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リョナな長文リレー小説 第2話

1 : 名無しさん :2016/12/31(土) 23:02:23 al64QTTI
前スレ:リョナな一行リレー小説 第二話
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/lite/read.cgi/game/37271/1406302492/l30

ルール
・ここは前スレの続きから始まるリレー小説スレです。内容が1行でなくなったため移転しました。
・文字数制限なしで物語を進める。
・キャラはオリジナル限定。
・書き手をキャラとして登場させない。
 例:>>2はおもむろに立ち上がり…
・コメントがあればメ欄で。
・物語でないことを本文に書かない。
・連投可。でも間隔は開けないように。
・投稿しようとして書いたものの投稿されてしまっていた…という場合もその旨を書いて投稿可。次を描く人はどちらかを選んで繋げる。
・ルールを守っているレスは無視せず必ず繋げる。
 守っていないレスは無視。

では前スレの最後の続きを>>2からスタート。


2 : 移転おめ! :2017/01/01(日) 00:13:59 ???
「アクアエッジ!!」
魔法少女に襲いかかる夥しい魔喰虫の群れ。その群れに向かって真凛は三叉槍を薙ぎ払い水の刃を飛ばして応戦する。
だが魔喰虫は見た目よりも知能が高く、ただ闇雲に放った真凛の攻撃は簡単に躱されてしまった。
「さあさあ国民の皆さん、アイドルとして潜入し、あろうことか我が国のスパイをしていた愚かな魔法少女の末路をとくとご覧あれ!」
王の掛け声にあわせて、大量の魔喰虫が真凛の体に襲いかかる!

「ひ、ひいぃ…!や…!来ないでええええ!いやああぁっ!」
三叉槍で必死に抵抗する真凛だが、倒せたのは突き刺した3匹だけ。
今真凛に襲いかかっているのは50匹ほどの大群である。あっという間に真凛の体は恐ろしい虫たちに覆われてしまった。
「きゃああああぁっ!!!!離れてええええぇ!!やだ、やだよおおっ!!!あっ!?あっ、うあああっ!」
もぞもぞモゾモゾもぞもぞ…!!!
早速虫たちは真凛の体の至る所に体を落ち付けようとする。
腕、足、腿、首…体から露出している箇所は、虫たちで埋め尽くされてしまった。
「いやあっ!体がっ…!あんっ!や、そ、そんなところまで…あぁんっ!く…くっつか…ないでぇ…!」
体の表面に自分の席がないとわかった虫たちは、居場所を求めて真凛の服の中に入っていく。
その中には、真凛の下着の中に顔を突っ込む者もいた。
「ひ…!や…やめ…てぇ…!いやっ…いやあぁっ…」
全身黒くなってしまった真凛は、体を激しく動かし虫たちを振り払おうとする。が、虫たちはがっちりと足で真凛の体にしがみついており、1匹たりとも真凛の体から離れることはない。
そしてついにそれらの虫たちが、一斉に真凛の幼い体へ鋭い牙を喰い込ませた!
「きゃあああああぁーーっ!い、いやあああああっ!!やだ、やだぁっ!!誰かあああぁああぁあぁあぁ!」
真凛の甲高い悲鳴が闘技場に木霊するも、観客のボルテージは最高潮に達していた。

「いいぞー!トリを飾るに相応しい最高のコンサートだぜ!スパイは殺せぇええ!」
「ああぁ〜あの虫になりてえ…俺も真凛ちゃんの下着の中に入ってあんなことやこんなことしてえよ…」
「真凛ちゃん、真っ黒になっちゃったな…明日は虫に小型カメラとかつけて、魔法少女たちの苦しむところや服の中をじっくり見て見たいぜ…」

地下格闘場でも、地上と同様真凛の苦しむ姿に観客の多くが興奮していた。
「ど、どうしよう瑠奈…は気絶してるのね、どうしようアリサ…!」
「ど、どうするもなにも…わたくしたちが行ったところで同じように餌食になるだけですわ…!」
「じ、じゃあこのまま黙って見てるしかないの…?いくらスパイだからってあんな可愛い女の子に、こんなのヒドイよ…!」
「わたくしも同じ気持ちですわ…でも今わたくしたちにできることなんて…何も…」
うつむく唯とアリサ。目の前の光景ももちろんだが、この国の国民たちがこの異常事態を止めもせず熱狂している事が、2人にはどうしても理解できなかった…


3 : 名無しさん :2017/01/01(日) 08:21:29 ???
「きゃああああぁっ…!ま、まりょくが…吸い取ら、れてるぅ…!や…やだぁ…!」
「魔喰虫はこのように魔法少女の体に大群で張り付き、約3分くらいかけて体力と魔力を吸い取ります。魔力の多い魔法少女の場合はもっとかかる場合もありますがね…では国民の皆様、魔法少女アクアマリンの無力化完了までしばしご歓談を…ヒヒヒ…!」

虫に覆われてジタバタしていた真凛の体は、1分半を過ぎた頃からだんだんと動きが鈍くなった。
はっきりとした意識はあるが、体力を吸い取られ体が麻痺し動けなくなってきたのだ。
「いゃ…も…もうだめぇ…ぁ…ぅ…」
やがて空中で仰向けになり、真凛の身体はビクンビクンと腰や肩を揺らすだけになってしまった。
先刻まで観客たちの前で笑顔と元気を振りまいていた美少女アイドルは、今は力なく薄眼を開けて目と口からは体液を流し、とても人気アイドルとは思えない事後のAV女優のような表情であった。

「おぉ〜!あの虫すげぇな…!魔法少女を完全に無力化したじゃないか!」
「あの虫、顔にはあんまり貼り付かないんだな…真凛ちゃんの可愛い顔がよく見えるぜ…」
「…ちょっと待てよ。明日魔法少女たちが大量に攻めてくるってことは、町中がこんな…!」

3分が経過し、虫たちはもう真凛の体にエサがないと判断したのか、1匹、また1匹と離れて機械の中へ戻っていった。
巨大な虫たちに支えられていた真凛の体は、翼を失った鳥のように落下し…闘技場の地面に強く叩きつけられた。
「ぅぐぁっ!…あ…ぁ…だれか…たすけてっ…」
闘技場の真ん中で、アイドルだった美少女が息も絶え絶えにぐったりと横たわっている光景…それを見た観客の男たちは前屈みになるのを抑えられなかった。

「魔法少女の無力化成功です!ご覧ください、あの恐怖に満ちた表情…今の彼女は魔法なんか使えない無力な普通の女の子になってしまったのです!」
「うおおおおおぉぉおおおーーー!真凛ちゃん最高ーーーー!!!」
「さて、なにもできない無力なこの真凛ちゃんの体…このまま殺してしまうには惜しい。というわけで…この真凛ちゃんは親愛なるわが国民への新年のプレゼントとしよう!みんなでこの体を好きに弄んでくれたまえッ!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「王様最高おおおおおおおおおお!!」
「全員、真凛ちゃんに突撃だああああああああっ!!!」

王の鶴の一声で、観客の男たちは我先にと真凛の元へ走り出した。
と同時に、闘技場には真凛の大ヒット曲、「君の笑顔」が大音量で流れ始める。
真凛にとってはアイドルデビューを飾った大切な曲…だがその曲は今、邪な心を持った男たちの壮大な行進曲になっていた。
「いやっ…!ルミナス様…!助けてっ…!いやああああああああぁあぁあぁあぁあぁあッッ!!!」

そこから始まった男たちの欲望は、唯とアリサを絶望に叩き落としていった…


4 : 新スレ乙です :2017/01/01(日) 11:08:27 ???
■ここまでのあらすじ
ある日突然、少女達はリョナラー達が跋扈する異常な世界に囚われた…
普通の女子高生・篠原唯と仲間達は、魔物や異常者たちから様々な責め苦を受けながらも
元の世界に帰る術を探して彷徨い続ける。

…そして今。
王都「イータ・ブリックス」が襲撃されるという報せを聞いて地下闘技場に避難した唯たちが見たものは、
魔法少女の国「ルミナス」のスパイとして魔蟲の餌食にされる、美少女アイドル・有坂真凛の姿であった。


5 : 新スレ乙です :2017/01/01(日) 11:09:55 ???
☆篠原 唯(しのはら ゆい)
異世界に囚われた16歳の少女。穏やかで心優しい性格だが、祖父に教えられた合気道の腕前はかなりのもの。
王に操られていた親友の月瀬 瑠奈を助け出し、現在は王都イータ・ブリックスに潜伏中。

☆月瀬 瑠奈(つきせ るな)
異世界に囚われた少女たちの一人。唯のクラスメイトで親友。喧嘩っ早く気の強いところがある。
容姿端麗空手黒帯頭脳明晰ロリ巨乳の完璧少女だが、虫が大の苦手。

☆山形 亜里沙(やまがた ありさ)
異世界に囚われた少女たちの一人で、歳は唯と同じ16歳。
上流階級であるアングレーム家に拾われて養子になり、「アリサ・アングレーム」と名乗っている。
執事アルフレッドに異世界での育ての両親と師匠を殺害された後、王に囚われていた所を唯達に救出された。

☆市松 鏡花(いちまつ きょうか)
16歳の女子高生。女刑事サラに一度は救われたものの、妹ともども異世界に取り込まれてしまう。
かつての親友「魔法少女ルミナス」の身を案じ、金色の魔法少女リフレクト・ブルームとなった。

☆市松 水鳥(いちまつ みどり)
鏡花の妹で、小学5年生。しっかり者だがやや引っ込み思案。
姉と共に異世界に囚われた後、魔法少女アクア・ウィングになった。

☆古垣 彩芽(ふるがき あやめ)
家に引きこもっていて気が付いたら異世界に囚われていた、ボクっ娘メガネっ娘の16歳。
「アヤメカ」と呼ばれるオリジナルメカを駆使し、地下闘技場に囚われていた春川桜子と女刑事サラを救出した。

☆サラ・クルーエル・アモット
見事なスタイルを誇る金髪美女の女刑事。少女たちの連続行方不明事件を追っていたが、自身も異世界に囚われてしまう。
変身ブレスレットを付け「閃甲」と叫ぶ事で、時空刑事クレラッパー(通称「白銀の騎士」)に変身する事が出来る。

☆春川 桜子(はるかわ さくらこ)
王に連れ去られた少女を助けるため、闘技場で戦っていた女性。年齢は20歳ほどと思われる。
闘技場を脱出後は、彩芽やサラと行動を共にしていると思われるが詳細は不明。

☆スバル
桜子を姉代わりに慕う、灰色の髪の少女。年齢は唯達より少し下と思われる。
奴隷だったが、桜子と共に逃亡。彩芽やサラと行動を共にしていると思われるが詳細は不明。


6 : 登場人物 :2017/01/01(日) 11:11:01 ???
(敵側勢力・その他)
★王
この世界の「王」を名乗り、王都イータ・ブリックスに居城を構える謎の男。
リョナという言葉が具現化したような性格で、女性を苦しめることに愉悦を感じている。

★教授
長身長髪で骸骨のように痩せ細った、白衣の男。彩芽を自身の「花嫁」と呼ぶ。
天才的頭脳と異常さを持ち、怪しい機械や改造魔獣などを次々と作り出す。

★王下十輝星
王の忠実な部下で、反乱勢力の掃討などを主な任務とする能力者達。

★『シリウス』のアトラ
空間に自在に罠を仕掛ける能力を持つ少年。明朗快活だが外道。

★『プロキオン』のシアナ
空間や物質に自在に穴を開ける能力を持つ少年。落ち着いた性格だが、最近唯に異常な執着を示している。

★『ベガ』のアイナ
ピンク髪ツインテ少女。姿だけでなく自身の発する匂いや足音すらも消すステルス能力の持ち主。天真爛漫だが残酷。

★『スピカ』のリザ
金髪ショートカットの碧眼美少女。驚異的な身体能力と近距離テレポート能力を持つ。真面目で無口だが、色々と報われない。

★『フォーマルハウト』のエスカ
「1日後の運命」を読む能力者。ローブで常に顔と全身を隠しているが、16歳の少女のようだ。その正体は…

…他に『カペラ』、『アルタイル』、『デネブ』、『リゲル』、『ベテルギウス』の異名を持つ者がいるらしい。


(その他)
・寺瀬光<魔法少女ルミナス>
王と敵対する魔法の国「ルミナス」の王女にして魔法少女。かつて王と戦い敗れたようだが、その後の消息は不明。

・有坂真凛<魔法少女ピュア・アクアマリン>
王都で売り出し中の清純派アイドル。その正体はルミナスの魔法少女だったが、王に見抜かれ魔喰虫の餌食にされてしまう。

・コワモテ主人
王都でも有名な宿屋兼酒場『邪悪にして強大なるワイバーン亭』の主人。王都に潜伏している唯達を匿っている。

・柳原 舞(やなぎはら まい)
黒髪ロングのクールビューティ。魔物をも蹴り倒す魔法のブーツを持っていたが、十輝星に囚われてしまった。

・エミリア・スカーレット
極寒の地ガラドに住んでいた心優しい少女。天才的な力を持つ魔法使いだったが、十輝星に囚われてしまった。

・くさそうの人
くさそうなものを見つけては「くさそう」と呟く人。舞の持っていた魔法のブーツを言い値で買ったらしい。

・執事アルフレッド
アリサの育ての両親と師匠を殺害した青年。『アングレームの遺産』の鍵となるペンダントをアリサから奪い取った。


7 : 名無しさん :2017/01/01(日) 12:02:26 ???
「い、いやっ…やめてっ……誰かぁああああ!!」
変身が解け、魔法少女姿から元に戻った「有坂真凛」が、欲望をギラつかせた男たちに凌辱されていく。
その光景が、地下闘技場の大画面に映し出されるが…

「くっそー!ライブ行った奴ら良いなぁぁぁ!俺も真凛ちゃんにあんな事やこんな事したいぜ!」
「むしろ、さっきの蟲になりてー!空飛んで、魔法少女の服とかパンツの中に入り込んで…最高だよな!」

その一方で、コワモテ主人は王の意図を測りかね、思考を巡らせていた。
(相変わらず悪趣味だが…あんな物を見せるために、わざわざ俺達をここに集めたのか?……イヤな予感がするな)

「さて、魔喰蟲の素晴らしい威力を見て頂いたところで…親愛なる臣民諸君。
魔法少女をワンチャン物にできるチャンスに飛びつこうともせず、地下で燻っているキミ達にチャンスを与えよう。
魔喰蟲の餌となり、苗床となり、王都を守る力の一部となるチャンスを!!」

…王の言葉で、ざわついていた民衆が一瞬で凍り付く。

(ぶううぅぅん……)
「うわああああああぁっ!!!」「きゃああああ!!!」
「ヤバいぞ!みんな逃げろっ!!」

排気口から飛び込んでくる蟲の群れ。
パニックに陥った人々が出口に殺到するが、出入口は固く閉ざされている!


8 : 名無しさん :2017/01/01(日) 13:34:18 ???
「る、瑠奈起きてー!早く逃げないと大変なことになっちゃうよー!」
「う、う〜ん…なんでわたし…気を失って…?」
覚醒した瑠奈の視界に、上空から大量に降り注ぐでかい虫の大群が現れた!!!
「「「ピギイイイイイィィィィ!」」」
ガクッ…!
「あぁー!瑠奈がまた気を失っちゃった…!ど、どうしよう…」

「ぎゃああ゛あ゛あ゛ああ゛!たずげでええええええええ゛えええ゛え゛!!」
「いやあああああっ!!だれか、だれかたすけてえええええっ!!!!虫が、虫がアアアアアっ!!」
「くっ…!どうして自国の民が避難している場所に、あのような恐ろしい虫を放つんですの…?意味がわかりませんわ…!」
「俺の予想では2つ理由がある。…見る限りここに集められたものは生活保護受給者やならず者、その家族ばかりだ。本当に避難させたい奴らは別のところにいるのかもしれない。」
「そ、そんな…!いくら国の役に立たないからといって、国民を手にかけるということですの…?」
「…または、明日の戦争に向けて虫たちに良質なエサをあげたいかだ。そのどちらもという可能性もあるがな。」
「…今は考えている場合ではありませんわ!逃げ道を探さないと…!」
「おう、俺についてこい。この地下格闘場には詳しいんだ。抜け道を案内してやる。…その失神してるボインちゃんは俺が担いでやるよ。」

パニックを起こした国民たちにバレないよう強面の男がそっと格闘場の壁を叩くと、まるで忍者屋敷のように壁が回転して通路が現れた。
「み、みんなに教えてあげなきゃ…!みなさーん!ここに逃げmモゴモゴ…!」
「馬鹿野郎!パニックになった奴らが全員こっちに来たら、虫どもに気づかれるだろうが!黙っとけ!」
「モゴ!モゴモゴもごモゴモゴモゴモ!」(でも!見殺しになんかできません!)
「いいから黙って来い!自分が生き残ることだけ考えろ!」
唯は強面の男に口を押さえられ、強引に引きずられていった。
「…わたくしは今まで守られていましたのね…アングレーム家の外がこんな世界だったなんて…!」

4人が隠し通路を歩いて行くと、少し前まで慣れていた強烈な匂いが再び少女たちの鼻を刺した。
「よし、下水道に出たぞ…戦争が落ち着くまではここで待機するしかなさそうだな。」
「はぁ…またここですの…しかも戦争が落ち着くまでって、いつになることやら…」
「おそらく2〜3日で決着が着くだろう。ルミナスの連中が前に喧嘩をふっかけて来たときは、大体そんぐらいだった。食いもんは心配すんな。ここから下水道を使って食料庫にも行けるからな。」
「…とはいえ、お風呂もお手洗いも生活用品もないこんなところで2〜3日も暮らすのは…わたくしは慣れていますが、2人は…」
「なんだ金髪ロング。おめえあんな服着てたくせにこんなとこ住んでたのか?言葉遣いからして金持ちっぽいのになぁ…」
説明が面倒なのでアリサは弁明しなかった。
囚われていた頃はここに住んでいたので少し慣れてしまったが、唯と瑠奈も16歳の年頃の女の子である。アリサが心配するのも無理はない。
その2人…唯は誰も助けられなかったショックで黙り込んでしまい、瑠奈は失神から目覚めなかった。
「はぁ…これからどうなることやら…」


9 : 名無しさん :2017/01/01(日) 21:01:32 ???
「いやああああぁっ!!やめてっ!!来ないでっ!!痛っ…あああああ!!!」
魔喰蟲の群れに襲われ、激痛と恐怖に泣き叫ぶ、一人の少女がいた。
彼女の名は、園葉 華霧(そのば かぎり)。唯達と同じく地下闘技場に避難していた、14歳の少女である。
捕食・繁殖モードに入った魔蟲の群れは、彼女のような魔力のない一般市民にも、無差別に襲い掛かるのだ。

「ひ、腕がっ…あ、脚があぁああっ!!…いやあああ!!そこ、そこだけはだめええええ!!!!
魔蟲の群れは少女のなだらかな胸の上をカサコソと這い回り、わき腹や二の腕などの柔らかい場所を狙って無遠慮に牙を突き立てた。
そして太股を這い上り、デニム地のホットパンツの留め金をこじ開け、下着を易々と噛み千切り…
まだ成熟していない生殖器の入り口に、産卵管の先端を押し当てる!

(もうダメ…私はここで蟲に食べられて死ぬんだわ…死ぬまでに一度でいいから、イケメンとイイ感じになってみたかった…)
体が麻痺し始め、だんだん痛みも感じなくなってきていた。華霧は観念して目を閉じ、最後の時を待つ。だが、その時…

(ブオン…ザクザクザクッ!!)
突如、黒いドリル状の剣先が空間から無数に現れて、華霧にまとわりついた蟲達を刺し貫く!

「えっ……な、なにが起きたの…?…あっ……!…」
…倒れかけた華霧を抱きとめたのは、黒い剣を持ち、限りなく黒に近い深紫の服を纏った美青年だった。

「大丈夫ですか、お嬢さん…こんな時に申し訳ありませんが、一つお願いしたいことが…」
「はいっ!何でもします!(ヤバいヤバいヤバい!イケメンさんに助けられて人生大逆転キましたよこれ!)」
恋に堕ちる事、即堕ち2コマより早く。瞳にハートを浮かべながら即答した華霧は、
言われるままに青年が差し出した赤いペンダントに手をかざす。が…特に何ごとも起こらない。

「…またハズレですか。今日この場所に私の探す人物が現れる、という情報だったんですが…
あ、お騒がせしました。もう行っていいですよ」
「え?」
端正ながら表情の乏しい顔に僅かな落胆の色を浮かべ、青年は華霧から手を放した。

「ちょ、ちょっと待ってください。あの、その」
「おや、あれは……急ぐので失礼」
青年は何かを見つけると、華霧にはそれ以上目もくれずに歩き去ってしまった。
手にした剣で蟲を無造作に斬り払い、さながら無人の野を行くが如く…

(ぶぅぅぅん…)(ぶぅぅぅん…)
「い、いや…蟲がっ…待って、助けて…おねが…ひぎあああああ!!!」
望み通り、死ぬ前に一度だけイケメンとイイ感じになれた園葉華霧。
彼女が悔いなく人生を終えることが出来たかどうかは、誰も知らない。


10 : 名無しさん :2017/01/01(日) 21:11:17 ???
食料を調達しに行った酒場主人を待つ間、気絶した瑠奈を介抱するアリサと唯。
そこに現れたのは……
「アルフレッド…なぜ貴方がここに…!…唯、瑠奈を連れて今すぐ逃げなさい……!!」
アリサの養家であるアングレーム家に執事として仕えていた男。
そして主人である夫妻と師を殺害し、アリサから全てを奪った…魔剣の使い手、アルフレッド。
「…………。」
だが唯は、まるで抜け殻の様に、切羽詰まったアリサの声にも無反応だった。

「やはり貴女方でしたか…お嬢様。今は、あなた方と争うつもりはありません」
「よくもぬけぬけと……気安く、お嬢様などと呼ばないでくださるかしら!」
殺気の籠った視線を飛ばすアリサだが、アルフレッドは涼しい表情を崩さないまま…赤い宝石のペンダントを懐から取り出した。

「お願いしたい事があるのです。このペンダントで…『アングレームの遺産』を手に入れてもらいたい」
アリサにとってそれは、絶対に忘れようのない…あの夜奪われた、育ての両親の形見だった。

「どういう…事ですの…!?」
「遺産が隠されている、おおよその場所は掴みましたが…最後のカギを開くことが出来るのは、ペンダントに選ばれし者」
ペンダントから赤い光が放たれ、アリサと唯、そして瑠奈に向かって伸びる。
「すなわち……あなた方全員です。できれば5人全員が揃うのを待つべきなのかも知れませんが」

「勝手なことを…今さら貴方の頼みなど聞くものですか!剣さえあれば、この場で父様達の仇を討って差し上げますのに…!」
「戦うつもりはないと言った筈ですが…仕方ありません。これをお使いください」
…アルフレッドがアリサに寄越したのは、装飾の施された銀色のレイピア。

「これは…アングレーム家に伝わる宝剣『リコルヌ』…」
アリサが以前使っていた練習用のレプリカとは違う、正真正銘の本物だ。よく手入れが行き届いており、刀身は眩い光を放っている。

「…私が勝ったら、言う事を聞いていただく。それで宜しいですか?」
対するアルフレッドは、黒い木刀を手に取った。
この後アリサに「頼み事」をする以上、怪我を負わせる事は避けたいと考えているのだろう。

(遺産の眠る地は、王下十輝星の一人『カペラ』の支配域でもある…
果たして遺産を手にするだけの力を持っているかどうか。見極めさせていただきますよ…)


11 : あらすじと登場人物紹介乙です :2017/01/01(日) 23:16:09 ???
「アルフレッド…あなたはお父様とお母様の仇ですわ!いくらあなたが丸腰同然の装備でも、わたくしの剣先は迷うことなくあなたの心臓を狙いますわよ!」
「構いません。ただし私があなたに勝ったら…そこのご友人と共に私と来ていただきます。それで構いませんね?」
「…いいでしょう。あのときと同じようにわたくしに勝てると思っているのなら…大間違いですわッ!!」
叫ぶと同時に、アリサはリコルヌを構えてアルフレッドに走り出した!

キン!ガッ…シュバッ!ビュン!
一度戦った時とは別人のような激しい動きで長い金髪を振り乱し、アリサは怒涛の攻撃を仕掛ける。
リコルヌでの攻撃と舞うような体術で戦うアリサの美しい姿は、さながら演舞のようだった。
「流石ですねお嬢様…あのときとは違い、剣に迷いがない。気を抜けば本当に殺されてしまいそうです…」
「黙りなさいこの外道…!お父様とお母様のために、ここでわたくしがあなたを地獄へと葬って差し上げますわッ!」
キンキンキンッ!
「おっと…!」
アリサは目にも留まらぬ3連突きを繰り出し、アルフレッドの体勢を崩した。
「そこっ!」
僅かにできた隙を狙い、アリサは思い切り前に踏み込み、アルフレッドの左胸に宝剣を突き出す!!!

ガキィンッ!!!
「なっ!?剣がっ…!?」
渾身の突きを繰り出したアリサだったが、すぐさま体勢を立て直したアルフレッドのカウンターによりリコルヌを弾き飛ばされてしまった。
「惜しかったですねお嬢様…剣に迷いがないとはいえ、基本の太刀筋はまだまだです。私の誘い受けにまんまと乗ってしまうようでは…ね。」
「ぐっ…!くそぉっ…!」
「それでは、私について来てもら…ッ!!!」
尋常ではない殺気を感じ、アルフレッドはすぐさま後方に飛んだ。

「貴様ァ…!何モンだ!?俺の客に何をしてやがる!?」
「貴方は…竜殺しのダン?どうしてこんなところに…?」
「うるせえぇ!どこにいようと俺の勝手だろうがッ!さっさと消えねえとテメェのかわいいケツを4つに割るぞ!」
「はぁ…これは少々面倒ですね。…お嬢様、その宝剣は差し上げますので、日を改めて伺います。またお会いしましょう…」
そう言って深く一礼すると、アルフレッドは素早い身のこなしで地下水道の奥へと消えた。

「あのスカし野郎…俺の殺気を食らっても平然としてやがったぞ。いったい何者だ…?」
「それはわたくしのセリフですわ。あなたはただの宿屋の主人ではないようですけれど…?」
「いやぁ俺のことはいい。ただちぃっとばかしその辺のやつより強えってだけだ。…そっちも色々と事情がありそうだな。深くは聞かんが…」
「…今は力及ばないけれど、いつかわたくしが必ず殺すべき男ですわ。たとえ刺し違えてでも…!」
強い口調だが、アリサの目は泳いでいた。その目には葛藤、後悔、怒り、悲しみといった様々な感情が渦巻いているように見える。
「おい金髪ロング…あんま1人で抱えんなよ。困ってるんならこいつらにでも話して楽になるこった。」
「…ええ。そのうちゆっくり話せる時が来たら、2人には話すつもりですわ…」

(それにしてもアルフレッド…あの男の目的は一体なんなんですの…?)


12 : たまにはエリョナを :2017/01/02(月) 14:10:04 ???
その頃地上の闘技場では、男たちによる真凛への凌辱が続いていた。
真凛の服は全て持ち去られ、体は男たちの汗やよだれでてらてらと淫靡に光っている。
だが付着している液体はもちろんそれだけではない。
夥しい量の白濁液が頭の先から足の先まで、真凛の体を犯し尽くしていた。

「う……ぅ……おねがい……もうこんなこと……やめてぇ……」
「へへへ……みんな精力尽き果てて戻っちまったが、俺ら絶倫3兄弟はまだまだ元気だぜぇ?」
「やめてと言われても3大欲求には逆らえないでやんす。まだまだ犯してやるから覚悟するでやんすよ?真凛ちゃん……」
「じ、じ、じ、じゃあ拙者が、真凛ちゃんのパイオツをロペロペしちゃうぞぉ!へ、へへ。」
男の1人が、小ぶりながらも張りのある真凛の右胸の乳房にしゃぶりついた。
「ふぅっ!あ……あぁぅ……いやぁぁ……」
「へっ、嫌と言いながら乳首はどんどん硬くなってんぜ?アイドルとは思えないほどいやらしい女だなぁ、オイ。」
頭では拒絶しているのだが、乳房への刺激に反応して乳首は硬くなってしまう。
犯されていない左胸の乳首を、男の1人が舌先ですりすりと擦り始めた。
「っあぁあ!ひゃああんっ!」
これだけ凌辱されてなお、牝としての本能なのか真凛の体は快感を求めて疼いていた。その証拠がこの嬌声である。
男たちに犯されて火照る体を、理性で抑えることができないのだ。
両胸を攻められてビクンと背が跳ねた真凛の秘唇が愛液でぬめったのを、男は見逃さなかった。

「さて、胸は2人に任せるとして、俺はまだ味わっていないこっちをもらおうかねぇ…」
両胸に張り付いている2人が壁になってよく見えないが、男がパンツを下ろしているのが真凛の目に入った。
そのまま秘部に硬いものがあてがわれ、真凛の理性は今日何度目になるかわからない拒絶反応を起こした。
「ひぃっ……!まさかまた……!」
「他の奴のせいでもうかなりガバッてそうだな。あんまり快感はないのかもしれないが……ふんっ!」
「あああぁぁっ!」
掛け声とともに男が腰を突き出し、真凛の元に戻りつつあった肉壁を強引に押し広げて挿入した。
すぐさま広げられた分を取り戻そうと、真凛の肉壁が男の肉茎をぎちぎちと締め上げる。
その肉と肉が強く擦れ合う感覚が、男の興奮をすぐに射精寸前まで高めた。
「ま、マジかよ……!やべえっこいつの中完全に開発されてやがるっ!……これ、動いたらやべえっ……」
「兄者、早漏にもほどがあるでやんすよ……」
男は湧き上がる興奮を抑えつつ、真凛の膣肉を貪るように腰を打ち付け始める。
「あぁんっ!あっ!い、いぎぃ!あひっ!ああぁうっ!」
耳を抑えたくなるほどの淫猥な水音が辺りに響き渡り、突き上げられるたびに真凛の体がびくびくと跳ねあがる。
人々に笑顔と元気を与えるトップアイドルだった真凛の今の姿は、男たちに凄まじい性衝動を覚えさせていた。
「あっ!やべぇ…出るっ!」
男が「あっ!」と呻いた瞬間、真凛は膣の中に大量の熱い液体が流し込まれる感覚を得た。
「んうううううっ……っ!あはあああぁあぁああ……はあぁん……」
これまた意思とは無関係に、膣内の生暖かい感覚のせいで、真凛の口からはだらしない声が漏れてしまう。
ずるりと引き抜かれた男の陰茎は、自身の精液と真凛の愛液でぬらぬらと妖しく光っていた。


13 : 名無しさん :2017/01/02(月) 14:11:07 ???
「ああ…気持ちよかった…ちょっと休むわ…」
「だらしないでやんすなぁ兄者…次はおいらの番でやんす。兄者と違って早漏ではないでやんすから安心するでやんす。」
性を放った男と立ち代わりに、左胸を舐めていた男が真凛の目の前でパンツを脱いだ。
すでに男の肉棒はへその位置を超える高さまで隆起していて、真凛の視線を浴びたためか嬉しそうにビクビクと動いた。
「お……お願い……もう許してぇ……」
真凛がルミナスのスパイになると決めた時、もちろん捕まった時のことも考えていた。
とはいえ、複数の男に輪姦される未来など、当時キスの味も知らない少女だった真凛には想像できるはずがない。
許しを請う真凛を無視して、男は膨れ上がった肉茎を真凛の中へと押し込んだ。
「んぅぅぅう!」
男の肉茎は一気に肉壁をこじ開け、肉胴の再奥へと達した。そのまま子宮の入り口を探るようにぐりぐりと男は腰を巧みに動かしていく。
その肉茎を、先ほどと同様真凛の肉壁は男の性を搾り出そうとするかのようにぎゅううっと締め付けた。
「ああぁっ…これは確かにやばいでやんすな…しかも真凛ちゃんの愛液とは別に兄者の大量の精液が絡みついて…想定外でやんす…!」
そう呟きながらも、男は腰を動かし真凛の中で前後運動を始めた。
「ひぎゅううっ!あぐっ!やあぁっ!んやぅああんっ!」
亀頭を使って肉壁を擦り上げ、掻き回し、打ち付ける。
真凛の反応を見ながら高い声を発した場所には繰り返し亀頭を押し付けて律動する。
完璧とも言える男の巧みな腰使いに、真凛の理性がゆっくりと崩壊し始めていた。
「どうでやんすか?真凛ちゃん。気持ちよくなってきたでやんしょ?」
「ふああー、あっ、あー、あはあぁああんっ…!はあぁっ」
真凛の反応が今までのと変わったのを確認し、男は肉茎を引き抜くと勢いよく奥まで挿しこんだ。

「うはあぁぁぁううぅ……!」
かき回され続けて感度の高まった肉胴に隙間なくみっちりと快感の塊が入り込む。たまらず真凛は吐息と熱が混じる色のついた声をあげた。
そのまま男は勢いをつけて真凛の再奥に亀頭を何度も叩きつける。格闘場には肉と肉がぶつかり合う淫らな音が、真凛の歌に混じって響き渡った。
「ふぁっ、あー、あひぃっ、あう、あう、ああぁんっ!」
再奥まで挿入し真凛の一際高い声が上がった直後、男はそれまでの勢いを全て殺しゆっくりと舐めとるように真凛の肉壁を擦り上げる。
「あっ、ひあっ、んぅ、あっ…ああぁ…いい…」
「ほう……ならばもっと気持ちよくしてやるでやんすよ…!」
「お……うっあ……これ……すごく……いいっ……いぃのぉ……」
緩急のついた男の肉茎によって天にも登るような心地よさが真凛の中で跳ね回り、ついに真凛の口から女としての歓喜の声が漏れ出てしまった。
「おいらと真凛ちゃんの相性はバッチリのようでやんすなぁ…!このまま出させてもらうでやんすよ!」
ゆっくりとした刺激を終わらせ、射精を求める肉茎は激しく真凛の中を蹂躙する。
「あはあんっ!い、いいっ!これ、あ、あぅ、きもち、いいぃいっ!」
一度堕ちてしまえば、もう元には戻れない。
真凛の膣は男を送り出す時は弛緩し、男を迎えると収縮した。牝としての本能が真凛の理性を粉々に打ち砕いてしまったのだ。
「はう、あ、はぁん!あひっ、は、ああん!いいっ、いいっ!もうらめぇえええっ!」
「ああぁっ!真凛ちゃんっ!出るゥっ!」
2人の声が同時に発せられ、真凛は足を使って男の腰を引き寄せる。
それと同時に真凛の中に、凄まじい量の精子が放出させられた。

「ふあぁっ……せいえき……いっばい…はぁ……」
ぐったりと仰向けで倒れている真凛の秘部から、2人分の精液がこぽこぽと泡を作った。
「お前すげえな…真凛ちゃんと普通にラブラブセックスしちゃうとは…」
「はぁあー……最高でやんした。お前はずっとおっぱい舐めてるだけでいいんでやんすか?」
「ぼ、ぼくは包茎だし、パイオツにしか興味がないから、いいんだ…!はぁはぁ…」
「そうでやんすか…さて、飽きたし鍋でも食いに行くでやんすかね。」
「おお!いいね鍋!避難先の城ん中に確かすっぽん鍋あったぜ!食いに行こう!」
「ぼ、ぼくはもう少し真凛ちゃんのパイオツを堪能してから行くよ。さ、先いってて。」
「「りょ!」」

すっきりとした表情の男2人が去り、格闘場には真凛と男の2人が残された。
「ふ、2人きりだね真凛ちゃん。へ、へへ。ぼ、僕、真凛ちゃんと2人で写真撮りたかったんだ。と、撮るね?へ、へへ。」
パシャッ!パシャッ!
「あ……あぁ……るみなす……さま……ごめん……なさい……!ごめん、なさい……!」
ぐったりとした真凛は、胸を舐められてても写真を撮られても抵抗せず、ただただ祖国への謝罪の言葉を呟いていた。


14 : 名無しさん :2017/01/03(火) 02:30:47 ???
「見えたよ、お姉ちゃん…あれが、王都イータブリックス…!」
空を覆う分厚い黒雲。その下にそびえたつ不気味な王城。
某日未明。ルミナス魔法少女軍総勢約五千は、王都の沖合およそ20kmの海域まで迫っていた。

「あの青い光…真凛からの合図ね。夜明けを待って突入しましょう」
敵に見つからないよう海面すれすれを飛んでいた魔法少女たちは、
斥候として潜伏していた仲間の合図を見つけ、侵攻の機会を伺う。だが…

(ゴボゴボ…いたいた、魔法少女ちゃん。より取り見取りだぜぇ…お前らどの子がイイ?)
(俺はこっちの生意気そうな火属性の奴だな!水ん中で一方的にいたぶってやるぜ…)
(ぼく、このピンクぱんつのメガネちゃん…いかにも今日が実戦初めてです!って感じの初々しい感じがイイ…)
(フヒヒ。おで、おっぱい大きい子がいいなぁ…)
…海中から突然、不気味な声が聞こえ始めた。

(ぎゅるるるっ……しゅばばばっ!!)
「きゃっ!?何これっ…!!」
「タコの、脚…?…く、取れないっ…!」
「イータブリックス・海魔軍団推参…お前たちに、もう夜明けはやって来ない…なんつって。ゲヒヒヒ!」

タコ、カニ、半魚人、イソギンチャク…海中から現れた魔物の軍勢が奇襲を仕掛ける!
「十輝星の予言スゲー!出現位置、カンペキ的中だぜ!」
「教授の肉体改造薬もハンパねーな!水中で呼吸できるし、自由自在に泳げるし!」

「こいつら、ただの魔物じゃない…鏡花、水鳥!私が盾になるから、みんなをお願い!」
「くっ…高度上昇!みんな、海面から離れて!」
不意を突かれた魔法少女たちは、魔物によって次々と海中に引き込まれていく。
指揮官の鏡花は、混乱が全体に波及する前に転身を指示するが…それは、逃げ遅れた仲間を見捨てる事を意味していた。


15 : 名無しさん :2017/01/03(火) 02:36:25 ???
海中からの奇襲を受けたルミナスの軍勢は、高度を上げて全速で王都を目指す。
「急いで編隊を組みなおして!…このまま霧の中に突っ込む!」
「フヒヒ…そんな事していいのかな?…」
「つーか勿体ね〜…俺らの方がよっぽど紳士だっつーのに…」

王都の空に漂う黒い霧に、魔法少女たちは次々と飛び込んでいった。
だがそれは、彼女たちの姿を覆い隠す、自然の霧などではなく…
(ぶうううん…)(ぶうううん…)
(何…虫の、羽音…?)

「…っきゃああああああ!!!!」
「いやああああ!!何これぇぇえ!」
「ムシ、蟲がああああ!!」
数十万、いや数百万を超える、不気味な蟲の大群だった。
異変に気付いた者もあっという間に黒い霧に飲み込まれ、周囲は阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。

「これが全部、魔喰蟲!?…なんて数…」
「みんな、1カ所に固まって!…囲まれたら、やられ…っくあああ!!」
パニックに陥った魔法少女たちを、必死に統制する鏡花。
だが彼女自身も、決して浅くない噛み傷を既にいくつも受けてしまっている。

(こっちの作戦が漏れていたっていうの…!?…じゃあ、真凛は…)
空中に逃げ場はなく、海面に降りればやはり魔物に襲われる。
蟲に魔力を吸われた魔法少女は海に墜落し、やはり魔物の餌食…
海を渡り切り、街の上空までたどり着いた時には、魔法少女の軍勢は当初の1/5にまで損耗してしまっていた。

必死の思いで蟲達から逃れ、仲間の合図、青い光の元へと辿り着いた鏡花たち。そこで見た物は…
「…真凛……そんな…」
闘技場の屋根の上に置かれた十字架。そこに磔にされた、精液まみれの有坂真凛。
…魔法少女ピュア・アクアマリンの、最期の姿だった。


16 : 名無しさん :2017/01/03(火) 12:23:05 ???
「…以上が、鏡花からの報告の全てです……5代目様、いかがいたしますか?」
「……………」

魔法少女たちの暮らすルミナスの首都ムーンライト。その真ん中にそびえるルーンキャッスルの謁見室で、鏡花の報告を神妙な面持ちで受けている少女がいた。
彼女こそ、全ての魔法少女を統べる5代目ルミナス…国名と同じルミナスの称号を持つ天才魔法少女、リムリット・フェルルインである。
自身の座る玉座よりも小さい8歳の少女である彼女は、漆黒のワンピースを身に纏い、足には猫のマークが入ったニーソックス、頭には最高位の称号ルミナスの証である鍔の広い黒のとんがり帽子を被っている。
身長こそ小さいが、全身の黒と先の折れ曲がったとても大きな帽子、そして全てを見透かすような紅に染まった目が、少女とは思えないただならぬ雰囲気を醸し出していた。
「…わらわが出るしかなさそうじゃな。今の兵数であの王都を陥落させることができるとは思えぬ。すぐに一個大隊を編成せよ。わらわが直截指揮を取る。」
「ご、5代目様が出られるのですか!?この王都の警備が手薄になりますが…」
「今あの国以外にこのムーンライトへ攻めてこられるような勢力はおらん。それにわらわがいなくともウィチル…そなたがいれば多少のことは問題なかろう。」
「で、ですが、4代目様に続き、もしも、もしも5代目様が倒れるようなことがあれば、もうあの国に対抗する手段はなくなってしまいますっ!」
「ウィチルよ。わらわを誰だと思っておる。リムリット様だぞ。そのような心配は無用だ。」
「う……か、かしこまりました!ムーンライトの守りはお任せください!すぐに大隊を編成し、城の入り口にて出撃準備をいたします!」

副将ウィチルの取り計らいで、城の入り口には1000人ほどの魔法少女たちが集められた。
「聞いた?先に出撃した子たち、虫に魔力を吸い取られてほとんど海に落ちたらしいよ…?」
「うそぉ…?敵はわたしたちを迎える準備万端ってこと?奇襲作戦のはずなのに…」
「で、でも、歴代最強と言われているリムリット様が来てくれるんだから、平気よね?」
「いやいや、いくらリムリット様が来てくれるからって、まだ8歳の女の子よ…?戦場に出たこともあまりないだろうし、大丈夫かしら……?」
報告を聞いた魔法少女たちの心境は穏やかではなかった。そのほとんどは不安を唱える者ばかりで、中にはすでに泣いているものさえいる。
そんな彼女たちを見下ろせる城のバルコニーで、ウィチルは拡声器を構えて叫んだ。
「全員静まれ!!!…リムリット様が出撃に向けてお言葉を下さる!みな心して聞け!」
リムリットが前に出ると、魔法少女たちの視線は小さな体に注がれた。


17 : 名無しさん :2017/01/03(火) 12:24:23 ???
「わらわは激怒した。4代目様が力及ばずあの王の前に屈したと聞いた時、必ずかの邪智暴虐の王を除かねばならぬと決意したのだ。…だが敵は異能力者である十輝星を始め、常人とは思えぬ凄まじい力を引き出す機械、薬を次々と開発し、実質的にこの世界を牛耳っておる。……まともな政治ができる国ならば、和平を結ぶ道もあったであろう……だがあの国はそうはいかぬ。他国の要人を暗殺し、無遠慮に自国の領土を広げる狡猾さ、自国民を劣悪な環境で戦わせ、それを娯楽とする悪辣な格闘場……あの国は猛悪な王を始め政治家から国民まで、すべからく頽廃しておる。……畢竟、支配されないためには武力しかないのじゃ。今のわらわ、そしてここに集まった皆にはそれが出来る魔力がある。……とはいえ、年端もいかぬ小娘の軽率な猪突猛進だと危ぶむ者もおろう。先に敢然と向かった部隊はあろうことかほとんど壊滅してしまった……だが慄然するには早い。怯懦の涙に濡れるのもまだだ。なぜなら、今ここにわらわがいるからだ。右手を振るえば海を割り、左手を振るえば大地を隆起させ、両手を振るえば爆炎の雨を降らせるリムリット・フェルルインがいるからだ。この横溢するわらわの魔力と皆の義侠心をもってすれば、かの邪智暴虐の王を倒すことも不可能ではない。わらわのこの赤い目には、イータ・ブリックスが正義の爆炎に焼かれる未来が見えているのだ。先に散った者のため、そしてこの世界に平和をもたらすために、我らの魔法でトーメント王国にしかるべき業報を与えよう!皆の者!準備は良いか!」
「おおおおーーーーーーーッ!!!!」
「リムリット様ーーー!この命尽きるまで、一生ついていきます!!!」
「そうだ!やられっぱなしじゃいられない!リムリット様がいればあんな変態王国、一発でドカンだー!!!」

リムリットの演説により、魔法少女の軍勢は一気に士気を上げた。
リムリットは少し疲れたのか、額に汗を浮かべながら深呼吸をし、出撃の合図を叫んだ。

「さあ杖を掲げよ!箒に跨れ!魔道書を捲れ!正義は我らルミナスにありだ!ゆくぞおおおおおっ!」


18 : 名無しさん :2017/01/03(火) 21:56:44 ???
士気を上げられた魔法少女軍は、一気に王都を目指して飛び立った。
先陣を切るのは5代目ルミナスのリムリット。王の放った海の魔物たちを稲妻で焼き払い、魔喰虫は超広範囲の爆炎で逃げる間も無く焼き払う。
目に映るもの全てを焼き払ってしまう歴代最強ルミナスの魔力に、魔法少女たちは尊敬とほんの少しの恐怖を覚えた。
「5代目って魔力では歴代最強と言われつつ、あんまり表に出ないからどんな人かわからなかったけど…すごい人だったんだね。とても8歳とは思えないよ…」
「あの人は結構謎が多いよ。8歳って言われてるけど、あの言葉遣いも国の治め方も8歳とは思えないもん。まあ私たちは知らなくてもいいことだと思うけどね…」
「ほんとは60のお婆ちゃんだけど魔力で8歳になっているとか、実はあの体型で20ぐらいの合法ロリとか、噂はいろいろあるんだよねぇ…でもそんなことどうでもよくなるくらい、滅茶苦茶強いってことが今わかったよ……」

その頃、十輝星のエスカは王都上空に到着した魔法少女たちを双眼鏡で見上げていた。
(あれが異世界人の鏡花と水鳥……うーん、名前も姿も何処かで見たような気がするのはなぜなのか…占いのしすぎでまた頭がおかしくなってきたかなぁ…?)
「エスカ様!もうすぐ魔法少女たちへの攻撃を開始します!ここにも奴らの魔法が飛んでくる可能性があります!早くこちらへ避難を!」
「あ、うん。わかってるけど…なんか気になるんだよなぁ…しかも、なんかとてつもなく大きな力の塊が王都に来ているような気が…」
「とてつもない力…?予言では見えなかったのですか?」
「…なんかね、あの市松姉妹に関する魔法少女たちについて占おうとすると、頭が痛くなってうまく見えないの。今までこんなことなかったのに…」
「…さようでございますか。その症状については一度王様に相談した方がいいかもしれませんねぇ…」
「うん…とりまエスカは避難するから、キミは魔法障壁を最大出力にしておいて。女の勘でなんかやばい気がするからさ。」
「かしこまりました!」

そして王都上空。磔にされて息絶えている真凛のあまりにも無残な姿に、魔法少女たちは絶句していた。
「真凛の体についてるの、これって、まさか……あぁっ……!」
「そんな……酷すぎる……!こんなことって……!」
「みんな…落ち着いて。早く真凛を降ろしてあげましょう。このままにはしておけないわ…」
大好きな友の無残な姿に、鏡花はすぐにでも泣き出したかった。だが隊長の自分が泣き出してしまっては少女たちの士気に関わる。
溢れそうになる涙を抑えながら、鏡花は自分の手が汚れるのも構わず変わり果てた真凛の体を抱きかかえた。
「隊長…今の兵力でわたしたちは勝てるのでしょうか…?一度王都に引き返したほうが…」
「…そろそろ王都からの返事が来るわ。それを待ちましょう。早く真凛を安全な場所に移さないと…」
鏡花が周りを見渡した時、王都からの連絡を知らせる青い鳥が水鳥の元に飛んで来た。
「お姉ちゃん!マジックバードが文書の返事を届けてくれたよ!」
「ええ、確認するわ。私に渡して。」
真凛を箒に乗せ、鏡花は王都からの文書を開いた。

「これは……!みんな聞いて!!!5代目様が増援に来てくださるわ!!!」
鏡花の驚きに満ちた声に、失意のどん底に落ちていた魔法少女たちの瞳に小さな火がついた。
「みんな目を覚まして!5代目様がいらっしゃった時に、情けない姿は見せられないでしょう!私たちがルミナスの活路を作るのよ!!」
「そ、そうよね…!真凛のためにも、ここまでに散った仲間のためにも…!私たちが頑張らないと!」
「ルミナス様が来てくれるなら、きっと勝機はあるわ!頑張りましょう!!」
「真凛ちゃんのために…絶対勝つ!」
1人、また1人と士気を取り戻す魔法少女たち。仲間たちを犯し、殺し、見せしめにしたこの恐ろしい国に支配されるわけにはいかないという気持ちが、少女たちの心を強くした。

「さぁ水鳥、増援が来るまで、私たちでできるだけあの城に魔法を叩き込みましょう!」
「うん!がんばる!」
士気を取り戻した魔法少女たちは、それぞれ触媒を構えて攻撃準備に入った。
触媒の種類は少女によって様々で、杖、剣、魔道書、珍しい者はペットを触媒としている者もいる。
「みんな!あの方が来た時に情けない姿は見せられないわ!思いっきり戦いましょう!ルミナスに勝利を!!」
「「「ルミナスに勝利を!!!」」」

こうして、王の率いるトーメント軍と魔法少女たちの、何度目かの戦争が幕を開けた。


19 : 名無しさん :2017/01/04(水) 17:45:52 ???
鏡花以下、ルミナスの魔法少女たちが王城へ向けて砲撃を加える。
待ち伏せしていた王の兵隊…当然のようにこれも魔物化している…には、近接戦闘に長けた者たちが応戦していた。
「A班、そのまま砲撃続けて!B班は引き続き橋頭保の確保!…C班。ここを陽動にして、城に突入します…!」

自ら突入部隊に加わるため、砲撃の列から離れた鏡花。
城への潜入ルートは王都の地下下水道…真凛が命がけで調べてくれた道だ。
下水道の構造は複雑で、その全容を把握している者はいないと言うが…
例えまた敵が待ち伏せていようと、全て倒して進む覚悟だった。

……

一方その頃…海で魔物に襲撃された魔法少女たちは、王都イータブリックス近くの沿岸に流れ着いていた。
女王の稲妻の魔法によって、魔物たちは殲滅され…魔法少女たちは逆に魔力を注入されて蘇ったのだ。

「けほっ…けほっ…うぷ………あれ、私…確か、海に落ちて……」
「カリンちゃん!…気が付いた…よかったぁ……人工呼吸って初めてだから、自信なくて…」
「……フウコ…?…え…人工、…って…!!!…ちょ!あんた!まさか!」

「お、生きてたなカナヅチルーキー…これから、動ける連中で王都に攻撃を仕掛ける…お前らはどうする?」
「行くに決まってるわ!…この『魔法少女ブレイジングベル』が、やられっぱなしのまま終われるもんですか!」
「わ…私も行きます!…弟の仇が目の前にいるのに、じっとしてるなんてできません…!」
「はいはい。元気があって大変よろしい…アタシもいっちょ、先輩らしいとこ見せてやらんとね…」

……

「6時の方角から砲撃!3時の方角、飛翔体多数接近!12時の方角、これは…海から上陸したルミナス軍が街に侵入しました!!」
「うわー…いよいよヤバいねこりゃ……ワタシは邪魔にならない様、ドロンさせてもらいますか、っと…」
「その必要はないよ、エスカ。…既に大勢は決した」
「え?……王様…!」
…レトロな風呂敷包を背負って9時の方向から城を出ようとしたエスカは、自室を出た所で王に呼び止められた。

「…向こうの女王が、自ら兵を出して援軍に駆け付けたらしくてね。
さっき城の兵器庫がまとめて吹っ飛んだのも、彼女の爆撃魔法だ…いや実にヤバい威力だね!コマ●ドーかっつーの!」
「マジですか!?…ど、どうするんですか…そんなのまともに喰らったら、いくら王様でも…」

王都の誇る魔法障壁も、魔法王国最強…すなわち世界最強の魔導士の前では役に立たなかったらしく、
王の間の天井や壁もきれいに吹き飛んでいた。
茜色の太陽光がダイレクトに目に飛び込んできて、煙の匂いを伴った冬の夕風が身を突き刺す。

「…だーから大丈夫だって。連中の敗因は、部下を信用しきれずに総大将がノコノコ前線に出てきてしまった事…
あとはトップさえ倒してしまえば、この戦いもゲームオーバーさ」
(それって、他人の事言えないんじゃ…)

「その点俺は、部下の事を信用している…特に、王下十輝星・フォーマルハウトのエスカ…
直接剣を取る事はなくとも、この戦いにおける君の功績は計り知れん」
「いやいや、それほどでも……(つーかやけに話長いな…さっさと逃げたいんだけどな)」

王の言葉を聞き流しつつ眼下の城下町に目をやると、多数の火の手が上がっているのが見えた。
王都を守る(という名目で略奪の限りを尽くしている)改造魔物兵と、
侵攻してきた(と思ったら略奪する魔物に出くわし、見るに見かねて助けに入った)ルミナス軍の戦いが散発しているようだ。
女王の増援を得た魔法少女たちの士気は高く、ここまで攻め入ってくるのも時間の問題だろう。

「…というわけで、君ならこの事態を収めることが出来ると信じている!頑張ってくれたまえ」
「はいはい。わかりました……って、え?…ちょっと待……え!?」

「そこまでよ!全員動かないで!」「トーメント王、神妙にしなさい!」
「魔法王国ルミナス第5代女王、リムリット・シュメッターリング・ルナ・ルミナスここに推参……年貢の納め時じゃのう、狂王」

「…ほらー。キミがグズグズしてるから俺、逃げ遅れちゃったじゃーん。」
(それはこっちのセリフだああああ!!!)


20 : 名無しさん :2017/01/04(水) 18:47:54 ???
「…ようこそ、女王陛下。一度お会いしたいと思っていたのですよ…そして、私はしたいと思った事は必ず実行に移すタイプでね」
(さっき私に押し付けて逃げようとしてたくせに! さっき私に押し付けて逃げようとしてたくせに!)
玉座に座りなおし、威厳たっぷりに振る舞う王。心の中で突っ込みを大事なことだから2回入れるエスカ。

「能書きはよい…貴様のこれまでの悪行の数々…加えて此度に至っては、城下の無辜な民草を魔喰蟲の餌にし、
挙句の果てに魔物への改造とは…断じて許すわけにはいかぬ」
「魔物の改造は希望した者だけですよ…魔法少女をヤれるって言ったら応募者が殺到したもんで。ヒヒヒ」

聞くも恐ろしい悪行の数々を、女王は裁判の冒頭陳述のごとく列挙していく。
王はそれを悪びれもせずへらへらと聞き流す。
一触即発の空気が場を支配する中……女王の声を遮るように、王が口を開いた。

「…陛下はワタシの事を随分よくご存知のようだ。だがワタシも、貴女の事は少々調べていましてね…例えば」

「ルミナス軍の先発部隊と増援を合わせた軍勢は約6千、特に先発5千は精鋭中の精鋭。戦隊長は金色の魔法少女リフレクトブルーム」
「まだここには着いておらんな…それがどうした」

「リムリット・シュメッターリング・ルナ・ルミナス…魔法王国ルミナス第5代女王で、圧倒的な魔力とカリスマを持つ実質世界最強の魔法少女」
「さっき名乗ったであろうが」

「女王陛下の留守を預かるのは、王国ナンバー2のウィチル・シグナス。
魔法の実力のみならず実務能力にも優れ、秘書として陛下も全幅の信頼を寄せておられる。遠征中は王国の全権を委任されている」
「…何が言いたい」

「陛下のかぶっておられるその帽子は『聖なる闇<セイクリッドダークネス>』。
王国創設者が作り出したと言われる伝説の魔帽で、かぶる事で持ち主に膨大な魔力を与えると言われている」
「……付け加えるなら、帽子を奪おうと思っても無駄じゃ。わらわの意思なしでは脱がせる事はできぬ」
だんだんと苛立ちを露わにし始める女王だったが…

「だが魔力云々の話は対外用のブラフ。貴女の魔力の真の源は…ルミナスの王城地下に安置された
巨大な魔石『セイクリッド・ストーン』で、帽子はそこから魔力を受信するためのアンテナに過ぎない」
「……!!」
…ルミナス国内でもごく一部しか知らない最高機密を王が口にした瞬間、表情が凍り付く。

「今まさに、その場所へと近づいている者がいる。警備の兵は見知った顔なのでノーチェック。
仮に怪しんだとしても、全権を委任されているので通さないわけにはいかない」
「待て…一体、何の……」
そしてだんだんと、女王の顔が青ざめていき………

「魔石が失われれば、女王陛下はただの子供。そもそも今でさえ、秘書である『彼女』がいなければ公務さえままならない」

「公務のスピーチの類は全て『彼女』が事前に考え、陛下はそれを丸暗記。今回の遠征前の演説もそう」

「夜中に怖くてトイレに行けない時も『彼女』に付いて来てもらっている」
「ニンジンとピーマンが食べられず『彼女』にいつも怒られている」
「二人きりの時は玉座の上で抱っこしてもらうのが好き」
「おねしょのペースは4日に一回」
「今日のパンツはパンダさん」

「いやああああああああああぁぁああああっっっっ!!!!」

「『彼女』の名はウィチル・シグナス…その正体は」

「…トーメント王下十輝星の一人。『デネブ』のウィチェル」

……ぶつり、と何かが切れるような音がして……女王はその場にがっくりと膝をついた。


21 : 名無しさん :2017/01/06(金) 01:54:52 mlh7i4mw
「えーーーーーーー!?!?!?」
「う、嘘よ…!純粋魔力では5代目様を凌ぐ魔力を持つウィチル様が、トーメント王国のスパイだなんて…!」
「ご、5代目様…!しっかりしてくださいっ…!」
「ガハハハハ!我が国のスパイは世の中を舐めてるクソみたいな歌を歌っていた魔法少女スパイよりも遥かに優秀だということだ…ん?なんだ今の声は?」
王が素っ頓狂な声がした方を見ると、エスカがフードの中で目を丸くしていた。
「で、デネブの星位はまだ決まってないと思ってましたよ…ちゃんといたんですね!」
「…今の十期星で1番新入りのエスカには教えていなかっただけだ。他の十期星はみんな知っている。」
「もー!なんでエスカにだけ教えてくれないんですかー!いきなりルミナスが攻めて来て無意味に焦っちゃいましたよ!」
あまり怒りを感じさせない声でプリプリと怒るエスカ。その声を聞いたリムリットは突然何かに弾かれたように顔を上げた。

「そ、その声はまさか…あなた様は…!」
「…え?え、わたし?な、なに……?」
「ふ、フードを外して顔を見せてほしい…たのむ…!」
「い、いやですっ!わ、わたしの顔は片桐はいりにそっくりなんで、いやですっ!」
「そ、そこをなんとか…!」
しばらく押し問答を続けるリムリットとエスカの姿を、王はニヤニヤと見ていた。

「占い美少女エスカたんの顔が気になるようだが…いま自分たちがどういう状況かちゃんと理解してるのか?」
王はリムリットに懐から取り出したマジックハンドを向けて、カシカシと動かした。
「り、リムリット様!あいつのブラフである可能性もあります!早く魔法を!」
「あ、あぁ…フレイムバーストッ!」
ポシュンッ…
リムリットの翳した手から煙のようなものが上がり、そのまま何事もなく消えた。
「そ、そんな……!」
「けけけ……その帽子は選んだ人間のみに遠隔で魔力を与えるようだが、選ぶ人間を間違えたようだなぁ!」
ガシャン!!
「きゃあああああ!」「うわあああああ!」
王が叫ぶと、持っていたマジックハンドが突然巨大化し、リムリットの側近2人に襲いかかった。
アームの片方ずつに素早く少女たちを捉え、向かい合わせになった2人をマジックハンドの力で押し付ける!

ギシギシギシ…ギシィッ!
「くっ…あ、あぁっ…痛い……!」
「か、体が……壊れ、るぅ……!」
マジックハンドの圧力が少女2人の体の体を強い力で押し付け合わせ、ギシギシと音を立てた。
「ミント!ココア!……やめろぉ……!2人を話せぇっ!」
「嫌だね…それより今から面白いものを見せてやる。耳を塞いだほうがいいかもな……そらっ!」
王がマジックハンドを持つ手に力を込めた途端、身体中の骨が折れる音と共に魔法少女2人の大絶叫が響き渡った。
ボキボキボキボキィッ!!!
「ひぎゃあああああああああぁあぁあぁあぁあぁあぁ!!!」
「ぐえああぁあああぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁ!!!」


22 : 名無しさん :2017/01/06(金) 20:33:01 ???
ものすごい圧力で身体中の骨を折られた少女たちは、そのままぐったりとして動かなくなった。
「見てろエスカ。これをこうしてこうすると…!」
巨大マジックハンドをもう1つ取り出した王は、骨が折れたぐにゃぐにゃの少女たちの手足を動かし絡み合わせていく。
「…よし!前衛的芸術作品の完成だ!」
「うわぁ…ただぐにゃぐにゃこんがらがってるだけじゃないですかぁ…せめてもうちょっと丁寧にしてあげればいいのに…」
王の作った作品は、2人の少女の腕や足がひん曲がった状態でこんがらがっているかなり哲学的な作品だった。
「ああぁっ……!ミントとココアがっ……!」
「あ……あ……リムリッ……さまぁ……」
「あぐぁ……からだ、が………ぉ……」
(うわぁ……腕も足もいろんな方向に曲がってて、どちゃクソ気持ち悪い……しかもなんか喋ってるとさらにグロッキーだなぁ……)
エスカはこみ上げる吐き気を抑えつつ、絶句しているリムリットを見つめる。
(うーん、この子もどっかで見たことあるような気が…?)

「さてさて、後に残ったのは1人じゃ何もできないお子様女王様か。俺様の城を無茶苦茶にしてくれた罰はどうしてくれようか……」
ポキポキと指を鳴らしながら近づいてくる王。それを見たリムリットはすかさず後ずさった。
「ひぃ……!よ、よせぇっ!わらわに手を出せば、ルミナスと同盟を結んでいる国たちがお前を全力で潰しにかかるぞっ……!」
「ふん。だからなんだ?たとえそうなったところで、このイータブリックスが落ちることはない。お前と違って俺さまは強いし、優秀な部下にも恵まれているからな。」
「くっ…や、やめろぉ…4代目様…助けてっ…!」
(…ん?今エスカを見て言った?)
恐怖でずるずると後ずさるリムリットの股間に、じんわりと染みが広がっていく。失禁してしまったのだ。
「……あ、お漏らししてる。も〜くちゃいくちゃいですよぉ〜」
「エスカ。お前が取り替えてやるか?」
「い、いやですっ!わたし子育てとかできないタイプの女なんで、いやですっ!」
「あ……ぁ……!」
ふざけた様子で会話をする2人を前にして、8歳のリムリットの精神が崩壊を始めようとしたその時だった。

「そこまでよっ!!!」
勇ましい声とともに王たちのいる部屋に入ってきたのは、金色の魔法少女、市松鏡花…リフレクト・ブルームだった。
鏡花は長い黒髪と大きな胸を揺らしながら、王とリムリットの間に素早く着地する。
「ほぉ、貴様か…なるほど少しは遊べそうだ。」
「くっ……!よくもリムリット様を…!私はあなたを許さないッ!」
「許さないからなんだぁ?お前も俺様に恐怖してションベン撒き散らしたいってのか?ケケケケ!」
(王様…完全に悪役っぽくなるのほんとに上手だなぁ…)


23 : 名無しさん :2017/01/07(土) 11:22:34 ???
「光の刃よ、敵を切り裂け!…シャイニングセイバー!!」

金色の魔法少女リフレクト・ブルーム…異世界から来た少女、市松鏡花。
実力はさっきの女王の側近の2人より数段上みたいだけど…

「ヒヒヒ!…遅い遅い…ルミナス最強の軍団長サマの攻撃はその程度かぁ?」
「えっ!?かわされ…っきゃああ!!!」
「ん〜…この圧倒的ボリューム、瑠奈以上だな…しかも瑠奈のはプリッとしてて揉むと適度な弾力があったが、
こっちはまるでマシュマロみたいにフカフカじゃあないか…指がズブズブ沈んでいくぞ。感度もかなり良好と見た」
「や、やめて!はなしてっ…いやああ!!パンツ脱がさないでぇぇ!!」

あーいうのに免疫がないタイプか……相性が、最悪すぎるな。王様もここぞとばかりにねちっこい。

「お姉ちゃんを放せっ!!…スプラッシュアロー!!」

…遅れて乱入してきたのは、水色の魔法少女アクア・ウィング…鏡花の妹、市松水鳥。
だが姉があの調子だし、小学生の妹も…

「おっと…5年生にもなってキティちゃんパンツとか!ちゃんと初潮来てんの?おブラもそろそろ着けといた方がいんじゃね?」
「きゃああああああ!!!な、なんなのコイツーーー!?」
…推して知るべしか。「遊べそう」という王の予想は当たってたみたいだ。

それにしても気になるのは…
「も…もう……終わりじゃ……セイクリッド・ストーンが失われたら……魔法王国ルミナスは、二度と……」
そう…さっきの、ルミナスのナンバー2が実は十輝星で…って話。

「今のはヤバかったなー!もう少しで当たる所だったぜ…アセアセ。…おや?このハンカチ、キティちゃんの絵が描いてあるぞー?」
「…え!?…ちょっ…嘘でしょ…!?」
「まさか、今の一瞬で…!?……いくらなんでも速すぎる…なんて恐ろしい奴なの……!」

違うんだなー。いや、あれはあれでだいぶヤバいんだが、あの王の本当に恐ろしいのは…

「なーんだ妹ちゃんのパンツだったのか!仕方ない、返してあげるよ…俺がシコった後でよければな!」
「っ…!!!」
「どうしたのー?精液がそんなに珍しい?…なわけないか!さっき真凛ちゃんがベッタベタにされてたの見てるもんなぁぁ!?」
「こっ…のおおおお!!!!」

さっきの話が全部、嘘っぱちかも知れない、って所だ…。


24 : 名無しさん :2017/01/07(土) 11:27:55 ???
魔法少女たちは、のらりくらりと攻撃をかわされ、魔力をいたずらに浪費し、焦りと疲労でますます動きが鈍っていく。
一方の王は、服の上からブラのホックを外したり、パンツ越しにお尻の穴に指を捻じ込んだり、調子に乗ってやりたい放題。
相手をさんざんおちょくり、虚仮にしまくり、とことん弄び、絶対的優位を印象付ける…過去に何度も見てきた、王の必勝パターンだ。

「さて。二人とも全身揉み解されて、身体があったまってきた所で…本格的に、嬲り殺しにしてやるよ。ヒヒッ…」
…王は両手にマジックハンド、両肩にもロボットアームを装着しての4本腕…私はこれを『虐殺モード』と呼んでいる。

ガコッ!!ドゴッ!!ドゴッ!!ベキッ!!…ドチャッ!!…ビチャッ!!
「きゃあああぁっ!!!」「うぐっ!!!」「っああ!!!」「…っ……」「……」
王は鏡花の片足を掴み、何度も何度も石床に叩き付ける。
最初の方は石の砕ける乾いた音。次第に、折れちゃいけない物が折れる音が混じり…
最後の方は、湿り気を帯びた破裂音…まるで水風船でも叩き付けるような…に変わっていった。

(ピーマンだのパンダさんだのは…私の占いから得た情報も含まれていたし……)

ぎちっ……ぎちぎちっ……ぐきっ…みしみしっ…!!
「お姉ちゃん! お姉……っ、っぐ、あぁぁああぁっ!!!」
巨大なマジックハンドが水鳥を持ち上げた。首と脚を掴み、身体を無理やり反り返らせる。
魔法少女の強靭な肉体、そして水鳥の身体自体も柔軟なのか、ほぼ180度…限界まで曲げられても「折れずに」持ちこたえている。
「ヒヒヒッ…さっきまでブチ切れモードで髪の毛キンキラ、DB並みに身体からオーラ出てたのに…
今じゃ髪の色も戻って単なるコスプレ同然、弱ってるのまるわかり。…魔法少女ってのはホント、遊びがいがあって最高だぜ!!」

(魔法の効果は術者のメンタルがかなり影響するから、さっき女王の魔法が不発だったのも魔力が失われたせいとは限らない)

…王は顔面が床に直撃して以降反応がなくなった鏡花を投げ捨てた。
そして水鳥の両足を掴み、股間をグリグリと踏みにじる。これはいわゆる…アレだ。
「やっぱ小学生には、この技に限る!…キ〜ング…電気アンマ!オラオラオラオラオラアアア!!!」
「ひぃっ!?…あ、んんっ……そ、そこは…っ!…やめ、てっ…ひいいいいい!」

(そもそも最強魔術師の力の源を壊すなんてやり方、あの王様がやるとは思えん)

一度捕まれば、脱出はほぼ不可能。相手の反撃を完全に封じ、安全圏から一方的に急所を攻撃できる…
いかにも王の好きそうな技だが、これだけでは終わらない。

「ケケケケッ!!泣き、わめけ。もっとミジメに許しを請え…だが許さん。王に逆らった報い、その身に刻み付けるがいい…」
マジックハンドを床につき、電気アンマの体勢を保ったまま真上に大きく跳躍。そしてそのまま落ちてくる。
魔法少女である水鳥は空を飛べるはずだが、王の異様な迫力に心が折れ、それを考える余裕すらないようだ。

(あんなタイミングよく石が破壊されるのも不自然だし、デネブの事を聞いた時の王様のリアクションも…どうもアヤシイ。)

「キン〜〜グ………ヘルズ・ギロチン!!」
「イヤあぁぁぁあああああっっっ…ヒカリちゃあああん!!!」
落下の勢いに王の全体重を乗せた、強烈すぎる一撃。水鳥は股間を潰され、泡を吹いて気絶した。

(今さら考えても仕方ないけど、もしデネブの話がブラフだったとしたら…要するに王は、世界最強の魔術師を口先だけで屈服させた、という事か)
(力があるだけじゃ、王には勝てない…ましてやあの二人とじゃ、役者が違うというか…いいカモだな)

変身が解け、普通の人間に戻った鏡花と水鳥。ロボットアームに捕らえられて、もはや虫の息と言ったところだ。
異世界人である二人の運命を読む事はできないが、女王の側近達の末路を見れば、大方の予想はつく。

「はあっ……はあっ……こんな所で、終わりだなんて……」
「ヒカリ…ごめん…あなたの事…助けられそうに、ない…」

巨大な機械の手が閉じられていく…大量の血がびちゃびちゃと床を汚し、やがて…
「「っぎゃあああああああああああ!!!!」」
王都中に響かんばかりの断末魔。…まだそんな声が出せたんだ。と、思わず冷静に感心してしまった。
しばらく王の下についているうちに感覚がマヒして、近頃はこうした光景を見ても大して気にならなくなっているのだ…慣れって怖い。

(…しかしなんか、また聞き覚えのある名前が出てきたな。どこかで、聞いた気がするんだけど………誰だっけ?)


25 : 名無しさん :2017/01/07(土) 18:03:52 ???
「さて、おチビちゃん。これでもう、お前を守るものは誰もいない…お仕置きの時間だ…ヒヒヒヒッ…!」

…そんなこんなで、世界の命運を賭けた最後の戦いが始まった。

魔法の使えない普通の8歳児…女王リムリット・なんとかかんとかに対し、
改造マジックハンドや特殊効果付きマントをフル装備して殴り掛かる王。

(どすっ!!ごきっ!!!ぐちゅっ!!どごっ!!!)
「いぎゃっ!!」「げひぃ!!」「んぼっ!!…ぎゃあああああ!!!」
「ごべ…ごべんなざい……ゆる…ひて…」
「え?あれあれー?なんであやまっちゃうの?まだゼンゼンちからいれてなぐってないよー?
ジャチボーギャクのおうをのぞくんじゃなかったのー?」
リムレットの赤紫色に変色したお腹を容赦なく蹴りつけ、嘲り笑う。

(うっわぁ…大人げねぇ〜……)
そもそも戦意とかそういう事以前に、護衛の魔法少女4人が虐殺された時点で
リムリットは完全に泣きが入ってたというのに…

「い、いたい…いだいよぉ…助けて、ウィチルぅ…」
「ケケケ…かわいそうにな〜…信じて留守を任せた腹心に裏切られるとは。お前の敗因は、安易に部下を信用しすぎた事だ…!」
(さっきと真逆の事言ってるし!! さっきと真逆の事言ってるし!!)
…思わず心の中で2回突っ込んでしまった。

「それにしてもその帽子、デカすぎて不釣り合いだな。俺が貰ってやろうか?ん〜〜?」
「……そ……それだ、けは……」
リムリットの帽子を無理やり剥ぎ取ろうとする王。だが先ほどリムリット自身が言っていたが、
女王の証でもある魔法の帽子は被っている者の意志なしには外せないらしい。

「…そうだなぁ。その帽子をくれるなら、あの4人を生き返らせてやってもいいぞ?
どうせもうオマエは魔法を使えないんだし、帽子ぐらいくれてもイイだろ?」
…女王の証を他人、それも戦争相手に差し出す…その事が意味するのは、
すなわちルミナス王国軍の全面降伏、全国民のあらゆる主権の譲渡。
だが、多分…事はそれだけでは済まない。
(こりゃ、さっきの予想は大当たりか……となるとあの帽子、絶対渡しちゃダメなんだけど…)

「………生きかえ、らせる…?……そんな…ことが…」
出来る。…そんなことが、王には出来てしまうのだ。
他人を、命を、「弄ぶ」…それが「王」の「チート」な能力。

「ロード・オブ・ロード(おお しんでしまうとはなさけない)…!」


26 : 名無しさん :2017/01/08(日) 14:11:36 MftVfH7s
その頃、意識を取り戻した唯たちは下水道で戦争が終わるのをじっと待っていた。
酒場の主人、竜殺しのダンは地上の様子を見にいくと言って潜伏場所を離れている。

「ダンさん、大丈夫かなぁ?」
「先ほど敵に襲われた時は、覇気で追い払うほどの実力でしたし…問題ないと思いますわ。」
「覇気でって…ちょっと規格外すぎでしょ。まぁあの顔面を初めて見た時からヤバそうだとは思ってたけど…」
初めてあった時のインパクトは凄まじいものだった。身長2mほどの大柄な体格、スキンヘッド、つり上がった不機嫌そうな目、服の上からでもわかる戦闘に特化した体…明らかにそのスジの人でたる。
瑠奈は最初ついていきたくないと駄々をこねたが、他の奴に捕まると危ないと言われ強引に連れ去られたのであった。

「そんなことより…いつ終わるかもわからないこの戦争が終わるまで、2人はずっとこんなところで待機しているつもりですの?」
アリサが長い金髪を短く結びながら2人に質問した。
「だって…それ以外にできることなんかないよ。できればこの街から離れたいけど、この下水道の道も全然よくわかんないし…」
「唯の言う通りよ。あまり動き回らないほうがいいわ。あのおっさんに守ってもらいつつ、元の世界に戻る方法を探しましょ。」
「なるほど…じゃあわたくしが、元の世界に戻る方法の手がかりを知っていると言ったら?」
「「え?」」
アリサの言葉に、2人とも目が丸くなった。

「わたくしが囚われていた頃に衛兵が話していたんですけれど…大国アルガスではわたくしたちのような異世界人が集められているそうですわ。」
「そうなんだ…なんでみんな集まってるのかな?」
「そこまでは聞けませんでしたわ。でもおそらくみんな、わたくしたちと同じように元の世界に戻りたいはず…きっとなにか手がかりがあると思いませんこと?」
「そうね。ぜひ行ってみたいわ。でもここから近いの?」
「いえ……陸路で行くのならば、アレイ草原、ゼルタ山地、レミア洞窟という3つの場所を超える必要がありますの。…おそらく2日3日でいけるような距離ではないと思いますわ。」
「わあぁ、なんかゲームみたいだね!楽しそう!」
「どこがよ……むしろ鬱になるわ……」

「でも、わたしたちだけだと不安だよね…おじさんにも来てもらえないかなぁ?」
「それとなく一緒に来てくれるか聞いてみましたら、危険だからお前らは当分俺の酒場で匿うって言われてしまいましたわ…」
「まあ、私たち一文無しの女の子だし、普通の人は保護しようとするわよね…てことは今がチャンス?」
瑠奈の言葉を聞いたアリサは、ゆっくりと立ち上がった。

「食料もこの落ちてたバッグに詰め込んでありますわ。あとは貴方たち次第…もし2人がわたくしを止めると言うなら、リコルヌを抜いてでも推し通りますわよ…」
「「……!」」
元の世界に戻る手がかりを得たいのはもちろんだが、アリサが他の2人と違うのは、この世界で育ての親の仇を必ず取るという強い意思がある。
唯と瑠奈が放心しているときにアルフレッドに出くわしたことが、その意思を強く…否、少し暴走させているのだ。
アリサの強い意思を感じさせる目に、2人は少したじろいだ。
「ど、どうしよう瑠奈…!アリサ本気だよ…?」
「…わたしは賛成できないわ。いくらなんでも今の私たちでそんな過酷な旅が出来るわけがない。あのおっさんに匿われながら、この世界の情報をもっと集めるべきよ。動くならそれからにした方がいい。」
「…確かにそうですわね。でもここは王都、あの男のお膝元ですわよ!?すぐに捕まってもおかしくない…!また捕らえられて、この地下水道で牢に入れられて永遠に拷問されるのは、わたくしは絶対に嫌ですわ!」
「だからって…!ねぇお願いアリサ、落ち着いて。何かあったの!?」
「何もありませんわ!早くしないとあのおじ様が戻ってくる…!2人が来ないというのなら、わたくし1人で行きますわっ!」
「ま、待って!1人じゃ危ないに決まってるでしょ!?アリサ、今のあなたは変よ!!お願いだから落ち着いてっ!!」
「うるさいっ!瑠奈っ!そこを退きなさいッ!」
「……!」
アリサは宝剣リコルヌを抜き、瑠奈に襲いかかった!


27 : 名無しさん :2017/01/09(月) 13:09:35 ???
「はああああああっ!」
「る、瑠奈!危ないっ!」
光輝く宝剣を大きく振るい、瑠奈の足を狙って切り払うアリサ。太刀筋を見切った瑠奈は素早く跳躍して向き直った。
「ちょ、ちょちょ!?あんたバカじゃないの!?こんなことやめなさいッ!!」
「今のは警告ですわ。まだわたくしの邪魔をするというなら、たとえあなたたちでも容赦はしない…!」
アリサはゆっくりと剣先を瑠奈に向けた。
「ふん、剣持った途端調子付いてなんなのよ?言っておくけど、私も唯もめちゃくちゃ強いわよ?今のうちに早く謝んなさいっ!この暴力女!」
「る、瑠奈!そんな言い方はやめてよ!」
「…そんな安い挑発には乗りませんわ。わたくしはあなたとおしゃべりしたいわけではありませんの。早くそこを退きなさい。」
「なによその態度…!温室育ちのお嬢様には協調性っていうものがないようね!1人でなんでもできると思い上がってんじゃないわよっ!」
「…これが最後でしてよ。そこを退きなさい。瑠奈。」
ヒートアップする瑠奈とは対照的に、表情を崩さず淡々とした口調を続けるアリサ。その様子を見た瑠奈の怒りのボルテージは最高潮に達した。
「聞く耳持たないってわけね…もう怒ったわ!あんたには私の鉄拳制裁が必要のようねッ!」
頭に血が上った瑠奈はピョンピョンと跳ね、手と足をほぐし始めた。
アリサはゆっくりと、剣を構え直す。
「…わたくしは絶対にあの男に捕まるわけにはいきませんの。申し訳ないけれど、少し動けなくなってもらいますわ!」
「やれるもんならやってみなさいよ!あんたこそ、後で泣いても知らないからね!」
目線を交わし、お互いの意思を確認した2人は勢いよく駆け出した。

「瑠奈ちゃんキーーーック!」
「はっ!」
凄まじいスピードで繰り出された瑠奈の飛び蹴りを、アリサは剣でガードした。
そのまま瑠奈の足を振り払い、鳩尾に剣の柄を叩きつける!
ゴガッ!!
「うあああぁぁっ!」
鈍い音とともに悲鳴が上がり、瑠奈は叩かれた場所を抑えながら後方に飛んだ。
「瑠奈っ!だいじょうぶ!?」
「ぐうっ……あぐあぁっ……ぐうぅっ……!」
多くの交感神経が走る急所を叩かれた瑠奈は、強い痛みに苦しそうに喘いだ。
「頭に血が上った状態で突っ込んでくるからですわ。」
「まだ……まだよっ!はあああああぁぁっ!」
痛みを感じながらも走り出し、アリサの振り上げた剣の間合いに入る瑠奈。空手技「柄取り」で振り下ろされるアリサの剣を奪おうとするが…
「甘いですわっ!」
ガッ!
「がはああぁっ!」
振り上げられた剣は降ろされることなく、代わりに放たれたアリサの回転蹴りが瑠奈の鳩尾にまたもクリーンヒットした。
体勢を崩した瑠奈に、アリサはまたも剣の柄を鳩尾に叩きつける!
ガンッ!
「うがああああああぁあぁあぁぁぁぁっ!」
絶叫しながら吹っ飛んだ瑠奈は地面に叩きつけられ、鳩尾をぎゅっと抑えながら体を丸くした。
「ぐうううっ…!がはっ…!うぁ…!」
「瑠奈ああぁっ!」
急所に3発も重い一撃を喰らい、激痛に悶えながら目に涙を浮かべる瑠奈。その痛ましい姿からアリサは目を背けた。

「…もういいでしょう?助けてもらったことには感謝しているけれど、2人がわたくしに無理に関わる必要はありませんわ。」
「ぐっ……!なんでそうなるのよ……!わたしたち、友達でしょ……?」
「……え?友達……?」
「そ、そうだよ!わたしたち3人で一緒に、元の世界に戻る方法を一緒に見つけようよ!アリサだけいなくなるなんて嫌だよぉっ!」
「………………」
唯と瑠奈の言葉に目を伏せるアリサ。家族以外のつながりなど、幼少期の友達だった彩芽以外に感じたことはなかった。
「…2人の言葉はとても嬉しいのだけれど、わたくしにはやるべきことがあるんですの。絶対に捕まるわけにはいかない……!唯は、わたくしのことを通してくださるのかしら?」
「うっ……友達を傷つけることなんて、できないよ私には……!」
「ば、バカ唯……!ここで止めないと、あの子本当に大変な目に合うかもしれな……げほっ!」
唯は瑠奈の体を抱きかかえながら、大粒の涙を零した。

「2人とも、ありがとう。…さようなら。」
「アリサっ!行かないで!ここにいてぇっ!」
「ま、待ちなさいよッ!アリサああぁっ!」
食料の詰まったバッグを抱えたアリサは、2人の声を背中に浴びながら下水道の闇に消えた。


28 : 名無しさん :2017/01/10(火) 00:18:23 ???
去っていくアリサの背中を見送る事しかできず、後悔の念に苛まれる唯。
瑠奈と一緒に戦ってでも、アリサを止めるべきだったのか?それともアリサと共に行くべきだったのか?
…いくら考えても、答えは出なかった。

(今までは、自分と瑠奈が生き残る事や、元の世界に返る事だけを考えてたけど…
あの王様がいる限り、この世界の人たちはずっと苦しむ事になる。
出来る事なら何とかしたい…けど、私達には何の力も…)

「…唯……ねえ。唯ってば!!」
「!…あ………ご、ごめん。どうしたの瑠奈?」
「何か聞こえない…?」
「…えっ」
(ドドドドドド…………)

瑠奈に言われて耳を澄ませると、確かに周り中から地鳴りのような音が聞こえた。
音はだんだん大きくなり、ついには下水道全体が振動し始める。

「え…何これ、地震…?」
「…ち、違うみたい……あれ見て!唯、逃げるわよ!!」

下水道の奥から、緑色の汚水が流れ込んできた!…それも、通路全体を飲み込むような圧倒的な質量!

「「…きゃああああぁあああぁっ!!!」」

全速力で走り、通路を曲がりながら逃げる唯と瑠奈。
だがどういうわけか、ゼリー状の汚水の塊は、唯達を的確に追いかけてくる。

(おんなのこのー)(ふたりぐみー!)(おいかけろー!!)(むこうにおいこめー!)

「あ、あれ…ただの水じゃない…スライムの塊だわ!!」

地上への出口に通じる道は巧みに先回りされ、二人は少しずつ少しずつ、袋小路へと追い込まれていく。
考えられない事だが…スライム達は、どうやらこの地下水路の構造を熟知しているようだ!

……

「『集合知』と言う言葉を知ってるかね?…多くの知識、大量の情報を集約・体系化し、一つの巨大な知識として活用するものだ。
つまり、地下水路の一部の構造を知る者達を片っ端からスライム化して合体させれば、
通路全体の構造に精通した一つの知性体が出来上がる。
さすれば、例えルミナスの軍勢が下水道から攻めてきても地の利を得て応戦できるというわけだ!」
「誰に話してるんですか教授」
「よくわかんないけど、すごい技術をえらく無駄な方面で活用してるのは分かります教授」


29 : 名無しさん :2017/01/10(火) 15:47:03 ???
「る、瑠奈ぁっ!こっちもダメっ!」
「ヤバイわ…!あのスライム、わたしたちを狙ってるみたい。早く地上に出ないと!」
「でも出口なんて…きゃあああっ!」
唯の上空からスライムが落下し、腕に張り付くと同時に服がジュー…という音を立てて消化された。
(おんなのこの…)(にのうで…)(きもちいいぃん…)
「いやあぁっ!る、瑠奈助けてえっ!」
「わかってる!このっ…唯から離れなさいっ!」
唯の腕に張り付いているスライムを引き剥がそうとする瑠奈。だがありったけの力を込めてもスライムはびくともしない。それどころか、ブチュブチュと気持ち悪い音を立てながら胸や下半身にゆっくりと移動していく…
「ぐううっ……!離れ……なさいよっ……!このぉっ……!」
「る、瑠奈!後ろっ!」
「えっ?」
瑠奈が振り返ると、地を這うスライムたちが目の前まで迫っていた。
(きょにゅう!)(おんなのこ!)(めちゃかわいい!)(つかまえちゃえー!)
「きゃっ!いやあぁっ!」
瑠奈が尻餅をつくのと同時に、飛び込んだスライムが瑠奈の大きな胸に張り付いた。
(はあぁ…)(おっぱい…)(さいこう…)
「ふ…服があぁっ…!この変態スライムっ!早く離れなさいっ!このっ…!んやぁっ!?」
胸に張り付いていた1匹が瑠奈の顔へとジャンプし、瑠奈の顔はスライムに塗れてベトベトになってしまった。
(おんなのこと…きすしてる…きもちいい…)
顔に張り付いたスライムはブチュ…ブチュ…と瑠奈の顔に張り付いては離れてを繰り返し、唇の感触を楽しんでいるようだった。
「うえぇっ…うぶっ…!マジキモい…!うぐえぇ…!」
「瑠奈ああぁっ!…あっ!いやあぁっ!」
唯の体に張り付いたスライムたちも胸と下半身に到着し、衣服を溶かし始める。
ジュー…という音と共に唯の下着が露わになった。
(まっしろぶら…)(まっしろおぱんつ…)(かわいいね…)
「ううっ…どうしよう瑠奈…!」
「んぶえっ…ぐぅっ!んぶぁっ…うぐっ!あうぅっ…!」
チラッと瑠奈の方を見るも、顔についたスライムの激しい動きに苦しそうに喘いでおり、話せる状況ではなさそうだった。
「ううっ…アリサについていかなかった罰かなぁ…誰か助けてぇ…!」


30 : 名無しさん :2017/01/12(木) 23:15:15 ???
ぐちゅっ……じゅるる……ぬるっ……ごぼごぼ…
変幻自在の軟体には蹴りも拳も通用せず、どんなに防ごうとしても指の間をすり抜けて、少女達の敏感な部分を的確に責め立てる。
魔法や特殊能力を持たない2人に、巨大スライムに対抗する術は皆無だった。

(こ、こいつら、さっきから…動きがいやらしすぎっ…!…)
瑠奈の口の中に入り込んだスライムは、舌や歯の一本一本、喉の奥までも容赦なく蹂躙していった。
全身を無数の手や舌に嬲られているような不快感と同時に、身体の奥から沸き起こる背徳的な快感に戸惑う。

(なんで、私……こんなスライムなんかに…)(私のカラダ…感じやすく、なってる…!?)
この世界に来て以来、幾度となく理不尽な暴力と共に味わわされた、望まざる快楽の味…
それは意識や記憶から追い出す事はできても、心と身体の奥深くに、決して癒える事のない傷を刻み付ける。

(あばれても…)(ムダムダ)(カラダのなかから)(とかしてやる…)
口や耳鼻はもちろん、ヴァギナやアヌス、果ては尿道や乳腺に至るまで。粘液の魔物は瑠奈の穴という穴から入り込み、
それまで意識の端にも上らなかった場所に眠った性感帯をも掘り起こしていった。

中でも重点的に狙われているのは、やはりその年齢や体格の割に豊かな、胸の膨らみ。
時には根元から搾るように乱暴に捏ね上げられ、時には先端部分を抉るように啄まれ…
不定形の魔物に宿った邪悪な意志や欲望は…少女の身体に最悪の変化をもたらした。

(おっぱい!)(おっぱい!)(おっぱい!)(おっぱい!)
(う…嘘…でしょ……なんでっ……!?…)

(くっ……あああああああぁあああぁぁっ…!!!)
白く濁った液体が胸の先端から迸り、緑色の粘液の中を煙のようにゆらゆら漂う。
瑠奈がその様をただじっと眺めたまま、動けずにいるのは…自身に起きた予想外の異変に、思考が追いついていないためか。
それとも…射乳という未体験の行為によって、想像を超えた快楽に全身を灼かれ…理性も、意識も、弾け飛んでしまったのか。

スライム達は、そんな瑠奈の様子を意にも介さず、淡々と、そして徹底的に、少女の初搾り母乳を延々貪り続けた。

(そうだ、ここは…『こーいう奴ら』が無数にいる…最低な世界、だったんだ…)
(あのオッサンに守ってもらうとか…地下に居れば安全とか…考えが甘かった、かも…)

両胸から母乳を噴き出し、口からは…既に内臓が溶かされ始めているせいだろう。ごぼりと血の塊が吐き出された。
瑠奈の脳裏に死の予感がよぎる。だがこの世界では、死は全ての終わりではない…
果てしなく続く絶望のループ、その通過点の一つでしかないのだ。

………………

「るっ…瑠奈ああっ!!どうしよう、このままじゃ、瑠奈がっ……!!」
唯の服はあっという間にボロボロに溶かされ、露わになった下着の隙間からスライムが入り込む。、
包皮を剥かれたクリトリスに粘液が群がって、全方位から渦を巻くように責め立てられる。

「…ひゃっ!?…やっ…だ、めっ……やめ、てっ……お願いっ…」
下半身をスライムにしっかりと捕らえられて、抵抗も脱出も出来ない。

(ここがじゃくてん?)(いっちゃえ)(いっちゃえ)(いっちゃえ)
「…る、な………ああっ…ああああああ!!!」
小指の先ほどにも満たない小さな器官を、わずかな力でこね回され…
ただそれだけで、唯は為す術なく絶頂に達してしまった。しかもそれは一度や二度では到底終わらない。
スライムから逃れようと身じろぎする度、手足に絡みつく粘液を振り払おうとする度、
制裁とでも言わんばかりに、何度もしつこくねちっこく嬲られる。
…今まで自分ではろくに触れた事もなかっただろうその器官の、快楽機関としてのポテンシャルを掘り起こすかのように。

(やぁっ…瑠奈、たすけないと…だめ、なのに……頭…ぼーっとして……)
危機に陥った友人の前で痴態を晒し、羞恥心と無力感、そして絶望の入り混じった涙を流す。
(このままじゃ…二人とも、おかしくされて…殺されちゃう…何とかして、瑠奈だけでも…)
折れかけた心、途切れそうな意識を再び繋ぎ止め、粘液に沈んだ親友の姿を探す唯。

「瑠奈……るな、…どこ、に……っ…!!!…」
だがそこで、唯は自分の腕の、肘から先が…そして太股から下が、
スライムと同じ半透明の緑色になっている事に気付いた。
「な………何、これ……一体、どうなって……」

(もう、にがさない…)(いっしょに、ひとつに…)(ぐちゃぐちゃに、まざりあおう…)
同化した手足がスライムと混ざり合って、それまでとは段違いの異常な快感が全身を駆け巡る。
このまま全身が取り込まれてしまったら、一体どうなってしまうのか…唯には想像もつかなかった.
だが、その悪夢は間もなく現実の物になろうとしていている。


31 : 名無しさん :2017/01/14(土) 10:44:02 ???
一方。地上、王の間では。
「四人を……生きかえ、らせる…?……そんな…ことが…」
「ヒッヒッヒ…女王陛下。信じられないというのなら、百聞は一見に如かず。見せてやろう、ワタシの力を…」

王が両手を天にかざすと空から眩い光が降り注ぎ、物言わぬ肉塊となったミント、ココア、水鳥、鏡花を包み込んだ。
光が収まった時、そこには………
「げほっ……あれ、私……まだ生きてる…?」
「…から、だ…体、が…元に…戻った…!?」

生き返った四人の姿があった。折れ曲がった手足も、潰され捻じれた肉体も、元通りになっている!

「クックック。死亡、またはそれに近い状態…いわゆるゲームオーバーになった者は、王の前に蘇る。」

「バカな…私たちはさっき、確実に死んだはず」「トーメント王、貴様…一体何をした!」
女王の側近、ミントとココアが王に詰め寄る。

「何をした、と言われても答えようがない。『ロード・オブ・ロード』なんてそれらしい名前をつけてはみたが、
まだ自分でも色々と謎な部分が多いからな。…ただ一つ言えるのは」
…王の目が怪しく輝くと、機械腕が再び動き出し…

「この能力、実に何かと『都合が良い』…何しろ、いろんな美少女ちゃんを何度でも殺し放題なんだからなぁっ!!」
「きゃあああっ!!」「うわああああっ!」
ミントとココアの躰を掴み上げた!

「もちろん女王も例外ではないぞ…!だが素直に帽子を渡して下さるなら、この四人ともども生かしておいてやる。
嫌だというなら……まあ、気が変わるまでじっくり待つさ。お前達を痛めつけながらなぁ…ヒッヒッヒ」

「やっ…やめろ!…やめてくれっ……!!」
女王の悲痛な叫びが響く。それを嘲笑うかのように、王のマジックハンドの指の先端からはドリル状の爪が伸びる。
自分が拒絶している間、自分が、そして目の前で何人もの魔法少女が、無残に殺されていく…
8歳の少女の心は今にも折れる寸前だった。帽子一つで皆の命が助かるなら…と思い始めていた。

「ふざ、けるな……我々の目の黒いうちは…陛下に指一本触れさせない!」
「あの帽子が奪われれば、ルミナスは亡国の道を辿る……あなたの思い通りには…させませんっ…!!」

ミント・ソルベット…23歳。
ライトグリーンの髪をポニーテールにまとめ、すらりとした長身に凛々しい眼差しで、後輩からの人気も高い。
女王リムリットの側近で<ルーク・オブ・アイヴォリー>の称号を持つ。

ココア・ソルベット…23歳。ミントの双子の妹。
ウェーブのかかったダークブラウンのロングヘア、穏やかで優し気な物腰。異性同性を問わず慕われる。
女王リムリットの側近で<ビショップ・オブ・アイヴォリー>の称号を持つ。

一度は無残に殺され、今再び機械腕に捕まった二人。だが主の危機に、再びその闘志を奮い起こし…
「「…変身!!…」」


32 : 名無しさん :2017/01/14(土) 10:48:20 ???
「「…変身!!…」」

ミントは、槍と甲冑で武装した騎士の姿へ。ココアは、杖を持ちローブを纏った神官の姿へ。
眩い光と共に、魔法少女へと変身した。
だが、変身前に機械腕に握りしめられたダメージ、そこから力づくで脱出したことによる疲労。
そして何より…表面には出さずとも、一度は自分たちを惨殺した相手と再び対峙する恐怖心は、
そう簡単に拭い去れる物ではない。

「ミントさん!ココアさん!…私もっ……」
加勢に入ろうとする鏡花。だが彼女の脳裏にも、先ほどの「死の体験」が影を落とす。
何も見えず、聞こえず、痛みさえ感じられず。全身が冷たくなって、体が崩れ落ちていくような…
あの時の感覚が身体の奥にまだ残っている気がして、思わず身震いしてしまう。
隣に目をやると、水鳥も同じ様に脚が震えて立ち上がれずにいるのが見えた。

(私が、しっかりしなきゃ…あんな怖い思い、水鳥にも、女王様にも…もう誰にも、させちゃいけない!)
胸に手を当て、呼吸を整える。恐怖は、それを上回る決意で押さえつけ…
「……変身!!」
金色の魔法少女リフレクトブルームが、再び死の戦場に舞い降りた。

「お姉ちゃんっ!…わ、私も…」
「水鳥…貴女は、陛下『達』を連れて、ここから逃げて」
「え?達、って…」

「手が…足がっ……瑠奈っ…!!…あ。あれ…?……ここ、どこ…?…」
「げほっ、ごほっ!!……ゆ、唯…!?……やれやれ…久々に死んだわね、私達」
…そう。王の能力で蘇ったのは、鏡花達だけではなかったのだ。

「クックック…予想外の獲物だな。実に全く都合がいい…後でじっくりいたぶってやるとするか」
ミントの槍を受け止め、ココアの魔法をかわしながら、王は次なる獲物を見定める。
一難去ってまた一難の唯と瑠奈。だが、二人はそこで意外な人物と再会する事になった。

「げげ。あのバカ王がいる!…って、ちょっと待って…唯!あそこにいる、ローブの人って…」
「あ、あの人。どこかで会ったような…そうだ。たしか、病院で私達を…」
「げげげげ。あの二人は……今余計な事言われたら、私も虐殺されちゃうかも…」
…観戦モードから急転直下、立場上の大ピンチに陥ったエスカ。

(そうだ!あの二人はローブ姿の私しか知らないはず…ローブ脱いじゃえ)
(ていうかローブの下って何着てたっけ?全裸ではないはずだけど…なんか相変わらず記憶があいまいだなあ…)
ローブを脱いではいけない理由があった気がするが……脱いでみても、特に何事もなかった。
むしろ気分がすっきりしている。

(これでよし。…下の服、意外と可愛らしいというか…自分の服のシュミすら覚えてないってどうなのよ。)
(とにかく後は他人の振りを……………ん?なんか、魔法少女勢から妙な視線が……??)

「や、やっぱり貴女は……先代…女王……」「ヒカリ……なの……!?」


33 : 名無しさん :2017/01/16(月) 22:15:09 vTnSbvcY
エスカがローブを脱ぎ捨てると、白髪を無造作に跳ねさせているリムリットと同じ紅い目をした美しい少女が現れた。
服装は髪色と同じ白。袖にはフリル、胸元には小さな赤いリボンが添えられていおり、やや長めのスカートは黒だった。髪型がボサボサだが、整えれば可愛いメイドにも見える格好だ。

「や、やはり4代目様じゃ…!4代目様!わらわのことを覚えておらんのか!」
「あの、私ヨンダイメサマとかいうわけわかんない名前じゃないんですけど……」
「ヒカリちゃん!私だよ!鏡花だよっ!小さい頃一緒に遊んだ鏡花だよぉっ!思い出して!」
「いや、ヒカリでもないんですけど……え、私の名前って姓がヨンダイメサマ で名はヒカリなの?」
「ヒカリ様!思い出してください!ルミナスのこと、私たち魔法少女のこと、ご自身のことを!あなたはあの王に操られているんですっ!」
「4代目様…!わらわはこんなに大きくなったのだぞ…!早く思い出すのじゃあっ…!」
魔法少女たちの突然の激しい呼びかけにエスカは頭を抱えてしまう。
その姿を見た王は、特に何の感情も示さず状況を観察していた。

(4代目様ぁっ…ヒカリちゃん…ヒカリ様…)
エスカの頭の中でそれぞれの言葉が無意味に回転し、脳味噌を侵しつくしてやると言わんばかりに暴れて手のつけようがない。
頭痛が激しくなってきたためか、エスカはその目に涙を浮かべた。
「や、やめて…!やめてぇっ!痛い!痛いよッ!わけわかんないこと言ってエスカを苦しめないでぇっ!」
苦しそうなエスカの姿を見た唯は、ふと思ったことを口にしてしまった。

「あ、あなたはエスカさんだよね?私たちを助けてくれた…」
「ちょ、唯!少しは空気読みなさいよ…!今絶対それいうタイミングじゃないでしょ…」
唯の言葉を聞いて、弾かれたように顔を上げたエスカは口をパクパクと動かした。
「ううっ…エスカ?……うあぁ、あ、あ、んああああああああーーー」
「あれ、エスカさん…?」

「そう、そうだよ…!私はエスカ。エスカはエスカで出来ている。エスカはエスカでエスカはエスカ。幾たびのエスカを超えてエスカ。ただ一度のエスカもなく、ただ一度のエスカもなし。エスカはここに独り。剣のエスカでエスカを鍛つ。ならば我が生涯にエスカはエスカ。この体は、無限のエスカで出来ていた…!」
「よ、4代目様……?」
「ククク……エスカには強い洗脳を施してある。お前らが何を言おうと無駄だ。」
「そうだよっ!エスカは日和見主義だから、何を言っても結局無駄だよっ!私の頭が痛くなるからルミナスとかヒカリとかいうのはやめろ貴様らッッ!!!」
赤い目をカッと見開き、普段の優しい声とは全く違うドスの効いた叫ぶエスカ。その姿に魔法少女たちは言葉を失った。
ただ1人を、除いては。

「おのれ…!トーメント王……!4代目様をおもちゃのように操りおって……!許さん…絶対に許さんぞッ!」
ゴゴゴゴゴゴゴ…!
地鳴りと共にリムリットの服がバサバサとはためき、真っ赤な長い髪が逆立ってゆくその姿はまさしく魔女そのもの。
先代ルミナスを洗脳されていたことが、リムリットの闘志に火をつけてしまったのだ。
「あ、ちょっとこれはヤバそうだな…エスカは下がってろ。ちょっと本気を出さなきゃいけないかもしれん。ヒヒヒヒヒヒ!」
(やばいとか言っといてめちゃくちゃ楽しそうだなぁ…)

「り、リムリット様…!セイクリッドストーンがない状態で、ここまでの魔力を…!すごいです!」
「ココア、私たちは下がったほうがいい。そこの異世界人たちと避難するぞ!鏡花、水鳥、頼む!」
「了解!唯ちゃん、瑠奈ちゃん!私たちの箒に乗って!」
「え、あ、はい…てかなんで私たちの名前知ってるの?」
「説明は後々!早く!」

王の間に残されたトーメント王と5代目ルミナス。
2人の覇者による決戦の火蓋が今、切って落とされようとしていた!


34 : 名無しさん :2017/01/19(木) 23:20:17 ???
「ひっ…いやぁぁっ……誰か、助けて……!!」
「ゲヒヒ…JCのくせになんてけしからんカラダだ…丸かじりにしてやるゼェ!」
…14歳の誕生日を目前にして、市松鏡花は絶体絶命の危機に陥っていた。

突然現れた得体の知れない怪物に襲われ、人気のない廃墟内へと連れ込まれたのだ。
二つの頭には目も鼻もなく、代わりに付いているのは鋭い牙の生えたワニの様な大きな口。
一般的な成人男性より二回りほど大きな体躯を持つその怪物は、
三本の太い腕で鏡花を背後からしっかり抱き着いて捕らえながら、
青緑色の舌をセーラー服の内側に潜り込ませ、全身をぐちょぐちょと舐めまわした。

「ゲヒヒ…ビビっちまって声も出ねえかぁ?」「…ヒヒッ!ココなんて、ションベンの味がするぜ」
平和で退屈な日常から突如降って沸いた死の危険に直面し、鏡花は恐怖の余り悲鳴すら碌に上げられない。
目に涙を溜め、身体を強張らせ、肌の上を無遠慮に這いまわる不気味な二本の舌の感触に耐える…

もちろん最初のうちはどうにか怪物の手から逃れようと死に物狂いで抵抗していたのだが、
もがいている内に身体の力がどんどん抜けて、ついには自力で立っていられなくなってしまった。
全身に塗りこめられた、甘い臭気を放つ唾液のせい…だが、そうと分かったとしても
何の力も持たない少女にはどうすることも出来ない。背後の怪物に身を預けた格好になり、やがて鏡花は全ての思考を放棄した。

全身を唾液まみれにされたせいで真っ白なワンピースタイプのセーラー服が透け、
その内側を怪物の舌が蠢く様子が…下着の中にまで侵入し、乙女の柔肌を好き放題に蹂躙していく様がありありと浮かびあがる。
股間の下に、太くて固くて生暖かい物が押し当てられているのを感じはしたが、憔悴しきった鏡花にはもはや抵抗する気力もなかった。

「ジュルリ…ヒヒッ…俺の唾液は、塗られた者の感度を何倍にも高める…」
「ケケケッ!こうして楽しい事にも当然使えるが、もっとイイのは…」
怪物の頭が肩口から近付くと、鋭い牙の並ぶ咢を開き…
(がぶっ…)(ズブリ……)
「…!!…ぎっ……いあああ"あ"ああ"あっぁあぁ"あ"あッッ!!!」
順調すぎるほどに発育しつつある鏡花の胸の膨らみの一つを、千切り取らんばかりにかぶりついた!

「あああぁああああっ!!や、やめ、ひんじゃうううあああああああ!!!」
「クケケケケ…もっとだ、もっと声を上げて泣き喚け…」
「次は俺様の人食い棒をブチ込んで、そこから内臓食い荒らしてやるぜ…ケケケッ!」

鋭敏化した痛覚によって、理性と恐怖心を強引に呼び戻された鏡花。
だがどんなに足掻いた所で、人外の怪物の力に抗う術などあるはずもない。
それは再び絶望に突き落とされるための、束の間の覚醒に過ぎなかった。

「やああぁあっ!!そこ、だめえええ!誰か、たすけてえええ!!!」
「ヒヒヒッ…無駄だ無駄だ…!」「いくら叫んだって、だぁれも来ねえよッ…!!」

……だが、その時。

「そこまでよっ!!その子を放しなさい、化け物!!」

どこからいつの間に現れたのか。一人の少女が満月を背に壁の上に立ち、
夜の闇を切り裂くような凛とした声を怪物に向けて叩き付けた。

ふわりとしたピンク色のツーサイドアップ、フリルとリボンで飾られたエプロンドレス。
手に持っているのはホウキ…いや、宝石と羽毛があしらわれた魔法の杖だろうか。
キラキラと輝く星屑を纏いながら跳躍。空中で器用に体を折り曲げて回転し…
ふわり、と白鳥のような優雅な仕草で怪物の前に降り立った。

「グギッ…貴様…何モノだ!!」
「流れよバンク!奏でよOP!星の運命に導かれ、魔法少女・プリンセス=ルミナス…ただ今参上!」


35 : 名無しさん :2017/01/19(木) 23:52:13 ???
「おお、なんか魔法少女出てきた……え?これが私だって…?…いやいやいや。ないだろ流石に!!」

エスカが記憶をなくしていると知った鏡花は、過去の思い出…魔法少女ルミナスこと寺瀬光との最初の出会いについて話し始めた。
唯や瑠奈たちと共に箒に乗せられながら、エスカは初対面の少女が語る過去の自分の思い出話を延々と聞かされ…
ついに耐えきれなくなりツッコミを入れ始めたのだった。

「…大体アンタの話、本筋に入るまでが無駄に長すぎだよ!アンタがぺろガブされた話とか関係ないじゃん!
 つか出会う前じゃん!むしろなんで入れたの!」
「話の流れ的に必要かなって…とにかくそこでヒカリに出会って、それから水鳥と三人で暮らすようになって…」
「え?暮らすって、初対面の人間と?…命助けられたぐらいでそこまでする普通!?」

…その後も鏡花は光との思い出を話し続けた。
同じ学校に通った事、魔物に襲われた所を何度も助けてもらった事、水鳥や他の友達と遊びに行った事…
思い出の中の光…ルミナスは、明るく、優しく、悪を許さないまっすぐで強い心を持っていて…

「へー。まさに魔法の国のプリンセス、か…聞けば聞くほど、私とは正反対って感じだな。
 ちなみに私は仕事も戦いも嫌いだし性格は見事に歪んでるし、悪を許さないどころか世界一の大悪人の手下と来たもんだ」
「そ…それはきっと、光はあの王様に操られて…!」
実際、エスカ自身が気付かないレベルで何らかの洗脳を掛けられている可能性は否定できないが…そもそも王への忠誠心自体、ほとんど無いに等しかった。
エスカが王の配下に付いている理由は、単に『雇われたから』『王の配下という後ろ盾が魅力だったから』という程度だったのだ。
鏡花の話を、エスカは鼻で嗤いながら聞き流す。
しかしそれでも、鏡花にはエスカが光本人であるという確信を持っているようだった。

「…私は王様に会う前の事はほとんど覚えてないけど…記憶が無くなっても、元々の性格なんてそう変わるもんじゃない。
そのヒカリって奴が私と似ても似つかないのは、やっぱり別人だったか、あんたの思い出補正で相当美化されてたか、そうでなければ…」
「……………」

「………そいつがムリしてお姫様を演じてたか、だな」
「そんな、事……」

理由など…「本人」でもない限り、知りようもない事だ。
エスカに過去の記憶はない。未来も確実にはわからない。出来るのは…今この瞬間、自分自身を守る事。
魔法の国の女王なんて…「4代目」とやらがいなくなった途端、8歳の女の子を無理やり後釜に仕立て上げて
邪知暴虐の王とタイマン張らせるような連中なんて……どうなろうが知った事か。

「大体一番信じられないのは、アンタと友達だったって事だわ。私…アンタみたいなタイプ、大っ嫌いなんだよね」
寂しがり屋で甘えたがりで、人のプライベートにズカズカ踏み込んで、
困ってる人やらトラブルやらを見かけるとやたらと首を突っ込みたがって、
謎のツモ運で魔物絡みの事件をバシバシ引き当て、実に4クール近くの間たっぷり振り回してくれて…

「……もう、気が済んだ?…そろそろ降ろして欲しいんだけど」
再びローブを羽織るエスカ。言葉を失う鏡花。その視線の先には……エスカの首に無造作にぶら下げられた、手作りのお守り。
かつて、最後の戦いに向かうルミナスに、鏡花自身が贈った物だった。


36 : 名無しさん :2017/01/20(金) 23:51:25 ???
「そ、それ…まだ持っててくれてたんだね。」
「え?…これのこと?」
「うん。ヒカリが魔法の国に戻る前の日に私があげたんだよ。あの頃流行ってた3割ペンダント。願い事が3割の確率で当たるって噂になって、すごくヒカリが欲しがってたからね。」
「3割…?もしかして…」
今まで自分が3割という言葉にやたらと執着していた理由がわからなかったが…どうやらこれが原因らしい。
「4代目…!私たちは貴方をこのままトーメント王の元に返す気はありません。共にルミナスへ帰りましょう!」
「セイクリッドストーンの魔力なら、記憶が戻る可能性もあります!4代目、私たちと一緒に来てくれませんか?」
リムリットの側近2人が、敵意を感じさせない声でエスカに呼びかけた。
「う〜ん、私を誘拐するのはオススメしないよ。悪趣味なトラップを使う拷問のスペシャリストとか、テレポする暗殺者が連れ戻しに来るはずだもん。やめといた方がいいって。」
「他の十輝星ですか…そういえば、ウィチル様は…」
「いや…さっきのリムリット様の強大な魔力はセイクリッドストーンの力がなければ発揮されないはずだ。おそらく奴の虚言だろう…」
「くっ……あの王め……!」
(うーん、でも記憶が戻るならこいつらについて行ってみてもいいかもなぁ。今みたいに攫われでもしないとこうして外に出られないしね…)

エスカがミントたちと神妙な様子で話し始めたため、鏡花は唯たちの乗る箒に近付いた。
「2人とも、怖くない?大丈夫?」
「鏡花ちゃん…だっけ?どうしてわたしや瑠奈のことを知ってるの?」
「あぁ、ちょっと貴方のお母さんにお世話になったことがあってね…その時に瑠奈ちゃんと一緒に行方不明になってたから、この世界に来てるのかなって思ってたの。」
「お、お母さんが…!そうだったんだ…」
「そ、そんなことより、あの女の子1人残して来て大丈夫なわけ?」
「リムリット様が本気で戦うときは、私たちは邪魔なだけだよ。それに…私と同じ運命を変える力を持つ『5人の戦士』の君たちに伝えたいことがあるからね。」
「5人の戦士?なにそれ?」
瑠奈が質問すると同時に、ブーンという大きな羽音が聞こえてきた。
「お姉ちゃん!魔喰虫が来たよ!」
「ごめん、やっぱり今詳しくは話せそうにないな。落ち着いたから話すから、箒から落ちないようにね!」

そう言い残し、鏡花は水鳥と共に向かって来る魔喰虫の前に立ちはだかった。
「水鳥、合わせて!ジェイドストーム!」
「おっけ!アクアエッジ!」
鏡花の起こした緑の竜巻で水鳥が放った水の刃が高速回転し、吸い込まれた虫たちはミキサーにかけられたように分解された。
「す、すごい…!鏡花ちゃんたちすごい!かっこいいね!」
「ほ、ほんとにプリ◯ュアみたいね…わたしたちもあんな風に戦えたらなぁ…」
水鳥は驚きの声を上げる2人にくるんっと振り向き、白い歯を見せてニカッと笑った。
「お姉ちゃんたちにもできるよっ!わたしたちは魔法の才能があっただけ。唯さんと瑠奈さんには…極光体術とか精神柔拳法とかができそうだなぁ…!」


37 : 名無しさん :2017/01/21(土) 19:52:55 C346rcCA
「これで終わりよ、黒衣の魔女ノワール…魔法の国は、そして人間界は…アンタなんかに渡さない」
「ふふふ…見事だ魔法少女ルミナス…だが、我を倒してもこの異空間からは脱出不可能。無限に続く荒野で朽ち果てるがいい…」
「ふん。誰がアンタなんかと心中なんてするもんか……帰らなきゃ…鏡花たちの所に」

「ヒカリっ…無事だったんだね!…本当に…本当によかった…」
「聞こえたんだ。鏡花の声が………このお守りから…」
かくして、魔物の軍勢を操り人間界への侵略を企てた「黒衣の魔女」は光の魔法少女・プリンセスルミナスによって倒され…
長きにわたった13人の魔法少女による魔法王国ルミナスの王位争奪戦も、ここに終結した。

(みたいな感じのを想像してたのに…出所はけっこうガッカリだった!何だよ3割お守りって!)

「…ところで、もう一つ気になる事があるんだけどさ。下で戦ってる5代目女王って、そもそも何者?」
…凄まじい魔力を持っているのは確かだが、それだけで女王という地位に就けるとは思えない。
魔法の国ってどうやって王を決めるんだ?オーソドックスに世襲制度?だとしたら。
「まさか私…いや、4代目ルミナスの…」
「……妹君にあらせられます」
「…それを最初にっ!!…い、いや。私には…関係…ない、けど、さ……たぶん」

………………

「俺様のメカハンドを3本も潰してくれるとは…流石は女王!しかもその魔力は無尽蔵…
イイねえ。その帽子、ますます欲しくなってきた」
「ほざくな下郎めが…その腕で、次の術は防げまい!塵も残さず消し飛ばしてくれるわ!!」

王のマントはボロボロになり、両手のマジックハンド、そして左肩のメカアームは破壊されていた。
今やリムリットは魔石が失われた暗示から完全に解放…いや、怒りで我を忘れて、暗示自体が意識から消えたと言った方が正確か。
本来の力を取り戻した最強の魔法少女は、邪悪な王にとどめを刺すべく最後の攻撃魔法の詠唱に入る。
女王の魔力に呼応して大地全体が震え、周囲の空気が渦を巻いて流れ始めた…
女王リムリットの最強呪文「コズミック・エクスプロージョン」。
発動すれば周辺一帯は丸ごと吹き飛ぶ…どんなに王が素早く動こうとも、こればかりはかわしようがないはずだ。

「おお、コワイコワイ…でも何か、忘れてる事があるんじゃないかな?…ヒヒヒ…」
「懺悔の言葉でも吐くのかと思えば……忘れてる事じゃと?この期に及んで一体何を……」

王が機械の腕を掲げると、天から光が降り注ぎ…
「…確か、少なくとももう一人いたよなぁ?この戦いで死んでしまった魔法少女が…」
…アイドルのステージ衣装を着た少女…リムリットにも見覚えがあった。
今回の侵攻作戦のために、王都に潜行していた魔法少女……
「…真凛…!!…くっ!!」
王は蘇らせた有坂真凛を盾にした。それを見たリムリットは、発動寸前の攻撃魔法を咄嗟に抑え込む。

バチバチバチ…!!
「うっ………っく、ああああぁぁっ!!」
だがその代償は大きかった。両腕に充填された魔力が暴走、強固な防御魔法が込められたロンググローブが一瞬にして灰になる。
のみならず、両腕が黒く焼け焦げ、幾条もの鎖状の焦げ跡が二の腕の半ばにまで達していた。

「あっ…あ"ああ"あ"あ"ぁぁああっ!!!……腕…わらわの…うで、がぁああぁっ………!!」
発動時の威力から考えれば、この程度で済んだのは奇跡的とも言えるが…
魔法を使うどころか、すぐ治療しなければ両腕を失いかねない程の重傷だ。

「クックック…そうだよなあ。やっぱ、王たる者は部下を大切にしなきゃなああ!」
苦痛にのたうち、絶叫を上げるリムリット。
王は未だ黒煙燻るリムリットの右腕を、煙草の吸い殻にするようにグリグリと踏みにじった。
「いぎっ……ん、あああああああああ!!!」


38 : 名無しさん :2017/01/21(土) 22:57:43 ???
「自分の魔法で焼かれる気分はどうだ?口だけは達者な女王様…!ケケケケペッ!」
王は下卑た笑いをあげながらリムリットの腕に唾を吐いた。
「ぎゃううううっ!うぎいあああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
ジュー…と王の唾が音を立て、その刺激に小さな悲鳴をあげたリムリット。自らの魔法で焼き尽くされた右腕はもはや空気に触れているだけでも激痛が走り、立ち上がることさえ叶わなかった。

「ん……こ、ここは……?」
王の魔法で蘇り、ゆっくりと目を開けた真凛。
その視界に飛び込んで来たのは、守るべき女王が踏みにじられている光景だった。
「あ…リ、リムリット様あぁっ!」
「お、淫乱ド変態アイドル真凛ちゃんのお目覚めか。お前の映像は城中の兵士のオカズになっているぞ…ケッケッケ!」
「え……?な、何を言って……!?」
「ふん。わからないならじっくり見て思い出すがいい…!」
王が取り出したのは薄型タブレット端末。ビデオ再生準備になっている画面を王がタップすると、ズチュッ!ズチュッ!という激しい水音が聞こえてきた。
「な……なんじゃ……?この音は……?」
「あ〜、8歳のお子様には刺激が強すぎるかもなぁ…」
「ま……まさかそんな……!いやっ!いやあぁああぁっ!やめてええええ!!!流さないでえええええええッッ!!!!」

『ひぎゅううっ!あぐっ!やあぁっ!んやぅああんっ!』
『ふぁっ、あー、あひぃっ、あう、あう、ああぁんっ!』
『ふああー、あっ、あー、あはあぁああんっ…!はあぁっ』
『うはあぁぁぁううぅ……!あはあんっ!い、いいっ!これ、あ、あぅ、きもち、いいぃいっ!』
『はう、あ、はぁん!あひっ、は、ああん!いいっ、いいっ!もうらめぇえええっ!』

…端末で再生されたのは、あの絶倫三兄弟に犯された真凛が、激しく喘いだ部分のみ流れるように編集された動画だった。
「い、今のは……真凛の声なのか……?」
「俺もびっくりしたよ。何度聞いてもアイドルとは思えない声出してるよなぁ……魔法少女っていうのは男の肉棒に飢えてるんだねぇ?」
「あ……ぁ……ちがう……!ちがうっ……!」
「もしかして、女王様も欲しい?多分入んないだろうけど、試してみる?ケケケ!」
「ぐうぅ……!げ…下衆がぁ……!」

「さて、そろそろお前らにも飽きてきたし、これで終わりにするか…」
そう言うと王はマントと上着を脱ぎ捨て、その隠されていた上半身が露わになった。
白日の下に晒されたトーメント王の体を見て、2人の少女は言葉を失う。
ゴツゴツと鍛え上げられた筋肉、カッチリと6つに割れた腹筋、丸太のような腕…そこには「男」の強大な力がありありと顕現していた。
「さて…真凛ちゃん。旅行するならどこに行きたい?」
「え……?り、旅行……?」
「はぁ…ノリが悪いねえ。やっぱり君はあそこがよさそうだなっ…!」
ドンッ!と音がしたその瞬間…リムリットは口を開けたまま言葉を失った。
凄まじいスピードで打ち出された王の拳により、真凛の体は一瞬にして吹き飛んでしまったのだ。

「ぃゃぁぁぁぁぁ…!」

遠くに響く真凛の絶叫。悲鳴すらも全く間に合っていなかった。
「ふう…淫乱魔法少女は森に送ってやったよ。人間の雌に発情する触手が大量に住んでいる、平和で美しい森にな…!」
「あ……あ……!真凛……!」
「安心しろ…貴様は旅行はなしだ。もうすぐ記憶を失って、俺様の奴隷になるんだからなぁ…ケケケケ!!!!」


39 : 名無しさん :2017/01/21(土) 23:42:11 ???
「き…貴様の傀儡になるくらいなら…ここで死んだほうがマシじゃあっ!!」
最後の力を振り絞って放ったリムリットの炎弾は、王とリムリットの間の脆い足場に命中した。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…!!

「あらーあ。わざわざここで死んだところで俺様に帽子を取られるだけなのに…ルミナスってやつは、どいつもこいつも見苦しいねえ…」

崩れ落ちる城の瓦礫と共に落ちていくリムリット。その目には大粒の涙が浮かんでいた。

(ヒカリお姉様…リムはここまでのようです…!お姉様を助けられなくて…ごめんなさい…!)

もっとおねえちゃんと話したかった。
8歳でルミナスになったリムはすごい、とおねえちゃんに言って欲しかった。
おねえちゃんと一緒に、大好きなみんなと一緒に、ルミナスを今よりもっと素敵な国にしたかった……
朦朧とする意識の中、リムリットは幼い頃に見たヒカリの優しい笑顔を思い出していた。

「リムは……おねえちゃんを……絶対助けなきゃいけないのに……!えぐっ…!ごめんなさい…!ヒカリおねえちゃぁん…ぐすっ…ごめんなさいぃい…!」

ルミナス最強の魔法少女は、紅い目を滲ませ涙を流したまま瓦礫の山に埋もれていった…


40 : 名無しさん :2017/01/22(日) 10:40:49 ???
「おっと。死ぬ前に、帽子だけ回収しとくかなぁ…首をもぎ取られたら、流石に帽子も被ってられないだろ」
瓦礫から落ちかけた女王の帽子を、王の機械腕が捕らえる。
首だけで自重を支える体勢になったリムリットだが、抵抗しようにも焼け焦げた両腕はピクリとも動かせない。

「女王様!真凛!」
「助けなきゃ!…唯さん瑠奈さん、ここに居て!」
「えっ。居てって…ちょ、ちょっと待っ……!」
水鳥は鏡花の箒に移ると、リムリット救出に向かった。

「陛下っ!…私も行く。ココア、4代目を頼む!」
「…待った、私も連れてって。ココアはあのちびっこを治療…いやその、ココア…さんは、回復魔法得意っぽいし?見た目的に…」
…ミントとココア、そしてエスカもその後に続く。

「ちょっと!なんかこれ、暴れ出したー!?」
「瑠奈、掴まって!!……こんの…大人しく、しなさいーっ!!」
残された唯と瑠奈は、箒にしがみつくだけで精一杯だったが……

(…そうだ。この箒…お祖父ちゃんに習った薙刀と棒術の要領で操縦すれば……)
「あっ……ちょっと安定してきた。唯、すごい…!」
ブーメラン空手にも匹敵する奇跡的コラボ!魔法の箒と棒術を組み合わせた全く新しい格闘技がここに誕生した!

「トーメント王!陛下を放しなさい!」
「ん〜?…状況が理解できてないのかお前ら?チェックメイトしてるのはこっちだぞ?
 お前らこそ女王を放してほしかったら、全員変身を解いてジャンピング土下座でもしたらどうだ?
 …大体なんでエスカがそっち側に居る?…ま、そいつらと一緒に痛い目見たいって言うなら別にいいけどな…ヒヒヒ!」
「いやー…私も捕虜って事で。ここはひとつ、人質交換〜みたいな感じにできません?」
「するわけないだろバカ。お前ごときを女王と引き換えにできるかっつーの」
「よ、予想はしてたけど…王たる者は部下を大切にしましょうよぉぉ!!」

膠着状態に陥る状況…だがその時。
「きゃああああっ!?……」
唯の乗る箒が上空から落ちてきて、機械腕を破壊!
「嫌あああっ!!…危ないどいてどいてっ……いや待てよ、やっぱどかなくていいわ。……瑠奈ちゃん流星脚ッ!!」
「んぎゃっ!!?」
そして落下の勢いを利用した瑠奈の跳び蹴りが、王の顔面に直撃した。


41 : 名無しさん :2017/01/22(日) 11:40:02 ???
「いったー……る、瑠奈……大丈夫…?」
先ほど産声を上げた全く新しい格闘技、実戦には時期尚早かと思われたが…予想以上の効果を発揮したようだ。
機械腕から解放されたリムリットの元に、魔法少女達…そしてエスカが駆け寄る。

「陛下!…すぐに怪我と火傷の治療を!」
「真凛ちゃん、大丈夫かな…早く助けに行かないと…」
「はー。あのアホ王に一発入れられてスッキリしたわ。…それに、もう自慢の装備も残ってないはず」
「今度こそ、終わりだ……トーメント王!」

王と対峙する水鳥とミント、そして唯と瑠奈。
リムリットを治療するココア、それを守る鏡花。そしてエスカ…
「…くそう!くそう!8対1とは卑怯なり。我が野望、もはやこれまでか……
 ………って、思うじゃん?……ヒヒヒヒッ…!」
(……ま、まだ何かあるっていうの…!?)

「…うわ、ひどい怪我……あの王、本当に子供にも手加減なしだな…ええと。…よく頑張ったなーちびっ子。
 なんというか…すごいよ。その歳で、王様になって、みんなのために戦うなんて…」
エスカはリムリットの前にかがみ込むと、着ていたローブをリムリットに羽織らせる。
ローブを脱いだエスカの瞳は、リムリットと同じ、燃えるような赤い色をしていた。

「ぐすっ……うん…リム、がんばったの……おねえちゃんがかえってくるまで、がんばろうって………ひぐっ…」
「……いや、私はお前のお姉ちゃんじゃ……ゴニョゴニョ」
リムリットが差し出したのは、魔帽セイクリッドダークネス…ルミナス王国の女王の証。
(やっぱそう来るか……こんなの受け取れるわけないじゃん……どうしよう)

「どうした、要らぬのか?……ならば、我が貰ってやっても良いぞ」
…その時。どこからか聞こえた声に、エスカの背筋は凍り付いた。
記憶の奥底の底で、消しきれずにこびり付いた恐怖が呼び起こされる。冷たく黒い意志を帯びた声……

「我の…黒衣の魔女ノワールの声……忘れたとは言わさぬぞ?…魔法少女ルミナス」
「…どちら様でしたっけ。いや、マジで……」

「…おはようノワール。約束通り、極上の魔法少女の体をどれでも選び放題だ。
なんと今なら、魔法王国6代目女王の座も付いてくるぞ……ヒッヒッヒ…!」

「そうじゃのう…現女王の小娘は既に燃えカス……ルミナスの身体を乗っ取るのも一興じゃが、それよりも…」
黒いローブが標的にしたのは、エスカでもリムリットでもなく、その横にいた…
「…鏡花…!?……マジかよ…」
…エスカの黒いローブを身に纏い、リムリットの手から帽子を奪い取って被る。
異世界から来た少女、市松鏡花は…今まさに、闇の戦士として覚醒してしまった。

「…この仲間の身体で、他の者が一人ずつ嬲り殺される様を見届けさせてやろう」
「…で、私を殺すのは最後にしてやるって?……あれは嘘だ、とか言われる前にスタコラサッサしたいわ、ほんと…」

「迷った末に、一番おっぱいの大きい奴に憑依したか…わかる、わかるぞノワール。くっくっく……」
「いや違うと思う」
「…………クックック…無様よのうルミナス……はーっはっはっは!!」
「…おい!!」


42 : 名無しさん :2017/01/22(日) 16:26:18 ???
「あ、あれは瑠奈を操ってたローブ…!」
唯の脳裏に格闘場で対峙した時の記憶が蘇った。闇の世界で失禁するほどの恐怖を植え付けられたことや、朦朧とする意識の中で10分間に渡る瑠奈との接吻…
思い出しただけでも握りしめた手が震える。
「さぁ、先に死にたいのは誰だ?わらわが安らかな死を与えてやるぞ…!」
「くっ…ココア!リムリット様達と逃げろ!ここはわたしが食い止めるッ!」
「お、おねえちゃん…!まさか1人で残るつもりなの!?」
「ココア…アイヴォリーの称号にかけて、リムリット様をルミナスへ連れて帰れ!これは命令だッ!」
ミントは自ら前に出て王とノワールからリムリット達を守るように障壁を発生させた。
「くっ…!みんな、箒に乗って!リムリット様が倒れた今、私たちに勝ち目はないわ!ここから脱出するよッ!」
「で、でも、ミントさんは…!」
「…お姉ちゃんなら…きっと、きっと大丈夫だからっ…!」

「フン…全員お前を残して逃げていったぞ。薄情な連中じゃのう…」
障壁の外で逃げていくココア達を見て、ノワールは鼻を鳴らした。
「ノワール…!ルミナスに楯突くどころか、トーメント王の手下に堕ちるとは…!この死に損ないが!」
「黙れ、雑魚。あの時わらわの前で膝を付いた貴様が勝てると思っているのか?ミント・ソルベットよ…ククク…」
「あの時とは違うぞ…!リムリット様の右腕であるわたしを甘く見るなよっ!」
ミントの懐から5冊の本が飛び出し、赤、黄、青、茶、紫に輝き始める。どうやらこの本がミントの魔法の触媒らしい。
「ほう…火、雷、水、地、闇の属性か…普通は1冊で限界のところを上級魔道書を、しかも5冊同時に操るとはな。」
「ノワール。俺様は下がるぞ。そのポニーテールをひん剥いておけよ…!」
「わかっておる。いつもながら命の保証はないがな…!」



ミント・ソルベットが囮になったことで、王都から脱出したリムリット、ココア、エスカ、水鳥、唯、瑠奈。
「うっ…うっ…お姉ちゃんがぁ…!ノワールに操られちゃった…!」
「水鳥……くっ…」
水鳥、ココア共に最愛の姉を敵地に残したままだ。唯達は咽び泣く彼女達に声をかけることもできなかった。
「水鳥…ココアよ…ゴホッ!……わらわが…力及ばぬばかりに……申し訳な、ゲホッガホッ!」
「リムリット様…!無理して口を開かないでください!リムリット様が責任を感じることはありませんっ!」
ココアがそう訴えるも、リムリットは謝罪の言葉を辞めなかった。
その様子を見た魔法少女達が考えたことはただ1つ…今回の戦において、ルミナスが完全敗北したという事実のみだった。

「…なんか、大変なことになってきたわね…私たちはどうする?唯。」
「…アリサが心配、だな…やっぱりこんな世界で1人でいるのは危険だよ。なんとかしてあげないと…」
この世界でどうしてもやるべきことがある、と言い残し、自分たちの前から去ったアリサ。その悲しげな後ろ姿が、唯の頭から離れることはなかった。
「そうね。アイツ…私たちよりは強いとはいえ心配よね…」
「でも、助けてくれたミントさんや鏡花ちゃんも助けたいよ…!」
「…なんにせよ、私たちはこの世界でもっと強くなるべきだわ。助けたいっていう気持ちだけじゃ、誰も守れないもの。」
いつも自分より他人を優先し、その強い想いで親友を助け出した唯。その勇姿には格闘場でエスカも心を打たれた。
その親友…手が早く喧嘩っ早い瑠奈だが、頭の回転は早く、武道で培った精神も眼を見張るものがある。
そんな2人の様子を見て、エスカはこれからの身の振り方を思案した。
(今から王様のところに戻っても、また幽閉されて使われるだけだし…この子達と一緒に世界を変えるのも、それなりに面白いかな…?)


43 : 名無しさん :2017/01/25(水) 23:39:31 ???
所変わって、ここは王都南に広がるアレイ草原。唯たちよりも早く下水道を脱出したアリサは、あのスライムたちに襲われることなく脱出していた。
友に別れを告げ、異世界人が集まるというアルガスの国へと1人向かうアリサ。
草原を根城にしている恐ろしい盗賊たちが、そんな彼女を邪な心で手厚く歓迎していた。

「クソッ…どいつもこいつも女ひとりにやられやがって、情けねえ。」
アリサが峰打ちした盗賊たちが2人を囲むように倒れている。どれも戦闘能力の高い盗賊たちだったが、剣を持ったアリサの前では全く歯が立たなかったようだ。
「あなたも、女ひとり相手に膝をつくことになるんですのよ。ここで大人しく引き下がるなら、見逃して差し上げますわ。」
「ふざけんなっ!女ひとりに俺たちがやられるなんてことがあるかぁっ!テメェは絶対ブッ殺してやる!!」
男は剣を取り出し、鬼のような形相を浮かべてアリサへと走り出した!

「グルルルルルアアアアアアッッッ!!!!ガルアアァアァッ!」
野獣のような大声をあげながら繰り出される怒涛の連続攻撃。その全てをアリサは最小限の動きで軽々といなしていく。
「クソッ…!クソッ!なんで当たらねえ!!」
「闇雲に振り回しているだけでは、どんな名剣もおもちゃと同じ…あなたは剣に遊ばれているだけですわ。」
「こ、この俺が…遊ばれているだと!?そんなワケあるカァッ!!」
「はぁ…わたくしは貴方のような人間が1番嫌いですわ。人の話も聞かず、理不尽に暴力を振りかざすだけの、浅はかで野蛮な原始人が、ね。」
「こんの……クソッガキャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

激昂した男のなぎ払いを舞うように回避し、アリサは一瞬で男の後ろに回り混む。
「なっ…!?」
「稚拙だったとはいえ、わたくしと一緒に踊ったことは誇りに思いなさい…!」
「や、やめろ…ごはあぁっ!!!」



盗賊のボスに峰打ちを決め、アリサはふぅ、と息をついた。
(さっきからこんな連中ばかり…わたくしが1人だから襲いかかってくるんでしょうけど、流石に疲れますわね…)
少なく見ても今まで4、50人と戦闘をしただろう。自分を見るなり目の色を変えて襲ってくる男たちを、アリサは悉く打ち倒している。
敵の前では見せなかったが、剣を振るう腕と、それを支える足にはかなりの疲労が溜まっていた。
(まだお昼の時間なのに…道中こんなことばかりしていたら、身が持ちませんわ…)
とりあえず休憩をすることに決め、近くの岩場に腰を落ち着ける。そこで初めてアリサは背後にいた人影に気がついた。

「嬢ちゃん強えな!この辺で暴れてた山賊どもをみんな倒しちまった!おかげで俺が襲われずにすんだよ。ありがとな。」
「い、いえ…わたくしはただ襲われたから、返り討ちにしただけですわ。」
「それが助かったって言ってんだよ。俺は商人やってんだ。お礼になんか欲しいものやるよ!何が欲しい?」
気前のいい行商人の荷台の中には、洋服や道具や武器が所狭しと詰まっている。
「じゃあお言葉に甘えて…とりあえず洋服が欲しいですわね。」
「おおっ!おおおっ!嬢ちゃん……よく見るとかなり別嬪さんだな!気に入った!掘り出しモンのこれをやるよ!」

商人が出したのは純白のドレス。一見普通のドレスだが…
「ルミナスの魔法少女が作ったドレスだ。弱い魔法なら跳ね返すし、物理攻撃も軽減してくれる。そしてなんと、暑さも寒さも魔力で和らげちまう優れモンだ。水洗いて綺麗になる魔法もかけられてるから、長旅なら必ず役に立つぜ。」
「す、すごいドレスですわね…!でも、こんな素晴らしいものを無償で貰い受けるわけにはいかないですわ。」
「いいんだよ。その格好からしてどうせ金なんか持ってねえだろ?俺の顔を立てると思って持っていってくれや!」

半ば強引にドレスや折りたたみテントなどを無料で押し付けられたアリサ。商人は旅の無事を祈ると言い、手を振りながら去ってしまった。
(本当に、こんな世界にも素敵な人はいるんですのね…夜の寒さも凌げそうだし、とても助かりましたわ…)
間も無く夜の帳が下りようとしている。アリサは寝床を探すために、行動を再開した。


44 : 名無しさん :2017/01/27(金) 02:52:43 ???
「どういう事だ…あいつら、どこにも居ないぞ」
「竜殺しのダン」こと酒場の主人が、唯達が居なくなった事に気付き地下水路を探していると……妙な敵に遭遇した。

(おっ)(さん)(だ)
「な、なんだ?あのバカでかいスライム…!…あれは…」
通路を塞ぐほど大きなスライムの群体。
その身体の中に、見覚えのあるブローチが漂っているのが見えて、嫌な予感が頭をよぎった。
考えたくはないが、もし唯達がこれに襲われたとしたら…
(おとこは)(とかしたくない)(ちじょうに)(にげろ)
「…おいっ!待ちやがれ!!」
ダンはわらわらと逃げ出すスライムを追いかける…

…ちょうどその頃地上では、リムリット率いるルミナス主力部隊が戦線を離脱。
地上から城を攻め立てていた魔法少女達は、魔物の軍勢の追撃をかわすべく撤退戦を繰り広げていた。

………………

「…ああっもう!次から次へとキリがないわ!こっちが攻めてる時はチョロチョロ逃げ回ってたくせに…」
カリン・カーネリアン…魔法少女ブレイジングベル。
経験は浅いが素質は高く、火炎を操る術に長ける。カナヅチなのが珠に瑕。

「…お城は崩れちゃうし、すごく強くて邪悪な魔力を感じるし…一体上で何が起こってるっていうの…!?」
フウコ・トキワ…魔法少女エヴァーウィンド。
カリンと同じく今回が初の実戦で、風を操る術が得意。近眼のため、変身後もメガネを掛けている。

オレンジとグリーン、二人の魔法少女は大通りに密集した魔物の部隊と交戦していた。
だがその時、足元から無数の邪悪な視線。
そこかしこのマンホールや排水溝から緑色の粘液が大量に溢れ出し…

「きゃあぁっ!地下から…」「な…何これっ!?スライム!?」
(わーい)(つかまえた)(いただきまーす)(しましまー)(こっちはぴんくだー)
魔法少女たちの足元はあっという間に水浸し…スライム浸しになってしまった!

「きゃああああっ!!?ダメダメダメダメ、そこはダメええええ!!」
「いっ…いやっ……待って…放してえええ!」
不定形の粘液が無数の人の手や顔、触手に変化して襲い掛かる。

…両脚をスライムで固められてしまった魔法少女達は、空中に逃れることも出来ない。
フウコやカリンのようなスカート型の衣装は魔法少女の衣装としてはごく一般的であるが、
このように足元からの攻撃には非常に弱い、という弱点を抱えていた。

ところで、以下は全くの余談ではあるが…

魔法少女の衣装は一見ヒラヒラのペラペラに見えても
物理的・魔術的・精神的な攻撃に対して強固な防御力を持っている。そういうものである。
肌が露出している部分も少なからずあるが、そういった部分も魔力によって守られている。そういうものである。

だが変身シーンを注視していればわかるが、スカートの内側…みんな大好き例のあの布は、
変身時にも消滅せず残ったままだったりする。すなわち、パンツだけは変身後も自前、という事になる。

その部分だけは魔力の加護を持たない普通の布であり、その薄布を隔てた向こう側は…言うまでもなく最大の弱点。
故に、敵は徹底的にそこを狙う。たとえ攻撃できずともガン見する。
そして彼女達は、何があってもそこを死守しなければならない。なのでヤられるまえに殺る。ていうか見たら殺す。

そういうものなのである。

「こっのお…上等じゃない。フウコ!アレをやるわよ!」
余談の間にたいへんなことになってしまい、怒りを燃やすカリン。
「わ、わかった……いくよ、カリンちゃん!」
同じくとってもたいへんなことになってしまい、堪忍袋の緒が切れたフウコ。

炎と風の魔法少女は、一気に状況を打開するため…奥の手を出した!

「灼熱!」「疾風!」「「合成魔法・フレアトルネード!!」」


45 : 名無しさん :2017/01/28(土) 14:03:42 ???
カリンとフウコの放った熱風は変身したスライムをまとめて焼き払い、足を拘束してパンツを眺めていたスライムたちも、恐怖に戦き逃げていった。
「久しぶりに合成魔法使ったけど、なんか威力上がってない?フウコの魔力また大きくなった?」
「そ、そんなことないよ!カリンちゃんの方が私よりおっきいよ!絶対っ!」
「いや、私の方がおっきいのは知ってるけど、フウコもかなりおっきくなったねって言ってるの!」
「…カリンちゃん、さりげなく私よりおっきいこと自慢しないでよぉ!わたしたちは同じくらいでしょ!」
「そうかなぁ…ま、2人とも成長期だならおっきくなったってことにしとこうか!」


カリンとフウコたちが王都を脱出する様子を、トーメント王は城のバルコニーで頰の腫れをさすりながら眺めていた。
「王様、お怪我は大丈夫ですか?かなり腫れていますが…」
「問題ない。瑠奈の奴め…あいつはもう一度とっ捕まえるか。洗脳なぞしないまま、毎日ゴキブリと便所コオロギを食わせてやる…!」
王の頬の腫れは瑠奈の全体重を乗せた蹴りによって出来たもの。不意打ちだったとはいえ、久しぶりの強い痛みに王は顔をしかめていた。
「王様、フォーマルハウトのエスカ様ですが…報告によると魔法少女たちと共に王都を出ていったようです。さすがに未来予知能力を敵に奪われると、まずいのでは…?」
「フン。問題ないさ…」

王がエスカを幽閉していた理由…それは王城の地下で輝くトーメントクリスタルにある。
ルミナスにあるセイクリッドストーンとと同じく、対象者に魔力を供給する魔石で、その対象はエスカだった。
その魔力を受けられる物は4代目ルミナスであったエスカのように、強い魔力を持つものに限られる。
ルミナスの帽子のような魔力を受け取るアンテナがないため、対象者が王都から離れるとこの能力は使えなくなる。これらは王しか知らない真実であった。

「ルミナスの帽子を奪えただけでも上出来だろう。それより、奴らに破壊された王都をさっさと元に戻しておけ。」
「はっ!思ったよりも被害は大きくなりましたが、奴隷共に鞭を打って復旧は一週間ほどで終わらせます。」
「それと、アルタイルを連れてこい。エスカがいない今、王都には奴の絶対防御魔法が必要だからな…」


46 : 名無しさん :2017/01/28(土) 15:00:47 ???
(ぎゃわー)(ひぎー)(らめええ)
周囲のスライム達を根こそぎ焼き払う、強力な炎の竜巻。
その絶大な威力と攻撃範囲は、上級クラスの魔法少女にも匹敵する。
「ふっ…私達を怒らせた報いよ!」「…えっちなのはいけないと思います」
新人魔法少女の二人が扱うにはあまりに強力な魔法…その制御を可能としたのは、
二人の優れた資質と、強い絆…そして「お気に入りの一枚」を台無しにされた激しい怒り!

「お、やるなぁ新人…よし、残りはアタシが一気に片付けてやるぜ!」
「「きゃあああっ!!」」「あ、あれは…ら、ライカさん…!?」
何とかスライムを殲滅したものの、ボロボロになったスカートを押さえて
モジモジしている新人2名の間を、一陣の風が駆け抜けた。

…すらりとした長身、やや癖のある赤毛で、前髪が大きく跳ねている。
装備はレオタード型のインナースーツに、ジャケット、ロングブーツ…そして金属製の手甲。
彼女の名はライカ・リンクス…格闘を得意とする魔法少女であった。

「ギヒヒッ!なんだアイツ!一人で突っ込んで来るぜ!」
「あんなドエロいハイレグスーツなんか着やがって…完全に誘ってやがる!」
「…ゲヘヘッ…速攻でひん剥いて、あのバインバインなデカチチにかぶりついてやるぜぇ…!」
街の入り口の門を塞ぐように待ちかまえるのは、リザードマンや獣人などの混成魔物部隊…
その大部分は、王都の「平均的」一般市民、および城の衛兵などから改造された人造魔物であった。
ベースとなった人間の歪んだ欲望と狡猾さが残っている分、調子に乗せると通常の魔物以上にタチが悪い存在である。

「フン。どいつもこいつもスケベそうな面並べやがって…アタシの極光体術で、片っ端からぶっ倒してやるぜっ!!」
閃光のような左ジャブの連打でゴブリン達の機関銃掃射を捌き…
「たああああっ!!!」
連続回転しながらの回し蹴りで、盾を構えたリザードマンの集団を文字通り「蹴散らして」いく。

「グロロロッ!?…バカナ…『教授改造ガチャ』の最上級レア『ドラゴンナイト』の俺様ガ…!」
「…今日は特別サービスで見せてやるよ。こいつが師匠直伝の……」
そして嵐のようなコンビネーションから放たれる必殺のフィニッシュブローは…
「魔拳『竜殺し』!!」
「グロロロォォォッ!!」
分厚い鎧に身を固めた巨大竜人を吹き飛ばし、閉ざされた鉄の街門もろとも叩き壊した!

ライカ・リンクス…魔法少女ワイルドストライカー。火炎や雷撃などの直接的な攻撃魔法は苦手とする彼女だが、
魔力によって身体能力を強化する事で圧倒的な近接戦闘能力を発揮するのだ!
「…すっ……」「ごい…です…!」
鬼神のごときライカの戦いぶりに、フウコとカリンは思わず驚嘆のため息を漏らした。

「へへへー…そんなにすごい?何ならお前ら、弟子にしてやろうか。
アタシの地獄の特訓についてくる気があるなら、ゆくゆくは『三代目竜殺し』の称号も…」
「い、いえ!なんか遠慮します!」「私たちには無理です!いろんな意味で!」
スカートを押さえながら後ずさる二人。少なくとも今の二人のあの動きは危険が危ない過ぎる!

「あ、そう?…なーんだ。残念だなー。…どっかにイキのいい新人いないかなー?…」
既に脳内では二人のための地獄の特訓メニューを計画していたライカは、落胆の表情を浮かべた。
魔法少女の育成担当も務める彼女の鬼コーチぶりは、
養成学校(キャンディの奪い合いはしません)でも語り草となっていたのだ…!


47 : 名無しさん :2017/01/28(土) 18:40:52 ???
「…っていうわけで。子供の頃、村を竜に滅ぼされた私を助けてくれた
『竜殺し』のオニイサンが、格闘戦のコーチとしてルミナスにやって来たわけ」
「何ですかそれー!運命の再会じゃないですかー!!」
「めっちゃ甘酸っぱいじゃないですかーー!!」
「いやー…べ、べつにそんなんじゃないって!(てれてれ)」

他の魔法少女の脱出を助けるため、開かれた城門を守るライカ達。
本来撤退戦における『殿軍』とは、自らの命を捨てて敗走する味方を守る、という命懸けの役割なのだが。
敵の追撃がひと段落したので、暇に飽かせてガールズトーク…
それも最高レベルの喰いつき度を誇る鉄板ネタ、いわゆる「コイバナ」に花を咲かせていたのであった。

「…あーもう!この話はおしまい!そろそろ撤収しようぜ!
 あ、言っとくけど、別にその後どうにかなったりはしてないからな…ちょっとしか(てれてれ)」
「いやーー!!ちょっとってなんですかー!!」
「めっちゃ甘酸っぱいじゃないですかーー!!……って。あ……う、後ろ…」
いち早く異変に気付いたのは「全自動めっちゃ甘酸っぱいマシーン」と化していたフウコだった。
いつの間にか、ライカのすぐ背後に巨大な人影が迫っていて……

「……やっぱり、お前だったか…久しぶりだな、ライカ」
「…あ、あれ?……師匠?」
「え……師匠?」「ってことは…」
…さっきのトカゲ獣人並にガタイの良い、このコワモテのおっさ…おじさまが、
あの超甘酸っぱい『竜殺し』のオニイサンの成れの果…いやその。
「なんでこんな所に!?…こ。これがその…う、運命の再会って奴かなー?(てれてれ)」
「「ええぇぇぇえええ…」」

………

「……篠原唯って子とその友達は、ルミナス王国で保護してくれるってさ」
「そうか…ならひとまずは安心だな。そいつらの事、よろしく頼む」
魔力通信で唯達の安否を確認し、ダンは安堵の息を吐いた。

「それは構わないけど…師匠はこれからどうするの?…そうだ、よかったらまたルミナスに…(てれてれ)」
「あ、私ら撤収しますね…」「どうぞごゆっくり…」

カリンとフウコは色々と限界だったため、乾いた愛想笑いと共にその場を離れた。
従って、ライカがあの場でどんな事を話していたのかは定かではない。


48 : 名無しさん :2017/01/29(日) 16:07:30 UQL58AVg
【名前】アイセ
【特徴】24歳。肩まで届く茶髪セミロング。見た目は清楚なゆるふわ系女子だが、敬語が使えず口も悪い。
西部劇が好きなため、ガンマンのような服装をしている。
戦闘の際はホルスターに入った魔力を撃ち出す魔銃をメインに、グレネードや投げナイフなど多種多様な武器を使う戦闘のプロ。
今まで一度も負けたことがないため、戦いにおいてはプライドが高い。



トーメント王を倒すために活動しているレジスタンス達。アイセの率いる「紅蓮」もその一角を担っている。
彼女が居を構えるアレス・ガンダルドの街は、元は王都軍の管理する街だったが、アイセの活躍により王都軍を撤退させ、レジスタンスの拠点となった。
この地を占拠した理由は、豊富な資源。周辺で取れる武器の材料や魔力の触媒などは、紅蓮だけではなく他のレジスタンス達にとっても欠かせないものとなっていた。

「アイセッ!!!ルミナスが王都に戦争仕掛けたんだってよ!!!俺らも便乗して王都でドンパチやるかぁ!?」
2mほどの巨躯の男が、大量の武器を持ってドカドカとアイセの部屋へ乗り込んできた。
アイセと呼ばれた少女はだるそうに椅子に座りながら男を見上げる。
「んあー……今は無理っしょ?この前の戦闘で動ける奴も少ないし、武器もほとんどないんだから。」
そこまで言うと、アイセは入ってきた男をキッと睨みつけた。
「…てかさ、鍵がないんだからノックしてよ。何回言わせんの?あたしがもしここでイケメンの痴態を見ながら裸になってたらどうしてくれんのよ?ダズッ!?」
「あ……ご、ごめん!!!あ、アイセ、許してくれぇ!!」
「ふん……そのセリフも何度目だか。あんたの不細工な顔見たくないから消えて。ついでにカーチェス呼んできて。…駆け足!!!」
「は、はいぃ!!」
紅蓮には、ボスに対しての敬語は不要。なぜなら、ボスの彼女が敬語嫌いだからだ。だがアイセのことは名前で呼ばなければならない。「お前」などと言ってしまうと、プライドの高い彼女の鉄拳制裁が待っている。

「呼んだかアイセ。…相変わらず今日も可愛いな。食べちまいたくなるぜ。いい加減俺と付き合えよ。なぁ?」
「あんたは顔がいいだけで性格ゴミだから却下。…まぁ最近超頑張ってくれてるし、咥えるだけなら一回だけやってあげてもいいけどね。あんた性欲強いから、この環境じゃ溜まるでしょうし。」
「お?マジで?じゃあいつヤるよ。俺は今日の夜でも構わないぜ。へへっ。」
「今日はイヤ。あたしの気が向いたらってことで。…それより、例の情報は?」
アイセの言葉を聞き、軽薄に笑っていた男の表情が真剣に変わった。

「どうやらマジだ。十輝星の1人がアイセを狙ってる。舞やエミリア、アイセみたいな自分たちに刃向かう実力者を排除しておきたいんだろうな。」
「やっぱりマジだったのね……で、私を狙ってる馬鹿の潜伏際はわかってるの?」
「それが……どうも今日この街に入り込んだみてえだ。フードで顔を隠した怪しい奴の目撃情報がある。いつ襲われてもおかしくないぜ。」
カーチェスの言葉を聞き、アイセは右手で髪をいじりながら思案する。彼女がこの動きをしている時に、声をかけてはならない。もし声をかけてしまうと、思考を邪魔されて腹を立てた彼女の鉄拳制裁が待っている。

「こっちから呼びましょ。要は私の命を狙ってるんでしょ?なら私がタイマンはってブチのめせばいい。不意打ちされたくないし、十輝星を生け捕りにすれば王の弱点とか知ってるだろうしね。」
「アイセならそう言うと思ったぜ…だが俺は異を唱えよう。舞やエミリアを倒した十輝星が相手じゃ、さすがのアイセも1人じゃ危険だ。俺たちにも戦わせてくれ。」
「アンタを副ボスに指名した覚えはないし、私一人で充分よ。町中にビラを撒いてここに誘い出しなさい。わたしは逃げも隠れもしない…ってね。」
「だ、だが、アイセ。もし万が一お前がやられたら、俺たちは…!」
そこまで喋ったところで、カーチェスの体はアイセに投げ飛ばされ部屋の外まで吹き飛んだ。
「お前って呼ぶな。そして私に意見するな。お前みたいな雑魚がいたところで私の邪魔だ…」
「ぐ…わ、わかった…!わかったから…!」

再び椅子に座るとホルスターの銃を抜き、クルクルとガンプレイを始めるアイセ。その表情には笑みが浮かんでいる。
「王下十輝星…一度戦ってみたかったのよねー。どれくらいの時間遊べるおもちゃなのか、とっても楽しみだわ…フフフッ♪」
アイセの屈託のない笑顔。破天荒すぎる彼女だが、その笑顔は年相応の爽やかな笑顔だった。


49 : 名無しさん :2017/01/29(日) 16:11:10 ???
ばら撒いたビラを眺めながら、アイセは右手で髪をクルクルといじくり回している。
(ま、準備万端のこっちにわざわざ向かってこないと思うけど……来たらラッキー程度に思っておいた方がいいわね。)

左手でチョコを掴んだ時、アイセの部屋の扉が勢いよく開かれた。
「あ、アイセェッ!!き、来やがったぞ!フードの野郎が!!」
(チッ…こいつまたノックもせずに…あとでシメてやらなきゃね。)
「い、言われた通り奥の広間に通したぜ…なぁ、アイセ1人じゃなくて、俺ら全員でやっちまおうぜ!?」
「わたしが1人でやる。トーメント王に家族を殺された恨み、少しは晴らしたいの。万が一わたしが負けても、あんたらは助けなくていいから逃げなさい。わたしが負けた奴にあんたらが勝てるわけないしね…」
ゆっくりと立ち上がり、ダズを睨みつけながら無言で部屋を出るアイセ。その恐ろしい視線に、ダズは何も言えなくなってしまったのであった。

レジスタンス本部奥の広間はもともと王国軍が利用していた施設のため、ダンスホールのような広さを誇っていた。要するに、アイセが暴れるにはうってつけの場所なのだ。
広間に入ったアイセの視線の先に、黒づくめのフードを被った人物がいた。体のラインがまったくわからないコートを羽織っており、男なのか女なのかも不明だった。
「あなたが十輝星の1人なのね。私はアイセ。レジスタンスグループ『紅蓮』のボスをやっているわ。」
「…………………」
アイセの穏やかな声での挨拶に答えず、フードの人物はゆっくりと右手を懐に忍ばせる。
「フン…顔も見せたくなければ声も聞かせたくないってわけね。いいわ。始めましょうか…!」
ホルスターから銃を抜くアイセ。その瞬間、フードの人物は全速力で襲いかかった。

(な…!早いわね…)
銃を抜くことすら間に合わず、アイセは格闘での対応を余儀なくされた。
フードの人物が右手に持ったナイフに刺されないよう、最新の注意を払いながら敵の猛攻を捌いていく。
「動きが雑よ。そんなんじゃ…私には勝てないわッ!」
一瞬の隙をつき、敵の腹にカウンターを決め込むアイセ。我ながら改心の一撃だったが、敵は少し身じろいだのみで吹き飛ばなかった。
(籠手の衝撃からすると、コートの中に何か入れているようね…でもここからは私のターン!)
パンッ!パンッ!
体勢を崩した敵の虚を突いて早く銃を抜き、敵の足へと発泡したアイセ。しかし…

(馬鹿な…この距離で私が外した!?)

いつもの彼女なら考えられないミスだった。敵は足を抑えることもなく再びこちらへと走り出している。
(き、きっとあのコートの中に秘密があるんだわ…剥がしてやる!)
頭を切り替え、敵のコートを剥がそうとするアイセ。百戦錬磨の彼女はもう敵の癖を見抜いていた。
(…ここだ!)
素早く足払いを繰り出し敵の体勢を崩すとすかさず地面に叩きつけ、マウントポジションを取った。
「さぁ、お顔拝見といきますか!」
アイセが無理やりフードを脱がすと……
そこには、優しそうな顔をした黒髪黒目の青年の顔があった。


50 : 名無しさん :2017/01/29(日) 16:12:36 ???
「あらら…見られちゃいました。あなたすごく強いんですねぇ。」
アイセと同じ年くらいの青年は、穏やかな声でアイセに語りかけた。
「ふ、ふん…なかなかのイケメンじゃない。顔を傷つけるのはやめてあげるわ。大人しく捕まりなさい!」
「いや、そうはいかないんですよ。僕の任務はあなたを捕まえることですから。」
「そう…わたしは短気だから、早く観念した方が身のためよ。」
そう言い、アイセは銃を心臓に突きつける。念のためジッパーを下げて見たが、そこには白いYシャツがあるのみで防弾チョッキなどはなかった。
「雷弾を心臓にぶち込まれたくなかったら、さっさと降参しなさい!」
「い、や、で、す。僕の任務は、あなたを捕まえることですから。」
「この…!!なら、わたしの魔弾で痺れるがいいわッ!」
おうむ返しを続ける十輝星の腹に向けて、アイセは電撃魔法を込めた銃弾を打ち込んだ。

ガィィンッ!
「えっ…!?う゛あ゛っ!?あ゛ぎああ゛かあ゛がぐがあががあああああぁあぁあぁああッッ!?」

予想もしていなかった痛み。それは皮肉にも彼女自身の手で行われた。
ゼロ距離で放った銃弾が弾き返され、身体中に走る電撃と激しい痛みに、アイセは声にならない悲鳴を上げながらびくびくと体を痙攣させる。
術に込められた術式により、感電はしないようになっていた。自分の腰の上で激しく悲鳴を上げ続ける美少女を、青年は優しい眼差しで見つめている。
電撃が止み、10秒ほど天を仰ぎながら口をパクパクとさせた後、アイセはマウントポジジョンの下にいる十輝星の体に倒れこんだ。

「ぐふっ……あ……が……!」
「僕の力だけでもあなたに勝てますけど、やっばりあなたの凄まじい魔力で自滅してもらう方が楽ですからね…なんかごめんなさいね。」
青年の語りかけにも反応できず、アイセは十輝星の体の上でピクピクと体を震わせる。何も知らない人が見るとかなり怪しい光景だった。
「あの…僕に体を預けられても困りますよ。僕は敵なんですから。…まぁ、別にしばらくこのままでもいいんですけど…」
美女と密着しているためか、素っ頓狂なことを言う青年。まあ普通の男なら美女と密着しているだけでも幸せなので、無理もない。
だが彼には任務を終えた後すぐに来いと、王からの呼び出しがかかっている。このままアイセと体を重ねて長居するつもりはなかった。

(それにしても1発でここまでの威力なんて…王都軍が撤退させられたわけだ。この子は危険すぎる。早く連れて帰ろう…)

十輝星が彼女を抱えたとき、広間の扉が勢いよく開け放たれた。
「ア…アイセエェェッ!!!」
「き……貴様あああぁっ!!!アイセを離しやがれぇぇぇえっ!!」
レジスタンスたちがドカドカと入り込み、あっという間に広間は屈強な男たちで埋め尽くされてしまった。

「ちょっと!約束が違いますよっ!1対1って言ったじゃないですか!?」
「うるせえええっ!!このトーメント王の手先がっ!全員で畳んじまえーーー!!!」
掛け声とともに、男祭りのように一斉に雪崩れ込んでくる男たち。十輝星はやれやれと首を振った。
「結局、僕の力を最大限使うしかなさそうですね…やれやれ…」



10分後、広間は男たちの死体と血で凄惨な状況と化していた。
レジスタンスグループ「紅蓮」は、1人の青年によってあっけなく畳まれてしまったのであった……



【十輝星:アルタイル】
本名はヨハン。自分の体に襲いかかる物理攻撃や魔法を弾くことができる。
それだけではなく、吸収、貫通も可能。そして同じことができる結界を、15メートルほどの近距離にも張ることができる。
また、自身の腕を刃物に変えることも可能。まさに矛と盾の能力を併せ持った能力者である。
これらは全て彼の持つ異質な魔力のため、魔力が尽きるとすべての能力が使えなくなってしまう。常軌を逸した魔力量を持つ彼にしかできない恐ろしい能力なのである。


51 : 名無しさん :2017/01/30(月) 01:14:28 ???
「…ノワール!貴様はここで倒す!……喰らえっ!!」
闇の女王ノワールに、突撃を仕掛けるミント。
鎧の背面部に仕込まれた火属性の魔法回路…バーニアと呼ばれる推進装置によって、爆発的な突進力が生み出される。
周囲の瓦礫を吹き飛ばしながら、五属性の魔力を乗せた大型の騎兵槍を突き込む!

「なるほど……複数の属性を重ね合わせる事で、相手の魔力障壁を無効化するか…だが、我には無意味」
対するノワールは、氷、花、鋼、風、光…相反する属性の五重結界で、ミントの突進を正面から受け止めた。

「…貴様が、光の術だと…!?」
「クックック…なぜ驚く。この身体の元の持ち主が誰か、忘れたわけではあるまい?」
激しい力の激突に空間が歪み、騎兵槍が軋みを上げる。

「……鏡花…そうだったな。あいつには悪いが…それでも私は、負けるわけにはいかないっ!!」
ミントの周囲で紫色の…闇の、魔力が弾け、その姿が幻の様に掻き消えた。
…そして次の瞬間。ノワールの背後に現れたミントが、ノワールの結界と同じ白・桃・銀・緑・金の光を纏って急襲する!
闇の高等魔術の一つ、シャドウリープ…近距離を瞬時に移動する魔法である。
瞬間移動と同時に方向転換も行えるため、攻撃の軌道を変え相手の死角を突く事が可能となる。
「…貴様こそ、闇魔法など邪道と抜かしておった筈だが……確かに、貴様の技と相性は良いようだ」
ミントの追撃に対し、ノワールも新たな結界を張って防御した。
…共にあらゆる属性を極めた者同士の戦い。勝敗を分けるのは…単純にして明快、純然たる力の差であった。

「あっ……ぐ、ああああぁぁっ!!」
「ククク…確かに以前の私なら、今の攻撃で…かすり傷くらいは負わせられたかも知れぬなあ?」
瞬間移動を繰り返しながら連続攻撃を仕掛けるミント。だが、闇の術に対しては黒の女王に一日の長があった。
ミントがシャドウリープを発動する前に、ノワールのローブから黒い蛇が飛び出し、その身体を拘束する!

「今や我は、この魔帽によってあらゆる魔導士の頂点に立つ存在となった。
 貴様ごとき玩具の兵隊が我に刃を向けるなど……万死に値するわ!」
ベキンベキンと音を立てながら、黒蛇がミントの鎧を剥ぎ取っていく。
強固な守護術の施された板金鎧は闇の毒牙によって易々と砕かれ、
予め限界以上に掛けられていた、能力強化の魔法も無効化されてしまう。

「これで貴様は、ただの小娘同然…そこの黒蛇に一噛みされれば、闇の毒で悶え苦しみながらあの世行き、というわけだな」
ミントのポニーテールを掴み上げ、耳元で囁くノワール。
「そうやって脅せば、『小娘同然』に泣き叫んで命乞いでもすると思ったか?…『象牙の城兵』を甘く見るなよ」
そのノワールに向き直り、ミントは射殺さんばかりの視線を投げかけた。

「ククク…それで結構。知っての通り、貴様らはあの狂王の力で死んでも死ねないらしいからのう。
『殺してくれ』と哀願したくなるまで殺し続けてやるとしよう」
魔帽の奥で瞳を妖しく輝かせるノワール。ざわり、と音を立てて周辺の空気が変わり……

黒い蛇は、身を焦がす程の高熱を放つ漆黒の鎖へと変化した。
「っぐ……あ"ぁあ"あ"あ"あ"ぁああぁあああっ!!!」
「クックック…だらしのない。まだ呪文の詠唱すらしておらぬぞ?その鎖は、術の『予熱』で温められているにすぎぬ…」

…ノワールが発動しようとしている魔法が何なのか、ミントには心当たりがあった。
ルミナス王国地下に眠る魔石「セイクリッドストーン」に選ばれた者のみが行使できる、最強の攻撃魔法…

「あの狂王の力、果たして全身が粉微塵になっても元通り復活できるものなのか…楽しみじゃの」
「ま、まさか……や、めっ…!!」
喉まで出かかった命乞いの言葉を飲み込み、ミントは最期に妹・ココアの顔を思い浮かべた。

「深淵を這う地獄の業火よ、憎悪と狂乱に彩られし漆黒の闇よ。天を覆う全ての愚かなる真白き光に、今赤き滅びの灼熱を!」
<コズミック・エクスプロージョン!!>
「ココアっ…後は、たの……ぐあああああああああ!!!」
それは邪悪な王の勝鬨を告げる花火か、あるいは新たな闇の時代の到来を告げる、地獄の業火の一端か…
半壊した王都の上空を覆い尽くすほどの巨大な爆炎が、断末魔の悲鳴すらもかき消していった。


52 : 名無しさん :2017/01/31(火) 21:50:35 ???
ルミナス王都「ムーンライト」に到着した唯と瑠奈。
手厚い歓迎…というムードではないが、副将ウィチルの計らいで城の中に部屋を与えられていた。
久しぶりに暑いシャワーを浴びて体は癒せたものの、別れた仲間たちのことを思うと2人とも心穏やかではいられなかった。

「ミントさんも鏡花ちゃんも、大丈夫かな…ココアさんと水鳥ちゃん、とっても悲しそうだったよね。」
「うん…あと心配なのは、あの金髪無鉄砲女ね。正直言って全部私たちの手には負えないわよ…」
「でも……やっぱり心配だよ……なんとかしてあげたいよ……!」
唯の言葉を聞きながら、瑠奈はベッドに体を投げ出した。
(…ハッキリ言って、私は唯と無事に元の世界に帰れればなんだっていいのよね…唯が聞いたら怒るだろうけどさ…)

しばらく沈黙が続いたあと、2人の部屋のドアがノックされた。
「開いてますよー!」
ドアが開けられ立っていたのはオレンジとグリーンの服を纏った魔法少女。カリン・カーネリアンとフウコ・トキワだた。
「あー、唯さんと瑠奈さん、でしたっけ?わたしはカリン、こっちはフウコです。」
「は、初めまして!篠原唯です。こっちは友達の月瀬瑠奈です。よろしくお願いしますっ!」
深々と頭を下げる唯に、フウコは少し慌てふためいた。
「そ、そんなにかしこまらなくてもいいですよ。私たちぜんぜん下っ端なんで…」
「唯さん、瑠奈さん。私たち2人がルミナスを案内します!色々たいへんだったでしょうけど、今は大船に乗ったつもりでいてください。あのトーメント王国とは違って、ルミナスは暴力のない平和な国ですから!」
カリンとフウコの優しい笑顔に、2人は少し心を癒された。
まだまだ先は不透明だが、今の自分たちにできることを求めて、唯と瑠奈はムーンライトの町へと歩き出した。


53 : 名無しさん :2017/01/31(火) 21:54:18 ???
「わあぁ……!なんだよこれ……!」
王都に到着したヨハンは絶句した。久しぶりの故郷はスライムと魔物化した兵に満ち溢れ、好きだった城下町の景観はそこにはなかった。
「ヨハン様!お待ちしておりました。…ん?その大きな籠は…?」
「あ、あぁ…これね。とっても可愛いけど、すっごく凶暴な猫ちゃんが入ってるんだ。開かないでね。フリじゃないから。本当に危険だから。」
「は、はぁ…今はルミナスとの戦争直後でして、通れない道が多数あります。私たちが整備した道がありますので、ご案内致します。こちらへどうぞ。他の十輝星の方々もすでに集まっております。」

王城、謁見の間……はリムリットに破壊されたため、十輝星たちは城の中庭に集まっていた。
「ヨハンーーーー!!!久しぶりですわーーー!!!アイナのこと覚えてますの?忘れてたらその綺麗な顔にヤスリで赤のアクセントを加えてやりますわよーーー!!!」
「お、覚えているよ。ベガのアイナちゃんだよね?まだ小さいのに僕より頑張ってるらしいじゃないか。すごいよ。偉い偉い。」
アイナの頭をポンポンと叩くヨハン。その途端アイナは耳まで赤くなった。
「はうあっ!24のイケメンに見初められてしまいましたわー!でもでもでもでも!アイナにはリザちゃんがいますから、ヨハンとは付き合えませんのであしからず!あしからずっ!」
「はいはい…アトラもシアナもリザも久しぶりだね。元気してた?」
「おー!成長期だからめっちゃ元気だぜ!牛丼も特盛食えるようになったんだ!あとラーメン三郎も野菜マシマシ余裕で食えるし、とつぜんステーキも450ぐらい食えるぜ!めちゃくちゃすげえだろ!」
「それがすごいなら世の中の中年男性みんなすごいことになるぞ。てかなんで食事量の自慢しかないんだよ!もっとマシな自慢しろよ!」
ボケとツッコミは変わってないな、と確認したところで、王が姿を現した。

「よく戻ったなヨハン。西の方ではいろいろとご苦労だった。その籠に入っているのが、魔弾のアイセか?」
「はい。かなりお転婆な子でしたが、なんとか無事に捕まえられました。…ところで王様。エスカの姿が見えませんが…」
ヨハンの言葉に、アトラたちも辺りを見回したが姿はなかった。
「どうせまた遅刻ですわ!あの人は王都に暮らしているのにいつも遅刻していますからね!ぷんぷん!」
「いや…エスカは寝返ったよ。ルミナスにな。」

王の言葉に、皆開いた口が塞がらなかった。
「もしかして、洗脳が解けたんですか…?」
「まー解けてはいないが、好奇心旺盛なあいつのことだ。実の妹やら親友やらの言葉に刺激されたんだろう。残念だがもうここにはいないよ。」
「……じゃあ、未来予知はもう使えない……?」
「うおおお!?リザちゃんがようやく喋りましたわーー!!もう声が可愛いすぎてアイナおかしくなっちゃいそう!心臓が破裂しそう!」
「黙ってろアイナ!これはまずいぞ……エスカの力がないと僕たちの行動もかなり制限されてしまう。今までみたいに全て順風満帆とはいかなくなりそうだ…」
口に手を当てて思案するシアナ。今までの計画は全てエスカの予言ありきだった。それが使えないとなると安全ははなくなり、自分たちの力だけで計画を進めることになる。
「じゃあさ、さっさとエスカの首根っこ掴んで連れ戻せばいーじゃん!」
「馬鹿…ルミナスの王城にいるんだぞ。護衛もたくさんいるだろうし、簡単にいくもんか。」
「じ、じゃあもう先読みチート戦略は使えませんの!?それは流石に困りましたわ…」
十輝星の子供達はざわつき始めた。特異な能力を持っている彼らといえど、エスカの占いがなければより強い能力者にあっさりと負けてしまう可能性も十分あるのだ。
(みんな焦り始めたな…ここは大人の僕がなんとかしなきゃ!)

「みんな落ち着いて。エスカが来る前だって、みんなで上手くやってきただろ?予言なんかなくても君たちなら大丈夫だよ。」
「よく言ったヨハン。そもそも十輝星ならあんな占いなどなくても上手くやるだろう?君たちは精鋭部隊なんだからな…」
「だ…だって…ドロシーは…!」
リザが恐る恐る口を開いた。
「あぁ…あいつは自分の実力に胡座をかいていたからやられたんだ。復活させる価値もない。そもそもどうでもいいところで死ぬような雑魚は十輝星を名乗る資格はないからな…ヒヒヒ!」

アトラたちはなんとなく察していたが、王の復活の力は自分たちに使われることはない。彼らにはリトライはない。王下十輝星である彼らに失敗は許されないのだった。

「ドロシーのことなんて忙しくて忘れていたよ。エスカのフォーマルハウトとドロシーのデネブの星位に、新しい十輝星を入れてやらないとな…!」


54 : 名無しさん :2017/02/01(水) 02:56:19 ???
【名前】ドロシー
【特徴】王下十輝星の1人だった15歳の少女。星位はデネブ。
風を操る能力を使い身の丈よりも大きな鎌を振り回して戦う生粋の戦闘タイプ。
性格は真面目で曲がった事を極端に嫌う。実力で王下十輝星になったことを何よりも誇りに思っており、王への忠誠心は誰よりも高い。



「じゃあアトラくんたちはこれ。リザちゃんたちはこれ。ご査収してよくよく確認するんだよ〜」
「ふむふむ…ありがとうエスカ。おかげで合理的な作戦が立てられそうだよ。」
「ほんと、エスカのおかげで毎日がノー残業デーですわ!圧倒的感謝…ですわ!」
「いやいや。私の占いは3割だから!それを忘れないでね!あんまりあてにしないでね!」

…3割とか言って、外れたことがないじゃないか。
このエスカが来てから、みんながおかしくなってしまった。
私たちは王様の直属の部下で精鋭中の精鋭なのに、やることといえば未来を先読みして卑怯な作戦を立てて危なげなく完遂するのみ。
…正直この占いがあれば私たちじゃなくても任務完遂は出来ると思う。それほどまでにエスカの占いは当たりすぎてつまらない。
それに…その占いを全員分やるエスカが1人でどれだけの労力を使っているかも、私は知っている。

昔はみんなで能力者を倒すために血反吐吐きながら共闘したり、規格外の巨大な魔物を王下十輝星全員での華麗なチームワークで倒したりした。
あの頃は良かった。毎日が刺激の連続で、本当に本当に楽しかった。

でも…今の生活にそんな刺激はない。だって未来がわかるから。何が起こるか全部分かるから。それに合わせてやれることをやれば任務は終わる。
「あれ、ドロシーどうしたんだよ?難しい顔して。……あ!生理か!?」
「うわ……アイナの中でアトラ株がすごい勢いで売却されていきますわ……!本当サイテー!」
「え、これって言っちゃダメだった?悪い悪い!」
「もー。アトラくんは女心をもっと勉強したほうがいいよ。……はい、ドロシーちゃん。あなたの分だよ。」

…つまらない。ツマラナイ。つまんない…!!

ザシュンっ!
「きゃっ!?……え、なに?どうしたのドロシーちゃん?」
気づいたら、エスカの占いが書かれた紙を風で切り刻んでしまっていた。

「…みんな!!エスカに頼るのはもうやめようよ!エスカは全員分の占いをするに寝る時間も削ってるんだよ!?」
「ち、ちょっとドロシーちゃん…!そういうことは言わなくてもいいから…!」
「いや、言う!毎日夜から占い初めて、朝までかかってフラフラになってるところを、私は見たんだから!」
「え……?エスカの占いってそんなに時間がかかるの……?」
「え、あ、いや、まぁ……」

「って言ってもよー、エスカの占いがないとなにが起こるかわかんねーだろ?安全策があんだからそれでいいじゃんか!」
「このバカアトラ!先がわかってる人生なんか面白くないでしょ!?」
「いや、俺は任務のことを言っただけだって…!な、なぁシアナ!?」
「…うん。正直任務を安全に遂行するためには、今はエスカの力が必要だよ。寝る時間を惜しんででも、僕たちに協力してほしい。」
嘘……シアナまでそんなことを言うなんて……!
「あ、アイナも同意見ですわ!というかエスカの占いがないと怖くて能力者となんか戦えませんわよ!」
アイナ……昔はもっと勇気のある子だったのに……!
「…エスカには悪いけど、私も今のままがいい。誰も死なないことが1番大切だと思うから…」
そ、そんな……!他の誰が否定してもリザだけはわかってくれると思ってた……!

どうやら、私はアウェイで異分子だった。全員腐ったミカンでも見るような目で私を見ている。気分が悪い。
「もういい!私だけでもエスカには頼らないことにするわ!この腰抜けども!それでも本当に王下十輝星かっ!」
「な、なんだとっ!?」
「自分の力でなんにもできないあんたらなんか、その辺の赤ちゃんと同じよッ!!バーーーーーーーカッ!!!」
腑抜けた腰抜けどもと同じ空気を吸いたくなくて、適当な捨て台詞を吐きながら私はその場を全速力で走り去った。
「あ、ドロシーちゃん待って!今日の任務は本当に危険だからっ……」



エスカたちがドロシーの姿を見たのは、これが最後だった。
この後彼女は、未来予知の大切さを皆に思い知らせるほどの凄惨な最期を迎えることになる…


55 : 名無しさん :2017/02/03(金) 20:48:10 ???
「なんだアイツ!俺らのことバカにしやがって!プラチナむかつくぜ!」
「ドロシーは真面目だから……エスカが1人だけ辛い目に合ってるのを見過ごせなかったんじゃないかな……?」
「…それもあるかもしれないけど、なによりあいつは戦闘狂だから、未来予知して作戦を立てるのが気に入らなかったんだろ。結構前からそんな感じだったし。」
「自分より強者に興奮する孫悟空タイプの変態ドロシーならありえますわね…要はヒリつくような戦闘がしたいっていう自分のオナニー欲求を満たしたいだけなんですわ!!!」
「そ、それより…エスカはエスカはドロシーちゃんが心配だよ。早く誰か助けに行ってあげたほうがいいかもカモネギ…」
そう言いながら敵の詳細をまとめた紙をテーブルに出すエスカ。その紙に書かれていたのはある少女の情報だった。



(まったく…人間は楽することを覚えるとすぐに堕落するっていうのはホントね。あそこにいた全員見損なったわ。)
風魔法の威力を高める露出度の高い妖精の服を見に纏い、小さな身体に不釣り合いすぎる巨大な鎌を背中に抱えて、ドロシーはターゲットの元へと向かう。
天候は快晴。クリーム色の髪が森の中の優しい風でふわりと浮かぶと同時に、ドロシーは捲れあがったスカートを手で抑えた。
(キャッ…!危ない危ない。もし誰かに見られたら恥ずかしくて死んじゃう…もう!なんで教授はこんな露出度の高い服装にしたのかしら!…こんなの、別の意味で動きづらいわよぉ……)
そもそもその別の意味を強く反映させたデザインなのだが、純粋なドロシーがその悪意に気付くことはなかった。

(今回のターゲットは…はぁ、弱そうな女の子。詳細なんか見なくても余裕ね。エスカの力がなくても任務遂行できるってことを、先輩としてあいつらにしっかり教えこんでやらなきゃ…!)



「こ、こいつは……!邪術のライラ……!」
エスカの出した資料。そこに映っていた漆黒のローブを纏う紫眼の少女を見るや否や、シアナの表情はたちまち恐怖一色に染まった。
「ジャジュツノライラ?なんか高級ブランドみたいな名前だな…」
「あ、ちなみにアイナの大好きなブランドはジャミュールのゴシックシリーズですわ!今着てる服はシリーズ最新作のゴスロリチックな黒に、大人アクセントの赤を加えたファン垂涎のアウターですのよ♡」
「へー!さっきからアイナの顔をブン殴りたくなってたのはそれが原因か!なぁなぁ、1発だけ本気でブン殴ってもいいか!?」
「んなっ……!?ななななんて爽やかなドSですの…!?たまに出てくるアトラの狂気は恐ろしすぎて涙腺にクリティカルヒットしてきますわ….…!」

「……で、邪術のライラってどんな力を持った女の子なの?」
「あ、あぁ……」
騒ぎ始めたアトラとアイナを放置して、リザが話を進め始めた。
「邪術…魔法の一種ではあるけど、あまりに非道徳的な効果を持つことから、ほとんどの国では禁止されている魔術なんだ。故にそのやり方も全くと言っていいほど出回っていない。…世界の均衡と、人間としての尊厳を守るためにね。」
トーメント王国やルミナス王国もそれは例外ではない。邪術の使用方法は国家機密として管理されており、使った者は故意であれ過失であれ例外なく極刑である。
「邪術についてはわたしも少し聞いたことがある。人造人間を生み出したり、恐ろしい魔物を作り出すこともできるって……」
「ライラは、邪術の力に溺れたある科学者の1人娘なんだ。そんなライラがいつからか、狂った父親に教わった邪術を使って殺し屋をするようになった。…これは僕の推測だけど、おそらく彼女は父親の研究のために自分を犠牲にしているんだと思う。」
「わー父親思いだなぁー。エスカにはできないわ。まぁエスカは親の顔も覚えてないんだけどね……」

「……とにかく、ヤバい奴なんでしょ?なら私がドロシーを助けに行く。みんなはここで待ってて。」
「あ!なら俺も行く!!!」
先に名乗りを上げたリザに反応して、アトラも素早く反応した。
「邪術の使い手相手じゃ、アトラの罠もあんまり機能しないと思う。……私一人で行くよ。」
「リザ、俺がトラップ仕掛けるしか能が無い猿だと思ってんだろ?なぁに心配すんな。お前は絶対に俺が守ってみせる…」
「は……はぁ……」
(バカアトラ……格好つけるならもうちょっとタイミング考えろよ……)
渋い声を出しながら赤い髪を掻き上げてキメ顔を向けるアトラに、リザはどう反応していいかわからなかった。


56 : 名無しさん :2017/02/04(土) 01:13:03 ???
「…ちょっと待った。ドロシーを心配するのは良いけど、僕らだってこれから『仕事』だろ?」
ドロシーを助けに行こうとするリザを、シアナが止めに入る。
「そうですわ!大体、アイナは2分の1回リザちゃん成分を補充しないとあたまがおかしくなってしぬ身体ですのよ!?」
そこにアイナが口を挟む。
「それはほんとうにあたまがおかしい ふつうになぐりたい」
更にアトラが突っ込みを入れる。…アイナは「ぐぬぬ」と唸った。
「…それにリザ達の次の相手だって、アイナ一人じゃ相当キツイはずだ。ま、僕はアトラが居なくても問題ないけど…」
「アトラは半分サボりたいだけでしょう?…で、後の半分はリザにいい所見せたい、と。こちとらまるっとお見通しですわよ?」
「う、うるさいな…(そうだけど)」
「…それなら、アトラはアイナと一緒に行って。私はドロシーを追いかける」
「えっ」「えっ」「えっ」
リザは言い争うシアナ達にきっぱり言い放つと、皆の返事を待たずにテレポートで部屋を出ていった。

(なんだかすごく…嫌な予感がする。お願い、間に合って……!)

………それから約一時間後。

「今回のターゲット…邪術のライラ、って言ったっけ。こんな辺鄙な所に、よく住む気になるもんだわ」
ドロシーは、王都からはるか西に位置する広大な森の中にいた。
風を操る能力を持つドロシーであればこそ短時間で行き来できるが、自動車で丸一日、馬車なら軽く1週間はかかる距離だ。

反乱分子、と大層なレッテルを貼られてはいるが、実際の所こんな所で引きこもっている相手が王国の脅威になるはずもない。
そんな相手にわざわざ王が討伐令を出した理由は明白…この森が、南の大国アルガスへの近道となるからだ。

アルガス帝国へ陸路で行くには、アレイ草原を南へ下り、東西に横たわるゼルタ山地を超え、
山深くにあるというレミア洞窟を潜り抜け…と、遠く険しい道のりを通らねばならない。

だがこの森を抜けられれば、ゼルダ山地を西側から回って、平易なルートを開拓できる。
そうなればアルガス帝国とトーメント王国は目と鼻の先。お互い、即座に大群を送り込むことも可能となり…
一触即発状態となった両国が、大掛かりな戦いに発展することは時間の問題。
強者との戦いを望むドロシーにとっても、願ってもない展開であった。

だがそんな彼女の行く手を阻むかのように、森に棲む魔物が次々と襲い掛かる。
巨大吸血アリの大群や、それを食べる巨大アリクイ、毒の花粉を撒き散らす巨大な花に、果ては人間の雌に発情する触手など…
「ああ、もう……ウザいウザいウザいウザいっ!!!」
大鎌が唸りを上げ、周囲の風が衝撃波となって次々と敵を切り刻む。
魔物の返り血や体液が跳ねるのも気にせず、ドロシーは並み居る魔物を薙ぎ払いながら森の奥へ奥へと分け入っていった…


57 : 名無しさん :2017/02/04(土) 14:57:03 ???
「キシャァアアァァァァ……」
「今度のは…また随分てんこ盛りね。頭はクワガタ、両手はカマキリ、尻尾はサソリで…」
森の奥に進むにつれ、魔物の姿は強さとおぞましさを増し、標的の居場所に近づいている事を確信するドロシー。
そして今対峙している、洞窟の入り口を守る異形の怪物は…恐らくは邪術師の住居を守る門番だろう。

「ガアアアァッ!!」
6つの複眼がドロシーの動きを正確に捉え、2本の鎌が息を吐かせぬ連続攻撃を繰り出してきた。
身を伏せて横薙ぎの一撃をかわすと、背後の大木がバキバキと音を立てて倒れる。
少しでも隙を見せれば、即座に猛毒の針が頭上から打ち込まれ、うかつに飛び込めば大顎に迎撃される。
硬い外甲殻は刃を通さないだけでなく魔法にも耐性があるのか、牽制で放った風の刃はあっさりと弾かれた。

「はあ。今までのザコよりはましだけど……」
並みの戦士では100人がかりでも相手にならないだろう凶悪な怪物を前にして、
なおドロシーの表情には動揺も焦りも全く見られなかった。
鎌の連続攻撃は確かに速いが、あまりにもリズムが単調過ぎて…
「…欠伸が出る」
ドロシーが横に鋭く刃を一薙ぎすると、怪虫の腕が二本まとめて両断された。

「ギッ……!?」
腕関節の継ぎ目を正確に両断されれば、どんなに硬い装甲も意味を為さない。
ドロシーは動きの止まった怪物の尻尾を切り落とし、首を刎ね…大きく跳躍し、手にした鎌を大上段から振り下ろす。
「…これで、終わりよっ!!」
2m以上ある怪物の胴体は真っ二つに両断された。

「この分じゃ…はぁっ…はぁっ…邪術師ってやつも、期待外れかしら…」
小休止を取りながら、洞窟の様子を窺うドロシー。
苛立ちに任せて強引な戦いを続けてきたため、いつもより体力を消耗していた事に気付き、
その大元の理由…エスカや他の仲間達の事を思い出していた。

「あいつら…何が十輝星だ。あんな奴らと、私は違う……王様なら、きっと私の事をわかって……」
(じゅるり…!)
…それ故に、気付くのが遅れた。切り落としたはずの魔虫の尻尾や首が起き上がり、飛びかかってきた事に。
邪術によって生み出された魔物の生命力がいかに凄まじいか、ドロシーが知らなかったのも無理はない。
エスカの占いを切り捨てた時点で、ある意味ドロシーの運命は決まっていたのだ。

「きゃあああああぁっ!!」
「ぐちゅっ……」「じゅるるる……!」
怪物の腕や尻尾の切断面から新たに生えた無数の触手が、ドロシーの四肢を絡め取る。
鋭い大顎がドロシーの首を切り落とそうとする寸前、なんとか両腕で受け止める事はできたが…
少女の腕力では押し返すことが出来ず、死の刃はじりじりと閉じられていった。

「こ、の…おっ……あ、ぐっ……!」
棘だらけの刃がドロシーの掌に喰い込み、鮮血がしたたり落ちる。
足元の鎌を拾い上げたいが、一瞬たりとも両手を離す事はできそうにない。
そして更にまずい事に、両手が使えない今、ドロシーは残る敵…
二本の鎌腕と、毒蠍の尻尾に対して、完全に無防備になってしまっていた。

「くっ…こんな奴に、やられて、たまるかっ…!!」
ドロシーは泥だらけになりながら地面を転げまわり、必死に両脚で蹴りを放って鎌腕を追い払う。
だが、毒針尻尾はドロシーの身体にぎっちりと触腕を絡めて離れず、
人間の指程に太い毒針の先端をドロシーの臍のすぐ下に押し当てる。
毒…待ち伏せや不意打ちと並んで、ドロシーが戦いの場において最も嫌悪するものの一つであったが、
邪術によって生みだされた知性なき魔虫が、そんな矜持を解するはずもなかった。


58 : 名無しさん :2017/02/04(土) 18:55:48 ???
「あぐぅっ…!?んやああああああッ!!!」
光の刺さない森の中に、ドロシーの悲鳴が激しく木霊する。
ドロシーを捉える尻尾からさらにまた尻尾が生え、先端からドロシーの顔に緑色の煙を放出したのだ。
「うぅっ…!?なにこれ、臭っ!!!うええぇっ!ゴホッゴホッ!」
その強烈な異臭は筆舌に尽くしがたいもので、咳き込むドロシーの瞳に大粒の涙が滲む。
その様子を見て魔虫は勝ちを確信したのか「ギッギッギッ…」と不敵に笑う。
まるで自分を馬鹿にしているようなその姿が、負けず嫌いであるドロシーの内なる闘志に火をつけた。

「ぐっ……!虫風情が…私に勝てると思うなッ!!!」
ドロシーの気迫は突発的な強風を起こし、魔虫の体は大きく吹き飛んで大木へと叩きつけられた。
「ンギイィィィイィ!?」
「ふん!王下十輝星デネブの私相手に、あんたみたいな汚い虫が勝とうなんざ100年早いのよッ!」
そう叫びながらドロシーは風の鎌を作り出し、持っている鉄の鎌を右手に、風の鎌を左手に持ちながら魔虫へと踏み込んだ!

「グリム…リーパー!!!」

2つの鎌を大きく二度振り回して薙ぎ払う、ドロシーの必殺技が見事に炸裂。その小さな体からは予想もつかないほどの激しい攻撃に、魔虫は大きく体を仰け反らせた。

「からの…!ウィンドブレイドッ!」

トドメの一撃は、魔力を帯びた風による凄まじい鎌鼬。魔法に耐性のある外甲殻も、鎌の攻撃で引き裂かれたためその効果を発揮できなかった。

「ギイィィィイィィィィィィィ……!」
魔虫の体は鎌と風の連撃であっという間に微塵切りにされ、再生することもなくその命は潰えた。
(ふぅ…ちょっと手こずっちゃったわ。この程度の相手にだらしなく悲鳴を上げてしまうなんて…私もまだまだね。)
乱れた衣服は風でしっかりと伸ばし、ついている泥も一緒に風で弾き飛ばす。
戦闘前と同じ状態に戻ったドロシーは、バラバラになった魔虫を踏まないように邪術師の館へと侵入した。


59 : 名無しさん :2017/02/05(日) 01:48:28 ???
洞窟に入った途端、またも魔物が襲いかかってくる。しかし、ドロシーは魔物のサイズが外のそれと比べてかなり小さいことに気付いた。
それもそのはず、洞窟は普通よりは大きめとはいえ、大きな魔物――――外にいるような巨大アリクイや巨大な蟻を徘徊させるには些か手狭すぎる。

「ふん、流石の邪術師も、自分の住処を壊すような真似はできないってワケね」
的が小さいということは狙いにくいという事でもあるが、風使いのドロシーにとってはわざわざ狙いを付ける必要もなく、少し強めの風を吹かせれば小型犬程の大きさの魔物達は吹っ飛んでいった。

「はぁあああああああ!!!」

空中で身動きが取れない状態の魔物を追い打ちし、鎌で一刀両断する。勿論、その後風圧で死体を念入りに擦り潰すことも忘れない。先ほどのような失態はもう二度とごめんだ。

「へぇ、あの門番を倒すなんてやるじゃない。流石は十輝星といったところね」
洞窟を進んだ先にいた漆黒のローブを纏う紫眼の少女………邪術のライラは、洞窟のゴツゴツとした風景に似合わない豪奢な椅子に足を組んで座っていた。生活感のない洞窟の中で、その豪奢な椅子だけが雰囲気に馴染んでいなかった。
ライラがサッと右手を上げると、地面から人間大の魔物がワラワラと現れる。その姿は人間のようでいて、腹部から足とも手とも付かない謎の部位が伸びていたり、ナッ○ーのように頭が三つ生えていたり、とにかく異形であった。

「随分と余裕なようだけど、ご自慢の魔物はもうそれで全部かしら?だとしたら拍子抜けね」
「拍子抜けかどうか、戦って確かめてみたら?」
ライラの言葉が終わると同時、魔物達がドロシーに突進してくる。
ドロシーは風の魔法を身に纏い、高速で移動しつつ鎌で魔物達を切り刻み、風で吹き飛ばし、風圧で擦り潰す。状況を圧倒的有利に進めながらも、ドロシーは言い知れぬ不安を感じていた。

(何?この違和感は…)
そう、何か違和感がある。喉元まで出かかっているにも関わらず中々分からないその正体。考え込みたいところだが、戦闘に集中しなければ先ほどのような無様を晒すかもしれない。ドロシーは漫然と感じる不安を打ち払うように、魔物達へと猛撃を加える――――!

「こんなのが最後の壁とはお粗末ね、まだ表のキメラ虫の方が歯ごたえがあったわ」
「十輝星、まさかこれ程とはね。ところで、さっきから気になっていたんだけど……」


「貴女、誰と戦ってるの?」
「え?」


気がつくとドロシーは、洞窟の地面から伸びた触手に身体を拘束されていた。
「きゃ!な、なにこれ…!?あぐぅうううう!!!?」

「クスクス、貴女って意外とかわいい悲鳴をあげるのね。さっきの一人芝居もそうだけど、中々良いものを見せてもらったわ」
「ぐぅうううううう!!ひ、一人芝居…?まさか、幻覚!?」
「へぇ、良い勘してるわね。ま、今さら勘が冴えても意味がないけどね」
そう、事ここに至りやっと、ドロシーは違和感の正体に気づいた。幻覚の中の彼女は、余りにも有利すぎた。
苛立ちに任せて強引な戦いを続けてきたため、いつもより体力を消耗していた上に、異形の怪物にあれ程手こずったにも関わらず、ドロシーは苦痛に感じることもなく全力で戦えていたのだ。ドロシー程の実力者ならば、多少疲労していても全力で戦闘を続けることは可能である。ただし、それでも全く辛くないなどというのはありえなかったのだ。

「い、いつから私に幻覚を見せていたの…!?」
「クスクス、さっきの勘の冴えはどうしたのかしら?心当たりがあるはずよ?」
心当たりがあるはずと言われてドロシーの脳裏にあることが浮かぶ。エスカ達に啖呵を切ってからライラの洞窟にたどり着くまでの間に、唯一自分に傷を付けた…

「あ、あの怪物ね!?…ぐぅううう!うぁああああああ!!!!」
「そうよ、門番の尻尾から出る緑色の煙には、幻覚作用があるの」
あの煙はただ臭いだけの攻撃だと思っていたが、とんでもない効果があったらしい。

「さて、貴女が岩肌を削ってる間に魔力は吸収させてもらったし…」
幻覚を見ている間、ドロシーはずっとあらぬ方向へ攻撃をしていたらしい。先ほどから何度も風の魔法を使って触手を引き剥がそうとしているのに、一向に魔法が発現する気配はない。

「ふふ…退屈な洞窟暮らしの気晴らしにちょっと付き合ってもらおうかしら。言っておくけど、その触手は魔力を吸い取るためのもので、痛めつけるための道具は別にあるの。今感じている痛みが子供の遊びに感じるくらいに弄んであげるから、もっと私にかわいい悲鳴を聞かせてちょうだい…?」


60 : 名無しさん :2017/02/05(日) 03:52:26 ???
「ぐうぅぅぅ……!!あぐっ…!!あがぁ……!」
(魔法が使えない……!このままじゃ、本当にヤバいわ!なんとかしないと……!)
突然の危機的状況に、どっと脂汗が噴き出すドロシー。美しい緑色の目も今は恐怖に歪んでいる。
「いい顔ねぇ……!もっと声出してもいいのよ。ほらほら……!」
ライラが甘ったるい声を出すと、ドロシーを拘束している触手の締め付けがさらに強化された。
ギチギチギチギチ…!
「あがっ……!ぎ……!ぎゃあああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」
身を引き裂くような締め付けに、ドロシーの悲鳴は先ほどと違い濁ったものになる。それを聞いてライラはニッコリと愉悦に浸った。
「心配しないで。せっかく捕まえたおもちゃだもの。大切に扱わせてもらうわ。フフフフ……んぐうぅっ!?」
突如、笑い声をあげていたライラの顔が大きく歪んで紫眼の瞳孔が開かれた。

「あああっ!!が……!んやうっ!ひゃああんっ!!!」
(な……なんなの……?)
突然喘ぎ出したライラは、身をよじりながらもゆっくりとドロシーに近づいてくる。その不安定な足取りはまるで赤子が始めて歩いた時のようだった。
「ふ…ふふっ…!もうお父様……!出てくるならもう少しゆっくり…!んあああっ!」
「お、お父様…?」
ここには拘束された自分とライラしかおらず、他に人影もない。訝しむドロシーをよそに、ライラの喘ぎ声のボリュームはどんどん跳ね上がっていく。
「あんっ!あぁんっ!!!……もうお父様……!お父様は本当に……エッチねっ、キャハァッ!!……とにかく早く、この子と一緒になりたい、あんっ!…なんて…!」
「い、一緒になりたい…?あなた、何を言ってるのっ…!?」
「私にお父様のお相手ができたら、そんなこと言わせないのに……!んもうお父様、近親相姦なんて、そんなこと気にしなくていいわ……フフフフフ……!あぁあんっ!!!」
激しく喘ぎながらローブを脱ぎ捨てるライラ。ローブの下のライラの体は、なんと下着すらつけておらず生まれたままの姿だった。

女性らしい撫で肩。大きすぎず小さすぎずのほどよく実ったDカップほどの乳房。発育途中の少女とはいえ、十分に艶かしい少女の裸体ではあるが……腹に浮き出ている「何か」が、ライラの体の女性らしさを全て奈落の底に沈めていた。

「ア゛ァ……!ア……!アアアア゛ア゛ア゛……!」
「な……!!な……!!!」
あまりの恐怖にドロシーは総毛立ち、顔はたちまち真っ青になった。
ドロシーの中のすべての感覚が、ライラの裸体を見るな、見るなと警鐘を鳴らしている。
「紹介するわ。これが……私の大好きなお父様よ。フフフフフフ……!」
無数の不気味な顔が所狭しと浮き出ているライラの腹。その中の1つは必死に呻き声を上げ、涎をダラダラと垂らしている。
彼女の邪術…そのおぞましい力は育ての父親をも自分の身体に取り込んでしまったようだった。

「ぐえっ…うぷっ……!!いや……!見たくない、そんな身体……!う゛う゛おぐげええええええ゛え゛え゛え゛え゛ぇぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!」
腹に浮き出たライラの父親を見た途端、ドロシーはあまりの異形の生物に生理的な拒絶反応を起こした。
「ア゛………ア゛ァア゛ァ……!」
「ウフフ……お父様はいつも自分を見た反応を楽しんでいるの。あなたのような美少女が汚らしく嘔吐する姿、とても素敵だって言ってるわ……ウフフフフフフフ……!」


61 : 名無しさん :2017/02/05(日) 13:55:19 Wy1fTeu.
「うっ……親をそんな風に自分の身体に取り込んでしまうなんて……!まさに外道だわ……!」
「外道?…心外ね。これはお父様が望んだことなのよ。年老いて死を恐れたお父様がもっと生きられるように、邪術で私の体に精神を移植したの……ね、お父様?」
「アアア゛ッ……!アア゛ッ……!」
先ほどから涎をだらだらと流している顔の1つが、ライラの父親らしい。ライラの言葉とは裏腹に、その顔は恐怖の表情を浮かべていた。
「さて、お父様の紹介も済んだことだし……そろそろ始めるわよ。クスクス、可愛い悲鳴を出す準備はできてる?」
そう言うと、ライラは腹に埋め込まれている父ではない顔を殴りつけた。
「ゴボボ…!オエエエエエ…!」
(うっ……!腹の口から何か出てきた…!あ…あれは…!)
ゲロゲロと吐き出されたのは、物理的にライラの腹に入るはずもない大きなグローブとビデオカメラだった。
唾液のような液体にまみれたグローブを拾い上げ、ビデオカメラを録画機能に設定したライラは、カメラの前で狂気の笑みを浮かべながら喋り始めた。
「みんな見てるかな?クスクス……王下十輝星、デネブの称号を持つ風の美少女ドロシーちゃん。そんな彼女は今、恐ろしい邪術師に拘束されてしまったのでした〜。身動きが取れない状況で、目の前には恐ろしいキチガイ。はてさてドロシーちゃんの運命はいかに…!?」

「ま、まさか……!私の姿をネット配信しようっていうの!?」
「今から始めるのは、邪術師としてのパフォーマンスだからね。死に際に絶望を多く与えれば与えるほど、いい触媒になるんだよ。だから邪術師のみんなには、私のやり方をお手本にしてもらうの。クスクス…!」
配信用なのか話し方を柔らかくしたライラは不気味に笑いつつ、液体まみれのグローブを装着する。
ドロシーの身体に巻き付いていた触手は一部解放され、張り付けの格好で四肢を拘束するのみとなった。
「まずはぬるめのやつでいくよ。クスクス……邪術で威力が上がった私の殴打に、ドロシーちゃんはいつまで耐えられるかな……?」
グローブが怪しく光ってすぐ、ライラはドロシーの腹に最初の一撃を決め込んだ。

「ぐえあがあああああ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!」
「クスクスクスクス…まだ全然本気出してないのに、大袈裟だよ……」
(ぐふっ……!骨身に響くほどなのに……!これで本気じゃないですって……!)
まだ最初の一発だというのに、ドロシーはもう泣きそうになった。
「みんな見て。ドロシーちゃんは王下十輝星でとっても強い女の子なのに、もう泣きそうだよ。さっき合成獣と戦ってた時の勇ましい姿からは考えられないね。クスクスクスクス……!」
「ぐふっ……!な、泣いてなんか……!泣いてなんか……!」
「じゃあ遠慮なく、もっと本気出しちゃうからね。いくよ?」

強がっているドロシーの腹に、右と左の一撃が同時に繰り出された!


62 : 名無しさん :2017/02/06(月) 18:00:12 ???
「あぎがぁあああああああああ"あ‟あ‟あ‟!!!!!」
「ふふ、そんなに大きな声が出せるなら、まだまだ元気ってことね?」
左右同時の拳を受け、絹を裂くどころじゃないレベルの悲鳴をあげるドロシー。

「うーん、両手同時ってちょっとパンチしにくいなぁ。ドロシーちゃんって小柄だから、お腹も小さくて両拳だと衝撃が外に逃げちゃうのかな?」
「ぐ、がひゅ、はぁ、はぁ」
「あ、そうだ!なら片手ずつ二回パンチすればいいんだ!」
「あぎ!?ぐあぎゃあああああああ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!」

心の準備をする暇もない、二連続の衝撃。今まで泣きそうになりながらも涙だけは流すまいと必死に踏ん張っていたドロシーの緑色の目から、遂に一筋の涙が流れてしまう。

「あれ?あれあれ?ドロシーちゃんったら、とうとう泣いちゃった?私にお腹イタイイタイされて泣いちゃったのね?」
配信用の甘ったるい猫なで声でドロシーを煽るライラ。

「く……!くそぉ……くっそぉお!!!」
「もう、駄目じゃないドロシーちゃん。女の子がそんな汚い言葉遣いしちゃ。お仕置きに、次はもっと強くいくよ!えい!」
「ひ!」
これから走るであろう激痛に、思わず情けない声をあげて目を瞑ってしまうドロシー。
しかし、ライラの拳は腹部の手前で寸止めされていた。

「ふふふ、ドロシーちゃんったら可愛い。そんなに怖かったの?さっきまでの威勢が信じられないくらいビクビクしちゃって」
「あ、あああ……」
弄ばれている。ライラはドロシーをただ痛めつけるだけでなく、精神的にも屈辱を与えるつもりなのだ。
十輝星の一人である自分が敵に捕まり涙を流し、あまつさえ邪術師に翻弄されている。その事実に、ドロシーの矜持は崩れつつあった。

「どう?悔しい?普通に戦えば絶対負けるはずのない相手に、幻覚なんて卑怯な手で拘束されて、好き勝手させられちゃってるんだよ?」
「くぅ……!いっそ、いっそ殺せ!」
「ふふ、勿論殺すわよ。絶望をたっぷり与えてからだけど……ね!」
「あぐあぁああああ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!」
話しかけている途中に不意打ちでアッパーの雨を浴びせる。

「あぅぐ、や、やめ、ふぐぁあああ!!も、もう、や‟め‟でぇえええええ!!あきゅうああ!?お、お願いだから、ふぐぅ!やめでぇえ‟え‟え‟え‟え‟!!!!」
一発か二発殴られるだけでも涙を流すほどの激痛だったのに、五発、十発と連続で腹部にアッパーを浴び、ドロシーは最早恥も外聞もなくライラに懇願する。

「もう、しょうがないなぁ。じゃあ殴打はこれくらいにしてあげる。クスクス、いい?貴女がやめてって言ったから殴打をやめるの。これから殴られる方がマシに思えるようなことをされても、それをさせたのは貴女なのよ?」
「ふ、えぐ、な、何をする気?」
「邪術師が魔物だけじゃなく、人造人間も作れるのは知ってるよね?私って今まで媒体に絶望を与えすぎて、人造人間を作ろうとしても途中で殺しちゃってたのよね。勿論、死体から人造人間を作ることも可能だけど、やっぱり生きたまま作った方が出来が良いもの」
「だ、だから、私をどうする気なの!?」
「その点、十輝星のドロシーちゃんなら身体も丈夫だろうし、ちょっとくらいやりすぎちゃっても平気かな。みんなもそう思うよね?」
声を震わせながら質問するドロシーを無視し、ビデオカメラの向こうの視聴者へ話しかけるライラ。
彼女は邪術で強化されたグローブを外し、自らの腹部に浮かぶ父親以外の顔を殴りつけた。

「ゴブブ…!ゲエエエエ…!」
またも顔からライラの腹部に収まるはずもない道具が出てくる。
ぬめぬめとした液体で湿った包帯や注射器。更には見たこともない手術器具のようなものまである。

「さて、と。せっかくだから、ドロシーちゃんの武器を使っちゃおうかな」
ライラは近くに落ちていたドロシーの鎌を拾い上げ、試しに軽く振り回す。

「な、何を…」
「あ、止血はちゃんとするから安心していいよ。今までの媒体の死因はみんなショック死で、傷が原因で死んだ子は誰もいないから」
「ま、まさか……!」
ドロシーは自分の勘の良さを生まれて初めて憎んだ。今さら勘が冴えようと冴えなかろうと、惨劇は回避できないことに変わりはないが。


63 : 名無しさん :2017/02/06(月) 18:02:15 ???
「そう、そのまさかよ!今からドロシーちゃんを人造人間に改造しちゃいまーす!ただでさえ強いドロシーちゃんが人造人間になったらどうなるかな?みんなも気になるよね!是非人造人間を作る時の参考にしてね」
狂気的な笑みを浮かべるライラ。ドロシーは必死に拘束を解こうともがくが、もがけばもがく程触手の拘束は強くなった。

「ま、魔法さえ使えればこんな拘束、簡単に引き剝がせるのに!」
「じゃあまずは、ドロシーちゃんの右手を高性能アタッチメントに変えちゃおう!ジッとしててねー、暴れると却って痛いし危ないよ?」

鎌を構えたライラは、そのまま無造作にドロシーの左腕を切り落とす!

「いぎゃあああああああああ‟あ‟あ‟!!!!う、腕が、わ、私の腕がぁああああああ!!!!」
「こら暴れないでよ、止血しないとそのまま死んじゃうよ?」
「ふ、ぐぅううううううああああああああ!!!」
「うん、いい子いい子。叫んでもいいから止血済むまで大人しくしててねー」
ドロシーはこのまま身体を弄ばれて意思のない人造人間にされるくらいならこのまま出血多量で死んでしまいたかった。だから大人しくするつもりもなく、ライラが止血できないように暴れるつもりだった。
だがドロシーの決死の覚悟は、触手に阻まれた。地面から湧き出た追加の触手によって身体をさらに強く固定され、暴れようにも暴れられなくなった。
ならばと舌を噛んで死のうとするも、触手に口を塞がれてしまいそれもできない。

「むぐぅ!!??ふぐぅうううううううう!!!!!」
「はい、止血終わり。次はアタッチメントの腕を神経に繋げるね。麻酔がないからすごく痛いだろうけど、我慢してね?」
「ふぐ!?んーーー!んーーーーー!!!!むうううぅううううううううう!!!!???」


「はい、これでドロシーちゃんの右腕はとっても便利になったよ!これだけでも普通の人間と比べてすっごく強くなるから、みんなも是非試してみてね!それじゃあ今日はこの辺りでお開きかな。邪術師のみんな、またね!」
ようやくビデオカメラの録画モードを解除するライラ。

「むぐぅ、んー、んー!」
「ふふふ、それじゃあその手を取り外すわね」
「ふぐ!?んゥううううううううう‟う‟う‟!!!!!」
一度神経と繋いだ義手を力任せに引っ張って外すライラ。当然、ライラには激痛が走る。

「ふふふ、貴女にはこれから、お父様と一つになってもらわなきゃいけないもの。無粋な機械の手なんて不要だわ」
配信用の口調を止めたライラ。地面に落ちていたドロシーの右腕を、腹部に宿る父の前へと持っていく。

「それにしても、人造人間にされると思ってる時の貴女はほんとにイイ顔してたわよ」
(と、とことんばかにかしてぇ!)
そう、人造人間にするというのは騙り。ドロシーを弄びぬくための騙りだったのである。


「ふ…ふふっ…!もうお父様……!そんなにがっつかないで…!これから腕だけじゃなく、ドロシーちゃんの全部を食べられるんだから…!」
「むぐ、ふぐぅうううう」
自らの右腕が異形に食べられているのを見て、ドロシーは絶望する。これから自分は腕だけでなく全身をあの異形に食べられるのだ。
嫌だ、そんな死に方は嫌だ。自殺することもできず、生きたままに食べられるなんて嫌だ。

「さて、前菜の右腕は食べ終わったし……お父様、お待ちかねのメインディッシュよ!ふふふふふ……!」


64 : 名無しさん :2017/02/07(火) 02:14:00 ???
「ガ…ガガ…アアアアア゛ア゛ア゛…!」
「ほら見てドロシーちゃん。お父様の素敵なお顔がどんどん大きくなっていくよ…?」
効率的に食事を摂るためなのか、ライラの乳房の下にあった父親の顔は、ライラのヴァギナに届くところまでまで大きくなっていった。
「ア゛ア゛ア゛……!ジュルルルルルルッ!!!」
「あんっ!やんっ!ち、ちょっとお父様!ライラの胸を舐めないでってば!…もう、ほんとにエッチなんだから…」
父親の口から伸びた長い舌が、ライラの胸まで伸びて両乳首を交互に舐め始めた。
人間としての倫理や道徳をかなぐり捨てたような恐ろしい光景に、ドロシーは戦慄する。
「ば……化け物め……!」
「あら、素敵な褒め言葉をありがとう。さて、お父様が食べやすいようにドロシーちゃんには横になってもらうわよ…」

シュルッ、シュルルル……!
拘束していた触手が角度を変え、リクライニングシートのようにドロシーの体をゆっくり下ろした。
「さてお父様。今日はどんな食べ方にする?足から食べる?頭から食べる?それとも…丸呑みにしちゃう?」
「う、嘘でしょ……?本当に私を食べるつもり……?」
「今更何言ってるのよ。お父様は若い女の子の柔らかふわふわお肉が大好物なの。だからあなたみたいな最上級のA5ランクだと、お父様はいつも食べ方で悩んでしまうのよ。クスクス…!」
「そ……そんな……本気なの……!?」
ライラの父……と思われる異形の顔は、唸り声を上げながらドロシーの食べ方を思案しているようだった。
「じゃあ…お父様が食べ方を決めるまでに、私がドロシーちゃんと遊んであげるわ。」
ライラはそう言うと、先ほど注射器やら包帯やらと一緒に出てきたビンを手に取った。


65 : 名無しさん :2017/02/07(火) 02:15:17 ???
「これは私の開発した人肉調味料、カニバリオイルよ。……お父様のために、私がドロシーちゃんを美味しい料理に仕上げてあげるわ……!」
「くっ……!や、やめろっ….!」
「クスクス。絶対やめないわ。お父様の美味しい食事のためなんだもの……!」
ライラが蓋を外し、ドロシーの顔の上で瓶を傾けると、ドロリとした白濁液が垂らされた。
「い……いや……!うあっ!臭いっ!うげええ゛っ!」
ドロシーの頰を汚した白濁液は、まるで生ゴミに猫のおしっこをひっかけたような凄まじい刺激臭を発していた。
「臭いかしら?私はもう慣れちゃったからわからないわ。」
「うおえ゛っ!臭い!くっさい!う゛…!?お゛え゛っ!!」
あまりの臭気に、ドロシーは今朝食べたイチゴトーストをすべて吐き出した。
「うわっ、きったないわね。まったく…ドロシーちゃんみたいな美少女がそんな酔っ払いのおっさんみたいに、汚いもの撒き散らしちゃっていいの?クスクス…!」
バカにしたような笑みを浮かべながら自分を見下ろすライラ。その見下した様子に気の強いドロシーは我慢できなかった。

「く……クソがぁっ!魔法さえ使えれば!!!魔法さえ使えればあんたなんかアッ!!うわああああああああああああああッ!!!」
なんとか脱出しようと陸揚げされた魚のように暴れて抵抗を試みるも、太く固い触手の拘束から逃れることはできない。
その様子を見たライラの顔は、まるでおもしろ動物動画を見ているかのように笑っていた。
「ドロシーちゃん、あなたは最高よ。普通の子はこの時点で心折れてるからね。クスクス……!」
「うるさいっ!うるさいっ!!!離せええええぇぇっ!私は……!私はこんなところで死ぬわけにはいかないんだあああぁああっ!!」
より激しさを増すドロシーの抵抗。触手がギチギチと鈍い音を出し始める。
「このまま暴れれば脱出できる!」と、ドロシーは微かな希望を覚えた。
ゆっくりと持ち上げられたライラの足が……ドロシーの顔に振り下ろされるまでは。

「ぐあああああああッ!!」
「……ちょっとうるさいわよ。肉。今お父様が悩んでるんだから、静かにしなさい。」
「い゛ぐあっ…!わ……私のことを……肉……だとっ……!」
「もうすぐお父様に食べられるんだから、肉でしょ?肉は肉らしくおとなしくしてなさいッ!」
「あぐっ!!ひぎあああああああ゛あ゛あ゛あ゛!!」
踏みつけられた足をグリグリと顔に押し付けられ、その痛みと屈辱感でドロシーのささやかな抵抗は終わった。
「でもほんと、あなたの声って可愛いわ。気が強そうなのに、どうしてそんなに可愛い声が出るのかしら…?」
「ひぐうっ…ぐすんっ…おねがい……食べないで……早く殺して……!」
美しい緑目を涙目で潤ませるドロシー。その美しくも儚い美少女の顔を見て、ライラの父親は唸り声をあげた。
「ア゛ア゛アアアアアア゛ア゛ッ…!」
「今更食べないなんて選択肢はないの。それより、お父様がドロシーちゃんの食べ方を決めたわ。クスクス……!」
「ひ……!いやっ……!食べられて死ぬなんて嫌……!誰か、誰か助けてえっ!いやあああああああああああああああ!!!」
これから待ち受ける恐ろしい運命を前に、百戦錬磨のドロシーの精神は音を立てて瓦解していった……


66 : 名無しさん :2017/02/07(火) 02:43:16 ???
ライラは、薄ら笑いを浮かべながらドロシーのスカートの両端ををつまみ上げた。
「ふふふ…折角こんな見えやすいスカートなんだから、もう少しかわいいパンツ穿けばいいのに」
「うっ……うる、さい……ひ、ぐっ……」
腹に浮き出た「父親」の顔からは、太く、長く、ナメクジの様に粘ついた舌を伸びる。
ドロシーの太股の上を、その柔らかさを確かめるように這い回りながら…少しずつ、その根元を目指す。

「ふふふ…お父様は、こうして女の子の初めてを奪った後、卵巣や内臓を内側から食べるのが大好きなのよ」
ライラに「もう少し」と評された下着を押しのけ、舌先が秘密の割れ目をなぞり上げた。
「…ひっ……だ、黙れ、邪術師っ……こんな、こんなの…許されない…
人の命を弄び、魔物を造りだすような外法…トーメント王国の名に於いて、決して…
例え私が倒れても、他の王下十輝星が必ず貴様に鉄槌を…」
…そう。悔しいが、こうなったのも全て皆の忠告を聞かなかった自分の責任。この無念は、きっと他のみんなが…

だが、歯を食いしばりながらのドロシーの啖呵に対し、ライラは鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべた。
「……あら。まさか貴女、何も聞かされてないの?許すも許さないも、私…
トーメントの王様には、ずいぶん前から魔物や邪術の法具を取引してるのよ?」

「な……一体、お前は……何を…」
「…王様に邪術の研究資料や開発した品物を引き渡す代わりに、
 私たちは研究費と…定期的に『遊び相手』を寄越してもらう。そういう取引なの」
「何を…言って……そんな、…うそだ…そんな、事……」
ドロシーは、ライラの言葉を否定しようとするが…王様の異常な能力を持った新しい装備品や、
昨今闘技場で猛威を振るっている様々な新種の魔物など、思い当たる節はいくつもあった。

「ふふふ…絶望に染まって、とってもイイ顔……そろそろ食べ頃よ、お父様」
光が消えたドロシーの瞳。そこから流れ落ちる涙を舐め取りながら、ライラは恍惚とした笑みを浮かべた。


67 : 名無しさん :2017/02/08(水) 02:22:49 ???
「嘘よ……!王様が私をこんな目に合わせるためにこの依頼を出したなんて…絶対にありえない!!」
「クスクス。この前王下十輝星には可愛い子がいっぱいいるって聞いたから、1人欲しいなっておねだりしたの。そしたらあなたが来てくれたのよ。まさかこんな美少女を私にくれるなんて…本当に、トーメントの王様には感謝してもし足りないわ。クスクスクスクス…!」
「う……嘘だ……信じない……!そんなこと絶対に、絶対に信じるもんかっ……!」
取り乱すドロシーの腰に、ゆっくりと近づいていくライラの父親の舌。どうやらもう我慢の限界らしい。
「はいはいお父様。早く処女膜をブチ破りたくて仕方ないのね。まったくもう…」

「アアア゛……アアァアァアァ……」
父親の舌が最後の砦である薄布をさっさと押し退け、その中にあるドロシーの秘密の園へと強引に押し入った。
「ぐあっ!痛……!いああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
舌に処女膜を破られたことのある女性など、そういないだろう。
そんな人類未到達の感触に、ドロシーは目を見開いて絶叫した。
「あら、やっぱり初めてだったのね。こんな可愛い女の子の処女を奪えるなんて…お父様が羨ましいわ。」
父親の舌は嬉しそうにドロシーの中を舐め回し、まだ開いたばかりの通路を強引に広げていく。
「い゛ぐぅっ!あ゛っ!うぐああ゛っ!ひぃん゛っ!があ゛あ゛っ!」
ドロシーが感じているもの。それはもちろん身を焦がすような快感などではなく、身を焼かれるような痛苦だった。
ドロシーの膣は想定外の来訪者に対応できずはずもなく、無法者の暴虐に無遠慮に嬲られるばかり。
ふと目をやった下半身から血と唾液が噴き出すのを見て、ドロシーの理性は崩壊した。
「い……いやああああ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!いだいっいだいっ痛いいい゛い゛い゛ッ!も、もうやめてえええええええ゛え゛ッ!!」
「あぁ……最高の声だわ……!もっと聞いていたいけど、あんまり遊ぶのはかわいそうだからね…」
ドロシーがそう言うと、それは突然始まった。

ガブッ!!!グジュルッ!!グチャッ!
「ひあ゛っ!?ぎゃあああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッッ!!!」
膣深くに入った舌が、突如ドロシーの肉を切り裂き始めた。
「お父様の下は硬質化も出来るのよ。今はナイフの形になって、ドロシーちゃんの開通工事を始めたの。奥にあるアレを取るためにね…」
ライラが喋る間にも、ドロシーの股間は鋭利な舌にザクザクと引き裂かれていく。
尋常ではない激しい痛みに、ドロシーの顔は大量の汗と絶望に満ちた形相になっていた。
「うぎぃっ!!あぐっ!!!がああっ!!!ひぎあああああッ!」
「痛いよね?痛いよね?でももうすぐだよ。もうすぐ私の欲しいものが出てくるから…!」
どうやらライラは、ドロシーの体内から何か引きずり出そうとしているようだった。
しかしそれが何かなど考える余裕はドロシーにはなく、ただ襲いくる暴力的な痛みに声を出して耐えるしかない。
「アアァアァアァ…」
「…見つけたみたいね。お父様。準備はいい?」
「あぐぁぁっ…!も、もうやめてぇ……!わたしの体を……おもちゃにしないで……!」

ドロシーの必死の訴えも、ライラには届かない。彼女の頭にはこれから手に入るものの事でいっぱいだった。
「さぁお父様、そのまま引きずり出すのよ……可愛い可愛いドロシーちゃんの大切な子宮をね!!!」
「なっ…!?」
ライラの掛け声と同時に、臓器が引き裂かれる音がした。

プチっ…!ブチブチブチブチブチブチブチイイイッ!!!
「がっ…!?ぐうううう゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛っ!!!うがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーーッッッ!!!!!!」


68 : 名無しさん :2017/02/08(水) 15:51:18 ???
肉が避ける音とドロシーの絶叫が洞窟に響き渡る中、ライラは素早く引きずり出された子宮を手に取った。
「わああぁ…お父様ありがとう!ドロシーちゃんみたいな美少女の子宮がずっと欲しかったの!それもこんなに綺麗な状態でっ…!もうライラ、お父様のこと大好きぃ……♡」
「あ゛あ゛っ……ぐぅう゛うう゛……ひぐぁ゛っ……!」
ライラの声を聞くまで、自分の身に何が起こったのかわからなかった。
「あ…お父様ったら、つまみ食いしてるのバレバレよ?クスクス、ドロシーちゃんの卵巣は美味しかった?」
「アア゛アァ゛アァ゛アァ…!」
2人の恐ろしい会話に加えて、とてつもない激痛と出血に目の焦点が合わず、口からこぽこぽと泡を噴き出すドロシー。もう彼女の体は限界だった。

「クスクスクス…どお?処女も子宮も奪われた感想は?もうドロシーちゃんに女としての幸せは一生やってこないのね。可哀想に……」
「こひゅぅ……ひぁ……あぅ……」
「さぁお父様、可哀想なドロシーちゃんを残さず食べてあげましょ。それが私たちにできる精一杯の供養だから…クスクス…!」
出血により衰弱しきったドロシーの上に、ライラはゆっくりと体を重ねた。
「ふふふ。お父様が食べやすいように、ドロシーちゃんにぎゅーしちゃうね。…あぁ、本当に可愛いなぁ……!」
「……だ、まれ……!アンタは……他の王下十輝星が……必ず殺すわっ…!」
「あら?まだ喋れたんだ?…じゃあキスの味も知らないまま死ぬ前に、私が教えてあげるね。…んっ…」
「んぐぅ!?」
恍惚の表情を奪いながらドロシーの唇を奪うライラ。押し付けられた唇が離れると.、2人の口を繋ぐ透明の糸が作られた。
それを見て完全にスイッチが入ったライラは、欲望に任せて舌を捩じ込み鼻を舐め上げ、死にゆくドロシーの顔を激しく犯し続ける。
「どう……?気持ちいい……?ドロシーちゃんの人生はここで最後なんだし、最後ぐらい気持ちよくなってね。クスクス…」
(だ、だめだ…こいつは……狂ってる……!)

ライラとの望まない接吻を交わしていると、ドロシーの腹に硬いものが押し当てられた。
「んぐうっ!?」
「あ…お父様の歯ね。ドロシーちゃん、お楽しみはここまでよ……美少女のお肉、いただきま〜す♪」
ライラのその声が、ドロシーの終わりの始まりだった。


69 : 名無しさん :2017/02/11(土) 02:13:19 ???
「んっ…くちゅる……ちゅぱっ……ふふふ…気分はどう?ドロシーちゃん…」
「…む、ぐ……あ……へあ……」
ライラはドロシーの咥内をあらかた蹂躙しつくすと、まるで蛇のそれのように細長い舌を満足げに離れさせる。
今や無抵抗…いや、ほとんど無反応に近くなったドロシーは、自分の舌を蛇舌に絡め取られ、強引に引っ張り出され、
唾液の糸が名残惜し気に引かれる様を見せつけられ…それでも、ただくぐもった声を漏らすばかり。

「クスクスクス…すっかり私の舌の虜になったみたいね。ところで…不思議だと思わない?
全身を滅茶苦茶に喰い荒らされて、心臓が半分見えちゃってるのに……どうしてまだ死ねないのか、って」
ライラの言う通り、彼女の「父親」はドロシーの腹の肉をあらかた喰い尽くしてしまっていた。
適度に鍛えられうっすらと縦筋のついた腹筋も、ほっそりとしたくびれを描いていた腰も、今や見る影もない。

「…あ、……お…ぉ………」
「私の術で、ドロシーちゃんの魂を身体に繋ぎ止めてるの。だから、例え心臓を食べられても死ぬことは出来ない…」
残る手足もライラの他の顔に貪り喰われ、残っているのは美しかった顔と胸。そして…
露出したドロシーの心臓を、ライラは楽しそうに指先で弄ぶ。ひと撫でごとに、ドロシーは文字通り心臓が止まるかのような悪寒に襲われる…
だが、どれほどの苦痛に苛まれようとも、ドロシーに死という解放が訪れる事はない。
泣き叫ぶための涙も声も、既に枯れ果ててしまっていた。
「このプリプリの心臓も、美味しそうな脳みそも…たっぷり味わってあげる。フフ…今夜は寝かさないわよ」

ライラが再び細長い舌を、今度は耳穴に差し込もうとした…その時。ライラのお腹の顔達が一斉にざわめき始める。
「どうしたんですの、お父様…?……誰かが、この森に近づいて来てる、ですって…?」

………

…それから更に、1時間ほど後。
急ごしらえの「偵察ロボット」が、邪術師の住まう洞窟を出発した。
右腕は数々の武器を内蔵したアタッチメントアーム。
左手は数本の触手を束にしたもので、死神のような大鎌を巻き付けて持っている。
下半身は「動ければ何でもいい」とばかりに適当に繋げたので何の生き物だか覚えていない。
そして胸と頭は……今しがた捕らえたばかりの少女から拝借したもの。
その頭中からは脳が取り出され、その代わりに見聞きした物を洞窟の術師に伝える特殊な魔法具が埋め込まれていた。

「…こんな時に、一体誰かしら。ただの迷子なら、この洞窟までたどり着くことはないだろうけど……」
「父親」を通して、侵入者の気配がライラに伝わってくる。
ドロシーが通った道とほぼ同じルートで、少しずつこちらに近づいてきていた。
どうやら彼女の倒した魔物の死体や切り倒した木などの痕跡を辿っているらしい。
現れたタイミングから考えても、おそらく侵入してきたのはドロシーの仲間……という事は。

「…王下…十輝星…?」
……ライラの予想は的中した。ドロシーの目を通じて、映し出された侵入者の姿。
それは……金色のショートヘアに、黒ずくめの服を着た一人の少女。

「やだっ…かわいい……」
抱きしめただけで折れてしまいそうな細い腰、その内に収められている子宮はもちろんの事、
膨らみかけで緩やかなカーブを描く胸と、中で脈打つ心臓。
人形のような、作り物めいた美しさを持つ顔、そしてその内側の…脳。……すべて自分のモノにしたい。
王下十輝星の一人「スピカのリザ」と呼ばれるその少女を一目見た瞬間から、ライラの心は完全に奪われていた。


70 : 名無しさん :2017/02/11(土) 20:48:41 u3HmskzM
「な……なにこれ……!」
ドロシーが辿った道を進んだリザの前に現れたのは、この世のものとは思えない造形物だった。
頭と胴はドロシー。右手はロボットアーム。左手は触手の束と鎌。足はタコ。
狂気の邪術士が作り出したドロシーロボは、ギギギギ…と不穏な音を出しながらリザに襲いかかってきた!

「ギギギギギギ…!!」
不穏な音を出したロボットの左手の触手が、ニョキニョキとすさまじい勢いで伸び、リザの細い足を素早く絡め取った。
「しまっ…あぁんっ!!」
触手に足を取られた驚きで喘ぎ声のような声を出したリザは、そのまま右足を持ち上げられ…
「い、いやっ…!うわああぁッ!!!」
ドゴッ!!!
…体のバランスを触手に奪われ、頭から地面に叩きつけられた。

「うっ……あ……」
幸い意識を失うことはなかったものの、頭から血をダラダラと流し、うつ伏せの状態で身体をビクビクと震わせるリザ。
そんな美少女の無防備な状態を逃すまいと、ドロシーロボの触手は左足の拘束へと向かった。
(くっ…!私はこんなところで……負けられないッ!)

「はあああああっ!!!」
不屈の闘志で跳ね起きたリザは、足に伸びてきた触手を鬼神の如きナイフ捌きで全て切断することに成功した。
「ドロシー!!私のことがわからないの!?もう意識はないの!?」
リザの訴えには答えず、ドロシーロボは右手を構えて次の攻撃を開始する。

ドロシーロボの右手から現れたのは、小型バルカン砲だった。
リザの体を蜂の巣にせんと、すさまじい量の弾丸が一斉に発射される。普通の人間ならここで血しぶきをあげる場面だが…
「五月雨返しッ!」
リザは気合の入った声を出しながら、両手に構えたナイフを振り回し弾丸を跳ね返す。
それだけではなく、なんと全ての弾丸を直線上に跳ね返し、バルカン砲のあるロボットの右手を破壊することに成功したのだ。
恐るべき反射神経とそれを可能にする体…そして友の死を目の前にしてもまったく心を崩さないリザ。
心技体すべてを鍛えている15歳の少女は、異形の存在に対してもまったく怯むことなく果敢に応戦していた。

「クスクス…どうやらドロシーちゃんよりも強い女の子みたいね。あんなロボじゃまったく相手にならないわ…」
ロボの視界から戦闘の様子を観察するライラは、リザの妙技の前に急ごしらえのロボットが破壊されていくのを見ていた。
「あぁ……!あの青い目も美しい金髪も、全部私のものにしたい!お父様、もう1人食べていい?」
「アァァァ…!」
「…やっぱりお腹いっぱいよね。…まぁいいわ。今あの子までつまみ食いしたら流石に王様に怒られそうだし…また今度にしましょうか。」
モニターに何も映らなくなったのを確認すると、ライラはクスクスと笑いながらドロシーの子宮をペロリと舐めた。

「はぁ……はぁ……!」
激闘の末、リザの猛攻によりドロシーロボはプスプスと煙を上げ再起不能になった。
「ぐっ……!痛い……!」
頭からの出血と足に食らった銃弾で、苦しそうに顔を歪ませるリザ。
足を引きずってドロシーロボの元に近づいた彼女は、亡き友の顔にそっと手を添えた。
「ドロシー……あなたの仇は私が必ず取るよ。だから……グスッ……安心して天国に……行ってね……!」


71 : 名無しさん :2017/02/11(土) 21:59:36 ???
「ドロシーやエスカのことはともかく、今急ピッチで城の再建をしている。ルミナスの帽子に選ばれたノワールの魔力があれば、すぐに終わるから安心しろ。」
「…リザ、どうかした?なんか上の空になってるけど…」
ドロシーのことを追想していたリザは、ヨハンに声をかけられて現実世界に戻された。
「あ、いや…なんでもない。」
「キャハハハッ♪上の空になってるリザちゃんも可愛かったですわよ!後でニヨニヨするためにアイナはバッチリ録画しておきましたわ!」
「あ、アイナ。それ後で俺にもくれ!!!」

(あの後は結局、どこを探しても邪術士の姿はなかった。見つけたのはドロシーがいつも付けてたこの赤いリボンだけ…)
ポッケに入れているリボンの感触を確かめ、リザは亡き友に再び想いを馳せる。
(あの時もし私が一緒に行ってあげていれば、ドロシーを助けられたかもしれないのに…!)
エスカ不在の今、自分たちもいつドロシーのようになるかわからない。
そんな漠然とした恐怖が、リザの表情に陰りを生み出していた。



所変わって、ここはアリサの目指すアルガスに至る平原。
異世界人が集まると聞いて、彩芽、サラ、桜子、スバルの4人も、アリサと同じくこの地を目指して旅をしていた。
「さぁみんな。もうすぐアルガスに到着するわよ。夜になる前に急ぎましょう。」
「はぁはぁ…まだ着かないのぉ?ボクもう疲れたよ…」
「わたしも疲れたよ桜子おねえちゃん。休みたいよぉ…」
弱気な声を出す2人。狭く暗く魔物だらけのレミア洞窟を探索したせいで、2人とも体力は限界だった。
「…サラ。2人もこう言ってるし、今日はここでキャンプにしないか?街まではまだかなり歩くんだろう?」
「あと5時間も歩けば着くわ。深夜には到着するんだから、頑張って欲しいんだけれど…無理かしら?」
「5時間なんて無理無理!!1番動いてるのに1番疲れてないサラさんはすごいけど、ちょっと前まで引きこもりだったボクはもう限界だよぉ!」
「スバルももう疲れたぁ!彩芽おねえちゃんと一緒に休みたいぃい!!」
「…はぁ。仕方ないわね。サクラコ。私は危険なものがないか見てくるから、アヤメたちのためにテントを張って待っていて。」
「あ、あぁ……」
いつも危険な役回りを引き受け、魔物との戦いも最前線で立ち回るサラ。
そんな彼女に桜子は心の底から感謝しつつも、ほとんど頼りにされていない自分に対し腹立たしさを感じていた。

「なぁ…彩芽。私たち、サラに色々と任せすぎじゃないか?」
テントを張った途端すぐに寝袋で寝てしまったスバルの隣で、桜子は彩芽に話しかけた。
「だってボクたちには力がないもん。サラさんが強すぎるんだよ。元ヒッキーのボクにあのレベルと同じになれって言われても無理だよ。」
「ま、まぁそうなんだが…もしサラがやられたら、私たち2人でスバルを守れるか不安なんだ。そろそろなにか考えた方がいい気がして…」
「大丈夫だって。ここまでだってあの人が無双してきたんだし。もうちょっとで安全なアルガスに着くんだし、それまでは考えなくていいよ。なんか案があるわけでもないんでしょ?」
「あぁ…でもアルガスに着いたら、一緒に考えよう。私たちだけでスバルを守る方法を。」
「はいはい。桜子さんは真面目だなぁ…」
そこまで話したところで彩芽は、サラが未だ戻らないことに気がついた。いつもは20分ほどで帰ってくるのに、もう1時間も経っている。
「サラさん…遅いね。何やってるのかな?」
「…私が様子を見てこよう。彩芽はスバルを頼むよ。」


72 : 名無しさん :2017/02/12(日) 22:56:29 ???
女時空刑事サラ。
幼少の頃とある事件に巻き込まれて天涯孤独の身となった彼女は、
時空を超越して犯罪者と戦う組織「時空警察」に引き取られ、
厳しい訓練の末にコンバットアーマーを纏って悪と戦う「白銀の騎士」となった…

「…うーん。ちょっと焦り過ぎてたかしら…あの二人もだいぶ疲れてたみたいだし、悪い事したわね」
…職業柄、単独で行動する事が多かったせいもあったからか。
同行者への配慮が足りなかった事に遅まきながら気付き、サラは密かに反省していた。
(…こういう旅とか初めてだったんで、ついテンション上がっちゃって…とは、流石に言えない)
ともかくも、周辺の探索を一通り終えたサラは、仲間の元へ引き返そうと踵を返す。
その時。

街道の先から、一人の少女が歩いて来るのが見えた。
長い黒髪、黒のセーラー服、チョーカー、そして黒いストッキングにブーツ…服装から高校生と思われるが、
凛とした雰囲気を持つ美貌に、サラと同じくらいの長身。そして、すらりと伸びる長い脚が印象的だった。

「…貴女…何者?」
だが…こんな人里離れた場所を、しかもたった一人でうろついているのは、明らかに不自然。
「サラ・クルーエル・アモット……『白銀の騎士』。貴女を、破壊する」
サラの名を知る黒ずくめの少女は、殺気を漲らせながら襲い掛かってきた!


「……はあああぁっ!!」
「くっ!…………信じられない!…なんて強さなの…」
黒い少女の繰り出す蹴りの速度に翻弄されるサラ。しかも、一撃一撃がガードの上からでも身体の芯に響く程に重い。

ビシッ!
「っぐ…」
鞭のようなローキックが、サラの太股を打ち抜き……
どすっ!どすっ!どすっ!
「あぐっ!!…が………はっ…!!」
体勢が崩れたサラの上半身を、黒い少女が抱え込んで…膝蹴りを連続で叩き込む!

「…『閃甲』は、しないのかしら?」
…黒髪の少女はサラの鳩尾に二十発以上の膝蹴りを叩き込んだ。
脱出不能の「膝地獄」に悶絶するサラが抵抗しなくなったのを見て取ると、
サラの金色の前髪を掴みながら問いかける。
「…はぁっ……はぁっ……しない、わ…アナタみたいな可愛らしいお嬢さんに、そんなオトナゲない真似…」

喉の奥に血の味を感じながらも、不敵にほほ笑むサラ。
自分の名前だけでなく、『閃甲』の事まで知っている事を考えると、トーメント王国の追手である可能性は極めて高かった。
だがそれでも、正体がわからない、普通の人間かも知れない少女に、時空刑事の力を使うわけにはいかない。

「…なるほど。それなら……」
少女はサラを突き飛ばすと、黒いセーラー服のスカートを少しだけ持ち上げ…

「『葬黒』…!」
太股に巻かれた、金属製のバンドに触れ、コマンドワードを唱える。
すると、闇色のオーラが少女を包み込み………
次の瞬間、少女は漆黒のメタルスーツに身を包んでいた。その姿はまるで…

「…黒い、クレラッパー…!?…一体、どうして…」
「……これで本気を出してくれるかしら」

黒衣の少女の名は、柳原舞。
トーメント王下十輝星に捕らえられたレジスタンスの一人で、今は『教授』と呼ばれる狂科学者の意のままに操られていた。
彼女の任務は、『閃甲』した貴女を徹底的に破壊し、このスーツの性能を実証する事。
そして…サラと同行している少女「古垣彩芽」の身柄の確保。

「どうやら、やるしかないみたいね……『閃甲』!!」
光に包まれ、変身するサラ。
夕闇迫る荒野にて。二人の騎士が、今まさに激突しようとしていた…


73 : 名無しさん :2017/02/14(火) 23:34:24 69y0LTg6
「ライトニングシューター!」
サラは腰のビームガンを抜き、舞に向けて雷弾を素早く3発撃ち込んだ。
「ダークバレット!」
応戦する舞の手から発射された暗黒の弾丸は、空中で巨大化し、サラの放った雷弾をすべて吸収した。
(魔法かしら…やはり普通の女子高生ではないわね。それなら…!)

「シルバー・プラズマソード!純粋起動!」
手に持った大剣にプラズマエネルギーが流し込まれると、シルバー・プラズマソードの刀身が眩い光に包まれる。
すぐにその光が収束すると、シルバー・プラズマソードは刀身を大きく伸ばした真の姿を現した。
「それがネペンテスを倒した、貴女の自慢の武器ね。…凄まじいエネルギーだわ。」
「ネペンテスですって…?やはりアナタはあの王の手先ね!」
「さぁ…?どうせここで貴女は死ぬんだから、私が何者かなんて関係ないでしょ?」

舞の手に大きな闇のオーラが現れ、その中から禍々しい鎖鎌が現れる。
「サラ・クルーエル・アモット…このダーク・チェインサイズで、貴女を絶望のどん底に落としてあげるわ…!」
「随分と自信があるようだけど、私は強いわよ。そんな妙ちくりんな武器で勝てるのかしらね…?」
「そんな口を叩けるのも今のうちよ…はあぁっ!」
雄叫びとともに、舞は鎖をサラの頭に向け思い切り投擲した。

「はあぁっ!」
サラは向かってきた鎖を切り払う。普通の鎖であれば、彼女のシルバー・プラズマソードであっさりと切れるはずだったが……!

ガチィン!
「な、なんですってッ!?」

……勢いよく弾かれた鎖は傷1つつかない。それどころか、最初の勢いを殺さないままに再度、サラの体に襲いかかった。

ガチィンッ!ガイイィィンッ!!
「ふん…なかなか面白いオモチャじゃない。あなたみたいな女の子が持つには危なすぎるけどね…!」
臆したら負け。それがサラのモットーだ。どんな敵にも余裕を見せれば、相手に焦りを与えるきっかけになる。
(この動き…魔法で操っているのかしら…!ただの鎖鎌じゃないわね…)
「ククク…硬い鎖と踊るのだけで精一杯かしら?私とも遊びましょう?」
舞がそう言った瞬間、サラの視界から舞の姿が消えた。

ヒュンッ!
「なっ!?速ッ…ぐあっ!?」
高速でサラの懐に潜り込んだ舞は、履いているブーツで腹を蹴りあげサラの体を宙に浮かせた。
「さぁ…強がりでプライドの高い貴女の悲鳴を聞かせて?」
「えっ…?」
「秘奥義…連牙百烈蹴!!!」
「あがっ!?ぐあああああああああぁぁあぁぁぁああぁぁッ!!!」

空中で無防備なサラの体に向け、舞の高速連続蹴りが炸裂する。
「いい声ね…貴女も王様のおもちゃにしてもらうといいわ…!」
「ぐううああぁっ!!ぐっあっあっあぅっ!あ゛っあ゛っあ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
(か……体が……浮き上がっていく……!)
その凄まじい蹴りはサラの体を地面に落とさず、空中で固定してしまっていた。

「ほらほら、さっきまでの威勢はどうしたの?セクシーお姉さん。」
「ぐっがはっ!あぐっ!うあああああああ!!!」
太い杭を連続で打ち込まれるような激しい痛みに、たまらずサラは言葉にならない大声をあげて痛みを堪える。
そして、それはまだまだ終わらない。

「フフフ…このまま貴女の鎧をすべて剥がしてあげる…!」
「がっ……?ああぁっ……!?」
強化されたブーツによる連続蹴りにアーマーが耐えられず、身体中からギシギシと不穏な音が響き始める。
バキィンッ!!!
「うぐっ……?ぐっああああぁああぁっ!!!」
ひび割れたアーマーの隙間に舞の蹴りがクリーンヒット。サラは空中で身を大きく捩った。
「これ、本当に貴女の防具なの…?もうボロボロじゃない。そろそろ全部剥がれそうよ?」
バキ!バキバキバキバキ!!!
「ぐああーーーーーーーッ!!!あ゛がああーーーーッ!!ぐううううっあああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

アーマーが剥がれたむき出しの場所を狙って、舞の蹴りが次々と炸裂してゆく。
脱出しようにも凄まじい蹴りとそれによる痛みが酷く、全く身動きが取れない。
常人であれば失神するような激しい痛みの連続に、サラは目を白黒させながらけたたましい悲鳴を上げ続けていた…


74 : 名無しさん :2017/02/15(水) 11:30:10 ???
「ふふ、いい顔になってきたじゃない。白銀の騎士…苦しんでる顔も素敵だわ。」
「ふぐっ……!がふっ!」
舞の連続蹴りの勢いはとどまることを知らず、サラは込み上げてきたものを口から吐き出した。
「ぐ……あぁ……!」
「酷い顔…声もあんまり出なくなってきたし、そろそろ死んじゃいそうね。…じゃあこれで、トドメっ!」

舞のトドメは足を上に大きく開き、思い切りパンツを見せる格好からのかかと落とし。
サラの視界には舞の純白の薄布が映った瞬間、頭の上にかかとが押し付けられ地面に叩きつけられた。
「ぐはぅんッ!……ぁ……うぅ……」
「ネペンテスを倒したと聞いたから少し期待してたけど…まさかこの程度とはね。すっかり拍子抜けよッ!」
「がはッ…!げほっ…!」
頭上からの圧力に衰弱した体で抵抗する術はなく、されるがまま足で顔を地面に押し付けられる。
「フフフ……無様に土を舐めさせられて、弱者にお似合いの格好ね。完全敗北した気分はどう?」
(な……なんなの……何が起こって…… )
圧倒的な舞の力の前に、サラはまだ思考が追いついていなかった。

「さて、貴女は拘束させてもらうわ。鎖で巻くけど抵抗はしない方が身のためよ…」
顔も体もボロボロの状態では抵抗などしたくてもできず、サラは舞の鎖によってみっちりと拘束された。
「あ……貴女の狙いはなんなの……?」
「まだそんなことを喋る元気があるのね。…悪いけど、少し気絶してもらおうかしら。」
舞が手をかざすと、先ほどサラの銃弾を吸収した闇の球体が現れた。
「さっきもらったもの、ちゃんと返すことにしたわ。はい、どうぞ。」

ドンドン!
「うぅう゛!?あ゛ぐあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…!」
先ほどサラの放った雷弾が球体から飛び出し、サラの腹へと命中した。

バリバリバリバリバリバリバリィッ!!
「ひゃんっ!があ゛っあ゛っあ゛っあ゛っ!ひあああああああああっ!!」

体中に凄まじい電圧が駆け巡り、大きな胸を前に何度も突き出しながらビクンビクンと喘ぐサラ。その痛ましい姿はどこか官能的だった。
「あんっ!あ゛っ!ひあっ!あひっ!あああああああっ!!」
「もはやエロゲーね。この後は、くっ、殺せ……とでも言うのかしら?」
サラの強靭な身体ももう限界だった。電圧に全ての体力を奪われ、サラの美しい目から光がなくなっていく…
「あ゛あ゛……ぐ……ぁ……」
「無様な姿…しばらく気絶してなさい。白銀の騎士…」



「あ、桜子さんおかえりー……あれ、サラさんは?」
「戻ってないのか……サラがどこを探してもいないから、一旦戻ってみたんだ。」
「帰ってきてないよ?……うわ、なんか急に嫌な予感がしてきたっ……!」
アヤメは大慌てでアヤメカ袋をチェックし、戦闘の準備に入る。サラがいない今、自分の身を守れるのは自分だけなのだ。
「と、とりあえずわたしはもう一回外を回って、」
「その必要はないわ。」

唐突に響いた聞きなれない声に、2人はテントの外を見つめる。
そこには鎖で縛られたままぐったりしているサラと、端正な顔でこちらを見つめる黒い少女の姿があった。


75 : 名無しさん :2017/02/17(金) 17:11:41 ???
「サラッ!!大丈夫か!?」
「白銀の騎士は死んでないわ。ちょっと疲れて眠っているだけよ。安心なさい…」
ぐったりと後ろに仰け反って気絶しているサラの姿。今まで弱さを微塵も見せず果敢に戦ってきた女騎士の正体ない姿に、彩芽も桜子もショックが隠せなかった。
「そんな……サラさんがこんなに一方的にやられてるなんて……」
「彩芽…さっき私が言ったことがどうやら起きてしまったようだ。ここは私たちであいつを倒すぞッ!」
言うが早いか、桜子は長剣を構えて勢いよく走り出した!

「竜衝破、双牙!」
地を這う2つの衝撃波が舞の体を食い付くさんと襲いかかる。凄まじいスピードで放たれたそれは、あっという間に舞の眼前へと迫った。
「雑魚じゃないようね…でも。」
バシッ!バシィッ!
「な……!衝撃波を蹴りで消すなんて…!」
「貴方には興味ないの。白銀の騎士と戦ったのも私の力を試しただけ。私が用があるのは……古垣彩芽。貴方よ。」
「ええっ!?なんでボクーー!?」
舞に指を刺された彩芽は、突然のご指名に飛び上がった。
「話す必要はないわ。大人しく捕まるか……それともこの白銀の騎士のようにだらしない姿で捕まるか……どっちがいいかしら?」

「くっ…なんだかわかんないけど、ボクは大人しく捕まるつもりはないぞっ!こんな時のためにちゃんと用意してたものがあるんだっ!」
自分を鼓舞するように大きな声で叫ぶと、彩芽はフードを脱ぎポケットから怪しいボタンを取り出した。

「アヤメック!来いッ!」
彩芽がスイッチを押しそれを投げた途端、空中でスイッチが一気に巨大化し有人ロボットに変身した。
突如現れた巨大ロボは、そのまま地面ににドシン、と着地成功する。
「あ、彩芽……な……なんだこれは…!」
「な……なんなのよこれぇ……!」
舞も驚愕するほどの大きさを誇るアヤメック。3メートルほどの大きさで、コクピットの周りにはバルカン砲やらレーザー銃やら、様々なものがくっついている。
2本足も付いており、その姿はまるで小さなガンダムだった。

「とうっ!」
自分の足につけたホバーで飛び上がった彩芽は、ハッチの開いたアヤメックに素早く搭乗して操縦桿を掴む。
「桜子さんどいて!そいつはボクが、倒すから!」
「な、なんだかよくわからないが、彩芽!任せたぞっ!」
「動力、異常なし!全兵装展開準備完了!アヤメックスペシャルシステム、オールグリーン!」
メックの中から彩芽の声が周囲に響く。コクピットは透明になっており、外からでも彩芽の姿は確認できる形状だ。
「ぐぬぬ…こんなのが出てくるなんて聞いてないわよぉ…!」

「彩芽、いきまーすっ!」
高らかな掛け声と共に、背面のブースターでアヤメックは空へと舞い上がった!
「えぇっ!?飛ぶのぉーーー!?」


76 : 名無しさん :2017/02/18(土) 23:51:56 ???
「こないだの戦いではヤムチャだったけど、今のボクはアムロだ!一方的に殴られる痛さと怖さを教えてやる!」
アムロと言いつつカミーユの台詞を叫びながら空中から銃撃を放とうとする彩芽。

「ちょっと待て彩芽!そんなものを撃ったらサラが巻き込まれる!」
「そ、そうよ!白銀の騎士がどうなってもいいの!?」
「残念だったな!トリモチだよ!」
「うぇ!?」

アヤメックの武装では舞の近くにいるサラを巻き込んでしまう。そこで彩芽は逆に考えたのだ。巻き込んじゃってもいいやと。
非殺傷武器のトリモチランチャーでサラごと舞の動きを封じるのだ。

「桜子さん!今のうちにサラさんを!」
「おお!任された!」
「何よこれぇ!?ネバネバするぅ……!」

舞がトリモチに手間取っている間に、桜子がサラに駆け寄る。
剣でサラに付着したトリモチを切り取り、彼女を担いで急いで舞から離れる。

「よし!サラは安全圏に動かした!存分にやれ彩芽!」
「任務…了解…!足技に自信があるからって刃物の一つも用意せずにボクらを襲ったのが、お前の敗因だー!」
「ちょ…ま…!」

「全兵装展開!ターゲットロックオン!エネルギー充填率、100%!フルバーストォオオオオ!」
どこに隠してたんだってくらい大量の武装がアヤメックから現れ、それらが一斉に火を噴いた。

「きゃぁああああ!?」

アヤメックの一斉射撃が舞に直撃し、煙がもうもうと立ち込める!


トリモチで身動きを封じた上での一斉射撃をもろに喰らったのを見て、彩芽は勝利を確信した。
一応死にはしないだろうが、しばらく病院暮らしを送ることは確実だろう。

「やったか!?」
「ちょっと桜子さん!ボクも内心似たようなこと考えてたけど、それはフラグ……あ!?」

煙が晴れた先には、黒い少女の姿はなかった。
ただ、傷一つ付いていない漆黒のメタルスーツが佇んでいただけで。

「な、なんだあれは……?」
「黒い……クレラッパー!?」

「身動きを封じて一斉射撃……狙いとしては悪くなかったわ。私が何の武器も持っていないと楽観視していたことを除けばね」
「そ、そんな……アヤメックのフルバーストが効いてないなんて……」
「さて、『あの方』からは古垣彩芽には手荒な真似はするなと言われているけど……ロボット相手ならコクピットさえ狙わなければ構わないわよね!」
「……!まずい!彩芽!もっと高く飛べ!」
「もう遅いわ!」

アーマーによって底上げされた脚力によって、舞は高く舞い上がり、彩芽に肉薄する。
そしてサッカーのオーバーヘッドキックのような体制をとり、地面へとアヤメックを蹴りつける!

「ぐわぁあああああ!?」
「あ、彩芽ぇえ!!」
「さて、まずは同じ土俵に立ってもらったわよ」
(や、ヤバい……!今のでバーニアがイカれた!もうあんなに高くは飛べない!)

「さぁ、あんなネバネバした物体で弄んでくれた罪……しっかりと償ってもらうわよ」


77 : 名無しさん :2017/02/19(日) 00:41:54 ???
「ボードフィールドミサイル・全弾発射!」
空中に飛んだアヤメックの両肩から、糸を引くような煙と共に無数の小型ミサイルが射出された。
舞は周囲の岩を飛び回りながら、大量のミサイルを回避。あるいは蹴りと鎖鎌で叩き落していく。
だがその動きを予想していたかのように、アヤメックは上空から舞の死角を突いて飛び蹴りを叩き込む!
(……ずどんっ!!)

「彩芽お姉ちゃん、すごーい!!」
「す、凄いというか…いつの間にあんなものを…?」
もちろん、いかに彩芽でも、これほどの戦闘機械を短期間で開発するのは容易ではない。
これは、この世界に来て間もない頃、趣味と侵入者対策を兼ねて開発した物だ。

「アレイ草原を通った時、たまたま『元隠れ家』を見つけたんでね…色々と回収したんだ」
「…くっ!あの変態白衣から聞いてはいたけど、まさかロボットまで持ってたなんて…!!」
十数メートルほど吹っ飛び、瓦礫に叩き付けられた舞。
だが1トン以上の重量を持つロボの飛び蹴りを受けても平然としており、黒いスーツの防御性能の高さが窺い知れる。

「…変態、白衣…?……」
舞の呟いた単語から、彩芽はある人物…かつて『元隠れ家』を襲撃し、
自分の首に忌まわしい首輪をはめた、白衣の変態男…の事を思い出してしまった。
「アイツが絡んでるのか…じゃあ、そのサラさんのパクリみたいなスーツも、アイツが…?」
王の部下で、『教授』と呼ばれる狂科学者…どういうわけか、彼は彩芽の事を「花嫁」と呼び、異常な執着心を見せていた。

「…パクリとは失礼ね。私の『ジェットブラックアーマー』のパワーはあの金髪エロ女の2倍、スピードとキック力は約6倍よ?」
バイザー越しに見える少女の顔はかなり整ってはいるが、表情はほどんどない。…いや。
彩芽と目が合った一瞬、嗜虐的な『ドス黒い』笑みを浮かべた。
「…私を、『あんなの』と一緒にしないでくれる?」
「ああ、よくわかったよ…『こんなの』が、サラさんと一緒なわけがない…!」

………………

一方、その頃。アレイ平原の中ほどに位置する、『元隠れ家』に、ある人物が訪れていた。
「…この部屋はもう、誰も住んでいないようですわね…今夜はここで休ませてもらう事にしましょう」
金色の髪に白いドレス、腰には豪奢な装飾の施されたレイピアを帯びた少女…名を、アリサ・アングレーム。
「それにしてもこの部屋…妙ですわね」
得体の知れないガラクタやら、なにやら理解不能な機械やらが所狭しと置かれている上、本棚や椅子が倒され荒れ放題。
発明好きなマッドサイエンティストの家に、賊の集団でも侵入したのだろうか。
(……でも、どうしてかしら。妙に落ち着く…)
シャワーを浴び、ベッドに潜り込んだアリサは、眠りに落ちながら、昔の…この世界に来るより以前、
ケンカ同然に別れてしまったままの友人の事を…なぜか思い出していた。


78 : 名無しさん :2017/02/19(日) 12:36:46 TGrys3a2
私立棱胳女学院。大都会T県の中でもトップクラスの中高一貫校で、卒業生の女子たちはそのほとんどが弁護士や医者などの国を支える要職に就いている。
当時中学生だった彩芽とアリサはこの学校に入学し、共に学んでいた。

「おはよう彩芽。…今日も眠そうね。」
学院へ至る通学路で、黒いスカートと長い金髪を風に揺らしながら挨拶をする少女…山形亜利沙。
遠目からでも目立つ金髪。小顔に大きな黒い目。そんな彼女が背筋をピンと伸ばして歩く様子は、子供らしい可愛らしさと大人びた美しさを感じさせる。いかにもいいところのお嬢様といった様子だ。

「んあー……おはよ亜利沙。いやー、ちょっと昨日は夜更かししすぎちゃって……」
声を掛けられた方の女子…古垣彩芽は亜利沙とは真逆。皺だらけの制服を着た彼女は背筋を丸くしてダラダラと歩き、眠そうに大きな欠伸を繰り返している。お世辞にも育ちがいいとは言えなかった。

「昨日言ってた深夜アニメでも見ていたの?魔法少女…コバルトブルーだったかしら?」
「魔法少女小春とフルール!もう昨日はマジ神回だったんだよッ!小春たちが悪の親玉を山焼きで倒したんだけど、その影響で野鳥クラブから命を狙われることになっちゃったんだ!普段は落語をしてる凄腕ハンターから小春を守るためにフルールが撃たれて溶鉱炉に沈むシーンが……感動的すぎて……!」
「は……はぁ……」
「そ、それで……!もう朝まで何回も見てたから……眠くて眠くて……ふああぁ……」
「ほら、フラフラ歩いていたら危ないわよ。私に捕まって。」
「あぁ……いつもすまないねぇ……亜里沙や……アンタはいつもシャッキリしてて偉いねぇ……あたしの自慢の孫のだよォ……」
「フフッ、そのおばあちゃんみたいな口調やめてよ。……それにわたしは、いつも10時には寝ているから……」

亜里沙は嘘をついた。彼女が寝る時間はいつも深夜1時である。
そんな時間まで彼女がしていること…それは両親に強要されている、勉強だ。
帰ってきて着替えたら勉強開始。その様子は家に常駐している母が亜里沙の部屋に取り付けられた監視カメラでしっかりと監視する。
父親が8時に帰ると晩御飯。だが両親と一緒に食べるわけではなく、亜里沙の部屋に夕食が届けられるのみ。10分後に食器が回収されるまでに食べ終わらないと、父親の暴力が待っている。
食べ終わると20分の制限時間でお風呂に入り、その後勉強再開。亜里沙の部屋にはテレビも漫画もゲームも小説も携帯もパソコンもなく、あるのは机と参考書のみ。両親がリビングで談笑しながらカメラの映像を見ていなくても、勉強以外のことが許されない環境だった。
深夜1時に母親が様子を見にきた時に寝床についていなければ長い叱責が始まるため、0時50分には寝床につく。
休みの日には8時に起き、もちろん夜まで勉強。放課後に友達と遊ぶことも、休みの日に出かけることも許されない生活だった。

「規則正しく10時に寝るなんてボクには無理だよ。見たいアニメもやりたいゲームもいっぱいあるんだもん。」
「彩芽は…趣味がたくさんあって羨ましいわ。私にはそういうのないから…」
「亜里沙はボクと違って将来期待されてるお嬢様だもんね。僕みたいに放課後遊び呆けてなんかいられないよね……ふあああぁ……」
「…………」
彩芽の言葉に目を伏せる。自分とは全く違う自由な生活を送る彩芽の姿が、亜里沙は羨ましかった。
「……ねぇ彩芽。さっきのアニメの話…もっと聞かせて。」
「おっ、興味出てきた?フッフッフッ、ボクにこはフルの話させたら亜利沙、10時になんか眠れなくなるよ?」
「フフ、それは困るわね……」
亜利沙にとって楽しい時間……それは今のように、通学路や休み時間で彩芽と過ごす時間だけだった。


「……ねえ、アヤリサコンビがまた一緒にいるわよ。はみ出し者同士仲がいいわね。」
「長い金髪とか…アニメかっての。山形亜利沙……親が有名企業の社長だからって、絶対調子に乗ってるわよね。」
「彩芽、うまく取り入ってるようね。小学校の頃はイジメられてたくせに……亜里沙の側にいれば安心だとでも思ってるのかしら?」
汚い声を出して会話を交わすのは、亜利沙や彩芽とはビジュアルのレベルが違いすぎるデブ、ガリ、チビの3人だった。
3人とも棱胳女学院の生徒で亜利沙たちと同じクラス。名前は出無池(でぶいけ)画利山(がりやま)地微田(ちびた)と、そのまんまである。
「ねえ……あの2人の薄っぺらい友情、わたしたちで無茶苦茶に崩壊させてやらない?」
「以心伝心!今わたしも同じこと考えてたー!出無ちゃんまじ神ってるわー!」
「じゃあ、さっそく学校サボってサ◯ゼで作戦会議よ!」

いかにも小悪党の3人だが、この3人の暗躍によって亜利沙と彩芽の友情は文字通り崩壊することになるのである。


79 : 名無しさん :2017/02/19(日) 15:59:35 ???
「で、具体的にはどうするの?あの2人の弱点とかあるの?」
飲んでいるメロンソーダを口からベチャベチャ零しつつ、ガリヤマがブスイケに尋ねる。
「狙うべきは亜里沙ね。彩芽は昔いじめられてたから、色々と警戒心が高そうだわ。」
「あいつ、イジメで小3から小6まで不登校だったんだけど、小6になって登校するようになってから変な機械使い始めていじめっ子に反撃してきたんだよ。それから直接的にはいじめられなくなって…」
「へー、じゃあ6年からはいじめられてないんだ?」
「ううん!筆箱隠したり、体操着をトイレに突っ込んだり、あいつが書いたようにラブレター偽装したのをデブ男に渡して勘違いさせてた!ギャハハハハハハ!」
「うはwww間接的にってやばたにえんすぎっしょ!」
「しかもそのデブ男マジになっちゃって、その日の放課後彩芽を体育館裏で無理矢理押し倒してキスしたの!!そのあとまた一週間学校来なかったのホント草生えるわwww」
「ゲヒャハハハハハハ!!!チビタまじ外道だわー!」
ゲラゲラと笑う3人。他の客の冷ややかな視線も気にせずドリンクバーだけで居座る3人は、どう見ても進学高の生徒ではなかった。

「でも友情崩壊かー。普通にいじめるんなら楽だけど、あいつらの仲を引き裂くとなると何がいいかなー?」
「普通に亜里沙の財布を彩芽のカバンに突っ込めばいいんじゃね?それをあたしらが暴くとか!」
「それでもいいけどなんか弱いのよねー!てかあいつ金持ちだし、金取られた所でダメージないっしょ。なんかさーあいつらが大切にしてるものとか知らない?」
「…あ!小学の時亜里沙に惚れて以来いつもストーカーしてるキモオタの知り合いがいるから、そいつに聞いてみるわ!」
デブヤマはそういうとすかさずチャットを飛ばした。
「…あ、返信きた。なになに……プッ!」
「見せて見せて!……拙者のお嫁さん予定のマイスウィートハニー亜里沙ちゅわんがバリメチャ大切にしているものは、小さい頃に両親からもらった猫のぬいぐるみだよぉん。ぼく一回更衣室に忍び込んでそのぬいぐるみをペロペロしようとしたところを見つかっちゃって、それ以来口利いてくれない(´・ω・`)ショボーン……だって!」
「猫のぬいぐるみー!?幼稚園児じゃん!普通あたしらJCの大切なものって言ったら洋服とかアクセでしょwwwガキじゃんwww」
お嬢様である亜里沙の意外なファクトに、棱胳女学院のブサイク3人衆は大声でゲラゲラと笑った。

「じゃあさ、いつもカバンに入れてるっていう猫ぬいぐるみをズタボロのギタギタにして、彩芽の仕業にすればオッケーね!」
「それでいこー!今日体育の時間あるし、忍び込めば取れそうね!」
「よーし、亜里沙のメンタルブレイクして、また彩芽を不登校にさせるぞー!」
「おーー!」


80 : 名無しさん :2017/02/19(日) 17:27:31 ???
そんなこんなで、デブ・ガリ・ブスの3人組は教室に忍び込み…いやブスは3人ともか。
デブ・ガリ・チビの3人組が亜里沙のカバンを開くと…

「お、あったあった。こんなキタナイ猫の縫いぐるみとか、何で学校に持ってきちゃうかなー?いけませんねーフヒヒ」
「つーかコレ、ゲーセンで取るヤツじゃん?もっと高そうなやつ想像してたわwお嬢様とは何だったのかww」
「ところで、彩芽の仕業にするのはいいけど、具体的にどーやんの?」
「『アヤメが斬る!!』って書いた紙を入れとけばいいんじゃね?」
「天才現る!」「マジ頭いい!」「ソレナ!」「トリマ!」
3人のブスは口々に邪悪なJKスラングを発しながら、ゲラゲラと嗤っている…何と恐ろしい光景であろうか!
そして(´・ω・)←こんな顔した猫の縫いぐるみの首根っこを掴み、カッターナイフを振り上げた。
だが、その時。

「ふーん…君たちはドロボウが得意なフレンズなんだね」
「…!?……ブス山、なんか言った?」
「いや、知らないわよ…ブス田が自分で言ったんじゃね?」
「は?何も言ってないし?じゃあ、ブス池でもないわけ…っ!!?」
…ネコの縫いぐるみの爪が伸び、三人に襲い掛かる!!
誰もいないはずの教室に突如響いた、棒のように澄んだ声の主は…なんと、猫の縫いぐるみだった!

「すごーい!!」
「いっぎゃああああ!!」
「すごーい!!」
「ひぎいいい!!」「らめええええ!!!」

…血だまりの中に倒れる三人。後には返り血を浴びたぬいぐるみだけが残された。

「…これで、のけものはいなくなった」


81 : 名無しさん :2017/02/19(日) 18:00:21 ???
「よし、体育始めるぞー。お前ら二人組作ってー……って、今日は三人も休んでるのか?」

「…はあ。かったるいなー。ボクもさぼろっかな…」
「だめよ彩芽。あなた運動は壊滅的なんだから、せめて出席だけはしないと…」
怪しいストーカー男によるぬいぐるみ盗難未遂事件以来、ぬいぐるみには彩芽の『防犯装置』が仕掛けられている。
だがそのぬいぐるみが今まさに教室で血の惨劇を繰り広げている事を、二人は知る由もなかった。

「古垣、山形。今日は人数半端だから、草薙と3人で組め。…んじゃ、柔軟開始ー!」
…草薙沙紀(くさび さき)。亜里沙と彩芽のクラスメイトで、普段は教室で一人読書していることが多い無口な少女であった。
他人と話している事は滅多にないが、身に纏ったミステリアスな雰囲気のせいか、例の三馬鹿にターゲットにされる事もないようである。

「いだだだだ。アリサ、もうちょい優しく…『命が!しんでしまうー!!』」
「は?何言ってるの彩芽…いくら何でもカラダ固すぎですわよ?」
彩芽は床に座り、膝を伸ばし、足を開いて前屈…の前に、まず膝が伸びない。
亜理紗が力任せに背中を押してもビクともしない…人間の身体とは、極めればここまで硬質化するものなのか!
「フフフ…『命がなくなったら生きていけないぜー!!』…でしたっけ?」
「え…草薙さん!?…その台詞、もしかしてフルールの……」
「昨夜はホント、神回でしたよね…あそこから小春が落語を利用して逆転する場面とか」
「あれすっごいよねー!!時そばでハンターの残弾数を間違わせるとか、ホント頭わるい!いい意味で!」
「『いい意味で』!」「「『最悪!』」」
「あ、彩芽…?…草薙さん…?」
…盛り上がる二人をよそに、すっかり置いてきぼりにされている亜理紗。
この日をきっかけに、亜理紗と彩芽は沙紀と仲良くするようになり…
だがそれと同時に、二人の歯車は徐々に狂い始めていく。
一方ブス三人組は静かに息を引き取った 。

「しんでねーよ!」
「退学になっただけだよ!」
「考えてみりゃ体育休んでるのがウチらしかいない状況でドロボウ入ったらそりゃバレるよ!」


82 : 名無しさん :2017/02/19(日) 20:52:53 ???
「いやー!昨夜の『こはフル』も最高にヒドかったねー!もうボク、あのアニメが魔法使うの諦めたよ!」
「神回(物理)って感じでしたよねー!でも最後の小春のセリフは、ホント感涙モノでした…」
「「『視聴者がじゃぶじゃぶ円盤買いたくなるような購買欲を煽りまくる名言!』」」
(は…話に全くついていけない…)

それから三人は、揃って登下校するようになった…だが、亜理紗は未だかつて感じた事のない孤独感に包まれていた。
一事が万事この調子で、三人一緒に行動してはいても、彩芽は亜理紗をそっちのけにして朝から放課後まで沙紀と話し続ける。
沙紀は気を使って亜理紗に話を振りはするのだが、話題のほとんどがアニメ・ゲームであるため、亜理紗には理解不能なのだ。
いつしか亜理紗の笑顔は消え、口数もめっきり減り…集中力を失ったためか、成績もガクリと落ちた。

逆上した両親は、亜理紗を毎日のように罵倒し…
「大体どこで買ったか知らんが、(´・ω・)←こんな物を持ち歩いてるからお前はダメなんだ!」
「そ、そんな…それは昔、お父様が……」
「亜理紗、口答えするんじゃありません!もっと勉強時間を増やさないと…学校も、明日から車で送り迎えさせましょう」
…まるでドミノ倒しの様に、亜理紗の大切にしていた日常は崩れていった。
そしてある日、決定的な事件が起きる。

「…ああああっ!!ボクの大事な…小春のストラップがぁぁぁ!?」
体育の時間が終わり、教室に戻った彩芽は、自分のカバンに付けていたストラップがなくなっている事に気付いた。

彩芽の今期一推しアニメ「小春とフルール」…放送開始当初は見向きもされていなかったが、
回を追うごとに徐々に人気に火が付き、今や関連グッズはどこに行っても品切れ状態。
沙紀のカバンについたフルールのストラップと合わせると、ネットオークションで5桁程の値段が付くらしい。

「…はいはい、どうでもいいから早く着替えなさい。いちいち大げさなんだから…」
「何言ってるんだ亜理紗!これはれっきとした盗難、いや誘拐事件だぞ!?」
「ま、まあまあ山形さん。ただのストラップに見えても、彩芽ちゃんには大切な物なんですから…」
狼狽する彩芽、冷たくあしらう亜理紗。険悪な空気になった二人を沙紀がなだめる…
いつの頃からか、こんな事が増えてきていた…だがいつにも増して緊迫した空気に、他の生徒たちもざわつき始める。

「…大体、亜理紗だって人の事言えないだろ!カバンの中に、ヌイグルミなんて入れ…え…!?…」
…彩芽が亜理紗のカバンを開けると、そこにあの猫のぬいぐるみはなく…
ボロボロに壊れた、小春のストラップの残骸が入っていた。


83 : 名無しさん :2017/02/19(日) 22:57:38 ???
「な……!?」
「う、ウソ…!なんで山形さんの鞄に、古垣さんのストラップが…!?」
「おい亜理沙!これは一体どういうことだ!」

突然の騒ぎに、教室がざわつく。

「ねぇ、一体何の騒ぎ?」
「古垣さんの大事にしてたストラップが、山形さんの鞄にボロボロの状態で入ってたんだって」
「え!?そんなの山形さんが犯人で確定じゃん!仲良さそうに見えたのに…お嬢様って怖いねー」

「ちょ、ちょっと!わ、私は知らないわよ!」

好き勝手に騒ぎ立てるクラスメイト達に負けないよう声を張り上げて否定するが、クラスのざわつきも、彩芽達の疑わしげな視線は一層強くなる。

「そういえば最近、山形さんってちょっと浮いてたよね。草薙さんが古垣さんと仲良くなった頃から…」
「え、それじゃあ動機もばっちりってこと!?」
「『私と仲良くしてくれないアンタなんか嫌いよ!』ってこと?」
「小学生の頃のアンタじゃん(笑)クラス替えした途端にそっけなくなっちゃってさ」
「そ、その話はもういいでしょ」
「ちょっと待って、2人組作ってストレッチする時に、山形さんいなかったわよね?」
「証拠も動機もあってアリバイがないなんて、やっぱり山形さんが犯人で確定じゃん!」

そう、今日の体育の時間、亜理紗は遅れてきた。そして亜理紗以外のクラスメイトは、インフルエンザで欠席している一人を除いて全員時間通りに授業を受けていた。

「そうだよ亜理紗!なんでストレッチの時にいなかったんだよ!」
「き、きっと、何か理由があったんですよね、山形さん?」
「そ、それは……」

それは、今日はクラスメイトが偶数で、ストレッチの時に自分がのけ者にされるのが怖かったから…。
お嬢様育ちで相応にプライドも高い亜理紗には、そんなことは言えなかった。

「なんで、なんで黙ってるんだよ!なんか言えよ!」
「……!古垣さん!だめ!」

それから先のことは、よく覚えていない。
彩芽が拳を振り上げたこと、沙紀が自分と彩芽の間に入ってきたこと、クラスメイトの騒ぎがより大きくなったこと、先生が入ってきて、頬が赤く腫れた沙紀を保健室に連れていったことは、断片的に覚えている。


そして彩芽は、学校に来なくなった。
数日の間ガーゼを貼って過ごすことになった沙紀とは、全く話さなくなった。

亜理紗は、ひとりぼっちになってしまった。



◇◇◇◇◇◇◇◇




「……嫌な夢を見てしまいましたわね。最初の方はいい夢でしたのに」

『元隠れ家』での眠りから覚めたアリサは、ため息をついた。
あの後、虚無感に包まれたまま学校生活を送り、そうこうしているうちにこの世界に連れ去られ今に至るということだ。


「……それにしても、あの事件の犯人は、一体誰だったのかしら」

結局、亜理紗の両親の権力を恐れた学校は、あの事件を大事にしなかった。
真犯人は未だ分からず仕舞いである。

「彩芽…沙紀さん…」

2人に会いたい。会って誤解を解きたい。そして何より、謝りたい。
あれはきっと、自分の心の弱さが招いた事件。
自分の心が強ければ、アニメの話が分からないから黙りこくってしまうのではなく、もっと三人で仲良くしようとしていれば。
彩芽が心を痛めることも、沙紀が怪我をすることもなかった。

「…いまは感傷に浸る時ではありませんわ。早くアルガスに向かわないと」


84 : 名無しさん :2017/02/19(日) 23:50:18 ???
「ほらほらどうしたの?ご自慢のロボットからどんどん煙が出てきてるわよ?」
飛べなくなったアヤメックに対し、舞の鎖鎌を使った斬撃と魔法ブーツの蹴り技が容赦なく襲いかかる。
「ぐっ…早すぎて攻撃が全然当たらないっ!くそおっ、このままじゃっ…!」
「早くその中から出てきなさいッ!デビルサマーソルトッ!」
「え……うあああああーーーッ!!!」

ドガァンッ!
舞の強烈な足の振り上げで、高空に吹き飛ばされたアヤメックはそのまま地面に叩きつけられた。
「そ、そんな……彩芽おねえちゃーーーん!?」
「彩芽ーーーーーッ!!!」
スバルと桜子がすぐにアヤメックに駆け寄って、コクピットの中を確認すると……
「ぐ……ぁ……」
コクピットに映っていたのは、頭から血を流したままぐったりと項垂れている……痛々しい彩芽の姿だった。
「そんな……彩芽!起きろっ!こんなところで死ぬなっ!!!」
「うわああああああああん!!彩芽おねえちゃんがああああぁぁぁあーーーーーーー!!」
「フン。なかなか面白いオモチャだったけど、どうやらここまでのようね……」

「おねえちゃん!!!彩芽おねえちゃああぁぁぁあぁぁぁぁん!!」
「ん……うぅ……?」
「…あっ!?彩芽おねえちゃん!?気がついた!?」
「ん、あぁ……いやぁいいお昼寝だったよ……」
スバルの声でゆっくりと意識を取り戻し、冗談を言い放ちながら目を開く彩芽。死んだと思ったがどうやら自分はまだまだ生きているらしかった。
「あ……アイツは……?」
「桜子おねえちゃんが闘ってるよ!でも……苦戦してて……!」
「なんだって!?すぐに、助けなきゃ…あ゛い゛だぁッ!?」
体を動かしてメックから脱出しようとしたが、体を強く打った影響で動くたびに足に激痛が走った。
「ぐああぁぁあぁぁあぁぁぁっ……!痛い、痛すぎるよぉっ……!」
「だ、だいじょうぶ?彩芽おねえちゃん……?」
「くそっ、痛くてもいいから、動け……!……動けよ、ボクの体……!このままじゃ、桜子さんが……!」


85 : 名無しさん :2017/02/21(火) 00:30:33 ???
「彩芽を連れては行かせない!」
(ここは防御に徹して時間を稼ぐ…!サラか彩芽が目を覚ましてくれれば、まだ勝機はある!もしそれが望めないようであれば…刺し違えてでも仲間を守る!)
桜子はただ一人、剣を振るって舞と戦っていた。かなりのダメージを受けていたサラが起きてくる可能性は低く、彩芽も命に別状はなさそうだったとはいえかなりの大怪我を負っていた。2人のどちらかが戦線に復帰する望みは薄い。
それでも、彼女は諦めない。桜子にはサラのような強さはない。彩芽のように便利な道具を作ることもできない。しかし、闘奴時代からどれだけ絶望的でも闘い続けてきた、この不屈の闘志だけは誰にも負けない。

「まったく…!貴女には用はないっていうのに…!しつっこいわね!」
「ぐ…!が…!」
舞の流れるような右回し蹴りからの左後ろ回し蹴りを、一本目は受け流し、二本目は正面から受け止める。
腕がジンジンと痺れるが、歯を食いしばって剣だけは離すまいと耐える。
この痺れた腕で追撃を凌ぐのは不可能だろう。ならば、防御のために敢えてこちらから攻める!
腕が痺れていようと、身一つあれば攻撃手段には十二分!

「ふん!」
「っ!?」

これまで防御一辺倒だった桜子の放つ、唐突な体当たり。意表を突かれた舞は、僅かにバランスを崩す。
その隙を見逃さず、全力で剣を振るう。だが、舞はバランスを崩したのを利用してバックステップ。腕の痺れが取れていないこともあり、舞に攻撃は当たらなかった。しかし、舞のバックステップに取り残される形になった鎖鎌の鎖と剣が絡まってしまう。

桜子はすぐに鎖と絡まった剣を捨て、懐に忍ばせていた短刀を身体に垂直に構えて舞に突進する。
それに対し鎖を引っ張って力勝負に持ち込むか、鎖鎌を放棄して肉弾戦に移行するか一瞬迷ってから鎖鎌を捨てた舞は後手に回る。
ここで実戦経験の差が出た。レジスタンスとして戦っていた舞も中々の場数を踏んでいるが、闘奴として一日に何度も不利な相手と闘っていた桜子には及ばない。
実戦経験の差がそのまま咄嗟の判断の差となった。だが…

「な!?」
「やるじゃない、生身だったら危なかったかもね」

漆黒のメタルスーツに阻まれて、短刀は舞の身体には突き刺さらなかった。
実戦経験の差は、単純なスペックの差を埋めるほどではなかった

「く…!だがこの密着した距離ならご自慢の足は使いにくいだろう!」
「なら手を使うだけよ」
「望むところ!腕の方は足ほどの技のキレはないと見た!」
「それは…どうかしらね!」
「なに!?ぐ!ごぁあああああああああ!!!」

舞の光の如き左ジャブを顔面に喰らい、無意識のうちに意識が顔に集中して防御が乱れる。その隙を見逃がさず、強烈な右ストレートが桜子の腹部を捉えた。
いつかの殺戮妖精と戦った時のように吹き飛ばされる桜子。

「前に、足が使えない状況で手にブーツをはめて攻撃したことがあってね。あれ以来パンチも鍛えることにしたのよ。残念だったわね」
「く…!」
「まぁ、思ったよりは楽しめたわ。でも、もう消えなさい」
舞は自らの手に黒いエネルギーを溜め、今にも桜子に放とうとする。



「さ、桜子さん!やめろぉ!桜子さんをそれ以上傷つけるな!もし桜子さんを殺したら、ボクはあの変態のところに連れてかれる前に舌を嚙んで死ぬぞ!」
「彩芽お姉ちゃん!?」
桜子のピンチを見て、自分の身柄という捨て身のカードを切る彩芽。あの黒いのは自分を連れ去ることが目的だと言っていた。つまり、ここで自分が自殺でもしたら、あの黒いのも困るということだ。

「貴女、大事なことを忘れてないかしら?王は死者を蘇らせることができるのよ?貴女が自殺しても、私には何の問題もないの」
「あ…!」
「結局、もう貴女は私に連れて行かれるしかないってことよ」

サラは気絶し、桜子はもう戦える状態になく、彩芽はアヤメックの中から脱出できない。スバルを戦わせるなど論外だ。絶望がその場を支配し、舞が嗜虐的な笑みを浮かべたその瞬間――


「いいえ、その必要はありませんわ」

唐突に、声が響く。
桜子とスバルにとっては舞が現れた時と同じく聞き慣れない声であったが、彩芽にとってはその声は、とても聞き慣れたものであった。


86 : 名無しさん :2017/02/21(火) 21:12:48 ???
「この声……まさか……!」
メックの中からではよく見えないが…あの長い金髪と凜とした声に合致する人物を、彩芽は1人知っている。
「すごくキレイな人……!彩芽おねえちゃんの友達なの?」
スバルが首をかしげる。その問いに、彩芽は即答できなかった。

「くっ……誰だ……?」
「わたくしはアリサ・アングレーム…ご心配なく。あなたたちの敵ではありませんわ。」
長い金髪と輝く白いドレスを風にはためかせ、颯爽と現れた美少女は、メタルスーツを纏う舞の前にゆっくりと歩み寄った。
「貴女は……王都の地下に幽閉されていた異世界人ね。こんなところを妙なコスプレしながら歩いていたなんて。王様へのお土産が1つ増えたわ。」
「妙なコスプレをしているのはそちらの方ではなくって?わたくしはアングレーム家の娘ですのよ。ドレスを着て外出することなど、日常茶飯事でしたわ。」
「フン……貴女のその鼻に付くお嬢様言葉、嫌いだわ。さっさと始めましょう……!」
「まぁ怖い。どうかお許し遊ばして。お詫びに……このわたくしが貴女と踊って差し上げますわ。」

アリサの言葉が終わらないうちに、舞はとてつもないスピードでアリサへと走り出す!
「一瞬で終わらせてあげるわ!」
「まぁ、せっかちですこと……」
そんな舞とは対照的に、優雅な動作で剣を抜くアリサ。そうしている間にも舞は一気にアリサの眼前に迫り、渾身の蹴りを放とうとする。
「あ、危ないっ!伏せろっ!!!」
桜子が叫ぶも、アリサの動きは変わらない。鬼の形相で迫る敵を相手に落ち着き払っている。
そんなアリサが剣を抜くのと、舞が蹴りを放ったのは全くの同時。
舞は、勝ったと思った。
「遅すぎるッ!もらったああああぁっ!!!」



ガキィンッ!
「なっ!?」
「貴女……酷い顔ですわよ。淑女ならもっと慎ましくなさい。」
舞の回し蹴りは、アリサの持つ宝剣リコルヌの刀身でしっかりとガードされた。
「ば…馬鹿な。眼前で剣を抜いてからわたしの蹴りの軌道を見切ったというの…!?」
「心を落ち着けていれば、野蛮な猪突猛進をいなすことなんて簡単ですわ。欠伸が出るほど……ね。」
言った通り、敵の前で優雅に欠伸をして見せるアリサ。突如現れた金髪美少女に、舞は完全に馬鹿にされていた。

「ふん…そんな挑発には乗らないわ。一回防いだくらいで調子に乗るんじゃないわよっ!」
舞はすぐさまバックステップをして距離を離しつつ、指先から黒いエネルギー弾を2発打ち込む。
「甘いですわっ!!」
リコルヌを踊るように横に払って弾を弾くアリサ。不意打ちを狙ったつもりだったが、これも見切られてしまった。
そのまま長い金髪を鮮やかに躍らせながら、宝剣リコルヌの刃先が舞に迫る!
(この金髪……強いっ!)



「嘘だろ……本当に亜理紗なのか……?」
美しく舞いながら剣を振るうアリサ。その姿は彩芽が知っている亜理紗とは別人だった。
そのアリサは、なんと剣一本であの恐ろしい敵と互角……否。互角以上に渡り合っている。
「彩芽おねえちゃんの友達、キレイで強くてすごいねっ!かっこいいー!」
「や、やめてくれ。あの人は……ボクの友達なんかじゃないんだ……!」
「え?そうなの?」
忘れもしないあの事件。親友だと思っていた亜理紗に裏切られたショックは、今も彩芽の心に影を落としていた。
(あいつのせいで、僕は荒れに荒れて人生台無しにされたんだ……簡単に許せるもんか……!)


87 : 名無しさん :2017/02/22(水) 23:09:41 ???
「くっ…!」
アリサの軽やかなステップから繰り出される活殺自在の剣術を相手に、必死で応戦する舞。
(ま、全く動きが読めない……!アングレーム流剣術……噂には聞いていたけど、ここまでとはっ……!)
実際、剣を回したり放り投げたりと、アリサの動きはまるで演舞だった。だがどんな扱いをしてもリコルヌはアリサの手元に戻ってくる。
アレイ草原、ゼルタ山地、レミア洞窟という魔境を1人で潜り抜けてきたアリサは、アングレーム流のほとんどの剣技を扱えるようになっていたのだ!

「ヴァイスシュラーク!」
「ああああぁッ!」
白い雷の名を冠するリコルヌの振り下ろし。光のような早業を舞は止めることかなわず、頭を強く強打されて足をフラつかせた。
「ぐっ……あっ……!」
敵が目の前にいるというのに舞の意識は遠くなり、目の前のアリサの姿がぼやけて見える。軽い脳震盪を起こしているような感覚だった。
「ヴァイスシュラークはリコルヌの魔力を込めた振り下ろしですわ。神経回路を破壊された今の状態では、自分の体も動かせないのではなくって?」
「くっ……くそっ……!」
アリサの言う通り、足を動かしているのに手が動き、肩を動かすと首が動く。身体中のパーツがバラバラに繋がれてしまったようだった。
(まずい……まずい……!このままじゃ……!)

「さぁ、フィナーレですわッ!」
言って、アリサは剣をゆっくりと構える。今から行う技は、義理の父に教えてもらったアングレーム流奥義の1つ……
「シュヴェーアトリヒト・エアーストッ!」
「ぐあああッ!」
神速で繰り出されるリコルヌの斬り払いにより舞のアーマーが一部剥がれ落ち、その端正な顔が再び白日の元に晒された。
「シュヴェーアトリヒト・ツヴァイト!」
「や、やめっ…!ああああッ!」
魔力を帯びたリコルヌによる強烈な突きで、舞の体は大きく吹き飛ばされながら地面に何度も叩きつけられた。
「ぐっ!ぐうっ!…ああ゛あ゛あ゛ッ!」
強い衝撃を感じるたび苦しそうに声を漏らす舞。最後には大きな岩に全身を強く打って動かなくなった。

「リコルヌ、トラークヴァイテ……!」
舞に剣を向け力を溜めるアリサ。そんなアリサを朦朧とした意識の中で見据える舞。
もう舞の体は動かないが、攻撃してくるアリサの姿からは目を離せなかった。


88 : 名無しさん :2017/02/23(木) 01:49:47 ???
「な、なんなんだこの女の子は……!」
桜子は驚愕した。突如現れたお嬢様風の美少女はあの恐ろしい黒騎士を完封し、今まさにトドメを刺そうとしているのだ。
「はああああっ…!」
少女の持つ豪奢な剣にみるみる光が集まると、その刀身は輝きを増しながら元のサイズの3倍ほどに巨大化していった。

「一子相伝のアングレーム流奥義、その身に刻みなさいッ!!!!!」
アリサが凛とした声で叫ぶ。リコルヌに集まった光の勢いは凄まじく、舞含め皆その刀身を直視することすらできなかった。
(な、なんなのよ……!あのアリサとかいう女のどこから、こんな力が溢れてくるのよ……!)
彼女は気付いていないが、この大きな力こそ、唯や瑠奈たち5人の異世界人が持つ運命を変える力なのだ。

「ギガンティッシュ・シュトラールッッッ!!!」
「ひ……!い、いやああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

光の力を込めた巨大剣による渾身の斬りはらいは、悲鳴をも飲み込んで舞の小さな体へと振り下ろされた。
「すごい、すごい、すごーい!アリサおねえちゃんが悪いのをやっつけたーーー!!!」
「ふ、普通あそこまでするか……?相変わらず加減を知らない奴だなぁ……明らかにオーバーキルだろ……」
彩芽の言う通り、9999の文字が出るような一撃を食らった舞。
攻撃の成果を確かめるために、アリサが大きな岩へと近づくと……

「……ぐ………ぁ………」
光の斬撃でできた大きな穴。その穴の中で苦しそうに呻き声を上げているのは、ボロボロになったセーラー服を着ている美少女だった。
美しかった長い黒髪は無造作に焼かれてしまっており、破れた上着からは白いブラジャーが、スカートからは白い下着がそれぞれくっきりハッキリと見えてしまっている。
「う……ごめんなさい。少しやりすぎましたわ……」
申し訳なさそうに謝罪するアリサだが、その言葉が舞の耳に入ることはなかった。



柳原舞は、旅を経て強くなったアリサを相手に、為すすべもなく完全敗北したのであった。


89 : 名無しさん :2017/02/25(土) 10:31:55 niZ/K8iM
「サラ・クルーエル・アモット様ですね。わたくしはアリサ・アングレームと申しますわ。」
舞を倒したアリサは、意識を取り戻したサラに改めて自己紹介をしていた。
「アリサ……本当にありがとう。アナタが来なかったら私たちは今頃トーメント王に拘束されて、理不尽な暴力と女としての恥辱を同時に受ける生き地獄で絶望しているところだわ。」
「ちじょく…?桜子おねえちゃん!ちじょくってなーに?」
「あ…す、スバルにはまだ早い!サラッ!変な言葉使わないでくれ!!」
「早いってなんで?ねえちじょくってなーに?おいしいものなのー?」

その後もちじょくについて詳しく聞いてくるスバルを、桜子は無理やりテントに押し込んだ。
「ふぅ……まあとにかく、君のおかげで本当に助かった。君は私たちの命の恩人だ。」
「い、いえ……こちらこそ、友人の彩芽がお世話になりましたわ。わたくしもお2人には本当に感謝致します。」
(……この子、やっぱり普通の女の子じゃないな。もしかしてどこかのお姫様なのか…?)
そんなことを思う桜子。立ち振る舞いも言葉遣いも完璧なうえに、その美しすぎる容姿はどこぞの国のお姫様言われても違和感がない。
胸元にリボンのついた綺麗なホワイトドレスを身に纏う少女は、本当に漫画の世界から飛び出してきたかのような美しさだった。

「あれ?サクラコ。そのアヤメはどこに行ったの?」
「あ…拘束した奴の見張りをしてるって言って、向こうにいるよ。」
「どうして友達がここにいるのに、わざわざそんなことをしているのかしら。私が呼んでくるわ。」
「あっ、お待ちになって!」
不思議そうに言いながら彩芽の方へと歩き出そうとするサラ。その後ろ姿にアリサは制止の声をかけた。
「ん?どうしたの?」
「わ、わたくしが1人で行きますわ。色々と2人で話したいことがありますから……」
「そう。ならいってらっしゃい。私たちはご飯を作って待っているわ。」


90 : 名無しさん :2017/02/25(土) 21:26:47 ???
「…なるほど…この首のチョーカーで操ってたわけか。ボクの時と同じだな…他に何か怪しい所は、と」
気絶した舞の身体を調査している彩芽。スカートの端をつまんで捲りあげ、破れたストッキングをしげしげと眺め…
「彩芽…貴女、ナニしてますの…?」
…傍目には、縛り上げられた半裸の少女にイカガワシイ事をしているようにしか見えなかった。
「あ、亜理紗!?……いや、これはその単なる探求心というか……あ、それよりアレ…」
アリサの存在に気付いた彩芽は、そんな残念な空気など物ともせず、カバンから『何か』を取り出して投げる。

ふわりとした柔らかそうな物が、ゆるい放物線を描き…アリサの手元  から2mほど横にずれた場所に落ちた。
彩芽のバツグンな運動神経の賜物である。
『…わーい!…亜理紗ちゃんだ!ひさしぶりー!』
「…!?……これは…どうして貴女が…?」
それは…遠い昔に亜理紗が大切にしていた、防犯機能付きぬいぐるみだった。

「アングレームとか名乗ってたから、人違いかとも思ったけど…やっぱり、本当に亜理紗なんだな」
「…ええ。こちらの世界に着いてから色々あって……あの時の事は、本当にごめんなさい」
捨てたはずの過去、山形亜理紗として過ごした日々が、アリサの記憶の底から蘇る。
盗難事件の罪を被るつもりはないが、元を糾せば彩芽との…そしてもう一人の友人、草薙沙紀との関係を
壊してしまったのは、あの頃の自分の心の弱さが原因だ、と亜理紗は考えていた。

「ごめんなさい、って…何だよ。『あの夜』の事…お前がやった、とでも言うのか?」
「……え…どういう事ですの…『あの夜』って…!?」
しかし彩芽が言っているのは、その直後に起きた、別の事件…
それは、彩芽が学校どころか外へ出る事さえできなくなった、直接の原因でもあった。

盗難事件の日の夜、何が起きたのか。
そして亜理紗の両親に捨てられたはずのぬいぐるみを、どうして彩芽が持っていたのか…
盗難事件のあった日を境に、別々の運命を辿ることになった彩芽と亜理紗。
…あれから色々あったのは、アリサばかりではないのだ。


91 : 名無しさん :2017/02/25(土) 21:28:59 ???
「…ごめん、沙紀…ボクのせいで、こんなケガを……」
「ううん、私の事はいいの。それより山形さん、どうなっちゃうんだろ…」
ストラップ盗難騒ぎのあった直後。
真相は結局うやむやにされ、彩芽の心の中には、亜理紗への疑惑と、無実を信じたい気持ち、
そして何も言わない亜理紗への苛立ちなどが複雑に渦を巻いていた。

「やっぱり…何かの間違いだよ。彩芽ちゃんも言ってたじゃない。
山形さんだって、お父さんから貰った、ネコのぬいぐるみを大事にしてたんでしょ?
そんな人が、彩芽ちゃんの大事なものを壊そうとするなんて…」
「…!……わ、わかってるよ……もう、その話はやめよう…」

…その日の真夜中。彩芽は就寝前のアニメタイム…ではなく、
町はずれのゴミ捨て場の前で亜理紗からのメールを眺めていた。
と言っても、亜理紗は携帯電話を持っていない。
正確には、亜理紗からのメッセージが書かれた、沙紀からのメールである。

[件名]あの後、山形さんが来ました
今回の件で、彩芽ちゃんに話したいことがあるそうです。
時間は深夜2時。場所は……

………………

「…あいつ、夜10時には寝てるんじゃなかったのかよ」
タンクトップにショートパンツという簡素な服装で、彩芽は待ち合わせの公園にやって来た。
世間はもうすぐ夏休みという時期で、夜と言えどもかなり蒸し暑い。

亜理紗を待ちながら、彩芽は事件の事を冷静に振り返っていた。
あの時は亜理紗に疑いの目が集中したが、他のクラスメイトだってその気になればいくらでも犯行は可能だろうし
別の誰かが外部から侵入した可能性だってある。亜理紗が何も言おうとしなかったのも、理由があっての事かもしれない。
…だいたい話があるなら、こんな事をしなくても通学時にいくらでも聞けるじゃないか。
「…って、もう3時半過ぎてる。イタズラか…?…いやでも、沙紀が言ってたんだし…」
彩芽が流石に諦めて帰ろうとした、その時。

「…いたいた。古垣彩芽たん…ボクの『嫁』……グヒヒヒヒっ…!」
…現れたのは、2m近い長身、毛と脂肪の塊に覆われた…まさに『巨獣』とでも言うべき巨体の男。
かつて、クラスメイトの嫌がらせによって、彩芽の物に偽装した偽ラブレターを渡されて以来、
勘違いから彩芽に恋心…いや、彩芽を『嫁』と呼んではばからない、妄想めいた執着心を抱いていたのであった。


92 : 名無しさん :2017/02/25(土) 22:34:07 ???
「!?…うわああああぁっ!!!な、なんでお前がっ!!??」
タンクトップを引きちぎられ、まだようやく膨らみかけたばかりの、彩芽の乳房がさらけ出される。
…その公園は人気のない町外れにあり、いくら大声で叫んでも、助けが来る気配は全くなかった。

「君の友達から聞いたんだよ。彩芽たんが僕に本当の気持ちを伝えたがってるから、ここに来てくれってね…
今度こそ、キミのファーストキスと処女を捧げてくれるんだろう?…グヒヒ…」
…以前『巨獣』と呼ばれるこの男に強姦されかけた時、「防犯グッズ」のお陰で『最悪の事態』だけは回避したものの、
心に深い傷を負った彩芽は再び学校に通えるようになるだけでも一週間を要した。
地元の公立中学でなく、『棱胳女学院』への進学を志した遠因の一つでもある。

「友達、って……まさか……」
真っ先に浮かんだのは亜理紗の顔だった。だが…絶対にありえない。
あの時、彩芽の事を誰よりも心配し、支えてくれたのは他ならぬ亜理紗なのだから。

脱兎のごとく逃げ出す彩芽。だが日頃の運動不足はいよいよもって深刻で、
脂肪の塊である『野獣』すら振り切る事はできなかった。
彩芽は公園からほど近いゴミ集積場に追い詰められてしまい…ショートパンツを、力任せに引きちぎられた。

「…んぎっ!?」
ゴミの山の上で尻餅をつき、白いショーツを見せつけるような体勢で倒れてしまう。
「下着まで僕の好みに合わせてくれるなんて…さすが僕の『嫁』。ヒヒヒヒ」
すかさず『巨獣』の汗臭い巨体が圧し掛かり、生ゴミ以上に生ゴミ臭い息が耳元に吹きかけられる。
タンクトップを毟り取られ、胸の膨らみ(膨らんでるとは言ってない)からおへそにかけてを巨大な舌が舐め上げていく。
ショーツの中に毛むくじゃらな手が入り込み、前はおろかお尻の穴にまで指を突っ込もうとしている。

…彩芽はそのすべてに身の毛もよだつような恐怖を覚え、抵抗どころか悲鳴さえ上げられなかった。
亜理紗と話すだけのつもりで来たから、護身用の「防犯グッズ」も持っていない。
(やっ……やだっ…怖い……だれか、助けて……!…なんでボクが、こんな目に…)

「彩芽たん、相変わらず処女の味だ…嬉しいよ。上のキスと下のキス、
どっちを先にするか迷っちゃうなぁ…やっぱり両方同時、かなぁ…グヒヒヒ」
ナメクジのような舌が頬にまで這いあがってきた。ショーツが押しのけられ、熱くて硬い物が押しあてられる。
「ひっ……!」
最早はねのける気力すら沸かず、彩芽は『野獣』のなすがままにされていた。その時…

『君は……強姦が大好きなフレンズなんだね』
…ゴミの山の中から、どこかで聞いたような声が聞こえてきた。

「すごーーい!!」「うぎゃあああっ!?」
「すごーーい!!」「んごおおおお!!!」

こうして、偶然にも亜理紗の「防犯機能付きぬいぐるみ」によって絶体絶命の危機を脱した彩芽。
だが、心に更なる深手を負った彩芽が、再び学校に戻る事はなかった…


93 : 名無しさん :2017/02/25(土) 23:44:11 ???
「まさか、そんなことが…」
「まぁ、そっちの件については亜理紗を疑ってはいないよ。むしろ防犯ぬいぐるみに助けられたんだから、感謝してるくらいだ」
「…そもそも私は、その日に沙紀さんには会っていません。考えたくはないですが…」
「…考えなかったわけじゃないさ、沙紀が嵌めたんじゃないかってことは。でも、小学校も中学校も違う沙紀があのデブのことを知っているとは思えない。それに、嵌めたにしては指定された時間を一時間半も過ぎてからデブが来たのも不自然だ」
「謎は深まるばかりですわね…」
彩芽達は、『野獣襲来事件』に関してはひとまず棚上げすることにした。

「一つだけ聞かせてくれ、亜理紗。ボクのストラップを壊したのは亜理紗じゃないんだよな?」
「ええ、それは違いますわ。このレイピアに誓えます」
「(武器に誓うって…)お、おう。しかし、それじゃあ一体どうして体育に遅れてきたんだ?あ、話したくないことなら話さなくていいけど…」
「…あの時は、私の安いプライドが邪魔して説明できませんでしたわ。しかし、今なら言えます。私は寂しかったのです。そして怖かったのです…ストレッチで彩芽と沙紀さんが組んで、私が一人ボッチになってしまうのが」
「あ、亜理紗…」

そういったボッチ気質とは無縁の人物だと思っていた亜理紗の告白に、彩芽はどう返せばいいのか分からなくなる。

「彩芽、私から一つ提案があります。一連の事件に関しては元の世界に帰ってから、沙紀さんも交えてゆっくり話して解明しませんこと?ストラップにせよ貴女を襲った男にせよ、こちらでは調査の仕様がありませんわ」
「うーん、そもそも世界が違うし、こっちの世界じゃもっと差し迫った問題もたくさんあるからな」
「例えば、こんな風に突然攻撃されたり、ね」
突如として、黒い旋風が巻き起こり、魔力弾が彩芽を襲う。

「…!」
咄嗟にアリサが彩芽の前に立ち、レイピアで魔力弾を掻き消す。
彩芽とアリサには傷一つ付かなかったが、その間に黒い旋風――柳原舞は既にかなり離れていた。

「今日の所は勝ちを譲ってあげるわ金髪お嬢様!」
「しまった!さっきアイツの身体を調べてる時に、調べにくかったから軽く拘束を緩めたのが仇になったか!」
「な、何をやっていますの彩芽!?」
「でも、せいぜい首を洗って待っていることね!」
「そもそも、亜理紗が急に話しかけてこなければあのままチョーカーを外して完全に無力化できたのに!」
「な、私が悪いと仰るのですか!?」
「私の『ジェットブラックアーマー』は今回の戦闘データでさらに強くなる!」
「だってホントのことだろ!」
「責任転嫁しないでくださいまし!」
「いつかはその綺麗な顔に泥を付けてあげる…って聞きなさいよー!」

わちゃわちゃして話を聞かない2人に文句を言いながらも、捕まらないように全力で逃げる舞。
任務失敗によって教授から何をされるか戦々恐々としながらも、未だ首にしっかりとチョーカーを付けた彼女には、教授に逆らうという選択肢はない。


94 : 名無しさん :2017/02/25(土) 23:52:40 ???
「はあ。逃げられたか……まあストラップの件も、今となってはどうでもいいか。あの後こはフルも爆死したし…
……ボクが馬鹿だったんだ。アニメの話ができる友達ができたからってつい浮かれて、亜理紗の事、ほったらかしにして…」
ぬいぐるみが捨てられていた理由を調べているうちに、亜理紗が聞いていた以上に過酷な
勉強漬けの日々を強制させられていた事を知ったのは、ずいぶん後の事だった。
「亜理紗の大切な物を…先に壊したのは、ボクだ。…本当に、ごめん」
あの学校でのひと時が、亜理紗にとっていかに大切だったのか…
だが今さらどんなに謝っても、失われた物はもう二度と戻らない。

「…亜理紗も、これからアルガスに行くんだろ?えーと、なんていうか。旅は道連れ、って言うし…」
「……ごめんなさい。私には……そんな資格なんて、ない」
…彩芽が異世界で新しい仲間と出来たのと同じように、アリサ・アングレームにも大切な…家族と呼べる人たちが出来た。
だがそれさえも、理不尽な殺戮によって奪われ…復讐のため、アリサは全てを捨てると決めた。
唯や瑠奈たち、新たな友人の手さえも振り払ってここまで来た。
それなのに今、この手を取るわけにはいかない。…家族の仇を、この手で討つまでは…
「会えて、嬉しかったわ、彩芽……さよなら」

「…え?…この期に及んで、まだそういう事言うの?
 完っ全に和解する流れだったのに。ていうか、どうせアルガスに着いたら嫌でも会うのに」
 立ち去ろうとするアリサ。そこへ、身も蓋もない正論をぶち上げる彩芽。

「…だ、だって……今さら貴女達と一緒に行ったら、唯や瑠奈に悪いっていうか」
「あ、やっぱ他に友達作ってんじゃん!こっちは人間不信で苦しんでたって言うのに」
「何それ、別にそれは私の勝手でしょう!?貴方だってサラさん達と一緒に旅してたんだし、おあいこじゃなくて!?」
「…そうだよ!みんなで旅してるうちに、少しずつ、やっぱり友達っていいなって思えて…
 そこに亜理紗が現れて、一人ぼっちで、なんかコワイ顔してて………ほっとけるわけないだろ!」
「そっ……それこそ大きなお世話だわ!私だってここに来るまでにも散々な目に遭って、
 もう一人は嫌だって思ってたところに彩芽が居て……」
「………」
「…………」
完璧だったアリサのお嬢様口調が、気が付けば完全に崩壊している。
涙目になりながらぜいぜいと肩で息をする二人の傍らで、猫のぬいぐるみが小さくつぶやいた。

『君たちは……ゴメンナサイが苦手なフレンズなんだね』


95 : 名無しさん :2017/02/26(日) 00:40:12 ???
「『嫁』の回収に失敗しただと?この役立たずが……もういい。貴様は闘奴に払い下げだ」
骨と皮と毛で構成された2m近い長身、ガリガリに痩せ細った白衣の男…かつては『巨獣』、そして今は『教授』と呼ばれていた。

「そ…そんなっ!『教授』、もう一度チャンスを!サラは圧倒できたんです!次こそアリサ・アングレームを…」
「うるさい。お前は元の黒セーラー服クールビューティJKに戻って、地下闘技場を舞台にスピンオフでもやってろ」
「いやあああぁぁぁっ!!!」
「…さて困った。スーツも更なる強化が必要だし……その間、アルガスの様子も見張る必要があるな」

『教授』は王に連絡を取り、王下十輝星の一人を応援に貸してもらうよう約束を取り付けた。
そしてやって来たのは……
常に陰で暗躍し、人の絆を断ち切るためには手段を選ばず、孤独と絶望とに打ちひしがれる様に無上の喜びを感じるという…
曲者ぞろいの十輝星の中でも、その性根の歪み具合には特に定評のある人物。

「……『リゲル』のサキと申します。よろしくお願いしますわ、『教授』」

普段は「草薙沙紀(くさび さき)」と名乗って現実世界に潜み、
ターゲットの少女たちの友情を破壊し、この世界へ引きずり込む…という非道な任務を嬉々として行っている。
…アルガスを攪乱するには、まさにうってつけの人材であった。


96 : 名無しさん :2017/02/26(日) 00:46:08 ???
「はは、そうだな…ボクたちはごめんなさいが苦手な…『フレンズ』だよ」
「ふふ、そうですわね…ついでに、変なところで頑固な『フレンズ』ですわね」
2人は笑いあう。かつてのように、『友達』として。

「亜理紗、君を一人にしてごめん。信じきれなくてごめん」
「彩芽、貴女に心を開ききれなくて、傷つけたと知っていながら逃げていてごめんあそばせ」
「…ていうかなんだよその喋り方。前はそこまでガッツリしたお嬢様口調じゃなかっただろ?」
「はてさて、何から話せばいいのやら…」
「なんか馬鹿にされてるっぽく感じるんだけどその口調!」
「おやおや、何という言い草でありましょうか」
「あ、おい!わざとそれっぽく言っただろ今!」

楽しくじゃれ合う彩芽とアリサ。

「おーい、いつまで話し込んでるんだ?」
「ご飯が冷めてしまうわよ」
「ねぇ彩芽お姉ちゃん、ちじょくってなーに?」
「あ、桜子さん、サラさん…スバル、なんだって?」
「やっぱり置いてくるべきだったか…いやでも、一人でテントに放って置いたら危ないし…」
「ちょっと桜子さん!こんな小さな子に一体何教えてるんだよ!」
「ま、待て!誤解だ!」
「彩芽、これには深い訳がありますのよ」
「みんな教えてくれないんだもん!ちじょくって一体何なのー!?」
「ご・は・んが!冷めてしまうわよ」
「「「「ご、ごめんなさい…」」」」

その後、食事の席で、アリサがアルガスに同行することが告げられたのは、ここに記す必要もないだろう。


97 : 名無しさん :2017/02/26(日) 10:43:19 ???
「きゃあああああああッ!!」
「いやあああああああッ!!」

よく晴れた空に似つかわしくない2人の少女の悲鳴が、荘厳な城の中庭にけたたましく響き渡った。
「やあぁんっ!」
床に叩きつけられて苦しそうに喘いだのは、淡い栗色のセミロングが特徴的な道着を着た少女。
「いああ゛うっ!」
壁に叩きつけられて呻き声を上げたのは、青いショートカットの髪が活発な印象を与える少女。こちらも道着を着用している。
「い、痛い……!痛いよ……!もう立てないよ……死んじゃうよぉ……!」
「うぅ……!情けない弱音吐いてんじゃないわよ、唯……!ぐううぅ……!」
弱音を上げた唯は、倒れたまま横向きになって立つことを諦めた。
もう1人の少女……瑠奈は唯と同じくらいのダメージを食らっているというのに、気力だけでよろよろと立ち上がる。
「ぐぅ……教官……!わたしは……まだ……!」
自分の大きな胸が道着からこぼれそうになっているのを正しつつ、瑠奈は構えを取り直す。
その視線の先にいたのは、180センチほどの長身にレオタード型のスーツ。その上にジャケットを纏う、20代前半くらいの女性だった。

「ほぉ……あれだけのダメージを負って立ち上がるとはな。瑠奈、やっぱりお前はなかなか見所があるぞ。」
「はぁ……はぁ……!」
「だが、始める前に言った通りこの鈴を私から奪い取れなければお前らの負けだ。また3日間地獄の強化メニューをじっくりやってもらうぞ。フハハハ!」
「はぁ……はぁ……ぐっ…!」
(目が……霞む……もう……だめ……)
乱れた自身の赤毛を整えながらケラケラと笑う女性。その笑い声を聞いた瞬間、瑠奈の意識はぷっつりと途切れた。

「あーあ。倒れちゃったよ。やっぱ立ち上がるだけで精一杯だったか……」
教官と呼ばれた女性は目を閉じてぐったりとしている瑠奈の顔を確認すると、道着からこぼれ落ちそうになっている瑠奈の胸を正した。
(こいつ自分で道着がいいって言ってたけど、胸がデカすぎてこの道着じゃサイズ合ってないな……動きづらいだろうし、道着はやめさせるか……)
そんなことを思いながら、教官は気絶した瑠奈を中庭の隅に移動させた。

彼女の名はライカ・リンクス。極光体術と呼ばれる格闘技が得意な魔法少女で、強くなりたいという唯と瑠奈に毎日こうして修行をつけている。
「うぅ……教官……!」
ライカは回復体位で倒れている唯に近づくと、ロングブーツを振り上げて唯の腹に叩きつけた!

ドゴッ!
「いぎあああああ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!!」
「お前さっきなんて言った?もう立てないとか死んじゃうとか言ったよな?な?言ったよなぁっ!?」
「ひッ!?教官やめてえぇっ!」
詰問しつつ馬乗りの体制になるライカ。怯えて悲鳴をあげる唯を無視し、鬼教官は自慢の右ストレートを唯の頬に叩きこんだ。
ドゴッ!!
「あぎいゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!」
「お前1人で戦ってるならいい……だが仲間と一緒に戦っているときは絶対に弱音は吐くな。それは敵の攻撃なんかよりも更に強力な味方への攻撃になる。…わかったかッ!!!」
「さ……!サーイエッサあああ!!!」
唯の涙交じりの情けない声が、ルミナス城の中庭に響き渡った。



「唯と瑠奈、毎日毎日あんな痛い思いして大変だね……」
「2人ともよくあのシゴキに毎日毎日耐えられるなぁ……ホントすごいよ。」
城のバルコニーから中庭を見下ろすカリンとフウコ。鬼コーチと呼ばれるライカに唯たちが殺されないか心配で、彼女たちは毎日ここから修行の様子を眺めていた。
「あの鈴を取れるようになったら、本格的に技を教えてもらえるらしいね。」
「うん。でもその技がライカさんの得意な極光体術になるのか、精神柔拳法とか別の体術になるのかはまだ決まってないみたい。」
「2人の適性を見て、ぴったりの体術を教え込むってわけか……」
「でもさ、今日何回かライカさん鈴を取られそうになってたよね。やっぱりあの2人、着実に強くなってるよ!」

元の世界に戻るため、そして守りたいものを守るため。
唯と瑠奈はこの地で十分戦える力を身につけてから、アルガスを目指すことにしていた。


98 : 名無しさん :2017/02/26(日) 13:01:53 ???
「それよりもフウコ、大丈夫か…?弟のこと…」
「…確かに仇を討てなかったのでは悔しいよ。でも、あんまり塞ぎこむとあの子に笑われちゃうから」
「そうか…強いんだな、フウコは」
「そんな!カリンちゃんの方が強いし大きいよ!」
「…ふん、私の方が大きいし強いのは知ってるんだよ!」

お決まりのやり取りを交わしながら、カリンは思う。自分は、肉親を失ったフウコの力になれているのだろうかと。


◇◇◇◇◇


ここは王都イータ・ブリックスにある地下牢。
地下にあるが故に城の崩壊によるダメージも最小限に済んだその薄暗い場所には一人の少年が監禁されていた。
彼の名はフウヤ・トキワ。フウコ・トキワの弟であり、ルミナスにおいてはかなり珍しい男の魔法戦士である。魔法戦士ヴェノムウィンドの異名を持ち、フウヤとフウコは期待の新風姉弟と呼ばれていた。
フウヤは異名の通り毒の風を操る魔法を使う。魔法の毒風は化学兵器の毒ガスと比べると毒の強さは劣るが汎用性が高い。戦いながら少量ずつ毒風を相手に吸わせて長期戦に持ち込み、弱ったところを一気に攻める戦法を得意としている。

毒と言っても吸い続けなければすぐに解毒作用が働く程度で、「毒というより痺れ薬のようなもの」とはフウヤの談である。

何故彼はこの国に捉えられているのか説明しよう。
毒の風という単体で大人数に影響を与えることのできる魔法を扱うフウヤは、有坂真凛がアイドルとしてイータ・ブリックスに潜入する際、彼女をサポートする任務を受けていた。
毒風はその範囲を広げれば広げるほど効力が弱まる。王都全域に放つとなるとほとんどただの風だ。
だが入国審査の目を誤魔化すため、国家レベル……は高望みにしても、最低でも警備隊が対応に追われるレベルの騒ぎを起こさなければならなかった。
そこでフウヤは考えたのさ。だったら局所的に有害な毒風を吹かせ、その後王都全域をいかにも体に悪そうな紫色の風(実際は無害)で覆えばいいってね!
着色程度なら王都全域に放っても辛うじて魔法の効果が残る。

一部の住人が立て続けに体調不良を訴え、王都全域には怪しげな風が強く吹いている。
住人たちは疫病を疑い、今は大丈夫でも近いうちに自分たちも……と心配する。
住人の不安を取り除くため、王都警備隊は風がどこから吹いているかの調査にかかり切りになり、アイドル志望の少女が入国してきてもろくに身辺調査をしなかった(フォーマルハウトのエスカの占いにより、結局真凛がスパイであることはバレてしまったが)。

フウヤはその後王都警備隊に捕まって地下牢に投獄されてしまった。連絡が取れなくなったことでルミナス側はフウヤの身に何かあったと判断。
>>19でフウコが弟の仇と言っていたのはそういう背景がある。

リョナラーだらけのこの国においても男をリョナる趣味のある者は流石に少ないようで、フウヤは(リョナられまくってる少女たちに比べれば)比較的穏やかな捕虜生活を送っていた。

「よーう、元気してたー?」
「お前は……!」

今日、王が現れるまでは。

「魔法少女の国ルミナスにおける希少種の、男の魔法戦士。単純な戦闘力はドロシーに劣るだろうが、まぁ及第点ってところか。いざとなったら教授の発明で戦闘力を底上げもできるしな」
「貴様、何を言っている…!?」
「いやー、うちの十輝星のデネブが死んじゃってたのをすっかり忘れててさー。同じ風使いだし、後釜にちょうどいいかなーって」
「誰がお前の手駒なんかに!僕を馬鹿にするな!」
「まぁまぁ、そう固くなんないで、とりあえずこれでも見ろよ」

そう言って王が無造作に放り投げたのは、先の戦いで殿になり、ノワールとの戦いで壮絶な最期を迎えたミントであった。

「ミントさん!?」
「フウヤ…?生きていたのか…」

「いや、生きていたのかってなるのは君の方でしょ(笑)コズミックエクスプロージョンなんてオーバーキル魔法で木っ端微塵にしてくれたおかげで、ロードオブロードでも完全には生き返らせられなかったんだよなぁ。
……そろそろか」
王のその言葉と同時。

「あ!?あぎやぁっくあああああああああああっくぁうううぁあああああああ!!!?」
「ミントさん!?い、一体どうしたんです!?」
ミントが突然悲鳴あげる。そして、ミントの端正な顔と女性的な身体がボロボロと崩れ、やがてさっきまでミントがいた場所には、砂や灰にしか見えないような粉塵が残るのみとなった。


「ロードオブロードで身体を再構築しても、一時間かそこらでまた身体が崩壊するんだ。
ちなみに、身体が崩壊する時はものすごい痛いみたいだね(笑)」

肉片一つからでも再生可能な王の力も、全身が粉微塵になっては完全蘇生とはいかなかった。
ちなみに、粉塵の状態から復活させた時は王がドヤ顔を晒し、結局復活は不完全と判明した時はノワールがこれでもかってくらいのドヤ顔を晒したという割とどうでもいい背景がある。


99 : 名無しさん :2017/02/26(日) 13:03:25 ???
「トーメント王…!貴様ぁ!」
「そんなに怒るなよ、これは俺がやったんじゃなくて、ノワールがやったことなんだから」
「ノワールだと!?あの悪女…トーメント王に尻尾を振ったのか!」
「そう言うなよ、これから君の味方になる女なんだし…いや、君『が』味方になるのか」
「戯言を!僕は貴様の手駒になどならない!」
「いつまでそう言っていられるかな…?ロードオブロード」
王の手から光が溢れ、ミントの成れの果ての塵へと降り注ぐ。

「あ、ぐ…ま、また生き返ったのか…」
「ま、まさか王は死者を蘇らせることができるという噂が、本当だったなんて…」

「さて、俺も暇じゃないんでね。さっさと要件を片付けるか…フウヤ、お前がその女を殴り殺せば、その女を二度と蘇生しないと約束しよう」
「な!?」
「お前も一辺リョナの楽しみを味わってみれば、リョナの素晴らしさがわかるさ」
「ふざけるな!フウヤ、耳を貸すな!王よ!このフウヤは姉よりも早く初陣をすます秀才!貴様の思い通りになるとは思わんことだ!」
「うん、君には話しかけてないんだよね!」

王のマジックハンドがミントを襲う!

「あぐ!?ぐぅ、ぐうぅああああああああああああ!!!!」
「さぁて、また勝手に身体が崩れるまで、このまま死なない程度に痛めつけて待っててやろうか!?ヒヒヒヒヒ!」
「ソルベットの誇りにかけて…貴様には屈しない!先ほどは不意打ちされて不覚を見せたが、貴様が喜ぶような悲鳴もあげん!」
「その台詞もう何回目だぁ!?結局いつもいつも悲鳴あげてるじゃねぇか口だけ女!」
「……!……!!ぅぁ…!」
「そらそらどうしたぁ!?もう声が出そうだぜぇ!?」
「や、やめろぉ!!それ以上ミントさんに手を出すな!」

意外にも、王はフウヤの言葉と同時にマジックハンドからミントを離した。

「つまり、こいつをお前の手で殴り殺す覚悟ができたってことだな?」
「そ、それは…」
「ゴホッ、ゴホッ、フウヤ…私のことは気にするな…!」
「お前が殺さないんだったら、俺はいつまでもその女を屈辱まみれの凌辱に晒し続ける。その女を救えるのはお前だけなんだぜ、フウヤ?」
「僕は…!僕は…!」
「あ、このままこの女の反骨精神がなくなるまでリョナれば、下っ端のお前じゃ知らないようなルミナスの情報を手に入れられるかもしれないのか。そんじゃあ、殺させるのやーめた」

当然、これはブラフである。
別に一戦闘員がエスカの占い以上の情報を知っているとは思っていない。

「ま、待ってくれ!」
だが、目の前に餌を垂らされて喰いつかない魚はいない。

「なんだよ、俺忙しいんだけど」
「ぼ、僕がミントさんを、こ、殺します!だからもう、ミントさんには手を出さないでください…!」
「フウヤ!?」
「うんうん、素直なガキは嫌いじゃないぜ。じゃあ、さっさとやれよ」

王がパチンと指を鳴らすと、フウヤを拘束していた拘束具は全て外れた。

「ぐ、ミントさん…ごめんなさい!」
「ごふ!?ふ、フウヤ、ぐ、や、やめ…!ごぁ!う、ぐぁ!」
「う、ううう、ううううわああああああああああああ!!!!ミントさぁああああああん!!」
自棄になって叫びながら、フウヤはミントを殴り続ける。最初は骨が折れるような硬い感触だったミントが、段々水っぽい感触になってきた。
べちゃり、べちゃり、べちゃり。
ミントの美しい顔は歪み、血だらけになっていた。


「か、かひゅ、止せ…!」
「うぁああああ!!うぁああああ!!」
「ご、が、グ、ゲバ!」
盛大に血を吐いた後、ミントは最早ただの肉塊になった。

「いやぁお見事!初めてのリョナにしては上出来だぜ」
「う、ううう、あああああああ…!」
「なーに泣いてんだよ、お前は情報漏洩を防ぐと同時に、死にたくても死ねないその女を助けたんだぜ?立派なことじゃないか」
「……かった…」
「ん?なんだって?」

次の言葉をほぼ確信しながらも、敢えてフウヤの口からはっきり言わせるため促す。

「……よかった…気持ちよかったって言ってんだよ!」

ここに、一人の少年がリョナラーになった。


100 : 名無しさん :2017/02/26(日) 13:05:04 ???
「きっとお前は、女だらけの所に無意識に反感を抱いていたんだ。今回の件でそれが表面化したってことだな」
「違う、僕は…!」
「毒の風なんてえぐい能力、ルミナスじゃ十全に振るえなかったろ?一方的に毒吸わせて勝ったりしたら卑怯者扱いされたりしただろ?ルミナスの連中にありそうなことだ(ホントは占いで知ったんだけど)」
「それは…!そうだけど…」
「今まで女だらけの所に男が一人で大変だっただろ?嫌な思いをしたことも一度や二度じゃないだろ?」
「僕は、僕は……!」
「これまでの人生で密かに溜まり続けた欲望と鬱憤……お前のうちに眠る激情を呼び覚ましてみろ、俺が手伝ってやるよ」

王は掌をフウヤの前にかざす。すると、フウヤの前にドス黒い手のひらサイズの球体が現れた。

「それを掴め、そして俺に着いてこい。お前を否定し、お行儀の良い型にはめ、お前を使い捨てたルミナスに復讐しよう」
「僕を否定した…ルミナス…」

フウヤの脳裏に、ある日のことが浮かぶ。かつては格闘戦の師範だったという竜殺しのダンも既に去っていて、戦える男は自分一人で辛かった。毒で一方的に勝ったら同年代の女の子に卑怯者と罵倒されて悔しかった。
その日、陰鬱な気持ちを抱えて帰宅したフウヤは、姉が…フウコが母と何気なく話しているのを、聞いてしまった。

『フウヤが女の子だったらよかったのに…』

フウコは、ノリノリでカリンに人工呼吸したりすることから分かるように、ちょっと百合の気がある。
きっとフウコは、特に悪気も深い考えもなく言っただけだろう。それでも、フウヤにとっては…姉に拒絶された気がして、悲しかった。


「僕は…ルミナスを…姉さんを…!」
フウヤは、目の前の黒い球体を握り締めた。

「告訴する…!」
フウヤの身体に、闇の力が巡る。

「ヒュー!『お前を告訴する…!』カッコイイじゃないか。フウヤの決め台詞にしたらどうだい?」
「…それもいいかもしれませんね。ただ、名前を…」
「ん?」
「その名前で呼ばれると、姉さんを思い出して腸が煮えくり返る…!」
フウヤは闇の力に飲まれ、元に比べて凶暴になった。ましてフウヤは自分から闇の力を受け入れたのだ。闇の力もその分強力になる。
毒は元々闇属性の魔法である。ノワールが闇の毒牙でミントを苦しめたことからもそれは分かるだろう。毒使いのフウヤと闇の力の相性は、抜群であったのだ。

「そうか、新しい名前が欲しいのか」
「王よ…よろしければ、何か考えていただけませんか?」
「お前が昔の自分と決別するためだ、いい名前を考えてやろう」
(エスカの時は洗脳で失敗したからな…!こいつは自分の意志で堕ちさせたが、大成功だったな)
ゲスいことを考えながらも、もう一つの名前的な男の子的に燃えるシチュエーションもあって真剣に名前を考える王。

「告訴…英語でsue…読みはスー…フウヤ…よし、決めたぞ!」
王はマントをバサッと翻すと、フウヤに指を指す。

「その方は今より、王下十輝星が一人、デネブ!そしてその名は…フースーヤ!」

決め台詞の告訴を英語にしてスー。それを本名に挟むだけという割と安直なネーミングであった。

「僕の名前…フースーヤ…」
どこぞの月の民やらお笑い芸人みたいな名前だったが、それでもフウヤ…いや、フースーヤは嬉しかった。

「さて、エスカの後任は後で決めるとして…とりあえずフースーヤは、他の十輝星と顔合わせだな!」
「分かりました、王よ」

フースーヤは、自らの身体を巡る闇の力と元から得意としていた毒魔法、ついでに風魔法が合わさっていくのを感じる。
高潔な者の多いルミナスでは振るえなかった力の無限の可能性を感じながら、フースーヤは歩く。

悪に堕ちる。復讐のために。


101 : 名無しさん :2017/02/26(日) 13:05:04 ???
「きっとお前は、女だらけの所に無意識に反感を抱いていたんだ。今回の件でそれが表面化したってことだな」
「違う、僕は…!」
「毒の風なんてえぐい能力、ルミナスじゃ十全に振るえなかったろ?一方的に毒吸わせて勝ったりしたら卑怯者扱いされたりしただろ?ルミナスの連中にありそうなことだ(ホントは占いで知ったんだけど)」
「それは…!そうだけど…」
「今まで女だらけの所に男が一人で大変だっただろ?嫌な思いをしたことも一度や二度じゃないだろ?」
「僕は、僕は……!」
「これまでの人生で密かに溜まり続けた欲望と鬱憤……お前のうちに眠る激情を呼び覚ましてみろ、俺が手伝ってやるよ」

王は掌をフウヤの前にかざす。すると、フウヤの前にドス黒い手のひらサイズの球体が現れた。

「それを掴め、そして俺に着いてこい。お前を否定し、お行儀の良い型にはめ、お前を使い捨てたルミナスに復讐しよう」
「僕を否定した…ルミナス…」

フウヤの脳裏に、ある日のことが浮かぶ。かつては格闘戦の師範だったという竜殺しのダンも既に去っていて、戦える男は自分一人で辛かった。毒で一方的に勝ったら同年代の女の子に卑怯者と罵倒されて悔しかった。
その日、陰鬱な気持ちを抱えて帰宅したフウヤは、姉が…フウコが母と何気なく話しているのを、聞いてしまった。

『フウヤが女の子だったらよかったのに…』

フウコは、ノリノリでカリンに人工呼吸したりすることから分かるように、ちょっと百合の気がある。
きっとフウコは、特に悪気も深い考えもなく言っただけだろう。それでも、フウヤにとっては…姉に拒絶された気がして、悲しかった。


「僕は…ルミナスを…姉さんを…!」
フウヤは、目の前の黒い球体を握り締めた。

「告訴する…!」
フウヤの身体に、闇の力が巡る。

「ヒュー!『お前を告訴する…!』カッコイイじゃないか。フウヤの決め台詞にしたらどうだい?」
「…それもいいかもしれませんね。ただ、名前を…」
「ん?」
「その名前で呼ばれると、姉さんを思い出して腸が煮えくり返る…!」
フウヤは闇の力に飲まれ、元に比べて凶暴になった。ましてフウヤは自分から闇の力を受け入れたのだ。闇の力もその分強力になる。
毒は元々闇属性の魔法である。ノワールが闇の毒牙でミントを苦しめたことからもそれは分かるだろう。毒使いのフウヤと闇の力の相性は、抜群であったのだ。

「そうか、新しい名前が欲しいのか」
「王よ…よろしければ、何か考えていただけませんか?」
「お前が昔の自分と決別するためだ、いい名前を考えてやろう」
(エスカの時は洗脳で失敗したからな…!こいつは自分の意志で堕ちさせたが、大成功だったな)
ゲスいことを考えながらも、もう一つの名前的な男の子的に燃えるシチュエーションもあって真剣に名前を考える王。

「告訴…英語でsue…読みはスー…フウヤ…よし、決めたぞ!」
王はマントをバサッと翻すと、フウヤに指を指す。

「その方は今より、王下十輝星が一人、デネブ!そしてその名は…フースーヤ!」

決め台詞の告訴を英語にしてスー。それを本名に挟むだけという割と安直なネーミングであった。

「僕の名前…フースーヤ…」
どこぞの月の民やらお笑い芸人みたいな名前だったが、それでもフウヤ…いや、フースーヤは嬉しかった。

「さて、エスカの後任は後で決めるとして…とりあえずフースーヤは、他の十輝星と顔合わせだな!」
「分かりました、王よ」

フースーヤは、自らの身体を巡る闇の力と元から得意としていた毒魔法、ついでに風魔法が合わさっていくのを感じる。
高潔な者の多いルミナスでは振るえなかった力の無限の可能性を感じながら、フースーヤは歩く。

悪に堕ちる。復讐のために。


102 : 名無しさん :2017/02/26(日) 17:08:20 ???
「というわけで、ドロシーの後任のフースーヤだ。みんな、仲良くするんだぞ」
「…よろしくお願いします」

「俺はアトラよろしくな!なーんか暗い奴だな、あのフースーヤって奴。シアナは真面目で大人しいってだけで、あんなに暗い感じじゃないけどさ」
「僕はシアナ、よろしく。挨拶の場で本人の目の前で暗いとか言うなよ…」
「私はアイナですわ!新人!一つ言っておきますわ!!リザちゃんはアイナのものでありますから決して手は出さないように!はぅあ!こんな風に先輩っぽいこと言ったの初めてで気持ちいいですわー!」
「…私はリザ。アイナの言うことは真に受けなくていいよ」
「僕はヨハン。困ったことがあったら何でも言ってくれ」

色々と濃い自己紹介を受けて少し面食らったフースーヤ。

「みんな普段はこんなんだが、任務の時はとことん冷酷だ。お前が一方的に毒使おうが文句言うような奴はいないから安心しろ」
「王様…分かりました」

「フースーヤ君が入ってきたことで、危険を侵さずに相手に毒を浴びせられる。これは戦術上大きいぞ」
「毒矢は当たらなかったら意味ないけど、風なら避けようがないもんな!」
「僕の落とし穴に毒風を充満させたら、効率的に生け捕れるかもしれない」
「私とリザちゃんの暗殺コンビにとっても、フースーヤが援護してくれれば潜入しやすいかもしれませんわ!ってリザちゃん?どうしたんですの?ボーっとして?は!まさか私が新入りを評価したからって妬いてる!?」
「それはない」
(ドロシー…新しいデネブが入ってきても、私は貴女のことを忘れないからね)

「どうだフースーヤ?ルミナスとは何もかもが違うだろ?」
「ええ、そうですね…ここには、あの高潔と無駄の違いが分からない人たちがいない…」
「王様、またルミナスから引き抜いたんですか?」
「安心しろヨハン、こいつは洗脳したんじゃなくて自分から入ってきたようなもんだ」
「はぁ、それならいいんですが…」

「よし!今日は顔合わせもすんだし、城の修理には今しばらくかかる!今日はお前達城下町で羽を伸ばしてこい!新入りの歓迎会も兼ねてな!」
「よっしゃ!なぁフースーヤ、お前闘技場って興味ある?実は最近、俺が前に倒した人が闘奴になったらしくてさ」
「それを言うなら僕たちが、だろ。さりげなく手柄を独り占めするなよ…」
「ノン!そういうのはアトラが一人で行くべきですわ!それよりも、フースーヤには私の秘伝のお菓子の布教を…!」
「こらこらみんな、そんなに一遍に話しかけるなよ、フースーヤ君が困ってるだろ」
「…ふふ」
「?フースーヤ、笑ってるの?」

突然微笑んだフースーヤに、リザが尋ねる。

「ああ、とても清々しい気分だ…今まで自分を縛っていたものから解き放たれたような…それで、笑っちゃったんだ」
「…そう」
「やっと分かった…僕の居場所は、風が気ままにそよげる場所は…ここだったんだ」

□□□□


「ねぇカリンちゃん、たまに、ほんとにたまになんだけどね?フウヤは生きてるんじゃないかって感じることがあるの」
「…気持ちはわかるけど、あの王に捕まって連絡が取れないんじゃ、もう…」
「うん、頭では分かってるの。それでも、実感が沸かないんだ。弟がもういないっていう」
「フウコ…」
「ごめんね、今はそれよりも、考えなくちゃいけないことも、やらなくちゃいけないこともあるのに」
「…私らも体でも動かすか。あの2人に追い抜かされちゃ、かっこつかないしな」

身体を動かしているうちは、嫌なことも考えないですむ。鬼コーチに見つからないよう、そそくさと場所を変えてから、カリンとフウコはしばしの間、訓練中励んだ。


103 : 名無しさん :2017/02/26(日) 19:29:26 ???
「王様…王下十輝星に、推薦したい人がいます」
「…ほう?」
…そう申し出たのは、十輝星の一人、「スピカ」のリザだった。
普段無口な彼女が、何かを主張するのは極めて珍しい。しかも相手は、あの「王」である。
パートナーであるアイナを始め、他の十輝星達も興味本位で様子を見について来た。
やって来た場所は……

(アイナ…推薦したい人って誰だよ?お前は知ってるんじゃないのか?)
(さあ…リザちゃんの考えてる事って、時々アイナにも読めない事があるんですのよ。そこがまたカワイイんですけど!キャッ☆ミ)
(…あれ?舞ちゃんがいる。教授の実験台にされたんじゃなかったっけ?)
(ここって…地下牢ですよね。捕虜を捕らえておくための。過去に捕らえた人物ですか?)
(………。)

「……んで、ココにその人がいるって?」
「はい。…任務の都合上、一時的に行動を共にしましたが…実力は申し分ないかと」

強固な石壁と分厚い鉄扉による特殊牢。その内側は、魔力を遮る特殊合金で覆われている。
強力な魔法使いを閉じ込めておくための牢で、捕虜たちの苦痛の呻きが響き渡るこの地下牢においても、
一際物々しい雰囲気を醸し出していた。

閉じ込められているのは、極寒の地ガラド出身の魔法使い「エミリア・スカーレット」。
彼女を捕獲するための作戦中、同行した兵士たちが全員殺された事などから、
拷問吏や兵士達には決して立ち入らない様言い含めてあり、食事もリザ自身が自ら運んでいた。

(直接的な破壊工作は嫌がるだろうけど、エスカみたいに、みんなのサポート役なら…
それに、エミリアをこれ以上ここに閉じ込めておくわけにもいかない)
これまでにもできる限りの説得はし、今朝の食事を運んだ時、ここに王を呼ぶことは伝えてある。
事前にアイナに相談し、エミリアの名を出して
「誰リアでしたっけ?あ、カリスマガードの人?」
と言われた時には軽い眩暈を覚えたが…ともかく、後は交渉次第だ。

しかし。扉を開いてみると…中の様子がおかしい。人の気配が二人分いる。
話し声はほとんどないが、代わりに何かをしゃぶる様な水音と…二人の少女の、くぐもった呻き声が響いていた。

ちゅぷっ……くちゅっ……
「…………んっ…む、ぐっっ……あん……」
明かりを灯け、中に踏み込むリザ。そこに居たのは、エミリアと…彼女の唇を強引に奪い、貪るように魔力を啜るノワールだった。

「……っ…あ……っ、……り……ザ…」
「…エミリアっ!!?…しっかりして…貴様っ!!エミリアに何をっ!!」
「ククク…なんじゃ小娘、接吻も知らぬのか?…少し小腹が空いたものでな。なかなかの魔力の持ち主じゃったぞ」
直接見たことはないが、噂に聞いたことはあった。…対象から直接を魔力を吸引する、邪術の一つである。
吸われた者の身体には魔力の代わりに大量の快楽が流し込まれ、一度に大量に吸われれば廃人化する恐れもあると言う。

「おっと失礼、食事中だったか。…リザ、推薦したい人ってもしかしてノワールか?
 まあ実力はともかくとしてアレは無理だろ。なんせワタシの言う事聞かn」
呑気に笑う王の横を、黒い風が通り過ぎる。
…リザがナイフを抜き、ノワールの首めがけて斬りかかったのだ!

…ガキィィィン…!!
けたたましい金属音が地下牢内に響き渡る。
リザのナイフが閃光のごとく閃き、ノワールの首を瞬時に両断……する事はなかった。
(止められた!?……髪の毛、一本で…!?)

「…狂王よ、殺して構わぬか?」
「え〜?…それは困るなぁ。リザにはこの後、仕事を頼むつもりだし。
 キミが代わりに十輝星として二人分働いてくれるんなら話は別だが」

「クックック…それは御免蒙る。では、壊れぬ程度に仕置きさせてもらうとしよう」
ノワールの瞳が妖しく輝くと、影がリザの足元へと伸び、影から現れた無数の黒い腕が、リザの脚を捕らえる。

「…闇に、沈め」
異様な感覚と共に、リザの周囲の時間の流れが鈍くなっていく。
アイナやアトラが何事か叫んでいるのが見えたが……気付いた時には、リザの視界は暗闇に包まれていた。

「なんかよくわからんが…勧誘は失敗、って事でいいのかな?
…アイナ、リザが『戻ったら』伝えておいてくれ。お前たちの次のターゲットは…『邪術のライラ』だ」


104 : 名無しさん :2017/02/26(日) 20:10:39 ???
時刻は夜8時。ルミナス城の食堂にはリムリット、ウィチル、エスカ、唯、瑠奈が一堂に会して食事をしていた。
献立はルミナスの魔法農園で採れた野菜と肉のフルコース。ルミナスの魔法農薬を100%使っているらしい。
農薬と聞くと体に悪そうだが、ウィチル曰く魔法農薬は体に悪いどころか体内細胞活動を活性化する効果があり、修行で鍛えた筋肉をさらに増強する効果があるという。

「はー美味しい!このお肉はなんのお肉なんですか?」
「ルミナス魔法牧場のマジックピッグです。魔法農薬と魔法虫をたくさん食べたマジックピッグは、どの部位も柔らかくて栄養たっぷりなんですよ。」
瑠奈の問いに答えたのはルミナス軍副将のウィチル。ルミナスの政策や軍事を全て統括している、リムリットの腹心だ。
まだ8歳であるリムリットの世話係も兼任しており、実質彼女がルミナスを動かしていると言っても過言ではない。
「わらわもこれは好きじゃぞ。ヒカリお姉様はどうじゃ?美味しいかのう?」
「………あ、わたしのことか!えっと、美味しいよ。クオリティ的にはイータブリックスの料理の方が上なのに、なんか懐かしい味するんだよね……」
「な、なんじゃと…!我が国の魔法料理があの国に劣っているじゃと…!」

エスカは結局この城に居ついている。
記憶は戻らない上に、占いの力もイータ・ブリックスから離れたため使うことはできないが、幼い自分が赤ん坊だったリムリットと一緒に移る写真を見て、全てを受け入れた。
今はルミナス軍のリムリット補佐官として、ルミナスの活動に貢献している。
イータブリックスから離れてクリスタルの魔力を浴びなくなったたためか、不安定だった情緒も安定してきていた。

「…………」
「ん?唯さん、元気がないですね。どうかしましたか?」
あまり食事に手をつけていない唯の姿を確認し、ウィチルが声をかける。
「あぁ……唯はちょっと今日ライカさんに絞られすぎて、ブルーになってるっていうか……」
「ライカの奴め……あいつはいつもやりすぎなのじゃ。唯、安心してよいぞ。あいつにはわらわがしっかりとお灸を据えておく。二度と唯にそんな顔はさせないからな。」
「あ、だ、大丈夫です!ライカさんは私たちにとっても良くしてくれてるんです!わたしが……未熟なだけなんです……」
「んあっ?そ、そうなのか?……じゃが、辛い時は無理をせずわらわに言うんじゃぞ。ライカは色々と危ないやつじゃからな。」

リムリットを説き伏せると、唯はまた元気をなくしてしまった。
「……唯。無理しなくていいわよ。ライカさんのスパルタはあんたにはキツイでしょ……?」
「……………」
瑠奈の耳打ちに唯は顔を伏せる。
ライカに評価されるのは瑠奈の方ばかりで、唯には気合が足りないだのその反抗的な顔はなんだと何かしら理由をつけられて、いつも鉄拳制裁されている。
最初の頃は瑠奈と違って自分には根性がないから、それを奮い立たせてくれていると考えていたが……
何日も続くライカのスパルタ教育に、唯は最近塞ぎがちになっていた。
「だ、大丈夫だよ瑠奈……!わたしは瑠奈と違って弱いから、ライカさんはあえて厳しくしてくれてるんだと思う。」
「……唯は弱くないよ。地下闘技場で唯が戦ってくれなかったら、わたしは未だにあの王に洗脳されてただろうし……ライカさんには伝わってなくても、わたしなんかより唯の方が強いから。もっと自分に自信を持ってね。」
「瑠奈……!うん、ありがとう。わたし、瑠奈と一緒に元の世界に帰るためなら、なんでも頑張るっ!」

親友の励ましに元気を取り戻した唯の姿を、リムリットたちは温かい目で見守っていた。


105 : 名無しさん :2017/02/26(日) 21:24:40 ???
「くっ……ここは……!」
リザの視界に広がったのは城のホールのような空間。周りの壁はすべて異空間らしく闇に覆われている。
「王下十輝星、スピカの星位のリザか……王から聞いておるぞ。十輝星の中でもズバ抜けた暗殺術を誇る実力者だとな…」
ノワールの声が空間に響く。姿は見えないが、こちらの様子はどこからか見ていいるようだ。
「だが妙じゃな。争いは好まない性格と聞いているが……なぜあの王に仕えている?なにか弱みでも握られておるのか?それとも…あの狂王に生き返らせてほしい者でもおるのか?」
「……あなたと話をするつもりはないわ。わたしと戦うつもりなら、早く姿を見せなさい。」
ナイフを構え直し、全方位に気を配るリザ。暗殺者の気配察知能力は、ノワールがどこから襲いかかってきてもおかしくないと判断した。
「クックック……せっかちな奴じゃ。殺さぬ程度に痛めつけたあと、その小さな唇に接吻でもしながらゆっくり聞かせてもらうとするか……!」
ノワールの言葉が終わった瞬間、ホールの地面から小さな水溜りほどの闇が2つ広がった。

「キシャアアアアアア!!!」
「ガルルルル……!!」
闇溜まりから現れたのは、1つ目に唾の生えた魔物と双頭の狼だった。
「ただの魔物じゃなさそうね……」
「察しが良いな。こやつらはわらわの闇魔法で凶暴化した闇獣じゃ。困ったことには、とかく人間の女の肉が好きな奴らでな……!」
リザを見て夥しい量のヨダレをだらだらと垂らす闇獣たち。その姿を見れば、ノワールの言葉がなくとも理解することは容易だった。
(趣味の悪い……こんな奴らに、わたしは負けない!)

恐ろしい魔物に臆することなく、リザはその碧眼に2体の獣を見据えて走り出した!


106 : 名無しさん :2017/02/27(月) 01:12:13 AoyyPPAw
「キシャアアアアアアッ!」
翼の生えた魔物が空高く舞い上がり、リザから距離を取った。
「ガルルルルアアァァ!」
もう1人の闇獣──狼の顔が2つ付いている双頭の獣は、まっすぐ向かってくるリザに負けじと向かってくる。
「さぁ、闇獣の中でもトップクラスの凶暴さを誇るこの2匹相手にどう闘……」
ノワールの言葉は、血を吹き出して倒れている闇獣たちを見て止まってしまった。

「トップクラスが、この程度……?」
神速で狼の目を潰し、ナイフに仕込んだ弾丸で1つ目を落としたリザ。
暗殺術を極めた彼女にとって、この程度の相手であれば切り札のテレポートを使うまでもなかった。
「もうこの空間から解放してくれないかしら。わたしはあなたと遊びたくないの。……またエミリアに変なことするっていうなら、別だけど。」
「くっ……このままでは返さんぞ。わらわが直々に相手をしてやろう!」
リザの前にまたも闇溜まりが現れ、そこから出て着たのは……
長い黒髪と服の上からでもわかる大きな乳房が特徴的な、鏡花の体を乗っ取っているノワールだった。



「きゃあああああああ!!!アイナのリザちゃんがああああ!!!」
「王様っ!リザが、リザがノワールにお持ち帰りされちまったよぉっ!」
リザが闇に落とされたのを見て騒ぎ始めた2人を、王はめんどくさそうに見た。
「しょうがないだろ。先に喧嘩売ったのはリザの方なんだし。それに殺しはしないから安心しろ。」
「うぅ……ホントですの……?アイナのリザちゃんに変な傷がついたら困りますわよ……」
「まぁ傷がついたら教授に直して貰えばいいさ。それに……ノワールにコテンパンにされてボロボロなリザも見てみたいじゃないか!ヒヒヒ!」
意地悪く笑う王の言葉に、アイナの顔はさらに青くなったが……アトラの顔はそれとは逆にぱあっと明るくなった。
「あ、お、王様。もしかしてだけど〜もしかしてだけど〜、リザのふ、服も破けたりするのか!?」
「あぁ……ノワールは百合っ気があるから、リザみたいな美少女は裸にひん剥かれちゃうかもなぁ……」
「うおおおおおおお!!!ノワールがんばれえぇっ!!」

「アトラ……僕は友人として恥ずかしいぞ……」
「ほんと…アトラはもうケーベツですわ。リザちゃんがここに戻ってくる前に、アイナがこの変態を隔離してやりますわっ!」
「うーん、男として気持ちはわかるんだけどねぇ……」

(こ、この人たち色々とフリーダムだなぁ……なんか楽しい……!)
退屈だったルミナスの日々とは真逆のトーメント王国。
フースーヤは自分がこの国に強く魅かれていくのを、肌で感じていた。


107 : 名無しさん :2017/02/27(月) 21:31:39 ???
「本体…いえ、その体も借り物ね」
「ふふふ…!流石は異世界人…!わらわの魔力に、よく馴染むでな!」

キャッチボールに見せかけた会話のドッジボールを繰り広げ、ノワールは闇の力を解放させる。
リザはどんな魔法が来ても対応できるよう、正面のノワールを見据える…と、ノワールの姿が突如かき消える。

「!?」
「後ろじゃ小娘」
シャドウリープ。瞬間移動の闇魔法。闇の魔法を毛嫌いしていたミント・ソルベットでさえも使うほど使い勝手の良い魔法である。

「取った!」
「…く!」
「なに!?」
だが、リザも負けてはいない。自らの能力であるテレポーテーションにより、後ろに回ったノワールのさらに後ろに回る。そのまま人体の弱点であるうなじに渾身の蹴りを放つ!

「ぐ…!わらわは別人の体を操っているだけにすぎん。人体構造上の欠陥がわらわに通じると思うな」
(魔法を使った形跡はない…ということは、先ほどの瞬間移動は小娘自身の能力!厄介な!)
蹴りを喰らうと同時に前に跳んで衝撃を殺しながら、ノワールはリザを警戒する。

「例え仮初めの肉体でも、壊してしまえば動けないはず…」
(まさかこんなに早く切り札を切らされるなんて…今のでしとめられなかったのは痛い…)
同時に、リザもノワールを警戒する。人体構造の弱点を攻める暗殺術はほとんどノワールには通じないと見ていいだろう。


(ありあまる魔力でシャドウリープを繰り返し、後ろの取り合いに持ち込めばスタミナでは勝てるだろうが…)
(消耗戦になれば、先にバテるのは私…なら、相手の誘いには乗らずに、後ろに回られた瞬間に逆手ナイフでしとめる…?)
(いくら馴染むとはいえ別人の体、反射神経は小娘に劣る。後ろの取り合い中に攻撃されたら避けるのは至難の業ゆえ、ここは距離をとるか?)
(でも距離を取られたら、接近するために結局テレポーテーションを使わざるを得なくなる)
(おそらく、距離を取ると小娘はテレポーテーションを使う。後ろの取り合いは不利な以上…!)
(消耗戦は不利な以上…!)

ノワールは再び魔力を解放させ、リザは腰を下げて低く構える。

(正面から!)
(短期決戦を狙う!)


108 : 名無しさん :2017/02/27(月) 23:11:06 ???
悩んだ末にたどり着いた2人の答えは、正面からの真っ向勝負だった。
「ハハハハ!小娘もわらわと同じ考えか!いいだろう……!わらわの魔法を見せてやろうっ!」
ノワールが手をかざした場所から、闇の弾丸が発射される。ダークバレットと呼ばれる闇の力を込めた魔弾だ。
「はっ!」
リザはすかさずナイフで玉を薙ぎ払う。刃物で弾丸を弾くことなど、リザにとって造作もないこと。
焦り顔を見せたノワールの喉元に、リザは素早くナイフを突き立てた!

キィン!
「くっ……!」
「驚いたぞ……その小さなナイフで弾丸すら無効化するとはな。」
テレポを挟んで一気に距離を詰めたが、リザの斬撃はまたもノワールの髪の毛に阻まれてしまった。

「ククク……お遊びのつもりが、なかなかどうして楽しませてくれる……!王下十輝星とは、これほどの実力者揃いじゃったのか……!」
不敵に笑うノワール。それとは対照的に、リザの顔に焦りが浮かんだ。
(くっ……迂闊っ……!髪に巻き取られてナイフが抜けないっ……!)
強靭な髪の毛にガッチリと固められてしまったナイフは、リザが思い切り力を込めてもびくともしない。
「どうした小娘よ……?早くナイフを取ってみせろ。早く戦いの続きを始めようではないか……!」
「くぅっ……!」
ノワールの言葉につい焦りの声が出てしまうリザ。いつも替えのナイフは携帯しているのだが、思わぬ場所での戦闘になったため今はこのナイフしか持ち合わせていない。
「はっ!」
「……!!!」
唐突に発せられたノワールの衝撃破に、リザは思い切り吹き飛ばされた!

ガンッ!
「かはっ…!」
勢いよくきりもみ回転で吹っ飛んだリザは、受け身を取ることに失敗し硬い床に叩きつけられた。
(ぅ……!目眩が……!)
いつも当たりどころが最悪なのが、彼女の弱点の運のなさである。後頭部を強く強打してしまい、視界がぐらぐらと激しく揺れた。
「さぁ、地獄の始まりはここからであるぞ。小娘……!」
シュルシュルとノワールの髪の毛がリザの四肢に絡みつき、両手を上に縛った体勢で拘束しようとする。
「ぐ……やめなさいっ……!」
ここで縛られるのは最も危険と判断し、すぐさまテレポートで窮地を脱するリザ。
拘束は免れたが、激しい目眩が止まらない。ノワールの姿を確認することすら、今のリザには困難だった。

「はぁ……はぁ……!」
「ふむ……拘束からも脱出できるテレポートか。だが、体の負担は小さくないようじゃな……」
フラフラと立ち上がるリザを見ながら、ノワールはジュルリと舌なめずりをする。
(スピカのリザ……その美しい顔も小さな体も、頭からつま先に至るまでわらわがしゃぶり尽くしてやるぞ……!)


109 : 名無しさん :2017/02/28(火) 15:40:27 ???
「さぁどうする小娘よ?武器を失ってはわらわには勝てぬぞ?それに……相当当たりどころが悪かったようじゃな。運の悪い奴よ……クククク……!」
ノワールの髪にしっかりと巻きつかれている、リザの仕込みナイフ。唯一の武器が敵の手中に落ちたこの状況は、誰がどう見てもノワールの方が有利に見える。

(うぅ……しっかりしろわたし……!)

顔を左右にブンブンと振り、両手で頬をパチンと叩き、なんとか意識を取り戻す。ノワールはもう勝ったような顔をしているが、まだ諦めるわけにはいかない。
リザが秘めている魔力は基本的にはテレポートにのみ使われるが、魔力をナイフの形状にして即席の武器を作ることもできる。
だが武器を作り出す行為は魔力の消費が大きく、その分テレポートできる回数は本来よりもかなり少なくなってしまう。
武器を失ったと油断しているノワールに接近し、即席ナイフで一気に仕留める……失敗すればテレポートできる回数が少なくなる諸刃の剣ともいえる作戦だが、今のリザにはこの作戦以外に勝機を見出せなかった。

(まだ少しフラつくけど……まずは相手の様子を見て、接近するチャンスを見つける!)
「何を考えておる?小娘……!」
「…えっ!?」
目眩の中で思考に入っていた隙を突かれ、リザは背後に回ったノワールに気付くのが一瞬遅れてしまった。
「闇に飲まれるがいい…!」
「あっ!ぐぅっ!」
足元に広がる深い闇から、無数の手がリザの腿、胸、二の腕を捕らえた。捉える場所がバラバラで、それぞれの手で好みがあるらしい。

「くっ……!離せっ……!」
「貴様の悲鳴はつまらんな……もっと少女らしい甲高い声で叫んでほしいものじゃ……」
ノワールが望む悲鳴は、きゃあっ、とか、あんっ、系のけしからんあざとい悲鳴である。リザのような美少女のそういった悲鳴が、ノワールは大好物なのだ。
ギチギチギチ……!
「うあああああああぁッ!」
身体中に張り付いた腕は、リザの胸や腿を凄まじい力で握り始める。その痛みたるや、普段無口なリザが天を仰いで絶叫するほどだった。
(くそっ……!仕方ない……!)
脱出は不可能と判断したリザは、再度テレポートで離れた位置に素早くワープした。

「ヒュンヒュンと逃げているだけか?小娘よ。貴様の敗北はもう決定しているというのに……クククク……!」
逃げたリザの元へ余裕たっぷりにゆっくりと歩くノワール。対するリザは片膝をついて息を荒くしていた。
「はぁ、はぁ……痛ッ!」
特に強く掴まれた場所……女性にとっての急所である乳房がズキリと痛み、リザの顔に冷や汗が垂れる。
(ナイフの分の魔力を残すなら、テレポートはあと1回か2回しか使えない……!でも闇雲に突っ込んでも髪に阻まれる……どうすれば……!)

「小娘よ。もう抵抗は無駄じゃ。さっさと諦めて……この2人だけの空間でわらわと蜜月の時を過ごそうではないかッ!」
ノワールは大声で叫ぶと着ている衣服を勢いよく脱ぎ捨て、宿主である鏡花の下着姿が晒された。
「どうじゃ、この少女の体は……?思い切りしゃぶりつきたくなる大きな乳房が魅力的じゃろう?小娘よ……?」
「い、一体何を言ってるの……?馬鹿馬鹿しい……!」
ノワールが自分を拉致したのは、どうやらこれが目的だったらしい。
リザは自身の貞操のためにも絶対に負けるわけにはいかないと思い、気合いで立ち上がった。


110 : 名無しさん :2017/03/01(水) 02:39:20 ???
王はいつもの調子でヘラヘラと笑いながら去っていった。
残されたのは、鎖に吊るされたままビクビクと痙攣しているエミリア、
ノワールとリザの立っていた場所に広がる黒い影……そして他の十輝星のメンバー。
その中には、新しく加入したばかりの「デネブ」のフースーヤと、
教授の要請を受け、王都に戻っていた「リゲル」のサキの姿もあった。

「リザさんたち、どこに行ったんでしょう…あ、この黒い影、中が覗けますよ!」
(これは邪術の幻影結界ね…ククク…正面から突っ込んでハマるとか、リザの奴、間抜けもイイ所だわ…)
…一見すると大人しそうな風貌のサキ。
だがその内面はかなり腹黒く、リザのような真面目一辺倒なタイプを徹底的に嫌っていた。

他の者も、サキに続いて影の中を覗き込む。そこで目にした光景は…闇に包まれた異空間。
武器を奪われ、闇の術に翻弄され、徐々にノワールに追い詰められていくリザの姿だった。
「本当だ!リザと、あのノワールって奴がいるぜ!…これも、噂に聞く邪術ってやつかな?」
「そんな…リザちゃん!リザちゃーん!!くっそーあのファッキンガチレズ女!
 アイナのリザちゃんを傷一つでも付けたら許しませんわよー!!」

「…落ち着いて、アイナさん。こちらからの声は届かないようです…どうしましょう、このままじゃ…」
(「アイナの」って…どっちがガチレズだっつーの。コイツも大概ムカつくな…)
…他の十輝星には明かしていないが、サキには邪術の心得も少なからずある。
結界に干渉し、破ることも不可能ではないが…当然そんな事をするつもりは毛頭なく、
リザの窮状を密かに嘲笑いながら高みの見物を決め込んでいた。

「…シアナ。この術って、もしかして、この前の闘技場で瑠奈ちゃんに憑りついたノワールが、唯ちゃんに使ってた術かな?」
「うーん…微妙に違う気もするけど、影に引き込む所とかは似てたな…」
幻影結界…魔力を使って異次元空間を作り出し、そこに相手を誘い込む結界術の一種である。
結界の内ではどんな致命傷を受けても死に至る事はなく、また肉体のダメージは結界の外に出た時に自動的に元に戻される……
だが、傷の痛みや精神的なダメージはその限りではなく、痛みによって精神が壊れてしまう例も多い。
…一言で言えば、「誰にも邪魔されず、相手を殺さないようにじっくりいたぶる為の術」であった。

(まあ結界があるから、くたばりはしないのが残念だけど…ん?…)
心配するふりを続けながら、ふと周りを見ると……
新たに十輝星となったばかりの「デネブ」のフースーヤが、結界を覗き込みながら無言でしゃがみこんでいるのが目に入った。
その瞳には、同類にはすぐにそれとわかる、嗜虐的な欲望と、それが満たされたことによる愉悦の光が浮かんでいる…
(クスクス…なかなか有望な新人じゃない。それに……あらあら)

…サキは見逃さなかった。フースーヤだけでなくもう一人。
仲間であるはずのリザの苦悶する姿を前にして、歪んだ欲望に目醒めようとしている者の存在を。
「うあああああああぁッ!」
闇から伸びた無数の手がリザを捕らえ、凄まじい力で握りしめる。
天を仰いで絶叫するリザと、アイナの視線が合った……と言っても、結界の中からはアイナ達の姿は認識できないようだが。
(あ…アイナは……一体どうしてしまったんですの…!?…リザちゃんが大ピンチなのに…
…リザちゃんの、あの苦しそうな顔を見て……すごく、かわいい……もっと、見ていたい、なんて…)


111 : 名無しさん :2017/03/01(水) 19:25:46 ???
「…私はこの後、王から仕事を頼まれる。その私をあまり消耗させるのは、王の本意ではない…」
「ふん、下手な交渉…と見せかけて、会話中に少しでも体力を回復させ、作戦を立てようという算段か?」
「…!」
「クックック、いかんなぁ、今の場面では何食わぬ顔を維持していなければ…お主、手練れではあるが腹芸は苦手なようじゃな?」

闇雲に立ち向かっては自在に動く髪の毛や闇から現れる手に捕まる。かと言って有効な対策手段が思いついたわけでもない。
あちら側にこちらを殺す意思がないことを利用しようとしたが、会話で時間を稼ぐことすらできなかった。

「愛い奴よのう…暗殺者という殺伐とした立場にいながら、甘さも捨てきれぬ、悪知恵も働かぬとは」
「…貴女には関係ない」
「関係はなくとも、関心はある」
「…いやらしい!」
「あの王に仕えるお主に言えた義理か!」

再び足元の闇から手が伸びてくるが、足元も警戒していれば躱すのは難しくない。

「そらそら!下ばかり見ていてこれを躱せるか?」
軽やかなステップで伸びてくる腕を躱すも、正面から闇の魔力弾…ダークバレットが発射される。
下からの攻撃と前からの攻撃。リザは神がかり的な反射神経でその両方を躱すも、徐々に余裕がなくなってきた。

(このままではジリ貧…!なんとか接近しないと!)
魔力のナイフで攻撃する為には、大前提として接近しなければならない。テレポートして普通のナイフを取り戻そうとするふりをして魔力ナイフで攻撃…というのも考えたが、それはバクチがすぎる。
下から伸びる手とノワールから発射される魔力弾。その隙間を縫って接近しようというリザの判断は決して間違いではない。そもそも、その二つともを避けていること自体、常人からしたらあり得ないことである。
だから……

「キシャァアアア!!」
「…!?しま…!」
後ろから迫る大蛇に気付かなかったことを責めるのは酷というものだろう。


「きゃぁあああ!!リザちゃんがまたまた大ピンチですわぁああ!!」
(おかしいですわ…どうしてこんなにドキドキするんですの!?)
「頼む!丸吞みとかじゃなくて普通に尻尾で締め付けてくれ普通に!」
「集中攻撃で無理矢理に心理的死角を作り、そこを突く。トラップ使いとしてアトラも見習ったら…って聞いてないか」
「みんな、リザが戻ってきたら優しくしてあげようね…」
「あわわわ、どうしましょう…」
(そろそろ終わりかしら?どうせ死なないんだからリザもさっさと諦めたらいいのに…)
「……」
(もしルミナスだったら、『私達には何もできないのか!?』みたいなお寒い熱血茶番を始めてたんだろうな…くだらない)


112 : 名無しさん :2017/03/02(木) 03:18:51 ???
「キシャアアアアアッ!!」
「や、やめっ…うううっ!」
突如現れた大蛇に抵抗らしい抵抗もできないまま、リザの細い体は丸太のような太い体にガッチリと拘束された。
(ふ、不覚……!早く逃げないと!)
瞬時にテレポートで脱出しようと念じるリザ。
それに呼応した魔力が体を包むよりも、蛇の毒牙が捕らえる方が数秒早かった。

ガブッ!!!ガブッグチュッ!!!
「ひぐッ!?うあ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」
白く細い首筋に鋭い牙が深く食い込む。2回目と3回目は皮膚が引き裂かれるほど強く噛まれ、リザは瞳孔を開きながら絶叫した。
「残念だったな小娘よ……テレポートは失敗じゃ。そしてもう魔力を練ることもできまい……」
(え……?ま、まさか……!?)
嫌な予感はしたが、リザはそれを確かめずにはいられず、再度テレポートを試みる。
だが、何度念じても彼女の体は大蛇の拘束から外れることはなかった。
(なんでっ…!?なんで転移できないのっ…!?こ、このままじゃ……!)
そう……彼女の魔力はこの時すでに、蛇の毒によって完全に消失していたのだ。

「ククク…!完全なる闇の力の前に敗北した気分はどうじゃ?小娘よ……」
「く……私に何をする気なの……!
「何を、か……そうじゃな。まずは……」」
拘束されているリザの顔を至近距離で見つめた後、ノワールは指でリザの顔をゆっくりと触り始める。
「ひっ…!!」
「この程度で怖がるでない……どうやらまだ男の味も知らないようじゃな。まことに愛い奴よ…。」
(うぅっ……なんなの……?気持ち悪い……!)
ノワールの細い指先が、リザの目や鼻や唇を舐め回すように這い回る。自分の顔をねっとりと犯されているような感覚とノワールの視線に耐えられず、リザはぎゅっと目を閉じた。

(考えろ……考えろ私……!この状況を打破する何かを……!)


