて初めてだ」

わずか三十秒で二機のうち一機が大破、一機が明らかに隙を晒す。
これが隊長の実力なんだと感じつつ、チェーンソーを右腕大型マニピュレーターに保持。
規格が合わないのか電源が入れられなかったが、一撃を受けても真っ二つにされなかったところを見ると
打ち合い程度はできるだろう。

>「―――聞こえるか、ゴリラ武神!
> そっちに"猫じゃらし"を二本、放り込む。
> ……連携してサムライタイプの片割れをやるぞ!」

と、先ほどは意識不明となっていたパイロットから通信が届く。
それと同時に"猫じゃらし"と呼んでいた武装のデータも視界の隅に表示された。
どうやら自動で援護射撃をしてくれるようで、かく乱にはちょうどいいとバダウィは考える。

「…ええ!トドメはもらっていきますがね!」

18マハティール ◆dJhD86tKpI:2015/10/31(土) 14:14:22
こちらに背を向けた武神が、"猫じゃらし"の射撃によってさらに隙を晒す。
踏み込んで叩き切ろうにも斬撃は届かず、かといって無視できるほど装甲は薄くない。
武神がひたすら回避し続けていたところで、すぐ近くまで来ていた"森の人"の155㎜散弾砲が放たれる。
ハードポイント・ボックスのサブアームが銃身を保持し、正確な移動射撃を三発ほど武神へと叩きこんだ。
装甲を貫通するには至らないものの、体勢を崩させるのに十分な射撃だ。そうして得意の高速抜刀ができなくなったところで、
チェーンソーが両腕の関節部へとしつこく何度も叩きつけられる。
超硬合金製の刃は回転しなくとも脆い部分にヒビを入れるには十分な硬度だが、そこに"森の人"の腕力が加わる。
切れ味の悪い糸ノコで金属を削るような、嫌な音がしばらく続き、やがて両腕部がついに切断された。

「武器が使えなくなれば、お前も武器にできる!」

そうバダウィは叫ぶと、チェーンソーを持っていない腕で消失しない程度に部位を切断された武神の脚を掴み、
チェーンソーを持った時と同じように大型マニピュレーターに固定。地面をひきずるようにして運び始めた。

 (お前たちは現状の武神より優れた装甲を持つ。つまり優秀な鈍器になるってことだ!)

障壁にこいつを叩きつけてやる、障壁が砕ければ核にもだ。
そうバダウィは考え、マニピュレーターから逃げようとする武神を55㎜短機関銃で黙らせつつ、核へと前進する。

すると、一筋の閃光が走った。
東の空から放たれたそれは核へと打ち込まれるが、やはり障壁に防がれる。

(東側の味方か!被害は少なくないようだけど、これで核の破壊に集中できる)

"猫じゃらし"で支援してくれた機体も、障壁の破壊に参加してくれたようだ。
光学障壁も二度の攻撃で徐々に減衰しており、何回か攻撃を加えれば砕けるだろう。
障壁の前に"森の人"は立ち、掴んでいた武神を思い切り横殴りに叩きつけた。
腕部出力配分を最大限にした大型マニピュレーターだからこそできる芸当。
一回の叩きつけでダメなら二回、それでダメなら三回と徐々に回数を増やしていくうち、
やがて必死に逃げようとしていた武神も動かなくなり、塵となって消えた。

「次はこっちだ!」

大型マニピュレーターが地面に手のひらをつき、姿勢を固定。155㎜散弾砲が正面に向き直り、障壁へ向け弾倉内の全弾を撃ち尽くさんと連射し続けた。
55㎜短機関銃もおまけとばかりに連射され、障壁の一点へとひたすら物理的なダメージが与えられる。

「これでもダメなら…次は素手しかないな」

障壁へ向け撃ち続けながら、バダウィは一人つぶやいた。

19内藤 ◆.GMANbuR.A:2015/11/07(土) 22:11:02



「……僕は譲らないぜ、隊長。また同じ状況になっても、絶対に同じ選択をする」

空を跳ね、竜の群れを地に蹴落とす最中、隊長の声が聞こえた。
言っている事は、全くの正論。
ロジーとフレイアが突出したのなら、それをデコイに本隊の進攻を加速させるべきだった。

