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ダンゲロスSS5 雑談スレ

1あやまだ:2018/02/01(木) 21:12:07
ダンゲロスSS5に関連することに使用するスレッドです。
チーム参加希望者のメンバー募集や幕間SSの投稿、単なる雑談などにご活用ください。

57暗黒騎士ダークヴァルザードギアス:2018/04/02(月) 00:45:27
暗黒騎士ダークヴァルザードギアスエピローグ(とりあえず)

『はい、ヤリブスマート都内某所店です』

「あっ……あの。土屋です」

 豪華なホテルの一室。ベッドの隅に腰掛け、何度も迷ってから電話をかけた。一瞬の沈黙が、やけに長く感じられた。だが、小早川店長は明るい声で返事をくれた。

『ああ、試合見てたよ! お疲れ様。惜しかったじゃない』

「……どうも。あの、それで、その……休み、ずいぶんいただいてたんですけど……」

 もういいです。負けたんで。もし人が足りなそうなら、明日からシフト入れます。そう一息に言った。

 情けないと思った。無茶を言い通しだと思った。それより何より——何を言っているんだと言われても仕方ないと思った。

 隠してはいたが、彼は魔人だ。堂々と表舞台に出て、自分からばらしてしまった。即座に解雇されても仕方がない。

 覚悟の上でのことだった。全てを捨てるつもりだった。生活も、人間関係も、過去も、正気も、何もかも。土屋一郎。自分の名前ですらも。

 暗黒騎士ダークヴァルザードギアス。彼の意識に被さる狂ったペルソナを、本物にしたかった。一度は成功した。成功したのだ。だが……後から現実が追いかけてきた。もう終わりだ。

『ああ、いいよいいよ。大会終わりまで休んでて。田中さんがちょうど長く入りたかったって言ってたしね。終わったらその分頑張ってもらうけど』

「は」

 どっと肩の力が抜けた気がした。

「ありがとうございます」

『……グロリアス・オリュンピア。うちの娘がだいぶ入れ込んで見ててさ。土屋くんがうちで働いてるって話をしたら食いついてきて……』

 久しぶりに、娘とあんなにちゃんと話をしたよ。小早川は静かにそう言った。

『だから、こっちもありがとう。あの暗黒騎士ネタ、みんなの前でもやったら?』

「いや、それはちょっと……」

 あれはネタじゃないし、と思う。

『そうなの? まあ、でもみんな話を聞きたがると思うよ。たまには話しなさいよ』

「……はい」

 電話が切れ、小さな電子音が響き、それもやがて途切れる。

 ややあって彼は顔を巡らし、椅子に腰掛けてこちらをじっと見ている、花柄のワンピース姿の忠実なる侍女と視線を合わせた。ほっと息をつく。土屋一郎の意識に暗黒騎士が侵食し、彼は背筋を伸ばす。

「少し、外に出る。供をするが良い、アナスタシア」

「はい、暗黒騎士ダークヴァルザードギアス様」

 主従はそのまま、ホテルの部屋を後にした。

58暗黒騎士ダークヴァルザードギアス:2018/04/02(月) 00:47:16
 夕暮れ時の小さな公園は、子供たちが数人固まって遊んでいるだけで、静かなものだった。ふたりは並んでベンチに腰掛け、黙って茜色に染まりゆく空を眺める。アナスタシアが少しばかり気まずくなってきた頃。