113 : 名無しさん :2017/03/02(木) 15:56:45 ???
「さて、まずは熱い口付けと行こうか。んっ…!」
「や、やめてっ!私にそんな趣味はないッ!」
「そんなの関係ねえ……はい、キマシタワーじゃ!」
なぜかパンイチ芸人のようなセリフを発したノワールは恍惚の表情を浮かべながら、リザの唇を自分の唇で挟んだまま舐め上げる。
「うぅんむっ!?むぐっ……!んやぁッ!」
「騒ぐでない。すぐに口から快楽を流し込んでやるぞ小娘よ……!あぁあんむっ!」
「んぐううううぅうっ!」

必死に体をバタつかせるリザ。しかし、親の仇と言わんばかりに締めつけている大蛇の体はビクともしなかった。
「体の反応を見れば分かるぞ、小娘よ。気持ちいいんだろう……?」
「くぅ……きもちよくなんか……ない…!むしろ気持ち悪くて吐きそうッ……!」
「ふん。上半身も下半身もこの上なく悦んでいるくせに強がりおって。素直にならないと、貴様をこのまま廃人化させてしまうぞ。そうなれば……貴様は一生わらわの可愛い飼い猫じゃ。クククク……!」

ノワールの接吻に含まれる快楽物質は、体に取り込みすぎると廃人化のリスクがある麻薬のような媚薬である。
ノワールの奴隷になることは、リザにとって死よりも辛い現実。その現実が今、ゆっくりと現実味を帯びてきていた。

「んんっ、あむっ、ちゅっ、ん……はむっ!んむっ、ん……気持ち良いか……?小娘……」
「うあっ、あっ、ん、うぅん…!あぁぁぁぁあぁぁ…!」
「暗殺者がそんな情けない声を出してよいのか?そんな調子では下衆い男しか殺せぬぞ……んぶちゅっ!」
「やああぁんっ!」
ついにリザの口から、ノワールの大好物の悲鳴が漏れた。
「良いぞ。もう何も考えるな……わらわにすべて任せておけ……!」
「あぅ……!」
(だ……だめ……こんなのに溺れちゃだめ……!わたしは……わたしは……!)


114 : 名無しさん :2017/03/03(金) 02:56:02 ???
「そこまでだよ。ノワール。」
リザとノワールの耳に、突然男の声が響いた。
「誰じゃ……?わらわの邪魔をするのは……?」
ノワールが振り返った先で佇む、黒いローブを羽織った黒髪黒目の男。ノワールは首を傾げたが、リザはその姿をよく知っている。

「ヨ…ヨハン……!たすけて……!」
「もちろんそのつもりだよリザ。安心して。」
フードを外して微笑むヨハン。その笑顔はこの空間では場違いといえる健康的な爽やかさに溢れていた。
「貴様……どうやってここへ来た?」
「僕はこれでも魔法使いでね。キミの得意な邪術もよく知ってる。こんな幻影結界に入ることくらい朝飯前さ。」
「ふん。いいだろう……では小娘を墜とす前に貴様から遊んでやろう!!!」

ノワールの体から魔力が溢れ、闇獣たちがヨハンをずらりと囲む。
どう控えめに見ても今のヨハンの状況は四面楚歌そのものだった。
「な、なんて数……!ヨハンッ!私のことはいいから逃げてッ!」
「フ……この小娘にいいところを見せたくてノコノコ現れたんじゃろうが……残念じゃったな。好きな女に地を這う惨めな姿をじっくりと見られることになるぞ……!」
「やれやれ……リザ。3分待ってて。その間にすべて終わらせるよ。」

その言葉を聞いたノワールは激昂し、ヨハンに向けてすべての闇獣をけしかけた。
「醜い男じゃ!容赦はいらん!貴様らで物言わぬ肉の塊に昇華させてやれ!」



「ごめんリザ……1分で十分だったよ。」
(や、やっぱりこの人強すぎる……しかも、さっきの目……!)
いつもにこやかで、十輝星の中でも特に優しい性格のヨハン。アトラとシアナのゲームの取り合いや、アイナとドロシーのお菓子の取り合いも、大人としての余裕とその笑顔でいつも丸く収められた。
そんなヨハンが、普段の柔和な表情とは全く違う鬼神のような目をして、完膚なきまでにノワールを蹂躙している。
いつも1人で任務をこなしているヨハンの本気を見たことがなかったが、まさかこれほどとは。
そして、闇獣を切り刻んでいるときの悪魔のような彼の笑顔が脳裏から離れない。
リザは感謝の気持ちと同時に、初めてヨハンに対して恐怖を覚えた。

「な……なんなんだお前は……あの王の造形物か……?」
「失礼な。僕は人間ですよ。彼女と同じ王下十輝星のね……」
「ぐあああああっ…!!」
ヨハンはノワールの顔を踏みつけ、地面に強く押し付けた。
「言っておきますけどね……リザも準備万端なら君になんか負けないんだ。今日は運が良かった……そう思っておいたほうがいいよ。」
「ぐぅ……くそおぉっ……!」
「わかったら、さっさとこの世界からリザを出してやってくれ。さもないと……」
「わ、わかった!小娘は離すから、もうやめてくれ……!」

「あ、リザ。元の世界に戻る前に言っておくよ。」
結界解除の詠唱を始めたノワールを横目に、ヨハンはリザに声をかけた。
「な……なに?」
「……あの程度の雑魚に苦戦するようなら、もう十輝星はやめた方が良い。」
「えっ……!」
「正直……君には少し期待してた分失望したよ。僕が王都を離れる前から、全くなんにも成長していないじゃないか。」
「そ……それは……!」
淡々とした口調で放たれる重い言葉。いつも優しいと思っていたヨハンの言葉だけに、リザは焦りが止まらない。
「ま、君だけの話じゃないんだけどね……さっきみたいな流れのまま惨めに死にたくなかったら、もっと強くならなきゃだめだよ。……わかったかい?」
最後の言葉は、いつも通りの優しい口調だった。どうやら完全に見放された訳でもないらしい。
ヨハンの言葉にゆっくりと頷くと闇の空間は崩壊し、リザの視界に王都地下の景色が広がっていった。


115 : 名無しさん :2017/03/04(土) 01:27:34 ???
「アイナさん…アイナさん?……大丈夫ですか?…顔色が悪いですよ」
…ノワールに嬲られ続けるリザから、アイナは目を離せずにいた。
飛び散る血と汗、涙と悲鳴。そして、苦痛に悶える表情、快楽に染まる肌…
リザのあらゆる姿に対して興奮し、恍惚し…そして自己嫌悪の狭間で揺れ動いている。
「だ…大丈夫、ですわ……そ、それにしてもあのノワールとかいうやつ…許せませんわね…!」

(…ふ〜ん。アイナとリザ…一応立場上は味方同士だから、『喰う』のは我慢してたけど…これは面白い事になりそうね)
声を掛けられたことで、冷静さを取り戻したように見えるアイナ。
…だがサキから言わせれば、一度「揺れ動いて」しまったら…
他者の苦悶する姿を安全圏から眺める「愉悦」を一度知ってしまったら、もう後戻りは不可能なのだ。

………………

ノワールの唇が何度も何度もリザの咥内を蹂躙し、その度に目も眩むほどの快楽がリザの全身を駆け巡る。
何かを堪えるように全身を強張らせ、そして幾度も、堪え切れずビクンビクンと痙攣し……
黒蛇を振りほどこうともがいていたリザの右手は、やがて力尽きたかのようにだらりと垂れさがって動かなくなった。

「ククク…ずいぶん素直になったの。まだほんの味見だと言うに…
 もう抵抗する気がないなら、遠慮なく『下』からも頂くとするかの」
「…ぅ……ん、っく………ぁ……はぁっ……はぁっ」
(まけ…ない……わた…し、は……)

…リザの唇からノワールが離れ、体勢を変えるために黒蛇の拘束がほんの一瞬緩んだ。…その瞬間。
ノワールの首筋に、一陣の風が吹き抜けた。
「…………な、に……」
リザの右手、その指先には…ノワールに根こそぎ奪われる寸前、残された魔力を結集させて作った魔力の結晶。
花びら程の小さな刃が、一瞬にしてノワールの頸動脈を切り裂いていたのだ。
「私は、王下十輝星…スピカの、リザ。………貴女なんかに…私は、屈しない」

………………

(…にしても。何が王下十輝星だか…揃いも揃って、あのブラックおっぱいを眺めてるしかできないなんて)
『私達には何もできないの!?このままじゃリザさんが…!』
といった表情を装いつつ、横目で他の十輝星の様子をうかがうサキ。主な目当ては…
(アトラは論外。新人もアイナもシコってるだけで役に立たないし、シアナだってさっきからブツブツ言っててキモいし。
 まともなのはヨハン様だけね!ああ、それにしても今日もほんっとーーにカッコイイわ…)
…と、いう事らしい。


116 : 名無しさん :2017/03/04(土) 01:58:52 ???
「なるほど……あの状況から、見事な一撃よ。だが……忘れたわけではあるまい?」
ノワールの首筋から、どす黒い血が勢い良く噴き出した…のも束の間。
黒い血はブクブクと音を立て、あっという間に傷口が再生していく。
「……っ…!…」
「そなたの技では人は殺せても、わらわを……魔を滅ぼす事は決してできぬ。無駄な足掻きだったな」
予想はしていたものの、すっかり元通りになったノワールの首筋を…
最後の力を振り絞った攻撃が徒労に終わった事実を見せつけられ、リザは無念そうに目を伏せた。

「さてと、小娘。わらわは貴様が気に入ったが…二度までも刃を向けた罪、許すつもりはない」
黒蛇がリザの両腕を絡め取って持ち上げ、足元から伸びる影の手は下半身を押さえつける。
そして、ノワールの黒髪は…リザの黒い服の繊維の隙間へ潜り込み、一体化してしまった。
「一体、何のつもり……殺すなら、さっさと…っ、ひゃんっ!?」
…リザが言い終わる前に、着ている服が独りでに蠢き始める。
服の内側で、小ぶりな胸に、形の良いヒップに、鍛え上げられた太股に…撫でまわされるような違和感が生じる。
魔力吸引の後遺症で快楽に弱くなっていたリザは、耐えきれずに思わず甘い悲鳴を上げてしまった。

「これでその服は、わらわの思い通りに動く…こうして、邪術の気をほんの少し注ぎ込んでやるだけで」
「…こ、これ、は……っん、うあっ…服の中が、動いて…!?……っう、っがああぁぁぁあ!!」
…服が再び動き出し、勢いよく後方に折りたたまれる。リザの身体が限界まで反り返り、背骨がミシミシと嫌な音を立てた。
リザの着ている服は、上着やタイトスカートだけでなくタイツやインナースーツなども黒一色。
露出度が少ない…すなわち全身のほとんどを服に覆われている上、インナーは動きやすさを重視しているため肌に密着している。
その服を意のままにされたという事は、事実上、全身の動きをノワールに支配されたにも等しかった。

「……は、ぁっ………っう…、ん……」
「二度とわらわに刃向かう事が出来ぬよう、痛みと快楽でじっくりと躾てやろう。…これは、その下準備にすぎぬ」
続いてノワールがリザの下腹部に指を当てると…そこからインナースーツが左右に開き始める。
「…!?……そん、な…」
ノワールが指で軽くなぞっただけで、リザのインナースーツは縦に切れ目が入り、
形の良いお臍が露わになった。切れ目の下端は、体勢や角度に気を付けなければクリトリスの先端が見えてしまうほどに深い。
羞恥に頬を染め上げるリザを嘲笑いながら、今度は露わになった肌に爪の先を喰い込ませ…

「……痛っ……!」
「其方には『隷属の刻印』を刻んでやろう。刻まれた者は一生…いや、死して尚、
 魂までもが術者の思うがままとなる邪術の印をな…クックック……」


117 : 名無しさん :2017/03/04(土) 02:45:36 ???
(『隷属の刻印』か…これでリザは永久に、あの変態ブラックおっぱいの性玩具…ザマぁないわね。クククク…)
リザの絶体絶命の危機を冷ややかな目で見つめるサキ。だが、その時…
「あれは…いけない!」
(そうそう、あれはいけない……って、ヨハン様!?ちょっと、空気読んでヨハン様ー!!)
他の仲間から一歩離れた位置で両者の戦いを見守っていたヨハンが、顔色を変えた。

彼はサキと同様、邪術に関してもある程度知識があり、結界に侵入する方法も身に着けてもいたが、
一対一の勝負に介入する事を良しとせず、リザがどんなに不利になっても戦いに介入しようとはしなかった。
…しかし、ノワールが施そうとしている術は…受けたら最後、永遠に術者の奴隷とされてしまう、あまりにも危険な邪術。
こうしてヨハンはリザを助けるべくノワールの結界に侵入し、そして………

(危なかった…もう少し遅かったら。いや、僕がもっと早く気付いていれば……!)
ノワールがリザに刻んだ『隷属の刻印』は、完成寸前…邪術のルーン文字で術者の名前を書き入れるだけ、という所まで来ていた。
未完成の刻印は、掛けられたリザ本人も含め、邪術の心得のない者には見ることが出来ない。
だが、もし邪術の使い手に目を付けられて、刻印を完成させられてしまったら。

(十輝星はやめた方が良い、か……)
…そうなる前にリザを戦いから遠ざけたいと、思わず強い言葉を使ってしまった。
だが…もとより彼女の居場所は王下十輝星としての、血で血を洗う戦いの中にしか無い事も、
ある種の『同類』であるヨハンは良くわかっていた。

(…リ、ザ、の、やつ……ヨハン様に、お姫様抱っこですってぇぇ…!?……許せない…これはブチ殺大決定だわ…!!)
一方その頃、サキは顔面が引きつっていた。


118 : 名無しさん :2017/03/04(土) 10:35:54 ???
「リザちゃああああん!!無事でよかったですわーーー!!」
幻影結界内での負傷は現実世界には引き継がれないため、リザの傷ついた体や着ていた服もすべて元どおりになっていた。
「アイナ……みんな、ごめん。心配かけて……」
「お、おう!俺も早く助けてやりたかったけど、結界入れなくて無理だったわ!ごめんな!」
「嘘つけ……ノワールを応援してたくせに……服破けろとか言ってたくせに……」
「リ、リザさんが無事で本当によかったです。……えっと、ヨハンさん。そろそろ降ろしてあげたらどうでしょう……?」
「いや、リザはこのまま僕の部屋に連れて行くよ。君たちには見えてないだろうけど、書きかけの刻印を消しておかないといけないんだ。これだけは元の世界に戻っても治らないからね。」

隷属の刻印を消すためには準備がいるらしく、お姫様抱っこの体制のまま、リザはヨハンに運ばれていった。
「リザさんとヨハンさん、2人ともすごい美人ですよね。ああやってると王子様とお姫様みたいだ……」
「と、トムソーヤ!!リザは俺の女になる予定なんだからなッ!手出すなよ!」
「何言ってるんですの!?うるさくてわがままなクソガキのアトラなんかに、リザちゃんが惚れるわけないですわ!」
「すごいな……見事に全部お前にも当てはまってるぞ……あと、彼は写真館じゃないからな。」

ボケとツッコミを繰り返す子供たち3人。だがサキの耳にはそれらの内容は全く耳に入っていなかった。
(ク、クク、クソリザアアァァ……!私ですらまだヨハン様の部屋に入ったことないのに……!ハナッからこれが目的だったのね!あの計算高い腐れビッチがッ!)
「さ、サキさん…?なんか怖い顔してますけど、どうしたんですか?」
「え!?あ、いや、なんでもないのコトですわ。まったくもってモーマンタイですわ……オ、オホホホホ……!」
(…?大人しくて可愛い人だと思ってたけど、ちょっと変な人なのかな……)


119 : 名無しさん :2017/03/04(土) 19:01:25 ???
「そういやさ、リザとアイナはこの後、除術のララァとかいう奴ぶっ倒しに行くんだっけ?」
「邪術のライラね…まぁ、いくらドロシーがやられたとはいえ、反乱分子をいつまでも放っておくわけにもいかないだろうし」
「ああん、アイナはリザちゃんが心配ですわぁああ!!あの【自主規制】女に散々な目に合わされた直後なのに大丈夫なのか心配ですわぁあああ!!」

「……ドロシー?」
「あ、フースーヤさんは知らないんでしたね…」
ボケツッコミ口数多いの三人組は好き勝手にワイワイ騒いでるので、必然的に新入りへの説明役はサキがしなければならなくなる。

(めんどくさいなぁ…まぁ、少しは有望そうだし、今のうちに目をかけてやるのも悪くないかしら)
「フースーヤさんの前任の『デネブ』だった人なんですけど、任務中に、その……殉職を…」
「…そういえば王様にスカウトされた時に、そんなことを聞いた気がします」
「そうですか…」
(知ってたなら言いなさいよ!完全に説明損じゃない!)

「やっぱさ!ここはドロシーの二の舞ならない為にも!俺がリザについて行くべきじゃないかな!」
「だから僕たちも仕事だろ、先日のルミナスの大攻勢に刺激されて、反乱分子が活発化している」
「んもーう!王様は私達をいいように使いすぎですわ!そもそもアトラ!私とリザちゃんのパーフェクト暗殺コンビにアトラが入っても却って動きにくいだけですわ!いつも通りシアナと組んで罠でも作ってるのがお似合いですわ!」

「…僕もそろそろ暴れたいな」
「えーと、王都の守りはヨハン様が行うので、そうなるとフースーヤさんは私と組むことになりますね」
(もう、完全に新入りのお目付けなんて貧乏くじ引かされたじゃない。守りの要のヨハン様と組めないのはしょうがないとはいえ……ていうか私は反乱分子の掃討とは別に教授にも手助けしないといけないんだから、あんたらもっと労りなさいよ…)

「邪術の解呪ってよく知らないけど、どんくらいかかるもんなんだ?」
「流石にそれは僕に聞かれても分からないに決まってるだろ」
「皆さん、リザさんの様子を見に、ヨハン様のお部屋にお邪魔してみませんか?」
(ヨハン様のお部屋にお邪魔する大義名分ゲット!この際オマケ付きなのは気にしないことにするわ!)
「私もリザちゃんが心配ですし、それは大賛成ですわ!」
「……」
(みんなフリーダムだけど、意外と仲間思いなんだな。ルミナスではトーメント王国をチンピラの集まりみたいな扱いしてたけど、やっぱり外からじゃ分からないものなんだな)

こうして、王下十輝星の五人はぞろぞろとヨハンの部屋へと向かった。


120 : 名無しさん :2017/03/05(日) 11:18:36 EhywW2Jw
「はぁ……それにしてもドロシーを殺した奴と戦うことになるなんて……テンサゲ(テンション下がる)ですわ〜……」
アイナはわかりやすく長嘆息をして、憂鬱そうな顔をしていた。
「どうしたんだよアイナ?自信ないなんて珍しいじゃねえか。」
「バカなアトラはもう忘却の彼方なんでしょうけど……ドロシーはエスカの占いを見ずに突っ込んで、綺麗なお星様になりましたのよ。つまり、正面から挑んだ結果あえなくやられたということですわ。……あのドロシーが。」
「あ、そっか!じゃあめちゃくちゃ強えやつってことか!」
「そして今回はアイナたちも、エスカの占いなしでの戦いですわ……まあ、リザちゃんとアイナの美少女最強コンビが負けるわけないと思うけれど……」
(あームカつく……こいつもクソリザも試合に負けたボクサーみたいな顔にしてやりたいわ!ボコボコにしたいぃ……!)
「……着いたぞ。ヨハンの部屋だ。」

シアナが部屋を指差した、その時だった。
「うああああぁぁあぁッ!」
部屋から響いたのは紛れもなく、リザが苦痛に喘ぐ悲鳴だった。
「い、今のはリザさんの悲鳴ですよね……?」
「こ、この可愛らしさと凛々しさを兼ねそろえた完璧ボイスは、紛れもなくリザちゃんですわッ!」
「ぐぅ……やぁっ!いやあああああああぁあぁあーーーー!!!」
アイナが叫んだすぐ後に、またもリザの悲鳴が響く。普段の無口な様子からは想像もできないほどの声量だった。
「敵がいるのか!?みんな、部屋に入るぞっ!」
「よし、鍵はオレに任せろっ!」
アトラが針金を使い、ドア鍵は光の速さで解錠された。
十輝星たちは雪崩のようにヨハンの部屋へと滑り込む。
リザの悲鳴をニヤニヤしながら聞いていた、サキ以外を除いては。

「え……?み、みんな!?」
「ち、ちょっとちょっと困るよ!鍵かけてたのに……」
リザは上半身のみ下着の状態でベッドに横たわっており、その隣にはヨハンが立っている。
両手で胸を隠すリザに、ヨハンはすかさず着ていたローブを羽織らせた。
「だ、だってすげえ悲鳴が聞こえたから!」
「あぁ…刻印を消すのはかなり痛いんだ。リザも承知の上でやってるから、別に敵が来たとかじゃないよ。」
「そ、そうだったんですか……完全に僕たちの早とちりでしたね……」

恥ずかしそうに頬を赤らめてローブにくるまっているリザの姿は、いつもの凜とした雰囲気は全くない年相応の少女といった様子だった。
(ヨハンさんが羨ましいな……僕も悲鳴あげてるリザさんを間近で見たい……)
「な、何事もなくてよかったですわ…!」
(泣き叫んでるリザちゃん……そんなリザちゃんにどうしてアイナは強く惹かれるんですの……?)
「も、もう……みんな早く出てってよぉ……!」
「あぁ……ごめんなさい……」
(クソリザアアアアアアア!ヨハン様の着用した美しいローブをゲロブスのテメエがかけられてんじゃねえええっ!!)

「十輝星のみなさん!大変です!」
リザの安全を確認したところで、衛兵が血相を変えてこちらに走って来た。
「どうしたんだ?」
「ハァハァ……たった今……魔弾のアイセが、脱獄しました……!」
「な、なんだって!?」
「見張りの衛兵を色香で誑かし、隆起した男根を口内で弄んでいるその隙に鍵を奪い取ると、衛兵の男根を噛みちぎって気絶させ逃走しました!」
「せ、説明が生々し過ぎだろ……」
「要するに、フェラやパイズリでバカな衛兵を骨抜きにして、鍵を奪い取ったってことですわね!相当なビッチですわ!!!」
「あ、いえ。パイズリがあったかどうかは確認しておりません!」
「そんなことどうでもいいだろっ!あーもう、僕1人じゃツッコミ追いつかないぞ……!」


121 : アイセの入ってた樽に入りたいマン :2017/03/05(日) 17:52:23 ???
「はぁ、はぁ……衛兵がバカな男で助かったわ。こんなところ早く出ないと!」
24歳の色気と巧みな舌技で牢屋を脱獄したアイセ。だが奪われた服や装備は見つからず、武器は所持していない。
肩まで届くセミロングをふわふわと揺らしながら走っていると、すぐそこで衛兵の声が聞こえた。
「ま、まずい…!」
衛兵が角を曲がればこちらの道に入ってしまう。アイセはすぐさま近くにあったあった樽の中へと身を潜めた。

「ちくしょう。ライトのやつが逃がしたせいで、俺らがこんな脱獄犯探しに駆り出されちまったぜ。」
「まあ、気持ちはわからんでもないがな……あの子、アイセだっけ?めちゃくちゃ可愛かったぜ。髪の長い清楚な美少女って感じで。」
「マジ?完全にあいつのタイプの女の子だったわけか……ちくしょう、少し羨ましくなってきたぜ!」
「ま、いい気持ちになったとはいえ、あいつは王様か十輝星に殺されることになるだろうよ。」

(ふぅ……この容姿で助かったわ……)
見た目とは裏腹に、実際はかなり性欲の強い彼女。だがそのギャップに男は弱いらしい。
「ところで、包囲網ってどうなってるんだ?」
「あぁ、それがよぉ……今ルミナスに壊されたところの改修中だろ?指揮系統も混乱してて、ぶっちゃけザルなんだよ。正直今アイセがどこにいるのか、検討もつかねえみたいだ。」
「なるほど……俺らの担当のここは牢から近いから、もういねえんだろうな……」
(嘘……あたしまさか迷い迷って戻ってきちゃったの……?)

樽を少し開けて様子を伺うと、衛兵たちが地図を持って話し合っていた。
(あれは……この城の地図?よし、奪い取ってやる!)
バコン!
「な、なんだ!?樽から美少女が!!」
「ええっ!?ま、まさかこれはモニ◯リングかぁ!?」



「ふう。これで道はわかったわ。」
戦闘のプロである彼女にとって、雑魚2人など不意打ちすれば余裕だった。
「ぐが……強い……」
「ほ、骨がぁ……!動けねえ……!」
「お、この扉の先は倉庫なのね。よし、あんたらはこの樽に入れて、倉庫で大人しくしてもらうわ。殺されたくなかったら抵抗するんじゃないわよ……!」
「ひ、ひぃ……!」
アイセは男2人を自分の入っていた樽に押し込むと、衛兵の持っていた鍵で倉庫を開けた。
(お、ここには武器もいっぱいあるわ。なにを持って行こうかしら……?)


122 : 名無しさん :2017/03/05(日) 18:30:38 ???
「ま、魔弾のアイセって、確かヨハン様が捕えた…」
(無能が!せっかくヨハン様が捕えた反乱分子を逃がすなんて、この無能がぁああ!!)
そんな生々しい話目の前でされちゃイヤン……な感じで顔を赤らめながらサキが呟く。顔が赤い本当の理由は無能な衛兵に怒っているからだが。

「…でも、武装解除はしてあったんですよね?」
(馬鹿な衛兵だなぁ…でも、自分の欲望に忠実なのは好きだけどね。堅苦しいルミナスと違って)
「は!魔弾のアイセが元々所持していた魔銃等の武装は武器庫に保管されております!仮に武装していても精々、色香に惑わされて男根を噛みちぎられた衛兵の装備を奪った程度かと思われます!」
「なるほど!馬鹿な衛兵が地図を奪われて倉庫の武器を取られでもしない限り、相手は雑魚ってことだな!」
「だから一々そんな生々しい報告しなくていいって…そしてアトラはなんでそんなピンポイントなボケをするんだよ」
「そうですわね!不意打ちされでもしない限り衛兵が丸腰の女に負けるなんてあり得ないですわよね!」
「だからなんでそんな不穏なボケをするんだよ!ああもう、ツッコミが追いつかない…フースーヤ、君もツッコミ役に回らない?」
「……キャラ被るんで嫌です」


「選り取り見取りで迷っちゃうわね、とりあえず銃は欲しいところだけど…」
アイセは倉庫の武器をルンルン気分で物色していた。流石は王城の倉庫だけあって、武器だけでなく食料や貴金属もあったが、最優先は脱走するための武器だ。

「流石に私が元々持ってた魔銃はないか…」
結局、特に魔法がかかっているわけでもない普通の銃と、煙幕系や閃光系を中心に手榴弾を複数、それにサバイバルナイフを選ぶ。
バックパックに最低限の食料や替えの衣服を詰め込み、準備は完了だ。欲を言えばもっと色々物色してたくさん貴重な物を持って行きたかったが、流石にこの状況で欲をかけば自分に待つのは破滅のみだ。
自分の実力に自信があるのも相まって、必要以上の重装備を避ける。

これは意味のないIFの話だが、もし彼女に五人の戦士程の運命の加護があれば、彼女が元々持っていた魔銃や柳原舞の魔法のブーツ、またはそれに準ずるような魔法の装備を手に入れらたかもしれない――――


123 : 名無しさん :2017/03/05(日) 21:55:32 ???
「にしても、こんな時に脱走者なんて面倒だなぁ。全員で追跡して、さっさと捕まえようぜ!」
「そうだな…アイナ、とりあえず今はフースーヤとコンビを組んでくれ」
王から十輝星に対して下される指令は絶対。だが、十輝星の間での細かい人員調整は、シアナが一任されていた。
では、シアナが十輝星のリーダーなのだろうか?…否。
曲者揃い、というより曲者を集めて作ったこのチームには、王以外にリーダーと呼べる者は存在しない。
…単に、そういった細かい調整ができる者がシアナ以外に居ないから、という理由である。

「え〜?愛しのリザちゃん以外に、アイナのパートナーが務まるとは思えないですけど…仕方ないですわね」
「…本当にすまない。我慢してくれ、フースーヤ」
「は、はあ…僕は構いませんけど」
「ちょっと!?それ、どーいう意味ですの!?」
「…さっきのリザの様子だと刻印を消すにはまだ時間がかかりそうだし、すぐ戦線に復帰できるかどうかわからない。
 だからその間、フースーヤにアイナのサポートを頼もうと思ったんだ…」
「…なるほど。今アイナと組めば自動的に、邪術のライラとも戦う事になりますものね。
そういう事なら仕方ありませんわ!この超絶美少女アサシンアイナちゃんのサポート、よろしく頼みますわよ!」
…アイナとの相性を考えると、アトラを組ませるのは色々不安が残るし、サキには教授の依頼がある。
これはいわゆる消去法、そしてフースーヤの未知の可能性と胃腸の強さに賭けた、苦渋の選択であった。

「ちょぉ〜っと待った!。フースーヤは、魔法少女の国から脱走してきて、もう女にはウンザリしてるんだろ?
それなのにまた女と組まされるのは嫌なんじゃないか?…しかも、サキならまだしもアイナと!」
……ところがそこへ、アトラが唐突に口を挟んできた。
「いや、わかってるよ。だからフースーヤには本当に済まないって…」
「え!?だからそれ、どーいう意味ですの!?」
「ていうか脱走はしてないですよ!?捕らえられたんですからね、トーメント王国に!」
…今はその事を感謝こそすれ恨んではいないのだが、だからと言って事実をすり替えるのはどうなのか。

「そうだっけ?…まあそれよりフースーヤ。どうせなら俺と組もうぜ!…んで、アイナとシアナが組めばいいじゃん」
「えっ……う〜ん。確かにそれは盲点だったかもしれないけど…」
今のアイナに何らかのフォローが必要なのは事実だが、その為にアトラとシアナのコンビを崩すのは…
と言うより、アトラが自分以外の誰かと組んで、果たしてやっていけるのか。
シアナはしばし考えて……

「……わかった、今回はそれで行ってみよう」
…フースーヤの未知の可能性と胃腸の強さ。そしてアトラと組む事による、ツッコミスキルの成長に賭ける事にした。

「あの。ところで、私なんですが…」
話がほぼまとまった所で、今度はサキが口を開いた。新人のお守りから解放された事を内心喜びつつ。
そして、リザがいない間の配置転換という絶好のチャンスを最大限生かすために。
「…ああ、サキの方は…ごめん、もうしばらく一人で頼むしかないな。何にせよ、人手不足なんだよなぁ…」
「ええ、その事なんですが……実は一人、追加の人員に心当たりが…」

…かくして、王下十輝星の中で大幅な配置転換が行われることとなった。
シアナとしては、脱走者アイセの追跡と言う臨時ミッションのための一時的な組み分けのつもりだったが…
様々な誤算が積み重なり、彼ら自身の運命が大きく動くこととなる…


124 : 名無しさん :2017/03/05(日) 22:51:59 ???
城の東側を捜索するアトラとフースーヤ。だがそこで、思わぬ人物と遭遇してしまう。
「先刻の小僧どもか……去ね。わらわは今、虫の居所が悪い」
(の…ノワール…!?…ど、どうしましょう。まずいですよアトラさん…)
「…ふん。虫の居所が悪いのは、こっちも同じだぜ!俺の女に手を出して、タダで済むと思うなよ?」
(アトラさーーーん!!挑発してどうするんですかー!!)

「…小僧ども、どうやら死にたいらしいな」
(どもじゃないです!この人だけです!)
「御託はいいから、掛かってきなよ…で、ここでやる?それともお得意の、ナントカ結界の中?…オバサンに選ばせてやるよ」
「…よかろう。そこまで言うなら…わらわが最も得意とする『邪霊凶殺結界』に貴様らを送り込んでくれる」
(なんかすごそうー!?)
…ノワールが両手を振り上げると、黒いドレスに包まれた胸が大きく揺れ、辺りは血の赤と闇の黒に染まっていった。

「最も得意とするフィールド、ね……」
「ど、どうするんですかアトラさん!!リザさんの時よりヤバそうじゃないですか!!絶対殺されますよ!!」
「……まさかそんな所に罠が仕掛けられてるなんて…誰も思わないよなぁ?」
「えっ……それは、どういう…」
自分より強い相手を挑発し、激昂させ、相手の得意なフィールドに誘い込み、その上で罠に嵌め…
「フースーヤ、ちゃんとポイント数えておけよ。…このゲーム、負けた方がコーラ奢りだからな」
…それら全てをゲームとして楽しむ。それが王下十輝星『シリウス』のアトラの戦闘スタイルであった。


125 : 名無しさん :2017/03/06(月) 00:40:50 ???
「フースーヤ、大丈夫かなあ…アトラのやつ、僕がいないからって、羽目外してなきゃいいけど」
「ふふふ…ちょっと別れた途端に、相手の心配なんて…なんだかんだで仲がいいんですのね」
…一方。城の西側を捜索していたアイナとシアナは、魔弾のアイセが地図と武器を奪ったという情報を聞いて、
予想される脱出ポイント…つまりは地図を奪った地点から、一番近い出口…へと急いでいた。

「…!?…そ、そういうわけじゃなくて…アトラの奴、昔から無鉄砲で僕は随分とばっちり受けてたというか。
でもまあ…運と度胸だけは無駄にあるから、いざって時には妙に頼りになるし…
たまに、僕にない発想が飛び出てきて、一緒に居て飽きない」
「へえ……意外でしたわね。シアナが、アトラの事そんな風に思ってたなんて」
アトラに言わせれば、この世界で最も重要なのは運であるらしい。どのくらい重要かと言うと、
ル○ーダの酒場で飲んだくれてるおっさんが「連れていくなら遊び人3人がいいぜ。ひっく。」って言うレベルだとか。
それはともかく、シアナがこれほど自分の心情を語るのも、アイナが素直に聞き役に徹するのも珍しい事だった。
お互い普段とは違う状況がそうさせるのかも知れない。

「…見つけた。情報通り、武装してるな」
走るアイセの姿を、前方に捉えた。まだこちらには気づいていないようだ…
「ならアイナは『消え』ますから、足止めを頼みますわね…一気に接近して、取り押さえますわよ」
『ベガ』のアイナ…その能力は、姿だけでなく自身の発する匂いや足音すらも消す完全なステルス能力。

「ああ…実は、アトラがいない間にちょっと試したい事がある。さっきのリザとノワールの戦いを見て…思いついたんだ」
シアナは何もない空間に右手をかざす。すると、空間に歪みが生じ……『穴』が開いた。
(な!?何ですの、それは……)
『プロキオン』のシアナの能力は…穴を開ける事。最初は落とし穴でイタズラする程度の力だったが、
王下十輝星として多くの敵を退けるうちに能力が開花。非生物ならどんな硬い物質にも穴を開けられる程に成長し…
そして今。空間にさえ自在に穴を開ける事が可能になった…いや、自らの能力ならそれが出来ると気付いた、と言うべきか。

(…きゃああっ!?)
シアナに続いてアイナが空間の穴を抜けると、…あろうことか、抜けた先は逃げるアイセの真正面だった。
この距離なら、今のアイセの主武装である煙幕や手榴弾の類いは使えない。
「…なっ!?…なによ、アンタ!!」
しかしそこは、アイセもまた歴戦の傭兵。虚空から突然現れた謎の少年を瞬時に敵と判断し、咄嗟に抜いたハンドガンで応戦する。
だが立て続けに放たれた3発の弾丸は、シアナの目の前で空間の歪みに吸い込まれ…

「…っ、あぐっ!?」
…アイセの太股に命中した。たまらず転倒するアイセを尻目に、シアナは三度空間を移動して距離を取る。
(…足止め成功。後、よろしく)
(ったく…誰が無鉄砲で、誰がとばっちりを受けてたですって?…シアナの奴、よく言えた物ですわ!でも…)

アイセのすぐ側に取り残された形になったアイナ。
だが、アイセはその姿を認識する事はなく、その意識は少し離れた場所にいるシアナに向いている。
(…こんな絶好の状況を、一瞬にして作り出すなんて…シアナ、恐ろしい子…ですわ)


126 : 名無しさん :2017/03/06(月) 00:44:29 ???
「さぁ小僧ども!まずは小手調べじゃ!」
そう言ってノワールがダークバレットを放つが、アトラは左に、フースーヤは右に飛ぶことでそれを回避する。

「あーもう、何でこんなことに!でもこういうお馬鹿なノリって男同士ならではって感じで楽しい!」
「なんだよ、結構話が分かるじゃんかフースーヤ!でも馬鹿は余計な!」
ノワールがヨハンにフルボッコにされたのを見て侮っているわけではないが、少なくとも軽口を叩く余裕が2人にはあった。

「ええい、先ほどの小娘のような愛らしいおなごであればもう少しやる気も湧いてくるというに…小便臭い小僧ではただただ目障りなだけじゃて!」
二手に分かれた相手に対して、ノワールが狙うのがオバサン呼ばわりしてきたアトラであることは必然であった。

「さぁ、『邪霊凶殺結界』の恐怖、しかと味わえ……う!?」
アトラに攻撃を加えようと一歩踏み出したノワール。しかし、踏み出したその先に、何やら硬い異物があった。

「な、なんじゃこれは!?」
「よっしゃ!まきびし炸裂!…でも大して効いてないっぽいな。これはポイントにはなんないかなぁ」
「な、何故じゃ!?この結界内になぜこのようなものが…小僧どもの仕業か!」
「ちょっとアトラさん!?『まさかそんな所に罠が仕掛けられてるなんて…誰も思わないよなぁ?』なんて言っときながら、速攻でバレたじゃないですか!?」
「まぁまぁ、細かいことは気にすんなよ。リレーなんだから矛盾とかちょっとした失敗なんて笑って許してやろうぜ」
「メタいですよ!ていうか話を大げさにしてごまかさないで下さいよ!」
「小僧共…わらわを前にして随分と余裕じゃな?その軽薄な笑みをすぐに絶やしてやろうぞ!ゆけ、魔獣たちよ!」

リザとの戦いでも見せたように、魔獣を召喚するノワール。リザの時との違いは、その数が三倍ほど多いことであろうか。

「ガルルルルァ!」
「シャァアアア!」

「く…!くらえ!」
フースーヤが魔獣たちに向けて風を吹かすが、魔獣たちはそれがどうしたとばかりに直進する。

「ふん!そのような風魔法では、我が精鋭はこゆるぎもせんわ!」
「ほいほい、そんな真っ直ぐ向かってきたら良い的だぜ!」
とらばさみ、括り縄、クローズラインなどのあらゆる罠が火を噴き、魔獣たちを襲う。
しかし魔獣たちも精鋭揃い、動きは止まったものの、今にでも罠を無理矢理突破して襲い掛かってきそうだ。

「ありゃ、ちょっと殺傷力が足りなかったかな?」
「ふん!あの小娘がしたように的確に急所を突かれでもしない限り、こやつらはそう簡単には倒せはせん!」
「いえ、それはどうでしょうかね?」
「なに?」

フースーヤの言葉を皮切りにしたわけではないだろうが、魔獣たちの動きは徐々に弱くなり、やがて完全に沈黙した。

「な、なぜ!?」
「僕はこう見えて、毒の魔法が得意なんですよ…特に風魔法と合わせるのがね」
「なに!?…!そうか!先ほどの風魔法に毒が孕まれていたのか!」
「へー、やるじゃんかフースーヤ!」
「…まずは、僕が一ポイントですかね?」
「ぐ…!動きを抑えたのは俺なんだから、順番的には俺が先に一ポイントで、そっちが後から一ポイントな!」
「お、おのれぇ…!こうなればわらわ自らが相手をしてやろうぞ!」


127 : 名無しさん :2017/03/06(月) 01:20:39 ???
「…ということなので、少々戦力が不足しておりますので、柳原舞をこちらに回していただけませんでしょうか?」
「ふん、元々闘奴にするつもりだったんだ。王下十輝星が有効活用してくれるというなら断る理由もない」
「ありがとうございます、教授」
「ああ、一応チョーカーやジェットブラックアーマーに関しては資料に纏めてあるから、適当にコピーでも取って持っていってくれ」
「わかりました」
(自分の自由にできるように操ってる便利な人形をみすみす捨てるなんて…技術者ってのはほんとワケ分かんないしキモいわね)

教授の手助けも兼任しているサキは、教授がそこそこ使える駒を闘奴にして使い潰そうとしていることを知っていた。そこを引き抜こうという算段だったが、あっさり上手くいったようである。

「スーツの戦闘データの送信、あと、王様からの命令の片手間でもいいからアルガスの動きも見張っといてくれよ」
「わ、わかりました」
(こんのクソもやしがぁあ!!あれこれといいように使いやがって!)

イライラしながら教授の研究室から退出し、舞と顔合わせをする。

「ありがとうございますサキ様!このご恩は忘れません!」
危うく闘奴にされかけたところを救われ、舞はサキに靴を舐める勢いで感謝していた。

「いえいえ、私としても、貴女程の人が使い潰されるのは本意ではありませんから…」
(絶対に裏切らないし言うことを聞くチョーカーねぇ…これは面白いわね)

舞に気づかれないように嗜虐的な笑みを浮かべるサキ。
おそらく舞はサキの直属の部下として動くことになるだろう。ちょっと趣味に走ってこの女を甚振っても、誰も分からないし舞本人ですら文句を言わない。
これは良い拾い物をしたやもしれぬ。

(まぁ、あの教授の手助けなんてしてるんだから、このくらいの役得はあってしかるべきよね)


128 : 名無しさん :2017/03/06(月) 01:36:34 ???
そして、地下牢では…
「か……身体…あつ、い……助け、て…リザ、ちゃん…」
ノワールに魔力を吸引され、膨大な量の快楽媚毒を注ぎ込まれたエミリアが、未だにその後遺症に苦しんでいた。
そこに現れたのは……王下十輝星『リゲル』のサキ。
王や教授の指令を受けて働きつつ、今はとある事情から同じ十輝星のリザに深い憎しみを抱いていた。
「くっくっく……残念だったわね。リザじゃなくて」

「ひっ!?…だ、誰、ですか…!」
その表情に浮かぶ邪悪さを一目で感じ取り、脅えるエミリア。
だが魔封じの鎖で拘束されているため、逃げる事も抵抗する事もかなわない。
「安心しなさい。別に取って食おうなんて思ってないわ…ただ、私の手駒にしたいだけ。あの女を破滅させるための…ね」

「んっ、…ひう……く、あぁぁぁぁっ……!」
サキはエミリアの豊かな乳房を、ブラウスの上から鷲掴みにする。
ノワールによって発情させられた身体はその刺激に耐えきれず、たちまちのうちに絶頂に達した。
「…まずは『毒抜き』しないと使い物にならないわね。でも、この身体には色々と使い道があるの。
貴女には一生…いえ、死んだ後の魂さえも、私に『隷属』してもらうわ。クックック……」


129 : 名無しさん :2017/03/07(火) 01:05:19 ???
(くっ…足をやられた。けど、まだ動けるわ……!)
突如現れた青い髪の少年は、離れたところでこちらの様子を伺っている。
彼もおそらく能力者……銃弾もなんらかの力で私の足を負傷させたと見ていいだろう。
「アンタも王下十輝星?不意打ちが失敗して残念ね。私はまだ立てるわよ!」
「悪運の強い人だ……でも、あなたは僕には勝てませんよ。大人しく投降することを推奨します。」
「絶対イヤ!王下十輝星に家族を殺されたあの日、私はあんたらとトーメント王を1人残らず殺すと決めたのッ!こんなところでアンタみたいなチビに負けてたまるかッ!!!」

10年前のあの日のことは……思い出したくない。
たまに夢に出たときは、身体中汗びっしょりになって泣きながら飛び起きる。

私の出身のシールズは小さな村で、住民も30人くらい。
その日もいつものように森で木の実や魚を集めていた。なんだか夢中になっちゃって、いつもよりちょっと帰りが遅くなったけど、珍しい木の実も美味しい魚もたくさん採れた。
お父さんとお母さん、びっくりするだろうな。
お姉ちゃんも妹のリルセもとっても喜ぶだろうな。
早く帰って、お母さんの作った美味しい晩御飯をみんなで食べたいな。
そう、思っていた。

「な……なにこれ……!」
帰る途中に大きな音がして、慌てて村に戻った私が見たのは、信じられない光景だった。
村のみんなで作った風車も、いつもチョコを買う店も、1番大きな村長の家にも、大きくて真っ赤な火が広がっている。
「い、いや……!あ、タロ!タロッ!」
小さい頃から一緒に暮らしていた飼い犬のタロが、村の入り口でぐったりしていた。
「起きて!起きてよタロッ!なにがあったの!?みんなはどこっ!?」
「………………」
「嘘でしょ……返事してよ……!ほら、あんたの好きなオレンの実だよ……?食べてよ……うぅっ……」

結局、そのあと何度呼びかけてもタロは動かなかった。
すぐにお墓を作らなきゃ、と思ったけど、それより先にみんなを探さなきゃと思って、上着だけかけておいた。
自分の家へと向かう道にも、よく知った顔が血を流してたくさん倒れていた。
(お願い……お父さんとお母さんとお姉ちゃんとリルセだけは……無事でいて……!)

ようやく着いた我が家に、火は付いていなかった。
このとき、私は心底安心した。火がついていないなら、中の家族は無事だと思ったのだ。
でも、そんな私を待っていたのは……残酷な真実だけだった。
「あ……ぁ……ああぁあぁぁ……!」
血だらけのお母さんに重なっている、首がないお父さん。
庭に倒れていたのは、裸で真っ赤になっているお姉ちゃん。
その姿を見て、あたしの心は壊れる寸前だった。
壊れなかったのは、リルセの姿がなかったから。
「リ……リルセえええっ!どこにいるの!?あたしはここにいるよぉッ!!」
叫びながら二階に上がる。泥だらけの足跡をたどっていくと、リルセの部屋の前に着いた。
この扉を開けたら、あたしはあたしでいられないかもしれない。
そう思ったけど、リルセを助けたくてすぐに扉を開けた。

「お……おねえ……ちゃん……」
「リ、リルセ!!」
すごい量の血を流しながら、リルセは床で仰向けになっていた。
「お……おかあさんは……?おねえちゃんは……?」
「……だいじょうぶ。みんな無事だよ。リルセも早く病院に行こう。おねえちゃんがおぶってあげるから!」
正直あたしはこのとき、もうリルセは助からないと思った。
でも、リルセは今、この今は生きてる。このままなにもしないより、少しでも助けられるようなことがしたかった。
そうしないと、あたしはあたしでいられなかった。
「だ、だめ……おねえちゃんは……リルセのこと、おぶっていけないよ……」
「えっ……どうして?」

「リルセね……腰から下が……なくなっちゃったの。」

その言葉で、あたしはあたしじゃなくなった。


130 : 名無しさん :2017/03/07(火) 02:07:15 ???
「知ってますよ。魔弾のアイセ……あなたはシールズの唯一の生き残りですよね。」
「……そうよ。あの日のことは10年経った今でも忘れられないわ。……あんなことがあったおかげで、ここまで強くなれた。」
「確か……あの辺りの国土整備をするのに、シールズは邪魔だったんですよね。立ち退きにも応じなかったし。」
「もう過去の話はいい……わたしはあの時の憂さ晴らしであんたらを殺したいの。殺された家族のためにとか……もうそういう感情はあんまりないわ。」
「へえ……そうやって自分なりの折り合いをつけているんですね。そういう合理的な考え方、僕は好きですよ。」
「ふん……じゃあここで大人しくあたしに殺されなさいよッ!!」

すかさず銃を抜き発砲しようとするアイセ。だが、その手には別のものが握られた。
「え?な、なによこれ!?」
すかさず掴んだものを確認すると……そこにはベロベロバーをしている顔の額に、ハズレと書いある玉だった。
ボフンッ!!
「きゃあっ!」
白い玉はアイセが掴んだ直後に爆発し、あたりに黄色い煙が立ち込める。
(こ……これは……痺れ粉!?)
体の感覚がなくなっていくのを感じて、アイセはすかさず口元を押さえた。
「キャハハ♪そんなことしたって無駄ですわ!可愛いお姉さん♡」
「な!?ど、どこにいんのよっ……!!」
アイナが魔法のお菓子袋から取り出していたのは、うまい棒チョコ味にそっくりの大きな金属バット。その名も、かたい棒 〜アイナを甲子園に連れてって味〜 である。
「夢は近づくと目標に変わる!コンフィクショナリースラッガー!」
ガギイイィンン!!!!!
「あぎいいぃっ!!!」
慌てふためくアイセの後頭部に、死角からの強烈なスイングと、イ◯ローの名言が見事に炸裂した。
「大成功ですわっ!自分の限界を見てから、バットを置きたいですわ!」
「あが……ぁ……」
ドサリ、と仰向けに倒れこむアイセ。床に綺麗な茶色のセミロングが広がると同時に、頭を打った衝撃によってアイセの意識はプツン、と途切れてしまった。
「よくやったぞ、アイナ。こっちはこれで片付いたな。」
「シアナの陽動のおかげですわ!お礼に後でアイナ特製のからし入りクッキーをあーんして食べさせてあげますわ☆」
「いや、いらない。」

(し、信じられない……!この私が、こんな一方的に……)
霞み行く視界と痺れる体に、アイセはゆっくりと意識を失っていく……


131 : 名無しさん :2017/03/07(火) 15:02:45 ???
(くそ……こんなところで……気絶なんてしてられないわッ!!)
気を失う瞬間に家族と仲間たちを思い出し、なんと意識を取り戻したアイセ。
そのことにシアナとアイナは、気付くことができなかった。
「この辺にはまだ衛兵が配備されていないみたいだな……僕が誰か呼んでくるよ。アイナはそいつを見張っててくれ。」
「へいガッテン承知の助ですわ!……それにしてもうちの女性用囚人服は、胸出してミニスカで……コスプレみたいですわね。」
「王様や教授の趣味だろ。それよりそのガスマスクをさっさと外し……アイナッ!!!逃げろっ!!」
「え?きゃあああああッ!!!!」

飛び起きたアイセは、こちらに背を向けていたアイナを拘束することに成功した。
「所詮はガキね……ハンターは獲物を捕らえた瞬間が1番危険だっていうのに。」
「くっ……離しなさい傾国の美女!!小さなアイナに大きな乳房を押し付けるんじゃありませんわ!」
「な、なぜ動ける……?痺れ粉は少しでも吸えば動けなくなるはずなのに!」
「フン。私の体は見た目ほどヤワじゃないのよ。あの程度の量じゃやられたりしないわ!」
(そんなわけがない……!おそらく体になにか埋め込んでるな。僕としたことが迂闊だった……!)

アイセの体内に埋め込まれているのは、超小型ヴァイタル正常化装置。
この装置はいわゆる状態異常、バッドステータスをある程度無効化できる代物である。
毒、麻痺、凍結、混乱、魅了、石化、キノコ、へんetc……
いくら歴戦の猛者であるアイセでも体の中は鍛えられないため、このような装置を埋め込んでいるのだ。

(口を押さえたのも演技……アイナの一撃も後頭部に刺さったように見えて、実は急所を外していたのか……?)
「そこ動かないでね。少しでも不穏な動きを見せたら……コイツを殺す。」
「ひぃ……!シ、シアナ……!」
いつも陽気でムードメーカーのアイナが、怯えきった顔でポロポロと涙を流している姿をシアナは直視できなかった。
「……ふ、ふん。敵の本拠地で人質なんか取ってどうするんだ?じきに衛兵もここへ来るぞ。それまでそうしているつもりか?」
「そんなわけないでしょ!あたしはこいつを捕まえたままここから出させてもらうわ。」
「プッ……アハハハハハハハハ!!」
突如笑い出すシアナ。その様子にアイセはもちろんアイナも怪訝な表情を浮かべた。
「シ、シアナ……?まさか、美少女すぎるアイナを人質に取られたショックでおかしくなったんですの……?」
「な、何言ってんのよこのガキは……」
「ククク……!いやぁ、お気楽なもんだと思ってさ。外のの様子も知らないで……」
「……外になにがあるってのよ!?」

「お前を捕まえるために出口の外で待ち構えている兵隊たちさ……数は200くらいかな。見つからずに脱出するなんて、どう頑張っても不可能ってことだよ。クククク……!」
「………………」
「今そいつを開放すれば、命だけは助かけてもらえるよう王様に頼んでやる。無駄な抵抗はやめて、さっさと投稿しろ!」
ビシッ!とアイセを指差してはっきりと言い放つシアナ。だがアイセは動じていない。
むしろ、動じているのはアイナの方だった。

(シ……シアナが……アイナを助けるために……とんでもないハッタリをかましていますわ……!)


132 : 名無しさん :2017/03/07(火) 20:04:19 ???
「ええい、鬱陶しいことこの上ない!」
迫りくる毒の風を魔法で中和し、足元のトラップで負った傷を瞬時に治す。
毒と罠に気を遣って戦わなければならないが故に、ノワールは後手に回っていた。

「わらわの結界内では、お前たちの力は弱まり、逆にわらわの力は強くなるはず!なのになぜ、わらわが後手に回っている!?」
「あー、そういうのってドロシーみたいな正面から力押し!みたいなタイプには有効だろうけど…」
「僕らみたいな搦め手タイプにはあんまり意味ないですよね」

基本的に、ノワールの仮想敵はルミナスの魔法少女である。正々堂々とした正面からの戦いを好む彼女らにとっては、自らの力を強め他の者の体力を吸うノワールの『邪霊凶殺結界』の効果は脅威であろう。
だが、その風潮のせいで自らの能力を十全に発揮できなかったフースーヤや、罠使いのアトラにとっては結界の効果は大した痛手ではなかった。

「そもそも、お主は見る限りルミナスの者であろう!?なぜこんなところにおる!」
「えぇ…貴女がそれを言うんですか…」
「おうおう!フースーヤはな!お前みたいな変な女ばっかのルミナスに嫌気がさして脱走してきたんだよ!」
「だから違いますって!?捕らえられたんですよ、任務中に!トーメント王国に!」
「ええい、会話にならんか…十輝星とはかくも曲者ばかりとは!」
「いやちょっと!?僕はまともですよ!?」
「お前みたいなのがいるからフースーヤも嫌になるんだよ!このデブスオバサン!胸はデカけりゃいいってもんじゃないの!」
「小僧どもォ…!本気で死にたいらしいなぁ!?」
(だからどもじゃなくてこの人だけですってばー!?)

会話を続けながらも、戦闘も続く。ノワールには直接的なダメージが効かないと見るや、アトラは動きを阻害するような罠ばかり仕掛けてくる。
「あーくそ、中々ハマらねぇなあのオバサン!」
ノワールは罠にかからないように動かざるをえなくなり、徐々に自由に動ける範囲が狭くなっていった。

「ならばこれはどうじゃ!」
ノワールはリザとの戦いでも見せた下から伸びる無数の手を出現させ、周辺の罠を強引に作動させて無力化していく。そのまま、無数の手はアトラとフースーヤに向かっていくが……

「毒風・鎌鼬!」
フースーヤの毒の風によって作られた鎌鼬により闇の手は切り刻まれた。
「ちぃ…!」
リザのような近距離戦重視の相手には有効な手も、遠距離攻撃手段を持つ相手には相性が悪い。
ノワールは攻めあぐねているが、同時に相手からも有効な攻撃を喰らっていない。

「あー、全然ポイント入んねぇなぁ、傷がすぐ治るってずるくね?」
「なら、今度こそ僕の先制ですかね」
「……ガハ!?」
突如、ノワールが血反吐を吐く。

「お、ご……!ゲバァ!」
「大なり小なり、風は基本的に当たり前にあるものですよね?それはこの結界内でも例外じゃない。知らず知らずのうちに、貴女は僕の毒風を吸っていたんですよ」
例えば、先ほどの鎌鼬。鎌鼬が闇の手を切り裂いて消えた後、そよ風となった残りの毒風はノワールの口と鼻から体内に入ったのだ。

「毒っていうのは使ってて気分がいいですね…なんせ相手が一方的に弱っていく様を簡単に見れますから!」

風の遠距離攻撃で必要以上のリスクを冒さずに戦い、その間に毒を吸わせる。相手によっては戦いもせずに遠くから毒だけ吸わせる。
遅行性の毒でじわじわと死に追いやるもよし、即効性の毒で一気に血反吐を吐かせるもよし。
『デネブ』のフースーヤの戦い方は、こうして確立されていった。

「…ふ、ふふふふ!!クハハハハ!!あの王の手下だからといって手加減してやっていたが、止めだ!本気で殺してやろうぞ!」
(……あ、ヤバい。血反吐を吐かせるのが気持ちよくてつい調子に乗りすぎた)
すっげぇいい気分で苦しむノワールを見ていたフースーヤだが、彼女が闇の魔力を全力で解放させるのを見て冷や汗を流す。

「これでフースーヤは2ポイントか。一つリードされちまったな」
「あ、アトラさん?」
「でも、こっからは俺のワンサイドゲームだぜ。なんたって…」

しかし、完全に頭に血が上っているノワールを見て、むしろアトラの振る舞いには余裕が表れた。
相手が全力を出せば出すほど、頭に血が上れば上るほど、視野が狭まれば狭まるほど―――

「俺はトラップ使い……『シリウス』のアトラだからな!」
相手はアトラの掌の上で踊ることになる。


133 : 名無しさん :2017/03/08(水) 03:12:47 ???
「我が前に立つ愚か者共、死よりも暗き呪縛へと誘わん…『バインドアイ』!!」
ノワールの瞳が妖しく輝いた。視線から発される魔力が不可視の鎖となってアトラとフースーヤを捕らえる!
「わぁぁぁっ!?」
(…あれ?なんだこれ。動けねえ!)
(それに…声も出ない!!)

「動けまい。魔力の込められた我が魔眼に睨まれている限り、もはや貴様らは指一本動かす事かなわぬ。ククク…」
(そ、そんな……声が出ないから、呪文で反撃も出来ない!このままじゃ、二人ともやられる…!!)
必死にもがくフースーヤだが、ノワールの言葉通り、指一本動かす事はできない。
しかし、その横に立っていたアトラは…

(俺の能力って魔法じゃないから、動きとか声とか封じられても、普通に使えるんだよなぁ……)
…なお、詳しい原理は本人にもよくわからない。
(さっきの話だと、俺達の動きを封じるには、ずっとこっちを見てないといけないらしいし……)
ロープに吊るされた巨大な丸太が、振り子運動でノワールの背中目がけて飛んでくる。
このままの軌道だと「楽には殺さぬ…今までの礼に、じっくりと痛めつけてくれるわ。クックック」
とドヤ顔している後頭部に直撃してしまう。
(さすがに可愛そうだから、教えてあげたいんだけど。なんせ声が出ないからなー…やばい、笑うwww)

「…さて、まずは貴様からだ。花も恥じらう16歳の乙女の身体を捕まえてオバサン扱いとは、
随分と虚仮にしてくれたのう…宇宙の塵にされる前に、言い残しておくことはあるか、んん?」
ばこーーーん。(アトラ+1ポイント)
「へぎぃっ!?…な、何じゃ、一体…!?」
後頭部への不意打ちに、たたらを踏むノワール。勢い余って数歩前に進み出るが…その足元にはバナナの皮が置いてあった。
ずべっ!!(アトラ+1ポイント)
「んおぅっ…!?」
ド派手にすっ転んで地面と熱いフレンチキスをかわし、ついでに鼻も強打したノワール。
視線が外れたため、アトラ達は声と動きの自由を取り戻す。

「僕…バナナの皮で転ぶ人、初めてナマで見ました」
「俺も…あ。これで2ポイントだから、俺の逆転な」
「え?丸太はともかく、バナナはポイントに入るんですか?」
「遠足の準備みたいな事言いやがって…いいだろポイントで!だって…プククク」
「わかりましたよ…まあ、仕方ないですね。…あんな見事なコケ方されたら…クスクスクス」
「むしろ今のは芸術点で3ポイントは行けるだろw……んでもって、これでダメ押しっと」
ブルブルと肩を震わせながら起き上がろうとするノワール目がけて、左右から巨大な鉄球が勢いよく転がってくる。
…だが。ノワールが軽く手を左右にかざすと、鉄球はオレンジ色に赤熱し…たちまちのうちに、跡形もなく溶けてしまった。

「……深淵を這う地獄の業火よ、憎悪と狂乱に彩られし漆黒の闇よ……」
左右の手から超高熱を発し、額に青筋を浮かべながら何やらブツブツと呟いているノワール。その頭上から
ばしゃあああっ!!(アトラ+1ポイント)
…謎の白い液体が大量に降り注いだ。


134 : 名無しさん :2017/03/08(水) 03:32:44 ???
「はっはっは!これが俺の奥の手!『都合よく服だけ溶かす液体トラップ』だ!」
「……アトラさんの能力って…なんと言うか、何でもアリなんですね…」
勝利の高笑いを上げるアトラ。呆れ顔で見守るしかないフースーヤ。
…だがここで、フースーヤは重大な事に気付いてしまった。
「……って、え?ちょっと待って、コレが奥の手?殺傷能力ゼロじゃないですか。
この人倒さないと結界から出られないんでしょ?…どうするんですかこの後」

そして、ノワールは……アトラの狙い通りというか。黒い魔女帽子を残して、黒い服が見る見るうちに溶けていく。
豊かな乳房も、それ以外の大事な所もそうでない所も露わになり、殆ど全裸に近い状態と言ってよかった。
「おお。こうして見ると、マジででっかいし…すっげえ柔らかそうだな!」
「た、確かに……ゴクリ。いやでも、ホント知りませんよ?こんな事したって、ダメージどころかよけい怒らせるだけ…」
「……ぎいいやああああああああああ!!!この、わらわがっ…こんなガキどもに……おのれえええ!!!」
「「!!??」」

この世の終わりのごとき叫び声を上げるノワール。
全く予想していなかったリアクションに、アトラとフースーヤはビクリと身をすくませた。
一体何事かと二人が警戒していると、ノワールの身にわずかに残っていた黒い服の切れ端は霧と化して掻き消え…
周囲の風景は、元の姿を取り戻していた。
「た、助かった…んでしょうか?」
「当然だろ…はっはっはっ!俺様の完全勝利だな!フースーヤ!約束通りコーラ奢れよ!」
「そ……それはまあ、仕方ないですけど……それより。…どうします?この人……」

…二人の前には、ノワールから解放された魔法少女、市松 鏡花が横たわっていた。


135 : 名無しさん :2017/03/08(水) 23:04:44 ???
「ぐうあぁっ……!うぎあああああッ!」
ヨハンの部屋では、リザの隷属の刻印を消す作業が終わりに差しかかっていた。
(リザ……鍛錬は怠ってないみたいだな。)
下着をつけたリザの上半身……無駄な肉が全くない引き締まった腹筋が、日々の修行の成果を物語っていた。
見た目は暗殺者らしからぬ可憐な美少女のリザだが、この鍛え上げられた体はちょっとやそっとでは壊れないだろう……
(でも、女性としての成長はまだまだ先みたいだな…ってだめだだめだ。そんなとこ見てちゃ……!)
まだ小さい膨らみを見て、ヨハンはそんなことを考えてしまっていた。

「うぅっ……これで終わり……?」
「お疲れ様。よく頑張ったね。隷属の刻印はきれいさっぱり消えてくれたよ。」
「はぁ、はぁ……ヨハン、ありがとう。うるさくして……ごめんなさい。」
「いいよそんなこと。……どこに行くの?」
せかせかと服を着て部屋を出ようとするリザ。なにか急いでいる様子らしい。
「エミリアの様子を見てくる……あの子、ノワールに変なことされたままだから心配なの……」



「や、やめてっ!あ、あんっ!やっ……!ひゃあああんっ!」
リザが部屋を出る頃、地下牢ではエミリアがサキに「毒抜き」をさせられていた。
(少し触りなから解呪してるだけなのにさっきからあんあんうるさいわね……!どうせならもっといじめてやるわ。指をこうして巧みに動かしてッ……!)
「あぁっ!?きゃぅんっ!!んうっ!くうぅ、あっ、あんっ!ら、ら、らめぇッ!!!ひあっ、あ、んうあっいやあぁあぁぁあぁんっ!」
全身性感帯になっているエミリアの体を、サキは指でねっとりと摩りあげたりスリスリと擦り付けたりして、エミリアの反応を楽しんでいた。
「ああああッ!んぅ、あっ、や、ひゃあああああああああああんっっ!!」
一際高い声でエミリアが絶叫すると、股間からは透明な液体が、乳房からは白い液体が勢いよく吹き出した。
(くくく……またイったわねこの淫乱メス豚女……しかも射乳までしちゃって……!隠しカメラで全部ばっちり撮られてるとも知らずにね……!)
撮っている理由は特にない。サキはただ自分が虐めているシーンを後から見返すのが好きなだけなのだ。
身体中から汗を流しつつ長い青髪を振り乱しながら快楽に打ち震えるエミリアの姿に、ドSのサキは溢れる興奮を抑えられなかった。

「あぅ……はあぁ……」
「ようやく大人しくなったわね……じゃ、あんたは私の奴隷になってもらうわ……!」
喘ぎ疲れてぐったりしているエミリアの胸に、サキは邪術のルーン文字をサラサラと書いていく……
「ククク…隷属の刻印、完了……!これであんたは私の奴隷ね……!」
「う……ど、奴隷……?」
「そうよ……でも今起こったことはすべてあんたの記憶から消すわ。私があんたに変なことしたって誰かにチクられないようにね……」
「ぐっ!ああああッ…!!」
エミリアの頭を鷲掴みにし、そのまま邪術の力を送り込むサキ。
頭の中を強引に掻き回されたエミリアは、その場で意識を失った。


136 : 名無しさん :2017/03/09(木) 00:52:23 ???
「ふん!騙されないわよ!さっき衛兵達が、この城の指揮系統は混乱しきって警備はザルって話してたわ!そんな状況で、外に200人も待機させられるわけないわ!」
(ちょっとー!?衛兵達ったら足引っ張りすぎですわー!?)

戦闘のプロは情報も重視する。衛兵たちの何気ない会話に含まれる情報も、緊急時には逆転の一手足りえるのだ。シアナのハッタリもあっさり見破られたかに思えたが…

「うん?ああ、それは『この城の衛兵』に限った話だろう?外にいるのは、僕の私兵さ」
「私兵?」
「知らないのかい?僕ら十輝星にはそれぞれ相当数の私兵が配られていて、好きに使えるんだ。彼らにとっては聞くべき命令は僕の命令だけ…指揮系統の混乱なんて起きようがないのさ」
「……証拠は?」
「証拠?僕らのような国の重鎮に、専属の部隊が付いているのがそんなに不自然か?ククク…気持ちは分かるが、現実を直視すべきだぞ」
(シ、シアナ…!咄嗟にそんなハッタリを思いつくなんて…私の思っていた以上に頭の回転が早いですわ!)

「…だとしても、このまま大人しく引き下がる気はないわ。人質を盾に行けるところまで行って逃げれるところまで逃げてやるわよ」
「…今なら命だけは助けてやるって言ったのが聞こえなかったのか?それに、王様によって生き返ることができる僕らにとって、人質は意味がないぞ」
「悪いけど、アンタら相手に大人しく引き下がるくらいなら、死んだ方がマシよ。それに…!」
突然、アイセがナイフを振りかぶり、アイナに向けて振り下ろす!

「ひ!」
…と見せかけて、ナイフはアイナの左胸…心臓の前で寸止めされた。

「この反応は、生き返りを当てにしてるにしては、本気で死を怖がってる反応だわ」
「…ち!」
「人質としての価値は十分にあるみたいね?」
(これはもうダメかも分かりませんわ…リザちゃん、先立つ不幸をお許しください…ですわ)

「…分かった。なら僕が代わりに人質になるから、アイナを離せ」
しかし、シアナはまたも瞬時に次の策を思いついたようだ。

「シアナ!?いくらアイナが超絶美少女ですからって、貴方が生贄になる必要はありませんのよ!?」
「…このガキじゃなくあんたを人質にして、私にメリットは?」
「さっきも言ったが、外にいるのは僕の私兵だ。僕が人質になった方がより効果的なんじゃないか?アイナだと最悪『今なら合法的にアイナちゃんをリョナれる!』とか言って2人まとめて殺されるかもしれないぞ?」
(…クリスマスの事件を考えると否定できないのが辛いですわ)

「……それは確かに大いにあり得る可能性だけど、人質を入れ替える隙に能力で私を倒そうって算段なんじゃない?」
「…僕の能力はテレポートだ。僕が急に現れたのも、銃弾がそっちに行ったのもこの能力のせいだ。はっきり言って不意打ちで相手を倒せるような能力じゃない」
「は!語るに落ちたわね!そんな逃げやすそうな能力を持ってる奴を人質にするわけないじゃない!」
(そうですわよ!そもそもテレポートはリザちゃんの能力ですわ!どうせならもう少しマシな嘘を…)

「…やれやれ、平行線か。だったら好きにしろよ」
突然、シアナが冷たい声で言い放つ。
「…え?」
アイナの口から、思わず間抜けな声が漏れた。
「一応同じ十輝星だから必死こいて助けようとしたけど、よく考えたら勝手に捕まったアイナが悪いんだしな」
「…仲間を見捨てる気?」
アイセも強い口調でシアナ問い詰める。

「同僚ではあるけど、仲間ではないね。そもそも、僕はずっと、アイナが嫌いだったんだ。一々騒々しいしマッズい妙なお菓子ばっか勧めてくるし」
「シ、シアナ?」
「いなくなってくれた方が清々するよ。勝手に殺されてろ」

そう言ってシアナは踵を返す。


137 : 名無しさん :2017/03/09(木) 00:54:04 ???

「あ、ちょっと待ちなさい!」
「なに、他の衛兵を呼ばれるんじゃないかって?今から出口に行けば僕が呼んでくるより早く離脱できるさ。なんたって外に私兵がいるってのも噓だし」
「え!?」
「じゃあな、アイナ」

そして、今度こそシアナは去っていった。

「し、シアナ……」
確かに捕まったのは自分の不注意だ。だから、助けてくれなくても、それはしょうがないかもしれない。でも、シアナがそこまで自分のことを嫌っているとは思わなかった。

「…ふん!気の毒だなんて思わないから!このまま出口に行くからさっさと歩きなさい!」
呆然とするアイナをグイグイと押して無理矢理歩かせるアイセ。

(シアナ…そこまで、アイナのことを嫌っていたんですのね)
確かに、リザにはちょっと過剰なスキンシップを取ったりしてるし、自分だけやたら口数多いし、周りの人間がみんな不味い不味い言うお菓子をいっつも勧めている。
しかし、それでも、仲間だと思っていた。なんだかんだで嫌われてないと思っていた。

一緒に組むことは少なかったが、王様の下でずっと一緒に戦ってきた。
ドロシーが死んだ時も、一番悲しんでいたのはリザだったが、みんな自分なりに悲しんでいた。
アイセを追っている時、シアナの心情を初めてちゃんと聞けた気がして嬉しかった。

アイナはシアナのことを―――ふざけてばかりいる自分やアトラにツッコミを入れたり、細かい調整を任せきりにされても文句も言わない真面目なシアナを信頼していた。

「……ぐす」
「泣くんじゃないわよ!極悪非道の王下十輝星が!」

だが、アイセは油断しなかった。外に衛兵がいるというのが噓と言っていたが、それこそが噓かもしれない。
さらに、相手の能力を考えると、テレポートで突然急襲してくる可能性もある。
そう、出口まできて、アイナは本当に外に衛兵がいないことに気づいた。だが、あの少年がテレポートしてくるかもしれない。
アイセは極限まで気を張っていた。どこからあの少年が現れても、すぐに人質の少女を盾にできるようにと。

だからだろうか。突然足元に―――それもしっかりと踏みしめた直後の地面に―――小さめの穴が開いた時、咄嗟の反応ができなかった。

「わ!?っとっと!」
足元がお留守だとアイセを責めるのはいささか酷であろう。周辺の曲がり角やこちらからは死角になっている場所に注意を傾け、前後左右どこからシアナが瞬間移動してくるかに気を張っていたのだ。
踏みしめた直後という地面に対して絶対の信頼を置く瞬間を狙われてはどうしようもない。

「……死ね」
「あぎ!?ぎぃいやああああああ"あ"あ"!!!!う、腕が、私の足がぁああああ!!?」

アイセがバランスを崩した瞬間、物陰から様子を伺っていたシアナは時空に穴を開けてアイセに肉薄し、右胸と左足に穴を開けた。
だが、シアナはどこぞの錬金術師みたいになったアイセには目もくれず、無理矢理歩かせていたアイセがいなくなったことで崩れ落ちるアイナを抱きとめる。


138 : 名無しさん :2017/03/09(木) 00:55:47 ???
「アイナ!大丈夫か!?」
「シ、シアナ?」
「…大丈夫みたいだな。ちょっと待っててくれ。あの女に制裁してくる」
ちょっと待って、という暇もなく、シアナはアイナを地面に横たわらせてすぐにアイセの元へ向かい、そのまま顔を踏みつける。

「やってくれたな……!たかがレジスタンスの元リーダー如きが!」
アイセの左腕に穴を開ける。
「ぎ!?ぐぁあああ!!」
「は!シールズなんて人口30人のぶっちぎり限界集落燃やされたくらいでなんだ!?あんな村遅かれ早かれ滅んでたさ!」
アイセの右足に穴を開ける。
「あ!?が、がぁあああああ!!」
「唯ちゃんにやる予定の拷問を試してやろうか?荒縄で縛って生爪を剥いで…!」

「し、シアナ!な、なんでそんなに怒って…!ちょっと怖いですわよ!?」
豹変したシアナに対して、アイナが叫ぶ。

「…そりゃ怒りもするさ。大事な仲間が殺されかけたんだからな」
「え、えーと、大事なって…さっきのは嘘だったってことですの!?」
「ああ、自然にあの場を離れて遠くから隙を伺うのにちょうどよかった…てなんで殴るんだよ!」
「バカバカ!シアナのバカ!言っていい噓と悪い噓がありますわ!」
(い、今のうちに這って逃げ…)
アイセの腹部に穴が開く。

「あぎゃああああああ!?」
「あ、ちょっとやり過ぎたかもしんない。死んだら王様に蘇生してもらわないと…」
「もう!アイナみたいな美少女がバカバカ言いながらポカポカ叩いてるんだから、ちょっとはドギマギするべきですわ!なんでそう平常運転なんですの!?」
「いや、そんなこと言われても」
「もう、もう!本当に…本当に怖かったんですのよ!?」

普段から割と命がけの戦いしてる癖に何を大げさな…とシアナは笑おうとしたが。

「シアナが、アイナをすっごく嫌ってたなんて…って」
続いた言葉に、息をのんだ。

「え、えーと、そっち?」
「そっちですわ!今まで一緒に長いこと戦ってきた仲じゃありませんこと!そんな相手から嫌いだの、勝手に死んでろだの言われたら、誰だって…!」
「ア、アイナ…」
瞳に涙を浮かべて怒るアイナを見て、シアナは不覚にも―――ドキドキしてしまった。

「なんでバカバカ言いながらポカポカされても無反応だった癖にちょっと泣いたらすーぐドギマギしてるんですのー!?そんなに女の子の涙が好きなんですの!?」
「ちょ、ちょっと落ち着けって。Sの気があるからって涙が好きとは限らないだろ」
「もー!この職場ドSばっかで嫌になりますわー!」
「女の子の涙に弱いってのはむしろノーマルなんじゃないか?」

いつものように口数多くペチャクチャ喋るアイナと、いつものようにそれにツッコミを入れるシアナ。
だが、そんないつも通りの2人の距離は―――前よりも、縮まっているように感じた。


139 : 名無しさん :2017/03/09(木) 15:26:59 ???
「あ、り、リザ様!!脱獄者の捜索にご協力をお願いします!」
「……私は今忙しいっ!緊急ならアトラたちに頼んでッ!!!」
「えっ、そ、そんなぁ……!」
声をかけてくる衛兵たちに脇目も振らず、リザは地下牢へと走っていた。
(脱獄者なんてどうでもいい……今はエミリアが優先……!)

(よおし……これでこの淫乱メス豚女はいつでも操れるようになったわ。こいつを使って、あの憎っくきクソリザを【自主規制】……ん?)
タッタッタッタッ……
音のない地下牢では足音がよく響く。どうやらこの場所に向かって何者かが走って来ているようだった。
(ま、予想はついてるけどね……早く離れないと……!)



「エミリアッ……!し、しっかりしてっ……!」
「ぁう……リ……リザ……ちゃん……?」
リザが地下牢に駆けつけたとき、エミリアは身体中汗まみれでぐったりしていた。
周りには独特の臭いを放つ液体と米の研ぎ汁のような液体が飛び散っており、むせ返るような匂いが充満している。
「んうぅっ……!」
「に、匂い……ヒドイよね……ごめんね、リザちゃん……」
「エミリアッ……!ごめんなさい……王様にエミリアを紹介して、ここから出してもらうはずだったのに……こんな……!」
「う、ううん……リザちゃんは何も悪くない……リザちゃんは悪くないから……謝らないで……」
自分の体が汚れるのも構わず、リザはエミリアをゆっくりと持ち上げた。
(とりあえず……地下室の浴場でエミリアを綺麗にしてあげなきゃ……!)

唯や瑠奈も来たことがある、イータブリックスの地下大浴場。
自身は服を着たまま、リザはぐったりしているエミリアの体を洗っていた。
「リ、リザちゃん……さっきも今も、こうやってわたしを助けてくれてありがとう。」
「……感謝なんかしなくてもいい。私が勝手にやってることだから……」
「いつもそう言うよね……ねえ、リザちゃんにずっと思ってたこと、今言ってもいいかな?」
「私にずっと思ってたこと?……別にいいけど、なに……?」
「……リザちゃんは、本心でトーメント王国に仕えてるわけじゃないんだよね?」
「……!」
無表情なリザの顔に、少しだけ焦りの感情が浮かんだ。

「わたし知ってるよ。捕虜のご飯は本当はすごく不味くて量も少ないものなのに、リザちゃんがいつも美味しいものをたくさん持ってきてくれること。」
「…………」
「リザちゃんは他にも本とかあったかい毛布を持ってきてくれるけど、それもやっちゃダメなことなんだよね?……アイナちゃんから聞いたんだ。」
「ア、アイナが?」
「うん。アイナちゃん、たまーーーにお菓子を持ってきてくれるの。私の好きなハバネロチョコとか、からし入りクッキーとか、ね……」
(アイナ……エミリアのこと忘れてなかったんだ……)

「リザちゃんは……優しすぎるよ。わたし、トーメント王国は大嫌い。でも……リザちゃんのことは嫌いになれないよ。」
「……エミリア、何が言いたいの?」
「だ、だから……!どうしてリザちゃんみたいな優しい女の子が、あの王下十輝星なのかなって思ったの。……リザちゃんが十輝星になった理由……わたしなんかには教えたくないかな……?」
神妙な顔で問うエミリア。だがリザの表情はいつもの無表情に戻っていた。

「……確かに、私の目的は別にあるけど、他の十輝星にもそういう人はいる……なんにせよ、エミリアには関係ないわ。」
「……そ、そうだよね……でもねリザちゃん。自分を捕まえたリザちゃんにこんなこと言うのも変だけど、わたしはリザちゃんの力になりたい。……リザちゃんのこと、友達として好きだから。」
「……おかしいよ。こんなとこに押し込んだ私のことなんて、思いっきり憎んでもいいのに……」
「今日だって、リザちゃんは私を牢屋から出してくれようとしたでしょ?……わたしね、いつかリザちゃんが私をガラドに返してくれる日を、こっそり待ってるんだ。」
「……そうやって勝手に期待されても……困る。」
「フフフ……帰れたらアイナちゃんも呼んで、またみんなでお菓子パーティーしたいなぁ……!」

(エミリアは……優しすぎるのかな。それとも……ただのバカ……?)
自分を牢屋に押し込んだ自分とお菓子パーティーをしたいというエミリアの気持ちが、リザにはどうしても理解できなかった。


140 : 名無しさん :2017/03/09(木) 23:02:59 ???
「ノワールの時は顔の形相変わりすぎてて分かりませんでしたけど、よく見たら鏡花さんじゃないですか…」
「なに、このおっぱい姉ちゃんと知り合いだったのか?」
「まぁ、大して親しいわけでもなかったんですがね」
一応『元』仲間になるのだろうか。異世界人の彼女とは顔見知りではあるが、どちらかというと自分の知り合いというより姉―――フウコの友達という感覚が強い。

「あー、僕はルミナスを裏切った身なんで、この人が目を覚ますと色々面倒なことに……」
「まぁ、めんどくさいしとりあえず地下牢に放り込んでおこうぜ」
「そうですね」


「今度こそ油断せずにきっちり仕留めましたわ!綺麗な顔してますでしょう…ウソみたいでしょう…死んでるですよ、これで」
「死んでない死んでない、双子の兄にバトンタッチさせようとするな」
「やっぱりシアナのツッコミはキレがありますわね!流石たっちゃんとかっちゃんを超えるアイナのソウルブラザーですわ!」
(さぁシアナ!そこはたっちゃんと南ちゃんじゃないのか…みたいな感じでがっかりしてみなさいな!)

「さっきまでポロポロ泣いてた癖に調子良いなぁ…とにかく、もう一度牢屋に放り込んでおこう」
(すっかり調子が戻ったみたいだな…よかった)
「そ、そうですわね!」
(あれぇ?)


(ククク…エミリアはもう私の奴隷…捕虜だから表立って私の自由に使うことは難しいかもしれないけど、それに関しては舞を使えばいい。……こうなればアイセも手に入れたいくらいね)

地下牢に続く階段の前で悪い笑みを浮かべるサキ。その気になれば今すぐにでもエミリアにリザを襲わせることができる。
(ま、そんな短絡的なことはしないけどね…もっと効果的なタイミングで、あのクソリザをどん底に落としてやるわ)
そんなサキの前に……。


「お」
「あ」
「む」
「あら?」

市松鏡花の足をそれぞれの片手で片足ずつ持って引きずりながら運び、空いている手でコーラを飲んでいるアトラとフースーヤ。衛兵にアイセを運ばせながら、なんか心なしか距離が近い気がするシアナとアイナが現れた。


141 : 名無しさん :2017/03/10(金) 02:37:30 ???
「あれ。アトラ、フースーヤ…今まで何してたんだ?ラインも未読だったし……もう、アイセ捕まえたぞ」
「あ、わりーわりー!色々あってすっかり忘れてたわ!つーかあのナントカ結界、電波も通じないんだな!」
「…ナントカ結界??…アトラたちが引きずってるのって……まさかノワールか?…一体何があったんだ?」
すっかりいつもの調子でアトラと会話を交わすシアナ。アイナは少し離れて、その様子を、遠巻きに眺めていた。
(今、みんなと話すのはちょっと気まずいですわね…透明化して、離れてましょう)

「そういえばサキさん、どうして地下牢から出て来たんですか?脱走者を追っかけてたんじゃ?」
「え、ええ。何か手掛かりが残ってないかと思って…でも、必要なかったみたいですね。シアナさん、流石です!」
かなりまずいタイミングで仲間と鉢合わせになったサキだが、フースーヤからのツッコミをとっさの機転で何とかやり過ごす。
「いや、途中ちょっとヒヤっとしたけど…まあ、こっちも色々あってさ」
(シアナは…アイナのこと、どう思ってるのかしら……あああ、なんか改めて意識しだすとモヤモヤが止まりませんわ…!)
のぼせすぎて会話の内容が耳に入って来ないアイナ。
…いや、アイナだけではない。誰もが気付かないうちに、この場には異常な現象が起こり始めていた。

(…ていうかシアナ、すっかりいつも通りですわね……もしかして、アイナが一人で空回りしてるだけですの…?
…ああもう、めっちゃ恥ずかしい…もういっそのこと、跡形もなく『消えて』しまいたいですわ……!!)
「サキもいなかったって事は…シアナ『一人で』魔弾のアイセを捕まえたのか。やるじゃん!…ま、俺には及ばないけど!」
「はいはい、そりゃどうも…(……ん?)」
「僕としては、普段アトラさんとコンビ組んでるだけでもソンケーものですよ…この人と一緒に居たら身が持たないんで、
最初の予定通り、明日からリザさんと組ませてもらえませんか?」
「…ああ、済まなかったフースーヤ。本当に苦労かけたな。(なんか、違和感が…)」
「おい!どーいう意味だそれ!?」

…アトラ達との会話を終え、捕らえた脱走者を衛兵に預けたシアンは……廊下で一人、頭を抱える。
(何だか……おかしいぞ。さっきは、ヨハンの部屋に、みんなでリザの様子を見に行って…
待て待て。みんなって、誰と誰だった?僕とアトラと、サキとフースーヤと…その後脱走者騒ぎが起きて、それから…)

「……ナ?……シアナ!?…ねえ、聞いてますの!?」
「え?……うわあ!?……あ、アイナ……アイナ、だよな?……い、今まで、どこに……」
「ずっとここにいましたわよ?…ちょっと『消えて』ましたけど。…まさかアイナの能力(こと)、忘れてたんですの?」
(…完全に、忘れてた。アイナの存在(こと)……)
今の今まで、アイナの存在が『記憶から』完全に消えていた。
自分だけではなく、アトラ達にも同じ現象が起こっていたに違いない。

(一体、何が起こったんだ?…)
考えられるのは…シアナの『穴を開ける』能力が空間や次元に穴を開けられるようになったのと同様に、
何らかのきっかけで、アイナの『消える』能力が成長したと言う事。
成長と言うより進化……あるいは変異、と言った方が適切かもしれない。

(…アイナは、自分で気付いてないのか…?)
…暗殺者の能力としては、これ程恐ろしい物はない。
なにしろ記憶から消えてしまえば、相手は見えない敵を警戒する事すらできないのだから。
だが、味方や仲間の記憶からも消えてしまうのは…あまりに危険すぎる。

「…シアナ?…どうして急に泣き出すんですの?……まさか、さっきのお返しなんて言うんじゃ…」
「え。あれ…ち、違うんだ。そうじゃなくて……」
そして…アイナの事を忘れていた間のあの空虚な気持ちが、シアナには何より恐ろしかった。
シアナの心の中で、アイナの存在はいつの間にか大きくなっていた。(それについては認めるしかない)
もしかすると、これから更に大きくなって…いつしか何物にも代えがたい存在になるのかもしれない。

だがその想いも記憶もある日いきなり失われ、永遠に心に『穴』が開いたままになってしまったら。
今回はアイナが姿を現すと同時に、シアナの記憶も戻った。だが今後更に成長したら、一体どうなる…?


142 : 名無しさん :2017/03/10(金) 16:48:52 ???
(流石に考えすぎか…?元々の『消える』能力だって、アイナの意思で自由にオンオフできたんだし…でも、万が一ってこともある)
「アイナ」
シアナは真剣な瞳でアイナを見据える。

「な、なんですの?」
(ちょっとちょっとちょっと顔近いですわー!ていうかそんなに見つめられるとドチャクソ恥ずかしいですわー!)
「自分の力に、呑み込まれるなよ」
「…?はい?」
「僕は…君の存在そのものまで、消えて欲しくない」
「えーと?」

何を言っているのかよく分からなくて小首を傾げるアイナと、ちょっと臭い台詞だったかなと赤面するシアナ。青臭い青春モノみたいな空気が、2人を包む。



(これは面白いモノを見たわね…まさかあのクソレズのアイナがシアナとねぇ…)
そんな2人を物陰から見ているのはサキ。友情を破壊する離反工作を得意とする彼女は、人間の感情の機微に敏感だ。そんな彼女にしてみれば、シアナとアイナが互いを意識し始めているのは少し見ればわかる。

「舞さん、私の部屋掃除しといてください」
「サキ様…?それは一向に構いませんが、一体何を?」
「リザさんを、私の部屋に呼びます」


「ということで、見ちゃったんですよ!アイナさんとシアナさんがなんかイイ感じになってるのを!」
「……あのアイナとシアナが?」
「そう、あのアイナさんとシアナさんがです!」
ガールズトークに花を咲かせている…だけでは当然ない。これはリザを貶めようとするサキの卑劣な作戦だ。

「そこで相談なんですけど、アトラさんとフースーヤさん、シアナさんとアイナさんの臨時チームをしばらくそのままにしておいて、あの2人の仲が進展するか観察…もとい、見守りましょうよ!」
「…細かい人員配置はシアナに任されている。それを私に相談されても…」
「もうリザさんったら!シアナさん本人にアイナさんとの進展を見たいからチームそのままにしようなんて言えるわけないじゃないですか!フースーヤさんはツッコミ疲れるから私と組みたいみたいですし、アトラさんは当然リザさんと組みたがるでしょうから、あえて私とリザさんが組めばあの二人はコンビ継続するでしょうし、そうなったら必然的にアイナさんとシアナさんもコンビ継続じゃないですか!」
(…今日のサキはよく喋る)

ちなみに、サキはリザを貶めるの関係なしに本気でこの状況を楽しんでいる。他人の感情を弄ぶのが好きなサキの性格は恋愛面でも発揮される。カップルをくっつくように仕向けたり、逆に別れるように仕向けたりするのが大好きなのだ。青臭い2人の青臭い恋愛劇を見せられたら、ゲラゲラ笑い転げること間違いなし。

「でも、サキは戦闘向きじゃない。それに、さっきヨハンから聞いたけど、次の相手はドロシーがやられたあの邪術のライラ。私と組んで前線に行くのは…」
「確かに私は潜入工作員寄りで、リザさんについて行ったら足手まといになるかもしれません。でもそれなら、前線には私の指揮下の人間を送ればいいんですよ!」
「指揮下の人間?」
サキの指揮下の人間というと、今も部屋の外で待機している柳原舞であろうか。

「教授から預かったこのチョーカーを使えば、捕虜を逃げ出す心配なく使役できます。王様との交渉次第で、先ほどのアイセのような実力者をリザさんと同行させることも―――」
「…!なら、連れていく捕虜は、私が選んでも構わない?」
「もちろんですよ!あ、このチョーカーは付け外しが簡単で、こちらの指示に従うとはいえ別に意思のない人形になるわけでもないので、話し相手にもなりますよ!」
(かかった!リザは間違いなく、エミリアを選ぶ!)
(邪悪な邪術師の討伐なら、エミリアも嫌ではないはず…サキには悪いけど、戦闘中に壊れたという体でチョーカーを外して、エミリアをガラドまで逃がす!)

互いに相手には言えない事を考えてはいるが、その内容は、片方はどこまでも優しく、片方はどこまでもどす黒かった。


143 : キャラクター紹介 :2017/03/11(土) 10:25:18 ???
☆篠原 唯(しのはら ゆい)
異世界に囚われた16歳の少女。穏やかで心優しい性格だが、祖父に教えられた合気道の腕前はかなりのもの。
ルミナスの大攻勢の際にリョナラーの国トーメント王国から脱出し、現在は瑠奈と共に魔法少女の国ルミナスで修行中。
スパルタ修行に少し参っている。

☆月瀬 瑠奈(つきせ るな)
異世界に囚われた少女たちの一人。唯のクラスメイトで親友。喧嘩っ早く気の強いところがある。
容姿端麗空手黒帯頭脳明晰ロリ巨乳の完璧少女だが、虫が大の苦手。現在は唯と共にルミナスで修行中。
スパルタ修行に根気よくついて行っている。

☆山形 亜里沙(やまがた ありさ)
異世界に囚われた少女たちの一人で、歳は唯と同じ16歳。
上流階級であるアングレーム家に拾われて養子になり、「アリサ・アングレーム」と名乗っている。
執事アルフレッドに異世界での育ての両親と師匠を殺害された後、王に囚われていた所を唯達に救出された。
元の世界で仲違いしたままだった彩芽と仲直りし、現在は異世界人の集まるアルガスに到着目前。

☆市松 鏡花(いちまつ きょうか)
16歳の女子高生。女刑事サラに一度は救われたものの、妹ともども異世界に取り込まれてしまう。
かつての親友「魔法少女ルミナス」の身を案じ、金色の魔法少女リフレクト・ブルームとなった。
一時期ノワールに身体を乗っ取られていたが、現在は元に戻り、王都イータ・ブリックスに囚われている。

☆市松 水鳥(いちまつ みどり)
鏡花の妹で、小学5年生。しっかり者だがやや引っ込み思案。
姉と共に異世界に囚われた後、魔法少女アクア・ウィングになった。

☆古垣 彩芽(ふるがき あやめ)
家に引きこもっていて気が付いたら異世界に囚われていた、ボクっ娘メガネっ娘の16歳。
「アヤメカ」と呼ばれるオリジナルメカを駆使し、地下闘技場に囚われていた春川桜子と女刑事サラを救出した。
現在は桜子、サラ、スバル、アリサと同行しており、アルガスに到着目前。

☆サラ・クルーエル・アモット
見事なスタイルを誇る金髪美女の女刑事。少女たちの連続行方不明事件を追っていたが、自身も異世界に囚われてしまう。
変身ブレスレットを付け「閃甲」と叫ぶ事で、時空刑事クレラッパー(通称「白銀の騎士」)に変身する事が出来る。

☆春川 桜子(はるかわ さくらこ)
王に連れ去られた少女を助けるため、闘技場で戦っていた女性。年齢は20歳ほどと思われる。
決して低くはないが強くもない
闘技場をスバルと共に脱出後は、彩芽やサラと行動を共にしており、現在はアリサも加わってアルガスに到着目前。

☆スバル
桜子を姉代わりに慕う、灰色の髪の少女。年齢は唯達よりやや下と思われる。
奴隷だったが、桜子と共に逃亡。彩芽やサラと行動を共にしており、現在はアリサも加わってアルガスに到着目前。


144 : キャラクター紹介 :2017/03/11(土) 10:26:29 ???
(敵側勢力)
★王
この世界の「王」を名乗り、王都イータ・ブリックスに居城を構える謎の男。
リョナという言葉が具現化したような性格で、女性を苦しめることに愉悦を感じている。

★教授
長身長髪で骸骨のように痩せ細った、白衣の男。彩芽を自身の「花嫁」と呼ぶ。
天才的頭脳と異常さを持ち、怪しい機械や改造魔獣などを次々と作り出す。
昔は太っていて「巨獣」と呼ばれていた。実は彩芽の小学生時代の同級生。

★王下十輝星
王の忠実な部下で、反乱勢力の掃討などを主な任務とする能力者達。

★『シリウス』のアトラ
空間に自在に罠を仕掛ける能力を持つ少年。明朗快活だが外道。敵との戦いをゲームとして楽しむ。
奥の手は都合よく服だけ溶ける水。リザのことが好き。

★『プロキオン』のシアナ
空間や物質、果ては次元にまで自在に穴を開ける能力を持つ少年。落ち着いた性格で十輝星内での人員配置も任されているみんなのツッコミ役。
唯に異常な執着を示しているが、その割に最近はアイナとイイ感じになったりしている。

★『ベガ』のアイナ
ピンク髪ツインテ少女。姿だけでなく自身の発する匂いや足音、果ては『アイナがいたという記憶』までも消すステルス能力の持ち主。天真爛漫だが残酷。
リザのパートナーだが、リザの苦しむ姿を見て喜んでいる自分に驚いている。最近はシアナとイイ感じになっている。

★『スピカ』のリザ
金髪ショートカットの碧眼美少女。驚異的な身体能力と近距離テレポート能力を持つ。真面目で無口で優しいが、色々と報われない。
何故かやたら女にモテる。本心から王に従っているわけではないようだが……?

★『アルタイル』のヨハン
判明している中では、十輝星の唯一の大人。相手の攻撃や魔法を跳ね返す能力を持つ。十輝星の中で頭一つ抜けた存在であり、みんなの頼れる兄貴分である。エスカが離脱した現在、王都の防御は彼が担っている。

★『リゲル』のサキ
離間工作を得意とする少女で、普段は「草薙沙紀(くさび さき)」と名乗って現実世界に潜んでいる。現在は教授の手助けが主な任務。一見すると大人しそうに見えるが、その実かなり腹黒く口も悪い。
ヨハンのことが好き…というよりヨハン以外の十輝星が嫌い。特にリザ。

★『デネブ』のフースーヤ
毒を付与した風魔法を得意とする少年。
元々はルミナスの魔法戦士ヴェノムウィンドであったが、女だらけの環境に馴染めず、複雑な想いを抱いていた所を王にスカウトされ十輝星になる。本名はフウヤ・トキワでフウコの弟。


…他に『カペラ』、『ベテルギウス』の異名を持つ者がいるらしい。『フォーマルハウト』は現在空位。


145 : キャラクター紹介 :2017/03/11(土) 10:27:40 ???
(ルミナス勢力)
・寺瀬光<4代目魔法少女ルミナス>
王と敵対する魔法の国「ルミナス」の魔法少女にして元女王。かつて王と戦い敗れた。その後王に洗脳され『フォーマルハウト』のエスカとして王に仕える。記憶は戻っていないものの、現在はルミナスにて5代目ルミナスの補助をしている。

・リムリット・シュメッターリング・ルナ・ルミナス<5代目魔法少女ルミナス>
ルミナスの現女王。光の妹。8歳。魔法少女を率いて王に挑むも、姉と同じく敗れ去った。王に殺されかけるが、ミントが殿となったことで辛うじてルミナスへと帰還。
幼さゆえ未熟な点もあるが、副将ウィチルや記憶を失った姉の光(エスカ)の手助けで上手く国を治めている。

・ウィチル・シグナス
リムリットの副将。幼いリムリットに変わって一切の政務を執り行っており、彼女がいなければ国が回らないと言っても過言ではない。
プライベートではリムリットに対し姉や母のように振る舞っているらしい。

・ココア・ソルベット<ビショップ・オブ・アイヴォリー>
ウェーブのかかったダークブラウンのロングヘア、穏やかで優し気な物腰。異性同性を問わず慕われる。
女王リムリットの側近。

カリン・カーネリアン<魔法少女ブレイジングベル>
経験は浅いが素質は高く、火炎を操る術に長ける。カナヅチなのが珠に瑕。
本人曰く、フウコより大きいらしい。身内を亡くした(ホントは死んでないが)フウコを気遣っている。

フウコ・トキワ<魔法少女エヴァーウィンド>
カリンと同じく経験が浅く、初陣を済ませたばかりの少女。風を操る術が得意。近眼のため、変身後もメガネを掛けている。
十輝星のフースーヤ(フウヤ)は実の弟だが、本人は死んだと思っている。ちょっと百合の気がある。

ライカ・リンクス<魔法少女ワイルドストライカー>
極光体術と呼ばれる格闘を得意とする魔法少女。直接的な攻撃魔法は苦手とする彼女だが、魔力によって身体能力を強化する事で圧倒的な近接戦闘能力を発揮する。現在は唯と瑠奈の師範役。
師匠は竜殺しのダンであり、幼い頃竜から助けてくれた彼を慕っている。


146 : キャラクター紹介 :2017/03/11(土) 10:28:49 ???
(その他)

・竜殺しのダン
王都でも有名な宿屋兼酒場『邪悪にして強大なるワイバーン亭』の主人。王都に潜伏している唯達を匿っていた。かつてルミナスの格闘戦のコーチだった。
ライカからはまたルミナスに来るように勧められたようだが、詳細は不明。

・柳原 舞(やなぎはら まい)
黒髪ロングの黒づくめクールビューティ。魔物をも蹴り倒す魔法のブーツを持っていたが、十輝星に囚われてしまった。現在は教授によって操られ、サキの配下になっている。ジェットブラックアーマーという、サラのクレラッパーのパクリのような戦闘スーツを使用する。

・エミリア・スカーレット
極寒の地ガラドに住んでいた心優しい少女。天才的な力を持つ魔法使いだったが、十輝星に囚われてしまった。現在はサキによって隷属の刻印を植え付けられ、彼女の奴隷となっている。

・魔弾のアイセ
24歳。肩まで届く茶髪セミロングの美女。見た目は清楚系だが実は野性味溢れる性格で性欲も強い。
かつて自らの村を十輝星に焼かれた過去を持ち、その村の唯一の生き残り。
十輝星に囚われた後に脱獄するものの、再び捕らえられてしまった。

・ノワール
黒衣の魔女と呼ばれたガチレズ。現在は服だけの状態。
ルミナスと敵対する存在であり、王の城に住んでいるが完全な王の手下というわけでもなく、十輝星と交戦することもしばしば。
ヨハンに負け、アトラの服だけ溶かす水で死にかけてと、最近調子が振るわない。

・邪術のライラ
あまりに非道徳的な効果を持つことから使用を固く禁じられている邪術を使うガチレズ。腹部には父親が宿っている。
実は王と裏で取引しており、研究費を貰って研究資料や開発物を引き渡し、たまに「遊び相手」を送ってもらっている。
「遊び相手」として送られてきたドロシーを殺した。

・くさそうの人
くさそうなものを見つけては「くさそう」と呟く人。舞の持っていた魔法のブーツを言い値で買ったらしい。

・執事アルフレッド
アリサの育ての両親と師匠を殺害した青年。『アングレームの遺産』の鍵となるペンダントをアリサから奪い取った。一応、王とは敵対しているらしいが、詳細は不明。

(死亡ないし行方不明)
・有坂真凛<魔法少女ピュア・アクアマリン>
王都で売り出し中の清純派アイドル。その正体はルミナスの魔法少女だったが、王に見抜かれ魔喰虫の餌食にされてしまう。トーメントの国民に凌辱の限りを尽くされ死亡した後、王によって蘇生される。その後はエロい触手が生殖している森に飛ばされたが、詳細は不明。

・ミント・ソルベット<ルーク・オブ・アイヴォリー>
ココアの双子の姉。ライトグリーンの髪をポニーテールにまとめ、すらりとした長身に凛々しい眼差しで、後輩からの人気も高い。
王都からの撤退で殿となり、ノワールによって木端微塵にされ、王でも完全な蘇生はできず苦しめられていた。フースーヤ(フウヤ)のリョナの目覚めの餌にされ、死亡。

★『デネブ』のドロシー
風を操る能力を使い身の丈よりも大きな鎌を振り回して戦う生粋の戦闘タイプ。
性格は真面目で曲がった事を極端に嫌う。実力で王下十輝星になったことを何よりも誇りに思っており、王への忠誠心は誰よりも高かった。
邪術のライラによって囚われ、凌辱の限りを尽くされた後、死亡。


147 : 名無しさん :2017/03/12(日) 00:46:48 ???
リザとサキの密談の翌日。ライラ討伐にエミリアを同行させたいというリザの申し出は、特に問題なく王に受理された。

「どうしたのリザちゃん?今日はなんかいつもに増して神妙な顔をしてるけど……?」
「…聞いて、エミリア。これから私とエミリアは反乱分子の鎮圧目的で共同任務に就く。このチョーカーには魔法がかけられていて、エミリアがわたしに強制的に従うようになっている……」
そこまで言って、リザはエミリアの細首にゆっくりとチョーカーをかけた。
「リ、リザちゃん……?」
「安心して。服従の魔力はかけてないから。……城を出るまでエミリアは、私に従っているフリをしてくれればいいの。城さえ出れば、あとはガラドに帰るだけ。……私の言ってること、わかる?」
珍しく額に汗を浮かべるリザ。その理由は、あの王や仲間たちを欺くという緊張感と、慣れない長台詞によるしゃべり疲れによるものである。
「エ、エミリア。いい?ここから出て家族のところに帰りたかったら、城を出るまではなにがあっても私に従うフリをして。…わかった?」
「リザちゃん……!ありがとう……!本当にありがとう……!わたし……ガラドに無事に帰っても、リザちゃんのこと絶対に忘れないっ……!」



(クククク……!これはいいものを見たわ。クソリザたちが城を出る前に、少し遊んでいけそうじゃない……!)
サキは、自身が奴隷化させた者の視界や聴覚を共有することができる。2人だけの牢獄で話されていた一連の計画も、サキには全て筒抜けだった。
(本当に奴隷化しているのか怪しむことができれば、色々と楽しめそうね。さて、どうしてやろうかしら……!)


148 : 名無しさん :2017/03/12(日) 14:15:35 ???
「……おかしいですわ」
「……なにが?」
「リザちゃんが教授のチョーカー付けたサキの配下と邪術のライラ討伐に行くことに決まっているじゃありませんの!アイナでなく、サキと組んで!」
バン!とテーブルを叩いてアイナが言う。シアナとアイナは、城内の食堂で昼食を取っていた。

「ほんと、どうせなら俺と組んでほしかったぜ」
「確かに、意外な組み合わせでしたね」
訂正。シアナとアイナだけでなく、アトラとフースーヤも同じ四人掛けのテーブルを囲んでいた。別に最初は2人だけで昼食を取ろうとしてたとかいうわけではない。今回の任務の組み分けに関することを話したかったので、必然的にこの4人になっただけだ。

「…捕虜の中には結構な実力者が多い。裏切る心配なく使役できるなら、有効活用すべきだ」
「そういうことを言ってるんじゃありませんの!どうしてアイナとではなく、サキと組むのかと言ってるんですの!」
「…そう言えば、サキさんって戦えるんですか?そういうの苦手そうに見えるんですけど」
「あー、流石に一般兵よりは大分強いけど、あくまで潜入調査とか工作がメインだしな…」
「一応リザと組んでるってことになってるけど、戦闘にはついて行かずに手下だけ寄こしてるんだろ?ちょっとズルくね?」
「サキは教授の助手もしてるからな。戦闘まで本人にさせるのはちょっと酷だろ」

などと話しているうちに、食事を終えて食堂から出る。

「まぁ、もうしばらく臨時チームのまま行動することになるな。フースーヤ、すまないが我慢してくれ。アトラにはまた無茶なことしないようにキツく言っておくから…」
「なんだよそれ!あんなオバサンなんて俺ら2人なら楽勝だったっつーの!なぁ?」
と言ってフースーヤの肩を抱くアトラ。

「た、確かに思ったよりは楽に勝てましたね。実際、アトラさんと組むと戦いやすかったです」
(こういう男同士の戦友的なノリ……!ルミナスで何度夢想したことだろう!)
フースーヤは男同士のノリ的なことされると途端にチョロくなる。

「まぁとにかく、任務と関係ない相手に喧嘩売るのは止めろよな……アイナ、さっきから静かだけどどうした?」
「え!?な、なんでもありますわよ!?」
(リザちゃんのことだから、連れていく途中でエミリア・スカーレットを逃がして一人で邪術のライラと戦うなんてことも…でも、これはシアナに相談するわけにもいかないですし…どうすればいいんですの!?)

リザが捕虜を勝手に逃がすかもしれない、などとシアナに相談したら、リザが裏切り者の汚名を着せられてしまうかもしれない。
かと言って、一人でライラと戦うのは余りにも危険だ。

(リザちゃん…もし仮に逃がすとしても、ライラとの戦いには連れていくべきですわよ!)
エミリアはサキの奴隷と化しており、むしろ一緒に連れていく方が危険であることを、アイナは知らない。


149 : 名無しさん :2017/03/12(日) 14:46:13 ???
「あ、リザ。今から邪術のライラを倒しに行くのか?」
城の通路でリザとエミリアは、昼食を食べ終えて部屋に戻るシアナとばったり出くわしてしまった。
「そ、そうよ。……邪術のライラを倒すには戦力が必要でしょ?このチョーカーでエミリアを操って、私と一緒に戦ってもらうの。」
「ああ、サキから聞いたよ。……おいお前、リザの言うことならなんでも言うことを聞くのか?」
シアナに声をかけられたエミリアは、ぴんと背を正しておずおずと喋り始めた。
「は、はい。私は美しきリザ様の奴隷……!強い心を持つリザ様に仕え、抜群のプロポーションを誇るリザ様に奉仕し…完璧美少女すぎる暗殺者のリザ様に忠誠を誓っています……!」
「は……?何を言ってるんだこいつは?」
(うっ、ううっ、嘘でしょエミリアッ……!?なんなのよその猿芝居はあああッ!?)
棒読みでいらない演技を始めたエミリアを掴み、リザはすぐさまテレポートをした。

「はぁ、はぁ……エミリア……ほんとにここから脱出する気あるのッ!?」
「え、え?なんかマズかったかな……台詞からリザちゃんの奴隷感を出そうと思ったんだけど……」
「……芝居が下手すぎ。台詞のチョイスも最悪。……もう一言も喋らないで。いい?」
「そ、そう?わかった。お口チャックしとくね。んー!んー!」
(まずいな……シアナに怪しまれたかも。本当に大丈夫かしら……)

ライラとの戦闘前にテレポートを連発して疲弊するわけにもいかない。リザは人目を避けながら慎重に城内を進んでいった。
「もうすぐ出口だから。怪しれないようにしててね、エミリア。」
「うん。……あ、あの人……」
エミリアの視線の先……トーメント城エントランスには、シアナとサキがいた。
(ま、まずい……見つからないうちに他の出口に行かなきゃ……)
リザがそう思った瞬間、エントランスに声が響き渡る。

「あ、リザさーん!何してるんですかー!?」
(な……サキ!?視線に入ってないのにどうしてバレたの……?)
呼ばれてしまっては逃げるわけにはいかない。リザは不安げな顔のエミリアの手を取った。
「リ、リザちゃん……!」
「大丈夫……私に任せて。エミリアは静かにしててね。」


150 : 名無しさん :2017/03/12(日) 14:47:24 ???
「リザ……どうしてさっき僕から逃げたんだ?なにか隠してることでもあるのか?」
(うっ……いきなりか……)
「シアナさんから聞きましたよ?リザさんはそのエミリアって人を奴隷にしてライラを討伐するんですよね?それ以外に何かあるんですか?」
「……さ、ささ、さっきは話してる途中で……エミリアが恥ずかしいことをしゃべり出したから。その……私の奴隷とかなんとか言ってたでしょ……?」
額に汗を浮かべながらなんとか弁明しようとするリザ。その健気さに、エミリアは心を真綿で締め付けられる思いだった。
「へぇ……あれはリザの趣味で言わせてたのか?それをうっかり僕の前でベラベラ喋り出したから、恥ずかしくなった……と。」
「え……?あ、そ……そうよ。べ、別に奴隷に何を喋らせたって、私の勝手でしょ……?」
(リザちゃんすごい……!自分の焦りを逆に説得力にしてる!でも……私のせいで、これからはこの人たちに変な目で見られちゃいそう……)
機転を利かせ、シアナの追求を逃れようとするリザ。だがそこに追い打ちをかけたのは、サキだった。

「えー!私、気になります!どんな台詞を喋らせてたんですかー?」
「あぁ……なかなかえげつなかったぞ。自分のことを抜群のスタイルだとか完璧美少女だとか言わせてた。」
「え……?リザさんが自分のことをそんな風に言わせてたんですか!?」
「こういう美少女にそう言われると興奮するタイプなんだろ、リザは。僕も大概変態だけど、まさか君もそこまでアレだったとはね……いやあほんとに面白いものが見れたよ。クククク……」
「へー……私、リザさんはまともな方だと思ってたんですけどね……誰にも言われないからって奴隷に言わせるなんて。アイナさんあたりなら嬉々として言ってくれそうなのに。」
「アイナは自分のタイプじゃないからダメなんだろ。こういう…胸が大きくておっとりしてそうなのがリザのタイプってことだな。」
「と、というかそれじゃリザさんもレズだったってことですか!ひゃー!?」

(リ、リザちゃん……私のせいで、こんな……!酷すぎるよっ……!)
目を伏せて歯を食いしばるリザ。これから彼女は仲間たちにレズで変態というレッテルを貼られ、事あるごとにいじられ続けるのだろう。そう思うと、エミリアは気が気でならなかった。
「ち……違いますよっ!リザちゃんはモゴモモゴモゴッ…!」
大声をあげたエミリアをすかさず拘束し、口元を抑えるリザ。それを見て2人はクスクスと笑った。
「おいリザ、ちゃんと人前で変なこと言わないように教えておけよ?」
「リザちゃんは〜の後、なんて言おうとしたんですかね?私、気になりますっ!」
「くっ……!」
ケラケラと笑う2人を背に、リザはエミリアを抱えて城の外へと出ていった。


151 : 名無しさん :2017/03/12(日) 16:13:29 ???
顔から火が出る思いで、シアナ達の前から立ち去ろうとするリザ。だが…サキのターンはまだ終わっていなかった。

「あ、そうだ…忘れるところでした。出かける前に、教授からチョーカーの動作テストをしといてくれ!って頼まれてたんです。」
「ど…動作テスト?」
「どんな命令でも絶対聞くかどうか、試してほしいと…」
「…既に相当無茶な事してると思うけど」
お陰様で、既にリザは今後の人間関係に支障をきたしそうなレベルの危機に陥っている。

「まあまあ。万一チョーカーが壊れて、エミリアに『裏切られて』、『背後から襲われたら』大変ですし…念には念、ですよ!」
「……(チョーカーがあろうとなかろうと、エミリアはそんな事するわけないけど……)」
…リザは、そもそもエミリアをライラの討伐に連れていくつもりすらない。
すぐ目と鼻の先にある城門を出て、城下町を抜けたら、そこでエミリアを解放するつもりだったのだ。
が、ここは素直にサキに従わないと怪しまれてしまう。…教授のテスト、というフレーズからは不安しか感じないが…

「では、この紙に書いてあることを命令してください、だそうです」
……実際には教授のテストと言うのは嘘で、命令書はサキが書いたものである。だが、タチの悪さに掛けては…
「なになに。ではエミリア…ええと…『今着ている下着の色と種類、経過日数を報告しなさい。そして、私に差し出しなさい』」
…本人と同レベルだった。
「えっ」「えっ」「えっ」
リザとエミリアだけでなく、横で聞いていたシアナも思わず耳を疑った。
…が、教授なら実際その位は言いかねないので黙って成り行きを見守る。。

「………ど、…どうしたの…早く、い…言う通りにして…」
…この時点で既にリザは、先程以上に真っ赤になって俯き、全身を羞恥に震わせていた。何故なら……
「そっ……そんな事、言われても……昨日、リザちゃんにお風呂に入れてもらったから、まだ1日目です…
その時にリザちゃんに借りた、黒いレースのパンツで……あ、ブラジャーはサイズが合わなかったので…付けてません」
……その答えが、エミリアだけでなくリザにも極大のダメージを与える地雷だったからである。

リザとサキ、そしてシアナまでが見ている前で、エミリアはロングスカートの中にを入れて…
…黒いレースの真新しい下着を、おずおずとリザに差し出した。
「返さなくていいって言ったのに……」
「いやでも、差し出せって命令だし……」
「……あの、エミリアさん。…よかったら、サイズ合うのお貸ししますよ?」
「…………お願いします」
必至に笑いを堪えながら、エミリアを連れ出すサキ。素直に従ってしまうエミリア。止めようという気力すら沸かないリザ。

(……下着も…黒だったのか)
それは意外だったのか。予想通りだったのか。女子ってパンツの貸し借りとか普通にするものなのか。 
奴隷関係なのに一緒にお風呂入ったりするのは怪しくないか。

シアナには…解らなかった……


152 : 名無しさん :2017/03/12(日) 17:06:06 ???
「さて、いい?アンタはリザに解放されそうになったら『そんな危険な人の所に、リザちゃん一人で行かせるわけにはいかない!』みたいなこと言って同行しなさい。そしてライラとの戦闘中、ここぞというタイミングで裏切ってリザを敗北に導くのよ」
「……はい……サキ様……」
エミリアを自分の部屋に連れ込んだ後、サキはサイズの合う下着を適当に見繕ってから隷属の刻印を発動させた。エミリアは虚ろな目でサキの命令に頷いている。

「……ぷ。ねぇ、せっかくだから、さっきリザに言ってたこと、私にも言って?」
「はい……私は美しきサキ様の奴隷……!強い心を持つサキ様に仕え、抜群のプロポーションを誇るサキ様に奉仕し…完璧美少女すぎる工作員のサキ様に忠誠を誓っています……!」
「っぷ、くくく……お腹痛い……!じゃあ、一旦『戻って』いいわよ」
サキのその言葉と同時に、エミリアの瞳に生気が戻る。

「それじゃあリザさんたちの所に戻りましょうか、エミリアさん」
「あ、はい!」
(このサキって人もいい人だなぁ……こんなんじゃ私、トーメント王国と戦いたくなくなっちゃうよ……)

✱✱✱

とある怪しげな掲示板のログ……

【アホ女が首輪も付けずに捕虜連れ出してヤバい邪術師の住家に向かったったwww】

1 : 以下、名無しにかわりまして邪2オタがお送りしますID:kusabi
マジウケルwww

2 : 以下、名無しにかわりまして邪2オタがお送りしますID:rairarai
kwsk

3 : 以下、名無しにかわりまして邪2オタがお送りしますID:kusabi
あー、名前は伏せとくけど、金髪碧眼の暗殺者が有名なガチレズ邪術師の所へ攻め込んだの

4 :以下、名無しにかわりまして邪2オタがお送りしますID:Mobu
ちょwwそれこの掲示板にいる人間に対しては伏せる意味ないじゃないですかwww

5 : 以下、名無しにかわりまして邪2オタがお送りしますID:rairarai
スマソ、用事できた(*'▽')

6 : 以下、名無しにかわりまして邪2オタがお送りしますID:Mobu
>>5特定した

7 : 以下、名無しにかわりまして邪2オタがお送りしますID:kusabi
しかもその女、連れ出した捕虜がウチに操られてることに気づいてないwwwばくわらwww

8 : 以下、名無しにかわりまして邪2オタがお送りしますID:Mobu
有志の方(特定してないとは言ってない)の動画投稿、期待して待ってます!こないだの風の美少女ちゃんの動画最高でした!


153 : 名無しさん :2017/03/12(日) 18:21:15 ???
「え。ええと……リザ。その…ドンマイ……」
「……………。」
エミリアがサキに連れていかれた後、リザと共に取り残されたシアナ。
(…ううん…この空気の中で『あの話』するのは、なんかイヤだけど…仕方ない)
…ここまで状況がひどい事になる前に、彼がさっさと立ち去らなかったのは単なるスケベ心からだけではない。

「…ところで、アイナの事なんだけど……」
「うん…今回は、シアナと組むんでしょ……頑張ってね。私にはよくわからないけど、影ながら応援してる」
(いやいや、そういう話じゃないんだ。ていうか『頑張って』って何だ!?『応援』ってどういう意味だ!?)
シアナがリザにしておきたかった話とは…もちろん、アイナの消える能力の事だ。
脱走したアイセを追跡した時。能力を使って『消えて』いる間……アイナは周りにいた者の記憶からも消えてしまった。
本人にも自覚は無いらしく、その現象に気付いているのはシアナただ一人。
アイナの能力が今後どうなるのかは予測不能だが、本来のパートナーであるリザには早い内に話しておくべきだろう。

「…アイナ……え?…誰の話だって?」
「え………誰って、それは………いつも、リザとコンビを組んでる……」
……だが、この時。
間の悪い事に、アイナはシアナとリザが二人っきりでいる所を目撃してしまい……姿を『消して』二人に接近していたのだ。
(あれはシアナと、リザちゃん…盗み聞きなんてはしたない真似、乙女のする事ではありませんけど…
…気になって仕方ありませんわ…一体何を話してるのかしら?)

「私とコンビって…一体、誰の話?…私、ずっと一人で戦ってたはずだけど」
「え!?…あれ?……いや、…あの。だって…」
(えええ!?…り、リザちゃん…何を言ってるんですの!?)
「おかしいな……何か、大事な……言わなきゃいけない事が、あったような……」
「……用事は、それだけ?…エミリアと私の『アレ』を見てもまだ帰らないくらいだから、よっぽどの用かと思ったのに」
(あっさり言いくるめられてるシアナもシアナですけど…リザちゃん、一体どうしちゃったんですの…!?)
なお、アイナは残念ながらその『アレ』は見ていない。
首を傾げながら立ち去るシアナを見送り、リザは今までの戦いを思い出していた。

「エミリアを捕らえた時も……私は、一人で…戦った…」
…リザの記憶では、そのはずだった。しかし……細かい部分の記憶は、まるで霧がかかったようにはっきりしない。
兵士たちが裏切って兵器工場に立てこもり、エミリアと一緒に、助けに…『誰』を助けに?
そもそも、何がきっかけでエミリアと知り合ったのか…どうしても、思い出せない。

「だから…エミリア抜きでライラと戦う事になっても…いつも通り、一人に戻る、だけ……」
…それなのに、どうしてこんなに心細く感じてしまうのか。
今までどのように戦い、危険を乗り越え、辛い時にどうやって立ち直って来たのかが…思い出せない。
ノワールの邪術の前に手も足も出ず、いいようにいたぶられた時も…
(二人で戦ってれば、負けなかったのにって………でも…二人って、一体、誰と…)

「リザちゃん…?…ねえ…リザちゃん……」
…突然背後から声が聞こえ、その途端リザは全てを思い出した。そして、振り返ると……
「…さっきの話…一体、どういう意味ですの?」
浮かんでいるのは怒りか、哀しみか…
今までに見たことがない程冷たい表情を浮かべたアイナが、そこに居た。

「…アイナ…!?……えっと、あの…ごめん…忘れて、た…」
「いっ…いくらなんでもひど過ぎますわ!そりゃ、リザちゃんに比べればアイナなんて弱っちいかもしれませんけど…
それでもアイナは、ずっとアイナは…リザちゃんと……それなのに、リザちゃんは…」
「ご…ごめん、私…どうかしてた…」
…どうしてリザはアイナの存在を忘れてしまっていたのか…もちろん普通ならあり得ない。
だが、それが他ならぬアイナの能力のせいである事を、リザも、そして当のアイナ本人も知らない。

「…陰では、私なんて足手まといだから、いてもいなくても同じだって…そう思ってたんですのね。
…もう知りませんわ!エミリアでもサキでも、誰とでも好きにすればいいですわっ!!」


154 : 名無しさん :2017/03/12(日) 19:48:08 ???
「そんな危険な人の所に、リザちゃん一人で行かせるわけにはいかない!」

城下町を離れ、人の目につかなくなった所で、リザはエミリアを解放する。
そこでエミリアは、一言一句違わずサキの命令通り、リザに協力を申し出た。

「駄目よ。危険すぎる……それに、この戦いはエミリアには関係ない」
「そ、そんな……私、リザちゃんの事、助けたくて……このチョーカーがあれば。
…ううん、それさえ必要ない。リザちゃんが一言『来て』って言ってくれれば…!」

エミリアの首には、教授の作ったチョーカーが巻かれている。
スイッチを入れれば、命令に絶対服従するようプログラミングされているのだ。
アイナをひどく傷つけてしまい、精神面でボロボロになっていたリザは、思わず心が揺らぎかけたが…
リザは首を横に振ると、なおも食い下がるエミリアを優しく抱きしめた。

「エミリア…ありがとう。でも…こんな事に、貴女はこれ以上関わっちゃいけない……元気でね」
今のリザにとって、エミリアの存在は最後の心の拠り所でもある。
そんな彼女を危険な目に遭わせる事は、絶対に出来なかった。

…だが。
「…ああもう。ホンット、めんどくさいわねぇ…いいからさっさと私を連れて行きなさいよ。」
サイッコーのタイミングで背中刺してあげるから」
「……え」
…エミリアは首のチョーカーを外すと、リザの首に巻き付け…スイッチを入れた。

「…ほら。言ってごらんなさい?」
「そ、それは……それだけ、は……っあ、…いぎ、ぅ…!!」
「……無駄よ。そのチョーカーには逆らえない。極上の苦痛と快楽の電撃を、脳内に直接送り込む…らしいわよ。それ」
「エ、ミリア………一緒に……きて…」
「一緒に来て?…ご一緒させてください、でしょ?…それに呼び捨てじゃなくて、エミリア様…いいえ、どうせなら」

「…は、はい。私は美しきエミリア様の奴隷……!強い心を持つエミリア様に仕え、
抜群のプロポーションを誇るエミリア様に奉仕し…完璧美少女すぎる大魔術士のエミリア様に忠誠を誓っています…
…どうか、この私をエミリア様の行く所にお供させてください…」

「はい、よく出来ました…」
ぱん、とエミリアが手を一つ叩くと、二人の記憶は戻り……
リザはエミリアの人格が変わっていた事も忘れ、自分がチョーカーを付けている事も気付かなかった。
エミリアも、隷属の刻印によって植えつけられた闇の人格の事を覚えていない。
二人が一緒にライラの住む森へ向かう、という結論だけが残った。


【本人】アホ女が首輪も付けずに捕虜連れ出してヤバい邪術師の住家に向かったったwwwその14【降臨】

285 : 以下、名無しにかわりまして邪2オタがお送りしますID:rairarai
楽しみ過ぎて魔物100体作ったwwwww
材料足りないwww

347 : 以下、名無しにかわりまして邪2オタがお送りしますID:kusabi
某所の森の近くに魔物の材料になりそうな死体1000体捨ててきた

412 : 以下、名無しにかわりまして邪2オタがお送りしますID:noir
もうコテハン付けろお前ら


「ちなみに到着予定は12時間後、東側入り口A-3地点となっております…と」(カタカタ)
…そこまで書き込んだところで、サキの携帯に着信が入った。
「もうめんどいから電話でよくない?www」という、ライラからのメッセージ。至極もっともである。
邪術のライラが裏でトーメント王国と繋がっている事は、リザ達十輝星クラスにも殆ど知らされていないが…
サキがその連絡員だったのだ。

「いやー、ライライ…一年越しのリクエストが実ってよかったねぇ。刻印つけたら、私にも弄らせてね」
「ふふふ…ありがとう、クッシー。やっぱり持つべきものは…」
「「友達よねぇ〜〜♪」」

リザとアイナ、そしてエミリア達とは全く違う形の…
どす黒い何かでつながった絆が、そこには確かにあった。


155 : 名無しさん :2017/03/13(月) 00:22:10 ???
「……そろそろ、邪術師の住む洞窟がある森に着く」
「きっと使い魔とかがたくさんいるんだろうなぁ…とにかく、頑張ろうねリザちゃん!」
「……ええ、そうね」
双方共に先ほどの出来事は覚えていない彼女らだが、その旅路自体はとても順調だった。

「大丈夫!アイナちゃんとリザちゃんなら、ちゃんと話せば絶対簡単に仲直りできるよ!」
「そう…かな」
「そうだよ!」
エントランスでの出来事の後、なし崩し的にそのまま出発したリザとエミリア。なぜ一瞬とはいえアイナのことを忘れていたのかは分からないが、2人の間に溝ができたのは紛れもない事実である。

「…とにかく、今は戦いに集中しないと……!エミリア、下がって!」
リザとエミリアが森に足を踏み入れた瞬間、木の上から鎌が投げられてきた。
エミリアを抱えて後退し、その攻撃を避けるリザ。そして、下手人へと目を向ける。

「……!アレは、あの時の!?」
右腕のアタッチアーム。左腕の触手に、先ほど飛んできた鎌。なんだかよく分からない生物の下半身。胸と頭こそ以前見た時と違い、人間を模しただけの鉄屑になっていたが、それは、間違いなくドロシーロボであった。

「リザちゃん、あれが何か知ってるの!?」
「以前、戦ったことがある。手強いけど勝てない相手じゃない」
変わり果てた友の成れの果て。あの時確かに破壊したが、邪術師は同系統のロボットを量産していたようである。
ドロシーを殺された怒りを込め、そのロボットと戦おうとしたその時!


「リザ……タスケテ、タスケテ」

「え、しゃ、喋った?」
「……!う、噓…!そんな、まさか…!」

「イヤダ、イヤダ、タタカイタクナイ、タタカイタクナイ」
右腕のアタッチアームから機関銃が現れ、射撃を開始する。呆然として動きが鈍っているリザを、エミリアの魔法が守る。

「戦いたくないなんて言いながら何を…!リザちゃん、どうしたの!?」
「ド、ドロシー…ドロシーなの!?なんで!?」
「ワタシハ、タマシイヲロボットニイショクサレ、アレカラズット、ムリヤリ、ジャジュツシニツカワレテイル」
ドロシーロボを倒した時、彼女は天国へ旅立ったと思っていた。しかし、それは大きな間違いだった。
魂すら弄んでしまう禁忌の術により、ドロシーは死してなお、苦しみ続けていたのだ。

「コロシテ、コロシテ、コロシテ」
「ちょちょちょっと、一体どういうこと?」
「私の…死んだ仲間の魂が……あのロボットに…囚われてる…!」
「……!!そ、そんな!」
迫りくる触手を異名通りの炎で燃やしていたエミリアだが、その言葉を聞いて出力を弱めてしまう。
そして、その隙を見逃すドロシーロボではなかった。

「あ!?きゃああああああ!!」
右足首を触手に捕まれ、逆さ吊りにされるエミリア。一気にトドメを刺すつもりか、右腕をエミリアに向けるドロシーロボ。

「く…!ドロシー…!」
それを見て、困惑していたリザも腹をくくる。両腕をエミリアに向けているうちに、神速で木の上のドロシーロボに肉薄し、ナイフで一気に切り刻む!

「ドロシー…!今度こそ…!グスッ……安心して天国に……行ってね……!」
「ア、ア、ア、コロ、シテ、リ…!ザ…!…………」
ドロシーロボが完全に沈黙したことにより、逆さ吊りにされていたエミリアが解放されて落っこちる。それを素早く受け止めるリザの顔は、苦悶に満ちていた。

「こ、こんな酷いことするなんて…!許せないよ!」
「……今度こそ…今度こそ仇を取る!」
そうやって意気込み2人だが……。

「コロシテ、コロシテ」「タスケテ、タスケテ」「リザ、リザ」「タタカイタクナイ、タタカイタクナイ」

「……!な、そんな、なんで!?」
「ドロシーが…こんなにたくさん!?」


「ふふふ、ドロシーちゃんの魂は、ここに繋ぎ止めてるからね」
暗い洞窟内。視界と聴覚をドロシーロボにリンクさせた邪術のライラは、ホルマリン漬けにされたドロシーの脳を愛おしそうに撫でながら呟く。

「脳とロボは、電話の親機と子機のようなもの……いくらロボを倒しても、脳がある限り、ドロシーちゃんの魂はずーっと私のおもちゃ」
ドロシーロボは一年も前に急ごしらえで作ったロボであり、マイナーチェンジは繰り返しているが王下十輝星相手にするには数の暴力を考慮しても些か力不足だ。しかし、リザの心を痛めつけるのにこれほど適した存在はない。

「早く来て、リザちゃん…おもてなしは、まだまだたーっぷり用意してあるから」


156 : 名無しさん :2017/03/15(水) 02:00:04 ???
「リザ。リザ。リザ。ヨケテカワシテサケテカイヒシテエエエエエエ。」
ドロシーロボの1人が突然ブスブスと不穏な音を立てながら、リザの背後に迫ってゆく。が……
(くそ……!あの時よりも武装が増えてる上に、動きに隙がない……!)
正面から迫り来るロボたちのバルカン砲と触手を捌いているがため、リザは背後を確認することができない。
だが、今は1人ではない。背後にはエミリアがいる。リザはエミリアを信じて、自分の背後はすべて彼女に任せているのだ。
エミリアもそれをわかっているから、戦いながらもリザの背後に危険がないかしっかりと注視していた。

(おっと、クソリザが無様に爆発するところは邪魔させないわよ!)
「リザちゃんあぶな……」
不審な動きでリザに近づくロボに気付き、ありったけの声で叫ぼうとしたエミリアの声は、サキの隷属の刻印によって阻まれた。
「え!?エミリア何か言った!?」
リザは正面からのバルカン砲を跳ね返しながら問いかける。が、返事はない。
「エミリアっ!無事なの!?」
返事がないことを不審に思い、エミリアの無事を確認しようと振り返ったその時だった。

「リザ。リザ。リ、リ、リリリリリリリリリリ。」
「え…?」
リザの目の前にいたのはプスプスと煙を上げながら、同じ言葉を繰り返すドロシーロボ。その尋常ではない様子にリザは直感的に危険を感じた。
(ま、まずいッ!!逃げっ)
「リザアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
焦ったためか、不運による不発だったのか、テレポートはあえなく失敗。
ドロシーロボの絶叫とともに起こった大爆発で、リザの小さな体は思い切り吹き飛ばされた。

「うああああああああぁっ!!!」
悲鳴をあげて吹き飛ぶリザ。その無防備な状態を好機と見たのか、ドロシーロボの触手が空中のリザを素早く拘束した。
「くそっ…!しまった……!」
「アアアアアア。ゴメン、リザ。ゴメンリザアアアアアアッ!!!」
ドゴッドガッバギッ!!!
「あぐっ!うぎゃあああっ!!」
地上に引き摺り下ろしたリザの腹に向けて、ドロシーロボたちのアームが炸裂。
内臓が潰されたような痛みに、たまらずリザは激しい悲鳴を上げた。
「リザ。リザ。コンナコトシタクナイノニ。コンナコトシタクナイノニ!」
そんなことを言いながらも、ドロシーロボは金属の塊を再びメリメリとリザの腹へ食い込ませる。
魔力を練ってテレポートをさせる暇すらリザに与えられることはなかった。
「うぐうおぉっ……!ぁ゛……ぐぁ゛………!」
「イヤアアアアアア!リザ、ナントカシテエエエ!ワタシヲコロシテエエエ!」
言葉とは裏腹に、ロボットはアームを物凄い強い力でリザに押し付けてゆく。
メリメリ…メリメリメリメィ……!
「あ゛、あがが……!おげえ゛え゛え゛っ……!」
メリメリ……という腹に金属の塊がめり込む恐ろしい嫌な音。それによりもたらされるとてつもない痛苦により、声にならない悲鳴をあげるリザ。
もう彼女は白目を剥いて意識を失う寸前で、今もなおガクガクと体を震わせていた。

「エ゛……エ゛ミ゛リア゛ァ゛……!だ……たずげてぇ゛……!」


157 : 名無しさん :2017/03/15(水) 02:53:24 ???
「…ふふふ、量産型ドロシーロボは気に入ってもらえたみたいね…そうだ、クッシーの『実況動画』はどうなったかしら?」
ライラが手元のPCを操作し、とある動画サイトにアクセスすると……
森の中で戦闘するリザとロボットたちの映像が映し出された。
音声として聞こえるのは、金属の唸り声、そして少女の苦しげな悲鳴。

ライラは影の協力者であるサキの下僕…エミリアの感覚を通して、リザ達の状況を手に取るように把握できるのだ。
「やっほーライライ。こっちは順調に再生数伸びてるわよ。『チョーカー』もちゃんと動いてるかしら?」
首に巻いたチョーカーの機能によってリザ達の現在地が画面上に表示され、更には体力、魔力の残量までが数値化されている。
…かつて女時空刑事サラ・クルーエル・アモットが地下闘技場で戦った時のものと同じ技術であるが、
当然ながらリザやエミリアがそれを知る由もない。

[リザ] EN: 71/1000 MP:210/250 BS:瀕死 出血 内臓破裂  死亡回数:0

「あらあら…リザのやつ、早くも死亡寸前って感じね。ちょっと盛り上がりが足りないかしら?」
「大丈夫よ。あのエミリアって子、回復魔法が使えるみたいだし。それに…」

「…リザちゃん危ないっっ!!ロック・ブラスト!!」
エミリアの魔法によって放たれた岩の塊がロボットを弾き飛ばした。
「え……あっ……が、は……」
ようやく腹責めから解放されたリザだが…その場に倒れたまま、すぐには立ち上がることが出来なかった。

「コロ、シテ……」「…リザ」「リザ…」「ワタシヲ…」「…コロシテ」
「周り中からどんどん出てくる…これじゃキリがないよ…!」
「強行、突破する……エミリア、私に掴まって」
「そっ…そんなの、無茶だよ!!」
雲霞のごとく湧き出てくる人造魔物の大群に取り囲まれた二人。
リザはエミリアを抱きかかえ、テレポートで包囲の突破を試みる!が……
内臓破裂の重傷を負った身体で、人ひとりを抱えてのテレポートなど到底不可能。
一方のエミリアも、四方八方から降り注ぐロボットの銃撃や打撃を防ぐのに精いっぱいで、リザを回復させる余裕がない。

「それに…この森全体が、私の作った『結界』ですもの。一度や二度死んだくらいで、簡単に終われないわよ。クックック…」


158 : 名無しさん :2017/03/15(水) 15:03:04 ???
テレポートのために精一杯魔力を練ったものの、さすがのリザも激しい痛みで朦朧としている状態では無理があった。
「ぅげほっ……ぐうぅっ!がはああぁッ!」
唸り声とともにリザの口から大量の血液が吐き出され、地面に大きな血だまりが出来上がった。
「ぁが……ぅぅ゛ぅ゛あ゛ぁ……!」
「リザちゃん無茶しないで!ここは私がなんとかするから、回復できるまで休んでて!」
「ゔげぇっふっ!ぐが……ぐごぼぼ……」
リザは返事をできなかった。というよりエミリアの声すらまともに聴けなかった。
内臓破裂している腹から夥しい量の血が逆流してきて、むせ返るような血の匂いと強烈な嘔吐感でそれどころではないのだ。

金髪美少女の腹パンktkr!
めっちゃ苦しそうwww
いたいのいたいのとんでけー!
魔法使いの子の被虐シーンまだー?
俺もあの子に腹パンしたいおっ
今北産業
美少女 腹パン おええ゛え゛え゛

「クックック…盛り上がってる盛り上がってる。ざまあないわねぇリザ……あんたはライライに惨たらしく殺されて、それからは永遠に邪術師たちのオナネタになるのよ……!クククク……アーハッハッハッハッハッ!」
「クッシー、よっぽどこの子が嫌いなのね。こんなに可愛くてお人形さんみたいな女の子なのに……」
「私的にはそこもムカつく……!ライライ、どう料理してもいいけど、クソリザには生まれてきたことを後悔させるようなとびっきりの拷問を、よろしくね♡」
「もちろんよ。お父様も食べたがってるし、あの子の心臓と子宮も欲しいもの。わたしね、あの子が8歳くらいの時の姿を再現したホムンクルスを作って、たくさん愛でてあげる予定なのよぉ〜♡」
「あ、それできたら1人ちょうだい!ロリリザを奴隷にすれば毎日ストレス解消には困らないわぁ……アーハッハッハッハッハッ!!」


159 : 名無しさん :2017/03/15(水) 23:39:03 ???
「こうなったら…!みんなには止めろって言われてるけど、上級魔法を使うしかない!」
エミリアは生まれつき強い魔力を持って産まれたため、初級呪文は中級呪文級になり、中級呪文は上級呪文級になる。上級呪文に至っては予想がつかない規模になるため、彼女が迂闊に唱える事は固く禁じられていたが、今はそんなことを言っている場合ではない。

「まずは…アースクエイク!」
土の中級魔法で周囲の地面を隆起させ、周囲からの攻撃を防ぐ即席の盾とする。これだけではドロシーロボたちの流動的な触手は防げないが、直線的な弾丸はしばらく防げる。触手が隆起した地面を伝ってこちらを拘束してくる前に、上級魔法の魔力を練り上げる。

「ハァアアアアア!」
(ドラゴ○ボールの引き伸ばし並に時間使って魔力を練りなさい!)
「……ハァアアアアア!」

今まさに上級魔法を放とうとした瞬間、隷属の刻印が発動する。
「ハァアアアアア!」
エミリアが無駄に時間かけて魔力を練っている間に、ドロシーロボの触手は盛り上がった地面を伝ってリザを捕らえようとしていた。
「ハァアアアアア!」
「ご、がひゅ、げぶぉ!あ、あ‟あ‟あ‟、や、め……」
触手がリザの足を捕らえ、逆さ吊りにする。逆さまにされたことで、ただでさえ破裂した内蔵から逆流していた血液がさらに逆流する。
「エ…ミ…」
「ハァアアアアア!」
「たす…け…」
「ハァアアアアアア!!」

「このまま逆さまにしてれば、出血多量で死んじゃうかな?」
「ハァアアアアアァアア!!!」

「頼りになるはずの味方がちんたらやってるせいで少しずつ死が近づいてくる…クソリザにはお似合いね」
「ハァアアアアア!」

「ア、ア、ア!リザガ!リザガシンデイク!シンデシマウ!イヤダァアア!」
「ハァアアアアア!」

[リザ] EN: 43/1000 MP:210/250 BS:瀕死 出血 内臓破裂  死亡回数:0

「機械なら、電気に弱いはず!ライジング・サンダーフォース!」

とうとう放たれたエミリアの上級魔法。はたして、どうなってしまうのか!?


160 : 名無しさん :2017/03/16(木) 15:41:19 ???
エミリアが呪文を唱えた瞬間、周囲は目が開けられないほどの強い光に包まれ、耳が割れるほどの凄まじい轟音が響き渡った!
「アアアアアアアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア!!!」
「ポメラニアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
「アビシニア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
「くぁwせdrftgyふじこlpくぁwせdrftgyふじこlpアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
土壁の外から聞こえてくるドロシーロボたちの断末魔。エミリアの狙い通り、外で超威力の稲妻が走り回っているようだ。
「リ、リザちゃんっ!!」
リザは触手から解放され、うつ伏せに叩きつけられたが、反応はない。
「い、今回復するからね!死なないで、リザちゃん!」
「ぁ……ぅ……」
「うっ……!!ひどい……!」
リザの顔を確認して、エミリアは絶句した。
目は半開きでだらだらと口から血を流している、生気のない真っ青な顔。どう見ても死んでいるように見えるが、僅かにこひゅう、こひゅうと必死に呼吸をしている声が聞こえる。
すれ違えば誰もが振り返るであろう美少女の可愛らしさが、リザの顔から完全に消え失せていた。
「ぁ……ぇみ……りぁあ……!」
消えてしまいそうな切ない声でエミリアの名前を呼ぶリザ。その姿にエミリアは強く心を締め付けられる。
「だ、大丈夫だよリザちゃん……!すぐに治してあげるからね……!」

「嘘でしょ……?こんな規模の魔法を、あんな短い詠唱で……!?」
「け、けけ、結界にちょっとヒビが入っちゃった……!アレはちょっとヤバイかも……」
サキとライラ、端正な2人の少女の顔には、はっきりと焦りの色が浮かんだ。
それもそのはず。エミリアの魔法により期せずして出来上がったもの……それはリザたちを囲う岩壁を中心とした、80メートルほどの大きなクレーターだったのだ……!


161 : 名無しさん :2017/03/18(土) 12:11:53 HtT313vg
「ふぅ…リザちゃん、もう動ける?」
「う……うん。もうダメかと思った……エミリア、ありがとう。」
「お、お礼なんか言わないでいいよ。私の不注意で、リザちゃんがこんな目にあったんだし……」
「不注意……?どういうこと?」

「なんかね、後ろから走ってくる敵がいたからリザちゃんに教えてあげようとしたんだけど、なぜかふっと意識を失っちゃって……気がついたらリザちゃんが吹き飛んでて……」
「……意識を失うって、不注意じゃないと思うけど……どうして気を失ったの?」
「わ、わかんない……でもホントだよ!もしかしたらあのロボットになにかされたのかも……」
「………………」
「リ、リザちゃん……?どうしたの……?」
口元に手を当ててなにか考え事を始めたリザ。その表情から感情が読み取れず、エミリアは困惑した。


(……考えたくはない……考えたくはないけど、エミリアが私を殺す動機は充分にある……あまり信用しすぎるのは危険なのかもしれない……)


「と、とりあえず外に出ようよ!さっき私の魔法で、ロボットたちを倒せたと思うから……」
「……そうね。」
「じゃあ、岩壁を崩しちゃうね!えい!」
ガラガラガラガラ……!
エミリアが岩壁を崩すと、とんでもない光景が2人の視界に広がった。

「こ……これ……エミリアが……?」
先ほどまで見ていた森の光景とはあまりにかけ離れていて、驚きのあまりリザは小さく開いた口を閉じ忘れていた。
「あ、でも今回は結構いい感じだよ!小さい頃はもっと広い範囲で焼け野原にしちゃったことがあるから……」
「……エミリア……やろうと思えば洞窟で私たちを倒すこともできたんじゃない……?」
隕石かミサイルならわかるが、魔法1つでここまで地形を変えるエミリアの魔力は常識の壁を遥かに超えているのだ。
自分とアイナ程度なら、ガラドの洞窟で返り討ちにあっていてもおかしくないとリザは思った。
「今回はうまくいったけど……まだ自分の魔力を完全に制御できてないの。だから、私が上級魔法を使うときは条件があるんだよね……」
「条件……?それは?」
「……あ!ええと……それは……!は、恥ずかしいから言いたくない……!」
「恥ずかしい……?まあ別に、無理に言わなくてもいいけど……」


(うぅう……私が上級魔法を使うのは、大切な人を守る時だけ……なんて、恥ずかしくて言えないよ……)


162 : 名無しさん :2017/03/18(土) 12:57:07 ???
クレーターを降りて森の奥を目指す2人。あまりの衝撃でドロシーロボのいくつかはクレーターの外の森の中にまで吹き飛んでいた。
「…あ、見てリザちゃん。あの子……」
エミリアが指を指した先に、プスプスと煙を上げているドロシーロボがいた。
「リザ……リザ……」
「ドロシー……くっ……」
リザが駆け寄っても動く気配はない。意識はあれど機体を動かすことはできない様子だった。

「ドロシー……必ず仇は取るから。あなたをこんな風にした邪術師を……私は絶対に許さない。」
「リザ……リザガトーメントオウコクヲキラッテルノハシッテル……デモワタシハ、ダレヨリモマジメデ、ダレヨリモヤサシイアナタガ、イマデモスキヨ……」
「ドロシー……私もあなたと友達になれてよかったよ。いつも最前線でみんなを引っ張る貴方は、すごくかっこよくて……私の憧れだった。」
「フフ……ヤサシイコトバヲクレテアリガトウ。アウィナイトノタミノフッコウ……ウマクイクコトヲ、イ、イノッテル……アアアキラメナイデ……ガンバッテ……ネ……リ……ザ……!」
プシュウウウ……
リザにアームをぎゅっと握りしめられながら、ドロシーロボは静かに機能停止した。

「アウィナイトの民……そうか、リザちゃんの目が宝石みたいに青いのは……」
「エミリア……私のことはいいから、今は邪術師を倒してガラドに帰ることだけ考えて。」
「あ……う、うん……」

アウィナイトの民。海の近くに住み、海を母と崇めている少数民族である。
特筆すべきは、一族全員がリザのように青い目と美しい容姿を持っているということだ。そんな一族に目を付ける悪しき者は、決して少なくない。少ないわけがない。
男は殺され目を宝石にされたり、女は金持ちの男の性奴隷にされたりと、アウィナイトの民の歴史を声高に語ることは憚られるほどに悲惨だ。
元々は海の近くにひっそりと住んでいたのが今は、悪しき者の手を逃れるために一族はバラバラになって人目につかないようひっそりと暮らしている。



「いいだろう……もしお前が王下十輝星としてトーメント王国の繁栄に多大なる貢献をすれば、考えてやる……!ヒヒヒヒ!」



リザが王に仕える目的……それはトーメント王国という巨大国家に、アウィナイトの民全員が迫害されないよう、手厚く保護してもらうことだった。


「……行くよ、エミリア。」
ドロシーを悼んで流れている涙をぐいっと拭って、リザは立ち上がった。
(……エミリアをガラドに返したい私が、どうして意思に反してエミリアをここに連れてきているのかもよくわからない。さっきのエミリアが意識を失った話といい……なにか……第三者の悪意を感じるわ。気をつけないと……)


163 : 名無しさん :2017/03/18(土) 15:47:06 ???
クレーターを出て、森の奥へと進むリザとエミリアだったが……小一時間ほど経った頃。
リザは身体に異変を感じ、近くの木にもたれかかった。
「リザちゃん?…どうしたの?」
「…大丈夫。少し、身体が…痺れて……」

………
「…いやー、さっきはビビったわ。まさか記念すべき初死亡を、味方のはずの奴隷ちゃんに持ってかれるとは」
…ライラの結界の中では『魂』がこの世に縛られているため、通常なら死亡する程のダメージを負っても、
普通の回復魔法で蘇生する事が可能だ。…もちろん、肉体が原形を留めていれば、の話であるが。

「リザちゃん、モロに余波を喰らってたからねぇ…しかもあの距離で、『禁呪』級の威力の魔法を…面白い物が見られそうね」
エミリアの持つ規格外の魔力は、彼女の行使する魔法の威力を…いや、魔法の『階級』そのものを引き上げる。
初級魔法は中級魔法へ、そして上級魔法は…『禁呪』級へ。
その恐るべき威力、そしてあまりに忌まわしい「ある特性」によって、
国家間条約で邪術以上に固く使用を禁じられている、呪われた魔法へと昇華するのだ。
………

[リザ] EN:471/1000 MP:210/250 BS:-  死亡回数:1

「リザちゃん?…リザちゃん!しっかりしてっ!!」
「あ、ぐっ………身体、っ…電気が…!!」

『禁呪』をその身に受けた者は、身体だけでなく、魂までも傷つけられてしまうという。
たとえ蘇生されても、禁呪の威力は蘇生した身体にまで及び…苦痛に満ちた『更なる死』を迎えてしまうのだ。

バチッ!! バチバチッ!!
「いぎっ!!あ、…がああああ……ひ、あ"あ"あ"ああぁぁああ!!」
幾本もの稲光が爆ぜ、群れを成す蛇のようにリザの身体に絡みつき、這い回り、そして全身至る所に喰らいつく。
エミリアに心配を掛けまいと、最初は苦痛を堪えていたリザ。だが間もなくあまりの苦痛に声を漏らし始め、
今はまるで魔獣の断末魔のような、あられもない叫び声を上げ続けていた。
エミリアも回復魔法をかけ続けるが、リザの身を貫く電流は更に威力を増していき、やがて……

「え、っ………ひ、あう……っ…ぐ………」
「リザちゃん!!リザちゃん!! 嫌ああ!!死んじゃいやあああ!!!」

「死んじゃ嫌って、もう死んでるから。しかももう6回目w……もしかしてこのままゲームオーバー?」
「うーん…それは大丈夫じゃない?電撃の威力が少しずつ弱まって来てるから。
このまま行けば…あと10回くらいすれば、流石に落ち着くと思うわ」
「なるほど…アイツ、回復魔法も桁外れみたいだからね。…でもこの分なら、二度とさっきみたいな魔法は使って来ないでしょ」

(お父さんとお母さんの言った通り…やっぱり私、上級魔法を使うべきじゃなかったんだ。リザちゃん…本当にごめんなさい…!)
サキの推測通り、この一件でエミリアは上級魔法を使う事への深い恐怖心を持ってしまった。
…だがそれは、あくまで『表の人格』の話である。
サキの奴隷である『裏の人格』は、命令されれば、この恐るべき魔力を嬉々としてリザへと向けるに違いない。

「『実況動画』の方も、今ので視聴数が伸びてきてるし…」
「結界のヒビも、しばらくすれば自動的に修復される」
「状況は何も変わらないわ…もがけばもがくほど、余計な苦痛が増していくだけ」
「そしてリザちゃんは、もうすぐ私のモノになる。…永遠に……」


164 : 名無しさん :2017/03/19(日) 10:47:43 ???
[リザ] EN:1000/1000 MP:210/250 BS:-  死亡回数:15

「リザちゃん…本当に、もう大丈夫…?」
「ええ、問題ないわ……もう、動ける」

…エミリアの回復魔法によって、身体のダメージは完全に回復していた。
だが、禁呪クラスの威力の魔法を受けて何度も死を体験したことによる精神的ダメージは計り知れない。
電撃の後遺症か、それとも別の原因による物か。リザは身体の震えを押さえ、エミリアと共に森の奥へと進んでいく。

「…それならいいけど…何かあったら、いつでも言ってね。…それにしても、気持ち悪い森だなぁ」
…頭上は背の高い樹や縦横に張り巡らされた蔦に覆われ、太陽の光も届かない。
人間にそっくりな形の樹木や、顔のような花、背中に大きな目の模様を持った虫などが、二人の周囲で無数に蠢いて…

「…どうしたの?リザちゃん」
「誰かに……見られてる、ような」
…二人の周囲に人の姿はないはずなのに、なぜか無数の視線に晒されているような不気味さを感じていた。

「みえ」「下着も黒とかw」「俺は評価する」「黒ストがイイ感じに破けて来たな」
「魔法っ子のロンスカの中も見たいです」「僕もみたいです」「僕ももみたいです」
視聴者数:4,385

…サキがセッティングしたこの「動画実況」も、実を言えば邪術による結界の一種である。
視聴者数が増えれば増える程、結界内にいる魔物は力を増していく。

(視聴者もじわじわ増えてきてるけど、もうひと盛り上がり欲しい所ね…
エミリアのアホに、さっきの『お仕置き』しなきゃだし)
(ふふふ……そうね。魔法使いに対抗するには…魔物に改造した『元・魔法少女』なんてどう?)


165 : 名無しさん :2017/03/19(日) 11:06:37 ???
「…待って、エミリア…あれは」
「……新手の魔物かしら。空飛ぶ人魚…いえ、ウミヘビ…?」
リザ達の前に現れたのは、三叉槍を手にした青い髪の少女。…だが、腕や背中には魚の様なヒレが生え、蛇のように長い。
そして…エミリアは、その顔に見覚えがあった。
と言っても面識があったわけではなく、ガラドにいた頃に何度かテレビで見かけた程度だが。
「あれは…アイドルの、有坂真凛…?……でも、どうしてこんな所に…」

エミリアは知らない。…彼女が魔法少女王国ルミナスのスパイであった事を。
リザは知らない。有坂真凛は一度は殺されたが王に無理やり甦らされ、この森へと飛ばされた事。
その後、ライラに囚われた彼女が魔物へと改造された事を。

「…私の歌……聴かせて、あげる……」

そして、もう一人……今も彼女を探している、魔法少女がいる事を。
…その魔法少女が今まさに、この森に入ろうとしている事を…

(あの森……結界のヒビから、ほんの少しだけど……真凛さんの気配が)
彼女の名は市松水鳥…魔法少女アクア・ウィング。

魔法王国ルミナスでの修業時代、水鳥は真凛から水の魔法を教わっていた…いわゆる師弟関係に当たり、
水鳥は真凛の事を実の姉・鏡花と同じくらい慕っていた。

「な、なんかいかにも魔物とか、いっぱいいそう…やっぱりカリンちゃんやフウコちゃんに付いて来てもらえばよかったかな…」
入り口から漂う不気味な雰囲気に気圧される水鳥。
だが真凛の無事を一刻も早く確かめたい気持ちが勝り、意を決して森の中へと歩を進めていく……


166 : 名無しさん :2017/03/19(日) 17:21:22 ???
「う、歌……?まさか君の笑顔!?ここで歌ってくれるの!?」
「……なにそれ?」
「えー!リザちゃん知らないの!?真凛ちゃんのデビュー曲だよ!君の笑顔〜♪それがわたしの心を動かしてる〜♪っていう歌!女の子ならみんな知ってる超超大ヒット曲だよ!」
「……ごめん。わたし音楽はクラシックしか聞かないから、アイドルの歌とかそういうの、よくわからない……」
「く、クラシック……リザちゃん渋いなぁ……」

「あなたたち……とても可愛いわね。あの子たちもきっと喜ぶわ……ンフフフ……!」
「う……ま、真凛ちゃん……?もしかして……」
「……もしかしなくても操られてるでしょ。気をつけて、エミリア。」
2人をねめつけるような怪しい視線で見つめた後、真凛は大きく息を吸った。

「さぁ出ておいで〜♪森の仲間たち〜♪お昼ご飯はまだでしょう〜♪かわいいかわいいお昼ご飯♪ここにいるわよ〜♪」

「わー!ディ◯ニーの世界みたい!真凛ちゃんの声も相変わらずかわいいなぁ……なんかウキウキしてきた!」
「馬鹿……し、下からなにか来るわよ!」
「え!?あっ、やっ!?きゃあああっ!」
リザとエミリアのいた地面から大量に生えてきたもの……それはぬらぬらと光る紫色で、太さは人間の腕ほどのステレオタイプな触手だった。
リザは跳躍して回避したものの、エミリアは体を締め付けられてしまう。
「エミリアッ!!」
「ぐうううッ……あぁッ……!」

触手キターーー!
魔法使いちゃん拘束キターーー!
焦るんじゃない 俺は魔法っ娘のパンツが見たいだけなんだ
金髪ちゃんの服破れたとこ絶対領域できててエロいね
触手になりてえ
服は溶かされるんです?
やめろ服は溶かすな ただ締め上げるだけでいいんだ
↑いや服は解けないとダメだろ
↑は?着衣で苦しむからこそエロいんだろうが
おいやめろ、ここでバトルすんな
視聴者数:6542

「フフフ……男ってやっぱり触手が好きね。視聴者数どんどん上がってるわよライライ。」
「真凛ちゃんは王様がくれた子なんだけど、なんかここに来る前に快楽責めされたみたいでね……私が捕まえる前に触手たちととっても仲良くなってて、いっつもエッチなことばっかりしてるのよ。」
「あの子って元アイドルでしょ?そんな姿を今のファンが見たらどう思うのかしらね〜?」
「それよりどうするクッシー?視聴者数増やしてもっと結界を強くしたいんだけど……」
「そうねぇ。まぁコメント見れば視聴者が何を望んでいるかわかるでしょ……クックック…」


167 : 名無しさん :2017/03/20(月) 00:47:22 ???
「エミリア!今助ける!」
「ルーラララ♪この子たちのー♪邪魔はさせないわー♪」
捕まったエミリアを助けようとするリザだが、そこに真凛が立ちはだかる。

「ルミナスの魔法少女くらいすぐに倒す……!」
「私はー♪もう魔法少女を♪越ーえーたーのー♪」
「くっ!?」
真凛は元々、数多くいる魔法少女の中からスパイ任務に選ばれる程度には優秀であった。そこに邪術の改造も加わり、リザの足止め程度なら造作もない力を手に入れていた。

リザと真凛が戦っている間、当然触手に締め付けられたエミリアはそのままになる。

「くぅ……!あぅ…!」
触手によって腕は羽交い締めにされ、足はひとまとめに巻きつけられたエミリア。徐々に締め付ける力が強くなっていき、思わず声が漏れる。

(は、反撃しないと…!)
触手に攻撃し、拘束を解こうとするエミリアだが……
「んやぁあああああああ!?」
(ま、魔力が吸い取られて……!?)

邪術師の触手には魔力を吸収するには魔力を吸収する力があり、それはドロシーが敗北した一因でもある。そして、かつて魔喰虫によって魔力を吸いつくされた真凛が操る故か、その力はさらに強くなっていた。

「あ……うぅ……ぐ!」
(魔力がなくなる前に、なんとか引き剝がさないと…!)
吸収され尽くす前に魔法を発動させようとするエミリアだが……

(おっと、やらせないわよ。魔力切れまで大人しくしてなさい)
「あ……」
当然の如くサキの刻印が発動し、エミリアは虚ろな瞳で触手にされるがままとなる。


うぉおおおおおお!!
レイプ目いいっすねぇ!
いや、レイプ目もいいけどもうちょっと抵抗頑張れよ(笑)
ロングスカートの身持ち堅そうな娘があられもない姿を晒すと思うと……うっ
エロはもう少し締め付けてからにして欲しいな
↑うむ、甚振り趣向もエロ趣向も両方楽しめるようにして欲しい
視聴者数:7863

(ふふふ……順調順調。エミリアの魔力が切れたら、本格的に『お仕置き』タイム突入ね)
(あら?ねぇクッシー、結界が弱まった一瞬で、別の子が入ってきたよ?まだ小さいけど、多分魔法少女)
(へぇ……まぁロリコン枠の追加ってのも面白いんじゃない?)
(だよね!よーし、リザちゃんの相手には力不足で使う予定なかった魔物が余ってるから、あの子にも差し向けちゃおう!)


168 : 名無しさん :2017/03/20(月) 15:25:22 Wi0VlSOI
「アクアエッジ・テンタクル!」
真凛が魔法を唱えると、触手のような形をした水流が物凄い勢いでリザへと襲いかかる。
「秘術・水禍斬滅!」
水流に向かって走りつつナイフに魔力を流し込むリザ。強化されたナイフを水流に向かって振り抜くと、まるで包丁を入れたかのようにパックリと割れて勢いを失った。
「魔法少女風情が……私に勝てると思うな……!」
「やだぁ〜こわ〜い。さすが王下十輝星ね……ならわたしも本気でいくわよ!」

「あ……ぁ……」
隷属の刻印によりレイプ目のまま魔力を吸い取られていくエミリア。締め付けているわけではないので痛みはないが、魔力と同時にエミリアの体力は奪われていった。
(そろそろ意識が戻っても大丈夫そうね……解!)
「ん……んぅ……?わたし……気を失ってたの……」
「エミリアッ!!必ず助けるから、もう少し我慢して!」
(あ……リザちゃんが戦ってる……!わたしも早く助けてあげなきゃ……!)
とはいえ自分は触手にがんじがらめ。さらにどういうわけか、かなり余裕があったはずの魔力がほとんど残っていない。
(ま、まさか、気を失ってるうちに……全部吸い取られちゃったの……!?そんなぁ……!)

[エミリア] EN:1000/1000 MP:48/20000 BS:-  死亡回数:0


169 : 名無しさん :2017/03/20(月) 16:14:31 ???
「さあ触手ちゃ〜ん♪今日のご飯は青髪ロングコートの女の子よぉ〜♪味わってお食べなさ〜い♪」
エミリアが触手に指示を出すと、ひときわ大きい丸太のような触手がエミリアを見下ろしてきた。
その先端には口のようだが歯はない空洞が開いており、だらだらと唾液を流してエミリアに近づいていく。
「い、いやあああぁっ!!リザちゃん、リザちゃああああぁぁぁぁんッ!」
「エミリアッ!くそっ!」
リザ側はもう少しで真凛にトドメをさせるところだったが、助けを求めるエミリアを放って置くわけにはいかない。
すかさずテレポートでエミリアの側に移動し、太い触手を切り落とそうとするが……
「ああああッ!」
太い触手はワープしたばかりのリザに向かって素早く体当たりをし、何もさせないまま吹き飛ばしてしまった。
「ぐうっ……!ぁ……」
「リ、リザちゃあああん!!」
いつも通りの運の無さにより、リザは後頭部を木に激突させて動かなくなった。
「ルーラララ〜♪放っておけばわたしにトドメをさせたのにね〜♪さあ触手ちゃん!食べていいわよ〜♪」
「ひっ!やめてええっ!いやあああぁっ!」
ガバァッ!!!
真凛の声を聞いた触手は、勢いよくエミリアの頭を口の中に入れた。

グチュグチュ……グモッチュ……ネチャクチャ……
「い、いやあああぁっ!!は……離してっ!ここから出してえええ!!」
グチュネチュモチュゲチュ……グチャグチャ……
「いや、やぁん……うあぁ……!ちょ、待……や……やめてぇ……」
グチュグチュ……モチュ……グチャッ!
「あ、あ、あぁあぁ……!うぁ……お、お願い……もう……離してぇ……」
グチョグチョグチョグチョグッチョグッチョグッチョグッチョ……
「ぅ………ぁ………」

頭だけ取り込んだ状態で、触手はエミリアの体力を吸い取っていく。最初こそ口の中に取り込まれていない腕や足をバタつかせて必死に抵抗したものの、触手の生命吸収能力は凄まじく、時すでに遅し。
口内で顔から体力を吸収され続けたエミリアは、抵抗らしい抵抗もできず次第に動かなくなっていった。

体力吸収やべえええ!
最初はバタバタしてたのに、今は動かなくなっちゃったね
↑この流れ大好き
え、まさかこのまま丸呑み?
いやここの主がそんな簡単に終わらせるわけがない
エミリアちゃんぜったい着痩せするタイプだぜ!俺にはわかる
俺も美少女の体力吸い取りたい
エミリアちゃんのパンツが見えそうで見えない……
この流れでアレだけど金髪の子が可愛すぎて気になって気になってしょうがない
視聴者数:8421


[エミリア] EN:52/1000 MP:48/20000 BS:-  死亡回数:0


「エミリアアァッ!くそっ!今すぐエミリアを離しなさい!」
「そんなこと言われて話すわけないでしょ〜♪サウザンドテンタクルッ!」
なんとか立ち上がったリザに真凛の放った魔法触手が襲いかかる。その数は千本。ふらついている敵に対する圧倒的な数の暴力により、真凛は勝利を確信した……が。
「……千刃乱舞ッ!!!」
素早く反応したリザは、素晴らしい反射神経と斬撃により全て切り落とすことに成功した。
「なっ!?この術をナイフ一本で……!?そ、そそそんな……」
「……あなたは私を怒らせた。エミリアを今すぐ解放しないなら……この世に生まれたことを後悔させてあげる……!」


170 : 名無しさん :2017/03/20(月) 22:26:38 ???
「この世に生まれたことを後悔……?」
突然。それまでのミュージカル染みたふざけた口調を止めて、真凛が呟く。彼女の脳裏には、スパイであることがバレて陵辱の限りを尽くされたこと。自分が盾にされたせいでリムリットが敗北したこと。この森に飛ばされて触手に襲われるうち、快楽しか考えられなくなったことが浮かぶ。

「そんなもの……もうとっくにしてる!サウザンドテンタクル!」
「何度やっても無駄……千刃乱舞ッ!!」
再び無数の触手がリザを襲うが、同じようにリザに切り刻まれる。
「はぁああああ!」
それは想定内とばかりに、真凛は三叉槍を持つ手に力を込め、相手が大技を放った隙を突こうとリザへと突進する。

「無駄!」
だが、リザのナイフから放たれた弾丸により、真凛は突進を止めて防御せざるを得なくなった。隙を突こうとして、逆に隙を作らされた。
「いい加減終わりにする…!」
「くぅ……!」
ナイフを煌かせながら迫りくるリザを見て、最早ここまでかと諦めかける真凛だが……

「スプラッシュ・アロー!」
突如横合いから飛んできた水の矢により、リザは大きく体制を崩す。
「がはっ!?」
「真凛さん!今です!」
魔法を放ってきたのは、真凛を探して森に入ってきた市松水鳥であった。

エスカ……光により、ルミナスにおいて王下十輝星の情報は以前とは比べ物にならないほど増えた。スピカのリザと思しき少女と、少し魔物っぽくなってるとはいえ尊敬する師匠が戦っている。
その状況で水鳥が後者を援護するのは必然であった。毎度のことながらリザも運のない。

「ウォーター・トライデントォオオオオ!!!」
「ぐ……!ぁああああああああ!!!!」
水の魔力を込めた三叉槍が、リザの身体を貫いた。


「やりましたね!真凛さん!」
「ぐ…!あ…!」
「水鳥ちゃん…わざわざ来てくれたんだね?」
「はい!真凛さんが心配で」
「本当にありがとう……この子たちのご飯になりに来てくれて」
「……え?」
地面から現れた触手が、水鳥を捕らえる。

「ま、真凛さん!?なにを…」
「安心して?最初はちょっと痛くて気持悪いかもしれないけど…すぐに気持ち良くなれるから」


「いやぁ、上手い具合に足を引っ張ってくれたねライライ」
「うん、あの子がリザちゃんたちの所に行くように調整しながら魔物を放った甲斐があったよ」
「エミリアには吸収メインだったから…あのガキにはエッロい目に遭ってもらおうかしら」
「今からどれだけ視聴者数が伸びるか楽しみだねクッシー!」


171 : 名無しさん :2017/03/20(月) 23:33:34 ???
「や〜れやれ。バカなガキのお陰で助かったわ…♪」
変身を解除し、海ヘビ女から人間の…アイドル少女の姿に戻った真凛。
倒れたリザに近づくと、腹部に突き刺さった三叉槍に足をかけ、ぐりぐりと踏みにじる。
「っ、ぐ……あぁぁぁっ…!」
突き刺さった槍を引き抜こうと、必死でもがくリザだが…
真凛の力はサキの結界によって大幅に強化され、槍はピクリとも動かない。

[リザ] EN:474/1000 MP:160/250 BS:出血  死亡回数:15

「うふふふ…イイのかしら?私の槍を素手で掴むなんて。これは魔法少女のアイテム。ただの槍じゃないのよ…」
(…!?…まさか、毒か何かが…)

「なんと♪柄がマイクスタンドになってるんでーす!」
「えっ」
「モニターの前のみんなや、触手さん達にもーっと元気になってもらうために…今日はなんと!新曲披露しちゃいます!」
「モニター?新曲?…一体何を言って……っあっぐっ!!」

スタンド付きマイクに変形した真凛の槍。
その刃はリザの腹部に突き立てられ、真凛が体重をかける度に抉る様な激痛が走る。

「私の超極上爆音ヴォイスの振動を、このマイクを通して全身に浴びれば…軽く5〜6回は天国にイけちゃうわよ♪
生まれてきて良かった…って思いながら、イキまくらせてあげる♪」

「きたーーー」「真凛ちゃんのライブだー!」「宴が始まる…!」
「記念パピコ」「記念グリコ」「まとめに取り上げられたようです」
「おいそれより小学生を」「ていうか巨乳魔法っ子の丸呑みはよ」
視聴者数:64921

周囲に漂う禍々しい瘴気が何倍にも膨れ上がり、触手の群れは怪しく発光しながら揺れ始める。そして…

「…有坂真凛、ふっ!かつ!でんげきライブっ…スタート♪」
「……!!!…」
マイクから放たれる爆音が衝撃波となって、リザの体内を貫いた。


172 : 名無しさん :2017/03/21(火) 15:12:30 ???
「さあまずは一曲目!「女の子だって虐めたい!」ミュージック、カモーン!」
真凛の合図に合わせて、辺りにゴキゲンなイントロがシャカシャカと鳴りはじめた。それに合わせて触手たちも発行しながらフリフリと体を動かし、ライブの雰囲気と一体化していく。

「好きな人って〜〜♪い〜じ〜め〜たくなる〜♪それは女の子だってそう♪君のこと〜ちょっと♪ちょっと♪い〜じめてみたいの〜♪」

ドゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
「あぐっ……!?ぐああああ゛あ゛あ゛ぁっ!!!!!」
真凛の歌に合わせてリザの体に衝撃が走る。リザは真凛が歌うたびに、びくんっびくんっ!と腰を跳ねさせた。
「ね〜え〜♪今日だけいいでしょ〜♪今日だけ♪あなたは♪わたしの〜サンドバック〜♪」
「がはっ……!!ごぼがっ!!!」
真凛がサビを歌い上げたところで、リザの口から真っ赤な血の塊が吐き出された。
「みんな〜!!!今日は真凛のライブを見てくれてありがとう〜〜!!お礼に……この金髪美少女をボロボロボロ雑巾にするとこ、見せてあげるね〜〜!」
ドゴゴゴゴゴゴッ!!!!
「ぐごぼっ!げっほっ!」
「ど〜う?王下十輝星のリザ……みんなが見てる前でズタボロにされちゃう気分は?このままイかせて……あ、間違った。逝かせてあげるね♪」
「ぐうっ……く……そ……!」
「すぅー……みんなーーー!!!真凛はみんなのアイドルだよーーーー!!!みんなのこと、だぁいすきだよーーー!!!」
「ひ、ひぐっ!あ、あ、あ゛ぁっ!んうううあああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」
真凛の歌とリザの悲鳴。その2つの音が奏でる奇妙なハーモニーに視聴者たちの興奮は最高潮に達した。

あぁあ゛〜〜心がリョナリョナするんじゃあ〜〜
まっりまりにしてやんよ
金髪の子リザちゃんっていうんだ。かわえかわえ…
悪堕ち真凛ちゃんの新曲サイコー!
むしろ真凛ちゃんをボコボコにしたい
きょぬーの女の子今どうなってるか映してえぇ
てか金髪の子てあのアフェナイトじゃね?初めて見たわ
↑リザちゃんと同レベルのおにゃのこ2人奴隷にして飼ってます
↑アフェナイトの子ってどこに行けば買えるの?
↑コネないと無理
視聴者数:71458

「みんな〜!最後まで聞いてくれてありがとう〜!これからも有坂真凛をよろしくね〜!」
「こ、こんなの信じられない……!いくら相手が王下十輝星だからって、こんな残酷なこと……真凛さん!正気に戻ってくださいっ!」
「フフフ……嫌よ。もうルミナスのことは忘れたの。この邪術の力とかわいい触手ちゃんたちがいれば、私はそれだけで幸せなの……」
「ま、真凛さん……!」
「でも安心して?あなたもすぐにこの子たちの虜にしてあげるから……」


173 : 名無しさん :2017/03/21(火) 15:36:02 ???
「でもその前に……クスッ。ちょっと虐めちゃおっかな〜」
ぐったりと仰向けで天を仰いでいるリザの顔に、真凛は靴をグリグリと押し付けた。
「あはははっ!ねえねえ、この世に生まれたことを後悔させてくれるんじゃなかったの!?ねえ、ねえっ!?」
「あぐっ……!ぐあ……」
「いやいや……あぐ、ぐあ、じゃなくてさぁ、さっきの発言はなんだったのって聞いてるのよ。この……ううん……顔に欠点がない……!」
リザの顔を馬鹿にしてやろうと思ったが、アフェナイトの一族の中でもトップクラスのリザの容姿を馬鹿にする箇所が見つからなかった。
「まぁ口だけ女ってことね。なんにせよ魔法使いの子も倒したし、残念だけどあなたちはここでゲームオーバーよ。ウプププ……ライラ様に会う前にやられちゃうなんてね〜」
「う……うるさい……私はまだ……負けてないっ……!」
痛みで朦朧とする中、リザはなんとかテレポートで靴の下から脱出した。

「はぁ……はぁ……」
「ふぅん……さすが王下十輝星。腹に穴が空いてるのにゴキブリ並みの生命力ね。」
「か……勝った気でいるようだけど……ぐげえっふ!……はぁ、はぁ、私は……うっぷ……!!がはっ!」
「ウプププ……!べちょべちょ血吐きながら虚勢を張るなんて、大したものだわ。そんなに死にたいなら……私自ら殺してあげる!」
リザに向けて走り出す真凛。その手には先ほど使ったウォータートライデントが握られている。
おそらくもう一度刺されたら、リザは絶命し今度こそ膝をつくことになるだろう。彼女が狙うのはただ1つ……余裕綽々で向かってくる真凛への、強烈なカウンダーだ。
出血多量の中分泌された大量のアドレナリンをフル回転させて、リザは目を閉じた。

「秘奥義……無影無踪……!」


174 : 名無しさん :2017/03/22(水) 00:19:10 ???
と唱えてるリザの様子がおかしい。
ギュルルルルゥ…
「ま、まずい!こ、このままでは……うッ!(ブリッ)………
うわあぁあああ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛
ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッッ!!!!!」

ダップウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥンンン゛ン゛ン゛ッッッッッッ!!
(ガスッ……ガスッ…ガスッ…)



リザは壮大に脱糞した


175 : 名無しさん :2017/03/22(水) 00:40:03 ???
真凛「……ぐぎゃあああwらdrふぇありおじょいhぐいrhたおいあ!」
真凛は余りの衝撃的光景に狂った。無理もない。
あの未発達の幼さ残るリザの体にこんな黄金が詰まっていたのだから。
未消化のコーン、グレープフルーツがふんだんに塗せられて、
蜘蛛の巣のように絡みついたエノキ、
唐辛子たっぷりのラーメンを喰らい続けたと一目でわかる紅の実
少女とは思えぬ食生活だ

「おげえええ゛え゛え゛゛え゛゛エェェェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛」
真凛はたまらず嘔吐した
「おげえ゛え゛゛え゛゛エェェェゲベゲベべべべべェ゛ェ゛」
彼女もまた幼い体のどこに含まれていたんだと言わんばかり嘔吐だ
「ゲベべべべべェ゛ェ゛え゛゛エェェェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ッッッッッ!!」
違う!これはゲロじゃない!真っ赤に染まってる…
臓腑だ!真凛はまるでものを詰まらせたカエルのように、胃ごと嘔吐している!
「ぐべええぇぇ”””ぇぇ””ええええええェ゛ェ゛ェdsfふいさほいあわwfdgy」
肺だ!小腸だ!肝臓だ!大腸だああああああ!!

ドバアアアアアアアアアアアアアア!

真凛ha
口から臓腑を吐き出しきると、それでもなお吐き足らんと消化液の一滴も搾り取って噴出させんとしていた
しかし、それも叶わぬ内に、直腸と思われる肉塊が口からボトッ!と落ちると同時に崩れ、事切れた


176 : 名無しさん :2017/03/22(水) 00:52:17 ???
無影無踪……相手が近づいてきた所を、一瞬かつ最小限の動きで急所を穿つリザのカウンター技である。
リザ本人はほとんど動かない故、影もない。余程の手練れでなければ見逃してしまう程の早業故、踪跡もない。
派手さはないが暗殺者にそんなもの本来必要ない。相手は気付いたら……否、気づかぬうちに死を迎える、恐ろしい技である。

「え?」
余裕綽々で近づいて、ウォーター・トライデントを振りかぶった瞬間、自分から血が噴き出たのを見て、真凛は今さらながら実感する。
様々な要因が重なって圧倒していたものの、元々自分の実力はリザより下だったということを―――

武器を振りかぶった姿勢のまま、真凛は後ろに崩れ落ちる。
「あ、あ……」
「……本当は即死させる技なんだけど……流石にこの傷じゃ、狙いも甘くなる……か」
「死にたく……な……」
急所は僅かに外れた故即死は免れたものの、それは一瞬で楽になることができなかったというのと同義である。トドメを刺そうと重傷の身体に鞭打ってナイフを構えるリザ。

「や、止めて!真凛さんを殺さないで!」
しかしそこに、触手に絡まれたままの水鳥が声をあげる。
「貴女…自分が何をされそうになったか分かってるの…?」
「う、それは、そうだけど…!でも、真凛さんは操られてるだけなんです!ほんとは、優しい人なんです!」
「……」

情にほだされたわけではない。しかし、水鳥の必死の懇願を聞いて、リザは真凛にトドメを刺すよりも、エミリアの元に駆けつけるのを優先した。


177 : 名無しさん :2017/03/22(水) 01:39:45 ???
おいルール守れよ

↓リザはウンコ噴いて、真凛は臓腑ゲロ死からだぞ


178 : 名無しさん :2017/03/22(水) 01:50:13 ???
リザ「くっせええええええええええええええええええ!!」
リザのウンコはリザ自身が悶絶するほど臭かった。
無理もない、リザは四十四夜の便秘に悩まされていたのだ。
ウンコは大腸の中で爆発的発酵を繰り返し、
その匂いはヨーグルトを数億倍に濃縮したような甘みを帯びつつも、発行した月日を発散させるような
鼻をつんざき、鼻孔の嗅覚神経と血管にダイレクトで針を刺すような刺激臭をまとわせていた。
リザの鼻は強酸性の神経ガスよろしくな、世間的に屁と呼ばれる大便からの発酵ガスを吸い込み
あれよあれよと変色、ドバドバと鼻汁を噴き出した。


179 : 名無しさん :2017/03/22(水) 01:53:32 ???
「エミリアッ……!このっ……!」
拘束していた触手を切り落とし、エミリアの体をゆっくりと地面に下ろした。
「み……見てたよ、リザちゃん……やっぱりリザちゃんは、強いね……」
ぐったりとした表情だが、言葉はしっかりしている。エミリアの命に別状はないようだった。
むしろ、別状があるのは……

「ぐぐうっ……ぐぁ……!」
リザは呻きながらうつ伏せに地面に倒れこんだ。その後すぐに血を吐いたようで、顔のあたりの地面から赤い血がゆっくりと広がってゆく。
「リ、リザちゃんっ……し、しっかりしてぇっ、くぅ……」
重症の体を酷使してなんとか敵を倒したはいいが、リザの体はすでに限界だった。
口から血を流しながら、息も絶え絶えになんとか呼吸をしている状態だ。今すぐ死んでしまってもおかしくない。
「く……だめ……触手に吸い取られて……魔力が……!」
自分の力だけで重症のリザを治すのは不可能と判断したエミリアは、拘束されている水鳥に目をつけた。

「あなたは……爆炎のスカーレット!?なんで王下十輝星と一緒にいるの!?」
「そ、そんな話は後……!お願い。あなたの魔力を私に分けて。私があなたの魔力を使えば、リザちゃんを助けられるの!」
先ほどリザに自分がしたように、必死に懇願するエミリア。だがいくら気弱な水鳥でもおいそれと首を縦に降ることはできなかった。
「私のお姉ちゃんは……こいつらの仲間に操られて生きているのか死んでいるのかもわからない。そもそも悪逆非道の王下十輝星を助けるなんて……!」
「そ、そんなことが……!で、でも、あなただって今はリザちゃんに助けられたも同然でしょ?」
「くっ……それは……」
「……それに、ここは邪術師ライラの森。ライラを倒さないと、あなたもここから出られないのよ。そしてそのライラを倒すには、絶対にリザちゃんの力が必要になる……!私やあなたよりもリザちゃんは、ずっとずっと強いから。」
これはエミリアのハッタリだった。まあ本当にライラが結界を張っているので出られないことは出られないのだが、エミリアはそのことを知らないのだ。
「真凛ちゃんと一緒に帰りたいなら……リザちゃんの治療に協力して。」
「う……わ、わかりました……」

真凛ちゃん……
真凛ちゃんちょづいたせいであっさり負けちゃったやんw
ロリコンの方達かわいそう せっかく小学生が触手責めされるとこだったのに
まあこの後主がやってくれるっしょ
金髪ちゃん死なないでくれよな〜頼むよ〜
真凛ちゃんリョナシーンきた!?
まだわからん
視聴者数:69472

「あらら……やっぱり真凛ちゃんじゃ駄目かぁ〜」
「まあクソリザも死なないようにしてるから、絶対助かるんだけどね〜」
「さて、そろそろリザちゃんを迎える準備をするから、電話切るね。クッシー」
「うん。クソリザに生まれてきたことを後悔させてあげてね!」
「ねえ、それリザちゃんの決め台詞でしょ?」
「そうよ。クソリザのこのセリフだけは気に入ってるのよね……フフフフ……」


180 : 名無しさん :2017/03/23(木) 00:49:34 ???
悪臭に悶絶中のリザに魔の通知が来た。

ギュルルルルル…
……第二波だ

しかし、今度のリゼは違った。
その場にかがむとスカートをたくし上げた

そう、こんどは脱糞ではなく、能動的に解き放たんとしているのだ。
真凛が絶命した今、もう誰の視線も気にする必要もない。
恥じらいなど一切必要なかった。

リザ「ぐぅ!ぬぅらああ゛あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
大地を割かんとする猛々しい力みっぷり、
その咆哮はさながら大将軍が鳴らす開戦の檄。

肛門が開いてく、唐辛子交じりのゲリがこびり付いた尻にガイアの大穴が開かんとする。
その奥からは灼熱紅蓮のマグマウンコが大地の怒りと言わんばかりのエネルギーをいまかいまかと爆発させんとしていた。
その予兆か、熱を帯びた可燃性のガスがプシュープシュー!と湧き出る。
内部からの圧力に耐えかねた肛門がピキピキと痔を予感させる亀裂が走る音を出す。
大噴火は必至だ!


181 : 名無しさん :2017/03/23(木) 00:59:30 ???
説得に渋々応じた水鳥は、エミリアに魔力を分け与えようとするが…その時。

「だめよっ…水鳥ちゃん…そいつらに騙されちゃ……うぐっ…!!」
「…真凛さん…!?」
急所を貫かれ、血まみれになった真凛が必死の形相で叫んだ。

(…まさか、さっきの一撃で正気に…?……いえ、あのライラに改造されて、そう簡単に戻れるはずが…)
元…いや、現役アイドルの演技力は凄まじく、今まで敵対していたリザやエミリアですら一瞬騙されかけた。

「そいつらから…離れてっ…私は、そいつらのせいで魔物に改造されたのよ…!!」
「!!……」
真凛は王の手でこの森に送られたので、ある意味間違ってはいないが…
水鳥の心は再び揺れ始め、リザ達から数歩の距離で動きが止まった。

(ヒヒヒ…本当、ガキは騙しやすくて助かるわ。アイツらを始末させたら、魔力を根こそぎ奪ってあげる…!)
「王下十輝星『スピカ』のリザと、その手先、爆炎のスカーレット…
 今なら、そいつらを倒せる…あなたの武器なら、その距離でも狙えるはずよ」

水鳥が両手を前にかざして小さく呪文を唱えると、水色の長弓が現れた。
魔弓『エンジェルズ・ティアー』…そこから放たれる魔力の矢は、百発百中の精度を誇る。

「そんなっ…!」
愕然とするエミリア。それをかばうように、前に出るリザだが…脚はふらつき、視界もぼやけ始めていた。
(身体が、重い…せめて、エミリアだけ…でも……)

「迷ったときは目を閉じて…心の声を聞いてみて…♪」
(……?…あの子…歌ってる……)

「たとえ道を間違えても まあいいやって笑えるように…♪」
(…………)

リザは意識を失って、ゆっくりとその場に崩れ落ちる。エミリアの悲鳴が響き、そして…
水鳥の放った魔力が、リザに向けて一直線に飛んだ。


182 : 名無しさん :2017/03/23(木) 01:54:46 ???
[リザ] EN:1000/1000 MP:160/250 BS:なし  死亡回数:16

「…リザ、ちゃん…?」
「傷が…治ってる…!?」

「水鳥…これは一体、どういう事……?」
「『ヒールウォーター』…癒しの魔力を…矢に乗せたの」
「んな事訊いてるんじゃないわよッ!!…アイツらを助けるなんて、頭イかれてんのかこのクソガキがぁっ!!」

「…私の知ってる真凛さんなら、きっとそうしたはずだから。でも…もう、いなくなっちゃったんだね」
激昂する真凛に、水鳥は振り向いて悲しげな笑みを浮かべた。

「ふざけんなっ…こうなったらお前の魔力、根こそぎ喰らってやるわよっ!!ブラッドテンタクルッ!!」
真凛の全身から流れる血が無数の触手と化し、水鳥に向けて殺到する。
水鳥は赤い濁流を舞うようにかわして跳ぶ。…その背中には、淡く光る水の翼が揺れていた。

「くっそ…ハエみたいにチョコマカとッ!」
空中に舞う水鳥に血の触手の群れが襲い掛かるが、透明な水の魔力壁がまとめて弾き飛ばした。

(私は…お姉ちゃんが、大好きだった。真凛さんに憧れてた…でも、今は…)
「あの王様が…この世界が……私から、何もかも奪うというなら…」

「私は戦う…戦って…みんなを、守り抜く!!…いっけええ!!…『ファインブリンガー』!!」
水鳥の魔力が急速に高まっていく。水の翼が光を纏い、大きく引き絞られた長弓から青い光の矢が放たれる。

「ぐぁ…や、やだ…ま、だ…死にたく、な…あぁあ"あ"あ"ああっ!!!」
矢は風を切り裂きながら飛び、真凛の身体を貫く。
そして立ち上る魔力の余波は、周辺の邪気や触手をも浄化していき…
上空を覆っていた雲をも貫いて、ほんの少しの晴れ間を覗かせた。


183 : 名無しさん :2017/03/23(木) 02:08:24 ???
「くぅらええええええ!無影無踪オオオオオオオオゥゥゥッ!!」
ダップウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンンン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ッッッッッッ!!

リザの謎に包まれていた超必殺技、『無影無踪』が炸裂した。

その正体はリザの大腸で核融合的発酵を数カ月分間繰り返した便秘ウンコを一気に解き放つ技だったのだ!

ウンコの内部では大腸菌と乳酸菌、善玉菌と悪玉菌の壮絶な死闘によって起こった化学反応によって
超高層増殖炉の核反応に匹敵する熱量を放ち、
まさしくマントル、いや太陽炉と形容すべきほどの超エネルギーが生成されていた。

その超高密度ウンコはリゼの渾身の力み・直腸運動によって
ハドロン粒子砲をしのぐ亜光速の加速され、
肛門から一気に発射された!

大地を貫き・地殻を叩き割り、地球の中心まで到達するまで0.000001秒とかからなかった。
そしてウンコが地球の核と接触した、次の瞬間、地球は大爆発を起こした!


184 : 名無しさん :2017/03/23(木) 09:18:43 ???
「王下十輝星のリザ……あなたに助けてもらった借りは返しました。これで、あなたとはまた対等の敵同士です。」
「……私たちのことは、エスカがベラベラと喋ってるんでしょ?」
「…エスカではありません。光は絵がとても上手で、あなたたち王下十輝星全員の情報と容姿を提供してくれました。……模写がここまで似ているとは思いませんでしたが。」
「はぁ……エスカはルミナスに帰ってやりたい放題やってるというわけね。」
「だから……!エスカではありません!光です!」
「ち、ちょっと2人とも……!喧嘩はしないでね……!」
真凛を倒し一致団結……とはならない。トーメント王国とルミナス王国の遺恨は長年続いているため、無理もないことだった。

(それにしても……光の足を切り落として拘束したスピカのリザが……本当にお姉ちゃんと同じ歳くらいの女の子だったなんて……)
「……で、魔法少女はこれからどうするの?」
「……市松と呼んでください。とりあえず、ライラを倒せば真凛さんも元に戻るかもしれません。この森から出るためにも……不本意ですが、あなた達と共同戦線を張りたいと思います。」
「わぁ、水鳥ちゃんありがとう!すごく心強いよ!」
「し、下の名前で呼ばないでください……!」

新たな仲間、市松水鳥…魔法少女アクア・ウィングも加入し、さらに森の奥へと進む3人。
この森の最深部である洞窟で待ち構えるのは、黒いローブを纏った邪術のライラである。

「あんっ!あ、暴れないでお父様……!もうすぐかわいい女の子が3人もここに来てくれるんだから。しかも、そのうちの1人はこの世で1番美しい人種と言われるアフェナイト……クスクス、楽しみでしょう?お父様……!」
腹部に宿る父親の顔に細指を這わせて、紫眼の少女はニヤリと笑った。


185 : 名無しさん :2017/03/23(木) 18:27:50 ???
「ひとまずはこれでよし……と。」
有坂真凛は水鳥の魔術「リストリクション」によって立木に拘束された。
長い詠唱と触媒を必要とするが、対象者を魔力が使えない状態で長時間拘束できる便利な魔法である。
「ねえ水鳥ちゃん…アイドルの真凛ちゃんがどうしてこんな森にいるのかな?」
「い、市松と呼んでくださいっ……真凛さんがここにいるのも、全部トーメント王国のせいです!あの王様が真凛さんをこんなところに飛ばしたから、ライラとやらに操られたんですよ……!」
精一杯の強い口調で言いながら、水鳥はリザをキッと睨みつける。その視線を浴びたリザはバツが悪そうに目を逸らした。
「それに、爆炎のスカーレットと呼ばれるエミリアさんは、どうして王下十輝星と一緒にいるんですか……?」
「あ、私は別にトーメント王国に味方してるわけじゃないよ!ただ、リザちゃんの役に立ちたいからここにいるだけ。ライラを倒したら、リザちゃんがわたしを故郷に返してくれるの!」
「え……?それって……」
「エミリア……余計なことをベラベラと喋らないで。お互いの事情なんてどうでもいい。今の私たちは、何が何でもライラを倒す……それだけを考えていればいいの。」


3人がライラを倒すという目的に集中した頃、洞窟の最深部ではライラが儀式の準備をしていた。
魔法陣の中には人間の遺体が2人。その周りには邪術の触媒である怪しい草や小さな粉が大量に積まれている。
「さ〜て!3対1ではさすがの私もフルボッコにされて泣いちゃうかもしれないから、心強い味方を作らないとね……!」
ライラが今まさに実行しようとしている邪術……それは邪術の中でも最高難度を誇る、「人体錬成」である。
「150年前に拳聖と呼ばれた、スピカの「ワルトゥ」と……ルミナスの英雄と呼ばれた「カナン」……この2人の髪の毛と体液を使って、私が霊界から2人を呼び寄せちゃうよ〜!」
日課である邪術配信の真っ最中でテンションの高いライラ。触媒の準備を終えると、両の手を勢いよく合わせてから地面に手をつけた。
途端に、魔法陣の中に暗闇が立ち込め禍々しい力が溢れ始める……!


186 : 名無しさん :2017/03/23(木) 19:20:49 ???
「んあぁ……なんだぁ、なんだぁ!?どこだここはぁっ!?薄暗ぇぞぉっ!」
「げっほ!げっほっ!……その声は、ワルトゥ!?どうしてあなたと私が……!」
闇の力が立ち込める魔法陣の中で、野太い男の声と落ち着いた女性の声が響いた。
やがてその霧が晴れると、ライラの持ってきた電灯で2人の姿が露わになる。

「現世へお帰りなさい。過去の英雄さん。今回あなた達を使役させていただく、邪術のライラと申します。」
「呼び出したのはテメェか……先に言っとくが、俺は隙を見つけたらすぐに逃げ出してやるからな!」
元スピカのワルトゥ。現スピカのリザとは対照的に、30代後半と思われる大柄で無骨な印象の偉丈夫である。
格闘家らしい腹筋を露出した服装で、その腹筋にはいくつもの刀傷が付いており、彼の長年の戦闘経験を物語っている。
倒木のような腕から繰り出されるパンチの威力は計り知れない。

「もう……!邪術はどこの国でも禁じられてるはずでしょ!?どうしてこんなことするの!」
夕陽のような色の長髪をした、20代後半と思われるルミナスの英雄カナン・サンセット。またの名を魔法少女・トワイライトディザイア。
ワルトゥと同じ時代にルミナスの少女兵士として活躍し、当時の王下十輝星を5人も倒した英雄の中の英雄である。
今は変身前の姿のため、オレンジ色のコートに身を包んだ年相応の格好だった。

「クスクス……安心してくださいな。用事が済んだら2人とも土に還っていただきますから。」
「ケッ、胸糞悪い術だぜ。俺らのことを道具扱いじゃねえか……」
「そ、そもそもどうして私をワルトゥと一緒に召喚したのよ……!こんな不細工で下品で頭の悪い下衆男と……!」
「お、おい、ちょっと言い過ぎじゃねえか!?これから少しの間一緒に戦うんだから、あの頃のことは忘れて俺と仲良くしてみても……いいんじゃねえか?」
「な、何を言ってるの!?誰が貴方みたいな汚らしい男と!冗談もほどほどになさいっ!」
「チッ、ホントにつくづく可愛くねえ女だぜ……!」

「さて、貴方達に倒してもらいたいターゲットですが……」
これからこの場所に来るリザ、エミリア、水鳥の3人の能力について、ライラはわかりやすく説明した。
「おもしれえ……今のスピカがどれほどの能力者か、確かめてやるいい機会だ。腰抜けタマナシ野郎だったら容赦しねえぞ!」
「貴方、説明聞いてなかったの?今のスピカは女の子なんだから、タマ……なんでもないわ。」
「女ァ!?そいつはいい。俺は男を殴るよりも女を殴る方が大好きだからな!ガハハハハハハハ!」
「はぁ……やっぱり下衆男ね……」

「それと……私の術が正しく当時の貴方達を再現できているかはわかりませんので、うまく体が動かなくても御愛嬌ということで。」
「はっ、別にお前に勝たせてやる義理もねえよ。術の力で勝手に戦っちまうだけなんだからな。……まあ相手が女なら、多少乗り気になっちまうかもしんねえが……!」
「ホント、嫌な術……生きてる頃に邪術の根を摘み取っておけばよかったわ……」
「それと、ターゲットの3人は殺さず戦闘不能にするようにお願いしますね。後で色々と使うので……クスクス……!」

蘇った拳聖とトワイライトディザイア。果たしてリザたちは生きてここから出ることができるのか。
その結末を隠すかのように、森には夜の帳が下りていった。


187 : 名無しさん :2017/03/24(金) 01:08:20 ???
「キシャアアアアア!」「キシャアアアアア!」「キシャアアアアア!」

「ま、またすごいのがいるね」
「あれだけ厳重に守ってるということは……」
「邪術のライラのいる洞窟は、あそこで間違いなさそうですね」
森の奥地へと進んだ3人が見たのは、頭はクワガタ、両手はカマキリ、尻尾はサソリ……かつてドロシーが苦戦し、ライラに敗北した直接の原因を作った魔物であった。しかも、今回は3匹もいる。

「中々手強そうね…私が先行してまず1匹仕留めるから、2人は援護を」
「うーん、ここは私が不意打ちで魔法使った方がいいんじゃないかな。それで注意がこっちに向いた隙に、リザちゃんがテレポートで後ろから……っていうのは」
「くっ……王下十輝星の指図を受けるなんて……ここは、即席の連携をするくらいなら1人1匹ずつバラバラに戦うべきです!」
などと作戦会議をしていた3人だが……

「うおぉおおおおおおりゃああああああ!!!」

突如洞窟から現れた筋骨隆々の男が、門番の魔物を3匹まとめてふっ飛ばした!

「がーっはっはっはー!どうした小童共!この程度の魔物相手にチンタラ作戦会議とは、随分と情けない奴らだぜ!」
いきなりの展開に、呆然とするする3人。そこに、辛うじて息が残っていた門番の1匹がゆっくりと尻尾を男へと向ける……

「まったく、そういう貴方はもう少し慎重になったらどうかしら」
しかし、これまた突然現れた女性の手により、生き残った魔物もあっさりと排除された。

「おう、悪いなカナン!」
「気安く呼ばないで。そもそも、何を考えて今回は味方のはずの魔物に攻撃したのよ」
「なぁに、連中がチンタラ作戦会議してるの見てつい我慢できなくなってな。それに、示威行為にはなったぞ?あ、示威って言っても自慰じゃない方だからな!」
「さいってー……まぁ、初手でビビらせるってのは確かに悪手ではないけど……」

「ええと……どちら様ですか?」
呆然としている3人を代表して、エミリアが問う。それに対し、ニヤリと笑う筋骨隆々の男。
「一言で言えば、雇われだな」
「雇われ……?」
「まぁ、わざわざ事細かに説明する必要はないわね。なんたって……」
「……!エミリア、魔法少女、下がって!」

「貴女たちはこれから」「俺たちにぶっ飛ばされるんだからな!」


188 : 名無しさん :2017/03/24(金) 02:58:44 ???
リゼの肛門から放たれた『無影無踪』(※1)によって
マザーズアース、母なる大地たる地球は、湯船で屁をこいてできた泡ブクのように弾けて消滅した
人間は永遠なんぞ約束されておらず、悠久の時のながれなどウンコを吹いたトイレットペーパーほどの価値に過ぎなかったのだ
あと少しで宇宙へ飛び立とうとしていたというのに紙一重でその希望は潰えたのだ
くやしいのうwwwくやしいのうwwww

だがしかし、人間が、哺乳類が、魚が、昆虫が一縷も残らず蒸発したというのに、
奇跡的に生き延びた生命体集団があった。
リゼのウンコに宿っていた命、数兆の大腸菌だ!

リゼのウンコの欠片たちは天文学的奇跡をもって宇宙空間で集約・凝縮し
母なる地球が存在した黄道円周に新たなる天体として生まれ関わったのだ。
そしてこの星にはまた有機生命体が既に宿っている。

単細胞から多細胞へ、大腸菌たちはその姿を多様に変えていった。
幾億の歳月、人類の進化と同じ道をたどって彼らもモノを、言語を、文字を、文明をはぐくんだ。
文明レベルが人に比肩するほどになったとき、彼らは自分たちをこうよんだ

            『スカトロン』

彼らが人間に代わった地球の代表、新しい地球人だ!

▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽
◎◎        第二章 スカトロン編              ◎◎
▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△

人類の魂を受け継いだ新たなキャラクターたちによって今また、新しい物語が始まる


※1 いわゆるウンコ爆弾


189 : 名無しさん :2017/03/24(金) 12:36:50 ???
「竜衝破・山落しっ!」
腕の一振りから極太衝撃破を繰り出し、その飛び道具を盾にしながらドスドスと走り出したワルトゥ。
「変身っ!」
掛け声とともに魔法少女の姿へと変身するカナン。リボンとフリルのついたオレンジドレスにハイソックスという少女らしい格好になった。
「はぁ……29でこの衣装はやっぱりキツイわ……」

「う、嘘でしょ……あの人は……まさか……」
変身したカナンを見て狼狽する水鳥。それもそのはず、彼女はルミナス城入り口で毎日カナンを見ているのだ。
ルミナスの英雄トワイライトディザイアとして、金の銅像にされている姿を。
「魔法少女ッ!のんびりしてないで早く変身して!」
「あ、は、はいっ……で、でも……私なんかが勝てるわけが……!」
「エミリアッ!私があの男を抑える。魔法少女と2人であのオレンジを叩いてっ!」
「わかった!」

「てめえが今のスピカか?ハッ、なんだか随分とちんまりしてんなぁ……王下十輝星ってのはお人形の集まりになったのか?」
「…………」
衝撃破をやり過ごしたリザは無言で男を見据えた。彼女もまた、拳聖と呼ばれたこの男を知っている。
「俺はワルトゥだ。まあ俺が誰かなんてことは」
「もう知ってる……死人を蘇らせて操るなんて、邪術師の仕業でしょ……」
「なんだ知ってるのか。後世に伝えられるほど俺も有名になってるんだな!ガハハハハ!」
「……すぐに終わらせるわ。」
「お、見た目と違って肝が座ってやがるな。いいぞ……そうでないと壊し甲斐がねえからなぁ……!」



なんか怖いおじさん来たな
カナンちゃんめちゃくちゃ可愛い
カナンちゃん:29歳
ロリコン以外はみんな余裕っしょ おっぱいおっきいし
怖いおじさんにボコボコにされて完全屈服からの陵辱キボンヌ
↑カナンちゃん真面目そうだからおじさんがそういうことするの許してくれなそうw
視聴者数:79524


190 : 名無しさん :2017/03/24(金) 20:15:18 ???
「へ…変身!」
伝説の英雄であるカナンを前に、怯えながらも変身し、魔法少女アクア・ウィングとなる水鳥。
「まったく…まさか邪術師に使役されるなんて…悪く思わないでね」
それに対し、カナンの態度は正に威風堂々。戦う前から、水鳥は気圧されていた。図らずも、ワルトゥの示威行為が刺さった形になった。

「ファイアボルト!」
まずは小手調べにエミリアが火属性の初級魔法を放つ。
「……!ライトシューター」
流石のカナンもエミリアの凄まじい魔力からなる高威力の魔法には驚いた……と見えたが、サイドステップで躱しながら光属性の初級魔法を放つ。

「プロテクトシー……」
「ロードアクセル!」
「きゃ!?」
防御魔法を張ろうとしたエミリアよりも早く加速魔法を発動させ肉薄し、彼女を殴打して無理矢理詠唱を止める。

「うぅ……アクアエッジ!」
水鳥が援護しようと魔法を放つ。そこで、カナンは殴られてふらついているエミリアをグイッと引き寄せ、アクアエッジを防ぐ盾とする。

「きゃあああ!?」
「爆炎のスカーレット!?ご、ごめ……」
「スターライト!」
「え!?あ、ぐぅうううううああああああ!!」
味方に攻撃を当ててしまった負い目から動きが鈍る水鳥。その隙を見逃さずに光属性の中級魔法を放つカナン。水鳥は悲鳴を上げて崩れ落ちる。

「今の攻防で、アンタたちは致命的なミスを四つ犯したわ」
「あぐっ!」
アクアエッジを喰らって傷だらけのエミリアを乱雑に地面へと放り投げ、カナンが言う。


「一つ、その気になれば身のこなしで避けられる初級魔法にわざわざ防御魔法を使おうとしたこと
一つ、そうやって隙を晒して、接近された時の対策を何一つ練らずに接近を許したこと
一つ、その状況を打破したかったからって、敵味方が入り乱れてる状況で何の工夫もせず魔法を使ったこと
一つ、その結果味方に誤射したからって、注意散漫になったこと」
「ぐ、ううう……」

なんとか起き上がろうとするエミリアの頭を踏みつけながら、カナンは淡々と述べる。

「現代の魔法少女たちは、随分と腑抜けてしまったようね……相手が魔法の詠唱を待ってくれるとでも思ってるの?仲間を心配するのと信頼することの違いも分からないの?」
「あ、ああ……やっぱり、勝てるわけないよ……あの人は、あの伝説の…!トワイライトディザイアなんだ……!」


191 : 名無しさん :2017/03/24(金) 22:19:06 ???
現代に魔法少女が乗る車はもちろん現代製
テレビスマホは三星製
食べるお菓子はロッテ製

そう魔法少女たちは朝鮮人だったのだ


192 : 名無しさん :2017/03/24(金) 23:41:07 ???
すぐに終わらせる……その言葉の通り、リザはワルトゥの背後へと一瞬で移動し、首元に斬りかかった。が……
「ぐうっ!?」
「ほー瞬間移動か……便利な能力なんだろうが、そう殺気立ってちゃバレバレだぜお嬢ちゃんッ!」
「ひ、ひゃあっ!」
斬りかかった右腕をすげなく捕まえたワルトゥは、そのまま片手でリザの体を空高く放り投げた。
「いくぞォっ!落山破岩撃イイィィィッ!!」
落山破岩撃──敵を投げた後跳躍し、空中で身動きの取れない敵の腹に太い腕を力強く食い込ませ、そのまま地面へと叩きつける豪快な技である。
「ううっ!」
皆まで説明されずとも、自分の腹に太腕が食い込んだ時点でリザはこの後の展開が読めていた。
「はっはー!さぁ着地までにワープができるかなぁっ!?」
言われずともリザはすかさず魔力を集中させ、テレポートを試みるが……
「ぐあぅっ!!」
そうはさせまいとワルトゥは片方の腕で、リザのがら空きの背中へと殴打を食らわせた。
「かわいい声してんじゃねえか……もっと俺に聞かせろよ……テメェの悲鳴をっ!」
「ああああぁッ!!!」
ワルトゥの力強い強い一撃に耐えられず、先ほどよりも一際甲高い声で悲鳴をあげるリザ。その女を感じさせる声にカナンは素早く反応した。
「ちょっとワルトゥ!?あんたまさかその子に変なことしてんじゃないでしょうね!?」
「はぁっ!?し、してねえよ!!こんなときにするわけねーだろ!お前は馬鹿か?」
「ならいいけど……女の子に変なことするんじゃないわよ!」
「ったく……ってああっ!いねえぞ!?」

カナンに問われたワルトゥが出川◯郎のようなセリフを言い放ったとき、明らかに集中が逸れたのをリザは見逃さなかった。
そしてリザがワープした先……それはワルトゥの真上だった。

「連斬……断空刃ッ!!!」


193 : 名無しさん :2017/03/25(土) 01:55:19 ???
エミリアと水鳥の攻めを全く寄せ付けず、圧倒的な実力を見せるカナン。
だが、単純な魔力についてのみ言うならば、エミリアの力は決してカナンに引けを取るものではないし、
水鳥にも、並々ならぬ潜在能力が秘められている事を、カナンは感じ取っていた。しかし……

「一つだけ教えてあげる。魔法使い同士の戦いでは、頭数の差は必ずしも絶対ではないのよ…同士討ちのリスクがあるからね。
…かと言って、一人で戦うのは限界がある。だからこそ、ルミナスの魔法少女軍は仲間との調和を重んじ、徹底的に連携を磨くの。
機会があったら一から優しくレクチャーしてあげたい所だけど…残念ね。今は敵同士だから…」

…カナンが地面に向けて手をかざすと、足元の影が動き出し、立ち上がってカナンそっくりの人型へと変わった。
それも一体や二体ではなく……七体の分身が、エミリアと水鳥に一斉に襲い掛かった。
「…疑似的に、ではあるけど。完璧に統一のとれた連携、ってやつを身体で覚えてもらうわ。ふふふ…」

「な、何あれ…分身!?…あれだけの数を、詠唱なしで召喚なんて……」
「や、やっぱり…勝てるわけない…相手は、伝説の魔法少女…」
闇属性の魔法『シャドウサーヴァント』…術者自身の影から分身を作り出して操る魔法で、闇魔法の中では中の上級…といったレベル。
だが複数の分身体を同時に召喚・操作するとなると、分身の数を増すごとにその難易度は等比級数的に跳ね上がる。

そして、いかに伝説の魔法使いといえども中級以上の魔法を詠唱なしで使う事はできない。
カナンはこの時、『思念詠唱』と呼ばれる技術を使い…要するに脳内で呪文を詠唱していたのだ。

口頭での詠唱と同程度の時間は掛かるし、相応の集中力も必要とする。それでいて魔法自体の威力は変わらない。
一見メリットのない技術に思え、事実現代のルミナスでは失伝しつつある。だが使いようにっては…
関係ない話をしたり、友好的なそぶりを見せて時間稼ぎをし、その裏で自分だけ魔法を詠唱する、
という事も可能である。…まさに今、カナンがして見せたように。

「くっ…ファイア・ボr…ッッ!?」
(ドゴッ…!!)
接近する一体に魔法を撃とうとするエミリアに、横から急襲した別の影が体当たりを加えた。
(…バチバチバチッ!!)
「…!く、うあぁっ!!」
詠唱を止められ、体勢を崩した所へ、最初の一体が至近距離からの電撃魔法。
(ずんっ!!!)
「あ、が……か、はっ…」
更に別の影が『グラビティプレス』…局地的に重力を増加させ、動きを封じる魔法…を仕掛けて動きを封じる。
その間に、体当たりをした影はトドメの大技の準備を終えていた。
『サウザンドアームズ』…魔法の剣や槍を大量に召喚して敵の頭上から落とす、鋼属性の上級魔法である。
もちろん単体でも恐るべき殺傷力を持つ魔法だが、『グラビティプレス』によって重力が増加している今は…
(ザシュ!!…ガキガキガキンッ!!!)
「きゃあっ!?…ぷ、『プロテクトシールド』っ…!!」
最初の一本が右肩に刺さりはしたものの、奇跡的に防壁の展開が間に合った。
だがエミリアにはそこから先の、反撃に転じる手段が…全くない。


194 : 名無しさん :2017/03/25(土) 03:06:43 ???
(ガキン!!ガキン!!ガキン!!ピシッ……)

「はぁっ……はぁっ……どうしよう…シールドがもう、限界………っ、あぐ!!」
剣の雨は徐々に勢いを増していった。超重力で加速された剣の雨に曝されて、
エミリアの魔法障壁は無数の亀裂が走っている。
更に、影の魔法によって増加した重力の影響で、右肩に刺さった剣はずぶずぶと深く喰い込んでいった。
大量の血が流れだすと同時に、エミリアの身体は地面に縫い止められてしまい…最早逃げる事も不可能。
シールドを展開するための、左手を上げているだけでも辛くなって来ている。

「いくら魔法使いだからって、接近戦が素人以下じゃ話にならないわね。
目の前の奴に気を取られて背後に回った敵に気付かないのもダメダメだし、
簡単に囲まれて動きを封じられるとか論外。ちゃんと後ろに眼ぇついてんの?
あそこは重力魔法喰らう前に被弾覚悟で突破しないと…っ……ええっと。
でもホラ、今は敵だから…ダメ出しじゃなくて、ダメ押しでもしとこっかなー?」

なんか異様にテンションアゲアゲになっているカナン。
それに呼応するかのように、エミリアの周囲にいた影が魔法障壁の亀裂を通って……

「ひっ……い、いやっ…入って、来ないで…っ、ひっ!!」
影達は魔法障壁を内側から崩そうと、あらゆる手段を使ってエミリアの集中を乱して来た。

「いぎっ…あ、んああああぁっ!!」
ある者は…肩に喰い込む剣を掴み、力任せに押し込む。

「ひゃんっ……や、そこはっ……は、うぅ……」
別の一体は服の内側へと潜り込み、重力に負けて拉げている胸を無理やり捏ね上げる。

いずれも、反撃できないエミリアにあえて止めを刺さず、ゆっくりじっくり嬲るような攻め手であったが…
残りのもう一体は更なる呪文の詠唱を始めた。…それは、かつてカナンの得意としていた魔法の一つ。
だが現在のルミナスでは禁忌とされている…毒属性。

「…うっ…が、ああ"ぁあ"あ"ぁあ"あぁっ!!!!」
『ポイズンクラウド』…その名の通り毒ガスを至近距離に散布するという、毒属性の中では基本的な術の一つである。
通常、かなり標的に接近しないと効果を発動する前にガスが霧散してしまう等、使いどころの難しい術なのだが…
今回のように、魔力的にほぼ密閉された障壁内では、抜群の効果を発揮する。

「あらあら…最近の魔法少女は毒対策もしてないの?ホンっト、たるんでるわねぇ…」
二手三手先の戦局を読み、多種多様な魔法の中から最も効果的なものを選ぶ…
数々の修羅場を潜り抜けた『ルミナスの英雄』の、正に真骨頂であった。

まさかの残虐ファイトww
29歳さんはドS
伝説の魔法少女…なんて恐ろしい
敵対と見せかけてコーチしてくれる展開 …と思った時期が俺にもありました
連携を見せるにしてもあんな大量に分身出す必要はどこに アッハイ 連携は重要です
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195 : 名無しさん :2017/03/25(土) 12:11:16 ???

 魔方陣から撃ち出されたビーム様の衝撃波に吹き飛ばされるエミリア。
 この試合初のダメージらしいダメージだったが、それはここまでのアドバンテージをひっくり返すほどの尋常ならざる威力だった。
(何が起きた!? 私は何をされた!?)
 内蔵兵器か?
 いや、そんな感じではなかった。
 ならば、何だ?
(今は、どうでもいい……!)
 しかし、エミリアは答えの出ない疑問を捨てた。
 体勢を立て直し、カナンを見据える。
 と、彼女は、どこから取り出したのか、今度は二本の実体剣を左右の手に握っていた。そして、次の瞬間、それは楔形の刃を連結した鞭状の武器へと変形した。
 
 赤の竜/白の竜(ア・ドライグ・ゴッホ/グウィバー)!
 
 それを、振るう。
 未だ射撃戦の距離。にも拘らず、その蛇腹剣は自然式を無視し、無限に伸びる勢いでエミリアに襲いかかってきたのだった。
 まるで蛇か竜だ。
「なっ!?」
 エミリアは驚愕に目を見開きながらも、頭ではなく培った経験が体を動かしていた。わずかにタイミングをずらして襲いかかってくる竜を順にいなす。
 ほっとしたのも束の間、悪寒を感じて真上を見上げれば、一度はやり過ごしたはずの二頭の竜が互いに絡み合いながら、我先にと急降下してくるところだった。
「ちいっ!」
 飛び退く。
 間一髪、直撃は免れた。
 だが、竜が地表に激突した勢いは爆発にも似た衝撃を生み、エミリアは吹き飛ばされてしまう。
 転がるようにして着地し、素早く立ち上がる。
「落ち着け、エミリア。一見デタラメな攻撃だが、理解できるものに置き換えるんだ」
 エミリアは自分に言い聞かせる。
 確かに未知の攻撃ばかりだが、理不尽や不条理の類ではない。一撃めは内蔵型の光学兵器だと思えばいいし、先の攻撃も蛇腹剣での中距離格闘戦だと考えれば決して例のないものではない。


196 : 名無しさん :2017/03/25(土) 12:12:45 ???
  頭を切り替える。
 選んだ武器はロングライフル。
 脚部のホイールが展開し、回転をはじめる。
 カナンは地上での高機動戦闘をしかけることにした。高い機動性を活かし、死角へ死角へと回り込むようにして動く。
 対するエミリアは、縫い止められたようにその場に立ち止まり、カナンを視界に捉えようとするだけで精一杯のようだった。
 すぐに好機が巡ってきた。
 エミリアは一瞬だが完全にカナンの姿を見失い、カナンはエミリアの死角をとっている。
「そこっ」
 狙撃。
 立て続けに三射、砲口が火を噴く。
 だが、
「甘いですっ」
 エミリアが振り返ると同時に手を振るう。
 
 魔の三角海域(バミューダ・トライアングル)!
 
 どこからともなく飛び出したのはみっつの三角形。中は渦巻く黒い濃霧か深淵まで続く闇のよう。まるでピースの欠けたパズルだ。
 それらはそれぞれ一発ずつロングライフルからの砲撃を飲み込むと、消滅した。
「は……?」
 呆気にとられるカナン。
 一拍。
 不意に宙空に先ほどの三角形が再び現れると、飲み込んだものを吐き出すようにして砲撃が射出された。周囲の床へと着弾する。カナンの狙撃はまったく別の座標へと転写され、不発に終わったのだ。当然、エミリアは無傷だ。
「ははっ」
 カナンは思わず笑い出す。
「すごいな。何だそれ」
 苛烈な攻撃に翻弄され、こちらからの反撃は無効化される始末。それでもカナンは子どものように無邪気に笑うのだった。


197 : 名無しさん :2017/03/25(土) 12:24:19 ???
こういうのって荒らされやすいのが難点なのよね
やっぱり書く人限定した方がいいんじゃない?


198 : 名無しさん :2017/03/25(土) 12:25:41 ???
一方遠くでは――
「エミリア、戸惑ってますわね」
「……でしょうね」
 最初の攻防を見たヘレンとアスカが神妙に言葉を交わす。
 ふたりはコンソール前に座り、固唾を呑んで試合の行方を見守っていた。その後方には女教師、カサンドラもいる。
 ヘレンにはエミリアが戸惑っているのが手に取るようにわかった。むりもない。カナンは、一見してわかりやすい得意距離(レンジ)がないように見えて、そのくせ格闘戦、中距離射撃戦、遠距離砲撃戦、どんな場面でもおそろしく高水準で戦ってみせるのだ。
 基本に忠実な武装と高い戦闘能力で、どの距離でも戦えるオールラウンダー。それこそがカナンの駆る『バルキリー』という騎体なのだ。
「エミリア、楽しんでいる場合ではないわよ。カナンにはまだ武器があるのだから」
 当然、それだけで魔法少女最強を名乗るまでになったわけではない。《運命の三女神の過去(ラケシス)》の代名詞とも言うべき兵装があるのだ。先のジャミング機能もその一環だ。うかうかしていると秘策を出せないまま、それに飲まれて終わってしまうかもしれない。


199 : 名無しさん :2017/03/25(土) 12:38:13 ???
どうせ、この島は沈むのだ

魔法少女アルカは駆けながら、ひたすら聞き込みを繰り返していた。
安直ではあるが、こういう何も情報がないときは走って稼ぐしかないことくらい生前から痛いほど理解している。
だが、そんな時だった。ちょうど、彼女が火山の近くで聞き込みをしていたせいもあるのだろうが、突然、島がグラグラと揺れ始めたのだ。

「なっ!?」

突然の事態に驚くアルカ。ここは海の真ん中にある人工島である。そんな人工島がこんな揺れを引き起こすはずがない。
ということは、この島の警備システムか何かが、狂ってしまってできあがってしまった結果なのだろう。ということは…

「火山か!?」

ちょうど、聞き込みをしていた相手にお礼を言い、獣人を超える速さでアルカは火山に急ぐ。

そこは一面死の色だった。残骸と化した機械人形オートマタ、一刀両断の切り傷を体に残し横たわりピクリとも動かない


200 : 名無しさん :2017/03/25(土) 13:00:33 ???
>>197
こんな感じで立て直すか

リョナな長文小説 第三話

ルール
・ここは前スレの続きから始まる小説スレです。書き手を登録制にするために移転しました。
・書き手登録する場合は下記のスレで書き手宣言し、登録したハッシュを名前に表示してください。
 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/game/37271/1483443134/l50
・登録されている人のレスは無視せず必ず繋げる。
 されてない人のレスは無視。
・キャラはオリジナル限定。
・書き手をキャラとして登場させない。
 例:>>2はおもむろに立ち上がり…
・コメントがあればメ欄で。
・物語でないことを本文に書かない。
・連投可。でも間隔は開けないように。
・投稿しようとして書いたものの投稿されてしまっていた…という場合もその旨を書いて投稿可。次を描く人はどちらかを選んで繋げる。

では前スレの最後の続きを>>2からスタート。


201 : 名無しさん :2017/03/25(土) 13:14:38 ???
>>200
このまま続けても荒らされそうだしねぇ
登録するときは前スレで書いてたレス番をつければ、荒らしが登録することもないかと。


202 : 名無しさん :2017/03/25(土) 13:20:09 ???
「ぐぎゃああああっ!」
連斬断空刃──空中で身動きの取れない相手にワープで翻弄しながら落下の勢いで切り刻む、リザの必殺技だ。
「くそっ、このガキ……いい加減にしやがれっ、ぐげええあああ!?」
憤るものの、空中ではテレポートを繰り返すリザのスピードについてこれるわけもなく、ワルトゥは身体中に致命傷を負ったまま地面に激突した。

「ぐおっ!……ち、ちくしょう……!」
「私に空中戦を挑んだのが運の尽き……さようなら。」
「けっ……やるじゃねえか……トーメント王国を……頼むぜ、嬢ちゃん……」
「…………任せて。」
しばし逡巡した後小さく返事をすると、リザはワルトゥの脳天に深くナイフを突き刺した。

「げほぉっ……毒が……も、もう、だめ……!」
リザが2人の元に向かうと、そこには絶望的な光景が広がっていた。
防御魔法の中で毒に苦しむエミリア。離れた場所で倒れている水鳥。そして……余裕の表情を見せているカナン。一目見ただけで状況は最悪だとわかった。

(ま、まずはエミリアを助ける!)
素早くエミリアの元に近づき、防御魔法を壊さんとしている剣や槍をのけようと蹴り飛ばす。が、もちろんカナンの重力によりリザの蹴り程度ではびくともしなかった。
「あなた……ワルトゥを倒したの?」
「はっ!」
カナンの問いかけには答えず、リザは防御魔法の中にワープすると倒れているエミリアに抱きついた。
「えっ?リ、リザちゃん!?」
「ッ!!」
そのままエミリアとテレポートした瞬間移動、防御魔法は粉々に壊れ剣や槍がエミリアのいた地面へと突き刺さった。


203 : 名無しさん :2017/03/25(土) 14:49:48 ???
「まったくワルトゥも情けない。昔から残虐な癖に身内には甘すぎる男だったから、どうせわざと出○哲朗みたいなこと言ってチャンスをあげたんでしょうけど。
言っとくけど、私にそんな優しさ期待しないことね。むしろ、不甲斐ない現代の魔法使い達に腹が立ってるくらいなんだから」
「リザちゃん…!あの人、強い…!」
「ええ…でも、三対一なら」
「む、無理だよ……勝てるわけないよ……」

突如、カナンが舌打ちをする。

「そこのガキんちょ、アンタはさっきから何やってんのよ」
「え?」
「馬鹿力……いえ、馬鹿魔力女は未熟なりに食らいつこうとしてる。王下十輝星はワルトゥを倒した。なのにアンタは、さっきから怯えて震えているだけ」
「う、ううう……」
「何がなんでも勝とうという気概を無くし、お行儀がいいだけ?そんなんじゃ何も守れないし何も救えない」

「お姉ちゃん……!真凛さん……!」
水鳥の脳裏に、優しい姉と尊敬する師匠の顔が浮かぶ。姉はノワールに操られ、師匠は邪術師に魔物にされた。あの日、トーメント王国に攻め込んだ際に王を倒せていれば、そんなことにはならなかった。光やリムリットですら勝てなかった相手なのだから勝てるわけがなかったというのは言い訳だ。
無意識のうちに、自分は年下なのだからみんなよりも弱いのは当たり前と考えていた。だが、それは甘えだ。諦観だ。自分が誰よりも強ければ、姉も真凛も守れた。光ももっと早く救えた。

「私は……!私はぁ……!!」
「なんかやる気出したっぽいとこ悪いけど、一旦サヨナラよ!」
「え!?」

突如、カナンの足元から煙幕がモクモクと立ち上る。『スモーキングクォーツ』と呼ばれる補助魔法の一種だ。例によって思念詠唱で話の最中に詠唱していたのである。

「流石に王下十輝星も込みで3対1じゃ些か分が悪いからね!一旦退かせてもらうわ!時には戦略的撤退も視野に入れるべきと覚えておきなさい!」
「……!待ちなさい!」
リザが煙幕の中に突っ込んで追撃しようとするが、カナンの分身達に阻まれる。

怖いおじさん意外と優しい人だったww
悪人だけど身内には甘いってのは割とよくいるタイプ
なんで29歳さんはガチで殺ろうとしてるんですかねぇ…
29歳さんはドS
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(さて、ゲリラ戦に移行するとしましょうか)
ワルトゥを倒したスピカのリザもいては、正面衝突では遅れを取る可能性がある。万全を期して、洞窟に潜みつつの奇襲戦法を取ることにしたカナン。
彼女は数が多い相手や地力で勝る相手にはゲリラ戦で幾度も勝利を収めてきた。

(正面から魔法を撃ち合うだけが闘いじゃないってことを教えてあげるわ)


204 : 名無しさん :2017/03/25(土) 14:57:53 ???
「ここが戦場?」
 
 聞き慣れた涼やかな声。
 ぎょっとすると同時、リゼはこうなることを予想、もしくは、期待していたように思わなくもない。
 顔を上げればそこには黒髪ロングのオトナ魔法少女、スズミが立っていた。
「……なぜあなたがここにいるのか聞かせてもらえないだろうか。授業は?」
 リゼは軽い頭痛を感じつつ尋ねる。
「急にワープしてきたの。驚いたわ」
「……」
 そりゃあびっくりだ。
「……なるほどね」
「ずいぶんと熱心ね。やっぱりいい大学に入るため?」
「"いい大学"よりは"行きたい大学"だと思ってるけどね」
 リゼは大学なんてある程度までいけば、どこも似たようなものだ。その気さえあればいくらでも学べるし、遊びとバイトに勤しんでも最低限の単位さえ取れば卒業させてもらえる。ならば、偏差値なんていう数字でランク付けされた"いい大学"よりは、自分の行きたい大学を目指すべきだろう。


205 : 名無しさん :2017/03/25(土) 15:09:00 ???
リザは煙の中で将来を憂いた。「なんで私こんなことをしているのだろう」高校生活という貴重な時間が過ぎ去ったことを今になって後悔した。
リザはおもむろにノートパソコンを取り出すとMMDを立ち上げ、もう少しどうにかよくできないものか考えてみる。曲は手の加えようがない、というか、その必要がないから、手直しをするとしたら動画のほうだろう。数々の秀逸なMMD動画と比べると、やはりリザたちのは致命的に拙い。彼らのレベルに達するには時間と経験が必要だ。それでもどうにかと試行錯誤、悪戦苦闘してみるが、やはりというべきか、たいした改善にはなりそうにない。もとより今のリザでは、ステージやエフェクトを変えるくらいしかできず、経験によるセンスが養われていない以上、効果が上がらないのも当然だ。
そんなことをしているうちに煙の中で夜が明けてしまった。常識的な時間になるのを待ってから思い切ってエミリアに電話をかけてみたのだが、リザは出てくれなかった。とりあえず心配している旨のメールを送っておく。
簡単に朝食をすませると、リザはぶらぶらと街に出た。
電気屋街でシンガーロイドのCDと、何か考える足しにでもなればとMMD関係の書籍を物色し、その後、馴染みのターミナル駅の駅前にある大手CDショップでポップスとクラシックのコーナーを見て回る。その辺りで昼どきになり、手っ取り早くハンバーガーショップに入った。


206 : 名無しさん :2017/03/25(土) 19:55:21 ???
「はぁ……せっかく冥界から蘇らせてあげたのに、あのおじさんすぐにやられちゃったじゃない。あの巨体を活かしてリザちゃんに強烈なベアハッグでもしてほしかったわ。」
洞窟を抜けた先にそびえ立つ館の中で、ライラは残念そうに呟いた。
「ア゛……アァ゛……」
ローブの中で父の声が響くと、ライラは父の顔にそっと手を添えて目を閉じる。
「なぁにお父様……ふんふん、もう我慢できない〜早く女の子を吸収したい〜……なるほどなるほど。要するにもうぐかなりグーペコになってきたのね。」
「アァアァアァ゛……ア゛ア゛ア゛……!」
「わかった、わかったわ。わたしの体だったらどこでも好きなだけ舐めて。お父様が待てないなら、私からあの3人のところに行ってあげる……クスクス……!」



「あ、あの人逃げたのかな……」
「わからない。でも警戒を怠らないで。オレンジがどこから攻撃を仕掛けてくるかわからないわ……」
突如姿を消したカナン。一旦サヨナラというセリフ通りならば退いたということになるのだろうが、リザは全方向に注意を配った。
「魔法少女、無事なの?」
「……私は大丈夫です。リザさん……スピカさんは、あの男を倒したんですか?」
「なんとかね……相手が手を抜いてくれた。多分邪術氏に操られるのが気に入らなかったんだと思う。」
「あ、あの人はそういう風に思ってないのかな……いたたた……」
肩の傷を治癒魔法で癒しながら、エミリアは苦しそうに顔をしかめた。
「エミリアさん、ごめんなさい。私、援護らしい援護もできなくて……」
「ううん。水鳥ちゃんはまだ子供なんだから、無茶しないで。私とリザちゃんに任せて。」
「……元々大した戦力だと思ってない。だから、別に何もしなくていい。」
「ちょ、ちょっとリザちゃん!そんな言い方はやめて!」
「…………」

ルミナスの魔法少女たちにトーメント王国がしたことを考えれば、リザは水鳥に優しく接することなどできなかった。
魔法少女と仲良くなろうものなら、またトーメント王国がルミナスと戦闘になった時に支障が生じてしまう。
アフェナイトの民のため、リザは魔法少女たちに対して非情に振舞うことを選んだのだ。

「足手まといで……ごめんなさい。あのオレンジの人はカナン・サンセット。ルミナスの英雄と呼ばれている人なんです。」
「そう……だから日和って何もできなかったのね。」
「リ、リザちゃん!!言葉を選ばないと、私リザちゃんのこと嫌いになるよッ!」
「い、いいんですエミリアさん。私も、王下十輝星に優しくされるよりは、今の態度の方がいいです……」
「う……水鳥ちゃんがそう言うなら……」
「誰が相手でも、私は勝ってライラを倒す。魔法少女はそれの邪魔をしなければいいだけ……だから、顔を上げなさい。」
「…………はい。」
水鳥がゆっくりと顔を上ると、リザはスタスタと歩き出した。後に続く水鳥。その小さな後ろ姿を見て、エミリアは思った。

(戦争って……悲しいなぁ……)


207 : 名無しさん :2017/03/26(日) 00:11:51 ???
エミリアは反戦・反核など改革派思考に染まっていた。
そういえば、ノーベル賞作家の大江健三郎氏も、過去、防衛大の学生を「日本の恥辱」呼ばわりをし、著作「沖縄ノート」では、日本軍が沖縄市民を集団自決させたとして、旧日本軍隊長だった梅沢道治らを悪者に仕立て上げたことを思い出した。

エミリアは自決を止めた側なのに、正反対のことを書かれてしまったようだ。

そこでエミリアは名誉回復のために、裁判を起こした。
やがて、梅澤隊長が自決を止めてくれたことを証言する者「宮城初枝氏」も現れた。

エミリアは、本当のことを訴えるのに、相当の勇気がいったという。
なぜならば、沖縄では『旧日本軍によって被害を受けた』ということにしておけば、国の援助が受けられるからだ。
なので、それが「実はそうではなかった」となると都合が悪くなる者も出てくるだろう。

事実、彼女は「国の補償金がとまったら、弁償しろ」などの非難を周囲から浴びたという。

だが、彼女のほか、幾人かの住民も真実を語り始め、自決命令は、村の助役である宮里氏が下したと判明した、というのが真相のようだ。

その後、エミリアは、大江氏らの著作の出版・販売・頒布の禁止を求める訴えをおこしたが、大江氏は一度も出廷しなかった。


208 : 名無しさん :2017/03/26(日) 00:25:21 ???
「ああ……。エミリアちゃんはこれから検事局だろ? それなら外で食べておいで」
 魔法少女と弁護士を兼任するサニーさんは資料から目を離さずにそう言った。この人、物凄くダルそうにしていながらもちゃんとエミリアの予定を把握しているあたり侮れない。普段はエミリアなんて興味なさそうにしているのが“フリ”だということを、こうした細やかな積み重ねから最近分かってきていた。何の為にしているのかは、流石に窺い知ることができないけれど。
「サニーさんはカップラーメンで済ますつもりですか?」
 エミリアの声が硬いのが分かったのだろう、サニーさんはとってつけたように、もやしが冷蔵庫にあったかなーとアピールている。残念ですがありませんよ。冷蔵庫の中身ならばエミリアの勝ちのようだ。軽口を叩いてみせる。
「いいですよ。夜は野菜のオンパレードにしますから」
 確か玉ねぎと人参が残っていたな……と今晩のおかずを考えていると、サニーさんが焦ったように言う。
「豚肉が食べたいな」
「……了解しました」
 勿論エミリアだって野菜だけのつもりはなかった。食事だけはサニーさんをからかうことができるのかと学びつつ、エミリアは外出の準備をする。
「いってきます」


209 : 名無しさん :2017/03/26(日) 11:49:54 ???
「……あれから10分経つけど、カナンさん何もしてこないね。やっぱり逃げたのかな?」
「気を抜かないで。視界が悪い中、どこから攻撃が来てもおかしくない……」
夜の洞窟内部は真っ暗な暗闇である。3人はリザの持っていた懐中電灯の光だけを頼りに慎重に進んでいた。
「うぅ……」
「ん?ど、どうしたの水鳥ちゃん。も、もも、もしかして、暗いところは怖い?」
「は、はい……我ながら情けないのですが、夜は誰かと一緒じゃないとお手洗いにも行けなくて……」
「フフ、水鳥ちゃん可愛い。じゃあ私と手をつないで行こう?そうすれば怖くないでしょ?」
「は、はい。助かります……」
年上のお姉さんのように振舞うエミリアだが、彼女もまた暗闇に恐怖を感じてるのはリザの目から見ても明らかだった。

バサバサバサッ……!
「きゃああああっ!」
「ひゃあぁっ!」
大きな音に悲鳴をあげたエミリアと水鳥は、恐怖のあまり2人で抱き合った。
「……コウモリね。逃げていっただけみたい。」
「な、なんだぁ、コウモリかぁ……」
「……ひょっとして、エミリアさんも怖いんですか……?」
「え?そ、そんなことないよっ!私はもう16だよ?リリリリザちゃんよりも一個年上なんだから、ぜ、ぜぜ、全然怖くなんかないよっ!」
言葉に詰まりまくるエミリアに、水鳥の求める他者への安心感は音を立てて崩れていった。
「……エミリアさん、なんか頼りないなぁ……ス、スピカさん……」
「私は魔法少女と手を繋ぐなんて嫌。エミリアにやってもらって。」
「うぅ……はい……」

それからも何度か風の音やコウモリに出くわすたび、洞窟内にはエミリアと水鳥の甲高い悲鳴が響いた。
「ふ……2人とも……離して……!」
「だってだって!リザちゃんは全然怖くないんでしょ!?じゃあ私たちを守ってよぉ!」
「も、もう限界です……!エミリアさんと手を繋いでも体が震えすぎてて、安心感ゼロなんですっ……!」
恐怖の限界に達した2人は、暗闇の中でも平然としているリザに安心を求めて、がっしりとしがみついていた。
「エ、エミリア、どこ触って……!魔法少女!足にしがみつかないでっ!」
ビシュンっ!
「わたし、子供の頃オバケを見たことがあるの……!それ以来、暗いところがダメなのぉ……!」
「ぐぁっ……!」
「わ、私もですっ……!トイレに起きた時、窓の外に不気味な女の人が居て、それ以来ダメなんで……きゃあああっ!」
2人が支えにしていたもの……リザの体が、突然ぐらりと倒れた。

パリィンっ!
「きゃああああっ!」
「いやああああああっ!」
リザが倒れると同時に光が失われ、洞窟内は暗闇に包まれる。
「み、水鳥ちゃん!?リザちゃんどこ!?」
「うわああああんっ!怖いよーーー!お姉ちゃああああんっ!」
エミリアならば魔法で火を起こせば周りを確認できるが、パニックに陥っている状態では頭が働かない。
どうしてリザが倒れたのか確かめることもできず、しばらくの間二人は暗闇の中で悲鳴を上げていた……


210 : (  ゚ ∇゚) :2017/03/26(日) 13:19:18 ???
   ∧_∧ 
  (  ゚ ∇゚)つ━☆・*。
  ⊂   ノ    ・゜+.
   しーJ   °。+ *´¨)
           .・ ´,.・*´¨) ,.・*¨)
            (,.・´ (,.・'* ☆
p3b931a59.aicint01.ap.so-net.ne.jpさん
>>174-175>>177-178>>180>>183>>188>>195-196>>198-200>>204-205>>207-208
171106.wi-fi.kddi.comさん
>>191
一連の作品群はリレー小説のルールには抵触しておらず、ネタ的な内容にも自分の言葉で文章を作り上げた労力は評価されるべきだとは思いますが
リレー小説という扱いの難しいスレで書き手の世界観に相容れないものが生まれる事態において
今回は>>1さんの意向を尊重して一連の作品群は不適切なものであると判断し、このスレにおいては以降控えていただきたく存じます。
この方にとっては当然>>1の世界観なんぞ知る由もないので削除規制などの処置は行いませんです。

また、この状況を指してお山の大将という言葉で表現していた方もおられるようですが、特に小説スレではスレの雰囲気は重要な要素であり
>>1が主導的な役割を果たしているスレであれば類似テーマのスレがあっても独立して運営されるべきであると考えております。


211 : 名無しさん :2017/03/26(日) 13:32:21 ???
対応ありがとうございます
やはりリレーは扱いが難しいですよね…


212 : 名無しさん :2017/03/26(日) 14:19:31 ???
[リザ] EN:0/1000 MP:90/250 BS:なし  死亡回数:17

(よし…まずは一番厄介な、十輝星を殺った)

…カナンはつかず離れずの距離で、密かに三人の隙を狙い続けていた。
暗殺を専門とするリザでさえ、その気配こそ微かに感じていはいたものの、正確な位置や距離までは掴めなかった。
森に入った時からずっと感じていた『怪しい気配』の中に紛れ込んでしまっていたためだ。

(…あの邪術師、色々と妙な結界を張ってるわね。視聴者の邪念を魔力に変換する『観死結界』に…『魂縛領域』まで)

『魂縛領域』…死亡した者の魂を、無理やり肉体内に繋ぎ止める結界である。
この結界内では、どんなに肉体に壊滅的なダメージを受けても『死ぬ』事が無く、普通の回復魔法で治療が可能となる。
現に、リザはこの森で既に何度も命を落とし、その度にエミリア達の魔法によって「蘇って」いた。

…ただし、治療されない限り、死に至るレベルの苦痛は永遠に続く。
やがて絶望と苦痛で穢され続けた魂は、人とは言えない何かへと変質していく…
いわゆるネクロマンシー(屍術)、ゾンビなどのアンデッドモンスターを作り出す術と、同じ原理である。

(こんな自然の摂理に反した結界を森全体に…しかも常時張り続けるなんて、どう考えても普通じゃないわね。
邪術師の考えてる事なんて、わかりたくもないけど)

何しろ、結界内に入ったすべての「魂」が対象となる以上、結界を維持している間は術者本人も外には出られないのだ。
だがもし、この異常な結界を維持する事に、何らかの目的があるとしたら…?

(…考えたって仕方がないわ。どうせ死んでいる私には、関係のない事。そして…)

カナンは闇に紛れ、気配を潜め、足音を忍ばせながら二人に近づく。その次なる標的は……水鳥。
(折角生きているのに、戦いもせずに諦めてるような魔法少女は……生きていても仕方がない、そう思わない?)

…カナンは水鳥の口を塞ぎ、暴れ出す前に動きを封じ、そのまま音もなく何処かへと飛び去った。
後に残されたのは、絶命したリザと、恐怖に叫び続けるエミリア。
そして……リザの身体と魂を手に入れるため、二人へと忍び寄る邪術のライラ。

「あらあら…リザちゃんったら、もう「死んでる」なんて……お陰で手間が省けたわ。
じゃ、さっそく私の部屋に行って遊びましょうか……エミリアちゃん、運ぶの『手伝って』くれるわよね?」


213 : 名無しさん :2017/03/26(日) 17:06:47 ???
「だ、誰?あなた…も、もしかして……じゃっ、じゃじゅ、じゃじゅちゅのりゃ……」
(…邪術の、ライラ……!)

恐怖のあまり呂律が回っていないエミリア。そして、いきなり身体が動かなくなって倒れてしまったリザ。
二人の前に、漆黒のローブを纏った小柄な少女が姿を現した。

(…身体が、動かせない……一体、何が起こったの……!?)
今回の標的にして、かつての仲間ドロシーを殺し、魂までも弄んだ、おぞましくも美しき邪術師。
それがようやく目の前に現れたにも関わらず、リザはまるで糸の切れた操り人形のように、
立ち上がるどころか指一本すら動かすことが出来ない。
その代わり、心臓が凍り付いた「ような」苦痛と、全身から生気が失われた「ような」疲労感が全身を駆け巡り…
「あ、ぐ……うあああぁ……」
今のリザに出来るのは、半開きになったままの口からただ苦しげに呻き声を漏らす事のみ。

「邪魔な魔法少女を排除してくれた上に、リザちゃんを即死魔法で仕留めてくれるなんて…
おかげで身体にキズ一つない、最高の状態だわ。あの29歳さん、本当いい仕事してくれるわね」
「え……何を言ってるの、即死…?……それに…運ぶのを手伝う、って……」

ライラは不気味な薄笑いを浮かべながら、まるで戦意すら無いかの様に、無防備に、無造作に近付いてくる。
パニックに陥ったままのエミリアは、ひとまずリザを手当しなければ、と慌てて駆け寄る。

「そう。優しく抱き上げて…間違っても、壁にぶつけてキズ付けちゃだめよ」
(あ、あいつ……さっきから何を言ってるの…?……下がってて、エミリア。私に回復を…)

相手は油断しきっているのか、攻撃を仕掛けてくる気配はなかった。
ほんの一瞬でいい。動けるだけの力が回復できれば、一瞬で片が付く。だが…

「はい……かしこまりました、ライラ様」
次に聞こえてきたのは、エミリアの…ぞっとするほど冷たい声だった。
邪術師ライラが顔に張り付けているのと全く同じ、不気味な微笑を浮かべながら、リザの身体を軽々と抱き上げる。

「ふふふ…リザちゃんて、こうして抱いてみると、思った以上に軽くて、小さくて……可愛い」
(エミリア、一体どういう…降ろして、お願いっ……く、身体が…動いてくれないっ…!!)

「ふふふ…動かせなくて当り前よ。だって、リザちゃんはもう死んでるんですもの…
まずは貴女の身体を徹底的に調べ上げて、ホムンクルス体を作らなきゃ。
もちろん『隷属の刻印』も入れてあげないとだし…これから忙しくなるわよ。フフフ…」


214 : 名無しさん :2017/03/26(日) 17:48:33 ???
(ホムンクルス……?隷属の刻印……?うっ、意識が……!)
「リザちゃんは軽いからエミリアちゃん1人で持てそうね。さぁ、みんなで仲良く私の館へと行きましょう。」
「もちろんです……ライラ様の仰せのままに……」
(う、嘘でしょ……?エミリア……エミリアッ……!)
エミリアのおぞましい笑みを間近で見た瞬間、リザは意識を失った。

「着〜いたっ♪ここが私の館だよ。とっても広い館だけど、優秀なお手伝いさんがちゃんと綺麗にしてくれてるから、安心してね。」
ギイイイィィィ……と不穏な音とともに開かれたライラの館入り口。
エントランスで迎えたのは、この不気味な館に相応しくない小さな少女だった。
「おかえりなさいませ。ライラ様。」
年は6歳か7歳くらいだろうか。クリーム色の長い髪に緑色の目をして、派手さを抑えたメイドの衣装を着ている。
「あぁ、ドロシーちゃん。待っててくれたんだ。ありがとう。」
「その方が、今夜の旦那様のお食事ですね。仰せの通り、すでにカニバリオイルの準備はできております。」
「そうよ。でも今すぐは食べないわ。お父様ったら、リザちゃんの顔を見た途端また食べ方を考え直すって今も悩んでるの。きっとリザちゃんが可愛いすぎるせいね。クスクス……」
「珍しい……アフェナイトですか。……でもこの人……私どこかで見たような……」
「気のせい気のせい。目を覚ます前にとりあえず拘束するから、魔力吸収の触手でがんじがらめにしておいて。そのあと遅効性の治癒魔法で起こしておいてね。」
「かしこまりました。」
「エミリアちゃんはこっちよ。あなたには私のお手伝いをお願いするわ。」
「承知いたしました。ライラ様……」

ライラに仕えている少女は、ドロシーのクローンである。少女趣味のあるライラがドロシーの子宮を触媒に作り出したもので、ドロシーの幼少期の頃の姿を完全再現している。
クローンになった後生前の記憶が残るケースはほとんどないが、先ほどリザに反応したように記憶の残り香はまだあるようだった。



「う、うぅん……あれ、わたし……」
薄暗い部屋でようやく目を覚ましたリザ。
(確か……突然体が苦しくなって動けなくなって……ライラが来て、エミリアに担がれて……)
朧げな記憶を確かめつつ辺りを見回し状況を確認すると、とんでもないことになっていることにリザは気づいた。
ぬらぬらとした触手に巻きつかれた自分の体。テレポートするだけの魔力もすべて吸い取られ、ナイフなどの装備も取り除かれている。
(さ、最悪……!エミリアは!?魔法少女は!?)
端正な顔にじんわりと汗を浮かべながら、腕に力を入れて脱出を試みるリザ。だがやはりというべきか、頑丈な触手はピクリとも動かなかった。
(ま、まずい……!武器もない。テレポートもできない。こんな状態で拘束されているなんて……もう……)
この旅の終わりが最悪の形で終わることを、リザは静かに覚悟した。


215 : 名無しさん :2017/03/26(日) 21:01:44 ???
突如、薄暗い部屋の扉が音を立てて開けられる。最早ここまでかと諦観しながら扉の方を見るリザだが、その場にいる人物を見て安心する。

「エミリア!助けにきてくれたのね!?」
薄暗い部屋にずっといたリザは、開かれた扉から漏れる明かりが眩い逆光となってエミリアの顔が見えなかったが、それがエミリアであるということは分かる。
「この触手さえ何とかしてくれれば……え、エミリア?」
しかし、部屋に入ってきたことでよく見えるようになったエミリアの顔を見て、リザは困惑する。天然で少し抜けている愛嬌のある笑顔は鳴りを潜め、氷のように冷たい表情をしていた。

「ライラ様が……ホムンクルス体を作りやすいよう……服を脱がせておく……」
生気のない声で呟きながら、エミリアはリザの傍で片膝を付き、リザの服に手をかける。
「な、なにを!?どうしちゃったのエミリア!?」
リザの困惑した声を無視して、黒い服をはだけさせていく。そして、拘束している触手が邪魔になって脱がせにくいと見るや、力を込めて破りにかかる。
「やめて!」
「クスクス……いくら叫んでも無駄だよ、エミリアちゃんはもう、奴隷ちゃんになったんだから」
いつの間にか再び開いていた扉から、邪術のライラが現れる。

「邪術のライラ!?」
「ここに来るまでの間にも、エミリアちゃんの様子がおかしいって思わなかった?」
「……!」
確かに、不自然に意識を手放していたり、エミリアには妙な振る舞いが多かった。だがまさか、邪術師に操られていたとは……

「ああ、一年越しの望みがやっと叶うわ……!」
「く……!」
「ライラ様、ホムンクルス作成のための魔道具の用意ができましてございます」
「あ、ありがとうドロシーちゃん」
「な!?」
虚ろな瞳をしたエミリアに服を破かれている途中、ノックの音の後に現れた幼い少女を見てリザは驚愕する。
その少女は、年齢以外は死んだ仲間であるドロシーと瓜二つであったのだ。

「うそ、妹……?でもドロシーに兄弟がいたなんて聞いたこと……」
「あれ、貴女……やはり、どこかでお会いしましたか?」
「気のせいだってば。エミリアちゃん、下も破いちゃってー」
「な……いや、止めて……!」
服を破いて上半身を下着姿にさせた後、エミリアは下半身にも手を伸ばす。本気で抵抗するリザだが、触手の拘束は固い。
動けないながらも必死にもがいてるうち、リザのポケットから何かが落ちる。

「あ……」
それはあの日、ドロシーが死んだ日以来リザがいつも持ち歩いていた、ドロシーの形見である赤いリボンであった。
それを見て、クローンドロシーは目を大きく見開く。

「そ、それは……!ううう、あ、頭が……!あ、ああああ……!」


216 : 名無しさん :2017/03/26(日) 21:57:32 ???
「ん?どうしたのドロシーちゃん。突然うめき出しちゃったりして。」
「ぐぅ……い、いえ……ちょっと、体調が悪いので席を外させてもらいます。」
「変なドロシーちゃん。いつもはしっかりしてる子なのに……ま、いいわ。エミリアちゃん、リザちゃんを脱がしてくれてありがとね。」
「はい。ライラ様。」
エミリアによってリザは上半身と下半身、共に布一枚の下着姿となった。

「あぁ……!リザちゃん、あなたって本当素敵な体してるのね……」
うっとりとした声を出しながら、ライラはリザの首筋にゆっくりと触れる。
「んぅっ……!」
「怖がらないで。力を抜いて。貴方は私の宝物だもの。傷つけたりなんかしないわ……」
ゆっくりと、リザの体の感触を余すことなく感じられるように、ライラはリザの体に細指を這わせてゆく。
首、肩、右腕、右手、左手、左腕……そして、布を纏った双丘へ。
「んっ……!」
「ここも……今は未発達だけど、きっと成長すれば立派になるわ。まぁ、私は興味がないけど……」
膨らみに指を這わせながら、ライラはリザの胸にゆっくりと口を近づけ……
「な、なにを……!?ひゃんっ!?」
小さな双丘の谷間へと、小さくキスをした。



キマシタワーーー!
キマシタワーの中でも最高級のキマシタワーですなぁ
ワイ48歳、15歳のリザちゃんの体を触りながら舐め回して、思いっきり不快感与えたい。
↑おまわりさんこっちです
女の子に犯される女の子……!
邪術師の主はふたなりなんです?
どうなんだろ 少なくともレズではある
あぁ……リザちゃんお嫁さんにしたい。帰って来てエプロン姿で迎えてほしい。
↑珍しく健全思考のやつ湧いてんなww
視聴者数:107854



「んむちゅっ……クスクス。わたしね……ドロシーちゃんを追いかけて来たリザちゃんを見た時から、ずうぅっと、リザちゃんの体が欲しかったの……夢が叶って、今私すっごく幸せよ……」
(こ、こいつ、何言ってんの……!私は気持ち悪くて全身鳥肌なのにっ……!)
「お父様が食べ方を考えてる間、私にリザちゃんの体を好きなだけ感じさせてね。きっとリザちゃんもそのうち気持ちよくなってくるから……」
(だ…誰が誰を気持ちよくするって言うのよ……!もう……魔法少女でもいいから助けて……!)


217 : 名無しさん :2017/03/27(月) 02:40:30 ???
リザがライラに囚われ、危機に陥っていたその頃。
水鳥もまたカナンに洞窟の更に奥深くへと連れ去られ…

魔法少女アクアウィング EN: 1/1000 MP: 106/1500 BS:猛毒 出血 火傷 暗闇 沈黙 衰弱 恐怖 麻痺 幻覚 呪い 重力(強) 石化(腕) 凍結(脚) 死亡回数:23

「あうっ…ぐ……ひぐ……ごめんなさい…もう、逆らいません…ゆるして、ください…」
…延々と、いたぶられ続けていた。

「…ったく、情けないわねぇ…さっきお友達と居た時は少しだけ威勢が良かったのに…一人になったら、こんなもの?」
傍から見ると、イタいコスプレした29歳が若さに嫉妬して小学生を虐めている光景にしか見えないが、
カナンがここまで水鳥に対して激怒しているのには別の理由があった。

「これでも少しは手加減したつもりだけど…少しは理解できたかしら。
負けた魔法少女が抵抗する事さえ止めてしまったら、どんな目に遭わされるのか…」
ツインテールに結んでいた髪の片方は解け、腰まで届く長い髪には血と泥がこびりついている。
カナンは残るもう片方の髪房を掴むと、水鳥の上半身を無理やり引きずり起こした。

「ひっ……もう、いや…誰か…助けて…真凛さん…エミリアさん……お姉…ちゃん…」
「まだ、わかっていないようね。貴女は…魔法少女は…
助けを求めるのではなく、誰かを助けなければならない立場の人間なのよ」
…カナンは、水鳥の髪を掴んだまま、爆炎系の上級攻撃魔法を詠唱し…

「…敵に許しを請うこと。安易に味方に助けを求めること。そして何より、諦め…希望を捨てること。
…どれも、魔法少女には…絶対に許されないのよ」
(………ズドンッ!!)
「…う…ああぁぁあああっ!!!」
水鳥に、何度目かの(…十を超えた辺りで数えるのをやめた)止めを刺した。

市松水鳥 EN: 0/200 MP: 0/ 0 BS:-  死亡回数:24

…カナンは水鳥の死体を仰向けに蹴り転がすと、回復魔法を詠唱し始めた。
しばらくすると、水鳥の身体はピクリと動き、瞳には僅かながら意志の光が灯り始め…

「さあ…目を覚ましなさい。貴女の力はそんな物じゃないはずよ」

「…………げほっ……っが、はぅ…」
…大量の血の塊を吐き出しながら、水鳥は再び目を覚ました。
だが、既に水鳥は完全に戦意を喪失し、怯えきった眼でカナンを見上げたまま立ち上がれない。

(私も、この子も、魔法なんて…戦う力なんてなかった方が、幸せで居られたのかもしれない。
だけど、これ程までの…私を超えるかも知れない程の素質を持ちながら、
誰かの影に隠れて、ぬくぬくと守られたままでいるなんて…私には、どうしても許せない)
カナンはうっすらと目に涙を浮かべながら、遠い昔……自分が水鳥と同じくらいの歳だった頃の事を思い出していた。
…自分の力が足りなかったせいで死なせてしまった仲間や、守れなかった人々の顔が浮かんでは消えていく。

(…なんとなく、分かった気がするわ……なんで私がこんなに、この子にムカついてたのか)
(あの頃の私に、この子位の力があったら……理不尽なのは分かってる。この子には何の責任も関係もない事も。でも…)
『英雄』として語り継がれる伝説の魔法少女も…元を辿れば、ただの一人の人間でしかない。
時には嫉妬もするし、感情を抑えられない事もあるのだ……


218 : 名無しさん :2017/03/27(月) 20:42:41 lCNEjBfA
「どうしたの、立ちなさいよ。立って私に立ち向かって来なさいよ!」
「おぐぉ!!?」
足を振りかぶって、仰向けに倒れている水鳥の腹部を思いっきり踏みつける。
「あ、ぎ、ゃ……やめて……ください……」
「止めてほしかったら力ずくで止めて見せなさい……!」
「あ、ぐ、ああああ……!!」
踏みつけた足をグリグリと押し込んで挑発するも、水鳥はされるがままで一向に反抗してこない。

「はー、全く気概のないガキね、もうアンタはいいわ」
「う……ケホッ、ケホッ」
突然、踏みつけていた足をどけるカナン。助かったのかと安堵する水鳥だが、続く言葉に驚愕する。

「これならまだ、外にいる魔物になった魔法少女とやらの方が潰しがいがありそうね」
「な……!?」
「どうせなら、また土に還る前に楽しみたいからね。魔物なら心置きなく殺せるってもんよ」
「や……やめてください!真凛さんは、邪術師に改造されただけなんです……!邪術師を倒して、ルミナスで療養すれば、きっと元に……!」
「やれやれ、何を根拠に言っているのやら……もう一度だけ言うわ。止めたかったら力ずくで止めなさい」
「う、ううう……!」

酷な事を言っているのは自分でも分かっている。だが、これでもなお決起しないというなら、その才能を無為に浪費するというのなら、今度こそ生き返れないほど身体をバラバラにして殺すつもりだった。

「真凛さん……真凛さん……!」
水鳥が思い返すのは、真凛との修行の日々。優しく指導してくれた、もう一人の姉のような存在。
歌うのが好きだった彼女。危険なスパイ任務にも、アイドルになりに行くなんて夢のようだと笑っていた彼女。
王に囚われ、あの国の者たちに弄ばれ、邪術師に玩具にされ、今また、自然の摂理に抗った死者に殺されようとしている。なぜ彼女ばかりこんな酷い目に合わなければならないのか。運命は彼女を見捨てたというのか。

「真凛さんは……私が守る!」
誰も真凛を守らないなら、自分が守る。いや、真凛だけではない。光も、リムリットも、姉である鏡花も―――
「ルミナスのみんなを……守ってみせる!例え相手が誰であろうと……伝説の魔法少女であろうと!私はもう怯えない!もう迷わない!」
ここで初めて、水鳥の瞳に燃えるような闘志が宿る。

「アクア・ウィング!」
自らの異名の元でもある水の翼を発現させる。水の翼は水鳥の闘志に呼応するように、どんどん輝きを増していく。

「は……はははは!!そうよ、それを待ってたのよ!いいわ、最後の一騎討ちといきましょう!」
それに対し、笑いながらカナンも魔力を開放させる。暗い洞窟の中に、青い光とオレンジの光が鮮やかなコントラストを描く。それはまるで、青空が半分ほど夕陽に照らされた、黄昏時のようであった。


219 : 名無しさん :2017/03/27(月) 22:37:46 ???
魔法少女アクアウィング EN: 400/1000 MP: 106/1500 BS:なし

「はぁああああああ!!」
(もう魔力は残り少ない……!短期決戦に賭けるしかない!)
水鳥の魔力が急速に高まっていき、水の翼が光を纏う。だが、それを黙って見過ごすカナンではない。
「大技を使うのはいいけど、溜めが長いということは相手に邪魔されやすいということでもあるのよ!スターライト!」
光の輝きが水鳥を襲う!
「時には……!逃げることも!」
「な!?」
水鳥は水の翼によって得た高い推力で、光属性の攻撃魔法を回避する。しかも、魔力を溜め続けながらだ。攻撃の準備と回避を同時にこなす器用さには流石のカナンも驚嘆する。

「でも、ロードアクセル!」
加速魔法によってカナンもまた高い機動力を得て、水鳥に肉薄する。
「この距離じゃ、大技は撃てないわね!アンタも巻き添えになるもの!」
「時には……!被弾覚悟で!」
「な!?アンタまさか」
「ファインブリンガー!」
水鳥の魔弓から、青い光の矢が放たれる。その矢はカナンに命中したが、その衝撃は水鳥にも及ぶ。
互いに吹き飛ばされる水鳥とカナン。

「くぅううう!」
(でも、日和ったわね!威力はあの溜めにしてはかなり低いわ!)
しかし、吹き飛ばされながらも決して相手から目を逸らさなかったカナンが見たものは、未だ色褪せない、水の翼であった。
「……!まさか、わざと少ない魔力で!?」
「接近された時のための技……!」
本来は多大な魔力によって放たれる大技をあえて少ない魔力で放ち、距離を取るためだけに使う。咄嗟の判断力がなければできないことだ。

「うあああああああああ!!」
吹き飛ばされた体勢のまま、翼をはためかせて無理矢理体勢の崩れたカナンに突進する。
体勢も身体の軸もブレブレの一撃だが、残る魔力を全て水の翼に注ぎ込み、推力の力押しによって、その体当たりは一筋の光となる。
体勢の崩れているカナンに、それを避ける手立てはなかった。



魔法少女アクアウィング EN: 200/1000 MP: 0/1500 BS:なし

「……やるじゃない」
カナンの身体は、水鳥の全力かつ捨て身のタックルによって崩壊し始めていた。
「カナン様……どうしてシャドウサーヴァントを使わなかったんですか!あれを使っていれば……」
「ふ……一騎討ちと言ったでしょ。それに、貴女が私の教えをどれだけ身につけているのかも確かめたかったのよ」
「カナン様……ひょっとして……」
水鳥が目を見開くが、それを無視してカナンは言葉を紡ぐ。

「私は……貴女に謝らなければならない」
「え?」
「貴女のような、才能ある子が……幼さを盾に誰かに守ってもらっているのが我慢できなかった。私が貴女くらいの時に、貴女程の才能があれば、大勢の人を守れたのに……って。おこがましい嫉妬よね。いい年して……」
「そんな……私なんて……!」
「じ……自信を持っていいの……全盛期には及ばないとはいえ……ほぼ……生前の力のまま生き返った私に……勝ったんだか……ら」
「カ、カナン様、身体が……!そ、それに、勝ってなんかいません!その気になれば今すぐにでも、魔力切れの私にトドメを刺せるはずです!」
「さ……最初に有効打を入れたんだから、貴女の勝ちでいいわよ……ず、随分……謙虚ね……」
「そんな……」

「貴女の名前……水鳥、だったかしら……?ふふ、水の鳥……貴女にぴったりね……」
「カナン様……」
「ねぇ水鳥……ルミナスを……みんなが幸せで、笑って過ごせるような……そんな、楽園(カナン)を……守……って……貴女は……守られるのではなく……守る側になる、責任……いえ、力がある……私が……ほ……しょう……」

その言葉を最期に、カナンの身体は崩れ、土に還った。


220 : 名無しさん :2017/03/29(水) 00:36:16 ???
水鳥がカナンを倒した頃、ライラの館の廊下ではクローンのドロシーが頭を抱えていた。
(なんだろう……あのリボンを見た瞬間、頭の中で何かがはじけて……なにか思い出せそうなのに、思い出せない……!)
リザの懐からこぼれ落ちた赤いリボン。なんの変哲も無いものだったが、視界に入った瞬間からずっとドロシーの胸の中はザワザワしている。

(思い出せ……思い出せ私……!あのリボンは誰のもので、誰からもらって、どうして今ここにあるのかを……!)
失われつつあった脳の片隅のわずかな記憶を、ドロシーは無理やりこじ開けた。



「リザ、アイナ、ドロシー……君たちの功績を称え、本日付けで3人全員、トーメント王下十輝星に迎えることにした。これからよろしく頼むぞ……!」
「さ、3人全員……!?」
「やりましたわー!3人揃って呼び出されたからこれはもしやもしかしてと思いましたが、めでたく3人とも栄転成功ですわー!」
「まことにありがたきお言葉……!王様!私はトーメント王国の繁栄のために、この身全てを捧げる覚悟で臨ませて頂きます!」
「あー固い固いぞドロシー。確かに任務は困難になるが、十輝星は色々とVIP待遇盛りだくさんだ。今日くらいは3人で喜びを分かち合っておけ……ヒヒヒヒ!」

「やりましたわねリザちゃん!ドロシー!これからはトーメント王国中のお菓子がお取り寄せで食べ放題ですわ!アイナ幸せすぎておかしくなっちゃいそう!心臓が破裂しそう!」
「アイナ!王様はああ言ってくれたけど、今日からは王下十輝星としての立ち振る舞いを心がけなければダメよ!王様直属の精鋭部隊なんだから……フフフッ、王様直属の精鋭部隊……!グフフフッ」
「か、肩書きに酔いしれてるドロシーはキモいですわ……リ、リザちゃんも良かったですわよねー?念願の王下十輝星になれて!」
「……うん。これでアウィナイトのみんなにいい報告ができる。これから頑張らなきゃ……!」



(うう……この記憶は、誰の記憶……?もしかして、私の記憶……?)
ドロシーの頭の中に走馬灯のように浮かび上がった光景。そのすべての意味を理解することはできないものの、やはり自分の記憶の中には先ほどのアウィナイトの少女が存在していた。
(もっとだ……もっと……記憶を掘り起こさないと……!なぜか……思い出さきゃいけない気がする……!)



「なによーリザ?こんな海辺の砂浜に呼びだして。リザが海を何時間も眺めてるのが好きなのは知ってるけど、流石に私はそんなのんびりした趣味に付き合えないわよ?」
「……1人で眺めるのが好きだから、その心配はしなくていいよ。今日は……これを渡したくて。」
「なにこれ……わ、可愛いリボン。……あ。まさか……」
「……今日、ドロシー誕生日だよね。だから……お誕生日おめでとう。ドロシー」
「も、もう……!別にプレゼントなんていらないのに。それにこのリボン、私には可愛すぎるでしょ……」
「……そんなことないと思う。付けてあげるから、後ろ向いて。」

「ほら……やっぱり可愛い。」
「うぅん……リザにそう言われると嫌味に聞こえるのがなぁ。ていうか鏡ないから自分じゃわかんないし。」
「……………………」
「じ、冗談よ!そんな悲しい顔しないで!すっごく嬉しいから!」
「……ごめんね。ドロシーの欲しいものがよく分からなくて……で、でも本当に似合ってるから。私が保証するから!」
「わ、わかったわかったわよ……!もう、珍しく大きな声出しちゃって……本当にありがとう、リザ……」



(そ、そうだ……あのリボンは親友がくれたリボンで……!私はいつも肌身離さず持ってた。それがあの人のポケットから出てきたってことは……わたしは……!)
掘り出したバラバラの記憶から持ち前の勘の良さで、ドロシーはほぼ全てを理解した。
自分の今の状況……それは自ら望んだものではないと。

「あの人を……親友を……リザを、わたしが助けなきゃ……!」


221 : 名無しさん :2017/03/29(水) 01:48:52 ???
「みんなの幸せを…笑顔を守る……私に、出来るかな…」
カナンの身体は洞窟の土と同化し、完全に消え去ってしまった。水鳥もまた魔力を使い果たし、その場にへたり込む。
カナンとの激闘を経て一回りおっきくなったかに見えた水鳥だが…
(…あ…今、魔力ゼロだし、…真っ暗はさすがにマズい…!…だ、誰か助けてぇぇ…!)
……早速弱音を吐いていた。
だが無理もない。魔力切れで変身も解除され、周囲は真っ暗闇。
ここへはカナンに無理やり連れてこられたから、現在地すらわからない。
しかも…忘れてはならない。ここは魔物が潜む、邪術師の本拠地真っただ中である。

(ど、どうしよう…このままじゃ、あの二人と合流するどころか一生地上に出られないかも…)
慌てて周囲を見回すと…先ほどまでカナンがいた場所の地面で、微かなオレンジ色の光が煌いているのが見えた。
「これは……カナンさんが付けてた、ペンダント……?」
目の前を微かに照らすのがやっとの小さな光ではあるが、それでも有ると無いでは大違いだ。
(す、すいませんカナンさん。ありがたくお借りします…)
…あの流れからいきなり他人に頼ってしまうのもどうなのか、と水鳥は一瞬考えたが……

(…別に、気にしなくていいわよこの位。状況が状況だし。ていうか、ここまで連れて来たの私だしねー。)
…とでも言っているかのように、ペンダントはキラリと輝いた。

ライラの結界『魂縛領域』の影響で、肉体が土に還った後もカナンの魂は解放されなかった。
そこで、カナンは残りの魔力を使って自らの魂をペンダントの中へ封じ込めたのであった。
(…と言っても、こっちの声も聞こえないみたいだし、明かりぐらいしか役には立てなさそうね。
でも貴女なら…私の力なんて借りなくても、きっと大丈夫…)


222 : 名無しさん :2017/03/29(水) 02:18:55 ???
カナンのペンダントを手に、水鳥は闇の中、洞窟の更に奥へと進んでいった。そして……

「あ、あれ…?なんか、元来た道からどんどん離れていってるような……」
…迷った。

(こ、この子……けっこう方向音痴ね…)
そして迷いに迷った末、水鳥はライラの住処よりも更に奥、洞窟の最深部に辿り着き……
そこで、とんでもない物を見つけてしまう。

「……う、うわぁ…何この…ええと、…何だろ、これ……」
そこは、サッカーコート程の広さを持つ巨大な地下空間だった。
床一面に不気味な魔法陣が描かれ、血にまみれた死体が至る所に山積している。
その中心部に鎮座しているのは、不気味に脈打つ、何かの生き物の内臓のような肉塊だったのだが…
それにしては、あまりにも巨大すぎる。

邪術の知識に疎い水鳥にも、周囲に漂う禍々しい魔力は嫌でも感じられる。
この場所は…例の邪術師にとって、とても重要な場所であることは間違いなさそうだ。

…一方のカナンには、これが何のか心当たりがあった。
(やっぱりね…この洞窟のどこかに、必ずあると思ってたわ…
……これが、『魂縛領域』の核……!)
森全体を覆う結界の源。生者の魂を呼び寄せて離さず、死してなお束縛する邪術。
かつては美しい自然にあふれていたこの森を、魔物と亡者が跋扈する
『死んでも出られぬ』悪夢の樹海へと変えてしまった元凶であり……
水鳥達がこの森から脱出するには、ライラの討伐だけでなく、この結界も破壊しなければならない。

(流石にこれだけ大きいと、今の水鳥の魔力で破壊するのは無理ね。
ここは一旦引いて、回復を……って、あれ、水鳥…?)
冷静に分析するカナン(のペンダント)。だがその思惑とは裏腹に、
水鳥はふらふらと結界の中心に向かって歩き始めた。まるで何かに魅入られたかのように…

「あ、れ…(…あの中に……)…なんで…(行かないと…)……」
一歩近づくごとに、肉塊から発される邪悪な魔力は強さを増していく。
今すぐにも逃げ出したいはずなのに、見えない力が水鳥の身体にまとわりつき、ずるずると引き寄せられてしまう。

(まずいわ…あの結界は、強い引力で魂を魅き寄せる。このままじゃ、水鳥が…!!)


223 : 名無しさん :2017/03/30(木) 00:49:55 ???
「い、いやっ……!行きたくないのに……勝手に足が……!」
まるで磁力が働いているかのように、水鳥は肉塊の元へと導かれてゆく。
ペンダントが危険を知らせるかのように、何度も点滅しながら発光を繰り返しているが、水鳥の視界には全く入らなかった。
「と、止まって……!いやぁっ!いやっ、いやあぁっ!」
悲鳴をあげながらも水鳥は一直線に肉塊へと歩を進めてゆく。もう水鳥と肉塊の距離は5メートルにまで縮まっていた。
(手を伸ばせ……触れるのだ……そうすれば貴様にも、永遠の命を与えよう……!)
「な、なにこの声……!?いやっ!?手が!手がぁっ!」
意思とは無関係に右手を伸ばす水鳥。その小さな指先が、肉塊へと近づいていく。
(それでいい……幼い魔法少女よ。貴様もこの森で、永遠に※%△!∞☆◎▽となるのだ……!)
途中の言葉は人の言葉ではなかった。おそらくその言葉の意味は、肉塊に触れた時わかるのだろう。
だが、水鳥がそれを知ることにはならなかった。

「危ないっ!」
「きゃああッ!」
突如現れた少女が横から水鳥にタックルし、すんでのところで肉塊に触れることを免れたのだ。
「だ、大丈夫?」
「うぅ……だ、大丈夫です。というか、多分助かりました。あなたは?」
ぶつかってきた緑目の可愛らしい少女は、水鳥には目もくれず肉塊へと手をかざす。
「悪いけど、今時間がないの。わたしの親友を助けるために、この肉塊をぶっ壊す!」
(え?親友……?というか、よく見たらわたしと同じくらいの子だ……)
「この体でどこまでできるか……!ウィンドブレイドッ!」
緑目の少女……クローンドロシーが叫ぶと、肉塊に大きな亀裂が入った。

「クスクスクスクス……リザちゃん。あぁ…リザちゃんリザちゃんリザちゃんリザちゃん……!あなたの名前も声も容姿も本ッ当に大好き。もうずっとこうしてペロペロしていたいわ……クスクスクスクス……!」
「…………………」
「あれれ〜?もう喋る気力も無くなっちゃった?さっきまでわたしのキスであん、あんって可愛く鳴いてくれてたのに。」
「…………………」
「もう〜。もっと私にリザちゃんの可愛い声を聞かせてよ……ふぁあんむっ、ちゅ……」

リザ EN: 1000/1000 MP: 0/250 BS:なし

下着姿でぐったりとしているリザの唇を無理やり奪うライラ。キスをされているだけなので体に異常はないが、自分の悲鳴が邪術氏に喜ばれるとわかったリザは、全てを諦め目を閉じていた。
「もう、リザちゃんは諦めが早いんだから……あ、せっかくだから私ばっかりじゃなくてエミリアちゃんにもやってもらおっかな〜」
「なっ……!」
「ライラ様……私はなにをすれば?」
「今私がリザちゃんにやってたこと、今度はエミリアちゃんがやって。私はそれを側でじっくり見てたいの…クスクス…」
「…かしこまりました。」

「エ…エミリアッ……!やめてよっ……!」
「まずは……つま先から舐めますね……ちゅ、れるろぉっ……!はむっ!」
「や、あぁんぅ……ひゃあんっ!」
「あ〜!リザちゃんったら私の時はだんまりだったのに、エミリアちゃんの方が嬉しいっていうの!?」
冗談半分で笑いながら言い放つライラ。そんなライラの目の前には、エミリアとリザによる百合の花咲き乱れる淫靡な光景が広がっていた。


224 : 名無しさん :2017/03/30(木) 01:18:14 ???
「ちゅ、んっ……ライラ様、このようにしていればよろしいでしょうか?」
「や、あぁっ…!んんうぅ……!」
(この触手……!魔力を吸い取るだけじゃなくて……!)
「リザちゃんの反応を見ればわかるでしょ?上出来よ。まあ触手から快楽物質をジュンジュワーさせたから、今のリザちゃんはどこ舐めてもどこ触ってもあんあん感じちゃうだろうけどね……クスクス…!」
(や……やっぱり……!もう、なんで私はいつもいつもこんな目にあうのよ……!)

「さ、そろそろブラとおパンツも取り去って……ん?んんん?あれれ〜?」
まるでコ◯ンのように突然疑問を抱くライラ。リザが目をやると、ライラは体が直角になるほど首を傾げていた。
「おかしいなぁ。結界の力が弱まってるなぁ。これじゃリザちゃんを食べるときにすぐ死んじゃうよ。」
(え……?今なんて言った……!?)
「様子見に行かなきゃ……ちょっと私出てくるから、エミリアちゃんはここでリザちゃんを見張っててね。」
「…承知いたしました。」
ライラはそう言い残すと、リザにウィンクをして部屋から出ていった。



濃厚な百合でしたなあ
ていうか邪術師の主可愛くね?普通に美少女やん
初見だけど俺も思った 声も落ち着いてて普通に可愛い
お前らローブの中見たらそんなこと言えなくなるぞ
ワイ将、ローブの中を見て飲用したスムージーをさらにスムージーにすることに成功
きたねえw
く さ そ う
視聴者数:137564



(結界のことは少し気になるけど、この時間を使って、私が密かに立てた計画を実行させてもらうわ……!)
サキの計画……リザと2人きりの状況になったエミリアを操り、リザをボコボコにしたあとエミリアの回復魔法で回復させる。
そして治った側からまたすぐにボコボコにし、回復させる。それを繰り返すという悪趣味にもほどがある回復ループコンだった。
「はぁ……はぁ……」
(ライライが出てったからってホッとしてるんでしょうけど……本当の地獄はここからよ。クソリザァ……!)


225 : 名無しさん :2017/03/30(木) 19:51:32 ???
「く……やっぱり、この身体じゃ……!」
(フハハハハハ!!無駄だ!貴様のような小娘に、我を廃す力など……!)
「魔法だけで破壊は無理なようね」
(なに?)
いつの間にか二つの鎌を構えているクローンドロシー。
「本当は武器越しとはいえ触れたくないけど……親友のためよ!グリム……リーパー!」
小さい身体からは想像できないほど力強い薙ぎ払いで、肉塊の亀裂が入った箇所を引き裂く!

(おのれ……おのれぇ!たかが人造人間の分際で!貴様など、邪術師に玩具にされるためだけに生み出されたというのに!)
「……それで親友を助けられるんだから、万々歳よ」
(ならば……貴様のその作り物の肉体に、我が▼※ΧЧを刻んでやろう!武器で直接我に触れたのが、運の尽きよ!)
「……っく!?」
(フハハハハハ!仮に邪術師を撃破したとしても、少しずつ※%△!∞☆◎▽となっていく自らの身体に絶望しながら生きてゆくがいい!)
その言葉を最期に、肉塊は二つに割れた。そして、得体の知れない闇が鎌を通してクローンドロシーの身体に入り込み……ドクン、と心臓が脈打つ。

「う……!くっ、ああ!?」
「だ、大丈夫!?」
突然胸の辺りを押さえて苦しみだしたクローンドロシーに、水鳥が心配の声をあげる。さりげなくタメ口になってるが、見た目は同年代にしか見えない故致し方なし。

「あ、く……なにか得体の知れないものを、身体に入れられた……!」
「ええ!?す、すぐに病院に……!」
「わ、私のことはいいの……それより、これを……」
クローンドロシーは、一切れの紙と一振りのナイフを水鳥に手渡す。
「これは?」
「こ、この洞窟と、邪術師の舘への地図よ……う、ぐうう……!な、名前も知らない子に頼むのも何だけど、舘に囚われてる親友を……リザを、助けてほしい……あの子なら……武器さえあれば、きっと邪術師を倒せる……」
「リザ……ってひょっとして、スピカさん?」
「核を破壊したから……結界の力も大分弱まってるはず……延々と甚振るのが大好きな邪術師のことだから……この状況で、リザを殺しはしないはず……!」
「貴女は一体……?」
息も絶え絶えといった様子のクローンドロシー。だが、どう見ても一般人ではないだろう。

「私はデネ……いえ、私はドロシーよ。それ以上でもそれ以下でもない」
「そ、そういうことを言ってるんじゃなくて……!」
「何も考えずに地図だけ見て走って!早くしないと、みんなが永遠にあの女の玩具にされるのよ!結界を修復されてリザが食べられてしまったら、もう打つ手はない!それとも、魔力も残ってないアンタに邪術のライラが倒せるの!?」
「う、うう……邪術のライラを倒したら、ちゃんと病院に行って見てもらってね!」
クローンドロシーのあまりの剣幕に、水鳥は後ろ髪を引かれる思いながらも地図を見てライラの館へと向かいだす。


「クソ……!この、心臓の痛みさえ無かったら……私がアイツを殺してやるのに……!結局、最後はリザ頼りになったか……!」
「結界の核を壊しただけでも十分よ、驚いちゃったわ」
「……!!!」
水鳥がライラの館へと向かいだしてからしばらく後。胸を押さえてうずくまるクローンドロシーの耳に、絶望の声が聞こえる。

「結界の様子を見に来てみれば……まさかクローン元の記憶が蘇るなんてね。クスクス……!でも、もう一度反抗的な貴女とじっくり遊べると考えたら悪くないわ」
「く……邪術のライラ!」
「魔力切れの魔法少女如きが、エミリアちゃんを出し抜いてリザちゃんを救えるのかしら?貴女にしては悪手だったわね、ドロシーちゃん?」
「私は、親友を信じてる……あの子は、アンタなんかに屈しないって」
「へぇ……」
「そして、英雄カナン・サンセットに勝利したあの魔法少女に、私は賭けた!」

一方その頃、水鳥は地図があるにもかかわらずがっつり道に迷っていた。


226 : 名無しさん :2017/04/01(土) 09:45:54 ???
「さて、ちょっとの間エミリアちゃんの体を借りるとしますか……!」
エミリアの視界を通じてリザを見つめるサキ。今から彼女がしようとしているのは、一時的にエミリアの体に入り込んで直接操ることである。
(隷属印術・操…!)
サキが術を発動した瞬間、彼女の体は座っていたベッドに力なく横たわった。

(よし、成功ね!)
乗り移った体の感触を確かめながらリザに目をやると、身体中ライラとエミリアの唾液にまみれて息を荒げているリザの姿があった。
「はぁっ……はぁっ……はぁ……」
(随分気持ちよくなったみたいねえ。でもこれから始まるのは、そんな快楽とは無縁。今の私の思いを、あんたの小さな身体に強引にぶち込んでやるわ……!)

「うぅ……?エミリア、何を……?」
「気安く私のことを呼ぶんじゃないわよ。エミリア様、でしょ?もうあんたは家畜になったんだから、気安く人様に話しかけないで。」
「え……?」
エミリアの突然の口調の変化に戸惑うリザ。とはいえおそらくは邪術師に操られているままなのだろう。そのエミリアはゆっくりと魔力を腕に集めている。
「今から始まるのは拷問よ。アウィナイトの奴らがどこに集まって生活してるのか……アンタなら知ってるでしょ?」
「……!……そんなこと聞いて、どうするつもり?」
「決まってんじゃない。全員とっ捕まえて金にするのよ。男は目を宝石に、女は金持ちの性奴隷にして……ねアンタらってそういう生き物でしょ?」
「ち、違うっ!……私たちだって……私たちだってれっきとした人間よ……!そんな風に虐げられる理由なんかないっ!」
「はっ、現在進行形で虐げられまくってる奴らが、何を今更声高に人権主張してんのよ。あんたらは人様の肥やしになるために生まれてきたの。人並みの幸せを遅れると思ってるなんて……甘いのよっ!!!」

「ぐああああああぁぁぁぁぁッ!!!」
エミリアの魔力を集めた拳が、リザの腹にメリメリと音を立ててめり込む。
「あははっ……!もっと、もっとめり込ませてやるわ……!」
バキバキッ、メリメリ……!
「お゛ごっ……!あ゛っ、があ゛っ……!ぐ、が……がはあっ!」
嗚咽のような悲鳴とともに、強い内蔵圧迫によってリザの口から体液が勢いよく飛び出した。
「フフフ…目を見開いて口からゲロゲロなんか出して、あんたにはぴったりの醜いアホ面ね。」
吐き捨てるように言うとエミリアは、ゆっくりと拳を引っ込めた。

「ゲホッゲホッ!!がふっ……はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
「おら、休んでんじゃないわよっ!」
なんとか気道を整えようと喘ぐリザの髪を、エミリアは強引に鷲掴んで引き寄せた。
「ぐううっ!」
(……こうして近くで見るとほんとにすごいわね……小さな顔にシミひとつない透き通るような肌。整った形の鼻に花のようなぷるぶるの唇。そして、宝石のような青い目……)
間近で見るリザの美しい容姿に、エミリア…否、サキは息を飲んだ。リザを嫌悪している彼女だが、容姿では全く上回っている要素がないことを自覚していたのだ。
(だからこそ……ムカつくわ。虐げられてる弱小民族のくせに十輝星になって、王様や他の奴らにしっかり認められてて……!弱小民族のくせに、私よりも人徳があるなんて……!)

「ご……拷問なんかしても無駄よ……ゲホッ!……私は……仲間を売ったりなんか、絶対にしない。そんなことをするくらいなら……ここで死ぬ。」
「まあ仲間思いだこと。でも身体中唾液まみれの下着姿で、苦痛に顔を歪ませながら息も絶え絶えに喋ってるんじゃ、いまいち格好つかないわね。」
言いながら、再度魔力を腕に集めるエミリア。先ほどと違い、今度は両腕に強い魔力を集めていく。
「くっ……!」
「次はエミリア百裂拳よ。あんたの最上級の悲鳴を、わたしに聞かせなさい……!」


227 : 名無しさん :2017/04/01(土) 09:51:02 ???
一方…リザは触手に拘束され、エミリアの執拗な愛撫に晒され続けていた。

「はぁっ……はぁっ……く、くるなっ……んっ……ふ、あぅ……」
両腕は天井から伸びる触手に拘束され、頭の上で束ねられて動かせない。
床から這いあがって来る触手の一群は、緩慢な動きでリザのつま先をしゃぶり、くるぶしにキスし、ふくらはぎを舐め上げ、
太股にまでその繊毛だらけの身体を絡みつけてくる。
…放っておけば、その先の下着に守られた秘唇の奥にまで入り込むつもりなのは明白。
だがどんなに絡みついてくる触手を振りほどき、近付いてくる蹴りつけても、息つく間もなく新たな触手が迫り…
リザの体力は見る見るうちに削られていった。

「ふふふ…触手さん達にも、ずいぶん気に入られてるみたいね。
リザちゃんの体の中の、美味しい魔力のせいかしら…魔法少女とかの素質もあるんじゃない?」
そして、無防備な上半身を、エミリアの指と舌が縦横無尽に這い回る。
リザは快楽に流されまいと必死に身体を強張らせ、声を押し殺そうとするが、
その身体は触手に送り込まれた媚毒液に侵食されており、白磁のような柔肌は薄っすらと桜色に染まっている。
下着越しに軽く指でつつかれただけでも腰が砕けてしまうほどの甘く蕩けるような快感が走った。

「んあぅっ…!! ひゃ…えみ、いあ……だ、めぇ…こんな事……もう……や、め…て」
「うふふ…ダメよ。そんなにいやらしい声で、おねだりするみたいに腰を振られたら…もっと可愛がってあげたくなっちゃう」
リザは日々の厳しい訓練によって苦痛に対しては強い耐性を身に着けており、多少の事では声を上げる事もない。
だがその逆、快楽に抵抗する術は素人同然…いや、それ以下と言ってよかった。

「ふふふ…触手の汁でずいぶん感じやすくなってるみたいだけど…一番弱いトコロは、どこかしら?
おへそ…?…わきの下…?…それとも…」
「んぁっ……や、あうっ…!?……そ、そんなとこ、だめ…なんで……んっ…ひあああぁっ…!?」
エミリアの舌が、指が、視線が、次にどこを責め立ててくるのか全く読めない。
そして次々と襲ってくる快楽絶頂の波に、どうやって耐えれば良いのかさえわからない。
リザはエミリアの指と舌に翻弄され、ただひたすら甘ったるい嬌声を…
……こんな声が自分から出せたとは、とても信じられない程の……上げ続けるしかできなかった。

リザ EN: 1000/1000 MP: 0/250 BS 発情 > ORG 78 % 絶頂回数…08


228 : 名無しさん :2017/04/01(土) 11:16:56 ???
>>225>>227>>228>>226 の順でオナシャス)

エミリアの手で何度も何度も快楽絶頂を極めさせられ、息も絶え絶えとなったリザ。
触手に吊り下げられ、エミリアに身を預けたまま、もはや抵抗するそぶりすらない。

「…っ…は…う……エミリア……もう…やめ、て…お願い…だから…」
「まだ理性を保ってるなんて、大した物ね。でも…身体はだいぶ素直になったみたい。
…イくのが病みつきになってきてるんじゃない?」
足元から迫るブラシ触手は、今にもリザの黒いショーツの隙間から潜り込もうとしているが、
それを振り払うことが出来ないのは、もうその余力が無いからか。それとも…

「そろそろ、頃合いかしら…ライラ様は貴女を傷つけるなと言っていたし、私もずっとこうして可愛がってあげたいけど…
ごめんなさい。『あの方』が、どうしても貴女を…ボロボロの滅茶苦茶にいたぶって、地獄を見せてやりたいって」
「…えみ、りあ………?」
…エミリアの声のトーンが突然、ぞっとするほど冷たい物に変わった。
柔らかなエミリアの胸が、リザから離れていき…両腕と脚にまとわりついた触手も離れていく。

代わりに、イバラのような蔦が鞭のように飛んでリザの手足に巻き付き、再びリザを大の字の形に拘束した。
「……っく…う、あぁっ!?」
鋭いトゲの生えたイバラが、ぎりぎりとリザの手足を締め上げる。
全力で抵抗していないと、振りほどくどころか骨ごとへし折られてしまいそうな程の、凄まじい力だ。

そしてエミリアの手にも、棘付きの鞭が握られ……躊躇なく振り下ろさられた。
「っひ、ああ"ああ"あ"ぁぁぁああっ!!」

リザ EN: 541/1000 MP: 0/250 BS 鋭敏 出血 発情 > ORG 0 % 絶頂回数…11 死亡回数…17

「たくさん気持ちよくなって、敏感になった後だから…すごくキくでしょう?…
 流石のリザちゃんも、悲鳴を我慢できないようね。なんて可愛らしい声…ああ、可哀そうに」
言葉とは裏腹に、エミリアは蔑むような笑みを浮かべながら嬉々として鞭を振るい続ける。

「でも『あの方』も、これならきっとお悦びになるわ…クスクスクス」
「うあっ!!…はぁっ…きゃう!!!……あ…『あの方』…?……誰のこと、なの……?」
(まさか…ライラ以外にも、誰かがエミリアを操ってる…?…)

エミリアのローブの中…下腹の辺りには、ピンク色のハートを象った、
しかし見るからに禍々しいルーン文字の紋様が浮かび上がっている。
その邪術の刻印は……リザにも見覚え…否、身に覚えがあった。

(其方には『隷属の刻印』を刻んでやろう。刻まれた者は一生…いや、死して尚、
 魂までもが術者の思うがままとなる邪術の印をな…クックック……)

「まさか……あの時、既にノワールに……!?」
「…ぶっぶー、ハズレ。…とっても素直でマヌケな『クソリザちゃん』に、少しヒントを上げましょうか。
『あの方』は、貴女と同じ王下十輝星の誰か…少しは、身内を疑う事も覚えた方が良いわよ?ふふふ…」
「十輝星…!?……そんな、まさか……」
…リザは思わず絶句した。
エミリアを操り、ライラの裏で糸を引く『あの方』の正体は誰なのか。
「十輝星の誰か」で、しかも隷属の刻印を扱える「邪術の知識を持つ者」…
該当する人物に一人、やはり『身に覚え』があったからだ。
(まさか、ヨハンが…!?…いや、そんな筈は…)
リザにとって、ヨハンに限らず十輝星のメンバーは掛け替えのない仲間であり、
自分に悪意を向けてくる事など…そしてそれを疑う事など、考えたこともなかった。

(あの程度の雑魚に苦戦するようなら、もう十輝星はやめた方が良い。)
(正直……君には少し期待してた分失望したよ)
だが頭ではどんなに否定しようと思っても、あの時ヨハンに掛けられた冷たい言葉を、どうしてか思い出してしまい…

「ふふふ…まだわからないみたいね、『クソリザちゃん』。じゃ、次はスペシャルヒント…
なんと『あの方』が直接、私の身体を借りて…貴女をボッコボコにしてくれちゃいます!
『あの方』は私なんかより、ずっとずっと華麗で美しくて強くてエグい…楽しみにしててね。フフフ…」

>>226に続く)


229 : 名無しさん :2017/04/01(土) 11:54:14 ???
「オーラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!」
「ぐうう゛あああ゛ッ!がはっ!ひぐうっあああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ!」
腹に連続パンチを喰らい、まるで野獣の咆哮のようにけたたましく響くリザの悲鳴。普段の落ち着いた声からは全く想像がつかないほどの悲鳴だった。
「敗戦したボクサーの気持ちをあんたに嫌という程思い知らせてやるわっ!喰らえええええっ!」
「うあ゛っ!?ぐあぁッ!!!」
腹だけではなく、先ほど自身が息を飲んだほどの美しい顔にも容赦なくパンチを浴びせるエミリア。
「弱小民族のくせにそんな綺麗な顔してるなんておかしいのよ!」
「う゛ぅあっ!!ぐうっ!!んぎいぃっ!!…がぼっ!」
顔への強烈な殴打が5発入り、リザが血を吐いたところでエミリアはラッシュを止めた。

「うぅ……ぁ……」
「フフフ、鼻血出ちゃったわね。でも安心して。痣にはならないよう加減したから。顔が腫れちゃったら表情が分からなくて面白くないからね……」
鼻血による強烈な血の匂いと口内に残るべっとりとした血の味で、リザはなんとか意識を繋ぎ止めた。
「早く言いなさいよ。あんたのお仲間はどこでたむろしているの?さっさと言わないとあんた、本当に死ぬわよ。」
「い……言わない……ぐふっ……私は……絶対にみんなを売ったりしない……」
「まあ大したもんだわ。これだけタコ殴りにしても心折れないなんて……次はどんな手段で痛めつけてやろうかしらねぇ。」
「ぃ……んぐっ…!?げほっ!」
「きゃああっ!?」
エミリアが口に手を当てて考え出した瞬間、リザの口から吐き出された真っ赤な液体がエミリアに飛びかかった。

「な、なにしてくれんのよ!あんたの汚い血を私に浴びせてくれちゃって……覚悟はできてんでしょうね?」
「はぁっ……はぁっ……」
「ごめんなさいエミリア様、でしょ?そう言えば許してあげるわ。早く言いなさい。」
「……今更謝って許してもらったところで……拷問が終わるわけじゃないんでしょ……」
「……へぇそう。拷問が終わらないなら謝る価値ないっていうんだ。ずいぶん態度がでかいじゃない……!」
「な、何を……ひゃあっ!!!」
リザの態度に業を煮やしたエミリアは、右手でリザの左の乳房を強い力で握りしめた。

「痛あ゛っ……!!ぐああああぁっ……!」
「BかCってところね。フフフ…こっちには恵まれなかったようねッ!」
さらに乳房を強く握りしめるエミリア。とても常人では我慢できない、刺すような痛みがリザの胸を貫いた。
「ぎぁっ……!そ、そこは……やめて……!」
「なにセクシーな声出してんのよ。そんな声出してる暇があったら、早く謝りなさいっ!」
「ひあああっ!」
エミリアは握りしめていた右手を握りしめ、掴んでいた左乳房へ容赦なく叩き込んだ。
「急所だから痛いでしょ?私に血をぶちまけて謝らない罰よッ!クソリザッ!」
「い、痛いっ!あぁっ!や、やめて!やめてえっ!謝るからぁっ!」
乳房への強い衝撃に耐えられず、リザはエミリアを静止させた。


230 : 名無しさん :2017/04/01(土) 11:55:21 ???
「あ、謝りますっ……ごめんなさいエミリア様……!」
「なっさけないわね。最初からそう言っておけば大事なおっぱいも無事だったのに……」
リザが自分の左胸に目をやると、やはりというべきか、白い肌だったはずの場所が真っ赤に腫れていた。
「うぅ……」
「その調子でアウィナイトの奴らの居所も吐きなさいよ。男の死骸はまとめてあんたの前に積み上げてあげるわ。そうすればいつも仲間と一緒で寂しくないわよね。」
ここで1人は寂しいでしょ?と付け足してケラケラと笑うエミリア。その様子を見て、ついにリザの中の何かが壊れた。
「………………のよ。」
「え?何?小さい声でブツブツしゃべってないで、言いたいことがあるならちゃんと言いなさい。」

「私たちが……海で静かに暮らしていただけの私たちが、どうしてそんなに虐げられなきゃいけないのよッッッ!!!!!!」

館中に響き渡るようなリザの大声に、エミリアは驚きの表情を浮かべた。
「どこに逃げても……!誰を信用しても結局捕まって殺されて……!私たちはどこの国にも属さず、海の側で静かに暮らしていただけなのに……!」
「い、いや。ここでそんな深い話ししてもしょうがないじゃない。少し落ち着きなさいよ……!」
「黙れぇっ!あんただって私たちを何人も殺したんでしょっ!?生まれつき虚弱体質が多くて、戦争をしないから武器の使い方も魔法の使い方もわからない。平和主義で何をされても絶対に報復はしないと決めてるアウィナイトのみんなをっ!あんたはたくさん殺したんでしょおおおおおおっ!!!!!」
「う……!」

図らずも図星だった。サキは秘密裏にアウィナイトの捕獲任務を担当することが多かった。リザの言う通り、怯えるだけの無力なアウィナイトの民をたくさん殺したのだ。

「ふ、ふん……たくさん殺したから何よ?あんたらはそういう人種なんだから、しょうがないでしょ?」
「そんなの……そんなの、酷すぎる……!」
「今更アウィナイトが人権主張したところで遅いのよ。あんたらはそういう星の元に生まれてきたの。そしてその状況を王下十輝星になって変えようとしたアンタも、ここで邪術師のおもちゃにされてバッドエンド。ククク……そろそろ現実を受け入れなさいよ……」
リザの激しい剣幕を受けた焦りからか、サキは口を滑らせてしまった。

(引っかかった。やっぱり……さっきエミリアが言った通りだ。)

「あなた……誰なの?」
「え?私はライラ様に操られているエミリアよ。さっきとは口調が違うだけで、ね。」
「……邪術師のおもちゃにされて終わりって言ったわよね。どうしてライラ様って言わなかったの?」
「あ……!」
「どうして私が、王下十輝星になってアウィナイトのみんなを助けようとしていることを知っているの?」
「ぐっ……!」
「あなたは誰?邪術師の仲間?それとも……ぐあっ!!!」
突然頭に強い衝撃を受け、リザはあっけなく意識を失った。

「まったく……フルパワーでぶん殴っちゃったわ。ま、魂縛領域があるから死なないし大丈夫でしょ……」
正体がバレるのを恐れたサキ。だがこの時、魂縛領域の核はドロシーによって破壊されていた……


231 : 名無しさん :2017/04/01(土) 18:42:42 ???
一方こちらは、洞窟奥部。

「ぐ……はぁ……はぁ……!」
「あら?あらあら?ドロシーちゃんったら、あの核に触れちゃったみたいね?」
「だったらなんだっていうの……!」
「クスクス……!代わりの核を探す手間が省けたってこと」
ライラが右手をあげると、そこから怪しい光が溢れ出す。と同時に、ドロシーの心臓の鼓動があり得ないくらい早くなる。

「あ、あああああ!?」
ドクンドクンドクンドクンという音が聞こえてきそうな程早く力強く鼓動する心臓。
「分かる?核に汚染された心臓が、身体中に汚染された血を巡らせようとしてるんだよ?」
「う、あ」
胸を強く押さえるドロシーだが、鼓動は遅くなるどころかどんどん早くなる。
「核って生き物の内臓っぽいけど、それにしてはちょっと大きいって思わなかった?」
「うっ、くぅう……!」
「ドロシーちゃん、貴女はこれから新しい核になるの!身体中を汚染されて、姿形が段々貴女が壊した核のようになるんだよ?どう?怖い?」
人間が邪術で変異し、大きな内臓のようになったもの。それこそが魂縛領域の核の正体。


「どうせ一度死んだ身……リザを救えさえすれば……私はどうなってもいい」
「フフフ……美しい友情ね……!でも、貴女みたいな子を手放すのは惜しいわ……だから、もう一度クローンを作るために、また子宮を貰うね?」
それを聞いてドロシーの身体はビクンと恐怖に震える。まだまだ年端もいかない少女なのだ。あの陵辱は心に刻みこまれている。

「クスクス……やっぱり怖いんだ?でも安心して?貴女には核になってもらわなきゃならないし、今食べちゃったら肝心のリザちゃんを食べられないから、食べはしないわ……」
地面から触手が現れ、心臓を押さえて苦しんでいるドロシーを捕らえる。

「ふん……そうやって余裕ぶって……せいぜい足元をリザと魔法少女に掬われるがいいわ……!お前が私を玩具にしてる間に…!あの魔法少女は、きっとリザを救い出す!」
「はいはい、そうなるといいねー。いい子だから次はちゃんと記憶を無くして生まれてきてねー。お父様、お願い」
「ア"ア"ア"ア"……!」
ローブを脱いで、裸体と埋め込まれた顔を晒すライラ。再び自分を襲うであろう陵辱に、ドロシーは目をギュッと閉じて備える。
友のため、自分を犠牲にして時間を稼ぐその健気な姿により一層興奮するライラとその父親。

「ああ……!リザちゃんも最高だけど、貴女も同じくらい最高よドロシーちゃん!貴女みたいな子の処女を二回も頂けて、お父様も嬉しそう……!」
「ぐ……!!」
ドロシーを拘束している触手が、彼女の足を開かせる。
人生で二回も処女を舌に破られる女性など、後にも先にもドロシーだけだろう。

(でも、これでいいの……私は本来、とっくに死んでるんだから)
思い返すのは、リザとアイナ……王下十輝星になる前から苦楽を共にしてきた友のこと。
(リザは、アウイナイトの民を守るため、したくもない殺しに手を染めてきた……アイナは、スラムの貧しい暮らしの中、食べれたもんじゃない食糧に調味料付けまくって我慢して食べてるうちに、味覚がおかしくなって、未だに変なお菓子ばっか食べてる……。
私はただ、立身出世に憧れてただけ。あの2人みたいに、切実な理由があったわけじゃない。だから……死ぬのが私でよかった。邪術師に玩具にされた後、私は結界の核になる……だから邪術師を倒したら、私を終わらせて……リザ)


232 : 名無しさん :2017/04/02(日) 01:44:42 dauGKRa6
「や、やっと着いた……!ここが邪術のライラの館ね。」
ようやく邪術師の館前に辿り着いた水鳥。方向音痴の彼女がここまで辿り着いたのは不思議な理由がある。
目印のない暗い森の中で地図を見るためにペンダントをかざすと、なんとペンダントが方角を示して発光したのだ。
その光に導かれ、水鳥はここまでたどり着くことができた。

(まったく……道案内のためにもペンダントになってよかったわ。でも魂縛領域の核になにかあったようね。少しずつこの体も壊れ始めている……)
カナンのペンダントの縁が、ボロボロと壊れていることに水鳥は気づいていなかった。

エントランスに入った水鳥の耳に、声が響く。
「……てそんなに……られなきゃ…ないのよッ……!」
「こ、この声はまさかスピカさん……?早く行かなきゃっ!」



(クソリザは気を失ったわね。まあ別にバレてもいいんだけど、あんな剣幕の後に問い詰められて、私としたことが焦っちゃったわ……)
バレるはずがない、バレたとしても一生リザはここに囚われる予定なので問題はないが、いつも無口で寡黙なリザのとてつもない大声に、サキは焦ってしまったのだ。
(興が冷めちゃったし、そろそろライライが戻ってくるかも。とりあえず遅効性の回復魔法をかけて、一旦トンズラしようかしらね……)
エミリアの魔力を利用し、リザに回復魔法をかけるサキ。この行動を彼女は5分後に後悔することになる。

「スピカさんから離れなさいっ!……って、え?エミリアさん……?」
声がした部屋に押し入った水鳥が見た光景……それは触手に縛られたリザと、元気そうなエミリアの姿だった。
「あ、あなたたち……仲間だったんじゃなかったんですか……!」
「あ、水鳥ちゃん勘違いしないでよ!私も今この部屋に着いたところなの!そしたらリザちゃんが縛られてて、気絶してて……!私パニックになっちゃって……!」
「……じゃあ、さっきの大声もエミリアさんだったんですか?スピカさんの声に聞こえたんですが……!」
「た、多分パニックを起こした私の声だよ〜!水鳥ちゃん、は、早くリザちゃんを助けてあげて!わたし、もう魔力がないの……」
「わ、わかりました。リザさんのナイフがあるので、これで触手を切り落とします!」

(クックック……ホント魔法少女って純粋バカばっかりね。簡単に後ろを取れたわ……)
機転を利かせ、エミリアのふりをして水鳥の背後を取ったサキ。だが、伝説の魔法少女はサキの悪意に勘付いていた。
(妙だわ……さっきと明らかに感じる魔力が違う。こいつは……馬鹿魔力女じゃない!)
「きゃあ!っ!?ペ、ペンダントがっ!」
突如発行したペンダントから、一筋の光が発射され空中を飛び回り始める。
(やっぱり……水鳥を襲うつもりなのね!させないわッ!)
飛び回る光になったカナンが見たものは、背後から魔力を貯めた拳で今にも水鳥に殴りかかろうとしているエミリアの姿だった。

「きゃああああっ!?」
突如発射された光に体当たりを喰らい、エミリアは部屋のドアを壊しながら通路へと吹っ飛んだ。
「え?え?どういうこと?なんでペンダントがエミリアさんに攻撃を……?」
「魔法少女!ナイフをこっちに投げて!!」
「え、ス、スピカさん!?意識が戻ったんですね!」
「いいから、早く投げなさいッ!」

慌てふためく水鳥の投げたナイフを、リザは顔を突き出して歯でキャッチする。
そのまま仕込みナイフの仕掛けを歯で起動させ刃先を大振りにすると、ナイフの柄を歯で噛んだまま腕を拘束している触手を切り落としてみせた。
「す、すごい……!」
拘束されているとは思えぬ流れるような動きで自由を取り戻したリザ。その勢いのまま走り出すと、廊下でぐったりとしているエミリアの首元に素早くナイフを突きつける!
「ひ、ひいぃっ……!」
「……ヨハンじゃないわね。ヨハンはどんなときも怯えたりなんかしない……あなたは誰なの?」
「ふ、ふん……ここでこの体を殺してもエミリアが死ぬだけだ。術を解けば私は死なない……!」
「もう、目星は付いてる……ここで正直に言わないと、このナイフの刃先を生身の貴方の首元に突きつけることになる……!」
「ふ、ふん……!私の正体が貴様にバレるはずはない!さらばだ!」
その言葉が終わるとエミリアは力なく倒れこんだ。

(術が解けたようね。恐らくは隷属の刻印……体のどこかに刻印があるか、またはもう消えているかのどちらかね……)
カナンの言葉が聞こえたかのように、リザはエミリアのローブをたくし上げる。
先ほど拷問されている時に、エミリアの下腹のあたりに刻印があったのだが……
「……何もない……」
ハートの形をした刻印もルーン文字も、今は綺麗さっぱり無くなっていた。
(バレそうになったから、術を完全に解いたようね。ま、これで馬鹿魔力女が襲ってくることもないでしょ……)
パキッ……!
カナンが一息ついた瞬間、魔力を消耗したペンダントは半分に割れた。


233 : 名無しさん :2017/04/02(日) 12:48:39 ???
「や、やっぱり強い……」
拘束された状況からナイフ1本で抜け出したリザの早業に思わず舌を巻く水鳥。
(王下十輝星で、私がアウィナイトの民の再興を願っていることを知っていて、ナイフを向けられた程度で怯む……エミリアに手をかけられるということは、今は城にいないカペラとベテルギウスは除いても構わない……そうなると自然と犯人は絞れてくる)
そして、リザは深く考え込んでいた。
(でも、これは消去法による推理でしかない。エミリアの王下十輝星にハメられたという発言だって証拠はない。アウイナイトの事は、アトラ辺りは言いふらしていても不思議じゃないし、王様は約束を守って、私が活躍してる間は保護政策を取っている。ということは、トーメント王国の政務官も知ってる可能性がある。
……考えたくはないけど、アウィナイトの民を拷問すればこの情報を手に入れることもできる。アウイナイトの件は意外と知られていても不思議じゃない)
消去法というのは、選択肢の中に正解があってこそ機能する。王下十輝星の中に自分を嵌めた者がいるという前提が無ければ、この推理は瓦解する。

(むしろ、操っているのにわざわざ自分の犯行だと明かしかねないことを喋らせる方が不自然。となると、私に疑心暗鬼の種を植え付けるのが目的と考えるのが自然……そう、恐らくは王城に紛れ込んでいるどこかの間者の仕業!)

深読みしすぎてずれた推理を脳内で披露しているリザだが、致し方ない話であろう。少し頭の固い所があるリザは、相手が勝手に自分の犯行をペラペラ喋るのにもちゃんとした理由を求める。他人の感情の機微に疎いリザは、気に入らない相手を甚振ってて調子に乗って口が滑ったということを思いつかない。
そしてそれ以上に、無意識のうちに王下十輝星の仲間が自分を嵌める訳はないという深層心理が働いていた。

(戻ったらすぐに間者の調査を始める……サキはそういうの得意だったから手伝ってもらおう)
「……ピ……ん」
(正体がバレたと見てもう逃げた可能性もあるけど……痕跡くらいは掴めるはず)
「スピカさん!聞いてるんですか!」
深く考え込んでいたリザの思考を、水鳥の大声が遮る。

「魔法少女……なに?そういえば、どうして貴女が私の仕込みナイフを……」
「だからそれを説明しようとさっきから呼んでるんじゃないですか!」
「……ごめんなさい、少し考え事をしていて」
「とにかくですね!洞窟の奥部で、クリーム色の髪と緑の目をした私と同じくらいの年の女の子が結界の核を破壊してくれて……」
「どうしてそれを早く言わないの!」
「ええ!?」
クリーム色の髪と緑の目をした少女……間違いなく先ほど見かけたドロシーを幼くしたような少女だろう。その少女が結界の核を破壊したことと、結界の様子がおかしいと言って邪術のライラが出掛けたこと。
リザの脳裏に、嫌でも一年前のことが浮かぶ。

「魔法少女!魔力切れならエミリアを連れてどこかへ隠れてて!私は洞窟の奥へ向かう!」
「ちょ、ちょっとスピカさん!?」
水鳥の声を無視して風のように走るリザ。

「もう、スピカさんは……あ、ペンダントが……」
ふと目をやると、道を照らし示してくれた光を放つペンダントは、真っ二つになっていた………。


234 : 名無しさん :2017/04/02(日) 16:51:03 ???
(ぐちゅっ…ずぶっ!!……ぬる…ぐちゅる…じゅるるるっ…!!)
「っぐ…あっっ…く、ふぅ……!!」
…1年前と同様、ライラの父親はドロシーの幼い割れ目に強引に舌を突き入れ、処女膜を突き破り、その内側を思うさま蹂躙した。

だが、ドロシーは「前回」のようなあられもない悲鳴を上げる事もなく、抵抗して暴れたりもしない。
そんな事をすれば、無駄に邪術師を悦ばせるだけと、歯を食いしばって耐え忍んでいた。
…今のドロシークローンの肉体年齢は、人間でいえばまだ6〜7歳。
未成熟な器官に無理やり異物をぶち込まれる痛みや異物感は、以前とは比べ物にならない程苛烈であるにも関わらず。

「……あら、随分おとなしいわね。あの時みたいに、もっとみっともなく泣き叫んでくれてもいいのよ?
痛い痛い。リザちゃん早く助けてぇ……って、ね」
「だ、だま、れ……私は、もう…覚悟はできてる。貴様のような外道は、リザが必ず、地獄に落として……ん、ぐうっ…!!」
全身から脂汗を流しながらも、気丈に言い放つドロシー。
だがライラへの挑発の言葉は、硬質化した父親の舌によって遮られてしまった。

(ザクッ……ぐちゅ……ぶちっ…ブチブチブチブチ…!!)
「あっ……っがああぁぁぁあ、っぐ、あぁぁああああああッッッ!!!」
長い舌が鋭利な刃物と化し、ドロシーの下半身の肉を切り刻んでいく。
そして周辺の肉や血管や神経を強引に引きちぎりながら、ドロシーの子宮は無理やり引きずり出されてしまう。

「ああ……コレよコレ。今までドロシーちゃんのクローンは何体も作ったけど、どんなに嬲っても、みんないまいち反応が薄かったのよね。
やっぱり『魂』というか…本物の意識が乗り移ってると、悲鳴のキレが全然違うわ。フフフ…」

「っっあ……ぐぶ………り………り、ざ……」
子宮を剥ぎ取られ、結界の核に心臓を汚染され…ドロシーは、再び意識を失った。
しばらくすれば肉体が変質し、再び『魂縛領域』が森全体を覆うことだろう。

「ドロシーちゃんのおかげで、私のクローン研究は完全なものに近づいたわ。
後はリザちゃんの身体さえ手に入れば、『アウィナイト量産計画』が……ッ…っぐ…
ドロシーの子宮を手に、館に引き返そうとしたライラ。だが……

「…身体が…痛い…!?…」
…急に全身に激痛が走り、その場にしゃがみこんでしまった。その時、ライラの頭の中に声が響き始め……

(クククク…ライラ。私の可愛い娘…慌てる事はない。結界が壊れたせいで、
死んだお前の魂は、その身体に留まっている事が出来なくなっている…それだけの事だ)
「お……お父様……!?…じゃ、じゃあ……私の命は、もう…」

…ライラは今まで勘違いをしていた。
…愛する父親の身体を自分の中に取り込んだと思っていた。主導権を握っているのは自分だと。
だが実際は…
(私の可愛いライラ…お前の子宮はとても美味だったぞ。その頭脳は私の研究を大いに進歩させ、血肉は我が身を生かす糧となった。
その上等な『入れ物』ができるだけ長保ちするよう、『魂縛領域』を張らせていたが…そろそろ潮時のようだ)
「う、嘘……嘘よ……私は、お父…様を愛して……お父様を死なせないために、結界を…」

ライラは必死に記憶の糸を手繰り寄せる。だがそれは『何者か』に植えつけられた偽の記憶。
突き詰めれば簡単に矛盾や綻びが顔を覗かせ、ライラの混乱をますます加速させていった。
「私の……私の愛していた、本当の、お父様は…」
(クックック…あの情けない男の最期なら、お前も見たはずだろう?
自分の娘の子宮を貪り喰われる様を目にして、無様に狂い死ぬ姿を…)

「…いっ………イヤあああぁぁぁっ……!!」


235 : 名無しさん :2017/04/02(日) 19:51:07 ???
「い、いやぁ…私、死にたくない…助けて、お、お父様………
でもコレは、お父様を殺した、アイツで…うあぁぁっ…!!」
(クククク…だが、お前の命はもう少しだけ保たせることが出来るだろう。
…そして、新しい『娘』…アウィナイトも、間もなくここへやって来る)

「り…リザちゃん……そうだ……リザちゃんさえ、手に入れれば……」
(クローン技術を使えば、結界を張らずとも新鮮な『娘』が無限に手に入る。さあ、もう一度記憶を戻してやろう…)
『父親』の舌先がライラの首筋を這う。その先端から、細長い触手が何本も伸び、ライラの耳の穴に入り込んだ。

(くちゅ……ちゅく……チキチキチキチキ…)
(アウィナイトを手に入れるんだ、ライラ…それがお前の、『私の娘』の、最後の仕事)
「は、はい……愛しています、お父様…」
(いい子だ。クックック……)

ライラの父親…いや、父親に成り代わっていたのは、魔物と化した邪術師『かつてのヴェロス』。
優秀でまっとうな研究者だったライラの父親を惨殺し、娘であるライラの記憶を改竄、身体を乗っ取った。
そして今は、ボロボロになったライラの身体を乗り捨て、今度はリザの身体に乗り移ろうとしている。
(アウィナイトの子宮を、うっかり喰ってしまわないよう気を付けないとな。
クローン量産さえ成功すれば、後はいくらでも食べ放題になるのだから…)

その後は…かねてからの『王の誘い』に乗り、森を出て城付きの研究者となるつもりでいた。
表向きは王に捕らえられた事にして、この屋敷と同等の研究設備を、密かに提供してくれるという。
…そしてもちろん、新鮮な『研究材料』も。

そしてライラも、度重なる記憶の改竄、そして全身を襲う激痛により、今や完全に正気を失っていた。
「リザちゃんの身体…手に入れる……私が、リザちゃんになるの…フフフフ……」

結界の周囲に積まれていた、大量の魔物の死体。ライラはそれを次々と取り込んで……
……絶望と苦痛で穢され続けた魂は、人とは言えない何かへと変質していく。


236 : 名無しさん :2017/04/03(月) 19:48:44 ???
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
拘束されていた部屋から服や装備を回収したリザは、一路森の奥へと走る。
(きっとドロシーが結界の核を破壊してくれたんだ……!お願い、無事でいて……!)
親友の無事を祈りながら洞窟の深部にたどり着いたリザが見たものは──
この世のものとは思えない怪物だった。

「こ……これは……!!!」
もはや、怪物という言葉しか形容することはできなかった。山のような黒い体。大きな腕に大きな双眸。腹にはたくさんの顔が浮かび上がり、その全てが呻き声を上げている。
その怪物の側に、小さな少女が倒れていた。
「……!ドロシー!!!」
「ククク……待っていたぞ。アフェナイトの娘よ……美しい金髪。蒼に輝く双眼……我が器に相応しい「容れ物」だ……!」
響いたのは涼やかで落ち着いたライラの声。だが、明らかに口調が少女のそれではなかった。
「な、何を言ってるの……?」
「フフフフ……どうせ貴様はここで死ぬのだ。ここまで来た褒美に教えてやろう──」

こうしてリザは邪術師ヴェロスの計画を全て聞かされた。今目の前にいるヴェロスがライラの父親アスリエルを殺し、天才的な頭脳を持つライラの体を乗っ取り自身の邪術の計画を進めていたこと。
対外的にはライラの父親が邪術師だったことになっているが、それはトーメント王国の流したフェイク情報。実際には反政府組織に属していたアスリエルをヴェロスに殺させ、天才少女ライラの頭脳を邪術の研究に活かそうというトーメント王国の策略が背景にあったのだ。
そしてライラの体が崩壊しようとしている今、ヴェロスは新しい器としてリザの体を乗っ取ろうとしている──!

「理解したか?アウィナイトの娘よ。ライラがこうなったのは貴様らの望んだこと。そして王が貴様をここに寄越したのも、貴様を私の器にさせ、「アウィナイト量産計画」のサンプルにするためなのだ……!」
通常のアウィナイトは体が弱く人体実験に耐えられる体ではないが、リザのような強靭な体を持つアウィナイトであればヴェロスの研究材料にすることができる。
王は今でこそアウィナイトの保護条約を取ってはいるが、この計画で首尾よくリザを始末し、稀少なアウィナイトを量産しようとしているのだった。

「どうだ、絶望したか?アウィナイトの娘よ……貴様の望むアウィナイトの再興など、トーメント王は全く考えていないということだ……クククク……フハハハハハハハハハハハッ!」
「絶望……?どうして私が絶望する必要があるの?」
「……なに?」
問題なさげにさらりと言い放つリザに、ヴェロスは二の句を促した。
「どんな計画が裏で動いていようと、今王様は完全でないとはいえアウィナイトの保護をある程度やってくれている……そしてその……アウィナイト量産計画とやらも、ここで私があなたに負けてから動き出す話でしょう……?」
「……貴様、何が言いたいッ!?」
「ライラの件といいトーメント王国のやり方はつくづく気にいらないけど……私のやることはひとつ、アウィナイトの再興だけ。だから……ここで貴方を倒して今度こそ王様に私の力をちゃんと認めてもらう。そしてこんな計画で私を排除しようとしたことを、心の底から後悔してもらう……!」
「貴様……王に裏切られてまでトーメントの権力にしがみつくか!!そこまでしてやりたいことはなんなのだっ!本当にアウィナイトの再興だけなのかッ!?」
「……その質問に、答える必要はない。」
ゆっくりとナイフを構えるリザ。その表情はヴェロスの話を聞く前と、なんら変わっていなかった。

(助けてくれたドロシーのためにも……どんな障害が待ち受けていようと、アウィナイトのみんなを助けることを、わたしは絶対に諦めないッ!)


237 : 名無しさん :2017/04/03(月) 22:22:05 ???
「ふん!まぁよい!貴様の絶望に歪む顔は、これから痛めつけながらじっくり眺めるとしよう!」
怪物と化したヴェロスはその巨体を活かしてリザに突進する。
「……ガ!?」
しかし、刹那の交差の後、血を噴き出していたのはヴェロスの方だった。

「……的が大きくなっただけ?」
突進を躱しざまにナイフで身体を抉る。暗殺者故のその早業に、ヴェロスは全く反応できなかった。
最近やたらピンチが多かったから忘れられがちかもしれないが、王下十輝星というのは本来規格外だ。ライラの身体に魔物を吸収させたヴェロスは確かに強い。だが、それだけだ。正面から戦って王下十輝星に適う程ではなかった。

「……邪術のライラは、自分が直接戦闘ではそこまで強くないことが分かっていた。だからこそ策を弄してきたし、私たちはその策に苦戦してきた。でも、貴方はその醜悪な姿になって正面から馬鹿みたいに迫ってくるだけ………研究者が聞いて呆れる。ライラの方がずっと手強かったしずっと賢かった」
リザらしからぬ長々とした喋りだが、それほどヴェロスに怒りを燃やしている証拠である。
何の罪もない研究者を殺し、その娘のライラの身体を乗っ取り、そしてドロシーを殺した。リザの心には静かな怒りの炎が渦巻いていた。

「ク……ハハハハハハ!言ってくれるな小娘が!だが、貴様はこの私には勝てん!」
「……おかしくなったの?」
「理解できぬか愚者めが!ならば言ってやろう、貴様のその暗殺術では魔たるこの身を滅することはできん!」
「……!」
かつて漆黒の魔女に言われたように、リザの技は人は殺せても魔を滅ぼすことは難しい。その証拠に、血が噴き出していたはずのヴェロスの腕はいつの間にか完治していた。

「私の目的は貴様の身体だ!壊さぬように、こうして決め手に欠けさせた上で少しずつ追い詰めていく!
これが研究者の戦い方よ!フハハハハハ!」

リザのナイフは的確に急所を穿つのには適しているが、単純なパワーという面ではそこまでではない。
エミリアや魔法少女がいれば超威力の魔法による力押しで楽に勝てたかもしれない。しかし、前者は直前まで操られていた上気絶しており、後者は魔力切れだ。

リザの脳裏にジリ貧、という言葉が浮かび、冷や汗が流れた。


238 : 名無しさん :2017/04/04(火) 19:02:57 ???
「エミリアさんっ!エミリアさぁんっ!起きてくださいっ!」
「ん……?あれ、水鳥ちゃん……?」」
「あ、やっと気がついた!」
リザが親切なヴェロスの話を聞いている頃、エミリアは水鳥の介抱によって意識を取り戻していた。

「エミリアさん……今はちゃんと意識がありますか?」
「あ、あるよ。でも……暗い森でリザちゃんが倒れたところから今まで、記憶がないの。どうしてかな……」
「……おそらく、邪術師に操られていたんだと思います。さっきスピカさんがあなたに、正体を尋問していましたから。」
「そ、そんな……!今リザちゃんは!?」
「森の奥地で結界の核を破壊した女の子がいたので、その話をしたらすぐに走って行っちゃいました。エミリアさん、一緒に後を追いましょう!」
「う、うん。でも私、もう魔力がないみたい……」
「それは私も同じです。でも、スピカさん1人に押し付けるわけにも行きません。道中回復した魔力で、スピカさんのサポートだけでもしましょう!」



「どうした、逃げているばかりで攻撃はしないのか?アウィナイトの娘よ……」
「くっ……!」
決め手に欠ける……ヴェロスの言葉通り、リザが何度切ってもヴェロスの体は復活してしまい、全くと言っていいほどダメージを与えられなかった。
「諦めて私に身体を差し出すが良い。それとも、先ほどのように快楽責めをしてやろうか?先ほどの貴様の官能的な姿と嬌声には、凄まじく興奮を覚えたぞ。男根があれば見せてやりたかったわ。クククク……!」
「チッ……!」
リザは聞こえるように大きく舌打ちをしたが、ヴェロスはさらに続ける。
「正直、ライラの体にももう飽きたところだ。新たに貴様の体で性の乾きを満たすことができること……今から楽しみで楽しみで仕方ない。クククク……!」
「……この異常者が……!」
不快感を露わにするリザ。それは怒りからくるものもあるが、自分の痴態を目の前の怪物男に見られていたというやり場のない羞恥によるものでもあった。

「実験用にちょうど貴様くらいの歳のアウィナイトの娘を捕まえたことがあってな……その時は楽しかったぞ。クククク……研究者仲間全員の精根尽きるほど犯し尽くしてやったわ。」
「……やめて……」
「やめてください、助けてください、と何度も何度も懇願していたな。ま、途中から叫ぶことも諦めて絶望していたが。」
「やめろっ……!」
「今になって思えば、全員で口の中に精液を出しすぎたせいで、喉に詰まって喋れなくなったのかもな。ハハハハハハハハッ!」
「このッ……!」
一瞬、足がヴェロスに向けて走り出しそうになったが、リザはしっかりと踏みとどまった。
「どうした?怒ったか弱小民族?ならば逃げずに私に向かってくるがいい!」
「私は……私は怒りに身を任せたりしない。状況が良くなるまで……こうして防御に徹するわ。」
(ほう……この娘、本当に大したものだ。)

(私1人で倒せる相手じゃない……エミリア、魔法少女……!早く来てっ……!)


239 : 名無しさん :2017/04/05(水) 02:35:11 ???
「ぜえっ…はぁっ…」(…こ、ここは耐えて…必ず手は、あるはず…)
丸太の様な巨大な腕の一撃をかわし、豪雨の様に降り注ぐ闇魔法をことごとく搔い潜る。

だがこれまでの連戦でリザの魔力は底をつき、もうテレポートは…そして必殺の連斬断空刃も、使えない。
そして、今はまだヴェロスをスピードで圧倒してはいるが…そのスピードを維持するだけの体力も、限界を迎えようとしていた。

「クックック…状況が良くなるまで、とは…笑わせてくれる。一体いつ良くなるというのだ?
大方、あの魔法使いの小娘共の手助けを期待しているのだろうが…この私が易々とそれを許すとでも?」

リザの黒い戦闘服には怪物のどす黒い返り血がべっとりとこびりつき、強烈な不快感と共に動きを阻害する。
そして…邪術師にとって、血は最も基本的な媒体の一つでもある。既にリザは、術中に嵌っていたのだ。

「ふふふ……やっとツかまえた。ワタシのモノにシてあげる。リザちゃん…」
リザの服に付いた血が独りでに動きだし、服の内側をぬちゃぬちゃ這い回りながら集まって…人間の上半身へと姿を変えた。
「ん、くっ……あ、貴女は……ライラっ…!?」
粘液状の身体はナイフで斬ることも出来ず、引き剥がそうにも膠の様に張り付いて離れない。
毒の霧を思わせる緑色の吐息を至近距離から吹きつけられ、リザは思わず意識を手放しそうになってしまい…

◆◆◆◆◆

「…くくく。アウィナイト……いや、かわいい『私の娘』よ。続きは我が結界の中で、たっぷりと可愛がってやろう…」
足元に真っ黒い影が広がり、そこから無数の…ライラの腕が、一斉にリザに向かって伸びてくる。
ノワールの結界に捕らえられた時の恐怖が一瞬脳裏をよぎった。あの結界に囚われたら…今度こそ終わりだ。

「はっ…放…せっ…」
だが、リザの足元は既に結界に呑まれ、ずぶずぶと沈み始めていた。
ライラの群れを振りほどき、闇から逃れようと、リザは必死にもがき続ける。
「負け、られない……こんな所で…私…は……!…」


240 : 名無しさん :2017/04/05(水) 14:54:00 ???
「ククク……さっきまでの威勢はどうした?クールな貴様が無様にもがいてジタバタと……いい姿になったものだな。クククク……!」
「くそっ……!ぐっ、ああぁっ!?」
闇の中から何者かがリザの足を捕み、結界の中へと引きずり込もうとする。
「ぐうっ!」
リザは地面に手をつき、なんとか踏みとどまった。が、状況に変わりはない。
「もう下半身は結界の中か……なら、少しイタズラをしてやるとするか。」
「な、何を……!?やあぁんっ!」
足にまとわりついた『何か』に、生暖かい液体をかけられたような感触をリザは感じた。
「クククク……さっさと落ちるがいい。このまま這い蹲って無駄な足掻きを続けるならば……こうだッ!!」
「あっ、ひぅんっ……!」
何かが股間にあてがわれ、リザは小さな悲鳴をあげた。
(まさか……これもっ……!)
「気づいたか?そう、貴様の足に大量に付けたのは媚薬……性感帯の感度を高める液体だ……」
「やっ!あっ、あっ!やめっ……あぁんっ!」
リザの甘ったるい嬌声が洞窟に響く。液体で感度を高められている状態で触手に股間を擦られては、無理もないことだった。
またあの逃れようもない感覚に犯される……そう思ったリザは、なんとか結界の穴から這い出ようと腕に力を入れた。
「ふっ……!くううぅ……!」
ここで捕まるわけにはいかない……そう思って精一杯力を入れるも、がっちりと下半身を固定されている状態では焼け石に水である。
すぐに脱出はできないと悟り、リザはここにきてようやく焦りの表情を浮かべた。
「ううっ……離してっ……!このままじゃ……!」
「そう、このままでは貴様の体は私のものだ……さて、このまま快楽に負けて結界に堕ちるか、想像を絶する苦痛によって落ちるか……我が娘よ。選ぶがいい!」
快楽責めか、拷問か。
リザにとってはどちらにしても絶望的な選択だった。


241 : 名無しさん :2017/04/05(水) 19:11:12 ???
「ふぐ……あ……あっあん!」
結界から逃れようと必死に踏ん張るリザだが、拘束は固く徐々に身体が結界の中に沈み込み、触手に擦られる部分もそれに伴って増えていく。快楽が強くなったことで力が入らなくなり、力が入らないことでまた身体が結界に沈み更なる快楽責めが襲う……完全に悪循環であった。

「ククク……!どうやらそろそろ限界らしいな?」
「私は……こんな所で……!」
「快楽か苦痛か!選べないというなら私が決めてやろうか?フーッハッハッハ!!」
「負けられないんだ……!」
リザの瞳から闘志は消えていないが、彼女だけの力ではこの状況をどうにもできないのも事実。頼みの綱は援軍だが、洞窟の奥部に新しい人影が映る事はない。


「ジェイドストーム!」


だが、その場に『元からいた』人物を、ヴェロスは忘れていた。
突如洞窟内に竜巻が巻き起こり、結界に捕らわれかけたリザを風の力で持ち上げる。

「な、なに!?」
その風はリザを地面に引きずり込もうとする結界から掬い上げることで救い上げ、リザを優しく地面へと落とす。
「何故だ!なぜその身体でこれほどの魔法を!?」
「……ハ!王下十輝星を……舐めんじゃないわよ!」

そこには心臓を強く押さえ、息も絶え絶えといった状態ながら……しっかりと自分の足で立つドロシーがいた。

「ドロシー……小さいけど、やっぱりドロシーなの?」
「リザ!詳しい話は後!今はコイツをぶっ倒すわよ!ちょっと体調が芳しくないから、援護くらいしかできないけど!」

ライラに再び陵辱され気を失ったドロシーだが、近くで響く戦闘音やリザの嬌声で目を覚ましたのである。
闇の結界に引きずり込まれかけているリザを見て、ドロシーは一も二もなく援護したのだ。

(お願い……もう少しだけ……もう少しだけもって私の身体!)
汚染された心臓から穢れた血を全身に送り込まれ、ドロシーは魂縛領域の核である肉塊へと少しずつ変異している。完全に変異してしまったら、もうリザを援護することはできないだろう。

「また一緒に戦えるなんて最高よリザ!」
「ドロシー……!」
だが今は、再び親友と共に戦えることを素直に喜ぼう。例えこの身体が核へと変異した後、親友自身の手で殺されることになろうとも。


242 : 名無しさん :2017/04/05(水) 23:15:03 ???
「フン!小娘が2人揃ったところで何ができる!我が邪術の力で2人まとめてねじ伏せてくれるわッ!」
ヴェロスが邪術の詠唱を始め、洞窟がガタガタと揺れ始める。
「リザ、私の魔力をあなたの武器に入れるから、そのまま突っ込んで!私が援護する!」
「……了解!」
ドロシーの風の力を注がれたリザのナイフ。その刃先は小さな台風のようになっており、いくらヴェロスの体でも斬られればひとたまりもないだろう。
詠唱をしている隙だらけのヴェロスに向かって、リザは体の疼きを我慢しつつも全速力で駆け出した!

「シャドウレインッ!!!」
走り出したリザの眼前に、多数の闇の炎が降り注ぐ。それらはすべてリザをホーミングするように接近してきていた。
「なんて数……!」
「これは避けられまい!闇の炎に抱かれて苦しみに喘ぐがいいっ!」
ヴェロスの言う通り、テレポートもできない状態で全てを交わすことは困難に思われた……が。
「させないわっ!」
「なに!?風で移動しただとっ!?」
後方のドロシーがリザの体を風でうまく移動させ、ヴェロスの闇魔法をすべて回避させることに成功したのだ!
「リザッ!そのままどかーんとやっちゃいなさいっ!!」
(流石ドロシー……!これならいけるっ!)
一気に距離を詰めたリザは大きく跳躍し、ヴェロスの眼前に躍り出た!

「これで決めっ……なっ!?」
眼前でナイフを翻した直後、リザが見たものは、大きく口を開けてこちらに迫るヴェロスの姿だった。
その口の中には闇の結界の入り口が開かれており、今まさにリザを取り込んで結界の中へと閉じ込めようとしている。
「残念だがここまでだ、我が娘よ。正面から向かってきて私に勝てると思ったのが、貴様らの運の尽きだ……!」
(そ……そんなっ……!)
「リザアアアアアアアアアッ!!」
リザを食べさせまいと必死に風を操るドロシーだが、どう見ても間に合う余裕はない。
眼前で閉じ始めた大きなヴェロスの口を見て、リザはぎゅっと目を閉じた。



「バーンストライクッ!!!」
「ウォーターインパクトッ!!!」


243 : 名無しさん :2017/04/05(水) 23:37:07 ???
ドカーーーーーーーン!!!
「ヌオオオオオオオオッッ!?」
突如現れた巨大な炎弾と大量の水流が、ヴェロスの腹にクリーンヒットし、大きな体が均衡を失ってぐらりと揺れる。
リザが洞窟の入り口に目をやると、そこにいたのは残った魔力をすべて放ったエミリアと水鳥だった。
「リザちゃんっ!助けに来たよっ!!」
「スピカさんッ!そのままトドメをっ!」
「2人とも……ありがとうっ!」

「ぐぬぬぬ……なにが起こったのだ……ん?」
体制を崩したヴェロスの目の前に落下して来たのは、大きな風のナイフを構えたリザの姿。
「こ……これは……!」
風になびく黒服と美しい金髪。そして、目に写すもの全てを吸い込んでしまいそうな鮮やかな青い目に、この状況にもかかわらずヴェロスは心を奪われてしまった。
その刹那、少女はナイフを翻す。
「リザちゃーーんっ!がんばれええええええっ!!」
「お願いしますっ!!スピカさーーーーんッ!!」
「いっけええええええ!!リザアアアアアアアアッ!!!」
皆の声援を受けたリザは、その思いをすべて受け取ったかのように目を見開いた。
「よ、よせっ……!やめろっ!やめろおおおおおっ!!!」


「奥義……断空旋ッ!!!」


244 : 名無しさん :2017/04/05(水) 23:56:36 dauGKRa6
「ンガアアアアアアアアッ!!!」
風の力を纏った強烈な斬撃により、ヴェロスの首はゴロリと胴体から分離した。
「はぁ……はぁ……やった……!」
「リザちゃんすごーーーいっ!かっこよかったーーー!!」
「はぁ……流石トーメント王下十輝星ですね。天晴れでした。」
リザの元へ駆け寄るエミリアと水鳥。エミリアはリザの胸に飛びつき、水鳥はヴェロスの首へと近づいた。
「リザちゃん、怪我はないっ!?大丈夫!?」
「……大丈夫。エミリアこそ、体に異常はない?」
「あ……私操られてたから、きっとリザちゃんにひどいことしちゃったんだよね……ごめんね、リザちゃん……」
「……謝らなくていいよ。こうして諸悪の根源を倒すことができたんだから。……これでガラドに帰れるね。エミリア。」
「リザちゃん……うぅ……」
離れることが惜しいのか、エミリアはリザの胸の中で泣きじゃくり始めた。
そんなエミリアを優しく抱きながらリザがヴェロスに目をやると、水鳥がアワアワと慌てていた。
「リ……リザさん!こいつ、復活しようとしていますッ!」

「復活……?そんなことできるの?」
「はい……禍々しい魔力が首と頭を繋ごうとしていて……このままだと、すぐに復活してもおかしくありませんッ!」

「それは……私がいるからよっ……」

3人が振り返った先にいたのは……小さな少女のようなモノ。
腕と足が肉塊のようにぶよついて、胴体も壊死が進んでいる。
かろうじて人と判断できるのは、クリーム色の髪と緑色の目をした少女らしい顔だった。


245 : 名無しさん :2017/04/06(木) 01:10:57 ???
「だ、誰!?」
「その髪……その目……まさか、あの時助けてくれた……!」
「ド……ドロシー!?一体どうしたの!?エミリア!魔法少女!すぐに回復魔法を……」
「む、無理よ……邪術で作り変えられた身体は、回復魔法じゃ戻らないわ……」
「そんな……一体どういうこと!?」
「そうね……全部話すわ。だから、落ち着いて聞いてくれる?」

自分は厳密に言えばドロシーではなく、ドロシーが邪術師に囚われた際に切り離された子宮を触媒に生み出されたクローンであること。リザのポケットから落ちたリボンを見たことで元の記憶を取り戻したこと。
死すら許されずに命を永遠に弄び続ける『魂縛領域』の核を破壊した際、武器で核に触れたせいで身体を汚染され、自分自身が核へと変異していったこと。
変異していく身体に苦しんでいたところを再び邪術師に陵辱され、先ほどリザを援護する瞬間まで意識を失っていたこと。
ドロシーの口から語られた出来事は、あまりにも壮絶であった。

「この森から出るには、魂縛領域を破壊しなくちゃいけない……つまり、私が生きている限り、リザたちはこの森から出られないの」
「そんな……酷い……!」
「う、噓よ……なんで、なんでドロシーばかりそんな目に……!」
「あ、ああ、わ、私のせいだ……!私があの時、結界の核に触れようとしたから……!」
「アンタがあの結界に触れようとしなくても、私は結界を壊そうとしたわ……誰のせいでもない、強いて言えば、あの時魔法だけで核を破壊できなかった私の不手際よ」
「でも……!」
「わ、私が操られたりなんかしないで、すぐに邪術師を倒してたら……こんなことには……こんなことには……!」
「あーもう鬱陶しいわね、責任の押し付け合いならぬ責任の利権争い?」
「「ご、ごめんなさい!本当にごめんなさい!」」
「あ、謝らなくていいわよ……」

こうして喋っている間にも身体の変異は進行し、ドロシーは徐々に単なる大きな醜い肉塊へとなっていく。

「……リザ。お願いがあるの。どうせ死ぬなら、私はリザの手で……」
「嫌……嫌よ!!一年前のあの日も……ロボットと戦った時も……私は胸が張り裂けそうだった!友達に死んでほしくなかった!
なのになんで……なんで貴女と三度もお別れしなきゃいけないのよ!」
「……リザ」
普段の様子からは想像もできない程、感情を剝き出しにして叫ぶリザ。そんな彼女を抱きしめようと近寄るドロシーだが……今の自分の醜い姿を思い出して躊躇する。
しかし、そんなことは知らぬとばかりに、リザは腕を広げたまま躊躇っているドロシーの身体に飛びつく。

「きゃ!り、リザ……」
「ごめんね、一番辛いのはドロシーなのに……私がみっともなく騒いじゃったりして」
「……ううん、嬉しいよ……一年も前に死んだ私のことを、そこまで想ってくれて」
「そんな悲しいこと言わないで……!」
「……うん、ごめん」
金髪碧眼の美少女と肉塊になりかけの少女だったモノの抱擁は、どこかインモラルな魅力があった。

「ドロシー、これ」
「それは……」
リザが取り出したのは、ライラの館で落としてドロシーが記憶を取り戻すきっかけになった、赤いリボンであった。
「館から脱出する時に咄嗟に拾ったの。ねぇ、最期にもう一度、これを付けた貴女を見せて」
「リザ……でも、今の私は……」
躊躇しているドロシーに対し、腕を伸ばして強引にまだ辛うじて人間らしさを残している頭にリボンを結びつける。

「……ほら、やっぱり可愛い」
「リザ……ありがとう」

「さよなら」
「元気でね」

その日、リザは生まれて初めて……自分の手で友達を殺した。


246 : 名無しさん :2017/04/06(木) 23:16:17 ???
ヴェロスを倒し、ドロシーに別れを告げた3人は、足取りを重くしながらも夜明けを迎えた薄暗い森の中を歩いていた。
「リザちゃんの友達のあの子も、王下十輝星だったんだね……わたし、トーメント王国のこと誤解してたよ。」
「……どういうこと?」
「んーっとね……えっと……」
「私が代弁しましょう。トーメント王国は著しく民度の低い大国であり、王下十輝星などは暴力に飢えた野蛮なチンピラの集まりである認識であったと。」
「あ……あはは……水鳥ちゃん、はっきり言うなあ……」
淡々と告げる水鳥。気弱だった彼女も、今はカナンの言葉によってしっかりと自分の意見を言えるようになっていた。
「……でも反論できない。実際トーメント王国には、気性が荒くて下劣な人間が沢山いるから。」
「だからこそ、スピカさんや先ほどのドロシーさんのように、トーメント王国に純粋で優しい方がいることを驚いているんです……私も。」
ルミナスでのトーメント王国への認識は、常日頃の悪行からいっそのこと滅びてもいい悪しき巨大国家という認識であり、異世界人の水鳥もそう思っていたのだ。
友のために滂沱の涙を流した、リザの姿を見るまでは。

「水鳥ちゃん、この子……目が覚めないけど大丈夫かなぁ?」
「真凛さんの体にはしっかりと魔力の流れを感じます。きっとルミナスに戻るまでには、目を覚ますでしょう。」
リストリクションで拘束していた真凛はまだ意識が戻らないため、水鳥の箒に乗せられて運ぶことになった。
「……スピカさん。ひとつ聞いてもいいですか?」
「……答えられることならね。」
「お姉ちゃんは……市松鏡花は無事なんですか?今生きているんですか?」
はっきりとした口調でリザを見据える水鳥。返答次第では、今にも襲いかかってくるような殺気をリザは感じた。

「……それは答えられないわ。でも……魔法少女が諦めなければ、再会できることもあるんじゃない?」
「リ、リザちゃん。そんな曖昧な言い方しないで、教えてあげなよっ!」
「……いいんです。エミリアさん。お姉ちゃんは生きている。今のスピカさんの言い方で、私はそう受け取りましたから……」
立場上、はっきりということはできなかったが、水鳥にはリザの感情がしっかりと伝わったようだった。
「あれ……リザちゃん、今笑った?」
「……笑ってないよ。」


247 : 名無しさん :2017/04/06(木) 23:48:53 ???
その後、気まずい雰囲気になったところをエミリアが他愛もない話題で沈黙を防いでいると、朝日が出たタイミングで3人は森の外に出た。
「さて、私はここまでです。次会ったときはまた敵同士。もしお姉ちゃんにひどいことをしたら、たとえスピカさんでも許しません……!」
「こっちこそ……魔法少女も他の十輝星にやられないように頑張ってね。」
「うぅう……さっきまで好きなお菓子や犬派か猫派で盛り上がってたのに、2人はまたそんな話ししてえ……」
「仕方ないでしょ……敵同士なんだから。」
「そもそも、スピカさん、とか、魔法少女、とか、名前ですら呼び合ってないし……」
「し、仕方ないですよ……本来は敵同士なんですから……」

その後、改めて別れを告げ、水鳥は真凛を箒に乗せて朝日の方へと飛び立っていった。
「水鳥ちゃん、あんなにちっちゃいのに私よりしっかりしてたね。すごいなあ……」
「確かに……でもエミリアにはエミリアの魅力があると、私は思うよ。」
「リ、リ、リリリザちゃん……真顔でそういうこと言われると、照れちゃうよぉ……もう///」
「……そ、そう……」
耳まで赤くなってフリフリと顔を振るエミリアに、リザは少し困惑してしまった。
「……あ!そういえば気になってたんだけど、館のそばを通った時、リザちゃん館に何かをしに行ったよね?」
「あ、あぁ……ちょっと館に予備ナイフの忘れ物をしただけだよ。早くガラドに行こう、エミリア……」



今はもう誰もいなくなった邪術師の館の前には、大きな木の柱が建てられている。
その柱には短い文章がナイフで刻まれていた。



「ライラとその父アスリエル ここに眠る」


248 : 名無しさん :2017/04/08(土) 00:22:04 ???
(…あれ……ここ、どこ……私、一体……)
(さあ、ゆっくり眼を開けて…あなたはこれから『精霊』に…この世界を見守る風になるの)
…気が付いたら、私はどこか見知らぬ場所にいた。暖かい光に包まれ、ふわふわと風の中に漂いながら。

(せい…れい……?……どうして、わたしが…)
(あなたは人の心と綺麗な魂を保ったまま、痛みを感じず、穏やかな気持ちの中で逝くことが出来た。
…きっと、あの十輝星の子のお陰ね…さすが、良い腕してるわ)
(……心と、たましい……じゅっき、せい……?………)
私に語り掛けるのは、夕陽の中に溶け込むような、オレンジ色の服を着た女性。年齢は29歳くらいだろうか。

私の身体は透き通っていて、羽のように軽くて…どこまでも自由に、空を飛ぶことが出来た。
でも…どこに行けばいいのかわからない。
(そうね。まずは…この森を抜けて、東へ…草原をまっすぐ、行ってみたらどう?)

………

…リザちゃんが王都に『邪術のライラ』討伐の一報を入れ…私たちの任務は終わりを告げた。
王都から迎えを寄越して貰うことも出来たが、リザちゃんはそれを断って…私達はわざとゆっくり、歩いて帰る。
「……風が、気持ちいいね」
…西から吹く風が、優しく頬を撫でていく。
『死んでも出られない』と恐れられていた邪術師の森も、今は夕陽を背に受けてキラキラと輝いて見えた。


249 : 名無しさん :2017/04/08(土) 00:33:12 ???
「……やれやれ。どうやら、もう安全みたいだな」
ナイフで脳天を貫かれた……と見せかけ、『特殊能力』で身を隠している間に、
俺を蘇らせたあの邪術師の娘はどうやら始末されたらしい。
「おかげで俺様は、晴れて自由の身…ってわけだ」
現代の十輝星、スピカ…名前は忘れたが、この借りを返す機会も、遠からず巡ってくるだろう。
「…お。地図と食料ゲーット!……この近くにある大きな町は、と…」
とは言えせっかく蘇ったのだし、武者修行も兼ねて各地に足を運んでみるとしよう。
手始めに、森を出て南へ下った所にある『アルガス』という王国がよさそうだ…

………

…草原を抜けた私たちは、分かれ道に差し掛かった。片方の道はまっすぐ東へと伸び、
トーメントの王都『イータブリックス』へと至る。
そしてもう一方は、北へ……いくつかの街を抜けた先にあるのは…エミリアの故郷『ガラド』の街。
思えば私達は、この場所へたどり着くまでにあまりにも多くの回り道をしてきた…

「エミリア。…ここで、お別れしましょう」
「…リザちゃん。私、やっぱり……」
「…もう、それ以上は言わないで。あなたはガラドに戻って平和に…幸せになってくれれば、それでいいの」

どんなに足掻いて、もがいて、必死に戦っても…私の手をすり抜け、何もかもこぼれ落ちていった。
沢山の仲間が殺された。アイナが離れていった。そして…ドロシーを、この手に掛けた。
たまに噂に聞く「運命を変える力」というものが、きっと私には全くないのだろう。
私の近くにいれば、いつかエミリアも…きっと、取り返しのつかない事になってしまう。

「……リザちゃん」
立ち去ろうとする私を、突然エミリアは抱きしめて……私の首に何かを巻きつけた。
それは…教授から渡され、スイッチを切ったままにしていた、あのチョーカーだった。
「私は、リザちゃんの力になりたい。その苦しみと悲しみを…せめて、一緒に背負ってあげたい。
だから…お願い。私をこのまま、王都へ連れて帰って」

強く爽やかな西風が草原を駆け抜け、頬を伝う涙を拭い去っていった。


250 : 名無しさん :2017/04/08(土) 02:17:01 ???
「…報告は、以上です」
「おう、ご苦労さん。これであの森がウチのシマになって…
アルガスへも直接侵攻できるようになったわけだ。これから忙しくなるぞ。ヒヒヒ…」

玉座の間…ルミナス女王のチビちゃんに破壊の限りを尽くされたが、
今はすっかり元通りに修復されている…で、俺はリザの報告を聞いていた。
その隣にいるのは、確か天才魔法使いのエミリアちゃんだったかな。
なんだか怖い顔でこっちを睨んでいるぞ。

「…話は、それで終わりですか…リザちゃんに…何か言う事が、あるんじゃないですか?」
「ちょっと…エミリア…!?」
「え?…何かあったっけ」
 思い浮かばない。

「王様、貴女は…リザちゃんに言ったそうですね。『王下十輝星として働けば、アウィナイトの民を保護する』って」
「言ったね」  正確には『考えてやる』だった気もするが。まあいいか。

「その一方で、邪術のライラと裏で通じていて…事前に情報を流したうえで、リザちゃんを差し出した」
「まあ、だいたいあってる」  なんか言い方に悪意を感じるけど。
「…エミリア!!」
「一体、どういう事ですか…リザちゃんを、ライラに殺させるつもりだったんですか!?」
「ああ…もしかしてアレか。『アウィナイト量産計画』とか、その辺の話をいろいろ聞いちゃった感じ?」
「…ふざけないで下さいっ!!リザちゃんは…あなたの部下なんでしょう!?返答次第では…許しません!!」
 せっかく修復したのに、また魔法で壊されちゃかなわんな。

「…俺のやってる事はそんなにわかりづらいか?
ライラは『リザを寄越せ』と俺に要求してきた。俺は『じゃあそっちに向かわせる。欲しけりゃ実力で奪え』と答えた。
リザは『アウィナイトを保護しろ』と要求してきた。それに対して俺は『じゃあその分働け』と答えた。」
「………。」
「俺としてはどっちでもよかったんだがな。ライラに殺られるようなら、十輝星を名乗る資格はない。
ライラだって色々と技術は提供してくれたが、あの森に居座られ続けると通行の邪魔だし…
『材料費』だってバカにならんからな。だって一年ごとに生贄寄越せとか言ってくるんだよ?お前はヤマタノオロチかって話だよ」
「で、でも!……だからって、何も知らせずに送り出すなんて…」

「結果として…リザが勝って、生き残った。それが全てだ。…この世界は、強い者、勝者こそが正義。敗れた者は全てを失う」
「…そういう事よ。私は、それで納得してるわ」

結局エミリアちゃんは納得しない様子だったが、リザに連れられて退出していった。
屁理屈で俺様に挑むなど十年早い。
ていうか…怒ってるエミリアちゃんはそそる。リョナりたい。
そうしみじみ思う王様でした。まる。

………

「ああ、リザさん!…無事で何よりでした。……ところで、私に相談って何ですか?」
親友のライライを殺した『奴』が、今私の目の前にいる。
もはや『クソリザ』という呼び方すら生温い…もはや同じ空気を吸う事すら我慢ならない。

「…というわけで…間者が潜り込んでいる可能性がある。それとなく調査したいから、サキにも協力して貰おうと思って」
「なるほど…私も教授の指示でアルガスに行かなければならないのであまり手伝えませんが、出来るだけやってみます…」

私の部屋に乗り込んできたときは一瞬焦ったが…どうやら、私の事に気付いたわけではないようだ。
『奴』は出されたお茶を疑いもせずに飲み、礼を言って出ていった。
毒でも盛っておけばそれで終わりだったが…『奴』をただ殺すだけではもはや足りない。
あらゆるものを奪い取り、絶望と屈辱に塗れた最悪の死をくれてやらなければ…

(覚えていなさい……絶対に、このままじゃ済まさない…!!)


251 : 名無しさん :2017/04/08(土) 11:23:45 ???
「クソがぁああああああ!!!」
「きゃああああ!」
「ハン!クールキャラぶってる癖に、随分と可愛い悲鳴をあげるじゃない!ほらほら!もっと鞭で打ってあげるわ!」
王城の地下室。そこの空き部屋で、サキは柳原舞をひたすら甚振っていた。特に深い意味はない。ただのストレス発散である。
舞は特に拘束されているわけではないが、チョーカーによる支配のせいで抵抗もできずにされるがままとなっていた。

「ぐ……これが、あなたの本性ね……!」
「ククク……やっぱチョーカーは自我モードの方が張り合いがあるわね……洗脳とか忠臣モードだと、事務的な反応でつまんないのよね」
舞の首に巻かれているチョーカーは、エミリアが持っている量産型ではなく初期のテスト機なので、コスト度外視で様々な機能が着いている。自我は残るが命令には逆らえない自我モードと、自我もなくただただ命令を聞くだけの洗脳モード、深層心理にトーメント王国や使用者への忠誠を植え付ける忠臣モード、etc……サキはリアルな反応を楽しむために、自我モードで舞を甚振っていた。

「アンタが悪いのよ、黒づくめの上にクールキャラなんていう、アイツみたいなキャラしてるから!」
「あああ!」
「ライライ……!クソ……!失って初めて気づいたわ……こんなにも……こんなにも……!」
サキがイライラしている原因。それはもちろん、リザにライラを殺されたことにある。
工作員として色々な場所に潜入し、十輝星の仲間の前でも猫を被る……そんなサキにとって、自らの素をさらけ出せる同年代の少女であるライラは、本人が思っていた以上に大切な存在だったのだ。

(でも、迂闊な真似はできない……)
一応は同じ十輝星であるという立場。リザの実力。それらを鑑みると、今すぐに行動を起こすわけにもいかない。
リザはエミリアを操った犯人をどこかの間者だと勘違いしてくれたようだが、それはあくまで『十輝星が犯人』だというあまりにも迂闊なカミングアウト発言を疑ってかかっているからだ。
リザはクソだが馬鹿ではない。今リザ抹殺に動き出すと、エミリアを操ったりしたのが自分だということまでたどり着きかねない。

「さて、と……そろそろ、自慢の足の方も苛めてやるわ」
「ひっ!」
そんな鬱憤を、柳原舞にぶつける。大鍋でぐつぐつと沸騰させた熱湯を杓子で掬い、舞のストッキングに包まれたすらりとした長い足にかける。

「ああぁああああああ!!?」
「アハハハ!!随分熱そうね?その分じゃ跡が残るかもしれないけど、どうせいっつもストッキング付けてるからまぁ問題ないでしょ!」
「いやあぁあああああ!!」
「可哀想にねぇ!アンタは自慢のおみ足を傷物にされちゃうの!」
とてもいい気分で舞に熱湯をかけるサキだが、チマチマ杓子で掬うのが煩わしくなってきた。

「めんどくさいから、鍋を倒して中身をいっぺんにぶちまけてあげるわ……今度は足だけじゃすまないかもね?」
「そ、そんな、そん……」
「そぉれ!」
「い、いや!あ、あつい!熱い熱い熱いぃいい!!いやぁああああああああああ!!」
「アッハハハ!全身熱湯まみれ!水も滴るイイ女ってやつぅ?」
「あ、あつぁああああああああああ!」
「あースッキリした……今日はこの辺にしとこうかしらね、大分鬱憤も晴らせたし」
チョーカーを普段の忠誠モードに戻し、ついでにぐったりとしている舞の頭を掴み、邪術の力で記憶を消去する。

「あ、ぐぁああああ!」
「一応、念には念を入れてね……こないだみたいに調子乗って油断して足元掬われるなんて、二度とごめんだわ」
邪術によって頭の中をかき回されて気絶した舞をサディスティックな目で見下ろしてから、懐に忍ばせていた隠しカメラをチェックする。

「うん、ばっちり撮れてるわ」
自分が虐めているシーンを後から見返すのが好きなサキは、案の定今回の甚振りもカメラで撮っていたのだ。

「いつかリザを同じ目……いや、もっと酷い目に合わせてやるわ……そのためなら、教授の雑用だってなんだってしてやるわよ」
サキの瞳には、歪んではいるが確固とした強い意志が宿っていた―――


252 : 名無しさん :2017/04/08(土) 22:21:28 ???
「リザちゃああああああああん!」
「あ、アイナ?」
とりあえずは任務も終わり、トーメント王国にあるドロシーの墓参りにでも行こうかと思っていたリザだが、急にアイナが抱きついてきた。
自分から離れていったはずの友のフレンドリーな態度に思わず困惑する。

「ど、どうしたの……?」
「まぁ話すと長くなるから要点だけ話しますけど、アイナの勘違いだったみたいですわー!酷いこと言っちゃってすみませんわー!ていうかシアナは知ってたならさっさと話すべきじゃありませんの!?なーにが様子を見ようと思ったですのよ!」
「ぜ、全然要点話してない……」
「まぁ言ってしまえば、リザちゃんがアイナを忘れてたのは、アイナの能力が進化したかららしいですわ」
「能力が進化?」
「アイナが『消えて』る間、どうやらみんなアイナのことを綺麗さっぱりまるっとするっと忘れちゃうみたいなんですわ!」
「……!なるほど、だからあの時、急にアイナのこと忘れてたんだ……」
「そういうことですわ!これでアイナは前にも増して最強ですわよ!シアナはなーにを心配していたのやら!」
「……」
(みんなの記憶から消える……でもそれって、もっと能力が強くなったら、最終的にみんなアイナのことを思い出せなくなるんじゃ……いや、まさかね……)

✱✱✱

「どうしたシアナ?お前が個人的に訪ねてくるなんて珍しいじゃないか」
「王様……アイナの能力のことなんですけど……」
一方こちらは王の私室。シアナは、王様にアイナの能力について相談することにした。

「なるほど、最終的に記憶から永遠に消えるようになるんじゃないか……ということか」
「ええ、考えすぎとは思うのですが……」
「しかし、意外だな……お前がアイナの心配をするようになるとは、キヒヒ!」
「茶化さないでくださいよ……」
「クヒヒ!まぁ、これまで色々な異能力者を見てきた経験から言えば……お前の懸念しているようなことにはならないと思うぞ?」
「ほ、本当ですか?」
「絶対とは言えないが、そこまで影響力のある能力者は見たことがない……それに最悪の場合も、現在開発中のアレを使えば……」
「アレ?」
「ククク……ほら、能力バトルではなんだかんだで王道のアレだよ!右手に宿ってたり瞳に宿ってたりするアレ!」
「分かんないですよ……」
「アトラには通じたんだけどなぁ……ほら、これだよ」
そう言って、王はシアナに一枚の紙を渡す。

「こ、これは……!」
「そう……異能力無効化装置だ!」
「これがあれば、もしアイナの力が暴走しても……」
(相変わらず安直なネーミングだな……)
「キヒヒ!邪術のライラが居座っていた森は手に入れたからな……来たるアルガスとの戦に備えて開発していたが……思わぬ形で役に立つかもな」


253 : 名無しさん :2017/04/09(日) 10:00:33 ???
ルミナス城、謁見の間。
集まっているのは唯、瑠奈、リムリット、ウィチル、ヒカリ、ライカの6人。
修行を一区切り終え、新たな体術を身につけた唯と瑠奈はアルガスに向かう前の最後の挨拶をしていた。
「ルミナスの皆さん、今日までお世話になりました。このご恩は忘れません!」
「2人とも、本当に行くのか?ずっとルミナスにいてもいいんじゃぞ?フウコとカリンも寂しがっておる。唯と瑠奈なら、わらわは大歓迎じゃ。」
「あ、ありがとうございます……でも、私たちにはのんびりしてる時間はないんです。一刻も早く元の世界に帰りたいので……」
「むぅ……すまんな。ウェイゲートが閉じているばかりに、2人をあの世界に帰すことができなくて……」

ウェイゲートとは、この世界と現実世界を繋ぐゲートのことである。世界各地に点在し、ここルミナスの城でもしばらく前までは稼働していた。
悪しきものがウェイゲートを使い魔物を現実世界に送り込むことがあるため、その都度魔法少女たちが現実世界で魔物退治をするためだ。
だがある日、突如世界中のウェイゲートが稼働を停止し、それ以来2つの世界の行き来は不可能となってしまったのだ。

「ウィチル。どうしてウェイゲートは閉じてしまったのじゃ?」
「それは……現時点では何もわかっておりません。」
「うーん。王様は普通に行き来したり、唯ちゃんたちみたいな女の子を拉致ってたりしてたから、その辺の事もなにか知ってると思うなぁ。」
ヒカリが十輝星だったころ、王は現実世界の電子機器から拉致をしていた。
ウェイゲートを使わずとも、2つの世界を行き来することは可能なのかもしれない。

「で、ライカよ。2人の修行は終わったのか?」
「いいえ。唯には基本の型を教え込んだのみ。瑠奈には応用も教えてありますが、まだ完全に終わったわけではありません。」
「むぅ。やはり修行がしっかり終わるまではここにいた方がよいのではないか?」
「いえ。そろそろ実戦経験が必要になってくる頃です。私があれこれ言うよりも、2人にはこれから実践を通して自分なりに成長をした方がいいでしょう。」

「失礼致します。お二人の箒の準備が整いました。」

こうして、唯と瑠奈は魔法少女たちに別れを告げてルミナスを旅立った。
「やっぱり、元の世界に変える方法はあの王様が知ってるみたいだね……」
「そうね。でも異世界人が集まるアルガスでも他に帰る方法が見つかるかもしれない。あまり悲観せず、楽観的に行きましょ。唯。」
「うん……でも結局、最後までライカさんに褒められることはなかったなあ……」
「私は、唯は褒められて伸びるタイプじゃないと思うけどなぁ。ほんわかしてるくせに結構根性あるし。」
「そ、そうかな。ちゃんと強くなれてるかな……」
「ま、アルガスで何かあったら暴れてやりましょ。今の私達ならちょっとやそっとじゃ負けないわ!」


254 : 名無しさん :2017/04/09(日) 13:40:11 ???
唯と瑠奈が箒に跨っているころ、彩芽、アリサ、桜子、サラ、スバルの5人はアルガス入り口に到着していた。

ルミナスと同盟を結ぶナルビア王国の重要拠点の1つ、研究開発都市アルガス。
トーメント王国に近い研究開発都市ということで、街は大きな壁に囲まれており、大きな軍事拠点も併設されている。
つまりは研究者と軍人が多く住む、物々しい街ということである。

「現在、ルミナス王国の攻勢もあり警備を増強中です。失礼ですが、あなたたちは?」
「異世界人を集めていると聞いてここにやってきたのだけれど、入れるかしら?」
「あなた方、全員が異世界人ですか?」
「あ、私は……」
異世界人ではありません、と言おうとしたスバルの口を彩芽が塞いだ。
「どうされました?」
「なんでもないわ。私たち全員異世界人よ?通してもらえないかしら?」
「……少々お待ちください。」

衛兵は少し離れたところで通信を初め、2分ほど経つと戻ってきた。
「お待たせいたしました。お通しいたします。中に案内の者がいますので、そちらの指示に従ってください。」
「ちょっと待って。どこに案内するつもり?私たちはこの世界から出る方法を探しているの。その情報さえ教えてくれれば、用はないのだけれど。」
(さ、サラさん、ズバズバいくなぁ…。)
彩芽含め少し焦ったが、衛兵の口から飛び出したのは衝撃の一言だった。



「ええ。貴方方を元の世界にお返しします。」


255 : 名無しさん :2017/04/09(日) 14:30:30 dauGKRa6
「異世界人の方々ですね。ご案内致します。こちらへ……」
重装備の衛兵に研究施設の内部へと案内された5人。施設内部の通路には人ではなくロボットがせわしなく動き回っている。
「わぁ、近未来的だなあ……」
「ここに来て正解だったわ。これでみんな帰れるわね。」
「あ、あぁ……だがサラ、なにか妙じゃないか?今とんでもないことに巻き込まれている気がしてならないんだが……」
「ボ、ボクも……でもここまできちゃったし、ここはトーメント王国じゃないし、きっと大丈夫だよね……?」
コソコソと声を出す桜子と彩芽。この世界で過ごした2人の経験が、今の状況に違和感を感じさせているのだ。
「わたくしも妙だと思うけれど……他に手がかりがないんですもの。今はとりあえずついて行きましょう。本当に帰してくれるのかもしれないですわ。」

「元の世界に返すと伝えると喜ばれる方が多いのですが……貴方方はやけに静かですね?」
「ひぃっ!?あ、いや、う、嬉しいですっ!ボクすごく嬉しいですっ!」
「わ、私も、う、嬉しいです……!」
突然衛兵に声をかけられ、テンパる彩芽と桜子。その様子にアリサはやれやれと息をついた。
「1つ聞いてもよろしくって?」
「なんでしょうか?」
「どんな方法で、わたくしたちを元の世界に返すんですの?方法によっては考えさせてもらわなければなりませんわ。」
「……何か疑っておられるようですが、私共はあなた方の武器を没収などしていません。信じてもらえないでしょうか……」
実際、見るからに物騒なアリサと桜子の剣でさえ、没収されていない。それで信じろということらしい。
「信じる信じないの前に、わたくしの質問に答えてくださらないかしら?」
「……異世界人の方々は知らないでしょうが、この世界にはウェイゲートという2つの世界を繋ぐ場所があるんです。私はそこへ貴方方を案内するだけ。ご心配なく。ゲートを潜る行為で体に異常は起こりませんから……!」
衛兵が意味ありげに言葉を発した瞬間、ガコンッ!と大きな音がして、前方と背後に突如大きな壁が現れた!

