ダンゲロスSS MY STARS 幕間スレ - 1581077446

1：牛尾栞：2020/02/07(金) 21:10:46: ダンゲロスSS MY STARSの幕間はこちらへ投稿お願いします。
2：里見旭：2020/02/08(土) 00:58:27: 【説明ラジオを聞いていたら書けたSS　（プロローグ面白かったです！）】

……渋い。激烈にお茶が渋い。
渋さと焦りを表情に出さず、平然を装い一息で飲み干した。

この目の前に立つ有能美人秘書の数少ない欠点の1つが不機嫌を示すレパートリーの少なさである。
どうやって煎れているのか覗いてみたくなるこの渋みを凝縮したお茶が出て来るか、ステージ復帰に合わせ正確無比な空中下スマッシュを叩き込んで来たとき……それすなわち、何らかの怒りが爆発したサインである！

……「何らか」ってなんだろう。やだなぁ、なんで怒られるのかな……。何もしてないのに……っ！
例の大会の運営で、どうしても主催者みずからやんなきゃならない承認業務（ハンコぺたぺた！）を先延ばしして、孵化厳選を優先してることくらいしか思い当たる節が無い。

チロリと有能美人秘書を見やる。

盆を正面に構えるすまし顔の栞ちゃんはあまりにいつも通りで、相変わらず何の感情も読み取れない。
サプライズで誕生日プレゼントを送った日のことが……年越しにバラエティ特番を見ていて、「……こんなに笑ったのは久しぶりです。今年はマンネリを脱しましたね」と発したあの日のことが……次々と脳内に蘇る！
頼むからもっと感情を豊かに表現してくれ！！
……そこも数少ない欠点の1つであろうなぁ。数少ない欠点意外と多いぜ！

「ひぇぇっ！？」

不意に視線を合わせ、カツカツと距離を詰めて来た栞ちゃんにびくんと体が跳ねた！
階級制覇を狙えるフリッカージャブめいた手先の高速挙動に悲鳴が漏れたが、仕方ない、生理的反応だ。俺は悪くない、フリッカージャブが悪い。
あと少しでも俺の動体視力が良くて、あと少しでも俺の舌がまわっていれば「ごめんなさいハンコ押すからぶたないで！！！！！」という情けない台詞が口から漏れていたことだろう。命拾いしたな？
3：里見旭：2020/02/08(土) 00:59:14: 「……おかわりをお持ちします」

栞ちゃんの右手が到達したのは俺のガラスの顎ではなく、空になった浅い椀であった。

「あっ、ああ……うんっ」

努めて平然と振る舞う。
栞ちゃんと俺は本来対等……否、雇用主と労働者！
序列は明確であり、本来ビビるなどという感情を持つことは健全ではない！

それに……そうだ。まだ怒っていない可能性も存在している。
いくら有能とはいえ、お茶煎れを失することくらいあるだろう。
数少ない欠点、意外と多いことだしさ……もしかしてお茶目な面が今日に限って出ちゃったのかもしれない！

去りゆく背中にやや安堵し、手元を見た。
孵化作業は順調だ。先ほどから栞ちゃんの圧を受けながらも、指は十字キーを軽快に捌き続けていた。ほら、この瞬間にも卵が割れ、新たなる生命が――――

「――――ボス」

「あッぎゃあ！！！？　戻るの早くない！？！！？」

「……こんなこともあろうかと、あらかじめ用意しておきました」

コトリと置かれた椀から甘い香りが立ち昇る。
ぐえええっ！？　こっ、これはまさか！？

「……ミルクセーキです」

「ハッ……！　はぁーっ！！　はぁーっ！！」

「……“卵”、お好きなようなので」

うごおおおおっ！！？　卵そんなに好きじゃない！！
ちっちゃい頃は食べる度にノドのとこがちょっと痒くなったからややニガテまである食材だ！
そしてそんなこと……傍に侍る者ならば当然織り込み済みであろう初歩知識ッ！！
ならばこれはッ！　……くうう～～ぅっ、この短期間に「不機嫌を示すレパートリーの少なさ」を克服して更なる高みへ昇ってきやがった！！　すごいなこの有能美人秘書！？　成長性まで兼ね備えてやがる！
イヤミを織り交ぜたわるい圧のかけ方……っ！　これはもう完全に怒っているとしかとれないし何よりとても怖いのでもう謝ろうと思います！

いやいやいや……ちょっ、ちょっと待ってくれ！！？！？
なんか机の上に俺がスカウトして来た大会参加者の写真を並べ始めたんだが！！？
えっ、なんでそんなことするの！？　いよいよもって無法か！？　もう謝ったじゃん！！？　いや、謝ってなかったわ！　ごめん、ごめんて！！！

「……あのっ、栞……さん？　そういえば今ふと思い出しんだけど……。あのっ、ハンコぺたぺた的なアレさ……。結構溜まってたよね？　いま暇だしやろうかと思うんだけど……」

「……私もたった今、ふと思い出しました。卵……苦手でしたよね？　大変失礼いたしました」

――――差し替えられし浅い椀からは、得も言われぬ良い茶の香りがした。