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投稿スレ

1名無しさん:2009/11/08(日) 21:20:23
作品を投稿するスレです。

101名無しさん:2011/06/18(土) 03:12:58
FINAL FANTASY IV #0645 9章 1節 月へ(7)

祈り塔の最上階には数えきれないほどの人が集まっていた。
おそらくは街中の、ひょっとしたらミシディア外からもしれない多くの人物がここに集っていた。
その中にいる誰しもが賑わいもせずに黙り込み、じっくりと祈りをささげている。
魔導士の街の中でも群を抜いた高さである塔からは街全体を見渡せるだけでなく、街の先にある入り江やその先に広がる無限とも
思える海原ものぞくことができる。
バロンへの帰国際にセシルが無事に流れついたのもあの辺りだろうか?
少し苦い思い出と共にじっくりと観察をしているとふとある事に気づく。丁度セシルが漂着したその入り江は二つの部分が突出している。
それはまるで大きく開かれた口のようである。
「竜の口より生まれしもの――」
ふとあの伝説の事がよぎった。セシルは思わずその言葉を口走ってしまった。勿論、回りの人の祈りの集中を見ださぬような小声でだ。
「良く分かっているようだな」
長老がセシルと同じく小声で呟く。そして歩きだし祈りを続ける者達の先頭へと出る。
「皆の者! 祈るのじゃ!  伝説が真の光となる時は、今において他に無い!」
鼓舞するかのような声を上げ長老は再び祈りを始める。
「私達も……」
小さく、だがはっきりとした意志で述べたのはリディアだ。じっくりと瞳を閉じて静かに祈りを始める。
ローザもそれに続く。エッジも普段からは想像できないような様子で大人しく祈っていた。
当然ながらセシルも祈る。その心の中には今祈りの塔にいる誰もが抱える気持ちとは別の者が芽生え始めていた。
(この懐かしい気持ちは――)
言葉にして表現出来たのはそれが最低限であった。
何故なのだろう? セシルは時々今の状況と似たような気持ちにつつまれる時があった。
試練の山の頂上であの声を聞いてパラディンになったあの日もそうであった。
「竜の口より生れしもの……」
自然とあふれる言葉は今のセシル達の希望ちなっている伝説――
何度も詠唱した事もないのに何故か一文字も間違えることなく口から出てくる。
「天高く舞い上がり……」
祈りの塔の眼下、海原がうねりを上げる。

102名無しさん:2011/06/18(土) 03:13:32
FINAL FANTASY IV #0646 9章 1節 月へ(8)

海の底から姿を現したそれはかつての船旅で遭遇した幻獣神リヴァイアサンを越える大きさであろうか。
それはやがて海を離陸し、その巨体を大空へと浮かべ上げる。
一見して巨大な鯨とでも形容できるそれはリヴァイアサンとは違い、完全に無機質で生物的なものからかけ離れていた。
疲れることなく空中停滞する非現実的な光景がより一層機械的であり、落ち着いて観察すれば飛空艇を大きくした天翔ける船に
見えてきた。
「あれこそ正しく……大いなる呟きの船……魔導船!」
巨大な箱舟を一同はただ黙って見続けるしかなかったが、最初に口を開いたのは長老であった。
「あれが……」
沈黙は破られ皆から声が上がる。
やがてそれは疑問や不安から感嘆へと変わった。
「ついにやったぞ……」
感動を口にする者、隣の者と喜びを分かち合う者と様々だ。
ローザやリディア、エッジからも笑顔が宿る。
「闇と光をかかげ眠りの地に更なる約束を持たらさん……」
緊張の解けとた空間でセシルは誰にも聞こえない言葉で伝説の続きを呟いた。
闇と光とは――自分の手のひらをまじまじ眺めながら考える。
もしそうだとしたら眠りの地とは――おそらくは――
今だに浮かぶ魔導船よりも遥か高くの空を見上げる。夕刻に近づきつつある今の時間では
その姿を確認する事は出来ない。
「長老」
皆と同じく感傷に浸る長老にセシルが話しかける。
「僕達は今から月へと向かいます」
「月じゃと!」
「ええ」
驚きの声の長老に対して、はっきりと述べるセシル。
「でも、どうやって?」
二人の会話を聞いていたリディアが疑問を割り込ませてくる。
「あれは……あの魔導船という船なら可能なはずだ」
「確かに聞いたことがある」
長老もセシルの言葉で何かを思い出したようだ。
「この街、ミシディアの記録によれば月よりこの地へと来訪した船があると――」
驚きはしなかった。
やはりあの言い伝えはセシルの解釈通りであっていたのだ。
「ローザ、リディア、エッジ。ついてきてくれるか」
「勿論だぜ!」
悪びれる様子もなくエッジが言う、二人も似たような意志だ。
「では行こう!」
月へと向かうセシルには一つの言葉が渦巻いていた。
約束。
伝説の中の言葉。そしてそれと似た言葉をあの声からも聞いた。
(あの声はひょっとしたら――)
だがすぐにでも頭の隅にその考えを押しこめる。
今考えなくても、それはすぐにでも判るであろう。全ては月という大地が教えてくれるであろうから――

103名無しさん:2011/12/07(水) 16:16:51
FINAL FANTASY IV #0647 9章 2節 明かされる想い、目覚める力(1)

月までの航海は穏やかなものであった。
海での旅と違って日は見えなかった為、どれだけの日数が経過しているか
は正確には把握できなかったが。
しかし、そこから先は一転して激しい道中となった。
月世界の様相はセシル達のいた青き星とは全くの別物であった。
踏みしめる大地はどこまでも荒れ地が続き、草木一本すらない。おまけに地面の所々には
クレーターと呼ぶべき窪みが散見し、歩行を妨げた。
空に日は昇らず、朝と夜の変化もない。
そんな今までとは違う困難な状況に更なる追い打ちをかけたのが、月の世界に生息する
魔物達の襲来であった。
セシル達のいた星に比べても、月の厳しい環境を生きるその物達は地上や地底の魔物達に
比べても桁違いの生命力と力を持っていた。
加えて知能も卓越しており、セシル達を外部からの侵入者だと判断するやいなや、群れをなして
襲いかかってきたのだ。
月の魔物達の思惑が見知らぬ物達の威嚇や迎撃行動なのか、または魔物の本能が形振り構わずに敵を
認識して襲いかかってきているのかは判別できない。
だが、真っ向からぶつかって戦うにはいささか分が悪いものであった
ゆっくりと月を探索している暇はないな…
ただでさえ馴れない月の大地を歩くのは体力を消耗する。
セシル達は目的地を定めて早々に目的地へと向かうことにしたのだ。

何処へ行くべきなのか?
幸いにしてその問題に関して言えば、さほど悩むことなく結論を出すことが出来た。
白銀とも呼べる白さが続く月世界の中で唯一目に付く場所が一つ。
透き通るほどの薄い結晶で造られた巨大な塔。月の大地よりも更に輝かしい透明なその建物はこの世界のどこからでも見渡せるほどの
輝きと大きさであった。
セシル達の乗ってきた魔導船が着陸した場所からさほど距離が離れていないのも幸運であった。
だが、早々に出た答えとは裏腹にその場所までの道は楽とはいえなかった。
塔への道のりは平坦な大地だけで構成されてはいなかった。道中にはセシル達の星でいう山岳や洞窟といった場所が散在しており
思った以上の時間と消耗がかかった。

104名無しさん:2011/12/07(水) 16:17:45
FINAL FANTASY IV #0648 9章 2節 明かされる想い、目覚める力(2)

どれくらいの時間がかかっただろうか。
おそらくはそれほどの時間がかかっていないはずのなのであるが、セシルの体感では途方もない時間がかかったようであった。
「ねえセシル……」
輝く塔――まるで巨大なクリスタルのような建物を前にしてリディアが心配の声を一つ。
「中に一体何があるのかな? それに大丈夫かな?」
不安をそのまま口に出したような抽象的な問い。そこに文句を言うのは難しいだろう。
見るとローザも同じような心配の顔をしていた。
普段は常に強気なエッジも未知の大地の未知な建物に静観を決め込んでいた。
ましてや先ほどのリディアの心配を否定しきるのは並大抵の度胸では出来ないであろう。
「大丈夫だ」
しかし、セシルはそれだけ一言言って塔の内部へと歩き出そうとした。
「僕についてくるだけでいい。だから大丈夫だ……リディア」
ゆっくりと歩を進めながら少しだけ仲間達を振り返る。
「ローザもエッジも一緒に」
皆驚きはしたが拒否はしなかった。否が応にも従わせる力が今のセシルにはあった。
(ここには何か重要な事が眠っている。それも自分にとって……)
月へ近づくにつれてセシルの中に何か予兆めいた確信が動き出していた。
(僕にとって重大な何かがこの先待ち受けている)
何故急にこんな気持ちが? 否、前々から似たような気持ちが自分を駆け抜けた事があった。
いつ? それは確か……
何度か駆け巡ったモヤモヤとした気持ち。何かを掴めそうでいて掴めなかった。
だが月の――それもこの場所に近づくにつれて何かが晴れていくような気がしていた。
(ここに来てくれたローザ……リディアやエッジににも知ってもらわなければいけないだろう。きっと……)
幾度もの出会いと別れ……そして再会を経験した自分の仲間……そして生まれ育ったあの場所を代表する人達として
(それに、カイン)
今ここにいない者――未だに互いに譲り合う事の出来ない関係の者の名を呼ぶ。
(君ともまた……まだ……)
そっと目を閉じて想いを張り巡らす。
(そしてゴルベーザ)
あの星を脅威に陥れている者――
(おそらくはまた剣を交えねばならない。その為にも……この先に進む必要がある)
塔の内部、短い距離の静かな道程でセシルは想いを馳せた……

105名無しさん:2011/12/07(水) 16:18:23
FINAL FANTASY IV #0649 9章 2節 明かされる想い、目覚める力(3)

「よくぞきた……」
塔の内部を進んだセシル達を一つの声が迎えた。
「ここは?」
この建物の中で一番開けた場所その場所の中央にはクリスタルを安置するためのものと同じ形をした台座がおかれていた。
その台座の先――本来ならばクリスタルがおかれるその場所に声の主はいた。
「ここは我々の同士が眠る場所……」
「何者だ! お前!!」
神秘的な空間で少し勘が鈍ったのか、エッジがその者の声の終わりとともに戦いの構えをとる。
未知の場所への侵入なのだ。警戒するのはむしろ自然な反応だ。ローザもリディアも思わず足をとめる。
「エッジ、大丈夫だ……」
セシルは静かな口調で警戒を解くように促す。
「この人には敵対する意思はないよ……」
確かな判断材料はなかったが確信があった。
「失礼しました」
セシルは声の主を振り返る。
見ると台座の立つのは一人の老人であった。
「良いのだ。むしろ自然な反応……我らとて似たような者…」
口調は穏やかであった。だがそこには何かを悔やむような感情があるようにとれた。
「それで……おま……あんたは何者なんだ?」
「私は月の民。フースーヤ」

106名無しさん:2011/12/07(水) 16:19:07
FINAL FANTASY IV #0650 9章 2節 明かされる想い、目覚める力(4)

「月の民? 月に住んでるやつがいたのかよ!?」
質問に次いで驚きの声をあげるエッジ。
「今はの」
「今は? どういう事だ?」
少しだけ老人――フースーヤの顔が曇った……セシルにはそう感じ取れた。
「私は――我々は元々別の星のものであった」
「じゃあ私たちの住んでいた所?」
今度はリディアが尋ねる。
「青き星か、いや違う。同じようなものといえばそうだが」
青き星……フースーヤ達、月の民はセシル達の星をそう呼ぶのだろう。
「それじゃあ……私達の住んでいる所、青き星以外にも人が住んでいたのね」
「聡明だのお穣ちゃん、その通りだ。我々は元々は火星と木星の間に存在する小さな星に住んでいたのだ。
しかし、ある時その星は絶滅の危機に瀕した――」
何処か遠くを見るようなフースーヤの声。
「どうして絶滅したの?」
子供の心を忘れない無邪気なリディアだからこそできる質問だ。
「いい質問だ、実にな……結論から言えば星の環境が大幅に悪化して人が住めなくなってしまった。
どうにかして生き残った人々は脱出して新天地を探すべく旅を続ける放浪の民となったのだ……」
「環境が悪化って……大きな天災か何かが星を襲ったのかよ?」
「いや」
フースーヤの声が少し淀んだ。
「この際だから話しておこう……我々の星の中にはいくつもの国が存在していた。だがある時……一つの国が
他国を侵攻した。それが切っ掛けで他国をも巻き込む大きな戦争へと発展していったのだ」
誰もが口を閉じ黙って聞いていた。
「その戦争は一行に終わる気配がせずに拡大だけを続けていった。十年が過ぎ……二十年が過ぎた。そして百年が
過ぎた。それでも戦いは終わらなかった……」
「そもそも戦いは何故おきたの?」
「時間がたちすぎて誰も原因が判らなくなっていた、だが戦いは終わる気配は一行になかった……」

107名無しさん:2011/12/07(水) 16:19:49
FINAL FANTASY IV #0651 9章 2節 明かされる想い、目覚める力(5)

遠い回想にふけるフースーヤの話は続く。
「不毛な戦いに決着はつかなかった。戦いは拡大しそれに使われる兵器もどんどん進化していった。
強力になった兵器はやがては星を傷つけるものまでの力になった」
フースーヤの言葉に熱がこもる。
「しかし! それでもなお人々は戦いをやめようとはしなかった。そして一部の戦いに疲れた者は決断した。
この星を脱出し、別の惑星に移り住む計画を……」
「それで皆で月まで来たの?」
ローザが恐る恐るといった感じで尋ねる。
「計画はすぐには実行されなかった。惑星脱出計画は大多数の反対を受けた、戦いを続ける者達に……
しかし密かに計画は進められていた。そして遂にはその計画は実行される時がきたのだ……」
「良かった!」
リディアが幸せな終わりを迎えた昔話を聞く見たいに喜んだ。しかし、フースーヤの話は終わらない。
「その計画は意外な形で迎える事になった。相次ぐ戦いに傷ついた星が遂に悲鳴を上げた。もはやこの星は人が住める
場所ではなくなっていたのだ。そこでようやく気付いたのだ、自分達の戦いが不毛であったことに!」
「…………」
「焦った人々は半ば強行的に惑星を脱出する準備を始めた、しかし、惑星脱出計画はまだ万全な状況ではなかった。
我々は星から追い出されるような形で惑星を脱出した……」
これで最初の話――生き残った者たちが放浪の民となったところへ繋がった。
しかしこれで終わりでないことは誰もが分かっていた。この話には続きがあると。

108名無しさん:2011/12/07(水) 16:20:28
FINAL FANTASY IV #0652 9章 2節 明かされる想い、目覚める力(6)