「うわっ!ビックリした!」
「なっ!?どういうことですのっ!?」
「噴射始めっ!」
衛兵が手を上げ叫ぶと、プシュー……という音と共に煙が発射された!
「まずいっ!あ、アリサッ!これをっ!」
彩芽がカバンから取り出したのは、アヤメカNo.25「ガスなんて怖くないもん」言わずもがな、ガスマスクである。
自分に素早く装着したあと、アリサへとガスマスクを投げる彩芽。
どうして他の3人に渡さないかというと……噴射口に近かった3人はすでに倒れていたのだ。
「ガスマスクだと!?ちょこざいなっ!」
「リヒトクーゲル!」
「ぐあああっ!」
アリサのリコルヌから発射された光の弾丸が、衛兵へと直撃した。
「さすがアリサ!でもどうしよう!?」
「さっき衛兵がそこのボタンを押していましたわ!早く押して!」
「り、了解!」
彩芽がボタンを押すと、前方と背後どちらの壁もせり上がる。
「イジョウジタイハッセイ!イジョウジタイハッセイ!」
「うわっ!やばい!」
安心する暇もなく、背後からは大量のロボットがこちらへと迫ってきていた!
「彩芽!私たちで3人を守りますわよ!」
「が、ガッテン承知!へなちょこロボットども、覚悟しろっ!」


256 : 名無しさん :2017/04/09(日) 14:59:42 ???
時は僅かに巻き戻り唯と瑠奈がルミナスを旅立つ前夜。最後の夜ということで、フウコ、カリン、唯、瑠奈は女子会兼パジャマパーティー的なことをすることにした。

「というわけで、今日はとことん騒ぐわよ!フウコ!唯!瑠奈!」
「これで2人ともお別れかぁ……寂しくなるね」
「大丈夫、また会うこともあるよ。結局一回も勝てなかったライカさんにもリベンジしなきゃいけないし!」
「わ、私はもうライカさんとは戦いたくないよ瑠奈ぁ……」
最初の頃は互いに敬語で話していた2組の2人組だが、元々同年代であったこと、新人同士であることも相まって今ではすっかり砕けた口調で話すようになった。

「アルガスかぁ……一体どんなところなんだろう」
「私らはまだ数える程しかルミナスから出たことないからなぁ……」
「大丈夫!私と唯の格闘コンビなら、何があっても簡単にはやられないわ!」
「私は格闘もいいけど、フウコとカリンみたいな合体魔法も使ってみたかったなぁ」
唯と瑠奈が覚えたのはライカ仕込みの体術なので、もろ魔法少女なビームとか属性攻撃みたいなのは使えないのだ。

「合体魔法は使用者同士の息があってないと使えないけど、使えさえすればかなり強力よ!魔力の上乗せ、属性の相乗……良いこと尽くめよ」
「……複数の属性を扱えるのと、複数の属性を合体させるのは、似ているようで全然違うからね」
「うーん、ライカさんの体術の修行ばっかり受けてたから、その辺よく分からないのよね……」
「よし、せっかくだからレクチャーしてあげよう……フウコ、お願い」
「え、私?」
「こういうのは眼鏡かけてる奴がやるって相場が決まってるでしょ!」
「もう、しょうがないなぁ……」
などと言いつつ部屋からホワイトボードと教鞭を引っ張りだすフウコ。
(ノリノリじゃない)(ノリノリね)(ノリノリだなぁ)

「魔法には色々な属性があります。火、水、土、風、雷、氷、光、闇……変わったところでは花や鋼属性もありますね。
基本的に、ある程度の魔力がある人が修行さえすれば、どの属性も覚えることは可能ですが……向き不向きはどうしてあります。なので、自分の得意な属性を極めるのが一般的です。とはいえ、全ての属性を極めるような天才も稀にいますが……。
とにかく、属性は多種多様です。そんな属性を掛け合わせるのが合体魔法なわけです。私とカリンちゃんのように、風と火なら熱風……といった感じですね」
「はい先生!1人で合体魔法を使うことは可能ですか!メド○ーアみたいに!」
「メ○ローアが何かは分かりませんが、良い質問です月瀬さん」
わざわざ苗字呼びにさん付けという、役になりきったフウコはビシ!とホワイトボードを教鞭で叩く。

「武器に複数の属性の強化魔法をかけるといった裏技を除けば、1人で合体魔法を使うのは基本的には不可能です。アイヴォリー家のミントさんやココアさんが得意とするのが前述の裏技ですね。
……約1名、風属性を『ある属性』と合わせて使うことができる人もいましたが」
「え?」
「フ、フウコ……」
「……なんでもありません。とにかく、合体魔法は複数の属性を掛け合わせる強力な技です。しかし、体術重視で合体魔法を使えないからといって悲観する必要はありません。
私は専門外なので詳しくないですが、ライカさん曰く体術使い同士はタッグで戦うことで両者をフォローし合う……謂わば常時合体魔法のような状態、とのことです」
「それなら一層私たちは敵なしね!唯と2人なら、あの王にだって負ける気がしないわ!」
「わ、私はもう危険な橋は渡りたくないよぉ……」
などとワイワイ騒いでいた4人だが、明日は早いのでそろそろお開きすることにした。


257 : 名無しさん :2017/04/09(日) 17:17:57 ???
ルミナス王国を出発し、アルガスへと向かう唯と瑠奈は、
トーメント王国の南に広がる「アレイ草原」の上空へと差し掛かっていた。

「魔法はあんまり覚えられなかったけど、箒は上手く乗れるようになったね!…これ、元の世界にも持って帰れないかなぁ?」
「確かに便利そうだけど…目立つわよ、これ。制服のまま乗ったら下から丸見えになるし…大人しく朝寝坊を直しなさい」
…楽に通学しようという唯の魂胆も、瑠奈にはお見通しだったようだ。
この世界に来てからたびたび過酷な運命に晒され、厳しい修行を経ても、
唯の性格は相変わらずだ、と瑠奈は心の中で安堵のため息をつく。

…だがそんな二人を、密かに見つめる者たちが居た。
「アレイ草原」から「ゼルタ山地」辺りを根城とする盗賊…その名も「牙突き立てられし闘犬の団」。
「お頭!空から箒に乗った女の子×2が!」
「あのぱんつは…ルミナスの魔法少女と思われます!」

「クックック。久々の獲物だな…だが、いいかお前ら!見た目に惑わされるんじゃねえぞ!
この間は、白い服の金髪女一人に、50人からの部下をぶちのめされた!
その前は、4人組の女を捕まえたと思ったらあっという間に脱走されてアジトを滅茶苦茶にされた上に
『桜子さん免許持ってて助かったわー』とか言いながら車と食料を奪われた!」
「今回は慎重に行け!…そして、どんな卑劣な手を使ってでもそいつらを捕まえて、
『牙犬団』の恐ろしさを徹底的に教え込んでやるんだ!!」
「「「おおー!!」」」

…ルミナス王国随一の格闘魔法少女に鍛え上げられた今の二人の実力なら、並の盗賊などは物の数ではない。
だが、その指導を施したライカ本人が別れ際に言っていたように、今の二人にはまだ『実戦経験』が不足していた。

「あ…あれ?…何これ、箒が引っ掛かって…」
「よーし!網に掛かったぞ!!」「矢を放てー!!」

霞網で飛行を妨げられた二人を取り囲むように、岩陰から何人もの盗賊たちが現れて、一斉に矢が放たれる。
修行を積んだ二人は、飛んでくる矢を叩き落すことも容易だが…網で動きを拘束された状態では、それにも限度があった。

「な…何なのよあいつら、いつの間に…!?」
「……瑠奈、あぶないっ!」
しかもその矢には…掠っただけでも全身を麻痺させる、強力な痺れ毒が塗られていた。
毒矢で一斉に射かけられた二人は、網で地面に引きずり降ろされてしまう。

「いったー……ゆ、唯、大丈夫…唯っ!?」
「だ……大丈夫…ちょっと、掠った、だけ…って、あ。」
瑠奈に心配を掛けまいと、唯は気丈に痛みを堪えるが…その右脚には毒矢が深々と突き刺さっていた。

「一人は矢が右足に命中。もう一人も右腕に掠ったので、間もなく毒が効いてくると思われます」
「クックック…よくやったぞお前ら。だが、まだ油断は禁物だ!取り囲んで、じわじわ追い詰めるんだ…」

…稽古とは別物、唯も闘技場でルール無用の試合を経験してはいたが、それとも全く違う。
大人数での不意打ち闇討ち、毒も人質も何でもあり…それが、非道な輩との『実戦』。
その厳しさ、恐ろしさを…唯と瑠奈は、出発早々に思い知らされることとなる。

「あんた達、よくも唯を…絶対に、許さないっ!!」


258 : 名無しさん :2017/04/09(日) 17:26:46 ???
「いくぞオラー!」「ろりきょにゅうー!!」
「アンタたちなんかに…やられるもんですかっ!!」
次々と武器を手に襲い掛かって来る盗賊たちを、瑠奈は次々と蹴り倒していく。

…だが、倒した人数が15人を超えた辺りから、その動きは目に見えて精彩を欠き始めた。

「はぁっ……はぁっ……」(…なに、これ…身体に力が、入らない……それに、右腕が動かない…!?)

同じように全力で蹴りを入れたつもりなのに、最初は軽々と蹴り飛ばせていた敵が、
二発・三発と攻撃してもなかなか倒れない。
掠りもしなかった敵の剣が、服やスカートの裾を少しずつ切り裂いていき、
ついには服の胸元が大きく切り裂かれて…下着と、それに包まれた大きな胸が、盗賊たちの視線に晒されてしまう。

「ヒッヒッヒ……どうやら、矢の毒が効いて来たみたいだな……?」
「真っ先に向かってった奴はバカだよなぁ…こういうのは、俺らみたく20〜30人目くらいが丁度いいんだよな」
「いやいや、先に戦って倒せば、倒した奴が好きにできるルールだからな。
ああいうギャンブラーな連中がいるから、俺たちは美味しい役にありつけるワケだよ…ケケケ」
「グヒ…とにかくこうなりゃ、こっちのもんだ。最近不足がちだったおっぱい成分、たっぷり堪能させてもらうぜ!!」

「ふざ、けないで…私は…負けない……唯を、守るんだから…」
…なおも、雲霞のごとく襲い掛かる盗賊たち。
瑠奈は必死に応戦し、そこから更に6〜7人を倒したが…それが限界だった。
体力はみるみる削られ、視界は霞んで、足元もふらつき始める。そして乾坤一擲、必殺の気合と共に放った蹴りは…
体格差からすれば、本来それが当然なのかも知れないが…片手で難なく受け止められてしまった。

「クックック……やっと捕まえた、ぜっ!!」
「そんなっ……っが、ああぁっ!!」
盗賊は瑠奈の蹴り足を掴むと、瑠奈を身体ごと振り回し…豪快に地面に叩きつけた。
二度、三度と叩き付けられるたびに、背中と後頭部に衝撃が走り、瑠奈は思わず意識を手放しかけたが…
同じく窮地に陥っている唯の事を思い、ギリギリの所で踏み止まる。

「へへへ…ここまで痛めつけりゃもう抵抗できないだろ。
 早速俺様の特大アメリカンドッグを、そのロリ巨乳でアツアツのホットドッグに…」
「わけ、わかんない事…言ってんじゃないわよっ!!」
目の前に突き出されたポークビッツを、瑠奈は反射的に左脚で蹴りつけた。
悶絶する盗賊を押しのけ、立ち上がる…だが地面に叩きつけられた弾みで捻ったのか、右足首がズキリと痛んだ。

敵はまだ大勢残っている。毒は瑠奈の全身に回り、立っている事さえままならない。
服や下着は多くの敵に斬られたり剥ぎ取られたりで、今や大半がその用を為していなかった。
(まだ、まだ……あの地獄の特訓に比べれば、この位…)
それでも闘志を奮い起こし、構えを取りなおした瑠奈の前に…盗賊たちの頭領が、姿を現す。

「…クックック。お前ら、遊びはその位にしておけ…おい、お嬢ちゃん。お友達の命が惜しかったら大人しくするんだ」
「瑠奈…お願い、あなただけでも逃げてっ…!!」
「そ、そんな……唯……!!」


259 : 名無しさん :2017/04/09(日) 18:04:04 ???
「研究サンプルが暴走を始めました。現在、鎮圧中です。開発スタッフの皆さんは速やかに避難してください。」
サイレンの音と共に、落ち着いた女性の声でアナウンスが流れた。
「研究サンプルって……まさか、僕たちのこと!?」
「彩芽たちの嫌な予感が的中してしまいましたわね……!」
「きっとアレだよ。人体実験。生体兵器を作るためのサンプルとして戸籍のない異世界人を集めてるんだ!そうに違いないよ!」
「……彩芽のやってるゲームではそういうことが多いんでしょうけど……とりあえず、今は目の前の敵を倒しましょう!」
おしゃべりをしながらも、2人は的確に敵を排除していく。
ロボットの数は多いが動きは単調のため、2人にかかれば楽勝の相手だったのだが……

「2人だけだ!全員で捕らえろっ!」
背後から男たちの声が響く。2人が素早く振り返ると、重装備の男たちが群れをなしてこちらへなだれ込んできていた。
「や、やばいよアリサ……あんな数いたら無理だって……!」
「諦めないで!ここでわたくしたちが倒れたら、全員殺されるかもしれませんわ!」
「うぅ……山を越え洞窟を越えせっかくここまできたのに、どうしてこんな目にぃ……!」


「くそっ、しぶといやつらだ……!」
前方からのロボット、後方からの兵士の群れに、背中合わせで入れ替わりながら必死に戦うアリサと彩芽。
だが圧倒的な数の暴力に抗うことはできず、2人の息は次第に荒くなり始めていた。
「はぁ……はぁ……疲れた……もうだめだ……!」
「あ、彩芽!諦めないでっ!わたくしたちが倒れたら終わり……きゃああああぁッ!」
「えっ!?あ、アリサあぁっ!?」
彩芽が振り返ると、アリサはひときわ屈強な兵士に後ろから羽交い締めにされていた。

「さすが隊長!おい、1人捕まえたぞぉっ!」
「金髪美少女!!おとなしくしろ!!」
「は、離しなさいっ!汚い手でわたくしの体に触らないでっ!」
「おい、さっさと無力化しろ!」
男が指示を出すと、兵士の1人が素早くリコルヌを取り上げた後にアリサのガスマスクを外した。
「ぷはっ!」
「おーおー、マスクの中で汗が蒸れて匂いがすごいぞ。汚いのはそっちのほうなんじゃないか?クックック……」
「いやっ!か、顔を近づけないでっ……!」
「お前らには転がってる3人と同じく気絶してもらうぞ。やれっ!」
「はっ!」
隊長の指示に従い、兵士がホースのような噴射口をアリサに向けた。
「いやあああッ!やめてえぇっ!離してえぇっ!」
「安心しろ。殺しはしない。研究サンプルとして確保するだけだ。」
「や、やめろっ!アリサに変なことするなっ!」
「発射!!」
彩芽の訴えも虚しく、アリサに向けて先ほどと同じ睡眠ガスが噴射され、アリサは兵士の腕の中で気を失った。

(さ……最悪じゃないか!!!気絶させられて捕まるなんて……どう考えてもエロ同人の最初の5ページ目くらいの展開だよ!)
「おいメガネ!この金髪美少女に変なことされたくなかったら、ガスマスクを外して手を上げな!」
「くっそぉ……サラさんと桜子さんがいれば、こんな奴らやっつけられたのに……!」
「おい、早くしろっ!」
「わ、わかったよ……!外せばいいんだろっ!」
半ばヤケを起こしてガスマスクを外した瞬間、睡眠ガスを噴射され彩芽は意識を失った。

「隊長、この2人はもしかして……」
「あぁ。おそらく運命を変える異世界人だ……他の3人よりも厳重に隔離しろっ!」


260 : 名無しさん :2017/04/09(日) 19:08:01 ???
…瑠奈が戦っている間に、唯は自分の傷口に応急処置を施していた。

「…『ちちんぷいぷい いたいのいたいのとんでけ』!」
魔法の才能は一般人並と評された唯だが、修行の合間にココアから魔法を教わり、
呪文を詠唱すれば初歩の治癒魔法くらいは使えるようになったのである。

なんとか止血し、立って歩ける程度には回復したが、脚に不自然なしびれが残っていた。
…唯の治癒魔法では、怪我は治せても解毒まではできない。
瑠奈も、先ほどこれと同じ矢でかすり傷を負っていた事を思い出し…
「この矢、もしかして毒が塗ってあったの…!?…瑠奈っ…気を付けて!」

唯の不安は的中し、瑠奈の動きは目に見えて悪くなっていった。
しかも、明らかに右腕をかばうような動き方…おそらく、矢の毒のせいでほとんど動かせないのだろう。

だが、助けに入ろうとする唯の前には、新手の盗賊たちが立ちふさがった。
その中心にいるのは、他の者たちとは明らかに格が違う……恐らくは彼らの首領。

「ククク…いいかお前ら。…まずは弱ってる方を捕獲だ。こいつを人質にすりゃ、残ってる方も大人しくなる」
(わ、私を人質に!?…そんなの…瑠奈の足手まといになんて、絶対に嫌!
 私だって、ライカさんの特訓を耐え抜いたんだもの…絶対、切り抜けてみせる!!)

相手の実力は、ライカより…いや、闘技場で以前戦った敵よりも遥かに格下だろう。
しかし今の唯は、毒で右脚が動かない。それどころか下半身に殆ど力が入らない。
だが、それでも…諦めてしまったら、そこですべてが終わってしまうのだ。

(気を抜いたら、やられる…)
首領の武器を警戒し、カウンターを狙う唯。しかしここで、実戦経験の無さが露呈してしまった。

「……ヒヒッ!背後がお留守だぜぇ!!」
「…きゃあっ!?」
目の前の敵に集中するあまり、別の敵に背後から奇襲を受けてしまったのだ。

…反射的に掌底を叩き込むが、上半身だけの打撃では大した威力は望めない。
更に別の盗賊が、左右から襲い掛かり…
「ケケケ!足元もお留守だぜ!!」「ついでにぱんつとおっぱいもな!」
「きゃああ!!やっ…放し、てっ……あぁんっ……!!」

唯はたちまち捕獲され、手足と首に枷を嵌められてしまった。
そして、瑠奈も……

………

「さっすがお頭!!実力は大したことないのに、妙に自信満々なオーラで相手の注意を奪うなんて…ただのザコとは一味違うぜ!」
「俺、お頭に一生ついてくよ!下手したら俺より弱いかもしれないけど!!」
「ガーッハッハッハ!…油断さえしなけりゃこんなもんよ!…よし!アジトに運び込むぞ!慎重にな!」

「うぅ……瑠奈、ごめんなさい…私の、せいで……」
「そんな…唯こそ、私のせいで、大怪我したのに……」
(…そのせいで、頭に血が上って…唯を守るどころか、こんな事に…)
(私達、あんなに必死に修行したのに…何の意味もなかったって言うの…!?)

旅立って早々、名もなき盗賊を相手に完全敗北を喫した唯と瑠奈。
その精神的ショックは計り知れない程に大きかった。
だがこれは『運命を変える運命』を持つ者に与えられる数々の試練の、ほんの始まりにしか過ぎないのである。


261 : 名無しさん :2017/04/09(日) 22:33:23 ???
「クソ!まさか、アルガスがこんな所だったとは!」
「桜子おねえちゃん……」
「落ち着いてサクラコ、スバルが怖がってるわ」
「あ、ああ、すまない……」
アルガスに到着した途端に襲われ、囚われた五人。桜子、サラ、スバルの三人は無機質な白い部屋に幽閉されており、彩芽とアリサはどうやら別の場所に閉じ込められているようだ。

「しかし、どうするか……最悪の場合は、スバルが異世界人ではないことを明かして、スバルだけでも……!」
「だから落ち着いてサクラコ。今から最悪の想定をするのは早すぎるわ」
幸い、というべきか、武器の類は没収されたものの、特に身体を拘束されているわけではない。脱走は決して不可能ではないはずだ。

「コンバットアーマーも没収されからクレラッパーにはなれないけど、アージェント・グランスのことまでは想定外のはずよ。外に出さえすれば、バイクで逃げられるわ……五人乗りはちょっと危ないかもしれないけど」
「……なぁ、前から気になってたんだが、あのバイクって一体どういう原理なんだ……?毎回、サラが呼べばどこからともなく現れるが……」
「まぁ、それは話せば長くなるんだけど……ってスバル?どうかしたのかしら?」
「スバルなら、あそこから抜け出せそうだよ。外からこの部屋の鍵を開けられるかもしれない」
スバルが指差した先は通気口。確かに、スバルの背丈ならあそこから脱出できるかもしれない。

「よし、そうと決まれば善は急げだ……スバル、私が持ち上げるから、あそこに入ってみてくれ」
「うん」
桜子がスバルを持ち上げる。そして、スバルは通気口を押し開けようとするが……

「ダメ!ここも外から鍵がかかってるみたい!」
「クソ、やはりダメか……」
「仕方ないわ、しばらく様子を見るしかないわね。……こういう時刑事ドラマなんかでは、鍵を持った看守がノコノコ来て鍵を奪われるのがお約束だけど……そう上手くはいかないわよね」
「彩芽……アリサ……無事でいてくれよ……!」


262 : 名無しさん :2017/04/10(月) 23:12:52 ???
一方こちらは盗賊団のアジト。
雨風をしのぐ家屋や食料貯蔵庫。僅かだが家畜もおり、人が暮らしていくのに最低限の設備は整っているちょっとした隠れ里であった。

「いやぁ!離してぇ!」
「うるせぇ!ちょっと黙ってろ!」
「きゃあ!」
そこでは少女の悲鳴がこだましていた。

「唯!?唯に乱暴するな!」
「だったら大人しく着いてこいっつーの!」
「ガハ!?」
「る、瑠奈ぁ!」
「大人しくしてれば殴られずにすんだのになぁ!?ほら、小屋に放り込んでやるからとっとと歩け!」
盗賊に囚われた唯と瑠奈は、手足と首に枷をはめられてしまい、抵抗むなしく盗賊のアジトまで連れてこられてしまったのだ。

「へっへっへ……お頭、こんないい女、まさか独り占めしやしませんよね……俺にもちょっと味見させてくださいよ」
「馬鹿!お前そうやってこないだ捕まえた女逃がしたじゃねぇか!」
「そんな〜、ちょっと足枷外しただけでパツキン巨胸姉ちゃんが蹴り倒してくるなんて思わないじゃないっすか!変な機械使ってくる貧乳メガネまでいたし……」
「うるせぇ!とにかく、トーメント王国辺りに高値で売っぱらうまで我慢だ!女はその時入った金で買えばいいだろ!」
そうこうしているうちに2人は小さな小屋に連れ込まれ、乱雑に小屋の中へと放り投げられてしまう。

「うっ!」「あん!」
「牙突き立てられし闘犬の団……お前らを捕まえた盗賊団の名前だ、覚えておけ」
無駄にカッコつけた頭領の台詞と共に小屋の扉が閉められ、ガチャンと鍵をかける音がする。

「うう……どうしよう瑠奈……」
「落ち着いて唯、私にいい考えがあるわ」
「ほ、ほんと!?やっぱり瑠奈は頭いいなぁ!」
「ええ、まずは……ってぎゃああああああああああ!!?いやぁああああああ!!」
「る、瑠奈!?どうしたの!?」
絶体絶命のピンチながら、瑠奈がいればなんとかなる……そう思っていた唯だが、突如悲鳴をあげる瑠奈を見て困惑する。

「あ、鼠だ……」
「いやぁああああああ!!鼠ぃいいいい!!無理無理無理無理無理無理ぃいいいい!!……うっ」
「る、瑠奈?嘘でしょ?いくら虫が苦手だからってこんな時に気絶しないでよぉ……ドラ○もんじゃないんだから……」
盗賊のアジト、それも普段使わないような隔離小屋が清潔であるはずがない。小屋の中は虫が多かった。
完璧美少女である瑠奈の唯一の弱点が虫である。手足に枷をはめられた状態では逃げることも叶わず、思わず気絶してしまう。

「ど、どうしよう……私がなんとかしないと、このままじゃ2人とも……!」


263 : 名無しさん :2017/04/11(火) 01:07:09 ???
「う……うぅん……」
「あ、アリサ……気がついた?」
「彩芽……?ここは……ひゃあっ!?」
目を覚ましたアリサの視線の先……そこには透明なガラス張りの壁とその向こうにいる大勢の研究者たちだった。
「気持ち悪いだろ?まるで動物園の檻の中だ。あいつらずっとボクらをジロジロ見ながらなんか相談してるんだよ……」
「……悪趣味ですわ。わたくしたちを捕まえて何をするつもりですの……?」
ガラスの向こうではアリサが目を覚ましたことに気づいた研究者が、他の研究者に報告をしている様子が窺える。
報告を受けた研究者はマイクが置かれたテーブルに近づき、スイッチを入れた。

「やあ、彩芽さんとアリサさんといったかな。私はこの研究所署長のマルシェザール。以後お見知り置きを。」
丁寧な口調で挨拶をしたのは、50代ほどの男性研究者だった。
「ぼ、ボクたちの声は聞こえるのか?」
「聞こえているとも。だが質問は後だ。まずは私の話を聞いてもらおう……」

「ルミナスと同盟を結ぶナルビア王国、その重要拠点がこのアルガスだ。近年私たちは異世界人の不思議な力について研究を重ね、ついに特殊な能力を持つ異世界人の特定に成功した。」
「と、特殊な能力を持つ異世界人……?」
「そう。私たちが独自に開発した人体スキャナー機能を用いて、異世界人の体内に極稀に特殊な体内磁石が存在することがわかった。……その体内磁石を有しているのが、君たちというわけだ。」
「わ、わたくしたちの中に特殊な体内磁石……?」
「私たちは君達のような特殊な異世界人を、ディスティンクティブヒューマン……略してDTTと呼んでいる。」
「は、はぁ……」
言葉に詰まるアリサと彩芽。いくら威厳のありそうな研究者の言葉といえど、唐突に自分たちが特殊能力者と言われても理解が追いつかないのだ。

「ま、とはいってもその特殊能力がなんなのか、ということについて説明しなければならないな。」
「そ、そうだよ。まずそれを教えてよ!」
「それはだな……すまないが、まだはっきりとはわかっていないのだ。」
「は……?」
「強いて言うなら、運命を変える力……とでも表現は可能だ。つまり、君達は人間が抗うことのできない運命を味方につけている。」
「さ、さっぱり意味がわかりませんわ!どういうことですの!?」
「さっきも見ただろう?偶然にも君達だけが噴射口から離れた場所にいて即気絶を免れ、偶然にも彩芽さんがガスマスクを装備していた……つまりはそういうことだ。」
「……つまり……ボクたちに備わった特殊能力っていうのは、ものすごく運がいいってことなのか?」
「イクザクトゥリィ!その通りだ。……そして君たちDTTの力を、今から私たちの目の前で見せてもらいたいという訳さ……!」


264 : 名無しさん :2017/04/11(火) 01:48:26 ???
パチンッ!とマルシェザールが指を鳴らすと、近くの床が開き床下からテーブルが現れた。
「こ、これはリコルヌですわ!」
「こっちはボクのアヤメカセットが入ったカバンだ!」
テーブルの上には没収されていたアリサと彩芽の装備が全て乗せられていた。
「さすがに丸腰では可哀想だからな。武器はそれでいいだろう。」
「……つまり、ここでわたくしたちを何かと戦わせるということですわね?」
「アリサさん、君は美しいだけでなく頭も回るんだな。その通りだよ。」
「ふ、ふざけるなっ!ボクたちをお前らの見世物にする気かよ!」
「見世物とは心外だな。これは立派な実験だよ。君達DTTを研究してクローン兵士を作れば、トーメント王国に対する切り札になるはずだからね。」
「な、ならわたくしたちを戦わせるのはお門違いですわ!もしわたくしたちが死んでしまったらクローン研究などできないはず!」
「フン……今から出てくる魔物たちに勝てないようでは、DTTとは言えないよ。私たちの勘違いだったということだ。」
「なんだよそれッ……!そのDTTってのじゃないんなら、僕たちに死ねってことかよ……!」
「……質問は異常かね?では早速始めよう。おい、実験開始だ!」
マルシェザールが指示を出すと彩芽たちのいる部屋の壁が素早く開いた。

「う、うわあっ!でかっ!」
壁の中からアリサと彩芽の前に現れたのは、超巨大軟体動物である。
「さあ、まずはジャイアントサンドワームだ。砂漠地帯に生息しているものを私たちが捕獲し強化させた改良種となっている。」
アリサと彩芽を視界に捉えたワームは、むき出しの牙をカチカチと鳴らしておびただしい量の唾液をボトボトと地面に落とした。
「唾液にも気をつけたまえ。うっかり体につけてしまうと、ランダムな状態異常効果を引き起こしてしまうからな。」
「こ、これを僕たちだけで倒せっていうのか……?冗談キツすぎだよ……!」
「ゼルタ産地でサンドワームとは戦ったことがありますけれど……その時のワームよりも遥かに大きくて太いですわ……!」
「ん?アリサさん。今のセリフをもう一度言ってくれたまえ。」
「え?……その時のワームよりも」
「律儀に言わなくていいよ!ただのスケベオヤジだよあいつッ!!」

「キシャアアアアアアっ!!!」
彩芽のツッコミに合わせて、ワームは威嚇のような声を出し大きな尻尾を振り回した!
「彩芽ッ!やるしかありませんわっ!」
「くっそおお!どうしてボクたちがこんな目にいぃっ!!」


265 : 名無しさん :2017/04/12(水) 00:10:02 ???
「グオオオオォン…!!」

「いくら体が大きくても…そんなスローな攻撃にやられるわたくしではありませんわ!…たあああっ!」
ジャイアントワームの攻撃を難なくかわし、反撃を仕掛けようとするアリサ。

「うわああああ!!……ぜーっ…はーっ……ひ、久しぶりに走ったから腰が…」
…そして、ダッシュで逃げ惑う彩芽。

「…まあ、貴女に前衛は期待してませんわ。後ろから援護を頼みますわよ!」
「ですよねー…えーと、何か役立ちそうなものは、と……」

アリサはレイピアを抜き放ち、ワームの注意を引き付けるべく、前に出る。
そして圧倒的なスピードで巨大な敵を翻弄するが…科学者たちはその様子をあらゆる角度から観察、分析していた。

「あの剣は名門アングレーム家に伝わる宝剣『リコルヌ』…柄の装飾に一角獣が象られている事からわかる通り、
使用者の『ある特性』に反応して魔力が発動し、威力や攻撃速度などを飛躍的に向上させるようです。」
「…『ある特性』?」
「マルシェザール所長!あの被験体が着ている白い服ですが…あれはルミナスの上級魔装『ローブ・ド・ブラン』。
やはり装着者の『ある特性』に反応して、身体能力や防御力が飛躍的に高める効果があります」

「さっきから何だね、その『ある特性』と言うのは…」
「それが……ゴニョゴニョゴニョ」
「なるほど、しょj……ぷっ……いや、失礼。だがそうなると、あのワームとは少々相性が悪いようだな。君はどう思う?」
「これの男性版があったらめっちゃ嫌ですね」
「そwwwれwwwはwwwはずいwww」

「シュヴェーアトリヒト・エアースト!!」
アリサは大きく跳躍してワームに接近し、その喉元を必殺の斬撃で深々と切り裂いた。
…使用者の『処女性』により力を発揮する、という装備の特性が科学者たちに爆笑されているとは夢にも思わずに。

「グォォォォ!!」
びちゃびちゃびちゃっ!!
「…きゃああぁっ!?」

…だが攻撃した瞬間、傷口からワームの血…なのかどうなのか、正体不明な粘つく体液が飛び散った。
避けようのない空中で、まともに粘液を浴びてしまったアリサは、バランスを崩しながらも何とか着地に成功する。

「な、何ですのこれ!?…もう、最悪ですわ…!!」
「亜理紗、下がってっ!……これならどうだ!!…No.64、殺虫カンシャク玉!!」

「……グオォォォオオン……!!」
アリサの剣も、彩芽の投げつけたカンシャク玉も、ある程度の効果はあるものの、巨大な敵に致命傷を与えるには至らなかった。
そして…

「くっそー…亜理紗、今度は二人同時攻撃だ!……亜理紗…?」
「はぁっ……はぁっ……っ……(…おかしい……ですわ…身体が……あつ、くて………)」

…ジャイアントワームの粘液を浴びたアリサの身体に、異変が起き始めていた。
身体の芯が熱く疼き、足腰に上手く力が入らない。
そして先ほどまでの超人的なスピードや跳躍力が嘘のように、
身体が、手にしたレイピアが、纏ったドレスが…重い。

「グオオォォォオオ……」
「やばっ、来る!!…おい亜理紗!!…一体、どうしちゃったんだよ!!」


266 : 名無しさん :2017/04/12(水) 23:53:16 ???
「きゃあああああああ!!!」
「亜理沙ぁあ!」
サンドワームの巨大な尻尾が、突然動きの鈍くなったアリサを捉え、大きく吹き飛ばした。

「NO36、わらわらソルジャーズ!」
彩芽の鞄から、たくさんの玩具の兵隊が飛び出したかと思うと、アリサを追撃しようとしていたサンドワームに攻撃をしかける。
トイス○ーリーの兵隊たちやガ○ダムXのビットMSから着想を得た、戦う小型ロボット群だ!

「これで時間稼ぎにはなるか……亜理紗!無事か!?」
「う……ぐ……あん……」
「わ、なんかエロい」
「そ、そんなこと言ってる場合ですの……?ぐぅう……」

吹き飛ばされて壁に叩き付けられたアリサだが、直接的なダメージ自体はそこまで酷いわけではない。今までの旅で何度も喰らったことのある程度だ。しかし、何故か異様に身体が疼く。

「お、おい、ほんとにどうしちゃったんだよ亜理紗!」
「こ、これはダメージというより………何かの状態異常のような……」
「よし、こんな時はNO53スキャンゴーグルの出番だ!眼鏡の上からゴーグルかけて……てなんだこりゃ!?状態:発情なんて表記初めて見たぞ!?」
「んな!?私はこんな状況で盛る変態ではありませんわ!」
「そうか!きっとさっき亜理紗が浴びた粘液が媚薬だったんだ!エロ同人みたいに!」

「ギシャアアアアアア!!」
そうこうしているうちに彩芽のわらわらソルジャーズは全滅間近になってしまった。

「とりあえず亜理紗!その服脱げ!興奮してる今はそんなのただのデメリット装備だ!武器はボクのアヤメカを貸すから!」
「ななな、何を言ってますの!?」
「その服と剣は貞淑な奴じゃないと力を引き出せないみたいなんだよ!」
「だからといってこの場で脱げというのはあまりにあまりじゃありませんこと!?というか私は貞淑ですわ!」
「貞淑な奴も媚薬喰らったらふしだらになるんだよ!NTR系エロ同人で読んだ!……てこんなこと言ってる場合じゃない!ボク一人じゃ足止めが限度だ!早く興奮納めるかその服脱ぐかして戦線に復帰してくれ!」

そう言って彩芽はまた自らの発明品で戦いはじめたが、前衛なしでは長くはもたないだろう。

(……え?これ本当に脱ぐ流れですの?それか自分で興奮納める流れですの?)
媚薬によって火照った身体。火照った身体では力を出せない装備。研究者が見ている前で自分を慰めてさっさと興奮を納めるか、服を脱いで武器はアヤメカを何かしら拝借するか……
アリサは究極の二択を迫られていた。彼女は、第三の道を見つけてその選択を回避することはできるのであろうか!?


267 : 名無しさん :2017/04/13(木) 02:52:42 ???
アヤメがワームの注意を引き付け…もとい、ワームに追い掛け回されている間、アリサは激しく葛藤していた。

(彩芽だけならまだしも、あの怪しい科学者達が見ている前で裸になんて、とても無理ですわ…!
それに、身体の疼きがますますひどくなってきてますし…やっぱり、どうにかして鎮めないと!
…その……アソコを…擦れば、いいのかしら……でも、素手で触れるのはちょっと抵抗が。
そうですわ、リコルヌの柄を使えば……って、いやいやいや!わたくしったら何を考えてますの!?
アングレーム家の家宝、お父様とお母様の形見をそんなふしだらな事に使うなんて!
だ、だいたい彩芽もあんまりですわ。いきなり脱げ!とか納めろ!とか言われても、どうしていいか…
だいいちそんなふしだらなコトするなんて、それこそ貞淑な乙女も何もありませんわ!
…それとも、こ…こういうのって、わたくしが知らないだけで、知ってて当然、ヤってて当たり前な物なのかしら…?
彩芽もエロげ?とかエロどーじん?とか、何だかわからないけど詳しいみたいですし。
唯や瑠奈も…そういえば初めて会った時、やたらとセクシーなナース服を着ていたし…
まさか二人であんな事やこんな事や、それどころかわたくしには想像もつかないようなソレやらナニやらを…)

「何でもいいから早くしてくれよぉぉぉおぉ!!」
…彩芽は唾液まみれになりながら逃げ帰って来て……

「ああもう…頭がこんがらがってきましたわ!……そんなに言うなら、彩芽がヤってくださいな!!」
……アリサを巻き込みながら、盛大にすっ転んだ。

<ワームの唾液によるランダムBS付与効果が発動しました>
アリサ BS:発情 錯乱 
アヤメ BS:ラッキースケベ


268 : 名無しさん :2017/04/13(木) 21:44:22 lCNEjBfA
「きゃ、きゃあああああああ!!何をなさいますの!」
「ぶへら!」
転んだ拍子に彩芽にラッキースケベで胸を揉まれ、思わず彩芽を殴るアリサ。

「しょ、しょうがないだろ事故なんだから!ていうかさっき亜理紗が自分で『彩芽がヤってくださいな』って言ったんじゃないか!」
「そ、それはそうですけど……!」
「ていうかボクは何もエロいことしろって言ったんじゃないんだよ!回復魔法かなんかで身体の調子を戻せって意味で興奮を収めろって言ったんだ!」
「そ、それならそうと言ってくだされば…!どちらにしろ、私の魔法で治るんだったらとっくにやってますわ!治らないから困ってるんですの!」
「ああもう、じゃあ脱いでくれよ!」
「怪しい研究者が見てる前で脱げるわけないでしょう!?」
「脱ぐのはダメで自慰はオッケーなのか!?」
「示威?ワームを怯えさせるんですの?」
「こ、こいつ……!初心にも程があるだろ……!ボクらもう16歳だぞ!?」

「ギシャアアアアアア!!!」

「わ、来た!ええい、もう後は野となれ山となれ!NO76『スーパーウルトラスペシャルグラマラスプレミアム(略)……ストップウォッチ』!」
3分間だけ時間を止める彩芽のとっておき。迫りくるサンドワームの脅威は一時的に止まった。そして、止まった時間の中で、彩芽は……。

「ギャアアアアアア!?」

「な、何が起こったんだ!?」
異世界人の少女2人を追い詰めていたはずのジャイアントサンドワームが、突如悲鳴をあげてのけ反っていいる様子に、科学者たちは愕然とする。

「いやぁああああああ!!!身体が軽い!彩芽ったら私にナニをしたんですの!?」
「……言わせんな恥ずかしい」
「いやぁああああああああ!これから貴女とどう接すればいいんですのー!?」
彩芽が止まった時間の中でアリサに何をしたか。彼女らの尊厳のため、敢えてこの場では具体的に何をしたかは語るまい。

「それもこれも全部……!あの科学者たちのせいですわ!」
「そ、そうだそうだ!全部あの連中が悪い!」
「こうなったらもう全力で行きますわよ!彩芽!」
「おう!あと、終わったらボクに弁明の機会くれよな!」


269 : 名無しさん :2017/04/14(金) 00:19:58 ???
彩芽が亜里沙に(自主規制)しているころ、牙突き立てられし闘犬の盗賊団のアジトでは……
「う……うぅん……」
「る、瑠奈!!!」
「きゃあっ!ゆ、唯!?どうしてそんなに顔を近づけてくるのよ!?」
瑠奈の意識が戻るやいなや、枷をつけられたままの状態で転がって顔を近づける唯。
「だ、だって……また虫とか見たら瑠奈気絶しちゃうから……!」
「あ、あぁ……だからそんなに顔が近いのね。ちゃっと恥ずかしいけど……気遣ってくれてありがとう。唯。」

「さっき、盗賊の人の声が聞こえたの。明日になったら私たちをどこかに売るんだって……」
「売るって……どこに売られるのよ?」
「それはわからないけど……多分いいところではないと思う。それどころか、私たち離れ離れになるかもしれない……!」
瑠奈と離れることを想像したせいか、少しだけ泣きそうになる唯。
思うように修行の成果が出せず、出発して早々輩に捕まってしまったショックは、今盗賊につけられている枷よりも唯の心を締め付けていた。
「泣かないで、唯。大丈夫!私たち2人でいつも切り抜けてきたじゃない!なんとかなるよっ!」
そんな唯の心を慮る瑠奈は、努めて明るい口調で唯を励ました。

「私の思いついた脱出方法は2つ。1つはあの窓から脱出する方法。」
もともと牢獄用に作られた部屋ではないため、この部屋には小窓があった。
だが窓は鉄格子で塞がれており、そのままでは開けることは不可能だ。
「私たちを甘く見てるのよ。枷さえ外れれば、あんな鉄格子私と唯で窓ごと壊せるわ。」
「なるほど……!で、もう1つは?」
「もう1つはあんまりやりたくないけど……盗賊の誰かをここに呼んで、枷を外してもらうのよ。」
「ええ!?わたしたちを捕らえた人たちがそんなことしてくれるかなぁ?」
「まぁそのままでは無理だけど……ほら。私たちには女っていう武器があるじゃない。」
栗色のセミロングで悲鳴すらアニメ声の唯と、顔に似合わない特大バストを持つ青髪ショートカットの瑠奈。
この2人の美少女に誘惑されれば、どんな男もホイホイとついていってしまうだろう。不本意だが瑠奈はそれを確信していた。
「私たち2人で誘惑して鍵を持ってきたもらって、枷を外したところで気絶させるのよ。そしたらそのまま脱出するの。」
「なるほど……でも私、男の人を誘惑するの自信ないな……」
「まあ私には兄貴がいるから男子には慣れてるけど、唯は一人っ子だもんね……誘惑は最終手段にしましょ。」
「じゃあ、まずはこの枷をどうやって外すかだね……」
首と手足につけられたお互いの枷を、唯と瑠奈はしげしげと見つめた。


270 : 名無しさん :2017/04/14(金) 22:57:47 ???
「瑠奈が気絶してる間、けんけん足で小屋の中を探索してる時に見つけたんだけど、これ使えないかな?」
そう言って唯が差し出したのは幾つかの針金。

「唯でかした!これで鍵を開けられるかもしれないわ!手がひとまとめにされてて少しやりづらそうだけど」
「ええ?自分で持ってきたクセに言うのもなんだけど、そんな刑事ドラマみたいなことできるの?」
「昔、空かなくなったおもちゃの宝石箱を兄貴に針金で開けてもらったことがあってね!それ以来覚えたのよ」
「へぇ……瑠奈のお兄ちゃんって多芸だよね」
「とにかく、まずは唯の手枷を外すわ!鍵穴がよく見えるように手の向き調整してくれる?」
針金で鍵穴をカチャカチャと弄ること数分。

「や、やった!外れた!ありがとう瑠奈!」
「へへん!私にかかればざっとこんなもんよ!」
その後も唯の枷を次々と外していった瑠奈だが、さぁ次は瑠奈の番というところで問題が起こる。

「……足はともかく、手は角度の問題で自分じゃ外せないし、首も鍵穴が見えないから外せないわね」
「うう、私も鍵開けできたらよかったんだけど……」
足枷以外を外せなかったのである。

「足の枷は外れたから、走る分には問題ないし……このまま行くしかないかしらね!」
「瑠奈!ちょっと待って!手さえ自由なら、私が残りの枷も壊せるかもしれない!」
「あ、その手があったか!それじゃあ頼むわよ、唯!」
「で、でも自信ないから、さっき外した私の手枷で一回練習させて……」
そう言って、既に外した手枷に手刀を叩き込む唯。すると、鉄の枷はすっぱりと両断された。
「やった!これならいける!」
そして、唯は瑠奈の手枷も手刀で破壊する。

「前の私じゃ、流石に鉄は壊せなかった……」
「そうよ唯!私たちの修行は、無駄じゃなかったのよ!」
「瑠奈……!」
あの地獄のスパルタ修行は、確実に自分たちの血肉となっている。それが実感できて、唯は嬉しかった。

「よーし!そうとなったら窓から脱出して、あの盗賊団に逆襲よ!」
「ええ?逃げようよ瑠奈ぁ……もしまた捕まったら」
「唯、ライカさんにも言われたでしょ?私たちには実戦経験が不足してるの。こういう時にちゃんとレベル上げしとかないと、後々詰むのよ!ファイアーエ○ブレムみたいに!」
「メド○ーアといいファイアーエ○ブレムといい、瑠奈って男の子っぽい趣味多いよね。やっぱり、男兄弟がいるとそうなのかな?」
「とにかく、いっせーのせで窓の鉄格子を破るわよ!」
「う、うん。戦うにしても逃げるにしても、とりあえずここから出ないとね」
「いくわよ!いっせーの……」

「「せ!」」


271 : 名無しさん :2017/04/15(土) 18:12:48 ???
アリサは彩芽に【ピー】されて体調不良を克服し、唯と瑠奈は閉じ込められた小屋から脱出しようとしている。
それぞれが少しずつピンチから脱却しようとしているが、まるでそれに合わせるかのように、ある歪んだ人物も動き出そうとしていた。

「リザさん、この間の間者の件ですが……間者の特定はできませんでした」
「そう……」
「しかし、一般兵の名簿に不自然な点がいくつか見受けられたので、何者かがこの城に紛れ込んでいたのは確実かと」
(このダニが!この蛆虫が!地獄へ落ちろ!死んで蟻にでも転生してもっぺんすぐ死ねぇえええ!)
ちなみに、一般兵の名簿の不自然な点というのはただ単に兵士の書類仕事のサボタージュが原因だが、せっかくだから利用してリザの勘違いを助長させることにした。

「私は教授の命令でアルガスに行かなければならないので、本格的な捜査はできませんでした……すいません」
「こっちこそ、忙しい時に仕事を増やしてしまって……」
「ふふ、それは言いっこなしですよ」
(あークソ反吐が出る!アウィナイト殲滅させて海の藻屑にしたい……!)

「サキ、緩衝地帯だった森を手に入れて以降、アルガスとの緊張状態は前にも増して強くなってる……気をつけて」
「リザさん……ふふ、大丈夫ですよ。こう見えて潜入には自信がありますから。エスカさんがいなくなった今、私が頑張って地道に情報収集しないといけませんし……それに、もし捕まったとしても、リザさんが助けに来てくれますよね?」
(んなわけねぇよなぁリザぁ!?お前は結局アウィナイトの一族が一番大事だもんなぁ!?)
冗談めかして軽口を叩く……ように見せかけてリザのクソさを再確認しようとしたサキだが……

「……うん、もしもの時は、私が絶対助けに行く。もう二度と、仲間を失いたくないから……」
「え、あの、その……」
リザの真摯な青い瞳に見つめられ、思わず目を逸らして口ごもってしまうサキ。

「め、面と向かってそういうこと言われると恥ずかしいですね……あ、でもリザさん!私にそっちの趣味はないので悪しからず!そういうことはエミリアさんとしてくださいね!」
「そっちの趣味……?そういうこと……?って、エミリアとはそういうんじゃ……!」
「恥ずかしがらなくても大丈夫ですリザさん!同姓愛に対する偏見は年々減少していますから!城には『女の子同士って美しいよね……そういえばスピカってソッチの気があるみたいだぜ……』的な風潮をさりげなく流布しておきましたから!」
「さ、サキぃ……そんなところで工作スキル発揮しなくても……」

なんか負けた感じがして悔しかったので、先日のリザガチレズ説を話題に出してリザを手玉に取る。
余談だが、サキはさりげないってレベルじゃないくらいがっつりリザガチレズ説を言いふらし回っていた。

✱✱✱

「……舞さん、貴女のことはつい色々と便利に使ってしまっていますが、正直な所私のことどう思ってますか?正直に答えてください」
「サキ様……?はい、教授のように白い下着を強要されることも、下着が隠れるストッキングを禁止されることも、嗜みと称してエロゲーをプレイさせられることもなく、とてもお仕えしやすい方だと……」
「きょ、教授がそこまで末期だったとは……ええと、それは教授が変態なだけで私が特別仕えやすいわけじゃないですよね?」
「滅相もございません!サキ様は心穏やかな方で、慈悲深く、素晴らしいお方かと!闘奴にされかけた所を助けて頂いて、とても感謝しております」
ここはサキの私室。そこではサキと柳原舞が向かい合っていた。先日の自我モードによる甚振りは記憶から消しているので、舞にとってサキは正に命の恩人と言っても過言ではない。今の彼女は心からサキに感謝していた。


272 : 名無しさん :2017/04/15(土) 18:14:03 ???
「へぇ……じゃあ、脱いでください」
「え?」
「聞こえなかったんですか?服を脱いでください」
「な、何を……」
「3回は言いませんよ?」
サキの静かだが有無を言わさぬ言葉の圧に、舞の身体はビクッと震える。そもそも、チョーカーをされている時点で本来なら羞恥心が勝るような命令でも聞かないという選択肢はない。
おずおずと黒いセーラー服のリボンをするりと解く舞。そしてそのまま、ゆっくりとセーラー服を脱いでいく。ストッキングも脱ぎ、そしてスカートのホックを外してストンと床に落とす。
先日の熱湯責めによって舞の美しい足には痛々しい火傷の跡が残っており、たどたどしいストリップショーも相まってサキの嗜虐心を大いにくすぐった。

そして、サキは上下グレーの下着姿になった舞にゆっくりと近づき、舞の端正な顔にそっと触れる。
「さ、サキ様、何を……」
「動かないでください、じっとしていて」
そのまま顔を撫でまわしたかと思うと、ゆっくりと右手を舞の上半身へと持っていき、指をツツツ、とお臍の辺りに這わせる。

「あ……!」
それにより、舞の身体は再びビクンと震える。今度は先ほどとは違い、恐怖によって震えたわけではないことは明白だった。
そしてサキの左手は、決して小さくはないが身長の割にはあまり大きくもない舞の胸を優しく包み込む。
「さ、サキ様……!いけません!」
「黙っててください」
そのままサキの手は巧みに動き、上半身を右へ左へあちこち触りつくす。

「あ、ふぁ……」
「そろそろ、下にいきましょうかね」
そのまま、サキの両手は下半身へと伸びていく。足をスリスリと撫でまわした後、サキの手は火傷の跡を重点的に触る。未だにムズムズする箇所をそんな風に触られてはたまらない。

「ひゃっ!」
「クスクス……分かりやすい弱点ができちゃいましたね」
「お、おやめください……!」
「ええ、もう十分ですからね」
「え?」
スッ、とサキが舞から離れる。何をされるのかと戦々恐々としたが、終わってみればただ身体を触られただけであった。

「すいません、驚かせてしまいましたよね?でも、これは口で説明するより直接見せた方が分かりやすいと思ったので……」
「ど、どういうことですか?」
「こういうことです」
サキが手で顔を隠したかと思うと……徐々に彼女の骨格が変わっていったではないか!そして、サキが顔を隠していた手をどけると……

「な!?わ、私!?」
「アルガスに潜入するなら、異世界人の『顔』の方が便利ですからね」
サキの顔は、柳原舞の顔になっていた。否、顔だけではない。体格や声までもが舞とほぼ同一のものとなっていたのである。

「テレポートや完全ステルス辺りと比べたら地味かもしれませんが、これが私の能力です」
十輝星というのは異能力集団。そしてサキは邪術を覚えているがそれは周りには隠している。ならばサキの能力はなにか?この変装……否、変身能力である。
変身したい相手の身体を触ることでその相手とほぼ同じ顔、同じ声、同じ背格好になれるのである。
ちなみに、舞にやったようにわざわざ下着姿にさせた上でねっとり触る必要性は全くない。

「変身したい相手に触らないと変身できないのは難点ですが……潜入任務にはうってつけの能力です」
「さ、さようでございましたか……」
「舞さん?顔が赤いですよ?あ、ごめんなさい。女の子同士とはいえ、やっぱりちょっと触りすぎましたか?」
「い、いえ!滅相もありません!」
口ではそう言う舞だが、様子がおかしいのは明白だ。

「ならいいんですけど……とにかく、私はアルガスに行きます。私が留守にしている間のことは頼みますね」
(なにちょっと触られただけで感じてんのよwww盛りのついた猿じゃあるまいし)
余談だが、舞は教授に『花嫁に使う予定』の怪しげな薬を実験と称してよく飲まされていたので、ちょっと身体が敏感になっていたりする。それだけでなく、その他諸々の副作用などもあるが……この場では深くは語るまい。

(研究開発都市アルガス……本格的に潜入するのは初めてね……ま、なんとかなるでしょ)


273 : 名無しさん :2017/04/15(土) 19:23:42 ???
バギィンッ!
瑠奈と唯の魔力を込めた攻撃により鉄格子は破壊され、粉々に砕け散った。
「やった!これで脱出できるわね!」
「で、でも瑠奈ぁ……ほんとにあの人たちと戦うの?」
「モチのロンよ!毒も抜けた今ならあんな奴らに負けないもん!さあ張り切っていくわよ!唯ッ!」
瑠奈は飛び上がって窓を破壊し、そのまま外に出ていった。
(瑠奈は短気だからなぁ……レベル上げとか言ってたけど、ただ腹いせがしたいだけだよね……)

「おらおらおらおらーーー!全員出てきなさいよーーー!!!」
集まってきた盗賊たちを千切っては投げ、掴んでは殴り倒す瑠奈。
その姿は格闘家というよりも、ガラの悪いチンピラのような戦い方であった。
「お、おいどうなってんだ!?あいつらは捕らえたはずだろ!?」
「どうやったか知らねえが脱獄したんだよ!それでこの有様だ!お前も早く逃げねえとあのおっぱいにぶっ飛ばされるぞッ!」
「誰がおっぱいよッ!私には瑠奈っていうとっても可愛い名前があるんだからッ!」
「ひ、ひえええええええっ!!!」
瑠奈は逃げ惑う2人に啖呵を切りつつ、パンチとキックのコンボで2人を秒殺した。
「弱い、弱すぎるッ!もっと強いやつ出てきなさいよッ!!」
(瑠奈すごい……!私だって!)

(ゲヘヘヘ……前ばっかり見てる暴れん坊のおっぱいちゃんには、このナイフをブッ刺してから俺の腰の皮被り坊やをブッ挿してやるぜ……!)
暴れ回る瑠奈の背後から、狡猾な男がナイフを持って飛び出した!
「そのおっぱいもらったあああああっ!!!」
「四天連脚ッ!!」
「ひぶっ!おっ!あごっ!があっ!!」
背後から強烈な四連続の蹴りを食らい、狡猾な男はナイフを落として吹っ飛んでいった。
「唯やるぅ!ま、私も気づいてたからカウンターの準備万全だったけどね!」
「ぜ、絶対嘘だよっ!瑠奈前しか見てなかったもんっ!」
「アハハ!バレてた?正直あれ食らってたら危なかったわ。唯ありがとっ!」
「うんっ!瑠奈の後ろは私が守るよっ!」

「くそっ、逃げ惑う2人も狡猾な男もやられてしまった……!早くボスに報告だ!」
「何言ってんだ!ボスはとっくの昔にもう逃げてんだよ!俺たちもさっさとずらかるぞ!」
「ええええええーーー!?!?!?」


274 : 名無しさん :2017/04/16(日) 10:22:35 ???
「ゼルタ山地」の奥にある盗賊団のアジトにて、唯と瑠奈が盗賊達と大立ち回りを演じていた頃。
トーメント王国からやって来た軍用ヘリが、そのアジトの前に着陸していた。
ヘリから降りてきたのは、二人の少年……トーメント王下十輝星、アトラとシアナ。

「ここが『牙突き立てられし闘犬の団』のアジトか…名前の噛ませ犬感がすごいな」
「つーか、いくらなんでも山奥すぎだろ…本当にこんなとこに、唯ちゃんと瑠奈ちゃんがいるのかよ」

唯と瑠奈の身柄がネットオークションに売りに出されていたのを見つけた彼らは、
半信半疑ながらも即決で買い取り、商品を受け取りに\ヘリで来た/のであった。

「ま、ダメ元で行ってみるか。ところで…シアナ。最近、アイナとはどうなんだ?」
「…どう、って?」
「ひひひ。とぼけるなよ〜…お前ら最近、なーんかアヤシイって噂だぞ!いいのか?こんな所で唯ちゃんを追っかけまわしてて」
…一瞬、シアナは複雑な表情を見せた。アイナの事を好きになり始めていたのは確かだが、
彼女の『他人の記憶から消える能力』の厄介さに気を取られて、それどころではなかったのが事実。

「…お前の方こそ。僕が知らないとでも思ってるのか?エミリア・スカーレットがいた、あの地下牢の『特別室』…」
「ぎくっ」
「エミリアが牢を出た今は、誰が入ってるんだろうな?最近そこに、アトラがせっせと通ってるって聞いたぞ」
「ぎくぎくっ」
「ところで、ノワールの姿を最近見かけないな。服の方はともかく、中身の魔法少女…市松キョーコって言ったっけ?」
「鏡花ちゃん、な! シアナ、おまえ呼び捨てにすんなよ鏡花ちゃんの事!」

「……はあ。ま、リザも似たような事してたみたいだし、とやかく言いたくないけど…あの子はやめとけ」
「…なんでだよ!優しくて可愛くて、しかもおっぱい大きくておまけに魔法少女とか最高だろうが!!」
「いや、そーいう問題じゃなくて…いや確かに『最高だ』とは思うよ?…『リョナる分には』ね。」
「………。」
そう…彼女はルミナスの魔法少女で、自分たちはトーメント王下十輝星…言わば不倶戴天の敵なのだ。
シアナがこの色々と無謀な恋路の行く末に不安を抱いてしまうのも当然の事だろう。

「……シアナは心配し過ぎなんだよ!大丈夫、何とかなるって!俺、運がいいし!」
「まあ、そういう話はまた今度じっくりやるとして…今は、唯ちゃんと瑠奈ちゃんだ」

「そう言えば…高額落札者サマが来てやったってのに、出迎えがないな」
「それに、建物の中も騒がしいし……何かあったんじゃないか?」

「…なんかヤバそうだから急ごうぜ!チャンスの女神さまは前にしかおっぱいついてないって言うからな!」


275 : 名無しさん :2017/04/16(日) 12:33:21 ???
「おじゃましまーす!唯ちゃんと瑠奈ちゃんを引き取りに来ましたー!」
アジトのドアを開けながら大声で挨拶をするアトラの目に飛び込んで来たのは……こちらへ吹っ飛んで来た盗賊のケツだった。
「あべしっ!!!」
顔面に盗賊の汚いケツを押し付けられたアトラは、そのまま10メートルほどゴロゴロと転がっていった。
「ア、アトラ!大丈夫か!?」
「いってえ……!こいつッ!俺に汚ねえケツ押し付けやがって!こうしてやる!」
立ち上がったアトラが手をかざすと、何もなかった芝生に突如巨大なトラバサミが現れ、盗賊は首を挟まれた。
「ぎゃあああああッ!」
「おい、なにもそこまでしなくても……」
「シアナよ…お前も顔面に汚い男のケツを押し付けられれば、俺の気持ちがわかるぜ…」
「わかりたくないな……それより、お目当の2人が来たぞ。」
入り口のドアへ盗賊を吹っ飛ばした2人が、十輝星の前に現れた。

「あれ、こんなところに男の子がいるよ?」
「あーーー!あんたらはあの時のッ!!!」
瑠奈の記憶に蘇ったのは、目の前の少年たちにトラバサミを嵌められた後眠らされ、トーメント城で海老反りで縛られ、ひたすら胸を揉まれ、体に蛞蝓を這わされたという思い出したくもないおぞましい記憶だった。
「唯気をつけてっ!こいつらはあの王の手先よッ!」
「ええっ!?こんな小さい男の子たちが!?」
「私はこいつらに拘束されて、酷いことをたくさんされた……!こいつらがヒカリの言ってた、王下十輝星よ!」

「ヒカリって……エスカのことか!なぁ、エスカ元気?」
「あ、うん。記憶は戻らないけど、ルミナスのみんなと仲良くなれたから、それなりに楽しいって言ってたよ。」
「そっかー!俺たちのとこからいなくなったのは寂しいけど、元気に生きてるならよかったよかった!」
「フフ、仲間思いなんだね!」
「ち、ちょっと唯!こんな奴らとなに普通に会話してんのよぉ〜!!」

「だ、だって……瑠奈にひどいことしたのは事実かもしれないけど、この子たちはまだ小学生くらいの子供なんだよ?ちゃんと話し合えば分かり合えるよっ!」
そう言うと唯は2人に近づき、手を差し出した。
「私、篠原唯っていうんだ!君達は?」
「俺はアトラ!よろしくな!」
「ぼ、ぼぼぼぼ僕はシアナ……」
元気よく挨拶をするアトラに対し、シアナは不自然にどもっている。
「おいシアナwwお前憧れの唯ちゃんに会えたからって緊張しすぎだろwwそれとも、もうスイッチ入ったのか?」
「憧れ……?私に?え〜どうして?」
「ぼ、僕はゆ、ゆゆゆ唯ちゃんとずっとやりたかったことがあるんだ……フ、フフ。」
「私とやりたいこと?それはなにかなぁ?お姉ちゃんにも教えて?」
小学生くらいの男の子なら、鬼ごっこやかくれんぼ。またはポ◯モンとか妖◯ウォッチだろう。
唯は目の前で顔が真っ赤になっている子供を、優しい視線で見つめながら返事を待った。



「ぼ、僕は唯ちゃんのことを……荒縄でギチギチに縛った後、生爪を一枚ずつ剥いでやりたいんだ……!」


276 : 名無しさん :2017/04/16(日) 13:56:40 ???
「え?」
「ほら唯ぃ!あの王の手先なんて、こういう奴しかいないんだよ!早くそいつらから離れて!」
「もう遅いウシ乳チビ女!」
そう言ってシアナは唯と瑠奈の間に大きな穴を開ける。

「う、ウシ乳チビ女!?あったまきた!こんな穴、ルミナスで修行した今なら簡単に飛び越えてやるわよ!」
「馬鹿が!僕らの能力を知ってる癖に、自分から身動きの取れない空中にくるとは!やっぱり栄養が頭じゃなくて胸にいってるらしいな!アトラ!やれぇ!」
「はいはい……こうなるとこいつめんどくさいんだよなぁ……」
「しま……!きゃあああああああ!!」
「る、瑠奈ぁあ!」

シアナの開けた穴を飛び越えようとした瑠奈。だが、空中でアトラの網のトラップが炸裂し、瑠奈は自分から網にかかりにいく形になってしまった。

「く……!こんな網!」
「その網は生半可なことじゃ破れない……大人しくしてるんだな」
「いやシアナ、それ俺の台詞……」
「さぁ、次は唯ちゃんの番だ!」
「ああ、普段無茶やってる俺と同行してるシアナやフースーヤって、こんな気分だったのか……」
アトラが自らの行いを省みている間、唯はキッとシアナとアトラを睨む。

「どうして……どうしてこんなことするの!?あの王様に無理矢理させられてるの!?」
「いやいや、こう見えて王様には感謝してるんだぜ?」
「王様やトーメント王国は関係ない……これは、僕の性だ」
「唯、私に構わず逃げて!こいつに捕まったら、前以上に酷いことされるわ!」
「そんな……瑠奈を見捨てるなんてできないよぉ!」

「なぁ、どこでリョナるんだ?やっぱり城に連れ込んじゃう?それとも野外活動としゃれこむか?」
「ククク……そうだ、このウシ乳チビ女にも使い道があるじゃないか……こいつを目の前で殺せば、唯ちゃんはきっとイイ声で鳴いてくれる……」
「あ、聞いてないっすね、はい」


277 : 名無しさん :2017/04/16(日) 15:20:11 ???
「やめて!瑠奈にひどいことするなら、いくら君達でも許さないよ!」
「アトラ、ウシ乳チビ女を少し痛めつけてやれ。」
「はいはい。とりま電流でも流して喘がせてやるか!」
アトラが網に手をかざすと、瑠奈を捉えている網がバチバチと放電を始めた!

バチバチバチバチバチィッ!!!
「ひゃああっ!?あっあっあ、ぅあ、あ゛っぅあっあ゛っ!ああうっ!うあああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!」
「まだまだ!電圧アップ!」
「んううっあ゛っんッッ!!!ぐ、あっ、やああっ!やめてえええ゛え゛っ!あああっ!あぁ゛、あうぅっんっ!」
「やめてええっ!瑠奈を離してええっ!」
「やなこった!ほらもっとエロい声で喘げ!ブタ乳デカ女!」
「ひゃあああ゛あ゛んっ!!!あぐっ!ぅああああっ!!!んやっ、あ、ひあ゛ぁうっうぅんっ!!あひぎゅぅんっ!あっ!!!あああぁあぁぁあああ゛あ゛あ゛ぅうッッ!!!」
ビリビリビリビリィッ!

「ぁあ……うぅ……!」
強い電流を浴びた影響で、体からプスプスと煙をあげる瑠奈。アトラの容赦ない電流攻撃に激しく喘いだ瑠奈の服は、所々破れてしまい、今はブラとパンティが見えてしまっているあられもない姿で磔になっていた。
「ククク…ウシ乳チビ女もなかなかいい声で鳴くじゃないか。唯ちゃんほどじゃないが気に入ったぞ。」
「あれ?ブタ乳デカ女じゃなくてウシ乳チビ女か!さっき間違えちまったわ!」
「やめてって……言ってるでしょうっ!!」
電流を流しているのはアトラだと判断し、そちらへ素早く走り寄る唯。
「シアナ!」
「わかってる!」
猪突猛進する唯を止めるべく、走る先に落とし穴を仕掛けるシアナ。
「きゃああああっ!!!」
シアナの計画通り、唯は仕掛けられ5メートルの深さの穴へと落ちていった。
「引っかかった引っかかった。そういうバカなところも好きだよ。唯ちゃん……」
ゆっくりと穴へを覗き込むシアナ。
「唯ちゃん、君は後で僕がゆっくり料理してあげるから……ねっ……!?」
言葉尻がおかしくなったのは、こちらに向かってものすごいスピードで壁を走ってくる唯の姿のせいだ。

「せやああああっ!!!」
「う゛ごふっ!?!?」
穴を覗き込んだシアナの顔面に掌底を食らわせ吹っ飛ばし、素早く地上に戻った唯。
「シ、シアナ大丈夫か!?」
「瑠奈を離しなさーいっ!!!」
吹っ飛ばされたシアナに視線を奪われている間に、唯はアトラの懐に潜り込み、強烈なアッパーをお見舞いした。
「あぐふっ!?!?」
ブチンッ……!
アトラが殴打された瞬間網の拘束は外れ、気絶したままの瑠奈は受け身もできず地面に叩きつけられた。

「ぐはっ……!」
「瑠奈あっ!大丈夫ッ!?」
素早く瑠奈に駆け寄る唯。瑠奈は気絶しているが、呼吸ははっきりしている。
「ちちんぷいぷい、いたいのいたいのとんでけっ!」
初歩の回復魔法であるヒールを唱え、瑠奈を回復させる唯。
「いてててっ……穴に落としても壁を走ってくるなんて……」
「ゆ、唯ちゃんのアッパーまじ痛え……やべ、涙出てきた……!」
久しぶりにダメージを食らった少年たちは、よろよろと立ち上がってお互いの無事を確認した。


278 : 名無しさん :2017/04/16(日) 19:05:38 ???
「ねぇ、もう止めようよ……!君たちだって叩かれたら痛いでしょ?自分がされて嫌なことは人にしちゃいけないよ……!」
「ふん!そういうのは世界からいじめや差別をなくしてから言えってんだ!シアナ!こっからは油断するなよ!」
「唯ちゃん……理想論に酔ってるのもお馬鹿で可愛いなぁ……」
「いやだからお前俺の話聞けよ!」
思わぬ唯の反撃に面食らった2人だが、これしきのことで戦意を失う2人ではない。

(うう……やっぱり、戦うしかないのかな?)
じりじりと後ずさる唯だが、気絶した瑠奈を抱えながらでは逃げ切る自信はない。かと言って瑠奈を見捨てるという選択肢はない。となれば、戦うしかないのであるが……

「でも……こんな、小学生くらいの子と戦うなんて……!」
「迷ってるならこっちから行くぜ!」
そう言ってアトラは振り子式の丸太を出現させて唯に放つ。

「っく!」
咄嗟に飛び退いて丸太を躱す唯。だが、空振った丸太はシアナが次元に開けた穴を通して唯の真後ろから直撃する。
「カハ!?」
「逃がさないよ、唯ちゃん」
「う……ゲホッ、ゲホッ!な、なん……で……躱した……はずなの………に」
「あ、そっか。エスカ情報ってことは、唯ちゃんたちはシアナの新しい力を知らないのか」
「ぐ……まだ、まだぁ!」
丸太を喰らった背中に激痛が走るが、ぐぐぐ、と力を込めて立ち上がる唯。

「ちちんぷいぷい……いたいのいたいのとんでけ!」
回復魔法をかける唯だが、初級魔法では痛みを和らげるのが限度だ。

「アトラ!ウシを狙え!」
「え、ウシ?」
「あのウシ乳チビ女のことだよ!」
「とうとうウシ呼びになったか……でもま、確かに名案だな!」
「き、気絶してる瑠奈を狙うなんて!」
「勝負の世界でそんな甘いこと言ってんじゃねぇっつーの!」
「普段ゲーム感覚で戦ってるクセに……」

瑠奈目掛けて飛んでくる数々の丸太。しかも、シアナの能力によって突如軌道を変えて襲いかかる丸太もある。
唯一人ならば回避するという選択肢もあるが、瑠奈を狙われては防ぐという選択肢しかない。
その場で立って丸太をいなし、受け止め、やり過ごすうち、徐々に被弾が多くなってくる。

ドゴォ!
「グァハ!?だ、だめ、ここで倒れたら、瑠奈が……きゃああああああ!!」
「おいおいwwいなしきれなくなったからって、自分から当たりに行って瑠奈ちゃん守ってるよwww」
「ああ、唯ちゃん……君はなんてお馬鹿でお人好しで可愛いんだ」
「………実際のところ、お前唯ちゃんのことどう思ってんの?好きなの?だとしたらアイナは?たまには修学旅行の夜みたいな話もしようぜ」

ドグシャア!
「わ、私が瑠奈を守らなくちゃ……おぐぅううううう!!」
「唯ちゃんはリョナりたくなる可愛さだろ。アイナはなんていうか……ずっと朗らかに笑っていてほしいっていうか……別にまだ好きとかって訳じゃ……」
「へぇ、まだ、ね……かぁー!甘酸っぺぇー!」

グワシャ!
「と、盗賊の時は、私が足を引っ張っちゃったから……今度は私が瑠奈を……!うぁああああああ!!」
「そういうお前だって、ちょっと前までリザにお熱だった癖に、どういう心変わりだよ」
「いやだってリザって実はレズだったんだろ?それに、リョナりたいってのとなんかいいなってのはやっぱ別じゃん?」

次々と迫る丸太から必死に瑠奈を守る唯。対してシアナとアイナは恋バナに花を咲かせる程の余裕があった。
このままでは、アルガスに着く前に、またもトーメント王国に囚われてしまうだろう。


279 : 名無しさん :2017/04/16(日) 22:36:38 ???
アトラとシアナの丸太ぜめ集中攻撃の前に、唯が絶体絶命の危機に陥っていた頃。

彩芽の手によって体調を回復したアリサは、ジャイアントサンドワームに逆襲の刃を叩き込んでいた。
「トラークヴァイテ・ギガンティッシュ・シュトラール!!」
「グオォォオオォッ!!」

「なんと…!!まさか、たった二人でジャイアントワームを倒してしまうとは!!」
「さすがディスティンクティブヒューマン…略してDTT!」

「なんか、改めて聞くとヒワイな響きだな」
「え?どこがですの?」
「…ああもう、亜理紗はちょっと黙ってて……おいおっさん達!実験だか何だか知らないけどいい加減にしろよ!?
だいたい『運命を変える力』か何か知らないけど、運が良い悪いで言ったらこんな所に捕まって…
いや、こんな世界に放り込まれてる時点で、最悪じゃないか!」
「そうですわ!…わたくしだって、元の世界でも、この世界でも……
もし『運命』なんて物があるなら。変える事が出来ていたなら、どんなに良かったか!」

…抗議の声を上げる彩芽とアリサ。
だが科学者たちはそんな二人を無視して、先ほどの戦い…いや「実験」の結果を検証していた。

「計測器の様子は?」
「…DTT反応は見られません」
「ふむ。考えられるのは…あの二人が単に強いだけの一般人だったか、
あるいは…DTTを発動するには、より過酷で凄惨な『運命』に直面する必要があるのか。
次はアレを使え……何。仮に被験体が死んだところで、我が国にも蘇生技術はある」

「……反応がありませんわね」
「こっちの話は聞く耳なしか…こうなったら、出入り口の電子ロックをスーパーハカーしてやる」
「え?…つまり扉を開けるって事ですの?…わたくしにはよくわかりませんけど、
そんな簡単に開くとは思えませんけど…あ!新手の魔物が出てきましたわ!」
「……5分で良い。時間を稼いでくれ。なんか強そうな魔物だけど……頼む。必ず扉を開いて見せる」
「…そこまで言うなら、彩芽を信じますわ。見るからに醜悪で、凶悪そうな魔物ですけど…」

「……さっきから魔物魔物って、ひっでえなー。こう見えても人間だぜ!…いや、正確には『元人間』か!
俺様は『ワルトゥ』ってんだ!よろしくなお嬢ちゃん達!がはははは!!」

そう言われてよくよく見ると、オーガ等の亜人型魔物と思われたその男は、単に大柄な人間だと分かった。
年齢は30代後半位だろうか。
だが、科学者たちはその男を見てにわかにざわつき始める。

「……おい!なんだあの汚らしい男は!ジト目貧乳少女型殺戮機械兵『エミリー』はどうした!!」
「…ああ。隣の部屋に置いてあったダッチワイフなら俺が2〜3回使っただけでぶっ壊れちまったぜ!
耐久性に難あり、ってヤツだな!…それに俺様としちゃ、もう少しおっぱいがあった方が好みだ!がっはっはっは!」

「どうやら、あの科学者達の仲間じゃないみたいですけど…」
「そうだな……最低でも、そこの金髪ねーちゃん位には無いとな」
「……味方ってわけでもなさそうだな。気を付けろ、亜理紗…!」

…そう、これはアクシデントだった。
しかも、彩芽とアリサにとっては最悪と言ってもいい、過酷な『運命』。

彩芽達が疑問に思った通り、『運命を変える力』とは、必ずしも単純な幸運を呼び込む力ではない。
むしろその逆…力の持ち主には、普通の人間には耐えがたい、過酷な試練が次々と襲い掛かるのだ。
決して諦めず、ギリギリまで運命に抗い、ほんの僅かな勝機を見つけ出し…そして、待ち受ける死や絶望を『変える』のだ。
たとえその先に、更なる絶望が待ち受けていようとも…


280 : 名無しさん :2017/04/17(月) 20:30:47 ???
彩芽たちがワームと戦っている頃、舞の姿をしたサキはアルガスの入り口に来ていた。
「柳原舞と申します。ここで異世界人を集めていると聞いてやってきました。」
「あぁ、異世界人の方ですね。ここまで大変だったでしょう。元の世界にお返しします。ついてきてください。」
(フン……ウェイゲートが止まっているんだから、返してもらえるはずないわ。あんたらが何を企んでいるのか見せてもらおうじゃない……!)

基地の中へと通されたサキ。そこには大小様々なロボットがせわしなく動き回っていた。
「でも、本当に元の世界に帰れるのですか?」
「はい。この世界とあなたのいた世界を繋ぐ、ウェイゲートとというゲートがあるのです。この基地にもあるそのゲートで、あなたを元の世界にお返しします。」
(はい嘘確定。このままついていくわけにはいかないわ。それなら……!)

「あの……こんな時にすみませんが、先にお手洗いに行ってもよろしいでしょうか?」
「あぁ。そこの角を曲がったところですよ。私は外で待っていますね。」
男を外で待たせてサキは女子トイレに入り、小さく息を吸った。
(さてと…ちょうどあいつに聞こえるくらいの大きすぎない声を出さないとね!)

「きゃあああああっ!?誰か助けてえええっ!」
「えっ!?」
サキが入ってすぐ、女子トイレから悲痛な悲鳴が上がった。
「あ、舞さん!ど、どうされました!?」
「は、早くきてください!いやぁっ!」
「わ、わかりました!入っちゃいますよっ!?入っちゃいますよっ!?」
非常事態ならば致し方ないと、男は女子トイレの方へと踏み込む。
もしかしたら良いものが見れるかもしれないと、鼻息荒くトイレを見回したが、不思議なことに悲鳴の主の姿はどこにもなかった。
「ま、舞さん?どこですか?」
「こ、こ、よ♡」
ドゴォッ!!!
上に気配を感じるも時すでに遅し。脳天に重い一撃を食らい、男はズルズルと床に倒れた。

(よし、名もなき兵士に変身完了っと!)
兵士をトイレの個室に押し込み、サキは兵士の体をコピーしてトイレから現れた。
(あの監視カメラの角度なら、男女とも衝立で阻まれてるせいでトイレの入り口が写っていない。ということは、もし今の一部始終をカメラで見ている奴がいたとすれば、トイレに入った舞の体は未だ出てこず、急に催した兵士が慌てて用を足して出てきたとしか思っていないはずね。)
潜入としてはいささか強引な手法になってしまったが、厳戒態勢のアルガスにはネズミ一匹入れる穴もなく、仕方なく正面からの潜入となったサキであった。
(長居はできないわ。アルガスが何をしているのかを調べて、もし可能であれば古垣彩芽の捕獲……やることは山積みなんだから……!)
可能性は高くはないが、監視カメラをじっくりと見られていたら、異世界人の舞を置いてトイレを離れているため怪しまれた可能性もある。
全てがバレる前に素早く任務を完了させるため、サキは監視カメラだらけの基地内の探索を開始した。


281 : 名無しさん :2017/04/17(月) 23:03:05 ???
「ほう、その剣……どうやらアングレーム家の者らしいな。しっかし、なんでこんな辺鄙な場所に?」
「……新聞は読んでいませんの?アングレーム家は、養子である私を除いて、既に……!」
「そうか……あそこの領主とは美味い酒が飲めたんだが……ま、150年も経てばそういうこともあるか」
「はい?」
「なんでもねぇよ。せっかくだ!養子とはいえ、アングレーム家の最後の生き残り……武者修行の相手に不足はねぇ!」
「……何やらよく分かりませんが、向かってくるなら容赦はしませんわよ!」
「へ!そうこなくっちゃ!」
アリサへ向かって一気に駆すワルトゥ。

「シュヴェーアトリヒト・エアースト!」
相手は見るからに脳金なパワータイプ。ならば、大きく跳躍してスピードで翻弄すれば………
「おっと!こないだ空中戦で痛い目見てから鍛え直したばっかの俺に、その空中戦を挑むとはな!」
「え?ぐうぅうううう!!?」
ワルトゥは巨体に似合わぬ俊敏さでリコルヌを躱すと、すれ違いざまにアリサの右ふくらはぎを掴み、地面へと強く叩きつける。

「どうよ!これが新技、飛鳥落勢衝(あすからくせいしょう)だ!」
「ぐぅ………飛ぶ鳥を落とす勢い……なるほど随分安直なネーミングですわね!」
「ほぉ、一発当てただけじゃまだまだ闘志は衰えねぇか……こいつぁ楽しめそうだ」


(おいおい、なんかヤバい雰囲気じゃないか?とにかく、急いでドアロックを解除しないと……!)


「あの男、強い!この際だ!このまま計測を続行する!エミリーは誰か片付けとけ!」


「オラオラ!絶対必中、砂塵隆舞(さじんりゅうまい)!」
「ご、あ、ぐぅ……!ただの左ジャブの連打じゃ……きゃあ!?ぶ、ぐああああああ!」
躱すのはほぼ不可能とされる左ジャブを顔面に連打し、相手の意識を顔面に集中させる。足元がお留守になった所を足払いで転ばせる。転んだ所を腹部を蹴り上げる。
流れるような一連の動作は、ワルトゥの卓越した技術を表していた。

(脳金パワータイプなんてとんでもない……!この男、技術もかなりのもの!ここは一旦後退しませんと……!)
蹴られた衝撃を利用して後転し、そのまま距離を取ろうとするアリサ。
「おっと!後ろに下がるより、前に走る方が速いんだぜ!当たり前っちゃ当たり前だけどな!」
「しま……!」
「うぉおおおりゃああああああ!!」

ワルトゥはアリサにラリアットをかましたと思うと、腕をアリサの顔面にくっつけたまま自らの身体を半回転させ、アリサを彩芽の方へ放り投げる!

「があぁああああああああああ!!」
「え、ちょ、うわあああああああ!!」

アリサは彩芽を巻き込んで壁へと叩きつけられる!


282 : 名無しさん :2017/04/18(火) 03:37:47 ???
「……きゃあああああっっ!!」
…何本の丸太が、その華奢な身体を打ち付けただろう。
幾たびも身体を弾き飛ばされ、落とし穴に落とされ…他にも電撃やトラバサミ、火炎放射に毒ガスなどなど。
唯はたっぷりと時間と手間暇をかけて、数々の罠で痛めつけられた。

「…あっ、痛ううっ…!…」
「や、あんっ…!!」
「んっ…あああぁぁぁっ!!!…」
それでも唯がまだ死なずにいられるのは…シアナとアトラがその豊富な「経験」ゆえ。
獲物を生かさず殺さず、長く楽しむ術を熟知しているからに他ならない。
「ふふふ…さすが唯ちゃんだよ。どんなに痛めつけても、嬲り続けても、ずっと新鮮な悲鳴を聞かせてくれる…」
「へへ…そうだな。普通の女の子ならとっくに気絶してるか、マグロになってる頃だぜ!」

「はぁっ…はぁっ……どうして……あなた達はどうして、こんな酷い事して…平気で、いられるの…!?」
「…くっくっくっ。そんな事もわからないなんて……唯ちゃんは本当に、バカで可愛いなあ。
そんなの、僕らが『強い』からに決まってるじゃないか。強い者が蹂躙し、すべてを奪う。
弱い者は殺され、虐げられ、何もかもを奪われる。それが当たり前の事だろう?」
「そうそう。異世界人って死にそうになると、大抵その質問してくるよなー。
唯ちゃんや瑠奈ちゃんみたいな可愛くて弱っちい子が、毎日何事もなく
ただ呑気に暮らしていける世界なんて…俺らにはそっちの方が想像つかないね」

「そ……そんな…そんなのって……」
…服も体も心もボロボロのまま、唯は立ち上がることが出来なかった。
意識が朦朧とし、今にも気を失ってしまいそうだ。しかし……
「さすがにもう、立ち上がれないか…でも、ノンビリ休んでていいのかな?あっちで気絶してるウシ女が…」
「ヒヒッ…そうだなぁ。瑠奈ちゃんのいる辺りの床から、トゲなんかが飛び出してきちゃったら大変だな?」
「!!……る…瑠奈っ…!!」
アトラとシアナの悪意の籠った言葉に、びくりと跳ね起きた。…起きないわけにはいかなかった。

「ふふふ……ボロゾウキンみたいに這いつくばってる姿もかわいいけど、今の表情も最高だなぁ……」
「ほらほら、さっさと走った走った!5,4,3,2……」
親友の瑠奈を守りたい一心で、唯は限界を超えた心身に鞭を打つ。
瑠奈の身体を抱え上げると、罠から逃れるためそのまま前方へと跳び……

(……ザシュッ!!)
「…んっ!!…ぐぁあああああぁぁっ!!!」
床から飛び出した無数の刃のうちの一本が、唯の左脚をざっくりと抉り裂く。
鮮血が飛び散り、唯は脚を抱えたままゴロゴロとのたうち回った。


283 : 名無しさん :2017/04/18(火) 03:50:47 ???
「っ……、……ち、ちん……ぷい…ぷい…」
唯は脚の傷に手を当てて呪文を詠唱した。だが、癒しの光はほんの一瞬だけ淡くこぼれたきりで、すぐに霧散してしまう。
傷口はかなり深く、どくどくと流れる血はあっという間に唯の周囲の床に血だまりが広がっていった。

「…回復の魔力も無くなったみたいだな。そろそろ止めを刺して、城に『お持ち帰り』しようぜ!」
「そうだな…これで身の程を思い知っただろう?
さっきの身のこなし、打撃力、それに回復魔法…ルミナスにいる間に身に着けたんだろうけど、
所詮は王下十輝星の…生まれついての強者である、僕らの敵じゃない」
「そーいう事!唯ちゃんや瑠奈ちゃんがどんなに死ぬ気で修行したって、
所詮俺らの『能力』の前じゃハナクソ以下なんだよ。大人しく俺らにリョナられてアンアン鳴いてりゃいいんだ」

アトラは片手を上げ、止めの一撃…巨大な丸太の罠を唯に向けて放った。
今の唯に避ける術はない。奇跡的に回避できたとしても、
丸太はシアナの開ける次元の穴を通り、死角から何度でも唯に襲い掛かるだろう。

「……んっ…あれ……私、気絶して…ゆ、唯っ!?」
…その時、唯の足元に倒れていた瑠奈が目を覚ました。だが、巨大な丸太は既に目前。どうすることも出来ない。

「…………」
(あの子たちの、言う通り……私なりに一生懸命修行したけど、あんまり強くなれなかったな……)
ライカさんには怒られてばっかりで、基礎から厳しく鍛えられたけど…結局、技らしい技は教えてもらえなった。
「…お前は優しすぎる…いや、甘すぎるんだよ!戦場じゃ、敵は容赦なんかしてくれねえぞ!さっさと立て!!」

ココアさんから回復魔法を教わったが、ごくごく初歩のもの。あんまり才能はなかったみたい。
「上手な人なら『はっ!』って気合を入れるだけで魔法を使えたりするけど、
心を込めて呪文を唱えるのも、とっても大切な事なのよ…」

あとは、フウコちゃんやカリンちゃんから箒の乗り方を教わって…これだけは、そこそこ上手になった。
「箒に乗りこなすのに大切なのは、魔力や腕力で押さえつけるんじゃなくて、箒と『心を通わせる』事…」
……他にも、ヒカリちゃんや水鳥ちゃん、リムリットちゃんにウィチルさん…いろんな人が助けてくれた。
だから、私たちは、まだ…
………

「…あれ?……おい、アトラ…どうしたんだ?」
「いや…おかしいな。丸太が、急に止まって……」
…アトラの放った丸太は、唯のかざした手に触れた瞬間、ぴたりと止まっていた。
シアナとアトラは、何が起こったのかわからなかった。
瑠奈も目の前の光景にしばし呆然としていたが……考えられる答えは一つしかない。

「……この丸太…もしかして、唯が操っているの?…箒みたいに」
唯は無言でうなずくと、停止した丸太にまたがり、アトラとシアナに向かっていく。

「うっ……」「うわあああ!!!」
自分たちの攻撃が、自分たちに向かって、そのまま高速で飛んでくる。
遠距離から一方的に標的を嬲る戦い方に慣れ過ぎた二人は、全く反応できなかった。

「シアナくん、アトラくん…ごめんなさい。
でも私たちは…まだ、ここで倒れるわけにはいかないの…!」


284 : 名無しさん :2017/04/19(水) 01:38:04 ???
(こういうデカい建物の中には、大体大まかな地図がどっかにあるものだけど……あったあった)
アルガスの一般兵に変身したサキは、そのまま探索を開始し、研究所内の地図を発見した。

(執務室……こんな一般兵が近づいたら変に怪しまれるわね。休憩室……人は多いだろうから情報収集には適してるけど、この兵士と親しい奴がいたら変身を感づかれるかも……人は少なそうで、情報もありそうで、一般兵が近づいても怪しまれないっていうと……資料室かしら)
資料室というのは情報の塊だ。だが、こういった建物自体の警備が厳重な所だと、建物の中の部屋一つ一つは意外とザルだったりするのだ。

「よう、どうした?サボり魔のお前がこんな真面目な所に来るとは」
「まぁ、たまにはな」
資料室の前に着いたサキだが、その途端に居合わせた他の兵士に声をかけられる。どうやら、この変身した兵士と知り合いのようだ。

「ははぁ、分かったぞ。真面目に資料読んでるふりしてその実サボろうって魂胆だろ」
「……」
「お、図星か?」
他人になりすましている時は、ひょんなことからボロを出す可能性がある。変身している相手のことをよく知らない時はなおさらだ。だからサキは、よく知らない相手に変身する時は基本的に多くを語らないことにしている。見知った顔の相手が妙なことを口走るよりは、黙っている方が別人のなりすましとは思いつきにくいだろう。

「まぁいいや、あんまり長くはサボんなよ」
黙っている同僚に対し興味を失ったのか、その兵士はさっさとどこかへ去っていった。
(楽勝♪さーて、アルガスの連中が何を企んでいるのか……丸裸にしてやるわ)
そしてサキはそのまま資料室に入り、資料を漁りだした。

✱✱✱

(特殊な能力を持つ異世界人……ディスティンクティブヒューマン……略してDTT……これは『五人の戦士』のことね。そして、DTTのクローン兵士計画……。
古垣彩芽は本来なら柳原舞に捕まってもおかしくない所を『偶然通りかかった』山形亜理紗に助けられた……山形亜理紗にしても、地下に幽閉されていた所を『偶然』篠原唯と月瀬瑠奈に助けられ、その2人も『奇跡的に』王城から脱出している……そういった異常な強運体質の人間が、適切な訓練を受け、大挙して襲い掛かってくる……なるほど、実現したら厄介ね……)

資料室を漁り、適切な情報を的確に入手していくサキ。エスカのチート先読み戦略ができた間は活躍の機会が少なかったが、サキの潜入工作員としての能力は本物であった。

(それにしても、魔物を異常成長させる薬やクローン技術……発達した科学ってのは邪術に通じるものがあるわね。これを利用して、アルガスの……いや、ナルビア王国のイメージダウンを狙えば、お行儀の良いルミナスとの同盟に亀裂を……って、これは今は関係ないわね。あまり長居するのも危険だし……)

重要資料の現物を持っていくわけにもいかないので、携帯の写真で取る。そして画像ファイルに纏めてトーメント王国に送る。情報というのは水物だ。サキは可能な限り早く手に入れた情報を送ることにしている。
(任務完了……古垣彩芽はどこにいるかも分からないし、さっさと退却しましょうかね……)

そうして、資料室の扉を開こうとした時、向こうの方から扉が開いた。適当に誤魔化してさっさと帰ろうと思ったサキだが……

「いたぞ!あいつだ!リックに化けてやがる!」
「よくも俺を女子トイレに閉じ込めてくれたな!」
「資料室にいるとは……隊長の読み通りでしたね!」

そこには、大勢の武装した兵士と……先ほどトイレに押し込んだ、あの一般兵がいた。

(な、何故バレた!?いくらなんでも早すぎる!)
アルガス側のあまりにも早い対応に呆然とするサキ。彼女は知らぬことだが、この研究所には現世に蘇った『スピカ』のワルトゥがいつの間にか潜入していた。

それによって、アルガス側は侵入経路の捜索をしており……普段ならあり得ないほど早く、女子トイレの個室に押し込められていた一般兵を見つけたのである。
もしもワルトゥが侵入していなかったら、サキはこのまま平穏に帰還できていたであろうが……現実は非情である。


285 : 名無しさん :2017/04/20(木) 18:19:01 ???
「睡眠ガス発射!早急に無力化しろ!」
「了解です、隊長!」
アルガスの兵士達が狭い室内に睡眠ガスを放つ。密閉された資料室ではそのガスから逃れる術はない。

(クソ、最悪の事態よ!こっちの情報が渡らないように、せめて携帯は壊す!)
証拠隠滅のため、先ほど使った携帯をすぐに握り潰す。どうせ仕事用携帯だから買い替えも経費で落ちる。

(これで私の身元を証明するものはなくなった……そして私がどこの手の者か確かめる為に、殺しはしないはず…隙を見て、に………げ……)
携帯を握り潰した後、室内に充満した睡眠ガスによってサキは気絶し、姿も元の華奢な少女のそれへと戻る。

「制圧完了!」
「よし、所長は今、DTTサンプルの研究でお忙しい……報告だけ上げといて、この小娘は我々が口を割らせるぞ!」
「了解!」

〜〜〜

「所長、どこかの潜入員と思しき少女を捕らえたとの報告が……」
「ほう、あの汚い男の仲間か……?おい、そこの大男!潜入員らしき少女を捕らえた!お前の仲間か?もしお前の仲間だったら、返してほしくば我々の実験に協力してもらおう!」
「ああん?仲間?知らねえな!俺ぁ今は気楽な一匹狼よ!」
「チ……まぁいい、あの男はあの2人と戦ってるだけで我々に協力しているようなものだからな……捕らえたネズミは、適当に拷問にでもかけてどこの手の者か喋らせとけ!私は今忙しい!」
「はっ!」


「さて……金髪の嬢ちゃん、もう終わりか?」
「ぐぅううううう……!彩芽、大丈夫ですか……?」
「あ、ああ、なんとかな……あのおっさん、そんなに強いのか?」
「ええ……こないだの黒ずくめ女子高生とは比べ物になりませんわ……」
「そうか……すまない亜理紗、もう少しだけ時間を稼いでくれ。必ずこの扉を開けてみせる!」
「ええ……頼りにしてますわよ、彩芽!」

再び立ち上がるアリサと彩芽。彼女たちの瞳には、まだまだ強い意志が宿っていた。

「さぁ、第二ラウンドといきますわよ!」
「へへへ……『ぐう』とか『がぁ』とかじゃなくて、もっと色っぽい悲鳴で喘がせてやるぜ!」


286 : 名無しさん :2017/04/20(木) 23:33:36 ???
「この小娘、いったいどこのモンだ?リックに完全に化けてやがったぞ……」
「おそらくワンピースでいうパラミシア系の能力者だろうよ。他人になりすますって能力だな。」
「厄介な……とりあえず持ち上げて顔見てやろうぜ。」
隊長に拘束するよう指示を受けた3人の兵士たちが、うつぶせに倒れたサキの体をゆっくりと表にする。
と同時に、露わになったサキの整った顔立ちに、男たちの視線は釘付けになった。

「お、おおお……!こりゃあ……」
「美少女スパイとは……役得だな。隊長から今ラインが来たぜ。どこのやつか吐かせるためなら、俺らがこの娘を好きにしていいんだとよ……!」
「てことはだ……殺さない程度に痛めつけて吐かせたら、あとはこいつにナニしてもいいってことだよなぁ……!」
仰向けで安らかに眠る少女の無防備な姿を移す男たちの目は、飢えた野獣のようにギラギラと光っていた。


287 : 名無しさん :2017/04/21(金) 22:41:36 ???
「うわぁぁぁぁ!!」
……唯に操られた巨大丸太罠が、シアナとアトラを襲った。
(そんな……まさか、僕たちが……王下十輝星が、負ける…!?…)
自分の身長ほども太さのある丸太が迫り、巻き起こる風圧で前髪を煽るのを感じ、
シアナは小さく悲鳴を上げた。

強力な特殊能力は持っていても、二人の体力や防御力は普通の少年とほとんど変わらない。
エスカの予言で危険を回避し、強い敵には罠を仕掛け、次元の穴で攻撃をかわし。
そんな事をしている内に随分長い間忘れていた「痛み」の予感に恐怖し、思わずぎゅっと目を閉じるが……

(……あ、れ………?)
…数秒経っても、痛みも、衝撃も、やって来なかった。恐る恐る目を開くと、丸太は目の前でぴたりと静止していた。
その上にまたがった、傷だらけの少女…唯が、悲し気な瞳をこちらに向けている。

「…もう、止めにしましょう…これで、わかったでしょう?
自分が強い力を持っているからって、弱い人たちに暴力を振るって良い、なんて考えでいたら…
いつか、自分より強い力に倒されてしまう。相手が自分より強いか弱いか、そんな事でしか他人を見られなくなる。
…うまく言えないけど…そんなの、よくないよ」

「うっ…うる、せー!…お説教なんか聞きたくねーよ!……俺らの事も、この世界の事も、何も知らないくせに…!」
「そうだよ…良い奴は悪い奴に踏みにじられる。強い奴が弱い奴からすべてを奪う。可愛い女の子はリョナられる。
それがこの世界の掟。…この世界では、一番悪くて一番強い者が、一番偉いんだ…」

「…そうよ、唯。今の今まで、こいつらに散々な目に遭わされてたってのに…どこまでお人好しなのよ。
こんなゲスな奴らに、説得なんて通じるわけないじゃない!」

あの丸太がまともに当たっていれば、二人はただでは済まなかっただろう。
この期に及んでシアナ達に止めを刺そうとしない唯に、瑠奈は半ば呆れつつも…心のどこかで安堵していた。

だが、この後の唯の発言に………

「この世界で一番悪くて強い人って…あの王様の事よね?
それなら……約束して。もし私が王様を倒したら、シアナくんとアトラくんは、もう悪い事はしないって」

「え!?」
瑠奈は、耳を疑った。
「は!?」
シアナは、度肝を抜かれた。
「ちょww……って…マジで言ってる…?」
アトラは、開いた口がふさがらなかった。


288 : 名無しさん :2017/04/22(土) 00:59:15 ???
「ゆ、唯………ちゃん……?」
「…い…いくらなんでも、それは……冗談だよな?」

…シアナとアトラは恐る恐る聞き返す…が、どうやら完全に本気で言っているらしい。

「ちょっと、唯!?…そりゃ、アルガスに行っても帰る方法が見つからなかったら、
最終的にはあのバカ王と戦う事になるかもしれないけど…」
瑠奈も驚きを隠せなかった。唯がここまで明確に、誰かを「倒す」と言い放ったのは初めてだったからだ。

「丸太で頭でも打ったのかよ!?…そんなのムリに決まってるだろ!
大体さっきも言ったけど、俺達べつに王様に嫌々従ってるわけじゃないからな!」
「…ああ。そんなの不可能に決まってるさ…もし王様と戦うなら、僕やアトラ…それに他の十輝星達が、
今度こそ唯ちゃん達を叩き潰す。二度と逆らう気にならない位、徹底的に」
シアナは淡々と言い放ち、その場を立ち去ろうとするが…唯はそれでも引き下がらなかった。

「…ムリだと思ってるなら、約束してくれてもいいよね?…二人とも、小指出して。『指切りげんまん、嘘ついたら…』」
「……そんなに言うなら…『嘘ついたら、針千本のーーます!』
唯ちゃんが僕らに負けた時は…荒縄と爪剥ぎにプラスして、本当に針千本飲んでもらうよ」
その言葉は照れ隠しなのか。それとも…声のトーンからして、本気なのか。

「うん、それでいいよ……『指きった!』」
「唯……どうして、そこまで…」
去っていくシアナ達を見送りながら、
唯は、これまでの冒険…いや、悪意や暴力、脅威からの逃避行の日々を思い出していた。
そしてあの王が生み出した、数々の狂気と悲劇も。

「なんか…昔こんな感じの話、国語で習ったね。かのジャチボーギャクの王を、なんとかかんとか…って」
「あったわねー…でもその話だと、私が捕まって人質にされる展開じゃない?」
…この世界で出会った数々の理不尽に、唯は『激怒』していたのだと、この時になって瑠奈はようやく気付いた。

「とりあえず、アルガスに行く前に……今夜はここで一泊しましょ。
山賊やあのガキどもに、服もボロボロにされたし…着替えがあればいいけど」
「そう、だね……じつは私も、そろそろ、げんか……」
言い終わらないうちに、唯はがくりと膝から崩れ落ち…そのまま、眠りに落ちた。


289 : 名無しさん :2017/04/22(土) 14:16:46 dauGKRa6
「おりゃああああっ!!」
「やああああああっ!!」
唯と瑠奈がアトラたちと退けた頃、アルガス研究所の実験室ではアリサとワルトゥが火花を散らしていた。
「エアースト!」
「ふんっ!」
リコルヌの斬り払いを巨体に似合わない軽やかなステップで躱すワルトゥ。そこから放たれたカウンターパンチをアリサは身を低くして回避した。
「ツヴァィト!」
「はっ!」
低い体勢から放たれたリコルヌの突きを跳躍して回避し、ワルトゥは上空からアリサの脳天めがけてパンチを放つ!
「飛天岩落!」
「ドリット!!!」
上空からのワルトゥの強烈なパンチを、アリサは魔力を帯びたリコルヌの振り上げで弾き飛ばし、ワルトゥは空中で吹き飛ばされた!

ドガンッ!!
「ぐおあっ……!」
アリサに弾き飛ばされたワルトゥは実験場の壁に叩きつけられ、小さく呻いた。
「その体にしてはなかなかいい踊り方でしたけれど、今の勝負はわたくしの勝ちですわ。」
「へへ……さっきのお返しってわけかい。なかなかやるじゃねえか金髪ねーちゃんよぉ……!」
よろよろと立ち上がるワルトゥ。その表情にはまだ余裕が見て取れる。敵はまだ全力を出していないことをアリサは確認した。
「そろそろ本気を出してはいかがですの?わたくしも全力でお相手いたしますわ。」
「へっ……可愛いねーちゃんにそんな風に誘われちゃあ、断る理由はねえな……!」
ワルトゥがそう言った瞬間、アリサは目を疑った。
「なっ……!」
「フフフ……安心しなねーちゃん。俺が2人に見えるのは悪い夢じゃねえよ……いや、だからこその絶望か……ガハハハ!」

ワルトゥの特殊能力の分身は、魔力によって2人か3人まで作り出せる。
作り出すのは一瞬のため、少しでも目を離すと本体と分身の区別はつかない。
分身への攻撃は本体には無効。リザが脳天にナイフを刺したのも分身だった。
分身にも攻撃をすれば消えるが、ワルトゥのような格闘の達人が2人も3人も相手では、単純な肉弾戦で倒すことは難しいだろう……


290 : 名無しさん :2017/04/22(土) 14:37:03 dauGKRa6
「「いくぞおおおおおっ!!」」
「くっ……!」
分身した大男2人を相手に剣を構え直す。でもこの時点で……自分が勝てるビジョンは思い浮かばなかった。
「あああっ!」
当たり前のことだけれど、片方の攻撃を防げば、もう片方に隙だらけの後方から攻撃される。
「ぐっ、あっ、やあぁっ!」
そのまま体勢を崩されてリコルヌを持つ手を叩かれ、唯一の武器は遠くへ吹き飛ばされてしまった。
「これでもう抵抗はできねえな。金髪ねーちょんよぉ……!」
「あんっ!!!」
大男の1人がわたくしの体を抱き寄せ、もう1人は弾き飛ばされたリコルヌを回収しに行った。
「ベアハッグって技は女にやるに限るぜ。むさ苦しい男を抱きしめるなんざ、こっちのメンタルの方がやられちまうからなぁ……」
「べ、ベアハッグ……?」
「知らねえのか?ならそのちっちゃな体に教えてやるよ。ベアハッグてのは……こういうことだッ!」
大男が叫んだ瞬間、体全身に痛みが走る。自分の体を締め付けている男の丸太のような腕が、プレス機のような重圧をかけてきている。
「ぐううっ!?んやあああああああああああっ!!!」
「あ、亜理紗っ!?大丈夫か!?」
「そうそう、そういう声が聞きたかったんだよ……!おらっ!」
「んぐがあぁっ…!う゛ああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛゛あ゛あ゛ッッ!」
扉を開けようとしてくれている彩芽が、慌てて振り返ってこっちを確認したけれど、あまりの痛みにみっともなく泣きながら叫ぶことしかできない。
そんな自分の姿を見ている男のニヤついた顔が、とても恐ろしい悪魔に見えた。


291 : 名無しさん :2017/04/22(土) 20:57:03 ???
「う、ううん……」
「よう、目が覚めたか?美少女スパイちゃん」
「……!クッ……!」

ここはアルガスの拷問室。そこでは、サキが椅子に縛りつけられていた。そのサキを見学するのは、先ほどサキがなりすましていたリックを含む三人の兵士。

「へっへっへ……アンタみたいな上物がそうやって無様曝してるのたまんねぇな」
「お、お願いします……!助けてください!酷いことしないで……!仲間の情報ならなんでも言いますから……!」
下手に反抗的な態度をとると、そこに待つのは拷問のみ。ここは怖がって従順になったフリをしてやり過ごし、場合によっては誤情報でアルガスを踊らせようと目論むサキだが……

ブッブー!

突如、近くに置いてあった機械が電子音を鳴らす。

「え?」
「はい、噓決定!お前ホントは仲間を売る気ないな?」
「そ、そんなことありません!」

ブッブー!

「この噓発見器の的中率は100%だ。上手な嘘もすーぐバレるぜ?」
「アルガスの技術力舐めんな!」
「まったく、よくも俺をあんな目に合わせてくれたな……!女子トイレに閉じ込められて最悪だったぜ!」

ブッブー!

「リック……お前……」
「はい、実は生まれて初めて女子トイレの中まじまじと見れてちょっと役得だなーとか思ってました」
「と、とにかく!この噓発見器がある限り、嘘の情報はすぐ分かる!誤魔化そうったって無駄だ!」

「チ!クソが!」
演技はするだけ無駄と悟ったサキは、素で舌打ちをする。
「なるほど、それがお前の素か……えらい猫被りだな」
「そういうアンタこそ、外行きの態度と素はえらい違いじゃない、まんまと私に嵌められた無能な衛兵さん?」
その言葉を聞いた瞬間、サキに成り代わられた兵士が彼女を殴る。

「ブッ!」
「大人は丁寧な態度とらないと生きてけないの。ガキのお前にゃ分からないだろうがな」
「おいおい、いきなり殴るとかww可愛い顔に傷がついちまうじゃねえか」
「く……誉めてくれてありがとう。でも容姿に関しては身近に特上の奴がいて、誉められても内心でそいつと比較しちゃうから全然嬉しくないのよね」
「ほぉ、その容姿のアンタにそこまで言わせるとは……是非とも一度会ってみたいね。にしても、この状況でよくそんな生意気な口が聞けるな……」
「こう見えて、痛みに耐える訓練はしてるしね」
(ぶっちゃけリザの野郎の情報ならいくらでも喋りたい所だけど……その辺下手に喋るとトーメント王国の人間ってバレそうね)

サキがトーメント王国の情報を喋ろうとしないのは、何も国に対する忠義ではない。スパイなどという日陰者、情報さえ吐かせれば後は用済みとばかりに殺されるのが常だからだ。
ただ、逆に言えば情報さえ喋らなければ殺されないということ。殺さないと分かっている相手の攻撃など、訓練を受けた自分なら耐えられるとサキは確信している。

「へへへ……痛みに耐える訓練はしてる、ねぇ……」
「ククク、研究都市アルガスの拷問が、そんな痛みを与えるだけのものと思ったか?」
「これを見ても、まだそんな生意気な口が聞けるか!?」

そう言って兵士が部屋の奥から引っ張り出してきたのは……変わった形のペットボトルに入った、普通の水であった。

「なによ、ただの水じゃない」
「へへへ、確かにこれはただの水だが……おいリック、上を向かせて固定しろ!」
「あいよっと」
「っ……!」

リックと呼ばれた兵士が乱暴にサキの髪を掴み、上を向かせて金具で首を固定する。

「なによ、私をどうする気?」
「その様子じゃ知らないらしいな……水滴拷問の恐ろしさを!」
そう言って兵士は、やや特殊な……一定の間隔で水滴が落ちるように作られたペットボトルを、サキの上に別の器具で固定する。

「な、なにを……」
ここで初めて、サキは嫌な予感がした。そういえば異世界に潜入している時に聞いたことがあるかもしれない。古代中国では、眉間に水を垂らし続ける拷問があったと……


292 : 名無しさん :2017/04/22(土) 20:58:12 ???
「へっへっへ……これで目隠ししてやるぜ」
そう言って兵士は白い布を取り出す。
「や、止めて!」
「やっと本心から怖がってくれたな……そりゃ!」

椅子に拘束されている現状では、サキに逃れる術はない。あっという間に目隠しをされてしまった。

「さぁて、目隠しされて敏感になったところを、一定間隔で眉間に水滴を垂らし続けてやるぜ……」
「い、いや!」
サキは慢心していた。今までは安全な所から悪巧みしてるだけだったし、たまに危険な所に潜入しても無事に切り抜けてきた。慢心するなという方が無理な話だ。
それがこうして敵国に捕まり、悪名高い拷問を受けようとしている。さっさと情報を吐けば拷問は止むだろうが、用済みとなった女スパイに男共がすることを考えるとそれもできない。


ピチョン…ピチョン…

「ん!」
「ほらほら、早くゲロらないと狂っちまうぜ?」

ピチョン…ピチョン…

「しゃ、喋ったってろくな目に合わないでしょ……ん!?」
「いやぁww楽しみだなぁwwこんな美少女スパイが段々狂ってく様をこんな間近で見られるなんてww」

ピチョン…ピチョン…

「あ、ああ……お願い、止めて……」
「俺を女子トイレに放り込んだ罰だってーの」

今はまだ我慢できるが、このまま水滴を垂らされ続けたらやがて狂ってしまう。サキは王下十輝星になってから初めて、心の底から恐怖した。


293 : 名無しさん :2017/04/22(土) 23:45:50 ???
「あ、亜理紗ぁああ!!このおっさん!亜理紗を離せ!」
親友のピンチに、思わず扉を開けることも忘れて飛び出す彩芽。

「おっと!こっちも忘れてもらっちゃ困るぜ!」
「え?2人……ぐぁああああ!!?」
だが、リコルヌを拾いに行っていたワルトゥの分身が彩芽に立ちはだかり、ネックハンキング・ツリーをする。
「お、ご……うぐ……」
「おーおー、頑張って抵抗しないと首絞まっちまうせ?グハハ!」
実際に首を絞められているわけではないが、ワルトゥの親指が首に食い込んでとても苦しい。


「あ、や、め……あぁああああああ!?いやあぁああああああ‟あ‟あ‟あ‟!!」
「オラオラ!眼鏡のちんちくりん嬢ちゃんの心配してる暇があんのか?」
彩芽を助けたいアリサだが、ベアハッグされている現状では不可能だ。


「あ……う……カハッ、カハッ!」
(く、くる……し……ほ、ほんとに……窒息……す……る……)
「てーかこの首輪邪魔だな。外しちまうか」
「……!?や……め……」
ワルトゥの分身が彩芽の首輪を掴んで、無理矢理外そうとした瞬間!

バチバチバチィッ!!

「ひ、ぎっ……!!!?」
高圧電流が彩芽の身体を駆け巡る。
そう、皆さんお忘れかもしれないが、教授の付けた彩芽の首輪は無理に外そうとすると高圧電流が流れるのだ。

「あ、ヤベ」
そして、首輪に触れて無理に外そうとしたワルトゥの分身にも、高圧電流は駆け巡る!
ボウン!という子気味よい音と共に、ワルトゥの分身は消えた。ネックハンキング・ツリーで持ち上げられていた彩芽の身体は、地面へと落ちる。

「あーあ、分身の耐久性低いのがこの能力の難点なんだよなぁ。ま、どうせあの眼鏡に何ができるわけでもねぇし、俺はこっちの金髪嬢ちゃんと楽しませてもらうぜ!」
「ひぐううぅう!?あ、あああああああああああ!!」

(ふ、不幸中の幸いだな……首輪の電圧のおかげで、おっさんの分身が消えた……でも、ダメージのせいで身体がろくに動かない……何か、何かアヤメカで亜理紗を助けないと……)
今まで聞いたこともない亜理紗の凄まじい悲鳴に心痛めながらも、必死に這ってアヤメカの入っている鞄を目指す彩芽だが……あと一歩というところで、鞄は何者かにひょい、と持ち上げられてしまう。

(ち、ちくしょう……あと、少しずつだったのに………あれ、待てよ?おっさんの分身は消えたのに、一体誰が鞄を……)

彩芽が顔を上げて鞄を持ち上げた人物を確かめようとすると、そこには……

「彩芽!アリサ!助けに来たぞ!」
「彩芽おねえちゃん!大丈夫?」
「そこの大男!その女性を離しなさい!」

そこにいたのはスバル、桜子、そしてサラであった。

「み、みんな……なん……で」
「話は後だ!今はあの男をなんとかするぞ!」

彼女らが幽閉されていた部屋の唯一の脱出経路と思しき通気口は外から鍵がかかっていた。そこで、桜子が新体操の応用で手を前で組んでサラを持ち上げ、サラが通気口を鍵ごと壊し、そこから脱出したスバルが外から部屋の鍵を開けて三人で脱出したのである。

しかし、彩芽と亜理紗がいる場所までたどり着いたのは全くの偶然であるし、ついでに言えば、扉が彩芽のハッキングでバグを起こしていた所に首輪の電圧を間近で流したことでエラーを起こして開いたのも偶然である。


「す、すごい、すごいぞ!とてつもないDTT反応だ!」
「アリサ、彩芽両名が死を覚悟する程の危機に直面し、それでもギリギリの所で諦めずに抵抗した結果……奇跡としか言いようがないことが起こった!」
「決まりだな……実験終了!あの異世界人達をSランクの実験サンプルとする!」
決め顔で実験の終了を告げるマルシェザール所長だが……

「でも所長、あの変なおっさんどうします?」
「あ……い、いや、忘れていたわけではない!せっかくだから、このまま彼らの戦いぶりを見学しようではないか!いざという時は、伝家の宝刀催眠ガスがあるしな!」
「了解」
(この人優秀だけど、実験中はすっごく視野が狭まるんだよなぁ)


294 : 名無しさん :2017/04/23(日) 11:33:44 ???
「おーおー、スタイル抜群の金髪お姉様と黒髪クール美少女に灰色髪の幼女か……どれもこれも上玉揃いだな。ガハハハ!」
アリサを抱きしめながらワルトゥはゲラゲラと笑った。
「笑ってないで、早く亜理紗を離せよっ!もう5対1だ!お前に勝ち目はないっ!」
「やなこった!こんなにいい匂いがしておっぱいが程よく大きく柔らくて、髪がサラッサラで、しかもめちゃくちゃ可愛いときてる女をそう易々と離せるか!!!」
そう言うとワルトゥは再び分身を作り出す。今度は2人のワルトゥが4人の前に立ち塞がった。
「くそっ……!亜理紗のやついろいろ褒められすぎだろ……!」
「そ、そこは今関係あるのかっ!?」
「お前らの相手は分身で十分だろ。俺はまだまだこいつの感触をじっくり楽しみてえんだ……ガハハハハッ!」
笑いながらも、ワルトゥはアリサを抱きしめる腕に更に力を込める。
「はぁうっ……!あぐ……っ!……ぁああああぁんっ!」

ワルトゥの熱苦しすぎる抱擁に、羞恥を感じながら甲高い悲鳴を上げるアリサ。その姿を見た研究者たちは色めき立った。
「エロい声出しやがって……股間が熱くなるぜ。」
「おいおい仕事中だぞ。前屈みになってんじゃねえよw」
「し、所長。あの子、早く助けてあげた方がいいんじゃ……」
「いや、あの男も殺すまではしないだろう。あのまま苦しむ姿をじっくり観察させてもらおうじゃないか……!」


295 : 名無しさん :2017/04/23(日) 12:21:36 ???
俺の名はダイ・ブヤヴェーナ。人呼んで兵士D。職業は自宅ではない警備兵。
そろそろ見張りも交代の時間だ。明日は非番なので、さっさと帰って趣味のアクアリウムに興じよう…
…と思っていたら、何やら拷問室の方が騒がしい。
覗いてみると、同僚のリック他2名が、女の子を椅子に拘束して、何やらペットボトルの水を垂らして遊んでいる。

「…お前ら何やってんだ?」
「よお、Dお疲れー。見ての通り、拷問だよ拷問。聞いたことないか?
 こうして眉間に水滴を垂らし続けると、垂らされた奴はやがて発狂するっていう…」
「……ああー…なるほどね」

…色々とやり方が間違っている気はするが、わざわざ口を挟む事もないか。

「い、いやぁ…もう許して……何でも話しますからぁ…」
ブッブーー!!
「はっ!!強情なやつだぜ!…だがこの恐ろしい拷問に、いつまで耐えられるかなぁ!?」
「へっへっへ…垂れ落ちた水で、シャツの下のブラが透けてやがるぜ…たまんねぇな」

…いや、やっぱ我慢できん。

「あのな、お前ら……まず一回、黙れ。静かに。」
「え……D?」「どうしたいきなり」
「音出すな。明りも消せ。シコんな。水滴以外のすべての感覚を遮断しろ。基本中の基本だぞ」
「…き、基本…なの?」
「や、やだっ…待って、それ、本当にヤバいっ……むぐ!?」
「当然口も塞ぐ。こんなんWiki見りゃ常識だろうが」
「Wiki…」「常識…?」「あの、口塞いだら情報吐かせられな…」
「…静かに。な?」
「アッハイ」「許可なく発言しません」
「うちの拷問室、水材(※水拷問用の器材)弱いからなー…とりあえず俺の部屋から一通り持ってくるわ」
「アクアリウムとは一体…」


296 : 名無しさん :2017/04/23(日) 13:51:28 ???
…Dと呼ばれた男の登場によって、場の空気が一気に変わった。
烏合のゲス集団だった兵士達は今や一つのシステムの歯車と化し、淡々と、着々と、私を…潰そうとしている。

「まず、顔の固定だが…首を反らせて、顎とこめかみの左右に金具を当てる。
…この、いわゆる四点方式なら、初心者でも確実に固定できてお勧めだな」

さっきまでは、気付かれないように首だけを動かして水滴の落ちるポイントをずらすことも出来たのだが…
男にヘッドギアや拘束ベルトを絞め直されただけで、首も顔も、全く動かせなくなってしまった。
首を絞められたり気道を塞がれたわけでもないのに、息苦しささえ感じる…

「肩から下の拘束も、いくつか種類がある。ベルトや鎖、枷での拘束が一般的だが、
少し遊びを持たせるか、全身ガチガチに固定するか…
拘束一つで発狂するペースも仕上がりも変わってくるからな」

目と耳を塞がれているため男の姿や声はわからないが、その淡々とした手つきからは一切の感情らしき物が感じ取れなかった。
男はこれまでにどれほどの「拷問」を繰り返してきたのか、どれほどの数の犠牲者を生みだしてきたのか。
私も…王下十輝星『リゲル』のサキも、その大勢の中の一人にすぎないのか…
考えれば考える程、思考は恐怖と絶望の泥沼に囚われていく。
手枷や足枷で拘束されるまでもなく、私は身が竦んで指一本動かすことが出来なかった。

「あとは水の粘性と、落とすペースだな。サラサラして乾きやすい水滴なら、衝撃が一点集中する。
逆に水をトロっとさせると、サーフェス効果と言って…つまり、額に残った水が膜を作ったところに
さらに水滴がくる形になるから、衝撃が分散してまろやかな仕上がりになるわけだ。
ドロップするペースも、ハイかローかランダムかストリングか…拷問の目的によって使い分けるのがセオリーだが、
壊す目的ならランダムが結局一番早いかなー。まあ早けりゃいいってもんでもないんだけどな」
「Dめっちゃ楽しそう」
「感情ダダ漏れすぎる」
「壊す目的じゃないけどもうそれでいいや」

手足を拘束され、目と耳と口を塞がれ…私は自分の身を守るため、覚悟を決めるしかなかった。
所詮、たかが、水滴ごとき…いくら来ようと、痛いわけでもないし死ぬこともない。
情報を吐かずに耐えていれば、向こうもそのうち根負けして別の手を取ろうとするだろう。
そうなれば、脱出のチャンスは必ず巡ってくるはず。そう考えていた私は…

「…ちょっと脱線したな。粘性どうする?…まあ、実際に試すのが一番早いか。
 まずはサラサラ系からいこう…拭くの楽だし。水滴を落とすポイントは、ここ。…鼻の上から、指二本分な」

(…ぽたり)
「…〜〜〜〜っ!!?……」

…ほんの数秒後、最初の一滴で、自分の認識の甘さを文字通り『痛感』する事になった。
眉間に、矢が突き刺さった。その位激しい、衝撃と痛みが駆け抜ける。
(いっ…痛ぁああああ!!!何よ、何なのよこれ、ただの水じゃなかったの!?
こんなの…何回も落とされたら、拷問なんてもんじゃない…死んじゃうっ!!殺されるううう!!)

「おお、すげえ暴れてる」
「さっきまでとリアクションが全然違うな」
「この世界も奥が深いからなー。昔は自分で水質調整したりドロッパー(※水滴を落とす装置)自作したりしたもんだけど、
最近じゃ全部機械で管理できるからホント楽だよ。この際だからお前らも買ったら?安いやつなら12〜3万位で買えるよ」
「え、12〜3万って…(※単位はナーブルです)」
「奥が深いって言うか業が深いな…」


297 : 名無しさん :2017/04/23(日) 15:02:34 ???
「ん、むぐ……ぎ、おっぉ…!!…」
「…水を変えたら違うリアクションになったな」
「粘度の高い水だと、重感が強くなるからな。頭を踏みつけられて、それがどんどん重くなっていく…みたいな感じだ」
(…こういうのってやっぱ、自分でも試してるのか…?)

…とにかく、同僚の兵士Dの手際は、見事の一言だった。
ほとんどお任せで色々とセッティングしてもらうと、
女はたちまち拘束ベルトを引きちぎらんばかりに暴れ出す。
しばらくすると暴れ疲れて、ぐったりと身体を弛緩させる…その頃合いを絶妙に見計らい、
水滴を落とす機械(俺たちの年収位するらしい)が、水質だか水滴の落とし方だかを変えて…
「…おっ!!……っ…!!………っも、…や、……め…!!」
何か物凄い事が起こったらしく、女は身体をビクリと跳ねさせ…また暴れ始めた。
この調子なら、確かに体力も正気も根こそぎ奪われてしまうに違いない。……12〜3万か…

「…んじゃ、俺夜勤明けだし帰って寝るわ。
その機械、自動設定で休み明けまで動くようにしてあるから、下手に触んないでくれよ」
「アッハイ」「オヤスミナサイ」

…そう言えば結局この女、どこのスパイだったんだ?
頭のイカれた王様が独裁してるっていう、トーメント王国か。
又はあの不思議な変身能力、『魔法少女の国』ルミナスから来た可能性もある。
他に可能性がありそうな敵対勢力は…アルガスの北、森を越えた先にある『聖騎士の国』シーヴァリアか?
いや、スパイと言ったら遥か東の『討魔忍の国』ミツルギも考えられる。

…確か、あの女を捕らえた時、現場に壊れた携帯電話が落ちていた…恐らくあの女のモノだろう。
何とか復元して、身元を突き止められないだろうか…?


298 : 名無しさん :2017/04/23(日) 18:55:56 ???
「あれ、そういえばなんであの異世界人たちは武器を持ってるんだ?」
「DTT以外の異世界人は警備がザルだったから、普通に保管庫を襲われたんじゃないか?」
「うむ、それもまたギリギリの所で運命が味方するDTTの恩恵だろう」



「彩芽とスバルはメカで後ろから援護を!前衛は私とサラが!」
「うん!おねえちゃんも無理しないでね!」
「亜理紗……すぐ助けてやるからな!」
「いくわよ……『閃甲』!」
長く旅してきた四人は、統率の取れた動きでワルトゥの分身に立ち向かっていく。

「おらぁ!」
片方の分身が真っ先に駆け出し、サラに飛び蹴りを放つ!
「そんな単調な攻撃!」
「リヒトクーゲル!」
「な!?」
当然防ごうとするサラだが、後ろからリコルヌを持っている方の分身が剣から光の弾丸を発射してサラの姿勢を崩す。

「サラ!危ない!」
咄嗟に桜子がサラを押し倒したことで飛び蹴りをやり過ごす。
サラと桜子の上を通り過ぎた分身だが、通り過ぎた直後に地面に手をついて勢いを殺し、そのまま手の力だけで後ろに跳んでサラの上に覆いかぶさっていた桜子をもう片方の分身の方へと蹴り飛ばす!

「カハァ!?」
「サクラコ!」
「俺はどこぞの29歳みたいに連携が上手くねぇからな……一対一を二つの形にさせてもらったぜ!」


「ぐ……何故お前が、アリサの剣を使える……」
「まぁ、戦友が使ってるのを横で散々見てたからな……男だから力を引き出せてるとは言い難いが、光弾くらいなら出せる」
「戦友……?」
「ああ、アイツも女の癖にリョナるのが好きだったぜ……特にお前みたいな凛とした女をリョナるのがな!」

「ええと、何か使える物は……っと」
「ねぇ彩芽おねえちゃん、いつも思うんだけどね?鞄の中整理した方がいいんじゃないかな……いつも戦う時は使えそうなメカ引っ張り出すところから始まるよね?」
「おおう、こんな小さい子に説教されるなんて……」


299 : 名無しさん :2017/04/23(日) 19:10:55 ???
所変わって、ここはトーメント王国の王城。
王様からの突然の呼び出しにより、会議室には王下十輝星のリザ、アイナ、ヨハン、フースーヤが集まっていた。

「おいーっす、いや悪いなみんな、急に呼び出しちまって」
「まったくですわ!せっかくリザちゃんと酒池肉林染みたお菓子パーティーを開いていましたのに!」
「……アトラとシアナは?」
「あの2人なら、ネットオークションで買った物を取りに行くって言って出かけてるよ」
「あらそうなんですの、てっきりハッテンでもしてるのかと……で、なんでフースーヤはそんなボロボロになってるんですの?」
「いや、実はついさっきまでヨハンさんにこってり絞られてまして……」
「まぁ、ちょっとした訓練だよ」

「おっほん、まぁ女の子リョナるわけでもない野郎共の特訓風景は今度気が向いたらスピンオフですませるとしてだ。今回集まってもらったのは他でもない。アルガスに潜入したサキに異変があったらしい……最悪、囚われている可能性もある」
王のその言葉に、十輝星たちはにわかにざわつく。

「王様、それは確かですか?あの子がそう簡単に捕まるとは思えませんが……」
「うむ、まずはこれを見てくれ」
ヨハンの疑問に直接的には答えず、王は手元のリモコンを押してプロジェクタースクリーンにある画面を写す。

「これはサキの仕事用携帯から送られてきたアルガスの重要資料だ。そしてこれが送られてきた直後、サキの携帯のGPSの反応が消えた」
「と、いうことは……」
「ああ、敵地のど真ん中で敵に発見され、証拠隠滅に携帯を潰した可能性がある」
「サキ……!」
リザは歯噛みする。恐れていた事態が起こってしまった。

「で、今日の議題はこのDTT計画なるものについてだが……」
「え?」
「なんだ、どうしたリザ?」
「サ、サキは助けに行かないんですか……?」
「当たり前だろ?」
「……!」
そうだ、この王はこういう人間だった。配下はあくまで配下。貢献している間はともかく、失敗してからの対応は冷酷だ。

「でも、サキはこの情報を送ってきた……任務に失敗したわけじゃ」
「あのなリザ、そういうことじゃないんだよ。ここで大々的にサキを助けに行くと、サキがトーメント王国のスパイだってことがバレるだろ?そうすると下手すりゃナルビア王国とはすぐに全面戦争だ。負ける気はしないが、かと言ってサキ一人の為にそこまでするような依怙贔屓はしたくない」
「……!」
「工作員のサキにはそういった不利益を押し付けるからこそ、普段は安全な異世界勤務や後方勤務ばかりさせているわけだからな」
王様はいつも屁理屈を言うが、その屁理屈には筋が通っている。だが、ならば逆に……こちらも屁理屈を言えばいいのではないか?

「王様、私はあくまで国益のため、サキの救出作戦を進言します」
「ほう?」
「研究都市アルガスなら、破壊された携帯を復元する程の技術力があってもおかしくない……もしそうなら、サキを助けに行かなくても全面戦争になるかもしれません。しかし、サキを救出し、携帯の残骸も回収すればその事態は回避できます」
無口なリザらしからぬ長台詞によるある程度筋が通った屁理屈。王様にはこういった屁理屈による進言が効果的なのだ。

「まぁ、一理はあるな……ヒヒ、いいだろう。今日の議題にサキ救出作戦案を追加してやる」
「ありがとうございます、王様」

(なんか最近リザさんばっかり目立ってずるくないですか?)
(僕なんか王都から出れないから、活躍の機会も限られるしね……)
(リザちゃんばっかり目立ってるというか、貴方たちが空気なだけd)
(言わせねぇよ!?……なんちゃって)
(ヨハンさん……貴方……)


300 : 名無しさん :2017/04/27(木) 23:34:42 ???
「まあ結論から言うとだ。DTT計画自体は、方向性もズレてるし放置しても当分は問題ない。
ただ、我々にケンカを売ろうとしているのは明らかだからな。そこで、リザとアイナ…暗殺チームの出番だ。
研究所長のマルシェザールを秘密裏に始末して、DTTの研究をされると困る…と連中に誤解させられればベスト。
ついでに、アルガスにいる『例の5人』を何人か連れ帰れれば文句ないな。
サキを助けたいなら、そのついでにやればいい。…ただし。
迎えに寄越すヘリには、乗せられる人数に限度がある。…わかるな?」
「…はい」
…すなわち、サキを救出するなら『例の5人』を拉致する人数を一人削らなければならず、その分はリザ達の失態と見なされる。
仲間を助けるためには、己の立場を犠牲にしなければならない。
だがこの時点で、リザは『犠牲にするべき一人』…『敵地に一人、取り残される役』を決めていた。
彼女にとって、それは考えるまでもない事だった。

「……私としては、サキの救出は賛成できません。むしろ、彼女の口を封じるべきだと思います」
続いて口を開いたのは、ヨハンだった。その意見は、理屈としては正論。
サキと同じ立場なら、リザ自身も、恐らくそれを望むだろう。

「それは…わかっています。でも……」
理屈は痛いほど理解できた。だが、その痛みに耐えられる強さを、リザは持っていなかった。

「…本当にいいのかい?君は気付いていなかったかもしれないが…サキは君の事を随分嫌っていた。
裏では色々と、君を貶めるようなこともしていた。僕なら、ざまあ見ろとほくそ笑んでいた所だ」
「……!!」
ヨハンの言葉に、リザの動きが一瞬固まった。次の一瞬、複雑な表情を浮かべ…すぐに、いつもの平静な表情を取り戻す。
だが、彼女にとってそれは青天の霹靂。内面では、その一瞬のうちに様々な想いが去来していて……

「どうして、今……それを言うんですか」
涙混じりの声で、それだけを絞り出すのがやっとだった。


301 : 名無しさん :2017/04/28(金) 00:19:14 ???
「んー!んー!ふ、ぐ……!」
(も、もうイヤ……!こんなの耐えられない!)
椅子にがっちりと固定され、口も目も耳も塞がれ、唯一の感覚は水滴による水滴とは思えない程の痛覚のみ。不規則に色々なタイプの水滴を眉間に垂らされ、サキは憔悴しきっていた。

「お、ご……!むぁ、んむぅううう!!!」
(いやぁ……誰か助けて……ヨハン様ぁ……!)

(いやしかしこれほんとすげぇな……12、3万はちょっと高いが買っちゃおうかな……)
(エッロ……目も隠して口も塞いでってのが逆にフェチズムを刺激するな)
(もうちょっと見てから携帯の復元に取り掛かろう)
兵士三人組はそんなサキを見て各々物思いに耽っていた。

「んむ……ふー、ふー」
(ダメよ、気をしっかり持たないと……ライライの仇も取らないうちに死ぬわけにはいかないわ……)
普通の少女だったらとっくに狂っているであろう拷問。それでもサキが狂わないのは、普通の少女に比べて強靭な精神を持っているからだ。

「ぐ、ぐぅううう!んぐぅううう!」
(耐えないと……私が、私までいなくなったら、あの子は……ユキは!)

サキは現実世界に潜んで少女たちの友情を壊し、この世界に引きずり込むことに愉悦を感じるドSである。しかし、その為だけに王下十輝星になったわけではない。

✱✱✱

サキにはユキというやや年の離れた妹がいる。姉の身贔屓抜きに可愛い子だった。サキの家は母子家庭で決して裕福ではなかったが、スラム辺りの底辺と比べたら十分上流階級ではあった。
まぁ、それなりに幸せには暮らしていたと思う。母はサキもユキも平等に愛してくれていた。

だがある日、母は突然硫酸でユキの顔を焼いた。本当に突然だった。
呆然とするサキ、痛みで泣き叫ぶユキ。しばらくしたら近所の人間が通報したのか警備隊が駆けつけてきて母を拘束し、ユキは入院した。

1人だけになった家で、サキは母からの置手紙を見つけた。
その置手紙には、割と高名な貴族からユキが『リョナ要員』として連れて行かれるという話があったということ。断ることは許されなかったこと。ユキを救うには彼女の顔が醜くなるように焼くしかなかったこと。そして、こんな手段でしか娘を守れなかった自分の無力さをひたすら謝る文が書いてあった。


302 : 名無しさん :2017/04/28(金) 00:20:16 ???
その置手紙を読んでサキが覚えた感情は二つ。一つは単純な権力欲。権力があればこの世界の理不尽から自分や家族を守り、逆に自分が理不尽を強いる側になれる。だからこそ邪術も覚えたし王下十輝星にもなった。

もう一つの感情は複雑だったが、言うなれば容姿の特別良い者への妬みとも言うべき感情。
サキは自分の容姿が良いことは自覚しているが、あくまで「探せば普通に見つかる」レベルでしかないこともまた自覚している。……だからこそどこぞの高名な貴族はユキだけを「リョナ要員」に選んだことを理解している。

サキも年頃の少女である。妹より容姿に劣るというのは少なからぬコンプレッスであった。これでもしも血の繋がった妹でなければきっと意地悪なことをしていただろうが、サキは鬼畜なドSではあっても冷血漢ではなかった。物心ついた時から一緒にいる家族に対して酷いことをする気は起きなかったし、サキなりに家族を大事にしていた。

そんなコンプレックスは最悪の形で吹き飛ぶことになる。妹の顔が硫酸で顔を醜く焼かれたことで。
それからサキは、特別容姿の良い女性は酷い目に遭わなければならないという歪んだ思いを抱くことになる。妹の容姿が特別よかったせいで自分の家族は酷い目に遭ったのだから、他人にもそれを強要しようというのだ。
だからアウィナイトの女性が性奴隷にされることは当然だと思っているし、リザがそんな現状に抗おうとしているのは許せない。

妹は今も入院中で顔に包帯を巻いて生活している。母はまだ獄中生活だ。
ユキには本当のことを言い出せなくて、彼女は母は狂ったのだと思っている。
ユキにはもう自分しかいない。母に顔を焼かれたのがトラウマになっており、ユキは言い方は悪いがサキに依存していた。

向こう十年の入院費は先払いをすませている。十輝星は給料がいいのだ。だが、自分までいなくなったら、ユキは今度こそ心を閉ざしてしまう。そうなればもうユキに人並みの幸せは訪れない。

十輝星の権力を使って母を釈放させようとしたこともあったが、母は気持ちの整理がつかないと言って獄中に留まっている。サキとユキに何度も何度も謝りながら。


サキは赤の他人が辛い目に遭うのには愉悦を感じるが、親しい人間や家族は大切にしている。
邪術のライラやユキや母……後は趣味を兼ねてちょっと鬼畜なことができれば、サキにとってはそれだけで満足だった。

きっと、この世界がリョナラーの世界でなければ……現実世界のような場所だったら………サキはちょっと裏表のあるだけの、普通の少女でいられたかもしれない。
だが、この世界は優しくなかった。普通の少女ではいられなかった。

ユキには言えないような汚いこともたくさんやった。嬉々として少女の絆を壊す自分に自己嫌悪したりもした。
だが、サキは後悔はしない。家族を守るための行動……たとえどれだけ汚くても、内心でどれだけ鬼畜なことを考えていても、その行動自体を間違いだとは決して思わない。

だからサキは、想像を絶する苦痛の中にいても……心折れることはなかった。


303 : 名無しさん :2017/04/29(土) 09:17:33 dauGKRa6
「どうして、今……それを言うんですか」
ヨハンから告げられた事実にリザは涙交じりの声で答える。ヨハンはそれには答えず、リザの二の句を待つ。
だが、口を開いたのは別の人物だった。
「サキがリザちゃんを嫌っていたのはなんとな〜くアイナも知ってましたわ。だってリザちゃんは顔良し、声良し、スタイル良し!もう眩しすぎて見えないくらいの超絶美少女ですもの!普通の女の子なら嫉妬して当たり前ですわ!」
「嫉妬…ですか。確かに女の子同士ってそういうのとても多いんですよね……はぁ。」
ルミナスで女同士の軋轢を嫌という程見てきたフースーヤは、意味深なため息交じりに同調した。

「ほら……リザの部屋にゴキブリが突然10匹も湧いたり、リザの下着が突然なくなったりしたことがあっただろう?あれはサキの仕業なんだよ。」
「どうして…そう言い切れるんですか。」
「僕の部下にもサキほどではないけど優秀な工作員がいてね。その子にサキのことを徹底的に調べてもらった。」
「どうしてサキを調べ上げる必要があったんですの?一応仲間ですのに。」
「俺がヨハンに指示をしたんだ。サキを監視しろとな。」
アイナの問いに、静観していた王が退屈そうに身を伸ばしながら答えた。

「王様がサキのことを調べたかったんですの?」
「まあな。あいつの工作員スキルは本物だ。それゆえにいつこちらの情報を横流しされるかわからない。だから定期的にヨハンにサキを調べてもらっているんだ。」
「あぁ、だからサキさんがリザさんに嫌がらせをしてるのも知ってたんですね。」
「まあそこは個人の考えだし、別にどうでもよかったんだけど……リザがあんまり意味のないことをしようとしてるから、バラしちゃったよ。」
「意味のないこと……?」
ヨハンの言葉を復唱したリザは、ゆっくりと顔を上げる。
「確かに工作員として優秀ではあるけど、こうして捕まった以上はもう敵に情報をバラしているかもしれない。もし裏切りの可能性が少しでもあるなら、生かしておくわけにはいかないしね。……特に彼女のようなタイプは。」
優秀な工作員だからこそ、捕まった時のリスクは高い。サキの持つ情報が敵国に漏れることは、万が一にも許されないのだ。
「助けたとしてもアルガスで何かをされて、ナルビアのスパイになっている可能性もある。実際ナルビア王国は敵国の捕虜を洗脳して、自分たちの駒として使っているしね。」
高い科学力を持つナルビア王国は、敵国の兵士でさえも有効活用する。
人体実験、薬物投与、人格洗脳……
ナルビア王国に捕まった捕虜の末路は、そういったものばかりだ。
「しかも……君にとってサキは危険な存在だ。……言っておくけど、サキは機会さえあれば君を殺すよ。機会さえあれば……ね。」
「………!!」
それはつまり、ゴキブリや下着紛失などの嫌がらせでは済まないということか。
普段の柔和な表情と口調で喋るヨハン。彼の発する言葉の全てに、リザに対する明確な意味が込められていた。

サキの救出をするべきではないと。

「……それでも、私は……」
「まあ、そこはリザの判断に任せようじゃないか。サキを助けたいなら勝手にろ。もうヘリの用意はできてる。アイナと一緒にさっさと行け。」
「了解ですわ!さあ行きますわよリザちゃん!ウジウジ考えるのはヘリの中で、ですわ!」
「あ、気をつけていってらっしゃーい!」
アイナに手を引かれ会議室を後にするリザ。一瞬振り返った時に見たヨハンの表情は、いつも通りの優しげな表情だった。

(ヨハンは……私を心配してくれてるのかもしれない。それでも……それでも、私は……)


304 : 名無しさん :2017/04/29(土) 20:47:01 ???
リコルヌを持ったワルトゥの分身は、ゆっくりと剣を鞘に収める。

「その剣は使わないのか?」
「俺の武器はあくまでこの拳だ……相手を……特に女を殴る感覚がダイレクトに伝わる方がいいんでな!」
「下衆が!」
桜子は剣を床に水平構え、一気に駆け出す!

「突覇 韋駄天!」
「っと!」
桜子の突きを姿勢を低くすることで躱すワルトゥ。そして姿勢を低くしたことで腰に力を溜め、桜子の顎に強烈なアッパーカットを放つ!

「ぐぁ!」
身体が浮くほどの衝撃を受け、桜子は一瞬脳震盪を起こす。そしてワルトゥはその一瞬の間に桜子の背後に回ってその背中に飛び乗り、両足を桜子の太ももの辺りにひっかけ、両手で桜子の腕を後ろ斜め上に固定する。

「むぅ、あの技はパロ・スペシャル!あれを某少年漫画のキャラが使って以降、真似をして怪我をする子供が続出したという関節技……!まさかこの世界であれを見ることになるとは!」
「彩芽おねえちゃん、ふざけてないで助けないと!」
「待ってくれ、今良さげなのを用意してるから……!」


「ぐぁあああああ!!」
ギリギリと締め付けられ、腕の関節が外れるのではないかと思うほどの激痛が走る。
(こ、このままではマズイ!なんとか逃げなければ!)
ユサユサと身体をゆすってなんとか背中に乗るワルトゥを落とそうとする桜子だが、いくらもがいても拘束は一向に緩まない。

「へへ、この技からはそう簡単には逃げられないぜ!……ていうかそんなに身体ゆすると、めっちゃおっぱい揺れてんのまる見えだぞ」
「な!この、とことん下衆な男め……!」
「うるせぇ!このまま関節外して、テメェの腕をもっと長くしてやるぜ!」
「ぎ、ぁあああああああ!!」
「ガハハハ!やっぱ女にやる分には相手に密着する技は最高だ!」


「マズイ…!スバル、何か冷やすものを用意してくれ!」
彩芽はよく分からない射出機のようなものをノートパソコンに繋いで、何やら熱心にキーボードを叩いている。
「これはちょっと演算が複雑で……冷やさないとPCがもたない!」
「わ、わかった!」
スバルは彩芽の鞄からテキパキとタオルと水を取り出し、タオルを濡らす。そして濡れタオルをノートパソコンにあてがう。
「あれ、なんでそんなに早く目当てのものを見つけられるんだ?ボクだったら一回ひっくり返さないと見つけられないのに……」
「彩芽おねえちゃんがものぐさすぎるだけだと思うな……ちゃんと探す前にひっくり返しちゃうから、余計に時間がかかるんだよ」
「くっ、年上の尊厳が……だが、このメカで名誉挽回!NO29ピンボールシューター!」

彩芽が無駄にカッコつけてエンターキーをッターン!と押すと、射出機から鉄塊が射出される。

「ってどこ撃ってるの彩芽おねえちゃん!?」
射出機から放たれた鉄塊はあらぬ方向に飛んでいって壁に当たった……と思うと、キンキンキン!という効果音と共に室内で乱反射し、桜子にパロ・スペシャルをかけている方の分身に炸裂!

「ぐお!?そんなん避けらんね……」
ボウン!という音の後に分身は消え、桜子は解放される。

「うええ!?なに今の!?」
「そう、そのリアクションが見たくて作ったんだよこのメカ!反射の計算がものっすごいめんどくさいけど!」
「すまない、助かった!この調子でもう一体も倒すぞ!」


305 : 名無しさん :2017/04/30(日) 00:47:15 ???
「リザさんとアイナさん、大丈夫でしょうか……僕、ちょっと心配です。」
要塞兼研究所を構えるナルビア王国の重要拠点であるアルガス。
敵国の拠点で捕虜の救出、異世界人の確保、DTT計画を主導するマルシェザールの暗殺という任務を請け負うのは、13歳の天真爛漫な少女と15歳の物静かな少女である。
「なんだフースーヤ。心配か?」
「だ、だって…あんな小さな女の子2人で、本当に大丈夫なんですか?」
フースーヤは真剣な表情で王に尋ねる。すると横で聞いていたヨハンが、跳ねた黒髪を撫でつけながら口を開いた。
「アトラとシアナはともかく、あの2人が揃って任務を失敗したことはないよ。心配しないで、フースーヤ。」
「そ、そうなんですか……!女の子とはいえ、さすが王下十輝星のメンバーですね!」


「それにしても、アイナもリザもサキもいなくなって少しむさ苦しいな。」
「そういえばそうですね。女性陣もアトラもシアナもいないから、今城にいる十輝星は僕とフースーヤ君だけか……」
「あ……そういえば僕、まだ会ってない十輝星の方がいるんですが……」
フースーヤが言うまだ面識のない十輝星……それはカペラとベテルギウスの称号を冠する2人を意味する。
エスカの星位だったフォーマルハウトは現在空位のため、十輝星という名目だが今現在活動しているメンバーは9人だ。
「カペラはアングレームの遺産の調査で、討魔忍の国『ミツルギ』を嗅ぎまわっている。おそらくあのアルフレッドとかいう遺産を狙う執事と火花を散らしているんだろう。」
「ベテルギウスは確か……聖騎士の国の『シーヴァリア』を調査中でしたね。進捗は僕は聞いていませんが……」
「へぇ……お2人とも1人で他国の調査なんて危険な任務をこなしていらっしゃるんですね。」
他国の調査……それはすなわち敵国の情報収集や要人の暗殺などの仕事を1人でこなしているということだ。これは戦闘、情報収集、時には演技力など相当の実力者でないとできない任務であり、かなりの重責を伴う任務でもある。
「まああの2人は王下十輝星でヨハンと並ぶ実力者だ。国の外の調査でほとんどここへ戻ることはない。恐らくフースーヤが2人に会うのも当分先になるだろう……」
「まあ、2人ともみんなと同じように変わってるから、会えばすぐ名前も性格も頭に入ると思うよ。」
「承知いたしました!お2人にお会いできる日を、楽しみにしております!」


306 : 名無しさん :2017/04/30(日) 15:18:30 ???
「へっへっへ…この中じゃリーダー格っぽいから、どの程度やるのか期待してたが…案外大したことねえなあ?」
桜子に続き、サラもワルトゥの分身に苦戦を強いられていた。
「っ…!…分身のクセに、言ってくれるじゃない!」

スピードはサラがやや有利…いや、ほぼ互角、だろうか。
ワルトゥはサラと付かず離れずの間合いを保ちながら、大ぶりな攻撃を繰り返してくる。

その丸太の様な剛腕をサラは紙一重でかい潜り、カウンターを狙って攻撃を繰り出そうとするが、
繰り出す拳は分厚い掌にいなされ、蹴りも丸太の様な腕に阻まれてしまい、有効打が与えられない。

時空刑事としての訓練、そして実戦で鍛えた格闘術を身に付けてはいても、
拳銃の弾すらかわす格闘の達人が相手では、テクニックの面で分が悪かった。

今の間合いでは、体格差からくるリーチ面での不利が大きく出てしまう。
それが分かっていても、ワルトゥはサラが追えば逃げ、逃げれば逆に追って来る。
間合いを詰めて接近戦に持ち込む事も、間合いを離して休むことも出来なかった。

そして何と言っても、テクニックやリーチ以上に、圧倒的に不利なのは……パワー。

(ガシンッ!!)
「しまっ…!」
「ひひッ…どうした姉ちゃん、もう終わりか?…今度は、こっちから行くぜぇっ!!」
「ぐ……うああああっ!!」
(ドカッ!!)

蹴り足を掴まれ、動きを封じられたサラに、逆襲の拳が打ち込まれる。
その威力はすさまじく、咄嗟にガードした両腕すら簡単に弾き飛ばした。
拳はそのままサラの腹に突き刺さり、サラの身体は文字通り地面『叩きつけ』られる。

「げほっ……う、ぉえ……(なんてパワーなの…両腕の感覚が……それに、お腹……)」
サラとしては、開幕から速攻を仕掛けて一撃を入れ、ケリをつける。それ以外に勝機はなかった。
対するワルトゥも、それを見抜いた上で、挑発しながらガードに徹し、相手のスタミナが尽きるのを待った。
そして今。熟した果実を刈り取るように、ワルトゥは、いとも簡単にサラを『捕まえた』のだ。

「…はっ…放しなさいよ……!!」
「こんな極上の獲物、誰が手放すかよ…実力はともかく、カラダはダントツに好みだからな。
たっぷりと可愛がってやる…ヒヒヒヒ…」
うつ伏せになったサラの背中に、馬乗りになるワルトゥ。
右手でサラの首を掴んで、背中ごと反り返らせる…キャメルクラッチの体勢に固定した。

「うっ……ぐあああああぁあああーーっ!!!」

ワルトゥは苦悶するサラの悲鳴を堪能しながらレザー製のライダースーツを力任せに引き裂き、
露わになった乳房を鷲掴みにする。
両腕が痺れて使えない上、デバイスを科学者達に没収されてクレラッパーに閃甲できない今のサラに、
この地獄の拷問技から逃れる術はなかった。

「ヒヒッ…!…あっちの金髪のお嬢ちゃんも悪くなかったが、こっちの姉ちゃんは段違いだぜ。
分身体でヤるのは勿体無いってもんだ…!」


307 : 名無しさん :2017/04/30(日) 22:05:35 ???
「くうぅ……!や、やめなさい…っ!」
「グヘヘへ……!さて、直の感触はどんなモンだぁ……?」
引き裂かれたライダースーツからぶるんっ!と勢いよく飛び出した2つの果実に、ワルトゥのゴツゴツした指が深く力強く沈みこんでゆく。
(ぎち……!ズブズブズブ……!)
「あぐ……んうあぁっ……!」
「おおお……!マシュマロみたいに滑らかな触り心地に、ちょうどいい抵抗感のあるぷるぷるの弾力があるじゃねえか。こりゃあ、へへっ。特上モンだな……!」
サラの乳房は生前ワルトゥが触った中でもトップクラスの出来映えだった。冥界から蘇って以来の女の乳房の感触に、ワルトゥの股間がムクムクと熱くなる。
(んっ……?この感触……!もう、最悪だわ……!)
「さあねーちゃん。俺の指がねーちゃんの胸にどこまで沈み込むか、試してみようじゃねえか……!」

(ぎちぎち……メリメリメリメリ……!)
「ぐあああああああ゛ッ!そ、それ以上は……ッ!んぐうううう゛っ!!!」
ワルトゥの大きな手がサラの大きく柔らかい乳房に力強く食い込んでゆく。
この状況を例えるなら、無邪気な子供がゴムボールの限界を試したいがため、思い切り力強く握り込む様子に似ていた。
「やわらけえ……!それに、聞いただけで凄まじい苦痛を感じさせるいい悲鳴だ……!お前はこれから俺のリョナ奴隷にしてやるぜッ!」
(ぎちぎちぎちぎちィッ!)
「ひゃ!!あ、ああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーん゛ッ!!!」
サラがかまびすしいともいえる悲鳴を上げるのと、櫻子を拘束しているワルトゥの分身が消えたのは同時だった。

「すまない、助かった!この調子でもう一体も倒すぞ!」
「桜子お姉ちゃん!サラお姉ちゃんがぁっ!」
「任せろっ!すぐに助けるッ!!」
「えーと、何があったかな……」
「彩芽お姉ちゃん!さっきのピンボールでいいよ!いちいちカバンから探さなくていいからっ!」
「あ、それもそうか!いやぁせっかく作ったアヤメカたちをこういう機会にいろいろ試したくてさ……」
「だ、だったらいつでも出せるように整理しておいてよぉーー!!」


308 : 名無しさん :2017/04/30(日) 22:27:01 ???
「この調子でもう一体も倒すぞ……!?サラ!」
もう一体の分身と戦っているサラの方を確かめた桜子は驚愕する。サラはワルトゥにキャメルクラッチをしかけられ、しかも服を破かれてその豊かな乳房を鷲掴みにされていた。

「や、止めなさい、こんなこと……!ぐぁああああああ!!」
「へっへっへ……この弾力、たまんねぇな」
「あ、ちょ、あん!ぐ、あああああああ!!ああ!あん!」
「おいおい、痛がるのか感じるのかどっちかにしたらどうだ?ま、こっちの方のテクもまだまだ健在ってことか!」

「きっさまぁああああ!!サラを離せぇえええ!!」
「桜子さん!焦っちゃ駄目だ!」
「うおぉおおおおお!!」
完全に頭に血が上った桜子は、彩芽の制止の声も耳に入らずにワルトゥへ突進する!

「へ、殺気が駄々漏れだぜ!」
ワルトゥはサラの胸を掴むのを一旦止め、後ろを見もせずに接近した桜子へ裏拳を放つ。
「ぐ!?」
「お次はこれだ!」
ワルトゥは桜子の襟首の辺りを逆手に掴むと、前方の地面へと叩きつける。その結果、ワルトゥに地面に押し付けられたサラと今まさに地面へと叩きつけられようとしている桜子、両者の頭部がゴッチンという音が聞こえてきそうな程強く激突!

「が!?」「う!?」
その結果、2人は気絶した。

「へへへ……意識がないうちに、3Pとでもしゃれこんでやるか!」

「さんぴー?ゲームで対戦でもするの?」
「ま、まずい!このままじゃメカの援護が間に合わない!どうすれば………!」

聞きなれない単語に首をかしげるスバルを置いてあたふたとする彩芽。そんな彼女の目に入ったのは……先ほどの分身が持っていた宝剣リコルヌ。

(こうなったらボクがこの剣で……って駄目だ!ネペンテスの時の失敗を忘れたのか!?)
彩芽の脳裏に、慣れない接近戦を挑んだ結果酷い目に遭った苦い過去が浮かぶ。
(クソ、ボクが突っ込んでも何もしないうちにやられるだけだ!こういうのは慣れてる奴がやるべきなんだ……!)
彩芽は地面に落ちているリコルヌを拾い上げる。そして……



「分身体にヤらせるのはもったいねぇなぁ。この嬢ちゃんはちょいと置いといて、俺もパツキン巨乳姉ちゃんと……」


「亜理紗ぁああああ!!受け取れええええええ!!」



サラの痴態に目が行って僅かにアリサへの拘束が緩んだタイミング。彩芽は『偶然』そのタイミングで、リコルヌをアリサの方へと投げた。

そしてアリサも……強烈なベアハッグの中においても決して意識を手放さず、反撃のチャンスを虎視眈々と狙っていた。


ボウン!

「しょ、所長!DTT計測器がオーバヒートを起こしました!」
「こ、これは……!DTTという存在は、我々の想像を超えているのやもしれん……!」


309 : 名無しさん :2017/04/30(日) 23:10:21 ???
サラがワルトゥに胸をむにむに揉まれている頃、アルガスへ向かうヘリの中でアイナとリザは作戦を考えていた。
「とりあえず優先すべきはマルシェザール所長の暗殺ですわ。上をやれば示威行為にもなるし、DTT計画にも大きな支障が出るはず。」
「……うん……そうね……」
「そして、「あの5人」……彩芽、アリサ、サラ、桜子、スバルの5人の拘束ですわ。これを達成するために、教授が素晴らしいアイテムをくれたんですのよ!」
「……うん……そうね……」
「ジャジャーン!ヒューマンボール!これは弱らせたり麻痺させたり眠らせたり凍らせたりした人間を、この中に捕獲して携帯できる夢のようなボールですわ!」
いわゆるモンス○ーボールのようなものだが、本家と違い弱らせたりしないと絶対にゲットすることはできない仕様である。
「教授の発明もここまでくると天才を通り越して変態の領域ですわね!キャハハハハハッ☆」
「うん……そうね……」
「これがあるから、ヘリの定員も気にせず帰れますわよ!よかったですわねリザちゃん!」
「うん……うん……そうね……」
景色を見ながら同じセリフで返事を返すリザの様子に、アイナの堪忍袋の緒がブチ切れた。

「もーうっ!やる気ありますのリザちゃん!?さっきからしょーもない生返事ばかりで!!さすがのアイナもプッチンきましたわよっ!」
アイナが椅子をバン!と叩きながら叫ぶと、リザは小さく飛び跳ねて青い目を丸くした。
「あ、アイナ……どうしたの……?」
「はぁ……どうせリザちゃんはサキのことを考えているんでしょうけど、最優先でやるべきことを間違えないで欲しいものですわ!」
「あ……うん。わかってる……でも、どうしても気になるの。私がサキに憎まれる理由が……」
「そんなの、本人から聞けばいいんですわ。でもサキの救出はあくまで「ついで」ということをお忘れなく。アイナたちまで捕まったら、サキと一緒に仲良くあの世行きですからねッ!」
「うん……わかった……」
言葉ではそう返したが、リザにとってはなによりもサキの救出が1番だった。
(きっと私が無自覚にやったことで、サキは1人で苦しんでる……!早くサキに謝らなきゃ。そのためにも絶対にわたしが助ける……!サキ、無事でいて……!)
サキの無事を祈った瞬間、リザのガラパゴス携帯からベートーベンの第五交響曲「運命」が流れた。

ジャジャジャジャーン!ジャジャジャジャーン!
(リザちゃん……!まだガラケーでしたのね……!)
音楽はクラシックしか聞かなかったり、携帯が未だにガラケーだったりと、リザは世間に疎いところがある。
(しかも……それが着信音って……!)
だがそんなリザの少し普通から外れたところが、アイナは大好きだった。
「もしもし……あ、王様……!はい……はい……」
リザは王からなにか指示を受けているらしい。30秒ほど相槌をうったあと、通話を終了し携帯をパチンと閉じた。

「……シーヴァリアにいるベテルギウスの消息が掴めないみたい。この任務が終わったら、私が様子を見に行けって……」
「え……!リザちゃん、最近危険な任務を1人で任されすぎではありませんこと?聖騎士の国シーヴァリアに単独潜入だなんて……」
「……でも、任務だから……」
先日のライラの件から察するに、王はリザがいつ死んでもいいと思っているのだろう。だからこそ危険な任務ばかり回されているのだ。
とはいえ、アウィナイトの復興という目的のために、リザは与えられた任務をこなすしかない。

「リザちゃん。アイナはリザちゃんのいない生活なんて考えられないのですから、どんなことがあっても、行きて帰ってこないと承知しませんわよ!」
リザの手を握り、目を合わせて訴えるアイナ。口調こそ上からだが、リザはアイナが言葉に込めた優しい気持ちをすべて汲み取ることができた。
「……アイナ、心配しないで。私なら大丈夫だから……」
そんなアイナに不器用な笑顔を見せるリザ。その笑顔を見てアイナは思った。
「……最近のリザちゃんはよく笑うようになりましたわね。きっとあの子のおかげですわ。」
「え?……あの子って……?」
「エミリアですわよ。あの子が牢屋から出てリザちゃんの部下になってから、リザちゃんはよく笑うようになりましたわ。」
「……そうかな……?」

本人に自覚はないようだが、アイナは確信していた。
願わくば、この笑顔がある日突然絶えることないように……
アイナはリザの手をもう一度、ぎゅっと握りしめた。


310 : 名無しさん :2017/05/01(月) 16:18:18 ???
(ギリギリッ……ミシミシ、グキッ……)
「…う、くうっ……ん、が、は……あぁぁっ……!!」
(か…身体が、バラバラになりそう…このままでは…本当に、絞め殺されてしまいますわ…!!)
ベアハッグに締め上げられ、アリサの背骨が、全身が、限界を超えて悲鳴のような軋み音を上げる。
だがどんなに必死にもがいても、圧倒的な腕力の前に脱出は不可能だった。

(お……お父様……お母様……シュナイダー先生……あや、め…)
それでも諦めずに反撃の糸口を探していたアリサだが、
全身への深刻なダメージと呼吸困難によって、意識が徐々に混濁し始め…
過去の出来事が、頭の中にフラッシュバックしていた。

「誕生日おめでとう、アリサ。そのペンダントは、アングレーム家の後継である証…
お前が正しき心と誇りを持ち続ける限り、きっとお前を導き、守ってくれるだろう」
「その白いドレス、よく似合っていますよ…まるで伝説の『白き剣士』の再来のよう」
(お父様……お母様…!…)

「お嬢様なら、ゆくゆくは『リコルヌ』の真の力を引き出せるようになる事でしょう…」
(先生……これは…あの日の、記憶……?)

「お前は、私達の誇り…自慢の娘だ。今日まで鍛え上げたその力…我らが王の為に、これから存分に揮いなさい」
「ええ。新たな王下十輝星『カペラ』として…頑張るのですよ、アリサ」
「なに、アリサ様なら奥様に引けを取らぬ最凶の剣士として、立派に務め上げてくださるでしょう。
これで儂も心置きなく引退できそうですわい」

(…王下…十輝星?……お父様…お母様……先生……それは、一体…?)

……

「亜理紗ぁああああ!!受け取れええええええ!!」

…彩芽の声で、唐突に我に返った。気付けばワルトゥの拘束はほんの少しだけ緩んでいて、
右腕だけはベアハッグから逃れ、何かに縋るように虚空へと伸びていた。
彩芽の投げた宝剣リコルヌが、まるでその手に吸い込まれるように収まる。

「シュネル・リヒト!!」
「なっ!?…ぐおおっ!!」
アリサは受け取った愛刀を瞬時に引き抜き、閃光のごとく素早い斬撃をワルトゥの胸元へ叩き込んだ。

「はぁっ……はぁっ…!…く…」
(あの時、お父様達は確かに、仰っていた…『我らが王の為』…『王下十輝星』…
一体どういう事ですの…!?…いえ、今は考えるのは後ですわ…!!)
立っているだけで全身に走る激痛、そして下腹の辺りに残る、何か熱くて固くて湿った物を
押し当てられていた不快感を堪えながら、アリサは剣を構えなおした。
先程は奇襲に成功したものの、手ごたえは浅く、恐らく致命傷には程遠いだろう。

(なんとか助かりましたけど、このままでは勝ち目がない事には変わり有りませんわ。
 こうなったら次の一撃に、全力を………えっ!?)
…だが。アリサと対峙していたワルトゥは、アリサの一撃を受けて着地すると同時に、煙となって消えた。
いつの間にか、分身と入れ替わっていたのだ。

(まさか、ベアハッグが緩んだ瞬間、既に…!?…だとしたら、本体はどこに……!)


311 : 名無しさん :2017/05/01(月) 20:37:22 ???
「亜理紗、本体はあっちだ!サラさん達の方に向かってる!!」
分身で姿をくらませたワルトゥ。その狙いは…気を失ったサラと桜子だった。
残った分身体と共に、二人の身体を抱え上げて部屋の出口へと向かう。

「へへっ!このまま全員相手してやってもいいが…そろそろ『アレ』の我慢が限界だからな。
今日の所は、一番オイシイ所だけ貰ってオサラバさせてもらうぜ!!」

「おっ…お待ちなさい!!…あ、くっ…!」
アリサはこれまでに負ったダメージが大きく、ワルトゥを追いきれない。
「マズい!…あいつら、二人を浚って逃げるつもりか!?くそっ、こうなったらさっきのピンボールで…」
…彩芽の追撃も、間に合いそうにない。
だがその時。ワルトゥ達に向かって、小さな影が駆けだした。

「サラお姉ちゃんと桜子お姉ちゃんを…つれてくなぁぁっ!!」
「なっ!?…無茶だっ!スバル、戻って!!」

スバルは剣や魔法などの戦う力もなく、特殊な能力があるわけでもない、普通の少女にすぎない。
王都イータブリックスのスラム出身の、最下層階級…いわゆる奴隷だった。

そんな彼女が、桜子やサラ、彩芽に救われ、王都を脱出してから、旅を続けている間…
ずっと、気にし続けていた事があった。

「私…お姉ちゃんたちに、いつも守られてばっかりで…まだ何も、お返しできてない。それなのに…!!」
「へっ!ガキの都合なんぞ知った事かっての。おら、退け退けぇ!」
立ちふさがる少女を意にも介さず、踏みつぶさんばかりの勢いでワルトゥが迫る。
その鼻先に…スバルは何かを投げつけた。
それは、ふわふわの毛で覆われた、何かの動物の様な…

「…あん?何だ、こいつは?」
「ふーん…君は、誘拐が得意なフレンズなんだね?」
……それは、猫のぬいぐるみであった。

「…やっちゃえ猫さん!たっぐふぉーめーしょん、A!」
「まってたぜそいつを!ローリングベアクロー!!」
猫のぬいぐるみであった。


312 : 名無しさん :2017/05/02(火) 09:07:58 ???
「着きましたわね。ここがアルガス……ナルビア王国の重要拠点で、トーメント王国からも近い研究開発都市ですわ。」
「アイナ、誰に説明してるの……?」
レーダーからのステルス機能つきのヘリを離れた場所に下ろし、アイナとリザは研究所前に到着した。
「アイナたちのいいところは敵地へ簡単に潜入できるところですわよね。警備を強化したところでモーマンタイ!余裕で掻い潜れますわ!」
「でも……アルガスの研究所だから監視カメラだらけだと思う。アイナは消えれるけど、私は……」
「おおう、それもそうですわね……じゃあとりあえずアイナが先行して、監視カメラの場所を把握しないとですわね!」
「お願い。連絡用にこれも着けておいて。」
リザが差し出したのは連絡用のヘッドセット。ステルス起動中であれば声も周りに聞こえないため、アイナが喋る分には安心して連絡を取り合うことができる。

「よーし!美少女コンビの華麗なる潜入作戦開始ですわ!」
アイナはステルスを起動し、署員が入り口ドアを開けた隙にさっそく研究所へ潜入する。
教授の開発した「異能力一部無効化装置」により、アイナがステルス中でも味方だけはアイナのことを忘れないようになっている。
裏を返せば、この装置が壊されれば制御が効かずステルスをすると自身のことを周りが忘れてしまうということ。弱点が増えてしまったが、敵に自身のことを忘れてもらえるという特性上、撹乱にはこれ以上ない能力となった。

(カメラが多いですわね……でもそれは入り口や出入り口ばかり。死角がないわけではありませんわ。リザちゃんにカメラの死角を教えていれば、2人で潜入できそうですわね。)
入ってきた入り口はもちろん監視カメラだらけのため、ドアが開いた瞬間に死角にテレポートすれば掻い潜れるだろう。
「リザちゃん。今署員が入り口を開けますわ。その隙にテレポートして前方の観葉植物の辺りに来てくださる?」
「……了解。」
退勤と思われる署員がドアを開けて出た隙に、リザは言われた通りの場所にテレポートして身を潜めた。
「完璧ですわ!この調子で進んで、マルシェザールを探しますわよ!」
「…………了解。」

本当は一刻も早くサキを見つけたいリザだったが、とりあえずはアイナの言う通りにして情報を集めることにした。
(いろんなところに研究所内の地図がある……サキがいそうな場所は……!)


313 : 名無しさん :2017/05/02(火) 20:48:26 ???
「うぉおっ!?…なんだコイツ!襲ってきやがった!!」

猫のぬいぐるみは、鋭い爪でワルトゥに襲い掛かる。
ワルトゥの分身体は喉を切り裂かれて消滅し、本体も左目に切り傷を負った。

そう…アリサが現実世界での両親の思い出として大切にしていたぬいぐるみは、
紆余曲折を経て彩芽との和解に至った後、スバルへと譲渡された。
そして彩芽の手によって更なる改造が施され、
いざと言う時にスバルの身を守る戦闘用防犯ぬいぐるみへと進化したのだ!

「ちょ、ちょっと!?『そして』から先は聞いてないですわよ!?」
「そんな事より…無茶しちゃダメだスバル!改造はしたけど…多分そいつには通じない!!」

「…くそっ!!ふざけやがって!!」
「すっごー…びっ!!」
激昂したワルトゥの手刀が一閃。ぬいぐるみは一瞬にして爪を砕かれ、胴体を両断された。

「ひっ…!?」
そしてワルトゥは怯んだスバルを容赦なく捕らえ、頭上に持ち上げた。
頭と股間を掴んで万力のような握力で締め上げながら、スバルの背骨を反り上がらせる!

(みしっ……みしっ……ぐりっ!!)
「あぐっ…ん、やああああああぁぁぁっ!!」
「…俺を単なるセクハラ大好きおじさんだとでも思ったか?…あまり舐めるなよ」
(ぎりっ………ぎりっ……ぐきっ!!……めりっ…!)
「うえ、ぐ……あ"ぁぁあ"あ"ぁぁあ"あ"あ!!!」
頭蓋骨、股間、そして背骨から異音が響く。そして、この世の終わりのような少女の絶叫。

「やっ…やめろおお!!す、スバルを放せ!!やるならボク……か、亜理紗辺りを…!」
「そうですわ!!そんな小さな子を相手に…恥ずかしくありませんの!?」
「けっ…知るか!ガキだろうが女だろうが、俺様に盾突いて、片目まで潰してくれた以上…そんな言い分、通らねえんだよ!」

彩芽とアリサの抗議にも耳を貸さず、ワルトゥはスバルの身体を放り上げた。
そして、禍々しい気を全身から発しながら、自身も高く跳躍し……自身の最大の『必殺技』の体勢に入る。

「あぐっ……や、…やぁあああぁぁっ!!助けてっ……桜子お姉ちゃああぁああぁん!!」


314 : 名無しさん :2017/05/02(火) 22:14:03 ???
「肉抉骨砕、飛翔山脈……必殺!般若寂滅無一物ぅうううう!!」
簡単に言ってしまえば、ワルトゥの技は空中に放り投げたところを拳で追撃するだけの技であった。
しかし、ただの追撃というには、余りにもその威力は大きすぎた。上空から落ちてくることによる重力加速度も加わり、空中で喰らうが故に衝撃を逃すこともできず……ただの幼い少女であるスバルに耐えられるような技ではなかった。


「………ゲバ!!?」


あまりにも、あまりにもあっけなく……ワルトゥの拳は、スバルの小さな身体を貫いた。

「あ、あ……?」
(なん、で……スバルのお腹から、手が、生えて……)

「ガハハハ!ガーッハッハッハ!やっぱ女の『命を奪う瞬間』ってのはたまんねぇぜ!」
ワルトゥは着地してから腕を乱雑に振るって、スバルの身体を放り投げる。

(さ、く、ら、こ……おねえ、ちゃん……)
スバルはスラムで一人ぼっちだった。桜子も異世界から来たばかりで一人ぼっちだった。そんな2人が出会い、共に暮らしていくうちに…まるで本当の姉妹のように仲良くなっていった。

(スバルは、おねえちゃんのことを……本当の……家族みたいに……)
地面に放り投げられたスバルは必死に這って桜子へと手を伸ばす。だが、気絶している桜子がその手を取ることはなく……スバルの手は、虚しく空を切って地面に落ちた。

「す、スバル……!う、噓だ……噓だぁあああああ!!」
「っあああああああああ!!うあああああああ!!!」


激昂したアリサと彩芽はワルトゥに向かっていくが………

「そんな殺気駄々漏れの猪突猛進、効かないってーの!」
「がは!」「っああ!」
腕の一振りで振り払われてしまう。

「ヤるつもりだったが、殺ったら満足しちまった。今日はこの辺で勘弁しといてやるよ」
「ぐうう……ま……て」
「私は……また………失ってしまった……」

去っていくワルトゥを見ていることしかできない彩芽とアリサ。



異世界人というのは加護のおかげで運が良い。
現地の少女の命一つだけで、全滅の危機を回避できたのだから。


315 : 名無しさん :2017/05/03(水) 14:23:52 dauGKRa6
現実はいつも残酷だ。
さっきまで動いていて、ボクにツッコミを入れたりしていた可愛いスバルが、今は腹から血を流しながら虚ろな目をして息絶えている。
「嘘よ……彩芽……!スバルッ……スバルが……っ!」
亜理紗が嗚咽交じりの涙声を出しながら僕にしがみついて来た。
スバルの方に駆け寄らないのは、もうどう見ても死んでいるからだろう。
僕は泣きながらしがみついてきた亜理紗の方を見ようともせず、ただただ目の前のグロテスクな光景に絶句していた。
「こんなの……こんなのいやっ……!スバルッ!スバルーーーーーッ!!!」
頭が空っぽになった僕の隣で絶叫する亜理紗。
僕だって、そんな風に泣き出すことができたらどんなに楽か。
倒れている桜子さんとサラさんを見て、僕は冷静さを取り戻した。
今は…泣いている場合じゃない。

「亜理紗。今は泣いている場合じゃない。桜子さんとサラさんを起こしてあげないと。」
「うっ……うううっ……無理ですわ……もう、わたくしたちはここで……スバルのように死ぬか、死ぬまでおもちゃにさらるんですわ……!」
駄目だ。
スバルの死をきっかけにしてアリサは完全に絶望して諦めてしまっている。
元々臆病のくせに強がりな奴だから、こういう時弱いんだろう。
「しっかりしろ亜理紗!僕たちは絶対に元の世界に帰るんだ!こんなところで絶望しちゃいけないんだっ!」
「ぐすっ……あやめっ……!」
「今は僕たち2人で、この状況をなんとかするしかないんだよっ……!だから、泣くのは後にしてくれ……お願いだ……!」
ちょっと涙声になっちゃったけど、言わんとしていることは亜理紗に伝わったらしい。
亜理紗は僕の手を掴んで立ち上がり、涙を腕で豪快に拭った。
「彩芽の……言う通りですわね。みんなを守ろうとしてくれたスバルのためにも……こんなところで終わるわけにはいきませんわ。」
涙声だけど心強い声が隣から聞こえる。元の世界に帰るまで、僕らは倒れるわけにはいかないんだ……!


316 : 名無しさん :2017/05/03(水) 15:37:15 ???
「所長、どうします?」
「あの男には追跡部隊を派遣しろ、今回は利用させてもらったが、あまりここで暴れ回られても困る」
「サンプルたちは……」
「幸い、死んだのは優先度の最も低い幼女のみだ。我々の目的はあくまでDTT。研究は続行する。死体は適当に片付けとけ」
「はっ!」


「……くら……さん!……さん!桜子さん!サラさん!」
「ううん……」
私は近くで響く彩芽の声で目を覚ました。確か私は、サラにいかがわしいことをしてる男に激昂して、何も考えずに向かって行って……

「桜子さん……目が覚めたんですのね……う、ううう……」
「アリサ……?なんで泣いているんだ?あの男は……」
「あのおっさんは、どっかに行ったよ……でも、だけど……!」
「一体どうしたんだ2人とも……なんでそんなに泣いて」
私の言葉は途中で途切れる。段々と意識がはっきりとしてきたことによって、周囲の光景がよく見えるようになったからだ。



「――――スバル?」


スバルは床に横たわっていた。ダメじゃないかスバル、そんな所で寝ちゃ……風邪引いても知らないぞ?

「スバル……」

私はふらふらと立ち上がって、スバルに近づいていく。まったく、いつまで経っても子供だな。そんなんじゃ彩芽やサラ、アリサみたいな立派な人間になれないぞ?

「スバル……!」

君がとっても優しい子だってことは知ってる。君がとっても甘えん坊なことも知ってる。スラムでずっと一人で寂しかったから、甘えられる年上にはついつい甘えちゃうんだろ?

「スバル……!スバル……!!」

横たわっているスバルを抱きしめる。ほら、こんな所で寝てるから身体がとっても冷えてるじゃないか。

「なぁ……スバル……起きてくれ……」

なんでこんなに冷たいんだ。なんで目を開けたまま寝てるんだ。なんでその目に何も写していないんだ。

「嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ!!!」

なんで……なんで……なんでなんでなんでなんで!!!!

「ッッ、ああああああああああああああああ!!!!!!」

なんで死んでるんだよ、スバル。

「スバルはあの男から、貴女を守ろうとして立ち塞がって……立派な……立派な姿でした……!」
「桜子さん……気持ちは分かるなんて無責任なことは言えない。でも今は、スバルの頑張りを無駄にしない為にも」
「殺す……」
「桜子さん?」


「ぶっ殺す……!!あの男も……!この状況を作った科学者たちも……!殺す殺す殺す!!ぶっ殺してやるうう!!」


317 : 名無しさん :2017/05/04(木) 12:25:05 ???
遅れて目を覚ましたサラも、己の無力さに打ちひしがれていた。
(正義と平和を守り、悪に虐げられる人々を救う。それが時空刑事の役目だったはずなのに…
誰かを救うどころか、こんな小さな子を危険に晒して、挙句に死なせてしまった)
「……スバル…サクラコ…本当に、ごめんなさい……私に、もっと力があれば…!」

「…この状況を作ったヤツを全員殺すって言うなら…こうなったのは、
スバルをちゃんと守れなかった、ボクらのせいでもある」
「そうですわ。だから…殺すならまず最初に、わたくし達全員を殺してください」
「!!…彩芽…アリサ…」
「二人の言う通りだわ…だけど、できるなら少しの間だけ、私たちの命を預かっていてほしい。
…四人で無事にここを脱出して、あの男を…スバルの仇を、四人で…私達みんなで、討つまでは」
「…サラ……そう、だな…まずは、ここを脱出して…スバルを、ちゃんとした場所で眠らせてあげなきゃ…」

悲嘆にくれながらも、脱出を目指し再び立ち上がった四人。そこに、室内のスピーカーから声が響く。
「ふふふふふ…あのエミリーさえも屠るイレギュラーの男を退けるとは…さすがDTT。
中でも古垣彩芽、山形亜理紗。君たち二人は特に素晴らしい。」

「その声…さっきの科学者達ですわね…!!」

「だが、そちらの被験体はどうやら死亡したようだな。DTT反応も検出されない…こんなクズは蘇生する価値もない。」

「っ……クズ、だとっ!!」
「…ちょっと待った!!今、何て言った!?『蘇生する』って…!?」

「言葉通りの意味だよ、古垣彩芽くん。君たちの世界ではどうか知らないが、この世界では…
我が国のテクノロジーをもってすれば…条件付きではあるが、死んだ者を蘇らせる事も可能なのだ」

「そう言われてみれば…ありえなくは、ないですわね」
「確かに私も、トーメントにいた時、何度も殺され…『蘇生』させられた」
「え?え?…そうなの?…そういうもんなの?……もしかしてサラさんも?」
「ええ。私も、王に捕まった時…それと、闘技場で何回か」
「…そ、そうなの?…そういうもんなの?」
…この中で死亡処女は彩芽だけだった。自慢できるかどうかはさておき。

「そ、それなら…頼む!…今すぐスバルを生き返らせてくれ。私は…その為なら、何だってする!!」
「桜子さん!?その台詞はマズいよ!!…そりゃ、ボク達だってスバルが生き返るなら何でもしてやりたいけど…」
「あんな連中に身を任せたら、それこそ何をされるかわかったもんじゃありませんわよ!?」
「そうよ、サクラコ…それに、あいつらが約束を守るとはとても思えないわ!」
「わかってる…でも………すまない、みんな…それでも、私は……!!」
……桜子の気迫に押され、彩芽達はそれ以上何も言えなかった。
それに…実際このままでは、ワルトゥとの戦いで身も心もボロボロになった4人が、研究所を脱出できる可能性は限りなく低い。

(クックック……なるほどな。絶望の底に沈められた人間が、ほんのわずかでも希望の影をチラつかされたら…
食いつかずには居られない。死体になったクズにもいくらか利用価値はあったという事か)
「いいだろう。ひとまず死体は溶液槽に入れて保存しておく。ただし、4人全員の身柄…それが条件だ。
…すぐに4人を拘束し、『拷問室』へ運べ…実験の最終段階に移る」
「「はっ!!」」


318 : 名無しさん :2017/05/04(木) 15:03:22 ???
「ここが管理室ですわね。アルガスの制御システムがある部屋ですわ。ここをハッキングすれば、監視カメラを無効化できますわ!」
「ねえアイナ……誰に説明してるの……?」
訝しむリザを無視して、アイナは教授から貰ったUSB端子を適当に突っ込んだ。
「教授の開発したハッキング端子ですわ!これでしばらく経てば全システムがダウンしますから、そのあとはリザちゃんも暴れ放題ですわ!」
「了解。」
地図にはサキが囚われていそうな部屋はなかった。監視カメラがなくなれば、地図にない地下を調べることができる……
そんなことをリザが考えていると、突如研究所内は停電し、非常用の灯りがついた。

「成功ですわね。これでマルシェザールの暗殺も、異世界人の確保もやりやすくなりましたわ。」
アイナが満足げにUSBを引っこ抜くと、制御室のドアが勢いよく開かれた。
「貴様ら!何をしているゥッ!!」
「アイナ!私に任せてっ!」
リザは男に向かって跳躍し、両足で男の顔を挟み込む!
「むぐぅ!や、やめろ……!い、いや、太もも柔らかいし、このままでもいいかも…ゲヘヘ。」
「はっ!」
男のセリフは聞かずに、リザは太ももで男の頭を挟み込んだまま回転し、巻き込んだ男の脳天を地面へと思い切り叩きつけた!
「ごぎゃっ!!」

「な、なんと綺麗な幸せ投げ……!リザちゃんにこんな幸せな技をかけられて昇天なんて、このモブ男は運が良すぎですわ!!」
「幸せ投げ……?それよりアイナ、ここから早く離れないと!」
「りょーかいですわ!早くマルシェザールを探しましょう!とりあえず走りますわよー!」
ニヤついた顔のまま気絶している男を踏みつけ、アイナはとてとてと走りながら部屋を後にした。

「さて……」
リザが倒れている男をひっぱたくと、男は意識を取り戻した。
「う、ううん……?」
「時間がないからすぐに質問に答えて。答えなければ殺す。」
リザは冷たい声でそう言い放つと、切れ味抜群のナイフを喉元に突きつけた。
「ひ、ひぃっ!やめろ、やめてくれ……!」
「今日ここで捕まったスパイはどこにいる?」
「ち、地下だ……!地下の1番奥の部屋だ!」
「1番奥の部屋……ね。」
「な、なあ。頼む!殺さないでくれ!俺には妻と娘がいるんだ!」
「……………」
「頼むよ……娘はまだ3歳なんだ。俺が死んだら、妻とあの子が路頭に迷うことになっちまう……殺さないでくれ!おねがいだ……!」
「……私たちのことは、容赦なく殺したり誘拐したり性奴隷にするくせに。」
「え?……がはっ!」
ナイフの柄で素早く首を叩くと、男は小さく悲鳴をあげて気絶した。

(この人が悪いわけじゃない……それはわかってるけど、命乞いをされるといつもイライラする……!)
リザがそう思うのは、自分たちアウィナイトは命乞いなどしたところで、情けなどかけられないから。
命乞いをされると虫酸が走るのは、自分の心の中のドス黒い部分だと、リザははっきり認識していた。
「リザちゃん何してるんですの!?早く行きますわよー!」
「……今行く!」
この心の闇が晴れる日は果たして来るのか。
今のリザには知る由もない。


319 : 名無しさん :2017/05/04(木) 17:55:27 ???
「アイナ、地下に地図には載ってない部屋があるみたい。ひょっとしたら異世界人はそこに隔離されてるかも」
「リザちゃん、最優先はマルシェザールの暗殺ですわよ?」
「研究所長ともなれば、異世界人のDTT計画にも積極的に関わってるだろうから……上手くいけば両方一度に見つけられるかも」
「……はぁー、まぁそういうことにしときますわ。どちらにせよアテもなく探し回るよりは効率的でしょうし」
(もっともらしいこと言ってますけど……やっぱりサキのことで頭がいっぱいみたいですわね。さっきの衛兵にも何か聞いてたみたいですし……)
「アイナ……ありがとう……」

任務を根本から否定するような行動を取っていたら流石にアイナもリザを止めただろうが、あくまでリザは『マルシェザール捜索』の一環としてサキを救出するというスタンスを取っている。
リザの言う通り、異世界人とマルシェザールを両方見つけて一石二鳥となる可能性もなきにしもあらずなので、ここはリザの無茶に付き合うことにしたアイナ。



「あ、そうだ。俺そろそろ行くわ」
「なんだ?最後まで見てかないのか?」
「いやもっと見てたいのは山々なんだけどさ、そのスパイちゃんが捕まる直前に壊してた携帯あったろ?あれの復元してどこのスパイか割り出そうと思ってな」

Dの残した水滴拷問装置によって、今もなお呻いたり痙攣したりしているどこかの美少女スパイ。その姿に満足して忘れかけていたが、そもそも自分たちの目的はこのスパイがどの勢力の手の者か口を割らせることだった。……俺としたことがぬかったぜ。

「ってなわけで、じゃあな」
「ああ、頼んだぜ」

そう言って真面目な兵士は出ていく。アイツも真面目だよな。携帯の復元なんかいつでもできるんだから、もっと美少女スパイの苦しむ姿を見ていけばいいのに。

「俺、アクアリウムの認識をちょっと改めるわ……これはすげぇ」
「なぁ、携帯の復元が終わってコイツの身元が割れたらさ、その後どうする?」
「どうする?って……用済みになったスパイに対してやることなんて一つしかねぇだろ」
「へっへっへ……それもそうだな」
「ぐへへ……」
俺とリックが下卑た笑いを浮かべていると、急に扉が開いた。

「なんだ真面目くん、忘れ物でも……な!?」

俺の言葉は途中で驚愕に変わる。扉から出てきたのは……見たこともない美少女だったからだ。


320 : 名無しさん :2017/05/04(木) 20:17:28 ???
「お?なんか変な機械がありますわね。それに、あそこで横になって喘いでるのは……」
「あれは……サキ……?」
アイナとリザが入った部屋には、兵士3人と目隠しをされて横たわっている少女が苦しそうに喘いでいた。
ピチョンッ!
「うあぁっ!……あ、あ……!」
機械から水が垂れて額に直撃した瞬間、少女は苦しそうに身をよじって喘ぎ始める。
その声を聞いたリザは、その少女がサキだとすぐさま確信した。
「だ、誰だ君達は?うちの署員の娘かなんかか?こんなところまで入ってきちゃダメだろう!」
「まったく……それにしても、2人とも可愛いねえ。お父さんは誰だい?」
「ふん。子どもだからって甘く見ないでほしいですわ!アイナたちは……」
アイナが無駄なおしゃべりを始めようとした瞬間、男たちは腹を抑えて倒れ込んだ。

「ぐああああっ!!、さ、刺されたああああっ!」
「こ、この金髪のガキ……能力者だ……!」
素早い動きで全員の腹部を思い切りえぐり出した後、リザはすぐさまサキへと駆け寄った。
「え……アンタは……」
「サキ……!今助けるから……!」
拘束具を魔力で強化したナイフで引き裂いて、目隠しを外す。
そこにあったのは……涙と鼻水でぐちゃぐちゃになったサキの顔だった。


321 : 名無しさん :2017/05/04(木) 21:15:28 ???
「り……ざ…なん……で」
「もし捕まったら、絶対助けに行くって言ったでしょ」
(サキがなんで私のことを憎んでいるのか……それは分からない。分からないから話を聞きたいけど……とりあえずそれは一区切りついてからでいい)
サキの顔を懐から取り出したハンカチで拭きながら、リザは優しく語りかける。

「ふー、やっぱり真っ先にサキを助けることになっちゃいましたわね……サキ!リザちゃんに感謝なさい!貴女がリザちゃんにしょーもない嫌がらせをしてたってのはヨハンが喋ったにも関わらず、リザちゃんは貴女を助けることしか考えてなくって」
「アイナ、今はその話は止めて。サキ、動ける?」
「な、なんとか……」
(く、く、屈辱だわ……!まさかよりによってコイツに助けられるなんて……!ていうか絶対バレてないと思ってたのにヨハン様にバレてたなんて!)
サキの心は色々と煮えたぎっていたが、今はわだかまりをひとまず置いておくべき状況であることも分かっている。

「サキ、話したいことも聞きたいこともたくさんあるけど……今は帰ろう」
「あのー、リザちゃーん?任務忘れてませんよねー?マルシェザールの暗殺と異世界人達の確保を忘れてませんよねー?」
「あ、それなら……」
そう言ってサキは腹を押さえてうずくまっている兵士たちに近づいていき……思いっきり蹴っ飛ばした。

「おぐぇ!」
「ククク……よくもまあ散々甚振ってくれたわねぇ……」
「ひ、ひぃ!」
「マルシェザールはどこにいる……?答えないと、アンタには私と同じ……いえ、それ以上の目に遭ってもらうわよ……クククク……」

嫌がらせはバレてたっぽいし、ぶっちゃけこれ以上リザとアイナの前で猫被っても意味なさそうなので、素で兵士に尋問する。

「なんて裏表の激しい……なんか少女漫画に出てきそうなキャラですわね」
「……」

「しょ、所長は今いない!諦めて帰ることだ!」

ブッブー!

噓発見器が音を出す。

「あ、やべ」
「拷問道具のせいで却って自分の首を締めるとは……因果応報とはこのことね!オーッホッホッホ!!」

「応報だけにオーッホッホッホ」
「アイナ、ちょっと黙ってて」

「さぁ、次答えなかったら……どうなるか分かってんでしょうねぇ?」
「しょ、所長は実験室でDTT実験中だ!だが、実験の最終段階ではここの隣の拷問室にくる!ただし選りすぐりの護衛つきでな!はっきり言ってお前らに勝ち目はない!」
「ふん……それだけ聞けば十分、よ!」
「おっぐは!」
鋭いローキックでうずくまっている兵士の頭部を蹴りぬき、意識を刈り取った。

「選りすぐりの護衛……ステルス、テレポート、変装の3人相手に、そんなもの意味ないっての」
「……早く終わらせよう」
「色々言いたいことはありますけど、戦力が増えた状態で本来の任務に当たれるからよかったということにしときますわ!」


322 : 名無しさん :2017/05/04(木) 23:26:21 ???
彩芽、アリサ、サラ、桜子の四人は、リザ達が踏み込んだ第1拷問室の隣、第2拷問室で、怪しげな機械に拘束されていた。
そして四人の前に立っているのは、研究所長のマルシェザール。

「…では、早速始めようか」(何やら隣が騒がしいようだが…まあ、何かあれば警備から報告が来るだろう)

「その前に…約束しろ。実験が終わったら、必ずスバルを生き返らせると。それと…その実験とやら、私がすべて一人で受ける」
桜子は拘束ベルトのついた大型ベッドに寝かされたまま、気丈にマルシェザールを睨みつける。

「くっくっく…随分と身勝手な言い草だ。だがいいだろう…実験に協力的なのは願ってもないからな」

「桜子さん…なんでだよ……そうやって、自分ばっかり背負い込んじゃだめだって、言ったばかりじゃないか…」
マルシェザールの不気味な笑みに、彩芽は改めて不安を覚えた。
亜理紗やサラは戦える状態ではなく、桜子もろくに抵抗しなかったため、あの後やって来た警備ロボたちに
四人はすぐ捕らえられてしまったが…自分だけでも、最後まで抵抗するべきだったのだろうか。

「先程の実験では、多少の波乱もあったが…君たち自身が危機に瀕した際、DTTが実際に発動し、
『最小限の犠牲で』破滅の運命から逃れることが出来ると立証された」
「……っ!!」
「その主な理由は、君たちが異世界人であり…この世界の運命とでも呼ぶべき物から、外れた存在だからだ。
そこで、一つの仮説が成り立つ。君たち自身だけでなく、君たちを元にしてコピー体を作ったとしたら…
そのコピー体もまた、この世界の運命から外れた存在と言えるのではないか、と」

マルシェザールは、自説を熱心に語りながら端末を操作し続ける。
桜子の身体は拘束ベッドごと起こされて、頭にはヘルメット型の機械が装着された。
「…何を、するつもりだ…!?」
「君の記憶は、既にスキャンさせてもらった。そのデータをもとに、仮想空間に君のコピー体を作り出す…
ただし、コピーと言っても実験用の不完全な物だから、仮想空間内で受けたダメージは、君自身の脳にもフィードバックされる。
そのつもりで、必死で戦う事だ…と言っても、戦うのは君のコピーなのだが。
そして、対戦相手は…君の記憶の中で、過去に最も苦戦し、最も無惨な敗北を喫した相手…」

「っ……まさか…アイツか…!!」
マルシェザールの言葉に、桜子の顔色が瞬時に変わった。その時の記憶が蘇ったのか、拘束された手足もガタガタと震え始める。
そのただならぬ様子に、彩芽とアリサは思わず訝しんだ。
「桜子さんが、あそこまで恐れる相手って誰なんですの…!?」
「ぼ、ボクにもわからないよ!…過去に負けた相手っていうと……もしかして、篠原唯かな?」
「え!?…篠原唯って、…え?…」
…アリサは予想外過ぎる名前を耳にして驚愕した。だが……どうやら、桜子が恐れているのは、別の人物であるらしい。

「やっ……やめてっ!!…アイツを…アイツらを、またサクラコと戦わせるなんて…!」
「え。サラさん、知ってるの…?」

「くくくく……そうだな、サラくん。記憶データによれば…あの時、君も一緒に戦ったそうじゃないか。
折角だから、やはり君にも参戦して貰おう。サラくんと桜子くんの、地下闘技場での最初の試合…
それは、タッグマッチ形式で行われた。対戦相手は…王下十輝星『カペラ』と『ベテルギウス』…!」


323 : 名無しさん :2017/05/05(金) 12:19:52 ???
「おう、任せたぞ。」
ベテルギウスの捜索をリザに任せて、俺はスマヒョの通話終了ボタンを押した。
「あーあ。リザのやつ早くどっかで適当に死んでくれないかなー!」
アウィナイトの保護なんていう慈善事業は俺様の未来予想図に入ってない。
ライラに殺してもらえればと思ったが、現実は思った通りに叶えられていかないもんだ。

「王様。何か考え事ですか?」
「ん?まあな。」
フースーヤが心配そうな顔で俺様に話しかけてきた。
よく見るとこいつ、可愛い顔しているな。声も高いし、見た目だけなら女の子みたいな可愛らしさだ。
ついいじめたくなるが、俺様に男をリョナる趣味はない。

「さっき話が出たついでに、ベテルギウスに連絡をしたら消息がつかめなくなっていてなぁ。リザに調査を頼んでおいた。」
「消息不明……ですか。リザさん1人で大丈夫でしょうか?僕も行きましょうか?」
「なんだぁ?むさ苦しい城を抜けてリザと2人になってイチャイチャしたいってか?フースーヤ君。」
「え、あ、いや、そ、そんなつもりじゃ……!」
ふん。慌てちゃってカワイイ奴だ。まあこいつはそんな理由で動く奴じゃないだろう。城の中は退屈なのと、ただ単にリザを心配していると見た。

「冗談だよフースーヤ。でも調査はリザ1人で問題ない。あいつは優秀だからな……」
「そ、そうですか……」
「そんなに暇なら……お前も捕まえた奴隷をリョナって憂さ晴らしをしたらどうだ?ケケケ!」
「え……リョナって、て……僕がミントさんにやった……?」
「そうそう。女をボコボコにすることだよ。退屈なときやむしゃくしゃした時になるとスカッとするぞ。城の地下にはいろんなタイプの女の子が捕まってるからな。」
柳原舞はサキの他の任務でいないし、エミリアはリザのオヒキ兼城の雑用をしてもらっている。
となると……特にカワイイ子はアイセの奴か鏡花ちゃんになるか。

「市松鏡花なんかどうだ?お前のお姉ちゃんの友達だろ。お前を苦しめてきたルミナスの魔法少女で、知っての通りパイオツカイデーの美少女だ。リョナるにはうってつけだぞ。ヒヒヒヒ!」
「鏡花さんを……僕が……!」
フースーヤの目の奥が輝いた。こいつはミントをリョナった時、気持ちよかったと言っていたからな。あの快感をもう一度楽しめるのだから、断る理由はないだろう。
「身バレしたくないなら、お面でもボイチェンでも使えばいい。拷問器具もいろいろ揃っているから、好きに使え。あ、事に及んでる時の様子は全てカメラを回して、後で俺様に見せるようにな。ヒヒヒヒ!」
「……わかりました。ありがとうございます。王様。」

歪な笑みを浮かべながら、フースーヤは地下に降りていった。
はてさて、フースーヤはどんなリョナり方を見せてくれるのか……今から楽しみだ……!


324 : 名無しさん :2017/05/05(金) 13:17:53 ???
【名前】ロゼッタ
王下十輝星の一人である女性で星位はカペラ。年齢は22歳。謎めいた意味深な発言やそれっぽいポエムを連発するが、特に意味はないことが多い。一言で言えば不思議ちゃん。
魔力で練った不可視の糸を用いて相手を拘束したり切り刻んだりする。糸を自分の周囲に巻いて即席の盾にすることも可能。
基本的に相手は何が起こったのか分からないうちに敗北するため、彼女の実力は未だ未知数との声が高い。



「苦く消し去りたい記憶、思い出の残照、断ち切れぬ過去……人はそのいずれからも逃れることはない」
仮想空間に降り立った気だるげな目をした女性……カペラは早速意味深なポエムをかましていた。

「あ、あ、あ……」
同じく仮想空間に降り立った桜子の足は震えていた。前回、デモンストレーションと称して戦った際、何が起こったのかも分からないまま切り刻まれたのが頭から離れない。

「しっかりしてサクラコ!アレは所詮まがい物よ!」
それを言うと自分たちも十分まがい物なのだが……だが、サラは勝機はあると見ていた。アレは自分たちの記憶から産まれた者。ということは、自分たちの知らない技や能力を使うことはない。少なくとも、実際の王下十輝星よりは弱くなっているはず……




【名前】アイベルト
王下十輝星の一人である男性で星位はベテルギウス。年齢は24歳。英雄願望や承認欲求、自己顕示欲の塊で、回りから凄い奴だと思われたい、というのが基本的な行動原理。味方からは頼りにされ、敵からは恐れられるような男が目標。
剣や斧、槍、弓、といったあらゆる武器を使いこなし魔法も全属性扱えるが、何より厄介なのはその瞳に宿る異能。戦闘時には瞳が赤く発行し、数秒後の未来を写すことができる。
相手の次の行動が分かっているため、彼はどんな攻撃も簡単にいなすと言われている。


「俺を恐れろ、俺に恐怖しろ!」

「く……」
サラの脳裏に苦い思い出がよぎる。こちらの攻撃を全て分かっているかのように避け、あらゆる攻撃であらゆる痛みを与えてきた相手………



『ほぉ、王下十輝星のカペラとベテルギウスはこんな奴らだったのか……ククク、思わぬ収穫だな………では、バトルスタート!』

仮想空間に響くマルシェザールの声が、悪夢の再来を呼ぶ笛の音だった。


325 : 名無しさん :2017/05/05(金) 14:23:06 ???
「私たちは幻……私たちは夢……私たちは紛い物……じゃあ、貴女たちは?」
ロゼッタが腕を一振りすると、不可視の糸が桜子を襲う!

「っく!」
その場に留まっていては攻撃を喰らう……桜子は右に大きく跳んで不可視の攻撃を躱すが、まるで『そこに移動することが分かっていた』かのように、アイベルトがそこに魔法を放っていた。

「バーンストライク!」
「しま……がああああああ!!」
「なぁ今の見たか!?見たよな!まぁ俺ほどの男になると、こんくらい出来て当然だけどな!」
「この連携も仮初……本当の私たちじゃない……」
「ぐぅうううう!?」
「サクラコ!?」

火の上級魔法でその身を燃やされ、そこに魔力製故に火にも強い糸で拘束される桜子。実力差を考えれば至極当然ではあるが、サラと桜子は早速ピンチであった。

「すぐに終わらせるのは駄目……たっぷりイジメてあげる……ねぇベテルギウス、お願いが……」
「みなまで言うな!俺ほどの男になると、相手の言いたいことを察するのも得意だからな!死なない程度にあの金髪を止めとくから、お前は好きに遊んでな!」
「ふふふ……ありがとう……流石に気が利くわ……」
「よせやい、そんな当たり前のこと言うなよ……俺ほどの男になると当然とはいえ照れるぜ!」

「さぁ……いつかの悪夢の続きを始めましょう……名も知らぬ女剣士……」
「や、止めろ!離せ、離せぇえええ!!」
「まずは少しずつ……その柔らかい肌に……糸を食いこませていく」
「ひ!」

前回戦った時も、男の方に動きを読まれて攻撃され、女の方にその隙に拘束されて嗜虐の限りを尽くされた。
知らず知らずのうちに足が震え、歯がカチカチと鳴っていた。

「段々血が滲んできた……私の魔力に……貴女の血が染み込んでいく……まるで砂が水を吸い込むみたい……」
「っつ!痛…!」
「大丈夫……今に痛いじゃすまない程キツくしてあげる……」

「サクラコを離しなさい!閃甲!」
「よせよせ!俺ほどの男になると、ダメージを与えずに足止めだけしとくのも簡単だ……お前は後でリョナってやるから、大人しく仲間が苦しんでるのを指を咥えて見てな!」
アイベルトの腕から闇のオーラが現れ、彼はその中から槍を取り出す。

「それは、あの黒づくめの女の子が使っていた……!」
「俺ほどの男になると、あらゆる武器を使いこなせるからな……この収容魔法は色々と便利だぜ!」


「ぐ!あああああ!!ぎゃああああああ!!」
(い、痛い……身体中が痛いぃいい!!)

不可視の糸でギリギリと締め付けられ、締め付けるだけでなく糸が食い込んで血がどんどん流れていき……桜子の全身には言い知れぬ激痛が走っていた。

「仮初の空間……仮初の身体……なのにどうして痛いの?どうして苦しいの?その痛みは本当?その苦しみは本物?」


326 : 名無しさん :2017/05/05(金) 15:52:48 ???
「ぐああああああ!!いあああああああ!!」

「うーむ、いくら十輝星のコピー相手とはいえ、ここまで一方的な展開になるとは……やはりただの異世界人とDTTには埋めがたい差があるようだな」
「もう分かっただろ!?それ以上桜子さんとサラさんを甚振っても無駄だ!研究ならDTTの……ボクや亜理紗にすればいいだろう!」
「そうはいかない。普通の異世界人でも何かの拍子にDTTに覚醒する可能性も捨てきれないからな……この実験はそれを確かめるためでもある」



「ふふふ……ふふふふふ……!」
ロゼッタが指をクイ、と動かせば、それに連動して魔力の糸も動き、より強く桜子の身体を締め付ける。糸はその柔肌に容赦なく食い込み、その気になればすぐにでも身体を両断できることを伺わせた。

「確か前は……生きたまま少しずつ食い込んだ糸に身体を両断されたんだっけ……」
「い、痛い……痛い痛い痛い!!」
「痛みは人を弱くする……営みは人を増やしていく……じゃあ、人を強くするのは、なに?」
「あ、あああ、か、身体が、痛いぃい……」
「もう一度貴女を真っ二つにしたら……どうなるのかな」


「はぁあああ!!」
「おっと危ない」
「たぁあああああ!!」
「おっとっとっと」
サラの攻撃を躱し、たまに手に持つ槍でいなし……アイベルトは完全に遊んでいた。

「く……真面目に戦いなさい!」
「俺ほどの男になると、滅多に本気出す必要もないんだなこれが。ほら見ろよ、あの女の絶望した顔……前と同じ死に方するだろうなぁ可哀想に……あ、俺ほどの男になると戦闘中によそ見しても全然平気なんだよな」
「どこまでも馬鹿にして……!その足元を掬ってやるわ!」
「まったく……ならちょっと痛い目見てもらう……ぜ!」
「が!?」

アイベルトはサラのアーマーを槍で穿つ。だが、それだけでは終わらなかった。

「ダークストレージ、オープン!」
アイベルトの周囲に闇のオーラが浮かび、その中から大量の武器が現れる。

「槍で一点集中攻撃!斧でひたすらパワー重視!剣でバランスよく!メイスで斬るのではなく殴打!俺ほどの男になると、全部完璧に扱えるぜ!」

黒いオーラから武器を取り出し、黒いオーラに武器をしまい、また取り出し……あらゆる武器を演武のように扱いこなして、サラに色々なダメージを与えていく。


「ぐ……!あ、アーマーが……!ぐぁあああああああ!!」


327 : 名無しさん :2017/05/05(金) 16:31:42 ???
「ぐああああああっ……!あ゛あ゛……っ!」
拘束されている状態では抗う術もなく、
ロゼッタの糸がギリギリと桜子の肌に食い込んでいく。
「縦の糸はあなた……横の糸は私……織りなす糸は、いつか誰かを温めうるかもしれない……」
「ぐあ、あっ、あが……!や、やめ゛でぐれ゛……し、死ぬ゛……!」
「死ぬ?それは体?それとも心?それとも尊厳?それとも夢?それとも現実?それとも……この世界?」

ロゼッタが質問をするたびに糸はギリギリと桜子を締め付ける。
それはまるで、彼女の質問に答えなさい、という痛みを伴う催促のようだった。
「あぎいいいい……あ゛んっ……っ!うぐうううあああああ゛あ゛あ゛っ!」
「気持ちいいの?苦しいの?私にはわからないけれど……そういう声を上げるあなたを見ているのは、とっても楽しいわ……!」

ギギギギギ……!
「あがあああ゛っ!さ、裂ける゛っ!体が……こ……壊れ゛う゛……っぐううっ!」
締め付ける糸の力はさらに強まり、桜子の体ももう限界だった。糸の食い込んでいる皮膚が裂け、大量の血が全身から流れ出していく。

「罪の皮から流れる赤……終幕の時は近い。全ての赤が流れた時、あなたは何を思うのかしら……」
「あ゛、あ゛、ああ゛……も、もう……だめ……!」
「……でも最後に……あなたという存在を、私にしっかり刻み込ませて。」
そう言うとロゼッタは、桜子の唇に自分の唇をそっと重ねた。
「んむっぐ!?」
「前は忘れてたから……でもこれで満足。あなたのことは、忘れるまで忘れないわ。……さようなら。」
グイッ!!!
「あがあぁっ!ぐあああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーーーッ!!!」
ロゼッタが強く糸を引くと、桜子の体がどす黒い真紅に染まった。



「こっちは死んだか。確か……春川桜子だったかな。」
人間の声とは思えない絶叫をした桜子は、そのままがっくりと項垂れた。
「そ、そんな……桜子さん……!」
「心配しなくても蘇生することは可能だ。だが……こいつは蘇生する価値もないかもしれんな。」
「こ……こんなことって……スバルに続いて、桜子さんまで……結局わたくしは、何1つ守れないというの……?」


328 : 名無しさん :2017/05/05(金) 17:30:31 ???
「さて、ダッサイアーマーは剥いたし……」
「ぐ、う……」
アイベルトは彼の連撃によって横たわっているサラに近寄ると、髪を掴んで無理矢理立たせた。

「ぐ……!」
「言え、ベテルギウスのアイベルト様はとても強くてカッコよくて卑小なこの私では手も足も出ませんでしたと言え!」
「な……あまり私を舐めないことね!そんなこと言うわけないわ!」
女性としてはかなり長身のサラだが、アイベルトの方がサラより数センチ背が高いのでサラは彼に見下ろされる形となる。
燃えるような短髪の赤毛をしたアイベルトの灰色の瞳に睨みつけられても、サラは毅然とした態度を崩さない。

「へ……強情な……まぁ俺ほどの男になると、相手に望まないことを無理矢理言わせるのも簡単……」

「あがあぁっ!ぐあああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーーーッ!!!」
と、その時、桜子の断末魔の悲鳴が響きわたる。

「おいロゼッタぁ……せっかくその女を人質にして俺好みの台詞を言わせようとしてたのに殺すなよぉ……」
「……せっかく、名前で呼ばずに星位で呼んでたのに……今ので名前がバレた……でもどうせ仮想空間だから意味のないこだわりだった……?じゃあ意味のあるこだわりってなに……?」
「俺たちほどの王下十輝星となると、名前バレ程度気にしなくていいっつーの!まぁしゃーないか……」

「い、今の声は……サクラコ!?う、ウソ……貴女がそんな簡単にやられるなんて……!」
「俺たちほどになるとあんな雑魚、赤子の手をひねるより簡単に」
「よくも、よくもおおおおお!!」
「最後まで言わせろ!」
「ガハ!?」
激昂して殴りかかってきたサラに逆にパンチして沈めるアイベルト。

「……飽きた。アイベルト、お願い」
長い紫色の髪をかき揚げるロゼッタの同色の瞳は気だるげだ。身長は160cmくらいしかないので威圧感はないが、何を考えているのか分からない謎めいた雰囲気は不思議と人を警戒させる。
薄いピンクがかった白い服は、桜子の返り血を浴びて真っ赤に染まっている。

「了解、と!」
アイベルトが紺色のマントを翻したと思うと……剣、槍、斧、棍棒、メイス、銃、さらには火魔法、水魔法、雷魔法、風魔法、闇魔法、光魔法……あらゆる攻撃がサラの腕を、足を、腹を、肩を、腰を打ち抜いていく。

「う、は、あ、が、ぎ、あ、ぐうう!?」

「さて、俺の望む台詞を言えば楽に死ねるし、ひょっとしたら助かる可能性もある。後は、俺の言いたいことは分かるな?」
「が、は……ゲホ!ゲホ!私は屈しない………アンタみたいなナルシスト自信過剰男は、必ず足元を掬われる!」
「へ……随分つまらん捨て台詞だな。俺ほどの男になると、妬みやら僻みは一々気にしないが……今のは気に食わねぇな!」

「あ、ぎ、ぐ……うあああああああああ‟あ‟あ‟あ‟!!!!」
アイベルトのありとあらゆる武器が火を噴き、命を奪っていった。


329 : 名無しさん :2017/05/05(金) 21:28:30 lCNEjBfA
信じられないことに、サラさんまでもが凄まじい悲鳴をあげて動かなくなってしまった。

「やれやれ、まさかここまであっさり死ぬとは……やはりDTT以外の異世界人はやや運が良いという程度でしかないか」
「そ、そんな……!」
「蘇生技術があるのでしょう……なら、なら早くスバルと桜子さんとサラさんを蘇生しなさい!」

亜里沙が泣きそうな声で、でも毅然と言い放つ。そうだ、アルガスの蘇生技術。それがあればみんなを生き返らせることも……

「研究対象として有用なら喜んで蘇生しよう。だがはっきり言って、あの三人にそこまでの有用性はない。蘇生だってタダじゃないのでね」
「ふ、ふざけるな!話が違うじゃないか!」
「はて、そうだったかな?最近物忘れが激しくてね、忘れてしまったよ。おい!」
「はっ!」

マルシェザールが声をかけると、近くにいた兵士が乱雑に『何か』を投げた。それは……培養液で保存されていたはずの、スバルの亡骸であった。

「な……!スバル……!?」
「培養液に入れてたんじゃ……!」
「言っただろう、最近物忘れが激しいんだ。一被験者の死体処理程度、多少のミスがあっても不思議じゃないだろう?」

つまり……つまり最初から、この男はスバルを蘇生するつもりなどなかった。ボクたちを騙して、都合よく実験に協力させようと……!

「許せない……!人の命を、一体何だと思っているんだ!?」
「これほどまでに……!これほどまでに怒りが湧いてきたのは、アルフレッドを除けば貴方が初めてですわ、この外道!」
「なんとでも言えばいい。君たちは既に拘束され、我々に抵抗する術はない」

悔しいが、確かに今のボクたちに抵抗する手段はない。せめて、この部屋に連れて来られる前に、ボクだけでも抵抗していれば……!そもそも、アルガスなんかに来なければ……!

「この世界は弱肉強食。弱い者は大人しく搾取され、強い者の礎になるしかないのだ」

コイツ……コイツコイツコイツ!!


その時、部屋にノックの音が響く。

「所長、少々よろしいでしょうか?」
「なんだ、実験中だぞ」
「申し訳ありません。こちらで捕らえているスパイの抵抗が思いのほか激しく、所長の手をお借りしたい状況にありまして……」
「まったく、さっきから騒がしかったのはそれか……手を借すのは構わないが、多少の減給は覚悟しておけよ?」
「は、申し訳ありません」

ノックの後に、アルガスの兵士と思しき者の声が響く。どうやら他の拷問室にも捕まっている人がいるらしい。
願わくばその人だけでもこのクそったれ研究所から抜け出せることを祈るが……現実問題として難しいだろう。

そしてマルシェザールの護衛の兵士が扉を開いた時………信じられないことが起こったんだ。


330 : 名無しさん :2017/05/06(土) 02:05:06 ???
フースーヤはしかも脳波コントロールできそうな人がつけてそうなフルフェイスの仮面及びボイスチェンジャーという完全装備で、一松鏡花のいる特別牢を訪れていた。

「だ、誰……?アトラ君……?」
一松鏡花は魔封じの鎖で拘束されてはいるものの、トーメント王国の捕虜としては破格と言ってもいい程の好条件で囚われている。暖かい毛布や美味しい食事、暇を潰す娯楽本などをアトラがせっせと運んでいたからだ。

「アトラさんが捕虜の魔法少女にご執心という噂は本当だったみたいですね……」
「……!アトラ君じゃないわね!」
身バレしないか少し緊張していたフースーヤだが、この完全装備なら流石にバレる方がおかしい。フースーヤの正体には気づいていないようである。

「さて、カメラを起動して……と」
「私をどうするつもり……真凜にやったみたいに、酷いことする気!?」
「あー、そう言えばなんかソッチ方面の責めを受けたらしいですね……安心してください、そういうことはしませんよ……ただ、甚振りはしますけどね」
「!?」
フースーヤはカメラを設置し終わると、鏡花の顎を乱暴に掴んで顔を持ち上げる。

「『ポイズンクラウド』」
「!?毒魔法!?」
毒ガスを近距離に散布する基本的な毒属性の魔法を使う。この毒ガスは近くで吸わせないと効力を発揮しないため、普段は風魔法で敵に運んで無理矢理吸わせているが……この距離なら関係ない。

「っや!」
毒ガスを吸うまいと必死に顔を背けようとする鏡花だが、フースーヤが顎をがっしりと掴んでいるせいでそれも叶わない。

「う……ゴホ、ゴホ!げ、ゲバ!おぅえ!」
毒ガスを吸ったことで、しばらく苦しんでから吐血する鏡花。
(普段あんなに凛としてた鏡花さんが、ポイズンクラウド一つで汚く血を吐いてる……!)
もっと魔力を込めればもっとあられもない悲鳴をあげるような毒も作れる。だがひとまずは、こうやって吐血させるだけに留めた。

「今のはまだまだ弱めの毒ですよ……そんなんで大丈夫なんですか?」
「ど、毒魔法……なんて……」
「おっと、ルミナスでは毒魔法は、邪術や禁呪程じゃないにしても禁忌扱いでしたっけ?」
わざわざ聞かずとも知っているフースーヤだが、身バレ予防も兼ねてあえて問う。

「ゲホッ、ゲホッ!そうよ。こんな風に、残酷なことを簡単にできる魔法は、英雄カナン・サンセット様が禁じたのよ!」
ちなみに、カナンは別に毒魔法を禁じたわけではなく、その危険性故に良識ある上位の魔法少女以外の使用をあくまで非推奨としただけだが……それは長い歴史において曲解されてしまっていた。

「こんなに便利なモノを自分から封じるとは……英雄って人種の考えることは分かりませんね」
「君みたいな人が……君みたいな人がいるから……毒魔法は危険性にばかり目がいって……良識のある毒使いを目指す男の子は……フウヤ君は……とても苦しんで」
それを聞いた瞬間、フースーヤはいきなり鏡花の顔面に強く強く殴りかかった。

「ぶ!」
「違うな……その毒使いの少年が恨むとしたら、風評被害をばら撒く残酷な毒使いではなく、正義を押し付ける勝手な魔法少女たちだ」
「ぐ……何を……魔法少女はみんな、清く正しい!光達の想いは……押し付けなんかじゃない!」
「魔法少女は清く正しい……まったく、その通りですよ」
「え?」
「でも、清くて正しいだけじゃ生きていけない人もいるんだ……!」

フースーヤは……フウヤ・トキワは魔法少女の中において珍しい少年戦士だ。女だらけのところに順応できなかった。
きっとそれだけなら、ちょっと浮いてる男の子というだけだったろう。しかし不幸にも、フウヤに適正のある魔法は風と毒であった。
そして幸か不幸か、一部の裏ワザ染みた手法を除いて基本的には不可能とされる単独での複数の属性の融合……言うなれば一人合体魔法を使える特殊体質であった。

ルミナスの歴史を紐解けば男性の魔法戦士というのは珍しくはあっても決してあり得ない存在ではないことがわかる。そして彼らは往々にして魔法に関する何かしらの特殊体質を持っていた。特殊体質故に男性でも魔法戦士足りえる魔力を持っているというのが通説ではあるが、詳しい原理は分かっていない。
ただ、フウヤにとって不幸だったのは、適正のある魔法が風と毒であったこと。そして一人で合体魔法を使える特殊体質だったことである。


331 : 名無しさん :2017/05/06(土) 02:06:42 ???
強力ではあるが攻撃範囲の狭さから扱いにくい毒を、風で相手まで運ぶ。はっきり言って、危険かつ非人道的なことを簡単に行えてしまう魔法だった。
そこでルミナスが選んだのは……その能力を飼い殺しにすること。フウヤには風魔法だけ使ってもらって、あまりにも危険な能力は封印しようというのだ。

理性ではルミナスが正しいと分かっていた。危険で非人道的な力を振るうのは間違っているのだと、理性では分かっていた。
だが、フウヤは男の子であった。自分の力を十全に振るいたかったし、思いっきり得意な魔法を使いたかった。

毒だって立派な魔法だ。自分の得意とするれっきとした魔法だ。なのに毒を使えばお行儀の良すぎる魔法少女たちに批判される。男一人で信頼できる友人もいない。フウコは……姉は守ってくれない。あくまで冗談半分ではあるが、フウヤが女の子だったらよかったのにと言っていたのを聞いたことがある。

だから、だから少年は、自らの中に鬱憤を貯めていった。きっかえさえあればルミナスを裏切る程に。

「君は一体……?」
「ちちんぷいぷい……」
鏡花の問いかけを無視して詠唱を始めるフースーヤ。これ以上下手に話したら正体がバレるかもしれない。
そして鏡花は疑問に思う。その詠唱は初級の回復魔法のものだ。なぜこの状況でその詠唱をするのか……?その疑問はすぐに晴れることになる。

「イタイイタイ病になれ!」
イタイイタイ病。それは四大公害の一つであり、日本において最初に発見された公害である。患者は病的骨折による激痛に悩まされることになる。

そのイタイイタイ病を相手にかける魔法。名付けて『ペイン・シック・フロスト』。これは教授の研究書に書いてあった公害を見て、そこから実験に実験を重ね、最終的にヨハンとの訓練を経て完成したフースーヤのとっておきの魔法である。

「イタイイタイ病……?嘘でしょ……?」
「暴れない方がいいですよ……自分から骨折したくなければ」
そう言ってフースーヤは(仮面に隠れて見えないとはいえ)歪んだ笑みを浮かべる。

「殴って骨を折る感覚……ミントさ……ミント・ソルベットで初体験して以来、ご無沙汰でしたから……貴女で楽しませてもらいます」
「ミントさん……?ミントさんに何をしたの!」
「答える必要はありませんね……あ、そうだ」
急にフースーヤは佇まいを正すと、鏡花を正面から見据える。

「ちょっと照れますが……決め台詞ってのも、男の子の夢ですからね。せっかく王様に考えてもらったわけですし」
「何を……」
「魔法少女リフレクトブル―ム、一松鏡花……僕は貴女を、告訴する」

その直後、骨が折れる音と少女の悲鳴が、牢屋に響き渡った。


332 : 名無しさん :2017/05/06(土) 16:21:19 ???
それは一瞬の出来事だった。
「ぐおおっ!な、なんだ貴様らは!?」
マルシェザールが扉を開けると同時に、アリサの2Pカラーみたいな女の子がマルシェザールを組み伏せた!
「悪いけど……死んでもらう。」
「なっ!や、やめろ!やめ……ぐぎゃああああああああああああああーーーーーー!!!」
金髪ショートの女の子は、命乞いも聞かずに首を切り落としてしまった。

「うぷっ……!く、首、首が……おえええっ!!!」
グロ耐性のない亜理紗が胃の中のものを吐き出した。結構1人で旅をしてきたみたいだけど、今まで人間と戦ったことはあまりなかったようだ……
いつもやっていたゲームのおかげでアリサよりはグロ耐性が付いている僕も、思い切り吐きそうになったのをぐっとこらえて現れた奴らを見据える。
「リザちゃん!もう一回フランケンシュタイナーをやってってお願いしたではありませんの!どうしてやらなかったんですの!?」
「……こいつは確実に殺さないとダメだから、気絶させるだけじゃダメだと思って。」
「んもう……もう一回リザちゃんの幸せ投げをじっくり見て動画に残したかったのに……」
「……それより、捕獲対象の異世界人ってこいつらでしょ。……ププ、なんかもうすでに捕まってるわよ。」
マルシェザールを暗殺した金髪ショートの子に加え、おしゃべりなアリサ口調のピンクと、僕たちを笑った黒髪の女の子は……!

「沙紀!?沙紀なのか!?」
「沙紀、どうしてあなたがここに!?」
私を見て声を荒げる2人……確か、彩芽と亜理紗だったかしら。友情を壊してあげたはずなのに、どうやら仲直りしているみたい。
「サキの知り合いなの……?」
「まあ、私が昔こいつらを絶望させて精神的に参らせた後にこの世界に連れ込んだのよ。……フフ、今となってはどうでもいい話だけどね。」
「彩芽……あの事件の黒幕が今はっきりわかりましたわね……!」
「そうだな……!沙紀!僕たちの関係を壊したのはお前が全部仕組んでたことなんだろっ!」
ふん。何を言ってるんだが。私がきっかけをつくったとはいえ、結局お互いを信じられずに勝手に仲違いしただけのくせに。

「悪いけど、あんたらはトーメント城の地下に拘束させてもらうわ。元の世界に帰るために、わざわざこんなところまで来てご苦労様でした〜!そしてあんたらはめでたくここでゲームオーバーで〜す!」
「そ、そんな……!私たちをまたあの城の地下に閉じ込めるつもりですの……?」
「当たり前ですわ!あなたたちは特に運の強い異世界人!野放しにしておいたら、そのうち諸外国を巻き込んで厄介ごとを引き起こすかもしれませんもの!」
「……くそっ……!捕まる場所が変わるだけで、結局僕たちはここで終わりかよ……!」
「そういうことですわ!さぁ、このヒューマンボールを使ってあなた達をアイナがゲットして差し上げますわっ!」


333 : 名無しさん :2017/05/06(土) 17:27:22 ???
「よく見たら五人の戦士の二人以外は既に死んでるみたいね……ま、王様なら簡単に生き返らせれるでしょ」
「……!」
そうだ、トーメント王国はアルガス以上にクソッタレな場所だが、あの国の王はスバルも桜子さんもサラさんも生き返らせるだろう。恐らくはまた闘奴にされるだろうが……生きてさえいれば、また脱獄するチャンスが訪れることだってあるはずだ。
ならば――――

(やってやる……やってやるぞ!今は大人しく捕まってやる!でもボクは諦めない!いつかみんなで一緒に現実世界に帰れる日まで、何度でも脱獄してやる!何度でも……何度でも……何度でもだ!)

捕まる直前だというのに、彩芽の瞳には炎が浮かんでいた。信念という炎が。

「亜理紗、ボクは諦めないぞ……もうこの世界に囚われたばかりの頃とは違う。ボクらには仲間がいるんだ」
「彩芽……」
「だから、次は最初から協力して脱出しよう。できるさ、ボクと亜理紗なら」
「そうですわね……できたら、置いてきてしまったあの二人とも一緒に……」


「いっけぇ!ヒューマンボール!」
亜理紗口調のおしゃべりな女の子がボールを投げる。
これから自分たちには筆舌に尽くしがたい苦境が待たされているだろう。でも乗り越えられる。月並みな台詞だけど……ボクらはもう、一人じゃないから。
そして、ボールから飛び出してきた謎の光が、ボクたちを包み込んだ。


「パチモン、ゲットですわ!これでやっとジムリーダーに挑戦できるんですのね……!」
「マルシェザールがわざわざ目的のブツを一ヶ所に集めてくれたおかげで、楽な仕事だったわね」
「サキ……話が」

『緊急事態発生!緊急事態発生!戦闘員は速やかに、地下の拷問室の危険分子の排除を!繰り返します。戦闘員は速やかに、地下の危険分子の排除を!』

「ち……話があるのは私もだけど、まずは退避が先かしらね」
「この話の腰を折られる感じ、グラブってますわね」
「2人とも、掴まって。テレポートで一気に脱出する」


334 : 名無しさん :2017/05/06(土) 23:39:35 ???
ボキ!ボキボキ!ボキャ!

「あ、があああああああ!!!いやあああああああ!!!あああああ!あ‟あ‟あ‟あ‟あ‟!!」
「すっごい声出してますねぇ!それにまるで小枝みたいにポキポキ簡単に骨が折れる!」
「う、が、が…!」
フースーヤの新技『ペイン・シック・フロスト』により、鏡花の骨はとても脆くなり、彼が少し殴るだけで彼女は簡単に骨折した。

「このまま首の骨を折っちゃってもいいんですが…一応アトラさんのお気に入りですし、それに『五人の戦士』は重要な捕虜ですからね。下手すれば死ぬようなことはしませんよ」
「ふー、ふー、ふー!」
歯を食いしばって全身を駆け巡る激痛に耐える鏡花。その姿に嗜虐心をそそられたフースーヤは、別の趣向を凝らすことにする。

「折ってばかりも飽きてきましたし…次は『ずらす』としますか」
「ず、ずらす…?」
「こういうことです、よ!」
フースーヤは鏡花の右肩を掴むと、力を込めて無理矢理押し込み、関節を外そうとする。

ギチ…ギチ…ギチ…ボキ!

「ん、ぐうううううううう!?」
「ハハハハ!腕が長くなってよかったですね……そう言えば、脱臼って癖になるらしいですね?癖になるとすぐに肩が外れるようになるとか」
「ま、まさか…」

フースーヤは鏡花の外れた肩に手を置いてずれた骨を入れようとする。当然、優しさからではない。

「何回くらい外したり入れたりすれば癖になるんですかね?」
「や、やめて!」
「ふん!」

ゴキ!

「っ、〜〜〜〜〜!!?!!?」
「は!」

ボキ!

「あ、んううううううう!!」
「せい!」

ゴキ!

「あ、やああああ!!ん、ぎゃあああああ!!」
「ハハハハ!ハーッハッハッハ!!」

笑いながら鏡花の肩を入れたり外したりを繰り返すフースーヤ。もうとっくに脱臼が癖になっているだろうが、それでも彼はとても楽しそうな笑い声をあげ、鏡花を甚振り続けた。


335 : 名無しさん :2017/05/07(日) 11:54:10 ???
「つ、捕まれってどういうことよ?」
「リザちゃんに捕まっていれば、捕まっている人も一緒にテレポートできるんですのよ。もーサキったらそんなことも知らなかったんですの?」
そう言いながら慣れた様子でリザの手をぎゅっと握るアイナ。リザはサキにも手を差し出して捕まるよう目で訴えた。

「……どうしたの、サキ。早く捕まって。」
「……手じゃなきゃダメなわけ?」
「……別に手じゃなくても、私の服とか体に捕まっていれば大丈夫。」
「…じゃあ、アンタの服の端っこにするわ。」
手を握るのは抵抗があるのか、サキはリザの黒い服を乱暴に鷲掴んだ。
「んっ!」
「……これでいいでしょ。」
「も〜!女の子同士なんだから手を握るくらい恥ずかしがらなくてもいいのに〜!」
「……多分そういうことじゃないよ。アイナ。」
サキがしっかり服を掴んでいるのを確認し、リザはテレポートを始めた。



「さすがリザちゃん。鮮やかな脱出劇でしたわ!任務成功ですわね!」
「……ここまでくれば、大丈夫かな。」
研究所を脱出し、アルガスへ続く街道に出た3人。リザのセリフを聞いたサキは、リザの服から手を離しつつ乱暴に突き飛ばした。
「きゃああぁっ!」
突き飛ばされたリザはバランスを崩し、盛大に転んでしまう。
バシャアァッ!
「あぐ……っ!」
ここで彼女の運の悪さがまたも発動し、泥のついた水たまりに飛び込んで体を汚してしまった。

「うっ……冷たい……!」
「サキ!動きが雑ですわよ!リザちゃんが水浸しになってしまったではありませんの!」
「はいはい。悪うござんした。」
「もう……小学生みたいな言動はやめなさいっ!みっともないですわよ!せっかく助けてあげたのに!」
「うるさいわよ。そもそも誰も助けてなんて言ってない。余計なことを……ちゃんとあの状況からでも脱出するプランがあったんだから。」
「嘘ですわね!それがホントならあんなに涙と鼻水で顔がぐじゃぐじゃになってるわけないですわ!」
「あれも演技に決まってるじゃない。あんたらと違って私は工作員なの。演技力だって重要なんだから。」
「え……あれが演技ですって……!?」
「ま、あんたらみたいな賑やか士とむっつり女にはわかんないでしょうけどね。」
「な……!せっかく助けてあげたのにその態度はなんなんですの!?」
「だからその助けっていうのがいらなかったって言ったでしょ?同じこと2回言わせないでくれる?バカなの?」
「サキ……ふざけるのもいい加減にしないと本気で殺しますわよ!!!」
「やれるもんならやってみなさいよ。リザの金魚の糞。あんたは弱いくせにいつもバカ丸出しでキャンキャンうるさいのよ。クソガキが。」
サキがそう言った瞬間、アイナの姿が消えた。

「アイナッ!やめてっ!!」
「お、やる気なの?まあいいけど……邪術を使えばあんたの場所なんて大体わかるんだから。」
邪術の術式を懐から取り出し、詠唱を始めるサキ。それをさせまいとアイナは背後から素早く攻撃を仕掛ける!
「これでもくらえっ!ネバネバキャンディーですわっ!」
「そんなもの……シャドウボルト!」
背後からの攻撃に素早く対応して闇魔法を放つサキ。どちらも狙いは正確だったが、標的に当たることはなかった。

「2人とも……いい加減にして。」
間に入ったリザのナイフが、キャンディーも闇魔法も明後日の方向へと吹き飛ばしたのだ。
「リ、リザちゃん……」
「アイナ。落ち着いて。サキはイライラしてるだけだよ。本気でそう思ってるわけじゃない……くしゅんっ!」
もしかしたら本気かもしれない。が、ここは場を収めるためにリザは落ち着いた口調でアイナに語りかけた。
「サキも……アイナより年上なんだから落ち着いて……は、は、はくしゅっ!」
水たまりに飛び込んだため、体が冷えたリザはくしゃみが止まらない。
「なにくしゃみ連発してんのよ……私は喧嘩を売られたから買っただけだし、別にどうでもいいわ。」
姿を見せたアイナの顔はまだ怒りを堪えているが、再度襲いかかる様子はなかった。

「サキ……私、サキとここでじっくり話しておきたい。今から時間もらってもいい?」
「……はぁ。別にいいけど。」
サキはバツの悪そうな返事をしたが、対話をする意思は感じられた。
「ありがとう。アイナ……悪いけど、しばらく2人にさせて……ふぁ、ふぁ、はっくしゅんっ!」
「……わかりましたわ。帰りのヘリでも呼んで待ってますわね。」
(はぁ……クールに喧嘩を止めるリザちゃんも、くしゃみ連発するリザちゃんも……どちゃクソ可愛いですわ……)



その頃、上空ではアルガスを目指す少女たちが箒にまたがって空を飛んでいた。
「唯。もうすぐアルガスよ。準備はいい?」
「うん……でも、アルガスってどんな場所なのかな?行く前に調べておきたいかも。」
「あー、それもそうね……あ!あのピンク色のツインテールの子に聞いてみましょ!」


336 : 名無しさん :2017/05/07(日) 15:25:42 ???
…一方その頃、ワルトゥはアルガスの機械兵たちを相手に暴れ回っていた。

「追えっ!改良ジト目貧乳殺戮機械兵『エミリー2.0』!」
「行けっ!重装型メガネ貧乳砲撃機械兵『サフィーネ参式』!」
「奴を逃がすな!!高起動貧乳格闘機械兵『ルビエラMk-IV』!」
「くっくっく…アルガスの科学力の粋を集めた機兵部隊『地獄の絶壁』の恐ろしさを思い知るがいい!」
「絶壁しかいねえのかよここのロボ兵士は!…面倒くせえ。さっさと片付けて、別の街にでもトンズラするかな…」

ワルトゥは接近してきた赤髪の少女兵の拳を余裕で受け止め、そのまま力任せに握り潰す。
「っぐあああっ!!?…あ、アタイの拳が…!!」「ルビエラっ!」「ルビエラちゃん!!」

…アリサ達四人と戦い圧倒的な強さを見せつけたものの、最後はいとも簡単に引き下がったワルトゥ。
それはあのまま戦い続けて、昂ぶりすぎた闘争本能によって彼女たちを『壊してしまう』のは勿体無いと感じたからだ。
あのまま順調に育っていけば、カラダも…そして強さも、最高の逸品が出来上がる事だろう…命があれば、であるが。

そして、中途半端に昂ぶった闘争本能、破壊衝動を、追撃してきた『地獄の絶壁』で鎮めようとしていた。
…彼女たちにとっては災難としか言いようがないが…

「…え?しかもこの赤いちっこいのが格闘型なの?…やっぱ、こないだの『スピカ』みたいな奴は中々いないもんだな。
せめて、さっきの金髪ねえちゃんくらいおっぱいがあれば楽しめたんだけどなー」
「ちっ…なめるなぁ!バーニング・ニールキック!!」
「お前、殺す…エメラルドブレード!!」
「行きますっ…ブルー・ガンビット!!」

「おおっ!!『地獄の絶壁』の完璧な連携攻撃!!」
かたずをのんで見守っていた科学者や警備員たちは、一斉に声を上げてしまう。
「「「やったか!?」」」

…だが次の瞬間。分身したワルトゥが、ルビエラの脚をへし折り、
エミリーのブレードを持つ腕を握りつぶし、サフィーネの放ったガンビットを残らず叩き落していた。

「バカな…信じられん!何者なんだアイツは!」
「マルシェザール所長とはまだ連絡が取れんのか!?」
「大変です!!第一拷問室に捕らえていた女スパイが逃げ出しました!!」
「そういえば、証拠になりそうな携帯電話を見つけたと言っていた…アイツ、どこいった!?」
「…あの男の仲間か!ええい、奴ら一体…どこのスパイなんだ!」

…研究所は混迷を極めていた。マルシェザール所長も、携帯電話を見つけた兵士も、既に始末されている。
捕らえた女スパイは今まさに、仲間に救出され外へ脱出する所であった。
その姿は、研究所内のモニタ画面の隅に辛うじて映し出されていたが…
混乱する兵士や科学者達がその姿に気付く頃には、彼女達はテレポートで姿を消しているだろう。
リザ達の脱出計画は完璧に遂行され、どこの誰の仕業による物か、気付く者は誰もいない…はずだった。

「…あれ?……あんな所に『スピカ』がいるじゃん」
たまたま、偶然、リザにとって運の悪い事に…
ワルトゥが、近くにあった警備用モニタ画面に映し出されていたリザ達の姿を、見つけてしまった。

「な、なにっ!?『スピカ』だと!?」
「…ああ、知ってんだろ?トーメント王国『王下十輝星』ってやつ。ていうか、俺も元スピカなんだけどな…」

「「「なっ……なんだとぉおおおお!!」」」

驚愕する警備兵、研究者たち。
「研究都市アルガスがトーメント王国『王下十輝星』スピカに襲撃された」
という衝撃のニュースは、すぐさまナルビア本国へと伝えられた。
この一件によってナルビアとトーメントの緊張は一気に高まり、両国のみならず
周辺国家であるシーヴァリア、ミツルギ、そして魔法王国ルミナス…様々な人々の運命を変えていく事になる。


…そんな歴史の引き金を、歴史の舞台から消え去ったはずの男が引いてしまった。

「ほれほれ、何を隠そう俺は腕だけ分身も出来るんだぜー。喰らえ!アルティメットア〇ュラバ〇ター!!」
「うああぁぁぁっ!!」「「エミリーーーッ!!」」

だが、当の本人にその自覚は全くなかった。


337 : 名無しさん :2017/05/07(日) 18:19:06 ???
「あ、あそこにベンチがある……ちょうどいいから、座って話そうサキ……へぁ、ふぁ……くしゅんっ!」
「……こんなところでのんびり話してないで、早く帰ってシャワーでも浴びたほうがいいんじゃない?風邪ひくわよ?」
「だ、大丈夫……今話しておきたいから……」
鼻水と顔についた泥をティッシュで拭き取りながら、リザはベンチに座った。

「あんたの隣に座りたくないから、私は立ったまんまで話すわ。」
「……わかった。」
今まで自分の知っていたサキ……いつも丁寧な言葉遣いで、誰に対しても明るかった姿は、今のふてぶてしい様子からは微塵も感じられない。
今の性格が、サキの本来の姿なのだとリザは改めて認識した。

「単刀直入に聞くけど…どうして私のことを恨んでいるの?」
責め口調にならないよう、普通に疑問を口にするようにリザは質問した。
「どうして、ね……話したくないって言ったら?」
「……困る。私はサキとこれから仲良くしたいから、もし私がサキの嫌がることをしたなら、ここでちゃんと謝りたい。」
「……フフフフ……!」
「……どうして笑うの?」
「いや……あんたもかなりのお人好しだなと思ってさ……」
そう言って笑ったサキの表情は、少し柔らかくなったように見えた。

「ま、簡単に言えば意味のない私怨よ。アンタみたいな美少女がのうのうと生きてるのがムカつくってだけ……しかもアンタはあの弱小民族アウィナイト。どう考えたっておかしいじゃない。」
「……何がおかしいの?」
「アンタはよく知ってるだろうけど、アウィナイトっていうのは本来奴隷にされるべき人種なのよ。男は目を宝石に、んでアンタみたいなのは高い値のつく性奴隷ってね。それなのに……アンタはその常識を変えようとしてる。」
「……何が言いたいの。サキ。」
「……フフ。顔が怖いわよ。どうしたの?」
「……!」
言われて気づいたが、どうやらアウィナイトの話を出された時点でかなり怖い顔をしていたらしい。
それでもやはり、サキの言った「アウィナイトは奴隷にされる人種」というセリフをリザは看過できなかった。

「サキ……訂正して。私たちアウィナイトは好きで虐げられているわけじゃないの。私たちは争いを好まないから戦う術を持たないだけ。……奴隷になんかなりたくない、れっきとした人間よ。」
「ふん。れっきとした人間ねぇ……バカみたい。弱い立場のくせにそうやって今さら人権主張してイキがってんのもむかつくのよ。」
サキはとにかくリザが嫌いだ。自身の妹であるユキと同じように美しい容姿を持ちながら、戦闘技術も高く頭も良く、虐げられている現実に精一杯抗っている。
その姿はまるで、残酷な現実からユキを守れなかった自分とは真逆の姿。
そんな自分と比較されているようで、サキはリザを見ているだけで吐き気がした。

「……ねえ。この前私が依頼した間者の件……あれって、サキだったの?」
「フフ……さあ、どうかしらね……」
「……真面目に答えて。あの時エミリアに取り付いて、私を痛めつけたのはサキだったの!?」
「何よ、そんなに気になるの?じゃあ……もし私だったって言ったらどうする?ここで殺す?」
強い口調になったリザを挑発するサキ。
あの時はエミリアの体話を使ってとにかくリザをボコボコにしてやった。サキにとってはいい思い出だが、リザにとってあの時の犯人には腹わたが煮えくり返る思いだろう。
さぞ内に秘めていた怒りをあらわにしてその端正な顔を醜く歪ませているのかと、サキはリザの顔を見た。
が、その表情はサキが思い浮かべていたものとは大きく違うものだった。

「ねぇ……ぐすん……答えて……あの時のあれは……全部サキがやったの……?」
「え……アンタ……泣いてるの……?」
強い口調で言葉を放ったリザの表情に現れていたのは、怒りでも憎しみでも憎悪でもなく……
信じていた仲間から向けられた途方もなく大きな憎しみを受け止めきれず、ポロポロと大粒の涙を流しながらリザはサキを見つめていた。


338 : 名無しさん :2017/05/07(日) 19:13:28 ???
「なに泣いてんのよ……!そうよ、全部私がやったのよ!」
「どうして……!意味のない私怨で、どうしてそんなに恨むの?本当に意味のない私怨なの?」
「そうよ、私怨よ。そんだけ恵まれた容姿してたら、別に嫉妬されることなんて不思議じゃないでしょ?」
「ぐす……!ねぇ、サキ……私……サキのことを何も知らない。でも……王下十輝星になったのだって、何か切実な理由があったんでしょ?」
「な!?……何を根拠に言ってんのよ……」
「王様がやたらサキの過去を話したがってたから、そうじゃないかと思ったの……勝手に聞くのは悪いから聞かなかったけど」
「あのクソ露出狂い……!」
「ねぇ、サキの言う私怨っていうのは、ひょっとしてただの嫉妬とかじゃなくて、サキの過去と何か関係が」
「うるさい……うるさいうるさい、うるっさい!」

自分の妹はかなり容姿がよかった。そのせいでリョナ要員としてどこぞの貴族に連れて行かれそうになった。母は娘を守るために娘の顔を醜く焼いた。妹がそんな目にあったのだから、アウィナイトのような容姿の良い者は虐げられなければならないという歪んだ想いを持つことになった。だからアウィナイトを守ろうとするリザが気に食わない。
口で言うのは簡単だ。だが……

「私はアンタとは違う……アンタみたいな不幸自慢女とは違う……!ええそうよ、まぁ私にだって多少は暗い過去くらいあるわよ。それがアンタを憎む一因でもあるわね。でも、だからなに?」
「だからなに……って、私はただ、サキのことを」
「『そんな悲しい過去があったんだ、辛かったね。これまでのことは水に流すから仲良くしましょ』とでも言うつもり?は!不幸な人間同士傷を舐め合って生きていくなんてごめんだわ!」
「……無理に過去を聞きたいとは思わない。でも私は、仲間とは憎しみあいたくない……!」
「アンタはライライを……私の親友を殺したじゃない……私だって裏の任務で保護条例の穴をついてアウィナイトを殺したことがある……憎しみあう理由なんて、それで十分よ」

邪術のライラと戦っている時の別の邪術師はサキだ。ということは、エミリアに刻印を付けたのも……アウィナイトを殺した事があるのもサキだ。

「ライラは……ただ利用されてただけ。黒幕はヴェロスという邪悪な邪術師……本当はサキも気づいてたんじゃない?」
頑なに魂縛領域の森から出ようとしないこと。『父親』に関することの不自然さ。野良の邪術師の少女としてはあまりにも高すぎる邪術の実力……サキが真実にたどり着くヒントはいくらでもあった。
サキは思わず、ベンチに座っているリザの胸倉を掴んで引き寄せる。

「アンタに……アンタに何が分かる!例え偽りの姿だったとしても……例え別の邪術師に操られていたんだとしても……あの時、私たちが感じていた友情は……!」
「私は……サキとだって、友達に……!」
「はぁ?私はアウィナイトを裏の任務で殺したことがあるって言ったのが聞こえなかったの?私たちは恨みあうしかないのよ!」
「恨んでないよ」
「なに?」
「正確には恨めない、かな……私だって任務で罪もない人を大勢殺してる……悲しいけど、任務でアウィナイトを殺したサキのことを憎む資格は私にはない」
「は……ハハハハハ!アーッハッハッハ!!笑えるわねぇ!馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけど、そこまでお人好しだとは……ならいっそ、任務以外でも殺しとけばよかったわ!」
「サキ……!」

ひとしきり笑い転げたあと、サキは胸倉を掴んでいた手を離してリザを見据える。

「アンタと仲良しこよしなんてごめんよ……私はライライを殺したアンタを憎み続けるし、アンタだって口ではどうこう言っても同族を殺した私を完全に赦すことはできない……だから、取引をしましょう」
「取引?」
「私は邪術や裏の任務といった、回りには知られたくない秘密がたくさんある……リザがそのことを黙ってるなら、私もエミリアが『禁呪』を使ったことを黙っててあげるわ」
「……!」
サキはリザとエミリアがライラと戦っているところを見ていた。ということは必然的に、エミリアがドロシーロボ戦で禁呪級の魔法を使ったことも知っている。


339 : 名無しさん :2017/05/07(日) 19:14:57 ???
「アンタは大事なお友達を守りたいから、私の秘密を黙っている……私も秘密をバラされたくないから、エミリアのことは口外しない……そういう取引よ」
「それは……」
「どうするの、リザ?」
その凄まじい威力もさることながら、魂すら傷つけてしまう呪われた特性により邪術以上に固く使用を禁じられている魔法。例え故意でなかったとしても、使用者には極刑が言い渡される。しかも禁呪の場合、誰かが使用したというのを知っていて密告せずに黙っていただけでも罪に問われてしまう。
そんな魔法を使ったことをバラされたら、エミリアは……


「……分かった。その取引、受ける」
「ククク……賢い選択だわ」
サキはぐい、とリザに顔を近づける。

「私たちは同じ王下十輝星……例え憎しみあっていても、敵にはなれない……かと言って仲間というには憎しみあい過ぎている……そんな私たちが、人には言えないようなことを互いに黙っているという取引をした」
「サキ……」
「だから私たちは敵でも仲間でも、ましてや友達でもない……言うなれば、そう……共犯者、とでも言えばいいかしら?」
「共犯者……」
「私とアンタを繋ぐ縁は、友情でも絆でもない……エミリアが禁呪を使用したことを黙っているという秘密。私が邪術を使って裏の汚い仕事をしていたという秘密」
サキは顔を近づけたまま、ニヤリと笑う。

「これからもよろしくね、共犯者さん」
「うん……今は、それでもいいよ」

結局、サキがリザを憎んでいる理由は具体的には分からない。それどころか何やら怪しい取引までしてしまった。
だがリザは思う。サキは確かに裏で汚い仕事をしていたが、それは全て任務のうち。王国の後ろ盾がある以上、禁呪の事がバレるのと比べたら、バレたとしても大したことにはならない。
わざわざ取引を持ちかけずとも、禁呪のことをバラして、知っていながら黙秘していた罪をリザに押し付けることも可能だったはずだ。

なのにそれをせずに、取引という形で秘密を共有することを選んだのは……絶体絶命のところを助けられたことに対する、サキなりの感謝の形なのかもしれない。



「……クシュン!」
「ぶ!?」
なんかいい感じに話がまとまったように見えたところで、リザがくしゃみをする……そして、リザに顔を近づけていたサキの顔にリザの口から出た分泌物がかかるのは、必然であったと言える。

「…………」
「ご、ごめん。すぐハンカチで拭くから……」
「誰かー!聞いてくださーい!ガラドのレジスタンスで有名なエミリア・スカーレットは先日、きn……」
「ちょ!?」
慌ててサキの口を顔ごとハンカチで押さえるリザ。

「もがもが、ひょうひゃんよ(冗談よ)」
「心臓に悪いから質の悪い冗談は止めて……!」

サキはリザとの関係を聞かれたら共犯者だとハッキリ言うだろう。リザも消極的ながら共犯者であることを認めるだろう。
しかし、今の2人を第三者が見たら……悪友、という評価を下すかもしれない。


340 : 名無しさん :2017/05/07(日) 22:42:38 ???
サキとリザの話が終わった頃を見計らってアイナが戻って来ると、
二人の間に漂う空気が、どことなく変わったように感じられた。

「…リザちゃん、涙の痕がありますわよ!?…ちょっとサキ!!一体二人っきりでどーいう話をしましたの!?」
「るっさいわねー…別に大した話じゃないわよ。…ねえ、リザ?」

「…うん。何でもないよ、アイナ。…まだわからない事は多いけど…これだけは言える。
私たちがお互いをどんなに嫌っていても…仲間だなんて、思っていなくても、同じ十輝星である事に変わりはない。
だから…もしサキが今回みたいな目に遭ったとしても、私は今までと変わらず、必ずあなたを助け出す」

「…は?アンタ私をバカにしてるわけ?こんなドジ、二度と踏むわけないじゃない。むしろアンタこそ…覚悟しておくことね。
そのうちドジこいて敵に捕まったりしたら、私は絶対助けてなんかあげない。指さして笑ってあげるわ」

「…や、やっぱり二人とも…なんか雰囲気がおかしいですわ!?
ま、まさか今、アイナが感じているこの感情は……そう、これはまさに『疎外感』…!?」
二人のあまりに唐突な和解…なのか何なのか。
とにかくあまりの事態に、突然のサキのキャラの変わり具合についてさえ、ツッコミを入れる余裕がなかった。


341 : 名無しさん :2017/05/07(日) 22:47:55 ???
「あのー、すいません」
「ううううるさいですわね!今、それどころじゃないんですのよ!!…って、あら?」

アイナは突然背後から声を掛けられ、振り返ってみると…二人の少女が目の前に立っていた。
一人は栗色のセミロング、もう一人は青髪のショートカット。
一体どこから現れたのか、と思ったが、よく見ると二人はルミナスの魔法の箒を手にしている。
つまり空を飛んでここまで来た、という事になる。彼女たちはルミナスの魔法少女だろうか?
それにしても、二人の顔にはなんとなく見覚えがあるような……

「私達、アルガスに向かってるんですが…皆さんも、アルガスからいらっしゃったんですよね?」

「え、ええ。確かアイナ達はアルガスから来たのですけど…」
(そうだ…この二人、篠原唯と月瀬瑠奈…お尋ね者の二人ですわ!)
思い出した。かねてから捕獲を命じられていた『五人の戦士』のうちの二人だ。
…それにしても、どうにも気になる事がもう一つ。

「その前に、一つよろしくて?…どうしてあなた方は、バニーガールの衣装なんて着ていますの?」
…篠原唯は赤、月瀬瑠奈は黒のバニー衣装を着ていた。
篠原唯は、標準的な体系と穏やかな笑顔から、セクシーな衣装というギャップが妙に背徳的な魅力を醸し出している。
一方の月瀬瑠奈は、童顔・低身長ながらその胸のボリュームがセクシー系の衣装と相まって健康的な魅力を引き立てて…
(…なんか、怪しい風俗の新人店員と指名No.1みたいな感じですわね)
……アイナの心にはついつい、おっさん臭い感想が浮かんでしまうのであった。


342 : 名無しさん :2017/05/07(日) 22:53:58 ???
「いやー、かくかくしかじかで、盗賊のアジトで着替えを探したら、こういうのしか無くて」
「それにしたって、律儀に耳までつける必要ないですわよね!?」
「…それより、今アルガスに行くのは…正直オススメできない」
「そうそう。あそこは今、賊が侵入してくるわ、そいつが暴れ回るわでもー大変!て感じ?私達もそこから逃げて来たのよ」

後ろにいたリザとサキも話に加わった。当然、唯達の素性については既に気付いている。
このままアルガスに行かせるわけにはいかないので、サキは真贋織り交ぜつつ色々と誇張したつもりだったが…
何の偶然か、言ってる事は一つも間違っていない。

「そ、そうなの!?じゃ、じゃあ…そうだ。アリサって女の子、見かけなかった!?」
「髪は金髪ロングで、剣を持ってるの。話し方は…あなたみたいな、なm…丁寧な口調」
「え…ええ。確かに見たような見なかったような…金髪で、白い服を着ていて…でも剣は持ってませんでしたわ?」

適当に話を合わせながら、三人はアイコンタクトで会話…はさすがに無理なので、
「ちょっとごめんあそばせ」と一声かけてからひそひそ声と緊急作戦会議を始めた。

(それで……どうする?)
(トーゼン捕獲ですわ!何も知らずにアイナ達に話しかけてきたのが運の尽きですわよ!)
(でもあいつら、箒で飛べるみたいよ?もし感づかれて、空に逃げられたら追いかけようが…)
(ううん……そうですわ!飛ばれたくないなら…逆に、飛ばせてしまえばいいのですわ!)
((……???))


343 : 名無しさん :2017/05/07(日) 23:14:57 ???
「……サイッコーですわーー!!アイナ、一度ホウキで空を飛んでみたいと思ってたんですのよー!!」
「あは!気持ちいいでしょ、アイナちゃん!…そうだ。名前言ってなかったね!私、篠原唯!」

一緒に箒で空を飛ばせてほしい、と唯に申し出たアイナ。
同じ箒に乗ってしまっていれば、逃げられる心配はない。
あとは、弱らせてボールで捕獲すればいい…まさに逆転の発想であった。

(アイナ…大丈夫かな)
(え?まあ、あの二人もルミナスでけっこう修業したって噂だけど…
油断してるところに不意打ちすれば、いくらアイナでも負ける要素ないでしょ)
(いや…そうじゃなくて……)
確かにアイナの作戦なら、確実に篠原唯を捕獲できるだろう。
サキもアイナも自信満々な所を見ると…リザが今考えてる『不安』は、やはり単なる取り越し苦労だったのか。

(そんな事より……残った方を)
(ええ。速攻で片づける)

「まったく唯ったら、アリサが危ないかもしれないって時に呑気なんだから……ねえ。さっきの話の続きだけど」
「ああ…その金髪の子なら、私達と一緒にアルガスから脱出したのを見たから問題ない」
言っている事は間違っていない…そして、今もリザのカバンの中に入っているのだ。
「どっか別の国に向かったんじゃない?例えば、トーメント王国とか…ね」
ニヤニヤしながら、サキも続ける。

「え?…トーメント王国…いやいや。他に行くにしても、あそこはあり得ないわ。だって……っ!?」
リザは瑠奈に素早く接近し、みぞおちを狙って膝蹴りを見舞う。
サキは瑠奈の箒を確保し、遠くへ投げ捨てた。

プロの暗殺者であるリザは、攻撃するその瞬間まで、殺気というものを感じさせなかった。
「え、ぐっ……い、いきなり何するの、よ……!」
「…あなた達も、来てもらう。トーメント王国に」
「心配しなくても、アリサとかいう金髪女ももちろん一緒だから!ハーッハハハハハ!!」
「そんな……あなた達、敵だったの…!……ゆ、唯が…あぶ、な……」


344 : 名無しさん :2017/05/08(月) 01:19:27 ???
その頃…シアナとアトラは、トーメントの王都イータブリックスに帰還していた。
ネットオークションで落札した篠原唯と月瀬瑠奈を捕獲…するはずが、取り逃がしてしまった二人。
もしこれが王の命令だったら、懲罰は免れなかっただろう。
だがそれより何より、二人は唯が言った言葉が、胸の奥に棘のように突き刺さっていた。

(弱い人たちに暴力を振るって良い、なんて考えでいたら…いつか、自分より強い力に倒されてしまう)

「なあ、シアナ…唯ちゃん、本気だと思うか?……王様を倒す、って」
「わからない…少なくとも、正気じゃない。いくら唯ちゃんが修業したって、あの王様に勝てるわけが…」

(相手が自分より強いか弱いか、そんな事でしか他人を見られなくなる、か…
でも僕らは、そんな事には…ならない、はずだ)
力が全て、弱い者は全てを奪われる。それがこの世界の理ではあるが…
シアナもアトラも『それ以外の価値観』…『強さ以外の、大切なもの』の存在に、気付きつつあった。

「あーあ。なんか、モヤモヤするなー…帰ったら、また鏡花ちゃんとこ行こうかなー!ひひひ」
「やれやれ。アトラは相変わらずか……でも僕も今は、なんだか無性に…」
「ああ、アイナなら今、任務中らしいぜ。何でもサキがアルガスで捕まったから、助けに行ったって。
 会いたいのに会えなくて残念だったねシアナくーん!!」
「!?…ななな、僕は別に……そんな事、一言も……って、サキが捕まったって!?大丈夫なのか?」
「だいじょーぶ!俺には隠さなくてもいいから!お前らなら、きっとイロイロとうまい事いくって!」
「…い、イロイロって何だよ……いや、そんな事より…」

(…なんだろう…何だか、すごく……悪い予感がする…)

………………

「よーし!じゃあ今日は、アイナちゃんとお友達になった記念に…スピード出しちゃうよー!!」
「きゃーー!!待って待って、アイナまだ、心の準備が!…きゃああああ!!」
(友達、か。…完全に、油断してますわね。このままでも不意打ちできそうですけど…
念のため、『能力』を使っておきますわ)
…アイナはあえて、唯を襲撃する前に『消える能力』…その発展形である『相手の記憶から消える能力』を使った。

「お友達に……あれ?…私…誰と友達になったんだっけ?……どうして私、一人で空飛んでるんだろ…」
それは、奇襲に万全を期すため。あるいは……出会ったその日に『友達』と言ってくれた、
唯に対する罪悪感を少しでも打ち消すためかも知れない。
「ボールで捕まえるために…まずは、手っ取り早く弱ってもらいますわ。
アイナのイチ押し、『痺れる程にスパイシー!ブラックペッパーチョコ』を…喰らいなさい!」

………………

「えぐっ!!」「い、ぎぃっ!!」「やあ、あぁぁっ……っぐ!!」

リザは瑠奈に膝蹴りを数発入れた後、反撃してきた瑠奈の腕を取り…寸毫の迷いもなく、肩の関節を外した。
「ところで、ボールで捕まえるために弱らせるって…どの位やればいいの」
「私が知るわけないでしょ…適当でいいわよ。まあうっかり殺しちゃったとしても、さっきの奴らは死体でも収納できたんだし」

「…殺しておけば確実ってことね」
全く表情を変えず、リザはもう一方の腕も外しにかかる。
「誰もそんなこと言ってないでしょ…昔から思ってたけど、アンタってやる時はとことんエゲツナイわよね」

(ごきっ!!)
「っ…ああああああッ!!!」


345 : 名無しさん :2017/05/08(月) 15:00:56 ???
「さて、目立った傷はヒールで治しといたので、僕はこれで失礼しますね。アトラさんと鉢合わせたりしたら気まずいので」
「ぐ……」
「あ、一応言っておきます…フウヤ・トキワに痛い目にあってほしくなかったら、この事は黙っていた方がいいですよ」
「え…フウヤ君は無事なの!?」
「ええ、男を甚振る趣味のある人は流石にいないみたいでしてね…もちろん、貴女が余計な事を言えば身の安全は保証しかねますが」
フースーヤが鏡花をリョナったことがアトラにバレたら、彼はアトラにお灸を据えられてしまう可能性が高いので、一応嘘は言っていない。

「く…!フウヤ君に何かあったら、私、フウコに顔向けできない…!」
「なら、この事は黙っていることです」
フースーヤはそのまま、カメラを持って去っていった。


「おう、おかえりー。どうだったよ、リョナの感想は?」
「そうですね、最高でしたよ。あ、カメラはばっちり取れてましたよ」
「ほうほう、それは見るのが楽しみだな…ゲヒヒ」
「それにしても、よかったんですか?鏡花さんをリョナ?ったりして。アトラさんのお気に入りでしたよね?」
「なぁに、アイツもトーメント王国の男だ。可愛い女の子はリョナられる運命にあるってのは理解してるだろ。もちろん、王下十輝星及び俺に忠実な配下の場合はその限りではないが」



「たっだいまー!やっぱり我が家が一番!って感じ?」
「……ただいま」
丁度その時、アトラとシアナが王城に帰ってきた。

「おー、なんだ?手ぶらってことは、ネットオークションの商品とやらはやっぱりガセだったか?」
「え、ええと、ま、まぁ、そんな感じっすかねー?」
「変に挙動不審になるなよ…怪しまれるだろ」
「ほーう?まぁ、任務外のプライベートの時間で何をするかは各自の自由だ。とやかく追求はすまい」
「ふぃー!助かったー!じゃあ俺ちょっと鏡花ちゃんのところに行ってくる!」
「!?そそ、そうですか。い、行ってらっしゃい」
「…?どうしたんだフースーヤ、そんなに動揺して…あ!ひょっとしてお前も鏡花ちゃんのこと狙ってるのか!?」
「え!?いやいや、それはないですよ」
「まーそれもそっか、お前ってばルミナスの魔法少女嫌いだったもんな」
「ははは、そうですよ…ところで、シアナさんはどうかしたんですか?何か様子がおかしいですけど」
「いや…上手く言えないんだけど…何か、嫌な予感が…」
アトラは唯や瑠奈に負けかけたことを隠して挙動不審。フースーヤは鏡花をリョナった直後に彼女を色々と気にかけているアトラが鏡花の所に行くと聞いて動揺。シアナは言い知れぬ不安を胸に抱えて様子がおかしい……

「リザとアイナとサキは帰ってこないのに、アトラとシアナが帰ってきたから、余計にむさ苦しいな…」

王様はポツリと呟いた。

(世界情勢にドーンと変化でも起こったら、ロゼッタ辺りを呼び戻して配置変えでもするか?アイベルトも音信不通だし、いい機会かもしれんな…ま、そんな簡単に世界情勢が変化するわけもないかwww)

『スピカ』の手により世界情勢が大きく動こうとしていることを、王は知らない。


346 : 名無しさん :2017/05/08(月) 23:55:04 ???
「唯ちゃん!唯ちゃん!こっち向いてですわ!」
「え?誰!?」
(好機は今ですわーーーッ!!)
アイナは唯の記憶から消えた状態で振り向かせ、口の中にブラックペッパーチョコを放り込む計画だった。
だがその作戦は唯の反応速度を甘く見すぎていたのだ。

「きゃああッ!やめてええっ!」
バシッ!!!
「おごっ!?」
合気道をやっていた経験上、唯の反応速度は常人のそれではない。
突如妙なお菓子を押し付けてきた少女に対し、唯は反射的に掌底を繰り出していた。
「あ、あ……!辛ああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
そして、掌底で押し込まれたブラックペッパー(以下略)は、アイナの口の中に放り込まれてしまったのである。

「あああーー!!!辛いですわああああああっ!!!こんなもの作ったやつは◯◯◯(自主規制)ですわーーーーッ!!」
「あ、アイナちゃん大丈夫!?一旦降りるね!!!」
ショックで姿を現したためアイナに関する記憶は戻ったものの、唯からすれば状況がちんぷんかんぷんだった。
とはいえ苦しんでいるアイナをそのままにもできず、とりあえずは地上に降り立つことにする。

「うおおおお゛お゛っ!!!辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛いい゛っ!!!ぎああああああっ!!!」
「あ、アイナちゃん落ち着いて!今水を持ってくるから!!」
あまりの辛さに地上で転げ回るアイナ。唯はすぐに瑠奈の元へと水を取りに行った。
そしてそこで見たものは……!


347 : 名無しさん :2017/05/09(火) 02:30:30 ???
「あぐっ……ううっ……!!」
流れるようなリザの関節技で、瑠奈の両肩の関節は一瞬にして外されてしまった。
跪いてお尻を突き出した格好のまま、瑠奈は苦悶の声を上げる。
そんな瑠奈の姿を、サキは冷ややかな目で見降ろしていた。
「あらあら、ウサギちゃんたらかわいそーに。冷血女にボコられて…クスクス」

「はあっ……はぁっ……」
(何なの、この子……強い…というか、速すぎる……!!…このままじゃ、本当に……)
……殺される。
元の世界に帰る事も、ケンカ別れした仲間と再会を果たすことも出来ずに…
(そんなの、嫌……こんな所で、あのバカ王の手下なんかに捕まるなんて…)

「……アイナの方は、大丈夫かな」
リザが瑠奈に止めを刺そうとした、その時。…上空を飛ぶ箒が、何か不自然な動きをしている事に気付いた。
恐らくアイナが唯に奇襲を仕掛けたのだろう…が、どうも様子がおかしい。
「あっちは問題ないでしょ。箒に乗ってる時に襲われれば、唯って子も防ぎようがないって。さっきから何を気にしてるわけ?」
「いや、大したことじゃないけど…箒を操ってる人を襲うのって………普通に危なくないかなって」
「……あ。」
リザに指摘されて、サキは初めて気がついた。

「アンタ……そういう事は、気付いてたんならもっと早く言いなさいよ!ほんっと使えないわね!!」
「…二人とも何も言わなかったから、何か考えがあるのかと思って」
アイナの作戦の致命的欠陥が、ここに来てようやく明るみになった。
その一瞬の混乱を突き……瑠奈が勢いよく上体を起こし、網タイツに包まれた足を勢いよく振り上げる。

「たああぁぁぁっ!!」(…私は、負けないっ…!…絶対、帰るんだ…唯と、アリサと…一緒に!)

(ぴしっ!!)
「っ!?」
いかなる運命の巡り合わせか。その時たまたま瑠奈の着ていたバニーガール衣装の耳がリザの鼻先をかすめ、
リザの動きがほんの一瞬だけ止まる。
その刹那、瑠奈が繰り出したのは…まさにウサギのごとく、宙返りしながらの前蹴り…サマーソルトキック!

(…ミシッ……)
「く、ううっ…!!」
…その代償は決して小さくない。後方宙返りの勢いで、負担の掛かった両肩には激痛が走る。

「っ…まだ動けたの…!?」
乾坤一擲を狙った瑠奈の蹴りを、辛くもかわすリザ。だが……

(ビキッ!!)
リザのカバンに入れていた「異能力一部無効化装置」は、蹴りの直撃を受けて破壊されてしまった。

「しまった…無効化装置が!!」
「え?…それって、能力者の力を封じるって言う、あのキモオタの『教授』の発明品?……なんでそんなもん持って来てたわけ?」
「それは………どうして、だっけ……」


348 : 名無しさん :2017/05/09(火) 23:02:24 ???
「まぁ細かいことは置いといて、さっさと捕獲するわよ!例のヒューマンボールで……あれ、ヒューマンボールって、半分はリザが持ってて……残りの半分は誰が持ってるんだっけ……」
「ターゲットを捕獲した時……捕まえたのは……」
アイナが『消えた』ことによる記憶の弊害によってリザとサキの動きが一瞬鈍った隙に、瑠奈は肩を庇いながら後退する。

(なんで唯は一人で箒に乗ってその辺飛び回ってるんだっけ……何か、あの2人に騙された気はするんだけど……)
丁度その時、アイナが自分でブラックペッパーチョコを食べたことによって能力を解き、瑠奈たちの記憶が戻る。

「……ってあれ?なんで私、あのピンクツインテのこと忘れてたんだろ……?」
「ち、アイナの進化した能力とやら、強力なのは事実だけど致命的に協調性がないわね!」
「サキが……それを言うの?」
「は?なによ、私ほど協調性のある女は滅多にいないわよ?私がなんのために普段猫被ってると思ってるのよ」
「……とにかく、アイナがまた『消える』前に、早くケリを付けよう」
「ちょ!?速すぎ……」
今度は予めリザたちを警戒していたにも関わらず、リザの早業に全く反応できずに組み敷かれてしまう瑠奈。

「また抵抗されたら面倒だから、さっさと殺そう。頸動脈は……この辺りかな」
「ひっ!」
リザが正確に瑠奈の頸動脈を探り当て、ナイフで一気に殺そうとした瞬間!


「ダメーーー!!」


アイナの為に水を取りに来た唯の悲鳴が響く。

(可哀想だけど、これがこの世界の常……悪く思わないでね)
悲鳴からして唯との距離はまだ遠く、ろくに遠距離攻撃魔法も撃てないであろう彼女には自分を止める手段はない。ひとまず唯の悲鳴を無視して瑠奈にトドメを刺そうとするリザだが……

「バカリザ!伏せなさい!」
「え、ちょ、ぶ!」
突如サキに頭を掴まれて身体ごと地面に叩き付けられる。思いっきり顔を強打してしまい、思わず文句の言葉がリザの口から出ようとした瞬間……リザとサキの頭上を箒が単体で飛んで行った。

「はっ!」
唯が掛け声を上げると箒は機動を変えて勢いを落とした上で瑠奈に当たり、瑠奈の身体を唯の方へと飛ばす。そして唯はばっちり瑠奈をキャッチした。
「瑠奈!?大丈夫!?」
「ふぅー、助かったわ唯!」

「ちょっとちょっと……箒をそんな風に使うなんて、どんだけ破天荒なの……」
「サキ……助けてくれたのは有難いんだけど、もう少し優しく……」


349 : 名無しさん :2017/05/11(木) 23:35:22 dauGKRa6
「る、瑠奈!どういうこと!?何が起きてるの!?」
「ゆ、唯……!こいつら敵よ!きっと あのチビ共の仲間だわ!」
「えっ!?こ、こんなに可愛い女の子たちが……?」
瑠奈の関節を直しながら唯は2人を見据える。
1人は機能性の高そうな黒スーツに金髪ショートで碧眼のクール系超絶美少女。
もう1人は黒い上着に白いインナーを着ているが、ニーソックスや蝶の髪留めが年頃の女の子らしさを醸し出している。美しい金髪の方の美貌に負けず劣らず、こちらもかなりの美少女だった。

「あなたたちも……アトラくんたちの仲間なのっ!?」
「アトラ……?あぁ、そういえばあんたらを一回捕まえたのはあのガキ共だったわね。」
「それより……アイナは?」
「……アイナちゃんも……君たちの仲間なんだね。」
唯はアイナを助けるために水を取りに来たつもりだったが、今は瑠奈を守るのが最優先だと決めた。
「アイナちゃんなら、私がカウンターしたせいで変なお菓子を食べて苦しんでる。でも……助けに行くなら、このまま私たちを見逃して。」
「はぁ?何言ってんのよ。あんたらはここであたしたちに捕まって、あの露出狂に毎日痛ぶられて泣かさ続けるのよ……!ククク……!」
「サキ……ちょっと言葉が悪すぎ。」
「うっさいクソリザ!いっつもいっつもあんたは真面目すぎてつまんないのよっ!」
「でも、相手はなんの罪もない女の子なんだし……」
「はっ!さっき言ったでしょ。あたしは顔のいい女が全員大っ嫌いなのよッ!」
(……自分だって、すごく可愛いくせに……)

「唯……!まさかこいつらも、あのチビ達みたいに説得するつもり……?」
体の痛みはなくなり、瑠奈はゆっくりと立ち上がりながら唯に聞いた。
「そうできればいいけど……でも無理そう……あの人、怖いよ……!」
唯が怖いというのは、仲間にも暴言を吐いている黒髪の方だろう。金髪の方はあまりの言葉の勢いに困惑しているようにも見える。
(あいつら油断しきってるわね……なら今度は私が、この状況を変えてやるっ!)

「えっ!?瑠奈、どこ行くの!?」
体が動けるようになった瑠奈は、唯の元を離れて素早く何処かへ行ってしまった。
「アハハハハッ!もしかして1人で逃げたの?あいつ、友達甲斐もクソもないクズロリ巨乳だったのね!」
「……逃がさない。」
走り出した瑠奈をリザが素早い身のこなしで追いかけていく。
「そ、そんな……瑠奈ぁ……!」
「クククク……結局友情なんてそんなもんよ。クソリザが戻ってくるまで、あんたはあたしが見張っててやるわ……!」

「んぐううううううおおおおおおっ!!!辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛いいいぃっ!」
瑠奈が向かった先……それは唯と共に地上に降り立ったアイナの元だった。アイナは未だにうめき声をあげながら地面を転げ回っている。
(よし!こいつを人質にして……!)
瑠奈がアイナの体を掴むと、すぐさまその手を自分よりも小さな手に力強く叩かれた!
「えっ!な、アンタはっ!?」
「アイナを……離せっ……!」
おそらく自分を追いかけて来た金髪の美少女が、アイナの体をぐいっと引っ張り始めた。
「くっ……誰が離すもんですかっ!このっ!」
「痛っ!」
瑠奈はリザの小さな両手に爪を食い込ませ、思いっきり引っ掻いた。
「ぐあああぁっ!!」
リザが悲鳴をあげたのを確認し、瑠奈はアイナの体を力任せに引っ張った!
「もらったああああっ!」
「ち、ちょっと!?美少女同士でアイナの取り合いをするのはいいけれど、は、早く水をくれないと、し…死んでしまいますわーーーーッ!!」
アイナが叫んだ途端、ポッケに入れていた収納済みのヒューマンボールが地面に落ちた。


350 : 名無しさん :2017/05/13(土) 10:52:48 ???
(……あ、あれ?……確かボク達、アルガスに着いた後、怪しい科学者に捕まって……ヘンなおっさんと戦って……
スバルや桜子さん、サラさんが……殺されて……その後、どうなったんだっけ……)

気が付いたら、彩芽は地面に倒れていた。草や土の匂いがする……少なくともここは、アルガスの研究所ではないらしい。

(そうだ。なんか…ヘンなボールの中に捕らえられて…その後の記憶がはっきりしないぞ………)

ボクは……それに、亜理紗も…

…どうして、血まみれで倒れているんだ……?


……

「ぶはっ!!…ぼ、ボクたち助かったのか…?…き、キミは一体…!?」
「……一体、どうなってますの?……る、瑠奈!?どうしてここに」
派手な音と煙と共にヒューマンボールが弾け、中にいた彩芽とアリサは解放された。

「なっ!?…いくら教授の発明品がイイカゲンだと言っても、落としただけで中身が出てくるなんて…ありえませんわ!」

落ちた弾みで何かのスイッチが押されたか、元々壊れていたか……ありえなくても、実際そうなった。
そして今、瑠奈は尖った石(たまたまどこかで拾ったのだろう)をアイナの首筋に突き付けている。
アリサと彩芽も瑠奈の側に付き、それぞれ手に武器…というか、なんだかよくわからない機械…で武装した。

「と…とにかくこれで、形勢逆転ね!このピンクツインテを殺されたくなかったら、私達をこのまま逃がしなさい!もちろん唯も!」
「瑠奈って言ったっけ?…いきなりすごい卑怯なことしてるな(なんか気が合いそうだ)」
「……確かに、あまりフェアなやり方ではありませんけど…この際手段を選んではいられませんわ」
にらみ合いを続けるリザと瑠奈だったが…しばらくの後、ふいにリザが口を開く。

「なるほど…こんな風に、いざと言う時コロコロと都合のいい事が起こる…それが貴女達の『運命を変える力』、ね」
「…は?…何をわけのわかんない事を……いいから、さっさと私達を」

「だけどそんな物…私達『王下十輝星』の前では、何の意味もない」
「ええ…そろそろ、迎えのヘリが来る時間ですわね。久々に『アレ』で片を付けましょう」

リザとアイナ、二人が身に着けている指輪から細い光が伸びる。
二人の指と指が赤い光の糸で繋がれて…次の瞬間、二人の姿は瑠奈たちの目の前から消えた。

「あ……あれ!?…私達、どうしてこんな所に……」
…そして、記憶からも。

「確か…わたくし達、アルガスで捕まって…その後の記憶がはっきりしませんわね。瑠奈が助けてくれたんですの?」
「え?ええと…確か、アルガスから逃げて来たサキって子に会って…唯が箒に乗って…あれ?……」
記憶がところどころ曖昧で、思い出せない。だが、何だか…とてつもなく嫌な予感がする。
とんでもない危険が、すぐ近くに潜んでいるような…


……「スピカ」と「ベガ」。二人の指輪が光の糸で接続されている間、二人はそれぞれの能力を共有する。

(リザちゃん……アイナの事、ちゃんと覚えてます?)
(ええ、もちろん…能力を共有していれば、お互いの記憶が消える事はないみたいね)
…そして二人の指に繋がれた糸は、二人の心の繋がりの強さによって無限の硬度・切れ味を発揮する。

(よかった……でもこれで、はっきり解りましたわ……今のアイナと、リザちゃんは…)
(私とアイナは……)

((無敵!!))


「なんだか、わかりませんけど……」
「ボクたち今…とんでもなくヤバい気がする。」
「……逃げろぉぉぉおお!!」

「「エクストリーム・ピジョンブラッド・インビンシブル!!」」


351 : 名無しさん :2017/05/13(土) 13:32:51 ???
「え……きゃあああああああああッ!!
!」
「うわあああーーーッ!!!」
「ひっ!い…いやああああああっ!!!!」
突如現れた見えない糸に、瑠奈、アリサ、彩芽の3人は悲鳴をあげながら体を切り刻まれていく。
(加減してるから体を切断まではしませんけれど、それでも動けなくなる程度にはなってもらいますわ……!)
(かわいそうだけど……これも私の目的のため……!)
光速で動き回る2人は、3人の悲鳴を聞いてもなお勢いを止めることはなく、容赦のない外傷を与えていく。

「いやっ!あああ゛あ゛!も、もうやめ…ぎゃああああああああッ!!!」
「あ!う゛あ゛ああっ!!!……あ……ボク……もう……だめぇ……!」
「あ、彩芽ええええぇぇっ!!うぐうっ!い゛や゛ああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!」
服が破れ、髪を切られ、肉が見えても、追撃の手が緩むことはない。
美少女たちが助けを求めて悲痛な悲鳴を精一杯上げ続けるも、厳重厳戒態勢のアルガスの街道には旅人や行商人もおらず、助けてくれる者は愚か3人を確認する者すらもいなかった。
「あ……ぐ……ぅあ……」
彩芽に続き、体も顔も傷だらけになった瑠奈は立っていることも叶わず、後ろ向きに地面に倒れ混んで仰向けになった。
「がぼっ!!!る……瑠奈……ぅ……」
アリサの来ていた純白の妖精の服も無残に切り刻まれ、服としての機能を失い下着が露わになってしまっている。
そして彼女も血を吐きながら意識を失い、仰向けの瑠奈の上にうつ伏せで倒れ込んだ。

リザとアイナの合体技になすすべもなく、異世界人の美少女3人は無残な姿で全滅してしまったのだ。

「く……そ……!どうして……どうしてこんな時に……運命を変える力が発動しないんだ……」
かろうじて言葉を発した彩芽の首筋に、リザはそっと手を当てた。
「運命を変える力……そんなものあるわけないわ。逆境にあるなら、自分自身の力で状況を変えるしかない。……運がいいだけで生きていけるほど、この世界は甘くないのよ。」
「うっ……!」
鈴のような声が耳に響いた後、首の裏を強く叩かれた彩芽は意識を失った。
「……ボールに戻そう。アイナ。」
「リザちゃん……さっきのセリフ、リザちゃんが言うと説得力マシマシで、アイナは痺れましたわ……!」


352 : 名無しさん :2017/05/13(土) 17:29:50 ???
バババババ……

「じゃあ、早くボールにしまって……」
「ちょっと待ってくださいなリザちゃん、何か聞こえませんこと?」
「そういえば……」

バババババババ……

「あ、アレは……!」

ババババババババババ!!

「迎えのヘリじゃありませんの!なんで遠ざかってるんですの!?」
「しまった……!アイナ、早く能力を切って!」

アイナとリザが能力を共有している間、当然サキの頭からも2人のことは消える。迎えのヘリのパイロットからも忘れられる。そうなれば、起こることは一つ。

「お、置き去りにされてしまいましたの〜!?そ、そんな殺生な……」
「能力を解いたから、すぐに思い出してくれるはず……戻ってくるのを待とう」
「うう……それはそうと、リザちゃんお水持ってませんか?」
「アイナがそんなに辛そうにするなんて……一体どんなお菓子を……」

などと話したり水を飲んだり異世界人たちをボールにしまったりしているうちに、リザの携帯から着信音が響く。当然ベートーヴェンの第五交響曲「運命」だ。
知らない番号からだが、とりあえず出ることにしたリザ。

「もしもし?」
『もしもしリザ?ひょっとして後先考えずアイナと合体技使ったんじゃない?』
「う……」
「やっぱりね……私がイタ電かける為にアンタの番号覚えてたことを感謝しなさい」
電話をかけてきた相手は、やはりというかサキであった。なんでもヘリのパイロットからスマヒョを借りたらしい。


『篠原唯は気絶させてヘリに乗せといたわ』
「うん、ありがとう」
『で、どうする?めんどくさいけどUターンする?私としては疲れたし早く帰りたいけど、異世界人たちを回収しないわけにもいかないわよね』
「うん、お願いしていい?」
『まったく世話が焼けるわねー、私がいたからよかったけど、最悪アンタら歩いて帰るハメになるところだったのよ?アホリザはテレポートできるからいいかもしれないけど、アイナなんかに長距離歩かせた日には』
「リザちゃん、ちょーっとごめんあそばせ……サキ!いいから早く迎えにきなさい!」

サキの毒舌が火を噴くより前に、アイナが電話を借りてサキに大声をあげる。

『っさいわねー、耳元で怒鳴るんじゃないわよ……ちょっと待ってなさい』

ブツ、という音と共に通話が切れる。なんにせよ、これでヘリは戻ってくるだろう。

「まったく、サキが実はこんなに腹黒で口も悪かったなんて……」
「でも、なんだかやっと、サキと本当の意味で同僚になれた気がする」
「り、リザちゃーん?なんか2人っきりで話して以降急に仲良く……というか距離感が近くなった気がしますけど、何があったんですの?例えるならば不良同士が川辺で殴り合って互いの実力を認めあったかのような感じが」
「特には……でも、サキにだって私にだって理由や覚悟はあるし、たとえ嫌われたからって私たちは同じ『王下十輝星』だから……だからきっと、これからも色々言いあいながらも助け合っていくんじゃないかな」
「お、おおう………?分かるようで分からないけど、ニュアンスは伝わるような……?」

そうこうしているうちに、今度はちゃんとヘリが近づいてくる。

「行こう、アイナ」
「ええ」
(なんだかよく分かりませんが……悪友、という奴ですの?)


353 : 名無しさん :2017/05/14(日) 14:19:55 RGcNCJnc
「……はい、途中で篠原唯、月瀬瑠奈の両名と遭遇し、捕獲しました……はい、はい、分かりました」
任務を終えた王下十輝星の三人が乗る帰還中のヘリコプター。そこではリザが王様に臨時の報告をしていた。任務外で篠原唯と月瀬瑠奈を捕獲したからである。

「まさか5人の戦士を全員捕まえられるとはね……これはボーナスも弾みそうだわ!」
素の彼女にしては珍しく、明るい声をだすサキ。それだけ今回の任務の成果は大きいということだ。

「リザちゃん……王様はやはり、単独でシーヴァリアに行かせるのを止めさせませんでしたか……?」
アイナも任務の大成功はもちろん嬉しいが、それ以上に王様がリザを使い潰すが如く危険な任務を単独でさせるのを思いとどまることを期待していた。

「うん、報酬は弾むけど、それはそれとしてシーヴァリアには行けって……」
「そうですか……リザちゃん、重ね重ねですが、無理はしないでくださいましね?」
「は?シーヴァリア?なに、アイベルトがヘマでもしたの?」
そこで、リザのシーヴァリア行きについて初耳だったサキが口を挟む。

「うん……連絡が取れなくなったから、様子を見に行けって」
「それで一人でシーヴァリアに潜入?王様ったら、アンタを使い潰す気満々じゃない。まぁアウィナイトの保護なんてどう考えてもガラじゃないし、当然っちゃ当然かしら」
「……!」
「サキ!貴女には言葉をオブラートに包むという概念がないんですの!?」
「なによ、本当のことをハッキリ言って何が悪いってのよ」
「大丈夫……分かってたことだから」

王様がリザに危険な任務をよく任せるのは事実だが、逆に言えば任務に失敗さえしなければいいだけのこと。
どんな危険な任務だって完遂して、王様にアウィナイト保護を続けさせる。
そうこうしているうちに、シーヴァリアとの国境が近くなってきた。

「そろそろヘリから降りないと」
「あっそ。精々捕まらないように気をつけなさい。いい子ちゃんの多い聖騎士の国に捕まっても、拷問とかされなさそうでつまらないから」
「……サキは、憎まれ口を叩くのが好きだね」
「は?なによ、ケンカ売ってるの?バラすわよ?例の件バラしちゃうわよ?」
「……そうしたら、サキの例の件もバレると思うけど」
「っち!そうだったわね」

エミリアが禁呪を使ったことを黙ってる代わりに、サキの邪術や裏の汚い任務も黙っている。友達でも敵でもない、敢えて言うなら共犯者である彼女たちを繋ぐ、奇妙で歪な縁。

「リザちゃんが軽口を叩くようになるなんて……それはそれで嬉しいですけど、疎外感……ああ疎外感、疎外感……」
エミリアと仲良くなったことでよく笑うようになったリザ。サキと一応の和解(?)を経て、年相応とまではいかずとも、生の感情を少しさらけ出すようになったリザ。『喋るのは苦手…相手が何を考えているかわからないから。言葉ではなんとでも言えるでしょう…?』なんて言ってた頃からは見違えるようだ。

(それを言えばアイナも少し変わった気がしますけど……きっと、良い変化なんでしょうね……)
リザやエミリア、シアナ……人との関わりは、人を成長させる。

(このままみんなと、ずっと一緒にいられたら……なーんて、柄にもなく思っちゃいますわね……)


354 : 名無しさん :2017/05/14(日) 19:27:53 ???
「……やあ、お帰り唯ちゃん。また会えて嬉しいよ……外の世界は楽しめたかい?」
「…王、様…」
アルガスを目指す途中で王下十輝星に捕らえられ、一人、謁見の間に連れてこられた唯。
親友の瑠奈、そしてアリサの姿はない…たぶん別の場所に囚われているのだろう。

ボロボロになったバニー服の代わりに、今の唯はピンク色のカクテルドレスに着替えさせられていた。
ドレスの色も、寸法も…それを言うなら用意された下着のサイズまでもが唯の身体にぴったりと合っていて、
その事が余計に不気味さを感じさせる。

「まあ、そんな怖い顔をしなさんな。キミとは、一度じっくりと話したいと思っていたんだ…」
「話…ですか。…私なんかと、一体何の話を……」
ひらひらのドレスは戦闘向きとは言えないが、それ以外に手枷足枷などの拘束はない。
今の唯なら一瞬で間合いを詰め、王に攻撃を仕掛ける事もできるが……
警戒しつつも、唯は赤絨毯の階段を上り、王の前に進み出る。

「…そう自分を卑下するものじゃあない。君たち異世界人の持つ『運命を変える力』は、
俺様も高く評価…いや。この際ぶっちゃけると、『警戒』しているんだ。
下手すれば、この俺様の野望すらも揺るがしかねないからねぇ。ヒヒヒヒ……」

「野望ですって…?…世界中から女の子を…いえ、私達みたいな異世界人まで浚って来て、好き勝手にいたぶって…
能力を警戒も何も、私達をこの世界に連れて来たのはあなたじゃないですか!…一体あなたの目的は、何なんですか?」

王の軽薄な態度の奥に潜む異様なプレッシャーに潰されないように。
そして、この場に仲間がいない不安を悟られないように、唯は声を振り絞りながら王へと詰め寄る。
そこに返って来たのは……

「いやー。野望と言っても、ささやかなもんだよ……いろんな女の子を、好き勝手にいたぶり続けたい…永遠に」
…ある意味、予想通りの返事。そして、

「そのために俺様は、このリョナラー世界を造ったんだ」

…予想外の一言だった。


355 : 名無しさん :2017/05/14(日) 19:37:30 ???
「え…この国を、じゃなくて…世界を?…そんな事が…」
「プレイヤーが創造主となって、いろんなパラメータを設定しながら思い通りの世界を創る…
…そういうゲームが、売ってるんだよ。…君たちの住んでいる世界とはまた、別の世界で」

「ゲーム……売ってる……え?…」
王の言っている事が、唯には理解できなかった。
いきなりこの世界が全て造り物だと言われても、「はいそうですか」と受け入れられるわけがない。

「…最初はもちろん、このトーメント王国を造った。
次に、適度に無双できて、餌食を提供してくれる敵対国家…魔法少女の国とか、聖騎士の国とか。
魔物は自動生成……強さ・グロさ・繁殖力を最大値にして、半放置。
歴史とかのフレーバー要素は、後からいくらでも設定できる」

「じゃ、じゃあ。この世界の人たちは……ルミナスの人達も、人間じゃなくて…」

「…いやいや。唯ちゃんの想像してるのって、TVの前でコントローラで遊ぶ、ビデオゲームとかの類いだろ?
この世界の人々はデジタルデータの塊なんぞではなく、ちゃんと生身の身体を持った人間だとも」
だからこそ問題だ、と唯は思う。
だからこそ面白い、と王は嗤った。

「だが……ゲームで作ったこの世界には、ある『制約』があってね。
王であり創造主であるこの私が倒される『可能性』を存在させなければならない。
そこで、この世界の運命から外れた存在…異世界人である君たちを呼び寄せた。
可能性を持つ『5人の戦士』は、もちろん全員可愛い女の子を選んだ」

もちろん、5人の戦士以外の異世界人も好きに呼び出す事が出来る。
サラや舞のような追加の犠牲者や、教授のような協力者も。
客として闘技場や様々な国を見物する者も数多いと言う。

「そ、そんな……」
この世界を創造し、王国の軍勢を支配し、設定一つで無尽蔵に魔物を生み出す存在を相手に、
何の力もない女の子5人が戦って勝てる『可能性』の程を想像し、唯は眩暈に襲われた。

「とは言え、クリア不可能なゲームは売り物にならない。
俺の能力…いや、このゲームの機能で、君たちは自動的に、何度でも生き返ることが出来る。
だから君たちが何の力もない一般人だと言っても、俺の方が圧倒的に不利なんだよ?
まして、修行を積んで力を付けた、今の唯ちゃん達ならなおさらだ…そこで」


「折角5人が揃った事だし、今から君たち全員の心を徹底的に折ろうと思う」


356 : 名無しさん :2017/05/14(日) 20:55:42 ???
…王に宣言されるまでもなく、唯の闘志はとうに喪失してしまっていた。
だが王はそんな事は気にもせず、スマホを取り出してどこかへ連絡を取り……
やがて、他の『5人の戦士』…唯と同様にドレスを着せられた、瑠奈、アリサ、彩芽、鏡花が連れてこられた。

そして彼女達を連行してきたのは、黒いスーツやドレスに身を包んだ7人の男女。
その中には、シアナやアトラ、そしてアイナとリザ、サキの姿もあった。

「何人かは会った事があるだろうが、改めて紹介しよう…俺の部下、『王下十輝星』だ。一人欠番、二人欠席だけどな!」

(思ったより早く、『約束』が果たせそうだね…唯ちゃん)
いつもと違って、黒いスーツ姿の『プロキオン』のシアナ。
服装が変わっているせいか、唯が以前会った時とは別人のように冷酷な雰囲気を漂わせている。

(ドレス姿の鏡花ちゃんもイイなぁ…もちろん『リョナりたくなる』的な意味で!)
シアナ同様、スーツを着こんだ『シリウス』のアトラ。
明るさの奥に秘めた残虐性が、いつも以上に増しているように見える。

(…あれ。もしかして、このお面もう必要ない?)
隣には、ボイスチェンジャー付きの仮面を装備した『デネブ』のフースーヤ。
鏡花は以前、魔力を封じられた彼に徹底的に痛めつけられた記憶が蘇った。

(……私までいる必要はなかったんじゃ)
シーヴァリアに行く前に一度王都に戻れ、と突然王に命じられた『スピカ』のリザ。
色はともかく、ひらひらとした服装はどうにも落ち着かない様子だ。

(まあまあ、こういうのはハッタリも重要なんですわ!)
髪だけは相変わらずピンク色な『ベガ』のアイナ。
この二人に、アリサ達三人は一瞬にして壊滅状態に追いやられた。

(………ニヤニヤ)
彩芽とアリサに向かって小さく手を振っているのは『リゲル』のサキ。
もちろん、友人だった時の彼女とはまるで印象が違っている。
唯が最後に囚われた時、彼女は『変身能力』でアリサに変身し……結果、手も足も出ず戦闘不能に追い込まれた。

(……よくお似合いですよ、皆さん)
7人の中では一番の年長である『アルタイル』のヨハンは、ドレスアップした唯達や他の十輝星に爽やかな笑みを送っている。


「でもって『王』であるこの俺の、新型バトルスーツもお披露目だ!長い事裸ブリーフで恥ずかしい思いをしてきたが、
これでもう『ま抜け』等と言われる事はない。……ヒッヒッヒ…!!」
(((あれ、恥ずかしいって自覚あったんだ……)))

王はおもむろに玉座から立ち上がり、バサリとマントを翻す。
中から現れたのは、キンピカド派手な上にグロい触手のようなものが無数に生えた、
とてつもなく禍々しいシロモノだった。
その技術的なベースは、かつて瑠奈や鏡花も着させられた『黒衣の魔女』
ノワールなのだが、見た目からその事に気付けた者は皆無だろう。

「ではルールを説明しよう。
・これから俺と王下十輝星全員で、君たちを徹底的にボッコボコにします。
・死んでも何度も生き返らせて、何度も何度も殺します。
・逃げようとしても必ず捕らえて殺します。その際、徹底的にリョナります。
・壊れたり泣いて許しを請おうが殺します。
・俺が殺されるか飽きるかしたら、君たちの勝利です。
・勝利者の君たちには拷問室か地下闘技場かの豪華片道切符をプレゼント
…まあ要するに、いつも通りって事だな!HAHAHAHAHA!!」

「いっ………」

「「いやああああああ!!!!」」


357 : 名無しさん :2017/05/14(日) 22:20:58 ???
「な……何言って……5対8でボコボコにしようってのか!?ふざけん、ぐあっふ!!」
突然のリンチ宣言に彩芽が声を荒げて反論するも、王のスーツから伸びた触手が問答無用と言わんばかりに彩芽の足に巻きついた。
(くっ…これ、硬くて外れないっ…!)
「古垣彩芽ちゃん……俺は一回君をリョナってみたかったんだよ。強気メガネボクっ娘はなかなかいないからなぁ……ケケケケ!」
「ああっ……や、やめ……!」
王の思い通りに動く触手は、彩芽の足に巻き付いたままぐるんぐるんと回転運動を始める。
「はっはっは!気分はカウボーイだ!」
「やぁっ!う、うわああああああああっ!いやあああああぁぁッッ!!」
「あ、彩芽えぇっ!!やめてっ!彩芽を離してぇっ!!」
「くくく…言われなくても、そらよっと!」
「ああああぁっ!?」
回転力を増した状態で彩芽の足は触手からすっぽ抜かれ、勢いをつけて投げ出された。
(こ、この勢いで壁に激突したら……ボクは……ボクの体は……!)
「し、死ぬ……!いやああああっ!!」
悲鳴をあげながら、死を覚悟した彩芽の体が向かう先は……

「あ、アリサ!危ないっ!!!」
「きゃあっ!」
瑠奈が咄嗟の機転を利かし、アリサの体を突き飛ばす。それから一拍おいて、アリサのいた場所に大きな塊が吹き飛んで来た。
「あ、彩芽っ!!」
ドガッ!という大きな音ともに、壁に叩きつけられた彩芽の元に駆け寄るアリサたち。
「す、すぐに治療を……!」
「鏡花ちゃんっ!私も手伝うっ!」
治癒魔法が使える鏡花と唯がすぐに術を使おうとするも、彩芽の姿を確認した瞬間……そんなものは意味がないと気づいた。

「そ、そんな……彩芽っ……!ぐっ……!うえええっ……!!」
「ぁ……ひ、ひどい……!う、お、おえええっ!!」
人の体だったのかすらも怪しい状態の肉塊から、真紅の血がだらだらと流れて床と壁に張り付いている。
間近で見たアリサと鏡花は、あまりの惨たらしい姿にその場で嘔吐した。
どこからどう見ても、彩芽は死んでいた。

「ははははっ!さっそく死んだか!ま、すぐに生き返らせてやるから安心しろや……ケケケ!」
「まあ、5人揃って暴れられるのを防ぐために頭数を減らしてからじっくり嬲るっていうやり方もありますね。」
「シアナ頭いいっ!じゃあ次は誰を殺す?やっぱ胸がでかすぎてトロそうなウシがいいかもな!」
冷静に言い放つシアナにツッコミを入れるアトラ。彩芽の惨殺死体を見たというのに、2人は取り乱すこともなくケロッとしていた。
「あ、アトラ君……!こんなこと……やめてよっ……!」
「鏡花ちゃん……申し訳ないけど、俺もそろそろ情がうつる前に、君をリョナりたいと思ってたんだよなぁ。だから……やめるわけにはいかないかなー!」
「そ、そんな……きゃああっ!」
鏡花の足元から蛸のような触手が飛び出し、悲鳴を上げている間に鏡花はガッチリと拘束された。
「あははっ!あっさり捕まってやんの!やっぱ鏡花ちゃん弱えー!ほんとにルミナスの戦隊長かよ?」
「く……っ!う……!」
「とりまこの子は俺がやるから、シアナたちはほかの奴頼むわ!」
アトラはニヤニヤと笑いながら、ぬらぬらとした蛸足に拘束されている鏡花に近づいていった。


358 : 名無しさん :2017/05/14(日) 22:22:01 ???
「さて、私はアリサのやつをギタギタにしてやろうかしら。なんとなくクソリザに似てなくもないしね……!」
「あ、じゃあアイナもサキのお手伝いをさせていただきますわ!あのアリサとかいう奴は口調がアイナと同じで、キャラが被っているからムカつきますわ!」
「ふん……勝手にすれば?」
「ち、ちょっとサキ。ヨハンがいるのにその口調でいいんですの……?」
「いいのよ。もうヨハン様にも私の性格の悪さはバレてたんだし……ヨハン様以外にはこの口調でいいわ。」
「ということは、まだ恋の炎は消えていないんですのね。……まあ、生暖かい目で応援してあげますわ……」
「僕は……唯ちゃんをやる……!」
シアナ、アイナ、サキはそれぞれ標的を定めたようで、それぞれの獲物に近づいてゆく。
リザはその様子を、冷めた目で見ていた。

(趣味の悪い……王様はこんなことをさせるために、私をここに残したの……?)
「どうしたリザ?お前も日頃の鬱憤をこいつらで晴らしていいんだぞ?」
「……王様。私はアイベルトの方が気になるので、シーヴァリアに向かってもよろしいでしょうか?」
「はぁ……リザ、ノリが悪いぞ。なあヨハン?こういう時は周りに合わせないとダメなんだってお前が教えてやれ。」
「ぼ、僕に丸投げされても……というか僕もこういうの、あんまり興味ないんですよね。任務と言われればやりますけど……」
「あーじゃあ任務だ。ヨハンはあの瑠奈……青髪ロリ巨乳をリョナれ。」
「はは……わかりました……」
苦笑いをしながら、ヨハンは瑠奈の元へと近づいていった。
「で、リザはどうする?
「……私はやりたくありません。もうシーヴァリアに向かいますので、これで失礼します。」
そう言うとリザは、一瞬で姿を消した。


359 : 名無しさん :2017/05/15(月) 00:37:46 ???
「し、シアナ君……」
「分かっただろう?王様を倒そうなんて、土台無理なことなんだって」
シアナは語りかけながら、唯の足元に穴を開ける。

「くっ!?」
咄嗟に飛び退いて落とし穴を回避する唯。
(こうなったら、やるしかない……!なんとかして、この状況をなんとかしないと……!)
「シアナ君、ごめん!」
地面を蹴って一気にシアナに接近し、彼を撃破してなんとかこの状況の突破口を探そうとする唯だが……

「援護しますよ、シアナさん」
後方から飛んできた濁った色の毒ガスを吸い込んでしまい、シアナに攻撃する前に膝をついてしまう。
「う、ぐ……!?ち、力が、出ない……!?」
「ポイズンクラウド・ウィズ・ウィンド……ちょっとした応用ですよ」
「フースーヤ、ナイスタイミングだったよ、と!」
「ぶご!?」

目の前で膝をついた唯の顔面に思いっきり膝蹴りを入れるシアナ。
唯は鼻血を出しながら後ろに倒れこんでしまう。

「うわー、容赦ないですねシアナさん」
「それはお互いさまだろ」
「う、ぐぅうう!!」

仰向けに倒れ込んだ唯の頭に足を乗せ、少しずつ力を加えていく。唯は必死に抵抗しようとするが、先ほど吸った毒ガスのせいで力が入らない。

(こ、このまま力を強くされちゃったら、私……し、死んじゃう……!)

「ククク……王様が近くにいると特に工夫しなくてもいつまでも楽しめていいな」
「僕は次は、あの眼鏡の子が生き返ったら甚振りましょうかね」
「なんだ、フースーヤは眼鏡フェチだったのか?」
「いや、フェチというかなんというか……」

「う、あああああああ!!あ、頭がぁあ!!!頭が割れるぅうう!!死んじゃうううう!!」
「死んでも何度でも生き返らせてもらえるから、心配しなくても大丈夫だよ、唯ちゃん!」
「あ、やあああああああ!!!!」

グググ、とシアナが唯の頭に乗せた足の力はどんどん強くなる。
段々激しくなる痛みもさることながら、唯は少しずつ迫る頭部破損による死の恐怖に怯えていた。


360 : 名無しさん :2017/05/16(火) 00:29:15 ???
「あなたたちの目的はなんなんですの……!こんな風に他人の命を弄ぶなんて、正気の沙汰じゃありませんわ!」
「ハッ!鼻くそみたいな存在価値のあんたに何言われようが、こっちはへのへのかっぱよ!ステレオタイプの生意気お嬢様が!」
「そうですわそうですわ!その口調はアイナがもう使っているのですから、即刻おやめになって!キャラが被るのは困りますわっ!」
アリサへ罵倒をかましながらサキは邪術を唱え始め、アイナは姿を消した。
「暗黒より出でよ!冥界の門扉!……デモンズゲートォッ!」
「……ッ!?」
サキが詠唱を終えると、サキとアリサの間にどす黒い闇の空間が広がった。
ぽっかりと空いた大きな穴からは、幾千、幾万の亡者たちの生者を恨む呻き声が聞こえてくる。

ヴェエエェェエエアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛……!

「なっ……こんなおぞましい術は初めて見ましたわ……!」
「フフフ……あんた、うちのかわいい舞をボコボコにしてくれたそうね。あの子の敵討ちとしてあんたには、死よりも辛い現実を味わってもらうわ……!」
「な、なんですって……!きゃあっ!?」
アリサが闇のゲートから距離を置こうとした瞬間、何者かに後ろから思い切り蹴飛ばされた!
「おらっ!さっさと中に入れですわ!」
「あ、あっ!あぁっ!いやっ!いやあぁっ!」
悲鳴をあげながらもゲートには落ちるまいとなんとか踏ん張るアリサ。だがそんな無駄な努力はアイナには通用しなかった。
「かたい棒〜アイナを甲子園に連れてって味〜……の威力を思いしれですわーッ!」
「う゛っ……!?」
頭の後ろにガツンッ!!という音がして、アリサは意識が飛ばしたままゲートの中へと堕ちていった。

「ふうー!久しぶりにこの金属バットを使いましたわ!……でもこの下って、どうなってるんですの?」
「フフフ……この下は生涯童貞のまま死んだ悲しい男どもの溜まり場よ。さて、あ〜んな可愛い女の子が現世から堕ちて来たら、みんなどうするのかしらね〜……アッハハハハハ!!!」
(うわ……サキったらやることがえげつなすぎて、こっちがドン引きですわ……)


361 : 名無しさん :2017/05/16(火) 01:04:05 dauGKRa6
王と十輝星がリョナの限りを尽くしている頃、リザは自室へと戻って来ていた。
(ああやって意味もなく人を痛めつけて、何が楽しいんだろう……あの感覚だけはこれからも一生わからないんだろうな。)
ドレスを脱ぎながら、リザは王や仲間たち、トーメントの国民たちの性質について考えを巡らせる。
(この国の人たちは……どうして喜々として暴力を振るう人が多いんだろう。他人に理不尽な暴力を振るうことは、ただ報復を恐れることになるだけなのに。)
ショーツとブラの下着姿だけになったリザは、ふと全身鏡に映った自分の姿を見た。

(……結構、生傷が増えちゃったな。)
アウィナイトの一族を助けると決めた日から、リザは連日連夜戦い通しの日々を重ね、幼い体を酷使している。
凄まじい身体能力とテレポートを使えるとはいえ、巨大な魔物や実力者のレジスタンスたちとの戦いを無傷で終わらせることは叶わなかった。
一応、教授に体を見せれば傷は綺麗に治せるらしいが、お願いしようとした時のいやらしい手つきと血走った目と口から流れるヨダレがどうしても気になって、取り下げたことがある。

(……でもこれも全部、王様に私たちを保護してもらって、アウィナイトのみんなが迫害されるのを防ぐため……体の傷なんかにかまっていられない。)
いつもの黒い暗殺者服に黒いコートを纏い、少し伸びた金髪をぎゅっと後ろで縛って、リザは単身シーヴァリアへと向かった。


362 : 名無しさん :2017/05/16(火) 08:04:07 ???
「うぅ……一体、なんですの、ここは……」
闇のゲートに落とされたアリサは、不気味な異空間に囚われていた。
空は真っ暗闇。周囲は見渡す限りこぽこぽと泡立つ不気味な白い粘液の海が広がり、
そこから漂うむせ返る様な異臭が容赦なく鼻腔を焼く。

気絶していたため受け身を取れず、身体ごと着水したアリサは、既に全身が粘液まみれだ。

「生臭くて、吐きそう……こんな所に居たら、頭がおかしくなってしまいますわ……なにか、脱出する方法はありませんの……?」

アリサが落ちて来た闇のゲートは既に閉じてしまっていた。
白濁粘液の海に膝まで浸かりながら、アリサは闇の世界を当てもなく彷徨う。

(クスクス…闇の世界に、出口なんてないわ。闇の亡者の慰み者になりなさい……)


歩いても歩いても、闇と白濁だけが果てなく続く。
王の間に連れてこられる前に着替えさせられた白いドレスは汗と粘液でぐちょぐちょに穢れ、
レースで装飾された下着が服の上からでも透けて見えてしまっている。
漂う腐臭はますます強くなっていた。その匂いを嗅ぐたびに全身から力が抜け、身体の奥が熱を帯びて疼く。
全身から噴き出した汗が肌を伝う度に、堪え切れずに甘い声が漏れた。

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……んっ……う…」
(この、感覚……確か、アルガスでも……い、いけませんわ、このままじゃ……)

はしたないと思いながらも腰まで捲ったスカートの内側で、汗でも白濁液でもない、
透明な何かが内股を伝って白濁の海にとろりと垂れ落ちた……その時。

「雌の匂い…」「女だ……」「贄…」「餌」「嫁……」

周囲の白濁液が蠢き、無数の亡者の腕、顔、そして異様な形状をした触手へと姿を変えた。

「敵ですのっ!?…っ…剣が……」

咄嗟に愛剣を引き抜いたアリサ。
だが、普段は羽のように軽く、閃光のごとく素早い突きを繰り出す宝剣リコルヌが…
今は、鉛で出来ているかのように重く感じた。

(くっくっく…白が大好きなアンタにはうってつけね。
二度とそんなオモチャ、握れないぐらい、徹底的に犯されるがいいわ…!)


363 : 名無しさん :2017/05/16(火) 12:30:44 ???
「つーかマジで鏡花ちゃん弱すぎじゃねww下手したらアホウドリちゃんとかいう妹より弱いんじゃないの?」
「アホ…って、妹の名前は水鳥よ水鳥!」
「あー、そういえばそうだっけ…ま、どうでもいいんだよそんなことは」
アトラは触手に拘束された鏡花へと迫る。

「おら!ひ○ちカッター!」
めっちゃ古いギャグの上カッターと言いつつギロチンを出すというツッコミどころ満載の攻撃をアトラが放つ。
「……きゃあああああああ!!」
だが、そんなふざけてるとしか思えないような挙動でも、ギロチン攻撃自体は恐ろしい攻撃だ。
ドレスは引き裂かれて露出が増え、特に胸元の辺りが大きく切り裂かれてその豊かな胸が飛び出しそうになっている。

「ぐへへ…やっぱ鏡花ちゃんっておっぱい大きいよな…リョナる前から眼福だぜ」
「ぐ…ねぇアトラ君、君も男の子だから、その、む、胸が気になるのは分かるよ?それだけならとっても健全だと思うの。だから、健全な範囲に留めて、女の子を甚振るようなことは止め」
「るっせーな!この状況でお説教かよ?もいっちょギロチン喰らえ!」
胸を凝視されて顔を赤らめながらも、何とかアトラを説得しようとする鏡花。だが、アトラは鏡花の説得を遮って再びギロチン攻撃を放つ。

「ぐううううう!?」
ギロチンによって身体を切り刻まれ、その柔肌から血をどくどくと流す鏡花。
「あー、これ触手巻き込まないようにしないといけないから意外とめんどくせぇな…じゃ、別の罠使うか!」


364 : 名無しさん :2017/05/20(土) 02:03:03 ???
「な……なんなのよアンタ……!来ないでよっ……!」
「いやぁ、僕もあんまり年下の女の子にこんなことしたくないけど……任務だから仕方ないよね。」
唯がシアナとフースーヤに追い詰められている頃、瑠奈の方はヨハンにじりじりと壁際まで追い詰められていた。
「くっ…!」
「さ、もう逃げられないよ?暴れても無駄だから、おとなしくしてくれる?かわいいお嬢さん。」
「だ……誰が大人しくするってのよ!あんたみたいな弱そうな男……吹っ飛ばしてやるッ!」
もう攻撃するしかないと思った瑠奈は、一か八か壁を蹴ってジャンプし、ヨハンの体に肉薄する!

「流星脚ッ!!!」
飛び込みながらスカートが捲れるのも構わず、瑠奈は大胆にキックを放つ。
そのままヨハンの腹に鋭い一撃が入った!……かの様に見えた。
「おっと。」
(え!?透け……透けた!?)
瑠奈は目を疑った。どう見ても腹に入ったはずの渾身の蹴りは、まるでそこにいないかのように男の体をすり抜けてしまったのだ。

「きゃああああっ!?」
勢いを殺すこともできず、瑠奈は不恰好にその場で転んでしまった。
「あらら……下着が丸見えだよ。それに、今の蹴り……まったく女の子らしさのカケラもない野蛮なフォームだなぁ。」
「きゃっ!?いやぁっ!!!」
勝気な性格の瑠奈も花も恥じらう年頃の女の子。敵とはいえかなりのイケメンに自分の下着を見られ、恥ずかしいと思った瑠奈は、顔から火が出る思いのまますばやくスカートで下着を隠した。
「あ……あんたなんなのよ!なんで今すり抜けたの!?まさか……透明になれるとでも言うの!?て、ていうか……み、見たのっ!?」
(フフフ……パンツ見られたからってそんなに焦っちゃって……可愛い。この子が1番可愛いな…たっぷりと意地悪にじわじわ虐めてあげたくなる、いい性格だよ……!)


365 : 名無しさん :2017/05/20(土) 14:35:52 ???
「あ、そうだ。王様!彩芽の奴を生き返らせて、親友が犯されるのをじっくりと見せつけてやるってのはどう?」
「おお!いい考えだな!ではさっそく……」
王様の手から光が溢れ、彩芽の死体を包み込む。おお、見よ。傷だらけだった彩芽の身体が、徐々に戻っていくではないか!

「う……な、なんだ?ボクは一体……」
「せい!」
「おわ!?」
初めての蘇生によって混乱しているうちに、後ろからサキに組み敷かれて身動きを封じられてしまう。

「く……沙紀か!」
「ご名答……さぁ、あのゲートの中を見なさい!」
彩芽の顔を掴んで、無理矢理デモンズゲートの方を向かせる。

「あ……亜理紗!?」




「女ぁあ!!女ぁあ!!」「雌だ雌だぁああ!!」「犯せぇえ!犯すんだぁあ!!」
「ひ……!ち、近寄らないで!」

迫りくる亡者の群れを蹴散らそうとするも、身体が重く思うように動けないアリサ。
最初の一体はなんとか重いリコルヌを無理矢理突き刺して倒したのだが、亡者は後から後から次々と湧いては迫ってくる。

「胸ぇ!」「足ぃ!」「腋ぃ!」「へそぉ!」

亡者たちは思い思いにそれぞれのフェチズムが刺激される部位を叫びながら殺到する。
不調な身体ではその圧をいなしきれず、とうとう亡者たちに身体をがっしりと掴まれてしまう。


「きゃ!?は、離しなさい!私に何をするつもりですの!?」

必死に振りほどこうとするアリサだが、力が入らない。そうこうしているうちに後から後から亡者が群がり、どんどんアリサに覆いかぶさっていく。

「お、重い……!」

亡者がたちがどんどん群がり覆いかぶさっていくことで、少女の細い足ではその体重を支え切れなくなっていく。
やがて少しずつ膝が折れていき、足元の白濁液に沈んでいくアリサの身体。完全に地に膝をついてもなお亡者は群がり、倒れ込みそうになっていく。

(こ、この状況であの粘液に沈められてしまっては……!)
必死に踏ん張って加速度的に増えていく亡者の群れの重さに耐えるアリサだが、最早顔まで白濁の粘液に沈んでしまうのは時間の問題であった。


366 : 名無しさん :2017/05/21(日) 01:18:37 RGcNCJnc
「オラオラ!やれぇ触手ども!」
「ぎ、あ……!あああああああああ!!!」
触手によって拘束された鏡花が、ギリギリと締め付けられることで悲鳴をあげる。

「やっべー!鏡花ちゃんやっべー!ただでさえデカい胸が、締め付けられてめちゃくちゃ強調されてんじゃん!」
「ぐ……ぅ……や、やめて……!」
「まだまだこんなもんじゃねぇぞ!タライ炸裂!」
アトラは鏡花の頭上にタライを出現させて、そのまま落とす。

「きゃうん!?」
ゴン!と思いっきり良い音がして、タライが鏡花の頭に直撃した。

「きゃうんってwwいいリアクションするなー鏡花ちゃん」
「あ、アトラ君……」
一瞬。バラエティ番組の身体張ったギャグみたいな攻撃を喰らったことで、一瞬鏡花の気が抜ける。そして、その一瞬を見逃さずに、鏡花を拘束していた触手は締め付けを一気に強くした。

「ぎ!?ぎゃああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!?」
「アッハハハ!!なんて声出してんだよ!やっぱり油断してるとこを突いた方がイイ反応してくれるなー」
「が……カハ……!」
「さぁ、そろそろフィナーレだ!……とは言っても王様が蘇生してくれるから、全然フィナーレじゃないんだけどな(笑)」
アトラが手を掲げると、直径3mはあろうかという巨大な鉄球が現れる。

「ひ!?」
「じゃあ、いくぜ鏡花ちゃん!」
「う、うそ……!嘘だよねアトラ君……そんな、そんなの……」
「そぉれ!」
「い、いやあああああああ!!!」

ぐちゅり、と。肉の潰れる音がする。

「あ、あ、あ……?」
「簡単には死なせねぇよ……まずは手足を使い物にならなくしてやる」
「あ、ああ、ああああああ!!」
鏡花の左腕は鉄球によって有り得ない方向に曲がっており、曲がっただけでなくぺしゃんこに潰れていた。

「そぉれ次は右腕!」
「あ、ぎいいいいいいい!!」
「だからどんな声出してんだっつーのww」
今度は右腕が鉄球に潰されてしまう。

「そらそらそらそらぁ!」
「あ、あああああ!!!いやああああ!!」
右足。左足。とうとう、鏡花は四肢を全て潰されてしまった。

「アッハハハ!!鏡花ちゃん芋虫みてぇ!」
「あ……ああ……」
「あれ?ひょっとして出血死しちゃう?勘弁してよ鏡花ちゃーん、芋虫状態のままもう少し楽しみたいんだからさー」
「ご……ぁ……」
四肢を鉄球で潰され、大量に血を流し……僅かに痙攣した後、鏡花は動かなくなった。

「あーあ、死んじゃったか……まぁいいや、残りの子はどんな感じかなーっと」


367 : 名無しさん :2017/05/21(日) 10:24:59 ???
「ぐっ……!もう……だめぇ……っ!」
闇の世界で亡者の群れに体を拘束されているアリサは、ついに白濁液の海へと全体重を預けてしまった。

「ごぼっ!んんんんううううううっ!!」
顔まで全身白濁液に浸かったせいでうまく喋れず、アリサが呻いた場所からゴボゴボと泡が噴き出す。
その泡を舌で弾いて壊しながら、亡者たちは無慈悲にもアリサの顔を押さえつけた。
「ぐがぼっ!?んぐんんんんううううつうううッ!!!」
「女のお前も…俺たちの仲間になるんだ…!」
「さあ、死ね……今死ねすぐ死ねここで死ねっ…!」
亡者たちの声が白濁液越しに耳に入る。絶望的な状況だが、アリサはまだ諦めるわけにはいかなかった。
(わ、わたくしはこんなところで……死ぬわけにはいかないっ……!)

「……ぷっはあああっ!!」
何とか息をしようと体をずらして頭への拘束を逃れ、アリサは白濁液の海から顔を出した。
だが……
「死ねえっ!」
「きゃああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
亡者たちが息継ぎを許す時間はごく僅かで、またもアリサは白濁液まみれの金髪を押さえつけられてしまう。
絹を裂くような悲鳴は途中からゴボゴボと耳障りな泡の音を伴った。

「全員で押さえ付けて……このまま溺れさせるぞ……!」
アリサの後頭部を抑えつけている亡者の1人がそう言った途端、その亡者に全員がのしかかってアリサの体を地に着くまで沈め込んだ。
「ぐううううんんんんんんっ!ぐがぼごぼごぼがぼっ!!!」
アリサの口から大量の泡が放出され、白濁液の水面で大小様々な泡がこぽこぽと作り出される。
その泡を舌で弾きながら、亡者の1人が呟いた。

「この海は……女に触れたこともない俺らが長年出し続けて作ったモンだ……お前みたいな美しい女を溺れ死にさせるためにな……」
(う……嘘……!じゃあこの白濁液は……全てこいつらの……!)
アリサが真相に気づいて絶望した瞬間、他の亡者たちがアリサの服を鷲掴みにした。
「ぐうううッッッ!!」
「脱がせえっ!」
ビリビリビリッッッ!という音とともに亡者たちの手によってアリサの白い服は剥ぎ取られる。
(そ、そんな……!この丈夫な服がこんなにも簡単に引きちぎられるなんて……!)
持ち主の処女性で力を発揮するローブ・ド・ブランだが、全身精液に塗れたアリサは見限られてしまったようで、いとも簡単に破かれてしまったのだ。
そして……アリサの息ももう限界だった。


「ぐがぼっ……ごぼごぼ……」
最早抵抗することもできず、アリサの体は精液の海の中でぴくぴくと痙攣を始める。
「もう少しだ……もう少しでこの女の体が手に入るぞ……!」
「ようやく……童貞卒業だ……!」
「女……!はぁ、はぁ、女……!」
アリサを亡き者にしようと色めき立つ亡者たち。だがその声はもうアリサの耳に入っては来なかった。
(お父様……お母様……私も……今、そちらに行きます……)

「がぼっ…………ごぼっ…………」
彼女の最後の言葉は、誰にも聞きかれることなく。
全てを諦めた少女は、精液の海の中で物言わぬ屍となった。


368 : 名無しさん :2017/05/21(日) 11:37:54 ???
「頭が、頭がぁあああ!!」
「うーん、唯ちゃんがまともに抵抗できないとは……毒って思ってたより便利みたいだな」
「ははは……恐縮です」
グググ、と頭を足で踏みつけられ、今にも頭が破裂してしまうのではないかと思うほどの激痛が走る。

「唯ちゃん、am〇zarashiのミュージックビデオに、人形を壊しまくるやつがあってね……僕はあれみたいに、君の頭を粉々にしたいんだよ!」
「あ!ニー〇オートマタのタイアップのやつですよね!知ってます知ってます!」
「な、何の話……あぐううううう!?」
「このまま君の頭を踏み潰すって話さ!」

ただ体重をかけるのではなく、脚力をフル活用して唯の頭を一気に潰しにかかる。

「い、痛い……!痛い痛い痛いよおおおお!!助けてぇええ!!誰かぁああ!!瑠奈ぁああ!!」
「ウシ乳チビ女なら、今頃ヨハンにフルボッコさ!諦めてその可愛い顔がぐちゃぐちゃになるところを見せてよ、唯ちゃん!」
「や、いやああああ!!やめてえええええ!!し、死んじゃ……ブゲ!!?」

とうとう、シアナの足が唯の頭を踏み抜いた。
顔がはじけ飛び、なんだかよく分からない汁みたいなのが飛び散る。

「アッハハハ!唯ちゃん!君みたいな美少女も、こうなっちゃえばただの醜い肉塊だよねぇ!」
「うわ、B級スプラッター映画みたい……」
「なんていうのかな、唯ちゃん、僕は君を、ずっとこうしたかったんだよ!ほんともう、最高って感じさ!」
(シアナさんって、この唯って人をリョナる時は人が変わったみたいになるよな……)


369 : 名無しさん :2017/05/21(日) 15:07:13 ???
「唯っ!!唯いいい!!!……っ……う。……あああああぁぁっ!!」

無惨に頭を踏み砕かれた親友の亡骸を見せつけられ、瑠奈は絶望に泣き叫びながら…
この世界に来た時の事を、思い出していた。考えて見ればあれから、まだ1年も経っていない…



…親友の唯が、ある日突然行方不明になった。一時期はニュースでも報道され、警察も懸命に捜査したが手がかりはゼロ。
居てもたっても居られず、独自に手がかりを探していた瑠奈は…

「な……なに、これ……ゆ、唯………うっ……お、ぇええっ…」
どこともわからぬ国籍不明の街で唯が無残に殺害される場面が動画サイトに上げられているのを見つけてしまった。

「ゆ、許せないっ……こいつら、こんな酷いやり方で、唯を……っ…」
瑠奈は怒りの余り、図書館のPCを叩き壊したくなった。が……その動画には、続きがあった。と言うより…

『篠原唯 殺害シーン集 part24』
「…え!?……シーン集!?…24って、他にもこんなのが、たくさん…一体、どういう事なの…!?」

…唯が殺されている動画は、一つではなかった。

アップロードしている者も、一人や二人ではない。そして、唯以外にも同じように餌食にされている少女が何人もいる…
吐き気を堪えながら別の動画も観てみたが、怪しい男たちに襲われたり、
巨大な機械で拷問されたり、ゾンビや見た事もない怪物に喰われたり…殺され方は多種多様。
一体、何が起きているのか。唯は何人も存在しているのか、あるいは殺されても生き返っているのか…

「もうやめてっ!唯にひどいことしないでえぇっ!」

考えれば考える程わけがわからなくなって、瑠奈は思わず叫んでいた。
そして、気が付いたら……唯と同じように「こちら」の世界に堕とされていた。




370 : 名無しさん :2017/05/21(日) 15:20:47 ???
「くぅ……!よ、よくも見たわね……!」
「いや見たというか、どちらかというとそっちが勝手に見せたんじゃ」
「問答無用!破岩拳!」
下着が見えないように、今度はパンチで攻撃しようと拳を振り返ってヨハンに走り寄る瑠奈。

「……と見せかけて石蹴り攻撃!」
と、ある程度ヨハンに近づいた所で足元に転がっていた石をヨハンに向けて蹴った。

(そういうすり抜け系の奴は不意打ちに弱いって相場が決まってんのよ!)
近づいてくる瑠奈を警戒していた所に不意打ちの石蹴り。不意打ちなら透明化は間に合わないと踏んだのだ。

「……まったく、野蛮だなぁ」
「え!?うそ、キャッチしたの!?」
「ほら、返すよ」
だが、ヨハンは飛んできた石を難なく手で掴んでいた。そしてそのまま瑠奈に投げ返す。

「しま……ぐは!?」
ヨハンの鋭い投擲によって飛んできた石は、瑠奈の鳩尾に深く抉りこむようにして直撃した。

「狙い自体は悪くはなかったんだけどね……いかんせん、素の実力が君と僕とでは違いすぎるよ」
「ぐ……ゲホ、ゲホ!ま、まだまだぁ……!」
瑠奈が再びヨハンに向かっていこうとしたその時!


「い、痛い……!痛い痛い痛いよおおおお!!助けてぇええ!!誰かぁああ!!瑠奈ぁああ!!」


「ゆ、唯!?唯ぃいぃい!!」
「ほらほら、君の相手は僕だよ」

唯の悲鳴を聞いて、思わずヨハンを無視して唯の元へ駆けつけようとする瑠奈。だが、それを許すヨハンではなかった。

ヨハンは瑠奈を後ろから羽交い締めにして持ち上げる。

「は、離しなさいよ!唯が、唯が!」
「ほら、ジタバタしない」

ヨハンの羽交い締めから逃れようと必死にもがくが、彼の力は強く、一向に逃れられない。

そしてとうとう、シアナの強烈な踏みつけによって、唯の頭は潰されてしまった。

「唯っ!!唯いいい!!!……っ……う。……あああああぁぁっ!!」


371 : 名無しさん :2017/05/21(日) 15:25:32 ???
「おっ、お前ら……絶対に許さないっ……どけえええ!!」
…あの時と同じように、唯は目の前で為す術もなく殺されてしまった。
瑠奈は、怒りに任せて目の前の敵『王下十輝星』…唯を地獄のような世界に落とした元凶である、『王』の手下に飛びかかる。

「そういうわけにはいかないな。僕も最初は乗り気じゃなかったけど…君もなかなか、いたぶりがいがありそうだしね」
「…!…とうとう本性見せたわね、変態男ッ!!」
『アルタイル』のヨハンと名乗った青年の温和そうな瞳の奥に、どす黒い情念の輝きが見えた。
瑠奈がこの世界に来てから嫌と言うほど見てきた…いわゆる『ケダモノ』の目とでもいうべきか。

「どく気がないなら、全員ブチのめしてやるわっ!!たあああぁっ!!」
イケメン相手だとか、下着が見えるとか、余計な考えは頭から吹き飛び、瑠奈は怒涛の様な連続攻撃を繰り出すが…
ヨハンは、連続で繰り出される拳を易々と捌き、蹴りを受け止める。

「なるほど…報告にあった資料より、力も速度も格段に増している。」
(くっ…全然効いてない!?…ゴムの塊でも殴ってるみたいだわ……!!)
最初に跳び蹴りを食らわせた時は、まるで幽霊か何か様に、ヨハンの身体を通り抜けてしまった。
今は、何発かは打撃が命中しているのに、まったくダメージを受けている様子がない。

「このくらい『吸収』すれば十分かな…『次』でまとめてお返ししてあげよう」

…この世界に来てから、瑠奈は何度も無力感を味わっていた。
唯を助けるどころか、敵の手に落ちて洗脳され、逆に唯を傷つけてしまった事さえあった。
シアナとアトラの攻撃に為す術もなく気絶させられ、リザとアイナには捕らえられ…
ルミナスで修行して強くなったはずなのに、その力がまるで通用しない敵が次々と現れた。

「…これならどうっ…! 魔拳『亀甲羅割り』!!」
体内の魔力を拳に集中させ、打撃の瞬間一気に開放する…
ルミナスでの血を吐くような特訓の末に会得した、極光体術の奥義。
限られた時間の中で瑠奈が習得できたのは、その中で最も初歩的なものの一つだった。
親友を守りたい、少しでも力になりたい…強い想いを乗せて放たれた、瑠奈の拳は…

ビシッ……バキバキバキッ!!
「僕の能力は、あらゆる攻撃を『透過』『吸収』そして『反射』する…割れたのは、君の拳の方だったね」
「っ………う……、ああああああぁぁぁっ!!!」

ヨハンの能力によって、粉々に打ち砕かれてしまった。


372 : 名無しさん :2017/05/21(日) 15:56:03 ???
「あ……ぁ……!」
真っ暗な闇の空間で亡者たちに囲まれたアリサは、ここで死ぬまいと必死にもがいていた。
が、今はうつ伏せになって白濁液の海にぷかりぷかりと漂いながら、大勢の亡者たちに死姦され続けている。
「嘘だろ……亜理紗……!」
「アハハハハハハッ!!!なかなかいい死に様だったわね!これでもうすぐあいつもあの亡者どもの仲間入りよ。あの空間ならきっとオタサーの姫のごとくチヤホヤされるんでしょうね……ククククク……!」
「そんな……そんなっ……!」
あまりにも無残な死に様。あまりにも残酷な現実。
彩芽はこの世界でもなんだかんだで危機を乗り越えてくることができた。
ネペンテスの時にはサラと共闘し、舞に襲われたときは亜理紗が助けてくれた。
だが、その2人もこの世界にはもういない。
サキや王への怒りというよりも、鉛のようにのしかかってくる「諦め」という感情が彩芽の心を支配していた。

周りをふと見回してみる。
頭を潰された唯。芋虫になった鏡花。悲鳴をあげながら地面を転がっている瑠奈。
「やっぱりな」という感情が彩芽の心に浮かび上がった。
「はは……ははは……」
「何笑ってんのよ。あ、もしかして壊れちゃった?お友達の金髪も死んじゃったもんねー!仕方ないわよねー!」
「サキさん、その子は僕が預かってもいいですか?新しい毒を試してみたくて……」
「あぁ、別にいいわよ。このメガネもう堕落しちゃって、抵抗もしないっぽいわ。つまんないからあげる。」
拘束を解き、フースーヤに彩芽を預けると、サキは王の元へと歩いて言った。
どうやら、王の力で誰かを生き返らせて新しい遊びを始めたいらしい。

「はは……もう好きにしろよ……ボクたちは……どうせここで終わりなんだ……はは……」
(この子の顔……絶望に染まってるっていうのかな。なんだか……すごく興奮する……!)


373 : 名無しさん :2017/05/21(日) 16:59:17 ???
「あれ?」
気がつくと彩芽は、慣れ親しんだ町であんまり慣れ親しんでない高校の制服を着て、学校の通学路にいた。

「おかしいな、ボクは一体……」
「彩芽、どうかしたの?」
「うわ!あ、亜理紗!?」
「まったく、いつもボーっとしてるんだから」
「亜理紗……無事だったのか……?ていうかお前、いつものお嬢様口調はどうしたんだ?」
「お嬢様口調?寝ぼけてるの?あんまり遅くまでアニメ見てちゃダメよ」
「いやいやいや、トーメント王国は!?王下十輝星は!?」
「ちょっと、本当に大丈夫?」

「あ、彩芽おねえちゃんと亜理紗おねえちゃんだ!おーい!」
「こら昴、走っちゃ危ないぞ」

「スバル!?桜子さんも……どうしてここに!?」
「どうして……って、ご近所に住んでる姉妹じゃない。春川桜子さんと春川昴。ほんとに大丈夫?今日は学校休んだらどう?」
「?彩芽おねえちゃん、具合悪いの?」
「また遅くまで機械いじりでもしてたのか?」

「こらそこ、道路に一ヶ所で固まらない!通行の妨げになるわよ!」

「さ、サラさんまで!?」
「この辺りをよく見まわってるお巡りさんじゃない。確かに外国の人っていうのは珍しいけど、今さら驚くことじゃないでしょ?」
「アヤメ、貴女ただでさえ出席日数少ないんだから、遅刻なんてしたら大変よ」

「いやいやどう考えてもおかしい!亜理紗だけなら夢オチもあり得るだろうけど、なんでみんなまで……」
「そう、夢オチよ。彩芽、貴女きっと、夢を見ていたのよ」
「ゆ、夢!?」
「そう、トーメント王国だケじゃない、現実世界ニいタころノことだって全部夢」
「オネエチャン、今までずっとイッショだったの、ワスレちゃったノ?」
「そうか……夢……だったんだな」
「ソウさ、昔イジメられてたことも全部全部夢……ここには嫌なコトなんてナンニもない」
「ゆ……め……」
「これからもズット、このユメのヨウナ世界デ暮らシてイキまショウ?」
「は、ははは……そうだ、そうだよ。ゲームで世界を生み出すなんて有り得ないじゃないか……ブスだのデブだのガリだのが名前についた奴にイジメられてたなんて、夢じゃなきゃオカしいヨな……」

「ソウヨ、ヤットメガサメタノネ」
「ひ、ひひ……ははは……そうだ、あんなに痛いのも辛いのも苦しいのも、全部全部夢……く、ははは……ひはははは……」


「はは……亜理紗……桜子さん……スバル……サラさん……ずっと……ずっと一緒だ……ひはははは……」
「吸った者が精神の奥深くで望んでいる幻覚を見せる毒、その名も『インプ・ハルシネーション』……効果は上々みたいですね」
虚空に向かって狂ったように話しかける彩芽を冷たい目で見下ろしながら、フースーヤが呟く。

「王様に一回殺されるまでは、強気な態度だったのに……今や幻に縋って生きているだけ……これがいわゆるギャップ萌えですかね?アハハ……絶望に染まらずに心を強く持っていれば、幻覚を打ち破ることもできただろうに……哀れだな」

フースーヤは彩芽に背を向ける。彼女はこのまま食事も取らずに幻の世界に夢中になって、やがて餓死していくだろう。あるいは他の十輝星や王様が殺すか。どちらにせよ、あの眼鏡の少女にもう未来はない。


374 : 名無しさん :2017/05/21(日) 17:07:36 ???
「能力者でもない普通の人間が、これ程の力を身に着けるとは驚いたよ。だが君達がどんなに努力しても…
岩を砕き、竜を殺し、箒に乗って空を飛んだとしても……星には、決して届かない」
「あ、ぎっ……!!……や、やめっ…もう、ゆ…く、うう…!!」

骨が砕けた瑠奈の右手を、ヨハンはぐりぐりと踏みにじる。
瑠奈は思わず「許して」と哀願の言葉を口にしそうになるが……最後に残ったプライドの欠片が、辛うじてそれを押し止めた。

そんな瑠奈の様子を見たヨハンの瞳の奥で、密かに愉悦の炎が燃え上がっていく…

「さて、親友の死に顔も見ることが出来たし…と言っても顔は潰れて残ってないけど…次は君の番だ」
ヨハンは、もう一つの能力で自身の腕を刃物…刃渡り1メートルほどの巨大なハサミへと変えると、
蹲っている瑠奈の身体を持ち上げ、その刃を股間に押し当てた。
「このまま少しずつ切り裂いて、真っ二つにしてあげよう。そうなりたくなかったら…もっと抵抗してみると良い」
「ひ……な、何よこれ…いや、待って……いぎ、ああああああ!!!」

2本の刃が瑠奈の股間からお尻の辺りまでにずぶずぶと食い込んでいく。
前後から迫る死の刃は速度こそゆっくりだが、素手で触れれば骨ごと両断される程の恐るべき切れ味を持っていた。

「やっ、…いやぁ……お願い、やめてっ……もう、許し……あああああ!!…」
もがけばもがくほど、鋏は瑠奈の身体に深く食い込んでいく。
それでも何とかして逃れようと、瑠奈は残った左拳をヨハンに打ち込むが…効いている様子はまるでなかった。
ヨハンの防御能力ではなく、先ほど全力の一撃を簡単に跳ね返された恐怖で、無意識のうちに全身が萎縮してしまっているためだ。

「…その程度かい?僕らを全員ブチのめすんじゃなかったのかな?…ほら、刃がもうすぐお臍に届きそうだ」
「い、や、あ………ゆ……唯……っ……」
しかし、瑠奈は激痛と失血でそれ以上の抵抗はできず、巨大な刃が心臓に達する前にこと切れた。
ヨハンの鋏は、それでもなお動きを止めることはなく…
瑠奈の身体を、宣言通りに頭ごと縦真っ二つに両断した。


375 : 名無しさん :2017/05/21(日) 19:05:23 ???
少し前までは生気に満ちていた五人の少女たち。だが、今はもう彼女らは亡骸でしかない。約一名、生きている者もいるが、心が死んでしまっている。

「いやぁ、たーのしかった!やっぱりリョナはこうでないとな!」
「くひひ……唯ちゃん……君の頭を踏み抜いた時の感触……癖になっちゃいそうだよ……!」
「アリサの奴はこれで一生リコルヌもローブも使いこなせないようになっちゃったってことね!いい様だわ!」
「これでキャラ被りの危機は去りましたわ!一件落着!」
「ふふ……まだ幻覚に対してブツブツ言ってる……」
「ははは、久々に血が騒いじゃったよ」

その惨状を作り出した王下十輝星の面々は、直前まで虐殺行為を行っていたことを感じさせないような明るい表情である。

「我が部下、王下十輝星の諸君!まだだ!まだまだこれからだ!五人の戦士の心を徹底的に折るにはまだ足りない!彼女たちを順々に甦らせるから、引き続き徹底的にいたぶってくれ!」
そこに、彼らの主であるトーメント王国の王が少女たちにとっては絶望の、十輝星にとっては歓喜の声をかける。

「うおおおおおお!!王様サイコー!!あのさあのさ、芋虫状態のまま生き返らせることってできますか!?」
「もちろんだとも!」
「唯ちゃん……今度は荒縄で縛って生爪を剥いであげるよ……!」
「アッハハハ!淫売に堕ちてあのオモチャを振るえなくなったと知ったアリサは、どんな顔するかしらねぇ!?」
「あのエセお嬢様口調女の口調を更生しなければ……真のキャラ被り回避は遠いですわ!」
「ククク……試したい毒が追いつかないよ……」
「みんな若いなぁ……僕は一回甚振ったら満足しちゃったよ」
(多分いざ目の前で甚振ったらまた興奮すると思うけど)

少女たちの地獄は、まだまだ終わらない。


376 : 名無しさん :2017/05/21(日) 21:38:44 ???
トーメント王国から邪術師の森を抜けた先にある、研究開発都市アルガス。
その先に広がるラケシスの森には、妖精と呼ばれる種族が住んでいる。
戦いを好まず、人間の子供ほどの知能しかない妖精たちは、人間にも魔物にも襲われることなく平和に暮らしている。
そんな妖精の紹介をしている掲示板の前に、黒いコートを纏う金髪の少女──トーメント王国王下十輝星、スピカのリザがいた。

(この先が……聖騎士の国、シーヴァリアね。)
シーヴァリアの兵士たち……男兵士は漆黒の黒い鎧に身を包み、女兵士は純白の白い鎧に身を包んでいる。
完璧な統率の取れた軍事力は隣国の中でも随一を誇り、トーメント王国ですらも積極的な軍事行動は躊躇われるほどの兵力を要する巨大国家。
トーメント王国とは交流を絶っているが、隣国のナルビアやルミナスとはある程度の貿易をしているらしい。

「あうぃないとだー」
「めずらしいねー」
「おめめ、とってもきれいー!」
森の妖精についての記述を読んでいると、リザの周りに小さな妖精たちが4人ほど集まってきた。
(わ、これが妖精……かわいい……!)
男の子と女の子で2人ずつの妖精たちは、リザの周りをくるくると回って青い瞳をまじまじと覗き込む。
「こ、こんにちは……私、シーヴァリアに行きたいのだけれど、ここから入っていけばいいの?」
「そうだよー」
「ぼくたちがあんないするよー!」
「それいいねー!」
「おねえちゃん、ついてきてー!」
小さな服をひらひらとはためかせながら、妖精たちは森の中へと入っていった。


377 : 名無しさん :2017/05/21(日) 21:44:03 ???
「こっちこっちー!」
「こっちならまものはいないよー」
「せいきしじゃないからよわっちいおねえちゃんでも、あんぜんにとおれるよー!」
妖精たちはリザの少し先をひらひらと飛びつつ、一定の距離を保ちながら森の中を進んでいく。
ふと周りを見渡すと、背の高い木々の間から差し込む木漏れ日がリザの体を優しく照らしていた。
(綺麗な森だけど、足元も悪いし迷いやすいな……この子たちがいてくれて助かったかも。)
リザが前に視線を戻すと、妖精たちの様子が先ほどとは違っていた。

「た、たいへんだあー!」
「おんなのこがー」
「ど、どうしよう〜」
「し、しんじゃうよー!」
少し開けた場所で、妖精たちが口々に困った様子で何かを喋っている。
(なんか騒いでるけど……テンションはいつも通りだからよくわからないな……)
事の真相を確かめるため、リザは素早く跳躍して妖精の元にたどり着いた。
「お、おねえちゃんすごーい!」
「とべるんだー!」
「かっこよかったー!」
「もういっかいやってー!」
「ち、ちょっと……通して……!」
興味がすぐにリザに逸れたらしく、妖精たちはリザの周りをふわふわと飛び回る。
それをかわしながら妖精たちがいた場所を確かめると、そこには血まみれの女性が倒れていた。

「く……ぁ……!」
倒れている女性は、15歳のリザと同年代くらいの黒髪ショートの女性だった。
リザは特に表情を変えることもなく、素早く状態を確かめる。
(まだ息はあるけど……傷が深くて出血が酷い。このままだと……死んでしまう。)
「き、きっとドスのせいだー」
「ドスにはすごいはりと、すごいつのがついていて、にんげんなんかイチコロなんだー」
「このみちにでるなんてー」
「こわいねー」
すごい針とすごい角が付いている……リザはそんな魔物は見たことがなかったが、おそらくこの森にはそういった魔物が生息しているのだろう。
それよりも、目の前で命の灯火が消えかけている少女を助けることをリザは優先することにした。

「どこかに……傷を治療できる場所はある?」
「あるよー!このもりにあるいやしのいずみなら、どんなけがもなおっちゃうんだー」
「ちょっととおいけどねー」
「ねー、とおいんだよねー!ちょっとめんどくさいねー」
「めんどくさいしちょっととおいけど、いくー?」
「……悪いけど、このままじゃこの子が死んじゃうから、案内をお願い。」
気まぐれな妖精たちは乗り気ではなさそうだったが、事は一刻を争う。
リザは少女の傷口に応急処置を施し、ぎゅっと包帯を巻きつけてから少女の体を背負った。


378 : 名無しさん :2017/05/21(日) 22:29:23 ???
「お、王様!十輝星の皆様!大変です!」

五人の戦士にひたすらリョナの限りを尽くして殺し、さらには生き返らせて何度も何度もリョナって心を完全に折っている最中。突如トーメント王国の兵士が血相を変えて飛び込んできた。

「なんだ、リョナの途中だぞ」
「も、申し訳ありません!しかし、火急の用事が…!ナルビア王国との…いえ、シーヴァリアやミツルギ、ルミナスなどの周辺国家を丸ごと巻き込むような事件が…!」
「なに?そこまでの事件が…」

王は五人の戦士たちの死体を見下ろしながら思案する。
確かにリョナりまくったが、徹底的に心を折るには少々不足している感も拭えない。何かの拍子に脱出され、いい子ちゃんの多いルミナスやシーヴァリア辺りに保護でもされては、また牙を剥いてくる可能性もある。

「研究都市アルガスが、トーメント王下十輝星『スピカ』の襲撃を受けたという情報が出回っているとのこと!」
「なに?」「は?」「そんな!確かにマルシェザールは暗殺しましたが、証拠は残ってなかったはずですわ!」

左から王様、サキ、アイナの台詞。特にずっとリザに同行していたアイナからしたら信じられない話だろう。

「なるほど、このまま徹底的に心を再起不能にされる前の、『運命を変える力』の必死の抵抗というわけか……
?まぁいい、普通の少女には過剰すぎるくらいにはリョナった。コイツらを拷問室にぶち込んでおけ!十輝星はこのまま会議室へ直行だ!」

「えー!?マジかよ王様ぁ」
「文句を言うなよ。また日を改めてリョナればいいだろ。日が開いて油断した所を…ね」
「お、それはそれでイイな!」
「アルガスにリザさんの襲撃がバレた…?いったい何が…」
「とりあえず、会議室で情報を整理しよう」

王と十輝星は連れ立って部屋を出ていく。残された少女たちの遺体は、兵士たちによって拷問室へと運ばれた。
『五人の戦士』の特権によって、彼女らは自動的に生き返る。王に対抗する最大の武器とも言える無限コンティニューのような機能だが、それが今の彼女たちにとって救いとなっているかは、はっきり言って怪しいところだ。


379 : 名無しさん :2017/05/21(日) 22:37:13 ???
妖精たちに導かれること30分。一本橋にでこぼこ砂利道を通り、蜘蛛の巣をくぐった先の下り坂を降りると、そこには洞窟の入口がぽっかりと穴を開けていた。
「このなかがいやしのいずみだよー」
「おねえちゃん、ちからもちなんだねー!いっかいもきゅうけいしなかったねー」
「すごいすごーい!」
「もしかしてせいきしなのー?」
口々に声を上げる妖精を無視して、リザは洞窟の中に入り込む。
洞窟とはいうものの天井の隙間から日光が差し込んでおり、内部は柔らかい光に包まれていた。
洞窟の奥には、地底湖のように緑色に輝く透明な湖が広がっている。
「あれがいやしのいずみだよー」
後ろから響いた妖精の声を聞いて、リザは瞬時にテレポートした。

「う……うぅ……!」
「……今助けるから、頑張って。」
苦しそうに呻く少女に声をかけつつ、背中からゆっくりと体を下ろし、そのまま癒しの泉に小さな体を浸からせた。
(……これで治るといいけど……)
美しい緑色の泉に仰向けで浮かぶ少女は、点状の隙間から差し込む太陽の光を浴びて幻想的にきらきらと輝いている。
(……きれい……)
その様子にリザが目を奪われていると、少女の目がゆっくりと開いた。

「あ……あれ……?わたし……怪我をして……ここは……?」
意識を取り戻した少女は、傷口であった腹部を不思議そうにさすった。
「……怪我なら治ってるよ。妖精たちが私とあなたをここまで連れてきてくれた。」
「じゃあ……あなたが私をここまで運んでくれたんですか……?」
「……一応。」
「あぁ……本当に……ありがとう。私はシーヴァリアの騎士……を目指している、ミライ・セイクリッドです。」
ミライは泉からゆっくりと立ち上がると、リザに向かってぺこりと頭を下げた。
シーヴァリアには礼儀を重んじる人間が多いと聞くが、目の前のミライという少女にはまだ年相応のあどけなさが残っているように見える。
国を支える責任の強い職務である聖騎士に、まだなっていないからなのだろうか。

「……私はリザ。」
「リザさん……リザさんは、どうしてここに?」
「えっと……旅をしてるの。シーヴァリアを目指してて。」
「旅人さんでしたか。でも今、シーヴァリアは旅人さんを受け入れていないんです……アルガスで起こった事件を知っていますか?」
「……事件?」
「アルガスの研究所がトーメント王国王下十輝星の、スピカに襲われたっていう事件です。アルガスから近いシーヴァリアも、今は警戒態勢を強めているんですよ。」
「え……!」
その言葉を聞いた途端、今まで変わらなかったリザの目が大きく開かれた。
「あ……ど、どうかされましたか?」
「いや、ちょっと……びっくりして。なんでもない……」

(……どうして、バレた?監視カメラも潰した。万が一私の顔を知っていた人間がいたとしても、私がスピカだなんてことを知っている人間はあそこにはいないはず……なのに……!)
ミライが何か言っているが、リザの頭には入ってこなかった。
(まずい……!あの研究所を襲ったのがトーメントだとバレることを王様は望んでいないはず……この件で王様から私への評価が下がったのは間違いない……!)
目的から遠ざかった気がして、リザは心の中で肩を落とした。
評価が下がるだけならまだしも……任務を失敗したことに対する報復の可能性もある。
自分が王の「リョナ」とやらの対象になる可能性を感じ、リザの顔に冷や汗が流れた。


380 : 名無しさん :2017/05/21(日) 23:20:19 ???
「……さん……!リ……ん!リザさぁん!」
「えっ?」
思考の海にどっぷりと浸かっていたところを、ミライのまったりとした声に邪魔された。
「もしかしてリザさんは、アルガスの人なんですか?さっきの話を聞いて、かなり動揺しているみたいですけど……」
「あ、いや……これからいろんな国で戦争が起きたら、旅がやり辛くなるなと思って。」
「あ〜、なるほどです。」
ミライのまったりとした声とゆっくりとした口調は、どうやら心を落ち着かせる効果があるらしい。
考えることは山ほどあるが、リザはとりあえず心を落ち着かせることができた。

「どうして……あそこに血だらけで倒れていたの?」
「え、ええっとですねぇ……一緒に聖騎士を目指している友達と修行をしていたのですが、はぐれてしまって……!1人で歩いていたら、すごい針にすごい角をした魔物に襲われて……」
(……さっき、妖精たちがドスって呼んでたやつかな。)
「それで……気がついたらリザさんに助けられていたのです。」
「そう……」
「あ、あの……!助けていただいたわたしがこんなことを言うのもなんですが、私の友達を一緒に探していただけないでしょうか……?」
「…………」
「だ、だめでしょうかぁ……?」
懇願するミライを放ってはおきたくないが、リザも任務の途中である。土地勘のない場所で得体の知れない少女といつ終わるかも分からない捜索活動を行うのは躊躇われた。
「も、も、もし、友達を探してくれたら……私、リザさんがシーヴァリアに入るお手伝いをします。今は警戒態勢なのですが、私と友達の口添えがあれば、問題なく入れるかもしれません……ど、どうでしょうか……?」
シーヴァリアを目指すリザにとって、ミライの申し出は理にかなっている。ただでさえ警戒態勢なのに、このまま無策で突き進むのもリスクが高い。
「……わかった。」
リザは、ミライの申し出を承諾することにした。

「……敬語はいらない。私のこともリザって呼んで。」
「あ、わ、わかりましたぁ。」
「……敬語、使ってる。」
「あ、ごめんね。き、気をつけるよ〜」
(……やっぱり、さっきまではなんとなく無理して敬語使ってたみたいね。)
敬語を使っていた時も、ミライはどこか少し間延びした喋り方をしていた。
どうやら、普段はそんな喋り方をしているらしい。
洞窟を抜けて周囲が明るくなったところで、リザはミライの姿をもう一度確認する。

白を基調としたワンピースに、鍔がついている白い帽子。首には金色のペンダントをぶら下げて、背中には背丈と同じくらいのロッドを抱えている。
身長は155センチくらいだろうか。リザよりも少し小さいが、年齢はリザより一個上の16らしい。
だが、まったりとした口調とゆっくりとした所作によって、リザはミライに少し年不相応ののんびり屋という印象を受けた。

「あ、妖精さんたちだぁ〜!」
「わー!みらい、げんきになったんだね!」
「よかったよかったー」
「みらいをここまでつれてくるの、めんどくさかったけどねー」
「でも、たのしかったよー!」
妖精たちと戯れるミライ。シーヴァリアの人間は妖精に慣れているようで、なんとミライとも顔見知りのようだった。
(でも……ミライっていう名前を知ってるほど仲がいいのに、薄情なところもあるんだ……)
どうやら妖精というのは、人間には理解できない思考回路らしい。

「ねえ君たち。いつもミライと一緒にいる黒い鎧を着た男の子を見なかったかなぁ?」
「じんのことー?」
「そうそう!ジンがどこにいるかわかる?」
「えー」
「わかんない。」
「しらないなあ〜」
「ん〜、そっかぁ……」
そのジンという男が、ミライと聖騎士を目指している友達らしい。
恋愛関係にあるのかは聞いていないが、リザにとってはどうでもよかった。

(とりあえず……さっさとジンとやらを見つけて、アイベルトを探す旅ためにシーヴァリアに潜入しよう……)
後のことは、それから考えることにした。


381 : 名無しさん :2017/05/22(月) 09:09:48 ???
兵士からの報告を受けた王と十輝星たちは、円卓会議を始めることにした。
王と十輝星以外は立ち入りを禁じられている会議室は、白い円卓を取り囲むように白い椅子が並べられている。
その椅子の高さはそれぞれ違う。1番高い椅子は王の固定席だが、他は十輝星の中の古株順に高い椅子に座っていく。

現在の十輝星の加入順は、アイベルト、ロゼッタ、ヨハン、サキ、リザ、アイナ、シアナ、アトラ、フースーヤとなっている。王を除けばヨハンが全員を見下ろす形となった。
同時期に入った者もいるが、その場合は実力が考慮される。リザとシアナは同時に入ったアイナやアトラよりも高い位置に座すことを決められている。

「よし。約3名いないが、トーメント王国円卓会議を始めるとしよう。議題はもちろん──」
「アルガスにおけるスピカの失態について。ね。」
「ち、ちょっとリゲル!スピカちゃんとアイ──ベガは完全に任務を遂行したんですのよ!そもそも身バレなんてありえないんですわ!」
「ふん。それはあんたらが勝手にそう思い込んでただけでしょ。たとえそれが本当だったとしても、この国にだってどんなスパイが入り込んでいるか分からない。あたしたちの情報が抜けててもそこまで不思議ってことないわ。」
アイナを見下ろしながら毒を吐くサキ。この円卓の場では、それぞれを星位で呼び合うと義務付けられている。
理由としては、「歴代の十輝星に敬意を払って」ということらしいが、真相はただ単になんとなく王がかっこつけたいだけであった。

「その可能性は低いと思うけどね……でも、監視カメラも壊して完璧に任務を遂行したのなら、それも考慮しないとだね。」
「そうですよね!アルタイル様!その可能性もありますよね!」
「うぅ……」
「でも、その可能性をここで話し合ってもしょうがない。まずは、スピカの行動になにかしらの落ち度がなかったかを話し合った方がいいと思う。」
シアナが人差し指を立てながら、上からの視線を集める。座席の高さこそ低いシアナだが、持ち前の冷静さからこういった会議では皆の視線を集めることが多い。
「ぐがー……すぴー……」
だが、その集まった視線は隣の赤い単発の少年に集中してしまった。

「シリウス!寝るな!」


382 : 名無しさん :2017/05/23(火) 00:59:44 ???
「ハッ!悪い悪い、この部屋居心地良いからついウトウト……」
「まったく……話を戻すけど、スピカの行動に何か落ち度がなかったか……同行していたベガを中心に話し合っていきたい」
「そうは言いましても、ほんとに思い浮かばないんですが……マルシェザール以外は殺しはしていなかったみたいですけど……」
アイナはアルガス潜入作戦での行動をなるべく事細かに喋りだしたが、聞けば聞くほどリザに落ち度はないように思える。

「目撃者がスピカの身体的特徴からアウィナイトだと気づいた……?いや、それじゃあ王下十輝星のスピカだと判明した理由にはならない……」
「やはり、アルタイルさんの言う通り、内部のスパイの仕業でしょうか?」
「リゲルとベガには触れないというのが気になるな……リゲル、君が一時的に捕まっていた時に、何か余計なことを言ったんじゃないか?」
「お生憎様、あたしは拷問されてる時にDとかいうクソ野郎に口を塞がれてたから、仮に喋りたかったとしても喋れない状態だったのよね」
「ああ、確かに目も耳も口も塞がれて喘いでましたわね」
(D?どこかで聞いた名だが……いや、まさかね。イニシャルをあだ名にしただけだろう。Dなんてイニシャル、ありふれてるし……)

会議は踊り、推理は煮詰まる(誤用)。部屋にピリピリした空気が流れかけた時。

「なー、これ以上喋ってても堂々巡りじゃねー?それよかナルビアと戦争になるかどうかとか考えようぜ!白衣の女研究者をリョナったりしてぇなー!」
「そうですわそうですわ!スピカちゃんは失敗なんてしてないんですから、いくら粗探ししたって無意味ですわ!」

アトラとアイナが声をあげて場の空気を変える。
2人は座席は同期のシアナやリザより下だが、こういう時にムードメーカーとなって空気を切り替えてくれる。組織にとって、なんだかんだいなければ困るような人材だ。

「ふむ、それもそうだな……だが原因は不明とはいえ、失態は失態だ。リザにはちょっとしたお仕置きを用意しておこう。クヒヒ……ノワールに魔力を提供でもさせて、バトルスーツの更なる改良でもするか……?」
「り、スピカちゃんがノワールに魔力吸収……」
アイナの脳裏に、以前リザが結界の中でガチレズに甚振られていた時の光景が蘇る。

(い、いけませんわ……!あの時のことを思い出すと、アイナはリザちゃんのことを……!アイナとリザちゃんの美しい友情にヒビが……!)
(アイナ……やっぱり、あの時にちょっと愉悦に目覚めかけたみたいね)
悶々とするアイナを見て、その心情を正確に察するサキ。

(この国では、リョナラーの方が生きやすいだろうけど……親しい奴がやられてるのに興奮するとは、ある意味あたし以上ね)
サキはドSだがその分身内に甘い。気に入らない奴や見ず知らずの人間ならともかく、親しい人がリョナられてても興奮はしないだろう。

「しかし今回の件で、周辺国家との緊張も強くなる……か」
「場合によっては、大戦争もあり得るだろうな」


383 : 名無しさん :2017/05/24(水) 09:11:50 ???
共にジンを探すことになったリザとミライは、妖精たちに別れを告げてラケシスの森を歩いていた。
「とりあえず、わたしと友達が一緒だったところまで戻るね。この辺の道ならなんとなくわかるから、わたしについて来て!」
「……そもそもどうしてはぐれたの?」
「そ、それはねぇ……かわいいうさぎさんを追いかけてたら、崖から落ちちゃって……目が覚めたら知らない場所だったんだ。」
「…………そう。」
「う、うわああぁ〜、今絶対わたしリザちゃんに、アホの子だって思われたよぉ……!」
「……思ってないよ。」
アホの子というか、度が過ぎた天然というか。ミライののほほんとした思考回路はリザには理解できなさそうだった。
このままこの天然少女についていっていいものかと目をやると、ミライはしゅんとした表情でうな垂れていた。

「わたし、いつもこうなんだ。頭が悪くて、後先考えなくて……聖騎士になるためには、そういうところも大事なのになぁ……」
「……正直に言うけど、多分ミライは戦いには向いてないよ。無理して聖騎士にならなくてもいいと思う。」
「うん。自分でもわかってるんだ。でもわたしはセイクリッド家の一人娘だから……」
ミライに意味深に言われて、リザはセイクリッド家を思い出した。
シーヴァリアの名家であるセイクリッド家は、何世代にも渡って高名な聖騎士になっているいわばサラブレッド一族だ。トーメント王国の十輝星たちも、セイクリッド家の聖騎士には手を焼いたという。
「小さい頃から聖騎士になるために修行してきたけど、わたしこんな性格だからなかなかうまくいかなくて……って、わたしなんでリザちゃんにこんな話しちゃってるんだろう。……暗い話しちゃって、ごめんね。」
「……気にしてないよ。」
言葉では明るく振舞ってはいるが、かなり深刻な悩みのようだった。おそらく、周りにそういうことを話せる存在がいないのだろう。

「はぁ……また勝手に迷子になって、ジンくん怒ってるだろうなぁ……」


384 : 名無しさん :2017/05/27(土) 22:37:32 ???
森の中で出会った少女、ミライを連れて、彼女の友人であるジンという少年を探すことになったリザだが…

「……待って。血の跡がある。それに、魔物の足跡…」
…さっそく持ち前の強運を発揮したのか、不穏な手掛かりを見つけてしまった。

「えっ…もしかしてジンくん、さっきの魔物に襲われちゃったのかな!?」
「落ち着いて、まだそうと決まったわけじゃない。慎重に足跡を辿って…」
「ジンくーーん!!どこにいるのー!?」
「ちょっ…待って!魔物が出たらどうするの!」
リザの注意を右から左へと聞き流し、血と足跡を辿って駆け出してしまうミライ。
…血の跡がジンと言う少年かどうかはわからないが、不用意に進んでいけば魔物と遭遇する危険性がある。
先程襲われて命を落としかけたばかりだというのに、大胆と言うか無頓着と言うか…

(あの子、思ってた以上にアブないタイプね…!)