(でも、内藤君ならそんな事はしない)

危ないと思ったのなら、助けに行く。

「助けなきゃと思っなら、助けに行く。後から、もっと頑張れば助けられたかも、なんて思いたくないんだ」

それが「彼」の考える「内藤隆輝」だ。

「だから、悪いけど……こんな僕を、なんとか上手く使ってやってよ」

心優しい真人間らしく、内藤隆輝らしく振る舞う。
それは彼にとって最大級の「快」であり不変の行動原理だった。

だが、その為に彼には一瞬の迷いが生じていた。
原因は、六角桔梗の行動。

(あれは……予想外だな。それは「兵士」の判断として間違ってるだろ?
 どうして……いや、まずはこの状況、内藤君ならどう振る舞う……)

その自己犠牲じみた行動は、彼女を理解する上で重要なファクターとなるに違いない。
故に内藤の意識は地上へと吸い寄せられ、自分を取り巻く戦場の変化に気付くのが、一瞬遅れた。

至近距離に敵機がいない。
どの敵機を見ても、竜夜の跳躍を以ってしても接近までに僅かな時間が掛かる。
その「僅かな時間」とは即ち、敵機が狙いを定める為の猶予に等しい。

「こりゃ、マズいかも……!」

言葉と同時、内藤はそれでも最も近い敵機へと跳躍。
しかし、やはり遠い。真正面から迫り来る機体は、敵機にとってただの的だった。
砲口は既に内藤を捉えていた。

砲撃音が轟く。
接近するには遠いが、回避するには近すぎる距離。
迫り来る砲弾を目視して、内藤はスラスタを噴射しても避け切れない事を悟った。

直後に激音が響き、竜夜の機体が空中で大きく仰け反る。
そしてそのまま重力に囚われて、地へと墜ちていった。

竜夜を撃ち落とした機竜は、狙いを次へ定める。
つまりフレイアか、またはロジーへ。
その砲口が彼らのいずれかを捉える。

だが、今度は砲撃音は響かない。
敵機の首と砲身は切り落とされていた。
そしてその機体を足場にするようにして、竜夜が立っている。

「……墜としたと思ったかい。残念……君はただ竜夜の『逆鱗』に触れただけさ」

20内藤 ◆.GMANbuR.A:2015/11/07(土) 22:13:13
竜夜の戦闘マニュアルには『逆鱗』と呼ばれる妙技が記されている。
自身と敵の得物を激突させ、あえて押し負け、弾き返させ、
しかしその反動を利用して急速に回転、神速の返し刀を以って敵を殺めるという技法だ。
記述通り、本来は地上戦での使用を想定された技術だ。
だが内藤は斧刃の面を盾のように扱う事で『逆鱗』を空中で実現、反動によって非撃墜の偽装を為した。

そしてスラスタを用い、問題なくビルの屋上へと着地を果たし、再び跳躍。
竜の戦域へと帰ってきたのだ。

「警告しておくよ。今度こそ、僕だけを見ているんだ。
 『竜夜』(ぼく)は君達……機竜にとっての宵闇さ。目を離せば、喰い殺しちゃうぜ」

伝わる筈のない、既に伝えるまでもない警句を述べ、内藤はロジー達を視界に収める。

『さぁ、行けよギーガー。なんだかんだ言ったけどさ、どうしてもやりたかったんだろ』

ロジー達の進路、射線を塞ごうとする敵機竜群は必然、密集した陣形を取らざるを得ない。

『だったら、僕は応援するよ』

即ち竜夜にとっては絶好の狩場。
縦横無尽に宙を舞い、敵の放った砲弾すらまるで踏み台のように利用して、内藤は竜の巣を荒らし続ける。
少しでも「道」を広く開ける為に。

