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マンスリー前科者通信
20
:
ポルシェ万次郎
◆roLkRBnDjc
:2006/08/25(金) 16:50:39
”『受刑者には二通りあると古賀(刑務官)は常々思っている。一方は、極悪な成育環境や本人の生来的な気質が災いし、
来るべくしてここ(刑務所)へ来る人間であり、もう片方は、何事もなければ、ここへ来るはずのなかった人間だ。
無論、双方は薄皮一枚の差でしかない。そうした意味で、娑婆にいる全ての人間が、ここへ来る可能性があるのだと言える。
(中略)
古賀は舌打ちして腰を上げた。洗濯物を取り込むのを忘れていた。窓を開け、干し物に手を伸ばした。嫌でも高塀が目に入る。
道路を隔てたすぐ向こう、M刑務所のコンクリート塀が浅い闇の中にそびえ立っている。
錯覚に襲われる時がある。自分はいま塀の中にいるのか、外にいるのか。一瞬わからなくなる時がある。
”古賀のジジィは無視していいぞ。上にヘコヘコしながら四十年も懲役をやってやがるんだ。”
三日前、更衣室で耳にした麻田の声が生々しく蘇っていた。
(中略)
もし高校の剣道部のOBが勧誘の声を掛けてこなかったとしたら、いまもって刑務官と警察官の区別もつかなかったろう。
拝命当時は張り切った。人間愛に貫かれた人道主義。歯の浮くような役所のお題目を、恥じらうことなく口に出来た
若い時代があった。ひたむきに職務に励めば、必ずや受刑者を更正に導けると信じていた。
受刑者にとっての良き「担当」であることを常に心掛け、頼られる「オヤジ」になりたいと本心から思っていた。
出所する受刑者の喜びと自分の喜びとが寸分違わず重なる瞬間が確かにあった。だが・・・。古賀は躓いた。
(中略)
支配欲だ。外では青二才として扱われる未熟な青年が、ひとたび所内に入れば、絶対服従を約束された何十人、
何百人の人間の上に君臨できる。古賀はその快感を覚えてしまっていた。惜しくて捨てられなかった。
(中略)
刑務所は、受刑者から言葉と会話を奪った。それは刑務官にも及んだ。受刑者との会話を禁じて、
突出した「オヤジ」の出現を封じ込めたのだ。古賀にとっては幸運だったかもしれない。管理行刑に埋没し、
身を委ねることで、受刑者の改善更生に対する意欲を喪失した内面を誰にも知られることなく、
刑務官を続けていくことができたのだから。』”
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