・・・

そして一方。リザ達が探している少年、ジンは……

「…マジありがとうございましたっス!!アンタが助けてくれなかったら俺、
あのすごい針とすごい角のバケモノに殺されてたっス!」
「がーっはっはっは!良いって事よ!…あ、俺様の事は『仮面の紅騎士・クリムゾンマスク様』と呼びな!!」

……なんだか怪しいお面の男に助けられていた。


385 : 名無しさん :2017/05/27(土) 23:25:09 ???
「それにしても、ものすっげー弓の腕ですね!あんな遠くから、怪物の目を正確に撃ち抜くとか!」
「ははは!もっと俺を褒め讃えていいぞ!…中途半端に傷つけたから、今頃怒り狂ってるかも知れないが…
騎士たるもの、無益な殺生は避けるべきだな!それに…俺様くらいになれば逃げ足も超一流だ!はっはっはっは!!」

…ジンが魔物に襲われていた時、この怪しいお面の男がたまたま通りがかり、
丁度持っていた弓で魔物の眼を射抜いたのであった。
もちろん俺様は弓の腕も一級品だからな!がっはっは!…とは本人の弁である。

そして、ジン(と、お面の中の人)を探しているリザ達は……

「……どうしよう。あの魔物、なんかすっごく怒ってるよ……!」
「だから言ったのに。……下がってて、ミライ」

……見事にとばっちりを受けていた。


リザの前には、巨大な魔物…妖精たちが言っていた「ドス」に間違いないだろう…が
最初に妖精達やミライから「すごい針にすごい角の付いた魔物」と聞いた時には、
ハリネズミと牛を合わせた魔獣のような姿を想像していたのだが……

サソリの尻尾…それに、カブトムシの角。岩をも砕きそうなキバに、全身を覆う鎧の様な甲羅…正に全身凶器の怪物であった。
頭部についた無数の複眼のうちの一つに矢が刺さり、紫色の体液が流れている。
長い鉤爪のついた腕で器用にその矢を引き抜くと、傷口がゴボゴボと不気味な音を立てて、ゆっくりと塞がっていった。
その不気味な光景は、リザに以前の苦い戦いの思い出をいやが上にも思い起こさせる。

<そなたの技では、人は殺せても……魔を滅ぼす事は、決してできぬ…>

リザの手に握られた愛用のナイフは、これまでの戦いで幾人もの血を吸って来た。
どんな厳重な警備も潜り抜け、どんな素早い相手も捉え、どんな善良で無垢な者も容赦せず……
だが相手が『人間』と『魔物』の時では、戦い方も殺し方もまるで違う。
『魔物狩り』においては、時として『暗殺者』の常識が全くと言っていいほど通じない事もあるのだ。

(相手が誰だろうと…負けない。私は今よりもっと、強くなって見せる…アウィナイトのみんなを、守るために…)


386 : 名無しさん :2017/05/28(日) 00:16:16 ???
「しかしほんと強いッスね仮面の紅騎士・クリムゾンマスク様!一撃であの魔物を追っ払うとは!ひょっとして高名な、シーヴァリアの聖騎士様だったり……?」
「ふ……俺様は森の隠者『仮面の紅騎士・クリムゾンマスク様』……シーヴァリアの聖騎士ではないが、騎士たるもの、俺様の力を求めにこの森に来るような者がいたら、聖騎士となって力を貸してやることもやぶさかではない……」
「おお、カッコイイ……!あの、俺、貧乏で、ろくにお礼もできないんッスけど……」
「ふ、なら……森の隠者の噂をそれとなく広めてくれ……俺様の力を求める者がいたら、俺様を訪ねてくるように……」
「そ、そんなのお安い御用ッスよ!」
「ククク……森の隠者にして異常な強さを持つ仮面の男……味方からは頼りにされ、敵からは恐れられること間違いなし……スカウトされて短期間でメキメキと頭角を現し、そうして国の中枢に紛れ込み、重要な情報を次々と……」
「仮面の紅騎士・クリムゾンマスク様?なにか言いましたッスか?」
「いや、なんでもない……」
(意味深なことを言ってミステリアスに濁すのもまたカッコイイ……流石は俺様だ)



「グルルルルルゥウアアアアアア!!」
凄まじい雄叫びをあげながら、リザに向かってくるドス。

(尻尾とキバにさえ気をつければ……!)
リザはその突進を高く跳躍することで躱し、身体の構造上尻尾が届かないであろう位置へ落下しながら攻撃を放つ。

「連斬断空刃!」
ガキィン!ガキィン!

「く……!なんて硬い……!」
リザの斬撃は硬い甲羅に阻まれてろくにダメージを与えられていない。

「リザちゃん危ない!その魔物の針は……!」
「え?……!?」

リザはドスの身体の構造上、絶対に尻尾が届かない位置にいた。だが、尻尾が届かなくても、尻尾の先を相手に向けることはできる。
そしてドスは、リザの方へ向けた尻尾の先の針を飛び道具として飛ばしてきた!

「っ!」
「わわ!?り、リザちゃん!?」
リザは咄嗟にテレポートしてミライの真横へ退避。事なきをえた。

(やっぱり、相手が魔物だとやりずらい……!)
人体のような共通の弱点という物が魔物にはない。そして、生物学上有り得ないような行動も平気で取ってくる。
闇に潜み、静かに、一瞬で相手を暗殺するリザにとってはやりずらい相手だ。

(ドスにどれだけの知能があるかは分からないけど、奥の手のテレポートをいきなり見せてしまったのはまずい……!)


387 : 名無しさん :2017/05/28(日) 11:05:14 dauGKRa6
「リザちゃんすごい!ひゅんってワープできるんだね!」
「そ、それより……あいつについて何か情報はないの?弱点とか……」
目の前のモンスターは鎧のような甲羅を纏っており、弱点らしい弱点はなさそうに見える。
目に矢が刺さっていたが、それもすぐに自分で抜いて回復していた。いつから矢が刺さっていたのかはわからないが……

「ご、ごめん……あの魔物の弱点はわからないの。最近この森に迷い込んだみたいなんだけど、強い上に頭が良くて……シーヴァリアの聖騎士も何人か食べられたって……」
「……なるほど……」
どうやら、まともに戦えば無傷では済まない相手のようだ。
ミライの実力の程はわからないが、まだ聖騎士になっていないことを考えるとそこまで期待はできそうにない。
リザの頭の中に逃走の2文字が浮かんだとき、ドスドスと大きな音が聞こえて来た。

「グオオオオオオオオォォッ!!!」
「わわっ!!こっち来たぁっ!」
ドスは見失った獲物を再度確認し、大きなツノを乱暴に振り回しながら接近した。
「はっ!」
ドスを止めるべく、リザはすぐさまナイフの柄に仕込まれた弾丸を複眼の1つに打ち込む!
「グギオオオオオッ!?」
弾丸は見事命中し、ドスは走るのをやめて苦しみだした。どうやらむき出しの複眼は全て弱点らしい。
(目には効く……!それなら一か八か!)
一瞬でドスに接近したリザは、魔力を流し込んだナイフを他の複眼に刺し込んだ!

「グギアアアアアアアアアアアァァァァッッ!!!!」
2つの眼から紫色の体液をドロドロと流しながら、ドスはひっくり返って苦しんでいる。
「リ……リザちゃんすごいっ!あのドスをここまで弱らせるなんてっ!」
「……でも、きっとすぐ回復するわ。今のうちに逃げるから、こっちに来て!」
テレポートですぐさま遠距離に飛べば、振り切ることができるはず。そう考えたリザは近づいて来たミライの手をぎゅっと握った。

(よし、これで……!)
できる限り遠くに逃げるため、テレポートに必要な魔力を錬り上げるリザ。
そのせいで、後方のドスの口から発射された大量の糸に気づくことはなかった。


388 : 名無しさん :2017/05/28(日) 11:56:43 ???
「リザちゃん、危ないっ!!」
「っ……!?」
ドスが口から何かを吐き出そうとしているのを見たミライは、咄嗟にリザを突き飛ばした。
一瞬の後、リザが立っていた位置に、白く粘つく大量の糸が降り注ぐ。

「ミライっ!?…なんて、無茶な事を」
「よかった、リザちゃん…あなただけでも」
…リザの代わりに直撃を浴びたミライは、粘つく糸に全身を絡め取られ、身動きが取れなくなってしまっていた。
ナイフで糸を切るだけの猶予をドスが与えてくれるはずもない。
ミライの機転でリザは糸の拘束を免れたが…このままミライを見捨てて逃げる事など出来るはずがない。
事実上、逃走を封じられたに等しかった。

………

「あいつは突然変異した巨大甲虫ジェノサイド・スティンガー。この辺りじゃ『ドス』と呼ばれる凶暴な魔物だ…
もちろん、俺様がその気になればあんな魔物どうって事ないが…とにかくボウズは運が良かったな。はっはっは!!」
「マジ、今生きてるのが不思議なくらいです……それにアイツを探すのまで手伝ってくれるなんて!
ありがとうございます!仮面の紅騎士・クリムゾンマスク様!」

先ほどのリザと全く同じ流れで、ジンに頼まれて友人のミライを探す事になった紅い仮面の騎士。
その正体は一体アイベルトなのだろうか。
騎士を目指す少年ジンからの『憧れの視線』に気をよくして、
道中ついつい饒舌に語ってしまうアイベr…クリムゾンマスクであった。

「何と言っても『ドス』の特徴は、全身を覆う黒い甲羅だな。シーヴァリアじゃ、騎士の鎧の材料に使われるほどだ!
しかも少々の傷なら再生してしまう。…並のナイフや剣じゃ、全く刃が立たないだろうな!」
「マジすか!?じゃあ、武器がナイフとかしかなかったら…その時点で100パー詰みじゃないですか!」


389 : 名無しさん :2017/05/28(日) 12:37:30 ???
「グルルルッ……!!」
巨大甲虫『ドス』は、鉤爪の付いた4本の腕を振り回しながら、
サソリのような尻尾から、騎兵槍なみのサイズと鋭さの針を次々と打ち込んでくる。
リザは文字通り手数でドスに圧倒され、防戦一方になってしまっていた。

普段の任務では対人間…特に暗殺を専門としているリザ。
だが本来の実力からすれば、魔物相手だとしても並大抵の事では遅れを取る事はない。

敵の強さが『並大抵』のレベルを大きく逸脱している事。武器の相性の悪さ。
背後にいる少女ミライが狙われない様、常に気を配らなければならない状況。
そして…以前の戦いで心の奥に刷り込まれた、魔物に対する苦手意識。
ついでに、とある事件によって、黒い昆虫型の敵に対しても強い嫌悪感を持っていた。

それら複数の要因が積み重なったせいでリザは無意識のうちに畏縮し、動きに精彩を欠いてしまっていた。

「このままじゃマズい…何とかして、懐に飛び込まないと……!」

………

「逆にハンマーやメイスみたいな打撃型の武器が有効だ!もちろん俺様は打撃武器も得意中の得意だから、全く問題ないがな!」
「うおおお!!紅の仮面騎士様すげーー!!」
「…と言っても、だ。仮に強力な武器を持っていたとしても、うかつに奴に接近戦を挑むのはオススメできん。
奴の体液は人間には猛毒だから、あの紫色の返り血を浴びたら非常に危険だ!」
「そ、そんなにヤバいんですか!?…歴戦の騎士レッドマスクさんがそこまで言うなんて!」
「仮面の紅騎士・クリムゾンマスク様、な」

………

「…う……、ああぁぁあああああっ!!」
嵐のような攻撃を紙一重で掻い潜り、装甲の隙間を狙ってナイフを突き入れたリザ。
だがその瞬間噴き出した紫色の体液を…テレポートで回避する暇もなく、全身に浴びてしまう!
「リ、リザちゃんっ…!!…どうしよう、このままじゃ……なんとか、抜け出さなきゃ」
窮地に陥ったリザを助けようと、粘つく糸と必死に格闘するミライ。
だが、粘つく糸はもがけばもがくほど胸やら脚やらその付け根やら意外とむっちりな二の腕やらに容赦なく喰い込んでいく。
一見ドスは無造作に糸を吐いただけに見えたが、その糸の畳まれ方や角度は周到に計算されており、
まるで亀の甲羅のようにミライの身体を縦横に縛り上げてしまっていた。

まさに野生の本能のなせる業と言えよう!


390 : 名無しさん :2017/05/28(日) 13:12:59 ???
(こ……これは……毒!?)
ドスの体液から出された紫色の体液を浴びた瞬間、リザの体の感覚が麻痺を始めた。
(んっ……!痺れが……だんだん強くっ……!)
「リザちゃんっ!私の糸を解いて!私の魔法なら解毒できるはずっ!」
「り……了解っ!」
ミライの拘束糸を解くため、彼女を縛り付けている糸にテレポートで接近するリザ。
「ミライッ!今助ける!」
「あぁっ!リザちゃん危ないっ!」
「えっ…?」
仲間を奪われた人間の思考回路を、この狡猾な魔物は読んでいた。
鞭のようにしならせた尻尾の薙ぎ払いが、リザの下腹に食い込む!
「ぐううううううああぁぁーーーッ!!」
「リザちゃああぁんっ!!」
ドスの尻尾はリザの小さな体にぶつかったくらいでは勢いを失わず、そのままリザの体を吹き飛ばした。

「あああぁんっ!!」
吹き飛ばされたリザは立木に背を強かに打ち付けて喘いだ後、受け身を取る余裕もなくすぐ下の池に落ちていった。
「リザちゃん大丈夫ー!?」
水の中で、あまり緊張感のないミライの声が響く。
(くそっ……私としたことが、解毒することを優先して冷静さを欠くなんて……!)
その焦りをあの知性のかけらもなさそうなドスに読まれた結果、大ダメージを受け水中に沈んでいるのだ。
(……まずい……骨が折れて泳げない……テレポート……しないと……)
薄れゆく意識の中、リザは気力で力を練り上げ水中から脱出した。

「ごぼッ!!!がはっ……!うええっ……」
「リザちゃん!大丈夫ー?」
水面近くの地面にワープした瞬間、リザの口から大量の水と、小さな小魚が2匹吐き出された。
「う……ううっ……!」
教授から1つだけ受け取っていた体内超回復促進薬を、口に放り込む。
教授いわく骨や体内組織を急速に回復させるものだが、副作用としてしばらく後に意識が朦朧とするため休息が必要になるとのこと。
おそらくだが、ドスの毒にもある程度の効果が期待できるだろう。
(意識が混濁する前に……早くミライを助けなきゃ……!)
ゆらりと立ち上がりながら、リザはナイフをドスへと向けた。


391 : 名無しさん :2017/05/28(日) 13:45:21 ???
「……う、あ……はうっ…!!…く、うう……」
(……あっ…熱い…身体が……寒い…目が、霞む……)

猛毒の体液を全身に浴びたリザは、体内超回復促進薬でも相殺しきれない程の
筆舌に尽くしがたい苦痛に、立っているのがやっとの状態だった。

特殊繊維製の服はボロボロに溶け落ち、全身至る所にある古傷・生傷は毒で腫れあがって赤紫色に変色している。
…それらが無数の蟲か何かの様に蠢き、柔肌の上を這い回っているように見えるのは、目の錯覚だろうか。

「リザちゃんっ…お願い、もういいから逃げてええ!」
ミライの悲痛な叫び声が、果たして聞こえているかどうか。

「それは…できないわ……」
リザはボロボロになりながらも立ち上がり、再びナイフを構えなおした。
胸の奥で、かつて誰かに言われた言葉が蘇る。
<…あの程度の雑魚に苦戦するようなら、もう十輝星はやめた方が良い…>

「あの程度の敵が、倒せなくて……今目の前にいる、あなた一人も守れないなんて…
そんなんじゃ、私の本当に大切な人たちを…守り切れるはずがない……!」

………

「ま、俺様が言うのもなんだが…弱い事は恥ではない。逃げる事も立派な戦術だ。
俺様も毎回助けてやれるとは限らんし、今度一人の時に魔物に会ったら大人しく逃げる事だな、少年」
「一人の時なら、もちろんそうしますよ。でも俺は…守ってやりたい奴がいるんです。だから…聖騎士になりたい」


392 : 391の前半抜けてた orz :2017/05/28(日) 14:27:49 ???
クリムゾンマスクの説明は続いた。それこそ実際に浴びた事でもあるのかって程に。
何でも、昔の職場の同僚の妹が、この体液を硫酸で希釈した猛毒液を母親に浴びせかけられた事件があったとかで…

「もちろん都合よく服も溶かすぞ!しかも特殊繊維の服なんか来てたりすると、化学反応が起きて逆に危険らしい!
なんでも溶かされる時に電流が走ったような痛みが走るとか…ま、さっきの俺様のように飛び道具で攻撃すれば心配無用だがな!」

「しかも金属も腐食するから、そういった意味でも剣やナイフとの相性は最悪だ!
まあ俺様の得意とする、炎や氷の攻撃魔法なら手っ取り早く殲滅可能だがな!」

「古傷のある場所なんかに浴びると、傷を受けた時より千倍痛いって噂だ!
ま、俺様はいつどんな戦いにも余裕で勝利するから、古傷なんて作りようがないがな!」

「うっかり目に入ってしまったら、速攻で洗って治療を受けないと失明の危険がある!ちなみに俺様の視力は99.9だ!」


393 : 名無しさん :2017/05/28(日) 15:00:24 ???
「ぐ……はぁ、はぁ……!来なさい……!化け物!」
「グルルルル!!」

硬い甲羅に阻まれてナイフの刃は通らず、甲羅の隙間に攻撃しても逆に毒性の体液を浴び、少々の傷はすぐに回復する。ナイフしか武器のないリザには勝機はないかと見えたが、彼女の瞳に諦めの色はない。


(『戦塵一射』……!この技はあまり使いたくなかったけど……!もうやるしかない!)

戦塵一射。相手にナイフを突き刺した後、ナイフの柄に仕込んである火薬を爆発させて、人力では出せないような勢いで相手の身体にナイフを抉りこませる技である。この技なら短いリーチを補って、魔物の身体の奥深くへとナイフを突き入れることが可能だ。
欠点は相手の身体の奥深くへとナイフが沈むため、一度使うとナイフを紛失すること。そして手の中で仕込み火薬が爆発するため、手が傷だらけになることだ。


「グガァアアアア!!」
「り、リザちゃあああん!」
(まだ……)

ドスが満身創痍のリザへと突進し、絶望したミライが声をあげる。だがドスはまだ遠い。

「グルルァアアアア!!」
「逃げて……!さっきのヒュン!ってやつで、私に構わず……!」
(まだだ……)
ドスは大分リザに近づいてきた。だが、リザの望む距離には不十分だ。

「グロロロロローー!!」
「いやああああ!!!」
「……今!」

ドスが今まさにリザの華奢な身体に角を突き刺そうとし、ミライはこの後広がるであろう光景を想像して悲痛な声をあげて目を瞑る。
そしてその瞬間は、リザの望む距離までドスが近づいてきた瞬間でもあった。

ボロボロの相手を一気に仕留めようとする時は、どうしても攻撃に力が入って大振りになってしまう。それは人間も魔物も変わらない。
ドスの角を身を屈めてやり過ごす。躱しきれなかったのか、背中に焼けるような激痛が走るが、この際どうでもいい。
ドスの懐に潜り込み、最後の攻撃のチャンスを手に入れた。今はそれだけが大事だ。

「戦塵一射!」

ドスにナイフを突き立ててから仕込み火薬を爆発させて身体の奥深くへと沈めれば、またあの体液を喰らうだろうが、ドスを倒せさえすれば回復もできる。
リザの最後の希望を乗せたナイフは、甲羅の間の柔らかい部分に的確に命中し――――



「……え?」



金属すら腐食させる体液によって、最早刃こぼれを通り越して虫食い状態になっていたナイフは、まったり突き刺さらなかった。
一度ナイフを突き刺さなければ、いくら火薬を爆発させてナイフを射出しても、身体の内側を抉ることは不可能だ。


朦朧としていた意識。自らの武器への信頼。毒で動けなくなる前に勝負を決めなければいけなかった焦り。
それらが合わさって、リザは武器の状態を確認せずに最後の勝負に出てしまった。


394 : 名無しさん :2017/05/28(日) 15:19:05 ???
リザが背水の陣で攻撃を仕掛けている頃、クリムゾンマスクとジンは森を見渡せる高台に来ていた。
「守ってやりたい奴?ほぉ……それは女か?」
「あ、ま、まぁ一応女なんスけど……幼馴染だからあんまりそういう、「女」って感じじゃないっていうか……友達の延長線上というか……」
「少年よ……男と女の友情の延長線上にあるのは、愛し合う未来だけだ。経験豊富な俺様にはわかるぞ。」
(愛し合う……未来……)
偶然の言葉の一致に、ジンはいつも見ている屈託のない笑顔を思い浮かべた。

「ククク……少年。お前はその子に抑えきれないほどの恋をしているな?」
「う……仮面の紅騎士・クリムゾンマスク様……なんでわかるんスか……!」
「言っただろう?俺様は女との経験も10や20どころではない。普通の人間と同じ物差しで俺様を計らないほうがいいぞ……!はははははっ!」
アイベルトは彼女いない歴=年齢の童貞であった。

「でも……向こうは俺のこと幼馴染としか見てなくて……いつも一緒なのに男として見られてないんスよ。この前なんか、ジンくんにぴったりの可愛くて性格良くて料理が得意な女の子がいるから紹介させて!とか言われて……」
「ふむふむ……それはそれとして、可愛くて料理が得意で性格のいい子なんてこの世の中に存在するのか……?いや3次元には存在しないだろそんなやつ……」
「仮面の紅騎士・クリムゾンマスク様?どうしたんスか?」
「え、あ、いや。なんでもない。えっと、ギャルゲの話だったかな?」
「違うっすよ……てか、仮面の紅騎士・クリムゾンマスク様ってクソ長いんで、略してもいいすか?」
「むうぅ……まあ長いというなら仕方ない。好きに呼びたまえ。」
「じゃあ、仮面のマスク様で!」
「うん、それは言葉として重複してるからやめたまえ。」
そんな会話をしながらアイベルトが辺りを見回すと、池の近くで戦う金髪の少女を見つけた。


395 : 名無しさん :2017/05/28(日) 18:26:03 ???
「そんな……これじゃ、刃が刺さらない…!」
愛用のナイフがボロボロに腐食していく様を目の当たりにし、リザは愕然とした。

強大な牙と鉤爪。分厚い装甲。口から吐き出す糸に、猛毒の体液と再生能力。
数々の異能を持つ恐るべき怪物ドスによって絶体絶命の窮地に立たされながら、
必死の想いで見出した僅かな勝機。それが音もなく崩れ去っていくように感じ、リザは全身の力が抜けそうになるが…

「いやあああぁっ!!リザちゃーーーん!!」
「そうだ……今、私は倒れるわけにはいかない………私は、諦めない…!!」

背後で叫んでいるミライの存在を、そしてリザ自身の肩に委ねられたアウィナイト一族の運命を思い出し、再び闘志を漲らせた。
…勝機はまだ、完全に失われたわけではない。
リザは「もう一つの能力」を使って、柄だけになったナイフに、魔力の刀身を作り出す。
ノワールとの戦いで使った時には、魔力不足で花びら程のサイズの刃を作り出すのがやっとだったが…

(テレポートに使う分の魔力も…生命力も、ギリギリまで注ぎ込む。私は……みんなを、守ってみせる!)

「……戦塵一射・魔刃!」

持てる全ての力を込めた魔力の刃が、仕込みナイフの火力でドスの体内に深々と突き刺さった。
リザの思惑通り、ドスに致命傷を与えるには十分な威力を秘めていたが……その代償は小さくはない。
先程以上に大量の返り血が、リザの全身に降り注ぐ。
ドスの懐に飛び込む際、巨大な角の一撃が掠った時に出来た、背中の傷口にも。

「!!ぐ、あっ……が…はっ……!!」
「グ、ロロロロ……!!」
よろよろと後退し、がくりと膝をつくリザ。…だが、急所に致命的な一撃を受けてもなお、
ドスはまだ活動を停止していなかった。
ドスの巨大な尻尾がリザに迫る。先端の針は…というより、大型の騎兵槍並みの太さがあるが…
先端の針は、リザをあれほど苦しめた体液さえも比べ物にならない程の、強力な猛毒を持っている。
…針から赤黒い雫がぽたりと地面に滴り落ちるだけで、周辺の草があっという間に枯れていった。
一刺しされたら最後、間違いなく命はないだろう。

「……来る、なっ……あっ…ぐ、ぅ……!!」
今のリザにはテレポートで避けるどころか、立ち上がる気力・体力さえ残されてはいない。
緩慢に、そして確実に迫る死の毒針を、リザは素手で…
猛毒液で手袋ごと溶かされた左手と、最後の戦塵一射で酷い火傷を負った右手とで、受け止めるしかなかった。

致命的な一撃を受けた強大な魔甲虫ドス。すべての力を使い切り、満身創痍で猛毒に苦しむリザ。
果たして先に力尽きるのはどちらなのか…


396 : 名無しさん :2017/05/28(日) 21:30:34 ???
「グロロロ……ゴガッ……!」
リザの魔力を帯びた戦塵一射は、ドスの体の臓器を次々と貫いて致命傷を負わせていた。
「ぐううううっ……!!」
「あ、あぁっ……!手が……!」
尻尾の毒針を手で受け止めた結果、リザの手は真っ黒に腐蝕されボロボロと粉のようになってこぼれ落ちた。
「ミ……ミライ……これは……治せる……?」
「わ、私の魔法で治してからすぐに癒しの泉に行けばなんとか治せるかもしれないけど……!でも……!」
リザはもう動けないがドスはまだ気力があるようで、歯をカチカチと鳴らしながらリザの方へと口を近づけていく。
「あぁっ……だめっ……お願い……!やめて……!」
ミライは涙を流しながら目を伏せ、リザから目をそらした。
今から始まろうとしているのは、捕食。魔物に傷を負わされた自分を助けてくれ、今また捕まってしまった自分をもう一度助けようと奮闘してくれた15歳の少女の最後。
その気になれば逃げられたはずなのに、木に叩きつけられ毒を浴びながらも自分のために戦ってくれたリザという少女。
そんな優しい彼女が魔物に捕食されるという残酷な現実を受け入れることは、ミライにはできなかった。
(神様……!お願い……!私はどうなってもいいから……リザちゃんを助けて……!)

「グオオオオオオオオ……!」
「ば……化け物……苦しいでしょ……?私の勝ちよ……」
ドスは苦しそうな声を上げているが、動きはしっかりしている。
対するリザは腕もなくした満身創痍の状態で、もう立ち上がることもできない状態。
リザのセリフは、ミライには強がりにしか聞こえなかった。
「リザちゃん……私のせいで……ごめんなさい……こんな……!」
「ミライ……私ならだいじょうぶだから……」
「えっ……?」
ミライがドスを見た瞬間、ドスの体内から爆発が起こった。

「グオオオオオオオオッ!!!!」
「もう……遅いよ。」
リザが流し込んだ魔力には、爆破の術式を仕込まれていたのだ。起動に少し時間がかかったが、ドスの息の根を止めるには十分な威力だった。
「リ……リザちゃん……!」
「言ったでしょ……?私の勝ちだって……」
「グオオオオオオオオォォ……」
体内の爆発によって死に至ったドスは、その場でゆっくりと力尽きた。


397 : 名無しさん :2017/05/28(日) 22:00:35 ???
ドスが倒れると同時に締め付けていた糸が引っ張られ、ミライは拘束から解放された。
「リザちゃんっ!絶対死んじゃだめ!今治してあげるからねっ!」
「ぐあっ……うううううっ……!」
腕をなくした状態で猛毒に苦しむリザに、ミライは杖を高らかに掲げて詠唱を始めた。

「来たれ癒しの奔流よ!女神ネルトリウスの名の下に、大いなる慈悲と清廉なる心を、かの者に与え給え……!」

ミライが詠唱を唱え、ロッドから溢れた光がリザの体に集まり始める。
「い、今の詠唱は……!」
「安心して……私はセイクリッド家の中でも一番のヒーラー適正だから。」
ソウルオブ・レイズデッド。癒しの魔法の中でも最上位に位置し、唱えられるものは世界で数人しかいないという究極魔法の1つである。
あっという間に体の感覚が元に戻っていき、リザの古傷さえも綺麗に治ってしまっていた。
「これで傷と腕は治せる……念のため癒しの泉に行くから、今度は私がリザちゃんをおんぶするね。」
「う……ごめん……」
「あ、謝らなくていいよ〜!リザちゃんは私を2回も助けてくれた恩人なんだよ。むしろ謝るのは……ミライの方だよ。」
服が溶けてほぼ裸になったリザを、ミライは少し無理をして背負った。


398 : 名無しさん :2017/05/28(日) 23:02:27 ???
「り、リザちゃんが軽くて助かったよ〜。私でも背負えるくらいだし……」
少し無理をしてリザを背負って、なんとか癒しの泉まで向かっていくミライ。

「ミライ……さっきの究極魔法のおかげで、大分楽になったから、無理して私を背負わなくても……」
「そんな、安静にしなきゃダメだよ〜。せめてもの恩返しくらいさせてほしいな」
「……少し気にしてた身体の古傷まで治してくれて、恩返しとしては十分だよ」
「……リザちゃんは、とっても強いんだね……たった一人であのドスを倒しちゃうくらいだし……身体の古傷っていうのは、今までの旅で?」
「旅……?え、ええ、そうよ」

そういえば旅人と偽ってシーヴァリアに潜入するつもりだったのだ。ドスとの戦闘が出来事として濃すぎて忘れていた。

「私……変に思われるかもしれないけど、そういう古傷って、いかにも歴戦の勇士って感じで憧れちゃうな〜」
「……私が言うのもなんだけど、女の子がそんなものに憧れるべきじゃないんじゃ」
「うん、そうだよね……でも私、仲間を最前線で守り続ける、パパみたいな聖騎士にずっと憧れてて……もちろん、ママみたいなヒーラーもみんなを癒す大事な役割だっていうのは分かってるんだけど……」
「ミライ……」

適正としては稀代のヒーラー足りえるが、家の事情から聖騎士になるべきであり、本人も聖騎士の方に憧れている。
どうやら、彼女の悩みの種は思っていたよりも大きいようだ。



一方こちらはアイベ仮面とジン。
彼らは金髪の少女がドスと戦っているのを見てすぐに現場に急行したのだが、駆けつけた2人が見たものは、ドスの死骸であった。

「死体の損傷を見るに……身体の内側から爆発を起こして仕留めているな……しかも、恐らくはナイフで」
「な、ナイフでっスか?ドス相手に?」
「ああ。こんな芸当ができるのは、『奴』しかいない……遠目に見た時はまさかとは思ったが、まさか『奴』がこの辺りにいたとは……」
「や、『奴』?」
「ミライちゃんだったか……どうやら、少し急いで探した方がよさそうだ」

やたら『奴』を強調して重々しい口調で喋る仮面ベルト。ちなみにカッコつけたいだけで、特に意味はない。


399 : 名無しさん :2017/05/29(月) 00:42:25 ???
「ひょっひょっひょ…まさかラケシスの主『ドス』が倒される日が来るとは!
しかも体内の急所を的確に破壊し、外甲殻には傷一つない。実に見事なお手並ですな。こいつは旦那方が?」
「……ん?なんだこのオッサン」
ドスの死体から立ち去ろうとするジンと仮面の前に、怪しい男が現れた。
大きな荷車を引いている所から察するに、この男の職業は……

「…死体漁りか。言っておくが、コイツを倒したのは俺様じゃないぞ。
俺様ならもっとスマートに…ハンマーで豪快に甲羅を砕き、爆炎魔法で派手に吹っ飛ばす」
「ヘヘヘ…勘弁してくださいよ旦那。この『ドス』の甲羅をシーヴァリアの法術で加工すれば、
古今東西並ぶもののない最強の鎧が出来上がりますぜ」
角や尻尾は武器に。甲羅は鎧に。森を荒らしまわった凶悪な魔物も死体になってしまえば、
こうして人間と言う貪欲な生物によって余す所なく再利用される事になる。

「ふん。…ハイエナ共の餌に気を使ってやるつもりはないのでな。
…しかしこんなバカでかい甲羅、まともに着られる人間が居るのか」
「居りますとも。シーヴァリア最強の黒騎士、ブルート・エーゲル様…人呼んで『重鋼卿』。
この『ドスの鎧』こそ、あのお方が纏うにふさわしい」
「ほう、シーヴァリア最強の騎士…何とも面白そうな話ではないか。
…詳しく聴きたい所だが、こちらは人探しの途中でな。かくかくしかじか」
アイベルt……仮面の紅騎士クリムゾンが詠唱した呪文「かくかくしかじか」は、
込み入った内容の話や前に一度話した内容などを一言で相手に伝達することが出来る便利な魔法なのだ!

「白いローブと帽子のお嬢さんですかい…確かに見たような見てないような……へっへっへ。
そうですなぁ。…チャリンチャリンと金貨の擦れる音でも聞けば、思い出せるかも知れませんなぁ」
「うわぁマジで通じた!仮面マスク様すげーー!!」
「はっはっは!当然だ!何しろ俺は古代魔法にも精通…(…ん?あれ?これ、俺様が金払う流れなのか?)」


400 : 名無しさん :2017/05/29(月) 16:01:00 Huy7u8AU
「ふ、ふぁ……くしゅんっ!」
癒しの泉がある洞窟内部は外に比べてかなり気温が低く、裸の状態では身にしみる寒さだった。
外はかなりの猛暑のため、恥ずかしいという感情以外は気にならなかったのだが……
「あっ……リザちゃん寒いよね。私の服貸してあげる!服が見つかるまではこれ着てていいよ。……気付かなくてごめんね。」
「い、いい。それじゃミライが裸になっちゃうし……でも、服は欲しいかも……」
「じゃあ……ここでリザちゃんの傷を治したら、シーヴァリアに行こう!よかったら私の家で、ゆっくり休んでほしいなぁ。」
「え……でも、友達は……?」
「ジンくんのことは気になるけど……でも今は、私の恩人のリザちゃんを早く休ませてあげるのが大事だよ〜!」
「……あ、ありがとう……」
裸であることを除けば、このまま問題なくシーヴァリアに潜入できそうだ。
泉の近くまで来たミライは、リザをゆっくりと降ろした。

「リザちゃんって、アウィナイトだよね。私初めて見たよ〜!とっても綺麗な目だね!」
「そ、そう……」
初めて見たアウィナイトの青い目に、ミライは鼻息を荒くして興奮している。
「も、もっと近くで見てもいいかなぁ?」
今までの人生で男に同じセリフを言われた時は身構えたりしたが、ミライは子供のように無邪気な様子で、邪な感情など全くない様子だった。
恐らく彼女は誰に対しても、こんな様子で自然と仲良くなってしまうのだろう。
「……いいよ。こっちに来て。」
「ありがとうー!……ふおぉ〜……!本当にキレイだぁ……!まるで天使だよぉリザちゃんん〜!」
「そ……そうかな……」
この目のせいで今までの人生散々な目にあって来たが、ミライの羨ましそうな表情と声を聞いて、少しだけ自分の目が誇らしくなった。
「……ミライだって、綺麗な目だよ。優しそうで……かわいい。」
「えええ!リザちゃんにそれを言われたらなんかすごく否定したくなるよぉ〜!」

(うぅん……リザにそう言われると嫌味に聞こえるのがなぁ。)
手を振って否定するミライの姿を見て、かつての親友の言葉を思い出したリザであった。


401 : 名無しさん :2017/05/29(月) 23:32:00 ???
「ジンくんのバカーーっ!!入ってきちゃダメぇぇーっ!!」

……。

回収屋の男から情報を聞き出し、ジンと仮面の紅マスクは回復の泉のある洞窟にやって来た。
ようやくミライに会える、とジンは勇んで洞窟に駆け込んだのだが、続いて仮面が洞窟に入ろうとすると……

……どういうわけか、冒頭の大絶叫と、派手なビンタの音が洞窟の奥から聞こえてきたのであった。

「……それで…結局会えたのか?」
「あ、会えたことは会えたんですけど…なんでも、大怪我した女の子を治療してるとかで。
今はその…服が溶けちゃって、ハダカだから入ってくるなって」
「ほ…ほう。それは難儀な。そういう事なら、俺様も入るのは遠慮するべきだろうな、うん。
(マジかー!俺も一緒に入っときゃ良かったーー!!くっそ!くっっそ!!わかってたら絶対入ったのにーー!!!)」
仮面マスクことアイベルトは、瞳に宿した特殊な力を発動させる事で、数秒先の未来を予知する事が出来る。
だがこの力の発動・解除は自分の意志で行う必要があるため、
今回の様に不意打ちで美味しいシチュエーションがあった場合は何の役にも立たないのであった。

(…と、後悔は置いといて。さっき遠目に見た金髪といい、ドスの死体の様子といい、
中にいる怪我人って十中八九『アイツ』だよな……ふむ)

「服がないと言ったな…ちょっと待ってろ。ダークストレージ・オープン!」
仮面の騎士が呪文を唱えると、周囲に闇色のオーラを纏った時空の穴が出現した。

「えっ……!?何すかコレ!」
「こんな事もあろうかと、俺様はこの空間の中には様々な物を用意してある」
そう言って、仮面の騎士は穴の中に入って行き……しばらく後、一着の服を持って戻って来た。

「すげーー!!流石は仮面マスクさん!!
…でも、この服、なんというか…だいぶ…攻めてますね。なんでこんな服持ってるんですか?」

ダークストレージ内に大量に保管してある等身大フィギュア用の服から、
・機会があったら是非とも着てほしいけど絶対着てくれそうにない
・土下座して頼んだとしても腐ったブタを見るような目で拒絶されそう
・それはそれでご褒美だけどとにかく絶対着てくれそうにない
……という一着を、厳選して持って来たのであった。

「……ゴホン。とある冥界のダンジョンで入手した特殊なマジックアイテム的な…まあとにかく、渡してきてくれ」
「わかりましたっス!!おーい、ミライー!」

「………。」
(…………あ。自分で渡しに行きゃよかった!くっそ!!くっっっそ!!!)

「ばしーん!!」

…しばらく後、派手なビンタの音が再び洞窟の奥でこだました。


402 : 名無しさん :2017/06/01(木) 01:23:23 ???
「こ、こ、この服……やっぱり、アイベルトだったのね…」
「…お、俺様の完璧な変装が見抜かれた…ていうか会う前にバレた…だと……」

…それから更にしばらく後。岩陰に身を隠すようにしながら現れたリザの顔は……
怒りやら羞恥やら、様々な感情で耳まで真っ赤に染まっていた。
原因はもちろん、仮面マスクことアイベルトの持って来た衣装である。

「これ、スカートは…」
「ない。というか、それはワンピースだ」
…確かに分類上はワンピースであるが、スカート丈が短い上に全面が大きく開いているため、
どうやってもレオタード状の下半身が露出してしまっていた。
そして胸元、背中、二の腕、太股なども、ことごとく露出度が高い。
色はパールホワイトにライトグリーンのラインで縁取られた明るい配色。
リザが普段着ている黒い特殊繊維の戦闘服とは、あらゆる意味で真逆のデザインだった。

「……他の服は…ないの?」
「ああ、これしかない!」
力強く断言するアイベルト。その言葉に嘘偽りは全くない。
彼がダークストレージ内に保持している1000点超のコレクションの中から厳選に厳選を重ねた
正に『これしかない!』という一着なのであった。

「あ〜。これ『小春とフルール』のフルールの衣装だね〜。すごくかわいいよ、リザちゃん!」
ニコニコと笑いながら、ミライがリザを岩陰から引っ張り出した。

「え、アニメキャラの衣装なんスか?仮面マスクさん、冥界のダンジョンで拾ったって言ってたような」
「お、俺様はもちろん知らなかったが…冥界のダンジョンには稀によく落ちてるのだ、そういうのが」
「……。…他にないなら、仕方ないけど…シーヴァリアに着くまでだから……ミライ。後で着替え貸してね」
「うん!私もいろんな服持ってるから、可愛いのいっぱい着せてあげるね!」
「……それは勘弁して…」

胸元や太股など、目立つ位置にあった傷跡がきれいになくなった自分の身体を、リザは改めて眺める。
武器らしい武器も持たず、どう見ても戦闘に向かなさそうな露出度の高い衣装に身を包んで(包めていないが)いると、
何だか自分が自分でないような、不思議な感覚に包まれた。

「リザちゃんはせっかく可愛いんだし、もっとおしゃれしなきゃ!
 髪の毛ももう少し伸ばして、ツインテールとかにすると似合うと思うよ!」
「え……でも」
髪はむしろ、伸びてきたからそろそろ切ろうと思っていた所だった。戦う時、邪魔になるからだ。
十輝星として戦う事を選んだ時点で、遊んだり、着飾ったり…
そういった人並の幸せを願う気持ちは、全て捨てたつもりでいた。
…だが、ミライの穏やかな声を聞いて、優し気な笑顔で見つめられると、
その覚悟が根底からぐらぐらと揺らいでいくような、心細い気持ちが募っていく。

「シーヴァリアはいいところだよ〜。かわいい服屋さんとか、おいしいクレープ屋さんとか…
リザちゃんに案内してあげたい所、いっぱいあるんだ!」

「…でも。私は……」
…アイベルトを探す、という任務は既に終わった。
シーヴァリアに着いて、トーメント本国に報告したらすぐに帰還する事になる…とは、言いたくても言えない。
表向きは、リザはあくまで普通の旅人なのだから…

「……ふむ」
…何も言えずに俯くリザの様子を、仮面マスクは後ろで、やや下から舐めるようなアングルで眺めていた。


403 : 名無しさん :2017/06/01(木) 02:57:36 ???
……シーヴァリアは形式的には王制を敷いているが、王家自体はほぼお飾りで、政治的な権力は皆無である。
『シーヴァリア聖騎士団』に属する『白騎士』『黒騎士』から選出された12名、そして議長を務める『司教』が1名。
合計13人によって執り行われる「円卓会議」こそが、事実上シーヴァリア王国の最高機関であった。

「……クックック。ついに手に入ったか、『ドス』の甲羅が……」
「おめでとうございます、重鋼卿…ようやく、貴方様が纏うにふさわしい、世界最強の鎧が手に入りそうですわね」
「ドスの鎧が完成すれば、まさに世界最強……トーメント王下十輝星とて、卿の敵ではございますまい」

皮肉な事に、リザがラケシスの森で暴れ回っていた魔物「ドス」を退治した事によって
シーヴァリアは強力な力を手に入れ、トーメント王国への侵攻をも視野に入れる事となったのだが…
その切っ掛けとなったリザ本人は、もちろんその事を知る由もない。

……

「厳戒態勢のシーヴァリアに命懸けで潜入を果たした俺様!
最重要機密へあと一歩と迫ったその時!シーヴァリア最強の黒騎士『重鋼卿』ブルート・エーゲルが現れたァァ!
むろん俺様は奴と互角以上、もうこれほぼ勝ちじゃね?ってレベルで渡り合うが、その時卑劣な罠が!」

…アイベルトがちゃんと本国に報告するか今一つ不安だったため、リザはその様子を横で聞いていたのだが…
案の定、ない事ない事言いたい放題。『重鋼卿』とやらの描写だけはやたらと細かいが、
恐らくまともに情報収集したのはそこだけなのだろう。

「…アイベルト。いい加減に……」
「…そんなわけで、これまで得た情報によりますと…どうもこの件、私一人の手には余るというか…
いやそういう事ではなく。女性のみがなれるという『白騎士』の養成所は男子禁制。
もちろん、俺様は女装の腕前もプロフェッショナルですが……え、それはやめろって? ですよねー」
「…アイベルト?」


「では…リザは俺様の配下として、これより二人で今回の調査に当たる、という事で。アッハイ ヨロシクドーゾ」
「……え…」
「…聞いての通りだ、リザ。お前は今から俺様の部下として調査に協力して貰うからな。
最初の任務は、市街地の情報収集だ。ミライちゃ…現地民と市街をめぐり、いろいろと情報を聞き出してくるように」
アイベルトはそう言うと、親指をグッと立て、片目を閉じて見せた。

……

(…グォォオォオオォオォォォォオォオン………)

「クックック…『ドス』の甲羅に宿った魂が、怨嗟に打ち震えておるわ…」
「法術で甲羅から鎧を作るには、こやつを殺した仇の血で、荒ぶる魂を鎮める必要があります…」
「『ドス』を殺したのは、どこの何者か…調べはついているのだろうな?」
「回収屋が、現場から立ち去る二人組の娘を目撃しています。そして…『ドス』の死体からナイフの残骸が」
「娘二人か…それで『ドス』の魂を鎮めるには、一回や二回殺した程度の血では足りぬ」
「ならば、十回百回と殺せばよいのです。司教殿の蘇生術があれば、さして問題にはなりますまい。
…早速、その者らを探し出しましょう」

…かくして、シーヴァリア最強の『円卓の騎士』達が、殺意の刃を手に密かに動き出した。
期せずしてターゲットとなってしまったリザは、己の身に最大の危機が迫っている事を、もちろん知る由もない。


404 : 名無しさん :2017/06/03(土) 00:22:47 ???
シーヴァリアの王城で聖騎士たちの円卓会議が行われている頃、リザたちはお互いの状況を確認しあっていた。
「……てなわけで、オレはこの仮面のマスクさんに助けられてミライを見つけることができたんだよ!」
「うわぁ〜!仮面のマスクさん、ジンくんを助けてくれてありがとうです〜!」
「なに、気にすることはない。」
「それで、ミライ?その女の子は…?」
「この娘は旅人のリザちゃんだよ〜!ドスに襲われたミライを2回も助けてくれた、命の恩人なんだ。」
「ミ、ミライの命の恩人……!あ、ありがとうございましたっ!」
「……どういたしまして。」

お互いの状況を確認し、ジンとミライが2人で話し始めたところでリザはアイベルトに近づいた。
「……私たちの関係は……ここで初めて会ったってことで、いいよね。」
「そうだな……いや、もしもお前が望むというのなら、誠に不本意だが、俺様の慈悲の心でラブラブカップルという設定にしてもいいぞ。ほら、俺様と腕を組め。」
「絶対に嫌。」
「くそ!こういうときだけレスポンスが早いのはやめろっ!俺に効く!」

「とりあえずこれで全員揃ったことだし、このままシーヴァリアの王都、ルネを目指すということで!」
「私の家に2人を招待するよ〜!リザちゃんに着せたい服がたくさんあるの!もう今からドキドキだよぉ〜!」
「えっ!ちょっ!?ミライッ!?」
ミライは満面の笑みを浮かべながらリザの手を握り走り出す。
「ルネはどんな町なんだ?」
「シーヴァリアの首都っす!俺たちの地元なんで、色々紹介するっすよ!」
「ふむ……まあリザをあの格好で歩き回らせるのもアレだし、とりあえずはミライちゃんの家に行くか。」
「あの格好にしたのは仮面のマスクさんじゃないっすかww」


405 : 名無しさん :2017/06/03(土) 19:47:41 mxo0TtxE
「着いたよ!ここがルネだよ〜!」
ジンとミライの口利きで門番をやり過ごし、リザたちはようやく敵地であるシーヴァリアに入り込むことができた。
(ふむ……さすがシーヴァリア首都。清掃も行き届いているし、噴水や建築物も軒並み美しい。トーメントと違って洗練されているな……)
「じゃあ俺、ちょっと本部に報告してくるっす。それが終わったら街を紹介するんで、仮面のマスクさんは俺に着いてきてください!」
「え!俺様はなるべくなら女子と一緒に行動したいんだが……」
「でも、ミライの家に行ったってリザさんの着替えを待つだけっすよ?退屈じゃないっすか?」
「むう……」
せっかくリザに破廉恥な服を着せたのだからもう少し眺めていたい……と思いリザの方を見ると、目で「来るな」と訴えていた。
(仕方ない……正面からはもちろんローアングルでの隠し撮りもしたし、後でじっくりと楽しむことにするか……)
「ミライ、着替え終わったら連絡くれなー!」
「うんっ!」

ジンたちと別れ、ミライの家へ歩き出すリザ。
首都であり人の量も多く、やはりというべきか今のリザの格好は人々の視線を集める対象だった。
「あのレイヤーめっちゃ可愛い!名前なんていうんだろ?」
「ママ見てー!フルールの衣装だー!可愛いー!」
「公共の場であのような格好とは……!け、けしからん……じ、実に……けしからん……」
「アウィナイトってコスプレとかするんだな……ちょっとイメージ変わったわ。」

「わわ、みんなリザちゃんのこと見てるよ!きっとリザちゃんが可愛いからだね〜」
「……私がアウィナイトだから、珍しいんだと思う。この格好だし……」
冷静に返すリザだが、今はとんでもなく際どい服を着て大勢の人の目に晒されている状態のため、本当は顔から火が出る思いだった。
「……私、あまり目立ちたくない。早く行こう。」
「わ、わかった!もうすぐ私の家だよっ!」
またもリザの手を引いてグイグイと進むミライ。
そんな彼女にしばらく身を任せていると、お城のような豪邸が目の前に現れた。


406 : 名無しさん :2017/06/03(土) 20:08:01 ???
「お〜い、衛兵さ〜ん!」
「んあ?おお、ミライちゃんとジン!帰ってきたのか!……?そっちの痛いコスプレしたお嬢さんと、怪しげな仮面の男は?」
「えーと、この人たちは」
「ほう、この俺が1000点を越えるコレクションから厳選した至高の一着を痛いコスプレ呼ばわりとは、いい度胸した衛兵もいたものだな!」
「なに?」
(ちょ、ちょっとアイベルト!無意味に相手を刺激しないで……っていうかこれ以外にも服あったんじゃない!)
「えっと、この人たちは俺らの命の恩人なんスよ!森で例のドスに出くわして、この仮面の人が俺を助けてくれて」
「こっちの可愛い子が私を助けてくれたんで、お礼に私の家に招待しようと思ったんです」
「なるほど、2人の命の恩人か!となれば、いくら厳戒態勢とはいえ、通さないわけにはいかないか……あー、だがこっちも一応仕事だから、その怪しげな仮面は取ってくれないか?一応、顔の確認だけな」
「く……ミステリアスな強キャラの証たるこの仮面を外せだと……?」
「ねぇ、別に顔が出回ってるわけでもないし、変なことに拘ってないで外せば」
「だが俺ほどの男になると、交渉もまた一流よ!」

仮面マスクは堂々と衛兵に近づいていくと、彼の手に何かを握らせた。

「おいおい……言っとくがな、俺はいくら金を積まれようと仕事に妥協はしな……な!?」
紅クリムゾンが衛兵に手渡したもの、それは、いつの間にか撮ったのか、かなり危ないアングルからフルールの衣装に身を包んだリザを撮ったものだった。

(アンタはさっき『痛いコスプレ』と言った……『痛い格好』ではなく、『痛いコスプレ』と……つまりそれは、アニメ小春とフルールを知っているということ……!)
(く……しまった!)
(しかも気にしてない風に振る舞いながら、チラチラとリザの方を見てたのが丸わかりだ……もっと欲しいだろ、こういう写真?)
(ほ、他にもあるのか!?)
(ああ、アンタがちょっと俺のオシャレを見逃してくれたら、の話だがな)

「……随分洒落た仮面だな!ちょっとしたオシャレにまで口を出すことはないか!ないよな!」
「おお!分かってくれたか!」


407 : 名無しさん :2017/06/03(土) 23:56:35 ???
…なんだかんだで無事シーヴァリアに入国を果たした4人。
アイベルトはジンに連れられ、リザ達が着替えている間に聖騎士団本部に向かい……

「…ん?ジンじゃないか。なんだ、そっちの怪しい男は」
中に入ろうとした所で、ジンの知り合いらしい騎士に呼び止められた。

「ああ、どうもエールさん。実はかくかくしかじかで」
「むむ、初対面のイケメンを『怪しい男』呼ばわりとは失敬な。
…と言うか少年、俺の古代魔法を一目見ただけでマスターするとか何なの?天才タイプ?」

二人に声をかけてきたのは白い鎧を着た女性騎士で、栗色の長い髪を後ろで一つ結いにしている。
一目彼女を見た瞬間、アイベルトは思った。…いや、彼女を見た者はすべて同じ想いを抱くかもしれない。
(……「くっ、殺せ!」とか言いそう)

「こちらは、シーヴァリア聖騎士団所属の白騎士エールさん。俺らが見習いで所属してる部隊の副隊長ッス」
「ジンとミライを助けてくれたそうだな。私からも礼を言わせてもらう…怪しいなどと言って済まなかった」
「いや気にするな、美人に言い寄られるのは慣れている。
 俺様の事は『美しき仮面の紅騎士クリムゾンマスク様』とでも呼んでくれたまえ…ふはははは!!」

(…やっぱり、怪しい……)
厳戒態勢を敷いているはずなのに、なぜこんな怪しい仮面の男が街に入り込んでしまったのか。
…後で門番をとっちめる必要がある、と思うエールであった。

「こんな所でお会いしたのも何かの縁だ…いかがですお姉さん。これからお茶でも」
「生理的に無理。…それに今は任務中なので遠慮する」
「ぐぬっ!?…そこまでいう事なくね!?理由付けて断るなら任務中ってだけで十分じゃね!?」


408 : 名無しさん :2017/06/04(日) 15:08:18 ???
「ず、随分大きな家ね……流石はセイクリッド家……」
「あ、あはは〜、そうストレートに褒められると恥ずかしいな〜」
(王下十輝星に城の個室を振り分けてるだけの王様って、意外とケチなんじゃ……)

目の前の豪邸に若干気圧されながら、グイグイと引っ張ってくるミライに連れられてセイクリッド家の屋敷に入るリザ。


✱✱✱


「まぁまぁ、うちのミライちゃんが大変お世話になったようで……フルールのコスプレした貴女を見た時は、変な友達が出来てしまったのかと驚きましたが……」
「ちょっとママ〜、そんなこと言ったらリザちゃんに失礼だよ〜」
「あらごめんなさい、私ったらついつい本当のことを……」
「もー、ママったら一言多いんだからー」
「「あはははは!」」

(こ、この親子……掴みどころがない……)

セイクリッド家の屋敷に足を踏み入れたリザを迎えたのは、どこかのほほんとした、一言余計なことを言う貴婦人であった。
彼女の名はカナタ・セイクリッド。ミライの母親であり、今は前線からは離れているが、かつては凄腕のヒーラーだったという。
ちなみに、ミライの父親はまだ勤務中らしい。

「それでね、あの人ったらね、いつもいつも無茶して大怪我して戻ってきてたのよ。そこでいつもいつも私が治療してあげてるうちに、あの人ったら私にホの字になっちゃったらしくてね」
「もうママ〜、私が友達連れてくる度にその話するんだから〜、聞いてるこっちまで恥ずかしいよ〜」
「あらごめんなさい!リザちゃんが聞き上手の話し下手だからつい……!」
「聞き上手はともかく話し下手は余計だよ〜」
「あらあらまたやっちゃった。ごめんなさいねリザちゃん!」
「ママったら〜」
「「あはははは!」」

「あの、そろそろ着替えを……」
「あらごめんなさい!おばさんになるとだめね、ついつい長話に興じてしまって……でも、その格好可愛いからそのままでいいんじゃないかしら?」
「いや、流石にそれは……」
「リザちゃんには私の服を色々着せてみたいから、それはダメだよママ!」
「こんな可愛い子を着せ替え人形になんて……リカちゃん人形ならぬリザちゃん人形ということね」
「もうママ、そんな酔ってる時のパパみたいな変なギャグ言わないでよ〜」
「あらごめんなさい!無表情のリザちゃんを笑顔にしようとしたのに、失敗しちゃったわ!」
「ママったら〜」
「「あはははは!」」

「あの、だから、着替えを……」
「あらごめんなさい!恥ずかしがってるリザちゃんが可愛くて、ついついミライを引き留めてしまったわ!」
「も〜、リザちゃんが可哀想だよ〜」

親子のゆっるーいやり取りを横目に、リザの羞恥プレイは今しばらく続いた。


409 : 名無しさん :2017/06/04(日) 18:31:09 ???
「で、確かなのだな?回収屋よ……セイクリッド家の一人娘、ミライ・セイクリッドがドスを殺した娘だというのは」
「ひょっひょっひょ……ええ、確かでございます重鋼卿。そして、もう一人の娘はアウィナイトでして、ミライ・セイクリッドと共にセイクリッド家の屋敷に入るのを見たという者が大勢いました」
「ほう……死体漁りしかできん男だと思っていたが、中々どうして、使えるではないか」
「いえなに、アウィナイトの娘が淫猥な服装で街を出回っていたようでしてな……目撃者を探すのは苦労しませんでしたとも」

「ふむ……セイクリッド家の一人娘となると、手荒なことをするのは憚られるな……」
「なに、重鋼卿の鎧の為よ……最終的に司祭殿に蘇らせてもらえばよかろう」
「セイクリッド家にいるというなら話は早い……カナタ・セイクリッドを呼び出し、娘二人だけになったところを襲撃するとしよう」
「では、私は早速、カナタ・セイクリッドを呼び出すフェイクの書類を作成しするとしましょう」


〜〜〜


「うーん、ママが急に呼び出されるなんて、何かあったのかな?」
「ねぇミライ……もう、服はこれでいいから……」
「そんな!まだまだ着てもらいたい服がたくさんあるのに……」
「ほんと、こういうフワフワした服は私には似合わないから」
「そんなことないよリザちゃん!すっごく可愛いよ!」

少女たちは、自分たちが狙われていることも露知らず……2人だけのファッションショーを楽しんでいた。


410 : 名無しさん :2017/06/04(日) 21:53:08 ???
「そんな事よりジン…さっきの話、詳しく聞かせてくれないか?ドスを倒した、リザとかいう女の子について」

アイベルトを冷たくあしらった白騎士エールだが、ジンが「かくかくしかじか」と話した内容を聞き逃してはいなかった。
本来なら彼女は森を荒らす魔物「ドス」の討伐部隊を編成・指揮する予定だったのだが……
つい先ほど、その『ドス』が何者かに討伐されたという報告を受け、
新たに「ドスを倒した二人組の少女」を捜索するという任務を受けた矢先だった。

「あの子ならミライの家にいるはずっスよ。着替えた後、街を案内する予定で…」
「こんなに早く手掛かりが見つかるとはな……それに、まさか二人組の片方がミライだったとは」
「仕事が早く終わって結構な事ではないですか。どうです、この後夜景を眺めながらシャレオツなレストランで大人の(ry」
「キモいから不可能。それに、彼女達にもいろいろと聞きたい事がある」
「ちょっ!?我々初対面ですよね!?さっきから何なのこの扱い!?」
「まあまあ……そろそろミライたちも着替え終わる頃だろうし、みんなで行ってみましょうよ!」


……と、ここで三人がセイクリッド邸に向かう事ができていれば、あるいは最悪の事態は避けられたかも知れない。
だがどういう運命の悪戯か、よりにもよって最も出会ってはならない人物と遭遇してしまった。

「あらぁ〜ジンくんじゃない!お久しぶりねぇ。元気だった?たまにはうちに遊びに来て頂戴ね!
あ、でもうちのミライちゃんにヘンな事しちゃダメよ!
この年でおばあちゃんなんてさすがに…あら、いけない私ったらウフフフ」
カナタ・セイクリッドが現れた!

「(げ!…み…ミライの母さん…)ど、どうもッス。何でここに…!?」
ジンは驚きとまどっている!

「それが私も良くわからないんだけど、急に呼び出されたのよねぇ。あ、エールちゃんも久しぶりー!おっきくなったわね!」
「は、ご健勝で何よりです…私は任務がありますのでこれで」
エールは逃げ出した!

「あら残念。任務なら仕方ないわね。また今度ゆっくりお話ししましょうね!
…ところで、こちらの殿方は…初めてお会いする方かしら。
その仮面、とても素敵でいらっしゃいますわね。これからパーティか何か?」
「アッハイ えーと僕も、もう行っていいですか」
しかし仮面マスクは捕まってしまった!


(…すまん、ジン。この埋め合わせは必ず…)
愛馬を駆り、一人セイクリッド邸へと急ぐエール。
だが、屋敷の前まで辿り着いた所で異変に気付いた。
「…これは…!?……異様な殺気が漂っている……一体、何が起きているんだ……?」


411 : 名無しさん :2017/06/05(月) 00:58:24 ???
「ふおお、私が着ると野暮ったさが勝るロングスカートも、リザちゃんにかかれば清楚さを全面に押し出したすっごいデザインになるよ〜!髪を伸ばせば、どこに出しても恥ずかしくない深窓の令嬢の出来上がり……リザちゃん?どうしたの?怖い顔して」
「ミライ……家の戸締りをしっかり確認して」
(殺気……!それも、かなりの手練れの……!)


「この殺気は一体……ミライ!」
「おっと、動かないでください」
「な!?」

尋常でない殺気を察知したエールは、愛馬から降りて屋敷へと走り寄ろうとした。だが、今まさに走り出そうとした瞬間、後ろから何者かによって剣を首元に突き付けられていた。

「その声……その早業……まさか、『早抜き』のシェリー!?」
「同じ白騎士として忠告します……即刻この場から立ち去り、今見たことは忘れなさい」
「どうして……貴女ほどの聖騎士が、円卓の騎士が、一体何を……!」
「全ては国益のため……小を殺して大を生かすだけです」
「答えになってないわ!ミライに何をする気なの!?」
「そうですね、端的に言えば……殺害するつもりです」
「……っ!」

その言葉を聞いたエールは、一気に身を捻ってシェリーに振り返り、剣ではなく拳の距離まで肉薄する。だが……

「まったく……その愚直さには好感が持てますが、少しは妥協も覚えた方がいい」
「おっぐ!?」

エールが拳を振るうよりも早く、シェリーの剣の柄がエールの腹部にめり込んだ。

「う、く……み、見えなかった……」
「伊達に『早抜き』の二つ名で呼ばれていませんよ……もう聞こえてませんか」

エールは既に気を失っていた。


「どうした?何があった」
「白ねずみが一匹紛れ込んできたので、無力化しただけですよ……以前、ナルビア王国の研究都市アルガスから購入した記憶領域操作装置……アレを使うことになるかもしれませんね」
「そうか……それでいい、我ら円卓の騎士が小娘2人を殺害したとなると少々誤解を招く」
「騎士団本部に呼び出して暗殺というのも考えたが、部外者であるアウィナイトの娘を本部に呼ぶのは些か都合が悪い……さらに本部には人が多すぎる……屋敷を急襲するのが堅実かつ確実」
「母親のカナタ・セイクリッド及び、父親のアスカ・セイクリッドをフェイクの書類で押さえつけている間に、ケリをつけるぞ」

円卓の騎士たちが殺気を滾らせ、今まさにセイクリッド家に襲撃をかけようとしていた。


412 : 名無しさん :2017/06/05(月) 23:32:14 ???
敵は少なくとも十人前後。ギラついた殺気を隠そうともしていないが、
その鋭さ、どす黒さから、一人一人が並々ならぬ実力を秘めている事が窺い知れた。
ミライの母、カナタがこのタイミングで騎士団から呼び出されたのが偶然ではないとすると…
(…まさか、シーヴァリアの騎士!?…でも、一体どうして)

思い当たる可能性は、一つ。…何らかの理由で、自分がトーメント王国のスパイである事がバレた。
もちろん素性がバレるようなミスをした覚えはないのだが、
実際、アルガスでは自分が…『王下十輝星のスピカ』が侵入した、と言う情報が出回っている。
仮に自分の人相が敵国に知られていたとすれば…ありえない話ではない。

「ミライ……よく聞いて。おそらく、敵の狙いは私一人…
私は奴らを引き付けて逃げるから、あなたはどこかに隠れていて。
騎士に見つかったら、私を匿うよう脅された、と言いなさい」

「そっ…そんなの、ダメだよ!絶対ダメ!…それに、騎士団がリザちゃんを襲うなんて…
何かの誤解だよ、きっと……そうだ。パパや、ママに連絡すれば…!」
ミライは携帯電話を取り出し、窓際に近付く。その時…屋敷の外の茂みの中で、何かが光ったように見えた。

「っ!…伏せて、ミライ!!」
叫びながら、リザは咄嗟に駆け出した。だがロングスカートに足を取られ、一瞬動きが止まる。

「えっ…!?」
そして次の瞬間。ミライの目に映ったのは、音もなく飛んできたボウガンの矢と…

「っ…く、うっ……!!」
テレポートでその射線上に割り込んだ、リザの後姿だった。


413 : 名無しさん :2017/06/06(火) 00:47:43 ???
「り、リザちゃああああん!!」
「ぐ……大丈夫、急所は外した……」
(どういうこと……?今の軌道、庇わなければミライに直撃していた……!相手の狙いは、私だけじゃない……!?)
「す、すぐに治療するね!はっ!」

天才ヒーラーであるミライは、当然のようにはっ!の一声だけでのヒールを習得していた。
肩に突き刺さったままのボウガンの矢を慎重に引き抜いてから、傷口に治癒魔法をかける。

「な、なんで聖騎士がこんなことを……とにかく、パパとママに連絡を……!」
と、その時、外から部屋に向けてバチバチと電流が走ってくる!

「……!!」
「あう!?」
リザが咄嗟にミライを掴んで部屋の外、屋敷の奥へと退避したためダメージを喰らうことはなかった。だが、リザが慌ててミライの身体を掴んだせいで、ミライの手から携帯電話は離れ、部屋に取り残されてしまい……一瞬後に部屋中を走った電流により、破壊された。

「ミライ、大丈夫!?」
「わ、私は大丈夫だけど、携帯が壊れちゃった……!家の固定電話を使わないと!」
「ミライ、多分だけど……電話をかけるのは無駄だと思う……」
何故かは分からないが、相手はリザとミライの両方を狙っている。そして、その2人が同じ場所にいることを何らかの方法で確かめ、ターゲットではないカナタを屋敷から遠ざけた……恐らく、諸々の根回しや裏工作は完了していると考えていいだろう。

「そ、そんな……!じゃあ、どうすれば……!ッヒ!?」

屋敷に、窓を叩き割ったような音、ドアを蹴破ったような音、天井の落とし戸を破壊したような音が響く。

「ど、どうしようリザちゃん……!レ○ンボーシッ○スシージの防衛側みたいな気分だよぉ……!」
「とにかく、何か身を守るものを……」
(レイン○ーシック○シージ?)


414 : 名無しさん :2017/06/06(火) 18:38:55 ???
「音の数からしても、やっばり10以上はいる……!ミライ、この屋敷で1番広い場所は!?」
「え、ええっと……食堂だよ!一階の!」
「案内して!早く!」
これだけの攻撃を仕掛けてくる相手では、恐らく外もがっちり固められているだろう。
ならば、急襲を受けて囲まれづらい広い場所で戦闘や交渉をする方がいい。
狭い場所では多勢に無勢な上にテレポートがうまく使えないためだ。

(外に逃げたところで屋敷は囲まれてるだろうし、町中に聖騎士がいるかもしれない……こんなロングスカートで逃げ回れる自信はない。)
履きなれないスカートを押さえながら、リザはミライの指示に従って素早く食堂へミライを運んだ。

食堂に到着した2人を待ち受けていたのは、漆黒の鎧を纏う偉丈夫だった。
「その鎧……あなたはまさか……エーゲル様!?」
「ごきげんよう、ミライちゃん。立派な家の中を荒らしてしまって申し訳ない。これには実に込み入った事情があってね……」
「……誰?」
「シーヴァリア最強の黒騎士と呼ばれている人で、別名重鋼卿……!12人の円卓の騎士の中でも1番強い人だよ……!」
(あぁ……こいつがアイベルトが苦戦したっていう黒騎士か。)
「……それにね、シーヴァリアの歴史の中でも、歴代最強の黒騎士って言われてるんだよ。」
「……へぇ。そこまで強そうには見えないけど。」
言いながらリザはナイフを構える。
相手は先ほどのような魔物ではない。ただの人が相手ならナイフさえあれば負ける気はしなかった。
「そちらの可愛らしいスカートをはいたお嬢さんが、ドスを倒したアウィナイトか。……クク、目を見ればわかるぞ。」
「……何が?」

「君は……人を殺しているだろう。それも10や20ではないな。」
「えっ!?」
突拍子のない発言にミライは驚いて後ずさった。
「その幼い体と美しい碧眼に、修羅を宿しているだろう。ククク……私にはわかるぞ。」
「……勝手に気持ち悪いことをベラベラ喋らないで。私はただの旅人よ。」
「……まあよい。君は私が1人で相手をしてやろう。他の聖騎士では手こずりそうだからな……!」
ブルートが辺りを見回す仕草をした。
リザも辺りを見回すと、食堂にはすでに聖騎士たちが出口を固めている。
「ブルート様!お一人でよろしいのですか!?」
「いい機会だ。貴様らに本当の戦闘というものを見せてやる。……よく見ておけ。」
ブルートが剣を抜くと、身の丈以上の禍々しい大剣がリザへと向けられた。
大剣は炎のようなオーラを纏っており、今にもマグマが噴き出しそうにこぽこぽと刀身で泡を作っている。
「出たぞ……ブルート様の愛刀、エレメンタルブレイバーが……!」
「あらゆる属性を纏って自然災害のような怒涛の攻撃を仕掛ける魔大剣……!この目で見られる日が来ようとは……!」
「リ、リザちゃん……!どうしてリザちゃんがこんな……!こんなの絶対おかしいよ!」

「お手合わせ願おう…アウィナイトの美しい少女よ。」
「………」
リザは無言でナイフを構えた。


415 : 名無しさん :2017/06/07(水) 00:00:00 ???
セイクリッド邸の食堂で、リザと重鋼卿の戦いが始まった頃。

屋敷のほど近くにある茂みの中から、一人の黒騎士が姿を現した。
その傍らには、騎士たちにリザ達の情報を提供した「回収屋」が控えている。
「ひょひょひょ…どうやら『狩り』が始まったようですな…しかし流石は『鷹眼卿』。相変わらずの腕前で」
「ふん。ドスを仕留めたというから、どれほどの腕かと思っていたのだが……期待外れだな」

…長い黒髪に端正な顔立ちの男。軽量の黒鎧は動きやすさを重視したもので、
肩には長距離狙撃用の大型ボウガンを提げている。

「…あの程度の矢も防げぬような相手に、円卓の騎士が総出で掛かる必要もあるまい。
私はこれで失礼する、と皆に伝えておいてくれ」
「ははっ…かしこまりました」

………

そして同じ頃、トーメント王国の首都、イータブリックスにて。

リザを除いた王下十輝星の面々は、アルガス襲撃事件についての情報集めに奔走していた。
だが、やれ特殊合金の壁を素手でぶち破って侵入したとか、やれ機械兵部隊『地獄の絶壁』を壊滅させたとか、
調べれば調べる程ありえない、身に覚えのない被害状況が伝わってきて、捜査は混迷の一途を辿るばかり。

すっかり混乱したアイナとサキは、サボり…もとい息抜きのため、城下町にある酒場兼宿屋、
昼の間に喫茶店もやっている『邪悪にして強大なるワイバーン亭』へとやって来た。

「…そういやリザの奴、アイベルトのアホのサポートでシーヴァリアの任務に就くんですって?
…私らに余計な苦労を押し付けておいて、呑気なモンね」
「だ…だからあれは、リザちゃんのせいじゃありませんわ!
きっと、誰かがリザちゃんの名を騙って悪さしたんですわー!」

ピンク色のツインテールの髪をぶんぶんと振り回しながら、憤慨するアイナ。
その様子を、コワモテの主人がギロリと睨みつけた。
「ひぃぃ……この店、紅茶とケーキは絶品ですけど、店員が怖すぎですわ…!」

「…ふん。大体アンタも、ヨハン様も、他の連中も……よくあんな奴の肩を持てるわね。
篠原唯と仲間連中を捕まえて、全員でブチ殺した時だって、自分だけさっさと抜け出してたし…」
「それは…きっと、唯ちゃん達が殺される姿を見たくなかったんですわ。…リザちゃんは、優しい子だから」

『篠原唯』の名を聞いた瞬間、彼女達を捕らえるための作戦で、彼女に箒に乗せてもらった時の事を思い出し…
アイナの表情が、ほんの少し曇った。

「は!?…アンタ、マジで言ってるわけ?そもそも、アイツらを捕まえたのはリザの奴じゃない。
自分がした事の結果から目を反らして、自分だけイイ子ぶって…そんな奴が、優しいですって?…笑えない冗談だわ!」

「なっ…サキ!…さっきから何なんですの!?あなたにリザちゃんの何がわかるって…」
(ぎろり……)
「ひいぃ……あのおっさん、絶対どっかで何人かSATSUGAIしてますわぁ…」

「とにかく…私はあいつの、そういう所が一番ムカつくの。
一握りの身内を助けるために、関係ない奴を地獄に堕として回ってる外道のクセに。
いっちょ前に不幸のヒロイン面して、こうするしかないんです私も辛いんですごめんなさいとか…
甘ったれてんじゃねーよ。そんなんどう言い訳したって許されるわけねーだろ。…って感じ」
「…サキ。…あなた、さっきから……」
(……誰の事を、言ってるんですの……?)

「アタシは、神様なんか信じちゃいないけど……そういう奴には、巡り巡って天罰が下るもんなのよ。
…いつか必ず、ね」

重い雰囲気を纏ったまま、店を出ていくアイナとサキ。
その後姿を、『邪ワ亭』の強面主人は周囲を威圧するかのような仁王立ちで見送っていた。
(あの二人……さっき、何て言った?『篠原唯と仲間』を『捕まえて』…『殺した』……!?)


416 : 名無しさん :2017/06/09(金) 18:15:09 dauGKRa6
「はっ!」
重鋼卿が剣を持って走り出したのを見て、リザはすぐさま反撃のために前へと躍り出た。
「待ってリザちゃんっ!戦っちゃだめぇっ!」
「なんでっ!?」
「か……勝てるわけないよぉっ!リザちゃんが大怪我しちゃうっ!!」
「……だからって、こんな状況で逃げられる訳ないっ!それに…狙われてるのは私だけじゃない!」
「え……?それって……」
ミライが言葉の意味を考えている間に、ブルートの刃はリザへと迫っていた。

「灼火斬ッ!」
大剣を横に払う大ぶりな攻撃を、リザは難なく跳躍して回避する。
(思ってた通り動きは鈍重……翻弄にはテレポートを使うまでもないか。)
この食堂のように広い場所ならば、リザは自らの運動神経で自由自在に移動できる。
派手に動き回るとスカートが捲れたり下から覗かれたりしてしまうが、大勢の敵に囲まれた今の状況で、そんな恥じらいを持っている余裕はリザにはなかった。
ちなみに今のリザの下着は、帰る前にミライがチョイスして買った白いレースが可愛らしいショーツである。
「あの病弱なアウィナイトとは思えん運動神経だな。面白い……!」
「ブルート様!相手はあのドスを倒した女です!油断しないでくださいっ!」
「分かってい……ぬおおっ!?」
突如現れた鋭利なナイフを、ブルートは右腕でガードする。
余裕綽々に話していたブルートの首元へ、リザは魔力を流し込んだナイフを使って踏み込んでいたのだ。
だが…………

「くっ……硬いっ……!」
「惜しかったな……!この鎧は魔力にも高い耐性を持っている。……そんなしょぼくれたナイフの一撃で易々と壊れるわけはないっ!」
「やぁあぁッ!!」
ガードしていない方の左腕で、ブルートは強引にリザの胸ぐらを鷲掴む。
「なんと軽い……投げ飛ばして遊ぶにはうってつけの身体だな!ソォラァッ!」
「きゃあああああああぁぁぁッ!!!」
そのまま抵抗する暇もなく、リザは絹を裂くような悲鳴を上げながら、ブルートの片腕で吹き飛ばされてしまった。


417 : 名無しさん :2017/06/09(金) 19:04:03 ???
「うあぁあぁっ!!」
ガッシャーーン!!!
投げ飛ばされたリザは食堂にかけられていた時計に激突し、ガラスの雨を浴びた。
「あぐっ……!う、ぐううう……!」
「ふん……なかなかいい声で哭くじゃないか。」
「リ、リザちゃああああんっ!!」
すかさずミライが駆け寄ろうとするが、そうはさせまいと白騎士のシェリーがミライの肩を掴んだ。
「キャッ!」
「こらこら、大人しくしてください。ミライ・セイクリッド。これはブルート様とあのアウィナイトの戦いです。手出しはしないでください。」
「そ、そんなっ……!いやっ!リザちゃん起きて!負けないでぇっ!」

(うぅ……よかった……体は痛いけど、いつもと違って頭は打ってない……)
ミライの声が頭にガンガン響く。いつも吹き飛ばされた時は頭を打って目眩をしてしまうことが多いが、今回は運が良かった。
(私としたことが……!相手は最強の黒騎士。すぐにトドメをさせられるわけはない。相手の攻撃をよく見て……カウンターを狙うしかないっ!)
ドスを仕留めた戦塵一射……または、ナイフを破壊力重視の形態に変形させた上でより多くの魔力をナイフに流し込み、鎧ごと圧倒するか……それとも、相手がバテるのを待つか……
リザの頭の中で、勝利に繋がるシミュレーションの計算が素早く行なわれていった。



「おいリリス……あんなかわいい真っ白レース付きおパンティー履いてるお嬢様風の旅人が、本当にあのドスを倒したのか?」
「ベ、ベルガさん……女の子の下着のことをそんなストレートに言わないでください……!」
「へっ……さっき俺の上を飛んでった時にスカートの中がモロ見えだったんでな。あんな気持ちのいいパンモロは始めてたぜぇ……ヒヒヒ!」
「ベ、ベルガさん……いい加減に……!」
「それはそうとリリスちゃんよ……お前は今どんなん穿いてんだ ?やっぱ白か?白騎士は鎧も白ならパンツも白ってか〜?ヒャハハハハハッ!!!」
「なっ!セ、セクハラはやめてくださいーッ!!」
ブルートの戦いを見守っている騎士の中の2人、黒騎士ベルガと白騎士リリス。
ベルガの方はいけ好かない口調が際立つ30後半ほどの面長男だが、リリスの方はまだ若く、2人には明らかな上下関係がある。
実力や古参新参関係なく全員タメ口で喋っている十輝星と違い、聖騎士たちには実力による明確な階級があるのだ。

「そ、それよりベルガさん……私さっき聞いたんですけど……この任務って、ミライちゃんの捕獲も含まれているんですか?」
「あぁそうだよ。ドスを殺ったのがあの真っ白レース付きおパンティーとミライちゃんって情報が入ってんだからな。2人の生き血をぶちまけて、ドスの鎧を作るって寸法よ……キヒハッ!その役目は是非俺がやりたいねえっ!」
「そ、そんな……ミライちゃんはきっとあの金髪の子のサポートをしただけなのに……!」
「ま、司教だが司祭だかが蘇生させるんだしどーでもいーだろ。それとも……リリスはあのミライちゃんと知り合いだってのか?」
「は、はい……多分私だって気づいてないだろうけど、子供の頃よく遊んであげたんです。だから……私……!」
「……ま、俺はどうでもいいけど……今ミライちゃんを捕まえてんのがあのシェリーだからな。助けんのは難しいんじゃねえか?ケケケケ!」
「ううぅ……ベルガさんは協力してくれないですか……?」
「あぁん?助けた後でテメェをブチ犯してもいいってんなら、やってやるよ……」
「……やっぱりいいです。」


418 : 名無しさん :2017/06/09(金) 21:23:59 ???
「クックック…どうした?逃げてばかりでは私は倒せぬぞ…」

「重鋼卿」ブルート・エーゲルの魔大剣「エレメンタルブレイバー」が縦横に振るわれる度、
炎や冷気、雷など様々な属性の魔力を纏った衝撃波が巻き起こり周囲に破壊を撒き散らす。

刃渡りだけでも2m超、鉄より軽い魔法金属製にも関わらず、総重量は1トンにも達すると言われている。
対するリザの武器は、愛用の仕込みナイフ。
シーヴァリアに持ち込んだ三本のうち一本はドスとの戦いでの戦塵一射で消失、
もう一本は毒液に腐食され、今使っているのが最後の一本。
魔力で強化された特別製とは言え、ブルートの魔大剣と戦うにはあまりにも頼りない。

「……はああああっ!!」
それでも、この状況を切り抜けるには戦って敵を倒すしか道はない。
横薙ぎに振るわれた巨大な刃を、リザは前方に身を投げ出すような低い姿勢で辛くも躱した。
斬撃と共に巻き起こる雷撃が、ドレスの背面を一瞬にして焼き焦がしていく。


あの鎧の防御を貫くには…攻撃直後の「隙」を突くしかない。
リザは回避に徹しながら、ブルートの攻撃のクセ、そして一見完璧に見える黒鎧に「隙間」が生まれる瞬間を探していた。
そして……。

(…見つけた…)
「……よく踊りおる。だが、これはかわせまい……極・十字斬<グランド・クロス>ッ!!」

身を伏せたリザを一刀両断にせんと、ブルートは続けざまに闇の魔力を纏った魔剣を大上段から振り下ろす。
最初の薙ぎ払いは、いわば囮。身を伏せてかわしたとしても、その体勢から直後に発生する魔法の雷撃、
そして続く縦の斬撃を回避する事は不可能だ。…それこそ、瞬間移動でもしない限り。

(……ここだっ!)
巨大な刃が振り下ろされる刹那、リザはブルートの背後へ瞬間移動する。
…この連撃を、リザは読んでいた。否、あえてこの連撃を誘うよう仕向けたのだ。
…狙いは、ブルートが全力で剣を振り下ろした直後。
巨体が前傾したほんの一瞬だけ、黒鎧の首の後ろの部分にナイフの刃がやっと通る程の僅かな隙間が生まれる。

そこは言うまでもなく人体の最も致命的な急所の一つ。
そこを刺されれば、いかに巨漢の重鋼卿と言えど無事では済まない。

…はずだった。


419 : 名無しさん :2017/06/09(金) 22:29:32 ???
「クックック……どうした?それで終わりかね、お嬢さん」
「なっ……!?」
リザの狙い通り、ナイフはブルートの鎧の隙間から首の後ろに、深々と突き刺さっている。
だが、倒れるどころか、まるで効いている様子がない。
いや、そもそも…鎧の隙間にナイフを差し込んでも、手ごたえがまるでなかった。

(どういう事…!?…まさか、あの鎧の中は…!)
全身をくまなく覆う黒いスーツアーマーに、フルフェイスのヘルメット。
それらを着こんだ上で、全長2m超の巨大な魔剣を軽々と振り回す。
鎧の主は、人間離れした怪力を持つ巨漢…リザでなくても誰もが当然そう考える。
だが実際には…その鎧の隙間から覗く空間には、何もなかった。

攻撃を続行するか、あるいは奇襲失敗とみて、一旦退くか。リザは一瞬ためらった。

…先に述べた通り、リザのナイフは最後の一本。
戦塵一射を放っても、重鋼卿を倒せる保証は全くなかった。例え倒せたとしても、敵は一人ではない。
ミライを守りながら、残る十人の騎士を相手にしなければならないのだ。

更に言えば、今の攻撃機会を作るためにリザはあまりに多くの代償を支払った。
テレポートを使った事で、この場にいる円卓の騎士全員に自分の手の内を晒している。

「っ……戦塵」
「遅いッ!!」
…一瞬とは言え、判断に迷うのは当然。だが、その一瞬は致命的な隙となってリザ自身に跳ね返って来た。

前方に振り下ろされた魔剣が、風属性の魔力を発して強烈な上昇気流を生み出し…

(ばさあっ!!)
「…うぷっ!?」

……リザのロングスカートが、上半身を覆い隠す程に豪快にまくれ上がる。

今にも折れそうな細いウェスト。形の良い縦長の臍。程よく鍛え上げられ引き締まった太股。
そして豪奢なレースで飾られた可愛らしい下着…これは本人のチョイスではないのだが…
敵の目の前で、それらが一瞬にして、惜しげもなくさらけ出されてしまった。

「ぎゃはははは!!茶巾寿司かよ!マジウケるー!!」
「ちょっと、ベルガさん…!…何もそんな言い方は・・」

「さて。美しくも哀れなお嬢さん…理解していただけたかね、絶対的な力の差というものが」

(……どぽっ!!)
「………ッ…!!!」
そして…視界と両腕の動きを封じられたリザの腹部に、重鋼卿の裏拳が直撃する。

「哀れなネズミがちょろちょろと逃げ回り、苦心の策を数々弄し、無様に足掻こうが無駄な事。
それら全てを踏み砕き、圧倒的な力で正面から正々堂々と蹂躙する。…これこそが、騎士の戦というものだ」

ブルートは首に刺さったナイフを引き抜くと、それを片手で楽々捩じ折って投げ捨てた。


420 : 名無しさん :2017/06/09(金) 23:38:54 ???
「リザちゃあああああん!!」
「終わりましたか……ドスを倒したという割にはあっけなかったですね……」
「どうして……どうして円卓の騎士がこんなことを!」
「全ては国益のためですよ。あのアウィナイトはシーヴァリアの栄えある覇道の礎となれるのです……ミライ・セイクリッド、貴女もね」
「え?……っゔ!?」

常人では視認すら困難な速度の手刀を首に受け、ミライは意識を失った。

「ああ、ミライちゃん……」
気絶させられたミライを見て、リリスは気落ちした声をあげる。気絶の手段自体は優しげだったが、これから彼女に行われることを考えると何の気休めにもならない。

「……リリス」
「うぇ!?は、はい!」
ミライを助けたいが、円卓の騎士の中でも上位に位置するシェリーが捕まえている以上、最も新入りかつ弱い自分ではどうしようもないと思っていたリリス。複雑な心情でシェリーを見ていたら彼女と目が合い、声をかけられる。

「私は家の修復を始めとするセイクリッド家の人間への隠蔽工作で忙しくなります。貴女が責任を持ってミライ・セイクリッドを預かりなさい」
「え?い、いいんですか!?」
「セイクリッド家は名門です。誠意ある対応は不可欠……この任務を末端に任せるわけにはいきません」

リリスは自分がミライを預かってもいいのかと言ったつもりだったが、シェリーは円卓の騎士である自分が裏工作などというつまらない仕事をすることについて聞かれたと勘違いしたらしい。そのままミライをリリスに預けると、足早に食堂を去っていった。

「よかったじゃねぇかリリス!これでその気になればいつでもミライちゃんを逃がせるぜ?」
「ベルガさん……うう、でも……」
「お前があのアウィナイトの嬢ちゃんを殺しまくる任務を俺に推薦してくれるなら、見逃してやってもいいぞ?」
「ベルガさんがミライちゃんの分まで本気であのアウィナイトの子を滅茶苦茶にするってなると可哀想ですが……明らかに他国のスパイっぽかったですよね」
「当たり前だ、ただの旅人が重鋼郷にあそこまで喰いつけるわきゃねぇだろ」
「ううん、それなら、ちょっと可哀想だけど、いいのかなぁ?」


421 : 名無しさん :2017/06/10(土) 12:32:40 ???
「…ごめんなさい、ミライちゃん。騎士に憧れていた貴女には、酷な話だけど…
この国の為には、こういう汚い仕事も…誰かがやらなければならないの」
(私も…もう後戻りは出来ない。今は下っ端だけど、もっと強くなって…失われた王家の権威を、必ず取り戻す)

円卓の騎士の一人、矛盾のリリス。攻防一体の武器「シールドランス」の使い手である。
彼女の本名は、リリス・ジークリット・フォン・シーヴァリア。
騎士団の内では身分を偽っているが、実はシーヴァリア正統王家の末裔である。
彼女の目的は、円卓の騎士としての権力で、円卓会議そのものを廃し、
騎士団によって奪われた、かつての王家の権威を取り戻すことにあった。

リリスは気絶したミライを抱き上げ、セイクリッド邸を立ち去った。
今回の事を口外されないよう、ミライを森の中の小屋に幽閉し、彼女はそれを見張る手はずになっている…。


「ま…待ちな、さい……ミライに、何を…」
テーブルの残骸の中からアイスピックを拾い上げ、ふらつきながらも立ち上がるリザ。だが…
古今無双の怪力と謳われる重鋼卿の、金属製の籠手を着けての裏拳をまともに受け、もはや戦える状態ではない。

「ダンスの時間はもう終わりだ、お嬢さん。それより、ひとつ我々に協力していただきたい事がある……司教殿、こちらへ」
「ふざ、けるな……っ!!」
一歩足を踏み出すだけでも、全身に激痛が走った。
恐らく先ほどの一撃で、内臓か骨、あるいはその両方に、深刻なダメージを受けているのだろう。
リザはその事をあえて考えないようにし、ミライを助けるべく再度のテレポートを試みるが……

「ちょぉ〜っとまったぁ〜。にがさないよ、アウィナイトちゃん…リザちゃんって言ったっけ?……ふひひ」
「…なっ…!?」
突然、甘ったるい囁き声がリザの耳元に響いた。
いつの間にか、白いローブを着た妖艶な女性が、背後から覆いかぶさるようにリザに抱き着いている。
(一体どこから…気配が、まるでなかった…!?)
リザは振りほどこうと必死にもがくが、負傷した身体では思うように動けない。
ローブ女の腕力は普通の人間と同程度であったにも関わらず、リザはじわじわと組み伏せられていった。
「っ、ぐぅ!!……そ、そこ、触るな……ん、うあああぁっ!!」
「この辺りにいたアウィナイトは、根こそぎ狩りつくしちゃったから…ホント久しぶりだわぁ、生きてるのは。
やっぱ生きてて、泣き喚いてる時の眼の色が、一番キレイだよねぇ……ひひっ」

「くっくっく……また出たか。司教殿の悪癖には、困ったものだ……」


422 : 名無しさん :2017/06/10(土) 12:42:27 ???
鼻腔を擽る香水の甘い香り。耳元で囁かれる声。背中に当たる、大きくて柔らかい胸の感触。
全身玉のように浮かぶ汗を、嬉々として舐め取っていく舌。そして、ドレスの背中側から侵入して全身を這い回る指…
それら全てが、何らかの魔力を持っているかのようにリザの全身に絡みつき、抵抗の意志を削ぎ落としていく。

「はぁっ……はぁっ……逃げ、なきゃ……ん、くっ……!!」
「あ、そうそう。テレポートはもう使えないよ〜。さっき、背中に魔封じの刻印を入れといたからね。
いくつかの魔法を、呪文なしで瞬時に使える特異能力…持ってる人は稀によくいるけど、アウィナイトの能力者は初めて見たなぁ」

「司教」と呼ばれたローブの女は、リザのスカートの中に手を挿し込むと、
リザの股間を、白いレースの下着越しに指でトン、トン、と軽く叩く。
対するリザは、声を押し殺し、意思に反してビクリと反応してしまう身体を抑えつける事しかできなかった。

「司教殿、お戯れはその程度に……『主賓』がすっかりお待ちかねですぞ」
「…あらやだ、ごめぇん。久しぶりの若い子成分だったんで、つい遊びすぎちゃったわぁ。ふふふ……」

名残惜しそうにリザから離れる司教。
リザは精根尽き果て…と言うより司教に吸い尽くされ、立ち上がる事さえできない。
そんなリザの目の前に、運び込まれてきたのは……

「はぁっ………っ……そ、んな………あれは……ドス…!?」
…鎖と鉄檻で厳重に封印された、巨大な魔甲虫の死体だった。
死して尚、今にも動き出しそうな異様な迫力が、全身に満ちているように見えた。
リザの脳裏に、以前の戦いで味わわされた地獄の苦痛がまざまざと蘇る…

「…準備はすべて整った。後は、贄の血をドスの甲羅に染み渡らせれ、その怨念を鎧に封じ込めれば……」

「ブルちんが長年探し求めていた、究極の鎧の出来上がり、ってわけね。
こっちは何回も蘇生やらされるから、たまったもんじゃないけど…リザちゃんのおパンツも貰ったし、我慢してあげるわ〜。
んで、『ドス殺し殺し』の役は、誰がやるのかなぁ?」

「ヒッヒッヒ…待ってましたァ!一番ヤリはこのベルガ様が務めさせてもらうぜ!」
司教の声に素早く反応し、黒騎士ベルガ、そして何人かの騎士達が前に進み出た。

「…はぁっ……はぁっ………ない……ここで、やられる、わけには……」
床に転がったアイスピックへと、リザは震える手を伸ばす……

……

「…カナタ様の不在中にセイクリッド邸が賊に襲撃され、一人娘であるミライ嬢が誘拐されてしまいました。
円卓の騎士は追跡の末、これを救出。しかしミライ嬢は、残念ながら犯人の手によって既に殺害済み。
そしてなんと犯人は…円卓の騎士の一員でありながらシーヴァリア騎士団に反旗を翻した、元王族の末裔だったのです!
…筋書きとしては、こんな所ですかねぇ。ふふふふ…」

「クックック……流石は司教殿、脚本家の才能もおありだ。しかしその犯人も、許しがたい悪党ですな。
あろう事か、他国の密偵と結託して国家の転覆を企てるとは……」

「鎧づくりの次は、スパイの尋問もしないと…円卓の騎士の皆さんも、いつもお仕事大変よねぇ〜。
…ところで、コトが済んだら、リザちゃんのお目々、貰っていいかしら?
私ってばあの色が、とっても好きなのよねぇ。ふふふふ…」


423 : 名無しさん :2017/06/10(土) 15:06:48 ???
「仮面パーティーなんて素敵ねぇ!相手が誰なのか分からないのをいいことに、あーんなことやこーんなことをしたり」
「あ、そうだ!俺、ちょっと同僚に電話しなきゃいけないんでした!ご婦人、名残惜しいですが、私はこれでお暇させていただきたく……」
「あらあら、それは残念ねぇ……」
「え、ええっと、俺も、ミライと待ち合わせしてて……」
「あらら、もうこんな時間……ていうか、私も騎士団本部に呼び出されてたのすっかり忘れてたわ」
(ミライの母さん、いい人なんだけど、話長いしマイページなんだよなぁ)

カナタはその後も少し雑談(という名の一方的な喋り)をした後、夫の出世かしら、栄転かしら、などと呟きながら騎士団本部に入っていった。
長々とカナタの話に付き合わされたジンとアイベルトだが、ようやく解放されたようだ。


「ふぅ……ていうか、マジで同僚には電話しなきゃいけないんだったな」
「仮面マスクさんの同僚?森の隠者のサークルか何かですか?」
「面白い発想するなお前は……これはプライベートだから、教えるわけにはいかないな!ちょっと待っててくれ」

などと言いつつ、アイベルトは道の端っこによってスマホを起動する。

「あ、もしもしヨハン?オレオレ。オレオレ詐欺じゃねーぞ(笑)」
『……アイベルト?君のことだから心配はしていなかったけど、定期連絡も取らずに、今までどうしたんだい?』
「任務の関係上、ちょっと電波の届かないとこにいてな……」
『君、過失とか任務の関係上とかで誤魔化せばなんでもしていいとか思ってないよね……それはそうと、リザには会ったかい?』
「おお、会った会った!俺様のこれまでの活躍をたっぷり聞かせてやったぜ!それでな、ちょいとシーヴァリアの調査にアイツの手を借りることにしたんだよ」
『……自信のありすぎる君がリザの手を借りる?また何か変なこと企んでるんじゃないだろうね』
「企むとは失礼な……俺を探してる最中、リザのやつ、現地の女の子と仲良くなってたんだよ」
『なるほど?』
「その女の子がリザにシーヴァリアを案内したがってたから、市街調査を兼ねてちょっとリザに息抜きさせてやろうと思ってな。そういうことで、しばらくリザは帰らないと思うぜ」
『へぇ……結構気の付くところあるじゃないか』
「ふ……いいことすると気持ちが良いな!リザはその辺で魔物と戦った時に携帯紛失したみたいで連絡取れないだろうけど、そういうわけだから心配はないぜ」

この連絡のせいで、円卓の騎士に捕まって連絡が取れなくなったリザをトーメント王国側が心配することはなくなってしまったが、アイベルトには善意しかない。

『君はそれでもう少し下心を隠せば、女性にもモテるだろうに……』
「うっせうっせ。余計なお世話だっつーの」
『まぁとにかく、リザがしばらく戻らないというのは彼女にとっても幸運だろうね』
「ん?どういうことだ?」
『リザがアルガスに潜入した時に身元がバレたみたいなんだけど、まだ不明瞭な点が多くてね……事態が明らかになるまでは帰国しない方がいいかもしれない』
「王様のお仕置き……か。アトラ辺りは喜びそうだがな」
『それが、アトラは最近別の女の子が気になってるみたいなんだよね』
「え、マジで!?」
『今度、一区切りついたら帰ってきなよ。エスカがいなくなったり新入りが入ってきたり、積もる話は溜まる一方だ』
「え、エスカいなくなったのか!?未来視キャラって微妙に俺と被っててなんかなーとか思ってたけど、いなくなったらなったでそれはそれで寂しいな」
『とにかく、一度切るよ。こっちも忙しい』
「連れねぇな……じゃ、近いうちに一旦帰るかもな」


424 : 名無しさん :2017/06/11(日) 01:25:49 ???
「おっと!」

必死に床に落ちたアイスピックへと手を伸ばすリザだが、アイスピックまでもう少し……というところで、一人の黒騎士――ベルガによって、手を踏まれてしまう。

「ぐ!」
「ふてぇ小娘だな、この状況でまだ抵抗しようたぁ」
「ぎ、ぐ、ああぁああ!!」

踏まれた手をグリグリと足で押し付けられ、リザの細く小さな手に激痛が走る。

「さーて、一番槍は俺がもらう。お前ら手ぇ出すなよ……イテ!?」

リザの手を踏んで余裕綽々だったベルガの足に、鈍い痛みが走る。リザは踏まれた右手ではなく、自由な左手で近くに落ちていたフォークを握り、ベルガの足に突き刺したのだ。
だが、フォークはアイスピックよりも殺傷性は低く、鎧の隙間を縫うこともできず、ほんの少し相手に痛い思いをさせるのが限界であった。

「っの野郎!!」
「っぐ!」
ベルガはリザの左手も踏み抜いたが、完全に油断していたところに僅かとはいえダメージを負わされたことで、彼は完全に頭に血が昇っていた。

床にうつ伏せに倒れ込んでいるリザに馬乗りになると、その頭を両腕でがっしりと掴み、ゆっくりと持ち上げたかと思うと――思いっきり、その頭を床に叩き付けた。

「てめぇ……!そんなボロボロの分際で……!」
「ぐ、が!?」
「俺に傷をつけやがったな……!ええ、聞いてんのかおい!?」
「が、がひゅ、ぐぁ!」

リザの頭を床に叩き付け、持ち上げてまた叩き付け、もう一度持ち上げてさらに叩き付け……それを繰り返す。

「俺はな、勝ったと思って気が緩んだところを攻撃してくるようなコスい奴がな、大っ嫌いなんだよ!」
「ぶぉ、ごは、ぎ、あぐがぁ!?」
(い、意識が……!)

ガンガンと頭を床に叩き付けられ続け、リザの意識は朦朧としてきた。


「ベルガは相変わらず激しい奴だな……戦場では、その苛烈さに助けられることも多いが」
「おお、ご覧ください重鋼郷。あの娘の頭から流れた血が、まるで吸い寄せられるようにドスの甲羅へと」
「ふ……ドスにしても、自らを屠った相手の血がよほど欲しいと見える」
「しかし、ドスが満足するだけの血を与える前に、あのアウィナイトは死んでしまう……」
「そこで私の出番ってことでしょ?何回も言わなくて大丈夫よぉ」


425 : 名無しさん :2017/06/11(日) 08:34:59 ???
「ううぅ……ぐ……ぁ……」
頭を何度も叩きつけられたリザは、ようやくベルガから両手を離された。
頭から流れる血が美しい金髪と顔を真っ赤に染め上げている。
出血でふらつく足に、立てるほどの力があるはずもない。
リザはテーブルに突っ伏したまま重力に逆らう事なく、ズルズルと崩れ落ちた後地面に倒れた。
「ごふっ……ぅ……」
「ククク……無様だな。それにまだ終わりじゃねえぞ、ガキ。テメェをもっともっとボロ雑巾にしてやるよ……!」
ベルガはそう言うと、倒れているリザにゆっくりと近づいた。
「オラァッ!」
「あがああぁッ!!」
ベルガは横向きで倒れていたリザの腹をサッカーボールを蹴るように強く蹴飛ばした。
「あらベルガちゃん、いいシュートねぇ。サッカーゴールが一瞬見えたわよぉ。」
「今のはリフティングですよ司教ッ!上に吹っ飛ばしたんだから!」
ベルガの言う通り、リザは腹を蹴飛ばされて上に吹っ飛んでいた。
「……なるほど。ここからシュートと放つというわけか。」
下に落ちてくるリザに合わせて、ベルガは蹴りの体勢を整える。
「その通り……ですッ!!!死ねェッ!!!」
「……ぇ?」
そのまま無防備に落下してきたリザの目の前に、鋼鉄の足が迫る!

「あがあああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーッッッ!!!」
屋敷中に響き渡るような断末魔の叫びとともに、リザはドスの檻へと叩きつけられた。


426 : 名無しさん :2017/06/11(日) 22:13:21 RGcNCJnc
グオオオオオオオ

檻に叩き付けられたリザの身体から流れる血を吸って、ドスの死骸から怨差に塗れた声が響く。

「ナイスシュートベルガちゃん!ドスも喜んでるわ」
「へへ、ありがとうございます……次は司祭様の出番ですよ」
「よーし、リザちゃんのお目目をもらうために、頑張っちゃいますか」

「皆さん、お楽しみのところ申し訳ございませんが、そろそろ屋敷からの退避をお願いします。あくまで彼女らを襲ったのは『盗賊』…我らがいつまでもこの場に留まるのは些か不都合かと」

何度も殺すために司祭がリザを生き返らせようとした瞬間、感情の籠っていない冷たい声が響く。白騎士のシェリーである。

「おっと、ついつい夢中になっちまったぜ」
「もう、シェリーちゃんは固いわね。もうちょっと楽しみましょうよ」
「今は勤務中ですので」
「だが、シェリーの言う通りだ。いつまでもここにいるわけにもいかん。続きは円卓の騎士の秘密の地下室で行うとしよう」

〜〜〜


円卓の騎士がリザを連れて屋敷から退避していた頃、トーメント王国では。

「あの時アルガスにいた異世界人連中を引っ張り出して、状況を再確認するしかなさそうね」
「別人の視点を挟むことで全貌が明らかになる……よくある手法ですわね!」
アイナとサキが城に帰還していた。

「彩芽は陰キャのフースーヤに精神汚染されてて話が通じるか分からないし……」
「あのアイナの口調パクった女を野に解き放つのは絶対反対ですわ!」
「となると、あのザコ幼女かザコ女剣士かザコ女刑事ね」
「そういえば、あの三人は今どうしてるんですの?」
「ザコ幼女とザコ女剣士は知らないけど、パツキン刑事はちょっと私の新しい趣味につきあってもらってるわ……アクアリウム、ていうんだけどね……ククク……」
「な、何を笑ってるんですの?」
「いやぁ、自分がされて嫌だったことを、気に入らない金髪にやるのは最高って思っただけよ」
「アクアリウムで嫌な思い?ていうか、サキの金髪嫌いは筋金入りですわね……」
「勘違いするんじゃないわよ。私は金髪が嫌いなんじゃなくてリザが気に入らないの」


427 : 名無しさん :2017/06/11(日) 22:15:45 ???
ガシャアアァァァン!!
「…あ"っ!!………ぉ……が……、は……!」

鉄の檻に叩き付けられた衝撃で、肺の空気が一瞬にして絞り出された。
代わりに大量の血が流れ込み、呼吸が妨げられ…それを吐き出す余力すら、最早ない。

(立…た…なきゃ……)
ここで自分が倒れたら、連れ去られたミライはどんな目に遭わされるかわからない。
他の十輝星は…アイナは悲しむだろうか。サキは…かつて言った通り、指をさして笑うのだろうか。
エミリアは…これからどうなるだろう。各地に散らばったアウィナイトの人々は…

…様々な想いが、脳裏に浮かんでは消えていった。
だけど…もう、指一本すら、動かせそうにない……
(ごめん、みんな……ドロシー…私も、そっちに……)

…時間の感覚が、ゆっくりになっていく。
霞んでいく視界の中、絨毯敷きの床が目の前に近づいて来る……

(ずんっ……)
…だが、床に辿り着く直前。全身に鈍い感覚が響いた。

「おっと…まだくたばるのは早いぜ。
お前からは、たっぷり血を搾り取らなきゃならねえんでなァ…」

…黒騎士の声が耳元でやかましく響いて、薄れかけた意識を無理やり覚醒させられる。
上半身、特にお腹の辺りがやけに熱い。だが、そこから下の感覚は全くなかった。
ふと視線を落とすと、目に入ったのは……お腹に深々と突き刺さった、黒騎士の腕だった。

「こいつは、魔爪ディアボロス。斬られれば斬られる程、痛覚が倍々に増していく悪魔の爪…
ヒヒヒッ。俺の脚に噛みついといて、楽に死のうなんて甘ぇんだよ…!」


428 : 名無しさん :2017/06/11(日) 22:20:46 ???
ずぶり、という湿った音と共に、巨大な爪の付いた手甲が引き抜かれた。

「…が、はっ…!!……あ、っぐ、うあぁぁぁあああぁっっ!!」
失われていたはずの感覚が蘇り、苦痛一色に染め上げられる。
…腹に空けられた穴は、背中まで貫通していて、そこから大量の血が流れ落ちた。
だが、その血は重力に逆らうかのような動きで背後の鉄檻の中へ吸い込まれていき……

(……グォォォォオオン……)
「…っ!?………あ…」
「クックック……檻の中のバケモノが、お前の血を欲しがって唸ってやがるぜ」

視線を感じて振り返ると、鉄柵越しにドスと目が合う。
唸り声をあげ、鎖を噛み千切らん勢いでガチガチと牙を鳴らしている。
ついさっきまでは痛みで立っている事が出来なかったのに、今は逆に、鉄檻にもたれかかったまま…
まるでドスの死体から漂う黒い思念に縛り付けられるように、倒れる事が出来なかった。

「…まずは、さっきおイタしてくれた左手から…手足を一本一本、切り刻んでやる。
一滴残らず血を絞りつくすまで、せいぜい無様に泣き喚きな…ヒャーッハッハッハッハ!!」

「ひっ……や、やめ……う、きゃぁあああ"ぁぁぁぁあ"あ"あッッッ!!!」
黒い爪に左腕を掴まれ、ぶちり、という音ともに肘から先が引きちぎられる。
大量に流れだす鮮血。壊れたスピーカーの様に響く、自分の悲鳴。
悪魔の爪が時間と共に苦痛を増幅させていき、意識を失うことすら出来なかった。
それでも両手両足を失う頃には、いつの間にか命が尽きていて……


「はいリザちゃん、お帰りなさ〜い。…でもって、秘密の地下室へようこそ。
イイ感じに血を搾り取れたけど、ドスちゃん的にはまだ全然足りてないっぽいねぇ。じゃ、次は……誰が殺る〜?」

………目が覚めた時、私は…まだ悪夢の中にいた。


429 : 名無しさん :2017/06/15(木) 01:14:39 ???
とろ…ちゅるっ…にゅぽ……

(…あれ、私…まだ、生きてる………ッ…!!?)
「ん、ちゅ……はいリザちゃん、お帰りなさ〜い。…でもって、秘密の地下室へようこそ」

口の中に広がる甘ったるい感覚と共に、リザは目を覚ました。
その様子を、妖しい女司祭が赤い瞳を輝かせながら覗き込んでいる。
彼女の舌先から涎の雫が糸を引きながら垂れ落ちて……
無意識に突き出していた自分の舌へ、まっすぐ続いている事に気付き、リザは戦慄した。

「なっ…!!…貴方、一体私に何を……こ、ここは一体…!」
「んふふふ…何って、お目覚めのキスに決まってるじゃない。
…この特別地下拷問室は、その昔、シーヴァリアがルミナス王国と戦争してた頃…
いわゆる『魔女狩り』にも使われていた歴史ある部屋なのよぉ〜」

理解し難い状況に混乱するリザを見下ろしながら、司祭は楽し気に地下室の歴史を語り始めた。
改めて部屋の中を見回すと、周囲には三角木馬やら鉄の処女など、数々の拷問器具が並んでいる。

「それと、近世では…騎士団がクーデターを起こして王家を権力の座から追い落した時にもね。
 今リザちゃんが着ている拘束衣も、かつてはルミナスやシーヴァリアのお姫様を何人も辱めてきた、
 由緒正しい一着なのよ…思った通り、とっても似合ってるわぁ」
「……………。」

…リザは「眠って」いる間に、黒の下着と露出度の高いボンデージに着替えさせられていた。
頑丈そうな革製の首輪、手首には金属製の枷が嵌められ、後ろ手で拘束されている。
(傷は…治ってる。両手は使えないけど、これなら………!)

「リザちゃんも目を覚ました事だし、そろそろ第2ラウンドを始めようかしら。
ベルガくんのおかげでイイ感じに血を搾り取れたけど、
ドスちゃん的にはまだ全然足りてないっぽい……んぷっ!?」
「…はあっ!」
司祭が立ち上がり、リザから目を放した…その一瞬。
リザは全身のばねを駆使して跳びあがり、両脚で司祭の頭を挟み込んだ。
(このまま…叩き付ける!)

ここから捻りを加えて倒れ込む事で、相手を脳天から地面に叩きつける。
プロレス技の一つ、フランケンシュタイナー…アイナがいう所の「幸せ投げ」の体勢である。
(れろっ……)
「……ひぅっ!!?」

…だが…技に入る直前。司祭はその「舌」で強烈なカウンターを繰り出した。

「ひゃっ……な、何を……やめ、放し、なさ…やんっ!!」
「ん……もう。自分から飛び込んできたクセに……遠慮しなくていいのよ。ふふ……」
予想外の事態に動揺し、思わず甲高い声を上げてしまうリザ。
逃がさないとばかりに太股をがっしり捕まえ、司祭はここぞとばかりにリザの股間にしゃぶりつく。
空中殺法での奇襲に失敗したリザは為す術もなく地面に引き倒され、
再び勝ち目のない寝技(グラウンド)の戦いへと引きずり込まれてしまった。

……

「もー、司祭様〜。アタシたち、さっきからずっと待ってるんですけどー?」
「…くれぐれも、我らの目的を見失いませんよう」
「血を抜き終わったら、スパイ容疑の尋問も控えてるんですからね」
「っと、そうだったわぁ。ごめんなさいねぇ…じゃ、次は誰が殺る〜?」

騎士たちがリザの髪を掴んで、広間へと引きずっていき……
骨を砕く音、肉をすり潰す音、そして悲鳴が石造りの地下室全体に響き渡った。
…リザの地獄は、まだ幕を開けたばかりである。

「ふふふ…リザちゃん。そんなに慌てなくても、後でじっくり遊んであげるわ。
この拷問室にある道具、端から端までぜ〜んぶ使って…貴女の全てを、暴いてあ げ る…♪」


430 : 名無しさん :2017/06/15(木) 11:29:52 ???
「次はオラがいくっぺ」
そう言って進み出てきたのは、太った体型の、手に大きな戦槌を持った30歳くらいの黒騎士だった。

「肉厚郷……」「肉厚郷か」「肉厚郷ことデイヴ・フート……彼の身体はいかなる攻撃もその分厚い脂肪によって吸収するという……」
「毎度のことながら、オラの渾名だけ酷くないっぺか」

肉厚とか呼ばれてるどこかコミカルな雰囲気の男だが、だからと言ってリザに手加減はしないだろう。

「蘇生技術……シーヴァリアにも、あったなんて……!」
「なるほど、蘇生技術のある国……ナルビアの研究都市アルガスか、トーメント王国の者ということだっぺな」
「……!しまっ!」

目の前の太った黒騎士デイヴは、リザの何気ない失言を拾ってきた。

「どうして焦るんだっぺ?ナルビアやトーメントの蘇生技術を知っているというだけじゃ、その国の手の者であると決めつけるには早いっぺ。旅人ならなおさらのことだべな。それなのに焦るということは、図星を突かれた、ってことだべ?」
「……!」
「ドスを殺し、重鋼郷とあそこまで渡り合う娘っ子がただの旅人とは思ってなかったけんど、これで確定だっぺな。ナルビアかトーメントのスパイなら、遠慮もいらねぇべ」

自分が墓穴を掘ってしまったことに気づいたリザは口を噤むが、もう遅い。


「彼の恵まれた体格から繰り出される戦槌は、数多の敵兵を屠ってきた……見た目に似合わず頭の回転も早い、頼れる男だよ彼は」
「見た目に似合わずは余計だっぺ」

軽口を叩きながらも、デイヴは巨大な戦槌を振り上げる。

「さて、餅つきの時間だべ」
「も、餅つき?」
「ドスの檻が臼で、オラの戦槌が杵……餅は当然、アンタだっぺ!」
「あぅ!?」

その言葉と共に、リザの身体はドスの檻に叩きつけられた……と思った次の瞬間、デイヴの戦槌がリザの小さな身体を打ち付ける!

「ごぁ……!」
「オラの実家は米農家だでな……ガキんころはこうして、もち米を捏ね回してたもんだっぺ!」
「おぐぅえ!?が、ガハ……!ぐ、あああああ……!!や、め……」
「おらおら、まだまだこんなもんじゃねぇっぺ!」
「ぎ!?が、ああああああああああ!!!」


431 : 名無しさん :2017/06/15(木) 23:03:40 ???
「おらっ!おらっ!しっかり突いてやるっぺ!」
「痛あぁ゛っ!ぐうううッ!ああああーーーーッッ!!!」
肉厚卿のデイヴが戦鎚を振り下ろす度に、何本もの骨が折れる音とリザの悲鳴が地下室に木霊した。
「ぎううぅっ!!あ゛ぁっ!……い、いやっ!やめっ…あああ゛あ゛ーーーーーーッッ!!!!」
「やめて欲しかったら素直になるっぺ。お前はどこのスパイだ?やっぱトーメントだか?」
「ちょっとちょっと肉厚ちゃんっ!それ以上やったら蘇生もできないほどグチャグチャになっちゃうじゃない。餅つきもほどほどにして!」
デイヴを手で制すると、司教は息も絶え絶えに仰向けで倒れているリザを、上からゆっくりと抱きしめた。
「う……ぁ……」
「これだけされても泣かないなんて……ホントに強い娘なのねぇ、リザちゃん。ご褒美に、私がすぐに怪我を治してあげる……んんっ……!」
「治すのはいいんだげども、いちいち接吻する意味はあるだか?」
「口から癒しの力を直に入れてるらしいが……ま、司教の好きにさせてやれよ。どうせただキスしたいだけだろ……ジュルルッ」
魔爪ディアボロスに付いたリザの血を、ベルガはゆっくりと舐めとった。
「それより……ドスに血を吸わせて敵国の情報も吐かせたら、この子はどうするんだっぺか?」
「知るかよ。ま、ご多分に漏れずキモデブ大富豪の性奴隷コースでいいだろ。男は目を宝石に、女は性奴隷ってのがアウィナイトのお決まりコースだからな。こいつのルックスなら俺らの年収なんかよりも高い値段で売れるだろ……ヒッヒッヒ!!」



リザが司教のねっとりとした接吻で蘇生されている頃、ジンとアイベルトはもぬけの殻となったセイクリッド家の屋敷に来ていた。
「誰も出ないな……リザさんとミライがいるはずなのに。」
「ふむ……仕方ない。俺様の素晴らしい運動能力を持ってすれば、こんな門……とうっ!」
そびえ立つセイクリッド家の門扉を、アイベルトは無駄にひねりを加えながら跳躍し飛び越えることに成功した。
「うわっ!仮面マスクさんマジパネエッ!」
「少年、そこで待っていろ!中の様子を確かめてくるっ!」

アイベルトが屋敷に入ったのと、ミライを連れたリリスが裏口から出ていくのはほぼ同時だった。


432 : 名無しさん :2017/06/17(土) 20:21:44 ???
…門を飛び越え屋敷に侵入したアイベルトは、館に入る少し手前で一人の騎士が倒れているのを見つけた。

「む?あんたは確か、くっころ星人のエールさん」
「うぅ、ん……あなたは確か、ジンと一緒にいた…(くっころ星人?)」

仮面マスクは、一度会ったかわいこちゃんの名前と顔と属性とCVを完璧に記憶している。
…というか、ついさっき会ったばかりなのだから、流石にわすれようがない。

「こりゃ、いよいよ只事じゃなさそうだな…一体何があったんだ?」
「これ、は……そう…屋敷が、賊に襲撃されたんです…私は、気絶させられて…」

エールの言う通り、館の扉や窓など、何カ所かに破壊の跡は見受けられた。
そして中からは物音ひとつしない。
これだけ大きい屋敷なら使用人や執事の数人は居てもおかしくないのだが、
全て殺されたか、またはエールのように眠らされたか。

「えっ!?…いやいや、そんなバカな。じゃあミライちゃんは!?
つーかリザは!?アイツがいれば、そこらの野盗なんぞ相手にならんだろ」

…エールの鳩尾にできた打撃痕を見る限り、相手も相当な手練れと思われた。
副隊長クラスの白騎士(…の実力が実際どの程度か、アイベルトは知らないが…)を
正面から一撃で気絶させるなど、少なくとも「そこらの野盗」に出来るとは思えない。
だがその直後、エールの口から出た言葉は、アイベルトにとって予想外の物だった。

「リザ……ドスを倒した、金髪の少女…そいつです。……そいつがミライを、攫っていった…!」
「はぁぁ!?…いやいやいや。それこそ絶対ありえん!だって…あの二人は…友達だろ?」

「なぜ、そう言い切れるんですか?…貴方も、ミライも、あの少女とは会ったばかりのはず。
彼女がミライを利用するために近づき、友達のふりをしていたのだとしたら…?」
「ぬ、ぬう……いや、それはそうなんだが……」

リザの正体がトーメント王下十輝星である事を、当然ながらアイベルトは知っている。
従って、状況によっては…こういう行動に出る可能性も、無くはない。
だが…何かが、決定的におかしい気がした。意図的に真実が歪められているような……


「エールさん…ついでに一つ聞くが。正面からやられたって事は、相手の姿を見てるはずだな。
アンタを気絶させたのは、本当にリザだったのか?金髪ショートの美少女で、右目の所に大きな傷のある…」

「…いや。金髪でしたが、目の所に傷はありませんでした。気絶する瞬間…はっきり見たんです。
機械の様に無表情で……まるで氷のように、青く冷たい目をしていた」

エールが嘘をついている様子はなく、『右目に傷』というブラフにも引っ掛からなかった。
だが……その言葉で、アイベルトは確信に至った。

(少なくとも…リザの仕業じゃない)
(あいつが、こういう事をする時…「無表情で冷たい目」でいられるはずがない)
(…でもこれ以上擁護すると俺まで怪しまれるから、これ以上突っ込むのはやめておこう)

となると、リザの偽物でも現れたか。あるいは……何らかの手段で、エールの記憶が改竄されているのか…
何にせよ、事実を明らかにするには二人を探し出すしか方法はなさそうだ。


433 : 名無しさん :2017/06/17(土) 20:48:17 ???
「え?リザさんがミライを…本当っスか仮面マスクさん!?」
「いや、それはない。と思うが…食堂に、こんなものが残されていた」
エールを連れて屋敷の表玄関に戻って来たアイベルトは、一枚のメッセージカードを取り出した。

 ミライ・セイクリッドの身柄は預かった
 無事に返してほしければ 即刻シーヴァリア騎士団を解散し
 王家から不当に簒奪した全権力を返上せよ
 なお 断れば人質の命は保証しない

 シーヴァリア騎士団12番隊隊長 矛盾のリリス

「矛盾卿リリス…最近円卓の騎士に名を連ねた白騎士です。まさか彼女が黒幕…!?」
「ますますわからん…なんで円卓の騎士が、騎士団の解散を要求するんだ?」
「…いや、そんな事より早くミライとリザさんを探さないと!」

「その必要はありません…ミライ・セイクリッド嬢の行方なら、既に調べがついています」
混乱する三人の前に、二人の騎士が新たに現れた。
一人は大型の弓を持った長髪の黒騎士…『鷹眼卿』遠当てのサイラス。
もう一人は細身の曲刀を携えた白騎士…『隼翼卿』早抜きのシェリー。

「隊長…それに、隼翼卿。お二人とも、どうしてここに!?」

「『早抜き』のシェリーで良いですよ…その呼び方、どうも馴染めないので。
…先ほど、ミライ嬢を連れた賊がラケシスの森に向かったという目撃情報がありました」
(監視体制ガバガバじゃねーか…厳戒体制とは何だったのか)
自分の立場を棚に上げる仮面マスクさんであった。

「他の円卓の騎士が捜索しているから、間もなく片はつくだろう。
『こういう事』が起きないよう、ドス殺しの少女を早めに確保したかったのだが…
こうなっては仕方あるまい。エール、ジン、二人は本部で待機していろ。…これは隊長命令だ」

「え!?ちょっと待ってくださいっス!ミライが危ないって時に、待機だなんて…」

「事の重大性を鑑み、今回の事件は全て円卓の騎士が対処する事となりました。
そちらの怪しい仮面の方も…手出し無用、口外無用でお願い致します」

「はいはい。お勤めご苦労様です……ところで」
仮面の奥で、瞳が赤い輝きを放ち………次の瞬間。

(がしっ)
アイベルトはシェリーの胸を鷲掴みにした!
「なっ……不埒者!!!」
「おぐっ!!」
即座に、シェリーの剣の柄がアイベルトの鳩尾に叩き込まれる。

「シーヴァリア刑法第二条…円卓の騎士は、相手がセクハラと認めた場合、
自らの判断で犯人を処罰することができる 場合によっては抹殺することも許される」
「流石は円卓の騎士…強烈な一撃だ…ごほっ」
「ちょ、シェリーさん落ち着いてください!抹殺はヤバいっス!
…仮面マスクさん、何でいきなりこんな…!?」

「いや……目の前に、急にボール×2が来たんで」
(未来予知で急所を外さなきゃ、マジでヤバかった…)
攻撃を受ける刹那アイベルトが見たのは、機械の様に無表情で、氷のように冷たい目だった。


434 : 名無しさん :2017/06/18(日) 10:35:17 wROtcJjw
「ぐあああっ!!ゔあああああ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ!」
デイヴに殺されかけたところを司教に蘇生されたリザは、休む間も無く黒騎士たちに蹂躙されていた。
しかも、今度は二人掛かりである。
「ヒヒヒッ……!もっと泣け!喚け!ガキはガキらしく涙流してションベン流して恐怖しろやぁッ!ヒャハハハハハァ!!」
「あぐぅっ!う゛あぁっ……!い゛ああああああッッッ!!!」
ベルガの魔爪ディアボロスが、仰向けで倒れていたリザの下腹を貫いた。
「ベルガ、そのまま持ち上げるっぺ。オラが吹き飛ばしてやるっぺ。」
「肉厚!俺に当てたら殺すからな!!」
ディアボロスに体を貫かれた状態のまま、リザの体はベルガの腕にゆっくりと持ち上げられる。
「う゛……ぐっ……!」
(い、痛すぎてっ……動けないっ……!)
「ドスの檻まで吹き飛ばしてやるっぺ!!!おりゃあああああっ!!」
「い……いやぁっ!やめてええっ!いやああああああッッ!」
リザの青い目から、ついに一筋の光が流れた。



「もー!ちょっと私がお手洗いに行ってる間に2人ともやり過ぎよ!蘇生させるのも大変なんだからね!」
「わりぃわりぃ司教様。ガキのくせに生意気な目で睨んできやがるから、ついついマジになっちまって……」
「まったく……さっきの悲鳴、お手洗いからも聞こえたわよ。ぎいいいやああああああっ、て。何したらあんな悲鳴が出るのよぉ〜!」
「まぁでもかなり血をぶちまけてやったから、そろそろドスも満足してるんじゃないっぺか?」
「いーえ。ドスちゃんの満足度はまだまだです。でも今日はここまで!今のリザちゃんを蘇生したら私の魔力がなくなっちゃうからね。続きはまた明日やりましょう……よいしょっ!」
ドスの檻の前で倒れて絶命しているリザの体を、司教は檻に寄りかかるようにして座り込ませた。
「さっきとは違う体勢で……いただきま〜す♡あぁんむっ……!れるろぉ……んちゅっ!」
「対面座位かよ。いちいち体勢変える意味あるか?」
「蘇生するのも大変っていうけど、ただベロチューしてるようにしかみえないっぺなぁ……」


435 : 名無しさん :2017/06/18(日) 17:54:28 ???
「まったく……お前までくだらんことでぴーぴーと騒ぐな」
「そうだそうだ!ちょっと胸を揉まれたくらいでなんだ!」
「くだらないこと……?相変わらず女性蔑視の癖が抜けていませんね鷹眼郷。そしてその仮面はやはり殺します」
「ですから抹殺はまずいですよシェリーさん!ほら、仮面マスクさんも俺とエールさんと一緒に本部に行きましょう!」
「はいはい……あ、しまった!てがかってにー」

アイベルトはシェリーの小さなお尻を撫でた!ついでに肩に届くか届かないかくらいの彼女の灰色の髪に顔を埋めてめっちゃスーハースーハーした!

「……抹殺します!サイラス!止めないでくださいよ!」
「やべ、退散!」
「仮面マスクさん……いくらなんでもそれは……」
「さいってー」
「付き合ってられんな……私は先に現場に向かうとしよう。エール、ジン、大人しくしてるんだぞ」
「あ、はい」

仮面マスクのあまりにもアホな行動に毒気を抜かれたのか、サイラスはさっさと森へ向かっていき、ジンとエールは本部に歩いていった。



「ふふふ……追い詰めましたよ変質者」
「なぁ、謝るよ!ていうか鎧の上からじゃ全然尻の感触分かんなかったし、別にいいだろちょっと尻触るくらい!あ、髪はなんかいい匂いがしました!良いシャンプー使ってるみたいっすね!」
「こ、この男……!そもそも、貴様のような怪しい仮面の男がここにいること自体おかしいんです……!はっ!」

シェリーは異名通りの目にも止まらぬ早抜きで仮面マスクの仮面を真っ二つに割る。
仮面マスク改めアイベルトの赤く発光した瞳が露になった――――その直後。

「んむ!?」
「油断したな……鞘走りを利用した高速抜刀……大した技だが、抜刀して刃を振るった直後はどうしても隙ができる」
未来視によって身構えていたアイベルトに一気に間合いを詰められ、掌で口を塞がれてしまう。
今までのお茶らけた口調ではなく、真剣さに溢れた低い声が重く響く。

「ふぐ、んー!んー!」
「わざわざアホなことしてアンタと2人っきりになった甲斐があったぜ……アレは決して俺の趣味ではない」
ただの不意打ちではシェリーの早抜きで仕留められていたかもしれない。だが、剣を振るった直後の不意打ちはその限りではない。
そう、今までのセクハラは、シェリーがアイベルトに死なない程度の斬撃を放った後の隙をつく為の作戦だったのだ!


「あのくっころ星人のエールちゃんを気絶させたのはアンタだな、冷たいクール(二重表現)のシェリーちゃんよ……なぜリザに罪を擦り付ける?円卓の騎士は何を企んでいるんだ?」
「ふご、んむぅ!」
「何故かって?俺を殴った時のアンタの顔が、エールちゃんの言ってた機械の様に無表情で、氷のように冷たい目そのものだったからだよ」
「むむぅ!んー!」
「そんなこと?もちろん根拠はまだあるが、わざわざ教えてやるほど親切じゃねぇよ俺は。あ、俺の女になってシーヴァリアなんて裏切ってどこまでも一生ついて行きますっていうなら教えてやってもいいけど」

リザが犯人ではないという確信があったからこそ真犯人はシェリーだと掴めたアイベルトだが、それを説明するには自分たちがトーメント王国の人間であると明かさなければならないので説明しない。

「んぐ……んー!んむー!」
「ククク……自分の早抜きなら例え2人きりになった途端に襲われても大丈夫だと思ってたか?甘ぇんだよ、早抜きして刃を振るった直後のタイミングを狙えば、抜刀術なんか怖くないね……まぁ安心しろ!普通は初見でそのタイミングを掴むなんてできん!俺様が強すぎただけだ!フハハハハ!!」
(やっべぇ!掌にシェリーちゃんの息遣いダイレクトに伝わってきてやっべぇ!いやぁ、いかにも鉄の女にして氷の女っぽい子をこう、アレするのは最高だな!)


436 : 名無しさん :2017/06/18(日) 21:11:13 ???
「さて。アンタら円卓の騎士が何を企んでるのか…リザやミライちゃんをどうするつもりなのか、聞かせてもらおうか」
「むご…んぐー!!」

「…『誰が話すものか』って?…その言い方、やっぱり何かありそうだな。
ミライちゃんをさらった黒幕も、それを追ってるのも円卓の騎士…なるほど、なんとなく読めて来たぜ」

…と、それっぽい事を言っているが、実際はさっぱりわかっていない。
ただ、一刻も早くミライ達を助け出さなければ危ない、という事だけははっきりした。
円卓の騎士は全員敵、と思うべきだろう。

(…まあ俺らの立場的に、元々シーヴァリアの騎士は敵なんだけどな。
それにしても、シェリーちゃんの息遣いがだんだん荒くなってきて…やべえ!このままじゃ、身体が前かがみに……)

ジャキン!!
「うぉお!?…あっぶね!」
…前かがみになったアイベルトの頭上を、鋭い刃が通り抜けた。
シェリーが左手首に仕込んだ短剣で、直接首を狙いに来たのである。

「はぁっ…はぁっ…今のをかわすとは…ただの変質者ではありませんね」
シェリーの息遣いを感じる掌に意識を集中していたため、攻撃の気配を見逃してしまった。
…回避できたのは全くの偶然である。

「今頃気付いても遅い…ていうか、こっちも今の攻撃で思い出したぜ。
傭兵稼業からは脚を洗ったようだな、『早抜き』のシェリー。…一緒に居たのは『遠当て』のサイラスか」
(こいつらレベルが12人居るとなると、下手すりゃリザでもヤバいかもな……だが)

他の騎士達は森に向かい、この場にいるのはシェリー一人。…敵の数を減らすには、今が絶好の機会だ。

「時間もなさそうなんで、手っ取り早くいくぜ…リザとミライはどこに居る。5秒で言わなきゃ、アンタを殺す」
「私の経歴を知っていて、なおその態度とは……良いでしょう。私を辱めた事、地獄で後悔させてあげます」


437 : 名無しさん :2017/06/21(水) 02:53:13 ???
「ん……うぅ……?」
リザが目を覚ますと、そこは硬い床の上だった。
目の前には鉄格子。その奥には下卑た笑いを浮かべている3人の看守が見える。
(……え……?な、何、この服……!)
リザの身につけている衣服はボロボロの麻布になっており、ギリギリ下着が見えないサイズになっている。
あのガチレズ司教に着替えさせられたのだろうと思うと、全身の鳥肌が立った。

(……蘇生されて……牢屋に入れられたのか……)
ダメ元でテレポートを試みるも、司教に刻まれた魔封じの刻印の効果によって、リザの体が瞬時に移動することはなかった。

「起きたかリザ。ぐへへ……お前みたいな女がここに来るのは珍しいぜ。この職場にも花ができたってもんだ……」
離れた場所で話していた看守の1人が、近づきながら声をかけてくる。
看守たちは騎士ではないため、特に武装している様はない。
「……わたし……どうなるの……?」
「おい聞いたかよ今の声!やっぱアウィナイトの女は顔も声もトップクラスだな。」
「お前がどうなるかって?そんなこと知ってどうする?そのうち嫌でもわかるんだから、今は大人しくしてな……!」
刺々しい口調はどうでもいいが、この看守たちは何も教えてはくれないらしい。
これ以上話しても無駄だと思ったリザは、看守たちに背を向けて座った。

「なぁ……やっぱりヤっちまわないか?俺アウィナイトの女初めて見たんだよ。こんな高級性奴隷を前にしてヤらないなんて男がすたるってもんだろ!?」
「そう思うのは当たり前だが、やめとけやめとけ……司教様に手は出すなって言われてるんだ。見つかったらクビどころじゃすまねえぞ。」
「ちっ……!眺めてるだけなんて退屈だぜ。ブチ犯してひゃんひゃん泣かせてやりてえよなぁ……こんちくしょう!」
看守たちが自分に向けている真っ黒な感情を、リザは背中で受け止めながらがっくりと肩を落とした。

(テレポートも使えない……武器もない。こんな状態で捕まって……私、どうすればいいんだろう……)
このままここで夜を明かせば、翌日もまたあの拷問が始まるのだろう。
何度も死んだはずなのに、その時の痛みはリザの心にしっかりと刻み込まれている。
叩きつけられ、腹を刺され、吹き飛ばされ、意識を手放した次の瞬間には蘇生され、また次の拷問が始まる──
その時の感覚が、リザの心に今まで隠されていた恐怖や不安を表面化させていた。
(明日も拷問されて……それが終わったら……)

「キモデブ大富豪の性奴隷コースでいいだろ。男は目を宝石に、女は性奴隷っていうのがアウィナイトのお決まりコースだからな。」
リザの脳裏に、黒騎士の言い放ったセリフがフラッシュバックした。

(私……こんなところで終わりなのかな。アウィナイトのみんなを守るために今までたくさん戦ってきたけど……結局私も他のアウィナイトみたいに……惨めな末路を辿って……)
度重なる拷問によって精神を折られ、未来を悲観したリザは、体を丸めて涙を流した。
「う……うぅ……ぐすっ……」
(ダ、ダメ……!人殺しの私は……泣く資格なんてない人間なのに……!)
「お?泣いてんのかガキ?まあ泣きたくもなるよなぁ!そのうちどっかのクッセェ親父の性奴隷になるんだからなぁっ!ウヒャははははハハハハ!!」
「アウィナイトの女は全員肉便器なんだからよ、もっと自分の容姿を誇りに思えや!もちろん肉便器としての、な!あひゃひゃひゃひゃヒャヒャヒャ!!」
「お前みたいな綺麗なアウィナイトがまだ残ってたことに驚きだぜ。大抵性奴隷になったアウィナイトはすぐ舌噛んで死んじまうからな!エヒャひゃひゃ!」

(ううぅうっ……!やっぱり……このまま何も成し遂げられないまま終わるなんて……嫌……!嫌だよっ……!)
兵士たちの言葉責めに抗うこともなく、リザは猫のように丸くなって涙を流していた……


438 : 名無しさん :2017/06/23(金) 01:26:28 WcJ8Czmw
「止めといた方がいいぜ……アンタと俺じゃ相性が悪すぎ」
「はっ!」

アイベルトの台詞を遮って、鞘走りの加速を付与させた居合切りを放つシェリー。だが、まるで攻撃が来ることが分かっていたかのようにバックステップで躱されてしまう。

「っち!ですが!!」
右手で振るった愛刀は躱されたが、シェリーの武器はそれだけではない。左手の短剣を、アッパーカットの要領でアイベルトの顎に目掛けて振り上げる!
しかし、それも分かっていたかのように頭を上に反らしたアイベルトは避ける。

「ならばこれはどうです!」
ブーツの仕込み刃を出現させて回し蹴りを放つが、その蹴りは腰を低く落としたアイベルトの頭上を虚しく通り過ぎる。

「抜くのは剣だけではありませんよ!」

左手の短剣を捨てて鎧の内側に隠された短銃を引き抜き、アイベルトに発砲しようとする。騎士が銃を使うとは思わない先入観を利用した、元傭兵ならではのとっておきだったが、アイベルトは特に驚いた風もなくシェリーの左腕を掴んで銃口を明後日の方向に向けさせる。

「……今、丁度5秒だ。どうだ?2人の居場所を言う気になったか?」
「ば、馬鹿な……なぜ……」
「それにしても、短剣はともかく、仕込み刃に隠し銃……騎士というより暗殺者だな」

アイベルトの赤く発光した眼は数秒先の未来を映す。シェリーがどんな間合い、どんなタイミングでどんな攻撃を仕掛けてくるのかが分かっていれば、それを避けることは容易い。
一撃必殺に掛けるようなタイプは、アイベルトの眼の前ではほぼ無力と化す。

(く……こんな時サイラスがいたら……!彼はいつも『私が出るまでもない』なんて言って肝心な時にいませんね……!)
「元傭兵なら、賢い生き方ってものが分かると思うんだがな」
「舐めないでいただきたいですね……!今の私は名実共に聖騎士……!簡単に裏切るなどとは思わないことです!」

右手の愛刀を手放し、右手首にも仕込んである短剣でアイベルトの首を突き刺す!……寸前、右腕もアイベルトによってがっしりと掴まれる。

「自慢の早抜きも、俺様の前では形無しだな……なんかイジメてるみたいな気分になってきたぜ」
「何故……!なぜ私の手の内を全て知っているのです!?」
「さぁ……な!」
「ぐ……!?」

両腕を押さえつけられて動きが取れないところに、アイベルトの頭突きが炸裂する!

「五秒で言わなきゃ殺すっつったはずだ……ダークストレージ、オープン……とっておきを見せてやるぜ!」


439 : 名無しさん :2017/06/23(金) 01:31:40 ???
今からほんの10年ほど前のこと…
円卓の騎士を始めとするシーヴァリア騎士団は既に国の実権を掌握しており、
シーヴァリア王家の威光は失われて久しかった。

王族はいくつかの騎士や貴族による庇護によって辛うじて断絶を免れている状況。
そんな中にあっても、有力な聖騎士の一族であるセイクリッド家は、
シーヴァリア王家と親密な関係にあった。

「…リリスちゃん、そのドレスすっごくかわいいよ!まるでほんとのおひめさまみたい!!」

幼いミライとリリスは、親たちが長々と(特にミライの母親が)話し込んでいる間、
部屋で二人で遊んでいる事が多かった。
特にお気に入りだったのは、ミライの持っている服を使ってのファッションショーごっこ。

「あ……ありがとう、ミライちゃん。(でも私…本当にお姫様なんだけど…一応)」

ショーに使われるドレスの大半はミライの持ち物であるため、そのセンスはミライの母親の影響が大きい。
派手で可愛らしいドレスを着せられる度…ミライに悪気はないと分っていても、
リリスは自分の境遇を否応なく意識してしまって複雑な気持ちになるのだった。

「あのね、リリスちゃん。…わたし、おとなになったらせいきしになるの。
それで、リリスちゃんが、このくにのじょおうさまになったら…わたしがまもってあげる!」

「ほんと?…ありがとう。もし、ほんとに…そうなったら、とってもうれしいけど…」
(今の聖騎士さん達は…私の事なんて、守ってくれないし…)


440 : 名無しさん :2017/06/23(金) 01:37:42 ???
そして現在。
シーヴァリアの王女であったリリスは、身分を隠して騎士団に入り、若くして円卓の騎士の一員にまで上り詰めた。
騎士団を、そしてシーヴァリアの国そのものを、内部から変えていくために。
しかし円卓とは名ばかりの厳しい階級制度の中では、上からの命令に唯々諾々と従うしかなく…

「…必要なものがあれば用意させるわ。この部屋で、暫くの間大人しくしていて」
…その挙句、かつての友人であるミライを、ラケシスの森の奥にある小屋に監禁しようとしている。

「リザちゃんは…どうなったんですか。どうして、私たちにこんな事を…」
ミライが気絶する直前に見たのは、重鋼卿の一撃によって食堂のテーブルに叩き付けられたリザの姿。
彼女があの後、円卓の騎士達にどんな目に遭わされたのか…考えるのも恐ろしいが、確かめずにはいられない。

「知らない方が良いわ……今夜の事も、彼女の事も、すべて忘れなさい。…それが貴女の為よ」

…表ざたになる事は決してないが、今回の様に、騎士団が裏で非道な手段で富や権力を強奪したり、
邪魔な存在を排除したりするのは、一度や二度ではない。
いつの頃からか、シーヴァリア騎士団の理念は大きく狂い始めて…
その歪みは、今や修復不可能なほどに大きくなっていた。

「私には、わからないよ…この国を、大切な人の幸せを…守るために、剣を取る。
それが聖騎士のあるべき姿だって、パパは言ってたのに…。
どうして、円卓の騎士がこんなひどい事をするの?
…リリスちゃんは、どうして…円卓の騎士の言いなりになっているの?」
「……!!……」

「リリスちゃんは、この国の王女様のはずなのに…
…どうしてあの頃と同じ…いえ、あの頃よりももっと、悲しそうな顔をしてるの…?」
「…ミライちゃん…私の事、覚えていたのね……」

…流れてしまった年月の重さに押しつぶされるように、リリスはただ黙って俯いた。


441 : 名無しさん :2017/06/23(金) 02:02:16 ???
「ふふふ…リリスさんが話したくないなら、私から教えてあげましょうか。
リザという娘がどんな末路を辿るのか。そして、貴女自身の運命も…」

…重苦しい沈黙を破ったのは、リリスでもミライでもなかった。
マントとロングスカート、そして白銀のスケイルメイルを纏った白騎士が、音もなく姿を現す。

「あ、貴女は…『睥睨卿』メデューサ…!!」

「ほっほっほ…あのアウィナイトの娘は、重鋼卿の鎧の為の生贄となるのですよ。
全身の血を残らず搾り取られながら殺されて…死して尚、地獄の苦痛は終わらない。
何度も殺されて、殺されて、その度に蘇生され。重魔鎧が完成するまで、それを幾度も繰り返す…」

人の血を染み込ませる事によって、ドスの甲羅はその強度、耐久性を格段に増す。
そして、殺されたドスの怨念は、殺した人間の生き血によって鎮められ、鎧に更なる力を与える。
シーヴァリアに伝わる、最強の鎧を生み出すための特殊法術…それは邪術と紙一重の血塗られた秘法であった。

「それが終われば…アウィナイトの末路と言えば、男は目玉を繰り抜かれて宝石に、
女は奴隷として売り払われ慰み者にされるのが相場ですが…
…司祭殿があの娘の眼をいたくお気に入りでしたから、この場合『両方』という事になるでしょうね」

「…鎧……宝石…そんな事の為に…そんなの、ひどすぎるよ…」

「それだけではありません…あの娘にはスパイ容疑も掛けられている。
そして…矛盾卿リリス。あなたは、そのスパイと結託してミライ・セイクリッド嬢を攫い、
人質解放の条件として円卓の騎士の解散を要求してきた」

「え!?…な、何を言ってるんですか!私はただ、作戦指示に従って、彼女をこの館に…」

「…既にシナリオは出来上がっているのですよ。矛盾卿…いえ、リリス・ジークリット・フォン・シーヴァリア王女殿下。
貴女は、我ら騎士団に反旗を翻した愚かなテロリストとして、我が国の歴史に永久に汚名を残す事となる。
そして…ミライ・セイクリッド。あなたはそのテロリストの哀れな犠牲者となるのです。
蘇生も出来ない程に、無惨に殺されて。…本当に、残念な事ですわ。ほっほっほ…」

「そんな事…絶対に、させない……ミライちゃん、下がってて!」

盾と一体化した大型の槍「シールドランス」を構えるリリス。
対するメデューサも、不敵な笑みを浮かべて剣を抜いた。
幅広でやや短め刀身は、無数の節とのこぎりの様に波打つ刃を持っている。
この奇妙な剣の恐ろしさを、同じ円卓の騎士であるリリスは良く知っていた。

「ミライちゃん…もっと後ろに。何か、物陰に隠れて…絶対にそこから出てはだめ」
「…無駄ですわ、王女殿下。この国を支配する圧倒的な力の前では、貴女ごときの力など虫けら同然。
私の『蛇剣ウロボロス』に刻まれながら、それを思い知りなさい…」


442 : 名無しさん :2017/06/25(日) 03:21:23 ???
「ん、ぐっ……」
避けようのない体勢で顔面に頭突きを喰らい、たたらを踏むシェリー。その隙をついて、アイベルトは闇の武器庫「ダークストレージ」を発生させた。
もちろん、出待ちの間にシェリーを掴んだ手をスーハーペロペロクンカクンカするのも忘れない。

(…あの男の、不自然な前屈みの構え……奴は一体、何をする気…!?)
「…させませんっ!」
(ガキィィン!!)
…シェリーの短剣を、アイベルトは赤い棒のような武器で受け止めた。

「く…またしても、防がれるとは…」
「やれやれ、そう慌てなさんな……こいつが俺様のとっておき。その名も魔導武器『テン・ヴァーチャーズ』!」

(何!?…奴の武器の、形が………変わっていく…!?)
仕込み短剣による奇襲に失敗したシェリーは、背筋にぞくりと悪寒が走ったのを感じ、アイベルトの身体を蹴って後方へ跳ぶ。
「……流石、イイ勘してるぜ。……だが、逃がさねえ」

アイベルトが突き出した赤い棒を、シェリーは短剣で受け流して回避する…しかし、次の瞬間。
(ジャキン……!!)
シェリーの脇腹を掠めた棒の側面から鋭い刃が飛び出し、背後からシェリーを斬りつけた!

「あぐっ!!……こ、これは…鎌……!?」
予想外の一撃を背中に受けたシェリーはバランスを崩し、跪くように前方に倒れる。鎧のおかげで致命傷は避けられたが、傷は決して浅くなかった。

「…コイツは特殊金属製でな…剣でも槍でも、あらゆる武器に変化する。よって、間合いも攻撃方法も予測は不可能……」

…だが、どんな武器に変形するのかも予測不能という、致命的な問題点もある。予知能力を持ち、あらゆる武器に精通する、アイベルトにしか使いこなせない、あまりにも特殊で誰得な武器であった。

「さてと…『円卓の騎士』のシェリー様。血の気が抜かれて、少しは素直になったかい?…ま、こいつを出しちまった以上…今さら謝られても手加減は出来んがなっ!」
「くっ……!」

…ドゴッッ!!
深手を負ったシェリーに、アイベルトが巨大ハンマーを振り下ろす。ギリギリでかわしたシェリーの背中に、無数の瓦礫の破片が容赦なく突き刺さった!

「うっ……あぁぁっ!!」

ある時は変幻自在の鞭へ。一撃必殺の斧へ。息つく暇もなく、アイベルトの武器は次々とその形状を変えていく!

(このままではやられる……何か……何か手は、ないのか…奴を倒す方法は…!)


443 : 名無しさん :2017/06/25(日) 10:59:12 dauGKRa6
「さぁ、行きますよ!」
ゆらりとした動きの後に蛇剣ウロボロスを構えて走り寄るメデューサ。その恐ろしい姿をリリスはしっかりと見据えてシールドランスを構えた。
「勇ましい顔で武器を構えて……私に勝てると思っているのですか?王女様ッ!」
メデューサが3メートルほど離れたところから剣を突き出した瞬間、蛇剣ウロボロスは蛇のように伸び、リリスの眼前へと迫る!
「くっ!」
ガキンッ!
大盾でガードをした瞬間、ビリビリとした振動がリリスの体に伝わる。細い腕に持たれている細い剣から繰り出されているとは思えない威力であった。

「お見事です……ですがこれはどうでしょう!?」
メデューサが柄からウロボロスに魔力を送り込むと、蛇が体勢を変えるように刀身が大きく捻じ曲がり、盾を構えたリリスの真上まで伸びた。
「ど、どこっ……?上ッ!?」
「死になさいッ!!」
一度敵の武器を見失ったリリスが上に伸びた刀身に気づくと同時に、剣先は獲物へと勢いよく襲いかかる!
(は、早いっ……!やられるっ!)
盾を構える暇もない二発目の攻撃。
抉られるのは心臓か、それとも目か。変幻自在の蛇剣の一撃に、リリスはぎゅっと目を閉じた。

「フォトンバレットッ!」
突如、後方から勇ましい少女の声が響き、リリスの目の前に光弾が走った。
「なにっ!?……きゃあああんっ!!」
光弾はウロボロスに衝突して炸裂し、衝撃でメデューサは弾き飛ばされ地面に叩きつけられた。
「リリスちゃん!!大丈夫!?」
光弾を放った方を見ると、震える手で杖を持ったミライがこちらを見ている。
憧れていた聖騎士に攻撃を仕掛けたショックのせいか、目には涙が溜まっていた。
「私は大丈夫……でも敵を刺激しないで!ミライちゃんが狙われちゃう!お願いだから隠れていてっ!」
「ううん……私も一緒に戦う!だってあの時、私が聖騎士になってリリスちゃんを守るって約束したからッ!」
「……!……ミライちゃん……!」
覚えていたのは、自分の顔だけではなかった。ミライは自分と小さい頃に交わした約束も、しっかり覚えていたのだ。

「ちっ……セイクリッドの小娘が、小癪な真似を……!」
床に叩きつけられたメデューサがゆらりと立ち上がる。その目は先程までとは違い、怒りに震えていた。
「リリスちゃん、援護は私に任せて!回復だって補助だって、私が全部サポートするから!」
後方で杖を構えながらミライが声を上げる。
(ミライちゃん……聖騎士になるために忙しくて会えなくなってから、こんなに逞しい子になっていたなんて。)
「フン……雑魚が1人増えたところで何ができる。私に勝てると思っているのか!」
「……勝てるかはわかりません。でも……あの子にだけは、かっこ悪いところを見せたくないんですっ!やああああぁッ!!」
リリスは盾と槍を構えて、メデューサへと走り出した!


444 : 名無しさん :2017/06/25(日) 22:21:40 ???
「何をやらせても超一流な俺は、どうしても使う武器を一つに絞れなかった……そこで俺は考えたのさ!だったら全部使えばいいってな!」
「ぐぅ……!」
(何故かは分からないが、あの男はこちらの攻撃を把握している……!奇襲戦法が通じないなら、柄じゃありませんが、正面からの真っ向勝負しかありませんね……!)

シェリーは細身の剣を構え、痛む身体に鞭打ってアイベルトに突進する!

「へ……そろそろ終わらせてやるぜ!」

アイベルトのテン・ヴァーチャーズが鞘に収まったままの剣の形を取る。そして、突進してきたシェリーに向けて、アイベルトは渾身の居合切りを放つ!

「しま……ぐぁ!?」
「いくら早く抜いても、抜いた後がこれじゃあ形無しだな」
「く……ぁ……」

鎌によって抉られた傷、ハンマーで飛んできた瓦礫の破片で受けた傷……様々な武器で受けた傷により、シェリーの身体はとうに限界を迎えていた。
そして、柄にもなく正面決戦を挑んだ結果、自らの得意とする早抜きによる居合切りを喰らうという皮肉な攻撃を受け……とうとうシェリーは、意識を失ってしまった。


「ふぅ……俺としたことが、ついつい熱くなっちまったぜ……ミライちゃんとリザの居場所どうやって調べるか……」

そう呟くアイベルトの視線は、意識を失ってぐったりと倒れているシェリーに釘付けであった。

「……よ、よし。ちょっと命令書か何かないか調べてみよう。決して気絶してるのをいいことに変なことをしようとしているわけではない。だからそこんとこ誤解すんなよ?な?」

周囲に誰がいるわけでもないのに、謎の説明をしながらシェリーの身体に触れ、邪魔な鎧を脱がすアイベルト。

「調べにくいから鎧脱がすだけだからな!変な意図はないからな!」
(早抜きのシェリー……暗殺剣染みた高速抜刀術によって数々の戦場を生き抜き、賞金首を殺していった女傭兵……何年か前に消息を絶っていたのは風の噂で聞いていたが、まさかシーヴァリアの騎士になっていたとは)

真面目なモノローグを流しながら、アイベルトはシェリーの鎧を脱がし終える。

「あれだ、別に邪な目的じゃないのに変に挙動不審になるから怪しいんだ。俺はただリザとミライちゃんを助ける手がかりを探しているだけ……よし、やるぞ!」
アイベルトは気絶しているシェリーの身体を一気にまさぐった!


445 : 名無しさん :2017/06/26(月) 21:41:22 ???
シェリーの鎧の留め金を外し、胸当てを取り除くと、
その下に着ている白いレオタード状のインナーが露わになった。
やや小ぶりながら形の良いバスト、引き締まったウェストラインが露わになり、
アイベルトは緊張のあまり思わず生唾を飲み込む。
その時…

「んっ……く……」
…シェリーは悩まし気なうめき声をあげ、ほんの少しだけ首を傾けた。

(!!……あぶねー。目ぇ覚ますかと思ったぜ…
いっつも思うけど、こういう状況で堂々とレ〇プ出来る奴ってすげーわ…
うちの王様とか一部のモブ一般兵とか、ロックンロールすぎるだろマジで…)

…と、常識人な一面を覗かせるアイベルト。
彼は実力こそ十輝星の中でも上位に位置するが、リョナラーとしては比較的ライトなクラスタに分類される。

命に別状こそないが、鎌でざっくりと抉られた背中の傷。
そこからどくどくと流れ出る血に、赤く染め上げられていくインナースーツ。
あるいは激しい戦闘によって無数に擦り傷を負い、汗や血、泥に汚れた肌とか…
そう言った物にこの上ない興奮を抱く、この世界においてはごくごくノーマルな嗜好の持ち主であった。

「傷の止血と消毒はしておくとして……ふ、服の下に何か隠してる可能性も、あるよな?…よ、よし……」

アイベルトは言い訳じみた独り言を発しながら、シェリーの腰回りを覆うプレートを慎重に取り外していく。
ボロボロになった衣服にエロスを感じ、全裸になると逆にガッカリする難儀な性癖と言えども、
女の子の服を脱がす事に言いようのない背徳感、罪悪感のようなものを抱いてしまうのであった。

…ぱちり がちゃ
腰回りの装甲が外れ、思った以上に急角度なレオタードの股間部がアイベルトの視界に飛び込んできた。
先程までの戦いで動き回ったせいかやや喰い込み気味になっており、
脚を覆う黒いタイツとの美しいコントラストを生み出している。

「う……あ、ん…」(ぴくん……)
更に「調査」を進めるべく、アイベルトの指が、シェリーの胸に触れようとした時。再びシェリーは苦し気な声を漏らし……

アイベルトは咄嗟に近くに転がっていた鎧を拾い上げ、わざとらしくその材質やら構造やらを調べ始めた。

「ほ、ほー。鎧はホワイトミスリル製かー。流石円卓の騎士、表面の装飾とかもめっちゃ金かかってるな〜!……ふう」
(あぶねー!! マジであぶねーー!!)

…赤い目が危険を告げていた。あのまま触っていたら、確実にシェリーは目を覚ましていた事だろう。


446 : 名無しさん :2017/06/30(金) 16:22:37 mOcvVLZ.
「2人仲良く死になさい!唸れ、ウロボロス!」
「っぐ!」

ぐにゃぐにゃ曲がり、全く軌道が読めないメデューサの蛇剣ウロボロス。先ほどは不意打ちであることもあってミライの魔法が命中したが、次は彼女も警戒して躱してくるだろう。

「リリスちゃん!防御の補助魔法かけるね!大地よ!その偉大なる恵みを、彼の者に分け与えよ!ディフューザー・ディフェンス!」
「……!ありがとう、ミライちゃん!」


対象の防御力を底上げする補助魔法を受けて、リリスはメデューサの剣を正面から受け止める。ウロボロスはぐにゃりと曲がって身体に攻撃してくるが、大したダメージにはならない。

(ミライちゃんの補助魔法、すごい……!全然痛くない!)

ぐにゃぐにゃ曲がる剣戟は確かに受けづらいが、真っ直ぐ伸びてきた剣戟に比べて威力が低い。もちろん、常人相手なら十分な殺傷能力は有しているが……ミライの魔法の補助を受けたリリスには効いていなかった。

「補助魔法ですか……!ならば、後衛を先に潰すのみ!」
「させない!」

補助魔法は厄介と見てミライへと攻撃対象を変えるメデューサだが、それを止めるべくリリスがミライとメデューサの間に立ちふさがる。

「ええい、一人では何もできない、王女サマ風情が!」
「私が弱いことなんて、私が一番よく知ってる……!」

正面から切り結ぶメデューサとリリス。単純な技量はメデューサの方が上だが、ミライの補助魔法を受けたリリスはメデューサを圧倒する。

「やぁあああああああ!!」
ウロボロスによる斬撃を、リリスはシールドランスのシールドで大きく跳ね上げる。俗に言うパリィだ。

「ミライちゃん!今!」
「うん!フォトンバレット!」
「しま……!あぁああああん!!」

やたら艶めかしい悲鳴をあげながら、メデューサは吹き飛ばされる。受け身を取ってすぐに体制を立て直したが、決して少なくないダメージを与えたはずだ。


「い、いけるかもしれない……!あの円卓の騎士を、私たちだけで……!」
「あの、ミライちゃん、一応私も円卓の騎士なんだけどね……?」

決して油断があったわけではないが、それでも戦いを優位に進めている実感が2人にはあった。
軌道を変えるウロボロスがミライを狙うことさえ注意すれば、決してメデューサは勝てない相手ではない、と。

メデューサがリリスを無視してミライを狙うことを防ぐため、リリスは彼女に猛攻を加えていた。その状態でなお剣を遠くのミライへ伸ばそうものなら、その隙を突いてメデューサをシールドランスで貫く算段である。
なのでメデューサはまずリリスを倒さなければならないが、ミライのサポートを受けたリリスは簡単には倒せない。ミライとリリス連携は、即席ながら中々のものであると言えるだろう。

ただ、リリスにとって誤算だったのは、敵がメデューサ一人だと思い込んでいたこと。
鷹眼郷こと遠当てのサイラスが、小屋の外からミライを狙っていることに気付かなかったことだろう。


447 : 名無しさん :2017/07/01(土) 02:35:09 ???
「メデューサさん…確かに、私は円卓の騎士としてはまだまだ未熟です。
一人では勝ち目はなかったかもしれない…でも、2対1なら…ミライちゃんと二人なら、負けません!」
「そ、そうだよ!降参するなら今のうちなんだから!
……燃え盛る炎よ!大地を揺るがす力となりて彼の者に宿らん!グレーターストレングス!!」

ミライはリリスに駆け寄り、筋力強化の魔法を掛けた。全身に力がみなぎり、今まで以上に武器や鎧が軽く感じる!
…対するメデューサは、ミライの光弾魔法を2度までも喰らい、少なからぬダメージを負っていた。

「……なるほど、少し貴女がたを侮り過ぎたようです。ですが王女様…貴女は2つ、大きな勘違いをしている」
戦いの主導権を握りながらも、リリスは油断なく周囲を見回しメデューサをけん制する。
部屋の窓には鉄格子が嵌められ、部屋の出入口にはメデューサが立ち塞がって…どうやら降参する様子はないようだ。

「まず1つ目。貴女達の連携は確かに見事でしたが…」
メデューサはおもむろに長い髪をかき上げ、その下に隠された紫色の瞳でリリスを睨みつけた。
…瞬間、蛇剣ウロボロスが三度鎖状に変形してリリスに襲い掛かる。

「はああぁぁぁっ…!」
リリスは先程と同様、シールドランスを構えて強引にその刃を弾き飛ばそうとする。だが…
(……ギュルルッ……)
(なっ!?剣が消え…)
「それだけで倒せるほど、この私…睥睨卿メデューサは甘くありません」
鎖となった蛇剣はリリスの眼前で急激に軌道を変え、視界から消失した。

(…ギュルルルッ!!)
「…きゃっ!?」
そして次の瞬間。
まるで意志を持つ生物…それも狡猾で素早い毒蛇のような動きで、一瞬にしてリリスの足元をくぐった!

(…ギチギチギチッ!)
「し、しまっ……ああぁっ!!」
脚に巻き付き、股間を這い進み、腰を締め上げる!

「は、放し……っん、く……ぅうう…!!」
そして槍を持つ腕を絡め取り……胴体にまで巻き付いてきた!

(ギリ……ギリッ……)
「り……リリスちゃんっ!!」
「この、くらいっ……く、んっ…!!」
リリスは鎖を引きちぎろうと全身に力を込めるが、ほんの少し身じろいだだけでも、全身に刃が食い込んでしまう。

「フフ…たとえ魔法で筋力強化されていても、無駄な事です。もがけばもがくほど、ウロボロスの刃は全身を切り刻む…
特に鎧で覆われていない『ここ』は、防御魔法で強化されていても……
メデューサは悠々と笑みを浮かべながら歩み寄り…リリスの股下を通る鎖を、ぐいぐいと引っ張った。

「っ…ん、く……あ、やめ、ん…うあああぁぁっ!!」
「ふふふふ…すごく『キく』でしょう?…さあ、もっと聴かせて下さい、王女様。
健気で無様で可愛らしい、貴女の鳴き声を…」


448 : 名無しさん :2017/07/01(土) 12:09:12 ???
「リリスちゃんっ!……」
メデューサがリリスに密着しているため、ミライは巻き添えを恐れてフォトンバレットを撃ち込むのを一瞬ためらった。

「構わず撃って!…私なら大丈夫。防御魔法で耐えられる!」
「うんっ…ごめんね、リリスちゃん…!フォトン…」
…ためらわずに撃っていれば、あるいはメデューサを倒すことができたかもしれない。
だが……一瞬の迷いが、致命的な隙を生んだ。

(…ドスッ)
「!?……え、あっ……」
「ミライちゃんっ…!?」
意を決して魔法を放つ寸前、ミライの右肩に黒い矢が深々と突き刺さる。

「あ……れ……なに、これ………」
「み……ミライちゃんっ!?」
右手に集中させた光の魔力が霧散していく。
ミライは何が起きたのかわからず、がくりとその場に膝をついた。

(ドスッ!)
「…あぐっ!?」
続いて、膝立ちのミライを床に縫い留めるように、2本目の矢がふくらはぎを貫く。

「あの程度の魔法、私一人でどうとでも出来ましたが…まあいいでしょう」

(信じられない……こんな事ができるのは、まさか…)
2本の矢は一体どこから飛んできたのか。リリスは蛇剣に身動きを封じられたまま、再び部屋の中を見回す。
唯一考えられるのは…ミライの背後にある、小さな窓。その鉄格子の隙間を縫って…

「これが貴女方の、2つ目の勘違い。先ほど王女様は2対1と仰いましたが…円卓の騎士は、一人ではない。
…鷹眼卿だけではなく、他の騎士たちも次々と駆けつけてくることでしょう」

「い、痛……痛い、よ……」
残る左手で、脚に刺さった矢をなんとか引き抜こうとするミライ。
その様子を冷ややかに見下ろしながら、メデューサは肩に刺さった矢に手を掛ける。

「…いつまでもそこにいると『3本目』を撃たれますよ、ミライ・セイクリッド。
矢を抜きたいなら、お手伝いしましょう。ふふふふ……」
「やっ……ま、待って、おねが……」

(……ズブッ!!!)
そして、一気に。矢じりの返しが傷口を広げるのも構わず…思い切り引き抜いた!
「…う…あぁぁああぁぁあぁぁああぁぁっ!!!」


449 : 名無しさん :2017/07/01(土) 14:38:30 ???
早抜きのシェリー。彼女は元傭兵……荒くれ者だが、出自『は』高貴である。

というのも、シェリーはナルビア王国のとある貴族の「不義の子」なのである。貴族がメイドに手を出して孕ませる。別に珍しくもない、ありふれた話だ。
シェリーは名目上は貴族の令嬢として育ったが、不義の子に対する風当たりは強く、執拗な嫌がらせを受けながら育った。彼女が感情の希薄な女性に育ったのはそれが主な原因である。感情を殺せば、剣の稽古で必要以上に甚振られたり、可愛がっていた小鳥を焼き鳥にされて無理矢理食べさせられたりしても辛くなかった。
それはそれとしてセクハラされたら人並みに怒るが。

彼女にとって第一の転機が訪れたのは、その貴族の三男坊……現在は遠当てのサイラスと呼ばれる異母兄が、どうせ三男では爵位も継げぬと一旗上げに傭兵稼業を始めたことである。
サイラスは女性蔑視の癖が強かったが、シェリーもそれ以外の女性もある意味平等に見下していたので、彼からは嫌がらせをされたことがなかった。
母も心労が元で息絶え、このまま無為に一生を過ごすよりはとその異母兄について行ったのが13歳の頃。今から丁度10年前、幼年学校を卒業したばかりの時の話である。
シェリーはその頃から剣術に長けていたので、いないよりはマシだろうとサイラスも追い返さなかった。

始めのうちはケチな盗賊退治や酒場の用心棒が主な仕事であった。だが時が経つにつれサイラスは弓の狙撃、シェリーは抜刀術を極め、いくつもの戦場を駆け、何人もの賞金首を刈っていった。
やがて「遠当てのサイラス」「早抜きのシェリー」と呼ばれるようになり、傭兵の間でも名の売れた有名人になった2人に、さらなる転機が訪れる。重鋼郷ブルート・エーゲルによる円卓の騎士へのスカウトである。

既に王家の権力は失墜して久しかったが、更なる円卓の騎士の影響力増加のために強者を探していたブルートと、一旗上げたかったサイラスとシェリー。彼らの思惑が一致し、傭兵稼業からは足を洗って2人は聖騎士となった。



そんなシェリーの過去など知るはずもなく、アイベルトはシェリーの身体をまさぐって命令書の類を探していた。胸や腰に触れる時は予知能力をフルに使ってシェリーが目覚めないように渾身の注意を払っている。

「ん……ぁ……」

(やべぇってこれエロ過ぎだって!)

傷つき汗ばんだ身体。時折あげる悩ましげな声。喰い込み気味のレオタードの股間部。アイベルトはまたも前かがみになった。

(ていうか、こういうきな臭い任務は形に残るような命令書の類はないか……となると直接問いただすしかないが、素直に話してくれるとは思えんし……どうしたもんかねぇ)

シェリーの身体をがっつり眺めながら思案するアイベルト。その時、アイベルトに電流走る。

(そうだ!いいこと思いついたぜ……流石は俺様だな!じゃ、早速)

アイベルトは懐からスマホを取り出して起動した。


450 : 名無しさん :2017/07/01(土) 14:39:58 ???

「あ、もしもしサキ?俺俺」
『……アイベルト?なによ、今ちょっと捕虜のパツキン刑事尋問するのに忙しいんだけど』
「あれ?お前口調……」
『ヨハン様以外には猫被るの止めたのよ……で、何の用?』
「そ、そうか。サキ、何も聞かずに、俺が今から言う台詞をリザの声で繰り返してくれ」

ブツ!ツー、ツー。

「いやお前電話切るなよ!」
『はぁ……なに?夜寝る前にリザのエロボイスでも聞こうってわけ?そういうのはD〇M辺りで買いなさいよ』
「馬鹿!今は真面目な話をしてるんだよ!でもそれはそれでいい考えだから今度お願いしていい?」

ブツ!ツー、ツー。

「だから切らないでくれってば!でも着信拒否しない辺り地味に優しいよなサキって」
『は?キモ……』
「ちょ、ガチトーンで言うなよ傷つくだろ……」
『はぁ……で、どういう理由でリザの声真似しろって?』
「ああ、実はかくかくしかじかでな」
『はぁ?リザが行方不明?はっ!いい気味ね!』
「とにかく、敵の聖騎士の一人から情報を聞き出したいんだが、力づくで聞き出すのは骨が折れそうだから搦め手を使おうとな」
『搦め手?』
「サキにリザの声真似をしてもらって、それを録音して聖騎士に聞かせる。リザは既に脱出していると相手に思い込ませて失言を引き出すんだ。ほら、反逆の〇ルーシュでよくある録音戦法だよ。前に見せてやったろ?」

サキは五人の戦士の一人である古垣彩芽をこちらの世界に引き込む任務で現実世界に潜入していた。
その際に彩芽と仲良くなりやすいようにアニメの知識を蓄えたのだが……その時の師範役がアイベルトだったのである。
ちなみに、小春とフルールはアイベルトのイチオシアニメであった。

『私がリザの奴を助けるのになんか協力すると思う?』
「ふ……そう言うと思ってお前にとってのメリットを提示する用意がある!」
『へぇ……手短に話して』
「さっきかくかくしかじかで話したミライ・セイクリッド……彼女はソウルオブ・レイズデッドが使える」
「……!」
「リザの身体の古傷も綺麗さっぱり消えてたよ……ジェノサイド・スティンガーの体液を硫酸で希釈させた猛毒液で焼け爛れた顔も、治療できるかもしれないな?」
『アイベルト……!なんでアンタがユキのことを知ってるの……!』
「ぶっちゃけて言うと俺とヨハンとロゼッタの大人組はみんな知ってるぜ。話さなかっただけで積極的に隠してたわけでもないだろ?」
『クソが……!』

電話の向こうでサキがイラついて何かを蹴った音がする。女性の悲鳴が聞こえた気がするが、さっき言ってたパツキン刑事とやらだろう。

『……そのミライとやらがユキの治療をしてくれるっていう保証は?シーヴァリアの人間でしょ?』
「絶対あるとはいえないが、ここでミライちゃんに何かあったらその時点で可能性はゼロになるな」
『ち……!いいわ、協力してやるわよ。リザを助けるのではなく、そのミライって奴を利用する為にね。声帯だけリザに変身すればいいのね』
「そう言ってくれると思ってたぜ。じゃあ、俺が今から言う台詞をリザの声で繰り返してくれ」


451 : 名無しさん :2017/07/02(日) 14:35:16 ???
「仮面マスクさん、戻ってこないな。シェリーさんも、さすがに殺しはしないと思うけど…」
「…ジン。もう放っといて、先に本部に戻りましょう」

逃げた仮面マスクと、それを追って行ったシェリー。ジンとエールは二人が戻ってくるのを待っていたが…
小一時間ほど経った頃、とうとうエールが痺れを切らした。

騎士団本部に戻るため、乗ってきた馬を門前まで連れて来るが……その時、ジンは異変に気付いた。
「ほら、早くジンも後ろに乗って……ジン?」
「この馬…随分、興奮してるな。…………もしかして、何か見たのか?…ミライが連れてかれる所とか」
エールの馬は高くいななき、主を振り落とさんばかりに大きく上体を上げた。

「きゃぁっ!?……ちょっと、大人しくして…おかしいわね。こんな事、今まで一度も無かったのに」

「…エールさん、この馬借ります!」
「ちょ、ちょっと…ジン!?」
ジンはエールを鞍の後ろ側に押しのけ、馬腹を蹴る。
瞬間、馬は弾かれたように走り出すと、あっという間に城門を抜け……ラケシスの森へ一直線に向かっていった。

「くっ…!…あの大人しかった子が、こんな激しく……んっ、走るなん、て……!!」
最初は命令違反に気が咎めていたエールだが、尋常でない愛馬と後輩の様子を見て…少しずつ、事態の深刻さを認識する。

「でもジン……どうやってミライを探すつもり!?…ラケシスの森は広いわよ!」
「大丈夫…『こいつら』が知ってる」

「じんだー!」
「おうまさんにのってる!かっこいー!」
「さっきねー、みらいもここをとおったよー!」
「おひめさまといっしょにー、あっちにいった!」

「こいつらって…まさか妖精!?…そっか。あなた達ぐらいの歳ならギリギリ見えるのね…」
妖精は、心のきれいな子供にしか見る事ができないと言われている。
エールも昔は妖精を見る事ができたのだが、いつからか…騎士団に入った頃からだろうか、その姿も声も認識できなくなっていた。

「よーよーにーちゃん、まぶいすけのっけてんじゃねーかー!」
「こんやはもりのこかげでうんどうかいってか?やるじゃんひゅーひゅー!」
「ひどーいわたしというものがありながら!うわきよふりんよいしゃりょうせいきゅーよー!」
「くっころせ!とかいいそう」
(…なんか、スゴイシツレイなこと言われてる気がする)

なお、妖精自身の心がきれいだとは言ってない。


452 : 名無しさん :2017/07/02(日) 19:53:09 ???
サキから目当ての音声を録音したアイベルトは、ダークストレージから取り出したロープでシェリーを後ろ手に縛る。
そして、一瞬挙動不審な動きをして迷うような素振りを見せた後、意を決したようにシェリーの両足を開かせた状態で片足ずつふくらはぎと太ももをひとまとめにして縛る。俗に言うM字開脚縛りだ。
彼の名誉のために言っておくと、わざわざそんな縛り方したのは彼の趣味だけではない。決してAVやエロ同人でしか見ないような縛り方を試してみたかったわけではない。これは必要な行程なのである。

そしてシェリーを起こすために、そう、あくまでもさっさと起こすために!彼女の胸をモミモミした。

「ん……ぅ……」
「よう、起きたみたいだな………ま、ちょっと手荒に扱ったから、そりゃ起きるか」

ちなみに、目を覚ましそうになったらすぐに手を引っ込めている。

「貴様は……!」
「ふ……中々良い眺めだぜ早抜きのシェリー」
「なに……!!?!!?な、ななな……!」

意識がはっきりしてきて、自分がどんな風に縛られているのかを自覚したのか……シェリーは怒りと羞恥で顔を真っ赤にしていた。

捕捉しておくと、アイベルトは彼女の鎧を脱がしたままの状態で縛っていた。これもまた彼の趣味だけではなく、鎧の中に何か刃物でも隠してあって、ロープを切られでもしたら大変だからインナー姿のまま縛っただけだ。

なので当然、シェリーは急角度かつ喰い込み気味のレオタードをこれでもかと晒すような格好になっている。

「か、感情の希薄なアンタも、流石に女としての羞恥心くらいは持ってるか」
「お、おのれぇ……!よくもこんな、辱しめを……!」

(おいおい、あんだけ冷たい感じの女だったのに、めっちゃ怒ってるじゃん……てかよく見たら目に涙浮かべちゃってんじゃん……)

そう、シェリーはあんな格好で縛られたことで、かなり感情的になっている。だから、手を打つなら『今』しかない。

ピピー!ガガー!

アイベルトの持っていたトランシーバー(特殊部隊っぽくてカッコイイという理由で持ち歩いている)が音を鳴らす。彼はややわざとらしくなんだ?と言って、トランシーバーを取り出す。

『アイベルト。こちらリザ。何とか円卓の騎士から逃げ出したわ……一時はどうなることかと思ったけど……どうぞ』
「その声は、あのアウィナイト!?」
「そうか、無事で何よりだ。これからどうする?どうぞ」
『私はこれからミライを連れ戻しに森に向かうわ。貴方も一緒に来てくれない?どうぞ』
「そうかそうか!!ならば俺様も付いていってやろう!それにしても、どうやって逃げ出したんだ?どうぞ」
『ちょっと色仕掛けをね……うふふ』

会話が成立している。俄には信じがたいが、本当にあのアウィナイトと通信をしているようだ。色仕掛け……円卓の騎士がかかるとは思わないが、現在は平の看守が彼女を監視しているだけのはずだ。となれば、色仕掛けで脱出というのも不可能ではないのだろうが……

「ふっ……ハハハハ!!無駄ですよ!確かに貴方たちは強い!それは認めましょう。ですが、小屋には既に大勢の円卓の騎士が集っています!いくら貴方たちでも、たった二人で勝てるはずが」

「ふ……情報ありがとう」
「なに?」
「ラケシスの森の小屋か……これで大分場所も絞れたな」

『ピー!録音再生を、終了します』


「な……!録音!?」
「流石のアンタも羞恥心が勝っている状況では、迂闊にもなるようだな」
「……!まさか、こんな格好をさせたのは、私の判断力を奪うために……!」

アイベルトの趣味も多分にあるが、それがわざわざM字開脚縛りした主な理由である。

「アンタらが森に向かうっていうのはさっきの会話から分かってたからな……それを見越して、さもミライちゃんの居場所を知っているかのようなブラフを張らせてもらったぜ」
「く……!不覚!なら、あのアウィナイトの少女の声は一体……」
「くくく……そこまで教えてやるほど、俺は親切じゃない。じゃ、もう一回眠ってもらおうか」
「……え?この格好でですか?あの、せめて足だけは閉じさせてもらえると」
「当て身!」
「うっ!」

シェリーはかなり屈辱的な格好で縛られたまま、気絶させられた。

「ラケシスの森の小屋というと、あそこか……」

アイベルトは伊達に仮面付けて森に潜伏していたわけではない。あの森の構造は大体理解している。
森の小屋という情報によって、ミライが囚われているであろう場所に当たりを付けることができた。

(リザも心配だが、アイツも王下十輝星だ……まずはミライちゃん優先でいいだろ)

M字開脚縛りでぐったりしているシェリーを少し名残惜しそうに眺めた後、アイベルトはラケシスの森へ向かった。


453 : 名無しさん :2017/07/02(日) 23:48:08 ???
「…にしても、あんなアホな作戦、引っかかるバカなんているのかしら。
ま、まあ…仮に失敗した所で、リザの奴がどうにかなるだけだから、別にいいけど」

アイベルトの指示通りのセリフを(割とノリノリで、アドリブも交えつつ)喋り、サキは通話を終えた。

「はぁぁ……良くわからないけど…なんか、イラつくわ!…
さっきのリザ声に『色仕掛け』の内容を具体的に足して、D〇Mに売りに出してやろうかしら」

心の中に渦巻く正体不明のモヤモヤが収まらず、サキは目の前の機械をガンガンと蹴りつける。
寝台に拘束された金髪の女刑事が、苦し気な声を漏らした。

「…あれ、ここに居たんですかサキ。リザの声がするからおかしいなと思ったら…」
…その時。「拷問部屋」に籠っていたサキの前に現れたのは……。

「……あ、あら。ヨハン様…!……ええ、少し電話で、リザさんと話していたもので…」
「…無理に口調を丁寧にしなくてもいいですよ、サキ。…近頃ずいぶんリザと仲良くなったみたいですね」
「い、いえいえそんな。私なんかが、リザさんと仲良くなんて…」
(はぁぁ!?そんなわけないっつーの!どこをどー見たらアタシとあのクソ女が仲良く見えるわけ!?)

ヨハンの言う通り、サキの素の性格は既に知れ渡っているので、今となっては口調を変える必要もない。
だが長年の習慣のせいか、ヨハンの前に出ると無意識のうちに、態度を装ってしまうのだ。

「やれやれ、じゃあこう言いましょうか…僕といる時にも、
ありのままの性格を見せてくれていいんですよ。その方がずっと魅力的だ」
「!?……そ、そんな。……でも。それを言うなら…ヨハン様だって。
『素の性格』を、私達の前では…見せていませんよね」
…王がマークしていた『五人の戦士』を一網打尽にした『舞踏会』の夜。
月瀬瑠奈に対してほんの少しだけ垣間見せた、冷酷で獰猛な一面を…サキは、見逃していなかった。
(恋する乙女は、いかなる時でも好きな人の姿をついつい目で追ってしまうものなのだ)

「ふ……確かに。これは一本取られたようですね……では、前置きはこれ位にして。
サキに、一つお使いを頼みます。リザが携帯電話を失くしたそうなので、新しい端末を届けてくれませんか?
連絡を取れるのがアイベルトだけだと、どうも頼りなくて」
「……!!……は、はい…」
…最初についたウソがあっさり看破される形になってしまい、サキは首を縦に振るしかなかった。

「ついでに、替えのナイフと、新型のスーツも。…本当は出発前に渡すはずだったんですが、さっさと出て行ってしまいましたから」
窮地に陥ったサキに、極悪非道な本性を隠し持つ十輝星最強の男が更なる追い打ちを掛ける!



「あ〜〜〜……っもぉぉぉ!!」
…ヨハンが去った後の拷問室。
サキは忌々し気に頭を抱えながら、機械のあらゆるスイッチをオン、パワーを最強にセットする。
機械は不気味なうなりを上げ、哀れな標的…女刑事の額や乳首や臍、クリトリスなど、
あらゆる敏感な弱点を狙って狂ったように水滴を叩き込み始めた。
魔法点滴による栄養補給や、排泄物処理、その他諸々の機能が働いているため、
万一サキがアクアリウムの趣味に飽きてこの部屋を訪れなくなったとしても、機械は半永久的に作動し続ける事だろう。

(つーか…なんで私!?こんな用事、脳天ピンク女(※アイナ)か、レズ奴隷(※エミリア)にでも頼めばいいじゃない…)
「…ヨハン様の頼みだし、仕方ないか。これは、そう…あくまでも『ついで』よ。…ライライの、お墓参りの…」
…アルガスの研究施設から助け出された後、ライラの住んでいた森を訪れて…
サキはそこで初めて、何者かの手で、ライラとその父親の墓が作られている事を知った。

「ついでに、ちょっとだけ様子を見に行って……いつかの約束通り、指さして笑ってやるんだから」


454 : 名無しさん :2017/07/03(月) 16:34:44 ???
「あ、あぁあ……!」
右肩と右足にサイラスの矢を放たれたミライ。彼女の心そのもののような純白のワンピースは、どす黒く暴力的な赤にじわじわと染まっていった。
「ミライ・セイクリッド……剣の扱いや騎士としての心構えが、貴方にはまったく備わっていない。……シーヴァリアの聖騎士訓練所で万年落ちこぼれのあなたに、聖騎士になどなれるはずがないわ。」
氷のような目でミライを睥睨するメデューサ。彼女は昔、聖騎士訓練所で教官を勤めていた時期があった。
円卓の騎士になった今は教官から退いているが、暇を見つけては訓練所に赴いて後進の指導に励んでいる。
そんなある日、偶然ミライの訓練風景を見たことがあった━━



「ミライッ!!腰が甘い!脇も甘い!フラフラするな!貴様は聖騎士としての自覚が足りんっ!!この落ちこぼれがあーー!」
「きゃあああっ!!」
メデューサがミライを初めて見たのは、訓練所の女教官との模擬戦闘授業で、無様に吹き飛ばされている姿だった。
「あーあーあー……ミライってほんと鈍臭いわよね。なんであれで聖騎士になろうと思ったんだろ。」
「どうせお父さんにやらされてるだけなんでしょ……セイクリッドの家は代々円卓の騎士と並ぶほどの騎士を輩出している一族で、シーヴァリア王家を代々守っているんだって。」
「でもさ……シーヴァリアの王家とかってぶっちゃけもう廃れてるよね。今のシーヴァリアは王家じゃなくて、円卓の騎士様たちが動かしてるも同然だし。」
「ミライのお父様のアスカ・セイクリッド様も、昔はかなり強かったみたいだけど、今は怪我で現役を退いてるしね。……まあ要するに、王家とセイクリッド一族は共倒れ寸前ってことよ。」
「ま、あの鈍臭い女見てればセイクリッド家にもう後がないのはわかってるけどね。キャハハハハッ!」
「ちょっと、あんた言い過ぎよ!ホントのことだけどっ!くくくく……」

「ミライ。お前に足りないものは何だと思う?」
「う、うぅ……剣の技術、でしょうか……?」
「このハゲーーーーーー!!!ちーがーうーだーろー!!!違うだろーー!!!」
ヒステリックを起こした女教官は、倒れているミライの腹を鎧の足で思い切り踏みつけた。
「ぐおえっ!!!」
「全てだよ!!!!剣の技術も心構えもそののほほんとした面も声も雰囲気も!お前には聖騎士としての要素がなんにもねえんだよ!!!これ以上教官としての私の心を傷つけるなッ!このスットコドッコイがーーー!!!」
「ひゃんっ!」
教官が足を振り上げたのを見て、また踏まれるのではとミライは小さな悲鳴をあげた。
「ふざけやがって!なーにが、ひゃんっ!だーーー!!このハゲーーー!!!」
「や……!あああぁああぁああぁあああぁああああぁぁぁっ!!!」
ボチャン!
教官に蹴飛ばされたミライは、10メートルほど転がって近くにあった池に落下していった。。。
「アハハハハハハハハ…………」



「確かに魔法の技術は認めましょう。ですが……安全地帯で魔法を唱えるものを聖騎士とは言いません。聖騎士とは誰よりも前に立って、最前線で戦い続ける戦士のことを指すのです。」
「う、ううぅ……」
「あなたのお父様はとても素晴らしい騎士でしたから、期待していたのに……お父様も娘がこんなポンコツで、さぞやガッカリしていることでしょうね。」
「わ……私は……私は……!」
「あなたのような落ちこぼれが惨たらしく死んだところで……お父様もお母さまも誰も悲しまないでしょう。安心して死になさい……」
メデューサの蛇剣がゆらりと蠢き、血を流しながら倒れているミライの首元へと近づいていった。
「や……やめてくださいっ!殺すなら私だけにしてぇっ!ミライちゃんは関係ないはずでしょう!?」
「私が殺すのではありません。リリス、あなたが殺すのですよ。ククク……その罪であなたは処刑されて、シーヴァリア王家は終わりを迎えるのです……!」
「あ……ぁ……!」
細首に鋭い剣の切っ先があてがわれ、ミライの顔は恐怖一色に染まった。
「いい顔ですね。もう少し眺めていたいですが……もう終わりにします。」
「いやっ!いやぁっ!お願いだからミライちゃんは殺さないでえええっ!!いやあああぁぁぁあぁあぁぁぁッ!!!」


455 : 名無しさん :2017/07/03(月) 20:16:42 mOcvVLZ.
ヒヒーン!

今まさにメデューサのウロボロスがミライの首筋を貫こうとした時!どこかから馬の嘶きが響き、次の瞬間!

「ちょ、もっと優しく降ろし、うわぁああああ!!」


馬に振り下ろされ、そのまま扉に身体をぶつけ……あんまりカッコよくないドアの破り方をしたジンが勢いよく入ってきた!そしてそのままの勢いで、ミライとメデューサの方へ転がっていく!
メデューサは横に跳んで転がってきたジンを避けたが、ミライは反応できずにぶつかり、2人一緒にもみくちゃになって小屋の中を転がる。

「あははははー!かっこわりー!」
「いくらいそいでたからってねー」
「おうまからおちながらとびらあけるなんてねー」
「おうまにのってるときはかっこよかったのにねー!」
「じん!そのままからだまさぐってらっきーすけべだー!」

「いてて……ミライ!大丈夫か!?」
「ジ、ジン君!?どうしてここに!?」
「そんなの、心配だったからに決まってるだろ!」
「と、というかジン君……その……か、顔近いよ……」
「え?……あ!ご、ごめん!」

一緒にもみくちゃになって転がった結果、ジンはミライにめちゃくちゃ密着していた。もう少し具体的に言えば覆いかぶさった状態で密着していた。
そのことに気づいたジンは顔を赤くしてすぐにミライから離れる。

(ミライの身体、柔らかかった……って俺の馬鹿!こんな時になに考えてんだ!)
「ほ、ほんとごめんな!ミライ!」
「う、ううん。心配して急いで来てくれたからなんだし……いた!」
「け、怪我してるじゃないか!早く治療を……!」

と、ジンとミライがラブコメ時空を展開していたところに、イラついた声がかかる。

「ほう……私を無視して男女で絡み合うとは、随分と舐めた態度を……!」
「だ、男女で絡み合うって、そんな変な言い方……ていうか、どうなってるんだよこの状況!」
「ジ……ジン君!円卓の騎士は、私に濡れ衣を着せた上でミライちゃんを殺し……王家とセイクリッド家の力を完全に削ぐつもりよ!」
「え……ど、どっかで会ったことありましたっけ?覚えてるような、覚えてないような……」
「ジン君、忘れちゃったの?リリスちゃんだよ!」
「え!?お、王女様!?」
「ですから……!私を無視するな!」


一方その頃。


「く……!私は、貴方のことを隊長として尊敬していたのに……!」
「ち……面倒なことになったな」

エールは外でサイラスと対峙していた。


456 : 名無しさん :2017/07/06(木) 22:46:38 ???
サキがライラと出会ったのは、彼女が十輝星になってしばらく経ってからの頃のことだった。
当時のサキは色々と参っていた。悪徳貴族に目を付けられたユキを守るためにどこからかジェノサイド・スティンガーの猛毒を仕入れて娘の顔を焼き、母は刑務所で服役中。ユキは実の母に顔を猛毒で焼かれたショックでパニックになり、顔の治療も兼ねて入院中。家族を取り戻すために特異体質の変身能力を活かして十輝星になったはいいが、母は罪の意識に苛まれて権力による裏口出所を断るし、ユキは精神的ショックはある程度和らいだが顔は治らなかった。


趣味と実益を兼ねた汚い任務を繰り返し、異世界の少女をこちらの世界に数多く引き込んだが、一向に気分が晴れることはない。

それでも、いつかユキの顔が治り、母も罪の意識から解放され、また3人で暮らすことを夢想しながら十輝星として働いていたある日、邪術師との裏取引の連絡役に選ばれた。
理由は明かされなかったが、十中八九あの王はサキが邪術にも手を出していたことを知っていたからだろう。

そして、顔合わせに邪術師の森に赴いて……サキは後の親友と出会った。
彼女は中々に性根の悪い少女だったが、それは自分も同じ。そして何より……彼女は性根が悪くても家族を……父を大切にしていた。
邪術のライラは自分と同じだと思った。家族の為に手を汚し、本人も汚れ仕事を中々に楽しんでいる。まぁ、最初に彼女の顔に埋め込まれた父の顔を見た時は大分面食らったが……それも今となってはいい思い出である。

彼女もサキに親近感を覚えたのか、2人はすぐに仲良くなり、直接会うことは少ないながらもあだ名で呼び合い……いつしか、親友になっていた。

……サキも、違和感がなかったわけではない。いくら父親が邪術師とはいえ、書物などがほとんど残されていない邪術を完璧に扱いこなす技量。暗殺術や通常の魔法なら才能や努力で片付けられるだろうが、邪術はそれらの技術とは一線を画す。邪術は本人の能力よりも長年の研究や経験がものを言う術なのだ。サキだってライラからのアドバイスを受けて年齢の割には熟練した邪術を使うが、それでもライラには遠く及ばない。
クローン技術や魔物の生産……彼女の邪術は、まるで自分自身の手で長年研究してきたかのような不自然な技量だった。

そして、頑なに森から出ようとしない彼女の態度。しかも、サキの部屋に遊びに来ないかと誘ったら最初は好感触な反応を示しているのに、まるで記憶でも改竄されたかのようにしばらくしたら約束を忘れていた。

サキが真実に気付くヒントはいくらでもあった。薄々真実に感づいてはいた。
だがそれでも……例え偽りの人格だったとしても……「邪術のライラ」と自分の間には、確かに友情があると信じていたのだ。
ライラが十輝星の少女を毒牙にかけようとした時も、サキだけは最初から選択肢から外していた。それは、サキが伝達役だから……というだけではないだろう。

だから、リザがライラを殺した時は許せなかった。理性では、リザは別の邪術師に操られていたライラを救ったのかもしれないと分かっていたが、人の感情というのは……理性では制御できないものなのだ。


「ほら、ライライの好きな少女の生き血……を模した赤ワインよ」

墓標の下の地面に、王都で買ってきた赤ワインを垂らす。ライライの好きな「少女の生き血」を模した赤ワインなのか、ライライの好きな少女の生き血を模した「赤ワイン」なのか、はたまたその両方なのか……それは諸君の想像にお任せする。

「この森も随分変わったわね……昔はもっと暗い場所だったのに」

今や、邪術師の森は自然の豊かさを取り戻していた。緑が繁り、小鳥や魚が住み着き……かつての陰鬱とした森からは想像もつかない。

「ライライ……ようやく、ユキの顔を治す目処も立ったわ……究極の回復魔法、ソウルオブ・レイズデッドを使える人間が見つかったの」

墓に向けて語りかける。誰が作ったか知らないが、こういうことをするのはルミナスの魔法少女辺りだろうか。

「私たちみたいな悪党には、そのうち天罰が下る……そう遠くないうちに、ライライにも会いに行けるかもしれないけど……その前に、ちょっとだけでもいいからまた家族三人で暮らしたいもんね……」

墓の中の……あくまで「邪術のライラ」へ向けて語りかけるサキ。例え別の邪術師に操られていたのだとしても……かつてのあの日、彼女は確かにそこに立っていたのだから。


「さて、ほんとはあんまり行きたくないんだけど、憎たらしいクソゴミリザの所に行きますか。じゃ、またね、ライライ」

その後もつらつらと近況報告をした後、近くに咲いていた花を墓に手向けて、墓参りは終わりを告げた。


457 : 名無しさん :2017/07/07(金) 23:41:52 dauGKRa6
「なんかよくわかんねーけど……とりあえずメデューサ様が悪役なのはわかった!」
細かいことはよくわからないが、ミライを殺そうとしている時点でジンにとっては疑う余地のない「敵」だった。
「トライデル家の一人息子……ジンといったか。この落ちこぼれとは幼馴染らしいな。」
「落ちこぼれって言うんじゃねえ!こいつはこいつなりに聖騎士として認められようと、一生懸命努力してるんだ!」
「フン……努力してこの程度とは、すでに天井に頭がついているということか。納得したぞ。クククク……!」
「コ、コイツッ……!ミライ!お前は絶対に俺が守ってやるからなッ!」
勇ましく言い放ったジンの腰から2本の長剣が勢いよく抜かれる。
戦いの前の準備運動とでも言わんばかりに、ジンはクルクルと剣を振り回して2つの剣をメデューサへと向けた。
「やめておけ……貴様如きがこの私に勝てると思うのか?」
「か……勝てるか勝てないかじゃねえ!ミライを守るか守らないか、それだけの話なんだよッ!!!」
「ジ、ジン君……!」
(ここでいいとこ見せれば……!ミライのやつも俺に惚れてくれるかもしんねえ!絶対勝つ!!!)
勇ましいセリフを吐いたものの、ジンの動機はこの上なく不純だった。



「サイラス様……なぜミライちゃんに攻撃をっ!?市民を守る聖騎士が、どうしてこんなことをするんですッ!?」
「……俺は言ったはずだぞ。お前らは本部で待機だと。隊長命令を無視してこんな場所に来て、無事に済むと思っているのか?あぁ!?」
「う……ぁ……!」
鷹のような双眸がギロリとエールの顔を捉えた。ただでさえ強面のサイラスに睨みつける目力が加わったことで、エールは咄嗟に後ずさってしまう。
「……貴様らの処分は考えておく。今からでもいいからさっさと本部に戻れ。」
「……それは……できかねますッ!私の質問に答えてくださいッ!どうしてサイラス様とメデューサ様が、こんなことを……!」
明らかに何かを隠しているサイラスに足を震わせながらも、エールは引き下がらない。
人一倍正義感の強い彼女は、上官の威圧にも決して屈することはなかった。

「はぁ……馬鹿が死に急ぐんじゃない。」
「えっ?」
サイラスの言葉が終わる直前に、ヒュンッ!という風を切る音が聞こえエールの顔の数センチ横を何かが通り過ぎた。
「今のは警告だ。次は脳天に突き刺さるぞ。それが嫌ならさっさと戻れ。」
(い……今のは矢!?弓を抜いた瞬間すら見えなかったのに……こんなに正確に狙いを付けられるなんて……!)
まさに早抜きのなせる技。腹違いの妹に出来て自分にできないわけはないと習得した、サイラスの特技の一つであった。


458 : 名無しさん :2017/07/08(土) 01:21:41 ???
「見習いごときが、我ら円卓の騎士に刃を向けるなど…それだけでも許されざる重罪。
 貴方からウロボロスの餌食にしてさしあげましょう……蛇剣よ、戻れッ!」
メデューサの一声で、鎖状に変形していた蛇剣が巻き取られていく。

…ギャリギャリギャリッ!!
「やっ……あ、うああぁぁぁぁあっ!!」
リリスの全身に巻き付いていた鋸状の鎖刃が白銀の鎧を斬りつけ、激しく火花を散らした。
ミライが掛けた防御魔法はすでに効力を失っており、鎧の隙間、装甲に覆われていない部分が容赦なく切り刻まれていく!

ザシュザシュザシュッ…!
「んあっ…!…く、ううぅ……」
メデューサの剣が手元に戻った時…リリスの白銀の鎧はボロボロに傷つき、
それを着るリリス自身の鮮血によって真っ赤に染め上げられた。

「おやおや…なんとも無様な姿ですこと。これでは、白騎士ならぬ赤騎士ですね」
「リリスちゃんっ!!」
「……ミライ、王女様を連れて逃げろ!」
リリスとミライをかばいながら、メデューサの前に立つジンだが…
相手は円卓の騎士、まともに戦って勝てる相手とは思えない。

(やべぇ…あんなの、どうやったって避けられる気がしねえ…
…どうする…こんな時、あの人なら…仮面マスクさんなら…!)
弱い事は恥ではない。逃げる事も立派な戦術だ…かつて言われた言葉がちらりと脳裏をよぎる。
だが今は…今だけは、逃げるわけにはいかない。せめて、ミライ達が逃げるだけの時間を稼ぐまでは。

(……迷ってたら、鎖剣でやられるだけだ…こうなりゃとにかく、突っ込むしかねえ!)
「…うぉおおぉおお!!!」
「ふ……愚かな。返り討ちに……ひっ!?(…ふ、服の中に、何かが…!?)」

(ふふふ…このジャラジャラけんのおねえちゃん、おもったとおり…)
「うんうん…ほそみにみえて、きやせするたいぷだね!」
「あたしのジンさまにてをだすなんていいどきょうね!ギッタギタにりょなってやるんだから!」
「あぬすとかよわそう」


459 : 名無しさん :2017/07/08(土) 16:03:18 ???
「てい!はあ!…っだあああ!!!」
「っ…く、こ、の…!…いつまでも、調子に…っ……んは、う、ぅん…!!」
ジンの双剣による連撃を受け止める度、メデューサは悩まし気な声を漏らしながらよろよろと後退する。

(あれ、なんか様子がおかしいぞ?…いや、相手は円卓の騎士だ。油断せず一気に攻める…!!)
(一体、何が起きてるというの…まるで…んく、全身を…な…撫で回されてる、みたい……!)

「あれれー?いまもしかして、ちくびだけでいっちゃったー?」
「おねーちゃん、かたぶつそうにみえて、じつはかなりのすきものだねー!」
「ふふん、もうおまたぐちょぬれじゃない!このくそびっち!」
「ね じ こ む」

(あふぅっ!?……!!…そ、そんなところま、でぇ……)
メデューサの鎧の内側やロングスカートの中に入り込んだ妖精達は、
身体の敏感な部分を的確に探り当てて好き勝手に攻め立てた。…しかも、その数は刻一刻と増えていく。
メデューサには妖精の姿が見えないため、突然起こった自身の異変の理由がわからず、ただただ翻弄されるばかり。

「くっ…貴様一体、私に何をした…!?」
「え、何って何が?…よくわかんねーけど、ミライを傷つけたことは絶対に許さねー!」

(…こうなれば、早々に決着をつけるのみ……!)
…それでも技量の差でジンの攻撃をしのぎ切り、反撃に転じるメデューサ。
剣を上段に構え、一気に斬りかかるが……

「……えっ!?」ロングスカートがずり落ち…
「あっ…………」足がもつれて体勢を崩し…
「…っうぶ!?」汗やら何やらで濡れた股間が、ジンの顔面に直撃。
「ひんっ……!」…そのままジンを下敷きにする体勢で、尻餅をついた。

「なっ!?ぶ、無礼者…さっさと、はな、れろぉ…!!」
(こ、こんな所、誰かに見られたら……あ、あぁぁっ…!!)
見えない何かが下着の中にまで入り込み、前後の穴を好き勝手に弄ぶ。
小さな手に包皮を剥かれた陰核が、千切れんばかりに捩じり上げられた。
ぐしょぐしょになったラベンダー色の下着越しに、下等と蔑んだ見習い騎士の熱い吐息が吹きかけられる…

「ふぐー!…む、ぐー!」
(やべえ…このままじゃ窒息死しちまう…!…どうしたらいいんだ…
…仮面マスクさんなら、こんな時どうする…!?)

今、ジンとメデューサに最大の危機が訪れようとしていた!


460 : 名無しさん :2017/07/08(土) 22:44:54 ???
ジンがラッキースケベ発動させまくっていた頃、小屋の外では……

「それでも……ミライたちが襲われてるのを、副隊長である私が見過ごすことはできません!」
「……ふん。その愚直さはある意味評価に値するが……少しは妥協も覚えた方がいい」
「……?その言葉、どこかで……」

サイラスの言葉に何故か強い既視感を覚えた直後……再び矢が発射された。

「……!」

避けきれない、と悟ったエールは、咄嗟に鎧の小手で矢を受ける。腕に鈍い衝撃が走ったが、戦闘続行に支障はない程度だ。

「サイラス様……!軽蔑しましたよ!」
「まったく……やはり女という奴はヒステリックだな……黙らせるか」

サイラスはスッと、懐からスイッチのようなものを取り出す。

「重装備の相手を弓で倒すのは骨が折れるんでな……少し細工をさせてもらった」

ポチ、とボタンを押した瞬間……エールの腕の辺りから、ボン!という爆発音が響いた。

「が!?」

最初は何が起こったのか分からなかったが、爆発音が響いた辺りを見て……エールは、自分の腕が爆発したことに気付く。

「鏃に特殊な爆薬を仕込んでおいた。弓が刺さった部分に染み込み、このボタンを押せば爆発する爆薬をな」
「ぐぅ……!う、腕が……!」
「個人的な伝手があってな……ナルビア王国の研究都市アルガスに売ってもらった」

サイラスはそのまま、爆薬を仕込んでいない普通の矢をつがえてエールへ向ける。

「最後通告だ。さっさと俺の前から消えろ。今日見たことは忘れるんだな」
「ふ、ふふ……やはり兄妹という噂は中々信憑性がありますね……さっきから貴方が言っていること、彼女とそっくりですよ……」
「なに?」

爆発した腕を押さえ、脂汗を流しながらも、エールは挑発するような口調で喋る。

「思い出した……!私はミライの家に行った時、早抜きのシェリーに気絶させられた……!そして、何故か犯人を例のドス殺しの少女と思いこまされていた!」

サイラスの言葉は、あの時シェリーが言った言葉と似ていた。それにエールはデジャヴを感じ……記憶の片隅に引っかかっていた違和感が、彼の言葉によって消えたのだ。

「ち……血は争えんか……」
忌々しそうに舌打ちするサイラス。

ちなみに、それと時を同じくして、リザが囚われている牢屋では。


「あ、が……!?」

「なんだなんだ!?急にリザの奴の肩が爆発したぞ!?」
「ど、どうする!?司祭様を呼ぶか!?」
「あの人は確か今魔力切れだ!誰でもいいからヒーラー呼べ!」

リザの肩に残っていたサイラスの特殊爆薬も爆発していた。矢傷自体はミライのヒールで治っていたが、特殊爆薬そのものは傷ではないのでそのまま残っていたのだ。



(……そういえば、あのアウィナイトにも特殊爆薬を使っていたのを忘れていたな……まぁ、死にはしないだろう)

冷徹な性格の割に変なところで少し抜けている……そんなところまで似ているサイラスとシェリーであった。


461 : 名無しさん :2017/07/09(日) 13:15:06 ???
「ふぃ〜、すっかり遅くなっちまっただな。まあ、オラの馬のせいだけんども」
「よぉ、『遠当て』のダンナ。お先にお楽しみかい?ヒッヒッヒ…」
「その白騎士…確かサイラス殿の部下でしたな。なぜここに?」

サイラスの矢で重傷を負ったエールの前に、更に三人の黒騎士が現れた。
斬裂卿ベルガ、肉厚卿デイヴ、そしてもう一人は…海雪卿ランディ。
メイスを使った格闘術と様々な魔法・法術に長け、
知略では円卓の騎士随一と言われる頭脳型の騎士である。

「もう帰らせる所だ、子細ない…それより、他の騎士達は?」

「重鋼卿と蛇蝎卿は、司祭の警護と捕虜の見張りのため本部に残っております。
『例の三人』は『ダルい』『眠い』『めんどい』との事。
隼翼卿…シェリー殿は、そういえばお見かけしませんな。」

(円卓の騎士が、四人…!)
戦っても万が一にも勝ち目は無い。それどころか、これ以上反抗すれば…間違いなく殺される。
強烈な殺気に圧され、じりじりと後ずさるエール。
その背後から…
「…エールさん、乗って!!」
…ミライとリリスを乗せた馬が、激しい土煙を上げながら飛び込んできた。

「ミライ…それにリリス様!?」
ミライによって筋力強化魔法を掛けられた白馬。エールが咄嗟にその背に飛び乗ると、
女性とはいえ三人分…しかも二人は鎧を着こんでいる…の重量を物ともせず、風のように走り去っていく。

「なんと、あれはセイクリッドの………ええい、睥睨卿は何をしているのだ!?」
慌てて小屋の中を覗き込んだランディ達が見たのは…
…ジンに顔面騎乗しながら赤面しているメデューサの姿であった。

「!?……睥睨卿、王女たちが逃げてしまいますぞ!…そやつに手こずっているようなら、我らも助太刀を……」
「だ、大丈夫。…て…手出しは無用です!貴方がたは王女の追跡を!」
(…い、今の…身体の異変を、他の騎士に気付かれるのはマズイ……!)

「アッハイ………アイツは昔から年下趣味だからなぁ……放っといて、俺たちだけで行こうぜ」
「…んだな。あの見習い騎士、そんな強そうには見えねえし…オラ達の標的は、あくまで王女達だべ」

三人の黒騎士は、この場をメデューサに任せて、リリス達の後を追う。

そしてサイラスは……
(まさか、まだ奴を追い回しているんじゃあるまいな。……あの、仮面の男…妙に引っかかる)
…胸騒ぎを感じ、再び王都ルネへと向かった。


462 : 名無しさん :2017/07/09(日) 22:57:34 ???
「エールさん……!その腕……!」

エールの腕はサイラスの特殊爆薬仕込みの矢の爆発によって血がダラダラと流れていた。
鏃という大した面積のない部分に仕込んでいたが故に、腕ごと吹き飛ぶような威力ではなかったが……それでも、エールには凄まじい痛みが走っているはずだ。

「み、ミライ……!私のことはいい。それよりもリリス様の怪我を先に治してくれ……!私よりも彼女の方が戦力になる……!」

だが、エールは歯を食いしばって痛みに耐え、リリスを優先するように言う。

「こんな時にも王女様を優先するなんて……!やっぱりエールさんは真の聖騎士です!」
「……王女様?リリス様が?どういうことだ?」
「あ」

リリスは身分を隠して騎士団に入り、円卓の騎士になった。なので彼女の正体を知る者はごく僅かなのだが……ミライはうっかり口を滑らせてしまった。

「……詳しい話は後日聞く!とにかく今は王女様のお怪我をすぐに治せ!」
「は、はいぃ!」
(うう……エールさんの怪我も心配だけど、ジン君大丈夫かなぁ……置いて行っちゃって、心配だよ……)

なお、ジンは現在美女の股間に顔を埋めている。




「ちくしょう追い付けねぇ!おい肉厚!テメェのクソ遅ぇ馬どうにかなんねぇのかよ!」
「んなこと言われでも、こいつはスタミナや馬力重視なんだっぺ!」
「仕方ありませぬ。ここは我ら2人が先行いたしましょう。デイヴ殿は後詰めをお願いします」

デイヴの馬を引き離し、一気に加速するベルガとランディの馬。
いくら魔法で強化されているとはいえ、三人乗りのエールの馬と一人乗りの馬二頭では流石に分が悪く……徐々に彼らの距離は縮まっていった。


463 : 名無しさん :2017/07/10(月) 00:53:49 ???
「……あれ?」
気がつくとリザは、見たことのない街で、着た事のない制服を着て、学校の通学路にいた。

「おかしいな、私は一体……」
「リザちゃん、おはよーですわーー!!…どうかしたんですの?」
「そんな所に突っ立ってたら通行の邪魔よ、アホリザ…ほら、とっとと学校行くわよ」
「え…アイナ!?……それに、サキ…」
夏用の半そでブラウスに、チェック柄のプリーツスカート…突然現れた二人も、リザと同じ服装だった。

「何よ、バカにアホって言って何が悪いわけ?…文句あるなら『例の秘密』バラすわよ」
「……そっちこそ。妹さんの手術代稼ぐために、バイトしてる事…あれ?…
 …そうじゃなくて……待って……トーメント王国は?王下十輝星は……!?」
「は?……何言ってんの?…つーか顔近すぎ。……離れなさいよ」
トーメント王国で十輝星として生きてきた記憶と、
いわゆる普通の中学生としての記憶が、リザの頭の中に混在していた。

「あ、リザちゃん達だ!おっはよー!アイナちゃん、シアナ君とは上手くいってる?」
「え……エミリアまで……い、一体どうなって……」
「きゃーーー!!エミリアちゃんまでそんな事……ちょっと聞いてくださる!?こないだついにー…ゴニョゴニョゴニョ」
「うそーー!!すごーーい!!」
「あーうっさい…髪と脳みそからピンク成分ダダ漏れしてんじゃないの」

(……どう考えてもおかしい。…これは一体……!?)

「いやー!あの大爆死した『こはフル』が、本当に2期実現するなんて!
1話目から『このアニメは画面を横向きにしてご覧ください』って言われたときは意味わかんなかったけど!」
「もう彩芽、寝ぐせすごい事になってるわよ?…それと、夜中に電話掛けてきてネタバレするの止めてちょうだい。
私は録画して朝観るって、何度も言ってるでしょう」

どこかで見たようなメガネの少女と金髪の少女が、楽しげに会話しながら通り過ぎて行く。
通りの向こう側を歩いている栗色の髪と、小柄な青髪の少女にも見覚えがある気がした。
続いてすれ違ったのは、仲のよさそうな姉妹…姉は長い黒髪で、妹はツインテール。
目が合った妹の方に、なぜか会釈を送られてしまう…

(どういう事なの……これは、夢?……それとも夢だったのは、十輝星の……)
…教室に着いたら、アトラやシアナ、フースーヤもクラスメイトになっていた。
まったく見覚えのない「見慣れた朝の光景」に、リザの混乱はますます深まっていく。

「おはよ、リザ。…どーした?いつにも増してボーっとしちゃって」
そして、真後ろの席から聞き覚えのある…忘れようのない声がした。

「……ドロシー……」
「さっき聞いたんだけど、今日は転校生が来るんだってさ。なんでもシーヴァリア学園から来たとか」
「あ…そう、なんだ。……ちょっと、私…保健室……」


464 : 名無しさん :2017/07/10(月) 01:03:44 ???
……目の前の異様な状況を処理しきれず、リザは逃げるように保健室にやって来た。

(まさかドロシーまでいるなんて……これは間違いなく、夢……)
あの学校も、教室も、全てまやかし……それは、最初からわかりきっていた事。
だが余りの居心地の良さに、長く居すぎたら戻って来れなくなるような気がして…恐ろしくなったのだ。

(もう、なにがなんだか…頭が痛くなってきた…少し、横になろう……)
保健室に人影はなく、不気味なほど静まり返っていた。
冷房はやや弱めで、閉め切ったカーテンの隙間から入り込む日差しで少し蒸し暑い。
半袖のブラウスがほんの少し汗ばむのを感じながら、リザは空いていたベッドにもぐりこみ、胸元のリボンを少し緩める。

「フフフ…戻りたくないくらい居心地がいいなら、無理に戻らなくてもいいんじゃないかな?」
「だ……誰…!?」
…聞き覚えの全くない声だった。
いつのまにか、黒いドレスを着た少女がベッドに腰かけている。

「ボクはシーヴァリアの黒騎士…蛇蝎卿リンネ。
君を治療している間、鎮痛剤代わりにボクの薬を投与してあげたんだ」
「治療……鎮痛剤……?…黒騎士、ということは、あなたは……」
赤い十字の模様が至る所に施された黒いゴシックドレスに、厚底のブーツ。
見た目はどう見てもリザと同じ位の年頃の少女だが……どうやら黒騎士、つまり男性らしい。

「少しだけ、思い出させてあげよう。現実世界のキミが、今どんな目に遭っているのか」
リンネと名乗った少女…少年は注射針の様な管状の刀身を持つレイピアを鞘から抜き、リザの右肩に向ける。
その瞬間…リザの右肩から大量の血が噴き出した。
「あっ……っなに、これ、肩、が…っ……い、やあ"あ"あ"ぁぁぁぁあああッ!!」

………

「っああああ!!いだい、…いやあぁぁ!!……もう、いたいのは、いやぁぁぁぁ!!」
……薬で抑えられていた激痛が突然蘇り、リザの意識が引き戻された。
冷たい牢獄で、粗末な囚人服を着せられ、理不尽に嬲られ続けるだけの現実へと。

「リンネ…かんじゃ、あばれてる」
「…ああそうだね、ヒルダ。『鎮痛剤』が切れたようだから、投与してくれ」
「っ……い、…っ……!!」(…リンネと…もう一人……誰…!?)

蛇蝎卿リンネの隣で、ヒーラーらしき少年…いや、少女?…が、
リザの右肩と、千切れかけた腕に回復魔法を詠唱している。
やがて出血は収まり、傷はゆっくりと塞がっていき……

「ちりょう…おしまい。あとは、あんせいにしてれば、あさまでにはなおる」

「ま、まって…もう……あの幻覚は…」
「クックック……遠慮はいらないよ。どうせ明日になれば、また君は血を搾り取られる」
「だから、ずっとねむったままのほうが、しあわせ……これはわたしからの、よろいのおれい」

(鎧…の…?………だめ……あの幻覚の世界に、これ以上居たら…私……)
追加投与された『鎮痛剤』の効果で、リザの意識は再び薄れていった。

………

「あなたがリザちゃんだね!私、ミライ!」
「そ、そう……よろしく」(……やっぱり)
教室に戻ったリザを待っていたのは、シーヴァリアからの転校生だった。
リザが居ない間に、すっかりクラスメートとも馴染んでいるらしい。

「みんなから聞いてた通り……とっても綺麗な目だね!もっと近くで見てもいいかなぁ?」
「え……う、うん……いいよ。こっちに来て」
無邪気な様子で顔を近づけてくるミライ。
以前にも同じような事があった気がしたが、それがいつの事だったのか……
リザは思い出せなくなっていた。


465 : 名無しさん :2017/07/11(火) 17:26:10 dauGKRa6
「む、むぐー!むがもご……」
メデューサに顔面騎乗されているジンはわけもわからず、声を出して抵抗を試みる。
だがその吐息は、妖精たちに弄ばれて火照った体には効果てきめんだった!
「ひゃああっ!あああぁんっ!」
津波のような快感に打ち震えたメデューサは、そのままではいられないとジンの体から転がり落ちて倒れこむ。

「ぷはっ!なんだ今の声!?めちゃくちゃ股間が喜ぶ声が聞こえたような……って、えええ!?」
視界を取り戻したジンが見たものは、妖精たちに体を弄ばれながらビクビクと痙攣しているメデューサの姿だった。
「ああああっ!も、もう……やめ……!ひあぁっ!!」
「いまのジンのといきでイっちゃったね〜!こうけつなきしさまのくせにちょっといんらんすぎない〜?」
「ほれ、おれさまのてくにっくでおまえをげいじゅつひんにしてやるよ!このめすぶたが!」
「なにおとこのまえでかわいいこえだしてあんあんあえいでんのよ!このくそびっちが!」
「おら、けつあないじってやる!」
「いやーーーっ!!!もうやめてええええええええええーー!!!あ、そこだめぇ!やッ!ひゃああああんっっ!」
メデューサの甘美な声が小屋中に響き渡る。先ほどまで勇ましく戦っていた美人女騎士のあられもない痴態に、ジンは嫌が応にも股間が反応して釘付け?になってしまう。
(うおぉ…!なにこれ、めちゃくちゃエロいんですけど……!妖精たち、マジGJだぜ!)

「も……わかった!わたしの負けだから……あぁんっ!もうやめてえええええええっっ!」
「やめてといっておきながら、からだはもっとっもっとていってるぜ。さてはかれしがいなくてたまってたな。」
「ミライにひどいことしたばつとして、おまえはきぜつするまでおかしつくす!かくごしろー!」
「やっちゃえやっちゃえー!わたしはけいたいでどうがにとっとくねー!」
「ぶ ち こ む!」
(こいつら……本当に妖精なのか?妖精ってもっとこう……(笑))
このリョナ世界の妖精が、世間一般的に言われているものと同じであるはずがないのであった……



「んん?なんか小屋の中から大人の女性のめちゃシコセクシーな喘ぎ声が聞こえるぞ!これは早くイかなければ!」
ミライを追いかけてラケシスの森の小屋に到着したアイベルトは、光の速さで中へと突撃していった。


466 : 名無しさん :2017/07/12(水) 15:44:46 ???
「女性のセクスィーな悲鳴ある限り!この俺は何度でも現れる!仮面の紅騎士クリムゾンマスク!ただいま見・参!!……ってどういう状況だこれ?」

小屋に入ってきたアイベルト(予備の仮面着用)が見たものは、何もないところでよがって嬌声をあげるセクシーな美女と、それを見てちょっと息を荒くしているジンの姿であった。

「か、仮面マスクさん!?い、今までどこに……」
「んやああああ!!やべ、やべてぇええええ!!」
「ほらほら!ここがいいんでしょう!?」
「おい、なんかへんなかめんきたぞ」
「やろうなんてどうでもいいのよ!おんなさえりょなれればね!」
「10レスくらいまえまでの きょうきゃらおーらはどうしたのよ!このびっち!」
「ぱんぱんぱん ジュブジュブ」
「んひぃいいいいい!?」

「うっわ、ドチャクソエロい……ていうかこの声は……こいつら、妖精か」
「え!?仮面マスクさん、妖精が見えるんすか!?」
「ああ、見えはしないが声だけは聞こえるんだよな……ふ!俺の心が綺麗だからかな!」
「パネぇっす仮面マスクさん!」

心が綺麗というより馬鹿なだけである。

「そうだろうそうだろう!ちなみに俺が今まで何をしていたかというと、円卓の騎士の企みにいち早く気づいた俺様は……早抜きのシェリーと激闘を繰り広げていたのだ!」
「!?じゃあ、あのセクハラは一対一の状況に持ち込むためにわざと……!?」
「その通り!死闘の末早抜きのシェリーを撃破した俺……そしてその後、俺様の類稀なる頭脳によって、上手いこと早抜きのシェリーから情報を引き出し、この小屋まで来たのだ!」
「うおおおお!!流石です仮面マスクさん!」

「しぇ、シェリーさんが、そんな簡単に情報を言うわけ……んほおおおおお!??」
「いいかげん すなおに なりなよ」
「もっとしてほしいんだろう?」
「さっさときぜつしろ!このめすぶた!」
「おんなきしのていばん、んほぉ」

「ふ……確かにあの氷の女の口を割るのは難しいだろうな……だが!ならば氷の女じゃなくすればいい!」
「と、言いますと?」
「フハハハハハ!鎧を剥いてインナー姿にしてからM字開脚縛りして、羞恥心で冷静さを失わせた上でちょっとした小細工をさせてもらったのさ!さしもの早抜きのシェリーも、その状況じゃ口が滑ったようでな!」
「んな!?おのれ、貴様ぁ……!よくもシェリーさんを……!女の敵ぃいいいいん!?そ、そこ、ズボズボしないれえええええええ!!!」

「……ご、ごくり。ジン。お前も疲れたろう?まだ円卓の騎士は結構な数が残ってる。ここはミライちゃんを追う前に、この小屋で体力を回復させるべきじゃないか?」
「そ、そうですね。疲れたままミライのところに行っても、足手まといになるだけですしね」
「ああ、しばらくこの小屋で小休止といこうじゃないか」
「それはそうと、俺らさっきからずっと前屈みで会話してますよね」
「ふ……野暮なことは言うもんじゃないぜジン君よ」

「こ、こいつら、絶対私のこの姿を見たいだけぇええええ!?そ、そこだめええええ!!」
「おらおら!しっかりかいはつしてやるぜ!」
「したのくちはしょうじきね」
「うしろのあなはもっとしょうじきだよ(わらい)」
「ふーん。おとこのひとにみられるとこうふんしちゃうんだ?」
「い、いやぁ……!誰か助けてぇええええええ!!」


467 : 名無しさん :2017/07/15(土) 11:49:40 dauGKRa6
時刻は夕暮れ。ミライたちが黒騎士から逃げ、アイベルトたちが喘ぎまくるメデューサを観察している頃、リザが囚われている牢獄では……
「あらぁ〜?リンネちゃんとヒルダちょんじゃない。あなたもリザちゃんをいじめてるの〜?」
「あ、司教様……もう魔力は戻ったのですか?」
「ううん、まだよ。ベルガちゃんとデイブちゃんがグチャグチャにしすぎたから、さすがに明日にならないと魔力は戻らないわぁ〜」
「肉厚さんはともかくベルガさんは加減っていう言葉を知りませんからね。……女性相手にはある程度優しくしてあげたほうがいいと思うのですが。」
「フフフ、そんなこと言ってるけど私はリンネちゃんの方がサドだと思うわよぉ。今も「アレ」の最中でしょう〜?」
「これはただの暇つぶしですよ。ボクの能力が鈍らないように、ね。……最近はヒルダと一緒に事務作業ばかりで、とっても退屈でしたから。」
「……………………」

仰向けで固定されたまま眠るリザの顔に、司教はゆっくりと指を這わせて微笑んだ。
「この子ってホントに可愛いわよねぇ。あのベルガちゃんを相手に最後まで泣かかなかったし、メンタルも強いのよぉ。」
「へぇ……さっきは、もう痛いのはいやあぁって泣き喚いてましたけどね。」
「あらあら、さすがにもう心折れかけてるのかしらねぇ……ま、アウィナイトの青い目は泣き喚いてる時の色が1番綺麗なんだけどねぇ……ひひっ!」
「そうなんですか。……ボクも見てみたいな。実はボク、アウィナイトを見たの初めてなんですよ。」
「あらー!じゃあ泣き顔は絶対見た方がいいわ!青い目が涙でキラキラ輝いて、とっても綺麗な顔になるのよぉ〜!」
「……じゃあ、ちょっとだけ泣いてもらおうかな。」
司教にそそのかされたリンネは、腰から注射器のついたレイピアを取り出した。


468 : 名無しさん :2017/07/15(土) 22:52:23 ???
ひそひそ……ひそひそ……

「ねぇ、なにあれ……AVの撮影?」
「なんでルネでそんなことを」
「人通りだってあるのに……」


「むぐぅ!ひ、ひはふんへふ……!」(ち、違うんです……!)

気絶から目覚めたシェリーは、未だにシーヴァリアの王都ルネで肌着姿でM字開脚縛りをさせられていた。
というのも、彼女の口はハンカチで塞がれ、周囲には『AV撮影中!邪魔しないでね☆』という看板が置いてあり、シェリーの正面にはカメラまで(股間の辺りがややズーム気味に写るように)設置されているせいだ。

シェリーがルネの住民から助け出されないようにと、アイベルトが設置した小道具である。

「ていうかあれ、円卓の騎士の隼翼卿じゃない?」
「まさか、そっくりさんでしょ。あの方がAVの撮影なんてするわけ……」
「いやでも、私あの人実際に見たことあるけど、そっくりさんというには似すぎじゃない?」

「むぐぅ!」
(え、円卓の騎士たるこの私が、こんな屈辱的な格好で、情婦か何かと勘違いされてぇ……!)

必死に拘束を解こうともがくが、アイベルトの拘束は固く、もがいたことで逆にエロティシズムが増すことになった。

「やっぱりアレ隼翼郷よ!こんなことする人だったなんて……ちょっと幻滅」
「マジで?超レアな現象じゃん。ちょっと写真撮っちゃお」
「あ、俺も俺も」
「SNSに写真上げちゃおうぜww」
「明日の三面記事は『早抜きのシェリーこと隼翼郷、街中でAV撮影!?』だな、これにしよう」

パシャパシャ!パシャパシャ!

「んむぐぅ!!」
(いやぁ……!写真撮られてる……!こんな格好で縛られてる写真撮られちゃってる……!)

アイベルトと戦った時は人通りはなかったが、今は夕暮れ時。夕飯の買い出しに出かけた主婦や、学校帰りの学生など、そこそこの人数が通りかかってはシェリーの痴態をカメラに納めている。そして人が集まって写真を撮ることで、なんだなんだと野次馬がさらに集まってくる。完全に悪循環であった。

シェリーは感情の希薄な女性であるが、女としての羞恥心くらいは持ち合わせている。流石に肌着の状態でM字開脚縛りをさせられ、それをAVの撮影と勘違いされ、しかもそれを写真に撮られているとなると冷静ではいられない。

「ふぐぅ……!んむぅ!!」(これも全て、あの仮面の男のせい……!絶対に、絶対に許しませんよ……!)

羞恥を怒りに変えて意気込むシェリーだが、それで野次馬たちの行動が変わるわけもなく。

パシャパシャ!パシャパシャ!

「うっはwwいいねの通知が鳴り止まねぇwww」
「まさかこんな街中でAV撮影に遭遇するとは……しかもエロいし」
「猿轡ってエロいよな……あのくぐもった悲鳴最高」
「汗ばんだ状態で必死に縄を解こうとしてるあの表情………演技とは思えないな」

「むむぅ!」
(演技じゃないんです!助けてください!)

その日、Twi〇terのトレンドに『隼翼郷 AV撮影』という文字が踊ったとか踊らなかったとか……。


469 : 名無しさん :2017/07/16(日) 23:56:36 ???
(蛇蝎卿のリンネちゃん……この子の能力の恐ろしいところは、閉じ込めた空間の中で徐々に記憶を失っていくことにあるのよねぇ……しかも、それだけじゃない……!)
「さて、この人の記憶のトラウマは、と……ふむ……家族かな。アウィナイトらしいや。」
そう言うとリンネは剣先に着いた注射器へ魔力を注ぎ込んだ。
(相手のトラウマを探し当てて、それに近い現象を夢の中で再現することができる……これはリンネちゃんにしかできない芸当。どんな屈強な戦士でも、心の弱点はあるもの。この能力が通用しない人間はゼロといってもいいでしょうね……)
「ヒルダ。きっとかなり暴れると思うから、そうなったらすぐに鎮痛剤を頼むよ。」
「うん。わかった。」
ヒルダの気の抜けた返事に頷くと、リンネは注射器をリザの腕へと差し込んだ。



夕暮れ時の帰り道。リザはアイナとエミリアと並んで人通りのまばらな通りをゆっくりと歩いていた。
「リザちゃん、今日のテニスは最高にグレートでしたわね!相手は大会に出るほどのテニス部部長の男子でしたのに、すごいですわ!」
「……きっと、手加減してくれたんだよ。最後までもつれ込んだし、私なんて思いっ切り疲れが顔に出てたから……」
「いーえ!相手の顔もマジでしたわよ!手加減なんてありえませんわ!ねえエミリア?」
「うん!だってリザちゃんのスポーツ万能さを聞いて向こうから勝負をもちかけてきたんだもん!手加減なんかするはずないよ!」
「……じゃあ、部員の人の前で部長としてのプライドを傷つけちゃったかも。ちょっと顔合わせ辛いな……」
「あ!それは心配ないよ!部長さんいい人だったから、リザちゃんとまた試合したいって!できればテニス部に入って欲しいって言ってた!」
「あああ!それはダメですわ!リザちゃんはアイナとこうして帰り道に寄り道したり、フードコートでご飯を食べたりと忙しいんですのよ!ねーリザちゃん?」
「フフ……そうだね。」
いつもと変わらぬ帰り道。リザの記憶にはもうトーメント王国で暮らしていた血生臭い生活の日々は消え去っていた。


470 : 名無しさん :2017/07/16(日) 23:58:10 ???
帰り道の途中の交差点でアイナ達と分かれたリザが向かったのは、海が見える一戸建ての住宅だった。
言うまでもなく、彼女の自宅である。
「ただいまー」
リザが靴を脱ぎながら言うと、家の中からとてとてとスリッパを擦る音が近づいてきた。
「リザ、お帰り。今日もお疲れ様。」
玄関に現れたのは、長い金髪を短くまとめたエプロン姿の美しい女性。
見た目は20代後半に見えるが、実際は35歳である。
娘に優しく微笑みかけるその目は、リザと同様海のように青く、どこまでも澄んでいた。
「ただいま、母さん。もうご飯できてる?」
「ごめんね。今日は仕事が長引いちゃって、ちょうど今から作るところなの。もうお腹空いてるわよね?」
「あ、じゃあ私がなにか作るよ。お仕事お疲れ様。母さんはゆっくりしてて。」
「リザ……じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかしら。いつもありがとう。助かるわ。」
「どういたしまして。あ、兄さんと姉さんと父さんは?」
「さっき電話が来たわ。父さんは仕事で遅くなるって。お姉ちゃんとお兄ちゃんは今日バイトだからご飯食べてくるんだって。」
「ん、わかった。じゃあ2人分だね……」



リザの家族は5人暮らし。この家族構成はリザが幼少期の頃、平和に暮らしていた頃と同じである。
「家族仲良く暮らす生活……か。随分幸せのハードルが低いんだなあ。ま、現実世界ではみんな死んでて叶わないんだろうけど……」
対象者の深層心理を掘り起こして形作られるこの世界は、リザの願望が形作ったもの。そしてこの世界の存在は、リンネの手によっていとも容易く変えることができるのである……

「フフフ……この幸せな暮らしをぶち壊して一人ぼっちの現実に引き戻された時、君はどんな泣き顔を見せてくれるのかなぁ……?」


471 : 0/14 :2017/07/17(月) 00:11:10 ???
「ふー、できたっ…!……水鳥、喜んでくれるかなぁ」
ルミナスの魔法少女カリン・カーネリアンは、
水鳥から預かった宝石を加工してイヤリングを完成させた。

「あら、上手いもんじゃない。見かけによらずけっこう器用なのね」
…とでも言っているかのように、オレンジ色の石が埋め込まれたノンホールピアスがキラキラと輝く。

「だから『見かけによらず』は余計だってば……って、あれ?今の声、なに?……気のせいか」
(…へえ。一瞬とはいえ、この子にも声が聞こえるなんて…
イヤリングになったおかげで、石の力が増幅されたのかしら)

…魔力を持つ宝石は、宝飾品に加工する事でより力を増すと言われている。
技術と魔力、そして強い想いによって、宝石の力を最大限に引き出す、
ルミナスの中でも特殊な能力を持った職人達は『魔石師』と呼ばれていた。

「私にしては上手くできたけど…やっぱり私のお師匠さんの作品に比べたら、まだまだだなぁ。
…早くトーメント王国の奴らから助け出して、もっと色んな事を教えてもらわなきゃ…」


472 : 1/14 :2017/07/17(月) 00:12:25 ???
「ねえ、瑠奈。こんな時に言うのもアレだけど…またちょっぴり大きくなってる?」
『その日』……控室にて、唯は水着に着替えていた。
白とピンク色で、可愛らしいフリルスカートのついたセパレート水着である。

「ほんと、こんな時にアレだけど…そうかもね。
…なのに、この貰った水着がサイズぴったりっていうのが不気味でしょうがないわ」
瑠奈も、着替えていた。こちらは、青いホルターネックのワンピース水着。
背中が大きく開いた、大胆な…俗にいう「童貞を殺す」デザインである。

「私の水着なんて、コレ……いくらなんでも、あんまりです……」
それは 水着というにはあまりにも紐すぎた
小さく 鋭く 狭く そして細過ぎた それは正に紐だった

「きょ…鏡花……」
「ま、まあ……鏡花ちゃんはイザとなったら、『アレ』があるし……」
しかしそれが『ルール』である以上、着ないわけにはいかない。
鏡花は覚悟を決め…られず、上からパーカーを羽織って完全武装したまま『決戦の場』へと向かった。


473 : 2/14 :2017/07/17(月) 00:13:53 ???
「ご来場の皆様大変お待たせいたしましたァァ!!
ただ今より、イータブリックス闘技場『海の日』特別試合を開催いたします!」

<ワァァァアアア!!>
<唯ちゃんおかえりー!!>
<ノワールちゃーん!いや、瑠奈ちゃーん!>
<おっぱい!おっぱい!おっぱい!>

「はあ…それにしても、なんで私達(主人公)がこんな所(スピンオフ)でこんな事(水着回)を…」
「す…すみません。私のせいで、お二人までこんな事に……」

本人が言う通り、今回の試合が行われる発端となったのは鏡花だった。
この『特別試合』に勝てば、先の戦いで捕虜にされた他の魔法少女達を解放する…
王から提示された条件を、罠と知りつつ鏡花は飲まざるを得なかったのだ。

「あ。そういう意味じゃないわ!私達だって、ルミナスの人達にはすっごくお世話になったんだから!
だから少しでも、力になりたいの!」
「そうだよ、鏡花ちゃん!…それに、一人で戦うのって…すっごく心細いから…」
…鏡花は、この世界に来てからずっと、妹や他の魔法少女たちと一緒に戦って来た。
だから、試合の話を受けた後…今までにない恐怖と不安に襲われた。
そんな姿を見て、唯は過去に自分が闘技場で戦った時の事を思い出したのだという。

「唯さん、瑠奈さん……!」
「いつまでもそんな堅苦しい呼び方しなくていいわよ…呼び捨てでいいわ、鏡花」
「私は呼び捨てよりちゃん付けがいいな!いっしょに頑張ろう、鏡花ちゃん!」
「ふふ……そうだね。ありがとう、唯ちゃん、瑠奈!」

勇気を奮い起こして、鏡花がパーカーを脱ぎ捨てる。
超高校級のバスト、見事な曲線を描く引き締まったウェスト、むっちりと脂肪の乗ったヒップと太股。
そしてそれらを隠そうともせず、むしろ強調するかのような際どいスリングショットの水着姿に、
場内は割れんばかりの歓声に包まれた。


474 : 3/14 :2017/07/17(月) 00:15:33 ???
『海の日』特別試合と銘打たれた闘技場には、巨大プールが設置されている。
その中央に浮かべられた、巨大な正方形のリングの上で戦うらしい。
試合は3対3のエリミネーションマッチ。どちらかのチームが全滅したら決着となる。

(うわ。このプール、底が見えない!…どんだけ深いんだろ…)
リング端からプールを覗き込む唯。その時…ゆらり、と水中で何かが動いた気がした。

<さて、青コーナーから対戦相手の入場です!>

唯たちの前に、フード付きマントを羽織った三人の選手が現れた。
そのうちの一人が前に進み出て、マントを脱ぐ。その正体は…
迷彩柄のビキニに身を包み、西部劇のようなウェスタンハットをかぶった美女。
見た目は清楚なゆるふわ系といった感じか。

「おっと、最初にローブを脱いだのは…元レジスタンス『紅蓮』の頭領!
 デンジャラス・ビューティ・ビースト…魔弾のアイセだー!!」

「人を戦闘狂みたいに言ってんじゃないわよ…
アイツら全員ぶっ殺せば釈放って言われたから来ただけだっつーの」

<おおおー!!あの、十輝星に倒されるまで無敗だったっていう…>
<魔弾のアイセ…しかも水着で参戦だとー!?>
<アーイセ!アーイセ!>

…裏社会ではかなりのビッグネームだったアイセの参戦により、会場は更なる盛り上がりを見せる。
「よくわからないけど、けっこうな有名人らしいわね…まずは私が前に出るわ」
「うん……気を付けて、瑠奈!」

試合開始のゴングが鳴り、瑠奈とアイセはリングの中央で対峙する。
唯と鏡花の前にも、フードを被ったままの二人が立ち塞がった。

(ブゥゥン……)
「…ひっ!?」
相手の出方をうかがっていた瑠奈は、耳元で聞こえた虫の羽音に思わず身をすくませる。

「もちろんこの試合の状況は、試合場を飛び回る超小型ドローンカメラを使って
あらゆる角度から撮影しております!」
「科学の力ってすごいですね!では早速、ただ今のドローンを虫と勘違いして
可愛らしい悲鳴を上げてしまった、瑠奈選手の映像をリプレイで見てみましょう」

「な、なんだドローンか……って、そんなもん撮るな!…つーかリプレイすんな!」
巨大モニターに流れる映像に、思わず突っ込みを入れる瑠奈に…
「ふふ…よそ見してる余裕あるの?…来ないんなら、こっちから行くわよ!!」
足場と胸を豪快に揺らしながら、魔弾のアイセが迫る!


475 : 4/14 :2017/07/17(月) 00:17:57 ???
「きゃっ!?」
瑠奈のガードを強引にこじ開け、怒涛の連打で一方的に攻撃するアイセ。
「結構ガード固いわねぇ。基本は出来てるみたいだけど……まだまだ甘い、わっ!」
「ん、がふ、…うぐ、ああぁっ!!」
鞭のようなローキックで体勢を崩し、膝で鳩尾を打ち抜き、ガードが下がった所に回し蹴り一閃。
瑠奈は直撃こそ避けたが、リング外まで吹っ飛ばされた。

<アーイセ!アーイセ!><アーイセ!アーイセ!>
「おっとー!?キャッキャウフフの水着回かと思いきや、序盤からハードな試合展開!」
「アイセ選手は実戦で磨いた喧嘩殺法。対する月瀬瑠奈選手は、ルミナスの極光体術の使い手のようです。
あの流派はガン攻めが基本戦術ですから、今回の様に守勢に回らされると苦しいですね」

水中カメラがプールに沈んでいく瑠奈の姿を捉え、お尻や胸元を巨大モニターに映し出す。
「…ぶはっ!やってくれるじゃない!……」

「ところでカイセツさん、私、先ほどから選手の皆さんの水着をガン見するのに夢中で
ルール説明の類を完全スルーしていたのですが、場外に落ちてしまった場合はどうなるのでしょう?」
「実は私もです!が、手元の資料によりますとリングアウトしても、30カウント以内にリングに戻ればセーフとの事。
そして……おめでとうございます。今回の試合は『水着剥ぎデスマッチ』です!」

<<うおぉぉぉおぉぉ!!マジかー!!>>
<<やっぱトーメント闘技場は最高だぜ!!>>
<<剥ーげ!剥ーげ!>><<剥ーげ!剥ーげ!>>
<また髪の毛の話してる…>

「ホンッ…ト、最悪だわ。……だけど、私たちは負けるわけにはいかない…!」
急いでリングに戻ろうとする瑠奈だったが…

(ぬるり…)
……突然、足首に何かが絡みついた。


476 : 5/14 :2017/07/17(月) 00:19:23 ???
「ひっ!?…な、なに……水中に、何かいる…!?」
「イータブリックス・海魔軍団が帰って来たよ!…ドーモ。みなさんタコは好きですか?…ゲヒヒヒ!」

「きゃあぁぁぁぁっ!?ちょ、待……バカ!!放しなさいよっ!!」
タコ足、半魚人、クラゲ人間などの多種多様な水棲魔物が、餌を巻かれた池の鯉のごとく一斉に瑠奈に群がった。

「ひひひ…イクラ暴れても無駄だぜ」
「このまま水着をハギとって」「水中触手プレイと行こうじゃなイカ!」
必死に反撃を試みる瑠奈だが、水中では…特にタコやウミウシなどの軟体生物には、打撃の効果は薄い。

「瑠奈っ!早く助けないと…!」「待って!唯ちゃんまで引きずり込まれちゃう!」
「ふふふ……そんなに水に入りたいなら、手伝ってあげる」
フードマントの一人が唯と鏡花の背後に回り込み、二人の背中を思い切り押した。

「きゃああぁっ!?」
唯は咄嗟に近くにあった物…背後から襲ってきた対戦相手のマントを掴み、引きはがす。
「あっ……貴女は…!」
…鏡花もギリギリで踏みとどまったが、マントの中から現れた姿に声を失ってしまった。

「フフフ…久しぶりね、鏡花ちゃん…いや、リフレクトブルーム隊長。この間の戦い以来かしら」
胸の谷間が大きく開いた赤い水着に、ロングパレオを巻いた褐色肌の美女。
ネックレスやピアス、腕輪、指輪など、全身に数多くのアクセサリを着けている。

「ただ今入った情報によりますと…マントを脱いだ二人目の戦士は『魔石師』カレラ・ガーネット!
先日のルミナス侵略の際、捕虜となった魔法少女の一人です!」

<うおおおおお!!新キャラだー!>
<褐色お姉さんだー!!>
<褐色!><褐色!><褐色!>
<谷間!><谷間!><谷間!>

「なにこのコール」
「…聞いた話じゃ、そっちのヒモ女も魔法少女だったわね。厄介そうだから、早めに落としましょ」
アイセが腰のベルトから銃を抜き、魔法弾を撃つ。

(ズドンッ……)
「しまっ……きゃぐっ!?」
不意を突かれた鏡花は衝撃波の魔弾をまともに喰らい、水中に叩き落とされてしまった。

「さーてと…残るはマヌケそうなお嬢ちゃん一人。抵抗できなくなるまでズタボロにいたぶってから…」
「上も下も剥ぎ取って、水堕ちさせてあげる…楽しみねえ」
「………………。」
「うう…二人とも強そうだし、こっちのマントの人も不気味だし…どうしよう…」

「…さあ大変なことになってまいりました!
このまま唯選手も堕とされてしまうのでしょうかー!?」


477 : 6/14 :2017/07/17(月) 00:21:32 ???
瑠奈がプールに落ちてから、既に15カウントが経過していた。
リングに戻るどころか、魔物達の触手から水着を死守するのに精いっぱいで
水面に顔を出す事さえままならない。

「げぶっ……が、は…!(…息が、できない…!!)」

「ゲヒヒ……水の中で俺ら海魔軍団に勝てるわけねーだろ、このタコ!」
大ダコの吸盤触手が、背中側から水着の中に入り込んだ。

「ひっ……そ、そこはっ…!」
背中側から股間を潜り抜けた触手が、臍を撫で上げて胸の谷間を抜けて頬に張り付く。
身体の中心を前後から蹂躙される異様な感触は、
王下十輝星のヨハンに身体を縦に両断された時の記憶を思い起こさせた。

「ニギヒィ!…背中すべすべ…やーらけぇ…」
「やっ…やめて、これ以上されたら……」
半魚人のヌメヌメした手が、背中から入り込んで大きなバストを乱暴に鷲掴む。
根元から力強く絞られ、形が変わる程こね回され、鋭い爪で乳首を突かれる内に…
かつてイータブリックスの地下水道でスライムに蹂躙された記憶が蘇ってきた。
あの時は、スライムに体中の穴という穴に入り込まれ、体中を敏感にさせられて……

(で……でちゃ、うっ……!!)
どぴゅ……ちゅる、ぴゅる……
…ついに、瑠奈の乳房が限界を迎えてしまった。
白濁した母乳が噴き出し、水中にゆらゆらと染み出す。
あの時と決定的に違うのは、水中カメラでその痴態を余さず撮られて、大観衆の前にさらされている事だ。
興奮する観衆の叫び、地鳴りのようなどよめきが、プールの底に居ても伝わってくる。

「…ゲラゲラッッ!こりゃいいや。もっと搾り取ってやるぜぇ…!」
巨大クラゲがお椀型の触手を両胸に吸い付かせると、
ぎゅぽ、ぐちゅ、と粘つく音を響かせながら母乳を吸い上げていく!

「…や、やだっ……す、吸うなぁ……ふあ、う…んっ…」
(やば…力が抜ける……こいつら、普通に殴っても全然効かないし…一体どうすれば…)


478 : 7/14 :2017/07/17(月) 00:23:04 ???
「魔拳『亀甲羅割り』をマスターしたからって調子に乗るな!
こんなもんは、極光体術の中でも初歩の初歩に過ぎん!」
「はい!」

「はいじゃなくてイエッサー!」
「イエッサー!」(相手が女性の場合は『イエス マム』だと思うけど…)

「拳をいくら極めた所で、打撃が全く通用しない魔物もいる!…ゼラチナマスターがいい例だな!」
「イエッサー!」(ゼラチナス(ゼラチン状の) マター(物質) の事だと思うけど…)

「拳や蹴りに魔力を乗せて破壊力を増すのが『亀甲羅割り』。
そこから応用して、魔力に様々な属性を付与していくわけだが…残念ながらそこまで教える時間はない。
一ぺんだけ見せてやるから、後は実戦で覚えろ!いいな!」
「イエッサー!」


……
………ライカさん…実戦で覚えろとか簡単に言ってたけど…

「瑠奈選手、リングアウトからのカウント25!あと5カウントで失格となってしまいます!」
「水着剥ぎ取りデスマッチですから、失格の場合はカメラの前で水着を自ら脱いで頂くことになります。
これはこれで実に楽しみですねぇ」

<うぉぉぉぉおお!!脱ーげ!脱ーげ!>
<脱ーげ!脱ーげ!><脱ーげ!脱ーげ!>

……いざそういう状況になってみると……これってとんでもない無茶振りだわ……!

「ゲヒヒッ…!もう抵抗できねえだろ。このままプールの底に沈めて、前も後ろもブチ抜いてやるぜ…!」
「ニギヒィ!…後ろの穴は俺が先…背中すべすべ…お尻ぷにぷに…膝裏ぺろぺろ…」
「ゲラゲラゲラ……一滴残らず搾り取ってやるぜぇ…!」

………でも、こうなったら…やるしかない…!

「……なめんじゃ…ないわよっ!!」
気合と共に瑠奈は右腕を一閃。その瞬間、クラゲ触手が寸断され白い液が水中に飛び散った。
「ゲラッ!?」「ゲヒィ!?」「ニギヒッ……!」
続く左の手刀でタコの足を斬り落とし、背面蹴りで半魚人の胴体を貫く。
群がる魔物の全てを倒したわけではないが、拘束から逃れ敵を怯ませる事ができた。
「よし…今のうちにリングに…!」

あの時、ライカに見せてもらったのは、打撃以外の物理攻撃属性…
…すなわち剣による斬撃や、槍の鋭さを拳に付与する技。
鍛え上げれば鋼をも切り裂く斬鉄の拳。
「その名も魔拳『蜥蜴の尻尾斬り』か…」

(極光体術の技名がどれもこれもそのまんまなのは、ライカさんのセンスかと思ってたけど…)
(確かにあんな状況じゃ、凝った名前つけてる余裕ないわよね…)
「…『竜殺し』は、まだまだ遠いなぁ」


479 : 8/14 :2017/07/17(月) 00:25:43 ???
瑠奈に続いてプールに落ちた鏡花。
瑠奈以上に豊満な乳房は魔物達の格好の標的となり、たちまち大群が殺到する。

「は…放してくださいっ!早くリングに戻らないと、唯ちゃんが……!」
「へへへ……そりゃ出来ねえ相談だなぁ。バカみてえにでっかいおっぱいぶら下げて、
しかもこんなエロ水着つけたメスなんて…ブチ込まないで居られるかよ!」
イルカ型の獣人が鏡花の下半身を押さえつけ、その巨根を股間にぐりぐりと押し付けた。

「心配しなくても、お友達の唯ちゃんとかいう娘も、きっとすぐ堕ちてくるでやんす…
それまで俺ら『絶倫三兄弟』がねっとりしっぽり遊んでやるでやんすよ!」
「ぜ、ぜつ……いやぁ…それだけは、やめてぇ……!」
スッポン型の亀獣人が背中に取り付き、亀頭を押し付けながら水着をぐいぐいと引っ張る。

「ひ、ひ、ひひひ…鏡花ちゃんの特盛爆乳…さ、さ、最高だよ…」
「あ、ん……!…や、だめぇ……そこ、強くされたらっ……」
上からはウナギ型魚人が覆いかぶさり、ひも状の水着を押しのけて鏡花の胸を貪り始めた。

「あーーーっと!鏡花選手、今まさに水中で魔物の大群に輪姦されようとしております!
 しかも…どうやら魔物達はずらし挿入派のようです!」
「水中の魔物に水着を剥ぎ取られていたら、その時点で脱落となる所でしたが…
 挿入やパイずりの邪魔になりにくい、スリングショット型の水着が幸いした形ですね」

<うおおおお!イルカそこかわれー!!>
<ウナギ!><すっぽん!>

「ま、真凛ちゃんみたいに小ぶりなおっぱいも良いけど…や、やっぱ、おっきいは正義だよね……」

「魔物化しても三男のおっぱい好きは相変わらずでやんすねぇ…
じゃ、真凛ちゃんの時と同じく、兄者とおいらで下のお口のファーストキスをいただくでやんす!」

「おいおい、この顔と乳で、今さらファーストキスなわけねえだろぉ?
あ、でも真凛ちゃんも処女だったし、もしかしたら…
…おい、どうなんだよぉ鏡花ちゃん…へへへっ!!」

「…真……凛…!?……どういう事……あなた達、真凛に…まさか………!」
薄れかけていた鏡花の意識に、ふいに火がともった。


480 : 9/14 :2017/07/17(月) 00:28:13 ???
「へへへ…知ってるも何も、俺ら三兄弟が真凛ちゃんを犯しまくったのが、この闘技場なんだぜ。
…ほんっと、俺らライブ行っててラッキーだったよなぁ」

「ま、ま、真凛ちゃんだけじゃないよ……この闘技場では毎日何十人もの魔法少女が、
試合とは名ばかりの公開処刑に掛けられてるんだ」

「負けた娘はもれなく観客達からのオシオキ…
もちろんおいら達三兄弟も、片っ端から犯してやってるでやんす!」

「全くバカな奴らだぜ。絶対勝てるわけねえ相手、しかも負けたら犯され輪姦され殺される…
そんな最悪な条件でも『あの言葉』を言えば、みんなホイホイ承諾してくれるんだからなぁ…」

「その話なら、おいらも知ってますぜ。『この『試合』に勝てば、他の魔法少女達を解放する』
…まったく、泣かせる話でやんすねぇ。……ヒーッヒッヒッヒ!!」

「………!!」
(許せない…みんなの、魔法少女の、仲間を思う純粋な気持ちをそんな風に踏みにじるなんて……!)

「あ、あ、あれ…どうしたのかな、鏡花ちゃん…自分が騙されて、
公開輪姦されちゃってることに気付いて、怖くなっちゃったのかなぁ?」
「へへ…つーか、そんなん気付かない方がバカってもんだよなぁ…?」
「「「ひゃーっはっはっはっは!!」」」

鏡花は今日の試合に、魔法少女ではなく普通の少女、市松鏡花として参加するつもりでいた。
卑猥な水着で見世物にされ、その水着を剥ぎ取る異常なゲーム…
魔法少女の正義のための力を、そんな事に使うべきではないと考えていたからだ。

だが、その異常なゲームの裏側には異常な悪意が蠢いていて、
鏡花や他の魔法少女達、そして唯や瑠奈にまでその牙を剥こうとしている。
(確かに、私はバカだったわ…そんなの、最初から判っていたはずなのに)

正義の怒りが心に燃えて、鏡花の身体が黄金色の光を纏う。
その腕には、奇跡を呼び起こす腕輪…ルミナスの中でも最高と謳われた
魔石師、カレラ・ガーネットの作によるものだ。

「………変身!!」

腕輪がひときわ大きく輝くと、紐同然の水着が光の粒子となって消えていく。
その代わりに、白と金色を基調とした、競泳水着のような衣装が鏡花の身体を包み込んだ。

「魔法少女リフレクトブルーム・マーメイドフォーム!!」
いつものリフレクトブルームの衣装に比べて、動きやすさ…特に、水中や水辺での戦いに特化した形態。
その姿は、色こそ違えどかつての魔法少女ピュア・アクアマリン…有坂真凛の変身した姿に良く似ていた。

「へへ…変身したからって調子に乗るなよ!…」
「おいら達『絶倫三兄弟』に勝てると思うなでやんす!…」
「そ、そんな重そうなおっぱいで、僕らの動きについてこr…」
「……シャイニング・トライデント!!」
「「「っぎゃあぁぁぁぁああ!!」」」

口上を終えるのを待たず、浄化の光を纏った黄金の三叉槍が水中の魔物達を薙ぎ払った。

「私は…ここからは、魔法少女として戦います。…唯ちゃん、瑠奈、みんな、待っていて!」


481 : 10/14 :2017/07/17(月) 00:30:39 ???
「さて、水中も大変ですが、リング上もヤバい展開!唯選手、3対1でフルボッコだーー!」

魔弾のアイセ、魔石師カレラ、そして未だフードをかぶったままの謎の戦士。
三人に取り囲まれ、唯は一方的にいたぶられていた。
水着を剥ぎ取る機会は幾度となくあったが、三人はそれよりも唯に苦痛と屈辱を与える事を主眼に置いているようだ。

「ふん…しぶとく防御に徹してるみたいだけど、いくら粘ったって、お友達は戻って来れないわ、よっ!」
「うっ……っく、あぐっ…!!」
アイセの連続攻撃を必死に捌いていく唯だが、
実戦仕込みの読みづらいコンビネーション攻撃を全て防ぎきる事は難しい。
……特に、アイセの魔法弾は、直撃すればそれだけで致命傷になりかねない威力を持っている。
(少しでも気を抜いたら、銃で狙い撃ちされる……でも…!)

「うふふふ…唯ちゃんって言ったかしら。あなた、なかなかイジりがいがありそうねぇ…」
アイセに気を取られ過ぎると、他の敵の接近を許すことになる。
いつの間にか唯の背後に回っていた魔石師カレラが、唯に抱き着き……
「…ひゃっ!?」
「クス……唯ちゃん、つっかまーえた…はいコレ、プレゼント」
宝石の埋め込まれた腕輪を、半ば無理やり唯の腕にはめた。

「えっ……困ります、こんな…っあっ!?」
突然の高価そうな贈り物に困惑する唯。だが腕輪の嵌った左腕が、突然ずしりと重くなる。
「や、なに、これ……取れない…!!」
「それは『呪縛の琥珀』(プリズンアンバー)…腕が思うように動かせないでしょう?」

「ククク…随分えげつないじゃない。…さーてお嬢ちゃん、右腕一本で、これがかわせるかしら?」
片腕を封じられた唯に、これまで以上に激しいアイセの連続攻撃が襲い掛かった。
「くっ……あっ、っぐ!!…きゃう!?……っぐ、あああぁぁっ!!」
なんとか防げたのは最初の二撃まで。
その後は鳩尾や股間など急所への攻撃が面白いように決まり、
唯は苦痛に悶えながらリング内を転げまわった。

「ふふふ…私、アナタの事が気に入っちゃったわ。次捕まえたら左腕。
その次は脚、そして首…乳首やクリトリスにピアスなんてのもいいわねぇ。
色んな魔石で、美しく飾ってあげる…!」

「なんとー!唯選手、片腕が動かなくなってしまったようです!
魔石師カレラ、相手に無理やり呪いアイテムを装備させるという
驚異の戦闘スタイルで唯選手を追い詰めるー!」

「ふふん。そろそろ勝負ありってところかしらねぇ…つーかそっちのマントさんは、最後までそうやってるつもり?
あたしは別にどーでもいいけど、ギャラリーどもは納得しないんじゃないの?」

「……クックック…そうじゃのう。
このまま、あの小娘が無様に這いつくばる様を見下ろしているのも一興じゃが……」

「おっとー。ここで、最後の選手がマントを脱ぐぞ!…こ、これは……カイセツさん、何ですかあの水着は!」
「わ…わかりません。まさか、あんな水着が存在するとは…!?」

「最後はこの我が、自ら手を下してやるとするか……クックック…!」


482 : 11/14 :2017/07/17(月) 00:32:36 ???
「う……嘘、でしょ……」
「うわー、なんじゃありゃ…」
マントの中から現れたのは、漆黒の水着を纏った少女…いや、『それ』を水着と言って良かったのだろうか。
鏡花のスリングショット以上に面積の少ない、乳首の先と股間を僅かな面積の布が覆っているだけの代物を。
それを身にまとうのは、流れるような金髪、漆黒のレイピアをその手に構え、凛とした雰囲気を持つ美しい少女だった。

<痴女……><痴女か…?>
<でも、顔はめちゃめちゃ可愛いぜ…>
<金髪で痴女とか…><これがほんとのきんいろモz(ry>

どよめく観衆。特に、全裸より着エロを良しとする紳士的な者は、皆一様に困惑していた。
姿を現したその少女の姿に、唯も驚愕の表情を浮かべる。
だがその理由は…そのあり得ない水着に対して、ではなかった。
「嘘でしょ……アリサ……どうして、貴女がこんな所に……!」

「ほう……この娘も貴様の知り合いであったか。
精霊衣に着られていただけの小娘と侮っていたが、よくよく我と縁があるようじゃな」

「たった今情報が入ってまいりました!三人目の戦士の名は『ノワール』…
その出自、経歴は一切が謎!との事ですが…これはどういう事なのでしょう!」
「『ノワール』という名前は、先程プールに沈んだ月瀬瑠奈選手の!
過去のリングネームだったはずです!あの金髪美少女は一体何者なのかー!!」

「!?……あなた、まさか……あの時、瑠奈に取り付いていた……」
「クックック…ようやく思い出したか。では、あの時の例をさせて貰おう」
アリサの身体に憑りついたノワールが、黒いレイピアを引き抜いた。
対する唯も構えを取るが、満身創痍な上に呪いの腕輪で左腕が動かない。

「ん、ぐっ…!や、あんっ……あ、アリサまで、こんな…
…お願い、目を覚ましてよぉ………うあぁぁあッ!!」
眼にも止まらぬ速度で繰り出される黒い刃が、唯の身体を容赦なく切り刻んでいく。
白とピンクの水着が真紅の血に染め上げられ、とうとう唯はリング端にまで追い詰められてしまった。

「………が、はっ…」
「そうそう、忘れておった…確か、水着を剥ぎ取るんじゃったかのう…?」

ノワールは唯の水着の胸元を掴むと、身体ごと持ちあげたまま、リング端からぶら下げた。
水着は唯の体重(平均的だが決して軽くはない)に引かれて千切れ落ちそうな程に伸び、
その中に隠された小ぶりな胸の先端を、小型ドローンカメラが逃さず捉える。
このまま水着が千切れれば、プールに転落してリングアウト。
…今の唯に、リングに戻ってくる余力はないだろう。

「ほれ、どうした。精霊衣がなければこの程度か?…もっと足搔いてみよ」
(……そう、だ……あの黒い水着、脱がせれば……アリサも、正気に…)
(ザシュッ……)
「……ぐ、あぁぁっ……!!」
…抵抗しようと伸ばした右手に、黒いレイピアが突き刺さる。
血の匂いを嗅ぎつけたのか、足元の水面に、触手の影が蠢いた。

<いいぞ痴女ーー!><そのまま堕とせ痴女ーー!!>
<堕ーとーせ!><堕ーとーせ!>
<痴ー女!><痴ー女!><痴ー女!>

水着の肩ひもの一本が、荷重に耐えきれずブチリと千切れた。


483 : 12/14 :2017/07/17(月) 00:36:03 ???
「さあ、ヤられ放題リョナられ放題で孤軍奮闘の唯選手、ついに脱落か!
瑠奈選手、鏡花選手のリングアウトカウントも29!
このまま勝負は決まってしまうのかーー!!」

「…っ…あ…アリ、サ…」
「くっくっく……なかなか嬲りがいのある玩具だったぞ。
だが最早、貴様一人ではどうにもなるまい」
アリサの姿と声で、唯をいたぶり続けるノワール。
両腕とも動かなくなった唯に、アリサを救い出す術はない。

「ちょっとそこの痴女ちゃん。独り占めはずるいわよ?
唯ちゃんには、もっといろんなアクセ着けてあげたかったのにぃ…」
「…ふん。あたしは、解放されるんならどうでもいいけどね」
更にノワールの他にも、恐るべき強敵が二人。
たった一人残された唯に、最早勝ち目は皆無だった。

「さあ…このまま深淵に堕ちるがよい…」
音を立てて2本目の肩紐が千切れる。
…唯の身体を支えるのは、背中を通る細い紐一本のみ。

「そうは……」「させるかっ!瑠奈ちゃんキーック!!」
その時。水しぶきを上げながら、水面から跳び出した瑠奈がノワールを急襲する。
変身した鏡花…魔法少女リフレクトブルームが水面スレスレを飛び、落下する唯の身体を受け止めた。

「ふん……生きておったか」
「アリサ…!?これってまさか、私や鏡花の時と同じ…」
「…ええ、『黒衣の魔女』…ノワールが憑りついてるわ。
でも、あの布地の少なさは…まだ、力を取り戻している途中なんだと思う」
「瑠奈……鏡花ちゃん……っ…」
「動かないで、唯ちゃん。すぐに治療するわ……」
全身ボロボロになった唯の傷を、鏡花が回復魔法で治していく。

「おっとー!!カウント29.9で瑠奈選手と鏡花選手が復帰!!
ギリギリの所でチーム『やられたガールズ』復活だー!!」
「実況さん…いつの間にそんな、90年代のセクシー系アイドルグループみたいなチーム名を…」


484 : 13/14 :2017/07/17(月) 00:38:23 ???
「いや、でも…待ってくださいカイセツさん。よく見たら、鏡花選手の水着がいつの間にか変わっていますよ?」
「そうですねぇ。いくらスリングショットがエロいからって、途中で着替えるのは反則なんじゃ……」
<そうだー!さっさとエロ水着に戻れー!!><むしろ脱げー!!>
<いや、俺は今の方が好みだぞー!!><鏡花ちゃん結婚してー!!>

さっさと堕とせ脱がせという過激派が一定数。全裸より着エロを良しとする紳士的な者達が一定数。
続行か、退場か、はたまた何らかのペナルティを与えるか…会場の意見は真っ二つに割れていた。

「くっくっく……好きにするがいい」
「ふん…さっさと終わらせりゃ良い物を」

そんな混沌とした状況を収めたのは、同じ魔法少女である魔石師カレラだった。

「…別にいいんじゃない?そっちの方がカワイイし、
どうせ3人ともすっぽんぽんに引ん剝くんだから。……その代わり」

「ここからは私も、本気で行かせてもらうわ……変身!!」
左右の二の腕に着けた柘榴石の腕輪が、炎のように赤い輝きを放つ。
赤い水着とパレオが炎とともに掻き消え、アラビアのダンサーのような煽情的な衣装へと変わった。
パレオに覆われていた脚が露出した分、水着の時よりむしろ露出度が上がっている。

<おおおー!!エロいぞ褐色姉さんーー!!>
<褐色!><谷間!><褐色!>
<褐色!><谷間!><褐色!>

「…だからなにこのコール。…ま、それはいいとして…
悪く思わないでね。たかがゲームに本気になって、先に変身なんてしたのはアナタなんだから」

「たかがゲーム……そのゲームのせいで、沢山の人が犠牲になってる…こんなの、止めなくちゃいけない。
だから、私は魔法少女として戦う事に決めたんです。邪魔をするなら、例えカレラさんでも…!」

「魔法少女として、ねえ…そうやって貴女が魔法少女として戦えるのは、誰のお陰だったかしら?」

「………!…」
異世界の住人である鏡花や水鳥が変身するために必要な、
宝石の埋め込まれたブレスレット……それは、目の前にいるカレラが作ったものだった。
この戦いは水着剥ぎデスマッチ。もし腕輪を失えば、鏡花の変身はその場で解除される…

「フフ……安心しなさい。その腕輪は既に貴女の物…そんな勿体ない事はしないわ。
それより、魔法少女がその衣装を失う、もう一つのケース…」
「……魔力を使い果たして、戦えなくなった時……」

「…そういう事…どちらかが潰れるまで、とことん闘りあいましょう」


485 : 14/14 :2017/07/17(月) 00:40:11 ???
「ふん……勢い込んで戻って来たのはいいけどぉ…」
…プールからの脱出で体力を消耗した瑠奈に、魔弾のアイセが再び襲い掛かった。

「っ…このっ…あぐっ!…んう……たああぁっ!!」
「くっくっく……もうボロボロじゃない?マジで何しに来たの?」
瑠奈も負けじと打ち返すが、リーチ、ウェイト、技量、
そして何より残されたスタミナの量が違いすぎる。

「っ…負けて…たまるか…お前なんかに…!」
クリーンヒットを何発か浴び、たまらずよろめいた瑠奈に…

「アイセの事……お前っていうな」
…ゼロ距離から、魔弾が撃ち込まれた。

(……バシュッ!)
「っが……あ"あ"ぁぁぁぁあ"ああ!!」
股間に雷撃弾が直撃し、瑠奈は絶叫を上げながら蹲る。
下半身がマヒし、立ち上がる事は当分不可能。

だが…アイセは最後せず、とどめの衝撃波弾を銃に装填する。
(…下手に近づいて、うっかり水着を取られたら、シャレにならないからねぇ……)
魔弾でプールに叩き堕とせば、今度こそ上がって来られないだろう。
「これでチェックメイト。…あたしに盾突こうなんて、10年早かったわね、おチビちゃん」

アイセが引き金を引き、勝利を確信した瞬間。
完全に死に体となったはずの、瑠奈の右腕が素早く動いた。

(…なんのつもり…!?…この距離で拳が当たるわけがない…
まさか飛び道具?でも、何かを投げた様子は……っ!!)
完全に油断していたアイセは、それを…
…透明なクラゲの触手を、見切る事は出来なかった。

「な……に……!!」
女体に絡みつくために生まれた魔物の触手が、アイセの身体にがっちりと絡みつく。
逆側の端は、瑠奈の腕にしっかり結び付けられていた。
魔弾を受けて吹き飛ばされる瑠奈に、アイセも為す術なく引っ張られ…

「おーっと、何が起こったんだー!!瑠奈選手とアイセ選手、同時にリングアウトーー!!」

「ふひ…海魔軍団はプールの中にいくらでもいる……どーーもみなさん、触手は好きですか?」
(て、めぇぇ…やってくれたなっ……!!)
(っは……ざまぁ…みなさい……!)
無数の魔物が、アイセと瑠奈に押し寄せる。
だが…アイセはリングアウトの際、魔銃を手放してしまっていた。
ナイフや爆薬などの装備は、今回の水着剥ぎマッチでは持ち込みを認められなかった。
唯一の武器だった魔銃を失えば、水中の魔物に対抗することができない。

「くっそ…このタコ野郎…!!…放せ……アイセに触るなっ…!!」
「無駄よ……アンタがリングアウト負けになるまで、私はこの透明ロープを解かない……」
……無謀ともいえる玉砕戦法で、アイセと引き分けに持ち込んだ瑠奈。
気力も体力も、既に使い果たしていたが……

「ゲヒヒ……瑠奈ちゃんおかえり〜…」
「ニギヒィ…今度こそ逃がさないよ……」
「ゲラゲラ……搾り取ってやるから、覚悟してねぇ……」

「あんた達なんかにヤられてたまるもんですか…
…最後の最後まで、抵抗してやるんだからっ……!!」
…その眼には、未だに闘志の炎がともっていた。


486 : 15/2? :2017/07/17(月) 20:07:36 ???
「ちょこまかとせわしないのう……じゃが、いつまで…避けきれるかな!」
アリサ……ノワールの黒いレイピアが、再び唯に襲い掛かる。

(アリサの剣は、前にも少しだけ見た事があるけど……やっぱり速いっ…!)
鏡花の魔法でダメージは回復したものの、唯は高速で繰り出される刃をかわすだけで精一杯だった。

「んう!!……っぐ……はぁっ……はぁっ……」
何度かに一回は剣先が身体を掠め、浅い傷が作られる。
その頻度は徐々に多く、そして傷は深くなっていった。

何があったのかわからないが、鏡花の言う通り今のノワールはかなり力を消耗しているらしく、
以前戦ったような魔法や、黒蛇などの特殊能力を使ってこないのが数少ない救いか。

一方で悪材料を数え上げれば、それこそ『片手』では足りない程ある。
左腕が動かない事ももちろんだが、『身体以外』のダメージの蓄積も非常に深刻だ。

「くくく…途中で邪魔は入ったが……結果は変わらなかったようじゃ…なっ!!」
「く…っ……!!」
縦に切り裂くノワールの一撃。唯はバックステップで避けようとしたが、紙一重、回避しきれなかった。
……そして、この水着剥ぎデスマッチに於いては、その紙一重こそが致命傷となる。

(……水着がっ……!!)
「ああーっとぉ!!唯選手、胸の谷間、水着の前中心部を切り裂かれたーー!!」
既に両肩の紐が斬られているため、中心部を絶たれればカップを支えるものは何もない…!

「唯選手、水着を手で押さえてます!…ですが手を離したらポロリしてしまうのは明らか。
ここまで頑張って来た唯選手ですが…ここで失格となるのでしょうか、カイセツさん?」
「手元の水着剥ぎ取りデスマッチのルールブックによりますと、
水着を消失又は完全に剥ぎ取られ、両乳首を3カウント晒した時点で失格、とあります。
あのように水着が切れはしでも残っていて、手で押さえている限りはセーフ。
ただし必ず水着で隠す事。手ブラや武器、その他のアイテムで隠すのは認められない、との事です」

…間一髪、右手で押さえる事が出来た唯。
だがこれで両手共使えなくなり、絶体絶命の窮地へと追い込まれてしまった。

「くくく……つまり水着は自らの手で剥ぎ取ってこそ、と言うわけか。なるほどなるほど」
ノワールの眼が、今まで以上に鋭く…そして、妖しく光った。

「え、ちょっと、アリサ……じゃなくて、ええと……その眼、なんか怖い……」
その異様な雰囲気に、唯はそれまでとは別種の恐怖を本能的に感じていた。


487 : 16/2? :2017/07/17(月) 20:09:11 ???
ノワールのレイピアが鋭く唸り、唯の水着のフリルスカート部を少しずつ切り裂いていく。
ルール上は胸部を剥ぐだけで十分なのだが、どうせなら全身丸裸にしたいという思惑なのだろう。

「逃げても無駄じゃ……ほれほれ、もう後がないぞ」
ノワールの異様な迫力に圧され、再びジリジリとリング端まで追い詰められた唯。

「…さあ、観念するがいい!!」
レイピアを鞘に収め、両手をワキワキと蠢かせつつ飛び込んでくるノワール。
だが両手が使えなければ、防御も反撃も……

(そうだっ……手が使えなくても、体当たりならっ……!!)
唯は一瞬かがみ込むと、そのままノワールに向かって思い切り跳んだ!!
…だがノワールの異様な迫力に圧され、ついつい空中で身体を反転させてしまう。その結果……

「……もぷっ!?」
「あっ……」
……結果、見事なヒップアタックがノワールの顔面に炸裂した。

「唯選手のヒップアタック!両者もつれあってリングに倒れ込んだぞー!?」
「今のは唯選手、完全に狙ってましたねー。実に見事な一撃です。これでわからなくなりましたよ」

「いっ、つつ…!……あ、あれ。アリサは……」
…ろくに受け身を取れず、一瞬意識を手放した唯。
目の前には、ノワールの…アリサの股間があった。という事は、股の間にある感触は…
「ぐ、ぬ……油断、したわ………」

アリサの顔に跨る体勢となった唯。
動揺しつつも、今がこの戦いに勝つための千載一遇の好機であると理解した。
(今のうちに、アリサに憑りついてるこの海苔みたいなのを…剥がす!)
グズグズしていれば、ノワールも動き出してしまう。
だが両手が使えないのに、どうやって?


…………方法は、一つしかなかった。


488 : 17/2? :2017/07/17(月) 20:10:47 ???
「おおおーー!!唯選手、顔面騎乗だけでは飽き足らず、
ノワール選手の海苔…じゃなくて水着を、口で剥がそうとしているー!!」
「む、貴様……何をするっ……あ、んっ……むぅっ…!!」
顔面騎乗から抜け出そうと、ノワールは上半身をくねらせる。

「やっ……あっ!?…う、動か、ないでぇ……!」
この機を逃すまいと、唯は腰に力を込めて押さえつける。
だがノワールの胸が左右に揺れて、なかなか狙いを定められない。
熱い吐息が股間に当たる。その熱が伝わってきたかのように、
唯の下半身もじわりと熱を帯びて行って……

「ん、むっ……我に、寝技で挑むとは…っ…無謀が過ぎるぞ…小娘っ!!」
「んにゃうっ!!……まけ、ないっ……アリサを、っ……んんっ!!…
…かえして……もらうんだからぁぁ……ん、あぁぁぁぁああ!」
割れんばかりの大歓声の中、互いの意地を掛けた消耗戦が続く。
唯はノワールの揺れる胸に顔を押し付け、強引に乳首にしゃぶりついて右の乳首から水着を剥がした。

<ユーイ!><ユーイ!><ユーイ!>
<ノワール!><ノワール!><ノワール!>

「…ここまで、やるとはなっ………よかろう……遊びはこれまでじゃ」
ノワールの右胸に続いて、左胸に吸い付こうとする唯。
対するノワールは………動きが変わった。騎乗位から逃げる動きから、攻めの動きへと。
「今までの攻防で見切った……貴様の弱点は、ここじゃろうっ!!」
ノワールが唯の股間に吸い付き、舌先が正確にクリトリスを探り当てる。

「ひゃひっ!?…ん、や、やっ!?…そこ、な、め、な、ああぁぁあぁぁあああッッ!!!」
イータブリックスの地下水道で巨大スライムに徹底的に責め立てられ開発された、唯の最大の弱点。
ノワールの舌技は唯の思考を一瞬にして快楽の炎で焼き尽くし、絶頂という名の奈落へ突き落とした。

「ただの一嘗めでこの様とは……ククク。ならばこの邪魔な水着を剥ぎ取って、直接舐られればどうなるか……」
「んぅぅぁぁ、あい、ひゃぁぁ……」
ノワールは容赦なく、唯の下の水着を剥ぎ取った。抵抗できるはずもなかった。
唯の股間から、どう見ても汗でもプールの水でもない、どろりとした透明な液体が滴り落ちる。
ドローンカメラがその瞬間を余さず捉え、会場は沸きに沸く。
それでも唯はただ一点、ノワールの…アリサの左乳首に狙いを澄ませ、隼の如き神速で黒水着を咥え取った。


489 : 18/2? :2017/07/17(月) 20:12:06 ???
満場の観客は皆怒号に近い喚声を上げ、実況・カイセツの声すら聞こえなかったが…
やがて、全員でカウントを取り始める。

<<<ワン!!>>>

3カウントで、勝敗は決する。
…だが唯にとっては既に、いや最初から、試合の勝敗はどうでもよかった。
ルール上は胸だけ剥がせば十分だが、ノワールの洗脳からアリサを解放するには……
「下」にも同じことをしなければならない。

ノワールの舌が唯のクリトリスを再び狙おうとしている。
今度は水着越しでなく直接。しかもその超人的舌技は、舌先で一瞬にして包皮を剥く事も可能だ。
なんとか逃れようとする唯だが、今度はノワールが唯の下半身を押さえつけ逃がさない。

<<<ツー!!>>>

「………っ…!!」
唯は最後の力を振り絞り、顔をアリサの股間へ…最後の水着へと近づける。
ほとんど裸の美少女二人がシックスナインの体勢でお互いの股間を貪りあう様は、
卑猥云々をはるかに超越して幻想的な雰囲気さえ醸し出していた。

(……もう、少しっ………!!)
身体には、もうほとんど力が入らなかった。
気力も底を尽きかけ、なぜそうしなければならないのかもわからないまま
舌を伸ばし、アリサの股間に張り付いたシール状の水着を口にくわえる。
後はこれを引き剥がせば、アリサの洗脳が解ける………

「ふふ……ただの人間にしては…良く粘った方、じゃったぞ」
その時。ノワールが両脚で唯の頭を挟み込み、同時に舌で唯のクリトリスに強烈な一撃を加える。
「……ン!………〜〜〜〜ッ!?」

<<<スリーー!!>>>

滝のように愛液を垂れ流して果てる唯。同時に、勝負を告げる3カウント目が宣告され……
ノワールが、ゆっくりと立ち上がる。股間の黒布は半分剥がれかけ、
そして胸は……唯から奪い取った水着を押さえ、しっかりと覆い隠していた。
「くっくっくっく……じゃが結局は、我の方が……『一枚上手』だったようじゃの」


490 : 19/2? :2017/07/17(月) 20:14:36 ???
「これはまさかの大逆転だー!!ノワール選手、唯選手から奪った水着で
胸を隠すという頭脳プレーで逆フォール!篠原唯、敗れたりー!!」

「……ア……リ、サ……」
精魂尽き果て、立ち上がれない唯。剥がれかけたノワールの黒布に右手を伸ばしかける。

「くくく…なかなか楽しませてもらったぞ。…そなたには、褒美をくれてやる」
それを一瞥しながら、ノワールはリングの上に落ちていたアイセの魔銃を拾い上げる。
残弾を確かめ、狙いをつけ………二度、引鉄を引いた。

(バシュッ!)(バシュッ!)
「ひっ…ぎッ!!!っがぁあ"あ"ぁぁぁあ"あ"ぁ!!!…………」

散々嬲られ、更なる開発を施されたクリトリスに、二発の雷撃弾。
既に力尽きていた唯は、更なる痛みと快楽で白目を剥きながら失神した。
ノワールは更に、唯の身体を引きずってリング端まで移動し…

「………。」
「あとはゆっくり、水浴びでもしておれ」
唯の身体をリング外に放り投げ、

(ズドンッ…!!)
「……アリ……サ………」
ダメ押しの衝撃波弾を放つ。

唯の身体は真横に吹き飛び、水面で二度、三度とバウンドし、水しぶきを上げて沈んでいった。
戦いを終えた、ノワールは……

「…………今の声、は……唯……?…わたくし、一体……何をしていたんですの……?」
(!?…この娘、意識を……股布が剥がれかけて、支配力が弱まったというのか!…ええい、早く元に……)

焦るノワール。だがアリサの身体を支配できなくなったため、股布を貼り直すことはできない。
…そして闘技場に一陣の風が吹き、完全に剥がれ落ちた黒い布は、いずこかへと飛び去って行った。

(くっ…今は退くしかないか……あの小娘、篠原唯と言ったな……この借りはいずれ返してくれる)


491 : 名無しさん :2017/07/17(月) 22:39:16 ???
「さて、そろそろシーヴァリアに着くわね……お間抜けリザの奴はどこにいるのかしら……と」
黄昏時。サキはシーヴァリアのすぐ近くまで到着していた。

「アイベルトの話だと、『俺に変身すれば門番は通してくれる!』らしいけど……ていうか便利よねあのかくかくしかじかって」

アイベルトと再び通話して自分もシーヴァリアに行くことを伝えたのだが、細かい状況などはかくかくしかじかで簡単に伝わったのだ。

「さて、と……バレないように、人の少ないところで邪術使いますか」

王都ルネやその周辺のラケシスの森に直行せず、サキは周囲に人影がないことを確認してから、懐から小瓶を取り出す。
その瓶の中には、本性がバレる前に変身に必要と騙してリザから(わざと痛くなるように)抜き取った一本の髪の毛があった。

「対象の身体の一部を媒介にして、現在地を割り出す邪術……ストーカーがよく使うやつね」

以前サキが「消えた」アイナに対して『邪術を使えばあんたの場所なんて大体分かる』と言ったが、その時に使おうとしていた邪術である。
その時は媒介無しだったので近距離の相手にしか使えなかったが、媒介があれば遠くの相手の居場所も筒抜けな、非人道的とまではいかないが危険な術である。

サキが地面に置いたリザの髪の毛に手をかざして呪文を唱えると、リザの髪の毛が燃えて……サキの頭の中に、詳細な地図が浮かび上がった。

「これは、王都ルネの……牢獄?リザの奴、面倒なところに捕まってるわね……」

ルネ自体にはアイベルトに変身すれば入れるらしいが……牢獄に潜入するとなると一筋縄ではいかない。

「ま、ここは私の腕の見せ所かしらね」

サキの頭の中では、既にいくつか潜伏ルートの計算が行われていた。だがとりあえずは、本当にアイベルトに変身して門番をやり過ごせるのか確かめることにした。


492 : 名無しさん :2017/07/17(月) 22:50:47 ???
「……ごちそうさまでした。」
「お粗末様でした。……って、今日はリザが作ってくれたんだったわね。いつもありがとう。」
「ど、どういたしまして。……そろそろみんな帰ってくる頃だね。」
「お父さん、きっと酔っ払って帰ってくるわ。ベッドを整えておかないと……」
リザの母……ステラが立ち上がった瞬間、ドアの鍵がガチャリと開いた。
「あ、帰ってきた!」



「愛する美しき妻と可愛い娘よぉー!今帰ったぞぉー!」
玄関で勢いよく叫ぶ金髪短髪の男。190センチほどの高い身長に縁なし眼鏡が、ビジネスマンとしての知性を感じさせる。が、今は酒に酔っていて知性どころか足元も覚束ない状況であった。
「あーあー、お父さん大丈夫ー?」
千鳥足でふらつく自身の父親……ミゲルに、リザは素早く駆け寄ってカバンを持った。
「おお、リザ。ありがとな。そう言う細かい気配りが女には大切なんだ。お前はきっといい嫁さんになるぞ〜!」
「お父さん、もう夜なんだから大きい声はやめて。……迷惑だよ。」
「ヒック……つれないことを言うなぁリザよ……俺は心の底からお前を愛しているというのに……なぁ……!」
ジリジリとリザに迫るミゲル。明らかに正気を失っている父親から離れようとすると、逃げ道を腕で塞がれた。
今となっては使い古された手法の、壁ドンである。
「ち、ちょっと父さん……?お酒飲み過ぎだよ……」
「お前も大人になったなぁ……あぁ、リザは大きくなったらお父さんと結婚するー!とか言って、ほっぺにチューとかじゅーとかっていうのは、もうしてくれないんだよなぁ。なんだか誇らしいやら悲しいやらでパパは胸がいっぱ」
「こらあんたー!リザにセクハラしてんじゃないわよ!さっさと風呂入って寝なさいっ!明日はみんなでお出かけなんだから!」
「どえふっ!!」
玄関にステラがどすどすと近づいてきて、ミゲルにビンタを食らわせる。この流れは父が酔っ払って帰った時の恒例行事になりつつあった。
「うー……わかったわかった。言う通りにするからもう俺の仕事を増やさないでくれえ〜!もう挨拶回りと謝罪はいやだあああ〜!」
「はー……このダメ夫は……」
(……父さん、いつも落ち着いててかっこいいのにお酒が入るとダメなんだよね……)



「ただいまでござる!!!」
「おかえり、レオ。……いい加減ちゃんとただいまを言えるようになりなさい。」
「へへ……今日バイト友達にナ◯ト貸して貰ってさ。忍者になりてえって思ったから形から入ろうと思ってよ!」
「あ……お兄ちゃんおかえり。」
やたらと仰々しいセリフを吐いて金髪をファサリとかきあげたのは、リザの1つ上の兄のレオである。
「リザ、明日の準備できてんのか?歯ブラシとか着替えとか、忘れたら大変だからな。俺が確認できないんだから、自分でちゃんと準備しろよ。」
「……確かにそうだね。もう一回荷物を確かめてみる。ありがと、お兄ちゃん。」
「そんなこと言っていっつも何か忘れてくるのはあんたじゃない。自分が1番気をつけなさいよ!あとおかえりって言われたらまずただいまを言いなさいっ!」
「うへぇ、母ちゃん怒んなやー!」



「ただいまぁー!つーかーれーたー!またあのジジイに絡まれたー!」
最後に到着したのは、リザの3つ上の姉……長い金髪をくるくると巻いたおしゃれな髪型のミストであった。
「リザリザリザ、聞いてよー!あのジジイまた私のお尻触ってきたよ!ファミレスに何しにきてんのよあのジジイ!まじで◯◯◯!!」
「お、お姉ちゃん、落ち着いて。あんまり汚い言葉は……!」
「ああぁ〜リザ〜!リザも早くバイトできる歳になって、あたしと一緒に働こう〜?リザと一緒なら絶対楽しいし楽だし最高だもん!にゃあー!!」
「うぎゅっ!?ちょ、お姉ちゃん!?」
猫のような声を出しながらリザに頬ずりをするミスト。その姿は先ほどの父親によく似ており、リザは酔っ払いが1人増えた感覚に陥った。
「おうおう、美人姉妹で百合してんのかよ。実家という安全地帯で劣情に訴えるような行為はやめろよな!」
「なに言ってんのよこのエロガッパ!あんたはガキなんだからさっさと寝なさいっ!」
「うへぇ、姉ちゃん怒んなやー!」
「レオ!ミスト!あんまり騒ぐと明後日の遊園地なしにするよー!」



「なるほど……この娘のトラウマはアウィナイトの集会で起こる事件か……ま、アウィナイトの集まりでどんなことが起こるかなんて、大体想像はつくけどね……」


493 : 名無しさん :2017/07/18(火) 23:15:35 ???
翌日、リザたちが向かったのは自宅から海岸沿いに車で3時間ほどの場所にある、大きな集会所だった。
「ミゲル、ステラ……今回も遠いところからよく来てくれた。いつもすまんなぁ。」
「長老、お久しぶりです。お元気そうでなによりです。」
「ご無沙汰しております。長老様。昨年は私が病に伏して参加できず、申し訳ありませんでした。」
挨拶を交わしながら左の手のひらを下、右の手のひらを上にして合わせて礼をする3人。これがアウィナイト同士の伝統的な挨拶である。
「その後、どうじゃ?近頃は特にアウィナイトへの差別感情が高まっておる。物騒な事件も多くなってきておるが……」
「あぁ、私の街は穏やかな場所ですから、アウィナイトだからといって迫害もありません。家族揃って平和に暮らしておりますよ。」
「それは何よりじゃ。……おぉ、今回は子供達も連れてきてくれたんじゃなぁ。」
「そろそろ大きくなってきましたので、ご挨拶にと。髪を巻いてるのが長女のミスト。生意気なのが長男のレオ。大人しいのが次女のリザです。ほら、お前らちゃんと挨拶しろ。」
父親に促されたものの、金髪だった髪はすでに色褪せ、青かった目も濁って泥のような目をしている長老の前に戸惑う3人。
はじめに沈黙を破ったのは、ミストだった。
「は、はじめまして!長女のミストです!よろしくお願いしますっ!」
「おーおー、ミストちゃんは元気じゃな。じゃがそんなに固くならんでもええぞ。わしなんぞ時代に取り残されたただの老いぼれじゃ。」
「お前ら、長老を怖がってんのか?赤ん坊の頃世話になったこともあるってのに。」
「覚えてないのも無理なかろ。それに、これから始まるのも大人同士の集会じゃ。会合の時間になったら、子供達はどこか遊びに行った方がよいじゃろう。」
「お、じゃあ長い話聞かなくていいのか!ラッキー!」
「レオ。長老様の前で生意気な口を叩くのだけはやめなさい……!」
「あ、す、すんませんした……」
「ほっほっほっほ……」

その後も他のアウィナイトの親戚と顔合わせ程度に話をしていると、会合の開始を告げるベルが辺りに鳴り響いた。
「お、もう始まる時間か。……じゃあお父さんとお母さんは大事なお話をしてくるからな。」
「海で遊んで待っててね。たぶん、3時間くらいで終わるから。」
「はーい。レオとリザの子守はこのわたしにおまかせあれ!」
「ふん、俺はともかくリザは子守いらねーだろ……」
「あらレオ、よくわかってるじゃない。ちゃんとお姉ちゃんの言うこと聞かなきゃダメだからね。」
「リザ、2人を頼むぞ。なんだかんだ言って、お前が1番しっかりしてるからな。」
「あ……うん。わかった。」
「ん?リザ、体調悪いのか?」
少し顔色が悪いリザ。ミゲルの言葉に、ステラとミストとレオもリザの顔を覗き込んだ。
「だ、大丈夫。ちょっと頭痛いだけだから……」
「そうか……ミスト、リザを頼むぞ。もし体調が悪化したらすぐにお父さんのところに来るようにな。」
「りょーかい!」

(なんだろう……これは……既視感?不思議な感覚がする……)
家族には頭痛と言ったが、実際は体調に問題はなかった。もっと別の……言葉にできようもない違和感が、リザの頭を混乱させていく。
(何故だろう……すごく……嫌な予感が……!)


494 : 20/2? :2017/07/19(水) 03:57:29 ???
「唯ちゃんっ…!!」
リング上空を飛び回りながら魔石師カレラと交戦していた鏡花が、リング上の唯の危機に気付く。
「おっと……よそ見してる暇は無いわよ、鏡花ちゃん」

「…きゃっ!?」
……だが、相手は鏡花と同じく魔法少女。助けに入る隙を決して与えない。
瑠奈や唯が危機に陥る度、鏡花は動揺し、その度にカレラに接近を許し……
鏡花の手足には、既に合わせて3つのアクセサリが填められていた。

「……はぁっ……はぁっ……こ、今度は何……?」

左腕のブレスレットは、身に着けているだけで体力を急激に消耗する『ウィークネス・ベリル』
右脚のアンクレットは、身体が重くなり大幅に速度が下がる『ヘビー・ペリドット』。
そして今、首に巻かれたネックレスは…

「吸収の魔石『ドレイン・アメジスト』……私の持つ指輪と対になってるの。
こうして、お互いに身に着けているだけで……」
…カレラは、指に嵌めている大粒の紫水晶の指輪をかざし、これ見よがしに口付けてみせる。
すると……

(どくんっ……!!)
「えっ…!?…な……これはっ……ん、ぁ…!!」
ネックレスが鈍く脈打つように光り、鏡花の全身を疲労感と脱力感が襲った。
体内の魔力が、紫水晶に吸い取られている!

「ふふふふ……こうして、私の方に魔力が流れ込んでくるってわけ。
魔力がなくなれば、当然……わかってるわよねぇ…?」

鏡花とカレラ。魔法少女としてはカレラの方が先輩にあたるが、
両者の実力は…少なくとも純粋な魔力の量だけで見れば、鏡花の方が一回りか二回り程上回っている。
だが今のように魔力を吸われ続ければ、戦いが長引くほど不利になるのは言うまでもない。
そして魔力がなくなれば、魔法少女の変身を維持できなくなる。
それは実質水着剥ぎデスマッチでの敗北、王国に囚われた仲間の魔法少女たちを助けられなくなる事を意味していた。

「カレラさん…貴女とは戦いたくないのに、どうして…!…まさか貴女まで、奴らに洗脳されて…!!」
「ふふふ…悠長に喋ってる暇なんてないはずよ?」
…苦し気に胸を押さえながら問いかける鏡花。だがその言葉の途中で、突然カレラの姿は目の前から消えた。

「なっ!?……消え」
「上よっ!!!」
闇属性の瞬間移動魔法「シャドウリープ」で鏡花の頭上に現れたカレラが、空中で回転しながら強化に踵落としを放つ。

右脚の魔石で動きの鈍っていた鏡花はかわし切れず、咄嗟に三叉槍でガードする。
その瞬間、カレラの右脚に幾つも嵌められた魔石のアンクレットが、まばゆい光を放ち……

…ドゴッ!!!
「…っあああぁぁっ!!!」
カレラの蹴りが三叉槍が真っ二つに叩き折り、鏡花の右肩に直撃する。

「私の右脚は、打撃力強化の魔石『インパクト・クォーツ』6点挿し…そんなガラクタじゃ防げないわよ」
鏡花の身体は勢いよく落下し、十数メートル下のリングへと叩き付けられた。


495 : 21/2? :2017/07/19(水) 04:00:01 ???
<ワァァァァ!!><いいぞォォノワーール!!>
<触手の時間だァァァ!!>
<ユーイ!><ユーイ!><ユーイ!>
<ノワール!><ノワール!><ノワール!>

「ゆ、唯っ!!……わ、わたくし何て事を……って、どーして裸なんですの!?」

…気が付くと、アリサは超満員の闘技場のど真ん中、プールの上のリングで全裸で立っていた。
身を隠すものと言えば、いつの間にか手に持っていたボロボロの水着の切れ端くらいしかない。

おぼろげながら覚えているのは…雷撃弾と衝撃波をまともに受け、魔物ひしめくプールへと落下した唯の姿。
操られていたとはいえその引鉄を引いてしまったアリサは…リング上で呆然としていた。

「た、助けなきゃ……で、でも、わたくしは、もう……」
すぐ傍には、愛用のレイピア…アングレームに伝わる宝剣『リコルヌ』が、鞘に納まって転がっている。
だがあの夜、おぞましい異空間で亡者たちに白濁の海に沈められた時から、その剣の力を引き出す事は出来なくなっていた。

唯を助けるべく水に飛び込むか。しかし今の自分が行った所で、犠牲者が増えるだけではないのか…
鞘に収まった剣を拾い上げ、アリサは逡巡する。
その時、上空から……

「あああぁぁああああっ!!!」
「え…!?……きゃあああ!!!」
…ドゴッ!!!

……魔法少女が降って来た。

「なななな……一体何ですのっ……!?」

強い衝撃でリングは大きく揺れ、プールが激しく波打つ。
危うくプールから落ちそうになる中、どうにか持ちこたえたアリサが見たものは……

「あっ…ぐ………ひ……『ヒール』っ……!」
クレーター上にへこんだリング中央で、苦し気に呻く魔法少女の姿。
痛々しくはれ上がった右肩に手を当て、回復魔法を詠唱する……

(どくんっ……!!)
「や、あ、んっ……く、んうぅぅんっ……!!」
だが首に巻かれたネックレスから毒々しい紫色の光が放たれると、
癒しの光は見る間に霧散して消えてしまった。

「ぜぇ…ぜぇ…はっ…っく……!!」
右脚を引きずるようにして、やっとの事で立ち上がる魔法少女。
苦し気に息を漏らすその顔に、アリサは見覚えがあった。
「あれは…確か、王下十輝星に襲われた時、一緒にいた……市松鏡花…!?」


496 : 22/2? :2017/07/19(水) 04:03:16 ???
「貴女は唯ちゃんの友達の…元に戻ったんですね!…でもここは危険です。早く逃げてください…!」
「そ、それはわかってますけど……唯達が、まだプールの中に…!!」
会場内のスクリーンに、水中の様子が大写しにされていた。
唯と瑠奈、そしてアイセ…は、アリサはその素性を知らないが…とにかくその三人が、水中で魔物に襲われているのだ!

「……唯ちゃんと、瑠奈……私が必ず、助け、ます………大丈夫…私を、…魔法少女を……信じて……」
「でっ……でも…無茶ですわ!そんな体で!………」
鏡花は明らかに体力を消耗している上、右肩に重傷を負い立っているのがやっとの状態。しかも……

「ふふふ……この私が、行かせるとでも思って…?」
…上空を飛ぶもう一人の魔法少女は、既に追撃態勢に移っていた。

「<灼熱の紅玉>『ルビー・オブ・ファイア』…<疾風の翠玉>『エメラルド・オブ・ウィンド』…!」

「…いけないっ…アリサさん、私の後ろに隠れてっ!!」
「え、な……ななな、何ですの、あれはっ!?」

「……喰らいなさい。魔石合成術『フレアトルネード』!!」
「(右腕が、上がらない…!)…っ……『プロテクト……シールド』………っ!!」

(ゴオォォォッ……!!)
灼熱の炎を纏った竜巻が、リング全体を焼き払っていく。
なんとか魔力障壁を張った鏡花だが、カレラの放った合成魔法の威力は凄まじく、
左手だけではいつまでも防ぎきれないだろう。

「ちょ…ちょっと、大丈夫ですの!?…そうですわ、プールに飛び込めば……」
…飛び込めば、魔法少女である鏡花はともかく、アリサはたちまち魔物の餌食になるだろう。
つまり、鏡花が必死にシールドを張ってカレラの魔法を防いでいるのは…
(…わたくしを、守るため…?…どうして、ここまでして……)

「くすくす……『ウィークネス・ベリル』を付けた左手で、よく頑張るわねぇ。でも……これならどう?」
指輪に接吻するカレラ。鏡花のネックレスが三度、妖しい光を放ち始め…

(どくんっ…!!)
「んぐっ…!!…っう……あ…ふ…っ……ああ、っ……!」

苦し気な、そしてどこか悩まし気な声を漏らす鏡花。魔力の障壁に、みしみしと亀裂が入り始める。

…魔法使いにとって命ともいえる魔力。それを何らかの手段で無理矢理奪われた時、
それと引き換えに強烈な快楽にも似た感覚を覚えるという。
しかしそれは、削り取られていく精神の痛みをごまかす為、脳内麻薬によって引き起こされる偽りの快楽に過ぎない。

そしてその偽りの快楽は…満身創痍になり苦痛の海に喘ぐ鏡花にとって、
「この快楽に屈してしまえ」「身をゆだねて、楽になれ」という悪魔の囁きにも聞こえていた。

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……う、ああああっっ…!!」
しかしそれでも、鏡花は重傷の右腕を気力で持ち上げてシールドを再展開し……

「フフフ……まあ、この位にしてあげましょうか」
……とうとう、と言うべきか……カレラの『フレアトルネード』を、最後まで耐え抜いた。


497 : 名無しさん :2017/07/20(木) 15:00:51 C7U33aAs
ステラたちが会合に向かって1時間が経ったころ、リザとミストは波打ち際に建てられたパラソルの下で海を眺めていた。
「イェーイ!水着持ってきて良かったー!」
レオは、自分で持ってきた水着で海水浴を楽しんでいる。
「レオは準備いいわねー。こんなことならあたしたちも水着持って来れば良かったね。」
「うん……会合、私たちも出るのかと思ってたから、持ってこなかったね。」
「ま、明日はみんなで遊園地が決まってるし、今日は我慢しましょ。あいつが調子に乗って溺れないように見てないといけないしね。」
真夏の太陽が差し込む砂浜はもちろん暑いが、カラッとしていて不快感はない。
夏の日差しの下で美少女たちは、海で遊ぶ弟をぼんやりと眺めていた。

「てかずっと思ってたけど、今日のリザの格好、めっちゃかわいい!洋服どこで買ったの?」
ノースリーブのフリル付きの白いトップスに、長めの白スカートを履いている夏らしい装いのリザ。
夏の青い海に真っ白な服がよく映えていた。
「えっと、ジャミュールっていうブランドだったかな。私コーデとかよくわかんなくて、友達が好きなブランドの店について行って、選んでもらったんだ。」
「いいセンスしてるわよ、その友達。好きな男の子と遊びに行くときは、それ着ていくといいよ。」
「そ、そんな人いないよ……お姉ちゃんの服も、大人っぽくて綺麗だよ。」
ミストは水色のワンピースに身を包んでいて、こちらも夏らしい涼しげな格好である。
「ありがと。でもなんかなー……リザに綺麗とか可愛いとか言われてもしっくりこないんだよね。どう考えてもリザの方が綺麗な顔してるし。」
「そ、そんなことないって!お姉ちゃんの方が背が高いし綺麗だよ!」
「いやー、あたしには女らしさっていう大事なものが欠如しちゃってるからさ。リザはほんと可愛い性格してるよ。ガサツじゃないしいつも落ち着いてるし。」
「せ、性格の問題なのかな……ん?あの人……」
リザの視界の端に入ったのは、先ほど挨拶回りをしていた時に見つけたアウィナイトの男だった。

「お姉ちゃん。さっき見かけたあの人……柄の悪い男の人と話してる。」
「あれ?会合始まってるのに何やってんのかしらね。……まあ別に気にしなくてもいいでしょ。あの柄の悪い人もグラサンの下は青い目かもしれないし。」
「……そうかな。」
目つきの悪いアウィナイトの男は、柄の悪いグラサン男から何かを受け取っているように見えた。


498 : 名無しさん :2017/07/21(金) 15:08:40 ???
怪しい男たちが去った後、ミストはおもむろに自撮り棒を取り出した。
「リザ、一緒に写真撮ろ!レオ見ててもつまんないし、せっかく可愛い格好してるんだからさっ。」
「わ、お姉ちゃんそんなもの用意してたんだ!」
「へへ〜!明日の遊園地で、これ使ってみんなとの写真いっぱい撮ろうと思ってさ。あたしもなかなか役に立つでしょ?」
ミストはシュルシュルと自撮り棒を伸ばして、寝転がっている2人を写すようにカメラを上に固定した。
「リザ、あたしにくっついて。仲良し姉妹感100パーセントの写真にしよっ!」
「うんっ!」
カメラに収まる金髪碧眼の美人姉妹。ミストは顔を斜めにして軽くウインクをしながらシャッターを切った。
「さて、リザのキメ顔はどんなのかなー……って、珍しく満面の笑みじゃん!アハハハハッ!」
「え?……だ、ダメなの?」
「普通こういうときは顔斜めにするとかさー、色っぽい顔した方がイン◯タ映えするよ。ま、思いっきり笑ってるリザもすっごく可愛いからいいけどね。……えいっと!」
自分の写真写りを綿密に確認したミストは、「かわいい妹と海なう!」という呟きに写真を添付してネットの海に呟いた。
「あー!お姉ちゃん今呟いたでしょ!私の写真のせないでよー!」
「いいじゃんいいじゃん!うわっさっそくリポスト10回された!あははっ!これバズったらどうしよっか〜!?」
「け、消して!恥ずかしいから消してぇっ!」
「恥ずかしくないってー!リザの可愛さを世界に発信してやんなきゃ世の中のためにならないでしょー?ほら、ミストちゃんの妹かわいいってめっちゃコメント来てるよー?」
「私はそんなこと望んでないから!別にそんなに可愛くもないし!早く消してよぉー!」
「えへへ、やだー!逃げるもんねー!待ち受けにもしちゃおー!」
「もおおぉー!いい加減にしてよお姉ちゃんっ!」
強い日差しの差し込む砂浜を駆け出す笑顔のミストと泣きそうなリザ。そんな2人のキャッキャウフフな光景を見るレオはどこから遠い目をしていた。
(……姉ちゃんもリザも美人すぎて困るぜ。まぁ俺たちの種族はみんな美形だから仕方ないけどさぁ……)
「レオー!あんたにも写真見せてあげるからおいでー!」
「……し、しょーがねーなー!見てやるよ!てか俺も混ぜろよ!」
「お、あたしたちに囲まれてる写真で友達に自慢する気だな〜?このエロガッパ!」
「ち、ち、ちげーーーーしっ!ただ兄弟3人で写真撮りたいだけだし!」
「はぁ、はぁっ……し、写真撮るのはいいけど……不特定多数の人に見せるのはやめてぇ……」
今この瞬間、リザは家族との最後のひと時を謳歌していた。
そして運命の歯車は、ここから彼女を地獄に叩き落とす——


499 : 名無しさん :2017/07/22(土) 01:19:21 ???
「ベルガ殿!まずは私が魔法で牽制します故、そこに仕掛けてくだされ!デイヴ殿は追いつき次第追撃を!」
「へへ……上玉3人、ぶっ潰してやるぜ!」
「ベルガ!オラの仕事も残しておくっぺよ!」
「はん!だったらもっと急ぐこったな肉厚!」
「いきますぞ……!ダークバレット!」

ランディの放った闇の弾丸が、ミライたちを乗せた馬に迫る。

「く……!エールさんすいません!一旦治療を止めます!プロテクトシールド!」

リリスの怪我を回復魔法で一通り治療したミライは、そのままエールの両腕の傷も治療し始めていたが、後方から迫りくる黒騎士が魔法を放ってきたのを確認し、防御魔法を発動させる。
だが、闇の弾丸は魔法の障壁にはぶつからず、その下の地面へと着弾し……地面が爆発し、爆風に煽られたミライたちを乗せた馬は転倒してしまう。

「あぅう!?」「ぐぁ!」「痛っ!あれ、ここは……?」

馬が転倒すれば、当然乗っていた三人も地面に投げ出されることは必至。だが不幸中の幸いにして、その衝撃でメデューサに切り刻まれた際に気絶していたリリスは目を覚ました。

「将を射んとする者はまず馬を射よ……というやつですな」
ただ馬を射ったのでは防御魔法に防がれただろうが、敢えて直接馬を狙わずに地面を撃ち、爆風による馬の転倒を狙う。頭脳派騎士の名は伊達ではないのだ。

「ナイスだぜ風雪!さぁて……一回リリスの奴をぶん殴りたいと思ってたところだ!」

魔爪ディアボロスを振りかざしながら、ベルガは馬の横腹を蹴って転倒した三人に一気に迫る。

「く……!ミライ!魔法で牽制!王女様は私の後ろに!」
「貴女は確か、エールさん……!お気持ちはありがたいですが、私だけ戦わないわけにはいきません!今は力を合わせるべきです!」
「お馬さん、ごめんね!フォトンバレット!」

リリスとエールがそれぞれ槍と剣を構え、ミライが魔法を放つ。完璧な迎撃態勢かと思われたが……

「だらぁ!!」

ベルガは馬の背を踏みしめて跳躍。ミライのフォトンバレットを悠々と飛び越え、リリスとエールの真上に到達。

「ウィンドブロー!」

そのタイミングで、ランディが魔法を発動。かつてドロシーがヴェロスと戦うリザを援護した際に使ったのと同じ魔法であり、味方の移動補助を主な目的とする風魔法である。
その魔法により、ベルガは空中で静止していた。

「地の利を得たぞ!……なんつってな!」

古来より、戦いというものは制空権を制した方が勝利すると相場が決まっている。空中で悠然と佇むベルガに、否が応でも三人の警戒が集中した時。

「デイヴ殿!今が好機ですぞ!」
「分かったっぺ!」

警戒がベルガに集中したタイミングで、遅れて付いてきていたデイヴが集団に追いつき、戦槌を振りかぶって迫りくる。と同時に空中で静止していたベルガも一気にミライたちへと迫る。

ランディの指揮によって、血気盛んなベルガと馬の足の遅いデイヴが正面と空から二点同時攻撃を繰り出してきたのだ。


500 : 名無しさん :2017/07/22(土) 17:31:39 ???
「ガハハハハ!!ガハハハハ!!男は殺せ!ただし目は傷つけるな!女はなるべく丁重に扱えよ!高級品だからな!」
「ボス!その、捕らえた女をヤっちまいたいんですが、それはいいっすかね?」
「ああ、顔に傷さえつけなければいくらでもヤっていいぞ!ただし、処女はそのままにしとけよ?高く売れるからな!」
「さっすがー!ボスは話が分かるー!」

「いやあああああああああ!!!」

リザたちが海辺で兄弟仲良く楽しんでいる頃、アウィナイトの集会所は地獄と化していた。
突如として、100人足らずほどの武装集団が襲撃を仕掛けてきたのである。
受付係として集会所の外にいた数名のアウィナイトは既に捕まり、男は目を抉られ、女は犯されていた。

「長老様!賊が、賊が我々を狙ってきています!」
「なぜ、なぜアウィナイトにしか知らされていないこの集会を!?まさか、裏切り者が……」
「静まるのじゃ!今は逃げることだけを考える時!男衆は武器を持て!女衆は早く逃げろ!ミゲルとステラは、子供を迎えに……」

「ぐへへへへ……アウィナイトが集まってるのは……ここかぁ!」

長老の指示が終わるよりも早く、賊が集会所の扉を蹴破り、手下共が続々と入ってくる。

「遅かったか!ステラ、君は逃げろ!」
「そんな……あなた!」

アウィナイトの歴史は迫害の歴史。不幸中の幸いとも言えぬようなことであるが、こういった緊急事態時の避難には手慣れたものがある。
男は武器を持ち、女子供や老人は裏口から逃げる。犠牲者は当然出るだろうが、それでも大勢が逃げられる……はずだった。

「ガハハハハ!馬鹿が!裏口は当然押さえてんだよ!お前らの常套手段は、こちとらまるっとするっとお見通しだ!」

裏口にも回っていた賊の集団が、逃走しようとしていた女と老人のアウィナイトに立ち塞がる。

「ジジィとババァは置いといて……まずは女だぁあああ!!」
「ゲヒャヒャヒャヒャ!!犯せ犯せー!」
「まずはヴァージンチェックを忘れずにー!」

賊は老人たちはあまり金にならないし楽しめもしない老人たちをひとまず捨て置き、女たちを犯しにかかる。

「きゃあああああああああ!!!」

当然、ステラもその毒牙にかかり、後ろから羽交い締めにされ、前から服を破かれた。

「こいつは非処女!ヤってよし!」
「は、離して!私には夫が……!」
「しかも人妻かよ!これは燃えるな!」

「ステラぁああああああ!!貴様ら、ステラを離せぇえええええ!!」

ステラの危機を見て、手に武器を持ったミゲルが駆け寄ってくるが、非力なアウィナイトの宿命か……あっという間に、四方から槍で串刺しにされてしまった。

「ぐは!?す、ステ………ラ……」
「いやああああああああ!!!あなたぁあああああああ!!」
「ほう、そいつがアンタの夫か……へへへ……そりゃ!」
「ひ!?」

槍で串刺しになった夫を見て泣き叫ぶステラに、賊はいやらしそうな顔をすると……ステラの股座を一気にまさぐった。

「ゲヒャヒャヒャヒャ!!夫が死にかけてる目の前で、アンアン喘がせてやるよ!」
「人妻属性と見せかけて未亡人属性とか、ちょっと盛りすぎちゃう?」
「い、いや!あ、や、やめ、やん!止めてぇ……!っぁん!」
「おいおい、そんなに喘がれると……挿れたくなっちまうなぁ!?」
「ひ!?だめ、そこは、そこだけは……!そこは、あの人だけの……!いやぁあああああ!!!」

槍で串刺しにされたミゲルが最期に見たもの。それは、盗賊たちに犯され、嫌がりながらもどこか官能的な悲鳴をあげる、自らの妻の姿だった……。


501 : 名無しさん :2017/07/22(土) 19:10:02 ???
「さて、そろそろ会合も終わってるだろうし、集会所まで戻ろうか」
「えー、もうちょっと遊ぼうぜ」
「こら、我儘言わない……リザ?やっぱり顔色が悪いわよ?大丈夫?」
「う、うん……大丈夫だよ……」

姉と兄と自分、三人で海辺で遊び倒し、とても楽しい時間を過ごしたリザ。だが、集会所に戻る時間が近づいてくるに連れ、彼女の胸中にある嫌な既視感は増すばかり。

「はしゃぎすぎたか?リザも子供っぽいところあるんだな」
「いつもはしゃぎすぎてるのはアンタの方でしょレオ……とにかく、早く戻ってリザを休ませましょ。明日の遊園地に響かないようにね」
「うん、そうだね……遊園地、楽しみだね……」

そう、遊園地は楽しみだ。兄がはしゃいで、それを姉が窘めるけどやっぱり姉もはしゃいでいて連れ回されて、そんな子供たちを見守る両親……。きっと、絶対楽しい。

「んじゃ、戻るか……へへ、具合が悪いんなら負ぶってやろうか」
「こら、アンタはリザの身体触りたいだけでしょこのエロがっぱ」
「ち、ちげーし!流石に妹にそんなこと思わねーし!」
「ふふ……」

家族のいつも通りのやり取りを見ていても、リザの心は安らかない。それどころか、何か焦燥感が増すばかり。

一歩集会所に近づく毎に、これ以上進んではいけないと心のどこかが叫びをあげる。
だが、どうして進んではいけないのかが分からずに、ざわつく心を押さえつけながら集会所に近づいていく。

「あれ?なんか煙上がってない?」
「ほんとだ。炊き出しでもしてんのかな?へへ、俺ちょっと腹減ったから先に行ってつまんでくる!」
「あ、こら、レオ!」

(そうだ……前もこんなことがあった……煙が上がってるのを見て、炊き出しかと思ってお兄ちゃんが走っていって……それで……それで……!)
「お兄ちゃん、ダメ!」
「ちょ、リザ!?どうしたの!?」

急にレオを追って走り出したリザを見て、ミストは驚いたような声をあげる。
だが、リザは自分でもなぜ走っているのか分からない。だけど、ここで兄を見送ったら……何か、取り返しのつかないことになると思って……。


502 : 23/2? :2017/07/22(土) 19:38:12 ???
「ふふふ…鏡花ちゃんたら、無理しちゃって。後ろの金髪の子…貴女にとっては赤の他人でしょうに」
炎の嵐が収まった後、火の粉をふわりと舞い散らせながら優雅な仕草で地上に降り立つカレラ。
…ここまで殆どの魔法を魔石の力で行使しているため、本人の魔力の消費は殆どない。

<いいぞー褐色ねーちゃーーん!>
<金ぴか魔法少女のおっぱい晒しちまえ〜〜!!>
<いやいや、プールに落として触手プレイだー!!>
<ぬーがーせ!><ぬーがーせ!><ぬーがーせ!>
<おーとーせ!><おーとーせ!><おーとーせ!>

「…ちょっと貴女……だ、大丈夫ですの…!?」
「…うっ…ぐ……っ……大、丈夫です…危ないから、下がってて……」
対する鏡花は、体力も魔力も底をつきかけていた。

「…はぁっ…はぁっ……大丈夫……わたしは…魔法少女なんだから…
…唯ちゃんを…瑠奈を、…ルミナスのみんなを…助けなきゃ…」

肩を貸そうとしたアリサの手を振り払い、傷ついた肩を苦し気に押さえ、
下衆な罵声と卑猥な視線を浴びせられ…それでも希望を捨てず、魔法少女は立ち上がる。
だがその姿は、アリサの目から見ても…明らかに限界だった。


「………はぁっ…はぁっ…ごほっ…!!……この、化け…物っ…!…唯を、放しなさいよ…!!」
「んっ………あ、ぅ………く、うん……」

<ワアアア!!いいぞー!><そのまま呑みこめぇー!!>
<ユーイ!!ユーイ!!><瑠奈ちゃんのおっぱいのみてええーー!!>
「うひ、ひひひ…ズタボロ美少女2名様、丸呑みツアーにご案内〜〜……ひひひっ…!」

一方。プール内では、巨大なウミヘビ型の魔物が、気を失った唯の身体を今にも呑み込もうとしていた。
それを救出しようと奮闘する瑠奈だが、新たに会得した斬撃技を繰り出す力はもう残っていない。

「唯ちゃん!瑠奈っ!!……くっ…」
…それを見た鏡花は、二人を助けに行くべきかどうか…
…だがこの場にアリサを置き去りにすれば、間違いなくカレラに襲われてしまうだろう…
……一瞬、迷った。そしてその一瞬を、カレラは再び突いてきた。

「…あらあら。この期に及んで、まだよそ見するだなんて…つくづく舐められたものねっ!!」

「…っ……きゃあっ!?」
瞬間移動で一気に間合いを詰めるカレラ。
これまでに3度、鏡花に呪いのアクセサリを着けさせたのと同じように、
死角から4度目の奇襲を仕掛ける!

(ガキィィィン!!)
雌豹の如くしなやかな右脚から繰り出された、カレラの強烈な蹴り……
強化の魔石『インパクト・クォーツ』のアンクレットが6重に巻かれた巨岩をも砕く一撃は……

「…鏡花さん、一人で何でもかんでも抱え込み過ぎですわ。
いくら魔法少女と言えど…一人の力で出来る事には、限界があるものよ」

……アリサの持つレイピア「宝剣リコルヌ」の鞘によって受け止められた。


503 : 名無しさん :2017/07/23(日) 01:20:55 ???
「な、なんだよこれ……」
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「レオー!リザー!待ちなさーい!」
「リザ!姉ちゃん!来るな!見ちゃだめだ!」
「何を言って……え?」

集会所の近くまで戻ったリザたちが見たもの。それは燃える集会所。そして……

「気持ちいいぜ!流石アウィナイトは高級性奴隷だな!超気持ちイイ!」
「ひゅー!こいつのマ〇コの締まり、最高だぜ!」
「いやぁ……!見ないで、あなたぁ……!」
「そうかそうか、犯されてる姿は旦那に見られたくないか……なら特別サービスで旦那の目を抉ってやる!感謝しろよ!」
「ぐ、がぁああああ!!目、目がぁああああ!!」
「いやぁああああああ!!あなたぁああああああ!!」

大勢のアウィナイトが、武装集団に襲われ……男は目を抉られ、女は犯されている光景であった。
燃える集会所の近くには何かが山積みにされており、順々に燃える集会所の中に放り込まれている。その何かの正体が、目を抉られた男の死体であることに気づいたリザは……気がついたら嘔吐していた。

「っう……!ぐ、おえぇえええ!!」
「リザ!」

吐瀉物で汚れるのも厭わずに、ミストがリザを抱きしめて目を隠す。だが、そのミストの手も震えていた。

「か、母ちゃん……?父ちゃあああああああん!!」
「え……?う、噓よ……噓よぉおおおおおおお!」
「お兄ちゃん!お姉ちゃん!お父さんとお母さんがどうしたの!?……え?」

しばらくして、レオとミストが信じられないものを見たような悲鳴をあげ、リザの目を塞いでいたミストの手が離れる。ミストは思わず、両手を頭につけて崩れ落ちてしまったのだ。
視界が解放されたリザは、吐き気を我慢して必死に惨劇の中に両親の姿を探す。

そしてリザは見つけてしまった。
死体の山の中に埋もれる父の姿を。武装集団に裸に剥かれ、輪姦されている母の姿を。

「お!?あんな所にガキのアウィナイトが3人もいるぞ!しかも2人は女だ!」
「ガキ、特に処女は高く売れる!追え!捕まえろ!」

呆然としているところを、賊に見つかってしまう3人。あれだけ悲鳴をあげれば当然であった。

「え……?い、いやぁあああああ!!みんな、逃げてぇええええ!!」
「いってぇ!おい!俺のイチモツ咥えてる時に喋るんじゃねぇよこの女!」
「がは!?」

そしてそのことに気づいたステラは喉が裂けんばかりの声で逃げてと叫ぶ。だがそれは、ステラの口に男性器を無理矢理挿れていた男の逆鱗に触れ……顔に傷はつけないように、腹部を思い切り蹴り上げていた。


「い、いや……!お父さあああん!!お母さああああん!!」
「リザ!行っちゃだめ!逃げるのよ!」
「離して!このままじゃお母さんが……!」
「姉ちゃん!リザを連れて逃げろ!俺が時間を稼ぐ!」
「馬鹿!なにカッコつけたこと言ってんのよ!ヒーローごっこも大概にしなさい!」
「このまま逃げてもすぐ捕まるだけだ!男の俺が頑張んなきゃいけないんだよ!」

「おお?腰が引けて逃げられないのかぁ?こりゃあ仕事が楽でいい!」
「あのくらいの歳なら、まぁ多分処女だろ!こいつぁ金になるぞ!」

言い争っている合間にも、賊はリザたちの元へ近づいてきている。
それを見て、弟を見捨てることをギリギリまで認められなかったミストも覚悟を決める。

「早く逃げろ!間に合わなくなる前に!」
「レオ……!ごめん、ごめんね……!」
「お姉ちゃん!?ダメだよ、お兄ちゃんを置いていくなんて!」
「長男は家族を守るもんだってよく言うだろ!行け!」
「絶対……!絶対生き残る!あんな奴らに、私たちを……アウィナイトを滅ぼさせなんてしない!」
「だめ!だめだよ!お兄ちゃんも一緒に……!」
「リザ!来なさい!レオの想いを無駄にしちゃダメ!」
「いや!いやぁ!離してお姉ちゃん!お兄ちゃああああああん!!」

泣き叫ぶリザの手を引いて逃げるミスト。だが、ミストの青い瞳からもまた、涙がとめどなく溢れていた……。


505 : 名無しさん :2017/07/23(日) 13:58:10 ???
「おい、女のガキが逃げたぞ!最上級の獲物だ!絶対に逃すなっ!」
逃げ出したミストと手を引かれているリザを逃すまいと、女たちを犯していた男たちは勢いよく走り出した。
「ミスト……レオ……リザ……!」
「へへ、お前の娘か。あっちには息子が残ってるぜ。3人ともとっ捕まえて同じ目に合わせてやるから、覚悟しろよ!ギャハハハハハ!」
「……せない……!」
「あ?」
「娘たちに……手は出させないっ!!!」

ガブッ!!!
「ぐえおおおおおおおお※★♡?◯✖︎△□!!!!」
声にならない声で盗賊は悲鳴をあげる。
目の前にぶら下がっている、油断しきった盗賊のペニスにミストは思い切り噛み付いたのだ。
「レオ!!!あなたも逃げなさいッッ!!こんなところで絶対に死んではだめッッ!!」
「うお、あの女目がやべえぞ!さったさと取り押さえろっ!」
鬼の形相でレオの元に向かうステラの体を、残った盗賊たちは一斉に取り押さえようと駆け寄った。
「おらっ、大人しくしろこの人妻!……いや、今は未亡人、か。ゲハハハ!」
「離せえええーーッッ!!うああああああああああッ!!!」
「こいつ、アウィナイトの女のくせになんて力してやがる……4人で抑えるのがやっととはな。」
「母は強し、ってやつか。けっ、強いったって所詮は息子娘1人守れないがな。ヒヒヒヒッ!」
「見ろよ、こいつの表情。裸で泣きながら喚いてやがるぜ。弱小民族らしい哀れな姿だよなぁっ!この性奴隷がッ!」
「やめてえええええ!!私はどうなってもいいからぁッ!!!娘たちだけはッ!娘たちだけはああぁッッ!!」
「何言ってんだ。あの娘たちは俺らを満足させるために産んだんだろぉ?もちろんお前もなぁ!」
「おい、あいつらは処女だから挿れんのはダメだぞ!売りもんだからな!」
「うッ……!うああああああああああああああああああッッッ!!!」

男4人に体を弄られ、胸を掴まれ、叫ぶ口を口で塞がれてもなお、ステラは激しい抵抗を辞めなかった。
だがステラが抵抗して声をあげればあげるほど、男たちの興奮も高まって行く。
そんなステラの叫び声を聞きながら、レオはリザたちを追う盗賊たちと格闘を繰り広げていた。
「でりゃあああああっ!!!」
「ぐあっ!こいつ……アウィナイトのガキのくせに生意気に抵抗してんじゃねえぞッ!」
「うるせえっ!母ちゃんも姉ちゃんたちも俺が守る!ここから先は一歩も通さねえぞッ!!!」


506 : 名無しさん :2017/07/23(日) 18:58:41 ???
「おらぁ!どけやこのクソガキ!」
「ご、が!げぐ!ぜ、ぜってぇ通さねぇ!うらぁ!」
「ぐぎゃ!?」

レオは賊と互角に戦いを繰り広げていた。家族を守る。ただそれだけを胸に、必死に相手の顔にパンチをお見舞いし、腹に膝蹴りを喰らっても屈せずに頭突きを返す。

幸い、リザたちが通ってきた道は狭い一本道であり、レオが立ち塞がるだけでかなり賊の邪魔になっている。
賊たちは整備されていない道を無理矢理通って先回りすることもできたが、レオがたった一人で立ち向かっているのが幸いした。アウィナイトの少年一人程度、すぐに殺して真っ直ぐに少女たちを追おうという浅慮をしてくれたのだ。

賊はレオの予想外の粘り強さに手惑い、そうこうしているうちにミストとリザはどんどん離れていく。

「たく、たかがガキ一人に何を手間取ってやがる」

だが、レオの粘りも、賊の頭領が現れるまでだった。

「ぼ、ボス!すいやせん!このガキアウィナイトの癖に中々やりまして……」
「ふん……お前らも少しは頭を使え……こんな風に、な!ゲハハ!!」
「な!?」

賊の頭領が下卑た笑いをあげながら掲げたもの、それは……

「母ちゃん!?」
「レオ……逃げて……」

裸に剝かれ、股からはドロドロとした液体を絶え間なく流し……首根っこを掴まれている、ステラであった。

「俺は損得勘定のできる大人だからな……あのガキ二匹を捕まえるためなら、大人のアウィナイト一人をうっかり殺しても、十分元は取れるよなぁ」
「て、テメェ……!」
「おっと、動くなよ。動いたらこの女の首……折れるぜ」
「レオ……私には構わないで……!」

ステラを人質にして、レオの動きを封じた賊の頭領。頭領は傍らの手下に命令を下し、弓矢を番えさせる。

「さて、今から俺の手下が矢を放つが……お前がそこから一歩でも動いて避けようとしたら、この女の首を折る」
「ぐ……!卑怯だぞ!正々堂々と勝負しやがれ!」
「おっと?いいのか?そんな生意気な口を聞いて?」

頭領はステラの首を掴んでいる腕に、力を込める。

「な!?や、止めろ!止めてくれ!」
「はぁ……!はぁ……!子どもの……足手まといになるくらいなら……!いっそ!」
「おっと、そう急くなよ」
「ふが!?」

自分が人質にされたせいで、このままではレオがなぶり殺しにされてしまう。それならばいっそ舌を噛んで自害しようとしたステラだが……その最後の抵抗すら、口に詰め物を入れられただけで叶わないこととなってしまう。

「母ちゃん……!」
「ゲヒャヒャヒャヒャ!アウィナイトってのは本当に扱いやすいなぁ……!やれ」
「アイアイサー」

そして、頭領の無慈悲な号令によって、手下が弓矢を放ち……レオは避けることもできず、その場で矢を喰らうしかなかった。

「ぐ……!」
「うっかり目に当たったりしたら商品にならないところだが……動かないおかげでその心配もねぇなぁ!?」
「ふごごーー!!へお、へおおおお!!」
「ブヒャヒャヒャ!!この女、すっげぇ声あげてるぜ!野郎共!もっと矢を射かけろ!難易度ベリーイージーの的当てゲームだ!」

ひゅんひゅん、と次々に矢が飛んでくる。その気になれば躱すことも不可能ではないだろうが……自分には母を見捨てられない。
なら、自分ができることはただ一つ。
死ぬまでここに立ち続けることだ。自分が長くこの場に立って賊たちにふざけた遊びをさせればさせるほど、リザとミストが逃げる時間は多くなる。

「はぁ……!ぎ、がああ……!はぁ……!捕まるなよ……リザ……姉ちゃん……ゲボ、ゲボ……!母ちゃん……!どんな形でもいいから、生き……て……」

少年の身体に不釣り合いな矢が次々と刺さり、目以外はハリネズミのようになったところで…!レオは、その若い命を散らした。


508 : 名無しさん :2017/07/23(日) 23:52:53 ???
「はぁっ……!はぁっ……!お姉ちゃんっ……ちょっと、止まって……!」
「はぁっはぁっ……!リザ……」
走った距離もわからないほど全力で走った2人。リザは足がもつれて動けなくなり、ミストに足を止めるよう促した。
無我夢中で妹の手を引いて、ミストが駆け込んだのは海辺の洞窟。
こういう場所には恐ろしい魔物が生息しているかもしれないが、見通しのいい砂浜よりは隠れやすいだろう。
今怖いのは魔物なんかよりも、人間の方だった。

「お姉ちゃん……戻ろう。お母さんたちを見捨ててこのまま……逃げるなんてできないよっ……!」
「ば……馬鹿っ!あんなところに戻ったって捕まって終わりでしょ!?なんのためにお母さんとレオが……私たちを逃がしてくれたと……ううっ……!」
そこまで話してから、ミストの感情に限界が訪れた。
妹の手を引いていた時はそれしか考えられなかったが、止まった途端に大切な家族を失った悲しみが津波のように押し寄せてきてしまったのだ。
「ひぐっ……ぐすんっ……!お父さん……!おかあさんっ……レオおぉ……!うっうぅっ……!」
「お姉ちゃん……ぐすっ……私たち、何か悪いことしたの……?どうして……どうしてこんなことになったの……?」
「リザ……あなたは何にも悪くない。悪いのは……この世界よ……!」
「ぐすんっ……!お兄ちゃん、遊園地の乗り物全部乗るって張り切ってたのに……!母さんは、遊園地のチュロスを食べるの、ずっと前から楽しみにしてたのに……!」
「リザ……やめて……!」
「……父さんはぁッ!遊園地の帰りに私たちのために美味しいステーキの店を予約してくれてたのにッ!!どうしてこうなったのッ!?もういやあああああああッ!!!」
感情のリミッターが外れたリザのけたたましい悲鳴が、洞窟中に響き渡った。



「ここにいるぞ!探せ!」
リザが悲鳴をあげた直後、洞窟の入り口の方で野太い大声が聞こえた。
どうやら、すでに洞窟に入っているらしい。
「しまった……!リザ、逃げるわよ!」
「んぐっ……もうやだよ……こんなのもうやだよぉ……!」
「し……しっかりしてよ!いつものしっかり者のあんたはどこに行ったの!?今リザにそんなこと言われたら……わたし……!」
「お姉ちゃん……私もう走れないから、置いて行っていいよ……お姉ちゃんひとりなら簡単に逃げられるよ……」
「な……この馬鹿リザァッ!」

バシンッ!!!

洞窟内に響くほどのミストの強烈なビンタが、泣きじゃくるリザの頬に炸裂した。
「お……お姉ちゃん……?」
「1番チビのあんたが自分を置いていけなんて……そんなこと……そんなこと冗談でも言っていいことじゃないわよッ!さっさと立ちなさいッ!!」
いつもはレオとたわいもない喧嘩をしてばかりのミスト。
そんな彼女も1人の姉として、妹のリザを守る決意が揺らぐことはなかった。
(私が……たとえこの命に代えても、絶対にリザだけは守ってみせる!)


510 : 名無しさん :2017/07/24(月) 14:40:43 ???
「さっきの悲鳴はこの中から聞こえたぞ!手分けして探せ!」
「お嬢ちゃんたちー?どこ行ったのかなー?ヒャヒャヒャ!」

洞窟の入り口辺りから、盗賊たちの下卑た声が響き渡る。

「とにかく、洞窟を抜けてもっと遠くに逃げないと……!中にいたらそのうち捕まっちゃう!リザ!走って!」
「う、うん!」
「どこだぁ?隠れても無駄だぞー?」
「洞窟を抜けた先は、おっさん大富豪の性奴隷でした。ってか?ブヒャヒャヒャ!!」
「別になんも上手いこと言ってねぇじゃんかお前!アヒャヒャ!」

ミストは再びリザの手を引いて走り出したが、徐々に盗賊たちの声が近くなってくる。やはり女の足では屈強な暴漢から逃れるのは難しい。

「はぁ……!はぁ……!ダメ……!もう、走れない……!」
「リザ!乗って!おぶったげる!」
「そ、そんな……お姉ちゃんだって疲れてるんじゃ」
「いいから乗りなさい!」

体力の限界に達したリザを背中に背負い、ひたすら前へ前へと進む。ミスト自身の体力も既に限界を超えていたが、せめてリザだけは助けなければならないという執念が、彼女の足を動かしていた。

「いいのかなー?こっちに来ればさっき置いて行った兄ちゃんに会えるんだぜー?死体だけどな!」
「アウィナイトってのは扱いやすいなぁ!ちょっと母親を人質にしたらすーぐ抵抗止めてやがんだぜコイツ!」
「お嬢ちゃんたちにも見せてやりたかったなぁ!母親を人質に取られて、避けようとすることさえ出来ずに、俺らの弓でハリネズミみたいになるこの兄ちゃんの姿をよぉ!ガハハハハ!」
「あ、でも安心しろ!目だけは綺麗なままだぜ!とっくに抉り取ったけどな!」

後方から響く盗賊たちの声に、ミストは血が滲むほど強く唇を噛み締める。

「レオ……!アンタの想いは、無駄にはしない……!せめてリザだけでも」
「うう、ぐす……お兄ちゃん……!」

必死に走って洞窟の出口まで進んだリザとミスト。だが、その先に広がっていた光景に、二人は愕然とした。

「そんな……崖……!?」

洞窟を抜けた先は、崖になっていたのだ。
崖の下には海があるが、いくらなんでもここから飛び降りるのは自殺行為だ。

「そんな……ここまでだっていうの……!?」
「もう……やだぁ……!」

父を喪い、母は犯され、弟が自分たちを逃がすために死んだ。剃れでも生き残るために必死に走り抜けたミストだが、流石に心が折れかける。リザもミストの背中で絶望した声をあげる。


「洞窟はこっちに続いてるぞ!」
「ガハハハハ!追い込め追い込め!」
「追いかけっこもいい加減飽きてきたぜ!」

前には崖。後ろからは盗賊。盗賊に捕まって性奴隷にされるくらいなら……と、ミストは覚悟を決める。

「リザ」
「お、お姉ちゃん?」

ミストは背中におぶったリザを下ろし、ゆっくりと優しく抱きしめる。

「リザ、私がクッションになってあげる。その後はきっと……母なる海が守ってくれるわ」
「え……?お姉ちゃん、何を……」
「さぁ……いくわよ!」

リザを抱きしめた格好のまま、ミストが崖から跳んだ。二人の身体は、まっすぐに海へと落ちていく。

(レオがよくやってたゲームなんかだと、どんなに高いところから落ちても下が海だと無傷だったりするけど……そんなの実際にはあり得ない)

水面に叩きつけられた衝撃というのは、コンクリートにぶつかるのに匹敵するほどの衝撃だ。
だが、逆に言えば水面に叩きつけられた衝撃さえやり過ごせば、高所から落ちても傷は浅くすむのだ。

「私がリザの分まで……衝撃を受け止める!」

落下しながら、ミストは自らの身体を下に、リザの身体を上にした。これでリザの身体にかかる負担は最小限になる。
……そして、二人分の衝撃を一身に受けるミストの身体は、無事ではすまないだろう。


「お姉ちゃん……?まさか!ダメ!ダメだよこんなの!」
「こうするしかなかったの……大丈夫、リザは絶対守るわ」
「いやぁ!お姉ちゃんを盾にして生き残るなんていやあああ!!」

泣き叫ぶリザをギュッと抱きしめながら落下するミスト。その光景は、どこか幻想的で……その実、どこまでも残酷だった。


511 : 名無しさん :2017/07/24(月) 21:22:00 dauGKRa6
「ぼ、ボス!あいつら海の中に!」
「な、なんだとぅ!?この高さから落ちたってのか!?」

妹を抱きしめて落下する瞬間を、駆けつけた盗賊の1人がしっかりと確認していた。

「こりゃ助からないっすかねぇ……せっかくの若い女が……」
「チィ……まあいい。捕まえた奴らに他のアウィナイトの場所を吐かせればいいだけよ。さっさとずらかるぞ!」
「アイアイサー!」



「んっ……!ぷはぁっ!んんっ…………ぷはぁっ!」

リザを抱きしめて海面に強く体を打ち付けたミスト。しっかりと抱きしめていたリザの体には、ミストの思惑通り外傷がつくことはなかった。
身を挺して自分を守った姉の体を岩場に引き上げて、リザは人工呼吸と心臓マッサージを続けている。

「お姉ちゃん、起きてよ……!お願いだから目を開けて……!ひとりぼっちは嫌だよぉ……!お姉ちゃああんっ!!」

もう100回は口付けをした。同じくらい心臓を押した。
どんなに手を尽くしても、最愛の姉は目を覚まさない。
口元から血を流したまま、目を閉じてゆっくりと硬くなっていく姉の体を、リザはゆっくりと抱きしめた。

「お姉ちゃん……私、こんなの許せない……!私たちが弱いからって、私たちの目が青いからって……!こんな酷いことをするあいつらのことを、絶対に許さない……!」

冷たくなっていく姉とは対照的に、リザの心では怒りの炎が燃え上がってゆく。
怒りという感情。それも普通の怒りではない。
理不尽に家族を殺されたやり場のない感情は、今まで普通の女の子だったリザの精神をどす黒く蝕んでいく。
そして……この感情を覚えたのは、これが初めてではないことにリザは気づいた。

「あ……そうか……これは……この世界は……」
「やれやれ、やっと気づいてくれた?このままずっと続くかと思っちゃったよ。」

涙を拭い立ち上がったリザの前に、蛇蝎卿のリンネが、空間を切り裂いてゆっくりと現れた。


512 : 名無しさん :2017/07/24(月) 22:38:12 ???
「君もなかなか波乱万丈な人生だねぇ。ま、アウィナイトなんだし仕方ないか。」
「……くっ!」
「あぁ、テレポートは使えないよ?君の体には司教様の魔封じの印が付けられているんだからね。」
「それならッ!」

素早く跳躍してリンネに飛びかかるリザ。テレポートは使えなくても、彼女には鍛え上げた体術の心得がある。
この空間で体が動くか少し心配だったが、記憶を取り戻したせいか、身体能力は元に戻っていた。

「はああぁっ!」
「ひゃあっ!?ちょっ、やめてくださいっ!」

流れるような動きでリンネを組み伏せ腕を取り関節技を極めるリザ。だが、容赦無く技を極めているというのに、リンネは平然としていた。

「まさか……攻撃は効かないの……!?」
「あ、当たり前じゃないですか。ここはボクが作った空間なんですよ?だから無駄なことはやめてください。」
そう言った瞬間、リンネの体はリザの元から消え離れた場所へとワープした。

「まったく……ボクにあんまり変なことすると、女の貴方でも痛い目にあってもらいますからね。」
「どうして……私にこんな幻覚を……!」
「いやぁ……司教様がアウィナイトの泣き顔は綺麗って言ってたから、どんなもんかなぁと思ったんですよ。おかげさまで、じっくり堪能させてもらいました。」
「……そんなことのために……そんなくだらないことのために、こんな幻覚を……?」

後ろで横たわる姉を振り返り、リザは普段よりも低い声で問う。いくら幻覚とはいえ、最愛の家族をまたも残酷な方法で殺されたのだ。
リザの青い目が、今にも襲い掛かりそうな目力でリンネの黒目を強く睨みつける。

「顔が怖いですよ。とてもさっきまで泣いていた人とは思えませんね……きっとこの後も色々あって、性格も歪んじゃったんでしょうかねぇ。」
「黙れ……!黙らないと……!」
「殺せませんよ?もう忘れてるかもしれませんけど、そもそも貴方は拘束されてるんです。黒鋼卿の鎧のために血を抜かれて、あとは……性奴隷でしたっけ?」
「くうぅっ……!」
「あーあ、こんな可愛い女の子が性奴隷なんて、本当に可哀想……でも、そんな残酷な運命を変える方法があるかもしれませんよ?」
「……え?何を言って……きゃああっ!?」

リンネが意味深なセリフを喋った瞬間、突如リザの体は真っ白な十字架に貼り付けられた。

「ぐっ……!動けないッ……!」
「拘束具はついていないですが、絶対に動くことはできません。この空間ではボクはやりたい放題できるんですよ。……さて、本題なんですが。」

そう言うと、リンネは十字架の前へとワープして動けないリザを見つめた。
体も声も少女のようなリンネだが、目力は男のそれだった。先ほどまでと違う真剣な眼差しに、動かないこともありリザは少し気後れしてしまう。

「な……何をする気……?」
「ご安心を。他の黒騎士みたいに酷いことはしません。ただの交渉ですよ。」
そう言って、リンネは一歩前へ出る。



「ボクは……ナルビアのスパイなんです。」


513 : 名無しさん :2017/07/24(月) 23:36:03 ???
「……は?……ナルビアの、スパイ……?」
「ボクの持っているファントムレイピアは、ナルビアの科学の髄を極めて作ったものなんです。ま、それ以外にも信じてもらえる要因はありますよ……」

おもむろにタブレットを取り出し、動画を再生するリンネ。そこに写っていたのは、アルガスでのサキ救出の際に警備用モニタに写り込んでしまったリザの姿だった。

「トーメント王国、王下十輝星のリザはん。ナルビアの一部ではもう貴方の面は割れてるんです。……あ、ご心配なく。シーヴァリアの黒騎士たちには言ってませんから。」
「……どうしてナルビアのスパイが、こんなところに……」
「トーメント王国にだってナルビアのスパイはたくさんいますよ?ボクたちがトーメントやシーヴァリアに潰されないのは、こういう裏工作をしているからなんです。」
「……その割には、今ペラペラと全部喋ってるけど。」
「トーメントの工作員は精鋭揃いですから、絶対にわかるはずありませんよ。そしてこの状況に関しては、ボクは正体を明かして貴方と組みたいんです。」
「……それなら、どうしてこんなことを!!!」
「あぁ、司教には腕が鈍るとか言いましたが……これは上からの命令だったんですよ。貴方の心を徹底的に折るように……っていうね。途中までは幸せだったでしょう?」
(……ま、途中から司教にそそのかされてちょっとトラウマ引き出してみたら思ったよりえげつないことになっちゃったけど。)

リンネが言うには、普段は円卓の騎士の動向をナルビアへ伝える任務を請け負っているらしい。
リザと組む目的としては、鎧の完成の阻止と重鋼卿、ブルート・エーゲルの排除とのこと。

「あの男……中身がなかったのはどういうことなの?鎧だけで動いているの?」
「正確には、鎧の中の印です。かつて、錬金術師がそうしたように、あの鎧には伝説の騎士の魂が込められた印が刻まれているんですよ。……厄介なことにね。」
「……じゃあ、私の血で強い鎧が完成したら……」
「司教が印を新しい鎧へと再定着させて、完全無敵の重鋼卿の完成です。そうなるとシーヴァリアの軍事力は飛躍的に高まります。小国ならば重鋼卿1人で落とせるほどにね。」
「な……!」
「トーメント側としても厄介でしょう?ナルビアとしても看過できません。でも完成には貴方の血が必要……であれば、貴方に逃げてもらう他ない。でもただ逃がすわけには行きません。」
「……私の弱みを握ってるのは、そういうこと?」
「ご名答。この映像はこれだけでは王下十輝星のスピカだという証明にはなりん。元々正体不明の怪力男がそう言っただけなんですから……」
「……正体不明の、怪力男?」

もちろんその正体はライラの件で戦ったワルトゥなのだが、ナルビア側もその正体を掴んではいなかった。
ナルビアの貧乳ロボットたちを破壊したあと、行方をくらましてしまったのだ。

「でも、ボクは今こうして貴方と偶然会うことができて、本人確認を取ることができた。遠慮なくこれは王下十輝星のスピカだと公表することが可能になったわけです。」
「それが嫌なら……重鋼卿を倒せと?」
「ボクは自分の手は汚したくないですからね。敵性勢力の貴方を手駒にできれば、ボクがやりたくてもできないことを全部貴方に押し付けることができる。ま、そもそもこの拘束から逃れるためにも貴方は首を縦に振るしかないんですよ。」
「…………」

自明の理だった。そもそもリザがシーヴァリアに来た理由はアイベルトの捜索だったが、そこから様々あって今この状況になっている。
現時点で打開策としてあるのは、リンネの提案を飲むことだけだった。



「どうしますか?貴方が引き受けてくれるなら、すぐにでも現実世界に戻りますけど。」
「……いいわ。その提案……受ける。トーメント王国のためにも、私が必ず重鋼卿を倒す。」
「フフ、心優しい貴方ならそう言ってくれると思ってましたよ。リザさん。」
リンネの言葉が終わると同時に十字架の高速は解かれ、リザの視界は光に包まれた。


514 : 名無しさん :2017/07/25(火) 13:33:03 ???
「リンネ、おかえり。」
現実世界へと帰ったリザ。殺風景な部屋には拘束された自分とリンネと、真っ白なストレートワンピースを着た小さな少女がいた。

「ヒルダ……司教は?」
「もう寝てる。ふぁ………わたしもねむい。」
「部屋の録音はもう切れてる?」
「さっきけした。」
「よし……」

その言葉に頷くと、リンネは部屋のドアを開け辺りを見回した。
どうやら周りに人がいないか確認しているらしい。

「リンネ……どうしたの?」
「この人を使うことにしたよ。ボクが思った通り、あの悪名高い王下十輝星だった。手駒にするには十分すぎるくらいだ。」
「でも……いっかい負けてる。」
「贅沢は言ってられないよ。このままだと鎧が完成してもっとめんどくさいことになる。僕たちが協力してこの人を勝たせてあげなきゃ。」
「……むりしてブルートを倒さなくてもいいと思う。……そんなに手柄がほしい?」
「当たり前だろ。お前のためなんだから……」

俯くヒルダ。詳しくはわからないが、2人の間には何らかの秘密があるらしかった。
兄妹である可能性も高いが、リザにとってはそんなことどうでもよかった。

「敬語はいらない。呼び捨てでいいからリザって呼んで。」
「あ、わかった。こっちはボクの協力者のヒルダ。」
「…………何歳?」
「じゅっさい。」
「…………そっちは?」
「ボクは15だよ。」
(私と同い年くらいか。シーヴァリアにもこれくらいの年齢で要職に就いてる人がいるのか……)

自己紹介も終わり、リザの拘束を解いている途中で、リンネの手が止まった。

「……どうしたの?」
「言っておくけど、逃げようなんて思わないでね。誰のおかげで助かってるのか忘れないように。」
「……わかってる……」
「キミにブルートを倒してもらわないといろいろと困るんだ。もしボクたちの元から逃げたりしたら……社会的にも生命的にも、キミのことを殺すからね。」
「……はいはい。」

安い脅しだ、とリザは思った。だが嘘ではなさそうだった。
もちろん、アイベルトと共に体制を立て直す名目でシーヴァリアから逃げる可能性も考えている。が、リンネの様子から察するに、その方法はすぐに実行しないほうがよさそうだった。


516 : 名無しさん :2017/07/26(水) 01:27:47 ???
リザが幻覚を見せられている頃、アイベルト(仮面着用)に変身したサキは、ルネの入口まで来ていた。

「お?また来たのか?出たり入ったり忙しいな」
「流石の俺様も空腹には勝てないし、野宿も嫌いではないがどうせなら綺麗なベッドで眠りたいからな……ルネでホテルでも探そうと戻ってきた次第だ」
「まぁ、あの美少女の写真の借りもあるしな……いいぜ、入れよ」
(美少女の写真?ていうか、ほんとに衛兵スルーできたし……なに、シーヴァリアって意外とザルなの?)

衛兵をやり過ごし、難なくシーヴァリアの首都ルネに潜入を果たしたサキ。
敵国ながら、厳戒態勢のはずのシーヴァリアのザルさを思わず心配しながらも、裏路地に入ってから変身を解く。

「……ま、せっかく遠い所をわざわざ訪ねてきた(ほとんどヘリ移動だけど)ことだし、カフェにでも入ろうかしらね」

単独行動の時はヘリに乗らない派のリザと違い、サキは1人でもヘリに乗りまくる。運用費と乗員人数のコストが見合わないとかは気にしない。
もっと言えば任務での外出先で任務しかやろうとしないリザと違い、サキは外遊を楽しむ質だ。

ということで近くのカフェに入り、コーヒーとケーキで腹ごしらえしながら、メモ帳に情報を整理する。

・お間抜けリザは牢獄に捕まってる(これ重要!!!)
・アイベルトのアホは外で円卓の騎士と戦闘中
・円卓の騎士の詳細な目的は不明だが、リザとミライ・セイクリッドとやらが目的なのは確実
・敵は基本的に円卓の騎士のみで、それ以外の騎士は味方ではないが敵でもない
・ただし騎士見習いのジンと白騎士のエールに限っては実質味方

(……これってひょっとして、今が潜入のチャンスじゃない?)

敵は円卓の騎士のみ。平の騎士は相手にしなくていい。その円卓の騎士も何人かは外で悪巧み中。ルネの中にも何人かは残っているだろうが……その数は多くはないはずだ。

日が完全に落ちてから闇夜に紛れての潜入も考えてはいたが……円卓の騎士の一部がルネの外に出ている今が最大のチャンスかもしれない。

(さっき使った邪術で牢獄の場所は大体分かってるし……ここは拙速を尊んじゃいましょうかね)

迅速な行動を決意したサキ。
なお、それはそれとしてケーキとコーヒーはバッチリ楽しんでいた。


517 : 名無しさん :2017/07/28(金) 23:29:45 dauGKRa6
「さて、リザさん……じゃなくてリザには、ここから逃げ仰せてもらわないとね。」
「それはいいけど……あなたたちの管理責任とか、問われないの?」
「大丈夫。シーヴァリアにはナルビアと違って監視カメラのような技術力の高いものはないから、いくらでもでっち上げられるよ。」
「リンネ……誰か来るよ。」
「……え?ウソ?」

ヒルダが呟いた瞬間、3人のいる部屋のドアがコンコンと鳴らされた。

「リンネ様ー?もうかなり遅い時間ですが、何をしていらっしゃるので?」
「あ、あぁ。捕まえたアウィナイトの尋問中だよ。なかなか吐かなくてね。」
「そうですか。では今日はわたくしがこのまま牢屋に繋ぎますので、入ってもよろしいでしょうか?」
「あぁ、いいよ。」
あっさりと返事をするリンネに、リザは目で訴えた。

「ち、ちょっと……!」
「そんなに心配そうな顔しなくても大丈夫だよ。ちょっと面倒だけど、牢屋から出すことだってできるんだから。」
「……開けるね。」
リザがため息をついたのを横目にヒルダが扉を開いた瞬間、黒い霧のようなものが部屋の中へと入り込んだ!

「えっ……?きゃあぁっ!」
「なっ!これは……邪術!?」
黒い霧はしばらく部屋を舞った後、まるで意思を持つかのようにヒルダの元へと集まっていく。
驚いて固まるヒルダの首に細い腕が回され……黒い霧は黒髪の少女の姿へと実体化した。

「あううっ!!」
「はい真っ白美少女捕まえた〜!そこの黒いの!この女のためにも動かない方がいいわよ!」
「え……サキ!?」
「クソリザ、元気〜?こんな湿っぽい場所はあんたにぴったりだけど、そろそろ退店のお時間よ。延長もなしね〜!」
「……仲間なんですか?」
「え、ええ……仲間よ。」
「それならご安心を。僕たちはリザさんと手を組みました。あなたたちに危害を加えるつもりはありません。」
「……はぁ?何言ってんのこの女?どういうこと?」
「……もちろん説明します。説明しますから……ヒルダを離してください。」
「サキ……私からもお願い。この人たちはとりあえず敵じゃないから。……あと、この人は男だよ。」
「はあぁ!?こ、コイツ男!?詐欺でしょ!何がどうなってんのよ!クソリザ、ちゃんと全部説明しなさいよッ!」
「やあぁっ!」
乱暴に言い放ち、サキはヒルダを乱暴にリンネへと突き飛ばした。

「り、リンネ……ぐすっ……リンネぇ……」
見知らぬ人間に拘束された恐怖で、半泣きのヒルダはリンネの胸へと飛び込んでいった。
「こわいよぉ……あの人こわいよぉ……!」
「ヒルダ、もう大丈夫だよ。……まったく乱暴な人だな。金輪際ヒルダには触らないでください。」
「ハッ、そんなションベン臭いガキなんてこっちからお断りよ。臭いが移ったら困るしね。」
「……リザ。こんなところで言うのもなんだけど、友達は選んだ方がいいよ。」
「さ、サキ……あんまり乱暴な言葉は……」
「いいから早く状況説明して。こんなところに長居したくないから。」
「あ……う、うん。わかった……」


518 : 名無しさん :2017/07/29(土) 01:10:43 ???
「なるほど……まとめると、あんたらはナルビア側のスパイで、今回リザを見逃す代わりにブルートを倒して欲しいわけね。」
「はい。ブルートは円卓の騎士の中でも随一の実力者です。奴を倒すことができれば、僕たちも本国にいい報告ができます。」
「ふーん……で、あんたはそれを受けたの?一回コテンパンに負けてるのに?」
「……うん。助けてもらったのは事実だから。それに……アレはきっとトーメントにとっても遠からず脅威になる。」
「はぁ……あんたはどこまでお人好しなのよ……どう考えたってこいつらにいいように利用されてるだけじゃない。」
「……それはわかってるけど……」
「ったく……ま、あんたがやりたいようにやれば?あたしは手を貸すつもりないから。……せっかく助けに来たのに損したわ。あの時の胸クソ悪い借りも返せると思ったのに……」
「……え?なんて言ったの?」
「なんでもないわよ。……それより、ミライ・セイクリッドはどこにいるの?」

サキの大目標は、アイベルトから聞いた情報——妹のユキの顔を治せる可能性を持っているミライを手に入れること。
正直リザを助けにきたのも、ほぼほぼこの情報のためであった。

「え、ミライ?……ミライの家で円卓の騎士と戦闘になったとき、私はそのまま気を失ってここに連れてこられたから……今どこにいるかはわからない。」
「ちっ、つっかえないわね。まぁこっちで調べればわかることだからぼちぼち探すわ。あんたはせいぜいブルートの奴にあっさり殺されないよう頑張りなさい。」
「ま、待ってサキ。どうしてミライの名前が出てくるの?ミライに何かするつもりなの?」
「……アンタには関係ないわ。あたしはもう行くから、このオカマみたいなのと真っ白幼女と3人で仲良くしてなさい。」
吐き捨てるようにそう言って部屋を出ようとするサキ。その背中に向かってリザは走り出し、サキの手を掴んだ。

「ま、待ってサキ!」
「ちょ、汚い手で気安く触るんじゃないわよクソリザ……なんなの?」
「ミ、ミライには……変なことしないでほしい。あの子は……!」
「……アンタさぁ、人殺しのくせにすぐに情にほだされんのはやめたほうがいいわよ。……ま、別にあんたが心配するようなことはしないから安心なさい。」
「……わかった。サキを信じる。あと……私のこと助けに来てくれて、ありがとう。」
「……フン。ミライ・セイクリッドの情報が知りたくて来ただけよ。」
そう言うと、サキは再び黒い霧のようになって消えた。


519 : 名無しさん :2017/07/29(土) 11:39:59 ???
メデューサは相も変わらず小屋で妖精達に責められまくっていた。当然アイベルトとジンはそれを体育座りしながら見ている。

「みんな!そろそろとどめだ!」
「まえのあなとうしろのあな、そしてちくびをいっせいにせめるぞ!」
「さぁ!おとこにみられながらあさましくぜっちょうしなさい!」
「ねぇねぇどんなきもち?いっしゅんでかてるはずだったたたかいで、ようせいにじゃまされてじつりょくがだせずにあえがされるってどんなきもち?」
「み な ぎ っ て き た」

何度も何度も妖精に弄られ、ぴくぴくとひくついて止まらないメデューサの臀部に、再び妖精たちの指が入る。
本来、排泄の為の穴に異物が入ってくる感覚。妖精に開発されきったメデューサの身体は、それを快感と判断する。

「んひいいぃいい!?お、おひりぃ……!」

そして別の妖精が、前の穴に指を高速で抜き差し……ピストン運動を開始する。

「ひゃぁああん!しょこ、やめ……!ズボズボしないれぇ……!」

さらに、残った妖精が両方の乳首をぎゅうっと抓る。

「やぁ……!いた、ぁあ……!抓らないでぇ……!」

(だ、だめぇ……!こんな、怪しげな仮面と見習い騎士の前でイくなんて、だめなのにぃ……!身体が熱くなっちゃう……!)


一気に加速する妖精たちの責めに、メデューサはただただ喘ぐばかり。必死に手足をばたつかせて見えない何かを振り払おうとするも、妖精の見えない彼女には土台無理な話であった。

「も、だめ……!これ以上……!耐えられないよぉ……!あ……!あ、あ、あああ……!んやああああああああ!!!」

辺りに、今日一番の嬌声が響き渡った。

✱✱✱


「……よし!休憩は十分取ったな!ジン!」
「もちろんです!仮面マスクさん!」
「で、ミライちゃんとエールちゃん、あとは姫騎士のリリス様とやらが向かった方向は分かるのか?」
「馬が逃げていった方向は見てたんで、そっちに行けば多分会えると思います!」
「そうか!なら早速向かうぞ!」
「はい!」

やたら艶々とした表情で小屋から出てきたアイベルトとジン。彼らはそのまま、ミライたちがいると思われる方角へと向かっていった。


小屋の中には、絶頂を繰り返し続けて気絶してしまい……今も時たま身体をビクンビクンと震わせるメデューサのみが残されていた……。


520 : 24/33 :2017/07/29(土) 16:47:05 ???
「へえ。私の蹴りを受けとめるなんて…なかなか面白い子ね。次はあなたが相手してくれるのかしら?」
「私としてはそのつもりだったのですけれど…」

「だ…ダメです、アリサさん…危ないから、下がって…あの人は、同じ魔法少女の私が、なんとかしないと…!」
「まったく…貴女こそ、危なっかしくて見てられませんわ。何もかも一人で抱え込みすぎではなくて?」

アリサはカレラの殺気を受け流しつつ、鏡花の強情さにため息をつく。

<……温室育ちのお嬢様には協調性っていうものがないようね!
 一人でなんでもできると思い上がってんじゃないわよっ!……>

助けた時に鏡花の身体を抱き留めた体勢のまま、アリサはかつて自分自身が…
リコルヌを手に入れたばかりの頃に瑠奈から言われた言葉を、思い出していた。
アリサの手を振り払い、頑なに一人で戦おうとする鏡花の姿は、どこかあの頃の自分に似ているのかも知れない。

「…鏡花。言い争っている時間はありませんし、貴女がどうしてもやると言うなら止めませんわ。
その代わり…唯と瑠奈は、わたくしが助けます。…だから貴女は、目の前の敵に集中なさい」
「………は……はいっ!!」
為すべきことが一つに絞られ、鏡花の心から迷いが消えた。
そしてアリサは、リング下の水面を見つめながら…黒い剣の柄に静かに手をかける。

(宝剣リコルヌ……亡者共に身を穢され、心を挫かれたわたくしには、
最早あなたを振るう資格も、アングレームを名乗る資格も無いのかもしれない…)

<わたしたち、友達でしょ……?>
<3人で一緒に、元の世界に戻る方法を一緒に見つけようよ!>
<アリサだけいなくなるなんて嫌だよぉっ!>

(だけど、お願い…アングレーム再興の為でも、復讐の為でもない。
こんなわたくしを友と呼んでくれた、あの子たちを助けるために…
もう一度わたくしに、力を貸して!!)

…金色の髪が風に揺れ、抜き放たれた刃が、再び白銀の輝きを放ち始めた。

「……アリサさん…その剣は……きゃっ!?」
刹那。鋭い光の筋が幾条も走り、鏡花が着けさせられていたネックレス、ブレスレット、
アンクレットが魔石ごと両断され、地面に落ちて乾いた音をたてる。

「魔石のアクセサリーを呪縛ごと切り裂くなんて…ますます面白いわね。
先に鏡花ちゃんを血祭りに上げてから、ゆっくり遊んで上げましょうか」
「そうはいきません…私だって、絶対に負けられない。例え相手がカレラさんでも…!」

鏡花は体力と魔力の大半を失い、圧倒的不利な状況は変わらない。
だがそれでも、仲間の魔法少女達を助け出すためには、何としてでもこの戦いに勝たなければならない…
そして一方、アリサは…

「…こ、こほん。…ところであの、そちらも切羽詰まってるのは十分承知なんですけれど…
その、魔法で水着か何かを出してくれる事ってできません?わたくし、今ほら…その」
「え、あっ、ハイ」
全裸であった。


521 : 25/33 :2017/07/29(土) 16:49:04 ???
「くっそ……放せっ…このバケモノ、キモイんだよっ…!」

スクイッドワーム、オニイソメ、ウミグモにウミケムシ、スケールワーム、ポンペイワームetc...
魔物化した深海生物、中でも特に不気味でググってはいけない系の蟲達が、アイセの全身にまとわりついていた。

武器もなく、水中では格闘戦も通用しない。今のアイセに抵抗する術は皆無だった。
迷彩柄のビキニブラが剥ぎ取られ、豊かなバストとその先端が露わになる。
観客席と周囲の魔物達から歓声が上がると、アイセは思わず両手で前を隠し、羞恥に顔を赤らめた。

「ひひっ!口も性格もサイアクな魔弾のアイセちゃんも、こうやってひん剥いちまえば可愛いもんだなぁ?」
「『紅蓮』の連中にゃ、俺らも散々痛い目に遭わされたからな…たっぷり礼をしてやるぜ!キキキッ!!」
「へへへ…今さら何恥ずかしがってやがる?レジスタンスの手下にゃ、ご褒美でたっぷりヤらせてやってたんだろ?」
「う、うるさいっ……お前らなんかに…何がわかる……!」

……実際『紅蓮』に集まって来たのは、アイセの顔や体目当ての男たちが大半だった。
だが「それだけ」の連中は、アイセの気まぐれでキツい性格に着いて行けず、すぐ離れていった。
それでも……どんなに辛く当たっても『紅蓮』に残り続け、アイセを支え続けてくれた者達も居た。
ほんの少しだけ心を許し、身体を開くことのできた者も……
彼らはアイセにとって、故郷の村を滅ぼされた心の傷を癒してくれる、第二の家族のような存在だった。
…その事を本人達に告げる機会は、ついになかったが。

「あたしの事は、何て言われてもいい…シールズの事も家族の事も、今はほとんど覚えちゃいない…
…でも、紅蓮を…あいつらを、お前らなんかと一緒にするなぁっ!!」
まとわりつく蟲を力づくで引き剥がし、アイセが吠える。
だが、まだ抵抗の意志ありと見た蟲たちは、アイセの肌に一斉に毒牙を突き立てた。

「あぐっ!?……こいつら、何を……つっ!……んうっ!!」
「ギヒッ……いきがったってムダだぜぇ。俺らの牙は、教授の調合した特殊な毒が入っててなぁ」
「へへへ…毒、麻痺、凍結、混乱、魅了、石化、キノコ、へんetc……どんなバステも自由自在だ」
「いくらお前が歴戦の猛者でも、体の中は鍛えられないだろ……さあ、いい加減に観念し……れびっ!?」
勝ち誇った表情で…と言っても表情から判別するのは難しいが…
…ビキニショーツに顔を近づけるワームの顔面に、アイセの鉄拳が直撃した。

「…こんな毒なんて、あたしには効かない……」
水の抵抗で威力は半減しているが、油断していた魔物を怯ませるには十分すぎる威力。
半減するならもう一発殴ればいい、とばかりにもう一発。
…更に、ついでに、おまけに、アンコールにお応えしてと5〜6発殴りつけた所で、蟲の頭部がようやく潰れた。

「あたしの中には、『紅蓮』が生きてる……お前らなんかに、簡単にくれてやっていい身体じゃねえんだよ」
腕に彫られたタトゥー…紅蓮のシンボルを見つめるアイセ。
その下には、毒や呪いなどのバッドステータスを無効化する、超小型ヴァイタル正常化装置が埋め込まれている。

「キキキ……やっぱり一筋縄じゃ行かねえか……だが所詮、お前は一人。俺らは無数…」
「素っ裸にひん剥いて、毒牙でズタズタに引き裂いて、お前の中の『紅蓮』とやらをエグり出して…」
「…それでもお前が突っ張っていられるか。じっくり観察してやるぜ……ヒヒヒッ…!!」

「アイセの事…お前っていうな……」
全身の噛み傷から血を流しながらも、アイセは新たな闘志を燃やし始めた。


522 : 26/33 :2017/07/29(土) 16:50:47 ???
「ふひひひ…もうボロボロのくせに、ずいぶん粘るねぇ瑠奈ちゃん。
お友達なんかさっさと諦めちゃえばラクになれるのに…」

巨大ウミヘビの口内に咥え込まれた瑠奈。
下半身を呑まれかけている唯の手を片手でしっかりと掴み、
脚と背中でウミヘビの上顎と下顎を押し止め、呑み込まれまいと必死に耐えているが…
度重なる激戦で、体力も精神力もとうに限界を超えていた。

「…る、な………」
唯の胸から下は既にウミヘビに呑み込まれ、自力での脱出は困難。
瑠奈のお陰で辛うじて踏みとどまっている状態だったが、それも時間の問題だろう。
(私もう、だめだよ……手を放して……このままじゃ、私のせいで瑠奈まで…!)
諦めの言葉が、口からこぼれそうになる。

「うる、さい……誰が諦めるもんですか…!…私は絶対、この手を離さない…
もう二度と、唯と離れ離れになんてならない!…元の世界に帰ったら、言ってやるんだ…
『魔物なんかより、あの世界で一番キツくて大変だったのは、ライカさんの特訓でした』って…!」

「……瑠奈…!」
仲間と一緒に戦っているときは絶対に弱音は吐くな…特訓中に聞いたライカの言葉を、唯は思い出した。

「そうだよね…私も絶対、諦めない…!……瑠奈と、みんなと一緒に、元の世界に帰るまで……!」
唯と瑠奈は互いの手が離れないよう、指と指をしっかりと絡ませた。
唯は全身に力を込め、少しずつ、ウミヘビの喉を這いあがっていく……

「ふひひ…もちろん、二人一緒にゴックンしてあげるつもりだったけど……」
「そう言われると、意地でも引き剥がしたくなっちゃうよなぁ?…ケケケ!!」

…だがその時。
ウミヘビの口の中から、新たな何者かの声が聞こえてきた。

「え、誰よ今の……ひ、いやあああああああ!!!」

…ウオノエ。魚の咥内などに寄生し、体液を啜る海の寄生虫。
魔物化して人間サイズに巨大化したダンゴ虫そっくりの外見は、
絶望の崖っぷちで辛うじて耐える瑠奈の心をへし折るのに十分すぎるインパクトを持っていた。

「ケケケ…蟲嫌いでロリ乳牛の瑠奈ちゃんよぉ。どんなに強がったって、
もうお前らの弱点は、この試合を見てる全員に知られてるんだぜぇ?」
「やっ……来ないで、お願い、やっ……ああぁぁぁああぁっ!!」
ウオノエは、身動きのとれない瑠奈に無数の脚を絡ませ、乱暴に胸を揉みしだく。
優しさや労りの欠片もない強引な愛撫だが、それに抗うだけの気力は残っていない。

「ま、またおっぱいがっ…ううっ……どうして、出ちゃうのよぉ……!」
「ケッケッケ……さあて。この俺様に、おっぱいを吸われまって……」

「る、瑠奈っ…!!……待ってて、私が、すぐに助け……ひぅっ!?」
「ふひひ…ボクの舌で、クリトリスをしゃぶられまくって…」

「ふひひひ…それでもその手を」「放さずにいられるかな……ケケケっ!」

「「……いやああぁぁぁぁあああ!!」」

少女たちの絶叫。いくつかの物音。
そして…ウミヘビの嚥下音が、会場中に響き渡った。


523 : 27/33 :2017/07/29(土) 16:52:20 ???
アリサの身体を柔らかな光が包み、真っ白い水着へと変わって行く。
タンクトップ型の白いワンピースで、胸部の縫製線、腰部前面の水抜き以外は柄も装飾もないシンプルなデザイン。
学校等で使われる、いわゆるスクール水着を白色にしたような外見である。
「…ごめんなさい。色とかデザインとかに凝る余裕なくて…」
「いえ、十分ですわ…ありがとう、鏡花」

白き戦闘衣を纏い、白銀のレイピアをその手に携え…美しき令嬢剣士が、今戦場に名乗りをあげる!
「我が名は…アングレーム家の末裔にしてアングレーム流剣術門下、アリサ・アングレーム!
只今より、わたくしもこの戦いに参加させていただきますわ!」

<ぉぉおおおぉぉぉー!>
「なんと言うことでしょうか!ノワール改めアリサ・アングレーム…あの一家揃って惨殺されたはずの
アングレーム家のお嬢様が、この水着剥ぎ取りデスマッチに電撃参戦であります!!」
「しかも、あの黒の痴女水着からまさかの白スクですよ。実にあざとい。
これは是非とも頑張って欲しい(触手に)ですね!」
<痴ー女!><痴ー女!><痴ー女!>
<堕ーとせ!><堕ーとせ!><堕ーとせ!>

「え!?痴女!?……水着剥ぎ…え!?…ちょ、何ですのそれ!聞いてませんわよ!?」
予想外の展開に動揺するアリサ。その足元には、早くも妖しげな触手が這い寄っていた。
呼ばれた気がした と言わんばかりに、ぐちゅりと足首を絡めとってプールの中に引きずり込もうとする!