だがその最中、彼の視線が一瞬にも満たない僅かな時間だけ地上へ向いた。

『……なぁ、六角ちゃん』

視線は、数え切れない敵機を一手に引き受けた六角を捉えていた。

『さっきは、変な事を言って悪かったよ。
 僕はただ、君がどういう人間なのか知りたかったんだ。
 結果は……赤点って感じだったけどね』

すぐに戦闘行動を再開しながらも、囁きだけはそのまま続ける。

『でも、分かった気がするよ。今度は自信がある』

しかし、敵機の数は多い。
いかに竜夜が優れた機体でも、内藤が優れた武神乗りでも、徐々に追い詰められていく。

『君はさ、すっげえ良い奴なんだろ。めちゃくちゃ優しくて、そんで真面目なんだ』

撃墜が減り、回避に専念させられる時間が増えていく。

『だから……君は「いなくなりたい」んだろ。これからいなくなる誰かの代わりに。
 それと、もしかしたら……君がいない者にしちゃった人達みたいに』

答えは既に示されていた。
内藤は天使型との戦闘中、彼女が述べた言葉を思い出す。
「いなくなっちまえよ」と言った内藤に、彼女は「その通りです」と答えたのだ。

「……っと、そろそろヤバくなってきたかな……頼むぜロジー。
 こんな所で内藤君を死なせるのは、すごく不快だ」



【カッコ付けつつ追試】

21フレイア ◆SLsyr0XB/w:2015/11/09(月) 06:57:34
始めに飛び出したロジスティクス三等空尉を追ったのは、盾になるためだけではない。
勿論それもあるが、フレイアの思考はそれほど戦士向きではなかった。
いつもの判断で、最大攻撃となる自爆をしにいこうとしていたのだ。
だが実際にシークエンスを確認するとやはり外部ロックの警告。外すには隊長の権限が必要だった。

「隊長、提案なのですが―――」

だがその目論みはあっさり崩れることになった。
飛び込んできた他のメンバー、彼らの戦いを見た瞬間、出来ないと思った。
前線を維持するために前に出るもの、退路を繋ぐために囮となるもの。
全員で生きて帰ろうとする、無理矢理な戦い。
これでは死にたいなんて言えない。

「――すみません、なんでもありません」

それだけ答えると、近付いてきた機龍に鋭い爪を浴びせる。
近距離から撃たれては困る、と連撃で片翼に翼刃をぶつけ切り落とした。
こんな雑魚ばかり相手にしていては終わらない。
ならば、核をどうにかするしかないだろう。

>「六角、2分で十分だ。パダウィ、早速で悪いが右をしとめろ。左は俺が狩る」
>「武器が使えなくなれば、お前も武器にできる!」

二人の力で双子の武神は倒れた。後は障壁を抜ければロジスティクス三等空尉が攻撃できる。
あと少しなのだ。

「ロジスティクス三等空尉、私が障壁を破ります、その時に砲撃を」

核に確実なダメージを与える手段は、やはり強力な砲撃だろう。
自分は、ほんの少しでも邪魔を排除できればそれでいい。
前で、後ろで戦っている仲間。
援軍に来てくれた人々。
そのすべてに報いるために、自爆はしない。

「行きます」

静かな言葉を皮切りに、荒々しくワイバーンを核へ飛ばす。
途中邪魔をしてくる機龍は翼刃で凪ぎ払い、武神の砲撃は回避する。
そうして辿り着いた障壁に、両腕を突っ込む。
全身で押し開くように、無理矢理障壁をこじ開けて行く。
最中、攻撃も飛んできて装甲が剥げて行くが、気にせず力を一点にそそぐ。
頭まで突っ込み、すべての攻撃が通りやすくなるよう、障壁破壊を試みるのであった。

22ロジー ◆AtJyT58Cgs:2015/11/19(木) 00:33:29
>『……!? ……ロジ……ギーガーさん、その行為はダメです……至急減速し、後衛の援護が届く範囲に戻ってください……!』

桔梗の絞りだすような警告は、しかし意図的に無視された。
ヒューガF91の放った356mm口径二連装砲弾は、吸い込まれるようにして核へと殺到した。
空気抵抗や気流の影響は織り込み済み、精緻極まるタイミングと角度で射出された鉄塊を、阻むものはなにもない。
なにもないと、ロジーは疑う余地を持たなかった。

「――敵性警告!?」

HUDいっぱいに表示されたのは、新たな敵性存在の出現アラート。
それはまさにたった今砲弾の直撃をうけたはずの核を発生源とするものだった。
否、正確には核の両脇。
理解を待たずして二発の砲弾がそれぞれ十字に切り裂かれ、計8つの鉄片となり果てるのをメインカメラが捉えた。
質量を削られた質量弾はもはや意味をなさず、期待される威力をなにひとつ発揮できずに周囲の壁を穿つ。
砂塵が晴れた。
そこにいた、すなわち砲弾を斬断してのけた刃の持ち主は――瓜二つな二機の武神。