「愚かな事に惑星を無事に脱出した我々は一枚岩ではなかった……脱出した宇宙船の中でも抗争は続いたのだ」
「そんな……!」
「脱出した人々の二つの派閥が存在した。一つは脱出推進派、戦いに疲れ果て星から逃げ出そうと計画を発足したもの……
その代表が私、フースーヤとその弟クルーヤであった」
「フースーヤとクルーヤ……」
その響きにまたセシルの想いは揺らいだ。やはり自分は……
「そしてもう一つの派閥は戦いを続けていた者達、いわば戦いの果てに仕方なく星を追われたものだ。こちらの代表と呼べた者
がゼムスと呼ばれる男であった」
「ゼムス……」
「星が存在していた頃から対立していた我々は生き残り脱出した後も対立を止めることはできなかった。ましてや強引に進められ不安定
な状態の脱出であった。舞台を星から狭い宇宙船に変え戦いはより一層醜くなっていっていた」
「な……んだよ……」
「戦いが激化し人々の疲弊は深刻なものになっていた。積極的に戦いを推進していたゼムスにすらも疲れの顔が見えていた。焦った我々は
早く新天地を見つけようとしていたが中々上手くいかずにいた……」
「なんでそこまで行っても争いよ止める事が出来なかったんだよ!」
フースーヤの話が一段落したところでエッジが怒りを口にする。
「そこまでして争うなんておかしい話だぜ!」
「いえ違うわ……」
口をはさんだのはローザだ。
「私達だって……私達の住んでいた青き星だって似たようなものだわ」
否定の声は上がらない。
「原因があったとはいえ、バロンは軍事大国として各国へ侵攻した……反対の声も多かったけど、賛同した人達がいなかったわけでは
ないわ。そうじゃなくても私達は各国に分れて時に国同士で争い、時に人同士で憎しみあう時があったわ……フースーヤさん達の星と
全く同じわけではないけど、その星の人達を批判できるほどではないわ」
「そりゃ……そうだけどさ」
反論できずに口ごもるエッジ。
「でも……」
「でも私達は! お互いに許しあう事が出来る」
ローザが言おうとしていた事を引き継いだのはリディアだ。
「セシルだって。自分の運命を受け入れて変わることが出来た。ただ憎しみ合うだけでない、たがいに受け入れる事だって出来る。
その星の人達だって何か切っ掛けさえあれば……許し会う事ができた……かも……ね、セシル」
最後の方は少し自身が揺らいだのか、セシルに話を振る。
「そうだね」
無垢な少女の問いに淀みの無い返答を返すセシル。
「ふふ……」
フースヤの声に明りがともる。
「良い仲間を持ったなセシル。お主らの様なものがもっと我々の仲間にいれば、我々の星の運命は変わっていたのかもしれんな」
「はい」
「今となっては過ぎ去ってしまった事だがな……さて」
口調が再び厳しくなる、話の続きを始めるのだろう。

109名無しさん:2011/12/07(水) 16:21:09
FINAL FANTASY IV #0653 9章 2節 明かされる想い、目覚める力(7)

「星を脱出し、放浪の民となった。しかし中々新たな移住先は見つからずにいた。ここまでは話したな?」
皆黙ってうなづく。
「そこで我々は最後の手段に出ることにしたのだ……新たな星に移住するのではなく、既に生物の住む星に移住する事にな」
段々と話が繋がってきた。点が線になる感じだ。
「目を付けたのは青き星。つまりはお主達の住んでいる星だ」
「!」
セシル達四人。誰もが多かれ少なかれの衝撃を受けた。そしてこの先の展開を想像するだけで身も凍る思いになった。
「それで、俺達の星を乗っ取ろうとしたのかよ」
「否定はせん。だが聞いてくれ、話に続きがある。言い訳と思ってくれても構わん」
「分かったよ」
「我々放浪の民……月の民はまず、青き星の近くにある衛星――つまりは月に腰をおろした。当然ながら環境の厳しいこの場所で暮らしていくのは難しかった。
月での生活は我々により青き星の憧れを強くしていった。しかし、その時の青き星にはまだ新たな生命が芽生えたばかり、進化の途中であった。我々……いや
私とクルーヤは青き星の民との来るべき対話の為に眠りにつき時を待つ事を決めた……」
歯切れの悪い口調は、話がこれで終わりでないこと、この先に悪い展開が待っていることを示唆していた。
「ある者は眠りにつくこと嫌った。私と対立していた強行派、それを代表する者ゼムスだ。ゼムスは青き星の民を滅ぼし、自分達が代わりに住みつくことを
提唱したのだ」
「ひどい!」
リディアが非難と恐怖の二つの悲鳴を上げる。
「我々は決議を行った。数では強行派のものが多かったが、ゼムスの計画には躊躇した者も多かったのか五分の支持であった。結局のところ議論は平行線
を辿り決着がつかぬままであった。しかしゼムスは滅びた星でも戦いを指導した者、その統率力で兵力を形成し、強引に自分の意見を実行しようとしていた」
言葉を待った。
「当然、黙って見過ごすわけにはいかなかった。私とクルーヤはすぐさまゼムスを討伐するための力を集めた」
「結局、戦いになるのかよ……同胞同士で」
「そうなるな……その時の我々には他に方法が思いつかなかったのだ。戦いは熾烈を極めたが……勝ったのは我々であった。勝利を収めた私とクルーヤは
すぐさまゼムスを月に造った我々の拠点に封印したのだ」
「それがこの場所……」
「そうだ。そして今、封印したゼムスとは別に多くの月の民がこの場所に眠っている。青き星の者たちが対等に話し合えるだけの進化を遂げるのを、見守っているのだ……
皆……その日が来るのを夢見て」
「それで全てか?」
「我ら放浪の民――月の民の軌跡としてはな」
フースーヤの言葉はまだ何かを隠しているようであった。

110名無しさん:2011/12/07(水) 16:22:12
FINAL FANTASY IV #0654 9章 2節 明かされる想い、目覚める力(8)

「少し……気に入らないな」
先ほどの質問の主、エッジが不満を口にする。
「さしずめあんたは月の民の封印を守る者といいたところなのか。結局のところ青き星の人間を監視しているんじゃねーか」
「不満はもっともだ……幾らでも聞こう。既に沢山の者たちを犠牲にしてきた。いまさら責められることが不本意だとも思わぬ」
「もし今、青き星に月の民がやってきても共存なんてできると思っているのか? 俺は完全には出来ないと思うぜ。
それだったらなんだあんた達のいう対等という存在に俺達がなっていないとでもいうのか?」
誰もエッジを止めない。彼のいう事が完全に間違っていない、青き星に生きる者の一意見だからというのもあるが、フースーヤ
が黙って批判を受け入れる姿勢だからだ。
「それに、ゼムスって奴との対立も結局は力で押し込めただけじゃないか。それに今もそいつはこの場所に眠っているって?
もし俺がゼムスだったらあんた達を恨んでなんとか脱出して、お前達に復讐すると思うね!」
「良い意見だ!」
「なっ! なんだよ!」
さすがに言い過ぎだと思った自分の発言に思わぬ返答が返ってきて驚くエッジ。
「ゼムスはまだ諦めておらぬ! 封印されてもなお、否封印される事によって更に憎しみの力を強めているのだ」
「それがどうしたんだよ? まだゼムスは封印されてるんだろ? だったら……」
大丈夫だと続ける言葉を遮るのはフースーヤの言葉だ。
「ゼムスの体は未だにこの地に封印されている。だが、増幅されし憎しみの力は既に我々の制御できるレベルを越えているのだ!」
「じゃあ、なんだって? 既にゼムスの封印は機能してないって事か?」
「ここから先はお前達青き星の民の方がよく知っているだろう……増幅されし憎しみの力でゼムスは自分と似た者を利用し目的を達成しようとしている」
「!」
「じゃあ……」
一番最初に声を上げたのはローザだ。
「ゴルベーザ。奴がゼムスの力によって利用されてるのか…」
答えを導き出したセシル。
「ゴルベーザは青き星のクリスタル。地上と地底の全てのクリスタルを使い月への扉を開くといっていた……」
「クリスタルとは我々のエネルギー源。 おそらく、バブイルの塔の次元エレベータを作動させる為、クリスタルを集めたのだろう。
次元エレベータで、バブイルの巨人をそなたらの星に降し、全てを焼き払おうとしている……」

111名無しさん:2011/12/07(水) 16:22:52
FINAL FANTASY IV #0655 9章 2節 明かされる想い、目覚める力(9)

「バブイルの巨人!? なんだそりゃ!?」
「先ほど我々の滅びた星の戦争、その時の最後に使われた兵器だ。戦火に投入されたバブイルの巨人は全てを薙ぎ払った……我々の星が
滅びた直接的な理由となった……そこまで戦争をエスカレートさせ強力な兵器を投入した我々なのだが」
「なんでそんなものが残ってるんだよ!」
「星の脱出の際にゼムスが持ち込んだのだ……思えば最初からゼムスはこのような事を考えていたのかもしれんな」
「じゃあなんで、そのゼムスを封印した際に壊してしまわなかったんだよ!」
「もっともだ。だが、巨人の力は我々の星が滅亡した直接的な理由。多くの者が触れる事すら恐れ、そのままにしておいたのだ。強大な力を
もってはいても所詮は無人兵器。動かさなければ問題はないと思ってな」
「結局、残った穏健派の連中も力を捨て切れなったってことじゃねえか!」
「そう取られても仕方がない。事実、巨人の力を青き民との交渉に仕えると思ったものも眠っている同胞達にもいなかった事は否定できん」
「いつもいつも力を誇示して上から目線で優位に立つ! それで本当に共存なんかできるのかよ! 俺達だけじゃなく、あんた達月の民の方にも
反省して進化するべきところが山ほどあるんじゃないのか!」
「エッジ! 気持ちは分からないでもないけど」
ローザの叱咤は怒りつける訳でもなく咎めるわけでもなかった。
「今は争っている場合でないわ! ゼムスの目的が本当ならば、彼と操られているゴルベーザの目的は既に達成されている事になるわ。つまり・・・…」
「巨人が既に青き星に向かっている!」
「そんな……」
リディアががくりと膝をつく。
「こうしちゃいられないぜ! 急いで青き星に戻らねぇと!」
「待て!」
脱兎のごとく外へ向かうエッジをフースーヤが呼びとめる。
「私も付いていこう!  青き星とそして月の民の為に!」
「エッジ……」
リディアもローザも反対する素振りは無い。だとすると異論があるのは月の民の行動に異論を付けていたエッジだけだ。
「仕方ねえな……あの竜騎士がいなくなって今は一人でも戦力がほしいしな。それにあんた達のやってきた事は否定したが、目指そうとした事は
間違っているとは思えねえ。そのやり方が問題だっただけでな」
「あり難い……バブイルの巨人を青き星に降ろしてはならぬ! 私と共に行こう……!」

112名無しさん:2011/12/07(水) 16:23:51
FINAL FANTASY IV #0656 9章 2節 明かされる想い、目覚める力(10)

「フースーヤ、一つだけ聞きたい事があるんだ」
想いも一致し、青き星へと戻ろうとした皆の足をセシルが止める。
「月の民はどれくらいの寿命なの?」
ローザ達三人は疑問の顔だ。当然だろう、何故そのような疑問が出るのか? それ自体もよくわからないといった
感じだ。
「月の民は青き星の民に比べると遥か……とまではいかないが永く生きる」
「だったらフースーヤ。あなたはずっとここで月の民の眠りを、青き星を監視しているのですね」
「そうだ……」
皆が驚きの顔と同時に様々な反応をする。
思った通りだった。だが、セシルにとって重要なのはここからだ。
「では先ほどの話に出てきたあなたの弟……クルーヤはどうなったのですか? 他の者と同じく眠りについたのか、それとも……」
「やはりか」
フースーヤはセシルの顔を少しの間、見つめ納得したのか口を開く。
「クルーヤは青き星に憧れを抱き、一人旅立っていった。表向きの理由は青き星の調査・監視を兼ねた任務として……しかし、私には
分かった。あやつは戻るつもりはない。あの地で一生暮らすのだとな」
「月の民である事を捨てたのですか?」
「あいつにそんな気持ちがあったかどうか分からぬが、結果的にはそうなるな。クルーヤは始めて青き星を見た瞬間、魅入られてしまったのだ。
そこにはゼムスや私と違って単純な憧憬だったのだろう」
「そうですかそれで今クルーヤは?」
聞かなくてもいい質問だったかもしれない。
「青き星を監視していたあなたならば、彼の動向は全てとまではいわないでも知っているでしょう?」
「クルーヤは青き星で出会った娘と恋に落ち、子供を何人か設けた。私が知っているのはそれだけだ。おそらく今はもう生きていないだろう。
愛する青き星で今起こっている事を知って何もしない奴ではないからな……」
「その子供というのは?」
既に聞かなくても答えは分かっていた
「分かっているのだろう? そなただ、セシル」
「やはり」
自覚はあった。月に近づくにつれて強くなる想いに今納得がいった。
「なるほど……若い頃のクルーヤに良く似てる」

113名無しさん:2011/12/07(水) 16:24:31
FINAL FANTASY IV #0657 9章 2節 明かされる想い、目覚める力(11)

「皆はどう思ってるの?」
クルーヤが自分の父親であった。それは自分が月の民と青き星の人間の間で生まれたという事を意味している。
勿論、驚きはしたのだがそれ以上に気になったのは仲間達の反応だ。
「セシル」
ローザが静かに口を開く。
「セシル……バロンの赤い翼のセシル……暗黒騎士であったセシル。試練を乗り越えて力を手に入れたセシル。そして青き星と月
二つの異なる者達との間で生まれた者。そのどれもがセシルだわ」
「ローザ……」
「私は……私の好きなのは今目の前にいるセシルだけだわ、例えどんな事があろうとそれは変わらない。
「そうだぜ!」
今度はエッジだ。
「確かに月の民の事はまだ完全には受けれたわけじゃない。どうにも好きになれない連中だってのもある。だがな……だからってセシル
が悪い訳じゃない。お前はお前だぜ!」
「うん」
リディアがゆっくりと首肯する。
「私はも何があっても嫌いにだけはならないよ。セシル!」
「みんな……ありがとう」
仲間達から送られた言葉一つ一つを噛みしめ、皆に感謝の言葉を一つ。
「そうこなくっちゃな! それより急ごうぜ! 早くバブイルの巨人を止めなければ!」
「良い仲間を持ったな、セシル」
先を急ぐ三人を尻目にフースーヤがごちる。
「はい」
「我ら月の民もお前達のように信じあい、互いを少しでも譲り合えたなら行く末は変わっていたかもしれんな」
「そういってもらえると嬉しいです。青き星の民としても月の民としても……」

114名無しさん:2011/12/07(水) 16:25:10
FINAL FANTASY IV #0658 9章 2節 明かされる想い、目覚める力(12)

「最後に一つ聞いていいですか?」
「何だ?」
一呼吸おいて尋ねる。
「あなたの弟……そして僕の父であるクルーヤは地球で恋に落ちて子供をもうけた。その内の<一人>が僕であるのは
間違いないですね……?」
「うむ……」
フースーヤにも質問の意図が分かったようだ
「クルーヤは地球で僕以外にも子供をもうけた……そうですよね?」
「否定はせん」
「では……」
続く質問をセシルは止めた。
フースーヤの口調にはその先を言う事を拒むような雰囲気があったからだ。
(今はまだいいだろう……すぐにでも分かるだろう)
自分で得心して質問を変える。
「試練の山で聞こえた声は……あれはやはり」
「間違いない。クルーヤの声だ」
「やはり」
セシルの中で考えがまとまりつつあった。
(あの時、声は言った。自分に力を与える事によって更なる悲しみにつつまれると……しかしそれは必要な事だと……だとすれば)
「急ぎましょう……」
今なら何故、父がクルーヤがこの力を与えてくれたのかが分かったような気がした。