「……負けたな」

 主が小さくそう言った。アナスタシアは声を出さずに、小さくうなずいた。

「なに、一度二度の敗北が何ほどのことか。我は高貴なる暗黒騎士、何度でも不死鳥が如く蘇り……」

 勢い良く出した声が、徐々に尻すぼみになる。やがて暗黒騎士ダークヴァルザードギアスは、はあ、と息を吐き顔を伏せた。

「負けたなー……」

「お疲れ様でございました」

「そなたはどうする、アナスタシア」

「私ですか?」

 アナスタシアは首を傾げる。子供たちがゲームでもやっているのか、わっと楽しげに声を上げた。

「宴は終わりぞ。どこへなりとも、好きな場所へ行くが良い。そなたには自由がある」

「私……」

 歓声を皮切りにしたように、子供たちがばらばらと、じゃあね、と声を上げながらひとり、またひとりと去っていく。やがてその場にはぽつりとひとりだけが残った。

「暗黒騎士ダークヴァルザードギアス様。私、前のお屋敷にいた時のことです。こんな風な夕方、坊っちゃまのお迎えに行くことが何度かありました」

 彼女の言葉に、暗黒騎士ダークヴァルザードギアスは少し不思議そうな顔を向ける。アナスタシアが自分からそんな話をしたのは、初めてのことだった。

「みんなあんな風に、じゃあまたね、と言ってそれぞれのお家に帰っていきました。でも、いつもひとりだけ、ご両親の帰りが遅いのでしょうね。残って寂しそうに遊んでいる子がいて」

 一度も話しかけたことはない。向こうもこちらを意識などしていなかったろう。サンプル花子などそういうものだ。

「でも私、その子とずっと、一緒に遊んであげたかったんです」

 長く伸びた影が夜に飲み込まれる頃。たったひとりでいる子供に、手を差し伸べたかった。それだけが、アナスタシアの心に棘のように引っかかっていたのだ。

「私」

 怒られるだろうか。がっかりされるだろうか。こんなことを言って。でも。

「あなたと一緒に遊べて、本当に楽しかったです」

 ずっと、彼女の目には見えていた。漆黒のマント。顔を覆う兜。赤く光る瞳。黒鉄の鎧。そして、その奥のなんでもない素顔も。全て。

 暗黒騎士ダークヴァルザードギアスは、目を瞬かせ、それから静かにうなずいた。

「……ありがとう」

 まだ冷たい風が、ふたりの間を吹き抜ける。

59暗黒騎士ダークヴァルザードギアス:2018/04/02(月) 00:47:57
「それで、あの、私。まだしばらくお傍に置かせてもらうわけにはいかないでしょうか」

「え?」

「私、外で働きますし、お家のこともいたします。まだ一緒にいたいんです」

「いや、その、それは、嬉しいが……我が城は1Kゆえ……」

「台所で寝ますから、大丈夫です」

「そんなわけにいくか! ……まあ、まあいい。どうにかする」

 暗黒騎士ダークヴァルザードギアスは、土屋一郎は、初めて柔らかい、くすぐったそうな笑顔を見せた。

「歓迎する。心ゆくまで滞在するが良い」

「はい。暗黒騎士ダークヴァルザードギアス様!」

「あーっ!」

 突然、声がした。ひとり残っていた子供が、とことことふたりに向け歩いてくる。

「暗黒騎士の人だ! そうでしょ!」

「……いかにも。我は暗黒騎士ダークヴァルザードギアスであるが」

「すげー! テレビで見た! 剣持ってる? あのなんか長い名前のやつ!」

「我がダムギルスヴァリアグラードを所望か。あまり見つめていては目が潰れるぞ」

 暗黒騎士ダークヴァルザードギアスはアナスタシアも初耳の設定をつぶやきながら、リュックサックからいつものダンボール製の剣を取り出す、と、子供は辛辣な感想を述べた。

「ダンボールじゃん」

 ひやりとした。だが、暗黒騎士ダークヴァルザードギアスは口の端を吊り上げ、笑う。

「そが何ほどのことか。我が握ればすなわちそれは暗黒瘴気剣ダムギルスヴァリアグラード。正真正銘の業深き魔剣である!」

「よくわかんないけどすげー!」

「そなたもだ、子供よ」

 アナスタシアは、少し笑って目を閉じた。彼女の何よりも好きな人が——夕闇の中、誰よりも楽しそうに遊ぶ子供が、帰ってきたからだ。

「そなたが信じれば、それはすなわち、魔剣となるのだ」

 もう少しだけ、一緒に遊んでいましょう。夜はこれから。暗黒の時はここからなのだから。


 東京砂漠の片隅。ふたりの物語は、まだまだ終わらず、続いてゆく。


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