「新手の武神だとおおおおおおっ!!」

その驚きに言葉通りの意味はない。
攻撃目標たる核が滅びの軍勢の『巣』であるなら、そこから増援が現れることなど想定されて然るべき。
問題なのは、その増援がロジーの砲撃を"見てから斬り捨てた"ことだ。

言うまでもなくヒューガの主砲は強力である。
500kgにも及ぶ鉄塊が亜音速でぶち当たれば、軽武神の装甲などものの数にも入らない。
そしてマグナムブレスをはねのけられるような重装甲目標は、そもそも核とヒューガの間に割って入る速度がない。
だからこその速攻。ドラゴニックカノンの露払いにより射線上から重装甲が排除された今だからこそ活きる戦術。

だが――誤算があった。
それすなわち、軽量機敏でありながら主砲を阻むことのできる敵勢力の存在である。

「クソ、何が起こったんだ今の……斬ったのか?ブレードで?砲弾を!?」

そのアンビリーバブルな現象を、しかし視覚素子の高解像度が立証する。
まるで六角の砲弾逸しだ。おそらく敵はそれを、機体のスペック任せに強引に実現している!

>「ロジスティクス三等空尉、危険です。一度離れるべきかと」

冷や汗を舐めるロジーに、フレイアが無線で退避を呼びかける。
ぐうの音も出ない正論だ。敵がこちらの想定を上回ってきている以上、このまま進撃しては思う壺だ。
だが、引けと言われて引ける制空竜撃手ではない。

「ま、マグレだ。単なるラッキーパンチに決まってる!もう一度ブチかましてやりゃはっきりするぜ。
 ……今度は至近距離からだっ!!」

ヒューガは旋回力にも加速能力にも劣る機体だ。
ここで一旦回避軌道に乗れば、前線への復帰に相当な時間が必要になる。
そうこうしているうちに他の連中に核を破壊されてしまったら。
ロジーは今度こそ、先走って何の成果も上げられなかったただの馬鹿で終わってしまう!

レーダーを見る。フレイアが随伴するように速度を上げている。
それは間違いなく、突出したロジーをフォローするための行動だったが……。
トラブルに焦るロジーには、まるで自分を追い立てているかのように思えてしまった。
そして、その焦燥が彼から集中力を簒い、気付いた時にはもう遅かった。

ロックオンアラート。
側面から迫ってきていた敵機龍の、その口腔にはブレスがすでに充填済み。
直撃すれば火達磨はおろか、空中で転覆もありうる被撃墜確定コースの一撃が、射線にロジーを捉えていた。

23ロジー ◆AtJyT58Cgs:2015/11/19(木) 00:34:06
「やべ――」

側面のサブカメラが白炎に染め上げられ――

>「だぁああああああああ!っ、りゃあ!!」

横合いから叩きこまれたハルバードによって、敵機竜は機首を強引に下げられた。
射出されたブレスがヒューガの下部ハードポイントを僅かに焦がして擦過していく。
その余波だけでも機体を軋ませられながら、ロジーは自分を救った機影を知覚した。

>「二人とも、急ぐんだ。ここにいちゃ僕ら三人、いつ撃墜されてもおかしくない」

機竜狩りの武神、ドラゴンナイト。
その駆り手、内藤・H・ハイウィンドである。

「な、ナイトー!」

>「分かったろ、ギーガー三尉。これは漫画やゲームとは違う。戦争なんだ。一人じゃ、戦争は出来ない」

無線から聞こえる内藤の声には、いつもの韜晦気味な響きがない。
彼はまるで踊るように、翼を持たぬ武神の身で、機竜以上に自由闊達に空を舞う。

>「僕らがまだ無事でいられるのは、僕らが凄いパイロットだからか?」
>「違う。砲撃がこっちに向かないよう、下で皆が頑張ってくれているからだ。

敵勢力はドラゴニックカノンによって切り開かれた空間を埋めるように次々と押し寄せる。
内藤はそれらを巧みに足場にして、飛び石にして、渡り歩き、撃墜の一撃を加えていく。
そのマニューバのどこを切り取ったってロジーの見たこともない超絶技巧の見本市だ。
しかしそれでも、彼自身が言及したように、内藤一人では限界がある。
ロジーを護るために、戦線が、押し込まれていく。