115名無しさん:2011/12/07(水) 17:18:36
FINAL FANTASY IV #0658 9章 3節 地上を救う者達(1)

地上へ帰還したセシル達を待っていたのは休むことのない戦いであった。
バブイル塔のある場所――つまりはエブラーナ国がある島。
天を突くほどの巨大な塔の近くにまた一つ、常識外の大きな存在が生れようとしていたのだ。
正確には生まれるという表現はおかしいだろう。<それ>は既に何処かにあったものだ。<それ>がとある場所から
やってきたのだから…
<それ>がやってきたはずであろう天を突く巨大な塔――バブイルの塔は虹色の発光を常に続けていた。
現れたのはバブイルの地上部分と同じ大きさほどの人型の生物……否、人の形をしているとはいえそれの表面は機械的な
もので構成されていた。
バブイルを守護していた機械兵士達。あれを巨大化させたものと感じられた。
人間型の巨大な機械人形――それはフースーヤの口から語られたゼムスの秘密兵器<バブイルの巨人>である事は簡単に判断できた。

116名無しさん:2011/12/07(水) 17:19:15
FINAL FANTASY IV #0659 9章 3節 地上を救う者達(2)

「あれが……バブイルの巨人!」
月面船制御室。中央部の制御クリスタルの全面にある操縦部分上方に備え付けられた大型ディスプレイは、たった今地上に降臨した
バブイルの巨人を映し出していた。
「でけえってもんじゃねえな……」
画面に克明に表現されたその光景に皆それぞれの感想や意見をこぼす。
普段は常に強気は姿勢や言動を崩さないエッジですらも若干委縮した様子でひとりごちる。
「どうする?」
おそらくは誰もが驚きの次に考え付く言葉を皆を代表してリディアが言う。
あれがバブイルの巨人であることは疑う余地はない。そしてフースーヤの言うとおり、あれがゼムスがゴルベーザを利用して地球におろしたのなら
その目的も一つ……
考えたくもない悪夢のような光景が一同の頭をよぎる。
「ねえ? セシル?」
話しを振られて回答に困っていたメンバーの視線がやがて一つの人物へと集中する。
セシルだ。
月の民と青き星。二つの血を受け継ぎ、誰よりも争いや戦いを嫌い、それを止める為に奮闘し続けた者。
「当然、このまま放っておくわけにはいかない! なんとかあの巨人を止めなければ!」
そんなセシルの言葉にエッジがリディアがそしてローザがほっと胸をなでおろす。
やはり考えることは一緒だ。それに目の前の半ば絶望的な状況を前にしてもセシルは全く諦めた様子はない。
本人には自覚はないのかもしれないが、その態度が今まで行動を共にした三人に妙な安息感を与えていた。

117名無しさん:2011/12/07(水) 17:19:56
FINAL FANTASY IV #0660 9章 3節 地上を救う者達(3)

(セシルは変わった……)
誰よりも彼を見てきて、いつも一緒にいたローザから見てもそれは明らかであった。
(暗黒騎士としての自分を捨てて、パラディンになった。この事はセシルを変えた。けど……)
ゾットでの再会。パラディンとしてのセシルとの初対面。だが今ローザはセシルに対して更に新たな一面を感じとっていた。
(月へ行って帰ってきてからのセシルはまた一段と変わった……)
正確には月へ行くときからだ。セシルは自分へと強いられた運命を感じ取っていたのだろうか?
人としての迷いを捨てて世界の全てを救ってしまうほどの大きな何かを今のセシルは抱えている。
ローザにはそう思えた。
(勿論、それだけの事を受け入れるほどの覚悟と決意を内包させたのはパラディンの力だと思うけれど……)
彼女自体は直接その目で見たわけではないが、あの力をセシルに与えたのは月の民である彼の父親であったという。
(だとすれば。全て運命だというの……?)
どこまでが本当か分からない。ローザはセシルではないのだ。しかし、今の彼ならばこの混乱を全て収め、目の前に
迫る危機、そして今この地上の混乱を救えるだろう。
(後はあの人か……)
地上に残る前に分れたもう一人の大切な人。おそらくは彼は今――
その先の光景はまだ考えたくはなかった。しかしいずれはやってくる決着に対してローザはどう向き合えばいいのか?
(どちらも大切……どちらも裏切れない……この苦悩は二人には分からない。分かってもらっちゃいけない)

118書き手 ◆5qsDKhCTIQ:2011/12/07(水) 20:00:05
FINAL FANTASY IV #0660 9章 3節 地上を救う者達(4)

「フースーヤ」
月で出会い、一緒に同行する事になった老人に訪ねる。
「あの巨人を破壊するにはどうしたらいい?」
「動いてしまった以上、この青き星の技術で完全に破壊するのは到底無理だろう」
「そうか……」
「じゃあどうするんだよ!」
状況とは裏腹に冷静なやり取りをする月の民とその血を継ぐ者。
そこに青き星の代表とばかりにエッジが口を挟む。
「だったらこのままやられるのを見てるだけってのかっ」
「エッジ落ち着いてくれ」
今にも外に飛び出しそうなエッジの足をひとまず止める。
「何ももう打つ手が何もない。そう言いたいわけではない。そうだよねフースーヤ」
「それはそうじゃがな……」
諦めた様子ではない二人。だが、その顔は少しばかり対照的であった。
「あの巨人を止めるにはやはり内部から破壊するしかない……そうでしょう?」
「いかにも」
先読み気味に回答を答えるセシルに期待通りの反応のフースーヤ。
「巨人内部にはあれだけの巨大兵器を動かす為の専用の稼働システムが存在している。それさえ破壊してしまえば。
もう動く事はないだろう」
この言葉にはエッジ達も少し驚いていた。
「そんな簡単な事でいいのかよ!」
「言葉だけでは簡単だ。だが……あの巨人にどうやって潜入するのは結構な困難を要するであろう」
「それで、あの巨人へは何処から潜入すれば?」
難色を示すフースーヤに対し、セシルは顔色一つ変えずに質問する。
「言っただろ……困難を要すると。まずは少し作戦を立てる事から――」
「それじゃあなんだって! あんたはこのまま奴が地上を焼き払うのを待てっていうのかよ!」
あくまで冷静な作戦を展開しようとするフースーヤに対してエッジの怒りが爆発する。
「このまま何も考えずに無駄に特攻するよりかはましであろう」
「だったらこのまま青き星が! 俺達の星が破壊されるのはを黙って指をくわえて見てろっていうのかよ!」
何も言い返さないフースーヤ。そこにエッジは更に一言。
「やっぱり月の民にとって青き星の運命なんて大して重要じゃないんだな……!」
「エッジ、そこまでだ」
続く二人のやりとりを制止する声が一つ。セシルだ。
「フースーヤ。エッジが怒るのは最もだ。この状況をすぐに打破しないなんてのは僕達青き星の者から見たら
とても耐えられるようなものじゃない」
そう言って他の二人も見やる。
「そうよ! 私だってこの星の人や幻獣達の住む場所が破壊されるなんて思ったら、黙っておけない!」
話しを振られて答えたのはリディアだ。ローザも黙って頷く。
「そういう事だ。すまないフースーヤ。このまま黙ってむざむざやられて犠牲を増やすことは僕たちには出来ない。
だからさっき言った作戦を実行させてほしい」
作戦というのは巨人の内部に潜入し、システムを破壊する事だ。
「だけど、フースーヤ。あなたの言った事も分かる。確かに危険だ。成功する保証なんてこれっぽちもない。
でも信じてくれ僕たちを。そして力を貸してくれ。この作戦の成功には月の民であるあなたの力は必要だ」
「ふ……」
老人は口元を緩くゆがませて微笑した。
「ふふふ……やはり父親に似ているなセシルよ」
「え?」
「お前の父親クルーヤも似たような事を良く言っていた。自分を信じてくれ、そして力を貸してくれと」
「そうなのですか……」
顔も知らなかった父親の一面を話され嬉しくなると共に照れくさくなった。
「思えば我ら月の民は永きに渡る眠りにつくことを選んでから随分と保守的になっていたのかもしれんな
クルーヤが月から出て行ったのもそういう我々を嫌ってなのかもしれん……」
永き追想と共にフースーヤが語る。最後にこう付け加えた。
「月の民にも青き星の者たちから学びとる事は沢山あるな……」
「それでは……」
「分かっておる力を貸そう。そしてあの巨人を一刻も早く破壊するぞ!」

119書き手 ◆uU5P6tGueQ:2011/12/07(水) 20:00:35
とり間違え

120書き手 ◆uU5P6tGueQ:2011/12/07(水) 20:01:12
FINAL FANTASY IV #0662 9章 3節 地上を救う者達(5)

巨人破壊の突破口は内部への潜入へと決まった。
しかし、フースーヤ言うとおり、言葉で表すことと作戦を実行する事には大きな差異が存在した。
なにせ相手は一つの星を滅ぼすほどの兵器なのだ。並はずれた巨体はただ足を使って歩いたり、拳を突き動かす
だけが脳の相手であるわけがない。
「奴にはいくつもの武装が用意されている」
言い終わらぬうちに操縦機器に備え付けられたキーボードを操作するフースーヤ。
すぐさま外を映しこんでいたディスプレイの画面が切り替わる。
「外部カメラOFF――内部データ呼び出し……バブイルの巨人」
そこにいる誰とでもない声。おそらくはこの船に録音された自動音声と共に巨人の立体映像が映し出される。
「奴の武装――両腕に備え付けられた拡散レーザ、手甲の実弾型巨大砲。頭部につけられた大型ビームレーザ。
そして近づく者を追い払う小型機銃が体中に備え付けられている」
次々と画面に映し出される文字列を丁寧に説明するフースーヤ。
「それで、特に警戒するのはどれだい?」
いまいち説明を飲み込めないセシル達は少しでも理解できるようにと噛み砕いた説明を要求する。
「この月面船の装甲なら多少の機銃掃射なら耐えることができるだろう。クルーヤが月でとれる特殊鉱石を用いて補強されたこの
船ならばな――」
まだ何か問題を残している発言であった。
「だが、他のレーザー群の攻撃はそう何度も耐えられるものではあるまい。特に大型ビームの方は喰らったらひとたまりもない」
「だったらどうするんだよ?」
エッジが焦ったように訪ねる。
「うむ。最悪何度かのダメージは覚悟せねば。ビームを回避するのはこの月面船の大きさでは中々難しいものがある」
「状況は厳しいな……」
今のままでは近づく前にやられてしまう可能性が高い。説明を聞く限りでセシルはそう判断した。
やはり何か作戦を練り直すべきであろうか?

121名無しさん:2012/01/02(月) 02:24:12
FINAL FANTASY IV #0663 9章 3節 地上を救う者達(6)

「確かに現状ではこちらが不利だ。しかし……あちらの巨人が我々滅びた星の産物ならば。この月面船も同じだ」
しかしフースーヤはまだ奥の手を残しているようであった。
「どういう事……?」
期待交じりにリディアのエメラルドグリーンの瞳が老人に向かう。
「この月面船がただの移動用の船ではないという事じゃよ……」
幼き様相を残す少女に見つめられさすがの月の民も少し照れた様子だ。
「仮にも大いなる宇宙の船旅を経験してきた船。万一の自体を考慮して様々な仕掛けが用意されておる」
馴れた手つきで操縦機器に用意されたパネルをいじっていくフースーヤ。
「実行者――フースーヤ……本人と認定。承認完了――」
再び、あの録音された音声が聞こえてきた。
「月面船。戦闘モードに移行。準備に移ります。各種武装ロック解除。以下――操縦権をフースーヤへ委ねる」
淡々とした声で次々と読み上げられる言葉はセシルにも理解できるものであった。
「戦闘モード。この船にも武器がついているのか?」
「さっきも言っただろう。万一の自体を考慮して様々な仕掛けがあると……最もクルーヤにとっては不本意なものであっただろうがな……」
月の民の老人の顔が少しばかり曇る。
ただ単純に青き星へと憧れ、この地へと赴き一生をまっとうした男。セシルの父クルーヤ……この星に対しての愛は月の民であっても
青き星に住む者と同じかそれ以上であっただろう。
「こんな形で我々の兵器が青き星の地で戦いを繰り広げるなど、あやつは決して望んではおらぬであろう……」
「…………」
「しかしだ」
感傷に浸る一行の会話を再開させたのはやはりフースーヤの一声だ。
「例えこの船が武装を装備していようが状況は悪ままだ。所詮、月面船は脱出船。破壊も目的として造られたバブイルの巨人相手に
まともにやって敵うわけもない」
「やっぱり駄目なのかよ」
「それどころかあの巨人の目的――ゼムスの目的はあくまでこの地上の破壊。あいつの事だ……巨人を手に入れた今、初めから我らなど敵ではないと
思っているはず。近づく我らを迎撃すると同時に地上への攻撃も開始するであろう」
落胆するエッジに更に追い打ちをかけるフースーヤ。
誰も抗議の声を上げない。エッジでさえも、フースーヤの冷静な分析に反論する余地がないのもあるが、目の前に訪れた危機に大して
絶望的な想いを抱えているからだ。

122 ◆KSL.Z2QebY:2012/01/30(月) 20:32:19
FINAL FANTASY IV #0664 9章 3節 地上を救う者達(7)

「いや、まだこの船には隠された秘密がある。あの巨人にすらない月面船だけの武器と呼べるものが」
(やはり)
皆が絶望にくれる中セシルはまだ希望を捨ててなかった。
(それはおそらく――)
鍵を握るのは自分とフースーヤ。つまりは月の民であろう。
「じゃあ……」
仲間たちの眼にも光が復活する。
「意地がわるいぜ! じいさん!」
エッジの口にも軽口が叩けるほどの勢いが戻ってくる。
「それで、この船にだけ用意された武器ってのはなんなんだ?」
(おそらくはこの船にだけあるもの――)
会話の最中にセシルの視線は一つの場所にたどり着いていた。
「あれだ」
フースーヤがエッジの回答に答える。それは先ほどからセシルが視線を移した場所――
月面船の中枢部。
「クリスタル?」
中央台座に備え付けられた一点の曇りなく輝きを放つ水晶。一連の騒動に常に関わってきた存在。
フースーヤの指先は微塵のぶれも無く、そこを指定していた。勿論、セシルの視線もだ。
「これがなんだっていうんだよ?」
エッジが当然といったばかりに質問を返す。今のフースーヤの説明だけ理解するのは無理な話だ。
「このクリスタルは月のクリスタル。月の民の血を引く者の力ならばその力をこの船へと注ぎこむことができる」
「だったらどうなるんだよ……」
エッジを含めた三人は未だ説明不足といった感じだ。
「この船全体に巨大なバリアを張る…あの巨人の最大威力のビームの直撃にも耐えれるほどの。それがこのクリスタルを用いれば
できるということだ」
時間がないというばかりに簡潔に結果だけを説明するフースーヤ。
「それじゃあ」
皆の眼に希望の光が宿る。
「ああ……いくら巨人とて最大攻撃の後にすぐさま同じ攻撃をすることはできんはずだ、そのバリアで耐えつつ巨人の攻撃の手が
緩んだ時に一気に奴に侵入する……中々良い作戦であるはずだ……」
そう言いながら月の民である老人の言葉の歯切れは悪い。
(それは、おそらく……)
バブイルの巨人と比べれば、のみの様な小ささの月面船であるが、その船体は青き星の飛空艇に比べると遥かに巨大なものである。
その装甲全てを覆い尽くすほどの防壁結界を張るのは並々ならぬ力が必要なはずだ…
先ほどのフースーヤの言葉から察するに、作戦を確実に成功させるだけのバリアを張れるのは彼一人では難しいのだろう。
セシルはそう判断した。