「くっ!…いくらなんでも、これだけ格好付けた後で自分が不意打ちされるなんて御免ですわ!」
次々飛んでくる魔物の触手を剣で斬り払いながら、アリサは振り返りざまの一瞬、鏡花と視線を合わせた。
「とにかく…唯達のことはわたくしに任せて!その宝石女の相手は、鏡花に…」
「はいっ……任せてください!」
…ただそれだけで、まるで長年の戦友のように鏡花の事が信頼できるような気がした。
(鏡花ならきっと大丈夫…わたくしも、唯達の事に集中しないと!)

アリサは水中を弾丸のように飛び泳ぎ、白銀の閃光が煌かせながら水中の魔物達を切り刻んでいく。
鏡花の作り出した魔法の水着は、水中での運動性能を飛躍的に高める効果を持っているようだ。
(魔法の事は詳しくありませんけど、こんなすごい力を持った水着を具現化するなんて…)
それだけ鏡花の魔力が強いのか。それとも…
(あれだけ言ったのに、あの状況で…無理しすぎですわよ、鏡花。でも…これなら行ける!)
この水着一枚の差が、鏡花とカレラの戦いにどれほどの影響を与えるか…今は考えても仕方ない。
アリサにできるのは、一刻も早く唯と瑠奈を助け出す事。

「「……いやああぁぁぁぁあああ!!」」
(……ご…………くん)
水底から聞こえる唯と瑠奈の声を頼りに、アリサは巨大プールを潜行していく。
そこでアリサが見たものは…固く手をつないだままの二人を巨大な嚥下音と共に呑み込んだ、巨大ウミヘビの姿だった。


524 : 28/33 :2017/07/29(土) 16:54:10 ???
「唯、瑠奈!今助けますわ…アングレーム流奥義…トラークヴァイテ・ギガンティッシュ・シュトラール!!」
「ふひっ!?……ぐげああっ!!」
光を纏い巨大化した剣がウミヘビの首を刎ね、背中から縦に断ち割る。
エフネン・リュッケン…背開きと呼ばれる、主に東日本で一般的なウナギのさばき方であった。

「ぷはー!助かったよ、アリサ!」
アリサに助けられ、巨大ウミヘビの胃袋から這い出した唯と瑠奈。
もう少しアリサが来るのが遅ければ、二人は全方位を埋め尽くす肉壁の圧力に為す術もなくもみくちゃにされ、
粘液消化液まみれにされて、ウミヘビの長い体の中でトロトロぐずぐずゆりゆりに煮込まれて、
ぎゅっと手をつないでお互いの名を呼びあいながら2レスくらいかけてゆっくりじっくり消化されてしまったかも知れない。

「……ていうか危ないじゃない!…もうちょっとで私たちごと斬られる所だったわ!」
「……ちゃんと内蔵は避けて斬りましたわよ」
「もう。瑠奈もアリサも、もうちょっと他に言う事あるんじゃないの?」
唯に促され、向き合う瑠奈とアリサ。
…二人はトーメントの地下水道でケンカ別れして以来、ほとんど話していなかった。

「そ……その。あの時は、すみませんでしたわ。いきなり斬り掛かったりして…」
「…あの時は私もブチ切れてケンカ買ったんだから、おあいこって事でいいわよ。
それに今思えば…あのおっさんに頼って、ずっと下水道に隠れてようなんて…甘い考えだった」
…それ故に、瑠奈と唯はあの下水道で恐ろしい目に遭い、その後遺症は今なお続いている。
アリサだけでもあの場に居合わせずに済んで良かったと、瑠奈は思った。

「それにさっきは、操られていたとはいえ唯にまで酷い事を!…なんてお詫びしたらいいのか」
「ああ……なんていうか、それは…私からは何とも…」
「え、私の方はゼンゼン気にしてないから大丈夫だよ!ノワールとかいう黒い服のお化けのせいなんだし。
こうして今は元に戻ったし…瑠奈も、前に似たような感じになってたから!」
「うっ…!!……唯、ほんとあの時はごめん!!」
「いや、だから気にしてないって…」
「ふふふ……ありがとう、唯、瑠奈」

お互いのわだかまりが解けた瑠奈とアリサ、そして唯。
今も上で戦っているだろう鏡花、そして親友の彩芽、旅の途中で知り合ったサラや桜子…
皆で力を合わせれば、トーメントに囚われた今の状況も何とか乗り切れるかも知れない、とアリサは思った。

「上の状況はわからないけど、鏡花がまだ戦ってる筈よね…早く戻ってあげなきゃ」
「そうだね。魔法少女同士の戦いだし、私たちにできる事なんてないかも知れないけど…応援だけでもしてあげなきゃ!」
「ですわね……って、あら。あれは……!?」
リングへと戻るため、水上を目指す三人。その途中で見たものは……

「ヒヒッ!…やっぱりタトゥーの下に埋め込んでやがったな。この機械さえ潰せば…」
「ぐへへ…もう毒は無効化できねえだろ。魔弾のアイセも、ただの雌ってわけだ」
「う、るさい……お前らなんか、全員…ブッ潰して……あ、うっ……」
「ケケッ…全身血まみれ、パンツいっちょで吠えてんじゃねーよ」
「俺らの毒牙で、今度こそ全身毒液漬けにしてやる……ヒヒヒッ!」
不気味な蟲達に全身を噛み千切られ、力尽きる寸前のアイセの姿だった。

「魔物に襲われてますわ…あれは、何者ですの?敵?味方?」
「あれは、何とかのアイセ……立場的には敵だし、性格もサイアクだったし、つーか…
…ななななな何なのよあの蟲!!アレに近付くのだけは、絶対やだ!!……けど……」

「けど…放っておけない……よね」
「………わたくしが先行して、魔物を引き受けますわ。唯と瑠奈は、その隙にあの人を」
「うん、頼むねアリサ。…瑠奈、また手を繋ご。そうすれば、少しは怖くなくなるかも」

…この時の事を、後に瑠奈はこう語ったという。
「ライカさんの特訓の次にキツかった」


525 : 29/33 :2017/07/29(土) 16:56:33 ???
「フレイムバーストッ!!」
「シャイニングセイバー!!」
鏡花の魔法による光の刃が、カレラの火炎弾を弾き返す。
体力、魔力とも限界に近いが、迷いの消えた鏡花の魔法の威力は
試合が始まった時とは見違えるほどに大きく、強くなっていた。

「ふふふ…やるじゃない鏡花ちゃん。でも、まだまだ甘いわねっ!!」
爆炎の中から、カレラが鏡花を急襲する。
魔石のアクセサリで身体能力を強化している分、近接戦闘にはカレラに分があった。

「くっ…!」
咄嗟に身を反らす鏡花だが、水着一枚分かわし切れない。
手刀を鋭利な刃に変える魔石「スラッシュ・クリスタル」によって、
胸元が僅かに切り裂かれる。

「ふふふ。その水着…『マーメイドフォーム』って言ったかしら?
鏡花ちゃんのワガママボディを動きやすくするために、胸やお尻は極限まで締め付けられている。
そこに、少しでも切れ目を入れてあげれば……」
「これは……!!」
ほんの数ミリの切れ目が見る間に広がり、鏡花の水着は胸の谷間の辺りで大きく切り開かれてしまった。
ひと昔前にごく一部で一大ブームを築き上げた、例のフロントジッパー競泳水着のように。

「無様でスケベで、お似合いだわ……動けば動くほど、切れ目が大きくなっていくわよっ!」
「……無駄ですっ!こんなことで私はもう、心を乱したりしない!」

(ガキィィィン!!)
打撃力強化の魔石を大量に付けたカレラの蹴りを、鏡花は光の剣で正面から弾き返す。
魔石のアンクレットが砕け散り、カレラはリング端まで吹き飛ばされた。

「私の魔石を砕くなんて…流石ね、鏡花ちゃん。信じてくれた人の期待に応えるため、
囚われた仲間を解放するため…他の誰かのために、どこまでも強くなる…」

「…それは、少し違います。私の…魔法少女の力は、みんなを守るための力。
だから、私がみんなのために戦わなきゃ、強くならなきゃって、ずっと思ってた…
でも、逆だったんです。辛いとき、挫けそうな時……いつもみんなが、私に力をくれた。今だって…」

「鏡花ちゃんがんばれー!」
「鏡花ー!その調子ですわよー!!」
「サイアク!もうやだこのプール!あ、背中になんかくっついて…いやあああ!!!」
「く、空気読んで瑠奈!応援応援!」
「あーもう!……鏡花!そんな奴とっとと片づけちゃいなさい!」

「それが魔法少女の、真の力の源。…私一人の力じゃない。大好きで、大切な人達がくれた力だから…
簡単に負けたり諦めたりなんて、できない…絶対にしたくない!」

「なるほど…さすがはルミナスの戦隊長、と言った所かしら。
でも今は、どうしてもあなたを止めなくちゃいけない…次の一撃で、最後にしましょう」

会場内は水を打ったように静まり、二人の魔力が極限まで高まっていく。
…決着の時が、迫ろうとしていた。


526 : 30/33 :2017/07/29(土) 16:59:29 ???
「<灼熱の紅玉>『ルビー・オブ・ファイア』…<疾風の翠玉>『エメラルド・オブ・ウィンド』…
…<凍結の蒼玉>『サファイア・オブ・アイス』…三重魔石合成術『トリニティ・ディザスター』!!」

「この一撃に、全てを込める……ラスト・シャイニング・バーストッ!!」

二人の魔法が正面から激突し、魔力の余波が周囲の大気をも震わせる。
完全に拮抗した二つの力は、激しい爆発を引き起こし……

「きゃああああぁっ!!」「く、…ああああっ!!」
…爆心地の最も近くにいた術者の二人の身体は、大きく吹き飛ばされた。

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
魔法少女リフレクトブルームの衣装が、光の粒子になって消えていく。
完全に魔力を使い果たした鏡花は、元の姿……ギリギリすぎるスリングショット水着に戻った。

「はぁっ…はぁっ…最後は……水着一枚の差、だったわね」
一方のカレラも力を使い果たし、魔法少女クリムゾンヒートの衣装が、火の粉となって霧散する。
更に、元の水着の肩ひもが千切れ、はらりとリングの上に落ちた。

地鳴りのような歓声と共に、ゆっくりとカウントが入り始める。
…カレラは、落ちた水着を拾う事も、晒された胸を隠す事もしなかった。

「…大好きで、大切な人達……か。私にもいたかしらね、そう言えば…」

<またアンタたち?…っとにもう。…飽きもせず良く来るわねぇ>
<へへへ……だって、お姉さんの宝石、とってもキレイなんだもん!>
<…そんなにヒマなら、アクセ作りでも教えてあげよっか…アンタたち、名前は?>
<わたしカリン!…こっちはフウコ!>

「鏡花ちゃん…いえ、隊長。どうして私があなた達の敵になったか、知りたがってたわね…」

<イータブリックス・海魔軍団推参……ゲヒヒヒ!>
<フウコ!…カリン!!……鏡花、水鳥!私が盾になるから、みんなをお願い!>

「…と言ってもまぁ、大した理由じゃないわ。気まぐれで可愛がってたチビ共が、目の前で海の藻屑になっちゃって…」

<……おやぁ?そこの褐色お姉さん…まさか、たった一人で俺らと遊んでくれるつもりぃ?>
<………お前達…よくも、カリンとフウコを……一匹残らず、灰にしてやるッ…!!>

「ブチ切れて暴れたけど多勢に無勢、火の魔法と海の魔物じゃ相性も悪い。力及ばず捕虜にされて……」

<キヒヒヒ……先の戦いでの、君の活躍は聞いているよ。…もちろんタダでとは言わない!>
<もし君がこの試合で勝てば、仲間の魔法少女達を解放してやってもいい。だが、もし負けたときは…>

「ガラにもなくたそがれてた所に、美味しい話チラつかされて…コロッとイっちゃった。…それだけの話」

カレラの首に巻かれたチョーカー。そこに埋め込まれていた魔石は、漆黒に近い、暗い碧色…
青い目を持つ種族アウィナイトに極限の苦痛と絶望を与え、生きたままその目をえぐり出して作るという呪われた魔石。
…絶望と隷属を司る『ダークアウィナイト』。
教授の首輪以上に強い支配力を持つ呪いのチョーカーを、
カレラは敗北の証として造らされ…自らの手で、それを嵌めたのだった…


527 : 31/33 :2017/07/29(土) 17:01:56 ???
「…今決着の、スリーカウントが入りました!!閃光と爆炎渦巻く魔法少女対決を紙一重…水着一枚の差で制したのは、
黄色き光の魔法少女、リフレクトブルーム…市松鏡花だぁああ!!」

「やったーー!!すごいよ鏡花ちゃん!すっごくかっこよかった!!」
「本当、すごいわね魔法少女って……私達、結局あんまり役に立ってなかったかも」
「最後の、あの魔法…わたくしではとても、対抗できませんでしたわ。やっぱり、貴女に任せて正解だったわね」
「唯ちゃん、瑠奈、アリサさん……ありがとう。こんなに頑張れたのも、みんなのお陰だよ…」
喜びを分かち合う4人。その一方で……

「ぜぇ……はぁ……あー、くそっ…助けてもらったからって、感謝なんかしてやんねーからな。…でも…」
「おい、そっちのチビ…瑠奈とか言ったっけ。…今日の勝負は、お前の勝ちだ。それだけは認めてやる」
アイセはアリサ達に助けられたものの、既に水着を剥がされていた。

「勝負とかどうでもいいから、助けて貰った方に感謝しなさいよ。…助けたのは主にアリサで、怪我の治療したのは唯だけど」
闇世界で無敗だったアイセに勝利したのは、十輝星のヨハンに続いて二人目。
アイセとしては最大限の賛辞のつもりだったが、瑠奈には今一つ通じていなかった。
そしてこの二人、そのヨハンに完敗を喫したもの同士でもある。この奇妙な縁が、今後再び交わる事はあるのだろうか。

「さて。予想以上に長く続いたこの『海の日』特別試合の水着対決ですが…」
「…いえ、待って下さい。まだ終わっていませんよ。両チーム、まだ戦える選手が残っています。
ノワール改めアリサ選手は、扱い上はアイセ選手やカレラ選手と同じく、チーム『悪堕ちトリオ』に属していますから…」
「おい待てなんだそのチーム名。ていうか、あたしは別に悪堕ちしたわけじゃねーぞ」

「あー……なるほど、そういう事ね…仕方ない。唯、そっち押さえて」
「え?ちょっと瑠奈、いきなりどうしたんですの?」
「…アリサ、ごめん!」
「………〜〜〜〜〜〜!!?…」
瑠奈はアリサの白いスクール水着の肩に手を掛けると、思い切りずり下ろした。
バタバタと抵抗するアリサの手足を、唯と二人掛かりで押さえつける。

<<<ワン!!>>>

「なっ!?ちょ、二人とも何なんですの!?」
「本っっ当〜にごめん!鏡花ちゃんのためだから!あとちょっとだけ我慢して!」

<<<ツー!!>>>

「いや、でも。だからって、いくらなんでも、こんなの……あんまりですわーーー!!!」
華麗なる復活を果たした白き剣士、名門貴族のお嬢様の麗しき美乳が、白日の下に曝け出される。
狂気さえ孕んだ大歓声の中、ゆっくりとカウントが重なっていき………

<<<スリーー!!>>>

……それを止められる者は、最早どこにもいなかった。


528 : 32/33 :2017/07/29(土) 17:05:23 ???
「キッヒヒヒヒ!!…乙女たちのあれやこれやは犠牲になったが…今度こそ完全に決着がついたようだね。
おめでとう、鏡花ちゃん、瑠奈ちゃん、唯ちゃん」

巨大スクリーンに、この試合の仕掛け人…この世界のあらゆる災厄の源、トーメント王の姿が映し出される。
ドローンカメラを通じて、あるいは観客席のVIPルームから、この試合の一部始終を見物していたのだろう。

「さて、鏡花ちゃん。当初の約束通り、君の仲間であるルミナスの魔法少女達を…全員とはいかないが解放しよう。
人数及びメンバーはこちらで選別させてもらう。詳細は近日中に発表するから、楽しみにしていたまえ」

「よかったねー鏡花ちゃん!あの王様、約束守ってくれるみたいだよ!」
「つーかやけに素直だったわね。…あのアホ王、どっかの中間管理職みたいに
『我々がその気になれば、人質の受け渡しは10年後20年後ということも可能』とか言い出さなきゃいいけど」
(確かに…トーメント王は、何か企んでそうな雰囲気だった。私たちが勝つ事も、織り込み済みだったみたいに…)
…自分の事のように喜ぶ唯をほほえましく眺めながらも、鏡花の脳裏には新たな疑念が浮かんでいた。

「解放するメンバー…たぶん私も含めて5〜6人、って所でしょうね。こうなる事は、出来れば避けたかったけど…」
…その疑念を裏付けるかのように、カレラが口を開いた。
彼女が造らされた『ダークアウィナイト』の首輪の数から割り出したその予測は、
結果として極めて正解に近かった事が後に判明する。

(クックック…では、ルミナス制圧の下準備と行こうか。フースーヤ…お前もたまには、里帰りでもしてくるといい)
(ただの里帰りなら、気は進みませんが…あの国をこの手で滅ぼせるのなら、喜んで……)

「それってまさか…魔石で洗脳した魔法少女を、ルミナスに送り込むって事ですの!?」
「ええ…今は私もこうして話が出来てるけど、魔石の力が本格的に発動したら…恐らく、自我を保っている事なんて出来ない」
「そんな事になったら、今日みたいに魔法少女同士で戦う事になっちゃうかも…!」
「なんとかして、ルミナスのみんなに危険を知らせたいけど…難しいわね」

「そして…アリサお嬢様と、この場にはいないが彩芽ちゃんを含めた『運命の戦士』の諸君。
やはり君たちの心はまだまだ折れていない事が、今日の戦いではっきりと分かった。
今後、君たちには更なる恐怖と絶望を徹底的に植え付ける事を約束しよう…キヒヒヒ!!」

……唯達の身柄は、依然としてトーメント王国に囚われたままだ。
脱走はおろか、外部にメッセージを送ることも、王達が厳重に警戒している事だろう。
「そうですわ…彩芽の力を、借りられないかしら。王の言う通り、あの子の心もまだ折れていないのなら…」
「…私の魔法で、目を覚ませる事が出来るかもしれないわ」
「あまり時間はなさそうだし、やってみるしかないわね。…ところでその彩芽って子、私たちは良く知らないけど…」
「…アリサの友達なんだよね。だったら、きっと大丈夫!絶対力になってくれるよ!」

待ち受ける困難に、決意を新たにする4人。
『運命の戦士』達は、この世界を覆う闇を振り払う事が出来るのか、
それとも逆に、絶望に押し潰されてしまうのか…その結末は、今はまだ誰にもわからない。


529 : 33/33 :2017/07/29(土) 17:11:46 ???
「…うんうん。思った通り、すっごい可愛いよ、水鳥!」
「ありがとう、カリンちゃん!……でもこれから泳ぐから、イヤリングは外しておかないとね」

胸元とスカート部にフリルの付いた、オレンジ色の水着のカリン。
真新しいイヤリングを着け、水色地に白い水玉模様の水着を着た水鳥が、恥ずかし気な笑みを浮かべる。
『ブルーバード小隊』結成の記念と、互いの親睦を深めるため、水鳥達は近所の海水浴場にやって来ていた。
…「お前らはもう十分深まってるだろうが!」というライカの突っ込みは軽やかに受け流しつつ。

「そうだね。『ま、そう簡単に外れるもんじゃないけど…万一の事があったら、お互いショック大きいもんね』
…って感じの光り方してるもんね」
「うーん。カリンちゃんの言ってること、わかるようなわからないような…」
フウコの水着は、フリルスカートのない、若草色のシンプルなワンピース。ちなみに泳ぐ時もメガネを掛けている。

「……この海の向こうが、トーメント王国か…」
(お姉ちゃん、今頃どうしてるかなぁ……あの王様に、虐められてなければいいけど…)
(…カレラ師匠……私にもっと力があれば、助けに行けるのに…)
(フウヤ…海の向こうから風が吹く度、かすかに感じる…もしかして、あなたは生きてるんじゃないかって…)

三人は楽しく海水浴を満喫しながらも、時折海の向こうの国に囚われた大切な人達の事を思い出す。
そして、明日から待ち受けているだろう新たな試練へと想いを馳せるのだった。


ちなみに同じ頃、海の向こうでは…

「うーーみーー!にやってきましたわーー!!」

クッキーやチョコレートを模した可愛らしいデザインの水着に、ドーナツ型の浮輪を持ってはしゃぐアイナ。
砂浜をダッシュし、頭から海に飛び込み、ひとしきり泳いで、波に呑まれて、
虚空に向かってばっしゃばっしゃと水を掛けた所で……大きく一つ、ため息をつく。

「はぁ…空しいですわね。…リザちゃんもサキもシーヴァリアに行っちゃうし、
シアナ達は『絶対見逃せない試合がある』とかなんとか言って、アトラと一緒に闘技場に出かけて行っちゃうし、
フースーヤも王様に呼ばれて『強キャラ感を醸し出す練習しなきゃ』とか意味わからないこと言ってるし…」

「ま、まあまあ…私、北国の生まれだから泳ぎは得意じゃないけど、少しくらいなら付き合うから…」
…遅れてやって来たのは、角度も肌面積も大人しめな、楚々としたワンピース水着のエミリア。

「ううう…エミリアちゃん。やっぱり、貴女は私の心の友!ソウルメイトですわ…
今日は二人で、めいっぱい楽しみましょうねぇぇ!!」
「あ、あの……日の光にも弱いんで、できればお手柔らかに…」

…とまあ、こっちはこっちで海を満喫していた。


533 : 名無しさん :2017/07/30(日) 15:30:47 ???
「ええい、なんの騒ぎだ……!?……本当に何事だ!?」
「ふごごー!」

いつまで経っても戻ってこないシェリーを心配して王都ルネまで戻ってきたサイラス。ルネの一帯で何やら野次馬が集まっていたので、そこを確認した彼が見たものは……肌着姿でM字開脚状態で縛られ、口には猿轡を噛まされているシェリーの姿だった。しかも周囲には『AV撮影中!邪魔しないでね☆』と書かれた看板まである。

「やべ、鷹眼卿だ!」
「写真は十分取ったし、職質される前にずらかろうぜ!」

目つきの悪いことで有名な騎士の登場に、野次馬たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

「ふぐぅ!はふへへぇ!!」
「分かったからそんなにもがくな、却って目に毒だ」

流れる汗によって張り付き気味のインナー。食い込気味のレオタードの股間部……。
M字開脚に縛られた状態で縄から抜け出そうともがく姿は、まぁ確かに目に毒だった。
サイラスは彼女に近寄ると、とりあえずは猿轡から外すことにした。

「ぷはっ!兄さん!どうしてここに!?」
「外で兄さんと呼ぶな……いつまでも戻らなかったから様子を見に来ただけだ……それで、何があった?」
「それよりも早く足の拘束もなんとかしてください!何が悲しくて腹違いの兄の目の前でこんな格好しなくてはならないんですか!」
「……女ってやつは」

まぁ目のやり場に困るのも事実だったので、短剣でシェリーを拘束している縄を切っていく。
拘束を解かれたシェリーは、シュババババ!!という音が聞こえてきそうな程素早く周囲に落ちていたアイベルトによって外された自らの鎧を装着した。

「……で、改めて聞くが、何があった?あの仮面の男にやられたのか?」
「はい……!あの仮面の男は、ドス殺しのアウィナイトの仲間です!今頃はおそらく、ラケシスの森の小屋に向かっているでしょう」
「なに……?ラケシスの森ではなく、ラケシスの森の小屋だと?」

円卓の騎士がラケシスの森に向かうことは先ほど仮面の男と遭遇した時に話したことなので、その男が森に向かうのは分かるが、ピンポイントで小屋に向かうことに違和感を覚えるサイラス。

「その、言いにくいんですが、あんな格好で縛られて私も気が動転していまして……」

録音音声によってアウィナイトの少女は既に脱出していると誤認させられ、気が動転していたこともあってミライ・セイクリッドが小屋にいることを口走ってしまったのを話すシェリー。
それを聞いて、サイラスは呆れ返った表情を作る。目つきが悪いので結構怖い。

「はぁ……お前はもう少ししっかりした女だと思っていたんだがな……」
「く……今回ばかりは、弁明のしようもありません」
「とにかく、小屋に向かうぞ……王女は既に他の黒騎士が追っているが、仮面の男の足取りは掴めるかもしれん」


534 : 名無しさん :2017/07/30(日) 23:08:25 ???
「あ。そう言えば…例の荷物、忘れてたわ」
リザの閉じ込められた牢を出た所で、サキはヨハンから渡されたアタッシュケースの存在を思い出した。
中身はリザ用の通信端末、替えのナイフ、そして新型の戦闘用スーツ。
そもそもこの荷物を届ける事こそが、ここに来た目的…もとい、来る羽目になった原因であった。

「…つーか、あれだけカッコつけて立ち去ったのに、普通に戻るのも気まずいわね」
いっそケースごと捨ててしまおうか、とも考えたが……

「すみません…そこのきしさんと、ひーらーさん」
「はい…なんでしょう?」
「…あら、可愛らしいお嬢ちゃん…なにかしら」
……ヒルダの姿に変身し、通りすがりのヒラ騎士&ヒラヒーラーに届けさせる事にした。

「……地下牢にいる、捕虜に渡せばいいんですね?」
「はい。りんねさまのごめいれいで…」
「…リザ……って、どっかで聞いたような名前ねえ」
それにしても、牢屋につながれてる奴に得体の知れない荷物を届けろ、と言われて
ホイホイ引き受けるのはどうなのか…
バカップルなのかバカ夫婦なのか知らないが、随分頭のユルそうな二人組だ。

…ま、これで私の役目は終わり。
後は適当に観光地を回って、名物料理を食べて帰ろうか。
などと考えつつ、騎士団本部の玄関を出た所で…
(ズキッ……!!)
「……う、ぐっ………!?」
サキの全身の猛烈な激痛が走った。

心臓を石に変えられたような、四肢の中に針金でも入れられたような、異常な感触。
たまらず路地裏に駆け込み変身を解くと、痛みはゆっくりと収まっていったが…
「はぁっ……はぁっ……な……によ、これ……あの、ヒルダとかいうガキ…
…どういう身体してるわけ…!?」


535 : 名無しさん :2017/07/30(日) 23:14:54 ???
「あらー。やっぱりリザちゃんだったわ!どうしたのこんな所で?」
「……あなたは、ミライの……」
リザ宛だ、という荷物を持って地下牢に現れたのは、ミライの母親カナタ・セイクリッド。
そして、聖騎士……のはずだが、白でも黒でもなく、金色の鎧を着た男。

「…ああそうそう。こちらはリザちゃんとは初めてだったわね。私の夫の…」
「初めまして!アスカ・セイクリッドです。…いやぁ、話はカナタから聞いているよ」

受け取った荷物を改めてみると、中身は通信端末や替えのナイフ、そして戦闘用スーツ。
……確かに自分宛、そして明らかにトーメント王国製のものだが、
なぜそれをこの二人が持ってきたのか、リザにはいくら考えてもわからなかった。

「…どうも。ところで、ミライの事ですが……」
「うんうん、ミライと仲良くしてくれてるんだってね。父親として礼を言わせてもらうよ。ありがとう!」
「いえ、そうでなくてミライが……」
……二人はまだ、自宅が襲われた事もミライがさらわれた事も知らない様子だった。
しかも、この二人は人の話を聞くつもりは全くないらしかった。

「アスカくんはすっごいのよー!昔はこの国で最高位の『聖光騎士』だったの!
光の聖剣セイクリッドキャリバーを操る『太陽卿』アスカ・セイクリッドといえば、
国民みんなの憧れだったんだから!……当然、女の子にもモテモテだったのよ?」

「いやいやほめ過ぎだよカナタ!だいたい今は引退して単なるオッサンだしね!
光の聖剣を出せるのも、カナタのお陰だし……あ、でも折角だからちょっと見てみる?」

適当に相槌を打っているだけでは、いつまでたっても話は終わらない……
わかってはいるのだが、二人揃うと余りの迫力に圧倒されてしまう。

諦めて成り行きを見守っていると、アスカは何やら呪文を詠唱し……
手の中に、紫色に輝く、光のナイフを生み出した。
「………それは…!!」
…それは、リザがナイフを失った時に使う魔力のナイフと同じものだった。

「……驚くのはまだ早いよ。これは聖剣の『柄』に過ぎない……カナタ、頼むよ」
「久しぶりだから、上手くできるかしら…ええと…」
「太陽神プライゼオンの聖光と」「月神メルの聖影を」「光と闇の刃となして」
「女神ネルトリウスの名の下に」「あらゆる魔性を打ち払わん……」
「「セイクリッドキャリバー!!」」
アスカの紫色のナイフが、黄金の輝きを放つ光の剣へと変わった…!

「………!!」
「いやー懐かしいなー!若い頃はこれで、よく『封印されし邪神』とか倒したもんでねー」
「ちょっとアスカくん!ダメよこんな狭いところで振り回しちゃ!鉄格子斬れちゃったじゃない!」
「あー、ごめんごめん!…っと。10秒くらいしかもたないか…結婚前は5分くらい出せたんだけどなー」
「私もミライちゃんが産まれた途端に、急に魔法の調子悪くなっちゃって…魔法の才能もってかれちゃったのかしら?
 それで、いい機会だから寿引退しちゃいましょ、って話になったのよねー!」
「僕もその頃ちょうど怪我の具合が悪くなったんで、一線を退いてね…
 いや、その都度カナタが治療してはくれるんだけど、腰って一回やっちゃうとクセになりやすいからさー!
 …あ、何の話だっけ?そういえば、ミライはどうしてる?僕も久しぶりにこっち戻ったから、まだ会ってなくて」

「…ミライの事なら、大丈夫です。…必ず連れて帰ります」


537 : 名無しさん :2017/07/31(月) 02:07:16 ???
ラケシスの森の小屋へ向かったサイラスとシェリー。二人が森の小屋の中で見たものとは……

「へ、睥睨卿!?一体何が……」
「なんだ、どうした?」
「鷹眼卿!貴方は外を見張っていてください!今の彼女の姿は異性に見せられる状態ではありません!」
「……女ってやつは」

ロングスカートがずれ落ちてラベンダー色のショーツを晒し、股からは愛液を流し、口から涎を垂らしている、かなり官能的なメデューサの姿であった。

「う、ううん……もう、やめへぇ……」
「睥睨卿!しっかりしてください!私です!早抜きのシェリーです!」
「気持ち良すぎて、おかしくなっちゃうのぉ……え?し、シェリーさん?」
「気がつきましたか……!一体、何があったんですか?」

揺さぶられたことで気絶から目覚めたメデューサ。
その後、とりあえずメデューサはずり落ちたロングスカートを穿き直してから、シェリーと情報交換をすることにした。
余談だが、身体の疼きが収まらないのか、メデューサは終始内股を擦り合わせていた。


「貴女のそれは妖精にやられたと……!?その、なんと言いますか……災難でしたね」
「まったくですよ……ですがそちらも、衆人環視の中で恥ずかしい格好をさせられたとか……私も見られはしましたけど、少人数でしたからまだマシでしたね」
「いえいえ、貴女のように直接的に何かされたわけではないですし、私のされたこと程度なんということないですよ」
「……ふふふ、何だか不幸自慢のようになってしまいましたね……」
「え?……言われてみれば、そうですね……」
「シェリーさん、ご心配いただきありがとうございます……どうやら、貴女のことを少々誤解していたようです」
「睥睨卿……」
「よろしければ、名前でお呼びください……せっかくの女同士ですのに、睥睨卿、隼翼郷とは味気ないです」
「そうですね……では、メデューサさんとお呼びさせていただきます」

今ここに、街中でM字開脚縛りさせられて住民にその写真をSNSに投稿された女と、森の小屋で妖精達に身体を弄られまくられたのを見習い騎士と敵国の男に見られた女の、悪く言えば傷の舐め合いとも言える友情が芽生えた!


「少し足を開かされただけで口を滑らせるシェリーと言い、妖精に身体を触られただけで戦闘不能になる睥睨卿といい……やはり女はダメだな」
「く……!」
「触られたなんて生易しいものではありませんでしたが……失態は認めましょう」

その後、外で待機していたサイラスも交えて今後の方針を検討することにしたのだが……サイラスの声色は冷めていた。

「俺はこれから、王女を追撃している黒騎士たちと合流する。その過程であの仮面の男と相対することもあるだろう……2人はルネに戻っていろ」
「悔しいですが、今すぐ私があの男と再戦しても同じ結果になるだけでしょうし……仕方ありませんね」
「ともすれば、他にもドス殺しの少女の仲間がいるやもしれませんし……例の三人にも声をかけて、見張りを強化した方が良いでしょうね」

ということで、サイラスは黒騎士たちとリリスたちの後を追って森の奥へ。シェリーとメデューサは、ルネに戻り、別働隊の警戒(実際サキがルネに潜入している)に当たることになった。


538 : 名無しさん :2017/08/03(木) 01:17:22 dauGKRa6
「よりどりみどりだ!全員切り刻んでやるぜェッ!」
「ぶっ飛ばしてやるっべ!」
ランディの指揮によって空からはベルガ、前からはデイヴの同時攻撃がリリスたちに迫っていた!

(前からの攻撃は……わたしが止めるッ!)
シールドランスを構えて前に出るリリス。デイヴの振るう大きな槌を止められるのは、どう考えても自分の持っている大盾のみ。迷っている暇などなかった。

「ミライちゃん!空からの攻撃を防いでッ!」
「う、うんっ!プロテクト……」
「遅せえええええっ!!!」

ランディの風魔法により、勢いを増したベルガの降下速度はミライの魔法が間に合わないほどのスピードに達していた。

「白ワンピースおっとり女子のバラバラ惨殺死体を作ってやらアァッ!グハハハハハハハ!」
「ひ……!いやああああああああああッ!」
「くっ……ミライッ!!」
落下するベルガと蹲って悲鳴をあげるミライの間に、咄嗟に割って入ったのは……エールだった。

「邪魔だこのクソガキャアアアアアアアッ!」
「み、民間人に手を出すなんて!あなたたちはそれでも誇り高いシーヴァリアの騎士なんですか!!!こんなのは間違っているッ!」
「あーはいはい!あの世で一生喚いてろや!!斬滅狼牙アァッ!!!」
「ぐっ……!がはっ!ぎ!あぐあああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!!」

降下してきた勢いそのままに、魔爪ディアボロスでバラバラに切り裂くベルガの技。
斬裂卿と呼ばれる所以たる技を、エールはその身にしかと刻み込まれてしまった。

「オラオラッ!腕が吹き飛んだぞ!次は足だアッ!!!ヒャハハハハハハ!」
「エールさん!!」
「お姫様、よそ見はダメだっぺ!」
「う゛ッ!?しまっ……きゃあああああああああああッ!!!」

シールドランスを構えていたリリスだが、後方で響いたエールたちの悲鳴に気を削がれて体制が崩れていた。
そんな状態ではデイヴの一撃をガードできるはずもなく、派手に吹っ飛んでいく姫騎士リリス。
その姿を見たランディはニヤリと笑みを浮かべた。

「作戦は成功ですな。そっちの白騎士はもう立てますまい。あとはリリス殿を確実に始末して、セイクリッドのお嬢様をルネへと連れ帰りましょうぞ。」
「オイオイ、やけに説明口調だな海雪!久々の登場だからって真面目なやつだぜ!」
「ベルガ、わけわかんないこと言ってないで早くミライとやらを捕まえるっちゃ。姫様はオラたちがやるっぺ。」
「あーはいはい……ケッケッケ……ハデにやりすぎたな……」

ベルガの技によってバラバラに切り刻まれたエール。腕も足も頭もそれぞれがてんでんばらばらに吹き飛んでしまい、もはやなにかの儀式の後のようだった。

「あ……あぁ……エールさん……きゃあッ!」
「ったく、手こずらせやがって……お、お前なかなかいい体してんじゃねえか。こりゃあ拘束甲斐があるってもんだぜ、へへへ……!」
絶望するミライを背後から拘束し、無遠慮に彼女の胸の大きさを確かめるベルガ。16という年にしてはなかなかの発育ぶりに、最近の若いのはすげえなと舌を巻いた。

「や、やめてください……離してください……!」
「へっ……ルネに帰って殺すだけじゃ惜しい体してんなぁ。お前もあのアウィナイトみたいに貴族の性奴隷にしてやろうか?ちょうどお前みたいなのを欲しがってた知り合いがいるんだ。グハハハ!」
(アウィナイト……!リザちゃん……!)

睥睨卿から明かされた真実は、リザの血を使って黒鋼卿の最強鎧を作るということだった。
そして、彼女の目も体もすでに「司教か」という黒幕の1人に狙われていることも……

「お、お願いです。私の命の恩人のリザちゃんに酷いことをするのは、やめてください……!」
「嫌だね。そんなことより見てろよ。リリスの野郎があの2人に身も心もズタボロにされる様をよ……!」
涙を流して懇願するミライの胸を揉みしだきらながら、ベルガはミライの首筋をゆっくりと舐め上げた。
「ひゃ……!や、やめ……!舐めないでぇ……!」
(……まさかこいつ、こんな面と体して処女か……?こりゃああのアウィナイトと同じくらい高い値で売れそうだな……!)


539 : 名無しさん :2017/08/05(土) 11:27:36 ???
「司教殿といい斬裂卿といい、皆さんお戯れが好きですな」
「まったくだべ」
「ケッ、睥睨の奴だってあの見習い騎士と『お楽しみ』だったし、俺にも役得があって然るべきだろ」

黒騎士たちはメデューサがジンに顔面騎乗している場面しか見てないので、逆レイプでもしているのだと勘違いしていた。

「お、お楽しみ……!?ジン君に何を……!」
「あいつは年下趣味のショタコンだからなぁ……今頃、こういう目に遭ってるだろうぜ」
「え……ひやぁ!?」

再びミライの首筋を舐めるベルガ。胸を揉んでいた手は胸から離れたが、今度は脇腹の辺りを撫でまわされる。

「若い女の身体ってのは、なんでこう柔らかいかねぇ。ヒヒ……癖になるぜ」
「いやぁ……!」
「ベルガー、さっさとするっぺよ」
「お戯れも程々にお願いしますぞ」
「チッ、はいはい……っと!」

ベルガとしてはキズモノにしない程度にミライの身体を弄りたいが、他の黒騎士の手前、いつまでも楽しんでいるわけにもいかない。ミライの身体をまさぐっていた手を止めて、彼女を右肩に抱え上げる。

「いや!離してください!」

ジタバタと暴れるミライだが、ベルガの手から逃れられない。しかも、ベルガはミライのお尻が前に来るように肩に抱えていて、彼女のお尻をスリスリと撫で回している。

「運びながらケツ触る分にはテメェらも文句ねぇだろ」
「さて、そんじゃオラはさっさと王女にトドメを刺すとするっぺか」
「これで王家とセイクリッド家は終わりですな……」

ミライを抱えて馬へ向かうベルガを尻目に、デイヴとランディは先ほど吹き飛ばされたリリスの方へと向かう。

「が……はぁ……!はぁ……!ミライちゃん……!エールさん……!」

デイヴに吹き飛ばされた後、なんとか立ち上がったリリスだが……彼女の鎧は、デイヴの戦槌を喰らった腹部が窪んでいた。当然、リリス自身の身体にも大きなダメージが与えられており……リリスはシールドランスを地面に突き立て、辛うじて立っているような状態であった。

「これで正真正銘、オラたち円卓の騎士の天下だっぺな」
「国政を完全に掌握し、重鋼郷の鎧が完成すれば、ようやくあの悪名高いトーメント王国と戦争できるのですな」
「トーメントを併合すれば、友好国であるルミナスやナルビアも、国力の差から実質属国状態だべ……正に覇道だべな」
「戦争……?覇道……?そんなことの為に……」
「ふ……天下に号令をかけるという男の夢は、女性には分かりませんかな」
「どっちにしろ、その怪我じゃアンタはもう動けないべ……大人しく降参したらどうだべ?」
「く……!私は、屈しない……!例えお飾りでも……私には王族としての矜持があります!」

武器を構えて近づいてくる黒騎士たちを毅然とした態度見据えるリリス。しかし、そんな抵抗は無意味とばかりに近づいてくるランディとデイヴ。
最早ここまでかと思われたその時!

「待てぃ!」
「何奴!?」

デデッデデーデー!とどこからか一昔前の特撮ヒーローのBGMが流れる。どう聞いてもラジカセ音源なのはご愛嬌。

「フハハハハハ……!女性のピンチシーンを拝むため……!殺害レベルのリョナを止めるため……!人呼んで仮面の紅騎士クリムゾン・マスク!ただいま参上!」


540 : 名無しさん :2017/08/05(土) 17:38:02 ???
「そ、その声は仮面マスクさん!?助けに来てくれたんですか!?」
「フハハハハハ!俺は常にかわいこちゃんの味方なのだ!」
「えぇい、たった一人で何ができる!肉厚郷!斬裂卿!一息に新手を片付けましょうぞ!」
「あー?俺はまずこのガキを馬の背に縛り付けなきゃなんねぇからパスで……野郎を切り刻む趣味はねぇしな」

ボロボロのリリスは一旦捨て置き、突如現れた仮面の男を警戒するデイヴとランディ。
そしてベルガは、抱えたミライを馬の背に縛り付けようと自らの愛馬に近づいていく。その時!

「ま、待てぃ!」
「何モンだ!?」

デデッデデーデー!とどこからか一昔前の特撮ヒーローのBGMが流れる。どう聞いてもラジカセ音源なのは(ry

「か、仮面マスクさん!やっぱり俺もあの恥ずかしい口上言うんですか!?」
「ここまで来て尻込みするな!愛の戦士だとかなんとか、それっぽいこと適当に言えばサマになるって!」
「じ、ジン君!?無事だったの!?」
「ミライ!助けに来たぞ!」
「日和りやがったなジン!そこはもっとこうカッコ良くだな」

案の定というか、続けて現れたのはジンであった。

「あの見習い騎士、睥睨の奴が逆レしてた奴か!」
「ひょっとして、また仮面マスクさんがジン君を助けてくれたんですか!?」
「いや、今回は俺が自力で……自力で?いや、自力ではなかったか……」
「ええい、睥睨卿は何をしていたのだ!」

メデューサが相手をしていたはずの見習い騎士がこの場にいる。ならばメデューサはどうしたかと言うと……

「妖精達に身体を弄られて力を出せなかった……らしい」
「何者だっぺ!?……ってサイラスだべか。てっきりまたデデッデデーデー!とか流れるかと思ったっぺよ」
「あの仮面はドス殺しの仲間だ。シェリーと睥睨卿はルネに戻して、別働隊を警戒させた」
「ほう……わざわざ捕まったスパイを助けに来るとは……あのアウィナイトは、余程バラされたくない情報でも持っているのですかな」
「奴はシェリーを難なく倒したらしい……油断せずに、全員でかかるぞ」
「はいはい……たく、イイ所で邪魔が入りやがった」

ベルガは抱えていたミライを地面に乱雑に落とし、素早く荒縄を取り出してから、流れるような仕草でミライを後ろ手に縛る。

「あう!痛っ……」
「ミライ!」
「待てジン!早まるな!」
(円卓の騎士が4人……か。力押しは下策だな)

アイベルトは状況を俯瞰する。エール、リリス、ミライと協力して事に当たれればよかったのだが、間に合わなかったものはしょうがない。メデューサ観賞会なんてしなければ間に合ったんじゃないか?とかは考えないことにする。

(くっころ星人のエールちゃんは……ありゃ酷ぇな、うちの王様でもなけりゃ蘇生できないんじゃないか?ったく、くっころ女騎士をホントに殺してどうする)

身体をバラバラにされたエール。王様か、あるいは噂の司教とやらが蘇生させない限り、戦線には復帰できないだろう。

(あっちの姫騎士は、回復さえかければまだ戦えそうだな……ミライちゃんも拘束を解けば魔法は使えるだろうし……よし)
「ジン、俺はまず、あの頭良さそうなのとデブに攻撃を仕掛けて、余裕があれば姫騎士のリリス様に回復魔法をかける。その後は残りの二人も巻き込んで乱戦にするから、お前は隙を見てミライちゃんの拘束を解いてくれ……できるな?」
「当たり前ですよ仮面マスクさん!ミライは俺が絶対助けます!」
「よし、その意気……だ!」

言うが早いが、アイベルトはいつの間にか取り出していた双剣を構え、一気にランディとデイヴに肉薄する!


541 : 名無しさん :2017/08/05(土) 23:32:53 ???
「というわけで…スパイの一味が潜伏している可能性があります」
「不審な人物の類を見かけたら注意するように」

…シェリーとメデューサ、そして残る3人の『円卓の騎士』は、城内と市街地の警備にあたろうとしていた。

「お、おいおい…こりゃ一体、どういうことなん……?」
「クッッソ真面目な隼翼郷シェリーと、超絶タカビーな睥睨卿メデューサ……」
「…犬猿の仲だったはずの二人が、なんであんなに仲良さげになっちゃってんの……?」

「三人とも、真面目に聞いてください。貴女たちは『円卓の騎士』の自覚があるのですか?…困ったものね、めでゅ」
「まったく、これだから『ぐーたら三姉妹』は…本当、嫌になりますわね、しぇり」

「じゃかあしい!!その気持ちワリい手の繋ぎ方止めろやぁあああ!!」
「つーかお前はウザロンゲ(※サイラス)狙いじゃなかったんかこらぁぁあああ!!」
(やーね大声出しちゃって…ヒソヒソヒソ)
「ヒソヒソ話すんなやぁああ!!つーか聞こえてんぞ!『こんな奴らほっといて早く人気のない所行きましょ』って、
てめーらも真面目に警備する気ねーだろクソがぁぁぁあああ!!」

わけが分からないまま、市街地の警備に回された『ぐーたら三姉妹』は…

「ダルい」「眠い」「めんどい」
「はぁ……あのバカレズップル、当たり前のように2対3にチーム分けしやがって」
「あいつら絶対今ごろ城内でちちくりあってるよね」
「ちんたら市街地警備なんてやってられっかっての。こんなどーでもいいシーンなんて、ばっさりカットしてやる!」

…………

「ぐわあああああああ!!!」
「バカな…我ら円卓の騎士4人を相手に…」
「な、なんちゅう強さだっぺ…」
「ありえん…この俺が、負けるだと…」

「お前らは……この俺様を、本気で怒らせた」
円卓の騎士たちを撃破し、アイベルトは双剣を鞘に納める。

「す…すげぇ…あれが、仮面マスクさんの本気…」
「きゃあぁっ!…じ、ジン君!顔近いよ…!」
「ジンさん……その、手が…当たってます…!」
一方のジンは、ミライとリリスを助けた拍子に足を滑らせていた。

(ええ……何これ一体どういう事なの……)
せっかく何年かぶりに本気を出したのにばっさりカットされた上、
美味しい所を全部持って行かれてゲンナリするアイベルトであった。

「と、とにかく……まずは、この先の回復の泉で怪我人を治療だ。小休止してからリザの救出に行こう」
(エールちゃんの件は……まあ俺様にも一応、蘇生のアテがないでもないが…『最終手段』だな)


542 : 名無しさん :2017/08/06(日) 10:03:53 mhzRsL9U
「鉄格子が壊されてよかった。簡単にキミを逃すことができたよ。」
「リザ……ブルートをたおしてね。リンネとのやくそくは、ぜったいにやぶっちゃだめだよ。」
「……わかってる。」

リンネとヒルダの力を得て、シーヴァリアの牢獄から脱出したリザ。
ミライの父と母が鉄格子を壊したおかげで、脱出の手引きはスムーズに進んだのであった。
その2人はまたもシーヴァリアの軍上層部に呼び出されていた。娘の窮地を知らされないよう円卓の騎士に計られているのだろう。

「通信端末もあるし、さっきの口の悪い女の子も含めて仲間がいるから、きっとブルートは倒せると思う。……私に任せて。必ずやり遂げる。」
「へぇ……あんなに情けなくコテンパンに負けてるのに大した自信だねぇ。」
「……もしかして……見てたの……?」
「セイクリッド家の一部始終はずっと見てたよ。ロングスカートを思いッッッ切りめくられて、情けない姿のままブルートの裏拳を食らって崩れ落ちる姿をね。」
「ッ……!」
「あと、ベルガさんにもこっぴどくやられてたよね。テーブルに何度も叩きつけられたり、サッカーボールみたいに弄ばれたり……いやぁ、圧巻の光景だったよ。くくく……」
「…………」
「まあまあ、そんなに悲しい顔をしないでよ。鎧の中に人がいないなんてわかるはずもないんだから。キミが負けたのもしょうがないってわかってるよ。くくく……」
「リンネ……それいじょう言ったらかわいそうだよ……」

やけに生々しく自分の敗北シーンを語るリンネを見てリザは悟った。
女みたいな可愛らしい顔をしているが、こいつはドが付くほどのSだ、と。
そして、ブルートに敗北した屈辱よりも、履いていた下着をあの場にいた全員に惜しみなくさらけ出したことに、今更ながら羞恥を覚えた。

「まあ、それでも僕たちよりは強いはずだから、ブルートの件は任せるよ。何のために助けてあげたのか、忘れないようにね。」
「……わかってる。助けてもらった礼は必ずする。」
「そう言ってもらえると助かるよ。ボクの連絡先もその端末に入れといたから、何かあったら連絡してね。」
「了解。……もう行くわ。それじゃ。」
リンネの嫌味ったらしい声をこれ以上聞きたくなくて、リザはテレポートで離脱した。

(サキからもらった服に着替えたら、アイベルトに連絡して、ミライがどこにいるか確かめないと……!)


543 : 名無しさん :2017/08/07(月) 19:30:05 ???
ラケシスの森にある回復の泉に到着したアイベルト、ジン、ミライ、リリスの4人。戦闘続きでボロボロになっていたミライとリリスは、泉に浸かって傷を癒していた。
「エールさんはマジで残念だったけど……とりあえず、ミライが無事でよかったっす。これも仮面マスクさんのおかげっスよ!」
「なに、気にすることはない。が……もしも万が一、ミライちゃんが俺様にゾッコンで惚れちゃっても恨まないでくれよ。少年。」
「あ、多分それはないと思うんで大丈夫ッス!心配ないっス!」
「えぇ!なんでそんなにハッキリ言い切れんの!?」

バラバラになったエールはとりあえず、アイベルトのダークストレージに収納されている。機を見て復活させてやれば、ミライやリリスたちも喜ぶだろう。
そんなことを考えていると、アイベルトのスマホが唸った。

「はい、俺様ですがどちら様ですか?」
『アイベルト!リザだけど、今どこにいるの!?ミライは!?』
「お、おうおう、リザか?お前自力で脱出したのか。せっかく俺様が駆けつけて颯爽とお姫様抱っこで助けてやろうとしたのになぁ。」
『……で、ミライは?一緒にいるの?」
「お、おう。今はシーヴァリアの騎士どもを適当に処理して、ラケシスの回復の泉でのんのんびよりしてるぞ。」
『……そう。なら私もそっちに行く。アイベルトに話したいことがあるの。悪いんだけど、そこでちょっと待っててくれる?』
「え、あ、あぁ。……リザ、お前さ……昔に比べてよく喋るようになったな。昔はちょっと喋るとすぐ疲れたとか言ってたのに。なんかあったのか?」

よく喋るアイナやドロシーと同時期に入ったこともあり、アイベルトの中でリザはずっと鉄仮面の無口系美少女キャラだった。
リザがスピカになって初めて顔を合わせた時などは、まともに目も合わせてくれなかったくらいだ。

『……まぁ、いろいろあって。でも、前よりは全然話しやすくていいでしょ?』
「うむ。好きになりそうだ。さっき言ってた話したいことっていうのは、俺様への愛の告白だろ?シャワー浴びて待ってるから、早く来いよ。」
ブチッ、ツーツーツー……


544 : 名無しさん :2017/08/07(月) 23:55:52 ???
「はーダルい……てかさ、何故にあの2人あんなに急に仲良くなってんの?シンパシーでも感じちゃったの?」
「まぁ女子なんて、ちょっとしたことで仲悪くなったり良くなったらする生き物っしょ。てかそれよりも眠い……そりゃアタシらバリバリの夜型人間だけどさ、早寝の人ならもう寝てる時間だよ?」
「めんどい……司教様は夜更かしはお肌の調子が悪くなるとかで、この時間にはもう寝てるよね……なんでそんな時間に働かなきゃいけないんだっつーの」
「今はブルちんの鎧を作る大事な時期でしょ。ワガママ言っちゃダメよぉ」
「真面目か!……って、司教様!?」

普段はもう寝ているはずの司教の登場に目を丸くするグータラ三姉妹。

「どうしたんです?普段はもう寝てますよね?」
「なんていうかね、明日はどんな風にリザちゃんを虐めちゃおっかなーって妄想しながら寝てたんだけど、近くでイヤーな感じがして目が冴えちゃったのよね」
「イヤーな感じですか?」
「うん、あの感じは……きっと邪術ね。そういう怪しげな術とかにも精通してる私が言うんだから間違いないわ」
「自分で怪しげな術に精通してるとか言いますか(笑)」
「そういうわけで、ちょっとイヤーな気配を辿っていくから、三人には護衛をお願いして欲しいのよぉ」
「え」「ちょ」「マジですか」

一斉に不満の色を表す三姉妹。彼女たちは適当にブラブラしてから帰るつもりだったのだから当然だ。

「シェリーちゃんとメデューサちゃんにも頼んだんだけど、断られちゃったわ。あの子たち、いつの間にか随分仲が良くなってたのねぇ」
「ほんとそれな……じゃなくて!そんなのほっときましょうよ司教様ぁ」
「この大事な時期に邪術師なんて不安要素は見過ごせないでしょ。それに、私の美少女センサーが反応してるから、きっと可愛い邪術師ちゃんだと思うのよね……フヒヒ」
「美少女センサーって……司教様の趣味全開じゃないですか……ていうか、護衛の重鋼卿はどうしたんですか?」
「ブルちんは置いてきたわ。明日か明後日にはあの鎧ともお別れだから、ちょっと一人にさせてあげようという心遣いよ。護衛は貴女たち三姉妹がいれば十分だしね」
「あの人、鎧に愛着とか湧くんですかね……っつーか、アタシらが護衛することは決定事項なんですね……」
「嫌なら断ってくれても大丈夫よぉ。私個人のお願いだから、夜勤代に報酬を上乗せしようと思ってたんだけど」
「「「喜んで護衛させていただきます!!!」」」

グータラ三姉妹は、金にもがめつかった。



「……なんか、寒気が……きっとあの真っ白女に変身したせいね……二度とアイツには変身しないわ」


545 : 名無しさん :2017/08/08(火) 00:35:55 ???
「はぁ…全く、アイベルトは……でも、ミライが無事でよかった」
ルネ城内の、人気のない客間にて。通信を終え、リザは小さく安堵のため息をついた。
これからアイベルト達と合流し、重鋼卿ブルート・エーゲルを倒すための対策を考えねばならないのだが…
…その前に、問題が一つ。

(…この新型戦闘服……ちょっと、スースーする)
リザは、姿見に映った自分の…『新型スーツ』を纏った姿に、顔を赤らめる。
教授の書いた説明書によれば、新型スーツは以前より遥かに薄く、
通気性も高く、それでいて防御力は前と同等以上だという。

確かに軽くて動きやすいのだが…あまりに薄すぎて、下着のラインがくっきり見えてしまっていた。
しかも胸の下辺りに不自然なスリットが水平に入っているため、下から覗き込むと胸の下側が見えてしまう。
スカート部も以前より裾がやや短く、広く…めくれやすくなっている気がした。

(きょ、教授の趣味が悪いのは今に始まった事じゃないし…こんな事、気にしてる場合じゃないよね。
…それより、早くアイベルト達と合流しなきゃ。リンネの事も話す必要があるし…)
ふと、リンネ達の事を思い出し…と同時に、別れ際に嘲笑われた、苦い敗北と羞恥の記憶が脳裏に蘇ってしまう。

(私、本当に………勝てるのかな)
新型スーツのお陰で、戦闘力は上がっている…はずなのに、身体の震えが収まらない。
まさに黒鉄の城とでも言うべき強大な黒騎士を、倒せるビジョンがまるで浮かばなかった。

「あら。ねえ…めでゅ、こんな所に…」
「…ネズミが紛れ込んでいたようですわね、しぇり」

(!!…しまっ……!)

…運が悪かった、としか言いようがない。

普段使われていない部屋に、こんな時に限って人が入ってきてしまった事。
…しかもそれが、どういうつもりか人気のない空き部屋を探していた、円卓の騎士の二人であった事。
不安に心を乱され、敵の接近に気づくのが遅れた事。
そして何より……いくら装備が整っていても、
不安と恐怖に呑まれた今のリザは、戦える状態ではなかった事。

「…あうっ!」
…リザが動くより一瞬早く、シェリーはリザの鳩尾に剣の柄を叩き込んだ。
「……この子、例のアウィナイトだわ。まさか脱走してたなんて」

「うぐっ……!!」
更に、膝から崩れ落ちようとしたリザの首に鎖状の蛇剣が巻き付いて、無理やり意識を覚醒させる。
「フフフ…怯え切った子猫みたいな目。そそるわねぇ…」

「やっ…やめて……たす、けて…お兄ちゃん………お姉ちゃん……!!」
嗜虐心と歪んだ欲望にギラつく二人の視線が、リザの心の奥から過去のトラウマを呼び起こした。

「ねえ、めでゅ…もうそろそろ、司教様もお目覚めになる頃ですし」
「そうね、しぇり…例の地下室で、今度は私たちが可愛がってあげましょう」


546 : 名無しさん :2017/08/08(火) 21:23:54 ???
(くぅっ……!また捕まるわけには……!)
司教につけられていた魔封じの印は、すでにリンネに外してもらっている。早速魔力を練り上げテレポートで離脱を図るリザだが……

「させませんッ!」
シェリーは離脱を図ったリザに素早く肉薄し、腹に強烈な右ストレートをねじ込んだ。

「ぐあああぁッ!!」
「魔封じの印が外れているのか……それなら、ひとまずこれを埋め込んでおくか。」

ガチャ、という音とともにリザの胸元に貼られたのは、六芒星の奇妙な刻印の貼られたバッジである。

「な、なにこれ……!」
「一定時間魔力を封じるバッジですよ。これでお得意のテレポートは使えませんね。ふふっ。」
「しぇり、そんなものまで持ってるのね。」
「わたし、こういう戦闘に役立つグッズを集めるのが好きなの。」
「そう、なんだかしぇりらしいわね。……じゃあこのまま拘束して、地下室に連れて行きましょう。この子も入れたらもっと楽しくなるわね。ウフフフフフ……!」

「くっ……こんなバッジ付けられたところで、私には関係ない。死にたくなかったら、私の目の前から消えて。」
精一杯の強気な声で言い放つリザ。先ほどまでは弱気になってしまっていたが、自分自身の貞操やミライのためにもまた捕まるわけにはいかないのだ。
「あら、こわぁい。可愛い顔して結構迫力あるわね。さすがトーメントの兵士だわ。」
「めでゅ、こんな可愛いだけの女の子は2人がかりでさっさと気絶させて、地下室に連れて行きましょ。」
「そうね。この子がどんな反応するのかも今から楽しみだわ。ウフフフフ……!」
余裕綽々といった様子で話す2人。自分の小さな見た目もあるのだろうが、円卓の騎士の2人は完全に油断しているようだった。
プルートには負けたが、今回は女性2人。元々対人戦に自信を持っているリザは、2人相手でも臆することなくナイフを手に取った。

「そっちが来ないなら……こっちから行くッ!」


547 : 名無しさん :2017/08/09(水) 00:51:06 ???
(……尾行されてるわね……数は4人。この辺りじゃあんまりいない黒髪黒目だから、怪しまれたのかしら……?ザルとは言え、一応厳戒態勢だし)

ルネを歩いていたサキは、自らが尾行されていることに気づいた。基本的に黒髪黒目は異世界の人間が多いので、サキはよく異世界人に間違われるし、そのことを利用することも多々ある。自分が異世界人と思われていると仮定すると、厳戒態勢の所に何故か異世界人が紛れ込んでいるのを警戒した……というところだろうか?

(それにしては、四人もいるのが気になるけど……なんにせよ、さっさと撒くに越したことはないわね)

人混みに紛れて、追跡者を振り切ろうとするサキ。だが、追跡者は執拗にサキを追いかけてくる。

(しつっこいわねストーカー共が!いいわ、なら……!)

サキは唐突にお腹の辺りを押さえると、キョロキョロと周りを見回してから近くの人気のない公園に設置されていた公衆トイレに入る。そしてトイレの個室に入ってから別人に変身して公衆トイレを出る。これで追跡者たちはサキのいない公衆トイレをいつまでも監視するだろう。
案の定、自分を尾行していた四人組は公衆トイレを見張っている。別人になりすましたサキは、変に挙動不審にならずに堂々と四人の横を通り過ぎようとして……通り過ぎた直後、後ろから羽交い締めにされた。

「な……!?なにすんn……ふぐぅ!?」

羽交い締めから逃れようともがきつつ大声をあげようとしたサキだが、口をハンカチで押さえられてしまう。

(や、ば……!しかもこれ、クロロホルム……!)

刑事ドラマなどでお馴染みのクロロホルム。サキの口を塞ぐハンカチにはそれが染み込んでいた。

「司教様!どう見てもさっきの黒髪と別人ですけど、ほんとにコイツが邪術師なんですか?」
「ええ、イヤーな感じがその子からしてるから間違いないわ!」

(な……!まさかコイツが、例の司教……!?ぐ……!意識が……薄れ……て……)

しばらくもがいていたサキだが、徐々に暴れる力が弱くなっていき……カクン、と意識を失った。

✱✱✱

「あ、顔がさっきの黒髪に戻った」
「はー、邪術ってのは、変装もできるんですね……」
「いえ、私が知る限りではそんな邪術は存在しないわ」
「え?ということは……」
「リザちゃんと同じ特異体質の人間……かしらね」
「ということは、ドス殺しの仲間?」
「いや、特異体質ってだけで仲間って決めつけるのは早計っしょ」

意識を失った邪術師と思しき少女を囲みながら、グータラ三姉妹と司教は話し合っていた。

「邪術のイヤーな臭いを感じられなかったら、きっと見失ってたわね……」
「さりげなく逃げんの上手かったっすもんねこの黒髪」
「で?この黒髪どうすんすか?」
「邪術師は極刑が基本だけど、私の勘だけだと邪術師として立件するには証拠不十分なのよねぇ」
「ということは、また尋問コースですか?」
「そうね……邪術師疑惑はリザちゃんと違って堂々と取り調べできるし……とりあえず、お城に連れて行きましょうか」


548 : 名無しさん :2017/08/12(土) 12:21:14 ???
「バカな奴だ。円卓の騎士2人を前にして向かってくるとは!」
「しぇり、殺さない程度に痛ぶってやりましょう!」
ナイフを翻して突進するリザの目は、敵の姿をしっかりと見据えて動きを観察する。
(やってやる……!絶対に殺してやる……!)

「邪剣ウロボロス!捕らえなさい!」
向かってくるリザを捕らえるべく、伸縮自在の剣がメデューサの手から伸びてリザへと向かった。
「はぁっ!」
「跳んだわ!しぇり!」
「任せて!着地を狩る!」
某機動戦士のゲームでは当たり前の戦術である着地狩りを敢行すべく、シェリーは持ち前のスピードで着地点であろう部屋の隅へと移動した。
そのまま落下してくるリザを叩くべく、シェリーは剣を構える!

「金髪美少女!覚悟し……な、なにぃっ!?」

シェリーが見上げた先に映っていたのは、壁に足を付けて正面から向かってくるリザの姿だった。
「か、壁を走るだと!?どうなって……」
「しぇり、危ないッ!!」
カッと見開かれた美しい青い目に目を奪われた直後、一瞬で距離を詰めたリザの強化ナイフの刀身がシェリーの眼前に迫る!
「い……いやぁ……!」
恐怖に声を漏らしたのもつかの間、リザは左右の手にナイフを構えていた。

「殺那五月雨斬華!!」
「ぐあああああああああああぁぁあぁあぁああぁッッ!!!」
鎧の隙間という隙間から……否、魔力によって強化された教授自信作の強化ナイフは、鎧の上からでも問題なくシェリーの体を引き裂いていった。
鎧の隙間から吹き出た大量の赤い血が豪奢な床を染め上げて、慈悲のない攻撃だったことを如実に物語っている。

「しぇりーーー!!!くそっ!貴様あああぁぁッッ!!!」
「次は……お前だ。」
先ほどまでの弱気な姿勢は何処へやら。強化ナイフの素晴らしい切れ味に酔いしれたのか、リザの目は瞳孔が見開いていて修羅を感じさせる目つきだった。


549 : 名無しさん :2017/08/12(土) 14:27:33 ???
「う……ん……」
「お、邪術師疑惑の子が目を覚ましたっぽい」
「……!ここは……」

サキは冷たい床の上で目を覚ました。両手は稼が嵌められているが、足は自由である。怪しい集団ストーカーに突如襲われ、元々戦闘員ではないサキは抵抗空しく捕まってしまったことは覚えているが……。

(邪術師疑惑……?まさか、邪術を使うところを見られて……?いや、それなら疑惑なんて言い方はしないはず……)

サキは伊達に工作員を名乗っていない。相手のちょっとした会話から現状把握を進めることができる。が、如何せん今は情報が少なすぎる。

「な、なんですか?ここはどこなんですか?貴女方は、聖騎士様……ですよね?」
(とりあえず下手に出て様子を見るしかないわね……)
「あー、ここはルネの王城。アンタには邪術師の疑惑がかけられてるんだよね」
「ちょっと今バタバタしてて、手荒な逮捕になっちゃったけど、まぁそういうことで」
「そ、そんな……私は邪術師なんかじゃありません!」
「うん、それを調べたいんだけど……肝心の司教様が『リザちゃんが脱走!?どういうことなの!?』ってどっか行ったから、調べられないんだよね」
「アタシら邪術とかそういうの完全に門外漢だもんな」

どうやら、状況は思ったよりも悪くないらしい。とサキは内心安心する。

「てかさ、アンタ別人に変身してたけど、あれなに?司教様が言うには邪術ではないみたいだけど」
「その、私特異体質で、少し身体を触った人に変身できるんです」
「へぇ……まぁそういう人もいることにはいるみたいだけど……なんであの状況で変身したの?」
「それは、その……後ろの方から変な視線を感じて……あの、失礼なんですけど、変態さんかと思ってやり過ごそうと……」
「あー……納得」

と、その時、城の上の方から何やら大きな音が響き渡った。

「な、なんだ!?」
「あれじゃね?脱走したアウィナイトが見つかって戦ってんじゃね?」
「城の警備にはレズと化した2人がいるし、どっかには重鋼卿もいるだろうし、まぁアタシらが出る幕はないっしょ」
(リザの奴、さっそくおっぱじめたみたいね……あ、そうだ)

突如響いた音――リザがメデューサとシェリーと戦っている音である――を聞いて、サキは騒ぎが大きくなれば自分が逃げやすくなると思い、行動に移す。

「あの、すいません……取り調べは甘んじて受けますから、保護者に連絡だけ入れてもいいですか……?」
「あー、そんくらいならいいか」
「荷物……つっても携帯電話と現金くらいしかなかったけど……とにかく荷物はこっちで預かってるから、ちょっと待ってろ」
「一応、アタシらの前で通話してくれよ」

三姉妹の一人が一瞬席を外し、しばらくするとサキの携帯電話を持って戻ってきた。
サキの仕事用携帯はアルガスの件以降細工を施しており、中身を見ても重要な情報は暗号化されている。その暗号も、ぱっと見では暗号とは分からない、当たり障りのないメモ帳になっている。

「手の拘束は取れないから、アタシが操作して通話の時にアンタの耳にあてるんでいい?」
「はい、大丈夫です。では、私が今から言う番号を押してください」
「へーい」

そして三姉妹の一人がサキの言う番号に通話をかけ、電話をサキの耳に当てる。

『はいもしもし、俺s』
「お父さん!?私!えっと、私、聖騎士様に邪術師と勘違いされちゃって、今お城にいて……あ、酷いこととかはされてないんだけど、ただ、脱走したアウィナイトとかいうのがいるみたいで、戦ってるみたいな凄い音してて不安で……ええと、とにかくしばらく帰れそうにないの!ごめんね!?」
『は?おい、どういうこt』

ブツ!ツー、ツー。

サキの取った作戦。それは、父親に電話しているという体を装って、アイベルトに現在の状況……リザは脱走して円卓の騎士と交戦中。自分は邪術師疑惑(事実だが)をかけられて拘束されているが緊急性は低いという状況を伝えることであった。

(いくらアイベルトがアホでも、これで大体は伝わったでしょ……これでアイベルトが城に潜入して騒ぎを大きくしてくれれば、私も逃げやすくなるわ……結果として、リザの援護もすることになるかもしれないけどね)


550 : 名無しさん :2017/08/12(土) 18:35:15 ???
「よくもしぇりをっ……許さない…貴様だけは絶対に…」
「私は、こんな所で立ち止まるわけにはいかない…邪魔する者はすべて…」
「「殺すっ!」」

ナイフを手に接近戦を挑むリザに、メデューサは長剣状態に戻した蛇剣ウロボロスで応戦する。
体格差やリーチの面ではメデューサが有利だったが、リザのスピードはそれを覆して余りあるほどに圧倒的だった。

(…ガキンッ!!)
「…終わりよ」
リザはメデューサの手から蛇剣を叩き落とし、ベッドの上に押し倒した。

「フフフ…それはどうかしら」
「…無駄よ。何をするつもりか知らないけど…その前に、止めを刺す」
余裕の表情を崩さない相手に戸惑いつつも、リザはナイフを振り下ろす。
その時…月明りを反射して、メデューサの瞳が妖しい輝きを放った。

(……ぴきん)
「…っ……これは……!?」
メデューサの心臓に、ナイフを突き立てる直前。リザの右手が灰色に変色し、感覚が消え去った。

(ぴきっ……ぴきぴき……)
…指先から手首、そして肘へと、灰色は急速に広がっていく。
変色した部分は触れると固い感触がして、全く動かせなくなっていた。

「腕が、動かな…っ、あっ!!」
「…お解りいただけたかしら。この私…『睥睨』のメデューサの二つ名の意味を…」

左腕、更には両脚にも同様に異変が現れ始める。
動きを封じられたリザをメデューサは楽々と押しのけ、体勢を入れ替えた。

「この瞳の魔力で身体が石になって、身動きが取れなくなった獲物を………
こうして上から見下す様から、そう呼ばれているのよ」
「くっ……!!」
メデューサの指が首筋やスカートの中に入り込み、敏感な部分を探るように撫でまわす。
嫌悪感を抱くリザだが、両腕は既に肩口まで、脚は膝上までが石化しているため、どうする事もできなかった。

「可愛いドブネズミさん、身体がじわじわと石になっていく気分はどう?
…貴女はしぇりがされたのより、もっと…最高に恥ずかしい格好で、石像にしてあげる」
「う……私は…ここでやられる、わけには…」
メデューサの瞳が輝きを増す。リザはまるで魅入られたように、そこから目を反らすことができなかった。

「…ちょっと待った。その娘が石になったら、ドスの鎧に血を与える事が出来なくなる」
「貴方は……蛇蝎卿」
絶体絶命の窮地に陥ったリザの前に現れたのは……黒騎士リンネと、ヒーラーのヒルダだった。


551 : 名無しさん :2017/08/12(土) 18:39:18 ???
「シェリーさま…きゅうしょはギリギリはずれてた。…これならなおせる」
「……という事です」

「しぇり…良かった。それなら…」
メデューサの瞳の輝きが消え、少しずつ、石化したリザの手足が元に戻っていく。

「…たっぷり血が出るようにしてあげましょう」
…戻りかけのリザの右腕を、メデューサは力任せにへし折った。
「あっ……!?」
…石化していたため、折られた瞬間は痛みは全く無かった。
だが、しばらくすると腕は石化から解放され……本来の痛みが、じわじわと遅れてやって来る。

「…う、ああああぁぁああああっ!!!」
更に数秒遅れて、思い出したように鮮血が噴き出し、ベッドシーツを赤く染め上げていく。
(全く…重鋼卿を倒すどころか、その前哨戦でこの様とは、先が思いやられる。…ま、元から大して期待してなかったけど)

…その後。ヒルダの治療によってシェリーは回復し、リザの右腕も辛うじて繋ぎ止められた。

「処置も済んだことですし、地下室に連行しましょう…動けないように、クスリを注射しておきますね」
「…その方がいいでしょうね。この娘は油断がならない。ロープで縛っただけじゃ、何をしてくる事か…」

リンネは、リザのスーツのスリットから注射剣を差し込む。

「……あ、うっ…!!」
胸の下に鋭い痛みが走り……どくり、と何か…危険な何かが、流れ込んでくる感触がした。

(クスクス…安心したまえ、まだ君を見限ったわけじゃないよ……君の石化を解いてもらうにはこうするしかなかった)
回復したシェリーとメデューサに気取られないよう、リンネはリザの頭の中に魔法で念話を送る。

「全身を麻痺させると同時に、全身の感覚を鋭敏にして…早い話、感じやすくなるクスリです」
「あら素敵……試してみてもいいかしら?」
「どうぞ」
シェリーとリザに挟まれたリザを、リンネは嗜虐的な笑みを浮かべながら眺めている。

(…麻痺させる、というのはウソだ。けど今は…その事を悟られないよう、動かない方がいい)
(わかってる……私はまだ、生きてる…負けたわけじゃ…諦めたわけじゃ、ない………!)

「あ、んっ……!?」
「…ねえ、めでゅ。このスーツ、とても良い手触りね。それに、スーツ越しなのに素肌と同じくらい敏感になってるみたい」
「ひあ、や、めっ…!」
「あら、いい反応……ねえ、しぇり。さっき戦ってるときに見つけちゃったの…この子、ココがすごく弱い」
「ん、……あうんっ……!!」

(…感じやすくなるのは本当だ。君にそういう演技ができるとは思えないからね。くっくっく…)
(なっ……!?)

…そもそも、油断させるためとはいえこんなクスリを打ち込む必要はどこにあったのか。
本当に黒騎士リンネを信用していいのか…リザは今更ながら不安に思えて来た。

(今は焦らず、チャンスを待つことだ。重鋼卿が現れたら…
…状況によっては4対1になるかもしれないが、まあ何とかしてくれ。くっくっく…)


552 : 名無しさん :2017/08/12(土) 22:26:56 ???
「意趣返しとして、めでゅがされたことを小さめのバイブでこの子に再現するのはどう?」
「いい考えねしぇり……なら、しぇりがされたのと同じ格好をこの子にもさせようかしら」
「……?ばいぶ?」
「……お二方、ヒルダが変な言葉を覚えてしまうので、そういうのは地下室に連れ込んでからお願いします」
「シェリーちゃんとメデューサちゃん、ほんとに仲良くなったのねぇ」
「司教様!……相も変わらず、神出鬼没ですね」

シェリーとメデューサがリザの身体で遊んでいると、突如として司教が現れた。

「リザちゃんが脱走したって聞いた時は驚いたけど……問題なかったみたいね」
「はい。隼翼卿と睥睨卿が捕獲なされました」
「いえ、私は早々に彼女に大怪我を負わされてしまいましたので。今回の手柄はめでゅ……ーサさんお一人のものですね」
「いえいえ。しぇり……ーさんがアウィナイトのテレポートを封じてくれたが故の勝利ですよ」
「ふふ…名誉ある2人の功績ということにしときなさいな。それと、私の前だからって無理に呼び方変えなくても大丈夫よぉ」
「はぁ……はぁ……」
(ま、まずい……!敏感になってる今、あの司教に触られたら……!)

司教が現れたことで、メデューサとシェリーはリザの身体を弄ることを一旦止めた。人心地ついたリザだが……2人以上のガチレズである司教の登場で心安らげるわけもない。

「それで司教様、何故ここに?アウィナイトの様子を見に来ただけですか?」
「ああそうそう、ヒルダちゃんに頼みがあって来たんだったわ」
「ボクに?」
「ええ、街中で邪術師っぽい子を見つけたからちょっと捕まえたんだけど、私はリザちゃんの方の蘇生をしなきゃいけないから調査できないのよねぇ。かと言って、私以外に邪術の調査なんてできる人はルネにはいないし」
「……それとボクに何の関係が?」
「リンネちゃんのあの薬でトラウマを調べてほしいのよねぇ。邪術師なんて脛に傷持つ生き方してれば、絶対邪術関連のトラウマがあるだろうから、それがあるかどうか調べてほしいのよ」
「なるほど……その方法なら、邪術には詳しくなくても調査できますね」
「ええ、お願いしていいかしら?」
「もちろんですよ……ちなみに、その邪術師って、どんな人でした?」
「うん?そうねぇ、黒髪黒目で、蝶々の髪留めをしてて……可愛い子だったわよ」
「なるほど……分かりました」
(な……!)

邪術師で、黒髪黒目で、蝶の髪留め……間違いなくサキだ。リザは思わず動揺してしまいそうになるが、ここで動揺すればサキが自分の仲間だとバレてしまうと、必死に動揺を押さえつける。

(なるほど……一応リザの仲間だから、邪術のことは隠してあげてもいいけど……ヒルダに怖い思いをさせた分のお礼くらいはさせてもらおうかな)

一方でリンネは嗜虐的な笑みを浮かべる。もし万が一トラウマがなくとも、幻覚の中の世界では好きに甚振れる。

(リンネ……!サキに何を……!)
(傷つけはしないさ……身体はね……ふふ……)

再び念話で会話するリザとリンネ。彼の嗜虐的な笑みを見て、警戒を強めるリザだが……残念ながら、今の彼女にできることは何もなかった。


553 : 名無しさん :2017/08/13(日) 22:12:08 ???
一方その頃、サキは『ぐーたら三姉妹』に尋問を受けていた。

「…んで、どーする?この邪術師疑惑(略してジャギ)ちゃんは」
「ぶっちゃけ放置してさっさと帰りたいけど、後で怒られんのもイヤだし…一応テキトーに拷問しとこっか」
「そういえばきいたことがある。古代中国に、額に水滴をたらし続けて放置するという恐ろしい拷問方法があるとかー」
「おお、なんかお手軽そうじゃん。それやってみよっか」
「そっ……それだけはやめてくださいっ!!」
「知っているのかジャギちゃん」
「(ジャギちゃん?)……いや、そういう事すると、どこからかガチ勢の人が現れそうで…」
「えー?そんな都合よく、拷問ガチ勢なんて通りがかるわけないだろ!」
「だねー。最近入った警備兵で、アクアリウムが趣味ってやつはいたけど」
「ダメです!絶対ダメなやつですそれ!」

割と和やかムードだった。

「……よくわからんが、頑なに拒否る所が怪しいな。やっぱお前、邪術師だろ!ついでに例のスパイの仲間だろ!」
「ふてえやろうだ!このあたしがミツルギ仕込みの拷問術であらいざらい吐かせてやる!」
「いやいや。あたしがルミナス直伝の魔法で正体を暴いてやるー」
「えっ」
「えっ」
「あー……もしかして二人とも、そっち系?」
「なにをかくそう」
「この話はオフレコで」
「そっかー……じゃ、この際だからカミングスーンしちゃうけど、実はあたし異世界人なんだよね」
「マジで」
「つーかカミングアウトな」

なんか衝撃の事実が発覚していた。

『鉄拳卿』ノーチェ・カスターニャ
巨大手甲『ストレングス・イズ・ザ・パワー』で、ダルい奴らは片っ端からぶっ飛ばす。
実は異世界人。本名は「名栗間 胡桃(なぐりま くるみ)」

『裁断卿』キリコ・サウザンツ
巨大鋏『貴様ら下衆に名乗る銘はねーですよ』で、めんどい物はばっさりカットする。
実はミツルギ皇国の間者「千斬のキリコ」

『暗幕卿』コルティナ・オプスキュリテ
魔法のマント『なんかぶわーってなるやつ』で敵を捕らえ、無力化する。寝袋にもなるので、眠い時は寝る。
実はルミナスからやって来た「魔法少女ミッドナイトヴェール」

(……つーかこの国、諜報関係ガタガタすぎじゃない?)
この三人に、トーメント王下十輝星のサキと…

「…随分と騒がしいですね」
「おー。こいつしぶとくて、なかなか口割らねーんだよ」
(うわ、コイツさっきの……)
…ナルビアの密偵である、蛇蝎卿リンネ。

何の因果か、4か国のスパイ+異世界人が、一堂に会してしまったのであった。


554 : 名無しさん :2017/08/14(月) 01:14:13 ???
「まさか、サキからお父さんなんて呼ばれる日がくるとは……」

アイベルトは、先ほどサキからかかってきた電話……そして、その前にかかってきたリザからの電話の意味を考えていた。

(リザが一旦逃げ出して俺様に電話をかけるが、その後に敵に見つかって交戦中。
そして邪術師疑惑をかけられて城にいるサキがその事を俺に伝えてきた……か)

お父さんがどうのと言っていたのは、監視の目を潜り抜ける方便だろう。なんかそういうお店のオプションみたいでちょっと興奮したのは内緒だ。

「仮面マスクさん、どうしたんですか?さっきからちょくちょく電話かかってきてますけど」
「ひょっとして、リザちゃんに何かあったんですか……?」

心配そうな面持ちで聞いてくるジンとミライ。リリスは余りにも怪しい仮面の男をまだ警戒しているのか、単純にまだダメージが残っているのか、泉に浸かっている。

「ああ、なんと言うか……」

アイベルトはどう説明したものか迷った。彼とリザは初対面ということになっていたし、トーメントの人間であることは隠さねばならないから、真実は話せない。

「実は、俺様とリザちゃんには共通の知り合いがいてな……俺の昔の職場の同僚なんだが」
「昔の職場の同僚?」
「ああ、ジンには少し話したよな?昔の同僚の妹がジェノサイド・スティンガー……ドスの体液を硫酸で稀釈した毒液を顔にかけられた事件があったって……その同僚だ」( >>392参照)

結局、真偽織り混ぜて適当に誤魔化すことにした。

「リザちゃんがものすごく苦しんでたあの毒を顔に……!?酷い……」
「とにかく、世の中狭いことに、その同僚とリザちゃんが友達らしくてな……どういうルートで知ったのか分からないが、ルネに潜り込んで助けに来たようだが、苦戦してるらしい」
「なるほど……ということは、あの電話は仮面マスクさんに助けを求める電話ですね?」
「ああ、そういうことだ」(ふ……上手いこと誤魔化せたな)

都合よくリザと昔の同僚が友達など、割とツッコミ所のある誤魔化しだったが、ジンとミライが細かいことは気にしない性格のおかげで追求はなかった。

「さて……俺はこれから、リザちゃんと昔の同僚を助けにルネに戻る。みんなはここに隠れていてくれ」
「そんな……俺たちも一緒に」
「残念だが……お前たちはこの戦いには、ついてこれない……ルネに潜入すれば、あの重鋼卿とも戦う可能性が高い」
「それは……!」
「ジン君……仮面マスクさんの言う通りだよ……私たちが無理について行っても、足手まといだよ……」
「特にミライちゃんと姫騎士様は病み上がりだからな……時にミライちゃん」
「なんですか?」

アイベルトは珍しく真剣な顔つきのままミライに話しかける。

「さっき話した昔の同僚の妹なんだが……ミライちゃんの究極回復魔法なら治せるんじゃないか?」
「あ……!」
「アイツはまぁ、気難しい奴だが家族は大切にしていてな……俺様もできることなら治してやりたいと思っていたんだ」
「実際に見てみないことには分かりませんけど、この癒しの泉と合わせれば、大体の傷は治せると思います!」
「無理にとは言わないが、この事件が解決したら、昔の同僚と会ってくれないか?」
「はい!リザちゃんの友達の助けになるなら喜んで!」
「ああ……アイツも喜ぶだろう」
(サキの場合、手荒な手段でミライちゃんを誘拐しかねないからな……予め話を通しておくに越したことはない)

アホだが実は結構気遣いとかもできる男アイベルトは、心の中でサキにサムズアップした。


555 : 名無しさん :2017/08/15(火) 02:14:11 dauGKRa6
「さ、着いたわよ。これからあんたが一生暮らすことになる特別地下拷問室にねッ!」
「あぐっ!!う゛っ!」
拘束したリザの体をメデューサは乱暴に床へと叩きつけた後、うつ伏せになったリザの頭を踏みつけた。
「さっきはよくもしぇりを……!本当は3人で気持ちいいことをしようと思っていたけれど、気が変わったわ。あんたが円卓の騎士に一生歯向かう気なんて起きないくらいに、徹底的に拷問してあげる……!」

(めでゅ……そんなに私のことを……)
嬉しくて顔を赤らめるシェリー。感情表現の苦手な彼女には今まで友人と呼べる存在がいなかったのだ。
少し歪んではいるが、メデューサという心を許せる存在ができたことにシェリーは内心喜んでいた。

「さて、どんな風に嬲って犯して痛めつけて心を折ってやろうかしら……!」
リザの後頭部をぐりぐりと左右に踏みつけながら、メデューサは文字通りリザを上から目線で睥睨して見せた。
「ん゛ん゛う゛っ!!ぐ……くぅ……!」
「弱小民族のアウィナイト風情が……!性奴隷にされるだけの生き物のくせに、調子に乗るんじゃないわよ!」
「ぐあぁあッ!」
メデューサの足に後頭部を思い切り踏みつけられたリザは顔から出血してしまい、少し伸びた金髪を赤く染めながら床へと新鮮な血が広がっていった。
どれどれ、とメデューサが足でリザを仰向けになるよう転がすと、鼻から出血したまま虚ろな目をしたリザの表情が露わになる。
「ぅ……ぁ……」
「クククク……さっきはキメ顔でかっこつけてたくせに、言いザマねぇ。顔から出血しちゃって目以外が真っ赤になっちゃったわよ。」
「はぁ……はぁ……」
「それにしても綺麗な目よねぇ。血の赤と金髪のコントラストが素敵……世界中の大富豪たちが倫理観をかなぐり捨ててまで求めるのもわかる気がしてきたわ。」
「アウィナイトも今は天然記念物みたいな物だからね。そろそろ養殖とかいう話も出てるらしいわ。」
「なっ……!養殖……!?」
「あら、いいわねぇ。こんな綺麗なお人形さんを好きなだけ弄んでいいなら、毎日退屈しなさそうだわ。ホント、司教様が羨ましい……!」
「この子のルックスからしてそのサンプルにぴったりよね。この子を使ってシーヴァリアをアウィナイトの名産品にできるといいんだけど……」

(ふ……ふ、ふざけるな……!養殖?名産品……?私たちを……海の民アウィナイトをなんだと思って……!!)
再び湧き上がるリザの闘志。出血で頭がふらつく中、リザは脱出するための算段を猛スピードで計算していった。


556 : 名無しさん :2017/08/16(水) 09:07:12 ???
あれこれ・・・。3年くらい前に流行った「巨大蜘蛛に完全武装で挑むパパさん」のビデオだけど結末が違う・・・。どういう事だ?もしかしてこっちがオリジナルの映像だったのかな??
https://twitter.com/_/status/891780148667797505
3年前のはこっち
https://youtu.be/MEkAAK_NuBQ


557 : 名無しさん :2017/08/16(水) 11:38:21 ???
「あらぁリザちゃん。いい表情になってるじゃなぁい。もうほんとに食べちゃいたいくらい可愛いわぁ。」
「あ……司教様。」
「ダメよぉ〜メデューサちゃん。私の許可なくリザちゃんを虐めちゃ。今回は許してあげるから、私とリザちゃんの2人っきりにしてくれる?」
「……申し訳ありませんでした。失礼致します。」
遅れて現れた司教はメデューサとシェリーを退出させ、拘束されたまま横たわっているリザの元へとしゃがみこんだ。

「そういえばまだ自己紹介してなかったわねぇ。私はアイリス・リコルティア。こう見えても円卓の騎士を率いるシーヴァリアの重鎮なのよぉ。」
「……興味ないわ。」
「もう、つれないわねぇ。そんな可愛くない態度を取るリザちゃんにはおしおきをしてあげるわ。両腕を縛って吊るしてあげましょうか。」

特別拷問室には拷問用の機材などが揃っており、拘束具や拷問道具なども豊富に揃っている。
アイリスはリザの両腕を頭の上で縛り上げ、天井に吊るして拷問の準備を整えた。

「眺めるもよし、痛ぶるもよしの奴隷美少女の出来上がり〜!ウフフフ……気分はど〜う?」
「………………」
「いいわねぇ〜!その挑発的な双眸……それでこそ調教し甲斐があるってものだわぁ。さぁリザちゃん、一緒に楽しみましょう……!」
不敵に微笑むアイリスの表情を確認したリザの視界の端から飛んできたのは……真っ黒な鞭だった。

パチィィィィン!!パチィィィィィンッ!
「はううっ!あ、んやあぁッ!!」
鞭が飛んできたのはリザの肩と足。魔力で強化されているのか、強化スーツの上からでもかなりの痛みがリザを襲った。

「いい音だわぁ。鞭の音も、貴方の悲鳴も……!さて、せっかくだからこの状況で改めて質問しちゃおうかしら。」
「し、質問……?」
「簡単な質問よぉ〜。リザちゃんがどこから来たのか教えてくれればいいだけなの。それだけ教えてあげれば、鞭打ちのお仕置きはやめてあげるわぁ。」
「……鞭打ち程度で、この私が口を割ると思ってるなら大間違いよ。……このアバズレ年増女。」
「まぁ……この私に向かって大層な口の利き方ねぇ。そういう言葉を使うのは可愛くないわよぉ、リ・ザ・ちゃん♡」
アイリスは甘い声を出しながら、リザの唇に自分の唇を強引に重ね合わせた。

くちゅ……んちゅっ!
「んうっ……!!」
「ンフフ……♡リンネちゃんのおクスリで感じやすくなってるのよね?こういうのはどうかしら……」
アイリスはリザの唇と鼻を舐め取りながら、右手でリザの股間をゆっくりと擦り上げた。
「ひゃ……!」
「ほら、ここはどう?感じるでしょう……?」
「や、めろ……!あぁあんっ!!!」
「そうよぉ♡そういう声が可愛いのよぉリザちゃん……さっきみたいに汚い言葉はだ〜め。もっとリザちゃんの可愛くて溶けちゃいそうな声を聞かせてぇ……♡」
アイリスは甘ったるい声で囁きながら、さらに手の動きを早めてリザの股間を弄ぶ。
「やあぁっ!!あ、あ、ああああ……っ」
ぐちゅっ!ズチュッ!という耳を塞ぎたくなるような音と、自分の声とは思いたくないほどの淫猥な嬌声が、地下拷問室に響き渡った。

「やぁ……!ああああんっ!」
「わかるわよぉ。もうイっちゃいそうなんでしょう?我慢しないで思いっきり果てちゃいなさいな。私が側でじっくり見ててあげるわぁ……♡」

アイリスの巧みな指の動きにより、リザの理性はピンク色の霧がかかったかのような、うすぼんやりとした状態であった。

「あっ……んうっ……!ひあああっ!あーっあうぅ……」
(あ、頭が……ぼうっとして……!も、もう……だめ……!)

リンネの薬の効果で、リザは自分がどんな嬌声を上げているかも忘れかけていた。
襲い来る抗えない激しい感覚に、体全体で精一杯反応するだけの……文字通り、性奴隷になってしまっていたのだ。

「あぁあリザちゃん……♡リザちゃん……♡あなたの1番気持ちイイ瞬間を私のこの目に焼き付けさせてぇ!」
「ひゃうっ!ああぁっん!やらあぁっ!あっ……あはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


558 : 名無しさん :2017/08/17(木) 22:38:01 dauGKRa6
「いや!いやあぁっ!拷問はやめてぇ!助けてぇー!おとうさああぁんっ!」
「うるさいな……ほらさっさと歩きなさいよ黒髪。あたしの鉄拳制裁で絶対吐かせてやる!」
「あんたみたいな脳筋には無理よノーチェ。拷問術のプロフェッショナル特集ででNHKにも出たことがあるあたしに任せときなさい。」
「ノーチェにもキリコにも無理だよ!私の魔法で精神的に嬲ってやったほうが絶対効率いいもん!」
「コルティナ……あんたそんな子供っぽい喋り方だったっけ?」
「いやあ〜、あたしたちキャラが薄すぎだから個性を出そうかなって……」
「いやいや、あたしたちは3人間揃ってぐーたら三姉妹でもともと個ではないから。なに勝手に独立しようとしてんのよ。」
「ふええ……すみますみませんでしたすみまぁ……」

サキは三姉妹のくだらない雑談を聞かされながら、拘束されたまま階段を下っていた。
(冗談じゃないわ……!またナルビアみたいなことになるのは絶対に嫌!なんとかしなさいよコイツ!!)
サキがキッと睨んだ先には……涼しい顔をして歩いているリンネがいた。

(睨まないでくださいよ……助けてあげたいけど、立場上今は無理なんですって。)
(あんた……念話が使えるのね。じゃあ今助けられないならいつ助けられるのよッ!)
(はぁ……そもそも助ける前提になってますけど、僕が手を組んだのはリザで、あなたのことは正直どうでもいいんですが……)
(な……!このオカマ!あいつの仲間になるってことは私とも仲間になるってことなの!そんなことくらい分かってよ!)
(もう……仕方ないな。機を見て必ず助けますから、今はおとなしくしててください。)

ヒルダを怖がらせたというサキのことはあまりよく思っていないリンネ。
念話ではそう言ったものの、あわよくばリザにやったようにトラウマでリョナってやろうと思っていた。

「さ、着いたわよ……って、誰かいる……?」
「おじゃましまーす……って、司教様!?」
「あら〜?貴方たちもここ使いたかったの?ホントは2人っきりで楽しみたかったけど……まあいいわ。この部屋は広いし、みんなで使いましょ。」

ぐーたら三姉妹たちがサキを連れてきたのは、リザかレズリョナを受けている地下拷問場だった。
「う……あぅ……」
「そのアウィナイトって例のドスの贄にする奴ですよね。なんかすごいぐったりしてますけど……」
「ウフフ……明日には鎧が完成しちゃうでしょ?その時に目を取っちゃうから、今のうちにリザちゃんの体をじっくり楽しんでる所よぉ。そろそろ全部脱がしちゃおうかしらぁ♡」
「司教様……リンネもいるんですけど……」
「あら、じゃあリンネちゃんがリザちゃんの体で遊んじゃう?男の子がどんな風にリザちゃんを扱うのか、見て見たいわぁ〜!」
「遠慮します。ボクは他人の目がある場所で猥褻な行為はしたくないので。」
「真面目だなぁ〜リンネくんは。もしかしてヒルダちゃん以外に興味ないのかなぁ?」
「コルティナ、個を出すな。個を。常に群れを意識しろ。」
「ふえぇ……」

(クソリザ……あんた何回捕まってんのよ。ピー◯姫じゃあるまいし……って、私も今は人のこと言えないか……!)
テキパキと拘束されたサキは、リザの隣に同じように両手を拘束されて吊るされてしまったのであった。


559 : 名無しさん :2017/08/17(木) 23:59:05 ???
「さて、まずはボクが彼女に邪術絡みのトラウマがないか調べます」
「あー、邪術師なんてアンダーバーな生き方してたら、それ絡みのトラウマの一つや二つあるか」
「拷問とかよりスマートでいいじゃん。つーかアンダーグラウンドな」
「リンネ君頭いいね!」
「コルティナ、止めろ。文章だけだと誰が喋ってるのか分からないのがグータラ三姉妹だ」
「邪術って隠されたら暴くのが面倒なのよねぇ。その点リンネちゃんの能力は便利だわ」

やいのやいのと騒ぐグータラ三姉妹と司教を尻目に、リンネは注射器レイピアをサキに近づけていく。



(ちょ、なにすんのよオカマ!私を助けるんじゃなかったの!?)
(他の騎士の手前、こうするしかないんですよね……安心してください、邪術のことは黙っておきますから)
(このクソオカマ!アンタ周りから催促される前に自分から注射器刺しに来たじゃない!どの口が他の騎士の手前こうするしかないなんて言うのよ!)
(まったく……騒がしい人だ)

リンネはもがくサキの服の襟に手を掛けて、首筋を大きく露出させる。ちなみに、その際にブラジャーの肩ひもが僅かに覗いていたが、リンネは特に表情を変えなかった。そしてレイピアをサキの血色の良い首筋に近づけて……

プス!

「う!」
「さて、貴女のトラウマ……覗かせていただきます」

✱✱✱

「ここは……」
「お姉ちゃん?どうしたのぉ?」

気がつけばサキは、かつての自宅……小さなマンションの目の前にいた。サキの家は母子家庭であまり裕福でなかったので、一軒家には住めなかったが、そこまで生活に不自由していたわけではない。

「ゆ、ユキ……」
「なぁに?怖い顔しちゃって」

そして自分の傍らには、かつての……顔を焼かれる前の妹の姿。
ふっくらとした頬と、ぱっちりとした二重まぶた。髪型はお団子ヘアー。

「な、なんでもないわ……」
「?変なお姉ちゃん。先に帰ってるよ?」

あざとさたっぷりに小首を傾げてから、ユキは団地の中に入っていく。

「そう、ね……昔のアンタは、もっとぶりっ子で……我儘で……」

今は大人しく、我儘など滅多に言わないが、以前は……親子三人の普通の生活が当たり前だった頃は、もっと子供っぽい性格だった。
自分のこともベタベタとお姉ちゃんと呼んでいた。今のように遠慮がちに姉さんなんて呼ばなかった。

あの頃は、決して裕福な生活ではなかったが……それでも、幸せだった。


「リザと言い貴女といい、トーメントの人間の幸せのハードルは随分低いんですね」
「クソオカマ……!」
「まぁ、貴女はリザと違って家族もちゃんと生きているんでしょう?ならいいじゃないですか」

突如として、近くに黒いドレスの少女にしか見えない少年……リンネが現れる。

「はん……で?こんな幻覚を見せてどうするつもり?」
「ちょっとした意趣返しですよ。ヒルダに怖い思いをさせたお礼として……ね」
「やっぱりね……女々しい男。クソリザの奴からアンタの能力は聞いてるからね。幻覚って分かってるものに取り乱したりはしないわよ」
「ふふ……では、幻覚ということを忘れていたらどうでしょう?」
「は?なに言って……!?」
(か、身体が動かない……!?)

まるで金縛りにあったかのように、サキの身体が動かなくなる。リンネの幻覚空間に囚われた人間は、彼の意のままになってしまうのだ。

「それでは、追加のクスリを注入するとしますか……ここが幻覚だということを忘れてしまうような量を、ね……」
「ふ、ざけ……」

再びサキの服の襟をはだけさせ……リンネの注射器レイピアが、クスリを注入した。


560 : 名無しさん :2017/08/18(金) 00:00:08 ???
「っと、ボーっとしてる場合じゃないわね。早く帰って母さんの内職の手伝いしないと……」
「きゃああああああああ!!!」
「っ!?この声は……ユキ!?」

リンネに追加のクスリを注入され、この世界が幻覚であることを忘れたサキ。その直後、妹の凄まじい悲鳴を聞きつけ、サキは団地の自分たちの部屋に急ぐ。

「ユキ!?どうしたの!?一体何が……!?」
「いやああああああ!!!熱い、熱いよぉおおおお!!」
「大人しくしなさい!」
「か、母さん!?」

自宅に帰ったサキが見たものは、ユキに跨って、彼女の顔に何か液体をかけている母親の姿。
ユキの悲鳴からして、硫酸か何かであることは疑いようがない。

「やめてええええええ!!おかあさぁああああん!!」
「だから……大人しくしなさいって言ってるでしょ!目に入るわよ!」
「か、母さん……何して……止めてよ!」
「離しなさい!サキ!」
「きゃ!」

思わず母にしがみついたサキだが、簡単に振り払われてしまう。

「ぎ、やあああああ!いやあああああ!!!」
「か、母さん……なんで……」

あまりの事態に呆然とするしかないサキ。

「おい!なんかお隣からとんでもない悲鳴が聞こえたぞ!」
「お前は警備隊に連絡しとけ!俺は中に入って様子を確かめる!」

そうこうしているうちに、マンションの同じ階の人間が入ってきて、母を取り押さえる。

「奥さん!何してんすか!急にリョナラーになったんですか!?」
「シングルマザーって奥さんって言っていいのかな?」
「んなこと言ってる場合か!……!なんて酷いことを……!」

同じ階の人間が母をユキから引き離した時、ユキの顔が見えた。
可愛らしかった顔は醜く焼け爛れ、お団子ヘアーも所々が溶け落ちている……妹の変わり果てた姿が。

「ちわー!警備隊でーす!連絡を受けて来ましたー!」
「警備隊さん!この人を捕まえてください!自分の子に硫酸をかけたんです!」
「とりあえず、俺はこの子を病院に連れていくよ!」

サキが呆然としている間にも、事態は進んでいく。妹は近所の病院に運ばれ、母は警備隊に連行された。自分の傍には同じ階の人間がいて、何か声をかけてきていたが……サキの耳には入らなかった。

しばらくしてその同じ階の人間も慌ただしくどこかへ行って……サキは自分の携帯のメールに、メッセージが入っていることに気付く。

ぼうっとした瞳のまま、そのメッセージを開き……サキは目を大きく見開く。
そのメッセージの送り主は母だった。

『サキへ。他の人には見られたくないので、こうして貴女にだけメッセージを残します。
貴女がこれを読んでいるということは、私はきっと、ユキの顔を毒液で焼いた後だと思います。
ですが、それにはわけがあるのです。今の貴女には言い訳にしか聞こえないかもしれませんが、どうか読んでください。
実は、トーメント王国のロリコン貴族で有名な方が、先日のユキの小学校の運動会を見学なさったおりに、ユキのことを「リョナ要員」として目をつけたらしいのです。
私は自分の娘を貴族に売るようなことはしたくありません。ですが、貴族様の要求を断ることは私のような一般市民には許されておりません。
……悩みに悩んだ結果、私は悪魔の所業に手を染めることにしました。自らの娘の顔を醜く焼け爛らせるという所業に。
きっと、貴族の「リョナ要員」として過ごすよりはマシだと自分に言い聞かせて。残される貴女たちのことも考えず。
酷い母親でごめんなさい。私は酷い母親です。もっと良い方法だってあったかもしれないのに、私にはこんな最低の方法しか思いつきませんでした。
酷い母親でごめんなさい。酷い母親でごめんなさい』

そのメッセージを見て、サキは……渇いた笑い声をあげる。

「は、ははは……そうよ、そうよね……こんな世界じゃ、リョナラー貴族の言うことには逆らえないわよね……」

そのまま、ゆっくりと立ち上がったサキは……携帯を思いっきり壁に投げつける。

「ふざけんな!!!なんで、なんで……ユキがあんな目に……母さんがそんな思いをしなきゃ……!」

サキの心中を走る黒い感情。それはこの狂った世界への憎しみ。そして……

「いいわ……なら、私は奪う側……いえ、リョナる側に回ってやろうじゃない……リョナってリョナって、その辺のロリコン貴族なんて目じゃないくらい出世して……私が……家族を守る」

女の子をリョナればリョナるほど出世できるのがこのトーメント王国の鉄則。ならば自分はリョナる側になる。元々性格はそんなによくなかったし、その程度わけない。


「やれやれ、リザみたいに泣き叫んでくれれば面白かったのに……とは言え、貴女の過去も中々でしたよ」

そして……幻覚の世界は、終わりを告げる。


561 : 名無しさん :2017/08/18(金) 16:14:49 ???
時は、シェリーとメデューサがスパイ対策の為にルネまで戻ろうとしていた所まで遡る。

「はぁ……はぁ……ん……」

メデューサは、先ほどまで妖精たちに弄びに弄ばれた身体の疼きが止まらずに苦しんでおり、艶めかしい吐息を吐いていた。

(ああ……なんで……私の身体……)

無理矢理前後の穴と乳首を弄られ、何度も絶頂し……メデューサの身体は快楽を求めて疼きに疼く。

「メデューサさん?お辛いようでしたら、どこかで休みましょうか??」
「い、いえ……!?あの、シェリーさん……お顔が近いですわ……」

そんなメデューサを心配そうに見つめるのは、同行しているシェリー。
堅物で常に敬語を崩さない、どちらかと言えば犬猿の仲だった相手だが、妖精たちの責めで気絶したメデューサを心配する姿を見て、その心象を改めた相手。

そんな彼女が、またも心配そうな瞳で自分に近づいてくる。仲良くなったことで、いつもより距離も近くなっている。

「顔も赤いですし……やはりまだ、身体が回復していないのでは?肩をお貸ししますので、森の木陰で休息しましょう」
「え、ええ……」

先ほどからずっと内股で歩いていたので、確かに足が疲労していた。肩を貸してくれるのは助かる。だが、肩を貸すということは、距離がさらに近くなるということ。

身体をシェリーに預けたことで、ふわりとしたシェリーの女性らしい匂いが鼻腔をくすぐる。今回の任務で動き通しだったせいか、かすかに汗の匂いも混じっているが……不思議と不快ではなく、むしろ心地よかった。

(あ、ああ、また、身体が疼いてぇ……!)

エロ漫画だったらキュン♥という効果音が付きそうな下半身を必死に押さえつけ、ラケシスの森の木陰にたどり着く。

「さぁ、着きましたよ……濡れタオルを用意しますので、楽にしていてください」
「え、ええ……」

その後、甲斐甲斐しく濡れタオルで顔を拭ってくれたり、一緒に携帯食料を食べている間にも……メデューサの身体の疼きは増すばかり。
それはそうだ。火照った身体をどうにかするには、一発スッキリさせるしかない。だが、こんなに自分を心配してくれる人を襲うわけにもいかず、そもそもレズではないのだから……と有体もないことを考えているとその時!

「やはり顔が赤いですね……熱はないようなのですが」

シェリーはメデューサの髪をかきあげて、コテン、とメデューサのデコに自らのデコを重ねた。
唇と唇が触れ合いそうな程近い両者の距離。その無防備な挙動。いやまぁ、シェリーからしたら同姓相手に無防備も何もないと思っていたのだが……。
とにかく、身体が疼いているメデューサは、とうとう我慢の限界を迎え……シェリーを押し倒した。

「め、メデューサさん?」
「はぁ……!はぁ……!身体が、疼いて……!もう、我慢できない……!」

そして触れ合う2人の唇。最初は同姓愛に抵抗を持っていたシェリーも、余りに激しく自分を求めるメデューサにとうとう心を開き……朝チュンした。
余談だが、それを見て周りの妖精たちがキマシタワー!だの(レズに)堕ちたな(確信)だの騒いでいたが、妖精が見えない2人は気づかなかった。

朝チュン後、レズカップルと化した2人はしぇり、めでゅと呼び合うようになる。
そして、現在……。

「しぇり……あの時は、無理矢理押し倒してごめんなさい……」
「確かに、あの時は驚いたけれど……気持ちの通じ合った今となっては些細なことよ」

地下拷問室を追い出されたシェリーとメデューサは、その辺の人気のない空き部屋で2人の世界に入っていた。
だが、その2人の世界を、隠れて覗く無粋な輩が一人……

(ええ……城に潜入して最初に見るものが見覚えのある女騎士のレズシーンってどういうこと……)

アイベルトその人であった。


562 : 名無しさん :2017/08/19(土) 01:37:23 ???

「ふーん、邪術師の親友をあのリザに殺されたのか……あなたたちの関係は結構複雑なんですね。」
「…………」
「ていうかサキさん、貴女の性格の悪さは想像以上でしたよ……」
「……まで……」
「はい?」

「……いつまで……続けるつもりよ……」

一番のトラウマの幻覚が終わってからも、リンネによるトラウマの掘り起こしは続いていた。

サキの顔色は、大分悪くなっていた。立て続けに嫌な記憶をまざまざと思い出させられれば、さすがのサキでも精神的に受ける苦痛は相当なものになる。

「そうですねえ……あ、そうか、邪術に関するトラウマが見つかるまでなので、これで終わりにして司教様にこのことを報告してきますね」
「……!?」

「……冗談ですよ。ふふ……今一瞬だけ見せた貴女の焦る顔、とっても素敵でしたよ。こんな戯言に本気で反応してしまうとは、結構心に余裕がなくなってきてるんでしょうかねぇ?」
「くっ……!!」
(このカマ野郎っ……!全然助ける気ないじゃない!!)

床にへたりこみ、リンネを睨みつけることしかできないサキ。
隙を見て何度も抵抗を試みたが、この空間の主たるリンネにはどんな手段も通用しなかった。
何もできない中で思い出したくもない記憶を覗かれるという状況は、確実にサキの精神を蝕んでいった。


「このまま戻ると怪しまれます。この短時間で、貴女には邪術師の疑惑が“ない”ということを証明するのは難しいですから。悪魔の証明、というやつですね。」

「……そういう……そういう話をしてるんじゃないわよこのクソカマ野郎!!」
「えっ……!?」
突然の大声に、リンネは思わず怯んでしまう。

「…私に…私に復讐できて満足したのかしら……!!」

そもそも、サキを逃がすだけのつもりなら、リンネの空間へ移動するだけで幻覚まで見せる必要はない。
今戻ったら早すぎるのであっても、なにもしないで時間を潰せばよいだけのこと。
サキにとっては、リンネの気が済んだのか、それが問題だった。
同時にサキは、執拗にトラウマを見せてくるリンネに対して、怒りを抑えることができなかった。

「うーん……」
(この人に苦痛を与えることは確かにできた。でも、なんか物足りないんだよなあ……なんかこう、もっと、泣き叫ぶほどに苦しんでいる所が見たかったというか……)

このまま負の記憶を探しても望みのシーンは期待できそうにない。
思案しながらサキの方を見ると、相変わらず怖い目でこちらを睨みつけてくる。



(邪術師である証拠も、王下十輝星であるという証拠もボクは掴んでいるのに。)
(ボクに頼って逃がしてもらおうとしているのに。)
(こいつは生意気にも、そのボクを睨みつけてきている。)

そして、その反抗的な目の中に、微かに恐怖の色が宿っていることにも、リンネは気づいてしまった。

その目を見て、リンネの嗜虐心に火がついた。

この時もっと下手に出て、リンネの機嫌を窺っていれば、いつものように工作員としての頭のキレを使えていれば、リンネを刺激することはなかったかもしれない。
だが、度重なる精神攻撃で疲弊しきったサキは、いつものように適切な態度を判断することができなかった。

(……だったら今ここで、サキさん、貴女にとって最大のトラウマを作ってあげることにしますよ。その目を恐怖一色に染め上げてあげますよ。誰にも邪魔されない、誰の目にも触れることのない、この空間で。ふふふ……心の底から、ヒルダを乱暴に扱ったことを後悔するといい)


563 : 名無しさん :2017/08/20(日) 16:10:00 ???
「うおおお!!違う!誤解だ!不可抗力だ!!俺様が悪かったーー!!」
「黙れぇぇぇ!!ここで遭ったが百年目!!」「今度こそ息の根を止めてやるわぁぁぁ!!!」

…アイベルトはシェリーとメデューサに速攻で発見され、追いかけまわされていた。
二人とも、以前戦った時とは比べ物にならない程の凄まじい殺気。(メデューサとは戦ってないが)
無我夢中で城内を逃げ回るアイベルトだが、たちまち袋小路に追い込まれてしまう。
(ぐぬぬぬ……美女に追われるのは慣れてるとはいえ、さすがにこれはヤバいぞ…こうなったら!)

「はぁ…はぁ……おかしいですね。確かに、この辺りに追い込んだあたりなのに」
「ええ…この通路はここで行き止まり。他に、逃げ道なんてどこにもないはず…」
…シェリーとメデューサは、城の地下にある通路にアイベルトを追い込んだ。
だが、追い詰めたはずのアイベルトの姿を見失ってしまったのだった。

「油断しないで、めでゅ…まだこの近くに潜んでいるはず」
「わかっているわ。あの男、何を企んでいることか……あら?…見て、しぇり。この壁…」
近くに潜んでいるらしい敵を探しているうちに、壁に巧妙に隠されたスイッチを発見した。
(ごごごごご…)
スイッチを押すと、行き止まりのはずの壁が音を立てて開く。その先には……

「こんな所に隠し通路があったなんて……」
「…奴も偶然、この通路を見つけたという事かしら?…この先に、一体何が…」
シーヴァリアの最高権威である円卓の騎士にさえ知らされていなかった謎の隠し通路を、二人は注意深く進んでいく…

(ふう……どうやら助かったか…)
その一方でアイベルトはというと、隠し通路を見つけたわけでもその先に進んだわけでもなく、
実は行き止まりに追い詰められた時に、魔法を使って異空間に身を潜めていた。
(『ダークストレージ』には、こういう使い方もあるんだぜ…!)

中は所狭しと収められた武器防具にコスプレ衣装、ヒューマンボールに封印されたエールの死体等で
足の踏み場もないが、この際贅沢は言っていられない。ただ、一つ問題があるとすれば……

異空間から脱出するには、ダークストレージの魔法をもう一度『外の世界で』使わなければならない、という事だった。
(あれ?………俺、出られなくね?)


564 : 名無しさん :2017/08/20(日) 16:21:51 ???
(カツン……カツン……)
「この通路、どこまで続いているんでしょう…しぇり」
「あの男、本当にこの先に逃げ込んだのかしら…めでゅ」

隠し通路の先の螺旋階段は、緩やかなカーブを描きながらどこまでも地下深くへと続いていた。
非常灯の明かりで辛うじて視界は確保できるものの、未知の事態に不安は拭いきれない。
急いでいたとはいえ、騎士鎧ではなく薄いシルクのネグリジェ姿のまま
侵入者を追って来てしまった事を、二人は今更ながら後悔していた。

(じゅぷ……ぐちゅり……)

…二人は片手に己の武器を、もう片方の手を互いにしっかり握りながら進んでいく。
奥に進むにつれて壁には苔や毒々しい色のカビが蔓延り、床や天井には不気味に脈打つ茸や
正体不明なゲル状菌糸のコロニーが勢力を増していく。
それらが混ぜ合わさって、石造りの通路は次第に腐臭漂い粘液滴る異空間へと変貌していった。

「…何だか、とてつもなく邪悪な気配を感じるわ…めでゅ」
「ええ、嫌な予感がする…やはり引き返した方が…しぇり」

言葉とは裏腹に、二人の足は止まらなかった。
目に見えない邪悪な意思が二人を絡め取って、闇の底に引きずり込もうとしているかのように。

やがて巨大な生物の内臓のような通路が終わり、腐肉に覆われた広間に辿り着く。
そこで二人が見た物は…部屋の中央に鎮座する、これまた巨大な漆黒の鎧。
…その鎧に、二人は見覚えがあった。

「…重鋼卿…な…なぜ、貴方がここに…?」
「待って、めでゅ…あの鎧、中身が空だわ」

そして、重鋼卿の鎧の背後には、巨大な檻が置かれていた。
中には、巨大甲虫ジェノサイドスティンガー…通称『ドス』の死体が閉じ込められている。

(……汝らは、贄……)(…その絶望、嘆き…その血、肉を…我が糧とせよ)
頭の中に、声が響いた。声の主は、重鋼卿ブルート・エーゲル…
…いや、違う。そんな人物はもともと存在しなかったのだ。
二人の目の前にいるのは、何らかの力で操られていた、空っぽの鎧。
そして、その力は…既に『ドス』の死体に乗り移っていた。

(ガシャン!!ドカッ!!)
「そんな…『ドス』の死体が……動く…!?」
「グオォォォォォォオオ……!!」
『ドス』を殺したアウィナイトの少女…リザの生き血に漬けられ、甲羅を漆黒に変色させたドスの死体。
異界の邪神を思わせる禍々しい巨体が、戒めの鎖と鉄牢を破って咆哮を上げる。

「う、うそ…どうなってるの、これ…」
「めでゅ!……逃げないと、早くっ……!?」
恐怖に足を竦ませながら二人は後方を振り返る。
だが、広間の入口はいつの間にか腐肉によって跡形もなく塞がれ、
元来た通路がどこにあったかさえ判別できなくなっていた。

「血、肉を……喰わせろォォォ……」
「この、化物めっ……!!」
「こうなったら、私たちが……円卓の騎士が、成敗して差し上げますっ……!!」

恐怖に呑まれかけながらも、シェリーとメデューサは騎士としての矜持を胸に剣を構える。
だが、二人は既に知っている。
解き放たれれば間違いなく世界中を恐怖と混沌に陥れるだろう、
目の前の邪悪な存在を生み出したのは、自分たち「円卓の騎士」自身に他ならない事を。

そして間もなく知る事になる。
これは正義を執行するための戦いなどではなく、
自分達が行ってきた数々の罪に対する報いの、ほんの始まりに過ぎない事を…


565 : 名無しさん :2017/08/20(日) 21:05:19 ???
「くくく……そんな反抗的な目をされると、ボクとしても少々お灸を据えたくなりますね」
「はぁ?まだやる気?」
「いえ、もうトラウマ探りは止めです。ただ、代わりに……新しいトラウマを作って差し上げます」

リンネが指をパチン、と鳴らすと、サキの足がズブズブと地面に沈んでいく。

「な!?」
地面はまるで底なし沼になったかのようにサキの身体を飲み込んでいく。溺れた人間のように手足をバタつかせるサキだが、抵抗空しく彼女の身体はドンドン地面に沈んでいってしまう。

「クソオカマ!何を……!」
「フフフ……貴女を甚振るに相応しい場へとご案内しましょう……」

足首、ふくらはぎ、膝、太もも、腰……そして最早首だけが地面から出ている状態になり……

「う……ぁ……」

トプン……。

サキの身体は完全に地面の中に落ちていった。



「きゃああああああ!?あぐぅ!」

地面の下へと落ちたサキは、謎の空間の床に身体をぶつける。その空間は、ただひたすらに、黒一色で満たされていた。

「こういう殺風景な場所の方が、雰囲気が出ていいでしょう?」
「は……本性現したわね!」
「そう、その目……圧倒的に不利な立場にいても強気に睨んで……けれど恐怖も孕んでいるその目を見ると、ついつい興奮してしまいましてね……!」

リンネは注射器レイピアをサキへ向けて構える。

「ちっ……!誰よシーヴァリアには礼儀正しい人間が多いなんて言ったのは……!って、アンタはナルビアの人間か……」
「その無駄口は挑発ですか?それとも、自らの恐怖を誤魔化しているんですか?」
「さっきから恐怖恐怖と……!私は別に……ぐ!?」

気丈に振る舞うサキの反論は、しかし、サキが脇腹の辺りに鋭い痛みを感じたことで中断された。

「これは……針?」
「魔女狩りと言えば、これは欠かせないでしょう……」

そのままリンネがゆっくりとレイピアを掲げると、彼の周囲に長くて鋭い針が、ずらりと大量に現れた。

「例え目に刺さっても失明はしないので安心してください……痛みは本物ですけどね!」
「く……!」
「ああ、逃げれませんよ?この空間の中では、ボクの許可なくば動くことすら叶わない……」
「は……!外のお仲間にバレないように、自分の空間でだけ好き勝手やる……!典型的な引き籠りタイプね!」
「その軽口がいつまで続くか、楽しみですよ……ああ、そういえば貴女は、眉間に水滴垂らされるのもトラウマになってましたね」
「!?」
「くくく……眉間には神経が多く通ってますからね……決めました。まずは眉間に針をゆっくり、何度も突き刺してあげましょう」
「な、やめ……!」
「安心してください……飽きたら別の趣向も凝らしますから!」

掲げられたレイピアが勢いよく振り下ろされると同時に……リンネの周囲に並んでいた針が、一斉にサキに向かって飛んできた!


566 : 名無しさん :2017/08/22(火) 03:19:43 ???
「ひっ……!!」
自分めがけてまっすぐに飛んでくる無数の針を見て、思わず身を縮こまらせて目をぎゅっとつぶるサキ。
しかし、訪れるはずの痛みはいつまで経っても来なかった。
恐る恐る目を開けると、大量の針が自分を中心にして空間に浮かんでいた。

「あのままハリネズミみたいにしてもよかったのですが、それでは少し芸がないかと思いましてね。ふふ……今のもなかなかにいい反応でしたよ。どうです?恐怖が隠せなくなってきましたか?」
「そ、そんなこと……」

(よく見ると手足が震えてますよサキさん……こうなってもまだ強がれますか?)

目に見えて怯えているのに、それを隠そうとしている年上の少女を前にして、リンネの興奮は高まっていく。

だが、リンネが針を動かそうとしたその時。
「ま、待って!わ、悪かった!私が悪かったわ!あなたの友達に乱暴してごめんなさい……助けてもらおうってのに上から目線にものを言ったり睨み付けたりしてすみませんでした……。だから……だからもうやめてください……本当は最初からとっても怖かったの……!強がってただけなの……!本当にごめんなさい……生意気な態度もやめるから……本当に……本当に…すみませんでしたぁ……だから…それだけは……許してくださいぃ……グスッ」
「な……今になって急に謝られても……こちらとしても引くに引けないというか……」
あまりの変化に戸惑いを隠せない様子のリンネ。これまでの態度が嘘であったかのようにへりくだり、涙まで流して懇願するサキを見て、思わず攻撃を躊躇ってしまう。
「そ、そんな……!謝るのが遅かったのも謝るから……!なんでもするから!なんでもするからそれだけはやめてぇ……!!」

「そんなに言うなら……仕方ありません。」
サキの必死の謝罪を聞いて感化されたのか、リンネはレイピアの構えを解いた。

「あ、ありがとうございます……!ありがとうございますぅ!!」
(は……!ちょろいちょろい!こういうタイプの男はちょっと泣きを入れれば簡単に騙せるから楽勝……!)
うまく騙せたことに内心ほくそ笑みつつ、サキは強ばっていた体の力を抜く。
その、瞬間だった。

「……きついおしおきが必要ですね。」
「……え?」
シュパパパパパンッ!!

サキの周囲に浮かんでいた無数の針。そのすべてが、サキの柔肌に突き刺さっていた。


567 : 名無しさん :2017/08/22(火) 03:27:54 ???
ワンテンポ遅れて、サキの全身を耐え難い激痛が襲う。
「いっ……いやああア"ア"ア"ア"
ッ!!!ああああああ"あ"あ"あ"あ"っ!なんでっ!なんでえええ!!?いやああああああ"ーーーーッ!!!」

「なんでって、貴女がふざけた態度を取っているからに決まってるじゃないですか。この空間では貴女が何を考えているかも全てお見通しです。ますます貴女のことが嫌いになりましたよ。あーあ、一本ずつ刺してって反応楽しもうと思ってたのに……まあ、これはこれで良いものが見れたので良しとしますか。」
「痛い痛い痛いい"だい"ッ!!助けて!!だずげでえええええッ!!」

狂ったようにのたうち回り、針を抜かんと身体中を掻き毟るが、深々と刺さった針は抜ける気配がなく、むしろ転げまわったことでより深く刺さっていき、より強い痛みを与えるようになる。
全身を焼きつくすような激痛に苛まれ、逃れられない痛みから逃れる唯一の術を求め、本心からリンネに助けを求めるサキ。それに対して、リンネは更に追い討ちをかけていく。

「まだ始まったばっかりですよ……?貴女にはまだまだ苦しんでもらわないと……。ところでサキさん、ボク、今一ヵ所だけわざと狙いを外してあげたのわかりました?」
「うわあああああ"!!あああああ"ッ!」
「あの……聞いてます?ちょっと静かにしてください。」
パチッ!
「ああっ!?」
リンネが指を鳴らすと、サキの体が仰向けの状態で固定された。
その状態で上を見ると、新たな針が頭上に集まってくるのが目に映る。
……目に、映る。
「な……ま、まさか……!」
「そうです、正解は目、です。聞くところによると、ちょっと傷ついただけでも物凄く痛いらしいですよ……。」
「あ……ああ……いやあああっ!」
頭上の針の狙いを知り、即座に固く目を閉じる。

「そんなことしたって無駄ですよ。瞼の上から刺したって構わないんですから。それに……」
「!?や、やだ……!」
サキの意思とは関係なしに、サキの両眼が強制的に開けられていく。

「この空間では、何もかも、ボクの思った通りになる。貴女は一切抵抗できない。……自分の目が潰される瞬間を、しっかりと目に焼きつけてください。はは、なんかちょっと変ですね。……さあ、せいぜい発狂しないように頑張ってくださいよ?サキさん。」

「や、やめてっ……やめてええっ!!」
リンネが話し終わるや否や、全ての針の狙いがサキの眼に集まる。

「ぃやだ……いやだああ……!」

恐怖に彩られた目から、本当の涙が零れ落ちる。
そして……

「いっ……いやあああああああああああああ"あ"あ"あ"あ"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ーーーーッ!!!」

どこまでも黒い空間に、この世のものとは思えない、断末魔にも似た悲痛な叫び声が響きわたった。



「いい声で鳴くんですね、サキさん。ふふふ、ふふ、ふふふふふふ…………」
少女の顔をした少年は、それを聞いて不気味に笑うのだった。


568 : 名無しさん :2017/08/23(水) 01:58:49 ???
「いやああああああ!!!痛い"痛い"痛い"い"い"い"い"い"!!!目が、目があ"あ"あ"あ"あ"!!」
「ククク……クハハハハ……!」

リンネが再びレイピアを振るうと、再び彼の周りに大量の針が現れる。

「さぁ、まだ針を刺せる場所は残ってますよ……次は口を縫いつけてさしあげます!」
「い、いや……!ほんと、ほんとに無理ぃぃ!むぐぅう!?」

サキの口を針が突き刺す。そして、小学生が実習で鍋つかみを作る時のような乱雑な動きで、針の抜き差しを繰り返す!

「ん!?んんん!んむぐううう!!いやああああああ!!!」
「ああ、糸がないから縫えてませんね……なら、まち針のようにして口を塞ぐとしますか!」
「んむむむむううううう!?んんん!んーーー!!」

サキの口元にびっしりと針が埋まる。口を開くこともできず、ただうめき声をあげることしかできない。

「災難ですよねぇサキさん。司教が邪術の気配を辿れるとは……そのせいで捕まってこんな目にあってるんですから……くくく」
「ふぐぐぅう!!!ふごおおおぉおお!!!」
「ビジュアルがちょっとグロくなってきましたから、一旦針を消してあげますよ」

リンネが指を鳴らすと、サキの身体、目、口に大量にあった針は消えた。
なんと、あれほどの激痛が噓であったかのように、サキの身体には傷一つ付いていない。

「ぁ……ぅ……」

だが、例え身体は無傷でも、激痛は本物である。サキは倒れ込んだまま、腕で自らの身体を抱きしめて、ぶるぶると震えている。

「ふふ……さっきまではあんなに強気に睨んできてたのに……」
「お、お願い……もう、気が済んだでしょ?」
「おや?貴女は立場というものが分かっていないようですね?ならもう一度」
「お、お願いします!もう、止めてください!」
「そう、ようやく立場が分かったようですね……安心してください。貴女にはリザと共にブルートを倒してもらわなければならない……ここで甚振り過ぎて、心を壊すような真似はしませんよ」

気がつけば、周囲の真っ黒な空間は、少しずつ光が射していた。

「一旦戻りましょうか。邪術に関しては黙っておきましょう。司教には家族に関するトラウマが強烈で他のトラウマを探しにくかった……とでも報告しておきます」


569 : 名無しさん :2017/08/24(木) 01:43:17 ???
「さて、どうしたもんかね……」
ダークストレージの中に入うっかり入り込んで出られなくなったアイベルトは、赤髪をいじりながら途方に暮れていた。

「確か出られるようにする魔法も考えたはずなんだが、俺様としたことが一向に思い出せん。……このままでは十輝星の美少女枠であるリザとサキが惨たらしく殺されてしまう!」
どうやって助けるかなどはともかく、事は急を要するということだけは理解しているアイベルトは頭を抱えてうんうんと唸っていた。
「テクマクマヤコンだったがネクロノミコンだったか……ちちんぷいぷいか?いやこれは回復魔法だな。もっとわかりやすい魔法だったはず……くそぉ、早くしないとリザサキコンビが……!」
アイベルトの脳裏にリザとサキの苦しむ姿……下着姿で磔にされ鞭打ちされているという、ソフトリョナラーにはたまらないステレオタイプなリョナシーンが浮かんだ。
「お、おっといかんいかん。こんなところでリョナニーするわけにはいかん。はやく脱出魔法を探さなくては……」
とは言うものの脱出魔法については検討もつかない状態であるため、飽きっぽいアイベルトはリザやサキのことばかり考えていた。

「いやぁ、それにしてもリザは将来が楽しみすぎる美少女だよなぁ。やはり大人になるまで俺様が側で守ってやらないとな。サキも俺様のことをお父さんと呼んで助けを求めてきたあたり、なんだかんだで俺様のことが好きなんだろうな。いやあ、モテる男ってのは辛いぜ……ってのわぁっ!?」
アホのアイベルトは考え中に足元の確認ができないため、何かにぶつかって転んでしまったのだった。
「イテテ……こんちくしょう!俺様の思考を邪魔しやがって!なんだこの箱はは……何か書いてあるな。脱出用魔法はこの箱の中だよ〜ん、か。ええい忌々しい!なにがだよ〜ん、だ!人のことを舐め腐りやがって!こうしてくれる!」
様々な武器に変化する魔導武器テン・ヴァーチャーズを斧の形態に変化させ、アホのアイベルトは自分の作った箱をたたき壊した!!

ドガシャン!
「へっ、ざまぁみろってんだ……およ?なんか紙が出てきたぞ……こ、これは!?」
紙に書いてあったのは、この空間から出るためのストレージエスケープの術式。まさしく彼が探し求めていたものである。
「ハハハハハ!運も実力のうちというしな!適当な箱を壊したら答えが見つかるとは、さすが俺様!これでか弱いプリンセス2人を助けに行けるぜ!」
自分がアホだということを理解できないほどのアホ。それがベテルギウスのアイベルトなのだ!


570 : 名無しさん :2017/08/26(土) 16:42:10 ???
「やっ…………う、あぁぁ……も…もう……やめ…」
だらりと全身を弛緩させ、両腕を鎖で吊るされるサキ。その眼は虚ろで、涙もとうに枯れ果てていた。

「クックック…なかなかしぶといですね。これだけクスリを打ち込んでも尻尾を出さないなんて」

…薬で過去の記憶を掘り起こしたが、邪術に関わった確証は得られなかった。
そう司教たちに報告したリンネは、「もっと徹底的に調べる必要がある」と嘯いて、
紫やら黄緑やら蛍光ピンクやらの毒々しいクスリを次々と打ち込んでいく。

全身至る所に得体の知れぬ毒液を注ぎ込まれ、全身をビクビクと痙攣させるサキ。
リンネはその様子を眺めては、心底から楽し気な笑みを浮かべるのだった。

「ふふふ…リンネちゃんたら、ずいぶんその子が気に入ったようね。でも……」

…司教アイリスはリンネを退かせると、力なくうなだれるサキの顎を持ち上げ…
半開きになっているサキの口に、強引に舌をねじ込んだ。

「な……なに、を……ん、ぐ…!!」
(や、ば……これ、魔力吸収……!)
「…私が味見すれば、邪術師かどうかなんてイッパツよ?」

…睡眠時間が足りず魔力不足だった司教が、サキの魔力を根こそぎ奪い取っていく。
それと引き換えに、大量の快楽物質がサキの体内に送り込まれる。
「んっ……む……んぉ、……っ!!」
「んん…この芳醇な味わい…この子、間違いなく『クロ』ね」

(止めさせてリンネ!今のサキが、『魔力吸引』を受けたら…)
(…廃人化してもおかしくないね…とは言え、ボクにも立場って物があるし…クックック)
かつて、リザも同じ術を受けた事があるからわかるが…
一度あの状態に追い込まれたら、自力での脱出はほぼ不可能だ。

「……………」
「んっ…ぷ、はっ……フフフ。この子のお陰で魔力も戻って来たし…そろそろ、『鎧造り』の続きと行きましょうか」
司教の全身に邪悪な魔力が漲る。そして、それに呼応するかのように地下室全体が振動し始めた。

「グオォォォォォォォ………」
真下からの力で石造りの床に大きな亀裂が走り、リザのすぐ足元で低い唸り声が上がった。


571 : 名無しさん :2017/08/26(土) 17:31:40 TrbBMINw
「で、リザとサキはどこにいるんだ?」

アホっぷりを見せつけながらもダークストレージから脱出したアイベルト。
リザとサキを助けようと意気込んだ彼だが、肝心の居場所を知らないことを忘れていた。

「よし、その辺の奴適当に締め上げて吐かせるか!すぐさま解決策を思い付く俺様の頭脳が怖いぜ……」

結局脳筋案を取ることにしたアイベルト。余談だが、シェリーをM字開脚縛りして動転させたところをサキの声真似を利用して情報を吐かせる作戦を取った時のように、多少なりともエロが絡めば頭の回転も早くなる。

「で、誰を締め上げるか……お?」

適当に城内をウロウロしたアイベルトが見たものは……


「しかし、いくらジャギ(※邪術師疑惑)だからって急に捕まえてこんなことできるのも、悪名高いトーメントを除けばウチくらいだよね」
「あの国と一緒にしないで欲しいなり!ウチはちょっと円卓の騎士と司教様に権力が集まってるだけなりよ!」
「コルティナ……なにコ○助みたいな喋り方してんのよ」
「子供っぽい口調がダメなら、これならオッケーかなって……私がどんな口調で話そうと私の勝手なり!」
「それもそうなりね!」
「今日の司教様は、すいみんすいみんすいみんすいみん睡眠不足!なり!」
「二人もその口調使ったら私の個性がなくなっちゃうでしょー!?」


拷問を司教ことアイリスとリンネに任せ、特に何をやるでもなく城内をブラブラしながらバカみたいなことで盛り上がってるグータラ三姉妹であった。

「つーかノーチェ、あんまりそういう歳がバレそうなネタは……」
「いやいや、コ○助なら再放送やら親が好きやらで若い子がOP知ってても不思議じゃないでしょ」
「個性……個性がほしい……」



「……あいつらでいっか」


572 : 名無しさん :2017/08/27(日) 00:28:39 ???
「おい、そこの三人組。ちょっと聞きたいことがあるんだが…」

「…あん?何だお前!」「誰が三人1セットの没個性集団だって?」
「『鉄拳卿』マングースのノーチェ!」 「『裁断卿』タヌキのキリコ!」 「『暗幕卿』ラッコのコルティナ!」
「円卓の騎士の最強美少女トリオ」「ぐーたら三姉妹を」「なめとったらあかんぜよ!!」

「よくわからんが、キャラ作りが迷走してるって事だけは伝わってくるな…
そんな事より、最近捕まえた捕虜がどこに居るか、教えてもらおうか」

「そんな事とはなんだ!あたしらのアイアンボディに関わる一大事なんだぞ!」
「アイデンティティな」「鉄人になってどうする」

アイベルトもアレだが、ぐーたら三姉妹も大概だった。

「と、とにかく…教える気がないなら、少しばかり痛い目を見てもらうぜ!」

自称とは言え、美少女をいたぶるのは好きじゃな…いや嫌いじゃないけど、欠損とかそういうのはパスで(ry
とかなんとか考えつつも、アイベルトは武器を構えた。
そして5秒先の未来を予知する、赤い瞳の特殊能力を発動する。
だが。

「ん?…なんだこれ………ぐわぁぁっ!?」

…………

(この声は、ドス……!?)
(そう。ドスの鎧には、既に重鋼卿が乗り移っているが…今の彼は、強い怨念に突き動かされた魔物同然。
完全に制御するには『生贄』の…つまりは君の血が必要というわけだ)

「フフフフ…お目覚めね、重鋼卿……」

…石床を突き破って、怪物が現れた。
巨大な角、蠍を思わせる毒針つきの尻尾。全身を覆う漆黒の装甲。
片手には、強大な魔力を宿す大剣「エレメンタルブレイバー」が握られている。
もう片方の手で、全身をズタズタに食いちぎられた女性の死体…
…円卓の騎士『隼翼卿』シェリーのものだ……を、無造作に引きずっていた。
彼女と寄り添うように行動を共にしていたはずの睥睨卿メデューサは、
ドスの角に串刺しにされた血まみれの死骸が、もしかするとそのなれの果てなのかもしれない。

「あら。あの二人、どこに行ったのかと思ったら…まあ、いいわ。フフフフ…」
…さあリザちゃん。また、たぁっぷり血を搾り取ってあげる。
何度殺されても、この私が生き返らせてあげるから、安心なさい……」

(いよいよ現れたか…ボクらが身体を張って時間を稼いでくれたおかげなんだから、感謝してほしいね)
(……一つ、頼んでもいい?サキの事…)
(クックック…もちろん、助けてあげるとも……彼女は嫌がるだろうけどね)


573 : 名無しさん :2017/08/27(日) 00:32:05 ???
他の円卓の騎士達は拷問室を離れていて、今なら重鋼卿と司教に直接挑むことができる。
あとは手はず通り、リザに貼られていた魔力封印のシールを剥がすのみ。なのだが…

「んっ……!」
リザの身体には、リンネの媚薬の効果がまだ残っていた。
ほんのわずかに触れられただけで、リザは堪えきれずに甘い声を上げてしまう。

(フフフ…これから怪物退治だっていうのに大丈夫かい?…まあ、お手並み拝見と行こうか)
(く…これは、あなたの薬のせいで……!)
…もともと万全の状態で挑めるとまでは思っていなかったが、
それでもリンネのふてぶてしい態度には抗議の一つもしたくなる。

リンネは封印のシールを勢いよく引き剥がすと、二人の戦い…
あるいは、邪悪な怪物の晩餐…の邪魔にならないよう、その場から離れた。

リザはテレポートで鎖の拘束を抜け出し、ナイフを手に取る。
(ヒルダがあらかじめ、拷問器具の中に紛れ込ませておいた物だ)

「『重鋼卿』ブルート・エーゲル…今度こそ、奴を倒す…!」
「やっぱりまだ動けたのね、リザちゃん…そうでなくちゃ面白くないわ。
…でも貴女には…ううん、無敵の騎士『重鋼卿』を倒すことは誰にもできない。
一滴残らず血を絞りつくされて、全身を切り刻まれて、その瞳が絶望の色に染めあげられた時…
私の手で、その目をえぐり取ってあげる。楽しみだわ…」

…………

(ぐぅ……ど、どうなってんだ……未来が、読めなかった…!)
…先程の戦いでは黒騎士四人を圧倒したアイベルトだが、思わぬ苦戦を強いられていた。

「へへへ…アンタも相当な腕だけど、あたしの鉄拳は見切れないようだな!」
(そうか、こいつ……異世界人!)
「まあ野郎がボコられるシーンなんて需要無いだろうし、ばっさりカットしてやったけどね!」
「このまま『ぶわーってなるやつ』で捕獲して、アレをコレしてナニにしてやるなり」
(え、ぶわーって何?ナニされるの俺?…ひょっとして、これマジでやばくね?)

…その時。デデッデデーデー!と、どこからか一昔前の特撮ヒーローのBGMが流れてきた。
「なんだ!このラジカセ音源は!」
「ふはははは…闇に渦巻く陰謀を、正義の光で照らすため!未来の聖騎士、ジン・グロリアス…ここに推参!」
「ふはははは!えーと…夢と希望の聖騎士見習い、ミライ・セイクリッド!ただ今参上です!」
「え…ちょ、これ、私も何か言わないとだめですか!?」
「リリスちゃん!ここまで来て尻込みしちゃダメだって!」
「愛の戦士だとかなんとか、それっぽいこと適当に言えばサマになりますよ!」

「お…お前ら、どうしてここに!」

…窮地に陥ったアイベルトの前に、ジン、ミライ、リリスの三人が現れた!


574 : 名無しさん :2017/08/27(日) 16:27:09 ???
「すいません仮面マスクさん!リザちゃんが大変な目にあってるって考えたら、じっとしてられませんでした!!」
「足手まといにはならないっすよ!ちゃんと連携を考えてきましたから!」
「私は、貴方のことをよく知りませんが……ミライちゃんとジンさんが信じる貴方を、信じたくなりました!」
「お、お前ら……!嬉しいことしてくれるじゃないか……!」

ピンチに仲間が颯爽と駆けつけるという展開に感極まっているアイベルト。

「ふん!雑魚が三匹増えたところで何ができるっちゃ!」「アタシラ オマエラ タオス」「一捻りにしてやるアル!」

相変わらずキャラ付けが迷走しているグータラ三姉妹。

「仮面マスクさん!ここは俺たちに任せて、リザさんをお願いします!」
「私たちのことは心配しないでください!」
「危なくなったら撤退しますから!」

「みんな……すまない!この託された想い、無駄にはしない!俺が必ずリザを助ける!」
「「「逃がさない!」」」
「この先は通しません!」

その場を離れようとするアイベルトと、彼を追おうとする三姉妹。そしてそれを止めるジン、ミライ、リリス。
アイベルトは後ろ髪を引かれながらも、仲間たちの想いを無駄にしない為に走り……!

そもそも、リザとサキの居場所がまだ分かっていないことを大分走ってから思い出した。

(し、しまったあああ!俺様としたことが、場の雰囲気に呑まれて本来の目的を忘れてたぜ……!いやでも、あの状況じゃ『この場は味方に任せて俺様は一人で敵陣に攻めこむぜ!』みたいなことするしかなくない?)

がっくりと膝をつくアイベルト。今さら戻るのもカッコ悪いからできない。

「俺様がこんな凡ミスをするなんて……!噓だ……!噓だぁあああああ!!NOOOOO!!」

ルーク・スカ○ウォーカー風に噓だとかNOとか叫んで遊ぶアイベルト。彼は旧三部作派なのだ。

「リンネ……へんなひとがいるよ……」
「しっ、見ちゃいけません」
「う……ぁ……」

だが、大声をあげたことが偶然にも功を奏し……地下牢獄からサキを助け出したリンネとヒルダが様子を見に現れた!


575 : 名無しさん :2017/08/27(日) 16:29:06 ???
「誰だアンタら……ってサキ!?」
「おや?サキさんのお知り合いですか?……なるほど、そういえばリザが他にも仲間がいると言っていましたね」
「リザも知ってるのか?いやそれよりも、サキに何をした!めっちゃぐったりしててなんか事後みたいでエロいじゃねぇか!」
「……リザの仲間は個性的な方が多いようだ……安心してください、ボクたちは味方ですよ」
「なに?」
「説明すると長くなりますが、ボクはナルビ……んむ!?」

リンネとヒルダの意識が目の前の怪しい仮面に向いた時。リンネが横抱きにしているサキへの注意を逸らしたタイミングで。
ぐったりとしていたサキは突如上半身を捻り、自らを抱えるリンネに接吻した。

「……は?」
「え?」
「むむぅ!?」
「あむちゅ……はむ……」

余りにも突然の、余りにも予想外な行動に、その場の時が止まる。司教やノワール、ライラといったガチレズ勢がやるようなディープキスではなく、軽く唇を食むようなキスをしたサキは、ゆっくりとリンネの唇から口を離し……床に唾を吐いた。

「っぺ!っぺ!きったな!でもこれで、廃人化は免れたし、クソカマおねぇに仕返しもできたわね」

魔法使いが魔力を奪われた時、脳が精神の痛みを誤魔化す為に快楽を流す。特に、口から直接吸うような吸収は吸収する魔力量も快楽も強い。ならば逆説的に、魔力を取り戻しさえすれば……快楽は弱くなる。

「な、なななな!?ボ、ボクのファーストキスが……!う、ぐ……!?」
「り、リンネぇ!?だいじょうぶ!?」
「ククク……安心しなさい、廃人化しない程度には留めてやったわ……せいぜいその辺で悶々としてることね女男」
「司教に魔力吸収されて、動けなかったはずじゃ……!」
「本職の邪術師舐めんじゃないわよ。確かに結構キツかったけど、全く動けなくなる程じゃないわ」

もちろん、魔力吸収されてぐったりしていたこと自体は演技でもなんでもない事実だが……工作員として痛みや快楽に耐える訓練をしていたサキは、執念で何とか動けたのだ。

「ええ……どういう状況なのこれ……」
「ていうか来るのが遅いのよアホベルト!何のためにアンタをお父さんなんてクッソ気持ち悪い呼び方したと思ってんの!?」
「結構急いで来たんだが……ってアホベルトって何だよアホって!」
「説明は歩きながらするわ!とにかく着いてきなさい!さっさとクソリザと合流するわよ!」
「ま、待て……!」
「なぁにオカマちゃん?心配しなくても、戦闘力だけは高いアイベルトもいるし、ブルートの一人や二人殺してやるわよ。個人的にあのクソ司教もブチ殺したいし」
「リンネぇ……!やっぱりあの人こわいよぉ……!」
「あんまり快楽がキツいんだったら、その真っ白美少女にスッキリさせてもらえばぁ?じゃあね!」
「サキ!あのゴスロリ男の娘なのか!?そこんとこ詳しく教えてくれ!」
「クソアホが……!どうでもいいから着いてきなさい!」

来た道を戻るサキと、それを追うアイベルト。
サキに魔力吸収されたリンネは、床に片膝をついてそれを見送るしかなかった……


576 : 名無しさん :2017/08/31(木) 15:12:13 t3j5DVfg
「グオオオオオオオッ!!」
(こ……この怪物が……あの重鋼卿……?)
リザの目の前にいる怪物……知性のかけらも感じさせない角の生えた魔人。
リンネが言うには、重鋼卿がこの力の制御のためには自分の血が必要らしい。それを知ってか知らずか、目の前の魔人は臆することなくリザへと飛びかかった!

「ウガアアアアアァッ!」
「くっ……!」

持ち前の反射神経と身体能力で、重鋼郷ののしかかり攻撃をなんとか回避するリザ。重鋼郷が飛びかかった場所は案の定、床に大きなヒビが入った。
(一撃もらっただけで致命傷になりかねない……!慎重に攻撃しないと……)

「もうブルートちゃんったら乱暴なんだから……リザちゃんを倒す前にこの建物を壊さないようにしてよね!」
「グルルルルルルルル……!」
「それに、リザちゃんは花も恥じらう年頃の可愛い女の子なんだから、もっと優しくエスコートしてあげなきゃダメよ。」
「ウガアアアアアァアアアァ!!」
「こらー!私の話を聞きなさーい!」
目上の立場であるアイリスの言葉も聞かず、ブルートはリザへと猪突突進する!

(動きが直線的なら……勝機はあるはず!)
リザは壁の側へと移動し、それを追って突進するブルートをすんでのところでテレポートで回避した。
「グルアアアアッ!?」
勢いを殺せないブルートは壁へと激突し、部屋が揺れるほどの衝撃が起こる。
「ちょっとブルートちゃん!角がめりこんで動けなくなってるじゃない!お馬鹿にもほどがあるわよぉ〜!」

(今だ……!)
角がめりこんで動けないブルートの背後から、攻撃を仕掛けるべく急接近するリザ。繰り出す技は奥義「断空旋」
かつてヴェロスにトドメを刺した、魔力を込めた渾身の一撃必殺技である。
「グルルルル……!」
角を引き抜こうと踠いているブルートの背後に、テレポートで現れたリザは素早く強化ナイフを構えたが……この後彼女は壁に叩きつけられることになる。

「奥義、断空……ぐあぁっ!?」
「グルアアアアアアアアアッ!!!」
角が刺さったまま無造作に薙ぎ払われたエレメンタルブレイバーが、突発的な強風を巻き起こしたのだ。
当然リザの小さな体が強風に耐えられるはずもなく、彼女は風に煽られて部屋の隅まで吹き飛んでしまう。
「ぐうっ……!うわあああああああっ!!!」
「あらあらリザちゃん。後少しでダメージを与えられたのに、惜しいわねえ〜」

「がはッ……!」
壁に体を強かに打ち付け、ずるずるとずり落ちたリザはそのまま床へ座り込んだ。
「くっ……げほっ、げほっ!!……まだだ……!」
致命傷は免れたリザは再び立ち上がり、魔人をキッと見据えてナイフを手に取った。
(こんな怪物を……シーヴァリアに飼い慣らされるわけにはいかない……!ここで絶対に倒す!)


577 : 名無しさん :2017/08/31(木) 22:15:44 ???
「はぁ……!はぁ……!」
「お、おいサキ。大丈夫なのか?なんだか辛そうだが……俺様がお姫様抱っこでミライちゃん達の所に連れてってやろうか!」
「……ミライ・セイクリッドの場所を知ってるの?」

リンネとヒルダの前では気丈に振る舞っていたサキだが、やはり身体へのダメージは決して小さくはない。
魔力吸収による快楽はリンネの魔力を吸ったことで和らいだが、あくまで和らいだだけに過ぎない。
そもそも、それ以前にリンネに注入された怪しげなクスリの効果も残っている。
一応アイベルトに回復魔法をかけてもらったが、直接的な傷ではないので効果も薄かった。

「ああ、実はかくかくしかじかでな」
「は……未来予知にばっか頼ってるからそういう目に遭うのよ」
「とにかく、リザも心配だが、サキもなんなら一回ミライちゃんに回復させてもらえばどうだ?あ、お前の妹に関しては話を通してるから、無理矢理拉致とかは考えるなよ」
「ふん……根回しの良いことね」

地下へと続く階段を降りながら、サキとアイベルトは話し合っていたが……地下牢の方からドゴオオォンという凄まじい音が響いてきた。

「どうやら……呑気に戻って回復してる暇はなさそうね」
「お前が言うには、ドスの死体に憑依したブルート・エーゲルだったか……本調子じゃないリザじゃ危ないだろうな」
「たく、この階段長すぎんのよ……」

十輝星の二人は地下牢へと続く長い階段を降りていく。
一方その頃……


「喰らえ!なんかぶわーってなるやつ!」
「ジンさん!私の槍を踏み台に!」
「了解!」

グータラ三姉妹とジン、ミライ、リリスは戦闘を続けていた。
コルティナのマントをリリスのシールドランスを踏み台にして高く跳躍することで避けたジンは、そのままコルティナに突撃しようとしたが、横あいから飛んできたノーチェの鉄拳に阻まれる。

「へぶ!?」
「ラッキースケベなんかでキャラ立てしてるお前には分かるまい……!アタシらの苦悩が……!」
「そうだそうだ!T○ LAVEるみたいな行動ばっかしやがって!」
「キリコ、その伏字意味ないんじゃ」

そのまま三姉妹でジンをフルボッコにしようとしたところを、ミライの魔法とリリスのシールドランスに邪魔される。そしてまた仕切り直しとなるのだが……

「ジン君!リリスちゃん!回復するよ!」
「だああ!お前の回復クソうざいんじゃボケぇぇぇ!」
「ブン殴ってもブン殴っても回復しやがって!」
「いい加減魔力切れになれやこの人間魔力タンクがぁぁ!!」

ミライの回復魔法によるごり押しで、円卓の騎士3人とも辛うじて渡り合っていた。


「クソ!やってられるか!私は家に帰るぞ!」
「ベホイミで回復する竜王、略してベッカー並にウザイ奴め!」
「よく考えたら、アタシらがこんなに働く必要ねぇよな!だって円卓の騎士だし!既に権力極めたし!」
「戦いめんどいから、アタシは異世界人が集まるというナルビアにでも行こうかな……でも給料良いんだよなー円卓の騎士」
「早起きキツいし、アタシはルミナスに帰ろうかな……でも日中は堂々とサボって寝れるんだよなー円卓の騎士」
「場面多いのダルいし、アタシらはさっさと退散してドスウィズブルート戦に専念してもらうか」
「おい、一人だけメタいぞ」

と、グータラ三姉妹はなんか急速にやる気を失っていた。

(別にアタシらこの国に忠誠誓ってねぇしな)
(そもそもドス鎧なんてミツルギやルミナスもヤバイようなものはないほうが嬉しいし……)
(アタシはいつか現実世界に帰れればそれでいーや)

「「「ということで、アデュー!」」」

そのままグータラ三姉妹はいなくなった。

「ふ、不思議な人たちだったな〜」
「仮面マスクさんが苦戦してたし、実際強かったけど……」
「素性や性格を考慮しない実力主義も、考えものだね……」
「と、とにかくリザちゃんを探さないと!」
「任せて!一応私も円卓の騎士だったから、秘密の地下室の場所は知ってるよ!」


578 : 名無しさん :2017/09/02(土) 19:58:07 ???
「ガァアアアアア!ウガアアアアアアア!!」

リザが体制を立て直している間に、ブルートも壁に突き刺さった自らの角を抜いていた。

状況は仕切り直し。だが、底なしとも思える体力のブルートに対して、ここしばらく休む間もなかったリザ。長期戦になればどちらが不利かは、分かりきっていた。

「グルウウァアアアアア!!」
「はっ!」

唯一と言ってもいい好条件は、セイクリッド邸で戦った時のような技巧がブルートにないことだ。ただがむしゃらなだけのブルートの突進を躱し、ナイフの仕込み弾丸を放つ。
だが、小さな弾丸ではドスの死体の表面に傷をつけることしかできない。

(やっぱり、また体内で爆発を起こすしかないか……!)

リザのナイフでドスの身体にダメージを与えられる手段は限られている。だが、ドスへの攻撃は体内の毒液をまき散らしてしまう。それを覚悟で接近戦をするなら、一撃で決めなければならない。あの毒液を喰らってもなお戦い続けるのは至難の業だ。ラケシスの森で戦った時のように教授の体内超回復促進薬もなく、あの時よりも疲弊している今となってはなおさらのこと。

「でも……やるしかない!」

ナイフ爆発の術式を加え、カウンターの備えを取るリザ。毒液が噴き出してくる、ということさえ予め知っていれば、テレポートである程度は避けられる可能性もある。

次の突進を避けたら、そのままブルートにナイフを突き刺して仕込み火薬による爆発……戦塵一射でナイフを身体の奥深くへと埋める。その後爆発の術式を発動させてケリをつける……と脳内でシミュレートする。

ブルートが再びリザに複眼を向け、今まさに駆け出そうとしたその時!

ピシィイイン!!

「……あう!?」
「あらごめんなさい、なんか私の存在が忘れられてそうだったからつい……」

司教の鞭が、リザの身体を強かに打ち付けていた。決してこの場に司教がいることを忘れていたわけではないが、ブルートにばかり気がとられて警戒が疎かになっていた。

魔力で強化された鞭による攻撃。ブルートの一挙手一投足も見逃さないと気を張っていたリザの警戒が、一瞬途切れる。そして、その一瞬でブルートには十分であった。

「ガァアアアアア!!ギシャアアアアア!!」
「しまっ!」

別に司教と連携したわけでもない。ただ、目の前の倒すべき敵が隙を見せたから……ブルートは雄叫びをあげて再びリザに突進する。
鞭によって気を散らされたリザが気がついた時には、目の前にドスの角があった。

(テ、テレポートが間に合わない……!やられる!)


579 : 名無しさん :2017/09/03(日) 12:57:17 ???
(まずい、かわせない…ナイフで受け止めるか?)(いや無理だ、どう考えてもナイフの方が持たない)
(何か方法は……)(考えろ)(この状況を打開するため)(そして、この戦いに生き残るための方法を……)

…………。

「…ん……!?……アイリス…!!」
「ふふ…気が付いた?リザちゃん」

気が付くと、リザは司教アイリスに抱き抱えられていた。
…セイクリッド邸で襲撃された時と同じように。

「い、やっ……放せっ…く、うっ……!」
「フフフ……お腹のキズ、治すの大変だったのよ?少しくらい触らせてくれてもいいじゃない」

…蘇生された直後は、意識が朦朧として身体もまともに動かない。
しばらくの間は司教の為すがままにされてしまう事になる。
そのくせ感覚だけは妙に鋭敏になっていて、司教の指が気まぐれに這いまわる度に
リザの身体は否応なく反応してしまうのだった。

「ブルートちゃんやベルガちゃんにメチャメチャにヤられたせいで、全身キズだらけになっちゃったわねぇ。
初めて見たときはキレイな身体してたのに…これだから、男の子ってガサツでやんなっちゃうわ」

…霞みがかっていた記憶が次第にはっきりしていく。
為す術なくドスの角に貫かれた激痛。耳の奥で今も残響する自分の悲鳴。
大量の血が喪われていく時の寒気。鋭い爪、ずらりと並んだ牙、怪物の咀嚼音…

「い、や…やめてっ……放してっ!!」
(闘志、不安、焦り、恐怖…なかなか良い色になって来たわね。でも、まだまだ『絶望』の色が足りてないみたい)
「…ねえ、知ってるかしら?シーヴァリアに円卓の騎士が居るように、
トーメント王国にも『王下十輝星』王直属の戦士がいて……その中の一人に、アウィナイトの女の子がいる事を…」
「…っ…!?」

「どうやら図星だったようね……話の後半は出まかせだったのに。
感情の動きで色が変わるアウィナイトの瞳……スパイや諜報員には致命的に向いてないわ」
「う……それを知られた以上、あなたを生かしておくわけには…!」
「…あらヤだこわぁい。でも、生きてここを出られないのは貴女の方よ」

身体の痺れが収まり、司教の身体をはねのけようとしたリザ。
だがその頭上から、巨大な黒い手が伸びる。

「クククク……ハナシハ、スンダカ」
「ええ。第二ラウンドといきましょう……私たちの玩具、簡単に壊しちゃだめよ」


580 : 名無しさん :2017/09/03(日) 15:56:14 ???
「…ジワジワト、イタメツケテヤル」
重鋼卿ブルート・エーゲルの巨腕が、リザを捕らえた。凄まじい握力で、リザの全身がギリギリと音を立ててきしむ。

「あ、ぐっ……う、ああああぁぁぁっ…!!」
斬撃や魔法ならいざ知らず、このように直接的な圧力は強化スーツでも防ぎようがない。
リザはたまらずテレポートで脱出した、その時……司教の眼が妖しく輝いた。

「無駄よ…ブルちゃん、右後方10メートル」
「ククク…ソコダ。コオリノ・ケン!!」

司教はリザがテレポートする位置を正確に言い当てる。
そこへブルートがすかさず魔法の斬撃を叩き込んだ。

「えっ!?……しまっ……きゃああぁぁっ!!」

テレポートの直後、出現位置を先読みしたかの如く飛んできた魔力波を完全にはかわしきれず、
リザの両脚は魔力によって凍り付いてしまった。

…リザの返り血を大量に浴びた事で、重鋼卿はドスの怨念を少しずつ制御下に置き始めていた。
その結果、少しずつ知性を持ち、言葉を話し始め、司教アイリスとも連携し始めている。
更に、かつて最強と言われた聖騎士の剣技をも取り戻しつつあった。

「アンシンシロ。ヒトオモイニハ、コロサヌ…」

すなわち…このまま戦い続けて、リザが殺されれば殺されるほど、
重鋼卿はより強力になっていく…という事になる。
(そんな事になったら…これ以上殺されるわけには…一体、どうすれば………)

「ふふふ…だから、最初から言ってるじゃない。
 これは戦いなんかじゃなくて『鎧造り』のための儀式…一方的な蹂躙と虐殺よ」
「デンゲキ・ミネ・ウチ」
「……うあああぁぁぁあああぁっ!!!」

…………

「……おいおい。さっきから何度も、すごい(エロい)悲鳴が聞こえるぞ」
「ふん……アホリザの奴、ほんと世話が焼けるわね。
だいたい元はと言えばアホベルトの仕事なんだから、責任もって何とかしなさいよ」
「ええー…(サキが『お兄ちゃんがんばって!』って応援してくれたら頑張れそうな気がするけど……)
 …つーか、そっちのお前らは本当にいいのか?相手は重鋼卿…今度こそ死ぬかも知れんぞ?」

「そりゃ、怖いですけど…リザちゃんの為だもん。……最後まで行かせてください」
「仮面マスク…いや、アイベルトさん。もちろん自分の命も大事だけど……ミライの聖騎士として、見過ごせないっす!」
「…私はこれでもシーヴァリアの王女。アイベルトさん、サキさん…貴方がたが何者なのか、今は深く問いませんが…
この国の危機を、あなた方だけにお任せするわけにはいかないんです」

…合流したアイベルト、サキ、ジン、ミライ、リリスの5人が、辿り着いた地下室で見たものは……

「っあ………ぅ……」
「…やはり、血は生に限る。お陰で、前の身体以上に良く馴染むぞ……ククク」
「ふふふ…新生ブルートちゃん、完全復活ね。
それに…敗北と破滅、絶望に染まった美しい闇色の碧。…最っ高にイイ色に仕上がったわぁ」

ナイフを失い、強化スーツを無惨に引きちぎられ、血だまりの中に倒れ伏すリザ。
そして、その眼を生きたまま抉り抜こうと近付く、司教アイリスの姿だった。


581 : 名無しさん :2017/09/03(日) 21:27:38 ???
デデッデデーデー!

「待てい!」
「え、誰!?」

「仮面の紅騎士、アイベルト・ノーシス!」(あ、なんか久々に苗字名乗った気がする)
「未来の聖騎士、ジン・グロリアス!」
「夢と希望の聖騎士見習い、ミライ・セイクリッド!」
「え、えーと、国を憂いし姫騎士、リリス・ジークリット・フォン・シーヴァリア!」
「は?なにやってんのこいつら?」
「ちょ。サキ空気読んで。ええい、とにかく五人揃って!」

「「「「聖剣戦隊、キシレンジャー!!!」」」」


シーン……


「シャドウリープ」
「あ、ちょ」
「もいっちょシャドウリープ」

場の空気が凍っている間に、サキは短距離瞬間移動の闇魔法を発動して、リザを引っ掴んで後方に下がる。

「ぅ……ぁ……さ……き……?」
「ふん……ようやく、あの時の胸糞悪い借りが返せそうね」

かなり頑丈だったはずの強化スーツはもはや服としての機能を成しておらず、リザの陶磁のような白い肌が見えてしまっていた。

「もう、今日はお客さんが多いわね……そっちの見たことない仮面の彼は、リザちゃんの……いえ、トーメn」
「うおおおおおおお!!!よくもリザをおおおおおお!!せいやぁああああ!!」
「ちょ!?」

言わせねえよ!?と言わんばかりに、アイベルトは自らの武器であるテン・ヴァーチャーズを振りかぶってアイリスに突撃する。トーメント王国の人間であることは流石に隠しておきたいのだ。

ガキィイイン!!

「君は……しばらく前から私を嗅ぎ回っていた男だな。ククク、そうか……アウィナイトの仲間だったのか」
「この目で見てもまだ信じらんねぇぜ……ドスの死体に憑依するなんてな……!」

が、アイベルトとアイリスの間に割って入ったブルートのエレメンタルブレイバーによって、その攻撃は防がれる。

「サキ……無事だったんだ……助けに来てくれたんだね……」
「ふん。さっさとミライ・セイクリッドに回復でもなんでもしてもらうことね」
「は!そ、そうだった!リザちゃん!すぐ回復するね!」
「俺たちもできることを……!」
「ええ!アイベルトさん一人にお任せするわけにはいきません!」

突如現れた五人の男女たち。直接戦闘能力はそこまで高くないアイリスを合わせても、リザが回復してしまえば6対2。だが、それでもアイリスは余裕の面持ちを崩さない。

「うふふ……小国なら一人で滅ぼせる程の新生ブルート・エーゲル……そこの仮面の彼もかなりの手練れみたいだけど……はっきり言って、勝ち目はないわよ」


582 : 名無しさん :2017/09/03(日) 22:41:20 48xnCP2.
「フン……烏合の衆がいくら寄せ集まったところで、シーヴァリア最強と言われたこのブルート・エーゲルを倒すことはできないぞ。」
「黙れこの老害が!リザを(エロい感じの絶叫と共に)ボロボロにしてくれやがって!とってもいい目の保養にな……じゃなくて!ええい!とにかく許さんぞ!!!」
「アイベルトさん!俺らも援護します!」
「あ、お前らはサキと一緒にあのガチレズを頼む!こいつは俺じゃないと止められん!」
「わ、わかりました!」

リザを回復するミライを守るようにして始まった二つの戦闘。
アイベルトVSブルートと、
サキ、リリス、ジンVSアイリスの図が最終決戦の座組となった。

ガキィィン!!
「くそっ!テンヴァーチャーズのスーパー最強大剣モードで鍔迫り合いが起こるとは!」
「安心したまえ……あのアウィナイトの小娘を切り刻んだ後は、すぐに君たちも同じ場所へ送ることを約束しよう。」
「へっ……できねえ約束はするもんじゃねえぞ。貴様なんぞこの俺様の武器のサビにしてやる!」

「ウフフフフ……邪術士の女の子とリリスちゃんじゃない。どっちの美少女から食べちゃおうか迷うわぁ〜!」
「……本職の邪術士を舐めてると、後でみっともなく泣く羽目になるわよ。お・ば・さんっ!」
「あらあらうふふ……あなたは真っ先に殺してあげるわ。」
「アイリス・リコルティア司教……あなたたちのやり方は間違っている!武力でなんでも解決しようとする騎士団の行く先に、シーヴァリアの輝かしい未来はありません!」
「そ、そうだそうだ!ミライに酷いことしやがって!絶体許さねえぞ!」
「はぁ……わかってないわねえ。この世界はいつだって弱肉強食……力のあるものがすべてを手に入れる世界だっていうことを、この私が今から思い知らせてあげるわ……!」
そう言うとアイリスは、白いローブをはためかせながらゆっくりと宙に浮かんだ。

「出でよ!魔鎌ブラッディクイーン!」
アイリスが高らかに叫ぶと、バラの花の装飾が特徴的な大鎌が、その細い手にゆっくりと握られた。
「な……あれは……!」
「サキさん、知っているのですか?」
(ブラッディクイーン……あれはライラが探していた、魂を刈り取りその柄に封じ込めると言われる魔装備……!こんなガチレズ司教が持っていたなんて!)

「ブルちゃん!久しぶりに私も本気を出すわ!シーヴァリアの厳然たる威光をこの愚かな者どもに思い知らせてあげましょう!」
「……仰せのままに。」


583 : 名無しさん :2017/09/04(月) 00:31:47 ???
「ダークバレット・イーヴィルエディション!」

サキが腕を振るうと、彼女の周囲をたくさんの黒弾がぐるぐると回りだした。しかも通常の黒い弾丸に比べて赤黒い、禍々しい色をしている。

「へぇー、普通の闇魔法に邪術を付与できるんだ……中々やるじゃない」
「悪いけど、その鎌は供え物にでもさせてもらうわ……死になさい!」

サキの周りを旋回していた禍々しい弾丸が、一斉にアイリスへ向けて発射される。

「ローズガーデン!」

が、アイリスが鎌に魔力を込めると、装飾されたバラの花が散っていき……散った花がひゅんひゅんと音を立てて発射され、サキの放った魔法を相殺する。

「防がれたか……!ジロウ!リリム!」
「ジンです!」「リリスです!」
「どうでもいいから追撃しなさい!」

魔法の撃ち合いは埒が明かないと見て、ジンとリリスが接近戦を仕掛ける。

「でえりゃああ!!」「はぁあああ!!」

が、アイリスは戦いなどしたことないような細腕で、2人の攻撃を完璧に防ぎ切った。

「リリスちゃんは末席とはいえ、流石円卓の騎士……動きに無駄がないわね。ま、無駄がないだけで決め手もないんだけど……ジン君って言ったかしら?貴方は筋は良いけど全体的に力みすぎねぇ」
「く……!教官にいつも言われて気にしていることを……!」
「司教様がこんなに戦えたなんて……!」


「ふん!最初からミライ・セイクリッドの回復以外シーヴァリアトリオには期待してないわ!闇より出でし黒、黒より出でし闇……その無限の螺旋に囚われよ!ブラインド・ブラックアウト!」

サキの掌から黒い靄のようなものが放たれる。この靄に触れた人間は、術者が術を解くまで永久に視力を失うという、恐ろしい術だ。

「あら、それは流石に防がせてもらうわ……ディスペルローズ!」

ジンとリリスを相手にしながらも、アイリスは鎌に魔力を込める。すると、サキの放った黒い靄は、バラの装飾に全て吸い込まれてしまう。

「ち……ちゃんと抑えときなさいよジースとリン!」
「ジンとリリスです!」「混ざってます混ざってます」

「さて、貴女たちの力量は分かったわ……騎士見習いに末席の円卓の騎士、多分本来は諜報員で戦闘は専門ではない邪術師ちゃん……脅威の低い順に言えば、こんな感じかしら」

ある程度ジンとリリスと斬り結んだ後、アイリスはバックステップで距離を取ってから落ち着いた口調で語りかける。

「うふふ……!久しぶりの実戦だから慎重になっちゃってたけど……なんてことはない二線級ばかりね……ひょっとしたら、これだけで終わっちゃうんじゃない?」

そのアイリスの言葉と同時に、ブラッディクイーンのバラの装飾が光輝いたかと思うと……バラの蔦を思わせる長い物体が、三人に向けて放たれた!


584 : 名無しさん :2017/09/04(月) 23:19:46 ???
「ぐ、うぅ……!ぁぅ……」
「リザちゃん!今すぐに直してあげるから、あきらめないで!」
血まみれで虚ろな目をしているリザの胸に手を当てて、ミライは回復魔法を唱える。
「来たれ癒しの奔流よ!女神ネルトリウスの名の下に、大いなる慈悲と清廉なる心を、かの者に与え給えっ!!」

ミライが唱えたのはもちろんソウルオブ・レイズデッド。司教に凍らされた足も、ブルートの角に貫かれた体も、全て元どおりになっていった。
「ミライ……ありがとう……」
「リザちゃん……わたしね、なんとなくリザちゃんが誰なのかわかっちゃってるんだ。……旅人さんっていうのは、嘘だよね?」
「…………………」
「でも、リザちゃんはあの時ラケシスの森で、死にかけてた私を助けてくれた……ううん、それだけじゃない。私の家に円卓の騎士が襲撃してきたときも、リザちゃんは身を挺して私を守ろうと戦ってくれた。」
「……ミライ。」
「だからね。ここに来る前にリリスちゃんが言ってた、いろいろと難しいことは考えないことにしたの。私を助けてくれた、優しくて強い心を持ってるリザちゃんを、今度は私が助ける。それだけのことなんだって。」

ミライの独白を聞いて、リザの心は揺らいだ。トーメント王国の王下十輝星と聞けば、トーメントの国民以外は誰もが嫌悪感を露わにする名称である。
一国の主とは思えないほど独善的で暴力的なトーメント王に付き従い、必要とあれば自国民ですらも殺害することを厭わない。
愚かな王に飼いならされている気の触れた犬……十輝星は他国でそう呼ばれているとも聞いた。

リザがやってきたことといえば、主に他国の要人の暗殺やレジスタンスの殲滅ばかり。血を見るのにも人を殺すのにも慣れてしまった。
普通の女の子なら、15歳は遊びたい盛りで血生臭い仕事とは無縁の学園生活を送っている頃だろう。
そんな未来を捨てることを決意したリザがここにいるのは、他でもない自分たちアウィナイトの復興。それのみを目指しているからだった。

きっとミライは、自分が十輝星であることをさっきのアイリスの発言で確信したのだろう。
「……私は優しくなんかないよ。あの時助けたのだって、シーヴァリアに入るためにやったことだし。」
「たとえそうだとしても、助けてもらったことには変わりないよ。……シーヴァリアの人はね、一度他人から受けた礼は絶体忘れないの。」
「……ミライ……」

もしも十輝星になる未来を選んでいなかったのなら、自分はミライと本当の意味で友達になれたのではないかとリザは思った。
ミライだけではなく……エミリアとも。
人を殺すことも命乞いをされることもなく、ミライとエミリアと自分の3人で平和な日々を送ることができたのか……
そこまで考えて、リザはゆっくりと立ち上がった。

「リザちゃん……どうしてなの?どうしてリザちゃんみたいに優しい女の子が……」
十輝星に、と言いかけてミライは口をつぐむ。サキやアイベルトもいるここでその名を出すのは憚られたのだ。

「私は優しい女の子なんかじゃない。私利私欲のために人を殺す……哀れな殺人鬼だよ。」
「そんなわけないよ……そんなわけないよ!リザちゃんはなんのために……誰のために戦うの!?」

先ほどまで頭の中で考えていた平和な光景を振り払うように、リザは冷たく言い放つ。
平和な日々を送るには、自分の手は血で汚れすぎていることを悟ったのだ。
なぜあの時1人だけ生き残ったのか……その理由を考えれば、ナイフを持つ手に迷いはない。

「私は……自分に課せられた運命と戦ってるんだ!」
自分にもはっきり聞こえるように言い放つと、リザは勢いよく走り出した!


585 : 名無しさん :2017/09/04(月) 23:21:34 ???
「ジンス!リン!避けなさいよ!」
アイリスの鎌から放たれた蔦を回避するために、サキはシャドウリープで瞬間移動の準備をする。
「わかってますって!あんなの切っちまえば……ってうあぁ!?」
蔦を切り払おうと剣を構えたジンは、何かに足を取られて転んでしまった。
「きゃああっ!!」
それと連鎖するように、リリスの元からも悲鳴と床に倒れる音が響く。

「ちょっと!なにやってんのよあんたら……って、ひゃんっ!?」
走りながら術の詠唱を始めていたサキも、同様に床へと倒れてしまった。
「ウフフフ……馬鹿ねえ。足元をご覧なさい。」
(こ……これは、氷……?くそっ、動けない……!)
3人の足元に現れた氷は、アイリスの魔法によって突如作り出された物。
(まずい……今からじゃ詠唱が間に合わない……!)
「くそっ、動けねえええっ!!」
「ううううううん!!!……だめ……このままじゃ……!」
迫り来る蔦を躱す術を失い、焦りの表情を浮かべる3人。よく見ると蔦には大量の棘が付いており、体に食い込めば確実に致命傷を与えるものであることがわかった。

「ウフフフフ!本当にこれだけであなたたち3人とも終わっちゃいそうね!アハハハハ!!」
「じ、冗談じゃないわ……!アイベルト!助けなさーいッ!!!」
「くそっ、ここまでか……」
「ミ、ミライちゃん!逃げて!」
口々に声を上げる3人の眼前へ、アイリスの放った蔦が迫る!
だが……覚悟していた痛みはいつまで経っても来なかった。

「すごいわリザちゃん。テレポートを使って一瞬で三本とも切っちゃうなんて……もうちょっと来るのが遅くてもよかったのにぃ〜」
「ク、クソリザ……!」
「遅れてごめんね、サキ。氷も砕いたから、もう立てるよ。」
魔力によって作られた氷であれば、魔力を込めた一撃で相殺することができる。リザの魔力を込めた斬撃によって、3人を拘束していた氷は砂のように溶けてしまった。

「完全復活ね、リザちゃん。大事なところは見えてないけど、スーツはいい感じにボロボロで興奮しちゃうわぁ〜」
腹部や太もものあたりが大胆に露出したリザの姿に、アイリスはとろんとした目をしてリザに視線を送った。
そんなアイリスは無視して、リザは倒れているサキに手を差し伸べる。

「サキ……私と一緒に戦ってくれる?」
「フン……アンタと共闘なんて癪だけど、今はそんなこと言ってられないしね。」
「……ありがとう。サキと一緒なら、負ける気がしないよ。」
「あたしは不安でいっぱいだけどね。足引っ張るようなヘマすんじゃないわよ!」
リザの手を乱暴に振り払いながら、サキはすくっと立ち上がった。

「リザさん、ありがとっス!」
「おかげで助かりました!!」
走り寄って来る2人に頷きを返し、リザはアイリスを見据える。

「もぉ、私が4人も相手しなきゃいけないのは不公平だわぁ。ブルートちゃんは1人相手に何をやってるのかしらぁ。」
「サキ……アイベルトが頑張ってくれてる間に、こいつを倒そう。」
「言われなくてもそのつもりよ。あんたは1人で暴れてなさい。後ろから嫌々援護して上げるわ。」


586 : 名無しさん :2017/09/05(火) 15:12:31 ???
「アイリス様……!」
「オラオラ!余所見してる暇はねえぞ!(俺様にも)予測不能なテン・ヴァーチャーズの錆にしてやる!んで油を差してやるぜ!」

アイリスが4対1になったのを見て助けに入ろうとするブルートだが、アイベルトを仕留められずにそれは叶わない。むしろ、油断すれば逆に仕留められてもおかしくはない相手だ。

「ちぃ……!」

大剣同士での鍔迫り合い中、突如アイベルトの武器が更にリーチの長い槍に変わり、ブルートは手傷を負わされた。
既にその時の傷はドスの回復力で治っているが、その後も変幻自在の武器に回復できる範囲内とはいえ攻撃を何発か喰らった。
逆にブルートの攻撃は攻撃が来る場所が予め分かっているかのような動きで避けられ、有効打を与えられていない。

その後はエレメンタルブレイバーの属性攻撃に切り替えたが、アイベルトは魔法でその攻撃を相殺。

結局、テン・ヴァーチャーズに手傷を負わされながらも回復して戦い続けるという、膠着状態に陥っていた。

(今の私と一対一で渡り合う……まさか、これほどの男がいたとは……!)

だが、アイベルトが有利かと聞かれれば決してそうでもない。

(未来予知で何とかかわしちゃいるが、なんつーパワーだ!多少のダメージは効いてねぇし……)

アイベルトはジェノサイド・スティンガーに有効な戦法を行おうとするが、ブルートはハンマーなどによる大振りな攻撃をさせる隙は与えない。
遠距離戦はエレメンタルブレイバーの属性攻撃と魔法の撃ち合いになり、埒が明かない。

膠着状態ではあるが、多少の傷は回復するドスの身体を持つブルートと生身のアイベルトでは、根っこの所でブルートの方が有利であった。

「喜べ……サシで俺様をここまで追い詰めたのは、お前が三人目だ」
「ほう……君程の戦士がまだ二人もいるのか……その二人もトーメント王国の者かね?だとしたらつくづく面白いな!あの国は!」

「クソ……!あの時死体漁り野郎なんか無視して、ドスの死体をぐちゃぐちゃにしとくべきだったぜ……!」


587 : 名無しさん :2017/09/07(木) 23:45:20 9t4nmhbg
「ジンス、リン!アンタらどうせ魔法とか使わないでしょ?魔力寄こしなさい。オカマから奪った分だけだと心許ないのよね」
「あの……ひょっとしてわざと間違えてるんスか……?」「あの、あんまり邪術とかは使わないで頂けると……」
「細かいことウダウダ言ってないでさっさと寄こしなさい!」

ジンとリリスから魔力を貰うサキ。最悪口づけで無理矢理奪うこともできるが、先ほどリンネと嫌々キスしたばかりなのでそれは死んでも却下。

「フフフ……!そういえば、元気なうちから私自身の手でリザちゃんを甚振るのは初めてね」
「……残念だけど、貴女は私たちに勝てない」
「まったく……感じてる時以外はつくづく可愛げのない子ね!」

一方アイリスは再びローブをはためかせて空中に浮き、テレポートを連発するリザの激しい空中戦を繰り広げていた。
空中戦及び対人戦はリザの得意とするところだが、妖しく光る瞳にテレポート先を読まれていることと、アイリス自身の力量もあって2人の戦いは互角となっている。

「影より生まれし虚栄よ!我がしもべとなりて馳せ参じよ!シャドウサーヴァント!」

と、サキが闇属性の魔法……かつてカナンがエミリアと水鳥との戦いで使った分身を生み出す魔法を使う。
あの時は七体もの分身が現れたが、今回現れた分身は三体。魔力不足やサキの技術が流石にカナンには劣ることによる結果である。

「シャドウリープ!」「シャドウリープ!」「ダークバレット!」

三体の分身はリザを援護するようにアイリスの死角に回り込み、ダークバレットを放つ。
サキ本人は別の呪文の詠唱を開始している。

「く……!猪口才な!」
「台詞回しがほんと年寄り臭いわね、オ・バ・サ・ン!」
「……そこ!」
「ぐう!?」
「は!」

舞うようにテレポートを繰り返すリザと、テレポート後の一瞬の隙を突こうとするアイリスを妨害するサキ。直接共闘することは初めてであった2人だが、2人の息はピッタリ合っていた。

「連斬断空刃!」
「っ!きゃあああああ!!」

とうとう、リザの連続斬りのうちの一発を防ぎきれずに、アイリスは致命傷には至らないものの傷を負った。

「アッハハハ!ガチレズ司教もここまでね!クソリザ!一気にブチ殺してやりなさい!ブラッディクイーンは私がライライの墓にでも供えるから私に寄こしなさいよ!」
「サキ……油断しちゃダメだよ」
「分かってるわよ、コレは挑発よ挑発。いちいち説明しないと分からないの?」
「……あれ?何か聞こえないっすか?」
「は?何言って……」
「っく……ふふ……まったくしょうがないわねぇ……今までコツコツ大事に貯めてたんだけど……」
「司教様?何を……」

傷口を抑えながら、アイリスはゆっくりとブラッディクイーンの柄を撫でる。
と同時に、ジンが聞いた謎の音が強くなった。地の底から響くような、不気味な重低音が。

「これは……!柄に封じ込められた魂……?」
「へぇ、邪術師ちゃんは流石に詳しいわね……でも、これから起こることはきっと予想できないわよ……!」

アイリスが柄に強く魔力を込めると……これまでアイリスに殺された者の魂が、一気に放出された!


588 : 名無しさん :2017/09/09(土) 15:11:52 ???
「な、なにが起こってるのサキ!?」
空中を縦横無尽に飛び回る霊体に気圧され、リザは素早く後ろに下がった。
「あのガチレズは、ブラッディクイーンに封じ込められた魂を全部解き放ったのよ……!」
「そ、それをやるとどうなるんスか?? 」
「亡者共……生あるものに憎しみしか持たない存在が、ここに溢れかえることになるはす……!」
「そ、そんな……!」

アイリスの鎌から解き放たれた魂は、すぐに地上でゾンビのような形を取り現界していく。
強烈な腐臭を放つその姿はまさに「亡者」であり、アイリスやブルート以外の人間へ向かって一目散に歩き出した。
「クククク……この子たちにしがみつかれたら最後、生命力を吸収されて死あるのみよ。テレポートが使えるリザちゃん以外は大変ねえ……!」
「くそっ、一体どうすりゃいいんだ……!」
「みんな!私の後ろに下がって!」
アイリスの言葉を聞くや否や、リザはすぐに前へ出て亡者を1人切り倒した!

「グオオ……!」
「私なら掴まれても逃げられる!こいつらの相手は任せて!絶対にみんなには近づけさせないからッ!」
「……仕方がないか。クソリザ!その不衛生で臭いやつらを一匹たりともこっちに近づけんじゃないわよ!」
リザを治療していたミライも戦線に復帰したため、リザがいなくなっても4対1に変わりはない。
リザがいないと決め手には欠けるが、自分とミライで援護すれば見習い騎士や姫騎士でもなんとかなるだろうとサキは判断したのだ。

「フフフ……私に唯一傷を負わせたリザちゃんがいなくて、勝てるのかしらぁ?」


589 : 名無しさん :2017/09/10(日) 14:11:28 9t4nmhbg
「ぐわあああああ!!」
「じ、ジンくーーーん!!」
「馬鹿な…!いくら雑魚とはいえ、ミライ・セイクリッドの補助を受けたジンキを一撃で…!」
「なんて強さ…!さっきまでのは、遊びだったの…!?」
「いえ、そういえば聞いたことがあるわ。ブラッディクイーンは、狩り集めた魂を解放した直後は、攻撃力が跳ね上がると…!」
「な、なんかモンスターハ○ターの太刀みたいな効果だね」
(あ、そういえばミライちゃんって、隠れゲーマーだったっけ)

一瞬…とまではいかずとも早業だった。ミライの補助魔法を受け、サキが遠距離攻撃でアイリスの注意を引き付けた瞬間を突いて飛び出していったジンが、ブラッディクイーンの鎌を受けて倒れるのは。


「フフフ…男の子はサクっと倒しちゃって…後は美少女選び放題ね」

ブラッディクイーンをひゅん、と振り、残る三人を見据える。

「チ…ジンキのうすのろめ…負けて怪我するだけならまだしも、完全に落ちてんじゃない」

ミライの補助魔法の恩恵もあり、ジンは命に別条はない程度の怪我ですんでいた。
が、完全に気絶しているので、しばらくは目を覚まさないだろう。

「さぁ!楽しい楽しいキャットファイトといきましょう!」
「く……ジンキがいなくなった分は私のシャドウサーヴァントでカバーするわ!リリーはこれまで以上に防御を意識!ミライ・セイクリッド!ジンキはどうせすぐには目覚めないし、リリーの援護に専念!」
「は、はい!」
「クソリザなんかいなくたって、ガチレズ一人倒すくらいわけないって、見せてやるわ…!」


590 : 名無しさん :2017/09/10(日) 18:28:16 ???
「魂を解放したばかりの『ブラッディクィーン』が、血に飢えているわ…!」
「くっ…!」
ガキィィィン!!
縦横無尽に振るわれる司教アイリスの大鎌を、槍と盾で防御するリリス。
だが、四方八方から繰り出される斬撃を完全には防ぎきれない。

「やっ…ていっ!…たあっ!!」
「盾で攻撃を弾き、槍で突くシールドランスの基本戦術か。
そんなスローな攻撃、私の『紅い眼』にかかれば…5秒先までお見通しよッ!!」

時折反撃を繰り出すも、まるでアイリスに攻撃を読まれているかのようにかわされてしまう。
逆に、カウンターで鎌の石突を鳩尾に打ち込まれると、
それを皮切りに再び斬撃の乱舞がリリスに襲い掛かった。

「ほらほらほら、どうしたのかしら王女様っ……もっと踊ってごらんなさいッ!!」
「う…! くっ、あん……きゃあああっ!」
全白騎士の中でも屈指の防御力を誇る重装な全身鎧は、
見る見るうちに破壊され、その機能を喪っていく。

「どうしよう…あれだけ速いと、魔法で援護や回復する隙がないよ…!」
「紅い眼…5秒…?…なんかどっかで聞いた事あるわね。…だとしたら、ちょっとばかし厄介だわ」
圧倒的な速度の司教アイリスに、サキとミライは下手に近付けない。
遠距離から魔法を撃ってもまず当たらないどころか、リリスを巻き込む可能性の方が高いだろう。
こうなってしまうと、戦いは事実上リリスと司教との一対一。
そのリリスが倒れれば……残る二人に、アイリスのスピードに対抗する術はなかった。

「負けないっ…私は、絶対に……たあぁぁっ!!」
「気持ちだけじゃ、勝てないわよ…ノロマでマヌケな王女様…」

司教の一瞬の間隙を縫って、苦しい体勢から一撃を放つリリス。
だがそれは、誘い……哀れな獲物を絡め取るための罠だった。

「あっ……きゃあっ!?」
「フフフ……捕まえた。さあ、もう鬼ごっこの時間はお終い…ついでに、お姫様ごっこもね」

司教は闇魔法『シャドウリープ』で一瞬にしてリリスの背後を取った。
脚を払って跪かせ、両脚の間に鎌の刃を差し込み、股間に押しあてる。

股間から上半身にかけて刃を突き立てられたリリス。
その背中を、司教アイリスは嘲笑いながらぐりぐりと踏みにじった。


591 : 名無しさん :2017/09/10(日) 18:36:13 ???
「さあ、哀れな負け犬のリリスちゃん…真の女王の前に跪きなさい」
「それだけは、出来ませんっ…!
……ここで貴女に屈したら、この国の人々は皆、あの亡者達と同じ運命に…!」
「はっ…弱虫リリスちゃんが国を収めた所で、それこそ速攻で他の国に潰されて、
皆殺しか奴隷にされるのがオチだわ。でも…御覧なさい。」

司教が指さした先には、無数の亡者を相手に立ち回り、
リリス達やアイベルトの元へ行かせまいとするリザの姿があった。
その戦いは体力と集中力を極限まで削り取られるだろう事は想像に難くない。
…心なしか、最初の頃より動きのキレが鈍り、亡者に捕まりかける頻度が増しているようにも見える。

「あんなクズ共だって、寄せ集めて亡者化すればリザちゃんの足止め位にはなる…
私はむしろ、有効活用してあげてるのよ?感謝してほしい位だわ…ふふっ」

「…貴女はっ…!」
「リリスちゃんっ…危ない、後ろ!!」
怒りに震えるリリス。
だが、横面をブーツで踏みにじられ、股間に鎌を押し当てられた体勢でなかなか起き上がる事が出来ない。
その背後には、リザの追撃を振り切った2体の亡者が近付いて来ていた。

「あら?どっかで見た事あると思ったら……」

…他の亡者達とは何かが違う…どことなく高貴な雰囲気を漂わせる二人だった。
一人は壮年の男性で、蓄えられた髭と澄んだ瞳は、死して尚、深い知性と気品を感じさせる。
寄り添って立つもう一人は、男の妻と思われる女性…穏やかに微笑むその美貌は…
…踏みにじられ、今まさに亡き者にされんとしている王女リリスに、とてもよく似ていた。

「部下だったはずの司教に殺されて国を乗っ取られた、マヌケな国王陛下と…
 その妃だった、脳みそお花畑のバカ女じゃない?」
「…お父様……お母様っ…!!」


592 : 名無しさん :2017/09/10(日) 20:15:08 ???
「…残念だったわねぇ。あの日アンタ達が必死で逃がした一人娘は、
私の前にノコノコ戻ってきて、今ちょうど殺される所よ…
まあ、その前に私の手で極楽を味わわせてアゲるつもりだけど。
私を恨んで復讐しに来たのかしら…それとも可愛い娘の屍肉でも喰らいたいの?」

「リリスちゃんっ…!!」
「…どちらでもないわ。…私には、わかる」
2体の亡者…かつての王と王妃は、リリスを起こすと、その身体に抱きついた。

「おぉぉぉぉ………」「………」
「亡者たちが、泣いてる……」
「…じゃ、アレが本当に、リリーの両親で…娘を助けに来たって事?」
(だとしてもキショい)と思うサキだったが、さすがに言える空気ではなかった。

「ふん、ザコ死霊ごときが…笑わせんじゃないわよ。もう一度コイツで魂を閉じ込めてやるわ」
死者蘇生や、邪霊祓いの術を専門に扱う司教アイリスにとって、亡者など物の数ではない。
そもそも二人は、司教の持つ大鎌『ブラッディクィーン』で命を落とし、魂を囚われていたのだから。

「そうはさせません。…私は、このために円卓の騎士になったのだから。
 お父様…お母様……今度は、私が救う番です」
リリスは亡者達を抱きしめたまま、穏やかな声で詠唱を始めた。
聖職者の娘であるミライも良く知っている呪文だったが…
多分その呪文は、リリスが一人で、最後まで唱えなければならないように思えた。

<女神ネルトリウスの名の元に>

「ふん…この私が、黙ってやらせるとでも思うっ!?」
大鎌を振り上げ、アイリスが襲い掛かる。
「リリスちゃんの…邪魔はさせないっ!!」
ミライが間に割って入り、魔法壁でリリスを守った。
…ミライ自身信じられない程、その動きは素早かった。

<死せる亡者達へ慈悲をもたらさん>

「このクソザコが…どけぇっ!!」
「させるか!ミライは俺が守るっ!!」
ミライに斬りかかった司教の鎌を、両手の剣で受け止めるジン。
…ミライの目から見ても、その動きはなんかカクカクしていた。

「…って、本人が起きてたら言うだろうから、特別に使ってあげたわ」
声の主は、サキだった。眠っている人間を思い通り操る呪文「ナイトメア・マリオネット」で、
ジンを操って司教の攻撃を防いだのだ。

<今ひとたび、安らかなる眠りが届けられんことを…>

「そしてやれやれ、ようやく隙ができたわ…アンタの負けよ」
…サキのシャドウサーバントが、司教の背後を取った。

<…ディスペル・アンデッド…>

死者を在るべき場所へと帰す…リリスの魔法が発動し、光の柱が立ち上る。
王と王妃の身体は砂となって崩れていき、その魂は天上へと導かれていった。


593 : 名無しさん :2017/09/10(日) 20:52:12 ???
(リザがゾンビの相手をして、ジンはやられたか……!このままだと姫騎士リリスちゃんが危ない!)
「余所見している暇はないぞ!」
「っく!?」

目の前に迫っていたエレメンタルブレイバーを辛うじて防ぐアイベルト。仲間たちの方に意識を向けていたため、未来予知が遅れた。
だが、凄まじい風圧がアイベルトを襲い……彼の仮面が飛んでいってしまう。

「ち……!俺様の素顔を見られてしまったか……!」
「灰色の瞳……勘違い、か?」
「ああ?寒中見舞いがどうしたって?」
「なんでもない……さ!」

再び振るわれるエレメンタルブレイバーを避けようと、アイベルトが目を赤く発光させて未来予知を行った瞬間……ブルートの動きが、一瞬キレを失くした。

「赤い目……!未来が分かっているとしか思えない戦い方……!やはり貴様、アイリス様と同じ『アイオーンの末裔』!」
「なんか厨二心くすぐられるワードが聞こえたが、んなことより隙ありぃ!!」
「ぐは!?」

その一瞬を突き、アイベルトはメイスに変化していたテン・ヴァーチャーズでブルートを思いっきり吹き飛ばす。

(そういえば、うちの王様がなんか言ってたな。俺の遠い祖先は自由自在に時を操り、一代にして帝国を築いた帝王だったと……帝王が寿命には勝てずに死んだら、あっという間にその帝国も滅んだが、子孫は各地に残っているとかなんとか……そして、その帝王の名前がアイオーンだった……はず)

自分のことだというのに割と適当な覚え方のアイベルト。だが、それには彼にも言い分がある。

(そんなサ○ドウィッチマンは実はコンビ揃って戦国武将の末裔!みたいなレベルの話されてもさ、実感湧かないっつーか……俺様は祖先の凄さではなく、俺様自身の凄さで勝負しているからな!)

ということだ。

「しかし、アイセとかアイナとかがいるから単なる偶然かと思ったが、アイベルトにアイリス、アイオーン……そして赤く光るアイ(eye)……なるほど、繋がってきたぜ」

とか言ってるうちに、吹き飛ばしたブルートが立ち上がった。やはり決定的なダメージは与えられていないようだ。

「フフフ……アイオーンの末裔だというなら是非もない……どうだ、こちら側につかないか?君程の手練なら、アイリス様も歓迎するだろう」
「ふん、そうすれば堂々とリザやサキやミライちゃんやリリスちゃんをリョナれるな……だが断る!っくー!一回言ってみたかったんだよなこれ!」
「ほう?」
「俺様ほどの男が簡単に裏切ると思ったら大間違いだぜ!まして、誘ってきた相手が泥船ならなおさらな!」

アイベルトが指さした先。そこには……サキのシャドウサーヴァントに背後を取られたアイリスがいた。


594 : 名無しさん :2017/09/10(日) 21:26:48 ???
「お父様、お母様……お会いできて、良かった。…空の上から、見守っていてください」
空からさす光を見上げながら、リリスは再び槍を構え直した…戦いはまだ、終わっていないのだ。

「ふん…それで終わり?…だから何だっていうの?……アホくさ」
「まだわからないのですか…人間には、殺されても奪えない物がある。
人は時には戦い、傷つき、奪い合う…それでも絶対に、失ってはいけない物が。
それがわからない貴女に、この国を好き勝手にさせるわけにはいきません!!」

「…さっきからうっせえんだよ!!あの女と同じこと言いやがって…
こうなりゃ全員ブッ殺して、亡者としてコキ使ってやるわ!!」
激昂したアイリスは、鎌を構えると…

「オラオラぁ!!イキってたわりに、大したことないわねぇ!」
「……あれ?」
…あらぬ方向へ突進していき、鎌を闇雲に振り回し始めた。

「いや、盛り上がってる所悪いんだけど…もう勝負ついてるから」
その様子を、サキが冷やかな様子で眺めながら呟く。

「もっと見せてごらんなさいよ!あの女の顔が、恐怖と苦痛でグチャグチャになる所をさぁ!」
赤い眼の能力で、5秒先の未来を見る能力…その能力を封じるため、
視界の外から近づいて、サキは幻覚魔法を掛けたのだ。
万一の為に用意していた、対アイベルト用の秘策だったのだが…
(ここまで上手く行くとは思わなかったわ。意外とコイツ、アイベルトかそれ以上にアホなのかも)

「え……あの…」
「やったねリリスちゃん!考えてみればアンデッドにディスペルは基本だもんね!
じゃあ、残りは私に任せといて!」
「あ、うん。あのねミライちゃん、くれぐれも」

「はっ!」
ミライは亡者に苦戦するリザの元に駆け寄ると、気合だけで一度に亡者5〜6人を浄化していく。

「はっ!はっ!もいっちょ はっ!」
「あ、ありがとうミライ(…私の苦労は一体)」
敵亡者残存数。消費MP。風情。すべてがゼロであった。

「今のうちにあのレズ女ふんじばっちゃいましょ。あと、幻覚効いてるうちに両目くり抜いといた方がいいわね」
「え……サキさん。それはいくらなんでも」
「は?アタシに指図する気?つーかアンタ実質ほとんど貢献してないじゃない。
ザコは黙ってアタシの言う事聞いてなさいよ」
「ええと、人には心というものがですね」
「うーん、むにゃむにゃ…みらいは……おれがまもーる…」

…リリスの言いたかった事は敵にも味方にも今一つ伝わっていなかったが、とにかく司教は捕獲された。
残るは、重鋼卿ブルート・エーゲルただ一人。
対するアイベルトは……

「くっくっく…我が剣とここまで渡り合うとは。…だが、次の一撃はかわせるかな」
「無駄だぜっ…俺の赤い目の能力は、既にお前の攻撃を予知している。
…キレイな川が流れていて、その畔にはお花が沢山咲いてるのが見えるぜ!!」

余命5秒を切っていた。


595 : 名無しさん :2017/09/11(月) 00:11:36 ???
「ああ、急に設定盛った罰かな……せめて、もう一度だけ女の子をリョナりたかった……!」
「……終わりだ!極・十字斬<グランド・クロス>ッ!!」
ブルートの必殺技が、いよいよアイベルトを捉えようとしたその時!

「そこまでよ!このガチレズ司教がどうなってもいいのかしら!」

縛られたアイリスの首根っこを掴んでいるサキの声が響き渡った。

「サキさん!?いくらアイベルトさんを助けるためとはいえ、そんな悪役みたいなこと」
「いいじゃない。一回やってみたかったのよね、こういうの」
「あわわ、どうなっちゃうんだろう」

「……アイリス様……!」

身体をロープで拘束され、力を使われないように口も目も塞がれているアイリスを見て……ブルートは一瞬逡巡した後、剣を捨てた。

アイベルトが見ていた未来はあくまで『戦い続けた場合の未来』である。未来というのは千差万別。バタフライエフェクトという言葉があるくらいだ。
アイベルト本人はぶっちゃけ意識していないが、状況によって彼が見ている『五秒後』の未来は変わる。
例えば、電車の中で揺れに紛れて女性のお尻を触ったら痴漢がバレるかどうか確かめたい時、彼が見るのは『触った場合の未来』である。女性が露骨に顔をしかめたりしていたら、アイベルトは痴漢を諦めるので、彼が見た未来にはならない。そう、必ずしも、彼が見た未来通りに物事が運ぶとは限らないのだ。
ちなみに、彼の名誉の為に言っておくと、痴漢の下りはあくまで例えである。

そんなこんなで助かったアイベルトは、一気に安全圏まで飛び退いてから、肩の力を抜く。

「っぶねー!マジであぶねー!今回ばかりはマジで助かったぜサキ!お礼に、俺様の熱いキッスを……ぶげら!」
「オーッホッホッホ!!さぁ!今のブルートは武器を捨てて無防備よ!一斉に殺っちゃいなさい!」
「サキ、待って……少し、あの男と話をしてもいい?」
「はぁ?アンタ馬鹿ぁ?この状況になってまだ話し合いとか言うつもり?」
「違う……けど、聞きたいことがあるの」
「聞きたいこと、ねぇ……ま、もう勝ち確だし、好きにすれば?」
「うん……ありがとう、サキ」
「ふん」

リザはゆっくりと、ブルート・エーゲルに近づけていく。

「何かね、アウィナイトの少女よ……君を酷い目に遭わせた元凶である私に、復讐でもするつもりかね?」
「違う……貴方は、アイベルトさえ倒せば、残った私たちを殺すことも簡単にできたはず……なのにどうして……そこまで、アイリスが大事だったの?」
「君は……騎士道というものを分かっていないな……いや、スパイとはいえ、本来無関係だった君をここまで甚振った私が言える義理ではないか」
「騎士道?」
「弱き者を助ける、例え敵でも卑怯な戦いはしない……一口に騎士道と言っても色々あるが、私は主君への忠誠こそ、最も重要なことだと思っている」
「……」
「命なき身でありながら、私は魂を様々な無機物……鎧や生物の骸に写し、生きてきた。本来なら存在するはずのない命を作って下さった方……騎士の忠誠を捧げるに足る相手だとは思わんかね?」
「……貴方にとって、アイリスは……」
「む?」

「アイリスは……お母さん、だったの?」

リザの脳裏に浮かぶのは、自らの母……ステラの姿。父と兄と姉は死んだが、母は奴隷にされただけだ。ひょっとしたら……本当にひょっとしたらだけど、彼女だけは、今もどこかで生きているかもしれない。

「母、か……そのようなこと、考えたこともなかったな……だが、創造主と創造物という関係を鑑みるに……母、というのは言い得て妙かもしれんな」
「そう……」

何故こんなことを聞きたかったのか、自分でも分からない。リンネの幻覚で久しぶりに家族のことを自分の目で見て、感傷的になっていたのかもしれない。
けれど……あれだけ自分を甚振ってきた相手だというのに、彼も『母』の為に行っていたのだと思うと……心の中の憎しみが、消えていくのを感じた。

「クソリザ」
「分かってる……ブルートは危険すぎるし、元々存在しないはずだった存在……殺さなきゃいけないっていうのは、分かってるよ」
「殺さなきゃいけない、ね……」(本当は殺したくないって言ってるようなもんじゃない)
「ドスのブルートは、私が原因で生まれた……その後始末は、私がやるよ」


596 : 名無しさん :2017/09/13(水) 23:33:31 ???
凛とした顔でリザはブルートの前へと歩き出す。その顔を見たブルートは剣を捨てた手を兜へと回した。

「この勝負、どうやら私たちの負けのようだ。その手で私の血印を消してくれ。アウィナイトの少女……リザよ。」
「……兜の裏に刻まれた血印……それがあなたをこの世に繋ぎ止めている証なのね。」
「潔くていいじゃない。こっちの女にも見習って欲しいもんだわ。」
「んーーー!!!んん〜〜〜〜〜!!」

口も目も塞がれたままサキに拘束されているアイリスは、苦しそうに声にならない声を出しながら何かを叫んでいる。
「うるっさいわねこのガチレズ!静かにしてなさいよ!」
「んむうっ!!」
気分を害したサキは足でアイリスの顔を蹴り飛ばした。

(それにしても……あのアイリスとかいう司教もなかなかいい声で鳴くなぁ……ロゼッタと同じくらいおっぱい大きい美人だし、殺すには惜しいぜ。)
「……アイリス様。私の力及ばず、誠に申し訳ありません……」
「アハハハハ!シーヴァリアのゴミ騎士とバカレズ如きがあたしたちに勝てるわけないじゃない!地獄で自分たちの愚かさと無力さに絶望してなさい!」
「サキ……少し静かにして。」

リザがブルートの兜を持ち上げて中を確認すると、そこには円卓の騎士を象徴するマーク……剣と盾と十字架がデザインされた血印が施されていた。
この印に傷をつければ、ブルートの精神は鎧から解き放たれるのだろう。

「エーゲル様……!」
「すまなかったな、ミライちゃん。ボーイフレンドと一緒にシーヴァリアを守ってくれたまえ。」
「……他に言い残したことはない?」
「アイリス様への懺悔も済んだ今、未練はない。過去の亡霊は歴史の表舞台から去るとしよう。さらばだ……わが祖国シーヴァリアに騎士の剣光……そして、王家の威光の導きがあらんことを。」

重鋼卿ブルート・エーゲルの最後のセリフを聞き届けたリザは、ナイフで印に大きく傷をつけた。


597 : 名無しさん :2017/09/14(木) 18:35:37 ???
ドサリと、印を傷つけられたブルート……いや、ドスの死体が倒れる。今度こそ、もう二度と動くことはないだろう。

「終わった……」

五対一でアイリスを倒し、彼女を人質に取って決着を付けたというと呆気ない幕切れにも思えるが、かなり綱渡りだった。
まず、一人でブルートを抑えられるアイベルトがいなければ、リザたちは嬲り殺しにされていた。アイリス自身もかなりの使い手であり、亡者の召喚も相まって、五人がかりで負けても不思議ではなかった。

何より、ブルートが囚われたアイリスを無視して自分たちを殺そうとしていたら……疲弊した自分たちに、抗う術はなかった。
人ならざる身でありながら、最期まで聖騎士として主君の為に尽くすその姿……敵ながらあっぱれという他ない。


と、その時。アイリスが口に詰め込まれていたハンカチを吐き出して、恥も外聞もなく大声で喚き始める。これまでの妖艶で落ち着いた口調から一転し、汚い言葉遣いである。

「クソどもがあああ!!誰でもいい!私を助けろ!こいつらを殺せええええ!!他の円卓の騎士はどうした!12人もいて、私一人守れないのか!」

円卓の騎士12人のうち、リリスは自分から殺そうとして、シェリーとメデューサは暴走中のブルートが殺した。リンネ、キリコ、コルティナはスパイ、ノーチェは流れ着いた異世界人で、始めからアイリスの味方ではない。サイラス、ベルガ、デイヴ、ランディはアイベルトに倒された。残るブルートも、たった今死んだ。

弱肉強食の思想に溺れ、アイリスが素性や性格を一切考慮せずに集めただけの12人は、初めからバラバラ過ぎたのだ。
もしも彼ら12人とアイリスに固い絆があれば……今地に這いつくばっているのは、逆だったかもしれない。

「クソ!クソおおお!!王家のグズを殺してシーヴァリアを乗っとり、やがては世界すら手中に納めるはずのこの私が、こんな雑魚どもにいいい!!」
「たく、いい歳してんだから現実を見なさいよオバサン!シーヴァリアトリオ!もう一回口を塞ぎなさい!て言うかジンスはいつまでおねんねしてんのよ!」
「あいて!?」

むにゃむにゃと幸せそうに眠っているジンを蹴り起こすサキ。

「あれ?司教は?重鋼卿は?」
「残念、アンタがおねんねしてる間に、もう戦いは終わったわよ」
「そ、そんなぁ、せっかくミライに良いところ見せるチャンスだったのに……」

寝ているジンを操って司教からミライを守ったりもしたが、サキは別に自分から教えることでもないと黙っていた。


598 : 名無しさん :2017/09/14(木) 18:36:50 ???
「ぐ……リリス!ミライ!ジン!テメェらも分かってるだろ!?こいつらは、あのトーメント王国の人間なんだよ!そこの黒髪なんて邪術師だぞ!?しかもアウィナイトは王下十輝星ときた!どうせ黒髪と赤髪も十輝星だろ!?そんな奴らに手を貸して、恥ずかしいと思わないのか!」

と、痛いところを突かれて少し慌てるサキ。しかし……

「……確かに、邪術は基本的にはどの国でも使用を禁じられていますが……人命救助等の為に『やむを得ず』使用した場合はその限りではありません」
「な!?貴様まさか」
「サキさんは、国家転覆を狙うアイリス・リコルティア司教を止める為に『やむを得ず』邪術を使用しただけ……彼女が今回の件で罪に問われることはありません」

「リ、リザちゃんだって!トーメント王国の人だったとしても、シーヴァリアで何も悪いことしてないもん!恥ずかしがることなんてない!」
「そうだそうだ!アイベルトさんたちがトーメント人だとしても、アンタの野望を砕くのに協力してくれたって事実は変わらねえ!」

自国の人間ではあるが、自分たちを殺して国を我が物にしようとした悪女。他国の人間であっても、殺されかけた自分たちを守ってくれた人たち。
どちらの肩を持つかなど、考える迄もない。

「どいつもこいつも情にほだされやがって……!絆だ友情だ甘いことを抜かしてると、国は弱くなっていく!せいぜいどこぞの国に侵略されてから後悔するがいい!」
「ったく、黙ってるか口塞がれて呻いてる分には美女なんだから、ちょっと静かにしててくれよ」
「っう!」

なおも口汚く罵ろうとするアイリスを、アイベルトが首の後ろに手刀をかけることで気絶させた。その際にがっつりうなじを眺めていたが、不可抗力不可抗力。

「ほんと、ブルートと違ってどこまでも意地汚い女だったわね、このガチレズは」
「……で、どうするんだ?俺様としては、美人を殺すのは勿体ないと思うが……両親を殺されてるんだ。姫騎士リリスちゃん、アンタが処遇を決めろ」
「……私刑はしません。裁判にかけて、法に則った罰を受けてもらいます……悪くて死刑、良くて国外追放でしょうね」
「リリスちゃん……」
「大丈夫だよ、ミライちゃん……お父様とお母様とのお別れは、ちゃんと、済んだから……円卓の騎士が半壊状態の今、私が王女として、この国を導かないと……」
「リリスちゃん……今、ここには私たちしかいないよ……だから、今くらい……国王陛下と女王陛下の為に、泣いてもいいんじゃないかな?」
「ミライちゃん……っ、く、うう……お父様、お母様……!」

クーデターを起こした司教によって母と父が殺され、命からがら逃げ出して以降、気の休まる時はなかった。
国を内側から変える為にひたすら修行して、なんとか円卓の騎士になっても司教の命令に従うしかなく。
国の為には汚い仕事も必要と割りきろうとしても割りきれず、遂には王家の生き残りとして秘密裏に殺されそうになり……だが、そんな辛い生活も、やっと終わる。

「う、ううう……ぐす……」

アイベルトがリザとサキの肩に手を置いて(速効で振り払われたが)地下室の外に出ようと促す。
今は、シーヴァリアの三人だけにしておいた方がいいだろう。


599 : 名無しさん :2017/09/16(土) 20:15:53 ch8FlQ/w
「どうやら、上手くいったみたいだね……」

ルネの王城にて、黒いドレスの少年……リンネが、耳に着けていたヘッドフォンを外す。

「サキさんに魔力を吸収されたのは誤算だったけど、結果としてそのおかげでブルートを倒せたんだ、良しとしよう」

リンネはリザの魔封じのシールを剥がした時、彼女が繋がれていた鎖に小型を仕込んでいたのだ。
それによって音のみとはいえ、彼女らの戦いの一部始終は把握している。

アイリスを殺すか人質にしてブルートを無効化というのはリンネも考えなかったわけではないが、基本的に彼女の護衛にブルートがいるので、動くに動けなかった。

「これで、国に良い報告ができる」
「リンネ、これからどうするの?」
「とりあえずは、上からの命令待ちだけど……一応、いつ帰還命令が出ても良いところように準備だけはしておこう」

※※※


「で、どないする?アタシら」
「アタシは行くアテもないし、シーヴァリアに残るつもりだけど」
「円卓の騎士もボロボロだけど、一応国に情勢は伝えなきゃいけないし……」
「へ、グータラ三姉妹の戦いはまだまだこれからってことか!」
「国に危険があったら流石に一旦帰るかもしれないけど……魔法大国ルミナスに、そうそう滅亡の危機もないか!」


600 : 名無しさん :2017/09/17(日) 15:20:27 ???
「さてと。あとは捕虜にした連中を国に連れて帰るだけ、なんだが…」

司教アイリスは、教授の開発した「ヒューマンボール」で捕獲した。
他には、白騎士エール、メデューサ、シェリー…の三人。
彼女たちは先の戦いで死亡しているが、トーメント王なら蘇生する事が出来る。

ただそうなると、エールも自動的にトーメントの捕虜扱い。以後延々とリョナられる事になる。
…アイベルトの下心的には願ったりかなったりなのだが、体面上は色々マズイ。

「ダメ元で聞いてみるか……おいアイリスちゃん。
エールちゃんを生き返らせてくれたら、捕虜になったお前の待遇を改善してやらんでもないぞ。
例えば俺様の愛人って事にすれば、十輝星の関係者って事で特別待遇が」
「死ね」
「即答!?」
「…アタシを今すぐ解放しろ。それが条件だ」
「ええええ……そんなん、絶対アカンやつですやん……でも、断ったらジンやミライちゃんが悲しむよなぁ…(チラッ」

「これでやっと一件落着だけど…エールさんの事は、本当に残念だったね」
 (ほらやっぱり…でも、コイツを解放するのは絶対ヤバいしなぁ……)
「俺のせいだ…俺があの時、もっと早く駆けつけてれば…!!」
 (うん。その辺の負い目もあるし、出来れば何とかしたいんだけどね 仕方ないね)
「そんな、ジン君たちのせいじゃないよ!!」
「違うんだ……そうじゃないんだ!実は俺とアイベルトさんは、あの時……!!」
 (え。いやちょっと待って、この流れヤバくない?)

「アイリス…これからは心を入れ替えるっていうお前の言葉、信じたぜ!」
「は?いやそんなこと誰も言ってな」
「いいから早くしやがれぇぇー!!!」
「ひいっ!?」

……こうしてエールは無事に蘇生され、ジンとアイベルトのなんやかんやは守られた。
かに見えたが。

「……お、シェリーちゃんにメデューサちゃん。お前らも目が覚めたか」
「むっ……貴様は、仮面の…私たちを一体どうするつもりです!」
「え……捕虜にするつもりだったけど…
それにしたって、生き返らせてあげたのにその言い方はひどくね!?」

「油断しては駄目よしぇり!あの見習い騎士と二人で私を辱めた事、忘れたとは言わせない!」
「めでゅ、わかってるわ!私だって、この男に恥辱の限りを尽くされた恨み、忘れはしない!」
「あ。ちょっと待って、大勢いる中でいきなりそういう話は」

「……ちょっとジン君。一体どういう事なのかな?」
「え?……いやだから、その、アイベルトさんがやろうって…」
「いやいやいやジン、それズルくない!?ていうかそもそもお前の存在自体が反則じゃない!?」
「…最低」
「まあ、アホベルトならやりかねないとは思ってたけどね」

やっぱりダメだった。


601 : 名無しさん :2017/09/17(日) 16:14:05 ???
…一連の騒動から数日後。

「ぷっはー!…や〜れやれ。一時はどうなるかと思ったが、丸く収まってよかったぜ」
帰りのヘリを待ちながら、ビール…ではなくドクペと呼ばれる変な色の炭酸飲料を呷るアイベルト。彼は下戸である。
「…はあ。どうしよう…」
呑気なアイベルトをよそに、リザは今後の事…特に、今回の一件を王にどう報告するか、頭を悩ませていた。
司教と重鋼卿を倒したことでシーヴァリアの軍事力は著しく低下した上、政治体制が大幅に混乱した。
しかも新王はうら若き姫騎士…となれば、トーメント王が大喜びで侵略したがる可能性が高い。

「ふん。『敵国』の将来なんて、アンタが心配する事じゃないでしょうに……でも案外したたかよ、新女王サマは。
表向きは『他国の暗殺者に円卓の騎士が壊滅させられた』って事で国難を煽って、上手いこと民衆を団結させてる。」

「…裏じゃ今回の事件の真相をウワサで流してる者が居て、女王に同情的な世論を形成するのに一役買っているらしいな!
なんでも噂を流してるのは、超絶カッコイイ仮面を付けた美形の紅騎士らしいぜ!」

「それに、なんというか…前の騎士団はちょっと個人主義な所があって、ギスギスしてたけど…
今は『新女王様の為に頑張ろう!』って一致団結してる感じっす!」

「来週には、ルミナスやミツルギとかいろんな国の偉い人を呼んで戴冠式をやるんだって!
しかも!これはその時発表する予定だからオフレコなんだけど…
なんと!今度うちのパパとママが現役復帰するんだ!
光の聖剣を持つ最強の『聖光騎士』に、最強の癒し手『光の聖女』の復活!絶対盛り上がるよー!」

「そ……そうなんだ。(それはすごいけど、そういう事は他国の私達に簡単にバラさない方が…)」
ミライの両親のように、実力はあっても円卓の騎士に疎まれ、閑職に追いやられていた者も少なくない。
リザも二人に会った事があり、その強烈な個性には圧倒されたが…
彼らの『光の聖剣』は新生シーヴァリア王国にとって大きな戦力となるだろう。

「…ま、その辺の話を報告に絡めて『今手を出すのは危険。しばらく様子見が上策かと』
ぐらいに言っておけば、そのうち王様も他に興味が移って忘れるんじゃない?
……あ、戴冠式の話は伏せた方がいいわね。乱入されると面倒だし」
…サキもなんだかんだで、多少はシーヴァリアの行く末を気に掛けているようだった。

「……何よクソリザ。ミライ・セイクリッドには妹の治療のためにトーメントに来て貰うのに、
滞在中に故郷が滅ぼされたら流石にどうかと思っただけよ」
「うん!回復の泉の水もタンクにいっぱい汲んできたし、任せといて、サキちゃん!」
「……ま、なるようになるって事だな!…ジン!ミライちゃん!
これからはお前らがこの国の未来を創っていくんだ!しっかり女王様を守ってやれよ!」
「変態ベルトは黙ってなさい。あのクソ司教逃がしやがったくせに」
「呼び名が悪化してるー!?」

せっかくキレイにまとめようとしたのに、
しぇりめでゅ凌辱疑惑のせいでアイベルトの扱いはいつも以上に最悪だった。


602 : 名無しさん :2017/09/17(日) 17:01:28 ???
(…あれから、司教アイリスは騒ぎに紛れて逃亡。ドスの死体もいつの間にか消えていた)

不安がないと言えば嘘になる。
だが生まれ変わったシーヴァリア王国なら、多少の困難は乗り越えていけるはずだ。
…リザはそう信じる事にした。

「ところでリザちゃん。パパとママの話をしてて、思い出したんだけど…
…リザちゃんがドスと戦った時、紫色の光のナイフみたいなのを出してたよね…」
「…うん。言いたい事はわかるよ…私も、ミライのお父さんに会った時『光の聖剣』を見せてもらった」
「あの魔法、私もお母さんに教わって来たんだ。もしかしたら、私達にも出せるかも。
……ちょっと試してみていい?」
「…やめておきましょう。
前にも言ったけど、しょせん私は血塗られた暗殺者……聖剣なんて、きっと似合わないよ」
「…そんな事ないと思うんだけどなぁ。
リザちゃんなら、騎士学校の制服も白騎士の鎧も、絶対似合うと思うよ!
こはフルのコスプレもばっちり嵌ってたしね!」

「いや、そういう事じゃなくて。……ていうかそれはもう忘れて…!」
…本人は知る由もないが、リザのコスプレ姿は偶然撮影した通行人の手により動画サイトに上げられ、
既にかなりの再生数を叩き出していた。
さすがにそこからトーメントの十輝星という素性を辿られる事はないにせよ、失われた人としてのナニかは計り知れない。

…世の中にはどうやっても取り返しのつかない事もあると、リザは改めて思い知るのであった……。


603 : 名無しさん :2017/09/17(日) 23:18:36 ???
(それにしても、サキに妹がいて、顔をドスの体液を元にした毒で焼かれてたなんて……)

帰りのヘリの中で、リザは物思いに耽っていた。
ちらりと、サキを横目で覗き見る。

(あまり詳しいことは説明してくれなかったけど、サキにも色々あるのかな……)

「……なにガン飛ばしてんのよ」
「いや、なんでもない」

サキが十輝星になったのは、妹の為なのだろう。
普段の彼女を見ていると、レジスタンスや他国の人間をいたぶるのを割と楽しんでいるのは事実だろうが……ただ残酷なだけの人間でもないのだ。

(私が人を殺すのは、アウィナイトを守るため……サキは家族のため……ひょっとしたら私たちは、似ているのかもしれない)

サキ本人に言ったら怒られそうなことを考えるリザ。
家族と離れ離れになったのはリザも同じだからこそ、サキがミライに頼んでまで妹の怪我を治そうという気持ちは分かるのだ。

(やっぱり……家族は、かけがえのない……)

★★★


リザが家族のことを考えている間……トーメント王国では、自ら家族を捨てることを決意した少年が、強キャラっぽさを出す練習をしていた。

「アトラさん、シアナさん、どうです?中々強そうでしょ?」

フースーヤは、フード付きの真っ黒いロングコートを着て、そのフードを深く頭に被っていた。わざわざ毒で足元の草木を枯らしながら歩いている。

「ああ、なんか謎めいてて強そうだけど……結局スピンオフでのカイロ○ンっぽいマスク云々の下りはパラレル扱いになったのか」
「ぶっちゃけ、舞ちゃんに強制オ○ニーさせるだけならあの下り全く必要なかったしな」
「とにかく、王様が何名かの魔法少女をダークアウィナイトを着けた上でルミナスに送る際に、僕も同行してルミナスを滅ぼしてきますから……しばらくお別れですね」

「トーメントとルミナスの長い因縁にケリをつける日が来たのか」
「あの国が滅んだら、鏡花ちゃん泣くかなー。ふひひ、泣き顔もガッツリ拝みたいぜ……あ、そうだ、餞別にこれやるよ」

と言ってアトラが懐から取り出したのは、水着回の様子を録画したものを焼いたDVD。

「確かお前、あの試合ちゃんと見てないだろ?バッチリ録画しといたから、見とけよ」
「僕のお勧めシーンは、唯ちゃんとノワールが絡み合ってるところだな」
「あはは……ありがとうございます。まだ出発には少しかかりますし、せっかくだから見て行きますね」


604 : 名無しさん :2017/09/18(月) 19:12:07 ???
「さて、どうしたものか……」

王は、自分のスマホを弄りながら一人ごちる。
適当なところで死んでくれないかなー、と思っていたリザが今回も生き残ったらしいことは少し残念だが、彼の頭を悩ませているのはそのことではない。

彼のスマホには、ミツルギに潜伏しているロゼッタからのラインが届いている……のだが……

『ロゼッタだよ!アングレーム家の元執事、アルフレッドが秘宝を狙ってて怖いよー(>_<)
しかも、どこからか五人の戦士が王様に全員捕まったって情報を手に入れちゃったみたい!(*_*)
ということで、そっちにアルフレッド向かっちゃうかもしれない!(^ω^)
場合によっては、私もミツルギの調査は一旦止めてアルフレッド対策に専念した方がいいかも(´・ω・`)
連絡待ってまーす(^_^ゞ

PS
追加の人員派遣してくれると嬉しいな!』

……ロゼッタがメールとかラインとか手紙だとキャラが変わる系の不思議ちゃんであることを忘れていた。

「アルフレッド……アイツの目的もイマイチよく分からないんだよなぁ、アングレームの遺産を狙ってるのは分かるが」

あの執事がいる間はアリサに手を出せなかった。目障りな相手だ。

「ミツルギは一旦置いといて、アルフレッドに専念するか……ロゼッタにミツルギを任せたままにして、アルフレッドの相手に適当な奴送るか……逆にミツルギを誰かに任せてロゼッタにアルフレッドの相手させるか……」

フースーヤによるルミナス侵攻作戦が始まろうとしているところだが、他に手の空いている十輝星がいないわけではない。

それこそリザを送って過労死させるか、最近リョナられてないアイナでも送るか……

「……とりあえずは、五人の戦士の様子を見てから決めるか」

そう言って王は、目の前のテレビ画面に目を向けた。


605 : キャラクター紹介 :2017/09/22(金) 01:58:20 ???
●主人公とその仲間

★篠原 唯
陵植女学院に通っていた16歳の少女。栗色のセミロングとおっとりした口調がザ・女の子。大抵の童貞を殺してしまいそうな性格をしている。
現実世界では祖父に合気道を教え込まれていた。
この世界に来たばかりの頃はオロオロして泣いてばかりいたが、ルミナスでの修行を乗り越えた後は心身ともに成長した。何度も殺されながらもこの世界から脱出するために頑張っている。

★月瀬 瑠奈
唯と同じ陵植女学院に通っていた16歳の少女。容姿端麗、成績優秀、空手黒帯で、青髪ショートにロリフェイスで巨乳という2次元から飛び出して来たかのようなハイスペックガールである。
唯一の弱点は虫。ネズミも同じくらい嫌いで、ドラ◯もんと同じく見かけただけで失神してしまうほど。
すぐに手が出るタイプだが、計算しつくした上での行動が多く猪突猛進の馬鹿ではない。
根性値が高く弱音を吐かないリョナラー受けしそうな女戦士タイプである。

★古垣 彩芽
棱胳女学院に通っていた16歳の少女。メガネっ娘でボクっ娘という特定の層に受けそうな性格。アニメとゲームが大好きで、一押しアニメは「小春とフルール」という残念ながら爆死したアニメである。

フード付きパーカーにヘッドフォンと首輪をしている。
首輪は教授につけられたもので、これをつけた状態では誰のどんな命令も自分の意思とは無関係に実行してしまう。
そのためいつもヘッドフォンで音を遮断し、特殊メガネで言葉を文字に可視化して話をするという、非常にめんどくさい生活をしている。
手先が器用であり、戦闘時はアヤメカと呼ばれる自作のロボットやアイテムを使って器用に戦うことができる。以外とチート級の効果を持つ発明品もあり、見た目によらず戦闘力はかなり高い。
昔はイジメられていたが、亜理紗と出会い人の暖かさを知った。喧嘩もしたが今は仲直りして、共にこの世界からの脱出のために奔走している。

★山形 亜理紗(アリサ・アングレーム)
棱胳女学院に通っていた16歳の少女。
現実世界にいた頃は厳しい両親に勉強ばかりさせられて塞ぎ込んでいたが、この世界ではアングレーム家という心優しい貴族に拾われ暮らしていた。
金髪ロングでお嬢様口調といういかにもリョナシーンが似合いそうな女の子である。
彩芽と親友だったが、サキの離間工作によりこの世界で再開するまで仲違いしていた。今は仲直りして、共にこの世界からの脱出をry

ローブ・ド・ブランという純白の服と、アングレーム家に伝わる宝剣リコルヌが武器。アングレーム家で剣術の稽古もしていたので剣捌きはなかなかのものである。
服の方は魔力が込められた防具であり、弱い魔法なら跳ね返すし物理攻撃も軽減してくれる。暑さや寒さも和らげるし、水洗いで綺麗にすることも可能。
どちらも持ち主の処女性で効果が高まる性質を持っている。というわけで彼女は処女である。
性格は高飛車というわけではなく、極めて常識人。だが育ててもらったアングレーム家の夫婦や使用人を執事のアルフレッドに殺されている過去があり、復讐の炎は今も消えていない。
そのことで瑠奈たちと衝突したこともあるが、今は仲直りして、共にこの世界からの脱出をry

なお、彼女には両親や剣の師匠に王下十輝星の「カペラ」になるべく訓練されていた記憶がある。詳細は未だ不明。

★市松 鏡花
この世界に拉致された16歳の少女。
瑠奈を上回るワガママボディを誇る黒髪ロングの女の子。リョナシーンではいつもその大きな胸をイジメられてばかりいる。
自分の身を守るため妹の水鳥と共にルミナスで魔法少女となった。魔法少女にはそれぞれ特徴的な別名がつけられており、彼女には魔法少女リフレクト・ブルームという名前がある。
異世界人でありながら魔法の才能はピカイチで、ルミナスの戦隊長にも任命された。風魔法が得意なようである。
性格は真面目なお姉ちゃんタイプ。多分異世界人5人娘の中で1番普通な性格である。
戦闘の際はマーメイドフォームにも変身可能。その際の武器は黄金の三叉槍シャイニング・トライデント。


606 : キャラクター紹介 :2017/09/22(金) 01:59:44 ???
★市松 水鳥
鏡花の妹である10歳の少女。この世界で姉とともに魔法少女となった。
別名は魔法少女アクア・ウィング。
引っ込み思案で臆病な性格だったが、カナンとの戦いを経て精神的に成長を果たす。
真凛を助けた功績によってブルーバード小隊の隊長になった。
魔弓エンジェルズ・ティアーという水色の長弓が武器であり、イメージ通り水属性の魔法が得意である。
現在はルミナスで姉の身を案じつつ国を守っている。

★サラ・クルーエル・アモット
金髪ロングにライダースーツの女時空刑事。突然剣を出したり突然バイクに乗って鎧を着たりと、色々ぶっ飛んだ設定が満載のスタイル抜群お姉さんキャラである。
お話初期の頃は強キャラ感があったが、最近のインフレの犠牲者となっており、戦闘では敗北してしまうことが多い。今はサキのお気に入りリョナ対象である。
性格はアメリカ人気質が強く、良くも悪くも大胆な言動が目立つ。だが根は優しい性格なので、彩芽たちには尊敬されている。

★春川 桜子
異世界人であり、黒髪を後ろで一つに縛っている20代前半の女性。
この世界に来てから剣の腕を磨いて戦えるようになった努力家タイプ。でも色々と報われないことが多い。
性格は真面目で勇敢だが、直情的な面が強くスバルを殺された時は我を忘れて暴れていた。
アルガスでの騒動の際に死亡。

★スバル
この世界のスラムでひとりぼっちで奴隷にされていたところを桜子に助けられた灰色の髪の少女。年齢は13か14ぐらい。
性格は子供ながらにかなりの常識人で、彩芽たちと旅していた時は完全にツッコミ役だった。
アルガスでの騒動の際に死亡。


607 : キャラクター紹介 :2017/09/22(金) 02:01:09 ???
●ルミナス勢

★寺瀬 光(エスカ)
異世界人でありながらルミナスの最高位の「4代目ルミナス」の称号を得た魔法少女。別名は魔法少女ルミナス。白髪に真紅の目が特徴。
トーメント王国に攻め入った際に王と十輝星に敗れた。その際記憶を消され「エスカ」として十輝星になる。与えられていた称号は「フォーマルハウト」
王都地下のクリスタルから得られる莫大な魔力を使って、王下十輝星の活動のために身を削りながら未来予知をさせられていた。

妹のリムリット、唯や瑠奈、ルミナスの魔法少女たちに救出され、記憶は戻らないもののリムリットの補佐をしている。
光だった頃は正義感が強い性格だったようだが、エスカになってからは事なかれ主義の脱力系女子になった。
幼年期の鏡花や水鳥とは、現実世界の魔物退治をしていた頃に友達だった。

★リムリット・シュメッターリング・ルナ・ルミナス
8歳ながら魔法少女最高位の5代目ルミナスの称号をもつ天才魔法少女。ルミナスの首都ムーンライトにて魔法少女たちを束ねている。
漆黒のワンピースに真紅の目が特徴。国民の前では荘厳な口調で演説をしたりするが、実際は8歳の少女らしく、ニンジンやピーマンが食べられなかったり、夜は1人でトイレに行けなかったりする。

★ウィチル・シグナス
ルミナスのナンバー2。リムリットのスピーチや国政などはほぼ彼女がサポートしている。
真面目な性格でリムリットにもよく尽くしている素敵な女性。

★有坂 真凛
魔法少女ピュア・アクアマリンの別名を持つ異世界人の少女。鏡花の親友であり、水鳥の魔法の師匠。トーメント国へのスパイをしていたほどの実力者である。
絶倫三兄弟に輪姦された後殺されたが、王によって蘇生された。その後はライラに操られリザや水鳥を苦しめるも、覚醒した水鳥によって倒された。
現在はルミナスでメンタルケアを受けている。

★ココア・ソルベット
魔法少女ビショップ・オブ・アイヴォリーの名を持つ少女。ミントは彼女の双子の姉である。
ウェーブのかかったダークブラウンのロングヘア。穏やかで優しい性格のため、たくさんの魔法少女たちに慕われている素敵お姉さん。
敵国に1人残った姉を、生存は絶望的だと思いながらも案じている。

★ミント・ソルベット
魔法少女ルーク・オブ・アイヴォリーの名を持つ少女。ココアは彼女の双子の妹である。
ライトグリーンの髪をポニーテールにまとめ、すらりとした長身に凛々しい眼差し。後輩からの人気も高かった。
王に敗れた際、フースーヤのリョナの目覚めにされ死亡。

★カリン・カーネリアン
魔法少女ブレイジングベルの名を持つ少女。火属性の魔法が得意。
カナヅチなのがたまにキズ。
明るく活動的な性格。水鳥が隊長のブルーバード小隊に加入した。

★フウコ・トキワ
魔法少女エヴァーウィンドの名を持つ魔法少女。風属性の魔法が得意なメガネっ娘で、フウヤの姉である。
弟曰く百合の気があるらしい。
トーメント王国に捕らわれたフウヤの身を案じている。水鳥が隊長のブルーバード小隊に加入した。

★ライカ・リンクス
魔法少女ワイルドストライカーの名を持つ魔法少女。おそらく20代前半くらいだと思われる。
極光体術という体術をマスターしており、魔法少女には珍しく近接格闘術が得意。唯と瑠奈の修行を担当した。
本人の師匠は竜殺しのダンであり、幼い頃竜から助けたくれた彼を慕っている。というより抱かれてもいいと思っている。
修行の時は怒鳴りつけたり殴り飛ばしたりとスパルタが目立つが、本当は好きな人の前でもじもじてれてれしちゃう年頃の女の子である。

★カレラ・ガーネット
魔法少女クリムゾンヒートの名を持つ少女。褐色肌の美少女で全身にたくさんのアクセサリーを付けている。
魔石師と呼ばれており、鏡花や水鳥たち魔法少女が変身に使うアクセサリーは彼女のような魔石師と呼ばれる少女たちが作っている。
トーメントの捕虜にされ、王の甘言に乗せられて鏡花や唯と戦うも敗れた。


608 : キャラクター紹介 :2017/09/22(金) 02:03:49 ???
●シーヴァリア勢

★ミライ・セイクリッド
聖騎士を目指している16歳の女の子。白いワンピースに白帽子。黒髪ショートで胸には金色のペンダントを付けている。
性格は超が付くほどののんびり屋で、いつも声に緊張感がない。ミライを作った人曰くイメージCVは花澤香菜。
16にしては胸が大きいらしい。

驚いた時に「ふおおおお」という癖がある。実は隠れゲーマーでありFPSやモンハンをプレイしている。
聖騎士としてはまだまだだが、ヒーラーとしては天賦の才を持つ。

★ジン・グロリアス
聖騎士を目指している16歳の男の子。ミライとは幼馴染であり、密かに彼女のことが好き。
性格は明朗快活だが敬語が使えないので、年上と話す時は「〜っス!」と言っている。
ラッキースケベ体質であり、本人の意思とは関係なくスケベなことができる。ミライに抱きついたり、メデューサの股間に顔を押し付けたりとやりたい放題していた。

★リリス・ジークリット・フォン・シーヴァリア
矛盾卿の別名を持つシーヴァリア円卓の騎士の1人。
だが正体はシーヴァリア王家の正統な一族であり、内部体制を変えるために円卓の騎士になった。
ブルートとアイリスを退けた今は、シーヴァリア新女王として新たな一歩を踏み出そうとしている。

★エール
シーヴァリアの白騎士の1人。規律を守る真面目な性格で、栗色の髪を後ろで一つに縛っている。
ジンとミライが所属する見習い騎士班の隊長。女騎士定番のくっころが非常に似合う容姿をしている。
シーヴァリアでの騒動の際にベルガに殺されてしまったが、アイベルトに脅されたアイリスに蘇生された。

★ラケシスの森の妖精たち
少年少女にしか見えない妖精たち。
セリフはすべてひらがなでひょうげんされていて、オスとメスがいる。
総じて熱しやすく飽きっぽい性格をしており、思考回路が全く読めない。

妖精とは名ばかりで、複数でメデューサの体を開発するなどかなりえげつないことをやっている。
アイベルトは大人だがアホでピュアなので、彼らの声だけは聞くことができる。

★カナタ・セイクリッド
ミライの母。稀代のヒーラーであり、極度のおしゃべり好き。彼女に捕まってしまうと簡単には逃げられない。
夫と一緒になることで拘束時間が倍増する。

★アスカ・セイクリッド
ミライの父。太陽卿という呼び名とともに、シーヴァリアの騎士最高位の「聖光騎士」だった。
武器はセイクリッドキャリバー。カナタとの魔法で呼び出すことができる光の聖剣である。この剣で封印されし邪神を倒したこともあるらしい。
怪我で一線を退いていたが、セイクリッド家と懇意にしている王家一族のリリスが女王になったことをきっかけに、妻共々現役に復帰することになった。
明るい性格で妻同様、極度おしゃべり好きなため、人の話をあまり聞かない。


609 : キャラクター紹介 :2017/09/22(金) 02:06:09 ???
★ブルート・エーゲル
重鋼卿と呼ばれていた円卓の騎士の1人。いつも身につけている黒鎧の中は空洞であり、兜の裏に付いている血印が伝説の騎士である彼の魂を鎧に繋ぎ止めている。
王家を滅ぼし主君であるアイリスを女王の座にするべく、リザを捕らえてドスの鎧を作ったが、アイベルトやサキの協力もあって失敗。リザに血印を消され物言わぬ鎧となった。
その際のドスの鎧は行方不明になっている。

★アイリス・リコルティア
シーヴァリアの円卓の騎士を纏める司教と呼ばれている女性。おそらく20代後半ほどの美女でガチレズ。
アイベルトが唸るほどの巨乳である。
リザの血でドスの鎧を作るため、リザを何度も蘇生して痛めつけた。ついでに犯したりもした。
その目的はシーヴァリアの新女王になることだったが、ミライ達や王下十輝星の前に敗れる。
そのあとは騒ぎに紛れて逃走し、行方不明となった。

赤い目で未来予知をするアイオーンの民であり、アイベルトと同じ一族である。
武器はブラッディクイーンという大鎌。装飾のバラの花を飛び道具にしたり、駆り集めた魂を解放してゾンビを召喚したりすることができる。

★サイラス
鷹眼卿と呼ばれているシーヴァリアの円卓の騎士の1人。名のある貴族の三男だったが、爵位も継げないのでは意味がないと判断し傭兵稼業を始めた。
その際の通り名は「遠当てのサイラス」弓での攻撃を得意とする彼はアイリスにスカウトされ、円卓の騎士になった。
女性蔑視の傾向があり、「女ってやつは……」が口癖。シェリーは義理の妹である。
アイベルトに他の黒騎士共々敗れた。

★ベルガ
斬裂卿と呼ばれるシーヴァリアの円卓の騎士の1人。30代後半の残忍な性格。
彼の武器、魔爪ディアボロスは彼の性格を反映したような性質で、切り裂いた相手の血を吸う度に痛覚が倍になるというもの。
アイベルトに他の黒騎士共々敗れた。

★デイヴ・フート
肉厚卿と呼ばれるシーヴァリアの円卓の騎士の1人。「〜っちゃ。」「〜っぺ。」という田舎臭い語尾を使う。武器は大きな戦鎚。
実家は米農家で餅つきが得意。馬鹿っぽい口調とは裏腹に頭が回るタイプで、リザが他国のスパイだと気づいた。
アイベルトに他の黒騎士共々敗れる。

★ランディ
海雪卿と呼ばれるシーヴァリアの円卓の騎士の1人。メイスを使った格闘術に加え魔法・法術にも明るい。知力では円卓の騎士の中でも1番と言われる老練な黒騎士である。
アイベルトに他の黒騎士共々敗れた。

★リンネ
蛇蝎卿と呼ばれるシーヴァリアの円卓の騎士の1人。赤い十字の模様が至る所に施された黒いゴシックドレスに、厚底のブーツという服装。
どう見ても少女にしか見えない容姿をしている。だが男だ。15才の男だ。

ファントムレイピアという注射器のような武器を使う。これは相手に刺すことで対象を幻覚の世界に閉じ込める性質を持つ。
幻覚世界は対象のトラウマを再現できるので、リンネは簡単に弱点を知ることができる。幻覚世界ではリンネに攻撃をすることは不可。逆は可能。そしてこの世界で受けたダメージは現実世界では関係ない。リョナラー向きすぎると評されたほどの能力である。

歯に絹着せぬ物言いが特徴的だが、正体はナルビア国のスパイである。リザの弱みを握って、彼女にブルートを倒させた。
サキに魔力を吸われた時にフレンチキスを何度かされ、それが彼のファーストキスらしい。初めてが年上の美少女とのキスになって、ちょっとドキドキしちゃったのかは不明。

★ヒルダ
リンネにいつもくっついている真っ白なストレートワンピースを着たじゅっさいの女の子。
物静かで臆病な性格。ひらがなでしゃべることがおおい。
癒しの術が得意。リンネとの関係は不明。
リンネは彼女のためにいろいろと頑張っているような描写がある。
なおサキが彼女に変身した際、心臓を石に変えられたような、四肢の中に針金でも入れられたような、異常な感触に襲われている。
その小さな体にはまだ秘密が隠されているようだ。


610 : キャラクター紹介 :2017/09/22(金) 02:07:11 ???
★シェリー
隼翼卿と呼ばれるシーヴァリアの円卓の騎士の1人。
ナルビア国の貴族の不義の子であり、その境遇から感情が希薄な性格になってしまった。
その貴族の三男がサイラスであり、傭兵稼業を始めた彼について行き剣術を磨いた彼女は「早抜きのシェリー」と呼ばれるようになる。
サイラスと同様アイリスにスカウトされ、円卓の騎士となった。
2人きりの時はサイラスのことを「兄さん」と呼び慕っている。異母兄弟である彼女たちは2人とも冷静な性格だが、細かいところで抜けているという共通点がある。
電光石火の攻撃スピードと様々な武器を操って戦う。

いろいろあってガチレズとなり、メデューサと愛を育んでいる。

★メデューサ
睥睨卿と呼ばれるシーヴァリアの円卓の騎士の1人。
蛇剣ウロボロスという伸縮自在の剣と、
見つめた敵を石化させる瞳を持つかなりの実力者。
ほぼ単独でミライたちを追い詰めたが、妖精の快楽責めによって堕ちたときに体の疼きが抑えられず、近くにいたシェリーを強姦。その際にガチレズに目覚め、共に目覚めたシェリーと愛を育んでいる。

★ノーチェ・カスターニャ
鉄拳卿と呼ばれるシーヴァリアの円卓の騎士の1人。キリコ、コルティナとともにぐーたら三姉妹とも呼ばれている。とはいえ本当の姉妹ではない。
巨大手甲ストレングス・オブ・ザ・パワーという武器を使う。
実は異世界人であり、本名は名栗間 胡桃(なぐりま くるみ)
アイリスを守るために戦うことがだるくなり、円卓の騎士の職務を放棄した。とはいえ行くあてはないのでシーヴァリアに留まるらしい。

★キリコ・サウザンツ
裁断卿と呼ばれるシーヴァリアの円卓の騎士の1人。ノーチェ、コルティナとともにぐーたら三姉妹とも呼ばれている。とはいえ本当のry
巨大ハサミ「貴様ら下衆に名乗る銘はねーですよ」という武器を使う。
実はミツルギ国のスパイであり、本国では「千斬のキリコ」と呼ばれているらしい。

★コルティナ・オプスキュリテ
暗幕卿と呼ばれるシーヴァリアの円卓の騎士の1人。ノーチェ、キリコとともにぐーたら三姉妹と呼ばれている。とはいえry
魔法のマント「なんかぶわーってなるやつ」で敵を捕らえて無力化する。寝袋にもなるらしい。
実はルミナス国のスパイであり、別名は魔法少女ミッドナイトヴェール。
ルミナスに危機があれば一旦帰ると言っているが……


611 : キャラクター紹介 :2017/09/22(金) 02:09:22 ???
●トーメント王国

★トーメント王
全ての悪の元凶であり、実質この世界の王。
ふざけた言動が目立つがそれは相手のペースを乱すためであり、本質は非常に冷酷かつ残忍。慈悲のかけらもない。
女の子のリョナシーンを動画撮影したり、目覚ましのアラームを女の子の悲鳴にするなど、かなりのサイコパスである。
ただ自分の世界の維持に貢献している、十輝星の面々に対しては結構優しい。

この世界はゲームで作られたようなものであり、王はそのラスボス。そして彼が君臨し続けるには、彼が倒される「可能性」をこの世界に残しておく必要がある。
その5人が5人の戦士……唯、瑠奈、彩芽、亜理紗、鏡花である。彼女たちはこの世界の「可能性」であるため、死んでも死ねずに蘇ることができる。
そこで王は彼女たちの心を折るために、徹底的にリョナってやることを目的としているのだ。

5人の戦士はこの世界の制約から外れた存在であるため、アイベルトやエスカの未来予知から外れたり、運命が彼女たちに味方したりと様々な特権がある。
とはいえ、現状ではこの王を倒すことは難しい。彼が倒れた時、この世界は終わるのかもしれないので、実質神である。

ロードオブロードという死者を蘇生させる能力を持つ。これによって気に入った女の子を延々リョナり続けることができる。だがバラバラになりすぎたり特殊な術で殺された場合は蘇生できない場合もある。
なお、配下である十輝星を蘇らせることはない。一度負けた時点で十輝星失格ということらしい。

悪趣味な赤マントの中には、金ピカバトルスーツを着込んでいる。大量の触手もついているあたり、触手リョナが好きなようだ。

★教授
異世界人の少年。現実世界にいた頃は「巨獣」と呼ばれており、彩芽に強姦未遂を働いたほどのストーカー。
この世界に来てからかなのかは不明だが、天才的な頭脳を開花させており、王や十輝星に様々な便利アイテムを開発・提供している。
リョナよりもエロ寄りの性癖を持っており、舞にセクハラを働いたり治療と称してリザの体を触ろうとしたりとこの世界に来ても変態は治っていない。
とはいえ1番の標的は彩芽であり、彼女のことを勝手に「嫁」と読んで隙あらば捕まえることを狙っている。

★アトラ
王下十輝星「シリウス」の称号を持つ赤髪の13歳の少年。
少年らしい言動をしており明朗快活な性格だが、実際はかなりの外道。少年にして根っからのリョナラーであり、女の子を痛ぶることに幸せを感じている。
リザのことが好きだったが、レズ疑惑を聞いて鏡花に鞍替えした。

能力はトラップ生成で、トラバサミや丸太トラップなど多種多様なトラップを一瞬で作ることができる。
シアナの能力との相性が良く、親友ということもありほとんどいつも一緒に行動している。

★シアナ
王下十輝星「プロキオン」の称号を持つ13歳の少年。実は外見が定まっていないのかもしれない。
いつも一緒にいる猪突猛進なアトラとは対照的に、冷静沈着で頭が回る頭脳派タイプ。十輝星の人員配置や組織の細かい調整なども任せられている。
アイナのことが気になっているが、今のところ進展なし。唯に対しては抑えきれないリョナ欲を抱えている。

能力は空間に穴を開ける力。空間や次元に穴を開けることができるが、生命体には開けることができない。本編中でアイセに穴を開けていたのは見逃してください。
アトラの能力との相性が良く、ほぼいつも一緒に行動している。

★アイナ
王下十輝星「ベガ」の称号を持つ13歳の少女。ピンクのツインテールが特徴的な美少女で、なぜかお嬢様口調で喋る。
スラム出身であり、粗末な食料を美味しく食べるために調味料を付けまくるという生活をした結果、人とは違う味覚になってしまった。
からし入りクッキーやらハバネロ入りチョコを本気で美味しいと感じているあたり、お察しである。

性格は天真爛漫で、誰に対しても笑顔で話すことができるが、任務の時は残酷な性格を覗かせる。
だがもう存在を忘れたと言っていたエミリアに密かにお菓子をあげていたりと、ちゃんと優しい面もある。
仕事終わりのジュースとお菓子(変な味の)が生き甲斐らしく、いい加減に見えて意外と仕事派。
13歳にしてネイルや人気ブランドに目がなく、給料はほとんど趣味につぎ込んでいるようだ。

自分より年上のリザのことを溺愛しており、リザちゃんと呼んで懐いている。リザはちゃん付けされるのを嫌っているが、直す気配はほぼない。
だが最近はシアナの事も気になっている。もちろん恋愛的な意味で。

能力はステルス能力。自身の姿はもちろん声や匂いや足音、果てはアイナがいたという記憶まで消してしまうという存在ステルス能力である。だが透明になるわけではないので敵とは距離を取る必要がある。
ステルス中は味方の記憶からも消えてしまうため、教授の作った「異能力無効化装置」がないと味方との連携ができなくなる。


612 : キャラクター紹介 :2017/09/22(金) 02:11:03 ???
★リザ
王下十輝星「スピカ」の称号を持つ金髪碧眼の15歳の美少女。
アウィナイトという争いを好まず海を愛する種族であり、金髪と碧眼と美しい容姿はその証である。
元は心優しい少女だったが、盗賊たちに家族を殺されて以来性格が変わってしまい、目的のためには殺人も厭わない暗殺者となった。

そんな彼女の目的は迫害が続くアウィナイトの再興であり、絶大な権力を持つトーメント王に協力することでアウィナイト保護条例を作ってもらっている。
それをより手厚いものとするためなら彼女はどんな命令でも受けるため、他の十輝星よりもかなりハードな使われ方をしている。
なお王としてはアウィナイト保護条例など不要と考えているので、過酷な任務の途中でリザが死んだら撤廃する予定である。

暗殺者となってからも根の優しさは変わっておらず、基本的に困っている人を見つけたら助けている。登場初期の頃は無口だったが、エミリアやミライといった少女たちと邂逅するうちに、自分の感情を少しずつ出すようになってきている。

音楽はクラシックしか聞かなかったり携帯がガラケーだったりと、少し浮世離れしたところがある。

人気キャラであり、作中リョナられた回数はトップクラス。金髪碧眼の美少女暗殺者という誰でも想像できるリョナ映えしそうな設定が原因だと思われる。
なおバッドステータスの「不運」に生まれつき取り憑かれており、戦闘中やそれ以外でも運の悪さで可哀想な目に合うことが非常に多い。
そのせいかは不明だが、作中登場するガチレズにいつもいつも襲われてしまい、悲鳴やら嬌声やらを上げさせられている。

能力は驚異的な身体能力とテレポート。50メートルを5秒で走り、ビルの5階までジャンプすることが出来る。
それに加えて、50メートル先までなら魔力を消費し一瞬でテレポートが可能。愛用のナイフには弾丸が仕込まれていたり破壊力を増すために刃を大振りにすることができたりと、様々なオプションがついている。
彼女は暗殺者として、主にレジスタンスの殲滅や他国の要人の暗殺の任務に就くことが多い。
決め台詞は「生まれてきたことを後悔させてあげる」

★ヨハン
王下十輝星「アルタイル」の称号を持つ黒髪黒目の青年。24歳。
穏やかで心の広い性格からか、十輝星の子供達の兄貴分的な存在である。だがただの優男というわけではなく、極めて残忍な本性は巧妙に隠されている。
王下十輝星として暗躍する目的は不明だが、与えられた任務は忠実にこなしているあたり彼も何か目的があるようだ。
サキに熱い視線を送られているが、彼にその気は無いらしい。

能力は絶対防御と最強の矛。自身の体への攻撃を貫通、吸収させることができ、同じことができる結界を15メートル程の距離に貼ることができる。
吸収した攻撃は衝撃として反射することが可能であり、迂闊に攻撃しただけで致命傷をもらう可能性がある。
それに加えて、自身の腕を鋭利な巨大ハサミに変えることが可能。絶対防御の前に絶望した相手を容赦なく切り裂いてしまう。
これらはヨハンの反則級とも言える魔力量により可能な術であって、どちらも普通の人間に使いこなせる術ではない。

★フースーヤ(フウヤ・トキワ)
王下十輝星「デネブ」の称号を持つ少年。
元々は魔法戦士ヴェノムウィンドの別名を持つ、ルミナスには珍しい男性の魔法少女ならぬ魔法戦士だった。
得意魔法は毒属性だが、母国のルミナスでは毒の力は多少なりとも忌むべきものとして扱われているようで、力を存分に使うことは許されず歯がゆい生活を送っていた。
そして唯一心を開いていた姉のフウコが「フウヤが女の子だったらよかったのに」と存在を否定されたとも取れる発言をしていたのを偶然聞いてしまい、彼はルミナスへの反逆心を抱くようになる。
そこを王に付け込まれ、闇の力と新しい名を与えられたことで彼は復讐者となった。
今はルミナスを滅ぼすべく、王の送り込む洗脳された魔法少女たちとともに戦争を仕掛けようとしている。

性格は温和だが、母国ルミナスへの復讐心は強い。
彩芽を傷つけずに毒でリョナった礼として、教授にライブラ付き毒ガス無効特殊マスクをもらった。
が結局、強キャラ感を出すために真っ黒いロングコートを着てフードを深くかぶるという、どこぞの13人いる機関のような服装に落ち着いたようだ。


613 : キャラクター紹介 :2017/09/22(金) 02:13:14 ???
★サキ
王下十輝星「リゲル」の称号を持つ黒髪黒目の16歳の美少女。ニーソックスや蝶の髪留めをしていて、見た目は今時のおしゃれな女の子である。
だが性格や言葉遣いはねじ曲がっており、弱者を痛ぶったり気に入らない相手に陰湿な嫌がらせをしたりすることに幸せを感じている。性格の悪さは十輝星の中でもトップクラスである。

闇属性の術や邪術が得意。直接の戦闘能力は高くないが、索敵や情報収集といった諜報員としての能力は十輝星の中でもトップである。

そんな彼女が十輝星になったのは家族のため。サキよりも美しい妹のユキが貴族に強引に引き取られてリョナられるのを恐れた母は、ユキの顔を酸で焼いた。
病院で暮らすユキと、貴族の権力に屈しこんな方法でしか守れなかったと獄中で謝罪を続ける母を見て、サキはどんな権力にも負けない力を渇望するようになる。
十輝星としての権力を使ってユキの顔を戻し、また家族三人で暮らすことがサキの目的である。
極悪非道な彼女だが、家族への愛は本物なのだ。

残酷な本性を隠すかのように仲間の前では猫被っていたが、本当の性格がバレたことをきっかけに、ヨハン以外には言葉遣いに気を使うのをやめている。
ヨハンには恋愛感情を抱いていて、何度かアタックしているようだが、あまり響いていない。
親友だったライラを殺したリザの事は誰よりも憎んでいる。だがナルビアやシーヴァリアで共闘したことをきっかけに、前より嫌悪感は和らいでいるようだ。

柳原舞は直属の部下であり、教授の作ったチョーカーで意のままに操っている。
ストレス発散にボコったりもしているが、教授のセクハラから守ってあげたりなど、愛着も湧いているらしい。

★ロゼッタ
王下十輝星「カペラ」の称号を持つ紫の髪に同色の瞳が特徴的な22歳の女性。
なかなかの巨乳らしい。
性格はかなりの不思議ちゃんで、いつも意味不明なポエムを呟いては周りを混乱させている。
だがなぜかメールやラインでは饒舌で、顔文字や絵文字で感情豊かに話す事ができるという変わり者である。

能力は魔力で練った不可視の糸。相手を拘束したり切り刻んだりはもちろん、糸を自分の周りに巻いて盾を作ることも可能。
不可視の糸での攻撃のため、仕掛けがわかっていないと彼女に勝つことは非常に難しい。まさに初見殺しの能力である。

★アイベルト・ノーシス
王下十輝星「ベテルギウス」の称号を持つ赤髪短髪、灰色の目、紺色のマントが特徴的な24歳の男性。
性格はバカというかかなりの天然で、頭のゆるい発言が多く周りに呆れられることが多い。
その天然さは10代にしか存在を感知できないラケシスの森の妖精の声が聞こえるほど。姿は見えないらしい。

言動はナルシストで、自分がこの世で1番かっこよくて1番強いと思っている。「俺様ほどの男になると〜」が口癖。

戦闘の際には灰色の目が赤に光り、捕らえた者の5秒先の未来がわかるという、未来予知の能力者。
この能力は一代にして国を治めたアイオーン帝王の力であり、その子孫であるアイベルトやアイリスにも受け継がれている。

テン・ヴァーチャーズという様々な武器に形状を変える不定形の武器を使う。アイベルトはすべての武器と全属性の魔法を操る万能タイプであり、未来予知と合わせてほぼ無敵の戦闘能力を持つ。
弱点は頭の悪さだが、なぜかエロが絡むと天才的な思考をすることができる。

彼女いない歴=年齢で、アニメオタク。彩芽も好きな爆死アニメ「小春とフルール」が好きで、服がないからといってリザにフルールのコスプレをさせた。
露出度がかなり高い服装のため、隠し撮りされた動画はかなりの再生数を出しているらしい。


614 : キャラクター紹介 :2017/09/22(金) 02:14:21 ???
★ドロシー
元王下十輝星の少女。フースーヤの前に「デネブ」の称号を冠していた。
緑色の瞳にクリーム色の髪が特徴。
風属性の魔法と自分の身の丈以上の大鎌が武器である。
任務の時は風属性の魔法の威力を高める、露出度の高い妖精の服に身を包んでいる。自分の起こした風でめくれたりしないように大変らしい。

リザとアイナとは十輝星になる前からの友達であり、この3人は同時に十輝星にっている。
性格は真面目で曲がった事が大嫌い。立身出世に憧れて、実力で王下十輝星になったため、プライドが高い。
そのためエスカの占いに頼らず自分自身の力でライラに挑んだが、圧倒的な力の前に返り討ちに合い食べられてしまった。
その後ライラに幼年期の姿でクローンにされた状態で仕えていたが、リザにあげたリボンを見て記憶を取り戻す。
リザと共闘してヴェロスを倒すも、体は結界の核になってしまったため、リザの手で再度殺された。

【レジスタンス3人娘】

★柳原 舞(黒足の舞)
異世界人の16歳の美少女。黒髪ロングのクールビューティー。
制服に黒ストッキングと編み上げブーツを着用。このブーツはリョナ世界で手に入れたマジックアイテムで、反射神経・瞬発力・キック力が大幅に強化される。

元の世界に帰るためトーメント国のレジスタンスとして戦いの日々を送っていたが、ラミアと戦闘中の隙を突かれアトラとシアナに捕まってしまう。
その後は教授の実験体として様々な薬物投与(主にセクハラ目的)をされていたが、見かねたサキが彼女を自分の部下にした。そのためサキへの忠誠心は高い。

現在は教授の開発したジェットブラックアーマーを着用しており、「葬黒!」と唱えることで変身することが可能。
その際はブーツに加え「ダーク・チェインサイズ」と呼ばれる鎖鎌を装備する。
サラが手も足も出ないままボロボロにやられたが、助太刀に来た亜理紗に敗れた。

★エミリア・スカーレット(爆炎のスカーレット)
極寒の北国「ガラド」で、トーメント王国のレジスタンスとして活躍していた15歳の少女。少し天然だがとても優しい性格。
青の長い髪に白のロングコートが海と貝殻を連想させる。
魔法の天才であり、初級魔法を唱えると中級魔法の規模になり、中級は上級になる。上級魔法を唱えた場合凄まじい規模になるため、迂闊に使うことはできない。上級魔法は彼女曰く、大切な人を守る時にだけ使うらしい。

高い給料をチラつかされてホイホイレジスタンスに雇われた彼女は、持ち前の暴力的なほどの魔力でガラドを守っていたが、リザとアイナのコンビに捕まってしまった。
だがその際に自分をガラドへ逃がそうと奔走したリザの優しさに触れ、自身のトーメント王国を憎む気持ちとは裏腹に彼女の力になりたいと思うようになる。
現在はリザの部下として拘束されることなく、トーメント城の雑用などを行なっている。

★アイセ(魔弾のアイセ)
肩まで届く茶髪のセミロングが特徴的な24歳の美女。見た目は清楚なゆるふわ系女子だが、敬語が使えず口も悪い。
西部劇が好きで、身につけている衣装もガンマンスタイルである。
戦闘スタイルは魔力の込められた銃を、メインに、グレネードや格闘術など体術、アイテム共に多種多様。
見た目とのギャップがありすぎる、戦闘のプロである。

アレス・ガンダルドの街で「紅蓮」というレジスタンスのリーダーを務めていたが、ヨハンに襲撃され敗北。アイセはトーメント城に拘束され、彼女以外のメンバーは殺された。
体の中にヴァイタル正常化装着という機会を埋め込んでおり、これによってバッドステータスの毒や麻痺を無効化できる。

かなり破天荒で気まぐれな性格。自分が使えない敬語が嫌いで、紅蓮のリーダーだった時もメンバーとはタメ口で話していた。だが名前ではなくお前と呼ばれるのだけは大嫌いで、うっかり呼んでしまうと鉄拳制裁が待っている。


615 : キャラクター紹介 :2017/09/22(金) 02:16:18 ???
●その他

★ベティ
一軒家ほどの巨大ナメクジ。トーメント王のペット。
なんでも食べてしまう腹の中には洋服やらマネキンやらでかい虫が入っている。
1日に一回おやつに女の子を食べているらしい。

★ウーゴ・ケルデヴ
闘技場に現れた巨大な亜人。圧倒的に気持ち悪いビジュアルに加え発汗体質でいつもビチャビチャと汗をかいていて、エロ同人に出てきそうなほどの醜悪な容姿である。
脂肉滑葬弾<ラード・スケート・ボム>という粘つく汗の上を滑走する必殺技で唯を苦しめたが、唯の渾身の技「地槍・千年大蛇」によって敗れた。

★処刑獣アイアンネペンテス
本名は不明だが、現実世界でサラに逮捕されたことがある異世界人の男。サラをリョナりたいという執念によって、世界が彼をウツボカズラのような異形の存在へと変えた。
逆恨みによってサラをリョナ世界へ引きずり込み陵辱の限りを尽くそうとしたが、彩芽や桜子と共闘したサラに敗れた。

★サンタ・クロース
クリスマスに女の子をリョナりたい願望を持つ男の前に顕現する正体不明の男。
降臨から24時間は召喚者をサポートしてくれるので、ずっと前から気になっていたあの子も簡単にリョナれるようになる。

リザとアイナの能力を併せ持っていて、トーメントの兵士たちとともに彼女らを苦しめたが、最後は2人の合体技の前に敗れた。

★竜殺しのダン
トーメント王国の宿屋兼酒場である、「邪悪にして強大なるワイバーン亭」通称「邪ワ亭」を営む強面の男。
唯たちを保護したり闘技場の騒動から救ったりと、見た目によらずかなりいい人。ライカの師匠でもある。
アイナとサキが喋っていた内容を聞いて、唯たちの身を案じている。

★ダズ
アイセの率いていた「紅蓮」のメンバー。2メートルを誇る偉丈夫。アイセの部屋に入る際にいつもノックをしないため、よく怒られている。
ヨハンに殺害された。

★カーティス
アイセの率いていた「紅蓮」のメンバー。イケメンでアイセのことが好きだが、アイセには性格がゴミと評されてしまっている。
ヨハンに殺害された。

★リルセ
アイセの妹。シールズという小規模の村でアイセや家族たちと暮らしていたが、トーメント王国の侵略により村は壊滅。
村の外に出ていて無事だったアイセがリルセを発見した際、腰から下が吹っ飛んだ状態だった。
この事件がきっかけで、アイセはトーメント王国を激しく憎み、レジスタンスグループ「紅蓮」を立ち上げた。

★タロ
アイセの飼っていた犬。オレンの実というHPが10回復しそうな木の実が好物。
トーメント王国がシールズを襲撃した際に、村の入り口で息絶えていた。

★ノワール
強大な魔法を操る魔女の魂が込められた服。
人間だった頃はルミナスの魔法少女だったが、現在はトーメント王と組んで悪逆の限りを尽くしている。
体を持たないため、瑠奈や鏡花や亜理紗の体を乗っ取って何度も主人公たちを苦しめているガチレズ。もちろんリザも彼女の毒牙にかかっている。

★園場 華霧(そのば かぎり)
イータ・ブリックスで暮らす14歳の美少女。闘技場で虫に襲われた際にアルフレッドに助けられたが、差し出されたペンダントに彼女が反応しなかったため放置された。その後は生死不明。

★邪術のライラ
深い森の中にたった1人で住んでいた邪術士の美少女。
漆黒のローブと怪しげな紫眼が特徴。
迷い込んだ旅人や王から提供される人間を触媒にして、日々邪術の研究をしていた。
サキとは親友関係にあり、お互い友人が少ないこともあってかかなり親密な関係だったようだ。
美少女のクローンを作るべく、王から派遣されてきたドロシーを殺した。

ローブの中の腹部には自身が「父親」と呼ぶ不気味な顔が浮かび上がっており、父親の活動のために美少女を捕食する際は、この顔にある口で捕食してしまう。
なおその正体は……

★邪術士ヴェロス
ライラの体を乗っ取っていた邪術士。トーメント王国の反政府組織に所属していたライラの父、アスリエルを殺し、天才的な頭脳を持つライラの脳を使い邪術の研究を進めるべく彼女の体を乗っ取っていた。なおライラには自身が父親だと認識させるよう洗脳を施していた模様。
肉体として限界が近づいていたライラの体を捨ててリザの体を乗っ取ろうとしたが、水鳥やエミリア、記憶を取り戻したドロシーの協力も得たリザによって倒された。

★くさそうの人
「くさそう」しか喋らない人。トーメントの兵士だが最近は出番がないので行方不明。

★絶倫三兄弟
トーメント国民でありその名の通り絶倫を持つ男三兄弟。
ぐーたら三姉妹と違ってそれぞれに名前がないが、長男はヤンキー口調、次男は口癖が〜「でやんす」三男はキモオタ口調となっている。
王に魔力を吸われボロボロの真凛を3人で輪姦し、衰弱死させた。

その後まさかの再登場を果たし、魚人になって鏡花を追い詰めるも返り討ちにあってしまい生死不明。


616 : キャラクター紹介 :2017/09/22(金) 02:17:45 ???
★執事アルフレッド
アングレーム家に仕えていた青年。王の手下たちから亜理紗を何度も守っていた。
亜理紗からも好意を持たれていたが、ある日突然、亜理紗以外のアングレーム家の人間を殺害。
「アングレームの遺産」と呼ばれるものを探していて、その鍵となるペンダントをアリサから奪い取った。

その後、亜理紗の前に再び現れる。アングレーム家の遺産の獲得には、運命を変える力を持つ5人の少女が必要と告げ、亜理紗たちに襲いかかる。
が、居合わせたダンによってこの場は逃走。その後は行方不明だが、ロゼッタの報告からすると5人のいるトーメント王国に向かっているようだ。

★ワルトゥ
150年前の王下十輝星であり、スピカの称号と拳聖という称号を持っていた大柄の男。
ライラによってカナンと共にこの世界に召喚された。
リザと戦うよう命令されるもわざと負けたように見せかけ、彼女にライラを倒させて自由の身となる。
その後ナルビアのアルガスに突如現れ、亜理紗たちに襲いかかる。スバルのぬいぐるみに左目を潰され激昂した彼は、圧倒的な力でスバルを圧殺した。
その後の行方は不明だが、アルガスの基地に潜入していたリザをスピカだと発言したせいで、ナルビアや諸外国を混沌に陥れることになってしまう。

体格を活かした格闘術の他に、魔力に寄った2、3人までなら分身体を作り出すことができる能力を持つ。
分身の耐久力は低いが、分身への攻撃は本体には無効。そして破壊力は本体と同等という出し徳しかない強力な技である。

★カナン・サンセット
夕陽の様な色の長髪が特徴の20代後半の美女。150年前のルミナスで英雄と呼ばれた存在であり、魔法少女トワイライトディザイアとして当時の王下十輝星を5人も倒した。
その功績をたたえ、ルミナスの首都にあるムーンライト城のエントランスには、彼女の黄金の像が飾られている。

ワルトゥと共にライラに召喚され、水鳥に襲いかかる。
性格は極めて常識人。だが魔法少女として未熟すぎる水鳥に失望し、戦闘中は水鳥に嫉妬の様な感情を覚えていた。
だが魔法少女としての才を開花させた水鳥によって倒された際は、彼女にルミナスの未来を託し、その魂は自身の持っていたペンダントに封じ込まれた。

ペンダントの中に思念として残留しており、方向音痴な水鳥を導いたり不意打ちを仕掛けたサキから水鳥を守ったりと、ほぼ保護者のような活躍をしている。

ライラ討伐後、カリンによってペンダントからイヤリングに転生。水鳥の耳につけられたルミナスの英雄は、これからも年若い魔法少女をサポートしていくのだろう。


617 : キャラクター紹介 :2017/09/22(金) 02:19:28 ???
★マルシェザール
ナルビアの研究都市アルガスの研究所所長。年齢は50代ぐらい。
アルガスにて異世界人の「運命を変える力」を研究しており、その力を持つ異世界人をディスティンクティブヒューマン、略してDTTと呼称していた。

亜理紗と彩芽にDTT反応があると見るや、実験と称して彼女たちに魔物をけしかける。
その最終目的はDTT量産計画であり、彩芽たちのような特別な力を持つ兵士を人工的に作り出すことだった。
が、サキを助けにきたリザによって、首を切り落とされあっけなく死亡。

★ダイ・ブヤヴェーナ
通称Dと呼ばれる兵士。水滴拷問のスペシャリストであり、その拷問術は訓練されたサキですらトラウマを植え付けられるほど。

★改良ジト目貧乳殺戮機械兵『エミリー2.0
★重装型メガネ貧乳砲撃機械兵『サフィーネ参式』
★高起動貧乳格闘機械兵『ルビエラMk-IV』
アルガスで作られた地獄の絶壁と呼ばれる貧乳美少女ロボットたち。
脱出を計るワルトゥに3人揃って襲いかかるも、あっけなく破壊されてしまったのであった。


618 : キャラクター紹介 :2017/09/22(金) 02:20:29 ???
★ユキ
サキの妹。美しい容姿を持つ美少女だったが、そのせいで貴族のリョナ要員に目をつけられてしまう。
貴族の元で毎日リョナられるユキの未来を悲観した母は、貴族からユキを守るために自らユキの顔を酸で焼いて醜い顔に変えるという苦渋の選択をした。
顔が醜くても生きていてほしいという母の行動であり、サキは母を憎んではいない。
なおユキには真実を知らせておらず、ユキは母が精神を病んだと思っている。

その結果、母は獄中生活。ユキは入院となりサキの家族はバラバラになってしまった。
十輝星となったサキはまた家族3人で暮らせるよう、ユキの顔を戻す手がかりを探している。

★ミゲル
リザの父。身長190センチに縁なし眼鏡が特徴的なビジネスマン。普段は優しいお父さんだが酒癖は悪い。

アウィナイトの集会の際、襲撃してきた盗賊によって串刺しにされ死亡。

★ステラ
リザの母。長い金髪を後ろでまとめておて、35歳だが20代後半に見えるほどの美人人妻。
見た目によらず肝っ玉かあさんであり、酒に酔った夫やだらしない息子は容赦なく叱り飛ばす。リザの家族で1番権力を持っているのは彼女である。

アウィナイトの集会の際に盗賊に捕らわれ輪姦される。その後は生死不明。
リザは今も彼女を探し続けている。

★レオ
リザの兄。お調子者で生意気な性格。好きな漫画の口調を真似したりと、子供っぽい一面が目立つ。
姉と妹が美人すぎて他の女子と比べてしまい、なかなか恋ができないという贅沢な悩みを持っている。

アウィナイトの集会で発生した盗賊の襲撃から姉と妹を守るべく、たった1人で盗賊たちの足止めをした。
持ち前の根性で善戦していたが、母を人質に取られて抵抗を封じられ、身体中に矢を刺されて死亡。

★ミスト
リザの姉。長い金髪を三つ編みにした、オシャレな洋服とイン◯タグ◯ムが大好きな美少女。
性格は明るく社交的な長女らしい性格。弟や妹に対しても友達のような感覚で接していて、面倒見は良かったようだ。

アウィナイトの集会で発生した盗賊の襲撃からリザを守るべく奔走するも、洞窟の中でリザと一緒に崖に追い詰められてしまう。
自分の体を下にしてリザを抱きかかえ海に落下した彼女は、海面に激突した際の衝撃に耐えられず死亡した。


619 : 術技まとめ :2017/09/22(金) 02:23:39 ???
〜魔法〜

【火属性】
ファイアボルト:初級の炎属性魔法。
バーンストライク:巨大な炎弾を放つ魔法。明記はされていないが、恐らくは中級魔法。
フレイムバースト:こちらも火炎弾を発射する術。バーンストライクとの違いは不明。
フレアトルネード:フウコの風魔法とカリンの火炎魔法の合わせ技。激しい熱風を放つ。

コズミック・エクスプロージョン:ルミナス王国地下に眠る魔石「セイクリッドストーン」に選ばれた者のみが行使できる、最強の攻撃魔法。余波だけでかなりの熱量を持つ。明記はされていないが、おそらく火炎魔法だと思われる。

【水属性】
アクアエッジ:武器から水の刃を飛ばす魔法。
スプラッシュアロー:描写はないが、名前からして水の矢を飛ばす魔法と思われる。
ウォーターインパクト:巨大な水流を流す水魔法。中級ないし上級魔法と思われる。
ヒールウォーター:癒しの力を持つ水を出す。

【風属性】
ジェイドストーム:竜巻を発生させる魔法。敵を巻き込んだ所に他の魔法を撃ち込むと強力。
ウィンドブレイド:魔力を帯びた鎌鼬を飛ばす技。
ウィンドブロー:自分や近くの味方を風に乗せて空中移動させる術。ランディやドロシーが使った。
毒風・鎌鼬:おそらく、ウィンドブレイドに毒を付与したフースーヤのオリジナル魔法だと思われる。鎌鼬が消えた後も毒はそよ風となって知らず知らずのうちに相手を襲う。

【雷属性】サンタロボ戦やドロシーロボ戦の描写から、機械系の相手によく効く模様。

サンダーブレード:桜子が唯との戦いで使った魔法。相手の頭上に雷の剣を出現させ、急降下して相手を突き刺す。突き刺してからは剣の周辺から電流が迸るオマケ付き。
サンダーブラスト:中級クラスの雷魔法。サンタロボには無効化されたものの、機械系の敵なら大体これだけで倒せる。
ライジング・サンダーフォース:雷属性の上級魔法。超威力の稲妻を走らせる。

【地属性】
ロックブラスト:岩の塊を飛ばす魔法。
アースクエイク:周囲の土を隆起させる土の中級魔法。
グラビティプレス:局地的に重力を増加させ、動きを封じる魔法。恐らくは土属性だと思われる。

【鋼属性】
サウザンドアームズ:魔法の剣や槍を大量に召喚して敵の頭上から落とす、鋼属性の上級魔法

【毒魔法】
ポイズンクラウド:毒ガスを至近距離に散布するという、毒属性の中では基本的な術の一つ。通常、かなり標的に接近しないと効果を発動する前にガスが霧散してしまう等、単体では使いどころの難しい術。
ポイズンクラウド・ウィズ・ウィンド:上記の欠点を風魔法により克服したフースーヤの術。発生した効果時間の短い毒を素早く風に乗せて相手の呼吸器官に侵入させる術。
ペイン・シック・フロスト:フースーヤのオリジナル魔法。相手を所謂『イタイイタイ病』に似た症状にする。これをかけられた相手は骨がとても脆くなってしまう。
インプ・ハルシネーション:吸った者の精神の奥深くで望んでいる幻覚を見せる毒。かけられた者は食事を取るのも忘れて幻覚に浸ってしまい、そのまま餓死に至る。


620 : 術技まとめ :2017/09/22(金) 02:24:43 ???
【光属性】
ライトシューター:光属性の初級魔法。光の光線を放つ。
スターライト:光属性の中級魔法。降り注ぐ光の光弾。
フォトンバレット:炸裂する光弾を放つ中級魔法。
シャイニングセイバー:敵を切り裂く光の剣を生み出す。
ラスト・シャイニング・バースト:追い詰められた鏡花が放った光属性の魔法。

【闇属性】
シャドウリープ:近距離を瞬時に移動する魔法。
ダークバレット:闇の力を込めた魔弾。
バインドアイ:視線から発される魔力が不可視の鎖となって的に絡みつき、動きはおろか声を出すことすら封じる術。継続には視線を外さず対象を視界に捉え続ける必要がある。
シャドウサーヴァント:術者自身の影から分身を作り出して操る魔法。複数の分身体を同時に召喚・操作するとなると、分身の数を増すごとにその難易度は等比級数的に跳ね上がる魔法としては中の上級といったところ。
シャドウボルト:闇属性の初級魔法と思われる。
シャドウレイン:対象者へ空から闇の炎を降り注がせる上級魔法。
ダークストレージ:アイテムや武器をしまっておける闇の空間。アイベルトはこの空間から様々な武器を取り出して戦う。緊急時には自分の体をこの空間に隠すことも可能。

【邪術】
闇の結界:数種類ある模様。相手を異空間に連れ込んで殺さずに甚振り、結界が解けた後も痛みや精神的なダメージは残る幻影結界。基本的には幻影結界と同じだが、傍から見たら相手はなにもない所で苦しんでいるように見える名称不明の結界。ノワールが得意とする、自らの力を強め相手の力を弱める邪霊凶殺結界など。

魂縛領域:死亡した者の魂を、無理やり肉体内に繋ぎ止める結界
観死結界:視聴者の邪念を魔力に変換する結界

リバースペイン:相手に剣を刺し(この時点では痛みはない)剣を抜いた際に普通に刺されるよりも何倍もの激痛を走らせる。

デモンズゲート:死者の魂が彷徨う危険な冥界への門を開くサキの術。うっかり中に入ってしまうと生者を憎む死者たちの餌になってしまう。

ダークバレット・イーヴィルエディション:通常のダークバレットに邪術の力を込めて放つサキの術。

ブラインド・ブラックアウト:黒い霧を放つサキの術。この霧に触れたものは術者が術を解くまで視力を失ってしまう恐ろしい術。

ナイトメア・マリオネット:眠っている人間を意のままに操ることができる術。

居場所特定の術:サキが使用。対象の体の一部を触媒にして、その対象の現在地を確認する便利な術。媒介がなくても対象が近距離ならば場所を特定可能。


621 : 術技まとめ :2017/09/22(金) 02:26:12 ???
【補助魔法】
スモーキングクォーツ:術者の足元から煙幕を立ち昇らせて目くらましとする魔法。
武器強化:武器に魔法を込めて強化する。(エミリアが使う場合)ただのナイフが伝説の武器級の威力になるほど。
リストリクション:長い詠唱と触媒を必要とするが、対象者を魔力が使えない状態で長時間拘束できる便利な魔法。
ロードアクセル:加速魔法。自らの移動速度を劇的に上げる。
プロテクトシールド:防御魔法。両手をかざして障壁を作る。(少なくともエミリアが使う場合は)ミサイルの直撃すら耐えるらしい。
ディフューザー・ディフェンス:防御力を上げる補助魔法。使用者の魔力により上がる防御力も幅がある。
グレーターストレングス:攻撃力を上げる補助魔法。武器や鎧が軽く感じるようになる。使用者の魔力によry

【回復魔法】

ヒール:エミリアが「はっ!」の掛け声だけで使った魔法。初級とはいえ、詠唱などの準備無しに使えるのはエミリアの高い魔力ゆえ。ちなみにミライも「はっ!」だけで使える。

ソウルオブ・レイズデッド:癒しの魔法の最上位。唱えられるものは世界で数人しかいないという究極魔法の1つである。死に至るほどの傷はもちろん、古傷すらも完治させる。

ディスペル・アンデッド:彷徨う死者の魂を天へと返す癒しの術。リリスはこの術でゾンビと化した両親の魂を弔った。


622 : 術技まとめ :2017/09/22(金) 02:27:48 ???
〜技、特殊武器〜

【篠原唯】
地槍・千年大蛇<ちそう・せんねんおろち>:篠原流奥義。本来は向かってくる相手の脛を打つ技だが、体格差によっては別の箇所も狙える。技を出す瞬間の姿勢が低ければ低いほど威力を増す。
四天連脚:四連続で繰り出す蹴り。

【月瀬 瑠奈】
瑠奈ちゃんキック:ただの飛び蹴りだが瑠奈のお気に入りの技。
流星脚:飛び込み蹴り。瑠奈はスカートが捲れるのも構わず放つ。瑠奈ちゃんキックと被っているが気にしない。
破岩拳:渾身の右ストレート。
魔拳・亀甲羅割り:極光体術の奥義。体内の魔力を拳に集中させ、打撃の瞬間一気に解放させて敵を穿つ。
魔拳・蜥蜴の尻尾切り:剣による斬撃や槍の鋭さを自らの拳に付与する技。打撃攻撃が通りにくい相手への攻撃手段であり、鍛え上げれば鋼すらも拳で斬り裂けると言われている。

【アリサ】
ヴァイスシュラーク:リコルヌの魔力を込めた振り下ろし。神経回路を破壊する。
シュヴェーアトリヒト・エアースト:神速で繰り出されるリコルヌの斬り払い
シュヴェーアトリヒト・ツヴァイト:魔力を帯びたリコルヌによる強烈な突き
シュヴェーアトリヒト・ドリット:魔力を帯びたリコルの振り上げ。エアースト、ツヴァイト、ドリットと繋げる攻撃が亜理紗の必殺コンボ。
リヒトクーゲル:リコルヌから光弾を放つ。
シュネル・リヒト:リコルヌを瞬時に引き抜いてから放つ閃光のごとく素早い斬撃。奇襲向きの技。
トラークヴァイテ・ギガンティッシュ・シュトラール:光の力を込めた巨大剣による渾身の斬り払い

【彩芽】
アヤメカNo.08『懐柔ブレインコントロール』:小型端末を付けた相手を意識はそのまま操ることができる。操縦桿も不要で脳内制御できるところがアピールポイント。使い捨てで効果時間も短いという弱点もある。
アヤメカNo.13「ハイパーヘッドホン」:外部のノイズを完全防音で首輪対策ばっちり!もちろんラジオや音楽も聞けるぞ!
アヤメカNo.14「アヤメガネ・マークII」:視力補助に加え、周りの音を文字表示できる
アヤメカNo.76「スーパー(略)…ストップウォッチ」:やたら長い上仰々しい名前の時間停止装置。約三分間時を止める。
アヤメカNo.64殺虫カンシャク玉「その名の通りの効果」
アヤメカNo.36わらわらソルジャーズ「自動で戦ってくれる玩具の兵隊たち」
アヤメカNo.53スキャンゴーグル:かけることで味方のステータスが分かるゴーグル。
アヤメック:ガンダムみたいなロボット。ミサイルとかビームとかトリモチとか、結構な量の武器を内蔵している。


623 : 術技まとめ :2017/09/22(金) 02:29:01 ???
【サラ】
シルバー・プラズマソード:未知の物質シャイニング・シルバー・エネルギーで構築されている剣。
純粋起動というフルパワーモードがあり、発動すると頭身が大きく伸びる。
アージェント・グランス:サラが呼べばどこからともなく現れる超時空バイク。このバイクによってシャイニング・シルバー・エネルギーが増幅され、コンバットアーマーへと送ることで閃甲は完了する。
ライトニングシューター:クレラッパーが腰に指している、高性能のビームガン。
上記の武器たちはサラ以外が使っても相手に痛覚を与えるだけで、致命傷にはならない。
ライトニングパニッシャー:大きく跳躍し、シルバー・プラズマソードを落下の勢いを乗せて一気に真下へ振り下ろすサラの必殺技。


【春川桜子】
飛翔烈空斬:高く跳躍し、剣を相手に向けて突進する。
瞬覇 一閃:素早く相手の死角に潜り込み、剣を振りぬく。
双覇 桜花霹靂:端的に言えば、瞬覇 一閃を二回繰り返すような技。一本目の剣が折れようと、近くの別の剣で戦い続ける。
竜衝破:地を這う衝撃波を放つ。
竜衝破・双牙:竜衝破を一気に2度放つ。

【市松水鳥】
魔弓エンジェルズ・ティアー:水色の長弓。そこから放たれる魔力の矢は、百発百中の精度を誇る。
アクア・ウィング:魔法少女名の由来でもある水の翼。魔力を高めたり、高機動に動けるようになったりする。
ファインブリンガー:水の翼に光を纏わせて魔力を高め、弓から青い光の矢を放つ。

【有坂真凜】
サウザンドテンタクル:触手を大量発生させて相手を襲わせる技。
ウォーター・トライデント:三叉槍に魔力を込めて相手を突き刺す。
アクアエッジ・テンタクル:基本はアクアエッジと同じだが、水が触手の形をしている。
ブラッドテンタクル:自らの血を触手へと変化させる。

【ライカ・リンクス】
魔拳『竜殺し』:必殺のフィニッシュブロー。ライカが使用したので、当然師匠のダンも使えると思われる。

【カレラ・ガーネット】
カレラは呪いのアイテムを相手に装着して動きを阻害することができる。

呪縛の琥珀(プリズン・アンバー):相手の腕にはめて、付けられた腕の動きを封じる腕輪。
ウィークネス・ベリル:着けられるだけで体力を急激に消耗する呪いのブレスレット。
ヘビー・ペリドット:着けられるだけで体が重くなり速度が遅くなる呪いのアンクレット。
ドレイン・アメジスト:カレラの持つ指輪と対になっている。装着した状態でカレラが指輪に口付けをすると、彼女に魔力を吸い取られてしまう。
インパクト・クォーツ:打撃攻撃の威力を上げる魔石。カレラの右足のアンクレットには6つも装着されている。
灼熱の紅玉(ルビー・オブ・ファイア):火属性を内包する魔石。風属性を内包する疾風の翠玉(エメラルド・オブ・ウィンド)と組み合わせて、カレラは魔石合成術としてフレアトルネードを繰り出した。
その他、水属性の凍結の蒼玉(サファイア・オブ・アイス)と合わせることで、三重魔石合成術の「トリニティ・ディザスター」を放つこともできる。
スラッシュ・クリスタル:手刀を鋭利な刃に変えることができる魔石。


624 : 術技まとめ :2017/09/22(金) 02:30:02 ???
【ブルート・エーゲル】
灼火斬:火属性にしたエレメンタルブレイバーを横になぎ払う豪快な技。
極・十字斬(グランド・クロス):闇の魔力を纏ったエレメンタルブレイバーを振り下ろす必殺技。
コオリノ・ケン:自我を失った状態のブルートの技。氷の魔力を放ち対象の足元を凍らせる。
デンゲキ・ミネ・ウチ:自我を失ったブルートの技。電撃を伴う峰打ち。

【アイリス】
ローズガーデン:ブラッディクイーンに装飾されているバラの花を銃弾のように放つ技。
ディスペルローズ:ブラッディクイーンに魔力を流し込み、敵の術をバラの装飾に吸収させて身を守る技。

【ベルガ】
斬滅狼牙:敵をあっという間にバラバラにしてしまうベルガの必殺技。彼が斬裂卿と呼ばれる所以である。

【アルフレッド】
運命の螺旋:安価で指定された箇所を必ず刺し貫く、アルフレッドの剣が持つ能力。

【ワルトゥ】
竜衝破・山落し:腕の一振りから極太衝撃破を繰り出す。
落山破岩撃:敵を投げた後跳躍し、空中で身動きの取れない敵の腹に太い腕を力強く食い込ませ、そのまま地面へと叩きつける豪快な技。
飛天岩落:上空からのパンチ。
飛鳥落勢衝:空中戦用の技。空中にいる相手のふくらはぎを掴み、地面へと強く叩きつける。
砂塵隆舞:左ジャブを顔面に連打し、相手の意識を顔面に集中させ、足元がお留守になった所を足払いで転ばせ、転んだ所を腹部を蹴り上げる技。
般若寂滅無一物:相手を高く放り投げ、禍々しい気を全身から発しながら、自身も高く跳躍して放つ追撃のパンチ。落山破岩撃と違い、地面に叩き付けるのではなく空中で一気に仕留めてしまう。

ついでに各種プロレス技やキ〇肉マンの技も使用可能


625 : 術技まとめ :2017/09/22(金) 02:31:04 ???
【アイナ】
かたい棒〜アイナを甲子園に連れてって味〜:ただの金属バット。アイナの愛用武器だがどこに隠しているのかは謎。
ネバネバキャンディー:ネバネバするキャンディー。顔にぶつければ視界を奪う。
痺れる程にスパイシー!ブラックペッパーチョコ:超激辛チョコ。口に入れられたが最後辛すぎてしばらくのたうち回ることになる。

【リザ】
連斬断空刃:テレポートしながら凄まじいスピードの斬撃を繰り返す技。
五月雨返し:相手の銃撃をナイフで跳ね返す技。
秘術・水禍斬滅:ナイフに魔力を込め、相手の水魔法を切り裂いて無力化する技。
千刃乱舞:持ち前の反射神経により、相手をナイフで乱れ切りにする技。
無影無踪(むえいむそう):相手の動きに合わせて急所に放つ一瞬のカウンター技。まともに喰らえば相手は死んだことにも気づかないまま動かなくなってしまうリザの乾坤一擲の技。
戦塵一射:相手にナイフを突き刺した後、ナイフの柄に仕込んである火薬を爆発させて、人力では出せないような勢いで相手の身体にナイフを抉りこませる技。
欠点は相手の身体の奥深くへとナイフが沈むため、一度使うとナイフを紛失すること。そして手の中で仕込み火薬が爆発するため、手が傷だらけになることである。
リザはこれに爆発の術式を仕込み、抉りこませたナイフを体内で爆発させてドスを退けた。術式や魔力を仕込んだ場合の、戦陣一射・魔刃という強化名もある。
刹那五月雨斬華:2本のナイフを使い一瞬で相手の全身を切り刻む慈悲のない技。
断空旋:魔力を込めた強化ナイフで標的を一刀両断するシンプルかつ豪快なリザの奥義。

【合体技】
エクストリーム・ピジョンブラッド:リザとアイナの合体技。二人の手にはめられた赤い宝石の指輪から、細い光の糸が伸びて、二人の指と指をつなぐ、一本の糸になる。その状態では互いが互いの能力を使うことができる。二人が瞬間移動で敵の間を通り抜けるだけでその動線上にある、あらゆるものは両断される。射程距離は、リザの瞬間移動と同じ半径範囲50m。瞬時に発動し、連発も可能。そして、使い手の二人は姿も見えず足音もない。

エクストリーム・ピジョンブラッド・インビンシブル:アイナの能力が強化されたことによって、発動と同時に相手の記憶から消えつつ合体奥義を放てるようになった。発動中にリザがアイナのことを忘れることはない。

【ドロシー】
グリムリーパー:2つの鎌を大きく二度振り回して薙ぎ払う、ドロシーの必殺技。

【柳原 舞】
連牙百烈蹴:敵を蹴り上げ空中で身動きが取れない状態にして放つ高速連続蹴り。舞の強化ブーツによるこの技の破壊力は、サラのコンバットアーマーを粉々に破壊してしまうほど。


626 : 名無しさん :2017/09/22(金) 23:11:17 ???
水着回で勝利を収めた唯、瑠奈、鏡花。ノワールに操られていたアリサも正気に戻り、大団円かと思われたが……

「た、大変だよ!ダークアウィナイトで操られた状態の魔法少女たちがルミナスに帰っちゃったら、ルミナスのみんなが危ない!」
「なんとかして光たちに伝えたいけど、あのアホ王がそれを許すわけもないし」
「彩芽と合流して、あの子の力を借りればあるいは……折れかけた心は、鏡花の魔法で癒せますわ!」
「残された時間は少ない……早く彩芽さんを探さないと!」
「……ガキども、なんでそんなに説明口調なのよ?」


選手控え室にて、運命の戦士四人とアイセが一堂に会していた。今はもう全員水着は脱いで普段着である。
カレラはあの後、回収されて別室に送られている。おそらく、ルミナス侵攻の準備を進めさせられているのだろう。

「彩芽さんがどこに捕まってるのか……アリサさん、なにか心当たりはありませんか?」
「心当たり、というには曖昧ですが……あの子は以前、『教授』と呼ばれる男から付け狙われている、と話していましたわ」
「教授?でも、それだけじゃ推理のしようがないよ……」
「なるほど教授か……そのガキ、厄介な相手に狙われてるわね」
「知ってるの!?ええと、セダンのタイヤ!」
「魔弾のアイセ。お前呼びよりはマシだけど、二度と間違えるな」
「アイセさん、教授について何か知っているのでしたら、教えていただけますでしょうか」
「……ま、減るもんじゃないしいいけど」

アイセは伊達に紅蓮のリーダーをやっていない。トーメントに対する情報収集も行っていた。まぁ、直接情報を集めたのはダズやカーティスといった仲間たちで、アイセはただ銃を磨きながら話を聞いていただけだったが。

「王下十輝星に次ぐビッグネームね。十輝星が正体不明な以上、実質王の次に有名と言ってもいい。怪しげな実験を繰り返し、みょうちくりんな道具をせっせと発明してるって話よ」
「そんな人が、どうして彩芽さんを……」
「さて、ね。ただ、その教授はいつも怪しさマックスな実験室に籠ってるらしいから……いかにも、って部屋があったら、そこが教授の実験室かもね」
「なるほど……本来なら、彩芽がその教授に捕まっている可能性が高いのは好ましい事態ではありませんが……」
「やみくもに探すよりは、断然見つけやすいってことだね!」
「そうと決まれば早速……控え室の外の衛兵をぶっ飛ばして、城を探索よ!」
「……青臭いガキ」


627 : 名無しさん :2017/09/24(日) 16:52:12 ???
「確か、ドアの外に見張りが2人いたはず…私と唯で片づけるわよ」
「う、うん……」
まずは更衣室を脱出するための作戦を立てる瑠奈と唯。
アリサの剣、鏡花の変身ブレスレットは着替えの前に没収されている。
アリサにも体術の心得はあるが、今は唯達の方が戦力は高いのだ。

「…………。」
そんな様子を、離れた所から眺めるアイセ。

「…情報をくれた事には感謝するけど、一応敵側の人間なんだし…邪魔はしないでよね」
「……はいはい。邪魔するつもりはないよ」
「あ、そうだ!アイセさんも協力してくれませんか?」
「そっちはもっと有りえないね…。ま、せいぜい頑張んな」

…ニヤニヤと薄笑いを浮かべるアイセに、瑠奈は違和感を感じたが…
(今は余計な事を考えている場合じゃない、か……)
「よし、行くよ瑠奈。一、二の……さんっ!!」

(バタン!!)
扉を勢いよく蹴り開け、部屋の外に飛び出した二人。
「あれ?」「………誰も、いない?」
…だがドアの外に、人影はなかった。

「変ね…確かに、気配は感じたのに。…でも、逃げるなら今のうち」
ひとまず戦闘態勢を解いた瑠奈と唯。しかしその足元で『人影』が不気味に蠢く!
「……唯、瑠奈!足元ですわ!!」
「えっ?……きゃああああ!!!」

唯と瑠奈の足元から黒い影が這いあがってきた。
影は一瞬にして二人の太股に絡みつき、胴体を締め上げ、手首を掴んで反撃を封じてしまう!

「ぐひひ……俺は見張りの兵士ことシャドーA!」
「同じくシャドーB!…ひそひそ話で相談してたようだが、全部まるっと聞こえてたぜぇ!」
「何しろ俺ら、着替え中のお前らを聞き耳立てながらガン覗きしてたもんな!」
「そーゆーこと!俺ら、職務に忠実だもんなー!ぎひひひひ!!」

ルミナスとの戦いに参加した兵士や水着回でプールの中に居た連中がそうであったように、
トーメントの兵士達は今やその大半が魔物化している。
改造する魔物の種別は「教授ガチャ」と呼ばれる謎の方式でランダムに決められ、何になれるかは千差万別・多種多様。

中でも彼ら「シャドー」は、戦闘力こそさほど高くないが隠密・奇襲に特化した能力を持っており、
覗きや痴漢プレイを好む者達にとってはかなり『当たり』の部類、と評されていた。

「く…このっ、放しなさっ……ひゃんっ!?」
「やだっ…服の中に、どんどん入ってくる…!!」

「げひひ……あの王様に盾突こうってだけあって、なかなかのパワーだが、俺ら『影』には通用しねえ」
「がひひ……このまま魔力も生命力もレイプ目になるまで根こそぎ奪ってから」
「ごひひ……身体ごと乗っ取って、好き放題にしてやるぜ!…(っていう能力をそのうち実装するって教授が言ってた)」

新たな戦いの扉が開かれ、さっそく危機に陥ってしまった唯と瑠奈。
はたして四人は魔物達を退け、彩芽を救う事が出来るのか…!


628 : 名無しさん :2017/09/24(日) 19:03:45 ???
「唯っ!瑠奈!」
「今助けるわ!…『光の矢よ、影なるものを貫け!『ライトシュー……っぐ!?」
今の鏡花は腕輪を没収され変身できないが、初級の攻撃魔法程度なら行使できる。
彼女が得意とする光属性の魔法なら、影の魔物に有効なはず…
しかし、その詠唱は突然何者かによって遮られてしまった。

「ドゥフフフ……ヤらせないんですねぇ」
「ん、ぐうっ……!!」(首に何か……巻き付いてる!!)
「て…天井にも魔物!?一体いつの間に…あぐっ!!」

天井には、トカゲのような魔物が2体張り付いていた。
長い舌をアリサと鏡花の首を締め上げながら、ギョロリと巨大な目玉で睨みつける。

「いつの間にですって?…最初からですよ。我らカメレオンマンAと」
「同じくB……透明化して天井に張り付き、皆さんの生着替えと…ディフフ」
「セキララ女子トークを堪能させていただきましたです。…デャフフ」

彼らもまた魔物化した兵士。「教授ガチャ」の産物にして、そっち系のプレイに特化した能力を有していた。

(まずい、ですわ……このままでは…)
(また、こいつらに捕まっちゃう……唯ちゃんと、瑠奈も…!)
強烈な力でギリギリと首を絞められ、脱出どころか呼吸もままならないアリサと鏡花。
天井から降りて来たカメレオンマン達に、碌に抵抗もできず組み伏せられてしまった。

「はっ……放しなさいっ…そんな汚らわしい舌で、わたくしに触れるなんて…!!」
「い、いやっ……そこ、だめぇ……うう、なんでいつもいつも、ココばっかり狙われるのよぉ…」
「逆らっても無駄ですねぇ…剣のない少女剣士」「魔法を使えない魔法少女など」
「魔物の餌食にされてウスイタカイホン展開…太古の昔から、そう決まってるんですねぇ」
器用な指と鋭い爪を持つ手足、自在に動く長い舌と尻尾……押し倒された二人の少女に、そのすべてを防ぎきる事は不可能。
鏡花に至っては、最も狙って欲しくない箇所が最も狙いやすい位置にどーんとあるのだから、これはもう仕方ない。。

「ま、そんな事だろうと思ったよ……アタシはこの隙にオサラバさせて貰おうかね」
アイセは着替え中からなんとなく気配に感付き、この逆奇襲もある程度予期していた。
(流石に天井から見られているとは思わなかったので、覗きを完全にブロックできたかは怪しいが)

この水着回のゴタゴタを利用して脱走を企てていたのだが、魔物化した兵士をやり過ごす手間が省けた格好だ。
これ幸いと、魔物にいたぶられる唯達を放置して更衣室を立ち去ろうとするが……その時。
(…おねえ……ちゃん…………)
「………リルセ……?…」

…ずっと忘れていたはずの、妹の声が聞こえた気がした。


629 : 名無しさん :2017/09/24(日) 20:30:58 ???
「なんで今になって…くそっ……」
…妹のリルセも、生きていれば今ごろ唯達と同じ年頃くらいになっただろうか。。
そんな彼女たちに手を貸してやりたいと、思わないわけではなかった。
アイセはしばし考えてから……

「お前ら……目と耳、閉じとけ」
脱出用に準備していた武器の一つ、魔導閃光榴弾(マジカル・フラッシュグレネード)を放り投げた。

「えっ……きゃぁっ!?」
「「デュフッ!」」「「ごひぃっ!?」」
光属性の爆発が直撃し、シャドーA&Bは一瞬にして消滅。
カメレオン達も、目と擬態能力に大ダメージを受けた。

「影が消えた…!」「アリサ!鏡花!今行くわ!!」
「ドョフッ!?ちょ、ちょっとタンマなんですねぇ!?」
「四天連脚!」 「破岩拳!」
「「デョフェエエエエエッ!!?」」
…姿を消せなくなったカメレオンを、唯と瑠奈は瞬く間に打ち倒す。
そして、彼らが隠し持っていたアリサの宝剣『リコルヌ』と鏡花の腕輪を取り戻した。

「ふー。…私としたことが…覗かれてる事くらい、想定しとくんだったわ。…ありがとう、アイセ」
「おかげで助かりました!やっぱり、手を貸してくれるんですね!…って、あれ?……アイセさんは…?」
……だが、気付いた時には、アイセの姿はどこにもなかった。

「…くそ。ダズとカーチェスの声まで聞こえやがる……無理だっつってんだろ。あいつらと一緒に戦うなんて…」
一人地下道に逃れたアイセは、右腕…大きな傷痕の残る『紅蓮』のタトゥーを押さえながら呟く。

…先の戦いで、タトゥーの下に埋め込んだ『ヴァイタル正常化装置』を魔物達によって
えぐり出されてしまい、タトゥー自体にも大きな傷痕が残ってしまっていた。
戦いの後、唯達から治療を受けた時『傷を治すと刺青も一緒に消えてしまう』と言われたため、この傷だけはそのままにしている。
傷の痛みはもう残っていないが…紅蓮のタトゥーがかつての姿を取り戻す事は、もう二度とないだろう。

「あたしはもう……一人で居たいんだ」
家族、仲間……今までアイセに関わった者たちは、ことごとく殺された。
それ故に、新しく誰かと関わりあう事を、彼女は内心ひどく恐れていた。


630 : 名無しさん :2017/09/24(日) 22:03:40 rH76zGN2
「アイセさん、どこへ行ってしまったのでしょうか」
「まぁ、いかにも一匹狼って感じだったし、アイセはアイセで勝手に逃げてんじゃない?」
「アイセさんのことも気になるけど、早く彩芽さんを探さないと」
「うん……あの王様に見つかっちゃう前に、急ごう!」


「クヒヒ……もう脱走はバレてんだなこれが」

王は、モニターで唯たちが脱走している場面を見ていた。
運命が味方する五人の戦士が脱走することは予想できていた。なので、めぼしい場所には既に教授謹製の極小監視カメラが設置されている。

「そこの名もなき兵士、例のものを控え室近くの通路に送れ」
「例のもの……?」
「本来は悪堕ちガールズに入れるつもりだったが、教授の改造で理性が薄くなってしまい、三対三のバトルに合わないとされた失敗作……前座くらいにはなるだろう」
「ああ、アレのことですか。了解しました」


「アリサ?どうしたの?急に立ち止まって」
「……通路の奥から、殺気を感じますわ」
「まさか、もう追手が?」
「そ、そんな!いくらなんでも早すぎるよ!」

通路の奥を警戒する運命の戦士たち。しばらくすると、何か獣の唸り声のようなものが聞こえてきた。

「アリサの剣も鏡花の腕輪も取り返したし、どんな奴が来たって負けないわ!みんな、構えて!」

アリサが剣を構え、鏡花が腕輪に触れていつでも変身できるようにし、唯と瑠奈はファイティングスタイルを取る。

ゆっくり、ゆっくりと通路の奥から姿を現した何か……それを見て、アリサと唯は驚愕する。


「え!?嘘……!?」
「そ、そんな、どうして貴女が……」

「SHU……BA……UGAAAAAAA!!!」

通路の奥からぬうっと姿を現したのは、右腕が異様に膨れ上がった……春川桜子であった。
明らかに理性を失っている。

「ライラから提供された技術と教授の科学力を掛け合わせて魔物に改造した春川桜子ちゃん……ちょっとパワー強くし過ぎて理性ぶっ飛んでるけど、モノは使いようだな」

「GUGYAAAAAAA!!!」

魔物と化した桜子は、凄まじい唸り声をあげながら、唯たちに襲いかかってきた!


631 : 名無しさん :2017/09/25(月) 00:57:38 dauGKRa6
「失礼します、王様。」

唯たちが桜子に襲われている頃、トーメント城の謁見の間では、シーヴァリアからの帰還報告を行うためリザが姿を現していた。
王は唯たちを移すモニター観察を中断し、リザの声に耳を傾ける。
落ち着き払った抑揚のない声でのリザの説明に眠くなりながらも、王は最後まで聴き終えてから大きな欠伸をした。

「ふぁああ〜……なるほど。お前の声は可愛くて大好きだが、ずっと聞いてると眠くなるってことがよくわかったよ。」
「……申し訳ありません。」
「冗談だ、いつもいつも真に受けるな。……まあブルートを仕留めるなんぞ、アイベルトのバカ1人ではできなかっただろうからな。いや〜お前を向かわせて正解だったぞ、リザ。」
「……ありがとうございます。」

王にはそう言われたものの、リザの中では言い知れない不安が広がっていた。それもそのはず、黒騎士を倒したりブルートを足止めしたりと、戦闘で活躍したのは主にアイベルトなのだ。
自身は迫り来るゾンビを倒したりもしたが、結局はゾンビの天敵である癒しの力を持つミライが無双していた。
自分がアイベルトを助けた……というのはむしろ逆で、助けられたのは自分の方だと、リザは思えてならなかったのだ。

「……私にもっと力があれば……!」
「あん?何か言ったか?」
「……あ!……い、いえ。な、なんでもありません。ただの独り言です……」
「ほーう?最近のお前は昔とは別人のようによく喋るようになったもんだなぁ、ヒヒヒ……ま、帰ってきたばかりだし、とりあえず3日間くらいは休暇をやろう。」
「王様……!ありがとうございます。」

久しぶりの休暇だが、リザは休むつもりはない。
リンネに見せられた幻覚の中にいた、怪しげな二人組……
会合が始まっていた頃に海岸で見かけたあの2人を、本格的に捜索しようと考えていたのだ。

「何だ、嬉しそうだなリザ。いつもならアウィナイトのみんなのために、もっともっと仕事をくださいっておねだりしてくるくせになあ。」
「……個人的に、調べたいことがありまして。休暇中はトーメントを離れようと思います。」
「そうか。それは寂しくなるな……なぁリザ、もっとこっちに来いよ。お前にぜひ受け取ってもらいたいものがあるんだ。」
「……?は、はい……?」

突然の手招きに戸惑いながらも、王の側へと歩いていくリザ。そんなリザを向かえるように立ち上がって歩く王。
お互いの距離が数センチとなった時に王がリザに渡したものは……凶器のような握りこぶしから繰り出される、破壊力抜群の腹パンだった。


632 : 名無しさん :2017/09/25(月) 00:59:21 dauGKRa6
ドガゴッ!!!
「ぐあ゛あう゛ぅ゛う゛ッ!?」
「お!ま!え!が!!!……ナルビアのカメラに映ったせいで、隠蔽工作が色々と大変だったんだぞぉ!?リョナとは関係ないからバッサリカットしたとはいえ、お咎めなしとはいかないよなあぁ!?」
「がはっ!んぐぅえぇッほッ!!げっほ!……ゔっ、げほ!……も、も、申し訳……ありませ」
「うるせえええええ!!!」

再度繰り出される王の腹パンチ。ご存知のお方もいらっしゃりましょうが、王の体はムキムキマッチョである。
そんな大男のパンチを食らった少女が、まともに立っていられるわけはなかった。

「ぐあぁあぁ゛あ゛ぁぁ゛ぁッ!!」
「おぉ〜、最高の反応だねぇ。……言っとくが、テレポートで逃げようなんて思うなよ。これは俺様の手を煩わせた、罰なんだからな……ヒヒヒヒヒヒ!」

屈強な王のパンチを、線の細い美少女は小さな体をくの字に折れ曲げながら受け止める。
まともに立っていられず、王の体によりかかるようにして体を寄せるリザの顔を、王はむんずと掴んで自分へ向けさせた。

「んぐうぅっ!お、王様……!」
「おー!流石だな。泣いてないのか。もしここで泣いてたら俺様のリョナ心に火がついちまうとこだったぞ。命拾いしたなぁ、ヒヒヒ!」

そう言ってリザの顔を強引に振りほどく王。その衝撃でリザは体勢を崩し、地面にうつ伏せで倒れこむ。

「あぁんっ!」
「お、今の声エロかったな。ククク……濁った悲鳴も可愛い悲鳴も出せるっていうアピールしてるのか?リョナラーを誘ってんのか?」
「ぐうぅっ……げほっ、げほっ!!!……う゛う゛ぅ……」
「ま、泣かなかったのは偉いし、今回はここまでにしてやるよ。……勘違いしないでほしいから言うんだが、これはただの罰であって、お前を見限ったわけじゃないからな。」

王がうつ伏せになったリザの髪を掴んで顔を上げさせると、リザは涙を流さないまま顔を歪ませて苦しそうな表情をしていた。

「本来俺様は美少女相手なら泣くまで痛めつけるが……お前も色々と頑張ってくれてはいるからな。今日はここまでだ。」
「うぅ……王様……本当に、本当に申し訳ございませんでしたっ……」
(いいってことよ。極上の悲鳴も録音できたしな……ヒヒヒ!)

ふらふらと歩きながら苦しそうにお腹を抑えて出て行くリザの後ろ姿を、王は舐め回すように見ていた。


633 : 名無しさん :2017/09/25(月) 01:46:11 ???
「桜子さん……!貴女、魔物に……!」
「そんな……!桜子さん……!」
「アリサ!唯!何か知ってるの!?」
「彼女は、私の仲間だったんですの……!アレイ平原から一緒に旅をして、アルガスまでたどり着いた……!」
「私も、闘技場であの人と戦ったことがあるの……!あの時のこと、謝りたいってずっと思ってたのに、こんな……!」
「ひどい……!仲間を魔物にして差し向けるなんて……!」
「GAAAAAAA!!!」

魔物と化した桜子は、以前とは比べ物にならないスピードで一気に唯たちに接近すると、動きの鈍っている
唯とアリサを、膨れ上がった右腕で一緒に掴んで壁に叩きつける。

「きゃあああああああ!!?」
「あぐうううううううう!!」

「唯!」「アリサさん!」

二人を助けようとする瑠奈と鏡花だが、桜子が元々善良な人間であることを知ってしまった彼女らは、一瞬攻撃をためらってしまう。

「GRUUUAAAAA!!!」

と、その一瞬間に桜子が自らの右肩に嚙みついて、ブチブチブチィ!と音を立てながら噛みちぎってしまう。

「な!?一体何をして……え!?」

突然の自傷行為に困惑したが、噛みちぎられた桜子の右肩からは、すぐに新しい腕が生えていた。しかも、噛みちぎられた唯とアリサを壁に叩きつけていた方の右腕は、身体から離れてもなお、二人を壁に押し付け続けている。

「ぐ、あうううううう!!」
(こ、このままじゃ……!)
「さ、桜子さ、あああああん!!」
(つ、潰されてしまいますわ!)

「く……!鏡花!こうなったらやるしかないわ!やり過ぎないように気をつけて戦いましょう!」
「ええ、唯ちゃんとアリサさんを……ううん、桜子さんだって助けないと!」
「BYAAAAAAA!!」


634 : 名無しさん :2017/09/28(木) 22:55:22 Zn2Fvjh2
ググググ……!ギチギチギチギチィ!

「お゛ぶ、ぐ、があ゛、あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「ぐ、くぅううう!んああああああ!!」

主から離れても一人でに動く桜子の右腕に、身体が潰れるのではないかと思うほど強く壁に押し付けられ、アリサと唯は悲鳴をあげる。

「瑠奈!二人をお願い!私は桜子さんを!……変身!」
「分かったわ!」

瑠奈は唯とアリサを救いに行き、リフレクトブルームへと変身した鏡花は、一人桜子と対峙する。

「光の矢よ、影なるものを貫け!ライトシューター!」
「UGAAAAA!!」

致命傷を与えないように牽制に留めた光魔法を放つが、桜子は雄叫びをあげながら異形と化した右腕を振るい、迫る光線を搔き消す。

「聖なる光よ、流星となりて降り注げ!スターライ……」
「SYAAAAAA!!」

魔法は強力だが、いくつか弱点がある。魔力に依存することや、同士討ちの危険が高いこと……そして、詠唱に隙があること。
魔力が特別高い、いわゆる天才であれば短い詠唱で強力な魔法も放てるが、基本的には強力な魔法であればあるほど詠唱は長くなる。
つまり、インファイター相手に一対一で接近戦に持ち込まれた場合……魔法使いは不利になる。

「しま……!きゃああああああ!!」

詠唱の隙を突かれて桜子に接近された鏡花は、異形の右腕に吹き飛ばされ、近くの部屋の扉を突き破ってその部屋に突入してしまう。


「魔拳・蜥蜴の尻尾切り!」

その間に、瑠奈は刃物の如き鋭さを拳に付与する魔拳で、唯とアリサを押し潰そうとしている桜子の右腕を切断する。右腕だけなので手加減の必要もない。

「ぷはっ!」「ふぅ!」
「二人とも!大丈夫!?」
「わ、私は大丈夫ですわ」
「私も……でも、鏡花ちゃんが!」
「GYAAAAAAA!!!」
「く、こっちに来た……!」

一方、近くの部屋に吹き飛ばされた鏡花は、幸いにも軽い打撲ですんでいた。

「いたたた……ヒール!」

回復魔法をかけて再び戦線に復帰しようとする鏡花。だが、その前に部屋の中を軽く見回して……彼女は驚愕する。

「な……!」

余談だが、トーメント王城において、闘技場選手控え室と拷問部屋は近くにある。
拷問を終えた捕虜を闘士にしたり、逆に戦えなくなった闘士を拷問室でリョナったりするからだ。二つの部屋は近い方が何かと都合が良かった。

そう、鏡花が吹き飛ばされた部屋は拷問部屋であったのだ。そしてその中では……

「貴女は……サラさん!」

かつて、鏡花がまだ現実世界にいた頃……王に囚われかけた自分を救ってくれて、そのせいで彼女自身が王に捕まってしまった女性……サラ・クルーエル・アモットが、裸で寝台に拘束され、口も目も耳も塞がれた状態で、12〜3万くらいしそうな器具から絶えず水滴を垂れ流されて悶えていた。


635 : 名無しさん :2017/09/30(土) 09:59:11 ???
「イータ・ブリックスよ!俺様は帰ってきた!」
「ママー、へんなひとがいるよー」
「こら、指さしちゃいけません」

サラと鏡花が前スレの90レス目以来の再会を果たしていた頃、アイベルトは王都イータ・ブリックスに於いて、報告はリザに任せて久々の祖国を満喫していた。
サキとミライはユキのいる病院に行ったようで傍にはいない。

「とはいえ、ずっと俺様一人でぶらつくってのもな……誰か暇な奴探すか。
いや、俺様ほどの男になると、ちょっと連絡すれば飛んでくる女の子の一人や二人いるけどね!?」

と言いながら、アイベルトは久々に王城に入る。
一応、久々に帰ってきたんだし、王に顔くらいは出そうという考えだ。

「ということで、ちーっす王様」
「アイベルトか……今回はご苦労だったな。ブルートを倒すとは、大手柄だ」
「ふ……俺様の的確な指揮と俺様自身の能力を持ってすれば、過去の亡霊程度なんでもなかったぜ」

別に指揮してなかったし、ブルートに殺されかけたことはコロっと忘れて調子の良いことを言うアイベルト。
ただ、俺様の的確な指揮〜の下りは、彼なりに自分一人では危なかったということを言っている……のかもしれない。

「それよりも聞いたぞ、お前もとうとうレ○プデビューしたらしいな」
「ぶっ!」
「レ○プ被害者の二人が百合に目覚めたらしいな……キヒヒ、そういう男嫌いをもう一回ヤるのが背徳感あってたまらn」
「リザの奴適当コキやがって!誤解だっつったろ!」
「……まぁ、実はピュアで初めては好きな女とがいいとか思ってそうな童貞のお前が、レ○プとは何かの誤解とは思ってたがな」
「どどど、童貞ちゃうわ!」
「はぁ……お前は昔から変わらないというか、成長しないというか……」

思わず脱力してしまう王。王としてはアイベルトにはもうちょっとハードなリョナに目覚めて欲しいところだが、馬鹿でアホでピュアな彼には無理な話だろう。

「とにかく、他の奴らにも顔を見せてやれ。特に新入りのフースーヤは近いうちにルミナスに行くから、顔を合わせるなら今のうちだぞ」
「なんか知る人ぞ知るお笑い芸人とかFFの月の民みたいな名前の奴だな……ふ、しかし新入りか……俺様の強さと素晴らしさを第一印象からバッチリ見せつけてやるぜ!じゃあな王様!」
「たく……やっと運命の戦士たちの様子が見れるな」


***


「イエエエエエエイ!!!空前絶後のおおおおおお!!超絶怒涛のベテルギウス!!ソフトリョナを愛し、ソフトリョナに愛された男!!鞭打ち、腹パン、壁叩きつけ……全てのソフトリョナの産みの親!そう、我こそはあああああああ!!サンシャイーーーン!!アイベルト!!!イエエエエエエイ!!ジャスティス!!」

「……あの、どちら様ですか?」
「お、アイベルトじゃん!ちゃんとクレジットカードの暗証番号も言えよなー」
「アイベルト、帰ってきてたのか……いつにも増して煩いな……」
「アイベルト……?って、前に言ってたベテルギウスの方ですか?」
「いやだからサンシャイン○崎風にそう言ったじゃねえか」

アイベルトは、水着回のDVDの鑑賞会をしていたフースーヤ、アトラ、シアナの前にいきなり飛び出してインパクト重視の自己紹介をかましていた。

「ええと、フースーヤと言います。前任のドロシーさんに代わってデネブの星位を」
「フースーヤ、アイベルトはちょっとアレな人間だから、そんなに固くならなくていいぞ」
「そうだぞ少年、気楽に行こうぜ気楽に」
「アイベルトは相変わらずだなー、俺よりアホがいると安心するわ」
「ちょ、お二人とも、そんなストレートに悪口を……」
「安心しろアトラ!お前の背中は俺が守る!キリッ!」(このキリッ!は効果音ではなく、アイベルトが口に出して言っている)
「ええ……」
「アイベルトはこういう奴なんだよ……」
「なんだか僕、カペラの人と会うのが怖くなってきました……」
「ロゼッタはロゼッタで変人だからなぁ……」
「それよりも、何見てたんだ?新入りのフースーヤはルミナスに行く準備中って聞いてたが」
「いえ、まだ出発まで時間がかかるんで、こないだ闘技場でやってた試合を見ようと……」
「ほう……面白そうだな……俺様にも見せてくれよ。あ、鑑賞会と言えばコーラとポテチだよな!買って来るからちょっと待ってろ!」

嵐のように去っていくアイベルト。しばらくしたらまた戻ってくるのだろう。

「アイベルトは年下の前では良いカッコしたがるみたいでさ、色々奢ってくれるんだよな」
「まぁ、年齢差を考えたらアイベルトが奢るのは至極当然だけどな」
「彼、おいくつなんですか?」
「24歳、ヨハンと同い年だな」
「ぼ、僕と一回りも違うのにあの性格なんですか……」
「僕は将来、アトラがあんな大人にならないか心配でたまらないよ……」
「いやいや、俺はあそこまでじゃねえって」


636 : 名無しさん :2017/09/30(土) 13:50:25 ???
どうしてこうなったんだろう……と、篠原唯は何度目になるか分からない自問をする。

今、唯の目の前には、桜子の左横顔がある。理性をなくし、右腕が異形と化した彼女だが、それ以外は何も変わっておらず……その凛々しい顔つきに、唯は顔を赤くする。

「ゆ、唯……!」
「早くしてくださいまし……!」

と、前方から声が……桜子の右半身、主に右腕を抑えている瑠奈とアリサの切羽詰まった声が聞こえてくる。
そうだ、恥ずかしがっている場合ではない。

唯は顔を真っ赤にしながら、桜子の左横顔にさらに顔を近づけると……彼女の耳に、ふー、と息を吹き掛けた。

「ひゃ!?ひゃああああん!」
「今だ……!暖かな息吹よ!今ひとたびの安らぎを!セラピーヒール!」

瑠奈とアリサが桜子の異形と化した右半身を押さえる。これはいい。押さえた桜子に鏡花が心を癒す魔法をかける。これもいい。
なぜ唯が左半身を押さえつつ耳に息を吹き掛けるかというと……突如現れた、全裸のブロンド美女に原因がある。

〜簡単な回想〜

「そんな……サクラコが、魔物に……!」
「なんとか、桜子さんを傷つけずに動きを止めることができれば、私の魔法で正気に戻せるかもしれないのに……!」
「傷つけずに動きを止める……?そうだわ!サクラコは耳がすごく弱いから、耳に息を吹き掛ければ、簡単に押さえつけることができるかもしれないわ!」
「……え?」

〜回想終わり〜

かつてネペンテスという触手怪人に襲われた時、桜子が耳を責められて異常なほど感じていた姿を見ていた……ということなど知らぬ唯たちは、なんで耳が弱いなんて知ってるんだろうと思いつつ、傷つけずに動きを止める為の作戦を実行に移した。

戦いながら隙を見つけて耳に息を吹き掛けて怯ませ、異形の右腕を二人がかりで押さえつけ、一人が耳に息を吹き掛け続けて身動きを封じ……その隙に鏡花が魔法をかけるという作戦。
二人と一人の内約は特に決めていたわけではなく、たまたま押さえつけた時に唯が左側に、瑠奈とアリサが右側にいただけだ。

サラは水滴拷問から抜け出したばかりの上全裸で戦える状態ではなかったので近くで壁に背を預けている。

唯が息を吹き掛ける度に、瑠奈とアリサを押し退けようとしていた桜子の体は脱力して動かなくなる。
自分が年上の凛々しい女性の耳を責めているという事実に、唯は自分が責められているかのような羞恥を感じながらも、息を弱めない。

「桜子さん……あの時の償いとして、絶対に助けます!ふー、ふー」
「ひゃあ!?あああん!や、あああ!」

と、それまでは息を吹き掛けられると脱力していた桜子が、突如としてビクンビクンと体を震わせ始める。

「うあ!?あ、暴れないでください……!」
「ちょ、早く静かにさせて唯!押さえつけておくのも限界があるわ!」
「そ、そんなこと言ったって……!」
「ここは、私の出番のようね」
「サラさん!?」

と、それまで壁に背を預けていたサラが、桜子の右半身に迫る。

「サラさん!無理をしてはいけませんわ!」
「確かに今は体に力が入らないから、サクラコを押さえつけるのは難しいでしょうね……でも、息を吹き掛けるくらいならできるわ!」
「え、サラさんまさか」
「いくわよサクラコ!ふー、ふー」
「ふやあああああ!!んくうううう!?」

左耳に唯、右耳にサラ。両耳同時責めを受けたことによって、再び桜子の腰は砕ける。

「み、見てるコッチが恥ずかしくて死にそうですわ!鏡花!まだ桜子さんは正気に戻りませんの!?」
「さっきからずっと癒しの光を当ててるけど、特に変わった様子は……」
「……ねえ、ひょっとしてもう正気に戻ってるけど、耳責められてそれを伝えられないんじゃ……」

ピタリ、とその場の全員の動きが止まる。

桜子の身体は先ほどまでと変わった様子はないが、あくまで心を癒しているだけなのだからそれも当たり前だ。

となれば、理性のある行動をしているかどうかが桜子が正気に戻ったかどうかの基準だが……例え正気に戻っていても、耳を責められて喘いでいては傍から見ても分からないだろう。

「ううう……止めてくれえ……!アリサ……サラ……!どうしてこんなことを……!」

……やっちまった……という空気が、その場を支配した。


637 : 名無しさん :2017/10/01(日) 00:40:28 dauGKRa6
「サ、サクラコ!正気に戻ったのね!」
「ひ、ひゃうっ!サラ、み、耳元でしゃべらないでくれないか……!それに、何故篠原唯がここに……!」
「さ、桜子さん……あの時は本当に申し訳ありませんでした……!」

落ち着いた桜子に瑠奈が簡潔に事情を説明し、ひとまず少女たちは落ち着くことができた。

「……なるほど。まとめると、ここにいるのは全員異世界人で、脱出しないとまずいということだな。
「そういうこと!こんな化け物だらけの気持ち悪い城、さっさと脱出するわよ!」
「あ、でもサラさんが……!」
「大丈夫!私に任せて!」

鏡花はそう言うと、サラの体に触れて魔力を流し込む。
すると同時に、サラの体はピッタリとした漆黒のライダースーツに包まれた。
鏡花が現実世界であった時の、サラの衣装と同じものである。

「ま、魔法って便利ですわね……!」
「感謝するわ、キョウカ。これで動くには困らない。ユイやルナほどではないかもしれないけど、これなら体術でも戦えそうね。」
「わ、私の右半身も治らないか……?」
「うーん、多分それは治せないかな……もっと高位の回復魔法なら治せるかもしれないけど……」
「ひとまず逃げるわよ!また変なのが後ろからいっぱい来てる!」



瑠奈の声に弾かれるようにして走り出した6人。先回りした兵士たちもいくらかいたものの、力を取り戻した運命の戦士たちの勢いは止まらなかった。

「昇舞牙連撃!」
「ンガオウッ!?」
「おりゃああああああっ!」
「ンギィいいイィィィィッッ!?」
懐に潜り込んでのアッパーで敵を空中に放り上げ、追撃のパンチの雨を食らわせる瑠奈。

「グヘヘ!もらったアァっ!」
「天葬・心破掌底!」
「ぬぉにいっ!?ごべらあああああァァっ!?」
飛びかかって来た敵の心臓に目にも留まらぬ速さで掌底を放つ唯。

「ヒャッハー!金髪美少女!!!ボコボコに犯しつくしてやるぜえぇ!!」
「わたくしは貴方みたいな雑魚にやられませんわ!ゼーデルバルデ!」
「のわっ!ゴギャアアン!!!
リコルヌを抜いて神速の十字切りを放つアリサ。

「黒髪ロングのおっぱいだあああぁッッ!!吸わせろおおお!」
「絶対!イヤ!スパイラルサイクロン!」
「おびょろげれろげろーー!?」
得意の風魔法で兵士たちを蹴散らす鏡花。

「すごいな……これがあのイカれた科学者が言ってた、DTTって力なのか……?」
「サクラコ、私たちも援護して早くアヤメを見つけるわよ!」
運命の戦士としての力を遺憾無く発揮する4人の力の前に、教授ガチャレベル最低ランクのトーメント兵士たちは次々と倒れていった。

「はぁはぁ……みんな、こっちよ!壁についてる地図から判断して、教授の部屋はこの廊下の先だわ!」
瑠奈の誘導で通路を右に曲がる6人。その廊下の奥に立っていたのは……
運の良さだけは強い4人とは、正反対な境遇の少女だった。

「あ、アイツは……!!」
「……間違いないですわね。王下十輝星のリザ……わたくしたちが完全敗北した相手ですわ。」
「でも、こっちに気づいてないし、なんか苦しそうにお腹押さえてるよ?」
「……もしかしてチャンス……なのか?」


638 : 名無しさん :2017/10/01(日) 21:30:45 ???
「うぅ……げほっ!!げほっ!!……はぁ……はぁっ……!」
(うぅ、痛い……!もしかしたら、骨や内臓までいってるかもしれない……エミリアは今朝の掃除で城の外にいるし……イヤだけど、教授に治してもらわなきゃ……!)
いやらしい手つきでセクハラされるのは覚悟の上で、教授の研究室へと向かうリザ。

(ぐ、くぅ……教授の部屋まで、あと少し……!)

リザが教授の部屋のドアノブに手をかけたその時、突如廊下の死角から瑠奈と唯が現れた!

「もらったあぁっ!」
「きゃあぁッ!?お、お前らは……!」
「問答無用ー!!瑠奈ちゃんキーック!」
「神速掌底破!!」
「あ゛ぐぅっ!?」
飛び蹴りと掌底の奇襲を受け、リザの体は思い切り吹き飛んで廊下の壁に激突した。

「ああぁんっ!!」
「決まったわね!唯!」
「うん!でも、壁に当たって痛そう……なんかちょっと可哀想だなぁ……」
「何言ってんのよ唯!こいつとあのうるさいピンクにあたしとアリサとメガネの子はボロボロにやられたんだから!」
「……でもおかしいですわね。そういえばこの子だけは、あの時いませんでしたわ……」
「……あ!確かにそうだったね。あの場に居たはずなのに……」

王と十輝星たちが唯たちの心を折ろうとリンチをしたとき、確かにドレスを着たリザの姿をアリサと鏡花は見ていた。
いつの間にかいなくなっていたことに気付く前に、精液の海で溺死したり芋虫になったりしてしまったのだが。

「みんな油断しないで!まだ立つわよ!」
サラの一声で向きなおる一同。
吹き飛んで壁に激突した金髪碧眼の少女は、こちらに青い目をギロリと向けながらゆっくりと立ち上がった。

「お前ら……どうしてこんなところに……!」
「決まってんじゃない!こんな居心地の悪い悪趣味な城から脱出するためよ!」
「……王下十輝星の私が、黙って見過ごすと思うの?」
「……抵抗はやめたほうがいいわよ。こっちは6人、あなたは1人。いくらなんでもそんな体で勝ち目はないわ。そして……貴方を生かしておくつもりもない。」
「え?サ、サラ!?」

「はあぁっ!」
「ぐあぁっ!!!」
勢いよく走り出したサラは意識が朦朧としているリザに飛びかかり、素早く顎に掌底打ちを決め込んだ。
「ぐ……!くうぅ……」
元々のダメージだけでもすでに限界だったのに、唯、瑠奈、サラの攻撃がクリーンヒットしたリザは顔を抑えてふらついてしまう。
意識が朦朧として、サラの動きを目で追えなかった。
「逃がさないわよッ!」
サラは無防備なリザの髪を強引に掴んで引き倒すと、すかさず関節技を決めにかかる。

「ぐぅ!あ、あああああああぁぁぁッ!!」
「さ、サラさん!そんなことしたらその子が死んじゃうよぉっ!」
「何言ってるの!こいつはあの悪逆非道の王下十輝星……!ここで殺しておいたほうがいいに決まっているわ!ルナやアリサやアヤメを殺してここへ連れて着たのもも、こいつなのよ!」
「あぐ……!ま、待て……!早まるなっ……!」
「問答無用!」
ボキン!!!
「ぐぁあああ゛ああ゛あ゛ッ!!!い゛あああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁっ!!」

骨が折れる音と耳を覆いたくなるほどの絶叫に、瑠奈やアリサたちも顔を背ける。
いくら王下十輝星とはいえ、相手は自分たちと同じくらいの歳のあどけない少女。
サラのように非情にならなければ、痛めつけることなど到底できないか弱い存在。
そんな普通の人間では到底できない、誰もやりたがらない行為を、サラは淡々と実行していったのだった。


639 : 名無しさん :2017/10/01(日) 22:32:55 ???
「ぎ、いやあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

シーヴァリアで散々円卓の騎士にいたぶられ、やっと帰ってきたと思ったら王からは強烈な腹パンを喰らい、そして今は異世界人たちに殺されかけている。
リザは自分の不運を呪った。

「だ、だれ゛か゛た゛す゛け゛」
「ふん!」
「があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

自分の骨がギシギシと軋みをあげているのが分かった。
ただでさえ王の腹パン直後で弱っていた所に関節を極められ、リザの小さな身体が悲鳴をあげているのだ。

「さ、サラさん!やっぱり可哀想ですよ!」
「ユイ!貴女のその優しさは確かに尊いものよ!でも、王下十輝星を生かしておいたら、この先何人の人間が殺されることになるか……刑事として、見過ごせない……わ!」
「ぎ!?ああ、ぐがああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

ゴギン、と骨が外れる音がした。骨が外れたことによって、リザの身体は右足の方が長く……さながらコ○バット越前のようになってしまった。

「ユイ……みんな……この世界に来るまで普通に過ごしていた貴女たちには辛いでしょうね……こういうことは、元から多少なりとも慣れてた私がやるわ……みんなは目を逸らしていて」
「あ、あああ゛あ゛……!」

リザも覚悟していなかったわけではない。アウィナイトの為とは言え、今まで人を殺しすぎた。いつかはその罪が自分に帰ってくるのだと理解していた。

だが、それでも……アウィナイトの保護を完全にするでもなく、家族を殺した黒幕かもしれない怪しい男たちの調査もせずに、ここで死ぬなんて……リザは嫌だった。

(アイナ……!エミリア……!サキ……!ミライ……!誰か……助けて……!)

命乞いはしない。リザは命乞いが嫌いだった。アウィナイトの命乞いは無視するのに、いざ自分が殺されそうになると恥も外聞もなく命乞いをする輩が嫌いだった。
異世界人である彼女たちがリザを殺そうとするのは恨んでいない、彼女らも正義の為に行っている。
だが、それでも……リザは、誰かに助けてほしかった。


「こんな子供を殺すことになるなんて、一年前には想像もしていなかったわ……!」

サラがいよいよリザにトドメを刺そうとした瞬間!



「さっきから煩いぞ!!今から私と嫁の聖なる初夜だというのに、何を私の部屋の前で騒いでいる!!」


リザが期待していたのとは大分違う救いの手、或いは魔手が現れた。


640 : 名無しさん :2017/10/02(月) 02:49:37 ???
「あ、あなたはまさか…『教授』!!」
突然現れたその男は、白衣に長髪、骸骨のように細い体……以前アリサが彩芽から聞いた特徴に合致していた。

「んん?貴様ら……牢屋から脱走したのか!
そして我が花嫁を狙ってここまでやって来て、なんやかんやあってスピカを倒したと…!」
一瞬にして事態を把握した『教授』は、赤と白の2色で塗られた、なにやら危険な雰囲気漂うボールを懐から取り出す。

「…これは私が開発したヒューマンボールを改良し、強力なモンスターを収納できるようにした物!その名もモン」
「ヤバいわ!サクラコ、そいつを使わせては駄目!」
「ああ、わかってる!うおおぉお!!」
異形の力を宿した桜子の右腕が、教授の顔面にクリーンヒットする。
だがその拍子に、問題の『決して名前を呼んではいけない発明品』が2つ、
床に落ちて ぼわん!と煙を吐き出した。

「ぐ、ぐぐ……新たな十輝星『フォーマルハウト』の候補にするため開発・調教した
最強の改造人間達よ……花嫁を守れ…奴らを皆殺しにしろ…!…(ガクリ)」

カッコ ガクリ カッコ閉じ まで口で言っている辺り、本当は余裕があるのかも知れないが
とにかく教授は倒れて動かなくなった。

そして煙の中から現れたのは……

「ふふふ……ひどいよ桜子お姉ちゃん……私達を『作り直して』くれたキョージュを、思いっきり殴るなんて…」

………………

一方その頃。

「…はあ!?面会できない!?どういう事よ一体!!」

サキは妹のユキの目を治療するため病院を訪れていた。
その後ろに控えているのはシーヴァリアから連れて来た、騎士見習いにして天才ヒーラーのミライ。
さながら野球場とかにいるビールの売り子さんのごとく回復の泉の水を入れたタンクを背負っている。

「それが…サキ様のご不在中、急に教授が来られまして…画期的な実験もとい治療方法があると」
「なんですって……あんのクソガリっ!!」
「え、教授って?……あ、サキちゃんちょっと……!!」
脱兎のごとく駆け出すサキ。重いタンクを背負ったミライは一瞬にして置いていかれてしまった。

(ユキ……お願い、無事でいて……!!)


641 : 名無しさん :2017/10/02(月) 03:47:11 ???
「な……………スバル……スバル、なのか……?」

どす黒く、巨大で、鋭い爪の生えた両腕。まるでけもののような耳と牙、そして尻尾…
変わり果てたスバルの姿に、かつての彼女を知る桜子、アリサ、サラの三人は愕然とする。
更に、煙の中からもう一人の人影が現れた。

「あれー?こいつら、スバルちゃんのお友達?…じゃあ、スバルちゃんがみんな殺しちゃう?」
「ふふふ…だいじょうぶだよユキちゃん。二人ではんぶんこしよ!」
「わーい!スバルちゃん大好き!!」

…髪をお団子状に結んだ、スバルと同じくらいの年頃の小さな少女。
だが両目を覆う巨大なヘッドマウントディスプレイ、半機械化した手足は、あまりにも異様。
背中に装備した大型ロケットブースターで空中に浮かんでいる。

「ろ…ロケットで、空飛んでる…?……」
「…唯、鏡花、油断しないで…あいつら、たぶん相当強いわ」
(…『ユキ』…?……あの子…誰かに、似てるような……)

全身の関節と骨を折られ、身動きの取れないリザは、激痛に喘ぎながらも記憶を辿る。
だが、リザは『ユキ』という名を知らない。…姉のサキから聞かされていないのだから当然の話だ。

「んー?データ検索データ検索……そこでブザマにたおれてるのは、オーカジュッキセー、スピカのリザ?」

教授が最後に言っていた通り、スバルとユキは現在空位となっている
王下十輝星『フォーマルハウト』の候補にするため開発された改造人間である。
見ての通り今は仲良しなフレンズの二人だが、いずれはその座を争って殺し合いをさせられる運命にあった。

「ねえねえ、スバルちゃん!…私、イイこと考えちゃった。この場でスピカのリザも殺しちゃえば……」
「そっか…そうすれば、ジュッキセーの空きが2つになって……」
「わたしたち、一緒にジュッキセーになれるよ!」
「すっ…ごーーーい!!さっすがユキちゃん、あったまいー!!じゃあ、さっそくやろー!!」
「……なっ…!?」


教授の部下の二人の少女…つまり一応味方か、とリザは思っていた。
しかしその矛先は、あろう事かリザ自身に向けられてしまう。
テレポートで離脱しようにも、全身の激痛で上手く魔力を集中できず……
(殺ら、れる……!!)

「だっ……ダメーー!!…何がダメなのかは良くわかんないけど、とにかくダメー!!」
唯は…気が付いたら、両者の間に割って入っていた。


642 : 名無しさん :2017/10/02(月) 17:15:39 ???
「……ガハ!?」

ユキの半機械化したロボットアームと、スバルの半魔物化した巨大な鋭い爪……咄嗟にリザを庇った唯は、その両方にお腹を突き破られてしまう。

「あれー?誰かと思ったら、いつかの殺戮妖精さんだ!」
「スバルちゃん、お友達?」
「ううん!友達どころか、大っ嫌いな女だよ♪」

2人は一緒のタイミングで、唯の腹部から自らの腕を引き抜く。
その直後、唯の腹部から、大量の血があふれ出て、唯はお腹を押さえながら、うつ伏せに倒れてしまう。

「ゆ、唯ぃいいい!」
「唯ちゃん……なんて無茶を!」

瑠奈は親友の危機に気がつけば足が動いており、鏡花は回復魔法をかける為に走る。
敵が迫ってくるのを見て、スバルとユキはリザを後回しにして教授の命令を先に遂行することにした。

「あの2人は私がやるから、スバルちゃんはお友達の3人を殺しちゃって♪」
「わぁ、桜子お姉ちゃんたちを譲ってくれるの?ありがとうユキちゃん♪」
「どういたしまして♪その代わりスピカのリザのトドメは、最後に2人一緒に刺そうね♪」

だが、唯に走る寄る2人の前に、ユキが立ち塞がる。

「く……子供だからって容赦しないわよ!唯!もうちょっとだけ待ってて!」
「多分あの子も教授に操られてるだけ……あまり傷つけたくないけど、押し通る!」

と、ユキの顔に付けられているPSVR……ではなく、ヘッドマウントディスプレイが文字列を表示する。

「敵性存在スキャン完了。データ照合開始。アンノウン1は月瀬瑠奈、アンノウン2は一松鏡花のデータと一致。ただし両名ともに、バストサイズに若干のデータとの誤差あり。修正の為、データをアップデート。敵、共に脅威指数0。ただし、運命の戦士特有の幸運に注意せよ……なーんだ、弱いんだね♪」


一方、桜子、アリサ、サラは、スバルと対峙していた。

「うふふ……嬉しいなぁ……スバルの手で、みんなを殺せるなんて♪」
「スバル!頼む、目を覚ましてくれ!元の優しいスバルに戻ってくれ!」
「スバル!貴女は、教授とやらの改造になんて負けるような、弱い子じゃないでしょう!?」
「あの怪力男に立ち向かう勇気のある貴女なら、きっとその改造も振り払えますわ!」

必死にスバルに呼びかける3人だが、その声は届かない。

「もう、みんな煩いなあ……そもそも今はともかく、昔のスバルは弱かったよ?」
「スバル、そんなことありませんわ!」
「強いアリサお姉ちゃんには分からないよ……桜子お姉ちゃんなら分かるよね?弱かった頃の私の気持ちが……」
「スバル……」

そして、その2つの戦場から少し離れたところでは、唯とリザが倒れている。

「ぐ……貴女、どうして……」
「は、はは……なんでかな……気づいたら、体が動いてたんだ……」
「気づいたら……って……」
「その、上手く言えないけど、やっぱりダメだよ……君みたいな子が、死んじゃうなんて……」
「……」

状況は、混沌とした様相を呈していた。


643 : 名無しさん :2017/10/05(木) 00:57:57 Zn2Fvjh2
「先手必勝!流星脚!」
「ウィンドブレイド!」

パンチラしながら飛び蹴りを放つ瑠奈と、瑠奈を援護すべく風魔法を撃つ鏡花。
遠近二つの攻撃に対して……ユキは一切回避行動を取らず、風の刃と飛び蹴りをその身に受けた。

「な!?わざと喰らって」
「いっくよー!スパーク!」
「しま……!きゃあああん!?」
「ウフフ♪痛いのはキョージュに消してもらったんだあ♪」

瑠奈の飛び蹴りをその身に喰らった瞬間、放電機能を使って瑠奈を攻撃したユキ。半分機械の身体になったが故にできる技であった。
本来なら電気によってユキ自身にも耐え難い激痛が走るのだが、本人の言っているように痛覚は教授によって
遮断されている。
瑠奈と鏡花の攻撃を一切回避せずに受けることができたのも、痛覚がないが故である。

例えどれだけその身に傷を負おうと、半機械化した身体は自動的にユキの思うように動いてくれる。さらに痛みもない。
となれば、彼女が攻撃を喰らうことを恐れる必要はない。

「さて、と。じゃあ弱ーいお姉さんには、死んでもらおっかなー」
「瑠奈!っく!シャイニングセイバー!」

本来なら距離を保って魔法で攻撃したかった鏡花だが、瑠奈がユキのすぐ近くで倒れた今、そうも言っていられない。
接近戦を仕掛けると同時に、ユキの足元の瑠奈を助けようとするが……。

『一松鏡花の実戦データ及び思考パターン解析、行動パターン予測完了。推奨:指定の座標への攻撃』

ユキのヘッドマウントディスプレイには、既に大量の文字が並んでいた。

「あったれー!パイルドライバー!」

機械化した腕から、カシャンカシャンと音を立てて巨大な鉄の杭が現れる。そしてユキはディスプレイに二重丸で表示されている箇所に巨大な鉄の杭を発射すると……

「え……ぐうううううう!?」

丁度そこを移動していた鏡花に吸い込まれるように、パイルドライバーは彼女の右足を貫いた。予測射撃の成せる技である。ユキと瑠奈の元へ走っていたところに右足を杭で貫かれた鏡花は、その勢いのまま倒れこんでしまい、瑠奈の隣、ユキの足元へと、不本意な形で到着する。

「アハ♪アハハハ♪すごい……すごいよこの力!キョージュのおかげで、こんなにキモチイイことできるなんて最高だよ!ウフフ……もうわたしは、お姉ちゃんに守ってもらわなくても大丈夫なんだ……フフ、ウフフ……」

幼い容姿に見合わない、どこか妖艶な笑みを浮かべたユキは……肩からカシャンカシャンと音を立てて、先端がドリルになっているアームを展開する。


644 : 名無しさん :2017/10/05(木) 00:59:42 ???
「ドリルアーム準備かんりょー!じゃ、力抜いてねーお姉さんたち♪」

ギュイイイイイン!!

「ひ!や、やめ、ひいぎゃああああああ!!?」
「やあああああああ!!!?」

先ほどの妖艶な笑みから一転、年相応の笑顔を浮かべたユキは、笑顔のままドリルを瑠奈と鏡花の肩に突き刺した。凄まじい回転音を響かせながら、ゴリゴリとドリルによって自らの身体が削られていく感覚、そして何よりも耐え難い激痛に悲鳴をあげる2人。
その悲鳴を聞いたユキは、今度は恍惚とした、とろけたような顔をする。
コロコロと表情が変わる、ある意味とても子供らしい姿だが……今まさにいたぶられてる2人には、悪魔のようにしか見えなかった。

「あぁん♥お姉さんたちの悲鳴聞くと、なんかお股に変な感じがするよぉ♥」

教授の改造によってロリビッチリョナラーな性格に作り変えられたユキは、おもむろに自分のスカートの中に手を入れると、くちゅくちゅと音を立てて自らの股間を愛撫する。

「や、ん♥キョージュの、あ♥言った通りだ♥キョージュに教わった、この気持ちいいこと♥キョージュに言われてやるより、も♥お姉さんの悲鳴聞きながらやった方が、ずっとずっと気持ちいいよぉ♥」

この台詞を聞いて分かる通り、キョージュはユキとスバルを改造した後、よく2人に目の前で自慰をさせていたのだ。本人曰く実験の一環だが、実態はただの変態的趣味である。


「あーユキちゃんずっるーーい!先に一人で楽しんじゃうんだー!」
「あ、ごめんねスバルちゃん!この2人の悲鳴があんまりキモチよかったからつい……」
「むー!いいもーん!スバルはスバルで楽しんじゃうもーん!」
「す、スバルちゃーん……機嫌治してよぉ……」
「もー、しょうがないなあ……トドメ刺す時は、2人同時にやって、一緒にキモチよくなろうね!」
「わーい!スバルちゃん大好きー!」

無邪気な声をあげながら、ユキはドリルの回転数をさらに上昇させた。

「ぐああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「いやあああ!!やああああ゛あ゛あ゛あ゛!!」

トドメを刺す時は2人一緒に刺す……つまり、スバルが桜子たちを倒すまでは、殺さない程度にいたぶって待つということだ。
その間、自慰は続けるということでもある。

「あ、あ♥あ♥あああ♥来ちゃう、お腹の奥、ふきゅうって、来ちゃううう♥んにゃああ♥」

とうとう、ドリルで身体を削られている瑠奈と鏡花をオカズに果てたユキ。はぁはぁと荒い息を吐きながら、絶頂の余韻に浸っている。

「んく♥キモチよかったぁ♥初めて会ったお姉さんたちでこんなにキモチイイってことは……ウフフ……お姉ちゃん見ながらこれシたら、どのくらいキモチイイのかなぁ?」


645 : 名無しさん :2017/10/05(木) 02:38:36 ???
「ユキちゃんったらもー、あんなに1人で気持ちよくなってずるいずるいずるいぃ!わたしだって気持ちよくなるもんッ!」

ユキの喘ぎ声を聞いて興奮したのか、スバルは鼻息を荒くしながらアリサに飛びかかった!

「ひ!きゃああぁッ!ス、スバル……!」
止むを得ず剣を抜くアリサだったが、スバルの凄まじいスピードから繰り出される両腕のなぎ払いによって、ガードすることすらも叶わず。
弾かれたリコルヌは放物線を描いて廊下の奥へと落ちていく。

「そんな!?リコルヌがっ!」
「アリサお姉ちゃん、そんな遅い動きで今のスバルを止めるのは無理だよぉ……それじゃ、動けなくなってもらうね〜!」
「ス、スバルッ!!や、やめっ……あ、あぎぃ!?ああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーッ!!!」

アリサを無力化しつつ床に押し倒したスバルは、宣言通りアリサの足を鋭い爪で容赦無く引き裂いてしまう。
吹き上がる血しぶきは鋭い爪から飛び散って、サラや桜子の体にも勢いよく飛び散った。

「あほははははははッ♪今の悲鳴すごくキュン……ってキたよぉ♪もっと聞かせてぇ……アリサお姉ちゃんッ!」
激痛に悲鳴を上げていたアリサの視界に、スバルの鋭利な牙がズラリと並ぶ。

「ひ、ひいぃ……!す、スバル……!」

それを見て戦慄するアリサの表情を確認すると同時に、スバルは無邪気な笑みを浮かべながら目の前の細首へとかぶり着いた!

「いやあぁっ!!!あっ、そんな、え!?あ、うああああああああぁあああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あっっ!!!」
「あははっ♡アリサお姉ちゃんったら.わたしに食べられてるのに気づいてびっくりしちゃったねー!可愛いなぁ……♡」
「や、あぁ……!く、首が……!」
「うふふふ……♪アリサお姉ちゃんのお肉、とってもおいひぃよ♡」

まるで育ちのいい猫が静かにエサを食べるようにアリサの首を齧るスバル。
そんな凶行を阻止すべく、サラはスバルの背後から襲いかかった!

「目を覚ましなさいスバルッ!!アリサから離れてっ!!」
「あ、サラお姉ちゃんはあとで食べるから、今は向こう行ってて!」
「な!?…ああぁん!!!」

サラはそれが何であるのか理解できなかった。
分かったのは、黒くて太くて硬いものが勢いよく自分の体に激突して吹き飛ばされたことだけ。

「ぐはっ!!……うぅ……」

それがスバルの尻尾だと気付いたのは、壁に叩きつけられて気絶する寸前だった。

「サ、サラ!?……く、くそ……でも相手はスバルだ……攻撃するわけには……!」

魔物化している右腕を伸ばそうとした桜子だったが、相手はこの世界の全てから守ると決めた少女。
自分を姉と慕い、過酷な旅の中で何度も自分を支えてくれた、大切な存在。
たとえ魔物化しているとはいえ、おいそれと攻撃できるほど桜子は合理的な性格ではなかった。

「ああぁぅっ……!!痛い……ス、スバル……やめて……!」
「ウフフ……やめないよ?アリサお姉ちゃんすっごく美味しいんだもん♡次は肩も食べちゃうね♪」
「か、肩!?スバル、やめ……あ!ぐううッ!?やああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「はぁぁん……♡アリサお姉ちゃん、おいしくてすごくえっちだよぉ……♡スバルもなんかジンジンしてきたぁ……♡」

先ほどユキがしたように、自身のスカートに手を入れて秘部を弄るスバル。
アリサの皮膚を咀嚼する音と似たような音が、スバルの秘部からも微かに溢れ出していた。

「やあああ゛あ゛あ゛!!!ス、スバル、お願い!食べないでえええッ!!」
「やだよぉ♡美味しいものは食べなきゃ勿体無いもん♪こんなに美味しいアリサお姉ちゃんを残しすわけにはいかないよぉ♡」
「ぐあぁ……痛いいいぃっ!!スバルやめてええええええ!!!ぐああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!
「あっ、あっ、あ♡ねぇ今の声やばいよぉ♡アリサお姉ちゃん……スバル、スバルなんかキュンキュンきちゃううっ♡あ、や……!ふああああああぁん♡」

痛苦に喘ぐアリサをオカズに果てたスバル。彼女もまたユキと同じようにはぁはぁと息を吐きながら、アリサの上に仰向けでびくびくと小さな体を痙攣させていた……


646 : 名無しさん :2017/10/06(金) 00:28:01 ???
「もっと……もっと叫んでぇ!もっと痛そうにして、わたしのこと気持ちよくさせてぇ!」
「いやああああああ!!ぐううぁああああ゛あ゛あ゛あ゛!」
「あん♥ス、スバルちゃん!大発見!気持ちよくなったすぐ後にもう一回これシたら、さっきよりも気持ちいいよぉ♥」

今度は二つのドリルを鏡花一人に集中して用い、両腕を削っていくユキ。再び自慰をしようと手を股座に持ってきたユキは、絶頂の直後は性器がより敏感になっていることに気付く。


「え、ホント!?……っあ♥ほ、ホントだ!ホントにさっきよりも気持ちいい♥教えてくれてありがとうユキちゃん!」
「どーいたしまして♪」
「あ、がぁあ゛あ゛あ゛……!スバル、もうやめ……」
「じゃあ、さっきよりも気持ちよくなったところで……次は細くてキレイな手を食べるね♥」
「い、いやああああああああ!やめてぇええええ!!桜子さん、助け……ぎ、があああああーーーーー!!」
「あ、アリサ……!く……!すまない……!できないんだ、私には……!」

「あ♥ま、また来ちゃう♥またアレ来ちゃう♥ん♥ホントに、さっきよりも♥気持ちよくて♥あ、ああん♥んみゅうううううう♥」
「美味しい……美味しいよぉアリサお姉ちゃああん♥スバルもまた、お股がキュンキュンしちゃって♥んぁ♥あはぁああああ♥」

状況は絶望的だった。
無傷の者は春川桜子ただ一人であるが、彼女は本当の妹のように思っていたスバルを前に戦意を喪失している。
サラは気絶から目覚めさえすれば戦えるだろうが、目覚める様子はない。瑠奈と鏡花はドリルに貫かれて、戦える状態ではない。
アリサは今正に身体を食べられていて、はっきり言って一番重症だ。

そして、少し離れた場所で倒れているリザと唯は……

「……篠原唯、貴女……回復魔法は使える?」
「え?い、一応使えるけど……私の魔法じゃ、この傷は治せないかな……」
「……完全に治す必要はない……ただ、少し動ける程度にさえ回復できれば……」
「えっと?」
「篠原唯、私に回復魔法をかけて」
「え?」
「……助けられた分の恩くらいは返す」




一方その頃、イータ・ブリックス総合病院近くでは……

「もしもし舞!?GPSの場所に今から五分以内に来なさい!葬黒もしていいし人目も気にしないでいいから!」
『さ、サキ様?一体どうし……』
「いいから早く来なさい!一秒でも遅れたら教授にこないだの続きさせるわよ!」
『ひ!?わ、分かりました!』

以前教授の目の前で強制自慰させられたことがよほど堪えたのか、久々にジェットブラックアーマーに葬黒した舞は、何とか五分以内にサキの元へ着いた。

「お、お待たせしました」
「よし!じゃあ私を背負って城まで急ぎなさい!」
「え?」
「説明は移動しながらするわ!とにかく急ぎなさい!」
「は、はい!」

素早く舞の背中に飛び乗るサキ。舞はそのまま、ジェットブラックアーマーの能力をフルに使って高く跳躍し、建物の屋上から屋上へと飛び移りつつ、一路王城を目指す————!


後ろの方から「さ、サキちゃあん!待ってよお!」という声が響いたとか響かなかったとか……


647 : 名無しさん :2017/10/07(土) 21:08:20 ???
「クックックッ……!どうだ美少女たちよ。ポッと出のロリに全滅させられる気分は!フゥーハハハ!」

絶望的な状況の中、いつの間にか起き上がった教授が高らかに勝利の雄叫びを上げていた。
この空間に響いているのは、瑠奈、鏡花、アリサの断末魔のような悲鳴と、ユキとスバルの幼くも色のついた喘ぎ声。
美少女たちの悲鳴と嬌声が鳴り響く、混沌とした空間で、1人の少女がゆらりと立ち上がった。

「リ、リザさん……?恩を返すって……?」
「……そのままの意味よ。まぁ、そもそもあの女に捕まったのはあなたたちの不意打ちのせいだけど……大目に見てあげるわ。」

唯の回復魔法により、ある程度は動けるようになったリザ。
とはいえ骨の損傷は完全には治っていないので、全身の鈍い痛みは消えていない。

(痛い……けど、これくらいなら……)
「スバルちゃん、お姉ちゃんたちも動かなくなってきたし、そろそろスピカのリザをやっちゃおーよ!」
「そうだね!運命の戦士たちを倒した私たち2人にかかれば、十輝星なんてらくしょーだもんね!」

次のターゲットを金髪碧眼の美少女に決めた2人は、そちらへと向き直って戦闘態勢をとった。
ユキは早速、立ちふさがってこちらを睨むリザのスキャンを始める。

「敵性存在スキャン完了。データ称号開始。対象は王下十輝星のリザ。脅威指数……測定不能。測定不能。テレポートとナイフでの攻撃に注意せよ。」
「さすがオーカジュッキセー……ユキちゃんのスキャナーでも測定できない程の強さってことだね。」
「ククク……リザよ。私にキサマの体をじっくり観察させてくれるのなら、こいつらを止めてやろう。ウヒヒ……どうだ?いい取引だろう?」
「キョージュ、いっつもえっちなことしか考えてないんだねー!」

ケラケラと笑う少女2人とグヘグヘと笑う不気味な男。運命の戦士たちは気絶しているものもいれば、動けない者もいるようだ。
まともに戦えるのは自分だけのようだった。

「あなたたちは私には勝てない。……壊されたくなかったら、今のうちに消えなさい。」
「リザちゃん、そんな体ですごい強気だけど……私たちがリザちゃんみたいなちんちくりんに負けるはずないもん!この爪で引き裂いてやるー!」
「ウフフ♪スバルちゃんが引き裂いたあとは私がじっくり黒焦げにしてあげるね♪とってもと〜ってもかわいい、リザちゃん人形ちゃん♪」

完全にバカにした口調でリザに襲いかかる2人。敵意むき出しの2人の目を確認すると、リザは懐からナイフを抜いた。


648 : 名無しさん :2017/10/08(日) 12:20:07 ???
「ほらほらほらぁ!死んじゃえー!」

唯の回復魔法は、はっきり言って効果が低い。

リザが今まで回復魔法を受けた天才ヒーラーのミライや大魔法使いのエミリアは勿論、魔法少女アクア・ウィングから受けたヒールウォーターにすら劣る回復量である。

激しい動きをするには不安が残るが……立ち止まったまま動くくらいなら支障はない。

「秘奥義……無影無踪!」

無影無踪……リザのとっておきのカウンター技である。立ち止まった状態でなければ放てない……カウンター限定の技ではあるが、今はその方が却って都合が良い。

ボロボロのリザを舐めきって、一気に接近したスバルは……

「……え?」

ブシュウ、とスバルの首筋から、大量の血が溢れ出る。
スバルは一瞬、呆けたような表情をして……ゆっくりと、仰向けに倒れ込んだ。

「す、スバルちゃあああああん!」
「次は……お前だ……!」
「よ、よくもスバルちゃんを!」

ユキは機械化した腕を火炎放射器に変形させ、炎を放つ。

「こないまでのわたしと同じ顔にしてあげる!ファイヤー!」
「秘術・炎禍斬滅!」

向かってくる炎に対して、リザはナイフに魔力を込め……秘術・水禍斬滅の炎バージョンの技を放ち、炎を搔き消す。
そのまま、リザは修羅のような顔をして、ユキに接近していく。

「こ、来ないで……!来ないでよ!」
「……むう!?いかん!旗色が悪い!私は何も見なかった、勝手に実験動物が暴走してスピカのリザに喧嘩を売った!こういうことにしとこう!」


「す、スバル……!」

リザがユキを追い詰めている頃、戦意を喪失していた桜子は仰向けに倒れ込んだスバルに寄り添っていた。

「が、がひゅ、ざ、ざぐら゛ご……お゛ね゛……」
「スバル……!無理に喋るな……!」

不幸中の幸い、というべきか。スバルは魔物化したことによって、多少の怪我は自己修復するようになっていたので、リザの無影無踪も致命傷ではなかった。

「スバル……!すまない……!君を、守れなかった……!」
「た、食べたいよ……!桜子お姉ちゃん……!食べさせてよぉ……!」
「スバル……!」
「キョージュに作り直してもらって……!強くなったのに……!なんで、スバルは……いつもいつも、勝てない……の……」

その言葉の後、がくり、とスバルは気を失う。致命傷には至らないとはいえ、ダメージは大きかったのだろう。

「スバル……弱くたっていい……!君みたいな子が、強くならなきゃいけないような世界の方が……この世界の方が、間違っているんだ……!」

気絶したスバルを抱きしめる桜子。例えスバルがどんな身体になっても……桜子のスバルへの愛情は、決して変わらない。


649 : 名無しさん :2017/10/08(日) 13:34:04 ???
「舞、ここまででいいわ」

その頃、サキと舞は王城に到着していた。

「まさか、教授がサキ様のご姉妹を無理矢理連れていったなんて……」
「あのクソガリがそこまでやるとは思わなかったわ……完全に私のミスね」
「サキ様、ここまででいいとおっしゃいましたが、教授が何か良からぬことを企んでいるのは確実です。私も護衛についた方が……」
「相手が教授だからこそ、アンタを連れてくとめんどくさい事態になりそうだから置いていくっつってんの」

舞の首に巻かれているチョーカー。今はサキの制御下にあるが、教授の発明品である以上、コントロールを奪われる可能性が高い。

と、不意にサキが舞に身体を近づける。そして、ゆっくりと、舞の首に手を回す。

「さ、サキ様?」
「っチ。勘違いするんじゃないわよ。あのクソガリをぶっ飛ばしに行く以上、あの変態の発明品は減らしておくに越したことはないわ。遠距離でもアンタを制御下に置いて私を襲わせるくらい、あのキモオタならやりかねないし」
「あ、あの、何を……?」
「こういうこと、よ」

パチン、という小さな音。その後、舞の首筋に、妙にスースーした感覚が走る。

「え……?な……?」
「これでアンタは自由の身。逃げたきゃ逃げれば?私は追わないわよ」

教授のチョーカー……今まで舞を縛っていた呪縛が、あっさりと解かれたのであった。

「前にアンタにつけた火傷の跡は、病院の近くにいるお人好しヒーラーに頼めば消してもらえると思うわよ。これで後腐れなしね」
「や、火傷の跡……?」
「……アンタのこと、嫌いじゃなかったわ。じゃあね」
「あ……!」

城の中に入っていくサキ。いきなり自由の身になって困惑した舞は、それを見送ることしかできなかった……


舞に別れを告げたサキは、一人教授の部屋へ向けて走る。

(ユキ……!私が絶対、アンタを守る……!)