>「だけど、僕らが力を合わせれば……アイツらなんかよりずっと凄いチームになれる」
>「焦ったって、何もいい事なんかない。だろ?足並みを揃えていこうよ」

そして未熟者をフォローしているのは内藤だけではない。
ロジーが駆け抜けたあとを追うようにして滅びの軍勢は侵攻している。
下手をすれば後ろからの挟み撃ちになりかねないこの状況、食い止めているのは桔梗のアレスだ。
彼女は集団の中に飛び込み、あえて自身を集中攻撃の的と晒すことで進撃を遅滞させている。
囲まれてなお継戦を維持できるのは流石の手腕の一言だが、それもまた命懸けだ。
いつかは。そして必ず。決壊する堤防である。

(クソ……おれはお前らを出し抜こうとしたんだぞ。
 手柄を独り占めしたいからって、ただそれだけの理由で!)

滅びの侵攻が始まって、抵抗軍に派遣されて、C隊に組み込まれて。
傲慢な天才は、何度もその鼻っ柱をぶち折られてきた。
自分が井の中の蛙に過ぎないということを、いやと言うほど思い知らされてきた。

ロジーは今でも、己が彼らに対して劣っているとは微塵も思っていない。
だが彼らも自分より劣っているなどとは、どうしても思えなかった。

彼にとって味方の機竜とは制空竜撃手である自分をサポートする存在でしかなかった。
武神はもっと下で、それこそ制空権をとった後の残務を担当する小間使い程度にしか認識していなかった。
機竜を重んずるISEでは、本当に武神とはそのぐらいの役割しか担っていなかったのだ。
だが蓋を開けてみればどうだろう、ロジーがこの抵抗軍で出会ってきた武神乗り達は、
彼の想像を軽々と上回る手練ばかりであった。
ロジーと違い彼らはそれこそつい昨日まで滅びの軍勢と戦って、生き残ってきた者達だ。
そして祖国の為、仲間の為に散っていった者達もまた、戦線を支える強者だったのだろう。

経験して、痛感して、いつしか認識が変わっていた。
こいつらには負けたくないと、そう強く思ったのだ。

24ロジー ◆AtJyT58Cgs:2015/11/19(木) 00:34:42
両脇から味方の影が飛び出した。
カイのシュヴァリアーと、バダウィの森の人と、中佐のゲイルブレイドだ。
ロジーを追い抜いて核へと殺到する機影、応じるように迎撃に乗り出すのは件の二機一対の武神。

>『Jud!ロジカルリミッター、解除。フル・アクセラレーション――アクティブ!』

小さく弧をえがくようにして飛び込んだ中佐の機竜が尾に保持したチェーンソーを武神達へ叩きつける。
回転する刃と滑り放たれる刃とがぶつかり合い、剣戟の轟音が聴覚素子を轟かせる。
敵は亜音速で飛翔する砲弾を切り落とせる武神。
それを二機同時に相手にして、中佐はチェーンソー一本で切り結んでいるのである。
常軌を逸した術くらべ、しかし数の利は覆せないのか武神の一閃にチェーンソーが弾かれた。

――否、その動きさえもブラフ!
身軽になったゲイルブレイドはその一瞬で小さく旋回。
追従するように音速を超えた竜尾が、武神の片割れを胴から真っ二つに切断し、塵に変えた。

そして放り出されたチェーンソーも、ただ弾かれただけではない。
その落下予測地点には、バダウィの武神が走り込んでいた。
大型マニピュレータがチェーンソーを見事にキャッチ、残りの敵武神目掛けて叩き込まれる。
即席にも関わらずこの完璧な連携は中佐の差配によるものだろう。
しかしそれに追従できるゴリラめいた武神もまた、百戦危うからぬ古強者の一人。
カイの支援を受けながら散弾砲とチェーンソー(不動)による衝撃飽和攻撃により敵武神を無力化した。