123 ◆1p6lZ8FdLQ:2012/01/30(月) 20:33:05
FINAL FANTASY IV #0665 9章 3節 地上を救う者達(8)

「フースーヤ」
折角、先へ進む道に光明が差したのだ。皆の眼に再び絶望の色を灯させたくはない。
そう思ったセシルは作戦を開始する直前、ローザ達に気づかれるようにこっそりとフースーヤへと語りかけた。
「何だ……」
言葉では疑問を発してはいるが、月の民である老人は全てを悟っているようであった。
「あなただけの力では作戦を成功させるだけのバリアを張ることはできない……そうですよね??」
「…………」
無言は肯定を意味していた。
「だったら僕も手伝います! 僕にも月の民の血が流れているだったら力になれるはずだ」
「しかし……」
フースーヤの言葉が続かない。
セシルに協力を頼むことに引けを感じているわけではないのだろうが……
「フースーヤ!」
「すまない、頼む」
協力を拒み続けるフースーヤであったが、セシルの強めの叱咤に決断を強いられた。
「ありがとう」
それだけ言って、すぐにクリスタルへと手を触れる。
(こうすればいいんだな……こうやって力を注げば……)
「あまり力を使いすぎるな……お前はまだやるべきことが残っているはずだ」
「わかっています」
フースーヤの忠告に耳を貸しつつも、セシルは一人で想いを馳せていた。
(おそらくはこれが最後の戦いになる……否、仮にそうならなかったとしても僕にとって重要な戦いとなるはずだ
巨人の中へはカインがいる、そしておそらくにい……ゴルベーザも、二人とも決着をつけなければならない……)
特にカインとは何があってもだ。
(エッジ、リディア……ローザ。ここにこれなかったみんな……ギルバート、ヤン、シド、そしてポロムにパロム。
戦いで命を散らしたテラ……みんなの力があったからここにここまで来れた……だから最後にもう一度力を貸してくれ
そして見守ってくれ……)
想いの力がクリスタルへと注がれる。
(行こう……もうすぐだ、カイン)

124 ◆W4g5HNoLOg:2012/01/30(月) 20:34:30
FINAL FANTASY IV #0666 9章 3節 地上を救う者達(9)

(巨人への侵入口は奴の頭部。人間でいう口の部分だ)
フースーヤの一声が作戦の全てであり、最終目標を示していた。
侵入口まで行って巨人を内部から叩く。それだけである。
そして目標を達成するための手段もひどく簡潔なものである、月の民の力で生み出した障壁で
巨人の猛攻を耐えて、一気に近づく……要は強行突破だ。
単純すぎる計画には考えるだけの時間を必要としないだけあって動き出すのも早かった、だが同時に考えられていない
側面があるのも事実だ。
セシル達が選んだ手段はいわば見切り発車的な要素が含んでいるのは間違いない。そして、成功する確率も決して高くない
それどころか失敗のリターンの方が高い――
「耐えれるのかっ……!」
相次ぐ巨人の迎撃行動によって月面船内部は激しい震動に見舞われていた。
幸いにもその猛攻がセシル達のいる場所に及んでいないのはバリアのお陰なのだが、無理にでも進むもうとするのならば
バリアを破られてもおかしくない状況だ。
巨人の攻撃が思った以上に激しかったのか? はたまたバリアの力が不足しているのか?
どちらにせよ、作戦の脆さが露呈してきたのだ。
「もう少しだっ! なんとか持ちこたえてくれ……」
セシルの不安と疑念に、言葉を帰すフースーヤ。
しかし、老人から出てきたのは確信ではなく願望であった。セシルだけでなく、フースーヤも危機を感じているのだろう。
見るとローザ達の顔にも不安の色が浮かび上がっている。
どうやら皆、同じ考えなのだろう。
(しかし……ここでひるむ訳には…終わるわけにはいかないんだ僕は……)
他の者に不安をかくさんさせないようにひとりごちる。
目の前のモニターはひるむことなく攻撃を続ける巨人の姿をただ鮮明に映し続けている。
(…………)
その光景を見ると弱い考えに浸食されそうに思いセシルが顔を伏せる。
(しかしこれは逃げだ……何か考えないと……ん――)
その時であっただろうか、先ほど目をそらしたモニターに写る巨人に対して何かが横切ったのは……

125 ◆W4g5HNoLOg:2012/01/30(月) 20:35:25
まちがえ

126書き手 ◆uU5P6tGueQ:2012/01/30(月) 20:36:22
まくりですね…トリップ
もう名無しでかきます

127書き手 ◆uU5P6tGueQ:2012/01/30(月) 20:37:10
とおもったらこれであってた

128ピクセルリマスター記念:2021/09/17(金) 21:47:09
FINAL FANTASY IV #0667 9章 3節 地上を救う者達(10)
地上を疾走するいくつもの鉄塊、それには見覚えがあった。
「戦車、ドワーフのみんな!?」
リディアが疑問と断定交じりの言葉を発する。
どうやらセシルと同じ考えにいたったようだ
「ドワーフ戦車隊見参! 母なる大地の為、我々も戦う!」
地底に技術の結集である兵器から拡声器に乗ってジオット王が勢いよく名乗る
その声は地上に響き、月面船の中にいるセシル達にもモニター越しに聞こえてくる。
「へへ、王様自ら出陣とはな! やっぱそうでなくっちゃな」
エブラーナの王子であるエッジが呼応する。
「頼もしいぜ!」
エッジの声に鼓舞されるように戦車は次々と地上を疾走し増えていく。
やがて地上をうめつくすかの如く戦車は増えていく。
「セシル殿!」
各々名乗りを上げたり、戦いの意気込みを見せるドワーフ戦車隊。
その中の一つにセシルの名を呼ぶ見覚えのある声が聞こえてきた。
「ヤン!!」
その声に気が付き、真っ先に喜びの声をあげたのはリディアだ。
「おいおい、怪我人はちゃんと寝てないと……」
無邪気に喜ぶリディアとは対照に少しばつが悪そうなエッジ。
「この大地の危機なんですぞ! 私だけ寝ているわけにはいくまい!」
月へと旅立つ少し前の事――セシル達は地底のシルフ達の洞窟を訪れた。
人間を嫌う妖精たちがなぜセシル達に姿を見せたのかそれはわからなかった。
しかしそこには死んだはずのヤンをシルフ達は介抱していたのだ。
「私たちもいるよ!」
無邪気で元気な少女のような声、それはあのシルフ達のものだ
「シルフのみんな!」
シルフに呼応するかの如く、リディアが無垢な声で喜ぶ。
「私たちも力を貸すから! 頑張って」
「うん!」
この状況にいささか不釣り合いといえるやりとりをしながらリディアはそっと胸に手を当てる。
召喚士であるリディアはセシルとの旅路でシルフだけでなく沢山の力を手に入れた。
(新たな故郷では幻獣王であるリバイアサンと女王アスラの力、月面では幻獣神バハムートの力…)
セシルはひとりごちる。
(そして父上――オーディンの力)
バロン王は命尽きてもセシル達の力となるべくその力を召喚獣へと変えてここにいる。
(みんなが僕たちの戦いを助けてくれる)
「わしもいるぞ!! セシル!!」
感傷に浸る間もなく聞こえてきたその声を間違えることはない。
幼少の頃から父と同じく聞いてきたその声は――
「シド!」
セシルに先んじてローザが涙交じりの声でその名を呼ぶ。
彼女にとってもセシルと同じだけの時間をすごしてきたのだ。
「ワシが来たからにゃ、心配要らんぞ! セシル、ローザ!」
モニターの戦車隊から視線をあげると、上空にも幾多もの飛空艇が巨人へと向かって空を駆けている。
全体モニターとは別に拡大モニターがより鮮明に移す。密閉された戦車と違い、飛空艇のブリッジにははっきりとその人物をうつしている。
(それに…)
「久しぶりだな! あんちゃん!」
駆け付けた飛空艇の一つに他にも見慣れた顔を見かけたのと同時に声が伝わってくる
「パロム」
「へへっ……うっ!」
セシルが気づいたのを察知したのかモニター越しにポーズをとるパロムを制して割り込む
「セシルさん! 私も……ポロムも長老さまに助けてもらったのですわ。ほらこの通り!」
幼き双子の魔道士はその身体を自らの魔法で石としてセシル達を救った。テラや自分達の救済すらも受け入れない強い意志で。
しかしセシルの心配をはねのける意味なのか、石化を解除されたといった意味を伝えるなのか。
元気一杯な様子を身振り手振りで伝えてくる。
「おいらもだぜ」
蚊帳の外にはならないというばかりにポロムも会話に混ざろうとする。
「ギルバートだ!」
双子に負けない元気のよい声が近くから聞こえる。リディアだ。
「セシル、ギルバートも来てくれたんだよ!」
モニターからこちらは見えているのだろうか? そんな疑問もよそに全力てリディアは手を振っている
リディアと同じ方向のモニターに目を向ける。
飛空艇のブリッジにはいささか不釣り合いな女官達の中には華やかな装飾と端正な顔立ちの青年、吟遊詩人であるギルバートで間違いない。
「セシル」
静かな声がこちらに響く。体の方はまだ完治していないのか、風の強いブリッジでその細身はやや所在なさげに見える。
近くにはトロイアでの彼の医師も同伴し、やや心配そうな顔をしている。
ギルバートの手が静かに上がる。
近くの医師や女官に向けたものか、それともセシルの気持ちを読み取ってのものなのかはわからない。
それは心配はいらないという意味なのだろう。
「君たちに教わった勇気を見てくれ」
静かだが確かにセシルに向けた言葉だった。
「そしてアンナ……テラさんも」
微かにそう付け加えた。

129ピクセルリマスター記念:2021/09/17(金) 21:48:18
FINAL FANTASY IV #0668 9章 3節 地上を救う者達(11)

「セシル、みんなが……みんなきてくれた!」
近くにいたローザがぎゅっとセシルの手を握ってくる。
「ああ」
見るとローザの目には涙が浮かんでいた。きっとセシルも似たような表情であっただろう。
(みんなが)
心の中でセシルの決意が固まる。
「フースーヤ」
出来事の一部終始を黙ってみていた月の民へと声をかける
「みんなと話がしたい。できるかな?」
「クリスタルを使えば可能であろう」
そう言って視線を船内の中央に鎮座するクリスタルへと向ける。
「しかしバリアは展開中じゃ、あまり長い時間は無理だ」
「わかった」
自分の提案を受け入れてくれたフースーヤに感謝をしてセシルはクリスタルへと手を触れる。
「ローザ、リディア、エッジ。君たちも来てくれ」
仲間たちを自分の後方へと案内する。
(みんなに届け)
クリスタルがわずから煌めきと共に一筋の光を船外へと射出する。その光は上空で広がり外部モニターからでもわかる大きさへとなっていく。
やがてそれは船内のセシル達を映し出すホログラム映像へと変わった。
「おおっ! セシル!」
シドの声が自分の提案が上手くいったのだとわかる。
「みんなありがとう」
船内から外の皆へ感謝の言葉を伝える。
「そしてこれから大変な戦いになるかもしれない。苦しいかもしれない。身勝手なお願いかもしれない。でも僕と一緒に戦ってほしい」
今の自分にできる精一杯の声をひねり出した。そのつもりでセシルは喋っている。
「そなたたちだけではない!」
聞こえてきたのはミシディアからの船だ。
「この大地に生きとし生けるもの全ての 命の戦いじゃ!」
パロム、ポロムを左右に従えて立つのはミシディアの長老だ。
(長老!)
あの日ミシディアから一つのクリスタルを奪取した暗黒騎士がいた。そこから贖罪の旅は始まったのだ。
「ありがとうございます」
軽く会釈。はっきりと前を向きセシルは言葉を続ける。
「みんな、もう少しだけ力を貸してください。きっと最後の戦いになる。だから僕にもう少しだけつきあってほしい」
ミシディアから始まった旅、パラディンとなり歩いてきた道、それらの足跡は今――長き旅路は着実に終わりに向かっている。
(まだ終われない)
軽く心でひとりつぶやいた。

130ピクセルリマスター記念:2021/09/17(金) 21:49:35
FINAL FANTASY IV #0669 9章 3節 地上を救う者達(12)

セシルの言葉が戦いの狼煙であった。
ジオットを始めとしたドワーフ戦車隊。シドが用意した飛空艇部隊。
それぞれが攻撃を開始した
「これが最後なんじゃ! これが終わればもう戦車はいらん。だからどんどんうちまくれ!」
「そうじゃこっちも武器にはせんわい!」
地底と地上二つの世界の技術の枠がバブイルの巨人の進行を食い止める。
すでに戦闘が始まって小一時間は立っているだろうか
巨大な敵を相手にここまで戦闘を継続するシド達には頭が下がる思いだ。
だがそんな気持ちとは裏腹に巨人がダメージを受けた様子はなかった
「巨人がひるんでいる!?」
最初に驚くのはローザ。
確実に巨人の接近を拒む攻撃の動きが鈍くなっているのに気付いたのだ。
「時間稼ぎにしかならんと思っていたが――」
最初から地上の攻撃を当てにしていなかったと思われるフースーヤもこの変化には驚いている。
「今の内に内部に入る!」
「最初から言っていたやつの心臓を叩くってわけか!」
作戦を後方で聞いていたエッジが腕をかち合わせ意気込む。
「だったら機動性のある飛空艇で一気に接近する!」
セシルは提案した。
巨人の手がとまった以上小回りの利く飛空艇で一気に接近してしまえばいい
「うむ」
フースーヤも承諾した
「シドに頼もう!」
「時間がない クリスタルを使って一気に行く!」
踵を返し月面船を着陸させようとした矢先、今度はフースーヤが提案する。
「中央のクリスタルを使って、シドとやらのところまでいく。わたしも一緒にいくぞ」
既に集まっていたローザ達の元に歩き出すフースーヤとセシル。
「月面船は大丈夫なのか」
「安心しろある程度はオートで動いてくれる、私たちがいなくなった後はいったん戦線を離脱して着陸させるように指示している」
後方席の休憩室の方へ眼をやりながら話すフースーヤ。
台座中央に到着してセシルは再びクリスタルへと触れる。
「セシル、シドの飛空艇の元へ行きたいと念じるのだ」
ゾットでの戦いの後、ローザの転移魔法テレポが脱出魔法以上の力をもってバロンまでセシルを導いた。
あの時と似た使い方なのだろう。
想いの力とでもいうのだろうか
時には強い力にもなる。時には嫉妬から醜い感情になる。時には心配から恐怖や不安に駆られる。
そのどれもが人が誰かを大切に感じ何かを大事に想う気持ちからくるのだ。
(その力を無駄にはしない)
確かな思いを込めてセシルはクリスタルへと念じた。

131ピクセルリマスター記念:2021/09/17(金) 21:50:05
FINAL FANTASY IV #0670 9章 3節 地上を救う者達(13)