家族という、無条件に愛し愛される関係。性格が悪く、友達の少ないサキだからこそ、家族や数少ない親友は大切にしている。

サキが急いで、教授の部屋の前までたどり着いた時……!


「ひっ……!いやあああああ!」
「……死ね」


ナイフを構えたリザが、ヘッドマウントディスプレイを着けたユキに、今まさにナイフを突き刺そうとしていた。


650 : 名無しさん :2017/10/08(日) 16:14:39 ???
「ユキっ!?……なんで……止めなさいアホリザ!お願いだから待って!!その子は私の……」
「サキ!?」
戦いの場に突然現れたサキ。その今まで見た事もないような悲しそうな表情を見て、リザは何かを感じ取るが…
「ふ、ふふ…隙あり、リザちゃん…『エレクトリックドリルクロー』!!」
(もう止められない…それに、ここで止めを刺さなきゃこちらが殺られる…!)
「だからそれは…ダメぇぇっ!」
両者の必殺の一撃が激突する瞬間。重傷で動けないはずの唯が、再び間に割って入った。

「あぐっ……!?」
それによって、リザの繰り出した刃は、ほんの少しユキの急所を外れた。
「うっ……!!」
高圧電流を帯びたドリルの一撃を、唯が己の身を挺して止めた。
そのおかげで、リザはほんの少し雷撃の余波を受けるだけで済んだ。

「…きゃああああああぁっ!!…………」
結果として、リザとユキは二人とも…戦闘不能になったものの、命を落とさずに済んだ。

「ユキっ!!しっかりして、ユキっ!!」(篠原唯……あいつ、リザを……ユキを、守った……!?)


「唯っ…目を開けてっ!…どうしてあんな無茶を…!!」
リザが敵を引き付けている間に、鏡花の魔法で怪我を治療した瑠奈とアリサが、唯に駆け寄る。

「どうしよう…このままじゃ、唯ちゃんが…!!」
鏡花が回復魔法を掛け続けるが、必死の努力も空しく唯の命は間もなく尽きようとしていた。

「……助ける手段が、ないわけじゃないけど……」
気絶したユキを抱えながら、サキは考えを巡らせる。
妹を助けてくれた篠原唯を、このまま死なせて王の慰みものにするのはサキとしても避けたかった。
死者をも蘇らせる、世界でも最高クラスと思われる治癒能力を持つ少女に、心当たりがあるのだが……

(ここに来るまでに置いてきちゃったのよね。
騎士見習いのくせに、まったくトロいんだから……いや、私が後先見ずに突っ走ったせいか。
…舞に連絡して、すぐ連れて来させ…いやでも、舞はさっき『自由の身』宣言しちゃったし。
って、カッコつけてる場合でもないわね…いったん撤回するしかないか。
でも、もし……もし『嫌だ』って言われたら……?)

サキとしては、舞の事を内心憎からず思っていたのだが。
(そう……所詮は力で縛りつけていただけの関係。
あっちは今頃、私から解放されてせいせいしてるんじゃ……)

「いやー!送っていただいて助かりました!このお城、構造がゼンゼンわからなくて」
「いえ、お気になさらず。私も丁度向かおうと思っていた所ですので」

巨大水タンクを背負った少女を抱えて、漆黒のメタルスーツ少女が高速飛行してきた。
先程別れてから、実に5分も経っていない。

「え。……舞、あなた、どうして……」
「サキ様、先ほどご自分で仰いましたよね……私は『自由の身』だと。
…だから今は、誰の傍にいようと、誰に仕えようと……私の自由意志です」

「うわー!?リザちゃんまたケガしてる!?ていうか何なのこの状況!?」
「わ、私の事はいいから……それより今は」
「……あの子の事を」「助けてやって」

リザとサキの声がシンクロし、二人の指が同時に唯を指し示した。


651 : 名無しさん :2017/10/08(日) 18:34:24 Zn2Fvjh2
「え?サキ?」
「な、何よ、流石の私も妹の恩人には敬意を払うわよ」
「妹……じゃあ、あのユキって子が、サキの妹だったんだ……」

似ている名前と、先ほどの見たこともない悲しそうな顔の謎が解けて、腑に落ちた表情をするリザ。

「なんだかよく分からないけど、来たれ癒しの奔流よ!女神ネルトリウスの名の下に、大いなる慈悲と清廉なる心を、かの者に与え給えっ!」

リザも重症であったが、リザ本人とサキが望んでいることもあり、それ以上の怪我人である唯に究極魔法をかけるミライ。
息も脈も弱くなるばかりであった唯を癒しの奔流が包み……あっという間に、彼女の怪我は完治した。

「う、ううん……」
「唯!」「唯ちゃん!」
「あれ?私、一体……」

目を覚ました唯を見て、安堵の息をつく瑠奈と鏡花。だが瑠奈は、一転して顔を険しい顔をしてリザたちを睨む。

「アンタら……何を企んでるの!?こないだはボッコボコにしてきた癖に、今さら懐柔のつもり!?」
「ふん、私はただ、妹の恩人に敬意を払っただけよ。ていうか、まずは回復魔法をかけたミライにお礼くらい言えないわけ?」
「ぐ……!誰があのアホ王の手先にお礼なんて……!」
「瑠奈、止めて……ええと、ミライさん?その、助けて頂いてありがとうござい」
「来たれ癒しの奔流よ!女神ネルトリウスの名の下に、大いなる慈悲と清廉なる心を、かの者に与え給えっ!」

唯がお礼を言おうとしたタイミングで、リザにも究極回復魔法をかけるミライ。
リザ本人も重症だったので治療が先決としただけでミライには全く悪気はなかったが、話の腰を折る形になった。

「ふう、流石にソウルオブ・レイズデッドを2連続はちょっと疲れたよ〜」
「ミライ……ありがとう」
「いえいえどういたしまして〜。それで、ええと、唯ちゃんだっけ?何かな?」
「え、ええと、助けて頂いて、ありがとうございます」
「唯……まったく、こんな奴らにお礼言うことなんて……!」
「とにかく、唯ちゃんが無事でよかった……」
(あれは、究極魔法……!しかも2連続なんて……!あの女の子、一体何者なの……!?)

魔法少女だけあって、五人の戦士の中で一番魔法に詳しい鏡花は、ミライが使った魔法が癒しの魔法の中でも最上位に位置し、唱えられるものは世界で数人しかいないという究極魔法の1つであることを見て驚愕している。


652 : 名無しさん :2017/10/08(日) 18:35:43 ???
「いやいや、これにて一件落着!では私は、我が花嫁とハネムーンに行くので、お暇させていただこう」

と、その時。白衣の男が、眼鏡の少女を背負ってどこかへ逃げようとした。
その瞬間、その場を包んでいた微妙にピリピリした空気が霧散する。

「……十輝星の奴らは許せないけど、あの教授とやらはそれ以上に許せないわ」
「奇遇ねロリ巨乳。私も篠原唯以外の運命の戦士は気に入らないけど、それ以上にキモオタをぶっ飛ばしたい気分よ」

共通の敵を見つけて呉越同舟する王下十輝星と運命の戦士。

「貴様が、スバルをあんな目に……!許さない……!」
「……今度ばかりはサクラコを止めるつもりはないわ、私もあの教授は許せない」
「彩芽をどこに連れていって、ナニをするつもりですの?」

先ほどまで戦意を失っていたのが噓のように、スバルの身体を改造された憎悪を目に滾らせる桜子。
普段は直情的になった桜子を抑えるサラも、今回ばかりは桜子に同意だ。
アリサとしても、親友におかしなことをしようとしている教授を見逃すわけにはいかない。

「く……!チョーカーのコントロール権を私に移動!柳原舞!私が逃げる時間を稼げ!」
「……今までのセクハラのお返しをする時が来たみたいね」

舞に命令する教授だが、既にチョーカーを外している彼女には無意味。
舞の脳裏には、これまでに受けたセクハラの数々……教授の目の前で着替えをさせられたり、嗜みと称してエロゲーをプレイさせられたり、白い下着を強要させられたり、下着を隠すタイプのストッキングを禁止させられたり……
ふたなり化実験薬だけは死に物狂いで拒否したが、その代わり強制自慰を撮影されて、現実世界に素人ビデオとして売りさばかれたり……がまざまざと浮かんでいる。

(ま、まずい……!考えろ!私が花嫁と共に、無傷でこの場を離れる方法を……!天才科学者の頭脳をフル活用して考えなければ!)


653 : 名無しさん :2017/10/12(木) 02:22:33 ???
「まさかアナタと共闘することになるとは思わなかったわ…」
「全くです…最初からクライマックスで行きますよ」
「連牙百烈蹴!」「ライトニング・パニッシャー!」
白銀の雷と漆黒の風が交錯し、凄まじいエネルギーの奔流が強烈な衝撃波を巻き起こす。

「考えろ…この天才科学者の悪魔的頭脳をもってすれば、この程度の危機は乗り越えられるはずだ…!!」

………

気絶したスバルとユキ、そして彩芽を含めると合計13人の美女美少女が、狭い研究室でひしめき合っていた。
なお教授は10人がかりでボッコボコにされた後、部屋の片隅に縛られて放置されている。

「…今は気絶していますが、スバルちゃんとユキちゃんの洗脳はまだ解けていません。…恐らく彩芽さんも。
これから、私の魔法で彼女たちの意識の中から『邪悪な心』を取り除くのですが…そのためには、皆さんの協力が必要です」
教授の研究室内にある手術台に三人を寝かせ、心療魔法の準備を始める鏡花。

「へえ。魔法って、そんな事までできるんだ…」
「…ほんと、まさにゲームかアニメの世界って感じね。で、協力って…何をすればいいの?」
唯は目を輝かせながら、瑠奈も興味深げに、その様子を見守る。

「スバルちゃんとユキちゃん、そして彩芽さん。
三人それぞれの心の中に、皆さんのうち誰か一人ずつが入って、
彼女達に植え付けられた『邪悪な心』を倒し、本来の心を取り戻すんです」

「え。…心の中に、入る?…あの、鏡花。わたくし、言っている意味がよく…」
鏡花の言っている意味が理解できず、アリサは戸惑う。

「おおおー!なんかすごく魔法少女っぽい!私も心の中、入ってみたい!」
一方アニメ的お約束を瞬時に理解した唯は、テンションが上がった。

「スバルの心には、私に入らせてくれ…私が、助けてやりたいんだ」
「ユキは…当然、私よ。他の誰にも譲らない」
桜子とサキが即座に名乗りを上げる。彼女たちの絆の深さを考えれば、文句の付けようがなかった。
そして…

「まあ唯が興味持つのもわからなくもないけど、これは遊びじゃないんだから…」
「だよね……それに私、まだ彩芽ちゃんの事よく知らないし」
「アヤメとの付き合いは、アリサが一番長いはずよ。…ここはアリサに譲るわ」
「唯。サラさん……わかりましたわ。ここはわたくしに任せてください」
とは言うものの、具体的に何をどうすればいいのか、アリサは今一つピンと来ていなかった。

「行く人が決まったみたいですね…では、みなさんの意識を彼女たちの心象世界に送り込みます。
…中で万一の事があったら戻って来れなくなる可能性もありますから、気を付けてくださいね」
「上等よ」「覚悟は出来てる」
「ちょっ……ど、どういう事ですのそれ!?」

よくわからないが、何だかものすごく危険な事らしい。
しかし、そう気付いた時には最早「やっぱりやめます」とはとても言えないような状況になっていた。


654 : 名無しさん :2017/10/12(木) 23:47:08 ???
「では皆さん、それぞれの相手の近くへ」

術式の用意ができた鏡花が三人に声をかける。彼女らは各々の相手へ近づく……前に、少しばかり語り合う。

「ザコラコ……マツダだかトヨタだか忘れたけど、そのガキはユキの友達みたいだし、一応、成功を祈っといてやるわ」
「ど、どこから突っ込めばいいのか分かりませんわ……いえ、今は彼女への妬みは忘れませんと……」
「……サキと言ったな?私もスバルに友達を失わせたくはない……そっちこそ、ヘマをするなよ」

軽口を叩きあうサキと桜子。アリサはまだ少し複雑そうだ。

「心配するなアリサ。またみんなで会えるさ」
「桜子さん……そうですわね……草薙……いえ、サキさんには、彩芽が帰ってきてから、たっぷりと言いたいこと言いますわ」

なんにせよ、教授の被害者たちを救わねばならない。今はそのことだけを考えることにしたアリサ。

「では、いきます……『あなたは段々眠くなる、あなたは段々眠くなる』……はっ!」

(精神世界とか幻覚世界には良い思い出ないけど……ユキの為だし、仕方ないわ)
(スバル……今度こそ、助けてやるからな……!)
(ちょ、まだ心の準備が、あぁ〜)

鏡花の詠唱が終わった途端、サキ、桜子、アリサは、眠っているユキ、スバル、彩芽に重なるようにゆっくりと横たわった。


✱✱✱


「ここは……」
「あは♪待ってたよ♪お姉ちゃん♪」

サキが降り立った場所は、どこまでも白い……病院を連想させるような空間であった。

「白色って、ずっと見てるとなんか嫌になっちゃうんだよねー」
「……もっと早く退院させてあげたかった……ごめんね」
「謝らなくていいよお姉ちゃん!だって……今からお姉ちゃんの血で、ここを綺麗な赤色に染めるんだから♪」


✱✱✱

「スバル……」
「来ると思ってたよ、桜子お姉ちゃん……スバルに食べられに来てくれたんだね?」

桜子とスバルが対峙している場所は、かつてスバルが奴隷として辛い日々を過ごしていたトーメント王国のスラムにそっくりだ。

「大丈夫……スバルがお姉ちゃんを食べれば、これからはずっと一緒だよ!」
「……それは本当に、君が望んだ幸せの形なのか?」
「フフ……大好きだよ、桜子お姉ちゃん……大好きな人と一つになれるなんて、最高の幸せに決まってるよ!」


✱✱✱


『すっごーい!』『レディースエーンジェントルメーン!』『止まるんじゃねぇぞ……』
『たーのしー!』『お前如きが、榊遊〇に勝てると思うな』『なにやってんだミカぁ!』
『スリップ』『異世界ス〇ホは異世界オ〇ガの把握資料』『た〇き監督帰ってこい』


「な、なんですのここは!?」

アリサは気づいたら、やたら騒々しい変な場所にいた。もうこれは変な場所としか形容のしようがない。
その辺で巨大ロボットが戦っていると思えば、何故かカードゲームで遊んでる奇抜なファッションの集団、あとなんか動物っぽい人間などが所狭しとワイワイ騒いでいるのだ。

「わ、私だけ妙な場所に飛ばされた予感が……い、いえ、とにかく彩芽を探さないと!この世界のどこかにいるはずですわ!」


655 : 名無しさん :2017/10/14(土) 13:11:44 ???
「ふおお、み、みんなこんなところで寝ちゃったら風邪ひくよお〜!」
「ミライ……話聞いてなかったの?」

倒れているユキ、スバル、彩芽。それを助けるべく精神世界へ飛び込んだサキ、桜子、アリサ。
今この部屋にいるのはそれを除いた6人……唯、瑠奈、鏡花、サラ、舞、リザ、ミライとなっていた。

「篠原唯……その、さっきは何度も助けてくれて……ありがとう。」
「気にしないで。えっと……リザちゃん、だったよね?よろしくね!」
「ゆ、唯!よろしくじゃないわよ!コイツやあの口悪い女サキとかいう女とだけは、お願いだから仲良くしないで!」
「……そうだよ唯ちゃん。こいつらは王下十輝星……光の記憶を操ったり、私たちを何度も殺したりした、私たちの敵だよ!!」
「正直、今ここでさっきの続きをしたいところだわ。ルナ、キョウカ。手伝ってくれる?」
「……私も前にサキ様から聞きました。あなたはサキ様の親友を殺した、卑劣な性格のガチレズであると。」
「わ、わわわ!リザちゃん嫌われすぎだよぉ〜!早くなんとかして汚名返上しないと〜!」
「……ふん。 別にどうでもいいわ。」
「い、いや!どうでもいいとか言ってる場合じゃないよ!みんながリザちゃんに野獣の眼光を向けてるよぉ!」

大小あれど、唯とミライ以外からの敵意はすべてリザに集まっているこの状況。
実質4対1だが、リザはどこ吹く風といった様子で涼しい顔をしていた。

「さっきは怪我をしていて遅れをとったけど……今の私は万全の状態。それでもここで私と戦うの?」
「や、やってやるわよ!4対1なら負けないわ!」
「いや、私は別にサキ様からそう聞いただけで別にあの人と戦いたいわけでは……」
「あなたは光の足を切り落とした仇……!許すわけにはいかない!」
「4体1で焦ってるんでしょう?いくわよ!ルナ、キョウカ、マイ!!!」
「だ、だから私は別に……!あ!で、でも、ここでリザを殺せばサキ様に褒められるかも……!」

昔のサキの話しか聞いていない舞も段々と乗り気になっていった結果、この集団で1番の年下であるにも関わらず、リザは4人に囲まれることになってしまった。

「み、みんなやめてよ!相手は私たちと同じくらいの女の子だよ!?4人でなんて酷すぎるよ!」
「唯……わかって!私はもうこいつらに殺されて唯と離れたくないの!!」
「……向かってくるなら、仕方ない。」

万全の状態ならば、たとえ4対1であれリザに負ける要因はない。
瞬時に4人の背後に回り、ナイフでとどめを刺そうと考えたその時!

「教授〜!水着回ビデオ最高だったわ〜!」

扉を開けて入ってきたのは、やたらスッキリした表情の赤髪の少年……アトラだった。


656 : 名無しさん :2017/10/14(土) 21:45:12 ???
「あ、アンタは!?」
「アトラ君!?」

「うお、なんだここは!?男女比が凄いことになってるぞ!?」

気を失っている6名を入れれば、13名もの美女美少女がいるのに対し、その辺でのびてる教授を除けば自分一人だけが男のアトラ。
この場に運命の戦士が揃っていることや教授が気絶していることよりも、ハーレム状態の方に気を取られるのも致し方ない。


(く……敵が増えた……!)
(でも、まだ4対2……こっちの方が多いわ!)
(アトラ君……君とはできるだけ戦いたくないけど、君が十輝星なら……!)
(シリウスのアトラ……レジスタンス時代の私を捕まえた張本人……!)

サラ以外の三人は、大なり小なりアトラとは因縁がある。彼女らはアトラを警戒するが……。

「ってあれ?なんで鏡花ちゃんたちがここにいるんだ?まさか……!」
「アトラ……丁度いい所に。この4人を倒s」
「謎は全て解けた!俺がこの事件の真相を説明するぜ!シリウスの名にかけて!」
「……は?」

アトラは長年愛読していた漫画が対象年齢を上げた上で別紙に移籍した影響でも受けたのか、某少年探偵のようなことを言い出した。

「現場にはリザとサキ、五人の戦士含む異世界人……そして見知らぬ美少女たち……でもエミリアちゃんはいない……気絶した教授……さてはリザ!性奴隷を増やすために、教授の実験台を奪おうとしたな!」
「……はぁ……」
「沈黙は肯定と取るぞ!地獄少女の傀儡師!」
「アトラ……段々アイベルトに似てきたね」
「……?別に髪の色が同じなのは元からだろ?」

なお、アトラがアホやってるその横では、異世界人たちが声をひそめて作戦会議をしていた。

「アトラ君の能力はかなり自由度が高い……多分、数の利は活かしきれないと思います」
「でもアイツ、接近戦には慣れてない感じだった……一斉にかかれば何とかいけるんじゃない?」
「となると、誰かがスピカのリザの方を押さえる必要があるわね……」
「いやあの、確かに私もシリウスのアトラには思うところがあるけれど、リザ以外と事を構えるつもりは……」
「アンタ元々クールビューティーキャラだったのに、最近は忠臣属性ばっか推されてて悔しいと思わないの!?アンタもアイツに捕まったせいで酷い目に遭ったんでしょ!?」
「瑠奈ごめん、前半がよく聞こえなかったんだけど……」


657 : 名無しさん :2017/10/14(土) 22:21:18 ???
「はぁ…なんだか調子が狂うわ」
見当違いの事を言い出したアトラ、そしてやる気満々で作戦会議をする異世界人達に、リザは小さくため息をつく。
そして次の瞬間…

「悪いけど少し眠ってて。話がややこしくなる」
恐ろしく速い手刀が、アトラの首筋に叩き込まれた。

(なっ…全く見えなかった…!)
目にも止まらぬ圧倒的速度に驚愕する瑠奈。読者諸兄がプロの暗殺者でなきゃ見逃しちゃう所である。

「この通り、私も負けるつもりは無いけど…
術者である魔法少女にもしもの事あれば、寝ている6人も無事では済まないでしょう?」
「そっ…そうだよ!ここは一時休戦って事で!ね、瑠奈?」
「……仕方ないわね、もう…これじゃなんか私達の方が悪者っぽい空気じゃない…」

………………

「王様、これは…流石に裏切り行為なのでは?…すぐに兵を差し向けた方が」
…リザが脱走者達と共に教授を拘束し、たまたまやって来たアトラにまで攻撃を加えた。
監視カメラからの映像で一部始終を見ていた王に、横で控えていたシアナが進言する。

「クックック…まだあわてるような時間じゃない。
リザが言うように、鏡花ちゃんの術の結果が出るまで事態は動かんだろう…もう少し様子を見ようじゃないか」
…しかし王は、相変わらず余裕の態度であった。

………………

一時休戦となった少女達。
サキ達が戻るまで、リザが研究室の前で見張りをする事になった。

「何か静かだね。私たちが脱走した事も、あんまり騒ぎになってないみたいだし…」
「…この辺りの区画は王城の中でも奥の方だし、セキュリティが厳重で一部の関係者しか入れないから」
唯も、その横に立っている。…見張っている隙に瑠奈たちが逃げ出さないための、いわば人質役である。

「なるほどねー。…そういえばリザちゃんて、どうしてあの王様に従ってるの?
…こう言ったらなんだけど、リザちゃんてすごくかわいいし、どっちかというとその…」
「…狙われる側だ、って言いたいんでしょ……実際その通りよ。
私たちの種族『アウィナイト』は、いつも、どこに居ても…常に狙われ、迫害されてきた」

リザは訥々と、唯に話し始めた。自分の出自、そして王に仕える理由を。
つい最近会ったばかりの、しかも助けられたとはいえ立場上敵である少女に、
どうしてこんな事を話そうと思ったのかはわからない。

………………

…リザの目的は、アウィナイトという種族を守るため、保護法を王に維持させること。
だがその法律も、律儀に守っている者がどれだけいるかは怪しいと言わざるを得なかった。

「サキの方は正直どう転ぶかわからんが…少なくとも、リザは俺様を裏切らんよ。
あいつが俺に仕えているのは、忠誠心でなく自分の目的のため…そして、その目的が完全に達成されることは決してない」

何しろアウィナイトは美しく、脆弱で、両目には宝石並の価値があり、金銭面でも美味しい。
欲望に駆られた密猟者が後を絶たないのも、ある意味では当然の話なのだ。

「アウィナイトが襲われるのは弱肉強食、いわばこの世界の真理…リザにとって、この世界は敵なんだよ。
そして俺様は、この世界の敵…敵の敵は味方ってやつさ。クックック…」


658 : 名無しさん :2017/10/14(土) 23:48:13 Zn2Fvjh2
「なるほど……ではリザは心配ないにしても、サキは場合によっては裏切る……と」
「アイツも国に忠誠を誓ってるんじゃなくて、権力目当てだしな」
「……彼女の後ろ暗い部分を受け入れ、サキ自身も仕えることに抵抗のない国……シーヴァリアの新女王は、懐の深い人物であるとの噂……シーヴァリアがサキを手に入れ、最大の弱点である諜報関係を克服してしまったら脅威だ……」

十輝星ほぼ唯一の頭脳派であるシアナは、サキが裏切った場合の事態を冷静に分析する。
妹の顔の治療にミライ・セイクリッドを連れてきた事を考えると、サキはシーヴァリアに少なくとも悪感情はないはずだ。

「まぁ、そんなに考え込むなシアナ。サキに関しては、ヨハンが上手いこと動くそうだ」
「ヨハンが……?」
「ククク……何を隠そう、わざわざサキをシーヴァリアへリザの援護に向かわせたのはヨハンだからな……教授がサキ妹ちゃんを実験台にしたのも、裏でアイツが動いてたはずだ……多分」
「多分……ですか」

頭の回転で言えばシアナと同等であろうヨハンがシアナのように人員の調整などをしないのは、彼が単独行動を好んでいるからである。
というより、ヨハンは防御能力を活かして平然と弾幕を浴びながら敵の懐に入り込んだりするので、単独行動が合理的なのもあるが……

とにかく、単独行動が多いヨハンの行動は、王も全域は把握していないようだ。全幅の信頼を寄せているので把握する必要がないのかもしれないが。


「アイツが言うには、楔を打ち込むそうだ。この国にズブズブにするような楔を……な」
「楔……そう言えば、サキの異世界での名字を考えたのって……」
「ククク……最初くさなぎって読んだサキに『くさびですよ』って言った時のヨハンの顔……めっちゃいい笑顔だったよなぁ」




◆◆◆

王たちが自分のことで陰謀を働かせていることなどつゆ知らず、サキは妹のユキと対峙していた。

「ユキ……邪悪な心を打ち倒し、ユキの本当の心を……」
「本当の心ぉ?それってあれのことぉ?」

ユキが指を指した先……そこには、顔を包帯でグルグル巻きにした少女が、真っ白な柱に縛り付けられていた。

「っ……!ユキ……!」
「あんなずっと病院に引きこもってて暗ーい性格になっちゃった子なんてさぁ、本当の私じゃないよねえ?」

ケラケラと笑い、機械化した身体から武器を取り出すユキ。

「私が本当の私……女の子をイジメると気持ちよくなっちゃうのが、本当のユキなんだよ!」

その言葉の直後、ユキはサキへと襲い掛かる。


659 : 名無しさん :2017/10/15(日) 08:22:29 ???
「アハハハハ!こうやって殺しあうのも楽しいね!桜子おねえちゃん!」
「スバル……!これは殺し合いなんかじゃない!誰よりも優しくて、誰よりも勇気のあるお前を元に戻すための戦いだ!」
「桜子おねえちゃん……何いってんのかさっぱりわかんない……よッ!!」
「ぐはっ!?」

スラムのような心象世界で戦う桜子とスバル。異形と化した体で戦うスバルに対し、桜子は一本で互角に渡り合う。
が、死角からの尻尾のなぎ払いを止めることは叶わなかった。

「ぐうっ!!!」
「あはははは!!逃がさないよ桜子おねえちゃん!!!」

攻撃を食らった衝撃で床を転がる桜子に向かい、スバルは大きく跳躍する。
そのまま桜子に覆いかぶさると、鋭い爪で彼女の頬をズバッと切り裂いた!

「ぐあぁああッ!?」
「アハアハハハ!桜子おねえちゃんの可愛い顔におっきな傷付けちゃった!」
「ス、スバル……!」
「これがマウントポジション……教授は正常位って言ってたけど、こうなったからにはもう逃げられないよ、桜子おねえちゃん……!」
「くっ……!」
(惑わされるな……このスバルは本物じゃない。偽物のこいつに遠慮は無用……!)



「やめておけ!彩芽の心に関わると、不幸が襲ウ!!」
「跪け!命乞いをしろ!3分間待ってやる!」
「私は物事を客観的に見ることができるんです。あなたとは違うんです。」
「今日からお前は……富士山だ!!!」
「あーーー!!!うるさいですわ!!リヒトクーゲル!!!」
「ぎゃあああああああああ!!!」

体のバランスの悪い傭兵やら元内閣総理大臣やらを吹き飛ばし、彩芽の心を探すアリサ。誰かに情報を聞いてもこんな感じで、全く会話にならなかった。

「なんということらぁ↑ムスカ、修造、生きてるかぁ?」
「目がぁ、目がぁーーー!」
「あはぁ〜ん♡」
「全く……なんなんですのこの変な人たちは……アリサはこんな変な人たちと友達なのかしら……」


660 : 名無しさん :2017/10/18(水) 22:22:01 mVfSvzh.
心の中の世界で戦闘を開始したサキとユキ。
が、サキは悪の心が相手とはいえ妹を攻撃することに抵抗があるのか、消極的な攻めに終始していた。

「ふふふ……お姉ちゃんはほんとに優しいなぁ……今の私にも手加減するなんて」
「ぐっ!」

それに対しユキは一切の手加減をせず、機械の腕から取り出した様々な武器で攻撃を繰り出していた。

「でもね、私知ってるんだ……お姉ちゃんは、私にはすごくやさしいけど……悪いこといーっぱいしてるんだってね……キョージュに教えてもらったよ」
「……そうね……付け加えると、その悪事を結構楽しんでもいるわね」
「ふふ……でもね、お姉ちゃん……そんなことでお姉ちゃんを嫌いになんてならないよ……だって、私のためにやってくれてたんだし……何より、たった一人のお姉ちゃんだもん♪」

と、ユキは攻撃の手を止め、サキへと語りかけてきた。
サキとしては家族や一部の親友以外にとことん残酷なことはあまり知られたくなかったが……
幸か不幸か、ユキがこの状態となったことで、それでも自分への家族愛は変わらないと知ることができた。

「……」
「それに、お姉ちゃんがそういう人だとしたら……私が女の子イジめて気持ちよくなっちゃうのも、全然おかしくないよね♪」
「……元からそういう性格だったんなら、私だってとやかく言わないわよ……でも違うでしょ?ユキは、クソ教授に改造されて……!」
「ねえ、お姉ちゃん?」

サキの言葉を遮り、ユキは幼い容姿に見合わぬ妖艶な笑みを浮かべる。

「私たちみたいな仲良し姉妹は、辛いことも楽しいことも分けあうべきって思わない?」
「……え?」
「私がキョージュにされたこと……今からお姉ちゃんにもするね♪機械にするのは私じゃ無理だけど……これなら」

その直後ユキの身体から、怪しげなチューブがウネウネと蠢きながら現れた。

「このウネウネが口に入ってきて、変なお水飲まされちゃって……止めてって言っても聞いてくれなくて……」
「ユキ……」
「でもね、気持ち悪いのは最初だけだよ♪」

その言葉の直後、サキの足元から謎のチューブが突如として現れ、サキを拘束する。

「しま……!?きゃんっ!」
「ふふ……つーかまえた……お姉ちゃん……」

ユキは会話でサキの気を逸らし、その隙に地面を通してチューブを彼女の足元に潜ませたのである。
足元に潜ませたチューブで拘束する前に、敢えてユキ自身の身体から出したチューブを見せることで、足元への注意をさらに逸らせたのだ。

サキが妹を前にしてやや注意散漫だったこともあり、ユキの目論見は完璧に成功した。

「ユキ……!目を覚まして……!んむう!?」

サキの言葉を無視して、ユキはサキを拘束しているチューブを操って、サキの口にチューブを突き入れる。
そしてユキは、先ほど自身の周囲に出したチューブを掴むと、ゆっくりと咥えた。

「んふふ……このウネウネから出るお水飲むとドンドン気持ちよくなってくるから……一緒に気持ちよくなろう♥」


661 : 名無しさん :2017/10/21(土) 01:25:28 dauGKRa6
ユキの異能力によって怪しいチューブを口に挿入されたサキ。手を使って口内から取り除こうとするも、なんらかの魔力がかかっているのか、サキの細腕程度ではびくともしなかった。

(だめ……!外れないわ!邪術でなんとかしないと……!)
「あ、させないよ〜?えいっ!」
「ぐがぼっ!?」

ユキのマシンアームによって繰り出されたのは、シンプルな腹パンである。
だが詠唱を必要とする術者に対しては十分効果的で、サキが唱えようとした邪術は中断されてしまったのであった。
サキの口元のチューブには、腹パンの衝撃で吐き出された彼女の体液がべっとりと付着した。

「逆らおうったって無駄だよお姉ちゃん……じゃ、水を流すね!」
「んぐうっ!?ひ、ひずぅ!?」
「そう、水責めだよ。お姉ちゃんと私でいつまで耐えられるか、競争しよ♪」
(そ、そんな……!なんでよりによってまた水責めなのよ……!あの時のことはまだトラウマなのにぃ……!)

ナルビアで捕らえられたときに行われた水滴拷問が、サキの脳裏をよぎる。あの時は執拗な拷問によって出したくもない悲鳴を上げ、男たちの性欲を刺激してしまい大変なことになった。
その時以来若干水が苦手になっていたが、今まさに彼女はトラウマを掘り起こしそうな文字通りの「水責め」をされようとしている。

「ふ、ふきぃ……!ひゃめへぇ……!」
「うふふ……!ドSの癖に妹の前でそんな情けない声上げてもいいの?顔色真っ青だよ?お姉ちゃん……!」
「や、やぁ……!あ、ん!んぐうッんううううう!?」
「さぁ……優しくて強いお姉ちゃんが情けない声出しながら苦しむ姿を、ユキにたくさん見せてぇ……♪」



「アリサも桜子も……遅いわね。大丈夫かしら……」
「きっとそれぞれの心象世界で、必死に戦ってるはずだよ。大切な人の心と……!」
「サクラコ……アヤメ……くっ、何もできずに待ってるのは、歯痒いわね……」
「ふ、ふおお〜、みんはサキちゃんのことも少しは心配してください〜!」
「……まあ、この方達はサキ様にいい思い出はないでしょうからね……」

3人の帰りを部屋の中で待つ瑠奈、鏡花、サラ、ミライ、舞。
アリサと桜子に対する心配の声はあれど、サキに対してはミライと舞しか心配していなかった。

「心配しろって言われても、こいつは十輝星で強いんだから大丈夫でしょ……って、え、あれ?」
「ど、どうしたの瑠奈?」
「……な、なんかコイツ……すごい汗かいてハァハァ言ってるんだけど……!」
「そ、そんな……サキ様!?」

「はぁっ……はぁっ……!うあぁ……!あ、んぅ……」

舞はすかさずサキに駆け寄って顔色を確かめる。健康的な肌色は変わっていないものの、尋常ではない量の汗と苦しそうな喘ぎ声は身の危機を感じさせるに十分だった。

「そ、そんな……!サキ様!!!しっかりしてくださいッ!サキ様ぁっ!!」


662 : 名無しさん :2017/10/21(土) 10:39:13 ???
「桜子お姉ちゃん……まずはどこから食べようかなぁ」
「はぁあああああ!」
「おわっぷ!?」

桜子は異形化した自らの右腕に力を込め、一気に腕を肥大化させる。
肥大化した腕に押されて、マウントポジションを取っていたスバルが桜子の上から落ちる。

「お前はスバルじゃない……!喰らえ!」
「くきゃあああ!」

床に転がったスバルに対して、一瞬躊躇した後に蹴りを繰り出す桜子。
スバルは蹴り飛ばされて、近くの廃屋の中まで吹き飛ばされる。

「くっ、偽物と分かっているのに……!」

桜子は辛そうな顔をしながら、それでもスバルを救うにはこれしかないと、追撃しようとする。
が、それよりも早く、スバルは廃屋から飛び出してきた。

「いたたたた……酷いよ、桜子お姉ちゃん……」
「お前は教授によって作られた偽の心でしかない……スバルの心から出ていけ!」
「ふふふ……桜子お姉ちゃん……それは違うよ……キョージュはただ、スバルの心に元からあったものを大きくしただけ……」
「なに?」

蹴り飛ばされて戦闘が仕切り直しとなったぁらか、スバルは攻撃の手を止め、桜子に話しかける。

「ユキちゃんだってそう……スバルたちの中に元々あった、どうしてこんなに自分は弱いんだろう……どうして役に立てないんだろうっていう心……キョージュはそういうのを大きくしたのと、エッチなことを好きにさせただけ……って言ってたよ」

エッチなことを好きにさせた……というのが曲者で、ただ急に自慰
をするようになっただけでなく、リョナラーにさせたことも含むのだが……スバルにその自覚はない。
強大な力を手に入れた結果、そういう性格になったのだと思っている。

「スバル……お前は弱くなんて……」
「気休め言わないでよ!!」

優しい言葉をかけようとした桜子を遮り、突如スバルは大声をあげる。

「奴隷だった時もそう!桜子お姉ちゃんがトーメントに連れて行かれた時もそう!アルガスへの旅でも、アルガスでも……スバルは守られてばっかり……!」
「スバルだって、私たちを支えてくれてたじゃないか……」
「支える!?後ろで守られながら応援してるだけのスバルが?笑わせないでよ……」

ユラリ、とスバルは鋭い爪の生えた腕を桜子へと向ける。

「スバルはみんなを守る力を手に入れた……もうこの力を手放したくないの!」
「スバル……!その守る力で、アリサやサラを傷つけてしまうくらいなら……!力なんて無い方がいい!」
「もうっ……!うるっさいよぉぉお!桜子お姉ちゃん!」

この力でみんなを守りたいというスバル自身の想いと
この力でみんなをリョナりたいという教授に植え付けられた心。


2つの相反する感情に蝕まれたスバルは咆哮を上げて、ただがむしゃらに桜子へ突進する。


663 : 名無しさん :2017/10/21(土) 15:37:14 ???
額に大粒の汗を浮かべ、苦悶の声を上げ続けるサキ。
一方で、桜子も異形化した右手を押さえながら苦しみ始めた。
「サキ様っ!」「サクラコ…!」
「ねえ…鏡花。念のため聞くけど、もし悪い心に勝てなかったら…
洗脳された三人…それに、心の中に入っていった三人は、一体どうなるの?」

舞とサラが心配そうに見守る中、瑠奈は鏡花に疑問を投げかける。

「それは…場合にもよるけど、極めて危険な状態になるのは間違いないわ。
……魔法で誰かの心の中に入るのは、自分の剥き出しの心も相手に曝け出すという事。
悪い心に負ければ、相手と同じように邪悪に染められてしまうか…
最悪、心そのものを取り込まれて元の身体に戻ってこれなくなる可能性も…」

…返って来た答は、皆が薄々感じていた通り残酷な物だった。
そしてその残酷な結末が、徐々に現実味を帯びてきている。

「お前っ…それがわかっていながら、なぜサキ様を…!!」
「落ち着いて、舞さん!!…サキちゃんだって、承知の上で妹さんの心に入ったはずだよ…」
鏡花に食って掛かる舞。そこへミライが慌てて割って入る。

「うぅっ…い、意味が解りませんわ…ムスカと修造って一体誰なんですの……!」
「!…アリサも苦しみ始めたわ…一体、どうすれば…!」

重苦しい雰囲気が場を支配する。
魔法少女にも、時空刑事にも、天才ヒーラーにも…できる事は何一つなかった。

「今は……信じるしかないわ。彼女たちの、心と…絆の強さを」


664 : 名無しさん :2017/10/21(土) 15:40:28 ???
(ぽたっ……ぴちょん)
「んぐっ……!?」
水の滴る音が響き渡り、びくりと身を縮めるサキ。
恐怖に染まったサキの瞳を、ユキは楽し気に覗き込んだ。

「ふふふ…お姉ちゃんの事、今なら何でもわかるよ……この音が、怖いんだよね?」
水滴の音はますます大きくなり、その数を増していく。
無数の水滴が雨のように降り注ぎ、白い空間は瞬く間に巨大なプールへと変わった。
その水位は足首ほどの高さから、徐々に深くなっていく。

「あお、おお……ごぼっ!!」(い、いや……ユキ…やめて、お願い……!!)
口に挿入されたチューブからは水…いや、正体不明の液体が勢いよく注ぎ込まれていく。
呑み切れず吐き出された液体で白いシャツがびっしょりと濡れ、
十輝星の中では上位を誇るDカップのバストと、それを包み込む挑発的な黒い下着が透けて見えた。

「もう。お姉ちゃんたら、だらしないなぁ……
そうだ!ここはユキの心の中だから、何でもユキの思い通りなんだよね。…えいっ!」
(…!?…服が……)

ユキが気合と声と共に軽く手を振ると、サキの着ていた服は一瞬にして水着へと変わった。
胸の谷間や背中が広く開き、露出度はかなり高いがそのデザインは女児用水着に近いもので、
肩や胸元、スカート部がヒラヒラのフリルで幾重にも飾られている。
サキの攻撃的な性格や体型にはいささか不釣り合いだが、
見ようによってはそのギャップがある種の背徳的な魅力を醸し出しているとも言えた。

「ふふふ…お姉ちゃんは、水が怖いんだよね?…でも大丈夫。
ここはユキの心の中の世界だから、どんなに溺れても…例え心が壊れても、死ぬことはないよ」

ユキは空中に浮かびあがり、機械化された脚でサキの頭をぐりぐりと踏みつける。
「だから、二度と浮かんでこられないくらい、深く深ぁく沈めてあげる……
可愛くて無様で最高にシコれる姉ちゃんの溺れ姿、いっぱいいっぱい見せてね…♪」


665 : 名無しさん :2017/10/21(土) 18:40:34 ???
「んん……!ご、がぼ……!ぷぉ……!」

正体不明の液体を飲まされ、トラウマのある水滴の音を延々と聞かされ……そして、今まで守ってきた妹にいたぶられているという状況は、サキの心をドンドン削っていた。

(だ、ダメ……!頭が、ボーっとしてきて……!)

「んふふ……どう?お姉ちゃん……段々気持ちよくなってきたでしょ?このお水飲むの」
「んぶぅ……!お、ごぉ……!」
「ふーん、まだ強がるんだ……ふふ、こんなにポッコリお腹になっちゃってる癖に……」

人体の許容量を越える液体を飲まされ、サキのお腹はぷっくりと、まるで妊婦のように膨れていた。

ユキは、サキの頭に乗せていた足を、膨れ上がったお腹までゆっくりと降ろし……思いっきり蹴とばした。

「おごぉぉおぉッ!? ぐぶうぅッ……おごぉ……!」

お腹の中の溜まりに溜まった液体が、胃を逆流して吐き出される。が、吐き出された液体は、何故か重力に従って落下することはなく、空中に浮かんでサキの鼻を塞いだ。

「ひふぅ!?ふ、ふご、ふごぉ……!」
「アッハハハハ♪お姉ちゃん、自分のきったないゲロで溺れかけちゃってるねー!どう?これがこのお水の力だよ!」

教授謹製にしてユキも作成可能なこの液体は、製作者の自由自在に動かせる上、液体の種類……普通の水や硫酸、媚薬などを自由に変えることもできるのだ。

「ぅ……ぁ……」
「ふふ、まだ寝ちゃうには早いよ、お姉ちゃん……これも苦手らしいね?」

呼吸ができなくなって、意識を飛ばしかけているサキを覚醒させるため……サキの心に眠る『もう一つのトラウマ』を試すことにしたユキ。

機械化した腕を振るい、ユキが大量に取り出したのは……針。

「ねぼすけお姉ちゃんを起こしてあげる!そぉれ♪」

ユキの周囲に浮かんだ針が、サキの全身を刺し貫く。

「ふぎっ……!お、お、おごぉお゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」



◆◆◆◆◆◆


「心の中に、意志がある!拾いに、行く!あ!この心、深い!」
「テメェさえいなければさぁ!僕は幸せに放送できたんだよ!お前さえいなければ!」

「あー!もう意味が分かりませんわ!ヴァイスシュラーク!」

「助けて、流されちゃオボボボボ!」
「こんなはずじゃないのにぃー!!」

某有名アニメのモノマネしてるっぽい人と、某有名ゲームの実況者みたいなクソガキをぶっ飛ばすアリサ。
その精神は、桜子やサキとは別の意味で消耗していた。

と、ようやく彩芽の心……かは分からないが、アリサも見覚えがあるキャラクターが出てくる。

スカート丈が短い上に全面が大きく開いているため、レオタード状の下半身が露出している上に、胸元、背中、二の腕、太股なども、ことごとく露出度が高い、パールホワイトにライトグリーンのラインで縁取られた明るい配色のワンピースに身を包んだ少女……

そう、『小春とフルール』のフルールである。

「アレは確か、彩芽の好きまアニメのキャラクター……え、じゃあ今までの変な人も全部アニメとかのキャラクターだったんですの?」

闇雲に探しても埒が明かないので、とりあえずアリサはフルールに近づいていくことにした。


666 : 名無しさん :2017/10/22(日) 21:48:56 ???
フルールらしき少女は、かなりの速足で遠ざかっていく。
何度も人込みに遮られ、見失いそうになりながらも、アリサは必死にその後姿を追いかける。
そして人気のない路地裏の空き地で、アリサはようやくフルールに追いついた。

「あの…ちょっとよろしいかしら?貴女、フルールですわよね?『小春とフルール』の……」
際どい衣装、ツインテールに結んだ金髪、グリーンの瞳…
…番組を直接観た事はないものの、かつて彩芽から聞かされた通りの見た目である。

「あなた誰?…どうして私の名前を…そんな事より、ここにいたら危ないわ!早く逃げて…『奴ら』が来る前に!」
「『奴ら』…?(…そうですわ、彩芽から聞いた話だと、確か小春とフルールの敵組織は…)」

「はっはっは…待っていたぞフルール!!我々は『猟奇的趣味を持ったフレンズの会』…略して『猟友会』!!」
……思ったよりヤバい団体だった。

「現れたわね『猟友会』!姿を見せなさい!…小春をどこへやったの!」
どこからか声はするが、敵らしき姿は見えない。空地の周囲のビルのどこかに潜んでいるのだろうか。

「ククク…君の大切な友人は、もちろん我々が大切に預かっているとも。
…ところで、そちらのお嬢さんは何者かね?ここには君一人で来るように言っておいたはずだが…」
「…この人は関係ないわ。すぐ帰らせるから、小春を早く解放して!」
話を聞く限り、小春はどこかに人質として囚われていて、フルールは…罠と知りつつ、敵地に一人乗り込んできたらしい。
…そして当然ながら、アリサは全くの部外者。双方にとって全く予定外な存在である。

「…さあ、ここは危ないから離れてて」
「まさか…貴女一人で戦うつもりですの?」
(…つい最近も、似たような事がありましたわね。魔法少女って、みんなこうなのかしら)
アリサも加勢したい所だが、人質が居るため下手な動きは取れない。
一旦素直に従うふりをして、気付かれないよう物陰から様子を見る事にした。

「では、ゲームを始めようか…と言ってもルールは単純。
君はただ、立っているだけでいい…30分間その場に立っていられたら君の友人は解放する。
その間……我が『猟友会』が誇る最強の狙撃怪人『ラクゴルゴ』の的になってもらう」
「な……!!」
(…狙撃ですって!?まさか…!)

(……ターン……!)
言い終わるが早いか、どこからか銃声が聞こえ…
「っ…う、あぁぁあああああぁっ!!!」

フルールの右肩から鮮血が勢いよく噴き出した。


667 : 名無しさん :2017/10/22(日) 22:58:27 ???
「うああぁぁぁぁっ!!う、腕…がっ……!!」
白い衣装が鮮血で染め上げられ、激痛に悶えるフルール。
彼女が立っているのは、ビルに囲まれた空き地の真ん中。
身を隠す物も何もなく、ただ立っているだけでは文字通り『いい的』だ。

「どうしたのかね?フルール君。確認しておくが、30分間『立って』いられなければ、このゲームは君の負けとなる。
そうすれば、君の友人は…クックック……!」
姿のない敵が、それを冷たく嘲笑う。

(なんて卑劣な……許せませんわ……!!)
友を救うため、悲壮な決意で乗り込んできた魔法少女一人に対して正面から戦いを挑む事すらせず、
見えない所から一方的にいたぶる卑劣な敵に、アリサは激しい怒りを覚えた。

(『猟友会』か何か知りませんけど…敵はおそらく、周りのビルのどこかに居る筈ですわ。恐らくそこに、小春さんも…!)
異世界に飛ばされてから、アリサは幸か不幸かこの手の輩の思考パターンがある程度掴めるようになっていた。
狙撃手はもちろん、姿なき声の主も必ずこの近くに潜んでいる筈だ。
理由は単純、フルールの苦しむ姿を自分の目で直接見て楽しむため。
何しろ彼らは『猟奇的趣味を持ったフレンズの会』なのだから…

敵の思惑が予測できた以上、取るべき行動は一つ。
(わたくしの存在は、敵も予想外のはず…フルールさんがやられる前に、小春さんを助け出さなければ…!)

(ズドンッ……!!)
「!!……うっ、く……!!」

二発目の弾丸に左太股を貫かれ、苦悶するフルール。
だが『ゲーム』のルール上、それでも絶対に倒れるわけにはいかない。
鮮血ほとばしる肩を左手で押さえ、右足一本で身体を支えながら、危険すぎる敵の前にその身を晒し続ける…
絶望のゲームが開始されてから、時間はまだ10分も経っていなかった。

(ヒッヒッヒ……まだ倒れねえとはな。そう来なくっちゃ面白くねえ…俺様の狙撃銃の装弾数は5発。
時間いっぱいかけて両手両脚をぶち抜いてから、ゆっくり止め(オチ)を刺し(ツケ)てやるぜ…!!)


668 : 名無しさん :2017/10/23(月) 01:20:56 ???
(バァン!)

「っぐ、きゃあああ!?」

続けて左肩を撃ち抜かれるフルール。
両肩に弾丸を喰らった彼女の両腕は、ダラリと垂れ下がったまま動かない。

が、え発の弾丸を見たことで、アリサは狙撃手の射角を大まかに掴んでいた。
大まかな位置さえ分かれば、後は狙撃に向く建物などを割り出せば、正確な居場所を探ることも可能……!

(見えましたわ!おそらく、敵の位置は……あの高層ビル!)

「フルールさん!もうしばらく辛抱していてください!」
「ぐぅ……!え、ちょっと貴女!?」

フルールの制止の声を振り切り、アリサは目星を付けた建前へ走る……!



「お?謎の金髪美少女がフルールから離れた?まぁ、俺様には関係ない話だ!次は右足を打ち抜く!」

(ッターン!)

「っっあ!ぐ、うぁああああ!!」

右のふくらはぎを打ち抜かれたフルール。が、これで倒れてしまっては、ゲームは自分の負けになってしまう。
悲鳴をあげる両足を根性で踏ん張らせ、フラフラながらも立ち続ける。

「へっへっへ……お友達の為に必死に耐えるか……健気だねえ……そういう健気な美少女をゴミクズみたいにぶっ殺すのが!最高に気持ちいいぜええええ!!」


ゲームが始まってから28分。そろそろトドメを刺そうと、標準をフルールの頭に合わせてトリガーを引くラクゴルゴ……!

カチン!

「あ、あれ?」

だがラクゴルゴの狙撃銃からは、間の抜けた金属音が響くだけで、一向に5発目の弾丸は発射されない。

「ば、馬鹿な……!この銃の装填数は5発のはずだ……!さっき一発一発込めながら確認した……!」

「それは私が説明するぜ!」


と、その場にいた明るい色の着物を着た茶髪の少女……小春がロープで拘束されながら声をあげる。


「あんたが弾を入れながら声に出して『ひとーつ、ふたーつ、みーっつ』と確認したタイミングで!私は『今何時なんだぜ?』って聞いたんだぜ!そしたらアンタは『4時だよ4時!』って答えたんだぜ!」
「そ、それがどうした!」
「ふっ……そしたらアンタは次に弾を入れる時に、『いつーつ』と数えたんだぜ!つまり!その銃の装弾数は最初から5発なんかじゃなくて、4発だったんだぜ!」
「な、なんだってー!?」
「落語の時そばを応用したんだぜ!お後がよろしいようで」

今、フルールは『30分経ったわ!早く小春を返して!』と猟友会に詰め寄っている。
猟友会幹部も、時間内にラクゴルゴがフルールを仕留められなかったことは予想外だったので、かなり慌てている。

「っく!この小娘が……!もう約束なんか知るか!せめてお前だけでも殺す!」
「え、ちょ、ここは大人しくフルールにやられてお後がよろしくなるべきだぜ!?」
「知るかー!悪役が大人しく約束を守ったら、別の意味でお約束を破ってるだろうがー!」

ヤケになったラクゴルゴが、拘束されたままの小春を殺害しようとその屈強な腕を振り上げたその時!


669 : 名無しさん :2017/10/23(月) 15:27:40 ???
「や、やめろー!命が!死んでしまうー!命がなくなったら生きていけないぜー!」

「落語家美少女!死ねえええ!」

「シュネル・リヒト!!」

「ぎゃああああ!!」


颯爽と現れた金髪の美少女剣士……アリサが、一太刀でラクゴルゴを斬って捨てる。

「し、しまった……!狙撃能力を上げて近接戦闘力を下げた弊害が、こんな所で……む、無念!
だが!例え俺を倒そうと、第二第三のハンターが現れる……!
猟奇的な趣味を持ったフレンズの会に栄光あれー!
ええと、あとは何かお約束の散り際の台詞は……」
「長いですわ!ヴァイスシュラーク!」
「お後がよろしいようでーー!」


断末魔の叫びをあげながら、ラクゴルゴはゆっくりと倒れていき……ドガーーーン!と派手な爆発を起こして木端微塵!

「え、ええ!?そんな、爆発するような技は使ってませんわよ!?」

「突如現れた謎の剣士……果たして彼女は敵か、味方か!?次回、魔法少女小春とフルール『乱獲はダメ!目黒のサンマを守り抜け!』来週も楽しみにしてて欲しいんだぜ!」

「貴女は貴女で何をおっしゃっているんですの!?ええい、とにかく!」

アリサは高層ビルの窓を叩き割ると、階下にいるフルールへ向けて大声で叫ぶ。

「フルールさん!お友達は私が保護しましたわ!もう遠慮はいりませんわよ!」

「……!どなたか存じ上げませんが、ありがとうございます!」

(あれ?なんでこんなに離れてるのに普通に声が届くんですの?)

アニメによくある謎の超視力と超聴力である。
ツッコミは野暮なのである。


670 : 名無しさん :2017/10/25(水) 01:28:42 ???
「ん"あ"あ"あ"あ"ああああッ…!!はぁッ…んぐぅう…!」
「もうお姉ちゃんったら!起きてって言ってるのに全然起きてくれない!寝ちゃダメだってば!」

いまひとつ反応が鈍いままの姉に、ユキは痺れを切らしていた。

「なら、これで起きてよお姉ちゃん!!ほら!!」

「んぎぃ!!?」

サキの全身から、新たに無数の針が"生えた"。
正確には、サキの身体に刺さっていた無数の針が一斉に伸びて、少女の柔らかな肉体を表から裏へ、文字通り"貫通"したのだ。

現実世界では死んでしまうため有り得ない激痛も、精神世界では感じることができてしまう。

「ん"ぎゃっ!ん"ごおあ"あ"ああああああ"あ"あ"あ"!!!」
(熱いっ!熱い"いいいい"っ!こんなのっ…耐えられなっ…!)

チューブによる拘束があっても激しく暴れるサキ。
虚ろになっていた目は大きく見開かれ、あまりの痛みに涙が滲んでいた。

「まだまだ、こんなもんじゃないよ!それそれ〜」

サキに刺さった長い針の1本を握り、グリグリと動かすユキ。
「あ"あ"ああああああ"っ!」
閉じかけていた傷口を強引にこじ開けるような動作は、サキに更なる痛苦を与える。

そしてユキは、ゆっくりとその針を抜き始めた。

「ぐぎぃっ!?ん"ん"ん"ん"ー〜ーッ!!」

「あははは、苦しそうに歪んだお姉ちゃんの顔、大好きだよ。でも大丈夫?まだ一本目だよ?」
「ん"ーーっ!ん"ん〜ーーっ!!」

「何言ってるかわかんないよお姉ちゃん…このチューブが邪魔だな」

口のチューブを一旦取り外そうとするユキ。

(…やっと来た…この瞬間っ…!)

その瞬間に、サキは最も簡単な詠唱でこの無間地獄から脱出するーー


「んぶぅ…シャドゔあ"ああああっ!」


ーーはずだった。

「もう、抜け目がないなあ。でも、そういうところが大好きだよ、お姉ちゃん♪」


詠唱は、ユキが強引に2本目の針を引き抜いたことで強制的に中断させられた。

「あぐううぅっ!ゔわあ"あ"ああああ!」
「この針はね、刺すときよりも抜くときの方がとっても痛いんだよ、だからね、大好きなお姉ちゃんのために、今から全部抜いてあげるね!」

グリグリ…ズボッ!ズリュリュッ!グッチャア…!

「うぎゃああああああっ!痛"っ!痛いッ!!やめて!もうや"めてえええええっ!!いや"ああああああ"あ"あ"ああああっ!」

最早詠唱どころではなかった。血が噴き出すのも構わず、ユキは嬉々として針を引き抜いていく。癒着した固形物が、一緒になって引きずり出されても気に留めずに。

「たくさん刺さってるから結構時間かかるなあ。2本同時に抜いちゃお♪」
…ズチュリッ!!
「い"や"あ"あ"あああああああああああああああああっ!!!」

サキの身体の中から出てきたさまざまなものが、白かった世界をグロテスクに彩っていく。
とっくに死んでいるはずなのに、とっくの昔に気絶しているはずの傷を負っているのに、
この苦しみから逃れることはできなかった。
経験したことのない激し過ぎる痛みを前にして、サキはただ、叫び続けるしかなかったーー。

「ふふふ、そうだよお姉ちゃん、どんなに苦しくても、気を失うなんて許さないからね♪」


その後数分間、悲痛な叫び声は聞こえ続け、やがて掠れて消えていった。


671 : 名無しさん :2017/10/25(水) 01:32:05 ???
「アリサさん、本当に助かりました!ほら、小春もちゃんとお礼を言いなさい!」
「助かったぜ金髪少女!お礼にラグゴルゴの奴の懐からかっぱらったコレをやるぜ!」
「……なんですのこれは?」

アリサが受け取ったのは、年端もいかない可憐な少女の写真だった。
辺り一面のお花畑で爽やかな笑顔をカメラに向けている。

「ふっ……それに写っているのは、ラクゴルゴの9歳になる愛娘だぜ。今頃は爆散した父親の葬式で滂沱の涙を流しているんだぜ……なかなか泣ける話だねえ。」
(……えっと……この場合、どうリアクションすればいいんですの?)
「嘘みたいだろ?あんなゴリラからこんな天使が生まれるんだぜ……?」
「小春!ED後のCパートを後味の悪い感じで終わらせようとしないで!」
「まったくわかってないんだぜ相棒……人生という道はいつだって波乱万丈玉石混合、愛憎渦巻く地獄への片道切符ってことをな……」

小春が着物の乱れを直しながら意味不明なセリフを吐いた途端、まばゆい光がアリサの目の前に現れた。

「え?え?なんなんですの?」
「偽りの物語(テレビアニメ)は仮初めの勝利(ハッピーエンド)で終わった……この世界の主も満足したようだぜ?迷える子羊ちゃんよぉ……」
「は?」
「あなたのおかげで私たちは1クールぶりに勝利を収めることができたんです。おそらくそれによってこの世界も幸せで満たされたのでしょう……この世界を構築していた一つの魂が、あるべき場所へ帰ったようです。」
「え?」
「まだわからないんだぜ?お前が終わらせたのはラクゴルゴの小さな命だけじゃねえ……私とフルールの長きに渡ってお届けしていたニッチなサービスシーンのループも途切れたってわけだぜ。」
「……はぁ。」
「つ、つまり……!アリサさんのおかげで私たちの敗北の物語がようやく終わりを告げたんですっ!」
「ふっ……これでも感謝してるんだぜ。こんな小春でも……残酷なる世界の意思(リョナシーン)じゃ、年相応に泣いたり叫んだり喘いだりしちゃうんだぜ……小春のゴーストが。」
「はぁ、そうですか。」
「とにかく、きっとあなたの目的は果たされました。これ以上ここにいるなら、いい意味で最悪!なので!レベルを上げて物理で殴りますよ!!!」
「ちょ、あなたまでちんぷんかんぷんなセリフを吐かないでくださる?もうわたくし頭がおかしくなって心臓が破裂しそうですわ……!」

フルールが七支刀を取り出そうとした瞬間、アリサの体は光に包まれ彼女の意識は終えた。


672 : 名無しさん :2017/10/25(水) 23:06:30 ???
「ふふふ……もう悲鳴も出せないくらい疲れちゃったのかな?」
「ぅ……ぁ……」

針責めによる悲痛な叫び声を数分間あげ続けたサキ。今はもう、声を出す気力もないようだ。

「やっと抵抗する力もなくなってきたみたいだね、お姉ちゃん♥」

完全にぐったりとして気力を失くした姉を見て、ユキはおもむろに自らのスカートを捲り上げる。

飾り気のない無地の純白の下着が、外気に晒される……が、無地のはずの下着は、まるで水玉模様かのようになっている……ユキの股座から流れる、愛液によって。

「お姉ちゃんがあんまり悲鳴あげるから、もうお股グチョグチョで我慢できないよぉ……♥」
「ぃ……やぁ………」
「あ、近親相姦とかは気にしないでいいよ!だって心の中の出来事であって、現実じゃないもん♪」

ユキが腕を振るうと、サキを拘束していたチューブと、水責めの副産物のプールは跡形もなく消える。
拘束を解かれたサキは、受け身も取れずに地面へドサリと崩れ落ちる。

一歩一歩、ゆっくりとサキに近づいていくユキ。その目はふしだらな欲望に染まりきっている。

(しめた!無防備に近づいてくれれば、その隙をついて何とか無力化できるはず……!ていうかもう、体力的にこれがラストチャンス!)

その状況でも、サキは諦めていなかった。性交は人間が最も油断するタイミング。ちょっと肌を合わせるのはこの際心の中だと割り切って、ユキが油断する瞬間を探る。


「あ、そうだ。お姉ちゃんにも気持ちよくなってもらいたいし……えい♪」

が、ユキが気合いを入れる声をあげると……サキのお腹の奥に、爆発でも起きたのかと思うほどの快楽が走った。

「んぁ!?や、ッッッ〜〜〜〜〜!??!?」
「アッハハハ!さっき水責めで飲ませたお水、お姉ちゃんのお腹の中で、全部気持ちよくなるオクスリに変えちゃった♪」

ユキの説明など頭に入らない。ガチレズ司教にされた魔力吸収を超える……頭がおかしくなるのではないかというほどの快楽の波に、サキはただ身体をビクンビクンと震わせることしかできない。

「うーん、聞こえてないかー。まぁ、でも……」

ユキは再び腕を振るってサキの服装を弄る。すると、サキの下半身の水着は綺麗さっぱり消え……切なそうにヒクつく、サキの秘所が露になる。

「やっぱり、まだ綺麗な身体なんだ、お姉ちゃん……ふふ、よかった♪」

乱雑に自らの下着も脱ぎ捨てて、サキの上に正常位で跨るユキ。

「ユ、ヒィ……だめぇ……わらひたち、姉妹らのにぃ……!」
「大丈夫だよ、お姉ちゃん……キョージュから貝合わせっていうの教わって、何回かスバルちゃんとやったから、きっと上手くできるから♪」

弱弱しく抵抗するサキの両手を押さえつけ……ユキはゆっくりと、自らの秘所をサキの秘所に近づけていく。


673 : 名無しさん :2017/10/28(土) 11:13:44 ???
「ちょ、ほんと、やめ……っぁああぁああ!?」
「あ、ふわぁあああ♥」

媚薬責めの直後に下半身同士をくっつけられ、思わず嬌声をあげてしまうサキ。それに対しユキは、恍惚とした表情を浮かべる。

「あ、ああ、お姉ちゃん!大好き!ほんとに大好き!チューしよ、チュー♥」
「や、ぁあ……んむ!?」

首を捩って逃れようとするサキに強引に顔を近づけて接吻するユキ。抵抗するサキの両手をがっしりと押さえつけ、濃ゆいディープキスを続ける。
口の中でユキの舌から逃げるサキの舌を絡めとり、息が苦しくなってくれば一旦口を離し、またすぐにディープキスを再開。それを幾度も繰り返す。

「んっ……ぷは!んふ、お姉ちゃんの唇、柔らかいね……オデコにチューとかはたまにしてくれたけど、やっぱり口と口でやらなきゃね♪」
「……………」
「あれ?どうしたのお姉ちゃん?ユキのキスにメロメロになっちゃった?」
「ユキ……最後の最後に、アンタは詰めを誤った……アンタの負けよ」
「え?何を言って……」

突如、ユキの身体から力が抜ける。そして、ゆっくりと力なく、サキの上に倒れこむ。

「あ、れ……?なん、で……」
「……ただの、魔力吸収よ」

ユキがサキにディープキスをしている時、サキもまたユキに魔力吸収をしていたのだ。
詠唱を必要としない魔力吸収は、傍から見たらただのディープキスと見分けがつきにくい。
受けた本人は魔力が減ったことやその際の衝撃、あるいはその後に襲い掛かる快楽で魔力吸収と分かるが……ユキの場合はやや事情が異なる。

「痛みを感じない戦闘マシーン……でもその分快楽を感じるビッチ……如何にもキモオタ教授のやりそうなことね」

今のユキは痛みを感じない。だから、魔力吸収をされた時の衝撃に気づかなかった。元々魔法を使わないのも、魔力が減ったことに気づかなかった一因である。
今のユキは快楽を人一倍強く感じる。だから、魔力吸収の快楽が姉に下半身を押し付けてキスしている快楽と混ざり気づかなかった。

教授の改造によって起こったサキとユキの戦いは、教授の改造が元で意外な形で決着がついた。
だが、もしも魔力吸収に気づいていたら……そもそもキスをしようとしなかったら、おそらくサキは快楽責めで堕ちていたかもしれない。

「ま、経験則としてレズはすぐキスしたがるから、今のユキに勝算が薄いわけじゃなかったけどね。でも、できればこんな運任せの戦いはしたくなかった……」
「は、ははは……そっか……余計なことして負けちゃったんだね、私は……」

互いが地に倒れ、かなり密着しながら話す姉妹。

「……アンタは戦いに向いてない。それは教授に改造されようと同じ」
「そう……かもね……スピカのリザも……余計なことして、殺し損ねちゃったし……」

ユキは自らの負けを悟る。が、ただで消えるつもりはない。
せめて、姉の心を傷つけ、この残酷な妹の姿を忘れないように……


「お姉ちゃん……今のユキはもう動けない……ここで殺せば、キョージュに作り替えられる前のユキに戻るだろうね……でも」

魔力を根こそぎ奪われ、気力も尽きかけたユキは、それでも嗜虐的な笑みを浮かべる。

「お姉ちゃん……例え元に戻ったとしても、心の世界で散々リョナってきた妹を、前と同じように愛せる?無理だよね?結局、今のユキをどうしようと、もうお姉ちゃんは一人ぼっちになるしかないんだよ……!」

ユキはサキを嘲笑う。
少しでも、姉の心に傷を残すために。


674 : 名無しさん :2017/10/28(土) 14:55:07 ???
「正直わけがわかりませんけど……フルールさん達を助けた事で、彩芽も助かったという事なのかしら?」
『小春とフルール』の世界を後にしたアリサは、薄暗い空間の中で、長い階段を上り続けていた。
遥か上方、階段の出口からは、まぶしい光が差し込んでいる。……あれが現実世界へと続いているのだろうか。

「…まあ、そういう事になるのかな…」
「彩芽……!」
…いつの間にか、彩芽がアリサの隣に立っていた。

「最初、沙紀たちに捕まった時は…まだ諦めない、
ボク達が力を合わせれば必ず何とかなるはずだ…って、思ってたんだ。
でも十輝星とかいう奴らに圧倒的な力で叩きのめされて、
みんな一人ずつ殺されて…ああやっぱりダメか、って思い知らされた。
ボクらなんかいくら束になったって、あんな化物みたいなやつらに勝てるわけない、って…」

その絶望が彩芽の精神に影響を及ぼし、『こはフル』世界も悪意と絶望とリョナラー気質に浸食されていたのだ。
実際の『こはフル』はあそこまでサツバツとはしていない…カオス感は若干薄まってた気がするが。

「……無理もありませんわ。わたくしだって、あの時は……」
アリサの表情が僅かに曇る。彼女もまた、あの夜の敗北で圧倒的な力の差に絶望し、
蘇生された後はノワールに身も心も支配されてしまっていたのだ。

「…この精神世界での亜理紗の戦い、ずっと見てたよ。やっぱりすごいな、亜理紗は…
あれだけの事があったのに、前と同じくらい…いや、前よりずっと強くなってる」
「…わたくしだけの力では、ありませんわ」
アリサが正気を取り戻せたのは、唯が必死に戦ってくれたおかげだ。
再び戦う力を取り戻せたのも、彼女たちを助けたいという強い想いがあったから。
そして今。アリサの戦う姿が、彩芽の心に再び希望の灯を灯そうとしていた。

「…彩芽、貴方は間違ってなんかない。
わたくし達が力を合わせれば、どんなに強大な敵でも、きっと道は開けるはずですわ!
…一緒に帰りましょう。みんなの所へ」

「そ…そうかなぁ…でも、ボクなんか本当に役に立つのかな。
亜理紗と違って戦闘力は一般人以下だし…それに篠原唯とか月瀬瑠奈とか、
あの魔法少女の…市松鏡花?とか、すごいリア充オーラを感じるというか…」

「え?そんなこと気にしてましたの?…今のって、それこそ『完全に和解する流れ』でしたのに」
渾身の笑顔で手を差し伸べるアリサ。躊躇する彩芽に、半ば呆れ気味の表情を浮かべる。

「いや、亜理紗はいいよ?顔とかめっちゃ可愛いしあの三人に全然負けてないし。
五人の戦士だか何だか知らないけど、ボクだけどうにも場違い感あるっていうか、ボクが混じると浮いちゃいそうっていうか……」

なぜか彩芽は自分の容姿に自信が持てない…というより、根本的に自分の容姿について認識違いをしているようだった。
アリサから言わせれば彩芽だって、ろくに外に出ないおかげか肌も色白で奇麗だし、
服装にさえ気を遣えばそれこそ唯達に負けずとも劣らぬ、紛れもない美少女だというのに。

「そういえば彩芽は、昔から人見知りでしたわね……大丈夫。唯達に会えばそんな不安、一発で吹っ飛ばしてくれますわ」

…現実に戻ったら、彩芽に服装や身だしなみについて、少しレクチャーしてあげよう。
(…わたくしの方が詳しい事が、一つくらいあってもいいですわよね)
アリサはそう考え、密かにいたずらっぽい笑みを浮かべた。


675 : 名無しさん :2017/10/28(土) 15:43:47 ???
「んー…三人ともウンウン唸って寝てるだけで、何が起きてるかよくわからんな。
教授が起きてれば、意識の中を覗いたりもできたのかも知らんが…」
王はモニター越しに様子を見ながら欠伸している。

「おや、アリサお嬢様が復活か……つまらん。誰か一人か二人ぐらい、失敗してくれたら面白いんだけどなぁ」

………………

「例え心の中がドス黒くたって、ユキが私の妹であることに変わりはないわ。……私の気持ちは、変わったりしない」
「………そう…それを聞いて安心したよ、お姉ちゃん。」
「アンタは、あのクソ教授に増幅された悪の心…だけど、まぎれもないユキの一部なのよね。
…せめて私がこの手で、止めを刺してあげる」

サキが手にしているのは魂を刈り取り封じ込める、魔の大鎌『ブラッディクィーン』。
その切っ先が、ユキの細い首筋に突きつけられる……。

………………

「フフフ……桜子お姉ちゃん、威勢だけは良かったけど…そろそろ限界かなぁ?」
全身を半獣化したスバルが、両手のツメについた血を嘗め取りながら妖艶な笑みを浮かべる。

「…はぁっ……はぁっ………ま……まだ、だ……!」

「うふふ…無理ちゃって。身体ぜーんぶをキョージュにカイゾーしてもらったスバルと、
右腕だけの桜子お姉ちゃんとじゃ、結果は最初から判り切ってるのに」

異形化した右腕を剣に変えて対抗していた桜子だが…
左腕は無惨にも喰いちぎられ、他も全身至る所に深手を負っていた。
現実世界なら、立っているどころか生きているのが不思議なほどの重傷だ。

「でも、そんなよわーい桜子お姉ちゃんをナブリモノにするの、サイコーにたのしー…!
もっと、もっとたくさん…えっちな悲鳴、聞かせてッ!!」
「ぐあっ!!っっ…くうっ!……あ、んっ…うああっ!!」
この戦いが始まってから、何度目になるだろうか。
目視不可能な圧倒的速度の連撃が、さながら黒い暴風のように桜子の周囲で荒れ狂い、血しぶきをまき散らす。
鋼鉄製の鎧も薄紙のように切り裂く改造魔獣の爪が、桜子の柔肌に幾重もの傷を刻みつけた。

「…うぐっ!……」
必死に耐えて反撃の機をうかがう桜子の首に、死角から何かが這い寄ってくる。
それは黒い蛇…否、スバルの尻尾。それは一瞬で首に巻き付くと、恐るべき力で桜子の身体を振り回し……

「いっくよーー。…そぉ、れっ!!」
「……きゃああああぁっ!!」
…スラムの壁に、思い切り叩き付けた。
ぐったりと動かなくなった桜子。剣に変形していた腕が、淡い光と共に元の姿に戻っていく。

「……あとはトドメをさしちゃえば、スバルの勝ち……だけど、まだまだ殺さないよ。
もっともっと、スバルを楽しませて……ふふっ」
桜子の喉笛に鋭い牙が突き立てられるが…スバルは直前で牙を収め、喉をぺろりと舐め上げる。
捕らえた獲物を、殺さずいたぶる…正にそれは、猫の習性であった。


676 : 名無しさん :2017/10/28(土) 17:51:50 ???
ガキッ!!ザシュ!!

「あはははは!スバルお姉ちゃんよわーい!ちょっとくらい抵抗してよ!!」

桜子にのしかかり、更なる攻撃を加えるスバル。
桜子はマウントポジションから逃れようと必死にもがくが、スバルは尻尾で桜子の片足を絡め取って決して逃がさない。
飛び散る血しぶきの中、スバルは桜子の太ももや股間に自分の股間をぐいぐいと押し付け、恍惚の表情を浮かべる。

「…これでわかったでしょ?桜子お姉ちゃんより、スバルの方がずーっと強いって。
お姉ちゃんは、もうスバルを守らなくていいんだよ。
これからはスバルがお姉ちゃんをこうして嬲って、リョナって、…ずっとずっと、可愛がってあげる」
みんなを守りたい。虐げたい。矛盾した二つの思いは、スバルの精神に深い闇を作り上げていた。

「スバル……そんな力なくたって、お前は以前から……私なんかより、ずっと強かった」
「…何言ってるの?お姉ちゃん…昔のスバルなんて、何の力もない、何もできない…ただのドレイだったのに…!」

スバルは桜子の意外な言葉に…と言うより、まだ意識があった事に戸惑い、追撃の手が止まった。
…その瞬間、桜子が突然上体を跳ね起こし、スバルに掴みかかる。

「この世界に独り堕とされて絶望していた私に…希望を与えてくれたのは、スバルだ」
二人が出会ったのは、王都のスラム街だった。
暴漢たちに襲われていたスバルを無我夢中で助けに入った時の事を、桜子は今でもはっきり覚えている。

「…サラ達と旅してた時もそうだ。お前の明るさが、私に…みんなに力をくれた」
「放してっ!…そんなの…力なんかじゃない。スバルには、桜子お姉ちゃんやサラお姉ちゃんが、
スバルのせいで無理して傷ついてるようにしか思えなかったよ…!」
桜子の手を振りほどこうとするスバル。
だが、生身の…しかも腱を食いちぎったはずの左手で掴まれているのに、
その力は魔獣の力をもってしても振りほどけない程強い。

「なんで…桜子お姉ちゃん、ボロボロだったのに……どうして、こんな力が」
「スバルにもいつか……友達や、大切な人が出来たら…きっと、わかる」
瀕死の桜子は、逆にスバルを押さえこんだ。…精神世界では文字通り、心の強さが力を生み出す。
桜子を支えているのは言うまでもなく、スバルを助けたいという強い想いだった。

「…だから、流されちゃダメだ、スバル。誰かをただ傷つけるような力になんて……!」
(なんて力……桜子お姉ちゃん、怒ってる……怖い…!!)
桜子はスバルの身体を脇に抱え、体勢を低くする。

「もし私が元の世界に帰れたら…スバル。お前を連れて行きたい。…私は、スバルの家族になりたい。
だから……もし家族が間違った道に進もうとしているのなら……私が全力で、止める!」
「…ひっ…!!」
異形の力を持つ右腕が振り上げられ、形を変えていき……渾身の力を込めて振り下ろされた。

(ばしーーーーん!!)
「いっ……ぎゃあああああああああ!?」
桜子の右手は変形し、巨大な手のひらとなってスバルのお尻を思いっきり叩いた。

「悪い子!」(ばしーん!)「きゃぅぅ!!」
「悪い子!」(ばしーん!)「んひいっ!?」
「悪い子!」(ばしーん!)「あああん!!」

「ごっ…ごめんなさいっ!桜子お姉ちゃん!スバルが、悪かったよぉ!!」

アリサやサラを傷つけ、皆に心配を掛けた『おしおき』。
その痛みは、スラム街で受けた数々の暴力や教授の実験などのどれとも違う、不思議な温かみを伴っていた。


677 : 名無しさん :2017/10/28(土) 20:22:15 ???
「……ユキ、包帯を取るわね。慌てないで、ゆっくりと、目を開けて……」
「う、うん………!!………見える……見えるよ、お姉ちゃん……!!」
「サキ様、ユキ様……本当に良かった………!」
「ふふふ。…よかったね、ユキちゃん!お大事に!」
(レイズデッドの三連発は初めてだから、さすがに魔力が切れそうだけど…)

…ユキはミライの治療を受け、毒で失った視力と顔の火傷から回復した。
その間に……

「サクラコ!スバル!…よかった、無事だったのね!!」
「サラお姉ちゃん!」
「心配かけてすまない。…私たちはもう大丈夫だ」

桜子とスバルが意識を取り戻し…

「そっか、彩芽ちゃんもこはフル好きなんだー!実は私、小春のストラップがダブってるんだけど…」
「え、ちょ、マジで!?うわー、これ絶対元の世界帰んなきゃ!よーっし、やる気出て来た!」
「ちょっと彩芽!唯!二人で盛り上がり過ぎですわ!
…というか、あんなわけのわからない話がなぜここまで支持されてますの!?」
「うーん。私もアニメはあまり観ないけど…魔法少女物か……」
「…落ち着いてアリサ。(とは言え確かに…あんな意味不明なアニメのファンが唯以外にもいたなんて。
おまけに同じ運命の戦士…ただの偶然とは思えないわ……!)」

……彩芽は唯達とすんなり打ち解けていた。ちなみにただの偶然である。

「……どうやら片付いたみたいね」
見張りに立っていたリザが研究室に入って来ると、場が一瞬にして静まり返り、緊張した空気が漂う。
それも当然…この場に集まった少女たちは、もとはと言えば敵味方の関係。
今この場で、先ほどの戦いの続きが始まったとしてもおかしくないのだから。

「それじゃさっきの続き…と言いたい所だけど…私はこれから休暇の予定だから、失礼するわ。
篠原唯…次に会った時は、容赦しない」
リザは唯達を一瞥すると、研究室を出て行った。

「…へえ。アイツが、そんな融通効かせるなんて意外ね…
私もミライをシーヴァリアに送り返して、それから母さんに…ええと。
とにかく色々、忙しいの。せいぜい他の十輝星や兵士どもに捕まらないようにすることね」
サキもユキを連れて立ち去ろうとする。

「ええー?私、帰る前にお土産とか買いに行きたいんだけどなぁ…」
「ミライ…あのリザですら空気読んだのに…後で買いに行かせてあげるから、今は黙ってて」
ミライは空になったタンクに代わり、いつの間にか大型のリュックサックを背負っていた。


「…サキ様。ミライさんなら、私が送りますが…」
「舞さん。ミライお姉ちゃんは、私たちが直接送ってあげたいの!」
「そういう事。それに……舞、アンタは元々異世界の人間。もう一回、よく考えなさい」
「わかりました…では、ご不在の間はいつも通りに」
首輪の支配から解放されても、変わらずサキに仕え続ける。
…何と言われようと、舞は自分の考えを変えるつもりは無かった。だが…

「ねえ、お姉ちゃん。もう一回、ちゅーして、ちゅー…!」
「はいはい。もう、仕方ないわね…んっ……」
舞はこの時、サキとユキの醸し出す雰囲気に…ほんのわずかだが、違和感を感じていた。


678 : 名無しさん :2017/10/28(土) 23:37:44 ???
「彩芽さん、早速ですが、貴女の力を貸してもらえませんか?」
「えーと、確か君は市松鏡花……ていうか、敬語は止めてくれ、こそばゆい」

再び集結した五人の戦士。そこで鏡花は、ぶっちゃけちょっと忘れかけていた本題……装着者を意のままに操るダークアウィナイトを付けられた捕虜の魔法少女たちが、解放と称してルミナスへ送られそうになっていること。
そのことを何とかルミナスへ伝えたいことを彩芽に話した。


「もう一刻の猶予もないの……!今この瞬間にも、魔石に操られたカレラさんが、フウコやカリン……水鳥を傷つけているかもしれない……!」
「彩芽、機械に詳しい貴女なら、何とかここからルミナスへ連絡できないかしら?」
「彩芽ちゃん!お願い!ルミナスのみんなを救って!」
「うーん、そうしたいのは山々だけど、時間がかかり過ぎる……データバンクにハッキングして、ルミナスのサーバーを見つけて、メッセージを送るか……?」

彩芽は脳内でいくつかルミナスへメッセージを送るシミュレートをするが、こんな敵地のド真ん中でやるには時間がかかり過ぎる。
雑兵くらいなら仲間達が守ってくれるだろうが、まだ城内に王下十輝星が残っている可能性も高い。せめてもう少し安全が確保できれば……

何気なく彩芽が周囲を見回すと……気絶している教授にトドメを刺そうとしているサラ、桜子、瑠奈の姿。スバルは桜子の傍らにいる。

ちなみに、アトラは気絶させた張本人であるリザが去り際に一緒に運んでいた。

「んん……?あ、そうだ!みんな!その変態にトドメを刺すのは少し待ってくれ!そいつを人質にして、作業中の安全を確保する!この部屋は使えそうな機械も多いし……よーし、やれるぞ!」


◆◆◆

「……アトラ、ここに置いとくよ」
「うーんむにゃむにゃ、いっそのこと鏡花ちゃんとリザで両手に華作戦もいいかも……」

幸せそうに寝言を言っているアトラを廊下の片隅に横たわらせ、リザはやっと休暇に入る。

(まずは隠れ里に行って、長老様にあの時の様子を聞こう……あの怪しい男の情報が掴めるかも)

リンネの幻覚で昔の出来事を追体験して、一つだけよかったこと……それは、当時の幼さ故に忘れていた、怪しげなサングラスの男の存在を思い出せたこと。

(そう言えば、最近アイナやエミリアと会えてないな……調査が早めに終わったら、またみんなで一緒にお菓子でも食べたいな……)

◆◆◆


「えー、というわけで、アイナにはミツルギへ行ってロゼッタの手伝いをしてもらう。例の執事アルフレッドとぶつかるかもしれんから、気をつけて行けよ」
「合点承知の助!最近出番が少なめでしたから、ここでガッツリ目立ってリザちゃんに並ぶ人気キャラにのし上がりますわー!して、リザちゃんはどこに?シーヴァリアからは帰ってきたと聞きましたが」
「ああ、アイツは休暇で3日ほどトーメントを離れるらしい」
「な、なんと!少女漫画のジレジレ展開かのようなすれ違い!急いで連絡して、せめて出発前の挨拶だけでも……!エミリアちゃんにも教えてさしあげなければ!ということで、失礼しますわ、王様」


679 : 名無しさん :2017/10/29(日) 21:47:55 FlyynNeY
トーメント城を離れ、サキとユキに見送られ、シーヴァリアへと帰る……前にお土産屋を物色するミライ。

「うーん、パパとママにはトーメント饅頭、リリスちゃんにはハーラーブレッド、エールさんにはクッコロポックル人形、ジン君にはこのスケベーカリー……あとは学校のみんなに配る用の……」

ミライは既に結構な量を買っていたが、一店だけでは物足りない。あとお土産だけではなく、ちょっとくらい観光もしたい。

「ねーサキちゃんユキちゃん!何かこう、トーメント王国に来たならこれ!みたいなのってないかなぁ?」
「……ないことはないわよ」
「え、本当!?教えてサキちゃん!」
「まぁまぁミライお姉ちゃん、あんまりお店の中で教えることでもないし、一旦外出ようよ」
「あ、そっか。お店の人の前で別のお店の話したら失礼だもんね。ユキちゃんはしっかりしてるなぁ」

中身が半分ほど埋まったリュックサックを背負うミライは、2人に連れられて外に出る。

「それで、トーメントに来たならこれ!っていうのって何かなぁ?」
「そうね、私としては料理人が(女の子を殴る予行演習として)牛肉を叩きまくって焼いたサーロインステーキがお勧めね。土産物には向かないのが難点……」
「アハ♪何言ってるの、お姉ちゃん?ミライお姉ちゃんみたいな可愛い女の子がトーメント王国に来たらやらなきゃいけないことなんて、一つしかないよ?」

と、ユキがサキの言葉を遮って声をあげる。ミライは、なぜかその声を聞いた時……悪寒が走った。

「トーメント王国に来たなら……リョナられないと♪」

ユキはすさまじいスピードでミライに足払いをかける。

「んきゃ!?ゆ、ユキちゃん?」
「ユキ、何を……!?」
「お姉ちゃん、『手伝って』?」

ユキが瞳を怪しく光らせて、サキに命令する。

「サキちゃん!たすけ……!」
「ったく、しょうがないわね……とりあえず気絶させて、人気のない場所に運びましょうか」
「え!?さ、サキちゃん……!?」

今さっきまでユキの突然の凶行に面喰っていたサキが、突然『それが当たり前』かのような態度を取ってミライはさらに戸惑う。
サキのその瞳は、どこか虚ろになっていた。

精神世界において、ユキはキスに夢中になってサキの魔力吸収に気づかなかった。
だが、消耗していたサキもまた、ユキがキスをしながらサキに『保険』をかけていたことに気づかなかったのだ。

ユキはおもむろに、サキのシャツとスカートに手をかけると……バッ!と一気にへその辺りを露出させる。そこには……


「『恭順の刻印』……もうお姉ちゃんは、私がしてって言ったことには絶対に逆らえない」

『隷属の刻印』に比べると支配力は弱いが、その分露見しにくく、解呪の難易度も高い……そう、邪術である。

「ふふふ……キョージュやスバルちゃんにだって隠してた秘密だよ……ユキが邪術を使える、なんてね?」


680 : 名無しさん :2017/10/30(月) 00:11:55 ???
「ほう。あいつら、教授を人質に取るつもりか…可愛い顔して、やる事エゲツないなあ。ヒヒヒ…」
「しかし……万一殺されたとしても、王の能力で蘇生できるのでは?」
「…以前お前らにも言ったが、こんな事で殺られるようなら、俺様の協力者になる資格はない。
つーか男は生き返らせるのヤダ!なんか気持ち悪い!」

…以前王が唯にだけ話した所によれば、この世界は未知の技術によって作られたゲームの世界で、
王の蘇生能力『ロード・オブ・ロード』も実はゲームの機能の一つらしいのだが…
具体的に何をどうやって蘇生しているのかは謎である。男を蘇生するのはなんか気持ち悪いらしい。

「あ、そういえば教授は確か、この後水着回ビデオの編集作業をするって言ってましたね」
「言ってたなー。編集前の映像データを焼いたDVDは、さっきアトラが返してたから、今は…」
「「あの研究室に…?」」
「……よし、教授救出作戦を開始するぞ!何としても我らの同志を救出するのだ!!」
「はっ!王下十輝星『プロキオン』の名に賭けて必ず!」

彼らの結束は固い。

「と言っても…アトラは気絶。アイナとフースーヤはそれぞれ任務の準備中。
リザは休暇で、サキも…さてさて。誰を動かそうかなァ……アイベルトならどうだ?」
「……アイベルトは…なんというか、単独で動かすのはすごい不安なんですが」
「一応先輩なのにヒドい言いようだな…まあ例えアホの童貞野郎でも
腕が立つのは確かだし、とりあえず呼びだしてみてくれ」
王の言い草も大概であった。


681 : 名無しさん :2017/10/30(月) 01:04:41 ???
「い、いや!誰か助け――――ガハ!?」

逃げようとして立ち上がったミライの腹部に膝蹴りをお見舞いするサキ。しかも、それは一発では終わらない。

「ぅ、ごほ!?ぁ、が!ゃ、ああ!――――ごふぁ!?」

二発、三発四発……最後にローファーのつま先をお腹にめり込ませ、やっと蹴り責めは終わりを告げる。

「ぅ……あ……サキ……ちゃ……ん」

そのままドサリと気絶するミライ。いくらミライが天才ヒーラーで魔法での戦闘もできるとはいえ、ソウルオブ・レイズデッド三連発で魔力切れの彼女にできることなど何もない。

「じゃあお姉ちゃん、ミライお姉ちゃんのリョナをオカズに、2人で気持ちいいことしに行こっか!」
「まったく……急に元気になっちゃって……」

認識を歪められたサキは、この状況の異常さなど考えもせずにミライを背負い……ユキと手をつなぎながら、人気のない裏路地へと消えていった。


◆◆◆



「ええ……美少女に捕まった変態マッドサイエンティストを助けるのか……?逆なら大歓迎だけど……」

王とシアナに呼び出されたアイベルトは、案の定というか、やる気を示さなかった。

「まぁそう言うな、救出過程で五人の戦士をいくらリョナってもいいぞ」
「まぁ確かに俺様ほどの男になると、未来視が効かなくて相性の悪い異世界人をリョナることは容易だが……」
「アイベルト、教授が何でも言うことを聞かせられるチョーカーを発明したのは知ってるよな?それを唯ちゃんたちに着ければ、無理矢理『お兄ちゃん大好き!』って言わせることもでk」
「この俺は決して!決して仲間は見捨てない!待ってろ教授!今助けに行くぜーー!!うおおおおおお!!」

急にやる気を出して教授の部屋へ走っていくアイベルト。年下の美少女にお兄ちゃんと呼ばれたいという欲求が、アイベルトの力になったのだ!

「シアナ……アホの扱い上手くなったな」
「まぁ、いつもアトラと一緒にいますから……」


682 : 名無しさん :2017/10/30(月) 17:11:54 ???
「オラオラー!この変態の命が惜しかったら、これ以上近づくんじゃないわよ!」

瑠奈は教授の研究室の前で、気絶している教授の首根っこを掴みながら駆けつけた兵士たちを牽制していた。

「な、教授が人質に!?」
「ど、どうする?教授がいなかったら追加の教授ガチャ引けねえぞ!?」
「教授は我らエロ寄り派閥の要……!ここで失うわけには……!」
「お願い、死なないで教授!アンタがここで倒れたら、エロエログッズ作るっていう約束はどうなっちゃうの!?」
「次回、教授死す!」
「お前ら馬鹿なこと言ってねえで教授助けろよ!」
「いやでも、実際どうしろと……」

教授救出に駆けつけたものの完全に攻めあぐねている兵士たち。ヒソヒソと相談する兵士たちを見て、瑠奈は釘をさすことにした。

「ちょっとでも不審な動きを見せたら、コイツをぶっ殺すわよ!特にカメレオン系の連中!」

透明化能力のあるカメレオン系の魔物兵……先ほど彼らに痛い目……いや恥ずかしい目に遭わされたおかげで、その辺の警戒も抜かりない。


「瑠奈……これではどちらが悪役か分かりませんわ……」
「アハハ……瑠奈は相変わらずだなぁ」
「とにかく、この隙にルミナスへ連絡しないと……」
「ああ、今変態のパソコンのパスワードを解析してる!く、流石にセキュリティ堅いな……」

アヤメカのない状況でのハッキングは困難らしく、教授のセキュリティを破るのに苦戦中の彩芽。
もうしばらく時間がかかりそうだが……


「一時はどうなることかと思ったけど、なんとかなりそうね」
「ああ、ルミナスへの連絡が済んだら、変態を人質にしたまま城の外へ逃げ出せる……スバル、やっとまた皆で旅ができるぞ」
「あのね、お姉ちゃんたち……そういうの、フラグって言うって教わったんだけど……」

スバルのその言葉を合図にしたかのように……どこからか、ギターの音……のラジカセ音が聞こえてくる。

「な、なんだこの音は!?」
「見ろ!通路の奥から、誰か来るぞ!」
「な、なに!?」

ざわざわと騒ぐ兵士たち。ラジカセ音は段々と近づいてくる。そして、音の正体がゆっくりとその姿を現した……!

「るーらららー、なんたらかんたら〜」

ラジカセ音源のギターをBGMに、ヘッタクソなうろ覚えの歌を歌いながら、通販でギターと間違えて買ったウクレレを、適当に手首を上下させて弾くフリだけしながら現れたのは……!


「あ、あなたは……王下十輝星、ベテルギウスのアイベルトさん!」
「ギター弾きながら登場とか、石ノ森漫画かよ!」
「いや、あれラジカセで誤魔化してるけど弾くフリじゃね?」
「というかギターじゃなくてウクレレじゃね?」

兵士たちの至極常識的なツッコミが入るが……

「ふ……今の俺様、最高にキマってるぜ……!」

完全に自分に酔っているアイベルトの耳には入らなかった。

「あの男は、以前私とサクラコをいたぶってきた王下十輝星……!」
「く、最悪な相手だ……!だが、あんなにその……アレな奴だったか?」
「よく考えれば、一回いたぶられただけで、素の性格は全然知らなかったのよね……」


「ふ……まだキャラが固まってない登場初期の行動は黒歴史になりやすい……が!一回会っただけの奴の記憶から生み出した偽物としての初登場ならば!その黒歴史に矛盾はなくなる!」

妙な電波でも受信したのか、カッ!と目を見開いて行動、言動全てが黒歴史まっしぐらの男が宣言する。

「すげぇ!言ってることの意味は全然わかんねぇけど、自信に溢れてるってことは伝わってくるぜ!」
「アイベルトさん!やっちゃってください!」
「さすアイ!」

「ふ……よせやい、そんなに褒め称えるなよ……」

カッコいいから、という理由だけで着けているマントをバサッ!と翻して決め顔をするアイベルト。

「え、ええ……何あれ……」


683 : 名無しさん :2017/11/02(木) 03:04:22 ???
一方。トーメント王国の首都「イータブリックス」は、街を挙げてのハロウィンパーティの真っただ中であった。

「…てなわけでエミリアちゃん!まだリザちゃんは王都にいるはずですわ!
リザちゃんがどっかに出発しちゃう前に、何としても探し出しますわよ!」
「リザちゃん、帰って来てたんだね…!折角の休暇なら、私も少しくらい一緒にいたいし…もちろん協力するよ!」
アイナとエミリアは、リザを探すため繁華街にやって来ていた。

「王都『イータブリックス』…久しぶりに帰って来たけれど……前にも増して、闇の色が濃くなっているようね」
時を同じくして、紫色の瞳と長い髪の、気だるげな雰囲気を持つ女性が一人。
「ロゼッタ…帰って来てたんだ」
「リザ……相変わらず、運命に抗っているようね…」
ハロウィンでにぎわう街中で、『同僚』とバッタリ出くわしていた。

「リザちゃーーん!探しましたわよ!(シュバババババ)…あらロゼッタ、ずいぶん久しぶりですわね」
「まってアイナちゃーん!(シュバババババ)…あ、リザちゃん、お疲れ様!」
「聞きましたわよ!せっかく休暇を取ったというのに、アイナ達に何も言わずにどこかに行くなんて…
引き留めるつもりはありませんけど、その前にちょっと位アイナ達と遊んでくれても罰は当たりませんわー!」

こうしてリザ、アイナ、エミリア、ロゼッタの4人は、
魔物化した王都の住民たちによる『リアルモンスターハロウィン』で遊ぶことになった。

「…アイナ。私、まだ遊ぶとは一言も言ってないんだけど」
「まあそういわず、ですわ!…ロゼッタなんて、まだ連れてくとは一言も言ってないのに来る気満々ですわよ?」
「運命が私に告げている…ここでハブられるべきではないと(特に意味は無いけどシュバババババ)」
「まあまあ、リザちゃん…みんなで行けば、きっと楽しいよ?」

こうしてリザ、アイナ、エミリア、ロゼッタの4人は、
魔物化した王都の住民たちによる『リアルモンスターハロウィン』で遊ぶことになった。

「ハロウィンって言ったら、やっぱりコスプレですわね!
…こないだネットで観たアニメで、リザちゃんに似合いそうなキャラが居ましたのよ!タイトルは確か『小春と」
「コスプレ衣装なら任せろーーー!!(シュババババババ)ダーークストレージ、オープゥン!!」

こうしてリザ、アイナ、エミリア、ロゼッタの4人は、
魔物化した王都の住民たちによる『リアルモンスターハロウィン』で遊ぶことになった。

「…あれ?衣装提供者である俺様の名前が追加されない!?
 輝ける青春の紅騎士こと王下十輝星『ベテルギウス』のアイベルト様が…これは一体どういう事だ!!」

「衣装だけ借りたらバイバイする予定だからですわ?」
「ええええ……いや、そこは常識的に誘うフリくらいはする物じゃん?
最悪誘わないにしても、その場合は普通借りること自体断るじゃん?君たち追いはぎか何か?」
「……どんなに抗おうとも…変えられない運命もある、という事」
「…そこまで言うなら仕方ない。俺様の全力ドゲザ……とくと見さらせやぁぁぁあああ!!」

「……。」
「…………。」
「先にダークストレージ開けてなきゃ、交渉の余地があったかもしれませんのに…そこが実にアホベルトですわね」
「オーソドックスに魔女コスも良いけど、迷うなぁ…折角4人もいるんだし、お揃いの衣装とかも…
あ、見てアイナちゃん!●リ●ュア全種類揃ってるよ!!」

「アイベルト……電話なってるけど…いいの?」
「…黙れリザァッ!!…お前らが
『アイベルトさん、一緒にハロウィンパーティしましょ!
ちょっと恥ずかしいけど……私のコスプレ、見て……うふっ!』って言うまで、
このドゲザはエンドレスッ!アーーンド…エターナァル!」
「…わかった、黙ってる」


「王様、アイツぜんぜん出ません」
「…あんのクソ童貞が……(ピキピキピキ)」


684 : 名無しさん :2017/11/02(木) 03:07:43 ???
「……え?いやちょっと待って。なんで俺↑にも登場してんの?むしろ俺なんで今ここにいるの?」
「いや、私(兵士A)に聞かれても……↑はハロウィンって言ってますし、
時系列的にちょっと前の話なんじゃないですか?結局王様に怒られて、諦めてこっちに来たとか」

「ちょっと前って…いやいやいや!諦めんなよ俺!もっと熱くなれよ俺!!どうしてそこで諦めるんだよ俺!!」
「だから、私(兵士A)に聞かれても……」
アイベルトは壁やら床やらに何度も頭を叩きつけながら、血の涙を流して咆哮する。

「一体何なのアイツ…妙な動きしたら人質ブッ殺す!って言ってるのに、さっきから妙な動きしかしてないわ」
「油断しないでルナ!私が以前戦った時は、アイツに手も足も出なかったわ…武器も魔法も、相当の使い手よ!」
「何ですって!?……それは本当なの!?」
教授の首をぐりぐり締め上げつつ周囲を威嚇する瑠奈。兵士たちの動きを警戒するサラ。
前衛に立つ二人も、突然現れた赤髪のアホな男にすっかり困惑していた。

「ああもう……完全にやる気ゼロだよ俺…いっそ教授の代わりに俺を人質にしてくんない?
ていうかむしろそっち側行きたいからぜひお願いします」
「本当に本当なの!?」
「…ちょっと自信なくなってきたわ」
サラの目が泳ぎ始めた。

「いいじゃんかよう……俺だってロリ巨乳のかわい子ちゃんにヘッドロックされながら
後ろからおっぱい押し付けられて、吐息とか体温とか至近距離で感じたいんだよう…」
「おっぱ……き、気持ち悪い言い方しないでよ!!…」
周りを警戒するあまり、いつの間にか瑠奈は「あててんのよ」と思われても仕方ないくらい教授の身体と密着していた。
恥ずかしさと気持ち悪さで、思わず教授の拘束を緩めてしまい……致命的な隙を作ってしまう。
「ひ、ヒヒ…今が好機!!ライトニングフィンガーッ!!」
「えっ…」
教授が手に仕込んだ超小型スタンガンを発動させ、股間を鷲掴み…いわゆるグレープフルーツクローに捕らえた!

(バチバチバチィィイッ!!!)
「ひぐ、あああぁぁぁあああっ!!!」
全身をビクリと震わせながら、一瞬にして膝から崩れ落ちる瑠奈。

「よしっ…今だ!!」
更にその一瞬の隙を突いて、アイベルトが動いた!!
「し、まっ……!」
電撃で身体が動かない…敵が来る…このままでは人質を奪われてしまう。
そうなれば魔物兵の集団も容赦なく襲ってくるだろう。
敵は何人、いや、何十人もいる。負けたらまた捕まってしまう……自分のせいだ。自分が油断したばっかりに……
一瞬、瑠奈の頭の中を様々な思考が駆け巡った。

だが身体が動かなければ為す術もない。赤髪の敵は、目の前で人質の教授を……
「……え?」
「あれ?」
……華麗にスルーして、瑠奈を抱えて兵士たちの方へ戻っていった。

「……ど、どういう事!?なんで私をさらったのよ!」
「えーと…あれ?いや、だって……目の前に臭くてキモい男と可愛い女の子が落ちてたら、自然とそうなるじゃん……?」
「私、あんなのにボロ負けしたのか……」
サラの精神が急速に削られていく。


「王様、話がややこしくなってます」
「…これだからクソ童貞は……(ブチブチブチブチ)」


685 : 名無しさん :2017/11/02(木) 16:46:02 dauGKRa6
「と、と、とりあえず形勢逆転だ!いいか深夜アニメみたいな量産型美少女ども!俺様に逆らうとこのパイオツカイデーの美少女が股間にクる断末魔をあげて地に倒れ伏すことになるぞぉ!」
「る、瑠奈あぁ!!」
「くっ……!唯、私のことはいいから!今は彩芽を守ってあげて!」

「ひ、ひヒ、ヒヒヒ!た、助かったぞアイベルト……あやうくあいつらとの逆ハーレム展開が起こって私がこの物語の主人公になってしまうところだった。」
「そんなクソ展開になるわけねぇーだろ!あ、でも俺様も↑で2人になったみたいな感じになったし、むしろなんでもありか?」
瑠奈を捕まえながらぼんやりと呟くアイベルト。そんな彼の腕の中で瑠奈は必死に抵抗していた。

(くっ……!すごい力!この私が全力で抵抗してるのに……全然動かない……!)
「フッフッフッ……ルナティックちゃん。いくら君が空手黒帯でも所詮は女の子なんだよ。成人男性のたくましい肉体のパワーに勝てるわけないだろ?無駄な抵抗はやめておきな!」
「ぐ……!勝手に人の名前を狂気的にするんじゃないわよ……!あんむぐっ!!!」
「ギャーーーーー!!!」

窮鼠猫を噛むという言葉通り、腕の力では勝てないと悟った瑠奈は、文字通りアイベルトの腕に思い切り噛み付いた!

「ぐ、こ、このクソ野郎!あ、女の子だった。このクソアマァ!!なにしやがる!」
「ふん!余裕こいて私をナメてるからそうなるのよ!こいつはもらっていくわ!」
「ひえええええ!!!」

噛みつきによってアイベルトの拘束から一瞬で抜けた瑠奈は、素早く教授を再確保して唯たちの方へと舞い戻る。
これも運命の戦士たる所以か……と、アイベルトはギリリと歯ぎしりをした。

「くっそぉ!また美少女がマッドサイエンティストを捕まえてやがる!普通逆だろ!!!」
「あ、アイベルト……!こ、これは……これはまずいぞ……!」
「わかってるわ!ちょっと黙ってろすぐ助けてやっから!」
「いや、そうじゃない!し、しばらくこのままでいたいんだ……!せ、背中に、お、お、おっぱいの感触が……!」
「……もうその手には乗らないわよ。絶対にアンタは離さないわ!」

一応補足しておくと、教授は脱出しようとして言っているわけではない。ただただ瑠奈の胸の感触に浸っているだけである。
だが瑠奈はその手には乗るまいと、さらに教授の体を自分の体に押し付けた!

ぎゅむう……!
「んヒャほおおおおおォ!!!や、やめろぉっ!私には彩芽という許嫁がいるというのにいいィィィ!!!」
「ぬあああちっくしょう!見てるだけでも……ううう羨ましすぎて興奮してきちまうわ!お、俺様ももっと弱ければ美少女に捕まれたのによぉ!」
「……こ、こいつら……真性みたいね……!」
「瑠奈!大変かもしれないけどそのまま敵の足止めをお願い!もうすぐこっちは終わりますわ!」
「あぁ……い、意外と簡単そうだから、そんなに焦んなくてもいいかもしれないわよ……」
瑠奈の声は、とても乾いていた。


686 : 名無しさん :2017/11/02(木) 18:57:27 ???
「ク、女の子に捕まらない自分の強さが恨めしい……!こうなりゃヤケだ!教授のチョーカーで『お兄ちゃん大好き!』って言わせて抱きつかせておっぱい押し付けさせてやるうううう!!」
「ま、待てアイベルト!そりゃ最終的には助けて欲しいが、もう少しこの感触を楽しみたい!」
「そんな羨ましいことさせる訳ねえだろぉ!?おい、兵士たち!チョーカー持ってたら俺にくれ!」
「あ、そう言えば先ほどリゲル様から『もういらないから教授に返しといて』って預かりましたよ」
「よこせぇ!っしゃ!これで念願の義理の妹ゲットだぜえええ!」

兵士Aからチョーカーをふんだくると、完全に暴走して瑠奈へと突っ込んでいくアイベルト。

「それ以上近寄ると、私がこの男の指を折るわよ!ルナ、しっかり押さえていて!」
「サラさん……その、できれば代わってもらえるとありがたいんですけど……」
「や、やめろぉ!逆リョナとか需要ないぞ!ただむ、胸を押し付けてもらうだけでいいんだ!」
「喰らえぇ!パワーストーンの名前をもじって適当に名前付けたら、後から宝石系のキャラが出てきて微妙にソイツの技と名前が被ってしまった魔法!スモーキングクォーツ!」
「ええ!?何その詠唱!?」

アイベルトの滅茶苦茶な詠唱に、後方でカメレオンなどの透明な敵の奇襲を警戒していた鏡花が思わずツッコミを入れた直後、その場が煙幕に覆われる。

「し、しまった!これでは周囲が……!」
「うおぉおおお!おっぱぁああああい!これは下ネタじゃなくてSAOのOPの空耳なんだからね!」
「っきゃあああああ!?」

おっぱいセンサー(要するにカン)によって正確に瑠奈の位置を当てたアイベルトは、煙幕の中、教授救出を無視して瑠奈にチョーカーをかける!



煙幕が晴れると、教授は後ろから蹴っ飛ばされたようなポーズで兵士たちの所におり、アイベルトは瑠奈をお姫様抱っこしていた。


「お兄ちゃん大好き♪首元に抱きついて、おっぱいギューってしてあげるね♪」
(い、いや!なにこれ!?身体と口が勝手に……!)
「ひぃいいはぁあああああああああ!!ッベー!生きててよかったーーー!!」
「おっぱいギュー、おっぱいギュー♪どう?柔らかい?お兄ちゃん♪」
(おえぇええええ!気持ち悪いぃいい!兄貴にこんなこと言う妹がいるわけないでしょお!?)


687 : 名無しさん :2017/11/03(金) 02:12:27 dauGKRa6
「ど、どうしよう!瑠奈がおかしくなっちゃったよぉ〜!」
「えへへ……瑠奈、お兄ちゃんに抱っこされてると、あったかくって安心するなぁ……」
(おええエエ!!!あたし何言ってんのぉ!?自分の台詞がキモすぎて吐き気が……!)
「おおう……!ルナティックちゃんの体は柔らかすぎて、オラの大事なとこが固ぐなってきたさぁ……」
「な、なんなのだその口調は!ええい、この私が楽しんでいたというのにぃ!そのおっぱいを返せぇっ!」
「きゃあッ!?いやっ、やめて!触らないでえっ!」
「や、やめろ!俺の可愛い妹に手を出すな!頭がいいだけのチンパンジーが!」
「な、なんだとおおおぉ!!!」
(もう……最悪……!)

瑠奈の取り合いを始めたアイベルトと教授。そんな2人の哀れな姿を運命の戦士たちは冷めた目で見ていた。

「瑠奈……大丈夫かなぁ……」
「あ、あの様子なら乱暴はされないと思いますわ……多分。」
「よし、できたぞ!アヤメカNo114!彩芽ドットコムの完成だ!」
「おおおおお!やるじゃないか彩芽!」
「……でも彩芽お姉ちゃん、なんで彩芽ドットコムなんていう名前なの?」
「それはね、この機械からメッセを送るとドメインが@ayame.comになっちゃうんだ。」
「なるほど……でもアヤメ、作ったメッセージはどこに送るつもりなの?」
「ふふん……それがここまで時間がかかった原因というわけだ!」

得意げに言い放つと彩芽は手元のマウスを高速で動かし、背景が黒のシステムに高速で何かを入力していく。

「特定した送り先は1番確実な相手……!もちろん、5代目ルミナスのリムリットが持っている、みまもりケータイだ!」
(みまもりケータイ……って子供用のやつじゃないのかしら……?」




カシャ!カシャ!
「う……ぁ……」
「やっぱりトーメントの名物って言ったら、ミライちゃんみたいな美少女がズタボロになってる姿だよねえ。」
「フフ……全く抵抗しないのもどうかと思うわよ、ミライ。他人のことはすぐ治すくせに、自分のことはどうなってもいいのかしら?」

裏路地に連れていかれ、サキユキ姉妹にリョナられているミライ。
先ほどまでお土産を買おうとワクワクしていた顔は、強く蹴られたせいで痛々しい青痣が右まぶたの上に出来上がっていた。

「ふ、2人とも……ひどいよ……!さっきまで仲良くしてたのに……どうして、こんなこと……」
「だから、これがトーメント王国では普通なの!ミライちゃんみたいな可愛くて弱い女の子は、あたしたちのおもちゃになってリョナられてもらわないとだめなの!」
「フフ……ねえユキ、縄で縛ってみるのはどう?手を上にして、胸を強調させるようにギュウッて縛り上げるの。」
「あ、いいね!この辺は暗くなるとホームレスのおじさんたちがよく来るから、目の保養にもなっていいかも!あ、それだけじゃ済まないか!てへぺろ♪」
「そうね……たとえリョナやら輪姦やらで死んだとしても、この辺ならすぐカラスか野犬が食べて綺麗にしてくれるわ。ウフフ……忘れられない最高の旅行になりそうね。ミ・ラ・イ♪」
「嘘……!そ、そんなのいやぁ……助けて……お母さん、お父さん……ジンくんっ……!」

弱々しく親友に助けを求めるミライ。だがここはあのトーメント王国。いくら彼女の思いが強くても、遠く離れたシーヴァリアにまで届くはずはないのだ……


688 : 名無しさん :2017/11/03(金) 11:44:07 ???
「むむむ……そうだ!チョーカーをもっとやるから、アイベルトは他の運命の戦士を妹にすればいい!彩芽以外なら好きにして構わんぞ!」
「いやだいいやだい!この妹属性を隠し持ってそうなロリ巨乳ちゃんにお兄ちゃんって言われたいんだい!」
「いいのか!?王様のことだから、私の救出の他に運命の戦士の捕獲も命じただろう!?」
「知りませーん!俺様はなーんも聞いてませーん!」
「お兄ちゃああん……もっとギュってしてぇ……!」
(もうヤダ……早く終わってぇ……!)

アイベルトと教授が瑠奈を取り合っている横で、兵士たちは人質が解放されたので異世界人たちへ突進していた。

「あの2人は頼りにならない!ここは俺たちがやるぞ!」
「なぁ、俺らってこんな真面目だったか?」
「上が頼りないと下が頑張らざるを得ないんだよ!」


「なぬ!?この俺様が頼りない!?言っていいことと悪いことがあるぞ!」
「お兄ちゃぁあん……瑠奈、お兄ちゃんがお仕事頑張ってるカッコイイ所、見たいなぁ」
「FOOOOOO!!!任せろ妹よぉおおおおお!!」


色んな意味でエクスタシーになったアイベルトは、魔物兵たちを追い越して異世界人たちへと迫る!

「っしゃあ!邪魔なアイベルトが消えた!奴が彩芽を捕まえるまでの間!そのおっぱいは私の物だぁああ!!」
「きゃああああ!?」

同時に、教授も瑠奈へと迫る!

「あぁ!?教授の野郎!許せねえええ!!」

結局アイベルトはUターンして教授と瑠奈を引き離す!

「アヤメ!今のうちよ!早く送信して!」
「了解!えー、この国の企みを書いて……送信っと!」


仲間たちが魔物兵たちの突進を防いでいるうちに、彩芽はメールを作成する。
ダークアウィナイトを付けた魔法少女たちを解放と称してルミナスへ送り、魔法少女同士で戦わせるという卑劣な作戦……その概要をばっちり書いて送信した。


「よかった……これでルミナスの危機は去ったんだね……」
「よし!あとは迷惑メールと思われて中身を確認すらされない……なんてことがないように祈るばかりだ!」
「ちょっと彩芽!?そんな不穏なこと言わないでくださる!?」
「大丈夫大丈夫!知らないアドレスから来ても確認してもらえるように、『超緊急!!』ってタイトルで送ったから!」
「な、なんか余計に迷惑メールと間違われそうな気がするよ……」
「ほ、ほんとに大丈夫かな?リムリット様!光!お願い、ちゃんと読んで……!」


689 : 名無しさん :2017/11/04(土) 01:12:33 ???
「ぎゅうッ……と!はい、天然でのんびり屋な美少女の緊縛姿、出来上がり〜♪」
「あううッ!い、痛いぃ!2人とも……お願いだから、やめてぇ!」
「ククク……ユキの顔も戻ったし、もうアンタは用済みなのよ。そのお礼にわたし達がたっぷり可愛がってあげるんだから、素直に喜びなさい……?」
「うう……可愛がるって、どんなことをされるのかなぁ……」
「フフ……もちろん、こんなことよッ!」
サキはそう言うと魔鎌ブラッディクイーン……かつてアイリスが持っていた武器を素早く召喚し、ミライの喉元に突きつけた!

「ひっ!ひいいぃッ!!!や、やだっ!いやあぁっ!さ、サキちゃんやめてぇッ!!」
「フフフ……結構早く喋れるじゃない。いつもののんび〜りした穏やか口調はどこに行ったの?ただのキャラ付けだったのかしら?」
「あはは!ミライお姉ちゃん、汗びっしょりだよ!そんなに死ぬのが怖いのぉ?」
「ま、動けないところに鎌を首にかけられたら、いくらアンタでもそうなるのも無理はないけどね。クックック……!」
「ひいぃ……!あ、あ、あああっ……!」
サキは笑いながら鎌をクイクイと動かしてミライの恐怖心を煽っていく。
ちょっとでもサキが手の動きを誤ればすぐに自分の首が飛ぶ恐怖に、ミライは押しつぶされそうだった。
「うううぅっ……!いや……!こわいよぉ……!」
「あ、今度は泣いてるー!ユキより年上のくせに、ほんっと情けないなぁ〜ミライお姉ちゃんはぁ。」
「そうねぇ……じゃあそんな情けないミライには、罰ゲームをあげましょうか。」

サキはそう言うと首元から鎌を外し、ゆっくりとミライの腰元に鎌の切っ先を移動させた。
「ねぇミライ……右足と左足だったらどっちが好き?」
「ぐすんっ……え?み、右足かなぁ……?で、でもなんでそんなこと……」
「そう……なら、左足はいらないわね!私が切り落としてあげる!!!」
「ええっ!?」
「キャハハ♪お姉ちゃんこわ〜い!」
迷いなく言い放ったサキは素早く鎌を握りしめて、問答無用と言わんばかりにミライの左足の付け根へと振り上げる!
「い、いやあああッ!きゃああああああああアアアアアアアッ!!」



ガキイイィィン!!!
「……一体なにをしているの。サキ。」
「あれ?誰……って、貴方は!」
「ク、ククク、ク、クッソリザアアァァ!!!あんたはまたしても……あたしの邪魔をしてぇっ!」
鎌がミライに向かう瞬間、大型ナイフで斬撃を止めたのは……ミライの悲鳴を聞いて駆け付けたリザだった。

(サキの様子が……普通じゃない。もしかするとあの女の子、まだ……!)
「リ、リ、リザちゃあぁん……」
「……大丈夫だよ、ミライ。私が助けてあげるから。」
「う、うううう〜……リザちゃんはいつも私のヒーローだよぉ……!」


690 : 名無しさん :2017/11/04(土) 12:29:00 ???
「……時は揺れる。時の揺りかごを揺らすのは、果たして何人なのだろう……」

頭にジャック・オー・ランタンの被り物をしているロゼッタは、突如よく分からないポエムを言い出す。

「リザちゃんったら、途中で先にいなくなっちゃうなんてせっかちですわー!せっかく小悪魔コスプレ可愛かったですのに」

やや裾がダボッとしたドラキュラのコスプレをしているアイナは作り物の牙を剥き出して残年そうな顔をしている。

「まぁまぁ、リザちゃんは休暇中にやらなきゃいけないことがあるみたいだし、しょうがないよ」

オーソドックスな魔女っ子コスのエミリアは、帽子のツバを押さえながらアイナを宥める。
なお、リザはまだ休暇中にやる予定だったことに着手できていない。


「アイナ……私たちも、闇夜に紛れし者共の国へと旅立たなければならない」
「ああ、ミツルギへ行くんでしたわね……ところで、このコスプレ衣装はどうしましょう?」
「あ、それなら私があの赤い髪の人に返しとくよ!これからお城に戻るし」
「必要ない」
「え?ロゼッタさん?」
「必要ない……この子は、私の部屋に飾るわ……ウフフフフ……」

いつの間にか被り物を脱いでいたロゼッタは、大事そうにジャック・オー・ランタンを抱き抱えている。

「ま、まぁロゼッタが気に入ったというならアイベルトもきっと快く譲ってくれますわ」
「旅立ちの前に……城に戻って部屋に飾る……出発は先延ばし」
「じゃあアイナちゃん!せっかくだから、お城の人たち……シアナくんとかにもコスプレ見せてあげようよ!」
「な、なぜそこでシアナの名前が出るんですの」
「シアナは……アトラみたいな向こう見ずな子に引っ張られるのが好き……アイナも向こう見ずな子……つまり、アイナ×シアナは実質アトラ×シアナ……」
「な、なにか寒気がしますわ……露出の多いコスプレなわけでもありませんのに」
「外は冷えるからね、早くお城に帰ろう!」




「ホラ!追加のチョーカーだ!そのルナティックおっぱいはお前に譲るから、魔法少女おっぱいとアメリカンおっぱいは私に譲れよ!もちろん彩芽おっぱいもだ!」
「あのメガネっ子おっぱいねぇじゃん……とにかく、これで交渉成立だ!」

妹属性の欲しいアイベルトと、とりあえずおっぱいさえあればいい教授の妥協案として、瑠奈はアイベルトが妹にして、残る巨乳の鏡花とサラは教授が手に入れることで話がついた。

「まぁ、というわけで……覚悟しろ美少女たち!俺様が一般漫画のピンチシーンくらいを目安に、程々にリョナってやるぜー!」


691 : 名無しさん :2017/11/04(土) 16:57:29 ???
「サキの妹……まだ洗脳が解けてなかったのね。しかもサキまで操られるなんて…」
「クックック……相変わらずやるわね、クソリザぁ……」
「…ほぉんと、あいつムカツクよねぇサキお姉ちゃん。こんな小悪魔みたいな恥ずかしいコスプレしてるくせに…!」

サキとユキの二人を相手に、ナイフ一本で互角以上に渡り合うリザ。
だがそのリザも、なるべくなら二人を傷つけたくない、という思いから攻めに精彩を欠いている。
…決してコスプレ服のスカートが短すぎて少し動いただけでパンチラしてしまうから等の理由ではない。

(何をするつもりか知らないけど…妹を倒せば、サキも元に戻るはず)
リザは狙いをユキに絞り、ナイフを構え直す。

一方のサキとユキも…
「でも所詮ただのコスプレ服。防御力は大したことないはずよ…」
「フフフ…だったら、『絶対避けられない攻撃』してやればいいんじゃない?」
「クックック……さすが私の妹、考える事は一緒よねぇ…」
互いに視線をかわし合い、邪悪な笑みを浮かべた。その攻撃目標は、前衛に立つリザではなく……

「フフ…いっくよぉ!」「「ダークバレット・イーヴィルストーム!!」」
「なっ………ミライっ!!」
「え!?…きゃ、きゃあああ!!」

サキとユキの邪術で生み出された無数の魔法弾が、ミライを狙って降り注ぐ。
二人の狙いを察したリザは、テレポートでその射線上に飛び込んだ。

(ブオン……バシュッ!ドゴッ!!)
「う、ぐっ!!…あっ…きゃああああああっ!!!」
邪術で強化された魔法弾は、受けたものの身体に邪術の刻印を刻みつける。
刻印の力によって、魔法への抵抗力が低下し、痛覚やその他の感覚が増幅される。

…一発ごとの威力は低く、ほとんど外傷もないが、リザは全身を食いちぎられるかのような激痛を感じていた。
「リザちゃん!リザちぁゃんっ!!…サキちゃん、ユキちゃん…お願い、もう止めてえっ!!」
「っう……だ……だいじょう…ぶ…ミライ……っぐ、あぁっ!!」
サキにお腹をユキに胸をグリグリと踏みにじられながらも、リザは気丈にミライの身を案じる。

「フフフ……クソリザお姉ちゃんの悲鳴、すっごいかわいい…。もっとも〜っと聞きたいね、サキお姉ちゃん」
「クックック…もちろんよ、ユキ。こいつに対する憎しみは、この程度じゃ収まらないわ…」
既に立ち上がる余力すらないリザに、サキとユキは更なる追い打ちを掛けた。

「「リバースペイン・サウザンドアームズ!」」

リバースペイン…相手に幻影の剣を突き刺し、その剣を抜いた際、普通の剣で刺された時の何倍もの激痛を与える。
サウザンドアームズ…魔法の剣や槍を大量に召喚して敵の頭上から落とす、鋼属性の上級魔法。

…ただでさえその邪悪さ故に禁忌とされている邪術が、複数の術者による合成魔法で更に強化されれば…
その恐ろしさは最早筆舌に尽くし難い。

(ザクッ!ドスッ!!ザシュザシュザシュッ!!)
「んっ!……く、ううっ…!?」
ユキが召喚した無数の魔剣が、サキの邪術で幻影の剣へと変わる。
無数の剣に刺し貫かれたリザは、更なる激痛を覚悟し身を強張らせるが…
異物感こそあるものの、痛みはほとんど感じなかった。

「これは……サキ、一体何をするつもりなの…!」
「ねえサキお姉ちゃん。順番に一本ずつ抜いていこうよ。…死なせちゃった方が負けね」
「面白そうね、ユキ…名付けて『クソリザ危機一髪ゲーム』って所かしら。ククク……」
奇妙な感覚に戸惑うリザを、ニヤニヤと笑いながら見下ろすサキとユキ。

二人が言う通り、この術の真の恐ろしさは…幻影の剣が引き抜かれた時、明らかになる。


692 : 名無しさん :2017/11/04(土) 20:06:16 ???
「ここは無難に太ももかなぁ…(ずぶり……)でも、おヘソに刺さってるやつも良いし…(ぐちゅっ…)」
「っぐ……う、あっ……!!」
「もう……ユキったら迷い過ぎ。さっさと決めちゃいなさい…コレなんかどう?(ごんごんっ)」
「あ、このお股に直撃してるやつ、ユキが最後にヌきたい!お姉ちゃんとっちゃダメ!(ぐりっ)」
「いぎっ!?…っああ"あ"あ"あああああ!!!」

リザの全身至る所に、ノコギリのような刃の付いた禍々しい魔剣が突き刺さっている。
普通ならこの時点で致命傷だが、実はこれらの剣は邪術で造られた幻影。刺さっているだけなら痛みはほとんど感じない。
しかし、これを引き抜くとき……幻影の剣だから傷痕が残ったり出血することはないが、
普通の剣で貫かれた時の10倍ともいわれる激痛がもたらされるのだ。

サキとユキは、そんな魔剣を半分ほど抜いては戻したり、既に抜いた剣を別の場所に刺し直したり、
玩具のように弄びながらリザをいたぶり続ける……

………………

「うーにゃにゃにゃにゃにゃっ!!」
「ぅゎ」「ょぅι"ょ」「っょぃ」
獣人化したスバルが単身魔物の群れに飛び込み暴れまわった。
オークやコボルド等の低ランクな魔物兵達は、その圧倒的なスピードと鋭い爪によって次々となぎ倒されていく。

(なかなか)(やるな)(でも)(われわれには)(つうようしない)
「うにゃにゃっ……あれ?なに、これっ……!?」

だが、続いて襲い掛かった魔物はスライムの群れ。
物理攻撃が一切通用しない、スバルにとっては天敵ともいえる存在であった。

(ちゅぽっ)(ぐちゅぐちゅ…)(ぎゅむっ!!)
「にゃうっ!?やっ…はなして……そこ、にぎにぎしちゃ、だめぇえっ!!」

(けもみみの)(じゃくてんは)(けもみみ)(あとしっぽ)
「やっ…はいって、こな……ん、みゃぁぁぁぁぁあ……!!」

(もふもふ)(もふもふ)(もふもふ)(もふもふ)
「にゃ……ぁん……っ…た、たす…け……!!……」

「おお!でかしたぞスライム軍団!!」
「よし、全員で一気に取り押さえろー!!」
「つーか俺らにももふもふさせろー!!」

「…スバルから離れろっ!!サンダーブレード!!」
(ぎゃわーっ)(らめぇぇぇ)
スバルに群がる魔物達を、桜子の放った魔法が焼き払う。

桜子の魔法はこの世界に来てから独学で覚えたもので、剣術の補助程度に使う程度だったのだが…
スバルが襲われた怒りからか、あるいは片腕が魔物化した影響か、その威力は以前より格段に向上していた。
「飛翔烈空斬・雷!!」
「ひぎぃぃ!!おばさんがおこったー!!」
「俺たちはただケモミミ幼女を愛でたかっただけなのにぃー!」
「おばっ……貴様ら、本気で死にたいらしいな…!!」

「瞬覇一閃・焔ッ!!」
魔物の力を宿した右腕が、巨大な剣へと形を変える。
魔法の炎を纏わせた斬撃は、逃げ惑う魔物達を容赦なく消し炭へと変えていった。


693 : 名無しさん :2017/11/04(土) 22:58:56 ???
「桜子さん、スバル…二人とも随分張り切ってますわね。まるで本当の母子…姉妹のようですわ」
激昂する桜子の姿を見て、発言には細心の注意を払うアリサ。
「でも、さすがに敵の数が多すぎるわ。私の攻撃魔法で一掃したいけど…そのためにはまず、瑠奈を助けなきゃ!」
鏡花も別の魔物兵達と戦っていたが、兵力差で徐々に圧されつつあった。

辛うじて持ちこたえられているのは、なぜか敵の指揮系統が混乱して、魔物達の統制が取れていないおかげだ。
…ついでに、なぜか敵が瑠奈を人質にして降伏を要求したりして来ないおかげでもある。
だがここで何かあれば、一気に戦線を崩されかねない…

「うおおおお!!待ってろよガール達ぃぃ!!全員俺の妹にしてやるぜぇぇ!!」
そんな最悪のタイミングを狙ったかのように、赤髪の男アイベルトが異様なハイテンションで突撃してきた。

「っ…まずいですわね……鏡花、あの男を食い止めますわよ!」
「待って、アリサ。あいつは……私が止める」
アリサを制して前に進み出たのは…かつてアイベルトに完膚なきまでに敗れた、サラ・クルーエル・アモットだった。

「無茶ですわ!…サラさんの言葉通りなら、奴はかなりの強敵のはず…」
「そうですよ!…手も足も出なかったと、自分で言ってたじゃないですか!」
「アイツとは『二度』戦った経験がある…少しは持ちこたえて見せるわ。
その間にアリサはルナを救出、キョウカは魔法の準備をして。現状の戦力では、それがベストの選択よ」
「わ、わかりましたわ。でも…」「…絶対に、無茶しないで下さいね」

「もちろんよ。時空刑事の…正義のヒロインの力を、信じてちょうだい……『閃甲』っ!!」
白銀に輝くコンバットアーマーを身に纏い、敵を迎え撃つサラ。
その後姿を見ながら、鏡花は以前…この世界に来るよりも前。
自分が正体不明の怪物の手に捕まりそうになり、サラが身を挺して救ってくれた時の事を思い出していた。

(あの時はこうして自分が一緒に戦う事になるなんて、夢にも思わなかったな……)
あれからそう長い年月は経っていないように思えるし、遥か昔の事のようにも思えた。
だが久しぶりに再会したサラの「正義」を貫く信念は、あの頃から少しも揺いでいない。
(サラさんなら、きっと大丈夫……私も、私のできる事をやらなくちゃ!)

………………

「……サキちゃん、ユキちゃん!お願い、止めてっ!!…一体どうしちゃったの…
本当はリザちゃんと、すごく仲がいいはずなのに……」
「……は?私がコイツと?…どこをどう見たらそう見えるわけ?」
(ずぼっ…!!)
サキはミライの悲痛な叫びを嘲笑いながら、リザの肩に刺さった魔剣を力任せに引き抜く。

「っぐ…!!……あ……ぁ……」
既に悲鳴を上げる余力さえ残っていないリザ。
身体に刺さった魔剣は残り僅かだが、仮に最後までショック死せずに持ちこたえたとしても、
サキ達はまた同じ魔法でゲームを続けるか、又は別の趣向を考え付くか…いずれにせよ、結末は変わらないだろう。

「ねえねえ、サキお姉ちゃん。もう、クソリザお姉ちゃんに刺さってる剣、
ぜーんぶ一気に抜いちゃおうよ!それで、次はミライお姉ちゃんも使って遊びたいな!」
「ふふふ……わかったわ、ユキ。じゃあユキは約束通り、股間とお腹の剣。
…私は両目と、心臓に刺さってるのを抜くわね…
…さーてと、私と仲良し(笑)のクソリザちゃん。
いくらゴキブリ並みにしぶといアンタでも、この4本を一気に抜かれれば…
さすがにただじゃ済まないわよねぇ?…クックック…!」


694 : 名無しさん :2017/11/05(日) 00:58:25 ???
「それにしてもユキ、アンタいつの間に邪術なんて覚えたの?」
「なんかね、キョージュにつけられた頭のやつで邪術について調べられたんだ」
「へぇ……でも、調べたからってすぐ使えるようになるわけでもないはずだけど」
「なんか急に力が湧いてきた日があって、それから使えるようになってたんだよね」
「まぁ詳しいことは分かんないけど、流石は私の妹ってところね」

リザを甚振りながら、仲良く会話をするサキとユキ。
ミライは未だ拘束されており、リザは既に体力が尽きかけている。

両目、股関、腹部の剣を一気に抜いて、リザをショック死させようとしたその時!



「そろそろ、かな」

涼しげな青年の声が、その場に響いた。


「だ、誰!?」
「あ、あなたはまさか……ヨハン様!?」

現れたのは、黒髪黒目の穏やかそうな顔をした青年。王下十輝星にて最強との声もある……アルタイルのヨハンである。

「ぅ……ヨハン……?」
「やぁリザ、お疲れ様。この場は僕に任せてくれ」
「ヨハン……サキは、あの小さい子に操られてるだけなの……!あの小さい子も、教授に……!」
「うん、全部分かっているよ。今は安心して、休んでいてくれ」

その声を聞いて、気が抜けたのか……既に限界に達していたリザは、気絶してしまった。

「い、いくらヨハン様と言えど……私たちの邪魔をするなら容赦しません!」
「ええ!?お姉ちゃんなにそのデレデレ口調!?」
「うん、その前に一ついいかな」
「わ、わわ!?ど、どちら様ですか〜?リザちゃんやサキちゃんのお知り合……ッヴ!?」

穏やかな笑みを浮かべてミライに近づいていったヨハンだが、彼女の言葉を遮って重めの腹パンをする。
ミライは苦しそうな声をあげた後、気絶してしまう。


695 : 名無しさん :2017/11/05(日) 01:00:19 ???
「よ、ヨハン様!?一体何をしていらっしゃるんですか!?」
「だーかーらー!そのデレデレ口調はなんなのよー!」
「ただの機密保持ですよ……これから僕がすることをあまり人に知られたくない」

ゆっくりとそう告げたヨハンは……一気にサキとユキへ向けて走り出す。

「この……!お姉ちゃんはユキだけのお姉ちゃんなんだからー!」
「……!?ユキ、ダメ!」

ユキはヨハンへ向けてダークバレット放つが、それは全てヨハンに吸収される。そしてそのまま、ヨハンは吸収したエネルギーを解放しながら、サキの顎へ強烈なアッパーカット!
脳を揺さぶられたサキは、そのまま脳震盪を起こし……その場にドサリと倒れる。


「な、お姉ちゃん!?あ、あなた一体……何者なの……?」
「……さて、サキに楔を打ち込みましょうか……妹を利用してね」

登場してすぐにユキ以外の三人を気絶させたヨハン(リザはヨハンが気絶させたわけではないが)。その彼は、ユキの攻撃を意にも介さずに、三人が完全に気絶していることを確かめると……先ほどまでの穏やかな笑みから一転、嗜虐的な笑みを浮かべた。

「表向きには、僕は殺されかけたリザとミライ・セイクリッド、そして操られたサキを助けた、ということになる」
「お、表向きには……?」
「おかしいと思わなかったかい?君は確かに、サキの妹だけあって素質はあったし魔力も高かった。だが、いくらなんでもすぐに邪術を使えるようになるのは異常だ」
「……」

それはユキも少し思っていたところだ。だが、それとこの青年に何の関係が……?

「トーメントクリスタルによる強力な魔力ブースト……それが、君が一瞬で邪術を覚えられた理由。情緒不安定になったりガチレズになったりのクリスタルの副作用は、教授の改造がカモフラージュになってくれたよ」
「ま、まさか!この状況を仕組んだのは……!」
「そう、僕さ……エスカがいなくなって、クリスタルに空きが出たからね」

トーメントクリスタル。王都の地下にある巨大なクリスタルは、王都にいる者でかつ強い魔力を持つ者限定だが、とてつもない魔力を対象者に付与する魔石である。
そしてエスカの例を見れば分かるように、強力な分、身体へのデメリットも大きい。

「そして君は、僕の説得も聞かずに襲い掛かる……僕はやむなく反撃するが、五体不満足になるまで抵抗を止めなかった……そういうシナリオさ」
「い、いや……」
「今聞いたことも、すぐに忘れるさ……というか、忘れさせるんだけど」
「いやぁ……!助けて、サキお姉ちゃん……!」
「君をトーメントクリスタルの魔力無しには生きられない身体にすれば、サキはこの国で働き続けるしかなくなる」
「いや……!いや……!」
「あ、トーメントクリスタルは王様と僕しか知らない国家機密だっけ……じゃあセイクリッド・ストーンの魔力でもいいかな……伝説の帽子がこの国にある以上、この国で働き続けなければならないことに変わりはない」
「お姉ちゃん……お姉ちゃん……!」
「究極魔法でも回復できないようにするのは骨が折れるな……さっきサキがやろうとしたように、足を根本から切断しようかな」
「いやああああああああああ!!!!」


696 : 名無しさん :2017/11/05(日) 22:45:38 FlyynNeY
「お?その格好は、前に会ったアメリカン刑事!」
「覚えていてくれて光栄だわ……さぁ、勝負よ!」

限られた戦力で数多くの敵を倒すため……たった一人でアイベルトの足止めを引き受けるサラ。

「ライトニングシューター!」

サラはまず牽制にビームガンを放つ。それに対し、アイベルトはマト○ックスっぽく腰を反らして避ける。ちなみにカッコつけてるだけで、マ○リックスっぽい動きをすることに深い意味はない。

「おいおい、一人で俺様の相手ってのは無謀じゃないか?」
「私は刑事よ、例え無茶でも、やらなきゃいけない時がある!」
「ふ……なら妹にする前に、全裸にならない程度にアーマーをボロボロにしてやるぜ!」

魔導武器テン・ヴァーチャーズを取り出し、サラへと肉薄するアイベルト。
サラもシルバー・プラズマソードを取り出し、アイベルトと切り結ぶ。

「オラオラ!どりゃあ!」
「ぐ、くぅ……!あん!が!ぁあ!」

変幻自在の武器によって目まぐるしく変わる間合いに対応しきれず、左脇腹、右肩、太ももといった箇所のアーマーが破壊され、白い素肌が顕になっていくサラ。

「ぐぁ……アージェント・グランス!」

形勢不利と見たサラは、決定的な一撃をもらう前に仕切り直さなければならぬとアージェント・グランスを呼ぶ。
どこからともなく現れたバイクは、アイベルトに向かって猛スピードで突進!

「おっとっと」

アイベルトが迫りくるバイクを躱した隙に、サラは大きくバックステップしてアイベルトと距離を置く。

「はぁ……!はぁ……!」
(この男、確かに強い……私では逆立ちしても勝てないでしょうね……でも!)

「今の私がするべきことは、この男を倒すことじゃない……私がすることは、アリサがルナを救い、キョウカが魔法を撃つまでの間……時間を稼ぐこと!」

サラは、少しでも時間を稼ぐため……再びシルバープラズマソードを構えた。



「さて、こんなもんかな」
「ぃ……ぁ……」

一方その頃、ヨハンは刃物化させた腕でユキの四肢を切り落とした所だった。死なないように、止血は済ませてある。

「一回殺して王様の術で復活させてもらえば、身体も戻るだろうけど……王様に生き返らせてもらうということは、王様の玩具になるということ……サキが許すはずがない」
「ぅ……うぅ……!」

うめき声をあげるだけで、聞こえているか定かではないユキへ話しかけるヨハン。

「サキは、自分が救えなかったせいで妹が一生ハンデを背負って生きていくことを我慢できないだろう……となると、君に魔導義肢を付けるだろうね」

サキはドSだが、その癖家族や親友、献身的な部下といった身内には甘い。

「稼働には絶大な魔力を必要とする魔導義肢……それも両手両足分となると、トーメントクリスタルかセイクリッド・ストーンでもないと賄えない……」
「ぉ……ね……」
「サキはトーメントクリスタルについては知らないから、選択肢はセイクリッド・ストーンになる……ノワールを差し置いて伝説の魔帽を妹に被せるのは大変だろうけど、そこはサキのお手並み拝見といこう」


697 : 名無しさん :2017/11/11(土) 01:18:18 dauGKRa6
「ん……ぅ……」
静まり返った裏路地で目を覚ましたリザ。気絶するまでの状況を思い出しながら、彼女はゆっくりと立ち上がった。
(私……サキたちにやられて……はっ!ミライは!?)
助けに来たミライは何処にいるのかと見回すと、気絶する前に吊るされていた場所で項垂れている彼女の姿があった。
素早く駆け寄って脈を確かめる。
……気絶しているだけで、特に以上はないようだった。
「よかった……ん?」
安堵の声を漏らした途端、リザの背後で物音とうめき声がした。

「いてて……!んぅ……あれ?あたし……なんでこんなところに……?」
振り返ったリザが見たのは、先ほどまで恐ろしい笑みを浮かべていた仲間……サキの、キョトンとしている不思議そうな顔だった。
「サキ……何も覚えてないの?」
「……クソリザ?なんであんたもここにいるのよ?全く状況が見えないわ……ねぇ、どうなってんのか説明しなさいよ!」
「……私も完全に把握しているわけじゃないけど、多分サキの妹がやったんだと思う。」
「はぁ?ユキが……?」

サキとユキに拷問されていたミライを自分が助けに入ったこと。
返り討ちにあってしまったところをヨハンが助けに来たこと。
その後の記憶はないこと。
自分の見たものすべてを、リザはサキに伝えた。

「……つまりこういうこと?このあたしがさっきまでユキに操られててあんたやミライを痛ぶってたってわけ?」
「……そうとしか思えないよ。あの時のサキは普通じゃなかったから。」
「……ミライはともかく、あんたをボコった記憶がないのはちょっと残念ね。覚えてればいい思い出になったのに。」
「そ、そんなぁ……酷いよサキ……」
「バーカ、冗談よ。……まあそれはそれとして、ヨハン様とユキは何処にいるのよ?どこにもいないじゃない。」
「……あ、そういえばそうだね……2人ともどこに言ったんだろう……?」
薄暗い路地には2人の他に人の気配はなく、気絶したミライが吊るされているのみであった。



リザとサキが目を覚ました頃。
トーメント城の謁見室を訪れたのは、ユキの体を研究室に保管し終えたヨハンだった。
「おうヨハン。さっき言ってたサキの件は片付いたのか?」
「滞りなく。研究室の監視カメラを見れば分かりますよ。……これで彼女はリザと同じ、王様に忠実な犬になることでしょう。」
「ケケケケ……俺様のメス犬が一匹増えたな。これで多少ハードな任務も押し付けても文句は言わないだろう。……あの糞生意気な性悪女のリョナられてる姿を見る機会が増えそうだ……!」
ニヤニヤと笑うトーメント王。付けているイヤホンから流れている少女たちの断末魔は、ヨハンの耳にも聞こえるほどの爆音で流れていた。
「……では王様。例の件、よろしくお願いしますよ。」
「あぁ……健康な成人の男女30人だったか。任せとけ。明日には用意して実験場に集めてやるよ……」


698 : 名無しさん :2017/11/11(土) 13:20:33 ???
「このままじゃ、サラさんがやられちゃう…!」
「くそっ。あの赤髪の敵、見た目はアホそうなのに…なんなんだあの武器!」

ルミナスに通信を送るという目的を(不安は残るが、一応)果たした唯と彩芽。
苦戦するサラに加勢したい所だが、魔物兵達に阻まれてなかなか近づくことができない。

「当然だ!アイベルト様はアホそうに見えて実際にアホだけど、めっちゃ強イカらな!」
「唯ちゃんと彩芽ちゃんは、俺達がチューチューしてやるでゲソ!」
頭がイカのような形状をした、不気味な魔物の一団が二人に立ち塞がる。

「彩芽ちゃん。ここは私に任せて、サラさんを援護して!……たぶん彩芽ちゃんのメカの方が役に立つと思う」
唯と彩芽の後ろでは、鏡花が攻撃魔法の詠唱に入ろうとしていた。
詠唱中無防備になる鏡花を守るためにも、二人揃ってこの場を離れるわけにはいかない。

「ううっ。あんまり自信ないけど……唯の方こそ一人で大丈夫か?
…まあ、桜子さんと戦った時も滅茶苦茶強かったし、問題ないか…」
「あ、あのレベルを期待されると困るけど……大丈夫。何とかしてみせるよ…!」
イカ頭の魔物は全部で4体、いずれも杖とローブを装備している。
いかにも魔法を使ってきそうな見た目だが、直接的な戦闘力はさほど高くなさそうだ。


「…まずは一体ずつ確実に……たあっ!!」
スカートの中が見えるのも構わず、手近な一体に前蹴りを放つ唯。
だがその攻撃は、目に見えない障壁によって威力を削がれてしまう。

「浅かった!?……まずいっ…!」
「うわあっぶねー!!防御魔法張ってなかったら死んでたんじゃなイカ!?誰か回復回復!!」
唯の先制攻撃を堪えたイカ達は、息の合った動きで唯を取り囲むと…
「そのくらい自分でやれ。唯ちゃんの弱たイカが先だ…『パワーダウン』!」
「今みたいに、チョロチョロ動かれたら面倒でゲソ……『スピードダウン』!」
能力ダウンの魔法を一斉に掛けて来た!

「……は、放してっ……このっ……!」
「スルメの涙ほど効かないでゲソ……ヒヒヒッ!」
「ケケケ……噂じゃルミナスで修行して強くなったそうだが、
今は普通の女の子と同じくらいの力しかないんじゃなイカ?」

イカ怪人は、後ろから2体掛かりで唯を押さえつけた。
必死に抵抗する唯だが身体に全く力が入らず、突きも蹴りもほとんど効果がない。

「闘技場の殺戮妖精も、こうなっちまえば可愛いもんだ…さてと。
お次は『ディフェンスダウン』…と思うだろうが、それはしない。なぜなら…
俺らの特技の前には防御など意味がなイカらだ。……喰らえ。『マインドブラスト』…!!」

「え、あっ………んぐ、あ…ああああぁぁぁああっ!!!」


699 : 名無しさん :2017/11/11(土) 18:09:17 ???
アリサは魔物兵たちの群れを掻き分け、操られている瑠奈の元へと向かっていた。

「グヘヘヘヘ!そんな細腕で振る剣なんか怖くn」
「シュヴェーアトリヒト・エアースト!ツヴァイト!!ドリット!!!」
「ぎゃああああああ!!!」

(もう少し、ですわ……!)

サラは今、たった一人で王下十輝星の足止めを買って出ている。
ならば、自分がこんな雑兵相手に手こずっている暇はない!


斬り払い、突き、振り上げの得意の三連撃で前方の魔物兵を蹴散らし、アリサは一気に敵の壁を駆け抜ける!

「瑠奈!助けに来ましたわ!」
「ひ!?いや、来ないで!助けてぇ!お兄ちゃぁああん!!お兄ちゃんの瑠奈が、このアバズレ女に汚されちゃうよ〜!」
「あ、アバズレ女!?い、いえ、怒ってはいけませんわ……瑠奈は敵に操られているだけ……」
「ルミナスとトーメントの戦争中に、急にブチギレて剣振り回すような野蛮なメスゴリラに、またリョナられちゃうよ〜!」
「る、瑠奈……まだ根に持っていましたの!?」

一応和解したのだから、以前のことを引き合いに出すのは止めてほしいと思うアリサ。瑠奈は操られているのでしょうがないが……


「こうなったら……!あの時のリベンジしちゃうよ!あれからルミナスで修行して、瑠奈も強くなったんだから!お仕事で忙しいお兄ちゃんの手を煩わせないもん!」
「く……!瑠奈!抵抗するなら、手荒な手段を選ばざるを得ませんわよ!」
(お兄ちゃんて……うちの兄貴はあんなアホ野郎じゃないっつーの!アリサ、手荒でもいいから助けてぇ……!)

こうして、下水道での喧嘩別れ以来のアリサVS瑠奈の戦いが幕を開けた!


700 : 名無しさん :2017/11/11(土) 19:07:19 ???
「確かにそのバイクは(というか、平然とひき逃げアタック仕掛けてくる神経は)厄介だが…
つい最近、ガチの死線を潜り抜けた俺には通用しねえ!…テン・ヴァーチャーズ・シールドフォーム!」
「アージェント・グランスの最大出力の突進を正面から止めるなんて……なんて防御力なの…!!」

異世界人であるサラの動きは、赤い目の能力で予知することは出来ない。
だがここまでの戦いで、アイベルトはサラの実力をほぼ見切っていた。
シーヴァリアの騎士で言えば、恐らくシェリーやメデューサと同等くらいか。
ぐーたら三姉妹の時と違い、1対1なら苦戦する要素はない。
バイクの突撃も、最強の黒騎士ブルート・エーゲルの異常な攻撃力に比べれば問題なく対処できるレベルであった。

「次はそのヘルメットを剥ぎ取ってやる!おらぁっ!!」
「くっ…放しなさいっ…う、ああああぁっ!!」
アイベルトは武器をバールのようなものに変化させ、サラのバイザー付きヘルメットを力任せに剥ぎ取る。
脇腹、右肩、太もも、etc…ダメージ部位を伝えていた警告表示が、断末魔めいた異音と共にブツリと途絶えた。
ビームガンは射ち尽くし、剣のエネルギーも残り少ない。
そして大破したアーマーはいつ機能停止してもおかしくない状態だ。

「ヘルメットがなければバイクには乗れないだろう…
時間稼ぎがお望みらしいが、こっちは急いでるからそろそろ終わらせてもらうぜ!
何しろ、残りのガールたち全員を妹にしないといけないからな!」
変幻自在の魔導武器『テン・ヴァーチャーズ』。あらゆる武器に変化し、間合いも攻撃方法も予測は不可能。
と同時にどんな武器に変形するのかも予測不能という、特殊で誰得な欠陥武器・ネタ装備…
だがあらゆる武器を使いこなすアイベルトが手にした時、それは真に恐るべき力を発揮する。

「ま、まだよ……私はまだ、倒れるわけにはいかないっ…」
サラの持つ『シルバープラズマソード』も、凄まじい威力を持った時空刑事の必殺武器だ。
だがある時は剣の届かない距離から弓やムチで攻められ、
ある時は超接近戦で脇ペロ・乳もみ・腹パンの連続攻撃と、
目まぐるしく変わる間合いに対応しきれていなかった。

「や、ヤバいっ……サラさん、これを使って!!アヤメカNo.C-01!!」
「アヤメっ!…こ、これは……!?」
その時。後方から駆けつけた彩芽が投げてよこしたのは、
懐中電灯のような、柄だけの剣のような……というか、サラが今まさに使っている物によく似ていた。


701 : 名無しさん :2017/11/11(土) 19:09:23 ???
「名付けて『シルバープラズマソード+』…話は後だ!まずは二刀流のモードX!」
「わ……わかったわ!!」
彩芽の作った剣は、サラのシルバープラズマソードと威力も間合いもほぼ変わらないようだ。
普段から銃と剣を同時に使って戦っているサラは、二刀流にも問題なく対応できる。

「無駄無駄無駄あっ!!たかが剣一本増えたくらいで!………ぬ、こいつは……」
「くっ……!!」
アイベルトは両手に装着されたカギ爪でサラを攻撃するが、
サラはその高速連撃を二本の剣で辛くも防ぎ切った。
決して至近距離で揺れるおっぱいに目が釘付けになっていたせいではない。

「…さすがに剣2本で防御されたら崩しきれないか……だが、こいつはどうだ!」
続いて、アイベルトの武器が槍へと変化した。
太もも辺りをザクッと串刺しにしようと、剣の間合いの外から激しい突きを繰り出してくる。
「サラさんっ!柄同士を逆向きに繋げて!…モードW…ダブルブレードだ!!」
「了解!…これは…!?」
彩芽の指示に従って、2本のシルバープラズマソードの柄を逆向きに繋げる。
すると、さながら某モビルスーツのビームナギナタのごとく、両端から光の刀身が現れた。

「なるほど…さすがアヤメ。時空警察(ウチ)のスタッフにはない発想だわ…はああああっ!!」
「え、何コレかっけー……って、うおっ!?」
サラは光の剣を風車のように回転させ、アイベルトの槍の連撃を弾き返す。
続いて刀身の片側を使って突きを繰り出すと、刀身が大きく伸び、アイベルトの頬を掠めた。

「やっべー……剣が伸びるとかアリかよ…遠距離で戦うのは逆に危険だな」
昔の特撮で見た事があるような初見殺しの攻撃を辛うじて回避したアイベルト。
というか見てなかったら今ので死んでいたかもしれない。

「…だが同じ手は2度は喰わん!コイツでスーツを完全破壊だ!!」
威力特大のハンマーへと変化したテン・ヴァーチャーズを手に、一気に勝負を掛けに来る。

「いいぞサラさん!次は、柄を縦に繋げて…!」
「そう来ると思ったわ…シルバープラズマソード・純粋起動…こっちも一気に決めるわよっ!!」
「モードZ…」「…ツヴァイハンダー!!」
直列に繋がれた二本のビームソードが、両手持ちの大剣へと変わり…

「うおおおおおっ!?この威力は、まるで奴の『極・十字斬<グランド・クロス>』……」
十文字に振るわれた光の刃が、アイベルトのハンマーを粉々に砕く。
その威力は、アイベルトが前回の任務で死ぬほど苦戦したとある黒騎士の最強必殺技を思い起こさせた。

「…まあブルートの技は実際には見てないんだけどな!…って、そんな事よりこいつは…やべええ!!」


702 : 名無しさん :2017/11/11(土) 23:29:59 ???
「ぬうぅううおおおおおおお!!?」

サラと彩芽の乾坤一擲の必殺技を喰らい、派手な音を立てながら後方へ吹っ飛んでいくアイベルト。壁に激突し、ドオオォオオン、という重い音と共に土煙が上がる。


「や、やった!奴に勝ったんだよ桜子さん!」
「ええ……ようやく、リベンジできたわ……ぐ!」
「サラさん!?」

やはり相当無理していたのか、サラは膝から崩れ落ちるように倒れていき……それを彩芽が慌てて支える。

「ごめんなさい、アヤメ……ちょっと、限界みたい……」

アイベルトによってアーマーは大破しており、かなりの面積を素肌が露出していた。エネルギーも使い切り、ヘルメットも抉り取られ……正に満身創痍と呼ぶに相応しい。

「アヤメ、貴女はやはり、時空刑事になる素質がある……今からでも、私のパートナーにならない?歓迎するわよ」

サラがアイベルトに勝てたのは、彩芽の新兵器があったからだ。アレがなければ、アイベルトにアーマーを全裸にならない程度に剥かれ、胸を揉まれたりお尻を撫でられたりした上で、チョーカーを着けられてお兄ちゃんと呼ばされていたことだろう。

時空警察のスタッフにはない発想を実現する技術力、それを実行に移す行動力、そして何より正義の心……
サラは以前にも彩芽を時空刑事に誘っていたが、今回のことで、その想いをより強くしていた。

「う、ううん、ああいうスーツ着て化け物と戦うのは、ボクには合わない気が……ボクは道具だけ作ってるのが性に合ってるというか……」
「そう……前も言ったけれど、強制はしないわ……卒業後でもいつでもいいから、気が変わったら連絡を頂戴」


一方その頃、アリサと瑠奈は……

「お兄ちゃん!?」
「隙ありですわ!」
「きゃっ!?」

吹き飛ばされたアイベルトに洗脳瑠奈が気を取られた隙に、アリサは素早い剣戟で瑠奈の首元のチョーカーを切断していた。

「瑠奈、目が覚めまして?まだ洗脳が解けないというなら、少々痛い目にあってもらいますわよ!」
「ちょ、タンマタンマ!大丈夫!体は自由になったわ!」

自由の身になった瑠奈は、あの変態にお兄ちゃん大好き!と言わされて抱きつかされたことを思い出して身震いする。

「うう、鳥肌立ってる……アリサ、助かったわ!今回は精神的にちょっとキツかった……!」
「とにかく、無事で何よりですわ……鏡花が魔法の準備をしていますので、サラさんと合流して後方へ下がり……」

「う、やあぁああああああ!!!ぐうぁああああああ!!!」

と、アリサの言葉は、途中で唯の悲鳴に遮られる。


「マインドブラストは、相手の精神に干渉し、激痛を感じさせる魔法なのでゲソ!」
「こうなればもう、唯ちゃんは赤子イカの存在なのだ!」
「ボラボラボラ!ボーラボラボラボラ!」
「なんだその変な笑イカた?」

「……!大変!唯が!アリサ、行くわよ!」
「ええ!」


703 : 名無しさん :2017/11/12(日) 10:10:05 ???
「フヒヒヒ……最初はすこーし痛イカもしれないけど、すぐ気持ちよくしてあげるよ」
「やっ……やだ…やめ、て……っ……い、嫌ぁ…」
(くちゅっ……ちゅるっ!!)

魔法で攻撃力と素早さを弱体化され、イカ頭の魔物達に捕まってしまった唯。
魔物の口がバッカルコーンのごとく開き、そこから極細触手がうねうねと伸びる。
必至に抵抗する唯だが、左右2体の怪人に腕を掴まれ、
背後の1体に頭を押さえつけられ、逃れる事は不可能だった。

「え、あっ………んぐ、あ…ああああぁぁぁああっ!!!」
極細触手が唯の左右の耳孔から侵入すると、頭の中を針で貫かれたかのような激痛が走る!

(ちゅく、ちゅくっ…!)
「ククク……甘くてまろやかで、コクと深みがあって…コイツは極上もんだな!!」
「い、ぎ……あ、ぐ…!!」

(…じゅるるるっ!!)
「グヒヒヒ…女の子の脳みそを吸い取るのは、何度やっても最高だぜ…!!」
「あ、ぉ……んうぅぅ……!!!」

…高度な知能と特殊な性癖を持つイカ頭の魔物「マインドフレイア」。
彼らはマインドブラスト(精神破壊)の魔法で対象を無力した後、
「脳みそを吸い取る」という行為を行う。
だが具体的に、本当に物理的に脳みそを啜っているのか、
あるいは魔法か何かで精神的ダメージを与えているのか…
実際のところよくわかっていない。
何しろこの技をまともに受けた者は完全に精神を破壊され、
二度と立ち直る事が出来ないのだから。

「おいおい、いつまでも痛い思いさせちゃかわいそうだろ?
…俺は口からイっちゃおうかな!…ケケケッ!!」
(ぐちゅぅっ!!)
「あぐ、んっ!?………な、に、これぇ…」
3体目の魔物の触手が、唯の口をこじ開けて入り込んだ瞬間…
…苦痛に歪んでいた唯の顔に、困惑の表情が浮かんだ。
それまで感じていた『頭を直接かき混ぜられている感覚』はそのままに、
激しい激痛が甘く蕩けるような快感に、一瞬にして置き換えられる。

「オイオイ、余計なことすんな!
俺は苦痛に泣き叫ぶ表情見ながら啜るのが好きなんだ…よっ!」
(じゅくっ!!)
「はぐっ!?……い、いた、あっ、がああああああ!!!!」

「ケッ…それ悪趣味すぎだろー!
この快楽にトロけるレイプ目こそが至高だろう…がっ!!」
(…ぶちゅ!!)
「ん、は……やぁ……きもひ、い…ん、…くぅぅぅぅっ……!!」

「まあ、俺はどっちでもイイけど……あ、過去に死んだ時の記憶みっけ!
…ちゅーちゅーイカかいな…すげえ回数…
ではダイジェストで振り返ってみたいと思います(冷静」
(ちゅるるっ……!!)

「あ……ぅ……やめ、てぇ…………ひぬ……ひん、じゃう……」
(なん、だか…わかんない、…!…けどっ…このままじゃ…
…だ、めっ……なの、に……)

意識、記憶、感覚……すべてが混濁し、髪の毛程の細さの触手ひとつに、
唯はただひたすら翻弄され続けた。


704 : 名無しさん :2017/11/12(日) 10:41:18 ???
「あー痛かった…あ!コラお前ら!なに抜け駆けしてんだよ!
誰のおかげで唯ちゃん捕獲できたと思ってんだ!!」
「ちーっすリーダーww」「おつかれーっすww」「サキイカせていただいてまーすww」
唯の攻撃を受けて瀕死のダメージを負っていた4体目のイカ魔物が、
回復を終えて唯の前に再び現れた。

「ん、あ……ぅぅ……こない、でっ……!!」
(ぽすっ…)
最初の攻撃からは見る影もない弱々しい蹴りを繰り出す唯。
その表情は、脳みそを弄られる快楽で甘く蕩けている。
…ちなみに苦痛派と快楽派の論争は、唯の脳みそを『交代で』弄る事で和解していた。

「フヒヒヒッ…ひでえなあ…俺ばっかり2度も蹴りやがって。俺もうイカっちゃったからね?」
魔物が唯の脚を掴んで持ち上げると、ミニスカートの中からパステルピンクの下着が露わになった。
もちろん最初に蹴りを受けた時にもしっかり見ているのだが、その時と明らかに違うのは…

「ヒヒヒ…グッチョグチョに濡れてやがる。こいつらに随分可愛がられたみたいだなぁ?」
「やっ……これ、はっ……ちがう、の………っ…!」
イカ魔物は口の周りの触手で、唯のパンツを器用に脱がせていく。
唯は魔物達に手足をしっかりと掴まれ、振りほどく余力は残っていない。
それどころか、ほんの少しでも抵抗のそぶりを見せれば…
(…ぐちゅっ)(じゅるるっ!!)
「…お、ぐぅっ!?…あ、がっ!!や、そこ、やめ、ひぬ、ひぎゃうううううぅ!!!」
…即座に頭の中を弄り回されて、抵抗の意志そのものを吸い取られてしまう。

「…はぁっ……はぁっ………も、もう…いやぁ………ゆる、して…」
「クックック……ダメだね。脳みそ啜る前に、たっぷりオシオキしてやる。
『水着回』の試合は俺らもガッツリ観戦してたから、唯ちゃんの弱点はとっくにお見通しだぜ」
「あー!そこ、最後の楽しみにとっておいたのにー!!」
「ずるいぞリーダー!!」
「うっせー!こういうのは早いもん勝ちなんだよ!つーか誰がリーダーだw」

(くちゅっ……ぎちっ!!)
口から伸びる極細触手が丁寧に包皮を剥き取り、露わになった唯のクリトリスを根元から絞り上げた!
「ん、そこ、あ、っはあああああああ!!!」
今まで以上に激しく嬌声を上げ、全身をガクガクと震わせる唯。

「ヒヒヒヒッ……すげえ反応」
「直接脳みそ弄られるより、興奮してるんじゃなイカ?」
「ボラボラ」「ゲソソソソ」
魔物達は触手をゆらゆらと蠢かせ、下卑た笑い声をあげながらその様子を眺めていた…


705 : 名無しさん :2017/11/12(日) 10:58:40 ???
>卒業後でも
ついてても特に違和感はないですねー
彩芽は将来時空刑事になるんだろうか…

唯の方は瑠奈達が助けてくれそうだから遠慮なくやっとこうの精神でイカ増量


706 : 名無しさん :2017/11/12(日) 12:11:09 ???
「そろそろ、脳を本格的に虐めようじゃなイカ!」
「グヒヒ……かわいそウニ、自分だけ4対1で戦わされたばっかりに」
「ボラボラ、触手を総動員だ!」
「脳クチュは最高でゲソ!」

クリトリスを撫で上げられて痙攣している唯に、休む暇など与えないとばかりに触手で追撃を加えるイカたち。
既に触手に侵入されている口と耳には、触手が追加され……そればかりか、なんと鼻からも触手が侵入してきたではないか!

「んぁあ!?お、ご、ぉおお……!」

鼻うがいをやったことのある方なら分かると思うが、鼻から物を注入するのはかなりの生理的嫌悪を伴う。
嗚咽がこみ上げ、吐きそうになるも、口も触手に犯されていてソレもできない。

と、唯の脳を犯している触手群が、突如グググ……!と膨張し……何か、粘液のようなものを噴き出したではないか!

びゅるるるるっ! ぶしゅうぅぅうっ!

「むおぉっ!? おごっ、ぎぃっ!?」

「イカスミ発射!」「イカスミという名の謎の粘液発射!」
「ちょww言うなよww」「事実だけどww」

触手群は一度や二度では飽き足らず、何度も何度もしゃせ……もとい、イカスミ噴射を繰り返し、唯の脳を、口内を、耳や鼻の粘膜を……謎の粘液で満たしていった。


「ひっぎいぃいい!?だ、だぇえ……!あひゃまの中ぁ……!グチュグチュ、しないれぇ……!」

「まだ喋れるってことは、大丈夫大丈夫(笑)」
「むしろまだ手ぬるいんじゃなイカ?」
「脳をイカスミ色に染めてやるでゲソ!」
「ボラボラ!笑いが止まらないボラ!」

ぶしゅっ、ぶちゅるっ、にゅぐ、にゅるるるるっ!どくっ……!どくっ……!

「んやぁああああ!??ら、めぇ……!しょしょがれ、ちゃってる……!あひゃまに、じょぼじょぼ、しょしょがれちゃってるからぁああ!!」


触手は常時イカスミという名の謎の粘液を振りまき、唯の体内を犯し尽くさんとする。
脳を直接粘液漬けにされているかのような衝撃に、唯の身体はビクンビクンと痙攣を繰り返し、股座からは愛液がとめどなく流れる。

哀れ唯、このまま脳を犯され、正常な判断もできないようにされ、イカ臭い身体のまま一生を過ごすことになるのか……!


「ちょっと待ったぁああ!瑠奈ちゃんキーーック!」
「ヴァイスシュラーク!」


707 : 名無しさん :2017/11/15(水) 23:49:15 ???
「ゲソーーッ!?」
「タラバァァァ!!!」

「あんたたち、よくも唯にあんな事を……」
「絶対に許しませんわっ…覚悟なさい!!」
イカの魔物達は、激昂した瑠奈とアリサに瞬く間に薙ぎ倒されていく。

「よーし、こっちはOKだ!後は頼んだよ、魔法少女!」
一方。桜子、スバル、そしてサラと彩芽は前線から一旦退き、
時を同じくして鏡花も攻撃魔法の詠唱を完了していた。

「くそっ!!アホベルトめ、なんて使えない奴!!こうなれば、私自らの手が嫁を取り戻してやるわっ!」
そこへ、怪しい機械を手にした教授が魔物の軍勢と共に突撃を仕掛けようとする。

「あ、教授!…オーイ。悪い事は言わねえから戻ってこーい……」
異世界人の少女達や教授の運命を読むことは出来ないが、相手の出方はなんとなく予測がついていた。
このまま突っ込むのは危険!と思ったアイベルトが、教授を呼び止めるが…

「うるさいバーカ!アホベルト!!もうお前なんかには頼らんわ!そこでアホ面ぶら下げて見物してろ!」
「……アッハイ、じゃあそうさせてもらうわ」
さすがにイラっと来たので黙って見守る事にする。

「シャイニングバースト・フルオープンッ!!」
「ヨメ”ェェェェッッッ!?」
…かくして放たれた魔法少女に変身した鏡花の全力全開の攻撃魔法が、
残りの魔物兵もろとも教授を激しい光の奔流に呑み込んでいった。

(うーん…あれは死んだな、完全に。イラっと来たとは言え、さすがにちょっとかわいそうだったか…?
ていうかこれ俺も普通にヤバくね?けっこう距離あるから大丈夫かな、と思ってたけど……)
激しい閃光はアイベルトを、そして城の廊下全体をも包み込んでいき……

(きゃああ!?な、何ですのこの光は!?)
(あなや。今の我々は、闇の眷属…光は大敵)
(確かにそういう感じのコスプレですけど、そんなの関係なく死ねますわー!?)
(二人とも下がって!…『プロテクトシールド』ッ!!)

(ドドドドドドド……)
「す、すごいな……話に聞いてはいたが、ここまで威力があるとは」
「鏡花お姉ちゃん、すっごーい!かっこいい!!」
「ふふ……ありがとう、スバルちゃん」
(お姉ちゃん、か…水鳥、心配してるだろうな。ここを抜け出したら、早くルミナスに帰らなきゃ…)
無邪気に喜ぶスバルの笑顔を見て、鏡花はふとルミナスにいる妹の事を思い出していた。


708 : 名無しさん :2017/11/17(金) 23:11:43 ???
「あ、危なかった……!なんだ今の光は!?」

トーメント城の廊下にて荒い息を吐いているのは、王下十輝星『プロキオン』のシアナ。
参謀的存在として王の横に控えていたシアナだが、いい加減アトラを叩き起こそうと廊下に出ていたのである。

そして、アトラの元に着いたと思った途端に、廊下が謎の光で包まれたのである。
シアナは咄嗟に空間に穴を開けて自分とアトラを守る即席の盾として、その光をやり過ごしたのだ。

「これほどの魔法……エミリア・スカーレットか?いや、まさか……」
「うーんむにゃむにゃ、鏡花ちゃーん」

アトラの寝言が、偶然にも真実を言い当てる。

「だろうな……だとしたら、唯ちゃんたちが逃げてる!?おいアトラ、いい加減起きろ!」
「イテ!?リザ、俺はリョナるのは好きだけど、頭を蹴られて喜ぶ趣味は」
「いつまで寝ぼけてんだ!」
「ちょ、ま、起きた、起きたって!」

ゲシゲシとアトラを蹴り起こすシアナ。余談だが、何も働かずに幸せそうに眠っている姿を見てイラっときたシアナは、わざと多めに蹴った。

「やりやがったなシアナ!お返しだこの!」
「おい、遊んでる場合じゃない!五人の戦士……唯ちゃんたちが脱走しそうなんだ!」
「ええ!?鏡花ちゃんたちが!?」
「とにかく、様子を見に行こう!」



「あ、危なかったですわ……エミリアちゃん!貴女は命の恩人ですわー!」
「ふぅ、2人とも、無事でよかった!」
「……無事じゃない」
「え?ロゼッタさん?まさか、どこかケガを!?」
「我が眷属にして我が盟友が……フフ、ウフフフフ……許さない」

鏡花の魔法はエミリアが防いだが、その余波でロゼッタが頭に被っていたジャック・オー・ランタンの被り物は、壊れてしまっていた。

「あー、これはパックリいっちゃってますわねー、ていうかそもそも、あの光はなんだったんですの!?」
「フフ、ウフフフフ……こういう時は、あの人に聞くのが一番……」

ロゼッタは懐からスマホを取り出すと、素早く操作を始めた。


『ロゼッタだよ!
王様ー!さっきの光なにー!?すっごくビックリした!王様なら何があったか知ってるよね?ね?
私のことはさっき友達になったエミリアちゃんが守ってくれたけど、気に入ってた私のお人形さんが……( ノД`)
もしこれがアイベルト辺りのヘマだったら、私絶対許さないよ!ヽ(`Д´)ノ』

「送信……彼方へ消えて、此方へと過ぎ去っていく……そう、時の流れは……メールに似ている」
「相変わらず意味の分からないこと言っていますわね!でもそういう中二病に片足入れてるミステリアスさは評価しますわよ!」
(え?今チラっと、メールの文字見えちゃったけど、えぇ?)


709 : 名無しさん :2017/11/18(土) 19:34:38 ???
「…よし、新手が来る前に城を脱出しよう。さっき教授のコンピュータで調べたんだけど、
この先に地下道に通じる抜け道があるはずだ」
(((地下道か………)))
彩芽の言葉に、唯、瑠奈、アリサの表情がこわばった。
ここの地下にはあまり良い思い出がないのだが、今はそうも言ってられない。

「道案内は頼むみますわ、彩芽。…でもこの煙の中を突っ切っていきますの?」
周囲は鏡花の攻撃魔法で発生した爆煙がまだ残っており、視界はかなり悪かった。
闇雲にいけばはぐれてしまう危険性もある。

「す、すみません…ちょっと威力出し過ぎちゃって」
「まあ、身を隠すには好都合だよ。…でも声かけたり音の出る機械を使うのも目立つし、どうするか」
「…みんな。はぐれないように手を繋いで行こう!」
「なるほど。…それなら行けそうね」(手を繋ぐのも、プールでちょっと嫌な思い出があるけど…)
「ナイスアイディアだわ、ユイ!」
「わたし、桜子お姉ちゃんと手を繋ぐー!」
「ふふ…スバル、静かに。…よし、全員いるな」
「行きましょう……必ず8人で」
「脱出しますわよーー!!」

こうして唯達は、互いに手を繋いで煙の中に駆け出して行った。
(…ん?今、最後に叫んだのって亜理紗か?なんか微妙にキャラ違ったような…)

………

「…アヤメカナビによれば、地下道の入口はもうすぐだ…みんな、大丈夫?」
案内役の彩芽が先頭、サラと瑠奈、唯がそれに続く。
「ええ、アヤメ。正直キツいけど…城を抜け出すまで、気は抜けないものね」
「サラさんもボロボロだけど、唯も辛そうね…頭の中、まだ痛む?」
「う、うん。少し……でも、この手だけは離さないよ…」
(今また敵に襲われたら、かなりヤバいわね…後ろの方は大丈夫かしら……?)

………

「ごほっ!ごほっ!…煙で何も見えませんわね……」
「ええ、アリサさん……手を離さないよう、気を付けて」

唯達の後ろで、手をしっかり握りながら必死についていく鏡花とアリサ。
……だが、先ほどから鏡花は言いようのない違和感を感じていた。
(私の後ろはアリサさん。その後ろはスバルちゃん、最後尾に桜子さん……)

「さあ、こっちですわよ!しっかりついて来てほしいですわー!」
(じゃあ私のすぐ前の、この人は………誰!?)


710 : 名無しさん :2017/11/18(土) 21:13:33 ???
「…あの、ロゼッタさん。さっきの王様のメールによると、脱走者が魔法で兵士をなぎ倒して……」
「…そう、逃走中。奴らのせいで我が眷属は永遠に失われた…許すわけにはいかない」
「あの、そこの所はなるべく穏便に……」
本来なら避難するか、又は脱走者を探すべき所なのだが…
エミリアは、ロゼッタと二人で「何か」を待っていた。

(うう。ロゼッタさんと二人だと、間が持たないなぁ……)
まだ時間は5分と経ってないはずだが、もう何時間もずっと「それ」を待ちわびているように思える。
それなのに、自分たちが待っている「それ」が何なのか、どうしてもエミリアには思い出せなかった。

「……来た」
「え!?……あ、アイナちゃん…!」
「ふふふ……お待たせですわ!アイナちゃんの『能力』で、見事に脱走者たちを連れてきましたわよ!」

やがて、煙をかき分けながらアイナが「戻って」くる。その瞬間、エミリアは全てを思い出した。

…トーメント王からのメールで事の次第を知ったアイナ達は、
魔法が飛んできた方角から脱走者の居場所を予測した。
桁外れな魔法の威力から正面から戦いを挑むのは危険と判断したアイナは、
『能力』を使って脱走者をおびき寄せる作戦を立てたのだった。

アイナは8人いた脱走者達の中に紛れ込み、
そのうちの4人を分断してエミリアとロゼッタの待つ部屋へと連れて来た。
「あ、あれ!?……ここは……みんなは!?」
一人目は、先程の魔法を放った、魔法少女。
「あのピンク髪は、王下十輝星!?…一体どういう事ですの!?」
続いて、アイナが以前から口調のかぶりを気にしていた白い服の剣士。
「あの女、以前闘技場で戦った…あいつも王下十輝星だ!」
三人目は、鎧を着た女戦士。ロゼッタは以前、彼女と戦ったことがあった。名前は確か、春川桜子…
「桜子お姉ちゃん。あの人たち……敵なの!?」
そして、その桜子に寄り添う獣人化した少女。この二人は教授に改造され、魔物の力を身に着けたとか。

「残りはシアナ達が追ってるはずですけど…4人は多すぎましたかしら?」
「……問題ない。何なら全員連れてきても構わなかった。私の糸は、すべてを捕らえて………切り刻む」
ロゼッタの操る不可視の糸が、4人に向かって伸びていく。
…「盟友」を無惨にも破壊された怒りで、ロゼッタは久しぶりに本気モードになっていた。


711 : 名無しさん :2017/11/18(土) 23:39:26 FlyynNeY
「みんな、気をつけろ!奴の能力は、見えない糸だ!」

ロゼッタの能力を知っている桜子が、周囲に警戒を促す。
一方のロゼッタは、自分の能力を明かされたというのに、顔色一つ変えていない。

「例え知っていても……目に見えぬものから逃れるのは不可能」

ロゼッタがクイ、と指を動かした直後、四人を拘束せんと不可視の糸が襲い掛かる!

「プロテクトシールド!……きゃっ!?」

周囲に防御魔法を張った鏡花だが、防御魔法ごと糸でグルグル巻きにされて拘束される。

「集中すれば、風圧や風を切る音で見切れますわ!……くっ!?」

アリサは気配のする辺りにリコルヌを振るい、正面の糸は切断する。しかし、上から来ていた糸が剣を持つ右腕に巻きつき、右腕だけ万歳をさせられるポーズで拘束されてしまった。


「何か……!来る……!?」
「流石に……!『三度』も同じ手に引っかかるか!」

桜子は道中で兵士から奪った医療用輸血パックを放り投げる。その結果、不可視の糸に血がこびりつき、目視が可能となった。


「スバル!行くぞ!」
「分かったよ、桜子おねえちゃん!」

スバルは鋭い爪で、桜子は剣へと変化させた右腕で、目視できるようになった糸を防ぐ。

「……無意味な抵抗、無価値な抗い……有なるものは、血の温もりだけ……」

それを見たロゼッタは、手首をクイクイと動かして、糸に魔力を流し込む。

「例え防ごうと……私の魔の糸は、防いだ盾ごと切り刻む」

ピシ、ピシピシ……!

「しま、剣が……!スバル!」
「きゃあああああ!?」





「あ、あれ?」
「キョウカ?アリサ?サクラコ?スバル?」
「ちょ、いつの間にか半分になっちゃってるじゃない!」
「い、いつの間に!?」

一方その頃唯たちは、自分たちが分断されていることに気づいていた。

「みんな、落ち着いて。ここで焦っては敵の思う壺よ」
「サラさん……でも、どうすれば……」
「アリサたちはアリサたちで、目的地へ向かっているはず……ここは彼女たちを信じて、私たちは前に進みましょう」
「うう、みんな大丈夫かなぁ……」
「でも、ここはサラさんの言う通り……アリサたちを信じるしかないわ」

仲間たちは心配だが、ひとまずは目的地へと向かうことにした異世界人たち。

(唯は頭を攻撃されてて、サラさんもボロボロ……彩芽は後衛だし……ここは私が頑張らないと!)

一番元気な自分が頑張らなければならないと、気合を入れて先頭を歩く瑠奈。


その瑠奈の足元に……!


712 : 名無しさん :2017/11/20(月) 18:03:21 ???
ガシャン!

「っ、きゃあああ!?」

突如現れたトラバサミが、瑠奈の右足を捕らえる。

(ヒヒヒヒ!引っ掛かった引っ掛かった……成長しないなー、瑠奈ちゃんは)
(そう言えば、初めて会った時もアトラの罠に嵌まってたな)

唯たちがいる廊下の、突き当たりの角の片隅で、アトラとシアナは赤外線カメラを覗き、隠れながら唯たちに攻撃を仕掛けていた。

「る、瑠奈!?大丈夫!?」
「く、右足をやられた……!それよりも気を付けて!この能力、奴よ!」

瑠奈は腕力で無理矢理トラバサミをこじ開けながら、この罠の下手人を確信していた。

「奴?ルナ、それは一体?」
「あの赤毛よ!あ、変態の方じゃなくて、子供の方!」
「スピカのリザに気絶させられていた、あの……?」
「そう言えば、5対8でフルボッコにされた時にいたような……」
「あいつの能力はトラップ生成!みんな、足元に注意して!」
「そうは言っても、この煙の中じゃ足元が見えないよ……!」

鏡花の魔法による土煙は、身を隠すのに役立つと同時に、こちらも周囲を警戒しづらくさせてしまっていた。


「へへ……煙が晴れる前に、ポイント荒稼ぎしてやるぜ! まずは俺が1ポイントな!」
「チ……いいんだ、僕はポイント勝負よりも、最後に唯ちゃんだけ残してリョナれれば」
「オイ、負けた方がコーラ奢る約束忘れるなよ!」
「ま、どちらにせよ……唯ちゃん以外はさっさとダウンさせるか」


「まだ本調子じゃないけど……<閃甲>!コンバットアーマーの防御力なら、多少の罠は大丈夫よ!私が前に出るわ!」

クレラッパーへと変身したサラが、自らが矢面に立とうと前へ出る。
だがそれを見て、唯はハッとしたように叫ぶ。

「サラさん、ダメです!アトラ君がいるってことは、きっとシアナ君も……!」

しかしその忠告は、あと一歩遅かった。

「ルナ!今行く……あぁ!?」

サラは、突如現れた落とし穴によって、城の下層へと落ちていってしまう。

「さ、サラさーーん!!」
「マズイ、今のボロボロのサラさんを一人にしちゃ……!」

次々と分断されていることに焦りを覚える少女たちだが、有効な解決手段があるわけでもなく、右往左往する。


「アイツはアイベルトを圧倒したらしいからな……正面きって戦わない方がいい」
「へへ、シアナ……ひょっとして、これで同点とか思ってねぇよな?」
「ん?思うもなにも、実際同点だろ?」
「ふ……お前の落とし穴のさらに下に、トラップを仕掛けておいたのさ!都合よく服だけ溶ける水をな!これで俺は2ポイント!」
「アトラ……ちゃっかりしてるな……でも確かに、あの鎧女に服だけ溶ける水は有効だ」


713 : 名無しさん :2017/11/22(水) 22:24:32 ???
(ぎちっ……ギリギリギリギリ!!)
「そんな…シールドが破られ…きゃあああっ!?」
ロゼッタが魔力を込めた糸は、先程までとは比較にならない程の強度を持っていた。
鏡花の魔法障壁を易々と破壊し、剣に変化した桜子の右腕や、魔獣化したスバルの身体に容赦なく食い込んでいく。
三人は瞬く間に全身を糸で絡め取られ、アリサの目の前でその身を吊るされてしまった。

「い、っ……い、にゃああああ!!!!痛い痛い痛いいいっ!!!!」
糸が身体に少しずつ食い込み、鮮血を滴らせる。
金属以上の硬度を持つスバルの爪でも、そこから逃れることは出来ない。

「な、なんて、奴だ……うぐ、ああぁっ!!」
桜子は糸が首にまで食い込み、首を反らした苦しい姿勢を強いられる。
下手に動けばそのまま頸動脈を断ち切られ、一瞬で絶命してしまうだろう。

「やっ……これじゃ、魔法が……ん、ああっ!」
防御魔法だけでなく、強い防御力を持つはずの魔法少女の装束さえ易々と切り裂かれ、
鏡花の太ももや胸にまで魔の糸がギチギチと食い込んでいった。

「くっ……この糸、解けませんわ…このままじゃ…!」
アリサが拘束されているのは右腕だけだが、剣を封じられ身動きが取れない。
苦悶の叫びを上げる仲間を目の前にして、アリサは悔しそうに歯噛みする。


「…お前は、私の大切な物を奪った…これは、その報い。…目の前で一人ずつ、切り刻んで殺す」
「な…ロゼッタ!?いくらあのカボチャを壊されたからって、ブチ切れすぎですわ!?」
「そ、そうですよ!代わりの被り物でもなんでも用意しますから、落ち着いてください!」
表情にこそ出さないが激昂している様子のロゼッタに、エミリアとアイナは驚きを隠せなかった。

「我が眷属……あれはあれで残念だけど、その事じゃない。
私が言っているのは…ヴィオラ……殺された、姉さんの事」
ロゼッタの指先から流れる魔力が一層強くなり、部屋全体に張り巡らされた糸が紫色の輝きを放つ。

「殺したのは『白のカペラ』ソフィア・アングレーム…その報いを、義理の娘である貴様に受けてもらう」
ロゼッタはアリサを指さし、ぞっとするほど冷たい声で宣言した。


714 : 過去編【1】 :2017/11/24(金) 18:54:14 ???
──12年前──

トーメント王国の守護戦士「王下十輝星」。中でも二つの連星系からなる四重連星「カペラ」の星位は、
名門貴族であるアングレーム家、ラウリート家の二門によって代々受け継がれていた。

【ヴィオラ・ラウリート】
もうすぐ16歳。トーメント王国に仕える名門貴族ラウリート家の長女。
若くしてラウリート流双剣術の奥義を極め、天才剣士としてその名を轟かせる。
その才を鼻に掛ける事なく、明るい性格で誰にでも分け隔てなく接する。

【ソフィア・アングレーム】
2(ぴーーー)歳。トーメント王国に仕える名門貴族アングレーム家の女当主。
トーメント王国直属の戦士、王下十輝星の「カペラ」の星位に就いている。


「…たあっ! はっ!!」
深紫色のドレスを纏った少女が、舞うような動きで二本の剣を振るう。

「ふふ…なかなかいい動きですわ!…強くなりましたわね、ヴィオラ」
相手を務めるのは、白いドレス姿の妙齢の女性。
無駄のない動きで、少女の連撃をしなやかに受け流していく。

「だけど……まだまだ甘いですわっ!!…シュネル・リヒト!!」
「行きますっ……コルニーチェ・ブランカータ!!」
…二人が行っているのは、練習用の剣を使っての模擬戦である。
白と黒のドレスを纏った二人の動きは、まるでダンスを舞っているかのように優雅で美しく、見る者を魅了した。

「…さあ、今日はこの位にしておきましょう。
明日はいよいよ、トーメント王へのお披露目試合…稽古で怪我でもしたら大変ですもの」
「はぁっ……はぁっ…は、はいっ……ありがとうございましたっ…!!」

ドレスを汗で濡らし、肩で息を切らせるヴィオラに対し、ソフィアは呼吸一つの乱れもなかった。

トーメント王国直属の戦士「王下十輝星」を長年務め、その中でも最強格と言われたソフィア。
彼女が寿退職するため、後釜を任されることとなったヴィオラは、
明日…16歳の誕生日に、お披露目として王の御前でソフィアと試合を行う。
その後、正式に「カペラ」の星位をソフィアから引き継ぐ事になっていた。

「…ぜぇ…はぁ……その前に、ソフィアさんから…い、一本くらい、取りたかったなぁ…」
「ふふふ…そう心配しなくても、明日は少しくらい花を持たせてあげますわよ」

現時点の二人の実力には歴然とした開きがあるものの、
ヴィオラもまた若くしてラウリート流双剣術の奥義を極めた天才剣士。
その才能はラウリート家の歴代でも随一と評され、
将来的にはソフィア以上の剣士に成長するだろうと言われていた。

「そ、それはありがたいですけど…こんなんで私、ソフィアさんの代わりなんて務まるのかなぁ…」
「心配いりませんわ。長年稽古をつけて来たわたくしが保証………あら?これは…ふふふ」

…そして、その片鱗は今の稽古中にも表れ始めていた。
いつの間にか、ソフィアのドレスの腕にほんの僅かな裂け目が入っている。
それは、ヴィオラの双剣が「白のカペラ」ソフィアの鉄壁の守りを潜り抜けた証であった。


715 : 過去編【2】 :2017/11/24(金) 18:55:31 ???
【ロゼッタ・ラウリート】
10歳。ヴィオラの妹で、名門貴族ラウリート家の次女。
性格は気弱、かつ人見知りが激しく、どこへ行くにも人形やぬいぐるみを手放せない。
姉のヴィオラが大好きで、いつも付いて回っている。

「…………姉さま、おつかれさまでした」
小さな少女がヴィオラに駆け寄り、タオルを差し出す。
髪の色はヴィオラと同じ紫色で、白いブラウスに黒のジャンパースカートを着ている。

「うはーー。ロゼ、いつもありがとうねー。稽古の疲れも吹っ飛ぶよー!
ういやつういやつ、ヨイデワ・ナイカ!」
「…あせくさい」
ヴィオラは受け取ったタオルで汗を拭きつつ、妹の小さな身体に抱きつき、頭をなでくりまわし、
挙句の果てには髪の匂いをスーハースーハーくんかくんかする。
今さっき見事な剣舞を披露した凛々しい姿はどこへやら。

「ふふ。相変わらず仲良しですわね……こんにちは、ロゼッタちゃん」
「……………」
にこやかに挨拶するソフィアだが、ロゼッタはぷいと顔を反らし、言葉をかわそうとしなかった。
その理由は……
「ソフィア様…姉さまをいじめるから、きらい」

「あらあら、困りましたわね……もう明日で最後にしますから、許してくださいな」
顔を合わせる度にこの調子なので、ソフィアの方も慣れた物である。

「もう、ロゼったら…ソフィアさんに失礼な事言うんじゃありません!
…ソフィアさん。そんなこと言わず、これからも私に剣を教えてください」
そんなロゼッタをたしなめ、真剣な面持ちでソフィアに頭を下げるヴィオラだが…

「ふふふ。そうしたいのは山々ですけど、わたくしは引退する身ですし…
それにヴィオラも、十輝星になれば任務で忙しくなって、時間が取れなくなるのではなくて?」
「…た、確かにそうかも。ソフィアさんに教われないのも残念だけど……」
「姉さま…もう、ロゼと遊んでくれない?」
「え、えーと、その……遊んであげたいのは山々なんだけど」
「……やっぱり、きらい。ソフィア様も、姉さまも」
「そ、そんなぁぁぁ!待ってよ、ロゼぇぇ!!」
すっかりへそを曲げ、とてとてと走り去るロゼッタを、ヴィオラは大慌てで追いかけていった。


716 : 過去編【3】 :2017/11/24(金) 18:58:29 ???
【アルフレッド】
12歳。名門貴族ラウリート家に仕える下男。
生真面目な性格の美少年で、よくヴィオラのイタズラに悩まされている。

「きゃああああ!!!た、大変よ!!アルフレッド!すぐに来てぇぇ!!」
「……ど、どうしましたお嬢様!!」
ラウリート家に仕える下男アルフレッドは、ヴィオラの悲鳴を聞くやすぐさま駆け付けた。

「…あの、先に言っておきますけど。
くれぐれもこの間みたいなのは止めてくださいね。では、失礼します…!!」
…何だか違う意味で嫌な予感がしたのだが、主の呼びつけに従わないわけにもいかない。
意を決してドアを開け、部屋に飛び込んだ。すると…

「部屋の中にゴキブリがー…って、いやーん!アル君のえっち!!」
剣術の稽古を終えて着替え中のヴィオラが、自分で呼びつけておきながら
大変不名誉な言いがかりをつけて来た。

「ちょっ…!?…ま、またこのパターンですか!いい加減にしてください!!」
半ば呆れながらも、目のやり場に困って赤面するアルフレッド。
生真面目な性格が災いしてか、彼はこれまでにもヴィオラから
何度となくこの手のイタズラを仕掛けられていた。
ふざけて抱きついてくるヴィオラを引きはがそうとするが、
色んな所に手が当たってしまい、毎度の事ながらたいへん難儀する。

「ぜー…ぜー…あ、アルフレッド…腕を上げたわね」
「はー…はー…い、一体何の腕ですか、もう…」
途中不可抗力で何回か思わぬところに手が当たってしまい、
思わずヴィオラは変な声を上げてしまっていた。

「まったく…いい加減にこんな悪ふざけはおやめ下さい。
明日から『王下十輝星』としてトーメント王にお仕えする身だというのに」
「それなんだけど……実は私、さっきソフィアさんに言われるまで、よく考えてなかったんだ。
ずっと憧れてたソフィアさんの後任になって、うまく出来るかなって、そればっかり心配してたけど…」

ヴィオラはふいに神妙な面持ちになると、クローゼットから普段着を取り出し着替え始める。
もちろんアルフレッドはそれを見たりはしないが、
ヴィオラの言葉を一言も聞き逃すまいと黙って耳を傾けていた。

「でも…それだけじゃないんだよね。私が十輝星として働くようになったら、
ソフィアさんに色んな事教わったり、ロゼやアルフレッドと遊んだり、
そういう事が、もうできなくなっちゃうのかな、って…」
ブラウスに袖を通し、スカートを穿いたところで、ヴィオラは小さくため息を吐く。
…いくら卓越した剣の腕があっても、中身はまだ年端も行かない少女なのだ。

「…ラウリート家はアングレーム家と並び、代々王国に仕えて来た武門の家柄。
その当代を務めあげる重圧は、私のような若輩者には想像もつきません。ですが…
微力ながら私たちも、ロゼッタお嬢様と共にヴィオラお嬢様をお支え致します。
…だからきっと、大丈夫ですよ」

「ありがとう、アルフレッド……私が居ない間、ロゼの事よろしくね」

「かしこまりました……とは言え私、ロゼッタお嬢様には少々嫌われてるらしくて」
「え、そうなの?……なんで?」
「ヴィオラお嬢様がベタベタするせいです」
「……ええー…それってなんというか……ごめん」
「あと同僚からもよく『お前けしからんからしんでいいよ』と」
「マジでごめん」
すっかりいつもの調子を取り戻したヴィオラ。
だが悪ふざけの影響が思わぬ所に出ていたことを知り、なんかとっても申し訳ない気持ちになっていた。


717 : 過去編【4】 :2017/11/24(金) 19:00:19 ???
「ご来場の皆様っ!大変長らくお待たせ致しました!!
これより『ドキッ!新生カペラデビュー記念!お披露目♥御前試合』を行いますッ!!」
(ワアアアアアァア!!!)(早くヤれえええ!!)
(ヴィオラちゃんかわいいよおおお!!)(BBAにまけんなー!!)

(な……なんか思ってたのと、だいぶノリが違うわね…)
確かに御前試合だけあって客席の上の方に王らしき姿も見えるが、
それ以外にもこれ程の大観衆がいる事、そしてその客層など…ヴィオラにとって全てが予想外だった。

(それに……さっき聞いた話、やっぱり本当だったんだ。ソフィアさんがケガしたって噂…)
異様な雰囲気に戸惑うヴィオラだが、いつもと違うのはそれだけではない。
…対戦相手であるソフィアの右足首には、包帯が巻かれていた。
アングレーム流剣術の真髄は素早い身のこなしと攻勢に転じる際の瞬発力。
足を負傷していては戦闘力は半減…いや、翼をもがれた鳥に等しい。

「フフフ…よそ見してる余裕なんてありますの、子猫ちゃん?
…もう試合は始まっていますわよっ!!」
双剣を構えたまま、どう動くべきか考えあぐねていたヴィオラに、ソフィアが先制攻撃を仕掛ける。
その手に握られているのは、いつもの練習用の剣ではなくアングレーム家に代々伝わる宝剣リコルヌ。
清廉な心と純潔の身体を持つものに途方もない力を授けるという魔剣である。
それを操るソフィアの殺気の鋭さも、昨日までの優しく優雅な彼女とはまるで別人であった。

「きゃっ!?…はっ!!……くっ!!」
(…いつものソフィアさんとは比べ物にならない!…一撃一撃が、鋭くて…重い!!)
試合開始早々、防戦一方に追い込まれたヴィオラ。
反撃に転じるどころか、ソフィアの攻撃を防ぐのに精いっぱいだった。
(いいぞソフィア様ーー!!)(そのままブッころせーーー!!)
(ヴィオラちゃん結婚してーー!!)(ぬーがーせ!o彡゚ぬーがーせ!o彡゚)
(あれ、俺の隣でBBAーとか叫んでたやつどこ行った?)

(このままじゃマズいっ……何とかして、立て直さないと!)
相手の得物は容易く折れてしまいそうな細身の剣一本なのに、
攻撃を受ける度に衝撃で両腕が痺れ、双剣を手放してしまいそうになる。
既にヴィオラは何度も斬撃をその身に受け、直撃こそ避けてはいるものの
全身至る所に浅い裂傷を刻みつけられていた。


718 : 過去編【5】 :2017/11/24(金) 19:08:35 ???
「このまま、何もできないで終わりたくないっ…
…ソフィアさんに教わってきたこと、全部出し切らなきゃ…!」
ヴィオラは己を奮い立たせると、嵐のようなソフィアの連撃をかいくぐりながら前に出る。
「バレリナ・ランチャータ……いけええっ!!」

「痛っ……!!」
その時。ソフィアは踏み込んだ右脚に痛みが走ったのか、足首をかばうそぶりを見せる。

「ソフィアさんっ…!?」
それを見たヴィオラの動きが、一瞬止まった。

「ククク……甘いですわねっ!!」
だが次の瞬間、ソフィアは怪我をしているはずの右脚で足元の砂を蹴り上げる。

「なっ!?」
ソフィアの足を注視していたヴィオラの目に、砂がまともに入ってしまい……

「斬り刻んであげますわ……シュヴェーアトリヒト・エアーストッ!!」
視界を閉ざされたヴィオラに、ソフィアの必殺の斬撃が襲い掛かった。
「ぐっ……!!」
ヴィオラは己の直感を総動員させ、強烈な斬り払いを双剣の一本で受け止める。
(ガキィィィン!!!)
「うっ……!!」
…だが、目も見えない状態では満足な防御が出来る筈もない。
右手の剣は弾き飛ばされ、リコルヌの刃がヴィオラの胸元にざっくりと深い傷を刻みつけた。

「ツヴァイトッ!!」
(ズドドドッ!!!)
「く、あっ……んぐっ!!!」
続けざまにソフィアの強烈な突きが繰り出される。
太股、脇腹、右肩と、一瞬で三か所を串刺しにされ、スタジアムに鮮血が舞う。

「ドリット!!」
(ザシュッ!!!)
「きゃああああああっ!!」
ソフィアはそのままヴィオラの懐に踏み込み、止めとばかりに勢いよく斬り上げる。
ヴィオラの小柄な身体は真上に弾き飛ばされ…空中で半回転した後、地面に叩き付けられた。

「クククク……お馬鹿さん。わたくしが脚を痛めたという噂、まさか本気にしてましたの?」
ソフィアはこれ見よがしに包帯を外して見せた後、
這いつくばるヴィオラの脇腹を蹴りつけ、仰向けに転がらせた。
ヴィオラのドレスはソフィアの剣で十文字に切り裂かれ、ブラとショーツ、
そして痛々しく刻まれた傷痕が白日の下にさらされる。

「っ…い、ぎっ!……はぁっ……はぁっ…ソフィア、さん……どう、して…」
ソフィアに貫かれた脇腹を押さえながら、ヴィオラは苦し気な呻き声を上げた。

「…このわたくしが、貴女みたいな小娘に本気で『カペラ』の星位を明け渡すとでも?
つくづくおめでたい『お嬢様』ですこと……」

血に濡れた剣を手に、冷たい笑みを浮かべるソフィア。
それは昨日までの優しく美しい彼女を知るヴィオラにとって、とても現実とは思えない異常な光景だった。


719 : 過去編【6】 :2017/11/24(金) 19:11:32 ???
「…貴女を今日まで育てて来たのは、わたくしの噛ませ犬にするためですわ。
王の御前でラウリートの剣士を徹底的に叩き潰し、わたくしの地位を盤石な物とする。
…それがわたくしの、本当の目的」
ソフィアは動けないヴィオラに悠然と近付くと、
右肩や胸元の傷をブーツでぐりぐりと踏みにじって高笑いを上げる。

「おーーっとソフィア選手、後輩であり愛弟子のはずのヴィオラ選手に全く容赦なし!
一方的にいたぶっております!」
「下着はセクシーなレースのショーツにガーターベルト…
まだあどけなさの残るヴィオラ選手が身に着けると、ソフィア様とはまた違った味わいがありますね」
(うおおおお!!!)(もっと痛めつけろーー!!)
(殺せー!!)(全部剥ぎ取っちまえーー!!)

「い、いやっ……な…なんなの、これ…悪い夢なら、冷めて……!」
ヴィオラの敵は、対戦相手のソフィアだけではない。
トーメント闘技場で戦わされた多くの少女達がそうであったように、
ヴィオラは会場の異様な雰囲気に完全に呑み込まれていた。

怒号のような歓声、異常なまでの欲望でギラついた無数の視線。
それら全てが自分に向けられているという異常な状態に、体は委縮し、思考は混乱し、
普段の実力の10分の1も発揮できないまま、一方的に痛めつけられる…

「ククク…天才だ何だともてはやされていい気になった所で、所詮はこの程度。
わたくしがその気になれば、もう5回は死んでいる所ですわ。
…どうしてわたくしが貴女に止めを刺さないのか…わかるかしら?」

「そ……れは……あ、ぐっ…!!」
怯え切った眼でソフィアを見上げるヴィオラの顔面に、ソフィアはブーツの踵を思い切り叩き込んだ。
もんどりうって転がりながらも、ヴィオラはソフィアの問いの答えを探して必死に考えを巡らせる。

ヴィオラにとって、ソフィアは妹のロゼッタと同じくらい特別な存在だった。
実の姉のように慕い、剣士として、また一人の女性として、心から憧れていた。
そんな彼女が、ただ自分の権力を守るために自分にこんな仕打ちをするとは、
ヴィオラにはどうしても信じられなかった。
(…ソフィアさんの行動に、何か理由があるんだとしたら、……それはきっと…)

「フフフ…その程度の実力でわたくしの代わりを務めようだなんて、お笑い種ですわね。
このままわたくしに切り刻まれて、絶望と屈辱にまみれて死んでいきなさい」

(…これから十輝星として生きていく私に、実戦の厳しさを教えるため…
これは、ソフィアさんの最後の授業……だから……)
「……私は、まだ…倒れるわけには、いかないっ……!!」


720 : 過去編【7】 :2017/11/26(日) 11:27:22 ???
「フェニーチェ・サルトっ!!」
「…っ!?」
倒れた状態から全身のばねを使って跳ね起き、近付いて来た相手を蹴り上げる奇襲技である。
ヴィオラは連続バックフリップでソフィアから間合いを取ると、
地面に転がった双剣を拾い上げて構えを取った。

「くっくっく……今の一撃はなかなかでしたわねぇ…もう少しで当たる所でしたわ」
「このまま、終われない……だって私、ソフィアさんに色々な事、教わったのに…
まだ何も、恩返しできてないっ…!」

だが、ヴィオラがこれまでに受けたダメージは相当に大きい。
肩を剣で貫かれたため、右手は剣を持つことができない。
さらに右脚も思うように動かせず、かと言って左に体重を掛ければ
刺し貫かれた左脇腹から激痛が走る。
胸にざっくりと刻みつけられた十字の刀傷からも
血がどくどくと流れ落ち、気力と体力が喪われていく。
……立っていられることが不思議なほどの重傷である。
これがただの剣術の試合なら、とっくに審判に止められていることだろう。

(いいぞソフィア様ー!!素っ裸にひん剥けー!!)
(もっと切り刻んでダルマにしちまえー!!)
(ヴィオラちゃんちょっとは反撃しろー!!俺は30分持つ方に賭けてるんだぞー!!)
(いやいや、さっさとトドメ刺せー!俺は10分以内に全財産だー!!)
…だが、ここはトーメント王国闘技場、狂気渦巻く暴力の殿堂。止める者などいるはずもない。

「恩返し?…何を言い出すかと思えば……どうやら、まだ勘違いしてるようですわね」
「!?…消えっ……」
ヴィオラの斬撃をあっさりと受け流すと、ソフィアは目にも止まらぬ速度でヴィオラの背後を取る。

「貴女を弟子だと思った事なんて……わたくしは一度もありませんわ」
「そん、なっ…っぐ、あああああっ!?」
そしてヴィオラの脇腹を掴むと、傷口に力いっぱい爪を立て、ドレスごと肉をえぐり取った。

「おおーっと、これはえげつない!!『闘技場の残虐女王』『白い悪魔』
ことソフィア選手、今日も絶好調であります!!」
「今日はそんな彼女が手塩にかけた『ペット』の公開虐殺ショーという事で、
闘技場は異様な盛り上がりを見せています。
ちなみにオッズは一番人気が『20分以内』で2.8倍、続いて二番人気が……」

「う、嘘……そんなの…っぐ!!」
ソフィアは狼狽するヴィオラを蹴倒すと、血の付いた手袋を投げ捨て、優雅な所作で新しい手袋に取り換えた。
「さて、と……そろそろ『効いてくる』頃合いですわね」

ヴィオラはそれでもソフィアを信じる心を捨てられず、剣を取り立ち上がろうとするが…
途中で両脚に力が入らなくなり、ガクリと膝をついた。傷の痛みでも、失血のせいでもない。
身体の奥が火がついたように熱く感じ、それがじわじわと全身に広がっていく…

「全身を麻痺させ、爆発的な激痛とともに身体を内部からじわじわ蝕む。
ミツルギ原産ブラッディ・ウィドーの毒液……わたくしの最も得意とする猛毒ですわ」
ソフィアは剣から滴る血を拭い取り、ハンカチを投げ捨てる。
…そして胸元から小瓶を取り出すと、青紫色の液体を刀身に塗りつけた。


721 : 過去編【8】 :2017/11/26(日) 11:33:48 ???
「そんな…ソフィアさんが、毒、を…………が、はっ……ごほっ!!」
グルグルと回る視界の中、ヴィオラは蹲って血の咳を吐き出す。

「出ましたー!!ソフィア選手の十八番、『ブラッディ・ウィドー』の麻痺毒だー!!
 カイセツさん。蟲由来の毒としては、シーヴァリア原産のジェノサイドスティンガーも有名ですが…」
「屍肉を好むジェノサイドスティンガーは、獲物を一瞬で仕留めるための即効性の猛毒を持っています。
それに対してブラッディ・ウィドーは、獲物を生きたまま捕らえて体液を啜るといわれています。
そのため、殺さずに動きを止める強力な麻痺毒を持っているわけですね。
…ソフィア選手としては、恐らくこちらの方が性に合っているのでしょう」
珍しく専門的で小難しいカイセツを余所に、観衆席は更なる熱狂に包まれた。
会場内の巨大モニターには、のたうち回って苦しむヴィオラの姿が大写しにされている。

ヴィオラは身をもって思い知らされた。
今の残虐なソフィアは、演技などではなく、彼女の紛れもない本性である事を。
むしろ、これまでの16年間ずっと憧れて、必死にその背中を追いかけて来た
『白のカペラ』としての彼女こそが幻だったことも。

「こんなの…信じられない…だって、アングレームの宝剣『リコルヌ』は……」
「『清廉な心と純潔な身体の持ち主でなければ真の力を引き出せない』…でしたかしら?
そんな言い伝え、剣士たちを戒めるための前時代的な規律にすぎませんわ。
『真の力』?…剣からビームが出たり、空でも飛べたりするのかしら?
そんな物のために、常にお行儀よく正々堂々勝負なんて…馬鹿馬鹿しい」
「な、…っ…!!」

ソフィアを見習い、自分もラウリート伝家の宝刀「ガルディアーノ」を
使いこなせるようにと己を律してきたヴィオラにとって、この一言が決定打となった。

「やっぱり全部…嘘だったんですね。こうやって私を晒しものにして、嘲笑うため…
それなのに私、一人でいい気になって……本当に、馬鹿みたい」
「さっきからそう言ってますのに、ようやく理解できましたの?
…貴女って、本当に愚図ですわね」
怒りとも悲しみともつかない感情がヴィオラの心に渦巻く。
いっそこのまま殺されて、楽になってしまいたい…そんな気持ちすら芽生え始めていた。

だが、ヴィオラには、帰りたい…帰らなければならない場所がある。
何も知らず姉の帰りを待っているだろう、妹ロゼッタ。
こんな自分を支えると言ってくれた、使用人アルフレッド。
二人のためにも、ヴィオラはここでむざむざ殺されるわけにはいかなかった。

生き延びたい。どんな事をしてでも生き延びて、二人の元に帰って……
ここで起きた事は全て悪い夢だったと、忘れてしまいたかった。

「ふふ……まだ立ち上がる気力が残っているなんて。
でも、例え奇跡が起きようと…その剣がわたくしに届くことは、決してありませんわ」
昨日の稽古の、最後の最後。
ソフィアは、ヴィオラの剣が僅かに自分に届いていた事をこの上ない屈辱と感じていた。
…それ故に、今日の試合で万が一にも同じ事が起きないよう、万全の対策を取っていたのだった。

「そろそろ出してもいいですわよ……ヴィオラ、そして会場の皆々様も…あれを御覧なさい」
…ソフィアの合図で闘技場の巨大モニターに映し出されたのは、
何者かに監禁され、ドレス姿のまま鎖に繋がれている、妹ロゼッタの姿だった。

「ロゼッタ…そ、そんな…」

「無事に返してほしければ、抵抗しようなんて思わない事ですわ。
…そうそう。あの娘を攫ったのが誰か、折角ですから教えて差し上げましょうか。
貴女の所の、名前にアのつく使用人……報告によれば、貴女、ずいぶん気に入っていたそうですわね」

「…う、そ………」


722 : 過去編【9】 :2017/11/26(日) 11:38:06 ???
「……はーーーっはっはっは!!その通り!!
 赤くて!イカした!宇宙の!英雄!俺様こそが!
 未来の王下十輝星、赤髪のアイベルト様だッッ!!
 というわけでロゼッタちゃん、今の心境を一言ッ!」
「…アホで 意地悪 ウザくて エロい お前なんか死ね ゴミベルト」
「なんて辛辣なあいうえお」

ロゼッタを攫った犯人…使用人としてラウリート家に潜伏していた赤髪の少年が、
声高らかに自己紹介した。ので、細かいキャラ紹介は省略する。
ちなみに彼は雇い主であるソフィアに定時連絡する際、毎回かなり話を盛っている。

「…もう通信切れてますよ、アイベルト。…それよりちゃんと『もう一人』の方も見張ってますか?」
「えー?…なんだよヨハン、俺様の活躍をしっかり全世界に中継しろよなー!」
もう一人の犯人…同じくラウリート家に潜伏していた冷たい目をした少年が、アイベルトをたしなめる。

「アイベルト!…ヨハンっ!…貴様ら一体どういうつもりだ!!ロゼッタお嬢様をどうするつもりだ!!」
「『様』をつけろよデコ助野郎…お前は前から『けしからんから死ね』って思ってたんだ、よッ!!」
「がっ……!!!」
…縛られて部屋の隅に転がされているアルフレッドにの顔面に、アイベルトがサッカーボールキックを叩き込んだ。

「黙ってねーと、ホントに殺すからな」
「…焦らずとも、用が済めば殺す事になるでしょう。…我らの主はそういう方です」


「…さーて、マヌケな小鳥ちゃん。どこから斬り刻んであげましょうか。クックック…」
「う、嘘ですよね。いくらなんでも……御前試合…王様も観てる前で…
目つぶし、毒、挙句に誘拐事件……こんな事、許されるはずが…」
最愛の妹を人質に取られたヴィオラは、やむなく剣を捨てて毒刃の前にその身を晒す。
だがあまりに卑劣すぎるソフィアの暴挙の数々に、当然の疑問を口にした。
こんなことが、許されるのかと。

「ヒーーッヒッヒッヒッヒ!!いかんなぁ!そんな甘い事を言ってるようじゃ!!」
その時。大音量の声が場内に響き渡った。声の主は観客席の遥か上方のVIP席に座る、最近即位したばかりの若き王。
…闘技場は一瞬にして、水を打ったように静まり返った。

「毒に人質、大いに結構……勝負とは、ゴングが鳴る前から始まっている物だ。
実力で勝る相手にも決して慢心せず、勝利のためにあらゆる手を尽くして万全を期す…
そうして己が手を汚すことも構わず、主に勝利の栄光をもたらす。まさに臣下の鑑ではないか!!
この世は弱肉強食、勝てば官軍…どんな卑劣な手を使おうが、勝てば良いのだ勝てば!!キッヒヒヒヒ!!」
半裸にブリーフ、王冠にマントを羽織っただけという
変態じみた格好の王が、ソフィアの行動を手放しに絶賛する。

「それに比べて…ヴィオラちゃんと言ったか。お前のそのザマはなんだ?
あんなガキひとりを人質に取られたぐらいで剣を手放し、挙句に負け惜しみとは…
どんなに剣術ごっこがお上手でも、そんな甘々ちゃんでは、
栄光ある我が臣下…『王下十輝星』に加わる資格など無ぁい!!」
(そうだそうだー!!いいぞバカ王ー!!)
(でもそんな甘々なヴィオラちゃんをリョナりたいんですねわかりますー!!)
(ソフィア様ー!!そろそろ裸にひん剥いちまえー!!)
(いや俺は下着姿までに1000ナーブル一点賭けだー!!)

「そん、な……そんな、事って………」
「ククク……そう。絶望に染まった、その表情ですわ。世の中舐め切ってたクソ小娘の絶望顔…
今まで貴女にとどめを刺さずにいてあげたのは、まさにその顔が見たかったからですの」

…信じていたもの全てが崩れ去り、ヴィオラの目の前が暗闇に閉ざされていく。
だが麻痺毒で硬直した身体は、もはや自分の意志で倒れる事さえできなかった。


723 : 過去編【10】 :2017/11/26(日) 11:46:39 ???
「シュヴェーアトリヒト・クロイツ!!」
「…きゃぅっ!!あ"あああッ!!!」

背中をX字に切り裂かれ、悲痛な叫び声を上げるヴィオラ。
深紫のドレスは原形を留めておらず、僅かに残った残骸も、流れる血でどす黒く変色している。

「クックック…なかなかいい声で鳴きますわね。ブラッディ・ウィドーの毒で痛覚が増幅されてるせいかしら」
「あ……ん、う……」
全身至る所に刻まれた傷は、毒々しい紫色に変色し始めている。
指で触れるだけでも激痛が走るだろうその傷を、ソフィアは鋭いピンヒールのブーツで何度も踏みにじった。

「さあ、お立ちなさい……言ったでしょう、『花を持たせてあげる』って。
今日の虐殺ショーの主役はあなた。わたくしはあくまで、盛り上げ役に…徹して差し上げます、わッ!!」

ソフィアはヴィオラの髪を掴んで無理やり持ち上げると、再びその姿を『消し』…
「……ゲシュテルン・ウムラオフ!!」
「きゃああああああぁぁっ!!!」
目視不可能な速度で周囲を回りながら、全方位から流星のような連続突きを繰り出す。
新たに刻まれていく無数の傷口から鮮血が舞い、遠目にはまるで幾輪もの真っ赤な『花』が咲いたかのように見えた。

「さてと……そろそろとどめと行きましょう。
貴女のその砂糖菓子のように甘い考えも性根も…『今日で最後』と思うと、せいせいしますわ」

「さあ、そろそろフィニッシュに入るようです。師弟対決の名を借りた公開虐殺ショーという事で
注目を集めたこの試合ですが、終わってみればソフィア様、圧巻の完封勝利!
ヴィオラ選手、ただの一太刀も浴びせられないままトドメを刺されようとしております!」
「決め技はやはり、アングレーム流の奥義でしょうか。あのギガスラッシュみたいな、やったら長い名前のやつ」
カイセツは最近DQ11をクリアしていた。

「…人質も、もう用済みですわね。…二人とも聞こえるかしら?…そろそろ殺してしまいなさい」
ソフィアの言葉を聞いて、血だまりの中に倒れていたヴィオラの手が、…ぴくりと動いた。

「待…って……おね、がい……ロゼ……には、手を…」
血だまりの中を這いずり、大粒の涙をこぼしながら哀願するヴィオラ。

「…………汚い手で触れないで下さらない?」
「っぐ…!!」
その手がソフィアのブーツに触れる寸前……リコルヌが音もなく閃き、ヴィオラの手首を斬り落とした。

「いやあああああ!!!姉さま、たすけっ……っひぎ、ああああ!!」
(ブツリ……)
仮面をかぶった執事服の少年が、ロゼッタの胸に深々とナイフを突き刺す。
そこで再び映像は途切れ、二度と戻る事はなかった。

「あ………ろ、ぜ……や、やだ……やだよ…待って……こん、なの……」
「その身に刻みなさい。アングレーム流奥義…」

「いやあああああああっっ!!!!」
「トラークヴァイテ・ギガンティッシュ・シュトラール!!」

ソフィアの魔力によって具現化された巨大な剣が、絶望に叫ぶ少女の肢体を縦横に切り裂いた。


724 : 過去編【11】 :2017/11/26(日) 11:53:21 ???
「うわー…ヨハンお前、マジでロゼッタちゃん殺しちゃったの?ホント空気読めねーな…
あーいうタイプの娘は間違いなく将来巨乳になるって、いつも言ってるだろ!」
「…アイベルトこそ、あの男にちゃんとトドメ刺さないと駄目でしょう」
「いや、だって…女の子殺すのすらちょっと抵抗あるのに、わざわざ野郎なんか殺りたくねーよ。
グロいし血とかで汚れるし…まあ、鎖で縛って水に落としたんだから普通に死んでるだろ」
「水落ちは生存フラグだって、いつも言ってるじゃないですか」

仕事を終え、撤収する二人。
だがこの時『用済み』として殺した少女とは、後に意外な形で再会することになる。


「ん………ここは……私、もしかしてまた…」

…ロゼッタはリョナ対象として王に蘇生され、地下闘技場で魔物達と戦わされる日々を送っていた。

「ブヒ、グボヒヒヒヒ……やあロゼッタちゃん。
順番待ちしてる間、ボクのイボイボオークチンポが破裂しそうだったよ…
待たされた分、そのドスケベ10歳児ボディを思う存分可愛がってあげるからねぇ…」
「…………!!」

もちろん何の力も持たない10歳の少女が、魔物と戦えるはずもない。
姉ヴィオラが辿った末路と同じく、それは一方的な殺戮・凌辱ショーであった。

「グヒヒッ!!……ロゼッタちゃんの中、相変わらずキツキツだなぁ。
蘇生すると処女膜も再生するし、ホント最高だよ…グヒッ!また出るっ…!!」
「輪廻は、巡る…………運命の糸……もうすぐ、届く…」

…いつしか目の前の現実から意識を逃避させる術が身に着いていた。
心が壊れてしまわないように…
いや。あるいは既に、彼女の心は壊れてしまっていたのかも知れない。

だが、ある時……

「うふふふ…このサキュバスのユズハ様の調教のおかげで、
すっかり感度カンストの淫乱メスガキに育ったようね。
さあ、いらっしゃい……私の事、『お姉さま』って呼んでもいいのよ…」
「………届 い た」

…彼女は、特異な能力に目覚めた。
不可視の糸を操り、あらゆる物を捉え、切り裂く力。
彼女にとってそれは、全ての運命を変える力だった。

「げ、あ……こ、の…クソガキッ……私を、誰だと……うごっ!?」
「私の姉さんは………たった一人だけ」

「キッヒッヒ……素晴らしい。俺様の見立て通り、妹の方がよほど見込みがあったな。
…どうだ?俺の下で働いてみないか?
先代のお仕着せで口うるさい現十輝星達を根こそぎ殲滅し、俺様の手駒と入れ替える…
そのためには多くの戦力が必要だ」

「……『白のカペラ』…あいつを、殺せるのなら」


725 : 【12】 :2017/11/26(日) 11:58:50 ???
そして、12年後。

「…終わりです。『白のカペラ』ソフィアアングレーム…。
我が『運命の螺旋』からは、貴女といえども決して逃げられはしない」
「その太刀筋、まさかラウリート家の…あ、ありえませんわ。あの家の関係者は、皆殺しにしたはず…!!」

ソフィアは知らなかった。
ラウリート家の妹を誘拐・殺害した時、実行犯だった当時の部下(アの付く方)が、
その場に居合わせた使用人を殺し損ねていたことを。
そして報告する時に話を無駄に盛って、それをごまかしていた事を。

「ラウリート流双剣術奥義……グランドゥレ・タルパトゥーラ!!」
「っぐあああああああッッッ!!!」

「ところが、生き残っていた者がいた…私もせいぜい気を付ける事にしましょう。
例え何も知らない『お嬢様』であっても…
あの方に…ヴィオラ様に、生き写しだとしても……迷いなく、殺す」

そして、ソフィアを殺し復讐を果たしたアルフレッド……彼もまた知らない。
自分の他にも、ラウリート家の生き残りがいた事……
正確に言うなら、王の『能力』によって、生き返らされていた事を。

そして、すべての元凶であるトーメント王家を滅ぼすため行動を開始した彼の前に、
復讐という目標を奪われた彼女が、敵として立ちはだかる事を。


726 : 名無しさん :2017/11/26(日) 13:11:29 ???
「う、噓ですわ……だってお母様は優しくて……私を、本当の娘のように……」

右腕を拘束されたままロゼッタの話を聞いていたアリサだが、あの優しい義母がそんな残虐なことをするとは信じられなかった。
だが、戯言と笑い飛ばすこともできない。冷たい声でソフィアを糾弾するロゼッタの姿は、とても噓を言っているようには見えなかったからだ。

「……お前が信じる信じないはどうでもいい……どうせ、これから死ぬのだから」

「ロゼッタ……ただの中二病と不思議ちゃんの合体だと思ってましたが、貴女にそんな過去が……」

「で、でも、あの人は関係ないんじゃ……義理の娘って言ってましたよね?」

「関係ないなんて、関係ない……アングレームは一族郎党皆殺しにする……!それだけが私の望み……生きる意味……!」

ギリギリギリ……!ギチギチィ!

「にゃ!?ぁあああああああん!」
「ス、スバル……!せめてスバルだけでも、逃が、があぁああああ!!!」
「きゃああああああああ!!」

不可視の糸がさらに締め付けを強くし、アリサの仲間たちに苦悶の声をあげさせる。

「お、お止めなさい!例えその話が本当だとしても、彼女たちは関係ないでしょう!?」
「関係はある……お前が、アングレームの人間が苦しむなら……!」

普段の気だるげな雰囲気からは想像できないほど、今のロゼッタは静かに激昂していた。

「これが因果、これが業、これがカルマ……!殺された文句は、あの世でソフィアに垂れるがいい……!」


727 : 名無しさん :2017/11/26(日) 14:31:22 ???
一方その頃サラは、シアナの落とし穴によって城の下層へ落とされ、アトラの服が溶けるトラップでコンバットアーマーが溶けかけて緊急パージされ、全裸になってしまっていた。

「きゃあああああああ!?」

そして、その隙を見逃さない、ハイエナのような者たちがいた!


「な、なに!?アーマーが……!」

「うおおお!!強キャラを雑魚がボコボコにするのは最高だー!」
「全裸の変身ヒロインなんて怖くねえぜー!」
「あのアーマー、絶対中身蒸してるよなww」
「くさそう」

嗅覚の異常に発達した、犬型の魔物兵たちである!

「く……<閃甲>!」

クレラッパーへと変身しようとするサラだが、度重なる破損のせいで未知の物質シャイニング・シルバー・エネルギーが不足しており、変身は失敗した。

「きゃっ!?ク、離れなさい!」

「クンカクンカ」「クンカクンカ」「ワオーン」「ペロペロ」「くさそう」

普段のサラなら、例えアーマーがなくとも、魔物兵程度ならば互角以上に戦えただろう。
だが、アイベルトとの戦闘のダメージが色濃く残る今のサラに、素早く動き回る犬型魔物兵たちを捉えるのは不可能だった。

次々と身体に飛びつかれ、腋や股座……匂いの強い部分に魔物たちが群がる。

「ひ!?あ、アージェント・グランス!」

このままでは危険だとバイクを呼び出し、魔物たちを追い払おうとするサラ。だが―――


「くさそう」

くさそうの人が華麗に無人で走るバイクに飛び乗り、サラが普段お尻を乗せているサドルの匂いを嗅いでから、ブレーキを効かせてバイクを止めた。

「ナイスだぜ匂いフェチ!」
「そんな!?なんてドライビングテクニックなの!?」
「アイツ昨日AKIRA見てたからな!」
「さぁ、金髪美女!大人しく嗅がせろー!」
「きゃああああああああ!?」

万策尽きたサラに魔物兵たちが群がり、拷問室へお持ち帰りしようとする。

「匂いフェチ、お前どうする?」
「くさそう」

くさそうの人は、先ほど緊急パージされたサラのアーマーやヘルメット、ついでにバイクのサドルの匂いをクンカクンカしていた。

「アイツは本人よりも匂いの染みついた鎧の方がいいらしいから、ほっとこうぜ」
「つくづく真性の匂いフェチだな」

魔物兵たちはくさそうの人を放置して、サラを担ぎ上げてあーんな所やこーんな所を触ったり匂いを嗅ぎつつ拷問室へ去っていった。


728 : 名無しさん :2017/11/26(日) 14:32:36 ???
兵たちが去ってから、幾ばくかの時間が経った時……くさそうの人の携帯電話が震えた。

「くさそう」

くさそうの人が電話に出ると、その向こうから、少女らしい……だがどこか中性的な声が響く。

「諜報員931号、首尾はどうですか?」
「くさそう」
「無事、サラ・クルーエル・アモットのコンバットアーマーとバイクを手に入れた……それは結構です」
「くさそう」
「ええ、マルシェザールはDTTに妄執していましたが、あんなオカルトよりも異世界の技術その物の方が価値がある……それが中央の判断です」

そう……くさそうの人は実は、>>513で言及されていたナルビアのスパイだったのだ!


「……くさそう」
「古垣彩芽?確かに彼女の作るメカは素晴らしいですが、それは異世界の技術というより彼女自身の才覚が大きい……解析すべきは白銀の騎士の方、ということです」
「くさそう」
「ええ、時空刑事……でしたか?その力を解析し機械兵たちを強化すれば、トーメントの魔物兵程度物の数ではない……というのが中央の見通しです」
「くさそう」
「ボク自身の見解?ふふ……それはノーコメントでお願いします」


「くさそう」
「ええ、いつも通り解析をお願いします。そうそう、黒足の舞から押収したという魔法のブーツですが、先日貴方の送ってきたデータを元に、量産に成功したようですよ」

匂いフェチのおかげで、異世界人から押収した特殊な装備を彼が持っていても怪しむ者はいない。
その解析データをナルビアに送っていることなど、誰も知る由がない。


「マルシェザールがサラを本国に送っていれば、彼女を直接調べられたのですが……」
「くさそう」
「そうですね、装備品や人を直接横流ししたら、スパイだと発覚する可能性がありますからね……貴方がデータしか送れないのは仕方ありません」

「くさそう」
「え?なぜボクが貴方との連絡役までやっているのか、ですか?……貴方の暗号を解読できる人間が少ないからですよ」
「……くさそう」
「ええ、では本日の連絡はこれにて」


729 : 名無しさん :2017/12/01(金) 00:28:20 ???
「こ、このバカ犬軍団がっ……放しなさいっ!!」
「わおーん。変身できない女刑事なんて、怖くないもんねー」
「おまけに全裸で、全身ズタボロのくせに、イキがってもムダムダ!」
「これ以上ケガ増やしたくなきゃ、大人しくしてろっつーの…オラッ!!」
「っく……ああっ!!」
サラは抵抗も空しく、犬型魔物兵達に変身ブレスレットを奪われ、拷問室へと連れ込まれてしまう。
…だが、そこには既に先客がいた。

「んっ!あ、うっ!!…め、めでゅ…わ、わたしっ…!!……もうっ…!!だめええっ!!!」
「…ひ!や、やめてっ…!!……しぇり、わたしもっ…!…いっちゃうううぅ!!」
二人の女が、一体の魔物に力任せに犯されている。
一人は肩にかかる程の長さの灰色の髪にスレンダーな体躯。
もう一人は長い髪に華奢な長身…ただしバストは割と大きめ。
紫色の目の片方は、伸ばした前髪に隠れている。

「ブモモモ……もうヘバりおったか。…騎士を名乗る割に他愛無いのう…ん?」
犯しているのは、雄牛の頭に丸太のような腕を持つ怪力無双の魔物、ミノタウロス。
金属製の胴体は、古代ローマ兵の金属鎧を思わせる、隆々とした筋肉を模っていた。

「…おい、犬コロども。その女…サラ・クルーエル・アモットだな」
「これはミノタウロスのダンナ…いかにも、こいつが噂のクソ生意気なパツキン変身ヒロインで」
(…やべええええ!!めっちゃ怖えええ!つーかエモノ強奪される!?)

「ブモモ…そう構える事はない。その女は『昔の知り合い』でな…
…どうだ。こっちの2人と、獲物を交換してくれんか」
「え……、その……」
…話しかけられた犬型魔物の一人は、瞬時に頭の中で算盤を弾き……

(よかったー殺されるかと思った…つーかむしろ女の子一人増えるし、超ラッキーじゃん?)
「ハイヨロコンデー!!」
二つ返事でOKした。

「…ウシ頭の知り合いなんて、居た覚えはないけど」
「ブモモモ…つれねえなぁ…俺は忘れた事はなかったぜぇ。
…俺様をブタ箱にぶち込んでくれた、てめぇの事はなぁ…」
「なるほど…そんな事だろうと思ったわ。アンタも、こないだ闘技場で戦った奴と同じ…『処刑獣』ってわけね」

以前にも、似たような事があった。
サラの『昔の知り合い』…すなわち元の世界でサラに逮捕された犯罪者達が、
教授の改造により変化した魔物…それが『処刑獣』。

かつてサラ達を苦しめた『アイアン・ネペンテス』と同様、
拷問具・処刑具と魔物との合成魔獣である彼らの姿は
まるでサラに対する恨みと歪んだ欲望をそのまま具現化したかのように醜悪極まりなかった。

「ブモモモモ…今の俺様の名は『ファラリス・ミノタウロス』…
サラ・クルーエル・アモット。てめぇには、地獄の苦しみを味わわせてやるぜ…」

「まったく次から次へと…今日は厄日ってやつかしら、ね……っ…!?」
サラは立ち上がろうとした…が、突然の眩暈に襲われ、片膝をついてしまう。
…だが、それも当然。
機械による水滴拷問を何日も受け続け、強敵との戦いで大きなダメージを受け、
仲間から引き離され、武器も防具も徹底的に破壊され…
サラの心身は、とうに限界を超えていたのだ。

(や、ば……体、動かない………さすがにもう、ダメかも…)


730 : 名無しさん :2017/12/02(土) 00:42:22 ???
「くっ……サラさんが……!」
「る、瑠奈どうしよう!このままじゃ私たちも落とされちゃうよっ!」

唯、瑠奈、彩芽の3人には落とし穴に落ちたらしきサラを案じている暇もない。
姿の見えない敵の攻撃の糸口は、土煙に塗れて全く読めない状態であり、いつ自分たちも罠に嵌められるかわからないのだ。
だがそんな中、彩芽だけは冷静だった。

「2人とも落ち着いて!これを使うんだ!」
「え……なんなの?この妙な樽は?」
「アヤメカNo.64、たるたるジェットパックだよ!ドン◯ーコ◯グ64のチンパンジーを見て作ったんだ!」
「な、なんかすごそうだけど……どうやって使えばいいの?」
「背中に付けてウホホーゥ!って叫ぶだけで空が飛べるよ!樽から飛び出す元気でバカな猿をイメージしながらやってみて!」
「そ、空が飛べるの!?すごぉーい!」
「な、なんなのよ!元気でバカな猿をイメージしてウホホーゥっていうのは!なんで私たちがそんな恥ずかしいこと……!」
「まぁまぁ、ちょっと原作に忠実に作ってみただけだよ。気にしない気にしない!」
「はぁ……で、でも……落とし穴を回避するためにはこれしかなさそうね……!」

空が飛べるだけで地面に足をつけずに済むし、シアナの穴も回避できる。
もはや唯と瑠奈にやらない選択肢はなかった。
素早く背中に装着すると、2人は大きく息を吸い込んで……



「「ウホホーゥ!!!」」



2人が叫んだ途端、ゴオオオオオオオ!!!という音ともに樽が火を吹き、2人の体は宙に浮いた。

「わ、わ、わぁ!すごい!すごいよ瑠奈!わたしたち飛んでるよぉ〜!」
「と、飛んでるのはいいんだけど……!よく考えたらこれ、制御ミスったら危ないってもんじゃないわよ!唯ぃ!」
「わ、見て瑠奈!彩芽ちゃんは靴にブースターみたいなのがついて浮いてるよ!かっこいいね!彩芽ちゃん!」
「へへん。これはウホホーゥとかバカなこと言わなくても使える優れモノだよ!」
「そ……そんなもの作れるなら無駄にウホホーゥなんて言わせる機能つけてんじゃないわよーッ!」
「い、いやだからあれは原作再現でsy」


731 : 名無しさん :2017/12/02(土) 16:02:46 ???
「よーし、とにかく今のうちに地下道に行こう!二人ともこっちだ!」
「ウホホーゥ!…って、やっぱ納得いかないわ!これじゃ私たちだけアホみたいじゃないの!」
「しょうがないだろ、ボクのは結構コツがいるんだ。メガネ端末で細かい姿勢制御とかしてるし」
「ウホホーゥ!!(そうなんだー!ねえねえ、今度わたしたちにもそういうの作ってよ!)」
「……唯もあっさり馴染んでんじゃないわよ!」
なんやかんや言いつつも、三人は数々の罠を飛び越えて地下通路へと降りていく。

「くっそ、逃げられたー!…つーか彩芽ちゃんって、
なにげにアリサちゃんや鏡花ちゃん以上にチート性能だよな」
「今更そんな事言っても仕方ないだろ…魔物兵だけに追わせるのは不安だし、僕らも行くぞ」
「りょーかい…はあ。下水道とか、あんま行きたくねぇなー。」
唯達を追跡しようとするシアナとアトラ。だがその時、シアナの端末に着信が入った。

「…ん?王様からだ…はい、シアナです………え。今、なんと」
「…だからー。『俺も一緒に、唯ちゃん達を捕まえてやる』って言ったんだよ。
だって、一番オイシイ所は自分で頂きたいじゃん?…なんせ俺って王様だし!」

王都脱出を目指す唯に今、最大の危機が迫ろうとしていた。
…いや、唯だけではない。
散り散りになった仲間達も、今まさに絶体絶命の窮地に立たされている。

「い、やあああ!!身体、ちぎれちゃうっ……あ、がっ!!」
「スバルッ!!」「スバルちゃん!!」
スバルの小さな体には、至る所にロゼッタの糸が深々と喰い込み、鮮血を滴らせている。

「…は、ぅ…桜子…お姉ちゃんっ…たす…けっ…!!」
「も、もうお止めなさいっ!!仮に貴女の話が本当だとしても、
憎いのはこのわたくしだけのはずですわ!こんな小さな子に手を出すなんて…!」
「私が初めて死んだのは…10歳の時。その子より、もっと小さくて…何の力も無かった」
身動きのとれないアリサが必死に説得するが、ロゼッタは眉一つ動かすことはなかった。

「ま、待ってくれ!頼む…!スバルには、手を…」
「…あの時、姉さんもそう言っていた……手を出さないでくれ、と」
桜子も涙を流しながら、ロゼッタを止めようと必死に手を伸ばす。

「その答えは……さっき話した通り」
「頼むっ…スバルは私の、家族なんだ。…君の姉さんだって、きっとこんな事望んでなんか…」
だが、伸ばした手に不可視の糸が絡みつき…
「……汚い手で触れるな」
「…っ!?……っがあああっ!!!」
魔剣化の力を持つ桜子の右腕が、根元から輪切りにされてしまう。

「な、なんという強キャラ…いや狂キャラというべきかしら…アホベルトとは一味違いますわね」
「こ……こんなの、いくら何でもひどすぎるよ…」
ロゼッタの非情振りは、横で見ているアイナとロゼッタさえ圧倒されてしまう程だった。


732 : 名無しさん :2017/12/02(土) 18:39:05 ???
「クフ……ウフフ……私を満たしてくれるのは、最早血の温もりだけ……」

桜子の右腕から噴き出した血を眺めながら不気味な笑みを浮かべていたロゼッタだが……突然、その表情が消える。

「……こんな時に……今は部屋に薬を取りに行くわけにもいかない……でも、むしろ好都合かも……」
「ぐぅう……!な、何を言っているんだ……?」

突如意味不明なことをブツブツと喋り出したロゼッタに、桜子が怪訝な声をあげる。
だが、それを無視して、ロゼッタはアイナとエミリアへ語りかけた。

「アイナ……エミリア……悪いけど、どこかへ行って欲しい……私にも一応、盟友への羞恥心くらいは残っている」
「え?ど、どういうことですかロゼッタさん?」
「は!そう言えばアホベルトから聞いたことがありますわ!ロゼッタは実は、薬で押さえつけないと時たま発情状態になってしまう身体なのだと!アホの妄想かと思ってましたが、もしや!?」
「はつ!?」
「……つまりはそういうこと」

ロゼッタは、かつてサキュバスのユズハから受けたレズ調教によって、感度カンストにされたことがある。
そして、12年という長い年月を経てもなお、その後遺症は残っていた。

時たま、ロゼッタは表情にこそほとんど出さないものの発情状態になってしまうのだ。発情中は別に能力が使えなくなったりはしないが、どうにも集中力が切れる。
普段は発情しても、その症状を抑える薬を飲んで過ごしているのだが……今は丁度その薬を切らしていた。

ミツルギへ潜入していたロゼッタがトーメント王国へ一時帰還したのは、その薬を補充する為だったのだ。決してハロウィンパーティーを楽しみたかったわけではない。


「せっかくだから、こいつらに性欲処理を手伝ってもらう……2人はどこかへ行ってくれると嬉しい」
「え、でも……」

復讐対象を目の前にして残虐になっているロゼッタからは目を離したくない……とその場から離れるのをためらうエミリア。
それを気だるげな瞳で眺めていたロゼッタだが……やがて、スバルへと向き直る。

「まぁ……見たいなら別にいいけど」
「うぇ!?見たいわけじゃないです!アイナちゃんどうしよう!ロゼッタさんを止めたいけど、でも、どうすれば……!」
「触らぬ神に祟りなし……ここは引くべきですわよ」

そうこうしているうちに、ロゼッタは糸で拘束されているスバルの目と鼻の先に移動していた。
そして、スバルの耳元に顔を寄せ……スバルにしか聞こえない声量で呟く。




「お前が私の性欲処理を手伝えば……アリサ・アングレーム以外は助けてやる」


733 : 名無しさん :2017/12/03(日) 15:10:29 ???
「ブモモモ……サラ・クルーエル・アモット……お前はもう終わりだァ…!!」
金属製の胴体を持つ牛型獣人が、猛然とサラに襲い掛かった。

「下衆な犯罪者が…そう簡単に私をモノに出来ると思ったら大間違いよっ!!」
満身創痍な上、閃甲もできない今のサラに勝ち目は皆無。だが悪党達に弱みを見せることだけは絶対に出来ない。

「くっ!……たあああっ!!」
巨大な剛腕をギリギリの所でかわし、カウンターを仕掛ける。
狙いは金的。今のサラに唯一ダメージを与えられそうな箇所である。
両者の対格差から、サラの顔とほぼ同じ高さにあるそこを狙い、傷ついた両脚で思い切り跳んだ。

「ブモモモ…そう来ると思ったぜ」
(…バシッ!!)
「……!?……っが!!」
だがサラの跳び蹴りが敵に届く寸前。鞭のような何かが死角から飛んで来て、サラを叩き落した。

「どんなに足掻こうと無駄だ。お前の攻撃など、ハエ同然…尻尾で軽く叩き落とせる」
「うっ……そん、な……!!」
サラの渾身の跳び蹴りを叩き落したのは、ミノタウロスの尻尾…
尻尾と言ってもサラの腕より太く、その一撃は鞭のように鋭い。

石床に叩き付けられて立ち上がれないサラの身体を、ミノタウロスは片手で軽々持ち上げた。
そして両腕でサラの身体を抱え、ベアハッグならぬブルハッグの体勢に入る。
このまま力を込めれば、サラの全身の骨は粉々に砕かれてしまう事だろう。

「さてと。自分で言うのも何だが、俺様は慈悲深いのでな…最後の情けをくれてやる。
お前が今からでも泣いて謝って許しを請うなら、俺様の雌として毎日可愛がってやるぞ」

「ふん…クズどもの言う事なんて、どいつもこいつもワンパターンね…ぺっ!!」
サラは精一杯の虚勢と共にミノタウロスの顔に唾を吐きかける。

「ブモモモ……良いだろう。お望み通り、地獄の苦しみを味わうがいい」
ミノタウロスは血の混じった唾を舌で舐め取ると、残虐な笑みを浮かべた。

「ああっ…出ますわ、しぇり……奴の『能力』が…!」
「何て恐ろしい…あの女、間違いなく死にましたわね、めでゅ…!」
つい先程ミノタウロスに敗れ、犯されていた二人が、その様子を見て恐怖に慄く。

「わおーん……確かにあの牛のダンナ、ヤバそうな雰囲気だが…」
「俺らにマワされながら他人の心配(驚き役)なんて、随分余裕あるねえ…バウッ!」
「グヒヒ…シェリーちゃんにメデューサちゃんっって言ったっけ?
シーヴァリアの女騎士様の具合はどんなかなぁ…ガウウッ!!」
「ひっ!!や、やめてっ…」「来ないで、ケダモノっ…!!」


734 : 名無しさん :2017/12/03(日) 15:19:41 ???
シーヴァリアの円卓の騎士、シェリーとメデューサさえも震え上がらせる、
処刑獣「ファラリス・ミノタウロス」の能力…
それは、猛牛の獣人ミノタウロスの怪力だけではない。

「ブモモモ…まずは弱火でじっくり、だ。一瞬で消し炭にしては面白くないからな」
「…は、放しなさいっ…化物……こ、この程度で、私は…屈したりなんか……」
(何、これ…牛男の身体が……どんどん熱くなっていく…!!)
「その減らず口がいつまで続くか、見ものだなぁ……ブモモモッ!!」
「あっ……づ……っぐ、ああああああ!!!!」

『ファラリスの雄牛』…古代ギリシアで発明されたと言われる恐るべき処刑具。
雄牛を象った金属製の像で、中は人一人が入れる程度の空洞がある。
中に受刑者を閉じ込め火にかけると像の中から苦悶の声が響き、まるで牛の鳴き声のように聞こえるという…

「ブモモ……実にいい悲鳴だな。それに、血肉が焦げる香りも極上…だが、本番はこれからだ」
ミノタウロスの金属の身体が赤熱し、サラの傷口を焼くとともに流れ出る血を瞬く間に蒸発させていく。
その剛腕はサラがどんなに暴れてもびくともせず、逆に恐るべき怪力でサラの全身を締め上げて…

(…ごきっ!!……めきめきっ!!)
「っごああああ!!………あ……ぅ」
肋骨をへし折り、抵抗する意志も体力も、最後の一滴まで搾り取っていった。

「ブモモモ……どうだ?そろそろ無様に許しを乞うて、俺様の肉奴隷として奉仕する気になったか?」
サラは両腕を掴まれて吊り下げられ、ピクリとも動かない。
まだ辛うじて息があるものの、抵抗どころか声を出す気力すら残っていないようだ。

「正義のお題目を唱え、ガラクタの鎧を着て、どんなにいきがった所で…
圧倒的な悪の力の前では、所詮お前などただの女にすぎん。
さあ、もう楽になりたいだろう?…屈服しろ、サラ・クルーエル・アモット」
「……………」
サラは最期に、何事かを呟いたが…その掠れた声を聞いたのは、目の前のミノタウロスだけだった。

「ブモモモ…そうかそうか。…だが何を言おうが、俺様の恨みの炎が消える事は決してない。
地獄の業火に焼かれて死ね、サラ・クルーエル・アモット」

ミノタウロスの胴がゆっくりと開く。古代の処刑具『ファラリスの雄牛』と同じく、その中は空洞。
サラの身体は、一度入れられれば二度と脱出できない灼熱の檻へと押し込まれ…
(ガシャン!!)
……重々しい金属音と共に、煉獄の蓋が閉じられた。

「……〜〜〜〜っっっ!!!」
「……クックックック……ハァーーーッハッハッハ!!!」
処刑獣は、その身から灼熱の炎を発しながら、高笑いの声を上げる。
そして、金属の胴体からは低いうなり…牛の鳴き声のような、悲痛な断末魔が響きわたった。


735 : 名無しさん :2017/12/05(火) 23:46:49 ???
運命の戦士たちがそれぞれの戦いを繰り広げている頃、トーメント城の医療室では……

「ユキ……ううぅ……どうして、どうしてこんなことになるのよっ……!」
「……すべてあの教授のせいです。ヨハン様が止めてくれなかったら、今命があったかどうかも……」
「……あのクソ教授……!殺してやる……!絶対私が殺すッ!!」

ベットで呼吸器や点滴を付けられて動かないユキに寄り添うサキと舞。
教授によって暴走したユキをなんとかヨハンは止めたものの、その後遺症は決して小さくはなかった。
医師によると、命に別状はないが、自分の体だけでは動くことすらままならないため、魔導技師が必要になるとのことだった。
そして、その魔導技師を動かすための大量の魔力も……

「サキ様。ユキちゃんの魔道技師についてですが……一つ心当たりがあります。」

セイクリッドダークネス……ルミナスのリムリットから奪った「聖なる闇」と呼ばれる魔帽。
舞がサキにその話を持ちかけるようあらかじめ舞に情報を吹き込んだのも、2人の後ろで神妙な顔をしている黒髪黒目の青年だった。



「………あの日以来、久しぶりに戻ることになるのか。」
サキが絶望に打ちひしがれている頃、リザは当初の目的……隠れ里に今もいるであろうアウィナイトの長老に会うためイータ・ブリックスを後にしたところだった。
ミライは命に別状なかったため、サキがトーメント城に連れて行くということで預けてきている。

(いろいろあったからサキたちのことも心配だけど、休暇は3日しかない。……この時間は無駄にできない。)

あの日すべてを失った理由。その真実を確かめるため、リザは改めて気を引き締める。
あの事件以来、家族というかけがえのない存在を奪われた恨みだけで生きてきた。
あの日、本当は何があったのか。
なぜ秘密裏に行われたはずのアウィナイトの集会が襲撃されてしまったのか。
事件の陰に隠された真実は残酷かもしれないが、今のリザは全てを知る覚悟があった。

(……髪、結構伸びてきちゃったな。)

爽やかな風がリザの長い髪を揺らす。
それは少し大人になった彼女の、受難の始まりに過ぎないのである……


736 : 名無しさん :2017/12/07(木) 01:14:46 FlyynNeY
「え……!?」
「別に、誰でもいいんだけど……貴女は教授によってそういう知識をインプットされているという情報があるし……貴女でいい……」

ロゼッタはそう言って、ゆっくりとスバルの頬に手を添える。

「ヒ……!」
「このまま全滅するか、アリサ・アングレーム以外助かるか……天秤にかけるまでもないはず……」

ロゼッタはそう言って、手をスバルの頬から顎へと滑らせて顎クイする。

「恥ずかしがることはない……12年前にこんな身体にされて以降……私にとって性欲処理は、ハンカチで汗を拭いたり、ティッシュで鼻をかむに等しい行為」
「わ、分かりました……!スバルが、その、エッチなこと手伝うから、アリサお姉ちゃん以外は助けてください……!」
「話が早くて助かる」

教授にインプットされた性の知識を元に、ロゼッタの唇へと顔を近づけて行くスバル……


「ったあああああ!!」


だがスバルは、ロゼッタに屈服したわけではなかった!
例え本当にアリサ以外は見逃すつもりだったとしても、アリサを見捨てて自分たちだけ逃げるなどできるわけがない。

観念してキスをしようとしていると見せかけて顔を近づけ、牙をロゼッタに突き立てようと――――!


「―――っが!?」

「アリサ・アングレームに、仲間が急に敵に奉仕し出す姿でも見せようと思っていたけど……失敗した」

ロゼッタに噛みつこうとしたスバル攻撃は、いつの間にか彼女の周囲をさらに覆っていた不可視の糸によって阻まれた。

「まぁいい……仲間が敵に犯されるのを見せるのも一興……」
「ひ、いやぁ……!」
「別に、そういう趣味があるわけじゃない……あくまで必要だからやるだけ」
「いやぁあああああああ!!」



「なんと言いますか……ビッチというよりは、開放的なだけと言いますか、事務的に必要なことをやってるだけと言いますか……ハハ……エロ小説とかエロゲーとかにありそうな設定ですわよね、なんか急に身体が発情!って」
「アイナちゃん、現実逃避してないで止めないと!そりゃ、ロゼッタさんの過去は悲しいけど……あんな、一方的に痛めつけるなんて……!」
「うーむ、そうですわね……」

そもそも、立場上敵の彼女らを助ける義理はないのだが……ロゼッタの残虐な姿を見たくない、無意味な凶行は止めるべきというエミリアの気持ちを汲むことにした。

「そうですわ!アイナがヒューマンボールで口調の被ってる金髪を捕まえれば、ロゼッタも頭を冷やすのでは!?」


737 : 名無しさん :2017/12/09(土) 13:40:43 ???
「貴女が私の体を鎮められないなら……ここにいる全員が死ぬことになる。……それだけの事」
「んっ……ぎ、あう、うぅぅ……!!」
スバルの全身に絡みついた糸に徐々に力が込められていく。

(ダ、メ…強すぎる…!…しっぽも手足も、バラバラになっちゃいそうっ……!
なのに、どうしてだろう…このお姉さん……何かにおびえて………震えてる………?)

「ちょ、ちょっと待ちなさいロゼッタ!貴女の目的は、この女…アリサ・アングレームに、
仲間が苦しみ死んでいく様を見せつける事ですわよね!?…なら、これでっ!!」
荒ぶるロゼッタをなだめるため、アイナはヒューマンボールをアリサに投げつける。
「ひっ…そのボールはっ!?…や、やめなさいっ!!その中だけは…イヤですわぁぁぁ!!」

「こうしてボールに封印すれば、外の様子を見る事も聞く事もできませんわ。
つまり、もう他の人を苦しめても無駄…いい加減に落ち着きなさい!」
「…ところでアイナちゃん。アリサって人、すっごくイヤそうにしてたけど…
そのボールの中って、どうなってるの?」
「さあ。アイナは入ったことないですけど、教授の作った物ですから…お察しですわね」
そう、これも教授の発明品…しかも人間(主に女の子)を捕獲し、閉じ込めておくためのものである。
…少なくとも、中が快適な居住空間になっているとは到底思えなかった。
いいしれぬ不安に包まれるエミリア。
それでもとにかく、二人はロゼッタの標的であるアリサを隔離することは出来た。だが…

「もう、遅い……もはや私の渇きを癒せるのは、この者達の血のぬくもり、だけ…
アイナ、エミリア…ここから…立ち去りなさい。さもないと…私の中の闇が、何をするか…」
…ロゼッタは、それでも暴走を止めるつもりはないようだった。

「どうして…お姉さんは、一体……何を、怖がってるの……?」
糸に締め付けられ、失血と激痛で意識が薄れていく中、スバルはふと何気ない疑問を口にした。
(お姉さんは…たぶん、この場にいる誰よりも強い…
強い人は、この世界では、好き勝手できるはずなのに…)
力に流されてはいけない、という桜子の言葉を、スバルはふと思い出す。

…スバルもかつては無力な子供に過ぎず、理不尽な暴力に晒され続けた。
そして、ある時力を手にし……その力に溺れかけた。
ロゼッタの境遇を聞いて、スバルは自分と共通するものを感じずにはいられなかった。

「…黙り…なさい……今さら何を言おうと…お前たちは…全員、殺す……っ……!!!」

「おや…ロゼッタの様子が…?…ってちょっと!もういい加減に中二病はお止めなさ…」
「アイナちゃん危ないっ!!」

危険な雰囲気を察知して、ロゼッタは咄嗟に防壁を張る。
(ガキン!ガキン!!チュイィン!!)
見えない糸が刃となって殺到し、防壁と衝突して激しい金属音を立てる!

「なっ……アイナ達にまで攻撃するなんて…!?」
「完全に自分を見失ってる……どうしよう、アイナちゃん…!」


738 : 名無しさん :2017/12/09(土) 17:50:13 ???
「身体が、昂る……もっと、もっと血を…!!」
「きゃあああぁぁっ!!!」
「うあああああっ!!」
ロゼッタが両手を大きく振り回すと、指先から繋がれた糸も暴風のように激しく荒れ狂った。
桜子、スバル、鏡花の身体は木の葉のごとく振り回され、部屋の壁や床、天井に何度も叩き付けられる。

「どうしようって言われても……あんなの、どうしようもないですわ!」
「でも、このままじゃあの人たち、本当に殺されちゃう…!…アイナちゃん、上っ!!」
「…むぎゅっ!?」
(ぼむん!!)

アイナが頭上を見た瞬間、なにか柔らかいものが視界全体を覆いつくした。
それは、鏡花の…胸だった。
「だ、大丈夫アイナちゃん!?」
「むむむ……い、市松鏡花…!?」
鏡花は全身を糸でズタズタに切り刻まれ、既に虫の息になっていた。
魔力も尽きたのか、アイナとエミリアの見ている前で変身が解除され、淡い光の粒子を放出していく。

「………ぅ……はぁ……はぁ……」
「あ…相変わらず結構なお点前で。…っていうか、なんかムカつきますわね…」
黒髪、ワンピースとカーディガンの普段着姿に戻った鏡花。
アイナと比較するとものすごい胸囲の格差社会を感じるが、今はそんな事を気にしている状況ではない。

「とりあえずこいつもヒューマンボールで確保、と…アイナ達も逃げましょう!」
残る二人は、もう諦めるしかない。そう思い、部屋の出口に向かうアイナとエミリア。
だがその時…

「やはり…こうなってしまいましたか、ロゼッタお嬢様」
…深紫の装束を纏った端正な顔立ちの青年が、突然姿を現した。


739 : 名無しさん :2017/12/10(日) 17:50:14 ???
「だ、誰ですか、あなたは……!?」
顔立ちは整っているが、感情の一切をどこかに捨て去ったかのような冷たい目。
城に出入りしている者達とは明らかに違う雰囲気に、エミリアは戸惑う。
だが、アイナはその顔に見覚えがあった。
ミツルギでの任務に就く際、目を通した関連資料に載っていたのだ。

「下がってエミリアちゃん!…こいつ…魔剣使いのアルフレッドですわ…!
貴方までトーメントに現れるなんて、一体どういう事ですの!?」
「…彼女のご同僚ですか。ならば私の目的も、薄々察しはつくかと思いますが…
それより今は、あの暴走を止める事です。
私が彼女を足止めしますから、貴女がたは『薬』を取って来てください」
「ぐぬぬぬ…なにげに『薬』の事まで知ってるとは…」
王下十輝星として、王の命を狙う危険分子を見逃すわけにはいかない。
だが他にロゼッタを止める方法はなさそうだ。

「うわ、あの人凄い…ロゼッタさんと互角にやりあうなんて…」
「今は言う通りにするしかなさそうですわね…行きますわよ、エミリアちゃん!」
(…ミツルギの任務に入れば、ロゼッタと一緒に、アルフレッドと敵対する事になる。
アイナももっと、強くならなければなりませんわ…!)

………………

…一方その頃。下水道に逃げ込んだ唯、瑠奈、彩芽は…出口を探してさまよっていた。

「下水道の詳しい構造までは、調べる時間がなかったんだよね。まさかこんなに複雑だとは思わなかったな…」
「私と唯も、前回入った時は『脱出失敗』したのよね……あの時の事は思い出したくないわ…うう」
二人はあの時…スライムに追い回され、行き止まりに追い詰められ、
後遺症が今なお残る程、徹底的に嬲られて全身スライム漬けにされてしまったのだ。

「うーん……アリサか鏡花ちゃんがいればなあ…二人とも無事に逃げられてるかな」
アリサはあの時、唯達とは一足違いで脱出成功していたので、出口の場所を覚えているかもしれない。
鏡花は以前ルミナス軍を率いて王都に攻め込んだ時、仲間が調べた下水道の道を通って城に攻め込んだと聞いている。
だが、脱走の途中で二人とははぐれてしまっていた。

「あの二人なら…ううん、サラさんや他のみんなも、きっと大丈夫よ!…って
この辺り、なんか見覚えがあると思ったら…アリサと初めて会った場所の近くじゃない?
「言われてみれば、そうかも。確かあっちの方に、拷問室みたいなのがあって…」
「拷問室だって?……なるほどね。さっきから、そっちの方から変な声が聞こえると思ったら…」
(ぶおおおお……おおおおおおおおん……)
「うん…聞こえるね。牛の鳴き声みたいな……て、いうか…怪物の唸り声?」
「………気付かれないうちに、行こっか」
「…そうだね」

…唯達は気付かなかった。地の底から響くようなその声が、
処刑獣『ファラリス・ミノタウロス』の体内に閉じ込められた、サラの悲鳴である事に…


740 : 名無しさん :2017/12/13(水) 19:40:23 ???
「クフ……フフフフフ……アルフレッド……やっと私の前に姿を現したわね……」

「ロゼッタお嬢様……」

トーメント王国に大切な人を奪われ……運命を狂わされた者たちの再会。
アングレーム家のみを激烈に憎むロゼッタと、トーメント王国そのものを憎むアルフレッド……

場合によっては、二人は同じ道を歩むこともできただろう。
だが、既に彼らの道は違えている。


「白のカペラをこの手で殺す為だけに生きてきた……それだけの為にトーメント王国に仕えた……」

「……共にこの国を滅ぼしましょう、と言っても……了承はしていただけそうにありませんね」

「もはや、全てがどうでもいい……だけどあなたは、私から復讐を……生きる意味を奪った……その落し前だけはつけさせてもらう!」

「……いくらお嬢様のご命令と言えど……この国を滅ぼすまで、私も死ぬわけには参りません」

アルフレッドは、隠し持っていた自らのもう一つの魔剣を抜刀する。
運命の螺旋と対をなす魔剣……一見すると普通の剣だが、鍔と切っ先が禍禍しさ溢れる赤黒い色になっている……その名も絶対の因果。

「ラウリート流剣術は二刀流の剣……今回は、私も本気を出させていただきます」


***


「やれやれ……やっと地上に出られたか」

一方その頃、魔弾のアイセはトーメント城から脱出していた。
『気まぐれ』で唯たちを助けた後、地下道へと逃れ、たまに湧いてくるスライムは所持した武器で追い払い……想定よりやや時間がかかったが、とにかく無事に抜け出したのだ。


「とは言え、一度遠くへ逃げないと安全とは言えないか……」

今後の自分の身の振り方などは具体的には考えていないが、なんにせよこの忌々しい王都からも離れなければ……



「……珍しい所から出てくる嬢ちゃんだな」
「!?」


突如近くから響いた声に、バッ!と声のした方へ顔を向けるアイセ。

「アンタは……竜殺しのダン!?このアタシに、気配すら感じさせずに近づくとは……」
「……どうやら、俺は自分で思っていたより有名人だったらしいな」
「ハ……素手でドラゴンを殴り殺すような奴が、有名じゃないわけないだろ」

そう、強面のオッサンながらいい人でお馴染み……『邪悪にして強大なるワイバーン亭』の店主が現れたのだ!


「俺のことはいい……そんな所から現れたってことは、大方トーメント城から逃げてきたんだろ?」
「……そうだけど?」
「聞きたいことがある……篠原唯たち……王に捕まった異世界人たちについて、何か知らないか?」


741 : 名無しさん :2017/12/16(土) 11:48:53 ???
「『ちちんぷいぷい いたいのいたいのとんでけ』!…ひきしっ」
「なにその女子力高そうなくしゃみ」
出口を探して地下道をさまよう三人。
追手が来ない事を確かめつつ、唯は瑠奈の足のケガを治療していた。

「近頃だいぶ寒くなったからね…ついこの間水着回やったばかりなのに」
リョナ世界の時の流れは色々とこう、考えたら負けなのである。

「へえ、すごい…すっかり治ってる」
(魔法ってこっちの世界の人間でも使えるもんなのか。ボクも覚えられないかな…)
「ありがとう、唯!…治療魔法、だいぶうまくなったんじゃない?」
瑠奈はその場で軽く跳び、完治した脚の具合を確かめる。
「へへへ…どういたしまして。今までいっぱい使ったから、経験値的なものがたまったのかなぁ」
唯は顔には出さないが『マインドブラスト』の効果がまだ少し残っているらしく、
ほんの少しだけ足元がふらついていた。

(まだ無理はさせられないわね…もし魔物や追手が来たら、私が頑張らなきゃ!)
「んじゃ、さっそく行きましょ!脚も治ったし、魔物なんかこの私がバンバンやっつけちゃうかr」
(べちゃ)
決意も新たに「びしっ!」と決めた瑠奈のドヤ顔に、何かが落ちて来た。
それは……手の平サイズの巨大ナメクジ。

「Д♪¶λ☆Ы㌔㍉〜〜〜!!!?」
「る、瑠奈!大丈夫!?」
「うわああ何だこれ!どんどん落ちてくるぞ!!」
ナメクジの大群がいつの間にか天井にびっしり密集し、唯達を目掛けて次々落下してくる。

『ドレインスラッグ』…レベルとか経験値的なものを好んで吸い取るナメクジ型の魔物。
トーメント王が捕らえた少女を無力化する際に好んでこの魔物を用いる。
その体液は粘着力が異常に強く、一度張り付かれたら引き剥がすことは困難。
瑠奈もこの世界に来た頃、これを使った責め苦を受けた事があった。

「っぎゃあああ!!!!服の中に入って…やっ?!むねっ……は、ぁっ……!!」
瑠奈の襟元から入り込んだ二匹のナメクジがにゅるりと双峰を這いあがり、その頂に吸い付いた。

「る、瑠奈!こ、これ引っ張っても全然取れな……ひっ、きゃうっ!?」
瑠奈に張り付いたナメクジを剥がそうとする唯。その足元からも、ナメクジが次々と這い上ってくる。

「こ、これヤバいよ、早く逃げ……んっ……う、ひぃ…!!」
首筋にぼとりと落ちてきた一匹が背筋をぬるりと這い下りて、彩芽はその異常な悪寒に思わず声を上げてしまった。

這う這うの体で逃げ出す三人。やっとの事でナメクジ地帯を抜け出すと…

「ヒッヒッヒ……待ってたよ。唯ちゃん、瑠奈ちゃん、そして彩芽ちゃん。」
「そうか、ナメクジはあいつの」

「…あ、今のナメクジ攻撃で俺様の百万ポイントくらいだな!アトラ、シアナ!後で竜眼水奢れよ!」
「ええー…ずっりー」「どういう飲み物ですかそれ」

そこに待つのは更なる絶望、その象徴。トーメント王が、王下十輝星のアトラとシアナを従えて待ち構えていた。


742 : 名無しさん :2017/12/16(土) 14:25:45 ???
「ヒッヒッヒ……待ってたよ。唯ちゃん、瑠奈ちゃん、そして彩芽ちゃん。」
「あなたは…トーメント王!」
「そうか、ナメクジはあいつの手下、というかペット…」
「じゃあボクらは、ここまで誘い込まれたってわけか……くそっ!」
王に加え、十輝星が二人。まともに戦って勝てる相手ではない…だが背後はナメクジの大群で逃げ場もなかった。

「いつかも言ったが、俺様は君達…特に唯ちゃんの事は、『警戒』してるからね。
潰せるときに徹底的に潰す…まずは三人とも無力化してやろう。ベティちゃんいらっしゃーーい!!」

「ま、また魔物を呼び出す気…?…こうなったら私が、なんとかして突破口を作るわ…彩芽、唯を守ってやって」
「な、何言ってんだよ瑠奈!それどう考えても死亡フラグじゃん!………って、何だこの臭い…!?」
「………あ、あれは……!!」
(ビチャン……ビチャン…………)

王達の背後から姿を現したのは、王のペットの巨大ナメクジ「ベティちゃん」……ではなく。

「どうも騒がしいと思ってきてみりゃ…オデ様の『風呂場』なんぞに、大勢で何の用かねぇ?…グヒヒ」
身長が唯の2倍、横幅は4倍、体重に至っては桁1つ違いそうな巨体を持つ亜人。
ブクブクと太った脂肪の塊のような体からダラダラと汗を垂れ流し、歩くたびにズシンズシン…
ではなく、ビチャンビチャンと粘着質な音を立てている。…かなりの発汗体質らしい。
…唯は、その亜人を知っている。かつて闘技場で戦った、その亜人の名は…

「ウーゴ・ケルデヴさんじゃないですか!こんな所で奇遇ですねー…王様に『ベティちゃん』って呼ばれてるんですか?」
「あー?何のことかわがらんなぁ……でっけえナメクジなら、ここに来る途中で見かけたげども…ぐひひ」
「え!?……ゆ、唯の、知り合い?」
「いやいやいや!?どういう繋がりだよ!……リア充ってすげえ」
「いや、あれはリア充とか関係ないと思うけど……」
全身から漂う刺すような異臭は、その巨体以上に周囲の者を圧倒する。
ドン引きする瑠奈と彩芽をよそに、唯は近所のおばちゃんと立ち話ぐらいのノリで平然と会話していた。

「うっぷ……き、貴様!…平民以下の薄汚い下級闘士が、俺様のかわいいベティちゃんをどこにやった!」
「あー?、オデは何もしてねえだよ…あっちが勝手に『空気がしょっぱい!』って顔して逃げてっただけだぁ」
「た…確かにナメクジは塩分に弱いけど…ぅおぇ」
「しょっぱいっていうか苦いって言うか……こ、この閉鎖空間だと更にクるなこれ…!」
あまりの臭気に、さしもの王も及び腰。シアナとアトラもグロッキー状態であった。

「…まあ、話は大体わかっただ。…さっさと行っぢまいな。この場はオデが引き受けるだ」
「え……でも、それじゃ…」
「な、なんだかよくわからないけど味方してくれるって事?…じゃ、お言葉に甘えて」
「臭いはヤバいけど、結構いいやつだったのね…礼を言っておくわ。…唯、行くわよ!!」
(うわ、横通るだけで空気が酸っぱい…!)

ウーゴの申し出にいわゆる死亡フラグの気配を感じ、躊躇する唯。
同じくそんな気配を感じつつも、マッハで受け入れる瑠奈と彩芽。

「この腐れバカオークが、王国を裏切るつもりか……殺されたくなかったら、道を開けろ」
(唯ちゃんの真に『警戒』すべきは、こういう所だ。こんな奴にまで分け隔てなく接し…味方に引き入れてしまう!)
怒りでこめかみをヒクヒクと痙攣させながら、ウーゴを威圧するトーメント王。

「グヒヒ…もちろんお通ししますとも。ですが、こないだ痛めた脚が急に疼きだしましてなあ…
ほれ、オデの股の間でよければ、どうぞお通り下さい」
王の怒気を慇懃に受け流しつつ、巨体をいっぱいに使って通路を塞ぐウーゴ。
彼の言う通り、脚の間には身を屈めれば人が通れる程のスペースがあるが…

「愚か者め…王は、他人の股の間などくぐらん。屍を踏み越えて行くものだ!!」
王はマントを翻し、キンピカド派手なバトルスーツを露わにする。
…そして無数に内蔵された武器の中から、なるべく近寄らずに攻撃できる飛び道具系な物を探すのだった。


743 : 名無しさん :2017/12/16(土) 22:41:48 dauGKRa6
「はぁっ、はぁっ……!」
「ま、待ってよ瑠奈ぁ!ウーゴさんを1人残していくなんて、かわいそうだよ!」
「だ、大丈夫でしょ!あんなにデカいんだし……ここはあいつを信じて、先に進みましょ!」
(とか言ったけど、ぶっちゃけあんなやつどうなってもいいでしょ!!唯……恐ろしい子!!)

白目になりながら強引に唯の手を引いて駆け抜ける瑠奈。その後ろに続く唯と、少し離れたところから息を切らしてついてくる彩芽。
だが、引きこもりだった彼女の体力はすでに限界を迎えていた。

「ふ、2人とも……ち、ちょっと、休憩させて……」
「き、休憩なんかしてる暇ないわよ!あいつらに捕まったらまた水着で戦わせられたりナメクジをけしかけられたりするのよ!絶対嫌でしょ!」
「ぜぇ……はぁ……い、嫌だけど……!もうボクのライフは0よ……これ以上は……走れない……」

女の子座りでへたりと座り込んでしまった彩芽。肩で息をする彼女の疲弊した姿に、瑠奈も言葉に詰まってしまった。

「彩芽ちゃん、大丈夫?私たちのペースにつき合わせちゃって、ごめんね……」
「あ、いいんだ……ボクがステータスをインテリジェンスに極振りして、バイタリティの成長を全くしなかったのが悪いだけだから……」
「彩芽ちゃん……」
「……わ、悪かったわ。脱出する前に倒れたりしたら大変だし……少し休みましょ。」
「あ、ありがとう……休んでる間に、このアヤメカNo.98、空間認識にゃんこロボットに脱出口を探させるよ。」
「そ、そんなものがあるなら早く出しなさいよー!」
「仕方ないだろ!このにゃんこは気まぐれだから、さっきまで電源すら入らなかったんだから!」
「ロ、ロボットなのにモチベーションとかあるの?すごーい!」
(……さっきのウホホーゥといい、どうして彩芽の発明品には妙な性能が付いてるのよ……)


744 : 名無しさん :2017/12/16(土) 23:18:35 dauGKRa6
王都に別れを告げたリザは、今となっては少なくなってしまったアウィナイトの隠れ里に向かっていた。
一度襲撃されたためもしかすると場所を変えているかもしれないが、現地で自分と同じ青い目をしたアウィナイトに会えれば、何か情報が得られるだろう。
そんなことを思いながら海沿いの道を歩いていると、開けた海岸に出た。

(……ここだ。最後に遊んだのは。)

リザの脳裏に、遠い昔のように感じる家族との思い出がまざまざと蘇る。
あの頃から何もかもが変わってしまったが、眼前に広がる青い海はあの頃と同じように、波が寄せては引いていた。
波打ち際に建てられているパラソルの下の砂浜に、リザはゆっくりと座り込んだ。

(あの頃は……友達はあんまりいなかったけど、家族5人で不自由なく暮らしてたな。将来の夢は……確かピアノの先生だったっけ。)
ピアノはリザが5歳の頃に両親にねだって買ったものだった。子供ながらに一生懸命練習して、コンクールで賞も取ったことがある。
学校に入って勉強が忙しくなっても、毎日の練習は欠かさなかった。
あの日までは。

(もう弾けないかな。私の手はもう……昔ほどの綺麗な音色を出せない気がする。)
ピアノを弾いていた手はナイフを持つ手になり、覚醒した力を使って暗殺者となった自分では、ピアノはもう弾けないような気がした。

(……違う。そんなの言い訳。……私がもうピアノを弾きたくないのは……平和だった頃を思い出すからだ。)

ピアノコンクールで優勝した時、涙を流して褒めてくれた両親。
特に知識も無いくせに、自分の弾く拙いクラシックを聴くのが好きだと言ってくれた兄弟。
ピアノというものはリザにとって、あまりにも過去の記憶を引きずり出してしまうものだった。
決して忘れたいわけではないが、思い出してしまうとリザの心は切なくなる。
そんな感傷に浸っているリザの元に、金髪碧眼の少年が現れた。

「……お前も逃げてきたのか?」


745 : 名無しさん :2017/12/17(日) 00:00:10 dauGKRa6
突然響いた青年の声に、リザは顔を上げる。
年は自分より少し上だろうか。凛々しい目に175センチくらいの身長。アウィナイトの御多分に漏れず、眉目秀麗な青年だった。

「逃げてきたわけじゃないわ。私はアウィナイトの長老に会いにきただけ。」
「……長老?それはいいが……どこから来たんだ?この辺に住んでるわけじゃないだろ?」
「……ええ。でもここに住むつもりもない。」
「……お前、なんか変わったヤツだな。普通この地区に来るアウィナイトと言えば、迫害されて逃げてくるヤツしかいないぜ。見たとこ1人だし、他に行くあてはあるのか?」

心配そうな表情と声音で語りかける青年。おそらく未成年の女1人ということで心から心配しているのだろう。
だがそんな心遣いは、リザには不要だった。

「……ねえ。私のことを根掘り葉堀り深く聞かないで。長老に会わせて。それだけでいいの。」
「……はぁ、わかったよ……俺はヤコ。よろしくな。」



特に演技をするのも面倒なため、会話は不要。リザにとって1番大事なことは、あの日裏で何があったのか長老を問いただす。それだけである。

「なぁ、お前家族は?」
「……いない。」
「……そっか。俺もなんだ。俺が5歳の頃に、盗賊にやられちまって……それからはずっと親戚のとこで世話になってる。……お前もか?」
「不幸自慢は嫌い。あとさっきも言ったけど、私のことは詮索しないで。」
「……お前絶対、友達いないだろ。」
「……どうしてそう思うの?」
「どうしてって……お前みたいな愛想の悪い女に、友達なんてできねえだろうなって思ってさ。」
「……あっそ。」

冷たくあしらっせいか、ヤコのほうも自分に猜疑心を持っているようだった。
とはいえリザにとってはどうでもいいこと。
むしろこれくらいで少し機嫌が悪くなっているヤコに対し、見た目の割に子供っぽいなとリザは思った。



「ほら、着いたぜ。ここがアウィナイト特別保護区域……ちょっと前に正式に出来たばかりの、トーメント国が保護をしてる地域だ。」
「……!!」

ヤコの口から飛び出したセリフに、リザは目を見開いた。
アウィナイト特別保護区域……紛れもなく、自分がトーメント王に依頼して作らせたアウィナイト保護条約によって作られた場所。
存在は知っていたが、入るのは初めてなのだ。

「……ん?どうした?驚いた顔して。長老がここにいるのを知ってるから、ここに来たんじゃないのか?」
「あ……な、なんでもないわ。……ねえ、ここの案内をお願いしてもいい?」
「え?……あ、あぁ。もちろん。……何だよ。お前素直に人に頼み事できるんじゃねえか。」
「……馬鹿にしないでよ。」
「へへっ。まあその……何だ。俺もさっきは変な言い方して悪かった。……ちゃんと着いてこいよ。」
「……はいはい。」


746 : 名無しさん :2017/12/17(日) 01:16:22 ???
「ふぅ……そうだ、休憩ついでに、今後のことについて話さないか?」
「今後のこと?」
「サラさんや有理紗たちと合流した後のことさ。ここから逃げるのに必死で、あんまりその後のこと考えてなかたろ?」
「言われてみればそうね……」

ということで、今後のことについて考えを巡らせることにした唯たち。

「今度こそアルガスに行って、他の異世界人たちの情報を集めてみるのはどう?」
「いや、それは止めた方がいい。ボクらはアルガスに行ったが、異世界人を実験台にしか思ってないマッドサイエンティストだらけだった」
「そうなんだ……私と瑠奈は結局、アルガスに着く前に捕まっちゃったからな……」


「一応メッセージは送ったけど、リムリットちゃんたちが心配だし、一旦ルミナスに帰るのはどうかな?」
「そうね……私もまだ、ライカさんに教わってないことがたくさんあるし……」
「ルミナスか……そう言えば、ボクたちは行ったことなかったな」
「あそこはいい人ばっかりだし、スバルちゃんの体も桜子さんの腕も治せるかも!」
「そうだなぁ、一度安全な所でアヤメカの整備もしたいし、いい加減この首輪も外したいし……ルミナスで体制を整えるのもいいかもしれない」
「ま、なんにせよ、まずはここから逃げないとね」

話が一段落ついた所に、ちょうど空間認識にゃんこロボットがニャーニャーと鳴き声(に似せた機械音)を鳴らす。

「お!にゃんこが出口を発見したみたいだ!」
「よし……彩芽、体力は大丈夫?」
「ああ、休んだおかげで大分楽になった」
「じゃあ、2人とも!行こう!」




「ぐわああああ!!!遠距離攻撃したらなんかよく分からんブヨブヨが飛び散ってすげぇくせぇ!これ以上の攻撃は無理だ!」
「ちょ、マジかよ王様ー……シアナ、何とかしてくれぇ……」
「ぐ……っのぉ!」

シアナがグロッキー状態ながら立ち上がり、ウーゴへ手のひらを向け、彼の正面の空間に穴を開ける。


「ぐひひ、無駄無駄……って、なんだぁ?こで?」
「僕の開ける穴は人には直接作用しない……だが!人体に付着した物には作用する!」

シアナがウーゴの近くに開けた黒く大きい穴は、徐々に空気を吸い込み始めた!

「な、なんだそれ!?犬○叉の風穴か!?かっけぇ!」
「ふ、やはりな……シアナの能力はアトラほどの自由度はないが、その分成長性に長けている!」

「ぬ、おおぉおおおお!?」

ウーゴに纏う臭気、そして臭いの元である垢やふけ、よく分からないブヨブヨ……そう言ったものが、どんどんシアナの穴に吸い込まれていき……なんと!ウーゴの体臭は綺麗さっぱりなくなる……のは流石に無理でも、かなりマシなレベルにまで和らいだ!

「もらった!キング・ロケットパーーーンチ!!!」
「ぐわあああああああああああ!!!」


体臭のなくなったウーゴは、猛スピードで飛来する王のロボットアームの直撃を受けた!



「よくやったシアナ!でも女の子リョナったわけじゃないからポイントはなしな!」
「ええ……やっぱずりぃー……」
「それはいいんですけど、早く唯ちゃんを追いかけてリョナりましょう!オークに時間をかけ過ぎました!」


747 : 名無しさん :2017/12/17(日) 21:02:06 ???
あの王様のことだから、保護区域というのは名ばかりで、暴力が中を支配しているのでは……というリザの不安は、閑散としていながらも平和な情景を見て払拭された。

「ここが居住区。今は50人くらいがここに住んでるんだぜ」
「50人……」
「これを多いと取るか少ないと取るかは、人それぞれって感じだな」

アウィナイトの集落として考えればかなり多いが、やっと出来た安息の地に住んでいる人数としては少ない。
各地に散っているアウィナイトは、まだトーメント王国を信用できずに集まっていないのか……あるいは、既にほとんどが殺されたり、奴隷にされているのかもしれない。

「食い物はみんな海から取ってるけど、たまに王都警備隊の兵士が物資とか色々届けてくれるんだぜ」
「……彼らは、何か酷いこととかはしてこないの?」
「あー、女の子を変な目で見るのはしょっちゅうだけど、直接手を出してきたことはないな」
「そう……」

その後も、規模は小さいながら存在する娯楽施設や診療所、漁に使う道具が売っている雑貨店などをヤコに案内されるリザ。

だが一つ気になったのは、区域内ですれ違うアウィナイトたちは、見ない顔のはずのリザを見ても、特に声をかけたりはせずに目礼や会釈だけして通り過ぎることだ。

「ねぇ、ここに住んでる人たちは、いつもこんな感じなの?」
「ああ……さっきも言ったけど、普通この地区に来るアウィナイトと言えば、迫害されて逃げてくるヤツしかいないからな。新顔を見ても、辛いことを思い出させないように、あんまり詮索しないのが暗黙の了解なのさ」
「……その割りには、あなたは随分と詮索してきたけど」
「まぁ、女の子が一人だとちょっと心配でさ。ここのみんなも、俺と一緒じゃなかったらアンタに声くらいはかけたと思うぜ」
「そう……」

そうこうしているうちに、保護区域の奥……他の住居より大きく立派な家に着く。

「着いたぜ、ここが長老の家だ」
「……ありがとう、ヤコ」
「いいってことよ、えーと……名前なんだっけ?」

そう言えば、自分は名前も名乗っていなかったことを思い出すリザ。
嘘をつく理由も見つからないので、素直に名乗ることにする。

「……私は、リザ」

「へぇ、よろしくな、リザ。この保護区域を作ったっていうアウィナイトと同じ名前だけど、どう見ても強そうには見えないし、人違いだよな」
「……まぁ……」

目を反らして煮え切らない態度を取るリザだが、これまでの無愛想な態度が幸いしたのか、特に気に留めた様子もなく手を振って離れていくヤコ。

自分の名前が知られていることを驚きながら、特に魔物に襲われたりもせずに無事に目的地に着けて一安心するリザ。

久しぶりに会うことになる長老の顔を思い浮かべながら……彼女は、長老の家の扉を叩いた。


748 : 名無しさん :2017/12/22(金) 00:23:08 dauGKRa6
ロゼッタの暴走を止めるため、アイナとエミリアの2人はトーメント城の薬品室の扉を開いた。
中の電気を付けると、眩しいほどの灯りとともに大量の薬品棚が眼前に広がる。

「さあエミリアちゃん!ロゼッタの性的興奮を抑える薬を探しますわよ!きっとこの薬品室にあるはずですわ!」
「うん!でもアイナちゃん。その薬ってなんていう名前の薬なのかなぁ?」
「…………あ。」

ぽかん、としたアイナの表情を見てエミリアはお笑い芸人が如くその場でずっこけてしまった。
緊迫した状況だったが、それくらいは知っていると思っての行動だと思っていたのだ。
まあ今にして思えばロゼッタが薬を使っているのも先ほど思い出したばかりのようだったし、その時に薬の名前をしっかり確認しなかった自分も悪かったといえば悪かったのだが……

「し、心配ありませんわ!この部屋は薬品棚ごとに効能が分かれていますから、性的興奮を抑える薬のジャンルの棚の薬を適当に見繕えば……!」
「で、でもアイナちゃん。今ざっと見たけど、そんなジャンルの棚はないよ?」
「う、嘘おっしゃいですわ!どうせエリョナ用とか快楽落ち用とかいう淫猥なジャンルがあるはず……!」
「うぅ、その辺は私よくわかんないなぁ……」
「カマトトのエミリアちゃんには期待してませんわ!ここはアイナにおまかせ!ですわっ!」

ぴしゃりと言い放つと、アイナは大量の薬品棚をゴソゴソと物色し始めた。
そんな彼女の後ろ姿を、エミリアは心配そうな目線で見つめる。

(アイナちゃんってまだ小さいのに、私の知らないいろんなこと知ってるんだなぁ……も、もしかして……そういう経験とかあるのかなぁ……?)


「触手責め用粘液、電気責め用麻袋、格闘責め用エロ下着……ああもう、薬品以外のヘンな物も混じってるじゃあありませんの……!管理人にはあとでアイナの特性の塩辛ティラミスを食わしてやりますわ!」

ピンクのツインテをふわふわと揺らしながら毒付くアイナ。もう10分は探しているが、性的興奮を抑える薬は一向に見つからない。
すでにエミリアから見える手前の棚は探し終わり、今は奥の棚を探しているためエミリアからアイナは見えない状態になっている。

「アイナちゃーん!まだ見つからないのー?」
「うううううるさいですわ!!!今一生懸命誠心誠意、安全第一で探してますから、少し黙っててほしいですわ!!!」
(わ、アイナちゃんイライラしてるなぁ……ん?なんだろうこの注意書き……)

短気なアイナらしく、時間が経つにつれ次第に行動に精彩を欠き、バタバタという音と不機嫌そうな舌打ちが何度も聞こえてくる。
この時エミリアが注意書きを見なければ、後の事件は起きなかったかもしれない。
だが優しい彼女はアイナの身を案じるあまり、ついまた声をかけてしまったのであった。

「アイナちゃーん!変な薬が多いみたいだから、ビンの扱いには気をつけてって書いてあったよー!だから気をつけてねー!」
「ああああああ!!ピーヒャラピーヒャラタッタタラリラとうるさいですわね!エミリアちゃんはちょっと黙っててってさっきも言っ……あっ!やあああああああああッ!!」

ガシャーン!!!という音と共にドタバタドタバタという何かが崩れる音。そしてそのボリュームを上回る音量でアイナの悲鳴が薬品室に響き渡った。

「アイナちゃん!?大丈夫ー!?」
大きな物音もあっため、何があったのか様子を見に行くエミリア。声の発信源は薬品室の1番奥の棚のようで、エミリアは小走りで棚へと向かった。
そこでエミリアが見たものは……!


749 : 名無しさん :2017/12/22(金) 00:24:10 dauGKRa6
ぐちゅる……ぐちゅる……
「き、きゃあああっ!?な、なにこれぇ!?」
「い……やぁん!あっ!エ、エミリアちゃん……たすけ……ひゃうぅんっ!」

薬品棚の前でアイナは、ぶよぶよとした物体から伸びる粘着性の触手のような物に四肢を絡め取られ、宙ぶらりんの状態になってしまっていた。
体勢は横向きのため、スカートがめくれてあられもない格好になってしまっている。
強く緊縛されている様子はないが、ぐちゅる、ぐちゅるという何かを吸い取るような音と、アイナの苦しそうな表情からして、魔法生物によくある生命力を吸収する能力を持っているのではとエミリアは推測した。

「あ、アイナちゃん!すぐに助けてあげるからね!」
「エ、エミリアちゃん……!やめ、ひ、あっ!きゃああんっ!!だめ、や、いやあっ!!だめええええ!」

魔法を唱えるエミリアに叫ぶアイナ。その悲痛な声にエミリアの詠唱もいつもより早口になる。
そんな彼女の足元に、空のビンが転がっていた。
以下はその注意書きである。

『ドレインクラゲ持ち運び用小型ビン』
・可愛い女の子をクラゲで拘束して服を溶かしたい
・可愛い女の子をあられもない体勢にして鑑賞したい
・可愛い女の子をクラゲに犯させたい

上記に当てはまる方にオススメです。
クラゲの触手は電撃を放出したりトゲを出したりして痛ぶることも、フェロモンを放って女の子を骨抜きにして犯し尽くすことも可能です。
痛みと快楽、どちらのニーズにもお答えできる商品です。

・使い方
ビンを女の子の足元に投げつけるだけでOK!クラゲは出てきて初めに見た女の子を交尾対象に選ぶ性質を活かしています。
捉えた後は、でんげき、トゲトゲ、触手責め、媚薬放出、などと命令すればクラゲは従います。
命令のバリエーションは非常に豊富!詳しくは同封の説明書をご覧ください。

・注意事項
「クラゲさん、もう大丈夫だよ。」と言うまでクラゲは女の子を離しません。充分楽しんだ後に可愛い女の子を生かしてあげる場合は、ちゃんと解放してあげましょう。

※魔法生物のため、クラゲが魔法を食らうと暴走する可能性があります!!!安全な使用のために、近くで魔法を使用することは禁止です※


750 : 名無しさん :2017/12/22(金) 01:08:52 ???
「リザよ……久しぶりだな。」
「……ご無沙汰しております。長老さま。」
「ほっほ……長老に様はいらんよ。」
左の手のひらを下、右の手のひらを上にして合わせて礼をする。父や母に倣ったアウィナイト同士の挨拶のやり方。
対して長老は、椅子に座ったまま。
行きすがらヤコに聞いたのは、長老は足が悪くなってしまったので、立ち上がることすらも難しくなってしまったらしい。

「して……リザよ。そなたは、シフトの力に目覚めよったか。……そうでもなければ今の地位にはいまい。」
「……シフト……ですか?」
「おや、知らなんだか。アウィナイトの伝承に伝わる、空間移動の力のことじゃ。お前さんも使っているじゃろう。」
「……この力のこと……?」
「何がきっかけで覚醒したのかは聞かないが、その力で随分と……手荒いことをやっておるようじゃな。」
「……長老さまには、隠し事はできませんね。」
「ほっほっ……じゃが儂はそなたを責めるわけではない。儂に責める資格はない。お前さんの活躍のおかげで、今こうして他のアウィナイトたちと平和にくらせておるのじゃからな……」

アウィナイトの歴史の中に、闘争の歴史が出たことは極めて少ない。それは彼らが、争い自体を好まないためだ。
迫害の歴史の中にあっても、対立して戦う事などなく、常に住む地域を変え迫害を逃れてきた。
そもそも体の弱いものが多いという民族の性質もあるが、それ以上に「争い」そのものの本質を嫌っている……というのが正しいか。
人は皆いつか母なる海へと還ると信じているアウィナイトの民は、徒らに人を殺したり犯したりなど、しないのだ。

「王下十輝星……あの暴虐のトーメント王の駒として動くのならば、その小さな手に似合わぬ血濡れ仕事もやってきたことじゃろう。」
「……………」
「儂に話があるとのことだが、その前に儂からも1つ聞きたい。よいかな?」
「……なんでしょうか?」

改まる長老の様子は特に変わった様子もない。リザはふと自分へ向けられた長老の双眸を見つめる。
濁った青い目の奥に見えるわずかな光……その光にリザは、自分へのほんの少しだけの猜疑心を感じた。

「リザよ……そなたは、何を望む?なんのために生きておる?」


751 : 名無しさん :2017/12/22(金) 22:46:32 ???
一方その頃。ウーゴを倒した王様他2名は…

「ヒッヒッヒ…よし、唯ちゃん達を追いかけるぞ。…まずはあの汚ークをどかさんとな」
「さっきよりはマシだけど、あんまり近付きたくねーなぁ…シアナ、お前の能力で壁に穴とか開けられねーの?」
「ちょっと待って……あれ?さっき開けた空間の穴から、何か出てくる…?」

「うおえーー!!ぺっぺっぺ!!なんだこの汚な臭いのは!!」
「ぐむーー、これはたまらん…だが、どうやら無事に脱出できたようだな!!さすが天才の私!」
…シアナが明けた空間の穴から、2人の男が飛び出してきた。
「アイベルト!それに教授!なんでそんな所から!?」
「うむ、それはだな!」「かくかくしかじか!」

かいつまんで説明すると…
鏡花の魔法攻撃を喰らう直前、アイベルトはダークストレージを使い、
教授もなんか似たような効果の道具で異次元空間に身を潜めていた。
しかしアイベルトは脱出する魔法を再びど忘れし、教授も脱出するための道具を作っていなかった。

二人は互いに自分の落ち度を棚に上げて口汚く罵り合ったり、取っ組み合いのケンカになったり、
「なかなかやるじゃねえか…」「へっ…おまえこそ、いいパンチだったぜ…」とか友情が芽生えてみたり、
ブ〇ンドSで誰が一番かわいいかを議論しあったり、口汚く罵り合ったり、アホな事を色々やっていた。
そこへ、シアナが開けた空間の穴が偶然通じてしまったのである。

「すごく……どうでもいいです…」
「汚物まみれのアホ二人はほっとこう。そんな事よりあのオークだ」
倒れたまま動かないウーゴ・ケルデブ。そこに……

「よっしゃ任せろ!俺様が」「天才的頭脳で消し炭にしてやる!」「「汚物は消毒だー!!」」
「あ、待て!なんか嫌な予感が…」
ソウルメイトになったアイベルトと教授が、息を合わせて火炎魔法&火炎放射器を放った!

「…グッ……ヒ、ヒ…仕方ねえ……こいつは、唯ちゃんと再戦するときのための、とっておきだったんだがなぁ…」
その瞬間…

(ブフォオッッッ…!!)
ウーゴは尻から大量のガスを放出した!
…それは、放屁などという生易しい表現で済むものではない。
どんな屈強な戦士でも、まともに吸い込めば意識混濁、嘔吐、神経の麻痺、筋弛緩、石化、カッパ化、etc…
複数の致命的バステを引き起こす、様々な有害物質が超濃度に圧縮された混合気体。
闘技場での彼を『史上最悪のオーク』と言わしめる、恐怖の必殺技であった。
…だがそれとは全く別の意味で、この技は今の状況では極めて危険であった。

(……ドゴオオオオ!!!)
「っぎゃあああああ!!?」
……アイベルトと教授の放った炎が、ガスに引火。
激しい爆発で周囲の地下道が大規模な崩落を起こし、地上の市街地にも被害が及んだ。

そして……
爆発が収まった時、周辺に生きている者の姿は全くなかった。


752 : 名無しさん :2017/12/23(土) 14:58:22 ???
「私が、何を望む……?何の為に、生きている……?それは……」

「アウィナイトの為……その言葉に嘘はないのじゃろう……じゃが、そなたのような年端もいかぬ娘が、そこまで身を削れるのはなぜじゃ?」

「……別に、特別なことじゃありません……私と同じ王下十輝星には、家族の為に頑張ってる子だって……」

「家族の為に身を削るのと、家族も友人も既にいない民族の為に身を削るのは、似ているようで違う」

「長老様………先ほどから、一体何を……?」

長老の目に僅かな猜疑心が宿っているのは察しているが、何を聞きたいのかが分からない。
長老は、ゆっくりと目を閉じ、長めの瞬きをした後……そっと語りかけてきた。

「これから聞くことは、命を賭して民族の為に戦うそなたに対して、余りにも礼を欠いているやもしれん……だがどうか、年寄りの戯言と思って許してほしい」

「……?」

「リザよ、トーメント王国は確かに強大な国じゃ……かの国の庇護を得られるならば、それに越したことはない」

「……はい」

「だがその分、使い潰される可能性も、約束を反故にされる可能性もある……保護区を作ってもらうだけなら、ルミナスやシーヴァリアでも構わないはず……なぜ、悪名高いトーメントに仕える?」

「それは……」

完璧を目指すなら、国力の高いトーメントの方がいい。ルミナスやシーヴァリアに保護してもらっても、密猟者や、それこそトーメント王国の狼藉を止められるかは不安が残る。
そもそもトーメント王国のような実力主義国家でなければ、保護区を作らせるほど出世するのに時間がかかりすぎる。

理由はいくらでも思い付くが、我ながらどれも後付けのように感じた。

はっきり言って、王に無茶な任務を押し付けられて自分が死に、保護区がなくなる可能性を考慮すれば、例えトーメント王国のそれより力は弱くとも、人情のある国に保護してもらった方が合理的だ。

「そなたがそこまでしてやりたいことはなんなのだ?本当にアウィナイトの再興だけなのか?」

『貴様……王に裏切られてまでトーメントの権力にしがみつくか!!そこまでしてやりたいことはなんなのだっ!本当にアウィナイトの再興だけなのかッ!?』

偶然にも、かつてヴェロスに問われたことと、長老の言葉が重なる。


「私の……やりたいこと……生きる意味は……」


753 : 名無しさん :2017/12/24(日) 17:00:21 ???
「アイナちゃんを放しなさいっ……『ウィンドブレイド』!!」
「あ、ん……だ、ダメですわエミリアちゃん!!魔法を使っては…ん、や、ああああっ!!!」

エミリアの膨大な魔力が風の刃を紡ぎ出し、アイナを捉えたクラゲ触手を一瞬にして細切れにする。
「しっかりして、アイナちゃん!もう大丈夫だから!」
「だ、め……に、げ……」

ほんの数秒クラゲに捕まっていただけなのに、アイナはぐったりと衰弱し、
何かの媚毒成分で顔は紅潮し、吐息は激しく、艶っぽさを帯びていた。
(ふう、危なかった…もう少し助けるのが遅れてたら…)
アイナを介抱しながら安堵の息を吐くエミリア。
その背後で、切り裂かれた無数の肉片が瞬く間に再生し……

「え、みり……ちゃ……うし、ろ…」
「……えっ?」
無数のクラゲの大群となって、二人に襲い掛かって来た!
「「きゃあああああっ!!」」

(じゅぽっ ぐちゅ にる ちゅるるる……)
「ん、ひっ、やあああ!!!どうして…あぐ!?…そ、そこ、だめええええ!!!」
普段は厚着で目立たないが、実はエミリアはなかなかの隠れ巨乳の持ち主である。
小型のクラゲ2匹が襟元から服に入り込むと、その両胸に一匹ずつ取り付いて、
魔力を直接吸い上げると同時に大量の媚薬成分を吐き出した。
敏感な部分からごっそりと魔力を奪われる喪失感、媚薬によって増幅される背徳的な快感によって
少女の精神を一気に快楽の色に染め上げていく。

(ちゅくっ……しゅるっ…ちく つぷっ……!!)
「や、ああっ!?…やだ、おねが…すわな、れ、………痛っ!?…っが、ああああああッ!!!」
快楽の濁流に押し流されまいと、必死でクラゲを引きはがしにかかるエミリア。
だがそんな彼女の手足…北国出身かつインドア派なせいか、色白で適度にむっちりしている…に、
クラゲの透明触手が幾重にも絡みついた。
触手から生える無数の小さなトゲがローブの袖や裾を引き裂き、
二の腕や太もも、ふくらはぎと言った柔らかい部分に次々食い込んでいく。

小さくて細いトゲは、刺された瞬間は殆ど痛みはない。
だがそこから注入される毒の作用によって、全身の感覚が増幅され、
四肢の痛み、そして未だ吸われ続けている胸の感覚が爆発的に増大した。

(ぐちゅっ…にゅる…じゅぷぷぷっ…ちくっ…ぎりぎりぎり…)
「や、やああぁっ!!!い、痛……放して、おねがいっ!!…これ、抜い、…っっ!!」
魔法生物に言葉が通じる筈ないと頭ではわかっていても、
エミリアは弱々しい声を上げずにはいられなかった。
だが、大型のクラゲがエミリアに圧し掛かると、彼女の哀願を無視…いや、嘲笑うかのように、
怪しい紫色の光を発し……

(…ばりばりばりばり!!!)
「……ああああああッッ!!!?」
エミリアの股間に張り付けた電極触手から、強烈な電流を流し込んだ。
その筆舌に尽くし難い苦痛は、打ち込まれた毒によってさらに増幅。
…だが暴走しているとはいえ、もともとドレインクラゲは女の子を生かさず殺さず嬲り抜くために生みだされた魔法生物。
説明書の内容が正しければ、獲物から吸い上げた魔力を糧に、死に至らない程度の苦痛を半永久的に、
心が壊れかける程度の快楽を無尽蔵に、与え続ける事だろう…


754 : 名無しさん :2017/12/24(日) 18:45:24 ???
「え、エミリアちゃんっ!!…そ、そうですわ。クラゲを止めるには……」
暴走したクラゲの群れに、エミリアに続いて捕らえられてしまったアイナ。
だがこの手の魔法生物は、コマンドワードを唱えれば、暴走を止める事が出来るはず。
ビンに書かれた注意事項を見つけたまではよかったが…
「クラゲさん、もう大丈……んぼぅ!?」
…間髪入れず、アイナの咥内に大型クラゲの太い触手が差し込まれてしまった!

「〜〜!!」(な、何て事ですの!このままでは二人とも2年連続聖なる夜に大変なことになってしまいますわ!)
瞬く間に触手で拘束されたアイナ。着替えたばかりのピンクのドレスは
無数のトゲ触手に引き裂かれ、媚毒粘液でぐちょぐちょに穢されていた。
トゲから撃ち込まれた毒が全身に回り始め、全身の感覚が異常に研ぎ澄まされていく中
アイナは脱出の術を探して必死にもがく。

(とぷん……)
「…!?」
だがその時。何かが突然、頭に覆いかぶさってきた。視界が歪み、息を吐くとごぼりと泡が立つ。
まるで頭だけを水の中に入れられたような……と、そこまで考えた時、頭を丸ごとクラゲに呑み込まれたのだと気づく。
「ご、ぼっ…!!」(な、冗談じゃありませんわ!これじゃ、息が…ガチで死んでしまいますわー!!

必死に暴れるが、両手足に絡みついたクラゲ触手はびくともしなかった。
だが実は、先に咥え込まされた触手からは空気が送り込まれている。
…魔法生物ドレインクラゲは、アイナを殺すつもりは無い。
ただ、逃げ場のない状態で頭をまるごと媚薬粘液漬けにし、極細触手で孔という穴に潜り込み…

「……ンンンーーーッ!!!」
…生かさず殺さず、徹底的に嬲り抜きたいだけである。

(あ、アイナとエミリアちゃんは……一体、どうなってしまいますの…)
吸盤型の触手が、アイナのなだらかな両胸の先端で痛々しい程に屹立している乳頭に覆いかぶさる。

(ばりばりばりばりばり!)
「…ん、おおおおお!!!!!」
(リザちゃん、シアナ、ロゼッタ……)
…そこから放たれた激しい電撃がアイナの小さな体を貫き、意識と理性を容赦なく焼き尽くしていく。

(ちゅくっ ちく、ちく…… つぷ くちゅっ…)
「……っご、あ、ぉぉぉ…」
(サキ、フースーヤ、ヨハン…この際アトラやアイベルトでもいいですわ…)
休む間もなく、新たなクラゲがアイナの手足にまとわりついた。
細長い触手から無数の毒針を突き出し、全身に眠る性感帯を無理矢理掘り起こしていく…

(ぐちゅ ぬちゅる……ずるるるるるっ!!)
「………!!……………」
(…誰か…助けて…!)
幅広のブラシ型触手が、アイナの背中側から股間、胸元までを一気にこすり上げる。
媚薬毒液を全身に塗りこめながら、華奢な少女の肢体を表も裏も、何度も、何度も。

(…………)
生かさず、殺さず。泣こうともわめこうとも、決しては容赦しない。
アイナ達が過去に捕らえた、すべての少女達がされてきたのと同じように……


755 : 名無しさん :2017/12/24(日) 19:08:09 ???
「……今まで、考えないように……目を逸らしていました……なぜ、王に厄介者扱いされ、特に危険な任務ばかり任されても……トーメントの権力にしがみついているのか」

ポツリポツリと自らの心中を少しずつ吐き出していく。

「アウィナイトの為と自分に言い聞かせ……もう一つの望みを、考えないように……」

長老はそんなリザを、黙って見守っている。

「トーメント王国は、禁忌の術の研究が盛ん……邪術や禁呪のに研究も、秘密裏に行っている」


やっと分かった。いや、分からないフリを止めて直視した。

今思えば、ロゼッタが再会する度に『運命に抗っている』と自分に言っていたのは……彼女には見透かされていたのかもしれない。

自分の本当の望み……子供染みた、馬鹿げた願望を。



「失ったものを……お父さんやお母さん、お兄ちゃんやお姉ちゃんを……取り戻せるかもしれない……そう、思ったんです」


トーメントが死者蘇生の術を使い、女の子をいたぶっているという噂は有名だ。
何年も前に死んだ……遺体すらどこにあるか定かではない者も、生き返らせられるのではないか……

秘密裏に行われている邪術や禁呪の研究に関われるほどの地位になれば……やがては、禁忌の術にたどり着けるのではないか……


「そんなこと不可能だって……本当は分かっていたんです。女の子をいたぶっている時の蘇生は、死んでから長くても数日の場合にしか使っていないし、僅かでも死体の残っている事が前提……」

「リザ……」

「もうあの幸せな日々は戻ってこない……私の家族はもういない……そんな分かりきった事の為に……トーメント王国に、しがみつき続けた」

いつしか、リザの頬には、大粒の涙が流れていた。


「私は、馬鹿でした……分かりきった事を認められなくて、認めるのが怖くて……アウィナイトの為という隠れ蓑を盾にして」

リザは床に両膝を突き、両手で顔を覆ってしまう。


「アイナは、スラムでの生活のせいかな……王様の弱肉強食の思想に結構賛同してて……サキは、家族や親友さえいればいいって割りきってて……」

それでも、リザは掠れた声で喋り続ける。

「私は違う……アウィナイトも大事だけど、本当は家族にもう一度会いたかっただけ……地に足のついてない考えで、罪のない人を大勢殺して……」

「リザ」

独白を続けるリザを遮り、長老は静かな、だがよく通る声をあげる。

彼はゆっくりとリザに近づいていくと、彼女の両肩に手を置いた。


「気に病むな、と言っても無理であろう……だが、よく話してくれた」

「長老さま……」

「長老にさまはいらんと言ったじゃろう」

「でも……」

「極僅かな例外もこの世にはあるが……死んだ者は生き返らん、それは確かだ。だが……」

「……だが?」

「そなたがもう一度家族と会うことは、できるかもしれぬ」

「え……?」

「儂も、あの日以降遊んでいた訳ではない……密かに情報を集めていた」

「長老……?まさか……」

顔を覆っていた手をどけて、涙の光る青い目を見開いて長老を見つめ、次の言葉を待つリザ。



「ステラは……お主の母は、生きておる」


756 : 名無しさん :2017/12/28(木) 19:13:46 ???
「運命の螺旋よ…次なる運命を示せ!」
ロゼッタと対峙するアルフレッドは、魔剣の能力を解放してロゼッタに攻撃を加えようとする。
示された暗示は、剣がロゼッタの心臓を貫く、という『運命』であった。

(ギュルルルルッ…!!)
黒い螺旋状の切っ先が電動ドリルのごとく回転し、空間に穴を開けてロゼッタの胸元に迫る。

アルフレッドの魔剣「運命の螺旋」の能力は、単なる攻撃の予告ではない。
相手が攻撃され、貫かれた、という近い未来の「運命」を告げる…
つまりアイベルトの予知能力に近い、一種の予知能力である。
従って、この剣に宣言されたが最後、いかなる手段を用いても攻撃から逃れることはできない。はずだった。

(ギャリッ……)
「神は言っている…ここで死ぬ運命ではないと」
だがロゼッタは、両手で糸を梯子状に編んで魔剣の一撃を防ぐ。
不可視の糸…かつて全てを奪われたロゼッタが、魔物に何度も殺され、凌辱される日々の中で目覚めた能力。
あらゆる物を捉え、切り裂く…それは彼女にとって『全ての運命を変える力』であった。

「ふう……流石ですね、ロゼッタお嬢様。やはり、もう一つの魔剣の力を使うしか…」
アルフレッドの表情に、安堵の色が浮かぶ。
彼の目的はあくまでロゼッタを止める事で、殺すつもりはないのだ。

「アルフレッド……これは一体、何のつもり」
対するロゼッタは、心臓を狙った一撃を防ぎはしたものの。
下着やドレスが無惨にも引き裂かれ、白く豊かな左の乳房が露わになってしまっていた。

遠目から見てもわかるくらいその先端は固く隆起しており、
薬で抑圧されていた性感が限界に近い事は明らかである。
普通なら戦うどころか立っていられる状態ではない。
だが指一本でも動かせる限り、ロゼッタは恐るべき戦闘能力を無制限に発揮する事が出来るのだ。

「その……それは事故というか、不可抗力です」
「貴様…毎回毎回、見え透いた言い訳をっ……!!」

「性欲処理は、ハンカチで汗を拭いたり、ティッシュで鼻をかむに等しい行為」と称していたロゼッタだが、
今まで以上に激昂し、アルフレッドを八つ裂きにすべく無数の糸を走らせる。

(…ここは一旦離脱するのが得策でしょうか)
色々計算外な事態も生じたが、アリサやその仲間に向けられていた敵意を
自身に集中させることに成功したアルフレッド。
ロゼッタの追撃を巻いてから、改めて本来の目的…
「運命の戦士」と呼ばれる5人の少女達を探そうと考える。
だがその時…

「きゃああああっ!!」
薬を取りに行った少女達の悲鳴が、ロゼッタとアルフレッドの耳に飛び込んできた。


757 : 名無しさん :2017/12/28(木) 19:19:10 ???
アイナとエミリアの悲鳴を聞きつけ、薬品室にやってきたロゼッタ。
なんとなく嫌な予感がして、それを追って来たアルフレッド。
そこで二人が目にしたものは、エミリアの膨大な魔力を喰らって際限なく増殖・巨大化していくクラゲの大群だった。

「なんという混沌(カオス)……すぐに助けなければ」
「あれは魔法生物…恐らく斬撃や魔法には高い耐性を持っているはず。うかつに手だしすると危け…お嬢様!?」
慎重に敵の特性を見極めようとするアルフレッドを無視し、ロゼッタはクラゲの群れに単身飛び込んだ。

「我が眷属、我が戦友を穢す者に、裁きを与えん。『運命の糸』よ、斬り裂け!!」
不可視の糸を繰り、行く手をふさぐクラゲ達を斬り刻んでいく。
斬られたクラゲの体液が雨のように降り注ぎ、ロゼッタは端正な眉をわずかに歪めた。

「まずい。いかにお嬢様といえど、あの数では……」
クラゲたちは斬られても斬られても雲霞のごとく押し寄せる。
その狙いは言うまでもなく…かつて淫魔の手により極限まで開発された、ロゼッタの極上の女体。

今のロゼッタの身体は発情を押さえる抑制剤を切らせている上、
アルフレッドとの戦いで体力を消耗している。
そこに、粘つく魔法生物の体液が大量に浴びせかけられると…

「はぁっ…はぁっ……はぁっ…く、…」
(やはり、この体液…それ自体が強力な媚薬……)
…ロゼッタの動きが目に見えて鈍り、呼吸が荒くなっていった。

「お嬢様っ!今お助けします!」
「く……助けなど、無用……お前は、トーメント王国に仇なす敵…
早々に立ち去りな、さ……っ、あ、んうぅっ……!!」

一度は真っ二つに斬ったはずのクラゲの半身から触手が伸び、ロゼッタの脚に絡みついた。
粘液を纏いながらじわじわと這い上がってくる触手を、ロゼッタは振りほどく事ができない。
「し、まっ……あ、んんっ……来る、なっ…!!」
歩みの止まったロゼッタを、クラゲの集団がゆっくりと包囲していった。
…ロゼッタの糸の能力は、指一本動かすだけで一瞬にしてクラゲを両断できる。
だが、今はその指一本を動かす余裕さえなくなりつつあった。

「……絶対の因果よ、その力を示せ!」
アルフレッドは、赤黒い切っ先を持つ魔剣を抜き放ち、地面に突き立てる。

…すると、謎の力が魔剣から発射された。謎の力は近くにいたクラゲの一匹を吹き飛ばし、
そのクラゲが薬品棚に当たり、棚から飛び出した薬瓶がコロコロ転がって、
床に落ちていた別の空き瓶に当たり……アルフレッドの足元に転がって来た。

「何々……。『ドレインクラゲ持ち運び用小型ビン』……これは」
クラゲが最初に入れられていたビン。その注意書きには、クラゲを無力化するキーワードが記されていた。

持ち主の望んだ「因果」を(無理すぎない範囲で)呼び寄せる…それが魔剣「絶対の因果」の能力であった。


758 : 名無しさん :2017/12/28(木) 19:28:31 ???
「…お嬢様、今お助けします」
「だ、黙れっ…アルフレッド、お前は私たちの、て、き……ん、そ、こ、ああああ!!!」
(じゅぷ くちゅ にゅる びゅるっ ぐちゅちゅ じゅるるる)
質量、柔らかさ、感度、インドア派度…いずれもエミリアをおっきく上回る
『最高レベル』のロゼッタの胸は、知性なきクラゲ魔法生物に吸い付かれ蹂躙され続けていた。

特に動きが激しいのは、先程アルフレッドに服ビリされた左胸に取り付いたクラゲである。
乳房を丸ごと飲み込んだクラゲの胴体が身をちぎらんばかりに収縮すると、ロゼッタは甲高い声を上げて頤を反らす。
次の瞬間、コリコリに尖った胸の先端から白いドロッとした液体が噴き出し、透明なクラゲの身体を染め上げた…
これも恐らく、過去に受けた『調教』の結果なのだろう。

「…姉さまを殺した女に…尻尾を振った、裏切者……
お前に、助けられるくらいなら、わたし、は……あ、っん、ふ、やあああああっ!!」
「……なるほど、お嬢様からは…そういう風に見えていましたか」
(ちゅぽ ぐちょ ぎちぎち じゅぶぶ ぶちゅっ どぼぼぼぼ)
ロングスカートの内側も、見えないが大量のクラゲが蠢いている。
…中のクラゲ達が不定期に大量の粘液を吹き出し、足元の水たまりを拡大させていった。
中で一体何が起きているのか。だがそれを見られる事は、恐らくロゼッタにとって
耐えがたい屈辱に違いない…後でこちらを本気で殺しに来るか、あるいは自ら死を選んでしまいかねない程に。

「仕方ありません。では、私はこれで失礼しましょう…
……後はお願いします。アイナさん、エミリアさん」
「わ、わかりましたわ…」「…クラゲさん、もう大丈夫だよ!」
……先に救出されていたアイナとエミリアがキーワードを唱えると、
ロゼッタに群がっていたクラゲ達はその活動を停止し、消えて行った。

「それと、これはお嬢様の身体を鎮める抑制剤です。…落ち着いたら飲ませてあげてください」
「あ、ありがとうございます…アルフレッドさん」
「敵とは言え、一応礼は言っておきますわ…私たちと、ロゼッタを助けてくれてありがとうですわ」
「いえ、礼には及びませんよ…『これ』で十分です」
困惑気味に頭を下げるアイナとエミリアに、アルフレッドは赤白に塗り分けされた2個のボールを懐から取り出して見せた。

「げえっ!それはアリサと鏡花の『ヒューマンボール』…いつの間に!」
「…もしかしてとは思いましたが、大当たりでしたか。苦労して助けた甲斐があったという物です」
「まさか…アイナが気絶しているのをいい事に、アイナの純情可憐乙女ボディを
あんな所やこんな所まで弄って2つのボールをニギったんですわね!!」
「………いや、それは誤解です。これは近くに落ちていたのをたまたま拾って」
「問答無用!お礼撤回!貴様は女の敵ですわ!今すぐギッタギタにしてあげますわよーーー!!」
「ちょ、ちょっとアイナちゃん落ち着いて!それよりロゼッタさんを…」

烈火の如く怒り狂うアイナ。弁解は無駄だと判断し、アルフレッドは風の如く逃げ去っていった。
死体の如くぐったり動かないロゼッタと、小動物の如くアワアワするエミリアを残して…


759 : 名無しさん :2017/12/29(金) 00:58:22 dauGKRa6
「う、うぅん……!」
「アトラ!いい加減起きろ!」
「あれ……?シアナ?えっと……俺たちどうなったんだ?なんかでけぇ音がして……」
「教授とアイベルトの炎とウーゴのババ○ンガみたいな屁が……まあ化学反応を起こして大爆発を起こしたんだ。まったく……面倒なことになったよ。」

アトラが周りを見回すと、辺り一面怒号と悲鳴が飛び交う阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
それもそのはず、大爆発はイータ・ブリックスの市街地で起こったものであるため、都市への被害は計り知れない。
原因の究明や説明責任などは適当でいいとして、現状復帰となれば簡単には解決しなさそうだった。
シアナの話では、アイベルトと教授はダークストレージに入り込んで回避したらしい。

「え……じゃあ俺たちは?」
「お前は爆発の衝撃で気絶してたから、覚えてないだろうけど、僕の能力で異空間に逃げたんだよ。はぁ……あの状況で僕やアイベルトがいなかったら、死者が出ていたところだな。」
「……あれ?じゃあ王様はどうなったんだよ?アイベルトの魔法空間にもいなかったし、シアナの穴にも入ってないんだろ?」
「おい、そのシアナの穴に入ったとかいう言い方は気持ち悪いからやめてくれ……で、王様なんだけど……」

シアナの話では、アトラと穴に入る際に王の方を見たとき、王は仁王立ちだったらしい。
「王様!危険です!こっちに来てくださいっ!」
「ケケケ……シアナ。俺様がこんな雑魚キャラの屁で死ぬと思ってんのか?」
「え……で、ですけど、さすがにこの規模の爆発は……!」
「俺様の心配は無用だ。お前らだけ避難していろ!」
「わ、わかりましたっ!」

全てが終わり、シアナが穴から出た時に見たもの。それは……
あれだけの爆発があったにもかかわらず、無傷のトーメント王とその周りの空間だった。

「つまり、信じられないことに瓦礫も爆発の衝撃も、王様の周りだけには届いていなかったってことさ。」
「す、すげー偶然だな!さすが俺らのボスだぜ!」
「偶然なわけないだろ!多分きっと、覇王色の覇○みたいなのを発して被害を受けなかったんだと思うな。」
「はえ〜!ま、なんにせよお前が無事でよかったわ!」
「それはどうも……でも結局これで、唯ちゃんたちには逃げられちゃったわけだ。……やっぱりこれも、運命の戦士の力ってやつなのかねぇ……」


760 : 名無しさん :2017/12/29(金) 01:54:54 ???
「ち、長老……今、なんて……?」
「ステラじゃよ。そなたの母親のステラは……まだ生きておる。」
「……お、お母さんが……い……生きてる……?」

耳を疑うような長老のセリフに、リザの頭の中は混乱していく。
様々な感情が湧き上がるのに、頭の中はまったく整理ができず、呼吸すら乱れて息が吸えなくなってしまう。

「んぐっ!?う!ひ、あ、ぐぉぇっ!」
「な、リザ!?どうした!?落ち着け!落ち着くのじゃ!」
「んっ……ごぁッ!ふ、あ、う、ひ!ぐ、ぐぅっ!」

息を吸うことも吐くこともできず、引きつけを起こしているリザは唾液を地面にべちょりと吐き出してしまう。
自分は冷静な方だと自覚していたが、今抱えている感情を思い切り声に出してしまうと、長老の耳を壊してしまいそうだった。
もっとも、感情が溢れて声にならないせいで呼吸困難に陥っているのだが……

「ぅ……ぉあっ!が、んっ、うぁっ!は……!はぁ……!」
「よし、落ち着け。落ち着くのじゃ。ゆっくり吸って……ゆっくり吐いて……そう、深呼吸じゃ……はい、もう一回……」
「すうぅ…………はあぁ……すう……」

目を閉じながら胸に右手を添えて、ゆっくりと息を整えるリザ。3回目には目の焦点も定まって、呼吸も正常になってきた。
必死で呼吸を整えようと汗びっしょりで深呼吸をするリザの姿に、長老の心もキリキリと痛む。
それだけ彼女にとって、家族を失った悲しみは大きかったのだ。

「尋常ではない量の汗じゃな。やはり……家族のこととなると冷静ではおられんか。」
「……長老……お見苦しいものを見せてしまって……申し訳ございません。」
「……その狼狽振りから察するに、やはりあの日の出来事は、今もお主の心に遺恨を残しておるようじゃな。無理もない……」
「………………」

持参したハンカチで、自分が飛び散らかした唾液を拭いているリザ。長老に気にしなくてもよいと言われたが、リザはとにかくなにかしていないと落ち着かなかった。

「それで、長老。お母さ……母はどこに?」
「……それが問題じゃ。生きているとは言ったが、そう簡単に会える場所ではない。」
「……私は王下十輝星です。この権力を使えば、大抵の場所には入れます。……教えてください。」
「……わかった。教えるのは一向に構わんからの……」



長老に告げられた母の場所……それは、討魔忍の国ミツルギの、奴隷施設だった。


761 : 名無しさん :2017/12/29(金) 15:33:52 ???
下水道を脱出した唯、瑠奈、彩芽の三人は、町の外で竜殺しのダン、アイセと再会した。
「お久しぶりです!ご心配おかけしちゃったようですみません…」
「全くだ。お前らが殺されたと聞いた時は肝を冷やしたぜ…だがまあ、無事で何よりだったな」
「さっきのオークも強烈だったけど、今回の魔物もヤバいな…リア充ってすげえ」
「いやいや、あれコワモテだけど普通の人間だから!……っと、魔弾のアイセ。あんたも無事だったのね」
再会を喜ぶ唯達。だが…

「…ま、お陰様でね。そっちは確か他にもお仲間がゾロゾロいたはずだけど…脱出できたのはあんた達だけか」
…アイセの若干トゲのある言葉通り、その後しばらく待ってもサラや鏡花達は一向に現れなかった。

「別の所から脱出したのかも知れんな……あるいは王都の連中に捕まったか」
いつ追手が来ないとも限らない状況で、これ以上この場に留まるのは極めて危険。
この場を一旦離れよう、とダンが提案しようとした時。

「お待ちください……篠原唯さん、月瀬瑠奈さん、古垣彩芽さん。
あなた方には、やってもらいたい事があります」
一行の前に、紫色の服を着た剣士が現れた。
手には赤白に塗り分けられた怪しげなボールを2つ持っている。

「ひゅー…今度はイケメンが出て来たよ」
面食いなアイセが、真っ先に反応した。
「お前は…いつかの下水道の時の」
前回遭遇時に一触即発だったダンは、警戒を強めた。
「え、誰あの人。下水道の時って!?…私会った覚えないんだけど!?」
兄がいるので異性に免疫があるはずの瑠奈は、微妙に取り乱していた。
「あ、よかった普通の人間だ。こういうのでいいんだよこういうので」
ウーゴとダンで感覚がマヒしていた彩芽は、意外と冷静だった。
「え。えーーと……どちら様、でしたっけ」
そして唯は……コロッと忘れていた。

前回アルフレッドと会ったのは、ルミナスがトーメントに侵攻する前夜、
魔喰蟲による虐殺から逃げて下水道に降りた直後の事。
その時の唯は放心状態、瑠奈は気絶中だったので、このリアクションも無理はないのだが…

「…このボールの中にはアリサお嬢様と市松鏡花さんが入っています。
これで王を倒す『5人の戦士』が揃ったことになる」
「どれどれ…うわ、本当だ」
彩芽はボールの中を覗き込むと、確かにアリサと鏡花の二人が閉じ込められているようだ。
「…今は外に出さない方が良いでしょう。二人とも怪我をしていますし…」
(今アリサお嬢様を外に出すと、話が面倒になる)

「二人を助けてくれたんですね。ありがとうございます!」
「…って、言いたい所だけど……雰囲気からすると、タダではなさそうね」
「理解が早くて助かります。単刀直入に言うと…貴女方5人には私と共に
『討魔忍の国』ミツルギへ行き、アングレームの遺産を手に入れて頂きたい。
……トーメント王を倒し、世界を救うために」

「え……」
…簡単に飲める提案ではない。
サラ、桜子、スバルの安否がまだ確かめられていないし、
魔法王国ルミナスにも迫る危機を知らせなければならない。
だがアリサと鏡花の入ったボールは、アルフレッドの手中…事実上の人質である。
果たして、唯の決断は……


762 : 名無しさん :2017/12/29(金) 18:01:56 ???
「さて、困ったな」

トーメント王は、王の椅子にふんぞり返りながら一人呟く。そう、一人だ。近くの床には、赤い服を着た男が横たわっているが……それは既に人ではなく、物言わぬ屍と化していた。

「爆発はソイツを盾にして防いだが、騒ぎに乗じて唯ちゃんたちは逃げてしまった」

去年のクリスマスにリザ、アイナ、エミリアを苦しめた偽サンタクロース……クリスマスによる復活のタイミングを逃した彼を『近くにいた、お前が悪い……』とばかりに盾にして部下からの心象を良くしたはいいが、肝心の運命の戦士は行方を眩ませた。

まだそう遠くへは行ってないだろうが、運命の味方する彼女らとのかくれんぼは些か分が悪いと言わざるを得ない。

「ロゼッタたちも、アリサちゃんと鏡花ちゃんの入ったヒューマンボールをアルフレッドに奪われたらしい」

ロゼッタたちにお仕置きをしたい所だが、自分も捕獲に失敗しているのを棚に上げるのはちょっとカッコ悪い。

「まぁいい……捕獲した他の異世界人たちで憂さ晴らしするか」

サラは処刑獣によって殺され、桜子とスバルは虫の息の所を捕獲された。運命の戦士以外は捕まったことを考えると、改めて彼女らの運の良さを感じられる。

「それにルミナスを制圧できれば、リョナ対象はいくらでも手に入る」

既にルミナスには人質解放の旨を伝えてあり、フースーヤとダークアウィナイトを着けた魔法少女たちも先ほどの騒ぎの前に出発した。

教授が言うには「私のIPから我が嫁がルミナスのロリ女王へ緊急のメールを送っている!」らしいが、アイベルトの「じゃあせっかくだから、ネットで拾ったチ〇コの画像とか送りつけてみよーぜ」という鶴の一声で解決した。

大量に送られてくるチ〇コのイタズラメールに紛れた火急のメール(しかもどちらも見知らぬアドレスから届いている)が目に入る可能性は低いだろう。


その時、王の部屋にノックの音が響く。

「失礼します、王様」
「おう、入っていいぞ」


扉を開いて入ってきたのは……サキだった。
サキは一瞬、床に転がっている偽サンタクロースの死体を見て怪訝そうな顔をしたが、すぐに表情を戻した。

「さて、サキ……セイクリッド・ダークネスの所有権が欲しいそうだな?」
「はい……」
「理由は聞かないでおくが、はっきり言って難しいぞ?ノワールの奴がご執心だからな」
(ま、両手両足分の魔導義肢となると、そんくらいしか方法がないわな……ヨハンは上手くやったらしい)

王はルミナス侵攻に際し、もう一手を打つことに決めていた。これからサキが言うことも、ヨハンの入れ知恵による……王にとって都合のいい言葉であろう。

「あのブラックガチレズが文句を言わないで、帽子を私の使いたいことに使う案はあります」
「ほう、なんだ?言ってみろ」

サキは、しばしの間目を閉じ、覚悟を決めたような表情をして……はっきりとした口調で語りだした。


「私の身体をノワールに貸して、ルミナス侵攻に同行します……今からなら、追いつけるはず」
「ほう?」
「ノワールとルミナスの因縁を考えれば、アイツをルミナス侵攻に連れていくのはむしろ自然です……そして、セイクリッド・ダークネスを奪い返される最悪のケースを防ぐため、帽子を置いていくこともできます」
「その間に、お前のしたいことに帽子を使う、というわけか」


王はニヤニヤと笑みを浮かべることを抑えきれなかった。


「そこまでしてセイクリッドダークネスを使いたいなら、俺も止めん……おい、ノワール!どうせ聞いてんだろ?」
「ふん、バレていたか……」

王の呼びかけに応じ、どこからか黒いローブが現れる。

「話は聞いてたな?いい加減アトラにやられた傷も治ってきただろうし、そいつに取り憑いてちょっくらルミナスに攻め込んでこい」
「お主に顎で使われるのは尺じゃが……願ってもない申し出じゃ」

黒いローブ……ノワールはそう言って、ゆっくりとサキへと近づいていく。

「ほう、邪術師か……胸の大きさも及第点……うむ、依代としては悪くない」
「っ……!」
(舞……ユキのこと、お願いね)

こうして、サキの身体は、黒いローブに覆われた。


763 : 名無しさん :2017/12/30(土) 15:05:30 FlyynNeY
「これが、伝説の魔帽セイクリッド・ダークネス……」
「サキがノワールに身体を預けてまで手に入れたものです……確かに託しましたよ」

トーメント城の医療室の外にて、ヨハンが柳原舞にセイクリッド・ダークネスを渡していた。

「ここの医師の腕なら、魔導義肢の手術も簡単に成功するでしょう」
「魔導義肢と、膨大な魔力があれば、ユキちゃんは健常者と変わらない生活ができる……」
「ええ、サキが帰ってくる頃には、きっと元気な姿を見せられることでしょう」

ヨハンの言葉を聞いて、舞は不安そうな表情を浮かべる。

「あの、ヨハン様……サキ様は、ご無事なのでしょうか……」
「そうですね……ノワールは信用できませんが………今は『彼』を、信じるしかありませんね」



***



「えっと、つまり、サキさんの身体を借りてルミナスまで付いてくるってことですか?」
「ふ……話が早くて助かるぞ、緑髪の小僧よ」

ルミナスとトーメントの国境近くにて……全速力で飛んできたノワールとフースーヤが顔を合わせていた。

「お主は以前、あの赤毛の小僧と組んでわらわを潰したが、ルミナスを滅ぼすという志は同じ……かつての件は水に流してやろうぞ」
「まぁ、味方が増える分にはいいですけど……はぁ、アトラさんかシアナさんが一緒にいればなぁ」

はっきり言ってノワールは苦手な相手だが、味方なら戦力になるのも事実……大事の前の小事と割り切ることにしたフースーヤ。


「して、ものは相談なのじゃが……わらわは病み上がりの所を全速で飛んできて疲弊しておる。そこな魔法少女を『味見』するが、よいな?」
「味見……?ああ、魔力吸収ですね。えっと、後々戦力にするんで、やり過ぎない程度に……」

フースーヤとノワールの周りには、ダークアウィナイトで操られた5人の魔法少女たちが控えている。
ルミナスに返還させた後に暴れさせる予定だが……ちょっとくらいなら魔力を吸収しても問題はない。


「中々どうして、話が分かるではないか……して、お主……」
「はい?」
「なぜそんなブカブカの黒いローブを着ておるのじゃ?」
「いや、黒づくめでフード被って顔隠したら強そうに見えるかな、って……」
「……小便臭い小僧の考えることは、わらわには分からん」
(いや、貴女だって黒づくめじゃないですか……)


764 : 名無しさん :2017/12/30(土) 19:42:27 ???
「な、なんじゃこれは〜!?」

ルミナスの王都ムーンライトには、幼き女王リムリット・シュメッターリング・ルナ・ルミナスの悲鳴が響いていた。

「なんだなんだ、何があったちびっ子よ」
「だ、大丈夫ですかリムリット様?」

近くに控えていたウィチルと光が、仰天して椅子から転げ落ちたリムリットに駆け寄る。

「わ、わらわの携帯に、このような不潔なものが……」
「んー?なんだこれ……あ、チ〇コじゃん。清々しいまでのイタズラメールっぷりだなぁ」

リムリットのお子様携帯の中身を見て、事もなげに言い放つ光。
別に携帯越しにそういう写真見たからって恥ずかしがるようなキャラでもない。

「えー、これも下ネタ画像、これも下ネタ画像、これも下ネタ画像……いやチ〇コの画像ばっかだなオイ」
「これは、メールアドレスを変えた方がよろしいかもしれませんね」
「うう、嫌なものを見てしまったのじゃ……」

チ〇コチ〇コチ〇コと来れば、大量のイタズラメールは全て下ネタ画像だと早合点してしまうのも無理はない。
こうして、彩芽の送ったメールは、迷惑メールフォルダの奥へと眠ることになってしまった。


「ちゅーか誰の仕業だよ……メルアド知ってるってことは、内部の犯行?」
「リムリット様にこのような狼藉を働くとは……この間カリンが前祝いと称して騒ぎ通した件といい、風紀が乱れるにもほどがあります」
「いや姉さま、決めつけはよくないのじゃ……それにウィチル、今はトーメント王国からの捕虜返還の報で、みな沸き立っておる……多少のことには目を瞑ろう」

そう、リムリットの言う通り……先の敗戦以降どこか暗い雰囲気に包まれていたルミナスにとって、捕虜返還の報は数少ない良い知らせ。
大切な人を失った者も多く、その人が帰ってくるかもしれないという報道は、仲間想いの魔法少女たちを歓喜させた。


「しかし懸念事項もあります。あのトーメント王国のこと……今回の捕虜返還、何か裏があるのではないかと……」
「うむ、それはわらわも心配していた。捕虜の引き渡しに、トーメント王国の人間が随伴すると聞いているが……」
「引き渡しのサインだけしてサヨナラ、ってことはないだろうね」

先ほどまでチ〇コのイタズラ画像を見てひっくり返っていた幼女とは思えないほど、リムリットは凛とした表情を作る。

「決まりじゃな。随伴するトーメントの人間には要警戒じゃ」
「では私は、かの国のエージェントがどんな不審な行動をしてもいいよう、監視体制を築きます」
「あー、ひょっとしたら知り合いの十輝星が来るかもしんないから、私はまた十輝星の情報の整理でもしとくわ」


765 : 名無しさん :2017/12/31(日) 01:31:20 ???
「さてさて、責任者のお墨付きも貰った事じゃし…どこから頂こうかのう」
「ていうか本当にちょっとだけですからね」
フースーヤの後ろに控える5人の魔法少女。
その中には、以前水着回で鏡花と激闘を演じた魔石使いカレラ・ガーネットもいる。
ノワールは嘗め回すような目で少女達を物色し…その中から一人を選び出した。

【名前】フェラム・エクエス
【特徴】16歳。金属を自在に操る鋼属性の魔法を得意とする。
髪色は黒で、シンプルに一本結び。前髪はヘアピンで止めている。

「…ノワールさんの事だから、カレラさん辺りを選ぶかと思ってましたが」
フースーヤが言う通り、ノワールはおっぱい星人である。
それは、これまで取り付いて来たメンツ(瑠奈、鏡花、アリサ、サキ)からも明らかだ。
…アリサに関しては「最低限のサイズだったが妥協した」との事だが。
そんな彼女が、わかりやすいダイナマイトバディのカレラを敢えて外して来た。

「クックック…わかっておらんのう。この娘もこう見えて、出る所は出ておるぞ?
それより小僧…この娘の洗脳を解け。リアクションも何もなしでは味気ないでな」
「え…なんとなくそう来るような気もしましたけど、止めた方が良いですよ?…だってその人」
「つべこべ言うな小僧。金属製の手枷足枷もしておるし、どうせ大したことは出来まい」
「その金属製がまずいのに…ったく、どうなっても知りませんからね」
万一取り逃がしでもしたら責任問題になるだけに、難色を示すフースーヤ。
だが結局はノワールに押し切られる形で、少女の洗脳を解いた。

「……あ、れ……ここは……そうだ、私ヘンな首輪をはめられて…
…!!……この禍々しい魔力……まさかあなたは、ノワール!?」
「クックック…わらわを知っておるとは光栄じゃな。
では早速じゃが、そなたの魔力を根こそぎ頂こうかの…抵抗できるものならしてもよいぞ」
「ちょっと!根こそぎは駄目ですよ!?」
(どうでもいいけどサキさんの見た目でガチレズ行為を働かれると物凄い違和感が…)

「ふざけないでっ!誰があなたなんかに……『レインメタル』!」
フェラムが短く呪文を詠唱すると、手足に嵌められていた金属性の枷が一瞬にして溶け、
液状の塊になって宙を舞う。…彼女が最も得意とする、金属を自在に操る魔法である。

「…ぬうっ!?」
液状化した金属は短剣に形を変え、ひとりでにノワールに斬りかかった。
不意を突かれて怯んだノワールから、フェラムは素早く逃れ間合いを取る。

「あーあ…言わんこっちゃない。もう一回首輪で洗脳状態にしないと…」
「小僧、手出しは無用じゃ。こうでなくては面白くない…クックック」
(黒衣の魔女ノワール…ミント様の仇。本当ならこの場で倒してやりたい所だけど…)
敵はノワールの他にもう一人、加えて洗脳された魔法少女が四人。
恐らく首輪に埋め込まれた魔石で操られているのだろうが、そう簡単に洗脳を解かせてくれるとは思えない。

(…今は逃げるしかなさそうですね)
内心歯噛みしつつも撤退を決意したフェラム。
金属操作の魔法で首輪を外し、埋め込まれていた深碧の魔石を後ろに投げ捨てた。

「おっと…勿体ないのう。極上のダークアウィナイト…これ一つ売れば屋敷が建つというぞ?」
……だがその時。前方のノワールの姿が消えた。
次の瞬間にはフェラムのすぐ後ろに立っていて、投げ捨てた魔石をキャッチする。
「なっ…!?」
「それ、つかまえた…わらわの結界の中で、存分に可愛がってくれようぞ」
「ひゃぅ!?」
闇属性の魔法シャドウリープ。ノワールがその使い手である事はフェラムも知っていたが、
突然の奇襲に反応が一歩遅れてしまう。
ノワールは背後からフェラムに抱きつくと、流れるような所作で
フェラムの服の中に手を潜り込ませ、見立て通り『出ている』胸を弄ぶ。
足元からは邪術の魔法陣が展開し、そこから伸びた黒い手が
フェラムの身体を異次元へと引きずり込んでいった。

「くっ……変…身…!!」
フェラムが叫ぶと、銀色の光が身体を包み、魔法少女へと姿を変えていく。
だが一度取り込まれた結界から逃れることは出来ない。
フェラムとノワール、戦いの舞台は邪術結界の中へと移る…


766 : 名無しさん :2017/12/31(日) 02:30:23 ???
【名前】魔法少女アイゼンリッター
【特徴】フェラム・エクエスが変身した姿。
髪は銀色のロングウェーブ。瞳も同色に変化し、
白を基調としたワンピースとロングブーツ、金属製の篭手とティアラを装備。
魔力で作り出した剣と盾で戦う、近接戦闘型の魔法少女。

「たあっ!!はあっ!!せえぇいっ!!」
フェラム…魔法少女アイゼンリッターは素早い踏み込みで間合いを詰め、
鋭い斬撃を矢継ぎ早に繰り出す。
「おっとっと……ククク。なかなかやるのう」
対するノワールは、涼しい顔で連撃をかわしながら、
アイゼンリッターの乳揺れを密かに堪能してテンションを上げていった。

「ちょっとノワールさん!何ガチバトルに突入してるんですか!」
「問題ない。これは幻影結界…お主も知っておろう。この結界内なら、どんなに痛めつけても死ぬ事はない」
以前ノワールがリザと戦った時に使った結界である。
結界の内ではどんな致命傷を受けても死に至る事はなく、また肉体のダメージは結界の外に出た時に自動的に元に戻される……
…一言で言えば、「誰にも邪魔されず、相手を殺さないようにじっくりいたぶる為の術」であった。

「しかしその太刀筋、どこかで見たと思ったら…
お主はあの玩具の兵隊…確か…ミントとか言ったか…あやつの部下か何かか」
「あなたがその名前を…口にしないで下さいっ!たああっ!!」
裂帛の気合と共に繰り出されたフェラムの突きをかわし、ノワールはシャドウリープで間合いを取る。

「我が名はフェラム・エクエス…魔法少女アイゼンリッター。
『ビショップ・オブ・アイヴォリー』ミント・ソルベットの副官にして一番弟子。
我が師ミント様の無念、今この場で晴らします!!」
剣を真っすぐに突きつけ、声高に宣言するフェラム。だが…
ノワールはここまでの戦いで、既に見切っていた。
フェラムの実力、そして…精神的なウィークポイントを。

「クックック…乳と口上だけは一人前じゃのう。
わらわに傷一つ付けられずに無様に殺された、『玩具の兵隊』の更にそのまた子分ごときが…
あやつがどんな風に嬲られ、惨めに命乞いをしてくたばったか。詳しく語って聞かせてやろうか?」
「くっ……黙りなさいっ!!」
フェラムの剣技は、ミントには及ばずとも一流の域に達している。
だが師であるミントの仇が突然目の前に現れて、平常心を保つことは難しい。
更にノワールの挑発に乗せられ、怒りに任せて繰り出される攻撃は大振りで単調な物になってしまっていた。

「まるで子供のお遊戯じゃのう……ではそろそろ反撃と行くか」
シャドウリープで死角に回り、黒い蛇を操り出すノワール。
対象の魔力を奪う呪いの蛇毒は、まともに受ければ魔法少女を一瞬のうちに無力化する威力を秘めている。

「そうは…させません!」
(…ザシュッ!!)
だが、フェラムはその攻撃を読んでいた。
胸当ての背面から、まるで翼のように金属の刃が幾本も伸び、背後の黒蛇の首を斬り落とす。
…金属操作の魔法を使えば、身に纏った鎧そのものを武器へと変える…文字通り全身を武器と化すことが出来るのだ。

「ほほう…悪くない手品だ。少し侮りすぎたかのう」
思わぬ反撃を喰らったノワール。だが、当初の予定には些かの変更もない。
ただ圧倒的な力の差で蹂躙し、絶望を与え、……揉みしだくのみ。


767 : 名無しさん :2017/12/31(日) 04:04:39 ???
結界内で戦闘が始まってから、およそ60分。

「はあっ……はあっ……はあっ……」
「クックック……どうした。もうへばったのか?」

金属操作の魔法で全方位への攻撃が可能なフェラムに対して、ノワールがとったのは…
黒蛇が首を落とされる度、代わりの黒蛇を三匹、四匹と増やしていく。
単純な物量作戦。だが単純なだけに効果はある。

理論上は全方位攻撃可能と言っても、一度に対応できる数にも限りがあるし
フェリム自身は後ろに目がついているわけではない。
黒蛇が8匹に増えた所で足首への攻撃を許し、
その反撃の隙をつかれて更に立て続けに2度噛まれた。
噛み傷はどす黒く変色し、激しい痛みと発熱、そして時間と共に魔力を流出させる。

「このままじゃまずい、です…一気にケリをつけないと…」
12匹の黒蛇に囲まれたフェラムは、奥の手を出さざるを得なかった。
上級攻撃魔法『サウザンドアームズ』…
魔法の剣や槍を大量に召喚して敵の頭上から落とす、鋼属性の上級魔法である。

「クックック……そうはいかん」
「しまっ……んむっ!?」
だが単独での戦闘、しかも敵に囲まれた状態で上級攻撃魔法の詠唱を行うのは極めて困難。
黒蛇のような知性のない魔物相手なら、剣で隙を作っている間に詠唱を完成させることもできただろう。
だが…魔法を極め、狡知に長け、瞬間移動の術を操るノワールの前でそれを行うのは自殺行為に等しい。
詠唱を察知したノワールが一瞬にして眼前に現れ、フェラムを押し倒し唇を奪った。

「やっ…ん、う……む……んんっ……!!」(は、放してくださいっ……こん、な、の…)
「んっ………む……くちゅ……ちゅぱっ…」(足掻いても無駄じゃ…貴様の魔力、頂くぞ)
上級魔法発動の為に溜めた魔力を、ノワールは宣言通り根こそぎ奪い取った。

「…は、ぁ……う…っ……!」
「クックック……惨めなものよ。
師の仇にいいように嬲られ、魔力を奪われる気分はどうじゃ?…ほれ、もっと搾り取ってやる」
「……ない……わら、ひ……あなた、なんかに………まけ、な……っ……〜〜〜〜〜!!!」
既に呂律の回っていないフェラムに、容赦なく二度目の魔力吸引。
両手はワンピースの下に侵入して二度目の直揉み。
フェラムはビクンビクンと激しく身体を痙攣し…10秒ほどで、変身を維持する事が出来なくなった。

「………そ、ん……な…………」
淡い光に包まれ、魔法少女アイゼンリッターの白いワンピースと白銀の武装が消失する。
光を纏った銀色の髪は黒へと戻り、服装もシンプルなブラウスとコート、
ショートパンツ、黒タイツにショートブーツ…何の力も無い、ただの普段着姿へ。
魔力を失い、魔法少女は元の姿に戻っていった。…憎むべき敵の、眼の前で。

「何度見ても良い光景じゃのう…さて、お待ちかねのお仕置きタイムじゃ…
蛇どもよ、この小娘を存分に喰らうがいい」
「……え……な、に……まっ、て……い……」
12匹の黒蛇が、無力な少女と化したフェラムにゆっくりとにじり寄る。
だが既に数か所の噛み傷から毒が回り、逃げるどころか立ち上がる事さえできなかった。

「ひ……いっ……い、やあああああぁぁぁ!!!」
無数の毒牙が少女の身体を引き裂いた。
だが、どんな痛みを受けようとも、絶命することは決してない。
それが、ノワールの作り出した「幻影結界」の効果。
結界が解除されれば、肉体に受けたダメージは自動的に元に戻る。
……だが、傷の痛みや精神的なダメージはその限りではない。
圧倒的なまでの苦痛と絶望に、果たして魔法少女の心はどれだけ耐えられるのか…


768 : 名無しさん :2017/12/31(日) 05:06:19 ???
「ノワールさん、ある意味絶好調じゃないですか…病み上がりで疲弊とか言ってたのは何だったんですか」
「クックック…気にするな。小僧も顔がにやけておるではないか」
ツヤツヤした顔のノワール。そして、指摘の通りフースーヤも心の中では強い愉悦を感じていた。
フェラム・エクエスは、フースーヤがまだルミナスに居た頃、毒を主体とした彼の戦法を疎んじていた一人だった。
…そんな彼女が黒蛇の毒によって蹂躙され、苦痛に泣き叫ぶ姿に、フースーヤはこの上ない興奮を抱いていたのだ。

「……でも、傷は治っても奪った魔力とかはそのままなんですよね?このままじゃ戦力になりませんよ」
「仕方ないのう……少し魔力を戻してやるか。ついでに魔石の力で、改めてわらわの従順な下僕としてやろう」
ノワールの黒衣の一部が分離し、黒いリボンに変化した。
黒いリボンがダークアウィナイトと合わさって、フェラムの襟元に張り付く。
一見なんでもないリボンブローチに見えるが、ノワールの力によって首輪以上に外すのが困難な呪いのアイテムとなっている。

「そら、わらわの魔力を与えてやろう……んっ…」
「……ん………あ、………んんっ…!!」
気絶しているフェラムにノワールが口づけ、大量の邪悪な魔力を一気に注ぎ込んだ。
苦痛と絶望でボロボロに疲弊した少女の心をグズグズに蕩けさせる、甘い快楽を伴って…

………………

「金属を操る術…なかなか面白いが、ただ剣や槍を振るうだけでは面白くない。どうせ使うなら………」
「なるほど………それなら、ルミナスの皆様にもたくさん楽しんでいただけそうですね。さすがノワールお姉さま……」
「お姉さま、か…ククク。随分素直になったではないか…では、見せてみよ。そなたの新たな力を」
「ええ、お姉さま。生まれ変わった私の姿、ご覧くださいませ……変身!!」

【名前】魔法少女ベーゼリッター
【特徴】ノワールの下僕に堕したフェラム・エクエスが変身した姿。
銀色の髪と瞳はそのままに、篭手やティアラなどの金属部は黒、清楚な白のワンピースは毒々しい紫色のラバーボンデージに変質。
背中や胸元は大胆に開き、スカートの丈は短くタイトに。
戦闘能力においては、有刺鉄線の鞭や鋸状の刃を持つ剣など、使用武器の殺傷力や残虐性が大幅に上昇。
また周囲の金属を材料に、拷問具や処刑器具を作り出して自在に操る。

「もど して」
「……なんじゃ小僧。ほれぼれするような悪堕ちっぷりではないか。何が不満なんじゃ」
「いやいや。こんなに外見変わってたらバレるでしょ」
「いや、変身前はあまり変わっとらんのじゃから問題なかろう。変身イコール攻撃開始なんじゃし、何の問題もない」
「あ……それもそうか。でもさっきのノワールさんもそうですけど、邪悪な魔力ダダ漏れさせてたら警戒されるんじゃ?」
「まあ…ドラ〇ンボールの要領で気を抑えれば大丈夫じゃろう。それに………わらわも姿を変える」
ノワールの姿がみるみる変わっていく。それは、邪術ではなく……

「…そうか。サキさんの変身能力…!」
「幸いと言うか……ちょうど良い対象を思いついたのでな」
驚愕するフースーヤの目の前に、かつてノワールが殺害したミント・ソルベットの姿が現れた。


769 : 名無しさん :2017/12/31(日) 16:35:28 ???
「……やっぱり、今すぐは無理……かな。サラさんたちも助けに行かないといけないし、ウーゴさんも置いてきちゃったし……」
なんでそこでウーゴの名前が出てくるのよ、と瑠奈は唯を小突いたが、唯がなにがおかしいのかとばかりにキョトンとした表情をしたので瑠奈はガックリと項垂れた。
「で、でも……亜理紗と市松さんをこのイケメンに預けたままにしておくのもアレじゃないか?僕らの歩数で経験値が入るわけでもあるまいし。」
「そ、そうなんだけど……あの、アルフレッドさん。どうしても今じゃないと駄目ですか?」
「ええ……私も時間に余裕がある身ではありませんから。」
「……ねえ。もし私たちが交渉を拒んだら、その2人をどうするつもりなの?」

毅然とした態度で言った瑠奈の質問に、アルフレッドは手を口に当てて考え込むような仕草を見せた。
どうやら特に決めていないらしい。
「人質のような扱いにしてはいるのですが……私としてもあなたたち5人には生きてもらわなければ困る。手荒な真似はできませんね。」
「じ、じゃあ……」
「ですが残念ながら、貴方方に選択肢はありません。当分の間は、トーメント城を歩き回って仲間を探すことはできないのですから。」
「あぁ……まぁあんな騒ぎが起きちゃあ、町に入るのも制限されるだろうな。トーメント王のお尋ね者のお前らなら尚更だ。」
「え……どういうこと?」

ダンの話によると、王都地下で起こった大爆発によってイータブリックスは混乱の渦中にあるらしい。
地盤沈下の可能性もあるため市民の外出は信じられており、避難所としてトーメント城や学校施設などが解放されている。
そして、現在イータブリックスへの街に通じる門は閉ざされているということだった━━

「つまり、貴方方に戻る道はないということです。……協力していただけますね?」
微笑みながら語りかけるアルフレッドの瞳の奥に、唯、瑠奈、彩芽の3人は少しだけ恐怖を感じた。
断ることは許さない。アルフレッドの気迫がそう思わせたのか━━城に置いてきた仲間たちの身を案じながらも、3人は討魔忍の国ミツルギへと向かうことを決めたのだった……


770 : 名無しさん :2017/12/31(日) 17:09:10 ???
「ミツルギ……ですか。」
「左様。彼の地はトーメント王国に勝るとも劣らぬ軍国主義じゃ。トーメントがアウィナイトの扱いを改めた今、積極的に奴隷として酷使している大国はあの国ぐらいじゃな……」
「…………」
リザが黙り込んでしまうのも無理はない。植民地ではない敵国である以上、トーメント王下十輝星の身分でもミツルギで動き回ることは難しい。
シーヴァリアの時はミライたちのおかげで潜り込めたが、流石にあの時と同じようにはいかないだろう。
それに、奴隷収容施設ともなれば内外を行き来することも容易いことではないはず。潜入するのも脱出するのも簡単にはいかない。
そしてもし万が一見つかって、拘束されてしまったら……自分もそのまま母と同じ場所で、地獄の奴隷生活の始まりである……

「ミツルギの奴隷収容施設は……アウィナイトにとっての地獄じゃ。男は死ぬまで強制労働はもちろん、女は……」
長老が口籠もったのは、残酷な真実を伝えないための優しさなのだろう。だがリザには、その後のセリフは容易に想像できるものだった。
「……ともかく、人を人とも扱わぬこの世の地獄のような場所じゃ。ステラは生きているとは言ったが……もしかすると……」
「長老さま。それ以上の忠告は不要です。私は母を助けに行きます。」
「……わかっておるのか?ミツルギの奴隷施設で万が一捕まったら、そなたは……」
「……大丈夫です。私はこう見えても……結構運がいい方なんですよ。」

その後、リザはあの日海辺をうろついていたアウィナイトの件について質問したが、長老はわからないと首を振った。

「じゃが……嘆かわしいことに、アウィナイトも一枚岩ではない。儂らを迫害している奴等に情報を流して、報酬を得ているような不届き者もおる。あの日の事件も……もしかするとそうだったのかもしれんな……」


771 : 名無しさん :2017/12/31(日) 18:09:40 ???
長老に別れを告げたリザは、アウィナイト特別保護区の出口へと向かった。
(見透かされちゃったな……長老さまには。)
そう考えながら歩く彼女の足取りは母が生きている可能さを知ったのにもかかわらず、軽やかではなかった。
今まで誰にも言えなかった━━当の自分ですらしっかりと認識していなかったが、理不尽に殺された家族にもう一度会いたいという願いを、リザは捨てられていなかったのだ。
だからこそ悪名高いトーメント王国に仕え、自分の力量をはるかに超える任務をこなして、あの邪智暴虐の王になんとか取り入ろうと努力してきた。
そのすべてが子供染みた幻想によるものだったとあの場で改めて認識させられて……恥も外聞もなく泣いてしまったのだ。

「ようリザ。用事は済んだのか?」
「あ……ヤコ。」
出口に向かう途中の広場で声をかけてきたのは、先ほど案内をしてくれたアウィナイトの青年、ヤコだった。
挨拶を返したリザの顔を見て、ヤコはその眉目秀麗な顔を少ししかめる。
「ん?おい……お前なんか目腫れてないか?まさか……なんか礼儀知らずなことして、長老に泣かされたのか?」
「……そんなことしないわよ。馬鹿。」
「おお、よかったよかった。その調子なら元気そうだな。ハハ!」

悪態をついたリザを見て、朗らかに笑うヤコ。彼なりに元気を出させようとしているのが見て取れる。
そんな彼を見て、少しブルーになっていたリザの顔にも笑みが浮かんだ。

「ふふ……」
「お……ちゃんと笑えるんじゃねえか。あれか?もしかして人見知りするタイプか?」
「ねえ……私の勘違いかもしれないけど、どうして私にそんなに構ってくるの?さっき会ったばかりなのに。」
先ほどまでとは違い、棘のない口調で返すリザ。そんな様子を見て安心したのか、ヤコはリザへと近づいていった。
「構うっていうか……まあ、せっかく会ったんだしよ。俺の好きな言葉は一期一会なんだよ。」
「……それだけ?」
「……あと、なんていうか……海岸で座ってたお前がさ……すごい遠い目してて、放っておいたらそのまま海に入って消えちまうような気がして……って、何言ってんだろ俺……」
ヤコが言葉に詰まった時、彼の方にドカッと大きな手が乗せられた。

「おぅいヤコ!かわいい女の子が来たからって、さっそくナンパしてんなよ?そんなキャラじゃねえくせに。」
「レ、レイスさん……ナンパじゃねえっすよ。ただ話してただけで……」
「ごめんなぁお嬢ちゃん。今この特別保護区には若い女の子ってのがいなくてな。年の近い女の子が来て、こいつも興奮しちまったらしい。許してやってくれや。」
「は、はぁ……」
突然面倒臭い雰囲気になり、少し辟易した様子のリザ。
だがそんな様子はどうでもいいとばかりに、レイスと呼ばれた男はリザへと視線を移した。
金髪碧眼なのは自分と同じ……なのだが、どうも蓄えた髭といい遊びの多い服装といい、チャラい印象を与える男である。

「で、どっから来たの?お父さんとお母さんは?彼氏いんの?」
「……は?」
「ち、ちょちょ!レイスさん!」
「ハハ、冗談だよ。ま、うまくやれよな!」
バシッとヤコの方を叩いて、去っていくレイス。やはり後ろから見ても軽薄オーラが漂っていた。
「今のは……私の苦手なタイプ。」
「ご、ごめんな。めちゃくちゃいい人なんだけど、いつもあんな感じでさ……」


772 : 名無しさん :2018/01/01(月) 01:38:45 ???
「あけましておめでとうー!かんぱーい!みんな飲め飲めー!」
「もう、カリンちゃんはしゃぎ過ぎだよ」
「お?なんだフウコ、あたしの酒が飲めないってのか?」
「いやこれ、子どもビールだけど……」
「あはは……」

水鳥、フウコ、カリンの3人は、カリンの家に集まって年越しを祝うプチパーティーを行っていた。
だが、祝っているのは年越しだけではない。捕虜返還の記念でもある。


誰が帰ってくるのかは知らされてないが、ひょっとしたら大切な人が戻ってくるのではないか……という淡い期待が、少女たちを浮わついた気分にさせていた。

が、そこに一人の女性が現れる!

「おいお前ら!新年早々悪いがパーティーは中断だ!」

「げぇ!?ライカさん!?」

「ちゃ、カリンちゃん、そんなリアクションしたら失礼だよ」

「いやだって、ライカさんの方から来た時って、いつもろくな要件じゃないじゃん……」
「まぁ確かに、地獄の訓練とかスパルタ走り込みとかばっかりだけど……」
「ほーう?お前ら、私のことをそんな風に思ってたのか……」

拳をポキポキと鳴らしてカリンとフウコに迫るライカ。
慌てて取り繕うカリンとフウコ……

「それで、どうしたんですかライカさん?ひょっとして、捕虜返還の件で何か問題でも……」

その場を収めるために、水鳥がライカへ声をかける。

「お、流石に水鳥は察しが良いな!何人か活きのいいのを集めるようウィチルさんに頼まれてな」

「ということは……」

「捕虜返還に随伴するトーメントの人間……そいつを警戒するのに、お前らブルーバード小隊を使うことにした」

それを聞いて、先ほどまでライカを相手にタジタジだったカリンが気勢をあげる。

「っしゃ!トーメントの奴らが何を企んでても、私らが止めてやる!」
「そうだね……この国を、好きになんてさせない……!」
「でもライカさん、いいんですか?私たちみたいな出来立ての小隊に、そんな重要な任務を」

カリンに続いて気合を入れるフウコと、ちょっとした懸念を尋ねる水鳥。

「なぁに、水鳥の活躍は聞いてるし、フウコとカリンもまだペーペーだが素質は確かだ。それに多分ガチの警戒はウィチルさんがしてるだろうから、大船に乗ったつもりで経験積んでこい」
「そうですか……そういうことなら、謹んでお受けします」

以前の水鳥なら、不安からこの任務を断っていたかもしれない。
だがスピカのリザとの邂逅、そしてカナンとの戦い……これらを経て成長した水鳥は、不安を振り払って一歩踏み出す勇気を手に入れた。

それは素晴らしいことだ。だがもし……もしも彼女がこの任務を断っていたら……後に起こる悲劇は、また違ったものになったかもしれない。


773 : 名無しさん :2018/01/01(月) 17:40:42 ???
「明けましておめでとうございます、王様」
トーメント王国、玉座の間にて。階の下で恭しく頭を下げる王下十輝星『アルタイル』のヨハン。

「おう。正月なんだし、そんなにかしこまらなくていいぞ」
玉座に座っているのは言わずと知れた、トーメント王。

「ソレニシテモ 去年ハ イロイロナコトガ アッタナア…」
「?……王様、どうしたんです、その口調は」
「アンナコト コンナコト イロイロアッタ(チラッ」
「……はあ」
つまり、王はクールのつなぎ目とかによくある総集編的なことがやりたいらしい。
流れを察したヨハンは、素直に話を合わせる事にした。こういうことはだいじだ!

・・・・・・

「というわけでだ、今回は以前の出来事を振り返ってみようじゃないか」
「………ええ、そうですね。キャラ紹介(>>605)、術技まとめ(>>619)などを
有志の方が定期的に作って下さっているのもありがたい限りです。まずは…」

>>2では、スレ移転早々に魔法少女『ピュア・アクアマリン』こと有坂真凛が
魔喰虫の大群に餌食にされたんですよね」
「そうなった経緯は前スレ
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/game/37271/1406302492/l50
>>233辺りから追ってもらうとしてだ。
まさか真凛ちゃんが魔法少女とは思わなかったなー!
ぶっちゃけエスカの奴に予言聞いても、半信半疑だったよ。
…ま、仮に予言が間違いだったとしてもヤるつもりだったけどな!」

「その後、魔法王国ルミナスの軍勢がトーメント王国に侵攻。(>>14)
王都イータブリックスを舞台に、激しい戦闘が繰り広げられました」
「まあ、俺様がけっちょんけっちょんの返り討ちにしてやったがな!
…その裏では、アリサお嬢様が唯ちゃん達と別行動をとったり(>>26)、
エスカの奴がルミナスに裏切ったり(>>33)、色々あったようだが」

「その間、私は魔弾のアイセを捕える任務(>>48)に就いていましたので…
王都に帰って来た時には驚きましたよ」
「うむ、十輝星諸君の活躍にはいつも感謝しているよ!
ま、中には敵に殺される(>>54)ようなマヌケもいるがな」

「ところで…王都を脱走した少女達のうち、アリサさんや彩芽さん達の一行は
ナルビア王国の研究都市アルガスを目指したようですね(>>71)」
「彼女達も過去に色々(>>78)あったようだな…ま、我々がヤル事は変わらんが」

「サキが教授のサポートのため呼び戻されたり(>>95)、
フースーヤがリョナラー堕ちして十輝星になったり(>>98)、人事面でも大きな動きがありましたね」
「リザの奴がノワールにケンカを売った事(>>103)もあったなー。
その後すぐ、邪術のライラ討伐依頼(>>147)だってのに、無茶なヤツだ」

「…色々あったようですが、討伐任務は無事成功。
丁度その頃、ルミナスに潜伏していた唯さん達はアルガスを目指し…(>>253)」
「…彩芽ちゃんチームも、アルガスに到着したようだ。(>>254)
まあ、彼女たちの思惑とはちょっと違う展開になったようだがな。ククク…」

「最終的には唯さん達を捕らえ、十輝星総出で徹底的に心を折ったわけですね(>>354)。
その後は、「聖騎士の国」シーヴァリアにリザを向かわせましたが…(>>376)

「ああ。アホベルトと連絡が取れなくなったんでな。楽な任務と思ったが、案外手間取ったようだ。
ドスとかいう魔物と戦ったり(>>384)、円卓の騎士に拉致られたり(>>411)、サキが参戦したり(>>453)、
リザの過去が明らかになったり(>>469)、途中で水着回(>>471)が始まったり、ついでにサキの過去も(>>559)……」
「王様、なんでそこまで詳しいんですか…ともかく、最終決戦(>>578)を制してシーヴァリアの騒動を落着させたようですね」
「結局お前ら何しに行ったんだって感じではあるが…敵国を混乱させる、と言う意味では成功と言えん事もないな」

「そうこうしている間に、王都で捕らえていた唯さん達が脱走を試みた(>>626)のは記憶に新しいところです」
「この辺は城内の事だから、俺らも監視してたんだよなー。
教授によって魔改造されたロリ2名と戦ったり(>>641)、色々やっていたようだが…
ルミナスの異変を外部に知らせる(>>678)のは、結局失敗に終わったようだな」

「…その後、脱出する彼女たちを分断し、アリサさん含む4名とロゼッタが交戦(>>710)。
途中、彼女の口から驚くべき過去(>>714)が明らかになりました。
一方、唯さん達3名は地下下水道(>>741)を通って王都を脱出…残念です」
「こんな大変な時に、リザのやつ休暇(>>744)なんか取りやがって…ま、俺様が許可したんだけど」

「その後、お尋ね者のアルフレッドが唯さん達を連れてミツルギに向かった(>>761)という情報が入っています。
一方、フースーヤ達によるルミナスへの潜入工作(>>762)も本格的に始動しました」
「今後はこの二つが焦点となりそうだな!今年も色々リョナい事があるといいなあ!HAHAHAHAHA…」


774 : 名無しさん :2018/01/02(火) 10:39:09 ???
「…それにしても、去年はあまりにも忙しすぎた!
リザじゃないが、正月くらいゆっくり旅行にでも行きたいものだな!」
「はあ……確かに国内ではしばらく大きな動きはなさそうですが…」
この辺りで、ヨハンはちょっと嫌な予感がした。

「…てことで俺様は、助さん(シアナ)格さん(アトラ)を連れて諸国漫遊、リョナをしの旅に出ようと思う!!」
「誰がうまい事を言えと」
「ついでに……旅に出てる間、俺達は例の爆発事故で死んだって事にしといてくれないかな。
つっても、公表すると国民大喜びしそうでムカツクから、裏でこっそり流す感じに」

「…なるほど」
…確かに、最近は他国の諜報活動も活発化しているため、ニセ情報で攪乱するのは一つの手だ。
トーメント王が死んだ、と聞いて各国がどう動くか、あるいは動かないか…
場合によっては、また王の好む混沌とした展開になるかもしれない。

「あと、お銀さんポジとして舞ちゃんかエミリアちゃん辺りをひとつ」
「両方出払ってます。うっかり八兵衛(アイベルト)で我慢してください」
「おっと、こいつはうっかりだ!HAHAHA…」
…舞はユキの手術の付き添い、エミリアは思う所があったのか、アイナのミツルギ行きに同行した。
例えヒマだったとしても、このメンツなら200パーセント全力でお断りされる事だろう。

「それはともかく、助さんを連れていかれると国内の雑務に支障が…例の爆発事故の後処理もありますし」
「ああ、それなら大丈夫。新しい人材を用意してある…
…もうすぐここに来るはずだ。新たな十輝星『フォーマルハウト』を継ぐものがな…!」


775 : 名無しさん :2018/01/02(火) 23:59:22 ???
ところ変わって、王都イータ・ブリックス地下牢。
ロゼッタとアルフレッドの戦いに巻き込まれ、致命傷を負ったスバルと桜子は
例のごとく王の能力によって蘇生された後、この地下牢に捕らえられている。
二人が意識を取り戻した時、手首足首には金属製の枷をはめられ、石壁に磔にされていた。

「……はあ……はあ……す、スバル……無事か…」
「う、うん……桜子お姉ちゃん…」
…近くに他の仲間の姿は見えない。無事逃げ延びたのか、別の場所に捕まっているのかはわからないが…
どちらにしても、このまま大人しく捕まっているつもりはない。

「どうにかして鎖を外せないと…ふんっ……!」
「や、やってみるよ…ぬぬぬぬ……!!」
幸いにも…と言うべきか。
桜子とスバルは、教授の改造手術によって魔物並の力を手に入れていた。
その力を全開にして、力任せに手足の枷を外しに掛かる。

(めきっ……べきっ!!)
「よしっ……もう、少しだ……!!」
「ふふふ……いけないなぁ。薄汚い獣が、檻から抜け出そうとするなんて…」
…だがその時。一人の男性……いや、女性…?…が、二人の前に現れた。

【名前】スネグア・『ミストレス』・シモンズ
【特徴】20代前半、女性。長身スレンダー体系で、高級ブランド製のベストとスラックス、
シャツの首周りにはクラバットを着けている。いわゆる男装の麗人。
トーメント王国内で高い地位を持つ貴族の娘だが、その性格・趣向はいささか偏り気味で、
スラム街から幼い少女を買いあさっては労働用・愛玩用の奴隷としている。
魔獣に対して特効効果を持つ鞭など、魔物・魔獣を操る事に特化した能力を持つ。


「お前は……スネグア…!!……どうしてここに…」
「『お前』とは、ご挨拶じゃないか…君たち2匹の正当な『所有者』である私に向かって。
…もちろん、迷子になっていた私のかわいい子猫ちゃんを、引き取りに来たに決まっているだろう?」
「スネグア………さ、ま……」

スバルはかつて王都に居た頃、スネグアの奴隷だった。
そして春川桜子は、スバルを解放するのに必要な金を稼ぐため、闘技場に参戦した。
だが結果は…篠原唯に敗れた後、地下闘技場で闘奴となり、多額の借金を背負った。
そして彩芽たちに救出され、王都を逃亡。そこから先は既に語られた通りである…

「さあ、おいで…薄汚い獣にさらわれて、さぞ恐ろしかったろう」
スネグアが、壁に磔にされたスバルのお腹を指でくすぐる。
「ひっ!!……い、嫌……す、スバル……いきたく、な……」
スバルは小さく息をのみ、身体を強張らせた。

「止めろっ!!スネグアっ…スバルから、離れろぉぉ!!」
(ばきばきばきっ!!)
…桜子は右腕を剣へと変化させ、金属製の枷を強引に引き剥がした。
戒めから脱した桜子は、スネグアとスバルの間に割って入る。

「…ほう。魔獣の右腕を、剣に変化させたのか」
「私を、昔と同じと思うなよ…今すぐここから立ち去れ。さもないと…!」

桜子はスネグアを睨みつけ、剣化した右腕を真っすぐ突きつける。だが…
「ククク……愚かな」
スネグアの余裕の笑みは、いささかも崩れる事はなかった。


776 : 名無しさん :2018/01/03(水) 00:00:25 ???
スネグアは腰に差していた鞭を素早く抜き、桜子を打つ!
(…バシュッ!!)
「ぐっ……う、っぐああああああ!!!」
とっさに右腕で防御した桜子。…だがその右腕に、激痛が走った!