そして前方、地面を滑走する見覚えのある機影が一つ。
シュヴァリアーが、盾をソリ代わりに地面を滑っていた。

「フツーに動けねえのかアイツは……!」

だがその進撃速度は脚部による疾走よりも遥かに高速だ。
器用に重心移動により方向転換を繰り返しながら、滑走武神は誰よりも早く核の元へと到達する。
ロジーよりも先にだ。

>『さぁ、行けよギーガー。なんだかんだ言ったけどさ、どうしてもやりたかったんだろ』

内藤から通信。
一人で先行した先程とは違う。ここには仲間達がいる。

>『だったら、僕は応援するよ』

「……ロジーって呼んでいいぜ、ナイトー」

多段変速スラスターへの供給スロットルをすべて解放。
爆発的な光芒に機体後部を包まれて、ヒューガは蒼の砲弾へと己を変えた。

出遅れた。だが焦りはない。
眼前で背を見せるシュヴァリアーが閃き、一対の武神用双剣から放たれた極光が核の障壁に突き立てられる。

>「――――外しはしない! ……貫けえっ! "ソードブレイカー"!!」

さながら粒子の大瀑布。
かたく閉じられた二枚貝にナイフを入れてこじ開けるように、光学障壁が少しずつ開かれていく。
そこへ東方面から長距離を貫いて光の"斬撃"が叩きこまれた。
レーダーを見ずともわかる。あちらにいるのは総司令を擁する東方面部隊。
ドラゴニックカノンと同格の大規模破壊武装は、あちらにもあるのだ。

シュヴァリアーのこじ開けた障壁の隙間を、高エネルギーの奔流によって強引に広げていく。
それでもなお門扉は重く硬く、砲撃の有効なレベルには至っていない。
そこへ更に打擲する影があった。
マハティール=バダウィの霊長武神。その巨碗のふさわしい巨大な打撃武器で――

「――さっきの武神じゃねーか!!」

25ロジー ◆AtJyT58Cgs:2015/11/19(木) 00:35:26
そう、バダウィが無力化した武神は、達磨にされつつも消滅には至っていなかった。
構造的に脆い手足をもいだ後に残るのは、まるで鋳造削り出しのように無垢で強靭な装甲の塊。
あろうことかバダウィは、それをそのまま障壁への質量打撃武器へとしているのだ。
重武神とは言え、武神が武神を抱えてあまつさえ鈍器に使うなど前代未聞。
それを可能としているのは、ひとえにその異形なまでに分厚く構築された腕部マニピュレータだ。

なんという力技か、哀れ敵武神はみたびの打擲に使用され、障壁に装甲を粉々にされて霧散した。
なおもバダウィは引かず、散弾砲と短機関銃を諸手に掲げて障壁への銃撃を断行する。
シュヴァリアー、総司令、バダウィと、あの地龍ですら十回は消滅しているであろう火線に晒され、
なおも障壁は残存していた。
亀裂は既に機銃の通過を防げない程であるが、それでもなおヒューガの主砲だけは頑として阻む構えだ。
敵も先刻の攻防で、ロジーの主砲だけはヤバイと学習しているのだ。

「くそ……あとすこしなのに……!」

現有戦力で核に対して有効なダメージを与えられるのはヒューガの主砲のみ。
しかしなんという皮肉か。その威力故に、障壁の隙間を通過できずに阻まれてしまう。
もたもたしていてはまた新たな敵機を現出され、相手をするうちに障壁の修復が始まってしまう。
ジレンマは再び選択肢をそぎ落とし、手詰まりへと歩みを進めていく。

>「ロジスティクス三等空尉、私が障壁を破ります、その時に砲撃を」

その時、不意に無線が飛び込んできた。
ロジーの砲撃失敗からこの時まで沈黙を保ち続けてきた僚機。
フレイア=レシタールの白き翼がロジーを追い越して前に出た。

「破るったってお前、砲撃兵装なんて積んでないだろ――」

>「行きます」

問いを背に、ワイバーンは飛翔した。
シュヴァリアーと森の人の頭上を飛び越え、黒の核へと特攻する。
体当たり――否。直撃する前に減速している。
彼女は核の障壁へと飛び込み、両爪を突き入れた。
そして、まるで観音開きの扉を開くかのように、両腕でこじ開け始めたのだ。