視界がぼやける
見えるものがすべて白。
そういった時間が数秒あっただろうか。
段々と目の前の風景がはっきりとしたものになる
「……シル」
聞き覚えのある声がはっきりするまでの時間はわずかであった。
「おおっ! きおったかーセシル」
驚いたというよりも、半ば予想していたといった感じのリアクション。
セシルが自分を頼ると思っていたのだろうか。
「シド!」
自分の知る元気のよいシドに対して安心と信頼の笑みを返すセシル。
「大丈夫なの」
少し心配といった表情のローザが質問する。その心配はもっともだ。
シドは地底世界からセシル達を逃がすためにその身を挺した。
その時はセシルもローザもシドはその時に死んだものだと思っていた。
しかしエッジと行動を共にしファルコンで地底、ドワーフの根城へと帰還した際に見たのは、
重傷を負いながらも生還した父親同然の老技師の姿であった。
セシル達の姿を見るや怪我などなんのその敵の本拠地から乗ってきた新たな飛空艇を改造し
地底での移動をより容易くしてくれた。
あの時も怪我を看病していたドワーフ達を抑えて整備に没頭していた。
「あんときは世話になったぜ……」
苦虫を噛みしめるようなエッジ。
「エッジとリディアも巨人へいくのだな」
エッジはファルコンの改造の時に半ば強引にシドの手伝いをした。
最後の方は割と楽しんでいたのだが……
「やつの口から内部へと侵入する、口に近づくのだ!」
あくまで冷静な指示を出すフースーヤ
「誰じゃ?」
「月の民、フースーヤ」
シドの疑問にも単刀直入に名前だけを名乗る。
「月の民ー?」
淡々と名乗るフースーヤにシドは疑問をぶつける。しかし特に怒っているわけでもなさそうだ。
「出来るか?」
結果だけを尋ねる。
「わしを誰だと思っとるんじゃ! 飛空艇のシドじゃぞ! 任しとかんかい!」
言い終わらぬうちにブリッジの部下たちへと指示を出していくシド。
しばらくもたたぬうちに飛空艇ブリッジはあわただしくなった。
「隊長!」
巨人へと向かう飛空艇
人の行きかいが激しくなる中でセシルを呼ぶ声が聞こえる。
「みんな!」
忘れもしない、過去にセシルが隊長を務めていた赤い翼の隊員達だ。
「立派になられて!」
パラディンとなって彼らに会うのは初めてだ
それでもかつての部下は自分を見間違うことはなかった。
「飛空艇さえあれば我々も隊長の力になれますよ!」
「みんなありがとう!」
「セシル準備ができたぞ巨人まで一気に行くぞ!」
飛空艇発進を促すシドの声。
「振り落とされないようにしっかりつかまってろ」
ブリッジの強風が強くなる。
瞬くように空の景色が速くなり、前方へと立ちはだかる巨人が視界を支配していく。
「飛空艇が接近できるのは僅かな時間だけじゃ! その間に一気に飛びうつれよ」
攻撃の手が緩んだとはいえ巨人はいまだに健在だ。
のんびり近くを旋回していては撃ち落されるだけだ。
「よし今だ!」
柄にもなく熱い叫びをあげるフースーヤ。
「着地の衝撃は私がやわらげる」
その言葉が作戦開始の合図となった。
「先に行くぜ」
エブラーナ忍者のエッジが先陣を切る
続くセシルはわずかな時間後ろを振り返り敬礼する。
いってくるバロンの赤い翼としての敬礼を部下へとする。
視線を前へと戻す一瞬の間、部下たちの敬礼も見えた。

132ピクセルリマスター記念:2021/09/17(金) 21:50:54
FINAL FANTASY IV #0671 9章 4節 悪夢の崩壊(1)

作戦は無事成功
巨人内部の心臓部分である。制御システムを叩くという新たな段階へと突入した。
月の技術で作られた想像を絶す大きさのバブイルの巨人。
その内部も非常に精巧な機械の迷宮であった。
こやつの心臓部は腹部の方だ。
フースーヤの言葉。それは外部から見た巨人の外観からも想像できた
外から見えた中央のコア部分そこが心臓で間違いないだろう。
とにかく下へ向かう
それがセシル達の共通認識だったのだ。
巨人の口・巨人の首・巨人の胸。
人間の体に例えるとそういった部分をセシル達は降りて行ってるのだろう
当然道中にはバブイルと同じく、ガードロボットといった類の侵入者撃退する
今は腹部辺りだろうか
道中のガードロボット達以外にもこのバブイルの巨人を小型化したような兵器が現れた。
巨人兵
フースーヤが言った
警備が強くなっているのは目標が近いということの表れだろう。
「時間がない」
先ほどからずっと上空を巨大な目を携えた飛行物体が徘徊している
バブイルなどでもあったその兵器はサーチャーといってセシル達をとらえると
すぐさま警報をならしてガードロボットや巨人兵を呼びつける。
「こりゃあキリがないぜ」
エッジが破壊したサーチャーの残骸を漁りながらもいう。
その手にはサーチャーに内蔵されていた機械だろうか小型のアラームが握られていた。
「これがずっと援軍を呼んでくる」
「最低限の敵を倒して奥まで行く」
セシルの意図を理解したのか、同じ意見だったのかフースーヤが呪文を詠唱する
目前巨人兵に対して一陣の風がふく
トルネド、一見して巨人兵達にダメージはない。しかし剣で切りつけなくとも、リディアが魔法増幅のために携帯しているロッドで小突いても
巨人兵は崩れ去ったり、静かに機能を停止する。
トルネドでおこされた風は関節部などから巨人兵の内部へと入りダメージを与えたのだ。見てくれからは想像できないダメージを与えている。
「すまない」
戦闘の緩急の中で感謝を口にして奥へと進む。
最低限の消耗で最深部へと進めるのはありがたかった。

133ピクセルリマスター記念:2021/09/18(土) 00:24:36

FINAL FANTASY IV #0672 9章 4節 悪夢の崩壊(2)

巨人の腹部を抜けた後は以前までの巨大な通路から段々の狭まった道へとなっていく。
やがて巨人内部ふきぬけとでもいうべき小道へとたどり着く。
一直線に伸びる道はこの先が目的地だということを嫌でも感じさせてくれるものであった。
先ほどまでの大型の巨人兵から小型の機銃や小規模勢力が邪魔をするだけであり、その道のりは最前までの戦いに比べて楽なものであった。
(制御システムは近い)
しかしセシルにはまだ一つの気がかりがあった。
(おそらくは最深部にはゴルベーザがいる)
そしてそこにはもう一人
「あれは」
誰が放った言葉だろう。ほぼ同時に何人かが放ったのかもしれない。
吹き抜けの中間地点。
今までの細道から一転し広めの踊り場が見える。その中心部に微動だにしない人物が一人立つ。
「カイン」
皆を代表してセシルがその名前を呼ぶ。
「通せんぼか」
エッジが挑発気味のせりふを放つ。土壇場で裏切りクリスタルを奪還されたのだいい思いはしないのだろう。
「セシル」
その言葉が聞こえないのか無視しているのかカインはセシルの名を呼んだ。
「抜け」
「!」
予想はしていた言葉だ。
鞘から聖剣を抜き、戦闘態勢をとる。
「どういうことだ?」
「カインは……僕が引き受ける」
その言葉をカインは否定しない
「一騎打ちだ
パラディンと竜騎士の同時の言葉
それが結論であった。
「先を急ぐぞ」
困惑気味の中切り出すフースーヤ
それが合図にエッジとリディアも制御システムの待つ奥へと急ぐ。
しかしその中で今だ二人の後ろに立つ姿が一つ――
「ローザ」
ちょっとだけ驚いてセシルが声をかける
「お願い、ここにいさせて」
はっきりとそれだけ言ってローザは黙り込んでしまった
「わかった」
セシルはそれだけ言ってカインに向き直る。どうやらカインもその選択を咎めることはしない。
「存分に振るえそうだな」
挑戦的なカインの意図はわからない。
操られた行動なのか、自分の意思なのか。はたまたその間で苦しんでいるのか。
しかし自分はこの挑戦を受けて立つと決めた。それならば手加減はしない。
「闇も光も……僕の力だ」
お互いの総力戦が始まろうとしていた。

134ピクセルリマスター記念:2021/09/18(土) 00:25:11
FINAL FANTASY IV #0673 9章 4節 悪夢の崩壊(3)

制御室へと向かうエッジ一行の旅路は無口なものであった。
もともと必要最低限なことだけをいうフースーヤはまだしも、リディアも何も言わなかった。
「ここが巨人の心臓部、制御システムだ!」
沈黙を打ち破ったのはフースーヤだ。
「でけえ!」
想像を超えたものに対してさすがのエッジも声を荒げた
中央部に黒い球体。このサイズは大型モンスターやドラゴンのそれを遥かに超えたものであった。
(あの封印の洞窟の扉のモンスターが出してきたやつよりもでかいな)
地底最後のクリスタルそれの封印を解きに向かった洞窟。侵入者を排除する数多くの扉の罠を搔い潜りやっとの思いで
手に入れたクリスタルをカインによって奪われてしまった苦い記憶もよみがえる。
「くっ……」
そのことはセシルに任せた。そう思いぐっとその気持ちをひっこめた。
周りの小型球体は一体?
「防衛システム、迎撃システム。制御システム本体より先ず防衛システムを叩かねば、修復されてしまうぞ!」
新たに芽生えた疑問に巨人に精通した月の民が答える。
「迎撃と防衛の二つは絶えず補充されてくるだろう」
「つまりは」
二つの補助システムをいなしつつもいつかは本体を破壊しないといけない。
「誰かをが制御システムへの攻撃の集中役とする」
後は補助に回り、<迎撃>と<防衛>を破壊、それが作戦か。
「では誰が……」
フースーヤの提案を飲み込もうとしたその時であった
目の前の黒い球体から声が聞こえてきたのは。
「久しぶりだねエッジ君」
「!」
その声は忘れもしない。
「ルゲイエ」
エッジの心に静かに怒りが灯る。
「生きていたんだな」
「ふんようやく巨人の力を手に入れたのだ。まさかこの期に及んでまで邪魔をしてくれるとはね」
どうやら肉体を捨ててでもこの月の力が欲しかったようだ。
「へへちょうどよかったぜ」
両親を亡き者にしたルゲイエを逃したことはエッジにとっては気がかりであったのだ。
「この巨人をぶっ壊せば、おめーも倒すことができるって事だろ。フースーヤ!」
覚悟を決めたエッジはフースーヤに視線をめぐらす。
「さっきの制御システムへの攻撃役、俺にやらせてくれ!」
「何を言うのかと思ったら――」
「私からもお願い!」
助け船を出したのはリディアだ。
「それにあの制御システムはおそらく魔法に対してリフレクをはってるわ。直接攻撃するか、私が幻獣の力を借りた方が
いいと思うの」
「ふむ確かにな」
その言葉に説得力を感じたのかフースーヤはエッジの提案を受け入れた。
「でもそうなると、ひきつけ役をフースーヤひとりが」
「私を誰だと思っている」
心配するリディアをよそにフースーヤは珍しく熱く語る。
「いいだろうお前たちの賭けにのってみよう! ところであのルゲイエというやつは」
「ゴルベーザ達に味方してる科学者みたい。ローザの昔の先生でもあったみたいで」
「ありふれた悪党だ」
フースーヤはそれ以上興味を示さなかった。
「どのみち巨人を破壊せねば月も蒼き星も未来はない。この戦いお前たち二人にかけてみよう」
「ありがとよ」
意気込んで切り込むエッジとそれを追うリディア。
「クルーヤよ」
それを見送るフースーヤは誰にも聞こえない声量で語る。
「お前が何故、蒼き星の民に惹かれたのか、そして二人の子供を残したのか。少しだけわかったような気がする」

135ピクセルリマスター記念:2021/09/18(土) 00:25:44
FINAL FANTASY IV #0674 9章 4節 悪夢の崩壊(4)

竜騎士の脚力を生かした空中からの強襲
さきほどからそれが幾度となく繰り返されている
「やはり強い」
正気ではないのかもしれないが、その強さはカインのものだ。
まったく鈍ってはいない。
(素早さと空中戦はあちらに分がある)
「ゆくぞ」
空中から神速の一撃が放たれる。
防御態勢を取りながらセシルは剣と盾を駆使して受け止める。
(下手に回避はできない)
カインはすぐさま離脱、またもや上空からの攻撃を仕掛けようとする
「誓いの槍よ!」
上空から加速し、槍を投擲。
「くっ!」
その攻撃にセシルは怯み、大きく突き飛ばされた。
「今の一撃、もう一度くらうと立ち直れないな」
防戦一方だ。
「終わりか?」
その言葉にはまだやれるだろうの意味。
「何度でも立ち上がってみせる!」
「そうでなくてはな」
当然だとばかりにカインは再び跳躍、空中からの攻撃に移行しようとする。
「竜騎士の誇りに懸けて!」
今までで最大の高度から出される一撃
「決める!」
それが決着をつけるというカインの意思なのだろう。
セシルも覚悟を決めた。
「光と共に!」
防御はこちらが上だ。
真向から相手の技を受け止めてカウンターをする。
それがセシルの戦法だ。
「僕の全てを!」
「ぐっ!」
カインのジャンプ攻撃を聖剣は受け止めて反撃に生じる。
「ここまでだと……」
カインが大勢を崩し床に肘をつく
「この力と共に……」
それはセシルも同じで大きく体制を崩していた。
「僕は進むんだ!」
わずかな体力差であったがセシルは立ち上がった。

それからどれだけの時間が流れたのか……
「セシル」
「ああ、いこうか」
言葉はそれだけであった。
「行くがいい」
カインもそれだけしか言わなかった。
カインを後目にセシルはローザと歩き出す。
(今回は僕が勝った?)
勝利の確信はいまだにない。
(いや戦うことに意味があった)
セシルはそう思った。
(カイン。決着はいずれ)
次は本当に勝負をしよう。セシルは心にその気持ちをしまい込んだ。

136ピクセルリマスター記念:2021/09/18(土) 00:26:14
FINAL FANTASY IV #0675 9章 4節 悪夢の崩壊(5)


制御室を緊急警報が支配する。
制御システムが本格作動したのだ。
防衛システムは絶えず迎撃レーザーを侵入者のエッジ達に向け、回復システムは各種破損を直す
道中のサーチャーもだがおそらくは巨人内部で製造され絶えず補充されていく。
フースーヤの頑張りは説明されるまでもなくエッジに伝わった。
既に防衛システムの猛攻はなりをひそめ、制御システムにもダメージが蓄積していっているのは明らかだった。
「恩にきるぜ」
黒い球体から発せられるルゲイエの声は小さい
「おのれ」
かろうじて声をひねりだしたルゲイエの声は劣勢だと表現していた。
「ルゲイエ、お前は許さねえぞ」
両親やエブラーナの事を思うとその気持ちは揺るがない。
「かくなるうえは」
「エッジ離れて」
ルゲイエとリディアの声と同時に制御システムが爆風を上げる。
「よっと」
瞬間、忍者の身のこなしで後方へと下がるエッジ
「自爆したのか?」
わからない。しかし今までのルゲイエのしつこさに比べると物足りなさを感じた。
しかし見るところ制御システムは小規模な爆発を繰り返し、あちこちから煙を上げている。
補助システムも停止しているようで、修復不能であることはエッジにもわかった。
「おやじ、おふくろ……敵はとった」
ルビカンテ、ルゲイエ。自分の怒りを任せて倒した相手を思い出す
「人間の怒りの力」
「エッジ!」
リディアが慌てて駆け寄ってくる。
「この通りシステムは停止したぜっ……って」
エッジが驚いたのはリディアが泣きそうな表情をしていたからだ。
「よかった」
元気なエッジを見て今にも泣きだしそうなエッジ
「し……心配すんなよ」
思った以上のリアクションに戸惑いながらかえすも
「よかった…でもこれからは……あまり怒りにまかせて戦わないでね」
怒りは一歩間違えれば憎しみとなる。それはエッジもわかっていた。
「ああ。だから心配すんな」
「うん」
(おお……)
いつもと違うリディアの表情に心の中で喜びをかみしめていると――
「片付いたようじゃな」
フースーヤが駆け付ける
「フースーヤ」
少しばかり落胆したエッジの声。リディアはどんな表情をしているのか
気になってみる
「セシル、ローザ」
さっきの表情はすでになくいつもの無邪気さが戻っていた。
見れば制御室に駆け付けるセシル達に手を振っている
(進展なし……か)
しかしこれで終わりではない
「まだゴルベーザがいる」
戦いは続くのだ。