(シュウゥウゥゥ……)
「っぐ……な、なんだ、これは…!?」
桜子の右腕から、肉の焦げる異臭と煙が立ち上る。
鞭で打たれた箇所には抉られたような深い傷が出来ていた。
普通の鞭では、到底ありえない威力の一撃である。

「桜子お姉ちゃんっ!!」
「バカな……たった一撃打たれただけで、右腕が…!」
「どうだ、私の鞭の味は…?……銘は『リベリオンシャッター』。
お前のような反抗的な獣を断罪する、『魔獣使い』家伝の鞭だ」
…受けたダメージは腕の芯まで響き、桜子は右腕がしびれて動かせなくなっていた。

「昔と同じと思うな、だと?…確かにそうだな、桜子。
今のお前は、昔よりも更に愚かで、無様な獣にすぎない。
お前の持つ魔獣の力は…魔獣使いであるこの私には、決して通じない」
「だっ…だまれっ…!!」
剣を構え直し、スネグアに斬りかかろうとする桜子。だが……
(ビシッ!!)
「……っ…!!」
地面に鞭を一当てされただけで、右腕が委縮し、動かなくなってしまう。

(ミシッ……バキッ!)
「さっ…桜子お姉ちゃんを……いじめるなあっ!!」
「!!……スバル、よせっ!!」
桜子と同じく、自力で拘束から抜け出したスバルが、スネグアに飛び掛かった。
だが…スバルの身体は、教授による魔獣化改造を全身に受けている。
つまり、全身すべてにスネグアの鞭の特効が発揮されるのだ。

「……クックック。反抗は許さないよ、可愛い子猫ちゃん」
桜子が制止する間もなく、スネグアの右腕が閃き……
(ビシビシッ!バシッ!!)
「んにゃっ!?…っぐあ!!うああああああ!!!」
三発の鞭打が空中のスバルを正確に射貫き、文字通り地面に叩き落した。

(グシュッ……ジュウゥウゥゥ……)
「んにゃ、ぎ、ひあ……い、たい……ひゃぐぅっ……!!」
女児用の虜囚服(白と水色の縞模様のワンピースとパンツ)の前面が千切れ飛び、
未発達な胸板をX字に痛々しい裂傷が刻まれた。
右肩から背中にも深い傷を負い、そこから流れる血は傷自体が発する熱によって、わずかな時間で蒸発していく。

「こんな獣女をかばって、私に反抗するなんて……本当に、いけない子だ」
激痛にのたうち回るスバルに、スネグアは嗜虐的な笑みを浮かべながら歩み寄る。

「やっ……止めろ、スネグア……やるなら、私をっ……」
「さく、らこ……お……ね……」
「たっぷりと、お仕置きしてあげないとなぁ………クックック」
「たす……け……」
「やめろおおおおおっ!!!」

……何十発もの鞭の音。そして獣のような叫び声が、暗い地下牢に響き渡った……


777 : 名無しさん :2018/01/03(水) 01:41:41 ???
場面はさらに変わって、トーメント城の拷問室では……

「うう、大丈夫ですか、めでゅ……?」
「私は大丈夫……貴女こそ大丈夫、しぇり?」

犬型魔物による責めから解放されたシェリーとメデューサが、互いを慰めあっていた。
牛男はサラをファラリスの雄牛で死ぬまで熱したことに満足し、サラの死体を死体処理場(王による蘇生待ちの部屋)まで運んでいった。
犬型魔物たちはその後も交代交代でシェリーとメデューサの身体を楽しんでいたが、つい先ほど帰っていったのである。

「耐え忍び続ければ、いつか脱走するチャンスが必ず来るはず……それまで頑張りましょうしぇり」
「ええ……あなたと一緒なら、きっとどんなことにも耐えられるわ、めでゅ」

「うんうん、美しい友情だねー!あっし感動しちゃたー!」

「!?誰!?」

決意を新たにしていた2人の前に突如響いた声……その声の主は、一人の少女であった。

【名前】ジェシカ
【特徴】無造作に伸ばしたぼさぼさの茶髪と同色の瞳。
十代半ばの年頃の少女だが、服装は常に着古したパーカーで、オシャレには無頓着。
一人称は『あっし』、常に軽薄な口調で喋る。
能力は『虫っぽいことは大体できるそ!』。



「あっしってさー、そういうキラキラした友情!とか愛!とかいうの、大っ嫌いなんだよねー」
「く……また、トーメント王国の拷問……!」
「でも、相手が女の子なら、辱められることはないわ」
「あー、安心しちゃった系?たまにいるよねー、犯されるよりはリョナられる方がマシ!みたいなこと言う奴」

軽薄な口調で喋りながら、ジェシカは鎖で繋がれたシェリーとメデューサに近づいていく。
そして、ジェシカは手入れのされていない伸びきった爪を……2人の首筋に立てた。

「な、に……これ!?」
「か……かゆ、い……!」


シェリーとメデューサを襲ったのは、最初は爪を立てられたちょっとした痛み。だが次の瞬間には、猛烈な痒みが2人を襲っていた。

ジェシカが行ったことは単純だ。能力によって、爪を蛭の牙と同質にしただけ。
それだけで爪を立てた相手に、猛烈な痒みが襲うようになるのだ。

「いやぁ、痛みに慣れてる奴はいても、痒みに耐える訓練をしてる奴は少ないかどうか気になっちゃってさー、騎士様で試してみようかなーって」


ジェシカの説明など2人には聞こえていない。
痒い。痒い。痒い。という感情だけが渦巻いている。
まるで首が倍の大きさになったのではないかと思うほどの疼きが2人を襲ってくる。
日常生活で感じるような痒さとはレベルが違う。



「や、あぁ……!かゆ、いぃ……!」
「し、しぇり……!気を、しっかり……!」

「うんうん、鎖で繋がれてるから掻けないよねー、あーし優しいから、サービスで色んな所痒くしちゃう!」

シェリーとメデューサが着ている囚人服を捲り上げ、二の腕、ふくらはぎ、腋、足の裏……ついでに乳首にも爪を立てて、更なる痒み責めを行う。


「やぁあああ!!かゆ、いぃ……!」
「あ、ああぁあ……!痒くて、死んじゃうぅ……!」

神経が爆発しているような激しい痒みに、シェリーとメデューサは必死に身体を動かして身体を掻こうとする。

だが鎖で繋がれた状態では掻くことは叶わず、むしろ下手に暴れたことで囚人服が肌をくすぐり、余計に痒みが強くなる。



「実験かんりょー!あっしの能力なら、並大抵の奴は痒さで苦しむっぽいな……」

「あ、ああ、あ……助けて、掻いて……」
「かゆ、い……」

実験完了と聞いて、シェリーとメデューサは思わず助けを乞う。

「っし……よっ!と」

その声を無視して、ジェシカは指から蜘蛛の糸を出して2人の拘束を強める。

「これでよし、と……痒みは3日くらい続くと思うけど、頑張ってね〜!」

「「〜〜〜〜〜〜〜〜!?」」

助けを求める声を無視して、ジェシカは拷問室を後にする。

その後の拷問室には、三日三晩、あまりの痒みに悶え狂う声だけが響いていたという……。


778 : 名無しさん :2018/01/03(水) 03:50:52 ???
場面はさらに変わり、そして時間すらも過去に遡ることになる。
トーメント王国の西端に位置する、名もなき山中の鬱蒼とした森の中にある、名もなき研究所━━
地図にすら載っていない場所であるここには、禁忌の術を追求する若き女科学者がいた。
以下は、彼女の研究記録より抜粋。



「やめてッ!いやぁ……!あがあああぐぎゃああああああああああああああッ!!」
「ふんふん、なるほどなるほど。ミツルギの禅修行で肉体と精神を極限まで鍛えているあなたでも、クロドクミドリグモに噛みつかれると、そんな声が出ちゃうのね。」
「ぐっ……ああぁ……!」
「ふんふん……それだけコイツの顎力と毒が強いってことか……よし、じゃあここでいったん治してあげる。ねえ、次も痛みを我慢できるところまではちゃんと我慢しないとダメだからね?私の研究データに間違いは許されないんだから。」
そう言ってから私はクラシオンを右掌から出してあげた。
……私のことを何も知らない人もいるだろうから教えてあげるけど、私の右手から出されるこのオーブの光には、人体の損傷や精神の汚染を治す効果があるの。
私はこれを、「クラシオン」って呼んでる。
遠い国のどこかの言葉で、癒しって意味なのよ。

「それぇっ」
「ん……なにこ……れ……!ん……?あ……あぁあ……ぅあん……はぁ……あっ……」
オーブから発せられる光は、傷口をすぐに治しにかかる。これが私の能力の1つ。
これを受けた人はみんなこんな風に、喘ぎ声みたいに気持ちよさそうな声出しちゃうの。それくらい体にも心にも癒し効果があるのよ。
え?……私の能力の1つってどういうことかって?
ふふ……この世界の真理を解き明かす私の能力が、たったこれだけなわけないでしょ?

「ぐ……貴様……!こんな人の命を弄ぶ愚行は、決して許されないわよ……!」
「ねえ、今私に話掛けないで。今ここまでのデータを解析してるところなの。より効率的な効果を齎す、拷問実験の研究のね。」
「ご……拷問ですって……?」
「あれ?もしかして私のことただのドSだと思ってた?アハハッ!冗談!なにが悲しくて意味なくあなたみたいなゴリゴリの女戦士を虐めなきゃいけないのよぉ。私にはちゃんと拷問実験……もとい、痛みや恐怖に対する人体の反応、及びそれに伴う精神状態の変化を調べるっていう……あ……少し喋り過ぎちゃったわ。」
私のことをただのドSだと思われたのが癪に触ったから、ちょっと喋り過ぎちゃった。
研究のことになると言葉に熱が入って、止まらなくなるのが私の悪い癖なのよね。
まあそれはそれとして……コイツには私の時間をお喋りに取らせた罰を与えてやらなきゃ……!

「あなたには罰を与えるわ。私のことを勝手に勘違いして無駄なお喋りをさせた罰よ。覚悟してね。」
「ひぃっ……な、なんだその禍々しい球体は……!」
私の左掌から出てきたのは「シュメルツ」……ビデオゲームとかよくやる人ならもうわかるかもだけど、このオーブはクラシオンとは真逆の性質を持っているの。
説明するのも面倒だから、実際にやってみるわね!

「それぇっ」
「なっ……ぐあぁっ!ん!!!ぐ、ぐぉぉおあぁぁあああぉおおぁあぉおああぉああぉあぉあ……!」
「アッハハ!目ん玉がぐるんぐるんしてる。完全にキまっちゃってて気持ちよさそうねぇ♪」
「や……やめてぇ!あ、んぅ!!!あ、あんんん゛ん゛ゔうゔゔあぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
私の左手から出てくるこの黒いオーブは、対象の人間に近づくと、人体の電気信号を乱す電磁波を発生させるの。
言うなれば、人体にも効果のある電磁パルスってやつね。
私はこれをシュメルツって呼んでる。これもどこかの遠い国の言葉で、痛みって意味なのよ。勉強になったかしら?


779 : 名無しさん :2018/01/03(水) 03:52:15 ???
「う゛あ゛ぁあ゛ぁあ゛あああ……が、あ゛、う゛う゛う゛ぁあああああんん゛ん゛ん゛んんっ!」
シュメルツは電磁パルスで脳味噌をひっかき回すから、不快感から出てくる悲鳴がこんな風に言葉にならないの。
まあ、そうやって私の前で、マヌケ面晒しながら苦しんでくれるのがいいんだけどね。
それでね、魔法少女とかにやると、こんな風にアヘアヘ言いながら魔力が練れなくなって変身解除しちゃうの。フフフ、とっても面白いのよ。
今度また魔法少女を捕まえたら、貴方にも見せてあげたいわ!
「うあ゛っんやぁああ゛ああ゛あ゛ううう゛っあがおおお゛おお゛っあががががああ゛」
「ふんふん……心技体を極めたあなたでも、やっぱりシュメルツの電磁パルスには逆らえないみたいね。涎なんか垂らしちゃって……しかもなんか臭いわ……」
「あああ゛あ゛あああ゛ぁぁあがああがあ゛あがッッ!んんんん゛ああ゛あ」
「ん……?きゃあぁっ!ちょっとぉっ!失禁してるじゃない!もーーーー最悪!!なーにがミツルギ最強女剣闘士よ!なっさけないわねー!」

下の世話なんていう余計な仕事は、私の作ったお掃除ロボットに任せちゃった。
失禁しても心のリーサルは入ってなかったみたいだから、あの子はまだまだサンプルとしては使えそう……
お掃除ロボットが汚物を掃除してる間に、私は郵便物のチェックでもしてようっと。
「……ん?……なにこれ。トーメントの王様から?」
差出人はあの悪名高いトーメント王だった。
……いったいどんな内容なんだろう?
私の目的……不老不死の体を作る計画が、ついに勘付かれちゃったのかな?
それとも……





名前:ミシェル
年齢:19歳
身長:160cm
髪色:濃い赤
瞳の色:薄い青
服装:素っ気ない白衣を着ているが、胸元には大きな黒リボンがある。靴はスニーカー

不老不死の術を求めるマッドサイエンティスト。地図にも載っていない場所の研究所にたった1人で住んでいる。
パトロンがいるらしく、定期的に送られてくる人間を使って、不老不死の術の完成のために人体実験を繰り返している。
性格は極度のわがままでかなりの自己中心的。
最低限のコミュ力はあるが、研究のことしか頭にないため、それ以外の会話をすることは彼女にとっては無駄なことである。

「クラシオン」という右手の癒しの力と「シュメルツ」という左手の精神汚染の力を持つ。
どちらも球体型で、生成してから対象に投げれば効果が発揮される。
シュメルツには魔力吸収の力もあり、魔法少女などが食らうと普通の姿に戻ってしまう。


780 : 名無しさん :2018/01/03(水) 21:43:33 FlyynNeY
「あれー、あっしの数少ない友人である所のスグネアさんとミシェルさんじゃーん」

「私は、君たちと友人になった記憶はないんだけどね」

「またまたスグネアさんったら照れちゃって〜!っていうかミシェルさんが城まで来るなんて珍しいじゃん」

「流石に、パトロンからの要請は無下にできないわ……それにしても、対抗馬があなたたちとは……ね」

「……この3人がフォーマルハウト候補、ということか」

トーメント王城のエントランスに、3人の女性が集まっていた。


一人は長身スレンダーな体型にクラバットによる男装が特徴の女性、スグネア。
一人はボサボサの茶髪に着古したパーカーが印象的な少女、ジェシカ。
一人は素っ気ない白衣の胸元に黒リボンを結んでいる濃い赤の髪色の女性、ミシェル。

……言わずもがな、フォーマルハウト候補の3人である。

スバルにお仕置きをすませたスグネア、騎士に痒み責めが効くか試したジェシカ、実験中に呼び出されたミシェルが一同に会したのは偶然ではない。

話し合いでも殺し合いでも手段は問わないから、3人の中から十輝星になる一人を選べ……それが王からの命令である。


「蠱毒的な展開は止めとこ!魔獣属性のあっしじゃ、スグネアさんに勝てるわけないし!」
「モブ相手ならともかく、引きこもり研究者の私が戦って貴女たちに勝てると思う?ここは話し合いで決めるべきよ」
「……流石の私も、君らと2対1では分が悪いな……」

力関係で言えばスグネアが場を支配しているように見えて、その実奇妙な均衡が保たれていた。

スグネアとジェシカが戦えば相性故にスグネアが勝ち、スグネアとミシェルが戦えば身体能力の差でスグネアが勝つだろう。
もっとも、だからといってスグネアが最強とは言い切れない。ミシェルが発明品で事前に準備を整えたならばミシェルに軍配が上がり、城のエントランスではなく遮蔽物の多い場所などで戦えば、虫っぽい動きを活かしたジェシカが有利だろう。
結局のところ、無条件でスグネアが勝てるのは、広い場所でよーいドンで戦う場合に限られる。

だが、スグネアが力ずくに走れば、ジェシカとミシェルは協力してスグネアと戦う。
2対1では、スグネアも負けてしまう。

「まぁ色々言ってるけど、結局のところまだキャラの固まりきってない新キャラ3人でバトルロワイアルとか書けないのよね。だから話し合いに持っていった、ということ」

「ミシェルさーん?なにわけのわからないことを明後日の方向に言ってんの?」

「いつものことだろ、これだからマッドサイエンティストは」

そんなこんなで、3人は話し合いでフォーマルハウトを決めることにした。



その結果ーーーー!!



「あの虫女とマッドサイエンティストめ!雑務処理をさせられると知った途端に私に押し付けるかのように辞退するとは……!」

『雑務?あっしには無理っしょ』『そんなことしてたら研究できないじゃないの』と言って、あの2人はあっさりと辞退した。

こうして、3人のフォーマルハウト争いは終わった。

「まぁそう言うな、お礼にお前好みの子をリョナをしの旅で調達してくるから」

「……可愛い仔猫ちゃんをお願いしますよ」


781 : 名無しさん :2018/01/03(水) 23:50:07 ???
「ククク……まあ俺様の予想通りだよ。虫女のジェシカちゃそは面倒臭がりだし、マッドサイエンティストのミシェルたんは研究しか頭にない。俺様的にもスネグアがフォーマルハウトの後釜になってくれれば安泰だ。」
「まあ、あの2人よりは自分の行動に責任は持つつもりですがね。それに……十輝星の権力を使えば、私の仕事もやりやすくなります。」
「当たり前だろ?王下十輝星は俺様のいうことさえ聞いていれば、高給取りのブルジョワ生活が保障されている。お前の幼女趣味のアレも金の力で集めやすくなることは間違いなしさ……ケケケケ!」
「……すべてに無頓着のジェシカはともかく、ミシェルも金は欲しがっていましたが……」
「そうよ。今よりもっと貰えるなら私も欲しい。雑務なんか絶対イヤだけど。」
「あっしもお金欲しいー。雑務とか王様の命令はイヤー。」
「うおっ!お前らまだ城の中をうろついてたのか!」

玉座の前で話していた王とスネグアの会話に加わる形で、ミシェルとジェシカが謁見室へと入ってきた。
王がミシェルを見やると、明らかに不満げな顔をしている。後ろのジェシカはパーカーを被ってミシェルに後ろから抱きついていた。
彼女が抱きつくのはいつものことなのか、ミシェルは特に気にしている様子もない。

「ねえ王様。この私をわざわざこんなとこに呼び出して、フォーマルハウトとやらにならないなら帰れっていうのはあんまりじゃない?」
「お前ならそう言うと思ったよ……まあなんで呼んだかってのは、俺様が久しぶりに天才美少女ミシェルたんの顔を見たかっただけなんだけどな。ケケケ!」
「それだけ?……超アホくさ。」
「王様ー!あっしはー?」
ミシェルの後ろからジェシカが素っ頓狂な声をあげた。
「お前はいつでも会えるからどうでもええやんかぁ〜!」
「なんで関西弁なのー?てゆーかあっしも家近いとはいえ呼び出されてこのまま帰るのはなんかシャクなんだけどー?」
「おい君達……この方はこのトーメント国の王様だぞ。少しは敬語を使わないか。」
「嫌よぉ。いくら王様だろうがこの私が敬語を使う必要なんか全くないし。」
「あーしも敬語苦手だから、そこはご愛嬌って感じかなー!」

やれやれとアメリカ人のように首を振るスネグアと、相変わらずむっとした不満げな顔を王に向けるミシェル。それにヘラヘラと便乗しているだけのジェシカ。
状況としては美女に囲まれているハーレム状況のためか、王はミシェルに睨まれてもニヤニヤとしていた。

「はぁ、……ったく仕方ないなぁ。わかったよミシェルたん。……何が望みだ?」
「そうねぇ……近々予定してる大規模な人体実験のために、健康な体を50人くらい送ってくれないかしら。」
「お、おう……と、というかだな。そろそろあんな古い研究所出て、こっちに来ないか?その方が人を送る必要もないし
、研究もやりやすいはずだぞ。」
「嫌よぉ。私は1人が好きだし。こんなうるさいとこじゃ研究も捗るわけないじゃない。というわけで、お願いね☆」
(グッ……目元ピースからの可愛いウインクしながらライラみたいなこと言いやがって。お前はヤマタノオ○チかって話だよ。……こいつもリザに始末させてやろうか。)
「あーしはねー。お年玉ほしいー!」
「お、おう。お前はアホで助かった……後で俺様の部屋に来なさい。」


782 : 名無しさん :2018/01/04(木) 00:11:45 ???
「幸いにも、わらわはこの女と物語が始まる前からの知り合いゆえ、なりすますことは容易い」
「なるほど……その姿で、ココアさんを後ろから刺す、ということですね?」(物語?)
「フフフ……お主も悪よのう」
「いえいえ、ノワールさん程では……って、こんな使い古されたネタはいいんですよ」

サキの能力を使ってミントへと変身したノワール。手持ちの5人に加えてノワールまでもが騙し討ちをするとなれば、初撃だけでめぼしい魔法少女は全滅させられるだろう。

「して、お主……以前にも一度聞いたが、なぜルミナスの人間であるお主が、王下十輝星なんぞになっておる?」
「あー、と……僕の話なんて、聞いてもつまらないですよ」
「ふむ、まぁ大方予想はつくがな……ルミナスにおける男の魔法戦士など、肩身が狭いに決まっておる……ましてや、毒使いとあってはなおのこと……な」
「……今となっては、それはきっかけの一つにしか過ぎませんがね」
「ほう?」

「僕は、知ってしまいましたから……女の子をいたぶることの愉しさを」
「フフフ……当然だ。この世界の男のほとんどは、大なり小なりリョナラーの素質を秘めておる」

愉快そうに、ノワールは笑う。

「僕としてはむしろ、貴女の話を聞きたいですけどね……黒衣の魔女ノワールの悪名は有名でしたが、悪行に関しては噂に尾ひれがついていて正確な所は僕も知りませんから」
「ふん……ルミナス侵攻編の前に掘り下げようという魂胆が丸見えじゃな……」

ノワールは鼻を鳴らした後、つまらなそうに語り始めた。

「とはいえ、わらわの話もお主に負けず劣らず単純じゃぞ……王位継承争いを繰り広げ、そして敗れた……それだけの話じゃ」
「なるほど、噂通りですね」
「わらわが順当に女王になっておれば、トーメントやミツルギに劣らぬ軍国主義国家にしていたものを……」
「……そうなっていれば、僕にも生きやすい国になっていたかもしれませんね」

「じゃが、結果はお主も知っての通り……4代目に敗れたわらわは封印され、この黒衣のみの存在になってしもうた……」
「あ、そっか。当たり前ですけど、貴女にも本体があるんですよね」
「ふ……ルミナスの秘所にて封印されているわらわの本当の身体……機会があればそなたにも見せてやろうぞ……と、無駄話はここまでじゃな……見えてきおったぞ、我らが故郷にして仇敵の国が」


783 : 名無しさん :2018/01/04(木) 02:21:18 ???
「うむむ、体を乗っ取ったはいいが…少々動きが堅いのう。体がこわばっているようじゃ。」
場面は少しさかのぼり、ノワールがサキの体を乗っ取り、ルミナスへ向かおうというところ。
「この少女、なかなか強靭な精神を持っているらしい。わらわの支配が完全には行き届かぬ…」
サキがやたらと精神世界でのトラブルに巻き込まれるからか、ノワールはサキのコントロールに少々苦戦していた。
「くっくっくっ…少しばかり、『ほぐして』やるとするかのう…」
そうつぶやくとノワールは、サキの意識を少しだけ戻していく。
〜〜〜〜〜
(うん…?今、私…どうなって…)
「お目覚めのようじゃのう、邪術師の小娘よ。」
自分の…いや、サキの声が聞こえてくるが、自分が発したものではない。ということは…
(…ブラックガチレズ、ね。操られた方は完全に意識を失ってるものだと思ってたけど、どうやらそうでもないのかしら?)
「ほほう、目覚めて早々言うではないか。生意気な娘よ。お主が意識を保っていられるのは今だけの特別じゃ。というのも、お主の体が操りづらくてのう。万全の体制でルミナスへ向かうため、お主に力を抜いてもらうことにしたのじゃ。」
(ふーん、案外不便なのね。それで?力を抜けって言われたって無意識の時はどうしようもないわよ?)
「くっくっく、お主に何か努力してもらうことはない。安心して、全てわらわに任せよ。」

(は?何?そっちから呼び起こしといてそれはどういう…ひゃっ!?)
気づくとノワールに操られた左手が、服の上からサキの左胸を揉みしだいていた。

「おお、なかなかウブな反応をするではないか。体の感覚だけはお主も感じ取れるように調整してみたのだが…どうやらうまくいったようじゃのう。」

そう独り言のようにつぶやきながら、衣服の隙間へとするすると手をさし入れていくノワール。
(ち、ちょっ…待っ!なにしてんのよ…!?そういうことはあんたで勝手にやんなさいよ!…あと私の体なんだからもうちょっと人目を避けなさ…ふああぁっ!?)
ショーツの中に侵入した右手の指先が、サキの秘裂へとくぐりこんでいく。

「ごちゃごちゃうるさいのう。日頃の十輝星の業務でストレスがたまっておるじゃろう?そう固くならず、一緒にたのしもうではないか?ひとつの体を2人で楽しむ。うむ、いままで思いつかなんだが最高の楽しみ方じゃ!お主もそう思うじゃろ!?」
(っああ!!ライライの時も…んんっ、そ、そうだったけど、ぁあっ…私には、そういう趣味は…はあぁあんっ!)
ノワールの指がせわしなく動き回り、サキの陰裂のなかを掻き回していく。

「なんじゃお主、恥ずかしがって隠しておるのか?愛いやつじゃのう。」
(い、いやっ…!ああっ、ホントに違っ…!違うからあっ!!)
「ほれほれ、我慢せんでよい。んんっ?おお、お主の弱点は、ここじゃなあ?」
自分で感じることで早々にサキのGスポットを発見したノワール。

すかさず指先で小刻みな振動を、ピンポイントに、見つけたサキの性感帯へとそそいでいく。
(ひぁあああぁあっ!?そ、そこダメっ…!あっ…待っ、んんっ…あっあっ、ダメ!ああっ、あッあッあアァアアアーーーッ!!)


784 : 名無しさん :2018/01/04(木) 02:22:50 ???
ノワールに弱点を発見され、あっけなくオルガスムスを迎えてしまったサキ。それを感じ取り、ノワールは指の動きを止める。

「おお、体が少し軽くなったぞ。さてはお主、もう果ておったのか。まったく初心なヤツめ、ますます愛おしくなるではないか!」
痛みや快楽に耐える訓練をしている、などとのたまっていた自分がイヤになるくらい、あっさりとイカされてしまった。
ガチレズとしてのノワールの能力を、サキは身をもって知ることとなった。

「無論これで終わりではないぞ?まだまだ身体は堅いしのう。なにより、わらわがまだまだ物足りぬのじゃ!」
そう叫ぶとノワールは、さっきまでとは比べ物にならない速度で指先を動かし始める。
(そんなっ!まだ無理っ!無理だからっ!!やめて!!やめっ…やめてええええぇ!!)

サキの心の叫びは、昂りつつあるノワールの耳には届かず、
(ああああっ!!あうっ!ひゃあああぁあっ!いやあぁああああぁあああああっ!!)
何度も何度も、
(あがああああ…ッ!また来るっ、また来るっ!!やっ…やら゛ああああぁあああっ!!)

「おお!ここもすごく感じるぞ!!!」
(い゛や゛ああ゛ああ…あぁああっっ!!!)
時には新たな性感帯を発見しつつ、
(しぬ、も゛、死んり゛ゃう!!ゔああぁあああぁああっ!!!)
サキを巻き添えにしたノワールの自慰は続いた。
そして。

「そろそろわらわもイクぞ!サキ!!はっはっ…あ、ああああああああっ!」
(あぎゃああぁぁぁぁぁぁあああああああああああアアアアアアアアアアアアーーーーーーッ!!!?)

ブツンっ…ーーーー
ノワールの絶頂に巻き込まれたことで、次元の違う高みへと無理やり連れていかれたサキの意識は、その瞬間音をたてて完全に消滅した。

「他人の身体でのマスターベーションにちとアツくなりすぎてしもうたわ。じゃがおかげで完全に体を制御できるようになったわい。それに加えてなんじゃこれは?この依代の固有能力…か。なかなか役に立ちそうではないか。これでルミナスに万全の態勢で向かうことができるのう。」

こうして無事体を操ることができるようになったノワールは、フースーヤの元へと飛びたつのだった。


785 : 名無しさん :2018/01/04(木) 11:26:31 ???
「んじゃ、行ってくるぞ!後の事はお前に任せた!」
「かしこまりました…では王様、お気をつけて」
「じゃな、ヨハン!お土産買ってきてやっから!」
「うん。楽しみにしてるよ、アトラ」
「じゃあ…こっちは僕に任せて、仕事の方はよろしく…」
「ああ…お互い苦労するね、シアナ」
「あーあ、何が悲しくて野郎ばっかで旅行とか…まあ、俺様ほどの男ともなれば行く先々で女の子にモテモテだがな!」
「あ、八兵衛も行くんですね結局」
「?」
……というわけで、王様、シアナ、アトラ、アイベルトがリョナをしの旅に出掛けていった。
それから、数日の後。

「あー忙しい…ジェシカ!グダグダしてないで少しは手伝え!」
「やーなこったぺんぺーん。ミシェルに頼めばぁ?…っていうかミシェル、まだ帰んないわけ?」
「警戒態勢敷いてるから、手続き時間かかってるのよぉ。…コレって、スネグアの怠慢じゃないのぉ?」
(せっかくフォーマルハウトの星位が決まったのに、業務が妨げられては本末転倒ですね…)

スネグア、ミシェル、ジェシカの3人はたびたび険悪な雰囲気になり、ヨハンの頭を悩ませていた。
そんな時。
「ヨハン様、大変です!牢に閉じ込めていた捕虜が一人、脱走しました!」
「なんですって……まったく、こんな時に厄介な…一体、誰が脱走したんです?」

【名前】ルーフェ・エレメンティア
【特徴】10さい。ルミナスの魔法少女「ファミリア・レイヤー」。
カナリア、ウサギなどの使い魔と融合・一体化し、様々な能力を行使する。
虫が大大大っ嫌い。

(なかなか美味しそうな仔ウサギちゃんじゃないか…クックック)
(ちょーっとタイクツしてたし、最近思いついた新しい能力でも試そっかな〜)
(魔法少女か…良い実験台になりそうねぇ。うふふふふ…)

…兵士の報告を聞いて、三人娘の眼の色が変わった。


786 : 名無しさん :2018/01/04(木) 11:42:15 ???
城から脱走したルーフェは、入り組んだ路地裏に身を潜めていた。
ひらひらのフリルで飾られたドレスに身を包み、背中からは鳥…いや、天使のような真っ白い翼が生えている。
まるで絵本から抜け出してきた妖精のような、可憐な姿の魔法少女だが…身を潜めるには少々目立つ格好である。

「…カナリアフォーム、リリース!」
短く呪文を詠唱すると、背中の翼は淡い光と共に消えていく。
羽根がなくなると、未発達な少女の身体はさらに華奢に見えた。…触れればたやすく折れてしまいそうな程に。

「やっぱりダメだ、空には虫さんがいっぱい…これじゃ飛べないよ…」
空を見上げ、心細そうにつぶやくルーフェ。その表情は青ざめ、小さな身体は恐怖に震えている。
…王都の上空には、「あの時」と同じく魔喰虫の大群が飛び回っていた。
幼いながらも優秀な『幻獣使い』だったルーフェは、先日のルミナス軍の王都侵攻に参加していた。
しかし魔喰虫の群れに翼を、全身を、喰いちぎられて……一生モノのトラウマを植え付けられたのである。

「いたぞー!!」「あっちだー!!」「くそ!すばしっこいメスガキだ!!」
「っ……!!」
(でも…何とかしてここから逃げなきゃ。このままじゃ、ルミナスのみんなが危ない…!)

城を脱出できたのも、この『幻獣使い』の能力と、同年代の少女の中でも特に小柄な身体、
そして体を張って逃がしてくれた仲間のお陰だった。…ここで捕まるわけにはいかない。絶対に。
…恐怖を押し殺しながら、少女は走る。

「メタモルフォーゼ…ラビットフォーム!」
ルーフェの身体が光に包まれ、その身がさらに変わっていく。
バレエのトゥシューズのような可愛らしい靴は、丈夫そうなスニーカーへ。
動きやすいエプロンドレスのお尻には、丸くて白いウサギの尻尾。頭の上には長い耳が生えた。

スピードと跳躍力に優れたウサギの能力で、兵士たちを一気に引き離すルーフェ。…だが。

「みぃつけた……私の両手の感覚を研ぎ澄ませれば、空気中の微弱な魔力を探知できるのよぉ〜」
「ひっひっひ〜…ザンネンだったねお嬢ちゃん。あっしたちが来たからには、もう逃がさないよ」
「ああああああうさぎちゃんうさぎちゃんうさぎちゃんうさぎちゃんうさぎちゃん捕獲飼育折檻蹂躙開発拷問調教凌辱」
「おち」「つけ」
邪悪なオーラをダダ漏れにした、三人の敵が立ちはだかった。

(な、なんか怖い人たちがいっぱい!…でも…………!)
三人の背後には、街を囲む高い壁があった。それを越えれば、街の外に出られる。
「ごめんなさい……でも私、ここで捕まるわけにはいかないんです…!!」
…ルーフェは敵もろとも一気に壁を跳び越えようと、更に加速をつける…!


787 : 名無しさん :2018/01/04(木) 11:57:16 ???
「行かせないよ……そらっ!!」
(ビシッ!!)
…ルーフェが跳んだ瞬間。スネグアの鞭が空を裂いて飛び、ルーフェの片足を絡め取る。

「えっ!?……きゃあああっ!!」
「哀れな仔ウサギちゃん…この私、王下十輝星『フォーマルハウト』のスネグアから
逃げられるとは思わない事だ。…そらそらそらぁっ!!」
地面に叩き落されたルーフェに、欲望に目をギラつかせたスネグアが近付き…

(バシッ!!ザシュッ!!ドムッ!!)
「っああっ!!や、ぐっ!!いぎあああああ!!!」
何十発と叩き付けられる、嵐のような連撃。
使い魔と一体化したルーフェの身体は、魔獣に特効を持つ鞭『リベリオンシャッター』の格好の餌食だった。

「ひゃぐ!!…ゆ、ゆるし…あ、がっ!!…や、やめてっ…うあああっ!!」
可憐な魔法少女のドレスはあっという間にボロボロになり、
露わにされた未成熟な胸、硝子細工のような腰、手足にも、深く痛々しい傷が無数に刻まれていく。
その一つ一つが骨身に染みるほどの激痛で、ルーフェの心を容赦なくへし折った。
わずかな時間の間にルーフェの意識は幾度となく手放され、その度に同等の苦痛で無理やり引き戻され……

「ちょっとぉストップストップ。あんまりやったら死んじゃうわよ…!」
「もちろん殺さないよう加減はしてるさ。仔ウサギちゃんの扱いは慣れてるんでね」
「…暴走してるようにしか見えないっつの。みんな仲良く、長〜く楽しもーぜい?」

二人の抗議でようやく落ち着きを取り戻したスネグア。
代わってミシェルがルーフェに近づくと、右手から癒しのオーブ「クラシオン」を生成する。
オーブの光を浴びて、ルーフェの全身の傷はみるみる治癒していった。それと同時に…

「んっ……あ、ふゎぁ……なに、こ、れぇ…んっ、あぁ…」
オーブに治癒された所…つまり全身が、消えた痛みに匹敵するほどの「快感」に包まれる。
その未知の感覚にルーフェは戸惑い、頬を紅潮させ呼吸を荒くした。
だがその感覚が何なのか、鎮めるにはどうすればいいのか、幼い少女はまだ知らない。

(ミシェルの能力…見るのは初めてじゃないが、あれだけの傷を瞬時に治せるとは…)
(スネグアったら、こんな所まで傷モノにするなんて。どんだけテクニシャンなんだか…)
「おい、いつまで膝枕してるんだそこ代われ」
「もうちょっと待ってなさい。…さてと、これで傷は治ったわね。次はシュメルツで…」

ぐったりしているルーフェに、今度は苦痛の力を持つオーブ「シュメルツ」を使おうとするミシェル。
だがその時…
「メタモルフォーゼ…カナリアフォームっ!!」
背中に翼の生えた形態に変化したルーフェが、ミシェルの腕をすり抜けて上空へ飛びあがった。


788 : 名無しさん :2018/01/04(木) 11:59:29 ???
「あら……まだ動けたのね」
クラシオンの快感でしばらくは足腰が立つまい、と油断していたミシェルだが、思わぬ隙を突かれた格好だ。
「はあっ……はあっ……」
(あまり高く飛ぶと虫さんがきちゃうけど……空中なら、鞭もとどかないはず…!)
一方のルーフェは鳥型使い魔の力を借りてなんとか変身したものの、身体の疼きはまだ消えていない。
無意識に股間をヒクつかせながら、街の外壁に向かって飛ぶが…

「いっしっし…逃がさないよん」
「……っきゃああああああ!!??」
背中から巨大な蛾の翅をいっぱいに広げたジェシカが、目の前に立ちはだかった。

「む、むし、いやぁっ!!こないでぇぇぇ!!」
「空を飛ぶ虫はいっぱいいるけど〜、見た目のキモさでチョイスしてみました〜!どうよどうよウリウリ!」
「いやぁっ…やだ、やだっ……げほっ…げほっ………っ……」
錯乱するルーフェの周囲を、ジェシカは猛毒の鱗粉をまき散らしながらバサバサと飛び回る。
ジェシカは毒で動きの鈍ったルーフェに近づいていく。

「ジェシカ、いつの間に!」
「ちょっとぉ〜!こっちにまで毒が飛んできてるわよ!!」
二人の抗議をよそに、ジェシカは空中であっさりとルーフェを捕獲する。
その気になればカブトムシの能力で異常な筋力を発揮できるジェシカと、
魔法少女とは言え、ほぼ見た目通りに非力で、しかも発情と猛毒で弱っているルーフェでは
はなから勝負になるはずもなかった。

「ひ、やだっ……放してください…!!」
「ういやつういやつ。ヨイデワナイカ!…あっしの能力の実験台になってもらうよ〜。
まずは、そうだにゃ〜。飛んで逃げられると厄介だし…」
ジェシカはクワガタのハサミに変形した右腕でルーフェの両脚を拘束しながら、
カマキリの左腕でルーフェの翼を掴んだ。

「な、……まさか…い、いやぁ…だめですっ……お願い、そこだけはっ…!!」
「イヤよイヤよもスキのうち、押すな押すなは押してのサイン…ってねぇ……ヒヒヒヒッ!!」
(ぐきっ……ぶちっ……ぶちぶちぶちぶちぃっ!!)
「いっ……あああ"あ"ぁぁぁあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁぁ!!!」

鞭の乱打を受けた時以上に悲痛な叫び声を上げるルーフェ。
…今の彼女は鳥の使い魔と一体化しているため、当然ながら翼にも感覚がある。
翼を無理矢理もぎ取られる激痛、そして飛ぶ術を奪われる精神的ショックの大きさはいかほどか…
翼を持たぬ人類には、けっして想像の及ばぬ所だろう。


789 : 名無しさん :2018/01/04(木) 12:59:48 ???
「…ん〜、お次はサソリとタランチュラの毒どっちがキくか……おーい。おちびちゃん、聞いてる〜?」
「………ぁ……う…」
「そうそう、空の上の方でいっぱい飛んでる魔喰虫とかいうやつ……あっし、アレの能力も、新しく覚えたんだよねぇ…」
「……え…………」
「いでよ魔喰虫ハンド!…ほれほれ。あのグロいビジュアルまで完全再現、どうよ?」
「い、やぁ……も、もう……許して……!……」
「あー…そういやなんか、小腹が空いてきちゃったなあ…ねえねえ、こっちの羽根も…食べていい?」

・・・・・・

「…全く、殺すなっつってんでしょうが…クラシオン!(5分ぶり2回目)」
「てへぺろ(棒)」
「さて……待たせたわね、お嬢ちゃん……今まで治してあげた分まで、
これからた〜っぷりと『苦痛』を与えてあげる。簡単に壊れちゃダメよ…」

先程以上に甘く蕩けた、虚ろな表情で放心するルーフェに、ミシェルは一転して冷たい声で宣言した。
ミシェルのもう一つの能力…それは癒しとは対極にある、「苦痛」のオーブ「シュメルツ」。

「んっ……っぎ!?…あ、っぐ、おあ゛あ゛あ゛あ゛ああ!!っがあああ!!!」
黒いオーブが妖しく煌いた瞬間、ルーフェは今まで以上に苦し気な悲鳴…獣の咆哮のような叫び声をあげた。
頭の中を直接かき混ぜられるような純然たる苦痛の塊に思考も理性も圧し潰され、
変身するだけの魔力を意地できなくなっていった。

「…お、ごお゛お゛お゛お゛お゛!!っぐ、うえ゛え゛え゛え゛え゛えぇぇぇ!!!!」
バチバチと光が弾けて、ルーフェの変身が解除される。
だが黒いオーブから流れ出す苦痛の塊は、なおも止む事はなかった。

「……ぁ……お……………ご…」
「さて……仔ウサギちゃん。おイタをしたお仕置きは、まだまだこれからだよ」
「あっし、もっと色んな虫の実験したいー」
「じゃ、お城の拷問室に運んで…みんなで仲良く、研究と行きますか」
「「さんせーい!!」」
そして……

「あの3人、戻ってきませんね…仕事も放りだして」
ヨハンの仕事量は、あまり軽減されなかったという。


790 : 名無しさん :2018/01/05(金) 01:49:46 ???
「……この馬鹿2人といるとついつい遊んでしまうが、今の私はフォーマルハウト……自制心を持たなくてはいけないね」
「え?急にまじめちゃんになっちゃってどうしたの?」
「まぁ確かに、もう一通りこの子で遊んだけれど」

「なに、一ついいことを思いついたのさ……趣味と実益を兼ねた……ね」
「ほほーう?それはそそられる話ですなぁ」
「詳しく聞かせなさいよ」


〜〜〜

「王都イータ・ブリックスの国民諸君!見たまえ!これが先日の爆発事件の犯人だ!」

「ち、違います!私は……!」

「人間様の言葉を喋るなこの駄馬がああああ!!」

「きゃあああああああ!?」

王都イータ・ブリックスは、熱狂の渦に包まれていた。
なぜなら、男装の麗人……スネグアが、全裸で四つん這いになっている幼女……ルーフェに鞭を振るっていたからだ。


「進め進めー!今日はパレードだぁあ!」
「全裸の魔法少女を馬に見立てて、鞭で追い立てる……最高のショーね」

スネグアの両脇には、腐れ縁のジェシカとミシェルが控えている。双方とも、目の前で繰り広げられる壮絶な光景に目を輝かせていた。


「この駄馬は卑劣にも、以前ルミナスが攻め込んできた際に、仲間を見捨てて王都に潜伏していた!」

鞭を持っていない方の手に持ったマイクで自らの声を増大させつつ、国民へスピーチをするスネグア。

「あまつさえ、地下で無辜の市民を巻き込むテロ行為を行った!監視カメラが捉えた、その時の映像がこれだ!」

町中のスクリーンに、凶悪な表情を浮かべたルーフェ魔法で大爆発を起こす映像が流れる。当然CGだ。

見るものがじっくりと見れば、作り物だと分かるであろうCG。
だが、裸で四つん這いになっている幼女を差し置いてそちらに注目するような人間は、トーメント王国にはいなかった。


「!?ち、ちがいます!全部、全部噓です!」

「喋るなと何度言わせれば気がすむんだこの駄馬めがぁああああああ!!」

「きゃあああああああああ!!?」

「きゃあ、だと?君は駄馬なんだぞ?馬がそんな言葉を喋るのかい?」

「ヒッ!?ヒ、ヒヒーン!ヒヒーン!」


逆らっては鞭で打たれる。その恐怖が、ルーフェに人間の矜持を捨てさせ、馬の真似事をさせた。

その様を見て、スネグアは満足そうな顔をすると……鞭を振るって、ルーフェの両手両足をズタズタにした。

「っぐぁ!!ぎ!?ぃ、ぁああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

「両手足の健を切断した!この駄馬はもう動けない!……後は、言わなくても分かるだろう?少々遅れたが、王国からの新年のプレゼントだ!国民諸君!この駄馬を好きにするがいい!」

その宣言を聞いて、周囲にいた国民たち、特にロリコン連中のボルテージはマックスになった!


「マジかよ!2年続けて魔法少女を犯せるとか最高じゃねえか!」
「こないだ鏡花ちゃんにやられた傷の快気祝いでやんす!」
「どぅふ、でゅふふふ……う、嬉しいなぁ」

「絶倫3兄弟に負けるな!我々も行くぞ!」
「ロリっ子を犯せーー!」
「ていうかどうせなら全裸の前に変身姿も見たかったぞー!」


〜〜〜


こうして、爆発事故の犯人(噓)は捕まり、国民の不満も上手いこと解消されたのであった。


791 : 名無しさん :2018/01/05(金) 23:56:13 ???
「わかりました……私たち、ミツルギに向かいます。瑠奈、彩芽ちゃん、いいよね」
「そうか……お前がそう言うなら、俺も止めはしない」
アルフレッドに従い、ミツルギに行く事を決意した唯。瑠奈と彩芽も無言で頷く。
横で聞いていたダンは、場合によってはアルフレッドと一戦交えるつもりでいたのだが、
唯の意志を尊重してひとまず矛を収めた。

「だが…アルフレッドと言ったか。どうも貴様は信用できん。俺も同行させてもらうが、構わんな?」
「ええ、もちろん。…では早速、本題に入りましょう。
…ミツルギ王国へは、王都の東にある、港町オヴォレサスからの定期船を使います。
ただし、王都が警戒態勢を敷いている今、ミツルギへ行く便もいつ止められてもおかしくない」

「あまり時間に余裕はないと思った方がよさそうね…何事もなく乗れればいいけど。
…ところで、アイセはどうするの?」
瑠奈に問われたアイセは、愛用の銃を手にしばし考える。
「……港町までは同行するけど…少なくとも、あんたらについてく気はないね」
魔法弾を撃ちだす、魔術と科学の融合ともいえる特殊武器。だがそろそろメンテナンスが必要な時期だ。

…というわけで、
トーメント王が旅に出て、王都でフォーマルハウトが新たに任命されたのと同じ頃。
唯達はトーメント王国最大の港町、オヴォレサスに到着した。

「…じゃね。縁があったら会う事もあるでしょ」
あっさり唯達と別れたアイセは、その足で真っすぐスラム街へと向かった。

(…おい…あの女)(魔弾のアイセ…生きてやがったか)(おい、ボスに知らせようぜ)
「ふん…この街も、紅蓮が仕切ってた頃に比べて物騒になったみたいだな…」

…この街は、かつてアイセが率いていたレジスタンスグループ「紅蓮」のテリトリーの一つだった。
紅蓮が壊滅させられてから、ミツルギから流れて来たマフィアグループが幅を利かせているらしいが…

「……ここの店のボロさは、相変わらずだねぇ」
…やって来たのは、街の一角にひっそり店を構える、魔法武器専門の古道具屋。
国内で唯一、アイセの魔銃を修理できる魔導具職人がいる店だった。


792 : 名無しさん :2018/01/06(土) 23:06:45 ???
「魔力増幅回路のクリスタルが大分くたびれてるな……騙し騙し使ってるようだが、そろそろ取り換えねえと」
…昔気質の魔道具職人、通称オヤジ。会うのは数年ぶりだが、頑固なのは相変わらずだ。

「もしかしたら、裏の物置にあるかも…ちょっと探してきますね」
その孫娘、ミナ。たしか今、14歳?15歳だったっけ?
こっちも会うのは数年ぶりだが…なんというか、だいぶ変わった。おっきくなった。

「いつも悪いね。ミナちゃん、オヤジ……そんじゃよろしく。アタシ、代金取ってくるから」
「……おい待て。金は取れんぞ」
「いーっていーって。すぐ戻ってくるから」
貧乏暮らしのくせに、何をエラソーな事を。ミナちゃんの為にも、腕前相応の報酬くらいは受け取っておけばいいのに…
…と、この時は思ったのだが。今にして思えば、オヤジの様子は…いや、この街全体が、どこかおかしかった。

続いてやって来たのは「預かり屋」…金や物をなんでも預かってくれる、主に裏社会の住人相手の商売だ。
トーメント王国に捕まる以前、ここの預かり屋には金や個人的な荷物を預けていた。
預けた品物を引き取る時には、身分証が必要。アタシの場合は当然「アレ」なんだけど…

「……は?『引き出せない』ってどーいう事よ」
…紅蓮のタトゥーを見せたアタシに、受付の男はへらへら笑いながらそう告げた。

「紅蓮の元・頭領アイセさん…貴女から品物をお預かりした記録は、キレーサッパリなくなってます。
…店の『オーナー』が変わった時にね。それに、紅蓮ッて組織は無くなったって聞いてますがねぇ…」
その場でたむろしていた4〜5人の男たちが、一斉に下卑た笑い声をあげた。

「……ああそうかい、わかったよ…」
内心腸が煮えくり返る思いだが、ここで揉めても仕方がない。アタシは素直に預かり屋を後にした…
(おい、お前ら…)(おう、武器持ってこい)(それと、ボスに連絡だ)

オヤジ達にどう言い訳したものか…。それも問題だが、この先の事を考えるともっと頭が痛い。
ナルビアかルミナスにでも渡るつもりだったが、無一文ではそれも難しいだろう。

というわけで…オヤジの古道具屋にはまっすぐ帰らず、寄り道をする事にした。
何度か路地を曲がり、スラムの奥、ビルに囲まれた広場に入り……
(はー。しっかし油断してた…この街、完全に敵さんのホームになってるな。
…組織の名前なんつったっけ、ミツルギの…)

「けっけっけ…やっぱり、尾行に気付いてやがったか。」
「だがこれだけ人数いりゃ関係ねえ…一気にやっちまおうぜ!」
「元紅蓮のアイセさんよぉ…お前さんには、『海蛇衆』のボスから賞金がかかってるんだぜ」
(…ああ。それだ。『海蛇衆』……確かボスは、ミツルギの元忍びとかだっけ?)

「しかも、噂通りソソる女じゃねえか…そんな奴が、てめえからノコノコ現れるなんて…」
(人数けっこういるな…一人1000ナーブル位は持ってるとして…あと、武器も貰って、余ったら売って…
…そういえば、こっちは素手だけど………まあいっか。雑魚ばっかなら、何とかなるっしょ)

「「飛んで火にいるナントカ」夏の虫って奴だぜ!!」
(なんてこった……むこうの方が賢かった。くっそぉ…)


793 : 名無しさん :2018/01/07(日) 00:30:54 ???
レイスという謎のチャラ男に絡まれるハプニングもあったが、母が囚われているミツルギを目指すべく、リザはアウィナイト特別保護区の出口に到着した。
「じゃあ、私はもう行く。……色々ありがとう。」
「お、おう……その……また来いよな。」
「……どうして?」
「え!?どうしてって……そりゃあ、えーと、なんていうか……えーと、あれだ。そのぉ……」
「……どうして目が泳いでるの?」
「う……お、俺の好きな言葉は一期一会なんだよ!せっかく知り合えたのにすぐお別れっていうのは、な、なんかさみしいというか……なんというかだな……」
(……要するに、年の近い話し相手の私がいなくなるのが寂しいのかな?)

煮え切らない態度を続けるヤコの顔を、リザは首を傾けて覗き込んだ。
「……さみしいの?」
「なっ!?ば、馬鹿言うなよっ!俺だってガキじゃねえんだから、これくらいで寂しいわけねえだろーがっ!」
「……ほんとに?」
「……ほんとだよ。」
目をそらして呟くように言い捨てるヤコ。そんな彼の様子を見たリザは、塞ぎこんでいた頃の自分と重なるように思った。
「……ねえ、自分が思ってることははっきり言った方がいいよ。ヤコ。」
「ばっ!?や、やめろぉ!いきなり子どもに言い聞かせるような優しい口調で言うんじゃねえっ!」

リザの諭すような柔らかい声に反発したものの、ついに観念したのか、ヤコは落ち着いた表情で口を開いた。
「……まあ、あれだ。お前が素直に笑ったりできる結構いい奴だって気づいたからさ……もっと色々話しとけばよかったなって、ふっと思っただけだよ。」
「…………ヤコも、意外と素直に自分の意見を言えるんだね。」
「……馬鹿にすんなよ。」

お互い素直になれないタイプではあるが、似た境遇で年が近いせいもあってか、少し打ち解けた様子の2人。
だがリザは、この地で芽生えた友情をこれ以上大きくするつもりはなかった。
「……また、いつかここに来るよ。その時は……色々話そう。」
「……も、もちろん。お前も元気でな。……なんか目的があって旅してるんだろうけど、辛かったら戻ってこいよ。」
「……うん。またね。ヤコ。」
「……じ、じゃあな。……リザ。」

別れ際に微笑んだリザの顔を見て、ヤコは思った。
(……あぁ……わかった。これが……恋ってやつか……)


794 : 名無しさん :2018/01/07(日) 15:00:34 ???
「おい!来たぞ!トーメント王国の使者と、行方不明になってた仲間たちだ!」

ライカの声に、待機していたブルバード小隊の3人は俄かにざわめきだす。

「トーメント王国の使者……一体どんな人が……」
「あの国の使者なんて、きっとものすっごい強面したオッサンだよ!ほら、例の竜殺しのオッサむごむご」
「ちょ、カリンちゃん、ライカさんがすぐそこにいる状況でよくそんなこと言えるね!?」

失言をしそうになったカリンの口を手で塞ぐフウコ。

「お前ら、遊んでないでしっかり見張れ……特にカリン、返還される捕虜をよく見てみろ」

その言葉を受けて、カリンは口を塞ぐフウコの手を振りほどいて、望遠鏡で遠くに見えた一団を覗く。

「あれは……カレラ師匠!?カレラ師匠だ!無事だったんだ!」
「よかったねカリンちゃん!あ、ミントさんもいる!」
「……」
(あの人が、トーメント王国の使者……)

カリンと水鳥が帰還した仲間たちを見ている横で、フウコはトーメント王国の使者を見つめていた。

使者の姿は一言で言えば、不気味だった。
大きめの真っ黒なローブに無機質なフルフェイスマスクで、どこまでも人間味を隠すかのような衣装。
ローブが身体の線を隠しているので、性別すらも傍から見るだけでは分からない。
辛うじて、小柄な体躯をしているであろうことが分かるだけだ。

(なんだろう……今日はこんなにいい天気なのに……嫌な風が吹いてるな……)

〜〜〜


「なんだあの、カイ〇・レンっぽいマスクをスピンオフで持たせたことをすっかり忘れてⅩ〇機関っぽい格好をさせたみたいな奴……あんなの知り合いにいなかったぞ……?」

「光様がルミナスへ帰還した事を受けて、そういった人材を見繕ったのでしょう」

「油断はできん、という訳か……」

「ご安心を。あの国のエージェントと言えど、単独でこの護衛を突破することは不可能です」


ルミナス王城の謁見室。そこには、国のトップであるリムリット、補佐役の光とウィチル、そして複数の護衛の魔法少女が、目の前の使者と向き合っていた。
使者の後ろには、金属製の枷をはめられた捕虜の魔法少女6人が並んでいる。

(姉さん……!生きていたのね……!それにフェラムちゃんも!)

護衛としてその場にいる、魔法少女ビショップ・オブ・アイヴォリー……ココア・ソルベットは、ノワールに殺されたとばかり思っていた姉とその弟子を見て喜色満面の笑みを浮かべる。
今すぐにでも姉の元へ飛び込んでいきたいが、何とかその気持ちを抑え込む。

無邪気に喜ぶのはまだ早い。あの使者をしっかりと送り返し、安全が確保されるまでは、気を抜くわけにはいかない。

「わらわはルミナス王国5代目女王、リムリット・シュメッターリング・ルナ・ルミナス。此度の捕虜解放、貴国の厚い温情に感謝する」

「感謝ならば、魔法少女リフレクトブルームに仰ってください……彼女の働きかけがなければ、今回の捕虜解放は実現しなかったことでしょう」

ボイスチェンジャーによるくぐもった機械音。声すらも明かす気のない使者は、リムリットの挨拶を興味なさげに受け流す。

「お姉ちゃんが……?」
「ということは、鏡花も生きてるってことか!」
「よかったね、水鳥ちゃん!」

監視兼護衛としてその場にいる水鳥は、使者のその言葉を聞いて驚いた顔をする。
スピカのリザの口ぶりから、生きていると信じていた姉だが、実際にかの国の人間から生存を聞かされれば、やはり嬉しい。

(おかしいな……お姉ちゃんが生きてて嬉しいのに……この違和感はなに?何か良くない気配がする……)

嬉しさと不安が入り交じった複雑な表情を浮かべる水鳥の耳に着けられているイヤリングが、鈍く光っている。



「では、こちらの書類にサインをお願い致します。そうすれば晴れて、彼女たちは解き放たれますよ」


795 : 名無しさん :2018/01/08(月) 14:42:23 ???
「相手は女1人だァ!素っ裸に引ん剝いちまえー!」
「うおおおおおおお!!!」
性欲に目をギラつかせた男たちが大量に迫って来る光景を見て、アイセは気だるそうにふう、と息をついた。
「余裕かましてんじゃねえぞこのアマァ!食らいやがれっ!」
「はいはい、雑魚が雑魚らしく吠えててるのは見苦しいわね……っと!」
「ぐあああああっ!」
左右から迫る男たちから繰り出されるストレートパンチを華麗に躱したアイセは、そのまま片割れの顎にアッパーカットをお見舞いした。
「のわっ!て、テンメエェ!無駄な抵抗すんじゃねえ!」
「ふん……それはこっちのセリフよっ!」
血を吐きながら吹っ飛んだ仲間を見て狼狽える男に、アイセは素早く肉迫する。
ふわりと仄かにシャンプーか香水の香りが漂ったかと感じた瞬間、男の体はアイセの蹴り上げで宙へと飛び上がっていた。

「ぐおぉおお!?」
「ふっ!」
打ち上げた男の体へと素早く跳躍し、アイセは男たちを見下ろした。
「この汚いの、返すわよ!紫龍顎滅砕!」
空中での格闘術は、戦闘のプロであるアイセにとっては朝飯前である。
しなやかな蹴りと力強い殴打を混ぜたコンボ攻撃を食らった男は、そのまま仲間たちのいる地面へと叩きつけられた。
「「「ひ、ひぃ……!ぐわあああぁっ!」」」

「さぁ、次!遠慮せずどんどんかかってきなさいよ!雑魚男ども!」
「くうぅ……!素手の状態でもこれほどまでに強いとは……!」
「おいみんな!バイソンが来たぞ!下がれ下がれぇー!」
男の鶴の一声で、アイセに襲いかかろうとしていた者たちも一斉に引き下がっていった。
「……なんなの?」
引き下がった男たちの間からずんずんと現れたのは……アイセの2倍の体躯を誇る無骨そうな大男だった。
体に巻いてある大鎖、野獣のような顔つき、普通の人間ではありえない体格……
おそらくは亜人と呼ばれる特異な人種だろうとアイセは推測した。

「なんだぁお前……?女のくせにアメリカかぶれみてえな臭そうなカッコしやがって。バカじゃねえのか?」
「そっちはお洒落のカケラもない家畜みたいな服装ねぇ。……ていうかどう見ても臭そうなのはアンタの方でしょ?あと私はアイセ。…。気安くお前って呼ぶな。」
「けっ。お前みてえなアホ丸出しのバカ女は、10秒でギタギタにしてやるよ。」
「へぇ……そのセリフ、後でアタシに顔を踏まれて泣きながら後悔させてあげる。あと……気安くお前って呼ぶなって聞こえなかった?ウスノロ野郎。」
「……あぁん?」
「それにしてもほんとに臭そう……顔がキモいんだから、身だしなみくらいはしっかりしなさいよ。……まあアンタは一生童貞だろうから、身だしなみなんてよくわかんないでしょうけど。」
「テメェ……!よっぽど死にてえらしいな。ギッタギタのボロボロにしてから、お前のちっせえマンコをブッ壊れるまで犯し尽くしてやる……!」

お前と呼ばれて腹が立ったアイセは、バイソンを完全にその気にさせた。
だがこれも彼女の作戦の内。頭に血が上った男との肉弾戦など、彼女にとって負ける要素はない。
「おらああああっ!!!!」
アイセの体を鷲掴みにしようと大きな腕が伸びてくる。
その腕をステップで華麗にかわすと、アイセは素早くバイソンのふところに潜り込む。体格差的には、バイソンの股下に入り込むことになった。
「あ?どこいった?」
「ここよ……脳筋野郎!!」
「おごっ……!?ごほおおおあッ!!!


目の前のバイソンの股間に金的キックを繰り出したアイセ。いくら屈強な亜人といえど急所への攻撃には弱い。
バイソンは苦しそうな声を出しながら股間を抑えた。
「アッハハ!ねえ……笑っちゃうくらいアンタの小さいんだけど!体はそんなにデカいのに期待外れだわ……そんなピーナッツサイズじゃ、女は満足しないわよ。童貞くん☆」
「グッ……!き、き……貴様ああああァァァァ!!!」


796 : 名無しさん :2018/01/08(月) 18:22:40 ???
「…アタシに相手してもらいたきゃ、人生リセマラして出直してこいっての!」
股間を抑え蹲る巨漢の側頭部に、アイセはとどめの回し蹴りを叩き込んだ。

「ば、バイソンーー!!…このくそアマ……もう容赦しねえ!!おい、アレ使えアレ!」
「ふん。クソザコの童貞ちゃん達が、何使ったって一緒よ!まとめてかかって来なさい!」

…残りの男たち12人は、一斉に武器を取り出した。
拳銃持ちが5人。残りの連中は、ミツルギ製らしき刀が5人。
そのうちの一人、バイソンほどではないがそこそこガタイの良い男は、かなり大振りな刀を持っている。
変わった所では爪使いが一人、トンファー使いが一人。
(…数ある武器からなんでそれを選んじゃったかねぇ。腕に自信あるのか、単なるアホなのか…)

「「やっちまえーー!!」」
…アイセの経験上、この手合いは初撃から頭や胴体を狙ってくることはない。
うっかり殺してしまったら、倒した後の『お楽しみ』に支障が出るからだ。
従って腕か脚さえ警戒していれば良い。後は、相手の眼の動きやら銃口やらで弾道を予測して弾をかわす事も…

(ズバン!ズバン!ズドン!)
「ふふ……遅い遅い!そんなんじゃアタシにぶち込むことなんて出来ないわよ!」(久々だからちょっとヒヤッとしたけど……)
「な…かわしやがった!?」「魔弾のアイセ……バケモンかあいつは!?」
アイセの技量なら、不可能ではない。……1回か2回なら。

「……まず1人目っ!!」
「っが!?」
手近な拳銃男に近づき、急所を叩き潰したアイセ。
そのまま銃を奪って敵のど真ん中に飛び込み、乱戦に持ち込んだ。

「このくっそアマァァァ!!」
「待て撃つな!!味方に当たる!!…うごっ!!」
「もう我慢ならねえ!俺がブッた斬ってや……ぐああああ!!」
…こうなれば、相手の銃使いは事実上ほぼ無力化できる。
アイセは奪った銃で更に敵を3人ほど片づけると、今度は敵の刀を拾い上げ…

「…これで5人目っ!!」
……ガキン!!
(あれ……やばっ)
トンファー使いに斬りつけた。…が、防がれて刀を折られてしまう。

「ヒヒヒッ……防刃ベストを着てなかったらヤバかったぜ…くらえッ!!」
ドボッ…!!
「っぐ……!!」
…トンファー男の前蹴りがカウンター気味に入り、アイセは派手に吹っ飛ばされた。


797 : 名無しさん :2018/01/08(月) 19:16:05 ???
「っしゃ!撃て撃て!!」
(ズドン!ドン!ドン!……ブシュッ…)
拳銃持ちの生き残り3人が、吹き飛ばされたアイセを狙って一斉に発砲する。
「お、ご……っく!」
トンファー男に鳩尾を蹴られたアイセは、胃液がこみあげてくるのを堪えながら瓦礫の影に飛び込んだ。

「っつー……やっぱ、ノーダメとはいかないわね…」
銃弾が脚に少しかすったが、戦闘にはさほど支障なさそうだ。
タンクトップの裾を少し破り、包帯代わりにして止血する。

「ギッヒヒヒヒ………俺はイイ女なら、死体でも全然オッケーだぜぇ……安心して臓物ブチ撒けなぁ!!」
「……っ!!」
だが一息つく間もなく、次の敵……大刀持ちの男が、瓦礫ごと叩ききる勢いで刃を振り下ろして来た。

(……ドゴッ!!)
「ギッヒヒヒ…やった、…がっ!?」

…振り下ろされた男の大刀を、間一髪横転でかわしたアイセ。すかさず大刀の上に飛び乗ると、男が反応する前に飛び掛かり…
「……アタシはてめーみたいな変態キモ男、死んでもゴメンだわ」
……折れた刀を首筋に思い切り叩き込んだ。

大刀の男の巨体が倒れていく先に、トンファー男がいた。
「させるか!トンファーガァーーード!!……ぐおお!?」
トンファー男は何を考えていたのか、両腕を広げて受け止めようとするが…対格差から、あえなく下敷きになる。
「ま、待て!やめるんだ!トンファー……命乞ーーい!!……っぐあああ!!」
アイセは大男の大刀を拾うと、トンファー男に止めを刺した。

「………これで6人」
「「「トンファーーー!!」」」

残り6人。拳銃使いの3人は弾が切れたらしく、代わりに短刀を取り出した。
加えて、長刀持ちの生き残りが2人。
(あれ?もう一人いたわよね。確か……っ!!)
……ザシュッ!!

「……っきゃああっっ…!!?」
敵の人数を確かめるアイセを、爪の男が背後から急襲した。
背中に三本の傷が深々と刻み込まれ、アイセは思わず悲鳴を上げてしまう。

「っ……いつの、間に…!?……このっ!!」
「………ヒヒッ」
アイセは大刀で薙ぎ払うが、爪男は驚くべき跳躍力でかわし、鉄塔に飛び乗る。
仮面で顔の上半分を覆っているため、その表情は窺い知れない…

(あたしの背後を取るなんて……こいつ、何者!?)
「おお!でかしたぞ爪の人!」
「さすがだぜ爪の人!」
「でもあんな爪の人、俺達の仲間に居たっけ…?」
「…なんでもいいや!今のうちにやっちまえーー!!」

爪男は鉄塔の上で、まるでアイセを値踏みするかのように、ただじっと見下ろしている。
どうやら今は襲ってくる様子はないようだった。
ひとまず目の前の敵5人に集中しようとするアイセだが……その視界が突然かすみ、足元がふらつき始める。

(何…この、感じ……まさか………)
…男の爪には、毒が塗られていた。


798 : 名無しさん :2018/01/10(水) 01:41:16 dauGKRa6
(くうぅっ……!毒の感覚なんて、久しぶりね……)
毒が体に入り苦しそうな顔でふらつくアイセを見て、男たちは今が千載一遇のチャンスと見て飛びかかった!
「魔弾のアイセェ!お前の首は俺たちがもらったアァァァ!!!」
「……雑魚が……!調子にのるなッ!」
「グボッホオ!?」

無防備に近づいてきた男をカウンターパンチで吹き飛ばし、持っていた短刀を奪い取る。
(毒が回りきる前に……ケリをつけてやるわ!)
「くたばりやがれクソ女ァッ!」
「せいやぁーッ!」
「なっ、かわされ……ぐおっ!?」
背後からの長刀の攻撃は、素早く跳躍しながらの裏拳と短刀で仕留め切った。
そのまま長刀を奪い取ったアイセは、素早く着地し横に薙ぎ払う!
「はあぁッ!!」
「ぐお!?」「んぎゃああーー!」
アイセの鬼気迫る反撃によって、長刀持ちと短刀持ちの男は腹を切られて蹲った。

「はぁ……はぁ……あと2人……!」
「ひっ、ひぃ!か、勘弁してくれえええええーー!お助けをーーー!!」
短刀持ちの男は涙目で叫びながら、アイセに背を向けて逃げていった。
「爪野郎……残るはアンタだけよ。こんなところで死にたくなかったら……ああやって無様にアタシから逃げることね。」
鉄塔の上で様子を伺う爪の男に向けて、長刀を突きつけながらアイセは言い放った。

「ククク……丸腰の状態でここまで戦うとはなァ。トーメントの犬にやられたと聞いていたが、噂だけの女じゃねえようだ。」
「……アンタ……何者?海蛇衆とやらじゃないようね。」
「……けっ。お前に名乗る必要はねェ。八つ裂きにされたくなかったら大人しくしてるこったなァ。」
そう言うと男は鉄塔から跳躍し、空中で回転しながらアイセの眼前に着地した。
「……ふん、この際誰でもいいわ。かかってきなさい!正々堂々捻り潰してあげる!」

「まずはお手並み拝見だ……ククククク!」
「……えっ!?速……!」
爪男は目にも留まらぬスピードでアイセに接近し、爪に着けている鋭利な武器をアイセへと突き出した!
キーン!
「うぐうぅっ!!」
首に届くギリギリで反応し、長刀で武器を防いだアイセ。だが男は防がられるのを分かっていたかのようにすばやく体を動かし、アイセの腹に回し蹴りを決める!

「遅えんだよッ!」
ドゴッ!!
「あああぁッ!!」
この戦闘で初めて大きな悲鳴をあげたアイセは、きりもみ状態で吹っ飛びながらゴミ捨て場へと突っ込んだ。
「どうした?動きにさっきまでのキレがねぇぞ。どうやら毒が回ってきたようだなァ。」
「ぐ……うぅう……!」
(コイツ……さっきまでの雑魚とは格が違いすぎる……!)
戦い慣れしているものならば、強者かどうかは戦えばすぐわかるものだ。
先ほどの男の動きは、確実にアイセの行動を読んだ上での攻撃だった。それに加えてあの驚異的なスピードもある。
(逃げ……ないと……!)
普段の状態ならまだしも、毒が回りつつある今のアイセにとっては勝算が見つからない強敵だった。
この状況では逃げるのが得策だが、体に回っている毒がそれを許しはしない。
アイセの動きは、自分の上のゴミを跳ね除けたところで止まってしまった。
そして開けた視界には、恐ろしい暗殺者の姿が━━

「はぁ……はぁ……!なんなのよ、アンタ……!」
「ククク……逃さないぜェ雌犬が。犬は犬らしく……地面に伏せでもしてなァ!」
男が投げたナイフが身動きの取れないアイセの腹に刺さった瞬間━━!



バリバリバリバリバリ!!!!
「ぃやあああぁああぁあぁあああんんっ!!!」



裏ぶれた路地裏に、絹を裂くような悲鳴が響き渡ったのだった。


799 : 名無しさん :2018/01/11(木) 23:38:55 ???
…バリバリバリバリバリ!!!!

「ぃやあああぁああぁあぁあああんんっ!!!」

……バリバリバリバリバリバリ……!!!
「…ひ…ひゃ、う……あああああああっ!!」

………………………………!!!
「も、やめ……っがあああ"あ"あ"あ"あ"!!!!」

……プス……プス……
「はぁっ……はぁっ……が、は……」

爪男の投げたナイフは柄頭に細い鎖が繋がれており、その鎖は男の袖口から背面の大型バッテリーに接続されていた。
つまりは、強力なテーザーガン。
身体から黒い煙が立ち上らせながら、アイセは既に意識を手放していた。

「まだまだ終わりじゃねえぜ……おら、起きなッ!!」
「……っ…!!……っげ、おぶっ……!!」
爪男はアイセの脇腹を力任せに蹴りつけた。
アイセは二度、三度と転がってゴミ山の麓まで転げ落ちる。
尖った金属片や瓦礫の欠片が、背中の傷に容赦なく食い込んでいく。

爪男によって刻まれた裂傷はミツルギ原産の猛毒で紫色に変色しており、
アイセの意識は極限まで増幅された痛みによって無理やり覚醒させられた。

「っあ………い、…痛…!!」
「さぁて……これでよく理解っただろう。俺とお前の、絶対的な差が……」
「…う、るさ…いっ……アイセの、事………お前…って…ぐ、ぼ……」
言い返そうとするが言葉を紡ぎきれず、アイセは血の塊を吐いた。
全身が熱を帯び、鉛のように重い。指一本動かそうとしただけで、絶望的なまでの苦痛が即座に襲い掛かった。
巨大な毒蜘蛛が三匹、背中から体内に入り込んで暴れまわり、心臓を絡め取っている…そんな感覚だった。

「…雄と、雌……強者と、弱者。………喰う者と…喰われる者の差、だ……ケケケッ…!!」
(ブチッ!ビリリッ!)
「…………!!」
焼け焦げたタンクトップが濡紙のように易々と引き裂かれ、大きくて形の良いバストが露わになる。
…アイセには抵抗する力も、術も残されていなかった。

「さて、オタノシミの前に、まずは毒抜きをしてやろう。
ブラッディ・ウィドーの毒は、活かさず殺さずお前の身体を蝕み続けるが…
この薬と混ぜ合わせると、全く違った効果になる。……ケケッ!」

(ぐちゅっ………ぬるっ…)
男の毒爪が機械仕掛けの手甲に収納され、代わりに手の平から卵白のような半透明の粘液が垂れ落ちる。

「…やっ…!!……あ、ぎっ!?……っつ、あひ、い、やああああッッ!!!」
男の指が裂傷を乱暴に抉り、アイセの背中の傷に粘液を塗り込んでいく。
更なる激痛に身をよじり、手足をばたばたと振り回すアイセ。
だが男はアイセの背に跨り、髪を掴み、暴れるアイセを押さえつけた。

だが、ある瞬間………身も千切れんばかりの激痛は、別の感覚にまるごと置き換えられた。

「っあ………う、そ……何…この、薬…身体……が……」
全身の熱、痺れはそのままに、地獄の苦痛は………地獄の、快楽へ。

「ヒッヒッヒッヒ……そろそろ頃合いだなぁ、魔弾のアイセ……
お前のぐっちょぐちょの負け犬オマンコ、俺様の極濃種汁でドロドロにしてやる。覚悟しなァっ!!」
「くっ……来る、な……やだ……やめ、て……おね、が……」

……レジスタンスを率い、王国を相手取り、屈強な男どもを蹴散らしてきた『魔弾』のアイセ。
トレードマークだったウェスタンハットが脱げ落ち、デニムのショートパンツが下着ごと剥ぎ取られ…
身も心も、名も知らぬ下衆男の欲望の前に屈しようとしていた。


800 : 名無しさん :2018/01/13(土) 08:35:30 ???
リザに別れを告げられたヤコは、彼女の姿が見えなくなるまで見送ってから踵を返した。
(心配だけど……仕方ないよな。アイツは自分の目標があるんだし……うーん、でもなんかあいつのこと……変に気になっちゃうんだよなぁ。)
今日初めて会って話しただけの少女だったが━━ヤコの頭の中は、去り際に微笑んだリザの笑顔でいっぱいだった。
(くそっ、どうしちまっんだよ俺……!なんで今日会ったばっかの奴のこと、こんなに考えちまうんだ……!)

「……ねえ、自分が思ってることははっきり言った方がいいよ。ヤコ。」
「ヤコも、意外と素直に自分の意見を言えるんだね。」
「また、いつかここに来るよ。その時は……色々話そう。」

ヤコの脳内では、リザの涼やかな声が何度も何度もリフレインしていた。
最初会った時は無愛想だったのに、少し話しただけでなんだか波長が合う気がしたのは自分だけなのだろうか。
今日会ったばかりなのに━━なぜこんなにもあの笑顔に惹かれてしまうのか。
リザとの邂逅はヤコにとっては全てが新鮮な感情であったが、その感情が恋だと認識してからはもう歯止めが効かなくなっていた。
(リザ……次お前に会えんの、いつかな……)



「あれ?ヤコじゃねえか。さっきの可愛子ちゃんはどうしたんだよ。一緒じゃないのか?」
「…………」
「おい、おーい?……おい!ヤコ!!!」
「はっ……?あ、レイスさん?」
「お前な……だいたいなに考えてたんかはわかるぜ?あの子、めちゃくちゃ可愛い女の子だったからな。この辛気臭え場所で場違いなほどにな。」
(うわ!もうバレてる!)
「まあ多分彼氏はいないだろうな。いたら一緒にいるだろうし。仕掛けるなら今のうちだぜ?」
「……でも、もうアイツは旅に出たんすよ。どこに行くのかは知らないけど、ここに留まるつもりはないみたいで。」
「……あれ?お前、あの子がどこに行くのか知らねえのか。あ、だから止めなかったのかぁ。なるほどなぁ。」
指を鳴らしながら得心した様子を見せるレイス。いつもの彼の仕草だが、今日の様子は何か含みがあるようにヤコには見えた。

「止めなかったって……あいつ、危険な場所に行こうとしてるんですか!?」
「ん〜そうだな……どれぐらい危険かっていうと、チンパンジーにミサイルのスイッチの拭き掃除をさせるくらい危険だな!」
「そ、そんな……なんで俺に早く教えてくれないんですか!!」
「いやぁ、知ってるのかと思ってさ。悪い悪い!」
「……で、アイツ、どこに行こうとしてるんですか?」

本気で心配している様子のヤコを見ても、レイスは軽薄な様子を崩す様子はなく言い放った。
「ミツルギのアウィナイト奴隷収容施設……あの可愛子ちゃんが目指してるのは、三途の川への向こう側ってわけだ。」


801 : 名無しさん :2018/01/13(土) 15:10:17 ???
ぐちゅ じゅぷ どばっ じゅぽっ じゅぷっ……
「あっ……ううっ……やっ……や、やめ、……ひうううっ……!!」

名も知らぬ怪しげな男に毒爪と電撃でいたぶられ、圧倒的な力の前に敗れ去ったアイセ。
服も下着も剥ぎ取られ、頼みの銃は手元になく、仲間もいない…彼女を守るものは、もう何もなかった。
後背位…四つん這いの体勢で、背後から覆い被さるように圧し掛かられ、無理矢理に犯されている。
…そんな状況だというのに…

「ギヒヒヒ………おら、もう一発出すぞ…」
「いっ……いく……あたし、また……イっちゃ…っ…〜〜〜〜っ!!」
(う、そ……あたし、なんで…こんな……)

男に塗りつけられた「薬」は、毒傷の痛みも、獣のように犯される屈辱も、全てを快楽に塗り替える。

ぶびゅっ……どぼぼぼっ……ぶびゅるるっ…!!
「…ひうう…うぅ、んああああああああああんっ……!!!」

アイセの喉からは、自分でも信じられない程に甘い、媚びたような声が絞り出された……

…………

「う……はぁっ……ふぇ…」
「これでわかっただろう。『魔弾のアイセ』などと持て囃されて、クズの雑魚どもを従えて…
どんなにいきがった所で、圧倒的な雄の力の前には、お前もただの一匹のメスに過ぎねえって事を。……ヒヒヒッ!」

ぶしゅっ!!びゅる……どばばば!!!
「…っ……!!……な、何、この感じ………ひんっ……!!」
仰向けに倒れたまま起き上がれないアイセに、男は止めとばかりに白濁のシャワーを浴びせかける。
髪や顔、身体がドロドロに穢され、噎せ返るような青臭い匂いが周囲に漂った。
……その時、アイセの身体に更なる異変が起きる。

「クックック……どうだ?俺の雄汁が欲しくて欲しくてたまらねえだろう…
…お前に塗ったクスリは、ただの媚薬じゃねえ。
塗られたメスは犯したオスの精液の匂いを身体で覚え込んじまう、魔性の秘薬…
もうお前は、俺様の精液には二度と逆らえないってわけだ」
「な、に……っ…!?」
爪男の言葉を裏付けるかのように、アイセは身体の奥から新たな愛液がにじみ出してくるのを感じた。
…有りえない事だった。何十回も犯された直後だというのに。

ごぽっ………どろ……
爪男の欲望の迸りが、アイセの内腿から溢れて零れ落ちる。
「げ……ほっ…」
口からも、後ろの穴からも。
…男はアイセのプライドを跡形もなく粉砕するために、あらゆる穴という穴を、何度も何度も、徹底的に犯していた。
これ以上されたら、プライドどころか命に関わる。
だがさらに信じられない事に、爪男の股間は疲れを知らないかのように、これまで以上に力強く隆起していた。

「さあ、俺様に屈服して、忠誠と服従を誓うがいい。ミツルギに連れ帰って、死ぬまで可愛がってやるぞ…」
アイセは身じろぎもできず、爪男の股間に視線も意識も奪われてしまっていた。
男の言う通り、雄の匂いが身体の奥底まで刷り込まれていたのだ。だが……

「ふざ、けんな……誰が、アンタみたいな下衆ヤローに…従う、もんですか……!!」
アイセはわずかに残った理性と体力を振り絞り、反抗した。
腕に刻まれた紅蓮のタトゥー、そこに残った傷痕を、強く握りしめながら。

「ギヒヒヒ…まだそんな台詞を吐くか……面白ぇ。やはりお前には『特別な躾』が必要だなァ…」
爪男は懐から小型の映像通話端末を取り出し、アイセに画面を見せた。そこに映し出されていたのは…

「う………嘘……でしょ…」

跡形もなく破壊された古道具屋。血まみれで横たわる修理工のオヤジ。
そして、爪男の仲間と思われる男達に捕らえられた少女……ミナの姿だった。

「このメスガキは、俺達の本国…ミツルギの奴隷収容施設に送る。返して欲しけりゃ追いかけてきな。
お前もそこで、忠実な雌犬奴隷としてたっぷり躾けてやるぜ…ヒッヒッヒ…!!」


802 : 名無しさん :2018/01/13(土) 21:01:05 FlyynNeY
「おー、すげー……こんなん乙女ゲーでも見れないなりよ……」

「ちょっとコルティナ、こんな時になにサボってんのよ」

現在のルミナス王城では、ほとんどの魔法少女がトーメント王国の使者を警戒しているが……中にはサボタージュする者もいる。

先の戦争で人手が足りないため、一時的にシーヴァリアから帰還したコルティナ・オプスキュリテもその一人だ。

「いやそれよりも見るなりよこれ、男っ気のない生活送ってたけど、これで大人の階段登れるなり」

「……まさかとは思うけど、リムリット様にイタズラメール送ったのアンタじゃないでしょうね……て言うか何よその口調」

コルティナは、『スパイの勘ですが、イタズラメールの中に何か重要な情報が隠されているのでは……』とそれらしい事を言って、リムリットに届いたイタズラメールを転送してもらっていた。

「モブ魔法少女の癖にうるせぇなー、アタシだって一人の時はどんなキャラで行こうか迷ってんだよ」

「誰がモブ魔法少女よ誰が」


「て言うかアンタだってア○ロっぽい方のメ○メ○の実の能力者してるじゃん」

「アム……?メラ……?」

「説明めんどくせー、伝われよ……サボってるってこと」

「ちょっと、私はサボってるんじゃなくて外回りなの!」

「お、チ○コメールも次で最後か」

「聞きなさいよー!」

キーキーと喚くモブ魔法少女を無視して、コルティナは最後の……時系列で言えば、最初に送られてきたイタズラメールを開き……

「こ、これは……!?マズイ!おいモブ、見ろ!」

「ちょ、私はそんな卑猥な画像なんて見たくな……こ、これは!?」


果たして、コルティナとモブ魔法少女が見た、最初に送られてきたイタズラメールの内容とは!?


803 : 名無しさん :2018/01/14(日) 15:50:42 ???
…アイセを一方的に蹂躙し、凌辱の限りを尽くした正体不明の爪男は、いつの間にか姿を消していた。
ボロボロの身体と心を引きずるようにして、古道具屋へと帰り着いたアイセは…
爪男の通信端末で見せられた、破壊の爪痕を実際に目の当たりにする。
悪い夢か、冗談か何かであってくれ、というアイセの儚い願いは、粉々に打ち砕かれた。

(あたしの、せいだ………あたしがこの街に来たから…)
………
「最近、この辺りも物騒になったんでな……余所の土地に移ろうかと思ってる。
ルミナスかナルビア辺りなら…まあ、食っていけるだけの仕事もあるだろうからな」
「そう……オヤジ、本当に…ごめん」
「…お前さんのせいじゃねえさ。だが、気がかりなのは…ミナの事だな。
俺の手伝いをしてくれるのはいいが、機械弄りばっかりで男っ気が全然ねえ!」
「はははははは」
「ちょっと、おじいちゃん!何もそんな事、アイセさんにまで言わなくても…」

「それと、もう一人の娘……お前さんの銃の事も、心配っちゃ心配だな。この先何年見てやれることやら」
「…銃の方かよ。あたしじゃなくて…」
「お前さんの嫁の貰い手なんて、誰がどうやったって面倒見きれんだろ、っと……おや、こいつは…
魔力増幅回路のクリスタルが大分くたびれてるな……騙し騙し使ってるようだが、そろそろ取り換えねえと…」
………

アイセが率いていた反政府グループ「紅蓮」は、この港町オヴォレサスや、本拠地としていたアレス・ガンダルド等、各都市の治安維持も行っていた。
だが紅蓮が壊滅して以来、その勢力図は激変。表向きはトーメント政府軍が統治しているが、裏では他のグループや国外の組織などが好き勝手に入り込み、血で血を洗う縄張り争いが繰り広げられている。
割りを喰うのは、いつだって……何の罪もない町の住民たちだ。

「本当に…ごめんね、オヤジ。あたしが、負けたから…弱かったから……一人だから…
…だけど、ミナちゃんは…あの子だけは、必ずあたしが助け出す」
ありあわせの廃材で作った簡素な墓標に手を合わせ、アイセは悲壮な決意を固める。
…ミナはミツルギの奴隷収容施設に送る…爪男は、最後にそう言っていた。
だが、ミツルギは島国ではあるが狭くはない。たったそれだけの情報で、果たしてミナの居所を突き止められるだろうか。
爪男は顔を仮面で隠しており、名前もわからない。だが…
……アイセには、もう一つの手がかりがあった。

(…お前に塗ったクスリは、ただの媚薬じゃねえ。
塗られたメスは犯したオスの精液の匂いを身体で覚え込んじまう、魔性の秘薬…
もうお前は、俺様の精液には二度と逆らえないってわけだ……)

「あたしの身体が……奴の『匂い』を、覚えている」

オヤジの『もう一人の娘』…完璧に整備された愛銃を道連れに、アイセは旅立つ。
行く手に待ち受けるのは修羅の道か、それとも…


804 : 名無しさん :2018/01/14(日) 19:52:15 ???
「……確かにサインをいただきました。では、僕はこれにて」

トーメント王国の使者が、背を向けて去っていく。
魔法少女たちはしばらくの間、その背中を警戒していたが……使者が特に何かをする様子もなく、重厚な扉の向こうへ消えたのを見て、一気に肩の力を抜く。

「姉さん!フェラムちゃん!」

ワッ!と歓喜の声をあげながら、魔法少女たちは囚われていた仲間たちへ駆け寄る。

「カレラ師匠!」
「おっと、カリン、悪いが感動の再会はちょっとお預けだ。私たちはまだ監視を続けるぞ」
「ラ、ライカさん、そんな殺生なー!」

一見大人しくしていたが、これから急に牙を剥く可能性もある。何人かは、監視を続けなければならない。
ライカ、水鳥、フウコ、カリンの4人は、謁見室を出て使者を追う。

「うー!真っ先に飛びついて元気な顔を見たいのにー!」
「カリンちゃん、しょうがないよ……フウコちゃん?どうしたの?」
「その、何か嫌な予感が……」

「大変大変!大変だよ〜!!思わず媚び媚びの声出しちゃうくらい大変だよ〜!眠さも吹っ飛ぶくらい大変だよ〜!」
「アンタ、自分のキャラをどうしたいのよ……」

と、その時、ドタドタと音を立てながら、2人の魔法少女が走り寄ってきた。
言わずもがな、コルティナと名もなき魔法少女である。

「おい、どうしたそんなに慌てて?」
「確か、外回りの人と、シーヴァリアの調査から帰ってきた人……ですよね?」

尋常ではない様子の2人を見て、水鳥とライカは疑問の声をあげる。

その瞬間!!


「え、な、なに?きゃああああああああ!!?」


謁見室の中から、困惑の感情が多分に含まれた悲鳴が響き渡った。


805 : 名無しさん :2018/01/15(月) 00:32:28 ???
…コルティナたちが駆けつける、ほんの少し前。

「よくぞ生きて帰って来てくれた…ミント、カレラ、フェラム…そして、他の3人も」
謁見室では、帰還した6人の魔法少女達に、現女王リムリットが労いの言葉を掛けていた。
その両脇には、側近のウィチル・シグナス、ココア・ソルベットの二人が控えている。

(姉さん……生きていたんですね…本当に良かった…)
双子の姉との再会に、感涙を堪えるココア。
もちろん女王とウィチルも、同じ気持ちではあるのだが……一つ、気になる事があった。
「ところでその…一つ、よろしいでしょうか。どうしてそちらのお三方は、フード付きのマントを被っておられるのですか?」
…ミント、カレラ、フェラムを除く3人は、フード付きのマントを被っているため、外見上は誰だかわからない。

「ああ、これは『クローク・オブ・ミステリアス・パートナー』(略してCOMP)といいまして…
認識迷彩の特殊効果を持つマントです。時が来るまで脱がないようにと指示されてまして」
フードを被ったうちの一人が、ウィチルの問いに答える。
認識迷彩…つまり、なんとなくそこに一人いるのはわかるけど、正体が誰なのか、よくわからない。でもまあいいか。
という風に、なんか個人の認識をあいまいにする効果を持つマントである。
いざ脱いでみると、体型や体のサイズが物理的に明らかに無理あるだろ!ってなる場合もあるそうな。

「指示って…トーメントの者からですか?…時が来るまで?…
…よくわかりませんが、皆さんの解放手続きは先ほど済みましたし、もう脱いでも問題ないのでは?」
「え、ええ。それはそうなんですけど………正体を隠しておきたいって言うか、ゴニョゴニョ」
なんか歯切れが悪かった。

(さすがはウィチル様ね。水着剥ぎ取りマッチの最中に着けっぱなしにしてても、誰もツッコミ入れなかったのに…)
三人に気取られぬよう、カレラが小さく呟いた。その首元のチョーカーには、暗い青色の宝石が飾られている。
(怪しんでは居るようじゃが、まだ確証はない、と言った所か。
……何にせよ、あの3人を片付ければこの国は落ちたも同然。この場で一気に仕掛けようぞ)
(はい、お姉さま……クスクス)
ミントに扮したノワールに、フェラムが応じ………

「…きゃああああああああ!!?」

…………

「女王様っ!?…どうしたんですか!?……くっ!ドアが開かない!!」
「まさか、謁見室で何かが……コルティナ!名無しのモブ!お前ら何か知ってるのか!?」
「コルティナさん、名無しさん!…一体何がどうなってるの!?」

「これは罠なりよ!解放された魔法少女達は、みんな敵に操られてるなり!」
「ちょっと待って!?なんでみんなして私のこと名無しとかモブとか呼ぶわけ!?私にだってちゃんとした名前が……」

【名前】ナナシー・ノモーブ
【特徴】ルミナスの魔法少女「ヴォイドキャスター」。無属性魔法を操る。

「名前、が………ある、のに………えーと……」
「………あー…。……魔法少女名ちょっとかっこいいじゃん…よかったな」
「…そんなフォローいらないわよ!つーか特徴1行ってどういうことよ!もっとこう……あるだろう!!」

「ええい!んなこと言ってる場合か!…水鳥、フウコ!お前らはトーメントの使者を追え!
残りはアタシと来い!…謁見室に突入する!!」
「「ええー!?アタシらも!?」」
突然のメインキャラ並の扱いに困惑するコルティナとモブ。はたして吉と出るか凶と出るか……


806 : 名無しさん :2018/01/17(水) 12:45:41 dauGKRa6
「そ、そんな!なんでそんな場所に……!ていうかなんでレイスさんは知ってるんですか?」
「あの子、長老のとこになんか話をしに行っただろ?ちょっと気になって盗み聞きさせてもらったんだよ。途中からだけどな。そしたらなんと……」

レイスが語ったのは、リザの母親がミツルギの奴隷収容施設にいるという情報だった。
それを聞いたリザは、長老の忠告も意に介さず1人で向かうという。
それより前にもなにか話していたそうだが、途中から聞き始めたためそれ以前の話についてはわからないそうだ。

「あいつ……なんでそんな場所なんかに1人で!」
「そりゃあ自分の母親を助けるためだろうよ。いやぁ、泣かせる話だねぇ。母親を助けるためにわざわざ危険な場所に飛び込むなんて。」
「レ、レイスさん!俺……あいつを止めに行ってきます!!」

あの爽やかな笑顔が見れなくなる。
あの涼やかな声が聞けなくなる。
そう思っただけで、ヤコは胸の奥が真綿で締め付けられるような感覚に陥った。

「熱くなるのはいい……だけどな、ヤコ。あの子は自分が行きたいから行くんだぜ?それを止める権利は今日会ったばかりの俺らにはないはずさ。最愛の母親のためとあったら……尚更な。」
「でも……それでも!あんな危険な場所に1人で行って無事に帰れるわけない!自殺行為ですよ!」
「自殺行為かどうかは、俺らが決めることじゃねえ。そもそも俺らアウィナイトには……死に場所を探してるような連中も少なくねえしな。」

レイスの言うことも間違ってはいない。家族の命が理不尽に奪われた事実に耐えられず、自死を選んでしまうアウィナイトがいることはヤコも知っている。
だが彼には、今日会った少女のリザが死に場所を選んでいるとは思えなかった。
(あいつは……またいつかここに来るって言ってた。自殺だなんて……そんなこと、望んでないはずなんだ!)

「……確かに、俺の意見の押し付けになるかもしれない……今日会ったばかりの人間のやることじゃないかもしれない。けど、俺は……!あいつのことが……!」
「はぁ……恋は盲目とはこのことだねえ。まあ、止めるだけならいいんじゃねえか?まだそんな遠くには行ってないだろうし、長老には俺から上手く言っておいてやるよ。」
「あ……ありがとうございますっ!」
「でも気をつけろよ。保護区の外は魔物やら盗賊やらで危険がたっぷりだ。」
「大丈夫です!いつかこうして外に出るときのために、毎日剣の練習して来ましたから!」


807 : 名無しさん :2018/01/17(水) 13:35:43 ???
リザとヤコが分かれた頃、リョナをしの旅に出かけたトーメント王、アトラ、シアナ、アイベルトの4人はイータブリックスの南に伸びる街道にいた。
今はアイベルトのダークストレージの中にあった多機能テントの中で、4人は束の間の休憩中である。

「でも王様、諸国漫遊の旅ってどこに行くんですか?……って、イヤホンしてるし。」
「いつものアレだよ。話しかけても無駄だぜシアナ。」
「んん?なんだ、いつものアレって?俺様は知らないぞ!教えろアトラ!」
「王様は、1日に一回女の子の悲鳴をじっくり聞く時間があるんだよ。まさにいまがそれってこと。バッチリ音漏れしてるから近寄ったら聞こえて来るぜ。」
「ほぉ。どれどれ……」

「きゃあぁぁ……!いやぁっ!ああああぁんっ!」
のんびりと寝転がりながら目を閉じて満足げな顔をしている王にアイベルトが近づくと、女性の悲鳴がばっちり音漏れしていた。
「んん?どうしたアイベルト?」
「あ、いや。王様が何を聞いてるのか気になったんで、ちょっと聞き耳をば……」
「ケケケ……お前も聞くか?SDカードを俺様に寄越せば膨大な量の女の子の悲鳴をカードの中に落としてやるぞ。」
「おおお!ち、ちょっと待ってくれ!ダークストレージの中にたしかそんなカードがあったはず……」
「アイベルト!また出る魔法を忘れて3日くらい行方不明になるなよ!」
「ば、バッキャロー!俺様がそんな単純なことを忘れるはずないやいっ!」

シアナの忠告に反発してから、アイベルトはダークストレージの中に飛び込んで行った。
「さてと、俺様は悲鳴の続きを聞くか……もう10分くらいしたら再出発するからな。」
「お、王様……その中に、リザの悲鳴とかもある?」
「お、ちょうど今からそれを聞こうと思ったところだ。お前らにも聞こえるようにスピーカーにしてやろうか?」
王の問いに、アトラは子犬のように目を輝かせながら何度も頷いた。
「リザのフォルダは……と。小ダメージと大ダメージに別れてるから、小ダメージから流して行くか。」
「うわっ!すげえ!王様のプレイリスト、スター○ーシャンのサウンドテストみたいになってる!」
「凄いだろう。悲鳴に合わせてちゃんとテキスト化してるんだ。俺様はこの「あぁんっ!」と「ぐあ゛あう゛ぅ゛う゛ッ!」が最近のお気に入りなんだよ……」
どちらもリザがスパイ疑惑をかけられたのを、王に謝罪してボコられたときの悲鳴だった。

「さて、再生……あれ?リザから電話が来たぞ。」
「す、すげえ!今からキミの悲鳴を聞こうと思ったところに!」
「何がキミだよ……」
「めんどくさいからアトラ。お前が出てやってくれ。今から悲鳴聞く相手の声を聞いてからリョナ声聞く方が興奮するだろ?」
「は、hai!アトラ、いきまーす!」
「ア○ロみたいな声出すな!」
(はぁ……やっぱりこのメンツの中だと僕しかツッコミがいないじゃないか……)


808 : 名無しさん :2018/01/17(水) 14:06:04 dauGKRa6
「あ……王様、リザです。今お話よろしいでしょうか?」
「うむ。なんだ。申してみよ。」
「……アトラでしょ。」
「ゲロゲロっ!?なんで一瞬でバレたんだよ!」
「そういうことするの、アトラとアイベルトしかいないし。……しかも王様と全然口調も声も違うよ。」
「う……じゃあどうマネすればいいんだよ!ちゃんとお手本見せてくれよリザ!」
「え……」
リザは少し戸惑ってから、こほん、と咳払いをした。
(え……まさかやるのか?)
シアナも王様も顔を合わせて、スピーカーの音声に耳をそばだてる。



「おう、なんだ?俺様は忙しいから手短にな。ケケケケ!……じゃないかな?」
「うおおおおおお!!リザの王様のモノマネめっちゃかわいうぃいいぃ!!!!!頼む!もう一回言ってくれ!!なんでもしますから!!」

精一杯低い声で喋って似せようとしたリザのモノマネは、アトラの何かの琴線に触れてしまったらしい。
余計なことをした、とリザは思った。

「……もう嫌。」
「えぇ〜……あ、今スピーカーにしてるんだけどさ。王様もシアナももう一回今の聞きたいってさ!」
「……勢いでやったけど恥ずかしいから、イヤ。」
「「「ええぇ〜〜〜!!!」」」
「……ふふっ。」
電話口から3人分の残念そうな声が聞こえたので、リザは少し笑ってしまった。



「で……要件なんだけど、アトラに話してもいいの?」
「おう!!俺がばっちり聞いてやるぜ!」
「……休暇を、伸ばしたくて。3日っていう約束だったんだけど、その……2週間くらいにできないかなって。」
「おう!いいぜ!」
「……えっと、アトラの許可じゃなくて、王様に相談してくれないかな?」
「王様に相談?なんでだよ。休暇なんて好きな時に取ればいいんだし、問題ないだろ?」
「……えっと、アトラはそうかもしれないけど、私は……」

アトラとでは話が進まないと見たシアナは、王の元へリザの要件を伝えた。
「……わかりました。リザ!よかったな。王様が許可してくれたぞ。」
「あ……ありがとう、シアナ。」
「おいシアナずりーぞ!!!俺がリザのお悩み相談受けてたのに、勝手に解決してありがとうまで言われやがって!!」
「お前はアホなんだからお悩み相談なんて受けても無駄だ。……あ、でも条件があるぞ、リザ。」
「え……条件?」
嫌な予感がした。



「さっきのモノマネ……もう一回だ。」
「えぇ……そんなぁ……!」
泣きそうな声を上げるリザの様子に、3人は声をあげて笑った。


809 : 名無しさん :2018/01/20(土) 07:26:20 ???
「……ご心配をおかけしました、リムリット様。
ところで、トーメント王国で驚くべき噂を耳にしました。ぜひ女王にお知らせしたく…クックック」
帰還した魔法少女達の列から進み出て、リムリットの元に近づくミント。

「待って、ミント…姉さん。そこで止まってください」
「おや?…ココア。一体どうしたんだ?そんな怖い顔をして……」
あまりにも不用心、かつ不躾に歩み寄ってくるミントを警戒し、ココアは両者の間に割って入る。
ミントは薄く笑みを浮かべつつ、そのまま近付いて…ココアの手を取り、身体を抱き寄せた。

「!!……不用意に…女王に近づかないで、下さい……あなた方は…トーメント王国に洗脳か何か…されている可能性が……」
「これは妙な事を言う。この私がそんな下手を打つはずが無いじゃないか。それに…もしされていたら、どうだというんだい?
さあ、ココア…久しぶりの再会だ。姉さんに、もっとよく顔を見せてくれ。クックック…」
ココアの右手にミントの左手が重ね合わされ、互いの指が吸い付くように絡み合う。
吐息が掛かる距離にまで迫って来たミントの瞳から、ココアは思わず視線を反らした。

(あなたは、やはり……)
目の前にいる女の姿は、間違いなく姉ミントそのもの。
だが。見つめられていると魂が暗闇の底に引き込まれてしまいそうな、冷たく不気味な光を放つ瞳は…
そして何より、全身からにじみ出て、ココアの全身を絡め取ろうとしているどす黒い魔力は……ミントの物では、絶対にありえない。
(…姉さんじゃ、ない!)
だが頭ではそうわかっていても、目の前の偽物を拒絶することが、ココアにはどうしても出来なかった。
目の前にいる彼女は、ミントではない。姉はもう、どこにもいない…
…その事実を受け入れる事を、ココア自身、心のどこかで拒んでいたからかもしれない。

「離れろココア!そやつは……っく!?」
リムリットも異変に気付き、玉座から立ち上がろうとした……だが、出来なかった。
魔法金属で造られた玉座から茨のような有刺線が無数に伸び、リムリットの手足に絡みつく。

「リムリット様っ!」
二人の危機を察し、一瞬迷ったのち…女王に駆け寄ったウィチル。部屋外の魔法少女達に合図を送ろうとした、その時。
(……ガシャアアアン!!!)
「…きゃああああああ!!?」
二人の頭上目掛け、シャンデリアが天井から落下してきた。…それだけではない。

(メキ……バキバキ……)
「……これはっ…!?」
無数の刃を生やし、高速で回転する殺人車輪へと、シャンデリアはその形を変えていく!

「うふふふ……いけませんわ、リムリット様、ウィチル様。……姉妹の感動の再会に、水を差しては」
フェラム・エクエス…金属を操る魔法少女が、その姿を変えていく。
銀色の髪と瞳、黒い金属の篭手やティアラ、毒々しい紫色のラバーボンデージ。
妖艶な笑みを浮かべた、邪悪な魔法少女へと…


810 : 名無しさん :2018/01/20(土) 09:09:25 ???
「カリンちゃん、これをっ!!」
トーメントの使者の追跡を命じられた水鳥は、飛び立つ間際、イヤリングの片方を外してカリンに投げ渡した。
カリンがかつて水鳥の為に作った、手製のイヤリングであった。
そのオレンジ色の宝石には、強い力が…水鳥達は知らないが、伝説の魔法少女カナン・サンセットの魂が、封じられている。
きっとカリンを守ってくれるだろう。

カリンはイヤリングの片割れを受け取ると無言で頷き、ライカ達と共に女王の間に駆け込んだ。
そこで見たものは……ミントとフェラムに襲われようとしている、リムリット達の姿であった。

「こ……これは、どういう事なんですか!」
カリン達の前には、4人の魔法少女が立ち塞がった。うち3人はミステリアスなフード付きマント姿。
残る一人は……踊り子のような際どい衣装で褐色の健康的な肌と見事なプロポーションを惜しげもなく晒し、全身に無数のアクセサリーを身に着けていた。

「答えてください……カレラさん!」
カレラ・ガーネット……かつてカリンが師と仰いだ、『魔石師』と呼ばれる魔法少女である。

「しばらくぶりね、おチビちゃん。…見ての通り女王サマたちと、一足お先に再会を懐かしんでいた所よ…」
……カレラのチョーカーに嵌められた暗青色の魔石が、不気味な輝きを放っていた。
それは、両腕に嵌められた柘榴石の腕輪から溢れる炎のような赤い輝きと混ざり合い…
「もっとも……今日、魔法王国ルミナスそのものが消えてなくなるまでの……束の間の再会ってやつだけど、ねッ!!」
不気味に、禍々しく、カレラの姿を変えていく。

「カレラさん…!?…一体……何を言って……」
「…アホ!ぼさっと突っ立ってんじゃねえ!!」
能力強化の魔石を全身に身に着けたカレラ。その巨岩をも砕く強烈な一撃が叩き込まれる寸前……
呆然としていたカリンの身体を、ライカが突き飛ばした。

(ドカッ!!)
「……っぐああああああ!!」
「らっ………ライカさぁーーん!!!」
「…あら、ごめんなさぁい。でも、貴女はルミナスに残ってる魔法少女の中でも最強クラスの戦力…
早めに潰せて助かったわ。フフフフ……」

「…おい、どうする。全然話についてけないぞ」
「これが一線級魔法少女の…メインキャラ同士の戦い…」
「このまま何もしないのもアレだし…とりあえず、あっちのマント被ってる3人に絡んでみよっか」
「それがいいわね!ちょうど3対3だし!今こそあたしたちが単なるザコじゃない事を見せつけてやるのよ!」

【名前】タンナ・ルザッコ
【特徴】魔法少女。

「…いや、お前は少なくとも単なるザコっぽいぞ」
「ついに特徴が一言になってるし」
「え!?ちょっと待ちなさいよ!!変身後の名前とか、どういう魔法使うとかないわけ!?」

(やべえよやべえよ…これ完全に噛ませにされるパターンじゃん…
こないだ戦争に負けたとは聞いてたけど、層の薄さがヤバすぎだろ……)

手抜きにもほどがあるモブ二名と一緒に、正体不明の敵に挑む事になったコルティナ。
かつてシーヴァリア円卓の騎士、ぐーたら三姉妹の一角としてブイブイ言わせた彼女に今、最大の危機が迫ろうとしている!


811 : 名無しさん :2018/01/20(土) 18:27:41 ???
「あーあ、なーんかスッキリしないんだよなぁ」

色素の薄い白髪に赤い瞳の少女……エスカこと寺瀬光は、謁見室の空気に馴染めずにこっそりと抜け出していた。
今はお気に入りのサボりスポットである、城の屋上で何をするでもなくぼんやりとしている。

「そりゃ、私にとっては知らない連中だし、歓迎ムードになれないのはしょうがないけどさ」

記憶の戻らない自分。自分を4代目と慕うリムリットやウィチル、ココア。帰ってきた知らない捕虜たち。謎のトーメント王国の使者。
何となくその場に居づらくなって、一応大事な場だというのに抜け出してしまった。

「でもなぁ……アイツらだけだと、なんか起きた時ヤバそうだよなぁ」

一応、返還された捕虜たちが洗脳されているのではないかという警戒はしているようだが……魔法少女たちは仲間を疑うことに慣れていないのか、その警戒は杜撰としか言いようがない。

「あの王様のことだし、絶対ろくでもないこと考えてるよなぁ……ハァ、やっぱし戻った方がいいかなぁ」

あくまでダウナー系であってぐーたらキャラではない光は、サボりを引き上げて捕虜返還の場に戻ろうとするが……


「残念ですが、もう遅いですよ」


突然響いた機械音に、その気持ちを砕かれた。


「げ、トーメントの……どうしてここに……」

「王様の言った通りでしたね……『この策を見破れるとしたらエスカだが、エスカは何となくルミナスに協力してるだけに過ぎん……付け入る隙はある』……と」

「ってことは、やっぱり何か企んでたのか……やっぱりあそこに残るべきだったかも」

「ウィチル・シグナスとココア・ソルベットの両名がいるからといって油断しましたね……彼女らは絶望的なまでに搦め手に弱い」

何となく……記憶の戻っていない自分の居場所はあそこにはないような気がして、あの場を離れてしまった光。もしあの場に残っていれば、トーメント王国の策略を止められたのだろうか。

「僕は個人的には貴女のことは嫌いじゃありませんが……王家の血を残しておくわけにはいきません」

「ん……?私を知ってる……?マスクで分かんないけど、ひょっとして私も知ってる人だったりする?」

「そうですね、何と答えたものか……」

緊迫した状況ながら、互いに理性的に会話を交わすフースーヤと光。そこに――!


「ヒカリちゃん!」
「そこまでです!光様から離れてください!」

フースーヤを追っていた、水鳥とフウコが現れる。

「……異世界人の市松水鳥、そして……フフ、丁度いいですね」

3対1、それも前後を挟まれている状況だが、フースーヤは余裕な態度を崩さない。

「謁見室での騒ぎは、貴女の仕業ですね……!」
「フウコちゃん!まずはヒカリちゃんの安全を!」

いつでも魔法を放てるように構えつつ、言葉を交わす水鳥とフウコ。

「ああそうそう、女の子同士なら、人形を貸し借りして遊んだりもしますよね」

「……?」

突然何の関係もない話をし始めた使者に疑問を浮かべる水鳥たち。その疑問は、すぐに晴れることになる……最悪の形で、だが。


「邪術師も例外じゃなかったみたいですよ……こんな風に、ね!」
(ノワールさん!お願いします!)

フースーヤがノワールへ念話を飛ばす。その次の瞬間!


「有坂真凛、二度目の復活ライブ、いっきまーす!!」

突然響く可愛らしい声。そして現れる大量の触手。
そう、ルミナスの医療室でメンタルケアを受けていたはずの有坂真凛が、水鳥たちへ攻撃をしかけたのだ!

「え……!?」
「真凛さん!?どうして……!?」

簡単なことだ。親友であるサキとライラは、自分たちの奴隷を共有できるようにしていたのだ。
だからこそ、ライラはサキの奴隷であったエミリアを操ることができたし……今、サキの身体を乗っ取っているノワールも、真凛を操ることができる。

邪術に関しては門外漢しかいなかったルミナスでは、真凛のメンタルケアはできても、術式の解除はできなかったのである。
水鳥の報告により、邪術師……ライラは死んだことを分かっていたからこそ、ルミナスの面々は術式を解除できないことを重要視しなかった。
ライラと術式を共有している彼女の親友が、トーメント王国にいることなど知らずに。


812 : 名無しさん :2018/01/22(月) 16:54:35 ???
「いやぁ、リザのリョナ声もいいけど、可愛い物真似もいいもんだな!」
「いわゆるギャップ萌え、ってやつか」
「こういう平和なやり取りがあるからこそ、リョナも映えるってことだな……キヒヒ!」

リザによる王様の物真似を堪能した3人は、そのままくつろいでいた。

「俺様の帰還!どうだ、この俺様にかかれば、ちゃんとダークストレージから脱出するくらい造作もないぜ!」

そこに、ダークストレージからアイベルトが帰ってくる。

「アイベルト……ちゃんと帰ってこれたんだな」
「当ったり前だろ!シアナは俺を誰だと思っていやがる!……で、なんか皆満足そうな顔してるけど、どうしたんだ?」
「ああ、実はかくかくしかじかでな」
「なぬ!?俺様のいない間にリザの激かわ物真似イベントがあっただと!?王様、それの録音は……」
「悪いが、俺様のボイスデータはリョナ専用だ。さっきのは録音してないぞ」
「ぐっ!なんたる間の悪さ!だがしかーし!このSDカードで王様のコレクションを譲ってもらえば、お釣りがくるぜ!」

そう言ってアイベルトが差し出したものは……3〇S版のドラ〇エ11のカセットであった……。

「よし、じゃあ出発するか!まずはこのまま南下してアレイ草原に出るぞ!」
「アレイ草原ですか……アルガスへの道ですね。邪術のライラを撃破した今、もっと近道もできますが」
「旅ってのは敢えて遠回りして色んな所を見るのも醍醐味だろ?風情ってやつ?」

「ちょ、おい待て!待って!SDカードってこれじゃないの!?これでベロ〇カにリザのボイス当てたりできるんじゃないの!?ちょ、待ってくれよー!」


813 : 名無しさん :2018/01/23(火) 01:16:10 m2kLQE.A
【名前】アコール・ベイル
【特徴】17歳。常にオドオドとした口調で話すが、なんだかんだで言いたいことは言う性格。貧乳。髪型は亜麻色の髪のボブカット。
変身後の姿の名は魔法少女フラックス・ウィッグで、亜麻色の髪が超ロングヘアーに変化する。
魔法の媒体は自らの髪であり、髪をさらに伸縮させたり硬化させたりすることが出来、自由自在に動かして移動や攻撃などを行う。


最初にクローク・オブ・ミステリアス・パートナーを脱いだのは、10代後半と思しき亜麻色の髪のボブカットの少女だった。COMPの下には、白いブラウスを着用している。

「えっと、あの、その、わ、わたしがコルティナさんを足止めするので、あの、お二人は残りのモブさんと雑魚さんをお願いします」

「げ!?アンタはアコール!?模擬戦の後マントを寝袋にするといっつもアンタの髪の毛が絡まってたアコール!?」

「えっと、その、お久しぶりです、コルティナさん。あの、大変申し訳ないんですが、死んでください」

「っそー、隙あらばメインキャラ昇格狙ってるようなキャラ付けしやがって……こっちのモブか雑魚と取り替えろっつーの!」

「えっと、コルティナさんの、その面白いお話がもう聞けなくなるのは残念ですが……変身!」

淡い光に包まれて、魔法少女フラックス・ウィッグへと変身するアコール。彼女の亜麻色のボブカットが、超ロングヘアーへと変貌する。

「やろー!喰らえ!なんかぶわーってなるやつ!」
「えっと、その、無駄です……フォンテーヌ・ハイネット!」

自由自在に動くマントと、意のままに動く髪の毛。同じタイプの能力だからこそ……両者の戦闘は決着がつきにくい。


「や、ヤバいわ!唯一のメインキャラのコルティナが押さえつけられてる!」
「ちょ、これ私たちが残りの2人にサクッとやられるパターンじゃないの!?」

コルティナとアコールの互角の戦いを慌てる名無しのモブと単なる雑魚。
当然、彼女らの前に、残る2人の操られた魔法少女が迫っていく。

果たして、彼女たちの運命は!?


814 : 名無しさん :2018/01/23(火) 23:22:05 ???
「クックック……ワタシらの相手は貴様ら落ちこぼれの雑魚どもか……まったく舐められたものよ。」
名無しと単なる雑魚に歩み寄るうちの1人が、少女らしい高い声で必死に威圧感を出しつつ言った。
「リッテ。羽虫だと思って舐めているとやられるわよ。雑魚相手だろうと、1人ずつ確実に息の根を止めましょう。」
もう1人の方が落ち着いた声で片割れを嗜める。その声の主に名無しと雑魚は心当たりがあった。

「あ、あなたたちはまさか……ルミナス魔法学校を姉妹揃って主席で卒業した……!」
「えええ!あの2人が!?」
「いかにも。そして絶望しただろう。貴様ら青二才が勝てる確率など、天地がひっくり返ったとてたかが知れているとな!」
「リッテ。そろそろフードを脱ぐわよ。アコールももう脱いだんだから、段取りを守りなさい。」
「ふはははは!!!全員刮目せよ!!!我ら姉妹の威風堂々たる荘厳な降臨を!!!」
リッテと呼ばれた少女とともに、もう1人の少女もCOMPをばさりと脱ぎ捨てた!



名前:リッテ・ミルフィールド(魔法少女カイザーヴァルキュリア)
年齢:16歳
身長:150
髪:暗黒の闇に染まりし紫のロングヘアー
瞳の色:全てを見通す漆黒の炎(黒と赤のオッドアイ)
服装:冥界の闇と地獄の爆炎によって創り出されし森羅万象を支配する悪魔の装束(黒のドレス)

魔法少女学校を主席で卒業し、ルミナス親衛隊の1人に就いていた姉妹の妹。
極度の中二病罹患者であり、常に闇の力やら機関の奴らやらと脳内で戦い続けている。
変身した際は黒のドレスに赤の帯が混ざって闇と炎が両方そなわり最強に見える。
使う魔法は闇魔法全般と炎属性全般。



名前:シュリヤ・ミルフィールド(魔法少女エンペラーワルキューレ)
年齢:22歳
身長:162
髪:水色
瞳の色:黒
服装:白を基調にしたコート

リッテの姉。妹と同様魔法少女学校を主席で卒業しルミナス親衛隊の1人だった。
妹とは対照的に無表情で冷静……というよりも冷徹な性格。言葉使いもいつも固い。
妹にはいつも命令口調で接している。
変身した際は白のコートに氷の結晶が入り雪と氷を思わせる衣装になる。
使う魔法は氷魔法全般と光魔法全般。


815 : 名無しさん :2018/01/24(水) 00:02:58 ???
「うぎぇ……!なんだこの個性の塊のようなキャラクターは!わたしらにぶつけていい相手じゃねえだろこれ!!」
「しかもさっきから地の文に名無しとか雑魚とか書かれてるし!わたしらはナナシーとタンナだっての!」
「囀るな!貴様らは私の闇の炎に抱かれて消える運命だ……哀れな少女よ。命乞いをするなら今のうちだぞ。クックック……!」
「哀れなのはあなたの方よ、リッテ。いい加減何言ってんだかよくわからないその馬鹿丸出しの台詞回しはやめなさい。まったく……一緒にいて恥ずかしいわ。」
「う……ね、姉様……ひどぃ……」

力関係は姉の方が圧倒的なようで、リッテは悲しそうな声を出しながらがくりと項垂れた。
「さあ、かかって来なさい。2人とも氷漬けにしてあげる。ブリザードグラウス!!!」
「えええ!いきなり!?」
「い、今かかってきなさいって言った……ばかり……なのに……」
シュリヤの魔法によって2人の場所には大寒波が発生し……
名無しと雑魚は氷漬けになってしまった。
「馬鹿ね。言ったけどわざわざ来るのを待つことないじゃない。これはアニメや小説じゃないのよ。勝負は早く決着を付けるに限るわ。」
「ね、姉様……リッテの出番は……」
「あなたは邪魔だから戦闘はしなくていいわ。わたしが凍らせたのを焼き払って消し炭にしなさい。余計なことはせず、わたしの仕事の後処理だけを考えて。」
「で、でも……そんなんじゃ我が身に眠る血に飢えた獣の苦しそうな遠吠えは、到底満たされな」
「わかったらさっさとやりなさい。いいわね。あと10秒でそこの雑魚2人を始末しなかったら、あなたを凍りづけにしてトーメントの富豪に売りつけるわよ。」
「かしこまりました。私が責任を持って後処理を対応いたします。」



名無しと雑魚が凍らされた頃、コルティナとアコールの戦いはまだ続いていた。
「はぁ……はぁ……」
「えっと、あの、そのぅ……そろそろとどめを刺しても良いでしょうか?正直あなたの顔ももう見飽きたので……あ、傷つけちゃったらごめんなさい……」
「ええい……そんなオドオドした口調でなら何言われたって傷つかないわよ……はぁ、はぁ……」
単純に運動量の差で、コルティナの方が不利である。アコールは念を送るだけで髪の毛を動かせるが、コルティナはマントを手で動かして攻撃をいなす必要がある。
変幻自在のアコールの髪を捌くのも簡単な作業ではない。攻めあぐねている限りコルティナの不利は変わらないのだ。

(ぐぅ……そもそもわたしの能力は防御向きで、攻撃はノーチェやキリコの仕事だったなりよ……!)
「や、や、やや、八つ裂きにしちゃいます……!ヴォーラスインパクト!」
アコールが叫んだ瞬間、ロングヘアーが棍棒のような形になって巨大化し、コルティナへと振り下ろされる!
(げげげげ!!ま、まじか……哀れ私、ここでポッと出の新キャラに殺されるしかないなりか……?)


816 : 名無しさん :2018/01/24(水) 01:51:53 ???
「くっくっく……愚かよのう。わらわの正体が誰なのか、とっくに気付いておるじゃろうに…」
ココアは姉ミントの姿をした「敵」に、いいように弄ばれていた。
姿や仕草は、確かに敬愛していた姉ミントそのもの。
もし本当に姉が生きていたのだとしたら…ただ操られているだけなのだとしたら…
そんな思いを捨てきれず、うかつに手が出せなかった。

「ええ…私にだって、本当はよくわかってる…姉さんが生きているはずが無いって事くらい…」
だがこうして肌が触れるほどに密着すると、相手の全身から漏れ出すドス黒い魔力が否応なく感じ取れてしまう。
………もはや疑いようがなかった。
「正体を表しなさい、ノワール……姉さんの、仇っ…!!」
「くくく……その通り。だが、今さらどう足掻こうが手遅れじゃ。大人しくわらわの結界に墜ちるがよい…」

姉・ミントがトーメントから解放されると告げられた時から、ココアは薄々こうなる事を予見していた。
ココアは自ら進んで検分役を志願し…万一の場合はこうして、身体を張って女王を守る決意だった。
だが……
「そうは行きません。罠に嵌ったのは貴女の方です……変身っ!!」
……むざむざとやられる気は毛頭ない。むしろこれは、姉の仇を討つ絶好の機会だ。

足元から伸びる無数の闇の手が、ココアを結界に引きずり込まれる刹那。
真っ白い光がココアの周囲を包み込み……
聖印を象った錫杖を携え、神官の法衣を纏った白い魔法少女へとその姿を変えた。

「女王の守護者が一角、ビショップ・オブ・アイヴォリー……その力、お見せしましょう」
「ふん……変身した所で無駄な事よ。闇の結界の中でわらわに勝てるとでも………!?…ぬう、これは……!!」

結界の中は、奇妙な光景が広がっていた。
聖職者の法衣を思わせる白いローブ姿の魔法少女が立つのは、まばゆい光がきらめく真っ白い花畑。
一方、闇の衣をまとった漆黒の魔女が立っているのは、静寂に包まれた闇の荒野。

両者の立つ位置のちょうど中間あたりを境に、二つの相反する世界が広がっている。
白と黒。二つの力が拮抗した結界空間は、一種のバトルフィールド。
魔力の強い方がこの空間全体を支配し、弱い方は結界ごと相手に呑み込まれる…

「決着がつくまで結界を出る事も、外部に干渉する事もできない。…あなたが女王に手出しすることは不可能、という事です」
「なるほど。わらわにサシで勝負を挑もうとは……いい度胸じゃのう、小娘」
空間全体に、凍り付いたような殺気が漲っていく…


817 : 名無しさん :2018/01/24(水) 01:54:56 ???
「…出でよ魔獣ども!!あの小娘の手足を喰いちぎれ!!」
『グロロロロロロッ!!』
三つ首の黒き魔狼ケルベロス。ノワールの使い魔の中でも上級クラスの魔獣が、大地を揺るがせながらココアに迫る。
ココアは大気を震わす咆哮にも憶する事無く、カード程の大きさの魔導書を手に取った。

…双子の姉ミントと違い、武器を使っての戦闘は得意ではない。
また攻撃魔法の適正も、女王の側近ウィチルや他の親衛隊には及ばない。
彼女が主に得意とするのは…以前唯にも教えた、回復魔法。そして…

「ファミリア召喚…『ビーストレディ・グラップラー』!『マーメイド・アイドル』!」
…ユニバース・ジェネレーティング・オブジェクト。
全宇宙のあらゆるものを生み出すと言われるカード型魔導物質…略して「UGO」による、使い魔召喚である。

『マカセロ、マスター!アバレテヤルゼッ!』
『オッケーココタン!ライブ・スタートダヨ!!』
『グロォォォッ!?』
UGOの表面に描かれた使い魔が、結界空間内に実体化する。
可愛らしい衣装を着た人魚の歌声が魔獣の突進を止め、その隙に獣人の女格闘家が鋭い拳と蹴りの連撃を叩き込んだ!

「ケルベロスを一瞬で屠るとは…いいだろう。付き合ってやるぞ小娘」
「小娘小娘言わないで下さい……こう見えて私、23歳です!」

ノワールもUGOの束を取り出して新たな使い魔の召喚準備に入った。

ノワールの黒い髪が禍々しく、刺々しく、その形を変えていき…

「「デュエル・スタンバイ!!」」
……互いの決闘者魂とプライドを賭けた、召喚合戦が始まった。


818 : 名無しさん :2018/01/25(木) 23:25:53 ???
「どうして……!ライラもヴェロスも、倒したはずなのに……!」

「ライラが、ある邪術師と人形感覚で奴隷を貸し借りしていたおかげですよ……あ、ちなみに僕じゃありませんから」

「そういうことよ!クソガキ!ついでに関係ないけど近視バカ!ライラ様の仇ぃいい!!」

三叉槍を構える真凛。以前の水鳥なら、きっと萎縮していただろう……だが、今の水鳥は違う。
突然の登場には面食らってしまったが、すぐに凛とした表情を浮かべる水鳥。

「今の真凛さんは……操られるがまま動いてるだけでしかない……今の真凛さんからは……私の師匠だった頃の強さを感じない!変身!」

「水鳥ちゃん!援護するよ!変身!」

淡い光に包まれて変身する水鳥とフウコ……否、アクアウィングとエヴァーウィンド。

「馬鹿が!あのクソ十輝星抜きで私に勝てるわけねぇだろぉ!?」

一気に接近してくる真凛を前に、水鳥はフウコに目配せする。

「フウコちゃん!今はカリンちゃんがいないけど……アレをやろう!」
「オッケー!アレだね!」

2人は互いに手を繋ぎ、上を向いてそっと目を閉じる。
すると彼女たちの背中から、激しく波打つ水の翼が現れた。

水鳥の魔法である水の翼に、フウコの風魔法の力を掛け合わせたのだ。
これにより、ただでさえ高機動の水の翼は、さらにその速度を増す。

本来なら、ここにカリンの炎を加えて攻撃力も増やすのだが……真凛を必要以上に傷つけたくない今は、逆に都合がいい。

「水翼!」「疾風!」「「合成魔法・アクアゲール・バード!!」」

閉じていた目を開き、風の力を得た水の翼を一気に光り輝かせる。そのまま目にも止まらぬスピードで、真凛の背後へと回る。

「速……!?く、調子に乗るなぁ!サウザンドテンタクル!」

背後を取られた真凛も、触手を生み出して応戦する。
それに対し、2人は一度距離を取って空中を自由自在に飛び回って触手を回避し、もう一度真凛へと肉薄する。

「馬鹿な……!ライラ様の森の時より、格段に強く……!?」

「真凛さん……貴女が何度操られても、その度に私たちが止めます……だからまたいつか……一緒に戦いましょう」

「っあぁ!?」

水鳥とフウコは、4枚の翼を真凛の身体へ強く叩きつけて吹き飛ばす。
吹き飛ばされた真凛は、何回か地面をバウンドしながら転がっていく。

「このまま一気に、あの国の使者を倒そう!」
「うん!」

真凛がやられている間も、何故か使者は光に手を出すこともなく傍観していた。

「今さら真凛さんを出しても、時間稼ぎにしかならない、か」

何を企んでいるのかは分からないが、このままスピードを活かして一気に―――

「でも、周囲を毒で満たすには、十分過ぎる時間だ」

トーメントの使者に接近しようとしていた水鳥とフウコ、そして近くで事の推移を見計らっていた光の身体に、強烈な痛みが走った。


819 : 名無しさん :2018/01/26(金) 08:54:30 dauGKRa6
「ぐぬぬ……こう見えてもシーヴァリアの円卓の騎士に名を連ねた身!そう簡単にはやられないなり!変身ッ!!!」
アコールの必殺の一撃を回避すべく、コルティナは武器のなんかぶわーってなるやつを魔力で操る。
そしてそれがコルティナを包んで一回転するとともに、夜を思わせる黒色と煌びやかな星が装飾されたワンピースへと変身した!

「魔法少女ミッドナイトヴェール、参上!ミスティックイリュージョン!」
コルティナの掛け声に反応し、すぐさまアコールの髪を包むマント。
変身したことによって、なんかぶわーってなるやつはさらに大きさと厚さを増し、手を使わずとも魔力によって操れるようになった。
「く……!う、動かない……です……!」
「アコール。こうなったらもう負けなのは知ってるでしょ?私のマントはこの状態から収縮して締め上げることもできる……模擬戦ではこの状態ですぐギブアップしてたじゃない。」
変身したからか、先ほどまでのふざけた口調とは一転、凛として諭すように語りかけるコルティナ。……否、魔法少女ミッドナイトヴェール。
「くぅっ……!んんっ!うんんんーーー!」
マントに包まれてしまった髪の毛をなわとか動かそうとするアコール。だが髪の毛は鉛のように重く、自分の意思では動けそうもなかった。

「く……ほ、本当に、ふ、不本意ではあるのですが……コルティナさんは、やっぱり強いみたいですね。」
「アンタの負けよ、アコール。このまま拘束の術式で……きゃあぁっ!?」
突如、コルティナの体は紫色の毒々しい荒縄に拘束されてしまった。
「く……これは、緊縛用の闇魔法……!」
「左様。我が血塗られた魔力で作られし7星魔法の1つ、ダークリストリクション……もう貴様は動けまい。クックック……!」
「くっ……そのアニメ声で必死に威圧感を出そうと頑張っている声は……!」

拘束されたコルティナの前に、まだ変身すらしていないミルフィールド姉妹が現れた。
(最悪だわ……!アコールはともかく、こいつらまで……!)
「久しぶりね、コルティナ。……あなまが変身するなんて珍しいわ。いつもぐーたらしているのが常のあなたが。」
「さ、さすがにこんな時くらいは変身すして戦うわよ……!そ、それより、こんな美少女をがんじがらめに拘束してどうするつもり?」
マントは魔力で操っているため、アコールが動くことはない。
だが今の状況では、姉妹からの攻撃を防ぐ手段はコルティナにはない。
「さあ姉様!早くコルティナさんを永久の氷漬けに!わが暗黒の爆炎-ディアボリックブラストファイア-が、ぐーたら女の混じり気のない純潔な血を求めているううゥ!」
「リッテ、黙りなさい。……コルティナ。あなたはすぐには殺さないわ。先の戦争にも参加せず、今までのらりくらりと適当に生きてきたルミナスの恥晒しには、現実の厳しさというものを教えてあげる……」



魔法少女ミッドナイトヴェールが、絶対絶命の危機を迎えている頃……
「あああぁんッ!!」
「ゔぐぅッ!!!」
「あああぁっ!!」
上から光、水鳥、フウコの順に、フースーヤの毒を食らって悲鳴を上げた。
立っていられないほどではないが….体内を棘の生えた大量の小さな虫に這い回られているような感覚に、少女たちは苦しそうな顔で胸を抑える。
その様子を見て、トーメントの使者は不敵に笑った。

「ぐぅ……なにこの感覚……!気持ち悪い……!」
「光ちゃん、大丈夫!?今助けに……あああんっ!」
(だ、駄目……変な痛みが身体中を走り回って……!ちゃんと動けない……!)
光を助けに行こうとした水鳥は、体に走るぞわりとした感覚に悲鳴を上げて倒れてしまった。
「み、水鳥ちゃんっ!!」
「ククク……新毒アンチバグ・ザ・ソローの実験は大成功です。フェアなやり方ではありませんが……あなたたちにはここで無様に悶絶しててもらいましょうか。」


820 : 名無しさん :2018/01/27(土) 13:31:38 ???
「カレラさん……どうして……」

「ぐぅ……!しっかりしろカリン!カレラは操られているんだ!なぜとかどうしてとか、余計なことは考えるな!」

「あら、まだ動けたの……さっきのでアバラの一、二本は折れたはずだけど」

「はぁ……!はぁ……!当たり前だ……!アタシは、二代目竜殺しだからな……!変身!」

師匠と呼び慕っていた相手を前に、完全に萎縮してしまったカリン。そんなカリンを戦わせるわけにはいかないと、痛む身体に鞭打って立ち上がり、変身するライカ。

レオタード型のインナースーツに、ジャケット、ロングブーツ、そして金属製の手甲……格闘戦に限ればルミナスでもトップクラスの魔法少女、ワイルドストライカーへと。


「下がってろカリン!カレラはアタシが何とかする!」

「……いえ!私も戦いますライカさん!さっきはビビっちゃったけど、私もカレラ師匠を助けたいから!変身!」

ライカの勇士、そして操られたカレラを救いたいという想い……それらが、恐怖に萎縮したカリンを突き動かし、ブレイジングベルへと変身する。




一方その頃、ウィチルは防御魔法を張り、フェラムの殺人シャンデリアからリムリットを守っていた。
オールラウンダーであるウィチルの防御魔法の精度は高く、二人には傷一つつかなかった……そう、二人には。


「ウフフフ……薄情なお人……女王を守って、仲間を見捨てるなんて」

腕に付着した返り血をぺろりと舐めながら、フェラムは妖艶に笑う。
そう、謁見室には名無しのモブや単なる雑魚のような、名もなき護衛の魔法少女が数名残っていたが……突然の奇襲に対し、ウィチルはリムリットを守るのが精一杯であった。

経験の浅い彼女らは、殺人シャンデリアに成す術もなく……リムリットとウィチルの目の前で、醜い肉塊と化した。

「ひ!?み、みんな……ウィチル、みんなが……!」

「……陛下をお守りするのが精一杯でした……全て、私の力不足です……」

血が滲むほど強く唇を噛みしめながら、ウィチルは呟く。その心中は計り知れない。



「幼い女王……伝説の魔帽や有能な部下がいなければ、何もできない無能な女王……真の女王たるお姉さまのために、あの世へ送って差し上げます」


821 : 名無しさん :2018/01/27(土) 19:33:11 ???
ダークアウィナイトの魔石で操られ、残虐性をむき出しにして暴れまわる魔法少女たちに、ルミナスの魔法少女たちは次々と蹂躙されていく。
UGOバトルフィールド結界の内側にも、その様子は映像で逐一映し出されていた。

「…くっ…皆……!」
「クックック……あの小僧も、他の者どもも、楽しんで居るようじゃのう…」

そして結界内にいるノワールとココアも、互いの召喚獣を使役して結界空間内で激しい戦いを繰り広げている。

「召喚…『リトルフェアリー・クイーン』!特殊能力により、フィールド上のファミリアの能力を強化!!」
ココアのデッキ…すなわち使用するカード群は、亜人族や人間タイプのファミリア(召喚獣)が主力。
援護魔法で味方を強化しながら複数のファミリアを連携させて戦う、正統派な戦術を用いる。
召喚したリトルフェアリー・クイーンの特殊能力は、味方のファミリアの能力強化…ココアの戦術の要ともいえる一枚であった。

「…わらわもこんな所でグズグズしてはおれん。本気で潰してやるとするか」
対するノワールのデッキは、数々の特殊能力を持つ罠やら拷問トラップやら淫獣族やら悪魔族やらを用いた搦め手タイプ。

光と闇。二人の召喚獣使いの戦いは、一見すると互角のようだが…
ターンが進むにつれ、両者の絶対的な「力の差」が徐々に表れ始める。

「まずは『洗脳調教スライム』を召喚…まずはマーメイド・アイドルをビチビチビッチに堕としてくれるわ!」
(ぐちゅっ!!…じゅるるるる!!)
「きゃああああ!!な、何これ……いや、離れて……んぐうぅぅ!!!」

ココアの操る人魚型ファミリアに、泥のようなスライムの群れが襲い掛かる。
歌で敵を魅了する特殊能力も知能の低いスライム族には通用せず、マーメイド・アイドルは為す術なく呑み込まれてしまった。

「いやあああああああぁぁぁっ!!!もう、やめて!!わたしのなか、入ってこないでえええ!!」
清浄な水は、人魚にとって命も同然。穢れたスライムに全身を責め立てられ、希望の歌声を紡ぐその喉からは、恐怖と絶望に染まった悲鳴が絞り出される!!

「続いて『魔石の踊り子スキュラ』でビーストレディに拘束攻撃……クックック」
(にゅるるる……)
「あら、躾のなってないヤマネコちゃんね…大人しくしなさい」
「っぐ!!てめえ、放しやがれ……っひゃんっ!?し、尻尾、掴むな……っ、あんぅっ!!」

ノワールは強大な闇の力(経済力)を駆使し、強力なレアカードをデッキにふんだんに使用している。
しかも、この戦いが公式試合でないのをいい事に、公式(?)から使用が禁じられているチート級の効果を持つカードも大量に搭載していた。

(まずい、攻撃の要が潰された…あんな強カードを序盤から召喚なんて………!)
ココアの目に、ほんのわずかに動揺の色が浮かぶ。それを、ノワールは決して見逃さなかった。
「クックック…どうした?まだほんの小手調べじゃぞ?……」
「ま、まだ…勝負はこれからです…!!」

使える限りの手札を配し、必死に応戦するココア。
対するノワールは最低限の攻撃でココアの攻め手を潰しながら戦局を支配し、自分のフィールドに数々のトラップを張り巡らせ盤石の態勢を整えていく。そして…

召喚者に直接攻撃を加える禁止カードの中でも最悪ともいえる一枚を繰り出して来た。
「なにを勘違いしておる。まだわらわのバトルフェイズは終了しておらんぞ…
呪術カード『共鳴の刻印』発動!!攻撃を受けたファミリアのダメージを、召喚者にもフィードバックじゃ!」

「なっ……何ですって……!!……っ、きゃあああああああ!!!」
…禍々しい紋様の描かれたカードが赤い光を放った瞬間。
ココアの全身に、スライムに這いまわられる不快感と、全身の関節を砕かれる激痛が同時に襲い掛かった。


822 : 名無しさん :2018/01/28(日) 00:42:23 ???
(……が、は………何が、起きたの…わたし、どうして……)
名もなき魔法少女は、全身の痛みと脱力感に耐えながら、記憶の糸を手繰り寄せた。

捕虜にされていた魔法少女たちが解放されるという知らせを受けたのが数日前の事。
その魔法少女達がトーメントに何らかの仕掛けが施されている可能性が疑われ、見習いの自分も女王の護衛として駆り出された。

未熟だから、という理由で先のトーメントとの戦争に参加できなかった彼女は、
戦いの結果と、そして何より先輩の魔法少女達が何人も行方知れずになった事実にずっと胸を痛めていた。
だから、どんな形であれ彼女たちが生きて再びルミナス後に帰ってこれた事を素直に喜んでいた。
だが……
(天井から、何か…シャンデリア?が落ちてきて……)
玉座の周りで護衛していた少女たちは、天井から落下したシャンデリアに圧し潰された。
秘書官ウィチルは咄嗟の判断で女王を守り、そのまま戦闘に突入。自分たちまで助ける余裕はなかったようだ。

「みん、な…だれか。生きてる、人は……うっ……!!」
痛みに悶えながら、瓦礫の中に視線を巡らせる。すぐ隣で血だまりに沈んでいるのは…自分の親友だった。
「う、嘘でしょ……お願い、しっかり……目を開けて…やだよ、こんなの……!!」

大空を華麗に舞い、数々の魔法で悪を滅ぼす…そんな正義の魔法少女に憧れて、
ルミナスでは多くの少女達が養成学校の門を叩く。自分も、隣にいた親友も、そのうちの一人だった。
だが華やかなイメージが通用するのは最初だけだ。養成所の訓練は過酷で、多くの少女が途中で挫折して去っていく。

何とか訓練を乗り越えてたとしも……実際の戦場は更に苛酷で凄惨。
一介の見習いにすぎない彼女も、今こうして一足先に体験する事となった。

アニメやマンガなどとは違い、敵は正義の魔法少女なんかより遥かに強力で残虐で…
(こ、怖い……魔法少女になるのって、こんなに痛くて、怖い事だったんだ……もう、やだ…誰か、助けて……!!)

………………

「クックック……お次は『猛毒蟲の大群』で全体に毒ダメージ…
更に『機鋼天使アイアンメイデン』で『エルフの魔法秘書官』を拷問処刑じゃッ!」
いつもより髪の毛がツンツンしているノワールが続けざまにカードを繰り出し、
ココアの使い魔たちを一体ずつ嬲り殺しにしていく。

「クスクス……」
「くっ……」「「「きゃああああああっっ!!!」」」
使い魔が受けるダメージは、ノワールの呪術カードの効果によって召喚主であるココアにもそのまま共有される。

毒蟲が全身を這いまわる異様な感覚、全身を拷問具で刺し貫かれる激痛で、
結界空間内には二重三重の激しい悲鳴が響き渡った。

「クックック…これで『リトルフェアリー・クイーン』は裸も同然。
『からふる♪ハーピーズ☆彡』や『モブウィッチ軍団』程度では、もはや戦局を打開できまい」

「う、うぅ……まだ、です……まだ勝負は…」
よろめきながら立ち上がるココア。だが彼女の白の結界は毒蟲に無惨に食い荒らされ、生き残った使い魔は僅か。
ノワール率いる凶悪な魔物の群れに完全に包囲されていた。

「無駄じゃ…勝負は既に見えておる。この状況で出せる切り札と言ったら、
『レジェンダリー・ヴァルキリー』か『光の天使リフレクトブルーム』位のものじゃろう」
「なっ……!?」

「呪術カード『永遠の煉獄』を発動。お主の持つ『レジェンダリー・ヴァルキリー』をデッキから取り除く」
ノワールの使ったカードは、特定カードをゲームから強制排除する強力な呪術であった。

「ほう、山札の一番上…次のターンで引けていたわけか。
惜しかったのう…コイツの全体攻撃能力なら、僅かな可能性もあったじゃろうに」
ノワールの猛攻に必死の想いで耐えながら待ち望んでいた切り札が、ココアの目の前でデッキから抜き取られ…
(ゴウッ……)
…紅蓮の炎に包まれていく!!
「……っ…あ、つ……っぎ、あああああああぁぁぁあ!!!」


823 : 名無しさん :2018/01/28(日) 02:14:43 ???
「まずはあなたの行動を封じる。フリージング・オーラ!!」
「な、いきなりその魔法は反そk…ぐああぁっ!?」

闇魔法で緊縛されたコルティナに対して放たれた氷の魔法。

パキパキパキッ…!

当たった瞬間、音を立てて体内を巡る魔力が凍結されていくのを感じる。
アコールを解放して防御に徹するか、まずは姉妹の出方をうかがうか。

コルティナが答えを出す前に、そのどちらの選択肢も封じられてしまった。
フリージング・オーラ、相手の体内を巡る魔力を凝固させ、一時的に相手に魔力を使えなくさせる強力な技。だが、相手が魔力を頻繁に使っている場合は効果が薄れる。

エリート姉妹の姉の方は常に冷静であり、相手に考える時間を与えずに、淡々と勝ち筋を潰していく。

「さすがに知ってると思うけどこの魔法、使用されずに古くなった魔力に対して特によく効くのよ。日頃まじめに訓練に励んでいる子たちにはいまひとつなんだけど…あなたには効果抜群だったようね?」

「クックック、抵抗する手段を奪われ、恐怖に身を震わせるがよいぞぐーたら女よ。」

魔力が循環しなくなったことにより、なんかぶわーってなるやつも操ることができなくなり、アコールの頭からマントが落ちていく。

「あ、あの、コルティナさん、その、残念でした…!こ、これで、あなたをちゃんと殺せます…!」

「あはは、そりゃどうも…(くっ…なんでよりにもよってこんな私にピンポイントで刺さる魔法持ってるのよ……)……前から思ってたけど、アンタって本当に容赦ないわよね…もうちょっとこう、相手にも見せ場を作ってあげる配慮とかそういう…そう、優しさ?みたいなものがあった方が」

「黙りなさい。大して努力もしてないあんたみたいな社会のクズに見せ場は必要ないでしょう。」
「し、社会のク…!?わ、私だってやる時はやるし、いつもサボって寝てるばっかりじゃ…ない……はず……」

コルティナは、自信をもって言い返すことができなかった……。

「ふん、やりなさいリッテ。この怠惰女の魔力、全部燃やしてしまいなさい。これだけ完璧に凍ったなら、あなたの魔法で完全に燃え尽きるはずよ。」

(え、妹までぐーたら絶対殺す系の技を…!?)

「ええ…でもこの技地味じゃ…」
「いいから早くやりなさい。さもなくば」
「わかりましたすぐやります。」

「ま、待って、その魔法を食らったら本当に何もできなく…」

「フッ、喚いているがよいぞ、コルティナさん!漆黒のみえざる焔、、バーニング・オーラ!!」
リッテがそう叫ぶと、ゆらりゆらりと黒っぽい火の玉がゆっくりと飛んでいき…
コルティナのおへそのあたりに吸い込まれていった。
「あっ!?いやああぁっ!あづっ!あ"っつ!ぎゃあぁあぁああ!!も"ぉっ…!燃え…でぇ…っ!ゔあああああああ!」

見た目に反して、その威力は絶大であった。
火の玉が体内に入った刹那、コルティナは全身を中から火炙りにされる苦しみに悶え、床に倒れこんで身体中を掻きむしる。
姉の技の反対、相手の体内を巡る魔力を燃料に、相手の体内で燃え続ける特殊な炎魔法。
相手が魔力を頻繁に使っている場合は効果がほとんどない。
だが、そうでない場合は、相手の魔力が尽きるまで永遠に燃え続ける――


824 : 名無しさん :2018/01/28(日) 12:33:54 CMA.lwLA
「あづっ!!あっづ!!あづいいぃぃッ!あづっあづっあづっあづっ熱いいぃッ!熱いあつい熱い゛熱い゛あづいよおおお゛お゛お゛お゛お゛おおお!!」
体内で燃え盛るリッテの炎魔法になすすべも無く、コルティナは床を這いずり回りながら悶え苦しみ続ける。
火は水で消せるものだが、それが体内で起こっていたのでは、容易に消すことなどできない。自らの内部から燃え拡がり続ける強烈な痛みに、コルティナは涙を流しながら悲痛な声を上げ続けた。

「うああああああああ゛あッ!!!あ゛うぅっ、あづいっ熱い熱い゛熱いがら゛ぁッ!!!いやぁっ!いやっ、や、やめて、り、リッテぇっ!もうやめてえええええ゛え゛え゛!!」
「クックック……敵であるリッテに許しを請うとは、まったく無様なものよ……」
「いい反応するじゃない、コルティナ。あんたのことは……昔から嫌いだったのよ。」
「ぎゃうっ!!」
悶え苦しむコルティナの腹を、シュリヤは体重を乗せて思い切り踏みつけた。
そのままゆっくりと体重をかけつつ足をグリグリと動かし、コルティナの体を軽く固定するとともにじわじわと体力を奪っていく……

「ぐあ゛っ……ぐえぇ゛……!」
「テストはいつも0点、かと思えば魔法の実技もパッとしない。全てが人並み以下の失敗作の癖に……なぜかあなたの周りにはたくさんの人がいた。」
「あ、あづいっ、痛いっ……!し、シュリヤ……やめ……」
「私の方が全てにおいてあなたよりも優れているのに……いつもあなたはみんなの中心で……生徒はもちろん先生の間でも……明るくて面倒見が良くて優しいって……!みんなの間で人気者でぇッ……!」

グリググリグリグリ……!
語気を強くしたシュリヤは、今まで積もり積もっていたものを吐き出すかのように力強くコルティナを踏みつける。
「お……ごっ!!あがっ……ぐ、う゛え゛ぇ゛っ……!」
「ね、姉様……さ、さすがに可哀想では……」
「なんであなたなんかに……なんで私の周りには誰も来てくれないの……!あなたにあって私にないものなんか、これっぽっちも無いはずなのにッ!!!」
声を荒げたシュリヤは、踏みつけていた足を振り上げ……苦しみ続けるコルティナの顔面へと振り下ろした!

バギイィッ!!!!!
「うああああ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!」
「ふ、ふふ、ふふふふ……ず、すず、ずっとこうしたいと思ってたのよ……コルティナ。貴方をグッチャグチャのボッロボロにして、病院で栄養食を食べ続ける一生動けない体にしてやりたいって……ね。」
「ね、姉様……!コルティナさんは、別に姉様をいじめていたわけじゃ」
「うるさいッッッッ!!!黙ってろクソチビがぁッッッ!!!」
「ひゃあああっ!!も、申し訳ございません大変申し訳ございませんんん!!」


825 : 名無しさん :2018/01/28(日) 14:12:26 ???
「さぁ、カードを引け……それとも、諦めてサレンダーするか?」

「ぐ……!ハァ……!ハァ……!いえ、まだです……!まだ私のデッキには、『光の天使リフレクトブルーム』があります……!」

デッキトップにあった切り札は、呪術カードによって灰塵に帰した。それでも、決闘者ならば……勝てる可能性が1%でも残っている限り、決して諦めるわけにはいかない。

「ほう?二枚続けて切り札がデッキの一番上に来るなどと、都合の良いことが起こるか否か……見せてもらおう!お主のデスティニードローを!」

「行きます……!私の……!全身全霊の……!」

山札の一番上に手を置いて、ココアはそっと目を閉じる。脳裏に浮かぶのは、双子の姉、ミントとの優しい思い出。


『お姉ちゃん!わたし、UGOの大会で優勝したよ!』

『本当かい?よく頑張ったな、ココア!』

『えへへ……私はお姉ちゃんみたいに、カッコよく戦えないけど……学校を卒業したら、この召喚魔法でお姉ちゃんと一緒に3代目様や光様を御守りしたいなぁ』

『ああ、光様はゆくゆくは4代目ルミナスになられるお方……3代目様も第二子をご懐妊なされた……私たちが彼女たちをしっかりと御守りしなければな!』



(例え、姉さんが……お姉ちゃんがもういないとしても!私は、光様とリムリット様を守り続ける!)

ココアのデッキトップのカードが、強く光輝く。

「ドローーーー!!」

力強く、そんなに振りかぶったらノワールに引いたカードが見えるんじゃないかと思うほど力強く、カードをドローするココア。


「ククク……どうだ?お目当てのカードは引けたか?」

「……私の引いたカードは、『光の天使リフレクトブルーム』ではありません」

「ふ……この状況で目当てのカードを引けぬとは、決闘者の魂が足りぬのではないか?」

「確かに、切り札は引けませんでした……でも、私の引いたカードは……私と姉さんの、アイヴォリー家の誇りのカードです!」

バン!と決闘ディスクにカードを叩きつけるココア。

「守護魔法発動!『光の護衛騎士!』」

「な、なんじゃと!?」

ココアのフィールドに二人の騎士が現れ、主を守るように立ち塞がる。
そう……かつて姉妹で力を合わせ、光やリムリットを守っていた……ココアとミントのように。

「このカードを発動してから2ターンの間、相手プレイヤーは攻撃を封じられます!」

「その間に、『光の天使リフレクトブルーム』を引こうという腹積もりか……小癪な」

ノワールがどんな強力なモンスターを召喚しようと、二人の騎士が健在のうちは決して攻撃できない。
時間稼ぎにしかならないが、ココアが欲していたのは勝つために盤面を整える時間だ。

「私はこれで、ターンエンドです!」

ダメージのフィードバックでボロボロながら、凛とした声を出すココア。
本当に2ターンの間に切り札を引きかねない気概がそこにはある。

「ふむ、ならば……その2ターンの間に終わらせてやろうぞ!わらわのターン、ドロー!」

「何を言っているんですか?貴女は攻撃できない……この状況で、私を倒すとでも?」

「黙って見ておれ……わらわは呪術カード『おジャマヒーロー』を発動!」

『女の子のピンチにはすぐ駆け付けて助けます!』『例え敵でも女性は優しく倒します!』『被害者がオッサンの時はあんまり助けません!』

リョナシーンを邪魔しそうな黒色、黄色、緑色のヒーロースーツを着た3人組が、ココアのフィールドに現れる。

「能力0のモンスター三体を相手の場に召喚するカード?ですから、貴女は攻撃できないと……」

「さらに呪術カード発動!『ボルトサンダー』!相手のフィールドに存在する使い魔を全て破壊する!」

「……!」

「守護魔法カードである『光の護衛騎士』は破壊できんが、お主のフィールドには先ほど送ったおジャマヒーロー三体がおる!」

「『共鳴の刻印』による、ダメージのフィードバック……」

「ご名答!このダメージでお主が倒れれば、その時点でわらわの勝利じゃな?」

「ひ、卑怯な!貴女には決闘者の誇りがないんですか!?」

「リョナリストだ!フゥハハハハハ!!」

天空から、ゴロゴロと雷鳴が響き……雷が、ココアのフィールドにいるおジャマヒーローへ襲い掛かる!


826 : 名無しさん :2018/01/30(火) 19:54:52 ???
「さて、寺瀬光さん……いえ、敢えてエスカさんとお呼びしましょう」

「ぅぐ……私的には、そっちの呼び方の方が馴染み深いんだけど……なに?」

体内に虫が巣食っているような強烈な不快感で身動きが取れないが、会話が聞き取れない程ではない。
エスカは蹲りながら、フースーヤの話に耳を傾ける。

「魔法王国ルミナスはもう終わりです……どうですか?またエスカとして、トーメント王国に来ませんか?」

「はは……まさかの再スカウトか……」

「記憶もないのに、この国に尽くす義理もないでしょう?」

「光ちゃん!聞いちゃダメ!」
「あなた達が記憶を消しておいて……!」

使者の勝手な言い分に水鳥とフウコが怒りの声をあげるが、毒のせいで攻撃に移れない。

「そりゃ記憶はないけどさ、一応この国が私の居場所だったわけだし、裏切るってのはね……」

「貴女の居場所……本当にそうでしょうか?」

「……?」

「僕には分かりますよ……貴女は記憶を失う前から、この国に不満を感じていた……無理して女王を演じていたはずです。でなければ、記憶を失っただけで、そこまで別人になるわけがありません」

「そんなの……」

>>35で考えていたことを当てられて戸惑う光。
皆の言う寺瀬光は明るく、優しく、悪を許さないまっすぐで強い心を持っている魔法少女。
今の自分は仕事も戦いも嫌いな上、少し前まで世界一の大悪人の手下だった。

記憶が無くなっても、元々の性格なんてそう変わるもんじゃない……以前光が鏡花に言ったことだ。
それなのにかつての光と今の自分が別人なのは……かつての自分は、無理してお姫様を演じていたから……



「いい加減にしてください!光は……光ちゃんは、ルミナスの魔法少女です!あなたたちの仲間なんかじゃありません!」

使者が光を言い包めようとしているのを見て、水鳥は毒の苦しさも忘れて叫ぶ。
光が以前と別人のようになっていることは水鳥だって分かっている。それでも、光は光だと思い、これまでと変わらず接してきた
だからこそ、目の前の使者や、かつて成り行きで共闘したスピカのリザが、光を光ではなくエスカとして扱うことが我慢できない。

「ならばなぜ、彼女の記憶は戻らないのですか?」

「それは……!あなたたちの王が、念入りに記憶を消したから……!」

「ルミナスの聖石、セイクリッド・ストーンの魔力を浴びても尚、ですか?」

「……!どうして、それを……!」

「貴女たちは、試せる手段は全て試すでしょう……簡単に予想できます」

「ぐっ……!」

光がルミナスに帰還した後、セイクリッド・ストーンの魔力での治療は真っ先に試みたことだ。
結果は言わずもがなだが。

「記憶が戻らないのは、エスカさん自身がそれを望んでいないからじゃありませんか……?もしも記憶が戻ったら、また立派な4代目女王を演じなければならなくなるから……」

「わ、私は……エスカは……」

「貴女と僕は同類だ……だからこそ、殺さずにスカウトしているんです……窮屈な正義を捨て去って、共に自由な悪として生きてみませんか?」

トーメントの使者はそう言って、自らの手を差し出す。光は、理性ではその手を取ってはいけないと分かっていながら、振り払えないでいる。


827 : 名無しさん :2018/01/30(火) 19:56:06 ???
(このままじゃ、光ちゃんが……!ルミナス王国が……!)

光がスカウトを受け入れなければ、使者は光を殺すだろう。スカウトに応じてしまったらもっと最悪だ。
謁見室では今も戦闘が続いているだろう。水鳥は仲間を信じているが、苦戦は免れないことも分かっている。

このまま自分たちが殺されて、使者までリムリットたちの所へ行ってしまったら……この国は終わってしまう。

(そんなのダメだ……!私が、みんなを守らないと……!)

水鳥は歯を食いしばって、何度も魔法を放とうとする。だがその度に、体内を棘の生えた大量の小さな虫に這い回られているような感覚が強くなり、集めた魔力が霧散する。

(カナンさん……虫のいいお願いとは分かっています……でも、どこかで私たちのことを見守ってくれているなら……!お願いです!力を……貸してください!)


水鳥の片耳に着けられたイヤリング……それが今、オレンジ色の優しい光を放ち、水鳥の身体を包み込む。
すると、水鳥の全身を覆っていた不快感が和らいだ。

「……!スプラッシュ……アロー!」

心の中でカナンへ感謝を述べることも忘れて、大急ぎで魔力を練って攻撃を放つ水鳥。

「ぐっ!?」

水鳥の放ったスプラッシュアローは、油断していた使者の仮面を掠り、半壊させた。

「水鳥ちゃん!?凄い……!」

「はぁ……!はぁ……!顔を、見せてください……!フェアじゃありませんよ……!」

使者が毒で自分たちの身動きを封じた際に、フェアなやり方ではないと言っていた意趣返しをする水鳥。
形成逆転……とまではいかないが、圧倒的劣勢は抜け出した。
逆に圧倒的優勢を覆された使者は……突如笑い始めた。

「フ……ハハハハハ……!しょうがないですね……!できたらバレたくなかったんですが」

「え?う、嘘……その声は……!」

仮面が損傷したことで、ボイスチェンジャーも故障した。今、彼は肉声で喋っている。

トーメント王国の使者は、ゆっくりと振り返る。彼の半壊した仮面が、少しずつずれ落ちていく。素顔が露になっていく。


「どうして……フウヤ……!」


828 : 名無しさん :2018/01/31(水) 03:15:21 ???
ところ変わって、港町オヴォレサスからミツルギに向かう船上では…

「よーし。いったん休憩!」
「ぜー……はー…」「…は、はい……し、しんどー…」
「御疲れ様、唯ちゃん瑠奈ちゃん。怪我の治療するね!」

唯と瑠奈は、「竜殺し」のダンの指導の下、船の上で修行を行っていた。
もちろん本気で組手などをやると船が壊れてしまうので行えない。
特訓メニューは主に船上でも出来る基礎訓練、あるいは海上、水中で出来るような…とにかく色々である。
詳細は割愛するが、ダン曰く「ミツルギに着くまでに出来る限りの事はしてやる」との事だ。

「…そっかー。唯ちゃんも、回復魔法はココアさんに習ったんだ」
「うん!教え方上手いよね、ココアさん……おかげで何度も命拾いしてるよ…!」
「ふふふ、私たちだけじゃないよ。水鳥たちも、他の子たちも…回復魔法に関しては、
…今の魔法少女のほとんどは、ココアさんの生徒みたいなものだから」
「そうかー。すごい人なんだね、ココアさん…」
「でも、そんなに短期間で覚えられたなんて…唯ちゃんも、ヒーラーに向いてるんじゃないかな?
この分ならきっとすぐ、上位の回復魔法も使えるようになるよ!」
「ははは……じゃあ鏡花ちゃん、あとで教えてね。これから先も使う機会多そうだし…」

……………………

「…っうあ"あ"あ"あ"あ"ぁぁぁぁあああああっッ!!!」

魔の雷が、白き聖女を三度焼いた。
焼け落ちた花畑の中で倒れたココアは、絶叫しながらのたうち回っていたが……やがて、ゆっくりと上体を起こす。
…元は純白だった法衣の無惨な焼け焦げが、その凄まじい威力を物語っていた。

「…………ま……………ま、けない………私、は……」
「クックック……おジャマヒーロー三人分の雷を受けて、まだ息があるとは驚いたのう。
じゃがその様では、もはやロクにカードも引けまい。どれ……わらわが代わりに引いてやろう」

「!?…や、止めなさい……さ、触らないでっ…!!」
決闘者の命とも言えるデッキを、あろう事か対戦相手のデッキを勝手に引くなど、暴挙を通り越して最早UGOそのものに対する冒涜。
だが観客も審判もいない闇の結界空間内では、それを咎める者はいない……!

「クックック…見つけた。こんなデッキの奥底に眠っておったぞ……どれ、引きずり出してやろう」
ココアからデッキを無理やり奪い取り、カードの順番さえも無視して、目当てのカードを抜き取った。そして。

「魔導具カード『闇の衣』を使用……さあ我が前に出でよ、『闇の天使リフレクトブルーム』。…わらわの僕として…!!」
「そ、そんなっ……の、ノワールっ…貴女という人は、どこまでっ…!!」
ノワールは禁止カードの力を使い、リフレクトブルームを強引に自らの下僕として召還する。
その姿は…黒い髪、黒い衣、黒い翼…かつて鏡花がノワールに乗っ取られていた時の姿に酷似していた。

「さて……つい一通り覗き見てしまったが、残りのカードは見事にクズばかりじゃったのう。
後はお主を嬲り殺しにするだけじゃが……まだ続けるか?」
「っ……………ま、まだ……です……勝負は、最後…まで…」
「ふん。見苦しい…そうやってわらわを足止めした所で何になる。
今のルミナスにいる『残りカス』の『クズども』がどう足掻こうと、皆殺しの結末は変わらぬ……諦めよ。魔法王国は終わりじゃ」
「……そんな事……ありません。
あの子たちは……クズでも、カスでもない…私は……私は、ずっと……」


829 : 名無しさん :2018/01/31(水) 03:24:52 ???
「…………あ、あれ…私…」
………シャンデリアに圧し潰された名もなき魔法少女は、温かい光の中で意識を取り戻した。
「い、生きてた……ううう、よかったよぉ…」
「回復魔法が間に合って良かったわ……立てる?」
泣き出しそうな顔の親友と、優しい先輩の顔が視界に飛び込んでくる。

「あらあら…まだあんなに生き残ってたなんて。ゴキブリ並みの生命力ですわね」
闇に落ちた鋼の魔法少女フェラムが、生き残った少女達を一瞥し……すぐに本来の獲物、ウィチルとリムリットの方へ向き直った。

「ギチギチギチギチッ!!!」
代わりに彼女の魔力で動く自律動作型殺人シャンデリアが、巨大な毒蜘蛛のように金属脚を蠢かせて少女達に襲いかかる!

「あのシャンデリアは、私が引き付けるわ…
二人とも、回復魔法は使えるわね?生き残った子を探して、治療して!」
「「はいっ!!」」

………………

「私は、ずっと見てきた。あの子たちを……この国の未来を背負う、たくさんの魔法少女達を。
一人一人の力は小さくても、悪に屈しない強い心を、あの子達は持っている……」
……闇に染まりかけた結界の底で、無数の魔物に囲まれ、ボロボロになりながらも…ココアは立ち上がった。

「だから私も……自分の役目を果たす。……ノワール!ここで貴女を倒します!」

『光の護衛騎士』の効果は消えかかっていた。これが最後のチャンスになるだろう。
ココアは再び瞳に闘志をたぎらせ、デッキから一枚のカードをドローした。

「もう一人の女王…『アナザー・ライト・クイーン』召喚…!!」
白い髪に紅い瞳、フリルの付いたかわいらしいドレスを着た、可憐な妖精が召喚された。
「能力値が低い代わりに、相手プレイヤーへの直接攻撃能力を持つカードか…
…じゃが、今更そんな雑魚で攻撃した所で、このわらわを倒せるとでも……」

取るに足らない雑魚使い魔……だが、ノワールは嫌な予感がした。
かつて自分を封印した忌まわしい魔法少女に、その容姿がどことなく似ていたからだ。

「まだです…魔法カード『託された想い』。
直前に召還された『私の』使い魔を消滅させ、代わりにその能力値を別の使い魔に加算」
「何じゃと……まさか『光の天使リフレクトブルーム』を……!!」

闇の衣をまとった天使が、消滅していく。
『光の天使リフレクトブルーム』は、ココアのデッキから無理やり奪われてノワールに召喚された。
だがルール上は、あくまで『ココアの』使い魔として扱われるのだ。

「『アナザー・ライト・リフレクトブルーム』……ノワールに直接攻撃!!」
天使の翼を纏った妖精が、光の弾丸となってノワールの身体を貫いた!

「ぐ……はっ……!!……おの、れ……だがこれしきの事で、わらわは……」
「魔法カード『疾風の連撃』で……っぐ……さらに、攻撃っ!!」
……使い魔に連続攻撃を行わせる魔法カード。
強力すぎる威力の代償として、体力と魔力を大幅に消費する。

ココアは最後のチャンスが来ることを信じ、手札に攻撃用の魔法カードを集中させていた。
もちろん、手札を直接破壊するカードもノワールは持っていたはず。
ココアはノワールの気を反らすため、多くの使い魔を召喚し、敵の攻撃を誘い、罠を仕掛けさせた。
共鳴結界によって己の身にダメージが降りかかることは、もちろん承知の上で。

「おのれ小娘っ……この『漆黒の魔女』ノワールが……貴様…ごときに…っ!!!」
「お願い、もう少しだけ………最後まで、持たせて……『疾風の三連撃』ッ!!」


830 : 名無しさん :2018/02/03(土) 12:54:38 XP7fIqp.
「フフフフ……完全屈服させられた気分はどう?かわいいコルティナちゃん。」
「がはっ……っあ゛、うぅ……」
(やば……変身……解けちゃう……!)
体力の低下によって自らの魔力を維持することができず、魔法症状ミッドナイトヴェールの纏っていた夜空のような美しいワンピースは、弱々しい光を放ちながら消滅した。

「そ……そんなぁ……!」
「フフフ……絶望一色に染まった貴方の顔……社会のクズにしては上出来だわ。もっともっと虐めて嬲って氷漬けにしてやりたくなるわねぇ……!」
「ぐ……うぅ……お、お願い、シュリヤ……!ルミナスのみんなのことを、ちゃんと思い出して……あ、あなたは、ちょっと近寄りづらいところがあっただけだよぉ!」
「フン。今更思い出すことなんか何もないわ。産業廃棄物の命乞いなんて聞く価値もない……」
満身創痍の体で息も絶え絶えに言葉を紡ぐコルティナの股間に、シュリヤはそっと足を置いた。
「ね、姉様。さ、さすがにソコは……」
「リッテ。あなたは尊大な口調の割に優しすぎよ。やるならちゃんとやりなさい。」
「あうぅ……そ、そこを突かれるとリッテは弱いのです……」
リッテがキャラ付けに必死なのは、気弱な性格を隠すための行動であることをシュリヤは知っていた。
「そして、敵相手に情け容赦など不要。ゴキブリを殺すのに躊躇う必要があるかしら?」
「や、姉様の場合はゴキ◯ェットを使えばいいところを、大型ブルドーザーで処理してしまっているのでは……」
「……リッテ。まだ口答えするなら、あなたも同じ目に合わせましょうか?」
「わ、わわ!リッテ、お口ミッフィーちゃんになります!んー!んんー!」
必死に目と口を閉じて声を上げるリッテに、バカな子、と言ってからシュリヤはコルティナへと向き直った。
「さぁ、お仕置きを再開しましょうか。哀れなコルティナちゃん。ウフフ……」
(や、やばい!死兆星がこの目で見える!な、な、なんとかして時間を稼がなきゃ……!)

「も、もうやめてぇ……シュリヤはそこまで捻くれてる性格じゃなかったはずだよぉ……」
コルティナは「泣きそうな声を出して精一杯目をうるうるさせながら、なんとかして情に訴える女子力全開大作戦」を全力で敢行した。
「ククク……アイスツヴァング!!」
「え……きゃあッ!?」
そんなコルティナの努力もむなしく、彼女の腕と足は氷によって拘束された。
ひんやりという感覚どころか、突き刺すような寒気がコルティナの感覚を支配し始める。
「ひ、ひゃ!つ、冷たあぁッ!」
「さて、動けなくなってもらったところで……胸か股間か、どっちを責めるか迷いどころね。」
「ね、姉様……!リッテ、えっちなのはいけないと思います!!!」
叫ぶリッテを無視して、シュリヤは氷の槍を魔力で精製し、コルティナの鼻先へと突きつけた。

「さぁ……社会のクズをきれいさっぱり掃除してあげましょうか。」
(ま、ま、まじ?わ、私、こんなメインキャラみたいな扱いで殺られちゃうの……?い、いやあぁ……!)


831 : 名無しさん :2018/02/03(土) 16:21:46 ???
それから20年後、高度経済成長とIT化によって誕生した魔法企業ダイグラヌでは一つの問題が起こった。
「ダメだ、俺の中のハートが響かん」
高力の豪傑たるハドウル、彼は会社の傍流が皆の荒れん心を木偶の坊にしていることに嫌気がさした。
白髪の雄麗がコーヒを出しながら一言
「小指でも舐めて落ち着いてよハドウル〜♪」
彼の名はジェンシー、名前通りの妖妙さがあるのは偽名だからである。本名不詳。
ハドウルが机に広がった新聞紙を豪握で机ごとクレーターを作る勢いで拳を振り下ろした。
「どうして全員召すのだ!?」ハドウルは上半身裸であった。
首にネクタイを下げているが、それ以外の布はない。
下半身は世間体を気にしてかリクルートのずぼんである。
その筋肉内部の爆発的代謝を抑えんといきり立っている、ギンギンだ。
心臓の鼓動に合わせて大げさに肩甲骨付近の人が見て一番美味を感じそうな肉が脈動のテンポで収縮をしている
彼は第3工場(タロタソン)の管理長・マネージャーマネージャとかいう新興企業がのりで作ったなぞの役職だ。その任に5年以上もついてる。
「君しか嬉しくないからだよ」
ジェンシーはそう言いながら非力青年の体躯で下半身はローブを上半身剥いた状態だ。
体をなどって輪郭をハドウルに強調しているあたり、彼も得してそうだ。
ハドウルが画策した「物理攻撃力アップキャンペーン」はその効果性が認められて社内全体で採用された。
肉体的労働災害を抑えるために肉体のベースアップを図る、ためにまず魔力を帯びた布を最低限のなりを保つ以外取っ払おう、という施策だ。
だがタロタソンでは執行初日から長のハドウルと筆頭マネージャーのジェンシーしか則らなかった。
皆ブルーカラーでベルトコンベアの段ボールを一つ一つ広げて魔集音発生楽器を取り出し検品している。
そこから右に続くベルトの大河は楽器に対して全長二メートルのセラミック性外骨格を取り付け、
脚部凛音反響ホバリング装置にのせ、
魔響ゴーレム「マイザック」を量産するという流れだ。
タロタソンの最終出荷物は国へ魔法軍備として奉納され見返りにそれ相応の誠意が払われる。
その構成物質たる工場労働者はハドウルの眼光で生産効率30%ダウンを知りながらも布を纏うことを選んだのだ。


832 : 名無しさん :2018/02/04(日) 17:08:03 ???
「……っぐおおおおおおおおおおおおおおあああ!!!」
妖精の戦士の放つ光の刃が、黒衣の魔女の腹を貫くと、闇色の血と共に空間全体を揺るがすような凄まじい断末魔が響き渡った。

「…こんな、ばかな……たかが小娘ひとりに、この私が……」
「我が姉ミント・ソルベットの……お前に苦しめられた沢山の人々の無念。
…今こそ思い知りなさい!黒衣の魔女ノワール!!……出でよ!<浄化の光>!」

<ビショップ・オブ・アイヴォリー>が全ての力を込めて作り出した白い光の渦が、魔女の闇の衣を引き裂き、呑み込んでいった。
決闘空間が消失し、元の場所……未だ戦いが続く王の間へ、二人の身体と魂が送り返された。
一人は、一糸まとわぬ姿のまま意識を失い倒れる、依り代の少女サキ。そしてもう一人は……
(わたし……やった…よ……お姉……ちゃ……)
文字通り生命力の最期の一滴までを使い果たし、その場に崩れ落ちるように倒れる、ココア・ソルベット。
心臓の鼓動は弱く、更に弱く、ゆっくりと…全ての役目を全うしたかのように、その動きを止めようとしていた。

………………

「ココアさん!ココアさん!……目を開けてくださいっ!!…」
「………や、やっぱり私たちじゃ…こんな大けが、初級回復魔法じゃ治せないよ」
「生命力も……魔力も、ほとんど感じない…このままじゃ…」
「諦めないで…もう一度やろう!」「うん。今度は全員で…」

『『ちちんぷいぷい!!』』『『いたいのいたいのとんでけ!!』』

………………

「あ…………私……」
「……おはよう、ココア」
次にココアが目を覚ますと、そこは自宅のベッドの上だった。
目の前に姉、ミントがいつもと同じ優し気な微笑みを浮かべている。

「私…夢、見てました……とっても、怖い夢……姉さんが…悪い魔女に、殺されて……みんなが、ひどい目に合わされて」
「………そうか。…朝食でも食べながら……ゆっくり、話そう。お前の話を……たくさん聞きたいんだ」
「うん……お姉ちゃん」
いつもと同じ朝。なのに何故か、ココアの目からは涙が溢れてきて止まる事がなかった。

………………

そして………

「う……げ、ごほっ!……が、はっ…!!」
戦場と化した王の間、石畳の上に横たわり、ココアは血の塊を吐き出した。
苦し気に呻いているが、それはすなわち、死に瀕していた彼女が呼吸し始めた事を意味している。

「あ、……私……一体…」
「やったー!!ココアさん、目を覚ましたああ!!!」
「ううう……良かったよぉぉ…」
ココアの周りには、何人もの魔法少女達が涙を浮かべていた。
その一人一人の顔を、ココアは覚えている。かつて彼女が回復魔法を教えた教え子であり、今は…かけがえのない戦友。

「静かに!敵はまだ残ってるよ!この場に一人残して、4人は私とシャンデリア退治に加勢!残りは引き続き生存者探し!」
「らじゃー!」「了解!」「誰が残る?」「私!」「あ、私もココアさんと居たい!」
「私だって!」「もう、ここは公平にジャンケンで…」「そんな時間あるか!…じゃ、お前な!」
「やったー!」「えええ!いいなー」「文句言わない!みんな、行くよ!」「あいあいさー!」

無傷の者は一人もいない。鋼鉄の魔物が王の間を暴れまわり、少女達はその対処に追われていた。
それでも多くの少女達が、自分を蘇らせるために力を注いでくれた事に気づき…
ココアは深い感謝の念を覚えると同時に、自らの命を顧みていなかった事を恥じた。

「お姉ちゃんに……叱られて、当然ですね。まだ私には出来る事が…やらなきゃならない事が、たくさんある」

…魔法少女達の苦闘はつづく。だが彼女たち一人ひとりに、諦めない強さ、癒しの光、正義の心が、確かに受け継がれている。


833 : 名無しさん :2018/02/04(日) 17:14:43 ???
「クックック…御覧なさい。これが罪深い哀れなクズを処刑する、
氷の女王の断罪槍<グラキエス・クリス>……コイツを貴女の股間にブチ込んで、処刑してあげるわ…!!」
「!!……あ、や、やだ、やめて……それだけは……ひっ……!!」
シュリヤは不気味な笑みを浮かべ、不気味に高速回転する氷の槍の穂先をコルティナの股間にあてがう。
先端から発される異様な冷気が内股や股間からも感じられ、コルティナは思わず恐怖に身をすくめた。

「ああ……魔力を焼き尽くされて、変身も解除されて、ただ殺されるのを待つだけの哀れなコルティナさん…とっても素敵です。
ほら、見てください。コルティナさんの美しい透き通るような水色の髪が、私のくすんだ亜麻色の醜い髪に絡め取られて、まるで淫らなダンスを踊っているかのよう。……フフフフフフ」
「ひっ……い、や……」
(あああ…吐息がうなじに当たる……髪弄られてるだけなのにすっげえ気持ち悪い………やっぱ、目立つと碌な事ないよ…)
アコールも、コルティナの背後で不気味な笑みを浮かべながらコルティナの髪を弄んでいる…
シュリヤの怨念じみた憎悪とはまた別種の絡みつくような怖気を感じてコルティナは震えあがった。

その時……

「クリア・ブラスト!!」
「……なっぐ!?」
死角から飛んできた無属性魔法が、氷のエリート魔法少女シュリヤの頬を叩く。

「……が、は………げほ、げほ……!!」
…コルティナへの集中攻撃が一瞬止み、魔法が飛んできた方向にアコール、リッテ、シュリヤの3人の視線が集中する。
そこに居たのは……あの二人だった。

「ナナシー・ノモーブ……またの名を『魔法少女ヴォイドキャスター』!」
「…そして私は、タンナ・ルザッコ!人呼んで魔法少j」
「あら…生きていたの。名無しの雑魚コンビ」
「しぶとい奴らよ…我が闇の炎で消し炭にしてやったというのに」
「私のコルティナさんの公開凌辱処刑ショーを邪魔するつもりですかぁ…?」
両者の間にピリピリとした緊張感が走る。…中でもシュリヤの怒りは特にすさまじい。

「あ、あんた達……どう、して……」
「ココちゃん先生に回復魔法習っといてよかったわ…」
「いや、この後もう一回ボコられると思うと、あんまよくないかもだけど」
二人は敵がコルティナに気を取られているうちに、逃げようと思っていた。だが…出来なかった。

「回復魔法…?……あんなの魔法少女学校の授業で一度習ったきりで、使った試しがないわ。ザコのくせに勉強熱心な事」
「くっくっく…そういう事よ。我らエリート魔法少女が、戦いにおいて傷を負うなどありえぬ!」
(ええ……たった今負ったじゃん)
と思うコルティナであったが、とばっちりを受けそうなので口をつぐむ。

「は?…おいおい。アタシらの知ってる魔法少女学校とだいぶ違うな」
「ライカさんの地獄の特訓でブチのめされて、ココアさんの回復魔法で癒されて、
そっから『ちちんぷいぷい』習うっていう鉄板ルートを通ってないとか…」

「エリートかなんか知らないけど、そんなんで『魔法少女学校を首席で卒業しましたー』とかドヤ顔されたって、ちゃんちゃらおかしいってもんだぜ!」
「だね!なんか勝てそうな気がして来たわ!…ナナシー!マメに回復しながらちまちま攻撃してくよ!」
「おっけータンナ!名無し雑魚コンビの底力……見せてやろうぜ!」


「…言い残すことはそれだけかしら?…回復魔法なんて何年かぶりだけど、使えないとは言ってない。この程度の傷『はっ!』で治るわ」
「ふざけた奴らよ……所詮雑魚は雑魚、格の違いを思い知らせてやるわ」

((…あ。これ、やっぱ無理かも………))


834 : 名無しさん :2018/02/05(月) 23:40:36 ???
「フウヤ……!貴方まで操られてたなんて……!」

「確か、フウコちゃんの弟のフウヤ君……」

トーメント王国の使者の正体が、フウコ・トキワの弟、フウヤ・トキワであることを見て驚愕する二人。
そんな二人を見て、フウヤ……フースーヤは複雑そうな顔をつくる。

「やっぱり、そういう誤解されますよね……」

そう言って、フウコと水鳥の方へ歩き出そうとするフースーヤ。

「来ないでください!いくらフウコちゃんの弟とは言え、操られている以上……」
「いいえ、操られていませんよ」

その行動を制するように声をあげて弓を構える水鳥。それに対しフースーヤは立ち止まって両手を広げることで応じる。

「種明かしをすると、カレラさんやフェラムさんはダークアウィナイトで操っているんです」
「……え?」
「捕虜を解放すると言えば、流石に多少は警戒されるでしょうが、それでも簡単に王の間に刺客を送れますからね。首脳陣を暗殺するのに、これほど有効な手はありません」
「フウヤ……?何を言ってるの……?」

ずっと心配していた双子の弟との再会。
だがフウヤは、明らかに様子が変わっていた。

「僕はもうルミナスの敵なんだよ、姉さん」

その言葉の直後、フウコの身体にさらなる激痛が走る。

「っう、あぁああ゛あ゛あ゛あ!?」

「フウコちゃん!?」

「話してる間に、ポイズンクラウドの毒を風で運んで姉さんに吸わせたんです……放っておくと死にますよ」

「そんな……なんでそんなことを……!」

「水鳥さんに効かないのは、そのイヤリングのせいですかね……対策されると戦いにくいのが、毒使いの辛いところですね」

「……!貴方は……!」

「ぅ゛……ふう、や……」

激昂する水鳥だが、必死に弟へと手を伸ばすフウコを見て、冷静さを取り戻す。

「……フウコちゃん!これを!フウヤ君を救えるのは、フウコちゃんだけだよ!」

自らを毒から守っているイヤリングを外し、フウコに着ける。その途端、水鳥の体内を虫が走り回る不快感が蘇るが……フウコは毒から解放された。

「くっ!?」

「水鳥ちゃん!?」

「わ、私のことはいいから、フウヤ君を……助けてあげて……」

魔法少女の美しい事故犠牲。それを見ても、フースーヤはつまらなそうな顔をするだけだ。

「助けてあげる、ですか……自分の意思でトーメント王国に寝返った僕には、余計なお世話ですね」

「フウヤ……目を覚まして……貴方は操られてるの……!」

フウコは涙ぐんでいる。生まれた時から一緒にいるフウヤを心から案じているのだ。

「止めてくれ姉さん……貴女は知っていたはずだ。僕が毒が得意な上、男なばかりに……この国で浮いていたことを」

「フウヤ……!でも、貴方は……!」

「何を言うか色々考えてたけど、もういいんだ……理由なんてもうどうでもいいんだよ姉さん……僕は知ってしまったんだ……女の子をリョナる悦びを!」

フースーヤが手を振るうと、再び毒が周囲を満たし……水鳥と光は悲鳴をあげる。

「あああぁんッ!!」「ゔぐぅッ!!!」

「水鳥ちゃん!ヒカリ様!」

「毒使いが認められなくて悔しいとか!姉さんが僕が女の子だったらよかったのにって母さんに言ってたのを聞いて辛かったとか!そんなチャチな理由、この愉しさの前ではどうだっていい!」

「っ!?フウヤ、聞いてたの……!?待って、私は、そんなつもりじゃ」

「毒が効かないなら、通常の風魔法で痛めつけてあげるよ!姉さん!」

フウコの必死の呼びかけにも応じずに、フースーヤはフウコへ襲いかかった!


835 : 名無しさん :2018/02/07(水) 10:01:36 dauGKRa6
「疾風斬滅!ウィンドブレイド!」
「くっ……!ストームバリアー!」
フースーヤの放った風の刃を、風のバリアで防ぐフウコ。
バリアーの外側で風が斬り上げる凄まじい音が響いたが、なんとか攻撃を防ぐことはできた。
「フウヤ……!いい加減にしなさい!一体自分が何をしているかわかっているの!?」
「今頃姉の威厳を振りかざしたって、遅いんだよ姉さん!エアスラッシュ!」

風の中級魔法、エアスラッシュによって突如空間に暴風域が現れ、フウコへと迫る!
「フ、フウコちゃん!危ないよ!」
(な、なんて大きさの魔法……!回避するにはこれしか……!)
「ウィンドブロー!!」
自身で生み出した風に乗って飛び、フースーヤの魔法を回避するフウコ。
風魔法は即効性のある魔法が多く、風魔法の使い手同士の戦いは、反射神経が勝負を分ける。
攻撃するか、受けるか、回避するか。
一瞬の判断が命取りとなる攻防が、姉と弟の間でしばらくの間繰り返された。



「やるじゃないか、姉さん。強くなったのは僕だけじゃないってことが分かって良かったよ。」
「フウヤ……お願い、目を覚まして。あんなに優しくて朗らかだったあなたが、どうしてトーメントの兵士になったの?一体、何があったの……?」
悲痛な声でフウヤに語りかけるフウコ。実の弟とは戦いたくない……こんな状況とはいえ、心優しいフウコは未だにフウヤのことを敵として認識できていないようだった。
「さっきも言ったじゃないか。僕は目覚めたんだよ。綺麗で可愛い女の子が痛がり、泣き、恐怖し、絶望する姿……それが何よりの至高の愉悦だっていうことにね。」
「フ……フウヤ……そんなことをしたいがために……こんな戦争を仕掛けたっていうの?」
「まあ、大目標はルミナスの支配だけど……それをするには姉さんたち魔法少女に地面を舐めてもらわないといけないから、結局同じことかな。」
さも当然のように言葉を発するフースーヤに、フウコは驚きの表情を隠せなかった。
変わり果てた弟の姿への驚愕ももちろんだが、弟をこんな姿にしてしまった自分への自責の念が、フウコの心を深く傷つけてしまったのだ。

「クックック……姉さんにも見せてあげるよ。リョナってやつを。」
「……え?」
フースーヤが手を挙げると、再び水鳥と光の元に毒が発生した。
「やっ!?あああぁんッ!!」
「ひうっ!?きゃあああ!!!」
「ひ、光ちゃん!水鳥ちゃん!!」
先ほどの毒よりも強いものらしく、2人は倒れたまま体を大きく仰け反って悲鳴をあげた。
「これがリョナだよ姉さん。エスカさんや水鳥さんのような美しい女の子が悶え苦しむ姿……耐え難い苦痛によって喉から絞り出される悲鳴。終わらない恐怖に怯える表情……性的興奮を覚える人もいるみたいだけど、僕は違う。」
「フ……フウヤ……あなたは……」
「僕はね、姉さん。リョナは立派な芸術の1つだと思うんだ。その場限りの性的興奮なんかじゃなくて、世の中に広汎するべき心を満たす芸術の1つとして認識してる。そうだな……美術館や博物館に僕たちが求める、知識欲求や芸術鑑賞と同じなんだよ。……ねえ、わからないかなぁ?」

フウコには、弟が何を言っているのか分からなかった。
同じ言語を使っているのかも分からなかった。1つ屋根の下で一緒に暮らしていた記憶すら怪しんだ。

「あなたは……本当にフウヤなの……?あなたは……誰なの……?」
「フ……都合のいい現実逃避か。まあそう言ってくれた方が、僕も姉さんを遠慮なくリョナれるよ。……ストリームスラッグ!!」
フースーヤはさらりと言い放った後に魔法を発動させ、右手をフウコに向けて風の弾丸を放出した!!


836 : 名無しさん :2018/02/07(水) 18:52:24 ???
ストリームスラッグ。連続して風の散弾を発射する上級魔法である。

単独では中級魔法までしか扱えないフウコに、その攻撃を防ぐことは不可能。だが、ここでフウコが回避すると、散弾は大きく広がり、毒で苦しんでいる水鳥や光にも当たりかねない。

「くっ……!ストームバリアー!」

結局、フウコに出来るのは、散弾を正面から受け止めることだけであった。

「姉さん、僕の言ってることってそんなにおかしいかな?ジャンヌダルクが聖女と呼ばれるのは火炙りにされたからだし、イエスキリストが神なのは磔にされたからだよね?」

「ぅ、うう……!くっああ!!」

「カナン・サンセットも、最期が十輝星を巻き込んだ自爆でなかったら、きっと銅像は造られなかった」

風のバリアーでは散弾を完全に防ぐことはできず、障壁を突破した弾丸が1つ、また1つとフウコの身体を打つ。

「人は人の苦しむ姿にこそ神秘性を感じる。それは最早、一種の芸術なんだよ」

そんなフウコの苦悶を意に介さず……否、むしろ悦びながら、一人言のように言葉を紡ぎ続けるフースーヤ。

「もっと見せてよ、聞かせてよ……姉さんの苦しむ顔を!悲痛な叫びを!」

「っきゃあああああああああ!!?」

風のバリアーが破壊され、フウコの身体は風の散弾に晒される。




一方その頃、カリンとライカはカレラと戦っていた。

「フレイムバースト!」
「ファイアボルト!」

二つの炎弾がぶつかり合うが、そこは上級魔法と下級魔法……カリンの炎弾は一瞬でかき消される。

「おわ!?あ、あっちちち、あっち!」

カリンの魔法とぶつかったことで、僅かながらもカレラの魔法も勢いを落としていたからか、大急ぎで飛び退いたカリンに目立った外傷はない。

「ふふ……そんなに体勢を崩しちゃ、次が避けられないわよ」

余裕綽々でカリンに追撃を仕掛けようとしたカレラの頭上を、フッと影が覆う。

「アタシを忘れてもらっちゃ困るぜ!」

高く飛び上がったライカが、カレラに飛び蹴りをしかけたのだ!
しかしカレラはその飛び蹴りを避けようとせず、両手でライカの足を押さえにかかった。

「さっきのが随分効いてるようねぇ……動きにいつものキレがないわ……はい、プレゼント♪」

「しまっ……!」

カレラの呪いのアクセサリーを足につけられてしまうライカ。
その危険性をライカも認識してはいたが、今の怪我では飛び蹴りくらいでしか勢いのある攻撃ができなかった。

「足が使えなくなったら、格闘家は終わりよ……ね!」

そのまま、無防備なライカの腹部へと、回し蹴りを放つカレラ。
しかもただの蹴りではない。水着回の時と同じく、カレラの足には「インパクト・クォーツ」が六点挿しされているのだ。

ドガァァン!!

「ぐああぁあぁあ゛ぁ゛あ゛!!」

「ライカさーーん!!」

カレラの回し蹴りを受けて吹き飛ばされるライカ。そのまま、謁見室の壁へと激突してしまう。


「ふぅ、これで今度こそ潰せたでしょ……それにしても」

回し蹴りの姿勢を優雅に元の体勢に戻してから、カレラは両手をグッ、パ、グッ、パと開いたり閉じたりする。

「今の蹴りの威力は中々だったわね……おチビちゃんを庇って怪我してなければ、私がやられてたかもね」

「わ、私の……せい?」

「そうね、まぁ気に病むことはないわ……どうせ全員死ぬんだからね!」


837 : 名無しさん :2018/02/09(金) 02:41:02 ???
「きゃああああああっ!!……うっ………っぐ!!……ぅ……」
「フウコちゃんっ!!!」

フウヤの放った無数の風の散弾が、フウコに襲い掛かった。
見えない空気の弾丸がフウコの肩口をえぐり、スカートを斬り裂き、太ももを貫き、血しぶきが風に舞う。

…避けることは出来なかった。避ければ、後方にいる水鳥達に当たってしまう。
だが……

「はあっ……はあっ……はあっ……」
フウコが咄嗟に出したのは、魔法少女エヴァーウィンドの武器である魔導バトン『トワリング・エア』。
高速回転させることで風の魔力が高まり、同時に魔法を防ぐ盾にもなる。
フウコはこの『奥の手』を出して風の散弾を防ぎ、致命傷だけはなんとか免れた。

「ふふふふ……ようやく『それ』を出したという事は…本気になった、って事かな…それでこそ、リョナりがいがあるって物だよ」

悦に入って不気味に笑うフースーヤから目を反らし、フウコは水鳥たちにバトンを向けて呪文を唱える。

「……『クリアランス・ウィンド』!!」
…フウコがココアから習った回復魔法の一つ。清廉な空気を送り込んで毒素を打ち消す『浄化の風』だった。

「水鳥ちゃん、ヒカリさん……真凜さんを安全なところへ。それと……リムリット様をお願い」
「…フウコちゃん!………でも…」
「水鳥……どの道今の私たちじゃ、あいつの毒に太刀打ちできない。…ここはフウコに任せるしかないよ。」
「……わ、わかった……気を付けて、フウコちゃん」
水鳥は嫌な予感がした。一度はこの場を任せたとはいえ……このままフウコに任せて、この場を去ってしまって、本当に良いのか。
だがヒカリの言う通り、自分がこの場に居ても足手まといにしかならない。それは、先程の攻防からも明らかだった。

そしてフウコは、弟フウヤと二人きりに……否。
フウコは一人、王下十輝星の一人「デネブ」のフースーヤと対峙する。

「…毒を打ち消す風か……まったく、姉さんらしい。そんなに僕を否定したかったのかい…?」
「そ……そんな、事は…」
(どうしてなの……声も姿もフウヤなのに……トーメントの奴らと同じ目……すごく、嫌な目をしてる)
氷のように冷たく、まとわりついて来るようなフースーヤの視線。
それは、フウコが以前参加した、トーメント王国との戦いの時の事を思い出させた。

<きゃっ!?何これっ…!!……い、いやぁっ!放してっ!!>
<グヒヒヒヒ!!メガネっ子ちゃんの実戦処女いただきまーす!…さあ、海の中でぼくがたっぷりリョナってあげるからねぇ…>
<りょ、りょな……!?……や、やだっ……カリンちゃん、助け……ごぼっ!?>

あの時…一瞬だけ見た、水面下で妖しく光るあの「目」を、フウコは今でも時々夢に見る。。
「海魔軍団」と称する不気味な魔物に一瞬で海中に引きずり込まれ、冷たい海の底で一方的に嬲り物にされた…
…それが、フウコの初陣の記憶だった。
その後、親友のカリンや水鳥と共に悪夢のような記憶を乗り越え、魔法少女として日々少しずつ成長してきた…そのはずだったが。

「クックック……どうしたんだい姉さん。お友達を逃がした途端に、そんな怯え切った『目』をしちゃって…」

体中が冷たくなっていく。まるで冷たい水の中にいるように。魔法の風がうまく起こせない。……息が、できない。
思えばフウコが一人で敵と戦うのは…戦いの最中に一人きりになったのは、……あの時以来だった。

「一人で戦うのがそんなに恐ろしいのかい?いい気なもんだね……僕はずっと、一人ぼっちだったって言うのに」
「や、やだ………こ、来ない、で」
一瞬。黒い風がフースーヤの身体を包み、その姿を消した。フウコは、その動きに全く対応できなかった。

「…っ!?」
「これが無ければ……毒は防げないんだったかな?」
フースーヤは最小限の動きでフウコのオレンジのイヤリングを外し、屋上から放り投げた。

「もう気にしていないつもりだったけど………憎しみって、やっぱり消えない物だね」
「っ……!!…げほ、げほっ………おぶ!?」
解毒の加護を消失し、うずくまって悶え苦しむフウコの横腹を、フースーヤは思い切り蹴りつける。

「さあ、姉さん…僕の毒の風でたっぷりリョナってあげるよ。…そう言えばあのセリフもまだ言ってなかったし」
「りょ、な………い、いやっ……やめ、て……」

「フウコ姉さん。……魔法少女エヴァーウィンド。僕は、貴女を…告訴する」
仰向けに転がったフウコの腹を踏みつけながら、フースーヤは『毒の散弾』の詠唱を始めた。


838 : 名無しさん :2018/02/09(金) 22:55:43 dauGKRa6
「こ、告訴……?」
「さあ、この至近距離で回避できるかな?姉さん。」
「ま、待って……!やめて、フウヤ……!」

スモッグスラッグ……毒のスラグ団を近距離に放出する術を、フウヤは頭の中で思念詠唱した。
以前にカナンが行ってみせた思念詠唱──頭の中で詠唱を完成させる高度な技術である。
仰向けになっているフウコに跨るようにしてマウントを取ったフースーヤは、魔力が充填された掌をゆっくりと実の姉に向けた。

「……はっ!」
「い、いやあぁッ!!!」
思念詠唱が完了し、フースーヤが掛け声を上げると同時に、フウコの悲鳴が辺りに響いた。
それと同時に掌から毒の弾丸が放出され、フウコの顔面へ──と思われたが、弾丸はフウコの顔のすぐ隣の地面へと、大きな音を立てて着弾した。

「ククク……姉さんをそう簡単に殺すわけがないじゃないか。実の家族に殺される、想像を絶する恐怖に怯えきった顔……リョナに目覚めた時から、姉さんのそういう顔を、ずっと見たいと思ってた……!」
「う、うぅ……!もうやめて、フウヤ……!」
そう言って、フースーヤは自分の顔をゆっくりとフウコの顔へと近づける。
プルプルと怯えきった姉の顔をじっくりと見てから、フースーヤはゆっくりと姉の顔へと手を伸ばした。

「……これは、邪魔だ。」
「あ……!」
フースーヤの手は、フウコの付けていたメガネをゆっくりと外した。
「姉さん……やっぱり姉さんは、眼鏡なんか無い方が素敵だよ。」
「……フウヤ……」
眼鏡を外されたので、視界は悪くなってしまったが……
フウコには、昔と同じ笑顔でフウヤが笑ったように見えた。


839 : 名無しさん :2018/02/10(土) 13:05:26 ???
「……はい、サービスよ♪」
「きゃっ!?あぅ!」

ライカがやられて以降、カリンは一人でカレラと戦っていたが、経験と実力の圧倒的な差は覆せなかった。
両腕に動きを封じるブレスレット『呪縛の琥珀』(プリズン・アンバー)、両足には身体が重くなり大幅に速度が下がるアンクレット『ヘビー・ペリドット』が嵌められてしまっている。


「フフフ……中々いい格好になったじゃない、おチビちゃん?」

四肢の動きを封じられて無様に倒れるカリンを見下ろしながら、カレラは妖艶な笑みを浮かべる。

「ぐぅ……!か、カレラさん!私一人を倒した所で、すぐに他の魔法少女たちが貴女を助け……っが!?」
「黙りなさい」

カリンの言葉を、彼女の右肩を踏みつけて遮るカレラ。
力の弱い魔法少女たちが底力を見せ、戦線を持ち直しつつあるのはカレラも把握している。
本来ならば、見習いに毛が生えた程度のカリンなど早急に倒し、ウィチルと戦っているフェラムを援護すべきだが……

「『大好きで、大切な人達』と力を合わせる魔法少女の心の強さはよく知ってるわ……だからこそ、まずは心を折らなきゃいけない」

そう言いながら、カレラの視線はカリンの片耳……カリンが製作した、オレンジ色のイヤリングに向けられる。

「そのイヤリング、アンタが作ったの?おチビちゃんにしては、よく出来てるじゃない」
「か、カレラ師匠……?」

太陽のような朗らかな笑みを浮かべてカリンを褒めるカレラ。
突然の変化に困惑し、思わず師匠呼びをするカリン。

魔石師の師匠と弟子。ほんの一瞬、二人の関係は元に戻り……


「もう二度と作れないけどね」


カリンの肩を踏んでいたカレラの足が、カリンの利き手……右手を力の限り踏みつけた。


「ぎ!?ぁ、がああああぁああ!!?」

「まったく、情けない悲鳴あげちゃって……シャンデリアに潰された連中に比べればそんなに痛くないでしょ?ほらほら」

インパクト・クォーツが六点挿しされた健脚をグリグリと押し付ける。
カリンの小さな手からは、血がどんどん噴き出してくる。

「カ、カレラさん!止めてぇえ!!手が、壊れ……ああぁあ゛あ゛あ゛あ゛!?」

押し付けるだけではダメだと、もう一度足を振り上げてカリンの右手を踏みつけるカレラ。
傷だらけになったカリンの手からは、骨が見え隠れしていた。

「あーあ、可哀想……もし生き残って回復魔法かけたとしても、後遺症残るでしょうねぇ」

カレラはカリンの懇願にも耳を貸さず、彼女の右手を壊し続ける。

「ドラマでよくあるじゃない?天才ピアニストが怪我をして、日常生活に支障はないけど、もうピアノは弾けません、ってやつ」

「カレラさん……!止めて、ください……!私、カレラさんみたいな魔石師になるのが夢で……!」

「夢を壊された人間の気持ちを、生で聞いてみたかったのよ……ね!」


バキン!!


「あぁあ!?い、嫌……!いやあああぁああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」


痛みではなく、絶望による悲鳴。それが、戦場に響き渡った。


「そう、それが聞きたかったのよ、何より……」

周囲を見回すカレラ。カリンの絶叫を聞いて、こちらに向かっている者も多い。だが、彼女らの動きは目に見えて悪くなっている。

「魔法少女の心を折るのは、仲間の悲痛な叫びだからね」


840 : 名無しさん :2018/02/11(日) 19:03:28 ???
「姉さん、決めたよ……貴女を僕の中で永遠の存在にする」

「……え?」

ゆっくりとフウコの頬に手を添えて、フースーヤは呟く。

「王様の蘇生能力は対象の肉塊1つあれば可能、っていうのは有名な話だけど、逆に言えば肉塊1つ残らずに消し炭にすると、王様でも完全蘇生はできないんだ」

「何を言って……」

「ミントさんもそうだった」

自分と同じ、若草色の髪を軽く弄ぶ。

「ノワールさんに消し炭にされた彼女は、王様の蘇生でも完全には生き返らなかった……人としての形を維持できずに、すぐにバラバラになってしまうんだよ」

フウコは髪が眼鏡にかからないように、ヘアピンで前髪を左へ分けている。フースーヤは、そのヘアピンも取り去った。留められていた髪が、ハラリと重力に従って垂れる。
眼鏡を外して髪も前に流すと、フウコとフースーヤの容姿が大変似通っていることがよく分かる。


「正に生き地獄……彼女はとても苦しそうだった……あの時はまだ、善意だったんだよ」
「フウヤ……?まさか……!」
「王様に言いくるめられて……僕が彼女にトドメを刺した」
「そんな……!」

フウコは絶句した。心優しい弟が、あのミント・ソルベットを手にかけたというのだ。

「あれは、僕の人生で最大の、最高の瞬間だった……少しずつ弱っていくミントさんを、死ぬまで殴り続けたんだ」
「やめて……」
「美しい女性を殴ることがあんなに楽しいって思わなかったよ」
「もう……やめて……!」
「リョナというのはなんて素晴らしいんだろう。僕を認めなかったルミナスや姉さんなんて裏切って、この素晴らしさを広めなきゃいけないと」

「もうやめてフウヤ!!そんなこと聞きたくない!聞きたくないよ!!」

気づけばフウコは泣き叫んでいた。昔と変わらない笑顔で、同じ声で……変わり果てた思想を語ってほしくなかった。
「聞いてよ姉さん……ミントさんは僕がトドメを刺した……もう王様にも蘇生できない……彼女の存在を消したのは僕なんだ……そう思うと、とても満たされた気分になるんだ」
「フウヤ……ココアさんが、どれだけミントさんを心配していたと思って……!」
「でも、僕はトドメを刺しただけだ……彼女を粉微塵にして蘇生を封じたのは、ノワールさんだった」

フウコの糾弾を聞いているのかいないのか、フースーヤは言葉を続ける。

「僕自身の手で、姉さんを王様でも蘇生できないように完全に殺す……そうすれば姉さんは、僕の中で永遠になる」
「ひっ!?」

頬や髪を弄っていたフースーヤの手が突然、フウコの首にかけられる。

「だから……さよならだ、姉さん」


841 : 名無しさん :2018/02/11(日) 20:52:02 ???
「うふふふふ…心地よいですわ。皆様の絶望の悲鳴が、王の間を…ルミナスそのものを満たしていく」
フェラム・エクエス……闇に墜ちた魔法少女ベーゼリッターが恍惚とした笑みを浮かべる。

銀色の髪と瞳はかつての彼女と変わらない。だが身に纏った毒々しい紫色のラバーボンデージスーツは…
闇そのものを鋳溶かして造ったかのような漆黒の装甲、そして残虐性剥き出しの有刺鉄線鞭や鋸刃の大剣は、
あの魔法少女アイゼンリッターの、清廉さをそのまま具現化したかのような白銀の鎧や剣とは似ても似つかない。

「フェラム……貴女は、自分が何をしているのか解っているのですか…!!」
「…ええ、もちろん。魔法少女の皆様を、無能な女王陛下の前で一匹ずつ嬲り殺しにして……一人残らず絶望の底に叩き落し、この国を滅ぼすのです。」
かつての彼女を知る者の一人…女王の側近ウィチル・シグナスは、その変わり果てた姿に暗澹たる思いを抱いていた。

「そんな事はさせない……フェラム。たとえ相手が…ルミナスの魔法少女である貴女でも…」
「クスクス…貴女こそ、解っているのですか?魔法王国ルミナスのナンバー2、ウィチル・シグナス様。
…いえ、女王陛下が『そんな状態』である今……この国最強の魔術師は、他ならぬ貴女。」
フェラムは金属操作の魔法を発動し、有刺鉄線鞭を振るう。狙いは当然……

「…貴女さえ排除すれば、ルミナス攻略は成ったも同然ですわ」
「………プロテクトシールドっ!!」
…ウィチルではなく、その横にいる女王リムリットだった。

「……ウィチル……!!」
「リムリット様…!!」
リムリットをかばい、防御魔法を張るウィチル。二人はずっと、フェラムの一方的な攻撃に晒され続けていた。

「……だと言うのに、そうやって何もできない無能なお子様をかばい続けているだけなんて……理解に苦しみますわね」
「っ……ぐ……あう……っく!!」
直接攻撃はウィチルが防いでいるが、その間もリムリットは苦悶の声を漏らし続けている。
フェラムの金属操作魔法によって、リムリットは玉座から伸びる茨のような有刺線に絡め取られていたのだ。
茨は意志を持っているかのように自ら動き、幼い少女の手足に、身体に巻き付き、鋭い棘を容赦なく食い込ませる。

「っぐ………あああ……ウィ、チル……わらわ、に…構うな…………」
玉座の周りの絨毯は、流れ落ちる大量の血で赤黒く染め上げられていた。


842 : 名無しさん :2018/02/11(日) 20:53:25 ???
「うう………っく……ん、…っぎあああああっ!!」
全身に喰い込む鋼の茨に、苦悶の声を漏らすリムリット。だが今の女王に、フェラムの術をはねのける力は無い。
かつてルミナス最強、すなわち世界最強の魔法少女であった彼女は今……魔法が使えない、ただの8歳児同然だった。
その理由は、魔帽セイクリッドダークネス……ルミナスの地下にある巨大な魔石「セイクリッドストーン」から莫大な魔力を得る事ができる、魔法王国ルミナス正統女王の証が失われた事。そしてもう一つ…

「ん、っぐあ"あ"あ"あああああッ!!!…い、だ…いだああああああぁい!!!…痛いよ、ウィチルうううう!!!」
…かつてトーメント王との戦いで最強の禁呪「コズミック・エクスプロージョン」を使おうとした時、王は魔法少女…有坂真凛を盾にした。
そのため、リムリットはその呪文の発動を強制的に中断し…その代償として、両腕に決して癒えない火傷を負ってしまったのだ。
二の腕の半ばにまで達する鎖状の焦げ跡は、ココアやウィチルの回復魔法でも治す事ができなかった。

「リムリット様っ……申し訳ありません……私一人では…防ぎ、きれない……っく…!!」
反撃の糸口を探すウィチルだが、フェラムの棘鞭と鋸剣の連撃を防ぐのに精一杯だった。

「防ぎきれない?…防ぐ必要など、どこにあるというのです?
無能なお荷物なんて、さっさと捨ててしまえば…貴女なら、この場を切り抜ける事も出来るでしょうに」
「はあっ……はあっ……そう、じゃ……ウィチル…お主だけでも、逃げてくれ…頼、む……」

周辺一帯を焼き尽くす禁呪の代償がこの程度で済んだのは、奇跡的と言っても良い。
それでも両腕はまともに動かすだけでも激痛が走り、食事や書き物といった日常生活でさえ大変な苦痛を伴う。
だがリムリットは皆の前ではそんなそぶりを決して見せる事はなく、
ウィチルと二人きりの時でさえ、苦しむ顔は見せても真凜をかばった事を後悔するような言葉は一言も口にしなかった。
……彼女はまだ、8歳の少女だと言うのに。

「防ぐ必要などない……確かに、その通りかもしれません。」
防御魔法を張ったままでは反撃に転じることは出来ない。その間にも女王はじわじわと傷つけられていく。
だが防御を解けば、残虐なる刃がすぐさまウィチルとリムリットを襲うだろう。

(…ザシュッ!!……ドスッ!!)
「初めから、比べるまでもない。リムリット様の苦しみに比べれば、私の受ける苦痛なんて………塵のようなもの…!」
左右から迫る死の刃を、ウィチルはその両手で掴み取り、叫んだ。

「我が名はウィチル・シグナス…魔法王国ルミナス第5代正統女王リムリット・シュメッターリング・ルナ・ルミナス様を守護する最強の盾…『クイーンズ・ガード』!
……その務め、この身に代えても必ず果たして見せます……変身ッ!!」


843 : 名無しさん :2018/02/15(木) 00:25:58 dauGKRa6
ウィチルが高らかに叫ぶとともに、辺りにバチバチと閃光が走り、フェラムによって作り出された刃は閃光を浴びて霧散した。

「くっ……!きゃあああぁ!!」

悲鳴の主はフェラムである。武器が霧散したと同時に辺りに衝撃波が発生し、近くにいたフェラムの体は吹っ飛ばされ、勢いよく壁に叩きつけられたのだ。
「痛ぁっ!……くっ……!」
ウィチルの姿を捉えるべく、素早く顔を上げるフェラム。
眩い閃光が止み、煙とともに現れたのは……地水火風の紋章があしらわれている純白の鎧に身を包んだウィチルの姿だった。

「くっ……!魔法少女ロイヤルクルセイダー……変身だけでここまでの力とは、流石ですわ。ウィチル様。」
「……私が変身したからには、もうリムリット様に手出しはさせない。フェラム……覚悟しなさい。」
「フフフ……ルミナス最強の魔法少女であるウィチル様と戦えるなんて……!血が騒いできましたわ……!」
本気を出したウィチルに対抗し、再度魔法武器を錬成するフェラム。
ちらりとリムリットの方に目を見やると、先程シャンデリアの下敷きになった魔法少女たちがリムリットの周りに集まっていた。

「セレス、ロゼ、ルキア!リムリット様を必ずお守りして!」
「もちろんですウィチル様!!!リムリット様は私たちに任せてください!!」
「ウィチル様!フェラムを…フェラムを、元に戻してあげてくださいっ!!」
「フェラムは…フェラムはきっと、隷属の魔石か何かでノワールに操られてるんです!ウィチル様……お願いしますっ!」

3人の魔法少女たちはウィチルに声をかけると、リムリットを中心に3方向に広がり、すぐさま魔力を込めた掌を地面に叩きつけた。


「「「三重護法結界!アンチバマジク、三方展開!」」」


息を合わせた3人が同時に叫ぶと、リムリットの周りに三角形の紫色の結界が現れた。
アンチバマジク──三角形のそれぞれの頂点で術者の魔法少女たちが詠唱を続けている限り、魔法や魔導武器の攻撃を無効化する強力な防御魔法である。

「ククク……いいでしょう。ウィチル様と一対一で戦えるこの機会を、存分に楽しませてもらいますわ……!」
(隷属の魔石……おそらくダークアウィナイトのはず。フェラムの体のどこかにある魔石を壊せば……!)


844 : 名無しさん :2018/02/17(土) 13:51:57 ???
「っ……う……ひぐっ……ひどい…こ、こんなの……あんまりだよ……」
明るく活発な性格でどんな逆境にもめげない、ブルーバード小隊のムードメーカーだったカリン。
だが今、その右掌は無惨に砕け、肘から先が異様な方向に折れ曲がっていた。

彼女の両目から大粒の涙が溢れだしているのは、腕の痛みからではない。
ずっと憧れていた『魔石師』を目指すという夢を踏み砕かれてしまった…それも、目標としていた師であるカレラの足で。
そのあまりに重い事実に、カリンの心は右腕以上に酷く砕き壊され、瞳からはすっかり希望の光が消え失せてしまっていた。

魔法少女ブレイジング・ベルの衣装が火の粉となって消えていく。
ショートパンツにスニーカー、裾の短いタンクトップといった普段着…普通の少女の姿へと、カリンは戻っていった。

もはや立ち上がる気力もないカリンの首を、カレラは掴んで持ち上げる。
「クックック……とってもいい表情だわ、おチビちゃん。
あなた達の絶望の感情が、私の中に流れ込んで…限りない力と、快楽に変わっていく」

カレラの首に巻かれているチョーカー。その限りなく黒に近い碧色の石に、カリンの視線は吸い寄せられた。

「そこまでよカレラさん!!」「カリンから離れてっ!!」
カレラの背後から、二人の魔法少女が飛び掛かった。カリンの先輩にあたり、それぞれ氷と雷の使い手。
だが……

「クックック……丁度いいわ。私の『新作』、貴女達で試してあげる」
「「……っきゃあああああっ!!?」」
ダークアウィナイトの魔石に操られたカレラが新たに作り出した、残虐なる魔石の餌食となってしまう。

「っく……!…と、取れない…!!」
「その子は『パラサイト・パール』。ひとりでに動いて、全身に絡みつき……女の子の中に入り込む」
氷の魔法少女は数珠状に繋がれた真珠の鎖に巻き付かれ、動きを封じられてしまった。
抜け出そうと四苦八苦しているうちに、鎖はスカートに潜り込み、ライトブルーの下着を押しのけて…
(つぷっ……ぐちゅ にゅる じゅぶじゅぶじゅぶじゅぶ)
「ん、あうっ……な、何これ…嫌、あああ、あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」
…一気に最奥まで侵入してきた。

「クスクスクス…こうやって、身体の中と外から魔力を食い荒らし、血肉を貪るの。
真珠が紅く染まりきる前に抜け出さないと、もっとたいへんな事になるわよ?」
美しいコントラストを描く白とブルーのドレスが、苦痛にのたうつ少女の血と泥に染め上げられていく。

「あぐっ………い、痛っ……!!」
雷の魔法少女の肩、太もも、脇腹の三か所には、鶏卵程のサイズの宝石ブローチが張り付いていた。
これもやはりひとりでに動いて、裏側に取り付けられたネジ状の金具を使って少女の身体に深く食い込もうとしている。
「『スフェーン・ボム』……体の奥深くに楔のように喰い込んで、その後は…フフフフ」

「お、お願い……もう、止めて…このままじゃ、二人とも…」
「クスクスクス……ムリね。と言うより…もう遅いわ」

(ドウっ!!ズドッ!!ぐちゅっ!!!)
「…っぎゃあああああ!!!…」「…っご、ぼ!!」

ヴァギナから子宮に到達した鎖が、氷の魔法少女の腹を食い破って飛び出してきた。
同時に、肛門から入り込んだもう一本が胃腸や食道を下から走破し、口内から顔を覗かせる。
雷の魔法少女は左脚、右脇腹、そして心臓が爆炎と共に吹き飛び、無言でその場に崩れ落ちた。
二人の身体から淡い光がこぼれ、元の、普通の少女に戻っていく。
銀と金に輝いていた髪も、雪の結晶と雷光を意匠にした麗しく凛々しい戦闘服も…

「そんな……」「あの二人が、やられるなんて……」「もう、ダメ…」「…ムリだよ、こんなの…」
「クックック……あら、お次は誰もいないの?…ま、無理もないかしら」
カリンとカレラの周囲に集まった魔法少女達は、戦意を失っていた。
あまりにも無残な二人の最期が、自分の…それもごく近い未来と、重なって見えたのだ。

「正義を語り、希望を抱き、ダレソレを守る、なんて汗水たらして戦って…その末路がこれじゃ、ねえ」
絶望は連鎖し、感染し、増殖する。
その圧倒的な黒い力の濁流に、少女達は再び呑み込まれつつあった。


845 : 名無しさん :2018/02/17(土) 19:39:57 ???
「さてと、おチビちゃん……次はアナタを、私の魔石で飾ってあげる」
「…っ…や……だ………カレラさ……」

見た事もない毒々しい赤紫色をした魔石のネックレスを、カレラはカリンの首に掛けた。
先ほどの二人に使った物より、更に禍々しい力が秘められているのが肌でわかる。
だが既に戦う力を失ったカリンに、逃れる術はなかった。
その時…………

(ゴウッ……!!)
「いい加減に……しやがれっ!!」
「っぐ……!?……驚いたわね。まだ生きてたの」

炎を纏った衝撃波が、カレラの横面を叩いた。

…技を放ったのは、ライカ。
かつて竜殺しのダンに師事した彼女が、地獄の水中特訓の果てに会得した幻の秘技……
その名も「火蜥蜴の吐息(サラマンダー・ブレス)」。体内で気を練り、様々な属性に変化させて放出する技だ。

「当たり前だ……普段あれだけエラソーにしてんのに、いざって時に真っ先に伸びてたんじゃ恰好つかない、だろ…!」
「…呆れた。ゴキブリ以上の生命力ね…今度こそ、念入りに潰してあげるわ」
再度カレラと対峙するライカだが、彼女も戦える状態ではない。
肋骨を折られ、魔石で脚を封じられ、鍛え抜かれて奇麗に割れた腹筋も…強化されたカレラの蹴りを受けてどす黒く腫れ上がっていた。

「ライカさんっ……首の、黒い石です……あれがきっと…っぐ!!」
必死に叫ぶカリンの脇腹を蹴りつけ、カレラはライカに近付いていく。

「なるほど…確かにどす黒い力を感じるな……ッ!?…カレラ、お前っ……!!」
ライカもまた、動かない脚を引きずり前に出た。スピードも打撃力も、今のライカではカレラに歯が立たない。
それでも、抑えきれない怒りを糧に必死の攻勢に打って出たのだが…

「……この、バカ野郎……カリンが…あいつが夢に向かって頑張ってるのを、一番喜んでたのはお前じゃねえかっ…
…それを、お前が潰しちまうなんて……そんな石一つでっ!!………っぐお…!!」
ライカの左右の連打も、渾身の右ストレートも、カレラに易々とかわされた。
その代償は、手首に嵌められた呪縛の魔石と…腫れた腹筋に突き刺さった、カウンターの膝蹴り。

「フフフフ…あなたこそ、人の事言えるのかしら?
あなたの『指導』で、これまで何人もの候補生が魔法少女になりたいっていう夢を諦めて来た…でも、それだけならまだマシ。
貴女に付いて行って、晴れて魔法少女になれた子たちは…一人残らず、地獄の苦しみの中で死んでいく」
「黙れっ………うぐっ……!!」
闇魔法「シャドウリープ」でライカの頭上に瞬間移動したライカが、回転しながらの踵落としを見舞った。
ライカの鎖骨が、ガードした左腕もろともへし折られる。

「辛い思いをしながら訓練を重ねて、ヒトでない物に己の身を変えてまで戦った所で…
悲しみと絶望に覆われた世界を救う事なんて出来やしない。私たちが進むのは地獄への一本道」
「っぐ、あああっ!!」
更にカレラは、ライカの頭を両脚で挟み込み、振り子のように回転しながら倒れ込む。
…ウラカン・ラナ・インベルティダと呼ばれる空中殺法で、ライカを抑え込んだ。

「正義と平和の為に戦い、人々の笑顔を守る魔法少女…でも、あの子たちを守るものは……救いなんてどこにも、ない。
私たちは、あの子達を甘い言葉で誘い込んで……残酷な運命に引きずり込んできた」
「そんなんじゃ、ない……あたしは、ただ……」
竜に滅ぼされた故郷の事、厳しく優しく鍛えてくれた師匠、共に魔法少女を目指した仲間や、後輩達の事……
『守りたかった大切な物』が、ライカの胸の中に次々と浮かんでは消えていく。

「ライカ……『先輩』として皆に見せてあげなさい。魔法少女が戦いの果てに辿る『残酷な結末』って奴を」
赤黒い魔石の首飾りが、ライカの首に巻かれていく。だがそれを振り払うだけの力が、彼女に残っているか…


846 : 名無しさん :2018/02/18(日) 13:42:47 aepQV4ew
「『ヴァージニティ・ダイヤモンド』……私の最高傑作よ、受け取りなさい!」

「ちく、しょぅ……」

抵抗虚しく、カレラの赤黒い魔石を首に巻かれてしまうライカ。彼女の四肢は、もうまともに動けない。

「しかと味わいなさいライカ……そして目に焼きつけなさい未熟な魔法少女たち!これが、愚かな正義の味方ごっこの末路よ!」

ライカの首に巻かれた赤紫色のネックレスがドクンと脈打ち、その禍々しい輝きを強くする。
その直後、ネックレスがひとりでにライカの首に密着し……

「あ!?ぎ、がああぁああああ!!?ぎぁああああああああ!!!」

ライカは凄まじい悲鳴をあげる。

「ウフフ……『ヴァージニティ・ダイヤモンド』は、処女の生き血を糧に成長を続ける生きた魔石……生きながら血を吸い尽くされる気分はどうかしら?」

ライカの首に密着したネックレスは、首から皮膚越しに大量の血を吸収する。注射をされているわけではないので刺すような痛みはないが、体内から血が抜かれている激痛は筆舌に尽くしがたい。

「そんな、ライカさんが……」「ライカさんまでやられちゃったら……」「もうお終いよ!私たちは……!ルミナス王国は今日滅びるんだわ!」

強く厳しく自分たちを指導してきた格闘家の敗北に、魔法少女たちはさらなる絶望に叩き落される。


「まったく、ライカの指導が足りてないんじゃない?貴女のモットーは『仲間と一緒に戦っているときは絶対に弱音は吐くな。それは敵の攻撃なんかよりも更に強力な味方への攻撃になる』だったわよね?ほら、いつもみたいに自慢の右ストレートで彼女たちを指導したら?」

「ぎ、ぃ……!カレ、ラ……!やめ……」

「それとも、貴女が弱音を吐いてくれるのかしら?いつもエラそうなこと言ってる貴女が?そうなったら無様ね、最高だわ」

「が、ぁあ……!……ぅ、そ……!」

「聞こえないわ、もっと大きな声で赦しを乞いなさい」

両手両足の自由な動きを封じられ、首に巻かれたネックレスからは絶え間なく血を吸収され、息も絶え絶えのライカの口元へ、耳を近づけるカレラ。



「キュウソ……ネコカミ牙!」


847 : 名無しさん :2018/02/18(日) 22:25:38 dauGKRa6
窮鼠猫を噛む……ライカが放ったのはその名の通りの、悪あがきにも近い噛みつきである。
残り少ない魔力を一気に自らの歯に集め、肉食動物のような鋭い牙で相手へと攻撃する技。

「シャーーーー!!!」
「ば、バカなッ!?どこにそんな魔力が……!」
通常であれば、満身創痍の状態で体から血を抜かれながら出せる技ではない。それを可能にしたのは、ライカの鍛え上げれた精神力とルミナスへの愛国心である。
どんな逆境でも弱音は吐かない……彼女が後輩たちに口酸っぱく指導してきたことだった。

(狙いはもちろん……ここだぁッ!)
ライカが狙ったのは、首に巻かれている禍々しく光る黒石……ダークアウィナイト。
面食らって鼻白んでいるカレラを無視して、鋭く尖った牙でダークアウィナイトへと噛り付く……はずだった。

バキィッ!!
「ぐお!!」
「……そんなボロボロの体で頑張ったことは褒めてあげる。でも……やっぱりここまでね。」
「ぐぁ……!」
顔を魔石付きの腕で殴り飛ばされ、ライカの視界はぐらりと歪み、意識にはノイズが走り出した。
(……悪りぃ、カリン……どうやらアタシは……ここまで、みたいだ……)
世界がスローモーションになったかのような錯覚を感じながら、ライカはゆっくりと意識を失って行く……

しかし、今際の際に見た魔法少女たちの「カリン!」という口の動きを見て、ライカはかすかに意識を取り戻した。

「ファイア……ボルトッ!!!」
「おチビちゃん……今更そんな初級魔法?呆れたもんね……発動すらしてないじゃない。」
「ライカさん!!!絶対諦めちゃダメです!!!私たちに諦めない大切さを教えてくれたのは……貴方なんですッ!!」
(……カリン……そうだ……何呑気に寝ようとなんかしてんだ、アタシは……!)
カリンの必死の叫びによって、ライカの意識は再び覚醒した!!

「ん……?ライカ!?あなたまだ……!?」
「ぐ……ぬあああああああ!!!これが師匠直伝のど根性だあああああああ!!!」
カリンの方に意識を取られ、ライカの攻撃に反応が遅れたカレラ。
その隙を見逃すことなく、ライカはカレラの首元にある黒光りする石へその鋭い牙を突き立てる!!!



バキィッ!!!
「きゃああああああぁっ!!!」
悲鳴をあげて倒れこむカレラ。と同時に彼女に取り付いていた悪意が体から放出され、ダークアウィナイトは光を失い、コロコロと転がっていった。

「はぁ……はぁ……やっ……た……」
「ラ……ライカさぁんっ!」
「だ、誰か早く癒しの術をライカさんに!!!早くー!!」
「ダークアウィナイトの効果も消えたわ!カレラさんにも治療を!」

リッテたちと戦っている魔法少女たちの中から、癒しの術を使える者がライカとカレラへ近づいて行く。
腕を潰されたカリンも、カレラの元へ這うようにして近づいた。
「ライカさん!死ぬなんてダメです!まだ私たち、ライカさんに教わってないことがいっぱいあるんですから……!」
「へ……この私が、これしきのことで死んでたまるかってんだ……し、しっかり治療して……くれよ……」
「も、もちろんです!キュアライトー!」
ヒーラーの魔法少女が放った癒しの魔法が、ライカを優しく包み込んで行く。

「ラ……ライカさん……!」
「カリン……お前のおかげだ。お前が諦めないでくれたから、アタシが勝てた。」
「うぅ……ぐすん、ライカさぁん……!やっぱりライカさんは、私たちの尊敬する魔法少女です……!」
泣き崩れるカリンの顔に自分の手を添えて、ライカはゆっくりと目を閉じた。
(あたしのスパルタ指導は……やっぱ間違ってなかったみたいだな。水鳥、フウコ、カリン、みんな……後は……頼むぜ……)


848 : 名無しさん :2018/02/19(月) 01:06:46 ???
「ではこれより、地獄の水中特訓で行う。幻の秘技『火蜥蜴の吐息(サラマンダー・ブレス)』
…見事会得できるよう、しっかり頑張れよ」
「はいっ!!」
ミツルギへ向かう船上にて、竜殺しのダンの特訓を受ける瑠奈。

「水中特訓って…この寒いのによくやるよ…つーか、ここから海に飛び込む気?」
それを何となしに眺める彩芽。
これから特訓する技は、なんでも「体内で気を練り、様々な属性に変化させて放出する技」との事。
極光体術の中でも数少ない、遠距離を攻撃できる技なのだが…

「つまり…口から火が吐けるようになるって事?」
「うーん……面白そうだけど、折角魔法を覚えるなら手から出せるようになりたいなあ。…イメージ的に」
唯がそう思うのも当然かもしれない。どうせ覚えるならヨ〇ファイヤーより〇動拳である。

「もちろん、訓練次第で手からも出せるようにはなるけど…口って、魔力を放出しやすい場所なのよ。例えば…
『暖かな息吹よ!今ひとたびの安らぎを!セラピーヒール!』」
鏡花の周囲に、暖かな癒しの空気が満ちていく。…息吹に癒しの力を乗せ、精神を癒す回復魔法。
以前にも、鏡花がこれを使った事があった。その相手は……

「ああ…桜子さんに使った魔法か。Wikiの登場人物欄がおかしな事になってたやつ」
「うぃき?」
「……いや、何でもない。サラさんにスバル、三人とも大丈夫かな…」
「…本当にごめんね、彩芽ちゃん。
それに、鏡花ちゃんも……ルミナスのみんなが危ないかもって時に、こんな事になっちゃって」
「まったく心配してない、って言ったら嘘になるけど……でも、きっと大丈夫。
今のルミナスには……私が一番信頼してる、最高の魔法少女がいるから」

「最高の………魔法少女?」「…って、ウィチルさんの事?それとも……」
「ウィチルさんも確かにすごいけど……光なら…魔法少女ルミナスなら、きっと魔法少女のみんなを救ってくれる」
…水着回の激闘を経て、仲間を信頼する事の大切さを改めて知った鏡花。
その視線の方角には、魔法王国ルミナスがあった。

「ふふふ…おしゃべりはこの位にして、私たちもそろそろ始めましょうか。
これから教えるのは、中級クラスの治癒魔法『ヒールライト』。
今の唯ちゃんなら、これを習得すればかなりの重傷でも治療できるようになるはずよ」

遠い空の下にいる仲間の無事を祈りつつ、少女達は新たな戦いの地を目指す…


849 : 名無しさん :2018/02/19(月) 01:21:24 ???
「おのれ!カレラさんがやられるとは!だが我ら闇の暗殺者5人衆は未だ4名が健在である!貴様らの死の運命は決して覆らん!」

「ライカと相討ちなら、十分以上よ……あと厄介なのはウィチルだけね」

「ぜぇ、ぜぇ……!言外に私らは厄介じゃないって言いたいのか……!」

「はぁ、はぁ……!タンナ、ここはカレラさんと戦ってた面々が加勢にくるまで守りに徹するわよ!」

「あなた達も、いい加減鬱陶しいわ……死になさい!」

「雑魚や名無しが徒党を組んだ所で、我ら姉妹の敵ではない!」


ミルフィールド姉妹が雑魚と名無し及びその他大勢と戦っている頃……

「アコール、アンタは雑魚と名無し及びその他大勢と戦わなくていいの?ほら、私なんてほっといて戦ってきなさいよほら」

「連れないですねコルティナさん、あの二人がそう簡単に負けるわけないじゃないですか。それよりも、貴女のその美しい御髪を触らせてくださいな」

「いやアンタいつものオドオド口調はどうし……ひっ!」

「ああ、コルティナさんの髪は、とても良い香りがします……春の暖かな陽射しを受けてポカポカとした洗濯物のような、それでいて涼しげな不思議な香りです。質感もあんまり気を使ってるようには見えないのに、サラサラとしていて、ずっと触っていたいです……」

(さっきからなんなんコイツ……!魔力凍らされたり燃やされたりよりはマシだけどさ)

アコールは相変わらず、コルティナの髪を弄っていた。

「ふふ……今は私がコルティナさんを独り占めです……みんなの人気者のコルティナ先輩を独り占め……」

アコールは養成学校時代のコルティナの後輩である。
そして先ほど嫉妬に塗れたシュリヤが言っていたように、グータラながら明るく面倒見の良いコルティナはみんなに好かれており、特に後輩から慕われていた。

「でも確かにそうですね、ここで私だけ遊んでいるのは悪いですし……」
「そうそう!なんかアンタ今ハイテンションになってるけど、オドオド口調でその辺の奴と戦うのが最初のキャラ設定でs」
「コルティナさんの首から上だけ、貰っていきますね♪」
「へげ!?藪蛇だったなりか!?」

ノーチェとキリコとは別行動を取ったことで渇望していた個性を手に入れたはいいが、ピンチ続きのコルティナ。
果たして彼女の運命は!?


850 : 名無しさん :2018/02/20(火) 01:23:05 dauGKRa6
「はぁ……はぁ……」
ミツルギの奴隷収容所へ向かうべく、1人走り続けるリザ。
アウィナイトの保護区域からミツルギの奴隷収容所までは、徒歩で5日はかかる距離。
竜車と呼ばれるドラゴンを使った移動手段でもあればもっと早く着くのだが、あいにくここは商売に使う街道ではないようで、移動手段の確保はできなかった。
(テレポートを使うよりも、私ならこの足で走った方が速いし魔力の消耗も抑えられる……!まってて、お母さん……!)
あの日生き別れた母を一刻も早く助けるべく、脇目もふらず走り続けるリザ。
それ故に、自らに狙いを定めている複数の視線に気づくことなどなかった。

「そんなに急いでどこに行くんだぁ〜お嬢ちゃん!死にたくなかったらそこで止まりなァ!」
「……!」
突然響いた男の声に前のめりになりながら急停止したリザ。
正面には先ほどの声の主の屈強な男が、ギラついた視線をこちらに向けながら大剣を手に取っている。
すぐに周りを見回すと、仲間と思しき盗賊たちが棍棒やら刃物やらを持って、ゾロゾロと距離を詰めてきていた。
「俺たちは牙突き立てられし狂犬の団……行商人の荷物やお前みてえな金になりそうな女を根こそぎ頂く、世界最強の盗賊団よォ!」
「ヒッヒッヒ……アウィナイトのお嬢ちゃんよぉ、怪我したくなかったら大人しくしてるんだぜぇ。そうすりゃ手荒な真似はしねえで、踏ん縛ってギッチギチに拘束してやらぁ。」
「……踏ん縛って拘束してる時点で、十分手荒だと思うのだけれど。」
「ケケケ!確かに違えねえなぁ。ま、血を見ることにはならねえってこった。わかったら大人しくしてろよぉ……」
(……よりによってこんな時に……こんな奴らに構ってる時間はないのに……!)

全方位に体を向けながら敵の数を確認するリザ。そのどれもが汚い衣服を見にまとった者や上半身裸の男ばかりで、手には様々な凶器が握られている。
「アウィナイトの女が拾えるとはラッキーだぜえ。しかもまだガキだ……裏ルートで富豪に売りつければ、俺たちだけで5年は遊べる額がもらえるぜえ〜!」
「遊ぶ金欲しさに売っちまうのももったいねえけどな……アウィナイトの女のマンコは名器揃いと聞く。まさに性奴隷の名に相応しいエロい体してやがるらしいぜ……!」
「お前それマジかよ!なるほど、富豪共がこぞって買い漁るわけだ。俺らにもその体、楽しませてもらいたいもんだなァ……ジュルルッ!!」

「……ねえ、お願いだからやめてくれない?私急いでて、峰打ちをする余裕もないの!無用な殺しはしたくないから……」
「あ?今なんつった?峰打ちだぁ?」
「こりゃ傑作だァ!こいつ一人で俺たちに勝つ気でいやがるぜェ!シャハハハハハハハハハハ!!」
ゲラゲラと笑いだす盗賊たち。リザはため息をついてから張り詰めた表情で、懐からナイフを取り出しゆっくりと構えた。
「……最後の忠告よ。それ以上私に近づかないで。近づいたら……容赦なく殺」
「おい野郎ども!ハッタリに付き合う必要はねえ!大きな怪我はさせねえようにしてさっさと捕まえちまえーッ!!」
リザの台詞に被せ気味で盗賊のリーダーらしき男が合図を送り、男たちは一斉にリザへと襲いかかった!


851 : 名無しさん :2018/02/20(火) 01:26:14 dauGKRa6
「やめろおおおおおお!!!ウィンドブローーーー!!!」
「え……キャッ!!」
「ぬおお!?なんだぁ!空に女の子が!」
突如発生した風魔法によってリザの体は宙に浮き、盗賊の一人がジ○リっぽい台詞を発して空中を見上げた。
(これは……風魔法?一体誰が……?)
状況がつかめないリザがゆっくりと地上に降ろされると、目の前に見たことのある青年の後ろ姿があった。

「リザ!!助けに来たぜ!!」
「ヤコ!?ど、どうしてここに……」
「説明は後だ!ここは俺がなんとかする!お前は下がってろ!」
「……ううん。私がやる。ヤコが下がってて。」
「おう!……ってなんでだよ!!!ここは助けに来た男の俺が戦うのが筋っていうか、当たり前の王道パターンだろ!」
「……こう見えて、私も戦える。ヤコ1人じゃ危ないから、私にも戦わせて。」
「いーーーーや!ダメだね!お前みたいな吹けば飛んでいきそうなか弱い女の子を一緒に戦わせちゃ、男が廃る!」
「……ねえ、その男がどうとか女がどうとかっていうの、もう時代錯誤の考え方だと思うよ。」
「う、うっせー!いいから大人しく下がってろって!!」
「……あのー、2人とも盛り上がってるとこ悪いけど、俺ら目の前にいるからね?」

突如現れたアウィナイトの青年と、やいのやいのと言い争いを始めるのを見て、面食らっている盗賊たち。
だがその中で1人、2人へと近づく狡猾な男がいた。
(シッシッシ……隙だらけじゃねえか。ガチャガチャ言い争いしてるうちに、戦えそうな男の方を殺してやるぜ……そらっ!)
狡猾な男は2人の側面からゆっくりと忍び寄ると、毒がたっぶりと塗られたナイフをヤコへと投げた!
「……!ヤコ!危ない!」
「え?う、うわあああああぁぁあぁあぁあぁ!?」

カキィンッ!!!
「ああ、死んだ……俺は死んだんだ。俺は死……あ、あれ?刺さってない……?」
「大丈夫?ヤコ。」
「え、あ、はい。大丈夫です……えええ?お前、いつのまに俺の前に……?」
「な、なんてスピードだコイツ!いつのまに移動しやがった!」
……実際にはテレポートしたのだが、距離がそこまで離れてないこともあり、ヤコや盗賊には猛スピードで動いたように見えたようだった。
「……ヤコ、立てる?」
「い、いや……悪りぃ。い、今ので腰が抜けちまって……!た、立てねえ……」
「聞いたか!戦えそうな男の方は自滅しやがった!後は女のガキ1人だ!やっちまえー!」
「り、リザ!お、俺のことはいいから逃げろぉ!早くッ!!!」
悲痛な声でリザへと叫ぶヤコ。だがリザはリストバンドを手に装着しつつ、盗賊たちからヤコを守るように前へと出た。

「逃げないよ。私……強いから。」


852 : 名無しさん :2018/02/20(火) 01:28:35 dauGKRa6
「ぐほっ!?」
突如目の前に現れた少女の顎への殴打に、男の体がぐらりと揺れた。
「こ、こいつ!ちょこざいなあっぐおお!」
回し蹴りが顔面に炸裂し、台詞の途中で悲鳴をあげた男はばたりと倒れた。
「な、なんだこいつ!早すぎ、ごあぁっ!」
「ぶ、武器が取られたぁ!!ぐおほっ!!」
圧倒的なスピードの前に盗賊たちは手も足も出ず、1人また1人と倒れていく。
そのどれもが、峰打ちだった。
(友達の前で……殺しはしたくない。時間はかかるけど、峰打ちで仕留めきる!)

「ちくしょう!女一人に何を手こずってやが……ぬおお!?」
突如男の視界が暗闇に支配され、柔らかいものが顔面に当たったかと思うと……
「はっ!」
「な、ぐおあああああぁっ!」
そのまま地面に叩きつけられ、男は意識を失った。
フランケンシュタイナー……アイナが幸せ投げと呼称した格闘術である。
「……まだやる?」
「ひ、ひいぃ!お、おみそれしましたぁ!許してくださイィィ!!!」
「待って!逃げるなら、そこで倒れてる人たちも連れて行って!」
「も、もちろんでごぜえますだぁ!お時間お取りしてすみませんでしたあぁぁぁ!!」
リーダー格の男がやられて勝ち目がないと判断したらしく、残りの男たちは尻尾を巻いて逃げていった。

「……はぁ……ヤコ、怪我はない?」
「リ……リザ……お前、強えええええええ!!!いや、お前強すぎだろ!!俺よりも全然強えじゃねえか!いや、ちょっとガチで強すぎだろぉ!!」
「……男の子に強いって面と向かってたくさん言われるの、なんかちょっと嫌なんだけど。」
「あ、それもそうだな……って、そういう男とか女とか言うの時代錯誤だったんじゃねえのかよ!自分で言ってんじゃねえか!」
「……ただの皮肉だよ。」
そう言うとリザは、ヤコの肩にそっと手を触れてゆっくりと力を入れた。
「わわ……な、なんだよ……?」
「腰、抜けちゃったんでしょ?ゆっくり安静にして、冷やさないと。癒しの術式も持ってきてるから、それで治せるか試してみる。」
「あ……わ、悪りい……」
テキパキと自分の治療の準備をするリザ。その姿を見ながら、ヤコは自分の情けなさに腹が立った。
(……なにやってんだよ俺……!せっかく助けたくて付いてきたのに、逆に思いっきり迷惑かけてんじゃねえかよ……!)


853 : 名無しさん :2018/02/22(木) 17:24:33 ???
腰が抜けて動けない俺は、改めてまじまじとリザの姿を見てみる。
猫耳みたいなフード付きの白いコートを纏っているのは、おそらくアウィナイトであることを極力バレたくないからなんだろう。さっきの盗賊たちにはバレちまったみたいだけど。
少し髪が伸びているみたいで、フードからキラキラと光る金髪がはみ出していた。

「癒しの術式……あ、あった。これに魔力を流し込んで……と。」

あれだけの大立ち回りで暴漢たちを撃退した後だというのに、まったく疲れを感じさせない動きで、リザはいそいそと治療の準備を整えていた。
それに対して俺……ヤコは、生まれて初めてまともに凶器を向けられたショックで立てなくなって、助けに来たはずの女の子に助けられてしまっている。
……こういう今の俺みたいなのを、「足手まとい」って呼ぶんだよな。
まったくもって自分が情けなくて、リザの顔をまともに直視できなかった。

「ヤコ、大丈夫?癒しの術式を敷いたから、ちょっとだけこっちに移動できるかな。」

「あ……悪りぃ。」

準備を進めてる間も、ずっとリザは俺の身を案じくれて、何度も「大丈夫?」を繰り返した。
その声に馬鹿にした感じはまったくなくて、でもそれが逆に心に響いて、俺はバツが悪そうに、「悪りぃ」しか言えない。
普通なら「ありがとう」なんだろうけど……助けに来た手前、自分からありがとうって言うのは恥ずかしいを通り越して男として無責任……だ。
そんな安っぽい小さなプライドが、俺を小学生みたいな精神状態に追い込んでいた。

「癒しの奔流よ。彼の者に安らぎの灯火を……!」

身じろぎしながら術式の上に移動した後、リザの銀鈴のような声が鼓膜を叩いて、俺の体が光に包まれた。
術式を使えるってことは、リザもある程度魔法の才能があるってことだ。
さっき、ヒュンヒュン移動して敵を圧倒してたのも何かの魔法なのかもしれない。
とかなんとか夢想している間に癒しの光はゆっくりと消えて、急に体が軽くなった気がした。

「腰、治った?久しぶりに癒しの術を使ってみたんだけど……」

「お、おう……うん、全然問題ないぜ。お前、ヒーラーの才能もあるんじゃねえの?」

「ううん、私はこういう術式がないと、癒しの初級魔法すらも安定しないから。」

そう言って、リザは少し苦笑しながら目線を下に逸らした。この反応は、過去に相当練習をしたと見える。
元来、戦闘を好まない俺たちアウィナイトっていう種族は、身体能力も魔法適正も人並み以下になってしまうことが多い。
さっきのすごい勢いでの戦闘を見るに、リザは魔力適正が低いが身体能力はグンバツなんだろう。
アウィナイトの人でその逆はよく見るけど、前衛向きの戦いが出来て、しかもそれが女の子っていうのはすごい珍しいことだった。


854 : 名無しさん :2018/02/22(木) 17:25:40 dauGKRa6
「それで……どうしてここに来たの?」

怪我が治った俺に向かって、リザは当然の疑問のようにストレートに言葉をぶつけて来た。
さて困った。ここで「俺は君を助けに来た!」なんて素直に返そうものなら、こいつは口に手を当てて屈託のない顔で笑うだろう。
まあそんな普通の笑顔も見てみたいんだが、できれば俺への嘲笑の要素はできるだけ廃しておきたい。
そんな感じで迷った挙句、俺が出した答えは──!

「お……俺も、ミツルギの奴隷収容所に用事があんだよ!だ、だから……お前に会ったのも単なる偶然ってわけだ。」

「……どうして私がそこに用があるって知っているの?」

「そ、それは……レイスさんが、教えてくれたんだ。お前の目的場所と同じ場所にリザが向かったってな。」

真実と嘘を織り交ぜて話してみたが、特に矛盾はない。リザの視線にはほんの少しだけの猜疑心が残っているが、拒絶反応はなさそうだった。我ながらうまくいった。

「……ねえ、どうしてヤコが私と同じ場所に用事があるのか……聞いてもいい?」

リザは心配そうな顔をして、小首を傾げながら聞いてきた。
いちいち可愛いが、そんな邪念は打ち払って俺は冷静に答える。

「俺も……俺の家族も、あそこにいる。だから助けたい。あと……それと同じくらいお前のお母さんのことも、俺は助けたい。」

「……!」

リザの目が、驚きでぱっと大きく開いた。
これは本心だ。レイスさんから聞いた時、俺は本当にそう思った。
あんな素敵な笑顔で笑う女の子の母親が、悪名高いクソミツルギの奴隷収容所にいるなんておかしいだろ。
本心で真心込めて放ったセリフだったからなのか、リザは本当に驚いた顔をしてから、素早く立ち上がった。

「ヤコ……そういうことなら、早く行こう。私も、私のお母さんと、ヤコの家族を助けたい。……ううん、絶対助ける。」

そう言ったリザの目は、どこか悲壮な決意と……絶対的な運命に抗う強い熱が込められている。
そんなリザの顔を見て、俺の心は少しだけ痛んだ。

俺の家族はもう──この世にいないから。


855 : 名無しさん :2018/02/23(金) 23:24:46 ???
変身を完了させ、純白の鎧に身を包んでいるルミナスの影の主導者、ウィチル・シグナス。
地水火風のエレメンタルエンブレムと呼ばれる美しい意匠が施された純白の鎧は、それ自体が存在感を放っているかのような威厳を醸し出している。
そんな豪奢な鎧に身を包んでいる精悍な顔付きのウィチルは、肩まで伸びている黒髪を後ろに流し、凛とした顔でフェラムを見据えた。

「炎華繚乱!フレイムブロッサム!」

思念詠唱を終え、素早くウィチルが放ったのは花のような形をした炎の群れ。その全てが明確な意思を持ち、フェラムへと襲いかかる!

「弾き返せ!メタルリフレクト!」

襲い来る火の粉からフェラムを守ったのは、金属の大きな盾。そこから一拍置いて火炎の花たちが衝突する大きな音がした。
攻撃を防いだフェラムが素早く盾から飛び出しウィチルの姿を視認すると、彼女はすでに次の攻撃を放っていた。

「ロードアクセル!サンダーレイヴ!!」

瞬間的に速度を上げる移動魔法で素早くフェラムに肉薄したウィチルは、雷を伴った腕を振り上げる。
遠距離魔法が防がれるのならば、己の肉体を武器にして戦うことができる。この遠近両対応のハイブリッドな戦い方ができるのは、ルミナスの歴史の中でも数えるほどしかいない。
ルミナスのナンバー2と評されるウィチルは、一見魔法少女とは思えないようなこの戦い方を完全に習得している数少ない魔法使いなのである。

「くっ……う゛あああぁッ!!」

ウィチルの雷を伴う掌底は、フェラムの胸に強い衝撃と雷撃を与え、フェラムの口からは濁った悲鳴が口から溢れた。
そんな彼女の悲鳴を聞いて、少しだけ心が痛んだのか、動揺した表情を見せるウィチル。
だがそれはほんの一瞬。側にいるフェラムも気づかぬほどのほんの一瞬で、すぐに精悍な顔つきに戻ったウィチルは、フェラムの胸を掴んだまま走り出した!

「うおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」

大昔の処刑に馬が人を引きずるようなものがあったが、ウィチルのそれは身一つで行われた。
フェラムの胸を鷲掴みにして、雷撃を加えて体を動かすことを封じたまま、壁を走って彼女の体を引きずっているのだ。

「ぐううううッ!?うあああ゛あ゛あああぁぁあぁあぁーーーッ!!!」

胸への雷撃に加え、体を壁に激しく擦り付けられるという強烈な地形ダメージは、フェラムの悲鳴をより激しいものにした。
彼女の銀色の髪は激しく揺れ、ざっくりと開いた胸元はウィチルの雷撃によって、真っ赤に変色してきている。

「はああああああああッッ!!!」

「い゛ああぁあぁああああ゛あ゛あぁあ゛!」

壁や天井を走るウィチルの勢いは全く留まることを知らず、されるがままに引き摺られ続けるフェラム。
どうにかなんとかして抜け出したいところだが、魔法の詠唱はおろか電撃で体が痺れて動かすことすら叶わない。
フェラムはウィチルの攻撃になすすべなく、その小さな体に大きな外傷を刻まれ続けた。

「ぬうううううっ……はあぁっ!!」

「い゛やぁあんっっ!!」

充分なダメージを与えたと判断したウィチルは、手のひらから衝撃波を発してフェラムの体を地に叩きつけた。

「はぁっ……はぁっ……」

「ウ、ウィチル様すごーい!さすがはウィチル様ー!」
「ウィチル様!カレラと同じように早くフェラムの魔石を壊してあげてください!」

結界を張っている魔法少女たちの声を背中に浴びながら、ウィチルはフェラムの前でしゃがみこんだ。
フェラムはぐったりとした様子で、起き上がる気配はない。加減はしたので死んではいないはず。
ダークアウィナイトを壊すべく、ウィチルはフェラムの体へと手を伸ばした。


856 : 名無しさん :2018/02/24(土) 01:17:48 ???
(これが、絶望と隷属を司る魔石『ダークアウィナイト』…一刻も早く破壊しなければ!)
ウィチルはフェラムの襟元に飾られた、限りなく黒に近い青色の宝石…ラバーボンデージにはやや不釣り合いな、黒いリボン付きのブローチに手を伸ばす。
だがその時……

「んっく……、か、はっ……流石はウィチル・シグナス……威力、速度、そして美しさ…全てにおいて完璧な連携…」
気絶したかに見えたフェラムが、悩まし気な吐息と共に恍惚の表情を浮かべ……
「…だが貴様にこの小娘を…仲間を殺す事は出来まい」
突如、声色が氷のように冷たい物へと変わった。
(ビュッ!!)
同時に、フェラムの唇の端から流れ落ちる血の雫が、重力に逆らい、ウィチルの目を目掛けて飛ぶ!

「……くっ!?…これは!!」
ウィチルは素早く反応し、小さな針状に硬化した血液を受け止めた。
「お主も知っておろう……血の赤色は、血中の成分に含まれる『鉄』に由来する。すなわち……この娘の魔法で操る事ができる」
「そ…そんな事より……まさか、貴女は……!!」
フェラムは既に気を失っていたはず。だが、今目の前にいる彼女からは……微かだか、全く別の気配を感じた。
危険を感じ距離を取ろうとするウィチルに、フェラムの全身から流れ出す赤い血の糸が絡みつく。
フェラムの両手が獲物を借る獣のように素早く動き、ウィチルの手に組み付いた。

「ノワール……そんな、まさか……!!」
「クックック……『本体』が滅ぼされたのは想定外じゃったが……保険は掛けておく物よ。お陰で思わぬ大物が釣れたわ」
ウィチルはフェラム…ノワールの手を振りほどこうと両手に力を込める。だが…
(ブシュッ!!)
「っぐ………ううっ……!!」
変身前、フェラムの刃を素手で受けた時に負った両手の傷から血が噴き出し、激痛が走った。

「クックックック…もちろん、操れるのは自分の血だけではないぞ。こうして貴様に直に触れて、一言命令するだけで良い……」
「なっ………や、やめっ…!!」
「喰い破れ」
(…ザシュ!ザクザクザクッ!!ブシュッ!!)
「…っぐ……うあ"あ"あ"あ"あ"あああああぁッッ!!!」
フェラムの両腕から赤い血の刃が無数に突き出し、縦横に斬り裂いていく。
最強の魔法少女と謳われたウィチルの喉から、絶叫に近い悲鳴が絞り出された。


857 : 名無しさん :2018/02/24(土) 10:59:27 ???
「…っぐ……うあ"あ"あ"あ"あ"あああああぁッッ!!!」
ウィチルの両腕から赤い血の刃が無数に突き出し、縦横に斬り裂いていく。
最強の魔法少女と謳われたウィチルの喉から、絶叫に近い悲鳴が絞り出された。

「ウィチル様ぁああっ!!」「そんな、ウィチル様の腕が…!!」「は、早くお助けしないと!」
女王リムリットを守り防御結界を展開していた三人の魔法少女にも、動揺が走る。
「…皆の者、落ち着け!!………大丈夫じゃ。ウィチルは……ウィチルは、こんな事でやられたりはせん…!」
リムリットが声を発し、周囲の動揺を鎮める。

女王の玉座からは茨のような有刺線が伸び、リムリットの全身に巻き付いていた。
結界がフェラムの金属操作の魔力を防いでいるため、今は動きが止まっているが…玉座から離れるどころか、少しでも身じろぎすれば全身を無数の棘に斬り刻まれてしまう。
両腕が焼け焦げ、伝説の魔帽もない今のリムリットに出来るのは、自分の最も信頼する部下であり、母親代わりでもあるウィチルの戦いを見守り……ただ、信じる事だった。

(ザシュッ! ザクッ!!……ズブッ……!!)
「っ………ぐ、っ…うう…!!」
ウィチルは掌の傷を介して体内の血を操られ、手の平、前腕を内側から斬り刻まれていくが…
…自身の魔力を発動させ、二の腕の半ばあたりで辛うじて暴走する血の刃を押し留めた。

「クックック……並の魔法少女なら今ので心臓まで喰われているところだが……流石よのう」
二人の両手はイチャラブ恋愛もので言う所の恋人繋ぎ、格闘技で言う所の手四つ…力比べの体勢である。
だが物理的な力に関しては、傷ついた両腕では対抗しようがない。ウィチルは徐々にノワールに押し返され、騎乗位の体勢で組み敷かれてしまった。

「だが、それもいつまで持つか……最強の魔法少女の絶望の悲鳴は、さぞや美しかろう」
「はあっ……はあっ………ん、うぐ…!!」
魔力はまだ、辛うじて互角。だがこちらも、長引けば不利になっていくのは明白である。
絶望を司る魔石『ダークアウィナイト』が周りの魔法少女達の苦痛と絶望を力に変換し、フェラムとノワールの力を徐々に増大させているのだ。
フェラムが力を込める度に、痛々しく切り裂かれたウィチルの両腕から、血が滴り落ちていく。
少しでも気を抜いたら、それらが新たな刃へと変わり、今度は容赦なく全身を斬り刻む事だろう。

(あの魔石を何とかしなければ……もう一度、雷撃で……)
事態を打開すべく、攻撃魔法の詠唱を試みるウィチル。だが、当然ノワールはそれを妨害してくる。
遠距離戦・近距離戦、どちらも得意な彼女ではあるが、肌と肌が触れあうほどの密着状態では…

「さて、どう料理してくれよう…バインドアイで動きを封じるか、唇を奪って魔力を吸いつくすか……じゃがどうせなら存分に悲鳴を堪能したいのう。
そう言えば、そなたのこの鎧……魔力で生成した物とは言え、金属製である事には違いない、か…クックック……」

…邪術師でありガチレズでもあり、鋼の魔法少女フェラムでもある黒衣の魔女の猛攻を、いつまでも耐えしのげるものではない。
果たしてウィチルはその傷ついた腕で、逆転の魔法を放つことは出来るのか……


858 : 名無しさん :2018/02/24(土) 12:02:39 ???
一方その頃、光と水鳥は王の間へと急いでいた。真凛は拘束魔法リストリクションで無力化した上で、再び医務室に預けている。

「……ねぇ、光ちゃん……さっき……あの人が言ってたこと……」
「多分……まるっきりの的外れってわけじゃないよ」

トーメントの使者……フウヤ・トキワことフースーヤと同じ風使いであり、ある程度毒への対処も可能であり……何より実の姉弟であるフウコにあの場を任せたことも心配ではある。
だが水鳥は、光とフースーヤの会話も気になっていた。

「この国に不満を持ってた……までは分からないけど……無理してお姫様を演じてた、ってのは当たってると思う」
「そんな……」

かつて、市松鏡花と話した内容……記憶を失っただけで立派なお姫様がダメ人間になるのは、無理してお姫様を演じていたから……それを突き付けられ、光は揺さぶられてしまった。


「でも、結局それも想像に過ぎない……記憶が戻らなきゃ、確かなことなんか何も分からない」
「光ちゃん……」
「……あの日、セイクリッド・ストーンの魔力を浴びた時は……記憶が戻るのが怖かった」

ルミナスに帰還した光に対して真っ先に行われた治療は、聖石の魔力を浴びさせることであった。
王の邪悪な力を振り払えるだけの力が、あの聖なる石にはある。しかし、結果は空振りに終わってしまい……光の記憶はまだ戻っていない。

「8歳の子供を玉座に座らせて、王様とタイマン張らせる魔法王国なんて気に入らない……そう思ってたけど、一番責任をリムリットに押しつけてるのは、私だった」

記憶が戻ったら、また立派な4代目女王を演じなければならなくなる……フースーヤの言っていたことはいちいち、光の心に響く。

「聖石の魔力を浴びた私の身体の中に、もう王様の力は残ってない……何かきっかけがあれば、すぐにでも記憶は戻るはずなんだ」
「ウィチルさんが、そう言ってたね……」
「……アイツに言われっぱなしも悔しいからさ……このゴタゴタが片付いたら、ちょっくら本腰入れて記憶戻そうと思う」
「……!」
「とりあえずさ……私が人間界で鏡花や水鳥と暮らしてた時のこと聞かせてよ。聞いたら何か思い出すかもしれないし」
「……うん!」

そんな会話をしているうちに、ルミナスの王の間はすぐ近くになっていた。


859 : 名無しさん :2018/02/25(日) 15:44:24 ???
「だから……さよならだ、姉さん。」

諦めのような、決意のような含みを込めた口調でそう言うと、フースーヤは実の姉の首に手をかけた。

「ひぃっ……!」

姉の体温が手を通して伝わる。だがその温もりにほだされることもなく、フースーヤは手に力を込める。
ギチギチ…という鈍い音と同時に、フウコは苦悶の表情を浮かべた。

「ぐぅ……あ゛ぁ゛っ!ふぅ、や゛あぁ……!」

「こんなんじゃ殺さないよ。首絞めなんかじゃ蘇生は容易い。これはただの……僕の趣味さ。」

目の前にあるフウコの苦痛に歪む顔を見て、フースーヤは昔の自分を思い出した。
頭に浮かぶのは、ルミナスの掟に従ってアイデンティティーを封じられ、悶々とした日々を送っていた頃のこと。
もっとうまく戦えるのに、簡単に敵を倒せるのにと思ったが、フェラムを始めルミナスの魔法少女たちは毒を使うことを許さなかった。
そしてもちろん、目の前で苦しんでいる自らの姉でさえも……

「正直、僕は生まれる場所を間違えたとしか言いようがないよ……魔法少女だらけの場所に珍しく魔法が使える男が生まれ、しかもそれがあの忌まわしき毒使いときた。……色々と噛み合わなさすぎて、こうやって身内を殺すのも仕方ないよね?姉さん。」

「ち…ちがう゛っ……!フウヤは……こごにい゛ても、い゛い゛んだよ゛……!」

「姉さん……まだそんなことを……」

首を絞められながらも、フウコは必死に言葉を紡いだ。

『フウヤ君を救えるのは、フウコちゃんだけだよ!』

水鳥の言葉がフウコの頭の中を駆け巡る。
目の前の兵士はルミナスの排他的な考え方と、側にいて気付かなかった自分が生み出した恐ろしい兵士。
このまま自分が倒されれば、ルミナスには恐ろしい毒が漂い、あっという間に滅ぼされてしまう。
ウィチルや他の魔法少女がこの敵を退けたとしても、トキワという名は忌むべき名として、未来永劫語り継がれるだろう。
ならば、彼女のやることは1つ。

「……おや、姉さん。まだ諦めてないんだね。この状況で思念詠唱ができるなんて、素直に凄いよ。」

「ゲホッ!!!ゲホッゲッホ!!……はぁ、はぁ……」

フースーヤが飛び退くと、彼のいた場所に鎌鼬が音を立てて舞い上がった。
弟のマウントポジションからようやく抜け出したフウコは、苦しそうな声を出しながら軌道を確保した。

「フウヤ……貴方をこのままみんなのところへ行かせるわけにはいかない。私が……貴方を倒す。」

「ハハッ、姉さん。その意気込みは素晴らしいと思うけど、本気でこの僕に勝てると思ってるの?もうあの頃の弱虫フウヤじゃないんだよ?」

フースーヤの嘲笑を聴きながら、フウコは落ちていた眼鏡をゆっくりと掛けた。

「……確かに、私は貴方に勝てないかもしれない。でも、私は魔法王国ルミナスの魔法少女。そして貴方はこのルミナスに害をなす存在……魔法少女として、見逃すわけにはいかない。」

「フ……仕事熱心なことだね。トーメントの兵士たちとは大違いだ。見上げたものだよ。」

「でも、そんなことより……!大好きな弟が悪いことをしているのを、黙って見逃すわけにはいかない!貴方の……フウヤの、たった一人の姉として!!!」

トワリング・エアが高速回転しながらフウコの手の中へと収まる。
変わり果てた弟を見据えるために顔を上げたフウコの目からは、ぽろぽろと涙が流れていた……


860 : 名無しさん :2018/02/26(月) 15:43:00 dauGKRa6
「……変身ッ!!!」
大粒の涙を振りまきながら、ついにフウコは万全の戦闘態勢に入る。
変身と同時にフウコの服装は、あっという間に彼女専用の戦闘服になった。
背中は背面が大きく開き、フウコの傷ひとつない背中がはっきりと露出している。
胸部は下乳とお臍がはっきり見えているが、その分軽そうな妖精を模した服。
足の部分もミニスカートになっていてこれまた露出が多く、フウコの細く美しい生足がこれ見よがしに主張されている。
そしてトレードマークのメガネは消失し、かわりに魔力によって視界は良好になり、視力が彼女の戦闘に支障を来たすことはなくなった。

「ルミナスのみんなのために……フウヤ、ここからは本気であなたと戦う!」

風の祝福を受けた魔法少女エヴァーウィンドは、トワリング・エアをしっかりと握りしめてフウヤへと向けた。



「なんて格好だ……姉さん、弟の前でそんな露出度の高い格好をして、恥ずかしくないのかい?」
「……この服は、風の精霊の祝福を受けた立派な魔法少女としての戦闘服よ。恥ずかしがる要素なんか、1つもないわ。」
「はぁ……そんな格好で戦ってたら、戦闘の後に犯されても全く文句は言えないと思うけどね。どうして魔法少女たちはどいつもこいつも肌を露出させるのか……」
言葉ではそんなことを言っているが、メガネを外し凛々しい表情になった姉を見て、フースーヤは自分がかなり興奮してきていることを自ら悟っていた。

「さぁ……来なさい!フウヤ!」
「まぁまぁ、そう焦らないで……そうだ姉さん、これから姉弟で仲良くゲームをしようじゃないか。」
「……え?ゲーム?」
「ルールは至って簡単。今から5分間、僕は姉さんのその性欲の塊みたいなふざけた洋服をすべて切り刻むために全力で攻撃する。その攻撃に5分耐えて、下着1枚でも身につけていたら、姉さんの勝ちだ。」
「そ、そんなの……ゲームなんかじゃなくて、ただの陵辱じゃない……!」
「ククク……まあ姉さんの裸にそこまで興味はないよ。僕のこのゲームの勝利報酬は……羞恥と恐怖に歪む、姉さんの美しい顔なんだ。」

そう言って、フースーヤは懐から小さな砂時計を取り出した。
「姉さんが万が一勝ったら、僕は今回は諦めてルミナスから撤退するよ。いや……何なら他の魔法少女たちの洗脳を解いてやってもいい。」
「……フウヤ……あなたは一体、何が目的でこんな……!」
「さっきも言ったじゃないか。この腐った魔法少女の国を支配する……だけどそんなことよりも、僕をこんな怪物に作り上げてしまった姉さんのことを……その触り心地が良さそうでとっても柔らかそうな体を、全部ズタズタのボロボロになるまでリョナって、もう許してって命乞いまでさせたところで無様に殺してやりたいんだよ!!!」

恐ろしい口調でそう言ってから砂時計を力任せに地面に置くと、フースーヤは風に乗って空へと舞い上がった!



「さあ、早速ゲーム開始だよ姉さん!毒風・鎌鼬!」
毒が付与された風の刃をフウコへと発射させ、自身はそれを追いかけるようにフウコへと接近するフースーヤ。
それを迎え撃つべく、フウコはトワリング・エアと呼ばれる魔装具を目の前で高速回転させた!

「く……!ウィンドリフレクト!!」
「遅い遅い!こっちだよ姉さん!」
「え……?あぁんっ!」
突如側面に現れたフースーヤに思い切り胸倉を掴まれ、フウコは体を引き寄せられてフースーヤと密着した。
「そんなヒラヒラの洋服なんかさっさと切り刻んであげるよ!!そらっ!」
「あっ!きゃああっ!!」
フースーヤはフウコの露出した下乳を無遠慮にむぎゅうっ!と鷲掴みにすると、そのまま地面へと引き倒して風魔法を発動させた!

「下着以外細切れにしてやる!エア・カットアウト!」
「さ、さ、させないッ!リーフスラッシュ!」
至近距離で放たれた姉弟の風魔法。フースーヤの魔法は服を切るためで少し威力が抑えめの風魔法だったため、フウコの風の方が勢いを強めてフースーヤを弾き飛ばした!

「ぐあっ!」
「まだまだ!ウィンドブロー!」
追撃のチャンスを活かすべく、すぐさま風に乗って吹き飛ばされたフースーヤへと接近するフウコ。
その手には、変身して強化されたトワリング・エアがしっかりと握られている。

「ぐ、くそ……!」
「お姉ちゃんのことを……甘く見るなぁーーーッ!!」
吹き飛ばされて状況の確認が遅れたフースーヤの脳天に、鈍器としても威力抜群のバトンが振り下ろされた!


861 : 名無しさん :2018/02/27(火) 01:40:16 ???
「ぐあぁあああーー!!」

咄嗟に両手で頭は防いだが、トワリング・エアの打撃の勢いが落ちたわけではない。
先ほどとは逆に、フウコの手でフースーヤは地面に叩き付けられた。

「どう、フウヤ!?少しは目が覚めた!?」

「いたた……まさか、いきなり弟の脳天に鈍器をぶち込んでくるとはね……」

「あなたはそれだけのことをしようとしてるの!今から謝ったって、そう簡単には許してあげないんだから!」

「なるほど、それだけ本気ということか……嬉しいよ姉さん……僕はこんな風に姉さんと戦う日を待ち望んでいたんだ」

トワリング・エアをガードして痺れた両腕を振って痺れを払いながら、フースーヤは叩き付けられた地面から立ち上がる。

「なら僕も出し惜しみは止そう……本気で行くよ」

「フウヤ……変身するのね」

「変身?いいや、変身というのは魔法少女の考え方だ……僕のは違う」

そう言ってフースーヤは、自らの右腕に力を込め……黒いオーラを生み出す。

「あの日王様から貰った闇の力と、僕の魔法戦士としての力……それを僕の中で再結合させるのさ」

「闇の力……!?させない!ウィンドブレイド!」
「ウインドブロー!」

フースーヤが何か良からぬことを企んでいることを察したフウコは風の刃を放つが、フースーヤは風魔法で高く飛び上がることでそれを回避する。


「見せてあげるよ……僕のリユニオン!!」


空中で、黒いオーラに包まれた右腕を自らの左胸に叩きつけるフースーヤ。
その瞬間、激しい突風がフースーヤの周囲を吹き荒れる。


「きゃああああ!?」

その突風に煽られたフウコは、スカートを押さえながら吹き飛ばされる。

(変身の余波でこれだけの風を……!?これじゃまるで、ウィチル様みたい……!)

辛うじて着地して、突風に包まれたフースーヤを見つめるフウコ。今の彼女の視力なら、ゆっくりと風が収まり、変身……否、リユニオン後の姿を現す弟の姿がはっきりと見える。

基本的には、かつての彼の戦闘服と同じブレザーコート。だが、爽やかな若草色だったその服は、所々が毒々しいワインレッドに変色している。

「さぁ、ゲームを続けよう……残り時間は3分くらいかな……僕が本気を出した以上……1分もかからないだろうけどね!」


862 : 名無しさん :2018/02/27(火) 23:49:29 ???
「う……うぅん……」
やたら硬い床の感触を感じながら知らない天井に目を開けると、すぐに騒がしいアニメ声が私の耳に飛び込んできた。

「はっはっはー!雑兵!雑兵!雑兵オォ!その程度の魔法ではこのリッテの力には遠く及ばぬぞー!」
「きゃあぁあぁぁっ!」
「あつ、あづ!熱いよおー!み、み、水魔法はやくーー!!」
「わ、わかってるわよ!ウォーターシャワー!……あ、水が凍らされ……きゃあああああ!!!」
「あぁあ、ロミが氷漬けにされちゃったわ!」
「う、嘘、でしょ……あ、熱いぃ……誰か……助け……てぇ……」

大体の情報を把握する。恐らくあのガチレズに操られたエリート魔法少女が、ルミナスの魔法少女たちに攻撃を仕掛けているのだろう。
それより……私がこんなとこで裸になって倒れてるのはどういうことなのよ。あんのブラックガチレズ、まさか失敗してやられたのかしら。
周りに私が覚醒したことがバレないようゆっくりと顔を上げると、炎使いと氷使いの少女が背中合わせで魔法少女たちを翻弄していた。

「私に合わせなさい!リッテ!」
「合点承知!刮目せよ雑兵ども!姉様とリッテの合体呪文、特別に見せてやろう!」
「ま、まずい!みんな逃げてー!」

水色髪の氷の美女と紫ロングでアニメ声の子が手を繋ぐと、2人の周りの地面に大きな氷と炎の術式が出来上がる。
一瞬私もやばいんじゃ、と思ったけど、私が裸で狸寝入りしてる場所まで術式は展開されなかった。
多分、背後のこっちよりもターゲットの足元の方に術式が伸びているみたい。

「空に聳えし天光よ!その御名の元に輝く光華にて、わが敵を討ち払え!」
「地を統べる暗黒よ!わが選択せし運命は、汝の力の解放なり!その黒曜の輝きは生ある愚者たちの心をも喰らい尽くす!渇望するは解き放たれし異界の力、我が前に湧き出でよ葬送の影なる刃、暁闇深く死を纏い、異界の淵より今こそ来たれ!果て逝くは無限に続く地獄の業火!行き着くは光を遮る因果の特異点!そして我鎮座すは森羅万象を司りし破滅の玉座!!!死神の盟約により深淵のy」
「リッテ!!!!その辺にしないと本当に殺すわよ!!!」
「しんえんの……虚無なる力あああああああああああぁ!!!」

アホみたいな創作詠唱だけど、邪術の詠唱にはもっと長いのがある。ライライが結界を張る時はもっと長かったはず。

「「デモンズホーリー・ディゾルヴァー!!!」」

そんなことを思っている間に、魔力を解放した2人の放った魔法……どでかい暗黒の槍の群れと生命浄化の力を持つ光の雨が、派手な音を立てて魔法少女たちへと襲いかかった。

「み、みんな、退避したか!?」
「リッテのバカみたいな詠唱のおかげで、全員結界の中に入りました!大丈夫です!」

この尋常じゃない光魔法と闇魔法……多分、ミルフィールド姉妹かな。結構前のルミナスとの戦争の時に、クソリザとドロシーが捕まえたんだっけ。
2人とも結構手を焼いてボロボロになってて、ざまぁwwwと思ったのを覚えていた。

「くそ……姉様とリッテの合体呪文がこの程度の戦果とは……いででで!」
「あなたがふざけた前口上をしてるから逃げられたんでしょうが!馬鹿リッテ!」
「いだいいだぃ、姉様、りっへのほっへ引っ張らないへぇ〜!」


863 : 名無しさん :2018/02/28(水) 01:13:14 ???
「なんて邪悪な魔力…だけど、私は負けない……ルミナスのみんなを、守って見せるっ!!」
一度は心を折られかけながらも、正義を愛する強い心で二度目の変身を遂げたフウコ。
その戦闘力は以前と比較しても格段に上昇していた。

「まさか姉さんがここまでやるとはね。でも結末は変わらない…素っ裸にしてあげるよ!!『ストリーム・スラッグ』!!」
「ま…まだそんなエッチなことを……いい加減にしなさいフウヤっ!!『スパイラルサイクロン』ッ!!」
今まで成功した事のなかった上級魔法をも発動し、フウヤの放った風の散弾を弾き返す。

(ズドッ!!)
「ぐあっ!!」
暴風で吹き飛び、城の尖塔の壁に叩きつけられたフウヤに…
「でいっ……やあああ!!」
魔導バトントワリング・エアを激しく回転させ、追撃を仕掛ける。
(ズドゴゴゴゴ!!)
「…このこのこのこのこのっ…!!」
「ぐああああああああ!!!」
これでもかとばかりに連打を浴びせるフウコ。激しい怒りでいささか冷静さを欠いているようだ。

……変身したフウコは以前より格段に魔力を増し、その姿は攻撃的…かつ、刺激的で…煽情的。
「そんな露出度の高い格好をして、恥ずかしくないのかい?」
…という先程のフウヤの挑発も、半分は率直な感想を含んでの物だったのだが……

(まっっったくっ!!…信じらんない!!でも…あんまり意識した事なかったけど、
改めてよく見るとちょっとこの服スキマが多いような…スカートちょっと短いかなとは思ってたのよね…風魔法使うのに。
それに背中…はまだいいとして、胸のところは……これ、今はまだいいとしても
将来的に…もし、万が一、鏡花さん並に育っちゃったりしたら色々アブナイんじゃないの!?
いやそんなもん育ってから心配しろって言われたらそうかも知れないけどそれにしてもあああああ)
……フウヤの想定以上に刺さってしまったらしい。そして……

「……さ………姉さ………」
(大体フウヤもフウヤよ!アイツいつの間にこんなエロガキになっちゃったのかしら!!
昔からあんまり喋らない子だったけど、もしかして、ずっと前から頭の中では……あんな、えっちなこと考えてたの!?
そういえば昔みんなで海に行った時も『構わないから一緒に着替えよう』って言ったのに異常に嫌がってたし、
あれ?でも家でお風呂上がりに鉢合わせた時はあんまりうろたえてなかったような。
待って待って、そう言えばxxxと一緒にいる時は………偶然街でxxxに会った時も、なんか様子が…
…え?あれ?まさか…)
…魔力で極限強化された鈍器で連打連打連打しているうちに、フウコの煮えた脳細胞はおそるべき仮説に辿り着いてしまった。

「フウヤ!!…あなたって、もしかして……!!」
これまで他人のコイバナを目ざとく耳にしては「全自動めっちゃ甘酸っぱいマシーン」の名をほしいままにしてきたフウコ。
だが、いざ自分の身の周りの事となるとその勘も正しく働かないのか…
昔の弟の変調の原因に、フウコはこの時初めて気がついた。そして……

「………って、あれ?……フウヤ…フウヤ!!大丈夫!?」
気付いた時には、何もかも遅すぎた。


864 : 名無しさん :2018/02/28(水) 01:14:22 ???
「ま、まさかとは思うけど死んだりしてないわよね…『エメラルド・アイ』!!」
…変身したフウコの新しい『眼鏡』。ライトグリーンのバイザーが目の前の相手を分析し、視界に映し出す。しかし。

(ピー……)
「…あれ?何も映らない……どういう事…?」
目の前に居るはずのフウヤの情報が、全く表示されない。それは通常なら有りえない事だった。
仮に何らかの魔法で自分の情報に強固なプロテクトが掛けていたとしても、その場合は解析失敗とされてエラーが表示される。
これではまるで、目の前にはフウヤも、誰も居ないかのような……

「姉さん……もうすぐ5分だ。そろそろ目を覚ましたらどうだい?」
「えっ…」

その時。足の下から、フウヤの声が聞こえたかと思うと……
(つぷ……ずぶっ……ずぶぶぶ)
戦闘服の胸の下のスリットの辺りに小さな傷口が開き……黒く鋭く、赤くて長い何かが、突然生えて来た。
「な、にこ、れ……ぐぶっ!?」
身体が、両手両足が、後ろに引っ張られていく。フウコの手足は大の字に開き、身体は大きく反りかえる。
頭上には、逆さになったルミナスの街並みが見える。…フウコが自分の置かれた状況を把握したのは、更に数秒後。

「『インプ・ハルシネーション』……幻覚を見せる毒の魔法だよ。文字通り、随分と『夢中』になってたようだね……クックック」
…まるでモズの早贄のように。
ルミナス王城の中でも最も高い尖塔の頂上、鋭く尖った鉄の十字架の先端に、フウコの身体は背中から串刺しにされていた。

「え……あ、……が、はっ…!?」
新たな戦闘服も、敵を解析する魔法の眼鏡も、既にその殆どが消失していた。
残っているのは……薄い水色にグレーのチェック柄の、ボロボロに破れたショーツ一枚。

「姉さんも……そしてこの国も…これで、ゲームオーバーだ」
「や、……や、めっ………んっ…!!」

フウヤは……フースーヤは、フウコの耳元で呟き、最後の一枚を荒々しく毟り取った。


865 : 名無しさん :2018/03/01(木) 23:18:21 ???
「っ……が……は……!………」
「見えるかい、姉さん……僕はね、嫌な事や、辛い事があった時…いつもここから、街の景色を眺めていた。」

凛々しくも美しい戦闘服、トレードマークだったメガネ、そして可愛らしくもやや幼さの残る下着…
その全てを剥ぎ取られ、一糸まとわぬ姿となったフウコ。
王城の最も高い尖塔の頂、鉄製の十字架のオブジェにその背中を貫かれた彼女の傍らで、フウヤは静かに語りかける。
二人がいる尖塔は、ルミナスの首都・ムーンライトの中でも最も高く、空に近い場所だった。

「…みんないなくなればいいって、いつも思っていたよ。
僕を邪魔者扱いする魔法少女達も、彼女たちが守るこの街も、そこに住む人々も…
みんな僕の毒に呑み込んでしまえたら、どんなに楽しいだろうって」
「……………」
フウコは何も答えない。言葉を紡げるだけの力も、既に残っていなかった。
代わりに、十字架から時折赤い雫が滴り落ちて、フウヤのコートをわずかに濡らす。

「よくある、子供じみた妄想だった………だけど…今日、それは現実のものとなる。……」

フウヤ達の遥か頭上に暗雲が立ち込めると、巨大な魔法陣が展開されて街全体を覆っていく。
その複雑怪奇で禍々しい術式は、遥か昔に禁忌として失われたはずの…禁呪中の禁呪とも言えるものだった。

「風の禁呪『ミアズマ』。そして、毒の禁呪『ロッティングアース』の合成魔法…『ワールド・コラプション』。
この魔法が発動すれば空は瘴気に包まれ、大地は腐毒の沼に飲み込まれて、このムーンライトの街は…いや。
魔法王国ルミナス全域は、永久に陽の光差さない、草一本すら生えない死の荒野と化すだろう」
「…だ…だめっ…!!…そんなっ……の、………!!……」
フウコは驚愕に目を見開き、何事か言葉を発しようとして、ごぽりと血の塊を吐く。

「もちろん僕一人の力では、こんな途方もない魔法は発動できない。
…だが、堕ちた魔法少女達たちが破壊と殺戮をまき散らす事で、『絶望』の感情が生み出される…
絶望はダークアウィナイトの魔石によって、術を発動する為の魔力へと変換される。
…今のペースなら、あと30分もすれば発動に必要な魔力が蓄積されるだろう」

空に広がる巨大な魔法陣に向かって、どす黒い魔力が立ち上っているのが見えた。…数は全部で4本。

「……どうやら一人はやられたようだね。でもどんなに足掻いた所で、結果は変わりはしない。
ここから二人で見届けよう。この国の最期を…」


866 : 名無しさん :2018/03/03(土) 22:23:26 dauGKRa6
「ククク……ウィチルよ。少し平和ボケしすぎているのではないか?昔のお前なら、こんな簡単に組み伏せられたりはせんかったじゃろうて……」
「フ……フェラムを返しなさい、ノワール……!そうやって他人の体に何度も何度も入り込んで、いつまでしぶとく生きてるつもりだっ……!」
「クックック……ルミナスの魔法少女をすべて喰らい尽くす日まで、わらわは死なん。さあ、おしゃべりはここまでにしようぞ……」

騎乗位の体制でウィチルを組み伏せたノワール──姿はフェラムだが──は、ゆっくりとウィチルの首へと顔を近づけた。

「く……な、なにをするつもり……!」

「決まっておろう。貴様の持つ素晴らしい魔力を、このわらわが根こそぎ平らげてやるのじゃ……かぷっ!」

「あああぁあぁっ!!」

ウィチルの首筋に、フェラムの歯がゆっくりと食い込んでいく。ウィチルが首筋から魔力を吸い取られる感覚に気づいた頃には、詠唱していた雷魔法も発動できなくなってしまった。

「ふふ……なんと素晴らしい魔力のエネルギーじゃ。王都の魔喰虫共に食べさせてやれば、1週間は持ちそうなほどじゃな……」

「ひぐぅっ……あ゛っ!うう゛ぅんっ!」

「最強の魔法少女にしては、情けない声じゃのう。ほれ、もっとわらわにお前の声を聞かせるのじゃ……!」

ノワールは持て余していた左手を、ウィチルの股間へと運び……その手に魔力を込めて、ウィチルの股間を鷲掴みにした!

ギュウウウッ!!
「うああああぁぁあぁぁーーーッ!!」
「キくじゃろう?快楽と苦痛を同時に与える闇魔法、ドロールプレジャー……お前ら魔法少女を甚振り犯し尽くすために作り上げた、我が魔力の真髄よ……!」

突如発生した股間から直に伝わる痛みと快楽の相反する感覚に、ウィチルは声を上げながらビクン!ビクン!と体を飛び跳ねさせた。

(くぅ……体が、熱い……だめ……!リムリット様の為……ここで終わる、わけには……!)

はぁっ、はぁっ……と扇情的な吐息を上げ始めたウィチルを見て、ノワールは不敵な笑みを浮かべた。

「ククク……いい様よのぉ。最強の魔法少女もこうなると、ただの盛りのついた雌犬か……」

「ち……調子に乗るなよ……!ライトニング……!」

「バインドアイ!……クックック、これでもう動けまい。特別に声は出せるようにしてやろう。」

「ぐううぅ……くそ……!」

ノワールの闇魔法により、ウィチルはノワールの視界に収まっている限り、動けない体となってしまった。

「さて……この魔法は目を見続けることで拘束力が高まる魔法。となれば、ウィチル、貴様の目を見ながら魔力を吸収せねばならんなぁ……ククク!」

「え……んむぐうッ!?んッ!!!んぅううぅっ!!……ぁ……」

突然訪れた望まない接吻に、ウィチルは目を見開いて驚愕する。
目の前の少女──フェラムの口から快楽を伴う魔力が一気に自分の口に流し込まれ、ウィチルは一瞬気を失いかけた。

「ククク……!いい顔になってきたのう。最強の魔法少女がわらわの快楽にどこまで耐えられるか、存分に楽しませてもらうぞ……?あぁんむッ!!」

「ふあぁあぁぁんぅっ!!」

自らに齎された快楽に体が打ち震え、ウィチルは一際甲高い声を上げてしまう。
目の前には美しい16歳の少女……ウィチルもよく知る、魔法少女アイゼンリッターのフェラム・エクエス。
子供の頃から正義感が強く、思ったことははっきり言うタイプの少女だった。
ミントの弟子として魔法少女としての修行を重ねた後は、彼女の指導によって心身ともに大きく成長し、15歳にして隊長クラスの役目を与えられていた。
そんな彼女が……正義感が強く、艶やかな黒髪と凛々しい表情が印象的な16歳の美しい少女が。
今、自分の目の前で恍惚の表情を浮かべながら、じっと目線を合わせて、艶かしい接吻を一心不乱に続けている。

「んっ……!む……はぁあんむっ、ちゅうううっ!」

「や……ん、うぅ……っ……んんんっ!」

「ククク……この体の少女もわらわの接吻で堕ちた。ウィチルよ……お前もこのままグズグズに蕩けさせてやろう……んぢゅるっ!あんむっ!」

「ぐぅ……やめ、ろぉ……!んんむっ!?〜〜〜〜〜〜!!!」

大量の快楽を口から流し込まれ、声にならない声を上げるウィチル。
そんなウィチルの反応を見てうっとりとした顔のフェラムは、豊かな胸をウィチルに押し付けながら、激しい接吻を何度も何度も繰り返す。
フェラムは操られている──そんなことはわかっている。
が、かつての仲間だった少女の容赦ない快楽責めによって、ウィチルの頭はは困惑と快楽でグチャグチャに溶かされていった……


867 : モンスター図鑑【シャドー】 :2018/03/04(日) 00:01:20 ???
「あの教授、魔物のデータなんて集めてどうするつもりなんだろ。……モンスター図鑑でも作るつもりなのかな?」
人里離れた廃墟に派遣されたドロシー。そこに出没する「とある魔物」を討伐・捕獲せよ、と言うのが今回の任務だ。

事前に受け取った「エスカの予言」を見て、ドロシーは魔物の出現ポイント…
恐らく礼拝堂か何かだったのだろう、神秘的な雰囲気漂う石造りの広間で待機する。

(ブゥゥン……)
「きゃっ…!?…」
その時。記録用の超小型ドローンカメラが虫のような羽音を立てて飛び、ドロシーの股をくぐり抜けた。
(コイツもちゃんと動作してるみたいだけど……もうちょっと高く飛ぶようにはできないのかしら。それにこの服…)

現在ドロシーが着ている服は、戦闘用とは思えないくらい露出度が高く、隙間が多く……そしてスカートが短い。
以前の任務で親友のリザと協力して捕まえた、ルミナスの魔法少女達の技術を応用しているらしい。
今回の任務は「教授」と呼ばれる王の協力者が開発した、これらの品々の実地試験も兼ねていた。

(『データ収集のため、1回は攻撃を受けるように』って……簡単に言ってくれるわねぇ。まあ任務なら仕方ないけどさ)
リザから誕生日祝いに貰った真新しいリボンを弄りながら、ドロシーは、窓の外の景色に視線を移し…

「……奇麗な、月……」
ぽっかりと夜空に浮かんだ満月と、足元からその月に向かって伸びる影に、思わず目を奪われた。
そして、そのあまりの美しさに……その状況の「異様さ」に気付くのが、一瞬遅れた。

【シャドー】
戦闘力:D
黒い影の姿をした魔物。人の影の中に潜み足元から奇襲をかけるという、隠密・奇襲に特化した能力を持つ。

「キキキキッ……!!」
「っ!?……影が……きゃあっ!!」
普通なら、影が光源である月に「向かって」伸びる事はありえない。
危険を感じて後方に跳ぶドロシー。だが影に擬態していた魔物の手が一瞬早く伸び、ドロシーの脚を絡め取った。

「な、何こいつ……離れなさいよっ…!!」
尻餅をついてしまったドロシーに、シャドーが素早く覆いかぶさってくる。
影の魔物はまるで泥のように手ごたえがなく、もがけばもがくほど体は逆に闇の魔物に呑み込まれていく。

「く……物理的な力が通じないなら、魔法攻撃で…!!エア・スラッ……」
「キキキキ……キヒィィッ!!」
ドロシーが攻撃魔法を発動しようとした瞬間。闇の魔物は真っ赤な口を開く。
「えっ……ちょ、やだ、そこは……ん、っぐっ…!?」
(ぐちゅっっ……ずぶ!!)
そして、ドロシーのスカートの中……最も無防備な場所に、思い切り喰らい付いた!!

(ぬちゅっ!!……ずちゅ!!……ぐちっ…!!)
「っぐ!!……ん、い、……やっ…ああぁぁああああッッ!!!」
闇の魔物シャドーの牙は、身体を物理的に傷つける事はない。
その代わり普通に噛まれるより数倍激しい痛みを直接与え、魔力と生命力を奪う……ある種の邪術のような効果を持っている。

ドロシーが噛まれたそこは、言うまでもなく女性にとって…いや人体にとっても、急所中の急所。
しかも強固な魔法防護を誇る試作型戦闘服の数少ない()隙間の一つであり、そこを守るのは、ごく普通の……
「せっかくだし、下着も可愛いの選んだ方が良いですわよー!」ともう一人の親友に勧められるまま買った、
「こんな可愛いの穿けないっての!!」と当初は言っていたものの実は結構お気に入りの………下着一枚きり、だった。

「キキキキ……コノママ、クライツクシテヤル」
「う、っく……雑魚、が……調子に乗ってんじゃ、ないわよ…!」
ドロシーは全身の力が抜けていくのを感じながらも、十輝星としての意地と根性で辛うじて意識を繋ぎ止め…
「…スパイラルサイクロンッ!!」
…残った魔力を振り絞り、零距離からの攻撃魔法を発動させた。

「……グ……オオオオオッ!?」
この距離ならバリアも張れないし、素早い影の魔物と言えど回避は不可能。
そしてその威力は、残り少ない魔力でギリギリ発動したとは思えない強烈な威力で、ドロシーの周囲の闇の魔物を跡形もなく消し飛ばした。

「はあっ………はあっ………あ、れ……一撃で、倒せた…?」
(……この服…『妖精の服』とか言ってたっけ。風の魔力を増大させるって話だったけど、ここまですごいなんて……)
あの教授、頭とセンスは色々おかしいが、その技術力はどうやら本物らしい。
おかげで助かった、と言うべきか。むしろこの服の無駄に多い隙間のせいでこんな目にあった、と言うべきな気もする。

「子宮を引きずり出されるかのような激痛」の名残が未だ残る下腹を押さえ、ドロシーは複雑な表情を浮かべた。


868 : モンスター図鑑【スライム】 :2018/03/04(日) 00:09:26 ???
「はあっ………はあっ……(痛、っつ……しばらく立てそうにない…ちょっと休まないと…)」
月明りの下、傷ついた(主に自分の魔法で)体を冷たい石床に投げ出したまま、悩まし気な吐息を漏らすドロシー。
その周囲を小型ドローンカメラがゆっくりと旋回し、その姿をあらゆる角度から捉えていく。
……おそらく、3D格闘ゲームのコンティニュー画面のような映像が撮影されている事だろう。

「…はあっ………はあっ………ちょっと……こんな格好、撮らないでよ…!」
頬を紅潮させ、目を涙で潤ませた表情や、激しい攻撃にさらされたスカートの内側も、機械の目は容赦なく…
むしろここぞとばかりに接近・ズームして撮影するドローンカメラに、ドロシーは思わず抗議の声を上げた。
そんなドローンカメラの低空飛行に気を取られたせいで、気付くのが遅れてしまった。

……ドロシーの頭上に新たな魔物が忍び寄り、襲い掛かろうとしている事に。

【スライム】
戦闘力:D〜
意志を持って動く粘液の魔物。
捕まった女の子は二の腕やブラやパンツやおっぱいに吸い付かれた後、身体の中から溶かされてしまう。

(ぬちゅり……どろっ………ぼとり!!)
「んむっ!?…ぐっ………----ッッッ!!!」
毒々しい緑色の粘液の塊が、一瞬にしてドロシーの上半身を呑み込んだ。
顔をふさがれ、呼吸を封じられたドロシーがじたばたもがいている間に、
大きく開いた背中や腋、胸の下など、ありとあらゆる隙間から不定形の魔物が潜り込んでくる。

(くちゅり……ちゅくっ………ぬちゅ じゅるるるっ…!!)
「んっ……う、ぐ……ぷはっ!!………ひゃう、ん……く、あぁぁんっ!!!」
口を覆っていたスライムをやっとの事で引きはがし、ほんの束の間、呼吸を取り戻したドロシー。
だがその瞬間を狙いすましたかのように、スライムはドロシーの胸の先端に取り付いて一斉に魔力を吸い上げる。
結果、ドロシーの口から紡ぎ出されたのは、反撃のための攻撃呪文ではなく……魔の快楽に悶える、甘い叫び声だった。

「し、まっ………ん、ぐむぅ!!!」
再びスライムに呑み込まれ、窮地に引きずり戻されるドロシー。
残り少ない魔力もスライムに根こそぎ吸い取られ、反撃の手は完全に潰えた。…ただ一つを除いて。

(く、そ……あそこまで、辿り着ければ……)
ドロシーの倒れている位置から数メートル離れた所に、ドロシーの愛用の大鎌が突き立てられている。
鎌に込められた風の魔力を発動できれば、この事態を打開できるかもしれない…が、その数メートルが今のドロシーには限りなく遠い。

(にる……ちゅるっ…ぐちゅっ…ぐぷ……)
「んっ……ひ、う、きゃ、ふぅっ…ま、ける…か…!!」
腕、背中、太もも、臍、胸、股間…スライムに全身を這い回られる異様な感覚に耐えながら、ドロシーは必死に這い進む。

(じゅぽっ じゅぷぷぷぷぷぷ!!!)
「あた、しは……王下……じゅっき、せい……なんっ…ひぅぅぅううっ!!!」
反抗の意思を悟られ、スライムたちに報復の絶頂快楽を叩き込まれても……

(ずるっ……ずるずるずる……!!)
「リザ……アイ、ナ……あいつらのためにも、こんな…ところで…ん、ぐ、ああああぁっ…!」
あともう少しで手が届くその寸前。必死に足掻くドロシーを嘲笑うかのように、元の位置まで引きずり戻されても……
そのエメラルド色の美しい瞳に、諦めの色が浮かぶ事はなかった。

………………

「はぁっ…………はぁっ…………喰ら、えっ……『グリムリ-パー』ッッ……!!」
月明りの下で繰り広げられた少女の死闘が、どのような形で結末を迎えたのか。
それを知っているのは、……なんとか生還したものの、その詳細について決して語ろうとしない、ドロシー本人と…


「王様、例の記録映像ですが…どうにか回収できましたよ」
「おお、さっすが教授!!しかし、録画時間エゲツない事になってんなぁ……ヒッヒッヒ…!」
「編集作業のこと考えると、頭とか別のとことか色々痛くなりますよ……クックック」
「だが完成すればバカ売れ間違いなし!我が国の財布も潤うってもんだ。よろしく頼むよ。ケケケ…」

バッテリー切れ寸前まで稼働し、その映像を本国に送り続けた、小型ドローンカメラ。
……その映像を観た、ごくごく一部の者のみ、である。


869 : 名無しさん :2018/03/05(月) 00:58:01 ???
「はぁ、ん……ぁ、はぁ……!」

「クックック……わらわの口づけが、よほど気に入ったようじゃな?ウィチルよ……」

「くっ……!ざれ、ごとを……!」

フェラムの身体を操るノワールの接吻による魔力吸収で、絶対絶命のウィチル。
体内に残る魔力はあと僅か。力ずくで振り払おうにもバインドアイで身体は動けない。

「クイーンズ・ガードといえど、こうなってしまえば小娘同然……わらわのトドメの接吻(キス)で、息絶えるまで魔力を奪ってやろうぞ!」

「ぐ……!くそ……!ノワー、ル……んむぅ!?」

「んむ、ちゅ、れるぉ……!」

何故か日曜の夜に放送してそうなドラマの名前を言いつつ、再びウィチルの唇を奪うノワール。ウィチルの体内に僅かに残された魔力すら、ノワールに奪われていく。

「最強の魔法少女の魔力……うむ、ここまで美味な魔力は初めてじゃ……」

「はぁ……!ぐぁ……!リムリット様……すみません……!」

ゆっくりと、ウィチルの魔法少女衣装……地水火風の紋章があしらわれている純白の鎧の前面が、光の粒子になって消失していく。
前面から始まった鎧の消失は、後面にも徐々に広がっていった。

「クックック……魔法少女の強弱に関わらず、この光景は何度見ても良いものじゃのう」

戦いの為の鮮やかな衣装。それがゆっくりと普段着に変わり、戦士からただの女へと戻る瞬間……ノワールの堪らなく好きな光景だ。

「っ……ぅ、ぐ……!」

「いくら力もうと、わらわに見つめられている限り、その身体は決して動かぬ……それにしても」

一端キスを止めて、戦う力を失ったウィチルを見下ろすノワール。

「思ったより呆気なかったのう……平和ボケもあるが、仲間の身体を傷つけたくない、というのも大きそうじゃ」

「はぁ……!はぁ……!ノ、ノワール……」

「愚かよのう……女王の盾であるお主が、一魔法少女の身体を慮ったばかりに、女王の脅威を討てぬとは」

「その、通り……!私は、迷ってしまった……!本来なら、操られていると割り切るべきだったのに……!」

「クク……後悔してももう遅い」

「ええ……後悔するには遅すぎた……けれど……後悔しないよりは、ずっといい……!」

この時、ノワールは違和感を覚えた。身動きが取れず、最早変身を維持するだけの魔力もない女……なのになぜ、このような……決意と覚悟に満ちた目ができる?

「ノワール……自分で教えたことでしょう……?私の鎧は、魔力で作られていても金属製であると……」

「まさか……!」

ウィチルの変身が解けたのは、変身を維持する魔力がなくなったから。それ自体は正しい。しかしノワールは、その理由を勘違いしていた。
魔力吸収によって魔力がなくなったのではなく、変身を維持する分の魔力を『ある魔法』の為に消費していたのだ。
その結果、純白の鎧は前面から徐々に消失していった。ノワールからは見えていなかった、背中に僅かに残った鎧……そして『ある魔法』……それが意味するところは……!



「レインメタル!」


ウィチルの背中から金属の杭が現れ……ウィチルの腹部ごと、ノワールを貫いた。


870 : 名無しさん :2018/03/08(木) 23:38:10 ???
「ぐ、ぬっ……!!……まさか、自分もろとも味方を……攻撃するとはっ…!!」
ウィチルは金属操作の魔法で自らの鎧を金属杭へと変え、自分もろともフェラムの身体を貫いた。
フェラムを支配していた魔石も、この一撃で粉々に砕け散る。

(体の損傷が激しすぎる……この娘は捨てるしかない、か……ウィチルの身体も、これうなっては使えぬな…おのれ…!!)
ノワールが化身した黒いリボンもフェラムの体を『乗り捨て』、胸元から離れていく。
最強の魔法少女であるウィチルから魔力を奪い、あわよくばその身体を乗っ取ろうと目論んでいたノワールにとって、まさに予想外の事態、想定外の重傷だった。

「ふん……まあ良い、小娘の身体は返してやろう。だがウィチルよ…最強の魔法少女である貴様の魔力は、たっぷりと頂いた。
すぐに代わりの……いや、『本来の体』を取り戻して、お主らを地獄の底に叩き落してくれる……!!」
黒いリボンはフェラムの体から離れ、蝶のように空中を舞う。次の依り代となる魔法少女に取り付く為に。

「『最強の魔法少女』ですか……貴女は随分と私の事を買いかぶってくれていましたが、
あいにく私は、このところ実戦から遠ざかっていましてね…魔力というのは、普段から使っていなければ、すぐに錆びつく物。
そして錆び付いた魔力は、ふとしたはずみで事故を起こしてしまう物なのですよ……『バーニング・オーラ』!」
「!!………なっ……何……!!……わらわのカラダが、……燃えるっ………!!」
ウィチルが使ったのは、術者の魔力は殆ど必要とせず、対象の体内を巡る魔力を燃料として燃え盛る、特殊な火炎魔法。
普段から魔力を行使し、新しい魔力を常に循環させている者には効果が薄いが、長年前線を退き、古くなっていたウィチルの魔力…
…それを大量に吸収したノワールには、抜群の効果を発揮した。

「っぐあああああッ!?……これは………おのれ、ウィチル・シグナスっ……よっ、よくもっ…!!」
「逃がしませんっ……次の犠牲者が出る前に、確実に……止め、を……っ……げほっ…!!」
炎を纏った邪悪な黒蝶は、狂ったように乱高下しながら逃げていく。
それを追おうとするウィチルだが、金属杭の傷は思いのほか深く、立ち上がる事ができなかった。

「待てウィチルっ!無理をしてはならんっ!!……キュアライトっ………っ、く……!!」
リムリットがウィチルの元に駆け寄り、治癒の呪文を詠唱する。
…だが、重度の火傷に加えて、金属の茨を無理矢理引き剥がしたせいで両腕には深い傷が幾重にも刻まれており、回復魔法を発動する事ができない。

「リムリット様っ!」「結界を出ては危険ですっ!!」「治療は我らにお任せを!」
続いて、結界で女王を守護していた魔法少女…セレス、ロゼ、ルキアの3人が、ウィチとフェラムルの周囲に集まる。
少女達はウィチルとフェラムを治療するが、二人の胸に開いた大穴からは、大量の血がとめどなく流れ続けた。

「…リム……リット様……私に、構わず………奴の狙いは、地下の……」
「!…セイクリッドストーンと、封印したノワールの『本来の身体』……そんな事はわかっている…じゃが、このままではウィチルが…!」
(回復魔法も満足に使えぬとは……わらわは、なんと無力なのじゃ……フェラムとウィチルが、目の前で死にかけているというのに…!)

「…リム、リット、様……私は…貴女のお目付け役を、仰せつかって以来……毎日が、戦いの連続でした。
忙しくて、騒がしくて、煩わしくて、学ぶことが沢山あって……とても楽しくて、幸せな…戦い……」
「もう喋るな、ウィチル…………『ちちんぷいぷい いたいのいたいのとんでけ』…!!」

「もし……もし、私が居なくなっても………リムリット様なら、きっと立派に……皆を、導いて……」
「何を、言って…………そん、なの……やだ、よぉ…うぃちるぅ………うっく……ひぐっ……ウィチルがいないと、リムは……りむは……う、うぇぇっ……!!」
大粒の涙をこぼしながら、必死に回復魔法の詠唱を続けるリムリット。
その声色、言葉遣い、表情は、普段の彼女…数多の魔法少女達を率いる、魔法王国ルミナスの女王の物ではなく、
王国の命運を一身に背負わされ、その重圧に今にも圧し潰されてしまいそうな、ただの、一人のか弱い少女……
ウィチルや姉ヒカリなど、ごく限られた者しか知らない、リムリットの素顔であった。


871 : 名無しさん :2018/03/10(土) 01:18:26 dauGKRa6
「ウ……ウィチル様あぁっ!!」
「うわ……これは……!」

謁見の間に辿り着いた水鳥と光。そこで見たものは様々あるが、1番の驚きは、最強の魔法少女ウィチルが血塗れの姿で倒れていることだった。
その他にも、リッテ、シュリヤと戦いを続けている魔法少女たちの傷ついていく姿、なぜかぐったりしているコルティナの髪をうっとりした表情で弄り回しているアコールなどがいたが、とりあえず2人は箒に乗ってリムリットたちの元へと近づいていく。

「ヒカリお姉様あぁっ!!ウィチルが……!ウィチルがぁ……!」
「……まさかこの人がやられるなんてね。やったのは誰?」
「うっ……うぅっ……」
「ノ、ノワールですヒカリ様ッ!奴はウィチル様から吸収した魔力を使って地下の魔法障壁を突破して、自分の体を取り戻すつもりですっ!」

悲しみのあまり言葉が出せないリムリットの代わりに、今もなおウィチルとフェラムを治療しているセレスが声を上げた。
「……流石にノワールの奴を復活させちゃったら、あたしらの負けは確定……だよね?」

光の問いかけに、セレスたちは目を伏せる。無理もないことだった。
ウィチル・シグナスという最強の魔法少女が倒れた今、完全復活したノワールを止められる者などいない。

「直ちに地下に増援を送りたいのですが……指揮系統も混乱しているし、ミルフィールドの2人とアコールも操られたままで……正直、もうどうしようも……!」
ロゼは悲しみに満ちた涙声を出した。セレスとルキアの2人の目からも涙がぽろぽろと零れ出す。
それは、この戦争の結果を悲観した感情だけではなく……目の前のウィチルの命はもう風前の灯火であることへの、自身への無力感からだった。

「そ、そんな……私たちのルミナスが、このままあのトーメント王に支配されてしまうなんて……いやぁ……!」
そんな3人と泣きじゃくるリムリットを見て、水鳥の心にも絶望が広がる。だがそんな中、まだ諦めていない少女が1人、いた。

「…………わかった。」
光はそんな絶望に染まった魔法少女たちを神妙な面持ちで見てから、すっくと立ち上がる。
「十輝星時代にあいつ……ノワールとは同僚だったから、あいつのヤバさ(ガチレズ度)は私も知ってる。……奴を蘇らせたら本当に手がつけなくなる。」
「ひ、光ちゃん……?」
珍しくはっきりと言葉を喋る光の姿に、水鳥は不思議そうな声を出した。

「いや、私だって一応ヨンダイメサマって呼ばれてる時期があったんだから。管理職だからって、こういう時に戦わないわけにはいかないでしょ?」
「で、でも光ちゃんはまだ、魔法の使い方も初級中の初級しか覚えてないんだよ!?」
「水鳥の言うとおりです。光様はここで待機を!」
「待機なんかしてられないって!戦いの知識なんか実践やれば思い出すだろうし、しかも記憶無くなる前の私ってポテンシャルは高いみたいだしね。……それに、ノワールとの戦いなら私の記憶を戻せるかもしれないし。」

魔法の修行もしてみたが、昔使っていたという光属性の呪文も忘れてしまっている。
それでも、昔戦ったという相手との命のやり取りで、自分の記憶が戻るかもしれないと光は考えたのだ。
荒療治にはなるが、それだけのことしてでも記憶を戻したいという覚悟が、今の光にはあった。


872 : 名無しさん :2018/03/10(土) 14:52:38 ???
「あのー!なんかめっちゃ取り込み中のところ申し訳ないけど、助けて欲しいなりーー!」

と、その時、光たちの耳に切羽詰まった声が聞こえてくる。いい加減アコールから逃げ出したいコルティナの声だ。

「えーと……誰だっけ?」

「光様、彼女はコルティナと言って、先日までシーヴァリアに潜伏していた魔法少女です」

「あー、道理で覚えがないわけだ」

「と、とにかく助けて欲しいなりー!私なら多分、ウィチル様とフェラムを助けられるなりよ!」

「え、本当!?」

「ポケ○ンでもカー○ィでも、睡眠技は回復技と相場が決まってるなり!早くこの普段オドオド口調の癖に髪のことになるとペラペラ口調になる変態髪フェチの手から救ってプリーズ!」

「水鳥、頼む!」

「うん!アクアウィンド!」

コルティナならば、瀕死のウィチルとフェラムを助けられる。それを聞いた以上、迷う必要などない。
この場にいるメンバーで最も安定した戦力である水鳥が、水の翼を発現させてコルティナに密着しているアコールへ体当たりをかます。

「きゃう!」

「コルティナさん!今のうちに!」

「やっと抜け出せた……!マジで感謝なり市松妹!」


魔力は尽きていたが、髪を弄られているうちに動ける程度には回復していたコルティナは、後ろを見ないようにしつつ光たちの元へ駆ける。



「セ・ロ・ル!魔力を!」
「わかったわ!」「ウィチル様とフェラムをお願い!」「ちょっと待ってセロルって何」

「っし……変身!」

セレス、ロゼ、ルキアから魔力を分け与えられたコルティナは、再び魔法少女ミッドナイト・ヴェールへと変身する!

「ぅう、ぐす……コルティナ、本当に、本当にウィチルとフェラムは助かるの……?」

「大きな泥船に乗ったつもりで見ててくださいリムリット様!これが私の新技!『スリーピー睡眠』!略してSS!」

魔法のマント『なんかぶわーってなるやつ』がぶわーっと広がり、ウィチルとフェラムの身体を丸ごと包み込む。

この魔法は、「マントを寝袋にする時に魔法使えばめっちゃ気持ち良く安眠できるんじゃね?」というコルティナの睡眠欲が生み出した、めっちゃ気持ち良く安眠できる魔法である!

副次効果として、マントで包み込まれた人間のダメージを癒す効果もある!

「致命傷の場合理想の睡眠時間と言われる8時間睡眠じゃないと治せない上、シーヴァリアには有能なヒーラーが多くて使い道が私の昼寝しかなかったけどね!」

「すごいじゃないコルティナ!」「貴女の昼寝趣味がこんな形で役立つなんて!」「見直したわ!」

「二人が、助かる……う、うぅ……よかった……よかったよぅ……」


873 : 名無しさん :2018/03/10(土) 16:44:44 ???
「ど、どうやら二人は助かりそう……なのかな?……じゃあ私は、今のうちにノワールの奴を…」

「クックック……あら、そうは行きませんわヒカリ様…折角来たのに何処に行かれるおつもりですか?」
「ひ、ひどいです…私のコルティナさんを奪うなんて……下のお口に手ぇつっこんで、臓物ブチまけの刑にしちゃいますよ?」
「色欲に狂いし闇の女王と強欲なる王に記憶を封じられし怠惰なる元女王よ…我らを無視して立ち去るなどとは傲慢の至り。そんな事されたら嫉妬のあまり憤怒して……えーと、暴食しちゃうぞ!」
「…リッテは黙ってなさい。とにかく、地下とやらに行きたいなら私たち3人を、倒してから行く事ね!!」
操られた魔法少女達が、ヒカリの前に立ち塞がる。一部に漂う残念な空気とは裏腹に、その実力は恐るべきものであった。

「光ちゃん……先に行って。ここは私が食い止める!」
「ま、待て水鳥!一人じゃ無理だっ!!」
それに単身立ち向かうのは、『魔法少女アクア・ウィング』こと市松水鳥。

「あら?見ない顔ね……新人さんかしら」
「たった一人で我らに挑むとは……身の程をわきまえよ、雑魚が」

シュリヤとリッテがトーメントに捕らえられたのは、水鳥達が魔法少女になる前。
当時4代女王であったヒカリが魔法少女達を率いてトーメントに侵攻した時なので、水鳥は二人と直接の面識はない。
だが、対峙しているだけで感じる圧倒的な魔力から……彼女たちの実力が自分を遥かに上回っている事は、いやでもわかる。。
それでも水鳥は己を奮い立たせ、魔弓エンジェルズ・ティアーを手にシュリヤ達に挑む。

(私は…『あの時』、決めたんだ。この世界を覆う絶望と戦って…私がみんなを、守り抜くって…)
「実力じゃ敵わないかもしれないけど、魔石さえ壊せば……スプラッシュアロー!!」
「クスクス……良いでしょう。弱い者イジメは、嫌いじゃないわ。氷の女王の断罪槍<グラキエス・クリス>!」
次々と魔法の矢を放つ水鳥。だが、シュリヤの凍気の槍が、水の矢を吸収してしまう。

「そんな…攻撃が届かないっ…!?」
「ふふふふ……氷使いと戦うのは初めてかしら?ひよっ子さん……そんな物を出したまま戦うなんて、凍らせてくれと言ってるようなものよ!『ブリザードグラウス』!」
(ゴオオオッ!!!)
「きゃああああぁっ!!」
凍てつく魔力に包まれ、水の翼が一瞬にして凍り付いてしまった。更に……

「翼が凍ってしまっては、飛んで逃げる事も出来ないでしょう……『クリスタルフィールド』!!」
(ビキビキビキビキッ!!)
「っきゃぅ!?……あ、足元が……」
シュリヤの魔法で、水鳥の周囲の床も、まるでスケートリンクのように凍り付く。
そして、シュリヤの足には…いつのまにか、靴底に鋭利な刃の付いた禍々しいブーツが装着されていた!

「さあ、私の華麗なる氷上の舞……とくと味わいなさい!!」
「なっ!?速……きゃあああっ!!」
シュリヤは高速スケーティングで瞬時に水鳥の間合いを詰め、回転ジャンプを連続で繰り出した!

「ほらほら、どうしたの?私たちを食い止めてくれるんじゃなかったかしら?」
「きゃうっ!!…んっ……ぐっ、……うぅ、んああああっ!!」
刃つき靴底よる回転蹴りが、全方位から次々と水鳥に襲い掛かる。
戦闘服はボロボロに切り裂かれ、血しぶきが舞い、その血さえも空中で凍り付いて赤い氷の華へと変わる。
美しくも恐ろしい死の舞に、水鳥は為す術なく全身を斬り刻まれ……

「フォービドゥン・エッジ!!」
「っぐ………うああああっ!!」
最後は大きく宙返りしながらのサマーソルトキック。
シュリヤは掟破りの大技で、水鳥の身体を真上に大きく蹴り飛ばす。

「もっと可愛がってあげたい所だけど……あの子が『さっきの礼をさせろ』ってうるさいのよね」
「ふふふ……そういうことです……私のコルティナさんを奪った、むかつくクソガキさん」
……広間の天井近くにまで打ち上げられた水鳥。そこには、アコールの髪の毛が蜘蛛の巣のように張り巡らされていた。


874 : 名無しさん :2018/03/10(土) 17:46:02 ???
「う、……動け、ないっ…!」
天井にびっしりと張り巡らされた髪の毛が水鳥の四肢を絡め取った。
その様は、まるで蜘蛛の巣に絡め取られた蝶。水の翼をシュリヤに凍らされ、飛んで逃げる事も出来ない。

「す、すみません私なんかが………シュリヤさんの獲物を横取りしちゃったみたいで、本当にごめんなさい……
それじゃ、クソガキさんの惨殺処刑を始めさせていただきますね……『カーリードリル』!!」
アコールの髪がカーリーでガーリーな螺旋状へと変化し、尖った髪が怒りの女神のごとく高速回転!

「そ、それで、あの……さっき、私にきつーぅい一撃入れてくれたのは……右脚でしたっけ?」
「……っぐ…うあああっ!!」
「それとも、左脚……それとも、腕?……ん〜、違いますねぇ。あれは確か…」
「あっ……ぐ…!!………っ、がっ…!、…あ"あ"あ"あ"あ"!!!」
ドリルと化した髪が、水鳥の手足を次々と貫いていく。
小さな身体が絞り尽くされんばかりの大量の鮮血が飛び散り、周囲の髪の毛の網を血で濡らしていった。

「そうそう、思い出しました……体当たりでしたね。という事は、悪いのはこの翼と……」
(ぶちっ……ぶちぶちっ………めきっ…!!)
「う………あ、あっ……!!」
巨大な掌に変化した髪が、水鳥の凍り付いた翼を力任せに引きちぎる。そして……
「このカラダ、という事になりますねぇ……」
そのまま水鳥の体を、がっしりと掴んだ。

(ぎりっ……ぎちぎちっ…)
「あっ……ぎ、い……っ…!!」
「んんっ♥……この感触。軽くて、細くて、華奢で……力を入れ過ぎたら折れちゃいそうです。…こんな風にっ…!」
(…………ぐきっ!!)
「も、もう、やめっ……げ、っがああああああああ!!!」
巨大な手が水鳥の身体を全身から血が流れ、頬には一筋の涙がこぼれ落ちる。

「……あら、やだ。汚いドブネズミさんの血が、私の髪の毛に付いちゃいました……本当、ひどいクソガキさんですね」
(…血……そう、だ……あれも、水分…私の魔法で、操ればっ…)
鋼属性の魔法少女フェラムは鉄分を媒体にして血液を操っていたが、血液は言うまでもなく水分も多量に含んでいる。
水属性の使い手である水鳥にも操ることは出来るはず。以前、魔物化した有坂真凛が血の触手を操る術『ブラッドテンタクル』を操っていたように。

「止めを刺しちゃう前に、一滴残らず血を絞り出しちゃいますね……長引かせちゃってごめんなさい」
(狙いは、魔石のペンダント……血を操る魔法なんて使った事ないけど、もうやるしかないっ…)
的が小さいが、狙いを付ける余裕はないし、髪の毛で防がれる可能性もある。
周囲に飛びった血をなるべく多く操って、数でカバーするしかない……

「それじゃ、行きますよ〜。地獄のゾウキンしぼりっ…!」
「今……だっ……スプラッシュアロー・ブラッド!!」
「きゃああっ!?」
周囲に張り巡らされたアコールの髪。そこから滴り落ちる大量の水鳥の血が、一斉にアコールに襲い掛かった!

(シュウウゥウゥ……)

「…はあっ………はあっ………」
「あの…………ごめんなさい。本当に……」
…慣れない術、そして瀕死の水鳥の魔力では、それほど多くの血液は操れなかった。
絞り出すように撃ち出された十数発の血液弾。そのうち半分ほどは狙いを反れ、残る数発は…

「カスみたいな魔力を振り絞って、折角反撃して下さったのに………ぜんぶ、無駄になっちゃいましたね。ふふふふ…」
……アコールが咄嗟に魔石を髪の毛で覆い、全てを防ぎきっていた。


「本当にごめんなさい……もう、抵抗する力も残ってませんよね?……じゃあ、止めにゾウキン絞りした後、地面に叩きつけて……潰れたヒキガエルみたいにして、終わりにしてあげますから」
「…ない……」
「…………え?」
「…まだ……終わって、ない……っ!!」

アコールの魔石を覆う髪の毛。そこにへばりついた数発分の血の塊が、再び動き始めて髪の毛のガードをこじ開ける。
「うっ……うそっ!?…で、でももう、血の弾丸は……」
「……い、けっ……!!」

周囲を見渡すアコール。血の弾丸はどこからも飛んでこない。だが……
(…ピシッ……!!)
激しい痛みと過酷な戦いの中で、流れ出たのは血だけではない。
透明な……水鳥の涙が、小さな水の矢となってアコールの魔石を貫いた。


875 : 名無しさん :2018/03/10(土) 19:42:57 ???
「あ……あら?私、一体何を……って、きゃあああっ!?」
魔石が砕かれた瞬間、アコールは目覚め、変身は解け、髪型は元のショートボブに戻り…………結果、女王の間の天井から落下する事になった。
「フォンテーヌ・ハイネットっ……!!」
それでも何とか髪の毛をクッションにして、着地に成功する。そして……アコールは見た。
女王の間に広がる凄惨な光景。激しい戦いの痕跡。血に染まり倒れ伏す魔法少女達。

「あらあら……哀れな小鳥さん。そんな所で這いつくばっていては、凍えてしまうわよ……リッテ、暖めて差し上げなさい。たっぷりとね」
「はい、姉様。クックックック……出でよ、昏き混沌の火龍よ……この哀れなる下等な子羊の血肉を、昏き炎の牙で喰らいつくせ…!!」
「っが……はっ………!!」

そして…一緒に落下してきた少女…市松水鳥が、エリート魔法少女姉妹として名高いミルフィールド姉妹……仲間の魔法少女だったはずの二人に捕まり、今まさに止めを刺されようとしている光景を。


「やっ………やめろっ!!……シュリヤ!リッテ!水鳥を放せっ!!」
「フフフフ……ヒカリ様。一人で熱くなって私たちに突っかかって来た、この小娘が悪いのですよ。文句がおありなら…次は、貴女がお相手して下さる?」
黒い炎に四肢を絡め取られ、氷の槍を突き付けられる水鳥。その身体は淡く弱々しい光に包まれ、変身が解けかかっていた。

昏き混沌の火龍<ダーク・ケイオス・サラマンダー>とは……例によって例のごとく、リッテのオリジナル魔法である。
炎と闇の属性を合わせ持った黒い炎で、無数の首を持つ邪竜……それはリッテの類まれなる造形センスによって、もはや多頭竜というより腐ったイソギンチャクのような、文字通り混沌としたやべー感じの奴と化している……を創り出し、ダイナミック噛み付きバーニング触手プレイを敢行するというアグレッシブでコケティッシュな魔法なのだ!
ちなみに普通に「暗き」「竜」と書けばいいのに何故そうしないのかは、賢明なる一般読者諸兄には逆にわからないかもしれないが大した意味はないので気にしなくてよい。

「クククク……あの髪の毛女、ここまで追い詰めておきながらガキ一匹も満足に仕留められないなんて。所詮は雑兵…と言った所ですね、姉様」
「フフフ…でも、こうして『あとは止めを刺すだけ』で渡してくれたのは評価に値します。……平民の割には、ですけど」
(え、髪の毛女…って、私…?……気を失ってる間に、一体何が……)
目の前に広がる異常事態から目を離せず、物陰に隠れつつも様子を伺うアコール。その時……

「いい加減にしなさいバカ姉妹!イタいコスプレした22歳と厨二病患者が、若さに嫉妬して小学生を虐めている光景にしか見えないわよ!」
真っすぐで凛と澄んだ美声が、王の間中に響き渡った。

「!?……誰だ……今ほざいた、命知らずは」
周囲に視線を巡らせるシュリヤと、柱の陰に潜んでいたアコールの視線がぶつかり合う。
「ちちち、違います!(確かに一言一句全く同じ事思ってましたけど、)今言ったのは私じゃなくて……」

女王の間に新たに入って来た、その少女は……水鳥にとっては、魔法の師匠であり、憧れの存在。
ヒカリにとっては……現実世界に派遣されていた頃からの戦友にして、腐れ縁の悪友。
ミルフィールド姉妹にとっては……当時からヒカリとのコンビに散々手を焼かされてきた、『目の上の2大タンコブ』の一巨頭。

「……待たせたわね!我が名はスーパーグレート清純派アイドル・有坂真凛!
またの名を、魔法少女「ピュア・アクアマリン」!!今度こそ正真正銘・完全復活よ!!」

「お……お前……え、大丈夫なの?ナントカの刻印とか」
「ふん。隷属だか何だか知らないけど、気合で吹っ飛ばしてやったわ!」
『お前そんなキャラだったんかい』と言いたくなるのをなんとか堪える。だがそれはそれとして、ヒカリは真凛の姿を見た瞬間……

「そういうアンタこそ……『目が覚めた』ってカンジの顔してるわね」
……心の中に、何かが蘇るのを感じた。

「さーて…アタシのカワイイ一番弟子を、随分可愛がってくれたみたいじゃない。シュリヤ!リッテ!あんた達、いくら操られてるからって…お尻ペンペンじゃ済まさないわよ!」
真凛の周囲が。いや、王の間全体が、真凛の魔力に包まれていく。
一種の結界空間が形成され、観客席、スポットライト……そして、ステージが出現し、1曲目のイントロが流れ始めた。

「ULTRA・SUPER・FENIX・IDLE!!有坂真凛・オンステージ!!いっっくわよおおおお!!!」
「おいフェニックスのつづり違うぞ」
ヒカリは果たして結界空間を抜け出してノワールを追う事ができるのだろうか。
(……こうなっちゃうと、止まらないんだよな。コイツ……)
なんかムリっぽい気がしてきた。


876 : 名無しさん :2018/03/10(土) 23:00:25 ???
「て言うか真凛お前そんなキャラじゃなかっただろ!」

「うっさいわね!犯されてたり操られてる期間が長すぎて素のキャなんて最初っから定まってないわよ!アイドル活動中はファン受けするような振る舞いを心がけてたし!」

「いやまぁ清純派アイドルが実はガサツ女子ってのは割と王道かもしれんが……」

「光!アイドルがライブ中に喋れるのはイントロや間奏の短い間だけ!これ以上はライブ後まで待って!」

その言葉を契機に、アップテンポな音楽のイントロが終わり、真凛は歌を歌い始める。


「突然のリョナ、ガチめのH♪再登場はいつも洗脳、やられ方は毎度アッサリ♪あーー!どーしてこうなるのー♪」

真凛がなんか個人的な不満が込められてそうな歌を歌い出した途端、ライブ空間からは水柱が上がる。

「マーメイドアイドル、マーメイドメロディ♪可愛いイメージ華やか絶対♪なのにどうしてなぜなのだー?」

水柱は、キラキラとした水しぶきを王の間全体へとかける。

「これは……ヒールウォーター?」

水しぶき……ヒールウォーターを受けた魔法少女たちの傷が、ゆっくりと回復していく。

「あれは、真凛?」「もう動いて大丈夫なのかしら?」「とにかくみんな!まだ動けるわね!」

リッテとシュリヤに蹴散らされた名無しと雑魚をはじめとする魔法少女たちは、回復しきってはいない身体に鞭打って立ち上がる。

「ちぃ……!烏合の衆共が何度も何度も……!」
「姉さま!もう一度我らの合体魔法を!」
「リッテ!またふざけたら今度こそ殺すわよ!」

それに対し、ミルフィールド姉妹は再び合体魔法を放つことで一掃しようとする。




「えっと、そのぅ……すいません、どういう状況なのでしょうか……?」

「げ、髪フェチ!?」

「ぅえ!?私のことですか!?」

一方完全に置いてけぼりになったアコールは、周囲を見回してよく世話になっているコルティナの元へ行って状況を聞こうとしていた。


877 : 名無しさん :2018/03/12(月) 13:32:12 l.YgkCYE
「空に聳えし天光よ!その御名の元に輝く光華にて、我が敵を討ち払え!」
「地を統べる暗黒よ!深淵の虚無なる力にて、我が敵に裁きを下せ!」

シュリヤとリッテは今度こそ素早く詠唱を終わらせ、強力無比なる合体魔法、デモンズホーリー・ディゾルヴァーを発動させた。
魔法少女たちは素早く防御魔法を展開するが、ルミナスきっての天才姉妹の圧倒的な魔力に耐えられるものは少なく、防御魔法の砕け散る音が無情にも激しく響き渡る。

「障壁が破れたぁ!いやあぁーーーッ!!」
「ぐ……!あがぁっ!!!……ぁ……」
「くそ……なんて威力……!もう……だめ……!」
「ち、ちょっと!ここであんたの防御魔法が切れたらあたしも死んじゃう!な、なんとか踏ん張って!」
「そ、そんな無責任なこと言われても……!くぅ……!」

迫り来る光と闇の暴力に体を貫かれ、1人また1人と倒れていく少女たち。
真凛も水の力でいくらか攻撃を止めてはいるものの、全てを防ぐことはできなかった。

「く……!数が多すぎるわ!このままじゃオーディエンスのみんなが全滅しちゃう!セロル!リムリット様と光を守って!」
「「「言われなくても!!アンチバマジク展開!!」」」
セロルの3人は素早くリムリットと光を守るための結界を展開する。だが先ほどのノワールとの戦いでも結界の力を酷使したため、3人の息遣いは目に見えて激しくなっていた。

「む、無理をするな3人とも……わらわのために、そこまでする必要は……」
「リムリット様……あなたはこの国のリーダーです!それを守るのが私たちルミナスの魔法少女の最たる役目!」
「この命に代えても……!この結界は……突破させません……!うぅんっ!」
「リムリット様……私たちを信じてください……!ぐううっ!」
リーダーであるリムリットを献身的に守り続ける3人。だが無情にも、結界にはすぐに至る所にヒビが入り、崩壊するまでにそこまでの時間はかからないように見えた。

(くそ……なんだこの感覚……!)

窮地に立たされる仲間を前に、結界の後ろで1人拳を握りしめる光。

(なんだろう……私の知らないところで、私の大事なものがどんどん奪われているような……)

先ほど、皆の前でノワールと戦うと宣言したのも、このぼんやりとした不安に我慢の限界を感じたためである。
戦う力がない、という免罪符を掲げて何もせず魔法少女たちの後ろにいることに、光は妙な違和感を覚え始めていたのだ。

「……ああっ!?お、お姉様!!!」
「……な!?ヒ、ヒカリ様!?」
「危険ですヒカリ様ッ!!結界の中にお戻りください!!一体何をっ!?」

気がつくとヒカリは、結界を抜けてリッテとシュリヤを見据えていた。

「4代目様……わざわざ私たちに殺されに来るとは、どういう風の吹きまわしなのかしら?」
「クックック、記憶が戻らないままの貴様の力などたかが知れている。我らの魔法で消し炭になるがいい!!!」

結界から出た光に暗黒の槍と光の雨が一斉に降り注ぐ。絶体絶命の状況の中、光は赤い瞳をゆっくりと見開いた。

(頭の中で声が響く……!この声は……まさか私……?)

光の頭に響くそのセリフは、さっぱり訳の分からない文字の羅列だが、そのセリフを聞くと妙に懐かしい気分になる。
これが封印された記憶の一部なのだろうか。だとしたらちょっと恥ずかしい。
だが光は誰に言われるわけでもなく、気づけば息を大きく吸っていた。

「な……流れよバンク!奏でよOP!星の運命に導かれ、魔法少女・プリンセス=ルミナス……ただ今!!参上おおおおお!!!」


878 : モンスター図鑑【サンドワーム】 :2018/03/12(月) 22:37:05 ???
魔法王国ルミナスがトーメントに侵攻する前後の頃。
唯、瑠奈と別れたアリサは、一人ナルビア王国の研究都市アルガスを目指し、ゼルタ山地を越えようとしていた。

「ふう………噂以上に険しい山道でしたが、明日には『レミア洞窟』に入れそうですわね」
ここまでの道のりで多くの山賊や魔物と戦い、その表情や足取りにも疲労が現れ始めている。
だがそんなアリサの足の下、地中深くで、恐るべき魔物が息を潜め、獲物の様子を伺っていた……

【サンドワーム】
戦闘力:B
砂漠地帯に生息している巨大軟体動物。
唾液をうっかり体につけてしまうと、ランダムな状態異常効果を引き起こしてしまう。

(じゅぼっ!!)
「きゃっ!?……な、なんですのっ…!?」
砂地を歩いていたアリサの足元で、突然地面が消失した。まるで落とし穴に嵌ったかのように、両脚が膝まで地面に埋まり……

(ぐちゅっ じゅるるっっ びちっ!!)
「っ……地中から、魔物がっ……!?」
間髪入れず、足元から粘つく触手が伸びて来て、太ももや腰に絡みつく。

……地中に潜み、獲物の足音や振動を察知して奇襲を仕掛ける、巨大な蟲の魔物サンドワーム。
アリサは一瞬にして、下半身をその口と触腕に捕らえられてしまった。

「まずい、ですわっ…!…すぐ抜け出さないと」
更にまずい事に腰に差していた宝剣リコルヌの鞘と柄にも触腕が絡みつき、抜刀する事ができない。
触手を引きはがそうと悪戦苦闘していると、アリサを咥え込んだサンドワームは、突如その巨体を地中から持ち上げた。

「……キシャアアアアァァァァァ!!」
「えっ……きゃああああ!!?」
(……ドゴッ!!!)
アリサの身体はサンドワームに咥えられたまま左右に振り回されて、地面に思い切り叩き付けられる。
白い戦闘服ローブ・ド・ブランは血と泥と粘液で汚れ、宝剣リコルヌは鞘から飛び出し地面に転がった。

「んっ………う……何なんですの、もう……っ…!?……」
奇跡的に意識を手放さずに済んだアリサは、額から血を流しながらもリコルヌを拾うため手を伸ばし……
「ゴパァァァァ……」
「いっ………嫌あああああああ!!!」
もう少しで手が届く、その寸前。地中から顔を出したもう一匹のサンドワームに、頭から飲み込まれた。

(にゅるるっ!!じゅぶぶぶぶ!!!ぐちゅちゅちゅちゅ!!ぎちゅうっ!!!)
「んぅ……!!…む、ぅ……!……も、……や、め……!!」
二匹のサンドワームが、アリサの下半身と上半身を咥え込んで獲物の取り合いを始める。
蟲達の咥内で「綱引きの綱」となったアリサの身体は激しく前後し、触手と粘液に塗れて声にならない悲鳴を上げ続けた。

(ぶぶちゅちゅ!!ごじゅっ!!じゅるるるるる……!!)
「…っぐ…っ…!…………あ………」

(じゅぼぼっ!!じゅぷんっ!!ずぶずぶずぶっ!!!)
「や…………め……」

やがて……蟲達の争いが決着し、砂の大地が平穏を取り戻した、しばらくの後。

(ずぶっ……ザクッ…!!)
「!?……キシャアアアアァァァッ……!!」
巨蟲の腹を斬り裂き、粘液まみれになったアリサが、息も絶え絶えになりながら這い出して来た。

「げほっ!!……げほ…………はあっ……はぁっ……あ…ぶな、かった………ですわ…」
途中何度か意識を失い、もう少しで消化が始まるか、という所で、宝剣リコルヌを探り当てる事ができたのは奇跡としか言いようがない。
全身にべっとりと刷り込まれた粘液のせいだろうか、全身が正体不明の痺れと不快感に包まれ、立ち上がるどころか指一本動かす気力も残っていなかった。

だが……

「キシャァァァ……」「グォォォ……」「ジュオォォォ……」

「………っ…!?………なん、ですの…この、音………まさ、か……」
アリサが疲れ切った身体を横たえる、その下で。
綱引きに敗れたもう一匹のサンドワーム、そして争いの音を聞きつけた他のワーム達が、地中深くから群れを成して迫りつつあった────


879 : 名無しさん :2018/03/16(金) 00:52:50 dauGKRa6
光が精一杯の声で叫んだ瞬間、辺り一面は大量の閃光弾が炸裂したかのような光に包まれた。

「こ、この光は……!まさか記憶が!?」
「4代目魔法少女ルミナス様が……ヒカリ様が、ついに覚醒したんだわ!」
「このタイミングで記憶が戻るなんて……!きっとヒカリ様の力なら、この窮地を脱することもできるはず!」

眩い光に視界を奪われながら、セロルの三人が興奮気味に声を上げる。
その後ろでリムリットは、必死に目を細めて輝く光を遮りながら姉の姿を視界に収めた。

やがて光はだんだんと収束していき、リムリットたちの前に現れたのは……
ふわりとしたピンク色のツーサイドアップ、フリルとリボンで飾られたエプロンドレス。手には箒のような、宝石と羽毛があしらわれた魔法の杖を持った、寺瀬光……ではなく、魔法少女ルミナスの真の姿であった。

「くっ……!こんなところで記憶が戻ったというの!?なんてタイミングの悪い……」
「いや……姉様姉様。光様の様子をよくよくよくルックルック!」
「……?」

リッテに促され、光の方をよくよく確かめるシュリヤ。
そこには、自分の来ている洋服を見回したり、杖を意味なくニギニギしたり、自分のフリルを手でひらひらさせたりしている落ち着かない様子の光の姿があった。

(ど……どーしよー!なんか思いついたセリフ言ったら勝手に変身したけど、このあと一体どうすればいいのぉー!!)

「ククク……やたら派手に変身したと思ったら、なんとも拍子抜けだわ……当時の記憶は戻っていないようね。」
「姉様!ここはリッテにお任せを!アワレにも記憶を失った亡国の聖女など、リッテの焔で一瞬にして灰燼にしてくれようぞっ!!変身!!!」

メラメラと周囲に炎を纏いながら、ついにリッテは変身する。
たちまち周囲に火柱が上がり、その真ん中に位置するリッテが宙に浮いて黒い炎を纏ったかと思うと、一瞬で衣服が禍々しいものに切り替わった。
闇に染まりきった黒のドレスに、炎の形状を思わせる赤の帯が走っているドレス。
リッテの可愛らしい容姿とは裏腹に、まさに闇と炎を具現化したような、見るものを威圧する重厚な魔法装束。
紫のロングヘアーを激しい熱風にたなびかせながら、リッテはゆっくりと地面に降り立った。

「魔法少女ルミナスの復活祝いに、リッテの最強呪文をとくと見せてやろう!エクスプロード・ブラックホーーーーールッ!!!」

エクスプロード・ブラックホール。リッテの単体で出せる最強呪文で、闇の力を纏った炎が絶対的な引力を以って全てを飲み込む禁呪級の魔法である。

「やばい!こりゃ無理だよっ!変にイキって変身なんかするもんじゃなかったぁ!ウィチルさーん!リ、リザちゃーん!だれでもいいからはやくタスケテー!」
「姉様!!!リッテの闇魔法は光魔法に弱い!姉様の得意な光の魔法で打ち消してしまえば、リッテにダメージを与えられるはずじゃあ!」
「はぁ!?ひ、光魔法!?」

リッテの魔法の強烈な熱風に抵抗しつつ、光は思考を辿る。
かつて魔法少女ルミナスとしての自身の力を確固たるものにした、自分の名前と同じ属性の魔法。
その詠唱を。その名前を。自らに流れるマナの力を。
その感覚に気付いた時、彼女の持つ杖が眩い光を発した。

「今更何をやっても遅い!炎に清められよ!!森羅万象燃え尽きろおおおお!!!」

「うわああこうなりゃやけくそだああ!ホーリーパニッシュメントおおお!!!」


880 : 閑話 :2018/03/17(土) 17:52:02 ???
シーヴァリアの王都ルネに居を構えるセイクリッド家……そこではセイクリッド家の一人娘ミライと、その母カナタが対面していた。

「ねぇ、ママ……ママは、手足がなくなっちゃった人の手足を再生できなかったことってある?」

「うん?そうねぇ……何度もあるわよ、手足の欠損は時間が経てば経つほど再生が困難になるし。
昔は私も若かったから自分の力不足をどうにかしようとシャカリキになってたんだけど、その時アスカ君がね」

「それは……究極魔法でも、変わらないんだよね」

「ミライ?」

何やら真面目な話をしようとしている娘の様子に、普段の怒涛のお喋りを止めるカナタ。

「目を覚ましたら、もう何時間も経ってて……私の魔法でも、ユキちゃんを治せなかった……リザちゃんの時は怪我してすぐだったから治せただけだったんだね」

「ミライ……旅行中に、何かあったのね?」

「うん……えっと……」

ミライの話はトーメントで何があったか知らないカナタには要領を得なかったが、それでも事の重大さはよく伝わっていた。

「無理に話さなくていいわ……ミライ、貴方が聖騎士とヒーラーどちらの道を選んでも、それはきっと、貴方の前に立ち塞がる壁よ」

聖光騎士でも最高位ヒーラーでも、全ての人を救えるわけではない。アスカもカナタも、救えたはずの仲間が死んでしまうことは何度も目にしてきた。

「私は……」

「まぁアレよね!若い子は思い悩んでこそよね!」

突然明るい声を出して、暗い空気を吹き飛ばすカナタ。

「ミライ、アスカ君がよくやってたんだけどね、辛いことがあった時は、剣を振り回してれば楽になるんだって」

「そうなの?」

「そうなのよ!ということで、お城に行ってエールちゃんに稽古でもつけてもらいなさい!」

「……うん!ありがとう、ママ!」

そうだ、今は過ぎてしまったことを悔やむより、同じことを起こさないように強くなる方が大事だ。
意気込んで外に出て城へと向かうミライだが、その途中で珍しい人物と鉢合わせた。

「あれ?リンネ君?珍しいね〜、こんな所で……今日はお仕事は?」

「……僕は今日は非番ですよ」

円卓の騎士、蛇蝎卿の異名を持つリンネ。その手には、大きな紙袋が握られている。

「随分大きな荷物だね〜、お買い物でもしてたの?」

「ええ、これを調達しに……ね」

そう言ってリンネが紙袋から取り出した物は……PSVRであった。

「ふおおお、PSVRか〜、ちょっと意外かも……リンネ君はどんなゲームをやってるの?」

「そうですね、それは又の機会にごゆっくりお話しましょうか……ミライさんもどこかへ行く途中だったのでしょう?」

「あ、そうだった!エールさんに会いに行くんだった!じゃあね、リンネ君!」

そう走って城の方へ走っていくミライを見送った後、リンネはPSVRを紙袋へ戻し、自宅へと戻る。
場合によってはナルビアへ帰還することも考えているからか……リンネの自宅は、円卓の騎士のそれにしてはかなり質素な一軒家であった。

「……リンネ、おかえりなさい」

「ああ、ただいまヒルダ」

玄関に出迎えに来たヒルダへ挨拶を返し、リンネはリビングのテーブルに紙袋を置いて、中身を取り出す。

「リンネ……もうおしごと?」

「中央の人間は時間に煩いからね……さっそく始めるとしよう」

リンネはPSVRを頭に被る。当然、ただのゲームではない。


881 : 閑話 :2018/03/17(土) 17:55:40 ???

PSVRを起動させたリンネは、気が付けば裁判所のような所にいた。
壇上に立っているリンネの周囲にはSound Onlyという表示のされた四角い立体映像がいくつか浮かんでいる。

(ゲーム機に偽装したデバイスでのVR空間……ここですら姿を見せないとは、中央の爺様方の人間嫌いもここまで来るといっそ清々しいな)

『……遅かったな、諜報員999号よ』

老人の落ち着いた声が、立体映像から響く。

「申し訳ありません、何分多忙なものですから」

貴方たちと違ってね、という言葉は流石に飲み込むリンネ。

『ふん、まぁよい……今回の緊急会議の議題は、流石に察しておろうな?』

「トーメント王急死の噂について……ですね?」

トーメント王が爆発事故で死亡したという噂は、水面下でこの世界に波紋を起こしていた。

「まずはトーメントに潜伏している931号の報告を伝えてもらおう。アレは優秀だが、暗号の解読は骨だ」

そのくらい自分たちで何とかしてほしいんだけどな、という考えは表情に出さず、リンネは報告を始める。

「931号によれば、トーメント王急死の報はブラフです。王は王下十輝星数名を伴い、諸国漫遊の旅に出たとのこと」

『ふん、やはりな……あの狂人がそう簡単に死ぬことはない、か』

「931号は他にも有用な情報を得ていましたよ。王につき従っている以外に、長期休暇やルミナス及びミツルギへの任務によって、今王都には王下十輝星はほとんど残っていないとのこと」

その言を聞いて、俄にざわめきだす中央の人間たち。

『確かなのか?』

「それを僕に聞かれても答えかねますね……僕はただ931号の報告をそのまま伝えているだけです」

『931号は優秀な900番台の中でも飛び抜けて優秀な精鋭中の精鋭……恐らくは事実なのであろう』

「しかし、強力な魔物兵が減ったわけではありませんし、十輝星の中でも最強と名高い者が残っているとのこと」

『十輝星最強……?ブルート・エーゲルと互角だったという、アイベルト・ノーシスか?』

「いえ、彼とは別の人物です。能力については詳しい情報は入っていませんが、なんでも防御能力に優れているとか」

『ふむ……それだけの強者がまだ残っていたとは……』

『だが、トーメントへ報復を行うまたとない機会だ』

『オカルトマニアのマルシェザールが死のうと構わんが、舐められるわけにはいかん』

『戦闘に特化した800番台や機械兵を大量に送り込みましょう。先日931号から送られてきたデータを基に作られた魔法のブーツや時空刑事の装備の改良型……あれらを試す良い機会です』

『その件については後ほど議論するとしよう……999号よ、1000号の調子はどうだ?』

中央の人間たちの一人、今まで沈黙を保っていた老人がリンネへ声をかける。

「…………相変わらず戦闘意欲は低いですが、回復魔法は成長著しいです」

『そうか、それは重畳。これから作成される1001号以降の出来は、あの実験作次第……お前たちには機械兵を遥かに超えるコストが掛かっている事を努々忘れるな』

「…………分かっていますよ」

『うむ、下がってよい』

「はい……失礼します」

リンネは、PSVR風通信デバイスのスイッチをオフにした。



「リンネ……おつかれさま」

気づけばリンネの視界は、自らの部屋に戻っていた。

「ヒルダ……おそらく戦争が起こる。諜報員たちの命賭けの裏工作を、中央の爺様方は目先の欲に駆られて無にしようとしている」

「リンネ……おこってるの?」

「そうだね……研究しか頭にない癖に国を動かそうとする無能たちには愛想が尽きてる……けど、彼らがいないと生きていけない同胞がいる」

そう言って、リンネは自らのドレスの胸元をはだけさせる。少女にしか見えない外見をしていても、立派な男であるリンネの胸板には……999、という刻印が入っていた……。


882 : 名無しさん :2018/03/17(土) 19:58:38 dauGKRa6
リムリットの言葉によって頭の中の抽斗から引きずり出された言葉……ホーリーパニッシュメント。
光がその魔法を唱えた瞬間、巨大な魔法陣が彼女を中心に広がり、円周に位置する場所から光のエネルギーが溢れ出した!

「ぬうぅっ!な、なんのこれしき……!リッテの絶対的な力の前に、この程度の魔法……!」

「な、な、なんかすごいのでたー!え、これで勝つる?」

「姉様!その光の魔法をリッテの闇魔法にぶつけてぇ!姉様の魔力ならリッテに勝てるはずなのぉ!」

さっき覚醒して魔法の使い方もわからんのにそんな簡単にいくもんかね、と思いながら、さっきからなぜか発行している魔力が宿っているっぽい右手をリッテの方へと向ける光。
それと同時に発生した光魔法が一斉にリッテの魔法へと向かい、光と闇がぶつかった衝撃によって激しい振動が辺りに伝わった!

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!

「キャ!……え、ちょ、これ危なくない?わたし全然制御できてないんだけど!ねえ!これこの辺一帯大丈夫なの?超不安!」

衝撃で思い切り転んだ光は、後ずさりながら切羽詰まった声をあげる。

「くぅ……!んうううううぅぅっ!」

それに対してリッテは、自らの魔力を総動員して光の魔法に抵抗していた。
その顔には、先ほどまでの余裕はない。

「こ、こんなもの……!他国にはカイザーヴァルキュリアと恐れられ、炎と闇を統べる最強の魔法たるこのリッテ・ミルフィールドが……あっ!やあぁんっ!!」

抑えきれないほどの量に膨れ上がった光の魔法が、闇魔法を通り抜けてリッテの型へと命中した。

「リッテ!もうやめなさい!あなたの魔法ではアレには勝てない!飲み込まれる前に早く逃げなさいっ!」

「ぐうぅ……!お、お姉ちゃんの妹のリッテが負けるなんてあり得ない!やだやだやだやだあぁ!絶対勝ってやるううう!!!」

完全にムキになったリッテは、地声のアニメ声を大声で響かせながらさらに自らの魔力を増幅する。

「うおっ!なんかまた大きくなった!」

「ふははは!リッテの最強呪文がこれしきのことで破られ……る……はずは……」

すでに決着はついていた。
すでにリッテの魔法は光魔法によりほぼ消滅していて、必死に増幅した魔力も一瞬にして光の流れに呑まれてゆく。
光が闇雲とはいえ光魔法を発動させた時点で、決着はついていたと言わざるを得ない結果である。

「そ、そんな……!いやぁ……!」

自らの闇魔法であった大盾を失い、精も根も尽き果て膝を折るリッテ。その目には大粒の涙が浮かんでいる。

「リッテ!!泣いてる暇があったら防御魔法でも展開しなさい!こっちからじゃ間に合わないッ!」

「お……おねえちゃんごめんなさい……リッテ、今ので全部使い切っちゃって、もう魔力がないよぉ……!ふぇ……!」



リッテがもっとも怖いのは姉のシュリヤであるが、もっとも尊敬しているのもまたシュリヤである。
そんな彼女が1番嫌いなのは、優秀な姉であるシュリヤの足手纏いになることであった。

「リッテ。あなたは私と違ってコミュニケーション能力が高いのに、どつしていつも嫌われ者の私の側にいるの?…姉妹だからって、いつも一緒にいなければいけないことはないのよ。」

「えへへ……リッテは、誰にも頼らないし頼られない姉様の孤高の生き様に憧れてるのです。それだけじゃないよ、勉強もできるし、運動もできるし、かっこよくて、足も早くて、野菜の皮むきが上手くて、ピーマンも食べれて、ゴキブリにも素手で触れる姉様はホントにすごいっ!」

「……後半になるにつれてしょうもないことになってるけど、まあそういうことにしておくわ。」

「安心して!姉様に嫌がらせしたり姉様をバカにする奴は、このリッテが灼熱の業火と深淵の……えーと……暴力で、ボッコボコにしてやるー!」

「ふふ……はいはい……」



今までの思い出が走馬灯のように蘇るリッテに向かって、夥しい量の光弾が一斉に襲いかかった!

「ひ……!いやあああああああああああああ!!」


883 : 名無しさん :2018/03/18(日) 14:55:22 ???
「ねっ…姉さまぁあああああ!!!」
「リッテぇぇええええ!!!」
泣き叫ぶリッテめがけて、光弾の雨が降り注ぐ。間に合わないと知りつつも、シュリヤは妹の元へ駆け出していた。

「や、やばっ……このままじゃあのちびっ子が……て言うかこの辺一帯、丸ごと消し飛ぶっ……!!」
自らの魔法を制御しようと光は必死に踏ん張る。そして……

「くっそ……こう、なったら……真凛っ…!!」
「そう来ると思ってたわよ……あたしのステージで、人死になんて御免だからねっ!」
光の傍に真凛が立ち、詠唱を始めた。
「わかってるでしょうね。タイミングが少しでもずれたらアウトよ…!」
「一発勝負か……でも、やるしかないな!……せー、のっ……」
「合成魔法!」「「レインボー・スプラッシュ!」」

(カッ……!!)

……その瞬間。無数の光弾は、大量に出現した水柱によって屈折・拡散。
癒しの力を持つ虹色の光となって、ステージ全体に広がっていく。

既に発動した光の攻撃魔法に真凛の水魔法を上乗せし、別の合成魔法へと強引に書き換える。
光と真凛の呼吸がぴったり合って初めて可能となった、まさに奇跡の合成魔法であった。

…だが、こういった無茶なやり方は色々と危険が伴うため禁則事項となっている。
ウィチル先生が起きていたら、激おこ必至で反省文の提出や罰掃除は免れない事だろう。

「でも、ま……なんとかなったわね。光も、少しは調子戻って来たかしら?」
「…お陰様で。…さて。妹の方は魔力切れみたいだけど……シュリヤ、まだやる?」
極めて強引な手段で合成魔法を発動した分、光と真凛の消耗も大きかった。
できれば穏便に…と思いつつ、光はシュリヤに問いかける。

「当たり前だ……妹のリッテがここまで身を削ってくれたのに、この私が何もせず引き下がれるか…!」
変身の解けかけたリッテを、抱きかかえるシュリヤ。
その全身から氷と光の魔力があふれ出し……

「変身……魔法少女『エンペラーワルキューレ』…!!」
氷雪系最強と称された魔法少女へと、シュリヤの姿を変えた。

「……ただし。戦う相手は、お前達ではない。私達の精神を支配している……
……この、忌まわしい魔石だっ!!」
だが、その激しくも鋭い怒りの凍気は、光や真凛ではなく……リッテとシュリヤの首に嵌められた、魔石のチョーカーへと向けられた。
互いを思いやる姉妹の心の力が今、ダークアウィナイトの支配の軛を打ち壊そうとしている!!

「精神世界系の話はこないだやったからもういいぞ」
「つーかそんな力まなくても普通に壊せるわよソレ」
「うるっさい!!メタい茶々入れんな!お前らホント、いつもいつも……お前らの!そーいうとこだぞ!!」


884 : 名無しさん :2018/03/18(日) 20:50:39 ???
ダークアウィナイトの魔石を、自ら壊そうとするリッテとシュリヤだが……

(ふふふ……そう簡単に、私の支配から逃れられると思ったら大間違いよ……)
「ね、姉さま!魔石から声が…!!」
「うっ……何なの、この魔力!?…まさかこの魔石、150年前の戦いでカナン・サンセット様と共に戦ったと言う…伝説の、アウィナイトの魔法少女…!?」

(その通り…あなた達の魔石は、私の両目。見せてあげましょう、我が絶望の深淵を……)
「わ、私だって、氷雪系最強『エンペラーワルキューレ』と呼ばれた魔法少女…
この子の…リッテの自慢の姉であり続けるために、決して貴女に屈したりはしない!」

……魔石の材料となった、アウィナイト族の……過去の魔法少女の魂が、シュリヤ達に襲い掛かる!


「……なんか長くなりそうだし、私らは他をなんとかしよう。(運が良ければ誰か掘り下げてくれるだろ…)」
「そうね。地下にノワールが逃げてったのと……まだ、屋上にトーメントの使者が残ってるんだっけ?」
「そっ……そうだ。トーメントの使者は、フウヤ君だったんです!今、フウコちゃんが止めてくれてて……!」
「なるほど……空に浮かんでる、バカでっかい魔法陣も、そいつの仕業かしら」
「どっちも、あまり時間はなさそうだな……水鳥達は無理せず、後はあたしらに任せといて」

光と真凛は、逃げたノワールの追跡と、屋上にいるフウコの救援に向かおうとしていた!


「えええ…この状況を放置してくのかよ…」
「あれだけ属性てんこ盛りだった姉妹を脇役扱い……とんでもない主要キャラ力だわ…」

ナナシーとタンナはドン引きしていた!


「ふっ……大丈夫だよ。ナナシー、タンナ……妹の為に戦う時のシュリヤのすごさは、私らが一番よく知ってる」
「そ、そうだよ…シュリヤ姉さまは、勉強もできるし、運動もできるし、かっこよくて、足も早くて、野菜の皮むきが上手くて、ピーマンも食べれて、ゴキブリにも素手で触れる……リッテの自慢のお姉ちゃんだもん!!」
(え……そうなん?…ゴキブリって…それちょっとすごくない?……ていうか……ちょい引くわ)

魔石の人もちょっと動揺していた!

そんなこんなで色々あったが、いよいよ戦いは最終局面へと向かう…!


885 : 名無しさん :2018/03/20(火) 18:37:29 dauGKRa6
「フウヤ……お願い。もうこんなこと、やめてっ……どうして……こんな……」

ルミナスにそびえ立つ尖塔の頂上で、フウコは息も絶え絶えにフースーヤに声をかける。
実の弟に裸にされ、串刺しにされ、故郷を滅ぼされようとしている事実を、心根の優しいフウコは今になってもなお受け入れることなどできていなかった。

「男子三日会わざれば刮目して見よ、って言葉があるじゃないか。トーメントの人たちに出会って、僕は目覚めることができたんだよ。」

フースーヤはフウコへと振り返り、逆さまになっている彼女の視界に自分の姿が全て入るよう数歩下がってゆく。

「この世界では強者が絶対。圧倒的な力、練度の高い魔法、他を圧倒する異能力……そういう純粋な「力」だけが、この世界には求められているんだ。……このルミナスで学んできた、絆の繋がり、国の習わし、傷の舐め合い……今にして思えば、なにもかも反吐が出るほど馬鹿馬鹿しいよ。」

「……フウヤ……どうしてそんな風に変わってしまったの……?あなたはもっと、他人の事を思いやる気持ちがあって、誰よりも優しい男の子だったじゃない!」

「……そんなもの、事なかれ主義の腐ったルミナスという国で、姉さんたちと仲く生きるために仕方なくやっていたことさ。……でも、実際は無理して仲良しこよしなんてする必要はなかった。」

そう言って、フースーヤは端正な顔に不気味な笑みを浮かべて、フウコへゆっくりと近づいていく。

「王下十輝星にはね、ナイフを使った暗殺のエキスパートともいえる女の子がいるんだ。……その女の子はどうしてそんな力を身につけて王下十輝星になったと思う?」

「……そんなの、私には……」

「フフ……弱小民族である自分の種族を、トーメントの王様に国家権力で保護してもらうためさ。彼女は体も小さくて、性格も控えめな15歳の女の子なのに、その圧倒的な力を持って自分の欲求、願望を見事に叶えている。……正直、この僕でも勝てる気がしない。僕が心の底から尊敬している人の1人だよ。」

まるで地元の先輩の武勇伝を語るかのように、口調とは裏腹に興奮気味のフースーヤは、フウコの顔の近くで腰を下ろした。
なお、その15歳の少女の望みには自分の種族の保護とは別に極めて自己中心的な望みも含まれているのだが、フースーヤはそれを知らない。

「素晴らしいと思わないかい姉さん?普通に行けば性奴隷にされて終わるだけの人生を、彼女はその暗殺術……確実に人を殺すことができる能力で、自らに課せられた運命を見事に変えたんだ。……比類なき賞賛に値するだろう?」

「……よくわからないけど……その子だって、自分の願望のためだけに無関係な人を殺してるんじゃない!……可哀想だとは思うけど、大量殺人をしてまで自分の望みを叶えるなんて方法は……絶対間違ってる!」

「……はあぁ〜〜〜〜〜……つくづく、本当につくづく呆れる発言だよ。それは。」



フウコの言葉を聞いて、フースーヤはうんざりしたように大きな長嘆息をついた。


886 : 名無しさん :2018/03/20(火) 18:41:41 dauGKRa6
「そういうところだよ……僕が嫌いなのはそういうところなんだよ姉さんッ!」

「ああ゛ん゛ぅッ!!」

体の中で虫が這い回る感触に、堪らず濁った悲鳴をあげるフウコ。
出血で意識朦朧としてきてはいるが、体の感覚はまだはっきりと残っている。

「この世界に搾取されるだけの種族だった彼女が、保身のために人を殺して何が悪いんだい?そうしなければ自分たちが犯されたり殺されたりするんだよ?」

「う……うぅ……でも……そんな人の命を奪う非道徳的なことはっ……!」

「チッ……道徳だの倫理観だの、そんな美辞麗句ばかり並べて、さも当たり前のように自分たちが高尚な存在だと思い込んでいる……ルミナスはそんな上辺だけの馬鹿ばっかりだから、トーメント王国にいつもいつも勝てないんだ。……今それがよーくわかったよ。」

吐き捨てるように言い放つフースーヤの表情は、言葉通り心底失望したかのような感情に、悲しみの色も混ざっているかのように見える。
その悲しみが何を意味しているのか、フウコには理解できなかった。

「つまり、もっと人は純粋に生きるべきなんだ。自分の望みを叶える為なら、他人のことなんて考えず、手段を選ばず貪欲に生きることさ……例えばこんな風にね。」

「え?ちょ、フウヤ……?い、いやぁっ!やめてええ!」

まるで興味のなさそうな顔で、フースーヤはフウコの胸を右手でぐりぐりと弄び始めた。
発育途中の姉の体を弟の手は無遠慮に這い回り、胸の先端に付いた突起をきゅうっと乱暴に摘み上げる。

「やああ゛っ!い、痛いぃ!や……やめ……!」

「どうして僕が姉さんを裸にしたか分かるかい?……答えは極めて単純。しばらく見ないうちに姉さんの体がどれぐらい成長したのか、この目でちゃんと確かめたかったからさ。……まあ思ったよりは成長してたかな。」

フウコの反応を見て少し興奮したのか、フースーヤは左手も動員して、姉の体の双丘を犯し始める。
だがその表情に変化はなく、まるで自分の所有物であるカバンの中を探る少年のようだった。

「や……フウヤ、だめ……!き、姉弟で……こんなこと……!」

「それも誰かが決めた道徳的なことだろ?そんなことより……まさに今僕は自分自身の力で姉さんを屈服させて、こんな風に姉さんに苦痛と辱めを与えているんだ。今まさにこの瞬間、これこそが僕の望みの体現さ。姉さんを圧倒的な暴力で屈服させて、ありとあらゆる屈辱を与えるっていう、昔から叶えたかった僕の望みのね……!」

「フ……フウヤぁ……!」

弟はただ性的欲求を満たすために犯しているのではなく、自分への最大限の精神的苦痛を与えているのだと、フウコは恐ろしくも理解した。
そして、開いた腹からの出血により、自分の死へのタイムリミットが着実に迫っていることも。

(……こんな……いつかまた会えると信じてたフウヤに犯されながら、無惨に殺されていくなんて……こんなの、悪い夢としか思えないよ……)

悪夢であればどんなに良かったか。自らの出血による血の匂いと、自らを見つめる弟の恐ろしい表情のリアリティが、フウコを純粋な絶望へと叩き落としていく。

(……でも……フウヤが……こうして元気に生きていてくれただけでも……いいかもしれない……)

変わり果てた弟の言っていることも半分も理解できている自覚はないし、今まさに自らを傷つけた相手とはいえ、フウヤが生きていたことはフウコにとっては救いだった。
尤も、絶望に塗れて死ぬことに恐れた結果の小さな希望であるが、フウコは本当にそう思ったのだ。



「今……なんて言った?」

「……え?」



ふと思った事が口に出てしまう……そんな危険な癖はないフウコだが、死にゆく中で縋り付いた小さな希望だけは声に出してしまったようだった。


887 : 名無しさん :2018/03/21(水) 14:15:50 ???
「二人とも!これを!」

怪我の応急処置が終わったカリンが、片耳につけたイヤリングを外し、シュリヤとリッテの方へ投げる。

「なんかよく分からないけど、不思議な力が宿ってるっぽいし、多分それで何とかなるかも!」

飛んできたイヤリングを反射的にキャッチするシュリヤだが、カリンの曖昧な説明を聞いてもあまり期待はしていない。

「随分アバウトなことを言うガキね……そんな都合よく行くわけg」

(な、馬鹿な!?この気配、まさか……そんなこと有り得ない……!150年の時を経てなお、貴女との因縁は途切れないというの!?)