「はは……なんつー力技」

はっきり言って正気の沙汰ではない。
カイやバダウィですら、核とは一定の距離を保ちつつフットワークを交えて打撃を加えていた。
しかしフレイアは、あろうことか障壁に直接触れて、機体をねじ込むようにして隙間を広げているのだ!
当然、そうしている間彼女は動けないし、周囲の敵機はそんなことお構いなしだ。
瞬く間に美しい白磁の装甲は集中砲火に晒され、爆炎が白片を散らしていく。
その猛火が、駆り手の少女の命へ届くまで、残された時間は幾ばかりか。
しかしその決死の特攻はまさに効果覿面。障壁は押し広げられ、核への射線が確立された。

あとはお膳立てにお膳立てを重ねられたロジーが砲撃を叩き込むだけ――

26ロジー ◆AtJyT58Cgs:2015/11/19(木) 00:36:25
(――っておい、この配置どう考えてもやばくねーか?)

ワイバーンによってこじ開けられた障壁の向こう、射線は確かに通っている。
しかし、当然のことながらロジーと核の間には障壁に挟まり続けるワイバーンがいるのだ。
砲弾の予測軌道は、実にワイバーンの頭をほんの数メートル掠めて核を狙う一線。
僅かにでも弾がブレれば、核と一緒にワイバーンにも直撃することになる。

ワイバーンの退避――間に合わない。
機体を挟み込んで無理やり間隙を確保している状況、抜け出るのにも時間がかかるし、
何より安全な位置までワイバーンが引いてからでは障壁が修復されてしまう。

射線を別角度に切り替え――不可能だ。
核をドーム状に覆う障壁の、本当に砲弾一個分のスペースしか開いていないのだ。

どうすりゃいい?
――どうもこうもあるか。

フレイアはそれを承知でこの戦術を選んだのだ。
そこにあるのは自分の命など顧みない捨て身の精神か?

違う。

この土壇場でほんの僅かなブレも許されないピンホール・ショット。
その奇蹟に近い神業を、ロジーが確実に成功させるという信頼だ!
だったらもう、肚は決まっている。

「届けに行くぜレシタール……俺の奇蹟を、お前にだ!」

多段変速スラスターのスロットルを操作し、速力を出力へとコンバート。
オートローダーから主砲へと鉄塊が送り出され、後部ユニットに撃発剤が充填される。
HUDに表示された二種のレクティルは、風の影響をうけて踊り狂うように視界を駆け巡る。
操縦桿の先端に設けられたプッシュトリガーに、親指をかける。

核まで残り距離100。まだ撃たない。
砲撃型敵機の射線に晒され、装甲がえぐり取られていく。

残り距離50。まだ撃たない。
カイとバダウィを追い越した頃には、鮮やかなオシアナスブルーの装甲はほとんどが失われてしまった。

残り距離25。まだ撃たない。

――フレイアの信頼に、その覚悟に応えたい。
ロジーを護る為に戦線を切り開き、この場所まで送り出してきた仲間達に、報いたい。
だから、撃つのは限界まで引きつけてからだ。
例えこの機体が火線に晒されようとも、万に一つの不確定要素も排除する為に。
その覚悟は、既に完了している。

距離10。
レクティルが視界の真ん中で重なりあった、その一瞬。
ロジーはコンマ一秒たりとも遅れることなく、トリガーを押し込んだ。

「――届けええぇぇぇぇぇええええッ!!」

砲身の鼻先に黒の核を捉えて、鋼鉄のあぎとは咆哮した。
ふたつの鈍色の流星は、まるで磁力にでも引かれるようにまっすぐ核のど真ん中へと吸い込まれていった。


【こじ開けられた障壁の中へ主砲斉射】

27六角 桔梗 ◆0GSSamSswc:2015/11/22(日) 22:53:13

>「六角、2分で十分だ。パダウィ、早速で悪いが右をしとめろ。左は俺が狩る」

「……Tes.……最善を、尽くします」

アレックスの通信を受けながら槍を振るい、桔梗はまた一体の滅びの軍勢の武神を塵へと還す。
これで桔梗が破砕した敵の武神及び機龍の数は8機に登り、1個分隊の半数以上に及ぶ戦力を跳ね返した計算となる。
戦果として見れば、この上ない戦績だ。
そして、敵の武神と機龍が砲撃の火力を主武装とした1世代前の型である事と、
量を質で覆す事を目的としたイザナの『亡霊』の性質が噛み合っている事もあり、未だ桔梗の繰るアレスに危なげな様子は見えない。

