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キラキラダンゲロス2 応援スレ

28柘榴女:2024/07/14(日) 18:01:25


「────違う。」


柘榴女は、無意識に口から出た言葉に、自分自身が信じられないという顔をした。

「え…そんなはず…そんなはずが!!でも!でもォ???」

狂った脳髄が仕立て上げたマー君は、寸分たがわず記憶の通りの外見をしている。
キラキラ輝く瞳も、柔らかにカールする前髪も、赤みが差す頬も、あの悲劇直前と変わらない。

「…どうしたのママ?」

自身に無限の力をくれた鈴のような声も。
父に似た優しい表情も。
何もかも変わらないはずなのに。

柘榴女の脳髄の奥で、“違う”と声がする。

「マ…マー君はぁ??チチチ血の苦手な子でぇ?痛いのが怖い子でぇ?わ、わ、私が傷を負って家に戻ると、泣きそうな顔をして隠れちゃって??」

柘榴女はバリバリと傷口を掻きむしる。
地と肉片が飛び散るがもはやそんなことはどうでもよかった。

「少ししてからオドオドと、それでもしっかり近づいてきてくれる優しい子でぇええ??だ、ダ、だから!こんな!こんな血まみれで!!変わってしまった私に!怯えないなんてありえない!!!??」

本当に愚かであった柘榴女は、自らの妄執に浸ることすらできなかった。
残酷で冷酷な…誰も救われない答えを導きだしてしまった。

「チチチチ違う!そんなはずは??足りないだけ!捧げるものが!捧げるものがぁああ!」

半狂乱で周囲を見渡す。
何かが足りないのだと言い聞かせて、捧げるべき魂を探す。

しかし、周囲には死体の山しかなかった。
彼女自身が、周辺の何もかもを皆殺しにしていた。

「誰か!誰かぁ!??殺されてよ!!マー君のために!死んでよぉ!!???」

自らの残虐の檻に囲まれ、最悪の殺人鬼は生者を求める。
しかしその声は、叫びはどこまでも虚しく響くだけであった。

ガクリと跪いた柘榴女は、大雨の水溜りに映る自身の顔を見た。
そうして、「あるじゃあないか」とにんまりと笑った。


大雨の中、柘榴女は天に吠えた。

「神様ぁ!いい今から!最後の捧げものをします!だから!だからぁ!」

そういうと、柘榴女は柘榴の傷が走る自身の右顔面に指を突っ込み、眼球を抉り始めた。

「アギギギギ!わ、私はぁ!神社で!鬼神のような達人を殺しましたぁ!立体駐車場で!鬼神すら葬りかねない武侠を殺しましたぁ!!地下鉄でぇ!誰よりも冷静冷酷な覗き魔を殺しましたぁ!池袋の!池袋のぉぉぉ…!何もかもを殺し尽くしました!私は私はぁぁぁァウヒ!ウケヒィ!!」

ぶちりと嫌な音共に柘榴女の眼球が抉りだされた。
赤黒い視神経が雨に揺れた。


「これは!この池袋でもっとも“強い魂”で!誰よりも!何よりも強い魂で!魂で…」


柘榴女は自らの抉りだした眼球を高々と掲げた。
その眼球は度重なる薬剤投与と闘争の余波でうっすらと濁っていた。

そうして、柘榴女は泣き叫んだ。



「でも…でもぉおおお!う、美しくないよぉ〜〜!マー君に捧げるには!相応しくないよぉ!」



自らの蛮行が、その魂を濁らせていたことは彼女自身がよく分かっていた。
嗚呼、愚かな柘榴女!
そんな一般規範など無視して、私の魂は美しいと言い切ればよいのに!

柘榴女は、死の間際、子供のように泣いていた。
泣いて泣いて泣きつくしたその顔は、深い絶望に染まっていた。

自分が死ぬのが悲しいのではなかった。
願いが叶わないのが悲しいのではなかった。
無為な殺しをしてきたことが悲しいのではなかった。

ただ、夫と息子がもうこの世にいないということが、10年経ってもまだ悲しかった。

あの日から一歩も進まないまま、最悪の殺人鬼、柘榴女は、胎児のように丸まって死んでいった。


池袋の雨は、まだやまない。


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