137ピクセルリマスター記念:2021/09/18(土) 00:26:45
FINAL FANTASY IV #0676 9章 4節 悪夢の崩壊(6)

フースーヤ達に追いつき制御室へとやってきたセシルとローザに
真っ先に眼に入ってきたのは煙を上げ機能停止した制御システムであった。
「みんながやってくれたのか」
うれしみの気持ちを抱きながらも、ぎゅっと身が引き締まる想いが駆け抜ける。
「システムは破壊した。だとすればおそらくはゴルベーザが」
制御システムの奥、そこから人影が一つ。
鎧の音とともに、そのシルエットが浮かびあがる
「やはり……」
その姿はまぎれもなくこの戦いの中心にいる人物ゴルベーザだ。
「おのれええーーーーーよくも巨人を!!」
しかし現れたゴルベーザはセシルが今まで抱いていた印象とは違った。
(動揺している)
これまでもゴルベーザと戦ってきた中でここまで動揺した姿を見たことはない
巨人が破壊されたからかだとしてもあまりにもいつもとは違う。
(これではまるで別人……)
「おぬしは!」
セシルが疑問を抱いていると隣にいるフースーヤが声を荒げた。
これまで冷静な判断を下してきた、月の民である彼がここまで声色を強くするも珍しい
「なんだ貴様は!」
フースーヤはゴルベーザの元へと駆け寄る
当然それを黒衣の男は振り払おうとするのだが……
「お主! 自分が誰かわかっておるのか!?」
「お前など知らん! 離すのだ!」
必死なゴルベーザを見てフースーヤの考えは確信に変わったようだ。
「やはりお前かゼムス! 思念が強くなっている。いい加減、その体を返してもらおう!」
「やめろおお!」
「目を覚ますのだ」
フースーヤは手のひらをゴルベーザに向けて念を放つ。
瞬間、激しい暗転と衝撃がセシル達を襲う。
一瞬の出来事が終わり、目を開ける。
そこにはゴルベーザが立ち尽くし、フースーヤは後ろに倒れこんでいた。
「おいっ、じーさん!」
その光景はゴルベーザがフースーヤを倒したものだと最初はだれもが思った。
エッジとリディアは月の民の老人へとかけよる
「私は何故、あんな憎しみに駆られていたのだろう……?」
ゴルベーザの言葉。それは今まで戦ってきた人物とは思えないものだった。
「自分を取り戻したか。」
エッジ達の心配とはよそにフースーヤは立ち上がりはせずとも、ゴルベーザを見ていた。
「お主、父の名を覚えているか?」
「父……クルーヤか……」
「なんだって!!」
セシルと同じ父の名を呼ぶゴルベーザ。その言葉は嘘偽りを感じる事などは到底できない声であった。
「それじゃ、セシルの……」
「兄貴かよお!?」
「ゴルベーザが!?」
仲間たちの各々の反応も驚きだけであった。セシルとゴルベーザを交互に視線を移し、未だに信じられないといった感じだ。
「ゴルベーザよ。お主はゼムスのテレパシーで利用されていたのだ」
この状況を詳しく話すのは月の民であるフースーヤ
「クルーヤの月の民に血が、よりそれを増幅していたのだ……兄弟で戦うなど……」
フースーヤにとってもクルーヤは弟であったのだ。その子供達が争っていたという事実に対して衝撃はあるのだろう。
「僕は兄を憎み、戦って……」
セシルの目線は自然に、先ほどまでの宿敵、兄である存在へと向かっている。
「お前が私の……」
「でも……もしかしたら、逆の立場かもしれなかったんだ……僕がゼムスのテレパシーを受けていれば……」
どちらが悪い訳でもない。それは間違いないはずだ。しかしもし自分が操られていれば一方的な謝罪で終わる。
そちらの方が楽かもしれなかった。
「しかし、それが私に届いたということは……少なからず、私が悪しき心を持っていたから……」
ゴルベーザが自分の拳を強く握る。
「ゼムス!!」
この戦いの元凶たる人物の名を口にした彼はそのままセシルとは逆方向を向いた。
「どこへ!?」
兄さん……そう呼ぶべきか? 心ではそう思っていてもなかなか声にはでなかった。
「この戦い、私自身が決着をつける!!」
「待て」
フースーヤが立ち上がる。
「ゼムスも月の民! 私も共に行こう……!」
「さらばだセシル!?」
フースーヤとゴルベーザは去っていく。一度もセシルを振り返ることなく。
セシルはただ黙ってその姿を見送る事しかできなかった。

138ピクセルリマスター記念:2021/09/18(土) 00:27:18
FINAL FANTASY IV #0677 9章 4節 悪夢の崩壊(7)

何も声をかけれなかった。セシルは黙ってうつむいていた。
(これでよかったのか?)
「いーのかよセシル」
自分を納得させようとする心を先読みするかの如く否定したのはエッジだ。
「ゴルベーザ……あの人は、死ぬつもりよ……」
見ると近くでローザが心配そうにセシルを見つめていた。
間違いない。ゴルベーザが蒼き星にしてきた事は簡単に償いきれるものではない。
今更この星で仲良く暮らすことはできない。
刺し違えてでもゼムスを倒すつもりだ。覚悟を決めたその時から
セシルの事を一切振り返らなかったのも死を覚悟しているからだろう。
「…………」
「お兄さんなんでしょ?」
ようやく事実を受け止めたのか、当然の事実を口にするリディア。
「兄さん……」
「そうよ!」
ゴルベーザは兄である。
だったらせめてあの時の別れの時に兄と呼ぶべきだったのではないか?
おそらくゴルベーザと再び会うことはもう――
その時であった
既に崩壊を始めていたであろう、バブイルの巨人の内部の轟音が一気に大きくなった。
「やべーぜ」
それがこの時間の解散を告げるようであった。
「逃げないと」
リディアの一声
「脱出魔法を……間に合うかしら」
近くのローザも脱出の準備を始める。脱出魔法には転移先のイメージを捻出したり、自分以外の仲間たちも一緒に運ぶ
ための過程を踏む為に、高い集中力を必要とする。
脱出魔法テレポ。この魔法はセシルも行使することができるのだが、今の状態では成功率が低いとローザ判断したのだろう。
高位の白魔法を使いこなす彼女の判断は迅速であった。
「時間が……」
だが目前に迫る崩壊の速さはローザの判断を上回る勢いであった。
「こっちだ!」
上空に舞う一つの影。あの高度を跳躍できるものは少ない
「カイン!」
ローザとセシルの目前に着地した竜騎士は先ほどゴルベーザ達が去っていった方向を指す
「あの先に俺とゴルベーザが乗ってきた小型飛空艇がある。それで脱出するぞ」
「その手にゃ乗んねーぜ!」
エッジからしてみるとすぐには受け入れがたい提案だったようだ。
「話は後だ! 死にたいのか!」
そういって後ろへを顎を指す。既にここまで来た道は崩壊を始めているようだ。
退路は断たれたそういいたいのだろう。
「早く!」
迷う暇はない。ローザはセシルの手を引き走り出した。
リディアもそれに続く、エッジもやや不満はあるが駆け出した。

139ピクセルリマスター記念:2021/09/18(土) 00:55:19
FINAL FANTASY IV #0678 9章 4節 悪夢の崩壊(8)

無事小型飛空艇で脱出したセシル達は一直線に月面船へと帰還した。
巨人までに助けてくれた仲間達の感謝の気持ちを述べたい気持ちもあったが
カインを皆の前につれていくことは難しいと思ったからだ。
「やっと自分の心を取り戻すことが出来た……今更許してくれとは言わんが……」
月面船にはセシルとローザ、リディア、そしてエッジと巨人突入メンバーしかいない。
「当たりめーだ! てめえのせいで巨人が現れたも同然だ!」
四人とは対面に立つカインに喰ってかかるのはエッジだ。
彼の言うことはもっともでありそれはカインも否定しないだろう。
またこの反応が普通であることもわかった
(やはり皆のところにカインを連れて行かなくてよかった……)
真っ先に月面船に向かった判断は間違いでなかったようだ。
「やめて!」
そんなエッジを窘めるのはローザだ。
「ローザ……」
エッジからかばうようにカインの前に立つその姿にはカイン自身も驚いているようだ。
「ゴルベーザも正気に戻ったので、術が解けたのよ! カインのせいじゃないわ!」
ここにいるメンバーは巨人内部、ゴルベーザの豹変っぷりをみていた。
ローザの言葉はカイン自体が正気に戻った事への説得力をもたせるには十分であった。
「やはり、ゴルベーザも操られていたのか?」
今度はカインが質問をする。
「カイン知っていたのか?」
「巨人内部のお前たちの会話を聞かせてもらった……聞くつもりはなかったのだが……」
「ゼムスという月の民がゴルベーザの月の民の血を利用していたらしいの……」
「それでゴルベーザはゼムスを倒しに、フースーヤと月に向かったの」
リディアが視線を上向きに挙げる。もっともここからは月を見る事のできないが。
「黒幕はゼムスか……ならば俺もそのゼムスとやらにかりをかえさねばならんようだな」
「カイン!」
その言葉がかつての自分の知るカインである事への確信に変わったのだろう
ローザの表情は明るくなる。
「ゴルベーザはバブイルの次元エレベータを使ったのだろう。この船は月とやらには行けるのか?」
「まーた操られたりしなきけりゃいいんだがな。」
既にゼムスとの闘いへの準備の算段を始めるカインにエッジが皮肉交じりの一言をかえす。
「その時は遠慮なく 俺を斬るがいい!」
そんなエッジのまえに立ち覚悟を見せる。
「なら俺も行くぜ! そいつに、ゼムスに一太刀浴びせなきゃ、気が済まねえ!」
その態度にエッジもカインを認めたのか、共闘の意思を見せる。
「エッジ……」
「行こう……」
二人のやりとりを見てセシル自体にも一つの決意が固まっていく。
「僕も……」
もう一度ゴルベーザに会いに行く。すべての決着をつけにいく。
「カイン、エッジ。僕も……僕も月に行く!」

140ピクセルリマスター記念:2021/09/19(日) 17:28:16
FINAL FANTASY IV #0679 最終章 決戦(1)

ミシディアの魔道士の朝は早い。
「ふああぁぁ……」
寝ぼけ眼をこすり、欠伸をしながらパロムが朝のミシディアを歩く。
「ポロムのやつはもう修行を始めてんだろうな……」
もやっと思考で考える少年
巨人との闘いは終わり、そして世界は平和をとりもどした。
そして戻ってくる日常……
「いつもと変わらない修行の日々……」
ミシディアの長老の元行われている魔法修行。
石化が解けるや否やすぐさま再開されたのだ。
(とはいえだいぶ休んでいたからな……)
ミシディアの魔道士としての修行を怠る気持ちはパロムには当然存在しない。
生真面目なポロムや長老の方針がパロムの性格上、合致しないときがあるだけだ。
「あんちゃん達は今日、出発するんだろうか……おいらも行きたかったんだがな」
戦いは終わった。多くの人間はそう思っていた。
「実際みんなもうあの巨人の後始末を始めてるくらいだしな」
半壊し機能を停止したバブイルの巨人は未だにエブラーナ近辺にたたずんでいる。
しかし、いつまでもそんなものを置いておくほどこの星の人々は悪趣味でない。
各国が躍起になって後始末を始めている。
「本当に戦いは終わった。でも……」
空を見る。既に夜明けを迎えたこの朝日に月は見えない。
「セシルのあんちゃん達は戦いにいくんだ」
月にこの戦いの黒幕のゼムスが眠っている。
この話は多くの人には内密になっていた。実際にパロムも最初は教えてもらえなかった。
偶然にも長老とセシルの会話を聞いてしまったから、知ることができた。
「しっかし本当に行くのかな……」
最初はパロムも自分もいくと我儘を言った、しかしセシルの話を聞いて残ることににした。
「でも……たった3人で……」
いつもなら自分も反対して食い下がっただろう。だがその時のセシルの鬼気迫る表情がパロムの引き下がらせた。
「ローザ、早く早くっ!」
子供であるポロムに負けない無邪気な声。それが一気にパロムを眠気を吹っ飛ばした。
「リディア。そんなに急がなくても」
「駄目駄目っ! そんなんじゃみつかっちゃう!」
まだ活動を完全に始めていない街を勢いよく走る緑髪の少女、それを追いかける一人の女性。
「あれはローザだよな?」
もう一人は――
「パロム!」
先頭を走る少女がポロムの名を呼ぶ
「この事は誰にも内緒だからね!」
念を押すリディアをポロムはただ黙って見送った。

141ピクセルリマスター記念:2021/09/19(日) 17:30:14

FINAL FANTASY IV #0680 最終章 決戦(2)

一時間後――
ミシディア近くの山脈に隠れるように停泊していた魔導船が飛び立った。
「これでよかったのか?」
月面船に乗り込むのはセシル、カイン、エッジの三人だけだ。
この中では一番の寡黙であるはずのカインが二人に問いかけた。
「ああ……」
ゴルベーザ達を追いかけて月のゼムスの決戦へと赴く。そのためにはここにいる三人だけで十分である。
あの日――カインと再び一緒に戦うと決めた日にそう判断したのはセシルだ。
(ローザとリディアは残るんだ)
月へ向かうと決意したセシルはその後すぐにそう決断した。その時の言葉が頭で反芻される。
(僕ら三人だけで行く。 今度ばかりは生きて帰れる保証は無い!)
兄さんはゴルベーザは死を覚悟して月へ行った。それは贖罪のつもりであるのは間違いない。
しかしそれ以上にゼムスの力が強いのもあるだろうみすみす殺されに行くゴルベーザではないだろう。
戦いは今以上に激しくなる――
カインもこの事に異を唱えなかった。セシルとは同意見だったのだろう。
「そんな!」とセシルの判断にリディアはすぐに頬を膨らませた。ローザも不安と驚き交じりでセシルを見つめていた。
それは完全に納得はしていないという表情であった。
(さ、ガキはいい子で お留守番だ。)
(バカっ!!)
そんなリディアを言い聞かせたのはエッジであった。
子供扱いし、半ば強引に突き放すような言葉。この言葉にリディアは拗ねてしまい、そのまま月面船から駆け出してしまった。
理解してくれとセシルも無言でローザの顔を見つめた。ローザは何も言わずにゆっくりと立ち去ってしまった。
消え入るような儚さの背中は段々と小さくなり、セシルの視界から消滅した。
お別れだ――
ふいにセシルにそんな気持ちがよぎった。
「ほかのやつらにはあまり話さず来てしまったな」
未だに心に鮮明に残っているローザとの別れの記憶。
脳裏に何度もよみがえらせているセシルを現実へ引き戻すのはエッジの声。
飛び立つ魔導船のモニターは離れていく大地を画面に映している。それを眺めながらの一言。
この旅立ちの時、セシル達はミシディア長老へと一言伝えただけであった。
「ヤンもギルバートもシドもまだ完全に回復していないんだ」
「シドならこの事を話すと強引にでもついてきそうだけどな」
エッジが苦笑する
「なんでワシを連れて行かんのじゃ!」
いつも軽快な話口のエッジが珍しくドスの利いた低い声でシドの声を真似ている。
「なんていいそうだなあのじいさんなら」
笑いながらセシルとカインに話を振る。それがいつもの元気とは違うのはセシルだけではなく、カインにもわかっていただろう。
「頑張ろうぜ! セシル! カイン!」
セシル達を鼓舞するというより、自分に喝を入れるようだ。
先ほどからエッジはいつになく早口だ。
リディア達を置いてきた判断に未だに心の整理がついていないのだろう。
ましてやお互いに手を振って笑顔での別れといった感じではないのだ。