……ただしそれは、あくまで表面上の話だが。

>「ゲイリー、――始めろ!」
>「……ああ。任せておいてくれ、アンリ。
>その代わり、クッション・レールは使えないぜ?
>―――さっき大佐が全部、吹き飛ばしちまったからな!」
>「…ええ!トドメはもらっていきますがね!」

アレックス、カイ、マハティール。
戦線を支える事を買って出た以上、本来であれば桔梗はフロントラインへと向かう彼らに支援砲撃でも行わなくてはならないのだろう。だが

「……っ、くっ……!」

アレスのモニターに無数に映るのは、赤い【危険(アラート)】サイン。
それは、装甲の消耗、関節部の稼働負荷、動力の限界値、そのどれもが限界域を超えてしまっている事を示していた。
つまり、危なげなく戦っている現状は薄氷の上でダンスを踊っているに等しい程に危ういものであるという事。
故に、桔梗は最前線がどうなっているのか把握する事すら出来ないでいた。

実際、良く持っていると言っていいだろう。本来であれば、滅びの軍勢の武神と機龍一機に対しては複数の兵での対応が要求されるのだ。
それを、逆に複数の滅びの軍勢を相手取って一機で立ち回っている。
汎用機であるが故に頑強であるアレスという機体と、多対一に慣れている桔梗だからこその経験が無ければとうに詰んでいる筈の戦いだ。

だが、それは永久に続けられるものではない。
僅か2分を待つことなく、薄氷に罅が入る。つまり――――

「……滅びの軍勢の、増援。ですか」

廃ビルの瓦礫の間から、高空から。
自分達を産み出した『核』への危機を感じ取ったとでもいう様に、滅びの軍勢の機体が現れたのだ。
目視できるだけでも、数は先程の倍。
それらが、最前線へと向けて蠢く様に進軍を始めたのである。

「……」

既に武神アレスは限界に近い。桔梗自身の消耗も激しい。
故に、眼前に居る兵器達の前に立ち塞がるのは無謀以外の何者でもない。
だからこそ、限界を見極めた撤退。『仲間を信じて』下がる事こそが、現状生き残る為には正しい判断なのだろう。
けれど――――

28六角 桔梗 ◆0GSSamSswc:2015/11/22(日) 22:53:53
「……それをするなら、初めからここにはいません」

その選択を選べる賢い人間であるならば、桔梗はこんな無謀な選択は取っていない。
ほんの僅かに前線の生存率を上げる為だけに、愚策と言ってもいい戦線を保つ為だけの選択などしない。

「……ギーガーさんの様な『人間』と、私以外の人の為に……私はここに居ます」

自分に言い聞かせる様にそう呟いた桔梗は、過剰放熱で大気を歪ませながら、
桔梗は進撃する滅びの軍勢の前に再度立ちはだかる。

槍を振るい
関節を引きちぎり
センサーを潰し
フレンドリーファイアによる同士討ちを誘発させ、
瓦礫を蹴り上げ翻弄し
弾丸を掻い潜り
敵を盾にし

おおよそ現状で可能な技巧を全て駆使し、六角桔梗は戦場を踊る。
多勢をして仕留める事叶わず、逆に何が起きているのか知らせぬまま破砕される。
それは、まさに亡霊と呼ぶに相応しい戦い振りであった。

そうやって戦場を踊って踊って踊って踊って……
そうして、ふと背後を振り返った桔梗の眼前には

――――銃口があった

回避は間に合わない。既に、引き金は引かれているから。
加速された知覚の中でそれを理解した桔梗は、それでも武神の頭部を動かし被害を軽減しようと試みる。
悪あがきの様な被害軽減の行動を取りながら、桔梗は思う

(……皆さんは、無事でしょうか)

薄氷が割れる様にアレスの右アイセンサーが砕け散ったのは、奇しくもロジスティクスの砲弾が核に直撃したのと全く同時であった。

【無謀の対価。追試へ答える筈の声は消え】


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