「え、ホントにこのイヤリングに、都合よくなんとかできる力が?」

カリンのイヤリングをキャッチしたら、なんか急に戸惑いだした魔石の人。そんな都合の良い展開をいまいち信じきれていないシュリヤだが……。

「シュリヤ!アンタはそうやって理屈っぽいからいつもボッチなのよ!」
「えっ、あのぅ、コルティナさん、その、いくら本当のこととはいえ、そんなハッキリ言うのは……」
「いいや、言うね!さっきはあんなにいたぶってくれちゃって……!シュリヤの根暗ボッチ!シスコン!悔しかったらその魔石を砕いて、私に言い返してみなさいよ!人に話しかけられないコミュ障が!」

なんかいい感じに檄を飛ばしてる風に、報復を兼ねて悪口を言いまくるコルティナ。そして割と失礼なことを言いつつその横でオロオロしているのは、洗脳の解けたアコール。

「コルティナさんもアコールさんも酷い!姉さまはちょっと勉強と修行のし過ぎで、いい歳して人との接し方が分からないだけなのに……!」
「一番失礼なのはアンタよリッテ!クソ、ホントにどいつもこいつも……!」

そう言いつつも、シュリヤはカリンから投げ渡されたイヤリングを、ダークアウィナイトに叩きつける。

「え?姉さま?」

ただし、自分のではなく、リッテの魔石に。

その瞬間、カッ!という強い光に包まれるリッテ。

(……アンタとの腐れ縁も極まったわね、エリーゼ)

(ぐ……!おのれ……!
魔法使いとしての適性は高いアウィナイトが迫害から逃れる為にルミナスに魔法少女として仕え、当時アウィナイトを奴隷にしまくっていたトーメント王国と激しい戦いを繰り広げ、最初は利害の一致で共に戦っていたカナンともやがては友情で結ばれ、アウィナイトの一族だけではなくルミナスのことも心から好きになったタイミングで、拳聖のワルトゥに敗れて命を失った
この私が……!)

(長い長い、加減考えなさいよバカ)

「脳内に、声が直接……!?」

突如頭の中に響く落ち着いた大人の女性の声に戸惑うリッテ。

(私の魔石は二つ、貴女のイヤリングは一つ……例えこのアニメ声の子の魔石を砕こうとダークアウィナイトがある限り、私は不滅よ……!)


888 : 名無しさん :2018/03/21(水) 20:54:35 ???
「僕の事を『女の子だったらよかった』って……男の僕なんて要らないって、言ったくせに…今さら、何を……!!」

弟である自分を否定した、姉への復讐。それがフースーヤ…フウヤが魔法少女を憎悪する理由の一つ。
それを真っ向から否定するような呟きは、フウヤの心にわずかな波紋を呼び起こした。
だが、今となっては、その言葉も『きっかけの一つ』でしかない。

「まあ、いいさ……『合成禁呪』の魔法陣も、あとわずかで発動する……いよいよ、魔法王国ルミナスの最期だ」
毒使いである自分を否定した故郷への復讐が、間もなく果たされようとしている。
だが、それさえも……リョナラーとして目覚めた『フースーヤ』にとっては、所詮ただの楽しみの一つに過ぎない。
冷たい愉悦に満たされた少年の心は、些かも揺らぐことはなかった。
……その魔法少女が、現れるまでは。

「やあ……さっきぶりだね、フウヤ。いや……敢えてフースーヤと呼んだ方が良いのかな」
「……四代目………さ、ま……」
「僕としては、そっちの呼び方の方が馴染み深いんですが……記憶が戻ったんですか、光さん」

屋上に現れたのは、かつての王下十輝星の一人エスカ、4代目ルミナス女王のヒカリだった。

「いや…魔力はどうやら戻ったっぽいけど、記憶の方は全然。
こっちに来てから、ちびっことかウィチルさんとか、いろんな人から『ヨンダイメサマ』の話を聞かされたんだけど…
聞けば聞くほどわかんなくなってるんだよね。もう一生戻んないんじゃないかって気がするわ」

身に纏う雰囲気が、先程までと明らかに違う。
だがその魔力は……あの黒衣の魔女と言われたノワールを倒し、封印したとは到底思えない程に静かで、まるで春の日差しのような暖かさを感じた。

「当然かも知れませんね……この世は弱肉強食、戦いは所詮ただの殺し合い。
だと言うのに彼女たちは、正義だ愛だとお題目を掲げて、毒だの邪術だの、わざわざ自分達で制約を付けて…」

「…そうして敵にまで情けを掛けて……自分の為に力を振るうでもなく、弱いものを守るために戦う。
ま、トーメントの人から見れば、バカだと思われて当然だと思うよ。
でも……しばらく一緒にいて、これだけはわかった。本気なんだわ、あいつら」

光はフースーヤ達の元へ、無造作に近づいて来る。見えない毒の霧を浴びせるが、効いている様子はなかった。
周囲を漂う光の魔力が、毒を打ち消しているのだろうか。

「女の子とか、子供とか…弱い者を力で蹂躙するのは、強い者からすりゃ楽しいのかも知れないけど…
…彼女たちがいなくなれば、未来は生まれない。弱い者にしか、できない事もある。
だから、誰かが『力無き者』の力になってやらないといけない。
何千年か何万年か、あるいはもっと未来………人と人とが争いあう事のない、平和な世界が訪れる、その時まで」

「永遠にそんな日が来ないかもしれなくても、ですか……まったく愚かとしか言いようがありません。
それで負けたら、何にもならないじゃないですか。だいたい…!!」

「『ヨンダイメサマ』は……こうも言ってたそうだ。力なき者を守るのが、魔法少女の務め。だけど…誰もが誰かのために、強くなれるわけじゃない。
アニメやマンガなんかと違って、敵は正義の魔法少女なんかより遥かに強力で残虐。
厳しい規律、過酷な戦い。その中で、挫折と絶望に沈んだ魔法少女は………誰が助けてくれるんだろう?」

「…………」

「『だから、私は女王として……そんな魔法少女達を助けてあげられる、魔法少女になりたい』……お前みたいなやつの事だよ。……フウヤ」

「やめろ……その顔で…その声で、僕の名前を呼ばないでくれ………四代目…様」
毒の魔法の事を咎められたり、ただ一人の男であったがために辛い思いをしたり……そんな時、フウヤはいつもこの屋上で街の景色を眺めていた。

「ヒカリ、でいいよ…フウヤ」
一方。真凛曰く『鏡花ちゃんの前ではカッコつけてたけど、性根は案外ぐーたら。ぶっちゃけ今とあんまり変わってない』光が、王女としての重圧に耐えきれなくなった時、お気に入りのサボりスポットとして利用していたのも、この城の屋上だった。

光の記憶は、まだ戻っていない。一生戻る事はないかも知れない。…本当に、そうなのだろうか。
フウヤの目には、あの日…この屋上で初めて会った時と、光は何一つ変わっていないように見えた。


889 : 名無しさん :2018/03/22(木) 00:03:46 ???
「フウ、ヤ……聞いて……私は、女の子同士の、やり取り……朝一緒に鏡を見て、髪を整えたり、夜に恋バナしたり……そういうことに、憧れて、て……それ、でつい、あなたが女の子だったら、って言っちゃっただけで……!あなたを否定するつもりなんてなかったの……!」

光の登場で、弟の心が動いた……それを感じ取ったフウコは、体中の痛みに耐えながら、必死に声をかける。

「ごめんなさい……!あなたがそんなに辛かったなんて、苦しんでたって、気づいてあげられなくて……!無神経なこと言っちゃって……!」

「止めろ……僕に優しくするな……僕を受け入れるな……!」

「ちょっと道を踏み外したくらいで、ヨンダイメサマは……ルミナスのみんなは優しくするし受け入れるさ」

光はもう一歩、フースーヤに近づく。

「私だってそうさ……王の手下として、間接的とは言え大勢の人を酷い目に遭わせた……だけど、みんなは私を受け入れてくれた」

「だから、僕も救うと……?」

「……人がやり直すのに、遅すぎるなんてことはない……これはヨンダイメサマじゃなくて、私の言葉さ」

「はは……貴女とヨンダイメサマって……同じじゃないですか……」


『君、どうしたの?迷子……ってわけでもなさそうだけど』
『私、なんか嫌なこととか不安なことがあったら、よくここに来るんだ……ひょっとして君も?』
『邪術とか禁呪ほどじゃないけど、毒は嫌われてるからね』
『私?私は、力は何を使うかじゃなくて、何に使うかだと思うな』

あの日……屋上で黄昏れていたフウヤの前に、ルミナスの4代目女王は現れた。

『男の子が一人だとやっぱり浮いちゃうのかー、お互い大変だね』
『私も、たまにさ……王女の地位なんて捨てて、どっかで自由に面白おかしく生きていけたらな……って思うことあるんだ』
『でも、やっぱり私は、逃げ出すわけにはいかないから……』
『ヒカリ、でいいよ…フウヤ』

不思議だった。ルミナスの4代目女王……誰もが認める地位と、それに見合う実力を持ち、皆からも慕われている光が……周りから浮いている自分と同じように、屋上で黄昏れていることが。

「フウ、ヤ……戦っている時、あなたが、悲しそうにしてた理由が、分かった……あなたの心の中には、まだ、優しさが残っている……心のどこかで……前みたいに、戻りたいって……!」

光とフウコ……かつて心を許していた存在二人の説得を受け、フースーヤは空を見上げる。
いつのまにか空に広がる魔法陣に伸びていた柱は1本になってしまっていた。

「……姉さんにかまけてたり、4代目様が来て驚いてたりしてたせいで、計画が失敗しそうだよ。まあ、それもなんかどうでもよくなってきちゃったけど」



「それは聞き捨てならんな。小僧。せっかくわらわが真の姿を取り戻したというのに」


突如背後で響いた、聞いたこともない妖艶な女性の声。
その声はどこか優しげなようでいて、自然と人を警戒させる威圧感が込められている、不思議な声だった。


890 : 名無しさん :2018/03/22(木) 02:14:43 dauGKRa6
「ふへ、へ……へくしゅっ!」
「うおっ、なんだ、風邪かぁ?」
「……ううん。風邪なんかひいてない。」
「そっか。じゃあ誰かがお前の噂してんのかもな。だからくしゃみが出たのかもしれないぜ?」
「……どうでもいいよ、そんなこと。早く行こう。」

母親を助けるべく、ミツルギの奴隷収容所へ向かうリザと、彼女を放っておけないという理由だけで同行しているヤコ。
盗賊たちを退けてから今に至るまで、リザは休憩のきの字も出さずに、せかせかと歩いている。
彼女としては走ったほうが断然早いのだが、ヤコには自分のような身体能力はないため、移動ペースは彼に合わせる形となっていた。

「なぁ、リザ。急ぐのはわかるんだけど……そろそろ日も暮れてきたし、野宿の準備しないか?」

「……ヤコ、もう疲れた?」

「え、あ、いや、そういうわけじゃねえよ!夜になると危ないから、そろそろ休もうぜってだけの話だ。お、俺が休みたいわけじゃねーからな!」

「……そう。」

口ではそういうものの、さっきからヤコの息が上がっていたのをリザは知っている。
恐らく虚勢を張って自分に心配をかけないようにしているのだろう。さっきの盗賊の件といい、ヤコはそういう性格なのだと、リザはすでに理解している。
すぐにリザの持っていた結界付き携帯テントを展開し、2人は野宿の準備に入った。



「な、なんだこのテント……!火と雷と水の術式が組み込まれてて、電気も水も火も普通の家みたいに使えるなんて……!」

リザの持っていた携帯テントのトンデモ性能に驚愕するヤコ。
無理はない。リザは王下十輝星の権限で与えられているだけであって、こんな至れり尽くせりのテントは通常200万ナーブル以上はするシロモノであるからだ。

「……た、た、旅をするならこれくらいのものがあった方がいいから……高かったけど、頑張って買ったの。」

「すげえ……!風呂も入れるしテレビも見れるし、普通の家と変わんねえなこりゃ……!まじすげえ……!」

「そ、そんなことより、ご飯できたから、食べよ?ヤコ。」

話題を変えようとリザがそう言ってテーブルに並べたのは、もわもわと食欲をそそる匂いを放っているカレーライスだった。



「……で、リザ。聞いてなかったけど……どうやってミツルギの奴隷収容所に入るんだ?」

生まれて初めての女の子の手料理に内心かなり感動しつつ、ヤコは前から思っていた疑問を口に出した。
ミツルギの奴隷収容所はアウィナイトにとっての地獄と呼ばれている恐ろしい場所。彼女が無策とは思えなかったのだが……

「……特に考えてない。」

「えええ!?お前正気かよぉ!!あんなとこもし侵入して見つかったら一生出てこれねえ場所なんだぞ!?」

「……………………」

ヤコの言うことも一理ある。シーヴァリアの時も特に無策だったが、ミライやジンの計らいで穏便に入ることはできた。
自分のテレポート能力を使えば問題ないと思っていたが、今はヤコという同行者もいる。彼の両親を助けるためには、彼も安全に侵入する必要があることを、リザは改めて認識した。

「……そ、そうだね。2人で侵入する方法……考えないと。」

「……お前、カレー作んのは上手いけど、もしかして頭は悪いタイプか?」

ヤコのド直球ストレートな言葉に、リザはムッとした表情で彼の顔をジっと見つめる。明らかに不機嫌になった様子であった。

「……うるさい。バカ。」

「お、怒んなよ……冗談だって!な、悪かったから……!あ、リザの作ったカレーめっちゃ美味しいなー!」

「……じゃあヤコは?なにか侵入する方法、考えがあるの?」

反撃に出るリザの顔は、不機嫌ながら本気で怒っているわけではないことが口調から判断できる。
そんな表情も声も可愛いなぁ、と思いつつ、ヤコは懐から1枚の紙を取り出した。


891 : 名無しさん :2018/03/22(木) 02:15:46 dauGKRa6
「……ミツルギ皇国開催、異種闘技大会……?」

「へへ……さっき盗賊の奴らが落としてった奴だよ。ほら、ここの優勝特典のとこ見てみろよ。」

「……優勝特典、ミツルギの皇帝より賞金1000万ナーブルと、願いを一つ叶える権利……!」

ヤコの差し出した紙には、ミツルギの首都ムラサメで行われる闘技大会の情報が書かれていた。

要点をまとめると、参加資格も武器も異能力もなんでもありの一対一の闘技大会。ただし命の保証はなし。戦闘の模様はミツルギ全土へ放送される。
優勝以外の商品や特典はなし。敗者には治療費が請求されるため怪我のしすぎにはご用心。
見事優勝すれば莫大な賞金と、ミツルギ皇帝の権力によって叶えられる望みをなんでも叶えてくれる。
そんなような内容が、戦士たちの参加を煽るやたら派手な謳い文句付きで、でかでかと書かれていた。
そしてこの大会の参加申し込みは、ちょうど明日までらしい。

「さっきの盗賊との戦いでピンときた。情けねえが俺は到底参加なんかできねえけど、リザ、きっとお前の実力なら優勝できると思うぜ。」

「……他力本願なのがちょっと引っかかるけど、このアイデアはいいかも。……目立つのは嫌だけどね。」

他力本願を少し強調して言い放つリザ。それもそのはず、チーム戦ではないため必然的に戦うのはリザ1人となる。

「う……まあ俺もなにもしないわけじゃないぜ?対戦相手のリサーチとかなら、お前の助けになれるかもしれねえし……あ、応援なら自信あるぞ!」

「……アウィナイトってだけで目立つんだから、変に応援なんかされたら余計目立つよ。ヤコのバカ。」

「お、お前……まださっきの根に持ってんのか……ほんと悪かったって!な?許してくれよぉ!」

「……もう怒ってないよ。とりあえず、今日はもう寝よう。明日は1日歩いてムラサメに行かないと。」

「お、おう……そうだな……」

リザとしては回り道をしたくなかったが、リスクを考えると断然こちらの闘技大会への参加の方が安全な方法に思えた。
当然、負けるつもりも毛頭ない。
むしろ勝たないと意味がないので、敗北はあり得ない。

(……お母さんと、ヤコの家族のために……絶対に全員倒して勝つ。)

そう心に誓い、リザは寝袋の中でゆっくりと目を閉じた。


892 : 名無しさん :2018/03/23(金) 00:51:16 ???
時は僅かに巻き戻り、有坂真凛はノワールの復活を阻止するために走っていた。
空に浮かぶヤバそうな魔法陣は、きっと光が何とかするだろう。となれば自分は、ノワールが復活する前に彼女にトドメを刺さなければならない。

「ウィチル様の魔法を受けて弱っているらしいし、復活にも結構時間かかりそうだし、まぁ楽勝っしょ!」

と、ポジティブシンキングしながらも、万一ノワールが復活してしまったら自分だけでは太刀打ちできないため全力疾走する真凛。しかし……


「……縛!!」


突如、真凛の身体は金縛りにあったかのように動かなくなる。


「なっ……!?」

「……ライライが死んじゃってそこそこ経ってるのと、陰キャの禁呪の余波で、刻印の効力が弱まってるみたいだけど……動きを止めるくらいなら、まだできそうね」

真凛の前に姿を現したのは、戦闘のどさくさに紛れて王の間を抜け出したサキであった。その辺で拾ったぼろ布を身に纏っている。

「アンタは……!?」

「直接会うのは初めてね、ライライの玩具さん……ブラックガチレズはクソレズだけど、戦略的に見たら復活してもらった方が得だから……ここで足止めさせてもらうわ」

王の間で狸寝入りしながら聞き耳を立てて状況確認に努めていたサキは、戦況をほぼ完全に把握していた。

あわよくばリムリットやウィチル、ココアを暗殺でもしようかと思っていたが、彼女らを守る魔法少女たちの壁は厚く、いくら変身能力を活用してもリスクが高いと判断。

そんなリスクを背負わずとも、フースーヤの禁呪発動作戦と合わせてノワールも復活させれば、ルミナス制圧は成ったも同然。光がやたら派手なエフェクトの魔法を使って、その場の視線がそちらに集中したタイミングで、サキは王の間を抜け出していた。

「ぐぬぬ……!こんなもの……!気合いで吹き飛ばして……!」

「無駄よ……ブラックガチレズが復活するまで大人しくしてなさい」


893 : 名無しさん :2018/03/24(土) 17:11:35 ???
「邪術の呪縛を気合で吹き飛ばすなんて、土台無理な話よ。ついでに、あんたの魔力も貰っておきたい所だけど…」
サキは呪縛を解こうともがく真凛に覆いかぶさり、顔を近づけるが……

(……私としてはそっちの気はないし、あんまりやりたくないのよね。だいたい、この術にはあんまりいい思い出が……)
サキの脳裏に浮かんでいるのは、初めてライラと会った時に「獲物」と間違われて無理やり唇を奪われた時の事……
(省略されました。全てを読むにはわっふるわっふると書き込んでください。)

「そう簡単にチューチュー吸われてたまるもんですかっ……アイドルの底力……舐めてんじゃないわよっ……!!」
「っ!?この力……まさか、呪縛を完全に……!!」
サキに迫られた真凛の脳裏に浮かんだのは、トーメント王によって邪術師の森に吹き飛ばされて、魔物に散々弄ばれた末、邪術師ライラに魔力を吸われて隷属の刻印を刻みつけられた時の事……
(省略されました。全てを読むにはもっふるもっふると書き込んでください。)

「うおおおああああああっ!!!」
「きゃあっ…!?」
軽く赤面しつつ躊躇しているサキをはねのけ、己の魔力を高める真凛。
その瞳には「もう二度とあんな目に遭いたくない、マジで」という確固たる意志が浮かんでいた。

…その時。
「そこまでなりっ!行けっ!髪の毛ポケモン!」「スイングブレイド!!」
サキを追って来たコルティナと、そのお供のアコールが現れ、三つ編みにされた亜麻色の髪を鎖のように飛ばしてきた。

「…くっ!?あいつ確かシーヴァリアにいた、スパイの魔法少女……流石に分が悪いわね」
三つ編みの鎖を辛くもかわしたサキは、不利を悟って一目散に逃げていく。

「んもー!!待つなり!(邪術師疑惑、略して)ジャギちゃーん!」
「……待ってください、コルティナさん!(ジャギちゃん?)なんだか……変です。お城の周りに、怪しい気配がたくさん……!」

異変を感じたアコール。
真凛、コルティナもその様子からただならぬ気配を察し、三人は急いで城外が見渡せる物見塔に登る。そこで見たものは……

「……あ、あの遠くに見える黒い影は……」
「ま………」
「………マジ…で…?」
トーメント王国の魔物兵の大群が、王都ムーンライトをぐるりと取り囲む、悪夢のような光景であった。


894 : 名無しさん :2018/03/24(土) 17:14:22 ???
「禁呪と真のガチレズで壊滅したルミナスに、コイツらで止めを刺す、ってわけか……王様も、今回は本気でこの国を亡ぼすつもりらしいわね」
ムーンライトの街を抜けたサキ。
単身、しかも裸にボロ布一枚で、果たして魔物兵(味方とは言え、全く信用できない)の群れを抜けられるか不安だったのだが…
…その陣頭に立っていたのは意外な人物だった。

「そういう事だ…何しろ魔法少女どもは死体ひとつ残らず本国へ持ち帰らねばならないからね。
人手はいくらあっても足りないし、彼ら『魔物』どもを『使う』役も必要というわけだ。
…おっと、私がこの立場になってから会うのは初めてだったね。改めて名乗らせてもらおうか、『リゲル』殿…」

「……スネグア・『ミストレス』・シモンズ………!!」
つい最近、新たな十輝星「フォーマルハウト」の星位に任命されたばかりで、…サキは、その事を今初めて知らされた。
トーメント王国内で高い地位を持つ貴族の娘だが、その性格・趣向はいささか偏り気味で、スラム街から幼い少女を買いあさっては労働用・愛玩用の奴隷としている。
時にその魔の手は身寄りのないスラムの少女だけでなく、中流〜上流家庭の子女に及ぶ事もあり……

「時に、妹さんは元気にしているかな?…また近いうちに会う機会もあるだろう。君からもよろしく伝えておいてくれ……クックック」
「その…腐った口を閉じなさいっ……変態男装女っ……」
…サキの妹、ユキをリョナ要因にしようとした張本人でもある。
すなわちサキにとっては、自分たち家族を不幸に陥れた元凶……状況さえ許せば、この場で殺してしまいたい思いだった。

「フフフ。十輝星同士は互いに同格、とは言え……口のきき方には気を付けたまえ。
私の部下の魔物兵達が、うっかり君を襲ってしまわないとも限らないからね」

「ついでにあっしらもいるよん」「魔法少女狩りなんて久しぶりだし、いい実験データが取れそうだわ…」
出るタイミングを失っていたが、ジェシカとミシェルの二人も付いて来ている。
…彼女たち率いる魔物兵の軍勢が攻め込めば、疲弊しきったルミナスの軍勢はひとたまりもないだろう。

「………」
「まあ、そう睨むな……君の着替えと、通信端末。それに、次の任務の指令状も、ヨハン様から預かっている…
ここでの任務を終えたらその足でナルビア王国の首都『オメガ・ネット』に潜入し、その動向を調査せよとの事だ」
「ナルビア……ですって…!?」

サキがナルビアの研究都市アルガスで捕らえられ、水滴拷問によりトラウマを植え付けられたのは記憶に新しい。
そしてシーヴァリアに潜入した時も、ナルビアのスパイによって精神に大きなダメージを負わされている。
首都への潜入となれば、その警戒の厳重さはアルガスの比ではない。失敗すれば…恐らく、もうアルガスの時のような救援は望めない。

「……何か不満でも?」
「いえ……わかったわ」
着替えの入ったケースを受け取ると、サキは黙ってその場を立ち去った。
妹ユキの為に魔帽セイクリッド・ダークネスを欲した時から、全ては覚悟していた事。

(ごめんね、ユキ。……お姉ちゃん、もうしばらく帰れそうにないわ。……舞の言う事を聞いて、いい子で待っててね…)

サキにはリザと同様…あるいはそれ以上に過酷な任務が、次々と与えられる事になるだろう。
自分と、その周りのほんの僅かな人々が、ただ幸せであるように…そんなささやかな願いを叶えるために。
『奪われる側』でなく『奪う側』であり続けるために。
サキの戦いはこれからも、果てしなく続く……


895 : 名無しさん :2018/03/24(土) 20:36:33 ???
「……結構、綺麗な声してるじゃないですか。」

「フン……ここで立ち止まるような時間はないぞ、小僧。わらわの闇の力と貴様の毒の力を以って、このルミナスの地を絶望に染め上げてやるのじゃ……!ククククク……フハハハハハハハハハハハ!!!」

「ノワール……!?」

完全に記憶が戻ったわけではないが、光は感覚的に理解した。目の前の妙齢の女性が、自らの宿敵であることを……。

「久しぶりじゃのう、魔法少女ルミナス……わらわの姿、今度こそ忘れたとは言わさんぞ?」

「だから覚えてないんだって……!それよりも真凛はどうした!お前を止めに行ってたはずだ!」

「さて、のう……大方、あちらの対処にでも向かっておるのではないか?」

そう言ってノワールが顎で指し示した先には……トーメントの魔物兵の軍団が、所狭しとひしめいていた。


「な……!?」
「う……そ……」

完成直前の禁呪と復活したノワールだけでも辛いというのに、そこに加えてトーメント軍の襲来。疲弊しきった今の魔法少女たちでは、勝ち目はないだろう。

「あの狂王……運命の戦士たちが力をつけ始めたからか、ようやく本腰を入れたようじゃのう」

「クソ……!最悪だ……!」

「だが、今はそんなことはどうでもよい……プリンセスルミナス!かつての王位継承争いの続きとしゃれ込もうではないか!変身!」


ノワールが叫ぶと同時に、彼女の身体を黒い瘴気が包む。

「……!聖なる光よ、流星となりて降り注げ!スターライト!」

咄嗟に頭の中に浮かんだ呪文を詠唱し、変身が完了しきる前にノワールに攻撃を放とうとする光だが……


「クックック……いかんなぁ……魔法少女たるもの……お約束は守らなければ」

だが、光の放った流星の光弾は、黒い瘴気に掻き消されてしまう。

「あぁ……わらわが再び変身するこの日を……どれだけ待ったことか……」

ゆっくりと……ノワールを包んでいた黒い瘴気が晴れていく。光の頭の中に、一つの名称が浮かんできた。
王族に連なる名家の若き当主して、闇魔法の専門家として、かつては名声を欲しいままにしていた、魔法少女の名が……


「魔法少女……マスティマ・レイヴン……!」


896 : 名無しさん :2018/03/25(日) 17:14:39 ???
長い黒髪に、肌は色白…血が通っているのかさえ疑わしい、透き通るような白で、紅を挿した唇だけが血のように赤い。
黒一色のゆったりとしたナイトローブを羽織り、腕ほどの長さの大きなキセルを燻らせている。
かつて魔法王国ルミナスのみならず世界中を震え上がらせた『黒衣の魔女』が、ヒカリの前に姿を現した。

「くっ…それなら、もう一度……『スターライト』ッ!!」
ヒカリは再び、先程以上の魔力を込めて魔法を放つ。
だが、ノワールの吐き出す真っ黒い煙が、光弾の雨をあっさりとかき消してしまった。
黒い煙はヒカリの周囲を覆い、闇夜のような漆黒で視界を染め上げていく。

「無駄じゃ……この煙は、光を遮る暗雲であり、生ある者を蝕む瘴気」
(なんだ、これ……身体の力が、抜け…て……!?)

「そして……我が使い魔どもが無数に潜み蠢く、闇でもある」
(グルルル……ガルッ…!)
「っ……う、あああああぁぁぁぁぁあああっ!!!」
闇の中から三つ首の魔獣が顔を出し、ヒカリの右肩、杖を持つ腕に喰らいつく。

(キキキキキ……)
「んっ……っぐ!!……あんっ……ひ、そこはっ……!!」
無数の魔蟲が降り注いでヒカリに群がり、柔肌に毒牙を突き立ててじゅるじゅると血を吸い上げていく。

(ぞわ……うぞぞぞぞ)
「やっ……ん、あ……なか……はいって、こないで……んうぅぅぅぅ!!」
足元からは汚泥のようにどろどろとした亡者の腕が現れ、フリルとリボンで飾られたエプロンドレスを欲望のままに引きちぎっていく……

「クックック……記憶をなくしている、というのは嘘ではないようじゃのう。
我が闇に呑まれればタダではすまぬというのに、無策で挑んでくるとは」

…ノワールの吐息と共に再び闇が晴れた時。
ヒカリは肩や右腕から激しく出血し、全身至る所を毒牙に噛みちぎられ、
強い守護の力を持つはずの魔法少女ルミナスの衣装はボロボロに引き裂かれて、得体の知れないドロドロの液で穢されていた。

「はぁっ……はぁっ………そ…ん、な……」
地に這いつくばったまま立ち上がれないヒカリに、悠然と歩み寄るノワール。
黒いハイヒールのミュールで、ヒカリの体を蹴り転がして仰向けにすると…
(ジュッ……)
「……熱っ!!……ん、っく……!!」
長煙管を傾けて、熱された先端をヒカリの股間に押し当て、落ちた灰を靴底でぐりぐりと踏みにじった。

「ここにこうして、刻印の一つも刻んでやりたい所じゃが…お楽しみは、もう少し取っておくとするかの」
「うっ………ぐ、あああああああああ!!」

(な…なんてこった…ここまで…力の差があるなんて…!)
かつてノワールが暴れまわった時、4代目女王「候補」だったヒカリは、
多くの仲間と協力し、魔帽セイクリッドダークネスと魔石セイクリッドストーンの力を借りる事で、ようやく身体だけを王都ムーンライトの地下に封印する事ができた……リムリット達からは、そのように聞かされている。

それでも、リッテたちとの戦いで覚醒した自分の力が全く通用しないとは…予想していなかった。
城の周囲は魔物の軍勢に囲まれ、味方の魔法少女達は皆、戦える力はほとんど残っていない……

(くっそ……魔法少女を守れる、魔法少女だなんて…大口叩いて、結局、このザマかよ……)
(仲間が危なくなったら、自分が助ける……自分が危ないときは、仲間と力を合わせる…
でも…みんなで力を合わせて、それでも勝てなかったら……一人残らず負けちゃいそうな時は……一体どうすりゃいいんだよ…!)


897 : 名無しさん :2018/03/25(日) 22:49:08 20zXqLhQ
「……魔物兵の軍団が現れてから、一段と魔法少女たちの絶望が強くなった」

光とノワールの戦闘を横目に、フースーヤは空を見上げる。最後に残った柱もどんどん細くなっているが、魔力が溜まってしまえば関係ない。

「風の禁呪『ミアズマ』。そして、毒の禁呪『ロッティングアース』の合成魔法……『ワールド・コラプション』……これを発動するだけの魔力は、既に僕の手中に……」

空に浮かぶ巨大な魔法陣。その気になれば今にでも、この国を最強の毒と風で滅ぼせるだろう。

「フウヤ……聞いて……」

「……姉さんもしぶといね……それだけの傷を負ってまだ息があるのか……まぁ、もうじき楽になれるさ」


フウコが鉄の十字架に磔にされてから、かなりの時間が経過している。既に自分が助からないことなど、彼女自身も感づいている。

「私は、あなたが苦しんでたって、気づいてあげられなかった……ダメなお姉ちゃんだけど……それでも……世界にたった一人しかいない……姉弟だから……!最期に、言わないと、いけない……ことが……」


息も絶え絶えになりながら、フウコは血だらけの腕をフースーヤへ伸ばす。
簡単に振り払えるような、弱々しい動きだったが……なぜか、振り払う気にはならなかった。

「………えい」

弱々しい……悲しくなるくらい力の入っていないビンタが、フースーヤの頬を打った。

「おねえ、ちゃんの……鉄拳、制裁なのだ……これで、あなたの罪は、赦され……ました……正義も、悪も……関係……ない……あなたの、心の、まま……自由に……生き、て……」

「……」

「私、は……フウヤが、幸せなら、それが一番……嬉しい、から……だって……私……た……ち……」

「……姉弟だから……か……さよなら姉さん……僕の憧れの……最愛の人……大っ嫌いだけど、大好きだったよ」


フウコの手が、ゆっくりとフースーヤの頬を滑り落ち……それ以後、フウコは動かなくなった。


「フウ、コ……?フウコォオオオオオ!!!」

「余所見をしている暇があるのか?プリンセスルミナス!」

光とノワールの激闘も、どこか遠い世界の出来事のように思える。
姉を自分の手で殺す……あの日、王下十輝星になってから……ずっと夢想していたことなのに……彼の心には、ただただ、虚無感のみがあった。

(……僕は……)

先ほどまで姉が触れていた頬に手を添えれば、ベッタリと血がついていた。
まだ、温かかった。


898 : 名無しさん :2018/03/28(水) 12:33:22 ???
ルミナス王都、ムーンライトは混沌の坩堝と化していた。
空に突然現れた魔法陣、王都に侵入した恐ろしい魔物兵たち、果ては災厄とも言われるノワールの復活の凶報……
城下町にはすでに異形の魔物兵たちが大勢入り込んでおり、戦う力のない一般市民たちに向けて、暴虐の限りを尽くしていた。

「きゃあああああああああっ!!!」
「げはははは!!魔法少女以外の女なら、ブチ犯して殺してやっても問題ねえよなぁ!」
「ま、魔法少女たちは何をやってるの!!このままじゃ、この国は……!」
「お、あんなとこで1人で泣いてる幼女はっけ〜〜ん!とっ捕まえてかっ捌いてやらあ!」
「うわあああああああん!!おかあさんが……おかあさんが死んじゃったあぁぁぁーーー!!!」
「キ、キミ!危ないっ!!!…………あぁ、あ…………そんな…………いやぁ……!」



悲鳴、怒号、絶叫、嗚咽、涙……ルミナスに渦巻く絶望の感情は、上空の魔法陣をさらに禍々しいものに変貌させてゆく。
禁呪の影響によって、マナの流れに敏感な者の中には、すでに体調不良によって動けなくなっている者もいた。



「早く逃げないと……メル、大丈夫!?」

「うん……お姉ちゃん……ごめんね……メルが動けなくて……迷惑……で……」

「バカ……!妹のアンタを置いて逃げられるわけないじゃないの!絶対2人で生き残るのよ!」

姉のイヴと妹のメル。魔法少女学校に在学中の幼い姉妹は、変わり果ててしまった街並みを横目に奔走していた。
妹のメルは魔力の流れに敏感な体質であったため、禁呪の影響により高熱が出たときのような倦怠感に襲われていて、体を動かすことができないでいる。
そんな状態の妹を自身の背に抱えて走るイヴは、大粒の汗を流しながら城下町を南へと走り抜けていった。

(とにかく街を抜ければ……!あの魔法陣の下から抜ければ、メルの体調も少しは良くなるはず!)



「はぁ……はぁ……お姉ちゃん……わたし……もう、ダメかも……!」

「メル!もうすぐ南門よ!街から抜けてしばらくすれば、きっと良くなる!だから、もう少し頑張って!」

妹を鼓舞し、なんとか城門へたどり着いたイヴ。だがそこで彼女は言葉を失った。



「………嘘、でしょ………?」



出口である城門を塞ぐようにずらりと並ぶ、鋭い牙や大きな角を生やした恐ろしい魔物兵たち。
その体自体が凶器であるにも関わらず、銃や大剣で武装している者ばかりで、街から誰も出さんとばかりに目を光らせている。
この状態では……脱出はおろか、見つかった時点であっけなく捕まり、殺されてしまうだろう。

そしてその先頭にいる長身の麗人と、その傍にいる2人の少女。
そのうちの1人……皺だらけのパーカーを着た茶髪の少女が、鼻をクンクンと鳴らした。

「なによジェシカ。なんか変な匂いでもするの?」

白衣に大きな黒リボンをつけた赤髪の少女が問う。その様子をイヴは物陰に隠れて、ひっそりと観察していた。
あわよくば隠れてこの場をやり過ごし、警備が手薄になったのを見計らい、城門から脱出する計算だったが……

「くんくん、すんすん……匂う、匂うよミシェルさんや。なんだか、すっごい汗臭〜い女の子の匂いがする〜。」

「はぁ……それアンタの体臭でしょ。お風呂ぐらいちゃんと入りなさいよ。そんなんでも一応女なんだから。」

「むむー、ミシェルさんだって、研究に夢中になってた時は、1週間ほとんど飲まず食わずで、お風呂にも入らなかったくせにぃー。」

「あぁ……あの時のミシェルの匂いは、筆舌に尽くしがたいものだったね。鼻が曲がるどころか、鼻がUターンすると表現した方がよいほどの悪臭だったよ。」

「う、うっさいわね!あんたらみたいな平々凡々としたバカと違って、研究中の私の思考回路は一切止まることがないの!お風呂なんか入ってのんびりしてる時間すら惜しいんだから!」

キリキリと怒る赤髪の少女を横目に、茶髪の少女が突然顔を、



ぐりんと曲げて、こちらに向けた。



(え……!?)

「多分、街から逃げてきたんだよね〜。ほらほらぁ、出てきなよぉ〜。女の子2人組みぃ〜〜〜。」

「ひっ……!」

あまりの恐怖に、絶対に開くまいと閉じていた口から声が漏れてしまったイヴ。
茶髪の少女は顔を虫のように小刻みに動かしながら、明らかに視線をこちらの物陰に向けている。
一緒にいる長身の麗人と赤髪の少女も、それにつられてこちらを見ていた。

「お、お姉ちゃん……こわいよぉ……!」

「メル……あんたはここにいて。絶対にここから動かないで。お姉ちゃんとの約束よ……いいわね。」

「え……?お、おねえちゃん……?おねえちゃん……!」

弱々しく叫ぶメルをそっと物陰に降ろし、イヴはゆっくりと3人の前に姿を現した。


899 : 名無しさん :2018/03/28(水) 12:34:59 ???
「……あれ?ガキ1人だけじゃない。ジェシカ、さっき2人って言ってなかった?」

「絶対2人だよぉ〜。きっとあの物陰に隠れてるんだよぉ〜。」

「……お願い……します。妹には……妹のメルにだけは手を出さないでください。私にできることならなんでもします。だから……お願い……メルだけは……!」

足をガクガクと震わせ、涙を流しながら訴えるイヴ。その姿に魔物兵たちは色めき立ったが、3人は冷静だった。



「おやおや……困った仔猫ちゃんだ。まだ私たちは出会ったばかりだというのに、そんな美しい顔で突然泣かれてしまっては……私としても、少々困ってしまうよ。」

そう言うとスネグアは、優雅な所作で懐からハンカチを取り出し、イヴの元で跪いた。

(あれ……もしかしてこの人、いい人なのかな……?)

「さあ、これで涙を拭くといい。君みたいな美少女には、もっと素晴らしい苦」
「ねーねー。キミは魔法少女なのー?魔法少女ならこの美少女ミシェルさんが実験台にしちゃうから、捕まえなきゃいけないんだけどー。」

スネグアの言葉を遮って喋るジェシカ。ちなみに遮ったのはわざとではなく、偶然のタイミングである。

「ふん。私は実験にある程度耐えられそうな若い身体なら、魔法少女じゃなくったっていつでも大歓迎よ。」

そう言って、ミシェルは物陰から出てきた少女の身体をまじまじと見つめた。

年は17くらいだろうか。神は茶髪で、側頭部をリボンで結んだ女の子らしいサイドテール。幼い容姿と少し舌ったらずな声も相まって、まさに美少女然とした印象を与える少女だった。
だが、ミシェルにはそんなことはどうでもよかった。とりあえず誰かが必要そうな情報だから説明しただけである。

「ふんふん……まあ、なんでもいいわ。コイツももう1人もさっさと気絶させて、トーメント行きの竜車に乗せておきましょ。こんな雑魚に構ってないで、もっと質のいい魔法少女をたくさん捕まえないと。」

「ひっ……!や、やめて下さい!お願いします!妹は……メルだけは見逃してください!!あの子はまだ……12歳なんです……!」

「12歳だから何?私の実験材料は学歴職歴問わず全年齢大募集中よ。12歳だって立派な実験対象なんだから。……ほら、ぼさぁっと突っ立ってないで、さっさともう1人も連れて来なさいよ。この泣き虫グズ女。」

「うっ……そんなぁ……」

「ひゃ〜。みなさんお待ちかね、G級ドSミシェルさんによる暴言エレクトリカルパレード、一部の男の人はなぜか不思議と下半身が元気になっちゃうと言われる、素晴らしいコトバゼメのお時間ですよ〜。ドンドン、パフパフ。」

「ジェシカ……あんまりふざけたこと言ってると、アンタもシュメルツでグッチャグチャにするわよ。」

「うえぇ〜〜。あのカリ◯リ食べた時みたいに、身体中ビリビリ痺れるような感覚はもうやだよぉ〜〜。」



ジェシカに脅しをかけつつ、スネグアの元で立ち尽くすイヴへと接近するミシェル。
この3人の中で1番女の子らしい容姿と口調だが、言動からして明らかに1番危険な人物の接近に、イヴは素早く後ずさった。

「はぁ?何逃げてんのよ。私の時間をこれ以上無駄に使わせたら、研究所でもっとキッツ〜〜〜い実験を受けることになるわよ。」

「よさないかミシェル……彼女は怖がっている。君も研究ばかりしていないで、人とのコミュニケーションについて勉強した方がいい。一方的な感情の押し付けは、この世の誰もが嫌う行為さ。」

スネグアはそう言ってイヴの手を掴み、ミシェルから守るように自分の後ろへと移動させた。

(……や、やっぱりこの王子様みたいな人は……いい人なのかも!)

「ご高説ありがとう。でも私は他人のことを考えるのが大嫌いなの。ましてやこんな貧弱なガキ相手にコミュニケーションもクソもないわ。それに……まだ私に捕まった方が幸せかもしれないわよ?ね?ス・ネ・グ・ア・さん?」

「……まあ、それは確かにそうかもしれないね。」

「え……?」

ミシェルと呼ばれた女性は、悪戯っぽく笑いながら長身の麗人を見た。
スネグアと呼ばれた麗人は、先ほどと同じ笑みを浮かべてこちらを見つめている。
その笑みはまさに白馬の王子様のようで、この状況にもかかわらず、イヴは見惚れてしまうほどだった。

「そういえばまだ名前も聞いていなかったね。君の名前は?」

「わ……私はイヴ……イヴ・ステリーアです……」

「そうかい。イヴ……私はスネグア・ミストレス・シモンズ。君のような可愛い仔猫ちゃんは、調教してあげるのが楽しみで仕方ないよ……クククク……」


900 : 名無しさん :2018/03/28(水) 12:36:08 ???
「ち、調教……?なんですか、それ……」

「決まっているじゃないか。君を私の従順な奴隷にするために、毎日この鞭で思い知らせてやるのさ。自分は家畜以下の存在に過ぎない、スネグア・ミストレス・シモンズの奴隷なんだと……ね。」

「ありゃー。スネグアさんもうすでに狂人モードだよー。こりゃあイヴちゃんもドン引きですなー。」

先ほどまで、赤髪のミシェルから自分を守ってくれるかのような存在だったスネグアの笑顔が、途端に悪魔のような顔つきに見えた。



「い、いやあぁっ!」

すぐさま握っていた手を振り払い、妹の元へと駆け出すイヴ。物陰で苦しそうにしているメルを守るように、3人の前に立ちふさがった。

「メ、メルには……!絶対に指一本触れさせないんだから!」

「まあまあ、少し落ち着いてほしい。君はさっき言ったろう?私はどうなってもいいから、妹のメルには手を出すなと。私はその交渉を飲んだまでさ。」

「え……そうなの……?」

「ああ。私は君の妹には何もしない。その代わり、君の体は私の物になってもらうよ。……大丈夫。君のような美しい容姿を持っている女の子は、愛玩用の奴隷にしてあげるからね。」

「あいがんよーってなにー?ミシェルさんー?」

「18禁でしょ。まだアンタが理解すんのは早いわよ。お子ちゃまジェシカちゃん。」

「むむー。ミシェルさんの意地悪ー。」



イヴにとって迷う要素はなかった。
ここで2人ともトーメントに捕まるくらいなら、メルだけでもなんとか逃げ延びてほしい。
昔から甘えん坊だったメルと別れるのは辛いが、生きてさえいればまた会えることもある。
イヴは長女らしく、困難の中でも前向きに物事を捉えることができる性格だった。

「わかり……ました。妹を見逃してくれるなら……私はあなたの奴隷になります……」

「物分かりがいい子だね。その決断は素晴らしいよ。」

「で、でも、条件があります……!妹は魔法陣の悪影響を受けて、動けないんです……治療してくれれば歩けるようになりますから、街から出すために妹を治してあげてください!」

ここでメルを見逃してもらっても、動けないのでは意味がない。せめて歩けるようにならないと魔物兵に捕まってしまう。



「……お姉ちゃん……だ……め……」



イヴがスネグアに話しかけた後、物陰から弱々しく掠れた声が上がった。



「アンタの妹……あそこにいるのね。まあこの禁呪級の魔法の影響下じゃ、体質にもよるけど動けなくなっても全然おかしくないわ。」

「ミシェル。クラシオンで治してあげてくれないかい?私はこの子との約束を守りたいんだ。」

「……お、お願いします……!ミ、ミシェルさん……!妹を、治してあげてください……!」

スネグアとイヴの声を背中に受けて、ミシェルは物陰で仰向けになっている妹……メル・ステリーアの姿を確認した。
身長は146センチほど。ボブカットの黒髪がよく似合う可憐な12歳の少女だが、頬を赤らめて苦しそうにはぁ、はぁ、と息を荒げている姿は、大きなお友達受けもかなり良さそうなセクシーな印象だった。
だが、ミシェルにはどうでもよかった。

「ふんふん……禁呪の影響で体の魔力が暴走してるわ。苦しそうね……」

「ミシェルさん、早く治してあげなよー。可愛そうじゃーん。」

「はいはい、治せばいいんでしょ。治せば。」

その言葉を聞いて、イヴは安堵した。自分はどうなるかわからないが、とりあえず妹は元気に街を出ることができるだろう。
ルミナスの周りは魔物も弱いものしかおらず、メル1人でも倒せるものばかり。近くの町に流れつけば、生きていくことはできるはず……
そこまで考えてから、イヴは違和感に気づいた。



ミシェルが黒い球を手から出した直後、スネグアとジェシカがニヤリと笑ったのだ。


901 : 名無しさん :2018/03/28(水) 12:38:28 ???
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ!!!う゛う゛う゛あぁああ゛あ゛あ゛ぁあぁあああ゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!」

「アハハッ!そんな声出せる元気があるなら、クラシオンは必要なさそうねー!アッハハハハハハハ!!」

ミシェルが黒い球を出した直後、断末魔のような叫び声を上げるメル。
仰向けになっていた体が陸に上がった魚のように、ビクン!ビクン!と跳ね上がった後、まるで痙攣か引きつけを起こしたかのように、メルは激しく体を震わせ始めた。

「やめてえええええええ!!!妹には手を出さないって言ったじゃない!!!どうしてこんなことするのよおおおお!!」

「は?手を出さないって言ったのはスネグアでしょ?私は一言もそんなこと言ってないわよ?」

「あぁ……これは悲劇だね。可愛そうなメルちゃん……今すぐにでも助けてあげたいが……私は君との約束は守るよ。何もしないで見ていてあげよう。」

「そ、そんな……ひどい……ひどすぎる……!」

「ぷぷぷ。まあ昔からこんな感じで、あっしらは仲は悪いながらも息ピッタリなんですよぉ〜。」

「あ゛あ゛あ゛ーーーッ!!!う゛、あ゛、あ゛っ、あああん゛っ!!!」

「メルうぅッ!!だめぇっ!いやあぁっ!やめてえ!お願いだから今すぐやめてよおおおおおおおおおお!!!」

「おっと、大人しくしててねー。」

「あぁんっ!!」

メルに駆け寄るイヴに向けて、口から蜘蛛の糸を発射するジェシカ。
たちまちイヴの体は壁に拘束され、蜘蛛の糸でがんじからめにされてしまった。

「く……う、動けない……!」

「忍法蜘蛛縛り〜。妹がリョナられるのを、そこでじっくり見てなよ。ぷぷぷ。」



イヴが拘束されている間も、聞いたこともないような声で悲鳴を上げ続けるメル。
体内での魔力の暴走に加え、シュメルツによって魔力や神経をグチャグチャに掻き回され、メルの体は猛烈な勢いで内側から破壊されていく。

「ああっぁ!!!うあ゛あ゛あ゛あ゛んんっ!!はぐっ!ひあっ!!!えぐぅうう゛う゛う゛う゛ッ!!」

体の細胞ひとつひとつが壊されるたび、音量が跳ね上がるメルの悲鳴。

「おぐぅ゛っ!!あ゛ん゛!うんッ!!う゛ぅぁ゛んぅ゛っ!!」

それと同時に、狐憑きにでもあったような激しい動きを伴う体。

「あぁうぁッ、あ゛っ!あ゛っ!あんっ!!ぁああァああああ〜……あっ、んっ!」

やがて痛覚も破壊され、どういう感覚かもわからないが、反射的に声だけは出てしまう。

「んっ!ッはぁっ!!ああ゛あ゛あ゛っ……!ああっ……う゛……あぁあぁあぁ゛……ぇぇぁ……」

徐々に光を失っていく虚ろな瞳。流れっぱなしの涎。ゆっくりと弛緩していく体。

「いやあぁああぁっ!!!お願いもうやめてえええっ!!!メルを殺さないでええっ!!」

「んんんッ……うぅぅん……ッ!うあぁあう……ぁ……」

姉のイヴの悲痛な声も虚しく……ゆっくりと、メルは動かなくなっていった。



「あ、ミシェルさん、この子臭いのをいろいろ漏らしちゃってるよ。」

「シュメルツは神経回路を破壊するから、排泄物は垂れ流しになっちゃうのよね。ま、ここは私の研究所じゃないし、どうでもいいけど。……うわ、くっさ!」

「嘘……あああぁっ……!メルっ……!」

イヴが声をかけても、メルは虚ろな目をしたままでピクリとも動かない。
死んでしまった、というよりも生気を抜かれたという表現が正しい。体に損傷はないが、バッテリーが抜かれたおもちゃのようにメルの体は停止していた。

「あぁ……なんて儚い。ミシェル、君の能力は素晴らしいよ。彼女のような少女がけたたましい悲鳴をあげて惨たらしく死にゆく姿……これもまさに芸術だ。」

「ふん。私はシュメルツの威力をこのガキで試しただけよ。最近使ってなかったけど、まったく問題なさそうだわ。」

「うわー。実験材料どころか能力の試運転のために人1人殺すミシェルさん。まさに鬼だね。デーモン・サン・ミシェルだね。」

「こら、人の名前を勝手に修道院みたいにするんじゃないわよ。」



「あぁ……メル……メル……」

自身も壊れたおもちゃのように、妹の名前を呼ぶだけの抜け殻になってしまったイヴ。
スネグアはそんな彼女の頬にゆっくりと触れて……すでに抵抗の意思がないことを確かめてから、彼女の頬にそっと口付けをした。


902 : 名無しさん :2018/03/30(金) 14:43:40 20zXqLhQ
「ぐぅ……!フォトンバレット!」

ノワールに踏みつけられたままの体勢で、自らの掌から光の弾丸を発射するヒカリ。油断したノワールが喰らってくれないかという淡い期待を抱いたが……。

「はっ!」

ノワールはふわりと緩やかに後方へ跳躍し、ヒカリのフォトンバレットを避けた。

「はぁ……!はぁ……!クソ……!フウコ……!」

奇襲は失敗したものの、踏みつけられて身動きを封じられた状況は何とか脱した。絶望的な状況に変わりはないが、それでもヒカリは立ち上がる。

「シャイニングバースト!」
「シャドウレイン!」

ヒカリの放つ光の奔流と、ノワールの放つ闇の雨がぶつかり合い、激しい衝撃波を発生させながら相殺される。

動かなくなったフウコを目にして以降、自らの中で何かが爆発したような感情に襲われたヒカリは、急速にかつての戦闘センスを取り戻していた。

(けど、ダメだ……!魔法の撃ち合いじゃノワールには勝てないってことを、私は『知っている』……!)

「シャイニングセイバー!」

魔法の相殺によって生まれた爆風の中を、ヒカリは魔法の剣を発現させて駆ける。
ノワールの瘴気は「キセルから煙を吸い、そして煙を吐く」という2工程が必要だ。遠距離での魔法の撃ち合いではゼロに等しい瘴気発生までのタイムラグも、接近戦ならば相対的に大きくなる……!

「でりゃあああああ!」

ガキィン!

だが、ヒカリの渾身の振り下ろしは、ノワールの懐から飛び出してきた大蛇によって防がれてしまった。

「近づけば勝てるとでも思ったか馬鹿め!」

「しまっ……!ごふぁっ!?」

さらに、ノワールの影から伸びてきた巨大な手が、ヒカリに強烈な腹パンをお見舞いする。
先ほどの瘴気での攻撃によってボロボロになっていたヒカリに、踏ん張れるだけの体力は残っておらず、錐もみ回転しながら吹き飛ばされてしまう。

「ククク……仲間の助けがなければ、お主など所詮この程度よ……」
「ぁ……!が……!おげぇ……!」

ノワールにせめて言葉だけでも言い返すことさえ出来ず、無様に悶えながらピクピクと痙攣することしかできないヒカリ。


「……して、どうした小僧?禁呪を発動しないのか?」

「……何が、僕にとって正しくて……どうすれば幸せになれるのか……分からなくなったんです」

余裕綽々な様子で、フウコの死体を見つめたまま動かないフウヤへ声をかけるノワール。

「自らの姉を手にかけ、心が揺らいだか……まだまだ青いのう、小僧」

小馬鹿にしたような物言いだが、その言葉には、祖国に牙を立てる同類に対する気遣いの優しさが含まれていた。

「……姉さんや4代目様と話して……僕の中の憎しみが薄れていくのを感じました」

「憎しみが薄れる、か……憎しみでの悪事など2流3流のやることよ……」


ノワールは鼻を鳴らすと、ゆっくりと口から煙を吐き出す。煙は大量の黒いコウモリに姿形を変え、ヒカリの腕に群がって彼女を無理矢理持ち上げる。

「やめ……!ろ……!は……!な、せ……!」

「小僧……いや、フウヤよ。生身の目で物が見えるようになった今のわらわには、お主の本当の望みが手に取るように分かる……悪に染まっても、生物としての倫理観は捨てきれずにおるようじゃの……故に迷っておる」

「……何の話です?僕の望みは、僕を受け入れてくれなかった姉さんとこの国に復讐すること……」

「クックック……わらわも初めて同性に手を出した時は、中々踏み切れなんだ……気持ちは分かるぞ」

ノワールがサッと片手を振るえば、塔に突き刺さっていたフウコの死体がゆっくりと引き抜かれ……フウヤの前に、そっと置かれた。

「……何をしているんです?貴女に限って、串刺しのままは可哀想とか言いませんよね?」

「まだ惚けるか……いや、自分でも分かっていないのか?全く、世話のかかることよ」

カツカツとヒールの音を響かせながら、ノワールはフウヤに近づいていく。
そのまま、ノワールはフウヤの頭に手をポンと乗せると……グイッと、フウコの死体に、フウヤの顔を近づけさせた。


903 : 名無しさん :2018/03/30(金) 14:44:47 20zXqLhQ
「な、なにを……」

「フウヤ、お前は……姉を女として愛していたのじゃろう?」

……一瞬、時が止まったかのような静けさが、その場を支配した。

「な、にを……馬鹿なことを……」

「許されぬ恋……お主は、表面上はそれを上手く隠していたが……露見することが怖かった……誰かに気づかれはしないかと恐れていた……」

「…………!」

海でみんなで着替えようと言われた時に嫌がったのは、姉の裸を見て劣情を催しているのを、目ざとい女子に気づかれるのが怖かったから。
家でお風呂上がりに鉢合わせしても冷静だったのは、自分の周りの恋バナには疎いフウコには気づかれない自信があったから。
……フウヤが姉と2人っきりの時間を、弟としてではなく喜んでいるのをバレるのを恐れ……目ざとそうな女子と一緒にいる時は、様子がおかしくなっていた。

「だが、お主はいざ手を出せる段になっても、ちょっとしたイタズラ程の事しかしなかった……それは何故か?」

さらにフウヤの顔をフウコの死体へ近づけさせながら、ノワールはフウヤの耳元でそっと囁く。

「弟に、最期に伝えたいことを伝えて息絶えた、戦い抜いた少女の亡骸……美しいとは思わんか?」

「…………!」

「狂王が支配するこの世で、倫理観など下らぬ……強姦や輪姦、それ以上のリョナ行為が蔓延っておる」

「僕、は……!」

「さぁフウヤよ……未だにお主を信じているプリンセスルミナスや、お主を信じたまま息絶えた姉の想いを踏みにじれ……そうすれば、今までで最高の愉悦を味わえるぞ……」

フウコの血が付着したフウヤの頬を、優しく拭うノワール。フウコが命を賭してフウヤに伝えようとした何かを、ノワールが無遠慮に拭い去っているように見えて……ヒカリは声を荒らげていた。

「止めろ!聞くなフウヤ!お前はまだやり直せるんだ!」

だが、先ほどは確かに響いたはずのヒカリの声は、フウコの死体を見つめるフウヤには届かなかった。

「……え?フウ、ヤ……?なにしてんだよ、おい……!止めろ!いくらお前でも許さないぞ!それ以上フウコを辱めるな!」

ヒカリは、目の前の光景が信じられなかった。

ゆっくりと跪き、フウコの亡骸に手を伸ばしたフウヤが……そのまま、フウコの胸をまさぐりはじめたのだ。

「はぁ……!姉さ、ん……!」

「そうだ!周囲の奇異の目も倫理観も善悪も気にするな!わらわも初めて同性に手を出す時は、今のお主のような心持ちであったぞ!」

「なに、やってんだよ……!フウヤ……!」

戦い抜き、息絶えた美しい姿……やり切って、穏やかに閉じたその瞳。全身傷ついているが故の、戦乙女のような美しさ。
本来ならば、その遺体を冒涜する権利など誰にもない。

「んっ……!はぁ……!さっきより……全然いい……!」

だからこそ……フウヤは……フースーヤは興奮する。女性が苦しむ姿……リョナ自体にはどちらかと言えば性的興奮よりも芸術性を感じる彼は、苦しみ抜いた後……死体に対して、かなりの興奮を覚えるのだ。


「姉さ、ん……姉さん姉さん……!」

「止めろ……目を覚ませ馬鹿フウヤ……!クッソオオオ!!馬鹿野郎ォオオオオオオオ!!」

「ククククク……フハハハハハハハハハハハ!!!」


904 : 名無しさん :2018/03/31(土) 10:57:40 ???
「やめろ、フウヤっ……ここでお前まで欲望に流されたら……フウコは、何のためにっ…!!」
「はぁっ……はぁっ……う、うぅっ!!……僕は……一体、何をしているんだ…
この人は、実の姉さんなのに……あんなに憎んでいたはずなのに……愛しくて、たまらない…
そして、こんなに愛しているのに……穢して、破壊して、蹂躙してしまいしたい……もう、我慢できない」

「クックック……それで良い。人の欲望は複雑怪奇、矛盾していて当たり前…あるが儘を受け入れるがいい。
お主の心のまま、自由に生きろ…己の欲望に身をゆだねるのじゃ」

「心のまま、自由に……」
ノワールの、その一言…姉フウコが最後に遺したのと同じ言葉を聞いた時。フウヤの心から、迷いは消えうせ……

「止せフウヤ!そいつの言う事を聞いちゃダメだ!!……フウヤッ!!」
…ヒカリの声が耳に届く事はなくなった。

「クックック…良い、実に良いぞ小僧。そなたが『目覚めた』祝いに、良い物をくれてやる」
ノワールの瘴気がフウコの体を包み込んだ。
傷口から流れ出る血が止まり、黒い魔法少女の衣装へと変化していく。

「……その娘の体内にお前の毒を流し込め」
「えっ…………それは、どういう…」
「クックック……身体の腐敗を防ぐためじゃ。その上でわらわの闇の力で覆い……最後に、魂縛の刻印と、隷属の刻印を植え付ける」
「…ノワール……何をするつもりだっ……まさか…!」

ノワールの施そうとしている術の詳細は分からないが、傍で聞いているだけでヒカリはその悍ましさに身が震えた。
これはまるで、邪悪な屍術師が不老不滅を得るために使うと言う、リッチの秘術…

「止めるんだフウヤ!!そんな事をしたら、フウコの……お前の姉さんの魂は、その身体の中で永遠の苦痛を…」
「姉さんが……永遠に、僕の物に………」
「んっ…!?……あ、っぐ……っお………」
「クックックック……新たなる、黒き魔法少女の誕生じゃ……!」

「やっ……やめろおおおお!!!」
(どくん………)

止まったはずの心臓が再び動き出し、毒と瘴気に黒く染まった血が再び体内を巡り始める。
フウコの肌は白く変色し、美しかったエメラルド色の瞳は限りなく黒に近い、
…以前とはまた別種の美しさをたたえた、深い暗緑色へと変わっていた。


905 : 名無しさん :2018/03/31(土) 14:00:37 ???
「姉さん……姉さん、僕がわかるかい……」
「……フウ…ヤ……っぐ……うぅっ……」
囁くように、呼びかけるフウヤに、フウコは苦痛の呻きを漏らしながらも……穏やかで、幸せそうな微笑みを浮かべた。。

「もうやめろ、フウヤっ……お前はどこまでフウコを苦しめれば、気が済むって言うんだ!!」
「いいん、です…私…フウヤの本当の気持ちに、気付けたから……例えフウヤが悪に染まっていたとしても………だか、ら…」
「そ……ん、な……」
「…そういう事ですよ、ヒカリさん……さあ、行くよ姉さん。これが僕達の、真なる力」
「「真・毒風鎌鼬!!」」
「……うああああぁぁぁあああっ!!!」

(ドシュ!ザク!!ズブッ!!)
ヒカリはノワールの使い魔達に空中で磔にされたまま、フウヤとフウコの放つ毒の風刃に斬り刻まれた。
全身に刻まれた傷口に毒の気が流れ込み、その苦痛は何倍にも増幅される。

…ヒカリはかつての魔力を取り戻し、それに伴って耐久力、治癒力とも格段に上がっている。
故に、二人の猛攻をその身に受け続けても辛うじて耐えしのぐ事ができたのだが…
裏を返せば、強い力を取り戻したために、より激しい苦痛を受ける事になってしまった…とも言えるかもしれない。

「うっ………っぐ…!!」
「これでわかったじゃろう、ルミナス。貴様らがいくら安っぽい正義感を振りかざした所で……真実の『愛』の前には無力、と」
「ふ…ふざけた事、言うな……刻印や邪術で魂を縛りつけて、苦痛を与え続ける……
こんなものが、真実の『愛』だなんて、誰が認めるかっ…『ライトシューター』ッ!!」
地面に叩き落されたヒカリに、悠然と歩み寄るノワール。
ヒカリは残された魔力を掌に集中させ、近付いて来たノワールに奇襲を仕掛けるが……

「クックック……そう来ると思っておったわ。記憶をなくしても、姑息なところは変わっておらんの」
「くっ……!!」
やはり黒い霧に阻まれ、ノワールの身体に傷一つ付ける事さえできなかった。
まるでヒカリの戦い方などお見通しだと言わんばかりに、ノワールは余裕の笑みを浮かべる。

「実にいい表情じゃ……胸は洗濯板で、魔力を吸い取ろうにも、糞不味い光属性。
まことお主は、煮ても焼いても食えぬ奴じゃったが…」
(くちゅ………)
「……ふあうっ!?………なっ……や、やめ、………っあああぁぁぁっ!!」
更にノワールはヒカリの股間へと手を伸ばし……闇魔法『ドロール・プレジャー』を発動した。


906 : 名無しさん :2018/03/31(土) 14:01:55 ???
(にゅる……ちゅぷ…ぐちゅぐちゅぐちゅ、くりっ)
「ひゃ、ひいっ!?…な、なに、これ…!!……こんな、の……ぅ、い、あぐ!!」
「そんな貴様を絶望の底に叩き落し、苦痛と絶望にのたうつ様を見るのは……実に心が躍る」

下着の中に両手を差し込み、激しい苦痛と圧倒的な快楽を、あらゆる場所に、不規則に叩き込んでいく。
ヴァギナ、膣内、クリトリス、尿道やアヌスに至るまで…恨み重なる光の魔法少女の弱点を、ノワールは本人以上に良く知っていた。
「確か貴様は、ここを弄られるのが特に好きじゃったの……そら、久しぶりのわらわの指の味はどうじゃ?ん?」
「ひゃ、ひ、はふぅ!?……しら、な……こんな、かんかく、…っ!!………ん、ひあああぁっ!?」
極限の苦痛と快楽を同時に与える、魔法少女を壊すために編み出された闇の魔法。
「弱点」を触れられた瞬間、ヒカリの背筋は凍りつき、愛撫が始まると同時に絶頂に達し…そこへ闇の力を送り込まれたら、もう降りてくる事は不可能だった。

「っ………あ………」
「さて、戯れはこの位にしておくか……小僧ども。お主らも、新たな力を試したいじゃろう。
こやつを結界に引きずり込んで、存分に……むう?」

「フウヤ君……フウコっ!?」「ヒカリさんっ……一体、どういう事…!?」
そこに現れたのは……水鳥とカリン。
二人とも魔力は少なく、重傷を負いながらも、フウコ達の事が心配で居ても立ってもいられずやって来てしまったのだ。

「お、お前ら……きちゃ、ダメ、だっ……早く……」

「クックックック。丁度良いではないか。全員まとめて結界に引きずり込んで……存分に、いたぶってやろうぞ」
「そうですね……さあおいで、姉さん。」
「…ええ、フウヤ……」

ヒカリの脳裏には、フウコが最後に言った言葉がこだましていた。
悪に落ちたフウヤを許し、苦痛と絶望を受け入れる…それが、彼女の本心なのだろうか。

「きゃあっ!?何この影みたいなの!!」「これは、邪術の結界……い、いやあっ!!離してっ!!」
「や…やめ、ろ……」
(私…フウヤの本当の気持ちに、気付けたから……例えフウヤが悪に染まっていたとしても………だか、ら…)

「クックック…無駄じゃ、ルミナス。貴様ごとき虫けらがいくら足掻こうが、何一つ守る事も救う事も出来はせん」
(だから……ヒカリさん……お願い…します……どうか私達を、止めて……)

「あのボロクズ同然の小娘達と一緒に、絶望と苦痛に飲まれて息絶えるが良い……はーっはっはっは!!」


907 : 名無しさん :2018/04/01(日) 01:05:30 ???
『そう……ユキの手術は成功したのね』

「はい、しかし先日の件が精神的に堪えているようでして……寝言でよく、サキ様やミライさん、あとスピカのリザに謝っています」

『私やミライはともかく、リザの奴にも……か。あいつはちょっと痛い目にあうくらい慣れっこだから、気にしないでって伝えといて』

サキはオメガ・ネットへ向かう道すがら、通信端末で舞と通話していた。内容はもちろん、ユキの手術のことである。

「サキ様……やはりサキ様が近くにいるのが、一番ユキちゃんの支えになるかと……何とか帰って来れませんか?」

『そうしたいのは山々だけど、セイクリッド・ダークネスを使い続けるには、任務を遂行し続けないといけないから……しばらくは帰れそうにないわ』

「そうですか……しかし医者の話によれば、今は絶えず魔導義肢に魔力の供給が必要ですが、将来的には週に一度、月に一度と魔力供給を減らすことも可能とのことです」

『ほんと?それは不幸中の幸いね……それまでは馬車馬みたいに働くしかなさそうだけど』

「サキ様、私に手伝えることでしたら、何でも申しつけてください……それで貴女の負担が少しでも減るのでしたら、私は……」

『ありがとう……けど、今はユキの傍にいてあげて……あの子は今、一人ぼっちだから……』

「サキ様……分かりました、サキ様がお帰りになるまで……お待ちしております」

『ええ……ナルビアの首都オメガ・ネットは警備も厳重……しばらく連絡できないだろうけど、頼むわね』

サキと舞の通信が切れる。舞は自分の携帯端末をしまい、ユキのいる病院へ向かう。彼女はサキがいない間の雑務関係で城に僅かに勤める以外は、ずっと病院にいる。
先日ユキが教授に連れ去られた事を受けてか、サキは王城の医務室から移されたユキの病院を巧妙にひた隠していた……舞以外には。

(サキ様は、もう一度よく考えろと言ってくださったけれど……この世界に来て誰からも救われず絶望の淵にいた私を助けてくれたのは……サキ様だった)

現実世界に未練が全くないわけではない。だがそれ以上に、サキの助けになりたい。
そんな風に、考え事をしながら道を歩いていたからだろうか……舞は、後ろからある男が気配を消しながら彼女を尾行し、人気のない路地に入るのを待っていたことに、気づけなかった。


ボシュウゥウウウ!

「な!?」


突然、舞の周囲を謎のガスが満たす。突然のことに慌てながらも口と鼻を押さえる舞だが、僅かにその怪しげなガスを吸ってしまっていた。

(な、にこれ……!?ちょっと吸っただけなのに、もう、意識、が……遠の、いて……)

バタリ、とその場に倒れる舞。謎のガスを発生させた下手人はそんな舞を見下ろしながらぼそりと呟いた。


「くさそう」


前スレ>>151でくさそうの人がアヤメカNo.15「アヤメ印のさいみんガス」を喰らったのはわざとだ。
わざと超高性能の催眠ガスを喰らい、自分なりに成分を分析することで、くさそうの人はアヤメカとほぼ同性能の催眠ガスを作成することに成功していたのだ!

くさそうの人は気絶した舞を背負うと、どこかへと去っていった……。


908 : 名無しさん :2018/04/01(日) 01:06:40 ???
「ぅ……ん」

「目が覚めたか?」

「はっ!?」

目を覚ますと舞は、どこか暗い部屋で、椅子に縛り付けられていた。
目の前には、トーメント城のちょっとした有名人であるくさそうの人がいる。だが、普段は何も考えてなさそうなのほほんとした顔をしているくさそうの人が、今はとても冷酷な表情をしていた。

「単刀直入に聞く……リゲルの妹のいる病院はどこだ?」

「な、にを……?」

「アルタイルとフォーマルハウトの会話を聞いた……リゲルがオメガ・ネットに潜入するとな……国に警告メッセージは送ったが、リゲルの能力は気を付けていれば100%どうにかなる類のものではない……」

「なぜ、貴方が、それを……?まさか……!」

「潜入を止めさせるには、リゲル本人と交渉する他ない……そしてリゲルは、母と妹のことでしか動かない」

「ナルビアの、スパイ……!?」

「もう一度聞く……リゲルの妹はどこだ?言わないなら……痛い目を見てもらうことになる」

そう言って、くさそうの人は、懐からペンチを取り出し……舞の右手の爪を挟んだ。

「ひっ……!?」

「爪剥ぎは古典的だが有効な拷問だ……所詮異世界人であるお前が、リゲルにどこまで肩入れするか……見せてくれ」

「や、やめ……!が、ぁ!?ぎ、ぁああああ゛あ゛あ゛あ゛!!?」

舞の悲鳴が、謎の暗い部屋に響き渡った……。


909 : 名無しさん :2018/04/01(日) 13:43:10 ???
「…王都の住民を、城の地下に避難させます。城の地下道を通って行けば、街を脱出できるはずです。
戦えるものは総員、ただちに城下に出て住民の避難誘導。その後は………なるべく、時間を稼いで下さい」

傷を癒すため深い眠りについているウィチルに代わり、魔法少女達の指揮を執るココア。
…彼女の下した指令は、あまりにも非情で、悲壮な物だった。

「ゲヒヒヒッ!!まずは街の住人から食い放題だァー!!」
「キッキッキ……あんまりヤりすぎるなよ。短小早漏が、メインディッシュまでにへばっちまうぜぇ」

…ムーンライト城下町、スネグア達がいるのとは別の街門付近にて。

トロルやオーガなど大型の亜人が戦槌や破城槌を打ち付け、防護魔法で強化された街門も、ついに打ち壊されてしまった。
次いでコボルド、ゴブリン、ワービーストなどの小型種が大挙して街になだれ込もうとするが……

「そうはさせないわ!…行くわよみんな!」
「ええ、タンナ!」「「「変身!!」」」

魔物兵達の前に、4人の魔法少女が立ちはだかった。
「そこまでよ、バケモノども!魔法少女ヴォイド・キャスター参上!」
「魔法少女オーディナリー・メイガス!ここから先は通さないわ!」
「魔法少女ミッドナイト・ヴェール!以下同文なり!」
「魔法少女フラックス・ウィッグ!コルティナさんには……じゃなくて。街の人たちには指一本触れさせません!」

「げへへへ…さっそくお出迎えとは、気が利いてるじゃねえかァ…!」
「髪形、髪色、瞳の色に、武器、服装、おっぱいの大きさまで見事に全員バラバラだな。」
「一部ちょっと地味だが、どいつもなかなかソソるぜ……なあ、お前らはどの子が一番イイと思う?」

「俺は、黒ワンピの隣にいる金髪の子だな!ちょっとおっぱい小ぶりなのが素晴らしいぜ…」
「俺も貧乳は大好きだ!そういう意味じゃ、あのメカクレの子が一番だな…!」
「はあ?デカい方が良いに決まってんだろ!俺はダンゼン、一番端の緑髪巨乳ちゃんだぜ!」
「まあケンカすんなよ…あの剣を持ったポニテの子は、接近戦が得意そうだから早めに潰したいな」
「紫目の子が、マント以外に武器らしい武器を持ってないのが気になるなぁ。…白いブラウスの子も、なんかさっきより髪の毛伸びてないか?」
「武器なんざ関係ねえ、こっちはこれだけ数がいるんだぜ!それより早く、ツインテちゃんのピンク色なヒラヒラフリル、ビリビリに破きてえ…」
「俺もサクッとあっちの鎧の子をひん剥いて、鎧の下のムレムレ巨乳にしゃぶりついてやりたいぜ!」
「ヒヒヒ。今の所、赤目ちゃんと青目ちゃんが人気のようだな……ちなみに俺は、紫目ちゃんの大きすぎず小さすぎない普通なおっぱいが好みなんだよね」
「おっぱいのサイズなら、赤目ちゃんが一番っしょ!」
「いやいや、大きけりゃいいってもんじゃないよ!杖の子ぐらい小ぶりなのが一番いいんだって!」
「水色のロングヘアーだ!」「いいや!亜麻色のショートボブだ!」
「さて、ここで問題です。青い瞳の子の髪形は何でしょうか?」

「おい、ナナシー……お前の特徴が問題になってるぞ。よかったな」
「うっさい!全然うれしくないわよ!」
「そうか、私は巨乳だったのか…知らなかった」
「皆さん、油断しないで!……来ますっ!!」

「ヒャッハー!!こうなりゃ、早いもん勝ちだァァァァァー!!」

少なくみても数千は下らない魔物兵の軍勢が、たった4人の魔法少女に我先と襲い掛かる!

(うわぁ……ココアさんは『まだ希望はあります』って言ってたけど…こんなん絶対、ムリゲーじゃねーか。
ごめん、ノーチェ、キリコ……わたし、シーヴァリアに帰れそうにないや。お前らと「ぐーたら三姉妹」してるの、楽しかったよ……
……最後に、もう一度だけ……会いたかったな……)


910 : 名無しさん :2018/04/01(日) 19:55:49 ???
「とにかく、少しでも時間を稼ぐのよ!」
「リムリット様やヒカリ様だけでも生き残れば、ルミナスはまだ負けてない!」
「クソ、こうなりゃヤケだ!ここで盛大に個性を爆発させて、もう二度と3人1セットなんて呼ばせないようにしてやる!」
「……最悪の場合、せめてコルティナさんだけでも、リムリット様達と一緒に逃がしてみせます!」

「やっちまえー!」「無双ゲーじゃあるまいし、この人数に勝てるとでも思ってんのかオラー!」

たった4人の魔法少女に対し、数千はくだらない魔物兵が殺到する。哀れ魔法少女たち、あっという間に分断され、集団戦とか全然書いたことない書き手に雑に殺されてしまうのか――と思われたその時!


「悪いけど……そういうめんどいリョナ描写は、ばっさりカットさせてもらうから」


突然、魔法少女たちの方へ向かっていた魔物兵たちから、鮮血が舞った。

「ぐわ!?」「ちょ、痛ぇ!?」「なんかかすり傷というにはちょい重いけどギリギリ痛いですむレベルの中途半端な傷が!?」

どこからか予想だにしていない謎の攻撃を受けて戸惑う魔物兵たち。そんな魔物兵と魔法少女たちの間に、空から一人の少女が、黒装束をはためかせながら降ってきた。

「お、お前は……!?」

「『一閃』にして『一千』、故に『一線』の戦士……千斬のキリコとは、アタシのことだ」

前髪に赤いメッシュが入っている、巨大な鋏を持った黒髪の少女……シーヴァリアの裁断卿にして実はミツルギ皇国の間者……千斬のキリコが現れたのだ!

「ちょっとキリコ!カッコつけて登場したはいいけどあんまり効いてないじゃん!そこは魔物兵一掃して登場してよ!キルラ○ルの主人公みたいな特徴しやがって!」

「いや待てそこは『なんでキリコがここに……!?』って言うべきところだろ。アタシの千斬りは手数重視で一発一発は軽いんだよ」

「え?あのう、コルティナさん、こちらの方は……?」

突然現れたくノ一に怪訝な表情を浮かべるアコール。

「何を隠そう、かくかくしかじかなんだよ」

「いやちょっと待ちなさいよ!コルティナあんた一部の相手にだけとはいえシーヴァリアで自分がスパイってバラしたの!?下手したら国際問題よ!?」

「ていうかこの人も実はミツルギの間者って、シーヴァリアは防諜関係大丈夫なの!?」

「心配すんな、もうちょっとして聖騎士の連中が追いついたらちゃんと白騎士の衣装に着替えるから」

「いやあなたの心配をしているわけじゃなくて……へ?」「聖騎士?」

「そう……新女王体制になったシーヴァリアの初遠征の目的は、友好国家ルミナスの救援だ!」


911 : 名無しさん :2018/04/03(火) 20:03:33 dauGKRa6
「シーヴァリアの初遠征……?ま、まさか!!」

「ふふん、驚いたでしょコルティナ。円卓の騎士も新女王体制になって、今はリリス様という可愛いお姫様を囲うステキな騎士になったのよ。」

「グギギ……シーヴァリアの騎士だと?温室育ちのいい子ちゃん風情が、このトーメント魔物兵に勝てると思ってんのかぁ!全員ぶっ殺してやらぁ!」

キリコの登場に面食らったのも束の間、数では圧倒的優位を誇る魔物兵たちは勢いを殺すことなく、すぐに魔法少女たちへと襲いかかる!!



「オイオイ、シーヴァリアの騎士がいい子ちゃん揃いだぁ?俺様たちも甘くみられたもんだなァオイ!!」

「リョナラーがトーメントの奴らだけだと思ったら、大間違いだっぺ!!」

「な、なんだお前らはあぁ!?グ、グギャロオホボボボ!!」

突然現れた強面の面長男と太った男に、切り刻まれたり叩き潰される魔物兵たち。2人の出で立ちは黒の鎧に、胸にはシーヴァリアの騎士であることを証明する紋章が刻まれていた。

「ベルガー!肉厚うぅ!お前ら久しぶりなりなー!」

「コルティナ!この際だから言うが、お前がスパイだったのは円卓の騎士は全員知ってたぜ!」

「まあ、ルミナスとも同盟を結んだことだし、もうスパイでいる必要もないっぺな。ムハハハ!」

「そ、そそそんな!私は泳がされてたなりか!……まあシーヴァリアはルミナスに対して友好的だったから、別に泳がせてもよかったってことかなぁ……」

1人ごちながらちらりとキリコの方を見ると、いつのまにやら早着替えを済ませ白騎士の格好になった彼女がニカリと笑った。

(ま……まさかバレてるのはわたしだけなりかー!!)



「とりま、この辺はおっけーかな。ノーチェたちの方も片付いたらしい。このまま市街地の方に行って、ルミナスの市民たちを逃がてあげましょ。」

突如現れたシーヴァリアの騎士たちと、実力者である円卓の騎士たちの活躍によってコルティナたちは全滅を免れた。

「トーメントの奴ら、まさか俺たちが出張ってくるとは思ってなかったみてえだな。兵力じゃほぼ互角かこっちが上回ってるぜ!」

「ねえキリコ。シェリーとメデューサは?あとリンネ君もいるの?」

「あ、その3人はいないわよ。しぇりめでゅは行方不明で、リンネ君は別件でこっちには来てない。」

「むう、円卓の騎士全員集合とはいかないなりか。それならノーチェとサイラスとランディに早く会いたいなりなー。」

「市街地の方に行けば会えるわよ。早く合流して、ぐーたら三姉妹の力を見せつけてやりましょ!」

「オーキードーキー!」



「さすがシーヴァリアの円卓の騎士……アタシらほぼヤムチャしてたなぁ。」
「そ、そうだな……」
「え、えと……あなたたちは名無しと雑魚ですから、そんなに気を落とさなくても良いと思いますよ……?」
「「ひ、ひどい……!」」

がっくりと肩を落とす2人。結局活躍の場は既存キャラに奪われ、彼女たちの戦闘シーンが描かれることはなかった。
そんな2人を無視して、アコールはキリコの方を見つめる。

(……あの人、コルティナさんとあんなに親しそうにしてる……!ジェラシーが溢れて……変になっちゃいそう……!)


912 : 名無しさん :2018/04/04(水) 01:23:48 ???
「斬滅狼牙アァァ!!」
「戦鎚術、餅突衝破!!」

市街地へ向かう道に立ちふさがる魔物兵たちは、円卓の騎士たちの思わぬ攻勢に次々と撃退されていく。

「ベルガ、やるなりな!お前のやたら怖い顔も、今だけはちょっとカッコよく見えるなり!」

「けっ!だったらあとでその髪と乳触らせろよお昼寝女!」

「ぐえっ、セクハラもそこまで堂々とされると逆に清々しいなりなっ!」

「コルティナ、ちゃんと前見なさい前!敵が来てるわよ!」



「くそっ、なんでシーヴァリアの奴らがこんなとこに来てやがるゥ!こっちは十輝星もいないってのによぉ!」
「教授ガチャ最低ランクの俺らじゃ相手にならねー!オーイ!!!レア度ランク星5以下の奴らは逃げろぉー!」
「あ、俺星4のスライムが5回当たって限界突破しまくってるんだけど、どうすればいいかな?」
「バッキャロ!所詮星4がいくら限界突破したって星10ランクの奴らに勝てるわけねーだろ!ちゃんと課金して星10ランク当てろやボケが!」

円卓の騎士たちのコンビネーションに手も足も出ない魔物兵たち。そもそも指揮系統もほとんどない彼らはあっという間に蹴散らされていった。



「ノーチェー!!会いたかったなりーー!」

「コルティナー!!結局その口調気に入ってるみたいね!あたしもそろそろキャラ付けされたいなぁー!」

再開を喜ぶコルティナに抱きついて頬にスリスリしているのは、鉄拳卿ノーチェ・カスターニャ。
実は異世界人でノーチェという名も偽名の彼女は、格闘家らしく前髪をあげてミニスカートを履いた、露出度の高い衣装に身を包んでいる。

「ノーチェは格闘家だから、アルとかアイヤーとかマンセーとか言ってればいいと思うなりよ。」

「安直なんだよなぁ……そもそもあたし日本人だし。わざとカタコトで中華娘演じるのはちょい痛いっしょ。あとマンセーは違うから。」

「おい……ここは戦場だ。バカみたいに大きな声を出すな。痴れ者共が。」

「まあまあ、サイラス殿。まあこの面子が集まるのも久しぶりの展開ゆえ、少しは再開を喜ぶのもいいのではないですかな。」

「そうだよサイラス。アタシらぐーたら三姉妹が揃ったのは久しぶりなんだから、少しはおしゃべりさせなさいよね。」

「……まったく、女ってやつは……」

ランディとキリコに窘められ、呆れたように息を吐くサイラス。何はともあれ、この混乱の最中円卓の騎士が半分以上集まることができたのだった。
ちなみに、空位となったブルートとリリスの席についてはまだ埋まっていない。



「あ、紹介するね!こっちはアコール!髪の毛フェチの毒舌家だけど悪いやつじゃないから、嫌いにならないでね!」

「……い、いきなり性癖をバラされてとっても恥ずかしいんですが……!よ、よろしくお願いします……!」

おどおどした様子でぺこりと頭を下げるアコールに、円卓の騎士たちも悪印象はなかった。
むしろいきなり他人の性癖をバラしたコルティナという女の非常識さを、改めて認識したのだった。



「で、我らが女王のリリス様は今どこにいるなりか?」

「リリス様はルミナス城の屋上……上級兵を連れて、あの魔法陣の出力元と見られる場所へ移動しております。」

「ええ!じゃあなんでアンタらは同行してないなりか!?」

「それは……リリス様の命令だっぺ。とにかくルミナスの市民を守ることが最優先だから、1番強い円卓の騎士たちはそっちへ行けとのことだっちゃ。」

「おお……リリスちゃんらしいなり。あ、今は様つけないとだめか。てへぺろ!」

「おいコルティナ!さっさと髪と乳とケツ触らせろや!約束だろーが!」

「ちょ、ちょっと!お尻は入ってなかったはずでしょー!このドスケベルガー!」

「あっあっ!コルティナ、コロスケ要素抜けてるアルアルあるある大辞典!!」

「……お前ら、いい加減ふざけるのはその辺にしろ。市民避難も俺たち3人でほぼ完了した今、円卓の騎士全員がここにいる必要はない。……いくらか残して、残りは城に行くぞ。」

「「「了解!!」」」



個人が強さを発揮する十輝星たちとは違い、騎士としてチームプレーを重視する彼らは纏まると強い。
そんな彼らのチームワークはシーヴァリア騎士たちにも引き継がれている。トーメントの兵士たちに力では負けていても、完璧とも言える統率力でシーヴァリア兵たちはトーメント兵たちを退けていった。



「あの、アタシらさも当たり前のように紹介されていないんですが。」
「個性が……個性がほしい……誰か、あたしらのことリョナってくれないかな……」
「ちょ、タンナ!それ言っちゃうのはキャラ的にもメタ的にも危険が危ないって!」


913 : 名無しさん :2018/04/04(水) 12:31:18 ???
話の結果、街で戦っている兵たちと共に残るのはベルガ、デイヴ、ランディとなり、城へと向かうのはぐーたら三姉妹とサイラスとなった。
コルティナがどうしても城へと戻りヒカリたちの加勢を志願したため、コンビネーションの取りやすいノーチェとキリコが確定。
そしてこのぐーたら三姉妹を纏めるのはサイラスが適任とランディが判断し、このような構成となったのである。



「サイラスううぅ〜♡ねえねえねえねえ、サイラスのハーレムパーティーじゃん。美少女3人に囲まれて正直嬉しい?緊張しちゃったりしてるの?」

「黙れ。俺はお前らみたいに寄ってたかってうるさい女が1番嫌いだ。無駄口を叩いてる暇があったらさっさと走れ。馬鹿が。」

「うぅ〜!いつまでもいつまでもほんっと〜にデレることをしない男だなー!そんなんじゃ一生モテないぞ!……って、うげっ!?」

城への道でダル絡みをするノーチェの頭に、サイラスの鉄拳制裁が容赦なく炸裂した。

「いっったーいっ!!女の子に向かってひどいよぉ!サイラスの暴力男!そんなんじゃ一生モテないぞ!」

「結論はそれしかないのか……しかしサイラスもグーでいくとはな。女嫌いは伊達じゃないねぇ。」

「キリコキリコ、そういえばさっきスルーしちゃったけど、しぇりめでゅが行方不明ってどういうことなりか?」

「そのまんまだよ。シーヴァリアからいなくなっちゃったの。あの2人のことだから、同性婚ができる別の国に移住したんじゃない?……まあ、どうぞお幸せにって感じだね。」

「むむぅ……百合が許される国なんて私は聞いたことがないなり……」

実際のところ2人はトーメントで捕まったあとジェシカの拷問を受けたりしているのだが、皆に周知されているのは、許されざる禁断の愛ゆえに駆け落ち……というなんともあっさりとしたものなのであった。



「なんにしても、早く行かないと!マイフレンズのヒカリ様や水鳥ちゃんたちが危ない!」

「そう焦ることもないぞ。青いの。リリス……様には、優秀な護衛が付いている。ここにいる誰よりも、な。」

「え?だってさっき円卓の騎士は市街地に全員って言ってたなりよ。あと私は!!青いのじゃなくて、コルティナなりー!!」

グータラ三姉妹のことを特徴でしか覚えていないサイラスは、わざわざ名前を覚える必要を感じなかった。

「あたしはハサミで、ノーチェはクソバカアホ面女だったっけね。」

「ちょ、なんでノーチェだけただの悪口になってるなりかwww」

「そんなことよりコルティナ!誰がリリス様の護衛についてるか知りたいでしょ?」

話しかけてきたクソバカアホ面女にうんうんと頷くコルティナ。
果たしてその正体は……


914 : 名無しさん :2018/04/04(水) 16:09:33 ???
「クククク……!本当に、この日をどんなに待ち望んだか。魔法少女ルミナス……わらわを封印した貴様を、こうして本当の我が手で嬲り、犯し、殺せる日をな……!」

「あ゛っ……!ぐ……ぎぁ……!」

ルミナス城屋上にて、ヒカリは仰向けに倒れた状態でノワールの魔法に拘束されている。
ドレスの下からすらりと伸びる細くて艶やかな生足に、ゆっくりとノワールの手が触れるとヒカリの体はビクン!と反応した。

「んひゃああっ!?」

「ドロールプレジャーの余波で、まだまだ感度は高いようじゃな。ルミナスよ。クックック……!」

(くそっ……!ノワールの手が触れると、体が勝手に反応しちゃうのはなんなんだよッ……!)



何度も迫り来る快楽に耐えながら、ヒカリはなんとか拘束から脱出しようと身をよじる。
頭、体、足の神経に動けと命令をするも、動いたのは足が数センチずらされただけだった。

(だめだ……!う、動けない……!)

「なんじゃ?わらわの前で股を開きおって。……そうかそうかなるほど、これが欲しくなったのか?ククク……」

股を開くように足を開いたヒカリの姿を見て、ノワールは再び手に魔力を集め、ドロールプレジャーの用意に入った。

「はぁ!?い、いや、違……!」
「そんなに欲しいならくれてやろう……ほれ、今度はゆっくりとな……!」
「や、やめてええっ!ちょ、やだ、いやあああ゛あ゛あ゛あ゛!!……ッふがあ゛っ!!……あ゛ん!やあああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!!!」



五本の指先一つ一つに快楽の魔力を込め、ヒカリの股間へと当てがうノワール。すぐにヒカリの体はビクンビクンと反応し、雌としての快楽を存分に味わいたいが如く淫らな声を上げた。

「がっ、ああああ゛ッ!!ふぅっ!ふうううんんんん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ッ!!」

「ククク……ヒカリ、貴様の声は好きじゃぞ。そうやってなんとか嬌声を出すのを我慢しようと、口を精一杯閉じて出すくぐもった声もな……!」

「ぐぅ……なんでもお見通しってかよ……!んやっ!?ああああああんっ!!!」

ヒカリの反応に満足すると、ノワールはさらにヒカリの下着の中へと手を入れる。
ヒカリの体は知り尽くしていると言わんばかりに、クリトリスと小陰唇を巧みに弄り回すノワール。
その全ての指の動きが秘部からはっきり伝わるほど、ヒカリの体は快楽を貪りそれを脳へと伝えていた。

「いあ゛っ……!だ、だめえぇえっ……!」

(ホント……まじでだめっ……!なんでこんな……!やっぱり私、トーメントにいた方がよかったんじゃ……)

「ククク……このままルミナスが破滅するまでのひと時を、貴様とわらわで蜜月の時としようではないか。」

(や、やばい……!このままファーストキスを速攻で奪われて、その流れで女としての貞操が全部奪われるっ!!!ホント……誰かっ……!)

水鳥とカリンはトキワ姉弟の結界に閉じ込められ、帰って来る気配がない。
リムリットもウィチルも動けない今、ノワールと戦えるのは自分しかいないというのに。
完全復活したノワールに手も足も出ず屈服させられたヒカリは、このまま全てを失う恐怖に涙が溢れそうになった。

「さぁ、寺瀬ヒカリ……貴様の体も心もすべて、このノワールが貪り尽くして昇天させてやろうぞ……!んんっ……!」

「ひっ……い……いやあああああああああああああぁーーーーー!!!!」

ルミナス全土に響き渡るようなヒカリの悲鳴が響いた瞬間、ノワールの顔が動けないヒカリの口へと迫る。
哀れルミナスの最強魔法少女、このまま貴重な初体験をガチレズに奪われてしまうのかと思われたその時!

「フォトンバレット!」

「なにっ……!ぐあう゛っ!!」

屋上へと続く道から光弾が発射され、ノワールの体を弾き飛ばした!



「ぬううっ……何者じゃ!」

「それ以上の蛮行は許しません!同盟国ルミナスを守るため、シーヴァリアが女王、リリス・ジークリット・フォン・シーヴァリア!ここに推参!」

「そして!シーヴァリア聖光騎士、元太陽卿アスカ・セイクリッドと!」

「シーヴァリア光の聖女、カナタ・セイクリッド!ここに参上!可愛い魔法少女たちを虐めるのもそこまでよ!マスティマ・レイヴン!!」


915 : 名無しさん :2018/04/06(金) 00:53:51 ???
一方その頃、ノワールの結界に取り込まれた面々は……

「どうなってるの!?フウコは一体!?」
「フウコちゃんのあの姿……あれじゃまるで、黒衣の魔女……」

「姉さんは永遠に僕のものになったんだ……死を禁じて魂を封じる魂縛の刻印と、思いのまま使役する隷属の刻印でね」

いきなり結界に囚われて状況の理解が追いついていない水鳥とカリン。フウヤはそんな二人に対して、悠々と自らの所業を説明する。

「……!それって、ライラの時と同じ……!そんな、フウコちゃん……!」
「な……!?フウヤ、お前……!どういうつもりだ!」

「水鳥ちゃん、カリンちゃん、フウヤを憎まないで……これが、フウヤにとっての幸せなの」

当然のことながら怒りを爆発させる水鳥とカリンだが、そんな二人を諫めたのは、他でもないフウコであった。

「フウコ……!く、どうして……!なんでこんなことをしたんだよ、フウヤ!」

それでも、激情を抑えきれないカリンは、フウヤを詰る。

「どうして、か……こういうことだよ、カリンさん」

そう言うと、フウヤは優しくフウコの腰に右手を回して抱き寄せ、左手で彼女の顎を持ち上げると……そっと、口付けをした。

「……は?」「え?」

「姉さん……今の姉さんの冷たい唇……最高だよ」
「フウヤ……んっ……もう、カリンちゃんに人工呼吸したのはノーカンにしたら、ファーストキスなんだからね……」
「姉さんは昔から割とノリノリで女の子とジュース回し飲みで間接キスとかしてたよね……ノワールさんみたいなガチレズを見た後だと、百合っ気とも呼べないようなレベルだけど」

水鳥とカリンは理解できなかった。なぜ、姉弟である二人が、あんな風に情熱的な接吻をしているのか。

「なに、して……」

「自分でも拗らせてるとは思うよ……リョナラーにシスコンに死姦……毒魔法とか関係なく、こうなる運命だったのかもしれない」

「フウヤの本当の気持ちに、やっと気づけたから……私は……うっ!」

呆気に取られる水鳥カリンに語りかけていた姉弟だが、フウコは突然、胸を押さえて苦しみ出す。

「姉さん、大丈夫かい?やっぱり刻印の苦痛は凄いのかな?」

だがそんな姉を見ても、フウヤは動じていない。むしろ、死体になるはずだった姉の魂を無理矢理封じ込めて永遠の苦痛を与えていることに、本当に幸せを感じているようだ。

「フウヤァアアアア!お前ぇえええ!」

歪んだ愛情のまま、フウコを玩具にしているフウヤを見て、カリンの中で何かが弾けた。
ダメージが残る身体に鞭打って、一気にフウヤの元へと駆ける!

「……相変わらず迂闊ですね……いくよ姉さん!」
「ええ、フウヤ……ごめんね、カリンちゃん」

「「ダブルアンチバグ・ソロー!」」

「なっ……んあぁああああああ!?」


916 : 名無しさん :2018/04/07(土) 13:54:38 ???
「カリンさん、その腕……応急措置はしてるみたいですけど、随分酷いですね」

「カリンちゃん、可哀相……魔石師になるんだって、頑張ってたのに」

「つぅうう!?」

体内を虫が走り回っているような不快感……怒りのままに走っていたカリンは、その場に倒れこんでしまう。

「か、カリンちゃん!」

「水鳥さん、カリンさん……今のボロボロの貴女たちに勝ち目はない」
「大丈夫だよ、二人とも……この結界の中なら、死んじゃうことはないから」

トキワ姉弟は寄り添って、互いの手を絡め合わせる。その瞬間、倒れこんでいるカリンの周りを突風が巡る。

「ジェイドストーム!」「ストリームスラッグ!」

フウコの竜巻でカリンの身体は空中に持ち上げられ、そこをすかさずフウヤが風の散弾を放つ。

「っきゃああああ!?あぐぅ!?が、ごはぁ!?げ、がぁ……!」

風の散弾が竜巻を受けて更に分散された状態で竜巻の中を巡る。その結果、竜巻の中はさながらミキサーのようになった。
小さな散弾が毒に侵されたカリンの全身を強く打ち続け、彼女は濁った悲鳴を上げ続ける。

「フウヤ君……!もう、許さない!カリンちゃんを離して!」

水の翼を発現させ、フウヤの元へ飛んでいく水鳥。だがそれに合わせてフウコも風魔法で空へ飛び、水鳥の前に立ちふさがる。

「フウコ、ちゃん……!ごめん!」

白く変色した肌、深い暗緑色の瞳……変わり果てた友の姿を目の前にして、一瞬水鳥は迷うが、魔弓エンジェルズ・ティアーをフウコへ向ける。

「スプラッシュアロー!」

水の矢を放ち、フウコを退けようとする水鳥だが……フウコは避けようともせずに水鳥へ肉薄し、スプラッシュアローをまともに喰らいながらも水鳥の身体を掴み、拘束する。

「え!?なんで……!」

フウコの身体は既に死体だ。多少の無茶は効く。
何より、毒と刻印でその身に永遠の苦痛を受けている今のフウコにとっては、友を前に無意識のうちに手加減した水鳥の攻撃など、まともに喰らっても大したことはない。

「ごめんね水鳥ちゃん……でも、フウヤの為だから……」

「フウ、コちゃん……!だめ、目を覚まして……!」

「姉さん、ご苦労様……せっかくだから、水鳥さんにはこれを喰らって欲しかったんだ……ペイン・シック・フロスト!」

拘束された水鳥に近づいたフウヤは、右手に怪しげな光を発生させると……水鳥のお腹に、その手をそっと置いた。怪しげな光が、水鳥の身体の中に入っていく。

「な、に……!?が、ぁああああああ゛あ゛あ゛あ゛!!?」

怪しげな光を水鳥の体内に入れたフウヤは、そのまま水鳥の小さなお腹に拳をめり込ませた。

水鳥の身体に凄まじい激痛が走り……腹部に、何か強烈な違和感を覚えた。

「クックック……やっぱり姉妹ですね……悲鳴までよく似ていますよ」

「が、はっ……!?おねえ、ちゃん……!?」

「ただの腹パンですが、アバラが何本か折れたでしょう?異世界の有名な病気を再現する魔法ですよ」

「フウ、ヤ……くん……まさ、か……!お姉ちゃんに、も……!が、ぁああ、ぐううぁああああああ!!?」


917 : 名無しさん :2018/04/07(土) 15:12:34 ???
ところ変わって、ムーンライト王城付近にて。

「せ、セレスぅ……私、もう、イっちゃ……♡♥♥♥♥」
「ご、ごめん、ルキアぁ……わ、たしもぉ……んっ…ふあぁぁっ…♡♡♥♥♥!!」
「んっ…二人とも……耐え、るのよっ……私たちが倒れたらっ…街の人たちが…ん、ぅ…!!」
「うふふ♥…このサキュバスのキュミス様の絶技の前には、ご自慢の防護結界も役に立たないようね♥」
「は、ひ……やっ…やめな、さっ……ひっ……あっ…♡♡♡♡♥」
「うふふふ…抵抗しても無駄よ♥…貴女達の身体を魔改造して、私たちの『仲間』にしてあげる…♥」

瞳は紅、頭には角、背中からコウモリ羽を生やした淫魔サキュバス…魔物兵と化したガチレズ系お姉さんが、結界使いの魔法少女三人組(いわゆるセロル)を激しく淫らに責め立てていた。
「「いっ…やああああああ!!!♥♥♥♥♥」」
怪しげな邪術で体の感度を高められ、セレスとルキアは悲鳴じみた嬌声を上げながら絶頂に達する。
残ったロゼも全身の性感帯を一斉に責め立てられ…既にその理性は、風前の灯火であった。

「くすくす。これで残るは貴女だけ……いいかげん観念なさい。
アナタたち正義の魔法少女が悪を倒すために生まれた存在ならば、私たち淫魔は正義を堕とすために生みだされた存在…どう足掻いても勝ち目は無いわ」
「だ、黙りなさいっ……私たち魔法少女は……貴方なんかに、決してまけませ…んっ、く!!…♡♡♥♥♥」

「ふふふ…まだ自分の立場がわかってないようね。それなら……セレスちゃん、ルキアちゃん。この往生際の悪いお友達を徹底的に可愛がって、『私たちの』仲間にしてやりなさい♥」
「はい、お任せくださいキュミスお姉様♥♥」「マジメでお堅いロゼちゃんのえっちな本性、ぜぇんぶ曝け出しちゃいます♥♥」
「なっ……なん、ですって……♡♡♥♥♥」
サキュバスの淫術に堕とされたセレスとルキア。理性を支配された二人の瞳にはハートマークが禍々しく浮かび上がり、仲間だったはずのロゼに容赦なく襲い掛かった!

「ひゃぅ…こ、こんなのぉっ……や、やめて二人とも、め、目を覚まし、…ひっ……♡♥♥♥♥」
「んん、やわらかぁい…♥…ロゼってば、しばらく見ない間にまた少しおっきくなってない?」
「あ。今日のロゼのパンツ、かわいい♥…アソコと同じで、きれーなピンク色だね♥」
乳房を吸われ、唇を奪われ、二人掛かりで性感帯を責め立てるセレスとルキア。ロゼの身体は絶頂にビクンビクンと震え、理性の最後の一片までもが蕩け堕とされようとしていた。

……だが、その時。
(ドスッ!!ズドッ!!グサッ!!)
「ぎゃうっ!?痛ったぁぁい!!…何者なのっ!?」
「まったく、この程度の雑魚に後れを取るとは……これだから女ってやつは」

…長距離狙撃用の大型ボウガンを肩に担いだ、黒い長髪に黒鎧の男が現れた。
彼の名は鷹眼卿サイラス。シーヴァリア円卓の騎士の一人であり、傭兵時代は遠当てのサイラスと呼ばれ恐れられた凄腕の狙撃手である。

「はあっ……はあっ…………あ……あの紋章は……シーヴァリアの、聖騎士…?」
「あらイケメン♥ちょうどよかったわぁ。お姉さん、ノーマルもフツーにイケちゃうのよ……ん、んっ…♥…」
サキュバスは背中、肩、太股に突き刺さっていた矢を魔法で引き抜くと……見る見るうちに傷口が塞がっていった。

「…ちょ〜っぴり痛かったけどぉ…これくらいなんともないわ♥ さぁボウヤ、搾り取ってあげるッ!!♥」
翼を大きく広げ、サキュバスがサイラスに飛び掛かる!
だが、サイラスが無言で手元のスイッチを操作すると…

(ズドン!!ボゴッ!!ドゴッ!!)
「…な、っぐあああっ!!」
矢が刺さっていた個所から爆炎が上がり、サキュバスの翼、左腕、右脚が一瞬にして吹っ飛んだ。
「新型魔導炸裂矢だ。…人体破壊に特化しているが、貴様のような低級淫魔にも効果はあるようだな」
「いっ…だあ"あ"あ"あ"あ"!!な、なに、ごれ、いやああああぁぁぁぁ!!」

「…だが、その再生能力は厄介だな。先に頭と心臓を…」
(ドスッ!ザクッ!!………)
「…潰しておくか」
「やっ……や、だ、待って、やめてお願い、な、何でも…するからっ………」
サイラスは、サキュバスの悲痛な命乞いにも眉一つ動かす事なく……ただ淡々と炸裂矢を撃ち、スイッチを押した。


918 : 名無しさん :2018/04/07(土) 15:53:54 ???
(ズドドドドッ!!!)
「っぎあああああああ"あ"あ"あ"あ"!!」
「……ふん、他愛ない。残るは二体…いや、三体か」
「ひっ!?」「た、たべないで…じゃなくて」「殺さないで下さーい!」

「こらこらやめるなり!!あの三人は人間なりよ!?」
「ふん。淫魔に堕とされて間もなかったから助かったようだな……つまらん」
サキュバスを惨たらしく爆殺した鷹眼卿サイラスは、ドン引きするセロルに目もくれず立ち去り……行く手をふさぐ魔物達を、次々と狙撃していった。

「グオオオッ!?なッ…なんなんだ、この騎士共はッ!!殴っても殴っても、後ろのヒーラーどもが回復していきやがる…!!」
「エリー!危ないっ!」
「きゃあっ!!あ、ありがとうラルフ君…!…あ、腕、怪我してる!」
「どうってことねえ…こんなの、かすり傷だよ。それより、危ねえから下がってな」
「駄目だよ!毒があるかもしれないし…今治してあげるね!ヒール!!」

「きゃあっ!?…よっくもやったわね!でええい!!」
「まってミーアちゃん、あんまり前に出過ぎたら危ないよぉ…!」
「うっさいわね、アランのくせに!いいから黙ってヒールしなさい!」
「もう、しょうがないなぁ…ちょっとは女らしくすればいいのに…ブツブツ」
「だ、だってアンタよわっちいし、アタシが守ってあげないと…ブツブツ」

「やっ…やめろぉぉぉ!!な、なんか眩しいっ!」
「か、身体が溶けていく…ええい、シーヴァリアの騎士達はリア充(バケモノ)かっ!!」

……新生シーヴァリア王国の聖騎士とヒーラーたちの参戦により、戦況は一気に覆った。
トーメントの魔物兵達は次々と駆逐され、市街地から押し戻されていく!

「うう、やめろ…そのリア充オーラは、私たち名無しの雑魚コンビにも効く」
「コルティナのやつ、せっかくシーヴァリアに出向いてるんだからカッコイイ系の黒騎士さんとか紹介してくれてもいいのにね…さっきの弓使いの人とか、けっこうイイ感じじゃなかった?」
「あ。その人ならちょうどあそこに……あ。アレ……?」

中でもとりわけ目覚ましい戦果を挙げているのは、シーヴァリアでも最強と言われる、円卓の騎士達……

「あー糞ウザい…魔物兵もウザいけど味方の騎士共も殺したいほどウザい…いっそ誤射のふりして2~30人ブチ殺してやろうか…ブツブツブツ」
「うわ、サイラスのやつ、荒れてんなー…」
「前々からウザいロンゲだとは思ってたけど、あそこまで気持ち悪いサイコ系じゃなかったはずなのに…一体何があったなり?」

……サイラスの精神状態がちょっとアカン感じのやつになってしまったのは…以前シーヴァリアで起きた騒動が原因であった。

ふざけた感じの赤髪の仮面男に他の黒騎士と4対1で挑んだのにあっさりと破れ、
幼馴染の白騎士シェリーがなぜかガチレズに目覚め、部下のエールに(腕をちょっと爆発炎上させただけなのに)ゴミを見るような目で蔑まれ……サイラスの精神はボロボロになってしまったのだ!

「いやいやいや。屈殺卿(仮名)の件は自業自得だし。ていうか何?あんな糞みたいな態度とってたくせに、シェリっちの事まんざらでもなかったわけ?男のツンデレとか最悪だな」
「その上で屈殺卿(仮名)もキープしてたとか…んで、いざ両方にフラれたら未練タラタラとか……うっわ。かっこわる」
「挙句の果てに、セロルを助けた直後フラグバッキバキに叩き折るし…空気読めないにも限度ってもんがあるなり」

「き、貴様ら……全部聞こえてるぞ。ていうか地の文も勝手なこと言うな!!」
「ちょっと話しかけないでくれますかウザロンゲさん」
「残念イケメンさんは半径20メートル以内に近付かないで下さい」
「名無しの雑魚コンビ、ここは私らに任せて早く逃げた方がいいナリよ」
「じゃ、じゃあそうさせてもらうわ……サイコパスこええ」
「爆殺ガチ勢とかほんと勘弁だわ…」
「え!?何なのお前らその手のひら返し!?」

…鷹眼卿サイラス。シーヴァリア円卓の騎士の一人であり、傭兵時代は遠当てのサイラスと呼ばれ恐れられた凄腕の狙撃手……
この日から、残念サイコパス 略して残パス卿と呼ばれことになったとか、ならなかったとか。


919 : 名無しさん :2018/04/07(土) 23:54:57 dauGKRa6
「んんぅ……だれ……?」

「シーヴァリアの騎士じゃと……?ふん、ルミナスも堕ちたものじゃな。騎士道精神などという腐りきった文化をいまだに信じきっているゴミ共に守ってもらおうとは。」

駆けつけたリリスたちに驚いた様子もなく言葉をかけるノワール。
彼女はそのままやれやれといった様子で、リリスたちの方にゆっくりと向き直った。
だが、ヒカリの拘束は外れないままである。



(これがノワール……!魔法があまり使えない私でも、とてつもない魔力を見に纏っていることがわかる……!)

目の前の魔女の迫力に気圧され、冷や汗を垂らすリリス。もちろん、彼女だけで勝てる相手ではない。

「リリス様、ここは私たちに任せてください。……カナタ、やるぞ。」

「了解!」

女王であるリリスを守るように前に出た2人がゆっくりと手を合わせると、それに呼応するかのように大きな光の魔力が溢れ出した!

「太陽神プライゼオンの聖光と」
「月神メルの聖影を」
「光と闇の刃となして」「女神ネルトリウスの名の下に」
「あらゆる魔性を打ち払わん……!」

「むう……その詠唱は……!」

ノワールも知っている、アスカが聖光騎士たる所以の奥義。
2人の息のあった詠唱が終わり、アスカの手元に現れたのは黄金に光り輝く剣……
かつて封印されし邪神を倒したとされる、「セイクリッドキャリバー」であった。

「ククククク……!それが邪神アドラメレクを倒したという聖剣か。なかなか面白い……!」

「シーヴァリアに轟く聖光騎士の名にかけて……この剣で貴様を屠る!せやあぁっ!!」



(うぅ……!なんか光と闇が渦巻くキングダム○ーツみたいなバトルが始まっちゃったよ。はぁ……3の発売まだかなぁ……)

拘束されたヒカリの目の前で展開される、セイクリッド夫妻とノワールの激闘。その戦闘は苛烈を極めていることが、音だけでも理解できる。
ノワールの闇魔法、アスカの剣、カナタの魔法。その全てが上級魔法の応酬であり、どちらかの魔力が切れた時点で勝負が決まる展開だった。

「大いなる神よ!!彼の者に地水火風、森羅万象の祝福を!ゴッドライザ!」

カナタの唱えた補助魔法……ゴッドライザは、攻撃や防御など全てのステータスが大きく上昇するのに加え、状態異常無効、リジェネ付与、力尽きても蘇る能力のリヴァイブ付与と、能力バフをこれでもかと詰め込んだ強力な魔法である。

「アスカ君!これで全部まるっと決めちゃって!!」

「任せてくれ!このまま……最大奥義で決めてやるッ!!光龍!残光剣ッ!!!」

アスカの剣技である光龍残光剣……大きな光の龍を身に纏い、圧倒的な攻撃範囲となった状態で、まさに龍が如く敵に突撃する最終奥義である。

「ククククク……いいだろう。決められる者ならやってみろ。わらわの魔法にどこまで通じるのか、試してみるがいい!!!ダークストーン・デビルスタチュー!!!」

対するノワールが突如空間に呼び出したのは、純粋な闇魔法によって作られた恐ろしい顔を持つ大きな石像。
生半可な攻撃は通さないどころか、像は意思を持っており、攻撃者を喰らい尽くすこともあるという恐ろしい巨像である。

こうして光と闇、それぞれが持つ最大火力と最大防御が、ルミナスの頂上でぶつかり合った!


920 : 名無しさん :2018/04/08(日) 12:29:55 ???
「やれやれ、まさかシーヴァリアが乱入してくるとはね……ブルート・エーゲルがいないのが不幸中の幸いかな」

「スネグアさーん、どうすんのさ、魔物兵たちバッサバッサとやられてまっせ」

「まったく、サンプル収集の途中だっていうのに」

ムーンライト郊外で、捕まえた一般人や魔法少女を竜車に詰めていたスネグア、ジェシカ、ミシェルの3人。どうせ魔法少女たちは大した抵抗もできないだろうと、ルミナスの攻略は血気盛んな魔物兵に任せていたのだが……シーヴァリア乱入によって、魔物兵たちは次々と敗走していた。

「ねーねー、ていうか禁呪はどうなってんのー?全然発動しないじゃん」

「何かトラブルがあったのかもしれないね……それこそシーヴァリアの邪魔が入ったのかもしれない」

「禁呪なんてあんまり見る機会ないから、見ておきたかったんだけど……まったく、しょうがないわね」

「仕方ない……敗走してきた魔物兵をまとめ上げておこう。逃げるにしても、再び攻めるにしても、統一された動きは必要さ」

「あ、そういう真面目な仕事はあっしら手伝えませんわ」「そういうのはフォーマルハウトの仕事よね」

「……こういう時ばかり十輝星扱いしてくるね……」

とにかく、聖騎士に蹴散らされて散り散りになった兵士を集め、様子を見るべきだろう。もし禁呪が発動して形成が逆転すれば魔物兵で今度こそルミナスを殲滅し、そうでなければ追撃を避けながら撤退しなければならない。

スネグアは、この戦争を左右する存在である魔法陣を見上げた。


★★★


「ぅ、ぐ、うぅうう……!負け、られない……!私が……!みんなを……!守るん……だ……!」

「頑張りますねぇ、それだけボロボロの状態……で!」

「がはっ!?」

倒れ込んだ状態で、何とか立ち上がろうともがいている水鳥の腹部を強く蹴り上げるフウヤ。ペイン・シック・フロストで弱まった身体に、その衝撃は余りにも強く……ボキリ、という嫌な音が、水鳥の腹部から響いた。

「……ぅ……ぁ……が……」

一方、カリンは散弾の竜巻からようやく解放されていた。全身を何度も何度も風の散弾で打たれ、応急措置した右腕の傷も開いていた。

「カリンちゃん……カリンちゃんは親友だけど、家族とは……フウヤとは比べられない」

フウコはそう言って、カリンの短髪を乱暴に掴んで、身体を持ち上げる。

「だから、ごめんね……?私の新しい……フウヤがくれた新しい力の、実験台になって……ポイズンクラウド!」

黒の魔法少女と化したフウコは、体内に宿るフウヤの毒の影響で毒魔法が使えるようになっていた。
身動きの取れないカリンに対し、超至近距離から毒ガスを放つ。

「ぅ……ぃや……フウ、コ……が、ああ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あぁっ!!?」

毒ガスを喰らい、ビクンビクンと身体を跳ねさせるカリン。
何とか毒から逃れようと身体をくねらせるが、しっかりとカリンの髪を掴んでいるフウコからは逃れられない。

「が、ぁああ!?フウコ、やべてぇええええ!?いやぁああああ!!!」

「……カリンちゃん、可愛い……フウヤの気持ち、ちょっと分かるな……」

「がぁ、っ!あぁ!ぎっ!!!……ぁ……」

その後も延々と毒ガスを喰らったカリンは、やがてピクピクと痙攣を繰り返すだけになった。、

「絶好調だね、姉さん……このまま2人で水鳥さんとカリンさんをリョナり続けたい所だけど、どうやら向こうでトラブルらしい」

「フウヤ……分かったわ」

フウヤは水鳥を、フウコはカリンを乱雑に放り投げる。最早戦う力の残っていない2人は、受け身を取ることもできずに地面に叩きつけられた。

「行こうか姉さん……どれだけ外野が増えようと、禁呪さえ発動してしまえば僕らの勝利さ」

「ええ、そうすれば、この国は今度こそ滅ぶ……フウヤの望み通りに」

邪術の結界が、少しずつ崩れていく。と同時に。外の激闘の音が、ゆっくりと聞こえてきた。


921 : 名無しさん :2018/04/08(日) 14:53:17 ???
「リッテ……心配かけて御免なさい。私はもう大丈夫…」
「シュリヤ姉様……よかった。姉様が無事で………ううっ…」

シュリヤを支配していたダークアウィナイトの魔石は、その主であるアウィナイトの魔法少女エリーゼの魂が憎悪から解放された事で、
今は澄み切った海のような美しい青色へと変わっていた。
そこに至るまでには、精神世界でのシュリヤとの激闘とかエリーゼの壮絶な過去編とか色々あったりしたのだが、残念ながらばっさりカットされたようだ。

(ふふふ……わたしの負けね…
当時の王下十輝星に囚われて人質にされ、親友だったカナンが5人掛かりでレイプされ、その5人を道連れに自爆する様を見せつけられ、
トーメントの連中だけでなくこの世界全てに絶望し、その憎しみを逆に悪用されていた私に…あなたは再び希望を与えてくれた)

「にしても自分語りくどいわねこの人」
「姉さま…この青い魔石、すごく強い力を感じます……まるで、あの魔法少女の魂が宿っているみたい」
(ええ。この石は、私の目、私の魂……私を憎悪という呪縛から解放してくれた、貴女に持っていてほしいの。この石を通して、貴女を見守っているわ…
…歴史に語られることは少ないながらもあの伝説と言われた魔法少女カナン・サンセットと並び称されるほどの魔力を持ち、魔法王国ルミナスでも史上最強の氷術使いと呼ばれたこの私が!)

「え。それはちょっとやだって言うか…話もくどいし……それよりリッテ、現状を教えて」
「かくかくしかじか」
「なるほど、トーメント軍が襲撃してきたけど、シーヴァリアからの援軍が来た…となると残る問題は、禁呪の魔法陣ね。
今ならまだ、発動を止められるかもしれない……リッテ、力を貸して!」
「はい姉様!!」
(待って、ガン無視しないで!両目をえぐり取られながらもカナンの犠牲のおかげでルミナスに生還し、その後因縁の相手である拳聖ワルトゥと激戦を繰り広げ、あと一歩のところまで追い詰めながらも卑劣な策に(省略されました)

…というわけで、アウィナイトの魔石を手に入れたシュリヤとリッテ、そして城に残っていた魔法少女達は、城の中庭に立って合成禁呪に対抗するための術式を詠唱する。

「巨大で複雑な魔法陣……特に発動寸前まで魔力が充填されたものは、少しでもバランスを崩せば術式全体に影響が及ぶ。
今から発動するのは、炎、雷、氷、光、闇の五重合成魔法『ホーリー・ペンタグラム』……これを魔法陣が崩壊するまで、連続で打ち込む」

「……術者が5人、必要って事ですよね。…でも、そんな高等術を使える人なんて……」
シュリヤの説明にリッテは、そして他の魔法少女達も、一様に表情を曇らせた。
現在、城下に襲来した魔物兵に対処するため、余力のある魔法少女達はほとんどが街に出て対処に当たっている。
魔力が切れた者でさえも、負傷が軽い者は市街で避難誘導、時には武器を取り戦っている。
現在城に残っているのは、重傷を負って魔法の発動どころか動く事さえままならない者がほとんどだった。

「……話は聞かせてもらったわ」
「!……貴女も……目を覚ましていたのね」
そこに現れたのは……魔石の支配から解放された、褐色の魔石師カレラ・ガーネット。

「私なら、3人分はイける。…こんな事が償いになるとは思わないけど……お願い、私にもやらせて」
「馬鹿言わないで!そんな事したら、貴女の体にどれだけ負担がかかるか……」

「…大丈夫。命を捨てるつもりは無いわ。…生き延びて、あの子に謝って、……それまでは、絶対に死ねない」
炎、氷、雷の力を宿す三色の魔石が、カレラの決意に応えるかのように眩い輝きを放ち始めた…


922 : 名無しさん :2018/04/09(月) 01:55:15 ???
「でやあああああああ!!」
「はぁああああああ!!」

カナタの補助魔法を受けたアスカの最終奥義と、ノワールの最高の防御魔法がぶつかり合い、周囲に激しい衝撃波を発生させる。

「うお!?」

近くに倒れていたヒカリは、その衝撃波に煽られて吹き飛ばされ……リリスに抱き止められた。

「ヒカリさん、大丈夫ですか?カナタさんはアスカさんの補助で手が離せませんから、未熟ながら私が治療しますね」

「えぇ、と……」

「覚えていらっしゃいませんか?昔、同盟締結のパーティーでお会いしたリリスです!」

「そ、そうなの?ごめん、私、記憶が……」

旧交を温めることはできなかったが、回復魔法でボロボロのヒカリを治療するリリス。

そして、光と闇の激闘は……


「光になれぇええええええ!!!」

どこぞの勇者の王みたいなことを叫びながらセイクリッドキャリバーを振り抜いたアスカが、ノワールのダークストーン・デビルスタチューを破壊していた。


「ぬぅ……!?あぁああんん!!」

そのまま、光龍残光剣の余波を受け、艶めかしい悲鳴をあげながら吹き飛ばされるノワール。

「ぐぅ……ちょっと、現役復帰早々、頑張り過ぎちゃったかな……」

だが、アスカも決して万全ではない。元々怪我が原因で一線を退いていた身だ。
並の相手なら一瞬で葬り去る全力の一撃を放ち、体力の多くを使いきってしまったのだ。

「アスカ君大丈夫!?まさかあの一撃の威力をあれだけ減衰させるなんて……マスティマ・レイヴン、想定以上ね!」

「とは言え、かなりのダメージを受けたはずです……このまま彼女を倒せば、この魔法陣も消える……」

「いや、違うんだリリスさん……あの魔法陣を作ってるのはノワールじゃなくて……」

ヒカリが説明しようとした丁度その時……地面から闇の瘴気が吹き出し、その中からフウヤとフウコ……そして、ボロボロの水鳥とカリンが現れた。

「苦戦しているみたいですね、ノワールさん……それに魔物兵も聖騎士に圧されているようだ」

「小僧に小娘か……邪神アドラメレクを倒したという聖騎士、やはり一筋縄ではいかぬな」

「安心してください……このまま『ワールド・コラプション』を発動すれば、そちらの方がいくら強くても、僕らの勝利ですよ」

「ノワール……その間、フウヤと私を聖騎士から守って」

「ふん、わらわを顎で使うとは小癪な……じゃが、今は利用されてやろうぞ」

フウヤとフウコは手を繋いだまま魔法で空中に登り……繋いでいない方の手を天に掲げる。


「彼らは……!?」

「リリスさん……私のことはもういい、水鳥とカリンを頼む」

「ヒカリさん?」

「あの聖騎士とヒーラーがノワールの相手をしてる今は……フウコとフウヤを止める、チャンスなんだ」

「ヒカリさん、無茶です!私は魔法戦はサポートできません!たった一人では……!」

「感じるんだ……みんなが……魔法少女たちが、この国を守る為に、命を削って戦っているのを……
だから私も、バカみたいに頑張っちゃってるアイツらを守る為に、戦わなきゃ……それに、私は一人じゃない!」

ヒカリが気力を振り絞って立ち上がると同時に……天空の魔法陣に向かって、眩い光が伸びていった。


「ぐ、ぅぅ……!がぅ、あぁああああ!!」

「か、カレラさん!やっぱり無茶です!止めましょうよ!」

「リッテ!カレラは死ぬ気はないと言ったわ!今はその言葉を信じて、ホーリー・ペンタグラムに集中して!」


923 : 名無しさん :2018/04/11(水) 21:03:57 dauGKRa6
「……地上からの妨害魔法か。早く術式を完成させた方が良さそうだ。姉さん、協力してね。」

「もちろんよ……フウヤ。一緒にこの国を……滅ぼしましょう。」

空中で手を繋いだまま魔力を増幅させるトキワ姉弟。2人の魔力に呼応した魔法陣は、より一層禍々しい魔力を放出し始めた。
その魔力は城下町に闇魔法として出現し……

「キャアアア゛ア゛ア゛ああぁああ゛ああぁーーーッ!!!」
「い……いやあぁあぁーーーーー!!!」
「逃げてーーー!!!みんな逃げてぇーーー!!!」

……罪のないルミナスの民やシーヴァリアの騎士を、無慈悲に喰らい尽くしてゆくのである。

「くっ……!やめてよ……やめろよフウヤ!!いい加減にしないと……!」

「4代目……やっぱり僕は、あなたたちとは相容れそうにない。僕のことを姉さんが受け入れてくれた今、この国は跡形もなく破壊させてもらうよ。」

「な、何が受け入れてくれただよ……ノワールの魔法で操ってるだけのくせに!シャイニングセイバー!」

光の剣を顕現させ、その手に握りしめるヒカリ。これが祖国を守るための、彼女にとっての最後のチャンスになるだろう。
ヒカリは剣を握る手にぎゅっと力を込め、構えた。

「絶対に止めてやる……!魔法少女の国ルミナスは、このわたしが守ってみせるっ!」

「フフ……屈辱を味合わせてあげたくなる精悍で可愛らしい顔ですね。……まあでも、本当にこれで最後の戦いにしましょうか。」

フウヤがパチンと手を鳴らすと、空中に禍々しいフィールドが突然浮かび上がる。
なんの躊躇いもなくそこに立ったフウヤは、後ろのフウコにそっと手を貸して、姉をゆっくりと着地させた。
まるで、姫を守る騎士のように。

「空中戦でもいいんですが……貴方には敬意を払って場所を作りました。とはいえ、この戦争の最後に残るのは……無様に死に絶えた哀れなルミナスの国民たち。それは変わりませんがね。」

「…………っ!」

注意を払いつつ、フウヤの作ったフィールドに降り立つヒカリ。
その瞬間エプロンドレスが強風に煽られ、ヒカリは思わずスカートを押さえた。

「ククク……姉さんの格好もそうだったけど、つくづく戦うための格好とは思えませんね。」

「わ、わたしだって好きで着てるわけじゃ……!」

「……4代目とこうして話していると思い出しますよ。……ルミナスで誰にも受け入れてもらえなかった頃、屋上であなたと取り留めもない話をして……あの頃の僕には、それが救いになっていたんだ。」

「……残念ながらわたしはもう覚えてないけど……その頃のわたしも、こんな結果になるとは思ってなかっただろうね。……フウヤ。」

「……フフ、そうだね。ヒカリ。……結局僕は、女の子が痛ぶられるのに興奮するわ、人前で実の姉を死姦するわで……ヒカリが思ってたような男じゃなかったってことだよ。」

屋上で2人きりで話していた頃の口調で、やんわりと語りかけるフウヤ。
身も心も悪に染まった彼でも、過去の記憶をすべて変えることはできない。
女王としての重圧に悩んでいたヒカリが、自分と重なって見えたあの頃。
その記憶を思い出して、ふとフウヤは思った。

あの時、もっとヒカリと話をしていれば。
もっと彼女と……親密な関係になっていれば、あるいは……この悲劇的な状況は生まれなかったのかもしれない。
一瞬そんなことを考えたフウヤは、クスリと笑った。

(僕もつくづく優柔不断だな……何いまさら別の結末を考えてるんだか……すべて今更すぎる。もう僕は戻れない。僕は王下十輝星の1人……デネブなんだ。)


924 : 名無しさん :2018/04/12(木) 12:08:20 ???
「ヒカリ姉さまあああぁっ!!!」

ヒカリが剣を構えて走り出そうとした瞬間、背後から声が響く。
声の主は箒に乗っており、漆黒のワンピースに長い赤髪という、ヒカリもよく知る人物であった。

「わらわも共に戦うぞ!ヒカリお姉様!」

勇ましい声と共に箒を降りた少女──リムリットは、ヒカリの横で少しだけ苦しそうに魔道書を取り出す。

「なっ……リム!?どうしてここに!?」

「あ、当たり前じゃろ。わらわも5代目ルミナスじゃからな。……いくら怪我をしているとはいえ、ここで皆に守ってもらうだけでは、女王として失格じゃ。」

「いや、だって、お前の手は……!」

「心配するでない。魔道書を捲るくらい魔力を使えば楽勝じゃ。わらわにかかれば、手など使わなくても戦闘くらいはお茶の子じゃからな。」

そう言って、リムリットは服の中から大量の魔道書を取り出して宙に浮かべた。

「ふん、相手にとって不足はないじゃろう、フウヤよ。トーメントの操り人形なんぞに成り下がりおって……相応の覚悟はできているんじゃろうな?」

「ククク……面白い。こっちは姉と弟、そっちは姉妹で兄弟対決ですか。姉妹丼ならぬ姉妹リョナ……って言えばいいのかな。」

「んあっ?シマイドン?何を言っておるんじゃ?新しいポケ◯ンか?……なんとなくドラゴンタイプっぽい響きじゃぞ。」

「こ、こらぁーっ!私のかわいい妹に変なことを教えるなぁー!」

「ククク……お遊びはここまでにしようか。姉さん、この2人に引導を渡してあげよう。」

「……ええ、フウヤ。」



フースーヤとフウコは握っていた手を離し、それぞれ戦闘態勢に入る。
一触即発の状態だが、ヒカリはやはり先程の戦いの中で怪我をしていたリムリットのことが気がかりでならなかった。

「リム、お前……」

「姉様に皆まで言わなくてもわかっておる。……わらわは怪我を治療してもらってここまで来たんじゃ。」

「まったく……どうせセロルたちの言うことを聞かずに飛び出して来たんでしょ?」

「……ライカやコルティナ、ウィチルもこの国を守るために忠を尽くして戦った。……わらわにも、5代目ルミナスとして奴らを守ってやる義務がある。」

凛とした顔で語るリムリット。目の下には涙の跡が浮かんでいるが、その視線ははっきりと前を向いていた。

(……私の妹とはとても思えないな。やっぱルミナスのトップはこのままリムのままでよさそうだ。)

「わらわへの心配は無用じゃ。ヒカリ姉様の光の剣とわらわの魔法があれば、フウヤなどイチコロ、いや……サンコロくらいは楽勝じゃあっ!」

「もうそういうのはいいから、早く始めましょうよ。2人とも仲良く……吹き飛ばして叩きつけて踏ん縛って連続蹴りを浴びせて、裸にして投げ捨ててあげますから!!」

向かってくる二つの暴風に対し、ヒカリは剣を構え、リムリットは風魔法で魔道書を捲る。

最後の戦いの準備は整った。


925 : 名無しさん :2018/04/12(木) 18:20:12 ???
魔法少女たちが激闘を繰り広げている頃、アレイ草原ではトーメント王一行がテントの中で休息を取っていた。

「王様、スネグアからラインが来てましたよ。予定通りサキはオメガネットに向かったようです。」

「お、そうか。ついでに奴を十輝星のグループラインに入れてやってくれ。」

「王様、どうしてサキをナルビアに送るんだ?」

アイベルトが携帯ゲーム機でギャルゲーをやりながら口を挟んだ。

「ナルビアのジジイ供のことだ。俺様がトーメントにいないと見て、戦争を仕掛けて来ようとしてやがる節がある。先にその辺をじっくり調査してもらおうと思ってな。」

「なるほどなるほど……ん?スマヒョに通知が……わ、ロゼッタか。」

アイベルトはスマホを立ち上げ、十輝星のグループラインのトーク画面を開いた。



シアナ が スネグア@可愛い子猫ちゃん募集中 を招待しました。

やっほー!(=^・ω・^=)ロゼッタだよ!新しい十輝星のスネグアさんだよね?これからよろしくね。:.゚ヽ(´∀`。)ノ゚.:。 ゜

多分まだ十輝星になりたてで、どうしていいのかわからないこと多いと思うけど(余計なお世話っていうツッコミはナーシ٩(๑`^´๑)۶)
私たちってけっこー大雑把〜な感じの人たちの集まり∑(゚Д゚)だから、心配しなくても全然だいじょーぶだよっミ☆

不安なこととか、何か困ったことがあったら、いつでも相談してね╭( ・ㅂ・)و ̑̑ グッ !
カペラのロゼッタでした・:*+.\(( °ω° ))/.:+



「グループラインにスネグアさんが入った途端これだよ。すごいな……」

「あいつどんな顔して打ってんだよww毎度毎度すげえよな!」

「俺はシリウスのアトラ!好きなものは美味いものとゲームとリザ!よろしクノールカップスープ」と誤字りつつトークに返信しながら、アトラが会話に入ってきた。

「というか、スネグア?の名前も酷くね?なんだ可愛い子猫ちゃんって。俺様もちょうどマンチカンの可愛い子猫ちゃん欲しいから、パクってもいいもんかなこれ?」

「いや、アイベルトの言ってる子猫ちゃんとは違うと思うぞ。スネグアは女だが、お前ら以上のハードリョナラーだから気をつけろよ。」

「うへぇ、女でリョナラーかよ!エスカとは違ってヤバそうな奴だな!」


926 : 名無しさん :2018/04/12(木) 18:54:06 ???
「ところで我が十輝星たちよ。これからの旅の目的地はミツルギの都市ムラサメにしようと思うんだ。これを見てくれ。」

「へ?なんで?」

トーメント王が出したのは、ミツルギの首都ムラサメで行われる、異種闘技大会のポスターだった。

「優勝したら1000万ナーブルと、願いを叶える権利!すげー!」

「ミツルギってよくこういう大会やってますよね。なんでなんですか?」

「ミツルギは血の気の多い奴らが多く住んでる国だ。純粋な戦いを見世物にして金が稼げる国なんだよ。俺様はリョナのない野郎同士の戦いなんてまっぴら御免だがな。」

リョナラーだらけのトーメント国の地下闘技場は、闘士たちの戦いを見せる大会ではあるが、戦いに敗れ闘奴に落ちた戦士たちのリョナ鑑賞の方がメインである。
ミツルギ皇国では純粋に戦闘力の高いものが国の要職に就くことが多く、皇帝自身も圧倒的な力を持つ一族だという。
トーメントほど歪んではいないにしろ、力が物を言う実力主義の国家であるのだ。



「まあ俺様はめんどいから出ないが、なんでもありの大会なら面白いものが見れそうだろう?視察も兼ねてムラサメに行くぞ。」

「……あ、王様ごめん!サキ似の黒髪女の子とリザ似の金髪女の子で、どっちのルートにいくか迷ってて話聞いてなかったわ!」

「そんなの断然リザだろ!サキなんか猫かぶってただけの性悪で暴言も吐きまくる最低女じゃねーか!まあサキも笑うとかなり可愛いし、おっぱいも程よくあるし、ああ見えて意外と優しいところがあるのは認めてるけどな。」

「貶すのか褒めるのかどっちかにしろよ……」

ツッコミを入れつつ、シアナはスマホのトーク画面を見やる。



「アイナはアイナですわ!新人!一つ言っておきますわ!リザちゃんはアイナのものですから決して手は出さないように!それだけ守っていれば可愛がってやりますわ!」



(……会わなくなると、会いたくなるもんだな……)



アイナのラインアイコンである自撮りの盛りに盛ったプリクラアイコンを見て、シアナは物憂げに薄い青髪をかき上げた。


927 : 名無しさん :2018/04/13(金) 20:55:43 ???
「リム!援護は任せた!私は突っ込む!」

「うむ!今のわらわならば……フウヤとフウコの風を防ぐことなぞ、造作もない!」

仲間たちが傷つきながらも奮闘する姿を見て覚醒したのは、ヒカリだけではなかった。王に魔帽を奪われて以降戦闘力を失くしていたリムリットだが、彼女の中の魔力は今、かつてない程に滾っている。

「ストームバリアー!」

走っているヒカリの周りを風の防壁が包み、フウヤとフウコの暴風を受け止める。

「ぬぅ……!想定よりもフウヤの力が強い……!姉様!」

「分かってる……!はあああああああ!!」

リムリットの魔法が暴風を防いでいるうちに、一気に接近していくヒカリ。


「姉さんは下がってて……接近戦は僕の仕事さ」

フースーヤは一旦風の攻撃を止め、フウコを下がらせる。

そして自らの武器……魔導指揮棒、エアロ・メジャーを出現させた。フウコのトワリング・エアと同じく鈍器としても優秀なそれに、風をコーティングしてさらに強力にする。

「僕も男だからね……こういう剣戟みたいなの、憧れてたよ!」

「ほざけ!馬鹿野郎!」

光の剣で斬りかかってきたヒカリを、フウヤは風でコーティングした指揮棒で正面から受け止める。

「ぐぬぅ……!」

「……ヒカリ、貴女は美しい……もし姉さんがいなければ、僕はきっと……いや、意味のない仮定は止めておこう」

「この……!何を意味の分からないことを……!」

光の剣と魔道指揮棒を至近距離でぶつけ合わせたことで、両者の顔の距離も近くなっている。

フースーヤはヒカリの端整な顔を眺め、過去のことを思い出しながら……魔道指揮棒を振るう。

「ぐっ……!」

「僕は姉さんを愛している……姉さんも僕を愛している……今大切なのは、それだけさ」

「フウヤ……!愛っていうのは、そんな、歪んだものじゃない……!」

上段から振り下ろされた光の剣を受け止め、そのまま刃渡りを滑らすようにしてヒカリの胴体を狙うフースーヤ。
それに対しヒカリは、バックステップで避ける。

「歪んでいても、愛は愛さ……ヒカリ、君がエスカとして捕まえたレジスタンス……柳原舞とエミリア・スカーレットが今どうなっているか知っているかい?」

「なに……!?」

「柳原舞は教授の実験台にされ、使い捨てられて闘奴にされそうになった所を、手駒を欲しがってたサキさんが拾った……なんだかんだ結構大事にされたみたいで、彼女はサキさんに心から仕えているよ」

「サキちゃんが……?」

「エミリア・スカーレットの方は、一時期牢屋に入れられてたけど、リザさんが外に連れ出した……それで彼女もリザさんやアイナさんとの友情にほだされたみたいで、今は城の雑用とかを手伝ってるよ」

「リザちゃんに、アイナちゃん……」

「正義のレジスタンスとして戦っていた彼女らも、友情や忠義といったものの為に、今やトーメント王国に味方しているのさ……もちろん、彼女らは国に味方しているつもりはなく、サキさんやリザさん個人の味方のつもりだろうけどね」

「フウヤ……さっきから、何が言いたい……!」

「外からどう見えたとしても、本人が納得してるかが大事って言いたいのさ……自分を捕まえて酷い目に合わせたのがトーメント王国だとしても、そこから助けてくれたのもまたトーメント王国の人間で、以後その国に味方する……言葉だけ聞いたら、随分変な話だと思わないかい?」

「……エスカとして辛い目に遭わせた人間の話を出せば丸め込めるとでも思ったか……?彼女たちは彼女たちなりに納得しているんだろ……フウコを邪術で操ってるお前とは違う!」

一気に踏み込んで、鋭い一閃を放つヒカリ。フースーヤはエアロ・メジャーで応戦するが、徐々に後ろに追い込まれていく。

「私は、罪を背負う……!私の占いで傷つけた、沢山の人への贖罪として……!トーメントを……お前を倒す!」

光の剣が、その輝きを強くし……サイズが一回り大きくなった。

「はああああああ!!」

力強く光の剣を振りぬくヒカリ。フースーヤは辛うじて指揮棒で防御するが、踏ん張りきれずに魔法陣の淵まで後退ってしまう。

「ぐっ……!さすがだね、ヒカリ……クックック……」

「何がおかしい……!」

「エスカとしての出来事を話せば、君はヤケになってくれると思ったよ……今だよ姉さん!5代目を!」

「!?しまっ……!」

エスカ時代のことを引き合いに出され、視野が狭くなっていた。フウヤに光の剣で斬りかかることに集中する余り……後方のリムリットと、距離が開き過ぎていた。


928 : 名無しさん :2018/04/14(土) 01:49:42 ???
「しまったっ……リム!!」
フウヤとの戦いに気を取られ、ヒカリはリムリットと分断されてしまった。

「ふふふ……リムリット様、お覚悟を。トワリングエア・ポイズンエッジ!」
そのリムリットの背後から、フウコが奇襲を仕掛けた。
その手に握られているのは、巨大な毒風の刃を纏った魔法のバトン。
触れるだけで岩をも切り裂き、少しでも傷を受ければ猛毒により全身を蝕まれる恐るべき一撃だ。

「危ないっ!!」
助けに入ろうとするヒカリだが、その距離はあまりにも遠い。

「リム、伏せろっ!!」
「大丈夫……言った筈じゃ。今のわらわなら、これしきの風……って、え!?」
「きゃあああぁっ!?」

(すこーーーん!)
「…………!!」
だが、毒風の刃が振り下ろされる寸前。
魔法少女ルミナスの武器「サンライト・フェザー」…宝石と羽毛があしらわれたホウキのような形の魔法の杖が、フウコの顔面に直撃した。

「…大丈夫か!リム!」
「は、はい姉さま!……で、でも魔法のホウキを投げるなんて……ちょっと無茶苦茶すぎるんじゃ…」
「え?だってルミナスじゃ、ホウキは『飛び道具』だろ?」
「………〜〜〜!!」
顔を押さえてのたうち回るフウコ。鼻血が出ただけで大したダメージは無かったが…

「くっ……よくも姉さんをっ!!」
怒りを燃やしたフウヤが、ヒカリに襲い掛かった!

「姉さま危ない!!サンダーブラストッ!!」
(バリバリバリッ!!)
「っぐあああ!!」
すかさずリムリットの魔導書から雷光が放たれ、フウヤの身体を弾き飛ばした。

再度仕切り直した両陣営。ここまではヒカリとリムリットがやや有利、かに見えたが……

「リム、どうしたっ!?」
「だ……大丈夫、じゃ……それより、前を……」
…リムリットの両腕に巻かれた包帯からは、じわりじわりと血が染み出していた。

「…そんな体でノコノコ出てくるからですよ。僕の毒は風に乗り、どんな僅かな傷口からでも入り込む」
長期戦に持ち込んで、無味無臭の毒で敵を苦しめ、無力化する……ルミナスにいた頃からの、フウヤの必勝パターンである。

「まずいっ……さっさと決着を付けないと、リムリットの体が……!?」
箒にまたがり、光の剣を構えるヒカリ。……だがその時、ヒカリの背筋にぞくりと冷たい感覚が走った。

「ふふふ…他人の心配をしている場合ではありませんよ、ヒカリ様」
……いつの間にか、ヒカリの目の前にフウコの顔があった。箒に正面から腰かけ、対面座位の体勢からヒカリに抱きついている。
背中に走った寒気の正体は、フウコの冷たい手…
…いや、手だけではない。命を失い、体温を喪ったフウコの体は、抱きつかれたら凍えてしまいそうなほどに冷たかった。


929 : 名無しさん :2018/04/14(土) 11:07:24 ???
(そんな……気配が全くなかった…!……そ、そうか……フウコは、もう死んでいるから……)
「…ヒカリ様の体も、既に傷だらけ。魔法で浄化したとしても……傷口から入る毒を全て防ぎきる事は出来ない」
…フウコの言う通り、ヒカリの体にも毒が回り始めていた。身体が痺れて思うように動かず、抱きついて来るフウコを振り落とせない。

「ひ……ヒカリ姉さまっ!」
「やらせませんよ、女王…スモッグスラッグ!!」
助けに入ろうとしたリムリットにフウヤが立ちはだかり、毒の散弾を至近距離から放つ。
(ギュオォォォ……バシュシュシュシュ!!)
「くっ!!プロテクト……っぐ、あああぁぁぁっ!!」
「無駄です……プロテクトシールドは両手をかざしてシールドを張る術。今の貴女の両手では使えない」
直撃を受けたリムリットは大きく吹き飛ばされて地面を2〜3度バウンドし、地面に這いつくばった。

「リムーーーッ!!」


「ふふふ…ノワールにたくさん責められて、まだその余韻が残ってるんですね……『ここ』が弱いんでしたっけ?」
「あっ……ちょっとこら、……や、やめっっ……ひゃんっ…!!」
フウコは自然な手つきでヒカリのスカートの中に手を差し込み、ノワールに責められたのと同じ「弱点」をあっという間に探し当てた。
だが激しく責め立てて一気にイかせるのではなく、優しい手つきでじわじわと快楽を注ぎこみ、抵抗力を徐々に奪っていく。

ヒカリもフウコを引きはがそうと必死にもがくが、フウコは巧みに体勢を入れ替えてヒカリの抵抗を封じていく。
ホウキにまたがったヒカリの股間に二人分の体重が集中してしまい、思わず甘い声お漏らしてしまった。

「ひ、んっ……」
「うふふ……可愛い声。だけど、苦痛に悶える悲鳴も………」
そして、ヒカリの体が望まぬ絶頂へと押し上げられようとする、その寸前。

(ずぶり……ぐちゅ……じゅるっ…)
フウコは大きく口を開け、ヒカリの肩口に鋭い毒牙を突き立てた。

「…っぐ!?……ああああああぁぁぁぁぁああッッ!!」
「思った通り……とっても素敵。ふふふ」
大量の毒を直接注ぎ込まれ、ヒカリの体から力が抜けていく……

「ふふふ………さすが姉さん。…こっちも片付いたよ」
「ん、うっ……!……ふ、フウ……ヤっ……う、あっ!!」
一方。毒の魔法弾に全身を撃ち抜かれて倒れたリムリットの身体を、フウヤはグリグリと踏みにじる。
フウヤが毒の魔力が込められた魔導指揮棒エアロ・メジャーを振り上げると、露わになったリムリットの全身の肌の上に、黒い花のような毒斑点が次々と浮かび上がり…
その度に、リムリットは苦痛の声を漏らし続けた。

「手足、お腹、そして……背中も。どうやら僕の『ペイン・シック・フロスト』が全身にいきわたったみたいだね。
……それじゃ、さっきのお礼だ。全身の骨を踏み砕いてあげよう」
フウヤは隠しきれない愉悦を声に混じらせながら、右脚を思い切り振り上げる……

リムリットの魔導書は二人から離れた位置に落ちて、地面に伏せられていた……そして、フウヤは見落としていた。この状態から直接攻撃できる魔法の存在を。

「今、じゃっ………アースクエイク!!」
リムリットは地属性の攻撃魔法を発動。二人の周囲が激しく揺れる。
「なっ…!?……」
片足を上げていたフウヤは、体勢を崩し……
「んっ、ぐ……あっ!!」
地面にうつ伏せになっていたリムリットの小さな体は、隆起した地面によって放り上げられ……倒れたフウヤの上に覆いかぶさるように落下した。
骨が弱っていた所にこの衝撃を受ければ、当然無事に済むはずもない。だがこの体勢、この距離なら……両手が上がらなくても、気にせず攻撃魔法を放てる。
「こっちもさっきのお返しじゃ。せいぜい反省しろっ…サンダーブラスト!」
「ぐわああああああぁっ!!」

「フウヤっ…!?」
「リムっ…あいつ無茶しやがって…!……こっちもなりふり構ってられないか……」
一瞬、フウコの気が、フウヤ達に向けられた。
そしてその一瞬で、ヒカリも反撃に転じる。

「これ使うのは、死人扱いみたいで気が進まないけど……ごめんね、フウコ。……ディスペル・アンデッド!!」
「えっ……それは、……あああああぁぁぁっ!!!」
死者を在るべき場所へと帰す、反魂の魔法。邪術の刻印によって魂を縛られたフウコにどこまで効果があるかは未知数だったが……

聖と邪。相反する術がフウコの身体にもたらしたのは、解放の悦楽と…束縛の苦痛。
(弱めに術を掛けただけで、こんなに苦しむなんて……フウコ。お前はもう、元には戻れないのか……?)


930 : 名無しさん :2018/04/14(土) 16:40:34 w/A5UWBE
「ひ、カリ……様……私、たちを……止め……て……」

「フウコ、お前……!?」

「私は、もう……自分で自分の身体を、制御できないんです……だから、どうか……このまま……」

ディスペル・アンデッドによって僅かながら理性が戻ったフウコは、解放の快楽と束縛の苦痛に苦しみながらも、ヒカリに語りかける。

「フウコ……もう、元には戻れないのか?」

「トーメント王の力でも、ない限り……死者は、蘇りませんよ……いえ……ディスペル・アンデッドで、死体が砂になって天に召されたら……トーメント王の力でも、復活はできなさそう、ですね……」

「ぐ……!」

フウコは既に死人であり、反魂の魔法で安らかに眠らせるのが唯一の救い……理性ではそう理解していても、心がフウコにトドメを刺すことを躊躇わせる。

「姉さん……!?止めろヒカリィイイ!スパイラルサイクロン!」

「な!?この距離でその魔法は……!ぐううううう!?」

フウコの魂が解放される前に、フースーヤが動いた。竜巻を発生させる上級魔法によって、自分ごとリムリットを吹き飛ばす。

リムリットと揉みくちゃになりながら竜巻で飛んだ先には、ホウキに跨っているヒカリ。

「んな!?おわっと!」

フウコに術をかけていたせいで回避が遅れたヒカリは、リムリットとフースーヤの体重の乗った体当たりを受け、三人はさらに揉みくちゃになりながら転がっていく。

「ぅ……私、は……」

ディスペル・アンデッドが中断されたことによって、再び邪術の呪縛に囚われるフウコ。だがダメージは大きく、彼女はそのまま倒れ伏してしまう。

「いたたた……図らずも姉妹丼の有言実行……かな?」

ちなみに、ヒカリとリムリットの姉妹と揉みくちゃになったフースーヤは、ヒカリを下に、リムリットを上にの体勢になっていた。

「つぅ……!この距離でなら私の魔法で……!」

「おっと、止めておいた方がいい……これ以上可愛い妹に衝撃を与える気かい?」

「な!?」

ペイン・シック・フロストによって骨が脆くなった状態で無茶を続けたリムリットのダメージは計り知れない。その幼躯は悲鳴をあげていた。

「う、ぐうぅ……姉さま!わらわに構わず、わらわごとフウヤを!この体一つでルミナスを救えるならば……!」

「馬鹿!女王以前に八歳のお前がそんなこと言うな!」

「美しい自己犠牲と、それを認めない高潔な精神……そんなものに拘っているからルミナスはトーメントに勝てないんだ……エア・カットアウト!」

美少女姉妹に挟まれてちょっと興奮したのか、単にあまり強力な魔法だと自分も巻き込まれるからか……フースーヤは威力の低い魔法で、ヒカリとリムリットの衣装を切り裂きにかかった!


931 : 名無しさん :2018/04/17(火) 22:54:13 dauGKRa6
「グレイブバレット!」
勇ましい声とともに突如後方から放たれた銃弾。それがフースーヤの足元に着弾すると突然大地が隆起し、彼だけを姉妹丼の外へ弾き飛ばした!

「ぐあっ!なんだ!?」

「神龍拳ーーー!!!」
弾き飛ばされたフースーヤに向かって、後方から突如龍の衝撃波が迫る!

「ちっ……!ストームバリアー!」

素早く風のバリアを作り出すフースーヤ。だが彼女たちの連携はここからが本番だった。

「千斬流奥義……魔防斬!」

素早く現れた黒髪に赤メッシュ入りの少女が、大きなハサミでフースーヤの魔法を文字通り斬滅する!

「なんだって……!うわあっ!」

突然の窮地に困惑するフースーヤの顔に突然がんじがらめに巻きついたのは……やたら肌触りのいいマントだった。

「あっはっはー!かわいい女の子を裸にしようとするような変態には、ぐーたら三姉妹が成敗してやるなり!!」

「ぐっ……!ぐああああああぁっ!」

マントを被らされ視界を失ったフースーヤは、襲いかかる龍の衝撃波に巻き込まれて吹っ飛んだ!



「うまくいったなりな!残パス卿もよくやった!」

「そのあだ名はやめろ……殺すぞ。」

「ひいいぃっ!!ご、ごご、ごめんなさいぃ……!」

「コルティナ、ふざけてないでこのルミナスたちを保護してやりましょ。」

「お、お主らは……シーヴァリアの騎士か?リリス姫は無事なのか?」

「リリスちゃん……あ、リリス様はアスカさんたちと一緒で無事だったから、こっちの援護に来たの!円卓の騎士が4人も来たからには、安心していいよ!この怖いお兄さんがメイン盾になってくれるから!」

「タゲ取りは貴様だ。クソバカアホ面女。ハサミと青いのも前に出ろ。後ろから援護してやる。」

「きーっ!男のくせに女の子の後ろでシコシコ遠距離攻撃なんて!そんなんじゃ一生モテないぞ!」



突如現れた円卓の騎士たちの攻撃を食らうも、素早く体制を整えるフースーヤ。
その彼の元に、キセルを吹かすノワールがゆっくりと現れた。

「小僧、苦戦しているようじゃな。いくらお前でもこの数の騎士が相手では荷が重いか。」

「くっ……そういうノワールさんこそ、結構手傷を負っているじゃないですか。」

「わらわは復活したてで、まだ体が馴染んでいない故に仕方なかろう。……シーヴァリアの騎士の数も増えてきた。残念じゃがここは撤退するぞ。」

「……その方が良さそうですね。姉さんがやられてしまったことだけが残念ですが……あとは禁呪が発動さえすればルミナスは終わりですし。発動しなくても、それはそれでまた面白くなりそうかな。」

フースーヤの返事を聞いてから、ノワールはすぐに転移魔法陣を展開して自分とフースーヤに魔力を集めた。



「待ちなさいマスティマ・レイヴン!まだ勝負はついていないわよ!」

「そうじゃ!貴様ら、旗色が悪くなったからと行ってこのリムリットから逃げる気かっ!」

「黙れ塵供。これ以上ルミナスの戦争編をだらだら続ける必要はない。闘技大会というリョナイベントに向け、物語はここから新たな局面を迎えるのじゃ!」

「は?こいつ突然なにわけわかんないこと言ってるんだ?」

ヒカリが突っ込んでいる最中に、ノワールの姿は一瞬にして消えてしまった。



「心配しなくても、禁呪が発動したらこの国には死が溢れることになる。精々そうならないよう……頑張ってください。」

「……フウヤ……次に会った時は容赦しない。水鳥やカリンたちを傷つけ、フウコを殺したお前を……私は絶対に許さない。」

「……ヒカリ。君がそうやって憎しみに憤る顔は……さっき僕に戦いを挑んできた姉さんと同じくらい可愛いよ。次に会った時は……絶対に殺してあげるからね。」

フースーヤはそう言い残し、闇の魔力に溶けていった……


932 : 名無しさん :2018/04/18(水) 13:00:29 ???
撤退して行ったノワールとフースーヤ。

天空の魔法陣はしばらく残り、禁呪を発動させようとしていたが……地上からの妨害魔法を食らううちに、ゆっくりと消えていった。

それを見届けたスネグアはムーンライトを襲っていた魔物兵たちを率いて早々に撤退。

長く続いたルミナスでの戦争は、ルミナス側の一応の勝利で幕を下ろした。

だが……まだやるべきことは残っている。

「フウコ……」

「ヒカリさん……ありがとう、ございます……私のことを……止めて、くれて……」

フウコは未だ、邪術に苦しめられていた。救う方法はただ一つ……魂を天に届けることだ。

「けど、フウヤは止められなかった……あいつはこれからもトーメントの兵として、人々を苦しめる……かつての私と同じように」

「……憎まないで、とは言えません……けど、信じてください……彼にはまだ、心のどこかに、優しさが……」

「……私もそう信じたいけど……次戦う時、アイツを気遣う余裕がある自信はない」

「それでも、構いません……ほんの少しでも、フウヤが救われる可能性があると思えたまま、逝きたいんです……」

邪術と毒の激痛の中、今度こそ死を迎えようとしながらも……フウコは弟の身を案じる。


「フウコ!」「フウコちゃん!」

そこに、治療を受けた水鳥とカリンが駆け寄ってきた。

「カリンちゃん……水鳥ちゃん……さっきは、ごめんね……酷いことして……」

「そんなのどうでもいいよ!それよりフウコちゃんが……!」

「フウコ……死んじゃダメだ……!私が魔石師になるまで応援してくれるって約束はどうしたんだよ!それに唯さんや瑠奈さん、鏡花さんとまた会いたいって言ったじゃないか!」

「二人とも……ありがとう……でも私は……ホントはもう死んでるんだ……ゾンビなんだよ……」

「フウコちゃん……」

あの時、フウコを一人で残してフウヤと戦わせたこと……ああするしかなかったとは言え、水鳥は自分の判断を恨んだ。これから一生後悔し続けるだろう。

「嫌だ……!まだフウコと話してないことも、遊んでないことも、いっぱい……!いっぱいあるのに……!」

「私に……私にもっと力があれば……!お姉ちゃんも、フウコちゃんも……守れたのに……!」

「水鳥、カリン……今のフウコは喋るのも辛い状況だ……早く……楽にしてやろう」

ヒカリは涙を流す水鳥とカリンの肩に手を置き、倒れこんでいるフウコの前に片膝をつく。

「お別れ、ですね……あーあ、もっと、みんなと、遊びたかったなぁ……ぅ、ううう……死にたく、ない……死にたくないよぉ……」

気丈に振る舞おうとするフウコだが、すぐに感情が決壊し……泣き出してしまう。
水鳥とカリン、フウコが永遠の別れを受けとめられずに泣いているのを見て……ヒカリは、今まで誰にも話さなかったことを打ち明ける覚悟を決めた。

「フウコ……私はエスカ時代に、占いである光景を見た……詳しいことは分からないけど……王の力さえ超える、『完全なる復活』の光景だ」

ヒカリがエスカとして、王の命令でトーメントに関わる出来事を占っていた時に見たもの……いつかどこかで、誰かが誰かを蘇らせる光景。
王の力ではない。肉塊も残っていない「無」から蘇生することは、流石の王もできない。

「もし、その『完全なる復活』が私たちにも使えたりするものだったらさ……フウコやミント、これまでの戦いで死んだ奴ら全員生き返らせて……また楽しくやろう」

「ヒカリ、さん……?」

「私の占いは、3割くらいの格率で当たるからさ……期待しないで待っててくれ」

「ヒカリさん……ありがとうございます……貴女のおかげで、絶望ではなく……僅かでも……3割でも希望を持って、逝くことができます……」

「ああ、だからさよならじゃなくて……またね、だ……フウコ」

そう言ってヒカリは、ゆっくりと詠唱を始める。


<女神ネルトリウスの名の元に>

「カリンちゃん……シーヴァリアのヒーラーなら、その腕もきっと治るよ……だから、頑張ってね」

「フウコ……当たり前だよ……例え利き腕が上手く動かないままでも……カレラさんに教わって、魔石師になってやる!」

<死せる亡者達へ慈悲をもたらさん>

「水鳥ちゃん……鏡花さんは生きてる……だから焦らないで……一歩ずつ、成長しよう?」

「フウコちゃん……私は、強くなるよ……もう、誰も失わない為に……!でも、そうだね……焦り過ぎないようにするね……」

<今ひとたび、安らかなる眠りが届けられんことを……>

「フウヤ……貴方の心は、きっとまだ……」

<ディスペル・アンデッド……>

ヒカリの魔法が発動し、光の柱が立ち上る。
フウコの身体はゆっくりと灰になっていき……その魂は、解放された。


933 : 名無しさん :2018/04/18(水) 23:50:05 ???
「『完全なる復活』……ヒカリさん。お気持ちは痛いほどわかりますが……そんな事が可能だとは、とても思えません。
死者蘇生は、この世の理を捻じ曲げる禁忌の力…あのトーメント王ですら、死体が喪われれば完全な蘇生は不可能だと聞きます。
ましてや、フウコさんの魂は…たった今、苦しみから解放されたというのに…!」

リリスはかつての戦いで、亡者と化した両親の魂を自らの手で解放した時の事を、思い出していた。
……だがシーヴァリアの女王となった彼女には、その事を嘆いている暇など無い。今はただ、僅かに表情を曇らせるのみであった。

「…この世の理、か…そうかも知れないね。でも…きっと、大丈夫。
魔法は、奇跡を起こすために。魔法少女は、この世界を覆う絶望を払うために存在するんだ。……だよな、リム」
「その言葉は……昔、姉さまが言っていた…」
フウコの体だったものは砂となって、風に吹かれて空に消えていく。その様を見つめるヒカリの瞳には、強い決意が宿っていた。

その時………

「………そういえばアンタ、いつだったか使ってたわね。
死者蘇生の魔法……フェニックス・フェザーなんとかってやつ。火と水と光の合成術だっけ?」
いつの間にか戻って来ていた真凛が、ポロっとものすごい事を口走った。

「え!?………ちょ、ちょっと待て真凛。その話kwsk」
「あれ?アンタまだ記憶戻ってなかったの?ほら、私たちが人間界に派遣されてすぐの頃、鏡花ちゃんが魔物に殺されたことあったじゃない?
それで、先代女王にバレる前に私とアンタとカレラで……」

「えええ!?ちょっと姉さま!?…人間界に派遣中に一般人に被害出してたなんて、バレたら王座はく奪ものじゃ!?」
「ていうかヒカリさん!?お姉ちゃんが死んでたとか、初耳なんだけど!?」
「…あ、これ言ったらマズかった?」
「マジかよ……もう私女王じゃないから別にイイっちゃイイけど……つーか全然覚えてないわ……」

そんなこんなで、怒らせると怖い女王の側近ウィチルさんが深い眠りについている間に、秘密裏に蘇生の術は行使され………

「あ……れ…?…私、いったい……」
「フウコ……本当にフウコなんだね…!!」「…よ、よかったぁ…!!……身体は大丈夫?私のこと、わかる?」
「いや、メガネ無いと全然見えないけど…その声は、カリンちゃんと水鳥ちゃん…?
なんだか私、今朝起きた辺りから記憶がはっきりしなくて……」

……本来なら最低でも1エピソードくらいかけてじっくりやるべき話は、いともあっさり解決してしまった。
フウヤの事、ノワールの事など、問題は未だ山積しているが、きっと力を合わせて乗り越えていけるはずだ…

そして、シーヴァリアの騎士たちの協力によりトーメントの軍勢を退け、魔法王国ルミナスは平和を取り戻し……

……………

「さすがですね、ヒカリさん。…やはり魔法王国ルミナスと手を組んで正解だったようです」
「いや、こっちこそ…シーヴァリアの救援がなければ、今頃私たちは全滅してた」

聖騎士達を率いて救援に駆け付けてくれたシーヴァリアの女王リリスに、ヒカリ、リムリットを始めとしたルミナスの面々は改めて礼を述べた。

「ヒカリさん。そして、リムリット女王陛下。…トーメント王国は日増しに勢力を増しています。
今こそ我々は、共に協力し合ってその脅威に立ち向かわなければなりません。
…そのためにも、我々シーヴァリアはナルビアとミツルギの両国にもコンタクトを取り、
…シーヴァリア、ルミナス、ナルビア、ミツルギの4王国間に強固な同盟を締結したいと考えています」

「ふむ……確かに、その4国が協力できれば、トーメントの脅威にも対抗できるかもしれんが……はたして可能じゃろうか」
「……既にナルビアには使者を送ってあります。ミツルギにも、優秀な部下を向かわせる予定です。幸い『伝手』がありますので」

後ろに控えていた部下の一人『裁断卿』キリコが、その言葉を聞いて「ぎくっ」と呟いた。


934 : 名無しさん :2018/04/19(木) 00:52:48 ???
唯や瑠奈たちを乗せた、トーメントの港町オヴォレサス発、ミツルギのムラサメ港着の定期船は、星が瞬く夜空の下でも航行を続けている。
唯たち以外の乗客はそれぞれの船室に入ってしまい、船内の食堂にいるのは彼女たちだけだった。

「おう野郎供!ミツルギには明日の昼にでも着くぞ。船を降りる準備をしておけよ。」

竜殺しのダンは、唯たちが集まっている船室の扉を開けながら声をかけた。
そこにいるのは、唯、瑠奈、彩芽、鏡花の4人。
アリサは人質として、未だヒューマンボールの中である。

「あ、ダンさんおはようございます!もうすぐミツルギに着くんですねっ」

セミロングの髪の毛をふわふわと揺らしながら、唯が立ち上がった。

「野郎供って……僕らは男じゃないんだから、その呼びかけはおかしいよ。」

「おお、そうか。じゃあこの場合は……お嬢供になるのか?ガハハハ!」

欠伸をしながらツッコミを入れたのは、謎のフード付きのパジャマを着てヘッドホンを着けている彩芽。

「いよいよ明日着くんだね……ねえみんな、ミツルギがどんな国なのか、しっかり予習しておかない?」

ミツルギ皇国についての資料を机の上に広げる鏡花。その動きに合わせて、長い黒髪と寝間着の下の大きな胸がゆったりと動いた。

「予習かぁ。まぁどんな国なのかくらいはしっかり確認しておいた方が良さそうね。」

返事をしたのは青いショートカットが印象的な、ロリ巨乳の瑠奈である。
なら俺が教えてやる、と言ったダンも適当な椅子に座り、5人はミツルギ皇国について話を始めた。



ダンの話によると、ミツルギ皇国は実力主義国家で、純粋に強い者が要職に就いていることが多いらしい。
首都ムラサメでは頻繁に闘技大会や忍の育成試験が行われており、毎日優秀な忍による国力の増強に余念がない国だ。

その国を束ねるミツルギ皇帝は、その一族にしか使えない圧倒的な異能力を持って、代々皇帝を務めている。
そしてそのミツルギ皇帝に仕える忍達……通称「討魔皇刃五人衆」という5人の忍は、他国にも恐れられるほどの実力者で、その実力はあの王下十輝星にも匹敵するとのこと。
過去には十輝星と五人衆で火花を散らすことが多かったが、世界情勢の変化により、最近は戦争をしなくなった。
トーメントの港町からミツルギ首都までの定期船が出ているほど、今両国は良い関係を築きつつある。

「トーメントと仲良くしてる国ってことは……やっぱりロクな国じゃないのね。」

「まあ女だらけのルミナスや科学に強いナルビアよりも物騒な国ではあるな。首都のムラサメはまだマシだと思うが、ガラの悪い連中も多いから気をつけろよ。」

ダンの話では、ミツルギではアウィナイトと呼ばれる美しい容姿の民族を積極的に捕獲している。
奴隷制も根強く、ヒエラルキーの下に位置するものは上流階級の道具にされていることが多い。
貧富の差が大きく開いている、まさに全てが実力主義の国。その反面一攫千金を求めて、他国から訪れる者も多いという。

「……まあ、トーメントでは私たちは無条件であの変態王から狙われてたし、それがない分トーメントよりは安全そうね。」

「そうだね……ミツルギについては大体わかりました。ありがとうございます、ダンさん!」

「いいってことよ。それよりも……あのいけ好かねえ野郎が言ってる、アングレームの遺産ってのはなんなんだ?トーメントを滅ぼすために必要とか奴は言ってたが……」

「それはわからないんだ。ボールから亜理紗を解放してくれって言っても、1人だけは人質にしておくっ言われちゃって、合わせてくれないし。」

「アリサ……かわいそうよね。あいつだけ変なボールの中なんて……それとも、あの人は何か理由があってアリサを閉じ込めてるのかしら。」

瑠奈は冷静に分析する。アリサ・アングレームという名前からして、アングレームの遺産にアリサがなにかしら関与しているのは間違いないだろう。
問題はその何かが、どういうことなのか──考えても答えは出なかった。


935 : 名無しさん :2018/04/19(木) 00:54:53 ???
唯や瑠奈たちを乗せた、トーメントの港町オヴォレサス発、ミツルギのムラサメ港着の定期船は、多くの星が瞬く美しい夜空の下でも航行を続けている。
唯たち以外の乗客はそれぞれの船室に入ってしまい、船内の食堂にいるのは彼女たちだけだった。

「おう野郎供!ミツルギには明日の昼にでも着くぞ。船を降りる準備をしておけよ。」

竜殺しのダンは、唯たちが集まっている船室の扉を開けながら声をかけた。
そこにいあのは、唯、瑠奈、彩芽、鏡花の4人。
アリサは人質として、未だヒューマンボールの中である。

「あ、ダンさんこんばんは!いよいよ明日ミツルギに着くんですねっ。船の中での修行に付き合ってくれて、ありがとうございました!」

「お、おう……いいってことよ。」

セミロングの髪の毛をふわふわと揺らしながら、唯はぺこりと頭を下げる。
その明るい声と女の子らしい仕草にに、ダンは少し赤くなった。

「野郎供って……僕らは男じゃないんだから、その呼びかけはおかしいよ。」

「お?そうか。じゃあこの場合は……お嬢供になるのか?ガハハ!」

欠伸をしながらツッコミを入れたのは、謎のフード付きのパジャマを着てヘッドホンを着けている彩芽。

「いよいよ明日着くんだね……ねえみんな、ミツルギがどんな国なのか、しっかり予習しておかない?」

ミツルギ皇国についての資料を机の上に広げる鏡花。その動きに合わせて、長い黒髪と薄い寝間着の下の大きな胸が、ゆっさりと動いた。

「予習かぁ。まぁどんな国なのかくらいは、しっかり確認しておいた方が良さそうね。」

返事をしたのは青いショートカットが印象的な、ロリ巨乳の瑠奈である。
なら俺が教えてやる、と言ったダンも適当な椅子に座り、5人はミツルギ皇国について話を始めた。



ダンの話によると、ミツルギ皇国は実力主義国家で、純粋に強い者が要職に就いていることが多いらしい。
首都ムラサメでは、頻繁に闘技大会や忍の育成試験が行われており、毎日優秀な忍による国力の増強に余念がない国である。

その国を束ねるミツルギ皇帝は、その一族にしか使えない圧倒的な異能力を持って、代々皇帝を務めている。
そしてそのミツルギ皇帝に仕える忍達……通称「討魔忍五人衆」と呼ばれる5人の忍は、他国にも恐れられるほどの実力者であり、その実力はあの王下十輝星にも匹敵するとのこと。
過去には十輝星と五人衆で火花を散らすことが多かったが、世界情勢の変化により、最近は両国間で戦争をしなくなった。
トーメントの港町からミツルギ首都までの定期船が出ているほど、今トーメンとミツルギは良い関係を築きつつある。



「トーメントと仲良くしてる国ってことは……やっぱりロクな国じゃないのね。」

「まあ女だらけのルミナスや、科学に強いナルビアよりも物騒な国ではあるな。首都のムラサメはまだマシだと思うが、ガラの悪い連中も多いから気をつけろよ。」

ダンの話では、ミツルギではアウィナイトと呼ばれる美しい容姿の民族を積極的に捕獲している。
奴隷制も根強く、ヒエラルキーの下に位置するものは上流階級の道具にされていることが多い。
貧富の差が大きく開いている、まさに全てが実力主義の国。その反面、一攫千金を求めて、他国から訪れる者も多いという。

「……まあ、トーメントでは私たちは無条件であの変態王から狙われてたし、それがない分トーメントよりは安全そうね。」

「そうだね……ミツルギについては大体わかりました。ありがとうございます、ダンさん!」

「いいってことよ。それよりも……あのいけ好かねえ野郎が言ってる、アングレームの遺産ってのはなんなんだ?トーメントを滅ぼすために必要とか奴は言ってたが……」

「それはわからないんだ。ボールから亜理紗を解放してくれって言っても、1人だけは人質にしておくって言われちゃって、合わせてくれないし。」

「アリサ……かわいそうよね。あいつだけ変なボールの中なんて……それとも、あの人は何か理由があってアリサを閉じ込めてるのかしら。」

瑠奈は冷静に分析する。アリサ・アングレームという名前からして、アングレームの遺産にアリサがなにかしら関与しているのは間違いないだろう。
問題はその何かが、どういうことなのか──考えても答えは出なかった。


936 : 名無しさん :2018/04/19(木) 01:16:45 ???
「……魔法王国ルミナス……とうとう『完全なる復活』に繋がるピースを出したか」

ヨハンは自分の部屋で椅子に座りながら、かつてエスカが持っていた水晶玉を覗き込んで一人ごちる。そこには、ルミナスの様子が写し出されていた。
禁呪の余波を受けてルミナスのマナの流れが乱れている今は、水晶玉を通して彼の国の様子を覗くことは、ヨハンにとって不可能ではなかった。
ナメクジのぺティがエスカを捕食した時に王がちょろまかして以降、行方が分からなくなっていた水晶玉は、ヨハンが管理していたのだ。

「アイオーンの一族が持つという蘇生や魂呼びの異能……ルミナスのフェニックスフェザー・リヴァイヴ……ミツルギに眠っているアングレームの遺産……それらと我らが王のロード・オブ・ロードが合わされば、『完全なる復活』……そして、『それ以上』のことができる」

ヨハンはゆっくりと立ち上がる。それと同時に、酷使された水晶玉にはヒビが入っていく。

「アイベルトが中々力に目覚めないから心配だったが、司教アイリスを見つけ出せばその問題は解決する……」

流石のヨハンも専門ではない占いを続けて体力を消耗したのか、少し足元をふらつかせなが、ベッドに横たわる。

「ルミナス侵略は失敗したが、フースーヤ君は十分なダメージを与えた……同盟締結までは、あの国は無力化したも同然。ナルビアの情勢はサキの報告待ちかな」

ヨハンはゆっくりと目を閉じて、眠りに落ちていく。
その部屋の隅でとうとう、水晶玉が音を立てて真っ二つに割れた。

果たして、ヨハンの目的とは……。


937 : 名無しさん :2018/04/19(木) 21:01:03 ???
ルミナスの魔法少女達がトーメント王国の侵攻を退けた、その翌日。

「いやー、受付時間ギリギリだったぜ!運が良かったなー」
「……そうだね」

ミツルギ皇国の首都ムラサメに辿り着いたリザは、異種闘技大会の参加受付に滑り込みで間に合った。
受付のお姉さんから『頑張ってくださいね♥』という激励の言葉と共に、『参加証』として星型のメダルを渡される。
これは、エントリーした選手全員に1つずつ配られるらしい。

「では、予選のルールを簡単に説明しますね。開始時間は明日の正午。ムラサメの都全体がフィールドとなります。
ただ今お渡しした星のメダルを他の選手から奪うなどして、『手段を問わず』5つ以上集めて王城に辿り着いた
先着8名が決勝トーナメントに進出となります。……何かご質問等はございますか?」

マニュアル通りに説明しつつも、受付のお姉さんは物珍しそうな視線をリザに向けてくる。
参加選手中最年少、しかも数少ない女性選手、おまけにアウィナイト……となれば、それも当然の反応かもしれない。

「…『星』を失ったら失格?」
「いいえ。一時的に星がゼロになったとしても、最終的に『星を5つ以上集めて』『城に辿り着けば』OKです。
決勝トーナメントの出場枠が埋まった時点で予選終了となります」
「……なるほど」

極端な話、星を5つ集めた選手を見つけて、隙を見て奪うだけでも勝ち抜けられる。その逆もまた然り。
…他の選手にただ闇雲に戦いを挑んでいくだけでは、勝ち抜けることは難しそうだ。

そして来る途中で見た街の地図によれば、王城の周囲は深い堀に囲まれ、城門に辿り着く道は橋が一つあるのみ。
恐らくそこが終盤の激戦区となるだろう。

……

「試合開始は明日の正午か……な、なんか俺まで緊張してきた…よーっし!明日に備えて、今日は宿屋でゆっくり休むか!」
「うん…(…でも、なんか引っかかるような…)」
参加手続きを終えたリザとヤコは、事務所を出て宿屋へと向かう。
受付のお姉さんがプレゼントしてくれたジュースを、なにげなく口にしようとして………

「………これは……!!」
「え!?…おいリザ、どうしたんだよ…う、うぐっ!?」
リザは違和感に気付き、思わずジュースを缶ごと投げ捨てた。一方、ヤコは何も疑わず全部飲み干して…その場に倒れ込んでしまう。
…ほとんど無味無臭だが、受付のお姉さんから渡されたジュースには、強力な痺れ薬が入っていたのだ!

「よく気付いたわね、アウィナイトのお嬢ちゃん。でも、その薬は一口飲んだだけでもかなりキくはずよ」
「…く……なる、ほど…『この街全体が戦場』『早い者勝ち』『手段を問わず』
……つまりは『何でもあり』。試合開始の時間なんて、馬鹿正直に守る必要もない…」

リザに気取られることなく尾行してきた『何者か』が言う通り、ほんの一口飲みかけただけで、リザの体にも僅かな痺れが生じていた。
動けない程ではない……だが、戦いの場では、その『僅か』な差がしばしば命運を分ける。

「ふふふ…そういう事。明日の正午までには、決勝進出者は殆ど出揃ってるでしょうね。
私もサクッと『星』を揃えさせてもらうわ!」

受付のお姉さんとは仮の姿。しかしてその正体とは……!


938 : 名無しさん :2018/04/19(木) 22:32:44 ???
「そう、私は前スレ184以降行方不明になっていたサキュバスのサキノ!
メガネのボクっ子とキスしたら教授に怒られてトーメントにいられなくなったから、ミツルギで暮らしてたのよ!
本戦には男ばっかだろうし、私の淫術で骨抜きにすれば優勝間違いなし……」

「千刃乱舞!」

「ってぎゃああああああ!!?」

長らく行方不明になっていたサキュバスのサキノさん。再登場してリザの前に立ち塞がったが……サキュバスは直接的な戦闘力はそう高くない。

「ちょちょちょ、なんでそんなに動けるのよ!?まるで普段からコンディションの悪い状況で戦うことに慣れているような……!」

「く……!」(思ったより痺れが強い……ここは一気に……!)

「断空旋!!」

「ちょ、久しぶりに登場したのにもう出番終わり!?あんまりよーー!!」




「……ヤコ、大丈夫?動けそう?」

「あ、ああ、動くだけならなんとか……相変わらずすげぇな、リザ……」

気絶したサキノから星を奪ったリザ。珍しく幸先が良いように見えるが……

(……さっきはサキュバスが相手だったからなんとかなったけど、もし強い相手に当たったら……)

サキノから喰らった麻痺毒の効果はしばらく続くだろう。癒しの術式が苦手なリザには、現状解毒の手段はない。

「ヤコ、この大会は一筋縄じゃいかない……ヤコにも協力して欲しい」

「お、おう!戦いは無理だけど、それ以外のことならなんでもするぜ!で、俺は何をすればいい?」

「どこに参加者が潜んでるか分からない以上、参加者の私はまともに買い物もできない……だから参加者じゃないヤコに、色々と買ってきて欲しいものがある」


「買い物?そ、それってまさか、お、お、女の子用の下g……日用品とか?」

「…………」

「ちょ、そんな目で見ないでくれよ!明日の正午まで戦い続けるんだったら色々必要だろ!」

「……はぁ…………とにかく最優先は、解毒の術式。確かに長丁場になりそうだけど、日用品はテントにあるから大丈夫だよ」

「わ、分かった!まだちょっと痺れるけど、お使いくらいできるぜ!」

「私はヤコが来るまで身を潜めてるから……地図に載ってたハヤブサ広場で落ち合おう」

「おう、待ってろよ!バッチリ解毒の術式を買ってくるからな!」

こうして、一時別行動を取ることになったリザとヤコ。
ヤコが解毒の術式を手に入れて戻ってくるまで戦闘を控えたいリザだが、果たしてそう上手くいくのだろうか……。


939 : 名無しさん :2018/04/20(金) 00:12:58 ???
「乗客の皆様。本船はまもなく、ムラサメ港に到着いたします。船を降りるご準備をお願いいたします。」

定期船に流れる船内アナウンスに従って、どたばたと船を降りる準備を始める乗客たち。
唯たちもその中に混じって、荷物をまとめていた。

「皆さん、準備はいいですか?ムラサメまでは少し歩く上、魔物も出ます。気をつけてくださいね。」

「わかりました!もし誰か怪我をしたら、鏡花ちゃんに教わった治癒魔法で私が治しますね!」

「フフ……それは心強い。」

「ちょっと唯、誰彼構わず打ち解けるのもほどほどにしときなさいよ。」

小声でそう言いながら瑠奈は唯を小突いたが、唯はなにがおかしいのかと言わんばかりにキョトンとした顔をしたので、瑠奈はがっくりとうな垂れた。



「みなさーん!到着しましたよー!船を降りてくださーい!」

「お、ようやく到着したみたいだ。久しぶりに地上を歩けるよ。」

「ふふ、彩芽。はしゃぎすぎて転ばないようにね。」

「なっ!鏡花はいつのまにみんなのお姉さんポジに……まあその胸の大きさなら納得だけどさ。」

「え?そ、それって関係あるの!?」

彩芽のセリフに釣られたのか、乗客の男たちが自分の胸をまじまじと見てきたので、鏡花は慌てて両手で胸を隠した。
なんか逆にいやらしいぞ、と彩芽がツッコミを入れようと思ったその瞬間、



ドガン!!!



「え、なんの音?」

「ち、ち、ちょっとちょっとそこの巫女さん!なんですかその棺桶みたいなのは!大きすぎてぶつかってますよっ!」

乗客たちの視線の先には困り顔の船員と、黒い巫女服を着た黒髪の少女。
身長は155センチくらいだろうか。透き通るような濃い青い目と和装が、見るものを引きつけるミステリアスな雰囲気を感じさせる少女である。

「あ……ごめんなさい。大切な船に傷をつけてしまいましたね。」

「い、いや。ボロ船なんでそれはどうでもいいんですが……そのでかい棺桶はなんなんですか?」

「なっ!か、か、棺桶ではありませんっ。これは厨子(ずし)といって、御神体であるクロヒメ様を納めるための神聖な仏具なのですっ!」

長い黒髪の少女は棺桶と言われたことが少し気になったらしく、一生懸命力を込めて説明している。

「あの黒巫女の女の子、顔も声もめっちゃかわいい……!あれがSSRとかなら、5万まで出せるレベルの可愛さだよ。」

「でも、どうやってあんなでかい箱をのを背中にくっつけてんの?あれも魔法なのかしら……って、唯!?」

瑠奈が気づいた頃には、唯は巫女服の女の子のところへとてとてと駆け寄っていた。



「ねえねえ!その厨子っていうの、縦で入らないなら横にすればきっと入るよね!私がこっち持つよ!」

「むむ……?すみませんが、どちら様でしょうか?」

「あ、私は篠原唯!あなたは?」

「……名前を聞きたかったのではないのですが……厨子のことならば大丈夫です。これくらいは私の神通力で、朝飯前の夜食後です。」

巫女服の女の子がそう言うと、厨子は空中でぐるんっ!と回転し、横向きで扉の間を通り抜けていった。

「あ、あぶねーなー!あんなでかいのをぐるんぐるんされたらあぶねーよぉ!」

「あ、ごめんなさい……」

「で、でもすごいよ!君は本当に神通力が使えるの?」

「はい。私は神に仕える巫女ですから。……それでは。」

黒巫女の少女は唯に優しく微笑むと、ゆっくりとした足取りで船を降りていった。


940 : 名無しさん :2018/04/20(金) 18:44:59 ???
「……終わりから始まった世界、世界から始まった終わり……永遠なる安寧と停滞を望んでも、時は変わらず動き続ける……終焉の日へ向けて」

ロゼッタ、アイナ、エミリアの3人はヘリでミツルギ皇国に降りたっていた。

到着早々、風になびく髪を押さえながらポエムをかますロゼッタ。
初めて来た場所を物珍しそうにキョロキョロと見回しているエミリア。
アイナはスマホで周囲をパシャパシャと撮っている。

「で、どうするんですの?ミツルギに来たはいいですけど、具体的なプラン等はありまして?」

「……アルフレッドを殺す……アングレームの養子も殺す……遺産を破壊する……それだけ」

「つまり、ノープランってことですのね……とりあえずは情報の集まりそうな都市部にでも行きませんこと?」

「そうですよ!せっかくこんな遠くまで来たんですから、お仕事ばっかりは勿体ないですよ!」

「いやエミリアちゃん、アイナは別に遊びに行こうと言っているわけじゃ……」

「……一理ある」

ということで、とりあえず都市部に行き情報収集を兼ねて少し遊ぶことにした3人。

その道中……


「あの、ロゼッタさん……どうしても、あの養子の子や執事の人を殺さないといけないんですか……?」

「アングレームに関係する者は皆殺し……アルフレッドはアングレーム家に尻尾を振ったから殺す」

「その、アルフレッドさん?ってアングレーム家虐殺の犯人だったんですよね……じゃあ尻尾を振ったってわけじゃないんじゃ」

「……そうかもしれない……けどそれはそれで、私から復讐を奪ったから許せない……何よりいくら殺す為とは言え、あんな連中に仕えていたのも事実」

「えっと、でも……」

「エミリア……貴女はリザやアイナとの友誼によってトーメントに味方している……私はアングレームへの怨みが原動力となり、トーメントに仕えている」

「それは……」

「その国がどんな国かなんて関係ない……その国に住む個人の為に味方する……私と貴女の違いは、その感情が正か負かということだけ」

そう言って、ロゼッタはエミリアから視線を外し、黙って前を見て歩き続ける。


(ロゼッタさん……本当に、ロゼッタさんとアルフレッドさんは、殺し合うしかないのかな……?)


941 : 名無しさん :2018/04/21(土) 15:42:35 ???
「さっきのミツルギの巫女さん、綺麗な人だったね……」

「うん。困ってたからつい話しかけちゃった。神通力も使えるなんて、流石巫女さんだよね!」

「うーん、この世界は剣と魔法のファンタジー異世界モノだし、神通力っていうのも普通にありそうだよなぁ。」

「あのでかい箱はなんなのかしらね?御神体とかなんとか言ってたけど……気になるなぁ。」

「どうせキャラ作りのための台詞だろ。巫女服なのもコスプレかもしれねえぞ。」

「いえ、あの黒い巫女服はおそらくミツルギの神楽木家のものでしょう。先ほどの少女ははれっきとした巫女の家系のはずです。」

ムラサメへの道を歩く唯達は、船内で出会った巫女服の少女について話していた。
ムラサメ港からムラサメまでは歩いて1時間ほどの距離。
道中の魔物はダンがひと睨みするだけで退けられることがわかり、一行は安全にムラサメへの道を歩いている。

「それにしても暑いわねー!春なのに夏並みの炎天下じゃない。」

「さっきの巫女さんも、あんな服着てたら中ムレムレになって、今頃汗だくだくなんだろうなぁ。……神に仕える健気な美少女から流れる大量の汗に塗れた黒巫女服……うーん、なかなか悪くないね。」

「あ、彩芽……あんたって結構危ないやつなんじゃ。」

「あ、いや性的な意味じゃないよ!なんか……萌えるじゃん!きれいで可愛い巫女さんが、汚い汗に塗れるっていうインモラルなギャップにさあ!」

彩芽はそれからも巫女服の萌えについて力説したが、誰にも理解されることがなかった……



「……へくしっ。」

「七華様、花粉症でございますか?」

「いいえ、ローレンハイン。……わざわざここまで迎えに来てくれてありがとう。あなたの馬車に乗るのも久しぶりですね。」

「フフ……坊っちゃまも、七華様にお会いするのを楽しみにしております。坊っちゃまに仕える討魔忍五人衆がムラサメに集まるのも、本当に久しぶりですからな。」

七華と呼ばれた黒巫女は、ムラサメへ向かう道から少し離れた場所で老爺と話していた。
ローレンハインと呼ばれた老爺は、白髪に燕尾服が似合うクラシックないでたち。まさに執事と呼ぶにふさわしい存在感である。

「……今日は本当に暑いですね。もう馬車に入ってもよろしいでしょうか?」

「もちろんでございます。馬車の中には冷気の魔力が巡っておりますゆえ、どうぞお身体をお休めください。すぐに出発いたします。」

その言葉を聞いて、七華と呼ばれた少女は巫女服の裾を持って馬車の中へと入ろうとした──その時。



ガゴン!!!!

「あ。また……」

七華の背後の厨子が、またも馬車の天井に激突していた。

「なんと!!!く、クロヒメ様は大丈夫でございますか!?」

「こ、こ、これくらいの衝撃なら大丈夫のはずですっ。……いつもいつもごめんなさい。馬車に入ることはできないようなので、クロヒメ様を馬車の横で浮遊させます。」

「もっと広い馬車を用意すべきでした……このローレンハインの不手際でございます。七華様、誠に申し訳ございません。」

「い、いいのですっ。ローレンハインが謝ることはありません。……クロヒメ様も、そう言っておられます。」

七華はそう言うが、周囲に彼女と執事以外はいない。

「ありがたきお言葉……七華様とクロヒメ様の寛大な心に感謝いたします。馬車の横におられるクロヒメ様は、このローレンハインが責任を持ってお守りいたします。」

「よろしくお願いします。中の私のことは気にしなくてよいので、クロヒメ様には傷がつかないようにお願いしますね。」

謝罪する執事に向かって、穏やかな微笑を浮かべる七華。
こうして2人を乗せた馬車と大きな厨子は、ムラサメへ向かって移動を開始したのだった。


942 : 名無しさん :2018/04/21(土) 22:36:58 dauGKRa6
ミツルギへと向かう馬車の中、七華は車窓から外の景色を眺めていた。

「あ、あの方たちは……」

目に留まったのは、先ほど船内で会った少女たち。パーカーを着た少女がなにやら熱く語っているが、周りはあまりまともに聞いていない様子である。
七華は知らない。彼女は自分の汗がついた巫女服のインモラルな魅力について熱く語っていることを。

「いかがされましたかな、七華様。」

七華の声を聞いて、馬に乗っている執事が彼女に声をかけた。

「あ、なんでもないのです。……暑い中馬を走らせてくれて、ありがとうございます。ローレンハイン。」

「いえいえ……ときに七華様。何度か申し上げておりますが、私に対しては敬語は不要ですぞ。せっかく継承を省いて名前で呼んでくださっているのに、未だ敬語は抜けきっていないようですな。」

「むむ……私は誰に対しても敬語なので、これは治せそうにないです。クロヒメ様も……治す必要はないと仰られています。」

「さようでございますか。……思えば七華様は、昔からそのように美しい言葉をお使いなさる。……私の差し出がましい気遣いでしたな。」

「いえ……」

そこで話が途切れ、七華は再び車窓からの景色に視線を戻す。
天気が良く、風も穏やかな景色を眺めていると、急に瞼が重くなってきた。

(……は、寝てはいけませんね。神通力が途切れてクロヒメ様が落ちてしまう。ちゃんとしっかりしないと……)



「ローレンハイン。最近のミツルギの情勢はどうですか?私は修行中の身でしたので、あまり情報が得られなくって……」

眠気を紛らわすためにも、七華は外の執事に声をかけた。

「そうですな……最近はルミナスとトーメントの戦争が激しいようですが、ミツルギは平和なものです。そのほかの国とも大きな戦争はありません。」

「そうなのですね……ではなぜ、私たち討魔忍五人衆が集められるのでしょう?皇帝様は何をお考えになっていらっしゃるのでしょうか?」

「それについては、私の口から出す内容ではありませんな。ムラサメへ到着後、お屋敷にて説明があるでしょう。」

「むむ…………ローレンハイン。クロヒメ様が気になると仰られております。概要くらいは教えてくださっても良いのではないでしょうか?……戦争ということであれば、クロヒメ様がお喜びになられます。」

七華がそう言うと、彼女の言葉に反応したのか、浮遊している厨子が怪しく光った。



「申し訳ありません。七華様、クロヒメ様。私からはなに一つ申し上げることは出来かねますゆえ、どうかご了承を。」

「……ローレンハイン。私ではないですよ。クロヒメ様が招集の理由について気になると仰られているのに、ですか?」

七華の言葉の圧が強くなる。それに呼応してか、馬車には触れていないのに、七華の厨子がガタガタと小刻みに揺れ始めた。

「……ご了承を。」

「…………わかりました。クロヒメ様も納得なされました。皇帝様からお話を聞くまでは、私も我慢しましょう。」

「……ご理解頂きありがとうございます。七華様。クロヒメ様。」

「……私に対する謝罪は不要ですよ。ローレンハイン。」

厨子の震えが止まってることを確認し、執事はふう、と息をつく。
厨子がガタガタと揺れ出してから脂汗が浮かんでいたのをハンカチで拭いてから、執事は鞭をパチンッ!!と強く馬の体に打ちつけた。

……彼女たちを怒らせないために。


943 : 名無しさん :2018/04/21(土) 22:40:56 ???
★プロフィール★
名前:神楽木 七華(かぐらぎ ななか)
身長:155
年齢:21歳
血液型:O型
好きなもの:朝と夜のお祈り、和菓子作り
嫌いなもの:下ネタ
戦闘スタイル:傀儡使い

★セリフ集★

「神楽木七華です。好きなことは……和菓子作りと、神様へのお祈りです。」

「こ、これは私の言葉ではなく、神であるクロヒメ様の御意思なのです……!本当なんですっ!」

「仕方ありませんね……あなたたち全員、クロヒメ様への贄にして差し上げましょう。……どんな死に方がいいですか?」

「クロヒメ様は……傀儡などではありません。私の長きに渡る修行によってこの世に顕現された、森羅万象を司る神様なのです。」

「……クロヒメ様を傀儡女と呼び愚弄するのならば……黄泉の門を超えた奈落の底まで落としますよ。」

「は、ははっ、破廉恥なあぁっ……!神に仕える巫女である私に向かって、そ、そそ、そのようなセクハラ発言はやめてくださいぃっ……!」

「私の体は、この世界に顕現されたクロヒメ様に使役されているだけ。神楽木七華という存在が、この現世とクロヒメ様を繋げているのです……ウフフフフ……!」



★概要★
黒巫女の服という和を感じさせる服装に、青い目と黒髪ロングヘアーが特徴的な21歳の女の子。
身長は155センチだが、その幼い容姿のせいで成人しているようには見えない巫女さん。
背中には自分の身の丈よりも大きい傀儡女である、クロヒメを背負っている。
普段はクロヒメが人目に晒されないよう、七華自ら作った厨子(ずし)に入っている。
通常であれば重すぎて持てないはずだが、七華の魔力によって彼女の背後にいつも浮遊させられている。
厨子は2メートルほどの大きさなので、移動中に厨子を天井にぶつけてしまうのは日常茶飯事。
なお、本人は自分の操る力は魔力ではなく、神通力だと言い張っている。

基本的には礼儀正しく常識のある性格だが、神様を本気で信じており、自分の言葉を神の意志だと強調して喋る時がある。
その神の声は本当に彼女に聞こえているのか、彼女が神の声だと騙っているだけなのかは不明。周りにはあまり信じられていない。
自分の信じている神のクロヒメを馬鹿にされたりすると、感情を抑えられなくなってしまう。
また、言うのも聞くのも苦手な下ネタを振られると、困惑してしどろもどろになってしまう面もある。

戦闘の際に使う傀儡のクロヒメは、七華が神の力を込めるため、一ヶ月間明かりのないお堂の中で断食しながら作り上げた代物。
七華はこれを、自らの手によって神の意志が込められた御神体だと思っている。
ゆえに、傀儡女と呼ばれることを激しく嫌う。
長い黒髪と妖艶な表情をした美しい人形だが、戦闘人形としての仕込み毒刀や殺傷能力の高い飛び道具、その他奇想天外なギミックがありとあらゆる場所に詰め込まれている。

御神体であるクロヒメを動かす原動力は、人間の生き血である。というのは七華の談。
彼女自身は殺しは好きではないが、戦闘は血を得られるためクロヒメが喜ぶと言う。

戦闘の際は魔力で自分の指とクロヒメを繋げて操る。(七華は魔力ではなく神通力だと言い張る)
傀儡使いとしての実力は高く、自分の指を巧みに動かし、複雑怪奇なクロヒメの操作を自由自在にコントロールすることができる。
大抵の相手はわからん殺しをされてすぐ死ぬか、クロヒメの仕掛けによって拘束されてしまう。

名前が和名だが異世界人ではなく、ミツルギの神楽木家の一人娘。一族代々神に仕える家系である神楽木家は、この世界では珍しく漢字を使った和名を名乗っている。



★主な戦闘技★
・陰術・禍刻(いんじゅつ・まがとき)
七華の魔力(神通力?)で周囲に暗闇を作り出し、相手の視界を封じる。

・開魂の儀
クロヒメの袖に仕込まれた長刀を露出させてぶった斬る。刀身には麻痺毒がたっっぷり。

・神火の天照
クロヒメが変形し、火を放つ龍となり敵を焼き尽くす。龍になったクロヒメに七華が乗ることも可。

・蠱毒の破戒
クロヒメの体から発射される大量の毒虫が一斉に襲いかかる。発射される毒虫はすべて、七華が闇ルートで購入した危険な虫たち。

・回向の寄香(えこうのよすが)
七華の魔力(神通力?)によって神経を研ぎ澄まし、近くの敵や隠れた敵を察知する。

・不還の入滅(ふげんのにゅうめつ)
壊れてしまったクロヒメを七華の魔力(神通力?)で修復する。

・黄泉への黒贄(よみへのくろにえ)
敵をクロヒメの入っていた厨子に閉じ込め、七華の魔力(神通力?)で厨子ごと黄泉の門を超えた奈落の底に封印してしまう。


944 : 名無しさん :2018/04/21(土) 23:42:11 ???
「いやー!ようやくムラサメに着いたぜ!ここは150年経っても変わってねーなぁ!」
時を同じくして。一艘の手漕ぎボートがムラサメ港に着岸し、そこから一人の男が下船してきた。

30代後半と思われる筋骨隆々の大男で、格闘家らしい腹筋を露出した服装。
片目には眼帯を付けており、その下にも猛獣の爪に斬り裂かれたような深い傷ができている。

男の名は、ワルトゥ。かつて…150年前、トーメント王国の王下十輝星として拳を振るい、拳聖の称号を持っていた歴戦の古強者。
とある屍術師の手によって蘇ったが、その軛を外れてからは、気の向くまま…欲望の赴くままに諸国を巡り、武者修行と称して行く先々で暴力と破壊をまき散らして来た。
そしてある時。ミツルギ皇国で闘技大会が開かれると言う噂を聞きつた彼は、こうしてボートを盗んではるばる海を渡ってやって来たのだ。

…なお、ミツルギは四方を海に囲まれた島国であり、首都ムラサメの港は一番近くの大陸からでも100km以上は離れている。
普通なら手漕ぎボートで渡れる距離ではないはずだが……ワルトゥは疲れを見せるどころか、これから始まる戦い+αへの期待に爛々と輝かせていた。

「さーて……じゃ、さっそく手近な奴に勝負吹っ掛けるか。どっかにいないかなー。強くて潰しがいありそうで、おっぱい大きくてエロかわいい奴…」

………………

(ドカッ!!……ドゴッ!!……ズドン!!)
「…ぐわあああっ!!…くっ……ま、まさかこの俺が、女ごときに負けるなんて……ぐふっ」
「なっ…なんて女だー!あの海蛇衆ナンバー4『鎖鎌使いのヒロシ』を倒しやがったー!!」
「ふふふ…強いのかそうでもないのか微妙な肩書だけど、所詮この私の相手じゃなかったわね」
……都合よくその辺にいたこの女性闘士は、髪を団子状に結び、旗袍と呼ばれる民族衣装、いわゆる「チャイナドレス」を元にした拳法着を着ている。
そして見事なまでにおっぱい大きい。偶然にしては出来過ぎな程、ワルトゥの注文通りの人材であった。

「おおー!…中々ヤるじゃねえか姉ちゃん!次は俺と相手してくれや!!」

「ふっ…鼻の下伸ばしちゃって。男って奴は身の程知らないバカばっかりね。
そんなに相手してやってもいいけど…アンタ、星はいくつ持ってるの?」
「ほし?なにそれ」
「は?アンタまさか、参加登録してないわけ?星って言うのはかくかくしかじか、受付はもう終わっててかくしかじか」
「ふんふん……よくわかんねーけど、要するに星を5つ集めりゃいいんだな?…それじゃ、まずは姉ちゃんが持ってるやつを頂こうか!」
「飛び入り参加ってわけね……上等。アンタみたいな筋肉ダルマの臭いオヤジは、この大陸最強の拳法使いシャーリン様がブチのめしてあげるわ!!」

闘技大会に突然現れた古の拳聖と、大陸最強の女拳法使い。
両者の闘気が高まっていき………今、戦いの火ぶたが切って落とされた!


945 : 名無しさん :2018/04/22(日) 01:02:25 ???
「現在のレートは虐爪(ぎゃくそう)のカゲロウがトップや!有名な戦士やからな、分かるで!せやけどな!大穴に賭けて大儲けしたるって気概のあるアホがおってもええんやないか!?」

ムラサメの商店街は今、普段よりも賑わっていた。理由は勿論、現在開かれている闘技大会だ。
血の気の多い人間が多いミツルギでは、闘技大会は一大エンターテインメントである。そんなお祭りの中には、それを利用して金を稼ごうと思う人間もおり……どの選手が予選を勝ち抜くか、ムラサメ市民は賭けに興じていた。

「今入った情報によるとな、受付終了直前、アウィナイトの別嬪さんが来たらしいで!あとなんかよう分からんけど、飛び入りのオッチャンもおるみたいや!ウチらが分かる範囲では、これで参加者は全員や!さぁ張った張った!」

賭場を仕切っているのは、くすんだ金髪をウルフカットにした、豹柄のジャケットを着て関西弁を話す10代後半と思しき少女であった。
成金趣味全開のジャラジャラした重そうな金色のブレスレットやらネックレスやらを身につけまくっている。


と、そこに丁度、商店街を通り抜けようとした馬車が現れた。

「す、すごい熱気ですね……クロヒメ様も少々困惑しておられます」

「元々大会の時期は活気づく場所でしたが、コトネ様が賭場を仕切るようになってからはより顕著にございますな」

馬車での移動によって徒歩の唯たちに先駆けてミツルギに到着した、七華とローレンハインの乗る馬車である。

「はぁ……コトネさんは相変わらず、修行よりもお金稼ぎに夢中なのですね……同じ討魔忍五人衆として嘆かわしいのです」

「彼女の忍術は少々特殊ですからな……資金調達と修行はほぼ同義なのでしょう」

と、二人がそんな話をしていうちに、賭場を仕切る関西弁の少女……金尽(かねずく)のコトネが、馬車に気付く。

「おーロレっち!そろそろ来るんやないかと思っとったで!ななっちも久しぶりやなー!クロちゃん元気ー?」

「お久しぶりです、コトネさん……皇帝様からの召集を受けているというのに、お金稼ぎですか?それとクロちゃんではありません、クロヒメ様です」

「まーまーそう固いこと言いなさんな!せっかくやからななっちと一緒に皇帝はんのとこ行こ思うて待ってたんや!後は賭場の運営は優秀なスタッフに任せるさかい、お城までウチも乗せてーや!」

「はぁ……相変わらず自分調子な方ですね……」

調子の良いことを口から出まかせにポンポンと喋りながら、返事も聞かずに馬車に乗り込んでくるコトネ。ローレンハインもそれを見て苦笑するばかりで、断るような雰囲気はない。

「ほな出発おしんこー!って、これじゃしんちゃんやな!アハハ!飴ちゃん舐める?馬車酔いに効くで」

「結構です」


946 : 名無しさん :2018/04/22(日) 11:32:50 ???
「今回の大会はおもろくなりそうやで!ウチ的には飛び込み参加の謎のイカついおっちゃんがおもろくかき回してくれんかと……」

「コトネさん、貴女も皇帝様が私たちを集めた理由はご存知ありませんか?」

「ウチが知るわけないやん、まぁ最近物騒な世の中やし、大方戦争でもおっぱじめるんちゃうか?」

「そうですか……やはり、お屋敷で皇帝様から直接伺うまでは我慢するしかありませんね」

「それはそうと、むっちゃ気合い入ってるななちゃんのステシに比べて、ウチがステシなしってのも寂しいから突貫で作ったで!ちょっと見てみぃ?」

「すてし……?」



名前:コトネ・マネーフォワード
身長:163cm(自称160cm)
年齢:18歳
好きなもの:金稼ぎ、散財、ギャンブル
嫌いなもの:金にならないこと
戦闘スタイル:金を媒介にした成金術

★概要★

豹柄のジャケットやTシャツを着ている関西のおばちゃんをイメージさせる18歳。口調は関西弁だが、(書き手の限界で)エセ方便になることもある。くすんだ金髪をワイルドなウルフカットにしており、成金趣味なアクセサリーをたくさん身につけている。
身長は低い方が女の子らしくて可愛いと思っており、自分の身長を下に鯖を読むこともしばしば。
金稼ぎが大好きであり、ミツルギの闘技大会をギャンブルにして胴元として荒稼ぎしている。座右の銘は「金持ち喧嘩せず」。

その正体は討魔忍五人衆の一人、金尽(かねずく)のコトネ。
戦闘スタイルは成金趣味のアクセサリーや金を消滅させて自らの身体能力を爆発的に上昇させる、その名も「成金術」。消滅させる額が増えれば増えるほど力も増す。
成金術は身体能力強化の他、金を弾丸のように打ち出す「ゼニガン」、金で召喚獣を呼び出す「ヨウジンボウ」など多彩な技を持つが、どの技も金を消費せねば発動しない技がほとんど。
なので修行そっちのけで金稼ぎに走ることも多いが、周囲からは黙認されている。
消費する金以上のリターンが見込めない場合は基本的に戦闘はしないが、皇帝からの命令等の場合は流石に例外。


947 : 名無しさん :2018/04/23(月) 19:26:39 ???
「そんでな!ウチが開いた麻雀大食い大会も大盛況!広告のスポンサー費用と大会の参加費でガッポガッポの大儲けや!いやーホンマに自分の商才が怖くてかなわんわー!」

「……そうですか。すごいですね。クロヒメ様もすごいと仰っています。」

「おおいななっち、絶対聞いとらんやろ!クロちゃんも絶対聞いとらへん!ちゃんと聞いてーや!ウチの武勇伝!武勇伝!武勇でんでんででんd」

「クロちゃんではありませんっ!嘘つきハゲダルマみたいなあだ名をつけないでください。クロヒメ様ですっ!」

「おおう……ななっちも相変わらずやなぁ……」

久しぶりに顔を合わせた2人は、馬車に揺られながらミツルギ皇帝の屋敷を目指していた。
大会は明日の正午開始だが、街の賑わいはすでにお祭り騒ぎといった調子で、屋台や出店が大量に軒を連ねている。
そんな街の喧騒から少し離れてしばらく経つと、四方をお堀に囲まれた大きな屋敷が見えてきた。



「お嬢様方、お疲れ様でした。お屋敷に到着致しましたぞ。」

「ご苦労様です。ローレンハイン。……クロヒメ様も、あなたに感謝しておられます。」

「ありがとなーロレっち!……なぁ、いつもいつもあの皇帝はんに仕えてて疲れてるやろ?慢性疲労にごっつええ感じで効くサプリメントが今超お買い得なんやけど……」

「ご心配なく。私はまだまだ現役ですぞ。ですが、コトネ様がせっかく勧めて下さったのですから、そのサプリメントは喜んで購入致しましょう。……おいくらですかな?」

「ほいきた!ざっと5万ナーブr」

「ローレンハイン。コトネさんはいい意味でも悪い意味でも商魂たくましい方です。怪しい商品は購入しない方がいいですよ。」

「むむう、そうなのですか。そういつことならば、一考させていただく必要がありそうですな。」

「うぁーん!ななっちの意地悪ー!ウチがぼったくりなんかするわけないやんかー!」

コトネは金を稼ぐためならイカサマでも詐欺でも構わずやってしまう大胆なである。そ性格を知っている七華は、さらりと忠告を挟んだのだった。


948 : 名無しさん :2018/04/23(月) 21:31:22 ???
「では七華様、クロヒメ様、コトネ様。我が主の屋敷へとご案内致しま……むむ?」

玄関についたところで、ローレンハインの携帯に着信が入った。

「どうぞ、お出になってください。私たちはもうお屋敷で迷うこともございませんから。」

「せやせや!ウチらももうガキじゃあるまいし、ロレっちのエスコートがなくても平気やで!ウチらに遠慮せず、その風俗の予約確認の電話に出るとええで!」

すぐに携帯を出し相手も確認せず切ろうとするローレンハインに、七華とコトネが声をかけた。

「さようでございますか。……それでは、私はここで失礼いたします。ではお三方で、屋敷の中へお入りください。」

ローレンハインはそう言い残し、携帯を開きながら玄関の方へと歩いていった。
彼女らを狙う男のギラついた視線に、気づくこともなく。




「こ……コトネさん……!」

「なんやななっち、顔真っ赤やで?……あ!風俗の話したからやろ!まだ下ネタダメなんかー!ホンマにかわいいなぁーななっちはー!」

コトネの下ネタを聞いて、耳まで真っ赤になっている七華の頬を、コトネはぐいぐいと引っ張った。

「んあ〜!可愛くて愛しくて意地悪したくなるわ〜!ほれほれ〜!」

「きゃう!!や、やへてくだひゃい!ほっへひゅひゃまひゃいひぇえ〜!」

「アッハハ!あんな下ネタ冗談に決まっとるやないか〜!しかも昼に風俗なんて暇な年寄りしか行かへん!毎日多忙なロレっちが行くとしたら夜やできっと!あの年でちゃんとできんのかはちょっとわからへんけどな!あっははははは!」

ケラケラと笑いながら美少女の顔で遊ぶコトネと、羞恥で真っ赤になって言い返せない七華。
誰が見ても平和な光景……だがその光景は、謎の男の襲撃によって破壊された。


ドゴオッ!!!
「ぐえええ゛っ!?」

自身の身に突然何が起こったのか、コトネは気がつかなかった。
突如脇腹に衝撃を食らって、自身が衝撃で吹っ飛んでいるのに気づいたのは、庭木に叩きつけられてからである。

「あぐうぅっ!!!……な、なんや……がぼぼぼぼぼ……」

自分が飛んだことに気付いたのも束の間、庭木の下の池に落ちたコトネはぶくぶくと泡を立てた。

「コ、コトネさん!?こ、これは一体……きゃああッ!!」

1人残された七華へと一瞬で近づいた襲撃者は、素早く七華を地面に投げた後、流れるような動きでキャメルクラッチの体制で拘束する。

「ヒャーッハッハッハッハッ!!アホらぎィ、お前は相っ変わらずすっとろい間抜け女だなぁ!守銭奴チビも俺の蹴りを食らったら、馬鹿ヅラ晒して池に落ちてったぜぇ!超マジ糞ウケるんですけどー!ヒャヒャヒャハハハ!!」

「そ、その声はっ……!」

「さぁて、カマトトぶってるノロマなアホらぎには……こいつをくれてやらぁ!」

襲撃者は七華の首から顎を掴み、強引に体を反らせた!

「い゛っ……!たああ゛ぁいぃっ!!!ぐうぅ!や、やめて!やめてくださいいっ!」

「やめねーよバーカ!呑気なツラして俺に捕まるオメーが悪いんだろーが!」

「い、痛い!痛いですっ!!!!やめてって言ってるじゃないですかああぁ!悪ふざけもいい加減にしないと……!」

七華の声に反応し、近くの厨子がガタガタと音を立てる。
それを横目で確認した襲撃者は、新たな攻撃を七華に仕掛けた!

「そら、オメーの大好きな乳揉み攻撃だぜぇ!あそれもみもみ〜、あほれ揉み揉み〜!」

「え……きゃあああああああああああああ!!!」

キャメルクラッチしていた両手の位置を七華の胸に素早く移動させ、むにむにと服の上から胸の感触を楽しむ襲撃者。

「ヒュー!いい声だぜアホらぎィ。お前はグズ女のアホ巫女だが顔と声は極上だからなぁ。久しぶりに会った記念に俺様がたっぷり可愛がってやるよ……!」

「……あ、あ、ぁあぁあ……!」

襲撃者の遠慮のかけらもない手の感触に怯えながらも、頭が真っ白になった七華は悲鳴すら上手く出せなくなってしまっていた。

「……身長の割に意外とあるな……ヒヒッ、ドスケべボディをその頑丈な巫女服でがっちりガードしてるんだってか。……余計燃えるじゃねえかよ、オイ。」

「あ、あぁあ……!ひ、ああぁうぅ……!」

下ネタが嫌いな七華にとって、直接的なセクハラは効果てき面である。先ほどよりもさらに顔を真っ赤にさせた七華は、悲鳴らしい悲鳴も出せず、ただただ自身の胸を無遠慮に触られていた。

「あ゛〜!服の上からじゃなくて直に触りてえなぁ〜!……なぁ、もういいよなァ、アホらぎ。お前全然嫌がんねえしよ。」

「え……?ええっ?い、いやっ……それはいやぁっ!!」

もちろん七華は恥ずかしすぎて声が出せなかっただけである。だが襲撃者は、そんな七華の性格を把握した上での犯行である。
直に触られるのは必死で防ごうと抵抗する七華の顔を、襲撃者は強引に地面に叩きつけた!


949 : 名無しさん :2018/04/23(月) 21:32:39 ???
「暴れんな……オラァ!」

ドガッ!!
「ぎうぇッ!!!」

「ハァ、ハァ……弱いくせにジタバタ暴れんじゃねえ……!大人しくしてろやアホらぎィ。この俺様が、お前みたいなグズ女と一発遊んでやるって言ってんだからよ……!」

頭を地面に打ち付け、反応が鈍くなった七華の巫女服に、襲撃者はするりと手を入れる。
自身の服の中を這い回る異物感と嫌悪感に、七華は全身の鳥肌が立った。

「ぅ……ひっぐ……!お願いです……もうやめてくださいっ……」

「うるせーよ。そしてぴーぴー泣くなバカ。……っあ゛ー!お前の服わっけわかんねえなぁ!どこをどうすれば触れんだぁ?」

複雑な七華の巫女服の構造に襲撃者が悪戦苦闘していると、その視界の中に大きな影が現れた。



「チッ……ジジイだろ?」

「……お戯れもそこまでに願います。ザギ様。」


950 : 名無しさん :2018/04/23(月) 21:37:14 ???
声をかけられた襲撃者……ザギと呼ばれた男は、すぐに七華から離れるとローレンハインと距離を取った。
黒いフード付きのコートに紫色の炎が描かれている、ガラの悪さ満点の衣装に包まれた襲撃者。
その懐かしい姿を、七華はようやくはっきりと視界に入れて認識することができた。

「オイオイ、勘違いすんなよ耄碌ジジイ。俺は久しぶりに再会した仲間とちょいとばかし遊んでただけだ。別に変なことはしてねえぜ?なぁ神楽木?」

「ぐすっ……うぅ……!」

「……七華様の反応を見れば、私とて何が起こったか分かります。ザギ様……七華様やコトネ様への暴力は金輪際控えていただきたい。たとえ貴方が我が屋敷の客人で討魔忍五人衆の1人とて、これ以上の蛮行は許されませんぞ……!」

語気を強めた執事は、刺すような眼差しで襲撃者のザギを睨みつける。その眼差しはまさに眼刺し。見るものを圧倒する言い知れない迫力を伴っていた。



「……はっ。まったくいちいち大げさなジジイだぜ。久しぶりに会った神楽木とマネーフォワードが、どれぐらい俺の動きについて来れるか、テストしただけじゃねーか。」

やれやれと首を振るザギ。その表情はフードに隠れて見えないが、口調からして半笑いの表情であることがわかる。

「やいやいやいやい!ザギィ!不意打ちでななっちに何てことするんや!純真無垢な巫女を野外レイプなんて、企画モノAVでしか許されないことやぞ!」

池に落ちて全身びしょ濡れのコトネが、大股開きでずんずんと歩きながらザギに抗議した。

「ケッ、びしょ濡れ濡れ守銭奴はカメラでも回してりゃ良かったんだよ!かなり稼げる無修正映像が手に入るところだったんだぜぇ?勿体ねえなあ〜!」

「……せやろか?」

「コトネ様。そこで心が動いてしまわれるのは、七華様に大変失礼かと。」

「も、もういいです……私、部屋で休みます……」

よろよろと立ち上がった七華を、ローレンハインはすぐに支えた。

「ザギ様がすでに屋敷に入っているとは露知らず……七華様、お助けに入るのが遅れ大変申し訳ありません。」

「……どうせあの人は、勝手に屋敷に入ったのでしょう。ローレンハインが謝ることはありません……クロヒメ様も、そう仰っています。」

「クッハハ!!お前まーだそんないもしないクロヒゲ様の話してんのかよ!いつまで妄想の世界に、いぃ゛っ!?」

僅か一瞬、ザキが瞬きをしたのと同時に、彼の首元に長刀が突きつけられた。
刀身にぬらぬらと塗られている麻痺毒が、日の光を浴びて光っているのがわかるくらいに近い距離である。

「ザギさん……今私の前でそれ以上少しでもクロヒメ様を侮辱するのなら……惨殺します。」

「な、七華様……!どうか、落ち着いて下さい……!」

「……へっ、殺るんなら殺れや。お前に俺が殺れんならなぁ!!!ヒャハハハハハハ!!!」

「な、ななっちを怒らすんやない!ななっちはこう見えて1番ヤバい奴やでぇ!!」


951 : 名無しさん :2018/04/24(火) 00:52:01 ???
「………一体どういうつもりか知りませんが…本当に命が要らないようですね。『開魂の儀』!!」
七華は服装を糺し、厨子の横に立つと、ぞっとするほど冷たい声で囁く。次の瞬間…

「クックック……さあ来てみろやァ……その黒ヒゲ人形の力、俺に見せ……」
(…バンッ!!)
大きな音を立てて厨子が開き、真っ黒い着物姿の絡繰り人形…『クロヒメ』が、ザギに襲い掛かった。

「っとォ!!……危ねえ危ねえ…こいつの仕込み刀にも麻痺毒が塗られてるんだったなぁ…かすっただけでアウト。だが俺には通用しねえ…ぜっ!!」
だがザギは麻痺毒が塗られた仕込み刀の攻撃を完璧なタイミングで回避し、カウンターの掌底を叩き込んだ!!

「なっ…!?…クロヒメ様の一撃を、『初見で』こんなに簡単にかわすなんて……!?」
「ヒヒヒヒ……このぐらい朝飯前だぜ。あのクロヒゲ人形の攻撃は、今まで『何度も』見せて貰ったからなぁ……!!」
ザギの技量は七華もコトネもよく知っていたが、それでもここまで簡単にかわされるとは予想外だった。

「な…なんや今の動き……七華の攻撃のタイミングを読んでいた……読心術でも使えるんか!?」
横で見ていたコトネも動揺を隠せない。だが、続いて繰り出された技は…

「では、これでどうですっ…!『蠱毒の破戒』!!」
クロヒメの体が開き、中に仕込まれていた大量の毒虫が一斉に飛び出した。
七華が(クロヒメの命令に従い)闇ルートで購入した、危険な毒を持つ蟲達が、ザギと……更にはローレンハインとコトネにも、容赦なく襲い掛かる!!
「なっ!?ちょっと待て七華ぁぁあ!!ウチらにまで蟲が……ひゃっ!?……」
「し、静まり下さい七華さま……っぐああああ!!!」
「くそっ!相変わらずキレると見境がねえな!…だが…防毒の印っ!!」

ザギが使ったのは、防毒魔法の術式。主に夏に虫よけ等に使われる物で街の雑貨屋などで簡単に手に入る代物だが、意外にもこれがクロヒメの蟲を防ぐ効果を発揮していた。
これもまた、七華の攻撃をあらかじめ読んでいたかのような……と言うより、どんな攻撃が来るかを『知っていて』、その対策を『あらかじめ考え』、『対策して』いたのは明らかだった。

だがその違和感について、コトネにあれこれ考える余裕はない。防虫対策などしていないコトネは毒虫の群れの餌食になってしまっていたからだ。
(ぎちぎちぎち……ブゥゥゥン……ズブッ!!)
「うあ"あ"あ"あ"!!!や、あぅっ……そんなとこ、齧ったら、あか、ん……っぎひああああ!!」

虫相手に能力を使っても、一銭の得にもならない……という思いから、能力を使う事を躊躇するコトネ。

「ひっ……や、あぅぅっ……っは、入ってくるな……や…か、金払えぇ、ドアホぉ………ん、ひっ…!」
しかしそのせいで毒虫の大群に為す術なく群がられ、趣味の悪いジャケットやシャツ、ショートパンツ、
3枚500ナーブルを4枚320ナーブルに値切って買った超安物下着までもが曝け出され、食い荒らされていく。

「な、七華……まさか、アイツがここまでブチ切れるなんて……一体、どうすればええんや……!」


952 : 名無しさん :2018/04/24(火) 00:54:42 ???
「ヒヒヒヒ……敵も味方も関係なしか…『相変わらず』無茶苦茶しやがるぜ」

…ザギはこれまでにも幾度となく、七華とクロヒメに襲い掛かっている。目的は言うまでもなく、七華を力で屈服させてその身体を徹底的に犯し抜くためだ。

七華はその度に、クロヒメの能力を使って襲撃者を退け、殺して来た。
…最初の数回は、『開魂の儀』の仕込み刀で一瞬にして仕留められた。
……ある時からそれが回避されるようになったが、すかさず『蠱毒の破戒』の餌食にしてきた。
………更に何度かの試行錯誤の末、蠱毒の対策も取られるようになり……

「これならどうですっ!!…『神火の天照』!!」
クロヒメが変形し、火を放つ龍となり敵を焼き尽くす大技……『切り札』を使わされるまでに、追い詰められるようになっていた。

「ぐっ……あああああぁぁぁああ!!!」
「いぎゃああぁぁああぁっ!!や、やめろ、七華ぁああっ!!う、ウチらまで焼き尽くされて……んぎ、あああああああああ!!!」「おっ……お嬢…様……が、はっ……!!」

だが……
(わからない……あの『生真面目で』『穏やかな性格の』ザギさんが、どうして突然襲い掛かってきたのでしょう……今まで『一度も』、こんな事は『なかった』のに……!!)
…その時の事を、七華は覚えてはいない。
より正確に言うならば、その『時』は既に『巻き戻され』て消滅し、誰にもそれを知覚する事はできないのだ。

「ザギさん。貴方が何故、突然こんな狼藉を働いたのかは知りませんが……クロヒメ様を侮辱した罪は、決して許されません」
「ち……畜生……あと、一歩、って所か……だが、今の技は、覚えた………次は…必ずっ……」
「……貴方に『次』なんて有りませんよ……『黄泉への黒贄』…!」

「クククク……そいつはどうかなァ…『忍法タイムエスケープ』!!」
ただ一人…時間を巻き戻す特殊能力者である、ザギを除いて。

(ガパッ……!)
クロヒメの入っていた厨子の扉が開き、七華の魔力(神通力?)によって黄泉の門へと繋がった。
一度封印されてしまえば、二度と出る事は出来ない奈落の底。七華の言う通り『次』など絶対に有りえない。

だがもし、奈落に堕とされる前……七華を挑発する前………七華に襲い掛かる前にまで、時間を巻き戻す事ができたとしたら……?

………………

「やあ。七華さん、コトネさん。貴女がたも皇帝陛下に?」
「おー、ザギっち!なんや、随分久しぶりやん!相っ変わらずシケた面しとんなー!色男が台無しやで!」
「あ、ザギさん…!……は、はい。よろしければ、ご一緒しませんか?」
……普段のザギに対する七華とコトネの印象は、『生真面目で』『穏やかな性格』『顔はソコソコやけど』『イマイチ面白味がたりひん』……と言った所。
討魔忍五人衆の同僚という事もあり、警戒心はほぼ皆無である。

「ええ、私でよければ喜んで…では参りましょう」
(けッ!…今のうちにせいぜいヘラヘラしてやがれ………あのガラクタ人形、竜への変形能力まであるとはな。
…だが、あの火炎さえ何とかすれば…クックックック……)

しかし、彼の心の中には常にどす黒い欲望と嗜虐心が渦巻いている。
特に、まだ一度も堕とせていない七華に対して……

(…待ってろよ、アホらぎィ……次は必ず、テメエのデカ乳と処女マンをぐっちょぐちょに犯し抜いてやるからな……ヒャーッハッハハハ…!!)


953 : 名無しさん :2018/04/24(火) 17:04:33 ???
「大陸最強の拳法使い、ねぇ……大陸最強のおっぱい格闘家に改名した方がいいんじゃねえか?んがっハッハッハ!

バキバキ……ゴキッ!

「あぐああぁぁあぁぁああぁあぁーーー!!」

大陸最強の拳法使いことシャーリンは、ワルトゥに抱きしめられて悲鳴を上げていた。
戦闘が始まった頃は、「私のスピードについて来られるかしら!?」とか生意気なことを言っていたが、ものの5分で拘束されてごらんの有様である。

「あぁぁ〜気持ちいいぜ……!やっぱお前みたいな胸がでかい女にベアハッグするのは最高だな!俺様の美しい肉体に、お前のパイオツカイデーがぎゅむぎゅむ押し付けられるぜ!」

「ぐ……ううぅ……!も、もう……許して……」

「へ、やなこった!こんないいおっぱいを離すわけねえだろ!お前は当分の間、俺様の性奴隷にしてやるぜ!」

ベアハッグはワルトゥが女性にかけるのが大好きな技である。特にシャーリンのような巨乳ならなおさら。
強い力で抱きしめられたシャーリンの大きい胸は、潰れそうな勢いでワルトゥの体に押し付けられていた。


ギチギチギチ……バキィ!
「ぐあ゛あぁぁあぁ゛ぁ゛あ゛あ゛っ!」

「いい顔だなぁ……ミツルギに来て早々、最高の獲物だぜ。こりゃあムラサメの女共にも期待できそうだ……おらっ!」

バキバキバキゴキッ!!!!

「んん゛んぐがああ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛ぁ゛あ゛ーーーー!!!」

「ガッハハハハ!……さーて、シャーリンちゃんも大人しくなってきたし、服を脱がして野外レイプといくか……って、あら?」

「が……ふっ……」

断末魔のような悲鳴を上げた後、シャーリンはがっくりと項垂れた。
ワルトゥが拘束を解くと、シャーリンは糸が切れた人形のように崩れ落ちて仰向けに倒れてしまったのである。
チャイナドレスがはらりと捲れ、引き締まった美しい脚がワルトゥの視界を奪った。

「おおう、綺麗な脚だな……って、ベアハッグで完全に失神しちまったのか。ちぃとばかしやりすぎちまったかねえ。」

頭を掻きながら、ワルトゥは右手の人差し指と親指でシャーリンの体をつまみ上げた。

「反応がないんじゃ犯してもつまんねえ。ひとまずムラサメに行って意識が戻ったから、お楽しみと行くか。他にもいい女をたくさん確保出来るといいねぇ……!グッヘヘヘヘヘ……!」

開いた方の左手でシャーリンの胸元に手を入れ、固くなった乳首を転がしながら、ワルトゥは不敵に笑った。


954 : 名無しさん :2018/04/25(水) 01:02:54 ???
先ほどローレンハインにかかってきた電話は、討魔忍五人衆の一人からの電話であった。その内容は……二日酔いが酷いから薬を持って来てくれ、というものだった。

「ラガール様……ご所望の二日酔い薬にございます」

「うぷっ……すまんローレンハイン……昨夜の標的が少々酒豪でな……『酔印』の結界だけでは仕留めきれず、『酔剣』を……おぅえ!」

「結界内の相手を少しずつ泥酔状態にする『酔印』によって弱った標的を、飲酒によって剣筋が鋭くなる『酔剣』で仕留める……ラガール様の得意戦法でございますな」

「後日このザマになるがな……このような状態で皇帝陛下に謁見するわけにはいかない……が、俺の都合で陛下のお時間を奪うわけにもいかない……薬を飲んで気合いで治す……うぉっぷ」

彼の名はラガール・バーレイコーン……酒に関する忍法『酔術』を得意とする戦士だ。

彼が酒を飲んでから剣を振るう『酔剣』の剣筋を見切ることは至難の業と呼ばれ、酒に弱い体質の者は『酔印』の結界によって戦う前から泥酔して倒れると恐れられる。暗殺から要人誘拐、真っ向勝負まで幅広くこなす優秀な戦士であるが……唯一の弱点は、本人が酒に弱いことであった。『酔剣』を始め、自らが飲酒する技を使った次の日は二日酔いが酷いことになる。

性格は真面目なのだが、いつも酔っ払っていたり二日酔いに苦しんでいる為、周囲からはだらしない人間だと思われがち。
服装は普通のシャツとジーンズの上に袖なし袢纏……所謂ちゃんちゃんこを羽織っている。

「ラガール様、定刻まではまだ時間があります故、ごゆっくりお休み頂いてもよろしいのですよ」

「いや、今寝たら絶対夕方まで寝てる自信がある……うぷ……やはり気合いで治すしかない……くっ、頭痛が……!」

「左様でございますか……」

「とにかく、俺はしばらくして二日酔いがマシになったら陛下のお屋敷に行く……ローレンハインは別の奴の迎えに行ってくれ……」

頭を押さえて苦しみながらも、薬を飲んで多少楽になったラガール。この調子なら、皇帝と五人衆が一堂に会するまでには二日酔いも収まっているだろう……多分。

「先ほどザギ様からご連絡があり、彼も既にお屋敷にご到着なされたとか……七華様とコトネ様は私がお送りいたしましたので……」

「となると最後の一人は、『アイツ』か……」


955 : 名無しさん :2018/04/27(金) 20:08:59 ???
「…くそっ。解毒の術式を買うのに手間取っちまった…!」

ヤコはリザの為に解毒・防毒の術式を探していたのだが、運の悪い事に、近場の店ではそれらが全て売り切れていた。
ザギが七華を襲う前に、クロヒメの毒虫対策に大量購入したためだったりするのだが、それは余談である。
ともかくヤコは必死に街を駆け回り、なんとか裏通りの小さな魔法薬屋で解毒の術式を手に入れ、リザの待つハヤブサ広場へと急いでいた。そして……

「なんか胸騒ぎがするぜ………ま、まさかリザの奴、どっかの変な男にナンパなんてされてたりして………い、急がねえと!」

…少々的外れではあるが、ヤコの不安は的中していた。
その頃ハヤブサ広場では、戦いを避け隠れていたはずのリザが、今大会優勝候補の一角であるミツルギの戦士「虐爪のカゲロウ」と一触即発の状態になっていたのだ……


「…貴方…闘技大会の参加者ね。こんな子供に襲い掛かるなんて……どうして、こんなひどい事を…!」
リザの背後では、年端も行かない少女が血を流しうずくまっていた。何の力も無い小さな子供で…もちろん、大会の参加者でもない。
少女に斬りつけたのは、仮面で顔の上半分を覆い、両腕に鉤爪付きの手甲を装着した男…

「クックック……どうしてって、そりゃあもちろん………暇つぶしの為さ。
俺は、この界隈じゃ少々名が売れすぎてなァ……なかなか突っかかってくる奴も現れねえから、退屈で堪らねえ」
「戯れ」「暇つぶし」…そんな理由で弱い者を斬り刻む外道な男…だがそれと同時に、ミツルギでも指折りの優秀な討魔忍の一人であり、ミツルギ闘技大会の優勝候補の一人。

「……そんな事の為に……貴方、人の命を何だと………う、ぐっ…!」
少女への「トドメ」を防ぐため間に割って入った際、リザは、肩口に決して浅くない斬り傷を負っていた。

「人の命ぃ?…何言ってやがる。そのガキはただの「奴隷」だぜ?…虫ケラの命なんざ屁でもねえ。
そんな事より……今日は本当にツイてやがる。こんな極上モンのアウィナイトのメスが釣れたんだからなぁ…」

「…許せないっ………千刃乱舞っ!!」
怒りに燃え、カゲロウに斬りかかるリザ。だが……

(キン! カキン! ガキン!!)
「たあああぁっ!!……う、ぐっ…!!」
「クックック……おいおい、その程度かぁ?……トロすぎてアクビが出るぜぇ…!」

カゲロウは両腕の鉤爪付き手甲で、リザの連続攻撃を易々と弾き返す。一方で、リザの動きは明らかに精彩を欠いていた。
先程サキノに盛られた麻痺毒……そして、カゲロウの爪撃で受けた神経毒で、足元がふらつき始めている。

「さーて……今度はこっちから行くぜ…オラオラオラオラァアアア!!」
(ザシュッ!……ドスッ!!……ザクザクザクッ!!)
「…んっ!………う、あぐっ!!………きゃあああああっ!!」
……最初から、わかりきっていた。
相手がサキノとは比べ物にならない程の強敵であることも、今の自分の体調が万全ではない事も……勝ち目がほとんどない事も。
だが、何の罪もない少女が無慈悲に惨殺されようとしているのを、リザは黙って見ていられなかったのだ。

「う、ぐっ………はあっ………はあっ……」
「クックック……最初の勢いはどうした?もっと抵抗してみろよ。……全身斬り刻まれて、ハラワタ引きずり出されたくなかったらなぁ……!!」
今にも倒れそうな身体、手放してしまいそうな意識を必死に保ちながら、リザは残されたわずかな勝機を探る。
導き出された答えは…『無影無踪』……自分からは動かず、相手の攻撃を読んで最小限の動きでのカウンター技だ。

(パワーもスピードも、相手が上………今は、これに賭けるしか……)
(これだけ痛めつけてやったって言うのに、まだ諦めてねえか。だが、何を狙ってるのかミエミエだぜ…
何しろアウィナイトの連中は、感情がすぐ目の色に出るからなぁ……クックック……)

「…忍術『影潜り』」
敵の動きを一瞬たりとも見逃すまいと、意識を研ぎ澄ませるリザ。

「はあっ………はあっ……………えっ!?…」
そのリザの目の前で、カゲロウの姿が一瞬にして掻き消え…………

(……ザシュッ!!)
「……きゃあああああッッ!!!」
次の瞬間。リザの足元の影から現れ、毒の爪でリザの背中を深々と抉った。


956 : 名無しさん :2018/04/27(金) 20:10:15 ???
「この瞬間は何度やっても溜まんねえなァ……クソ弱ぇメスガキを甚振って好き勝手に切り刻む………最ッッ高にコーフンするぜェェェ!!」
「っが………は……あ、ぐっ!………う、ああああっ!!……」
(そ…ん、な……攻撃が、気配が……全く見えなかった……!!)
たった今刻まれたばかりの背中の傷を、カゲロウは乱暴に、念入りに、泥まみれのブーツで踏みにじっていき…

(……ドゴォッ!!)
「…………げばっっ!!!……」
…最後に、背骨も折れんばかりの勢いで、思い切り踏み付けた。

「さぁて。…これでもう抵抗できねえだろ。そろそろお楽しみと行きますか……ヘッヘッヘ」
カゲロウは、這いつくばったリザのスカートの内側を爪で軽く突く。まるで「何か」の具合を確かめるかのように。

だがその時。絶体絶命の危機に陥ったリザの元に、ようやくヤコが駆けつける。
「…リザあああっ!!…ててて、てめえ!リザから離れやがれぇぇ!!」
「……!!……ヤコ……だ、め……来たら、貴方まで………!!」


「………君デハ、無理ダ。下ガッテイロ」
……そして、もう一人。
顔全体を覆う仮面に、真っ黒なマント。長刀を携えた一人の剣士が疾風のごとく現れ、リザをかばう様に立ち塞がった。

「だ………誰……?」
「『残影のシン』……!………討魔忍五人衆最強と呼ばれた貴様が、こんなメスガキ一匹を……一体、どういうつもりだ…」
「……答エル義務ハ、無イ」
全身黒ずくめ、仮面で顔を覆っている上にマスクに内蔵されたボイスチェンジャーで声を変えているため、男か女かすら判然としない。
だが、その身に纏ったオーラは、その場にいた誰よりも強い、圧倒的な実力を感じさせた。

「……仕方ねえ、ここは退いてやる……命拾いしたな、メスガキ」
そう言うと、カゲロウは足元に煙球を投げつけ、いずこかへと逃げ去ってしまった。

「リザぁぁ!大丈夫か!すぐ治療してやるぞ!!」
「わ……私は、平気……それより向こうの、倒れてる子を……」
「……な…まだ子供じゃねえか、ひでえ事しやがる……!!」

「……彼女ノ治療ハ、私ガシヨウ。カゲロウノ毒ハ、普通ノ薬デハ消セナイ」
「(え、彼女!?……あ、あっちの意味じゃない方の彼女か……)わ、わかった…信じていい、のか……?」
ヤコは妙に動揺しつつも、先にカゲロウに襲われていた奴隷の子供を助けに向かった。

そしてリザは、謎の剣士『残影のシン』からの治療を受けながら、至極当然な疑問を口にする。
「………どうして、私を助けてくれたの」
「…………。」
「!!……それ、は……」

シンは左の手のひらを下、右の手のひらを上にして合わせ、リザに軽く一礼する。
リザは驚愕に目を見開きながらも、痛む両腕でぎこちなく……同じように、アウィナイトの挨拶を返した。


957 : 名無しさん :2018/04/28(土) 01:02:56 ???
ムラサメの市内から外れた場所にある、ミツルギ皇帝の屋敷。四方をお堀に囲まれている風光明媚な敷地に建てられた、木造の古めかしい屋敷である。
その屋敷の食堂に、ミツルギ皇帝の腹心である討魔忍五人衆のうち4人が揃えられていた。


「皆さま、お集まりいただきありがとうございます。坊っちゃまはあともう少しで到着なされますので、申し訳ございませんがこちらで少々お待ちくだされ。」

椅子に座っている4人に向かって、礼儀正しく一礼をするローレンハイン。この屋敷の従者であり、皇帝を1番よく知る執事である。

「時は金なりやで!ロレッちから早く来いって言うたってや!わかってると思うけどな、ウチ暇やないねん!明日の闘技大会で動くおっきなビジネスの準備中なんやからな!」

テーブルに並べられた高級菓子をモリモリと食べながら、コトネが通る声で声をかける。
ローレンハインは「かしこまりました。」と返事を残し、食堂を出て行った。

「……大丈夫ですか?ラガールさん。今日も顔色が悪いようですが……」

隣の席で項垂れているラガールに、心配そうに声をかける七華。その声に一拍遅れて気づいたラガールは、すぐに背筋を伸ばして体勢を整える。

「し、心配させてすまない。これでもかなり良くなったんだが……まだ本調子とはいえない状態でな……んぐっ、んぐっ……!ぷはっ!」

自分の水をグビグビと飲んで息をついた後、ラガールははぁ、と軽いため息をついて頭を抱えた。

「ラガールさんは大変ですねえ。ご自身の能力を活かすために、体調を犠牲にしなければならないなんて……」

「……自分でもナンセンスな能力だとは思っている。だが俺がこの地位にいながら祖国に仕えるためには、背に腹は変えられん……!」

「なぁなぁラガっち、シーヴァリアからな、酔い止めに特効がある薬草が届いてるんや。ラガっちのために在庫残してあるから、後で売ったるで!」

「おお、ありがたい……!ぜひ買わせてくれ、コトネ。昨日の酒でかなり散財してしまったが、これもまた背に腹は変えられんからな……」

(……コトネさん、また騙そうとしてるんじゃ……)

一抹の不安を覚えた七華だったが、いちいち口を出すのも面倒なので意見はしなかった。


958 : 名無しさん :2018/04/28(土) 01:08:21 ???
「そういえば……あの方はどうしたのでしょう?まだ屋敷にも見えていないようですが。」

ザギが空席に目をやりながら呟く。その席の主は「残影のシン」
討魔忍五人衆の中でも最強との呼び声が高い剣士である。
シンの実力についてはこの中の4人全員が認めるところであり、異議を唱えるものはいなかった。

「ロレっちがシンっちも読んでるって言うてはったから、一応来てるとは思うで!まあ遅刻なんて珍しいけどな。」

「まあ、明日は闘技大会……血の気の多い連中がこのムラサメに集まっている。何かトラブルがあってもおかしくはないな。」

「その理由でのトラブルなら、あの人に関しては問題なさそうですがね。……というか、あの人に喧嘩売る人はいないでしょうけど。」

「それもそやな!ザギっちみたいに弱そうなオーラないしな!」

「ち、ちょっとコトネさんっ……」
(このクソアマァァ!てめーは絶対口座の中身すっからかんにして絶望させてから殺すからなァ!!)

「あ、皆さん。ローレンハインが戻って来ましたよ。」



七華の声に合わせて、一同の目線は食堂の扉に集まる。
すぐにその扉は開けられ、到着が遅れたことを詫びるローレンハインの後ろにいるのは……

「……チッ、5万突っ込んだのにぜんぜんピックアップ出ねーじゃねーかよ。何が確率2倍だよ、ふざけんじゃねーよ。」

すこぶる機嫌が悪い様子でスマホを弄っている、寝癖だらけの少年だった。


959 : 名無しさん :2018/04/28(土) 01:09:53 ???
名前:テンジョウ・ミツルギ
14歳のミツルギ皇帝。親であったゲンジョウが病により急逝したため、その跡取りで即位している。
三度の飯よりゲーム好き。ミツルギ皇帝となったのも本人の意思ではないため、皇帝としての責任感などはあまりない。
皇帝になってからは執事にテンジョウ様と呼ばれていたが、親の死で呼び方がいきなり変わるのは気持ち悪いということで、坊っちゃまと呼ばせている。

だがその身に秘めた忍としての才能は父をも凌ぐと呼ばれている。
ミツルギ家の者のみに宿る特別な「眼」の力を、テンジョウは生まれた時から宿していることからも、彼のポテンシャルの高さが伺えるといえよう。



「坊っちゃま。御髪が乱れているではありませんか。先程ご自身で整えると仰られていたのに……」

「あー忘れてた……てか別にいいじゃんか、社交場でもあるまいし。こいつらと話すだけならパジャマでもいいくらいだろ。」

スマホゲームをやりながらつかつかと自分の席に着いたテンジョウは、椅子を足で移動させてドカっと座り込んだ。

「相変わらずやな〜テンちゃん。身長も相変わらずやわ。その成長スピードじゃウチを超えることもできないで!」

「し、身長の話はやめろよ!…あ゛ー!コトネがそんなこと言うからランク戦負けたじゃないかー!」

「……お坊ちゃま。シン様はいらっしゃっておりませんが、もうお時間も過ぎているので、ご挨拶が終わりましたら本題の方を。」

「はいはい、わかったよ。じゃあどうでもいい挨拶は省いて本題から話すぞー。」

およそ皇帝とは思えない言動だが、討魔忍の面々は特に気にした様子はない。
約1名、内心とても胸糞悪くなっている男がいるが、それを表に出すこともない。
テンジョウはスマホを切って執事に渡し、充電しておくように伝えると寝癖を弄りながら皆の方へ向き直った。



「ルミナスとトーメントが戦争して、今回はルミナスが防衛に成功した。シーヴァリアの連中の協力もあって、ひとまず国営に問題はないそうだ。」

「そうだったんですね……ルミナスからは和菓子の材料になる良質な水が取れますから、よかったです。」

「ななっちの和菓子は高値で売れるからな!売店の横に製作者の顔ってやってななっちが作ってる姿添えれば飛ぶように売れるんやで!売れ残った試しがあらへんわ!」

「……………………」

「コトネ……七華が複雑そうな顔をしているぞ。少しは味についても説明してやれ……うぷっ。」

「……おい、話が脱線してる。イベ回さなきゃいけないんだからさっさと終わらせるぞ。」

テンジョウはそう言うと、服のポケットから無造作に一枚の紙を出してテーブルの上に放った。



「戦争後、渦中のリムリットとリリスの奴から届いた手紙がこれ。キリコの奴が昨日持ってきた。」

討魔忍達はすぐに手紙の封書を見る。
そこに書かれていたのは、シーヴァリア、ルミナス、ナルビア、ミツルギの同盟締結についての信書だった。


960 : 名無しさん :2018/04/28(土) 18:51:39 ???
「んで、この4国間同盟。乗るべきや乗らざるべきや、だが……」
「ふんふん。面白そうやないですか…。同盟がうまいこといって4国間の貿易が活発化すれば、色々儲かりそうやし!」
最初に興味を示したのはコトネだった。
(和菓子の材料調達も、やりやすくなりそうですね……)
(ミツルギにマヌケな観光客でも来るようになりゃ、『狩り』の獲物が増えるな)
(シーヴァリアの蒸留酒……以前一度飲んだことがあるが、アレは美味かった)
他の面々も、単純な軍事力強化や、その他の個人的な理由もあって、他国との交流には歓迎的のようだ。ただ……諸手を挙げて賛成とは行かない。

「しかし陛下……この同盟は明らかに、トーメント王国に対抗するためのもの。つまり同盟締結イコール、トーメントとの全面対決という事になりますな」
…ラガールが代表して意見を述べる。他の者も、同様の懸念を抱いていた。
現在のところ、トーメントとミツルギの仲は比較的平穏。今事を荒立てるのが、果たして得策なのかどうか……

「うむ。父上は、あの連中とはそこそこ上手にやっていたようだが……奴らがいつまでも大人しくしているとは思えん。
どうせいずれ戦う事になるなら、この際先手を打って……というのもアリだな」
「……では、同盟に応じる、と?」

「つっても、二つ返事で引き受けるのは得策じゃあないな。その前に…ルミナスやシーヴァリアの連中が、果たして頼りになるのか?
 ミツルギと力を合わせたとして、本当にトーメントに勝てるのか?見極めておく必要がある。……そこで、だ。」
テンジョウはにやりと笑いながら、少年のように目を輝かせた。…実際少年なのだが。

「ちょうど、闘技大会の予選やってたよな?本戦ともなれば、ミツルギ武道館が連日満員になる程の一大イベント。
その本戦の前に、エキシビジョンマッチを開催する。対戦カードは……
シーヴァリア、ルミナスの代表1名ずつと、ミツルギの代表2名によるタッグマッチだ」
テンジョウの言葉に、その場にいた4人はどよめき…ローレンハインも動揺を隠しきれず、僅かに眉を動かした。

「おおお……めっちゃ豪華カードになりそうやん!こうしちゃおられん!早速賭けの準備や!」
「となると、こちらの代表は……我々のうち2名が出る、という事ですか」
「そーいう事だな。奴らの実力を見るためだ。本気でやれよ」
「あ、ウチはパスで頼むわ!賭けの胴元が、試合に参加するわけにいかんからな!」

「…異国の戦士と拳を交えるとは、願ってもない機会。そのお役目、ぜひ私に……(姫騎士&魔法少女ktkr!大観衆の前でギッタギタにリョナってやるぜぇぇぇ!!)」
「お?ザギが珍しくやる気だな。じゃ、一人は決定として……もう一人は、七華…」
「は、はい。精一杯務めさせて頂きます」
…テンジョウは、七華を指名しかけたが……

(!?…いやちょっと待て!あのアホらぎと組むだと!?…万が一、相手の連中に黒ひげ人形をディスられて、あの火の出る竜とか出てこられたら……俺までヤバくね!?)
「へ、陛下!…私は、是非ラガール殿と組みたいと存じます!」
「……え、なんで?…よくわからんが、まあお前がそう言うんなら……そういう事でいいか?ラガール、七華」
「は……はい。よくわかりませんが、仰せのままに」
「わ、私の精進が足らないという事でしょうか…」

「七華を怒らせるとヤバい」というのは全員の共通認識ではあるのだが、
「七華を本気で怒らせるとその場にいる全員虐殺するレベルでヤバい」事を知っている人物は数少ない。……というか、七華本人ですら知らない事実であった。


961 : 名無しさん :2018/04/28(土) 20:57:35 ???
「陛下…遅レテ申シ訳有リマセン」
話がひと段落した所に、黒いマントを羽織った剣士……討魔忍五人衆の一人『残影のシン』が現れた。

「おう、遅かったな。つーかもうメインの話は大体終わったけど。
……んじゃ、ラガールとザギは試合に備えておいてくれ。
残り3人には別の任務を振る。俺はイベあるんで、詳しい事はローレンハインから聞いてくれ。んじゃ!」
「…はい!」
「ガッテン承知や!」
テンジョウはローレンハインからスマホを受け取ると、速足で食堂を出て行く。
ラガールとザギも退出し、後にはローレンハインとシン、コトネ、そして七華の4人が残された。

(ザギさんに共闘を断られるなんて……きっと私の実力が足りないせいですね。もっと精進しなければ……)
「……様。七華様?どうなさいましたか」
「はっ…!……す、すみませんローレンハイン。何でしょうか…!」

「……シン様もいらっしゃった事ですし、陛下から賜った任務について、改めて説明致します。
まずは一つ……国際指名手配犯の魔剣使い『アルフレッド』…かの者がミツルギ皇国内に侵入したとの情報です。
これまでとは違い、今回は複数人の仲間と行動しているとか。……これが意味する所は、すなわち…」

「……『運命の戦士』……禁足地『魔の山』に眠る遺跡の『鍵』となる者達を揃えた、という事でしょうか」
「…その可能性は高いと思われます。
一方で、トーメント王国のスパイも同様に、遺跡に眠る『神器』を狙って我が国に侵入しているとか」
「今ハ闘技大会デ、人ノ出入リモ激シイ……潜入ニハ、ウッテツケダロウナ」
「彼らを始め、国内に潜伏するスパイの動向を探り、『神器』を死守して頂きたい…それが今回の任務です」

「『神器』か……お宝には興味あるけど、そこまで行くとさすがに値はつけられんやろなぁ…
…とにかく、わかったで。ほんなら、ウチは闘技大会の出場者に怪しいもんがいないかチェックしとくわ!」
「デハ、残ル我々ハ手分ケシテ……」
「ええ……魔剣使いの一味と、トーメント王国のスパイを探しましょう」

七華が船を降りる時に出会った少女「篠原唯」。
シンが助けたアウィナイトの少女「リザ」。
…彼女たちこそが探すべき標的、あるいはそれに連なる者達である事を、七華とシンはまだ知らない。


962 : 名無しさん :2018/04/29(日) 00:08:45 ???
「リザ、大丈夫か?歩くの辛かったら……おぶってやろうか?」

「……大丈夫、心配かけてごめん。もう大丈夫だから。」

シンに治療を施されたリザは、ヤコに肩を貸されふらつきながらも、ミツルギの市街を歩いていた。
毒は抜けたが痺れが抜けきるのはまだ時間がかかるらしく、一人で歩くのは難しい状態であるため、二人は空いている宿を探している。

「……ごめんね、ヤコ。こんな風に迷惑かけちゃって……」

「い、いや……いいってことよ。結局全部お前頼みの計画だし……俺こそなんの力にもなってやれなくて、ごめんな。」

「……別にヤコが謝ることない。私のお母さんもそうだけど、ヤコの家族のことも私は助けたい。……これは誰に強制されたわけでもない、私個人の意思だから。」

(うぅ、耳に近いところでリザの声が響くぅ……!)

はっきりとした口調で言葉を紡ぐリザ。だが耳元で喋られているせいで、ヤコは少しドキドキしてしまっていた。
だがその一方で、ヤコには少し引っかかることがあった。

「……な、なぁリザ。一つ聞いてもいいか?」

「……なに?」

「お、お前さ……どうして俺の家族のことも助けようとしてくれるんだ?今更こんなこと俺が言うのもなんだけど……どうしてそこまで……?」

ヤコはリザに嘘をついている。自分の好意を抱いていることを隠して、自分の家族が収容所にいると嘘をついている。
だから本当はリザの母親さえ助かれば、それでいいのだが……

「……そ、それは……」

リザはヤコに隠し事をしている。彼が暮らしていたアウィナイト保護区を作ったのは自分で、それを維持するために暗殺者としてトーメントに仕えていることを。
アウィナイトの種族を過酷な運命から守ること。それが自分の得た瞬間移動の力……シフトの力を持った自分の使命だと、リザは思っている。
家族以外のアウィナイトも、リザは等しく救いたいのだ。

自分のように平和な暮らしを壊され、凄惨な人生を送る仲間が増えること。その運命に抗うことが出来るアウィナイトは自分1人だけ。
それならば、自分が闘うべき運命はこの世界の理。
皆が美しい容姿を持つ故に奴隷種族にされてしまった、アウィナイトの復興。
そのためにリザは今まで、救世主と暗殺者の仮面を何度も付け替えながら闘ってきた。

だがそんな自分の境遇を誰かと共有する必要は……リザにとって一つもない。
血生臭い暗殺者であると知られたくない。
人殺しを見るような怯えた目で自分を見てほしくない。
……そんな都合のいい自己保身の思いが、リザの心にはまだ残っているのだ。



「……………………」

「い、言いたくないならいいぜ?べ、別にそんな大した疑問じゃねーし!ただ……リザはすげえ優しいんだなって思ってよ。」

「……やめてよ。急に褒められるとなんか気持ち悪い。」

「お、お前ナ……褒めてやるとこれなのかよ……」
(まあ、素直じゃないそういうところも今は可愛いと思えちまうんだけど……)



短い会話に2人の思惑が複雑に絡み合ったが、それにお互いが気づくことはなかった。
そしてそんな2人を物陰に隠れて見つめていたのは……

(あ……あれは……!あれは一体……なんなんですのおおおおぉぉぉ!!!)

ピンク色のツインテをぐいぐいと引っ張り、これが夢なのではないかと何度も確認している、アイナだった。


963 : 名無しさん :2018/04/29(日) 10:52:48 ???
「アイナちゃんどうしたの?そんな所で……ロゼッタさん探してたよ?」

「え、エミリアちゃん……!たたた、大変ですわ!リザちゃんが……!アイナのリザちゃんがどこの馬の骨とも知れぬ男に誑かされてますわーー!!」

「ええ!?リザちゃんがここに来てるの!?それも男の人と!?」

コソコソと物陰に隠れていたアイナを見つけたエミリア。同じく物陰に隠れ、アイナの指差す方を見ると……確かにリザが、顔立ちの整った少年と共に歩いていた。
いや、共に歩くというレベルではない。男の方がリザの身体にベタベタとくっついており、リザも男に完全に身を任せているように見える。実際はダメージの残るリザに肩を貸しているだけなのだが……

「一体全体絶対どうなってますの!?リザちゃんがミツルギにいるのはこの際置いといて、あんな鼻の下伸ばした男と一緒にいるなんて……!ま、まさかリザちゃん……!」

「あ、アイナちゃん、リザちゃんとあの人が宿屋に入っていくよ」

「宿屋!?ホテル!?い、いけませんわ!このままではリザちゃんがホテルで無理矢理キスされて、男の方はお酒のせいにして反省してるんだかしてないんだか分からない態度を取るに決まってますわ!T○KIOの某メンバーの如く!!」

「え、それは流石に考えすぎじゃ……」

意味のない伏せ字をして飛躍した発想をするアイナ。実際はダメージを癒す為に宿を取ろうとしているだけなのだが……。

「こうしちゃいられませんわ!リザちゃんを性に飢えた野獣の手から救い出しますわよ!このままでは今までギリギリR-15くらいだったリザちゃんがR-18な目に!」

「でもアイナちゃん、その、本当にそ、そういう関係だったりしたらどうするの……?」

「その時はアイナとエミリアちゃんであの野郎がリザちゃんに相応しいかテストしますわ!アイナたち二人に勝てないようではリザちゃんには相応しくないですわー!」

ボコボコにしたい口実をそれっぽく取り繕いつつ、アイナはリザとヤコが入っていった宿屋に突撃する!


964 : 名無しさん :2018/04/30(月) 08:30:11 kbfXGTbc
「はいいらっしゃい。宿泊なら1人一泊5000ナーブルだよ。」

「ヘイマスター!今金髪の美少女と醜いスケコマシの男死がここに来たはずですわっ!何合室にいるんですの!?」

「うおっ、な、なんだなんだ?」

宿屋に入るなりカウンターに手を叩きつけて飛び上がりながら叫ぶアイナ。
その後ろにいるエミリアは迷惑そうな周りの客に、ぺこぺこと頭を下げていた。

「おいおいお嬢ちゃん、いきなりそんなこと言われても客の情報は教えられないよ。冷やかしなら帰ってくんな。」

「うむむむむ……!こうなったらエミリアちゃんのおっきいおっぱいで色仕掛けをしてもらうか、アイナの能力で消えるしかなさそうですわね……」

「わ、私の色仕掛けは選択肢から外してほしいなぁ……そ、それよりアイナちゃん、ちょっと話したいことが……」

「ん?」

店には居づらくなってしまったので、エミリアはアイナを宿屋の外に連れ出した。



「なんですの?こんな時緊急事態のときに呼び出して。早くしないとリザちゃんの眼前にくさい棒が突きつけられてしまいますわ!」

「……あ、あのね……!これ以上はリザちゃんのプライベートなんじゃないかと思うんだけど……!」

「ぷらいべーと?そんなの関係ないですわ!リザちゃんはアイナにとってピー○姫なのですから、性欲丸出しのクッ○に奪われたら殺してでも取り返すまでですわ!!!」

「いや、関係なくはないよ……だって今リザちゃんって休暇中なんでしょ?それでこのムラサメにいて、しかも男の人と一緒にいるってことは……ね?」

エミリアのなにやら確信めいたセリフに、アイナは手を口に当てて頭の良さそうなポーズをとった。

「……つまりこういうことですわね?リザちゃんはアイナというものがありながら、他所で男を作り、普段取らない休暇を取ってまでその男との逢瀬を果たし、今ここで蜜月の夜を過ごそうとしている……と。」

「そ、そんな生々しい表現はいらないよ!アイナちゃんそういうのどこで覚えてるの……?」

「夜の帳が下りた後、怪しいホテルの一室の中で響き渡る、聞く者の耳をとろかすような甘い甘い甘ったるい嬌声……!そこには暗殺者としての仮面を捨て去り、1人の女としての快楽に打ち震えるリザちゃんの姿が……!」

「や、ややっ、やめてよぉっ!官能小説みたいになってるからあっ!」

エミリアはそういうと顔を隠して蹲ってしまった。どうやら赤面しているらしい。
とはいえ、官能小説自体は知ってるのか、とアイナは思った。

「とにかく!アイナはあんなち○こから先に生まれて来たような男にリザちゃんを預けて放置するのは反対ですわ!そもそもホテルに連れ込んでる時点で怪しさ満点ですわよ!」

「あ、アイナちゃん!なんとなく気持ちはわかるけど、あんまり踏み込んじゃダメだって!……あ!」

エミリアが瞬きをした瞬間、アイナの姿が消えた。


965 : 名無しさん :2018/04/30(月) 14:13:22 ???
「では、いきますわよ。絶対に動かないで……ヴァイス・シュラーク!」
「お、おう………こい…っ……!」

彩芽の首に巻かれた洗脳首輪は、アリサによって斬り落とされた。
書く人も読む人もいい加減忘れてるだろうし、覚えてた人もむしろ「今までずっとつけてたんかい!」と思われる事だろう。

彩芽を嫁と称して付け狙う「教授」の発明品であり、これを着けているとどんな命令でも(教授に限らず誰の命令でも!)従ってしまうと言う恐るべき首輪である。
研究都市アルガスでのワルトゥとの戦いで放電して首輪の内臓バッテリーが切れた所へ、鏡花の攻撃力アップ魔法で強化したアリサの剣技によってはじめて斬り落とす事が可能な、いわゆる「最悪やらなくてもクリアには支障ないおまけイベント」的な位置づけのやつであって、決して今まで忘れていたわけじゃはい忘れてましたごめんなさいもうゴールしてもいいよね(ry

「…いやー。もう逆に、首に何か巻いてないとスースーして違和感あるな!」
「本当によかったね彩芽ちゃん!あ、じゃあ代わりに何かアクセとかつけてみれば?町の中色々回って探してみようよ!」
「あのヘンタイ教授からロックオンされるとか、ホント災難だったわね……ほんと、外れてよかったわ」
「ありがとうありがとう…ところで唯と瑠奈の生声って初めて聴いたけど、あいなまとたねちゃんぽくない?」
「……声聞いて最初の感想がそれってどうなのよ。つか生声とか言うな」

こうして彩芽を長年苦しめていた教授の洗脳首輪はゴミ箱にポイされた。……かと思われたのだが。

「くさそう」
それを密かに回収していたのは、臭いに敏感なナルビア王国の工作員であった。

「くさそう」(934号から931号へ。一級指定アイテムの一つ『洗脳首輪』を入手した。例のポイントに送信する)
「くさそう」(了解した。こちらはリゲルの関係者を捕らえ尋問している。間もなく口を割る見込み……ぐわあっ!?)
「くさそう」(!?……どうした931号!応答しろ!931号--!!)
「くさそう」(………………ブツッ ザーーー)

…所変わって、トーメント王国首都イータブッリックスの某所。諜報員931号…舞を捕らえていたくさそうの人に、一体何が起こったのか。

「う、ぐっ……はぁっ……はぁっ……」
舞の両手は全ての指から爪を剥がされて、痛々しく血を流していた。
くさそうの人は続いて足の爪に拷問を加えようと、舞の片足の拘束を解き、ブーツを脱がせる。その時……

「くさそう」(くさそう)
ほんのわずかな一瞬、くさそうの人の注意が反れた。
「…たあっ!!」
(ゴスッ!!)
その一瞬の隙をついて、舞はくさそうの人の顎に膝蹴りを叩き込んだのである。

「くさそう」(ぐわあっ!?)
「……はっ!!」
(ドカッ!!)
「くさそう」(………………ブツッ ザーーー)
くさそうの人が悶絶している間に、自由になった片足で更なる一撃。側頭部への回し蹴りが奇麗に決まり、くさそうの人は完全に気絶した。

「……今のうちに逃げなきゃ」
くさそうの人から変身アイテムを奪い返して『葬黒』することで、舞はようやく椅子の拘束から脱する事ができた。
…だが、事態は急を要している。ナルビアのスパイがトーメントの首都にまで潜入していて、ユキや、サキの母親の身柄を狙っているのだ。
(任務中のサキ様とは連絡が取れない。今、二人を守れるのは……私しかいない)

「くさそう」(931号!何があった-!……まさか、捕虜が逃走したのか…!?
おのれっ…ただちに他の諜報員…『800番台』を向かわせろ!ナルビアに弓引く者に、血の制裁を!!)


966 : 名無しさん :2018/04/30(月) 19:04:39 ???
「リザ……大丈夫か?」

「うん、ちゃんと休めば大丈夫……明日の正午には本戦のメンバーはほとんど出揃ってるって話だから、あんまりゆっくりはしてられないけど……」

リザに肩を貸して宿屋の一室に入ったヤコは、そのままリザをベッドに横たわらせた。

(うう、女の子をベッドに寝かせるのって、なんでこんなに悪いことしてるような気分になるんだ……!ていうか冷静に考えたら今の状況ヤバくないか……!?女の子とホテルで二人っきりだぞ!?)

内心ドキドキしっぱなしのヤコだが、なんとか平静を装って話しかける。

「ほ、星は最後の方にたくさん持ってる奴から盗むことにしてさ、今はとにかく休もうぜ」

「うん……ヤコも色々あって疲れたでしょ?」

「ば、俺は何にもしてねーから疲れてるわけねーだろ!」

反射的に強がるヤコだが、非日常的なイベントの連続でヤコは精神的に疲弊していた。しかしそれを表に出さないように、ヤコは空元気を出した。

「流石に公共の宿屋でドンパチやろうって参加者は少ねぇだろうけど、さっきの爪野郎みたいなのがいないとも限らねぇから俺は部屋の外を見張ってるぜ!」

「あ、ちょっとヤコ……」

そのまま捲し立てて部屋から飛び出すヤコ。麻痺が抜けきらずにぐったりしている意中の相手と、宿屋の一室で二人きりという状況を改めて認識して恥ずかしくなってしまったのだ。

「ふぅ……ヤバいヤバい、あんなに強いリザがぐったりしてるののギャップやべぇよ……とりあえず一旦落ち着こう……」

と、部屋の前で気持ちを落ち着けていたヤコの足元に、フリスクのケースが床を滑ってきた。

「ん?なんだ?」

「なんということですの!?お口のケアの為のフリスクのケースが落ちてしまいましたわ!もしもこの後女の子とあーんなことをしようと思ってる野郎がフリスクを拾ったら、丁度良かったと言わんばかりに盗む的な意味でパクられて食べる的な意味でパクリとされて性的な意味で女の子がパクリされてしまいますわー!」

「いやマジでなんだ……?」

どこからか騒がしい少女の声が聞こえてくるが、不思議なことに姿が見えない。何はともあれ、このフリスクの持ち主はこの声の主のようだ。とりあえず足元のフリスクのケースを拾うヤコ。その時……!

「ぃって!?あばばばば!!」

「かかりましたわね間男!そのフリスクのケースは超強力ビリビリグッズですわ!しかも遠隔操作でビリビリを流す教授お手製!さぁ、覚悟ー!」

ステルスを解除したアイナが、ビリビリを受けて悶絶しているヤコへ襲い掛かる!

「ちょ、ま……!参加者か!?」

「サンカシャ?よくわからないですけど、ふんじばってゲ○バーに放り込んでもうリザちゃんに手を出せないようにしてやりますわ!」

「え、リザの知り合い?ていうか○イバー!?ちょ、やめ……止めろぉ!俺にそっちの気は……!」

懐から取り出したロープでヤコをグルグル巻きにしていくアイナ。そんな風にドタバタと騒いでいると……二人の前の扉がガチャリと開いた。

「ヤコ、さっきから騒がしいけど大丈……アイナ!?」

「り、リザぁ!助けてくれぇ!」

「助けに来ましたわリザちゃん!もうこのあんちくしょうがリザちゃんに手を出すことはありませんわよー!」


967 : 名無しさん :2018/05/01(火) 23:13:22 ???
「……やれやれ、まさか俺が動員されるとは……俺はアクアリウムでもしながら穏やかに暮らしたいんだがなぁ」

「くさそう」(無駄口を叩くな、881号……いや、かつての異名……『ヤバい奴』と呼ぼうか?)

「そういうのはもう卒業したよ……今の俺はダイ・ブヤヴェーナ……ただの兵士Dさ」

俺の名前はダイ・ブヤヴェーナ。人呼んで兵士D。ガバガバ知識で水滴拷問をやろうとする同僚にアドバイスしたりする、善良な兵士さ。職業は自宅じゃない警備員……だったんだけど、今は諜報員なんてやってる。つーか警備員の前にも諜報員やってて、こないだ逆戻りした。

昔は結構ヤンチャしててヤバい奴とか言われてたんだけど、大人になって落ち着いてからはアルガスでのんびり暮らしてた……が、ある日アルガスのトップが暗殺されてからは大変だった。警備員の再編があって、いい加減ブラブラ遊んでないでもっと働けってことで俺も諜報員に出戻り。

それで短期のバイト警備員としてシーヴァリアに潜入して密かにリンネって同僚のサポートをしてたんだけど、こないだ契約満了でバイトは終わった。リンネも既にサポートは必要なさそうだった。

んで、次はトーメントに潜入して敵をどうにかしろってことで、930番台と呼ばれる変な暗号で喋る同僚と共にイータ・ブリックスにいる。

「くさそう」(ターゲットはリゲルの関係者である柳原舞……中々手強い相手だ、油断はするな……931号も尋問中にやられたらしい)

「931号は俺みたいな戦闘タイプでもリンネみたいな拷問タイプでもないからな……慣れないことはするもんじゃないぜ……大して詳しくない癖にガバガバ水滴拷問試したりな……全く、俺が来なかったらどうするつもりだったんだか」

「くさそう」(何の話だ……?とにかく、以前931号が手に入れた柳原舞のブーツの匂いを元に先行部隊が奴を追跡している。速やかに合流しろ。リゲルの妹か母親を捕まえて、オメガ・ネットに潜入しようとしているリゲルを交渉で止めるのだ!)


968 : 名無しさん :2018/05/02(水) 09:19:27 ???
「アイナ……勘違いしてるよ。その人とは成り行きで一緒にいるだけで、別にそういう関係じゃないから。」

(えええええ……せめて私の友達なんだ〜とかいうフォローは入れてくれよおぉ……!)

特に感情もなくさらりと言い放ったリザのセリフに、ヤコは思いがけないメンタルダメージを負ってしまったのだった。

「むむっ?そうなんですの?……てよく見たら……こいつアウィナイトですわね。眉目秀麗イケメン男子で、近くで見たら惚れちゃいそうですわっ……!」

「ええ!?な、なに言ってっ……!ていうかこの縄、早く解いてくれよ!」

「ふふん……イケメンを縛って鑑賞するのもたまにはいいものですわね。ほら、アイナの足を舐めろですわ!」

すっかり女王様気分になったアイナは、縛られて動けないヤコの目の前に足を突き出した。

「ホラホラホラホラ、美少女アイナの綺麗な生足ですわよぉ〜?13才ロリの瑞々しいおみ足をありがた〜くブヒブヒ舐めろですわ!この醜い豚がぁ!」

「な、なな、なに言ってんだよぉ!り、リザ!このピンクお前の友達だろ!?なんとかしてくれぇ!」

「はいはい……アイナ。悪ふざけはもうその辺にして、ちょっと宿屋の外で話そう。」

「……リザちゃん……なんか最近は当たり前のように普通に喋るようになって……!アイナは割と真面目に感動しておりますわ!」



誤解も解け、ヤコから離れてお互いの状況を確認しあったリザとアイナ。
リザは母親とヤコの家族を助けるため闘技大会へ参加。アイナたちは魔剣使いアルフレッド討伐に向けて動いていることがわかった。

「リザちゃん……お母さんとあのイケメンの身内を助けるために、ミツルギの危険な闘技大会にたった一人で参加するなんて……!もう毎度毎度健気すぎて、アイナは涙がちょちょ切れそうですわっ……!」

「……この戦いは任務は関係ない、私の個人的なものだよ。……アイナにはアルフレッド討伐の任務があるし、私のことは気にしなくてもいいからね。」

「うぅむ……まぁリザちゃんなら大丈夫だとは思いますけれど……それにしてもあのヤコとかいうイケメンは、リザちゃん一人にこんな危険な戦いを押し付けてるだけなんて!一言物申してやりますわ!」

「え……なにを?」

「それはもちろん、リザちゃんのおかげでアウィナイト保護区があるというありがたい事実ですわ!あの豚はそんな恩も知らず自分の家族のためにリザちゃん1人にこんな戦いを強要して……!」

ギリギリと歯ぎしりをするアイナ。だがリザはゆっくりと首を振った。

「……別にいいの。これはお母さんとヤコの家族を救うために、私が望んだ戦いだから。……私が保護地区を作ったのも、ヤコには知られたくないから言わないでね。」

「うぅ……リザちゃん、本当に立派ですわ……!天国のドロシーもきっと、今のリザちゃんの姿を見て感動していますわよ……!」

「もう……アイナはいつも大袈裟だよ。」

久しぶりの再会に、宿屋の中でヤコを縛っていることも忘れて語らい合う2人。
その後ろで彼女達へと近づく影に、気づくこともなく。


969 : 名無しさん :2018/05/02(水) 09:26:10 dauGKRa6
「……聞こえましたよ。あなたたち、魔剣使いのアルフレッドを探しているのですね。」

「……ッ!?」

突如背後から聞こえた声に得体の知れない危険を感じ、リザは後退しつつ素早く向き直る。
そこに立っていたのは……黒巫女服を着た少女と、棺桶のような大きな入れ物だった。

「……さあ、なんの話ですの?アイナとリザちゃんの再会シーンに水を差すような真似はやめてもらいたいですわね……!」

「……誤魔化しても無駄ですよ。クロヒメ様のお耳にあなた方の会話が入っていたのです。魔剣使いアルフレッドの名前の入っていた会話が……」

「……それで?私たちに何の用?」

はっきりとした声でリザが尋ねると、巫女服の少女はにこりと優しく微笑んだ。



「少し私と、お話をさせていただきたいだけなのです。なぜあなたたちが魔剣使いのアルフレッドを探しているのか……ミツルギの美味しいお茶をご馳走しますから、私とお話ししませんか?」

落ち着いた口調でにこやかに話す巫女服の少女。その笑顔と優しい声に、一瞬警戒感の緩んだ2人だが、すぐに落ち着きを取り戻した。

「い……嫌ですわ!なにが悲しくて巫女のコスプレした痛い女とおしゃべりしなくてはいけませんの?アイナはリザちゃんと話しているんですわ!さっさと!去ね!ですわ!」

アイナが強い口調でそう言い放つと、黒い巫女服の少女は、ふう、と小さな息をついた。

「それならば……仕方ありません。怪しい者は捕まえろという皇帝の命に従い……ここで貴方達を拘束します。」

巫女服の少女が残念な様子でそう言った瞬間、アイナの目の前からリザの姿が消えた!



ガキイイィィン!!!
(え……防がれた!?)

不意打ちのテレポートで巫女服の少女に急接近したリザの手に持つ刃は、少女の顔の数センチの所で大きな腕に止められていた。

「とても早いですね……でも早業だけでは、私を殺すことはできませんよ。」

「くッ……!」

リザの目の前にある巫女の青い目は、凶器を目の前に突きつけられたにも関わらず、焦りの色が全く見えない。
只者ではない気配を感じ、リザは素早くその場を離れた。



「……その傀儡女……聞いたことがある。討魔忍五人衆には巫女服の絡繰り人形使いがいるって。」

「あ、アイナも知ってますわ!神楽木七華……!踊るように傀儡を操り、自分の服も手も返り血で汚すことはなく、その様子は美しい殺戮と言われた黒巫女……!まさかあなたg」

「クロヒメ様は傀儡でも人形でもありませんッッッ!!!!!」



突然、あたりに響き渡るような大声で叫んだ七華。リザもアイナも七華のあまりの変貌ぶりに、しばらく鼻白んでしまった。

「……クロヒメ様は、私の手によってこの現世に顕現された神様です。それ以上クロヒメ様を傀儡や人形と呼び愚弄するのならば……情報を吐かせた後、容赦なく惨殺します。」

(……あ、これはちょっとアブない性格の人だ……)

「……ふん!そんな可愛い顔しながら萌え声で脅しても無駄ですわ!アイナとリザちゃんの最強美少女コンビに勝てると思っている単細胞コスプレ女は、ここで華麗に成敗してやりますわ!ねぇリザちゃ……ん?」

「……………………」

アイナがリザを見やると、リザは肩を抑えて少し苦しそうにしていた。
無理もないことである。未だ体の痺れが抜けきっていない彼女は、戦闘になる前に先ほどの一撃で確実に仕留めきるつもりだったのだ。

「リ、リザちゃん……?一体どうしたんですの……?どうして、悔しい……でも感じちゃうビクンビクン状態なんですの……?」

「……そちらのアウィナイトの方。先ほどからずっと震えているのが、武者震いでないことはわかっていますよ。でも……絶対に逃がしません。」

冷淡にそう言うと、七華は目で終えないほどのスピードで手で印を結び始める!

「な……!させませんわっ!」

素早く透明になって接近するアイナ。それと同時にクロヒメが七華を守るように前に出て、アイナに体当たりを仕掛けた!

ドカッ!
「きゃあああああっ!!」

「あ、アイナあぁ!うぅんっ!くっ……!」

素早くテレポをしようとしたリザだが、その途端にビクン!と体が痺れて不発に終わってしまった。

「結界術・冥死縛殺!」

それと同時に七華の術が発動し、3人の姿は路地から消える。
この小説ではお決まりのパターン……誰にも干渉されないフィールドでの戦いの幕開けである。


970 : 名無しさん :2018/05/02(水) 12:53:38 ???
「これは、ノワールの結界……いえ、似ているけど少し違う……?」

「いたたた……ウルトラ○ンネクサスかってくらい毎度毎度おかしなフィールドで戦ってますわね……」

「さて、貴女方の血……クロヒメ様への供物とさせていただきます」

結界の中に囚われたリザとアイナ。それに対し、クロヒメを傀儡呼ばわりされて頭に血が上っている七華が、自らの指をクロヒメと神通力で繋げ、二人へ襲い掛かる!

「リザちゃんがビクンビクン、クリムゾン状態の今、アイナがしっかりしなくては……!ネバネバキャンディー!」

「そんなもの……!」

ネバネバするキャンディーを投げて七華の視界を奪おうとするアイナだが、クロヒメを盾にされて防がれる。だがそれくらいはアイナも想定内だ。

(今ですわ……!)

ステルス能力を使い、『消える』アイナ。リザの不意打ちを防いだ所を見るに、近接戦闘能力の高い相手に思えるが、相手の記憶からもアイナが消えている今、奇襲し放題だ。

(このまま近づいて、かたい棒〜アイナを甲子園に連れてって味〜でぶん殴ってやりますわ!)


「先ほどのシャドウリープとは異なるテレポート、厄介ですね……逃げ場のない攻撃で葬り去ってさしあげます!『蠱毒の破戒』!」

が、アイナが七華の元へ肉薄する前に、クロヒメの体が開き、中に仕込まれていた大量の毒虫が一斉に飛び出した。

闇ルートで購入した虫達は、ほとんどがリザへ向かうが……生物の本能か、『消えて』いるアイナの方へも迫ってきた!


971 : 名無しさん :2018/05/02(水) 17:58:47 ???
無数の、様々な毒蟲達がリザに迫る。
ある者は高速で一直線に、ある者はゆっくり浮遊するように飛行して背後から。
無数の脚で高速に這い寄るもの、強靭な後ろ脚で跳躍するもの、脚のない身体をくねらせ、ゆっくりと近づくもの…

(ぞわり……くちゅ……ざざざざっ……ぶうぅぅぅん……)
「はっ!……やあっ!!………くっ……んっ……!!」
その全てを防ぎきる事は、今のリザには……いや、万全の状態であったとしても困難であった。
テレポートで強引に引き剥がそうにも、周囲は一面蟲に埋め尽くされている。
全てを振り払えるだけの長距離テレポートは、かなりの集中が必要であり……この状況では、到底不可能だ。

「………………」
「くっ……!」
(……ガキン!!)
リザが蟲に気を取られた隙をついて、七課の操るクロヒメが死角から襲い掛かる。
その袖口から伸びる長刀を、リザは辛くも短剣で受け止めるが……

「…逃げられませんよ。クロヒメ様の、死の抱擁からは…」
「きゃっ……!?」
真っ黒い着物姿、長い黒髪と妖艶な表情をした美しい人形が、リザの身体をそのまま抱き留めた。
人形とは思えない程の柔らかい感触、鼻腔を擽る月下香の香り。豊かな胸に無理やり顔を埋めさせられたリザは、唐突で予想外の心地よさに困惑した。
だが次の瞬間、弛緩したリザの身体に地獄の苦しみが襲いかかる。

(…ギリッ………ミシッ!!……ギリギリギリ…!!)
「っ!!……う……は、放、し……うあああああぁぁっ!!」
クロヒメは、その細腕からは想像もつかない強力で、リザの全身を締め付ける。
必死に手足をばたつかせるリザを意にも介さず、ひたすら機械的に、その腕の力を強めていった。
(…グキッ…!!…ミシミシミシミシ………!!)
「……んぐっ!…………い、っ……あ………!!」
(このままじゃ……全身の骨が……テレポートで逃げるしか……)
瞬時の状況判断で、リザは近距離テレポートを試みる。
だが……

「………………」
「……なっ…!?」
離脱したはずのリザの眼の前には、クロヒメのはだけた着物。そこからこぼれ落ちそうな豊満で柔らかい胸が変わらず在った。
「……どっ…どうして………っぷ!!」
リザが思わず顔を上げると、クロヒメは冷たい笑みを浮かべながらリザの頭を抑えつけ、強引に胸に顔を埋めさせる。
「ふふふふ……逃げられないと言ったはずです。貴女は既に、魂までもクロヒメ様に囚われている」
テレポートに失敗したわけではない。
リザに密着していたクロヒメは……人形は、無生物。それゆえ、着ている服と同様にリザが無意識のうちに一緒にテレポートしてしまったのか。
あるいは…七華が言うように、クロヒメの死の抱擁は、超常の力でも引き剥がせない特別な力を持っているのか。

(………ゴキン!!………メキッ……ミシッ……!!)
「…っ…あぐっ!!………んっ……う、あっ……!!」
……いずれにせよ、これでリザに脱出の術はなくなった。

(駄……目っ…!!…私は、こんな所で……やられる…わけ、には………)
月下香の花……その花言葉は「危険な快楽」。
その香りに包まれながら、やわらかな胸に顔を埋め、クロヒメに頭を優しくなでられている内に、
リザの全身から少しずつ、少しずつ力が抜けていき……

(……ガラン……)
右手から滑り落ちナイフが、乾いた音を立てて地面に転がった。


972 : 名無しさん :2018/05/02(水) 19:22:55 ???
「…ぅ………ん…」
「ようやく大人しくなりましたね。さあ、クロヒメ様……」
七華の談によれば、御神体であるクロヒメを動かす原動力は………人間の生き血。

「……存分に、お召し上がり下さいませ」
意志の光が薄れ、やや暗藍に近くなったリザの瞳に、クロヒメの美しい顔が映り……まるで生きているかのように生々しい、邪悪な微笑を浮かべた。その直後。

(ドスッ!………ズブッ!!………ザク!ザクッ!!)
「あぐっ!?……っうあ!!………うあ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ!!!」
クロヒメの全身から無数の刃が飛び出し、リザの全身を刺し貫く。大量の鮮血が飛び散り、クロヒメの着物を赤黒く染めていく。
一時的に朦朧状態から脱したリザは、クロヒメの腕の中から逃れようともがくが……凄まじい力で締め付けられている上に、全身を刃で貫かれているため、物理的にも脱出不可能だった。

「安心なさい。急所は外してありますわ……クロヒメ様が好むのは、人の生血ですから。それに……」
(ぞわっ………ぐちゅっ………ぎちぎちぎちっ……)
「…い…や、あぁっ……こない、で…………」
血の匂いに誘われて、無数の毒蟲達がリザの身体に群がり、足元から這い上がってきた。

「どうやら蟲達も、貴女の身体をご所望のようですね。
彼らは貴女のような、新鮮な血肉が大好物。本能のまま喰らい、啜り、毒針を突き立てる」
蟲の大群がボロボロになった特殊戦闘服の隙間に次々と潜り込み、リザの身体に群がっていく。
「んっ……ひ、うぅ……っぐ!!」
その食事の方法は種類によって様々。鋭い牙で肉を直接噛みちぎるものもいれば、傷口から滴る血を舌のような器官で舐め取るものもいる。
そして、中には食事以外の目的を持っているものも……

「……今貴方の太股を這い上がっているのは、クロヒメ様が特に気に入って特別に取り寄せた子で…
なんでも人間の身体の中に巣を作り、卵を産むそうですよ……」
長い触角を持ち、全身棘だらけの巨大なムカデが、リザのタイトスカートに潜り込み、黒タイツを食い破ろうとしている。

その様子を興味深げに眺めている七華だが……下ネタ厳禁な彼女の性格から推測するに、恐らくまだ知らないに違いない。
この虫の『巣作り』と『産卵』がどれほどおぞましく、淫らで……母体にされた人間の身体と精神を、どれほど徹底的に破壊しつくすのかを。

「ひっ………や……やめ、て………う、ああぁぁぁぁああっ!!」


973 : 名無しさん :2018/05/02(水) 20:20:05 ???
(ひっ…!!……な、何ですのこの虫ケラは!!あああ、アイナの姿は、見えないはずですのに…!!)
その一方で、姿を消したはずのアイナにも、蟲は容赦なく群がってきた。
アイナの能力は、姿だけでなく声や足音、匂いまでも消す事ができる、強力なステルス能力…だが蟲達が獲物を探す方法は千差万別。
生物が呼吸して吐き出す二酸化炭素を感知したり、サーモグラフのように微弱な赤外線で標的の体温を察知したり、あるいは別の…人知を超えた力で、魔力や生命力そのものを感じ取れる虫もいるのかも知れない。

そしてアイナの能力は、一度感知されてしまえば全くの無力。
お気に入りのピンクのワンピースは瞬く間に食い荒らされ、乙女の柔肌に汚らわしい毒虫が無数に群がる!
(ざわわわ……がさがさがさっ………ぷぅぅぅん……ちくっ ぐちゅ……じゅぶっ)
(ひっ……い、やああっ!!……な、何て事ですの……んぅ、くっ!!……ひゃうぅ……
く、クリスマスに続いて、今度は虫にまでリョナられる、なんてぇっ……)

群がる毒虫を必死に引き剥がしながら、アイナは己の無力感に苛まれる。
…スラム街での遊び仲間ドロシーから半ば無理やり誘われたのが、全ての始まりだった。
時にはドロシーやリザの力を当てにしたりもした。……もしかしたら、足手まといだったのかも知れない。
だがそれでもアイナは自分なりに努力し、実力で王下十輝星の座を勝ち取った。

(そう……アイナは王下十輝星、ですのよ……それなのに……ザコ兵士には簡単にリョナられ、アイセには捕まり、挙句クラゲや虫にまで舐められて…!!
こんな事じゃ、いけませんわ……アイナは、もっと強くならなきゃ……リザちゃんの、力になれるように……ドロシーの……分、まで……!)

蟲にはたかられているが、七華には依然気付かれていない……
全身毒虫まみれになりながらも消える能力を維持したまま、アイナは必死にリザと七華の元に這い進んでいく。

(こ、こんな虫まみれですけど、どうにかしてあのコスプレ巫女にぎゃふんと言わせてやりますわ…!!
そ、それにしても……妙ですわね。あの女には、どうして毒虫が寄り付かないのかしら……)

敵味方を識別するほどの知能が蟲にあるとは思えない。
七華自身はアイナを認識している様子はないことから、七華の意思で蟲を操っているとも考えにくい。
だとすると……
(大方あの女、自分だけ虫よけ的なアイテムを隠し持ってるんですわね……そうと、わかれば…!……チェストオオオオッ!!)

………………

「……今貴方の太股を這い上がっているのは、クロヒメ様が特に気に入って特別に取り寄せた子で…
なんでも人間の身体の中に巣を作り、卵を産むそうですよ……」
「ひっ………や……やめ、て………う、ああぁぁぁぁああっ!!」
不気味な姿の蟲が、リザの黒タイツを喰いちぎり、下着の下に潜り込み、秘唇をこじ開けようとした……その時。

「え、あっ……そ、その…そんな所から入るのですか?私てっきり、お口から入るものと……」
クロヒメを侮辱された怒りで虐殺モードに入っていた七華が、素の状態に戻り……

(チェストオオオオッ!!)
「ひゃふんっ!?」
同時に、蟲の体液でべちょべちょに汚れたアイナ(透明)が、七華の巫女服の胸元と袴の隙間に思いっきり手を差し込んだ!!


974 : 名無しさん :2018/05/02(水) 21:35:54 ???
「な、なに!?なんなんですかぁっ!?やっ、あああん!」

透明化したアイナはそのまま七華に飛びつき、その勢いで倒れた七華に馬乗りになる姿勢を取った。
目の前の七華はなにが起こったのか全くわからい様子で、驚いた表情をしている。

(やはりアイナのことは忘れているようですわね。それならこのまま……じっくり体を改めさせてもらいますわ!)

所々はだけた巫女服に少々興奮を覚えつつ、アイナは七華の体を弄り始める!



「んやっ!?ひゃあぁんっ!!な、なにこれぇっ……!ふぁ!?そ、そこはぁ……!そこはだめですうぅっ!」

(な、なな……なんて可愛らしく色っぽい艶やかな声ですの……!こんなエロゲー声をアイベルトみたいな童貞が聞いたら擦らずとも射精しそうですわ!し、しかも……顔の割になかなかのサイズしてますし……!)

七華の無駄にエロい喘ぎ声と発育のいい胸に惑わされつつも、アイナは七華の体のどこかに虫除けグッズがあることを信じ、七華を触りまくる。

「んっ、あ!あっ!やぁん!ひ、んぐっ……!そ、そこもだめぇっ!いや、あんっ!ふ、ふにゅうううぅううぅ!」

だが……服や体を調べれば調べるほど七華が無駄にエロい声を出すだけで、そのような物は出てこなかった。



(おかしいですわっ……!どうして……!)

「く……!いい加減に……やめなさい!」

「うおっと!?」

いつのまにかこちらへ来ていたクロヒメが長刀を薙ぎ払い、アイナは飛びのいて回避した。
その際に驚いたせいでステルス状態が外れ……七華の記憶にアイナの記憶が戻る。

(……なるほど。敵の記憶から消える力ですか。でも……虫達はクロヒメ様が蓄えた魔力によって操られている。私の体を調べたところでもう無駄なのです……!)



「どうやらあなたは自殺志願者のようですね。いいでしょう……クロヒメ様へ捧げる贄は、あなたに致します。情報を聞くのはアウィナイト1人で十分ですからね。」

自分の体を辱められたショックのせいか、口調が冷たくなる七華。
戦闘不能になったリザを厨子の中に叩き入れると、アイナに向き直ってクロヒメをカチャカチャと不気味に動かした。

「もう消えても無駄ですよ。私の記憶から消えたとしても、クロヒメ様からの記憶からは消えることはできない。あなたの気配をクロヒメ様が、見逃すことはありません。」

(……くぅ……!毒虫にやられたところが気になりますけれど……!ここでこいつをなんとかしないと、リザちゃんが連れていかれてしまいますわっ……!)


975 : 名無しさん :2018/05/03(木) 00:50:52 ???
(リザちゃんを連れて行かせるわけにはいきませんわ……!とは言えあの傀儡とガチンコ勝負は不利……!ここはやはり、『消え』て不意打ちを狙うしか……!)

「さて、怪しげなアウィナイトは捕まえました……この結界を解くと……クロヒメ様?なぜ戦闘状態のままなのですか?」

アイナが再びステルスを発動することで七華はアイナのことを忘れたが、クロヒメは未だに戦闘態勢を崩していない。

「クロヒメ様……?なるほど、まだ戦闘は終わっていないということですね」

七華も絶対の信仰を抱いているクロヒメの動きを見て、大体の事情を察する。

「ならば、その敵を見つけましょう……『回向の寄香』!」

神通力によって神経を研ぎ澄まし、近くの敵や隠れた敵を察知する術を発動する七華。そうすると、確かに前方に僅かな気配を感じる。

「小賢しい敵がいるようですね……クロヒメ様への生贄とさせていただきます!」

七華がそう叫ぶと同時に、クロヒメが真っ直ぐにアイナの元へ飛びかかってきた!

(ぐっ、位置までバレたんですの!?キャンディガン!)

接近してくるクロヒメにキャンディステッキ型の仕込み銃を放つアイナだが、クロヒメには通用していない。

「開魂の儀!」

(くっ、かたい棒……きゃぁ!?」

仕込み刀を振り回すクロヒメ。ステルスのおかげであくまで大まかな位置しかバレていなかったので、近接戦闘の得意でないアイナでも何とか防ぐことはできたが、その衝撃で再びステルスが解除された。

「あっ!?思い出しました……!よくも神に仕える清廉な巫女である私にあのような……楽には殺しません!」

「コスプレイヤーが何をおっしゃいますの!どうせオフパコ三昧の……くああ!?」

開魂の儀を受けてふらついているアイナの隙を逃さず、クロヒメの四肢が伸びてアイナの両手両足をがっしりと掴んだ。そのまま、アイナの身体を無理矢理大の字に開かせる。


「こうすれば、消える能力があろうと関係ありません……引きちぎって差し上げます!」


976 : 名無しさん :2018/05/03(木) 14:36:59 ???
「確かに貴女の能力は厄介ですが……先程のアウィナイトの方と比べたら、実力は数段下のようですね」
七華が着衣の乱れを糺して再び指を動かすと、クロヒメがそれに応じるかのようにゆっくりと動き出した。

(ミシッ………ギリギリギリッ……)
「人が気にしている事を、はっきり言ってくれますわね………っく、あああぁぁぁんっ!!」
アイナはクロヒメから伸びる四本の手に両手足を掴まれ、大の字の格好で持ち上げられている。
七華の操る人形の握力はすさまじく、手首足首の骨が今にも砕けそうにミシミシと軋んだ音を立てた。

「それに、この結界の中にいる限り、他者の介入も不可能…」
(…ミチッ……ギチギチギチギチ………ブチッ)
「っぐ……コスプレおっぱい女ぁ……そうやって、余裕ぶっこいてるのも今のうちですわ……っが、あ"あ"あ"あ"あ"あぁぁぁ!!」
続いて、クロヒメは四本の腕に少しずつ力を込める。
アイナの両手両足は四方に引っ張られ、肩関節、股関節に急速に負荷が掛けられていく…人体の構造上の限界など、お構いなしに。

「…最早、貴女に生き残る術はありません」
(ギ………ギリリリリ………ギギッ)
「ひっ…がっ!?……な、何を………ま、さか………ん、ぎ、………!!!」
更に、クロヒメは…アイナの手足を掴んだまま、手首をゆっくりと回転させた。
人間なら……いや通常の生物なら、絶対にありえない動きだ。当然、掴まれたアイナの関節が、その動きに耐えきれる筈はない。
七華とクロヒメは、アイナの四肢の関節をねじ切るために、ゆっくり、じわじわと力を込めていく。
クロヒメの人間離れした握力と膂力でがっちり拘束されたまま、アイナは狂ったように体を上下させて暴れる。
そして…アイナは見た。
(じゅるっ………ぐちゅ………ぞぞぞぞぞ……)
……自分のすぐ真下で、毒蟲達が群れを成して待ち構えているのを。

「……ひ、いっ……っぐ………!!」
アイナの両手両足の関節が、間もなく限界を迎えようとしている。

七華は、まるで人形のような冷たい笑みを浮かべた。
クロヒメは、まるで生きているかのような妖艶な笑みを浮かべた。

「このまま手足をねじ切って……芋虫さんのお仲間にして差し上げます」
(……ゴキン!!)
アイナの右肩の関節が外れた。

「……いっ……あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ッッッ!!」
「もっと時間を掛けるつもりでしたが……思った以上に、華奢ですのね」
アイナの右肩関節が破壊されてもお構いなしに、クロヒメは両腕と両脚に、更なる力を加えていく。

「ん、っく!!……あ……アイナは……どうやら、ここまでのようですわね……そ、そこのおっぱい女……お願いがありますわ。
せめて最期は、お気に入りのお菓子を食べながら安らかに逝きたい……その袋の中のチョコを…食べさせてくださいませんこと…?」
声も涙も枯れ果て、憔悴しきったアイナが七華に懇願する。アイナが顎で指し示した先には、アイナのお菓子袋が転がっていた。


977 : 名無しさん :2018/05/03(木) 14:39:31 ???
「お菓子?……こんな毒々しい色の、ゴミみたいな物が…?……つくづく度し難いですね」
中に入っているのは……甘味と言えば和菓子一辺倒な大和撫子の七華にとって、常識を超越した得体の知れないグロい物質の数々である。
七華は眉を潜めつつもお菓子袋を拾い上げ、金色の包みの小さなチョコを取り出し、アイナの口元へ運ぶ……その寸前。

「なんて、その手には乗りませんよ……卑怯者のドブネズミさん。また禄でもない事を企んでいたのでしょう?」
アイナの目の前でチョコを地面に落とし、踏みつぶした。
(…ズドンッ!!)
「残念でし……きゃあっ!?」
瞬間、激しい爆炎と共にチョコが爆発!

「…食べ物を粗末にするからバチが当たったんですわ!」
アイナの一押し『ゴールデンマスタード』…小型爆弾チョコである。
当初の計画では、口で受け取った直後に相手の顔面に吐き出し、至近距離で爆破させる予定だった。

「くっ……!!お菓子そのものが、爆薬ですって…!?」
七華はアイナが何か仕掛けてくる事までは読んでいた。
だが、強化薬剤入りのお菓子でドーピングとか、毒入りお菓子を口に含んでこちらに浴びせようとするとか……アイナの口に近付けなければ問題ない、と考え…自爆覚悟の特効を仕掛けてくるとまでは、想像していなかった。

(浅かった…!?……いいえ、まだ……)
…結果的に、アイナ自身の被ダメージは最小限で済んだが、七華に与えたダメージも致命傷とは行かない。
足を負傷し、よろめく七華。お菓子袋は爆風で舞い上がり、こぼれ落ちたお菓子たちが、アイナの目の前で舞う。
(……終わりじゃありませんわ!)
アイナは素早く顔を動かし、そのうちの一つを口で咥え取った。

「受けてみなさい……ネバネバキャンディー!」
(……べちょり!!)
「っ……何ですかこれはっ…!?」
爆発でバランスを崩し、地面に手を付いた七華。その手に、アイナの口から放たれたネバネバキャンディーが絡みつく。
この一撃により、七華はM字開脚の体勢から動けなくなった……それだけではない。

「くっ………クロヒメ様っ!?……ど、どうして動いてくださらないのです…!」
七華がクロヒメを操るには、繊細な指の動きが不可欠。七華が手を、指を動かせなくなれば、当然クロヒメも……
「拘束が解けた……っぐ!……い、ま……です、わっ……!」
クロヒメの手が緩み、毒蟲の群れの中に落下したアイナ。
すぐさま起き上がり、蟲が集まってくる前に、素早く「それ」を拾い上げた。

「リザちゃんのナイフ……出血大サービスですわ!もってけドロボー!」
アイナは辛うじて動かせる左手でリザのナイフを振り下ろした!
「そっ……んなっ……クロヒメ様あ"あ"あ"あ"あ"っ!!……ん、ぐほっ!!!」
ナイフは七華の胸の中央に、深々と突き刺さる。
七華はしばらくの間身体を痙攣させ、やがて……がくり、と力なく崩れ落ちた。


978 : 名無しさん :2018/05/03(木) 14:43:36 ???
(パキン………ガラガラガラガラ…………)
結界術が解け、周囲の景色が元の街並みへと戻っていく。

「はぁっ………はぁっ………な、何とか、戻れたみたいですわね……リザ、ちゃん……今助け、ます、わ……」
ふらつきながら、リザの閉じ込められた厨子に歩み寄るアイナ。だが、その背後から……

(がさがさっ……ぎちぎちぎちぎち………うぞうぞうぞうぞ)
……毒蟲の群れが、アイナに迫る。蟲達は瞬く間に足元に這いより、我先にと這い上って来た。
「ひっ……ひぎゃああああああ!?…こ、こいつらまで結界の外に戻って来たんですの!?
ヤバいですわこれ!!油断した所でとどめ刺されるB級ホラーの黄金パターンですわー!!」
七華曰く『クロヒメのお気に入り』だという産卵ガチ勢の蟲も、やる気満々でアイナの細い脚にしがみつき……

「せ、せめて……リザちゃん、だけ…でも……」
……一瞬にして、アイナの心は絶望に染まった。
もはやできる事は、厨子の蓋を固く閉じ、我が身を蟲に捧げ……他の誰かがリザを助けてくれることを願うのみ……

………。

「…!?……ななな、何これー!?…ええい!ファイアボルト!!」
「よし、虫は追っ払った…アイナちゃん!大丈夫!?しっかりして!!」
「…ていうか、何このでっかい仏壇……うわーー中からリザちゃんがーー!」
「あっちにも、人が倒れて……うわーーー人形!?…こっちは……っぎゃーーー!!」
「落ち着いて、エミリア……かくかくしかじか」
「ふええ…大変だったねえ。あ、二人ともすごい怪我!!すぐ治療するね!」

……だが幸いなことに、その時は存外早く訪れた。

………

「アイナがいなかったら、殺されてたかも……ありがとう」
「!!……そ、そんな。アイナなんて、リザちゃんに比べればまだまだ……へへ…どういたしましてですわ!」
苦戦しつつも勝利を収めたアイナとリザは、ボロボロになった互いの姿に苦笑しつつも無事を喜び合う。

「ていうか、他の敵が来る前にここを移動した方が良さそうですわね……とりあえずロゼッタと合流しませんこと?」
「そうだね。二人の応急処置は済んだけど、安全な場所で本格的な治療もしたいし……リザちゃんも、いいよね?」
「う、うん。それは構わないけど……(……何か、大事なことを忘れてるような……)」

かくして、三人はロゼッタ達が滞在している高級ホテルへと向かうのであった。

「……もがー!!(リザー!……あのピンクの子も、一体どこ行ったんだ……いいかげん助けてくれー!!)」
………縛り上げられたままのヤコを後に残して。

………………

そして……誰もいなくなった路地裏で。

(…クロヒメ様……クロヒメ、様……)
(ふむ……してやられたのう。いくら弱敵とはいえ、侮るべきではなかった)
(………申し訳、ありません……)
(……まあ良い。わらわには、まだそなたが必要じゃからな……寄れ…癒してしんぜよう)
(はい……ありがとう、ございます…………)
「……クロヒメ様」

七華とクロヒメは、互いに身を寄せ合いながら、厨子の中へと身を収める。

「……不還の入滅(ふげんのにゅうめつ)……」

そして、二人を収めた厨子は神通力によって作り出された異空間へとその姿を消し…後には静寂だけが残った。


979 : 名無しさん :2018/05/03(木) 18:35:18 ???
「ヒューマンボール!」

「!?なっ……!きゃああああ!?」

彩芽の首輪を切り落としたアリサだが、次の瞬間、背後から飛んできた例のボールにまた捕まってしまう。

「な、亜理沙!?」
「ちょっと、何すんのよ!」

「アリサお嬢様は人質です……彩芽さんの首輪を切り落とす為に一時的に解放したに過ぎません。来たるべき時まではこのままボールの中に待機していただきます」

彩芽と瑠奈はボールを投げた下手人……アルフレッドに詰め寄るが、彼はどこ吹く風だ。

「ふん……おい小僧、その来たるべき時ってのはいつだ……?いい加減お前の目的も明かしてもらいたいんだがな」

「……禁足地『魔の山』に眠る遺跡の『鍵』……それを解く際にアリサお嬢様を解放しましょう」

「『魔の山』……?」

「鏡花ちゃん、何か知ってるの?」

「ミツルギの皇帝一族以外は決して踏み入ることが許されない、神聖な場所……そんな所に、一体どうして……?」

「……トーメント王国を滅ぼし、世界を救うためです」

「ふん、あの国を滅ぼす、ね……遺跡とやらには相当大層なモンあると見える」

「それもいずれお話ししましょう……とにかく、このヒューマンボールは私が管理……」

アルフレッドがヒューマンボールを懐に仕舞おうとした瞬間……どこからか飛んできた苦無が、アルフレッドの右手を貫いた。

「ぐっ……!?」

苦無に貫かれた手から、ヒューマンボールが零れ落ち……地面の中に吸い込まれていった。

「誰だ!?」

ダンが威嚇の声をあげながら苦無が飛んできた方向を振り向くと……そこには顔全体を覆う仮面に、真っ黒なマントをした、長刀を携えた一人の剣士が佇んでいた。

「お前は……『残影のシン』!?」

「任務完了ダ……運命ノ戦士ハ、五人揃ワナケレバ意味ガナイ」

突如現れたシン……彼(?)は先ほど地面に消えたはずのヒューマンボールを持ち、油断なく構えている。

「竜殺シノダン、魔剣使イアルフレッド、ソシテ運命ノ戦士……流石ニ私一人デハ手ニ余ル」

忍法でゆっくりと地面に沈んでいくシン。最小限のリスクで、必要な分だけのリターンを得る……その姿、正に忍びであった。

「待ちやがれ!」

「安心シロ、コノ少女モ悪イヨウニハシナイ」

ダンが叫び走り出すが、間に合わない。とぷん、という音と共に、シンの姿は地面の中に消える。

「クソ……あいつ、俺たちの様子を探ってやがったんだ……!」

「ちょ、急展開でついていけないんだけど、どういうこと!?」

「ミツルギの忍びが、遺跡に眠る『神器』を守る為に我々を狙ってきたのですよ……くっ!」

「アルフレッドさん、大丈夫ですか?今ヒールをかけますね!」

「それどころじゃないでしょ唯!どうすんのよ!アリサが攫われちゃったじゃない!」

「討魔忍五人衆、『残影のシン』……ということは、アリサは皇帝の所に……?」

「ちっ、こうなりゃ仕方ない……おい小僧、アリサ嬢ちゃんを助けに行くぞ」

「そうですね、運命の戦士が揃わなければ『鍵』は開かない……」

唯から治療を受けたアルフレッドが手の調子を確かめながらそう言う。

「ダンのおっちゃん!僕たちも!」

「駄目だ、皇帝の屋敷に忍び込むのは危険過ぎる……今回は嬢ちゃんたちは置いていく」

「貴女方は私たちがアリサお嬢様を連れ戻すまで、どこかに隠れていください」

ということで、強キャラ二人は攫われたアリサの救出に赴くことになった。

残された運命の戦士4人は、しばらくどこかへ隠れることになったのだが、彼女らは知らない……自分たちの天敵であるトーメント王とその手下が、ムラサメに向かっているということを……。


980 : 名無しさん :2018/05/04(金) 01:02:40 dauGKRa6
「あんっ!!」

やっと解放されたと思ったのも束の間、再度ヒューマンボールの中に囚われて床に落とされたアリサは、ゴロゴロと転がってから壁に激突した。

「きゃああっ……!いたっ!!!」

ぶつけた頭部からジンジンと痛みがやってくるのに顔をしかめつつ、アリサはふらふらと立ち上がる。



「はぁ……またここですの……?やっと外に出られたと思ったら……」

外に出て唯達と再開を喜び、彩芽に首輪を外すようお願いされ、それが終わると用済みかのようにここに戻された。

(……戻る直前、アルフレッドの声がしたような気が……いや、きっと気のせいですわね。)

自分を捉えているのはアルフレッドだということをアリサは知らない。
だが戻されたということは、あの場には仲間の少女たち以外にも誰かがいるということなのだろう……とアリサは考えていた。
外の状況はここからでは全くわからないので、こうやって推察するしかないのだが。



「……アルフレッド……」

かつての思い人であった使用人の名前を口に出し、アリサは座り込む。
この世界に囚われて右も左もわからなかった自分を養女にして、本当の親以上に愛情を与えてくれたアングレーム夫妻。
母のソフィアは、上流階級としての言葉遣いや心の在り方、そしてこの世界で生き抜くための剣の技術さえも自分に教えてくれた。
本当の親には毎日勉強ばかり押し付けられて、塞ぎがちになっていたアリサにとっては非常に充実した毎日だった。

そして、異世界での慣れない生活をいつも支えてくれた使用人のアルフレッド。
彼が剣の練習に付き合ってくれると言ったあの日、アリサは自分の思いを彼に伝えようとしていた。
そんな矢先に起きたあのアングレーム一家惨殺事件……
アリサは体と心に深い傷を負い、トーメント王に囚われ地獄の日々を送った記憶は、未だ脳裏に焼き付いている。



(……でも、アルフレッドは理由なくお義母様たちを殺したわけではなかった。)

王下十輝星のロゼッタから伝えられた事実。
それは母のソフィアに纏わる、アングレーム家とラウリート家を巻き込んだ「王下十輝星のカペラを決める親善試合」で起きた事件だった。
権力にしがみつくソフィアの狡猾な作戦によって、ロゼッタの姉でありアルフレッドの支えていた少女が殺され、以来ロゼッタはアングレームを殺しつくすことと、自分の復讐を奪ったアルフレッドを殺そうとしているという。

(……信じたくはないけれど、本当にお義母様が卑劣な殺人を犯したのならば……アルフレッドがあのような行動に出たのも少し納得ができますわ。)

そんなソフィアの寵愛を受けて育った自分に対しても、アルフレッドは並々ならぬ思いを抱えていたのだろう。
いつも自分に向けられていた彼の優しい笑顔が作り物だったことを考えると、アリサの胸がじくりと痛む。

もしもあの日、事件が起きず自分の思いを彼に伝えていたら……
彼は一体どんな反応をしたのだろうか。
いつものように笑って受け流すのだろうか。
もしかすると……何も知らない自分に本当の思いを話してくれたのか。
最近のアリサは、ボールの中の退屈な生活の中でそんなことばかり考えていた。



「……はあぁ……!こんな所に1人だけでは感情の整理がつきませんわ……」

理由も話さず両親を殺された憎しみと、彼にとって大切な人を義理の母が奪ったという残酷な事実による罪悪感。
混ざり合うその2つの思考の中に、平和だった日々に芽生えた恋という感情が混ざり、アリサの心を掻き回していた。

(……きっとこの煮え切らないグチャグチャの感情は……アルフレッドに会ってちゃんと話すまでは消えそうにないですわね……)


981 : 名無しさん :2018/05/04(金) 14:33:01 ???
「アリサ、大丈夫かなぁ……それにダンさんとアルフレッドさんも」

「まぁあの二人なら、滅多なことはないでしょ……アリサは心配だけど」

「はぁ……五人でキャッキャウフフできるのはいつになるやら……」

「とにかく、しばらくどこかで身を隠さないと」

攫われたアリサを助ける為にダンとアルフレッドがミツルギ皇帝の屋敷へ向かっている間、残された四人は身を隠す場所を探していた。

「号外!号外!」

そんな四人の近くを、新聞記事を配る一団が通りがかった。何やら大きなニュースがあったようだ。

「号外……?なんだろう」

「人気農夫系アイドルが不祥事でも起こしたんじゃないか?」

「ちょっと彩芽……」

「私貰ってくるわ!何か重要な情報があるかもしれないし!」

瑠奈がそう言って、新聞記事を配る一団に近づいていき、号外を受け取って読み始めた。


「なになに……え!?ちょ、ちょっと鏡花!大変よ!」


読み始めてすぐ、驚いた声をあげて唯たちの元へ走ってくる瑠奈。

「瑠奈、新聞広げたまま走ったら危ないわよ?」

「いや本当にそれどころじゃないんだって!見てよこれ!」

そう言ってバッ!と号外記事を鏡花の方へ向けて広げる瑠奈。その記事の内容とは……


「『緊急エキシビションマッチ!ルミナス元女王ヒカリ・シュメッターリング・ルナ・ルミナス、シーヴァリア女王リリス・ジークリット・フォン・シーヴァリア両名、討魔忍五人衆の二名とガチンコバトル』……!?」


982 : 名無しさん :2018/05/05(土) 13:15:01 ???
「ルミナス元女王、って……あのヒカリちゃん、だよね」
「ええ……私たちと一緒にルミナスにいた時は、記憶を失ってて、魔法も使えなくなってたって聞いたけど……」
唯と瑠奈は、魔法王国ルミナスに滞在していた頃のヒカリを知っている。
だが二人の知る彼女は、とてもガチバトルに参戦するようなタイプとは思えなかった。

鏡花は以前…この世界に飛ばされるよりも昔、ヒカリとは友人同士だった。
正体を隠して現実世界で魔法少女として人知れず世界を守るヒカリの、おっとり友人枠兼お色気担当だったのだ。
「ちょ、お色気担当ってどういう事!?……え、えーと…ヒカリ、魔法が使えるようになったのかしら?」

最後に会ったのは、本スレ開始間もない>>33の頃。
ちょっと会話が雰囲気悪い感じになり、その直後に鏡花が闇のガチレズ大魔王として目覚め、なんやかんやあって仲直りできていない微妙な感じであった。
「私がガチレズに目覚めたみたいな言い方しないでください!」
「鏡花、さっきから何叫んでるんだ?」
「あ、ごめんなさい何でもないわ……ええと、コホン。ひとまず元気そうだからよかったけど……それにしても、どうして試合なんて…?」
ミツルギに到着してすぐの頃、ルミナスがシーヴァリアの協力を得てトーメントの侵攻を退けたニュースを聞いた時は、鏡花や唯達も大いに安堵したのだが…その直後にこれである。

「そうね。あっちの商店街に人だかりができてて、闘技大会について(たぶん賭け絡みで)盛り上がってるみたいだから…ちょっと話聞きに行ってみない?」
…瑠奈の提案により、四人は『緊急エキシビションマッチ』の情報を集めるために商店街へと移動した。


983 : 名無しさん :2018/05/06(日) 01:30:10 ???
「…そういえば、今は闘技大会の予選もやってるんだよな。飛び入りOKみたいだし、唯達も出てみたら?
船の上で修行した成果を見せる、いい機会じゃない?(ボクは嫌だけど…)」
「……うーん…でもダンさん達には目立つ事するなって言われてるし…」
「今はアリサがあんな事になってるし……それに…」
「「「もう、闘技場で戦うのは勘弁…」」」
「あっ……(察し」
微妙な表情を浮かべる唯・瑠奈・鏡花に、彩芽はぐうの音も出なくなった。

…一方で、ここムラサメの都を舞台に闘技大会の予選は着々と進んでいる。
登録選手一人に一つずつ配られた星型のメダルを『手段を問わず』奪い合う、ストリートファイト……

「『開始時間は明日の正午』って書いてあるけど……『星』の奪い合いは始まってるみたいね」
そう、『明日の正午』というのは、厳密には星を集めた参加者の予選通過の受付を開始する時間。
『手段を問わず』……開始時間より前に戦おうが、予選の参加登録をしていなかろうが、とにかく明日の正午以降に星を5つ揃えて城に辿り着いた者が予選通過、となる。
そんなわけで既に多くのドローンカメラが街中を飛び回っていて、参加選手らしい者達が戦っている映像が街頭に設置されたスクリーンに映し出されている。

「あ。この辺りでも試合やってるみたい!……見て瑠奈!戦ってるうちの一人…私たちと同じくらいの女の子だよ!」
唯が街頭スクリーンを指さし、他三人達がそれを見上げた。その瞬間……

「あれ?あそこに写ってるの、私たちじゃない?………って、こっち来る!!」
モニターに映っていたセーラー服の少女が、相手選手の攻撃を受けて吹き飛ばされ…

(…ガシャアアアアン!!)
「きゃあああぁっ!!!」
…唯達が見ていたモニターに、派手に激突した。


【名前】ヤヨイ・サクラザカ
【特徴】
生まれも育ちもミツルギっ子の15歳♀。身長は150cm台前半くらいで、髪は黒髪おかっぱ、瞳はダークピンク。
明るい社交的な性格で、甘い物とスマホが大好きな現代っ子。
戦闘スタイルは忍者刀、手裏剣、苦無を用いる『忍者っぽい忍者』。
武術も忍術も(身体も)まだまだ発展途上の見習い討魔忍だが、果敢にも大会に参戦した度胸と根性の持ち主。

【装備品】
忍者刀『斑鳩(いかるが)』
苦無『燕』『雀』『鶯』など
…それっぽい名前を付けてるが、量産品なのでそこまで強くない。

【その他】
忍者養成学校からの帰り道に闘技大会の参加登録を行った直後に他の選手に襲われたため、学校の制服(セーラー服)を着たまま戦闘なう。


「えええ!?女の子が、画面から飛び出て…じゃなくて、後ろから飛んできて画面に!?」

「落ち着きなさい唯。…ちょっとあなた、大丈夫?」
「……いったたた……よっこらせっと……この位、へーきへーき!」
派手に吹っ飛んでモニターに激突し、倒れていたセーラー服の少女は、すぐに反動をつけて跳び起きた。

「キミたちは危ないから下がってて!…巻き込まれても知らないよっ!!」
そしてすぐさま武器…クナイと手裏剣を構え直し、走り去っていく。

「うわー。すっごい……」
「…ねえ。ちょっと、見に行ってみない?」

上に大体書いてあるけど、果たして少女は何者なのか。
そしてこの出会いが、唯達にどんな運命をもたらすのだろうか……


984 : 名無しさん :2018/05/06(日) 12:58:31 ???
「へっへっへ……見習い学生風情が、この海蛇衆で真ん中くらいの強さと言われる『曲刀使いのタロウ』に勝てるとでも思ったか!」

「なんかあんまり強そうに聞こえない肩書きだけど……とにかく、見習いだからって舐めてたら痛い目に遭うよ!」

ムラサメにて家屋を足場にしてクナイや手裏剣で牽制し合いつつ、激しく飛び回るヤヨイと海蛇衆の人。(まるで唯たちが見学しやすいようにしたかの如く)一周してモニターの近くに戻った所で、互いに跳躍して忍者刀と曲刀がぶつかり合い、火花を散らす。が、単純な力比べならば海蛇衆の人に軍配が上がった。

「もう一度モニターにぶつけてやらぁ!どうせ修理費は賭けの胴元のマネーフォワード持ちだからなぁ!」

「かかったねオジサン!二の轍は踏まないよっ!」

鍔迫り合いで有利と見た海蛇衆の人は、そのまま力任せに曲刀を振り下ろした。それに対しヤヨイは、鍔迫り合いを止めて忍者刀『斑鳩』を頭上に放り投げる。

「忍法!『変わり身の術』!」

ドロン!という音と共に、ヤヨイの身体が丸太に変わり、海蛇衆の人の曲刀は丸太に深々と突き刺さった。

「しまっ……!曲刀が抜けねぇ!」

ヤヨイはいつの間にか海蛇衆の人の頭上におり、放り投げた『斑鳩』をキャッチし、落下の勢いを乗せて振り下ろす!

「見習いって舐めるから、こういう基本的な技に足元掬われるんだよ!オジサン!」

「お、おのれ……!だが俺が敗れても、きっと海蛇衆ナンバー4『鎖鎌使いのヒロシ』が仇を……ぐわああああ!」


仲間が敵討ちをしてくれることを信じながらヤヨイの峰打ちを食らって気絶する海蛇衆の人。ちなみにヒロシはワルトゥのかませのシャーリンのかませとしてとっくに脱落している。


985 : 名無しさん :2018/05/06(日) 14:52:12 ???
「ふぅ〜いっちょあがりっ!さてさてこのオジサン、星は一体何個持ってるのかなー?」

海蛇衆の人を華麗に気絶させたヤヨイは、倒した相手の体をゴソゴソと漁り始める。
ズボンのポッケの中に手を突っ込んだ瞬間、硬いケースのようなものがヤヨイの手に当たった。

「お、これは参加者全員に配られる星入れ箱!中身は〜!……な〜んだ星1個かぁ〜」

ケースの中から星だけ取り出し、箱はポイっと海蛇衆の人に投げたヤヨイ。
今度は自分のカバンを漁り、自撮り棒を取り出してポーズを決めた。

「さっそくイン◯タ投稿しなきゃ!やっつけたオジサンがあたしの後ろに入るように……っと!」

手に入れた星を掲げるようにポーズを取り、笑顔で写真を撮るヤヨイ。
撮影が終わると、ヤヨイはすぐにスマホをポチポチと弄りながら歩きスマホをしていた。



「すっごーい!あの子勝ったよ!ミツルギの女の子は強いんだね〜!」

「ち、ちょっと唯、声がでかい!隠れてろって言われたの忘れないでよ!?」

「る、瑠奈も声がでかいよ!でかいのはおっぱいだけにしとけって!」

「あ、彩芽ちゃん……そんなこと言うといろんな人の視線を集めちゃうよ……!」

「あ……これは失礼。」
(……ほとんどの視線は瑠奈と、それを上回るサイズのあなたに集まってるけどね!!!)

服の上からでもわかる鏡花の胸が、通りがかった男たちの視線を奪いまくっていた。



「……ん?君たちはさっきの……」

話し声を聞いたヤヨイが唯達に気づき、スマホをしまいつつ近づいてきた。

「はじめまして!私は篠原唯!よろしくね!」

「うお!?唯、すごい元気だね!あたしはヤヨイ・サクラザカだよ!よろしくね!唯!」

「うんっ!あっ!みんなのことも紹介するね!」

「べ、別にあたしたちのことはいいんじゃ……!」


986 : 名無しさん :2018/05/06(日) 18:31:17 ???
「なるほど、青い巨乳が瑠奈で黒い巨乳が鏡花、そして眼鏡の子が彩芽、ね!」

「ちょ、変な覚え方しないで!」

「うぅ……また男の人の目線が……」

「と、とにかくよろしくなヤヨイ!実は話題の緊急エキシビションマッチについて聞きたいんだけど、いいかな?」

唯はマイペースで鏡花と瑠奈は周囲の胸囲への目線でダメージを受けている以上、自分が話を進めなければいけないと彩芽は慣れないながらもその場を仕切る。

「緊急エキシビションマッチ?今日クラスメイトたちが騒いでた、ルミナスの元女王とシーヴァリアの姫騎士が来るっていうアレ?スマホのネットニュースで見てから、イン○タとツ○ッターとフェイ○ブックで情報集めたけど、あれがどうかしたの?」

「実はヒカリちゃん……ルミナスの元女王の人が、私たちの友達で」

「あ、僕は面識ないんだけどね」

「ルミナスがトーメントの侵攻を何とか食い止めたっていうのは私達も知っているんですけど、それがどうして急にエキシビションマッチなんてやることになったのか知りたいんです」

「ははぁ、なるほどなるほど……キミたち4人……彩芽は違うかもだけど、少なくとも3人は異世界人の魔法少女見習いと見たね!何かの都合でミツルギに来てて、祖国の様子が不安だったんでしょ!」

「え」

何か勘違いをした様子のヤヨイ。確かに唯と瑠奈はルミナスで修行を積んだし、鏡花もルミナスの戦隊長だったのだが、別に魔法少女見習いではない。

「ううん、私たちはモガモガ」

「そ、そうそう!そうなのよ!ライカさんの鬼スパルタな修行が嫌になっちゃって、3人でちょっと抜け出して、彩芽も誘ってミツルギに遊びに来たらトーメントの連中が攻めてきたって聞いて心配してたのよ!」

馬鹿正直に自分たちについて話そうとする唯の口を塞ぎ、慌てて弁解する瑠奈。

「私みたいな異世界人2世やら3世はともかく、純粋な異世界人がミツルギに来るのは珍しいからね。ルミナスは異世界人との交流が一番深い国だから、そっち方面から来たんじゃないかと思ったんだ!」

「は、ははは……たまにいるよね、僕らみたいな名前だけど、普通にこっちの住人だったりする人……読む分にはカタカナだから分かりやすいけど」

「とにかく、立ち話もなんだからお茶でも飲みながら話そ!私もオジサンと戦ってちょっと疲れたから休憩したいし」

特殊な立ち位置にいる運命の戦士ではなく、ルミナスにいた普通の異世界人、それも魔法少女見習いということにしてヤヨイと関わることにした唯たち。一応、まるっきりの嘘というわけではない。

そんなこんなで、ヤヨイからルミナスについての情報を聞く為に、唯たちは近くのカフェに入った。


987 : 名無しさん :2018/05/06(日) 19:46:17 ???
「てなわけで、ルミナスとシーヴァリアがミツルギと同盟しようとしてて、同盟相手に相応しいだけの実力があるかのテスト……ってのがエキシビションマッチの実態って噂だよ。テンジョウ様の裏垢説のあるアカウントが言ってたから多分間違いないよ」

「そうなんだー!ヒカリちゃん、勝てるといいなぁ……」

明るい性格同士で意気投合した唯とヤヨイは、手を繋いで歩きながらカフェに入り、他の面子そっちのけで会話していた。

「とにかく、ルミナスのみんなが無事で良かった……えへ、安心したらお腹空いちゃった」

「唯と仲良くなりたいし、あたしがもっとミツルギの美味しいスイーツ店を案内してあげたいんだけどねー。休憩はしたし、これから明日のために星を集めないといけなくて……」

「あ、闘技大会だよね!私、ヤヨイの試合絶対見にいくよ!」

「あはは!まだ星2つだけどね!でもあたし、この大会は優勝するつもりで参加してるから楽しみにしてて!」

「うんっ!」

「唯とヤヨイ、めちゃくちゃ仲良くなってるわね。」

「いいんじゃない?しばらく2人にさせてさ。あ、でもこれ以上シーンが分散するのも良くないかなぁ。」

(……たまに彩芽ちゃんって意味がよくわからないこと言うけど、どういうことなんだろ……)

2人用テーブル席で会話に花を咲かせる2人を尻目に、やや離れた4人用テーブル席でカフェの窓から外を眺める3人。混雑していたのでこういう座り方になった。
すると瑠奈の視界に、今絶対に会いたくない人物たちが映った。

「……!?ちょ、唯、こっち来て!!」

「え?どうしたの瑠奈?」

「い、いいから早く!ヤヨイ!なんかバタバタしちゃったけど、暇があったら私たちも試合は見に行くから、またね!」

「……?なんだかわからないけど、瑠奈が呼んでるから、私行くね!またね!ヤヨイ!」

「うん、またね唯!瑠奈も!本戦は絶対見に来てねー!」

「うんっ!」

ヤヨイに別れを告げ、とてとてと走ってくる唯の腕を、瑠奈はガッと掴んで座席の下へと引き寄せた。

「きゃあっ!?ち、ちょっと瑠奈、どうしたの?」

「アレ!アレ見なさいよ!アレ!!!」

「え……?ああっ!!」

座席の下から瑠奈が指差した方を見ると、そこにいたのは……

「ケケケケ!ムラサメに来るのも久しぶりだ……俺様はテンジョウのガキにでも挨拶してくるとするか。」

「お!じゃあ俺たちも自由行動でいいのか王様?」

「ああ。闘技大会まではお前らも適当に遊んで来ていいぞ。……だがアイベルト、お前には1つだけ注意しておく。」

「ん?なんだ王様?」

「ミツルギのくノ一の連中に昼間から誘われて、遊ばれたり移されたりしないように気をつけろよ……ヒヒヒ!」

「お、王様!勘違いしてるようでござるが、俺様はこう見えて結構ピュアな性格なんですぞ!」

「なんだその口調wwwシアナはアイナのとこに早く行けよ!」

「そうだな……って!なんで勝手に僕の行き先を決めてるんだよ!」

トーメント王、アトラ、シアナ、アイベルトの4人がゲラゲラと笑いながら仲良く歩いていた。



「うひゃあぁ……むさいメンツだなぁ。女の子が1人もいないなんて。」

「彩芽、そんなこと言ってる場合?あいつらがこの町をうろついてるんじゃ、迂闊に外歩けないわよ……!」

「えー!私ヤヨイの試合見に行くって約束しちゃったのにぃ……」

「……と、とりあえず、あの人たちに見つからないように、あっちに見える宿屋に行こう。ダンさんもアルフレッドさんもいないし、ここで見つかったら大変だよっ……」

鏡花の提案に頷く3人。
トーメント王たちが遠ざかるのを待ってから、4人はカフェを出て、近くの宿屋に入っていった。


988 : 名無しさん :2018/05/07(月) 01:25:10 dauGKRa6
「ロゼッター!今帰りましたわよー!……あら?いませんわね。」

「あ、ロゼッタさん、今お風呂に入ってるみたいだよ。私、2人の治療の準備するね!」

七華を退けたアイナたちは、ロゼッタがいる宿屋の一室を訪れていた。
ヤコに関しては、ここに至る道で思い出したリザがとんぼ返りして拘束から解放し、そちらの宿屋に残して来ている。

ロゼッタの部屋は3人用のスイートルーム。広々とした部屋のベッドにアイナとリザは腰掛けた。
エミリアは治療の準備のため、ごそごそと自分の荷物を漁っている。

「アイナ。助けてくれてありがとう。……さっきのは本当にヤバかった。」

「あ、あんなの大したことありませんでしたわよっ!リザちゃんが本調子だったら、エクストリームピジョンブラッドであんな女、細胞レベルでバラバラでしたわ!」

「……ううん。あれはそんなに簡単な相手じゃなかったよ。私が動けてたとしても、アイナがいなきゃやられてたと思う。……だから、ありがとう。」

「んんっ……///リザちゃんのありがとうはすごく心に響きますわっ!アイナが独り占めしてしまいたいくらいにっ……!」

アイナは少し涙声になって、リザの膝に頭を乗せる。
アイナがゆっくりと顔を上げると、下を向いて微笑むリザの顔があった。



「……あんなに追い詰められたの、久しぶりでしたわね。いつだったかのサンタ騒動以来ですわ。」

「…。あの時サンタに追い詰められた時も思ったよ。こんなとき、ドロシーがいてくれたらなって。」

「……アイナもさっき思いましたわ。リザちゃんとドロシーとアイナで、十輝星になる前から3人一緒でしたもの。……さっきの神楽木だって3人なら余裕だったはずですわ。なのに……」

「………………」




「自分から十輝星になろうって誘っておいて、勝手に一人で逝くなんて……ドロシーは最初から最後まで、自分勝手な奴でしたわね。」

「……でもドロシーがいなかったら私たちどうなってたか、想像もつかないよね。」

「そうですわね……スラムでのたれ死んでたか、アイナもリザちゃんも可愛いですから、どっかの性奴隷になってたでしょうね。スラムに暮らしてた時もその手のやつから逃げ回る毎日でしたし。」

「……そうだ。私イータ・ブリックスに着いてすぐ、そいつらに追いかけ回されたんだったっけ……」

リザは記憶を辿る。
家族を失い精神的に疲弊しながらも、生かされた命を生きようともがいていた日々を。


989 : 名無しさん :2018/05/07(月) 01:26:18 ???
「はぁっ、はぁっ……!」

イータブリックス旧市街。ここは貧民やホームレスに加え、没落貴族やならず者が住まうアンダーグラウンドな場所である。
あてもなく彷徨いここにたどり着いたリザは、降りしきる雨の中、男たちから逃げていた。

「アウィナイトのガキだ!絶対捕まえろ!捕まえれば一攫千金だぞ!」

「待ちやがれガキィィ!大人しく捕まりやがれええ!」

「ここは俺らの縄張りだ!逃げても無駄だぞクソガキイィ!」

雨に濡れた狭い路地を走るリザと、追いかける3人の男。
土地勘もなく、この時はまだ瞬間移動などできなかったリザは、行き止まりにならないことを祈りながらがむしゃらに走るしかなかった。



「はぁっ、はあっ!……ふぅっ、うぅ……はぁっ……!」

「ちくしょう、鬱陶しい雨だぜ……完全に見失っちまうとは!」

「まだ近くにいるはずだ……探すぞ!こんな大きな金が入るチャンス、逃してたまるもんか!」

「がってん承知!」

薄暗い道を抜け、入り組んだ路地に入り込んだところで、3人の男は散開していった。
その会話を耳で聞いたリザは、路地の中で壁にもたれながらゆっくりと座り込む。
慣れない土地、しかも雨の中の逃走劇で、体力的にもこれ以上走ることは限界だったのだ。



「はぁっ……はぁっ……!」

ずるずるという音を立てながらリザは座り込み、自分の体をぎゅっと抱きしめる。
かなり体が冷えていた。逃走中に何度も転び、水たまりに体を打ち付けたせいだ。

「くしゅんっ!……ズズズ……!はぁっ……!」

くしゃみによって鼻水が流れてしまうが、それを拭く髪もない。
鼻で強引に啜りあげても、次から次へと溢れてくる。
おまけに頭も朦朧としてきた。
……熱が出てきたようだった。



「う、ううぅっ……!」

熱が出たことを認識した途端、リザは自分の体が鉛のように重くなるのを感じた。

「そっちいたか!?」

「いないっ!多分入り組んでる路地の方だ!ゴミ箱の中も探せっ!」

自分を探す複数の男たちの声。動かない自分の体。止まない雨。
そんな状況に置かれたリザの精神は、もうすでに折れる寸前だった。



(ううっ……怖いよ。寒いよ。お腹空いたよぉ……こんなのもう嫌だよ。暖かいお家の中で、家族みんなでご飯食べたいよ……!)

もちろんそんな未来が来ないことは、リザには分かっている。
盗賊から自分を庇い死んでいった、父、母、弟、姉。
1日にして家族全員を失った悲しみが、風邪の倦怠感以上に、リザに重くのしかかっていた。



「路地に入った!俺はこっちから行く!お前は向こうから入れ!」

もう見つかるのも時間の問題だろう。男たちはリザの場所に目星を付け始めたようで、着実に近づいてきている。

「……ぐ、うっ……!」

(駄目……足が、動かない……体、だるい……ふらふら、する……)

なんとか立ち上がったリザだが、いよいよ熱の状態は深刻なようで、まともに立つこともできなかった。
リザはふらふらとよろめき、そのまま……

「……あ、やぁっ!?あ゛あぁうっ!」

雨でできた水たまりに、頭から突っ込んで倒れた。


990 : 名無しさん :2018/05/07(月) 01:27:53 ???
「ぐ……!うぅっ……うわああああんっ……えぐっ、えぐっ……!」

精神の限界が訪れたリザは、水たまりの中で倒れたまま静かに泣いた。
雨の勢いが強いので声で気づかれる心配はないが、男たちは着実に迫ってきている。
だがリザの心は、もう限界だった。

「ひぐっ……!うううぅっ……おどう゛さん……!おかあ゛さぁんっ!うええええええええんっ!」

雨の中のスラムでは、彼女の悲痛な声も誰の耳にも入らない。
耳に入ったとて、それは彼女を捕まえようとする恐ろしい男の耳だろう。
だがリザは、助けてほしいわけではなかった。
ただただ、家族に会いたかった。
だから……自分の体が急に何者かによって持ち上げられても、悲鳴はあげなかった。



「うぅ……?ふぇ……」

「見つけたぜぇ、子猫ちゃん。こんなとこでグジュグジュ泣いてやがったとはな……おい、大きい声出すんじゃねえぞ。奴らに気づかれちまう。」

「アルケーー!そっちにいたかー?」

「あ、いや!こっちにはいない!ハルート!ケルディムと一緒に橋の方に行ってくれ!俺はこっちを探す!」

「了解!」

アルケーと呼ばれた男は、リザの口を手で抑えながら仲間に指示を出した。

「ケケ、馬鹿な奴らだ……報酬を山分けにさせるわけにはいかねえ。コイツは俺一人だけのもんだ……!」

「………………」

「お?やけにしおらしいじゃねえか。あんなに逃げ回ってたくせによ。」

(……もう、いいや……疲れた。この人にここで殺されたい。殺してくれないなら……なんとかして自分で死のう。)

男は虚ろな目をしたリザの顔を確認し、これ幸いと背中におぶってから小走りで走り出す。

「お前みたいなアウィナイトの美少女はじっくりブチ犯してから金にしたいところだが……時間がねえ。さっさと街に行くぜ。」

「……殺してよ。」

「あん?なんだって?聞こえねえぞ。」

「……殺して。犯してもなにしてもいいから、私を殺して。……お願い。」

声を発した自分でもぞっとするほど、喉から出されたのは冷淡な声だった。

「……なんだ、お前……気持ちわりい奴だな。殺すわけねえだろ。お前は金にすんだからよ。」

当たり前のように男はそういうと、走るスピードを早める。
その前方に、一人の少女の姿があった。


991 : 名無しさん :2018/05/07(月) 01:31:26 ???
「おじさん、雨の中人攫い?大変そうね。私が手伝ってあげよっか?」

声をかけてきたのは、クリーム色の髪にエメラルド色の瞳の少女。
スラムの住民らしく、ボロボロの服と靴を履いて傘もささずに立っていた。

「へっ……テメェみてえな親に捨てられた哀れなガキに構ってる暇はねえ。さっさとどかねえと泣かすぞ、コラ。」

「うわあ〜!おじさん見た目からしてとっても弱そーなのに、口だけは達者なんだね〜!すご〜い!」

「あぁ!?なめてんのかコラ!?」

激昂した男は、おぶっていたリザを乱暴に背中から下ろすと、生意気そうなスラムの少女に近づいて行った。



「ナメてんのかって、あたしのことナメてんのはそっちでしょ?雑魚のくせに粋がっちゃって。あたしに泣かされたくなかったら、その子置いてさっさとどっか行けば?」

「テメェ……死にたいらしいな。トーメント兵師団団長のアルケー様に向かって、口の利き方がなってねえぜ……!」

「ふん、雑魚に雑魚って言ってなにが悪いのよっ!」

「こんの……クソガキイッ!」

頭に血が上った男は、右手を獣化させながら少女へと襲いかかる。
ウォーゲンと呼ばれる、教授ガチャ上位ランクの獣化の能力であった。

「へぇ、獣人かぁ。でも……ゲイルインパクト!」

「なにっ!上級魔法だとっ!?……ぐおっ!?ぬわーーっっ!!」

少女の放った疾風弾に吹き飛ばされたれた男は、パ○スのような断末魔を上げながら空の彼方へと吹き飛んで行った。



「ふうーっ、危ないとこだったわね。怪我はない?」

倒れているリザに近づき、手を差し伸べる少女。
だがリザは、その手を乱暴に振り払った。

「いったぁ!ちょ……せっかく助けてあげたのになによその態度はー!」

「……なんで……助けたの……?」

「……は?」



「私には……友達もお金も帰る家も家族もない。これ以上生きる意味なんてない。だから……早く死にたいの。」

「……………」

「だからお願い……私のことは放っておいて。このままここにいれば……楽に死ねそうだから。」

自分でも驚くほど、すらすらと言葉が出てきた。
生きていてもしょうがない……家族を失った時からリザはそう思っていた。
それでもなんとか生かされた命を生きようとしてきたが、もう疲れてしまった。

このまま緩やかに終わりたいと、リザは心からそう思った。
だが……彼女の運命はこの出会いによって大きく変わることになる。


992 : 名無しさん :2018/05/07(月) 01:32:31 ???
「この……バカっ!!」

パチン!

「うっ!」

倒れているリザに、少女は渾身のビンタをお見舞いした。

「友達?家族?帰る家?お金?そんなもの友達のピンク以外はあたしにもないわよ!育てられもしないくせに産んだ親に口減らしに捨てられて、こんなところで盗んで食べて寝てのクソみたいな毎日の繰り返し……!」

「……捨てられた……?」

「でもあたしは!アンタみたいに死にたいなんて絶望したりしないっ!だって生きてさえれば、それだけでいろんな可能性が見えてくるんだから!」

「……可能性……?」

「そうね……例えば、大富豪のイケメンに見初められて一気に逆玉とか、ひたすら修行して実力だけで軍の要職にのし上がるとか!あーあとは、もしかしたら当選宝くじを拾って、一気に人生バラ色になるかもしれないわ!」

荒唐無稽で、自分に都合のいい内容を楽しそうに喋る少女。
ずっとささくれ立っていたリザの心も、少女の明るさと励ましによって、少しづつ元に戻りつつあった。



「……でも色々言ったけど、結局はアンタの人生よ。ここで絶望して諦めて死ぬことを選ぶなら、あたしは何もしないわ。」

「…………今の私に……生きる意味なんてあるのかな?」

「……それは、アンタがこれから見つけるべきよ。……まあその……ここでの生活くらいなら、助けてあげなくもないけど。」

少し照れながら、少し語尾を上げて悪戯っぽく言う少女。
そんな少女の優しい言葉を聞いただけで、リザの心はすっと軽くなった。
この生活になって初めて、他人から優しい言葉をかけられたのだ。



「……ねえ……名前は?」

「あたし?ドロシーよ。……あたしの名前を聞くってことは、どうやら決心ついたようね。」

「……うん。……私には何もない。だけどドロシーの言う通り、生きる意味を探しすためにもう少し頑張ってみる。……あ、私はリザ。」

「はーい、じゃあリザ。今度はこの手を払わないで、取ってくれるわよね?」

ドロシーは再度リザに手を伸ばす。
その手をリザは、力強く握りしめた。



「さて、とりあえずあたしの隠れ家に行きましょ!体調も悪そうだし、しばらく休んだほうがいいわ。」

「……う、うぅ……」

「ちょ、な、何いきなり泣いてんのよ……?」

「だって……一人になってから優しくされたの……初めてでぇ……!」

「あー……はいはい。まあ隠れ家って言っても大したことないし、あんま期待しないでよね。……あ、アイナにもリザのこと教えて上げないとっ……!」

土砂降りだった雨はいつのまにか上がっており、空には薄い虹がかかっていた。
これがお互いの運命を大きく変える出会いであることを、彼女たちはまだ知らない。


993 : 名無しさん :2018/05/08(火) 23:14:51 ???
「唯たち急にどっか行っちゃったけど、どうしたんだろ?……まいっか。あ、さっきの投稿、早速いいね!ついてる!」

つい先ほど海蛇衆の人を倒した時の記念撮影と、カフェで注文したベリーストロベリーパフェの写真の投稿を確認するヤヨイ。
話題の闘技大会に出場しているためか、イン〇タの反応は上々のようだった。だが……

『星ゲットおめでとうございます!この写真、〇〇通りの辺りですよね!この近所よく通ります(^^』
『××カフェのストパフェ最高ですよね! 僕もてっぺんのイチゴは最後に食べる派です(^^』

「え……何こいつ」
…とある一人のフォロワーに、弥生はなんとも言えない気持ち悪さを感じた。
この短時間に一人で何件もコメントしており、その内容も…何かがおかしい。

「僕『も』最後に食べるって何よ…きもちわるっ」
パフェの写真にしても、ヤヨイは食べる前の写真を一枚投稿しただけなのだが、どの部分をどの順番で食べたかまで、まるで監視しているかのようにリアルタイムに細かくコメントを付けてくる。
そして…

『ほっぺにクリームついてますよ(^^』
「……ひっ!?」
最後のコメントを見た瞬間。ヤヨイは頬を舌で舐められたような悪寒を覚えた。

……同時刻、某所。
「んん………甘い………」
男は巨大モニタ群の前に座り、タッチパネルを操作しながら呟いた。
画面上にはリアルタイムで複数のドローンカメラが撮影するヤヨイの映像や、彼女のSNSの投稿写真などが映し出されている。

【名前】電網(でんもう)のカイ=コガ
【特徴】
中級クラスの討魔忍で、見た目は白髪、糸目の痩せた青年。ただし、滅多に人前には現れない。
専用アプリを使って画面に映し出された相手に攻撃する『電子呪術』の使い手。
隠れ家に設置された専用端末やスマホ、タブレット端末を使って、安全な場所から一方的に攻撃する。
性格は神経質で慎重、かつ外道。接近戦はあまり得意ではないので、姿を現すのは敵を十分痛めつけてから…。

【装備】
電子呪術アプリ「e-vilCurse」
打撃・刃物・電撃・火炎・etc…アイコンで武器を選んでタップでラクラク攻撃!
ドローンカメラの映像を取り込んだり、各種SNSと連動したり、そんな感じのやべーやつ。

「呪術ってのは、呪う相手の人形とか名前とか身体の一部とか…色々と相手の情報が必要で、昔は集めるのに苦労したらしいけど…
今は手のひらサイズの端末一つでぜんぶ賄えるんだから、楽になったもんだよねぇ。クックック…」

画面に映しだされたヤヨイの太ももの辺りを、男が指でなぞると……

『きゃあっ!?…な、なに今のっ!?』
……画面の中で、ヤヨイはビクリと体を震わせ、甲高い悲鳴を上げた。


994 : 名無しさん :2018/05/10(木) 15:01:58 ???
「リザちゃん!リザちゃん!!」

「……えっ?ど、どうしたのアイナ。」

「もー!物思いに耽るリザちゃんも可愛いですわね!思わずバースト写真を撮ってしまいましたわ!」

親友であったドロシーとの思い出を回想していたリザ。
死にたいと願った自分に、優しさと生きる希望をくれたドロシー。
彼女との思い出は数え切れないが、思い返せば思い返すほど、今自分の隣にいないことが寂しくなってしまうのだった。



「リザ……運命に抗う少女……あなたもいたのね。」

「……あ、ロゼッタ……って、えっ!?きゃああっ!」

「……どうしたの?」

「ち、ちょっとロゼッタぁ!お風呂上がりの生まれたままの姿を少しは隠してほしいですわーっ!」

突如お風呂場から現れたロゼッタの一糸まとわぬ姿に、リザは顔を隠しアイナは憤慨した。

「……どうして?ここには男はいない。隠す必要なんかない。」

「いやありますわよ!常識的に考えてっ……て、貴方に常識は通用しませんでしたわね。今更思い出しましたわ。」

ロゼッタの美しいくびれと豊満な胸に嫉妬しつつ、アイナはしれっと悪態をついた。

「アイナちゃん、リザちゃん、治療始めるよー!ロゼッタさんは風邪引くから早く服を着てねー。」

「エ、エミリアちゃん……いつのまにかロゼッタの扱いに慣れてますのね……」



「ふぅー、なんとか見つからずに宿屋についたねー。」

「とりあえず、この部屋に隠れておきましょ。ダンのおじさんとあのイケメンがアリサを取り戻すまでは、極力ここから出ないようにね!」

リザたちが宿泊している3階の部屋の真下、2階の部屋に入っていたのは、異世界人の少女。
トーメント王たちに見つからないようにこの宿屋に逃げてきた、唯達であった。

「なんだかつまんないなー。せっかく面白そうな街なのに、あいつらがいるせいで動き回れないなんて。」

「仕方ないよ……捕まったらまたあの時みたいに……」



鏡花の弱気な声に、唯達の顔も少し強張る。

(あの時、毒で動けないままシアナ君に踏みつけられて……すごく痛くて、怖かった……)

(……唯の頭が潰されて……あたしはあいつに体を切り裂かれて……!うぷっ……!)

(ボクはあっという間に壁に叩きつけられたんだっけ。覚えてるのは……自分のやかましい悲鳴くらいだ……)

それぞれの脳裏に浮かび上がる、思い出したくもない記憶。
鏡花自身も、自分が受けた鉄球での攻撃になすすべなく殺された記憶が蘇り、頭が痛くなった。

「ご、ごめんね、みんな……あの時のこと、わざわざ思い出させるようなこと言っちゃって……」

「き、鏡花ちゃんが謝ることないよ!あの時のことは……今でもたまに夢に見るけど……」

(……ボクは正直、スバルが死んだ時の方がトラウマだけどね。)

「……あー!湿っぽくなるのはやめやめ!この宿屋はご飯出ないみたいだから、あたしが腕によりをかけてご飯作るわ!」


995 : 名無しさん :2018/05/11(金) 01:05:48 ???
「仕事がはええなぁシン。こんなに早く運命の戦士が捕まるなんてなー。正直拍子抜けだぜ。……あ、スタミナ切れた。」

アルフレッドの手からヒューマンボールを奪ったシンは、報告のためテンジョウの屋敷に舞い戻っていた。
なお、テンジョウはどハマりしているソシャゲのイベント期間中なので、話しながらもスマホをいじる手は一向に止まることがない。

「コノボールニ運命ノ戦士ノ一人ガハイッテオリマス……イカガナサイマショウカ?」

「そうだなぁ……その中に入れておくと盗まれやすそうだし、アルフレッドに攫われないように、俺の家に匿っておくか。」


「……デハ、ボールカラ出シテモヨロシイノデ?」

「おう。後は俺がやる。女の子を出したらお前はもう下がっていいぞ、シン。」

「……御意。」



テンジョウの指示によりシンがボールを軽く放り投げると、「パァン!」という軽快な音と光を伴い、長い金髪と白い服を着た美少女が現れた。

「……え?ここは……どこですの?」

「デハテンジョウサマ、ワタシハコレニテ。」

「おう、じゃあなー。トーメントのスパイの件もよろしく頼むぞー。」

シンは小さく頷くと、闇魔法により素早く姿を消した。



「さて、俺はテンジョウ・ミツルギ。多分知らないと思うけど、このミツルギ皇国で俺が、1番偉くて強いんだ。よろしくな。」

「……ミツルギ皇国?……どうやらここはトーメントではないようですわね。それで、私はどうしてここに?」

「話が早くて助かるよ。……まあそんな難しいことでもない。お前には俺の専属メイドになってもらう。朝から晩まで付きっ切りでな。」

「……は?」

目の前の少年のスマホゲーをしながら伝えられた、「今日から俺がお前のご主人様」宣言にアリサは目を丸くした。

「なんだよ、嫌なのか?俺はこの国のトップだぞ。この屋敷も部屋余ってるし、不自由はさせないから安心しろよ。……あ、コイツ周回サボってんな。」

「……その前に、人と話すときはゲームをやめるべきなのではなくって?お里が知れますわよ。」

相手は自分より年下そうな少年とはいえ、礼儀作法に厳しいアリサはゲームをしながら話をするテンジョウに厳しい声をかけた。

「はぁ?なんだか難しい言葉使うねーちゃんだなぁ……ま、拒否権はねーからな。」

「はあぁっ!?どうしてですの!なんでわたくしがあなたのメイドなんかに……!」

涼しい顔をしながら言われた一方的なセリフに、アリサは声を荒げた。
突然現れた少年にスマホゲーしながら俺のメイドになれと言われて、納得できるわけがない。

「怒るなよー。諸事情で詳しくはあんまり言えないけど、お前を守るためなんだぞ。俺の側にいれば安心だからな。」

「くだらないゲームばかりしているようなあなたの助けなんか不要ですわ!もう出て行きます!」

スマホゲーから目を離さない少年に踵を返し、アリサは出口と思われるドアの元へ歩き出した。
ここに留まる意味はない。
もう一度唯たちと再開して、状況を確認しようと思いながらドアを開けると……



「話の途中で勝手に出て行くなよ。アレだぞ……オサトが知れるぞ。」

目の前に、まっすぐこちらを見つめる少年の姿があった。


996 : 名無しさん :2018/05/11(金) 01:08:49 ???
「なっ!?い、いつの間に……!」

瞬間移動したとしか思えない少年の動きに、アリサは驚きの声を上げた。
そんなアリサの様子に半笑いの表情を浮かべながら、テンジョウはゆっくりと近づいてくる。

「……………」

(ひっ……!?か、体が……動かない……!?)

近づいてくるテンジョウの朱く輝く目に射抜かれたように、アリサの体は硬直していた。
指一本も動かせず立ちすくむアリサに、テンジョウはゆっくりと近づいてくる。

「こ、来ないで……!一体わたくしに何をするつもりですの……?」

「え?何もしないよ。ただ……こうするだけ。」

「え……?キャッ!」

がしっ!という音とともに、アリサの体に小さな温もりが伝わる。
身長の低いテンジョウは、丁度アリサの腰のあたりに抱きつくようにして、アリサの服に顔を埋めていた。



「ひゃんっ……!?ちょ、なんなんですの……?」

「いやぁ、この服着てるアリサお姉ちゃん、俺の今欲しいソシャゲのキャラに似てて可愛いなと思ってさ。ちょっとこうしてみたかっただけ〜。」

「お、お姉ちゃん……?き、気持ち悪い変な呼び方はおやめなさいっ!くっ……!?」

「フフ、動こうとしてもムダムダ。俺の「目」を見たお姉ちゃんに、抵抗することはできないよ。」

そう言うとテンジョウは、動けないアリサの腕に魔力を使って術式を書き始める。

「これは双合(そうごう)の刻印。できれば使いたくなかったけど……俺から少し離れるとすぐに自分の足で戻って来てしまう、メンヘラ御用達の術式さ。……これでアリサお姉ちゃんは、俺のメイド決定な。」

「そ、そんなっ……!そんなの横暴すぎますわっ!」

「だってアリサお姉ちゃん、俺の言うこと聞かねーんだもん。ちゃんと俺の言うこと聞くって、約束できる?」

「そ、そんなの……できるわけありませんわっ……!」

「じゃあしょうがない。嫌でも俺のメイドになってもらうから、よろしくな。アリサお姉ちゃんっ!」

そう言って、テンジョウが刻印を書き終わると……

「あっ……んぅ!?いやぁああぁあぁあぁんっ!!」

刻印が刻まれたことを示す痺れるような魔力が、アリサの全身を駆け巡った。


997 : 名無しさん :2018/05/11(金) 01:25:44 ???
「お次は腋を……こちょこちょこちょ」

カイが画面上のヤヨイの腋を指でくすぐれば、ヤヨイの身体に得も言われぬこそばゆさが走る。

「ひゃ!?ちょ、さっきからなに……!?」

自らの身体を守るように抱きしめながらキョロキョロと周りを見回すが、特に怪しい人影は発見できないヤヨイ。

「ククク……お次はその慎ましい胸を……ツンツン、と」

「んな!?ちょ、どこ触って……!ひん!?」

段々エスカレートしてくる謎の行為に危機感を募らせるヤヨイ。
忍びとしての勘と女としての勘を総動員して再び周囲を警戒すると……空中に、明らかに自らを偵察しているであろうドローンを発見した。

「見つけた……!誰だか知らないけど、許さないよ!」

怒りを燃やしながら空中のドローンへ向けて真っ直ぐ飛んでいくヤヨイ。その映像を見て、カイは次の手を打つことにした。

「うーん、官能的ないい声だったけど、遊び過ぎたか……今度は泣き叫んでる姿も見たいなぁ」

そう言いながらカイは、画面上にある鞭のアイコンをタップする。

「1秒間に16連打する僕の達人技で、ヤヨイちゃんをヒンヒン言わせてあげるよ……ククク、恨むならSNSに個人情報晒した自分の迂闊さを恨むんだね……」

不気味な笑みを浮かべながら、カイは力の限り画面上のヤヨイの身体を連打する!

「っい゛!?な、なに、がぁああ!?ど、どうし……ぅ゛!?あが゛ぁ゛!!」

今まさにドローンへ忍者刀を振り抜こうとしたタイミングで、突然自らの身体に走った激痛。
突然のことにどうしていいかも分からず、ヤヨイは空中でバランスを崩し……受け身を取ることもできずに、地面に倒れこんでしまった。


998 : 名無しさん :2018/05/11(金) 02:50:01 ???
(なに、今の痛み……まるで、鞭で叩かれたような……このままここにいたら、マズい!!)
異様な雰囲気を感じたヤヨイは、ドローンの監視の目から逃れようとする。

『おっと、逃げても無駄だよ……お次は呪詛の定番、行ってみようか』
(…ドスッ……)
カイが続けて端末を操作すると、画面の中のヤヨイに人差し指ほどの太さの巨大な針が突き刺さり……

「…うっ…ぐ!?」
遠く離れた場所に居るはずのヤヨイの胸に、耐えがたい激痛が走った。

(苦…しい………一体、何が、どうなって……この、イン〇タにコメントつけてる奴の仕業なの…!?)
呪術の知識のないヤヨイには攻撃の正体が掴めず、胸を押さえて苦し気にうずくまる事しかできない。
更に悪い事に……

「ほーっほっほっほ!ここにいたわねJK忍者ちゃん!
海蛇衆中級幹部四天王の紅一点『鞭使いのサユリ』さんが、直々にいたぶってあげるわ!!」
黒いボディスーツのセクシー系女幹部に勝負を挑まれてしまった!…強いのか弱いのか微妙な肩書だが、おそらく実力は先ほど戦った大刀使いと大差ないだろう。
だが、正体不明の攻撃に晒されている今のヤヨイにとっては、恐るべき脅威である。

「さっきから変な攻撃仕掛けてきてる奴とは、関係なさそうね。どっちにしても………速攻で片付ける!!」
ヤヨイは懐から素早く手裏剣を取り出し、サユリに投げつけようとするが…
(ズキッ!!)
「……痛っ!!」
右手に激痛が走り、手裏剣を取り落としてしまう。

(……バシッ!!)
「ふふふふ……捕まえたわっ」
「きゃっ!?し、しまっ……」
その直後、サユリの放った鞭がヤヨイの体に巻き付いた!

「ふふふ……私の鞭は、そこらの安物とは一味違うわよ!喰らいなさいっ…」
『おや、こんなザコに捕まっちゃうなんて情けないなあ…じゃ、罰ゲームと行こうか』
「必殺電撃!1万…」『100万ボルト』
(…バリィィィッ!!)
「っぐっがあああああああぁぁあああっ!!!」
サユリの鞭が電流を発した。
…と同時に、呪術によってそれよりもはるかに強力な電撃が放たれ、ヤヨイの全身を駆け巡った。

「あ……あら?なんか思ってたよりずいぶん効いちゃったみたいね。…でもまだまだ、こんなもんじゃ済まないわよ!」
(バシッ!ビシッ!!ズババババッ!!)
「は、あっ………ぅ………ぐ……っ、ああっ……!!」
すかさず追い打ちの鞭乱打を浴びせかけるサユリ。
ヤヨイの両腕は鉄の鎖を巻き付けられたかのようにピクリとも動かせず、武器を使う事も、鞭を防ぐ事もできない。
ぐったりとうつ伏せに倒れたまま、ただ苦し気な呻き声を漏らすのみだった。


999 : 名無しさん :2018/05/11(金) 02:53:21 ???
「はぁっ………はぁっ……」
嵐のような鞭打をひたすら受け続け、ヤヨイの全身に痛々しい傷痕が刻まれていく。
着ていたセーラー服もボロボロに破れ、可愛らしい桜色の下着が見え隠れしているが、それを隠す余力も残っていなかった。

「ふふふ……海蛇衆を甘く見るからこんな目に合うのよ、お嬢ちゃん…」
(ズルッ……ズルッ……)
「うっ……ぐ……は、放しな、さいよ………!!」
サユリはヤヨイの首に鞭を巻き付け、足元に手繰り寄せる。そして…

「くっくっく……だ〜め♥…せいぜいみっともなく泣きわめきなさい!!」
(ドカ!ベキッ!ドカ!ドカ!!)
「あ…ん、ぐ…っぶ!!」
「ほーっほっほっほ!これが私の実力よ!!」
…勝利の高笑いとともに、ヤヨイの後頭部を連続で踏みつける。

「さてと……そろそろあなたの星を頂こうかしら」
倒れ伏し、動かなくなったヤヨイに、サユリはゆっくりと手を伸ばす。だが、その時……

『おやおや……もう壊れちゃったのかい?意外とあっけなかったね、ヤヨイちゃん。
じゃあ次は、さっきヤヨイちゃんと仲良くなってた子……唯ちゃんって言ったっけ。あの子で遊ばせてもらおうかな』
「!!………冗談、じゃ……ないわっ…!」
正体不明の存在が、唯にまで牙を剥こうとしている。その理不尽極まりない悪への怒りが、ヤヨイの意識を覚醒させた。

「たああっ!!」
「なっ……何よ突然……っうぷ!」
「……秘伝忍技・落鳳破!!」
ヤヨイは全身のばねを使って跳ね起きると、サユリの頭を両脚で挟み込み、そのまま勢いよく後方回転して急角度で地面に叩きつけた。
秘伝忍技・落鳳破…ミツルギ流体術の高等技であり、プロレスでいうフランケンシュタイナーに近い投げ技である。
角度、落下速度、タイミング、ともに完璧だった上に、叩き付けた地面は固い石畳。
油断していたサユリの意識を一撃で刈り取るに十分すぎる威力を持っていた。

「はあっ……はあっ…………か、……勝った……」
勝った…と言って良いのだろうか。確かにヤヨイは目の前の相手、鞭使いのサユリを倒した。
だが戦いはまだ終わっていない……もっと厄介な相手が残っているのだ。

『ふふふ…なかなか頑張るねぇ、ヤヨイちゃん。
じゃあ次は、そのお姉さんの分の星を回収したら、地下鉄に乗って……僕の指定する場所に持って来てもらおうか』
「地下鉄…?…どういう事……ていうか、いい加減に姿見せなさいよ、卑怯者…!!」
『クックック……ムリにとは言わないさ。でも君が遊んでくれないなら、代わりに唯ちゃん達を……』
「…!!……絶対に、許さない……かならずアンタを引きずり出して、ボッコボコにしてやるんだから……!」

(……コイツも星を集めている……ということは、私の持っている星を奪うために、必ず目の前に現れるはず……そこを逃さず、叩く……)
ボロボロになった身体を気力で奮い立たせ、地下鉄の駅に向かうヤヨイ。
果たして正体不明の敵の思惑をかいくぐり、逆襲の一撃を叩き込むことは出来るのだろうか……


1000 : 名無しさん :2018/05/12(土) 09:09:38 fWUEk4FI
「唯!そこのキャベツ取って!」「あ、これのこと?てっきりメロンかと思ったよ」
「ふっふっふ…カレー鍋なら任せろー」「ちょっと彩芽ちゃん!何にでも牛乳を注ぐのやめて!」
異世界をさすらう五人の少女……運命の戦士達。

「リザのリアクション、なかなか良い……もっと声を聞かせなさい」
「ちょ、ちょっとロゼッタ!?アイナのリザちゃんに抱きつくのはおやめなさい!ぐぬぬ……こうなったらアイナも……リザちゃーーん!」
「きゃっ!?ちょ、ちょっと二人とも……んぅっ!……そこは、さわらないでっ…た、たすけてエミリアぁ…」
「こらー二人とも、離れなさい!リザちゃんの治療ができないよ!」
…異世界に力で君臨し、彼女たちに立ちはだかるトーメント王国、王下十輝星。

「っしゃ!これからロゼッタ達の所にデンチュウ見舞いに行こうぜ!お前もアイナに会いたいだろ?」
「それ言うなら陣中見舞いだろ…だいたい僕は別に、そんな……」
「感じる……感じるぞ!俺様の到着を今や遅しと待つ女の子たちの声g」
…ついでにその男性陣も。

「あの……リリス王女?…こう言っちゃなんだけど、私らが代表タッグ組んで、本当に大丈夫なの?
私ついこないだ魔力が戻ったばっかりだし、リリス王女だって……」
……『魔法少女の国』ルミナス…その元女王、ヒカリ。

「リリスでいいですよ、ヒカリさん。……大丈夫。やるからにはベストを尽くし……そして、必ず勝ちます」
……『聖騎士の国』シーヴァリア王国の女王、リリス。

「ここが、ミツルギの首都ムラサメ………感じるわ……ミナをさらった、アイツが……すぐ近くに……」
爪の男に攫われた道具職人の孫娘を追い、ミツルギに渡って来た魔弾のアイセ。

「あれ?まだ予選始まったばっからしいのに、なんでこんな終わりっぽいムードになってるんだ?」
闘技大会に飛び入り参加し、「強くておっぱいでかくてかわいいねーちゃん」を探す古代の拳聖ワルトゥ。

「はあっ……はあっ……なんとか闘技大会に間に合った……
トーメント王国の女科学者に囚われて拷問実験を受ける羽目になろうとは…一生の不覚だったわ」
ミツルギ最強の女剣士さん。

「……クックック……ノックをするべきだったかな、テンジョウ殿」
「いいさ、俺とお前との仲だ…と言いたい所だが、トーメント王…今イベント中だからしばし待て」
(なっ!?…あ、アイツは……見つかるとマズいですわ!ちょっと隠れていましょう…)

その他いろいろ…様々な者達の思惑が火花を散らし、ここ『討魔忍の国』ミツルギ皇国でぶつかり合おうとしていた。

◆つづく◆
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