142ピクセルリマスター記念:2021/09/19(日) 17:31:04
FINAL FANTASY IV #0681 最終章 決戦(3)

自分も似たような気持ちだ。しかし――
腰に掛けた聖剣の鞘にそっと手をかけセシルは一人思考する。
この判断は間違っていない……なんとか自分に言い聞かせる
この期に及んで自分はまだ嘘をついているのだろうか?
「セシル、エッジ」
三人旅の悩みが支配する空間を打破したのは竜騎士の言葉。
「俺が言うのもおかしな話かもしれない……しかしお前達の判断は間違っていると俺は思わない」
寡黙なカインがいつになく饒舌な台詞を吐く。普段とは状況が逆転してるようだ。
「悩みは今後の戦いの士気にもかかわる」
「まさかお前に……カインに説教されるとはな――」
先ほどから落ち着かない風に船内のあちこちに所在を置いていたエッジがカインを向く。
「確かにその通りだな! それにあの時が別れになるわけじゃねえ。俺達が生きて帰れば、またリディア達には会えるわけだしな!」
「その通りだ」
少し元気を取り戻し、いつもの調子が戻ってきたエッジの意見をカインは肯定する。
「その為には万全の態勢で戦いに挑む必要がある。月まではまだまだ到着に時間がかかる、少しでも
休んで体を回復するべきだろう」
その言葉に同意をするようにエッジは船内の後方に備え付けられた休憩室へと足を進める。
「お前も休んだ方がいい、セシル」
その様子を見送った後、旧知の親友であるセシルにも言葉を向ける。
「カインはどうする」
「俺は所持品の確認をしておく、ローザもリディアもいないのだ。回復薬もアイテムもたくさん必要だろう」
準備は俺に任せて後は休め。カインの気遣いは旅立ちの前のバロンの言葉を思いださせた。
「ありがとうカイン」
今は彼の善意に甘えることにしよう。セシルも休憩室へ向かって歩き出した。
(今度こそ本当に最後の戦いになる)
地上での戦いとは違い、月には正真正銘の最後の決戦が待っている。
その為には体調を整える事も立派な戦術であろう。ましてや今は静かな宇宙の航海の真っただ中なのだ。
(こんなにゆっくりできるのはこれが最後かもしれない)
道中にテントやコテージを使用できる場所はあるかもしれないが確実ではない。
たとえ存在していたとしても敵襲の警戒はしなければならない。
休憩室の扉をくぐると、エッジの様子も確認せずに、開いていた機械のベッドへともぐりこむ。
あなたにもしものことがあったら、私……
眼を閉じて眠りへといざなわれるセシル。ミストへの旅立ちの前夜、長い夜の彼女の台詞がセシルの頭に再生される。
(ローザ……)

143ピクセルリマスター記念:2021/09/19(日) 20:07:55
FINAL FANTASY IV #0682 最終章 決戦(4)

セシルが目を覚ますと魔導船は目的地である月へと到着していた。
休憩室へも中継されている外部モニターは薄暗い闇の宇宙ではなく乾いた銀色の大地を一面に映している。
既にこの部屋にはセシルしかいない。エッジも先に向かったのだろう。
「行くぞ!」
自動扉を開け放ちクリスタルの鎮座するメインブリッジへと向かう、エッジの姿を確認するやいなや、セシルは一言強く言い放った。
そのままエッジを追い越し、魔導船の乗降口へと向かう。既に月の大地への着陸は完了し、この船と月を結ぶタラップは展開されていた。
「!」
出口へと向かうタラップ付近にはカインが静かに腕組みをして待っていた。
しかしその後に起こった出来事はセシルを驚かせた。
外のタラップから静かに歩いてくる一つの影、その人物の事をセシルは見間違う事はなかった。
「ローザ!」
その息使いや表情などは間違いなく幻覚や化けて出たものではない。蒼き星で別れた彼女そのもので間違いない。
「…………」
思ったよりも早く再会した彼女はただ静かに無言を貫き、セシルの事を微動だにせずに見つめている。
「そこを退くんだ……」
一度決めたこと、今更撤回などするわけがない。即座にその考えを言葉にしてローザへと突きつけるセシル。
「いやよ」
彼女の口が開いた。
「いやよ! 私も連れて行ってくれなき、ここを退かないわ」
「何を……」
地上で静かに別れた彼女からは予想もつかなかった反論の声。それはいつもと違う、セシルの知らない彼女の反応であった。
「あなたの側にいられるなら、どうなっても……」
少し俯き、手のひらを胸にもっていき小さな声で話す。ローザはさらに続ける。
「いいえ、あなたと一緒にならどんな危険なことだって……!」
今度は前を向き、セシルへと向かって歩き出すローザ。
「ローザ……」
彼女はいつも自分を想っていてくれた、そして自分の役に立ちたいと思い白魔道士として魔法を極めた。
いつだって危険を顧みずに自分のところにかけつけてくれた。
(あの程度の事で彼女は引き下がらないんだな)
静かに何も言わなかったのはローザも同じく悩んでいたのだろう、彼女も足手まといになるのではないかと。
「私がいなければ回復はどうするの」
しかし今は自分の役割でセシルの役に立ちたいとはっきりと言葉を向けてくる。
なんで黙って去ったのか? そこに違和感を感じなかったセシルではない。ローザは、彼女はいつもセシルを想い迷いながらも言葉を
くれた。そこに惹かれたのは間違いない。
(僕はパラディンになった)
パラディンは誰かを守るもの。この力を手に入れたのはなんの為だ?
「仕方ないな……セシル」
困ったような言葉のカイン。しかしその声は笑っている。
「羨ましいねえ」
エッジもそれだけだ。セシルの判断を待っているのだろう。
「分かったローザ……ローザ、僕が君を守ってもみせる!」
誰かを守るパラディンの力。そしてカインを始めとした仲間達。その力があれば必ずこの戦いからも生きて帰ってこれる。
もうセシルに迷いはなかった。
ローザを受け入れ静かに抱きしめる。
「うまくいったね!」
感傷に包まれたその場所に割り込む声、タラップからもう一つの影が現れる。
「おめーーリディア」
ここにいて当然とばかりに主張するリディア
「いつか言ったでしょ、これはみんなの戦いだって」
セシルもローザから腕を離し、彼女を肩に回し、リディアを見る。
「それに幻獣たちを呼べるのは、私だけよ!」
「やっぱり隠れてたのかよ!」
少し怒り気味なエッジ、しかしどこか嬉しそうである。セシルにはそう感じられた。
「リディア……わかった」
そういって彼女の小さな手をとる
「行こう! 僕らの戦いに!!」
この戦いは――激戦となるだろう
しかしローザ、カイン、リディア、エッジ。誰一人欠ける事なく蒼き星へと帰るのだ。
仲間達とタラップを降り決戦の大地へと足を踏みしめながら、セシルは一人で胸に誓った。

144ピクセルリマスター記念:2021/09/20(月) 02:53:52
FINAL FANTASY IV #0683 最終章 決戦(5)

月世界の洞窟や山岳、クレーターを超えてたどり着いた、月の民の館は以前となんら変わらぬ静けさを保っていた。
「誰もいない」
以前フースーヤと出会った台座もがらんどうであった。
「フースーヤ達もここへきたのかな?」
「間違いないと思う」
静かすぎるこの場所にいささか拍子抜けしたのかリディアが疑問を振る。
月の中心にそびえたつ水晶造りの巨大な塔、ここには遥か昔に帰る星を失った月の民が眠っている。
そして蒼き星の混乱を招いたゼムス自身も彼ら月の民によって封印されている。
フースーヤ達がここからゼムスのもとにいったのだ。セシルは確信していた。
「奥は行ったのか?」
台座の奥を見ると水晶状でつくられた幅の広い階段が伸びている。
「行ってみよう」
敵の気配は感じなかったのだろう、戦闘時の隊列を考えず先頭を切って階段を上っていく。
これは!
階段を上った上の階には、下の階と同じクリスタルを並べる台座がいくつも鎮座していた。
「月のクリスタルか」
台座の数は丁度八つ。青き星の地上と地底、それぞれのクリスタルを合わせた数と同じ数存在している。
(我々は月のクリスタル)
部屋に入った途端、セシルの頭に何者かの声が語り掛けてくる。
「!」
「なんだぁこの声は」
エッジが耳に手を当て叫ぶ。どうやら仲間達も同じ声が聞こえているらしく各々が不思議な表情をしている。
(青き星に置かれた八つのクリスタルとのバランスで、この月は維持されている)
(月の民たちは、この大地の中で深い眠りについている)
(我ら八つのクリスタルがゼムスを封じ込めている)
性別も年齢もわからないといった感じの不思議な声が各々のクリスタルから聞こえてくる。
敵意はない。むしろセシル達を歓迎しているといった様子だ。
「フースーヤはどこに?」
その様子を見て、今度はこちらから質問をする。
(バブイルの巨人が破壊されフースーヤとクルーヤの息子が中に入っていきました)
「やはり」
バブイルの次元エレベータはこの月の民の館に直結していたのだろう。
既にフースーヤは大分、先に向かったようだ。
(ゼムスの封印が弱くなっています。じきに完全に力を取り戻すでしょう。そうなれば我々クリスタルも、この館で眠る月の民
達もただではすまないでしょう)
フースーヤ達の安否としても月や青き星のためにも急ぐ必要がありそうであった。クリスタルの声は続く――
(こうなった以上、我々はこの場所……内側からゼムスの力の干渉、思念波を中和するのが精一杯です)
(そしてセシルよ……もう一人のクルーヤの息子よ)
月のクリスタルの言葉は眠っている月の民の代弁とでもいえるだろう。
どうやら先ほどのゴルベーザの時と同じくセシルが月の民であることもお見通しのようだ。
(フースーヤ達がゼムスの元へ向かって、もう、ずいぶん経っています)
その言葉はまだゼムスが健在ということを示している
(セシルよ、恥ずかしい話ですが青き星で育ったあなた達にも頼ることになりそうです。あなたたちを中心核にゼムスの場所へ導きましょう)
(中央へ――月の中心核を目指すのです)
この部屋の台座は時計周りに配置されていた。見ると台座が取り囲むように中心部には他とは違う色の水晶で構成された
床が一面に広がっている。
促されるままにセシルも仲間達もそこへ歩き出す。
「……」
中央部に到達したセシルには覚悟が生まれていた
「みんな」
聖剣――エクスカリバーを鞘から抜き天に掲げた。
「仲間を――みんなを傷つけさせはしない。このパラディンの力にかけて」
だから……
「みんなの命を僕にあずけてくれ!」
一呼吸おいて、あらためて自分の決意を皆に伝える。
「ふっ」
一瞬の沈黙。カインが持っている槍―グングニルを掲げる
「カイン、お前だけずるいぞ」エッジも忍刀を掲げる
「私も、セシルあてにしてるよ!」リディアも鞭を掲げる。
「セシル」
最後にセシルの一番近くにやってきたローザが杖を掲げる。
「かならず全員で青き星のみんなの元へ帰ってこよう」
月のクリスタルからの導きの光がセシル達を包むこみ、ゼムスの――フースーヤの――兄であるゴルベーザの待つ
中心核へと誘う。

145ピクセルリマスター記念:2021/09/23(木) 23:25:01
FINAL FANTASY IV #0684 最終章 決戦(6)
ゼムスへと続く道は月の民の作った人造的な水晶宮から一転、ここまでに通ってきた
月の洞窟や山岳に近い、洞窟状の場所であった。
しかし地下深く続くその道のりは果てしなく長い、下へ下へ進む最中に覗いてみたところ底知れぬ闇が広がっているだけであった。
作戦は一刻をあらそうが消耗も激しい、幸運にも道中に身体を休める結界が張られている小部屋を見つけることができた。
結界内部にコテージを二つ張った。一つはセシル達男性陣、もう一つはローザとリディアのためのものだ。
片方のコテージからリディアが小さな姿を現す。
「リディアか。ローザはもう眠った?」
「あっ……うん」
月のクリスタルに道行かれたどり着いた中心核への道は、やはり激戦が待ち構えていた。
魔物の数も強さもこれまでとは比較にならないものであった。その中でメンバーの傷をいやすのは白魔道士であるローザである。
(ローザについてきてもらってよかった)
改めて彼女に感謝した。
(疲れているだろう……そっとしておこう)
彼女の眠るであろうコテージを一瞥しつつ、労いの言葉を心の中に留めておいた。
「カインは?」
コテージを張るやいなや、すぐさま眠ってしまったエッジの事は知っているのだろう。セシルのほかにもう一人、ここにいない人物の名を呼ぶリディア。
「この先まで行って見回りしてくるって言ってたよ……」
結界の小部屋の出口へ顔を向ける。結界の外、黒い深淵の先は数多くの魔物が闊歩する。
「そうなんだ」
相槌をうつリディア。セシルとローザの所にカインはなるべくここにはいたくないのだろう。リディアの頭はそんな考えがよふぎっていた。
もちろん、ここまでの道中は一緒に戦ってきたし、何か裏があるとも思わなかった。しかし今のセシルとローザの二人に対して
素直に一緒にいる事はできないのか。セシルは気づいているのだろうか?
「そういえばセシル。その剣は――?」
重い空気を打ち消そうとしてリディアは話題をかえる。セシルの腰の剣に眼をとめる。
「ああ、これはエクスカリバー。鍛冶屋ククロが僕の剣を鍛えてくれたんだ」
セシルがパラディンとしての道を歩み始めた時、父の声と共に自らに降ってきた聖なる剣。ミシディアに伝わる言い伝えを残した伝説の剣。
やや古ぼけたその剣が随分と立派な装飾と眩しい輝きを強くしていた。
「腕のいい鍛冶屋でね、この戦いに向けて剣を鍛えなおしてくれたんだよ」
巨人が破壊され、魔導船を最後の戦いにへと向かうわずかな間、ククロは寝る間も惜しんでこの剣を鍛えていたのだ。
「リディアにも感謝しなくちゃ」
「え」
静かにセシルの話を聞いていたが、予想外に自分の名前が出てきた事に驚きの声を上げる。感謝の心当たりを探したが、すぐには思い浮かばない

146ピクセルリマスター記念:2021/09/23(木) 23:26:01
FINAL FANTASY IV #0684 最終章 決戦(7)

「リディアを育ててくれた幻獣界にいっただろう」
地底世界での一幕。ふと立ち寄った彼女の故郷。人間とは強く関わりを持とうとしない幻獣たちであったが、リディアが帰ってきたものだとわかると
幻獣王はその力を貸すとともにセシル達を歓迎の姿勢で迎え入れた。
宴とともに沢山の餞別を貰った。回復薬や魔道具といった実用的なものから幻獣たちのささやかな気持ちの込められた記念的なものなどさまざまな内容であった。
その中に「鼠のしっぽ」とよばれるアイテムがあった。魔力を込められた鼠の尻尾。一説によると勇気の証とも呼ばれている。
それは一見セシル達には無用の長物とすら思えた。
「アガルトにいっただろう。その尻尾ほしがる人がいたんだよ」
その話はリディアにも覚えがった。
「あの小人のおじさん」
ミスリル鉱石の発掘などで栄える小人たちの島。その小さな島の離れ小島にある一際小さな島。
アガルト地方に存在する鉱山の中でも危険とされるアダマン鉱石のとれる島には貴重なアダマンタイト鉱石を発掘して息巻いている小人の男がいた。
その鉱石を独占せんとばかりに周りから人を追い出していた男であったがセシルの持つねずみの尻尾をみるやいなや譲ってくれと懇願してきた。
尻尾を特に必要ないと思ったセシルはこれに応じると男はアダマン鉱石を僅かであったがセシルにくれたのである。
去り際に男の娘とおぼしき小人の女性が教えてくれた。
(お父さんはね、珍しい尻尾を集めているの。また見つけたら持ってきてあげてね。そうね……今はピンクの尻尾っていうのが一番欲しいみたいよ)
「よい娘さんだったし、面白い親子だったな……ピンクの尻尾、もし見つけたら持って行ってあげないとね」
微笑しながら話すセシルはいつもの生真面目さがどこか抜けていた、どうやらセシルにとってアダマン島はとても気に入った場所のようであった。
「だからリディア。この剣には、今や父さんだけじゃない地上の……地底……幻獣たち、そしてあらゆる種族の想いがこめられているんだよ」
鞘をぎゅっと握り、感傷に浸るセシル。
「僕はパラディンとして、この剣に懸けて仲間を守ってみせる」

147ピクセルリマスター記念:2021/09/23(木) 23:26:48
「セシル……」
暖と灯かりを兼ねた焚き火が二人を照らしている。かつての記憶がよみがえる
「あの時、ダムシアンで初めて野営した時を思い出すね……テラと一緒だった」
自分は疲れ果てて寝ていたなとリディアの照れた一言。
「テラに魔法を教えてもらえたから……白魔法の方はローザに任せるけど、セシルの役に立って見せるからね!」
先ほどのククロ達の話に負けじと、幼き無邪気さを思い出させる無垢な様子で意気込む。
「それに、カインにローザ、あのバカにも負けないようにセシルの役にたってみせるからね!」
「うんよろしく頼むよ……」
「じゃあ……私はもう寝るね」
セシルの言葉に安心したのか眠そうな顔でコテージの方へと帰っていく。
「セシルは寝ないの?」
「カインを待つよ」
二人で積もる話もあるのかな? ふとリディアは思った。
(この戦いが終わったらセシルとローザは……カインはどうなるのかな?)
勝った後の事を考えるのは良くないと思いながらも一瞬浮かんだ
(私もやっぱり幻獣界へ帰るんだよね……あいつとはエッジはどう思うかな……駄目こんな事を考えたら)
頭をめぐる考えを必死に追い出しながらもリディアは眠りについた。
(カイン)
一層静かになった野営地で、セシルは出口へと向かう深淵をいつまでも見ていた。

148ピクセルリマスター記念:2021/09/24(金) 23:33:53
FINAL FANTASY IV #0685 最終章 決戦(8)

月の地下渓谷、自然の岩場をくり抜いたようにつくった洞窟状を進んでい行くと景色は一変
開けた場所にやってくると急な明るさがセシルを襲った。
今までの薄闇を照らしていた松明も照明魔法も必要ないほどの明るさ
道行く道も地面一体がクリスタル状の通路で埋め尽くされていた
「カインの言った通りだったね」
月での時間の概念はわからないが、昨夜――セシル達の野営地へカインが帰ってきたのは、皆が寝静まってからほどなくしての事であった。
(向かったところに明るい場所がある)そんな事をいっていた。
「フッ……決戦が近いという事だな」
「へへっ……今までに比べて明るいって事はもうあんなに迷わなくていいって事だぜ!」
ここまでの地下へ向かう道は薄暗闇が支配し、幾多もの隠し通路に迷わされてきた。
見るとこの場所はクリスタルの通路は規則正しく作られた階段が結び、最深部へと案内しているようだ。
「ここに月の民のみんなは眠っているのかな……あのフースーヤおじいちゃんの仲間達が?」
透明なクリスタルの通路からは微かに最深部へと向かう深淵がのぞいて見えた。
「みんな油断はしないでね」
皆の傷の癒し手であるローザが仲間達に注意を促す。その言葉は何よりもここにいる五人を安心させ、士気を高めた。
慎重なセシル達の前に何かが転移されていく。
「顔?」
徐々に姿を現すそれは一つの顔――読んで字のごとく「顔」だけであった。
「最深部マデヨウコソ? アナタ方は我々のご客人ですか?」
やや籠っていたがその声は機械から発せられた声であった。録音したものなのだろうか
? やや人間味を感じさせる声である。
その「顔」は全体で数m、セシル達が見上げるほどの大きさである。表情に敵意は見えない。
「ワタシはフェイズ――ここは我々の仲間が眠る場所……ナニヨウで」
「僕たちは――」
消耗という意味でもあまり戦いたくはないが
「お願いしても無理そうだよね?」
「返答ナシ。侵入者とみなして排除シマス」
「顔」が駆動音を上げる。既に皆戦いの準備はしていた。
「魔法障壁――リフレクを展開シマス。目標を確認排除します」
顔の――フェイズの口が開き、侵入者を排除するためのの透過レーザーを発射する。
「追撃――魔法攻撃にハイリマス」
やはり、交戦は避けられそうにもない。
顔、フェイズとの遭遇をきっかけにゼムスや兄の元へ続く戦いの火蓋が切られた。
「こいつは?」
幾度ものフェイズとの交戦を経て、クリスタルの通路を向かう先で巨大な人影が見えた。
セシル達を人まわりも大きく巨大な人影のそれは確かに人の形をしていた。
「ゼムスサマヘ……」
僅かに声がするしかしそれは無機的でとても人の声には思えなかった。
よくみると人の影は輪郭だけであり、その姿はただ橙の思念の塊であり、頭部の顔ものっぺらぼうのように表情もない。
さきほどの機械のフェイズとも違う、本当の意味で表情がないのである。
「ゼムスサマヘホウコク……」
顔から発せられるビーム状のものがセシル達に近づく、痛みはない。
攻撃とは思えなかった。
「セシル……セシルハーヴィ……パラディン……」
「なんだこいつは?」
「カイン、ローザ、リディア、エッジ……ゼムスサマヘホウコク」
「俺達の事をゼムスに伝えている?」
おそらくは侵入者の情報をゼムスへと伝えるものなのだろう。
「邪魔だ」
エッジが一足早く攻撃態勢に移る。しかし、彼の刀はすっとその人影を抜けた。
「実体がない」
機械的でないそれはゼムスの思念とすら呼べるものだ。
(しかし攻撃をしてこない)
おそらくはただこちらの情報を伝えるだけなのだろう。
隠れてきたつもりはないし、セシル達の侵入はすでに察知されている。
そもそもこの先にはセシル達よりも先に向かった先客がいるのだ。
ここにきてゼムスの思念と呼べるものが現れたのは本体が近くにいるということだ。
(だがこのゼムスの思念ともよべるものが攻撃してこないのは何故だ?)
おそらくは――
「!」
考えがまとまる前に奈落の方からの轟音と振動が駆け巡った。
「何?」
姿勢を保つようにリディアの疑問の声
やはり――
ゼムスの思念体が情報集め程度の思念にしか集中していないということは本体自体が戦闘状態に入ったということだ。
「急ごう」
おそらくは今の音も、ゼムスと先客の戦闘の開幕を告げる音であろう。
セシルはゼムスブレスを無視してダッシュした。
(兄さん……無事でいてくれ)
はやる気持ちが近づく戦闘の音に呼応するように大きくなる。不安を振り払うようにセシルは進みだした。

149名無しさん:2021/11/07(日) 02:35:36
FINAL FANTASY IV #0686 最終章 決戦(9)

地下深くにつれ音が大きくなる。セシルの予想は間違いなかったようだ。
狭い道から開けた場所が見えてくる。最深部へ到着した、そう思って間違いないだろう。
音や振動の他、発光が追加され視覚的にも状況が見えてきた。
「フースーヤ……ゴルベーザ」
セシルは月の民と一瞬だけ戸惑って兄の名を呼んだ。
その姿を見るだけで安堵の気持ちが沸き上がるが、目前で繰り広げられている光景はすぐさまセシルの安心を打ち消す。
「あれが……ゼムス」
自分の考えに確認をとる小さな一声。目前では既に二人が戦闘態勢に突入している。
二人が対峙しているのは薄暗い青のローブを身にまとう一人の男、顔色の悪いその表情からは感情を察する事は出来ないが
戦いから一歩退いた場所であるセシル達の場所からでも、ゼムスと思われる男の悪意を感じ取る事は出来た。
(この悪意……この男がすべての混乱を生んでいた)
「よしそのままやっちまえ!」
重々しくゼムスを見ていたセシルの考えを、威勢のいい声が現実に引き戻す。エッジだ。
見る限りエッジ以外の仲間達の表情は明るい。
「押されているな」
カインが冷静な状況分析を短く言った。
竜騎士の指摘通り、ゴルベーザの攻撃魔法がゼムスを段々と守勢へと押し込んでいる。
それを後押ししているのはフースーヤの補助魔法による援護だ。
遅延――スロウの魔法が ゴルベーザとゼムスとの攻撃の回転差を増やしている。
ホールド、束縛魔法がゼムスを拘束する。すかさずゴルベーザの炎、氷、雷の魔法による連続攻撃が続く。
怯んだゼムス、その隙を縫って間髪入れずにフースーヤが白魔法の最上魔法、ホーリーの詠唱を完成させてゼムスを直撃する。
その体は大きく放り出され、足場を離れ上空の闇へと飛び上がる。
「やったあ」
リディアが喜びの声を上げる。
「もう一息じゃ! パワーをメテオに!」
フースーヤにも手ごたえがあったのだろう、大きな声で声を荒げ呪文の準備に移る。
「いいですとも!」
呼応するゴルベーザもすぐさまメテオの呪文詠唱に入る。
究極魔法メテオ、それを使える二人もの使い手がいるのだ。二人の使い手からメテオを同時に食らえばただではすまない。
この周りには月の民の眠る場所があるのだろう。ゼムスを上空へと放り投げたのは眠る仲間達の安否を気遣ってことだろう。
拘束したのも詠唱の完成までの時間を作るためだ。
(使うがいい……すべての力を……)
「!」
その言葉は幻聴であったのか? 
二人のメテオの長い詠唱時間の間、しかし確かにセシルのはその声を聴いた。
どす黒い憎悪の渦巻く声は確かにゼムスのものであった。しかし誰も気に留めるものはいない。
メテオが完成する。二人によって唱えられたWメテオは確実にゼムスの体に直撃していく。
(肉体は滅びれど……魂は不滅)
究極魔法の轟音と共に聞こえてきたそれは間違いなくゼムスの声であった。
その悪意の声を聴いたのは皆にも届いたのか?
疑問は氷塊せぬままに決戦の場所へ再び静かな轟音が戻ってきた。
さきほどまでゼムスがいた空中も、一旦爆風が止まればただ静かな光景が広がっているだけであった。

150名無しさん:2021/11/08(月) 06:04:15
FINAL FANTASY IV #0687 最終章 決戦(10)

「倒したのか……」
セシルと離れた場所でその光景を見上げていたゴルベーザが一言。
この場にいる誰もが思っていたであろう。これで戦いは終わったのか? という疑問。
しばらくの間、誰もが緊張の中で固唾をのんでいた。
「愚かな……」
最初に口を開いたのはフースーヤ。
「月の民として……素晴らしい力を持ちながら、邪悪な心に驚かされおって……」
その言葉はゼムスを憐れんでいるようであった。
フースーヤにとってはゼムスもこの月まで逃げ延びてきた同朋であるのだ。
「ヒャッホー!」
重い空気を打ち消すエッジの声。
それが引き金となり皆、戦いを終えた二人へと駆け寄る。
「おお……そなた達もきたのか……」
セシル達の姿に気づいたフースーヤが声をかける。
先ほどの激戦を経て安心したのか、普段とは違い穏やかな声である。
「もう少し早くついてりゃ、このエッジ様がゼムスを倒してやったのによ!」
「もうっ!」
調子がいいんだとばかりにリディアが呆れ顔でエッジと話している。
セシルの視線は自然ともう一人の人物――ゴルベーザへと注がれる。
(に…い)
喉元まで出かかっているその声
「セシル……」
ためらう間に黒衣の戦士と視線が合う。ゴルベーザはセシルの名を呼ぶ。
「…………」
「セシル」
沈黙を守るセシルに心配したのか、ローザがゆっくりと手を握ってくる。遠目にはカインも無言でこちらを心配
している様子だ。
(いまさら…何を話せというのだ)
孤児であるセシルにとって肉親とは自分を育ててくれたバロンの王である。しかし、王も既にこの世にはいない。
そして自分の本当の父であるクルーヤもだ。
ゴルバーザは今となっては唯一の血を分けた兄弟であるのだ。
(兄さん)
心の中でゴルベーザを兄と呼ぶ。操られていたとはいえゴルベーザは青き星を混乱し沢山の被害を出した。
仲良く手を取り一緒に暮らす事はできないだろう。
(僕は)
自分は月の民であり青き星で育った。では自分はどこへいくのだ――そしてゴルベーザは
「!」
突如の轟音に皆が一斉に上空を見上げる。
「我は……完全暗黒物質……ゼムスの憎しみが増大せしもの……」
上空、暗闇からの曇った声、それは紛れもなく先ほど消滅したゼムスのものであった。
「我が名はゼロムス……」
否――ゼロムスと名乗るその声が終わらぬうちに空間が捻じれる。
禍々しい物体となったものが現れる。それは確かに先ほど倒した魔導士とは大きく姿形を変えていたものであった。
「全てを……憎む……!!」
エコーがかかったその声に前のゼムスほど、感情を伺い知ることはできなかった。
たが無機質な声とともに凄まじい衝撃がセシル達を襲った。
瞬間、周りの確認をする暇もなくセシルの体は弾き飛ばされた。
体が宙を舞う。
「みんなは――フースーヤ、エッジ、リディア、カイン」
目まぐるしく動く視界の中、仲間の名前を呼ぶ。
「ローザ、ゴル……兄さん」
守ると誓った愛する者の名を――そして初めて口に出した兄の名を叫び、セシルの意識は深い闇の中に沈んだ。


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